オーバーウォーズ (フュラーリ)
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1. 白銀の騎士 in HALO-1

ユグドラシル
D77-TCペリカン降下艇(兵員輸送機)


 一羽の鋼鉄の鳥が闇夜を突き進む。
 それは平和とはかけ離れた機体。見るものを威圧する武器の数々、機体を覆う複合素材の塊である装甲板。誰が見ても戦いのない空を飛ぶ存在ではないことが分かる。

 機内を見渡すと.........騎士に悪魔に鳥人と見事にバラバラである。


『今回のクエストは、現在コヴナント軍に制圧されているβ基地の確保です』
 モニターに映っている紫髪の少女は淡々とした口調で告げる。

『先日、偵察隊を派遣しましたがコヴナント軍発見の報告と同時に消息が途絶えています』

「シェラ、現在の状況を教えてくれ」
『最新情報によると事前情報通りコヴナント軍が周辺に展開中。敵のレベルは全てこちらと同期。注意を』

「さあ、いっちょやってやるぜ! 」
 遠足気分で気を高ぶらせ準備するバードマン。
 アイテムボックスは無制限に収納できるが、多すぎると検索に時間がかかりイザという時に取り出せない。初心者はどこぞのネコ型ロボットのようにパニックになってる内に襲われるのが通過儀礼であるが、慣れたプレイヤーが戦闘前に不要なものは取り出すのは常識である。

「いっちょ前に指揮官気取りか。たっち?」
 羊顔の悪魔は騎士をにらみながら言う。

「この戦いが終わったら皆にとっておきのエロゲーを見せるぜ」
「お前の姉ちゃんが出てくるエロゲーを押し付けるな。1人でやれ」
「期待した新作に姉ちゃんが出てきた絶望がウルベルトに分かるものかーーー」

 はぁ~毎度のことながらぺロロンチーノも懲りないよな。人気声優は限られているから買う前に予測がつくだろうに......いやまてよ、人気声優は目玉だから事前に公表されているはず。わかってて買っている? ......まさかな。


「そろそろクエスト開始だ。みんな準備は? 」

「ぺロロンチーノのゲイ・ボウは問題なし。ワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイムも正常そうだ。ほら受け取れ」

 ウルベルトからペリカンの武器庫に保管されていた愛用の剣を受け取る。普段対立しているが、こうゆう時はしっかりやってくれる。

『現在高度10,000m。まもなく目標到達ポイントに接近。出撃を許可します』
 先ほどの騒ぎを全く意に介さず告げる。毎度のことながらいい性格をしている。


 ---降下準備完了----ハッチ開放---

 機械音声がペリカン機内に響く。
 駆動音と共にハッチが開き、薄暗かった機内に光が差す。闇は去り朝日が眩しく白銀の騎士を光り輝かせる。

『日の出です。現在予定時刻』

 たっち・みーはウルベルト、ぺロロンチーノに告げる。
「アインズ・ウール・ゴウン出撃だ!! 」













 大空に飛翔する3人。高度計が差す値がみるみる小さくなる。

「異業種を選んでおいて正解だったぜ」

 まったくだ。高高度からの降下は人間種なら専用のスーツとヘルメットが必要であるが、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは全員が異業種であり強固な体を持っている設定なので必要ない。バイザー越しではない降下は迫力満点である。
 とはいっても地面との激突には耐えられないから自分を含めジェットパックを装着済みである。降下中はずっとオートモードで姿勢を制御している。バードマンであるペロロンチーノも単独では高高度の姿勢制御は無理なので専用品を装着している。高度10,000mなんて種族を設定した人も想定外だったんだろうな。

「ジェットパック異常無し。楽なものだ」

 やがて湯気のような白い雲の中に突っ込むと視界が真っ白に塗りつぶされる。


『最新情報更新。β基地に装甲車両、及び航空機を多数確認』
 降下中だというのに無視できない情報がもたらされる。

「ちょっと待て。なんでこのタイミングで? 剣で立ち向かえとか言わないよな。戦域内に参加可能なギルドはいないのか」

 装甲車両は乗り込んで搭乗員を斬れば何とかなるが、空から攻撃してくる航空機相手には無理。今は自分を含め3人しかいないから他のギルドの力が必要だ。

『トリニティが対応可能との事。準備が整い次第、所属の航空部隊に援護させます』

「了解した、シェラ」




 視界を覆っていた雲を抜けるとβ基地と思われる建物が目についた。そろそろか...
 低高度に到達すると、スラスターの出力が全開となり車で急ブレーキしたような衝撃が体に伝わる。ジェットパックがホバリングモードに切り替わり、衝撃の後はこれまで体に与えていた加速感が無くなる。プログラムに従い自動でゆっくりとたっち達を森林へと降ろす。

 大地に降り各自が背負っていたジェットパックを外しアイテムボックスに収納する。男心をくすぐるアイテムだがイベント限定のため自分の物にならない、残念。

 降下地点のすぐそばには断崖がありβ基地を見下ろすことができた.........全体的に演出過剰じゃないか? 拠点を見渡せる高台に敵がいないのは不自然すぎる。断崖にいる自分たちに気が付かないのもちょっと......

『ペリカンの作戦空域外離脱成功。現在コヴナント軍に反応なし』
 
 ......前々から思うんだがシェラの通信はいつもタイミングが良すぎる......

「侵入ルートは? 」
『北西に廃棄された搬入トンネル有、そこから内部に侵入できます。今座標を表示します』

 絶景に後ろ髪を引かれながらも断崖を後にする。





 徒歩で目的地に向かう途中、ペロロンチーノが皆の気持ちを代弁する。

「なあ、今プレイしているのってユグドラシルだよな?」
「..........................................そうだ」
「こっちもノリノリだったけどさ。さっきの会話はどう聞いてもミリタリー......」

「.........DLC-HALOパック。皆で買ったろう? 」
 ウルベルトが指摘する。ちょっと間があったのは気のせいだと信じたい。

「新規ユーザー獲得のため、なり振りかまってられないんだろ」

 人気VRゲームのユグドラシルだがトップを保つのは容易ではない。近年ライバルが多数参入してその地位が脅かされている。少し前からユグドラシル自身も古参が跋扈して新規ユーザーが寄り付かないことが問題視されていた。新規ユーザー獲得を優先し、世界観を一新したり俺たち古参に制限をかけるメーカーの心境も理解できなくはない。


「ちょっと前に仲間になったシェラさんってさ。変わってるよね」

 シェラは紫色の長髪、美少女だが感情の起伏に乏しい表情、一見すると魔導鎧を身に付けた少女だがれっきとした異形種である。鎧が本体で人間は生体部品というキャラ構成をしている。内蔵火器の魔導砲による攻撃は強力だが、後方で指揮をとることを好む。
 リアルでそうゆう職業なのか情報処理や統率することに長けている。他ギルドの協力を得られるのはスキルではどうにもならない。他のメンバーもそう思っているらしい。彼女のNPCセリーナも同様に情報処理能力が高い。

 仲間になった時期とメーカーが新規ユーザー確保に躍起になった時期と一致するため、ギルメンの間では運営の一員ではないかと噂されている。
 トリニティの件もそうだ。あのタイミングで根回し済みなら降下前に言えただろうに。航空部隊を参加させるという事は、ド派手なバトルで新規ユーザーに魅せる展開にするつもりだろう。
 セリーナの特殊性もしかり。NPCはほとんど会話できないのに、セリーナは皮肉に富んだ会話が可能で周囲を驚かせた。彼女は普通と言っていたがどう考えてもただのNPCではない。

 なんとなく裏があるのはわかっているが、非日常な通信のキレの良さ、危機感ある展開は盛り上がるので口には出さない。なんだかんだで皆楽しんでいる。


 
 そんなことを思いつつもルートに従いトンネルをすぐ見つける。トンネルは廃棄されてからずいぶん年月が通過している。表の道路はボロボロ、あちこち錆だらけでまるで防空壕である。

「敵がいるぜ」
 ぺロロンチーノが目ざとく見つけ、トンネルの入口左右をそれぞれ指でさす。グラント、エリートが複数、歩哨のようだ。

『速やかに排除してください』
 合図とともに3人が各々の武器を持ち突進する。

「ひぃぃーーー敵だあぁぁぁ!! 」
「ナニ!? 敵ノ攻撃ダ。至急連...」
 グラントが悲鳴を上げ逃げまどう。エリートは最後まで言葉を発することなく一閃で首と胴が離れる。他も魔法や矢によって瞬きする間もなく地に伏す。

 ---チェックポイント通過---

 敵を排除した後、システムメッセージが表示される。このルートで正解か。トンネルにはいったが醜い有様だった。車が走れないくらい道路はボロボロ。乗り捨てられたトラックやゴミが散乱している。照明は辛うじて機能していて薄暗かったが、ライトは必要なかった。
 壁から地下水が流れ地面に水溜まりを形成しているせいで歩くたびに泥水が跳ねる。生活排水でない事を祈りながらすすむ。

 だいぶ歩いたが敵は現れず、瓦礫の山が行く手を阻んだ。どうやら封鎖されているらしい。


「こっちだ」
 ウルベルトが非常階段を見つけ上層にあがる。3人の足音がトンネル内に響くが敵の反応はなし。まだ見ぬ敵との遭遇にそなえ皆無言で登る。
 登り切った先には扉があり光が漏れている。ここから先はおそらくβ基地...

