覚り妖怪と骸骨さん (でりゃ)
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プロローグ

かつて一世を風靡したDMMORPG「ユグドラシル」
記録的同時接続を誇った怪物ゲームも時代の流れには逆らえず、何年も続いた長い歴史も今ここに閉じられようとしていた。サービス終了という形を持って。

そしてここ、かつてはゲーム内ギルドランク一桁台にまでランクインした強豪ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の本拠地ナザリックの片隅でも、一人の骸骨が溜め息と共に独り言を溢していた。

「はぁ… 結局誰も挨拶にすら来ない…か。そうだよな、皆事情があって辞めて行ったんだから」

事前にメールは配っておいた。しかし現実はどうだ?
確かに辞めたゲームに戻ってくる必要もない。それでも一言返信ぐらいあってもいいんじゃないだろうか。彼の心には諦めと悲しみ、そして怒りが浮かんでは消えていた。

この豪華なローブを羽織った骸骨の名前はモモンガ。れっきとしたプレイヤーのひとりで、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルドリーダー、今迄ギルドを維持し続けていた骨のある男だ。

時計を見ると後30分もせず日付が変わる、即ちユグドラシルも最期を迎えるのだ。

様々な感情に翻弄され立ち尽くすモモンガに、唐突に場違いな《伝言》が届いた。

『…モモンガさん、こんばんは。遅くなりましたが今週の分の維持費です。送っておきましたから確認して下さいね』

余りに通常営業な内容に、思わず感傷も何も忘れモモンガは送り主に返事を返す。

『さとりさん!今日でユグドラシルは最終日ですよ!維持費はもう必要ないんです…… いえ、いつもありがとうございます』

生身の癖でその場に居ない相手に頭を下げながら、もうギルドメンバーではない者に礼を言う。

『あぁ…そうでしたね。でもこれは私が決めた事ですから。…たとえ最期と言えども止める理由にはならないです』

特徴的なボソボソとした喋り方の中にも強い意思を感じる言葉に思わずモモンガは苦笑する。
彼女はメンバーではないのに、律儀にしかも最終日にまで、決して少なくないゲーム内通貨を送金してきたのだ。
そう、いつも通りに。

『変わらないですね貴女は。ところでこのあと予定はありますか?良ければ最期はこちらで過ごされませんか?』

このまま独りで過ごすのは躊躇われたモモンガは、律儀なかつてのメンバーを誘う。

『…はい、折角ですしそちらにお伺いしますね。ナザリック入口に向かいます』

了承を得たモモンガは幾つか準備を整えるとナザリック入口へと移動する。

数分後、転移してきたのは桃色の髪の小柄な少女だった。ゆったりとした水色の服を着て胸元には奇妙な赤い大目玉の飾りを着けている。

「…お久しぶりです、モモンガさん。お変わり無いようで、嬉しいです」

少し眠たげな眼を向けて微笑む少女のアバター名は「古明地さとり」
100年前のとあるシューティングゲームに出てくる登場人物をそのまま模したアバターである。所謂中の人はそのゲームの大ファンで古いデータを掘り出して彼女の容姿を造り出した。
さすがにその喋り方や態度はオリジナルだが極力さとり風ロールプレイを心がけてきたつもりだった。

「ははは… まぁ最期までこれたのはさとりさんの協力もあったからですよ。さぁ時間も無いですし奥に行きましょう。場所は…玉座の間でいいかな?」

直接会うのは久しぶりな相手なのでつい早口で話すモモンガ。
実のところ話したいことは沢山ある。だが残念なことに時間が無いのだ。

ゲスト登録はすでに済ませており特に障害もなくナザリック第9階層まで指輪の機能で辿り着く二人。

荘厳で仮想現実とは思えない光景が広がる。さとりにとっては懐かしい景色でありモモンガにとっては見慣れたが大切な景色だ。

二人は道すがら配置されているNPCをコマンドで引き連れ歩いていく。

「…いつ見ても凄い所ですね。うちの地霊殿ももう少し飾り立てれば… ってダメですね。これは皆さんの苦労の結晶なのですから」

さとりが現在属しているギルドは「地底の旧地獄」本拠地は古めかしい造りの洋館「地霊殿」だ。そして所属メンバーはリーダーひとり、さとり当人だ。
なので装飾は最低限、配置NPCも僅か2体とペットモンスターが数体というささやかな物。41人の少人数とはいえトップランカーが作り上げたナザリックとは比べるべくも無い。

「なにを今更… さとりさんもあんなに手伝ってくれたじゃないですか。ほら、これなんか」

モモンガはそう言うと虚空から禍禍しいエフェクトのスタッフを取り出す。

「…『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』… そうでしたね… あれは本当に楽しかったです」

ギルド全員で鍛え上げたと言っても過言ではないこの「ギルド武器」はモモンガだけでなくさとりにとっても大切な思い出のひとつだ。
材料集め、デザイン等々…お陰で性能も凶悪極まりない物となったが。

「最期だし勝手に持ち出しちゃいました。皆怒るかな?」
「…いいと思いますよ。貴方にこそ持つ資格があるのですし」

そこで言葉をきると、

「…モモンガさん、ありがとうございます。気を使って頂いて。私は貴方がリーダーだからここまでユグドラシルを続けられたんだと思います 。本当にお疲れ様でした」

と、桃色髪の頭を下げた。

「そ、そんな!顔を上げて下さい、さとりさん。結局俺じゃ力不足で… 」

それ以上は声にならなかった。何故ならそれはモモンガが心の底で誰かに言って貰いたかった言葉だったから。

『ありがとう』『お疲れ様』

このさとりという少女(まぁ中身は社会人らしいが)は時折こういった人の心を読むような行動をしていた。それも原作にあるような他人を弄ぶ様な行為ではなく、相手を思いやる様に行動していた。それで何度助けられたギルメンがいたことか。

そしてその性格からとある出来事でギルドを脱退し、一人今日までモモンガを陰ながら支援していた事を改めて思い出した。

(この子には敵わないなぁ…)

それからはしばし会話もなく歩く。
執事長を含め付き従うNPCも増えかなりの行列になる頃、漸く目的の玉座の間に辿り着いた。
0時まで残り10分といったところだ。

中に入ると1体の美しい女性NPCが出迎える。アルベドだ。彼女が世界級を持っていることに気付いたモモンガはぶつくさ文句を言うが、その設定欄を覗き込んだとき思わず声をあげた。

「うわっ、凄い文章量… さすがタブラさんだな。でも最後の『ビッチである』はひどすぎるだろ…」
「…ギャップ萌え、でしたっけ。あの人も凝り性でしたから。…でもあんまりですね、どうせなら今ここでモモンガさんが書き直してみたらどうですか?」

いつもなら他人のNPCの設定欄を勝手に変更などしないモモンガだったが、自分好みのNPCにあんまりな設定がされていた事と、やはりこれが最後ということもあり内心ノリノリで書き替えた。

『モモンガを愛している』

「…ほう」
「ごめんなさい。調子に乗ってました今の無しで」

怖い。
なんかジト目に重圧を感じる。

「で、ではこれで…」

『家族を愛している』

「…いいと思いますよ。この場合はナザリック所属が家族ってことですか」
「そうですね。種族は違っても仲間は皆家族って感じで」

なんとなくほっこりした空気が場を包む。
しかし。

「…もう時間です、モモンガさん」

無情にも時が来た。

「分かりました… では最期は大々的に悪のロールプレイで締めますね。さとりさん、今迄本当にありがとうございました。またいつかユグドラシル2とかでお会いできたらいいですね」
「…ふふ、お互いお礼を言い合ってばかりですね。…こちらこそ大変お世話になりました。いつかまたどこかで…です」

そしてモモンガの、ギルドの永遠を誓う宣誓と共に時計は0時を差し示し。

すべてが始まる。

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第1話

※さとりside
一人称で進みます。


違和感を感じた。

モモンガさんの一世一代の演説を室内の片隅で聞き終えた私は首を傾げました。
本来ならこの視界はすぐシャットダウン、私はあのツマラナイ現実に戻されるはずです。

心の中のカウントは0、1、2、3と今も続いています。

はて… もしや運営トラブル?
サプライズイベント?
いつものコンソールを呼び出そうとするが反応は何もなし。
頭をいくつもの疑問符がよぎり、何かしら言葉を口に出そうとし、隣の豪華な骸骨に《目》を向けると。

(なっ…!?ログアウトしない?コンソールは…駄目だ。ではGMコールは…)

突如頭の中に目の前にいる友人の声が朧気に響きます。《伝言》とはまた違い、それでいて喋る声とは違う言葉のようなナニか。驚いて《目》を閉じる私。
かなり焦っているのか友人の骸骨、モモンガさんは私を忘れてブツブツ考え事を始めました。…もう頭の声は聴こえない。

…あれは彼の悪い癖ですね。
なんとなくイラッとした私が声をかけようとすると、思わぬ方向から別の声が。

「何か…問題でもございましたか?モモンガ樣」

澄んだ女性の声。
見ると先程まで離れて頭を下げていたアルベドが立ち上りこちらを向いて話しかけてきました。

心配そうに眉をしかめながら。
口を動かし、自分から歩み寄ってくる!

「止まれ」

響いたモモンガさんの声にアルベドは立ち止まり、一瞬呆けていた私も意識を取り戻せました。

『さとりさん。さとりさん!聞こえますか』
『あ、はい。大丈夫です。…ちょっと混乱してますが』

あぁ、こっちは《伝言》ですか。
何だかややこしいですね。

『なんだかコンソール画面が開かずログアウト出来ません。時間になっても終了しないし、NPCは勝手に話し出すし』
『…そうですね、私も試しました。気付いてますかモモンガさん。アルベドがさっき喋ったとき表情を変えてました。まるで生きているかのようです』
『えぇ!?そんなプログラムはしてないですし無理ですよ!…でもそういえばアルベドが近くに来たとき甘い匂いが』

この骸骨匂い分かるんですか、鼻無いのに。

しかしそれは異常事態です。本来ダイブ系で幾つかの感覚に影響させる物は法律で厳重に禁止されている行為。匂いはその最たるものです。
で、あれば…

『…この姿が現実になった、のでしょうか。例えば違う世界に飛ばされたとか』

有り得ない現象を遥か昔からあるライトノベルの内容に照らし合わせる私。

(そんなっ! …バカなことがあるか! …いや、でももし! …ふぅ)

見るとモモンガさんは先程から何度か興奮した後、急に落ち着いたりしています。
その際緑色にうっすら発光してて…その度に賢者モードになっているのは正直少し面白いですね。飽きません。

『あぁすみません、さとりさん。取り敢えずは現状の把握を図ってみますね。仮にNPC達が本当に自分の意思を持っているならば反応が気になりますし。あとはナザリックの中と外の状態も確認します』

そう伝えるとモモンガさんはてきぱきと各NPCに指示を出していきます。
その姿は正に支配者のそれでした。

『はい、了解です。…それにしてもやけに冷静ですね。すごいです』
『いえ、俺も一杯一杯ですよ… ただその、感情が一定以上昂ると強制的に戻されて冷静になれるんです。もしかしたらこれ種族特性の精神異常無効が働いてるんでしょうか』

…そうか、彼のゲーム内での種族はアンデッド。生者を憎むという設定の彼らには特性として精神異常に強い耐性があるのでした。それが今は有利に働いている、という所でしょうかね。

…アンデッド特性、という言葉に一抹の不安を覚えますが。

まさか。この優しい友人が、いつか生者を憎む化け物になるなんてことは。
変わってしまうなんてことは。
それは…

「……それで、さとりさんは安全が確認できるまでここで待機していて下さいね。大丈夫です!どうやらゲーム内で覚えていた魔法や装備はこちらでも有効みたいですし身を守る程度なら俺がなんとか。尤も色々と検証してみない事には …あの、さとりさん?」

大丈夫。きっと。
もしそんな事になったら今度こそ私の心は耐えられないでしょうし。

「さとりさん… さとりさん!」

ひあっ!?

「あ… ごめんなさい。まだ頭が着いてこれなくて。何でしたっけ」

いつの間にか周囲にNPCは誰もおらず、モモンガさんは普通に話し掛けてきていました。おぉ、顎骨が動いて声が出てます…

「気にしないで下さい。今、シモベ達を調査に向かわせてるので暫くここで休んでいて下さい。何かしら情報が欲しいところです。」

…そこまで状況が進んでましたか。
考え事で周りが見えなくなる悪癖は人の事言えませんね。

そう反省すると私はゆっくりと《目》を開きました。

今、目の前の友人(骨)からは少々の苛立ちと強い心配を感じる。
(全く…こんな状況下で呆けるなんて。でもまあ無理もないか、ここに連れてきたのは俺なんだし俺が責任持たなきゃ…)

彼は変わらない。大丈夫。
変わったのは私の方でした。

ゲーム内の私の種族は「悪魔の目玉」
実の所、少女の体は擬体で本体は目玉、サードアイなのです。

さとりロールプレイの為に、相手の行動を読めるという触れ込みのこの種族を選んだ私を待っていたのは、触手の生えたでかい目玉という衝撃、その時の絶望は今でも忘れません。
…まぁそのあと異形種狩りに追い回されている私を皆に助けて頂いたのがギルド加入の切っ掛けで、なんやかんやでこの擬体に寄生する進化を選べた私ですが。

…そこら辺は追々語ることもあるでしょう。

話がずれました。
そんな私が持つ種族スキル《第三の瞳》
ゲーム内では相手の操作しているコンソール画面を盗み見れるというもので、有効活用できなければただのゴミスキル。しかも覚えるのは最後の方でした。

当然ゲームオンチの私も活用できず雰囲気作りで取ったに過ぎない物でしたが、モモンガさんも雰囲気作りのビルドもしていると聞いて少し嬉しかったのです。
チラリ、と友人を見ると、

(取り敢えずは魔法やスキルの確認かな。出来れば宝物庫でアイテムの確認もしたいけどアイツが居るんだよなぁ…)

このスキルは、《目》は、劇的な変化を遂げていました。

(何よりまずはさとりさんの安全確保だな!ここはアルベドも来るしやっぱりメンバー用個室かな?…って流石に自室に連れ込むのはまずいよなぁ色々と)

何考えてんですかこの童貞骸骨。

そう、心が、読めるのです。
具体的にはサードアイの目を開くと、視界内にいる人の心の中の声が頭に響いてくる感じ。

つまり私は名実共に覚妖怪「古明地さとり」になってしまった模様。
嬉しいやら悲しいやら…

「さとりさん」
「ひゃい!?」

噛みました。恥ずかしい。

「…? ちょっと色々確認したい事があるので少し外しますね。さとりさんは出来れば誰かの個室に隠れていて貰っていいですか?大丈夫だとは思うんですけど一応アルベドや他のNPCが襲ってこないとも限らないので」
「こ、怖いこと言わないで下さい。私弱いんですから」

嘘ではなく私は弱いのです。
一応LvはMAXの100ですが、とある理由により私、というより「悪魔の目玉」は同Lvのプレイヤーどころか格下の相手にも圧倒されかねないのですから。

勿論、防御手段や奥の手禁じ手は用意していますが、生憎それらの装備は全部自分の拠点の宝箱の中です。

そして絶望的な事に。
モモンガさんはまだ気付いていませんが、あのNPC達は、私を。

「モモンガ様、少し宜しいでしょうか」
「あぁなんだ、アルベドか。構わない、何か問題でも見つかったか」

(何故あのような裏切者が!この神聖な場所に…!しかも愛しき御方の側に…!)

なんかすっごく、嫌っているようなのですが。



ご意見、ご感想お待ちしております。


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第2話

モモンガside


異常事態だった。

ユグドラシルの終焉、懐かしい友人の久々の来訪、ログアウト不可、明確な自意識を持って行動するNPC達。

そしてアンデッド化した(らしい)自分。

少し前まで鈴木悟という名前の人間だった自分、モモンガは次々と起こる異常事態をここに来て冷静に受け止め始めていた。

確かに失った物はある。未練も、ある。

だが、今ここに広がる未知の世界に比べれば何と些細な事か。

外に偵察に出したセバスの報告によれば
周囲はかつての毒沼ではなく遥かに広がる草原。
試してみた魔法やスキルは想定通りに力を発揮し、自慢の武具は完璧。
ひれ伏すシモベ達は自分に完全な忠誠を誓っているという。
それでいて油断や慢心は存在せず常に警戒を呼び掛けている自分がいる。
なにより今のナザリックには、かつて苦楽を共にし友情を深めた内のひとりが帰ってきている!
それも一度は離れて行ったと思っていた人との絆だ。
嬉しくないはずがない。

と、上昇していた気分がまるで空気の抜ける風船の様に平均化された。
これが感情制御だ。

「チッ」
喜びは一転苛立ちに。
折角の気分が台無しだ。
アンデッドも良し悪しだな。

気を取り直し現状を整理してみよう。

さっきまで自分は第6階層でシモベ達の重すぎる忠誠を確認していた。
…ちょっと引いていたのは内緒だが。
まぁ当分調査は彼らに任せていいかな、と思う。こちらが完璧な支配者ロールをしている限りは恐らく下手な真似はしてこないだろう。

でも油断は禁物だ。自分にはその忠誠の真意を確認する術は無いのだから。


次に友人のさとりさんだ。

周囲の探索に出したシモベからの最新の報告によると、古びた怪しい洋館が少し離れた森の外れに不自然に建っているらしい。詳細を聞くとほぼ彼女の本拠、地霊殿らしいのだ。恐らくナザリック同様此方に転移してきたのだろう。

朗報だ。
その事を伝えに、さとりさんがいる個室の前に来たのだが。

「…嫌です。私はここから出たくないです」

久しぶりに会った友人は重度の引きこもりになってしまっていた…


どうしてこうなった!
思わず頭を掻きむしるが、薄くなるどころか知らぬ間に死滅してしまった毛根達に気付き、何故か落ち込んだ。俺の長い友達が…

ポゥン

感情がリセットされたか。
まぁアンデッドだから仕方ないよな。

失ったものの価値に気付かないフリをして扉の向こうの友人に再度声をかけることにする。
今度は念のためメイドや護衛のシモベ達を遠ざけておいた。

「さとりさーん、いい加減出てきて下さい。貴方の拠点、地霊殿でしたっけ?それらしいものが見付かったんですよ。さっき偵察に出したシモベから報告が来たんです」

しばらく待つと、心持ち嬉しそうな返事が返ってくる。

「…ほ、本当ですか?罠だったりしません?」
「えぇ、本当です。だから一度出てきて下さい。きっと貴方のNPC達も心配してますよ、うちのシモベ達の様に…」

「ひ、ひぁぁ…。や、やっぱり無理です。きっと外に出る前に私なんかさくっと殺されます…」

あぁ失敗した。
今のさとりさんにシモベ関係の話題は禁句だった…


数時間前。
あの時、玉座の間でアルベドが話があると言って寄ってきた時。

彼女はさとりさんに猛烈な殺気を叩き付けてきたのだ。
自分ですら怯む様な強烈な憎しみを。

必死に俺にすがるさとりさんを後ろに庇い、物理的な域に達しそうな殺気を放つアルベドをなんとか宥めて話を聞いたところ、

・何故ギルドを抜けた裏切者がここに居るのか。
・ここは至高の御方の神聖な場所、裏切者が立ち居っていいはずがない。
・更に図々しくも御方にすがり付き誘惑している。
・これはきっと裏切者が最後に残った愛しき御方さえも連れ出そうとしているのだろう。
・モモンガ様どいて!そいつ殺せない!

…とのことだった。

頭を抱えたくなってきた。
何を勘違いしているのだ、と。

彼女は別に裏切ってギルドを抜けたのではない。
ちょっとした提案と状況の中で彼女が勧んで立候補してくれただけだ。
そしてそのギルドに愛着も出来た、とのことだったので最低限の補助をしたあとは「アインズ・ウール・ゴウン」の子組織として細々と管理してきてくれたのだ。他のメンバーも時々気にかけていたようだ。

ただある時、ちょっとした事件があった。胸糞の悪くなる話だ。
そのせいで彼女は戻り辛くなり、結局彼女の口から戻りたいという旨の言葉が出る事は無かった。

それでも彼女は定期的に維持費を納めてくれていた。
誰も強制などしていないのに。
その頃、人数も減ってきて次第に資金繰りにも悩んでいた俺には有り難かった。
大金ではないし、交わす言葉も少なかったが、きっと俺は彼女に救われていた。

だから。

「だから、お願いだアルベド。彼女を、さとりさんを責めないでくれ。もし責められるとしたら、それは俺の方なんだ」

リーダーとして未熟だった自分。
そして後悔。
俺は支配者ロールも忘れ、自分のシモベに懇願していた。

その様子にアルベドは顔を真っ青にし、

「も、もも申し訳御座いません!その様な深い事情があったとは露知らず…至高の御方に非は御座いません!ですから、何卒…」

なんとか殺気を納めてくれた。

良かった… この件は改めて他の守護者も交えて通達しておかないとな。
そう考えて今後の予定を組み直す。
取り敢えず、綻んだ支配者の仮面をどう繕うべきか…と考えながら。

そして、肝心のさとりさんに意識を向けてみると。

「キュウ」
気絶していた。


その後、目を覚まさしたさとりさんをどうにか宥めて空いている個室で休ませた後様々な用事をこなしていたのだ。

そして探索隊の報告を受けこちらに戻ってみればこの有様である。

(参ったなぁ… これはもう中に直接乗り込むしかないかなぁ…)

実の所、ギルド内を自由に移動できる指輪があるので中に入るのは可能である。
だが仮にも女性のいる部屋に無理矢理乱入するのは正直どうかと思えた。
アンデッドになったとはいえ、そこら辺の紳士さは大切にしたい。
だとすると、やっぱり力業で扉を…

「…どこが紳士ですか。全宇宙の紳士に謝って下さい」

思いの外
近くから聞こえる声に思考を中断される。
いつの間にか扉が開いている。
そこには件の少女が、眠たげな目と胸元の大きな目でこちら見つめていた。

なんだ?どういった心境の変化だ?

「自分に《平静化》の魔法をかけたんです。精神治癒魔法なら私も一通り使えますから。それから《不屈の精神》で自意識を補強してみました」

《不屈の精神》は一時的に精神耐性を得る物だったな。自分には不必要な魔法だったけど、なるほど、こちらではそういう使い方もあるのか…

そういえばさとりさんは精神系統の魔法のスペシャリストだったな。
でも得意はデバフ方面だったはず。
あれって効く相手には効果絶大だけど無効の相手にはからっきしなんだよなぁ。

「そうでもありませんよ?私は種族スキルで一時的に相手の耐性を完全無視できますから、むしろ油断している相手なら手玉に取りやすいです」

怖いなぁ。これで本人は戦闘苦手とか言うんだからよく分からない。

「…たっちさんとかウルベルトさん達を見ていると自信なんて軽く吹き飛びますよ。なんでコンマ数秒操作が遅れただけで首が飛んだり吹き飛ばされたりするんですか…」

あんな戦闘狂とかと一緒にされても…
ん?あれなんか今、

「気付きましたか?」


俺まだ何も喋ってないのに、なんで

「えぇ、そうですね。…でもまぁ変な所で口下手なのはある意味モモンガさんらしいです。その節はアルベドさんから庇って頂いて本当に助かりました」

ありがとうございます、と頭を下げる目の前の少女。
これは、もしかして

「はい、ご名答です。今私は貴方の心を読んで会話しています」

ニコッと笑う友人に。
途中から彼女の印象が全く違っている事に気付き。
俺はまた、感情制御が働くのを感じた。




「つまりスキルの適用範囲がユグドラシル時代と比べて広がっている、と…」

場所を移してここは俺の自室。
なにかと居たがるメイド達を追い出し、今はさとりさんと話をすることにした。

彼女には寝るには広すぎるサイズのベッドに腰かけてもらい、自分は立ったままだ。
どうやら自分は疲労無効のお陰で疲れ知らずらしい。 …この調子じゃ寝る必要もなさそうだ。

さて、まず話す内容はスキルの事だったか。

「…そうですね。元々この《第三の瞳》は相手の操作をリアルタイムで見れるだけの物です。仮に相手がフェイント操作をしたり、操作が速すぎたりしたらそこまで対応出来るかは当人次第の、いわゆる微妙スキルでした」


「相手が次の次に行おうとしていることは分からない、分かる訳がない、と言うことですか」

「はい。…でも今はそれが出来てしまう。この《目》の範囲なら相手の次の次の、その先まで考えている事が分かります。…流石に無意識までは探れないみたいですが」


因みに今彼女は読心スキルを切っている、らしい。
さとりさんはまだ気付いていないみたいだが、読心スイッチが入ってる時は微妙に強気、というかSになっている気がする…

「なるほど… 実に興味深い。これはやはり更なる検証が必要ですね。戦力の把握は大事だとぷにっと萌えさんも言ってましたし」

かつての軍師役の言葉を思い出す。
自分になにができて何ができないのか。確認すべき事は沢山ある。
それに何よりも重要な、この世界の戦力というものがいまだ未知数なのだ。

だがまずは目の前の問題を解決しよう。

「ところでさとりさん、最初にも言いましたが、どうやら地霊殿もこちらに転移してるみたいです。確かさとりさんにもNPCがいたはずですよね?」

俺は2人いるNPCの内、ひとりの傭兵NPCに会ったことがあるがかなり個性的なNPCだった覚えがある。
確かさとりさんの特化ビルドに合わせた超攻撃型の構成だったか…

「…あぁ、お空のことですね。あの子には攻撃担当のガチビルドさせてますからきっとモモンガさんも気に入りますよ。留守番させているのはお燐といいます。普段は館内のギミックを使って小銭を稼がせているのですが… ちょっと心配になってきました」

そう話すさとりさんの表情はあまり冴えない。やはり自分のNPCが気になるのだろうか。ここはひとつ力になろう。

「さとりさん、護衛を何匹か着けますから一回地霊殿に戻ってみては如何ですか?もし仮にNPCに危険を感じたら、その時はその護衛を楯にして逃げて下さい」

護衛にはスキルで呼び出せるシモベを使う予定なので気を使う必要もないし。
なにより自分のNPCの忠誠心を見ていると主人不在による彼等の不安感は想像を絶する物の様な気がするのだ。

俺の考えを読み取ったのか、さとりさんはしばらく考えこんだ後、

「…分かりました。何かあってからでは遅いです。モモンガさんの準備が宜しければすぐにでも出発しましょう」

こちらを見ながら、そう切り出す。

こうして俺は遂に、引きこもり友人を外に連れ出すことに成功したのだった。



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第3話

さとりside

状況を進めたい。


モモンガさんが見つけてくれた地霊殿らしき建物。それはここからそんなに離れていない森にあるとのことでした。

《飛行》の魔法で飛んでいければ1時間も掛からず到着予定の距離なのですが、今私は慣れない徒歩で移動しています。
両の足で歩くこの感覚はいつ以来でしょう…

いえ、私だって流石に《飛行》位は使えますよ?こう見えてもLv100ですし。
理由は護衛役の死の騎士(デスナイト)さん達に合わせた結果です。
見上げる鎧姿に大盾と波打つ剣を持つ骸骨の騎士。ユグドラシルでは見慣れた存在でした。しかしこちらに転移した影響か、妙に迫力が増している気がします。

それらが合計4体、私を囲みながら力技で森を拓いて進みます。先導に影の悪魔がいるようですがそちらは私からでは見えません。

当然会話等も無し。というか話せないようです。一応、心は有るのですがひどく希薄かつ単純なので見ても面白くありませんでした。

…目的の場所へはまだ距離がありそうですね。この物騒な一行のハイキングはもうしばらく続きそうです。


ユグドラシル時代の地霊殿はナザリックから離れた地底深くに建っていて、お互いの移動は基本転移魔法で行き来してました。なのでこれは一気にお隣さんに引っ越した様なものでしょうか。

まぁ今のナザリックから何がいつどんな理由で攻め込んでくるか分からない現状では、絶望を感じこそすれとても喜べませんけどね。お蕎麦を持っていっても許してくれないでしょう。

うふふ。最悪です。

私はあのNPC達を、意思が芽生えた人形達を、欠片も信用してはいません。

…私が平静で居られるのは、あくまで相手が視界に納まり心が読める状況下に限られる様です。

本来の私は、あの時アルベドさんの殺気に翻弄されて取り乱していた姿。
頭ではLv100の自分がそう簡単には殺されはしないと分かって居るのに強烈な敵意の前には怯んでしまう。
他人の顔色を見て行動することしか出来ない情けない私が素の自分。

そんな自分と先が見えている現実が嫌で嫌で…ユグドラシルというゲームに逃げ込んだのに上手くいかず、遂にはすべてからも逃げ切ったかもしれないというのに。

今も私は逃げている。

「…逃げた先に楽園は無い、でしたっけ。逃げる程嫌なんですからせめてそっとしておいて欲しいんですよね、私は」

見当違いの愚痴とは分かっていますが終始無言の死の騎士に堪えられず、つい独り言を呟いてしまいます。

当初モモンガさん自身も一緒に付いてきてくれる予定でしたが、あの怖いアルベドともう一人、スーツを着て眼鏡をかけた悪魔のNPC …確かウルベルトさんが作られた領域守護者のデミウルゴスでしたか… に止められてしまいました。

まぁ私でもあれほど身の安全を懇願されたら躊躇しますけどね…《目》で見たところ、デミウルゴスさんは本心からの願いでしたし、アルベドさんは… まぁいいでしょう。怖いなぁ…

それに骸骨はなんだかんだで身内には激甘なのです。それで面倒事を起こしたりしなければいいのですが。

これからは何か起きる前に対処できるよう読心スイッチは常にオンにしておきましょう。せっかく手に入れた明確な力ですし、夢に見た「古明地さとり」に成れるチャンスですから有効活用したいです。


死の騎士さん達が拓いてくれる道をどれだけ進んだでしょうか。
考え事をしていた私には意外と早かったように感じましたが結構な時間を歩いていた様で、すでに周囲は夜の闇に包まれています。
そんな中木々の向こうに黒い建物が…

おー… あれは確かに私の城、地霊殿。
…嬉しいのですが、これから私のNPC達に顔合わせしないといけないと思うとどうにも不安は隠せません。

開きっぱなしの錆びた門をくぐり玄関の前に立つと、振り返り死の騎士さんに声をかけます。

「…これから中に入ります。いざと言う時は、よろしくお願いします」

暗に、突然襲われた時は盾になれ、という意味ですね。
そして出来得る限りの強化魔法を自分にかけ終えると、意を決して扉を開けました。

音もなく開いた扉。
中は照明もなく真っ暗でした。
「…ただいま帰りました」

返事は、ありません。
ここからはそんなに広くない為、死の騎士さんには一人だけ護衛してもらい残りは待機して貰うことにしました。

さて、奥に進んでみましょう。

「…お燐?…お空?…誰かいないのですか?」

うちの地霊殿は2階建ての洋館で地下には広い空間が2層広がっている作りでした。
上物が転移した影響で現在地下がどうなっているのか分かりませんが、地下は基本的に金策や実験に使う施設にしていたのでとりあえず後回しにしましょう。

何より私の装備品を回収したいのです。実のところ今の私はユグドラシル基準でいえば裸よりマシ程度の装備しかしていないのですから。
これは種族的ペナルティで標準よりひ弱な私にとってひどいストレスです。
…彼に呼びだされた事に浮かれてそのまま飛び出して行った云わばツケですかね。

2階にある自室兼書斎を目指して中を進むと、奥から何か聴こえてくる気がしました。

啜り泣くような音、嗚咽を堪える、我慢しきれずまた泣き出す声。

…怖!なんですかこれ!
いつの間にわが家はホラーハウスになったんですか…
もしや原作の設定通りに地霊殿も怨霊渦巻く呪いの館にバージョンアップしてくれたのでしょうか?
なんて迷惑な… さとり初心者の私には難易度高すぎです!

完全にビビりながら、それでもこれからを考えると装備品は諦めきれず、私は死の騎士さんの後ろに隠れながらようやく自室前に辿りつきました。

「……シクシク ……りさまぁ ……グス」

声の発生源、私の部屋からか!
なんてこった!
というかこの声は… もしや。

「…お燐? …ここにいるの?」

そっと扉を開ける… 暗い部屋の隅で赤髪の少女が踞って泣いていました。

…やっぱりお燐ね。
いつもの生意気そうな顔は珍しく崩れ、トレードマークの黒い猫耳もしんなり垂れてますね。
…あ。私に気付きました。

「!? …さとり様? ほんとにさとり様ですか!? なんで急に居なくなっちゃうんですかぁぁ… あたいもう…!」

お燐は錯乱しながら叫んで飛び掛かってきましたが、護衛についてきていた死の騎士さんが素早く立ち塞がります。

「うわっ何こいつ!さとり様から離れろこのアンデッド!」

激昂するお燐はそのまま死の騎士さんと戦闘を始めますが、防御に徹する死の騎士さんはLv以上の固さを誇るので中々崩せないでしょう。

しかしお燐はLv60の獣人種、いくら攻撃手段が少なくてもその内地力で押しきるでしょう。
借り物のシモベに傷をつけてモモンガさんの機嫌を損ねたくないですし、今のうちお燐の心を覗かせて貰います…

…そうですか、どうやら私がこのアンデッドに捕まってるのと勘違いしているようです。他には寂しかったとか戻ってきてくれた等の感情が入り雑じってますね。

全く、単純なんですから…
でも私への害意は欠片も無いようで正直ホッとしました。この子達まで疑うのは流石の私も勘弁して欲しいんです。

「お燐やめなさい!この方は私をここまで連れてきてくれたのです。落ち着いて、私の話を聞いて下さい」
まぁ正確には彼は護衛役で、アンデッドに捕まってたのは半分正解ですが。

「えっ!わ、分かりましたさとり様!」

すぐに死の騎士から離れるお燐に、今度は私から近付いていきます。

不安そうに私を見つめる彼女を安心させるよう優しく抱きしめます。

「ただいま、お燐。心配かけてごめんなさいね。もう大丈夫よ」

…感極まってまた泣き出すお燐を落ち着くまで撫でながら、私は自分の場所へ戻ってきたことを実感していました。




「お手数おかけしました、さとり様。もうあたいは大丈夫です」

立ち直ったお燐はスッキリした顔で今はこちらをニコニコと微笑んでいる。

死の騎士さん達には先程、任務完了を告げてナザリックに帰還して貰いました。…お燐と戦って傷ついた子も自動回復があるので帰る途中で完治するでしょう。

「…そう。留守番を任せている間に想定外の事が起きましたから。貴方はよくやってくれました」
「そ、そうです!さとり様が出ていった後しばらくして… ちょっと外を見たら風景が違ってて…!それで」

どうやら異常に気付いた後、慌てて庭のペット達を中に避難させ、お空には地下の警備を任せ、それから各部屋のチェックに回った所で急に心細くなったらしくそのまま泣いていたそうです。

「さとり様、今なにが起きてるんですか? ここはどこですか?あたい達はどうなっちゃうんですか?」

それは私が聞きたいです。
でもここで無闇に不安を煽っても仕方ないですし… ここはひとつあの偉ぶった骸骨を少し見習いましょう。

「お燐、これは異変です。でも恐れる必要はありません。すでに異変に対処する為に、とある偉大な方も動き出しているのです。私はその彼に協力を申し出てきたところです」

真実7割嘘3割、といった所です。
解決する気は無さそうですけどねあの骸骨。そもそも彼巫女じゃありませんし。

「異変!? そ、そうだったんですか! …あっ! もしかして急に飛び出して行ったのは異変の前兆を感じたとかですか!? 凄い… さすがさとり様です!その目に見通せないものは無いのですね!」

やだ、私の評価高すぎ…
混じりけ無しの羨望の感情に思わず怯みます。

「と、とりあえず今は情報を集める事を優先します。…お燐、こちらに」
「はい、さとり様」

手招きしてお燐を呼び寄せます。
改めて彼女を観察しましょう。

彼女は火焔猫燐。普段はお燐と呼んでいます。
原作に近い容姿で、赤毛を左右にみつあみで纏め黒い猫耳には黒いリボン、釣り上がった猫目の整った顔。服装は黒地に緑フリルがついたゴスロリ風ドレス。これでも一応伝説級の装備です。

種族は猫化の獣人種(原作では火車だけどそんな種族はありませんし)
Lvは60ですが彼女には殆ど火力スキルを覚えさせてないので同Lvでも余裕で負けてるでしょうね…

その代わり彼女は盗賊系や野伏等から逃走、回避、窃盗、 感知等のスキルを網羅しているのです。更に余った枠で商人、錬金も習得しているので、普段から雑務もこなせる便利キャラとして重宝していました。

「貴方の力が必要です。また私の為に働いてくれますか?」
「勿論です!何を今更… あたい達は家族じゃないですか。あたいはさとり様の為なら命だって惜しくないです!」

うわ、マジですこの子。命とか…
本心からなのが分かるので余計引いてしまいますね。

それでも、この子の真っ直ぐな好意は胸の奥が熱くなるほど嬉しいです。私からも本心で答えてあげたいです。
でも無理。

私はそんな上等な人間じゃないから。

「…ありがとうございます。お燐、貴方は最高の家族ね」

私には家族を得られる資格なんてこれっぽっちも無いから。

「さぁもう一人の家族を迎えに行きましょう」
「はい!さとり様!」

ごめんなさい。
私は、また嘘をつきました。



カルネ村が遠いです。


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第4話

さとりside


お燐と合流した後、各部屋のチェックをしていると、騒ぎを聞き付けたお空が飛び込んできました。

「わーーい、さとり様だー!どこにいってたんですかー?」
「ただいまです、お空。いい子にしてたかしら?」
「勿論です!地下の掃除を頑張ってました!うにゅー!」

お空は元気ですね。
伸び放題の黒髪に緑のリボン、大きな黒い羽が特徴的な、控え目に見ても美少女がえっへんと胸を張ってる様子はなんとも和みます。頭撫でてあげましょう。
「えへへー」
…私より背の高いお空の頭を撫でるのは少々つらいですが。おまけに標準以上の…その…大きな胸が、近くに…
悔しくないです。ええ。

こんな天然系美少女なお空ですが、Lv100の超火力偏重なスキル構成です。
種族鳥人間ですが色々弄って羽以外は人間種という外見にしました。あのお空がカラス頭じゃ悲しいでしょう?
装備は以前のverUPで追加された特大ハンドキャノン。ファンタジー要素が吹き飛んだ追加装備でしたが私は結構気に入ってます。
お空は傭兵NPCなのでよく稼ぎに連れ出していました。今後もお世話になるでしょうし仲良くしておいて損はなさそうですね。少なくとも彼女の心に嫌悪感は欠片もありませんでした。

ふぁぁ… いけません。安心したのか気が緩んで欠伸がでました。
疲れてても無理ないのですが、私ちゃんと疲労・睡眠無効の指輪着けてるんですがね。

「二人ともお留守番ありがとうございました。…積もる話もありますがもう夜も遅いですし今日はここまでにしましょう。私も少々疲れましたので…」
「あっ!あたいとしたことが、すみませんさとり様!すぐ寝室の用意してきますね」
「助かるわ、お燐。私も少し自室を整理してから寝室に向かうわね。貴方達も今日は休みなさい」
「えー。わたしまだお話したいです!外はどんな感じなんですか!?敵は!?焼きます!?」
「お空!さとり様はお疲れなの!また明日お願いしなさい!」
「…はーい。じゃさとり様また明日、お休みなさーい!」
「失礼します、さとり様」

はい、おやすみなさい。

騒々しいですけど不思議と嫌ではないですね。むしろ落ち着きました。

いけない。 …心を入れ換えましょう。色々と思うことはありますが、今の私にはまだ余裕が無いのです。


さて改めて、寝る前に自分の装備を確認しておきましょう。不足の事態には即対応出来るようにしておかないと。

まずは指輪。これは出掛ける前から着けていたものですね。
疲労無効等、状態異常無効化の指輪を4つ。残りの指にはMPブーストやMP高速回復の指輪を揃えています。高いんですよ?これ。

着ている服は最初のとほぼ同じデザインですが詰め込んであるデータは桁違いのもの。等級は伝説級です。

全身神器級?どこの廃人ですかそれ。元々三流プレイヤーだった私にはそこまで揃える力量はありませんよ?
詰め込んである魔法効果だって大半は簡単なMPブーストですし。

心配せずとも防御に関しては私の場合ほぼスキル頼りです。ただ、こちらでも有効かどうかは要検証ですね。

武器は腕輪。飾り気の無いデザインですがこれは防具ではなく武器、私物の中で唯一の神器級装備です。

これが私の命綱。大切な頂き物。
名前は、特にありません。
…最初、作ってくれた方々は短杖ベースに「マジカル★さとりん棒」と命名。外観も白い羽根飾りのついた蛍光ピンクのステッキというお目出度いデザインにでした。しかし私がぶくぶく茶釜さんに泣きついて計画主導者は制裁、結局無難な腕輪形になりました。
なので無銘です。

攻撃力は皆無ですが込められたスキルは《消費したMP分を魔法抵抗無視の魔弾に変換して放つ》というもの。威力や範囲は消費量に比例し、全力で込めればそこら一帯を焦土に変える大玉になりますし、最小の弾をマシンガンの様に放って弾幕を張ることも可能です。欠点はMP効率の悪さですかね。
私には無駄に膨大なMPがあるのであまり気になりませんが。

そして何より大切な装備がこれ、この本です。文庫本サイズに付箋が着ついたある意味私には必須装備。
その名も「完全魔法マニュアル ~初心者用」

…早い話がカンペです。私が覚えている魔法を分類別に分けて、よく使うのには付箋をしてあります。元の世界ではマクロ化した補助アプリみたいな物でしたが、こちらでは完全な辞書ですね…

私が使える魔法は全部で300近く。そんなの全部覚えているはずもなく、こうして手元で確認しないと必要な時に必要な魔法が出てこないという事態が…

大体この世界、魔法多すぎるんですよ。なのに上位者はアドリブで色んな魔法を繋げてくるから困ります。700使えて全部暗記してるとかどんな変態ですか。

とにかく、これで準備万端です。
本当は地下もチェックしたかったのですが、本来ないはずの疲労、気疲れですかね?、があるのか何をするのも億劫です。
…気のせいか指輪にまで重さを感じてきました。考えてみれば生身で指輪5個は付けすぎですね。もう寝る予定ですし睡眠無効くらい外しておき ……!?

