異世界料理店越後屋外伝 (越後屋大輔)
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サラリーマンとハヤシライス

本編から8年前の越後屋。先代店主が生きていて、大輔も異世界に転移するなど想像すらしてなかった頃のお話。
今回は国民的アニメのあの人がゲスト出演します。


 サラリーマンの野原ひろしは今日の昼メシを決めあぐねていた。今彼がいるのは大衆食堂から専門店まで、様々な飲食店が建ち並ぶアーケード街である。

 

 大学生風の青年とすれ違う、何となく振り返ると青年は一軒の食堂に入っていく。屋根から下げられた看板には『料理店越後屋』とある、悪代官でもいそうな店名だと心の中で突っ込むが

 「余り大きなトコじゃないがこういう店が案外旨いモノだすんだよな」ひろしはここで昼メシを摂る事に決めた。中は意外と言っては失礼だが結構大入りだ、尤もキャパシティ自体20人程度の小さな店だが。

 「いらっしゃいませ」さっきの青年がお冷やとおしぼりを持ってきてくれた。感じのいい爽やかな若者だ。

 「店員、イヤ、バイトの子か?」さっきまで食事をしていた客が一斉に会計をして店を出る、テーブルにはひろしだけが残った。厨房があると店の奥から声が聞こえる。

 

 「大輔ぇ、今の内にアンタもお昼すませちゃいなさーい」野太い男の声が甘ったるい女口調で響く。この店に入ったのを猛烈に後悔するひろしだったが後戻りするのも気が引ける。

 「まあいいか、メニューを見よう」開いて見ると和食と洋食が中心になっている、その中から気になるモノを発見した。

 「すいませーん」手を上げて店員を呼ぶと、ある意味期待通りの女装したおっさんが対応にでてきた。

 

 サラリーマンだけに接待の仕事も多いひろしは取引相手の趣味に合わせてニューハーフパブなどに行く事もあるし、一時期家族で暮らしたアパートにもスーザンというオネェがいたのでこの手の人物には慣れっこであり、特に偏見もないが昼間の店で見るのは珍しいと思った。なにより彼(彼女?)はスーザンにそっくりだ。

 「この豚ハヤシライスのセットを1つお願いします」

 「はい、しばらくお待ち下さい」スーザン2号(たった今ひろしが命名)は厨房へ下がっていった。ひろしは改めて店内を見渡す。

 「建物は古そうだけどそれがまたいい味わいをだしてるよな、それに飲食店らしく清潔にしてある。ア、ラジカセだ。昔の食堂はよくこんなのおいてあったよな」そのラジカセから流れるのは彼が学生時代のヒット曲だ、ノスタルジーに浸っているところを快活な声がかき消す、しかしヤな気分にはならない。

 「お待たせしました、豚ハヤシライスとミニサラダ、コーヒーのセットです。ごゆっくりどうぞ」昼食を終えたのか再び青年が現れて料理の乗ったトレイを持って皿とカップを迅速かつ丁寧に並べて下がっていく。

 

 「う~ん、ハヤシといえば普通牛だろ?そこを敢えて豚。頼んではみたがこれはギャンブルかもしれん」そう思いつつも一口食べる。

 「旨ぇじゃねえか!このルーは手作りか?」ハヤシといえば牛、昨日までひろしが抱えていたそんな固定概念が心の中で音をたてて崩れていく。

 「豚バラは脂がしっかり感じられるが胃に凭れなさそうだ、玉ねぎは溶けてなくなるギリギリまで火を通してあってまさにベストな甘さに仕上がっている!」ここのハヤシライスは結構大盛りでひろしも普段なら食べ残すくらいの量だったが今日に限って平らげてしまった。

 

 「税込みで900円になります」青年に会計をして店を出るひろし。

 「午後の仕事も頑張るか!」アーケード街を抜けて双葉商事のオフィスへ戻っていった。

 

 

 

 




まさか先代店主までオカマだったとは私も想像してませんでした(笑)。こうしてみると拙作にはオカマが登場する比率が高い気が(焦)


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女子高生とロールキャベツ

『ひだまりスケッチ』から乃莉&なずなが登場します、後このエピソードだけ他の話から一年後になります。


 「岩本さんの坊っちゃん、ご両親がウチに借金したまま亡くなってるんでぇ、アンタにぃ、払って欲しいんですけどぉ」アーケード街の中でも人通りのない場所に押し込められてガラの悪そうな男達数人に囲まれて冷や汗をかく大輔、彼らに気付かれないように防犯ブザーを鳴らそうとしたがそれも取り上げられてしまっていた。

 

 「この人、痴漢でぇーす!」女子高生の2人組、ツインテの方の娘が男達の1人の腕を掴んで声を張り上げる。あっという間に人が集まってきた、ばつが悪そうに慌てて逃げる男達。

 「ありがとうございます、おかげで助かりました」大輔は女子高生達にお礼をいう、

 「いやいや、大した事はしてませんから」キュッと可愛らしい音が鳴る、発信源はもう1人の髪を後ろで束ねてる娘のようだ。恥ずかしかったのか真っ赤な顔をしている。

 「そういえばお腹空いたね」ツインテの娘がフォローする。

 (気遣いのできる娘だな、頭の回転も速い)大輔は思った。

 「僕の家食堂なんで、そこでお昼にしませんか?今日は休みですけどさっきのお礼にご馳走させて下さい」

 

 越後屋に向かう道すがら互いの話をする、ツインテの娘は狭山乃莉、関西生まれで美術の勉強の為にこちらへ上ってきたそうだ、束ね髪の娘は白鳥なずなといい本当はここが地元だがご両親の仕事の都合で春から1人暮らしをしているらしい。学科は違えど2人は同じ学校、アパート、同級生という事でよく一緒に行動するそうだ。

 大輔も簡単に自分の経歴を話す、亜麻大学経済学部の三回生。以前の名前は岩本大輔、10年以上前に実の両親を亡くしてその友人の養子になり今はその姓になっている。さっきの男達に関して細かい事は伏せておいた。

 

 越後屋熊実(ゆうみ)は毎日仏壇に手を合わせるのを日課としている、祀っているのは自分の先祖の他、友人であり大輔の実の両親岩本金次(きんじ)兼恵(かなえ)夫婦である。

 「金次君、兼恵ちゃん、大輔も二十一歳になったわ。あの子の行く末はアタシが出来る限り見届けるわね」裏口からただいまと軽やかな声が響く、大輔が帰ってきた。

 「お帰り、アラ?そちらは?」大学生になってから浮いた話の1つもない彼が珍しく女の子を連れてきた、しかも女子高生。

 「マスター、あのね…」大輔は事情を説明する、因みに大輔はこの養父(養母?)を常連客と同様マスターと呼ぶ。父さんとも母さんとも呼びづらいので2人で話し合って決めたのだ。大輔の話を聞いた熊実は2人をテーブルに座らせる。

 「メニュー見てもいいですか?」乃莉が熊実に尋ねる、

 「ええ、勿論。載ってないモノでも可能ならお出しするわよ」

 「ホントですかぁ?ねぇ、なずなは何にする?」常にハイテンションな乃莉に対してなずなはやや消極的な印象がある。

 「えっ、あの、乃莉ちゃんは?私も同じのにするから」

 「そんな、折角なんだから自分の好きなモノ頼みなよ。あっ聞こえちゃいました?」赤面する乃莉だが熊実は笑顔を向けて構わない意志を見せる。

 

