モンスターが怖いから私はガンナー (友夏 柚子葉)
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プロローグ

なんか周りの皆さんが書いているので書きたくなりました趣味小説です。
エンジョイ勢による適当な事しか書かれてないのでご注意を。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだね。何を語ろうか?

 森の竜人の若者が一角竜(いっかくりゅう)をなんの防具も着けず大型竜の死骸から手に入れた骨を研いで作った片手剣だけで倒した話をしようか?

 それとも雪山の轟竜(ごうりゅう)を倒し、大災害である白き神崩竜(ほうりゅう)すらも討伐して英雄となった者の話でもしようか?

 将又海の狩人が身動きが取りづらい水中で村を襲う地震の元凶である海竜や大海龍を討伐しただけではなく禁忌のモンスター煉黒竜(れんごくりゅう)の心臓すらも刈り取った者の話をしようか?

 

 ------いや、やめておこう。これらはどれもロマン溢れる伝説でしかない。聞くだけ御伽噺にしか聞こえないだろう。だから今回語るのはどこにでもいる普通の臆病な女の子のハンターの話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆ 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁ!!?待って!待って待って待って!Wait!!」

 

 

 

 夜の砂漠に響き渡る悲鳴。

 少女は弓を腰に治めて全力ダッシュ。後ろから迫りくる恐怖を確認しながらどこか適当なエリアに逃げ込みたいと願う。

 

 

 いやな予感がして後方確認。人間に直すとクラウチングスタートのような構えを取っていた。月光のお陰で見えた黒い靄。走馬灯が軽く走る。大地を蹴る轟音が聞こえてきてから1…2…と、数えて斜め前方へ緊急回避。すると頭上を奴が通り抜ける。躱せた…。と安堵してはいけない。

 すぐに立ち上がり即座に右へ前転回避。砂埃が雨のように降り注ぐ。更にもう一回前方へ緊急回避。これで三回目。防具の中が砂まみれ。帰ったらシャワーで洗い流そうと諦めたらしい。その際に砂で水道管が詰まっても彼女の所為ではないのは明らかだ。

 

 

 立ち上がり弓を構える。背を向けている今がチャンスだった。華奢な腕で目一杯矢を引く。そして奴の尻尾めがけて放つ。矢が尻尾に着弾して悲痛な叫びと共に体を震わせ怯む。それを確認した少女はすぐさま矢を構え強力な追撃を放つ。追撃の一矢が再び尻尾に刺さると、その巨体は自らを支える力を失い地面に伏せた。

 

 

 

「…死んだ、かしら?死んだよね?うん死んだ。寧ろここで起き上がられたら私ハンター辞めるからね!?」

 

 

 

 弓を収めてそろ~りそろ~りモンスターに近づく少女。もしかしたらどこかの狂走エキス君みたいに死んだふりかもしれないと疑心暗鬼になりながらゆっくりと歩みを進める。

 

 

 夜の砂漠は寒い。昼間はベースキャンプの日向に鉄板も置かずにガークァの卵を割り落とすだけで即座に目玉焼きになるほど暑いのに昼夜が逆転するだけで焼きたてのこんがり肉が冷めてしまうほど冷たくなる。

 

 

 首元に嫌ぁーな汗が流れる。これは先ほどまで走り回って出た運動による汗じゃないと気づくのにそう時間はかからなかった。彼女の直感が危険信号を激しく点滅させ、すぐさま距離を取り武器を構えろと警告する。

 涙目になりながら彼女は一心不乱に弓を引き続けた。死体であるモンスターに何発も矢を撃ち続ける。

 

 

 

 

 GGGYYYYYAAAAAAAAAaaaaaaaaa!!

「キェェェェェェアァァァァァァオキタァァァァァァァ!!??」

 

 

 

 

 

 咆哮と悲鳴が静かな夜の砂漠を騒がしくする。木にとまり睡眠をとっていた野鳥たちが驚き一斉に飛び立つ。互いに声量は大きく、もはやどちらがモンスターの叫び声かは分からない程それはそれは酷かった。

 残された一本の角が折られた一本の仇を討つと言わんばかりに鋭く尖らせ彼女に威嚇するようチラつかせる。あれほど鋭く太い角で突進され腹を穿かれれば報酬金が減るだけでは済まないだろう。即死すら脳裏に過る。

 

 

 

「このディアブロスは狂竜化しないって言ってたじゃん!!ウイルスだから仕方なけどさァ!断言したからには言葉に責任を取ってもらうわよ竜人お姉さん!!」

 

 

 

 

 狂竜化したディアブロスが憎悪の眼差しで彼女を見つめる。焦りに焦った少女はすぐさま3つの作業を急いで行う。強撃瓶LV.2を矢に装填。弓に抗竜石【剛撃】を防具に抗竜石【耐衝】を使う。

 

 

 

 

「いやぁぁぁあ!!来ないで!来ないでディアちゃん!謝るから!散々矢で攻撃したこと謝るから許して!きゃぁ!?」

 

 

 

 

 突進を前転で回避して弓を放つ。しかし尻尾振りで振りで少女は吹き飛ばされる。ところで謝るから攻撃を止めてくださいと泣きながら懇願している癖に自らは矢を引く動作を止めないとはこれ如何に。

 

 立ち上がった少女は『尻尾痛い…これだから尻尾斬れない弓は…。早くギルドさん味方転ばせてもいいから斬撃属性のワイヤーの付いた矢を開発してよぉ』と泣きながら訳の分からないことを願っていた。

 自棄になった彼女はポーチから閃光玉を取り出しディアブロスの目をめがけて投擲する。激しい光がモンスターの視界を奪う。目が見えなくなったディアブロスはアタフタしながら回転攻撃で回りを薙ぎ払っている。しかし相手は遠距離から攻める弓使い。何の意味もなさない。

 

 

 一発。また一発。まだ一発。もっと一発。ウイルスによって蝕まれた精神に痛みなど感じる余裕がないほど最高にハイッ!って状態のディアブロスだが、着実に自らが死に向かっているのが本能で満たされた脳内で感じ取れた。

 

 

 

 視界がクリアになりあたりを見渡し、敵である少女を確認した。

 イタイ。ニクイ。コロシテヤル。

 

 

 

 モンスターにも感情はある。自らをいたぶってくれた敵を殺そうと一歩前進する。だがディアブロスの片脚はもう機能していなく足を引きずっていた。しかし関係無い。最後の力を振り絞って片角の暴君は駆ける。

 

 

 あと5歩…あと3歩……あと1歩。

 まだ比較的動く片脚で地面を蹴り跳躍する。頭から地面に突き刺さり、少女も貫こうとしたのだろう。

 

 

 だがこの世界は無情だった。

 少女はバックステップでその攻撃を躱した。

 そして最後の一矢をヒビの入った片角に向けて放った。

 角が折れるのと同時に暴君ディアブロスは息絶えた。

 少女は倒れたのを確認して全力ダッシュで距離を取る。念のために弱点である尻尾にペイントボールを投げる。確実に死んでいるらしい。今度こそ…。と思い脱力。仰向けに倒れ満点の星々を見つめる。

 

 

 

「もう…いやだ…今度こそはハンター辞める…」

 

 

 

 

 ギルドの気球が見えたので信号弾を天に向けて放ちサインを出す。

 どこからか獣人族の声とと大型の台車が揺れる音が聞こえてくる。討伐したモンスターを回収するギルドのアイルー達だ。

 

 さぁ帰って辞職願でも出そう。

 

 






ハイ柚子葉です。
他作品の筆が進まずむしゃくしゃして書きました。後悔はありません。
MH4GのHRは850超えたころにXが発売されれてカンストはできていません(´・ω・`)
怯み値 スタン値計算のできないポンコツの書くお話ですがよろしければお付き合いくださいm(_ _)m

超低頻度更新になると思います


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最大値

 

 

 試験前でもない。バイトもない。学校もない。やる事があるとするなら、いかに充実した睡眠時間を確保して、昼過ぎに目を覚し、自然に目が覚めれば二度寝したいと願う頭の欲求に逆らって3DSに手を伸ばしモンハンを布団の中でするという日常を楽しむ使命だけ。オールフリーな休日って凄くいいよね。ビールは飲まないよ?

 3DSの電源を押して起動待つ。その間に現在の時刻を確認するためにスマホを手に取る。時刻は14:23。とてもいい時間。時刻の下には寝ている間に溜まった通知の数々が表示されてる。今日の天気や漫画アプリの更新。青い鳥のSNSの通知。そして緑の吹き出しのメールアプリ。所謂LIN〇。ズラーっと下に同じ送り主からのメッセージが羅列している。

 

 

『起きてるー?モンハンしよ?(05:34)』

『ねぇねぇ~起きてるんでしょー?140ラーラー行こうよ~(05:37)』

『1054素むらs3睡眠虫棒取りにいこ~。1728も出るまで付き合うからさ~(05:42)』

 :

 :

 :

『起きてないんだ…まぁいいや!もう時間だからまた後でね!(07:57)』

 

 

 5分置きにLIN〇を寄越すとは貴女はメリーさんか!?

 大体貴方ならウチの生活習慣と睡眠時間把握してるよね?それに虫棒と大剣じゃグループ違うから2倍あのゴリラ達と対面しなきゃいけないじゃない!もう4桁後半超えてるのにゴール品が出ないとか、もはや作業の領域になっている今、そんなウチにはモチベはない。

 

 そもそも何故貴女はそんなに早起きなの?ラジオ体操すら始まってないよ?あ…今日仮面ラ〇ダーの日だから早起きなのね…それによく見ると放送時間3分前で通知が切れている。視聴した後すぐ寝たんだと思うけど…。子供かな?

 さて、取り敢えず相方に「起きた」とだけ連絡をして…と。そうしたらきっとインターホンを押しに来るはず。

 

 3DSが立ち上がりモンハンを開始する。

 大剣は良いよね。重い一撃。火力。行動を予測して溜めを置く。火力。圧倒的パワー。火力。

 

 P3rdぐらいからだったかな?モンスター達のモンスター達によるモンスター達の為の振り向きが少なくなったのって。

 

突進攻撃をした後は『頭に3溜めを入れてくださいご主人様!』なんて言わんばかりに可愛らしく無防備に振り向いてくれていたあの頃。それが消えちゃったのは。

 だからといって、弱くなったわけじゃ無いんだよね。大剣って振り向きだけじゃないし。

 

何度シリーズを重ねても、その圧倒的火力は健在。動きが遅いって点に目を瞑ればシンプルで扱いやすくて強い。流石にハメとかはヘビィやライトに劣っちゃうけど、それは住む世界が違うから大した問題じゃない。それにクシャのような頭を殴ればダウンが取れるモンスターでは大剣4でダウンハメが出来たりするからね。ただの案山子ですなwwwって感じになっちゃう。

 

 

 

「ふふっ…納刀集中抜刀会心は大正義なのよ!」

「そうだねー。ボクの睡眠と合わせれば寝起きドッキリ溜9だもんねー」

「ヒィィィイイキキィイャヤァァァアア!!!??」

「アヴベェ!?」

 

 

 

 いつの間にかウチの布団に入り込んで隣に居たボクっ娘に憎しみを込めた朝の挨拶に頭突きする。ゴチンッ☆といい音が鳴った。

『Nooooooo!!』と頭を抱えて右へ左へ寝返りを打ちながら悶えている。あまりにもうるさいので布団からの脱出を試みた。

 しかし逃がしてくれない。足を掴まれちゃった!そのままダラ・アマデュラのように足から腰へと体を巻き付けながら登ってきて、終いにはあろう事かウチが押し倒されちゃった。そしてその手は何故か上半身の服の中へ。

 

 

 

「うぅっ…痛いよちーちゃん。脳震盪で倒れたらどうす───むふふ。相変わらずちーちゃんのまな板は薄っぺらいねー。ブラ浮いてこなブベラッ!?」

「う、うるさい!触るな変態!勝手に入ってくるな変態!ブラなんて浮いてこないもん!!女の子の魅力は家事スキルであってお胸じゃないんだから!!」

「流石…ちーちゃんの…石…あた……ま。石だけに…」

 

 

 

 再度頭突き。訳の分からない事を言いながら変態は地に沈んだ。この犯罪者を警察に突き出せばいくら報酬金が貰えるかな?……え?1銭たりとも貰えない?なら裁判かけて不法侵入と強制わいせつと名誉毀損で訴える。それも出来ないならスタンを取れている今この瞬間をチャンスと見て財布から迷惑料を抜き取……4円!?うまい棒どころか5円チョコすら買えないじゃない!イケメン英世さんも、美女一葉さんも、愛しの人諭吉大先生も居ない。なんと…なんと憐れな人なんだろう。

 

 

「ねぇねぇちーちゃん今から朝ごはんでしょ?ボク今日からガスも水道も止められててお湯も沸かせられないの。ここは1つ腹ペコなボクと一緒に円卓を囲まないかい?」

 

 

携帯の充電や仮面ライダーの視聴、3DSの充電ができてる辺り電気代だけはちゃんと払ってるらしい。流石ウチをモンハンに引き摺り込んだゲーマー。

 

 

「はぁ…また止められてんの?それとちーちゃん言うな。ラーメンでいい?というかラーメンしかない」

「塩がいいな!」

「残念ウチは味噌しか食べないから他はない」

「塩を置いてないとは…ちーちゃんの鬼!悪魔!貧に」

「何を言ったかは聞こえなかったけど…次は本気で目狙うわよ?」

「さ、サーイエッサー!」

 

 

 後ろから抱きつき、ふくよかなその腹立たしいモノを自慢するようにウチの背中に押し付けながら何か言いかけたけど、ウチには聞こえなかった。

 ただ確実なのは、このウチにシャープペンシルのキャップ側を壁に投げ付け、反動で跳ね返ってきたのを相手の目にスナイプさせるだけの事をあの畜生ボクっ娘は言いかけたのだろうね。

 

 さて紹介が遅れたけど、このたゆんたゆんな魅惑のボディをした変態ボクっ娘が早朝から5分置きにLIN○を送り続けた仮面ライダーメリーさん。幼馴染みで狩友でウチの数少ない友達。ピッキングに何故か長けてて、よくウチの家の錠を外して入ってくる。プライバシーの欠片もウチには無い。

 

 取り敢えずモンハンは起動したものの、お腹がすいた上にこの変態が来た所為で狩りをする気にはなれなかった。ネギ・キャベツを刻みモヤシと一緒に炒める。炒め終わったら台所の棚からインスタントラーメンを2袋取り出し沸騰したお湯に入れる。後は盛り付けて食べるだけ。

 狭い居間ではウチの布団を畳んで卓袱台を取り出し布巾で拭いていたボクっ娘の姿があった。やっぱり塩ラーメンじゃないのが気に食わないのか不貞腐れながら準備している。けど空腹にスープ程度では変えられなかったらしいね。

 

 

 

「う〜んんん!やっぱりちーちゃんの作るラーメンは美味しいね!」

「インスタントなんだから誰が作っても同じでしょ。それとちーちゃん呼ばないで」

「えぇー?なんでそんな事言うの?いい呼び方なのに…ショボン↓↓」

「ショボン↓↓…じゃないでしょ!?身長があまりにも小さいからちーちゃんってウチそんな不敬極まりない渾名(あだな)は嫌!」

「小さいのは身長だけじゃなくておむn…あっー!あぁっー!!待って!ごめんボクが悪かったからラーメン取らないで!取り上げないで!!」

 

 

 

 ウチの身長は140以上150未満と、いくら女の子とは言えど19歳のピチピチ大学生にしては小さすぎるサイズ。140cm代というのは日本人小学校高学年女子の平均身長と同じ値。いくら経っても小さいままなので周りから『ちびっ子ちゃん』略して『ちーちゃん』と呼ばれ始め、いつの間にか定着してる。決して千尋・千秋・百地のように名前に『ち』が入ってるからちーちゃんと呼ばれてるわけじゃないのに…。寧ろ苗字にも名前にも『ち』なんて一文字も入ってない!

 

 だけどこんな憎たらしく肉々しい身体を持つ幼馴染みとギャーギャー騒ぎながらグータラと過ごす。コンプレックスを常に逆撫でされながらも、この1日はウチにとってもとても楽しい日常だ。

 

 

 

 それから2人とも食べ終わって、昨日の晩御飯に使った食器を合わせて昼ご飯の丼ぶりを鼻歌を歌いながら洗う。鼻歌はモンハンのオープニングやラスボスとの最終決戦で良く流れている<英雄の証>。

P2ndG時代にラオシャンロンに竜撃槍を当てたら流れ始める曲だけど……この曲を聴くためだけにラオシャンロンに挑んで、見事流れる前にロマンの竜撃槍フィニッシュを決めて涙を流した狩人がウチ以外にも何人か居るはず。

 

 

「ふんふふふーん♪ふふふんふんふーんふふふんふん♪」

「ねぇねぇちーちゃん!」

「キャァァァアァァアァ!!??」

「グフゥッ!?」

「ァァアア、あっ、ごごごめん!」

「……ふふっ。相変わらずちーちゃん良い蹴りするね…」

 

 

 気持ちよく英雄の証を奏でながら食器洗いをしていたところ、後ろから音もなく近づき話しかけてきた。驚いてしまったウチは条件反射で後ろ蹴りをボクっ娘のお腹に入れちゃう。流石に悪いとは思うけど、英雄の証と皿洗いに集中してる中足音も立てずに後ろからいきなり話しかけるボクっ娘にも責任があるって言いたい。

 丁度全部スポンジで洗い終わったので泡を水で流して籠の中に置き、それから漸くボクっ娘の心配をする。

 

 

 

「だ、大丈夫?」

「酷いよちーちゃん!いくらボクとは言え女の子の大切な所(下腹部)にキック入れて…」

「そ、そうだね。子供産めなくな…」

「──子供出来ちゃったらどうするのさ!お詫びとしてちーちゃんの慎ましいお胸に」

 

 

 

 ゴチンッ☆

 子供が出来たらの部分で心配したウチが馬鹿だと思い、襲ってきた所に頭突きをして沈静化。これで貞操と暫くの静寂が守られた。

 

 ふわぁぁぁ…と欠伸をして時間を確認するともう15:04。起きてから30経っていた。卓袱台を片付けて布団を敷き直す。そして布団に入り、モンハンをする。

 

 

「140はラーラーか右ラーどっちがいいかな?」

「復活早いね。ゴリラはもう当分いいから右ラーかイビル行こ」

「抱き合わせは?」

「黒ティガ以外ならなんでもいいよ。あの子苦手」

「はいはーい。お隣失礼するよ」

「邪魔よ。貴女用の椅子そこにあるじゃない」

 

 

 

 そうウチが指差す先にはこんな狭っ苦しいボロアパートの1室には不釣合な、リサイクルショップで購入したそれなりに豪華な1人がけのソファが置いてある。この12畳の部屋が狭く感じるのもそのソファの所為だったりする。自分も座るけど、元はボクっ娘がウチの部屋にいる時に座る為の椅子が欲しいって言い出したから、割り勘で出して買った物。しかし買ったは良いものの座ろうとしてくれない。何でだろ?

