恋姫散話 (名無しAS)
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華雄日記 はじまり

某月某日

 

猪、猪と敵はおろか味方からも言われる毎日

 

後付ではあるが、孫策や関羽は私を釣るために言ったのだと理解はできる

 

だが、夏侯惇、文醜、馬超、張飛に言われるのは納得がいかない

 

そしてなにより、一番応えたのは、董卓様が

 

 

「華雄さん・・・・・・もうちょっと、その猪突を控えて、へぅー」

 

 

と酒を飲みながら一人で愚痴をこぼしている姿を見たときだろう

 

 

あれは応えた。本当に応えた。思わず金剛爆斧を取り落としそうになった

 

と言うわけで、私は自分磨きの為に諸国を見聞することに決めた

 

思い立ったが吉日、鉄は熱い内に叩けという、

 

同僚の張遼に

 

 

【旅に出ます。あとはまかせた】

 

 

と書き置きをして旅立つ事に決めた

 

武よりも文に重きを置く旅だ

 

この日より、私は日記を記すことに決めた

 

この日の日記は、朝食を食べておらず、城からすぐの飯屋でご飯を食べながら書いている。

 

 

「あんの猪どこ行ったーーーーーー!!!」

 

 

と張遼の怒鳴り声が聞こえる

 

・・・・・・ふむ、城に猪が出たのか

 

なんとも羨ましい話だ。今夜はボタン鍋ではないか。

 

そう思いながら、今日の所は筆を置くものとする

 

 

 

 

 

某月某日

 

 

汜水関から旅立って一日目

 

ふと気づく

 

そういえば反董卓連合の攻勢真っ只中であるということを

 

張遼は大丈夫かな?

 

そう思うも、私の部下はまるまる預けたし、背後には虎牢関もあれば呂布いる

 

なにも心配はいらないことに気づく

 

ただ、董卓様配下の将としてなにもしないのはアレだと、

 

夜闇に紛れて、手頃な陣に強盗、もとい斬込みを掛けた。

 

成果は上々、酒食に路銀も手に入る。

 

ただ気になることろ言えば、

 

陣のど真ん中にある大きめの幕舎に入ったら

 

金髪でくるくる髪の小さな女の子が、青髪の女とアレな真っ最中であった

 

あまりにアレな光景であったが、私の同僚の張遼もそのケがあったので比較的に耐性はついていた

 

 

「こら童女の内から、そんな非生産的な行いは感心せんぞ。長じて碌な大人にならんぞ」

 

 

下着はサラシのみで、お酒大好きで仕事もよくサボる

 

うむ、張遼みたくなってはならんな

 

そう考えて、年長者の勤めとして注意をし、陣から去っていった

 

 

 

『あの女を討ち取りなさい!! 絶対に討ち取るのよ!!!』

 

 

と怒声が聞こえたが、はて? 私は討ち取られるような事を言ったのだろうか? 

 

そう思いながら本日の筆を置くものとする

 

 

 

某月某日

 

 

今日は不思議な出会いがあった

 

なんと天から男が降って来たのだ

 

男は天の上から来ただけあって、言うこと聞くこと、

 

こちらの常識にまったく当てはまらない。

 

だが、悪い人間ではないし

 

なにより、この男、字も真名もないそうだ

 

そう真名がないのだ

 

真名が無い者に、悪いものはいないと言う

 

この男に一気に親近感がわき、一緒に旅をすることに決めた

 

 

うむ、真名がなくても、人は生きていけるのだ

 

 

更に聞けば、この男、北郷一刀が住んでいた、日本という天の国では、真名は無いそうだ

 

なるほど、私は天の国と同じなのかと思うと、実に気分がいい

 

気分が良いので、敵軍より拝借してきた酒を北郷と飲みながら、この国の常識について教えてやることにした

 

酒もいい感じに回って来たので、本日の筆を置くものとする

 

 

某月某日

 

 

思いの外気分がよく酒を飲み多くの食料を食べたせいで早くも、我が兵糧はカツカツだ

 

なので、また夜闇に紛れて手頃な陣に強盗、もとい、斬込みを掛ける

 

成果は上々

 

北郷は荒事には慣れてはいないが、それでも、糧食を両手で沢山抱えて、私の隣を走っている

 

うむうむ、真面目なことは良いことだ

 

さて、逃げようとした矢先、またあの大きな幕舎を見かけたので中に入ると

 

あの金髪の童女が、年の頃は同じくらいの猫耳の頭巾を被った女の子と一緒にアレな真っ最中であった

 

あまりにアレな光景であったが、私の同僚の張遼もそのケがあったので比較的に耐性はついていた

 

 

「こら童女の内から、そんな非生産的な行いは感心せんぞ。しかも悪化しているとは親御さんは悲しむぞ」

 

 

職場見学で張遼の両親が董卓様のお城に来た時の事を思い出し・・・・・・

 

ああはなってはいけないと思い、年長者の勤めとして注意をし、陣から去っていった

 

 

 

『あの女を討ち取りなさい!! 絶対に絶対に討ち取るのよ!!!』

 

 

と怒声が聞こえたが、はて? 私は討ち取られるような事を言ったのだろうか? 

 

 

「北郷? なにかまずい事を言ったのか? 私は」

 

「いや、華雄さんは正論を言っていました。ですが正論は時に、一番人を傷付ける言葉だと思います」

 

 

 

なるほど。そう思いながら本日の筆を置くものとする

 

 

 

 

某月某日

 

 

人は大きなものを見た時、己の小ささを認識する

 

なるほど、言われてみれば確かにそうだ

 

初めて呂布の武を間近で見た時、私は確かに己の武の小ささを認識した

 

ならば、武、という括りを超えて、ただひたすらに大きいものを見れば、なにが見れるのか

 

私は、その北郷は知恵に感動した

 

 

海を見よう

 

 

そういうことになった

 

海といえば呉

 

呉といえば海

 

魚料理が美味いと聞く

 

実に楽しみだ

 

付け加えれば、あそこの孫堅には昔凹まされた記憶もある

 

それは納得の行く勝負であるが、その結果を娘がからかうのは策とはいえ腹が立つ

 

ついでにボコしてやろうと

 

そう胸に誓い、本日は筆を置くことにする。

 

 

 

 

某月某日

 

 

好事魔多し、とはよく言ったものだ

 

目の前に大きなたんこぶを作ってきゅーと伸びている

 

ピンク色の髪の女性

 

これ、孫策に似ているけど、孫策ではないな

 

呉に入って、美味い魚に舌鼓を打つこと数日

 

酒家から宿への近道で路地裏を歩いていると

 

ピンク色の長い髪に褐色の肌。そして王族を示す赤い衣服。

 

 

うむ、あれは孫策だな

 

親の七光り(物理)でこちらを煽ったバツとして、そして年長者の勤めとして、

 

 

「親の武勇で威張っては碌な大人にならんぞ!!」

 

 

金剛爆斧による峰打ちの一撃

 

そして冒頭に戻る

 

 

「間違えた」

 

「間違えましたか」

 

「妹だな」

 

「妹ですか」

 

「結構力強く叩いてな」

 

「大きなたんこぶ出来てますね」

 

「なにか策はないか」

 

 

北郷は瞳を閉じて、5秒ほど黙考し、静かに首を縦に振り右手親指をぐっと突き上げた

 

意味は分からないが、その姿がとても頼もしく見える

 

私は全てを北郷に任せて宿にかえり、このことを日記に書き記し本日は筆を置くことにする

 

 

 

某月某日

 

 

「オイカワ、素敵な名前ね、孫オイカワ、うん凄く響きが良いわ」

 

 

「むむむ・・・オイカワ? なにを言っておるのだ、そやつの名前は」

 

 

北郷一刀と言いかけた時、孫権にみえないように必死で片目をパチパチとつむる一刀

 

 

「オイカワだ」

 

 

なんとも間の抜けたやりとりだが、孫権の耳にはなにも入っていないようだ

 

いや、耳どころか視界に写っているのかも定かではない

 

孫権のことはあまり知らないが、彼女が尋常でないことはすぐに分かった

 

 

「ねぇオイカワ、いまから一緒に服屋に行きましょう。孫家御用達の服屋があるのよ。真っ赤な服、ふふ、オイカワにはきっと似合うわ」

 

 

孫家御用達にして真っ赤な服

 

なるほど、北郷め、逆玉に成功したな

 

あの時点で何がどうすれば、孫家の王配に組み込めるか不思議でならない

 

さすが北郷と褒めるべきか、やり過ぎだとたしなめるべきか大いに悩む所である

 

なにはともあれ、昨日親指をぐっと突き出した北郷の勇姿を思いながら、事の成り行きを黙って見ていることにした。

 

二人は出ていき、その日の夜

 

私は今日のことを日記に書き記し

 

 

「はぁはぁはぁ、かっ華雄さん、涼州に行きましょう!! あそこは見渡すかぎりの大草原があると聞きます。見に行きましょう」

 

息荒く、所々破けた赤い服、頬には口紅の跡と、凄まじい姿の一刀が現れた

 

 

「大草原か、ふむしかし私はまだもっと海を・・・・・・」

 

「華雄さんは騎兵です。騎兵ならば海より草原です」

 

「ふむ、その通りだな」

 

「というわけで、涼州に行きましょう、今すぐ、今すぐに」

 

「むっしかし遅くは」

 

「思い立ったが吉日、鉄は熱い内に叩けと申します。つまり――「オイワカ、オイカワはどこ!! 思春、軍を動員して、早く早く早く!!」そういうことです」

 

 

「・・・・・・分かった」

 

 

昨日は助けてもらった、その恩を返す為と思えば安いものだ

 

そう思いつつ、本日の筆を置くものとする

 

 

 

 

某月某日

 

 

路銀が尽きた

 

食料はまだあるが、お金がないのは辛いものがある

 

近くの街に入り、仕事が無いか聞いてみたところ、商隊の護衛と野犬討伐の2つしかなかった

 

実入りの良い商隊護衛の行き先は呉であり、選ぶ訳にはいかない

 

さりとて野犬討伐は安くて誰もやりたがらない

 

どうしたものかと思案をしていたら、北郷がぐっ親指を突き出してきた

 

私は北郷のこの構えに信頼を置いている、彼の指示に従うことにした

 

野犬討伐を請負い、本日の筆を置くものとする

 

 

 

 

某月某日

 

 

野犬の首をカウンターに並べ報酬を得る

 

体はどうした? と聞かれたので、

 

 

「山中に打ち捨てた、今頃、虎か熊もしくはカラスの腹の中だろう」

 

 

と、打ち合わせ通り答えた

 

少しばかりの銅貨を得て、北郷との待ち合わせの場所に行く

 

 

「さぁ、良い肉だよ。新鮮な肉の腸詰めだよ」

 

 

羊牧場の真横で犬肉の腸詰めを売っている一刀

 

しかしというか、さすがというか、北郷の底が知れない

 

犬肉という最も安いな肉を

 

高級品たる羊肉と同じ価格で売りさばく

 

一体なにがどうしてその価格で売れるのか不思議でならない

 

 

めぇぇぇぇ

 

と羊の鳴き声がする

 

 

「ふむ、お主も納得いくまいか。それもそうだな、お主のような高級肉と同じ価格で犬肉が売れているのだからな」

 

 

柵に座りながら、そう羊に語りかける

 

世の中は武だけでは解決できない出来事もあるものだと思い、本日の筆を置くものとする

 

 

 

某月某日

 

 

「そろそろ住民が気付きはじめ・・・・・・もとい犬肉も底を尽きてきたので、次の街に行きましょう」

 

 

人が入りそうなほどの多きく、銅貨がパンパンに入っているズダ袋をヨイショと担ぎ、笑顔で告げる北郷

 

 

そのなんと頼もしい姿の事か

 

天の知識かなんだかは分からないが、これも知の力なのだろう

 

今思えば、上司であり軍師の賈詡の話ももっと真面目に聞いてあげれば良かったと思う

 

だが、過去を振り返っても戻ってきはしない

 

生きている限り前進せねばいけない

 

 

が、それはそれとして、やはり今回のことは心に強く残ったので、我が主たる董卓様に報告せねばなるまい

 

 

 

前略、董卓様

 

 

自分磨きの旅の最中、いろいろとあって、天から降ってきた男と一緒に旅をしています

 

姓は北郷、名は一刀。真名はないそうです。

 

おかげですぐに意気投合出来ました

 

やはり、真名は無くて生きていけるのだと思いました

 

話は戻します、北郷は武は駄目ですが、

 

 

 