 「お待たせしました、ロールキャベツです」店では普段、給仕が主な仕事になっている大輔が皿を運んできた、綺麗な朱色のスープに大振りのロールキャベツが乗っている。

 「頂きまーす」早速ナイフでキャベツを切ると中にはぎっしり挽き肉が入っていた、

 「乃莉ちゃん、卵が!中に卵が入ってて3重丸になってる‼」なずなは空でも飛びそうな勢いでテンションが上がっている

 「なずな、大きな声出せるじゃん」乃莉に突っ込まれハッとするなずな。

 「冷めない内に食べよう、うわ美味しい!肉汁がジュワ~って」

 「スープがトマト味だね」

 「ねぇ、なずな」

 「ナーニ、乃莉ちゃん?」

 「そのまんまじゃん!」

 

 「「ごちそうさまでした」」乃莉となずなは2人にお礼をいって帰っていった、熊実は皿洗いをしている大輔にこんな質問をする。

 「大輔、アンタ乃莉ちゃんとなずなちゃん、どっちが好みなの?」

 「そんなんじゃないって!」

 「アララ?照れ屋さんねぇ」クスクス笑いながら翌日の営業にむけて仕込みを始める熊実、だが心中では一刻も早く将来の嫁を見つけて欲しい。そういえば最近めっきり会わなくなったけど高校生の頃の彼女とはどうなったのかしら?

 (オカマの私がいえたモンじゃないけどね)天国にいるこの子の両親には幸せな報告をしてあげたい、それだけが熊実の今の願いであった。

 

 

 

 

 




この2人食レポ下手…(汗)、でもそれがこの2人っぽくていいかも?


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浮気者とかき氷

今のところ唯一の完全オリジナルな一編です


 ある日曜日、爽快に晴れた空の下で長岡瑠華は彼女から思いきり平手打ちを食らった、昨晩違う女と一夜を過ごした、つまり浮気がバレたのだ。相手はどちらも中国からの留学生で長岡にいわせればちょっとした文化の違いから生じた誤解なのだが浮気したのは事実であり、この場合国も文化も関係ない。

 そんな個人的な事情に関係なく月曜日はやってくる、憂鬱な気持ちのままアパートをでて大学へ行く。彼は亜麻大学理工学部で電子学を専攻している二回生。講義が終わるとサークル活動へ向かう。

 

 中国文化研究会。それが長岡の所属するサークルである、当初は大好きな「西遊記」をより深く知りたいという動機で入会したが今は新しく知り合ったこれまた中国人留学生を口説く為に学んでいる。

 

 「そうか、本場中国のラーメンは日本とは随分違うんですね」先輩達の研究レポ、それも食文化に関するモノを見ながらしきりに感心している学生が目に止まる。外見は長岡よりも年下に思える、それに彼が読んでいるのは現三回生のまとめたレポだから二回生以下なのは間違いない。

 「俺、電子工学部二回生の長岡瑠華、お前はなんていうんだ?」見ず知らずの同期生に突然声をかけられたにも関わらず相手は愛想よく返してきた。

 「僕は経済学部二回生の越後屋大輔、よろしくお願いします」

 

 それから2人はキャンパスでよくつるむようになった、女好きで一見チャラ男の長岡とまじめで常に丁寧口調の大輔。まさに対照的な2人だが端から見てる第三者が不思議に思うほど互いを気に入っていた。

 

 ある夏の日長岡が大輔の家に遊びにきた、彼が幼い頃生みの親を2人共亡くして他家の養子になっているとは聞いていたが養親がオネェだとは予想してなかったので度肝を抜かれた。

 夜になり大輔の部屋で雑魚寝する、その日は記録的な熱帯夜であり2人共中々寝付けずにいた。

 「長岡さん、眠っちゃいました?」大輔から小声で尋ねられると、

 「起きてるよ、つーか暑苦しくて眠れねーよ」

 「何か冷たいモノ用意しますよ、少し待っていて下さい」大輔はそういって部屋を出る、あまり時間を置かず戻ってきた。

 「かき氷です、長岡さんはこちらをどうぞ」褐色のシロップがかけられた氷を渡される、一方大輔が手にしているのは赤の上に白と2色だが、明らかに市販のモノとは別物のフルーツの果肉が混ぜられたシロップである。

 

 「春に出た苺をジャムにして保存しておいてからシロップにしました、練乳も牛乳を煮詰めて作ってます」

 「勝手にキッチン使っていいのか?」

 「賄いなら構わんと許可済みです」これも賄いの類いか。氷を崩しながらシロップと一緒に食べると

 「これ酒か!それも蒸留酒(スピリッツ)じゃねえか?!」

 「こっちの方が好きでしょ?」

 「まあな、しかしいい酒だな」

 「ええ、マスターお手製のラム酒です」大輔は平然と言うが長岡は急に青い顔になり、

 「ヤバイって(゚O゚)!バレたら営業停止じゃ済まねぇだろ!」

 「ウチのマスター酒造免許持ってますけど(^_^;)」一瞬互いを見つめ思わず笑い合う2人、この時以来長岡は越後屋の常連客になった。

 

 この長岡という青年こそが先程の話から8年後の異世界で孫悟空に転生したルカであり、大輔もその事を知っている。

 「ルカの昔の女ってどんな娘だったの?マスター、会った事あるんでしょ?」

 「私も知りたいです!教えて下さい」ルカに惚れているディーネやトロワに詰め寄られるが

 「お断りします、男同士の約束ですから」断固として口を閉ざす大輔だった。

 

 

 

 




因みにルカは熊実の死後、跡を継いだ大輔への呼び方をマスターに変えてます


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旧友とカナッペ

『ご注文はうさぎですか?』からナゼかこの人物が。熊実との意外な関係も明らかに。


 死んだ父親から受け継いだ喫茶店を営んでいる香風タカヒロは自分の店の定休日に若い頃の親友を訪ねにこのアーケード街へやってきた。

 「この店か『越後屋』ってそのままじゃないか」苦笑しながら店の扉を開ける。

 「すみません、本日は閉店しました」モップで床を掃除していた二十歳くらいの若者が手を止めて頭を下げながら告げてくる、しかしあいつの店で働くとは物好きな青年だ。タカヒロは青年にこう返す。

 「店主はいるかい?俺達は古い友人なんだ、香風タカヒロと伝えてもらえば分かるハズだ」青年は

 「あっ、はい伺っています。しばらくお待ち下さい」掃除用具を隅に移して店主を呼びに店の奥へ向かっていった。

 

 「久し振りね、カプちゃん」

 「その呼び方はよせ、くま」越後屋店主越後屋熊実とその友人、喫茶店「ラビットハウス」マスター香風タカヒロはかつて軍人であり同じ部隊に所属していた、当時は「○○部隊の二天龍」と恐れられていた両名は現在偶然2人共客商売、しかも飲食店を経営している。