 

 

 

「だってあそこはちーちゃん抱っこしながら座るところだもん」

「ウチをテディベア扱いするなー!」

「そうそう。さっき聞きそびれたんだけどさー。あ、ラージャン寝たね。極限解けてなくて怒ってもないからボク右側にしびれ罠置くよ。落とし穴よろしくぅ〜」

「ん?了解。ところで聞きたい事って何?1…2…3!」

 

 

 

 抗竜石【心撃】【属撃】を付けたボクっ娘が怒らせる前に極限化ラージャンを眠らせることに成功。ウチは怪力の丸薬を飲み、抗竜石は【剛撃】だけを付けて睡眠3倍溜3を頭に叩き込む。すると起きるのと同時に極限化が解け、確定でハンターから見て右側に大きく転ぶ。そしてその先にはボクっ娘が置いたしびれ罠。

 

 

 すぐに納刀して頭に向けて抜刀溜3。また納刀。抜刀溜3。またまた納刀。抜刀溜3。そして薙ぎ払い。それが済むとしびれ罠の拘束が解ける。そして解けたと同時にラージャンの怒りがMAXになり怒髪天を衝く。怒った瞬間のラージャンの次の行動は確定バックステップ。そしてそして、そのバックステップ先には…ウチが仕掛けた落とし穴。再び納刀集中抜刀会心の餌食になるラージャン。

 

 

 ボクっ娘が攻撃をやめている。それを確認したウチは最後の溜3と薙ぎ払いをして攻撃をやめた。すると落とし穴からラージャンが抜け出し、天に飛び、着地して…寝た。ボクっ娘による2回目の睡眠。

 

「あのね、もしもモンハンの世界に入ったらどうする?って聞きたかったんだよ」

「ん?VRによる仮想世界へのフルダイブでモンハンの世界に行けたらってこと?まぁウチは変わらず大剣使うかな?」

 

 怪力の丸薬を飲み、再び頭に睡眠3倍溜3を叩き込む。ついでに使用武器は<角王剣アーティラート>の極限化【攻撃】。ゴール品が出ずにお世話になった人も多いんじゃないかな?会心率は-20%だけど、抜刀会心を前にすればそんなものは然程問題じゃない。確定会心じゃなくなるけど、8割もあれば充分なんだよね。

 

 

「そうじゃなくてね、ここの世界ハンター大きいから分かりづらいかもしれないけどドスランポスの平均が7mだからね?レックウザと同じサイズだよ?」

「え?逆にレックウザって7mしかなかったの!?そっちの方が驚き」

「そんな大きいモンスターが目の前に出てきたら臆病でビビリでチキンな小心者のちーちゃんが戦えるかなー?って」

「そんなラオシャンロンだろうと糞蟹だろうとウカアカだろうとミラだろうとウチの手にかかれば余裕よ。寧ろ一方的にボコボコにするわ」

「イキリオタクだねー。あ、【心撃】回復したから極限化戻るよぉ〜」

 

 

 

 ボクっ娘の言う通り再度極限化したラージャンを前にしてウチは使ってなかった抗竜石【心撃】を使い、極限肉質に刃を通せるようにする。本当にこのクソ肉質を考えた人に私は小キックハメしてから昇竜拳をお見舞いしてやりたい。そして担当者を天井に突き刺し、社長も辞めさせ、代わりにウチがその椅子に座って次回作を歴代最高傑作にして見せよう!

 

 

 ……にしてもなんなのこのゲーム。ローカル通信なのに前に飛んでいったはずの飛鳥文化アタックが後ろから飛んできたよ?その内クエスト出発時に一部メンバーを置いて出発する置いてけぼりバグでも起こりそうだね。

 

 

 

 

「あぁーん!もぅ、また準最大だ!なんでこんなにボクの元へ最高の睡眠棒が来てくれないの!?」

「物欲センサー先輩働きすぎだよね。そろそろウチに1728大剣を担がせてほしい」

「最大値来ても切れ味がねー」

「武器スロに強欲珠とか着いてたら捨てたくなる。刀匠なら最高」

「………別に睡眠虫棒なら今使ってるナイトメアの方がいいんじゃない?睡眠値高いし」

「なにそれ!!それならちーちゃんもアーティのままでいいじゃん!!」

「大剣は別なのー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁこんな今日も他愛もない話をしながら140を周り、ゴール品が出ずにお開き。晩ご飯は適当に済ませてご就寝。ラーラーをひとりでやってもいいんだけどかなりめんどくさいから野良でも入ろうかと思ったけど、色々と気が進まずセーブして終了。電源をしっかり切って充電器に差し込み部屋の電気を消す。

 

 

 なんなら変わりない一日の終わり方。こうして瞳を閉じて眠りにつき、次目を覚ました時にはまたもポカポカ気持ちの良い日差しが一番高い位置から差し込む時間になる。

 ……にしても本当に出ない。出なさすぎない?こうなれば夢の中ででもいいから1度でも1728刀匠素村大剣を担いでみたい。そんな夢のような事を思いながら意識を手放していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───白い靄の中。その大事何かを手に取ろうとして手を伸ばす。だけど届かない。追っても追っても届かない。常に同じ距離が保たれている。

 

 そもそもウチは何を目指して走っているの?いや、そんな事よりもここは何処?夢の中?右手を動かそうと思えば動かせれる。歩こうと思えば歩ける。けど現実っぽくない。だとすると明晰夢の中に入り込んじゃったのかな。

 

 明晰夢だと分かったけど、どうすればいいか分からない。前に進んだところで進んでる気がしない。ならば後ろに戻ってみよう。

 やることが決まった。ならば次は行動に移すのみ。回れ右をして一歩踏み出そう。

 よし、踏み出せた!そして落ちた!…ん?落ちた?

 

 

『寒いほどの突風。下から上へ突き抜ける圧力。何故かうつ伏せの体勢のウチ…完璧に落チテルゥゥゥゥゥ!!??』

 

 

 

 ヤバイヤバイヤバイ!パラシュート!パラシュー…無い!?そりゃ着けた記憶が無いんだから着いてないよね!?けどこのままじゃ地面に叩きつけられてザクロにな------。

 突然の落下とその恐怖からウチは意識を手放してしまった。

 

 そして目が覚めると………見覚えのあるオレンジ色の帽子をかぶった白髪白髭のおじ様に抱っこされていた。……あなたは…我らの団の団長?

 

「お?漸く起きたかちびっ子。体に痛みはあるか?」

「いっ…たい……」

 

 痛みを感じる…どうやら夢ではないようです。




今更になって4Gをやり直してます。
皆さんはどのシリーズの初期防具が好きですか?私は2ndのマフモフシリーズが一番思い出があり好きです。


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現状把握

 

 結論から言おうか。ウチはいつも通りの日常を終えて就寝し、夢を見たと思っていたが、それは現実で何故かモンハンの世界に入ってしまった。

 何を言ってるかわからないよね?ウチだって分からない。気がついたら我らの団のカッコイイおじ様の団長の腕の中に居たわけだからね。一瞬ドキッと心がときめいて、下腹部がキュンキュンしちゃったよ。まぁすぐ冷めちゃったけどね。取り敢えずどうしてこうなったかの経緯を再確認しよう。

 

今日?昨日?どっちでもいいけどさっきまでボクっ娘とこの世界の外側からこの世界の住人を操って発掘武器の最大値を求めていた。

 ↓

ボクっ娘が帰り、晩御飯シャワーなどを済ませてお布団へダイブ。

 ↓

夢を見る→最大値の大剣が目の前にあるも取れ無い上に進めないので戻る。

 ↓

何故か落ちた。

 ↓

何故かMH4(G)の世界に迷い込む。

 ↓

大海原に投げ出され、運良く我らの団に拾われる。

 ↑今ココ。

 

 色々とツッコミどころが多いがそれをしたところで現状が変わるわけでもないから一旦考察は胸にしまっておこう。

 

 ん?それはそうと今ウチは何してるか?それはね。毛布に包まって屋台の料理長のアイルーちゃんから貰った暖かい<塩ミルク>を飲んで体を温めてるよ?

 

 どうやら夢の段階で落ちたあと、あの<チコ村>に近い海域にドボンしたらしくてね、海にプカーって浮いてたら丁度ゴアマガラから逃げてきた我らの団に拾ってもらったらしいのよ。そこから団長に抱えられてたってわけらしい。それなりに長い時間海に浮いてらしくて体温も凄い下がってて大変だったとか。だって嵐だったもんね。アレで生きてたウチを凄く褒めてあげたい。

 

 ゲームではナグリ村でキャラバンを船に改造してもらってから大海原に出て、そこからごま油…じゃなくてゴアマガラと遭遇して何とかハンターさんが撃退しているうちに逃げ切ってこの遭難者が行き着くアイルー達と竜人族のお婆ちゃんだけが住むチコ村に辿り着いたってストーリーだったよね。

 

 そう言えばゴアマガラ撃退イベントでは<大海原>って名前のフィールドなんだけど、実はそこはそのイベント1回きりしか遊べない物凄く貴重なステージだったりする。乗っているのもジエン・モーランやダレン・モーランで使われる撃龍船じゃなくてしっかりとイサナ船だったね。違いは船頭の撃龍槍のスイッチの位置が違ったのかな?撃龍船は普通に斜面と言うか階段だけど、イサナ船は梯子を登らなければならなかった気が…まぁ後で見学させてもらおう。

 

 ホットな塩ミルクを飲み終えて「ご馳走様」と料理長へ一言。椅子から立ち上がり村を散歩しようとする。しかしそれは叶わず体が砂浜に崩れ落ちる。あ、今一時的な下半身不随なの忘れてた。どうやら長く続いた低音状態により神経が著しく衰弱して運動神経が軽く麻痺しているらしい。これは医学的にどうなのかと疑問に思うが、この世界は現実であって夢でもあるからアリなんだろう。ご都合主義万歳。

 

 幼児の様に必死に物に縋り、立ち上がろうとするも足が体を支えてくれない。仕方が無いので立つことは諦めて再び席に戻る。

 

 

「お嬢も大変ニャルな」

「まぁ生きてるだけマシって感じだよ」

「ム…。確かにその通りニャル。生きてる事だけでワタシ達は幸福を感じるのニャ。……だから今回の事は本当に残念ニャルな…」

「ん?料理長ちゃん何かあったの?そう言えばほかのキャラバンのみんなも何処か暗い顔だったけど」

「ん?そうかそうか。お嬢はワタシ達と出会ったばっかりだから何も知らないニャルか。今のキャラバンの面子はバルバレって街で団長に声をかけられて集まった仲ニャルよ」

 

 

 そうそう。今作の最初は撃龍船で団長と出会って、バルバレに居る鍛冶屋のお兄さんと看板娘ちゃんと合流してから話が進んでいたね。チュートリアルで肉焼きや調合を済ませて、そこから後々の仲間になる竜人商人のおじいちゃんや料理長の依頼を受けて仲間になってナグリ村へと出発したんだよね。そうそう。あとナグリ村で鍛冶屋の娘ちゃんが連れてってって駄々こねてパーティに加わったね。

 

 ちゃんと団長も鍛冶屋のお兄さん&娘っ子。賭け好き竜人商人料理長ペアも看板娘ちゃんも全員居る。しかし何故こんなにもお通夜ムードなんだろう?確かゲームではこんな珍しい村に辿り着けた事が幸運だとトレジャーハンターの団長は凄く喜んでいた筈だからこんな雰囲気にはなる筈が無いのだけど…。

 

 

「実はさっきこの船を謎の黒い竜に襲撃されたニャルよ。団長や看板娘はアレを<ゴアマガラ>」と呼んでたニャルな」

「ゴアマガラ…」

「それに我らの団の旦那(ハンター)が立ち向かったニャルよ」

「…あれ?そのハンターさんは今何処にいるの?」

「それがニャルな…ゴアマガラとの戦闘で命を落としてしまったニャルよ…」

「………え?」

 

 

 我らの団のハンターが…死んだ?え?どういう事?ハンターが死ぬ?いや…だって力尽きたらその力尽きたらハンターを回収するネコタク代として報酬金が1/3減ってBCに戻されてあと2回じゃないの?大海原の戦いだって一時撤退と言うことで船内に強制送還された筈。

 まさかクエスト失敗されずにダウン回数が4/3に突入してそのまま命を落とした?それとも大海原に投げ出されて命綱が切れて生死不明の行方不明になったとか?ウチには訳が分からない。

 

 

「途中までは順調だったニャルよ。あと少しで討伐…それが出来なくも撃退程度に持ち込めたはずニャ。本当にあと1歩のところだったニャルよ?けどその1歩の手前で…あの黒いヤツが変形したのニャ」

「変形?」

「元は四足歩行の丸い頭だったのが狂竜ウィルスと呼ばれる鱗粉を撒き散らしている内に肩の鉤爪が足となり6足歩行へ何もなかった頭には禍々しい角が生えてきたニャルよ」

 

 

 変形…狂竜化だって?どうだったかは分からない。ウチの場合は大剣で頭殴ってたら先頭に移動して撃龍槍当てたらすぐに撃退したからあまり情報は持っていないけど、確かあのイベントではゴアマガラは狂竜化はしなかったはず…なのに狂竜化した?そしてその戦いでハンターが死んだ?

 

 大海原撃退戦ではダウン回数3/3になるとナグリ村に戻された。しかし話を聞いている限りそんな事は無かったらしい。ゲームと話が異なっている。

 

 

「確かにニャルガクルガの様に怒れば尾棘が逆立ったり、放電する度に背中の蓄電殻に電気を蓄えるラギアクルス。自らの電気のボルテージを高め超帯電状態に変化するジンオウガ。粘液の反応速度を上げるブラキディオス。一定条件下で能力の長所を伸ばすモンスターは多く存在するニャルが、あの黒いヤツだけは他の奴と違って異質だったニャルよ。条件下かで変化することは変わり無いニャルけど」

「物知りだね料理長ちゃん」

「そりゃワタシは旅の途中で多くのハンターの旦那達に腕を奮ってきたニャル。お代の他にも旦那達が今までに狩ってきたモンスター達の特徴を己の武勇伝も混ぜながら語ってくれたニャルからな。……でも今回だけは今まで聞いてきた話よりも惨かったニャル」

 

 

 悲嘆の溜め息を吐き、たった一瞬に感じた数秒の出来事を話してくれた。

 

 

「さっきも言ったニャルが、序盤は本当に旦那が優勢だったニャルよ。ただ問題は変異してからだったニャ。大きな咆哮で怯んだ旦那を横に拡散するブレスで吹き飛ばし、受身を取った旦那をその禍々しい5本目の腕で鷲掴みにして締め上げてから船の帆柱に叩きつけて、落ちてきたところ6本目の腕の惨爪で首・胸部・腹部・足の四つに切り裂き分けたニャルよ…」

「うっぷ…!?」

 

 

 話を聞いただけで吐き気がこみ上げる。先程飲んだ塩ミルクが胃液と絡んで酸っぱい液体と化して喉を登り、口から出ようとする。

 想像しただけで先程まで感じなかった血の匂いが潮の香りと共に鼻の奥へ流れ込んで来た気がした。船の方を見たくはないが勝手に首がそちらの方へ向き、ついさっきまでばら撒かれていた臓物や無表情の生首達を録画したビデオの映像を見ているようにそこにあると現像させる。

 

 ウチは至って普通の家庭で生まれ育った身。畜産農家の娘でなければ肉屋の娘でもない。学校の職業見学で屠畜場(とちくじょう)に行ったわけでもない。生き物の臓物を目にしたのはテレビでやる医療ドラマかスーパーで買った鮮魚を卸す時にお腹を裂いて中を出した程度。

 

 確かに魚も立派な生き物だ。けれど魚の臓物程度で吐き気を催したりグロイと思った事はそこまで無い。同じ臓物ではあるが魚と地上で生きる家畜や人間のとは大きく見方が違う。

 

 

「ほら少しぬるいお湯ニャルよ。さっきホット塩ミルク飲んだばっかりニャルからいきなり冷たいものを入れるとお腹下すニャルよ」

「…ありがと料理長ちゃん。大体の事は分かったよ」

「ところでお嬢は何処の生まれニャルか?」

「ウチの生まれ?」

 

 

 ウチの生まれは日本の埼玉の…ってそんな国や地方は無いのか。だとすれば何処にしようか?この世界の住人となった今、元いた世界の国籍などは通用しない。さて…どこの村がいいか?うーん…。

 ……いや、特段悩む事でも無かったね。ウチが生まれたのは…。

 

 

「ウチはポッケ村って言う北の山の麓にある小さな村が生まれだよ。実はウチもハンターやってたの」

「ポッケ村ニャルか。確かポポノタンやホワイトレバー、ドドブラリンゴが名産だったニャルな」

「流石料理長ちゃん食材については物知りだね」

「ニャハハ。料理人とはまず食材を知らなければいけないニャルからな。食通になるのは道理ニャルよ」

 

 

 なるほど。確かにそうかも。

 というかウチもうドドブラリンゴどこで取れたか覚えてないんだけど。トレジャーとかあのボクっ娘と金冠高得点取って以来全くやってなかったからね。それに何年前の話って感じ。もう覚えてないよ。しかしまぁ…ウチもなんやかんやでP2ndGが良かったと思う懐古厨だ。今に生きる人から見れば文句の付けようのない<懐古虫:ドス・セカジー>なんて呼ばれる害悪モンスターなんだろう。どう呼ばれようと気にはしないけどね。

 

 それと別に今のモンハンが嫌いってわけでもないんだよね。それぞれのシリーズで思い出があるからこそ、どのシリーズが一番面白かったかと順位付けしたくなるのも人間の性ってやつだよ。

 

 

「ふぅ…悲惨な現実を見つめ続けてうだうだ止まってるわけにもいかないね」

「ム?お嬢はこれからどうすニャルか?」

「ちょっと散歩しようかなー?ってね。だーんちょーさーん!!」

「ん?どうしたちびっ子」

「抱っこして。そして散歩に連れてって。それとウチはちびっ子じゃない」

「そうかそうか!それなら他の皆が呼ぶように俺もお嬢と呼ぶか。はっはっは」

 

 

 腕を広げて団長さんに抱っこを要求する自分。これを第三者から見たら父親に甘えたい娘にしか見えないだろう。料理長ちゃんもいきなりの事でその細い目を丸くしていた。

 

 いやーウチも分かる。誰でも思う。こんな容姿でこんな言動をしている女の子を小さい子扱いするなと言われても困る事を。でも初めて会う気のいい優しいオジサマにはこう強請る事が一番効果的なのだから。こんないい手段があるのに使わないテはない。

 

 

 案の定団長さんはウチを娘か孫と錯覚したかのように持ち上げて「高い高ーい」からのぐるぐる回って肩車。こんな事15年前にお父さんにやってもらったのが最後だった事を思い出す。子供扱いされて腹立たしいのと久々の肩車にとても嬉しいというか楽しいというか…とにかくハッピーな気分で満たされた。

 

 

「さて、お前さんはどこを探検したい?」

「探検じゃなくて散歩!」

「どっちも大して変わらないと思うなァ」

「言葉のニュアンスだよ」

「そうか!よし、どこから行こうか」

「じゃあまず船みたいな」

 

 

 幼く見える少女を肩車したオジサマの上でその少女がテシテシと目の前の頭を叩きながら進行方向を指さしている。…やばい。これは本格的に父と娘だ。いや待ってほしい聞いて欲しい。ゲーム画面越しだとさほど感じられないけど、この世界で直接会ったら君たちもわかるはず。この人の父性とダンディさは人を駄目にと言うか幼くする!甘えたくなるの!

