君との真剣な戦いをしよう! (でんとさん)
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何気ない日々

初投稿です。タイプミス、言葉選びの間違いなど指摘お願いします


「泰斗。そろそろ起きなきゃだめだよ。」

 

深い眠りををその音声によって中断され、渋々ながら目を開けた泰斗の司会にはその音声の主、たまご型お仕えロボットのクッキーが映った。このクッキーについては世界の九鬼が開発したため常人の頭では到底理解、説明できないような構造になっているため、ただハイテクお仕えロボットであるということだけ言っておく。

 

「ん? どうかしたの?」

 

自分の方を見たまま動かない泰斗の様子に疑問を持った超ハイテク人工知能は疑問を持つ。

 

「・・・・いや、起こしてくれてありがとう。」

 

その言葉を聞いたクッキーはとてもメカとは思えないほど巧みに声の様子を変え喜びを表現する。

 

「どう致しまして。」

 

そう言い残し部屋をあとにするクッキーを見送ったあと泰斗はようやく体を起こし川神学園の制服に腕を通した。

 

 

 

 

 

「京、醤油とってくれー」

 

「はい、旦那様」

 

「ありがとう。お友達で」

 

「うー」

 

「飯くらい黙って食え」

 

すでにお決まりとなったやり取りをする直江大和と椎名京。そんな様子をうっとおしそうに黙々と朝食を食べる源忠勝。うつらうつらと船を漕ぎながら朝食をとる風間翔一。島津寮の面々がテーブルを囲み朝食をとっていた。

 

「おはよ」

 

「お、今日は遅かったな。俺の貸した本読んでたのか?」

 

「ああ、あれなかなか面白かったぞー。」

 

着替えを済ませた泰斗がそこへ加わる。大和と何気ない会話をしていると寮母の島津麗子が朝食をテーブルに並べてくれる。

 

「あら、おはよう泰斗ちゃん。今日もいい男ね。」

 

「おはようございます、麗子さん。いただきます。」

 

軽くいつもの挨拶した後、朝食を食べ始めた。

 

 

 

 

川沿いの土手を歩く一行。先頭には武神とよばれる、川神百代と後頭部をその豊満なバストで圧迫され、すれ違う人々から羨望の眼差しをうける大和、次いで京がいつ乱入しようかと機を探っている。そこから少し後ろに少年ジャソプを読んでいる島津岳斗、モロこと師岡卓也。そして最後尾に泰斗という並びになっている。いつもはこのメンバー+翔一+忠勝で風間ファミリーである。

 

「そういえば姉さん、ワン子は?」

 

「んー、もうそろそろ追いついてくるんじゃないか? ,,,,ほら、来たぞ」

 

「みんなー! おはよう!」

 

真っ赤なポニーテールとは全く合わない大きなタイヤを引きずりながらワン子こと川神一子は百代達のもとまでかけてくる。

 

「お、今日はタイヤ一個増やしたのか?」

 

「そうよ! 近々川神院で私への挑戦者が来るから増やしたのよ!」

 

「だからいつもよりちょっと遅かったんだねー。遅刻してたらお仕置きだったよ。」

 

京のその言葉を聞いた瞬間、一子は震え始める。

 

「き、気をつけるわ....」

 

 

 

 

翔一もやや遅れて登校しファミリーはそれぞれクラスメイトと談笑をしていた。教室のドアが開く。

 

「全員席につけ!」

 

鬼教師で有名な2-Fの担任、小島梅子の声が教室中に響く。大変美人な教師だがその手に持つ鞭により一部の生徒には恐怖が植え付けられている。もっとも、健全な学園生活を送っていればその鞭のお世話になることはないのだが。

 

「突然だが、このクラスに転入生が来ている。入れ。」

 

その言葉にクラスがざわつく。そしてドアが開き、その姿が見えた瞬間ざわめきは一層大きくなった。

 

見えたのは到底高校生には見えない、自分の親よりも年上であろう初老を過ぎたあたりの男性であった。

 

「え!? 転入生!?」

 

どこからともなく声が上がる。疑うのも当然だ。しかし、その男性の後ろに続いて入ってきた少女をみるなり教室は歓声に包まれた。クラスの男子の目に映った長めのブロンド、白人特有の真っ白な肌、白いタイツに包まれたスラリと長い足、どれをとっても完璧と言えるものだった。

 

「自分の名はクリスティアーネ・フリードリヒだ。クリスと呼んでくれ!」

 

「そして私はこのクリスの父、フランクだ。どうにも娘が心配でね、ついてきてしまったよ。日本はとでも良い国だと聞いている。娘をよろしく頼むよ。」

 

フランクのその言葉を聞き教室内は安堵に包まれた。自分と歳が30も違う、それもクラスメイトの父親ともなれば特異な緊張感を醸し出すであろう。

 

「クリスはリューベックからの留学生だからな、みんな仲良くしてやってくれよ。なにか質問はないか?」

 

梅子の問いかけに真っ先に手を上げた生徒、ヨンパチこと福本育郎が質問する。

 

「はい! えっと、クリスさんは今お付き合いしているひ」

 

「クリスにそんなものいるわけないだろう!」

 

福本の言葉を遮るようにしてフランクは銃を向けながら怒鳴る。怯えるヨンパチ。

 

「父様の言うとおり、私にはそのようなものはいないぞ。」

 

「ふむ、では他にないか?」

 

「はいはい! クリスさんはなにか武道をやってるんですかー?」

 