 「息子よ」目だけをあの青年に向けて先程から何か言いたげなタカヒロに切り出す。

 「…」

 「何で固まってんのよ?」

 「お前が女性と関係するハズはない、だとするとまさかどこかの緑色宇宙人みたいに卵吐いたりするのか?昔から変わり者だとは思っていたが」

 「そんな訳ないでしょ?養子よ、養子!」こんな冗談がいえるのも親友ならではである。熊実は焼酎のグラスを2つだしてタカヒロに薦め自分も呑みながら料理を開始した、手を動かしながら話を続ける。

 「そっちはどうなの?奥さんと親父さん亡くしてチノちゃんと2人きりでしょ、あの娘幾つになったのかしら?」熊実がタカヒロの娘のチノと最後に会ったのは10年以上前だ、本人は覚えていないだろう。

 「ああ。13才になった。母を亡くしたせいか内気な娘だったが最近は友達の影響とかもあって大分明るくなってきた」

 「それは何よりだわ」話ながらも熊実は手を休めない。

 

 「さあ、できたわ。試してみて」

 「カナッペか。焼酎との組み合わせにしては珍しいな」一口大にきりわけられたバゲットの上にはスモークチーズとイクラを乗せたモノ、胡瓜の明太マヨ和え。塩気が効いていて焼酎にも合う。それに、

 「これ、味噌だろ?バゲットには今一つのような気がするが」

 「まあ食べてごらんなさいな」焼酎で一度口の中をリセットしてから味噌バゲットを囓る。

 「旨いな、甘めに仕上げた味噌がバゲットとマッチしている、練り込んであるナッツは胡桃か?いい食感を出してる」

 「そうよ、どこだかは忘れたけど以前旅先で味噌入りのパンを食べて美味しかったから真似しちゃった(≧Q≦)ゝテヘペロ」

 「お前がそれやってもちっとも可愛くないぞ、寧ろ見る側の健康に悪い(~∇~;)」

 「酷いわねぇ」そう言いながらもへそを曲げた様子もなくケラケラ笑う熊実、タカヒロも吹き出し新友同士昔話に花を咲かせながら呑み明かした。

 

 それからしばらく経ったある日の香風家の朝食時、

 「お父さん、パンに味噌塗って食べるの止めて下さい。和食か洋食かわかりません」

 「チノ、そう言わずお前も試してみなさい。これが中々イケるぞ」

 「味噌トースト旨っ!オジさん天才!」

 「心愛さんまで…」

 「この前古い友人に会いにいってね、そこで教えてもらったのさ」ラビットハウスのバイトで居候の高校生、保登心愛は味噌とパンの組み合わせに見事にハマったようだ。

 「あの女装趣味の変わり者か」どこからともなく声がした、しかしこの場には3人しかいない、後は飼いウサギのティッピーがいるだけである。

 「私は絶対食べません!」チノは頑ななまでに拒否し、ジト目の膨れっ面で父親を睨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




リゼパパも出して3人で語り合うのもアリだったかな?


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執事と天麩羅定食

今回のゲストはプライベートが全く想像できないあの人です


 若き実業家、破嵐万丈に仕える老執事のギャリソン時田には秘かな楽しみがある。その為に月に2、3回程わざわざこのアーケード街に自分では運転せずタクシーを走らせてくる。

 料金に幾らかのチップをドライバーに渡しそこから少し歩いて彼が入るのは小さな食堂である。

 「こんにちは、開店はしておりますかな?」店の玄関を掃いていた若い店員に尋ねると

 「いらっしゃいませ、いつもご来店ありがとうございます」深く頭を下げられて戸を開けてもらう。

 

 「では『いつもの』をお願いしますかな」厨房近くのテーブルに陣取ったギャリソンは若い店員に告げる。

 「はい、しばらくお待ち下さい」彼はこの常連客から慣れた様子で注文を受け一旦奥へと下がるが別の客が来店すると席に案内してサッとお冷やとおしぼりを目の前に並べる。

 「フム、中々に手際がよろしいですな」仕事柄かどうしても店員達の動きが気になってしまうギャリソン、この店には先程の若いウェイターの他は性別不明の料理人が1人いるだけだが。その料理人が厨房で腕を振るうのを注意深くかつ気取られないよう自然体を保ちつつ眺めていた。

 「お待たせしました、天婦羅定食です。ごゆっくりどうぞ」ギャリソンの楽しみ、それはこの越後屋の天婦羅定食であった。

 

 「今日も旨そうですな。では食するとしましょう」早速鯵の天婦羅に塩を降り箸をとりかぶり付く。

 「小骨も綺麗に抜かれている、それでいて身を崩さず揚げられてて迅速で丁寧な仕事がされているのがわかります。しかしこれはたまりませんな」一口ごとにサクサクと心地よい音が響く。しかしこの定食のメインは鯵、いや魚介ではない。

 「他のどなたがなんと言われようと私にとってのメインはこれに決まりですな」彼が嬉しそうに箸で掴んだのはウドの天婦羅であった。

 「旨い!山菜料理の店でもあまり見かけません故、この店に通うのはやめられません。やはりこの歯応え、繊維感、葉の苦味はよろしいですな。おっとウェイターさん、すみませんご飯のお代わりを。後ビールを一瓶頂けますかな」

 「はい、すぐお持ちします!」まだ天婦羅を残したままご飯を食べきってしまっている。これからご飯もう1杯で第2回戦に突入し、ビールをもって決勝を制さねば。

 「あれ?ギャリソンさん、珍しいトコでお会いしますね」サラリーマンの男性がギャリソンに声をかける。

 「いやはや、たまの息抜きでしてな、ひろし様はこちらにはいつも?」

 「外回りの最中ですよ、取引先が近所なんでついでに昼飯もここで食っちまおうと思いましてね。あ、ハヤシライスね」

 

 「それにしてもあのお客さん、年配の割りに健啖家だよねぇ。売上伸びるからいいんだけど」

 「毎度ながらビックリよね、普段何してらっしゃるのかしら?でもああいう渋い男性も素敵よね❤」

 「ゴメン。それ、僕には理解できない世界だから」今日も今日とて店の営業が終わり誰に見せる訳でもない漫才のようなやり取りを繰り広げる熊実と大輔だった。

 

 

 




ギャリソンとひろしの関係については別の二次もので書いてますのでそちらをよろしければそちらもご参照下さい


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小説家とアップルパイ

再び『ごちうさ』から、今回はこの人。


 「ここなら担当さんにも見つかりませんね」いい穴場に巡り会えたと喜ぶ眼鏡が印象的な女性小説家、青山翠はカウンター席に座って人心地ついた。

 「私だって仕事しない訳じゃありません、真手さんがあんなに急かすから逃げたくなるんです。そう思いませんか?」

 「ご免なさい、アタシには話が見えないんだけど」しまったと青山は思った、ついいつものラビットハウスにいる気分で話していたがここは初めて入ったお店。相手は香風タカヒロではなく初対面のこの店の店主、しかもナゼかオカマさんである。

 「す、すいません!」恥ずかしさのあまり俯いたところに1人の青年が店の奥からでてきた。

 「マスター、このポスターどこに貼っとく?」青山はビックリする、その映画の告知ポスターには「うさぎになったバリスタ」の文字がデカデカと表示されていたからだ。何を隠そうその映画の原作となった小説を書いたのが彼女である。