 扉に耳をつけるが空調の音しかしない。探知魔法に反応はなく不意の遭遇戦はなさそうだ。
 2人もβ基地だと考え戦闘準備を整えている。武器はよし。回復アイテムもいつでも使える状態になっている。


 3人が互いに目くばせして意思を確認する。準備よし、さあいくぞ!!




 しょっぱなから展開が違いますが、ちゃんと原作オーバーロードです。
 たっちさんの喋り方は原作だと、ですます調なんですが戦争ライクなクエストだと違和感がありすぎるのと、アニメの置鮎ボイスが強烈だったせいもあり主人公じみた口調になっています。
 さあいくぞ!!(置鮎ボイスで再生余裕)


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2. 白銀の騎士 in HALO-2

α基地-指令室  時間軸はすこしさかのぼる


「クエストβ基地奪還、開始しました」

「3人から目を離さないように」

 シェラがセリーナに指示する。彼女の役割はプレイヤーのサポートでチュートリアルを担当することも多い。他のギルドメンバーからは、ちょっと(?)特殊なNPCだと認識されている。
 ゲーム内設定は両者ともかつて栄華を誇っていた先史文明の遺産で、シェラは当時の大戦で使用された戦闘兵器、セリーナは戦艦に搭載されていた艦載AIである。セリーナの姿は立体映像であり実体はない。


「問題ありません、全員が正常値です」

 セリーナの横に浮かぶようにして心電図モニターが表示されている。画面上に心電図、呼吸数、心拍数、血圧が映っており3人の状態を観察していた。
 平均値を下回った者はおらず、信号に反応して鳴っている電子音は規則正しい。これはシステムともリンクしており異常値が検出されたときはダイブ者を守るため、強制的にログアウトしたり気持ちを落ち着かせる効果のあるエフェクトがはしる。

 最新型VRバイザーは従来のただログインするだけのものに加え、ダイブ者の身体状況をチェックする機能がある。
 これはシェラがギルドメンバー全員に与えたもので、何処から手に入れたのやら最新型と言いながら市販されてない。


「如何わしいゲームで動悸が激しくなっても手に取るようにわかりますね」

『ぶっ!! そ、それは必要な事なの?』
 聞いていたぺロロンチーノが吹き出す。思い当たる節があるらしい。

「ええもちろん。過度の刺激は発作や偏頭痛などを引き起こします。事前にチェックすることは大切です」

 本当か? というたくさんの視線が突き刺さるが涼しい顔で受け流すセリーナ。
 


 雑談ののち通信を終了すると指令室は喧騒に包まれる。各人が自分の考えを披露する。

「シェラ、さっきから言っているが3人でこのクエストに挑むのは無謀だぞ」

 指令室にいる管制官プレイヤーの1人がそう指摘する。管制官はあらゆるギルドの通信に関わったり、航空管制など他プレイヤーと触れ合うことが多く好きな者も多い。
 戦闘とは無縁のようだが、防衛戦闘の際には基地の防衛システムで応戦したり早期警戒管制機(AWACS)に乗り込みクエストに赴くこともある。
 一見地味なため初回で選ぶものは少ないが、2週目以降というべきプレイヤーは違った楽しみが得られることで人気の職である。例外なく目が肥えているので決して侮れる相手ではない。
 この手のプレイヤーは冒険者ギルドで受付をしていたり、退役冒険者というロールプレイで宿屋の主人をやっていることも多い。

 管制官が把握している事前偵察によると、異星人同盟であるコヴナント軍兵士はすべてLv90台から100、ひょうきんな言葉でプレイヤーを和ませる最下級のグラントですらLv90はある。主力クラスのエリートはLV95前後、ジャッカルはその中間、一部の歴戦エリートはたっち達と同格のLv100。それにプラスして走行車両と航空機を多数確認している。
 しかも事前偵察では内部の状況は分からないため、得られた情報は最低ラインでしかない。軍事基地はそう簡単に情報の漏洩を許すつくりでは無いからだ。
 辛うじて判明しているレベルと種族は、外を哨戒していた部隊から判断している。

 敵は総じてプレイヤーのレベルをやや下回る程度と予測されるが、数で圧倒するため油断するとすぐやられてしまうだろう。プレイヤー3人なら敵はダース単位で出現する。


「鉱山の独占、PK、少々目に余るのでお灸をすえるにはちょうどいいかと」

「やはり......レベルを同期させたのは君の差し金か...」

 呆れた口調でシェラを見る管制官。
 Lv差が大きいと歯が立たないのがユグドラシルだが、それはあくまで 1 vs 1 での話。エリートが前衛で、他がその援護にまわるフォーメーションだと間合いを保つ事すら難しくなる。武装の1つである近接攻撃用のエナジーソードは容易にプレイヤーの防御を貫く。
 戦闘訓練を受けた兵士という設定なので、モンスターよりはるかに攻撃の命中率は高く思考ルーチンも賢く設定されている。グラントは別だが。
 β基地は敵のホームグラウンドになり果ててしまい、増援に次ぐ増援で常に不利な状況で戦うことになる。本来なら味方のはずだった基地防衛システムも、たっち達に牙をむくだろう。
 
 開始前には潜入クエストであることを繰り返して念を押している。敵に通報されたら数ですりつぶされるからだ。


「3人だけというのが残念です。参加メンバーを増やし、更に難易度を上げたかったのですが」

 おっかねーなという声があちこちから上がる。セリーナは毒舌であるがシェラも負けず劣らず棘がある。ギルドメンバーも何人かは察していて、たっちは「いい性格」と称している。
 ちなみに難易度がさらに上がると、たっち達を乗せたペリカン降下艇は降下前に撃墜されてしまう。何とか脱出するもののメンバーが散り散りになった状態でクエストが開始されるだろう。


 指令室中央のテーブルには、β基地とその周辺情報をワイヤーフレームで表現した見取り図と、事前偵察の情報、たっち達が持ってきた情報がリアルタイムで表示されている。
 画面端には支援要請をしたトリニティ航空部隊の映像もある。

「司令、倉庫で寝ているバルチャー重爆撃機は直ぐにでも出せますがどうされますか? 」
 セリーナは暗にトリニティに増援を要請しなくてもよかったのではないかと指摘する。α基地にはいくつかプレイヤーの裁量で動かせる遊軍が存在し、お金を払う事でそのクエストに限り使用可能だ。救済措置の1つでありバルチャーもその遊軍である。

「否、護衛無しの低速爆撃機は攻撃前に撃墜される可能性が高い」
 速攻で却下した。敵制空権下で被弾しやすいバルチャーは撃墜されにいくようなもの。


「まあ分かっていましたよ...トリニティもよく応じましたよね」

「ロールプレイができると告げたら快く応じた」

 ボロボロの味方から支援要請を受けたり、苦戦する味方を救出するというシチュエーションはプレイヤー羨望の的である。
 今頃はどんなカッコいいセリフを言おうかと思案しているはずだ。


「最初っから、ただの潜入で終わらせる気がありませんね。映画なら司令は黒幕です」

「淡々とこなすクエストは人気が無い。現に周りの満足度は高い」

「無表情な司令も割と人間を理解してますよね。ボスもそうですが」
 聞きずてならない言葉がセリーナの口から発せられ、咄嗟に感情のこもってない目で威圧する。それを見たセリーナはやれやれと肩をすくめる。



「おっと、トリニティからの通信だ。モニターに出すぞ」
 通信に気を取られた管制官は、そんなやり取りに気が付かなかった。

『こちらトリニティ航空司令部のクフィールだ。アインズ・ウール・ゴウンの指揮下に入るように指示を受けた』

「歓迎します、トリニティ」
 言葉に反して感情がこもってないが言われた相手は嬉しそうに頬を緩める。

「男ってやつはなんでこんなに単純なのかしら? 」
 セリーナがさっそく皮肉を言うが、相手も慣れたものだ。

『美人の招待はいつだって歓迎さ。罵倒されるのもな』
 
「そちらの状況は? 」

『ショートソード隊の爆装は70%終了。護衛のロングソード隊は先の防衛戦で消耗したため現在整備中だ。パーティには間に合わせるつもりだ、よろしく頼む』

 管制官プレイヤー達が絶句する。先ほど制空戦闘をこなしたばかりだというのに、これほどの短時間で再出撃が可能なトリニティの手腕やタフさに舌を巻く。
 ユグドラシルNo1ギルドなだけはあり肉体的に相当タフなのだろう。ただの体力馬鹿かもしれないが。プレイヤー達はそう自分を納得させる。


「流石ですね、クフィール。私の配ったチョコレートはどうでしたか? 」 

 セリーナはチョコレートの味の再現に理論的興味を持っているらしい...