一子が期待の眼差しをクリスに向ける。

 

「幼い頃から、フェンシングをやっている。」

 

「センセー! クリスさんを歓迎したいんですけどいいですか?」

 

「それも面白そうだな。よし、許可しよう。近くで見たいものはグラウンドに集合だ。」

 

 

 

 

 

 

「この決闘はワシ、川神鉄心が審判を行う。」

 

一子は薙刀、クリスはレイピアを持ち向き合い対峙する。ちなみに刃などは取り外してあるため、ある程度の安全は保証されている。あたったら痛いのは当然だが。

 

鉄心は二人が視界に入る位置に立っており、3人を囲むように観客が、という立ち位置になっている。更にグラウンドは校舎の窓から見えるため、二階、三階にもこの決闘に注目する生徒が大勢並んでいる。

 

「両者準備はよいかの。それでは始めるぞ,,,,はじめ!」

 

鉄心の合図とともに攻撃を仕掛けたのは一子。クリスは一子の動きを見極めるため、はじめは動かなかったようだ。

 

「やぁっ! 先手必勝!....わわ!」

 

「はぁ!」

 

当たれば一撃で戦闘不能に至るであろう大振りかつ鋭い薙刀の振り下ろしを放つ。スピードを生かして戦うクリスにはその大振りな一撃は容易に見切ることができた。難なく回避し一子の脇腹目掛け突きを繰り出す。攻撃最中の一子は後ろに飛んでダメージを軽減する。

 

「くぅ....やるわね!」

 

 

 

 

 

「あー、妹苦戦してるなー....」

 

三階の窓から一子とクリスの決闘を観戦する百代と泰斗。脇腹への一撃が響き、一子の動きは精細を欠いていく。

 

「妹には申し訳ないが、これはさすがに厳しいかな....。」

 

戦況はどう見ても一子の圧倒的不利である。それを見た百代も一子の負けをほぼ確信する。

 

「どう思う? 泰斗。」

 

「なんで俺に聞くんですか? モモ先輩。」

 

「いや、お前実は相当強いだろ?」

 

「何言ってるんですか。そんなわけないじゃないですか。先輩と違って俺は一般人ですよ。」

 

「そんなまるで私が一般人じゃないみたいな言い方しなくていいだろー」

 

「....」

 

「ちょっと傷ついたにゃん....」

 

「....」

 

百代を軽くスルーし泰斗は窓の外を見る。一子とクリスの決闘はほぼ終盤に差し掛かっていた。一子が持ち前の勘でクリスの不意を突き一撃を加えた所で二人の距離が開く。

 

「これで決まるな。」

 

「ワン子が勝つに一票。」

 

「お? じゃあ私はクリスが勝つに一票。賭けに負けた方は一つなんでもいうことを聞くこと。」

 

「その勝負、受けましょう。」

 

本人たちの知らないところで勝手な賭けが始まっていた。泰斗にとってはこの賭けに負けるわけには行かなかった。百代の願いを叶えるには財布が軽くなることは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

結果はクリスの勝ち。フェンシングは足が弱点という考えの元攻撃を仕掛けたがし、それを自分の弱点として鍛えていたクリスは冷静に対応し鋭いカウンターを見舞い見事一子を打ち破ったのだった。

 

「あー、ワン子負けたのか。」

 

「じゃあこの賭け私の勝ちだな。 さーて、何してもらおうかなー♪」

 

「....軽めで」

 

「よーし、しっかり考えて大事に使おー♪」

 

「....」

 

絶望。

 

 

 

 

「済まない、私は川神さんを甘く見ていたようだ。」

 

「いい勝負だったわ! あ、あと私のことはワン子でいいわよ!」

 

「了解した。これからもよろしく頼む!」

 

そう言ってクリスは手を差し出す。一子もそれに応じ固い握手を交わした。

 

 

 

 

白熱した決闘のあと、教室に戻り通常通り授業が行われた。そして放課後

 

「椎名。クリスに校内の案内頼めるか?」

 

「....」

 

「....連城。クリスに校内の案内頼めるか?」

 

「はい、引き受けます。」

 

「おお、助かるぞ。」

 

梅子の言葉を完全に無視する京。もともと京はファミリー以外に興味はないため、京が所属している弓道部の顧問の梅子に対してもこういった態度をとることが多い。風間ファミリーも半ば諦めている。

 

 

 

 

「今日はどうだった? クリス。うちのワン子が急に決闘なんて挑んでごめんな。疲れただろ。」

 

「いや、自分はよきライバルを見つけるられたらか満足だ!」

 

そういえばワン子もそんなこと言ってたな。転入初日の留学生を即ライバルにするとか俺にはよくわからないな。ワン子だからこそなせる業だな。

 

「校内はだいたい案内したから、仲見世通りでも寄っていくか?」

 

「仲見世通り? そこにはなにがあるんだ?」

 

「最近だと、くず餅パフェっていうのが喫茶店で出たかな。」

 

「そ、それは....美味しそうだ!」

 

やっぱり日本が大好きなだけあって、こういう和菓子を使った食べ物とか好きなんだな。事前に大和に聞いておいて正解。

 

「じゃあ案内するよ。」

 

 

 

 

クリスとともに仲見世通りへ向かう。やっぱりすれ違う人の目を引くな。そりゃこんだけ美人でしかも白人さんときたらね、仕方ないね。それにしてもクリスの父親、フランクさんはあれはどう見ても相当度を超えた親ばか様だね。まさか教室で銃を出すとは誰も思わなかっただろうな。父親の前であの質問したヨンパチも馬鹿だけど。