 「あ、そのポスターは?」

 「ああ、アレ?友達に宣伝頼まれちゃったのよ。そういえば映画なんてしばらく観てないわね」ランチタイムを過ぎたこの時間は暇なのかつい会話が弾んでしまう。

 「香風さんからチケット貰ってるしどうする?一緒に行こうか?」青山より幾つか若いと思われる店員の青年が店主を誘ってみるが、

 「何が楽しくてアンタと映画観にいかにゃならんのよ?それより女の子でもひっかけて連れていきなさい」青山にはどうも2人の関係が想像できない、恋人ではなさそうだし各々の年齢は知らないがそれでも兄弟にしては年が離れすぎている感じがする。イヤ、そうじゃなくて。

 「ラビットハウスをご存じなんですか?」香風という名字は青山が知っている限り一軒しかない。

 「ええ、古い友人よ。またどうして?」自分が映画の原作者である事は伏せて説明した青山。オカマさんはそう、とだけ返して深くは追求してこなかった。ホッとした様子で1つ息を吐きお冷やを飲んだところで何かに気がついた青山、テーブルの備品を足している青年に注文をする。

 

 「お待たせしました、アップルパイです、ごゆっくりどうぞ」青年は青山に暖かい湯気の立つお皿を差し出しながら丁寧に告げるとキッチンの奥へ下がっていく、飲食店で何も頼まないのは失礼だしこの時間なら食事より甘いモノの方が自然だ。それにラビットハウスも食事やデザートメニューも充実はしているがどちらかと言えばコーヒーがメインである為か焼きたてのアップルパイはまずお目にかかれない。

 「では、いただきます」フォークで生地を軽く崩して内側のリンゴジャムと絡めて頂く、サクッとしながらも口どけの良い生地が口内で解れていきしっかりしながらくどくない甘さとほんのりと酸味のあるリンゴジャムと一体化していく、この近所にあるフランチャイズのケーキ屋さんでは決して味わえない、そう感想を店主に伝えると

 「そりゃ、あのお店にアップルパイ置いてないもの。当然でしょ?」半笑いで冗談めかす店主に対して、

 「この人はパティシエとしての腕も一流なんですね。ウン、なにか新作のインスピレーションが降りてきた気が…」バン!店の戸が大きな音をたてて開かれた。

 「青山先生!早く原稿上げて下さい、締め切りは過ぎてるんですよ!」スーツを身につけた女性が青山を引き摺っていく、

 「待って真手さん、まだアップルパイが残ってるの~」真手と呼ばれた女性を店主が引き止める。

 「ギリギリならともかく過ぎちゃってるなら焦る必要もないでしょ?貴女もウチのアップルパイ食べていかない?」渋々席へつく真手だったが彼女も一口でアップルパイの虜になった。

 

 しばらくして、新しく出版された小説が世間から大評判を呼んだ。越後屋にも単行本のサンプルが届けられていた。

 

 『男とオカマとアップルパイ 作:青山ブルーマウンテン』閉店後、包装を剥がしタイトルを見た熊実と大輔は爆笑した。一方、同じ本が送られたラビットハウスの香風親子は焼きたてアップルパイを新メニューに加えるかどうかしばらく悩んだそうである。

 

 

 




本家にアップルパイの話が出ない事を願います(笑)。


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おさるとバッテラ

何が何だか自分でもわかりません、今回のゲストは動物?


 ※舞台は新宿辺りの大きなビル街、高級そうなレストランの前

 黄色い帽子のおじさんと日本にやってきたおさるのジョージは見るもの聞くもの、何もかもが初めてでワクワクがとまりません。今日はおじさんと一緒に日本料理を食べに行きます。

 「すみません、介助犬等一部を除いて動物連れでのご来店は…」

 [ホハァー(´△`)]ガッカリです。

 「大丈夫、お店がダメならデリバリーすればいい」落ち込むジョージをおじさんは慰めます。

 

 ピリリ、ホテルで寛いでいると携帯電話がなります。

 「もしもし、やあワイズマン博士」

 「どう?日本を満喫している?」

 「ええ、楽しんでます。その、レストラン以外は」最後の言葉が尻窄みになるおじさん、ワイズマン博士も気付いたみたいです。

 「3分だけ待ってちょうだい」一旦電話を切って待ちます。そしてホントに3分後、再びワイズマン博士から電話がかかってきました。

 「小さなお店を経営()ってる友人と話がついたわ。明日はお休みだけど特別に招待してくれるそうよ、ジョージの事も大歓迎ですって」

 「あ、ありがとうございます」おじさんは早速ジョージに伝えます。

 「やったぞ、ジョージ!明日は日本料理を食べに行こう」

 [ワハーッハホハァ!(^o^)]笑顔になるジョージ、ナゼかおじさんと手を取り合って一緒に踊ります。

 

 そして次の日、ジョージと黄色い帽子のおじさんはワイズマン博士とそのお店にやってきました。

 「いらっしゃいませ」

 「こんにちは、ユーミ。今日はありがとう」ジョージもワイズマン博士のお友達にご挨拶しようとします、こんに…アレ?この人男性?女性?

 [フォアワァ?]知りたがりのジョージは気になって仕方ありません。

 「マスター、接客は僕がやるから」

※一見子供にも見える若い男性がホールにでてくる

 「あなた中学生?」

※ワイズマン博士が尋ねる

 「二十歳ですが」

※笑顔ながらちょっと怒り気味の青年

 「アメリカ人っておさるより失礼なのかしら?」

※店主の言葉に一同思わず吹き出す

 

 「お待たせしました、バッテラです」

 「魚がライスに乗っている、スシかな?」

 「随分かっちりしてるわね」スシならジョージもNYで食べた事あります、でもこれはちょっと違う。

 [ハ~フォ?]

 「皆さんが知っているのは'握り寿司'でしょう、これは押し寿司といわれるモノです、パンにもクロワッサンやバンズとかがあるように寿司も種類があるんですよ」おじさんとワイズマン博士は2本の棒を使おうとします、しかし上手くいきません。

 「手で摘まんでもいいんですよ、そこのおしぼりで手を綺麗に拭いて下さい」

 「そういう事なら」

※手でバッテラを一切れずつ取り口へ運ぶ2人。

 「脂ののった魚だけど酢に浸けてるせいかサッパリしている」

 「味はどちらかというと肉に近い気もするわ、向こうでも意外に受けるかも」

 [ハホヒャ?]ジョージも一口たべてみます、勿論手で。

 [アウワ~ヒャホホ!]美味しい!初めての日本料理にジョージは大喜びです。

 「そんなに気に入ってくれたなら作った甲斐があるわ、お味噌汁やすき焼きもあるからドンドン召し上がれ」日本最高!スティーブとベッツィ、ビルにアリィにも教えてあげなくっちゃ!