 

 ということでまずはイサナ船の見学。とにかくゲームのまんまだった。船尾の方に大砲の弾があったり、船頭に行くための梯子があってて撃龍槍のスイッチがあった。船内は5部屋に分かれてて団長さんの説明曰く2人1部屋らしい。団長さんと鍛冶屋のお兄さん・看板娘ちゃんと鍛冶屋の娘ちゃん・商人おじいちゃんと料理長ちゃん。そしてクエストで使われるベースキャンプ。空き部屋ひとつ。……ちゃんと帆柱にはどす黒い赤と鋭い刃物で斬られたような三本傷があった。

 

 あとはチコ村の村長のおばあちゃんともお話したよ。ウチはどこか昔のおばあちゃんと似てるらしい。商人に向いてるのかな?それと白い臆病なアイルーちゃんとおしゃべりしたかった。けど団長さんの髭が怖いのか逃げちゃった。団長さんは「また臆病ネコ三郎に逃げられたなァ。怖いのか?ヒゲ」ととても落ち込んでいた。

 

 そうそうおばあちゃんのダンナさんは遭難して行方不明安否不明でおばあちゃんは今でもどうなってるか心配らしいけど4Gのイベントクエストで生きてる事がほぼ確定になったんだよね。なんてクエスト名だったかな?確か「朝にナントカコントカ覇を向かおうとも」みたいな名前だったはず。クエスト名なんて村最終とかぐらいしか覚えてないよ。…まぁこの情報を教えるかどうか悩むところだけど、今はやめておこう。あのアカムさんを狩ってから伝えるのが一番いいタイミングだろうね。

 

 その後はぽかぽか村に行った。管理人ちゃんアイルーとガールズトークで盛り上がったという事実だけをここに残しておく。

 

 

「ところで団長さん、筆頭オトモちゃんはいずこへ?」

「ん?あぁアイツならこの村の近くにある原生林に気を紛らせに行ってるぞ。折角新しい気に入った主人を見つけたのになァ。会ったら良くしてくれ」

「そっかー。そうだよね」

「ウム。よろしく頼むぞお嬢。さて、他にどこか行きたい場所はあるか?」

 

 

 他に行きたいところ…特に無いかな。あとは加工屋のお兄さんと娘ちゃんとおしゃべりしようかな?

 

 ------いや違うよね。この世界に入っちゃったんだからやる事はただ一つ。Let's Hunting(モンスター狩猟)!…と言いたいところだけど、今の体じゃ何も出来ないね。下半身動かないし。じゃあ何をしようかな?うん考えなくてもいい事だった。

 

 

「団長さんこの後暇?」

「お嬢とゆっくり話す時間ぐらいはあるぞ」

「…リハビリ」

「ん?」

「私の下半身が機能する訓練に付き合ってくれないかな?」

 

 

 そう。まずは動けるようにしなくちゃ。



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予想外

やたらと感嘆符や疑問符・小文字が多い回で読みづらいと思います…すみません……。


「ちーちゃん。いい知らせと悪い知らせがありますけどどっちから聞きますか?」

「んーじゃあ良い知らせからかな?」

 

 ソフィアちゃんこと看板娘ちゃんから声をかけられた今日このごろ。ウチは1ヶ月のリハビリとトレーニングを経て歩けるようになり、現実世界では有り得ないような筋肉を手に入れた。腹筋も軽く圭の字の線が薄ら浮かび、細い腕ながらもしっかりとハンターが振り回す武器を扱えるぐらいには力がついた。体が丈夫になりやすいのはこの世界の法則なのかな?

 

 加工屋の娘ちゃんに体の採寸をしてもらって4・4Gの初期装備であるブレイブ一式を仕立ててもらった。装備を作る際に身長は勿論B(バスト)W(ウエスト)H(ヒップ)を測って貰ったんだけど、その時胸のサイズで娘ちゃんがウチのサイズを見て自分よりも小さいと知り、クスクスと笑って優越感に浸っているのを見て軽い一悶着があった(団長さんとお兄さんに止められた)のはまた別の話。

 

 そして驚きの事実が出た。ウチの身長が縮んでいたの!正確には5cm縮んで132cmに…。もう言い逃れできない程完璧な小学生だよこの身長は…来年でハタチになるのにぃ…。

 

 うん?女の子は小さい方が可愛い?おいコラそこの男子。人の苦労も知らずに何言ってんの?背が小さすぎるとね、服とか店に売ってて丁度いいサイズがいつになっても子供っぽいのしか無くて妥協点探すの大変なんだよ!?ウチだっていっぱい綺麗なお洋服きてお洒落したいのにカワイイ系しか無いんだよ!?オーダーメイドはなんか負けた気がして使わなかったよ。

 

 あと中学高校で日直になった時黒板の上消せなくてどんだけ男子に馬鹿にされたか分かる!?クラスの優しくて身長高い子に黒板消しなんて面倒な作業を頼むのがどれだけ心にくるか…。

 

 黒板消しだけじゃないよ!出席番号の並びからして毎回自分の棚が高い所にあって使えなかったりしたし…。靴箱もそうだったから特例で他の人と変えてもらったけど棚も何でしてくれなかったのかな?

 いけないイケナイ…こんな所で愚痴ったって仕方ないよね。…うん仕方ない。仕方ないよね……。

 

「良い知らせはですね、ちーちゃんがギルドからハンター認定されて武器の使用やフィールドでの狩猟が許可されました」

「おぉ!これで漸くウチもモンスターを狩れるのね。ふふふ…待ってなさいよ今ウチが大剣でスパっ!と一刀両断してあげr…」

「悪い知らせはちーちゃんの身長があまりにも小さ過ぎる為、大剣・太刀・ランス・ガンランス・操虫棍・狩猟笛を背負っての移動が危険と判断されたので使用許可が降りませんでした」

 

 

 

 

 

 

「………………what?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………え、えーと?今ソフィアちゃんは何を言ったのかななな?

 聞き間違いだって信じたいけど耳から入ってきた音は確か「大剣・太刀・ランス・ガンランス・操虫棍・狩猟笛」の使用許可が降りなかった?いやいや〜そんなヴァカな〜HAHAHAHA。ほら憲法にも明文化されてるでしょ?『日本国憲法第22条1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する』って。法律違反なら一億歩譲って甘んじて受け入れれるけど、憲法に反することは有り得ないよね?人権侵害も甚だしいところだと思いたいけど…。

 

 

「残念ですがちーちゃん、残された選択肢でどうにか------」

「待って!たかが身長の1つや2つで好きな武器が使えなくなるのはおかしいと思うの!」

 

 

 そんなギルドからの圧力になんて屈しない!権力者に叛逆する覚悟は出来てるよ!大剣の為ならなんでもする!ん?今なんd(ry

 

 

「加工屋さんお願いしますー」

「これがいいか…」

「え!<アイアンソード>よねこれ!待って待って!本物だ!!」

「刃にはカバーを付けてあるから心配せずに担いで走るといい…」

 

 

 武器を背中に担ぐためのベルトを身につけ大剣を収める。ブレイブ一式にアイアンソード…これは4を買って村クエを進めている時のウチの姿そのままだった。

 背中にその重さを感じる。これからの相棒にもなるその大剣持ち手を軽く撫でて準備運動をする。屈伸などを済ませて初めて武器を担ぎながらこの砂浜を走り回る。その為に足を前に出し、歩き始め……たかった。

 

 

「ウチ!行きまー………あ、あれ?前に進めない?」

 

 

 ふーん!ふーんんん!!と前に進もうとして前かがみになる。しかし進めない。まるで体をロープで縛られ後ろにある壁に繋がれているようだった。

 

 

「ちーちゃん一回ストップ!後ろをゆっくり確認して見て」

「え?後ろ?」

 

 

 いつの間にか寄ってきた娘ちゃんに促され後方確認する。するとそこには驚きの光景があった。

 ------大剣が砂浜に刺さってる。Why?

 

 

「ねぇねぇオッショサン、大剣が長過ぎて地面に刺さって杭みたいになってちーちゃん移動できないよ?もう少し大剣が止まる位置を剣先の方にしたらどうかなぁ?」

「いいアイディアだ…。けど無理な相談だ」

「えぇー?どうしてダメなの?」

「そうすると…。次はグリップの位置が高すぎて腕が届かず抜刀できなくなる」

「あっ……」

 

 

 憐れみの目で見られてる!娘ちゃんから凄い気の毒そうに見られてる!やめて!ウチをそんな目で見ないで!大体身長なんて伸ばそうと思って伸ばせるものじゃないもん!それ出来たらとっくの昔からやってるもん!

 確かゲームでのハンターの身長が175前後だった気がする。そしてその身長と同等以上の長さの武器をウチが背負って移動できるはずがなかった。けど…けどっ…!!

 

 

「ウチはまだ認めたくない…。40㎝程度の差でウチは屈しないッ!!お兄さん!太刀!!太刀貸して!」

「これがいいか…」

 

 

 手渡されたその長い得物は<鉄刀>。鉱石系の太刀で初期武器中の初期武器。太刀使いの皆さんは特にお世話になったと思う。これから作れる斬破刀なんて雷属性が付くからティガ戦で無双してた筈。これを背に装備して走り出す。歩く事による体の沈みが起こる度に背中から太刀が浮き、剣先の方は脹ら脛などに当たり邪魔。挙句の果てには太刀の鞘と足を絡めてしまい転倒する。ここが砂浜でよかったと心より思った。

 

 

「まだ続けるか…?」

「ううぅ…もういいよお兄さん…。双剣貸して…」

 

 

 仕方が無いので比較的刃渡りが短い得物の双剣を所望する。

 モンスターを殺す道具だけあって片方の短剣だけでも充分重い。けど振る分にはなんら問題なかった。

 周りに人が居ないことを確認してモーション確認する。

 まずは距離を右二連斬りから詰める斬り払いをして二段斬り。それから繋げるために体を一回転させながら斬る二段斬り返し、フィニッシュの車輪切り。鬼人ゲージが溜められない今通常状態でやれる事はこれぐらいしかないだろう。さて、基礎は終えて次に行きたいのだが…。

 

 

「……鬼人化ってどうやるのかな?」

「「「えぇ…」」」

「そんな3人とも兄妹みたいに息を揃えてがっかりしないで?ウチ泣いちゃう。それに双剣使うの初めてなんだから分からないよ!」

 

 ゲームの時は遊び程度で持ったことあるけどそこまでじっくりとはいじった事は無いし、そもそもあっちの世界じゃR一回押すだけで「シャキーンッ」って鬼人化してくれるけどこっちじゃRボタンもクソも無いのよ。分かるはずないじゃない。

 

 

「鬼人化というのはリーダーに聞いた限りだと自己暗示らしい…」

「自己暗示なんてまたアバウトなアドバイスだね」

「他にも『常に片目を閉じており、いざというときに両目を開く』や『双剣を打ち鳴らすことで一時的に気分を高揚させる』などで鬼人化するハンターもいるようだが、結局のところ自己暗示だ…こんな風にな…」

 

 

 そう言ってお兄さんは新しい双剣を持ってきて、深呼吸。そして高らかにその2本を頭上で叩き金属音を鳴らせる。するとお兄さんの肌色が赤くなり、どこかオーラが見える。鬼人化したんんだ…。でもオーラの原理って何だろう?うーん……。…おっと「考えたら負け」だとこの世界の制作者様らしき人から啓示があったよ。なら考えるのは終わりにしよう。

 よし!お兄さんに見習ってうちも鬼人化してみよう!!

 

「やぁッ!!」

 

 

 気合十分!!んだか行ける気がする!そう意気込んでウチもお兄さんと同じように双剣を頭上で刃打ちする。

 

 

「「「…………?」」」

「あ、あれ?……やぁッ!!」

 

 

 何の変化もなくただ金属音が鳴り響いたのでもう一度気合を溜めて刃打ち。

 しかし何も起こらない。…お、おかしいなぁ?なんでできないんだろう?イメージする力が足りないのかな?自己暗示って言ってたからもっと想像力を働かせなきゃいけないのかもしれない。あとは掛け声も付けてみたら出来るかな?

 

 

「シャキーン!! とうぅ!! 鬼人乱舞!! 体は双剣で出来ている!! 鬼人化!! ボクっ娘のバァァァァアカァァー!!」

 

 

 別にふざけてたわけじゃ無いのよ!?すごい真面目にやってるの!だからそこの3人笑わないで!心はガラスなんだから!……どうしよう?なんで鬼人化になれないの?

 鬼人化が出来ない双剣なんてただのすばしっこいチンケな2本の棒切れ(双剣使いの方ごめんなさい)じゃない!

 

 もう娘ちゃんは鬼人化できないウチの姿見て砂の上でケラケラとお腹を抱えて転がりまわってるし…。お兄さんは顔を逸らして堪えてた笑いこぼれてるし……ちょっと待ってソフィアちゃん!何スケッチ取ってるの!?貴女が取るのはモンスターのだけじゃなかった?!

 

 

「もういいもん!ウチには片手剣残ってから何も問題ないもん!ソフィアちゃんクエスト!<原生林の採取ツアー>行かせて!」

「原生林の採取ツアーですね。ではそちらの道を道中にある看板に従って進むとベースキャンプがありますから思う存分採取してきてくださいね」

「よぉーし!みんなピッケルや虫網は持ったな!!行くぞォ!!」

 

 

 何故か持ってたお金でチコ村の雑貨屋からピッケル5本虫網5本を購入していざ出陣!目標はマカライト鉱石10個とキラービートル10匹!!

 ブレイブ一式に片手剣。虫網ピッケル片手にさぁ原生林へ。何か大切な事を忘れている気がするけどまぁ気にしない!夢にまで見たモンハンの世界に居るんだから楽しまなくっちゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かなちーちゃん」

「俺も心配だ……」

「それはどういう意味ですか?」

 

 

 加工屋の娘とお兄さんがスキップしながら原生林に向かった女の子を見届けてからそう言った。その事について看板娘のソフィアはどういう意味か理解出来ずにいた。好奇心旺盛な彼女にそれがどういう意味かを追求する以外の選択肢は無い。

 

 

「うーんなんて言うかね、ちーちゃんは話している雰囲気からしてモンスターの事は多分ダンチョーさんよりも知識はあるのは分かるんだけどね、そのなんというか」

「得物の扱いに慣れてないのが振ってる姿を見たら良くわかった…。本人はハンターだったと言い張ってはいたが…、武器の振り方が子供のチャンバラその物だ」

 

 

 加工担当と加工屋の娘が危惧していた理由がそれだった。どこか縮こまって剣を振り、ちょっとの事で大袈裟な程驚いてしまう。その姿は至って普通の臆病な町娘だ。しかし少女と看板娘がモンスター談義しているのを聞いていた加工担当はその内容を聞いて驚いた。余りにもモンスターについて物知り過ぎたのだ。モンスターの生態だけではない。そのモンスターから作られる防具の防御力・属性耐性・スキル・etc...更にギルドですら把握しきれていないあの黒い竜のことすら知っていた。

 

 あの少女が何者かは加工担当は分からない。しかし分かっているのはハンターを名乗るだけのモノは持っている実力のある娘だという事。

 ……だかそれと今回のは別の話。心配なのは変わり無い。

 

 

「でもさ、原生林にはオトモちゃん居るし、採取ツアーだから大丈夫だよ!」

「ソフィア嬢…。今回の採取ツアーの狩猟環境は安定してるのか?」

「え~とですね。……不安定ですね」

「えー!?だ、大丈夫かなちーちゃん…?」

 

 

 そもそもクエストとは事前にギルドが周辺エリアを調査し、イレギュラー因子無くハンターが安心して狩りが出来る環境を作り、それから正式にクエストとして承認しハンターへ依頼する。それがギルドの務めであり、周辺地域をモンスターの驚異から守ってくれているハンターへの礼儀でもある。

 

 しかし相手は文明を持たないモンスターとそこを支配する自然。相手はあまりにも強大で文明・知恵・力をもつ人でも完璧に左右できるモノではない。故に完璧な狩場など少なく、どうしてもイレギュラーがクエスト中に乱入してしまう為、狩猟環境が不安定になってしまう。

 ------…そしてその予期せぬ乱入で命を落としてしまうハンターもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水が美味しい空気も美味しい。適度に過ごしやすい涼しさ。ここのエリアはズワロポスしか居ない。え?何ここ天国?」

 

 ウチは今原生林のエリア3に居る。ここは床が水浸しなものの危険なモンスターは居なく、山菜系の採取ポイントや鉱石の採掘ポイント、更には釣りポイントもあり豊かな環境だと言える。

 

 しかし普通の虫が多い。確かここのエリアには虫取りポイントは無かったはず。…いやあったわ。赤い花びらが浮く向こう側のエリア角に虫取りできる蝶々が飛んでるのが見えたよ。

 

 大体にが虫もセッチャクロアリもキラービートルもウチは色違いの同じアイコンで、区別はアイテム名でしか出来なかった。光蟲と雷光虫を間違えて持って行ったことも多数。この世界ではちゃんとした姿カタチの違いがあると思うけど図鑑を見てないから、もしかしたらそこの木に止まっているのが序盤ではレアなキラービートルかも知れない。…緑色じゃないから違うとは思うけど。

 

 さて、ここら一帯の採取は終わったし釣りにでも挑戦してみようかな?……辞めよう。ウチ生きた魚は触れないの。確実に死んで売り出されている魚は問題なく触れて捌けるけど、まだ少しでも生きててビタンッ!といきなり動き出す魚は無理。釣れたてなんて以ての外だよね。多分絶対おそらく陸でビチンビチン跳ねてるのをその姿を見れば3m以内に近寄れない。無理無理無理。

 

 うーん…と考え、次はこのエリア3に隣接してるエリア10<ネコの巣>にでも立ち寄ってみようかな?多分ババコンガは居ないだろうし、居てもすぐにエリアチェンジするだろうし、癒されに遊びに行こう!そうと決まれば即行動。魚が泳いでいる池を回れー右っ!…あ、ウチ猫アレルギーだったんだ。

 

 ………ん?なんか後ろから聞きたくないバサッバサッ!って音が聞こえてきた気がする…。

 

 

「Oh…Jesus……」

 

 

 猫カフェ(野生野営)に向かおうとした矢先エリア中央に大きな一つの影が降ってきた。

 ウチの肩幅ぐらいある太い尻尾。その緑の甲殻に包まれた巨体を浮かせるには充分な大きな翼。力強い眼差しと女王と名乗るに相応しい凛々しい顔つき。

 ------陸の女王・雌火竜リオレイア

 

 そういえばこのお母さんここが初期エリアでしたね!てことは今日は狩猟環境不安定なのかな!? ソフィアちゃんちゃんと言ってよ!!

 やばいやばいやばい!しゃがんで草むらに隠れないと!…ってかデカっ!? え!?モンスターってこんなに大きかったの!?

