Re:ゼロたちと始める異世界生活 (黒鉛)
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四度目のスタート

 彼は元々英雄という器ではなかった。

 そんな彼を英雄と、救世主と讃えたことによっていつしかこう呼ばれた。

 

 紅き英雄(ゼロ)、と。

 

 記憶を失い、オリジナルのボディを失いながらも友の為に、仲間の為に戦い続けた。

 だが、それも終わる。

 

 

 

 

 ――全てがゼロになった。

 

 

■  ■

 

 

 その日、男は流れ星を見た。

 もうすぐ死ぬというのに何を呑気に流れ星なんかと言う人がいるかもしれないが、何故かその流れ星が気になった。

 

 これで三度目の死を迎える彼はさすがに今の状況を理解することが出来た。

 いや、正確には有り得ないと思っていたことを受け入れるしかないと諦めたというほうが正しいのだろう。

 

 ナツキ・スバルは自身がタイムリープしていることを受け入れる。

 

 だからこそ、次目覚めた時に自分がどこにいるかも分かる。きっと……

 

 

 

「――は?」

 

 目覚めると、そこは店の前ではないもっと以前……スバルがこの世界に来たばかりの位置に立っていた。

 

「……どういうことだ? もしかして何度も死にまくると完全にリセットされるのか?」

 

 訳が分からないままだが、とにかく進むしかないとリンガを売っている店の方向に進んでいく。

 

 

「だーかーら! 金ならあるでしょ!!」

 

「それはここじゃ使えねえって言ってるだろうが!」

 

 そこには見たことのない女の子と店のおっさんが口喧嘩をしていた。

 これもスバルにとって初めての体験であり、ゲームでいうところの新たなイベントの発生だと捉えることも出来た。

 

「……もしかして、今度は助けれるんじゃねぇのか?」

 

 スバルはおっさんの店の前まで歩く。

 それに気付いたように二人がこちらに振り向いた。

 

「ほら、客が来てんだからどっか行きな」

 

「……アンタこの店やめといたほうがいいよ。ちーっとも有通が効かないなんて信じられない!」

 

 それだけ言い残して彼女はどこかに走っていった。

 

「ったく、たまにいんだよなあぁいうの。で、お客さんはどうすんだ?」

 

「……悪いけど、天壌無窮の一文無し!」

 

「あんたは一文無しときたか……。商売の邪魔だからとっとと失せろ!」

 

 おっさんに怒られたところで今後どう動くかを考える。

 

 まず最初に今回の異常性についてだった。

 

「いや、まあタイムリープ……死に戻りが出来る時点で異常なんだけど……」

 

 スバルの予想では今回もこの場所に戻ってくるものだとばかり考えていた。

 それが実際には転生したばかりの大通りに戻り、ここでは見たことのない少女の姿まであった。

 

 そこから導き出されるのは死にすぎると初期にリセットされるという結論だった。

 初めの何度かは死んでも途中のセーブポイントのような場所に戻ることが出来るが、あまり死にすぎるとこうして初期地点まで戻ってしまうという結論だった。

 

 あの少女についてはきっと最初のイベントミスで現れることのなかった人物だろうと想定する。

 

「だとすると、この能力に頼りすぎるのもよくないな。この世界に魔王がいるのか分からないけど、そいつとの決戦の時にここまで戻っちまうんじゃ絶望感半端ないぜ」

 

 とはいえ、最初から死亡確定の地雷キャラがいる時点でクソゲー確定だなと自傷気味に笑う。

 

 そこで、今度はつい先程殺されてしまった場所に向かう。

 

 

「あーもう!! ここでお金は使えないわ変なのに絡まれるわモデルAが盗まれるわと散々ね!」

 

 やはりここも変わっていた。

 

 さっきの少女が遠くに見えるフェルトを追いかけようとしていたのだ。

 

「ま、待ってくれ!!」

 

 彼女がいることで何かが変わるのかは分からない。

 ナツキ・スバルは普通の人間であってそこまでお人好しというわけでもない。

 ないのだが、一度は自分を助けてくれた恩人を、盗賊だが良い奴だったフェルトやロム爺を何か出来るかもしれないのに見捨てられるような性格ではなかった。

 

「っ、悪いけどアンタに構ってる暇は……」

 

「俺ならあいつの居場所を知ってるぜ!」

 

 彼女は足を止めた。

 おそらくここで追いかけっこをするよりは無駄な体力も使わずに済むと判断してくれたのだろうと思った。

 

「……それ、本当に? ウソついたらただじゃおかないわよ」

 

 その目は本気だった。

 エルザとは違う殺意にスバルは変な声を出しそうになるが、そこは営業スマイルで乗り切る。

 

「丁度俺もあいつに用があったんだ。付いてくるなら一緒にどうだ?」

 

