高校生バイトスタッフです!よろしく!! (あまのじゃく)
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これから頑張ります!

誤字、脱字、間違った表現等がありましたら教えてくださいお願いします。できれば最後までお付き合いください。


春、それは終わりと始まりの季節。

涙と笑顔。悲しみや寂しさと喜びや期待。

様々な思いや出来事が集まり、混ざる。

良くいえば賑やかで彩やか。

悪くいえば騒々しく無統制。

そんな季節。

電車の中から見える外の景色は緑豊かで、

これから新しい生活を迎える人々を見守っているようにも見える。

いや、もしかしたらこれからも変わることのない日常を送る社会人を嘲笑っているのかもしれない。

…と、まぁ、偉そうにかっこつけて語っても、ただの一般人てある自分も周りの大多数と同じでこの春に中学を卒業し来週に高校へ入学する。

今電車に乗っているのは、高校に入学してからバイトをすることになっている親戚のもとへ向かっているからだ。

詳しく話は着いてから話すと言われているから細かい事は知らされてない。

 

怪しいバイトだったらどうしよう…。

 

もうすぐ降りる予定の駅に着くというところで徐々に不安が込み上げてきた。

不安を紛らわすために時計を見ると。

時計の針が午前の10時を、過ぎる少し前だった。

 

「おっと、予定の時間ギリギリだ。急がないと」

 

急いで階段を駆け上がり改札を出る。

駅前の広場で待ち合わせをしたのですぐわかるはずなのだが、広場に着いても見慣れた叔父の姿が見当たらない。

 

「おかしいな。場所間違えたかな…?」

 

キョロキョロと辺りを見回していると

 

「おーい!こっちだー!」

 

叔父が必死にこちらに手を振っていた。

 

「久しぶりだね。いやー、大きくなったなぁ…」

 

「叔父さんは、変わらないですね」

 

「お、言うようになったねぇ…。まぁ、立ち話もなんだしせっかく来たんだ。私の家に寄って行きなさい。」

 

「はい。お言葉に甘えて」

 

広場から数分歩いた所に叔父の家はあり、すぐ近くに楽器の専門店やライブハウスがあった。

 

「やけにここら辺には、音楽関係の建物が多いですね」

 

「あぁ、この町はバンドを組んでる子供達がたくさんいてね。ちょっとした変わった名物みたいなものだよ」

 

「へ〜。それは知らなかったです」

 

「面白いだろ?あ、ふつうに座って待っててくれ。すぐお茶を入れるから」

 

「ありがとうございます。急がなくても大丈夫ですよ」

 

叔父の家は一軒家で、奥さんと暮らしている。

子供(つまり従兄弟)は息子が1人いて、今は1人立ちして新社会人として東京で働いている。

 

「今日はバイトについて話すんだったよね?」

 

「はい」

 

「さっきこの町にはバンドが多いと言ってだろう?実は私もライブハウスを経営していてね。君にはそこで働いて貰う。」

 

へ〜ライブハウスねぇ…

 

「楽器や音楽についての知識はあるかい?」

 

「いえ、無いです……っていうかライブハウスでバイト!?無理ですむりむり。俺にはそういうことに対するセンス?みたいなものがないんですよ!」

 

「大丈夫、大丈夫。知識が無いのは承知のうえだから。それに…」

 

「それに?」

 

「それにもし、ここでバイトしてくれるなら…高校卒業後に正式に雇うし、私が歳をとったら君に私のライブハウスを丸ごと譲るつもりでいるんだ。」

 

「え、つまりそれって…」

 

「あぁ、就職先決定&未来の経営者だ。もちろん君にその気があればだけれども」

 

「うっ…でも音楽とかに関する知識不足はどうするんですか?」

 

「そりゃぁ、全部覚えて貰うよ。あたりまえだろう?」

 

「うぅ…」

 

就職先決定ははっきり言って魅力的だ。

特にやりたい事もないし。

だけど全部覚えるってかなり辛くないか?

揺れているのを見抜かれたか、叔父が畳み掛けてきた。

 

「まだ悩むか…。それなら、あと1つ」

 

「何ですか?」

 

「バンドの殆どが女の子のグループだ。つまりガールズバンドのかわいい女の子と仲良くなれるぞ?殆どが女子高生くらい。君とほぼ同年代だね」

 

「やります。今決めました。男に二言はありません!全力でやらせていただきます!!」

 

「お、おぉ。ちょっと引くぐらい食いついてきたな…」

 

叔父は少し驚いたがすぐに嬉しそうに笑った。

 

「頑張ります!」

 

「そうかそうか…。じゃ、今日からこの本を読んで全部覚えてきてくれるか?その後はやりながら覚えていこう。あ、あと高校入学後からは私の家に住んでもらうから。よろしくな?大丈夫だ。許可はちゃんととってある。部屋は2階の部屋を使ってくれ。荷物は私が取りに行こう。」

 

そう言って叔父は楽器とその説明が載ったおかしな位に大きく分厚い本5冊と、それとは別に様々な機材の大まかな使用方法と用途が載った本をテーブルの上にだした。

 

え、多くない?