 

 ……あ、終わった。ウチこのモンスターに勝てない。まずウチまだモンスターを攻撃した事が無いの。

 いや…だって怖いじゃん?自分が持ってる刃で生き物を斬りつけて、血飛沫が吹き出て悲鳴をあげる。それを得物を通してウチの体に伝わってくる…攻撃してるウチの方が失禁物なんだよね。「気絶無効付いてても気絶しちゃう〜笑笑」なんて笑える余裕があればマシな方かな?

 …………あれ?もしかしてウチハンターに向いてない?!

 

  わぁお…レイアさんと目が合っちゃった。いやいや、まだ草むらに隠れてるからバレてないバレてな…いぃぃやぁぁぁぁああ!!!? めっちゃ見てるめっちゃ見てるめちゃくちゃ見てるよ!!? 絶対これバレてるよね?! あ、向こう向いt…やっぱりこっち見たよ!? 絶対バレてるってこれ!

 

 いやでもまだ首傾げてるだけだよレイアさん!多分見間違いだよ!? こんな草むらに獲物なんて隠れてるはずないじゃん!

 ほら!そこにレスキュー犬みたいな顔した草食獣が居r…居ない!? あんにゃろ先に逃げた?! さっきツタの葉を餌として分けてあげたのに恩を囮で返そうとは思わないのかな!? うん!思わないよね!だって野生動物だから理性よりも先に本能が働いて逃げ出すもんね!知ってたよ!!

 

 ってとぅぅえぇエとォォぉお!? レイアさんなんでブレス溜めてるの!? こっちに撃つ気だよね!わかるとも!! いや分かんないよ!?

 待って待って待って!話せばわかる!! 確かに落ち葉で焼き芋は作るけどさ!この茂みはまだ青々としているからまだ早いと思うんだよね!そもそもお肉焼く時は炭火が最適であって、青葉で焼いたらそこまで美味しk…

 

 

「ギィィっいやぁァァあ!!??」

 

 

 ブレスが飛んできたから横に緊急回避!元いた場所を見るとそこはパキパキと音を立てて燃え上がっていた。あ、危なかった…もう少し遅かったら幼女(19歳)の丸焼きになるところだった…。

 って安心してる場合じゃないよコレ!走って来た走って来た走って来たァァ!!? 多分これ3連ダッシュだよね!? どう避ければいいんだったっけ!? 教えてG●●gle先生!……よし!天啓が来た!とりあえずダイブ!!DIVE!!大舞(ダイブ)!!

 

 もう衣服が水と涙でビッシャビシャ。後ろには絶望。前は行き止まり。気分は最高にsadで体はCOOOOL!!

 水で濡れて寒いのもあるけど、それ以上に生まれて初めての生命の危機に直面して、嫌な雪解け水の様に酷く冷たい汗が止まらない。

 陸の女王がこちらを睨む。私の股間は激流葬。多分クラ○アンでもこの水漏れは止めれない。

 

 あは…あははは…いやははは……。と、もう乾いた笑い声しか出ない。

 生命線である片手剣の盾を思い出し、体を守るように突き出してはいるものの、盾を構える腕が地震の波の様にグラグラガタガタと上下左右前後に揺れて安定しない。これでは踏ん張りもきかず薄い鉄の板が軽く体と攻撃の間に挟まってるだけだ。

 

 涙で歪む視界の奥から赤い光がこちらに飛んできた。------レイアのブレスだ。

 本能が体を動かし、盾が付いている腕を咄嗟に前に出したが受け止めることは出来ず吹き飛ばされ、後ろの巨木に叩きつけられる。

 痛みに襲われ、意識を手放しそうになったが、ギリギリで踏みとどまった。

 

 

「熱っつ………痛ったい……逃げ、無きゃ……で、も…どこに…?」

 

 

 意識が朦朧としながらも立ち上がる。逃げなければいけないとは分かっているが、さっきの衝撃でウチの名前も今いる場所もここのマップも忘れてしまった。

 神がいるならばここで助けてくれるだろう。しかしそんな者は居ない。

 

 陸の女王がゆっくりと歩み近づいてきた。目の前にあるその顔は女王と呼ばれる理由が誰にでもわかるほど綺麗だった。

 頭を低くして二・三歩下がる。朧気な意識の中それを見て直感する。……サマーソルトが来る。と。

 

 ウチの体は再び宙に浮き、数回バウンドしてから人ひとりしゃがめば入れる穴に仰向けで入った。正確には突き刺さった?と言うべきだろうか。とにかくこれ以上の追撃はない…筈。最後の力を振り絞ってエリアチェンジをしなきゃ…。と頭では思ってはいたが体は動かない。

 

 いや、エリアチェンジよりもまず体を起こさなきゃいけない。仰向けだが、体は防具の重さで沈み、水の中にいる。ハンターになったお陰か肺活量は増加してまだ息は大丈夫だがこんな瀕死の状態ではいつ口が開き水が肺に流れ込むかは分からない。

 分かっている。分かってはいるけど体が動かない。このままでは溺死してしまう…。そんな時だった。

 

「ゴフッ!?」

 足元から衝撃波が飛んできてウチの体を洞穴の奥へと押し込んだ。何が起こったかは分からなかったけど予想はついた。レイアのブレスが洞穴の入口手前に着弾してその衝撃波でああなったんだと。

 入り方は悪いく、無事でもなく、見事でも無いけど原生林エリア10にエリアチェンジ出来た。

 

 これは採取ツアーだから後はこの安全な場所で少し寝ていよう。あと35分経てばクエストクリアになり、ネコタクがチコ村まで運んでくれるはず。…まだまだ散策や採取はしたかったけど仕方ないよね…乱入してきたレイアさんが悪い。

 ゆっくり…ゆっくりと瞼と瞼が閉じて行き、軽い眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「------と」

「う…うーん……」

 

 どこか遠くからとても心が安らぐ音と、声に似た音が聞こえてきた気がした。

 

「ち------と…………ぶ?」

「ううぅ…お母さん今日は休日だからまだ寝かせて……は、は、は…クチュン!!」

 

 母親の朝起こす声だ分かったウチは不機嫌ながら起こすなと必死の抵抗をする。何も無い休日とは昼過ぎまで惰眠を貪る素晴らしき一日であり、それは何人(なんぴと)たりとも侵してはならない時間だと2回目の説明をする。体が冷えて風邪をひいてしまったのかくしゃみが出る。クシャルじゃないよ、くしゃみだよ。

 

「ちょっと、貴女何寝ぼけてるの?大丈夫かって真由香は聞いているのだけど」

「う…う、ん…?お母さんじゃ、ない……?ハックチュン!!」

「誰が貴女のお母さんなのかしら?真由香はまだそんな歳じゃないし、そもそも種族が違うわ」

「やー猫ちゃんこんにちは。こんな所で迷子なの?そんなことよりナデナデさせて…フェックシュン!」

 

 ボヤけた視界を必死に修正すると、目の前にはウチを心配かけてくれる可愛らしい猫ちゃんが居た。くしゃみが止まらない。どうしたものかな?

 ……うん?猫ちゃんが心配かけてくれた?

 心配かけてくれたんだよね?とっても優しい子だよね。でもなんか違和感がある…なんだろ?もう1回文を区切りながら確認してみたら分かるかな?

『目の前に 居る 猫ちゃんが ウチを 心配かけてくれた』

 猫ちゃんが心配かけてくれた…猫ちゃんが心ぱ………猫ちゃんが?

 

「……………………ハックチュン!」

「真由香の顔に何かついてる?それと、くしゃみ大丈夫?」

 

 右手?右前脚?をほっぺたに当て、首を軽く傾げてウチに聞いてくる。あざとい可愛さがウチのハートにダイレクトアタック!! それとさっきから止まらないくしゃみを気にしてくれてる。何この子天使?……いや、そんな事じゃなくてですね…。

 

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!?」

「その反応は傷付く…。アイルーはみんな喋れるわよ…。あとそんな遠くに行かないで」

 

 咄嗟に蹴りが出なかったウチの反射を褒めたいところ。あのセクハラボクっ娘なら迷わず蹴りを入れるんだけど、猫ちゃんを蹴るほど人間ダメにはなっていない。けど代わりにビックリして座りながら後ろへ高速移動して距離をとってしまった。途中天地逆さまになった気がするけど後退りの速さで天井を這い抜けて落ちない速度までに達する事なんて有り得ないからきっと気の所為だろう。

 

「私は真由香。筆頭オトモとも呼ばれてるわ。…あぁみんな薬草笛や回復笛ありがとう。多分この人もう大丈夫だから。あとでお礼として綺麗な緑の服を着た人間のメスがマタタビ持ってくると思うわ」

 

 周りにはウチを囲む様にアイルーやメラルー達が若草色や深緑色の笛を懸命に吹いていた。

 これがウチと、ウチの相棒になるオトモアイルー真由香との出会いだった。

 

 

 

 

 

 





語尾に「ニャ」も付かず、主人公に付けてない名前を持つアイルー真由香ちゃん!


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ウチにとってのガンナー

 

 

 

まず最初に訂正しなきゃいけないことがあるの。

 前回ウチは「ウチ実は猫アレルギーだった」なんてことを言ってアイルーちゃんと接触した時に、アレルギー特有のくしゃみをしてたんだけど……実はウチ猫アレルギーでも何でもないです!ハンターなのに猫アレルギー持ちなんて変わった主人公演じようと思ったんだけど、猫アレルギーって言う前からしっかり料理長ちゃんの隣座って、料理長ちゃんが作った料理食べちゃってたし、流れ着いた場所がチコ村なんてもう猫アレルギーと名乗るのは無理な話だったと気付いた今日この頃…。

 え?「じゃあなんでくしゃみしてたの?」って…み、水浸しになって風邪ひいちゃったんだよよヨヨ……あははは。

 

 

………本編始めます。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 結論から言うと、無事採取クエストを終えてチコ村に帰ったよ。

 ウチはエリア10からエリア2エリア1を通り、BCに帰還。そのまま青い大きい箱・支給品ボックスの中に届けられた採取クエストのクリア条件の一つである<ネコタクチケット>を赤い大きい箱・納品ボックスにて納品しクエストをクリアしてチコ村へと戻った。

 麗しき陸の女王様から熱い洗礼(サマーソルト)を受けたウチは初期装備にもかかわらず、何とか力尽きる一歩手前で耐え、吹き飛ばされたことによってエリアチェンジをし、エリアチェンジ先だったエリア10…通称<ネコの巣>にて気絶していたところ、たまたま集会を行っていた野良オトモ達が傷付き気絶していたウチを薬草笛や回復笛でHP回復に努めていてくれたんだよね。感謝の言葉しかない。

 「ありがとう」と言ってアイルーちゃん達が嫌がらない程度に自己のメンタルケアも兼ねてナデナデしてたんだけど……。

 

 

「ちーちゃん。ちゃんとお世話できますか?」

「わー!野良オトモちゃんがいっぱい!これみんなちーちゃんがケイヤクしたの?」

「ひとクエストで12匹も野良オトモをスカウトしてくるのは凄いな…。」

「わーはっは!こりゃまた随分賑やかになったなァ」

「まったくお嬢、友達を呼ぶのは良いニャルが、前もって言ってくれないと全員分の飯を用意出来ないニャルよ」

「確かワシのところにポカポカ島の管理人から島拡張の依頼が来てたわな」

 

 

 キャラバンのみんながウチと、その後ろにいる多数のアイルーちゃん達を見てそれぞれコメントを残した。

 ……どうしてこうなったのかな…?

 

 

「みんなチーの事が心配でついて来たみたいね」

「おぉ猫っ子!もういいのか?」

「真由香には真由香って名前があるからそう呼んで欲しいって何度も言ってるでしょ!そろそろ引っ掻くわよ?」

「すまんすまん。しかしまァこの呼び方に慣れてしまってだな」

「真由香。団長の人の呼び方について頼んでも無駄だ…もう長い付き合いなんだ受け入れな…。」

 

 筆頭オトモこと真由香が下から団長に怒っている?のかな。その姿は容姿の所為もあるけど自分を大きく見せたい、大人ぶりたい子供に見えて凄く可愛い。そして加工屋のお兄さんに諦めろと言われたけどまだ納得いかないらしい。

 とりあえずウチはスカウトし(てしまっ)たアイルー達に自己紹介を求めた。

 

・シロ:アシスト(黒猫)

・クロ:回復(三毛猫)

・ミケ:アシスト(白猫)

・オリバー:アシスト(ゴールド)

・サテン:回復(白黒)

・ミケレッド:ファイト

・ミケブルー:ガード

・ミケイエロー:宝探し

・ミケピンク:回復

・ミケパープル:アシスト

・ミケブラウン:ボマー

・ミケグリーン:ぶんどり

 

 

 ………と、それぞれの名前とトレンドを紹介しに来てもらってウチが毛色を書かせてもらったんだけど…。

 

「ちょっと待って最初の3匹のアイルーちゃん!名前と毛の色間違ってない!!?」

 

 名前がシロなのに黒猫。クロなのに三毛猫。ミケなのに白猫。あぁややこしい!それとなんか後半数合わせの様な手抜きの様なDLC配信されたアイルーちゃんの名前が7つほどあったのは気の所為かな!?

 ツッコミが追いつかない!漸く元の世界のボケ役(ボクっ娘)のツッコミ役から解放されたと思ったら1ヶ月でもう現役復帰!?

 

 ……よくよく見るとトレンド偏ってるね。まぁ同じフィールドで何匹もスカウトしたらこうなっちゃうよね。後半7匹以外。だってフィールドごとに集まりやすいトレンド決まってるから仕方ないと言えば仕方ない。さっきの原生林だと回復とアシストが出やすかったっけ?

 けど序盤にしては良い配分だと思う。レギュラーはアシスト2で<しびれ罠>と<モンスター探知>。残り3は回復で<回復笛><解毒消臭笛><真・回復笛>の火力は上がらないけど生存率や攻撃チャンスの回数が増える編成にできる!火力不足?そこに怪力の種があるじゃろ?

 

 

「ところで、どうだった…?ケガはしなかったか…?」

「あー…あははー」

 

 ぬこの編成を考えていると背後の高い位置からお兄さんの声が聞こえた。多分ウチの素晴らしき勇姿を直で見れず、話だけでも聞きたいらしい。ほうほう…ならそのオーダーに応えよう!

 

「あのねお兄さん、まさか採取クエストでレイアが乱入してくるなんて思わなくてね、一瞬怯んだけどウチの素早い片手剣捌きで見事に尻尾を斬って追い払って~…」

「ダウトよ。この娘ったらレイアにビビっちゃっていいようにやられてたわ。盾持ちの片手剣じゃなくて双剣で来てたら間違いなく死んでたわね」

「ひぇっ!ちーちゃん大丈夫!?怪我無い?」

 

 あはは~大丈夫大丈夫。と抱き着かれて泣き付かれた娘ちゃんに無事を伝える。そしてそこの真由香ちゃん。そんな食い気味に否定しなくてもいいじゃん…。

そういえば回復笛ってすごいね。いやハンターが凄いのかな?傷跡は薄く残るけど傷自体は回復薬や回復笛の演奏で瞬時に塞がる。痛みは残るけどかなり楽になる。ホント今まで画面の外から操作してたけど人間やめてるよねこの職業。

 

 

「ちーちゃんごめんなさい。私がもっとしっかりしていればリオレイアに遭遇する可能性を事前に伝えれたのに…」

「うーん…確かに凄い怖くて、死を垣間見て、どこか何に対してか分からない憤りとかあるけど、それは決してソフィアちゃんに責任がある訳じゃないよ。相手は自然だからね」

「ちーちゃん…」

「それに!早い時期にモンスターの怖さを覚えれたから、勝てずとも収穫はあったんだよ!モンスターの怖さを知らないと絶対に早死しちゃうか、狂った略奪者になっちゃうからね」

 

 足の笑いが止まらない。未だにあの時の女王の威光が、サマーソルトの恐怖が、耳に咆哮が残っている。

 

 

 ───恐怖という振動は身体のいたる所から発生し、共鳴し、増幅する。いつかそれがトラウマになり、体が震え上がって気を狂わす。呼吸は乱れ、両腕を胸の前で交差して自分の両肩を掴んで膝を着く。

 

「はぁ…はぁ…はぁっハァハァ……」

「ちーちゃん?」

「はぁ…あはハ…はぁははハハ…はっはっはぁっ……」

「ちーちゃん!?」

 

 肋骨をぶち破って心臓が飛び出そうだった。強い陽射しで灼熱の鉄板にのように熱くなった砂浜に顔を埋める前にソフィアちゃんが大切な手帳を投げ捨ててウチを支えてくれた。脳が感情を放棄し、恐怖が頭から消えたのと同時にウチの意識も消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて視界に映った景色は知らない天井…というわけでもなく一ヶ月程毎朝見てる見慣れた天井。

……どうやらキャラバンのウチの部屋のベットの上に移されたようだ。

頭の中にソフィアちゃんのウチを呼びかける声が残っている。入口から部屋に入ってくる光はユラユラとしたオレンジで、恐らく夕焼けではなく料理長ちゃんのかまどの炎。つまり今は夜。半日も寝ていたことになる。

 起き上がろうと布団を退かして気付いた。体がとっても気怠い。この感覚はさっき体験したものに似ていた。陸の女王の毒だ。まだ抜けていなかったのか、ランゴスタの麻痺毒のように体の自由を奪う。

ベットから転がり落ち、床を這って外に出ようとした。

 動かない四肢を一生懸命動かしてマイハウスの出口に到着した時、彼女の声が聞こえた。

 

「あら、そんなオルタロスみたいになってどうしたのかしら?……まぁどうせ大方まだレイアの毒が抜けきってないのね。今解毒薬持ってきてあげるわ」

 

 そこにはウチの友達、アイルーの真由香が水の入った桶を持って立っていた。真由香は「やれやれだわ。なんで動けない体でベットから出ちゃうのかしら」と、小言を言っていたけど、どこか楽しそうだった。

 ベット横のボックスから青色の液体が入った瓶を取り出し口元に持ってきてくれる。……いや、これ絶対毒を治すよりも犯す方の色だよね? そう思ったのがバレたのか、将又解毒薬を見て嫌な目をしたのを見られたか、あるいは両方か。片方の肉球で瓶の底を支え、もう一方をウチの後頭部に添えて…oh!! PortionFace!!