 

 

 

 

 

 




いっそジョージに日本一週巡りでもさせるのはどうかと現在絶賛妄想中(←妄想かい!)。


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いじめっ子とトライフル

『クレしん』からのゲスト。何かここでメイン張る人って脇役キャラばっかですな(笑)


 「大輔、お前昨日どうしたんだ?サークル来なかっただろ」親友長岡瑠華が尋ねる。

 「製菓衛生士の資格試験を受けに行ってたんです、いずれあの店を継ぐのに必要ですから」

 「そっか、で?」

 「合格しましたよ」

 「よし、偉い!」

 「偉いって…そもそも瑠華さん甘いモノ苦手でしょう?」

 「そうだけどよ、女子引っかけるにはスイーツは必須だろ?」ウィンクして切り返す瑠華に

 「さいですか」と突っ込む大輔だった。

 

 その日の帰り道、いつも通る河川敷を歩く大輔の耳に子供の泣き声が聞こえた、慌てて下りていくと5才くらいの男の子が怪我をして泣きじゃくっていた。転んだか、ここから滑り落ち落ちたかにしては怪我の具合が不自然すぎる。通学用のバックパックにいつも忍ばせてある絆創膏と消毒液をだして応急処置をする。

 「君、この怪我はどうしたの?」周りを見渡すと血のついた石が点在している、大体の見当はついた。大輔はバックパックをガサゴソさせてビニール袋をみつけると軍手のように自分の手に被せるとその石を拾い、もう1つのビニール袋にしまう。

 マサオというその子と手を繋ぎ家まで送っていく、その途中いかにも小生意気そうなくそガキに出くわす。

 「ヤイ、泣き虫マサオ!」舌をだしてマサオをからかう、その態度にカチンときた大輔。だが顔には出さない、石をぶつけたのがこの子なのかマサオに確認すると携帯を操作しながら相手を無視して先を急ぐ。

 「オイ!ちょっと待てよ」くそガキに引き止められる、ケンジというそのガキは無視されたのが気に入らなかったとみえて

 「無視するなよ、また石ぶつけるぞ!」縮こまるマサオを庇うように抱き上げ更に早足で進む大輔。呆然とするケンジの元に30くらいの男が寄ってきた、ケンジの父親のようだ。状況を説明する大輔に対してこの父親は

 「証拠があるのか?」などとフザけた事を言ってきた。

 「ありますよ、この子のそばに血のついた石が落ちてました。警察にもっていけばその子が指紋提出を求められますよ」するといきなりキレた。

 「子供の喧嘩に他人が口出しするな!」呆れ返った大輔はバカ親子を一瞥すると溜め息を吐いて近くの交番まで行きますかと親子に脅しをかける、親子は一目散に逃げていった。マサオの家に着き母親に事情を話して引き渡してから自宅へ帰る。

 「ただいま、あっ天々座さんいらっしゃいませ」カウンターで熊実の友人の天々座大佐がタカヒロにも好評だった味噌カナッペで一杯呑っている、大輔はある考えが閃いた。

 

 2、3日してマサオが母親に連れられて大輔にお礼を言いにきた、ナゼか常連の野原ひろしとその息子も一緒にいる。

 「大輔お兄ちゃん、ありがとう」ペコりと下げられた頭を優しく撫でる大輔。

 「あの親子ですが、父親は色々悪さをしていたらしくて警察に捕まりました。その途端いじめっ子も大人しくなりまして母親と謝りにきてその日のウチに引っ越してしまいました」マサオの母親が熊実に手土産を差し出す。

 

 あの日、大輔はケンジ親子の身辺調査を天々座に頼んでいた。軍人なら警察にもそれなりにコネがあるハズ、少し懲らしめるつもりであの石とケンジの脅し文句を携帯で録音したデータを渡したのだが逮捕までは予想外だった。

 「あの時はお名前しかお窺いできなくて、是非お礼をと考えていましたらしんちゃんのパパがご存じだと聞きまして」

 「君はあの河川敷を通学路にしているだろ?佐藤さんから相談されてひょっとしたらと思ってさ」察するに子供が同じ幼稚園という繋がりで家族ぐるみの付き合いがあり、野原氏がこの店を知らなかった佐藤母子の案内役を引き受けた、といったところか。

 「ねぇ父ちゃん、今日はハヤシライス食べてかないの?」

 「お前は黙ってろ」そこに息子も興味本意で一緒に着いてきたようだ。

 

 マサオママの顔が急にひきつった、店内のショーケースが目に入ったのである。手土産の中身はカステラ、せっかくだがここには売るほどどころか実際に売られていた。そそくさと帰ろうとするのを熊実が引き止め大輔に告げる。

 「大輔、頂いたカステラで何か作ってみなさい。皆さんもこの子のパティシエ修行の手伝いと思って試食して下さいな」カステラの加工品ならアレかと大輔は調理にかかる。

 

 「お待たせしました、トライフルです」大きな透明の四角いガラス容器にカステラと共に盛られたフルーツとクリーム、チョコレートの彩りが美しい、食べるのが惜しいくらいだったが大輔と給仕役を代わった熊実は躊躇する事なくフォークとナイフで崩して全員に切り分ける。

 「あっま~いっ、おいしいよこれ」

 「量もあるし見た目も綺麗。コストが安く済みそうなのもいいわね」

 「これは母ちゃんやむさえちゃんが食べたがるゾ、是非レピシ(・・・)を知りたいですなぁ」

 「それを言うならレシピ(・・・)。大体お前が聞いても意味がないだろ」

 「まあ、及第点はあげてもいいわ。満点にはまだ及ばないけどね」他の全員が満足する中、熊実だけは採点が厳しかった。

 「甘いモノなのに辛口なご意見」しんのすけはぼそりと呟いた。

 

 




しんちゃんがモブになってる…。


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現在編
面接と鰻重


ここからは現在編、2号店の話や本編に載せるのに躊躇したエピソードを紹介します。コンセプトは過去編と基本同じです。今のところ『ごちうさ』の本家スタート時から8年後をイメージしてその世界観をベースにしています。


 フルール・ド・ラパンから解雇通達を突きつけられた桐間紗路はある目的がありアーケード街を歩いていた。

 「ウ~ン、桐間さんは優秀だし正直残ってほしいんだけどねぇ」店長は苦虫を噛み潰したような顔で告げる。実際彼女に問題があって解雇された訳ではない、『もう若くない』のがその理由だった。店長も紗路が残れるよう本部に交渉してくれたのだが結局叶わなかった。

 「何よ!年齢(とし)なんて誰でもとるモンでしょ、大体喫茶店の仕事に年齢なんて関係ないじゃない!」しかしオーナーが決めた事に文句を言ってもどうにかなるモノではない。

 「お腹空いたなあ」蓄えはまだいくらかあるが次の仕事がすぐ決まるとは限らない為、食費はなるべく削っていた。

 今日は面接の日、規模は小さいが中々繁盛していると評判の食堂が従業員を募集している。昨日同じ道を通った時、店の前に貼り紙があったのだ。

 『従業員募集、年齢及び経験不問』早速確認すると定休日の明日面接をするので昼頃きてほしいとの返事だった。

 

 「すみません、面接にきたんですが」入り口の戸を開けて挨拶する紗路、中年女性が気づいてテーブルにかけるよう勧める。

 「ちょっと待っててね、今オーナーがくるから」そういえば看板にも『越後屋2号店』とあった、どこかに本店があるのか。そんな事を考えてると紗路と同い年くらいの男性がやってきて紗路は慌てて立ち上がる。