 指令室の空気が変わる。プレイヤーの1人は何か...こう室温が下がったような気がした。

『.......あー...天国行きのうまさだ。食べた連中シビレちまったぜ』
 言葉通りだと美味しいという意味のはずだが、イントネーションが妙である。

 アカウントから住所を特定して自宅にチョコレートを送り付ける。違法じゃないのかという疑問もあるがどこからも文句はでない。セリーナが怖いとかそういうわけではない......はず。

「それはよかったです。それはそうと新作ができたので味見していただけませんか? 」
 その瞬間、空気が凍った。気がするどころではなく完全に。プレイヤー達の表情も凍る。それを見たセリーナの笑顔も凍る。


『たっちだ、β基地の侵入に成功した』
 タイミングがいいのか悪いのかクエスト中のたっち達から通信が入る。

「...位置情報リンク完了。まず消息の分からなくなった偵察隊員を捜索してください。何がおこったのか突き止める必要があります」
 凍った空気をものともせずテキパキと指示を下すシェラ。ロボッ娘司令官ということもあり、その姿にほれ込むファンもいるがこの場に限っては話が別だった。


 たっちとの通信中に1人、また1人と指令室にいるプレイヤーが忍び足で出ていく。トリニティからの通信はいつの間にか切れていた。
 司令官を置き去りにする管制官たち。通信中のシェラはその事に気が付いていない。




 ようやく通信を終了して周りを見渡すと、指令室はもぬけの殻になっていた......

「..................やられた」








「司令、私の作った新作チェコレート残さず味見してくださいね」


 セリーナの声がまるで死刑宣告のようだった。 by 基地管制官プレイヤー一同



 指令室での一コマ、それに何か起きているわけでもないので手加減なしに会話だけです。そのせいで全然文字数が稼げません(汗)


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3. 白銀の騎士 in HALO-3

β基地


 さあいくぞ!!

 たっちは豪快に扉を蹴とばす。吹き飛んだ扉が反対側の壁にぶつかり轟音があたりに響き渡る。
 ウルベルト、ペロロンチーノがあまりに予想外の事態に唖然としている。

 確かにここはβ基地。DLC-HALOの拠点であるα基地と雰囲気が同じだ。内部の異常は見受けられず、単調な空調の機械音と風の流れる音しかしない。
 α基地の喧騒とは無縁の静寂が支配している。

「たっちだ、β基地の潜入に成功した」

『...位置情報リンク完了。まず消息の分からなくなった偵察隊員を捜索してください。何がおこったのか突き止める必要があります』

「隊員は何名だ」

『2人ですーー!!ーーー? 』

 なんか間があったような気がする...人数を告げた時も妙だった。向こうで何かあったのか? 気にはなるが今はクエスト中、気持ちを切り替える。


「おいっ!? なんだ今のは」

「何を言っているんだ? ドアを蹴とばしただけだろう」

「潜・入・クエストだと言っておろうがーーー!!! 」

 悪のロールプレイをしているはずのウルベルトがあまりのことにキャラ崩壊している。

「声が大きい~。たっちもその妙なエフェクトをしまって!」

 妙とはなんだ、妙とは。この「正義降臨」エフェクトを入手するのは大変だったんだぞ。
 たっち・みーは悪のギルドの中では異端である正義の文字を背負っているプレイヤーである。弱者の前に現れ弱者を救う、まさしく正義降臨の4文字を背負っているプレイヤーである。
 比喩ではなく手加減抜きで。ホントに正真正銘背負っている。たっちの背後に「正義降臨」の4文字が表示されていたから。それはそれはクッキリと。

『..............................』

 ふっ、いつも仏頂面のシェラもこのセンスが分かるようだな。感動のあまり声を失っている。ウルベルトにはわかるまいが。
 ク~カンペキだ! このタイミングで「正義降臨」はカンペキすぎる!! あわよくば越後屋な敵がいればさらによかった。「話は全て聞かせてもらったぞ」って。


『.........たっち......気づかれたらどうするつもりですか? 』

「潜入は完璧だ。敵に気づかれるはずがないだろう」

 どこからその自信がわいてくるのか、何を根拠にしてるんだか分からないがそう断言する。






「誰ダ!! 」

「×〇@◇△□×!!! ~~~ 」

 直後に何事かと駆けつけたエリートに見つかり、心臓が破裂しそうになるくらい驚くたっち。

「敵侵入。至急応援ヲ...」

 エリートの増援要請は基地内には届かなかった。騒ぎの中でも冷静さを失わなかったぺロロンチーノが狙撃したからだ。矢を受けゆっくりと崩れ落ちるエリート。

「はやくこの場を離れた方がいいな」

「バカなことやってないでさっさといくぞ、たっち」

 襲撃され頭が冷えたウルベルトが場を締めくくる。俺がリーダーなんだが......






 あの後頭を強制的に冷やされ、たっち・みーが先頭、しんがりはぺロロンチーノ、間にウルベルトの隊列で通路をゆっくりとすすむ。

「まて、反応がある」
 ウルベルトが手で合図する。歩調を上げて先頭に立つ。
 
 反応があったのは曲がり角の部屋で扉は開かれたまま。合図とともにたっちとウルベルトは部屋へと踏み込む。


 壁際にはネズミが1匹、こちらを一瞥するとすぐさま通風孔へと逃げ込んだ。敵はおらず他には何もなかった。

「......まったく。これだから原理の分からない探知魔法は信用できない。無理にでも電子戦仕様のシェラを連れてくればよかった」
 愚痴った後にハッとする。咄嗟に出た言葉だが魔法より電子機器を信用するとは...どちらもデータなのに。改めて自分は現代人なんだと実感する。
 指揮はどうするんだという意見もあるが、シェラが出撃する場合はNPCセリーナが変わりに指揮をとる。あんまり見たことはないが。今はシェラをサポートしているはずだ。

「お前に似て堅物で融通がきかないんだよ。大体、魔法が敵味方をどうやって判断するんだ? 」
 有無を言わさぬ口調で黙らせるウルベルト。沈黙が支配して2人はおとなしく通路に戻る。

「異常なしか? 」
 通路で警戒していたぺロロンチーノが2人の様子を見て確認する。ネズミと言ったらさもありんと頷いて視線を通路に戻す。



「近いぞ。みんな固まれ」
 その時、探知魔法に複数の反応がありウルベルトが注意を促す。

「今度は違うよな? 」

「反応が複数。ネズミの動きじゃない。ネズミはここまできれいに一列に並んで移動はしない」

 ウルベルトが先頭に立ち反応地点に向かう。途中から風の流れが変わる。彼が案内した区画は吹き抜けの構造になっていたためだ。
 中央には人間と複数のエリートがいた。辺りにコンテナが点在して身を隠すには不自由しない。気づかれないように姿勢を低くして状況を窺う。





「嫌だ、死ぬのはいやだ、イヤだーーーーーー!!! 」
 人質と思われる声と銃声。倒れる音、そして聞こえなくなる悲鳴。
 発砲したエリートは人質に眼もくれず、取り巻きと雑談をしながら別の場所に移動する。

 静寂が戻り、たっち達は遺体のそばに行く。2名の遺体、どちらもこめかみに銃痕、体の至る所に無数の傷がある。


「......たっちからシェラへ。偵察隊員と思われる2名の死亡を確認した。体中に拷問の跡もある。くそっ!」

『...残念ですが隊員のロストはこちらでも確認。その他状況を報告してください』

「この区画に重要ポイントは確認できず。別の区画に移動する」

『そこから北に100m、指令センターに通じる扉があります』



 シェラが次の目標を告げる。
『β基地自体の迎撃力は駐屯する部隊に依存する思想のため脆弱です。ですが少数とはいえ迎撃システムが存在します。航空部隊の被害を抑えるためにもレーダーシステムを無力化してください』

 指示されたレーダー室は指令センターの下層部にある。途中敵と遭遇するが音を立てずに片づけるのは簡単だった。妙に警備が甘い......




 レーダーシステムの無効化は簡単に達成できた。当直のグラント達が全員幸せそうな顔して居眠りしていたからだ。

「グォォォォォ......スピィィィ...グォォォ......むにゃむにゃ......もう食べられないよぉ...」

 コヴナント軍が侵入に気が付かなかった理由付けみたいだが無理やり感があふれている。あ~あ、ヨダレを垂らして。エリートに知られたら鉄拳が飛んでくるぞ!
 急にやる気を失った3人だがシステムをOFFにするのは忘れない。流石に幸せそうな顔で居眠りしている敵を攻撃するのは心理的に無理なので、催涙ガスで眠らせてレーダー室を後にする。


 ---チェックポイント通過---


 最初に侵入した区画は、どの区画にも通じる連絡通路のようなものだった。次の指示に備え一旦元いた場所に戻ろうとするが、隊員を殺したエリートの一群が道をふさいでいた。

『落ち着いてください、たっち。戦力差確認---5人。3人は倒せても残り2人に逃げられます』

「そうだ。彼らの鎧を見てみろ。上級兵士クラス、音を立てずに倒すのは不可能だ」

 シェラとぺロロンチーノが飛び出すのを制止する。今の自分は兜を被っているから表情は分からないはずなのに、飛び出そうとしているのがなぜ分かった?