…外した瞬間、凄まじい眠気と疲労感に襲われ、抵抗すらできず私の意識は暗転しました…



「……様、起きてください。もう朝ですよ、さとり様ー!」

…ハッ!?朝?
「あ、おはようございます、
さとり様。昨日は本当にお疲れだったんですね!あたいが呼びに行ったら部屋の真ん中で寝ちゃってましたよ」

そして寝室まで運ばれた、と。

「起きてたペット達にも手伝って貰いました。あとであの子達に会ってやって下さいね、喜びますよ」

と、言うとお燐は朝食の準備に寝室を出ていきました。
私、一応飲食不要なんですが、別に食べられないわけじゃなさそうです。後でしっかり頂きましょう。

しかし、なるほど。どうやらあれは疲労・睡眠無効の指輪を外した途端、反動が一気にきたみたいですね…

…こわっ!反動怖っ!どんだけ疲れてたんですか私。
調子にのって溜め込んでうっかり解放したらショック死しかねませんよこれ。

この分だと元の世界とこちらでのギャップはまだまだありそうですね。貧弱な私には何が命取りになるか分かったもんじゃないです。
早めにこちらのチェックを済ませてモモンガさんと合流しましょう…

お燐の作った朝食(美味しかった!)を済ませた後、二人を伴ってペット達の様子を見に行くことにします。

うちのギルドには結構な数のペットが配置されています。犬や猫、兎辺りから、珍しいのはパンダ、ゴリラ、ハシビロコウ等、正直把握は出来てません。
どれも現代では図鑑や過去の記録媒体でしか見れない動物ですが、これらは皆ユグドラシルの課金ガチャで出てくるペット用モンスターです。

アインズ・ウール・ゴウン在籍時代、レアドラゴンのペットを当てようと皆でガチャを回しまくった結果、置場所に困るペット達が溢れかえりました。
特に戦闘には向かない種類のペットなどはテイマー職を持たない方にとってかなりもて余してたようです。棄てるには躊躇われたようでしたし、一応あの子達もレアなんですよ?

その時、ちょうど私が新ギルドを立ち上げるタイミングでしたし、私がテイマー職持ちだったのもあるのでしょう。これ幸いと皆でペット達を押し付けてきました。ご丁寧に飲食不要の装備付で。

ちょっとした動物園の出来上りです。
ま、いいんですけどね。

その後も皆さんお忍びでよく見に来てましたね。モモンガさんも時々きては自分の当てたハシビロコウのハシビロさんに頭を齧られてました。ウルベルトさんのお気に入りは意外にも… まぁいいでしょう、これは秘密に、とのことでしたから。
ふふふ。


ペット達は今は庭や飼育スペースでいつも通りに過ごしてました。私を見かけるとご主人好き好きオーラを飛ばしてくるので、こちらも読心スキル全開でかまってやりましたよ。

あぁ…癒されます。原作の古明地さとりも動物を飼っていたのが今ならよく分かります。
出来ればずっとこのままこうしていたいですねぇ。


しかし、そうもいきません。
私は、私のすべきことをやらないと。

頃合いを見て私はナザリック責任者のモモンガさんに《伝言》を送りました。

『モモンガさん、今宜しいですか?』
『あ、さとりさん。俺も今連絡しようとしてたとこです。死の騎士の報告は受けましたが、地霊殿は問題ありませんでしたか?』

心配性な骸骨さんですね。

『はい、お陰様で。NPC達もペット達も無事でした。モモンガさんのハシビロさんも元気ですよ?』
『あいつか… なんであいつ毎回俺を見かけると頭を甘噛してくるんですか…』
『好かれてるんですよ、多分』

『…モモンガさん、また一度お話をしたいのですが。新たに得た情報と、あとは今後のことについて、です。』
『そうですね、俺もその事で話があります。良ければすぐこちらに来て貰っていいですか?』
『勿論です。準備ができ次第そちらに飛びますね』
『着いたら連絡を。迎えを寄越します』

ではまた。と、会話を切る。

はぁ… またあの伏魔殿に行くのですか。憂鬱ですね。

しかしこの地霊殿を守れるカードを持つのは私。偽りとはいえ、私を慕ってくれるこの子達のためにも、私はここを守らないと…
あぁでも、怖いのは、やっぱり嫌ですねぇ…

いまいち締まらない使命感を抱き、私は外出する旨を伝えるため二人を呼び出す事にしました…



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第5話

モモンガside
※本怖アルベド好きな方はごめんなさい


さとりさんへの連絡を終え、漸く一息つくことが出来た。もう息してないけど俺。
今俺は、個室というには広すぎる自室で仕事と言う名のアイテム整理をしている。

彼女は無事拠点に戻れた。
昨日、──── 眠くならないお陰でずっと仕事をしっぱなしなせいか時間感覚が非常に曖昧だ─── さとりさんを一人で送り出したのは明らかに失策だった。何が起きても不思議ではない。むしろ何も起きなかったのは不幸中の幸いだろう、もう少しやりようはあったはずだ。でも、アルベドが泣いて止めてくるのは卑怯だよな。

この世界の危険度が未だ不明な状況で、彼女の身に不幸があれば、俺は友人達に何と詫びればいいのか分からない。

作業の手が止まる。
その様子に、部屋の隅で待機していたセバスが視線を投げてくるが、なんでもないと手を振って答える。

…友人達、か。
正直に言おう。最終日、誰一人も集まらなかったギルドの仲間達に、俺は少なからず思うことはある。

それでも、今も俺の中で輝き続けるあの日々と、それを肯定するナザリックのシモベ達が、最後まで俺に付き合ってくれたさとりさんの存在が、俺を正気に保っているのかもしれない。


…ふむ。
彼女が来るまでまだ少し時間があるな。

これから来るさとりさんと、話すべき事は沢山あるが終始仕事の話では味気ない。他にも気の紛れる話題も作っておくか。
そう考えていると心持ち気分も良くなってきた。

昨日の様子ではこちらの世界の星空とか堪能する余裕はなかっただろうし、異世界あるある話をネタにして今夜星空観賞会でも誘ってみるか…?現実世界では決して見れなかったアレは、独り占めするのは勿体無い。

でも…それって明らかに、デートの誘いだよなー。
それはさすがに、なぁ?ペロロンチーノさんならともかく、俺はノーマルだし、なぁ? でも外見は文句なしの美少女なんだよなぁ。でも…

気持ち悪く身をよじる俺の骸骨ダンスは、感情抑制が起きるまでしばらく続いた。


────────────────
…ふぅ。
誰かに気付かれる前で良かった。感情抑制め、いい仕事をする。

さとりさんは謂わば以前の仕事場の同僚みたいな関係だ。勝手に妙な感情を持ったらかえって迷惑だろう。お互いの距離感は慎重に見極めねばならないな。

「モモンガ様、ご報告があります。少々お時間を宜しいでしょうか」
「アルベドか。構わん、どうした?」

アルベドが幾つかの書類を手に、告げてくる。

「先程デミウルゴスより彼の配下が人間の巣を発見した、との報告がありました。現在デミウルゴスは更に周囲を探査中です」

巣ってアンタ… 村のことか。
やはりこの世界にも人間が住んでいるんだな。

詳しい位置を確認したので遠隔視の鏡を使って覗いてみるか。これは指定した場所をテレビのように映し出す向こうではありふれたアイテムのひとつだ。アイテムボックスから鏡を取り出しながら、何気ないフリを装い質問する。

「人間種は嫌いか、アルベド」
「嫌い…と言うより好きになれる要素がありません。弱い癖に集まると調子にのり、愚かで汚い消毒対象です。…それでも至高の御方のご命令とあればこのアルベド、下等生物に何らかの利用価値を見つけてみせましょう」


…ナザリック所属の異形種にとってはこの反応が普通なんだろうか。

「…セバスはどうだ?」
「…特に思うことはありません。ただ、至高の御方がたのお膝元で騒ぎたてるような輩がいるなら元より生存させる価値も無いかと」

評価低っ。
しかし何となく反論する気は起きない。というより人間に親近感が持てない、のか?すごく遠い他人事のようにしか思えない。俺は…心まで人間を辞めたのか?

だが、驕り慢心は危険だな。一応釘を刺しておくか。

「そうだな、人間は弱く脆く、愚か者も多い。だが鍛錬を重ね力を合わせた奴らは侮れん。かつてナザリックが受けた襲撃のようにな」

以前1500人からなるプレイヤー連合のナザリック侵攻。
それを聞くとアルベドだけでなくセバスも顔をしかめる。

「…失礼致しました。ご忠告、この魂に刻みます」
「良い。最善を尽くせ」
「ハッ!」

こうしているとアルベドも仕事の出来る完璧超人なんだがなぁ…
ううむ… 遠隔視の鏡、使い方がよく分からん… 拡大縮小はどこだ。

「では、モモンガさま。私は業務に戻らせて頂きます。また発見が有り次第ご報告に参ります。 …ではセバス後はお願いするわ」
「畏まりました、アルベド様」

そうだ、ついでに伝えておこう。

「アルベド、セバス、もう少ししたらさとりさんがこちらに訪問予定だ。丁重に案内してやってくれ」

それを聞いてアルベドは少し顔を強張らせる。流石にこれは見逃しておけない。

「どうしたアルベド。まだ彼女に疑いを持っているのか?彼女の事情は話したはずだぞ」
「い、いえ!そのような至高の御方のお言葉を疑う訳では御座いません!私はただ…」

ただ…?

「ぶ、部外者に我が家を踏み荒らされたくない…と思ってしまって…。申し訳御座いません、不敬でした」
「我が家…か。構わん、続けろ」
「はい…では。このナザリックは至高の御方がたが住まわれる場所、そこに我等シモベ一同も有り難く住まわせていただいているのです。その事に感謝しない不忠義ものはここには存在致しません。そんな大切な場所を、慈悲の有り難さも知らない輩が入り込むのは… 」
「納得がいかない、と」
「はい。…いえ、至高の御方の考えに逆らうという気は御座いません。これは私の勝手な思い込みでございます」
「そうか…」

あー、要するに身内で楽しくやってるとこに他人は入ってくるな、と。
気持ちは分かるが、困ったな…

さとりさんは今のところ俺の知る唯一のユグドラシルプレイヤーだ。当然、相談や打ち合わせなどで今後もナザリックに出入りして貰うことになる。
その度にアルベドや他のシモベから殺気やらを飛ばされてたら誰だってここに来たく無くなるわ!
なんとか、せめてアルベドの心証をよくしておかないと…
…そうだ。

「アルベド。これは提案、というか相談だ」
「は、はい!御方の仰られる事なら…」
「そういうのはいい。……あのな」

少し間をおいて続ける。
「家族が増える、というのをどう思う?」



「家族…で御座いますか?それは…」

いまいち理解が追い付かないようだ。当然か。見ればセバスもこちらの話を気にしているようだ。

「まあ聞け。さとりさんは決して嫌だからギルドを抜けた訳ではない。戻れなかったのも訳有りだ。だがこの異世界に来たことで彼女が復帰に躊躇う理由は無くなったと言える。故に、私は彼女をもう一度ナザリックに誘おうと思っている。そうなれば彼女も他人ではない」
「それは…至高の御方が、増えると…?」
「まぁあくまで彼女の自由意思になるがな。無理強いもしたくない。しかしこの状況下で別々に行動しているのは問題だ、そして彼女も馬鹿ではない。安全確保の為にも手を組むのは必然だろう」
「家族が、増える…? …モモンガ様が望んだ…?」
「今すぐ、とはいかないが、加入したら皆に改めて紹介せねばな。部屋は昔使ってた所が空いてるはずだ。それと彼女のシモベ達も…… おい、聞いてるのかアルベド?」
「家族…計画…! なら彼女は、モモンガ様の…娘に? そしたら母親役が必要…!? ならば当然正妻は、この!! くふーー!!!」

やだ怖い。

「モモンガ様のお気持ち、このアルベド今完っ璧に理解致しましたわ。察しの悪い妻で申し訳御座いません」
「えっ」

いや、俺は皆で仲良くしてやって欲しい、くらいしか…

「では私はこれで。準備が御座いますので。…セバス、プレアデスを何人か借りるけど構わないかしら?構わないわね!」
「…どうぞご自由に」

突っ込めよセバス。
お前が頼りだったんだぞ。

アルベドは挨拶も早々に部屋を出ていった。スゲェ速さだ、あれがLv100前衛の身体能力か。

後には例えようもない疲労感が残った。俺、疲労無効なのに。

はぁ。
…仕事しよ。



しばらくは無言で遠隔視の鏡の操作に四苦八苦していた。
視点は動かせるのだが、倍率が変わらないのでまどろっこしい。

手を大きく上げて…左手を下げつつ右手を横に…

「…モモンガ様、なにをなさってるんです?」

後ろから眠そうな声がかかる。
振り替えると、

「こんにちは、モモンガ様。ご招待ありがとうございます」

そこには一日ぶりに会う少女が立っていた。作業に集中していた俺はセバスに通されたのに気付かなかったようだ。

「昨日は本当に助かりました。今もお忙しいところをお時間を頂き、感謝の言葉もありません」
「ああ、いや、」
『モモンガさん、今は支配者ロール中ですよね? 上位者らしい態度で構いませんよ』
『あぁ、助かります。まだセバスの目がありますから』

「…よく来てくれた、古明地さとり。私と君の仲だ。そう畏まらないでくれ。私からの願いだ」
「それではお言葉に甘えて… こんにちは、モモンガ様。良い子のモモンガ体操、楽しそうでしたよ」

違っ…! …ふぅ。
今日、恥ずかしさで感情抑制されるのは何度目なんだ?

「からかうな…。 これだ、遠隔視の鏡だ。デミウルゴスの報告で人間の村を発見したのだ。少し覗いてみようと取使ってみたのだが、どうも向こうと操作が変わっていてな…」
「あら、そうなんですか。私はここで待ちますから続きをどうぞ」
「すまんな」

本来なら彼女との会議に移るべきなのだろうが、こういう検証作業を途中で止めるのは昔から好きではない。
さとりさんもそこら辺は昔からの付き合いで分かっているのだろう。セバスに用意された椅子に行儀よく腰掛け、こちらを何とはなしに見ている。
俺も何気なく彼女を見ると。

『あれ、その第三の瞳、今日は閉じてるんですか?』

いつも彼女の胸にあるトレードマークの大きな目が今日はしっかり閉じている。

『これですか?今は読心スキルはオフにしてますので』
『えっ、何でまた。さとりさんのアイデンティティじゃないですか』
『そこまでじゃありませんよ… いくらモモンガさんでも終始心のなかを読まれてたら落ち着かないでしょう?私はまださとり初心者だから親しい人に嫌われるのは辛いんです』

ううむ、こんな言い方をしてるが、どうやら気を使われたようだ。

少し言葉につまり鏡の操作から意識が逸れた時、

「…あっ、モモンガ様。いま映像が変わりましたよ」
「おっ」

どうやら手を同時に開く動作で拡大、逆で縮小のようだ。片手操作じゃダメだったのか…

「よし、これで目的地を探しやすくなったな。早速報告にあった村を見てみるか。さとりも見てみるか?」
「はい、お隣失礼します」

…確かにこの方角に。
「あった。随分簡素な村だな…。文化レベルは高くないのか…」
「でも見てください、結構人が忙しそうに走り回ってますよ。…お祭りでもあるんでしょうか」
「…違うな。これは」

祭りは祭りでも血祭りの方だった。

騎士の様な鎧姿の男達が簡素な服を着た村人らしき人間を殺し回っている。老若男女構わずだった。
略奪、凌辱、殺戮。
目を覆いたくなるような景色がここで行われていた。かつての俺ならパニックでも起こしてたかもな。

「チッ」

思わず舌打ちをする。
別に憐れな村人達をどうこうという訳ではなく、余計なアクシデントに遭遇した、程度の煩わしさしか感じなかった。その事が嫌でも自分が異形になったと思い知ったからだ。

さとりさんはこの光景をどう見ているのだろうか?
画面から目を外し隣の少女に目を向けると。

「………」

彼女は画面ではなく、俺を、じっと見つめていた。
無いはずの心臓を捕まれた気がした。

「な、にを」
「…助けに、行かないのですか」

今度こそ呼吸を忘れた。そしていつもの感情抑制が起こる。

「…行かない。見捨てる。助ける理由が無いからな」
「…そうですか」

苦し紛れの言い訳をする俺を、彼女は特にどうと言うわけでもなく目を画面に戻していた。

…なんなんだ、この気持ちは!
本当に助ける必要を感じないだけなんだ。確かに情報も足りない。あの村人が実はLv100でそれを蹂躙する騎士達はLv1000である可能性も無くは無いんだ。それを加味しても助けるつもりがなかった、それが彼女を失望させた様な気がして、つい明後日の方に目をそらした。

こちらを見ているセバスと目があった。

その目は…たっちさんの…
そうか、俺はなんで忘れていたんだろう、あの時かけられた言葉を。

一方で、さとりさんは画面の一部を凝視していた。その顔色は優れない。

「ぁ…… 」

我に返りそこを拡大してみると、どうやら一組の親子が騎士達に追われているようだ。父親らしき男と若い姉妹だ。父親は娘達を先に行かせ自分は騎士に組み付き時間を稼ごうとするが、抵抗の間も無く騎士剣で滅多刺しにされてしまった。下卑た顔の騎士達は3人連れで姉妹の後を追っていた。上の娘はどう見ても14,5才で、下の娘は6才にもなっていないのだろう。捕まるのは時間の問題だ。

その時点でさとりさんの表情は蒼白になっていた。手も震えている。

「さとりさん、もう」
視るのは止めましょう。

そう声をかけようとした矢先、囁くような「許せない…」という呟きの後

「モモンガさん、私、行きます」

彼女ははっきりと告げるが早いか、《転移門》の魔法を発動、即《門》に飛び込んでしまった!

「なっ…!おい!!」

移動先は…?この村か!
彼女に何が起きた!?
彼女も俺同様異形種になった。その影響で人間への友好度は皆無になったと、当然の様にそう思っていた。
でも違った。のか?わからない。

いや、今はそれを考えている場合じゃない。

「セバス!すぐアルベドに完全装備でこちらに合流しろ、と伝えろ。お前はナザリックの警戒体制を最大にして待機だ。…私はこのままさとりさんを追う!」
「ハッ! …いいえ!モモンガ様危険です!せめて護衛が揃うのをお待ち下さい!」
「時間が惜しい。危険を感じたら戻る。それに…」
「…?」

「あちらには彼女がいるから大丈夫だろう。…本気を出したさとりさんは、強いぞ?」

そう言うと俺は《門》に身を踊らせた。



oribe様、誤字報告ありがとうございます。


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第6話

エンリside
※残酷な表現があります。ご注意を!


エンリ・エモットは、酸欠気味の頭で、何故こんなことに、と考えていた。
小さな村、このカルネ村で生まれ育ち、悲劇といえば誰々が戦争に駆り出され戻らなかった、狩りで誰々が怪我をした、程度のものだった。
それが今は。

「おいおい、もう終いか?追い付いちまうぞ。もう少し楽しませてくれや」


死が自分を追い詰めている。


彼らは突然やって来た。

気付いたら、見知った誰かが剣で斬り倒され、赤い血と臓物が地面に撒き散らされた。そして同時に周囲から次々と絶叫があがる。

妹とともに両親の手伝いをしていたエンリは、突然の出来事に頭が着いて行かず立ち尽くしていたが、いち早く立ち直った父親は娘たちの手を引いて自宅に走り出した。


「待ってお父さん!」

最初に切り殺されたひと。あれは

「喋るな!走れエンリ!ネムもだ!」

わたしの、おかあさん。
言葉にならなかった。

いち早く殺戮の場から離れたのが逆に騎士達の目に止まってしまった。
集団の中でも特に下品な輩達がエンリの後を追った。

家に逃げ込むもののあっさり扉を破られ、裏口から逃げようとするが、このままでは逃げ切れないことを察した父は娘達を先に行かせ自分はそのまま出口に立ち塞がる。

「行け!」

もう振り返れなかった。
背中から騎士達の罵声と見知った悲鳴が聞こえた。


「お姉…ちゃん、もう無理…」
「お願い!走ってネム!もうちょっとだから…!」

もうちょっとで、どうなるんだろう。

「へへへ…、捕まえ」
「こないで!!」

振り返り、拾っておいた石で騎士の頭を殴り付ける。

「ガッ!? 畜生、この女!」

石は兜に当たり、それだけだった。むしろエンリ自身の手が傷ついた。

反撃されたことに逆上した騎士は剣を振り回し、エンリの背中を服ごと切り裂く。骨に達する傷。明滅する意識。焼けるように熱い背中。残りの騎士達が追い付いてくる。足がもつれ転んだ。もう走れない。

終わりだ。

「ネム、逃げて…」
満足に声も出せなくなってきた。
妹はどこだろう?せめて自分が犠牲になって妹が助かるならそれで…


─────そこで唐突に、空間が歪んだ。


暗い揺らぎの中から、不思議な色の髪をした少女が歩いてくる。
年齢は自分よりいくつか下に見える。
端正な造りの幼い顔は深窓の令嬢を思わせるが、感情の無い冷たい瞳と、なにより胸元にある異様な目玉の飾りが少女を一層不気味に仕上げている。そして魔法を知らないエンリですら彼女から立ち上る異様なオーラを感じとっている。あの小柄な身体にどれだけの力が潜んでいるのだろうか。

「…なんて不愉快」
エンリを視界の隅に入れ彼女の前に立つと、少女はつまらなそうに口を開き。

「…なんて下劣」
目の前の騎士をつまらなそうに睨め付ける。

「な、ななな何だお前!どこから出てきた!?」
「…どこからでもいいでしょう。それより貴方」

一転、口を歪ませ笑う少女。

「私も殺さないんですか?女性のお腹に剣を突き刺して掻き回す感触がなによりもお好きなのでしょう?」

鈴を転がすような声でとんでもないことを口走った。
それを聞くと騎士は頭の中が真っ白になった。何故この女は自分が隠している悪癖を知っている!

実際のところ仲間内にはバレているのだが。我を失った男は証拠隠滅とばかりに、まだ血に濡れている剣を少女に振り下ろした!
惨劇を予想したエンリは、思わず近くにいた妹を抱き締め、目を瞑る。

「…やはりこんなものですか。あの骸骨は心配しすぎなんです」

…剣は少女に当たる寸前で止まっていた。よく見ると空間に薄く波紋ができていて剣を受け止めているようだ。
暫くすると乾いた音を立てて剣が崩れ落ちた。

「ひっ…! ば、ばけも」
「…失礼な。笑って人を殺している貴方達の方が彼らにとってはよっぽど化け物じゃないですか」
「たすけ」
「お断りします」

少女が軽く手を振るとその手の腕輪が光り、パァンという音を立てて男の頭が兜ごと消し飛んだ…

崩れ落ちる騎士の死体になんとも言えない視線を送る少女。

その光景に、集まってきた騎士達に強い緊張が走る。

「…こんな小娘にそんな怯えないで下さい。逃げる村人を殺すだけの簡単なお仕事だと思っていたんですか?それはそれは御愁傷様。人生ってそんなに甘くないんですよ?いい大人なのにそんなことも知らなかったんですか?」
「…一体なんなんだ貴様。何故その娘を庇う。俺達は」
「…別に彼女を庇った訳ではありませんよ?貴方達にどんな使命があるのかも知ったことではないです」

一旦言葉を切り、顔を上げる。
その目には明確な怒りと溢れる嗜虐が浮かんでいた。

「私は、下らない見世物を見せられたお礼をしたいだけなんですから」

危険察した騎士の内ひとりが
「…撤退だ。隊長に報告を」
「させる訳ないじゃないですか。 …《集団恐怖》」

即座に展開された範囲魔法が騎士達の足を止める。恐怖で足が動かない。

「そこの人…サイモンさんという名前なんですか、どうでもいいですね。貴方、子供の頃に川で溺れかけたことがありますね。…では《溺死》」

魔法が発動するとサイモンと呼ばれた騎士の肺が水で充たされ彼の呼吸を奪う。

「…お気に召しましたか?自分のトラウマに襲われるというのは」

《恐怖》と《溺死》に襲われた男は、返事も悲鳴も出せず滅茶苦茶に手足をばたつかせたあと、やがて動かなくなった。

エンリも残った騎士も、恐怖で声も出せなかった。

「…次、そこの人。名前は… あぁもういいですね。貴方は」


「────何を遊んでいる」


次の瞬間、真の恐怖が姿を表した。

いつ()()が現れたのか分からない。

それは漆黒のローブを羽織った骸骨といった姿だったが、その重圧は先の少女の比ではなかった。

「ひっ… ひぃぃいいい!!」

より確実になった死の気配に耐えられなくなった騎士は、這いずるように逃げだそうとする。

「目障りだな。《心臓掌握》」

骸骨が何かを握り潰すような仕草をすると、騎士の身体は弾かれたように仰け反ると、ガクンと崩れ落ちた。

もう動かない。
死んだのだろう。

「ふむ。呆気なさすぎる。よほどLvが低いのか? …ではこちらは」

骸骨の意識が自分に向いたのを感じたエンリだが、最早逃げる気にもならなかった。

段違いの死に対し、心が逃げすら諦めさせていた。いっそ意識を手離せたら楽だったが、皮肉にも背中の傷の痛みがそれを許さない。
エンリにできたのは腕の中のネムを庇うことだけだった。

「怪我をしているな。 …あった。さあこれを飲め」

どこからともなく骸骨が赤い液体を取り出し、こちらに差し出してくる。

恐ろしい。
あれを飲んだら自分はどうなってしまうのだろう。

「…どうした。飲む気力も無いか。ならば」

骸骨から苛つく様な気配が立ち上る。

「待って、下さい! …飲みます、飲みますから、妹だけは…!」

決死の覚悟で言葉を紡ぐエンリだったが、助けは意外なところから来た。

「…そこまでで許してあげて下さい、()()()。貴方の今の姿は彼女達には刺激が強すぎるのですよ。()としても少々残念ですが」

少女の声に骸骨の動きは止まり、何か言いたげに少女をみつめる。

(この二人親子!? なによそれ!?)
エンリの思考回路はもう限界だった。

「えぇそうですよ、エンリ・エモットさん。似ているでしょう、特に耳の辺りとか? あぁ、その薬に害はないですよ。お父様の気が変わらないうちに早く召し上がって下さいな」

言われるまま赤い薬を受け取り、震える手で飲み干す。

「っ!……嘘…」

あれだけあった痛みが溶けるように消えた。こんなに早く効く治療薬なんて聞いたことがない。

改めて二人に目を向けるエンリ。
(そういえば私、いつ名前言ったっけ?)

不思議な事の連続で頭が回らない。
だが、まずは命の恩人の名前だけでも聞いておきたかった。

「ありがとうございます…!なんてお礼を言えばいいのか… あの…貴方様のお名前は…?」

骸骨と少女はお互い顔を見合わせた後
まず少女の方が、

「私は古明地さとりと申します。よろしくお願いしますね。そして、この方が────」

骸骨自身が後を引き継ぐ。


「私の名はアインズ。アインズ・ウール・ゴウンと言う。親しみを込めてアインズさん、と呼んで欲しい」

厳かな声で誇らしげに、その名を名乗った。



完全オリジナルキャラ、サイモンさんの出番は以上になります。
お疲れ様でした。


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第7話 (前編)

さとりside
※長くなったので分割しました。


少し時間を戻して話しましょう。

私は約束した時間丁度にナザリック入り口に《転移門》の魔法でやってきました。

(はぁ… 憂鬱です)
誰がどこで聞いてるのか分からないので、心の中で何度目か分からない溜め息をつきます。


今は迎えが来るのを待ちましょう。
ここから先は一人で勝手に入っていくわけにはいきません。私は部外者なんです。案内無しでは私なんて即恐怖公の餌送りでしょう。おお怖い。


これでもしも、入り口開幕からアルベドさん遭遇スタートだったりしたら、私の胃には穴が開きそうです。
…胃痛は低級治療薬で治るのでしょうか?試す事にならないといいですね私。


…おや、迎えが来たようです。

「ようこそ、ナザリックに!古明地様。主人…コホン、至高の御方がお待ちになられております。ご案内致します」

誰ですか貴方。

迎えに来てくれたのはアルベドさんと戦闘メイドの2名でした。
アルベドさんは満面の笑みを、戦闘メイド ───プレアデスのユリさんとルプスレギナさんと言う名前でした
─── には神妙な様子で歓迎されて。
どういうことなの…?

凄まじい手のひら返しに混乱したまま、私はモモンガさんの自室前に案内されました。
途中アルベドさんの心を見せて貰いましたが、これがまた頭が痛いです…
楽しい家族計画だとか愛の正妻候補だとか言った不穏な単語が混じっていましたが大体の概要は見えてきました。どうやらモモンガさんが手を回してくれたみたいですね。これはありがたい。しかしナザリック入りは慎重に考えたい問題です…

それにこのNPC達の反応も問題です。
私に対する嫌悪感が薄れているのは助かりますが、これがまた何を切っ掛けに殺意に変わるか分からないから恐怖は倍増です。例えるなら不発弾が軽快にこっちにむかって転がってくるようなもの。
彼等NPCについては、私は私で独自に考察していく必要があります。何故ならモモンガさんは身内には結構甘い評価をするタイプですからね。

結局、頭痛の種は一向に減りません。
というより私はこっちに来てから順調にトラウマを増やしてるような気がしますが気のせいでしょうか?
…他人のトラウマを弄くるのがさとりの特技だったはずですが、どこかで仕様変更でもあったのでしょうか?

あぁ、早くモモンガさんと他愛ない話でもしたいです。彼もきっと慣れない支配者ロールで疲れているでしょうから、お互い良い気晴らしになるでしょう。
…そういえばあの骸骨、疲労無効でしたね。ずるいですね。
あぁ妬ましい。
─────────────────
扉の前でセバスさんに対応して貰い、中を進みます。

アルベドさん達はまだ仕事があると戻って行きました。仕事、と言いつつ内容は妄想メインの様でしたが。それでも業務自体は完璧なんでしょうね、さすがアルベドさん。他のメイドさん二人とはあまり話せませんでした。でも褐色肌の人狼メイド、ルプーさんはなんとなく話が合いそうなので今度また個人的にお話したい所。楽しいですよね、上げて落とすの。同じ赤髪の三つ編み繋がりでお燐も紹介したいです。もう一人のユリさんという方は真面目そうでしたが心の中は色々楽しいですね。それに…あの兇悪な胸は…。あー妬ましい。なんだか残り4人のプレアデス達にも興味が湧いてきました。

広い個室の奥では、大きな鏡の前でモモンガさんが何故か不思議な踊りを踊っています。
見てるとなんだかMPが減りそうだったので、邪魔を覚悟で話しかけます。
その支配者ロールかっこいいですね。

そうそう、私は胸元の目玉を閉じておきました。こうしている間は読心スキルが停止する、と説明する為です。

…実際はそんなことで読心スキルは止まりません。ちょっとノイズがかかる程度です。

これは、私が嫌われ者にならないための保険。原作の古明地さとりは人間にも妖怪にも、怨霊にすら嫌われていました。当人も遠慮なく相手の心を抉っていた結果でしょうが、私はあそこまで周囲に嫌われて正気を保てる自信はありません。少なくとも今の私には。なので、勝手に心を読みませんアピールを私はしていくことを決めたんです。

これでモモンガさんに好かれなくても構わない、ただ嫌わないでいて欲しい。その為に必要なら私はなんでもしよう。
嘘と真実、本音と建前を織り混ぜ説明し、結果モモンガさんから信頼を勝ち得る私の心は、子供の様に我が儘で支離滅裂なのでした。

…あー、一応断っておきますが、私にモモンガさんへの恋愛感情はありませんよ?
私はね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()あの姿が好きなんです。

私、自分勝手な自己犠牲とか典型的な悲劇のストーリーって大嫌いなんです。
その点、彼は最高ですね。自分が犠牲になって、はいさようなら後は任せた、なんて事は絶対に考えない人ですから。
そんな彼は私の理想、これからも彼にはそのままでいて欲しいと思っています。

「…あっ、モモンガ様。いま映像が変わりましたよ」
「おっ」

その為に私は彼を見守ろう。

「よし、これで目的地を探しやすくなったな。早速報告にあった村を見てみるか。さとりも見てみるか?」
「はい、お隣失礼します」

彼の隣で。


─────────────────
鏡に映し出された例の村は血祭り騒ぎでした。

ふーむ… 昔の私なら卒倒してた光景でしょうけど、今となっては特にどうということもない… むしろこの場で彼等の絶望の心を直に視てみたいけど、グロいのはちょっとなぁ、くらいしか興味を持てませんでした。

覚悟はしてましたが、どうやら私も心身共に立派な異形種になれたようです。
特に名残惜しむ事もありませんがね。
というかどうせ異形種になったのならメンタル面も強くして欲しかったです。

「チッ」

舌打ちが聴こえたので画面から目を離すと、モモンガさんは不機嫌そうに画面を睨んでいます。まぁそうでしょうね。彼は見過ごせないでしょうから。

彼には「困っている人を助けるのは当然」という縛りを受けています。
以前モモンガさんがたっち・みーさんに助けられた時にかけられた言葉です。
彼にとって大切にしている思い出にひとつらしいですからね。

しかし何気なく覗いたモモンガさんの心を見て私は愕然とする。

彼は、助けに行く気が、無い。
人間への憐愍など欠片も無いことは分かっていた事だが、あれほど強く彼の心に刻んでいたはずの言葉までもすっぽり無くなっていたのです。
…えっ。なんで。いつそんな心変りをしたんですか?
…異形種に、アンデッドになったから?
どうしても問いかけざるを得ません。

「…助けに、いかないのですか?」
「…行かない。見捨てる。助ける理由が無いからな」
「…そうですか」

私はモモンガさんから視線を逸らしました。
…彼の想いは不変ではなかった。
このまま彼の心はどんどん異形に変わって行き、最後はギルドメンバーもナザリックも私の事も、自分の利用価値でしか判断しない本物の化け物になってしまうのでしょうか…

むう。それだけは何とか阻止しないと。
何でもする、と決めたんですから。
暢気に静観していた過去の自分が、今は苛立たしいです。


…心ここにあらずと画面を見ていた私ですが、画面隅の方で我先に逃げている一組の父娘を見つけました。

あらあら、これは…
今、父親が自分を犠牲にして二人を逃がしている。このまま行けば順当に姉が妹を庇い死に、妹は…例え生き残っても地獄でしょうに。

…あぁ苛つきます。安直な悲劇はあれほど嫌いだと言ったのに。庇われて生き残って放り出される身にもなって欲しいのに。

私の中で不快感が渦を巻きます。
調子に乗っているあの騎士もどきが気に入らない。何よりも、もうすぐ犬死にするであろうあの姉の運命が気に入らない!
私はあいつらを…

「モモンガさん、私、行きます」

《転移門》を無詠唱で発動、即飛び込みます。モモンガさんが何か言っていましたが知ったことじゃありません。

早く行かなくては。
私の中の()()()が私を急き立てる。
それは知らず知らずに私の中を書き換える。誰もが忌み嫌う妖怪に。

早く彼等を ………しないと。
早く、あの場にいる全員の()()()()()()()()()

急がないと()()()を食べそびれてしまいます。

あぁ… おなかがすきました。

─────────────────
to be continued...



ご意見、ご感想お待ちしております。
少し忙しくなってきたので直ぐには返事出来ないかもしれませんが…


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第7話 (後編)

さとりside
続きです。


ドヤ顔で転移してきた私は、騎士に剣で殴られました。

…少しこの騎士さんの性癖暴露しただけなのですが。ひどいです。
当人は周囲バレしてないと思ってたらしいのですが、皆さん知ってて内心ドン引きらしかったですよ?