犬肉を羊肉の価格で売り、荒稼ぎをするなど、

 

 

その智謀は凄く、なぜ私は賈詡の話を真面目に聞かなかったのかと、少し後悔をしました

 

それでは、我が主董卓様のご健勝を祈り、ここで筆を置かして頂きます

 

 

 

 

 

追伸

 

犬肉の件ですが、私なりに一晩考えて見ましたが、その秘訣は羊牧場の真横で売っていたことではないか睨んでいます

 

よろしければ賈クにも聞いて頂けますでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ羊頭狗肉ーーーー!!!!!」

 

「へううう詠ちゃん落ち着いてーーーー」

 

 

手紙を読んで額に青筋を浮かべながら、虎牢関の防衛戦を指揮する軍師の怒鳴り声が場内に響き渡ったとかなんとか

 

 

 




キャラ紹介


華雄

今作の主役にして恋姫無双が誇るヒロインの中のヒロイン。

自分磨きの旅に出る猪武者

しかし冷静に考えると、孫堅にやられたとなると、恋姫時空においては、紫苑、桔梗、祭といった【さんじゅっさい】枠に入るのか

そうかんがえるとドキドキしてぞ

中の人は鈴々も務めているとかなんとか

オラ、余計にドキドキして来たぞ



北郷一刀

皆の主人公にして今作のヒーロー兼ヒロイン

彼に口説けぬ者はなし、恋姫達にとっての28倍特攻カード

原作よりも、良い空気を吸っているお茶目さん

お茶目が過ぎて、引くに引けなくなると

【オイカワ】と名乗る困った一面もある


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個別恋姫 その1

複数ではなく、個別攻略したら、こうなったでござるの巻


 

「お化粧のノリがわるいわ・・・・・・疲れているのかしら」

 

「貂蝉、疲れておるのじゃよ。お主は様々な、数えるのも億劫になるほどの外史とダーリン達を見守ってきたのだ。その疲れが出たのであろうよ」

 

何もない白い空間で、疲れた顔をしている貂蝉と卑弥呼。

 

合わせ鏡のように、無数にある外史。その管理は激務である。

 

 

「ただいま・・・」

 

「あらダーリンお疲れ、今回の外史はどうだったのじゃ」

 

 

「刺されて終わった」

 

 

「・・・刺されたって、もしかしてダーリン、純愛個別ルートを選んだの! あれは危ないからやめろって何度も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「璃々に」

 

「えっ!?」 

 

「璃々に刺されて終わった」

 

 

三人の沈黙があたりを支配する。

 

さて、一刀が刺されて終わったという。純愛個別ルートについて語ろう。純愛個別ルートとは、読んで字のごとく、ヒロインを一人に絞っての純愛ルートである。

 

 

 

北郷一刀は、どこの陣営に属していようと、複数の女性と関係を持ち、なおかつ円満な人間関係を築ける、凄まじい男である。

 

 

さて、そんな一刀であるが、生まれも育ちも現代の日本であり、根本的な考えに、彼女は一人、妻も一人である。複数の女性との付き合いは不誠実ではないかとの考えもある。

 

だが、各陣営の思惑。特に呉は顕著であったが複数の女性との関係を求められた。

 

最初のうちは何も、有名武将が女性化したうえの1800年前のパラレルワールドにタイムスリップした手前、協力もした。

 

それに、そんな建前など、10台の【ほとばしる衝動】の前には、風前の灯火である。

 

 

あんな美人なお姉さん達が、オールオッケーなんです。

 

だが、何度も何度もやるうちに、この時代に慣れていき、魏呉蜀はもとより、他の勢力にも手をだした。

 

 

「多人数も良いけど、一人を愛そう」

 

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

「ご主人様、なぜご主人様は、こうも他の女性に気を向けるのですか?」

 

「あっ愛紗、気を向けるって、そのなんのことだ?」

 

「言わなければなりませんかご主人様? 昨日、お昼に鈴々と食事に行きましたよね。

午後は朱里と一緒に矢を盗みに魏まで行かれましたよね。夜は星と飲みに行きましたよね」

 

 

「いや、それは鈴々とは朝の稽古でお腹が減って、それに朱里との買い物は今度の戦いで矢が足りないっていうから買いに行っただけの話だし

、星とのは、なんでも新しい味付けのメンマがあるらしいって話を聞いた星に連れていかれただけの話で」

 

 

 

「では、なぜ、私を呼ばなかったのですが?なぜ、二人っきりで出掛けられたのですか。

ご主人様、ご主人様は私と結ばれているのではないのですか。

一心同体、比翼連枝、ご主人様のあるところが私のあるところ。私のあるところがご主人様のあるところ。

そこは私達二人の桃園。なのにご主人様は、他の者も招き入れる!!」

 

 

激昂する愛紗。

 

もともと嫉妬深く独占欲も強いと思っていたが、ここまで酷くはなかった。

 

一刀は困惑する。

 

だが、その困惑は長くは続かなかった。

 

一刀の体に走る衝撃。

 

急激に重くなるまぶた。

 

最後に映る光景は、ドロドロに溶けた熱く甘い飴のように、粘りつくような笑顔とコールタールのように重く暗い瞳の愛紗。

 

「ご主人様、二人だけの桃園に参りましょう」 

 

 

 

 

 

「あの時は驚いたよな、地下牢に監禁されるなんて」

 

 

 

ところ変わって純愛個別ルート二回目、前回は愛紗に監禁されて、なんだかんだで二人だけの幸せな生活を謳歌したが、

 

やはり、これじゃない感が凄まじく、こうして二回目と相成った。

 

 

 

「よし、凪にしよう」

 

彼女に決めた理由は、くじであった。

 

 

「一件落着ですね隊長」

 

凪と正式に付き合っても、警備隊の隊長、副隊長の間柄は変わらなかった。

 

ただ、今までと違い、警備隊の仕事においては、四六時中、凪とコンビを組む。

 

沙和、真桜と組む事はない。

 

その理由を聞くと、

 

 

「隊長の武力は幹部格では一番下です。だから武力では一番の私と組むのが最適なんです」

 

 

最もらしい答えではあるが、そのときの凪の顔はねっとりとしていた。

 

 

「それにしても隊長、あの犯罪者には呆れさせられますね。15股の末に全員を騙して結婚資金を盗んで逃げるだなんて、信じられません」

 

「そっそうだな」

 

 

憤慨する凪。

 

言葉に詰まる一刀。何故ならば魏ルートの記憶があるからだ。

 

あれも見方を変えれば魏の覇王以下武将軍師15名とヤり逃げをしたとも言える。

 

数まで一緒となれば、他人事とは思えず、犯人に同情する色がある。

 

 

「・・・・・・隊長? もしやと思いますが犯人に同情されているのですか?」

 

 

笑っていない笑顔を浮かべる凪。

 

 

「そっそんなことないぞ!」

 

 

「隊長、知っていますか」

 

 

犬はご主人様のことが大好きなことを

 

犬は自分のご主人様の事なら、小さな変化も見逃さないことを

 

犬はご主人様のことを心の底から信じていることを

 

だからこそ

 

犬はとても、とても、とても、嫉妬深いということを

 

犬はとても、とても、とても、独占欲が強いことを

 

ご主人様の周りに他の犬が来たら牙を向くことを

 

 

「なっ凪、何を言って」

 

「犬の話ですよ隊長。犬の。犬は人類の最古の友と言うじゃないですか」

 

「そっそうだな犬の話だよな」

 

「ええ、犬の話です。そして、隊長、」

 

 

犬はご主人様に見捨てられたり裏切られたらしたら、地の果てまで追いかけます。

 

どれだけ離れていようと、どれだけ時間がかかろうと、犬は持てる全てを駆使したご主人様を追いかけます。

 

追いかけて、追い詰めて、追い込んで、ふふ、その後はどうすると思います

 

 

 

 

隊長

 

 

 

凪の瞳の色は尋常ではない。

 

放つ雰囲気も尋常ではない。

 

凪の問いかけに答えられない。

 

唇が渇き、舌がもつれて上手く回らない。

 

 

「あ、えっと、その」

 

 

一刀の口からは、意味のない言葉が出る。

 

そんな一刀を、見つめる凪。

 

見つめて、見つめて、見つめて、

 

 

「隊長、お喋りし過ぎましたね。さっこの結婚詐欺師を詰所に護送しましょう」

 

 

にっこりと笑い、詰所に歩いて行った

 

「隊長さん、あんた、とんでもない女を引っかけたな」

 

 

結婚詐欺師が肩をすくめてそう言った。

 

 

この外史において北郷一刀は大局に逆らったりもしたが、気合と根性で身の破滅を回避し、消えずに凪と共にその生涯を終えた。

 

 

 

 

愛紗に続き凪までも、この事態にさしもの一刀もおかしいと気づく。

 

そして、三度目の個別ルートに挑戦をする。

 

 

華琳大好き脳筋、春蘭。彼女の個別ルートは彼女の、副官になるところが味噌である。

 

魏武の大剣の異名は伊達ではないが、彼女は文字どおり魏武の大剣である。戦場では鬼神の如き力を発するも、それ以外はお粗末な所だらけである。

 

秋蘭がサポートに回って事なきを得ることもあるが、秋蘭自身も魏の武将である。

 

忙しくて、サポート出来ない時もある 

 

そこに目をつけた一刀は、春蘭の部下になることにより影に日向に、彼女をサポートし続けた。

 

一刀は春蘭の話を聞くときは決して馬鹿にせず、そして、答えるときも、彼女に分かりやすいように簡潔に答えるようにした。

 

春蘭の中で、一刀の事が便利な副官から、とても便利で気持ちの良い副官に格上げをされた。

 

もう春蘭の中で一刀は自分にとって無くてはならない存在になっていった。

 

 

戦場では鬼神もかくやの働きをするが、女性らしい所もある。

 

そしてどの外史においても彼女は片目を無くす。

 

そして、凄く落ち込む。

 

それを知っていた一刀は、彼女が片目を失う合戦において、体を張って彼女を守る

 

バタフライ効果とでも言うのだろうか。

 

彼女に飛んできた矢を、体を張って守るも、別の所から飛んできた矢に一刀自身が片目を射ぬかれる。

 

 

 

慌てふためく春蘭に、ここが我慢のし所だと、一刀は歯を食い縛り、

 

「よっ良かった」

 

「なっ何が良かっただ馬鹿者、目が目が」

 

「うん、だから良かった。春蘭の片目が無くならなくて、本当に良かった。副官、いいや、男として惚れた女を守れて良かった」

 

「北郷・・・・・・お前は馬鹿者だ」

 

 

春蘭は顔を真っ赤にしながら一刀を抱きしめ続けた。

 

 

 

実にいい雰囲気であるもここは戦場だ。

 

いつまでも抱き合っている暇はない。

 

どちらかともなく名残惜しそうに離れる。

 

 

さて、射ぬかれた片目である。

 

春蘭の故事に習えば、食べるしかないが、さすがに自分の目玉を食べたいとは思えない。

 

さりとて、その辺に、ポイッと捨てるものでもない。

 

始末に困る一刀。

 

 

「北郷、それを寄越せ」

 

「良いけど、どうするの」

 

「五体のこれ全て父母のものであり、毀損させるは孝の欠落に等しいという」

 

 

春蘭のセリフは、故事でも有名な目玉食いのセリフであるが、今回の目玉を無くしたのは一刀である。

 

まさか、食べろ。と言うことなのだろうか。

 

食べたくはない。しかし話の流れからして食べないと不味い。

 

腹を決める一刀。

 

しかし一刀の覚悟は、意味がなかった。

 

 

「つまり、私にとっての義父であり義母のものである」

 

 

敵将を討ちとった時の名乗り以上の大音声でそう叫びあげ

 

一刀の手から矢ごと奪い取り、串団子のようにペロリと口の中に入れる春蘭。

 

そのなんともワイルドな告白に一刀はポカンとし、

 

敵軍も固まり、

 

妹は「姉者」と、頭を抱え、

 

我らが覇王様は頭痛を堪えるように、引きつった顔をしている。

 

そんな上司や妹、敵軍などどこ吹く風

 

子供が大好きな飴をいつまでも大切に口の中でなめ続ける春蘭。

 

そして名残惜しそうにこくり、と飲み込んだ。

 

 

「うむ。これで晴れて私と北郷の夫婦となった。これからは公私共によろしく頼むぞ」

 

 

そういって北郷を抱きしめる春蘭

 

キスが出来そうな近い距離。春蘭はそのまま、一刀の無い目の周りをペロリと血を舐めとる。

 