 

「は?え?ちょっと?」

 

来週から叔父の家で暮らす?これ全部覚える?

無茶だろ…?

 

「え、そんなのむr」

 

「男に二言は?」

 

叔父がまっすぐこちらを見てくる。

 

「…ありません(泣)」

 

腹を括るしかないか…



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「さて…さっそく始めますか」

まだキャラ出ないので主人公分が多いです。
たぶん次くらいから出します。


数十分程経ってから、叔父の家を出た。

行きは電車で来たが、荷物の量が流石に多いので帰りは叔父が車で送ってくれることになった。

叔父は車の中で、

なぜライブハウスを経営し始めたのかとか、

客が思ったより来なくて困ってるとか、

従業員のまりなさんっていう人のこととかを話してくれた。

最後にもうすぐ家に着くというところで「言った通りちゃんと覚えてくれよ?働けなかったら給料出ないからな?」と冗談を言ってきた。

 

…もしかしたら冗談じゃない?

 

「わかってますって。頑張りますよ」

 

叔父の冗談に軽く返事をして荷物を持って車を降りる。

 

「思ったより重いな。明日からこれ全部覚えないといけないのか…」

 

幸いなことに春休みでは

課題が殆ど無いため時間はたくさんある。

問題はやる気が続くかどうかだが、

将来と女の子のためだ。

頑張るしかない。

 

一応母に今日のことをしっかりと話し、

叔父からちゃんと話を聞いているかを確認した。

もし伝わっていないことがあったとして、

それが原因で問題事が起きると面倒だ。

 

「報・連・相」は社会人…いや、人としての基本だしね。

 

「ライブハウス丸ごと譲るなんてきいてないわよ?」

 

…あれ?「報・連・相」は?

 

「えっ。もしかしてだめ?そしたら凄い困るんだけど…」

 

マズイ。それはマズイ。つい1時間程前に考えた人生設計が崩れることになってしまう。

 

「絶対だめってわけではないけど、やっぱりしっかり話さなくちゃ。ライブハウスを丸ごと渡すなんて幾ら何でもちょっと…」

 

「よかったぁ…」

 

まぁ、これは正しい対応だと思う。

こんな大きなことは口約束で簡単に済ませる様なことではないし。何より自分の子供将来が決まるのだ、ちゃんと話をしたいだろう。

 

「わかった。叔父さんに伝えとくから」

 

「うん、よろしくね?」

 

叔父にメールで母との会話の内容を伝える。

ついでに嫌味も付け加えて置いた。

それくらいは許されるだろう。

 

思ったよりも早く返信が帰ってきたので見てみると。

叔父からのメールには、把握したという旨の言葉と軽い謝罪が書かれていた。

今度ご飯を奢ってくれるらしい。

 

「ハハッ。もので釣ろうってのは叔父さんらしいな」

 

叔父に「わかった。美味しいとこに連れて行ってください」とメールを返し、母にも伝える。

これでそのうち両親と叔父で話し合いをしてくれるだろう。

 

「さて…さっそく始めますか。楽器と機材、どっちに手をつけようか。楽器は単純に量が多くて、機材は色々と難しそうなんだよな…」

 

やはり機材だろうか。楽器は自分が弾くわけじゃないからメンテナンスとか引き受けた時のための知識として覚えなければいけないのだろうが、機材はライブの度に使うので、必ず必要になるはずだ。

 

「やっぱり機材だ。機材にしよう。いつか使う知識より、必ず使い続ける知識だ。それに、単純にやりやすそうだしな。楽器とか覚えるの大変そうだしな」

 

途中からちょっと本音が出てしまったが

やる気があるのには変わらない。

まずは一通り読むことから始めよう、

読み終わったら今度は書き写して覚える。

2回か3回やれば覚えられるだろうから機材は2日、

楽器は5日で覚えられるだろう…。

たぶん、きっと。多少の不安あるがやるしかない。

 

リュックの中から本を出し、心の底からやる気を出し、

表紙を開こうとした瞬間。

 

「お昼できたわよ〜」

 

…そう思うようにはいかないらしい(笑)

 