あぁ、楽しい。人の心を暴きたてるのがこんなに楽しく感じるなんて、私はやっぱり「さとり」なんですね…

ちなみに剣の一撃ですが、私にはかすり傷ひとつ付けられませんでした。無事防御スキルが働きました。これが私の奥の手のひとつ、種族スキル《魔力転換》。
このスキルは、使用者の最大HPと最大MPを入れ換える、というものです。使用時には敵の攻撃をMP分受け止め、体力を消費して魔法を使うことになります。私の場合はこの膨大なMPがそのまま見えない鎧になりますね。
デメリットとして使用中はあらゆる回復効果を受け付けなくなるのと、スキル解除後に若干のクールタイムが発生する位です。まぁ回復無効には抜け穴が有るんですけどね。

今も騎士さんの剣は私の数センチ前で止まっており、しばらくすると《中位武器破壊》のスキルが働いて粉々になってしまいました。
あー… 武器も中級以下っぽいですねこれ。がっかりです。

さらに、化け物呼ばわりされてムッとした私は、思わず腕輪の魔弾で男を攻撃。頭を風船の様に吹き飛ばしてしまいました。

よ、弱っ。
今の最低出力の魔弾ですよ…
ユグドラシル時代なら数撃っても弾幕にしても牽制にしかならない代物です。
こんなにあっさり死んでしまうのなら、もう少し精神的になぶっておけば良かったでしょうか。

…初めて人を殺したのに、私が思ったのはその程度の感想です。痛むような良心など端からありませんでした。
むしろ直前まで私に向けられていた恐怖が想像以上に美味しかった事の方に驚きです。

ふぅ、なんだかとてもスッキリしました。感情を食べるといっても、要は心を読む要領と同じでした。私に向けられている感情がそのまま私を満たすのです。

実はさっきの騎士さんと怯える姉妹達に恐怖を向けられた事で、私のナニカはそこそこ満たされたようでした。もう私の心を掻き乱すこともなくなりましたし。
ここに来るまでのささくれ立ったローテンションが、なんとかニュートラルになったのが自分でも分かります。

しかし、これほど私の感情が浮き沈みするのは、私の中で「実世界の人間の私」と「ユグドラシルキャラの私」と「覚妖怪の私」で混在しているから、なのでしょうか…?
誰か私の心を読んで教えてくれませんかね。…無理でしょうね、これは私の無意識的な問題みたいですから。

…そうだとすると、もしかすると私の中の「覚妖怪の私」はお腹がすいてて機嫌が悪かったんでしょうか?食べたらご機嫌とか、どこのはらぺこキャラですか。

うーん… これからは普通の食事に加えて、感情の調達も考えないといけないんですかね。

まぁ今考えても仕方ないですし、残りも戴いてしまいましょう。
こっちの姉 ───エンリさんという名前ですか、はメインディッシュに取っておいて、先にこっちの騎士さん───サイなんとかさん行ってみましょう。彼のトラウマを覗き込んで、それっぽい効果の魔法で調理開始。《溺死》だと悲鳴も聴こえないから楽ですね。

……ごちそうさま。
食べてから言うのもアレですが、騎士達の恐怖はもう十分ですね。
最初の一口は空腹故の美味しさだったようで、食べ続けてると正直どんどん飽きてきて…
エンリさん姉妹の怯えも甘くて良いんですが、どうやら私は少食みたいで、これ以上は入りません。

お燐の作ってくれたご飯の方が断然美味しいですね。まぁ食べた物が入っていく先は色んな意味で「別腹」な感じがしますが。食べすぎて太らないといいなぁ。
…もう早く帰ってお燐達とお茶にしたいですね。

ともあれ食べ残しはいけませんし、残りはさっさと処分しておきましょう。騎士は適当に処理して、この姉妹は…


「────何を遊んでいる」

次の瞬間、私は転移してきた骸骨に怒られた。

『さとりさんっ!!勝手に飛び出すなんて何考えてんですか!軽率な行動は止めようとあれほど言ったじゃないですかっ!貴方が一番に破ってどうするんです!?』
『う…えっと、ごめんなさい?』
『なんで疑問系なんですか!まったく!ただでさえ貴方は種族上脆いんですからね…HPが直接命に繋がってる世界なんですよ、もう少し』

「ひ、ひぃぃぃいいいい」

怒気に煽られて最後の騎士さんの理性が限界を迎えたようです。叫びながら這って逃げようとしてますね。

「目障りだな。《心臓掌握》」

あっさり倒れて動かなくなる騎士 …名前何でしたっけ?──さん。
ひどいなぁ。言い掛りと八つ当たりですよアレ。

『…あれ。今ので終わりですか?抵抗も無しに一発即死?』
『そうですよ、モモンガさん。どうやらあの人たち、こちらでは計り知れないLvの低さです。私の防御スキルも抜けませんでしたし、受け止めた時に彼等の剣折れてしまいました』
『さとりさんの武器破壊が働いた? …つまり中級以下ですか。《心臓掌握》も無抵抗でしたし、本当に …ふむ、武具は持ち帰って鑑定してみますか』

…よし、話題が逸らせましたよ。

『説教の続きは帰ってからにします』
『───!』

くっ… しつこい骸骨ですね。

『…どうやら何時もの調子に戻れたみたいですね、さとりさん。怪我もないようですし、安心しましたよ』
『…えぇ、ご心配おかけしました。…本当にごめんなさい』

今更ながら自分の軽卒さを思い出して反省です。そしてモモンガさんがちゃんと追ってきてくれた事に気付き、思わず笑みが零れそうになるのを堪えました。

『…いえ、さとりさんの気持ちも分からずに、ましてやたっちさんの言葉を忘れてしまっていた俺が一番悪いんです。すみませんでした』

えっ…? 私の気持ち…? まさかはらぺこで飛び出したのがバレてる…?

『でも良かったですね。何とかあの姉妹、助けられたじゃないですか。まだ怪我してるみたいだし、ちょっと俺がみてきますよ』

そう言ってエンリ姉妹の方に歩いていくモモンガさん。

あー… なるほどー。ですよねー。
そう思いますよねー。
私が人間の姉妹を憐れんで助けに向かった、と。
確かに妹を庇う姉、という姿には思うところはあるんですが…それは今言うことじゃないですし。
…とりあえず今のところは私は人間に好意的、としておきましょうか。

「怪我をしているな。 …あった。さあこれを飲め」

いかにも怪しい骸骨がエンリさんに怪しい薬を差し出してますね。アレは下級治療薬ですか。あの人、自分が飲んだらダメージ受ける薬を何で持ってるんでしょう?

傍目からは悪の幹部が投薬しようと強制してるようにしか見えませんけど。
しかも飲めないなら傷口にぶっかけようとか考えてますね!最低です。

「待って、下さい! …飲みます、飲みますから、妹だけは…!」

うぷ。もう十分なのに、エモット姉妹から濃厚な恐怖の追加が… ってなんで私にも怯えを向けるんですか!
あんな姿で迫れば怖がって当然ですし…私はその隣で笑ってますからね。ほら、彼女実験台にされると思ってますよ。

…いい加減モモンガさんを止めましょうか。そうしないとエンリさんが色々限界みたいです。

んー、でも、モモンガさんをなんと呼びかけましょうか… 迂闊にモモンガさんの名前を外で出すのも避けたいです。
軽卒だと怒られたばかりなので慎重に行きたいのですが。


そうですね…ここはアルベドさんに習って…


「…そこまでで許してあげて下さい、()()()。貴方の今の姿は彼女達には刺激が強すぎるのですよ。()としても少々残念ですが」


あっモモンガさん感情抑制されてます。

『…ふぅ。いきなりなにを言い出すんですかアンタ! …大体、娘だなんて、さとりさん確か俺とひとつふたつしか歳かわらな』
『…ふぅん?』
『なんでもないです』
『それでいいです。 …モモンガさんを外でなんと呼んだらいいか分からなかったんですよ。それに警戒しろ、と言ったのはモモンガさんの方です。…そんなに驚きました?今日アルベドさんが、私が娘だどうのと考えてたのを読ませて貰いましたよ。大元は貴方の発案らしいじゃないですか』
『アルベド… うーん、その話はまた後にしましょう。…とりあえず俺は…この名を使おうと思います。ユグドラシル関係者なら殆ど知ってるでしょうし、心当たりのある人なら必ず接触を図るはずですから』
『…いいんですか? いえ、反対する人は誰もいないと思いますけど…』

やっぱりギルドメンバーを、まだ諦めきれないのでしょうか。いい兆候、でしょうかね…?

『反対するなら堂々と言いに来て貰いますよ、そしてその場で返還します。とにかく…』

彼はきっと、自分が行く道を決めたのでしょう。あの名前を継ぐのだから、彼はきっと進み続けるはずです。
ならば私も決めましょう。
私は彼を見守ります。彼が変わってしまわないように、あらゆる手段を尽くしましょう。例え私が異形の化け物になっても。


「私の名はアインズ。アインズ・ウール・ゴウンと言う。親しみを込めてアインズさん、と呼んで欲しい」

呪いのような親しみを込めて。



次回からは少し話の展開スピードを上げていきます。

ご意見、ご感想お待ちしております。



※言い訳
少し時間を戻しすぎて内容が被ってしまい増長感が強いですね。
以後気をつけます。


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第8話

さとりside


私はこのままナザリックに帰還しても良かったのですが、モモンガさん ─── アインズさんがやる気を出したので、このまま村の救助に向かうことにしました。

エモット姉妹に過剰な守護魔法をかけたり保険のゴブリン召喚アイテムを渡したりしたところで、漆黒の全身鎧を纏ったアルベドさんが到着しました。

…ごつい全身鎧を着ているのにちゃんと女性らしいフォルムなのは、正直ずるくないですか… 決して越えられない壁がそこにあるような気がしてなりません。

彼女が少し合流に遅れたのは、先に周囲を囲む騎士達を掃討してたようです。さすが仕事が早いです。

「お待たせして申し訳ありません。シモベの配置完了しました。いつでも村を殲滅可能です」

絶句するアインズさん。
安定のアルベドさんクオリティです。そこに痺れませんし憧れませんが。

「待って、いや、待てアルベド。救助対象ごと殲滅してどうする、襲っている騎士どもだけ処分するんだ。まあいい、この場は私自ら取り仕切ろう」
「至高の御方のお手を煩わせるとは…
それも全て我等シモベ一堂の力不足。申し訳有りません」
「良い、お前の全てを私は許そう。…付いてきてくれるか?アルベドよ」
「も、勿論でございます!このアルベド、全霊をかけて至高の御方を御守りいたします!」

溢れ出る忠誠心、ですねー。
「お手を煩わせる」の部分で、私を睨んでた様に見えましたが。
怖いです。


「後はこの外見か。腕は適当な籠手でも着ければ良いか。顔は何か… これか…仕方あるまい」

ごそごそアイテムボックスを漁っていたアインズさんは、昔イベントで配られたしっと感溢れる仮装マスクを被って正体を隠しました。…似合ってますよ、多分。エンリさん達には今更感ありますが、まぁ後で私が釘を刺しておきましょうか。

しかしさっきの下級治療薬やゴブ召喚アイテムといい、もう使わない様な物をよく持ち歩いてますね… 一度、私も一緒にアイテム整理を手伝った方が良さそうです。

「次は使い捨ての壁役か。《アンデッド作成》」

黒い靄が、騎士の溺死体のひとつ
───サマンサさんでしたっけ───に纏わり付くとやがて靄の中から見慣れたアンデッド、死の騎士さんが現れます。実績のある彼なら護衛役にぴったりですね。
…遠くのエンリ姉妹がまた怯えていますが、私は構わず死の騎士さんに話しかけました。

「ごきげんよう、死の騎士さん。先日はありがとうございました」

礼を言ったものの返事を期待していた訳ではなかったのですが、予想に反して死の騎士はフルフルと頭を振りました。

「違う? …あの時とは別の死の騎士さんでしたか。それは失礼しました」

コクン。
…なんか可愛いです。
外見はアレですが。

「…こちらこそ。よろしくお願いしますね」

コクコク

『さとりさん、こいつらの思考まで分かるんですか?創造主の俺にも漠然としか解らないのに…』
『えぇ、何となくですけどね。…でも変ですね。前の死の騎士さん達よりこの子の方が意志がはっきりしてる気がします』
『ふーむ、この世界の死体を媒介に作成したからですかね… まぁ命令をちゃんと聞いてくれれば構わないか』

彼、張り切ってるから大丈夫だと思いますよ。

「死の騎士よ。私の声が聞こえるか。命令だ、この鎧と同じ物を着た連中を叩き潰すぞ」

「─────!!」

命令を受けた死の騎士さんは雄叫びを上げるとまっしぐらに村へ突撃していきました。

私達を置き去りにして。

「…えっと、俺を守りながら…じゃないのかよ?」

素に戻ってますよ、お父様。

────────────────
おっとり刀で村に入った私達が見たのは、張り切った死の騎士さんが粗方敵を片付けた所でした。

「────」
何となく誉めて欲しそうです。

「よくやりましたね。後で頭を撫でてあげますね」
「─!」

『なんでさとりさんの命令聞いてるんですか…?こいつ』

さぁ?日頃の行いとか人徳じゃないですかね。


「あー、そこな騎士達。もうこれ以上抵抗しないなら武器を───」

降伏勧告に迷わず従う騎士達。
もう近隣に近づくな、と警告の後、全員解放されてましたが、彼らの末路は外で手ぐすね引いて待っているシモベ達に回収後、実験素材として晴れてナザリック入りみたいです。ここに来るまでに随分お楽しみだったようなので同情しませんけど。


アインズさんが戦後処理と情報収集の為、村人と交渉を始めました。上手く一般常識とか貨幣制度なんかの情報を得られればいいのですが。アインズさんならむしろ適役ですね。
…ここは余りでしゃばらない方が良さそうですし、私はエモット姉妹の様子でも見に行きましょうか。


─────────────────
エンリさんは妹のネムと一緒に父親と母親の遺体にすがりつき泣きじゃくっていました。

…さすがの私も、この場を弄る気にはなれません。それぐらいの人間性の欠片は残っています。
私に出来ることは彼女らに《平静化》の魔法をかけて落ち着かせてあげるくらいですかね。

「あ… ありがとうございます、えっと… さとり様」
「どういたしまして、さとりさんです。
…残念な事になっていたようですね。もう少し、私が早く着いていれば間に合ったかもしれません。ごめんなさい」

本心ですよ? …間に合ったからと言って助けてた、かは微妙ですが。

「そんな!さとり様のお陰で私達姉妹は命拾いしました。貴方が助けてくれたことは私、絶対に忘れません!」
「…そうですか」

思わず顔を背けてしまいました。
…あまり真っ直ぐな心を向けないで欲しいです。私の心が化け物だって思い知らされるじゃないですか。
…何がツンデレですか。呪いますよ。

「さ、ネムもお礼を言いなさい」
「うん!ありがとう、さとりおねえちゃん!」
「───!」

………。
私の周りの空気が凍りつきました。
その呼び方は、ダメです。なにかが警鐘を鳴らします。思い出せ、と。思い出すな、と。

「…? あの、どうしました…?」

心配するエンリさんに、渇いた口を辛うじて動かして私は答えます。

「…いえ。なんでもありませんよ。ネムさん、出来れば別の呼び方でお願いします。私は謙虚ですから、さん付けでいいですよ?」
「……?わかりました、さとりさん!」
「…いい子ですね」

頭を撫でると嬉しそうにするネムさん。
可愛いんですけど、違和感はやがて頭痛になってきましたので、そうそうに逃げるように立ち去ります。
何故かは分かりませんが、あの呼ばれ方は私の心を強く揺さぶりました。
何かを思い出しそうな…
忘れていた方がいいような…
うーん、きもちわるいです。

唸りながらアインズさんの所に引き返す私でしたが、時間がたつとその疑問は煙のように薄まっていき、彼と合流する頃にはすっかり忘れてしまいました。

───────────────
…随分長く話し込んでると思ったら、村長さんから地理や冒険者の事も聞いていたんですね。
…この付近の主な国家は、王国、帝国、法国ですか。さっきの騎士もどき達が帝国兵のふりをした法国兵なのは最初の方で知っていたのですが、その意味までは理解できていませんでした。ようやく仕組みが解りましたね。アインズさんに《伝言》しておきましょう。
次は冒険者という職業についてですが、アインズさんが好きそうな話題ですしそちらは丸投げしておきましょう。
もう少し話し合いは続きそうです。


村人達は葬儀の準備にかかっています。手伝う気にもならない私は、死の騎士さんの肩に乗ってボーッとその光景を眺めています。
その死の騎士さんはさっきまで遺体を運ぶのを手伝っていました。

村を直接守った死の騎士さんは、その異形にも拘わらず大方の村人に受け入れられていました。順応力が高いのは素晴らしいですね。この死の騎士の素材になったのが襲撃者だと知ったら、彼等はどう思うのでしょう。

試してみたいですけど止めておきましょう、今の彼らには酷ですし。
でも案外受け入れられるかも知れませんね。もしそうなら世界中が彼らのような人間になればいいのですが…

私はもう帰って休みたいのですが、どうやらまだ無理なようです。
高くなった私の視点から、丘の向こうから鎧を着た一群が馬に乗ってこちらに向かって来たのが見えたのですから。


─────────────────
アインズさんが村長宅から出てきた時には、一団のリーダーらしき戦士もこちらに向かって来ていました。

「村長はいるかね?私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフだ。ここ周辺の村々が賊に襲われているとの報告を受けて周囲を見回っている所だ」

この髭おじさんの交渉役はアインズさんに一任です。
私がやっているのは適当に心を読みつつ、得た情報をアインズさんに《伝言》する簡単なお仕事です。交渉難度イージーモードですね。こちらは一方的に情報を握れるんですから。

はぁ。…それにしてもこのガゼフさんという方、随分真面目な方ですねぇ。彼がここまで来た経緯も視ましたが、確実に罠に嵌められてますよ?装備も部下も制限されて死地に追いやられたのに任務をこなそうとしてるんですから。

あぁやだやだ。王国の上層部は思った以上に腐ってるみたいです。

…飽きてきました。
死の騎士さんの肩の上で足をパタパタさせながら今日の夕飯なにかな、とか考えて暇を潰しますか。

戦士長と部下の視線がグサグサ飛んできますが、手でも振ってあげた方がいいんですかね。

「失礼ゴウン殿、あの…異形の騎士と、その肩にいる少女は一体?大丈夫なのか?」
「彼女は── その… 私の、む、娘です。騎士は私が呼び出したシモベで、今は彼女の制御下にあります。…あの子はあれの扱いに慣れていますから、危険はありません。」
「ご息女でしたか。あの歳でこれほどのシモベを従えるとは! その才能、これは将来が楽しみですな」
「えぇ、まぁ。…そうですね」

私誉められてますよ、お父様。
私を誉められて何故か上機嫌なアインズさん、上司をご機嫌にしたガゼフさんの評価を上げるアルベドさん。実のところ死の騎士の強さに興味津々なガゼフさん。そんなことは良いから眠い私。
カオスですねぇ。
あくびがでました。


引き出せる情報も尽きかけた時、アルベドさんからアインズさんに報告がありました。

「アインズ様、武装した未確認の一団が新たに近付いて来ています。如何致しましょうか?」

処分しますか?と暗に聞いてますね。
アインズさんは様子見を選択しましたが、しちゃっても良いと思いますけどね。十中八九スレイン法国という所からのガゼフさん宛の刺客でしょうし。
それにしても、この村呪われてるんですか?

アインズさんが未確認集団の事を伝え、その正体の予想を言うとガゼフさんは悔しそうにした後戦う事を決意、アインズさんには協力を頼みました。

『んー、どうしましょうか。さとりさん』
『私に聞かれても。国と国の問題になってますからね。いまここで一概にどっちに着くという判断は難しいんじゃないですか?』
『そうですよね。少し様子を見ましょう』

ガゼフさんは協力を断られると残念な様子でしたが、代わりに自分に何かあれば村を守って欲しいと依頼。アインズさんはそれを承諾、という形で纏まりました。

去り際にアインズさんは御守りだ、とアイテムを渡し、ガゼフさんは心からの感謝を述べて立ち去ろうとします。

「ゴウン殿、ありがとう!くれぐれも村のことは頼みましたぞ!」

挨拶を済ませ、部下を引き連れ去っていくガゼフさん。それを見送るアインズさん。

『…アインズさん、ガゼフさんのこと気に入りましたね。助ける気満々じゃないですか』

あの時渡したアイテムは、アイテムの周囲を使用者のと入れ換える物でした。きっと彼が危なくなったら交代するつもりでなのでしょう。心を読まなくても分かります。

『すみません、さとりさん。勝手な事をひとりで決めてしまって。なんかあの人を見捨てられなくて』
『…法国やらと事を構えることになってもですか? 彼にそんな価値があるとでも?』
『…分からない。でもあの人は、こんなくだらない策謀で死ぬべきじゃない、と思うんです。彼の信念には共感するものがありますし』

…なるほど。
やっぱり、私にはガゼフさんを理解できません。

信念とか矜持が、死んだ後に残された人達を守ってくれるんですか。そんなわけないじゃないですか、結局自己満足に過ぎないんです。

あぁ。でも、アインズさんも、そうなんですね。絆とか過去の栄光とか。見えない物の為に命をかけられる人でしたか。

私は…

『…アインズさん、大丈夫ですよ。何があっても私は貴方の味方です』
『…ありがとうございます、さとりさん。さぁ彼の戦いを見守りましょう!』

観戦モードに入るアインズさんを余所に、私は一人、考えに耽っていた。

私は…
私は、何を信じているのかな?

答えは出ませんでした。



推敲中に送ってしまいました。
後で色々修正するかもしれません。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第9話

ニグンside


陽光聖典隊長のニグンは50名近い隊員達を率い、王国最強の戦士ガゼフ・ストロノーフの暗殺作戦に来ていた。

陽光聖典とは、亜人を含む異形種殲滅が主な任務の、法国特殊部隊のひとつである。その隊員達は、皆一流の魔法詠唱者(マジックキャスター)で構成されている。

作戦は、帝国兵に偽装させた兵士に辺境の村を襲撃させて、王国からガゼフに救援命令を下させる。法国と繋がる貴族を介し、国宝装備を剥ぎ取る。そして弱体化したところで誘き寄せた後、呼び出した天使達と隊員で処分するという計画であった。

理由も正当なものだ。
王に直接仕えるガゼフが死ねば王派閥と貴族派閥のパワーバランスは崩れ、貴族派閥が勝利するだろう。そして、ガゼフの死と内乱により王国の力は下がる。その後はあの欲深い帝国に呑まれるなり、法国が直接吸収するなりすればいい。
それでまたひとつ人間達は結束できる。
他の国はまだ気付いていないが、他種族に比べ非力で脆弱な人類は常に滅亡の危機に曝されている。今はお互いに争っている場合じゃない。

死ぬことで結果的に人類の為になれるガゼフには感謝して欲しいくらいだ


そして今、奴をついに追い詰めた。
その戦闘も、ようやく終わりを告げようとしていた。

隊員達が次々と呼び出す炎の上位天使が、ガゼフとその部下を取り囲み攻撃を加え続けた。さすがにガゼフは一人で何体もの天使を斬り倒したが部下はそうもいかない。倒してもすぐ再召喚される物量に部下がまず一人また一人と倒れ、疲労したガゼフも遂に天使の一撃を受け、膝をついた。

「くっ… 俺は王国戦士長、王に忠誠を誓い、この国を愛し守る者だ…! それを汚す貴様らに、屈する訳にはいかん…!」
「…本当に国を愛し守りたいならば、お前はすぐに逃げるべきだったのだ。こんな村は見捨てて、な。生きていれば村ではなく国や世界も守れたかも知れんのだぞ?それが解らないお前は、やはりこの場で死ぬべきだ」
「俺は!この国を守るためにここまで強くなったのだ!俺を育てたこの信念を、俺は裏切ることはできん!」
「その信念に、お前はここで殺され、守ろうとした村人も死ぬことになるのだぞ」

悔しそうに唇を噛むガゼフに、ニグンは最後になる言葉を贈る。

「無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

命令を受けた天使達が、ガゼフに向かっていこうとした、その時。


次の瞬間、彼等はそこに現れた。

突然ガゼフと部下達は消え失せ、代わりに妙な仮面を被った魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき男と、漆黒の全身鎧を着た女性らしき戦士、そして不思議な色の髪を持つ小柄な少女が立っていた。少女は胸元に妙な飾りを付けていたが、今は魔法詠唱者に気を配らねば、と視線を戻した。
 
最大級の警戒態勢でニグンは相手の出方を待っていると、魔法詠唱者(マジックキャスター)が声を掛けてきた。

「はじめまして、法国の皆様。私の名前は、アインズ・ウール・ゴウン。親しみをこめてアインズさんと呼んで下さって結構です。こちらは部下のアルベド、そしてこちらが、む、娘のさとりといいます。以後、お見知り置きを」

意外なほど丁寧な、男の声だ。
部下の戦士は油断なく長大な得物を構えているが、娘だという少女は眠そうな目で明後日の方角を見ているだけだ。興味が無いらしい。

転移魔法か?マジックアイテムか?いや、目眩ましだな。そう断定し、ニグンは男に問う。

「…ガゼフ・ストロノーフをどうした?」
「彼なら私達と入れ替わりに、村に転移させました。私は、貴方達と話し合いに来たのです。武器を収め、私の話を聞いて下さいますか?」

この男、頭でも沸いているのだろうか。そんな都合の良い魔法などあるか!それに今は一方的にこちらが殺す状況なのだ。話し合いで済む段階などとうに過ぎている。

「奴の命ごいか。いや、村人のため人身御供になりに来たのか?どいつもこいつも愚か者だな」

そう言葉にすると、少女の方が少しだけこちらを向いた気がする。
まぁいい。処分する対象が少し増えただけだ。天使達に攻撃命令を…

「違います」
「なに?」

では何だと言うのだ。交渉の余地は与えない。そう考えた矢先、男はとんでもないことを告げた。

「私達の戦力はそちらを大きく上回っています。無駄な戦いは止め、大人しく武装解除を。そうすれば命だけは保証してあげましょう」

悪い話ではないのですよ?
と言わんばかりの男に、ニグンは怒りよりも笑いが込み上げてきた。

「ははは!やはり気狂いか、いや、その仮面は道化の類いであったか!面白い!面白いが、生かしておく理由にはならんな」
「…警告はしたぞ、私は。むしろこれでも譲歩しているんだ」

仮面の男の口調が変わったことに、ニグンはまだ気付けない。

「だから無駄だ、と言っているだろう。我らは人類の為に行動している!その為にはガゼフや辺境の村人どもの犠牲など取るに足らんものだ」
「───」
「何やら自信ありげだったが、アインズ・ウール・ゴウン、だと? フッ。聞いたことも無い名だ。どこの田舎で粋がっていた輩か分からんが、調子に乗るのもいい加減にしろ!?」
「───!」
「…それに、そこの娘。上手く隠しているが貴様、人間ではないな? その目玉から微かに異形の気配がすると天使が教えてくれたぞ。見たことの無い種だな… その娘はここに置いていって貰うぞ。本国に持ち帰り実験素材にする」

そう、言い切ったところで、空気が変わった。

困ったように眉をひそめる少女と、地面にヒビが入るほど武器をめり込ませている戦士、そして。

「───貴様」
「な、なんだ!?」

「こちらが下手に出てやれば… 好き勝手言ってくれる。私達が手ずから助けた村を蹂躙しようとすることだけでも、本来は許されざる行為だったのだが…」

男の怒気に合せ、空間そのものが震えている。

「…なにが人類の為に、だ!なにが犠牲だ!貴様らこそ、下らん理由でガゼフの信念に泥を塗るな!!糞どもが!!」

「ああ、それに!貴様今!俺の名を笑ったな!俺達の誇りを!鼻で笑いやがった!グッ!何より! クッ、クソッ!!クソがああああぁぁぁッ!!俺の友を!最後に残った俺の絆を!あろうことか実験素材と言ったなああぁ!!!」

その怒りの強さに、陽光聖典だけでなく、部下の戦士すら立ち竦んでいた。そんな中、少女だけが悲しい目でアインズを見つめていた。

しばらく肩を震わせていたアインズは、ひとつ息を吐く。そしてニグン達を指差し、ゆっくり告げた。

「抵抗しろ。泣きわめけ。死んだ方がマシな痛みを与えてやる。…殺してはやらん、死んでも生き返らせてやるぞ。お前らは全員、俺の実験材料だ。骨の一本、血の一滴まで使い捨ててやる」

強烈な恐怖に生存本能を刺激されたニグンは、反射的に悲鳴のような命令を出す。

「天使達に攻撃命令を出せ!」

すかさず迫った2体の天使の剣が、過たずアインズの体を貫いた。しかし、ニグンが安心する前に天使は動きをピタリと止める。

「なにが起きた…?」

天使はアインズに頭を掴まれ持ち上げられていた。剣に刺し貫かれながらアインズは天使の頭を、そのまま握り潰した。

「────!?」

隊員達はもはや呻き声すら出せない。
何故刺されても死なない!魔法詠唱者なのにその膂力はなんだ!?
天使達はすでに光の粒となり宙に消えている。

「弱いな。強さも見た目もユグドラシル時代と同じか?魔法も共通だし、まだまだ調べることは多そうだ」

アインズはよく分からないこと呟くと、思い出したかのようにこちらを向く。

「抵抗しろ、と言ったはずだぞ?」

「全員で攻撃だ!!奴に何もさせるな!」

命令で我に返った隊員が天使達に総攻撃を命じる。50体近い天使群が羽虫のようにアインズに殺到する。

「カトンボどもが。《負の爆裂(ネガティブバースト)》」

黒い波動がアインズから周囲に迸り、群れていた天使達は一瞬で蒸発した。

「そんな…この男も化け物だったか…
ならば 」

圧倒的すぎる実力差が、かえってニグンの頭を冷静にした。今こそ奥の手を使うときだ!

「最高位天使を召喚するぞ! 時間を稼げ!」

その言葉にアインズ達の動きが止まる。

「最高位の天使…? だとしたら不味いな」
「お下がりください!ここは私がお引き受け致します。その間に対策を」

主と部下が緊張を走らせる中、少女は一人額に手をあて俯いた後、アインズに何かしら囁いた。
それを聞いたアインズはガックリと肩を落とした後、何もせずにこちらを見つめていた。つまらなそうに。

何故かは分からないが、その隙にニグンは水晶を取り出して発動させる。

「見よ! 最高位天使の姿を!《威光の主天使》!」

これこそがニグンに与えられた奥の手。そこに現れるだけで周囲に清浄な空気を満ちさせる存在。最高位の天使、威光の主天使である。

「ほ、本当に威光の主天使だった……」

震え気味のアインズの声が今は心地良い。

「そうだ! これこそが最高位の天使だ! 驚くのは無理もない。私ですら始めて見るのだからな。ここまで私を追い詰めたことを誇りに思え。そんな貴様を殺さなくてはならないのは非常に残念だがな」

しかしアインズは軽く頭を数回振ると、疲れたようにに肩を回して言った。

「あー…わかったわかった。 はぁ。無駄に緊張して損した… なんか肩も凝った気がする」
「…何だと?」

あまりに投げ遣りな口調に耳を疑うが、代わりに娘達の方が話を続ける。

「…お父様は少しお疲れなんですよ。子供のお遊びに付き合うのも結構ですが、そこそこにして下さいね?」
「さとりお嬢様の仰る通りです。未知の相手に警戒を払うのは分かりますが、この下等生物たちにそんな価値すらありません。まして至高の御方の慈悲も理解出来ない虫ケラ以下の頭しか持っていないなど救えないにも程があります。さっさと掃除してしまいましょう」
「…そうは言うがな、私もここまでとは思わなかったのだ。勿体付けて魔封じの水晶を取り出したんだ、期待くらいするだろう?」

最高位天使の前で和やかな会話を始める3人に、ニグンは今度こそキレた。

「ふざけるな!貴様らは最高位天使をなんだと思っている! 200年前、魔神すら滅ぼした伝説の存在だぞ!? ふざけるのもいい加減にしろ!  天使よ!《善なる極撃》を放て!」

 《善なる極撃》は第七位階魔法であり、これもまた伝説に位置するものである。耐えられる術など今の人類には無い。それでもアインズは面倒そうに手を振って応える。

「早くしろ。私も飽きてきたぞ」

言い終える間もなく天から光輝く柱がアインズを打ち付けそのまま光の中へと消し去った。


「は、ははは… はははは!やった、やったぞ!ざまあみろ!伝説に勝てると思ったのか、この…」

「…こんなものか。特にどうということは無いな」
「…何言ってるんですか。ちょっと熱いかなって思ってたじゃないですか。遊んで無駄にダメージ負わないで下さい」
「…えぇ!?お怪我されたんですか!至高の御方の玉体に傷を!?き、貴様ああぁぁ!」
「…大丈夫だ、アルベド。自動回復で治る範囲だ。だから落ち着け」
「は、はい。でも念のためです、あとで私が入念に確認致しますね、入念に!」
「………」

本当に何も無かったのか。傷ひとつ、いや、傷ひとつしか付けられなかったという事実に陽光聖典の誰もが言葉を失った。

「コホン。ではそろそろ片付けに入るか。《暗黒孔(ブラックホール)》」

ニグンらが立ち直る時間も与えずアインズの魔法が発動。
威光の主天使の前に小さな黒点が現れた瞬間、穴は爆発的に拡がり全てを吸い込んでだ。一瞬の暴風が過ぎた後には、もう何も残ってはいなかった。

「ひ、ひひひぃい」

ニグンが悲鳴をあげようとしたその時、突然空間にヒビが入り、何かが割れる音が響いた。
混乱するニグンに、なんと言うこともなくアインズが語りかける。

「ふむ。何者かがこちらを魔法で覗き見したようだ。お前監視されてたようだな。まあ私の妨害魔法が発動したから未遂に終わってるはずだ」

ニグンは愕然とした。自分を監視するなど本国の神官長辺りに違いない。自分は人類の為に戦ってきた。命令のまま殺してきた。それなのに本国は欠片も自分を信用していなかったのか…

もはや立ち上がる気力も失ったニグン。逃げる?どこに?本国からは今ので見捨てられただろう。

「さて、先程も言ったがそろそろ後片付けの時間だ」

パンパンと手を叩くアインズに、我に返ったニグンは這いずり縋りついた。

「待て、いや、待って、下さい。アインズ・ウール・ゴウン様!私達を、いや私だけでも助けて下さい!金でしたら本国に多少ならあります。誰かを殺すのでしたら喜んで行かせてください!ですから、どうか…!」
「…隊長!アンタって人はー! げぶッ!?」

ニグンとアインズに掴みかかろうとした隊員もいたが、立ち塞がったアルベドに横凪ぎに殴られ文字通り四散した。

「…申し訳ありません。実験材料のひとつを壊してしまいました。」
「良い。許すぞ。蘇生魔法のいい実験台になる。後でシモベに集めさせておけ。どこまで細かくされたら蘇生できなくなるんだ…?」
「はい。御方のお心のままに」

その、あまりに非人道的な会話に、漸くニグンは彼の正体に疑問を持った。

「あ、あなた様は一体何者なのですか…?人間では…ない?」
「ん?お前まだ居たのか。私の正体か。…いいだろう、私はな」

「こういう者だよ」
仮面を外すアインズ。その下から現れたのは、暗い緋が灯る骸骨の顔だった。

「────!?」
「あぁもう、さっきからうるさいですよ。《麻痺(パラライズ)》」

叫びだそうとするニグンに、少女は顔をしかめて魔法をかける。ありったけの魔法抵抗装備をしているはずなのに、少女の魔法はそんなもの紙のように貫いてきた。

為す術もなく麻痺し、動かせるのは視線だけになった。周りを見ると部下達も皆、影のように黒い悪魔や沢山の腕を持つ蟲人等の異形に拘束されていた。

「さて、私は一度村に戻りガゼフや村長に経過を報告してくる。アルベドはこいつらをナザリックに連れていけ。さとりはどうする?」
「…私もアルベドさんに付いて戻りましょう。私が尋問すればそんな時間も係らず終わるでしょうし」
「そうか、助かるぞ。私も直ぐ戻る。アルベド、後は任せたぞ」
「はい、お帰りお待ちしております」

アインズは仮面を被り直すと、そろそろ暗くなってきた丘を降りて村に戻っていった。
後には、さとりとアルベド、動けない陽光聖典を《転移門》でナザリック送りにしているシモベ達が残った。

「…さて、私達も帰りましょうか。あ…それと、アルベドさん」
「はい。如何致しましたか、さとり様?」
「…今日は、心配かけさせてごめんなさい。皆さんに迷惑をかけてしまいました。…でも、来てくださって嬉しかったです」

潤んだ上目遣いでアルベドを見つめ、謝る少女さとり。

「く、くふー。い、いえ。お気になさらないで下さいませ。でも今後は気を付けて頂きますよう。お怪我でもされたらお父上が悲しみますよ。…では戻りましょう」

…やっべー墜ちかけたわーやっべー、とひとり小さく呟きながら、麻痺ったニグンを片手に引き摺り《転移門》に向かうアルベド。

そのニグンのすがるような視線に、クスクスと笑う少女が声をかける。


「ようこそナザリックへ。ゆっくりしていって下さいね」



生き残れたよ、やったねニグンさん!
さとりさんの正体を彼が看破できたのは監視の権天使の能力だと思って下さい。まぁそのせいで特大地雷を踏んだのですが。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第10話

さとりside
あまり場面は進みません


ナザリックに戻った私は、捕虜が収容された第5階層の一角、真実の部屋に向かいました。そこはニューロニストさんという特別情報収集官が捕虜を尋問する場所、要するに拷問部屋ですかね。
案内役はフレンドリーなサディストこと、プレアデスの一人ルプスレギナ・ベータさんです。赤毛の三つ編みは誰かを思い出させますね。

「じゃご案内するっすね、さとり様。少しお休みにならなくてもいいっすか?」
「えぇ、大丈夫です。…先にやることやってしまいましょう。ルプーさんもお手伝いしてくれますか?」
「勿論っすよ!お任せ下さい!」

(むしろそれが目的っす!)
…はいはい、貴方捕虜の話聞いてからずっと参加したがってましたよね。

ルプスレギナさんとは最初に案内された時から悪い印象は無かったのですけれど、こうして話してみると中々気があったらしく、向こうは砕けた喋り方で、私はルプーさんと呼び会う仲になりました。
…実はお互いSだったと言うのが一番の理由でしょうか。

人狼でもある彼女は、私の前を歩きながら喜びで目輝かせて尻尾があったなら存分に振り回していたでしょう。

…いい()ですね。飼いたいです。こう、首輪を着けさせて…

「ビクッ な、なんすか? 何か悪寒が走ったっす…。風邪っすかねー…」

チッ。勘のいい駄犬ですね。



「着いたっすよー。では中に入るっす」
「お邪魔します」

中ではすでに一部の陽光聖典隊員に尋問が始まっていました。…じっくり見るのはやめておきましょう、私の心は異形ですが、乙女でもあるんです。

「あらん。これはさとり様、いらっしゃいまし。尋問のお手伝い感謝しますわん」

…ニューロニストさんは、その、外見はとても個性的で、内面も、あの、独特と言うか、とにかく濃い方です。オネェ言葉の蛸頭溺死体とか誰得ですか、前の私なら泣いてますよ?

「お疲れ様です、ニューロニストさん。ちょっと隊長の方をお借りしますね」
「どうぞ~ん。ごゆっくり~」

私は別室を借りてそちらに移動しました。猿轡をされた隊長さんをルプスレギナさんに引き摺って貰います。頭をぶつけて声になら無い悲鳴をあげてますが。ルプーさんわざとやってますね。


「さて、貴方に幾つか聞きたいことがあります。…あぁ特に答える必要も無いのでそのままで結構ですよ。確認ですが…貴方は何者ですか?」
「…?」
「えぇと、ニグン、と言う名前なのですか。陽光聖典という特殊部隊の隊長で…」
「…!」
「えぇ、そうですよ、貴方の心を覗かせて貰ってます。怖いですか?怖いですよね。でも止めません」
「………」
「ほう、無心を通しますか。それだと何も考えないを考えてる状態なんですよ。…まぁいいですけど」

実際のところ、こんなのは無意味です。人の心というのは自分で思うほど単純ではなく、思い通りにはなりません。たとえ無心でも心の片隅には隙が出来ますし、頑なな程脆い部分が目立ってくるものです。そこを攻めればいいだけのこと。
私から逃れたいなら気絶するか心を壊すかしないと。寝てても読めないですけどね、さすがに起こしますよ。

「心の開かせ方だって幾らでもありますし… ん?安心して下さい、痛みとかじゃないですよ。魔法で忠誠心を植え付けてもいいですし、偽りの友愛や恐怖を与えても同じですね。お薦めは数分ごとに記憶を少しずつ書き換えていくものでしょうか。今の自分が数分前の自分と違うという事実に、貴方はどこまで耐えられるのかしら」
「…! ……!!」
「…そうですか。素直なのはいいことです。では質問を続けますね。まずは…」



「…こんなところですか。とても参考になりましたよ。ありがとうございました」
「……」
「ん?大丈夫ですよ、私は元々そんなに怒っていませんでしたから」
「…」
「…でも、お父様 ──アインズ様は大層お怒りでしたから… そちらはご自分でなんとかして下さいね?」
「………!!」
「では、さようなら」


はぁ… 疲れました。

「お疲れ様っす。すごいっすよ、さとり様!特に最後の上げて落とすところとか超クールっす!」
「ありがとうございます。ルプーさんもお疲れ様でした」
「とんでもないっす!新たな至高の御方候補者様のお仕事に同席できるだけで光栄の限りっすよ」

あー、私って今そういう立場なんですね… そこら辺のこともアインズさんが戻ってきたら話さないといけませんね。

「このあとどうするっすか?」
「…そうですね、アインズさんが戻るまで個室で少し休ませて貰いますか」
「りょーかいっす。至高の御方が戻られたらその時お知らせするっすよー」


「では、ごゆっくりっすー」
ふぅ。ルプスレギナさんは仕事に戻っていきました。
さすがに疲れたのでベッドに座り込んでしまいます。この身体でも体力はともかく、気力は以前と同じですね。


今日は色々ありましたね…
カルネ村襲撃、帝国のふりをした法国兵の掠奪を阻止。法国の特殊部隊「陽光聖典」と遭遇、即殲滅。そして尋問。

濃すぎでしょう。

それでも収穫はありました。
魔法やスキルの有効性。
一般常識や地理、等の知識。
この世界の大まかな戦闘Lv。
陽光聖典から得た世界の秘密ともいえる情報。

情報は量が多すぎるのでアインズさんと共用して少しずつ整理しましょう。私の頭の限界を超えてますし。


そして問題点も。
私の心の異形化と食事問題。
法国との関係悪化。あの国は色々面倒ですね。
そしてアインズさんの、あの怒気。

特に最後のは由々しき問題です。早急に対処しないと… まず地霊殿に戻って…

あぁベッドで考え事をするのはダメですね、眠くなってしまって… これは、ちょっと持たないかも…

はやくももんがさん、かえってこないかな…

…Zzz
─────────────────
「…りさん、起きて下さい。さとりさん」

…おや。
本当に寝てしまったみたいです。
時間は…何時でしょうか。
目の前にはいつもの骸骨が私を見下ろしています。あの仮面、外したんですね。
…なんで寝起きにこの人がいるんですか?

