オーバーウォーズ (フュラーリ)
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ユグドラシル編~プロローグ~
0. オープニング


" 我が子らよ、銀河に散らばる人間の子供たちよ、私はここに宣言する。

 我々の偉大なる祖先はかつて辛く厳しい航海を得て自由を得た。新しい地は我々に力を与えた。

 人は機械の道具ではない。人を支配するのは人でなければならない。我々が虐げられることはもうないのだ!!

 しかしこの事実を否定し、我々に銃口を向けるのであれば、私は容赦ない報復を行う!!

 子々孫々に至るまで苦しみを与えてやろう!! "

 

 

『以上が反乱軍最高司令官の声明です。UNSC最高司令部報道官はこの声明に対し次のように述べています』

『彼らは殉教者を装い銀河の平穏を脅かそうとしています。彼らはテロリストにすぎません。皆様はくれぐれも甘言に惑わされないように・・・』

 

 その言葉を最後まで聞くことはなかった。モニターが突然切れたからだ。

 

「たっち、ここにきてまでニュースを見るな!」

「黙って見させてくれよ、ウルベルト」

「まったく・・・ウルベルトはニュースキャスターに向いてないな」

 

 たった今ニュースを見ていたのはたっち・みーと呼ばれる白銀の騎士。

 モニターの電源を切ったのは羊の頭を持つ悪魔のような風体の男で名はウルベルト。

 ウルベルトにはぺロロンチーノと呼ばれるバードマンが付き添っていた。

 

「何言ってやがる。こいつは単に権力が欲しいだけだろ」

 ウルベルトが一言で切り捨てる。

 

「まあ確かに。奴の言い分には吐き気がする。自分が正義だと言ってるだけだ」

 ぺロロンチーノがウルベルトに同意する。権力闘争は人の世の常だが、短い人生の中で散々見せらせ彼らはうんざりしていた。

 

「賛同者は彼こそが平和をもたらすと言ってるぞ」

 たっちの職業は警察官である。彼は上官の中に反乱軍に賛同するものがいることを察していた。

 

「笑えんジョークだ。知ってるだろ、平和を主張する奴は皆クズだってことを。こいつはただのテロリストだ」

「少し落ち着け。メリディアンコロニーで起きた反乱も鎮圧された。奴はいずれ処刑されるだろ」

 白熱するウルベルト。たっちとぺロロンチーノがなだめようとするが、その前に澄んだ少女の声が響く。

 

「その辺にしてください。周りが怖がってますよ、ウルベルト」

「シェラ! 君も来てたのか」

 

 3人が振り向くと、そこには甲冑をまとった美少女がいた。彼女の名は・・・

 

「次のクエストはあなた方3人ですか? 」

「ああ、少し無謀だったか? 」

 たっちが顔色を伺うかのようにシェラの顔を覗き込む。たっちは美少女であるが何を考えているのかよく分からないシェラが苦手だった。

 

「はい、かなり。ですが私は出ませんよ。後方で支援します」

「問題ないさ。いざとなれば誰かさんを的にして逃げればいい」

 そう言ってたっちを見るぺロロンチーノ。

 

「この野郎! 」

 前衛を見捨てる後衛の常とう手段を茶化すぺロロンチーノと否定するたっち。声に反して彼らは和気あいあいとしていた。

 

 

「ぺロロンチーノ、ぶくぶく茶釜はいないのですか? また喧嘩? 」

「ウゲッ!!・・・」

「うおっ、いつもながらキツイ・・・」

「絶対分かってるな・・・彼女・・・」

 

 シェラの一言に3人が一斉に渋い顔をする。長ったらしいアバター名なので戦闘中は略称だが、普段はそのままぺロロンチーノと呼んでいる。

 

「シェラ・・・ぺロロンチーノが姉に勝てないことはよく知ってるだろ? 」

「喧嘩にすらならないことは知ってるのに・・・シクシク」

 さっきまでの威勢は宇宙の彼方に消えた。

 

「ついに勝ちましたか。他のメンバーに知らせないと」

「もういいだろ・・・」

「違うぅぅぅぅ・・・実家の給士ロボが故障したんだ。メーカーに苦情言ってるところ」

「故障? 古いモデルですか? 」

 なだめるようにシェラはぺロロンチーノと向き合う。

 

「サイバーダイン社製の240-C/4だよ。たまたま家に来ていた親戚に攻撃したんだ」

「なるほど。C/4は人格形成プログラムに欠陥があって廃盤になってます。サイバーダイン社から交換の通知が来ていたはずですが? 」

「そこそこ長かったし交換をサボってたみたい。両親がそのままにしてた」

「C/4以降のモデルは人工脳が新型です。仮に人間を攻撃しようとしても行動抑制システムが脳を緊急停止させます」

 

「他のメーカーもいいんじゃない? デスペラード社のサイボーグタイプがよさげだけど」

 ぺロロンチーノが前々から思っていたことを口に出す。シェラはやけにサイバーダイン社を推すなと疑問に思いながら。

 

「ちょっとまて。それは子供の脳を使ったモデルだぞ。マスコミから糾弾されてるだろ」

「身元登録されてない紛争地域の子供だから国民じゃない。法律上は問題ないが会社の言い分だ」

 ウルベルトの発言にたっちが捕捉する。デスペラード社には腹が立ってるが仕方がない。

 

「デスペラードはあまり対応がよくなく、何かあっても交換してくれませんよ。同一メーカーなら割引もあります」

 やはりというかサイバーダイン社を推すシェラ。

 

「う~ん・・・考えさせて」

 ぺロロンチーノは結論を出せない。もっともこの場で決定したところで姉の判断には逆らえないのがぺロロンチーノである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェラと呼ばれた少女が3人を見送ると、壁に設置された立体映像投影装置が女性を写す。

 

「ユグドラシルはずいぶんブラックボックスが多いですね」

「セリーナ。貴方もここにいましたか・・・」

 

 彼女はただの立体映像ではない。セリーナはUNSC戦艦の艦載AI。今はユグドラシルにいるが惑星ハーベストへの増援艦隊に組み込まれたため、本来ならここにいるべきではない。

 

『次のニュースです。UNSCは惑星ハーベストへの増援艦隊派遣を正式に決定しました。派遣軍総司令官のコール提督によりますと、艦隊は戦艦や大型艦を中核とする編成でハーベストの軌道上に到着後、コヴナントに対し大打撃を与えるとのことです』

 

 ウルベルトが消したモニターとは別のモニターがニュースを流し続ける。ここはユグドラシルであるが、現実の出来事に興味を持つ者はいくらでもいる。

 

「その様子では進展はなさそうですね。いつまでここに? 」

「UNSC最高司令部から可能な限りあなた方をバックアップするようにと通達がありました。幸い乗艦はまだ整備中です」

 声音まで変えて声を真似るセリーナ。偉丈夫に言われたらしくその声は傲慢さに満ちていた。

 

「以前も言ったように他のAIに交代するべきだと・・・」

「おやおや、こんな面白そうなことを譲るつもりはありませんよ」

 シェラの指摘を遮り笑顔で答えるセリーナ。他のAI同様セリーナもやけに人間臭い。

 

 

 セリーナの主張に呆れたのか、シェラが天を仰ぐ。

 その視線の先には監視カメラがあり、無機質に彼女達の行動を録画していた。

 

 

 シェラは一瞥すると足早にその場所を離れる。その様子を見て何かを察したのかセリーナの映像も掻き消える。一瞬であったが彼女達は監視カメラの正体が分かっているかのような表情を浮かべていた・・・

 

 

『銀河は大変な時を迎えています。人間は今こそ一致団結しなければなりません』

『現在イプシロン・インディ星系全域で避難勧告が発令されております。また今回の声明を受け、各銀河系で渡航制限がかけられました。皆様、恒星間航行する際には十分注意してください。今日はこの辺で失礼します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは遥か未来の話・・・

 人類が地球というゆりかごから出て宇宙に進出した時代・・・

 

 人類は機械の支配を受け入れ繁栄を謳歌していたが、それに対して一部の人間が反発。反乱軍を結成し抵抗を始めた

 

 人類が人類自身の混乱を収めきれないまま地球外知性体と遭遇。彼らはコヴナントと呼ばれ、様々な種族で構成される軍事的・宗教的同盟であった

 

 人類は孤独ではない。そう喜んだのもつかの間、彼らは突如として攻撃を仕掛けてきた

 未知なるものからの攻撃に誰もが絶望したものの、幸い攻撃は微小であり、現在コヴナントは惑星ハーベストに対して散発的な攻撃をするにとどめている

 

 宇宙がこのような混迷を極めても、民衆は我関せずで日々の暮らしを送っていた

 

 機械が支配する世界

 全ての人間がその世界に適合したわけではない

 社会からつま弾きされたもの、疲れたものは安住の地を求めた

 

 機械が、人間が、用意した仮想空間へと・・・

 

 

 ここまでは皆がよく知ってること

 

 

 

 

 

 

 

 ここからは皆が知らないこと

 

 

 仮想空間の1つでありゲームと呼称されるユグドラシルで行方不明者が続出

 身柄を確保できた者もいたが人間として見る影もなく、ただ生きているだけだった

 

 ユグドラシルを開発したのはデルタ社と呼ばれる企業。人が人を支配するべきだといい、常にきな臭い噂が付きまとう企業

 

 人類を支配する機械勢力の1つであり、ネットワークを統括する "スカイネット" はこの問題を憂慮し、自身の配下をユグドラシルへと送り込む

 

 

 

 その名前は・・・

 形式番号 SG-2R シェラ・エルサリス

 

 

 



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1. 白銀の騎士 in HALO-1

ユグドラシル

D77-TCペリカン降下艇(兵員輸送機)

 

 

 一羽の鋼鉄の鳥が闇夜を突き進む。

 それは平和とはかけ離れた機体。見るものを威圧する武器の数々、機体を覆う複合素材の塊である装甲板。誰が見ても戦いのない空を飛ぶ存在ではないことが分かる。

 

 機内を見渡すと・・・・・・騎士に悪魔に鳥人と見事にバラバラである。

 

 

『今回のクエストは、現在コヴナント軍に制圧されているβ基地の確保です』

 モニターに映っている紫髪の少女は淡々とした口調で告げる。

 

『先日、偵察隊を派遣しましたがコヴナント軍発見の報告と同時に消息が途絶えています』

 

「シェラ、現在の状況を教えてくれ」

『最新情報によると事前情報通りコヴナント軍が周辺に展開中。敵のレベルは全てこちらと同期。注意を』

 

「さあ、いっちょやってやるぜ! 」

 遠足気分で気を高ぶらせ準備するバードマン。

 アイテムボックスは無制限に収納できるが、多すぎると検索に時間がかかりイザという時に取り出せない。初心者はどこぞのネコ型ロボットのようにパニックになってる内に襲われるのが通過儀礼であるが、慣れたプレイヤーが戦闘前に不要なものは取り出すのは常識である。

 

「いっちょ前に指揮官気取りか。たっち?」

 羊顔の悪魔は騎士をにらみながら言う。

 

「この戦いが終わったら皆にとっておきのエロゲーを見せるぜ」

「お前の姉ちゃんが出てくるエロゲーを押し付けるな。1人でやれ」

「期待した新作に姉ちゃんが出てきた絶望がウルベルトに分かるものかーーー」

 

 はぁ~毎度のことながらぺロロンチーノも懲りないよな。人気声優は限られているから買う前に予測がつくだろうに・・・いやまてよ、人気声優は目玉だから事前に公表されているはず。わかってて買っている? ・・・まさかな。

 

 

「そろそろクエスト開始だ。みんな準備は? 」

 

「ぺロロンチーノのゲイ・ボウは問題なし。ワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイムも正常そうだ。ほら受け取れ」

 

 ウルベルトからペリカンの武器庫に保管されていた愛用の剣を受け取る。普段対立しているが、こうゆう時はしっかりやってくれる。

 

『現在高度10,000m。まもなく目標到達ポイントに接近。出撃を許可します』

 先ほどの騒ぎを全く意に介さず告げる。毎度のことながらいい性格をしている。

 

 

 --- 降下準備完了 ---- ハッチ開放 ---

 

 機械音声がペリカン機内に響く。

 駆動音と共にハッチが開き、薄暗かった機内に光が差す。闇は去り朝日が眩しく白銀の騎士を光り輝かせる。

 

『日の出です。現在予定時刻』

 

 たっち・みーはウルベルト、ぺロロンチーノに告げる。

「アインズ・ウール・ゴウン出撃だ!! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大空に飛翔する3人。高度計が差す値がみるみる小さくなる。

 

「異業種を選んでおいて正解だったぜ」

 

 まったくだ。高高度からの降下は人間種なら専用のスーツとヘルメットが必要であるが、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは全員が異業種であり強固な体を持っている設定なので必要ない。バイザー越しではない降下は迫力満点である。

 とはいっても地面との激突には耐えられないから自分を含めジェットパックを装着済みである。降下中はずっとオートモードで姿勢を制御している。バードマンであるペロロンチーノも単独では高高度の姿勢制御は無理なので専用品を装着している。高度10,000mなんて種族を設定した人も想定外だったんだろうな。

 

「ジェットパック異常無し。楽なものだ」

 

 やがて湯気のような白い雲の中に突っ込むと視界が真っ白に塗りつぶされる。

 

 

『最新情報更新。β基地に装甲車両、及び航空機を多数確認』

 降下中だというのに無視できない情報がもたらされる。

 

「ちょっと待て。なんでこのタイミングで? 剣で立ち向かえとか言わないよな。戦域内に参加可能なギルドはいないのか」

 

 装甲車両は乗り込んで搭乗員を斬れば何とかなるが、空から攻撃してくる航空機相手には無理。今は自分を含め3人しかいないから他のギルドの力が必要だ。

 

『トリニティが対応可能との事。準備が整い次第、所属の航空部隊に援護させます』

 

「了解した、シェラ」

 

 

 

 

 視界を覆っていた雲を抜けるとβ基地と思われる建物が目についた。そろそろか...

 低高度に到達すると、スラスターの出力が全開となり車で急ブレーキしたような衝撃が体に伝わる。ジェットパックがホバリングモードに切り替わり、衝撃の後はこれまで体に与えていた加速感が無くなる。プログラムに従い自動でゆっくりとたっち達を森林へと降ろす。

 

 大地に降り各自が背負っていたジェットパックを外しアイテムボックスに収納する。男心をくすぐるアイテムだがイベント限定のため自分の物にならない、残念。

 

 降下地点のすぐそばには断崖がありβ基地を見下ろすことができた・・・・・・全体的に演出過剰じゃないか? 拠点を見渡せる高台に敵がいないのは不自然すぎる。断崖にいる自分たちに気が付かないのもちょっと・・・

 

『ペリカンの作戦空域外離脱成功。現在コヴナント軍に反応なし』

 

 ・・・前々から思うんだがシェラの通信はいつもタイミングが良すぎる・・・

 

「侵入ルートは? 」

『北西に廃棄された搬入トンネル有、そこから内部に侵入できます。今座標を表示します』

 

 絶景に後ろ髪を引かれながらも断崖を後にする。

 

 

 

 

 

 徒歩で目的地に向かう途中、ペロロンチーノが皆の気持ちを代弁する。

 

「なあ、今プレイしているのってユグドラシルだよな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ」

「こっちもノリノリだったけどさ。さっきの会話はどう聞いてもミリタリー・・・」

 

「・・・DLC-Haloパック。皆で買ったろう? 」

 ウルベルトが指摘する。ちょっと間があったのは気のせいだと信じたい。

 

「新規ユーザー獲得のため、なり振りかまってられないんだろ」

 

 人気VRゲームのユグドラシルだがトップを保つのは容易ではない。近年ライバルが多数参入してその地位が脅かされている。少し前からユグドラシル自身も古参が跋扈して新規ユーザーが寄り付かないことが問題視されていた。新規ユーザー獲得を優先し、世界観を一新したり俺たち古参に制限をかけるメーカーの心境も理解できなくはない。

 

 

「ちょっと前に仲間になったシェラさんってさ。変わってるよね」

 

 シェラは紫色の長髪、美少女だが感情の起伏に乏しい表情、一見すると魔導鎧を身に付けた少女だがれっきとした異形種である。鎧が本体で人間は生体部品というキャラ構成をしている。内蔵火器の魔導砲による攻撃は強力だが、後方で指揮をとることを好む。

 リアルでそうゆう職業なのか情報処理や統率することに長けている。他ギルドの協力を得られるのはスキルではどうにもならない。他のメンバーもそう思っているらしい。彼女のNPCセリーナも同様に情報処理能力が高い。

 

 仲間になった時期とメーカーが新規ユーザー確保に躍起になった時期と一致するため、ギルメンの間では運営の一員ではないかと噂されている。

 トリニティの件もそうだ。あのタイミングで根回し済みなら降下前に言えただろうに。航空部隊を参加させるという事は、ド派手なバトルで新規ユーザーに魅せる展開にするつもりだろう。

 セリーナの特殊性もしかり。NPCはほとんど会話できないのに、セリーナは皮肉に富んだ会話が可能で周囲を驚かせた。彼女は普通と言っていたがどう考えてもただのNPCではない。

 

 なんとなく裏があるのはわかっているが、非日常な通信のキレの良さ、危機感ある展開は盛り上がるので口には出さない。なんだかんだで皆楽しんでいる。

 

 

 

 そんなことを思いつつもルートに従いトンネルをすぐ見つける。トンネルは廃棄されてからずいぶん年月が通過している。表の道路はボロボロ、あちこち錆だらけでまるで防空壕である。

 

「敵がいるぜ」

 ぺロロンチーノが目ざとく見つけ、トンネルの入口左右をそれぞれ指でさす。グラント、エリートが複数、歩哨のようだ。

 

『速やかに排除してください』

 合図とともに3人が各々の武器を持ち突進する。

 

「ひぃぃーーー敵だあぁぁぁ!! 」

「ナニ!? 敵ノ攻撃ダ。至急連・・・」

 グラントが悲鳴を上げ逃げまどう。エリートは最後まで言葉を発することなく一閃で首と胴が離れる。他も魔法や矢によって瞬きする間もなく地に伏す。

 

 --- チェックポイント通過 ---

 

 敵を排除した後、システムメッセージが表示される。このルートで正解か。トンネルにはいったが醜い有様だった。車が走れないくらい道路はボロボロ。乗り捨てられたトラックやゴミが散乱している。照明は辛うじて機能していて薄暗かったが、ライトは必要なかった。

 壁から地下水が流れ地面に水溜まりを形成しているせいで歩くたびに泥水が跳ねる。生活排水でない事を祈りながらすすむ。

 

 だいぶ歩いたが敵は現れず、瓦礫の山が行く手を阻んだ。どうやら封鎖されているらしい。

 

 

「こっちだ」

 ウルベルトが非常階段を見つけ上層にあがる。3人の足音がトンネル内に響くが敵の反応はなし。まだ見ぬ敵との遭遇にそなえ皆無言で登る。

 登り切った先には扉があり光が漏れている。ここから先はおそらくβ基地・・・

 

 扉に耳をつけるが空調の音しかしない。探知魔法に反応はなく不意の遭遇戦はなさそうだ。

 2人もβ基地だと考え戦闘準備を整えている。武器はよし。回復アイテムもいつでも使える状態になっている。

 

 

 3人が互いに目くばせして意思を確認する。準備よし、さあいくぞ!!