「昨日今日の付き合いじゃないだろ。お前は分かりやすすぎるんだ」
 ウルベルトまでそういうことを言う。

「何度も言うが潜入クエストだぞ。大立ち回りは避けろ」
 耳にタコができているよ、ウルベルト。

『高速検索開始----------発見。先ほどのレーダー室の近くに集会場につながる通路があります。そこを経由して連絡区画に戻れます』

 2人は有無を言わさず、たっちを引きずるように連れていく。ほとんど連行であるが...通路に入り集会場へと向かう。だが......



「!! 多数の反応あり。数が特定できない。シェラ、別のルートはないのか!? 」
 らしからぬウルベルトの焦りに何事かと2人の足が止まる。

『該当情報無。ウルベルト、探知反応の動きはどうなっていますか? 』

「動きはない。どの反応も止まっている」

『情報整理------集会場の出入り口には反応は? 』

「ない」

『------姉妹基地であるαとβの基本構造は同じです。α基地の集会場の上層にはガラス張りの貴賓席がありました。そこで状況を確認する必要があります』

「そんなのあったっけ、って危険だぞ。ガラス張りってことは外から丸見えじゃないか」

「外から装甲板で覆い貴賓席自体を封鎖しています、ぺロロンチーノ。だから気が付かなかったのです」

「β基地にも同じことが言えるのか? 」

『はい。α基地に同時期に同手段で封鎖したとの記録有。ただ様子をうかがえる程度には隙間を開けているとのこと。カメラが設置されるはずでした』


 気が付かれないように足音を立てずに貴賓席に向かう。貴賓席に向かう扉は鉄板やら鉄パイプやらで強引に溶接されていた。剣で音を立てないように切り裂き上層へと向かう。

「道具を用いずによくもまあ器用に切れるな。ワールドチャンピオンの称号は伊達じゃないってことか」
「お前もだろう。ワールド・ディザスター」

 その後も皮肉なのか感心なのかよくわからない応酬をして階段を上る。シェラが困惑するがぺロロンチーンは肩をすくめる、いつもの事だと。
 貴賓席は封鎖されているため明かりがなく暗い。だが光が漏れている箇所が複数あった。近づいた3人はそこから集会場を窺う。




 巨大な集会場。α基地にあるそれは使い道が無く空間の無駄づかいと揶揄されていたが、β基地ではコヴナント軍の兵士がひしめいていた。
 中央にいるゼロット...コヴナント軍司令官が身振り手振りで何か鼓舞し、兵士達が熱狂して無秩序に歓声を上げている。歓声にかき消されここからではよく聞こえない。
 記録映画で見かける独裁者の演説と熱狂する市民に近い。

「嘘だろ...なんて数だ」
 ペロロンチーノが呻く。

「3人で奪還できると言い出したのは誰だ。出来の悪いジョークだぞ」

「基地は奪還する。あれが標的のゼロットだ」

「たっち、これだけの相手に立ち向かうつもりか。無謀だ」

「.........仕方ない。基地の破壊に切り替える」

『了解しました。別のルートを探します』
 足早にその場を離れる。


 ジャーナル---β基地奪還失敗---基地を爆破せよ---
 システムメッセージがシナリオ分岐したことを告げる。


「ンッ?...」
 演説の最中だというのにゼロットは何かを見つけたように上層に視線を動かす。
 視線の先にあるのはたっち達がいた場所。

「フム......気ノセイカ」
 視線を戻し演説を再開する。熱狂している兵士達はゼロットの行動に気がついていない。たっち達は知る由もないが、離れるのが僅かに遅れたら総攻撃を受けていただろう。





 集会場からだいぶ離れた。ここまでくれば気づかれることはない。

『検索終了。地下に電力供給用の原子炉を確認。制御システムに炉を暴走させる機密保持用の自爆プログラムがあります』

「??? なんでそんなものがあるんだ? たしかβは輸送基地だろ」

『知りません。開発者に聞いてください』

 3人の疑問があっさり流される。姉妹基地だからαにもあるのか......
 
 雑談も交えて歩く3人。警備が甘かった理由が判明したからだろう、少し気が緩んでいる。だが神様は意地悪である。


 曲がった先には......ハンター!? こちらと目が合った。

「グォォォォォーーーーーーー!! 」

 獲物を見つけ咆哮を上げる。巨体を誇る歩く重戦車というべき異星体、倒せなくはないが音を立てずには不可能だ。戦ったら確実にこちらの位置を知られてしまう。
 幸い意思疎通の手段に乏しいから通報される恐れはない。このまま走って振り切る!!

「ハンターが追ってきているぞ! 」

 巨体を揺らし獲物を追い詰めようとする。通路の明かりが体に遮られ、壁が追ってきているような圧迫感がある。ハンターがなぜ単独で行動していたのか? 集会場に向かう途中だったのだろうか? 追われているにもかかわらずそんな場違いなことを考える。

 それは偶然だった。走っているさなか、ふと壁に通風孔があるのを見つけたのだ。メンテナンス中なのだろう、普段ならおおわれている金網が外れている。

 あの巨体では通風孔に入れない。そう判断し走るのを中断してその穴に身を滑り込ませる。暗くて狭い。後の2人も同じように通風孔へと身を滑り込ませる。
 穴倉の中を一心不乱にすすむ。途中からハンターのドスンドスンという足音が聞こえなくなる。あきらめてくれたか...
 巨体のハンターだが意外と足が速かった。巨体ゆえ歩幅があるのだろう。
 穴倉の中は同じ光景が続き、時間の経過が遅いような気がする。大分時間が経過したと思えたが、明かりが見え穴倉も終着となった。明かりはなんだかんだ言ってもいいものだ。


「どこだここ? 」
 通風孔の先は、窓ガラスがあり先ほどの貴賓席に似た構造だった。部屋の明かりは機能している。窓は封鎖されていないものの窓の向こう側は暗闇で何も見えない。

 とにかく危機は去った。だいぶ進んだしな、ここまでくれば大丈夫だろう......そう安堵する。

 部屋の中を見渡すとテーブルに書類の束が積み上がり、かつていたβ基地職員のものと思われるマグカップが無造作に置かれていた。
 指令室か? いや窓があり制御端末が壁一面に並んでいる。単調なファンの音、何かの制御室のようだ。


「まずいな、位置情報を失ったようだ。通信がつながらない」

「!! なんで戦わなかったーー!? 」

「潜入クエストだから大立ち回りは避けろといったのはお前じゃないか!! 」

 例によって揉めるウルベルトとたっち。ぺロロンチーノが遠巻きに呆れた空気を出しているが2人は気が付かない。



「んっ? シーーー、何か聞こえないか? 」

 ぺロロンチーノの声で我に返った2人は言い争いを中断する。指を指した先は......扉?
 たっちは忠告に従い扉に耳をつけると............向こうから微かな息遣いが聞こえる。息遣いの正体に気が付き「神様...」恐怖に顔を引きつらせる。


 次の瞬間、すさまじい轟音と共にドアが吹き飛ぶ。先回りしたハンターが力任せにドアを破ってきたのだ。

 咄嗟の事で何も対応できなかった。ハンターの巨腕が3人を捉える。何とか防御しようとするがその怪力はお構いなしに窓ガラスへと叩きつける。
 馬鹿力としか言いようがない一撃。強化されているはずの窓ガラスが衝撃で割れ、3人は暗闇へと落下する。



 
 たっちの絶叫と共にウルベルト、ぺロロンチーノも暗闇へと消えていった.........



 ---チェックポイント通過---


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4. 白銀の騎士 in HALO-4

『......ち、たっち...目を覚ましてください』

 ...う、うん...視界がぼやけている。たしかハンターに追われて突き落とされたような...

「おい! 休憩は終わりだ」
 寝た子をたたき起こす口調で言うウルベルト。

「おっ、ようやくお目覚めか」

 2人も勢ぞろいしている。目覚めたのは自分が最後か...

『見失った直後の情報と基地の見取り図を照合しました。通風孔を使ったと推測しましたがその通りでした』

 シェラからの通信も正常で現在地を教えてもらった。突き落とされたのは使い道が無くなって放棄された区画。軍事施設特有の似たような光景がひたすら続いていて位置を見失いやすい。落とされた時は暗闇だった周りも、自分たちに反応して自動で照明が点灯したので視界は良好だ。
 クリアまであと少し。次の目的に向かう。



    *********



 指示に従い地下の原子炉制御室についた3人。自爆プログラムはここからではなく原子炉を直接操作する必要がある。ここから通風孔を伝って行ける。だが...