 

「北郷、目玉といい、実に美味だぞ」

 

 

妖しく微笑み、それでは名残惜しいが、と言い、大剣を風車のように振り回しながら敵陣に斬り込んで行った。

 

 

「副官さん、あの夏侯惇様の情の深さ、浮気をしたらグサリと来るな。気を付けなよ。副官さんは色男だからね」

 

 

そういってこちらを茶化しながら、手近な敵兵を斬る春蘭隊の兵士。

 

そんなこと分かっている。春蘭のあの目、深く重い愛を宿した鋼色の瞳。

 

愛紗と凪と同じ瞳の色。

 

浮気などすれば間違いなくグサリと来るだろう。

 

 

一刀はそう確信した。

 

そしてもうひとつ、

 

 

 

 

 

あの兵士、凪のときに結婚詐欺師として捕まえた男だよな。

 

 

お前、魏の兵士だったのか

 

 

 

 

 

李典、真名が真桜。

 

大国、魏の兵器開発のトップであるが、彼女の半生は、周囲の無理解にさらされ続けた。

 

手工業全盛の時代に機械仕掛けのカラクリにドリルである。未来に行き過ぎている。

 

周囲の理解が得られない、そんな環境でもカラクリを作り続けて来たのは、幼い頃からの友の存在である。

 

 

凪と沙和、彼女達の存在が大きかった。

 

作ったカラクリを誉めてくれる。

 

有益な物なら周囲の人に、根気良く説明してくれる

 

ただし、作ったカラクリを彼女達は理解は出来なかった。

 

真桜が発明した有益な物で、自動竹かご編み機がある。

 

便利である。取っ手を回せば竹かごが編める。

 

使い方は知ってはいるが、だがなぜ取っ手を回せば編めるのかが理解出来ていなかった。

 

そんな、心のピースの欠けた日々を送るなか、真桜は北郷一刀に出会った。

 

そしてその日の事は、彼女が付けている日記件開発手帳に記されている。

 

 

うちの発明を【理解】してくれる人が現れた、と

 

 

よほど嬉しかったのだろう、そこだけ筆圧が強く書かれ、墨も盛大に使われていた。

 

真桜は傍目で分かるほど浮かれていた。

 

 

「口を開けばカラクリの事しか言わなかった真桜ちゃんが、今では隊長とカラクリの二つなの」

 

 

と、沙和が、からかい半分でこぼしていた。

 

真桜は、言い過ぎや沙和、と軽くたしなめたが、実際はそうなのだろうと思っていた。

 

華琳さまには自分の腕を高く買って貰った。

 

発明するカラクリを喜んでくれる友達。

 

そして、全てを理解してくれている、私の隊長。

 

真桜はこの世の春を謳歌していた。

 

だからこそなのだろう、その日の真桜の日記は

 

 

「いやや」

 

 

の文字で溢れかえっていた。

 

 

夜遅くまで、新兵器の開発をしていた真桜は、小腹が減ったので、食堂に行く。

 

 

そこで、流々と一緒に笑いながら料理を作る一刀がいた。

 

 

真桜は、その光景を見たとき、凄まじい衝撃と自分がどれだけ薄氷の上にいるのかと思い知った。

 

真桜にとって、北郷とは、自分の人生において初めての理解者である。

 

真桜にとって、代わりなどいるはずのない、唯一無二の人物である。

 

だが、北郷にとっての真桜はどうなのだ?

 

 

カラクリについて理解はしているが、他の事にも理解がないとは言っていない。

 

むしろ、社交的な性格と相まって、様々な事を理解している。

 

今だって流々に料理のアドバイスをしている。

 

 

「うちにはカラクリしかない。でも、隊長は・・・・・・いやや、そんなん認められん」

 

 

真桜は呟き、食堂から姿を姿を消した。

 

そして、その夜、北郷と真桜は一線を越えて恋人関係となった。

 

北郷は思う。流々と一緒に夜食を作ったあの日、工房に戻ったらなぜか真桜に迫られそのまま一線を越えた。

 

いきなり過ぎる気もするが、この外史では真桜とのラブラブ生活を目論んでいたので、渡りに船でもあった。

 

なにより、カラクリを愛している彼女である。

 

愛紗や凪や春蘭みたくはならないだろう、と、たかをくくっていた。

 

そう考えていた自分を殴り倒したい気分で一杯であった。

 

 

「隊長、これ着けてな。外したらアカンよ。外したらうち、怒るから。うちの愛の証や」

 

 

ペンダントを渡す真桜。

 

彼女からのプレゼント。

 

一刀は喜びをペンダントを着ける。

 

最初におかしいと気付いたのはいつからだろう。

 

街で真桜と良く合うようになったのは

 

誰かと話していると真桜がどこからともなく現れるようになったのは

 

閨の中で、今日は誰それと二人っきりで会っていたやろ。浮気をしてないのは分かるけど、そんな怪しくも見える行動はあかんで、と釘を刺されたとき。

 

一刀は、もしや、と思った。

 

疲れているので一人で寝たい、と真桜に断り、自分の部屋で横になる。

 

ペンダントをテーブルの上に置き、ハンカチで包み込む。

 

30分ほど、寝台の上で横になり、

 

 

「駄目だ、真桜を裏切れない」

 

「俺には真桜が、ああ、」

 

 

と、声に艶を出して、わざとそんなことを言う。

 

変化は劇的であった。

 

だだだだと、廊下を駆け抜ける音

 

バタンと扉を開けられ、部屋のなかに乱入してくる真桜。

 

 

「うちの隊長に粉を掛ける泥棒猫は誰や!!!」

 

 

怒鳴り声に、螺旋槍の回転音。

 

完全武装とは恐れ入った。

 

 

「ってあれ?」

 

「駄目だよカラクリは真桜が一番なんだ」

 

「・・・・・・寝言かいな」

 

 

先ほどまでの怒りはどこへやら

 

螺旋槍の回転が止み、真桜が安堵のため息をつく。

 

 

「しっかし、隊長、夢の中までうちに操を立ててくれるのは嬉しいなぁ。それにペンダントも大事に包んでくれてる。嬉しいけど、これじゃあ、音と映像が拾えんわ」

 

 

呟かれる真桜の独り言。

 

疑いは確信に変わる。

 

このペンダントは、盗聴と盗撮の両機能が着いている。

 

だから、真桜はこちらの状況を把握していたのか。

 

隊長、うちはカラクリだけが能の女や。

 

そんな、うちを心底理解してくれたのは隊長だけや。

 

だから、隊長に、うちは心も体も全てを捧げたんや。

 

うちには、隊長しかおらん。

 

でも隊長は天の知識もある、しかも色男や。うち以外の女も理解してまう。

 

だから、隊長、ごめんな。こんな重い女で。

 

隊長が視界におらんと不安で不安で仕方ないんや。

 

だから、発明したんや。あなのペンダントを。

 

ふふ、隊長、隊長の事を考えるだけで、色々な発明が浮かんで来るんや。

 

隊長の為だけの発明や。

 

他の誰でもない、隊長とうちを繋ぐ赤い鎖や。

 

だから、隊長、うちを捨てないでな。

 

 

 

捨てられたら、なにを発明するかうちでも、分からんから――

 

 

 

そう、独白し、一刀の唇に口づけをして去っていく真桜。

 

一刀は、真桜の足音が聞こえなくなるまで、寝たふりを続けた。

 

音が聞こえなくなり、目を明ける。

 

窓の外には満点の星空と月明かり。

 

そして、

 

 

「待て、話せば分かる、誤解だ誤解」

 

「うるさい!!! 良くも二股なんてしてくれたわね!!! 絶対に許さない!!!」

 

「・・・・・・もぐ」

 

 

虎豹騎の女兵士二人に追いかけられる、詐欺師。

 

ああはなるまいと、一刀は心に誓う。

 

しかし、怒り狂う虎豹騎二人をいなすとは中々の腕前、というか、なぜ一般兵士をやっているんだよ。

 

そうツッコミながら、まぶたを閉じた。

 

真桜編

 

 




キャラ紹介

詐欺師

オレオレ詐欺から結婚詐欺まで幅広くこなすナイスガイな詐欺師

ただし毎度恋心をこじらせた女性から足がつき計画が破綻する

それでも笑顔生きて、職に困らないあたりなかなかの男である。


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ちょこっと正史風味 ~頑張れ!女社長は19才~

19歳の女社長に降り注ぐ世間の風は辛く苦しい


「孫策、すまぬすまぬ、太守にしてやるという約束を守れそうにないのじゃ」

 

「いっいや、その、大丈夫です。本当に大丈夫ですから」

 

「本当にすまぬのじゃー、朝廷からも横槍ばかりで、ううう……もう妾には土下座をするしか、いや、いっそ、妾の首で、許してたもれ」

 

「大丈夫、大丈夫ですから袁術様、だからお立ちください。お願いしますお願いします」

 

 

玉座の間で泣きながら頭を下げる袁術。その横では、いつもの豪快な姿は影もない孫策が、ただひたすらに恐縮しきっていた。

 

 

 

恋姫ちょこっと正史風味 ~頑張れ!女社長は19才~

 

 

 

謝る袁術に慌てふためく孫策

 

さて、なぜこんなことになってしまったのか。

 

ことの発端は、正史において、袁術と孫策の仲違いの原因の一つである、

 

太守にならせてやるという約束を破った話である。

 

親の部下を返してもらい、袁術の下で獅子奮迅の活躍をする孫策。

 

そんな孫策に、袁術が、「今度の戦いで活躍をすれば太守にしてやる」と約束をした。

 

だが、活躍した孫策は太守になれず別の者が太守になった。

 

約束が違う!

 

かくして袁術と孫策の間に溝が入った。

 

 

「なるほど、実に愉快な話だ。その話をしている人間を連れてこい」

 

 

額に青筋を浮かべる周瑜。

 

 

「どうやら貴様も知らんようだから教えてやろう。いいか」

 

 

そもそも太守とは、その地の政治と軍事を司る要職も要職である。

 

そんな要職に着くのだ。身分もさることながら、年齢もある程度なければならない。

 

曹操 37歳

袁昭 36歳

孫堅 31歳

劉備 47歳

 

の時に、太守になっている。ちなみに今の雪蓮の年齢は19だぞ!

 

皇族でもそんな年齢では無理だ!

 

 

「だから、正直この話に横やりが入って助かっている。ホッとしている。それなのに約束が違うと袁術様に反感を抱く。その戯言の出処を探せ!これは厳命だ!!」

 

 

いつもの冷静さをかなぐり捨てて吠える周瑜

 

 

「冥琳・・・・・・噂の出処は?」

 

「んっ?・・・ああ雪蓮、もう大丈夫なのか」

 

「袁術様は泣きつかれて寝たわ。でも本当に参ったわ。『今度の戦いで活躍をすれば太守にしてやる』なんて、誰がどう聞いても冗談でしょ」

 

「当たり前だ! どう聞いても出陣前の景気づけのホラではないか!」

 

「そうよね。第一、太守って・・・・・・冥琳、もし太守になったら・・・・・・」

 

「太守をするほど孫家に武官も文官もいない。第一、一地方のすべてを取り仕切けるほど孫家に力はない。内はボロボロ。外も19才の太守だ、他所からの嫉妬が凄いことになるな」

 

 

 

 

これまでの流れを現代日本風に言えば、

 

従業員1000名の警備会社の社長令嬢が17歳になった日に親が亡くなり、会社を相続。

 

さぁ雪蓮社長。頑張って1000人を食べさせよう、である。

 

それを先代社長の大お得意様である袁術が、雪蓮達と従業員1000人の面倒を見てくれた。

 

そんな恩人が、とある合戦前に

 

 

「頑張るのじゃ! 活躍すれば、県知事と県警本部長、その県の裁判所のトップにしてやるぞ」

 

「ははは、それは凄いわね。袁術様ありがとうございます(19才)」

 

 

本気にする方がどうかしているし、そもそもの母体が1000人の警備会社だ

 

どうやっても、県知事と県警本部長と裁判所の仕事を回せるはずがない。

 

 

「とりあえず張勲と連携して、うまくやって行くしかないな」

 

「頼むわ冥琳。ああ・・・・・・袁術様の善意が辛い、そしてそれ以前にあの噂・・・・・・アタシって世間からそう見られてるの」

 

 

目に涙を浮かべて酒を呑む雪蓮

 

頑張れ雪蓮。

 

きっと良いことあるさ

 

 





次回 

恋姫ちょこっと正史風味 ~頑張れ!女社長は19才~

お願い! 小覇王なんて呼ばないで!