「…おはようごさいます、アインズさん。…あの、寝顔見てました?」
「…いえ。見てません」

嘘だ!涎垂らした跡までガン見してるじゃないですか!なんでルプーさんは起こしてくれなかったんですか!
あぁ、面白そうだからそのまま部屋に通しましたね、あの駄犬…

「…まぁいいです。お帰りなさい、アインズさん。何か問題ありましたか」
「ただいまです。…特には。ガゼフから王国に来ないかと誘われたのと、村長に村の援助を申し出ておいた位ですかね」
「王国に?行くんですか」
「いいえ、そのうち顔を出すとは言いましたが今のところはまだ」

…ふーむ。今みたいに理知的なら私も安心なんですが。あのときのアインズさんは怒りの感情で他の理性や人間性なんかを塗り潰してましたから。
それにしても村の援助まで提案するなんてアインズさん余程あの村気に入ったんですか。私もあの姉妹とはまたお話したいですけど。

「あー、さとりさん。これから当初の予定通りこれからの事を話し合いたいと思うのですが、大丈夫ですか。疲れているならまた今度でも」
「いえ、大丈夫ですよ。ついでに今日までに分かった情報も整理してしまいましょう」
「では、ここでは機密性が良くないですし円卓の間にでも行きましょうか」

円卓の間はギルド内会議に使われたところです。かつてギルドが全盛の頃は全ての席が埋まっていたのですが。
私の席など元々無いはずなのですが…

「私の席… まだあったんですね」
「当然です。さとりさんはメンバー同然なんですから」

律儀な骸骨ですねぇ。あ、そうだ。

「そういえばアインズさん、私は今所属はどういう扱いになってます?彼らは私の事至高の御方候補とか思ってるんですよ。アルベドさん以外は、ですけど」
「あぁ最終日にギルドのゲストメンバーに登録したままですから、彼らにとっては主人が招いた客人扱いじゃないんですかね」
「そのわりには扱いが良すぎるんですけど」

後継者だとか御息女だとか。花嫁扱いとかされないだけマシでしょうか。そんなことになったら誰かに命を狙われそうです。

「忠誠心が限界突破してますから… それでですね、この際正式にギルドに戻って来てくれませんか? 法国みたいに異形種を目の敵にしている所が他にもあるかもしれませんし、俺としても近くにいてくれた方が安心ですし…」
「いいですよ」
「守護者達にも良く言い聞かせますから…… えっ!?本当に、いいんですか?」
「…貴方が聞いてきたんじゃないですか。本当は来て欲しくないんですか」
「いやいや!簡単には承諾してくれないかな、とは思ってました…」

「私も色々思うところが在りますから。勿論置いて頂く以上お仕事はしますからご安心下さいね」
「それは助かります。正直俺一人じゃ限界が来てましたから。…では後程加入処理を。では、ここからは今後について話しましょう」
「はい。アインズさんは何か考えがおありなんですか?」

私も少し考えた事があるんですが。

「えぇ。陽光聖典から情報を引き出しましたが俺達はまだまだこの世界について知らないといけません。だから俺は自分の目で外を見てこようと思ってます」
「…まさか冒険者になって世界を回る、とか言いませんよね?」
「ぐ…」

図星ですね。大方、私に内政を任せて自分は外で羽を伸ばすつもりなんでしょう。支配者ロール、結構きついみたいですし。仕方ありませんね…

「…いいんじゃないですか。実のところ私も賛成です。必要なら守護者達には口裏合わせますよ」
「あ…ありがとうございます」

丁度いいですね。私も提案しましょう。幾つかの問題の為です。

「では私も。アインズさん、私も少し人間の世界に混じろうと思ってます」
「さとりさんも…ですか。まさか冒険者に?」
「違います。私は私で考えますよ。…理由は私だけでなくアインズさんも無関係じゃないですよ?」
「俺が?」

私は、自分に起きた心の変化と、人間の感情を食べる必要性を伝えました。

「…そんなことが。さっき捕まえた捕虜じゃダメなんですか?」
「同じ人だとその内感情が麻痺してくるんですよ。味の無いガムを食べる様なものです。それに魔法で擬似的に感情変化させても味が薄すぎて栄養が薄いみたいです。なので出来るだけ多様な人から多様な感情を得て、効率良い食事方法を探したいんです」

さっきニューロニストさんのとこで試したんですがね。もう試したくありません。逆に負の感情だけでなく嬉しさとかの感情もいけるみたいですが。ここら辺は好みですね。

「で、俺に何が関係あるんです?」
「それは… さっきアインズが目茶苦茶怒った時の事覚えてます?」
「あぁ… 思い出しても気分が悪い」

あまり掘り返さない方が良さそうですが… この先の事もあまり言いたくないんですがね。

「あの時、感情抑制が発動する毎に、貴方の人間性が削られていったのに気付きましたか?」
「───!」

普段なら抑制された感情は少しづつ元の人間性に戻るのだけど、あの時の抑制は怒りの感情ごと消滅している様でした。結果、残った人間性は虫食いの穴だらけのといった様相です。

「気付いてなかったみたいですね。でも今の貴方の人間性はボロボロですよ。それでよく村長さんに支援する気持ちになれましたね」
「えぇ… 正直、助けた義務感というのが理由の殆どで、ガゼフやエンリからの頼みも無ければ断ってました」

ふーむ。それでも引き受けたのは、ひとえにアインズさんの人柄ですか。それに見ると会話している中、少しづつ人間性が戻ってきてますね。本当に少しですが。

「それでいいと思います。アインズさんは冒険者になって色々な人と触れ合って下さい。それが何よりの治療になりそうです。勿論ナザリックの中の皆さんも気遣って下さいね。なにより一番はナザリックの利益と存続ですよ」

まぁ私の一番は貴方の存在維持なんですが。

「うーん、分かりました。でも人間性ってそんなに大事ですか?こんな姿になったし、そんな重要にも思えないんですが…」
「人間性とか曖昧に言ってますが、詰まるところ()()は貴方を構成する想い、ナザリックやギルドの仲間達への想いも含まれています。それが無くなると言うことは、ナザリックは只の道具に成り下がり仲間達は過去の遺物として処理されるでしょうね」
「な…!」

ふう。だから言いたくなかったんです。

「怒らないで下さい。また感情抑制されますよ?そしたら台無しです」
「…すみません。そう考えると俺にも思い当たる事があります。これからは注意しますね」
「そうして下さい。なにか不安があれば相談に乗りますから」

話し出してから結構な時間が立ってしまいました。

「今日は一旦お開きにしましょう。」
「…えぇ。お燐達も心配してるかしら。帰ったらお夕飯何にしましょうか…」

私は自分で作りませんがね。

「夕飯… 皆でご飯… いいなぁ…」

なんかすごく悲惨な呟きが聞こえましたよ。つい振り向いてしまいました。
そこには寂しい独身骸骨が。

「あ、いえ。俺骨になっちゃったんで食事出来ないんですよ。こっちは元の世界に無い新鮮な食材とかあるんですよね。食べたかったなぁ」
「…もしかして、食事だけでなく睡眠もとっていないんですか」
「? えぇ。食事・睡眠不用はアンデッドの基本セットですから。それがなにか?」

なにか?じゃないでしょう。
こんな基本的なとこから外れてたなんて…!
…今度はこれですか。早急になにか手を打ちましょう。

「…いえ、今はいいです。では私は一度戻りますね」
「はい。明日はナザリックで大々的にさとりさんの帰還を発表する予定ですのでNPC達も連れてきて下さいね」
「…はい。分かりました」

…うわー。大々的とか勘弁して欲しいです。ひっそり回覧板でも回してくれれば充分じゃないですか…

先程までの決意はどこへやら、私は暗澹した気分で円卓の間を後にしました。


 



ちなみに「数分毎に記憶書き換えの刑」を実行すると、さとりさんが血を吐いて倒れます。

現在、ナザリック全校集会を真面目に全部書くか簡単に端折るか、悩み中です。


ぺりさん様、誤字報告ありがとうございます。
ご意見、ご感想お待ちしております。


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第11話

さとりside


《転移門》で地霊殿に戻ってきた私は、お燐に夕食は3人で食べましょうと伝え自室に向かいました。
本来ならペット達を心ゆくまでモフるのですが、今日は我慢。
部屋で目的の物を探します。

「どこの箱にしまいましたっけ… あぁありました。 …一番奥、ですか」

じゃーん。
取り出したのは、薄透明のマネキンの様な仮面(マスク)です。 この仮面(マスク)を着けると一時的に飲食が可能になる、という効果があります。

これはユグドラシル時代に、あるバレンタインイベントの際運営が女性プレイヤーに配布したイベントアイテムです。自分で作ったチョコをどれだけ多くの人に食べて貰えるか、という狂ったイベントでした。その際、意中の彼が異形種だった場合はこの仮面をつけて貰って食べさせろ、という事でした。この仮面(マスク)では食事のブースト効果までは発生しないので、当時は只のジョークアイテムでしたが、こちらでも使えますかね。

とにかくこれをアインズさんに着けて貰えば彼も食事が出来る、かもしれません。
これで第一問題クリアです。
次は…

「さとりさまー。ご飯できましたよー」
「はーい。今行きますね」

続きはご飯食べてからにしましょ。


「…え。さとり様向こうのギルドに入るって、地霊殿出ていっちゃうんですか!?」
「大丈夫よ、お燐。私だけじゃなく貴方達も加入させて貰いますから。ギルドマスターはアインズさんですから後で挨拶に行きましょうね」
「なんだ、そうですか。…さとり様が決めたことなら私達は従いますよ」

夕飯をお燐、お空、私で囲みながら今日あった事を簡単に話しました。
今日の夕飯は焼き魚とサラダとお味噌汁。素晴らしいですね。

「お燐のご飯は美味しいですね」
「あ、ありがとうございます!」
「ねぇさとりさま、アインズさんて誰ですかー?」
「あぁ、アインズさんはモモンガさんのことですよ。名前を変えたそうです」
「?」
「…お空は難しく考えないでいいです。偉い骸骨のアインズさん、で覚えておきなさい」
「はーい」

── 少女食事中 ───

「…ごちそうさまでした。そう言う訳ですから急な話ですけどお引っ越しの準備をお願いしますね。最低限必要なものだけでいいですから」
「分かりました。お空、重いもの運ぶの手伝ってね」
「うん、任せて!」

お燐の持つ猫車はかなり大量の物が運べますので任せて大丈夫でしょう。

自分で言っておいてアレですが意外と軽い反応ですね。お燐達は拠点NPCではなく傭兵NPCだから拠点より私優先なのでしょうか。
でも、この子達も問題なさそうです。ペットを課金アイテムの収納にハウス移して一気に運べばいいでしょう。

「では、私は地下に行ってきます。用意ができたら呼んで下さいね」




自分の荷物を纏めた後、私は地霊殿地下に向かいました。
ここは2層構造になっていて地下一階は生産用施設や換金設備が置いてあります。これまで金策に使ってきましたが、ここら辺はナザリックにも常備されてましたし特に持っていく必要も無いでしょう。貴重品だけ鞄に入れて行きましょうか。

生産施設を通りすぎ、私は地下二階を目指します。かなり深い階段を下りると、照明も最低限の薄暗い石造りの簡素な部屋に着きました。

実はここは拠点でも最重要地点、破壊されたらギルドが崩壊するという我がギルド武器が納められている部屋です。
あのギルド:アインズ・ウール・ゴウンでは超性能のスタッフをギルド武器にしていましたね。
うちのは単純な水晶型でして、効果もゴースト系モンスターを次々と呼び続けるというもの、強度もお察しです。地霊殿には怨霊が似合うと思って作ったのですが思いの外地味でした。

私はナザリックに移るのですし、いつまでも地霊殿を森の中に置いておくわけにもいきません。アインズさんが移籍処理してくれたらこれは破壊してしまおう、と回収に来たのです。正直言うと壊してしまうのは名残惜しいですしまだ迷っていますが、アインズさんが既に覚悟を決めて頑張っている以上私も心を決めなきゃいけませんよね。

そんなことを考えながら安置所の扉の前に着きましたが。


「…扉が開いてますね」

お空が見回ったとき開けっぱなしにしたのでしょうか? あの子ったら。
…入るな、と言い含めていた訳でもありませんから怒っても仕方ないですね。

それにしても、静かすぎて耳が痛くなってきました。さっさと取って戻りましょうか。それとも。

「…いっそ、ここで壊してしまっても良いかしらね…」

静寂を消す様に独り言を言いながら暗い安置所に入り、水晶を手にした瞬間…

シャッ!
「───!」

風を斬る軽い音が聞こえるや否や、私の魔法障壁に斬撃が入りました!

不意討ち!?
誰が!? 何もいなかったはずなのに!
心を読めば…!全く読めない!?

混乱する私に、再度見えない刃が迫りますが、

「っ!来ないで!」

立ち直った私は魔弾を最低出力で大量にばらまいて弾幕を張り、見えないナニかを追い返しました。距離をとれた…のでしょうか。相変わらず姿も気配も分かりません。

危ない所でした…
昨日《魔力転換》を使っていたので反射的にスキル発動を間に合わせる事ができました…!お陰で攻撃はすべてMPが吸ってくれたようです。そんなに削られてませんが、もし生身で受けたら私はどうなっていたことやら…
考えていると空気が動く音だけが聞こえました。

「───また!」

スッ!シャッ!
思った瞬間、今度は左から斬られました。痛みはありませんが恐怖感と不快感はあります。

お返しに弾幕を撒き散らしますが、外れた魔弾が虚しく石壁を削るだけ。手応えは無し。

…これはまずいです。
攻撃自体は軽いのですがいつになっても姿どころか気配すら分かりません。《完全不可知化》の魔法? いいえ、それでも攻撃の意志がある以上心くらい読めるでしょう。一体なにが!

…恐怖する思考を押さえ付け、私はなんとか脱出する手を考えます。目標が見えない以上私の得意な精神系魔法は仕様上使えません。覚えている攻撃魔法は中級程度ですし、無駄撃ちすればするほど、私は自分の命を削ることになります。つまり、勝てません。
とはいえ防戦ではいずれMPを削られて終わり。何か他に使えるものは… 手の中には辛うじて掴めたギルド水晶が。

「かえして」

見えない存在が囁くように言う。…女性、子供の声?。

「…お断りします。これは私のですし、乱暴に奪う様な人には渡せません」

シャッ!
…背中を斬られました。MPはもう半分残っていません。困りました。
仕方ありません、ぶつけ本番ですが使ってみましょう。

「やめて」
「…こちらの台詞です」

私は水晶に意識を向けると、その機能を 全力で起動しました。

水晶から凄まじい勢いで低級ゴースト等が溢れ出て玄室を埋め尽くします。

今!

「《抵抗貫通》《魔法抵抗難度強化》《集団恐慌》!」

ひしめき合ったゴースト達がブーストされた私の魔法で恐慌状態になり暴れ出します!同士討ちを始める一団を気にせずに迷わず玄室を飛び出す私。
そのまま階段に走ります。

私の種族スキル《抵抗貫通》は次の魔法に異常無効を一時的に無視出来る効果を付与します。一日3回限定のスキルを使い、低級ゴーストを暴れさせて盾にしたつもりなのですが思いの外上手くいきました。
どうやらあの敵は《集団恐慌》に巻き込まれたのか追って来ないようです。
早くお燐達と合流しましょう!


───────────────
「あっさとり様、準備出来ましたよ。今呼びに行こうと、 … 下の方で何かあったんですか?」

階段を上がりきりエントランスに付くとお燐とお空が猫車を押して待っていました。

「…話は後にしましょう。地下に侵入者がいて襲われました。一度ナザリックに避難しますよ」
「ええぇ!地下って重要地点ですよ?なんでそんな事態になってるんですか!?」

この子達も初耳みたいですね。
そんなの知らない!と心が叫んでいます。

「…私が聞きたいです。お空!舘ごと消し飛ばす気ですか。止めなさい。とにかく一旦退避です」

兵装を展開し始めたお空を静止し、
私は《転移門》を開くと、二人を押し込んで自分も飛び込みました。

背後から遠くで

「かえしてよ」

という声が聞こえた気がしましたが、私は潜ると同時に門を消去しました…


─────────────────
アインズside



「…そんなことが。一体何なんですか、その透明な侵入者と言うのは」
「…私が知りたいです。しかも場所がギルド武器安置所ですよ?生きた気がしなかったです」

俺は今、逃げてきたさとりさんの元を訪れ、挨拶もそこそこに彼女が襲撃されたという話を聞いてる。

「ギルド武器の安置所って一番警備が厳重な所ですよね?守護者役のNPCが襲ってきたとかじゃないんですか?」
「…そんなNPCいません。うちの子達には引っ越し準備をお願いしていました。私が外に逃げてきたときに一緒にこちらに来ていますよ」

今度は見えない襲撃者か。
チッ。また怒りが内から湧いてくる。
一体誰だ、俺の友人を危険な目に会わせるのは。
クソッ、…どうにもこの手の話題は冷静に処理できないから困るな。

「この世界特有のモンスターとかですかね? こちらには武技っていう未知のスキルの様なものもあるみたいですし…」
「分かりません… 法国辺りの追っ手でしょうか? あのLvの低さじゃあり得ないですけどね…」

いくらなんでも昨日の今日で喧嘩を売っては来ないだろう。

「まぁここで考えても仕方ないです。後程シモベを使って調査させてみましょう。場合によっては超魔法等で焼き払いますか」
「………」

やはり元気が無いな。
少し話題でも変えるか。

「そう言えば、このあと守護者やシモベ一同を集めてさとりさんの紹介と報告会をやる予定だと伝えましたけど、準備は出来ましたか?」
「…出来てません、けど当事者不在って訳にもいきませんよね。…私、立ってるくらいしか出来ませんよ?」
「挨拶くらいはして下さい」



暫し時間が過ぎた。
そろそろ玉座の間に移動しようか。そうだ、あれをやっておかないと。

「さとりさん、ちょっと先に玉座の間に行って加入処理済ませてきますね。ゲスト扱いのままで皆の前にでたらそれはそれで不自然でしょう」
「……え? あ、はい、お願いします。私はもう少し休んでから行きますね…」

限界っぽいなぁ。色々と。


…さて、玉座の間はナザリックの全てを管理する場所だ。ここでは拠点内全NPCの状態が一目で分かるようになっている。確か、加入脱退もここで出来たはずだ。

…よし、急いで処理しよう。さとりさんをギルド:アインズ・ウール・ゴウンに加入。同時に彼女の所持NPC3()()も加入っと。
これで問題なく彼女達を守護者に紹介できる。

処理が終わり一息つくと、玉座の間に少女が入ってきた。

「…アインズさん」
「さとりさん、休んでたんじゃないんですか?」
「セバスさんに案内して貰いました。
…メイドさんがずっとこっちを見てくるので、休みにくいんです」
「あぁ…それ、ここじゃデフォルトですよ。早く慣れて下さい」

疲れた顔で俯くさとりさんは、手に不思議な色の水晶を持っているのに気付いた。見たことないアイテムだが。

「さとりさんそれは…」
「これがうちのギルド武器です。いつまでも残していて地霊殿を誰かに好きに使われるのも嫌ですから、ここで破壊しておこうと思います」
「…いいんですか?」

自らギルド武器を破壊… 自分がそんなことをする事は絶対無いと誓えるが、考えただけで震えが走る。 …躊躇無く実行できる彼女は正直凄い、というか少し、怖い。と思ってしまった。

だが少女を見ると顔は蒼白で見るからに追い詰められた者の表情だ。

俺は止めろと声をかけようとしたが、彼女の表情に気を取られた。
その間に彼女は力を込め始め。

ピキピキピキ カシャーン…

あっさりと水晶は崩れて宙に溶けた。
割れた音がまるで小さな悲鳴の様に聞こえた。

「…これで私は正式にナザリック所属ですか。よろしくお願いしますね、アインズさん」
「───あぁ、こちらこそ、よろしく。さとりさん」



何故あそこで踏み留まってしまったのか。俺は止めるべきだった。

俺はきっと近い将来、この時の事を後悔することになるだろう。



1章はあと2~3で終ります。

ご意見、ご感想お待ちしておます。


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第12話

さとりside


壮観でした。

ナザリックの各守護者がシモベを引き連れ一堂に会し、この玉座の間に集結しているのです。

…この人数分の心を一々読んでいたら頭がパンクしますので読心スキルは止めておきましょう。まぁ読まなくても分かりますが。ナザリック万歳です。

「諸君、よく集まってくれた」

アインズさんの言葉に一斉に頭を垂れる一同。アルベドさんが代表して答えます。

「勿体無き御言葉。我ら守護者は至高の御方の為なれば」

その言葉に一斉に頷く守護者一同。
確か…

第一から第三階層の守護者、シャルティアさん。
第五階層守護者、コキュートスさん。
第六階層守護者、アウラさんとマーレさん。 …マーレくんでしたっけ。
第七階層守護者、デミウルゴスさん。
そして守護者統括、アルベドさん。
セバスさんはプレアデス達を連れて脇に控えています。

彼等の背後には各々が率いる異形のシモベ達がギッシリ控えています。
喧嘩したら絶対勝てない面子ですね。
…早くも胃が痛くなってきました。

「面を上げよ」

全員の顔を眺めたあと、満足そうに頷きアインズさんは続ける。

「まずは、先の出撃の件を謝っておこう。私の独断だ、許せ」

この言葉に慌てて口を開こうとする部下を手で制し黙らせるアインズさん。この骸骨、なかなか様になってきてますね… 侮れません。

「良い。 …まだ、お前達に伝えるべき事がある。 私はここに至り、名を変えようと思っている。理由は色々あるのだが…」
「それは…?」
「─── 我が名は、アインズ・ウール・ゴウン。これからは私をアインズと呼ぶが良い」
「御尊名、確かに伺いました」

アインズさんじゃないんですね。彼には皆に親しみある上司役を目指して欲しいのですが。

「そして、次こそがナザリック全シモベに伝えたい事だが」

アインズさんは一度と言葉を切り、後ろに控えていた私を前に促すと、

「ここに至り、私は懐かしき絆を取り戻すことが出来た。一時はここを離れていた彼女だが、運命は再び我らを巡り合わせてくれた。私は彼女、古明地さとりを再びナザリックに迎え入れるつもりだ。栄えある42人目の再臨だ!」

ウオオオオオォォォ!

ちょ、なんですかこの盛り上がり!
彼等のテンションは一気に最高潮、私の胃痛も一気にヒートアップです。
しかも守護者間では、

「ああっ…、あのお方は、嘗てペロロンチーノ様が仰られていた方… 素敵な方でありんすね…!」
「…マサカ、コノ様ナ素晴ラシキ日ガ来ルトハ。ドウダ、デミウルゴス。貴殿ニハ読メテイタカ」
「いいえ。まだまだでした…!私としたことが感動のあまり思考を止めてしまいましたからね…」
「す、凄いよ、お姉ちゃん…!あの人って…」
「えぇそうよマーレ!前にぶくぶく茶釜様とよくお茶していた方よ!」
「………グスッ」

感動の嵐が吹き荒れています。
ア、アルベドさん泣いてるんですか。

「しかし彼女はまだ戻って日が浅い。暫くは皆で彼女の助けになってやってくれ」

そしてアインズさんは立ち上がると。

「本日は以上だ。この後は今後の方針についての会議となる。デミウルゴスとアルベドは残ってくれ。他の各員は持ち場に戻り伝令を待て」

「「「ハッ!アインズ様万歳!!さとり様万歳!!」」」

お開きになりました。

あの…私…。挨拶すら、してないんですが?

───────────────
『ご、ごめんなさい、さとりさん。つい皆のテンションあがっちゃって。すっかり進行忘れてました』

このうっかり骸骨め…!

『…まぁあの集団にスピーチしろとか難易度高すぎですし、かえって助かりました』
『では次の機会に』
『嫌です』
『そんなぁ』

さて気持ちを入れ替えましょう。
実はアインズさんは方針会議としながら、先に私の問題を解決するようです。

その為にナザリックの知恵者であるデミウルゴスさんとアルベドさんに残って頂き、力を借りようとしています。

今、アインズさんが先程起こった襲撃事件を二人に説明しています。襲撃と聞いてアルベドさんが目に見えて怒っていますが、とりあえず見ないことにしますね。怖いですから。

「…ふむ、そうですね。さとり様にすら感知すら出来ない襲撃者ですか。しかも事件は普段は誰も立ち入れない場所…」

デミウルゴスさんが顎に手を当てて考え込んでいます。当初の方針会議でもない、本来は他人事なのに真剣そのものですね。この人本当は天使なんじゃないですか?

「失礼ですがさとり様、何か思い当たる節はありませんか?襲撃者の声や動作、武器の特徴等は…」
「いえ…私からは何も見えませんでしたから。急に襲われてなんとかやり過ごし、声も女の子としか…」

そこでデミウルゴスさんは今度はアインズさんに向き直り。

「アインズ様。私の知識不足を何卒お許し下さい。そしてもしお許し頂けるならば、その偉大な智恵をお貸し下さい」
「良い。許すぞ。なんだ言ってみろ」

…俺に分かる範囲ならな! とか思ってますね、あの人。でもデミウルゴスさんの考えだとこれ以上なく適任かと思います。…なるほど。

「ありがとうございます。お聞きしたいのは、マジックアイテムについてです。 気配遮断や不可知化等が付与されて、尚且つ記憶や記録にまで影響を及ぼす、と言った物が思い当たりますでしょうか…?」

そんな出鱈目な効果のアイテムなんて有るわけ無いじゃないですか。
ねぇアインズさん?

「あるな…」
「やはり」

えっ

「さとりもよく知ってるはずだろう。あれだ、ギルド立ち上げの記念に渡した世界級アイテムだ。確か名前は…」

アインズさんは虚空に手を突っこみ、中から小さな手帳を取り出してめくり始めました。
私は…というと、全く覚えが無くて混乱中です。なんですか、今の言い方だと私借りパクしたみたいじゃないですか。

「おぉ、あった。《歌姫の透刃》
か。持つ物に永続的な《完全不可知化》を付与して魔法感知すら無効化するとか。更に装備するとフレンドリストからも消え、パーティーすら組めなくなるデメリット有り、と、威力も良くて中級クラスか。相変わらずあの運営はなに考えてんだか分からんな!」

私は、聞いている。その先も。

「ふむ。このアイテムのフレーバーテキストは『歌姫の透刃。嘗て表の顔は歌姫、裏の顔は姿なき暗殺者の女が振るった青く透明な短剣。彼女の名は誰の記憶にも残らなかった。残されたこの刃を振るう者は、その呪いにより存在そのものを薄め、誰の記憶からも消え失せた後、自らも消え去る』だな。」

「素晴らしき智恵。このデミウルゴス、心から感服致しました」
「…この武器、性能自体は微妙だし、さとりが欲しがって皆の了解を得てから彼女に贈ったんだが。本当に覚えてないのか?」

力無く頭を振る私。
…もしかして。

「アインズ様、これは私の予想でしかないのですが」

デミウルゴスさんがそう切り出す。

「もしかするとこちらの世界に移ってからアイテムの効果が変化してるのではありませんか?聞けば遠隔視の鏡も仕様が変わったとか。であれば、世界級アイテムとなると我々の常識では計れない変化があるやも知れません」
「──!」
「この場合、恐らくは説明の通り呪いとやらが形を持ち、関係者一同から彼女に関する情報が消え去ったのでしょう。そしてアインズ様は元々世界級アイテムをお持ちの為、記憶障害を免れた次第ですな。装備している期間から考えますと彼女自身の記憶も危うい状況かと」

な、なるほど… さすがデミウルゴスさんです。あの情報でここまで予想しますか。

「うむ、流石だなデミウルゴス。ということは…」

「はい。対策としては、世界級には世界級を、でございます」

「良し。悪いがアルベド、《真なる無》をさとりに貸してやってくれ。私は遠隔視の鏡で地霊殿跡地を見てみよう」

そういって鏡を用意し始めるアインズさんと手伝うデミウルゴスさん。
アルベドさんは私に近寄り、彼女の持つ世界級アイテムを差し出してきました。

…これを受け取ったら、私は引き返せなくなる。そんな予感がしました。

「私にとっても大切な物です。無下には扱わないで下さいますよう。…どう致しました?」
「勿論です、アルベドさん。…ごめんなさい。少し怖くて」

謝る私を、優しく抱き締めてくれるアルベドさん。…ありがとう。
そして、私は受け取った《真なる無》を強く握り締めた。

「お、映ったな。ふむ… 殆ど廃墟同然だが、入口に一人女の子が座っているな」
「…私からは何も見えませんね。世界級をお持ちのアインズ様にしか見えないようです」
「さとり、彼女に見覚えは… さとり?どうした!」

私は。
なんということを。

思い出しました。
私がした事も、映像に映る彼女、黒い帽子を被り、長めのウェーブがかかった薄緑の髪に黄色い服に緑のスカート、特徴的な青い大きな目玉の飾りは、今はきつく瞼を閉じている… 古明地こいしと言う名の、私の妹と設定された拠点NPCの事も!

目の前がまっくらです。


「…すみません。落着きました」
「話して、くれるか」

私はアルベドさんに支えられて何とか立っている。でもアインズさんの問いには答えないと。

「彼女は、『古明地こいし』 私のたったひとりの妹で、同時にただ一人の拠点守護者でした」

私はアインズ・ウール・ゴウンを離れたあと自分のギルドを立ち上げ、そこで念願の彼女を制作しました。『古明地さとり』を演じる以上、『古明地こいし』は欠かせませんでしたから。

いいえ、それは建前。私は、家族が欲しかったんだ。

丁度その頃、現実世界で家族を一人亡くした私は、その喪失感をユグドラシルで補おうとしてしまったのです。
馬鹿な話だと今は思いますが、あの頃の私はそれ以外考えられなくなっていました。

彼女にはギルド武器を守って貰う為に最高品質の装備を与え、元ギルドの方に最高の職ビルドを考えて貰いました。その頃から世界級アイテムを持たせていましたね。

私は毎日彼女の元に通っていました。
お人形遊びみたいな家族ごっこ。
一方的な会話。
ずっと続くかと思われた無益な遊び。


それはあるものを見つけた時、突如終わりを迎えます。

私が彼女の元に通っていたのはその時まで。以来、私は彼女、こいしの前には姿を見せていません。

「何故ですか!?」

アルベドさん…

「ごめんなさい…私は、あの子を愛してあげる資格なんてなかったんです。誰かの代わりにするなんて」

例えゲームの中の人物だとしても、それはしてはいけない行為、赦されざる罪。結果、罪の上塗りでしたが。

「だからと言って!置き去りにするなんて、哀れすぎます!どうして!」

食って掛かるアルベドさんに、私は何も答えられません。
肩を掴み揺さぶる彼女を止めたのはデミウルゴスさんでした。その彼が呟くように語りかけます。

「アルベドを責めないで下さい。置き去りにされる者の気持ちは、私には、私達には分かってしまうのですよ… ご理解して頂けますでしょうか」
「デミウルゴスさん…」
「貴方様には他に誰かが居てくれたのかも知れません。でも、こいし様にはきっと貴方しか居なかったのですよ?」
「はい… 」

分かっています。分かっているのですが…


「もう良いだろう。さとりも少し疲れている。一度休んでからこれからの対応を考えようじゃないか」

項垂れる私に耐えかねたのか、アインズさんが提案してきました。
…助かります。

「畏まりました。では私とアルベド殿で対応策を幾つか検討致しましょう。 …さとり様、初日でありながら無礼な発言の数々、申し訳御座いませんでした」

では、と言い終えて退出していくデミウルゴスさん。

「…さとり様。こいし様の事、お嫌いになった、からお捨てになったのですか…?」

まるで自分が捨てられた様な言い方をするアルベドさんに、私は《真なる無》を返しながらハッキリと答えます。

「いいえ。そんな事は無いです、絶対に。ただ、ちょっと私の心の整理が付かなかっただけ、なんです」

その言葉に安心したのか、彼女は頭を下げそっと退出していきました。

「では、俺達も少し休みましょう。よく見たらさとりさん全然回復してないじゃないですか。今は休んで二人が良い案を考えて来るのを待ちましょう」
「そうですね。では私も自室で待機しています。何かあったらすぐ呼んで下さい」

そう言うと扉に向かう私。
後ろから心配そうな声がかかりました。

「…本当に休んでくださいよ。無理したら本当に怒りますからね」

その言葉に、心外そうに答える。

「勿論です。私、弱いんですから。無茶なんてしませんよ?」


と、嘘をついた。

多分、こいしは私を待っている。
そう、思える。

だから、行かないと。
また記憶が薄らぐ前に急がないといけない。

私は気付くと駆け出していた。



投稿予約ミスって時間遅れました。
申し訳御座いません。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第13話

さとりside
※戦闘描写があります。苦手な方は飛ばして下さい。


その妹には姉がいました。

姉は欠点も無い完璧主義な人で、彼女にとって生来から体の弱かった妹なぞさぞかし目障りだったでしょう。記憶にある姉はいつも妹をつまらなそうな目で見ていました。

妹はそんな目で見られるのが嫌で、いつの間にか常に誰かの目を気にして生きるようになりました。姉もそんな妹を避ける様になり、職を持つと同時に家を出ていきました。妹も社会人として少し稼げるようになると家を出て、姉との繋がりは殆ど無くなりました。

そんな姉妹。どこにでもある話。

そんな姉がある日亡くなりました。
人工心肺の不調による呼吸不全、あの世界ではよくある死因です。
姉への親愛など既に無かった妹はそんなものか、と受入れ日常を送るはずでした。

遺品整理で姉の日記を見付けるまでは。

そこには、妹への想いがびっしりと書き込まれていました。
妹への不安、親しみ、愛情、そして諦め。そして自分への怒り。

姉は人一倍感情を表に出すことが苦手なだけでした。常に妹を気にしながら声もかけられず、態度にも出せない。だから嫌われても仕方ない。姉の十数年続いた日記からはそんな切ない感情が溢れていました。

なんて不器用な姉。
なんて鈍感な妹。
もう少し話していれば。
あるいは、心でも読めていれば。

それはすれ違ったままの姉妹のお話。
終わってしまったお話。



まだ終わっていないお話があります。

私のお話。
私は、自分の心の穴を埋めようとNPCに家族ごっこを押し付け、姉の本心を知った後は気持ちの整理がつかず、こいしを放置していました。
もしこの世界に来なければ皆消えてしまっていたのでしょうか。こちらに来た私はこいしの事を忘れひとりで鬱々としていました。
世界級(ワールド)アイテムのせいで忘れていたというのは都合が良すぎます。

私はあの子に謝らないといけない。
私はあの子とこの世界で生きてみたい。
あの姉の様に後悔したまま消えていくのは御免です。

気持ちと覚悟は決まりました。
さぁ、往きましょう。



《転移門》で目的地手前に到着した私は、まず周囲に弱めの探知阻害魔法を展開しました。あまり早くアインズさんに追ってこられても困りますので。
その後は自分にかけられるだけ強化魔法をかけました。

ひとり森を歩きます。元の私は体が弱く外も満足に歩けなかったのですが、ここ数日で外歩きも馴れたものです。
少し歩くと目的の場所に着きました。

嘗て地霊殿だった建物は、今はみる影もなく朽ち果てていました。ユグドラシルにあった廃神殿を基礎にしたんですが、ギルドが崩壊しても元になった建物は残るんですね。

私が廃墟に近づいていくと、前の方から声がかかりました。誰も見えませんがもう驚く必要は無いですね。

「また、きたんだ」
「えぇ、貴方に会いに来ました」
「わたしのおしごとこわして、つぎはなにこわすの?」

たどたどしい言葉が紡がれます。

「あなた、わたしをしってるの?わたしはあなたなんかしらない。それに…あなた、わたしがみえるの?」
「…見えませんよ」

声はするが距離や方向は解らず。
もう少し会話して情報を増やしたいです。色々と時間は無いのですが…!

「…わかんない。いつから?だれに?どうして、あいにきてくれないの?」

本人の記憶も曖昧なのでしょうか、言ってることがチグハグです。…これって狂気に正体不明に無意識が混じって、まるで東方EXボス3人分を一気に相手するみたいです。
うふふ、コンティニューできませんけどね。

「わたしはだれ…?」
「貴方の名前は古明地こいし。私、古明地さとりの妹ですよ」
「──! しらない。そんなの、しらないよ!!なにあなた!?きにいらないわ!」

絶叫が響き渡り、濃厚な殺気が私に吹き付けてきます。

…やるしかありませんか。
相手は暗殺職Lv100で、こちらは既に消耗済み、逃亡不可の時間制限あり、と最悪の条件です。時間がくれば彼女を忘れるのでダメ、強化魔法が切れてもダメ。アインズさん達が援軍に来ても、彼女が逃げても私が死んでも、ダメ。ダメダメ尽くしですが今の私は気合が違います。

「来なさい、こいし。姉より優秀な妹などいない事を教えてあげます」
「うるさい!きえてっ!!」

私の人生初の姉妹喧嘩を、始めましょう。


恐ろしい速度で何かが迫ってくる。
()()()()()()()()()()

シャッ
「──っ!」

頭を倒しましたが避けきれず、透明な刃が右頬を掠めます。流血は気にせず、追撃に対して魔法で迎撃。

「《龍雷(ドラゴン・ライトニング)》!」

白い雷撃が腕に生じ、そこら中の地面を舐め尽くします。放電が暫く残りますが、手応えは無し。中級以下の魔法ですし、当たったとしても効果無いと思いますが。

今度は… ()()ですか。
咄嗟に前に倒れ込み攻撃を避ける私。

「───かっ!」

やはり間に合わず薄く背中を切り裂かれました。ならば、と私は魔弾を180度全面にばら蒔き木々ごと周囲を薙ぎ払います。

「きゃっ」

…牽制にはなったようですね、追撃がありません。警戒して距離を取ったようです。
ひと息つけました。ありがたい…

じわりと、背中に広がる血が服に張り付き気持ち悪いです…
─── そう、私は今、防御スキルを発動していません。もうMPも心許ないですし、まぁ致命傷さえ避けれれば良いんです。


「なんでよけれるの」
「?」
「わたしのこと、みえてるの?」

焦れたような、苛立たしげな声に、

「まさか。見えないって言ったじゃないですか? 信じてくれないなんて姉は悲しいです」

と答えて、わざと口の片方を上げて嘲笑を形作ります。

「──!ばかにしてっ!!」

激昂するこいし。…もう少しですか、少々心が痛みますが。
更に速度が上げて襲い掛かる斬撃を、私はなんとか腕輪で受け止めますが、捌ききれなかったいくつかが両腕を掠り傷つけます。

「──ぅぐ!?」

続けて繰り出された前蹴りは防御をすり抜け、私のお腹に刺さります。堪らず吹き飛ばされる私。…少し血を吐きました。
木に叩き付けられ地に伏した私は、痛みに構うことなく横に転がる。

ズシャッ!