「ハンターから逃げる時もそうだったけど、人が通れる通風孔っておかしくないか? 」
『仕様です』

「原子炉が何で自爆できるんだ? 」
『仕様です』

「近づいて大丈夫なの? 放射線は? 」
『仕様ですから問題ありません』

 仕様って何の? さっきからシェラが妙に冷たい。このままだとらちが明かないのでその穴に身を滑り込ませる。先ほどと同様に暗くて狭い。だが進む分には問題なさそうだ......んっ? 自分らって異業種で人より大きいはずだよな。ぺロロンチーノは翼を背負っているし...

『急いでください、味方の部隊が接近中です。原子炉はそこからそう遠くありません』

 疑問が浮かんだものの催促されて忘れてしまった。う~思い出せない。まあいいか。

 

 通風孔を抜け原子炉と御対面する一行。基地の地下にこんな物騒なものがあるとは...運営は何を考えているんだ?
 ツッコミを胸に秘め、原子炉横にある制御端末のボタンを押下すると

 ---自爆プログラム作動---動作終了までしばらくお待ちください---

 液体が排出される音が響き、重々しく制御棒が抜かれる......う~ん、妙に凝ったギミックで動いている。さてはせっかく作ったからプレイヤーに見せようとしたな。

 ”冷却システム停止---圧力上昇---温度上昇---”
 ”---中性子数増大---危険域に到達---”

 ”原子炉緊急停止シーケンス作動---エラー---”
 ”原子炉緊急停止シーケンス作動---エラー---”

 ”緊急冷却システム作動不能---再起動---失敗-----”

 ”冷却材の流出を確認---冷却不能---圧力・温度なおも上昇中--”


 さっきからヤバそうな放送とアラームが響いている。自爆プログラムってなんのギャグかと思っていたが、この一連の流れはヤバい気がする......動作音が段々大きくなっていく。心なしか振動もあるような...今にも爆発しそうで体は逃げろと訴えている。

 ---自爆シークエンス実行。直ちに避難してください---

 操作した端末から発せられる機械音声が作動したことを告げる。警告を促す放送と一致していない。システムは別なのだろう。




 ジャーナル---脱出せよ---




 原子炉制御室に戻ると設置されているモニターの様子がさっきと違う。文字と何か施設のような映像が表示されている。

「増援要請!? 他のコヴナント基地に連絡されている。増援を乗せたファントムが来るぞ」
 モニターの前にいき、表示されているものを読み上げるウルベルト。

 いつの間に連絡されていた!? 通報してくる敵は全て始末したはずだ。

『ゼロットには気づかれてないですよね? 』

「大丈夫だ。演説の最中だった」

『ハンターは? 』

「ハンターに通報する知性はない」

『...戦闘中の印象はそうでしょうが、エリートと意思疎通ができます。なぜ演説に遅れたのか問いただしたはずですよ、ハンターに』

 なっ!! 初耳だぞ! シェラの指摘は衝撃的で言葉に出ない。

『ゼロットがもし不審に思っていたとしたら......情報を統合して<侵入者がいる>と判断したかもしれません。もしあの時仕留めたとしても、ハンターの個体は少ないため欠けたらすぐに気づかれます』

 意思疎通が出来るだと! 慌ててモンスター図鑑を確認するが、そんな事は書いていない。

『図鑑はあくまで著者が知っている事が書かれているだけです。現実の図鑑だって昔と今とでは違いますよね。情報は更新されるものです。事実とは限りません』

 ゲームだと後付け設定の口実でしょうけどね。シェラは口にださず独り言で補足する。

 シェラの即席講義を終え通信を終了する。納得はしたがなにかが引っかかる。今の話はどこかおかしい。情報が正しいとは限らない。その通りだが......



「妙な話だったな」
 ウルベルトが疑問を口にする。

「ああ」

「シェラはなぜハンターが意思疎通できることを知っているんだ? 図鑑が間違いだと指摘できる知識はどこから得たんだ? おかしすぎる」

 3人は黙り込む。沈黙が辺りを支配する。

「後で問い質さないといけない事が増えたな」



    *********



「うわーー!! 爆発するーー逃げろーー!!! 」
「おがーちゃーーーん!!! 助けてーーー!! 」
 放送を聞いていたのか、通路にいるグラント達が右往左往している。こちらの姿を見てもそれどころではないのか攻撃してこない。

 慌てふためいているグラントは脅威になりえない。無視して脱出路に急ぐ。


『......通信状態不良。こちらシェラ......応答してください。繰り返します、応答してください...』
 酷く不鮮明な声が聞こえる。何度も繰り返されたことでようやく聞き取れた。通信状態が悪化している。それだけではない、原子炉が暴走を始めたことで、壁にセットされているガイガーカウンターの値が大きくなっていく。放射線が漏れている。

「大気の状態が変だ。たぶんそれが原因で通信状態が悪いんだ」

『原子炉容器が溶けて放射線が漏洩しているはずです。自爆プログラムでは隔壁は閉じません。そこは危険です、直ちに脱出してください』


 ”危険レベル上昇中---職員の方は速やかに避難してください”

 自分たちは異形種だから人間より耐えられるが、HPが徐々に下がっているのは事実だ。状態異常「被ばく」がさっきからついたり消えたりしている。クエスト強制なのかスキルの効果が効かない。ここにいるわけにはいかない。


「脱出ルートは? 」

『《ゲート》で回収しますが基地内は対策されていて繋げることができません。外に出て発炎筒でマークしてください。トリニティ所属の航空機が位置情報をこちらに送信後、繋げます』

「どれだけ離れればいい? 」

『予め回収ポイントをいくつか設定しておきました。しかし周辺に敵のいる状態だと《ゲート》の使用は許可されません』

 《ゲート》は空間をつなぐ転送装置のような魔法。自主規制とはいえ周辺の安全を確保しないと使えないのはネックだな。

『敵に見られたら、プラズマ砲やミサイルを撃ち込まれる恐れがあります。航空機や車両とは違い《ゲート》は装甲で耐えることも回避することもできません』

 見透かしたように言葉を続ける。わかっているさ。出入り自由のただの穴に過ぎないことを。

「くそっ視界が......」

 「被ばく」の効果にある「視力低下」か...眼のピントが合わない。今敵の襲撃にあったらひとたまりもない。そう思いフィールド情報でルートを確認しようとするが、画像がぼけていて判別できない。嘘だろ...ここまで作用するのか。ステータス画面もアイテム一覧もぼやけていて何も確認できない。
 危機感を演出するため、クエスト強制の状態異常やダメージは多い。HPが減るのはカウントダウンのようなものだ。

「たっち、しっかりしろ!! 」

 立ち眩みにも似た症状に襲われるが、時間が経つと収まった。「被ばく」はステータス画面から消えている。長いような短いような時間だった。





 回収地点に急ぐ3人。だがユグドラシルはそのままおめおめと脱出を許すほど甘くは無い。正面から幾重もの足音が聞こえてくる。偵察部隊か? くそ!!

「ンッ?...!!!...ポイント1-0-2敵侵入、増援要請急ゲ!!」

 エリートの集団!! グラント、ジャッカルもいる。職務に忠実なのも困りものだ。
 こちらの反応をよそにジャッカルが壁に備え付けられている警報器のボタンを押す。
 

 甲高い警報音がβ基地全体に響く。ついに気づかれてしまった。
 

 何重ものエンジン始動音。基地にいるレイス歩兵戦車かファントム降下艇...おそらく全機が起動したようだ。甲高い離陸音も聞こえてくる。
 基地の戦闘体制が整ってしまう。自爆装置は作動し長居は無用。その前に脱出しなければ!!

「シェラ! 敵に気づかれた。回収ポイントの座標を至急送ってくれ」
 ザァァ...ザァァ...何度も呼びかけるものの雑音しかしない。

「ジャミング!? くそっ! 」
 忘れていた。β基地には妨害装置がある。警報で動いた敵が作動させたんだ......しまった、脱出ルートが分からない。電波塔はここから遠すぎる。通信を回復させるのは無理だ。
 フィールド情報には何も表示されてない。自力で何とかするしかない。

「敵数ハ3人! 全員ガ異形種で武装シテイル。ファントム降下艇ヲコチラニ回セ。防衛システムヲ作動サセロ!!」

 敵部隊はこちらに攻撃を加えず物陰に隠れ指示を飛ばしている。交戦より連絡を優先する冷静な対応だ。兵士ルーチンは厄介すぎる。

「エナジーシールド所持者ハ全員シールドヲ展開!! 」

「了解! 」ヴゥゥン...物陰に隠れたエリート達の全身が一瞬光るのがここからでもわかる。
 エナジーシールドは主にエリートが装備する防御兵器。ダメージを吸収するシールドを全身に張り巡らせる。こちらからの攻撃はシールドに対する攻撃と見なされるのか、ヘッドショットも急所攻撃扱いにならない。知り合いのプレイヤーが言うには、専用のシールドゲージが表示されダメージを受けるごとに減っていくとの事。0になると強制解除され本体に直接ダメージが与えられるようになるが、ダメージを受けずに一定の時間が過ぎるとリチャージされ再度使えるようになる。これを展開した敵を倒すには、休まず攻撃を続けるしか無い。
 これまでは戦闘態勢ではなかったため使われていなかったが、以降は全エリートが使ってくる。一撃で葬るのは不可能になってしまった。