 人が一人増えただけでエルザに勝てるかと言われればかなり低いだろう。

 だが、スバルは何故か彼女と一緒なら大丈夫だと直感で思ったのだ。

 

 ジッとこちらを睨み続けるが、途端に笑顔でこちらに手を差し出した。

 

「……私はアッシュ。少しの間だけどよろしく」

 

「あ、あぁ。俺はナツキ・スバル、よろしくな」

 

 二人はフェルトたちやエルザが待ち受けるであろう貧民街に向かった。



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三度目の盗品蔵

 死ぬと過去に戻る死に戻りの能力を手にし、四度目のループが始まった。

 そこでこの能力はどうやら一定回数の死を迎えてしまうと完全リセットされるという仮説を建てなければならない事態になってしまった。

 

 現に目の前にいるアッシュはあの店には絶対にいなかったはずの人物だ。

 トンチンカンをおそらく軽々と倒したであろう彼女の存在はきっと今までのループで倒せなかったエルザを倒せるのではないだろうか?

 

 エルザが来るタイミングも覚えている。

 あとは徽章さえ取り返せば……。

 

 そこで足が止まった。

 そう、このループでは一つだけ違うことがあった。

 しかしそれは大きくこの先起こるはずだった未来を変えてしまう出来事ではないのだろうか?

 

「……いや、それは有り得ないか」

 

 考えれば徽章は依頼されていたから盗んだものだ。

 それの代わりが彼女が盗まれたものになったということはないだろう。

 

「……そうなりゃここまで気にする必要なく俺の異世界生活が始まるのによー」

 

 今はどうやってあの歩く地雷を対処するかだ。

 彼女の探しているモデルAが鍵を握っている気がするが、どうすればいいのやら……。

 

「何一人でブツブツ言ってんの?」

 

「……へ、まさか声に出てた?」

 

 今までの独り言を全部聞かれていたと思うと恥ずかしくなる。

 アッシュは変なものでも見るようにこちらをじーっと見つめる。

 

「……あんたって、なんか変わってるわね」

 

「そうかな? 俺って別にミステリアスなキャラ目指してたわけじゃないんだけど……そっち路線もありかもしれねーな」

 

 気まずい雰囲気を何とかしようとしてみたが、どうやら逆効果だったようだ。

 アッシュは呆れた顔をしている。

 

「……あんたって、中々不器用な男だねー」

 

 それだけを言い残して会話は終了。

 先程の雰囲気からなにか変わることもなく例の場所に向かった。

 

 

 

「……で、ここがその目的地ってわけ?」

 

「あぁ……。ここで……」

 

 一度は既に全滅していた。

 二度目は皆生きていたのに自身の失言のせいでまたしても全滅。

 三度目は……そもそも辿り着くことすら出来なかった。

 

 これで最後にしてやる。五度目はない。

 無いと思いたい。

 ……多分、大丈夫だ。

 

 作戦は決まっていた。

 今回はまずアッシュの盗まれたものの回収を優先。

 その後に偽サテラの盗まれたものも回収してエルザを言葉巧みに回避する。

 戦闘に持ち込んでしまう場合は、二度目の時の知識を活かしてアッシュと共に戦う。

 

 ……こんなに都合よく動くのか?

 もっと考えなければいけないのではないのかという思うが、これが無理なら五度目を迎えるしかない。

 目処を付けるとすれば、二度目のリセットだ。

 その時にはこの一件とは完全に無縁の存在になろう。

 それまでは色んな手を使って抗ってみせる。

 

「……よし」

 

 スバルは足を一歩前に出し、構える。

 アッシュは何かを察したのか少し後ろに下がった。

 

 

「すいませーん!! 合言葉分かんねえから無理矢理入らせて貰うぜぇ!!!」

 

 蹴った。

 勢いよく扉を蹴り、一発でダメならと何発も蹴る。

 そうして古い蝶つがい変形しはじめた頃だった。

 

 

「やっかましいわぁ!! 合図も合言葉を知らんからって扉を壊す気か!!」

 

 扉を開けた早々に目の前の大男、ロム爺はこちらを睨みつけた。

 しかし、それも計算のうちだ。

 

「……取り引きがしたい。こっちが出すのは魔法器で要求するのは彼女が盗まれたものだ」

 

「………なんじゃと?」

 

 ここからだ。

 やってやろうじゃないか、前回の失敗を活かして。



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取り返したモノ、そして……

 今回、俺が成すべきことはアッシュと偽サテラの盗まれたものを取り戻し、エルザの襲撃を回避する。

 それが容易でないことは二度目の時に実感した。

 でも、やるしかない。

 

 俺は、今度こそ彼女を助けてみせる。

 

 

 

「……つまり、なんじゃ? お主はそこの嬢ちゃんの盗まれたものがここにあると思って来たのか」

 

「そそ、こういう場所に詳しい知り合いがもしかするとここにあるかもって言ってたからな。そいつ、何回か小さな子供をここで見たって言ってたから」

 