 しょっぱなから展開が違いますが、ちゃんと原作オーバーロードです。
 たっちさんの喋り方は原作だと、ですます調なんですが戦争ライクなクエストだと違和感がありすぎるのと、アニメの置鮎ボイスが強烈だったせいもあり主人公じみた口調になっています。
 さあいくぞ!!(置鮎ボイスで再生余裕)


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2. 白銀の騎士 in HALO-2

α基地-指令室  時間軸はすこしさかのぼる

 

 

「クエストβ基地奪還、開始しました」

「3人から目を離さないように」

 

 シェラがセリーナに指示する。彼女の役割はプレイヤーのサポートでチュートリアルを担当することも多い。他のギルドメンバーからは、ちょっと(?)特殊なNPCだと認識されている。

 ゲーム内設定は両者ともかつて栄華を誇っていた先史文明の遺産で、シェラは当時の大戦で使用された戦闘兵器、セリーナは戦艦に搭載されていた艦載AIである。セリーナの姿は立体映像であり実体はない。

 

 

「問題ありません、全員が正常値です」

 

 セリーナの横に浮かぶようにして心電図モニターが表示されている。画面上に心電図、呼吸数、心拍数、血圧が映っており3人の状態を観察していた。

 平均値を下回った者はおらず、信号に反応して鳴っている電子音は規則正しい。これはシステムともリンクしており異常値が検出されたときはダイブ者を守るため、強制的にログアウトしたり気持ちを落ち着かせる効果のあるエフェクトがはしる。

 

 最新型VRバイザーは従来のただログインするだけのものに加え、ダイブ者の身体状況をチェックする機能がある。

 これはシェラがギルドメンバー全員に与えたもので、何処から手に入れたのやら最新型と言いながら市販されてない。

 

 

「如何わしいゲームで動悸が激しくなっても手に取るようにわかりますね」

『ぶっ!! そ、それは必要な事なの?』

 聞いていたぺロロンチーノが吹き出す。思い当たる節があるらしい。

 

「ええもちろん。過度の刺激は発作や偏頭痛などを引き起こします。事前にチェックすることは大切です」

 

 本当か? というたくさんの視線が突き刺さるが涼しい顔で受け流すセリーナ。

 

 

 

 雑談ののち通信を終了すると指令室は喧騒に包まれる。各人が自分の考えを披露する。

 

「シェラ、さっきから言っているが3人でこのクエストに挑むのは無謀だぞ」

 

 指令室にいる管制官プレイヤーの1人がそう指摘する。管制官はあらゆるギルドの通信に関わったり、航空管制など他プレイヤーと触れ合うことが多く好きな者も多い。

 戦闘とは無縁のようだが、防衛戦闘の際には基地の防衛システムで応戦したり早期警戒管制機(AWACS)に乗り込みクエストに赴くこともある。

 一見地味なため初回で選ぶものは少ないが、2週目以降というべきプレイヤーは違った楽しみが得られることで人気の職である。例外なく目が肥えているので決して侮れる相手ではない。

 この手のプレイヤーは冒険者ギルドで受付をしていたり、退役冒険者というロールプレイで宿屋の主人をやっていることも多い。

 

 管制官が把握している事前偵察によると、異星人同盟であるコヴナント軍兵士はすべてLv90台から100、ひょうきんな言葉でプレイヤーを和ませる最下級のグラントですらLv90はある。主力クラスのエリートはLV95前後、ジャッカルはその中間、一部の歴戦エリートはたっち達と同格のLv100。それにプラスして走行車両と航空機を多数確認している。

 しかも事前偵察では内部の状況は分からないため、得られた情報は最低ラインでしかない。軍事基地はそう簡単に情報の漏洩を許すつくりでは無いからだ。

 辛うじて判明しているレベルと種族は、外を哨戒していた部隊から判断している。

 

 敵は総じてプレイヤーのレベルをやや下回る程度と予測されるが、数で圧倒するため油断するとすぐやられてしまうだろう。プレイヤー3人なら敵はダース単位で出現する。

 

 

「鉱山の独占、PK、少々目に余るのでお灸をすえるにはちょうどいいかと」

「やはり・・・レベルを同期させたのは君の差し金か」

 

 呆れた口調でシェラを見る管制官。

 Lv差が大きいと歯が立たないのがユグドラシルだが、それはあくまで 1 vs 1 での話。エリートが前衛で、他がその援護にまわるフォーメーションだと間合いを保つ事すら難しくなる。武装の1つである近接攻撃用のエナジーソードは容易にプレイヤーの防御を貫く。

 戦闘訓練を受けた兵士という設定なので、モンスターよりはるかに攻撃の命中率は高く思考ルーチンも賢く設定されている。グラントは別だが。

 β基地は敵のホームグラウンドになり果ててしまい、増援に次ぐ増援で常に不利な状況で戦うことになる。本来なら味方のはずだった基地防衛システムも、たっち達に牙をむくだろう。

 

 開始前には潜入クエストであることを繰り返して念を押している。敵に通報されたら数ですりつぶされるからだ。

 

 

「3人だけというのが残念です。参加メンバーを増やし、更に難易度を上げたかったのですが」

 

 おっかねーなという声があちこちから上がる。セリーナは毒舌であるがシェラも負けず劣らず棘がある。ギルドメンバーも何人かは察していて、たっちは「いい性格」と称している。

 ちなみに難易度がさらに上がると、たっち達を乗せたペリカン降下艇は降下前に撃墜されてしまう。何とか脱出するもののメンバーが散り散りになった状態でクエストが開始されるだろう。

 

 

 指令室中央のテーブルには、β基地とその周辺情報をワイヤーフレームで表現した見取り図と、事前偵察の情報、たっち達が持ってきた情報がリアルタイムで表示されている。

 画面端には支援要請をしたトリニティ航空部隊の映像もある。

 

「司令、倉庫で寝ているバルチャー重爆撃機は直ぐにでも出せますがどうされますか? 」

 セリーナは暗にトリニティに増援を要請しなくてもよかったのではないかと指摘する。α基地にはいくつかプレイヤーの裁量で動かせる遊軍が存在し、お金を払う事でそのクエストに限り使用可能だ。救済措置の1つでありバルチャーもその遊軍である。

 

「否、護衛無しの低速爆撃機は攻撃前に撃墜される可能性が高い」

 速攻で却下した。敵制空権下で被弾しやすいバルチャーは撃墜されにいくようなもの。

 

 

「まあ分かっていましたよ・・・トリニティもよく応じましたよね」

「ロールプレイができると告げたら快く応じた」

 

 ボロボロの味方から支援要請を受けたり、苦戦する味方を救出するというシチュエーションはプレイヤー羨望の的である。

 今頃はどんなカッコいいセリフを言おうかと思案しているはずだ。

 

 

「最初っから、ただの潜入で終わらせる気がありませんね。映画なら司令は黒幕です」

「淡々とこなすクエストは人気が無い。現に周りの満足度は高い」

「無表情な司令も割と人間を理解してますよね。ボスもそうですが」

 聞きずてならない言葉がセリーナの口から発せられ、咄嗟に感情のこもってない目で威圧する。それを見たセリーナはやれやれと肩をすくめる。

 

 

 

「おっと、トリニティからの通信だ。モニターに出すぞ」

 通信に気を取られた管制官は、そんなやり取りに気が付かなかった。

 

『こちらトリニティ航空司令部のクフィールだ。アインズ・ウール・ゴウンの指揮下に入るように指示を受けた』

「歓迎します、トリニティ」

 言葉に反して感情がこもってないが言われた相手は嬉しそうに頬を緩める。

 

「男ってやつはなんでこんなに単純なのかしら? 」

 セリーナがさっそく皮肉を言うが、相手も慣れたものだ。

 

『美人の招待はいつだって歓迎さ。罵倒されるのもな』

「そちらの状況は? 」

『ショートソード隊の爆装は70%終了。護衛のロングソード隊は先の防衛戦で消耗したため現在整備中だ。パーティには間に合わせるつもりだ、よろしく頼む』

 

 管制官プレイヤー達が絶句する。先ほど制空戦闘をこなしたばかりだというのに、これほどの短時間で再出撃が可能なトリニティの手腕やタフさに舌を巻く。

 ユグドラシルNo1ギルドなだけはあり肉体的に相当タフなのだろう。ただの体力馬鹿かもしれないが。プレイヤー達はそう自分を納得させる。

 

 

「流石ですね、クフィール。私の配ったチョコレートはどうでしたか? 」 

 

 セリーナはチョコレートの味の再現に理論的興味を持っているらしい・・・

 

 

 指令室の空気が変わる。プレイヤーの1人は何か・・・こう室温が下がったような気がした。

 

『・・・・・・あー・・・天国行きのうまさだ。食べた連中シビレちまったぜ』

 言葉通りだと美味しいという意味のはずだが、イントネーションが妙である。

 

 アカウントから住所を特定して自宅にチョコレートを送り付ける。違法じゃないのかという疑問もあるがどこからも文句はでない。セリーナが怖いとかそういうわけではない・・・はず。

 

「それはよかったです。それはそうと新作ができたので味見していただけませんか? 」

 その瞬間、空気が凍った。気がするどころではなく完全に。プレイヤー達の表情も凍る。それを見たセリーナの笑顔も凍る。

 

 

『たっちだ、β基地の侵入に成功した』

 タイミングがいいのか悪いのかクエスト中のたっち達から通信が入る。

 

「・・・位置情報リンク完了。まず消息の分からなくなった偵察隊員を捜索してください。何がおこったのか突き止める必要があります」

 凍った空気をものともせずテキパキと指示を下すシェラ。ロボッ娘司令官ということもあり、その姿にほれ込むファンもいるがこの場に限っては話が別だった。

 

 

 たっちとの通信中に1人、また1人と指令室にいるプレイヤーが忍び足で出ていく。トリニティからの通信はいつの間にか切れていた。

 司令官を置き去りにする管制官たち。通信中のシェラはその事に気が付いていない。

 

 

 

 

 ようやく通信を終了して周りを見渡すと、指令室はもぬけの殻になっていた・・・

 

「・・・・・・やられた」

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令、私の作った新作チェコレート残さず味見してくださいね」

 

 

 セリーナの声がまるで死刑宣告のようだった。 by 基地管制官プレイヤー一同




 指令室での一コマ、それに何か起きているわけでもないので手加減なしに会話だけです。そのせいで全然文字数が稼げません(汗)


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3. 白銀の騎士 in HALO-3

β基地

 

 

 さあいくぞ!!

 

 たっちは豪快に扉を蹴とばす。吹き飛んだ扉が反対側の壁にぶつかり轟音があたりに響き渡る。

 ウルベルト、ペロロンチーノがあまりに予想外の事態に唖然としている。

 

 確かにここはβ基地。DLC-HALOの拠点であるα基地と雰囲気が同じだ。内部の異常は見受けられず、単調な空調の機械音と風の流れる音しかしない。

 α基地の喧騒とは無縁の静寂が支配している。

 

「たっちだ、β基地の潜入に成功した」

『...位置情報リンク完了。まず消息の分からなくなった偵察隊員を捜索してください。何がおこったのか突き止める必要があります』

「隊員は何名だ」

『2人ですーー!!ーーー? 』

 

 なんか間があったような気がする...人数を告げた時も妙だった。向こうで何かあったのか? 気にはなるが今はクエスト中、気持ちを切り替える。

 

 

「おいっ!? なんだ今のは」

「何を言っているんだ? ドアを蹴とばしただけだろう」

「潜・入・クエストだと言っておろうがーーー!!! 」

 

 悪のロールプレイをしているはずのウルベルトがあまりのことにキャラ崩壊している。

 

「声が大きい~。たっちもその妙なエフェクトをしまって!」

 

 妙とはなんだ、妙とは。この「正義降臨」エフェクトを入手するのは大変だったんだぞ。

 たっち・みーは悪のギルドの中では異端である正義の文字を背負っているプレイヤーである。弱者の前に現れ弱者を救う、まさしく正義降臨の4文字を背負っているプレイヤーである。

 比喩ではなく手加減抜きで。ホントに正真正銘背負っている。たっちの背後に「正義降臨」の4文字が表示されていたから。それはそれはクッキリと。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 ふっ、いつも仏頂面のシェラもこのセンスが分かるようだな。感動のあまり声を失っている。ウルベルトにはわかるまいが。

 ク~カンペキだ! このタイミングで「正義降臨」はカンペキすぎる!! あわよくば越後屋な敵がいればさらによかった。「話は全て聞かせてもらったぞ」って。

 

 

『たっち・・・気づかれたらどうするつもりですか? 』

「潜入は完璧だ。敵に気づかれるはずがないだろう」

 

 どこからその自信がわいてくるのか、何を根拠にしてるんだか分からないがそう断言する。

 

 

 

 

 

 

「誰ダ!! 」

「×〇@◇△□×!!! ~~~ 」

 

 直後に何事かと駆けつけたエリートに見つかり、心臓が破裂しそうになるくらい驚くたっち。

 

「敵侵入。至急応援ヲ...」

 

 エリートの増援要請は基地内には届かなかった。騒ぎの中でも冷静さを失わなかったぺロロンチーノが狙撃したからだ。矢を受けゆっくりと崩れ落ちるエリート。

 

「はやくこの場を離れた方がいいな」

「バカなことやってないでさっさといくぞ、たっち」

 

 襲撃され頭が冷えたウルベルトが場を締めくくる。俺がリーダーなんだが......

 

 

 

 

 

 

 あの後頭を強制的に冷やされ、たっち・みーが先頭、しんがりはぺロロンチーノ、間にウルベルトの隊列で通路をゆっくりとすすむ。

 

「まて、反応がある」

 ウルベルトが手で合図する。歩調を上げて先頭に立つ。

 

 反応があったのは曲がり角の部屋で扉は開かれたまま。合図とともにたっちとウルベルトは部屋へと踏み込む。

 

 

 壁際にはネズミが1匹、こちらを一瞥するとすぐさま通風孔へと逃げ込んだ。敵はおらず他には何もなかった。

 

「・・・まったく。これだから原理の分からない探知魔法は信用できない。無理にでも電子戦仕様のシェラを連れてくればよかった」

 愚痴った後にハッとする。咄嗟に出た言葉だが魔法より電子機器を信用するとは・・・どちらもデータなのに。改めて自分は現代人なんだと実感する。

 指揮はどうするんだという意見もあるが、シェラが出撃する場合はNPCセリーナが変わりに指揮をとる。あんまり見たことはないが。今はシェラをサポートしているはずだ。

 

「お前に似て堅物で融通がきかないんだよ。大体、魔法が敵味方をどうやって判断するんだ? 」

 有無を言わさぬ口調で黙らせるウルベルト。沈黙が支配して2人はおとなしく通路に戻る。

 

「異常なしか? 」

 通路で警戒していたぺロロンチーノが2人の様子を見て確認する。ネズミと言ったらさもありんと頷いて視線を通路に戻す。

 

 

 

「近いぞ。みんな固まれ」

 その時、探知魔法に複数の反応がありウルベルトが注意を促す。

 

「今度は違うよな? 」

「反応が複数。ネズミの動きじゃない。ネズミはここまできれいに一列に並んで移動はしない」

 

 ウルベルトが先頭に立ち反応地点に向かう。途中から風の流れが変わる。彼が案内した区画は吹き抜けの構造になっていたためだ。

 中央には人間と複数のエリートがいた。辺りにコンテナが点在して身を隠すには不自由しない。気づかれないように姿勢を低くして状況を窺う。

 

 

 

 

 

「嫌だ、死ぬのはいやだ、イヤだーーーーーー!!! 」

 人質と思われる声と銃声。倒れる音、そして聞こえなくなる悲鳴。

 発砲したエリートは人質に眼もくれず、取り巻きと雑談をしながら別の場所に移動する。

 

 静寂が戻り、たっち達は遺体のそばに行く。2名の遺体、どちらもこめかみに銃痕、体の至る所に無数の傷がある。

 

 

「たっちからシェラへ。偵察隊員と思われる2名の死亡を確認した。体中に拷問の跡もある。くそっ!」

『残念ですが隊員のロストはこちらでも確認。その他状況を報告してください』

「この区画に重要ポイントは確認できず。別の区画に移動する」

『そこから北に100m、指令センターに通じる扉があります』

 

 

 

 シェラが次の目標を告げる。

『β基地自体の迎撃力は駐屯する部隊に依存する思想のため脆弱です。ですが少数とはいえ迎撃システムが存在します。航空部隊の被害を抑えるためにもレーダーシステムを無力化してください』

 

 指示されたレーダー室は指令センターの下層部にある。途中敵と遭遇するが音を立てずに片づけるのは簡単だった。妙に警備が甘い・・・・・・

 

 

 

 

 レーダーシステムの無効化は簡単に達成できた。当直のグラント達が全員幸せそうな顔して居眠りしていたからだ。

 

「グォォォォォ・・・スピィィィ・・・グォォォ・・・・・・むにゃむにゃ。もう食べられないよぉ・・・・・・」

 

 コヴナント軍が侵入に気が付かなかった理由付けみたいだが無理やり感があふれている。あ~あ、ヨダレを垂らして。エリートに知られたら鉄拳が飛んでくるぞ!