続くかもしれない


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許子将さん

大局に逆らっては・・・あれまだ破滅してないな


 

 

市街にて、良く当たると評判の占い師が現れるようになった。

 

占いについては、許子将の件があって、苦手意識を持っており、いまいち乗り気じゃない一刀

 

 

「隊長、その、なんでも恋愛については凄い的中率だそうです。だから、その・・・・・・」

 

 

と捨てられそうな凪の子犬のような瞳に耐えかねて、行くことになった

 

 

 

「って、お前かよ許子将!! 」

 

「ん? なんじゃお主か、まだ破滅しとらんかったのか、しぶといのぉ」

 

「うるせー。まぁいい、占いを頼むよ」

 

「隊長、占い師と知り合いだったのですか」

 

「ほぅ・・・・・・これはまた美人なお嬢さんじゃて、お主はいつみても美人を連れておるの。いつか刺されてしまうぞ」

 

「・・・・・・・・隊長」

 

「いやいや、それって華琳達だよ。ほっほらここであったのもなにかの縁だ。なにか占ってくれよ」

 

 

ジャラっと、代金の二倍の金を、許子将に払う一刀

 

凪を背にして、許子将にウィンクをするあたり、中々の狸ぶりである

 

許子将も顔色を一切変えずに、二倍の額をさくっと懐にしまう。実に天晴な狸ぶりだ

 

 

「ほっほっ、そうじゃの、ではお主の運命の相手を占おうてみようではないか。後ろのお嬢ちゃんも、気になるじゃろ」

 

「えっ、いや、でも、その・・・・・・はい、気になり・・・・・・」

 

「見えたぞ」

 

「えっ、うそ、はやっ」

 

 

いきなり振られて、慌てる凪。

 

そこに先程までの一刀を疑う冷たい瞳も刃のようなトゲトゲしい声音もない

 

瞬時に、凪を素の状態にする見事な腕前

 

一刀は内心、いい仕事をするなぁ、と関心をしていた

 

 

「お主の未来には随分と女の陰が見え隠れしているのぉ」

 

 

許子将おまっ!……凪、俺の腕を抓らないで。地味に痛い。

 

 

「だが、今はひときわ強く光って見えるのは三人の女声じゃ」

 

「三人の女性」

 

「その三人は、好奇心旺盛な者もいれば、傷が目立つ者もおり、小悪魔的な者もおるな」

 

 

この魏で三人組となれば、三羽烏の凪達と、数え役満の2つしかない。

 

また好奇心旺盛、傷が目立つ、小悪魔、誰を指しているかなど一目瞭然だ

 

真桜、自分、沙和のことだろう

 

一刀の腕をつねっていた凪は、つねるのをやめて許子将を真剣に見つめる

 

恋愛事に関してはよく当たると評判の占い師にここまで言われ、

 

占いの相手は自分の大好きな男性だ

 

凪は高鳴る胸の鼓動を抑えて、許子将の言葉の続きを待つ

 

 

「特に強く見える女性は、傷が目立つ女性じゃな。ああ、強くとはお主が一番結ばれる可能性の高い乙女の事じゃ」

 

 

ドクンと、凪の胸がひときわ大きく高鳴る

 

三人、傷が目立つと、これは自分以外いない

 

凪は目を見開き、許子将を見つめる

 

そんな凪と目を合わせる許子将。

 

ニコリと笑い、言葉を続ける

 

 

「この傷が目立つ女性じゃが・・・・・・うむ、良いおなごじゃ。未来も見えるのぉ、随分と、熱々じゃな。いやはやこれは万年新婚夫婦というやつかの」

 

 

凪の心臓が止まる。

 

頭は真っ白になり、顔が体験したことがないほど熱くなる

 

熱々、万年新婚夫婦、そんな単語が福音の如く気持よく聞こえる

 

 

そして、

 

 

「今日は調子が良いから、この水晶玉にその未来を少しだけ映せるぞい」

 

そう言うや、許子将はカッーと叫び、水晶玉に気合い一発を入れる。

 

映し出される映像。

 

 

『もう。おはようのキスは必ずしてねと言ったでしょ!』

 

 

ぶっ!

 

 

『はい、あーんをして。そ、れ、と、も、口移しがいいのかな~~?』

 

 

なっなっ、

 

 

『やだやだやだ……愛してるって、百回言わないと寝かさないからね』

 

 

なんで

 

 

『雪蓮、愛してるよ』

 

『一刀……わたしもよ、ってひゃん、そこ舐めないでよ』

 

『矢傷の痕、まだ毒が残ってるかもしれないだろ』

 

 

キワドイ衣装のせいで、目立つ矢傷の痕

 

その痕をぺろぺろと舐める一刀

 

 

たしか孫呉の長女で先王の孫策だよね

 

しかもなんか無茶苦茶デレとるぞ!?

 

一体なにが起こった!?

 

一体なにをしたんだ未来の俺!?

 

あの孫呉の長女の心をここまで鷲掴むとは……

 

水晶玉に映るのは、孫呉の長女にして、戦場では鬼神の如く暴れまわる戦姫。

 

しかし水晶玉に映し出されるその姿は、恋する乙女120%にとろけきっている。

 

一刀の知る孫策は、孫呉の王族にふさわしく、戦場では烈火の如く暴れ、

 

幾人の魏の兵があの刃の下に倒れたか分からない。

 

 

燃え盛る烈火の気勢が、太陽のように暖かく、愛おしげに俺(水晶玉に映る)を見つめている。

全身から針鼠のように溢れ出していた殺気は消え失せ、変わりに溢れ出すピンク色の暖かいなにか。

 

 

そして、

 

 

「……良い」

 

 

夏の夜、静かな川の船の上、月明かりを見ながら二人の寄り添う影がある

 

うちわ片手に髪の色と同じ深いピンクの着物を来ている孫策の姿。

 

これまた白い浴衣を纏う一刀に体を寄せてコテンと頭をつけている。

 

孫策の顔は幸一杯に赤く染まる。

 

その仕草がたまらなく愛おしく思える

 

水晶球に映る、そんなイベントに一刀は瞳を奪われ・・・・・

 

 

 

はっ!思わず横を見ると、凪は顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 

それは憤怒の為か

 

その仕草がたまらなく恐ろしく思える。

 

って俺は何を悠長なことを考えているんだ。早く逃げなくては……

 

ドキドキと心臓は高まり、否が応でも、凪を意識してしまう。

 

逃げだそうと、したその時、

 

 

「なんで、隊長が孫呉の王族とこんな関係を持っているんですかね、これは取り調べる必要があります」

 

 

地の底から響く鬼の声。

 

 

一刀は、「知らない、俺はなにも知らない! 潔白だ!!」

 

 

と叫んだが、鬼はニッコリ微笑み、

 

 

「隊長、取調室はこちらです」

 

 

全力全開で一刀を取調室まで引きずっていったとさ。

 

 

 

 

「ありゃ、しまった、他の外史を映してしもうた」

 

 

許子将がつぶやくが、その声を聞くもは誰もいないかった

 

 

 

 

 

あふたーえぴそーど ~別の外史にて~

 

 

『凪、愛してる、ずっとずっと一緒にいさせてくれ』

 

『隊長、でも、私はこの傷跡が、その』

 

『俺はそんな事気にしない。ほらっ』

 

『たっ隊長、くすぐったいです、あっ脇は、たっ隊長』

 

『それに、ほら、傷って舐めると良くなるみたいだし』

 

『そっそれは生傷で、ああ、そこは舐めちゃ』

 

『凪がもうあんな事言わないために、今日はずっと治療してあげるな』

 

 

 

 

「ねぇ、これ、魏の楽進って武将よね。なんで一刀が、魏の武将に隊長って呼ばれてるのかしら」

 

 

溶岩よりも熱い瞳が一刀を射抜きつつ、氷のように冷たい南海覇王の刃が一刀の首に添えられる。

 

 

「しっ、知らない。俺知らない。楽進さんなんて知らない」

 

「ふふ、嘘は良くないわよ、だって、ほら、真名も呼び合う仲なんでしょう。傷痕まで舐め合う仲なんでしょ。

そういえば一刀は私の傷跡は舐めれくれた事はなかったわよね。つまり私に出来ないことを彼女にしたんでしょ」

 

 

 

江東の小覇王に追い詰められる一刀がいたとかいないとか

 

 

「んっ!? 間違ったかなぁ」

 

 

もちろん許子将のつぶやきは誰の耳にも入らなかった

 

 





小悪魔は小蓮。

好奇心旺盛といったなすまん。言葉が足りなかった

知的好奇心旺盛だったよ。つまりは蓮華だ

すまんなBy許子将


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華雄日記 その2





 

 

某月某日

 

 

「北海道はでっかいどー、涼州はでっかいどー」

 

 

となりで、大草原を前に大声を出してはしゃぐ北郷

 

騒ぎたくなる気持ちは私も一緒だが、北海道とはなんぞや?

 

 

 

さて、西方との交易の要衝だる涼州

 

待ち行く人の来ている服も、肌の色の様々だ

 

露天には見たことある食べ物から、見たこともない珍妙な食べ物まで様々においてある。

 

天の国言葉では、エキゾチックと言うらしい

 

うむ、なんだか賢くなった感じがするな

 

 

悲鳴が響き渡る

 

露天の串焼きを片手に北郷と市を冷やかしている最中

 

街の外から民の悲鳴と馬のいななく音がする

 

武人としての本能から、華雄は串を捨てて悲鳴のする方へ駈け出した。

 

北郷も華雄に遅れること一調子、すぐに華雄の後を追いかける

 

 

「五湖が・・・五湖が・・・」

 

 

震えながら閉まっている城門を指差す女性。

 

 

「なんとか間に合った・・・・・・まったく大将達が留守の時に攻めてくるなんざ悪い冗談だ」

 

 

やれやれと肩を落とす門番

 

理由を聞いて見ると、五湖、と呼ばれる異民族が涼州にちょっかいを掛けているという

 

 

「異民族の戦士か」

 

 

もののふとしての本能を刺激したのか、華雄は、その五湖の連中を一目見たいと門番に詰め寄った

 

しかし、はいどうぞと門を開けるわけには行かないので、刺激しないことを条件に城壁に上がる事を許される

 

 

「気をつけろよ、旅の武芸者さん。あいつらに言葉は通用しない。いつも気味の悪い呪文を唱えて、こっちを呪ってくるんだ。ああ、くわばらくわばら」

 

 

「ふん、呪いなぞ私には効かん!!」

 

「気味の悪い呪文か・・・・・・何語だ?」

 

 

金剛爆斧を担いで、意気揚々と城門にあがる華雄

 

外国語は、昔、色々とあって、色々と知っている北郷は顎に手をあて、華雄の後に続く。

 

 

 

「コクサ・イテンジ・ジョウ」

 

「ウスイ・ホン、ウスイ・ホン」

 

「サイコウビ・ハ・ドコデスカ」

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、たしかに意味は不明だし、この言葉には、おぞましい気迫を感じる。これが五湖の呪いというやつか」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

根源から来る震えを気持ちでねじ伏せながら、城門下で騒ぐ五湖を見つめる、華雄

 

そして、生暖かい瞳で、五湖を見下ろす一刀

 

 

「これは、しかしいい経験になった。これを知らずに奴らと斬り合ったら負けていたかも・・・・・・北郷、どうした?」

 

 

華雄の問いかけに北郷は答えず、城門下に向けて大声で叫ぶ

 

 

 

「ベースソン・カンバイ! ダキマクラ・ウリキレ!!」

 

 

謎の言葉をあらん限りの声で叫ぶ一刀

 

効果は劇的であった

 

 

「ウソダ・ウソダ・テツヤ・デ・ナランダ」

 

「コウド・ナ・ジョウホウ・セン」

 

「カンバイ、ソンナコトバハキキタクナイ」

 

 

五湖達が目に見えて狼狽える

 

そして、彼らは悲鳴を上げて立ち去っていた

 

 

「なんと、北郷、貴様は五湖の呪いを使えるのか!? 」

 

「まぁ・・・・・・呪いと言えば呪いですが、呪いと書いて、おまじないとも呼びます」

 

 

そう寂しそうに呟く北郷の横顔は、歴戦の戦士のようもであった。

 

人間誰しも触れてはいけない闇があるものだと思いつつ、本日はここで筆を置くものとする。

 

 

某月某日

 

 

北郷と一緒に朝食を取る

 

 

「美味いな」

 

「香辛料や調味料が安価で入るからかな。さすが涼州だね」

 