一瞬後さっきまでいた地面を大きな衝撃波が抉りました。…ふう、危ない。ダウン攻撃でその威力ですか、

「ほら。やっぱりみえてるんだ。あなたは、うそつきだね」

言葉とは裏腹に余裕が無さそうに感じられます。でも後半は正解ですよ。さすが私の妹。

…そろそろ終わりにしましょうか。
私も疲れましたし、彼女も限界でしょう。私はゆっくり立ち上がると、痛みを飲み込んで語りかけます。嘲笑を浮かべながら。

「…私が嘘吐き? なら貴方は? 自分の事も思い出さず、何も疑問に感じず仕事に専念? 嘘でしょう。貴方は逃げていたいだけなのですから」

空気が変わる。

「…やめて」

「やめませんよ? …NPC時代(むかし)ならいざ知らず、自分で考えを持てる今なら疑問を覚えて行動できたはずです。それこそその武器を投げ捨てて、ね。」

「───やめて。やめてよ!!」

「大方、自分が捨てられたんじゃないかと不安になって、怖いから考えるのを止めたのでしょう?都合良く忘れられるなら、と忘却の誘いに乗ったんでしょう?」

「…だまれ!だまれだまれ!!」

感情的に繰り出される攻撃を、今度は難なく躱す私。こうなれば避けるのも楽ですから。

私は別に《第三の瞳》でこいしの心を読んで回避していた訳ではありません。彼女の行動を予測し、誘導していただけです。
そもそも彼女は私が作成した存在、故にその行動を私が把握できて当然でしょう?
十分攻撃されてパターンも読めましたし、彼女が記憶の錯乱でスキル等も使えないのなら私でもこれくらいはやれます。

そもそも、私は『古明地さとり』
()()()()()()()()()()()()()で私の目から逃れられるとは思わないで貰いたいです。

「私が憎いですか。仕事を奪い、心を掻き乱し、貴方を捨てた、私が」
「───ころして、やる!」

そうね。当然ね。

「…来なさい。こいし」

もはや答えは無く、おそらく彼女は私の予測通りくるでしょう。

ズッ…!


透明な刃は過たず私の左胸に吸い込まれてました。

「───ぎっ…!」
「──えっ?」

悲鳴を必死に押さえ込む私と、予想外の感触に戸惑うこいし。

今!私はこの瞬間を待っていた!
私は自分の胸に刺さった世界級(ワールド)を左手で掴み魔法でブーストされた筋力で敢えて押し込みます。いっ…痛いです。
そして右手を、返り血で染まり姿が見えた彼女の胸に押し当て、詠唱省略した魔法を解き放つ!

「《心臓掌握(グラスプ・ハート)》!!」

発動、即魔法で偽造した心臓を握り潰します。…アインズさんは色々なスキルで強化して即死成功率を上げるのでしょうが、私のは無強化なのでほぼ成功しないはず。それに一応こいしは即死無効です。

「───うぐっ!」

異様な感覚に恐怖し動きが止まるこいし。
私が欲しかったのはこの怯み効果。

抱き合える程の近さと、血で染まって隠れられないこいし、そして一瞬の間。
条件は揃いました。

「《憑依(ポゼッション)》!」

私は擬体を放棄し、すぐ近くのこいしに私の本体(めだま)を寄生させました。
赤い触手に絡み付かれ思わず飛び退こうとするこいしですが、思うように動けないようです。

「な、なにこれ!?ちょっ… きもちわるい!」

失礼な。これも私の奥の手スキルですよ?
前のギルドじゃ結構受けてましたし。
この状態なら私が移動や回避を受け持てますから本人はじっくり詠唱できるんです。私の防御スキルで盾にもなりますから特にウルベルトさんには好評でした。

さて。この子の操作もこれで奪えました。私はこいしから世界級(ワールド)アイテムを手放させました。…倒れ込む私の擬体。

最初は呆然としていたこいしですが、暫くすると目の焦点が合ってきたようです。

「あ…、わたし、は。おねぇ…ちゃん?」
『はい。貴方のお姉ちゃんです。私の事が分かりますか?』

この状態だと常時《伝言》なんですよね。まぁ今私、口も無いですし?

「さとりお姉ちゃん! …わたし、お姉ちゃんに酷いことを!ごめんね!? ごめんね!?」
『いいのよ… 私も、ごめんなさい。貴方の心の傷を引っ掻く様な真似をして。貴方を置き去りにしてしまって、本当にごめんなさい…』
「いいの… お姉ちゃん戻ってきてくれたから… もういいの……」

泣きじゃくるこいしに私が出来た事は、一番近くに居てあげる事だけでした。

───────────────
「──終わった様だな」

こいしが落ち着いた所で、待っていたかのようにアインズさんが現れました。側にはアルベドさんやデミウルゴスさん、その配下が控えています。アインズさんは手をあげ彼等を制しています。

『…お手数お掛けしました。何とか姉妹喧嘩は、私の勝ちで終わりましたよ』
『明らかにさとりさんの負けなんですが。胸に大穴が開いてますよ?』
『いやですね。女性の胸をそんなに見ないで下さい』
『………』

はい、ごめんなさい。

『…終わりましたか』
『そうですね。その世界級アイテムはアインズさんが回収しておいて下さい』
『お見事です。と、言いたいのですが約束を破った説教は後でたっっっぷりとしますからね?』
『──はい』


こいしにも話しておきましょう。

『こいし、こちらのドス骸骨が今の私達のボスで、アインズさんと言います。挨拶しておきなさいね?』
「はーい… アインズさま、この度はご迷惑をおかけしました。わたしは、もう大丈夫です」
「そうか。記憶も戻ったようで安心したぞ。…皆、聞いた通りだ。彼女は自分を取り戻した。さとりも無事…とは言い難いが、まぁ大丈夫だろう!」
『扱い悪くないですか』
「…その調子なら大丈夫だな。さぁ、ナザリックに戻ろう。こいし、君も来なさい」
「いいのかな…。───うん!お姉ちゃんと一緒に帰る!」

『では、私もそろそろ自分の身体に戻りましょうか。こいし、貴方と一緒にいれて私は嬉しかったわ。またね』
「あっ。お姉ちゃん待って…」

名残惜しいのは分かりますが、いつまでも人の身体に寄生してるのも悪いですしね。

私はスルスルと自分の身体に戻り…

「痛───────!!」

私は、身体に残った激痛で今度こそ意識を失いました。



次回で1章終了です。

nekotoka様、誤字報告ありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第14話

さとりside
※中盤、糖分多めです。ご注意下さい。


あの後、私は緊急搬送され、ペストーニャさんの看護を受けました。
ペストーニャさんとは犬頭のメイド長で高位の神官職でもあり… 言葉で説明しても解りづらいですか? では心で感じて下さい、ナザリック最萌ですよ?

「かなり危険な状態でしたが、峠は越しました。傷は魔法で塞ぎましたが、出血が激しかったのと精神を磨り減らしていたせいでかなり体力を失っています。無理はなさらない様に…わん」

絶対安静とか初めて言われました。
それからは、お燐やお空が泣きながら駆け込んできたり、こいしが傍を離れなかったり、隙あらば骸骨が説教にきたり、と色々騒がしくて全員ペストーニャさんに追い出されたりしていました。


そして数日が過ぎて。
私は再びアインズさんの部屋に訪れていました。

「お待たせしました、アインズさん」
「あぁ、さとりさん。もう体調は大丈夫そうですね」

待っていたアインズさんは一人きりでした。最近はどこに行くにも誰かが付いてくるとぼやいていましたが、珍しいですね。隠れて護衛している八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)すら居ないようですね。

「あら、今日はメイドさん達はいないのですか」
「この後の準備を任せているので。メイドや護衛も理由をつけて追い出しました。お陰でやっと自由になれたとこです。あいつらの前じゃ冗談のひとつも言えないからなぁ…全く」

あらら。見たところ随分参っているようですね。だからさっき泣きそうなメイドさんと擦れ違ったんですか、可哀想に。でも仕方ありませんか、私が休んでる間お仕事任せてしまいましたから、ずっと支配者ロールで気も休まらなかったでしょうね… 彼は元々一般人ですし。

「お疲れ様です。これからは私もお手伝いしますから。気軽に頼って下さいね」
「ありがとう、さとりさん。…先立っては貴方とNPC達の担当地区ですね。その辺りを、この後玉座の間で守護者達に通達します」

そう。以前の地霊殿よりも簡易型ですが、洋館タイプのセーフハウスがあったようで、私達はそこに住むことになりました。あのタイプのセーフハウスは課金アイテムで結構貴重なんですよ。アインズさん随分と太っ腹ですねぇ、骨なのに。建てる場所は第6階層と第7階層の中間辺りでしょうか。

「すいません、色々気を使って貰って。大丈夫なんですか?」
「いえ、いいんです。むしろ他に必要な物があれば言って下さい。あの時、俺は何も出来なかったんだから…」

…あぁ、まだこいしの一件を気にしていますかこの人は。
あれは私が勝手にやった事で、私の方こそお礼を言いたいのに。
彼の事だからずっと気にしていたのでしょう。それこそ寝ないで考え込んでいそうです。

……。そうだ。

「…アインズさん。玉座での会合は、まだ時間ありますか?」
「えぇ、まだ1時間以上ありますが、それがなにか」

「では、お昼寝でもしましょう」
「…はい?」

察しの悪い骸骨ですねぇ。
私はアインズさんの手を引き、フカフカの絨毯に座り込むと、自分の膝を手で叩いてこう言います。

「さ、どうぞ」

あ、感情抑制されてますね。
そんなにショックですか。

「な、なにがどうぞなんですか!」
「何って膝枕でお昼寝ですよ。知らないんですか? 骸骨のくせに」
「骸骨は関係ないでしょう骸骨は!? …いや、あのまだ会議の打ち合わせしてませんし、そもそも、俺、眠れませんし…」

…ふぅん?、でも心の中では満更でもなさそうなんですがね。まぁ時間も勿体無いですし、ここは強引にいきましょう。

私はそっとアインズの頭蓋骨を引寄せると優しく語りかける。

「いいじゃないですか、少しくらい休んでも。アインズさん頑張ってるんだし、これは私からのご褒美です」

そして何か言おうとするアインズさんを無視して、魔法を解き放ちます。

「…《抵抗貫通》《睡眠(スリープ)》」
「……!? ……ぁ…」
「抵抗しないで下さいね」

「………スゥ…」Zzz

…上手く効いたようですね。
しかし寝息って。貴方息して…、まぁいいです。
力の抜けたアインズさんの体をそっと横にして、頭を膝に乗せます。

…予想外に無抵抗でした。
寝られてしまうと心も読めませんが、恐らく彼の精神は疲れきっていたのでしょう。だからこんな下級魔法に抵抗すらしなかったのです。

彼には睡眠の大切さも知ってもらいたいですね。寝るのは体を休めるだけでなく、心のリセットにも有効なのです。積み重なった気疲れは早めに消化させないといけません。

今回は私がサービスしましたけど、次回からはアルベドさん辺りにお願いしてくださいね?

私はアインズさんの頭蓋骨を撫でながら、そんなことを思っていました。

お仕事まで後1時間。
私も少し、ゆっくりさせて貰いましょう…



────────────────
アインズside


アインズが目を覚ましたのは、きっちり1時間後だった。

柔らかい膝の感触を思い出すとかなり気恥ずかしいが、今彼は数日ぶりに清々しい気分なのだ、些細なことは気にならない。短い睡眠だったが効果は抜群のようだ。

突然魔法をかけられた時は、正直どうしようかと思ったが。しかし、ああでもしなければ自分は眠れなかっただろう。

睡眠の偉大さに暫し感動した後、立ち上がったアインズは隣の少女に礼を言った。

「ありがとうございます、さとりさん。いやー、なんかスッキリしましたよ!やっぱり人間、ちゃんと寝ないと良い仕事はできないもんですね!」
「…私は突っこみませんからね? でも良かったです。よく寝れたみたいで、効果もあったようですね」

さとりは自分が寝ている間、様子を見ていてくれたらしい。
…全く、この人には本当に敵わない。
もう不甲斐ない所は見せられない、と思い直し、アインズは少女に向き直る。

「もう約束の時間になりますね。そろそろ守護者達も、玉座の間に揃っているはずです」
「なら私もこいしを呼んできましょう。では、またのちほど。アインズさん」

少女が部屋を出ていった後、アインズは今日の会合の内容を彼女に殆ど伝えていなかった事に気が付く。

「あー…。ま、いいか」

どうせ前々から考えていた事の再確認みたいな物だ。いざとなれば彼女の方で心を読んでアドリブしてくれるだろう。

そう考え直すと、アインズは外に控えていた護衛達を引き連れ、部屋を後にした。


玉座の間では既に守護者一同が左右に別れ跪き頭を垂れていた。アインズはその間を通り、玉座に腰掛けると顎を右手に乗せて配下に声をかけた。

「面をあげよ」

支配者の声に一糸乱れぬ動きで顔を上げる彼ら。アインズは少し怯むが顔には出さず言葉を続ける。

「よく集まってくれた。感謝しよう。……あぁ、敬礼はいい。先日の騒動についての詳細とその当事者についての説明だな。知っている者も居るだろうが、改めて紹介しよう」

アインズが左手を振ると玉座の後ろから古明地姉妹が歩み出てくる。そして、姉のさとりがゆっくりと話始める。

「皆さん、この度は大変ご迷惑をお掛けしました。アインズ様のお力で世界級アイテムに狂わされていたこの子も無事正気を取り戻せました。このご恩に私達姉妹は一層の忠義を誓います。…さ、こいしもご挨拶して?」

黒い帽子を被った、こいしと呼ばれた少女が手を挙げて元気よく答える。

「はーい。こいしといいます。姉がお世話になりました!これからもよろしくね」

微妙にずれた挨拶をする妹に苦笑するさとりだったが、その顔は妹が可愛くて仕方ない、といった様子に見えた。
更にその様子を見て密かに涙を流すアルベドもいた。

「良かったです… 姉妹の仲が元通りになって本当に良かったです… 私は…! うぅぅ」
「…まぁアルベドの気持ちも分かりますが… 前にも十分泣いたでしょうに」
「オ前モ目ヲ拭ケ、デミウルゴス。シカシ、妹様ノアノ身ノコナシ、アレハ只者デハナイゾ。一度手合ワセ願イタイモノダ」
「さとり様も嬉しそうだね!お姉ちゃん」
「そりゃそうよ、マーレ。愛情深いお方だもの。本当に良かった…」
「…それにしても、さとり様は当然至高の御方というお立場でありんすが、こいし──さんはどういったお立場になるのでありんすかねぇ…?」

様子を見守っていたアインズはひとつ頷いた後、場を纏める。

「…色々な経緯もあったが、さとりと妹のこいし、そして彼女らの配下。この度、彼等の正式なナザリックへの加入を、この私の名の下に認めようと思う。そして、」

一度言葉を止め、咳払いをした後続ける。

「此度の騒動で、私は今後のナザリックに必要な物のひとつは絆である、と判断した。その為に、私は、この古明地姉妹と親子の縁を結ぼうと思う!」

「「「…。ウ、ウオオオオォォ!!」」」

一瞬の静寂の後、割れるような歓声が玉座の間を揺らす。それを片手で制し、ナザリックの支配者は高々と告げる。

「皆の者、聞け!これより我らナザリックはこの異世界に侵出する。その際に頼りになるものは、そう、お前達のすぐ隣に居るものだ。例え困難があろうとも仲間と、家族と協力すればきっと乗り越えられる、私はそう信じている。そして、ナザリックの子らよ!私にとって、お前達も私の家族であり、宝だ!!」


「「「ウオオオオォォォ!!!」」」

もはや感動の坩堝と化した玉座の間で、デミウルゴスも一人感動の波に震えながら言葉を絞り出した。

「…な、なるほど。流石は至高の智慧をお持ちの御方。そして何という慈悲深さ…!」
「…ドウイウコトダ、デミウルゴス」
「あの御方は我らに足りない物、我らの不安、その全てを見抜いておられた。そして我らが一丸となれる様、御自らが実践なさってくれたのです…!」
「オオ…!スバラシイ…!」

守護者達に更なる感情が走る。
有るものはあわよくば自分も至高の御方の更にお近くに。
有るものはナザリックの未来に思いを馳せて。
有るものは、

「く、くふっ!ア、アインズ!私も家族、でございますか!?家族なんですね!?それでは早速、か、家族計画をたてましょう!子供は何人作りますか!?騎士団が結成できる位ですか!?お任せ下さい!!」
「し、守護者統括殿が御乱心!止めろ!アインズ様を守れ!」

アインズ護衛隊の八肢の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達が飛び掛かったアルベドを押さえつけているが、それも騒乱の一部である。

やがて喧騒はひとつの賛歌に変わっていった。

「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!古明地様万歳!ナザリック万歳!!」」」

その斉唱をアインズは満足げに、しかしどこか寂しげに眺め続けている。
そして、さとりもまた何かに気付いた様にアインズを見つめていた…



─────────────────
会合も終わり、アインズは部屋で報告書に目を通していた。時間は、もう夜になっているだろうか。ナザリックに居ると睡眠の必要無いアインズには時間感覚が酷く曖昧だった。

部屋の片隅にメイドが控えているが、今はもうあまり気にならない。これは慣れか、それとも一種の成長なのだろうか。Lv100の自分はこれ以上成長出来ないと思っていたが、もしかしたらこの世界では成長の余地があるのかもしれない。現にあの時さとりは、正面から前衛職のこいしを出し抜いてみせた。彼女のあの行動力と瞬発力は、アインズの知るユグドラシル時代のそれを超えていた。最も、あれが彼女本来の実力なのかも知れないが。

アインズは知らぬ間に書類を置き、また思考に耽っていた。

それに比べて自分はどうだ?確かに支配者ロールは上手くこなせる様になった。きっと今日の言葉も守護者達には心地よく響いているに違いない。
しかし。

(…仲間を信じて、か)

どの口が言うか。
信じて裏切られた自分が口にできる言葉ではない。だがそれ故に、あの創造者に捨てられたNPC達をこれ以上裏切りたくない。
それは自分が裏切られたくない気持ちの裏返しだから。

(クソッ…!自分が惨めに思えて仕方ない。俺がやっていた事は結局、只の自己満足に過ぎなかったんだな)

感謝抑制スレスレの苛立ちに悩むアインズの耳に、扉の外からセバスの声が聞こえた。

「…アインズ様、さとり様が御目見えです。御通ししても宜しいですか?」
「…構わん。通せ」
「ハッ。此方に」

こんな時間に…?と思ったが、気分転換したかった所だ。鬱々とした思いを隠し、アインズはさとりを招き入れた。

「こんばんわ、アインズお父様」
「あぁ、さとりか。何か用でも出来たか?」
「…まだお仕事中でしたか。今夜は雲も無く夜空が綺麗だと聞いたので、ご一緒に見たいと思いまして」
「…そうか。悪いがまだ仕事が──」

()()()()()()。大切なお話があります。私と来て下さい』

《伝言》で直接頼まれてしまった。
大事な事なのだろう。

「──分かった。娘の頼みだ、行こうじゃないか」

そう言って、アインズは重い腰を上げた。


ナザリック地表部から外に出ると、そこはもう夜の帳が下りていた。
供は要らないと断ったが、しつこく食い下がるので、離れた場所にアルベドとデミウルゴスを待機させた。この二人ならどんな事態が起きても対応できるからだろう。

スモッグも無い満天の夜空。
二人は暫し、元の世界では見られなくなっていた星々の美しさに言葉を失っていた。

「…本当に宝石箱の様ですね。ブルー・プラネットさんが言っていた通りです。あの人にも見せてあげたいですね。きっと喜びますよ」
「そう、ですね… 来られればの話ですが」

本来なら会話が弾むはずの仲間の思い出話なのに、今はそれが無い。

「…アインズさん」

咎めるような口調の彼女が3つの目でこちらを見ている。

「すみません。今のさとりさんなら心を読んでもう分かっているでしょう? ───俺は、仲間に見捨てられていたんだ。本当はこの名を名乗れる資格も価値も無い」
「それは──」

一度口に出したらもう止まらなかった。痛々しげな目で見るさとりに、アインズ ─── モモンガは吐き出すように一気に捲し立てた。

「そうだ、俺には、仲間とか家族を語る資格なんて無い。そんなもの!俺にはもう無かったんだ!最終日、誰も俺の元に来なかったあの時、俺は思い知った。俺には最初から絆も何も無かったんだ!!」

慟哭する。
感情抑制が間に合わない。怒りとは違う胸の圧迫感に苦しさを覚える。
息を切らし肩を震わせるモモンガに、さとりは一言。


「馬鹿ですか。貴方」

あまりに冷たい声にモモンガは思考が止まった。

「何だと…?」

哀しみと怒りがモモンガの中で爆発する前に、彼女は言葉を続けた。それは彼にとって予想外過ぎる内容だった。

「…馬鹿って言ったんです。自分に向けられた想いを無視して泣きじゃくるなんて子供にも程がありますよ?」
「泣いてなど───」
「いいですか。貴方は、皆に愛されています。この私が嫉妬するほどに」
「な、何を言ってるんだ。現にあの時、誰も」
「…誰一人として来なかった?…ではモモンガさん、もし彼等が全員、別の場所で集まっていたとしたらどうですか?それも貴方を待ちながら」
「───!?」

混乱。意味が理解できない。何を言ってるんだこの女は。

「私はずっと不思議だったんです。何故ギルドリーダーの貴方が、最終日のあの日に開催されていたギルドのオフ会に参加してないのか、と」
「えっ」

何を言ってるんだ、いや、本当に。

「…私のとこにも来ましたよ、さよならユグドラシルお別れ会のお誘いメール。ペロロンチーノさん主導で、ありがとうモモンガさん!リーダーを労う会も同時進行するとか書いてありましたし、貴方のところにも送ってあるはずです」
「…マジですか」
「…マジです。当日ちゃんとメール確認しましたか? …今のアドレスは毎日、ですか。では旧アドレスは?ペロロンチーノさんの事ですから、うっかり現役時代のアドレスに送ったんじゃないですか?」

今度こそ、彼の目の前が真っ暗になった。あの、鳥人間… 最後の最後でやらかしたというのか!

「…私も途中まで連絡受けてましたから状況は知っていますが… 恐らく主だった人達は皆さん参加してたようですよ?メインイベントはたっちさんとウルベルトさんの数年越しの仲直りだそうです」
「…う、うわあああああそれ見たかったああ!!」

断末魔に等しい叫びを上げて崩れ落ちるアインズを、今度は優しく諭すさとり。

「…私はてっきり、律儀なモモンガさんはユグドラシルの最後を看取った後で途中参加するのだとばかり思ってました」
「お、教えて下さいよ…それ…」
「あのままログアウトしてたら私がすぐメールしてましたよ、翌朝までやってるって聞きましたから」

全て自分の早とちりだった。
仲間は、絆は変わらず存在し、勝手に諦めていた自分は彼女の言う通り馬鹿だったのだろう。

がっくり肩を落としながらも、アインズは心が晴れていくのを感じていた。

「そうか… 俺の勘違いか。ははっ。やっぱり泣きたい気分だ… 皆にも謝りたいな。皆に、会いたい、な… 」

顔を骨の手で覆い肩を震わせている様子は、本当に泣いている様に見えた。
それを見てさとりは少し不安げに問い掛けた。

「…モモンガさん。今だから聞いておきます。貴方は、元の世界に、帰りたいですか? 貴方を待つ仲間が居る、あの世界に」
「───!」

言葉に、詰まる。数分前の自分なら帰らないと即答しただろう。だが真実を聞いた今では、決して即答出来ない。

「ちなみに、私は帰りたくありません。そもそもあちらの私は外出も儘ならない程弱っていましたし。それに、此方には捨てられないものが多すぎます」

ショックな初耳もあったが、その言葉にアインズとしての自分を思い出した。

「そうですね。俺も、いや、私にも守りたい物がここには多く存在する。ナザリック。アインズ・ウール・ゴウンの名。友の残した子ら。さとり、さん」

振り向き、アインズは誇らしく語る。

「私もここに生きよう。そしてナザリックをこの世界に楔の様に打ち込んでやろう!そうだ、世界のひとつやふたつ征服してやろうじゃないか!」
「その意気です。アインズさん。それにもうひとつ、貴方の目的になりうる事をお話しましょう」

彼女は少し微笑んだ後、悪戯を思い付いた子供の目で話し出す。

「最終日のあの日、なかなか顔を出さないモモンガさんを呼びに行こうと、時間ギリギリにも係わらず何人かがユグドラシルにログインしようとしてたんです」
「───まさか!?」
「本当に間に合ったかまでは、さすがに私も分かりませんが… もしかしたら彼等の内、誰かはこっちに来れるかもしれませんね」

絶望から希望へ。本日のアインズの感情抑制は超過労働勤務だ。

「確かこっちで得た情報だと100年おきにプレイヤーとおぼしき存在が転移してきているらしいが…」
「はい。ですから、100年後、200年後にギルドの誰かがひょっこり現れる可能性があります。勿論、今この時、どこかで私達と同じ星空を見ている可能性もあるんです」

そうか…
ならばもう、悩む必要は無いんだな。

「そうです、必要なのは目印。───その為に、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に響かせましょう。いつどこに仲間が現れてもすぐ分かるように。この世界の伝説があるならばこの名で塗り潰してしまいましょう。英雄がいるなら叩き潰してしまえばいいじゃないですか。この世界の誰もがアインズ・ウール・ゴウンの名を忘れられないようにしてあげるんです」

少女は骸骨の手を取ると、いとおしげに撫でて囁いた。

「貴方にはそれが出来るのですから」


きらびやかな星空の下、大柄な体躯が少女の言葉に大きく頷いていた…



これにて1章は閉幕となります。
お付き合い頂き、本当にありがとうございます。
2章は構想が出来次第進めますが、次章は1章と少し雰囲気が変わるかも知れません。ほのぼの寄りにしたいのですが… どうなることやら。


ご意見、ご感想お待ちしております。


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第15話

さとりside
2章 始まります。


あの星空から3日後。

ようやく新しい住まいに引っ越しが終わった私達は、この新生地霊殿で生活を始めました。
今朝は一家揃って朝食です。
今日はトーストにハムエッグ、サラダにコーンスープです。お燐は最高ですね。
今度は私が作ってみましょうか。


「…そう言う訳で、守護者の皆さんへ挨拶回りをしようと思います」
「突然ですね、さとり様。…もしかしてあたい達も行くんですか?」
「いいえ、とりあえず私だけで回ってきますよ」

私一人じゃ怖いんですけどね。口には出しませんけど。誰かに付いてきて欲しいのですが、生憎各階への転移指輪はひとつしか持ってないのです。

「うぅ… 付いて行きたいんですけど、あの人達怖くて… あたいとかうっかり範囲スキルに巻き込まれて死にそうですよ」
「お燐は怖がりだなー。(うつほ)に任せなよ!あたしが皆吹き飛ばしてあげるって」

止めなさい、絶対に。
きっと余波で私が死にます。

「大丈夫ですよ。各守護者に連絡は行っているはずですから無下にはされないでしょう、多分」

「それでお姉ちゃん。誰んとこから回るの?」

こいしがトーストにジャムをたっぷり塗りながら聞いてきます。

「…こいし、ジャムひと瓶は使いすぎです、お空が真似するから止めなさい。 …そうですね、近くから順番に行きましょう。まずはアウラさんとマーレさんからですね」
「アウラなら昨日わたしと一緒に遊んだよ? マーレは部屋で寝てたみたいだけど。それでいいんじゃないの?」

いつの間に仲良くなったんですか、この子は。妹の意外なコミュ力が妬ましいです。

「そういう事じゃないんです。こういう挨拶はキチッとやらないとダメですよ?」
「ふーん。そんなもんかねぇ」

適当な返事をして実はよく聞いていないこいし。心配そうな顔で食事も手に付かなそうなお燐。ジャムが無くなってて悲しい顔のお空。
どう見ても団欒の光景ですね。はい。
正直ここに私が入ってるのがまだ信じられませんが、ここは慣れていくしかありません。


「朝食が済んだら出発しますので、後はよろしくお願いします。私はアインズさんにもう一度連絡しておきますので」
「へーい」「分かりました」「はーい!」


では、行きましょうか。
と、出発前、玄関でお燐に呼び止められました。

「あ、さとり様。あいつはどうします?」
「あぁ、彼ですか… 彼には見廻りとペット達の世話でもお願いしておいて下さい」

私達が顔を向けた方向には、一体の死の騎士(デス・ナイト)が立っています。さすがに大盾も大剣も持っていませんが、お燐はまだ怖がっていますね。気持ちは分かりますよ。

彼は、カルネ村騒動で召喚された、あの死の騎士(デス・ナイト)です。アインズさんは時間で消えるものとばかり思っていましたが、何故か一向に消滅しない彼の扱いに困っていました。あわや処分か、という所を丁度引っ越しで人手が必要だった私が引き取ったのです。

実際、彼はかなり有能です。力は強いし命令は良く聞く、アンデッド特有の疲労無効で休み無しに働ける、と良いとこばかり。これ労働力としては最高です… 見た目を何とかして派遣事業でもすればいい稼ぎになりそうですね。

とりあえずこの死の騎士(デス・ナイト)さんには素材となった騎士の名前を戴いて、確か… サイトウさんと名付けました。今も掃除や門番、ペットのお世話もお任せできる優秀な人材です。

「サイトウさん、私は少しお出掛けしますから皆をお願いしますね。」

サイトウさんは重い籠手を着けた骨の指を器用に曲げて「OK!」と返事してくれました。ふふっ、頼もしいですね。


───────────────
姉のアウラ・ベラ・フィオーラと、弟のマーレ・ベロ・フィオーレ。
二人で第6階層の守護者であり、ぶくぶく茶釜さんが製作したNPC達。
男の子らしい方が姉で、可愛い女の子の方が弟ですよ?
私もユグドラシル時代にも何度かこちらの巨大樹に遊びに来ていたのでよく見かけていました。

今も巨大樹に居るようですね。
指輪の力で入り口まで転移したところ、アウラさんが出迎えてくれました。

「こんにちは。アウラさん」
「こんにちは、さとり様。今日来られるとは思ってなかったですよ。ささ、こちらへどうぞ」

巨大樹の中に案内された私は、前に座っていた席を見つけたのでそこに座りました。

「ちょっとお待ちくださいね、今マーレを呼んできますので…」
「あぁ、別に無理に起こさなくても平気ですよ。そんなに長居はしませんから」

しかし、アウラさんは大きな声で弟さんを呼びつけます。

「…マーレ!早く来なさい!さとり様がお待ちだよ!」
「…い、今行くよ、お姉ちゃん…」

か細い返事が返ってきて、暫くするとアウラさんそっくりな顔のどう見ても女の子がやって来て挨拶しました。

「こ、こんにちは、さとり様。お待たせしても、申し訳ありません…」
「気にしないで下さい。突然来た私が悪いんですから」
「い、いえ、そんな至高の御方に悪いだなんてそんな…」

等とお決まりのやりとりから始まり、最近のナザリックの生活から昔の話まで話題は尽きず和やかに挨拶は済みました。

「…では私はそろそろ次の方に挨拶に行きますね。お時間取らせてすみませんでした」
「い、いえ!とんでもない!私もすっごく楽しかったです!また、遊びに来て下さい」
「ありがとう、アウラさん。聞けばこいしも此方に遊びに来てるとか。今度はうちにも遊びに来て下さいね?」
「はい、是非!」
「マーレさんも、良かったらまた」
「あ、は、はい。僕も楽しかったです。また、ぶくぶく茶釜様のお話、聞かせてください…!」

二人に見送られ、私は次の階層、コキュートスさんが守る第5階層に向かいました。

…次もこんな風にスムーズに行けばいいんですがね? いきませんか。そうですね、私の悪い予感は必ず当たりますから。

────────────────
第5階層。実のところ、ここは来たくなかったんですが。
何故ならばここは氷河、寒いのです。そして私は寒いの苦手なんです。

それでも、以前ならここは吹雪が吹き荒れる極寒地獄だったのですが、今は維持費削減の為カットされています。エフェクトは起動させてるだけコストかかりますからねえ。
それでも一面の雪世界、寒いものは寒いです。冷気無効の装備でも持ってくれば良かったですね…

それはまあ、いいのですが。

「あはははっ!寒いねお姉ちゃん!寒い!あははは!」

何故か、隣には子犬のように走り回るこいしがいます。
姉は何も面白くないですからね、こいし。

第5階層に着いたとき、前の方に何処かで見覚えある黒い帽子が雪の上を動いていました。
気になって近寄ってみるとこいしが雪に埋まっていました。なぜに…

理由を聞いてみると自分もコキュートスさんと話してみたい、とのことで。このまま放っておくと遭難しそうなので連れていくことにしました。


あぁ寒い… コキュートスさんが住む大雪球はまだですか…
歩きながら、前を楽しそうに転げ回る妹について考えます。

こいしの考えは読めません。
…正確には、心は読めるのですが他のことを考え始めたかと思うとまたすぐ同じ事を思ったりする為、読心が追い付かないのです、まるでひっきり無しにテレビのチャンネルを変えているかのように。

集中して見ていれば分かるのでしょうが、うっかり目を離すと今のように予想外の行動をとられてしまいます。
このまま外の世界に出すと、冗談抜きで蝶々を追いかけたまま帰ってこなくなりそうで怖いです。
やはりこの子は、暫くナザリックで様子見ですね…


暫く進むと大きな白いドームと、何か動く物が。
…おや、あの蒼白く輝くボディは…?

「コレハ、サトリ様、コイシ様。御足労痛ミ入リマス」

特徴的に響く声で丁寧な挨拶を頂いたこの昆虫人間が第5階層守護者コキュートスさんです。
2.5メートルほどの二足歩行の昆虫を思わせる巨体には常に冷気を纏っていて、体や尾全体に鋭いスパイクを持ち、4本の腕にはそれぞれ大振りな武器を握っています。うーん、強そうです。絶対に喧嘩したくないですね。

どうやら外でトレーニング中だった様子。邪魔しては申し訳ありませんので挨拶しましたら帰りましょう。

「こんにちは、コキュートスさん。お父様から連絡が来ているかと思いますが、改めてご挨拶に参りました。お忙しい所すみませんね」
「オオ、コレハ、勿体無キオ言葉。申シ訳アリマセヌ、少シ鍛練二身ガ入リ
過ギ時間ヲ失念シマシタ」
「構いませんよ、お時間は取らせませんから…」

それから暫くは定番のやり取りが続きます。実のところ彼の製作者、武人武御雷さんとはあまり交流がなかったものですからそちら関係は話題が作れないんですよね、期待に沿えずごめんなさい。

彼の武人然とした態度も私には合わないものですし、ここはそろそろおいとまさせて貰いましょう。
話題に乗れなかったお詫びに、何か希望が無いか聞いておきましょうか…

「コキュートスさん、そろそろ私は行きますが、何か私に望む事などあれば遠慮なく言ってくださいね」

軽い気持ちの提案でしたが、彼の心を見た瞬間、私の顔色は真っ青になりました。
か、彼の口から出る前に止めないと…!

「あの…!」
「ソレハ、アリガタイ!実ハオ願イシタイ事ガアリマシテ!」

凄い勢いで乗ってくる蟲人間。
あ、だめだ。間に合いませんこれ。
彼は視線を、私から雪遊びしているこいしに移し。

「是非トモ、コイシ様ト一度オ手合ワセ願イタイノデス」

駄目です。と、言おうとしたのですが。

「ん?手合わせ?試合?殺試合?いいよ!やろうやろう!」
「オオオ!アリガトウゴサイマス!」

こいしの方が乗り気でした。
なんでこの人たちはこういう時だけ私の思考速度を超えてくるんだろう…

あれよあれよと試合の打ち合わせが進んでいきます。審判は私。責任者も私。万一何かあれば雷骸骨に怒られるのも私。

「どうしてこんなことに…」
「ホラ、お姉ちゃん。合図合図!」

こいしが手に短刀を握りながら催促してきます。はいはい… 私は雪原の広い空間にPVP用の結界アイテムを展開しました。この中なら一度だけ死んでも無効になります。こっちの世界では試してませんが大丈夫でしょう。多分。

「…試合は相手の武器が急所に当たったら終了。怪我を負った時点でも終了します。武器は自由、魔法やスキルは無し、制限時間は結界が解ける10分間。では、どうぞ」

ギャキッ!

やる気の無い合図にも関わらず凄まじい勢いでぶつかり合う互いの武器。

どうやら開始と同時にコキュートスさんの首を狙ったこいしの短刀を、彼は2本の武器で防御、残った方の得物でこいしを狙うがその時には既にこいしは射程外に待避済み、の様です。その後接近して二人で激しく打ち合っていますが、実に楽しげです。

あ、すみません、私もう目で追えないので解説を止めていいですか?

私の弱点というか欠点ですが、1対1なら集中して相手の動きを読めますが、複数になるとそれができません。
なので私は集団戦では完全に役立たずなんです。普段ならさっさと後方支援に回ってます。ここら辺が私がソロ活動してた理由でもあるのですが…

私の思考が明後日の方に飛んでいる頃、戦況が動きました。どうやらこいしが力で押され始めたみたいですね。
仕方ありませんか、こいしの本来の戦術は魔法とスキルで足留めしてからの急所狙いですし。甲殻で全身守られたコキュートスさん相手は分が悪いでしょうね。
…大振りの一撃を受けきれず、こいしが吹き飛びました。
…ここまでですか。

「そこまで!」

丁度結界の効果も切れたらしいです。
コキュートスさんに引き起こされたこいしが私の元に走ってきます。…見た目でダメージは無さそうですね、よかった…

「負けちゃったー。ざんねーん」
「お疲れ様、こいし。どこか痛いところはない?大丈夫?」
「平気だよ。お姉ちゃんは心配症だよね」

コキュートスさんも白い息を吐き出してから此方にやってきます。

「アリガトウゴサイマシタ、サトリ様、コイシ様。久シブリニ良イ鍛練ニナリマシタ」
「コキュートスさんもお疲れ様です。こいしの相手をして貰ってありがとうございます」

私の言葉に暫し沈黙した彼は、少し考えた後でこう返した。

「イエ、コイシ様ノ動キハ素晴ラシイ。コレホドノ強サヲ持ツ者ハ、ナザリックデモソウイナイカト… シカシ、コレデハ御守リノ必要モ…」

その声には何故か残念そうな響きが含まれていたので、私は少し気になって彼の心をよく見てみました。

…あぁ、彼は護るべき姫君を求めていたんですね。ちょうど至高の御方の御息女も出来たことで彼的には良い庇護対象と思ったのでしょう。
まぁ実際には自分に優るとも劣らない戦闘狂だったのですから、彼の心境は複雑でしょうね…

「──オオ… 姫… 爺二オ任セヲ…」

自分の世界に入ってしまいました。
困りましたね。…これって武御雷さんが設定した性格なんですかね?

私がどうしたものかと考えていると、こいしは無邪気に彼に駆け寄りました。

「ねぇ、コキュートス!さっきの技凄かったよ!」
「…ソレホドデモ、アリマセヌヨ」
「わたしにもできるかな?教えて貰ってもいいかな?」
「! 勿論、良イデストモ。爺ガオ手本ヲ見セマスゾ!」
「わーい!爺大好き!」
「ホッホッホ!」

…解決してしまいました。
…凄いでしょう? さすが私の妹です。
多分、無意識なんでしょうけど。

「…夕飯までに戻ってくるのですよ、こいし。 コキュートスさん、すいませんが後はよろしくお願いしますね」

はしゃぎながら人外の動きをする妹を、蒼銀の蟲人間さんにお任せして、私は次の守護者のもとに向かうことにしました…

────────────────

「ようこそ、いらっしゃいんした!ゆっくりしていってくんなまし。…今、紅茶を用意させんすから」

シャルティア・ブラッドフォールン。
ナザリック第1~3階層「墳墓」の守護を任された階層守護者で、吸血鬼の祖たる「真祖」の少女。

その戦闘力はナザリックでも最上級のものと聞いています。喧嘩を売ったら私なんて以下略です。

…今は私を甲斐甲斐しくもてなしてくれていますが。

「いえ、お気になさらずに。挨拶にお伺いしただけですから…」
「そうでありんすか?まぁそれなら、少しお話しんしょう」

シャルティアさんと私は細工の施された豪華な客椅子に座りました。
彼女は長い銀の髪と、真紅の瞳を持つ端正な顔立ちをした少女の姿をしています。外見年齢的には14歳位で、私とまぁ同じ歳に見えますね。
製作者はあのペロロンチーノさんで、設定も盛りに盛られているようです。

盛られていると言えば彼女の胸パッド。盛りすぎでしょう、あれじゃ走ったらズレるでしょうに…

「何か?」

止めておきましょう。女の勘は色々鋭いですから。

それから恒例のやりとりと挨拶をすませましたが、私もちょっと疲れてきたのか挨拶だけのつもりが雑談になってきてしまいました。

「…そういえば、シャルティアさんもアインズさんには積極的ですね」
「えぇ!あの御方は正に美の結晶でありんす!白磁器の様に輝くお身体に、腰の砕けそうなあの黒いオーラ… 考えただけでもう───」

考えなくていいです、ピンク色の思考が流れ込んできますから。しかし、死体愛好家(ネクロフェリア)ですか。あの鳥人間も業の深い性癖を与えましたね。

「あ。勿論、さとり様も美しいでありんすよ? その人形の様に涼しげなお顔が…
痺れそうで… あぁ、いい…」

しかも両刀ですか!目が怖い!私はノーマルです。なんとか空気を変えなくては…

「え、えぇと、そうです!アルベドさんとは仲はあまり良くないのですか?この前も大声で喧嘩していましたが…」
「あぁ、あの女… 身の程弁えずアインズ様の正妻を狙うでありんすから… でもお仕事には差し支えさせませんので、ご安心くんなまし」

そこでシャルティアさんは溜め息をつきました。どうしたの?と視線で聞くと、良く聞いてくれたと話始めます。

「あの、さとり様、ひとつお聞きしたいことが…」
「はい。どうぞ」
「アインズ様は、やっぱり胸の大きな女性がお好みなのでありんすかねぇ…」
「───!」

実際のとこ、あの人は大きいのが好みな事は、ギルド内の女性陣には有名なことでした。ばらしたのは誰、とは言いませんが。

「そ、そうですね。そこら辺は好みですから…」
「や、やっぱり… 実はわたし、ある秘密を持っていて…」

いいです。知ってますからそれ。わざわざ心を読まなくても、さっきアウラさんが教えてくれましたし。
しかし、ここで雰囲気を暗くしてもアレですから、少し慰めましょう。

「大丈夫です、シャルティアさん。男性が持つ好みなんて結構すぐ変わるものですよ? それにこの異世界ならユグドラシルに無かった体型を変える霊薬なんかも見つかるかもしれません」

私の言葉に、パァっと顔を輝かせるシャルティアさん。

そして、そのまま私の()()()()を見て。

「仲間… で、ありんすね…!」

今!どこを見て言った!胸ですね!
確かに、私もそんなに、ありませんけど!