 

「さて、ここだな。」

 

「は、早く入ろう!」

 

「ちょっと落ち着きなさい」

 

「す、すまない」

 

 

店員に案内され席につきくず餅パフェを2つ注文する。そんな二人の背後から声がした。

 

「あれ、泰斗とクリス?」

 

「お、ワン子。とタッちゃん? こんなところにいるなんて珍しいね。」

 

「おう、泰斗か。一子がどうしてもくず餅パフェが食べたいって言うから連れてきたんだよ。」

 

「やっぱりワン子も食べたかったんだ。」

 

「学校を出たらちょうどタッちゃんがいてよかったわ!」

 

あれ? あー、はいはい。なるほど。はいはいはい。やるなタッちゃん! 昔からワン子大好きだったもんね....っと睨まれた。

 

新商品発売初日だけあって喫茶店内はなかなかに混雑していた。俺たちとワン子たちを知り合いだと判断した店員は同じボックス席内に案内する。

 

「あ、タッちゃんも頼むんだ、くず餅パフェ。」

 

「これは一子の分だ。」

 

「なるほど。こっち2つともクリスの分だよ。」

 

男二人は何も食べず、女子二人がそれぞれ2つずつパフェを食べるというなんとも言いがたい光景が出来上がっていた。

 

 



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新たな仲間

 

 

 

 クリスが転入した週の金曜日、とある廃ビルには川神学園の制服を着た男女が集まっていた。

 

「お、みんな揃ったな。それじゃこれより金曜集会を始める。」

 

 キャップこと風間翔一の一声によって金曜集会なるものが始まった。この金曜集会とは風間ファミリーが中学生になる頃、京は家の都合により引越し、川神から離れなくてはならなくなった。それでも風間ファミリーで集まり遊ぶ機会を設けた結果それが毎週金曜日となり高校生となった今でも続いているということだ。

 

「さて、とりあえず今日の議題なんだけど、クリスをファミリーに入れようと思うんだがどう思う? 」

 

「おいおい、そんな話一度も聞いてないぞ!?」

 

「いや、なんかあいつ面白そうじゃん」

 

 キャップはいつもこうだ。面白そうなことを見つけるとすぐに行動に移してしまう。基本周りの人間は振り回されるばかりだがキャップの周りにはいつも人が集まる。きっと何か人を惹きつけるものを持ってるんだろうな。

 

「私は賛成だ。クリスは可愛いし、なかなかやるからな。」

 

「あたしも賛成! クリはあたしのライバルよ!」

 

「ここまでは予想通りだな。軍師、どうだ?」

 

 キャップは大和に振る。軍師とは大和のことで、幼い頃より頭がよく作戦などを考える立場にいたためついたあだ名だ。

 

「そうだな....クリスとはあまり話したわけでもないからまだわからないかな。保留で。」

 

「私は反対。」

 

「僕も反対。」

 

 反対したのは京とモロ。この二人はあまり対人関係が得意ではなく、特に京はファミリー以外のクラスメイトとは滅多に話すこともない。

 

「じゃあ最後。泰斗はどうだ? クリスを喫茶店に連れて行ったんだってな。一番クリスと話したのは泰斗だ。」

 

「話した感じ、悪いやつではないんだがな。ファミリーに入れるとなるとちょっと心配ごとが....。俺も保留でいいかな。」

 

 どうにもあの性格だと大和とぶつかりそうだな。

 

「....賛成3、保留2、反対2か。とりあえず入れてみてダメなら切るということでいいか?」

 

「あれ、俺様は?」

 

「譲歩」

 

「僕もそれならいいよ。」

 

 反対二人が同意した所でこの話は終了。来週クリスにこのことを伝え、金曜日に基地に案内することになった。

 

「....俺様は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 金曜集会の次の日。朝早くに泰斗の携帯が鳴った。ディスプレイに表示された時刻は午前5時。非常識である。

 

「あー...もしもし?」

 

「あ、起きたー! 泰斗、遊びに行こ!」

 

「小雪?」

 

「そうだよー」

 

「今何時だと思う?」

 

「5時だよー」

 

「....」

 

 ちょっとは少しは悪びれてくれよ。何を当然のように 5時だよー とか言っちゃってんだよ。まだ眠いよ。

 

「冬馬たちは?」

 

「まだ寝てるよー? お寝坊さんだねー」

 

そう言ってケラケラと笑う小雪。泰斗はため息をつき再び電話を耳に当てる。

 

「遊びに行くのはいいが、こんな時間にどこに行く気だ?」

 

「うーん。まだ早いから11時くらいに遊ぼ!」

 

泰斗はそっと携帯の電源を切った。

 

 

 

 

 

 約束の時間。川原に集合した四人。泰斗と榊原小雪、葵冬馬、井上準である。この三人は川神学園二年Sクラスの所属で、泰斗とは幼い頃より親しくしていた。ちなみに川神学園には一学年7クラスあり、泰斗らが所属するFクラスは最低ランク、Sクラスは優秀なもののみが所属を許される特待クラスである。

 

「泰斗君、朝の電話、うちのユキがすみませんね。」

 

「まあいいさ」

 

「泰斗ったら無言で電話切ったんだよー! ひどいよねー!」

 