 「本店店主でここのオーナーも引き受けてる越後屋大輔です、よろしくお願いします。どうぞおかけ下さい」

 「よ、よろしくお願いいたします」ガチガチに緊張しながら座り直す、オーナーというからもっと年配だと思いきや若い男性だったのはやや衝撃的だった。

 「桐間紗路さん、24才。喫茶店でのバイト経験あり、ですか」大輔は紗路が持参した履歴書を手に彼女と交互に見比べると

 「採用です、明日からでも来てもらえますか?」心の中でガッツポーズを決める紗路、それを気取られないように顔を作ると

 「ハ、ハイ!明日どころか今からでも!」グゥ~。途端にお腹がなる、キメ顔が台無しだ。

 「よかったら僕らとお昼をご一緒しませんか?」嘲笑ではない笑顔を向ける大輔の好意を受ける事にした。

 

 実は昨夜大輔と2号店夫婦の間にこんなやり取りがあった。

 「大輔君、これホントに私達で食べちゃっていいの?高いんじゃない?」

 「構いませんよ、高いどころか向こう(・・・)じゃただ同然。むしろ処分してくれって押し付けられるくらいです」

 「ところ変われば品変わるとはいうが、勿体ない話だな」

 

 「はい、沢山あるから好きなだけ食べて」女将の冴子に出されたのはなんと鰻重である。普段の紗路では逆立ちしても手の届くモノじゃない、まともな収入がある人でもたまにしか食べられない高級品。それが食べ放題?今日2度目の衝撃に脳が追い付かない。

 「世間には知られてないルートで手に入れたから店にはだせなくてね。あっ、勿論合法だよ」冴子はケラケラ笑っていう。

 「冴子さん、笑い方が先代に似てきましたね。桐間さん、冷めない内にどうぞ」甘辛のタレの香ばしさと身にタップリ含まれた上質な脂が食欲を刺激する、特にこの数日は碌なモノを食べてなかった紗路は一口ごとに感動する。

 

 翌日から越後屋2号店で働く紗路、若くて綺麗な娘が入ったと噂が口コミで広がり1週間後には『美人すぎる食堂店員』として取材させてほしいと雑誌社から頼まれた。

 「お断りします」紗路はそう返事した、ああいう華やかなモノは昔から苦手なのだ。

 「あの、一言だけでも」食い下がる取材陣を冴子が追い払う。

 「ウチのオーナーはマスコミ嫌いでね、これ以上しつこいと警察呼ぶよ」取材陣はやむを得ず引き下がる。

 「断ってくれて助かった、事情があってね」連絡を受けてやってきた大輔は紗路にそれだけ言うと裏口から出ていこうとして冴子に呼び止められた。

 「大輔君、紗路ちゃんにはあれ(・・)話してもいいんじゃない?」

 「ルカさんが本店(こっち)にいらした時にしますよ、ダメだったら他に帰る方法がありませんから」頭に?を浮かべる紗路だったがそれから間もなく越後屋本店と大輔の秘密を知る事になった、それについてはいつか改めて語るとしよう。

 

 




この後4話にわたり紗路が活躍します


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助っ人と重なる偶然 前編

紗路が異世界デビューしました(驚)。


 本店の営業中の比較的お客の少ない午後にマティスが大輔に

 「マスター、勤務時間を変更する事ってできないかしら?」と聞いてきた。

 「ケースにもよるけど、どうして?」

 「あのね…」現在マティスはアズル大陸から流れ着いた元貿易商で今は商業ギルドの職員として働いているレイヨンと交際している、互いの子供達も仲が良くお付き合いは順調らしい。

 

 「それで明日からムッサンの街で興行する楽団の演奏会に誘われたの」明日は店自体が定休日で一見問題なさそうだがこの世界の主な交通機関は馬車である。街1つ分往復するのに早くて2日はかかる為翌日の通常営業には手が足りない。

 「マスター、魔道具が鳴ってます」ラティファに言われてスマホをとる大輔、相手は冴子だった。

 「はい、ええわかりました。紗路さんには明日裏口に回るように伝えて下さい」通話をきってマティスの休暇を認める大輔、代わりの従業員がみつかったのだ。

 

 今日の2号店はいつも通りの営業が行われているが明日から盆休みならぬ彼岸休みに入る、紗路を雇う少し前冴子が福引きで温泉旅行を当てたので夫婦で行きたいと思っていた。大輔に話したら

 「その間は店を閉めていいからゆっくり骨休めして下さい」と元々許可を得ているが紗路にはまだ何も伝えてなかったのだ。

 

 そして翌日。

 「紗路ちゃん、そういう訳で明日から本店で仕事してもらうけどいいかしら?」冴子から頼まれた紗路は給料目当てに引き受けた。昨日言われた通り紗路は裏口に回ると既に大輔が迎えに来ていた。

 「それじゃ本店へご案内します」ドアノブに手をかける大輔を怪訝に思うが戸が開いた瞬間店の様子が違うのに驚く。

 「今日は本店(こっち)も定休日なので店の回りとこの街を知ってもらいます、これも仕事に含まれるので給料はちゃんと出しますね」入り口から店の外へ出るとおよそ中世ヨーロッパを彷彿とさせる景観が目に入る、道行く人々の中には書物等で見知った『妖怪』『魔物』といわれる生き物が人間と普通に会話をしたり恋人同士なのか仲睦まじく手を取り合う男女までいる。

 「な、何なんですか?ここは一体…」卒倒した紗路を支える大輔、パックスに店内へ運んでもらい気付け薬を飲ませる。

 「マスター、この人誰?」大輔とあの研究所の連中以外の地球人に会った事のないパックスが尋ねる。

 「2号店の人だよ、明日はマティスが来られないから助っ人を頼んだんだ」

 

 目を覚ました紗路は大輔から事情を聞いた、越後屋本店はここ異世界にあり基本的にこの事は秘密だけど信頼のおける紗路にはタイミングのいい今日打ち明けるつもりだったと。一瞬だけ退職の2文字が頭をよぎるが考えてみたらフルール・ド・ラパンより給料は断然いいし最低でも1日1食は賄いがつく、正直今までで最も割りのいい職場だ、辞めても何の得はない。それに異世界とはいっても扱う食材は地球(むこう)と変わらないという。

 「任せて下さい!」ここぞとばかりにヤル気を見せる紗路、大輔も一安心したところに常連の4人組が訪ねてきた。

 

 「よう、マスター。今日も紙芝居作りやろうか」声をかけてきたのは180センチはあるサルである、後ろからは耳の尖った美少女に背は小さいのに筋骨逞しいおじさん、肘より先と膝下がカエルみたいな美女がついてきた。免疫ができたのかさっきよりは幾らか落ち着いている紗路だがまだ足が震えている。

 「ちょうどよかった。紗路さん、裏口の戸を開けてみて」いわれるままドアを開けると見慣れた場所が見える、足を一歩踏み出す。

 「オッ、ちゃんと帰れそうだな」ルカと名乗ったサルがにこやかに言う。

 「ここと日本を往き来するにはそこの裏口から出入りするかルカさんに送ってもらうしか方法がないんだ。人によっては裏口から帰れない場合もあるからね、僕も今回ルカさんに用があったし」