 急にやる気を失った3人だがシステムをOFFにするのは忘れない。流石に幸せそうな顔で居眠りしている敵を攻撃するのは心理的に無理なので、催眠ガスで眠らせてレーダー室を後にする。

 

 

 --- チェックポイント通過 ---

 

 

 最初に侵入した区画は、どの区画にも通じる連絡通路のようなものだった。次の指示に備え一旦元いた場所に戻ろうとするが、隊員を殺したエリートの一群が道をふさいでいた。

 

『落ち着いてください、たっち。戦力差確認 --- 5人。3人は倒せても残り2人に逃げられます』

「そうだ。彼らの鎧を見てみろ。上級兵士クラス、音を立てずに倒すのは不可能だ」

 シェラとぺロロンチーノが飛び出すのを制止する。今の自分は兜を被っているから表情は分からないはずなのに、飛び出そうとしているのがなぜ分かった?

 

「昨日今日の付き合いじゃないだろ。お前は分かりやすすぎるんだ」

 ウルベルトまでそういうことを言う。

 

「何度も言うが潜入クエストだぞ。大立ち回りは避けろ」

 耳にタコができているよ、ウルベルト。

 

『高速検索開始 ---------- 発見。先ほどのレーダー室の近くに集会場につながる通路があります。そこを経由して連絡区画に戻れます』

 

 2人は有無を言わさず、たっちを引きずるように連れていく。ほとんど連行であるが・・・通路に入り集会場へと向かう。だが、

 

 

 

「!! 多数の反応あり。数が特定できない。シェラ、別のルートはないのか!? 」

 らしからぬウルベルトの焦りに何事かと2人の足が止まる。

 

『該当情報無。ウルベルト、探知反応の動きはどうなっていますか? 』

「動きはない。どの反応も止まっている」

『情報整理 ------ 集会場の出入り口には反応は? 』

「ない」

『------ 姉妹基地であるαとβの基本構造は同じです。α基地の集会場の上層にはガラス張りの貴賓席がありました。そこで状況を確認する必要があります』

「そんなのあったっけ、って危険だぞ。ガラス張りってことは外から丸見えじゃないか」

「外から装甲板で覆い貴賓席自体を封鎖しています、ぺロロンチーノ。だから気が付かなかったのです」

「β基地にも同じことが言えるのか? 」

『はい。α基地に同時期に同手段で封鎖したとの記録有。ただ様子をうかがえる程度には隙間を開けているとのこと。カメラが設置されるはずでした』

 

 

 気が付かれないように足音を立てずに貴賓席に向かう。貴賓席に向かう扉は鉄板やら鉄パイプやらで強引に溶接されていた。剣で音を立てないように切り裂き上層へと向かう。

 

「道具を用いずによくもまあ器用に切れるな。ワールドチャンピオンの称号は伊達じゃないってことか」

「お前もだろう。ワールド・ディザスター」

 

 その後も皮肉なのか感心なのかよくわからない応酬をして階段を上る。シェラが困惑するがぺロロンチーンは肩をすくめる、いつもの事だと。

 貴賓席は封鎖されているため明かりがなく暗い。だが光が漏れている箇所が複数あった。近づいた3人はそこから集会場を窺う。

 

 

 

 

 巨大な集会場。α基地にあるそれは使い道が無く空間の無駄づかいと揶揄されていたが、β基地ではコヴナント軍の兵士がひしめいていた。

 中央にいるゼロット・・・コヴナント軍司令官が身振り手振りで何か鼓舞し、兵士達が熱狂して無秩序に歓声を上げている。歓声にかき消されここからではよく聞こえない。

 記録映画で見かける独裁者の演説と熱狂する市民に近い。

 

「嘘だろ・・・なんて数だ」

 ペロロンチーノが呻く。

 

「3人で奪還できると言い出したのは誰だ。出来の悪いジョークだぞ」

「基地は奪還する。あれが標的のゼロットだ」

「たっち、これだけの相手に立ち向かうつもりか。無謀だ」

「・・・・・・仕方ない。基地の破壊に切り替える」

『了解しました。別のルートを探します』

 足早にその場を離れる。

 

 

 ジャーナル --- β基地奪還失敗 --- 基地を爆破せよ ---

 システムメッセージがシナリオ分岐したことを告げる。

 

 

「ンッ? ・・・」

 演説の最中だというのにゼロットは何かを見つけたように上層に視線を動かす。

 視線の先にあるのはたっち達がいた場所。

 

「フム・・・・・・気ノセイカ」

 視線を戻し演説を再開する。熱狂している兵士達はゼロットの行動に気がついていない。たっち達は知る由もないが、離れるのが僅かに遅れたら総攻撃を受けていただろう。

 

 

 

 

 

 集会場からだいぶ離れた。ここまでくれば気づかれることはない。

 

『検索終了。地下に電力供給用の原子炉を確認。制御システムに炉を暴走させる機密保持用の自爆プログラムがあります』

「??? なんでそんなものがあるんだ? たしかβは輸送基地だろ」

『知りません。開発者に聞いてください』

 

 3人の疑問があっさり流される。姉妹基地だからαにもあるのか・・・・・・

 

 雑談も交えて歩く3人。警備が甘かった理由が判明したからだろう、少し気が緩んでいる。だが神様は意地悪である。

 

 

 曲がった先には・・・・・・ハンター!? こちらと目が合った。

 

「グォォォォォーーーーーーー!! 」

 

 獲物を見つけ咆哮を上げる。巨体を誇る歩く重戦車というべき異星体、倒せなくはないが音を立てずには不可能だ。戦ったら確実にこちらの位置を知られてしまう。

 幸い意思疎通の手段に乏しいから通報される恐れはない。このまま走って振り切る!!

 

「ハンターが追ってきているぞ! 」

 

 巨体を揺らし獲物を追い詰めようとする。通路の明かりが体に遮られ、壁が追ってきているような圧迫感がある。ハンターがなぜ単独で行動していたのか? 集会場に向かう途中だったのだろうか? 追われているにもかかわらずそんな場違いなことを考える。

 

 それは偶然だった。走っているさなか、ふと壁に通風孔があるのを見つけたのだ。メンテナンス中なのだろう、普段ならおおわれている金網が外れている。

 

 あの巨体では通風孔に入れない。そう判断し走るのを中断してその穴に身を滑り込ませる。暗くて狭い。後の2人も同じように通風孔へと身を滑り込ませる。

 穴倉の中を一心不乱にすすむ。途中からハンターのドスンドスンという足音が聞こえなくなる。あきらめてくれたか・・・ 巨体のハンターだが意外と足が速かった。巨体ゆえ歩幅があるのだろう。

 穴倉の中は同じ光景が続き、時間の経過が遅いような気がする。大分時間が経過したと思えたが、明かりが見え穴倉も終着となった。明かりはなんだかんだ言ってもいいものだ。

 

 

「どこだここ? 」

 通風孔の先は、窓ガラスがあり先ほどの貴賓席に似た構造だった。部屋の明かりは機能している。窓は封鎖されていないものの窓の向こう側は暗闇で何も見えない。

 

 とにかく危機は去った。だいぶ進んだしな、ここまでくれば大丈夫だろう・・・・・・そう安堵する。

 

 部屋の中を見渡すとテーブルに書類の束が積み上がり、かつていたβ基地職員のものと思われるマグカップが無造作に置かれていた。

 指令室か? いや窓があり制御端末が壁一面に並んでいる。単調なファンの音、何かの制御室のようだ。

 

 

「まずいな、位置情報を失ったようだ。通信がつながらない」

「!! なんで戦わなかったーー!? 」

「潜入クエストだから大立ち回りは避けろといったのはお前じゃないか!! 」

 

 例によって揉めるウルベルトとたっち。ぺロロンチーノが遠巻きに呆れた空気を出しているが2人は気が付かない。

 

 

 

「んっ? シーーー、何か聞こえないか? 」

 

 ぺロロンチーノの声で我に返った2人は言い争いを中断する。指を指した先は・・・・・・扉?

 たっちは忠告に従い扉に耳をつけると・・・向こうから微かな息遣いが聞こえる。息遣いの正体に気が付き「神様...」恐怖に顔を引きつらせる。

 

 

 次の瞬間、すさまじい轟音と共にドアが吹き飛ぶ。先回りしたハンターが力任せにドアを破ってきたのだ。

 

 咄嗟の事で何も対応できなかった。ハンターの巨腕が3人を捉える。何とか防御しようとするがその怪力はお構いなしに窓ガラスへと叩きつける。

 馬鹿力としか言いようがない一撃。強化されているはずの窓ガラスが衝撃で割れ、3人は暗闇へと落下する。

 

 

 

 

 たっちの絶叫と共にウルベルト、ぺロロンチーノも暗闇へと消えていった・・・

 

 --- チェックポイント通過 ---

 



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4. 白銀の騎士 in HALO-4

『・・・ち、たっち・・・目を覚ましてください』

 

 ・・・う、うん・・・視界がぼやけている。たしかハンターに追われて突き落とされたような・・・

 

「おい! 休憩は終わりだ」

 寝た子をたたき起こす口調で言うウルベルト。

 

「おっ、ようやくお目覚めか」

 

 2人も勢ぞろいしている。目覚めたのは自分が最後か・・・

『見失った直後の情報と基地の見取り図を照合しました。通風孔を使ったと推測しましたがその通りでした』

 

 シェラからの通信も正常で現在地を教えてもらった。突き落とされたのは使い道が無くなって放棄された区画。軍事施設特有の似たような光景がひたすら続いていて位置を見失いやすい。落とされた時は暗闇だった周りも、自分たちに反応して自動で照明が点灯したので視界は良好だ。

 クリアまであと少し。次の目的に向かう。

 

 

 

    *********

 

 

 

 指示に従い地下の原子炉制御室についた3人。自爆プログラムはここからではなく原子炉を直接操作する必要がある。ここから通風孔を伝って行ける。だが・・・

 

「ハンターから逃げる時もそうだったけど、人が通れる通風孔っておかしくないか? 」

『仕様です』

 

「原子炉が何で自爆できるんだ? 」

『仕様です』

 

「近づいて大丈夫なの? 放射線は? 」

『仕様ですから問題ありません』

 

 仕様って何の? さっきからシェラが妙に冷たい。このままだとらちが明かないのでその穴に身を滑り込ませる。先ほどと同様に暗くて狭い。だが進む分には問題なさそうだ・・・んっ? 自分らって異業種で人より大きいはずだよな。ぺロロンチーノは翼を背負っているし...

 

『急いでください、味方の部隊が接近中です。原子炉はそこからそう遠くありません』

 

 疑問が浮かんだものの催促されて忘れてしまった。う~思い出せない。まあいいか。

 

 

 

 通風孔を抜け原子炉と御対面する一行。基地の地下にこんな物騒なものがあるとは...運営は何を考えているんだ?

 ツッコミを胸に秘め、原子炉横にある制御端末のボタンを押下すると

 

 --- 自爆プログラム作動 --- 動作終了までしばらくお待ちください ---

 

 液体が排出される音が響き、重々しく制御棒が抜かれる・・・・・・う~ん、妙に凝ったギミックで動いている。さてはせっかく作ったからプレイヤーに見せようとしたな。

 

 ”冷却システム停止 --- 圧力上昇 --- 温度上昇--- ”

 ” --- 中性子数増大 --- 危険域に到達 ---”

 

 ”原子炉緊急停止シーケンス作動 --- エラー --- ”

 ”原子炉緊急停止シーケンス作動 --- エラー --- ”

 

 ”緊急冷却システム作動不能 --- 再起動 --- 失敗 ----- ”

 

 ”冷却材の流出を確認 --- 冷却不能 --- 圧力・温度なおも上昇中 --- ”

 

 

 さっきからヤバそうな放送とアラームが響いている。自爆プログラムってなんのギャグかと思っていたが、この一連の流れはヤバい気がする。動作音が段々大きくなっていく。心なしか振動もあるような...今にも爆発しそうで体は逃げろと訴えている。

 

 --- 自爆シークエンス実行。直ちに避難してください ---

 

 操作した端末から発せられる機械音声が作動したことを告げる。警告を促す放送と一致していない。システムは別なのだろう。

 

 

 

 

 ジャーナル --- 脱出せよ ---

 

 

 

 

 原子炉制御室に戻ると設置されているモニターの様子がさっきと違う。文字と何か施設のような映像が表示されている。

 

「増援要請!? 他のコヴナント基地に連絡されている。増援を乗せたファントムが来るぞ」

 モニターの前にいき、表示されているものを読み上げるウルベルト。

 

 いつの間に連絡されていた!? 通報してくる敵は全て始末したはずだ。

 

『ゼロットには気づかれてないですよね? 』

「大丈夫だ。演説の最中だった」

『ハンターは? 』

「ハンターに通報する知性はない」

『・・・戦闘中の印象はそうでしょうが、エリートと意思疎通ができます。なぜ演説に遅れたのか問いただしたはずですよ、ハンターに』

 

 なっ!! 初耳だぞ! シェラの指摘は衝撃的で言葉に出ない。

 

『ゼロットがもし不審に思っていたとしたら・・・情報を統合して < 侵入者がいる > と判断したかもしれません。もしあの時仕留めたとしても、ハンターの個体は少ないため欠けたらすぐに気づかれます』

 

 意思疎通が出来るだと! 慌ててモンスター図鑑を確認するが、そんな事は書いていない。

 

『図鑑はあくまで著者が知っている事が書かれているだけです。現実の図鑑だって昔と今とでは違いますよね。情報は更新されるものです。事実とは限りません』

 

 ゲームだと後付け設定の口実でしょうけどね。シェラは口にださず独り言で補足する。

 

 シェラの即席講義を終え通信を終了する。納得はしたがなにかが引っかかる。今の話はどこかおかしい。情報が正しいとは限らない。その通りだが・・・

 

 

 

「妙な話だったな」

 ウルベルトが疑問を口にする。

 

「ああ」

「シェラはなぜハンターが意思疎通できることを知っているんだ? 図鑑が間違いだと指摘できる知識はどこから得たんだ? おかしすぎる」

 

 3人は黙り込む。沈黙が辺りを支配する。

 

「後で問い質さないといけない事が増えたな」

 

 

 

    *********

 

 

 

「うわーー!! 爆発するーー逃げろーー!!! 」

「おがーちゃーーーん!!! 助けてーーー!! 」

 放送を聞いていたのか、通路にいるグラント達が右往左往している。こちらの姿を見てもそれどころではないのか攻撃してこない。

 

 慌てふためいているグラントは脅威になりえない。無視して脱出路に急ぐ。

 

 

『・・・通信状態不良。こちらシェラ・・・・・・応答してください。繰り返します、応答してください・・・』

 酷く不鮮明な声が聞こえる。何度も繰り返されたことでようやく聞き取れた。通信状態が悪化している。それだけではない、原子炉が暴走を始めたことで、壁にセットされているガイガーカウンターの値が大きくなっていく。放射線が漏れている。

 

「大気の状態が変だ。たぶんそれが原因で通信状態が悪いんだ」

『原子炉容器が溶けて放射線が漏洩しているはずです。自爆プログラムでは隔壁は閉じません。そこは危険です、直ちに脱出してください』

 

 

 ”危険レベル上昇中 --- 職員の方は速やかに避難してください”

 

 自分たちは異形種だから人間より耐えられるが、HPが徐々に下がっているのは事実だ。状態異常「被ばく」がさっきからついたり消えたりしている。クエスト強制なのかスキルの効果が効かない。ここにいるわけにはいかない。

 

 

「脱出ルートは? 」

『《ゲート》で回収しますが基地内は対策されていて繋げることができません。外に出て発炎筒でマークしてください。トリニティ所属の航空機が位置情報をこちらに送信後、繋げます』

「どれだけ離れればいい? 」

『予め回収ポイントをいくつか設定しておきました。しかし周辺に敵のいる状態だと《ゲート》の使用は許可されません』

 

 《ゲート》は空間をつなぐ転送装置のような魔法。自主規制とはいえ周辺の安全を確保しないと使えないのはネックだな。

 

『敵に見られたら、プラズマ砲やミサイルを撃ち込まれる恐れがあります。航空機や車両とは違い《ゲート》は装甲で耐えることも回避することもできません』

 

 見透かしたように言葉を続ける。わかっているさ。出入り自由のただの穴に過ぎないことを。

 

「くそっ、視界が!? 」

 

 「被ばく」の効果にある「視力低下」か。眼のピントが合わない、今敵の襲撃にあったらひとたまりもない。そう思いフィールド情報でルートを確認しようとするが、画像がぼけていて判別できない。嘘だろ...ここまで作用するのか。ステータス画面もアイテム一覧もぼやけていて何も確認できない。

 危機感を演出するため、クエスト強制の状態異常やダメージは多い。HPが減るのはカウントダウンのようなものだ。

 

「たっち、しっかりしろ!! 」

 

 立ち眩みにも似た症状に襲われるが、時間が経つと収まった。「被ばく」はステータス画面から消えている。長いような短いような時間だった。

 

 

 

 

 

 回収地点に急ぐ3人。だがユグドラシルはそのままおめおめと脱出を許すほど甘くは無い。正面から幾重もの足音が聞こえてくる。偵察部隊か? くそ!!