「今行く〜!」



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「えっと、その、調子に乗りすぎました。ごめんなさい」

投稿遅れてごめんなさい。
やっと課題とテストと部活がひと段落つきました…
深夜テンションで急いで書いたのでちょっとおかしい所があるかもしれないです。


あれから5日たった。

 

「終わった…終わっのだ……!参考書はついに我が努力と煩悩の前に去ったッ!所詮こんなのはただの紙だぁ!」

 

無理のしすぎで自分ちょっとテンションがhighになっている気がしなくもないが問題ない。今なら空だって飛べそう。

 

「ちょっと〜!大丈夫?急に大きな声出して」

 

驚いた母が台所から声をかけてきた。

 

「…はっ!俺はいったい何を言って…へーきだよー!自分との戦いに勝ってちょっとテンションがhighになってただけだから〜」

 

「そう。ならちゃんと叔父さんに連絡しときなさいよ?明日の内に身支度済ませて向こうに行かないと行けないんだから」

 

「え、うそ。まだ学校の制服とか全然準備してない…」

 

「そんなことだろうと思って、昨日の内に準備しといたわよ。あなたが頑張ってるのはちゃんと見てたから」

 

「えっほんと!?」

 

「ただし、学校関連の準備しかしてないから引越しの準備は自分でやりなさい」

 

「イエスマム!」

 

母のお陰で残りのやることは引越しの準備だけになった。

 

「ちゃんと見てたから」か、なんか嬉しいな。

 

胸の奥にあたたかいものを感じなら引越しの準備を始める。まずは持ち物を整頓しなくてはいけない。5分、10分、1時間と時間が経つにつれていろいろな物が出てきた。卒業、卒園アルバム・やるのが面倒くさくて隠蔽した課題・初めて採った100点のテスト・家族で出かけた時の写真・昔買って貰った絵本やおもちゃ・友達が誕生日にくれたいろいろな物も。

 

「…言葉にしづらいけど…なんか切ないな」

 

気がつくと部屋中は懐かしい物で溢れていた。どれも大事なものばかりで正直全部持って行きたい。

 

「これ全部持ってっていい?」

 

「何言ってんの…無理に決まってるでしょ」

 

「ですよね〜」

 

「じゃダンボールに詰めて置いていくのは?できれば捨てたくないんだけど…」

 

「わかったわ…。あなたはほんとに物を捨てたがらないわよね」

 

そう言うと母はダンボールを持って来てくれた。

 

「別にいいじゃんか。どれも大事なんだよ…特に人から貰ったものとかは」

 

「わからなくはないけど、全部溜め込み続けると耐えきれなくなっちゃうわよ?あなたの心も、我が家の床板も」

 

「あははっ。気をつけるよ」

 

母の冗談に適当に返事を返しながらダンボールに詰め始める。

 

「あとは自分でやるからもう大丈夫だから。家事に戻って平気だよ」

 

「そう。じゃ、頑張ってね」

 

 

 

…3時間後

 

 

 

「終わらない…明日の朝の内に叔父さんとこ行かなきゃ行けないのにこれじゃ間に合わないかも…」

 

時計の針は2時を過ぎていた。身支度に夢中になっていたせいか時間が過ぎていたことに気づけなかった。

 

「明日だと思っていたらもう今日になっているとは…やばいやばいやばい…急がないと間に合わなくなる!」

 

 

 

…2時間後

 

 

 

「終わった〜!これでもうやることは無い!自由だ!!…ってもう朝じゃん」

 

入学式前に叔父の家に行かなければいけないので朝の支度も急がなくては行けない。結局ギリギリである。急いでまとめた荷物を持って階段を駆け下り、リビングに荷物だけ置いて洗面台の前に立つ。顔を洗って歯を磨き、母が用意してくれた朝食を食べて持ち物の確認をする。

 

「忘れ物無し!寝癖も無し!しすてむおーるぐりーん!!」

 

「じゃ車乗って」

 

「りょーかい!」

 

ああ、なんだかワクワクしてきた!これから高校生活が始まるんだ!