 「俺達は普段旅暮らしの冒険者だが今回は色んなタイミングが上手く重なってな、アンタついてるぜ」

 

 かくして桐間紗路の越後屋異世界本店勤務がスタートしようとしている。

 




次回は営業日です。


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助っ人と重なる偶然 後編

紗路は今後も異世界にきますが『越後屋』本編で語られる事はありません


 大輔はルカ達に少し店を留守にしますと告げると越後屋本店の秘密を知った紗路を連れて商業ギルドを訪れた、臨時とはいえ本店勤務する以上は話を通しておかなければならない。ギルド長のヴァルガスに事情を話して紗路を引き合わせる、身長3メートルを越すサイクロプス相手に最初はビビったが話してみると気さくで優しいオジ様で安心した。

 商業ギルドを後にすると肉屋のヨセフが声をかけてきた。

 「ダイスケ、今度いい鹿肉と鴨肉が入るっすよ、仕入れないっすか…ってこの人誰っすか?」紗路をヨセフに紹介してから話し合う2人、結果賄いと試食用に半オイスずつ仕入れる事で商談は成立した。

 翌日、私用でこられないマティスに変わり1日ここのキッチンで働く紗路。ホールは同年代の眼鏡美女と中学生くらいのこれまた美少女、大柄で強面だが実は気の弱い男が担当しているそうだ。

 

 互いに自己紹介をすると大輔と紗路は厨房に入り日替わりランチの準備を始める。異世界でありながら電気、ガス、水道がそのまま使えるのは不思議だった、一体どうなっているのか大輔に問うてみたが彼にも理由が分からないらしい。その間ロティスは釣り銭を用意してラティファとパックスは朝の掃除と開店準備に余念がない。

 店が開店すると同時にお客が入ってくる、人間だけでなくエルフやドワーフなんかもやってきた。まだ彼らと接するのに戸惑いのある紗路は欠員がキッチン担当でよかったと胸を撫で下ろす、その代わり厨房は戦場並みの忙しさだったが。

 

 午後3時を回ったところで大輔は紗路とラティファとパックスに休憩をとらせた。

 「冷蔵庫に切り落としのシベリアがあるから食べていいよ、1個はロティスの分だからとっていて」羊羮を挟んだカステラをお茶うけにしばし3人でおしゃべりを楽しむ、ランチと夕食時のピークを過ぎてからは出勤シフトの遅いロティスと2人でお店を回すらしい。話の流れでラティファとパックスの身の上を聞いた紗路は目頭が熱くなった。

 「みんな、マスターの、おかげ」

 「私達運がよかったんです」笑いながら話す2人に対し彼らに比べたら自分のこれまでの人生なんて苦労と呼ぶのもおこがましいとやさぐれてた頃を恥じた。

 

 その日の夜、デートから帰ってきたマティスがレイヨンと一緒に休暇のお礼とお土産を持って店に訪れた、帰り支度を済ませた紗路を改めて2人に引き合わせる。

 「姉さん?イヤ、そんな訳ないか」レイヨンの奇妙な事を言い放った、聞くと彼には幼い頃病死した姉がいたらしくその人が紗路にソックリだったそうだ。

 「生きていたところで私がいい年齢したおっさんですからな、こんなお若いハズがない。お嬢さん大変失礼しました」頭を下げるレイヨンに恐縮する紗路、そこにルカ達が入ってきた。先日児童教育ギルドに紙芝居の読み聞かせを頼まれた大輔が地球のお伽話の翻訳とこの世界用にアレンジする手伝いを彼らに依頼してあったからだ。紗路は一行の中にいたエルフ少女のペンダントトップに見覚えがあった。

 「それ、私が昔携帯につけててなくしたストラップ!自分で手作りしたから間違いない!」なんで異世界に?と言いかけて慌てて言葉を飲み込む。

 「紗路さんのだったの?僕が拾って警察に届けて、落とし主がいないからって引き取ったよ。いつの間にか消えてたけど」

 「俺は先代マスターから貰ったぜ。まあ如意棒につけてもしょうがねえし、オッサンにペンダントに細工してもらってトロワちゃんにあげた」

 「何?その巡り合わせ…」誰かが呟いた一瞬のち、店にいる全員が大笑いした。

 

 店の明かりも落とす頃、裏口の前まで紗路を見送りにきたロティスは

 「ねぇあなたまでマスターの事、狙ってないよね?」緊張した面持ちで紗路に訪ねる。紗路はロティスの気持ちを察したのかいきなり彼女の両手を掴み

 「頑張って、私応援するから!」こうして文字通り世界をまたにかけた女同士の友情が生まれた。

 

 




とりあえずロティスは一安心ですね。


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蕎麦屋とだし巻き

影山明さんからお借りしたキャラクター、磯田鉄平が登場します


 鉄平はかつての親友の墓参りの帰りに昔懐かしいアーケード街を通った、ここは彼にとって忘れがたい場所だ。初めてここを訪れた経緯とそれまでの事が想いだされ記憶を噛みしめる。

 

 「どうもお世話になりやした」

 「もう、戻ってくるなよ」そば職人の修行に嫌気が差し、つまらない窃盗罪で呆気なく逮捕されて服役すること1年、ようやく刑期があけ出所した。しかしそれから先が大変だった、かつての修行先には門前払いとなり他を回るがいくら探しても働き口が見つからずやっと勤めた職場でも前科がバレて今日クビになった。鉄平は次第に荒れていき、この日もある酒場で酔って無関係な他の客に絡んで手を上げようとした瞬間2人の人間に止められた。1人は髭を調えた一見ナイスガイ、1人は女装姿のオカマである。それぞれに腕をとられ間接技を決められどう動いても外れない、鉄平は必死にもがくが

 「ムダだ、所詮お前は素人だろう」

 「軍隊仕込みのCQC、逃げられないわよ」抵抗するのを諦め再びムショ入りを覚悟した鉄平をこの2人はどこかに連れていく、着いたのは小洒落たバーだ。このナイスガイの親父さんが経営()っている店だという。

 

 「今日はもう酒はやめておいた方がいい、これを飲め」熱いコーヒーをだされた、鉄平は飲みながら自分の境遇についてポツリポツリと語りだした。

 「そば職人を目指してたのね、だったらそっち極めなさいよ。修行先ならアタシもツテがあるわ」このオカマこそ後の親友である越後屋熊実、通称クマ公にそう言われこのアーケード街の蕎麦屋で一から修行をやり直した。その蕎麦屋も今はもうない、そして天へ召されたクマ公の店も…。これも時代の流れか、鉄平は何となくかつての越後屋跡地を見る。そこには「越後屋2号店」と看板を上げた食堂が建っていた。

 

 「いらっしゃいませ」鉄平より少し若い夫婦とバイトらしき若い女の店員に迎えられる、夫婦の女房の方はクマ公にどこか雰囲気が似ていた。ひょっとしたら親戚かもしれない、鉄平は思いきって問い合わせてみた。

 「先代の姪なんです、跡取りからこの土地を借りまして」なるほど、ん?跡取り?