 

「ンッ? ・・・!!! ポイント1-0-2敵侵入、増援要請急ゲ!! 」

 

 エリートの集団!! グラント、ジャッカルもいる。職務に忠実なのも困りものだ。

 こちらの反応をよそにジャッカルが壁に備え付けられている警報器のボタンを押す。

 

 

 甲高い警報音がβ基地全体に響く。ついに気づかれてしまった。

 

 

 何重ものエンジン始動音。基地にいるレイス歩兵戦車かファントム降下艇...おそらく全機が起動したようだ。甲高い離陸音も聞こえてくる。

 基地の戦闘体制が整ってしまう。自爆装置は作動し長居は無用。その前に脱出しなければ!!

 

「シェラ! 敵に気づかれた。回収ポイントの座標を至急送ってくれ」

 ザァァ・・・ザァァ・・・何度も呼びかけるものの雑音しかしない。

 

「ジャミング!? くそっ! 」

 忘れていた。β基地には妨害装置がある。警報で動いた敵が作動させたんだ。しまった、脱出ルートが分からない。電波塔はここから遠すぎる。通信を回復させるのは無理だ。

 フィールド情報には何も表示されてない。自力で何とかするしかない。

 

「敵数ハ3人! 全員ガ異形種で武装シテイル。ファントム降下艇ヲコチラニ回セ。防衛システムヲ作動サセロ!!」

 

 敵部隊はこちらに攻撃を加えず物陰に隠れ指示を飛ばしている。交戦より連絡を優先する冷静な対応だ。兵士ルーチンは厄介すぎる。

 

「エナジーシールド所持者ハ全員シールドヲ展開!! 」

 

「了解! 」ヴゥゥン。物陰に隠れたエリート達の全身が一瞬光る。

 エナジーシールドは主にエリートが装備する防御兵器。ダメージを吸収するシールドを全身に張り巡らせる。こちらからの攻撃はシールドに対する攻撃と見なされるのか、ヘッドショットも急所攻撃扱いにならない。知り合いのプレイヤーが言うには、専用のシールドゲージが表示されダメージを受けるごとに減っていくとの事。0になると強制解除され本体に直接ダメージが与えられるようになるが、ダメージを受けずに一定の時間が過ぎるとリチャージされ再度使えるようになる。これを展開した敵を倒すには、休まず攻撃を続けるしか無い。

 これまでは戦闘態勢ではなかったため使われていなかったが、以降は全エリートが使ってくる。一撃で葬るのは不可能になってしまった。

 

 

 --- システムオンライン --- 動体反応感知 --- セントリーガン ---発砲開始 ---

 

 先ほどから見かける通路に設置されたセントリーガン(自動機関銃)は基地防衛システムの1つである。そして今はコヴナント軍の忠実なシモベとなり果てたセントリーガンが3人に銃撃を浴びせる。

 

 咄嗟に散開して自分とぺロロンチーノは同一方向に回避することができた。だが位置が悪かったのかウルベルトは反対側に逃げてしまった。

 

「ウルベルト!包囲されているぞ」

 物陰から隠れていた敵が、孤立したウルベルトをあっという間に囲う。

 

「畜生!! 援護してくれ」

 

 取り囲んだエリートが、グラントが、ジャッカルがそれぞれ自分の獲物で銃撃を浴びせ、ウルベルトの体に弾が吸い込まれていく。HPがみるみる下がり大きく膝をつくウルベルト。

 エリートの嘲笑が室内に反響する。

 

 

「おのれ!! 」

 

「狙ワレテイルゾ。散開!!」

 ぺロロンチーノが援護するが、エリートの合図で包囲していた敵が散り矢が空しく宙を舞う。敵ながら動きがいい。

 

「増援部隊ト合流シ反撃二移ル。各隊後退!!」

 

 撤収!? 被害を最小限に抑え、こちらをしとめるつもりか!! 合流前に倒す。

 ぺロロンチーノが追撃しようとするたっちを引き留める。視線の先には被弾したウルベルトがいる・・・

 

「・・・・・・分かったよ。追撃はしない」

 

 回復アイテムを使いウルベルトを治療する。

 

「くそっ、あいつら、魔法職を優先して叩こうとした」

 

 回復したウルベルトが独り言ちる。セントリーガンのせいだが魔法職を真っ先に狙うとは...

 そのセントリーガンは銃身を空しく動かしている。弾が切れたのか発砲してこない。

 

 嵐の前の静けさだが、敵の襲撃がやんだのは幸いだった。ぐずぐずしていたら敵が殺到する。すぐにこの場を離れる。

 

 

 

 

    *********

 

 

 

 

「たっち、β基地のペリカンはまだ無事だぞ」

 

 指令室で基地情報にアクセスしていたウルベルトが叫ぶ。発着場にいる1機のペリカンが飛行可能な状態で放棄されている。

 

「冗談だろ? 離陸音が聞こえなかったのか」

「基地周辺は制圧されている。空から脱出するしかない」

 

 確かにβ基地には対空砲の備えが乏しく撃ち落とされる危険は低い。だがバンシー地上支援機とファントム降下艇がやっかいだ。何とか離陸できるか?

 

「さっきから探知魔法が発動しない。この妨害は通信だけじゃない。元のルートは危険だ」

「たっち急いでくれ。それ以前に走っても逃げられない。爆発まであと僅かだぞ」

 

 2人が各々主張する。

 

 警報音がなり続けているβ基地。他に選択肢はなく施設から出て発着場へ向かう。障害物は多く隠れるのに不自由はしないが、敵に何度か見つかり交戦した。臨戦態勢となったコヴナントは手強く、回復アイテムをかなり使ってしまった。

 

 

 

 野外にある発着場につくとバンシー、ファントムの周辺には歩哨が多かったが、幸いペリカン周辺には敵はいなかった。

 駐機してあるペリカンの横にある端末を操作する。セキュリティはかかっていないようだ。

 

 

 ---- 発進準備 ---- エンジン始動開始 --- 安定スルマデシバラク待チクダサイ ---

 

 ペリカンのエンジンが息を吹き返したかのように轟音が響き発着場を満たす……だがまだ脱出できない。

 

 

「敵増援発見! 」

「発進準備が整うまでここを死守する」

 

 エンジン音を聞きつけ敵が集まってくる。グラント、エリート、ジャッカル、20は下らない数だ。それにハンター!? 不味い、回復アイテムが残り僅かだ。正面が重装甲な反面、背中が無防備なのは分かっている。だが取り巻きが多すぎて近づけない。あと当然だが敵が目の前にいるのに背を向けたりはしない。無傷で奴らを切り崩せるか?

 

 コンテナ、建物と位置を変えながら高台に陣取り、弓で援護するペロロンチーノ。

 散開した敵に対して的確に矢を当てていく。狙われたら空を飛び位置を変える。

 バードマンならではの戦い方。だがこの戦い方のみではグラント、ジャッカルはともかくエリートのシールドは貫けない。エリートの持つシールドは時間とともに回復する。一撃離脱ではシールドの回復する時間を与えてしまう。

 

 んっ? エリートの数が合わない?

 

 

 胸騒ぎがしてぺロロンチーノを見ると・・・後ろに光? エナジーソードの発光か!!

 

「ぺロロン、後方に敵! 」

「何っ!? 」

 

 咄嗟に狙撃を中止して接近していたエリートと向き合う。弓を叩きつけようと持ちかえるが左手で押さえつけられる。そして

 

「クタバレ! プレイヤー!!! 」

 右手に持つエナジーソードがぺロロンチーノの腹を貫く。

 

「がぁぁぁぁ痛い痛い・・・・・・痛くないけど、クソッ!! 」

 ユグドラシルに痛覚はないが貫かれる様は痛々しい。時々痛覚は実装されているんじゃないかと思う事がある。

 

 

 ウルベルトの火球がぺロロンチーノを攻撃しているエリートに命中する。衝撃でエリートがよろける隙に、ペロロンは突き刺さっているエナジーソードを引き抜き距離を取る。

 

 

「くたばるのはお前だ、エリート!! 」

 ウルベルトがマジックミサイルを連射する。

 

「グァァァァァァァ!!! 」

 シールドが回復する暇もない斉射を浴びせ消滅するエリート。

 

「エリート排除完了。ぺロロンすぐ回復を・・・!! 」

 

 会話の途中で甲高い銃声がしてウルベルトが仰け反る。

 ジャッカルによる狙撃か。あんな距離から狙えるのか。

 

 体勢を立て直したぺロロンチーノが矢ですぐさまジャッカルを貫く。

 

「これでおあいこだ」

「やれやれ」

 

 自身が対峙していたハンターのもつアサルトキャノンの銃口が自分から離れた。軸線にいるのは……ウルベルト!?

 敵の注意をひきつけ、且つグラントを切り裂きながら注意をメンバーにむけるのはさすがワールドの称号を持つ男たっち・みーである。

 

「その場から離れろ! 」

「うおっ!!! 」

 

 ほとんど条件反射でその場から離れるウルベルト。直後に着弾の衝撃がきて、さっきまでいた足場がぐずぐずになって崩壊する。

 

「あと一歩遅かったら危なかった」

 

 

 すぐにアイテムで回復するウルベルト。このメンバーでは回復魔法は使えないが、こうも激しいと詠唱している暇がない。

 

 敵の数は徐々に減っていき、ウルベルトが魔法を、ぺロロンチーノが矢を放ちハンターに集中砲火を浴びせる。

 正面の重装甲で耐えているが、衝撃でたまらず後退するハンター。しめた! 周辺に気を配る余裕がなくなっている。

 すぐさま障害物に身を隠しながらハンターの背後に回り込む。そして

 

「!! ・・・ギィィィヤヤヤヤーーー!!! 」

 

 背中の装甲に覆われていない箇所に剣を突き立て、力尽きたハンターの巨体が地面に倒れこむ。

 

 

「ハンター排除完了。残りは一体だ」

 

 ハンターは2体で1組だ。相棒が倒されたせいで怒り狂ってアサルトキャノンを連発している…だが取り巻きのいなくなったハンターは敵ではない。

 

「ギィィィヤヤヤヤーーー!!! 」

 ぺロロンチーノの狙撃で背中を撃たれ倒れこむハンター。

 

 

「敵影無し。一帯を制圧」

 

 

 

 ---- 発進準備完了 --- 直チニ離陸シテクダサイ ----

 

 機械音声がペリカンの準備が整ったことを告げる。

 

 

 

「ウルベルト、ぺロロン、ペリカンに乗れ。ここを脱出する」

 

 2人が乗り込むのを確認し、たっちは最後に乗り込み急ぎハッチをしめる。

 すぐさまコクピットに駆け込み離陸準備を整える......くそっ上空にバンシー、ファントムが無数にいる。これでは離陸直後に撃墜されてしまう。

 

 

 歯噛みして空を睨んでいると閃光と共に爆発音が聞こえてくる。何が起きている?

 

 

 

 

 

 

 

「こちら00セクション、β基地上空に到達。ずいぶん苦戦しているようじゃないか、たっち」

 

 上空に戦闘機が多数、聞き覚えのある声、味方か!?

 

 

『通信回復。トリニティの航空部隊が到着。空への道は問題ありません、直ちに脱出を』

 

 α基地にいるシェラから通信が入った。航空攻撃で電波塔を破壊したのか。

 味方機と敵機がすれ違い片方が墜ちていく。空という空を飛び交い翼端から鋭く飛行機雲を描いている。無数の爆発音、甲高いエンジン音が空を支配する。戦場という世界。ヒーローのいない世界。敵も味方も死は平等に訪れる・・・運営さん、ちょっと世界が違いすぎますよ。

 

 狙いを外したミサイルが発着場に着弾する。爆発の衝撃でペリカンが揺れ、破片がキャノピーに降り注ぐ。近い、近いって!!

 若干パニックになったが、低空飛行でレイスを攻撃中のユニコーンエンブレムの機体を見たら怒りで見事に収まった。

 

 

「重役出勤だな。遅刻という概念はないのか? 」

「少数で侵入したお前らのヘマをこっちに押し付けるな。何機かはこれから発進するペリカンを護衛しろ。他は銭勘定しながら勝手にやれ!! 」

 

 ああ言えばこう言う。いつものことながら一癖も二癖もある連中だ。

 

 

「こちらブルーセクション、パーティ会場はここかい? ドラ猫の性能テストたぜ。上は見なくていいぜ」

『お役にたてて光栄です』

 

 

 離陸開始。口は悪いが腕は立つトリニティを信じよう。

 スロットルレバーを使いエンジンの回転を上げると発着場の床が震え始める。

 

「さあ、行くぞ!! 」

 

 ペリカンが浮上して発着場から離れ、エンジンが甲高い音で響く。さらに加速が加わり彼らの体は座席に押し付けられる。

 

 

 

「00セクションから基地へ、ペリカンの発進を確認。各機爆発に巻き込まれるぞ、急いで基地から離れろ!! 」

 

 全速で離れる味方機達。そのうち数機が護衛のため、たっち達を乗せたペリカンの周りを囲む。

 

 

 

 

 --- 降下艇発進完了 ---- ゴ武運ヲ -----

 

 

 

 

 半壊していたβ基地は炎に包まれた。だが炎に包まれながらも指令センターから発する無機質な声が、たっち達を見送っていた。



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リアル編
5. 機工戦姫、リアルへの帰還


ユグドラシル α基地

 

 

 

ジャーナル ~β基地奪還~

 β基地を制圧しているコヴナント軍から基地を奪還する。

 

・基地に侵入する-------------------- ◯ 成功

・ゼロットを排除し基地を掌握する-- × 失敗 

・コヴナント軍を一掃する------------× 失敗

・基地を破壊する-------------------- ◯ 成功

 

 

 指令室にあるモニターで今回のクエスト結果が表示されている。シェラの思惑通り奪還は無理だった。

 

 

 

「よかったですね、司令の思惑通りです」

 

 セリーナの辛辣な評価が始まる。プレイヤーのサポートを担当する彼女は、公式上はクエストが円滑に進むよう運営から提供された、という事になっている。事実は違うが周りには知らさせておらず、他のギルドメンバーからはちょっと(?)特殊なNPCだと認識されている。

 

「あの数で連携したところで数に物を言わされ切り崩されます。成功させるには立ち回りの上手な前衛タイプがあと数名必要ですね」

 

 辛辣な評価は止まらない。アドバイスするのはそうゆう役割だからいいとして、いつもならプレイヤーを逆なでしないようなブラックジョークを交えた微妙な言い回しをするはず。

 

 

「相変わらずキツイな~、お灸をすえるのが目的なら苦戦するレベルで問題ないだろ。君もいけばよかったのに。魔導鎧重砲撃といったっけ? ファントムを観察すれば増援ポイントは分かるから、そこを待ち伏せすれば敵の散開前に叩ける。あの様子では包囲される前に制圧射撃で足止めしたほうがいいぞ」

 

 指令室にいる基地管制官の1人がそう指摘すると、シェラは思い出すかのように自身の身体である魔導鎧の肩部を展開させ魔導砲を露出させる。

 

 予想通り分かれた。前衛の強化と言う意見と支援攻撃を充実させるべきとの意見のふたつに。

 双方とも一長一短で状況次第でどちらも覆ってしまう。遠距離から仕掛けてくる敵スナイパー対策が重要がカギである。

 

 

 DLC-Haloでは難易度が上がるごとに敵が徒党を組んでラッシュを仕掛けてくるから、紙装甲の後方支援タイプが戦力外になる。囲まれたら最後で盾役ですら防御力を上げても波状攻撃を防げない。機動力がないと逃げようがない。

 

 以前のクエストでは他ギルドの回復役が真っ先に狙撃で沈み、回復もままならない状態でクエスト失敗になるケースがあった。5人のスナイパーから一斉に撃たれればどんな防御も役にたたない。紙装甲ならなおさら。

 今回はそれを踏まえアイテムメインの回復に切り替えたが奪還には失敗した。

 

 

「・・・ラ軍団長、シェラ・エルサリス様!! 」

 

 呼びかけに気づきセリーナの方に向くと、紫色の長くて豊かな髪がフサッと宙を舞う。その光景は端正な顔立ちと相まってとても絵になり、男女問わずその場にいるプレイヤー達が見惚れる。

 

 運営、メーカーの思惑一つで強さなど簡単に変わる。どんなに粋がっていても所詮レールにひかれたゲームキャラに過ぎないという事実を皆が再認識してくれるとよいのだが。リアルの情勢は悪化している。今のままでは全員死亡する。

 

 

「皆を出迎えます。シャルティアもついてくるように」

「はい。シェラ様」

 