…うん。古いよね。ごめんなさい。penどころかappleですらないって…。

 そんなこんなで無理矢理口に入れられ喉の奥に流された解毒薬。味はもちろん不味い。不味いというよりも苦い。まさに「にが虫を噛み潰したような顔」になっている。にが虫噛んで爆発しながら怪力の種飲んでたハンター凄いなぁ。

 

「あの時は私達の解毒笛で応急処置したけど、所詮は音。人の頭を毒から逃避させるように錯覚させることしか出来ないわ。ちゃんと演奏後に解毒薬飲まないと体に残った毒が再び暴れ出すのはよくある事ね」

「そうだったんだ…。ソフィアちゃんや娘ちゃんは?」

「チーがゆっくり寝れない程騒いでたから皆叩き出したわよ」

 

 騒いで真由香に怒られてつまみ出される団長や娘ちゃんの姿が容易に想像出来た。

 

「そうそう。貴女に会いたいって人達が居たわ。多分団長や加工屋と飲んでると思うから体動くようになったら行ってあげなさい」

 

 ウチに会いたい人?誰だろ?とにかく人を待たせるのはあまり好きじゃない。まだ細かい動きは不自由だけど立てるようにはなったから行ってみよう。

 自室を出てすぐ右。料理長ちゃんのかまどの火の前に人が集まっていた。

 

「お、漸く起きたかお嬢。調子はどうだ?」

「うーんそれがまだ毒で指先がうまく動かせないよ」

 

 真っ先にウチの登場に気付いてくれて安否を気遣ってくれた団長。やっぱりハンサムで男前すぎる…。

 団長の後には見慣れない3人組が居て、夜の暗さと炎の逆行が相まって顔が良く見えない。

誰だろう?と思った矢先、後ろから柔らかい腕で誰かに抱きしめられた。そして正面からも人が飛び込んで来た。

 

「おはようございますチーちゃん。気分は大丈夫ですか?」

「うわーん!チーちゃんが起きたァ!!もう起きないかと思ったよぉぉ」

 

 前から娘ちゃん。後からソフィアちゃん。もしもウチが男子だったら全世界のソフィアちゃん・娘ちゃんファンから背中を刺されるところだった。女の子同士だからゆるして?

 …ハッ!と我に返るソフィアちゃんは離れ、まだ抱きついて泣いてる「泣いてない!!」泣いてる娘ちゃんの頭を撫でる。するとすぐ後ろから声をかけられた。

 

「こんばんわ。初めまして、綺麗な星空ね。フフ…よく眠れた?」

 

 後ろを振り向くとそこには……髪がとても長く、顔の無い人らしき影が火竜砲を担ぎ、女性の声で油断させウチを食べようとしていた。

 

「キィィヤャオォォが無イィィアアァァァ!!?」

「フフ…驚かせちゃった?」

「ィイイヤャァァァァ!!ごめんなさいごめんなさい!!許してください!!悪霊退散っ!悪霊退散っっ!!!娘ちゃん清めの塩はやくぅぅう!!………ぅゔ。ヴヂがだにじだんですがぁぁぁ!!うわぁぁぁぁんん!!」

「あら?私幽霊だと思われてるのかしら?フフ…大丈夫、ちゃんと生きてるし顔もあるわよ。だから泣くのはもう終わりにしましょう?」

 

 待って待って!今誰かに肩叩かれてる!!すごい勢いで何回も叩かれてる!まるで格闘技のギブアップみたいな感じにすごい叩かれてる!!それに「苦しいぃ…」とか怨念の怨嗟の声まで聞こえるよぉぉうぅ!!?これ絶対振り向いたら食べられるぅぅ!!

 

「あー…リーダーこの娘軽いパニック状態になってるっスね」

「少し手荒だがパニックから覚まさせよう(バチン)」

「痛い!おデコが通常弾Lv.2で撃たれたかのように痛…アレ?」

「ちーちゃんはな、はなして…苦しいってばー!」

「わわっ娘ちゃん!?ごめんね首絞めてた!」

 

 どうやらギブアップタッチも苦しいと聞こえた怨嗟の声も全てウチが怖さで手元に居た娘ちゃんを抱き絞めてた事から出た言葉だったらしい。本当にごめんね?

 火竜砲を担いだ女性の顔無しお化けもよく見ればちゃんと顔のパーツがあって、褐色肌と竈の逆光の所為でそう見えてしまってただけだった。……うん?褐色肌?

 

「……もしかして筆頭ガンナーさん?」

「あら?私有名人?」

「てことは…そこの2人は筆頭リーダーとルーキー!?」

 

 嘘…。ゲーム画面から見るよりもかっこいい…。いやいや!それどころじゃない!()()()()()()()()()筆頭ハンター達が登場したの!?

 

「少し動揺は冷めた?」

「あ、え、は?……うん?ひぇ?!」

「あら、もう気付いた?それにこっちも気付くなんて、余程臆病で目が良いのね」

「……え?」

 

 さっきから気が動転してまともな返事をしていないけど、そんな中でも気になる物がいくつか見えた。そしてそれは筆頭ガンナーさんが用意した物らしい。

 

「あ、その、えーと?あの海に浮いてる的(・・・・・・・)と、さっきからガンナーさんの周りを飛んでる()()()()()()()()()はなんですか?」

「そうね。貴女の疑問をひとつずつ解きましょう。この周りに飛んでる蟲は導蟲(しるべむし)。最近ギルドが開発した蟲で、私たちハンターのサポートをするわ。基本的には群れないと見えないぐらい小さい上に、こんな暗い時間帯で見えるなんて。フフ、凄いわね」

 

どういった働きをするかを聞くと、蜂のように蜜を集めて受粉を手助けする訳でもなく、採取ポイントやモンスターまでの誘導、たまにフィールドに残っている痕跡から近くにどんなモンスターが居るかを教えてくれるらしい。

そんな蟲はウチは知らない…どういう事だろう?

 

「次はあの的の説明ね。腕の力は戻ってる?指は充分に動くかしら?」

 

 指先はまだ麻痺していて折り紙を折るような細かい作業は出来ない。手をグーパー軽く握る程度しか動かせないことを確認する。腕は…うん。充分に動く。その事をガンナーさんに伝えると加工屋さんのお兄さんに向けて何かアイコンタクトを送った。それに応じたお兄さんは何かを砂浜の上に運んだ。

 

「何か分かる?」

「えーと…ライトボウガンにヘビィボウガン。それに弓?」

「そう。俗に言うガンナー武器。団長さんから聞いたわ。貴女の性格や特徴。ライトボウガンから順にあの的を狙ってみて」

 

 さっきの確認はウチが引き金を引けるか。弓が引けるか。その確認だと理解する。しかし待って欲しい…あの的波で動いてるよ?それでも関係無くやれと申すの?これにはDI●様も満面の笑み。

 まずはライトボウガン。置かれたのは初心者向けの<クロスボウガン>。攻撃力104/反動大/ブレ無し。狙うは上下左右に動く直径1.5mの的。筆頭ガンナーさんに持ち方や狙いの定め方等は教わった。特別に可変スコープをつけてもらいスナイプする。使用する弾丸は通常弾Lv.1。引き金を引くと同時に弾の反動に襲われる。

 反動に備えていたものの、ハワイでお父さんに銃の撃ち方を教わったどころか、おもちゃのエアガンすら持ったことのないウチは想像以上だった銃火器のパワーに負け、「ぷぎゃ!」と奇怪な声を上げ尻もちをついた。

 

「フフ…初めてにしては上出来ね」

「え?そーなの!?私にはチーちゃん下手過ぎて外れた様にしか見えなかったよ?」

「じゃあ双眼鏡で見てみるといいわ。的の右端。きっと目が丸くなるわよ」

 

 娘ちゃんが団長さんから双眼鏡を借りて的を見ると、なんと弾丸は外角いっぱいギリギリのコースを射抜いていた。穴は半分ぐらいしか空いて無い程で、クロスボウガンだったからか、使った弾が通常弾Lv.1だったからか、将又あまりにも遠すぎて威力が落ちたのか、理由はどうあれ的は壊れてはいなかった。

 

「び、びっくりした…。すごい音出て撃った瞬間動いちゃったし、耳がまだキーンって言ってる…」

「ちーちゃん動いちゃったの?ならもう一回同じ的狙ってくれるかしら?」

 

 

 残響する破裂音でよく聞こえなかったけど、ガンナーさんまでもがウチを「チーちゃん」呼びしてるのと、「もう一回やれ」という注文が入ったのがかろうじて分かった。

もう一度クロスボウガンを持って構える。一回目で反動や音の大きさが把握できた。

 息を整えて銃の上下運動を抑え…。

───今です。そんな啓示が降りてきたところで引き金を引いた。火薬の着火による爆音からの心の揺れを最小限に留め、心理的ブレを無くす。

冴えた感覚が頭から全身に伝わっていた状態からの一発が必中であることは何故か当然の事だと思ってしまう程。

 ド真ん中!…とまでは行かなかったけど、かなり中心に近い位置に当たって的を粉々にした。

 

「波の揺れで動きが不安定…。そんな的に二度目で…。」

「わっはっは!こりゃ凄いな!なァ相棒、お前さんもお嬢の期待に応えないとな」

「あのコ凄いっスね!自分でも当てるのに4日かかったのに」

「そんなことよりワタシはリオレイアに襲われたことが心配だ」

 

 男性陣は固まってウチの腕を各々自分の子のように嬉しがり、女性陣はまた娘ちゃんが飛びついてきてソフィアちゃんがパチパチと拍手を送ってくれる。

 次に手に取ったのはヘビィボウガンの<ボーンシューター>。攻撃力120/反動中/ブレ無し。

 こちらのヘビィは前に使ったライトのクロスボウガンと違って反動中。これはさっきよりも扱いやすいのでは?そう思っていた時期がウチにもあったよ…。

 結論から言うとヘビィの反動中はライトの反動大よりも大きかった。多分原因は弾丸の大きさの違いなんだと思う。

 なんでも筆頭ガンナーさんに聞くと、この世界には<小カラの実>と<大カラの実>・<カラ骨【小】>と<カラ骨【大】>があるらしい。つまり、ヘビィ用の弾丸は大きい分火薬も沢山入っていて威力も反動も大きいって事……なんでそうなったの?

そんな疑問を残しながらも、なんだかんだでヘビィも2発目で的を射抜いた。

 そして問題の弓。…何度も言うよ?何度だって言うよ?ウチはモンハンに心も体も時間も捧げた身。中高どちらも部活なんて入らなかった…強いて言えばモンハン部には入っていた(会員登録無料)。つまり弓道なんてやった事が無ければ、弓にすら触ったことが無い。

 使う弓は<ハンターボウⅠ>。攻撃力72/放散型。

これまたガンナーさんに撃ち方を教えてもらったけど…結構弓の弦を引くのに力がいる。

 どんな軌道でどの様に飛ぶかは分からない。だけどガンナーさん曰く、イメージすることが大切で、必ず当てるという強い意志があれば矢は上手く的を射抜いてくれるらしい。

 張り詰めた弓から矢が発射され、重力に従いながらも真っ直ぐ飛んでいき……的に刺さった。

 

「あれ?1回で当たっちゃった…?」

「チーちゃん凄い!!」

「やっぱり貴女ガンナーの方が向いてるわ。どう?この機会にこっちに転職するのは?フフ…無理にとは言わないけどね」

 

 確かガンナーに向いてるとウチ自身も思う。

……けどなんか違う。そんな気持ちが心のどこかに引っかかっている。

やっぱり心のどこかで剣士で在りたい。大剣使いで居たい。そんな言葉達が自分の中で何度も反響し共鳴し始め、増強する。

 けれど一方で臆病なウチが肉を斬り裂くあの感覚を発狂しながら拒否をしている。

確かにガンナーになれば、引き金を引くだけで命を奪える。手には直接あのおぞましい感覚は入ってこなく、絶命の断末魔に耐えるだけで済む。……なんとも卑怯だと思う。

 

「……………」

 

 本気で悩む。これ程悩んだのは去年ボクっ娘と映画を見に行った時、実年齢料金では映画が見れない薄い財布で映画館に来てしまった事があって、プライドを捨てて子供料金で入るか、諦めて帰るか苦悶した時以来。

 

「───夢。見てからでもいいよね。お兄さん大剣1つ作ってくれるかな?」

「大剣!?ちーちゃん貴女に大剣の使用許可は…っ、加工屋さん?」

「素材と費用は今度でいい…。今余ってる鉱石で一番いいのを作る…。」

「ごめんねお兄さん。ソフィアちゃん、コンガの討伐クエストの受注お願いできるかな?」

 

 

 

 

 

 

カラカラに乾いた笑顔を見せる。

眼からは今にも透明な彗星が流れ落ちそうだ。

手は震え、心は揺らぎ、決壊しそうな愛。

 

 

体が理解を、精神が否定している/夢は叶う

 

この身体は大きくならない/いつか必ず大きくなる。

 

近接など出来ない/剣士こそハンターの花形。

 

残された道はもう1つしか無い/絶対に道は無数に拓ける。

 

……もう諦めよう/こんなところじゃ諦めれない

 

 

 

「……ランク:3。

クエスト名:コンガの討伐。

狩猟環境不安定。

クエスト受注者:○○○○。

───以上の項目でハンターズギルドの名のもとに、クエスト受注を承認します」

「ありがとうソフィアちゃん」

「尚、クエスト受注者によるギルド規定違反が発生しているため、本クエストでの責任はギルドには発生しません。何が起きようとも全て自己責任となります」

 

  武器の使用に身長制限があるなんて知らなかった。そしてそれを破ればそのクエストでは村八分。恐らく力尽きてもギルドが雇用したネコタクはやって来ない。つまりあのクエストで力尽きればエロ同人みたいになるかモンスターの餌になるかのどっちかになるということ。

 ゲームではクエスト受注後はマイハウスや他の村に移動は出来なかったけど、この世界だとマイルームぐらいは許してくれるらしい。部屋着から<ブレイブシリーズ>1式に着替える。

 ボックスから必要なものをポーチに詰め込み、料理長ちゃんのキッチンへと足を運ぶ。食事の組み合わせは魚と穀物。女帝エビをカラッと揚げたものをジャンボパンに挟んだバーガー。防御力があがって、猫飯スキル<ネコの防御術【大】>が発動する。

 

 最後に加工屋のお兄さんの元へと向かい武器を貰う。授けられたは大剣<バスターソード改>。攻撃力480の斬れ味緑。とてもずっしりと重く、今ある素材で作れる武器で最高の品だった。

 これを背負って走れない事は朝に経験積み。鞘の無い大剣を片手剣の様に納刀するのは走ってる途中にふくらはぎや腕を切りそうだからやめた。つまり常に抜刀状態で移動をしなくてはいけない。

 

「全く…命と夢。天秤をかけるには釣り合うかもしれないけどあまり好きじゃないわ。……けど命を懸けてまで夢やロマンを追う人は好きよ?それに応援したくなるわね」

 

 ジャギィ装備を身に纏った真由香ちゃんが横に立ってくれる。それだけで不思議と勇気を貰えた。峰を肩に掛け、米を担ぐように大剣を持つ。

 

「じゃあ……行ってくるね」

 

 まるで富士の樹海に手ぶらで行く様な感覚で原生林への道を歩む。草木を掻き分けキャンプへ到達。クエスト開始の信号弾を空に向けて放つ。……そこから先の記憶が酷く曖昧だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 案の定負けた。それも下位のコンガ達に。

 この世界は私のFPS視点でしか物を見れない。誰が撮影してるか分からないTPS視点で視界が広がることは無い。故に後ろからの攻撃なんて見えるはずなかった。

 そもそも狩りのイロハは全てゲームで得た知識による独学。けどそれはあくまで理論だけ。実践経験なんて全くない。この日程戦国時代に生まれてればよかったなんて思った事は無い。嫌だけどね?

 

 ネコタクが来ない以上力尽きれば助けは無い。けど今回は見守ってくれた人達がいた。本来ありえない…いや、こっちの世界なら当たり前かもしれないけど同業者に助けてもらえたのが幸運とも呼べる代物。

 ウチの狩りを見守り、助けてくれたガンナーさん曰く、ウチの狩りする姿はまるで『ガーグァの性格をした幼体ティガレックスが蔦に嵌ったドスランポスの様に足掻いていた』と評価してくれた。

 

 ウチが覚えてるのは最初の2頭を相手にした時だけだった。

 溜め斬りのやり方なんて知らないウチはただ振り下ろし、薙ぎ払う事しか出来なかった。

 1頭目には気付かれてなかったから奇襲攻撃として後から右後脚に斬りかかる。

 振り下ろしたバスターソード改から肉を断つ感触が伝わり、返り血が降り掛かり、コンガの絶叫が耳の穴から鼓膜に突き刺さる。

 

()せ返る様な獣臭い血の匂いが辺りに充満し吐きそうになる。「ウッ…」と我慢出来ずに吐き気に負け、絶叫が聴覚を攻撃してたのもあって音爆弾を使われたナルガクルガの如く怯む。モンスター達はその隙を逃さない。

 

 今度はウチが後ろから奇襲される。

 もう1頭のコンガの突進が背中からクリーンヒットして逆「く」の字に曲がる。鈍痛が背中から扇形で全身に走り小さな体は吹き飛ばされた。

あまりの痛さに意識を手放しそうになったけどなんとか持ちこたえ、受け身を取る。けれど受け身をとった先には先程のコンガがお尻を構えていた。………え?お尻?

 

 あぁ…思い出した。ウチ…コンガの放屁で気を失ったんだ。それからガンナーさんに…。

 

「放屁でクエスト失敗って……泣きたい」

 

 今回のクエスト記録がウチの経歴に残るのであれば全力で消去しに行く。例えギルドハンターが出向く事になっても。

 

 

 

 ……けれどこれで決心がついた。この世界でどう足掻こうともウチに大剣は応えてくれない。ましてやハンターにも向いてない事の方が多い。

 

 

 

 

 

───それでもウチはハンターになりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇガンナーさん」

「なぁに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チコ村の砂浜。皆に囲まれた中央でガンナーさんに膝枕されながら満天の星空を見上げ、放屁リタイアの恥ずかしさと悔しさを右八重歯で下唇を噛みながら堪え、彼女に問いをする。

 

 

 

 

『あれだよね。ウチから言わせてみれば、あんな遠くからチマチマ撃ってるガンナーはただのチキン。大体ヘビィのしゃがみ撃ちなんてハメ用コンテンツじゃん。サポガン以外のガンナーは逃げだよwww』

 

 そんな事を昔ボクっ娘に言ったことがある。今聞けば恥ずかしい話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしも今、超常的事象以外で何か願いが叶うのであれば…この世界の全ガンナーからあの時の発言と、これからウチがその道を歩む事を許して欲しい。……そう願うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ウチ、貴女みたいな凄いガンナーになれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬を伝う透き通った蒼の流星。

貴女はそれに願いを込め、言葉にしながら祈ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ…そうね。私程度、アナタなら簡単に超えれるわ。……えぇきっと」

 








半年もお待たせしました。


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ウチにとっての生命倫理

 

 

 

 

 

──────なぜ人は飛べないのか?

 

 この大空を自由に飛びたい。それは人類誰もが1度は願った事がある夢。そして夢に敗れ、何故重力に逆らえないのかをどこかの誰かに言葉にしないで聞いた筈。……まぁ答えも理由も皆わかってるけどね?