「仲間に引き込まないでください!私はそんなに悲観してません!」
「そんなに悲しまないでくりゃんせ。さとり様ならきっと大丈夫でありんす。妹様を見ればまだ希望はありんすによりて」



───その言葉に私はある重大な事を思い出しました。

あの時、こいしを止めるため《心臓掌握(グラスプ・ハート)》を放った時、私はあの子の胸を掴んだのですが。

───私よりあった。

おかしいです。確か私が最初設定した時は、適当だったとはいえ私と同じくらいの体型にしたはずなのに、いつこんな差がついたのですか。転移ですか。転移の影響ですか!

「シャルティアさん」
「…はい」
「私も協力しましょう。この世界で一緒に希望を探しましょうね」
「素晴らしきお言葉でありんす…!」

私はアルベド(強敵)さんに負けないために、シャルティア(同類)さんと手を組むことにしました。


「では、そろそろお暇しますね。長々と失礼しました」
「そんな… お引き留めしたのはわたしでありんす。お顔を上げてくんなまし。
今日は本当に楽しくて… 」

そして、シャルティアさんはしおらしく顔を赤らめた後、もじもじと声をかけてきました。

「あの、もしや不敬かもしれませんが、宜しければわたしと「友だち」に、なってくれんせんか…?」

…ちょっと不意をつかれました。心を見せて貰うと、どうやら本気で友達を求めているようです。い、意外と純なのですね…。

「えぇ、勿論です。私も貴女とお友だちになりたいです。よろしくお願いしますね、シャルティアさん」
「まぁ!本当でありんすか!?至高の御方に友だちとか本当にお許しになられるのですか!?」

私は少し困った様に微笑んで返します。

「貴女が望んだのですよ? それにお友だちならもう少し気軽に接して欲しいですね」
「わ、分かりました…でありんす。これからはもっと気軽…にでありんすね?」

まぁいいでしょう。仲良くするに越したことは無いですし。

「では、名残惜しいですが私はここで。また遊びに来ますね」
「お待ちしておりますわ。さとり…様」

先は長そうです。



「さて、次は階層を下がってデミウルゴスさんですね。あぁ疲れました…」

口ではこう言っていますが、シャルティアさんと話した後、何故か疲れは綺麗に消えていて、心の奥が軽くなっているのを私は感じていました。

何故でしょう?



オマケ
その日の朝。
『あ。アインズさん?今日は守護者達に挨拶に行きますからお仕事お休みしますね。後はよろしくです』

一方的に《伝言》打ち切られたアインズは執務室で叫んだ。

「仕事初日から、サボりかよ!」

突然の怒声にメイドはまた涙目になった。




暫く更新は2~3日ごとになりそうです。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第16話

さとりside


昔話になりますが、私がユグドラシル時代にお世話になった方は、1番はモモンガさんなのですが、次点はウルベルトさんになります。

最強の魔法職、ワールド・ディザスターだったウルベルトさんはPVPや戦闘の際はよく狙われましたから、よく私が彼の盾役になって貼り付いていました。
なので彼からはデミウルゴスさんの事は聞いていました。ウルベルトさんも意外とNPCを細かく造る人でしたねぇ。

そんなデミウルゴスさんですが、彼は第7階層「溶岩」の守護を任された階層守護者です。それと同時にナザリック最高峰の頭脳を持っている、と設定されていました。設定が文字通り形になっているこの世界では、彼はきっと智将なのでしょう。
私ごときの考えなど、何処まで読まれているのやら…

そんなことを思いながら7階層を歩きます。

…暑いです。むしろ熱いと言っても過言じゃないです。剥き出しの溶岩が沸き立つので当然ですが、私は炎属性にも弱いんですよ、生きた心地がしません。

はい?魔法で飛べばいいじゃないか、と?
…そうですね、わかってます。前も色々理由をつけて《飛行》を使いませんでしたからね。

…実のところ、私高所恐怖症なんですよ。ゲームの中ならいざ知らず、現実となったこの状況で高い所に上がったら、私は心が死にます。だから極力移動は転移か徒歩で済ませたいところなんです。

…改めて考えると、私弱点多すぎ…?
只でさえ貧弱なのに。


意味もなく落ち込みながら暫く進むと、デミウルゴスさんが住むと言う赤熱神殿に着きました。

入り口には赤い三つ揃えのスーツを着た男性が私を待っていてくれました。
黒髪をオールバックにし、丸眼鏡を掛けた彼が守護者デミウルゴス。

彼は満面の笑顔と、慇懃な態度で私を出迎えてくれました。

「お待ちしておりました、さとり様。御足労頂き、感謝の極みでございます」
「こんにちは、デミウルゴスさん。少しお邪魔しますね。貴方はお忙しい身でしょう?ごめんなさい」

すると彼は驚いた表情で返す。

「とんでもございません!至高の御方のご訪問とあれば、このデミウルゴス如何にしても駆けつけます故。勿論、手抜かり等欠片もありません」

大袈裟ですねぇ…
彼の態度や口調もウルベルトさんの設定なのでしょうか。

「ここはさとり様には暑いでしょう。どうぞ、中にお入り下さい」

助かります、本当に。
私はデミウルゴスさんに案内され、神殿の中に進みました。


客室は思っていたよりずっと涼しく、そして静かです。
そして、中には先客が既に居ました。

「あ。さとりさまだ。わーい」

長い黒髪と大きな黒い翼を持つ彼女は。

「お空。貴方、なんでここに?」

霊烏路空。うちの砲撃担当です。
見ると随分お菓子や紅茶を食べ散らかしている様子でした。

「えっと。こっちに来たときにデミデミにお茶呼ばれてから時々きてるよー?」

デミデミって貴方。 …結構前から入り浸っている様ですね、この子ったら。
迷惑をかけてなければいいんですけど… と、デミウルゴスさんは気にした風でもなく答えました。

「以前、貴方様が妹様を探しに行った際、空殿が心細げにしておりましたのでね、少しでも慰めになるかと此方にお誘いしたのですよ」

なんですかこの人天使ですか。

「それは… 知らぬ間にお世話になりました。 …お空、お礼は言えた?」
「うん!その節はありがとーございました!」

「ハハッ、構いませんよ。彼女はうちの三魔将達も懐いていますので心配は入りませんよ」

三魔将ってあのゴツい上級悪魔達ですよね? それが見た目少女のお空に懐くっておかしくないですか?
…でも、そうですね、お空のLvと立場から見たらそちらが正しいのかもしれませんが… 複雑です。

「それに空殿は確か、我が主ウルベルト様が直接誕生に関わられたそうで… であれば、不敬かも知れませんが私にとっては従姉妹の様に感じられるのですよ」

…あぁそう言うことですか。
確かに、お空の作製にはウルベルトさんが関わっていましたっけ…

広範囲超火力をモットーに作られた彼女は、ウルベルトさんの言う浪漫を盛りに盛られた結果、模擬戦では想定以上の殲滅力を叩きだし、ついでに想定外の紙装甲を見せつけたのでした…

あの時のやり取りは今でも思い出せます。


「あーあ、こんなビルドじゃ即落ちするに決まってますよウルベルトさん。BFの時点で瀕死じゃないですか」
「いや、これぐらいやらないと火力出ないって。さとりさん攻撃手段少ないからNPCで補おうって言ったのモモンガさんじゃん」
「だからって実戦で攻撃させる度に死んでたら堪りませんて。 爆弾ですか。せめて回避スキルを…」
「もう別のスキル乗せる余裕ないぞ。
装備変えるか?そうすると予算が…」
「おー、何か楽しいことやってますね」
「あ。ぷにっと萌えさん。丁度いいです、実は…」

…結果、出来上がったのが今のお空です。あの時の私は不勉強で、彼らの言っている内容の半分くらいしか理解できていませんでしたけど、それでも楽しかったんです…

「そうですか… その様なことがあったのですね。至高の御方々のお話、ありがとうございます。とても興味深く、為になります」
「すごいね!しらなかった!」


ポツリポツリと思い出しながら話す私を、デミウルゴスさんは嬉しそうに聞いてくれました。お空、貴方の事なのに貴方自身は覚えてないんですね。


そろそろお暇しましょう。
挨拶のつもりが私の話を長々と聞いて貰うだけでしたね。

「デミウルゴスさん、そろそろ私は次の方に向かおうと思います。お時間ありがとうございました」
「そうですか。あまりお構いも出来ず申し訳ありませんでした。またお立ち寄り下さい。あぁ、それと…」

最後に、彼は思い出したかの様に、何気なく付け加えた。

「さとり様は至高の御方であると同時に、共にアインズ様にお仕えするものと存じます。…ですので、これからはお互い、()()()()()は是非ともお願い申し上げる所存です」

…ふぅん。そうきましたか。

「…えぇ、勿論です。同じ方に仕える仲間ですから。そう心掛けますね」

他意も無い顔で返事を返す私。
言葉の真意を知りたい処ですが、下手に心を読んで顔に出てしまっても困りますので止めておます。

「お言葉ありがとうございます。それでは、お気をつけて」
「はい。ではまた。 …お空、あまりご迷惑をお掛けしないように。夕飯までには戻るのですよ?」
「わかりましたー!」

…転移の指輪を使い、第9階層にとびました。第8階層は整備中なので後廻しです。

デミウルゴスさんは薄々私の読心能力に気付いていますか。 …まぁ知られても特に問題無い事なんですが。
それに、私しか知らない情報がある、ということも理解してる様ですね。

仲間の件やアインズさんの事など、隠し事も多いですし、いっそ彼が味方になって貰えると頼もしいのですが、事は慎重に運ばないといけません。


とりあえず今は挨拶回りを済ませてしまいましょう。
次はお待ちかね。守護者統轄、アルベドさんですから。

───────────────

私は今、第9層、ロイヤルスイートを歩いています。ここは、ギルドメンバーのリビングスペースであり大浴場、雑貨店、ブティック、ネイルアートショップ等が揃っている区画になります。

昔は只の飾りだったはずですが… 今は立派に稼働しているみたいなので嬉しい限りです。
バーなんかも有るんですね。私お酒好きですし、今度覗いて見ましょう。
…この姿なので摘まみ出されなければ良いのですが。


幾人かのメイドと擦れ違い、その度に仰々しい礼をされる中、やっと最後の目的地アルベドさんのお部屋に辿り着きました。

アルベドさんの自室という物は元々無かったそうで、今はアインズさんの計らいで空個室のひとつを彼女用に与えられているそうです。

先にお伺いする事を伝えた際、いつも詰めている玉座の間ではなく自室に来て欲しい、との事でした。
今はプライベートなんですかね。
そういえばアルベドさんとは3日前のあの夜以来会っていません。


「…アルベドさん、いらっしゃいますか? さとりです。挨拶に伺いました」

周囲にメイドさん達の姿も見えなかったので自分でノックしました。

「…お待ちしておりました。どうぞ、お入りください」

中からアルベドさんの声がしましたので自分で扉を開けて中に入ります。


中は何故か薄暗く目が慣れていない内はよく見えません。

「ようこそおいで下さいました。…すみません、少々手が離せないもので…ここから失礼致しますわ」

ベッドの奥の方、カーテン越しからアルベドさんの声がします。

「いえ、急な訪問ですからお気に為さらずに。…何かなさっていたのですか?お忙しければ外しますが…」

そう言う私ですが、カーテン越しのアルベドさんは機嫌良さそうに、

「いえいえ、もうすぐ済みますよ。宜しければ此方においで下さいませ」

と、呼びます。
私は敢えて、ベッドを越え、カーテンに近づいて行きました。

「…ナザリックにはもう慣れましたか?さとり様。不都合があれば何でも仰有って下さいまし」
「…えぇ、お陰さまで。あの子達もどうやら皆さんに良くして貰っているようですから」
「それは、何よりです。あの獣人の子も、プレアデス達と仲良くしているみたいです。後は…」

カーテンの前まで来ました。影になっていますがすぐそこにいらっしゃるみたいです。

「後は…?」


「後は… 貴方様の処分、でしょうか」

ガッ!

突如カーテンを突き破り、アルベドさんの手が私の首を掴みました!

「かはっ…!」
「全く忌ま忌ましい… 少しでも心を許した私が間違っていましたわ」

凄い力ですね…!全く振り解ける気がしません。

「何を…!?」
「白々しい。モモンガ様を謀っておきながら、のうのうとあの御方の側に居るなんて… 私も、信じかけていたのに!」

むぅ。どうやらあの夜の会話をアルベドさんは聞いていたみたいです。
しかし、そこまで彼女を激昂させる内容でしたでしょうか…?

「…誤解、じゃないですか…? 私、はモモンガさんに悪意はありません、よ?」
「悪意は無くてもあの御方を騙していた罪は重い!」
「───!」
「それに、今更、あの御方々がお戻りになるですって…? 何を今更!私達を棄てた癖にいけしゃあしゃあと… その内に私の愛しい御方も連れ戻そうとするのでしょう?… そんなことが、許されるかぁ!」

ドガッ!

…壁に叩きつけられました。
咄嗟にスキル発動して衝撃は消せましたが彼女の手はまだ私を掴んだまま、状況は好転しません。

「…全部、貴女の手筈だと言う事は分かっているのですよ? その薄気味悪い目で私達の心を読んでいることも…ね!」

ガッ!ガッ!ガッ!

腹いせに何度も叩きつけられます。流石に殺す気までは無さそうですが、無事に返すつもりも無さそうです。読心もバレているみたいですし、万事休すですかね?

「…だから、私が企んだことじゃありませんて… 」
「五月蠅いっ!信じていたのに!この裏切り者が!」

…!
少しカチンときました。
貴方も、あの人達と同じ事を言うんですね? 私は、そんなつもりも、無いのに。

「…《衝撃波(ショック・ウェーブ)》」
「…なっ!?」

グワッ!

不可視の衝撃がアルベドさんを押し返し、駄目押しに腕輪の魔弾を撃ち込んでおく。

「…やりましたわね」
「それはこちらの台詞です。さっきから大人しく聞いていれば… 自分勝手な妄想をするのは勝手ですが、襲われる方の身にもなってくださいね」

いえ、自分勝手なピンク色の妄想も出来れば自重して欲しいのですが。

「何を…!モモンガ様をこの世界に送り込み、その上で他の40人を呼び込もうと企む貴方の方が自分勝手でしょう!」

あぁ、貴女の中ではそう結論付けたのですね…

「…ふふ。愚かですね、アルベドさん。感情に流されてそんな陳腐な答えに辿り着くなんて」
「何…!」

えぇ、私も少し怒りました。
間違いを訂正する前に、彼女も少し矯正しましょう。

「いいでしょう… 少し相手をしましょう。かかってきなさい、大口ゴリラさん?」
「───貴様ぁ!」

手に大降りの長柄武器を召喚し凪ぎ払ってくるアルベドさんを私は魔法で迎撃します。

「《盲目化(ブラインドネス)》!」
「くっ!目潰し!?」

効果ありましたか。確認はせず距離を取り、次に強化魔法を順次詠唱します。

「《光輝緑の体》《加速》《上位全能力強化》」

これで準備は整いました。スキルでHPMPが反転しているせいで体力はかなり削られてしまいましたがね。
私も彼女のスペックは少し位知ってますので、これで十分なはずです。

「…転移魔法でお逃げにならなかったのですか。… 言っておきますが、既に人払いさせていますので誰も助けにはきませんよ?」
「…大方、転移妨害もしてあるのでしょう。構いませんよ、逆に好都合です」

私の軽口には構わず武器を構えて突っ込んでくるアルベドさん。
高速で迫る斧槍を、強化された身体能力でなんとか回避し、詠唱短縮した魔法を幾つも放ちます。

「《麻痺》!《全種族束縛》!《恐慌》!」

「くっ!こんな、もの!」

しかし、アルベドさんは束縛効果を気合いで突破しました。本当にゴリラパワーですね!

「取った!」
「…甘いです!」

斧槍の一撃で吹き飛ばされる私ですが、お返しに大玉の魔弾を叩き付けました。

ドガッ!

「くっ…!まだまだ!《損傷移行》!」
「うっ!あああぁぁぁ!」

また壁に叩きつけられた私ですがお陰で距離が取れました。ついでに、魔法を使ったお陰で減ったHP分を彼女に押し付けます。アルベドさんの動きを止めることに成功です。

ふと、側を見ると、布…?
よく見回すと私達が暴れる前から部屋の中は大荒れでした。そして本来壁にかかっているはずの物がありません。
その布は、床に落とされメチャクチャになったギルドメンバー旗とギルド旗でした。犯人は当然彼女。

そう、彼女はもう既に…

「見ましたね。そうです、私はもう、自分の造物主であるタブラ様ですら畏敬の対象では無いのです。例え至高の40人であろうと、家族を棄てた者達など存在する価値もない!」
「………」
「私達に、私に必要なのはあの御方だけ…! 最後まで見捨てず、私達を家族だと仰有って下さった、モモンガ様だけ!!」

どこか遠くを見ながら絶叫するアルベドさん。

「何が、アインズ・ウール・ゴウンだ!あの御方の、モモンガ様の貴名を汚すなんて許せない!」
「貴方、そこまで…」

…可哀想な子。自分の想いに振り回されています。精神が未熟なところに過度の負荷がかったせいで暴走しかけてますね。

しかし、お陰で私が冷静になれました。ここはお互い頭を冷やした方が良さそうです。

「何を呆けている!」

突っ立ったままの私にアルベドさんが飛びかかってきます。
が、私はもう動く気はありません。
刃が私の頭を目掛け、すさまじい速度で迫ります。


「────」
「…貴女。 卑怯よそれ…」

ですよね。
斧槍は私の頭手前で止められています。
()()()()()()()()を持った、私の手前で。

「…ごめんなさい、アルベドさん。でも貴方なら、この旗を私なんかの血で汚してはいけないと分かるでしょう?」
「…そう思うのなら、旗から手を放して下さいな」
「いいですよ。…私の話を大人しく聞いて下さるのなら、ですが」

彼女は少し考えていたようですが、暫くすると武器を下ろしました。

「…分かりました。まずは話を聞きましょう。貴方への追求はそれからです」

…やっぱり怖いです。



「…ですから、私とモモンガさんが一緒にこの世界に来たのは偶然なんです」
「…モモンガ様ですら予想外の事態だったと言う事ですか」

今私はベッドに腰掛け、彼女は椅子に座って話しています。この距離はアルベドさんが一投足で私を切り捨てられる位置なので全く安心できません。

それにしても、私の言葉に半信半疑な様子ですが、誰がゲーム最終日に異世界に飛ばされると予想できますか。

「…追い掛けてくるギルドの皆さんも、実際のところ、本当に来れるかどうかは怪しいところです。来たところでそう簡単に戻れるとは思えません」

…これは私の素直な予想です。世の中そんなに甘くできてませんし。

「…貴方は他の40人がモモンガ様を連れ戻しに来る心配は無いと思っているのですね。…では、何故あの時、モモンガ様の希望を煽るような言い方をしたのです? 確かにあの時以降、御方の機嫌は目に見えて良いのですが」

…そうですね。いい機会です、彼女にも協力して貰いましょう。

「…勿論、モモンガさんの人間性を保つ為、です」

当然の事ですが彼女はそれを笑い飛ばします。

「人間性? ハッ! そんな下らない物、さっさと無くして頂きたいものでしょうに。何故そんな無駄な事を」
「その場合、彼はナザリックを、ギルドを、私や貴方達も、全てを使い捨てる化け物になってしまう、としても?」
「なっ!?」

絶句する彼女に私は続けます。

「私が人の心を読めるのはもうご存知でしょう? …その私が断言しましょう、彼の普段の優しさ、愛情は、彼の中に残る人間性から生まれる物です」
「───!」
「もしそれを無くせば、彼にとって自分以外の物は塵芥と同じ… 家族への愛情等残る余地もないでしょうよ」
「う、嘘よ、そんなの。あの御方に限ってそんな…」
「あの村で彼の烈火のような怒りを見たでしょう?貴方ですら気圧される怒気を普段のモモンガさんが出せると思います?」
「そんな…」

愕然とし、床に手をつくアルベドさん。

「…ねえ、どうすればあの優しい御方のままで居て下さるのか、貴方はもう知っているのでしょう?…教えなさい!その為なら私は何でもしますから!」

何でも、といいましたね?
では悪魔に心を売って貰いましょう。

「勿論です。貴方にも協力して貰います。それは、私の願いでもあるのですから…」
「…聞かせて貰います。貴方様の事は信用できませんが、貴方様の、あの御方を想う心は信用しますから」

私、信用ありませんね。
まぁ、いいですよ。私も貴女の事は好きじゃありませんから、精々お互いを利用しましょう。


私はそう思いながら、アルベドさんと今後の計画について話を詰めていくのでした。

心の片隅にヒビが入るのを感じながら。



ご意見、ご感想お待ちしております。


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第17話

アインズside



結局、その日の仕事はアインズ一人で片付けることとなった。

まだ本格活動していないのに、この報告書の束。デミウルゴスの部下が外を偵察して逐一報告を入れてくるのだ。お陰で周辺地域の地図はかなりの精度に仕上がった。

情報を取捨選択してくれるアルベドも、この日は当人の希望で休みを与えている。雑多な報告が全て此方に溜まっているのだ。アインズは気が遠くなった。

睡眠不要、疲労無効のこの体が今は憎らしい。さっさとベッドに倒れて寝てしまいたいのだが、眠くならない身ではそこまでの誘惑ではなく、責任者の義務感からか仕事を放り出す気にもなれない。

気付いた時には、朝になっていた。彼付きのメイドの交代時間になり新しいメイドになったから気が付けた。

少し目を休めるつもりで椅子に寄り掛かる。片手で眼窩を押さえているのも気分の問題だ。必要のない動作だが生前(?)の癖は中々抜けない。

(もうそんな時間か。朝食…も必要ないか。本当に時間の区切りがないな。何時間仕事してたんだ俺は)

今の自分はどんなブラック企業でもいけるかもしれない。

(ヘロヘロさん辺りもアンデッドにしてあげたら喜ぶかな… いや、怒るか流石に)

「何を邪悪な事を考えてるんですか、魔王様。スライム種のヘロヘロさんをアンデッドにするとかひどい話ですね」

いつの間にか覚の少女が目の前に立っていた。彼女の神出鬼没さにも慣れてきもので、それほど驚きもしなかった。

「そういう種族もユグドラシル時代には居たな。 名前は忘れたが。そもそもスライムな時点で疲労無効だったか。…おはよう、さとり。昨日はよく休めたかね」
「…おはようございます、アインズお父様。今日からお仕事、よろしくお願いしますね」

ペコリと礼儀正しく頭を下げる娘扱いの友人に少し居心地が悪くなったアインズは、早々に人払いをした。

「あーお前達、悪いが娘と二人で話したいことがある。少し外して貰えるか?アルベドには私が呼ぶまで待機しておくよう伝えてくれ」
「はい、了解致しました」

恭しく頭を下げ、部屋を出ていくメイドと護衛陣を見送った後、ようやくアインズは大きく息を吐いた。

「はぁー。なんか24時間働いてたみたいですよ俺。これって給料にしたら幾らくらい貰えるんですかね?」
「…全部サービス残業扱いだと思いますよ?」
「うわ、夢がない!」
「ちゃんと休憩はとって下さいね? 次はアルベドさんに添い寝して貰いますよ」
「うっ… 初日からサボる誰かさんが居なければこんなに仕事貯まらなかったんですが」
「あ。有給扱いにしておいて下さいね?」
「俺はサビ残なのに!?」


軽い冗談も飛ばせたので満足できた。
そろそろ本題を済ませてしまおう、アインズはそう考え、さとりを促した。

「では、さとりさん。昨日の『挨拶回り』如何でしたか? 誰か来ても面倒ですから早急に報告お願いします」
「…そうですね。では」

アインズは念の為、と防音と盗聴、監視妨害等の魔法を張り巡らせておく。
ナザリックの誰に聴かれてもまずい話なのだ。

「まず簡潔に、アインズさんに頼まれた事をお伝えします」
「………」

「彼等の中に、貴方に対して反感を持つ方は誰もいませんでした。彼等は皆、ギルドメンバーである41人へ、程度に拠りますが敬愛を持っています」
「…なるほど。ありがとう」

分かっていたが、ホッと胸を撫で下ろすアインズ。

さとりの挨拶回りには別の意図も含まれていた。それは、守護者の本心、叛意や不満等を調べてくる事。
これからナザリックを運営していくに当たってアインズにはどうしても確認しておきたい事だった。

本来はアインズ自身が直接会って確認すべきだったが、ここに手っ取り早く心を読める存在がいたのでお願いした訳だ。まぁ実は一匹だけ下克上心満載なのがいるのだが、それは置いておこう。放っておいても問題は無いし。

「ありがとう、さとりさん。じゃ次は…」
「─── ですが」
「…?まだなにか?」

さとりは先の問題など些細な事、と言わんばかりに言葉を続けた。

「率直に言いましょう。彼等NPCの精神は不安定。早い話が()()()()()です」

その言葉に疑問を覚え、思わず身を乗りだし問い直すアインズ。

「───? どういうことですか。彼らは仕事もキチンとこなすし、何よりちゃんと自分というものを持ってるじゃないですか」

デミウルゴス辺りなど、多分、いや絶対自分より頭がいいしアルベドも仕事の効率は遥かに上だ、とアインズは思っている。アウラマーレは年相応の無邪気さだし仕事に手抜かりは無い。シャルティアは…フザケてはいるが許容範囲だ。

が、さとりはそうは思わないのか?

「そうではないんです。知性や礼儀、魔法やスキルの使い方まで、彼等は()()された通りの物を持っています。…でも、それだけなんです」
「───?」
「彼らには、それを身に付けるまでの経験が無い。失敗した経験も無ければ、そこに至った努力も無い。最強の存在が産まれたときから最強ですか? 居たとしたらそれはとても不自然です」

さとりの推測には頷かざるを得ない。今のアインズだって最初から超越者(オーバーロード)でゲームを始めた訳でもないのだ。色々な経験を経て、友人達と様々な場所を駆け抜けて、今ここにいる。

「そして彼らの根底には造物主への忠誠心が焼き付いて、そこを基点に感情が発露しています。逆に言えば他はまだ何も無い状態ですね。それもそうです、正確には、彼等は感情を持ってまだ数日なんですから」

アインズは首を捻る。確かに、何故か転移前の記憶らしき物はあるようだが、現実として彼等が動き出したのは最近だ。だとしたら…

「ここに来るまでの記憶は設定から生み出された物で、実際の彼等の精神はまだ子供だと?」
「子供じゃないですよ、ちゃんとした自我は持ってるんですから。ただ、恐らく彼らは予想外の事態への対応が難しかったり、やり過ぎてしまったりするでしょうね。私達なら経験則とかでなんとかする事態も、彼らにとっては一大事になるでしょう」

さとりは一度言葉を切り改めて告げる。

「彼らに足りないのは経験とか信頼、そういうものです。…私達にとってもそうですよ? 理由のよく分からない敬愛なんてやっぱり受け取り難いじゃないですか」
「信頼…か」

今の彼等の信頼関係は、いわば0から生み出されているもの。本当に必要なのは0から生まれた敬愛ではなく、1を積み上げた先にある信頼なのだろう。
アインズは何となく理解した。かつての自分も、あの友人達と共に1を積み上げてきたのだ。


「───分かりました。俺達は彼らを見守る必要がありますね。とりあえず迂闊な行動はさせないように気を付けますか。そして少しずつ信頼関係を築いていきましょう」
「頑張って下さい、お父さん。…肩でも揉んであげましょうか?」

さとりの冗談にアインズから少し力が抜けた。どうやら我知らず肩に力を入れていたらしい。

「…と、言っても見守るだけでは子供は成長しませんから、彼らには彼らで色々学んで欲しいところです。…さっさと外に出稼ぎに出しますか? 社会経験はアルバイトが一番と言いますし」

「さとりさんて実は放任主義ですね… そんなことしたら大混乱ですよ。では具体的に、どこら辺まで任せるかを決めましょうか。今後の活動内容も含めて」

「…えぇ。その為にも」
「───はい?」

あぁ、なんて嫌な言葉の切り方をするんだ彼女は。こう切られた時は大体ろくな話にならない!

アインズは内心唸るが、彼女はそれを嬉しそうに見ている。胸の瞳は閉じているのに、それでもどこか心を見透かされている感じがしてならない。


「…まずは貴方の息子、パンドラズ・アクターさんに挨拶に行きましょう!」

やっぱり、ろくな事にならなかった。



────────────────
宝物殿に向かう前に、プレアデスに連絡を着け、ひとり呼び出す事にする。

待っている間に、はぁーと溜息をつくアインズを見て、さとりが呆れた様に言う。

「…まだ踏ん切りつかないんですか。さっき皆面倒見るって言ったのに」
「いや、それとこれとは話が違いますから… 」

パンドラズ・アクターはアインズがかつて作り出したNPCで、普段は宝物殿の管理者をしている領域守護者だ。
何故こんなにもアインズが彼に会うのを躊躇っているかと言うと、彼はモモンガ時代に「俺の考えたイカス奴」として作られた云わば動く黒歴史。見るだけで感情抑制の対象になり得る存在だからだ。

トントントン
ノックと共にひとりのメイドが入ってくる。
「シズ・デルタ きました」
「あぁ、よくきたな。悪いが宝物殿へ向かうので、ギミックの解除を頼みたい」
「了解」

無機質なやり取りだがアインズは特に気にもしない。シズはこういう性格なのだ。シズは6人の戦闘メイドチーム「プレアデス」の一人で、正式名称は「CZ2128・Δ(シーゼットニイチニハチ・デルタ)」種族は自動人形。外見は片目を覆う眼帯にミリタリー風味の飾り付け、赤金の長い髪、武器は銃器という少し世界観の違う存在だ。
彼女を呼んだ理由は、シズにはナザリック内のあらゆるギミックの解除法を知っている、という設定が加えられているからだ。この世界においては鍵代わりにもなる人物である。

一方で、さとりは珍しげにシズに話しかけていた。

「シズさん、ですか。よろしくお願いします」
「──はい」
「…むぅ。何か、惹かれるものがありますね。そのクールさですか、うちには居ませんからね、このタイプ… シズさん、うちの子になりません? 今ならうちのペット管理人枠が空いてますよ」
「───少し魅力的」

放っておいたらナンパを始めた。
人が悩んでいるときにこの人は…

「お前達、何を遊んでいる。そもそもシズには…」
「あ。覚悟はできましたか。じゃ行きましょう」
「───行きます」

さっさと二人に行かれてしまった。

「………」

渋々追いかけるアインズの背中は少し寂しそうだった。


────────────────
アインズ・ウール・ゴウンの宝物殿。
それはかつての栄光が如実に感じられる場所だ。数え切れない宝の数々が、敷き詰められた金貨の山に無造作に放られているのだ。

「…いつみてもクラクラする景色です」
「私はもう見慣れたがな」

シズを連れ二人は奥へと進んでいく。
途中幾つものギミックが進路を阻んだがアインズとシズで難なく解除されていく。

宝の山を抜けた先は武器庫だ。
先ほどまでの無造作感は無く、むしろ展示場の如き整然さで並べられている。飾られた武器は芸術品の様に美しい物から、材質、用途全て不明な物まで並べられている。

三人は暫く無言で進む。
少し進むと、少し開けた場所に出た。
ここが目的の場所だ。

そこには一人、どこかの軍服を着た人物が、背を向けて仁王立ちしていた。
こちらに気付いているのかいないのか、微動だにしない。

アインズはかなり躊躇った後、さとりに睨まれて観念したのか、その人物に話し掛けた。

「あー… パンドラズ・アクター?元気、にしていたか? 実はお前に頼みがあってここに来た。此方を向いて貰えるか?」

アインズの言葉を受けると、軍服の肩がピクリと震え、そしてゆっくりと振り向きながら手を広げると、叫んだ。

「ぅお待ちしておりましたッ!我が主!このッ!パンドラズ・アクター!貴方様のお望みとあらばッ、どんな難問も解ッ決してみせまショウ!」

ビシッ!
そして見事な敬礼。気合いの入り方が違っていた。

「「うわぁ…」」
さとりとシズの声が重なる。

恥ずか死にたい。そう思ったアインズに感情抑制がスゥっと効いてくる。

(ありがとう。感情抑制さん)

よくわからない感謝を天に捧げて現実逃避しているアインズを余所に、さとりは軍服を着た卵頭に話し掛けていた。

「初めまして、パンドラズ・アクターさん。私を覚えていますか? 古明地さとりです。今はまたナザリックにお世話になってます」

さとりの挨拶を受け、軍服の男、パンドラズ・アクターは手を広げて嬉しさを表現した。卵頭に埴輪のような穴が空いているだけの顔だが、不思議と表情豊かに見える。こう見えても彼はLv100ドッペルゲンガー、ギルドメンバー全員の外装をコピーし、その能力の7割ほどを行使できる強力な存在なのだ。
そんな彼が感極まる声をあげた。

「オオォ!これは、古明地様! …確か貴方がお持ちになったのは《歌姫の透刃》!あの武器は中々の曲者でしょう? 何せあの呪いは───」
「そ、それぐらいにしておけ、パンドラズ・アクター。お前の説明は長い」

立ち直ったアインズが彼の説明を止める。パンドラズ・アクターはアイテムフェチという設定なのだ。実はアインズ自身もその気があるので恥ずかしさは倍増だ。

「失礼致しました。 …して、ご用件とは何でございましょう?」
「実はだな…」

アインズは、念の為シズを少し離れさせると、転移してきた事実、これまでの経緯を詳しく説明した。そして今は名を変えアインズ・ウール・ゴウンを名乗っている事も。

「ほほう、そんな事が。流石は、我がッ主! 完璧なる采配ですな!」

自分のNPCの誉め言葉に、しかしアインズは冷静に返す。言わなければならないことだからだ。

「…本当にそう思っているのか? お前は、私の事は何も知らないはずなのに?」
「!───そんな事は…」
「確かに、俺はお前の創造主でお前のスペックは熟知している。お前の設定を決めたのも俺だ。…でも俺は、お前の感情までは知らない。知るわけがないんだ」
「────」
「だからお前も俺の事を知っている筈が無いんだよ。こうして話すのは初めてなんだからな。…なぁ、パンドラズ・アクター。しっかり俺を見てくれ。勝手に心に植え付けられた忠誠心を通してではなく、お前の心で、俺を見て欲しい。俺は、お前に傅かれる程の男か?」

パンドラズ・アクターは、己の最も敬愛する者に問われ、黙り込んだ。
答えが見付からなかったようだ。


「…詳しくご説明下さい」

暫くして出た彼の声は絞り出すかのようだった。



───────────────
説明は主にさとりが行った。自分に読心能力があると前置きした上で、だ。

最初は自分の心にある忠誠心を疑う事は絶対しなかった彼だが、アインズ本人から転移の事実と、突然NPCが自意識を持ったという話を聞き、ようやく納得ができたようだった。

「フーム… ゲームの中の世界が、異世界に飛んだ拍子に現実になった、と。少々刺激的な事実ですな。しかしそれならば、私の数日前より以前の記憶が曖昧な事の理由にはなりますな。…不思議と武具や宝の出し入れの記憶はあるのですが」
「それは貴方が宝物殿はの管理職という設定が生きているんだと思います。しかし、理解出来ているのですね。さすがです、パンドラズ・アクターさん。それでこそアインズさんの切り札ですね」

切られるのは俺の心だがな!
と、思うアインズだが当然口にはしない。

「…しかし、それでも私の中の敬愛は偽物では無いと思います。自分の神を崇めない者は居ないでしょう?私達の中では造物主はそんな扱いなのです」

神ときたかー。アインズは頭を押さえたくなった。俺の外見じゃ邪神そのものだけど。魔王より格上になったか?
下らないことを考えてたらさとりにまた睨まれた。心の中で謝る。
代わりにさとりが答えた。

「…それでも私達は元人間で、無条件に崇拝されるのは慣れていないんです。私達も貴方達と同じ様に悩み、間違うのですよ。私達が欲しいのは崇拝よりも信頼なんです」
「信頼…ですか?」
「そう。お互いの事をよく知った上で協力すること。アインズさんは貴方を知った上で、貴方にお願いしようとしてます」

そう、アインズ達はまずパンドラズ・アクターを身内に引き込もうとしていた。彼には他のNPCとは大きく違う所がある。

それは、自分の造物主に捨てられていないこと。
他のNPC達には心の奥底に、自分達は見捨てられた、という絶望感がある。だからアインズにまで見捨てられたくない、と必死なのだ。

一方でパンドラズ・アクターには造物主が側にいることで余裕がある。
彼なら事実を受入れ、協力してくれるだろうと考えた。

「─── 分かりました。つまり私の役目は皆が暴走しないよう内部で調節する事ですな?」
「物分かりが良くて助かるぞ。奴等も悪気は無いんだが、此方を誤解している所がある。知らぬ間に暴走して、気が付いたら後戻り出来ない状況になっていたら目も当てられんからな」
「…私が心を読んで軌道修正できればいいのですけど、文字通り目の届く範囲に限られますから」

そこまで聞くとパンドラズ・アクターはおもむろに立ち上がり、軍服を翻し叫んだ。

「委細、承知ッ致しましたッ!我が主と儚き主よ!必ずやご期待に添い、貴方様方の信頼を勝ち得てみせまショウ!」
「…期待しているぞ、パンドラズ・アクター。だが無理はするな。問題が出たらすぐに私に相談しろ。私は、その、お前のち、父なのだから」

その言葉を聞いたパンドラズ・アクターはビクリと震え、ギギギとゆっくり此方へ振り向いた。

「今、何と」

怖い。アインズは早速後悔した。
そこをさとりが引き継いで答える。

「…お父様は貴方を息子と呼んだのですよ。良かったですね、パンドラズ・アクターさん。いえ、お兄様、とでもお呼びすれば良いのかしら?」

「───!」

瞬間、卵頭の穴から滝の様な涙(?)が溢れ落ちた。止まらない嗚咽に辛うじて言葉が混じる。

「おおおぉぉ…!この瞬間!私は生きていて良かったッ!Mit Herzensfreud und Wonne!」
「何を口走ってるんだお前は!」
「…ドイツ語ですか?わー、カッコいいですねー」

羞恥心でのたうつアインズだったが、感情抑制の活躍で何とか持ち直した。

「と、とにかく!お前を皆に紹介する所から始めるぞ。それから各自に仕事を割り振ることにする。まずはその打ち合わせをしよう。…この指輪を渡しておこう」
「こ、これは、《リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》! 効果は…」

またアイテム説明を始める彼をアインズは止める。

「そういうのもういいから!私の自室に移動するぞ!」

その声にパンドラズ・アクターはビシッと敬礼で答え、高らかに叫んだ。

「Wenn es meines Gottes Wille!(我が神のお望みとあらば)」

「…うわぁ」
「── せめてドイツ語と敬礼は勘弁してくれ…」


限界を通り越したアインズの声は空しく宝物殿に消えていくのだった。




作中のNPC解釈はあくまで独自設定になります。ご注意下さい。


ご意見、ご感想お待ちしております。


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第18話

さとりside

ほぼ会話と導入になっております。


守護者を交えた会議は予想通りと言いますか、荒れました。
やはり至高の御方が二人とも外に出るという提案はかなり問題あったらしく、各位から再考を求められました。

しかし私の外出は、事前に根回ししたデミウルゴスさんが。アインズさんの外出は、彼に懇願されたアルベドさんが折れて、結果何とか全員からの承認を得る事ができました。


今日はその通達日です。
玉座の間に集められた守護者以下プレアデス等も含めた総勢50名近くを前に、アインズさんが人事を告げます。

「皆、よく集まってくれた。早速だが今日はナザリックがこの世界で活動する為の基盤作り、その任務を各自に通達する。 …その前に、知らぬ者もいるだろうから紹介しておこう。我が第一のシモベであり、宝物殿の領域守護者、パンドラズ・アクターだ。…おい」

頼むから余計な事は言うなよ? というアインズさんのアイコンタクトに、了解ですとも!と頷くパンドラズ・アクターさん。

あ、ダメですねこれ。ある意味少しも意思疎通出来てません。

パンドラズ・アクターさんはススッとアインズさんの横から前に出ると、手を高く挙げて言いました。

「ンご紹介預りましたッ!パンドラズ・アクターと申しますッ!粉骨ッ砕身の覚悟を持って任務に臨む所存ですので、皆様方もどうかお見知りおきを!」

そして完璧な姿勢でアインズさんにビシッと敬礼を決めました。

ポワンと感情抑制されたアインズさんは敬礼したままの彼を引っ張り小声で話始めます。

「だから!敬礼は止めろと言ったよな、なんでやった!挨拶なんて「チョリース!」とかで十分だと言っただろうが!」
「お言葉ですがっ!それはお父上の威厳に傷が付きかねません!」


仲の良いことで何よりです。

事前に部屋に押し込んで一晩中語り合わせた成果ですね。逃げない様に見張ってた甲斐もあるというものです。

しかしこのままでは話が進みません。

「…お父様、パンドラさん。進行をお願いします」

「分かった」
「分かりました」

よろしい。
あれ以来、何故か二人して私を怖がる時があるんですよね。変な話です。


「あー… パンドラズ・アクターには宝物殿管理の他に、各部署の補佐を頼みたい。基本はアルベドの補佐だな。 …宜しく頼むぞ、アルベド。お前には私が不在の時はナザリックの指揮を任せる事になる。その際は上手く使ってくれ」
「ハッ。御心のままに」

アインズさんはその答えに頷くと、改めて一同を見渡し、告げました。

「では、此れよりナザリックの異世界進出への第一歩となる命令を授ける」

「「「ハッ!」」」


「作戦を始めるにあたり、次のことを厳命する。まず、外で活動する際は必ず二人一組以上で行うこと。単独行動は厳禁だ。これは私達も例外ではない」

神妙な顔で頷く守護者ら。

「次に、任務外の交戦は極力避けろ。私達は未だこの世界の戦力を見極めていないからな。万一戦闘になるなら相手の情報をなるべく集めろ。死体は残すな。こちらの情報を渡すことになりかねん」

「最後に、報告、連絡、相談の厳守だ。これは配下各位にも徹底させろ。もし判断に困る場合は私かさとりに相談するんだ。…いいな?」

「「「ハッ!必ずや!」」」


「では、デミウルゴスからだ」
「此方に」

スッと進み出るデミウルゴスさん。
先日はお世話になりました。

「お前には既に情報収集の任にあたって貰っているが、並行してナザリックの資材確保を任せたい。兼任となるが、お前の力を当てにさせて貰うぞ」
「ハッ!必ずやご期待に答えましょう!」

「うむ。必要資材については後でアルベドにピックアップさせるので打ち合わせをしてくれ。お前自身が外に出る場合も誰かを供に連れて行くように。 同様に外を回っているシモベ達も最低二匹一組にしろ。もし何者かに襲われたら片方を囮に、もう片方を逃がせ。情報確保が優先だ」
「畏まりました。徹底致します」


「シャルティアよ」
「此処におります、アインズ様」

そっとスカートの端を持ち会釈するシャルティアさん。…胸パッド、少しズレてますよ。

「お前に頼むことは、この世界の未知のスキル、── 武技やタレントと言うらしいが── それらを持つ人物を捕獲して来い。必然的にナザリックの外に出ることになる。…こいし、お前にシャルティアの補佐を命じる。力になってやれ」
「えっ?わたし? …はぁい!分かったよ、お父さん。シャルちーのお仕事、手伝えばいいのね」
「えぇ妹様。宜しくお願いしますえ」

急に呼ばれたこいしは戸惑ってましたがすぐ内容を理解したようです。
何故かホッとしました。
授業参観で自分の子供が急に指された時とかこんな気分なのでしょうか?