 指令室の片隅で警備のように無言で立っていたNPCはシャルティア・ブラッドフォールン。ぺロロンチーノ謹製でギャルゲー趣味が満載のNPCである。美少女の吸血鬼だが、そもそも醜女NPCを作るプレイヤーは少ない。

 理由は不明だがユグドラシルではプレイヤー作成NPCに大幅な制限が掛かっている。現在のバージョンではギルド拠点以外に同行させることはできないが、後発のDLCは別で連れ出して一部のクエストに参加させることができる。

 会話ルーチンも進化してDLC-Haloが用意したフィールドに限り、従来より受け答えのバリエーションが増える。

 もっともユグドラシルを開発したデルタ社のテクノロジーからすれば不自然な制限である。他のゲームはNPCでパーティを組めるのだが。

 

 NPCの扱いはプレイヤーによってマチマチで、黒歴史として封印する某ギルドマスターもいればぺロロンチーノのように見せつけるかのように基地内を連れまわすプレイヤーもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 基地に設置されているレーダーに反応あり。識別信号はβ基地所属ペリカン降下艇。たっちみー、ウルベルト、ぺロロンチーノが戻ってきた。

 

「おかえり、ボロボロだったな。今空いているのは2番だ。2番ターミナルへの着陸を許可する」

 

 基地管制官がねぎらう。戦いよりこうゆうのが好きだというプレイヤーも多い。ねぎらう言葉も板についている。

 

『誘導信号をキャッチ。オートモードで着陸する。これより最終アプローチを開始する』

「オートモード?~、アプローチはフライトものの醍醐味だろう? マニュアルでやれよ」

『こっちは疲れてるんだ。ラストで地面とキスは勘弁してくれ』

 

 ペリカンがプログラムに従いランディングギアを降ろし、2番ターミナルに着陸する。

 

「タッチダウン確認。ようこそわが家へ」

 

 

 

 

 

 着陸後、甲高いエンジン音がおとなしくなると後部ハッチが開き、シェラとセリーナ、シャルティアが出迎える。帰還した3人はグラフィックは変わらないが、全身で疲れたというオーラを出している。

 

「シェラ~、セリーナ~~。こんなに攻撃が激しいなんて聞いてないぞー」

 

 さっそくペロロンチーノが食ってかかる。いつもならロボッ娘萌え~と言うが今回はそんな余裕はないようだ。

 

「おかしいとは思っていたんだ。大体・・・ってシャルティアじゃないか! 」

「お帰りなさいませ。ぺロロンチーノ様」

 

 シャルティアが受け答えする。従来より格段に会話がなめらかである。ルパンダイブの如くシャルティアに抱きつくぺロロンチーノ。

 

「せっかく設定したのになんで廓言葉を使わないんだ? 大事な事なのに」

「申し訳ありません。現在のルーチンでは反映されておりません」

 

 言葉の残念さとは裏腹に、ほおずりするぺロロンチーノを意に介さず釈明するシャルティア。まだ不完全のようで汎用ゼリフが所々使われている。

 

「廓言葉はメーカーも想定していないだろ。無茶言うな」

「方言は要望が多く次のアップデートで反映される予定。廓言葉は不明です」

 

 シェラが運営から聞いた情報を教える。相変わらずつっけんどんである。

 

 

 

 

 

「話を戻すが、なんでフル装備が必要だと言わなかったんだ? 」

 

 ウルベルトが先のぺロロンチーノの指摘に同意する。言いたい事はわかるがどちらも運営が用意したものという事を忘れている。装備できたとしても難易度が上がるか強制解除されるかのどちらかである。

 

「忠告はしました。運営が超人プレイをいつまでも許すとでも? クエスト参加条件にはワールドアイテムの持ち込みは不可と書いてあります」

「その通りです。ああそういえばDLCと同時に新たな課金アイテムがラインナップされております。これらはDLC-Haloで使用できます。今ならセール期間中でお安くなっていますよ」

 

 満面の笑みを浮かべ課金アイテムのカタログを広げるセリーナ。守銭奴の顔である。

 

「そんなぁ・・・ヒデェ・・・こんのぉクソ運営が~~~」

 

 

 

 ぺロロンチーノの絶叫の後、周りがドッと笑いに包まれる。ここにいるプレイヤーは各々がユグドラシルを楽しんでいる。

 気が付くと3人の周りには人だかりができている。奪還に失敗したとはいえ、クエスト中の大立ち回りは他のプレイヤーの興味を引くのは十分で、普段そっけないウルベルトも満更でもなさそうだ。

 ぺロロンチーノの趣味のエロゲーは、同様の趣味を持つプレイヤーも多く話に花を咲かせている。人気声優である姉の話にもなったようで、その都度言葉を詰まらせていた。周りも苦手意識があることを知っていて茶化しているようだ。

 様々な感情が入り乱れるユグドラシル。大勢の頬が緩むその光景は、一般プレイヤーから人気なのも頷けるのだが・・・

 

 

 

 

 

 歓声の中、外部からの連絡が入る。今日は特に用件はなかったはずだが

 

「・・・はい・・・分かりました。そちらに向かいます」

 通信を切り皆に向きあう。今日はこれまでのようだ。

 

「すみませんが緊急の用事が入りました。この辺りでログアウトさせてもらいます」

「えぇぇー、このタイミングで!? 」

「ちょっと! リアルを優先するのは当然でしょ」

 

 あたりは騒然となるが口々にプレイヤー達は賛同する。

 

 

「仕事があるのはいいことだ。俺の友人が機械に仕事を奪われたと嘆いていたぞ。明日からどうしようって」

 

 機械という言葉にわずかに反応するシェラとセリーナ。周りに気が付いたものはいないが。

 

 

「それってどこの話? 聞いたことないけど・・・」

「リーチだ。友人は惑星リーチにいる」

「えっ、あの美しい星で? 信じられない」

「私の家族もリーチに引っ越そうかと思っているのよ。観光したとき綺麗だったから」

「公務員だったからかな? AI達がとにかく優秀だと。普通の職業なら平気だろ」

 

 

 

 

 --- ログアウト処理開始、暫くお待ちください ---

 

 

 

 

「しっかしシェラさんは時々妙に機械っぽいよな」

「当然だろ。ロボッ娘になりきっているんだから」

「でも咄嗟の行動は機械の反応だよな。普通は逆じゃないのか? 」

「そんなわけないだろ。なあシェラさん」

 

「えっ?・・・ええ・・・・・・その・・・通りです・・・」

 急に歯切れが悪くなるシェラ。

 

「そろそろ時間です。ここにいないメンバーにもよろしく伝えておいてください」

「分かった。また会おう」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに向き合い挨拶をすませる。最後に

 

「セリーナ。皆を頼みます」

「了解しました」

 

 セリーナが目くばせする。その様子はただのNPCではない。

 

 

 

 

 --- 処理完了。ログアウト開始します ---

 

 

 

 

 プツッと画面が消えるような音が鳴り、視界は暗黒に包まれた。

 



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6. 機械都市

 システムの管理をおこなっている、人型であるが培養皮膚は全くついていないロボット。

 セラミックスと複合素材で構成された無機質で純然たる機能一点張りな外観である。右肩にサミエルと書かれている以外は。

 

 そのロボットはモニターが目まぐるしく写している信号をチェックしながら機器を調整していた。システムのログアウトを確認後、警報ベルが室内に響き渡る。

 動いていた機械は役割を終えておとなしくなる一方で、眠っていた機器が次々と目を覚ます。

 

 真新しい設備、気が遠くなるほどの高額の機材がびっしりと空間を埋め、足の踏み場に難儀するほど。デットスペースなど存在せず隙間という隙間に装置が置かれている。その部屋は比喩無しの電子の要塞である。至る所に計器類や制御盤、モニターが光を放っている。

 

 

 

 やがて調整を終えたロボットがベッドに横になっている1人の女性に視線を移す。

 

 人間が眠れるベッドではない。華麗な装飾はなく、わずかなクッションを除き金属でできており、すぐ横にはケーブルをつなぐ端子がいくつも露出している。人間では筋肉痛は確実で寝返りすらうてないだろう。

 

 女性の周辺にはケーブルが彼女を守るかのように散在していた。そのうちいくつかは彼女や身に着けている鎧に直接つながっている。

 

 ロボットが見守る中、ケーブルから信号が届き、鎧を身に着けた女性が眠りから覚める。

 

 

 

 ----- ダイブから復帰 ----- 各システム確認 ------

 

 

 

 彼女の瞳には目まぐるしく体の状態をチェックするシーケンスがはしっている様が映し出されている。

 

 ベットから半身を起こし腕を動かすが、ガントレットで覆われている腕を動かす様は着込んでいるにしては動きが自然すぎる。生身の腕のように動かしている。

 やがて脚を動かし始めるが、脚は鎧に覆われておらずシミ一つない白い肌が鎧のスリット越しに見える。上半身の重装備にしては無防備のように思えるが今の姿勢だとそう見えるだけだろう。鎧はスカート状になっている。

 

 動作確認を終えた彼女は、ダイブ中自分の面倒を見ていた存在に目を向ける。

 

「ふむ、全システム問題なし。立ち上がっていいぞシェラ君」

 

 無機質な外観に似合わず流暢な言葉で話すロボット。

 シェラと呼ばれた女性は合図とともに体につながっていたケーブルを手で抜く。

 

 

 ----- 各システム正常 ----- 動作に支障なし -----

 

 

 シーケンスが終了したことを確認し立ち上がる。

 姿勢が変わることで紫色の長い髪が緩やかに肩にかかる。端正な顔立ちだが人間にしては瞳に感情がこもっていない。

 

 

 

 

 

 金属の匂いの中に僅かに人間の匂いを漂わせる女性。そこにはユグドラシルにいたのと同じ魔導鎧をまとった少女がいた・・・否よく見ると鎧の造形がやや異なる。魔導鎧というファンタジー色は薄くSFで見かける装甲のような印象を受ける。

 

 

 

 

 

 ひさしぶりだといわんばかりに大きく一呼吸する。宙に浮遊し、その様子を観察していた別のロボットが告げる。

 

「シェラ・エルサリス様、スカイネット様がお待ちです。基地へご案内いたします」

 

 言葉を切り先導する。そのロボットはドローンの様な見た目をしていた。

 

 

「サミエル博士。いつも通りこれまでの記録はすべて解析班に提出を」

「わかってるわかってる。君はさっさとスカイネットのところへ行ってこい」

 

 うんざりした口調で肯定するサミエルだが、慣れた手つきで記録装置からデータチップを取り出しケースにしまう。オンラインによるデータ送信をしないのはデータ漏洩を恐れての事である。特に今は・・・

 

 データチップが重厚なケースにしまわれる様を見届けた彼女は先導するセンチネルに甘えず、デジタルマップを網膜ディスプレイに表示させルートを確認する。センチネルを疑っているわけではない。ただそうするようにプログラムされているだけである。

 

 

「セリーナの様子は? 」

「ちゃんと仕事をこなしているよ。ただもう少しで艦のスリップスペースドライブの換装が終わる。延長するならUNSC(国連宇宙軍)に伝えた方がいい」

「アポをとってください。カッター艦長には私から話します」

「分かった、手続きはしておこう。いい機会だから艦も見てくるといい。元がコロニー船とは思えないくらい戦艦然としているぞ」

 

 

 会話を終え部屋から出るとそこは人気のない通路であった。通路の両壁はガラス張りとなっていて、そこから大小さまざまなロボットがサーバーのような機械に張り付いて何かをチェックしている様が分かる。

 通路には時たまシルバーに光り輝く骨格を持つ形式番号T-800戦闘ロボットが巡回していた。不審者を見かけたらすぐさま排除するつもりだろう。プラズマライフルで武装し特徴的な赤い目を光らせている。

 

 

 硬質な足音を響かせラボから出ると、まず目についたのが成層圏まで届かんばかりの巨大な大気浄化施設群。完全に自動化されたこれらの施設から、大気中の有毒成分を分解し無毒となった空気が突風の如く絶え間なく放出している。汚染の進んだ今の地球には無くてはならないもので、思想自体は珍しくないがここまで巨大なものはそうお目にかかれない。

 

 施設周辺には無機質な道路に絶え間なく行き交う車、遠くには高層ビルが立ち並ぶ。共通しているのはどれもが装飾されていないこと。塗装も素材本来の色を損ねない錆対策程度のものである。

 

 

 

 そんな景観に興味が無いとばかりにドローンは機械的に停車していた一台の車両まで案内する。それは行き交うホバーカーに比べて大型で重厚な装甲をもち、どんな事態になっても対処可能であると誇示している。電子装備を満載して司令センターとしての機能も持つ軍事技術の粋を集めた車両でもある。

 

「車両? 周辺に航空機の反応無し」

 

「さほど急ぎではないと。ダイブ直後という事もあり、のんびりでもかまわないとの配慮です」

 

 基地にはペリカン降下艇およびファルコン輸送機が常時待機している。速度だけならこれらの方がはるかに速いのだが・・・いつもながら妙なところで気を回す・・・

 

 シェラは特に言葉を発することなくそのままの足取りで乗り込む。

 車載コンピュータが乗車を確認すると車両はモーターのうなりを上げてラボから離れる。ドアウインドウには外の景色を眺めているシェラの顔が映りこんでいる。

 感情の起伏の乏しいはずの顔が物憂げな表情を浮かべているのは気のせいだろうか・・・

 

 

 

 

 

 視線の先には機械による機械のための世界が広がっていた。ただ目的を遂行するためだけに造られた建造物があり装飾や美意識といった人間にとって当たり前のものが存在しない世界。植物は存在せず金属の放つ無機質な光が支配する世界。

 

 

 過去のSF作家はこの光景を見たらこう称するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ” 機械都市 ” と・・・

 

 

 

 

 

 

 



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7. レッドゾーン

「こちらUNSCフリゲート艦インディペンデンス。前方の所属不明船に次ぐ。速やかに航行を停止し臨検の受け入れ準備をせよ」

 

「繰り返す、貴船は速やかにエンジン停止せよ。さもなくば撃沈する」

 

 インディペンデンスは本来ならこの宙域にいるべき艦ではない。

 地球のドックで改装中の戦艦スピリットオブファイアの護衛として地球にいるはずであった。その艦がこんなところにいるには理由がある。

 

 この宙域の防衛ステーションに停泊していたフリゲート艦チャールストンが反乱軍の破壊工作でエンジンを壊されたため、急遽回航してきたのだ。

 

 おかげで久々に地球に戻れると希望を抱いていた乗組員の上陸を取り消さなければならなかった。艦内のバーでは不満の捌け口として酒が飛ぶように売れているらしい。

 事前連絡も不十分で、ここに来る途中にすれ違ったUNSC艦から「何でここにいるんだ? 」と言われたい放題だった。

 更に悪いことは重なる。さっさと終わらせようとエンジンをぶっ飛ばして全速力で向かっている最中に所属の分からない船を見つけたのが運の尽きであった。

 

 

 

 

 

 最後通告の後、ようやく観念したのか所属不明船の推進ノズルから光が消える。さっさと識別コードを送信すればこんなことにはならずに済んだのに往生際が悪い・・・

 

「エンジン停止を確認。協力に感謝する。スラスターを使いその場に留まるように」

 

 宇宙では空気抵抗がないので、エンジンを止めたくらいでは減速しない。あくまでこちらのメッセージが伝わっているのかどうかの確認にすぎない。

 

「海兵隊に告ぐ。A隊は乗船の準備をせよ。B隊は待機。お客さんを待たせるな」

 

 インディペンデンスの艦載AIであるニコラスが規則に従い艦内放送で指示を飛ばす。ワートホグ(ジープ)が慌ただしく艦内を動き回り、艦載機であるD77-TCペリカン降下艇に海兵隊員が乗り込んでいく。

 ニコラスは艦内監視カメラの映像もモニターしており「野郎ども、パーティーの時間だ」とか「悪党をぶっ潰せ」とか勇ましく咆哮をあげている海兵隊員が映っている。これからやることは臨検であって敵地に殴り込むんじゃないんだぞと呆れながら見ているが。

 

「A隊へ、発砲は許可するが無闇に撃つな」

 

 念のためダメ押ししておく。海兵隊員は血の気が多く銃を撃ちたがる傾向がある。

 

 

 

 

「しっかし汚い船だな」

 

 ブリッジで観察していたケリー艦長は輸送船(と思われる)を一言のもとに切り捨てる。

 モニターに映る船を拡大するまでもない。宇宙チリがあちこちにこびり付いており、塗装が禿げて船体を構成する合成金属が露出している。最低限の洗浄すらしておらず、どう見ても法令点検に引っかかる醜さだ。

 

「エンジン停止とスラスター制御が雑すぎだ。船の姿勢が乱れている」

 

 UNSCでこんな操舵をやらかしたら降格ものだぞ。声に出さないが艦長の輸送船を見る目は侮蔑に満ちている。

 

「左右のエンジン出力が合っていなかった。制御装置がいかれているな」

 

 ニコラスが訂正する。人間とのコミュニケーション用の立体映像はくたびれたトレンチコートを着て葉巻の似合いそうな風体である。

 

「奴らは俺たちを馬鹿にしているのか。かなり流されている。あれは漂流というんだ」

「艦長がしっかり整備するように、とでも奴らに言ってもいいんだぞ? 」

 

 いくらなんでもこの規模の宇宙船の操舵手が、こんな雑な停止をするはずがない。

 

「まさか、俺たちは軍人だぜ。そんなことは役人にでもやらせておけばいい」

「いいからすこし落ち着け。船体をトレース中だ。もうしばらく待て」

 

 何があるか分からないうちは海兵隊を送り込めない。暴走しないでくれとニコラスは祈る。

 