 言っとくが俺に否は全くないぞ。あの時間に意味もなく俺に電話した小雪が悪い。

 

「二度とあんな時間に電話しないように躾けておいてくれよ....。ところで今日はどこに行くんだ?」

 

「ユキが買い物に行きたいらしいからイタリア商店街だな。何買うのかは教えてくれないけどな」

 

 

「いいから行こー!」

 

 結局ユキは何も買わなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスー! 」

 

 連休明けの月曜日。すべての授業が終わった頃、クリスをファミリーに誘うべく声をかけた。

 

「ん? 何か用か?」

 

「俺らのファミリーに入らないか?」

 

 また何の前触れもなく話を切り出すキャップ。当然クリスの頭上には???が浮かんでいる。

 

「キャップ、ちゃんと説明しないとわからないだろ」

 

「あ、そうか。悪い悪い。クリス、ファミリーに入らないか?」

 

....何か変わってないぞキャップ。そもそもいきなりファミリーって言われてもよくわからないだろ。ここは大和に任せよう。

 

 大和とアイコンタクトをとる。

 

(キャップじゃあ話が進まないから大和頼む)

 

(了解)

 

「あー、クリス。俺達は仲の良いメンバーで風間ファミリーっていうグループを作ってるんだ。名前の通りリーダーはキャップこと風間翔一な。で、良かったらクリスも風間ファミリーに入って一緒に遊ばないか?ってキャップは言いたかったんだ。」

 

 いや、多分キャップは何も考えてなかっただろうけどね。さすが大和、クリスの頭上の???が!!!に変わったよ。

 

「自分が入っても構わないのか?」

 

「もちろん。だから誘ってるんだよ。」

 

「そ、そうか! ぜひ入れてほしい!」

 

「おう! よろしくなクリス!」

 

 キャップとクリスが握手を交わす。一応ファミリー内では、空気が合わなかったら切るって事になってるけど、クリスならなんとかなりそうだな。問題は京とモロだが、あいつらもそろそろあの性格少しは改善しなきゃならないからいい機会だ。そういえば由紀江も....。

 

「よし、クリスがファミリーに入るのが決まったんだ、今日は寮の庭でバーベキューでもしようぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスがファミリーに入ったことは大和を通じてファミリー全員に知らされた。その際、寮でバーベキューを行うことも一緒に知らされたため百代、一子は川神院の冷蔵庫から肉を持ち出すため遅れ、大和、京、岳人、クリスは買い出し、卓也は一度家に帰り支度のため遅れるとの事だった。よって現在寮に残っているのは忠勝、黛由紀江、泰斗の三人だけである。

 

「あ、タッちゃん。今日は仕事ないのか?」

 

「一時間後だ」

 

 忠勝は宇佐美代行センターの従業員をやっている。忠勝の父親代わり、宇佐美巨人が取り仕切る会社だ。ちなみにこの宇佐美巨人は川神学園の教師である。

 

「じゃあバーベキュー食べれないのか」

 

「ああ。それに飯は静かに食うほうが好きだからな。それよりお前いつまでその呼び方するつもりだ」

 

「ワン子には言わないくせに俺にばっかり....」

 

「うるせぇ」

 

 俺とタッちゃんとワン子は同じ孤児院出身だ。それぞれ別々の家に引き取られ高校で再開した。タッちゃんって呼び方は孤児院にいた時の名残り。タッちゃんはやめろとはいうけど実はそんなに嫌がってない....んじゃないか。ちなみに俺とワン子以外がの奴がタッちゃんと呼ぶと鉄拳が飛んでくる。

 

「あ、おに....泰斗さん。」

 

「おう、宿題終わったか?」

 

「はい、バッチリです!」

 

 二階から降りてきたのは黛由紀江。俺の小学生時代の後輩という事にしてある....というのも理由の一つはモモ先輩がいる以上、俺の戦闘力を隠さなければならないからだ。バレ始めているが....。

 

「お前ら同じ寮に住んでる以上いつかはバレるだろ。」

 

 ちなみに真実を知っているのはタッちゃんだけ。ワン子は頭が残念な子だから覚えていない。我が幼馴染ながら残念すぎる。

 

「今日風間ファミリーで焼肉やるけど由紀江も参加するか?」

 

「ぜ、是非! でも緊張します....。」

 

 由紀江は幼い頃より黛11段の娘として地元で神格化されていたために恐れられ、また由紀江自身も修行に打ち込んでいたため対人スキルが無に等しいのだ。由紀江がまともに話せるのは俺を含めた由紀江の家族と

 

「大丈夫だぜまゆっち! むしろ渾身のギャグかましてく気で行こうぜ!」

 

 しゃべる携帯ストラップ、松風くらいである。

 

 時計をみて立ち上がる忠勝。

 

「あ、タッちゃん時間か。いってらっしゃい。」

 

「おう。行ってくる。後片付け忘れんなよ」

 

 そして忠勝とほぼ入れ違いに他の風間ファミリーメンバーがやって来て全員集まったところで早速庭に移動しバーベキューが始まった。

 

 

 

 

 

 

 肉もだんだん減ってきた頃、チラチラとこちらを見る由紀江と目があった。

 

(どうした?)

 

(い、いえ。楽しいなと....)

 

(それは良かった)

 

(....)

 

 アイコンタクトで会話する俺と由紀江。多分風間ファミリーに入りたいとでも思ってるんだろうけど....俺に言ったってダメだからな。俺がキャップに伝えることはできるけどそれじゃあ由紀江のためにもならないし、第一キャップもOKしないだろうな。

 

(何か言いたいことがあるんなら自分で言うんだぞ。)

 

(....はい!)