「なるほど、だから美味いのか」

 

「すいません、お替わり」

 

「私もだ、大盛りで頼む」

 

 

空になった皿をずいと、突き出す二人

 

 

「おっ・・・おまっ・・・お前等ぁ」

 

 

皿を突き出されたポニーテルの女の子は、額に青筋を浮かべて、頬は引きつっている

 

誰がどう見ても、怒りを爆発させる直前の様子だ

 

 

「あっすいません」

 

 

それを察したのか、北郷が声を掛け

 

 

「俺も大盛りで」

 

「ふざけんなぁ!!」

 

 

トドメを刺した。

 

ポニーテールの女の怒声が【牢屋】に響き渡る

 

 

「お前ら、特に男の方には五湖の疑いが掛けられているんだぞ!! そんな態度なら取り調べも容赦しないからな!! 馬孟起の名に掛けて絶対だ!!!」

 

 

ドスドスと怒りの度合いが分かる足音で牢屋から去っていく馬超。

 

それでも、お替わりを持ってくるあたり、実は良い奴ではないかと思い、本日はここで筆を置くものとする。

 

 

北郷、華雄逮捕される

 

罪状、城壁の上で五湖と同じ呪文を唱えていたから。

 

 

「解せぬ」

 

「そうですね」

 

 

もやっとした気持ちのまま、本日の筆は置くものとする

 

 

 

 

某月某日

 

 

体をゆすられ目を覚ますと、北郷が金剛爆斧を始めとした没収された全てのものを持っていた。

 

あまりのことに目が完全に覚めた

 

 

「北郷、お前、鍵はどうした」

 

「あの程度なら、まぁ・・・・・・そんなことよりとっとと逃げましょう」

 

「それもそうだな」

 

 

北郷の鍵開け技術に感心しながらも金剛爆斧を担いで城から逃げる。

 

と言っても、この城の構造など知りもしない。

 

しかし私の先を行く北郷が、迷いなく進むの、大したものだ。と思い彼の後に続く。

 

北郷が扉を開ける。

 

 

「なななななななななぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

扉の先から聞こえる悲鳴。

 

北郷も一瞬固まり、後ろぐるりとこちらに振り返り

 

 

「ここはお花畑ですね。どうやらお花を詰んでいるようなので、退散しましょう」

 

「? 北郷、お花畑ということなら、つまりは外、なのだろう。なぜ引き返さねばならん」

 

「えっいや、だから、」

 

「ええい、まどろっこしい。花を踏まないように歩けば良いだけだろう!どけっ!・・・・・・・・・・・・北郷」

 

「はい」

 

「ここは花畑ではなく。厠ではないか。それに馬孟起が用を足しているだけではないか」

 

「華雄さん、女性が用を足している。または厠に行く、と直接言うのは、その世間一般では下品とされています」

 

「なんと、そうなのか」

 

「ええ、そうです。それで隠語として、厠に行くことを、お花摘み、と言うのです」

 

「知らなかったな。北郷は物知りだな」

 

「いえいえ、華雄さんもこれで一つ賢くなりました。こうしたことの積み重ねが、大切なのではないでしょうか」

 

「たしかに」

 

「っと、華雄さんあまり長話も失礼ですよ」

 

「むっ・・・それもそうだな」

 

「それでは馬孟起さん、ごゆるりと」

 

「うむ、そうだな。引き続き、お花摘みをしてくれ」

 

 

二人共笑顔で、頭を下げて、パタンと扉を閉じる。

 

もう一回開く扉。

 

 

「ああ、そうだ。昨日の飯、美味かったぞ。朝が食えないのが残念でならん」

 

 

パタンと、もう一度閉まる扉

 

閉まった扉の奥から聞こえる、水が勢い良く滴る音。そして

 

 

「待てぇぇぇぇぇぇ!!! 絶対にぶっ殺す!!!!!!」

 

 

馬孟起、こと馬超の怒声が朝の城に響き渡った。

 

 

 




馬超と言えばおしっこですよね


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馬恋無双

いわゆる魏ルートアフターものです

大局に逆らい身の破滅を覚悟した男の悲壮感溢れる物語です

あと革命のキャラも出ます。




そんなに言うなら……ずっと私の側にいなさい

 

 

そうしたいけど……もう無理……かな?

 

 

……どうして?

 

 

もう……俺の役目はこれでお終いだろうから

 

 

……お終いにしなければ良いじゃない

 

 

それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ……

 

 

その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない……

 

 

どうしても……逝くの?

 

 

ああ……もう終わりみたいだからね……

 

 

そう……

 

 

 ……恨んでやるから

 

 

ははっ、それは怖いな……。けど、少し嬉しいって思える……

 

 

……逝かないで

 

 

ごめんよ……華琳

 

 

一刀……

 

 

さよなら……誇り高き王……

 

 

一刀……

 

 

さよなら……寂しがり屋の女の子

 

 

 

一刀……!

 

 

さようなら……愛していたよ、華琳

 

 

…………一刀?

 

 

一刀……?一刀……

 

 

………ばか。……ばかぁ………っ!

 

 

……ホントに消えるなんて……なんで、私の側にいてくれないの……っ!

 

 

ずっといるって……言ったじゃない……!

 

 

ばか……ぁ……!

 

 

 

 

大陸の覇王でもある少女の慟哭が暗い中庭に静かに響き渡る

 

これは一つの外史の終わり

 

大局に逆らい、愛した女性に天下を取らせた男の末路

 

愛する少女の前で消え去った男の終わり

 

天の御使い、北郷一刀は役目を終えて、天に帰った

 

そう締めくくられる物語

 

そこに一つの疑問がわく

 

消えた一刀はどこに行ったのか?

 

元の平成の日本に戻ったのか? それとも別の外史に飛ばされたのか?

 

その飛ばされた先が、この物語の始まり

 

覇王の少女との別れの先に広がる、新たな恋姫達の物語

 

そう、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしよう」

 

10メートル先の草むらに現れ、頭を抱える北郷一刀

 

消えた先がまさかの10m先。

 

消えゆく自分について、どこに消えるのかを考えてはいたが、まさか10m先とは思いもよらなかった

 

あの、精一杯格好をつけたセリフを吐いて、この現状

 

とてもではないが、泣いている彼女の前には顔を出せない

 

 

「かずとぉぉぉぉぉぉーーーーどうして、どうしてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

気まずい、本当に気まずい

 

これは二人の為に、少しだけ、本当に少しだけ時間を置いた方が良いのではないだろうか?

 

今出て行ったら、彼女に刺されても文句は言えない

 

ああ、身の破滅とはこういうことだったのか

 

 

よし、少しだけ、旅に出よう

 

天下は統一され、治安は良くなっている。

 

一人旅とてどうにかなるだろう

 

 

 

「ちょ、ちょっとの間だけ、さようなら 誇り高き王」

 

 

そう震えながら呟き、匍匐前進で、華琳の前から去っていく

 

実に間抜けかつ、天罰を下したい光景である

 

そして実際に、このロクでもない選択を取った男にすぐさまに天罰が下った

 

 

 

「門が全部閉まっている、だと」

 

 

 

いくら三国が統一されたとはいえ、夜に城門を開けっ放しにするはずがない。

 

見つかれば身の破滅、極限状態に追い込まれた一刀は、城の片隅に積まれている木箱の中に身を隠す。

 

 

天が一刀を助けたのか、はたまた逃げ出した天罰を下したのか、それは分からない。

 

分からないが、一刀が隠れた木箱は、涼州行きの貨物であった。

 

一刀は、魏の誰にも見つかること無く、無事に涼州へと出荷されていった。

 

 

 

「腹・・・・・・減った・・・・・・」

 

 

長い涼州までの旅路。中の貨物を食い散らかして命を繋ぐ一刀。

 

しかし、中の食品も底を付き、進退極まる。

 

素直に名乗り出たら魏への強制送還、そして身の破滅が待っている。

 

 

「一か八か、賭けるしかないじゃないか」

 

 

知らない土地も怖いが、華琳の絶はもっと怖い

 

少しでも生存率が高い方を選び、一刀は、暗闇の草原へ飛び込んでいく

 

気分は狼。気高い狼だ

 

狼となった一刀は夜の草原を駆け抜ける

 

そして賭けの結果は八であった。食料なく、水も無い。

 

いくら一刀とはいえ、体力がなくなり草原に倒れてしまう。

 

草って食べられたっけ?

 

そう思いながら、重い瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

涼州、馬一族の本拠地であり現在は馬休と馬鉄がその全てを取り仕切っている地域。

 

その取り仕切っている片割れの少女、馬鉄は草原を馬に跨がり疾駆している。

 

少し離れた集落に住む騎馬民族の友達達と夜を徹して飲み明かし、今は朝議に間に合うようにと草原を走っていた。

 

 

浴びるように馬乳酒を飲み、具たくさんの羊肉スープを食した馬鉄。

 

現在は馬の振動で、小刻みに膨れているお腹が揺すられている

 

 

「うっ・・・・・・ちょっと、きたかも」

 

 

水分をたくさん摂取したのだ。まぁつまりはそういうことだ。

 

馬から降りて、適度に伸びている草むらに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は全然気づかなかった。

 

後に彼女はそう馬休にそうこぼした。

 

 

 

 

 

 

朝議に遅れてきた馬鉄を怒ろうと、腰に手を当てて待っていた馬休。

 

扉が開き、さぁ文句を言ってやろうと意気込み、馬鉄が男を肩に担いでいる姿に言葉を失った

 

 

「えっと、その、蒼・・・・・・その人は・・・・・・なに?」

 

 

白く輝く不思議な服を着ている男性。

 

その服装から、とんでもないところの御曹司ではないかと思うも、

 

ではなぜ、蒼が担いでいるのかが分からない。

 

行き倒れを保護したのか? 

 

 

「えっとね、ふふ、蒼のご主人様」

 

 

「ああなんだ、蒼のご主人さ・・・・・・えっ!?」

 

 

「だーかーらー、蒼のご主人様」

 

 

「・・・・・・ごめん、蒼、意味が分からないわ。詳しく教えてくれないかな」

 

 

妹のぶっ飛んでいる答えに、頭の痛みを堪えながら、馬休は詳しく説明してくれと頼む

 

だが、馬鉄の答えは更に上を行っていた

 

 

意識がないとはいえ、蒼のアレが口の中に入り、彼の喉がこくり、こくりと動くさまに、心が経験したことがないほど震えた、とのこと。

 

そして飲んだ方も、砂漠に水を撒いたようにごくごくと飲んだことだし、これはもう相性抜群、自分の運命のご主人様に違いない。とのこと

 

 

恋する乙女のごとく、えへへと顔を赤らめて語る馬鉄であるが、聞いている馬休は口元がひくひくしている。

 

 

「うーーーーん、もう飲めない・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

 

 

馬鉄の肩で、寝言をこぼす一刀

 

その内容に、馬鉄は恍惚とした表情を浮かべ、馬休は汚物を見るよう表情を浮かべた

 

 

 

第一話 一刀、涼州へ出荷され、聖なる水を飲んで蒼に気に入られるとのこと

 

 

 




某所では、馬休、馬鉄ではなく、

華雄と祭がメインヒロインバージョンも公開中

つまり草むらからどこに逃亡するかで分岐が決まります。


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馬恋無双 その2

採用されました


「ね ん が ん の小間使いとして登用されたぞ」

 

 

喜んで小躍りをしている、ホンゴウカズトと名乗る男を、

 

冷めた目で見つめる馬休と、ねっとりとした視線で見つめる馬鉄

 

今日も涼州は平和であった。

 

 

 

さて、涼州である。

 

そもそも涼州とは、ローマやモンゴルなどへ繋がる交通の要所である。

 

様々な品や人が溢れかえる多民族文化の州である

 

為政者から見れば実に美味しい土地ではあるが、

 

実際に攻め取った華琳は、様々な民族と利権が複雑に絡み合い、

 

言葉すらまともに通じない種族が数多いるこの涼州に手を焼き、ついには丸投げをしてしまった。

 

それが馬鉄と馬休の二人であった。

 

 

 

時を少し巻き戻すと、三国が魏によって統一されるも馬一族は蜀に残った。

 

蜀は敗戦国。戦争が終わったからといって、はいそうですか。と帰るわけにはいかなかった。

 

だが、涼州は馬家の故郷であり、馬一族の面々も内心はやきもきしていた。

 

そして魏の視点からも、それは問題があった

 

馬家は涼州一の豪族であり、多民族と数多利権は複雑に絡み合う地における顔役でもある。

 