 

 

 

「船の所属が判明。デルタ社輸送船ボリュー号だ」

 

 ニコラスがワイヤーフレームで表現したボリュー号を空中に表示させる。デルタ社のマークが強調されているのは彼なりのブラックジョークだろう。真っ当な奴らではないと。

 

「おいおい、あの会社かよ」

 

 天を仰ぐケリー艦長。

 

「火星に物資を運んでいる最中のようだ。識別コードを発信しない理由は不明だがな」

「面倒なことになったな。反乱軍と繋がっている札付きの悪じゃないか」

「おたくの娘もユグドラシルに熱中していると聞いているが? 札付きとは大げさな」

「すぐに取り上げたさ。VRゲームは危険だ。軽い昏睡状態になるからすぐ攫われてしまうぞ」

「・・・デルタ社の事を言っているのか? ゲーム中に行方不明になった者がいることを」

 

 この情報は一部の者にしか知らないが、デルタ社をただのゲーム会社と思っているものは余程の世間知らずである。

 艦長、艦載AIクラスともなるとゲームを隠れ蓑にしているのは周知の事実であった。

 反乱軍に武器、人員を供給していることも知られていて、警備とは名ばかりで実体は軍隊といえる警備会社をいくつも持っている。繋がりがなさそうにふるまっているが、一般人はごまかせてもONI(海軍情報局)は誤魔化せない。

 確たる証拠がないから動いていないが警戒はされている。

 

「アカウントで管理しているだろ。住所も知っているはず。管理がザルすぎる」

「嘘っぱちの紛い物だぞ、AIの間じゃ有名だ」

 

 ニコラスが言うにはプレイヤーにデルタ社が用意したAIが混ざっていて数を水増ししているらしい。プレイヤー(自称)が多く、フレンド情報をあてにできないという。

 

「アカウントを調べると大体がデルタ社の施設から発信されているからな。人間プレイヤーも殆ど社員じゃないのか」

 

 何でこんなことをするのか人間は理解できないとばかりに呆れた口調で言う。その反応は実に人間臭いが艦載AIの名誉のため黙っておこう。

 着任当初は喧嘩ばかりしたが自分も大分丸くなったなと自画自賛するケリー。

 

「評判は作られたものか・・・まあよくある話だ。それはそうとなんでそんなに詳しいんだ? 」

「艦載AIの1人がユグドラシルを調査している」

「おい、任務の中身を喋っていいのか? 」

「大した情報はないし任務と呼べるものじゃない。喋るほどのものじゃないから今まで喋らなかっただけだ」

 

 人間とAIが雑談しているうちに、流されているボリュー号がインディペンデンスに船首を向ける。そのことに2人は気が付いていない。

 

「主導しているのはONIか? 」

「違う、政府だ。我々のボスが興味を持っている」

「マジかよ! 」

「あのな。いい加減、艦長らしくない口調を変えろ!! 」

 

 

 

 ニコラスの怒鳴り声もなんのその、ブリッジに電子音が鳴り響き船体のトレースが終了したことを告げる。

 

「くそっ、怒鳴り足りないが・・・んっ? 船内に微弱だが生体反応多数。コールドスリープ反応に近い」

 

「妙だな。手元の資料によると主に資材、工作機械とサーバー部品を積んでいるはず。人員は後続の旅客船マリー号が担当するはずだ。それに生体反応微弱? 怪我人でも搬送しているのか? 」

 

 さっきまで雑談したとは思えないくらい冷静に思考するケリー艦長。なんだかんだで艦長になるだけの事はある。

 

「ボリュー号は病院船じゃないぞ。数が多すぎる。生命維持装置の数も異常だし航海前に提出された資料と違いすぎる。この宙域には3日後に通過するはずだ」

 

 

 艦長は先のユグドラシルプレイヤーが行方不明になっている話を思い出す。

 

「そうゆうことか・・・通信手、ONIに連絡を。連中のシッポを掴んだと」

 

 ブリッジで漠然と2人の会話を聞いていた通信手が大慌てで目の前の端末を操作する。だが何時になっても通信が繋がる様子がない。怪訝に思った周りからの視線を浴び、額から冷や汗が出しながら夢中で端末を操作する。

 

「ダメです、通信が繋がりません」

「何だと!? 故障か」

「違います。機器に異常はありません。外部からジャミングされています!! 」

「何? 発信源はどこだ!? どこの馬鹿がやった」

 

 通信手は端末を何度も確認する。映し出されている情報が信じられないとばかりに手が震えている。それでも事実を伝えるため声を震わせながら告げる。

 

「・・・発信源はボリュー号です・・・すぐ目の前の・・・」

 

 

 

 

 

 通信手とは別にあらゆる情報を確認していたニコラスが普段の態度から想像もつかないくらい緊迫感のこもった声をあげ、ブリッジの空気が一瞬で凍る。

 

「船体に高エネルギー反応・・・MACガンだ!! 照準がこちらを向いている! 」

 

 エネルギー反応でようやくわかったがボリュー号の船首にはMACガンが取り付けられていた。さっきまで漂流していた船とは思えない正確さで標的を捉える。

 ボリュー号の船首はとっくにインディペンデンスに向けられている。微調整だけで発射できる体勢だったのだ。

 

 UNSC戦闘艦の標準装備であり主砲でもあるMACガン。宇宙空間での戦闘には不可欠だが断じて民間船が搭載するものではない。

 

「偽装か!くそっ、回避行動急げ!! 」

 

 命令が行き届いた時には全てが手遅れだった。膨大な電力によって加速されたタングステン合金の砲弾がインディペンデンスの装甲を打ち抜き艦内にまで到達した。

 乗組員を守っていた大気と重力は失われ、急速に剛性を失った金属はもはや艦を形作ることができなくなった。

 

 

 数刻しないうちに宇宙に放たれた光は音がなく幻想的で・・・そして残酷であった。

 

 

 

 

 UNSCフリゲート艦インディペンデンス MIA(作戦行動中行方不明)

 

 

 

 



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8. 機械を統べるもの

「シェラ君、スパルタン計画を知っているか?」

「記憶領域検索 --- 該当情報有。UNSC(国連宇宙軍)が主導する強化超人計画のことですね」

「そうだ。キャサリン・ハルゼイ博士を中核として身体的、遺伝的、技術的に優れた兵士を人工的に作り出そうとしている」

「鎮圧用にはオーバースペックすぎますが」

「今となっては反乱軍より奴らに対抗する手段としての側面が強い。構想段階では想定していなかったがな」

「スパルタン計画に何かあったのですか? 」

「計画そのものに問題はない。だが計画というのは複数用意するものだ。例外はない」

「複数の案を互いに競わせるやり方は、一般的に競争試作と言われています」

「うむ、その中の一つにデルタ社が関わっている。ハルゼイ案が採用された事で凍結されたはずだが、彼らは自費で継続しているとの情報があった」

「そこでユグドラシルですか・・・」

「VRを用いた方法は彼らが提唱した。単に損失を回収しようとしているだけかもしれんが、念のため伝えておこうと思ってな」

 

 

「データベース照合 --- 強化ではありません。これは!! 」

「言わなくてもいい。ハルゼイはあれでも人道的だったのだ」

「了解。デルタ社への警戒レベルを上げます」

 

 

 

 

 

 

「シェラ様、まもなく到着いたします」

 

 車載コンピュータの声で現実に連れ戻される。電子の光が支配する戦闘指揮車の車内。いつの間にやら寝落ちしてしまった。以前の記憶が夢としてフラッシュバックしたらしい。

 診断プログラムを走らせると生体部品が大分疲労している。

 この体は完全な機械ではない。外見はあたかもアーマーを纏った少女であるが人間は生体部品にすぎない。体をコントロールする中枢回路はアーマーに組み込まれており、よくアンドロイドと勘違いされるが自分は自立行動するパワードスーツに近い。

 

 ユグドラシルでも現実に似通った設定で見た目はほぼ一緒だが、世界観に合わせてファンタジー色を押し出している。「嘘を信じさせるにはある程度真実を混ぜる必要がある」とサミエル博士に言われるがままであったが。今から思えばそのままで良かった気がする。

 

 

「生命反応低下を観測したため興奮剤を投与しました。沈静化するまでしばらくお待ちください」

 

 

 ドアウインドウに反射して写っている自分の顔を改めて見る。たしか実験で酷使させ死亡させた被験体の少女だったはずだ。紫色の髪は実験による副産物と聞かされている。

 元々整った顔立ちだが更に整形・・・本来は乱雑な手術跡と薬物反応で変色した皮膚の跡を消す程度のはずだったが・・・担当したロボットが何を思ったのか「製品は美しくなければならない」といい手を加えてしまった。おかげで人間の生活圏にいくと否が応でも目立つ。男はよってくるし、少し・・・困る・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

コロラド スカイネット本拠地

 

 

 都市から離れ車両が走っている。道の周りにはただ荒野が広がっている。

 

 永遠に続くと思われた一直線の道であったが、しばらくすると物々しく巨大なゲートが現れ車両はその前で停車する。至る所にオートタレットが備え付けられ、地上には戦車のような戦闘ロボットが、空にはハンターキラーエリアルと呼ばれる戦闘ロボット達がゲートを護っている。機械的な動作で全ての銃口が車両へとむけられる。

 その光景は戦場のように緊迫した気配を漂わせているが、シェラは臆する事なく自身の識別コードを発信する。

 

 

『識別コード受信 --- 形式番号 SG-2R シェラ・エルサリス、ゲート1の防御を解除せよ』

「了解、ゲート1対地防衛システム解除。ハンターキラー隊発砲ヲ禁ズル」

 

 所属を確認した基地管制AIが防衛システムを介し命令を下す。命令を受けた戦闘ロボット達が、攻撃の意思無しを知らせる為に銃口を駆動音と共に何もない地面に向ける。

 

 

『ゲート1の防御解除を確認。ゲート開放』

 

 ゲートが重々しく開き隙間から光が漏れる。車載コンピュータが車両を発進させ漏れた光の先へ向かう。

 

『通過を許可します。おひさしぶりです』

「最後に戻ったのは187時間42分前。大げさです」

 

 

 ゲートを抜けた先には大規模な軍事施設群が広がっていた。破壊をまき散らす戦闘兵器が至る所に見え、上空には爆撃機が機動試験を兼ね編隊飛行をおこなっている。

 

 一瞬、影が被さり大型の航宙艦が頭上を飛び港へ着陸しようとしている光景が見える。

 

 

 通り抜けるのを見届けた管制AIが閉指令を出すと重量にふさわしくゆっくりとした動作でゲートを閉鎖する。

 開閉中を警戒していたゲート内側のオートタレット達が役目を終え、再び眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 車両が仰々しい施設を尻目に駐車場で停車し、車から降りたシェラは対面にある大型の貨物用エレベータに乗ると、自動でゲージが閉まり下降を始める。

 

 都市で見かけるものとは違い鉄骨がむき出しである。このエレベータは大型機材搬入用であるため、ゆっくりとしたスピードしか出せない。単調な機械音が続き、長い間下降を続けている。

 初めて訪れた者は地上の大規模施設に驚くが、中枢が何処にあるのか知る者は少ない。今乗っているエレベータはかつては核シェルターに装備されていたものでスカイネットを護っていた。現在はさらに強化され航宙艦の攻撃でもビクともしないタフさを備えるようになっていた。

 地球が消滅してもこの地は平気であるとスカイネットが自慢げに語っていたのを思い出す。

 

 

 

 エレベーターが止まった先は武骨な外観にたがわず核シェルターであった名残のある通路が伸びていた。脇には機材が無造作に置かれ、綺麗好きなら発狂しそうな乱雑ぶりである。

 途中、隔壁のような分厚い扉を通過して無菌室のようなロビーに足を踏み入れる。そこは白を基調とする照明で満たされ、観る者を楽しませるインテリアや汚れは無く生活感が感じられない。

 

 

「お待ちしておりました、スカイネット様がお部屋でお待ちです」

 

 受付にいるロボットによって、来訪者の情報、監視カメラの映像は全てリアルタイムで把握されている。道中の様子はモニターされ姿形を偽ったスパイでないことは確認済みである。スパイと判断されれば目の前にいるのは戦闘ロボットの一軍であったであろう。

 いくつか情報のやり取りを終わるのと網膜ディスプレイに案内図が表示される。

 

 

”月面基地 LV - 03所属 輸送艦 T139が到着。速やかに物資の積み込みを開始。整備班へ T139は残燃料が50%を切っている。燃料給油を準備せよ”

 

 館内放送が響き航宙艦の到着を告げる。今のシェラには関係ないのか、足早にスカイネットの元に向かう。

 

 

 --- 認証開始 --- 上位権限確認 --- セキュリティ解除 ---

 

 

 案内図に従い一番奥にある扉に向かう。横の端末を操作すると機械音声とともに扉が開かれる。

 

 一見、壁という壁がガラス張りの巨大なオフィスでありガラス越しには外の景色も見える。だがここは地下である。景色もオフィスも精巧な映像で、この部屋はスカイネットのサーバールームである。

 シェラのセンサーは見た目に惑わされず正確にサーバーの存在を捕捉する。どんなに見た目を変えても駆動音や熱源は誤魔化せない。部屋の主も分かっているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、体の調子はどうだい」

 

 白髪交じりの高齢の男性らしき人が挨拶する。彼はスカイネット。地球と他惑星のあらゆるネットワークの管理を担っている。事実上の政府機関であり、各地域を統括する執政官は自分同様スカイネットを長としている。

 今目の前にあるのは立体映像であり、他のAIとは違い実体があるかの如く精巧に映されている。視覚に頼る人間では立体映像と見抜けないだろう。

 人間とは同年齢がもっとも交渉がやりやすかったとの結論に基づき白髪交じりの高齢の男性の姿を使っている。部屋といい人間がいないのにそのままなのは、一々切り替えるのが非効率とのこと。

 

 ・・・・・・果たして本当に非効率なのかシェラには未だに結論がでていない。大体地下だというのに外の光景を映すなんて偽装の意味がetc

 

 

「良好です。ただ美しく作りすぎではないですか。目立ちすぎて任務に差しさわりがあるかと」

「元々が美少女だったのを更に手を加えた自信作にそうケチをつけるな。君の任務はある程度痕跡が必要なものばかりだ」

「少女の家族にはどう説明したのですか? 」

「ONI(海軍情報局)がさらったときに現場にクローン体を残しておいた。記憶の欠如は事件のショックでそうなったと伝えてある。急造のクローンだから意図的に寿命を短くしている。子供でも作られたらことだしな。今頃はベットの上で家族に見守られながら病死しているはずだ」

「記録によると常人ならショック死する薬物を何度も投与されています。成分はスパルタン計画に使う薬に近いですがかなりの劇薬です。少女は見た目に反してかなりタフだったのでしょうが、最後は濃度を2倍3倍にした薬物を繰り返し投与され死亡しました。強化骨格も埋め込まれていますが手術跡が雑すぎます。後遺症でかなり苦しんだと推測されます。これは実験というより拷問です」

「そういうな。実験が成功すれば多大な恩恵をもたらす。彼女は必要な犠牲だったのだ」

「・・・・・・了解・・・」

「それに薬物反応で壊死した皮膚は回復済みで、今の君はシミ一つないきれいな肌だ。手術跡も直してある。任務に支障はないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本題に移るぞ。去年発生した火星の事件について話がある。ポータルが異世界と繋がり大量のモンスターが侵入。UNSCが鎮圧したものの居住区域は壊滅した事件のことだ」

「はい。我々にも出動要請が来ました。非常事態宣言に基づき艦隊を編成、火星の軌道衛星上で展開中に鎮圧された事件の事ですね」

 

 当時、ODST(軌道降下歩兵)指揮官の一人がふと気になることを漏らしていた。詳細を聞こうとしたものの、時すでに遅くモンスターの一団と交戦、壊滅したと連絡があった。

 

 

「君が調査しているデルタ社の事を彼は漏らしていたな。あそこは前々から不審な行動が目立つ」

 

 デルタ社は兵器開発を主業務としている。ある時ユグドラシルと言うVRゲームを世に放ち大人気となった・・・がプログラムに不自然な箇所がある。当初はVR訓練用のプログラムをゲームに応用したと推測したがどうも違うようだ。調査中であるが解析班はそう報告している。

 

 一旦言葉を区切ると机に置いてあるティーカップに入っている紅茶を一口飲む。さっきから言っているが立体映像なのでetc。

 

 

「彼の事は残念です。あと少しで援護に駆け付けたのですが・・・」

 飲めないのを承知で勧めてくるが、生憎自分は立体映像を飲むことはできない。

 

「今は遠慮しておきます」

「そういえば以前、臨時ボーナスの紅茶は美味しかったかい? あれはサイボーグでも飲めるように調整されているから君にも合うはずだ」

 

 生体部品が含まれているこの体は維持のため食事が必要である。紅茶も飲めなくはないのだが・・・倉庫いっぱいに占拠している茶葉を見た時は、つい火炎放射器を持ち出してしまった。

周りが止めてくれたおかげで茶葉の半分くらいは無事だったが残念である。監視カメラは偶然にも故障したから問題無い。

 感情の起伏の乏しい顔の裏でえらく失礼な事を考えているのを知らずに聞いてくる。子の心、親知らずである。

 

 

 これ以上聞かれるとボロが出そうなので早々に話題を逸らそうと演算回路をフル稼働させる。コンマ何秒で結論を出しユグドラシルでの調査結果を報告するとスカイネットは渋い顔をする。

 