 

「....あ、あのキャップさん!」

 

「おう? なんだー?」

 

「わ、わたしも仲間に入れてください!!!」

 

 おお!言えた!妹の成長をたった今実感したよ。涙でそう。

 

 翔一はファミリーを見渡し反応を伺う。若干二名ほど反対がいたようだが翔一には関係ない。

 

「おう! お前面白そうだからいいぞ!」

 

 若干二人の反対者もこうなることは予想済みであったようでそんな表情をしている。

 

 京とモロには悪いがそろそろその排他的な性格を直してもらわなきゃならない。これもいいきっかけになるといいな。

 

 こうして風間ファミリーに新しくクリスと由紀江という二人のメンバーが加入した。

 

「皆さん、よろしくお願いします!」

 

「由紀江、笑顔怖い」

 

「えっ、あ、うぅ....」

 

(((((((あれ笑顔だったんだ....)))))))

 

 

 

 

 

 

 



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決闘~クリスvs大和~

 

 

 クリスと由紀江が風間ファミリーに入って4日が経過した。この4日間は、二人共川神に来て間もないので川神を案内したり、普段ファミリーでやっている遊びなどを紹介したりと慌ただしいが、楽しい4日間となったようだ。そして4日後と言うことは今日は金曜日。金曜集会のある日だ。そこで基地の場所をしらない二人を案内しなければならないということで、由紀江を泰斗、クリスを大和が案内するということになった。その他のメンバーは一足早く基地へ向かい基地内の掃除、食べ物の準備をすることになった。

 

 

 

 一年のクラスまで由紀江を迎えに行き校舎を出る。クラスの子に由紀江を呼ぶように頼むと え? っていう顔されたけど、どうせまた由紀江は浮いてるんだろう。刀を持ち歩くのはまだ許せるとしてストラップと話すのはさすがにちょっとまずいんじゃないか? 

 

「お~う、泰斗~? ちょ~っと失礼なこと考えてるんじゃないか?」

 

「そんなことないぞ松風。松風は偉大だからな。」

 

「お、おう....そんな手には乗らないぞ...」

 

 これはチョロい。

 

「そうだ由紀江、一人だけ年下でやりづらいと思うが気にすることないからな。言いたいことははっきり言うんだぞ。」

 

「で、ですが....」

 

「欲しいのは友達なんだろ? じゃあなんでも言い合えるようにならなきゃな。」

 

「あ....はい!」

 

 頭を撫でてやると途端に由紀江の表情が明るくなる。この笑顔を常に出せたら友達なんてあっという間に出来るんだろうけどな。頑張れ由紀江。

 

 

 

 

 

 

 

 

基地にバイトで遅れる翔一以外が集合し金曜集会が始まる。それぞれ基地の設備や構造、どこに何がおいてあるかなどを説明していく。その後、これまでの風間ファミリーの活動、武勇伝などを二人に知ってもらうべく話していた。

 

「う~ん、さっき基地まで案内してもらっている時も思ったんだが大和はなんというか....考え方が汚いな。どうして正々堂々と勝負しようとしないのだ? 侍はまっすぐ正面から戦うべきではないのか?」

 

 これはまずい。予感的中だ。日本人皆侍のような精神を持っていると勘違いしている上に本人の性格も騎士を名乗るだけあってまっすぐすぎる。悪く言えば融通がきかない。そんな性格だ、大和とは正反対。いつかはぶつかるだろうと思ってはいたがまさかこのタイミングとはな。

 

「俺は仲間がなるべく傷つかないように作戦を考えてるんだ。俺にとって汚いというのはある意味褒め言葉だ。それと日本人誰もが侍の精神を持っているという前提で話を進めるのはやめてくれ」

 

「なぜだ! テレビで日本人は侍と言っていたぞ! お前は大和丸夢日記の主人公と同じ名前とは思えない! それに作戦は認めるが大和の作戦は敵を陥れるものばかりじゃないか! 」

 

「名前は関係ないだろう! だいたい....」

 

「弟もクリスも一旦ストップだ」

 

 終わりのない論争に呆れたのか百代が二人を止める。普段こういった口論を止めるのは大和だが、今回は止められる側だ。いつでも冷静に物事を考える大和が声を荒げるほど二人の性格は相性が悪いのだろう。

 

「クリの言ってることはわかるんだけどね....。でも大和の作戦に助けられたこともあるし....。うー、わかんないわ!」

 

 考えるのをやめないでくれワン子。もう少し頑張ってくれ。俺は情けないぞ幼馴染よ。あー、ビーフジャーキー食べ始めちゃった。それにしてもこのままじゃ終わらないよな....こういう時のための決闘か。モモ先輩も同じ事考えてるな。

 

「お前ら決闘で決めたらどうだ?」

 

「決闘って言っても姉さん。俺とクリスじゃあ実力も違いすぎるし....何で勝負するんだ?」

 

「....考えてなかった。」

 

 この姉妹は本当に....しょうがないな。

 

「俺から提案があるんだが。」

 

「泰斗、なるべく公平なのにしてくれよ。一対一とか無理ゲーだからな?」

 

「一対一は無理だろうから五対五ならどうだ?」

 

「なるほど。でもモモ先輩はいったらそっちのチームが勝ちじゃない?」

 