 アッシュはこっちの話を一切聞く気はなく、店をじろじろと探っている。

 

 ……だが、今のところは順調だ。

 前回は彼女のもとに返すということに拘り過ぎていた。

 だからこそ、今回はアッシュのものを返してもらうついでに高価そうだから欲しいという体でいけば問題ないはずだ。

 この体は異世界に来たばかりの新品そのもの。

 切れるカードは沢山ある。

 

「んで、この魔法器なら彼女の持ってた物と同等の価値があるって聞いたから、俺は別にこんなの要らねえし、金持ち様なら恩は売るに限るからな」

 

「……なるほど、確かにこれと同等の価値があるものを持ってるならそこらの貴族の可能性は高いか」

 

 ロム爺は納得したように頷いた。

 しかし、今考えると先に携帯のカードを切ったのは失策だったかもしれない。

 先に切るならお菓子やこの服とかから始めたほうがよかったかもしれない。

 第一盗まれたものがもし小さなちんちくりんのペットとかなら俺は本当に大損しただけになる。

 それだけは避けたい。

 死ぬかもしれないと分かっていても死ぬのは御免だ。

 

「あとは、多分その盗まれたものを持ってるだろうフェルトが来てからじゃな」

 

 酒の件を回避するために序盤に長々と話していた。

 多分、俺の予定じゃ……。

 

 トントン

 

 誰かが戸を叩いた。

 間違いない、フェルトだ。

 

「大ネズミに」

 

「毒」

 

「スケルトンに」

 

「落とし穴」

 

「我らが貴きドラゴン様に」

 

「クソったれ」

 

 以前同様に戸が開かれ、フェルトが入って来た。

 偽サテラを巻くのに時間がかかったと説明したあとに、俺の方を見て……

 

「……ロム爺、アタシは大口持ち込むから誰も入れとくなって言ったろ?」

 

 そう言う事も分かっている。

 そして、今度こそ失敗するわけにはいかないんだ。

 

「あーー!! やっと来たわねこの泥棒野郎!」

 

「げっ……先回りされてたのかよ」

 

 フェルトは状況を察したらしく、しまったという仕草をした。

 

「追いかけて来るのが一人だからって安心したのが悪かったか」

 

「悪いことは言わないわ。盗ったものさっさと返しなさい」

 

 アッシュが懐から銃のようなものを出した。

 ……銃!!?

 

「……この喋るのだろ? 私じゃ手に負えないって薄々感じてたから返してやるよ」

 

 そう言って渋々とアッシュの盗まれたものが返され……んん?

 

 

 

「モデルA! 大丈夫だったの?」

 

「アッシュ!! ……ったく、袋の中は汚いし埃まみれだし汚いし散々だったぜ」

 

 ……なんだあれ。

 あれもペットかなにかなのか?

 

 

「……なんじゃありゃ」

 

「ロム爺もそう思うか? ……多分あれが噂のお宝ギルドが探してたレア物だと思うんだけど、全く使いものにならねえしありゃハズレだな」

 

 フェルトは偽サテラの徽章を出した。

 ……これだ。これを狙わない手はない。

 

「………うおぉ!! すっげぇ綺麗だな!」

 

「うおっ、……だから誰も入れ込むなって言ったんだよ」

 

 そして、一気に話に持ち込む。

 これで変に疑われずに話を持ち込める。

 

「実は俺もレア物には目がなくてな、この魔法器と交換っていうのはどうだ?」

 

「アタシは高く売れるならどっちでも構わないぜ。……交渉相手は兄さんだけじゃないからな」

 

「……他にも取り引き相手がいるってことか」

 

 もちろん知っているし、これの価値も把握している。

 それを利用しない手はない。

 

「相手側がいくら出そうが、こっちはとっておきの魔法器があるんだ! これより高い値を出そうなんて相手は、俺みたいなコレクターかそのなんとかギルドぐらいなもんだ!! 」

 

「……随分な自信だな。そんだけの価値があるのか?」

 

「儂も魔法器はさばいたことがないが、その交渉はお前さんがかなり利があると思うぞ」

 

「へへ、俺はこんなもの必要ねえからな」

 

 いい感じだ。今回は何が起こるか分からないと思える分色々と作戦は練れる。

 

 もっと信用を得るために、次の一手……

 

 

 

「ちょーっと待ちなさい。話を切らせてもらうわ」

 

 と、ここでいきなりアッシュが……。

 

「ひっ」

 

 一瞬、変な声が出る。

 それは、アッシュの明らかな敵意によるものか、それとも……。

 

 

「あんたたち、これはどういうことかしら?」

 

 ……謎のカプセルの中で眠るボロボロの紅い人間を見てのものかはわからない。

 

 ただ、俺は恐怖を覚えた。

 覚えてしまった。

 

 

 ――俺の中で、大きな歯車が動いた気がした



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