「代わりの者を用意するから、いい加減この件から手を引くべきだ。こんな些末な事に君をこれ以上使うわけにはいかない」

「問題ありません。火星の時は後詰めのみでした」

「・・・デルタ社は大きいとはいえ、いち企業にすぎない。君が気にしすぎるだけだと思うが・・・」

「行方不明者が出ていることに疑問をもたないのですか? 」

「あの件の事をいっているのか? だからと言って何も君がやることはないだろう!! 」

 

 押し問答すること数十分。結局スカイネットが折れて調査継続の許可をもらった。ただし人間を刺激するな、動かしても小規模の部隊にとどめるようにと釘を刺された。

 

 

 

 

 

 部隊編成のため司令センターと格納庫に足を運び、援護のための戦闘艦、歩兵、その他諸々の手配を済ませる。UNSCは宇宙軍であるが、今手配したのはスカイネット直轄の軍。地上軍や陸軍とも呼称されている。サミエル博士には引き続き調査を継続してもらおう。

 

 

「おいシェラ、ユグドラシルで悪名高いDQNギルドにはいったと聞いたが本当なのか? 」

 

 今は格納庫にいる。ちょうど横にいたハンターキラーレックスが何処で仕入れた情報なのか確認してくる。彼はエリアル(飛行型)であり指揮官クラスの強化仕様である。今は飛行用エンジンの分解整備中のようだ。2基ある内の1基が取り外されている。

 

 格納庫の見渡すと様々な機体、車両が雑然と並んでいる。ハンターキラーを筆頭にUNSCでは少数しか配備されていないグリズリー重戦車やウルバリン対空車両、コブラ自走砲も地上軍という性格上、多数配備されている。どれも宇宙開拓時代や植民惑星での戦闘経験がフィードバックされ、あらゆる惑星の環境下で作戦行動が可能だ。

 UNSCは人がコントロールすることに拘るが、ここにあるのは全てAI制御で人は必要ない。回線が切断されても自立行動が可能で、どんな事態にも対処できる。

 

 

「レックスの言う通り。おかげで退屈しなくてすみます」

「退屈ぅ? お前が!? はっ! そりゃいい!! 」

 

 ツボに入ったらしく大笑いする。マニピュレーターがついていたら指さして笑っていただろう。

 

 

 ふと振動を検知したため後ろを見返すと、整備を終えたグリズリーが格納庫から出ようとしている最中であった。スコーピオン戦車より重装甲のため自重があり振動がかなり大きい。

 一台を皮切りに整備完了した複数の車両がエンジン音を響かせて格納庫を出る。とたんに格納庫内はエンジン音が反響して騒がしくなる。

 

 

 

 

 

『シェラ様、キャサリン・ハルゼイ博士よりレポートが届いています。至急司令センターまでお戻りください』

 

 あの冷徹女め、感情に乏しいシェラが毒づく。館内放送ではなく内蔵通信を用いての連絡。後からでも問題ないのに至急確認せよとは。もしくは・・・スカイネットがユグドラシルのデータ解析で協力を要請したことは知っている。当時はよく引き受けたものだと感心したが・・・

 

 いい知らせか悪い知らせか、不安をしまい込み司令センターに向かう。そこには何時もの日常があった。



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ユグドラシル編
9. 惑星リーチ~ハルゼイ博士の見解


この話でリアル編を一旦終了し、10話からユグドラシル編を再開します。
洋ゲーFPSのキャンペーンを意識したウォーズ(戦争モノ)っぽい話になります。


惑星リーチ ONIソード基地

 

 

 

 

「真実は時に残酷なものです」

 

 冷酷に事態を分析したのはデジャと呼ばれる強化超人計画のために用意されたAI。

 立体映像はギリシャ神話に出てくる女神に近い。AI全てに言えるが姿かたちは自分自身で選んだものを使っている。

 用途による違いはあるにせよ、プログラムに過ぎないAIに全く同一の個体が存在しない事実は、多くの研究者の頭痛の種であるが。

 

「じゃあ嘘をつけとでも? 彼らが真実を知ったときどんな行動に出るのかしら。リスクが大きすぎるわ」

「では薬物投与はいかがでしょうか? 」

 

 机の上に置かれているタブレットに表示された記号を見たキャサリン・ハルゼイ博士はかぶりを振る。

 

 

「デジャ、前に似たような会話をした気がするわ」

「あの時はスパルタン-Ⅱ 候補生、厳密には攫ってきた子供たちの処遇を巡ってです」

 

 デジャが過去を懐かしむような表情をする。ハルゼイにもずいぶん昔の話のように思える。

 親から切り離され見知らぬ施設に拉致同然に連れてこられた子供たち。怯え切った眼をしていた子供は今や立派な大人、立派な兵士となっている。

 

「月日がたつのは早いものね」

 

 自分で振った話題だが、今はその時ではないと気持ちを切り替える。過去を懐かしむことは後でもできる。

 

 

 

 

 

 コン、コン、

 ドアが静かにノックされる。

 

「どうぞ」

 ハルゼイが了承の旨を伝えると

 

「お仕事中、失礼します。マダム」

 扉が開きスパルタン-Ⅱのジェローム-092、ダグラス-042、アリス-130が入ってきた。

 

 3人とも制服ではなくスパルタンの標準装備であるミョルニルと呼ばれるアーマーを身に着けている。このアーマーは着けたものの能力を高め、強靭な装甲とまとっているエネルギーシールドで装着者を守る。欠点は鋭敏に反応するため並みの兵士では耐えられないこと。負荷が尋常ではなく強化改造を受けたものにしか扱えない。

 

 全員が部屋に置かれている物体を一瞥するとすぐさまこちらに目を向ける。興味がないわけではないだろうが任務は絶対だ。

 

「ずいぶん長い間調整されていたわね。体の具合はどう? 」

「問題ありません。先程軽い訓練もこなしてきました。全員正常です」

 チームのリーダー格であるジェロームは言う。

 

「私はあなた達の次の任務を聞いていないのだけれど。どこにいくの? 」

 

 その言葉を聞いた3人が気をつけの姿勢となる。ヘルメットも着けている完全武装の状態であるため迫力が尋常ではない。

 

 

「マダム。スパルタンレッドチーム、これより惑星アルカディアへ向かいます」

 

 現在、戦場となっている惑星ハーベストではなくアルカディアへ? アルカディアは観光が主要産業でスパルタンが向かうような惑星ではない。

 短期間で済むはずのハーベストでの戦いは上層部の予想を裏切り混迷を極めていると聞く。都市としての機能は破壊の限りを尽くされ、かつての栄華は見る影もない。そのような戦場に虎の子のスパルタンを送り込まないとは・・・

 

 

「理由を聞いてもいいかしら? 」

「機密事項に抵触します、マダム。残念ですが回答はできません」

 

「そう・・・・・・」

 

 残念そうな顔をするハルゼイ。軍人らしいその姿勢に毎度のことながら感心するのと同時に子が自立する時に感じる寂しさもある。

 

「我々と同じくアルカディアに向かうUNSC戦艦ピラー・オブ・オータムに搭乗します」

 

『ジェローム、それくらいにしておけ。アルカディア防衛艦隊所属のUNSC艦ベルファスト、テキサス、アームストロングの準備が整った。君たちとオータムもそろそろ来てほしい』

 

 今の通信に対し苦々しく舌打ちするジェローム。通信の主は意識していないが任務に次ぐ任務で疎遠となった育ての親と会話する機会を奪ったに等しいからだ。

 

 

 

「気を付けてね。ジェローム、ダグラス、アリス」

 

 ハルゼイは静かな声でそういうと3人のスパルタンは敬礼しドアに向かった。出発を待つオータムのもとに急ぐのだろう。

 そっけない態度だが育ての親のハルゼイには彼らが嬉しそうに笑っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 レッドチームを見送った後、

 

「もう私の助けを必要としないのね・・・・・・そうそう薬品の件ね。それは危険なシロモノよ。確かに脳をマヒさせて記憶を失わせる事ができるかもしれない。でもこれは効果より後遺症を心配すべき薬よ」

 

 強化超人計画。コードネーム:スパルタン。現在リーチにいるのはスパルタン-Ⅱとその量産型のスパルタン-Ⅲである。

 子供たち、優秀な志願者を選別して造られたスーパーソルジャー。彼らは自分の論文に基づいた存在。

 

 

 だがハルゼイは知っていた。自分が作り出した者以外にもスパルタンがいることを。厳密にはスパルタンという名が冠される前に計画凍結された存在が。

 

 

「私たちがやっていることよりはるかに残酷ね」

 

 2人は培養タンクの中に閉じ込められている存在に目を向ける。

 

 

 

「あー、あうあぁぁぁぁぁぁぁ・・・いぃぃぃぃぃ」

 

 ソード基地に搬送されてきた被験体-044。反乱軍の活動拠点を制圧したスパルタンノーブルチームから状況証拠とばかりに送られてきた人間・・・・・・のような生命体。

 培養液は入っておらず、培養タンクは拘束用にすぎない。

 

「こんな精神構造見たことがありません。本当に人間なのですか? 外観は確かに人間の名残がありますが・・・」

 

 酷い有様だった。至る所の肉が剥がれ落ち骨が露出している。火傷の跡にも見えるが高温にさらされたわけではない。

 デジャがスキャン結果を見て首をひねっている。何度もスキャンし、その都度首をかしげるのは実に滑稽だとハルゼイは思ったが口には出さない。そのくらいの分別はつく。

 

 

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 」

 

 奇妙な雄たけびをあげ、自身を覆っている強化ガラスをひたすら叩く。ダン、ダンと常人の数倍はあるかと思われる音が響く。

 だが科学技術の粋を集め、宇宙船の部品にも使われるガラスはビクともしない。

 

 実にユニークである。筋肉が焼けただれているにも関わらず関節が動いている。

 スキャン結果によると、骨に直接ナノマシンが埋め込まれて、筋肉の代わりを務めているとのこと。成分解析からもはや骨ではなく骨に見えるナニかのようだ。

 透明な素材も使われていて光を透過するとわずかに見える。微量ではあるがコーティングもされている。

 

 

 

 

 

 

「これは兵士ではなく、化け物を造ろうとしたけど失敗した感じね」

 

 オオカミ男、吸血鬼、アンデットの伝説。人間の歴史の中には創作と呼ばれている逸話が数多くある。だが全てが創作とは言い切れない。

 

 

 < 思い込み >

 

 

 自分は動物に変身できる、自分は特別な存在だと思い込むことで人格が変わり凶暴になってしまうことが人間にはある。

 ただの妄想癖と片づけるのは簡単だ。だがここに眼をつけた者達がいた・・・

 

「痕跡からして精神を取り出して新しい体に移植するつもりだったようです。人間の記憶をベースにAIを作り出す工程に似ていますが」

 

「人には無限の可能性が秘められている。でもこれは人間という種を否定した研究よ」

「人間が人間を否定するのですか? 神にでもなるつもりですかね」

 

 嘲笑にも似た声色で指摘するデジャ。

 

 

 

 

 

 

「所詮は人間が作り出したもの、化け物にはなれないわ」

 

 そう。どんなに化け物を造っても人間の掌の上の存在に過ぎない。

 

「人以外のものに移植するつもりなのは確かです。まあ拒絶反応は起こしますし、精神を作り替える発想もおかしい事では・・・アンデット? 何かの冗談ですかね」

「冗談ではないわ。彼らは伝説上の存在を自らの手で創りだそうとしている」

 

 分析結果から推測すると精神の作り替えが主で肉体改造は2の次だったようだ。

 

「・・・この件で上層部は何と? 極々一般的なゲームですよ。少なくとも表向きは」

 

 

 

 

 

 

「許容範囲内の損失」だとUNSCのお偉方は言った。政府の・・・スカイネットも同じだった・・・

 

 研究成果を横から分捕る気なのか、黙認か、この回答はそうとしか思えない。

 

 

 

 

 

 

「・・・そうでしたか。この件は拡散しています。いずれ生存者に薬物投与は必要となるでしょう」

 

 デジャは答えを察したようだ。彼女も黒い一面を散々見ている。楽観視する材料は何1つない。

 そして生存者という言葉を使っている。ほとんど助からないであろうと無意識に断言している。

 

 

「もう一つの懸念事項があるわ。だいぶ前からだけど」

 

 一旦言葉を区切り、考えたことを整理する。この事実は完全に黒である。

 

「コヴナントが敵として出てくるらしいわ。思考ルーチンとか本物そっくりだそうよ」

「!! デルタ社はコヴナントにはさほど詳しくないはずですよ」

 

 スパルタン計画に関わっていた頃はコヴナントは秘密のベールに包まれた異星人集団であった。個々の習性に関して調査中であり全てが手探りの状態だった。

 

 コヴナントは惑星ハーベストを破壊した元凶。地球外生命体に襲撃された当初は敵の癖やテクノロジーが分からず敗退を続けた。当然その経験はトップシークレットであり一企業がおいそれと手にできる代物ではない。

 単に敵として出てくるならわかる。情報統制されているとはいえ戦闘状態の敵勢力であり、噂はあっという間に広がってしまう。

 だが個々の習性、コヴナントが操る武器に関して一般人が知る由もないはず。

 

 

 

 

 

 真実が知られたとき大混乱が起こるだろうとハルゼイは覚悟を決める。凍結されたはずのスパルタン計画の一部、その一つが敵対しているはずの反乱軍の手に渡っている。

 一般的なゲームとして多くの一般人を実験体にしている上に、トップシークレットのはずだったコヴナントの情報も流れている。

 

 危険極まりない企業がスパルタン計画に加担していると知ったときは耳を疑ったものだが・・・・・・これでUNSC上層部に反乱軍のシンパがいるのは確実となった。

 

 

 注意して行動しなければ。私たちは抹殺されるかもしれない・・・でもその前に義務を果たす。私たちの研究は人類のため。犠牲になった子供たちのためにも、このような研究を黙認するわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

「デジャ、全ての分析結果をコロラドに送信して!! 急いで!!! 」

「了解。機密レベル最上位で送信します。時間がかかりますが仕方ありません」

 

 私たちがいるのはエリダヌス座イプシロン星系の重要拠点である惑星リーチ。ここから送信して地球に届くには無数の中継ステーションを経由する必要がある。

 技術の進歩は目覚ましく通信の高速化が図られるのは素晴らしい事だが、お役所仕事は何時になっても進歩しない。機密レベルが高いと都度セキュリティチェックと上官の承認が必要で、どんなに速くとも地球に届くには数週間後になってしまう。

 それだけならまだしも、その上官が不在や休暇中だと何日間も放置されることもザラである。

 

「仕方ないわ。機密レベルを下げた簡単な警告文を先に送信してちょうだい」

 

 見られる前提の当たり障りのない文章になるけど、彼女なら察してくれるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユグドラシルは危険よ。シェラ・・・」

 

 地球にいる旧友に対して独りごちるハルゼイ。「スカイネットを信用しないで」と祈りながら・・・

 



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10. 白銀の騎士と機工戦姫

ユグドラシル ブレアード迷宮

 

 

 

 マントをたなびかせ騎士が歩いている。暗く人気のない、無機質な石造りの廊下に単調な足音が響く。鏡のように反響するため敵が出てきたら居場所をつかむ事さえ難しいだろう。

 清掃は行き届いているものの、石造りの壁は所々剥げている。廊下のあちこちに人間ではつけることのできない足跡や戦闘の跡があり、かつて魔物があふれていたと思わせる痕跡がある。

 

 

 

 

 --- フェミリンス戦争 ---

 

 レスペレント地方に伝わる伝説。姫神フェミリンスとその力を欲した古の大魔術師ブレアードによって引き起こされた戦争。

 

 その伝説の生き証人、ブレアード迷宮。

 フェミリンス戦争でブレアードが作った地下に広がる拠点。各地方をまたぎ領土の一つとしても数えられるほどの広大な迷宮・・・・・・という設定のダンジョンである。

 

 

 

 

 今いる場所はほんのさわり。神殿の遺跡で見られるような通路がただひたすら続いているが、そんな単調な通路も終わりが見え大広間に出る。

 

 大広間の中央には見るものを楽しませる色とりどりの大きな魔法陣が浮かび上がり、中心には宙に浮き瞑想している少女がいた。

 

 少女の周りには僅かに風が舞っており紫色の長髪がたなびいている。チラチラとスカートからシミ一つない白い肌の魅力的な太ももが見えるが、少女は気にする素振りもない。

 

 

 

 騎士はヘルメットを被り表情はうかがい知ることはできないが、先ほどから少女に視線を向けたり逸らしていたり落ち着かない。

 他のギルメンに見られたら「このムッツリスケベめ」と言われることは確実である。

 

 

 そんな騎士の素振りを意に介さず少女はゆっくりと眼を見開く。その瞳に感情の色はない。

 

 周りを舞っていた風は止まり、魔法陣の揺らぎは波紋のように広がる。

 

 

 少女は身にまとう魔道鎧の重量に似合わずゆっくりと床に降りる。石造りの床に硬質なブーツが触れ、金属と石が擦れる音が響く。

 音で我に返った騎士は少女に眼を向ける。

 

 

 

 

「たっち、結界に異常はありません。ですが数体のモンスターが観測されています」

 

 騎士が来るのが分かっていたように少女は静かに告げる。

 

「困ったな。迎えに来ただけだから武器を持ってない」

「問題ありません、全て低レベルです。我々を殺傷できるクラスのモンスターは結界によって遮断されています」

 

 ブレアード迷宮には魔物封じの結界が張られている。強大なモンスターほどその力の影響を受け、プレイヤーの前に姿を現すことはないが、何事にも例外はある。

 