 京に指摘を受けるがその辺もちゃんと考えてある。

 

「チーム分けは大和とクリスが指定された二人のメンバーをじゃんけんで勝ったほうが先に選ぶ。最初にモモ先輩か由紀江を選んでもらう。モモ先輩はチートだが、由紀江ならなんとか時間稼ぎくらいはできそうだからな。それでもモモ先輩のほうが強いから由紀江を選んだ方にハンデ。次の二人の中から先に選べる気がする。これでどうだ? ....ワン子あたりが全く理解していない気がするから例をあげよう。」

 

「例えば大和がモモ先輩を選び、クリスが由紀江を選んだとする。次に予め決めておいた二人、ワン子と京という選択肢の中からクリスが先に選ぶ。余ったほうを大和が....という風に進めていく。で決闘自体は大和かクリスのどちらからダウンしたら決着だ。ワン子、理解したか?」

 

「なんとなくわかったわ!」

 

 これでなんとなくかよ。俺にはこれ以上説明できないぞ? ワン子以外は理解しているようだからいいが。

 

「このルールについて何かあるか?」

 

「た、泰斗さん。最初に百代先輩か私を選ぶのところ、私じゃなくて泰....」

 

「由紀江、ストップ」

 

「え、でも」

 

「ストップ」

 

「....はい」

 

 危ない危ない。モモ先輩に実力を知られるわけにはいかない。由紀江にもちゃんと伝えておかなきゃな。

 

「大和とクリスはこのルールでいいか?」

 

「ああ、これなら公平だな。」

 

「自分もこれでいいぞ。」

 

「早速明日学校のグラウンドで決闘だ。モモ先輩、学長に話を通しておいてください。キャップには俺が伝えておきます。」

 

 こうして大和とクリスの口論はファミリー全員を巻き込んだ5対5の決闘となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘当日。ファミリーは全員グラウンドに集まっていた。ルールの説明はモモ先輩が学長にすべてしてくれたためチーム分けも学長の元公平にこの場で行う。風間ファミリーは川神学園では比較的有名であるためその決闘をひと目見ようという生徒が風間ファミリーを囲っている。その中には

 

「泰斗ー! 頑張ってねー!」

 

「泰斗くん、この決闘が終わったら私とデートしてくれませんか?」

 

「また若は....。とにかく応援してるぞ泰斗!」

 

 葵、準、小雪やそれ以外の普段Fクラスとは中が悪いSクラスの生徒も見学に来ている。すこし嫌な声援があったが。

 

「ふむ、そろそろ始めるかの。まず、わしが予めきめておいた二人の中から一人選ぶ。これを四回繰り返す。ちなみにこういう組み合わせにしたぞ。」

 

 

 

 川神百代    ーーー    黛由紀江

 

 川神一子    ーーー    椎名京

 

 風間翔一    ーーー    連城泰斗

 

 島津岳人    ーーー    師岡卓也

 

 

「うわ、僕の所ひどい!」

 

 やや抗議の声が上がったが大和もクリスも予想通りだったようだな。先ほどから大和はひたすら作戦を考えているようだ。それに反してクリスは手を組みその隙間を覗くというじゃんけん前によく見る行動に出ている。それにしてもこの組み合わせを見る限り学長には実力はバレていないようだ。

 

「ふむ、異議はないようじゃの。ではこれより直江大和とクリスティアーネ・フリードリヒ両名による決闘を行う。先行を決めるじゃんけんを行うのじゃ。」

 

「いえ、その必要はありません。先行をクリスに譲ります。」

 

「な! お前は馬鹿にしてるのか! 先行のほうが有利に決まってるだろ!」

 

「いいから決めろよクリス」

 

「くっ、なら自分はモモ先輩を選ぶ!」

 

「おお、私を選んでくれるなんて嬉しいぞクリス~」

 

 これは大和の予想通りだろうな。正直モモ先輩と由紀江はお互いに数分間、もしかしたら十数分動けないからどちらを選んでも大した問題ではないだろう。だからこそ大和はハンデのある由紀江を選んだんだろうな。クリスはそれに気づかなかったのか、由紀江の実力を過小評価しているかだな。大和が由紀江を強いと思ってくれてるのはモモ先輩のおかげかな。

 

「じゃあまゆっちを選んだから次は俺からだな。京を選ぶよ。」

 

「私を選んでくれるなんて! これは愛情だね!」

 

「友情です」

 

「では自分は必然的に犬だな。」

 

「やるからには勝つわよ、クリ!」

 

 ここまではほぼ必然と言っていい組み合わせだ。残り2つの組み合わせで大きく戦況が変わることが予想される。この決闘の鍵となるのが由紀江と未知数の泰斗である。由紀江が百代相手にどれだけ闘えるか、また泰斗がどれほどの実力を秘めているのかによって戦力に大きく差が出るだろう。

 

 

「次じゃの、先行を決めるのじゃ」

 

 大和とクリスは向かい合って右手を出す。結果はクリスの勝ち。

 

「よし自分が先行だ。キャップはすごい運を持ってるときいたから自分はキャップを選ぶぞ!」

 

「じゃあ俺は泰斗だな。」

 

 あれ、クリスは俺を選んでくれると思ったんだが....。くず餅パフェ2つの力は大したことなかったな。どちらのチームになっても最善を尽くすことに変わりはないのだが、財布から飛んでいった野口さんが何の影響も与えなかったことに驚いたよ。とにかく次で最後か、これは絶対に落とせないな。岳人とモロじゃあ戦力が違いすぎる。モロがクリス側になれば非戦闘員が調度良くバラけるんだが。

 

「これで最後じゃの。先行を決めるのじゃ」

 

「あ、クリス。俺チョキ出すわ。」

 

「なんだと!? 騎士を愚弄する気か!」

 

「さあ、じゃんけんだ」

 

「むむむ」(大和は人を騙してばっかりだから...いや、でもその裏をかいて...)