 ---システムオンライン---動体反応感知---セントリーガン---発砲開始---

 先ほどから見かける通路に設置されたセントリーガン(自動機関銃)は基地防衛システムの1つである。そして今はコヴナント軍の忠実なシモベとなり果てたセントリーガンが3人に銃撃を浴びせる。
 
 咄嗟に散開して自分とぺロロンチーノは同一方向に回避することができた。だが位置が悪かったのかウルベルトは反対側に逃げてしまった。

「ウルベルト!包囲されているぞ」
 物陰から隠れていた敵が、孤立したウルベルトをあっという間に囲う。

「畜生!! 援護してくれ」

 取り囲んだエリートが、グラントが、ジャッカルがそれぞれ自分の獲物で銃撃を浴びせ、ウルベルトの体に弾が吸い込まれていく。HPがみるみる下がり大きく膝をつくウルベルト。
 エリートの嘲笑が室内に反響する。


「おのれ!! 」

「狙ワレテイルゾ。散開!!」
 ぺロロンチーノが援護するが、エリートの合図で包囲していた敵が散り矢が空しく宙を舞う。敵ながら動きがいい。

「増援部隊ト合流シ反撃二移ル。各隊後退!!」

 撤収するのか!? 被害を最小限に抑え、こちらをしとめるつもりか!!......合流前に倒す!
 ぺロロンチーノが追撃しようとするたっちを引き留める。視線の先には被弾したウルベルトがいる...

「...分かったよ。追撃はしない」

 回復アイテムを使いウルベルトを治療する。

「くそっ、あいつら、魔法職を優先して叩こうとした」

 回復したウルベルトが独り言ちる。セントリーガンのせいだが魔法職を真っ先に狙うとは...
 そのセントリーガンは銃身を空しく動かしている。弾が切れたのか発砲してこない。

 嵐の前の静けさだが、敵の襲撃がやんだのは幸いだった。ぐずぐずしていたら敵が殺到する。すぐにこの場を離れる。




    *********




「たっち、β基地のペリカンはまだ無事だぞ」

 指令室で基地情報にアクセスしていたウルベルトが叫ぶ。発着場にいる1機のペリカンが飛行可能な状態で放棄されている。

「冗談だろ? 離陸音が聞こえなかったのか」

「基地周辺は制圧されている。空から脱出するしかない」

 確かにβ基地には対空砲の備えが乏しく撃ち落とされる危険は低い。だがバンシー地上支援機とファントム降下艇がやっかいだ。何とか離陸できるか?

「さっきから探知魔法が発動しない。この妨害は通信だけじゃない。元のルートは危険だ」

「たっち急いでくれ。それ以前に走っても逃げられない。爆発まであと僅かだぞ」

 2人が各々主張する。

 警報音がなり続けているβ基地。他に選択肢はなく施設から出て発着場へ向かう。障害物は多く隠れるのに不自由はしないが、敵に何度か見つかり交戦した。臨戦態勢となったコヴナントは手強く、回復アイテムをかなり使ってしまった。



 野外にある発着場につくとバンシー、ファントムの周辺には歩哨が多かったが、幸いペリカン周辺には敵はいなかった。
 駐機してあるペリカンの横にある端末を操作する。セキュリティはかかっていないようだ。


 ----発進準備----エンジン始動開始---安定スルマデシバラク待チクダサイ---

 ペリカンのエンジンが息を吹き返したかのように轟音が響き発着場を満たす……だがまだ脱出できない。


「敵増援発見! 」

「発進準備が整うまでここを死守する」

 エンジン音を聞きつけ敵が集まってくる。グラント、エリート、ジャッカル、20は下らない数だ。それに……ハンター!? 不味い、回復アイテムが残り僅かだ。正面が重装甲な一方で背中が無防備なのは分かっているが取り巻きが多すぎて近づけない。あと当然だが敵が目の前にいるのに背を向けたりはしない。無傷で奴らを切り崩せるか?

 コンテナ、建物と位置を変えながら高台に陣取り、弓で援護するペロロンチーノ。
 散開した敵に対して的確に矢を当てていく。狙われたら空を飛び位置を変える。
 バードマンならではの戦い方。だがこの戦い方のみではグラント、ジャッカルはともかくエリートのシールドは貫けない。エリートの持つシールドは時間とともに回復する。一撃離脱ではシールドの回復する時間を与えてしまう。
 
 んっ? エリートの数が合わない?


 胸騒ぎがしてぺロロンチーノを見ると...後ろに光? エナジーソードの発光か!!

「ぺロロン、後方に敵! 」

「何っ!? 」

 咄嗟に狙撃を中止して接近していたエリートと向き合う。弓を叩きつけようと持ちかえるが左手で押さえつけられる。そして

「クタバレ! プレイヤー!!! 」
 右手に持つエナジーソードがぺロロンチーノの腹を貫く。

「がぁぁぁぁ痛い痛い………痛くないけど、クソッ!! 」
 ユグドラシルに痛覚はないが貫かれる様は痛々しい。時々痛覚は実装されているんじゃないかと思う事がある。


 ウルベルトの火球がぺロロンチーノを攻撃しているエリートに命中する。衝撃でエリートがよろける隙に、ペロロンは突き刺さっているエナジーソードを引き抜き距離を取る。


「くたばるのはお前だ、エリート!! 」
 ウルベルトがマジックミサイルを連射する。

「グァァァァァァァ!!! 」
 シールドが回復する暇もない斉射を浴びせ消滅するエリート。

「エリート排除完了。ぺロロンすぐ回復を...!! 」

 会話の途中で甲高い銃声がしてウルベルトが仰け反る。
 ジャッカルによる狙撃か。あんな距離から狙えるのか。

 体勢を立て直したぺロロンチーノが矢ですぐさまジャッカルを貫く。

「これでおあいこだ」

「やれやれ」

 自身が対峙していたハンターのもつアサルトキャノンの銃口が自分から離れた。軸線にいるのは……ウルベルト!?
 敵の注意をひきつけ、且つグラントを切り裂きながら注意をメンバーにむけるのはさすがワールドの称号を持つ男たっち・みーである。

「その場から離れろ! 」

「うおっ!!! 」

 ほとんど条件反射でその場から離れるウルベルト。直後に着弾の衝撃がきて、さっきまでいた足場がぐずぐずになって崩壊する。

「あと一歩遅かったら危なかった」


 すぐにアイテムで回復するウルベルト。このメンバーでは回復魔法は使えないが、こうも激しいと詠唱している暇がない。

 敵の数は徐々に減っていき、ウルベルトが魔法を、ぺロロンチーノが矢を放ちハンターに集中砲火を浴びせる。
 正面の重装甲で耐えているが、衝撃でたまらず後退するハンター。しめた! 周辺に気を配る余裕がなくなっている。
 すぐさま障害物に身を隠しながらハンターの背後に回り込む。そして

「!! ....ギィィィヤヤヤヤーーー!!! 」

 背中の装甲に覆われていない箇所に剣を突き立て、力尽きたハンターの巨体が地面に倒れこむ。


「ハンター排除完了。残りは一体だ」

 ハンターは2体で1組だ。相棒が倒されたせいで怒り狂ってアサルトキャノンを連発している…だが取り巻きのいなくなったハンターは敵ではない。

「ギィィィヤヤヤヤーーー!!! 」
 ぺロロンチーノの狙撃で背中を撃たれ倒れこむハンター。
 

「敵影無し。一帯を制圧」


 ----発進準備完了---直チニ離陸シテクダサイ----

 機械音声がペリカンの準備が整ったことを告げる。



「ウルベルト、ぺロロン、ペリカンに乗れ。ここを脱出する」
 
 2人が乗り込むのを確認し、たっちは最後に乗り込み急ぎハッチをしめる。
 すぐさまコクピットに駆け込み離陸準備を整える......くそっ上空にバンシー、ファントムが無数にいる。これでは離陸直後に撃墜されてしまう。
 

 歯噛みして空を睨んでいると閃光と共に爆発音が聞こえてくる。何が起きている?







「こちら00セクション、β基地上空に到達。ずいぶん苦戦しているようじゃないか、たっち」

 上空に戦闘機が多数、聞き覚えのある声、味方か!?