 逆に言えば空を飛ぶのに必要な器官と筋力があれば飛べるのかな?鳥は私達が美味しく食べてる胸肉と言う自身の体の70%近い大きさを占める筋肉と、それを使う翼があるから飛べる。鳥体型を人間バージョンにコンバートした場合の結果は…想像に任せるよ。

 

 つまり何が言いたいかというと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボク、気付いたらナルガクルガになってたよ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「あら、そんなアプトノスダッシュじゃスグにティガレックスに追いつかれちゃうわよ?フフ…ほらちーちゃんもっと頑張らないと」

「うぅぅぅぅぅう!!!」

「フフ…ジンオウガが超電雷光虫を飛ばしてきたわ」

「いやぁぁぁぁぁぁああわぁぁ!!!」

「避けたらすぐに立って動かないと上からブラキディオスが降ってくるわよ?」

 

 マタタビを腰に付け、猫ちゃん達に追われながらの砂浜500本ダッシュや、ジンオウガの超電雷光虫弾を模した閃光玉を緊急回避で躱し、止まったポイントに向けて飛び込み爆破してくるブラキディオスをイメージさせた小タル爆弾が降ってくるのから逃れる。

 ガンナーさんが仕掛けてくるタイミングは本当にランダムで、小タル爆弾が終わった直後に閃光玉が飛んでくることもあれば、10分経っても何もしてこない時もある。

 ついでに猫ちゃん達に捕まったり躱せれ無かった回数分だけ今晩のおかずが1品減り、7本連続で躱せたら1品増えると言うシステム。15本連続でスペシャルなデザートが追加。もちろん被弾したら真っ先に消し飛ぶけどね?

 

 決意を固めてから翌日。本格的にガンナーの戦い方を教わる為にウチは筆頭ガンナーこと、お姉さんに弟子入りした。

 死んじゃうかと思う程、見た目に寄らず凄くスパルタな特訓を用意してくれたガンナーお姉さん。弟子入りから1週間経ったけど未だにランメニューしかやらせてもらってない。

 今日の分が終わり、7日目にして漸く追加のおかずが勝ち越したよ。スペシャルデザートは貰えなかったけど…。

 

「フフ…お疲れ様。明日からは次のステップに移りましょう」

「え?!ホント!?」

「あら、私は嘘は言わないわ?」

 

 お姉さんの言葉に心を踊らせる。晩御飯を食べ終え、ソフィアちゃんや娘ちゃんとガールズトークをしてから寝床に行く。

 確実にハンターになって来てる…!そう思えるほど毎日のトレーニングが楽しくて充実してる。爆弾降ってくるのは怖いけどね?

 明日からはどんなトレーニングをするのかな?弾込めかな?武器のメンテナンスのやり方かな?将又撃ち込みかな!?

 明日の昼が愛おしい。明日からやることに想像を膨らませ、あれだったらいいな、これだったらいいな、そんな事を考えるだけで掛け布団を抱き枕にしながら悶々と転がる。

 

 

 

 そして次の日の朝。ウチはお姉さんから防具を着てくるように言われた。それを聞いた時、ついに武器の使い方を教えてくれる!!………そう思ってましたよ。えぇ。うん。うん……。

 防具を身に纏いお姉さんの前に立つ。すると後ろから加工屋お兄さんがやって来てウチの腰に先週1度だけ扱ったヘビィボウガン<ボーンシューター>を納刀状態で取り付けた。それからお姉さんの一言だった。

 

「今日からは武装した状態で前回のトレーニングをするわ。フフ…前回まではインナーだけで身軽だったけど今回からは…。ルールは変わらないから頑張ってね」

 

 ……ウチ帰ったら長距離選手になろうかな?

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 むぅーーーーーんんん…。

 ここ何処だろ?空は暗くて月が出てるから時間的には夜なのは間違いないよね?それとドライアイスを水が張られた桶に入れたように霧が低い位置で充満してる。

 ここは街じゃないけど霧が有名な場所も言ったらロンドンを思い浮かべる。あと日本だと北海道の知床かどっか東の方にある街が日本のロンドンとか呼ばれるらしいよ!詳しく覚えてないけど地理でやったのはうっすら覚えてる!けど違うよねー。

 

 鏡が無ければ水辺もないからボクの今の姿は確認出来ないけど、尻尾や翼のブレードを見る限りナルガクルガって事は分かるんだよねー。体毛は緑じゃないし亜種じゃないのは確か。かと言って原種のように真っ黒でも無ければ希少種のように暗い紺色でもない…。

 爪や尻尾の先が少し白いから多分アルビノ個体なのかな?

 でもこの前人っぽい人達が来たから話しかけたけどびっくりしちゃうだけだったんだよねー。なんか目の前にいるのにボクのこと見えないらしいし、「伝説のアレがここら付近に居るのか!?」なんて口走ってたよ。伝説って??

 

 一応自分じゃわからないけど霧隠れが出来るらしい。つまり発情期にさえ入らなければ滅多に吼えないから見つかることは無い!この世界のモンスターの中ではハンターという脅威から最も疎い存在になる。……けどそれじゃあつまらないよねー。折角ナルガクルガの希少種(っぽいもの)になれたんだから色んなところ行ってみたいのがこのボクという存在!

 

 あとこの体って全然お腹空かないんだねー。もう今日で30回月が登ったからこの体になって丁度ひと月。先週辺り1回凄いお腹空いたけど翌日にはお腹いっぱいになってたから、多分気の所為だよね!てことで出っ発ーーーぅ!

 

(ガシャン)

 

 うん?なんか踏んだ気がする。………矛と盾?それに銃?それと大きな剣。あと兜が3つ?……あぁ思い出したよ。これなんか先週から落ちてるんだよねー。

 ───そう言えばいつか来た人間も同じ様な物身に纏ってたようなー…。

 

 

 

 

……何か引っかかるけど、分かんないからいいや☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!ラストジャスト15本連続回避!計算された勝利のスペシャルデザートゥゥ!」

「あら、まだ1本残ってるわよちーちゃん」

「……………え?」

 

 ドカーン!

 そんな爆音が砂浜を揺らすさざ波の心地よい自然音を掻き消す。……負けたけど得るものはあったよ…。最後まで油断はダメだって事を…。

 プスプス…。とマンガなら髪からそんな擬音が出ているヤ○チャポーズ。もはや絶叫も出ない。……防具が無かったら即死だった。

 防具付き砂浜ダッシュを始めて2週間、漸くまともになってきたよ…。毎日が筋肉痛と超回復の繰り返しだし、被弾する爆弾が痛いし、たまにお姉さんの目が笑ってないし…。

 腹筋は6個に割れ始めたし、下腿三頭筋から大腿二頭筋まで溝が出来るほどムッキり膨れ上がってるし、腕なんかは力入れなければ華奢だけど手を握ったら全然可愛くない。多分これが世間でいうゴリラ女なんだと思う。ハンター辞めたくなってきたよもう…。冗談だよ?

 

「そうね…これぐらいまで来たら明日からは狩り中の立ち回りに入ってもいいかしら?」

「えぇー…明日から立ち回り練習なの……なの!?」

 

 撃沈してた体が復活する。完璧に疲弊しきった体に活力が戻った気がしたけど気がしただけだったから、立ち上がろうとしてガクンッと再び砂浜とI LOVE Chuu. 陽射しの強い日の砂浜は鉄板だからね…顔の皮が爛れるところだったよ。

 リロードはやり方を先に教えて貰ってたから、寝る前とかに何度も練習してたんだよね。だからトレーニングメニューには入れないらしい。撃ち方とかは立ち回りの中に入ってるのかな?

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティガ骨格は飛べるけど飛行には向いてないって分かってたけどここまでなんて…。体感でエリア2つ分ぐらいしか飛べない!おこだよ!!

 ……なーんって言っても仕方ないよねー。飛べないわけじゃないけど飛べる訳でもない。跳んでるが正しい表現だねー。

 

 ナルガになってから2ヶ月経ったけどなんか全然生活に困らない…。むしろ楽しい?けどちーちゃん居ないからどこかつまらない。ちーちゃんの塩ラーメン食べたいよ!!!………あ、でもちーちゃん味噌しか食べないから塩ラーメン一緒に食べた記憶が薄いや。

 

 そういえばね、なんかボクおかしいんだよ。体から霧が出せるようになったし、尻尾振ったら衝撃波というか真空刃が出るようになったのさ。

 霧を出すコツは掴んだから夜ならいくらでも隠れられるし…あ、でも自分の周りだけ霧が出てるって逆に不自然だよね。使い所が難しいね〜。

 衝撃波…いや、真空刃って言った方が的確かな?とにかく切れ味紫ぐらいスパスパ物が切れちゃうの!凄くない!?1回楽しすぎてそこら辺の山を真っ平らにしちゃった(´>ω∂`)

 まぁそんなことしちゃったから「ヤマツカミの出現かー!?」なんてハンターズギルドの皆様がこっちに御足労しちゃった訳だから隠れたんだけど…。力の使い過ぎってあまり良くないねって事を学びましたマル。

 

 さらに不思議な事に!ボクのこの体って山斬ったらなんでかお腹いっぱいになったの!!これって伐採された木々達の断面から漏れたこの世界特有の自然エネルギーを吸収してるって事かな!?舌にはとっても美味しい味が残ってたし、前のお腹いっぱいよりも満腹感あったし、これはすごい発見なのさ!!

 ……でもお腹いっぱいになる為にその都度山平らげるのは大変なんだよね〜。アプトノスとか狩って食べても焼いてないからそこまで美味しくないし、謎の満腹感に比べたら全然だし。ボクって意外とグルメ?

 

 さて、そろそろ次の場所に飛び立とぅ!ここの場所はもう観光し飽きたしね。木の実とか探したけど同じのばっかりだから食生活がつまんなくなっちゃった。

 次はどこに行こうかな〜。砂漠もいいし雪山も捨て難い…樹海なんてすごく面白そうだよね〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────おっと、旅立つ前に珍しいお客さんがお目にかかれたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身真っ黒で異様な雰囲気を醸し出してる大型モンスター。

 

 初見の時にはちーちゃんがボコボコにされてたMH4のメインヒロインちゃん。

 やっぱりこの世界にもいるんだね〜。

 

黒蝕竜<ゴア・マガラ>

 

 

 モンスターの体になった今のボクだと大変危険な相手。

 だって即死ウィルスの病原体だよ!?古龍でもなく、なんの抗体を持ってないボクが相手するなんて馬鹿げてるよね!!?

 

 さっさと霧を出して逃ーげちゃお♪

 

 

 

 

 

 

 

 

『GYAAAAAaaaaaaaaLLAaaaaaaaa!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………へぇ〜。このボクに角も出して6本足になって威嚇するって、つまり喧嘩売ってるって事だよね?

 いいよ。相手してあげる。それに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───君ノ手ト喉カラ、トッテモ美味シソウナ匂イガスルノ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすら引き金を引き続ける。

 

 

 指に力を入れる度に聞こえる絶命の音。高級耳栓があればこの音すら聞こえないのだろうか。

 

 

 ご飯を食べるというのは命を貰うということ。それは動物でも植物でも同じ。違いは貰う時にこの悲鳴が出るか出ないか。ただそれだけ。けれどそれ程。

 

 

 今回のターゲットは原生林に生息する『垂皮竜<ズワロポス>』。わんちゃんみたいな顔に緑の大きな体。基本的に動かないしこっちに襲ってくることも無い。……ガンナーの練習には丁度いい役らしい。

 

 

 料理長ちゃんからズワロポスのお肉が欲しいから狩って来て欲しい。そんな食料調達が目的のクエストだけど…それは建前。本当はウチにガンナーとして、ハンターとして、命を狩り取るという行為をする為に銃の扱いを実践で覚えさせようという内容。

 

 

「この子達はあくまで私たちが生きる為に。だから気にしなくていいわ……なんて事言わないわ。まだ抵抗があるなら村に戻って的を相手にしましょう」

 

 

 後ろで見守ってくれてる師匠が言う。

 その言葉はウチの慰めになる言葉。けれどひねくれ者で、小心者なウチには別の意味に取ってしまう。

 

 

『フフ…貴女ってハンターには向いてないわね。料理長ちゃん待たせてるからもういいわ、私がやっておくわ。まだ貴女に実践は早すぎたね』

 

 

 ありもしない幻聴が目指すべき人を汚す。

 指の震えが止まらない。例えこれが食料調達がメインだとしても、影にある存在が罪悪感として現れてウチの心をジワジワと蝕む。

 

 

(「ぅぁ…ぁぁあ…」)

 

 

 黒い存在がウチを囲ってフォークダンスを踊る。その輪は徐々に狭まりいつしか飲み込み、染め上げようとしていた。

 

 嫌だ。嫌だ。こっちへ来るな。

 

 必死に黒い存在に引き金を弾く。

 被弾した黒い存在はシャボン玉の様に弾け、消えてしまった。

 

『人なら撃てる?』『人なら殺せる?』『人だから殺した?』『自分の方が強いから殺した?』『ならなら、これならどうかな?』

 

 

 奴らは自らの輪郭を崩し、周りの同種と合わさる。

 石油のような黒い水溜りはどんどん広がり、全員が混ぜ合わさったところで形を作る。

 

 大きな翼。鋭い爪。強靭な足に、全てを薙ぎ倒す尻尾。そして凛々しい甲殻。

 

 

(「あぁああぁ…」)

 

 

 雌火竜<リオレイア>。またの名を『陸の女王』。その姿となってウチの前に現れた。

 

 

 

(ぃ、いゃ…ゃめて)ゃめて…ぃやぁぁああぁぁあァ!!!」

 

 

 

 幻想に向けて銃を手に取り引き金を引く。

 

 撃っても撃っても。どんなに撃ち続けても陸の女王の膝は折れず、幼児の戯れを受けているかのようにニタニタと笑い続けるだけ。

 

 

 いや!いや!来ないで!!やめて!!

 

 

 命を奪う動作になんの礼節さも持たず、その1回1回に自らの悲痛な叫びを込め、自己を満たすだけにその行為を行う。

 4発撃ち終われば無意識のうちにリロード。

 

 今日この瞬間。銃を持った人間が何故あんなにも簡単に人を殺してしまうのかがわかった気がする。……いや、これはわかった気がするだけで本質は間違ってる筈。そうだと信じたい。

 

 

「ちーちゃん。それ以上やったら美味しいところ飛んでいっちゃうわ。もう大丈夫よ」

「はぁ…はぁ…」

 

 

 ガンナーさんがウチの肩に手を乗せ、止めをかける。

 その手の温もりがウチを現実へと引き戻し、心を落ち着かせる。目の前にあるのは黒い存在でも陸の女王でもない。赤い命の生命線が体外へと流れてしまって横たわっているズワロポスだけだった。

 

 弾の数を確認する。………7発減っていた。このエリアに居たのは4体。つまり一撃で仕留めた個体がいるという事実。

 

 

 

 

 

…………ウチが殺した。奪ってしまった。

 

 

 まだこの原生林で楽しく水浴びや散歩を楽しむ未来があった。

 周辺の村に何か迷惑をかけたわけでもない。食物連鎖の上位に位置するといだけでこの子達の脳天を撃ち抜いた。

 

『何を今更。現実世界でも人間は同じ事をやってたじゃないか。

 家畜を孕まし、出産させ、生まれたら母親と子をすぐに離し、早く大きくなるよう育てる。そして殺し、出荷する』

 

 誰かがウチの心で囁いた。

 

 確かにそうだ。それは当たり前だった。

 スーパーに並ぶ肉を、どれが安いか、どっちがお得か。そんな気持ちだけで手に取り、たまに食べきれず捨てる。

 ただ商品棚に並んでるの買い物かごに入れるだけ。そんな自分の手は汚してない様に見えるだけの場所で、綺麗な上辺だけを見ていた。

 

 生きる為には仕方ないとは言え、非人道的とも言える精肉システム。人間が行う畜産管理。命を頂くというのがどういうことか完全に忘れていた。

 

 昔はウチだって子供だった。無邪気に、なんの悪びれもなく道端で必死に生きる蟻を踏み潰したこともある。

 この世界に来てその行為がどれ程残酷だったかを知った。

 

 

 

 

 

 

 

───ウチはこのままハンターになれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと何回この場所で気を失えばいいのだろうか。

 

 

 

 










ダメージ計算なんて野暮なことはしないでください(-∧-;)


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ウチにとっての解剖学

 私は今日、久しく凄腕のハンターというものを見た。……違うわね。正確にはその原石。

 その凄腕のハンターはまだ幼く、歳は20丁度らしいけど、その小さな容姿を見たら本当だとはすぐに信じれなかった。

 

 今日はその子を連れて原生林の水辺へやってきた。目的はチコ村で待っている料理長のアイルーちゃんに『垂皮竜のお肉が欲しい』と依頼されたから。けど本質はこの子に実戦経験を与える為。

 本当は知識だけで、自称ハンターだと言い張るこの子の鼻を折りたかった。まだハンターを名乗るのは貴女には早い。そう言いたかった。

 

 その子は凄く体も心も小さくて、飛んできた虫にすら酷く驚愕する程。その分驚かないように周りを常に気にして、観察していたわ。

 

 

 命を奪う行為にも抵抗を覚えてたの。最初採取ツアーに片手剣で行ってモンスターを斬ったらしいのだけど、肉を刃で裂く感触に耐え切れず吐いたらしいの。……優しいのね。

 

 だから私は直接手を汚さない方法を提示した。そしてその子はその才があるのを知ったわ。

 ───そして今。ただのクロスボウガンで、通常弾Lv2で、意外とタフなあのズワロポスの急所を撃ち抜いて1発で絶命させたわ。…それも数頭連続で。

 

 素直に戦慄したわ。

 まぐれでそんな芸当出来るなんて有り得ない。もしも偶然なら、なんて豪運なのかしら。でもやっぱりこの子の中で命を奪う事に開き直れてなくてすぐに失神しちゃったわ。

 

 私は水に頭が浸かっている彼女を抱き上て、信号弾を天に撃ち上げ、ターゲットの回収係として待機してるアイルー達に報告する。

 

 

 今回は気絶しちゃったけど、実践練習に意味がある事が分かったのが1番の収穫ね。

 あとはこの子には辛いことかもしれないけど、私達が生きるという事。ハンターとモンスターという弱肉強食の世界で互いに喰らい合う関係に慣れさせないと…。

 

 

 この子には沢山の命を奪わせる。

『酷く非道な事を強要させている悪魔だ!』そう私を糾弾してもいいわ。だってこれしか方法が無いもの。

 それに…この程度で躓く様なら私からこの子を見限るわ。だってハンターって職業は常に『"狩る"か"狩られる"か』なんだから。そんな命を狩りとる行為に躊躇を覚えてる自殺志願者をわざわざあんな死と隣り合わせのフィールドに出す筈がないじゃない。

 

 

 

 ふふ…。優しい先生を演じるのはここまで。これからは問答無用で私の指示には従ってもらうわ。あの子が泣こうが叫ぼうが関係ない。全てはこの子を一人前のハンターにする為よ。

 

 

 でももしも。もしもあの子が『もう辞めたい』なんて言い出したら止めないわ。だってそれを無理に続けさせる権利は私には無いもの。

 

 

 

 

………けど、その時は私がちゃんと責任を取らないと。

 

 

 

 

 

 

具体的にどうするの?……ふふ。そんなの決まってるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の両手の親指を切り落とすわ。2度と刃も銃も持てないようにする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だってそうするしか無いのよ?生半可な戦い方を教えたまま中途半端に解放したら、まだ3割しか教えられてない戦闘知識でフィールドに出るもの。えぇ、あの子なら確実に。

 

 そうなったら絶対と断言出来るほど、あの子は命を落とす。そんな辛いことさせたくないのが人の心であり、私が彼女の先生としている間にやってあげれること。言わば最後の良心。

 

 この事はあの子には言わないわ。言わなくても分かってるはずだもの。ふふ…フェアじゃない?そんなこと知らないわ♪ ハンターを1度志したならその位のリスクは必要だもの。

 

 

 私色に染まるか、あの子だけの色を出すか。

 

 ふふ…。これからとっても楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めるとまたいつもの天井があった。この光景にはもう慣れたよ。……けど時折前の天井が恋しくなる。

 マイハウスの出入口から差し込む光は薄いオレンジ。また夜だ。また気絶しちゃったんだ。

 特に外傷も無く気分は悪くない。頭がまだ少し湿ってる。指先が震えている。体があの時の反動を覚えている。

 

 

「うっ…ぉぇ……」

 

 

 記録された記憶が蘇り、胃酸が逆流する。吐き出す前にベットの横に置かれた空っぽの桶を見つけてその中に吐瀉物を捨てた。きっとガンナーさんがこうなる事を予測して置いてくれたんだと思う。一緒に置いていた布で口を拭いてベットに戻る。

 右腕を目の上に持っていき目を閉じる。……ダメ。目を閉じたらズワロポスの悲鳴が聞こえてきちゃう。多分このまま横になっててこの精神は安定しない。だから向こうに行こう、きっとソフィアちゃんや娘ちゃんが居ると思うから…真由香ちゃんはどこにいるの…?