 

 結果は大和の勝ち。大和が宣言通りチョキを出し、裏の裏を疑ったクリスがパーを出し大和が勝った。当然大和は岳人を選んだ。

 

「あれ、騎士様俺チョキ出すって言ったよね? 騎士様ともあろう方が人のこと信じなかったの?」

 

「むうう....」

 

 完璧に大和のS心に火がついてるな。まあ、クリスがあまりにも騙されやすいのも問題なのだが。大和に駆け引きで勝つのはクリスじゃあまず無理だろうけどな。

 

 最終的に両チームの構成はこうだ。大和のチームに由紀江、京、泰斗、岳人。クリスのチームに百代、一子、キャップ、卓也。戦力に大きな偏りは見られない。

 

「では五分作戦会議を行った後、再び開始じゃ。それでは作戦会議を行うがよい。」

 

 

 両チーム、勝敗を分ける五分間の作戦会議へと移った。

 

 

 

 




箱根編書くのがちょっとめんどくさかったのでこういう形にしました。箱根編が好きな方には申し訳ないです。


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決着~クリスvs大和~

 

 

「これはさすがに....厳しいッ!」

 

 京は苦しそうにそう漏らす。先程から京はクリスと一子の攻撃をなんとか捌きながらも相手している。作戦会議が終わりまっすぐ向かってきた一子とクリス。大和も想定外のことだった。クリスの性格から一対一を好むものだと思っていた大和は京に、クリスか一子、どちらか片方向かってきたほうの撃破を指示していた。京は本来、弓の使い手であり近距離戦には向かない。その弱点を克服するために父や百代から稽古を度々受けてはいたが実力が拮抗するもの二人を相手にとるのは厳しいだろう。それでも京が何とか持ちこたえているのは長年培ったその目と二人、一子とクリスの息が合っていないためであろう。

 

「わっ! クリ! 危ないじゃない!」

 

「犬こそそこにいられると邪魔だ!」

 

 まだ出会って数日。同じ敵を同時に攻撃できるほどお互いの動き、クセを知るには短すぎる期間である。ましては一子は考えではなく勘で動くタイプであり、クリスもそれをフォローできる性格ではない。状況は2対1にもかかわらず京が若干不利というところであった。

 

 

 

 

 

 京が苦戦している一方で、少し離れた場所では百代と由紀江による激しい戦いが繰り広げられていた。

 

「うーん、まゆまゆやっぱり強いな。強いんだけどな....」

 

 由紀江の実力は百代が見込んだ通りだったようだ。しかし百代はどこか物足りない、そんな表情をしていた。自分が強すぎるあまり自分と対等に張り合える相手がいなくて鬱憤は貯まる一方。そんな時に突然舞い込んだ由紀江と真剣で勝負できる機会だ。相当な期待をしていたのだろう。

 

「まだ力を抑えてるな....」

 

 百代は数発の拳を放ったところで由紀江が100%の力で戦っていないことを見抜いた。しかし由紀江にすれば相手は百代だ。手を抜くことは即敗北を意味する。故に手を抜いているつもりはないのだが由紀江の中で無意識に力を抑えられていた。

 

「やぁっ!」

 

「おっと、ちゃんと全力で来ないと私は倒せないぞ~?」

 

 由紀江の繰り出した斬撃を避けながらも百代は余裕の表情だ。続けて刀を振り下ろすもすべて百代はいなす。由紀江の勝機は0に近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、ちょ、待てお前、逃げんなコラ!」

 

 緊迫した2つの戦闘と離れた場所では風間ファミリーの男ども(大和、卓也除く)が戦闘していた。こちらは他の2つほど緊迫していなく、遊んでいるわけではないが他の2つの戦闘のレベルが高いだけに対比がひどい。周りを囲んでいる生徒の中でもこちらを見ているのはほぼいない。

 

 キャップを岳人に任せ由紀江と京の方の戦況を眺めていた大和が動く。

 

「泰斗、どっちもやばそうなんだが京のほうがやばそうだ。姉さんは放置でいいだろう。クリスも自分が出て戦ってるあたりこの決闘は自分が負ければ終わりって気づいてないんだろう。京の援護なんとかなるか?」

 

「ワン子とクリスか....。」

 

 モモ先輩がいる中であの二人を撃破したらきっと目をつけられるだろう。ただこのままじゃあ京は間違いなく負けるだろう。ワン子とクリスの息も合ってきている。カムフラージュに由紀江に一アクション起こして欲しいがこっちも辛そうだ。しょうがない、モモ先輩があの事を忘れている事に賭けるか....。技を見せなければなんとかなるはず....