これらをまとめるのに馬家の助力は不可欠である

 

かくして、話し合いの結果、馬休、馬鉄の二人が涼州に戻ることとなった。

 

 

地を治めるのではなく、地になる実りのみを頂くものとする

 

 

それが魏における涼州へのスタンスであった。

 

要は上前をはねるだけの簡単なお仕事である。

 

馬家の復帰により、落ち着きを取り戻した涼州ではあるが、

 

馬騰、馬超、馬岱はいない。

 

馬鉄、馬休の二人が涼州の顔役として回しているのが現状であり、

 

簡単にいえば二人共、猫の手を借りたいほど忙しいのである。

 

先日、馬鉄が友達とお酒を飲んで楽しんだのも、実に三ヶ月ぶりの休みである。

 

それだって、半日ほどの休みであったがゆえに、明け方の草原を馬で疾駆していたのである。

 

そんな大変な毎日である。だからこそ、妹思いの馬休は、頑張る馬鉄へのご褒美と割り切り

 

拾ってきた男を小間使いとしてなら雇うことを認めた

 

 

 

 

 

 

このホンゴウカズトと名乗る男は、変態な馬の骨ではあるが、小間使い程度ならば問題はない

 

多少のことも目をつぶろう。最悪、姉には及ばないが自慢の槍で追い払えばいい

 

そう、悪意を持って蒼に取り行った輩ならば――

 

 

「小間使いだヒャッフーーーーーーーーー」

 

 

両手を上げてバンザイをする男

 

小間使いになれた程度でここまで喜ぶとは、なんと器の小さい男なのだろう

 

馬休は毒気を抜かれてしまった。

 

 

 

だが、一刀にとってはこれほど嬉しいものはない

 

彼の魏での生活はキツイの一言である

 

警備隊の隊長、アイドル達のマネージャー、農業指導、肉屋、そして武官、文官の真似事と

 

彼の仕事は多岐に渡る。また自己研鑚の一環で、

 

武においては夏侯惇、夏侯淵、張遼に角界的な意味で可愛がられ

 

知においては荀彧、程昱、郭嘉に揉まれに揉まれた

 

そして全ての採点官は覇王曹操である。

 

その重厚たるや日本の社畜サラリーマンも驚きの重圧である。

 

クビと言われたら本当に胴体と首が泣き別れる職場にいたのだ。

 

エリート教育といえば聞こえは良いが、簡単にいえば鬼も逃げ出すシゴキでしかない。

 

ボロボロになりながらも、責任を背負に背負ってひたすらに駆け抜けた一刀

 

そんな彼にとり、小間使いとは一種の楽園に見えた

 

責任なんてない。物理的に飛ぶことも、竹簡の山と格闘することもない

 

なにより責任がない

 

ああ、素晴らしい。なんと素晴らしい響きなのだろう

 

一刀はまさに天にも登る気持ちであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、どこまでも北郷一刀は日本人であった

 

それが彼の最初の失敗でもあった

 

小間使いとしての日々は気楽であった

 

お茶を入れて、部屋の掃除をして、馬の世話をして、出来上がった竹簡を運ぶ

 

そんな簡単な仕事であり、

 

 

「ああ、楽だ・・・・・・気楽だ」と瞳を閉じて天を向いたりもした

 

 

だが、そんなお気楽な状態でも、馬休や馬鉄が目まぐるしく働いているのが、よく目に留まる。

 

自分と同じ年ぐらいの少女が、目まぐるしく働く中、

 

そんなこと知ったことか、俺は羽を伸ばすぞ、と出来るほど、一刀のツラの皮は厚くなかった。

 

徹夜で竹簡を完成させた馬休。

 

一刀を呼び、これを後で来る商人に渡して、と竹簡を渡す。

 

徹夜明けの疲労から馬休の手元が狂い、竹簡を落としてしまう。

 

 

 

「ああ、ごめんなさい、すぐ拾うわ」

 

 

「いいえ、馬休さんは徹夜明けで疲れていますでしょ。俺が拾って・・・・・・ん?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「馬休さん、ちょっと、待ってください・・・・・・ここと、ここと、ああここもだ、馬休さん、数字がおかしいですよ」

 

 

「えっ!? ちょっと待って、いくらなんでも・・・・・・あっ・・・・・・本当だ」

 

 

「ははは、疲れていたんですかね。良ければやっておきますよ」

 

 

「ありが・・・・・・指摘してくれたことは感謝します。でも貴方の役職は小間使いです。分を弁えてください」

 

 

感謝の言葉を伝えようとし、思いとどまる。

 

まだこの、器の小さな、変態馬の骨男を見極めてはいない

 

簡単に心を許してしまうことなど出来るはずがない。

 

心が痛むが、これも涼州の為、馬家の為

 

そう思い、必要以上に、きつい視線で睨みつける馬休

 

 

だが、そんな馬休の暴言など、桂花の罵倒の比べたら、草野球とプロ野球ぐらいの差である。

 

 

「その通りですね。分をわきまえずに、申し訳ありませんでした」

 

 

一刀にとっては、微笑ましい程度のことであった。

 

だが、悪気なく笑顔で切り返し頭を下げる一刀に、馬休はさらに心を痛めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鶸ちゃん・・・・・・あざといなぁ」

 

 

柱の陰から静かに覗く馬鉄がいたとかいないとか

 

 

 

 

第二話 気楽な小間使い

 



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馬恋無双 その3

 

 

「また逃げられた!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて、ヒッヒッフーだよヒッヒッフー」

 

 

商店から物が盗まれ、通報を受けて現場に駆けつけるも

 

犯人は逃げきった後である。

 

槍の石突きを大地に突き立て怒り心頭の馬休と、空気を呼んで茶化す馬鉄

 

 

「串焼きは美味しいなぁ」

 

 

露天の店先で、そんな二人に気づかれないように、串焼きを食べながら非番を満喫する我らが北郷一刀

 

魏であれば折檻不可避の事案である

 

 

 

 

多民族が行き交う涼州の治安はお世辞にも良いとはいえない

 

言葉が違う、文化が違う、宗教が違う、食事が違う

 

そして、交通の要所であり様々に人間が集まる

 

そこに来ての魏の侵略、馬騰の死、馬超、馬岱の蜀への移籍

 

ただでさえ、悪い涼州の治安は更に悪くなっていた

 

 

「騎馬で急行しても現場は商店街、あの人混みじゃ、騎行できないよ」

 

「でも、だからと言って、騎馬で行かなきゃ間に合わないよ」

 

 

先ほどの取り逃がしは今に始まった事ではない。

 

二人は城に戻って額を付きあわせて、街の地図を見ながら、あーだこーだと議論をしていた

 

 

「お疲れまです馬休さん、馬鉄さん、これ良かったらどうぞお土産です」

 

 

そう言って笹の葉に包まれた、串焼きを差し出す一刀

 

 

「あっご主人様、ありがとー。うん美味しい」

 

「・・・・・・いらない。蒼も串焼きなんか食べてないで、考えよう。これは馬家の面目に関わる事だよ」

 

 

笑顔で串焼きを頬張る馬鉄と、露骨に嫌な顔をして串焼きを拒否する馬休

 

犯人を捕まえられない苛々、心を許してはいけない男からの差し入れ。

 

馬休の額にシワが寄る。

 

 

「まぁ、そう言わずにお一つどう・・・・・・あっ」

 

 

べちゃり、と地図の上に落ちる串焼き。

 

タレや油が地図の上に広がる

 

 

 

「もう!! なにしてくれるのよ!! 地図が汚れちゃったじゃない!!」

 

「申し訳ありません。すぐに汚れを取ります」

 

「まぁまぁ、鶸ちゃん落ち着いて、それに話も堂々巡りだったし、今日はもう休憩しようよ」

 

「蒼~~~~~っもういい!! 今日はこの話はやめ。貴方、地図を綺麗にしときなさいよ」

 

 

怒る馬休に、なだめる馬鉄。一刀は謝りつつ、地図を持って下がっていった。

 

 

 

 

 

 

「ここがこうで、ここがこうだから・・・・・・ここと、ここと、ここだな」

 

 

深夜、小間使い用の粗末な離れの中で、一刀が月明かりを頼りに地図をふきつつ、

 

要所、要所を睨むように見つめながら、独り言をこぼしている

 

 

「お疲れさまーって言うのはおかしいかな? ご主人様の失敗だものね」

 

「これは馬休さん、こんばんわ。すいません。汚れですが、取るまでもうしばらく時間が掛かり・・・・・・」

 

「で、地図をわざと汚したご主人様はなにを考えているのかな? 」

 

「えっ、馬休さんなにをおっしゃって」

 

「ご主人様、演技は良いよ。鶸ちゃんはご主人様の演技を見抜けなかったけど、私には丸わかりだよ」

 

 

馬鉄の笑顔で一刀に詰め寄るも、その瞳は一切笑ってはいなかった。

 

馬家の三女にして涼州の顔役の一人。

 

涼州と馬家の為なら、なんでもやるであろう冷徹な瞳。

 

馬鉄は一刀の事を気に入っている

 

だがそれは、拾った可愛い犬猫に近い思いである。

 

故に、ご主人様と呼びつつも、馬鉄は、一刀に真名を許してはいない。

 

 

硬いがゆえに、豪族名士の受けがよく、正論や合法的に相手をねじ伏せる馬休

 

ふざけているがゆえに、闇社会ともうまく折り合いがつけられ、非合法な事で相手を潰す馬鉄

 

 

なるほど、馬騰が死に、馬超、馬岱がいなく、涼州の治安は悪化はした。

 

悪化はしたが崩壊はしていない。涼州の民は問題なく暮らしている

 

 

いいコンビだな。硬軟織り交ぜてというやつか

 

 

内心、関心しつつ、一刀は、目の前の剣呑な馬鉄を見つめる。

 

一刀も魏で伊達に修羅場を潜ってはいない。

 

華琳を筆頭に、春蘭、霞などの稀代の武人とも手合わせをしてきた。

 

故に、今の馬鉄を見ても怯むこと無く対応が出来た

 

 

「馬鉄さんに助けられて、小間使いとして引き立てられた恩を返そうかと思いましてね」

 

 

おべんちゃら等通用するものか。冷たい瞳がそう語りかけ、一刀を刺し貫く

 

返答次第では口ではなく、刃が飛んで来る可能性もある

 

 

だが、そんな事など意にも返さずに、たんたんと地図の数カ所をを指でさす。

 

 

「この箇所に人員を配置します。あの窃盗事件は連続で起きています。外部から来た人間が場当たり的にやったとは思えません。涼州生まれの犯行だとにらんでいます」

 

「人員配置って簡単に言うけどそんなお金はないよ」

 

「ええ分かっています」

 

「だから、子供を使います。この場所で遊んで入ればお菓子をあげるよと言って。

彼らが犯人を目撃をすればよし、目撃をしなければ別の区画へ動かします。

そうして区画を潰して、潰して、犯人の根城を突き止めます」

 

「実に良い案ですね。鶸ちゃんの前で言ったら、怒り過ぎて、どうなるか分かりませんよ」

 

「子供を使って・・・・・・なんて馬家の面目に関わりますからね。もちろんこれは私個人で動きます」

 

 

長い沈黙

 

月明かりに照らされた粗末な部屋で、馬鉄と一刀は睨み合う。

 

 

「子供に被害は出る?」

 

「今まで人を傷つけずに窃盗ばかりを繰り返してき犯罪者。それに犯罪者とはいえ人間だ。子供を傷つけるなんてなかなか出来ることじゃない。付け加えれば、窃盗から強盗に格上げされるなんて、誰だってゴメンさ」

 

 

窃盗だけなら棒叩きで済ますが、子供を傷つけたとなれば斬首も免れない

 

 

「分かったわ、ご主人様。貴方の作戦を採用するね。ついては小間使いの役を解くわ。好きにして」

 

「理解の早い雇用主を持てて幸せですよ」

 

「成功報酬は・・・・・・そうね。ご主人様をもっと愛してあげる」

 

 

馬家や涼州の為ならば即座に切り捨てられる、ご主人様

 

もっと愛してくれるとは言ったが、真名を許してはくれそうにない

 

月明かりに照らされながら微笑む馬休

 

その背中から悪魔の羽と尻尾が見えたような気がした

 

 

「悪魔だなぁ」

 

「やん、小悪魔って言ってよ。それに馬家には本当の悪魔もいるよ」

 

「馬休さんより悪魔とは・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~蜀~

 

 

「ハクション!!! うーーー誰か噂してるのかな」

 