 

 

40分程経って叔父の家に着いた。

 

「おはよう。着いてすぐでなんだが荷物だけ置いて早く学校行ったほうがいい。学校に車で行く親が多いらしいから急がないと駐車場の空きが無くなるぞ」

 

叔父の話を聞くと母は血相を変えて支度を始めた。

 

「急ぐわよ!」

 

「あっ、は〜い!それじゃ叔父さん行ってきます!」

 

「ああ、いってらっしゃい。」

 

荷物は叔父に全て任せて急いで車に乗る。

 

「早くシートベルト絞めて!」

 

「あっはい」

 

何もそんなに急がなくてもいいんじゃないかな…もし駐車場埋まってても近くの別の所に停めればいいじゃないか。それにこんなにスピード出してると

 

「ぐふッ」

 

ブレーキでベルトがきつく締まって痛いから…

 

腹部を強く圧迫するベルトを緩めながら外を見ると、1人の女の子が走っていた。

 

「ねぇ、母さん。あの制服ってさぁ」

 

「花女ね」

 

「なんか必死に走ってるけど大丈夫かな?」

 

入学式が始まる時間までまだ余裕があるこの時間帯に走っているということは、2年生か3年生だろう。

 

「ねぇ、俺の高校まで行く途中に花女通るよね?あの娘乗せていけない?」

 

「何言ってんの!?見ず知らずの女の子車に乗せるとか何考えてるの?そもそもそんなことしてたら駐輪場の空きがなくなっちゃうわよ」

 

「いや、でも。あの水色サイドテールの女の子なんか凄い泣きそうな顔してるから…」

 

「あっ…」

 

母も少女の顔を見たのだろう。思わず声を漏らし困った表情をしていた。

 

「流石にあんな顔してる女の子を知らんぷりっていうのはちょっとアレなんだけど…」

 

「………」

 

母は少し悩んだあと車を歩道に寄せはじめ、助手席の窓を空けようとした。

 

「ちょっ、ちょっと!俺に声かけさせんの?初対面の…しかも!泣きそうな女の子になんてどう声かけたらいいか分かんないよ!?」

 

「あなたが言い出したんだからちゃんと最後まで責任持ちなさい!」

 

「そんな…」

 

へいそこの彼女〜。とでも声かければいいんだろうか…それではただのナンパである。

 

「あ、あの〜」

 

「ふぇぇっ!だ、だれですか?」

 

「ふぇぇっ」だって!かわいいなおい!

 

「いや、あの、急いでるようなので車に乗って行かないかな〜って。その制服って花女ですよね?目的地の途中に通るのでよかったらって思ったんですけど」

 

「えっ、でも、そんなの悪いですよ…」

 

ああ、もう天使かこの人!どんだけかわいいんだよ!妹にしたい!!

 

「全然大丈夫ですよ。むしろ早く乗ってくれないと逆に困るんで…」

 

「そ…それなら…お願いします」

 

青い髪の少女には後ろの座席に座ってもらった。

 

「えっと…あなたの名前は?」

 

「松原花音です」

 

「花音さんね…うん、かわいい名前ですね。降ろす場所は花女の校門前で大丈夫ですか?」

 

「はいっ。ありがとうございます」

 

遅刻する心配が無くなったからか少女の様子は先程より落ち着いていた。これなら少しは話しやすいかもしれない。このまま会話が続かないと気まづいので気になっていることをきいてみる。

 

「なんで遅刻しそうになってたんですか?」

 

「えっ、な、なんで遅刻しそうだってわかったんですか?」

 

「いや、だってあんな泣きそうな顔して走っていたら多分誰でも気づきますよ?」

 

そう言うと花音さんは恥ずかしかったのか顔を赤くして俯いてしまった。きっと自分の表情に気づけないくらい必死に走っていたんだろう。

 

「あっ、う…」

 

あああああほんとにかわいい!こう、守ってあげたくなるのと同時にいじめたくなるようなかわいさだ。うん、いじめたい。そして涙目になったとこで頭よしよししたい。なんてことを考えていると

 

『いじめちゃおうぜ…?そしたらもっとかわいい表情見れるかもよ?』

 

なんか顔の横に悪魔が出てきて俺の事を誘惑し始めた。

顔の近くでふわふわと浮いているためとても邪魔である。

ふと、もしかしたらと思って逆側を見てみたがそこには本来いるべきはずの者はいなかった。……俺には天使はいないのかよ。

 

「それで、なんで遅刻しそうだったんですか?もしかして寝坊とかです?」

 

寝坊と聞いた瞬間、「ギクッ」と花音さんが反応した。それを見逃さず追撃をかける。

 

「あっ、それはないですよね!流石にもう高校生ですし、今更寝坊で遅刻なんてしませんよね!寝坊なんて小学生までですよね〜」

 

花音さんは顔をさらに真っ赤にして「う〜〜〜」と呻き声をあげて更に深く俯いた。

 

~こうかはばつぐんだ!~

 

あっ、やばい!かわいい!なんだこの生き物超かわいい!!