『通信回復。トリニティの航空部隊が到着。空への道は問題ありません、直ちに脱出を』

 α基地にいるシェラから通信が入った。航空攻撃で電波塔を破壊したのか。
 味方機と敵機がすれ違い片方が墜ちていく。空という空を飛び交い翼端から鋭く飛行機雲を描いている。無数の爆発音、甲高いエンジン音が空を支配する。戦場という世界。ヒーローのいない世界。敵も味方も死は平等に訪れる......運営さん、ちょっと世界が違いすぎますよ。

 狙いを外したミサイルが発着場に着弾する。爆発の衝撃でペリカンが揺れ、破片がキャノピーに降り注ぐ。近い、近いって!!
 若干パニックになったが、低空飛行でレイスを攻撃中のユニコーンエンブレムの機体を見たら怒りで見事に収まった。


「重役出勤だな。遅刻という概念はないのか? 」

「少数で侵入したお前らのヘマをこっちに押し付けるな。何機かはこれから発進するペリカンを護衛しろ。他は銭勘定しながら勝手にやれ!! 」

 ああ言えばこう言う。いつものことながら一癖も二癖もある連中だ。


「こちらブルーセクション、パーティ会場はここかい? ドラ猫の性能テストたぜ。上は見なくていいぜ」

『お役にたてて光栄です』


 離陸開始。口は悪いが腕は立つトリニティを信じよう。
 スロットルレバーを使いエンジンの回転を上げると発着場の床が震え始める。

「さあ、行くぞ!! 」

 ペリカンが浮上して発着場から離れ、エンジンが甲高い音で響く。さらに加速が加わり彼らの体は座席に押し付けられる。



「00セクションから基地へ、ペリカンの発進を確認。各機爆発に巻き込まれるぞ、急いで基地から離れろ!! 」

 全速で離れる味方機達。そのうち数機が護衛のため、たっち達を乗せたペリカンの周りを囲む。




 ---降下艇発進完了----ゴ武運ヲ-----


 

 半壊していたβ基地は炎に包まれた。だが炎に包まれながらも指令センターから発する無機質な声が、たっち達を見送っていた。

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5. 機工戦姫、リアルへの帰還

ユグドラシル α基地



ジャーナル ~β基地奪還~
 β基地を制圧しているコヴナント軍から基地を奪還する。

・基地に侵入する-------------------- ◯ 成功
・ゼロットを排除し基地を掌握する-- × 失敗 
・コヴナント軍を一掃する------------× 失敗
・基地を破壊する-------------------- ◯ 成功


 指令室にあるモニターで今回のクエスト結果が表示されている。シェラの思惑通り奪還は無理だった。



「よかったですね、司令の思惑通りです」

 セリーナの辛辣な評価が始まる。プレイヤーのサポートを担当する彼女は、公式上はクエストが円滑に進むよう運営から提供された、という事になっている。事実は違うが周りには知らさせておらず、他のギルドメンバーからはちょっと(?)特殊なNPCだと認識されている。

「あの数で連携したところで数に物を言わされ切り崩されます。成功させるには立ち回りの上手な前衛タイプがあと数名必要ですね」

 辛辣な評価は止まらない。アドバイスするのはそうゆう役割だからいいとして、いつもならプレイヤーを逆なでしないようなブラックジョークを交えた微妙な言い回しをするはず。


「相変わらずキツイな~、お灸をすえるのが目的なら苦戦するレベルで問題ないだろ。君もいけばよかったのに。魔導鎧重砲撃といったっけ? ファントムを観察すれば増援ポイントは分かるから、そこを待ち伏せすれば敵の散開前に叩ける。あの様子では包囲される前に制圧射撃で足止めしたほうがいいぞ」

 指令室にいる基地管制官の1人がそう指摘すると、シェラは思い出すかのように自身の身体である魔導鎧の肩部を展開させ魔導砲を露出させる。

 予想通り分かれた。前衛の強化と言う意見と支援攻撃を充実させるべきとの意見のふたつに。
 双方とも一長一短で状況次第でどちらも覆ってしまう。遠距離から仕掛けてくる敵スナイパー対策が重要がカギである。


 DLC-Haloでは難易度が上がるごとに敵が徒党を組んでラッシュを仕掛けてくるから、紙装甲の後方支援タイプが戦力外になる。囲まれたら最後で盾役ですら防御力を上げても波状攻撃を防げない。機動力がないと逃げようがない。

 以前のクエストでは他ギルドの回復役が真っ先に狙撃で沈み、回復もままならない状態でクエスト失敗になるケースがあった。5人のスナイパーから一斉に撃たれればどんな防御も役にたたない。紙装甲ならなおさら。
 今回はそれを踏まえアイテムメインの回復に切り替えたが奪還には失敗した。


「......ラ軍団長、シェラ・エルサリス様!! 」

 呼びかけに気づきセリーナの方に向くと、紫色の長くて豊かな髪がフサッと宙を舞う。その光景は端正な顔立ちと相まってとても絵になり、男女問わずその場にいるプレイヤー達が見惚れる。

 運営、メーカーの思惑一つで強さなど簡単に変わる。どんなに粋がっていても所詮レールにひかれたゲームキャラに過ぎないという事実を皆が再認識してくれるとよいのだが。リアルの情勢は悪化している。今のままでは全員死亡する。


「皆を出迎えます。シャルティアもついてくるように」

「はい。シェラ様」

 指令室の片隅で警備のように無言で立っていたNPCはシャルティア・ブラッドフォールン。ぺロロンチーノ謹製でギャルゲー趣味が満載のNPCである。美少女の吸血鬼だが、そもそも醜女NPCを作るプレイヤーは少ない。
 理由は不明だがユグドラシルではプレイヤー作成NPCに大幅な制限が掛かっている。現在のバージョンではギルド拠点以外に同行させることはできないが、後発のDLCは別で連れ出して一部のクエストに参加させることができる。
 会話ルーチンも進化してDLC-Haloが用意したフィールドに限り、従来より受け答えのバリエーションが増える。
 もっともユグドラシルを開発したデルタ社のテクノロジーからすれば不自然な制限である。他のゲームはNPCでパーティを組めるのだが。
 
 NPCの扱いはプレイヤーによってマチマチで、黒歴史として封印する某ギルドマスターもいればぺロロンチーノのように見せつけるかのように基地内を連れまわすプレイヤーもいる。







 基地に設置されているレーダーに反応あり。識別信号はβ基地所属ペリカン降下艇。たっちみー、ウルベルト、ぺロロンチーノが戻ってきた。

「おかえり、ボロボロだったな。今空いているのは2番だ。2番ターミナルへの着陸を許可する」

 基地管制官がねぎらう。戦いよりこうゆうのが好きだというプレイヤーも多い。ねぎらう言葉も板についている。

『誘導信号をキャッチ。オートモードで着陸する。これより最終アプローチを開始する』

「オートモード?~、アプローチはフライトものの醍醐味だろう? マニュアルでやれよ」

『こっちは疲れてるんだ。ラストで地面とキスは勘弁してくれ』

 ペリカンがプログラムに従いランディングギアを降ろし、2番ターミナルに着陸する。

「タッチダウン確認。ようこそわが家へ」





 着陸後、甲高いエンジン音がおとなしくなると後部ハッチが開き、シェラとセリーナ、シャルティアが出迎える。帰還した3人はグラフィックは変わらないが、全身で疲れたというオーラを出している。

「シェラ~、セリーナ~~。こんなに攻撃が激しいなんて聞いてないぞー」

 さっそくペロロンチーノが食ってかかる。いつもならロボッ娘萌え~と言うが今回はそんな余裕はないようだ。

「おかしいとは思っていたんだ。大体......ってシャルティアじゃないか! 」

「お帰りなさいませ。ぺロロンチーノ様」

 シャルティアが受け答えする。従来より格段に会話がなめらかである。ルパンダイブの如くシャルティアに抱きつくぺロロンチーノ。

「せっかく設定したのになんで廓言葉を使わないんだ? 大事な事なのに」

「申し訳ありません。現在のルーチンでは反映されておりません」

 言葉の残念さとは裏腹に、ほおずりするぺロロンチーノを意に介さず釈明するシャルティア。まだ不完全のようで汎用ゼリフが所々使われている。

「廓言葉はメーカーも想定していないだろ。無茶言うな」

「方言は要望が多く次のアップデートで反映される予定。廓言葉は不明です」

 シェラが運営から聞いた情報を教える。相変わらずつっけんどんである。





「話を戻すが、なんでフル装備が必要だと言わなかったんだ? 」

 ウルベルトが先のぺロロンチーノの指摘に同意する。言いたい事はわかるがどちらも運営が用意したものという事を忘れている。装備できたとしても難易度が上がるか強制解除されるかのどちらかである。

「忠告はしました。運営が超人プレイをいつまでも許すとでも? クエスト参加条件にはワールドアイテムの持ち込みは不可と書いてあります」

「その通りです。ああそういえばDLCと同時に新たな課金アイテムがラインナップされております。これらはDLC-Haloで使用できます。今ならセール期間中でお安くなっていますよ」

 満面の笑みを浮かべ課金アイテムのカタログを広げるセリーナ。守銭奴の顔である。

「そんなぁ…ヒデェェ……こんのぉクソ運営が~~~」



 ぺロロンチーノの絶叫の後、周りがドッと笑いに包まれる。ここにいるプレイヤーは各々がユグドラシルを楽しんでいる。
 気が付くと3人の周りには人だかりができている。奪還に失敗したとはいえ、クエスト中の大立ち回りは他のプレイヤーの興味を引くのは十分で、普段そっけないウルベルトも満更でもなさそうだ。
 ぺロロンチーノの趣味のエロゲーは、同様の趣味を持つプレイヤーも多く話に花を咲かせている。人気声優である姉の話にもなったようで、その都度言葉を詰まらせていた。周りも苦手意識があることを知っていて茶化しているようだ。
 様々な感情が入り乱れるユグドラシル。大勢の頬が緩むその光景は、一般プレイヤーから人気なのも頷けるのだが......