馬岱がくしゃみをしたとかなんとか

 

 

 




少しずつ投下を再開します。


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馬恋無双 その4

 

「兄ちゃん、これ美味いね、いつもありがとう」

 

 

甘草を煮詰めて甘くした水。簡易的なジュースだ

 

一刀の記憶からすれば、粗末極まりない出来であるが、この時代の、人達からすれば

 

甘いと言うだけで、ご馳走だ。

 

この甘草を煮詰めれば甘味が出ることを涼州の人は知らなかった

 

故に、一刀は、街を出て、そこら中の草原に自生するこの甘草を刈り取り、このジュースを作成した

 

掛かるのは薪代だけであり、恐ろしく原価は低い

 

 

「これは一儲け出来るかも」

 

 

ニヤリと悪い笑みを浮かべる一刀

 

魏において、数え役満しすたーずをプロデュースした男でもある。

 

一山当てようという気概はある。

 

もっとも魏では、売上は全て国庫に収められ、取り分はゼロであった。

 

自分で稼げば自分のポケットに入れても問題はない。

 

しかも今は小間使いの身、時間は凄く空いている。

 

稼いだら、どうしようか。あの店でご飯を食べよう、大人な店で大人な事をしよう。

 

広がる夢。一刀はしばらく、だらしのない顔で天を見つめ、

 

 

「いかんいかん、それよりも犯人逮捕だ。勤め先の空気が悪いのはやっぱり嫌だからな」

 

 

そう零して、一刀は写し終えた街の地図にマークをつけていく

 

二週間程、子供達を遊ばせ、彼らの情報を元に犯人の逃走経路を予測していった

 

この手の燻り出しの作業は、魏での警備隊で嫌というほど慣れている。

 

一刀はおおよそ犯人の居場所を探り当てていた。

 

魏では、ここまで分かれば、犯人のアジトを凪達と強襲するところだが、

 

今の身分は馬家の小間使い。その小間使いとて今は休職中の身。

 

 

なによりも、一刀の頭を悩ませるのが、彼女達の戦闘力である。

 

犯人のアジトを強襲する。しかし、実働部隊の実力が分からない。

 

いや馬休も馬鉄も、あの馬一族の人間だ。

 

実力は疑いようがない。

 

だが、アジトの強襲、市街戦となれば、使用武器の問題も出てくる

 

まさか民が大勢いる市街地や、狭い室内で槍を振り回す訳にはいかない

 

魏であれば、凪の拳や沙和の剣といった室内向きの戦力も充実している。

 

警備隊も槍といった長物よりも剣等の取り回しのし易い物を配備していた。

 

馬家で彼女達や配下を見てきたが、騎兵中心だ。

 

武装も騎乗をしてから攻撃するものという考えであるため、槍等の長物。

 

しかも馬上槍なので、ことさらに長さに重点が置かれている。

 

もちろん馬休、馬鉄の武器も槍だ。

 

彼女達の戦闘方法は、マイナスの要素にしかなりえない。

 

そこが一刀の懸念であるが、さりとて馬鹿正直に馬鉄に聞けるものではない。

 

武将は大なり小なりプライドを持ち、自身の武を誇っている。

 

窃盗犯如きに遅れはとらない、と思うものである。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

一刀は悩む。

 

どれくらい悩んでいたのか、自分でも分からない。

 

しかし時は流れ、あたりは暗くなる。

 

一刀は明かりと暖を求めて、薪を掴み取り。

 

 

「・・・・・・これしかないか」

 

 

薪を掴みながら、呟いた

 

呟いて覚悟を決めて、馬鉄の元に写した地図を持って行った。

 

 

 

 

 

「ここが犯人のアジトなのね」

 

「そうだね。民からの通報があってね」

 

 

まだ日の出前の薄紫色の空が広がる時間帯

 

馬休と馬鉄は武装した上で、騎乗している

 

その周りの部下達も皆騎乗し、手には鈍く光る槍を持っている

 

馬家のお膝元である涼州で散々に窃盗を繰り返し、自分たちの面目を潰してくれた相手だ

 

ただではおかない、と皆やる気に溢れている

 

 

「で、あんたはなんでここにいるのよ」

 

 

ジロリ、馬上から一刀を睨みつける馬休

 

 

「いえ、その情報提供者が私が贔屓にしている薪屋の主人でしてね。

それを私が聞いて馬鉄さんに報告致しました。

薪屋を信じぬ訳ではありませんが、もしガセでしたら、この場で私を罰していただければと思い、覚悟を決めてやってまいりました」

 

 

まっすぐと馬休を見つめ返し、そう言い切る一刀

 

その潔さとまっすぐな瞳に、馬休は思わずドキリとし、周りを囲む騎兵達も、大したものだ、と男らしくウンウン頷いている

 

ただ一人、馬鉄のみがそんな一刀をチェシャ猫のような瞳で見ていた

 

 

「そっ、そうなの、分かったわ。ならば覚悟を決めて待ってなさいね」

 

 

もちろん空振りやガセだったとしても、馬休に彼を罰するつもりはない

 

だが、こうでも言わなければ、馬休は一刀の雰囲気に飲まれてしまいそうだった

 

 

ダメよ、私がしっかりしなきゃ

 

 

そう自分を心のなかで叱咤し、一刀に言い捨てて、アジトへと突入をしていった。

 

 

 




次回も近いうちにUPします


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馬恋無双 その5

「蒼はあっちを探して! 私はこっちを探す!!!」

 

 

馬休の怒鳴り声が早朝の市街地に響き渡る。

 

結果から言えば、犯人を取り逃がした。

 

槍が天井や壁にぶつかり、ひどい時には仲間にさえぶつかる。

 

馬では追えない細い路地に逃げられる。

 

馬休は、頭に血を上らせていた。

 

しかし窃盗犯も、寝込みを襲われたので、混乱をしている。

 

それでも逃げられるのは、相手が馬から降りない、降りても走りではこちらに敵わない。

 

槍に鎧と、実に重い装備だ。

 

対して窃盗犯は、剣と服のみ。身軽なものである。

 

 

「はぁはぁ、畜生、なんでバレたんだ。でも、なんとか撒けた」

 

 

ゆっくりと日が昇り始める早朝の商店街。

 

ちらほらと商人達が店の準備を始め、

 

酒家等の夜の住人を相手にしていた店は、店じまいを始める。

 

これで逃げられる――窃盗犯は街にあふれ始めた人に安堵し、

 

 

「随分と汗をかいてますね。体の具合でも悪いのですか? 大丈夫ですか?」

 

 

ポン、と肩を叩かれる。

 

振り向くとそこには一人の男がいた。

 

白い不思議な衣装を着ている、顔立ちの整った男。

 

見た目や衣服からは役者でもやれそうな優男である。

 

だが、窃盗犯は知っている。

 

この男の目。官憲の目。狗の目。

 

こちらを気遣っている言葉を吐いているが、その実になにも心配はしていない。

 

 

窃盗犯は頭の切れる男でもあった。

 

そのおかげで今まで馬家を出し抜き、人を傷つけずに逃げおおせた。

 

しかしアジトが見つかっては、しばらくは涼州で商売は出来ない。

 

いっその事、好景気に沸く魏に行くのも手かとも考えていた。

 

そこで考える。

 

この男を誤魔化すか、それとも逃げるか。

 

白い男は、剣すら身に着けていない、服の袖から鎖帷子も見えない。

 

装備はこの衣服のみだ。

 

こちらより身軽い。純粋な脚力で逃げられるかも知れないが――

 

この男が大声で叫び騎兵の連中を呼ばれたら厄介だ。

 

 

誤魔化す――無理だ、この目をしている人間を騙すのは骨である、そんな時間はない。

 

 

つまりは――窃盗犯は腰の剣を見る。

 

殺せば問題になる。手や足などを軽く傷つけて一目散に逃げる。

 

手負いならばそんなに走れまい。

 

 

窃盗犯は本当に頭が良く、度胸もあった。

 

ここまでの事を数瞬で考え、有無を言わさずに白い男に斬りかかった。

 

不意打ちからの一撃。

 

しかし、白い男はスルリと躱す。

 

 

「悪くないが、同じような事を何度もされてね」

 

 

白い男こと一刀は、三国一、大きい国である魏において警備隊の隊長として現場にも数えきれないほど出動した。

 

追い詰めた悪人の行動も、ある程度はパターンとして体に叩きこんである。

 

一刀は、近くにあった薪屋の荷車から薪を掴みとる。

 

掴みとり、右上に振り上げた。

 

それは、子供が棒を振り回して遊ぶような、素朴な構え。

 

今から振り下ろすよ、そんな声さえ聞こえそうな牧歌的な構え。

 

この修羅場にあって、あまりにもフザケた構えであり、

 

窃盗犯は、舐められた、と激怒した

 

 

「なめるな!!!」と叫び

 

 

窃盗犯は剣を振りかぶり、振り下ろし、すさまじい衝撃が腕に走る。

 

手の感覚がなかった。

 

手の震えが止まらない。

 

持っていた剣が地に落ちて、真っ二つに折れている。

 

訳がわからない。

 

混乱する窃盗犯。その眼前に突きつけられる薪ざっぽう。

 

 

「下手な真似をするな。次は頭蓋に落とすぞ」

 

 

その一言に窃盗犯の腰は抜け、心は折れた

 

朝日が登る、商人達は目の前で起きた戦いに、手を止めて見入ってしまっていた

 

一人の男が剣で斬りかかり、もう一人の男が華麗に躱す

 

そして、薪を掴むや、風の様に視認できない速度で振り下ろし、相手の剣を真っ二つに叩き斬る

 

 

その講談じみた戦いに町行く人々の目は釘付けだ

 

日が昇る。

 

白いと思っていた男の服が、朝日を浴びて白銀色に輝く

 

木で鉄を斬り、白銀の衣装をまとった二枚目の男

 

その出来過ぎた英雄譚に、町行く人々――涼州の民は大いに沸いた。

 

 

そして、その光景を見てしまった馬休と馬鉄。

 

馬休は一刀の武勇と武者振りにドキンドキンと胸を高鳴らせ――

 

 

「本当、ご主人様は凄いなぁ。知りたいことが増えちゃったな~」

 

 

馬鉄は静かに微笑んだ。その微笑みは、どこまでも昏かった――

 




初代恋姫……通称 無印恋姫の設定で

北郷は島津家の分家であり、スパルタな祖父から剣術を習っていた。

つまりは示現流。

薩南示現流と衛府の七忍を見て、勉強しなきゃ(使命感)


個人的には薬丸自顕流の方が好きですが、下級武士で流行っていたようであり

薩南示現流ではそこそこディスられていたり……うーん、この

こうなったら、【ぼくのかんがえた、じげんりゅう】で行こうかな





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馬恋無双 その6

ボタッと石の床に落ちる、肉の串焼き

 

 

「あっ、また落として、駄目だよ。ちゃんと持ってないと」

 

 

笑顔で軽く注意をする馬休

 

しかし一刀はそれどころではない。

 

 

「あっあの、もう一回、言って頂けますか」

 

「もう、ちゃんと聞いてよね。だから――」

 

 

貴方に警備隊を組織してもらいたいの

 

 

ドサリ、と大きな葉っぱに包まれている串焼きをまるごと地面に落とした。

 

そして一刀は、ぐらりと体を傾け、バタリと倒れた。

 

馬休の医者を呼ぶ悲鳴が涼州城に木霊した

 

 

この時代、兎にも角にも自分を大きく見せて、仕官への道を探るのもの。

 

いや、仕官だけではない。軍事的にもそうである。

 

戦場で討ち取った数の水増し。それも桁を増やしてとなれば中々に凄まじい。

 

人も組織も国も大きく見せる事が当たり前である。

 

 

「分不相応な地位に人を付ける、これは亡国の始まりであります。いいですか馬休さん。私は小間使いが関の山の男でございます。そんな男に、警備隊を組織しろなどと――」

 

 

目の前でその当たり前を粉砕する男に、馬休は笑いを堪えるのに必死であった。

 

小間使いの領分を遥かに超えての、命を掛けて直訴に及んだ胆力。

 

身の危険を顧みず、丸腰で犯人を追いかけた勇。

 

木の棒で鉄の剣を真っ二つに切り裂く武。

 

何一つとっても素晴らしい働きだ。

 

その後の彼の行動にも驚きだ。

 

これらの働きを一切誇らず、街の人におだてられても、

 

 

「馬家の威光があってのことでございます」

 

 

と、にこやかにしか語らず、己を高く売るのではなく、馬家の名声を上げる事のみに腐心している。

 