 

「分かった。俺は京の援護に行く。由紀江が負けそうになったら....」

 

 大和の耳元に顔を近づけ耳打ちする。大和はなにか抗議の眼差しをむけているが実行さえしてくれればいいさ。不安は残るがこれで準備は万端、京救出作戦始動!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー、そろそろやばいなー。なんかこの二人息が合ってきてるような気がするし」

 

「よし、やっと感覚がつかめてきたわ! そろそろ決めるわよクリ!」

 

「ああ!」

 

 今まで何とか迫り来る攻撃に耐え痛手は免れていたが、すでに肩で息をする京。一方クリスとワン子は息が合うのを感じ、決めの一撃を放つところだった。

 

 京に向かって薙刀の一撃が迫る。そして前方、凄まじいスピードで刺突を繰り出すクリスが視界に入る。薙刀を避けるために後ろに引けばレイピアの一撃を受け、レイピアを横にかわして避ければ薙刀の一撃を受ける。息のあった二人の攻撃は京に絶対に避けられない状況を作り出し、秘中の技となる....はずだった。

 

「間に合った」

 

 驚愕に染まった二人の表情。それも当然、二人は勝ちを確信していたのだ。渾身の力で放った完璧に息のあった攻撃。それが防がれた。その瞬間クリスの脳裏に浮かんだのは百代の敗北。百代が由紀江に何らかの理由で敗北し、壁を超えた力を持つであろう由紀江に攻撃を止められた。これならば少し無理があるが納得がいく。だが目の前にいたのは由紀江ではなく泰斗。

 

「え、泰斗!? なぜお前が」

 

「京お嬢様を助けに来たんです。」

 

「あ、執事にはは大和しか雇わないのでごめんなさい」

 

「えぇ....。」

 

 かっこ良く決めたつもりが台無しである。これが由紀江だったら喜んでくれるんだけどな。

 

「まゆっち! 今こそその刀の封印を解くんだ!」

 

 大和の厨二発言により全員の意識がそちらに向く。きちんと実行してくれたか大和。ってことはあんまり時間がないんだな。のんびり会話をしている暇はない。幸いモモ先輩も大和に注意がいってる。これなら誤魔化しようがあるだろう。

 

「クリス、悪いな」

 

 クリスのみぞおちに拳を当て、力を込める。その瞬間この決闘の勝敗が決した。鉄心の声がグラウンドに響き、歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むう....。自分は負けたのか....。」

 

 風間ファミリーは基地に集まっていた。クリスはあのあと保健室へはこばれたがすぐに目を覚ました。今日は金曜日ではないが全員基地へ集まったのはキャップが召集を掛けたためである。召集といっても決闘のあとグラウンドで基地に集まるように言っただけではあるが。

 

「これで少しは俺の言ってることがわかったか? 勝負に勝つには作戦が必要だ。その作戦が卑怯なものになろうとも勝つには必要なことなんだ。実際クリスも、京をワン子と二人で攻撃しただろ? あれも作戦なんだろうけど見る人が見れば卑怯だというし、結局は価値観なんだよ。」

 

「そう....だな。 作戦の重要性は分かった。お前のことを認めよう。だがそれにしても今日のは卑怯すぎるぞ! あんなこと言って注意を惹きつけておいて泰斗に....あれ? そういえば知らなかったぞ! 泰斗は強かったんだな!」

 

「それ私も思ったわ! ちっちゃい頃から一緒なのに全然気づかなかったもん。きっと中学生の時に修行したのね?」

 

 まさかこの話題が上がるとは....。今日は少しはしゃぎ過ぎたな。大和に勝たせるには仕方のなかったことだが。それにしてもワン子は本当に覚えていないんだな。俺がどこの家に引き取られたのか。タッちゃんとワン子よりも俺は先に引き取られてるからな。だがどこの家に引き取られたかを話してしまうとよりモモ先輩に迫られかねない。今はまだ言う時ではないな。

 

「やっぱり私の言ったとおりだ。泰斗、なぜ実力を隠していた?」

 

 百代が笑みを浮かべ泰斗に詰め寄る。今日の決闘でも由紀江が本気で闘える相手

ではなかったため戦いに飢えているのだろう。泰斗の答え次第ではすぐにでも襲いかかりそうなほど闘気を出している。ファミリーもその威圧感によって萎縮してしまう。

 

「モ、モモ先輩、落ち着いて。」

 

 モロがなだめるが効果はない。誰だこんな状態になるまで放っておいたのは。まあこんな状態だからこそ....。さて、どう答えようか。とにかくここでモモ先輩と戦うのは勘弁だ。それ以前に契約違反だ。

 

「きっかけが無かっただけですよ。それにモモ先輩ほどの実力があるわけでもありませんし」

 

「お前がどの程度の実力か測ってやるから私と戦え」

 

 泰斗の言葉を遮るようにどうしても泰斗と戦う方向に持っていく百代。そんな百代に魔法の言葉を放つ。

 

「大和と俺に借りてるお金を今日中に全額返済してくれたなら考えましょう。」

 

「あ、キャップ。今日の召集は何のための召集だったんだ?」

 

 いままで放出していた闘気が嘘のように消え不自然に話を変える百代。借金の返済を迫れば百代は話を変えざるを得なくなるのである。これまでも百代の理不尽な要求にはこの魔法の言葉が大活躍した。話題を変えてしまった百代は話を戻すわけにも行かず仕方なく弟分、大和に絡みに行く。そこに京が過激なスキンシップをとりに乱入。卓也と岳人は二人で漫画を開き、一子と百代は川神院新入り給仕の佐藤さんについて話す。由紀江と泰斗はギリギリ兄妹の会話を先輩と後輩の会話に装い話す。そしてキャップは次の遊びを考えている。これがいつもの風間ファミリーである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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