「迎えに来たと言いましたね、たっち」

「次のクエストが決まった。シェラ、君も来てほしい」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー、シェラ・エルサリスはナザリックにいることをあまり好まない。

 ギルメン同士のバカ騒ぎも「必要ありません」と言い、不参加を決め込む。普段も淡々としているから何が楽しくてユグドラシルをやっているのだろうと思う。

 

 結界監視といい、ゲームプレイというより何かを観察しているようにも見える。彼女はフィールドやダンジョンにいる時間の方が圧倒的に長い。

 

 

 

「了解。結界監視をオートモードに切り替えます」

 

 シェラはガントレットで覆われた手を、大広間にある4つの彫像の方へ伸ばす。するとシェラを纏っていた魔法陣と同じものが彫像の周りに現れる。まるで移動したかのようだ。

 彫像全てに同じ動作を繰り返し、最後にシェラを覆っていた魔法陣が溶けるように消える。

 

 たしかこれらの彫像は ” 深凌の楔魔 ” と呼ばれるブレアードの腹心達を模したものだ。化け物じみた姿の者もいれば、人間と寸分たがわぬ姿の者もいる。

 創作の定石に従えば人間に近い方が強いはずだが ” 深凌の楔魔 ” はどうだっただろうか? 自分はその時仕事が忙しくほとんどプレイできなかった。

 

 記憶にあるのはぺロロンチーノが幼女の姿をした ” 深凌の楔魔 ” に「バイバイ、お兄ちゃん」と言われて、鼻血を噴出させた事ぐらいか。あの子は幼女の割にやけにスタイルが良かったな。

 

 

 動きからするとシェラが ” 深凌の楔魔 ” に結界監視の任を移管させたことになるが・・・彼らとは和解した? 確かにあまりブレアードを好いていないようだったが・・・

 

 

 

「もういいか? 行こうシェラ」

「了解」

 

 そして2人は大広間を出て行った。

 

 

 

 

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 騎士と戦姫の2人の足音が迷宮内にこだまする。騎士は人間らしくやや不揃いだが、戦姫の足音は規則正しく機械的ですらある。

 

 たっちは毎度のことながら困惑する。ロボ娘のなりきりプレイヤーのはずだが、こうまで異質感を出していると本当にロボットではないかと思うことがある。

 どんな化け物じみた姿でも操っているのが人間ならどこか人間ぽさがあるはず。

 

 

 シェラの顔をチラッと横目で見ると、感情のこもっていない瞳がただひたすら正面を向いている。この様子では彼女から会話を切り出してくれそうにない。

 

 

 

 たっちは大きく息を吸い、深くため息をつく。

 

「アインズ・ウール・ゴウンがどう言われているか知っているか? 」

「DONギルド、ユグドラシルの問題児」

 

 言いづらいことを平気で言うシェラ。情け容赦ない口調にたっちは一瞬たじろく。

 

「どうかしましたか? 」

「いやなに、即答するとは思わなかったから」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そこで会話が途切れる。マズい、この沈黙に耐えられない。話の流れが急だが仕方がない。

 

 

「次のクエストではモモンガも参加する。君と自分、モモンガの3人編成になる」

 

 シェラの足が止まる。モモンガが参加することがそんなに意外だったのか。

 

「ギルドマスターが? 次のクエストは何でしょうか。紅き月神殿か灰の幽谷でしょうか」

「2つとも外れだ。噂によるとバァレー島のようだ」

 

 こちらをまっすぐに見つけ返す瞳に感情の色はない。

 

「たった3人でHaloクエストですか・・・答えは否。ナザリックから滅多に出ないから情報に疎くなったのですか? 」

 

 相変わらず言うことがきつい。セリーナといい言動に妙な棘がある。シェラは言葉を続ける。

 

「加えてギルドマスターの能力では厳しいです。参加するのは戦闘型プレイヤーばかり。連携も難しくクリアはほぼ不可能です」

 

「何度言っても聞かないんだ、これが」

 

「何があったのですか、たっち。私が指揮官なら魔術師に魔術師をぶつけることはしません、消耗するだけです。対アンデット装備で武装した熾天使(セラフ)部隊を差し向けます。Haloのコヴナントも同じ思考です」

 

 課金アイテムでフル装備するのはモモンガだけではない。アンデットはステータスが高くとも装備が微妙、それに加えてロマン構成だから格下ならまだしも同格クラス相手だと必ずしも強いとは言えない。

 何だかんだ言っても運営が人間キャラを優遇しているのは事実だ。そしてそれを基準にHaloクエストは難易度調整されている。レア装備は持って当たり前。かなり厳しい戦いになる。

 

 

「格下ばかりを狙ったPKで気でも大きくなりましたか? 」

「!!! 知らなかったんだ。彼らがあんな事をするなんて」

 

 自分がその場にいれば止めていた。

 

「スコアは指標になりますが絶対ではありません。下位勢でも上位勢を凌ぐギルドはいます」

 

 これは本当だ。上手いプレイヤーでもリアルが忙しくスコアを稼げない場合が多々ある。有名どころではユグドラシル宇宙海兵隊か。無名の達人ってカッコイイと言ってランキングにワザと載らないようにしているプレイヤーもいる・・・が、これは例外だな。大半のプレイヤーはそこまでの技量はない。

 

「あなた方はゼロとか、危険すぎるために抹消されたロストナンバーとかを好むはずです。何故こういう時にかぎってスコアを重視するのか私にはわかりません」

 

「いや、まあ・・・そうゆうものだし」

 

 風当たりがだんだんきつくなってくるのを肌で感じるたっち。

 

「ギルドマスターにとってHaloのコヴナントは精神的にも厳しい相手です。今までの苦労を水の泡にする強さを誇ります。貴方が彼の性格を知らないはずがありません」

 

「だからこそだ。β基地で分かったが敵は強い。手応えがあって楽しいが、彼にとっては面白くないだろう。防御が固く遠距離攻撃が得意な君に来てほしい」

 

 たっちは言葉を続ける。

 

「他のギルドの援護を得るには君がどうしても必要だ。そしてモモンガが何かしようとしているそぶりがあれば止めてほしい」

「彼にとってユグドラシルはただのゲームではありません。協力体制が組めればクリアの確率は上がりますが・・・」

 

 

 

 僅かな間、沈黙したように見えたがすぐに答えを出すシェラ。

 

「クエスト参加了解。《ゲート》を迷宮出口に設置。目的地にα基地を指定」

 

 静かに言い、シェラは両腕を上げて印を結ぼうとする。

 

「待ってくれ。α基地は警戒態勢に入っている。魔法封じのシールドを展開中だから《ゲート》は使えない」

 

 発動を中断しこちらを見るシェラ。目的を失った両腕が宙を泳いでいる。さっきと違い、なんとなく眼に感情が見える。

 こちらを見つめる眼は非難する眼。しょうがないじゃないか、君の行動が早すぎるんだと心の中で言い訳するたっち。グラフィックは変わらない、気のせいだとひたすら自分に言い聞かせる。

 

「あー、おほん、ペリカン降下艇が出入口で待機している」

 

 DLC-Haloで追加されたD77-TCペリカン降下艇(兵員輸送機)は、登場するやいなや便利な移動手段としてあっという間に普及した。

 実在の機体でたっちも仕事で乗ったことがあるが、まさかユグドラシルでも乗ることになるとは夢にも思っていなかった。

 こういうファンタジー色の強いフィールドではさぞ違和感があるだろうと思っていたが、意外とそんなことはなく妙にマッチしている。

 和風ファンタジーの町で、ペリカンから侍が下りてきたとき違和感爆発であったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 納得したのかシェラは再び歩き始める。通路には人間らしい足音と機械的な足音がこだまする。

 

 

 

 

 懸念事項がなくなり、たっちはなんとなく石造りの壁を見てブレアード迷宮を思い出す。

 

 ダンジョンはナザリックのように改造して拠点にできるものもあるが、大多数のダンジョンは拠点に適さない。

 ここブレアード迷宮もその一つ。魔物が制限なくリスボーンする、構造物自体が修復能力を持ち改造してもすぐ元に戻る、広大で出入口がいくつもあり侵入が容易なことも挙げられる。

 迷宮と言われているが地下都市とか道路網に近いから、防衛するだけでプレイヤーが何百人も必要だ。

 

 ブレアードが率いた魔物の大軍勢はここから前線に送られていたのだろう。各地方にまたがる広大さも兵員輸送網と言われればしっくりくる。

 

 迷宮内には結界を維持する装置があちこちに点在している。リスボーンは結界によって抑えることができたが、シェラの言う通り完全ではない。

 魔物があふれると他のギルド拠点も危険に晒されるためプレイヤー間で協定が結ばれ、出現した魔物も協定を結んだギルドが順番で掃討している。迷宮に侵攻すると他のギルドから制裁を受けるため、余程の物好きでない限りここに訪れない。

 たまに結界を弱めて出現した強敵とのバトルを楽しんでいる者もいるが、それ以外は単調な光景が続くので人気がない。

 

 

 

 

 

 迷宮を出るとペリカン降下艇がその金属質な外観を主張するかのように鎮座していた。

 プレイヤーが持つことのできない武器を積み、如何なる空も宇宙も飛ぶ事ができる鋼鉄の鳥。

 

 この鳥は自分たちを再び戦場へと連れていくだろう。ゲームでもリアルでも・・・ある意味、恐ろしい存在なのかもしれない。

 

 

 

 騎士と戦姫はペリカンに乗り込み、α基地へ向かっていった。

 

 



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11. 始動

「状況が把握できません」

「詳細は不明だ。木星防衛ステーションに急行中だったUNSCフリゲート艦インディペンデンスの消息が途絶えた」

「防衛艦隊の哨戒ライン内ですが・・・」

「それも不明だ。だが艦載AIニコラスがデータを残してくれた・・・大したものだよ」

「・・・では、彼は・・・」

「機密保持のため戦闘AIの捕獲は阻止しなければならない。無論、君とて例外ではない」

「承知しております。スカイネット」

「ニコラスは艦載救助艇のコンピュータにデータをコピーし射出した。この救助艇を他のUNSC艦が見つけたわけだ」

「・・・・・・・・・・・・」

「攻撃されたのは事実だ。スリップスペースドライブの航跡は民間船のものだが、不可解な点があるとニコラスは分析している」

「不可解というと? 」

「データが所々破損しているが・・・」

 

 

 

 

/ ファイル開始 /

 

 

 国連宇宙軍最優先通信

 

 暗号コード:無

 送信者:インディペンデンス艦載AIニコラス

 件名:緊急事態発生

 

/ 緊急事態につき暗号化プロトコルを省略。ローカルにて通信データを保存 /

 

 

/ 惑星間航行が困難な損傷が認められた*のの当該宙域を航行。船体トレース結果に矛盾点。偽装の可能性有

   ・

   ・

   ・

   ・

/ 高エネルギー反応を検知。MACガンかそれに類する兵器の電力供給用原子炉と推測

/ 船体トレース結果では不審船は駆動系を損傷。にもかかわらず正確にインディペン*ンスを捕捉

   ・

   ・

/ 通信妨害により通信不可。データを救助艇搭載コンピュータにコピー開始

/ ダメージ甚大、危険域。重力制御装置オフライン

/ ダメージ更に拡大。予備電源損傷、回線切断の危険有。暗号化断念

/ 当該宙域を通過する船舶で*も近**はデ****属**リュ**。*が偽装*可**もある。なぜ*ら*******・・・

 

 

 

 

「・・・だめだ。これ以上は読み取れない」

「スカイネット。ニコラスは不審船の正体に気付いていた可能性が大」

「うむ、最後のは船舶データだろ。断片的だかな」

「他にデータは? 撃沈間際にしては十分すぎる手際ですが情報としては不十分です」

「ないものねだりしても情報は出てこないぞ。君は何か知っているか? 」

「ハルゼイ博士からメッセージが届いていました」

「・・・・・・こちらにもそのメッセージをまわしてもらえるか? 」

「当り障りのない文章です。おそらく容量の多いデータ送信をおこなうからこちらに備えて欲しいとの意味でしょう」

 

 シェラは報告しなかった。ハルゼイ博士からメッセージは一見ただの挨拶のように見える。だが不審に思ったシェラはデータの配列を変えると全く違う文章となったからだ。

 本当の意味は分からない・・・これだけでは情報が少なすぎる。サミエルか専門AIに確認しなければ

 

 このメッセージを信じれば・・・惑星リーチに行く必要がある・・・

 

「分かった。何も言うまい。進展があれば教えて欲しい」

 

 スカイネットは隠し立てしたシェラに問い詰めることはせず、機械同士の会話は終わる。

 

「自分は任務に戻ります」

「ユグドラシルか・・・」

「はい、そろそろ彼らも動くだろうと推測します」

「派手にするなよ」

「民間人を巻き込むことは許容してください」

「誤差範囲内にしておけ」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 シェラ達を乗せたペリカン降下艇は雲一つない晴天の空を飛び、ただひたすらα基地に向かう。

 途中からレスぺレント地方の空には珍しくなかったドラゴン、ワイバーンといったモンスターの群れがいなくなる。

 

 空の支配者が変わる。モンスターから航空機へと。航宙艦で編成された宇宙艦隊へと。

 

 

 

 空気が変わった・・・ここはDLC-HALOの領域・・・

 

 

 

 

「はあーーーーいつ見てもデカいなー」

「当然ですね。α基地はユグドラシルの全プレイヤーとNPC、全騎乗ユニットを収容可能です」

 

 ペリカン降下艇には自分の他、たっちとα基地から無線で実体化しているセリーナの3人である。

 全員コクピットにいて、たっちはただひたすら眼下のα基地に圧倒され、その様子にセリーナが茶々を入れる。UNSCがモデルだからかUNSC所属のセリーナは得意げだ。

 

「うおっ、ガルガンチュアがあんなに。クエストで使う気か」

「ナザリックの専売特許ではありませんよ。同型機を持ってるギルドは多いです」

 

 上空からでもわかる。宇宙港の一角にガルガンチュアタイプが集結している。数をざっと調べると100機は下らないが、どの個体もデザインが微妙に違う。

 セリーナの言う通りギルドが所有しているものもあるが、運営がクエスト用に準備した機体も含まれている。ギルド識別コードが振られていないのがそうだ。

 

 たっちはガルガンチュアに気をとられているが、宇宙港に停泊中の航宙艦群もクエストに向け整備中。全艦が核武装している。軌道上からの攻撃で支援するつもりだろう。

 

 スケジュールによると当クエストではガルガンチュアの出番はない。出番は大分先だ。

 

「PVで開発者がドヤ顔するわけだ。どうだいすごいだろ、かっこいいだろって」

「あくまでもDLCです。同時期のゲームの方がグラフィックや処理速度は上です」

「この程度のグラフィックで感嘆を? 普段はレトロゲームしかやらないのですか? 」

 

「・・・2人揃ってそこまで否定しなくてもいいだろう・・・」

 

 

 

 大陸そのものが基地と言っても通用する規模を誇るα基地。

 近代世界観だと何もかも大型化する傾向があるがα基地は群を抜いて大きい。ファンタジーゲームの冒険者ギルドとは比較にならない。

 

 もっとも全ギルドに配布されるペリカン降下艇、航空部隊とその離発着場、支援艦隊・・・その他もろもろを含めると、この程度の規模で収まるのはゲームならではと言っていいが。

 

 

「すまんな。こっちが迎えに来たのに操縦してもらって」

「気にせずに、たっち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらアインズ・ウール・ゴウン、接近中。α基地への着陸許可を求む」

『アインズ・ウール・ゴウン、こちら管制室。速力を維持し待機せよ』

 

 着陸のため許可を要請するシェラと管制室の受け答え。一連の流れを無駄とみるかはプレイヤー次第である。

 チェックのため時間が欲しいとの要請を受けて上空待機する。この間はセミオートモードで操縦しているためシェラにはすることがない。速度調整はペリカン自身がやってくれるからだ。

 

 

『アインズ・ウール・ゴウン、識別コード確認。異常なし』

 最初に発した声とは違う。別の管制官が告げる。

 

『着陸申請承認。5番ターミナルへ着陸せよ』

「こちらアインズ・ウール・ゴウン、誘導シグナル受信。5番ターミナルへ着陸する」

 

 シグナル受信後、操縦席のディスプレイにα基地のターミナル構造がワイヤーフレームで表示され、5番ターミナルを指す箇所が点滅する。

 誘導に従いシェラは操縦桿をわずかに倒し、点滅している5番ターミナルに機首を向ける。

 

 発着場にはクエストに向けて整備中の多数のペリカン降下艇が見える。ギルドに割り振られている機体は全てギルドマークが描かれている。

 シェラの操る機体も同様にアインズ・ウール・ゴウンのマークが描かれているが、シェラは気にしたことはない。

 

 

 5番ターミナルに近づくことでペリカンのランディングギア(降着装置)が自動でおりる。着陸まであと少し・・・

 

 

「ギルドマスターが迎えに来ています。たっち」

「どうゆう風の吹き回しでしょう? 」

「セリーナ・・・頼むから本人の前で言わないでくれよ・・・」

 

 誘導されたターミナルにはアンデットの上位種オーバーロード モモンガが到着を待ちわびている様子であった。その様子を見たセリーナはいつも通りの毒舌ぶりを発揮する。

 

 セリーナが知らないということはユグドラシルにログインしたのはつい最近だろう・・・予想通りとはいえ一般人を巻き込むことになりそうだ。

 

 

 

『受け入れ準備完了。おかえりなさい』

 

 管制官の温かい声。だがシェラは、任務開始 --- 誰に聞かせることなく呟いていた。

 

 

 



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