むしろ突然のお父さん呼びに悶えているあの骸骨の方が問題ですね。
…軽い咳払いでアインズさんを我に返しました。

「…失礼。尚、捕獲する人間はなるべく居なくなっても問題ない奴等を選ぶように。夜盗やら山賊といった連中だな。ニグレド辺りに探査させてアジトを見つけ次第襲撃するといい」

「もし外れだった場合は鏖にしても宜しいので?」
「任せる。派手にはするな」
「了解でありんす」
「はーい」


「次にコキュートスだが、ナザリック内の警備を再編成して貰いたい。守護者が何人か不在になるからな」
「ハッ」
「幾つかのギミックはコストカットで止めているが、人員配置を替えて手薄になるようなら再起動しても構わん。もし兵が足りないなら私に相談しろ。召喚モンスターで補うつもりだ」
「ハッ!オ任セクダサイ」

「編成はすぐ済むだろう。その後は引き続きナザリックの警護にあたれ。…もしかしたらシャルティアが捕獲した武技持ち相手の実験に付き合って貰うかもしれんな。その時は頼むぞ」
「ソレハ、楽シミデゴサイマスナ。全力デアタラセテ頂キマス」


「次はマーレ。これが周囲の簡単な地図だ。お前にはこの地図の確認と、ナザリックの隠蔽を頼む」
「隠蔽、ですか…?」
「うむ。地図を見ると分かるが、現在ナザリックは草原のど真ん中に剥き出し状態だ。無駄に人を招く気は無いのでな、マーレ、お前は地図を見ながら不自然では無い様にナザリックを隠せ」
「は、はい… では、この辺に丘を作って…?」
「そうだな。方法は後で私らが相談に乗ろう。手が足りないならプレアデスの誰かに手伝って貰うといい。そしてアウラよ、お前はマーレの補佐をしつつこの森の中に砦を作れ。出来れば籠城できるサイズの、だ」
「分かりました!森の獣やモンスターはどうします?」
「近寄らなければ放っておけ。騒ぐようなら洗脳して人足にするといい。そうそう、護衛役に空を就けよう。できるな?空」
「はいっ。おまかせをー」

お空はアウラさんの護衛ですね。アウラさん自身の戦闘力はそれほど高くないので、お空なら十分役に立つでしょう。やり過ぎなければ、ですが。

…心配ですねぇ。森ごと焼き払わないよう後で言い含めておきましょう。


「セバス、お前も外に出て貰う」
「ハッ」

「お前はソリュシャンと共に各国を回り、その国の兵器や魔法技術の練度を調査してこい。簡単には手に入らない情報だろう、長期間の調査を想定してかかれ。必要な資材はこのあと申請するがいい」
「畏まりました。すぐにでも準備に取り掛かります」
「うむ」

セバスさん、結局忙しくて満足にご挨拶出来ませんでした。まぁ彼に限って背信や謀反なんて有り得ないでしょうけど。今度落ち着いたら改めて声をかけましょう。


「次は、先日援助した人間種の村、カルネ村だが、かの村に支援要員を送ろうと思う。知らぬ間に滅びてました、では寝覚めが悪い。あの村は私の名の元に助けた村だからな」

この人、滅多に寝ないから悪いと思う機会も無さそうですが、そういう問題でもないですね。

アインズさんの提案にアルベドさんが感動したように手を合わせました。

「アインズ様… 下等生物如きになんとお優しい。しかしそのような雑務、シモベ以下の者にやらせてもよいのでは?」
「いや。そうもいかんのだ、アルベドよ。…私の見立てではあの村、放っておけば1年も待たずに滅びるからな」
「それは───」

「情報を見るにあの村、3か国の陰謀に関わったからな。近い将来、どこぞの国が痕跡を消しに来るだろう。なんとも運の悪い事だ。…正直、人間同士の争いで焼かれるのならそれでも良いとも思うのだが。自立できるまで最低限の支援を私の名で約束した以上放っておくわけにもいくまい。 …ユリ!そして燐!」

「はい、此方に」
「はいな」

アインズさんの声にプレアデスの中から夜会巻きに眼鏡をかけた知的な美人が進み出ました。

彼女はユリ・アルファ。プレアデスの一員で立場的にはセバスさんの直下、副リーダーな筈です。ああ見えても彼女の種族は首無し騎士です。あの首もチョーカーで止めてあるだけで取り外し可能すよ。

そしてもう一人はうちのお燐です。今は地霊殿の家政婦をこなしている彼女ですが、元々の役割は運搬役が主でしたから支援要員には最適ですね。

「お前達にカルネ村との外交員を努めて貰う。だが二人ともナザリックでの仕事もあるだろう。様子を見に行くのは3日に一回か呼ばれた時、程度でいいぞ。常駐する必要は無い。後で連絡用のアイテムを渡すから村長にでも渡してやれ」
「了解致しました」
「はい、了解です!」

エンリさんたち元気でしょうか。
気になる…程でもありませんが、お燐の挨拶ついでに会ってきてもいいかもしれませんね。


「そして、私とさとりについてだが…」

アインズさんは私の方を見て此方に来るよう促しました。

「私とさとりは、これから少し人間達の中で生活してみようと考えている」

「「───!?」」

結構な動揺が走っています。納得済みな筈の守護者にも若干の揺らぎがありますからね。やはり受け入れ難い事なのでしょうか。

しかし、アインズさんは彼等に静まるよう呼び掛けると続きを話します。

「お前達の言いたい事も分かる。だが、これはこれからナザリックがこの世界に出ていく上で必要な事なのだ」

「─── 今一度ご説明を頂いてもよろしいですか? さすれば皆も理解致しますでしょう」

デミウルゴスさんが代表してアインズさんに説明を促します。そして鷹揚に頷くとアインズさんは話を続けます。

「勿論だとも、心して聞け。我々がこの異世界に来てまだ日は浅い。にも関わらず、早くも先のカルネ村の争いに遭遇している。愚かにも人間共はこの世界でも国同士で争っているらしい。まったく、本当に嘆かわしい」

溜め息をつき頭を振るアインズさんに一同も顔を曇らせます。至高の御方を悩ませるとは! でしょうか?

「全てを滅ぼすのは簡単だ。しかし、中には争いを避け、我々に庇護を求める者達も居るかもしれん。我がアインズ・ウール・ゴウンの大元はそんな者たちを助ける為に作られたのだしな」

「───つまり人間共を救済すると?」

「否。断じて否だ。私は進んで奴等を助けるつもりは無い。戦争がしたいなら好きにさせておけ。…だが助けを求めるなら別だ。我らの傘下に入り我らと共に歩むなら受け入れよう。その資格があるかは私達自身が見極めようじゃないか」

そしてアインズさんは衣装を大きく翻すと高らかに宣言しました。

「その為に私はこの世界を知らなければならない!本当に我らと歩める資格者がいるのか? その者たちはどこにいるか? この判断を、私達は他の者には任せられん。何故なら、この判断にナザリックの未来がかかっているからだ!」

あと「俺が羽を伸ばす為だ!」ですよね。その為にパンドラさんの演技指導を嫌々受けてましたから。お蔭で見事な演説になってましたよ。

「そ、そんな深いお考えがあったのでありんすか…!」
「素晴らしい… このナザリックへの思い… 私もまだまだですね…」
「ソシテ、ナント慈悲深キ事カ」
「す、凄いねお姉ちゃん」
「うん!本当にお優しい方ね!」
「…アインズ様…素敵です…くふっ」
「このセバス、感動を言葉にできません…!」

そして守護者一同には大絶賛です。

…貴方達、大まかな事は事前に私が簡単に説明しておいたじゃないですか。何、雰囲気に飲まれて初めて知ったような空気になってますかね?特にシャルティアさん。
もしやあの骸骨、なんか変な魔法でも使って全体魅了してません? 不公平です。

「「「アインズ・ウール・ゴウン万歳!」」」

なんて乗せられ易い人達でしょう。私心配になってしまいますよ。


肝心のアインズさんは、ウムウムと頷き場を納めると。

「それでは、この場はここまでとする。各自、行動を開始せよ。行け!ナザリックの子らよ!」

と、締めました。

「「「ハッ!」」」

整然かつ足早に立ち去る一同。


あぁ、疲れました…
戻ってこいし達とお茶にしましょ。
2時間くらいお昼寝したいです。

『あ。さとりさん、30分後、俺の部屋で打ち合わせで』

…疲労無効の指輪、付けとくべきでしたね。




────────────────

40分後、私はアインズさんの部屋を訪れました。10分遅れ?女は準備に時間がかかるんです。寝足りないとかはありません。

扉前のメイドさんに到着したことを伝えると、暫くして中に通されました。

「先程はお疲れ様です、アインズ様… おや」

奥を見ると、アインズさんはいつもの骸骨ローブ姿ではなく、漆黒の全身鎧に紅いマントで身を包み、私より大きな剣を2本も背負った姿で立っていました。

「さとりか。どうだ?この装備は。《上位道具創造》で作ってみたんだがな」

…骸骨姿も良いですけど、こっちも格好良いじゃないですか。ちょっと不覚でした。

「んー …悪く無いんじゃないですか? その格好だと、やっぱり冒険者になるんですね」
「あぁ。この世界の個人戦闘力を見れて、各国の様子も分かる。出世すればより深い情報も得れるだろうし、行くゆくはアインズ・ウール・ゴウンの名を売る役にも立つかもしれん。何より資金調達にもなるぞ、良いことづくめだ」

…そこまで上手く事が運びますかねぇ。

「随分と自信ありますね? まぁいいです、いざとなれば私がフォローしますから」
「…助かるぞ。娘にフォローされっぱなしと言うのも情けないがな。まあ冒険者歴なら私の方が上だ、任せておけ」

腕を組みながら自信たっぷりに話す彼はなんとなく無双の戦士っぽく見えますね。あくまで、それっぽいだけですが。

そして、思い出した様に私に聞いてきます。

「そうだ、私は同行者にナーベラルを選ぼうと思うがお前はどうする? それに現地でのカバージョブも決まっているのか?」

ナーベラルさんですか。あまり話したことはありませんが、確か魔法職に特化したドッペルゲンガーでしたっけ…
戦士に成りきるアインズさんには丁度いいのかも知れません。

…と、私の事でしたか。

「私のお供はルプスレギナさんにお願いしました。彼女も快く引き受けてくれましたよ。そして私が外で成りきる職業ですが…」

姿勢を正し、目の前の黒い鎧に告げました。

「私は、占い師をやろうと思います」

…上手く行くかは、神のみぞ知る、です。



まとめ

デミ → 情報収集、資材調達
シャル+こいし → スキル持ち確保
コキュ → 防衛隊編成
アウラ+お空 → 別荘建築、索敵
マーレ+暇な人 → 地図作り、隠蔽工作
セバス+ソリュ → 各国漫遊
パンドラ → 会計士、皆のお目付け役
ユリ+お燐 → カルネ村保護

アルベド → 総務、他全部


骸骨「ヤッホウ。羽伸ばすぞー」
覚 「ゆっくりできますね」
アルベド「………」

ひどいと思う。



ご意見、ご感想お待ちしております。


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幕間・1

せくしーオバロー外伝
すごいよ!さとりさん


※サブタイトルは、語呂が良い以上の意味は全くありません。シリアスもほぼありません。ご注意下さい。





それは、丁度パンドラズ・アクターさんを迎えに行った頃の話になります。


私はある思い付きを実行に移そうと、アインズさんの執務室と化している個室に向かっていました。

「まだ仕事中でしょうか…」

それなら強引に休ませてしまいましょう。
そう思いながら私はアイテムボックスに入れてある、あの仮面について考えました。

こいしと再会する前に旧地霊殿で回収した、飲食可になるあの仮面です。

「色々あって渡すのが遅れてしまいましたね…」

でもやっと私も落着きましたし、アインズさんもこれからは外に出る事が多くなるでしょうから、この仮面は役に立つでしょう。

そう考えながら歩いているとアインズさんの部屋の前に着きました。
扉の前にはコキュートスさん配下の蟲兵が警護についていますので、声をかけて通して貰います。

「アインズ様はいらっしゃいます?」

蟲人さんは中の護衛の誰かとゴソゴソ話した後、「ドウゾ」と通してくれました。
もう気軽に出入りできないようですね… 少し寂しいです。

さて、部屋に入りメイドさんに挨拶をしつつ無駄に広い部屋を見渡します。
そこには。


鏡の前で、剣を片手にカッコいいポーズを決めているアインズさんがいました。

…あぁ、なんということでしょう、今更彼の中二病が再発してしまうなんて…
どうしてこんなになるまで放っておいたんですか?

私が生暖かい目で見守っていると。

「おい!何か勘違いしてないか!?私は少し検証を…」
「いいんです。お父様は少し疲れているんですよ。諦めなければきっと良くなります」
「分かって言ってるでしょうそれ!?」

ばれましたか。

「素が出てますよアインズ様。…なるほど、本来装備出来ない武器を素振りしていたのですか。結果はどんな感じです?」

アインズさんは試しに剣を構えますが少しすると、カランと手から落としてしまいました。

「おっと。やはり駄目だな。装備制限のかかる物は、持つ分には問題ないが武器として扱おうとするといつの間にか落としてしまう」
「はぁ。私達にもよく分からない制限がついてるんですね」
「次は鎧を試すつもりだが」
「私が退室したらやって下さい。ここで脱ぎだしたら流石に怒りますよ?」
「………はい」

やろうとしてましたね、骨め。

「ところで、何か用でもあったか? さっき自宅に戻っていたようだが」

あぁ、忘れるところでした。
いけませんね。

「少し大切なお話を、と思いまして。ご迷惑でしたか?」
「いや、構わんよ。 …そう言うことだ。お前達、すまんが少し外してくれ」

護衛の方々も慣れたもので一礼してサッと部屋を出て行きます。
それを確認してから私はアインズさんに近付きます。

「これをお渡ししようと取りに行ってたんですよ」

私はアイテムボックスから例の透明な仮面を取り出してアインズさんに見せました。アインズさんはマジマジと眺めて驚いたように言います。

「そ、それは《リア充マスク》!さとりさん、そんなの持ってたんですね」
「…なんですかその名前は」
「いえ、これを貰える男は大抵リア充なんで陰でそう呼ばれてたんです。一時期はこれを持ってる奴を探して皆で襲い掛かってましたからね」

み、醜い争いですね…

「…最後は全員たっちさんに返り討ちにされた揚げ句、お説教されて終わったんですがね」
「…嫌な事件です」

本当になにやってたんですか。

「…この仮面の効果は知ってますか?身に付ければ飲食不可の種族でも食事が出来るようになるものです」
「…? そうか! 俺が着ければこっちでも食事が出来るようになるのか!」
「ご明察です」

そこで嬉しそうだったアインズさんは何故か申し訳無さそうに言います。

「でも、それ俺が貰ってもいいんですか? イベント物だからひとつしか無いでしょうそれ」

魔王の外見でモジモジしないで下さい。
でも確かにこのアイテム、イベント用なので一人一つしか所持できないんですよね。結果的にそれが更なる修羅場を生んだのですが… まあ、あの運営ですから仕方ありませんね。

私は苦笑しながら答えました。

「大丈夫ですよ。今まで倉庫の奥で眠ってたものですから。はい、どうぞ」

満更でもなく受けとるアインズさん。

()()()渡すことができました。

そうそう、忘れてはいけません。
目的はもうひとつありました。

「それでですね。折角ですからそれの試用試験に、明日うちで食事とか如何ですか?」


寂しい骸骨さんの返事は、聞くまでもありませんでした。



────────────────

「…と、言うことで今晩、うちで食事会をやるんですよ、シャルティアさん」
「アインズ様がいらっしゃる!素晴らしいでありんすね! でも、ここに沢山の人が入りんすか?」
「…なにか勘違いしてるようですが、別にパーティー形式じゃないですよ? アインズ様ご本人の希望で、ささやかな会の予定ですから」

今、私は地霊殿のテラスでお茶をしながら昨日の事を話しています。正面にはシャルティアさんが座ってお茶していますが…

こいしとお空はアウラさんの所へ遊びに行ってしまい、お燐はお茶を入れた後、今夜用の食材を取りに行きました。
なので二人きりのお茶会です。

「…ところで何かご用件があって此方にいらしたんじゃないんですか?」
「─── 暇だったのでありんすよ。何か面白いことがあるかと思って」

嘘ですね。でも何故か必死に理由を思い浮かべないようにしてます。

「貴方守護者でしょうに、遊び呆けてていいんですか。お父様も怒りますよ?」

そこでシャルティアさんの動きが止まりました。

「─── 実は、黒棺(ブラック・カプセル)で恐怖公が眷族を呼びすぎてしまったと報告があったでありんす…」

シャルティアさんが震えながら話しだし、私の動きは止まりました。
恐怖公ってGですよね?その眷族を呼びすぎた?溢れたんですか?
あああ、もういいです。詳細を思い浮かべないで下さい!

「─── 時間がくれば消えると言われたでありんすが、それまで助けると思ってここに置いてくりゃんせ…!」
「…ゆっくりしていっていいですよ。でもなんでそんなことに…」
「昨日、実験でスキルの全力稼働を担当区域のシモベ全員に命じたでありんす。その後うっかり止めるのを忘れたていたでありんすよ」

自業自得ですこれ!
やっぱりお父様に言い付けた方がいいですかね。

「まぁ、それはともかく、そのお食事会、わたしも参加してもいいでありんすかね…?」
「えぇ、大丈夫ですよ。大歓迎です。お父様にも伝えておきますね」
。お父様にも伝えておきますね」

それを聞くとシャルティアさんは外見相応の無邪気な笑顔を浮かべました。

「ありがとうございんす! ところで料理は誰が用意するでありんすか? 地霊殿ならお燐が何か作るでありんすかねぇ」
「そうですね。でも今回は私も少し作ろうかと思っていますよ」

ドヤァと顔に出てしまいましたか。
それでもシャルティアさんは、目を輝かせて聞いてきました。

「さとり様は料理も出来るでありんすか?流石は至高の御方に並ぶお人でありんすね!」
「そんな自慢できる腕では… あぁ、でも、食べさせたい方がいるなら、少しは料理ができた方がいいかもしれませんね。昔から、男性の心は胃袋で掴め、と言いますし」

それを聞くとシャルティアさんは目を丸くして聞き返してきました。

「胃袋を掴む! それは《心臓掌握(グラスプ・ハート)》的な意味でありんすか?」

違います。
即死させてどうしますか。

「…食べ物で釣れって事ですよ。誰だって美味しいものには弱いですからね。自分の彼女の料理が美味しければ離れられないってものです」
「はぁ。なるほど。我ら守護者は殆ど飲食不要でありんすから、いまいちピンと来ないでありんすねぇ…」

あぁ、そうかもしれません。大体アインズさん自身も必要無いのですから、そんなもので釣れるとは思わないでしょうね。

「でも面白そうでありんすね!私も何か作ってきたらアインズ様は食べて頂けるでありんすかね!?」
「えぇ、きっとアインズ様もお喜びになられますよ」

そしてシャルティアさんはおもむろに席をたつと会釈して言いました。

「では、善は急げと言いますし、早速準備してきんす」
「あっ、はい。時間は夕方18時ですのでそれまでに… もう行きましたか」

なんて早さでしょう。
でも、彼女忘れてるようでしたが、恐怖公の件は大丈夫なんですかね…?

この時私はそちらに気を取られ、彼女が呟いていた事を見逃してしまいました。


「─── ところで、料理って、何をどうすればいいのでありんしょうかえ…?」



────────────────

さて、シャルティアさんも帰りましたし私もそろそろ準備を始めましょう。
お燐もそろそろ帰って来る頃です。

「───ただいま帰りましたー…」

おや、噂をすれば。
ん? 気配が二人分…

「おかえりなさ───あら、アルベドさん」
「お邪魔しますわ、さとり様。…どうしました? 眠そうな目がさらに半目になっておりますよ」

お燐は、アルベドさんに首を吊り下げられて帰ってきました。
…食材調達中に捕まりましたね、お燐。

「すみません、さとり様~。途中で守護者統括様に食材の使い途を聞かれたので、あたい全部お話ししちゃいました…」

待ち伏せされましたか。
相変わらず変なところで鋭い人ですね、アルベドさんは。

「聞けば楽しい事をなさるようで。でも、アインズ様を招いての晩餐会をこのような所で行うのは、守護者統括として少々見過ごせませんわ」

微笑のままですが、オーラは黒いですよ?
私はため息を隠しつつ、前言った事をもう一度言いました。

「…これはアインズ様ご本人のご希望です。元々はアイテム実験のつもりでしたから、そんなに大事にしたくないのでしょう。身内だけの気軽な食事を楽しみたいそうです」
「あら、そうでしたか。なら、当然私も参加しても構いませんわよね?」

まぁ、そうきますよね…
んー、なんかもう、どうでも良くなってきました。

「構いませんよ。アインズ様も喜ぶことでしょう。…今晩18時の予定ですので、その頃また来て下さい。私はこれから食事の用意をしますので」

あ、しまった。
私の言葉を聞き、アルベドさんの黒い羽がピクンと跳ね上がりました。

「さとり様も料理をお作りになられるので? ふぅん… なら、私もアインズ様が召し上がるお食事をお作りしても構いませんよね?」

こ、この人、満漢全席クラスの料理を持ってくる気ですね… そうはさせません。

「アインズ様はあくまで簡単な物を、と言ってましたよ。お作り頂けるなら今回は一品だけにしておいて下さいね」
「畏まりました。御方の希望であれば致し方ありません。それでは至高の御方に相応しい料理を、私自らがお作りしてお持ち致しますわ」

笑顔で言う私に、舌打ちしそうな笑顔で答えるアルベドさん。

あー、はいはい。お任せします。

意気揚々と帰っていくアルベドをあとに、私は疲れてきた心に鞭打ってお燐に声をかけます。

「ご苦労様でした、お燐。お疲れのところすみませんが、このまま食事の支度をしましょうか」
「はい、さとり様! …えぇと、すみません、あたいアルベド様にバレちゃって…」

少し落ち込んでいますね、お燐。そこまで思い込まなくても大丈夫なのですが… 私は彼女の頭を撫でながら慰めます。

「平気よ、お燐。予定外でしたけど、むしろアインズさんは喜んでくれるはずです。…さあ、時間も無くなってきましたし、急いで準備しましょう」

…どうせシャルティアさんも乱入するのですし? きっと勝手に盛り上がってくれるでしょう。

私は私で頑張りましょうかね。



──────────────

元の世界では私も一人暮らしをしていたのでそこそこ料理はしていたつもりです。まぁ、あの世界の食材なんて味は二の次の合成物ばかりでしたが。

それでも私の家は姉が稼いでいたので食材にはあまり困りませんでしたね。
お陰で貴重な卵料理も覚えられましたし、今回はそれを作ってみましょう。

「お燐、そっちは任せますね。私はこっちでオムレツでも作りますから」
「はーい」

…さて、まずは卵を割ってかき混ぜて、フライパンを火に───

私が覚えている記憶は、そこまででした。



「───り様! さとり様!火が!止めて下さい!台所がー!新居がー!」

ハッ!?

我に帰った私の目の前には、それはそれは見事な火柱が。

「え?えぇ!?何が、どうなりました?事故ですか!?」
「事件です!離れて下さい!」


…お燐の冷気魔法でなんとか事なきを得ました。初級魔法でも役に立つ時があるんですね、勉強になりました。
幸い、台所に耐火加工がしてあった様で、壁が黒ずんだ程度で済みました。

「大丈夫ですか、さとり様!?火傷とかはありませんか!」
「えぇ… そこは大丈夫ですけど、何がどうなったのでしょうか。料理の途中から意識が途絶えました…」
「…もしや、何かご病気ですか!?すぐにペストーニャ様を───」

う。その言い方は不安になるじゃないですか。

「だ、大丈夫ですよ。ほら、ちゃんと包丁も握れますし、キャベツの千切りだって、このように───」

ヒュン! …カッ!

─── すっぽ抜けた包丁が勢い良く壁に突き刺さりました。…どうやら流石の台所も耐刃加工はされていないようですね。
頭スレスレを刃物が通り過ぎたお燐の顔は真っ青ですし、どうしたものでしょうか…

呆然と立ち尽くしている私に、タイミング良くアインズさんから《伝言(メッセージ)》が届きました。

『さとりさん、今いいですか?』
『…はい、大丈夫ではありませんが、いいですよ』
『…? ちょっとした追加情報なんですが、昨日、俺が剣を振って落っことしてたじゃないですか。あんな感じで「装備制限」だけじゃなく「スキル無し」も俺たちに影響してくるみたいです』
『…えっ』
『さっき実験で簡単な錬金薬を混ぜてみたのですが、実験途中で薬の識別が全く出来なくなりましてね。しっかりラベルを貼っていたのに失敗しましたよ。俺たちは対応するスキルが無いと、出来て当然の行為も失敗する可能性があるみたいですから気を付けて下さい』
『─── そうみたいですね』
『…? まぁ、他にも何が制限になるかは検証しないと分かりません、何か分かればまた連絡します。…そうそう、今夜の食事会楽しみにしてますね。では後程』


…なるほど。こちらの私(さとり)は料理スキルなんて修得していません。だから料理のやり方は分かっていても、いざ実行しようとすれば自動的に失敗になるという事でしょうか?

ふふふ。そうですか。流石は異世界。一筋縄ではいきませんね…

それにしても。うーん…

「お料理、どうしましょうか…」

砕け散った卵。煤けた台所。突き立った包丁。怯えるお燐。

私は少し泣きたくなりました。

────────────────


「お邪魔するぞ、さとり。招待感謝する」

支配者口調ですが嬉しさを隠しきれないアインズさんが到着しました。

時間は17時40分。ちょっと早いですが待ちきれなかったようですね。透明なので分かり辛いですが、既にあの仮面も装備済みの様です。

「いらっしゃい!お父さんの席はこっちだよ!早く早く」
「そう急かさないの、こいし。…いらっしゃいませ、アインズ様。今日もお疲れ様でした。もう少しで準備が整いますから席にかけてお待ち下さいね」
「あ、あぁ… そうさせて貰おう」

若干、緊張気味ですね。微笑ましいのですが、今の私にはそんなのを楽しむ余裕なんてありません。

本当にアレを出して良いものでしょうか… こいしは「イケるイケる!」と保障してくれましたが…

私が迷っていると、玄関で言い争う姦しい声が聞こえました。
…これはシャルティアさんとアルベドさんですか、まぁ見事に鉢合わせたものです。でも人の家の前で痴話喧嘩は止めて下さいね?さっさと入って貰いましょう。

「これはアインズ様、ご機嫌麗しゅう」
「御前に失礼致します、我が主様」

傅く二人に鷹揚に頷くアインズさん。
事前に二人が追加参加することは伝えてありましたから問題無いでしょう。

「良い、面を上げよ。私はここに骨休めに来たようなものだ。お前達もこの場ではそのような固い挨拶は抜きにしろ」

骨休め… 突っ込みは入れませんよ。

アインズさんの言葉に二人は感動した後、堂々と彼の左右に座りました。
抜け目無い方達ですね。

アインズさんにしなだれかかったシャルティアさんが、自慢げに話しかけています。

「アインズ様、この度の晩餐会、私も一つ料理を作ってみたでありんすよ。我が愛しき君、是非に召し上がってくんなまし」

その言葉に反応して口を挟むアルベドさん。

「あぁら、ヤツメウナギが料理とか本当に大丈夫かしら? 血しか入ってないのは料理とは言わないのですよ? アインズ様、私も一品お作り致しました。至高の御方のお口に合うか分かりませんが、是非御試し下さいませ」

愛情しか籠っていません!と言い切るアルベドさん。皮肉に顔を歪ませ威嚇するシャルティアさん。


あー。心を覗かせて貰いましたが、二人とも料理は壊滅的だったのにどうしてここまで自信たっぷりなのでしょうか?少し羨ましいです。

「そうか。アイテムの実験のつもりたったが、お前達が頑張った物なら私も嬉しいぞ。ありがたく頂くとしよう」

「あぁ、嬉しいでありんす… では、一番は私の料理からご覧くんなまし」

シャルティアさんが持ってきていた大皿の蓋を開けるとそこには。


古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)が鎮座していました。


あぁ、ヘロヘロさん、お久しぶりですね。こんな所で奇遇です。今日はちょっと無口ですね?


…おっと、私としたことがまた現実逃避してしまいました。
一瞬後、そこにいた全員がテーブルから飛び退ります。

「な、なな何これは!?シャルティア!貴方一体何を生み出したの!?」

流石のアルベドさんも混乱してシャルティアさんを掴み上げてます。

「シャルティア。怒らないから正直に答えろ。これは、なんだ」

アインズさんが冷静に問い質します。
落ち着いて見えますがさっきから感情抑制されまくりです。

「勿論、料理でありんす。 …と言っても実はやり方が分からなかったので、ペロロンチーノ様ご秘蔵の書物を少し参考に作ってみたでありんすよ」
「…その書物、見せて貰えるか?」
「はい、こちらでありんす」

アインズさんはシャルティアさんから薄い本を受けとると表紙を見て絶句しました。

気になったので《伝言》で聞いてみます。

『なんです?その本』
『これは、昔あったアニメの同人誌ですね。俺も知ってますが、確かこのヒロイン、超メシマズ女だったはず…』
『…そのメシマズ料理を、料理も知らない子が、良く分からない材料で作った結果がコレですか』
『ある意味、奇跡ですよ』
『…ですが、これ』

「で、これ食べるの?」

こいしの言葉が虚しく響きます。

全員が黙り込み、シャルティアさんだけが嬉々としてアインズさんに食べさせようと古き漆黒の粘体(仮)を押し付けていましたが、こぼれ落ちた粘体がテーブルを紫の煙をあげて溶かし始めたのを見て流石に諦めました。

あぁ、結構お気に入りのテーブルでしたのに…




「次は私ですわね。私はあの危険物とは違いますからご安心下さい」

自信たっぷりなアルベドさん。
…私にはその理由がもう見えてるのですが、わざわざ指摘するのも野暮ですよね。私としても、要はアインズさんが喜べばいいだけですから。

「さぁこちらをどうぞ。特製ローストビーフでございます!」

大皿の蓋を開けると、そこには見事な肉料理が。飾り付けも完璧です。

「おお!凄いな、アルベドよ。これは… 美味そうだ!」

アインズさんもご満悦です。こんなの元の世界では見ることすら出来ない代物ですからね。

「どうぞお召し上がり下さい!くふっ! 腕によりを掛けましたので!」

ついでに私もお召し上がり下さい!と続きそうですね。
でも、自分で作った…ですか。アインズさんも流石に首を傾げてますよ?

と、そこへ。

「コンコン。お邪魔するっすー。アルベド様、料理長からお届け物っすよ。「その至高のローストビーフは、この究極のソースをかけて仕上げだ」、そうっすよ。ちゃんと上にかけてから召し上がって下さいませ。では、失礼するっす!」

凄い勢いでやって来たルプスレギナさんが、言うことを言って究極のソースを置くと、ササッと帰って行きました…

また沈黙が全員を支配しました。

辛うじてシャルティアさんが信じられない物をみる目で見ながらアルベドさんに言いました。

「アルベド… おんし、まさか…」
「し、仕方なかったのよ!私があれ以上作ろうとすると料理長が泣きながら止めてくるんですもの!」

そしていやいやと泣きながらアインズさんに謝ります。

「申し訳ありません!不出来な物を至高の御方にお出しするわけにもいかず、ついあんな嘘を… この失態、この命で──」
「あぁ、良い良い。お前の全てを許すと私は言ったぞ。それに実は、私はお前達が料理を出来ないことを知っていたのだ」

そしてアインズさんは、最近の実験で分かった事を話しました。

「まぁ、この先も色々と出来ないことは見つかるだろう。そこらをどうするかが今後の課題だな」

上手く乗り越えられればLv100の私達でも成長できる、ですか。夢のある話ですね。…でも私は本当にそれを望んでいるのでしょうか? 変わらないことを望む事は、即ち成長すらも拒むことなのでは…


「…しかし、スキルが無いと料理も出来ないとなると、やっぱりさとり様も失敗だったでありんすか?」

シャルティアさんの言葉に我に帰りました。…つまらない事を考えるより、今はこちらに集中しましょう。

「…えぇ。残念ですが、私のレパートリーも殆ど役に立ちませんでした」
「あぁ、やっぱりそうか…」

残念そうなアインズさん。
うーん… この様子の彼に出していいものやら…

悩んでも仕方ないですね。

「…一つだけ、作れたものがあります。本当に簡単なものですが、それでもいいですか…?」

自信無く言う私に、アインズさんは頷きながら答えます。

「大丈夫だ。元々、簡単な料理を私は希望していたんだ。…頼むぞ」

あぁ、そう頼まれると弱いんです。
思いきって出してしまいましょう。



「これは…」

アインズさん達の前には、白米と薬味と出汁を入れたお茶が。

そうです、()()()()です。

各々を分けて用意し、材料を混ぜる直前にする所まではぎりぎり作れたのです。

「こんな雑な物を料理とは…」
「いや。構わん。私はこれがいい」

何か言おうとしたアルベドさんを、アインズさんは止めました。

そして皆が見守るなかご飯に薬味とお茶をかけ、食べ始めました…

あ。仮面を通してご飯が口に入るとそのまま消えていきますね。あれはどこに消えていくのでしょう…

私が現実逃避していると、アインズさんはひと息入れてから言いました。

「美味い」

お燐達から歓声が上がります。
私も少しホッとしたのか、椅子に寄りかかりました。

「シンプルだが出汁が効いていて美味い。何より久しぶりの食事だ、これくらい軽いのが一番嬉しいぞ」

そのまま一気に食べてしまいました。
こいしも知らぬ間に食べきっていました。

「…箸では食べにくいでありんすね。スプーンを用意してくりゃんせ」
「これがアインズ様のお好みの味…!覚えました…!」

マイペースですね、お二人は。
でもちゃんと食べてくれるのですね。


「…気に入って頂いたようで何よりです。では、他にも幾つかお燐が用意しましたので、アルベドさんの料理と合わせて皆で戴きましょうか。ゆっくり召し上がっていってくださいね」

そこからは色々な料理がテーブルに並びました。アインズさんも嬉しそうに召し上がっていましたし、アルベドさんもその様子を見て泣いて喜んでいました。

こいしに肉を盗られて怒るシャルティアさんに、お空が自分のを分けているのを見ている私に、お燐が囁きました。

「良かったですね、さとり様。今、さとり様も嬉しそうでしたよ」
「…そうでしたか? それは…」

私はそんなに食べていません。
この場に居るだけで何か満たされる物があったので。
それが何故かは分かりませんが。

「きっと、そうなのでしょうね」

私は、自分が微笑んだ気がしました。








いつか季節が巡り、年が流れ、何もかもが変わっても。
アインズはあの時の味を忘れていない、と語るそうです。

それはいつかのお話。



試験的な物でしたが如何でしたでしょうか。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第19話

さとりside

9/22 ちこっと修正


今ナザリックは、いつになく騒がしくなっています。
守護者の何人かが任務の為に外出の準備に取り掛かり、他のシモベはその穴を埋めるために大忙しです。


そんな私も、今は外に出る準備の為、地霊殿の自室にいました。

まず《上位道具作製》でゆったり着れるタイプの紺色の貫頭衣を作ります。これなら目立つ髪の色も目玉もローブの中に隠せますから。
…少し胸が大きく見えますが、別に意図した訳ではありませんよ?そんなシャルティアさんみたいな事は考えませんから。

後は適当に戦闘用の短杖を。護身の心得もなく旅しているのも変だと思われるでしょう。飾りにしかなりませんが、特に使うことにもならないはずですし。

そうそう、どうやら私達の魔力はこの世界では異常に大きく感じられるみたいですね。その辺を誤認識させる指輪も用意しました。こちらはアインズさんにも渡しておきます。

そして、私は自分が外の世界でロールする予定の職について考えました。

占い師。
私が占い師を選んだ理由は二つ。

一つ目は、占いに読心スキルが使えそうな所。
二つ目は、この職種ならあんまり外を出歩かなくて済みそうだから、です。

一つ目のは何となく思っただけなんですが。占うような悩み事なんて、大抵当人の中に答えが眠っているものなんです。そこを読んで、さも占いの結果の様に言えばそれらしくなるでしょう。悩み事を解決しつつ、ついでに有益な情報でも得られれば万万歳ですね。じゃなくても苦悩する感情とかを適当に頂ければ十分ですし。

二つ目は簡単です。私は素が引きこもりなので、なるべく出歩きたくないんです。なら出るな、と言われそうですが。ナザリックだと監視付きですからねえ…

まぁ、正直この職業でそんなに儲けられるとも思ってませんし、アインズさんには申し訳ありませんが資金繰り関連についてはお任せしましょう。

…私のみる限り冒険者もそれほど夢のある職業ではなさそうなんですがね、言わずが花です。


さて、最後に足りないものを宝物殿から頂いてきましょうか。
…ちゃんとアインズさんの許可は貰っていますよ?