 

 今まで知らなかった孤独と不安が襲ってきた。それらから逃げるように布団から降り、早歩きでマイハウスから出た。

 かまどの炎。明るく辺りを照らしているその光がウチの精神安定剤になりつつある。そこに集まるみんなの影。その中でガンナーさんを見つけて歩み寄る。そして頭を深々と下げた。

 

 

「ガンナーさんごめんなさい!また気を保てなかった…」

「ふふ…いいのよ。でも次からは私は助けないわ。遠くから見てるだけ。自分で判断して、自分で自分を守るの」

「でもウチまだ全然ガンナーさんから戦い方を教えてもらってないよ…」

「ガンナーなんて特に教える事は無いわよ。構えて、撃つ。撃ったら逃げてリロード。全部見てるから終わったら反省会。それがこれからの方針」

 

 

 た、たしかにそうかもしれないけど…。ひたすら頭に抜刀溜め3を入れるだけの脳筋な立ち回りしかやってこなかったウチにガンナーの立ち回りなんて全然わかんないよ。

 そもそもガンナーさん居なくなったらウチ独り…まだ無様に負けるビジョンしか見えない。

 せめてもう1人……真由香ちゃんがいれば…あれ?あのそういえば真由香ちゃんってどこ行ったの?最近見かけてないけど…。

 

 

「そうそう。あと三日したら真由香がニャンターから帰ってくるからそれまでにあの子を唸らせるような実力付けておかないと。ふふ…きっとびっくりするわ」

「にゃ、にゃんたー?」

「あら?……ふふ。ちーちゃんでも知らない事ってあるのね」

 

 

 この世界に来て2度目の聞き慣れない単語が出てきた。「にゃんたー」って何!?

 

 

「ニャンターはハンターのアイルーバージョンよ。

 3年前かしら?とあるベテランオトモが主人のG級ハンターをクエストで失ってね?仇を取りたいから行かせて欲しい!って大老殿で懇願したのよ」

「で、でもオトモちゃんだけって流石に……」

「それを許したのよ。一番偉いおじいちゃんが。そして無事にオトモアイルーはモンスターを討伐して帰ってきたの。そこからだったわ、ニャンターという職業が生まれたのは。よく考えてみればアイルーだって元は野生の種族。狩りを行う事はなんら不可能ではなかったわね。…あの子はニャンターの中でもかなり優秀よ。……だからこそ前の主人のことが…」

 

 

 真由香ってそんなすごいんだ…。

 実力ある故の挫折…実力でも挫折じゃないね。実績持ち故の救えなかった時の無力さを痛感しちゃう。

『分かるよ。辛かったね』なんて言葉をあの子には掛けられない。だってウチはそんな誰かから認められるような物は持ってないし、その時その現場にいなかった。……それにその言葉程鋭利な爪になる事をウチは知ってる。

 

 

 

「ほら、噂をすれば帰ってきたわ」

 

 

 そう言われて村の入口を見ると、そこには血塗れの真由香が疲れた様子でヨチヨチと歩いてきていた。

 血には慣れたとは言え、まだ少し抵抗のあるウチは真由香の心配をするよりも先に「ウッ…」と頭に過ぎりってしまい、精神の自己防衛を優先してしまった。

 そんなウチの様子が遠目からでも分かったのか、彼女は笑顔を作って優しく語りかけてきてくれた。

 

 

「大丈夫よチー。全部返り血。傷はないわ」

「うぅ…ありがと。大丈夫だった?」

「傷は無いって言ってるじゃない。…まぁ大丈夫よ。私があんなお猿さん相手に遅れを取るとでも思ってるのかしら?」

 

 

 うん?お猿さん?

 なんのことだろう?と思考を巡らせていると、真由香に続いて村の入口から「ニャーニャー」アイルーちゃん達の声が聞こえてきた。けれどどこか普段の声とは違い苦しそうだった。

 

 そしてその苦しそうな声をしている原因が見えた。

 大型のネコタクシーに積まれた桃色の獣。それを十数匹のアイルーちゃん達だけでロープなどを使い引っ張っていた。

 

 荷台に乗っているソレをウチは知っている。

 

 

桃毛獣(ももげじゅう)ババコンガ。

 

 

 桃色の毛で覆われた大きな体に立派なトサカ。何処と無く漂ってくる悪臭の匂い。

 匂いは初めて嗅ぐけど、鼻が曲がりそう…。

 

 

「あら?ババコンガの討伐依頼なんて来てたかしら?」

「別に…管理人ちゃんがぶつくさ言ってるの思い出したのと、散歩してたら喧嘩売ってきたから買っただけよ。それにチーにもこのあとの処理体験させなきゃでしょ」

「ふふ…気が利くわね。でもいきなりアレはちょっとキツイと思うのは私だけかしら?」

「最初にどギツイのやらせてあげる方が後々楽よ」

「そういうことで…ちーちゃんハンターナイフ持ってこっちに来なさい」

 

 

 あぅ…なんてスパルタ。さっき失神してしまったばっかりなのに直ぐにモンスターの解体をしろとか……でもこんなこと言ってたって仕方ないよね。………おぇ…。凄いうんちと血の匂いが混ざって……うっ…。

 

 

「そうね…。それじゃあまずトサカを貰いましょうか。なるべく極彩色の付け根から刈り取って貰えるかしら?」

 

 

 ババコンガのトサカ。通称「極彩色の毛」黄色いアイコンのアレ。トサカは植物の樹液…人間で言うワックスでカチカチに整えられてて、水に浸からせながら強く優しく揉みほぐしてあげると一級品の糸になるらしい。なんか凄い服の素材として人気で需要が高いんだね。その作業は娘ちゃんがやってくれるらしいから私は恐る恐るトサカの先端を握り、根元をハンターナイフで裁ち斬った。う~ん多分80点。ババコンガの頭の方を見るとまだ極彩色の色が残っている。もっと根元からでよかったのね。手に持っている三角錐の毛を水が張られた桶を持った娘ちゃんに渡す。

 

 次は毛皮を剥ぐらしいけど…え?待って?ウチケルビすら解体やったことないよ?初めてがこんな大きくて臭いゴリラなの?…スパルタすぎるよ……。でもどうやって毛皮剥ぐの?魚の皮引きとは違うよね?

 そんなことを思っていると奥から加工屋お兄さんが大きな斧をもってやって来た。なんかあの大きな斧で手首足首を切り落とすんだって。スラッシュアックスとかチャージアックスじゃなくて普通の大きな斧。童話でおじいちゃんが薪を割ってそうな斧だよ?

 

 加工屋お兄さんがババコンガの手首足首を切り落としたらウチは手の切断面から脇の下にまでに一本、足の切断面から脛・膝・前面の太ももを通るように腰まで一本、お腹の黒い筋肉との境目に一本切れ込みを入れる。

 そうしたらあとは力いっぱい端から引っ張るだけ。皮と肉の接着が強い時はナイフで剥ぎ剥ぎする。取れた毛皮はこれまた水の張られた大きな桶を持った娘ちゃんに引き渡す。……そして目の前には文字通り丸裸になったババコンガが…おゅっ…。キモイグロイグロイきもい。想像の100倍吐き気がとめまいがする。皮膚の下にある欠陥が千切れることで出血し、血の匂いが充満する。

 

 更に次はさっきお腹に入れた切込みに沿うように、もっと深々とナイフを入れて、お腹の黒い筋肉の殻を外してお腹を開く。討伐した後、ここに運んでくる前に頸動脈を斬っていなかった所為か血は多く残っていて、首元にナイフを入れた瞬間、大きな血管に穴が開き、血が噴き出た。うっぐ……!臭い…!鉄の匂いなんかじゃない。魚の胃袋の中で小魚が消化されかけのような生臭さの二乗のようなヘドロ以下の匂い。

 なんとか黒い部分は外せたものの、手が尋常じゃないほど震えてる。まともに呼吸もしてないし、どうやって呼吸してるのすら考えられないほど頭の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられてる。

 

 そんな様子をはっきりと確認しているはずなのにガンナーさんの指示は止まらない。なんと次はこの臓物の海に手を突っ込んで食道を探し出し、なるべく上の方で断ち切れと言ってきた。もう思考回路がショートなんてレベルじゃないよ。シュレッダーとか粉砕機にかけたように基盤自体が粉々になってる。変な笑いも出てきた。

 

 生暖かいような冷たいような熱いような。わかるのはとてつもなく柔らかいものがウチの手に触れていることと、グチャグチャヌチャヌチャと鼓膜どころか聴神経をキャベツの様に千切りにしてくる音が聞こえてくるのと、真っ赤に染まった海で形容すらしたくない海産物が蠢いてることだけ。

 中々目的のものが見つからず、グニャグニャに屈曲した視界でガンナーさんを見つめると、あろうことかウチの手を掴んで、この腐敗した腐海に引きずり込んだの。自分の意志で触っていない気持ち悪い感触が肘から先で乱反射して、肘より奥に伝わる。そして人差し指と親指の間に何か細い管のようなものが嵌った。その状況を察知したのか、私の手首を掴む腕が横向きに力を入れる。すると親指と人差し指の間でチェロをしごいている感触が伝わり、2秒もしない内に人差し指の第二関節で天井に行き当たったのが理解できた。

 天井から少し離れ、第二関節と天井の間にナイフを入れる。力なんて入らないから切れるはずもなかったけど、ナイフの切れ味が良かったのと、手の震えのおかげで管を斬ることが出来た。……そして切れたことに安堵し、掴んでいたものを放してしまった。

 

 ───嗚呼…ウチの馬鹿。ホント馬鹿。死ねばいいのに。このババコンガに代わって解体されればいいのに。

 

 放してしまって見失った目的のものを、再びこの海の中からサーチしてサルベージしなきゃいけない。後ろのギャラリーから「あぁ~…」と落胆の声が聞こえた。ねぇ見てないで手伝ってよ?ホント…ホント無理。助けてよ……。

 

 そんな願いを叶えてくれる神様なんてこの世にいない。泣きながら、叫びながら、もう出るものが入っていない胃袋の中身を捻り出しながら、ウチは必死に手放してしまった物を探し出して引き上げた。

 

 流石に内臓物にアナフィラキシーショックの10倍ぐらいの拒絶反応をしているウチを見て、これ以上ウチにこの内臓の作業をさせるのは無理だと判断したのか、真由香が猫の手なのに器用にナイフをもって直腸を肛門から切り離した。デロン…とお腹から零れたモノはこれまた娘ちゃんが大きい桶に移して持って行った。

 あとは首を落とせば料理長ちゃんがやってくれる…はずもなかった。お肉の取り外しまでウチがやるらしい。ガンナーさん曰く首を落とすコツは関節が狙い目らしい。骨にいくら刃物を突き付けても切れることはなく、関節にナイフを突き刺して、梃の原理で分離させるらしい。でもやっぱりいくらハンターとは言えモンスターの関節にナイフを突き刺す事なんてできないから、関節の境目にナイフを置き、柄をハンマーで叩くんだって。もう訳が分からない。

 

 20㎏はありそうなババコンガの頭はゴロンと転がり落ちて、残ったのはなんだかよくわからない肉塊だった。

 

「ふふふ…ここが人でいう大腿四頭筋。これが下腿三頭筋で、三頭筋の中でもこっちがヒラメ筋でこっちが腓腹筋。牙獣種の大殿筋なんかはとてもおいしいわよ?ババコンガだとお腹を張って勢いよく地面に叩きつけて得物をプレスする習性もあるから広背筋や僧帽筋、腕を上げる前鋸筋の部位とかもおいしいわよ。首筋にある胸鎖乳突筋なんかはジャーキーにすると噛みごたえがあってイイわ。なるべく大きく切り分けてね?」

 

 極限状態のウチの耳元でなにやら楽し気に語る何かがいたのは薄っすらと覚えていた気がするようなしないようなよくわからないけど、目の前がまた真っ暗になったのは覚えてる。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は丸2日寝ちゃってたらしい。

 なんかもう恒例行事と言うか、様式美というか…。お腹空いた。

 

 相変わらずウチが気絶して、次に目を覚ます時は真由香が横で看病していてくれてる。今回はモンスター図鑑とかを見て勉強中らしい。…アイルーも本読むんだ。

 

 ベットから降りると貧血で倒れそうになる。急に立とうとしたからかな?真由香はウチをベットに座らせて、持ってきた水を飲ませてくれた。一昨日の事が昨日のように鮮明にフラッシュバックする。…寝てたから昨日の事なんだけどね?

 

 深呼吸して、二度寝する。珍しく真由香もウチの胸元に入ってきた。…猫飼ってたらこんな感じなのかな?ゴロゴロ言いながらウチの体に顔をスリスリしてくる。可愛い。

 

 

「………臭い!ちー臭い!!水浴び行くわよ!!!」

 

 …傷付いた。流石に同性とは言っても、そんなインハイどストライクなデッドボールは辛いよ?もっとマイルドにオブラートに包んで言お?

 そんなこんなで水浴びに連れてこられた。…アイルーって水嫌いじゃないの?アイルーは猫じゃないって言ってたけど、猫のようなものだし…個体差あるのかな?

 ボトルのキャップを開けてシャンプーを頭にかけられて肉球のついた手で洗われる。…自分でも洗えるのに。相当臭くて真由香自身が納得が行くまで自分の手で洗いたいらしい。潔癖症なのかな?

 ……でもなんかすっごい癒される。まるであの変態ボクっ娘に洗われてるような…。今頃何してるのかな…?

 

 髪の匂いは取れて、まるで採取クエストを50分間やり遂げたかのような充実感を出している真由香。流石に体は自分で洗おうとしたけど、頑なに背中を流させてと頼まれた。……ここでウチは理解した。これは多分狩りが終わった後、真由香と…真由香の前のご主人が毎回こんな風に血の匂いを落とすために洗いあっこをしてたんだって。……だってこの子がウチの目はまるでウチを見てるようで、ウチじゃない何かを見てる。目に光なんか止まっていなく、何か妄執に取り憑かれているようだった。それがなんか腹立って気に入らない。さっきまでは何ともなかったのに。

 

 ───だけど何も言えなかった。

 

 きっと辛いんだね。悲しいんだね。真由香が一番幸せだったであろう時間を過ごせるなら、今だけは付き合ってあげよう。…そんな気持ちは同情からくる最低な物だった。

 

 

 

 

 

 

 水浴びから戻ってきたら料理長ちゃんがご飯を作ってくれていた。今日のメニューは桃毛獣のフルコース。

<ババコン(桃毛獣)テッポウのトマト煮>

<ババコンセンマイとジャンゴーネギの炒め物>

<ババコンガの黒腹肉のシチュー>

<ババコン……。

 

 

 臭み抜きで丸一日かかったんだって。それにしても多いね?一人前が2ndGの豪華飯の1.5倍ぐらいあるよ?これ絶対ババコンガ一体分じゃないよね?なんだか怖くなって真由香に聞いたら「私じゃない」って一言。あぁやっぱり一体分なんだね…。

 そう思った矢先後ろから「あ!おはよーっス!!やっと目が覚めたっスか!!」と手をぶんぶん振りながら歩いて来る筆頭ルーキーさんが居た。その顔には私が気絶する前と比べて、何かやり遂げたような、溜まってた鬱憤を晴らしたような清々しさがあった。……昨日新たに1頭狩ったんだね。そういえばウチは二日寝たのに臭み抜きに一日(・・)かかったって言ってたね。計算が合わないと思ったらそういうことだったんだ。

 

 

 兎に角、今はお腹が空いてる。食べなかったら筋肉が落ちて、また砂浜ダッシュしないといけなくなりそう。学ばないといけないことが沢山あるのにそんな無駄な時間を使ってる暇ない。1分でも早くご飯にありつかないと…満面の笑みをしたガンナーさんの手が迫ってきそう。

 

 

「……いただきます」

 

 

 手を合わせ、その言葉を口にする。

 この世界に来てから「いただきます」の6文字が如何に重みのあるものかを知った。これは元の世界に居たら絶対に知ることの無い感覚。

 

 カロリー計算とか全然気にしない。とにかく食べよういっぱい食べよう。どうせこの後死ぬか痩せるかなんだから。

 

 料理長ちゃんが本当に上手に臭み抜きをしてくれたおかげで、獣臭さなんてものは全然ないし、硬そうと先入観を持っていた黒いお腹の肉は、ホロホロ崩れるぐらい柔らかかった。料理長ちゃん曰く、1番外側の部分は皮引きの要領で切り取り、残った部位を1日以上かけて圧力鍋で煮るらしい。おいひい。サル?ゴリラ?のお肉ってこんなにおいしいの?