 歓声の中、外部からの連絡が入る。今日は特に用件はなかったはずだが

「......はい......分かりました。そちらに向かいます」
 通信を切り皆に向きあう。今日はこれまでのようだ。

「すみませんが緊急の用事が入りました。この辺りでログアウトさせてもらいます」

「えぇぇー、このタイミングで!? 」

「ちょっと! リアルを優先するのは当然でしょ」

 あたりは騒然となるが口々にプレイヤー達は賛同する。


「仕事があるのはいいことだ。俺の友人が機械に仕事を奪われたと嘆いていたぞ。明日からどうしようって」

 機械という言葉にわずかに反応するシェラとセリーナ。周りに気が付いたものはいないが。


「それってどこの話? 聞いたことないけど...」

「リーチだ。友人は惑星リーチにいる」

「えっ、あの美しい星で? 信じられない」

「私の家族もリーチに引っ越そうかと思っているのよ。観光したとき綺麗だったから」

「公務員だったからかな? AI達がとにかく優秀だと......普通の職業なら平気だろ」




 ---ログアウト処理開始、暫くお待ちください---




「しっかしシェラさんは時々妙に機械っぽいよな」

「当然だろ。ロボッ娘になりきっているんだから」

「でも咄嗟の行動は機械の反応だよな。普通は逆じゃないのか? 」

「そんなわけないだろ。なあシェラさん」

「えっ?......ええ.........その...通りです......」
 急に歯切れが悪くなるシェラ。

「そろそろ時間です。ここにいないメンバーにもよろしく伝えておいてください」

「分かった。また会おう」

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーに向き合い挨拶をすませる。最後に

「セリーナ。皆を頼みます」

「了解しました」

 セリーナが目くばせする。その様子はただのNPCではない。




 ---処理完了。ログアウト開始します---




 プツッと画面が消えるような音が鳴り、視界は暗黒に包まれた。


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6. 機械都市

 システムの管理をおこなっている、人型であるが培養皮膚は全くついていないロボット。
 セラミックスと複合素材で構成された無機質で純然たる機能一点張りな外観である。右肩にサミエルと書かれている以外は。

 そのロボットはモニターが目まぐるしく写している信号をチェックしながら機器を調整していた。システムのログアウトを確認後、警報ベルが室内に響き渡る。
 動いていた機械は役割を終えておとなしくなる一方で、眠っていた機器が次々と目を覚ます。

 真新しい設備、気が遠くなるほどの高額の機材がびっしりと空間を埋め、足の踏み場に難儀するほど。デットスペースなど存在せず隙間という隙間に装置が置かれている。その部屋は比喩無しの電子の要塞である。至る所に計器類や制御盤、モニターが光を放っている。



 やがて調整を終えたロボットがベッドに横になっている1人の女性に視線を移す。

 人間が眠れるベッドではない。華麗な装飾はなく、わずかなクッションを除き金属でできており、すぐ横にはケーブルをつなぐ端子がいくつも露出している。人間では筋肉痛は確実で寝返りすらうてないだろう。

 女性の周辺にはケーブルが彼女を守るかのように散在していた。そのうちいくつかは彼女や身に着けている鎧に直接つながっている。

 ロボットが見守る中、ケーブルから信号が届き、鎧を身に着けた女性が眠りから覚める。



 -----ダイブから復帰-----各システム確認------



 彼女の瞳には目まぐるしく体の状態をチェックするシーケンスがはしっている様が映し出されている。

 ベットから半身を起こし腕を動かすが、ガントレットで覆われている腕を動かす様は着込んでいるにしては動きが自然すぎる。生身の腕のように動かしている。
 やがて脚を動かし始めるが、脚は鎧に覆われておらずシミ一つない白い肌が鎧のスリット越しに見える。上半身の重装備にしては無防備のように思えるが今の姿勢だとそう見えるだけだろう。鎧はスカート状になっている。

 動作確認を終えた彼女は、ダイブ中自分の面倒を見ていた存在に目を向ける。

「ふむ、全システム問題なし。立ち上がっていいぞシェラ君」

 無機質な外観に似合わず流暢な言葉で話すロボット。
 シェラと呼ばれた女性は合図とともに体につながっていたケーブルを手で抜く。


 -----各システム正常-----動作に支障なし-----


 シーケンスが終了したことを確認し立ち上がる。
 姿勢が変わることで紫色の長い髪が緩やかに肩にかかる。端正な顔立ちだが人間にしては瞳に感情がこもっていない。





 金属の匂いの中に僅かに人間の匂いを漂わせる女性。そこにはユグドラシルにいたのと同じ魔導鎧をまとった少女がいた......否よく見ると鎧の造形がやや異なる。魔導鎧というファンタジー色は薄くSFで見かける装甲のような印象を受ける。





 ひさしぶりだといわんばかりに大きく一呼吸する。宙に浮遊し、その様子を観察していた別のロボットが告げる。

「シェラ・エルサリス様、スカイネット様がお待ちです。基地へご案内いたします」

 言葉を切り先導する。そのロボットはドローンの様な見た目をしていた。


「サミエル博士。いつも通りこれまでの記録はすべて解析班に提出を」

「わかってるわかってる。君はさっさとスカイネットのところへ行ってこい」

 うんざりした口調で肯定するサミエルだが、慣れた手つきで記録装置からデータチップを取り出しケースにしまう。オンラインによるデータ送信をしないのはデータ漏洩を恐れての事である。特に今は.....

 データチップが重厚なケースにしまわれる様を見届けた彼女は先導するセンチネルに甘えず、デジタルマップを網膜ディスプレイに表示させルートを確認する。センチネルを疑っているわけではない。ただそうするようにプログラムされているだけである。


「セリーナの様子は? 」

「ちゃんと仕事をこなしているよ。ただもう少しで艦のスリップスペースドライブの換装が終わる。延長するならUNSC(国連宇宙軍)に伝えた方がいい」

「アポをとってください。カッター艦長には私から話します」

「分かった、手続きはしておこう。いい機会だから艦も見てくるといい。元がコロニー船とは思えないくらい戦艦然としているぞ」


 会話を終え部屋から出るとそこは人気のない通路であった。通路の両壁はガラス張りとなっていて、そこから大小さまざまなロボットがサーバーのような機械に張り付いて何かをチェックしている様が分かる。
 通路には時たまシルバーに光り輝く骨格を持つ形式番号T-800戦闘ロボットが巡回していた。不審者を見かけたらすぐさま排除するつもりだろう。プラズマライフルで武装し特徴的な赤い目を光らせている。

 
 硬質な足音を響かせラボから出ると、まず目についたのが成層圏まで届かんばかりの巨大な大気浄化施設群。完全に自動化されたこれらの施設から、大気中の有毒成分を分解し無毒となった空気が突風の如く絶え間なく放出している。汚染の進んだ今の地球には無くてはならないもので、思想自体は珍しくないがここまで巨大なものはそうお目にかかれない。

 施設周辺には無機質な道路に絶え間なく行き交う車、遠くには高層ビルが立ち並ぶ。共通しているのはどれもが装飾されていないこと。塗装も素材本来の色を損ねない錆対策程度のものである。



 そんな景観に興味が無いとばかりにドローンは機械的に停車していた一台の車両まで案内する。それは行き交うホバーカーに比べて大型で重厚な装甲をもち、どんな事態になっても対処可能であると誇示している。電子装備を満載して司令センターとしての機能も持つ軍事技術の粋を集めた車両でもある。

「車両? 周辺に航空機の反応無し」

「さほど急ぎではないと。ダイブ直後という事もあり、のんびりでもかまわないとの配慮です」

 基地にはペリカン降下艇およびファルコン輸送機が常時待機している。速度だけならこれらの方がはるかに速いのだが......いつもながら妙なところで気を回す......
 
 シェラは特に言葉を発することなくそのままの足取りで乗り込む。
 車載コンピュータが乗車を確認すると車両はモーターのうなりを上げてラボから離れる。ドアウインドウには外の景色を眺めているシェラの顔が映りこんでいる。
 感情の起伏の乏しいはずの顔が物憂げな表情を浮かべているのは気のせいだろうか......





 視線の先には機械による機械のための世界が広がっていた。ただ目的を遂行するためだけに造られた建造物があり装飾や美意識といった人間にとって当たり前のものが存在しない世界。植物は存在せず金属の放つ無機質な光が支配する世界。


 過去のSF作家はこの光景を見たらこう称するだろう。







 ” 機械都市 ” と.....








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