指輪の力で宝物殿に来た私をパンドラズ・アクターさんが迎えてくれました。

「オオ、さとり様!お待ちしておりました。お探しの品物を見付けておきましたが、本当にこれでよろしいので?」

彼は幾つかのアイテムを用意した携帯袋に入れて渡してくれました。
中を確認すると… ありました、蒼く透き通った水晶玉。これにはなんの効果も付加されていません。

「只のガラス玉の様なものですが構いませんか? ここでは逆に珍しい物ですが。《物体発見》が使える宝石類などもございますが」

アイテム知識を生かせず少々不満げな様子。

「えぇ、ありがとうございます。 雰囲気作りの為の物ですからいいんですよ。…下手にマジックアイテムを使って後からインチキ呼ばわりされても面白くありませんから」
「成る程!ご慧眼ですな」

称賛を軽く流し、私は携帯袋を仕舞うと彼に言います。

「それと、もう一つお願いが有るのですが、いいですか?」
「勿論ですとも!」
「では、このユグドラシル金貨を錬金スキルで砂金等に換えてください。 錬金術が得意な方──タブラさん辺りに変身すればすぐ出来る筈です」

そう言って私は金貨の詰まった袋を彼の前に出しました。
ユグドラシルの金貨は、この世界で使うのは色々と問題が出そうですが、形を変えて少しずつ売っていけば問題ないと思っています。当面の生活費は必要ですからね。
…勿論私のポケットマネーから、ですよ? この宝物殿程では有りませんが私の倉庫にも備蓄はありますので。

「畏まりました。では少々お待ち下さいませ」
「助かります」


こうして、私はこの世界で暫く遊べるくらいの資金を手に入れました。
…狡いですかね。
別に私は前の金貨に思い入れもありませんし、足りなくなれば適当なマジックアイテムでも換金しようとも思っています。


砂金袋を先程の荷物に入れていると、彼は躊躇いがちに、紫の布に包まれた物を渡してくれました。

「これは…。すみません、我が儘を言ってしまいましたね」
「─── 父上から話は聞いております。私も少々不安なのですが、さとり様のお願いと、結果的に父上の為になると判断した上です。良いですか?使用の際はくれぐれもご注意下さい」
「…はい。その点は十分気を付けます。危険さは私が一番知っていますから…
それでは、私はそろそろ行きますね」
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」

パンドラズ・アクターさんに見送られ、私は宝物殿を後にしました。



───────────────
さて、私の準備は出来ました。
うちの子達はどうでしょうか…

私が地霊殿の前で待っていると、こいしとお空が帰ってきました。

この子達… またアウラさんとこに遊びに行ってましたね。あの子も忙しいでしょうに。
私に気付くと二人とも子犬のように走り寄って来ました。

「あ。お姉ちゃん!もう出掛けるの?」
「こいし、お空。貴方達は準備出来たの?シャルティアさんやアウラさんに迷惑をかけてはいけませんよ」

私が咎めるような口調で言うと、こいしとお空は笑顔で返してきました。

「大丈夫だよ、お姉ちゃん!わたし達は特に持っていくものなんて無いから」
「はい!必要なのがあったら帰ってきます!」
「どうせ二日たったら戻ってくるんだしねー?」
「ねー?」

…そうでした。幼年組(?)にはアルベドさんが課した制限があるのです。

それは『外泊できるのは二日間』です。

シャルティア組とアウラ、マーレ組、そして私が対象です…
私達は外で活動していても特例が無い限りは三日目には一旦帰らないといけない事になりました。

子供ですか。

正直、私は精神的には大人なので勘弁して欲しかったのですが、アルベドさんからここだけは譲れないと言われた挙げ句、最終的にアインズさんを通して可決されました。

「そうでしたね。全く、面倒な。…では、私から役立ちそうな物を幾つか渡しておきましょう。まずは、お空。これを持っておきなさい」
「はーい!」

私はアイテムボックスから指輪を2つほど取り出してお空に渡しました。

「片方が治癒の指輪、もう片方が《伝言》の指輪です。お空、もし貴方が攻撃する事態になった際は、必ず誰かに相談しなさい。小攻撃ならアウラさんに、大攻撃以降は私かアインズさんから許可をとること。いいですね?」
「はーい!ありがとうございます、さとり様!」

ちなみに治癒の指輪は彼女自身のスキルでバックファイアを受けた時のフォロー用です。

嬉しそうに跳び跳ねているお空。この子光り物好きですからね。


そして、今度はこいしに向き直りました。アイテムボックスから取り出したのは先程パンドラズ・アクターさんさら受け取った紫の布にくるまれた物。
布を取ってみてると中には…何もありません。いえ、見えない、と言えば良いでしょうか。

「…こいし、貴方にはこれです。使い方は貴方はよく知っているでしょう?」
「───! いいの?お姉ちゃん」

私は取り出した物をこいしに渡しました。こいしは慣れた手つきで受け取った物を振り回して、鋭く風を斬る音を響かせます。それと同時にこいしの姿が徐々に薄れていき、最後は気配も殆ど消えてしまいました。

そう、私が渡したものは、あの世界級(ワールド)アイテム《歌姫の透刃》です。

こいしのスキル構成は元々このアイテムありきで成り立っている為、これ無しで外に出すのは少し不安でした。
なので、宝物殿に回収されたこの武器をパンドラズ・アクターさんに無理を言って持ってきて貰ったのでした。
…アインズさんの許可を得るのは中々大変でしたけどね。

「…普段は装備せずに収納袋に仕舞っておくこと。必要な時だけ装備して、使い終わったらまた仕舞いなさい。いいですね?」

私が言うと、こいしはどこかに武器を納めたらしくスッと姿を現しました。

「ありがとう、お姉ちゃん。大事に使うね!」

できれば使わないでいて欲しいのですが。


二人にあれこれ注意を促していると、お燐が二人の女性を連れて帰ってきました。

「ただいま帰りましたー。さとり様、あたい達も準備できましたよ」

お燐の後ろにいたのは、プレアデスの内ふたり、ユリさんとルプスレギナさんでした。
ルプスレギナさんは私と同行するので荷物は多目ですね。私と目が会うと一歩前に出て、会釈しました。

「改めまして、さとり様。プレアデスが一人、ルプスレギナと申します。この度はご同行の名誉を頂き、身に余る光栄。何卒宜しく申し上げます」

誰ですか貴方。
…ユリさんの前だから猫被ってるんですか。貴方狼の獣人でしょうに。
いつものフリーなルプーさんに慣れてるので少しやりにくいですね。

「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ルプスレギナさん。外に出たら旅の仲間になります。今から対等の関係としてやっていきましょう」

私が軽く提案すると。

「あ。じゃいつもので行くっす。さとり様は話が分かるお人っすね」
「ルプスレギナ!貴方はもう少し礼儀について考えろとあれほど… 申し訳ありません、さとり様」

良く言って聞かせますので、とユリさんは続けます。でも、私としてもこちらの方がやり易いので何とも言えませんね。


あれこれ話していましたが、時間もあまり無いので、さっさと出発しましょう。

残念ながらアインズさんは仕事が残っているそうで暫く出られないようです。その為、私が先行して街に入る事にしました。

行き先はエ・ランテル。
三重の城壁に守られた城塞都市だそうです。

《転移門》で近くまで跳んでも良いのですが、万一転移を見られたり、衛兵に移動手段を問われたりすると困りますので、面倒ですがカルネ村から馬車で移動する事にしました。

今日は丁度、商人の馬車が来るらしいのでそれに乗せて貰うことになっています。時間が無い、というのはそういう事なのです。
元々カルネ村にはお燐達の紹介も兼ねて挨拶に行くことになっていたので丁度良いでしょう。

「それでは、行ってきますね。こいし、皆さんの言うことを聞くのですよ? シャルティアさんは… よく見張っておきなさい」
「はーい!お姉ちゃん、お土産よろしくね!」
「いってらっしゃーい!」


そうして私達は《転移門》をくぐり抜けました。




────────────────
私にとっては久しぶりのカルネ村ですが… あんな防壁、ありましたっけ?

牧歌的な風景に合わない殺風景な木製防壁が、カルネ村辺りを囲んでいました。

私が頭を傾げていると、お燐が助け船を出してくれました。

「さとり様、あの防壁はエンリさんが呼び出したゴブリン軍団が村防衛の為村人達と協力して作った物ですよ」

ゴブ軍団…? あぁ、アインズさんがあの娘にあげたあの微妙アイテム… あれ、使ったんですね。只のジョークアイテムでしたのに、意外と役に立つものですね、侮れません。

お燐は何度か村にお使いに来ていたので、見張りのゴブリンと簡単なやり取りだけで中に通してもらえました。

…村の中は特に変わらないんですね。何故か安心しました。

ユリさんやルプスレギナさんはその間静かに私の後ろに控えています。
…ルプーさんは真面目な顔をしてますが(ここで突然村に火をかけたら楽しいっすねー)とか考えてますので要注意です。
ユリさんは子供達が遊んでいるのを見て少し嬉しそうにしています。顔には出してないのが流石ですね。

今更ながらユリさんはナザリックにおいてはかなり珍しい存在です。この友好的態度を見て私がカルネ村担当に推薦したのですが正解だったみたいです。

ナザリックでは普通、人間など良くて無視、悪ければ食料もしくはゴミ扱いです。でもセバスさんを筆頭に数人は人間に対して比較的優しいスタンスの方がいます。
ここら辺は当人のカルマ値が関係してるのでしょうか? 暇なときに他の人のカルマ値も気にして見ましょうか。
ちなみに私のカルマ値は、凶悪(-200)です。うちのボス骸骨の極悪(-500)よりはマシですね。


村長さんを呼んでくるよう頼んだのですが中々来ませんね…

代わりと言っては何ですが、エンリさんが畑の向こうからこちらにやって来ました。
後ろにゴブ軍団とネムさんを引き連れて…

「お久しぶりです、エンリさん。お元気そうで安心しました」
「さとり様…!あの時はありがとうございました。アインズさんにも何度か援助を頂いて、正直本当に助かりました」

ネムさんも私を見つけて駆け寄ってきました。

「さとりお姉ちゃんだ! …あ」
「こら!ネム! ───申し訳ありません、さとり様。ちゃんと言い聞かせたんですが…」

あぁ、あの時「お姉ちゃん」呼ばわりするな、と言ったのを覚えていましたか。でも今は不思議と気になりません。

私はかがみこんでネムさんと目の高さを合わせると優しく言いました。

「構いませんよ。…ネムさん、私は少しエンリさんとお話があります。あちらでお燐達と遊んでいて下さいね」
「はーい!」

いい子ですね。
頭を撫でたネムさんが走り去るのを見ていると、エンリさんも意外そうに私を見ています。

「…何か?」
「い、いえ。何も」

最初の時と印象が違いますか。そんなものですかね、自分では分かりませんが。

…少し気を入れ替えましょう。
私は意識していつもの無表情を作ると、再びエンリさんに質問しました。

「…村の外側も色々変わっていましたが、他に何か問題でもありましたか?」
「それは…」

ありまくり、みたいですね。
楽しいからご自分の口で現状を話して貰いましょう。

「アインズさんから頂いた角笛を吹いたらゴブリンさん達が出てきて… 村の防衛や力仕事までやって貰えて助かるんですけど、何故か私を主人扱いして命を預けてくるんです…!」

まあ召喚モンスターですからね。ある意味当然の事です。

「しかも、その反応を村の皆が見て、私がゴブリンさん達を統率してる様に感じてるみたいで。最近じゃ村長さんが私を次期村長にしようとしてくるんです」

あらあら。楽しくなってきましたね。

「仕方無くまず村の状況を調べたら、どうやっても人手が足りない事に気付きました。このままでは収穫が出来ず来年以降は持ちそうにありません…」

どうやらカルネ村の未来は暗いようです。アインズさんの予想通りですか。

しかし、その程度で滅んで貰っても面白 …ではなく、困りますから、ここは一つ手を貸してあげましょうか。丁度実験したかった事がありますし。

「そうですね。良ければ、人手だけでも私が何とかしましょうか?」
「ほ、本当ですか?誰か宛があるとか」
「えぇ。力仕事は何でもこなし、疲れ知らずで昼夜構わず働ける方達です。今回は試用期間と言うことで賃金も無料にしておきますよ。見た目さえ気にしないなら使ってみて下さい」

エンリさんは一二も無く飛び付きました。それがナニかも聞かずに。

「ぜ、是非お願いします!このままじゃ折角助かったのに飢え死にする可能性もありますから!」
「分かりました。お燐達に届けさせましょう。後程、彼等の働きぶりの感想を聞かせてくださいね」
「ありがとうございます!」

エンリさんに涙ぐまれる程感謝されてしまいました。
…後で、お燐を通してアインズさんにお願いしておきましょう。

死の騎士(デス・ナイト)を10体ほど村に送って貰うように。


あぁ、良いことをすると気分がいいですねぇ…



村に立ち寄った商人さんに村長さんがお願いして私達を乗せてもらいました。
行き先はエ・ランテル近郊。
意外と近いらしいのでお金とかは気にしなくて良いそうです。

私がエ・ランテルまで仕事を探しに行く、と聞くとエンリさんも不思議そうにしていましたね。
気持ちは分かりますが。
とりあえず他の人には他言無用としておきました。


見送りのお燐達やエンリさんに手を振り、私とルプーさんは馬車に乗り込みました。
狭いです…

到着まで馬車の中で本でも読んでることにしましょう。


………

……









酔いました。
最悪です。

馬車の中がこんなに揺れるなんて思いませんでした… 考えてみれば道も舗装されてませんし当然ですか。
おまけに馬の臭いはキツいし、幌の中は息苦しいし…

こういうのにLvは関係無いんですね。
今はルプーさんの膝枕で寝ていますが、この駄犬笑いを堪えてやがります。
治癒魔法のひとつでも使って下さい。
口を開けませんので何も言えませんが、後でしつけが必要ですね…

早く着いて…



────────────────

着きました…

言う気にもなりませんでしたが、一応商人さんにお礼を言うと、彼も申し訳なく思ったのか入り口の門まで連れて来てくれました。

去っていく憎き馬車を木陰で休みながら見送っていると、ルプーさんが話しかけてきました。

「大丈夫っすか?《病気治癒》でもかけときます?」
「…大丈夫です。地面で休んでたら少し楽になりました。…すみません、始めから情けない所をお見せしてしまって」
「いやいや、気にしてないっすよ。むしろ親近感が湧いたと言うか… 一般メイド達が言う事も分かるかなーって思ったっす」
「…?」

一般メイドが…? あまり接点は無いのですが。

「知らないっすか? さとり様とこいし様、結構メイド達の間でも人気っすよ。アインズ様は噂するのも畏れ多い方っすけどね。さとり様はクールで知的、こいし様は無邪気で親しみ易い、何よりお二人とも可愛いと騒いでますよ?」

…なんとも。
そんなことになっているとは。
…お世辞じゃ無いみたいですね。

前にアインズさんが「あいつらの高過ぎる評価が怖い」とか言ってましたが、今ならよく分かります。

…でも、そうですね。
期待には少し答えないと。

「…お待たせしました。そろそろ行きましょう、ルプーさん」
「無理しなくていいっすよ?なんなら先に私が受付しとくっすよ」
「そうもいかないでしょう。大丈夫です。この身体、回復自体は早いみたいですから」

私は立ち上がると貫頭衣で頭を覆って、街の入り口へと歩いていきました。



入り口では衛兵の方が門をくぐる人達をチェックしていました。

街の人間では無いのはこちらに並べと指示されて、向かった先では40代くらいの衛兵が受付を担当していました。
頭をすっぽり隠している私に訝しげな顔をして、外すよう指示してきます。

「まずは顔を見せてくれ」

言われた通りフードを取り軽く会釈しました。

「随分若いな。お嬢さん、何処から来て、此方には何の用事で?」

特に深い意味もなく事務的な質問のようです。私は前から考えておいた回答を言います。

「南の方から魔法の修行で立ち寄りました。占いも出来ますので、暫く滞在させて貰おうと思っています」
「成る程。変わった髪の色だが…」
「…生まれつきの魔力が強かった影響です。あまり注目されたくないので隠していました」

割りと適当な理由でしたが納得してくれたようです。

「そうか。修行、と言ったが君のような歳でか? 連れも女性一人のようだが、ご両親はどうした?」
「両親は元々いません。生来の魔力を見込まれて、とある魔法使いの師匠の元で暮らしていました。そろそろいい年齢なので修行がてら稼いでこい、と外に出されました」

驚いたようにこちらを見る衛兵さん。

「えらく厳しい師匠だな… 後ろの女性はその師匠の?」
「はい。お目付け役兼護衛です。彼女に何か聞いても無駄ですよ。契約で師匠の事は他言しないよう言われていますから」

注目されてニコッと笑うルプーさん。
…他の男の人も注目してますよ。

「そ、そうか。苦労してるみたいだな。よし、行っていいぞ」
「はい、どうも」
「あぁ、そうだ。すまんが待ってくれ」

…軽く舌打ちしそうでした。

「なんでしょう?」
「いや。名前を聞いておくのを忘れていた。すまんが規則だ。君の名前を言ってくれ」

「────」

固まる私。

そういえば、ナザリックを出る前にアインズさんに、
『外で活動する際は、念のため偽名を使いましょう。分かりやすいのでお願いします』
と、言われていたんでした!

後で考えようと、馬車に乗るまで覚えていたのですが… すっかり忘れていました。
ああぁぁ、急に言われても。

突然黙りこんだ私を、衛兵さんは訝しげに見ています。

…不味いです。こんな入り口で躓くとは思いませんでした。
えぇと…

「…どうした? 名前に何か問題でもあったか?」

えぇい!
適当に言ってしまいましょう!


「サトリーヌ…」
「えっ?」

「私は、サトリーヌと言います」

…ルプーさんが今にも吹き出しそうにお腹を抱えています。偽名になってないっすー!とか思ってますね。
おのれ。

「あぁ、サトリーヌ…と。下の名とかはあるのか?」
「…メイジです」
魔術師(メイジ)サトリーヌ、か。その歳で二つ名持ちか。凄いな。腕に覚えがあるなら冒険者組合に顔を出すと良いぞ」

かつて、モモンガさんのネーミングセンスは壊滅的だと皆で笑いましたが、もう私も笑えません…

「連れの方は護衛で、ルプー、と。よし、通っていいぞ。エ・ランテルへようこそ!」
「ありがとうございます…」


こうして、私は異世界への第一歩を踏み出したのでした。

顔を羞恥に赤く染めながら。



少し忙しく投稿が遅れて申し訳ありません。


九尾様、すたた様、誤字報告ありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第20話

さとりside

9/27 あとがきを修正。


門をくぐった私達はそのまま露店商の並ぶ道を進みます。

異国の街並み。
行き交う人々。

感慨深く見渡したい所ですが、さまざまな匂いと人間達の思考が私を呑み込みました。

あまりの情報量に頭がくらりとしました、また酔いそうです。おまけに隣の駄犬はまだ笑っていますし…

「プフー ! 咄嗟でもあの偽名は無いっすよ。 サトリーヌ様は面白いっすね。メイド達に良い土産話ができたっす」
「話したら冗談抜きで記憶を全部別物に上書きしてあげますからね…」

おお、怖い怖い。と、おどけるルプスレギナさん。貴方、気軽に、とお願いしましたけどちょっと砕けすぎじゃないですかね?

「それで、サトリーヌ様?」
「…別の呼び方でお願いします」
「では、お嬢?」
「それでお願い」

「んー。お嬢、先ずはどちらに向かうっすかね? さっきの衛兵の話じゃ冒険者組合とか言われてたっすけど?」
「冒険者はあの御方にお任せするつもりですが、下準備くらいはしておきたいですね。それと資金と住む場所は確保したいですし…」

突然まともな話を振ってくるルプーさんに、露店を流し見しながら答える私。
あの果物とか気になるんですけど、生憎今持ってるのはエンリさんからサンプルで貰った銅貨3枚だけです。

「1から稼ぐっすか? 手っ取り早くそこら辺でカツアゲしてくるっすよ?」
「やめておきなさい、私達が来てすぐ事件が起きたら真っ先に疑われます。…一応元手はありますよ。ほら」

路地裏を血で染める気満々のルプーさんを宥めつつ、私は懐から砂金の詰まった袋を見せました。結構な重さがありますね。

と、何気なく会話している私達ですが。

「…お気付きですか、さとり様。後ろに一人っす。只の雑魚っすね」

私にしか聞こえない声で伝えてくるルプーさんは満面の笑顔です。勿論、私はつまらなそうな顔で頷き返します。

…実は街に入って暫くしてから、数人に尾行されていました。もしや早々にこちらの正体がバレたか?と思いましたが、心を読んでみると只の追い剥ぎ目的でした。緊張してがっかりです。

どうやら田舎から出てきた世間知らずの娘と思われているようですね。まぁ、あながち間違いでは無いのですが。

とりあえず、ご希望通り大通りを抜けて寂れた方に進みましょう。
相変わらず下手な尾行を続ける男にイラついたのか、ルプーさんの声のトーンが少し上がりました。

「どうします?ここらでやっちまいますか?」
「もう少し我慢なさい、人の目があります。もう少し進めば向こうから仕掛けてきますから。ふむ… この先の路地裏奥と向こうの木陰にお仲間が居るようです。あっちは人気も無い様ですし、潰してきていいですよ」

私が許可を出すと「了解っす!」と嬉しそうに脇道に入るルプーさん、それを手を振って見送る私。
すぐ視界から消えたところを見ると《完全不可視化》でも使いましたね。
…派手な行動は禁止しておいたのですが、お手並み拝見ですかね。

「………」

後ろの男は、私が一人になったのをチャンスと見たのか一気に距離を詰めようと走ってきますが。

「…《誤認識》」
「───?」

無詠唱で魔法を小声で発動。
この魔法は敵に自分が狙われた際、別のターゲットに標的を移す幻術魔法のひとつです。

「───!」

まともに魔法にかかった男は私を認識出来なくなり、そのまま私を通り過ぎると、私の前を歩いていたお婆さんの手荷物を奪い取りました。

「な、何をするんじゃ!?」
「うるせぇ!」

突き飛ばされ石畳に転がるお婆さん。
…さて、私も傍観している訳にもいきませんね。

「《茨の束縛》!」

私の手から棘の生えた蔓が勢いよく伸び、まず男の足を捕らえ、倒れた男の全身を茨が束縛しました。

「う、うおお!痛っ!なんだこりゃ!?痛ぇぇえ!」

痛みで敵を拘束する中級魔法です。流石に真っ昼間から即死させるわけにもいきませんからね、手加減しました。

「おお!助かったぞ。お主、魔法詠唱者か。見たこともない魔法じゃが… 見事な腕前じゃな」

荷物を奪い返せたお婆さんが嬉しそうに私に話しかけてきました。

「…いえ、それほどでもないです。それよりこの人を」
「あぁ、そうじゃな。…誰か!早く衛兵を!」

突然の出来事に騒然としていた周囲ですが、お婆さんの一喝に我に返ったのか、すぐ誰かが大通りの衛兵を連れてきました。魔法を解くと同時に男はお縄です。お疲れ様でした。


「全く、油断も隙もありゃしないよ。近頃はこの街も物騒になってきたもんじゃわい。改めて礼を言うぞ …お主、もしや旅の人かい?さっきの声は随分若いように聞こえたがのう」

私は深く被ったローブを少しずらし顔を見せると、お婆さんに改めて挨拶しました。

「ご無事で何よりでした。私はさきほどこの街に着いたばかりで右も左も分かりません。それでもお力になれて良かったです。 私の名は ── サトリーヌと申します」
「おお、これは、思ったより若いのう。だが腕前は確かじゃ。恩人に立話も申し訳無い。近くにわしの知り合いがおるし、そこで少し話さんかね?丁度そこに用もあるんじゃ」
「えぇ、大丈夫ですよ。 …えぇと」

名前を聞きたいとアピールする私。いえ、まぁ。分かるんですけどね。さっきから心覗かせて貰ってますし。

「あぁ、これは申し訳無い。わしの名は、リィジー・バレアレ。これでもこの街ではそこそこの薬師なんじゃよ」





────────────────


案内された先は、なんと冒険者組合の本部でした。結局、冒険者組合に来ることになってしまうのですね…

今私達はお婆さん、リィジーさんに連れられて組合長の執務室に向かいました。

ルプーさんはあの後すぐ合流しました、体からうっすらと血臭を漂わせながら。…困った子ですね、後で後始末の確認だけしておきましょうか。


組合長 ─── プルトン・アインザックさんは、リィジーさんの訪問だと聞くとすぐ部屋に通してくれました。全員が大きいテーブルの椅子に座るとリィジーさんが荷物の中から小瓶を取り出しました。

「待たせたかな、組合長殿。これが頼まれていた改良治癒薬じゃ。確認しておくれ」
「あぁ、わざわざすみません、直接お持ち戴けるより使いの者を寄越しましたのに。…聞けば何か危ない目にあったとか」

荷物は治癒薬だったようですね。割れてなくて良かったです。

「あぁ、全くじゃ。…大方、どこぞの薬師崩れか競合店が改良治癒薬の話を嗅ぎ付けてチンピラでも使って奪おうと企んだんじゃろうよ。フン!下らん連中じゃ」

あまり気にはしていないようです。強かなお婆さんですね。どうやら当人もそこそこの魔法は使える様ですし、私が手を出さなくても捕まえていたでしょうね。

「ところでリィジー殿、そちらの方は?」
「うむ、先ほどの一件で世話になった娘じゃ。年の割に見事な魔法の腕じゃったぞ。エ・ランテルに来て間もないと言うので連れて来たのじゃ」
「ほう、それはそれは…」

組合長はそこで私に不躾な視線を送ってきました。その目は実に歴戦の戦士といった感じです。
ルプーさんが静かに(なにガンつけてんすかねー?)と怒っていますが。
早く挨拶して話を進めましょう。

「はじめまして、プルトンさん。私の名は… サトリーヌ・メイジと申します。魔法は父代わりのお師匠から教わりました。…あちらの女性はお師匠につけられた護衛みたいなものです。お師匠については… すみません、修行の一環で家の名は出してはいけない決まりなものですから」

と、ルプーさんに視線を送ります。

「どもども。親しみを込めてルプーさんと呼んで欲しいっす。お嬢の世話役とかしてるっすよ。雇い主についてはノーコメントな契約なんでヨロシクっす」

「あ、あぁ、分かった。ところでサトリーヌ殿達はどの辺りまでの階位を使えるのかね?熟練した魔法詠唱者の存在は本当に貴重でな」

私は別に冒険者になるつもりも無いんですが… どうにも人手不足なようですね。

「私もルプーさんも第3階位までは問題なく扱えます。ですがすみません、私は特に冒険者になるつもりもありません。私、戦いは苦手なんです」

私の答えに残念そうな表情を浮かべる組合長さん。魔法詠唱者は本当に貴重らしいですね。元の世界では最低でも第8辺りでないと役に立たなかったものですが。

「組合長よ、あまり無理を言うでないぞ? わしはあくまで紹介程度のつもりで連れてきたんじゃからな」
「そうか… 苦手なら仕方ない。せめて登録だけでもしていってくれんかね、代わりに色々と融通が利くよう取り計らうのでな」

まぁここまで言われて断るのもあれですね。冒険者登録しておけば必要なときにアインズさんに同行できそうですし。
向こうも向こうで登録したからと言って実績も無く昇格するつもりも無さそうです。

「…分かりました、登録をお願いします。何かお力になれそうな時は言ってください」
「うむ、非常時は頼むかもしれん」

話題が落ち着いたところで今度はリィジーさんが口を開きました。

「ところで、冒険者でないなら何で金を稼ぐつもりじゃ?魔法薬でも売る気かね」
「魔法薬は私も専門外ですね。そういえばまだ言ってませんでした。…私は、占いを専業とさせて貰っています」

「占い、か」
「占い、のう」
おや。お二人とも急に胡散臭い物を見る目に変わってますよ。まぁ、無理もありませんけどね。

「えぇ、占いです。と、言っても預言とか世界が滅ぶ、とか大それた物じゃないですよ? 精々失せ物探しとか明日の天気、近い未来の吉凶とかです。試しにお二人も視てみましょうか」

と、言って私は携帯鞄から水晶球を取り出して、机の上に置きました。

「ほう、見事な水晶球じゃのう。そこまで美しい物は滅多に見掛けんぞ」

すいません、これうちの倉庫に転がってた物です。

「では失礼して。まずはリィジーさんを視させて貰いますね。んー…」

少し間を置きつつ、私はゆっくりとリィジーさんの心を視ます。
なるほど…

この人、魔法薬狂いですね。使う方ではなく、作る方の。優先度は魔法薬が一番で、次が…

「…お孫さんがお一人いらっしゃいますね。同じ様に魔法薬の作成に携わっていると。…でも最近、行き詰まっていますね?」
「…なんと。そこまで分かるのかい?」
「………」

組合長さんは冷静ですね。この程度なら街の有名人なリィジーさんの情報として簡単に手に入る、と。

「…そうですね、意外と近い将来、新しい治療薬のヒントになるものが見付かるかも、と出ています。…こんなところでしょうか」
「本当か!?わしはここ数十年、試行錯誤を繰り返しておるんじゃぞ。それを突破できる何かが見つかるというのか…」

しかし、私は首を振って答えます。

「すみません、あくまで未来の占いですから、いつ何が、とまでは分からないんです。見落とさないように、でも気長に待っていて下さい」

リィジーさんは、ウムム…と唸って黙りこんでしまいました。

私は組合長さんに顔を向けると、

「…では貴方も視てみましょう。えぇ、別に遠慮なさらずとも。すぐ済みますから…」
「いや、私は別に、おい、待て…」

構わず、私は占い(仮)を続けます。
ふぅむ…

彼も元はそこそこの名の知れた冒険者だったようですね。
彼の目下の悩みは、近々起こるであろう王国と帝国の戦争、それに伴う治安悪化。近隣の野盗達の悪質化、邪教集団の暗躍。モンスターや亜人種の横行。
…きりがありませんね。この街も何気に詰んでいませんか?

「…ご苦労、なさってるみたいですね。この街を囲む様々な暗雲が見えます。この問題は中々解消出来ないでしょうね」

彼は苦虫を噛み潰した表情で私を睨みます。

「─── 分かるか。 …あぁ、そうだ。君をスカウトしたのもそれが理由だ。ここ最近は不安要素ばかり増え続けるのだ。全く頭が痛いな」

なるほど。
なら、ここらで売り込みでもしておきますかね。

「…でも、その中でひとつ大きな光が見えます。それは数々の暗雲を払う剣となるでしょう」
「…!それは一体?」
「そこまでは。しかし、近々この街に新たな英雄が誕生するのかもしれません。精々、他所の組合に奪われぬよう気を付ける事ですね」
「………」

こちらも黙りこんでしまいました。まぁ、ふんわりとした言い方をしましたからね。

私としては「黒い鎧の男は超強いから崇め奉りなさい。そうするとよく働くから」と言いたい所ですが、あまり直接的過ぎると怪しまれますし。


「では、私はこれで。組合長さん、リィジーさん、ありがとうございました」

頭を下げて退出しようとする私をリィジーさんは慌てて止めます。

「待て待て! …お主、行く宛はあるのかい? 占いを商いにするにも場所が必要じゃろう? 」

んー、そこら辺を悩んでいたのですが。
すると、リィジーさんは素敵な提案をしてきました。

「実はな、わしの店の近くに最近空き屋なった店舗があるんじゃ。わしが口を利けばすぐ使えるじゃろう。勿論それなりの貸賃は必要じゃが…」
「それは助かります。換金すれば手持ちもできますので大丈夫です」
「なら決まりじゃ!早速行くとするかい」
「…でも、良いのですか?私なんかをそんなに信用して」

私、人間じゃないんですよ?

「構わんよ。老い先短い老人にささやかな希望をくれたんじゃからな!」

実は、私からもっと情報を得れれば、とも考えてるみたいですけど。
でも、嫌いじゃないですよ?そんな元気な考え方は。

「では、よろしくお願いしますね。リィジーさん」



────────────────


あのあと、私は組合の換金所を通じて砂金を換金し、かなりの量の金貨を手に入れました。暫く遊んで暮らせる量です。

まだ砂金の山は残っていますし、無くなったらルプーさんに交換に来て貰いましょう。

次に空き家も案内して貰いました。こじんまりとした建物ですが、私には十分です。賃料も随分良心的で、外側も手直しの必要がありませんでした。お店の奥は小さい居住スペースになっていて三人位なら生活できそうです。

契約の際、名前、というかこの世界の字が書けなかったのは焦りましたが、そこはあえて日本語で書いて「異国の字です」で通しました。気付かれたらその時です。

気付いたらもう夕方、そろそろ日が沈みます。今日も濃い一日でしたねぇ…

リィジーさんにお礼を言って別れると、私は自分のお店に入り、感慨にふける間も無く一旦ナザリックに《転移門》で帰還しました。

「ただいま、お燐」
「さとり様!? お早いお戻りですね」
「…別に任務失敗じゃありません。向こうの拠点が決まったので誰か手を貸して貰おうと思いまして」

失礼な。出戻りみたいに思わないで下さい。

「あぁ、そうなんですね。では私が手配して来ますので、さとり様は中でお夕飯でも召し上がってお待ち下さい」
「悪いわね、お燐。 …あぁそうでした、向こうにルプーさんを待たせていますからレイアウト等は彼女に聞いて下さい。…その時、何か食べ物を持っていってあげてね」
「わっかりましたー!」

お燐はピシと敬礼して走り去っていきました。 あの敬礼、誰の真似ですかね。もしかしてナザリックで流行ってきてるのでしょうか?

…早く外に出れると良いですね、アインズさん。

その日は結局、地霊殿の自分のベッドで眠りました。






次の日。

現地に戻ってみると、お店の中はどこに出しても恥ずかしくない見事な占いの館になっていました。
いつの間に…

どうやらプレアデス達や他のシモベの皆様が一晩でやってくれたようです。
そんな急ぐ必要も無かったのですが。

「ありがとうございます、皆さん。お休み中のところご迷惑をお掛けしたようですね」

私が頭を下げると、ユリさんが慌てて止めました。

「そんな!さとり様の頼み事とあれば、ボク… 私達は光栄に思う事こそあれ、迷惑になど思う訳が御座いません!」
「そうっすよ!さとり様にはここで大手を振って頑張って貰いたいっす!」
「ルプスレギナ!その口の聞き方はなんです!」

…まだ朝ですから、あまり騒がないで欲しいですね。

「いいんです、ユリさん。ルプスレギナさんはとても良くやってくれてます。それでは、また何かあればお願いしますね」

とりあえずフォローすると、彼女達は頭を下げて《転移門》で戻っていきました。


「ふぃー。ありがとうございます、さとり様。ユリ姉の説教はいつも長いから助かったっすよ」
「こちらこそ。お陰で今日からお仕事始められそうです。…もう少しゆっくりしたかったんですけどね」

私が少しトーンを落として言うと、ルプーさんは楽しそうに言います。

「フヒヒ!残念でしたっすね。それでお嬢、お仕事と言っても何から手をつけるっすかね?」
「そうですね… では、ルプーさんは呼び込みをお願いします。適当に暇そうな人を連れてきて下さい。後は私がなんとかします。人数は、そうですね。5、6人といった所ですか」
「本当に適当で良いっすか?何か悩んでるとかでもなく」
「適当でいいですよ。今回は色仕掛でもいいくらいです」

流石に驚いたのか、目を丸くして問い直すルプーさん。

「マジっすか!?さとり様までそんな事するのはちょっと…」
「勘違いしないで下さい!お店の中に誘い込むだけです!貴方も周りの目には注意して下さいね」
「了解っすー」

(うわー。男胸同盟の人が怒ったっすー)とか考えながら外に出ていきやがりました、あの駄犬。いつかシャルティアさんとお仕置きしましょう。





暫く待つと「お一人様御案内っすー」と声がかかり、誰かお店に入ってくる気配がしました。

「おいおい… 相手してくれるのはお嬢ちゃんかよ。まぁ構わねぇか、料金はタダなんだろ?」

なんという人を連れてきますかね。
入ってきたのはムサい髭面に傷のある、いかにもな職種の中年男性客でした。下品な笑いを下品な顔に浮かべて下品な事を考えています。

「…最低ですね、その顔でロリコンですか。鏡を見てから出直して下さい」

思わず声に出してしまいました。

「… 何だと!てめえ!」
「あぁ、煩い。《支配》」
「───」

あっさり魔法にかかり立ち竦む男。
…まぁこんなのでも一応客ですし、さっさと処理してしまいましょう。

私は次の魔法を詠唱します。

「…《記憶操作》」

この魔法で記憶の書換をします。書き換える内容は、秘密の悩み事をここの占いで解決、悩みも無くなり気分スッキリ、ですかね。悩みの内容は秘密、当人も思い出したくない、としておきましょう。

終わったら店の外まで歩かせて、暫くしたら《支配》を解除、と。

これで完了です。後は気分の良くなった彼が適当に宣伝するでしょう。そして放っておいてもお客がくると言う寸法です。

…しかし、《記憶操作》の魔法ですか。 随分大量にMPを消費しました。こんな燃費の悪い魔法でしたっけ…?
私ですら連続使用は辛いかもしれません。

「次のお客様っすー!」
「はい、どうぞ」

とはいえ、始めた以上はもう少し続けないと外で頑張ってるルプーさんに悪いです。

私は再び《記憶操作》を詠唱しました。




─── 次で、8人目。
不味いです。次唱えたら流石の私のMPも尽きます。

「次ラストっすー」

うーん、あたまいたい…
でも最後ですし、MP0にするつもりで唱えてしまいましょう。

「《記憶操…》」


あっ。

MPがゼロになるのと同時に。

私の意識は、暗転していきました。

薄れゆく意識のなか、私は。

(MPが無くなると気絶するんですねぇ。侮れないなぁ異世界…)

と、考えていました…






今回の独自魔法、設定
《誤認識》… パーティーで使うと人間関係すら崩壊しそうな魔法。覚える価値無しとか言われそう。

《茨の束縛》…拘束中の相手に割合ダメージ。こいしちゃんの得意魔法。実は第7階位魔法。マイナー魔法なので適当に使ったさとりさんですが、バレたらどっかのお爺ちゃんがペロペロしにくるぞ。

MP0で気絶…精神と直結しているので大きくマイナスされると気絶、という設定でお願いします。


真夜蒼様、ペリ様、誤字報告ありがとうございます。

ご意見、ご感想お待ちしております。


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