 

 ……でも汁物はいつもスープ。今回のはテールスープ。美味しいよ?こっちもお肉ホロホロでおいしいんだけど…

 

 

「はぁ…お味噌汁飲みたいよ…。味噌があったら味噌ラーメンとか食べれるんだけど、この間料理長ちゃんに聞いたら『ミソ?なんニャルかそれは?』なんて言ってたんだよね。…○本さんなんで味噌の概念組み込んでないの?塩派なの?もしかして塩派なの?ゼヨゼヨ船長と会えたら知ってたりしないかなぁ…」

 

 

 あれ?4Gの世界にゼヨゼヨ船長出てきたっけ?もう大老殿しか行ってなかったから覚えてないんだよね。だってあのゲームゴリラ狩るゲームなんだもん。こんな事言ってるけど、気づけばこの世界に来てもう結構経ってるんだね。

 …帰りたいなぁ。好きな世界に転生……死んでないから転移の方が正しいのかな?とりあえず大好きなモンハンの世界に来たんだから楽しもう!なんて精神はウチは持ち合わせていない。だってこんなちっぽけなウチがあんなバケモノに勝てるはずないじゃん。3回ぐらいフィールドに出て全部気絶してたけど生きて帰ってこれたのは奇跡そのもの。仮にウチがゴリゴリマッチョの厳つい戦闘狂な漢だったら話は違ったかもしれないけど、所詮ウチはビビりなか弱すぎる女の子。そんな無力な存在がこんな世界に居続けたいなんて死にたがりではないよ。

 ──それに大切な友達残してきちゃったからね。あのボクっ娘がこの話を聞いたらどう思うかな?帰ったら自慢しよ。あの羨ましがる顔が何とも言えない可愛さがあって定期的に見た…い……。

 

 

「…………会いたいよ。どうして追っかけて来てくれなかったのよ…貴女の大好きなウチとモンハンが一緒にあるのに何で居ないのよぉ…」

 

 

 

 あ、あれ?料理長ちゃんにして珍しいなぁ。スープの塩加減間違っちゃったのか?すごく…すごい、とってもしょっぱいよ。それに喉がキューって感じな異常を感じる。喉の高さを絞めつけるようなスパイス使ってるんだね。それも分量かなり間違えてる…。

 ホント…ホントに…。どうしてこんなに…なんでなの……。

 

 

 あぁダメ。早くこのスープを飲んでしまわないと、せっかく整えてくれた極上のテールスープがまずくなっちゃう。ホント…不味くなっちゃうから早く飲まないと。飲まないとダメなのに…娘ちゃんとかソフィアちゃんとかみんな居て楽しい食事なのに、二日ぶりのご飯でお腹空いてるはずなのに…全然ご飯が喉を通らないよぉ…何で居ないのよ…いつも見たいに勝手にウチの部屋に入ってウチの布団に潜り込んできてよ…。ねぇ…今何してるの?

 

 

 






長期間空いた癖に何一つ進展してませんが、一応私は生きてます。生きてる限り書くので頑張ります。


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私にとっての相棒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────チーちゃんがボクを求めてる気がする!!!!』

 

 

 

 

 寝起きの朦朧とした意識の中で、明確に野生の勘がそう告げる。

 

 目を覚まして視界に入ってきた物は光。真っ白な太陽の光。太陽の位置は丁度真上。体表はそこまで熱くはならない。所々白く、全体的に黒か灰か分からない体。シマウマの様に縦縞じゃなくて良かったと安堵したのは言うまでもない。

 彼女が竜の姿になってから随分と経った。しかし竜とはいえ、ティガレックス骨格で翼のない彼女は空を自由には飛べない。故に移動手段は徒歩と跳躍、高台からの滑空のみ。

 

 彼女が今求めているモノは、彼女と同じくこの世界に来ていて欲しい、居るかもしれない1人の少女。この世界の大きさがどれ程の物かは知らないが、居るかどうかもわからないたった一人の少女を探す行為は、小説の中のご都合主義の様なものが起こらない限りは無理な話だ。もっとも…彼女が人の言葉を扱えたならば話は別だったかもしれないが。

 

 今日も今日とて世界を駆け回り、愛しの友達を探している。彼女が宿った竜の名前は<迅竜>。その動きはまるで疾風迅雷…なんてことはよく言ったものだ。頭の中身はウスノロのトコロテンのきな粉味が詰まっているのだが。

 

 彼女は水辺に移動して給水をする。現在居るのはゲームで言う未知の樹海。『ミネラルウォーターなんてどれもラーメンにしちゃえば変わらなーい!』などと昔は言ってた彼女だが、野生の中で生きていくことになってから水の違いが分かるようになっていた。

 

『んーー…なんだろ。渓流の水の方がもっと舌触りが良かったような…でもこっちもこっちなかなかに澄み渡ってて…霧にしやすそうかな?』

 

 

 水分補給をした後、彼女は決まって体から霧を噴射させる。しかし今日のそれは少々濁っていた。原因は明白。前回戦ったゴアマガラの鱗粉が霧を噴射させる細かな穴に入り込んだのだ。いくら真空刃や尾棘といった遠距離攻撃ができるとは言え、そのダメージは微々たるもの。

 ナルガクルガの本質は素早い跳躍によって獲物や敵の死角に入り込み、その鋭い牙や翼のブレードでズタズタにすること。そして逆立った尾棘で威力を高めたその長い尻尾での叩きつけ。ゴアマガラの様な迂闊に近付いてはいけない敵は相性が悪い。

 

 

『まだ色抜けないなぁ…青い果実見つけたら食べてるけど、あれってホントにウチケシの実なのかな?』

 

 

 どう願っても引く気配が無かったゴアマガラに、彼女は仕方なく無理を承知で接近戦に挑んだ。その結果霧を噴出させる汗腺に詰まった鱗粉。

 ウチケシの実を摂取すれば狂竜症の進行を遅延できるが、食べている実がそれかどうかがわからない。ましてやゲーム画面のように発症までのゲージが可視化出来ているわけでもない。

 

 

『そもそもボクが狂竜ウイルス克服したら極限化するのかな?それともアレになるのかな?あれ…あれだよあれ。アレ?あれの名前ってなんて言ってたっけ?名前あったような気がするけど特に興味なかったから覚えてなくて…、あれだよ?ハンターが感染してモンスター攻撃し続けたら克服して会心率上がるあれ。抗竜石じゃなくて撃龍槍じゃなくて…えーと…えー……うん?うん。アレ?………まぁあれだよね。

 実際140ラーラー周回するするだけになったら「狂竜症なったーなんかHPバー違和感ー」か「やった会心率上がったよFuuuuuuuu!!!」のどっちかだけだし、そもそもウチケシ飲んでる暇あったら攻撃してるから持ってこないよね!』

 

 

 どれだけ悩もうとも、所詮彼女の体はモンスター。結果はウイルスに負けて新たなゴアマガラとなるか、克服して極限化するかのどちらかにしかならない。

今後襲ってくるかも知れない、生理前後にインフルエンザにかかったかのような体調不良以上のものに襲われ、意識が朦朧とし、自我を失い、暴れるに暴れ回る。

 

……そこから力尽きるか極限化するかは運と彼女の精神力次第だ。

 

 

『折角モンスターハンターの世界に、それもモンスターの姿で遊んでるのに、まさかゴアと会って寿命削られるなんて…やだなぁ』

 

 

 そう悲観する彼女だが、実際の所は狂竜ウイルスに蝕まれていない。先程も言ったが、ただただ汗腺に鱗粉が詰まってるだけで、彼女の強力な免疫能力によってウイルスは無力化されている。つまりゴアマガラの苗床にも極限化にもなることは無い。

 

 

(ぐぅぅ〜〜……)

 

 

『はぁぁぁあ〜…。ビョーキになるし、お腹は空いたし…。ゴアの尻尾の1本ぐらい貰いたかったのに…角なんて爪楊枝にしかならないよ。あんな凶暴に吠えたからみんな逃げちゃってここら辺にはボク一人だけ……水でお腹満たそ』

 

 

 余りにも空腹。周りには紫色で変な模様のキノコや、苔が生えたり蔓が絡んだ木しかない。もしも彼女がナルガクルガなどではなく、ドボルベルクであったならばこんな事態にはならなかった。しかしそんな事を言っていてもナルガクルガの体である以上どうしようもならない。空腹に気を取られるのを避ける為に湖畔の水で胃を満たす事だけが現在唯一の最善策。

 

 

『目に入るのはどいつもこいつもガリガリボーンなランポスだけ。群れたら面倒臭いし、食べるところ少ないから消費カロリーに見合わない邪魔者。火でも吹けたらガーグァの半身焼きとかゆで卵とか出来るのに……あ!そうだレウス!!ガーグァ見つけたら捕まえて王様(笑)に焼いてもらお!た・ま・GO!!た・ま・GO!!!』

 

 

 雲一つ無い晴天のような陽気な歌声が樹海に響き渡る。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────Zzz」

 

「─────Zzzzzz」

 

「─────Zz…ヒャン!?」

 

 

 真っ白な月光が風で靡いたカーテンの隙間から射し込んでくる。思わず雷狼竜が遠吠えをしてしまう様な、金火竜が子守りを棄てて月光浴に身を投じてしまう様な月夜。ウチは謎の悪寒に襲われ目が覚める。周りを見渡せば頭上のハンモックで真由香がスースーニャゥ…と息を立てながら寝ていた。そんな姿を見たら嫌な悪寒なんて一瞬忘れられて幸せな気分になる。

 しかしそれは文字通り一瞬だけだった。安堵をすれば再び上下左右前後全方位から見つめられている様な感覚に襲われ、体の内から外からモヤモヤが母親の子宮の中に居るように包み込んでくる。……もう一度寝直すには時間が掛かりそう。

 

 ため息をつきたくなったけど、真由香をそれで起こしてしまっては悪いと思い、ため息を飲み込んだ。だけどこのままではため息を溜める袋がはち切れてオオナズチもビックリな吐息が漏れる事になる。それだけは避けたい。

 

 ───そうだ。夜風に当たろう。瞳を閉じれば響き渡る月人達の夜想曲(ノクターン)。哀にて俯けば白銀の砂浜。涙を流さぬ様天を見上げれば宝石の海。こんなに素晴らしいロケーションなら、ウチのこのモヤモヤも晴らしてくれるはず。

 波打ち際を歩いたり、砂浜座って絵を書いたり、寝そべって星を数えたり、また立ち上がって今度は膝まで浸かる部分まで進んでみたり…。ウチが思いつく限りの1人での海の楽しみ方を堪能した。

 

 ……だけれどもそれが間違いだったと気付いた。昔の哲学者…サルトルとかキルケゴールとかハイデガー辺りが残した言葉を思い出す。

 

『疲れているときは反省をしたり、振り返ったり、ましてや日記など書くべきではない』

 

 まさにそれだった。このモヤモヤを抱えた状態で、こんな素敵な海を楽しむというのはまさに『疲れ切った夜に日記を書く事』そのもの。書いてる途中は変な気が舞い上がり、好調になった気になれる。だけど筆を置けば、そんな麻薬が見せる幻が泡沫(うたかた)となる。

 

 あぁまただ。半日も経たない内に昼間と同じくまたウチの顔はぐちゃぐちゃに濡れる。胸が締め付けられる。

 生まれて初めての初恋、勇気を振り絞って告白し、フラれ、直後目の前で、世界一嫌いな女に世界一大好きな彼を奪い取られる。そんな気持ちに陥る。

 

 今日の昼間。ババコンガフルコース中に突然泣き出してしまったウチに戸惑うキャラバンのみんなと筆頭達。訳を話せるはずもなく、祖母の形見の花瓶を割った子供のように、涙が枯れるまで哀を叫んだ。

 

 

「あら、ガノトトスにイタズラでもされたのかしら」

「わっ!?あ…真由香…。ビックリした……じゃなくてっ!

 ………別に。綺麗な魚が浅瀬にいたから近づいたら高い波に遊ばれただけ。もしそうなら今頃砂浜には珊瑚の絵と、ギルドカードの勲章に『幼女のお頭』が追加されてるね」

「ディアブロスに踏み潰された熱帯イチゴなんて勲章にするほど欠片も残らないわよ。それとハタチが何を言ってるのかしら」

 

 ディアブロスの踏み潰された熱帯イチゴ…収穫され忘れて熟しすぎて、アスファルトに叩きつけられた柘榴(ザクロ)の様な感じなのかな。

 急に後ろから真由香に話しかけられた。砂浜の上なのに足音ひとつ聞こえなかったのは猫だからかな?いつからそこに居たのかわかんないけど、誰も起きてないと思ったから油断しててホントにびっくりした。その後ちょっとクールに皮肉っぽく返してみたけど格好はつかないよね…。

 

 

「何がチーを悲しくさせてるかなんて私の知った領分じゃないけど、変な声上げて、ため息我慢して、こっちジーって見詰めたあと不安な顔して海辺に出ないで貰えるかしら?入水自殺するかと思ったじゃない」

「最初から起きてたんだ…あ、もしかしてウチが起こしちゃった?」

「別に。たまたまチーが起きる前に月光が顔に当たって起こされたのよ」

 

 

 ……ダウト。真由香のハンモック絶対朝日の光も月の光も当たらないポジションに変更してたじゃん。きっとウチのアレで起こしちゃったんだろう。でも今回はイレギュラーな光が顔に当たって起きたってことにしておく。

 

 

「………自殺なんかしないよ。する勇気もないし、まだやり残した事沢山あるもの。生きる希望をウチはまだ失ってない。だからまだ死ねない。…なんてね?そんな事よりも真由香もウチの膝おいで。一緒に夜の海風に当たってセンチメンタルになろうよ」

「結構よ。今そんな状態になったら私が自分の爪で喉笛引っ掻きたくなるわ」

「真由香にはもう生きる希望は無いの?………あ…違う。間違えた。そのそうじゃなくて…」

 

 

 ふと零れた失言を取り消そうとアタフタしながら誤魔化しているけれども、そんな事は叶わず、零れた失言はカラカラの砂浜に落ちた雫のように取り戻せない位置に行ってしまった。

 

 

「───あの子は本当に強くて勇敢だったわ。お師匠に負けず劣らずね。団長と加工屋とあの人は昔ながらの(トリオ)で、そこに私たち筆頭がよく絡んでいたの」

 

 次に真由香がなんて言うか、ウチを軽蔑するような目で見るか、罵倒が飛んでくるか、地雷の上に爆雷針を落としてしまったような…本当にデリカシーが無かった。迂闊だった。……だけど開いた口から出てきたのは楽しそうに語るかつての仲間たちの話だった。

 

 

「ホントに今も昔も変わらないの。団長の天啓か気まぐれか病気か…どれかわかんないけど、いっつも団長が2人を振り回してたの。バルバレって言う砂漠を移動する巨大な街に居た時もそう。『そろそろシェフと商人が欲しいなぁ!おまえさんもそう思うだろう?そうかそうか!そうだよな!よし1人ぐらいフリーな奴が居るだろう探してキャラバンに引き込むぞ!!』なんて…ふたりとも相変わらずヤレヤレって顔をして両手を上げながらも縦に首を振ってたわ」

 

 

「それに私達のリーダーと団長は前世の恋人だったかの様な不思議な(運命)で繋がれてるの。……いや違うわね。あれはストーカーを疑うレベルだわ。私達が任務に出掛けて、クエストに出てる間に偶然後から来るのよ?それも──な任務の時に限って」

 

 

「お師匠から離れたのも団長の一存だったわね。団長が私をスカウトしたの。団長と加工屋とあの子…それと私達筆頭メンバーが飲み比べて全員潰れた時、あの人がオトモが欲しいーなんて口を滑らしたのがきっかけね。やっぱり帰りを待つ二人がいても狩りの間は寂しかったのかしら」

 

 

「1番面白かったのはリオレウスからペイントボールの香りが消えて、付け直そうと投げたらそれがトドメになって、あの子の上に堕ちてきて潰された事かしら?金冠サイズで抜け出すのもやっとだったわね」

 

 

 傍から見たら真由香がウチに思い出話を振舞ってくれているように聞こえるけれど、聞いているウチからしたらその真逆だった。真由香の瞳には光なんて灯っていなくて、まるで独り言のように…後悔の懺悔の様に、傍若無人の如く頭の中で再生されている映像の音声を口にしているスピーカーそのものだった。

 

 

「────あ、あっ!…あ……」

「結局いっつも3杯飲んだら…どうしたのチー?」

「な、なんでも…ううん!なんでもないよ」

「そう。それで話の続きだけど、リーダーなんて下戸だから少し飲んだだけでダウンするのよ。ホント情けないんだから…」

 

 このままじゃダメ。早く話を逸らさないと。……そう思ったけど、なんて話を切り替えれば良かったかわかんなかった。

 延々と止まらない自分語り(思い出話)。嫌じゃないけどどうすればいいかわかんない。どう接したら良いかわかんない。ただただ相槌を打つ他ウチができることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あ、日記の事言ったのってサルトルでもキルケゴールでもハイデガーでもなかった。ニーチェだった。あるよね、テスト終わった瞬間出てこなかった漢字が出てくるの。あれと同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 この世の大陸のほぼ中央に位置する巨大都市〈ドンドルマ〉。貿易都市であり、要塞都市であり、古龍観測所本部がある研究都市でもある。

 ドンドルマ付近での守り神たる雄火竜リオレウス・雌火竜リオレイア。その両方へ自然への感謝と敬意を表し、都市の公共施設では赤色の屋根、一般住宅には緑色の屋根と統一されている。

 

 そんなドンドルマの古龍観測所が何やら騒がしくなっている。その原因は、この地上からそれなりに上空にある観測所の気球より通達された1本の文だった。

 

『ゴルドラ地方ヨリ通達。新種古龍ノ兆シ。突発的ナ霧ノ発生ニ警戒セヨ。山1ツ斬ラレタリ』

 

 

 滅多に喧騒鳴り止まない観測所が唖然と静まり返る。

 研究員達は一斉に呆けた声を出し、ショートした頭の回路の修復を開始する。しかし修復し終わっても出てきた声は変わらず『は行あ段』の間抜けた音だった。

 漸くまともな思考回路を取り戻した1人が他の者の頭の修理を開始した。

 

『ゴルドラ地方はどの方角だ!?』

『ド、ドンドルマ中心より東南東です!』

『双眼鏡で何が見える!?』

 

 バタバタといつも以上の騒がしさと焦りを取り戻した観測所。高台から全方位を監視している者に見るべき方角を伝え、双眼鏡に目を通させた。

 すると驚くべき報告が帰ってくる。

 

 

『山1つ消えてます。氷鏡の様な綺麗な断面が見えます。傾斜およそ35°。断面と同じ高度に山頂があります』

 

 

 監視員は一体何を言っているのだろうか。指示を行った者が言葉を信じられず、自らの眼で真実を見た。そして先程の言葉を信じる他無かった。

 モンスター。それも古龍となれば有り得ない事が有り得ない事態を引き起こせてもなんら不思議ではない。現に『生ける災厄』などと呼ばれるモンスターも複数体確認され、それらが相見える事が有るならば世界がいくつあっても足りない。そんな明確な予測結果も出されている。

 

『霧…霞龍か?!』

『霞龍は精々消えるだけです!浮岳龍の再来ではないのでしょうか!?』

『それは無いのぉ…ワタシは浮岳龍の捕食痕を見たことが、あの様な綺麗な断面では無かったわい』

『土が…土すらもあんな…なんて斬れ味なんでしょう!!』

 

 過去のデータより、どのモンスターの仕業かを考察するも、過去との参照では答えに辿り着く事は出来ない。それを察した観測所内は、対応を文の通り新種の古龍とした。

 問題は3点。どの様な姿か。どの様な手段で山を斬ったか。今どこに居るのか。

 しかしいずれも分からない。しかし何一つ手掛かりもなく八方塞がりという訳でも無い。やるべき事は沢山ある。切り崩された山に調査隊を派遣する事、机上で空論を論議する事、そしてギルドを通して周辺地域のハンターに通知させる事。新たな天災が生まれた今、何よりも求められるのは行動力。元凶に辿り着けるかは分からないけれども、何もしないという選択肢は有り得ない事だった。

 

 

 

 








ノーハンティングライフなお話をいつまで書くつもりなのでしょうか。



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