 「先代には養子がいまして、本来の越後屋は彼が継いで諸事情あって外国に移転しました」

 (それで2号店か、詳しくはタカの奴にでも聞くとして)せっかく店に入ったのでメニューをみて酒と肴を注文する。

 

 「お待たせしました、だし巻きです」シンプルだがそれだけに料理人の腕が試される一品だ、蕎麦屋にも欠かせないメニューなので鉄平も相当練習した覚えがある。

 「味は合格だな、酒に合わせた出汁と塩加減だ。火の通し方も弱すぎず強すぎずちょうどいい、しかしクマ公にはあと一歩及ばねえ気もするな。俺が思い出を美化しちまってるせいかもしれんが」

 「ごっそさん、また来るぜ」そう告げて金を払い店を出てひとりごちる鉄平。

 (次にきた時は本店がどこにあるか聞いてみるか。跡取りとやらにも会って見てえしな、それにしてもお前ぇは幸せモンだぜクマ公よぉ。いつか俺もタカもそっちに行くからまた3人で呑もうや)

 

 「今日も一日終わったわね」伊達夫婦と紗路は互いを労いながら明日の仕込みをする、新装開店して大して経っておらず特に大掛かりな宣伝もしていなかったが先代の頃に常連だったお客達が訪ねてきて意外に忙しい日々が続いている。仕込みを済ませた冴子は売上金を持って裏口から壁一枚挟んだ異世界に入り越後屋本店にいるオーナーの大輔に預ける、ここなら万が一泥棒がきても盗まれる心配もない。

 「すみません、お手伝いできなくて」大輔に頭を下げられ恐縮する夫婦、自分達の生活が立ち行くのは彼のおかげ。しかも妻の冴子は大輔に借金取りをけしかける等の嫌がらせをした連中の娘、それを文句1つ言わず日本側の店を任せてくれたのだから。

 

 「先代の友人ですか?僕が知ってるのは香風さんと菩提寺の住職ぐらいですけど」

 「ラビットハウスの香風タカヒロさんですか?」逆に紗路から尋ねられた。友人の父親で昔、世話になったらしい。何とも奇遇な事もあるものだ、当然今日のお客とは別人であるのは間違いない。じゃあ一体何者だったんだろう?夫婦の疑問はしばらく晴れなかった。

 




鉄平も外伝のみのキャラにする予定です


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プチ同窓会と蛸のアヒージョ

他のエピソードとかを整理してたら残ったのが紗路の話ばかりになってしまいました。
m(._.)m


 ラビットハウスで下宿しながらバイトしていた保登心愛は高校卒業後、一度実家にて修行を経て再び木組みの街に戻り現在は近所でパン屋『Cocoa Bakery』を経営している。

 その心愛がいつものようにラビットハウスにパンを卸しにきた。

 「じゃ、食パン10斤とロールパン30ヶ確かに受け取りしました。ココアさん領収書を下さい」

 「はーい、チノちゃんいつもアリガトね」この喫茶店兼バーの看板娘で主タカヒロの実の娘でもある香風智乃に領収書を渡すとこんな話をし始めた。

 「明日、私のお店定休日じゃない?だからチノちゃんと一緒に呑みに行きたいと思ったんだけど付き合ってくれる?」例え法律上飲酒できる年齢に下限がなくても8年前の彼女に聞かれたら全力で断ったが今はお互いいい大人だし断る理由は特にない。

 「ええ、たまには一緒に呑むのも一興でしょう。じゃ今夜、私の知っているお店でいいですか?」

 「おお!行きつけのお店があるとはチノちゃんもイケる口だね」

 「そりゃ私だってもう22才、とうに成人していますから。心愛さんこそ呑みすぎて酔い潰れないで下さいね」

 

 その夜、智乃は心愛と共に居酒屋も兼任する食堂『越後屋2号店』に訪れた。

 「いらっしゃいませって、心愛じゃない!随分久し振りね」

 「シャロちゃん、ここで働いてたんだ~、フルール辞めさせられたって聞いた時は心配したよぉ」

 「まっここの方が給料もいいし、賄いも出るから却って良かったわよ」

 「お話はまた今度にしましょう、注文いいですか?焼酎とカナッペ下さい」

 

 「パンと焼酎って以外に合うね~、チノちゃん中々のチョイスだよ」

 「父が今は亡き先代の店主さんから教えてもらった組み合わせです。昔からのお友達だったそうで」やがて閉店時間となり店員3名は後片付けを始める、店には智乃達だけとなり2人は帰ろうとしたが店の女将は

 「お2人はいておくれ、この後紗路ちゃんと一杯呑っていきなさいな」智乃と心愛は快諾して越後屋2号店でプチ同窓会が始まった。

 店の裏口が開き智乃と紗路には見慣れた、心愛とは初対面の男が発泡スチロールを手にしてやって来た。

 「智乃さん、いらっしゃいませ。ラビットハウスでお会いして以来ですね」

 「大輔さん。お久し振りです」

 「誰?」心愛は智乃に尋ねるが紗路が代わりに答える。

 「この店のオーナーよ。普段は異っ…じゃない、外国で本店を切り盛りしているの。ご無沙汰しています、大輔さん」

 「プクーッ、私だけおいてけぼりぃ」

 「当たり前です、心愛さんムチャ言わないで下さい」

 「アンタ、そういうトコ8年前とちっとも変わってないわね」大輔は苦笑いしつつも厨房の冷蔵庫や戸棚をチェックすると

 「明日は店が休みでしたね、それならお三方にはアレを出しましょう」そういうと戸棚からニンニクと唐辛子、アンチョビにオリーブオイルを取りだし

 「今日はいい蛸が手に入りましたから、これを使います」先程の発泡スチロールから取り出した蛸の下拵えをしながら鼻唄混じりで他の食材も平行して調理している。

 

 「お待たせしました、蛸と蕗の薹のアヒージョです。ごゆっくりどうぞ」オーナー自らの手料理が従業員と智乃と心愛に振る舞われた。

 「美味しい!しかも旨みも濃厚。蛸って和食のイメージしかなかったけどこんな使い方もあるんだね」

 「オリーブオイルと蕗の薹の苦味のバランスがまた何とも食欲を増進させます、このコンボは反則です」

 「これは焼酎もイケるけどワインも欲しくなるわね。あっ」

 「どうしたの、紗路ちゃん?」

 「今ね、理世先輩や千夜の顔を思い出したの。2人にも食べさせてあげたい」

 「そうだね、あの娘達にもしばらく会ってないしね」

 「大輔さんはいつまでいるんですか?」智乃に問われて大輔はある意味正直に答える。

 「明後日には向こう(・・・)の店を開けますね」それでは間に合わないと智乃と心愛は残念そうにため息を吐く、実際には戸一枚隔ててるだけなのだが。

 「そん時は私らが用意するよ、これでも腕はオーナーお墨付きだからね」智乃、心愛、紗路の顔がパアァッと明るくなる。この後も彼女らのささやかな宴は日付が変わるまで続いた、そして翌日はお定まりの宿酔に悩まされたそうだ。

 

 

 

 




この続きは当分ありません


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