なんと素晴らしい事だろうか。

 

 

「ましてや、警備隊の隊長になど、出自不明の流れの小間使いをそんな要職に付けるなど馬家の面目に関わります」

 

 

今も馬家の為に力説し、必死に私を説得しようとしている。

 

出自不明の流れ者として冷たく当ってきた私に。

 

馬家の為として軽んじ、簡単な仕事しか与えず、辛辣に当たってきた私に。

 

 

ここまでしてくれるなんて。

 

ああ、彼は、いいえ、この殿方はなんて素晴らしい方なのだろう。

 

こんな殿方が私の夫に、そうご主人様になったら、これほど幸せな事はないだろう。

 

でも、彼は流れ者。馬家の夫として迎え入れるには問題がある。

 

私も馬家の女。恋愛結婚が出来るなどど思ってはいない。

 

だからこそ、

 

ご主人様とは呼べないし、真名も許せないけど――

 

 

「ですから、私は小間使いが、責任など一切ない軽い仕事が器の人間です。お給金も十分、休暇も休憩もたっぷり、十分に今の立場に満足してい――」

 

 

「いいんですよ。そこまで自分を卑下しなくても。分かってますから」

 

 

「分かって!? うんうんそうですよね馬休さん、私は小間使いが」

 

 

「貴方が馬家の為にどれだけ頑張っているのか。そんな貴方だからこそ、警備隊を組織し運営てもらいたい。そして、歩兵戦や室内戦、市街戦に不慣れな私では、隊長として足り得ないだからこそ、貴方の武勇と知恵で隊長を勤めて貰いたい。そして――」

 

 

 

私が副隊長です。よろしくお願いしますね♪隊長

 

 

恋愛など出来るはずはない、真名も預けることはできない

 

だから、これが精一杯。私の擬似的な真名

 

私が副隊長で貴方が隊長――

 

 

 

馬休は真っ赤になりながらも笑顔で伝える。

 

一刀は真っ青になりながら笑顔で倒れる。

 

 

涼州の城に再度、馬休の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

5話 隊長就任

 

 

 




馬休さんは秘めるタイプの女性だと思います。


馬超 → 戦国乙女ならぬ脳筋乙女

馬岱 → 小悪魔を自称する大悪魔

馬鉄 → 小悪魔を自称する中悪魔で淑女(意味深)

馬休 → 秘めるタイプだが、秘めすぎて貯まると、【天城越え】が始まる

華雄 → 正ヒロイン





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個別恋姫 にこ競食の計 うえ

 

真桜のギミックによる重い愛の檻の外史も終わった

 

色々とあったし、監視の目がキツかったのは事実であるが、まぁそれも良しとしよ

 

 

「無邪気な娘・・・・・・そうだ恋にしよう」

 

 

本能で生きていると言っても過言ではない恋

 

彼女と一緒にのんべんだらりと生きていくのも悪く無い

 

そう考え、一刀は次なる外史の扉を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角出し、彼女の武を習おう」

 

 

一刀は練兵場でそう呟いた

 

最初の頃は良かった

 

彼女の元に転がり込み、セキトを介して仲良くなり

 

饅頭その他食べ物で彼女を釣り、どんどんと深い仲になったいった。

 

 

朝ご飯を食べてイチャイチャして、

 

昼ご飯を食べてイチャイチャして、

 

夜ご飯を食べてイチャイチャして、一日が終わる

 

 

最初の頃はそれで良かったが、ずっととなると飽きるもの

 

そこで一刀が目をつけたのが彼女の武

 

恋の武は三国一なのは事実である

 

そんな彼女に手ほどきを受けてみたい

 

始まりはそんな軽い気持ちであった

 

 

 

 

「がはっ!!!!!!」

 

 

練兵所の端から端へと吹き飛ばされる一刀

 

方天戟を振り抜いた恋はオロオロと取り乱している

 

 

「ごっご主人様、だっ大丈夫」

 

「だっ大丈夫、大丈夫。さぁもう一本やろうか」

 

 

ちょっとプルプルしながら戟を構える一刀

 

魏では春蘭、蜀では愛紗、呉では祭に

 

訓練と称するかわいがりで空を舞い続けた一刀

 

こと打たれ強さに限って言えば、三国でも高水準になっていた。

 

 

「ご主人様、もう止めよう。弱い者イジメしたくない」

 

「恋、でも恋になにかあったとき恋を守りたいんだ」

 

「・・・・・・なにかって?」

 

「えっと、風邪とか? 体調が悪い時に恋が襲われたら大変だろ」

 

「風邪を引いてもご主人様より強いよ」

 

 

身も蓋もない返答に一刀も詰まる。が、それでも食い下がる

 

 

「ぐっ、良いの。俺は恋の恋人でご主人様。

好きな女を守るために強くなるのを求めるのはおかしいかな

ほら、恋の飼ってる動物だった雄が雌や家族を守るために牙を剥く時があるよね」

 

「・・・・・・・・っ」

 

 

動物好きの恋の為に、たとえで動物を出してみたところ

 

それが恋の心を激しく揺り動かした

 

 

「分かった。ならいくね。ご主人さ・・・・・・あっあなた」

 

 

顔を赤らめ、あなた、という恋

 

それは恋人から夫への昇格

 

一刀は思わずポカンとし、

 

豪風を伴って横殴りに来た方天戟の直撃を食らって、空の彼方へと飛ばされていった

 

 

 

かくして恋と正式に夫婦となり

 

イチャイチャしたり、ご飯を食べたり、空の彼方へと飛ばされる日々が過ぎていく

 

だが、時は流れ、国は動乱を迎える

 

一刀と恋も時代の流れには逆らえず、気づけば董卓の配下になっていた。

 

 

二人の生活サイクルに少しの変化が訪れた

 

恋は武官、一刀は文官の仕事が入った。

 

本来ならば武官もこなせる一刀であるが、

 

そこは恋の強固な反対のせいで文官とし働く事になった。

 

 

飢饉と黄巾の乱から始まる国の動乱により、

 

働かなければ、恋の大家族を養う事が出来なくなったのだ

 

そう、これは仕方のないこと

 

 

「・・・・・・・一緒にいる時間が減った」

 

「仕方がないよセキト達を食べさせなきゃいけないしね」

 

「うん・・・・・・わかってる」

 

「明日は二人とも休みだし、一緒にゴロゴロして、昼は鍛錬しようか」

 

「うん! 楽しみ」

 

 

二人は一緒に休暇を取ることを覚えた

 

仕事で離れ離れの時間は出来たが、それでも二人の世界が崩れることはなかった

 

 

 

 

 

「うーーーん、勝ちたい」

 

 

誰もいない夜の練兵場で一人ゴチる一刀

 

董卓陣営での生活には不満は無かったが、

 

恋との生活に少しの不満があった

 

 

「でも、相手は恋だ。呂奉先だ。三国最強の武だもんなぁ」

 

 

積み重なる連敗記録

 

分かっている。分かってはいるが、男児たるもの最強を目指したいものである

 

なにより自分の嫁だ。夫として、せめて一太刀は入れたいものだ

 

夜の練兵場に方天戟の風切り音が寂しく響く

 

いつの頃からか、一刀は夜に恋が寝たのを確認したら一人で練兵場に出るようになった

 

強くなりたい、恋から一本取りたいと、考えて

 

そして一時間ほど方天戟を振るい、恋のいる寝所に戻る

 

そんな日々が続いていた。

 

だが、その夜は違った

 

 

「北郷さん、ご精が出ますね」

 

「こっこれは、董卓様」

 

 

慌てて頭を垂れる一刀

 

一刀は混乱していた

 

なぜこのような時間に総大将が一人練兵場に来るのか

 

そんな一刀の悩みを察しているのか、董卓はクスクスと笑いながら

 

 

「ふふ、いつも頑張っている配下を労いにきました」

 

「いつも頑張っている?」

 

「ええ、あの飛将軍の恋さんに、叩き飛ばされては立ち向かい、そして叩き飛ばされる文官さん。私達の間でも有名ですよ」

 

「あっ、そういうことですか」

 

「それに、ふふ、勝ちたいとは、北郷さんは凄い文官さんですね。ますます有名になりますよ」

 

「いや、それは・・・・・・なんとも恥ずかしいですね」

 

 

恥ずかしさから、董卓から視線をそらしてポリポリと頬を掻く一刀。

 

そんな一刀を見て、ますます笑みを深める董卓。

 

 

「ですが、一人稽古では自ずと限界が見えてきます。良ければ私が付き合ってあげましょう」

 

「えっ!? しかし董卓様、それはさすがに」

 

「へぅ・・・・・・こうみえても、私もそこそこ出来るんですよ」

 

 

言うや練兵場の隅においてある木剣を取り、構える董卓。

 

構えから発する威圧に一刀は思わず距離を取る。

 

様々な豪傑と戦い続けて練り上げた一刀の勘が、危険だと騒ぐ。

 

その勘は当った。

 

先程まで一刀のいた場所に木剣を振り下ろしている董卓。

 

引かなければ、良いのをもらっていた。

 

 

「へぅぅ・・・・・・これをかわすなんて、流石ですね」

 

 

にこりと微笑む董卓。

 

だがその笑みは獣が牙を向いたように恐ろしい。

 

正史においては暴政と悪逆で歴史に名を残した董卓。

 

だが、権力を握る前の一群雄だったころの董卓は、武勇に優れ、義侠心にあふれる好漢であったとされる。

 

 

この外史においては可憐で心優しき少女である董卓。

 

だが、隠れた武闘派でもあったのだ。

 

なぜそれが表に出ないかというと、彼女の親友である賈クによる所が大きい。

 

曰く、月は大将なんだから、前線で剣を振るうなど論外である、と。

 

 

正論である。

 

では、と、武官の訓練に混じって剣を振ろうとして――また怒られた。

 

 

恋に華雄といった本能で生きてる連中に手加減なんて真似が出来るわけがない。

 

霞は多少マシだが、酒の臭いがぷんぷんする時がある。

 

まかり間違う時がある。

 

 

正論である。

 

董卓も自分の武に自身があるからこそ、格上の強さがよく分かる

 

方天戟に金剛爆斧、飛竜偃月刀。木剣では小枝のように折られ、下手な得物では太刀打ち出来ない。

 

愛用の刀(銘は獄刀。ノコギリ状の刃を持つ凶悪な刀。昔はこれで野牛を一撃で倒して、お客に振る舞ったとかなんとか)を使えば打ち合えるが・・・・・・試合が死合になりかねない

 

 

仕方がないとはいえストレスは溜まる。

 

そんな中知った、北郷一刀なる文官の存在。

 

桁外れの頑丈さと、なんとも評価のし辛い武。

 

 

彼ならば、詠ちゃんも納得する。

 

ただ、万が一ということもあるので黙っておこう。

 

 

董卓は北郷に声を掛けるタイミングを見計らっていた。

 

個人的に細作を使い、彼が夜一人で方天戟を振るっていると知り小躍りをした。

 

 

 

月明かりの下、董卓の木剣が旋風を巻いて一刀を幾度も襲う。

 

一刀も仕方がないと腹を括り、董卓の攻撃をいなし、そして舌を巻く。

 

反撃が出来ないのだ。間合いを詰められ振るわれる連撃に防御で精一杯、

 

いや、その防御すら間に合わず、小さな攻撃は受けてしまっている

 

それでも直撃だけは避けて、抵抗を続ける

 

 

 

対する董卓は笑みを深める

 

彼女の心を占めるの圧倒的な歓喜である

 

なんて健気なのだろう

 

なんて健気な武なのだろう

 

なんて健気に私に付き合ってくれるのだろう

 

なんて健気に私を受け止めてくれるのだろう

 

こんなに気持ちの良い、自分の全てを受け止めてくれる相手はいなかった。

 

全力で振るう剣のなんと心地の良いことか。

 

全力で振るった剣が止められた時の衝撃がなんと甘美なことか。

 

浅く入った。浅くとも痛いはずなのに、彼は止まらずに私を受け止めてくれる。

 

その優しさと力強さに心が踊る。

 

董卓の剣舞は続く。

 

乾き飢えていた彼女の心を癒やすように

 

 

 

 

 

 

 

 

だが――その乾きは【それだけで】癒えるものなのだろうか――

 

 

月明かりの下、北郷を見る董卓の瞳は、どこまでも綺麗で純粋であった。

 

 




呂布、董卓が女性になるのなら

貂蝉=一刀と見るのが自然な流れ

筋肉モリモリの方は見なかったことにしよう


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