 

なんて思っていると運転席に座って運転している母に殴られた。

 

「いい加減にしなさい!女の子をそれも初対面なのにいじめるんじゃありません!!」

 

「いっったい!……お願いだから少しは加減して…」

 

「口が減らないならもう1発…」

 

「ああああああ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

「謝るのは私にじゃないでしょう」

 

「はい…」

 

母が拳を収めたのを確認して後ろの席に向き直る。

 

「…えっと、その、調子に乗りすぎました。ごめんなさい」

 

「…だ、大丈夫ですよ…き、気にしないでください…」

 

あっ、これ大丈夫じゃないやつだ。だって声が震えてるもん。恐る恐る横を見てみると運転席に座っている母は怒髪天だった。激おこプンプン丸だった。このままでは自分の身が危ないない。

 

「ああああほんとにすいません!ほら、あの、その、えっと」

 

「本当に大丈夫なので…気にしないでください……」

 

必死に謝っても返ってくるのは震えている声だけ。このままだと更に事態が悪化してしまう。一か八か勝負に出ることにした。

 

「今度…いえ!今日の入学式の後にでも何でも食べ物を奢りますから!だから、だから泣かないで!」

 

食べ物で釣るしかない!

 

「…ケーキ」

 

「えっ?」

 

「ケーキがいいです…」

 

よっしゃ釣れたぁ!あとは泣き止ませるだけだ!

 

「ケーキですね!わかりました何個でも食べさせてあげます!だから泣かないで!」

 

「何個でも…?」

 

「はい!何個でもです!ケーキ以外も頼んで平気ですよ!」

 

「え、えへへ…」

 

なんとか花音さんが泣き止んでくれた。

チョロい

 

「それじゃあどこで待ち合わせするかとか、時間とかを決めましょうか」

 

「はいっ!よろしくお願いします」

 

この後、入学式終了後の予定を考える花音さんは終始笑顔だった。




花音ちゃんかわいいですよね(世界の摂理)


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「ちょっとヘタレで変な人」

深夜テンションで書いてるため誤字脱字、間違った表現などございましたらご連絡ください。


「……あ、ありがとうございましたっ」

 

「いえいえ、全然気にしなくていいですよ」

 

ちょうどこれからの予定を話し終わった頃に花女の校門前に着いた。なんとか時間に間に合ったらしい。

 

「それじゃ入学式が終わり次第すぐこっちに来ますので、そしたらケーキ食べに行きましょう!」

 

「た、楽しみにして待ってるね」

 

「あはは…期待に応えられるよう頑張りますね」

 

あまり時間が残っていないので車のドアを閉め出発しようとすると花音さんに呼び止められた。

 

「あ、待って……!」

 

「どうしました?もしかして忘れ物でも…」

 

「あ…その、えっと…そうじゃなくて…」

 

なかなか言い出しづらいことだったのかだんだんと花音さんの目が潤み始めた。周りからは知らない男子高校生が女子高生をいじめているように見えているのかさっきから視線が痛い。

 

「そんなに言いづらいなら無理しなくても大丈夫ですよ?周りの人達の視線が…」

 

「っ違うの!…ちょっと恥ずかしかっただけだから……。その…にゅ…入学式…頑張ってね」

 

「…………」

 

突然の言葉に唖然としていると、花音さんがさっきよりも泣きそうな顔になった。

 

「ごっ…ごめんね…余計なお世話だったよね…」

 

「全然そんなことないです!ちょっと嬉し過ぎてぼーっとしちゃっただけですから!」

 

急いで弁解すると花音さんは安心したのか笑顔で続けた。

 

「そっか…よかった……。呼び止めてごめんね…行ってらしゃい…」

 

「はい!行ってきます!」

 

 

 

 

 

«花女校門前»

 

 

 

 

 

「あの別れから7・8時間が経過し…無事に花音さんと感動の再開を果たせたのであった…」

 

「な、なんで説明口調なの…?」

 

『花音さん は 困惑している。』

 

「ちゃんと何があったのか説明しないとお話として成り立たないからです」

 

「そうなんだ…。それなら、なんで他の生徒さん達より30分以上遅かったのか聞いていいかな?」

 

『花音さん は 少し 怒っている。』

 

「実は入学式で爆睡してしまいまして…それが原因で教師数人から呼び出さられて怒られてました」

 

「……」

 

『花音さん は 怖い(可愛い)顔で黙ってこちらを見ている。』

 

あ、花音さんこんな顔できたんだ…

以外と怒らせちゃいけない部類の人なのかもしれない

 

「ごめんなさいごめんなさい!最近なかなか寝れていなくて…」

 

割と本気で怒っているので嘘をつかずに理由を言うと怒っている表情から一変して、泣きそうな顔をして一言。

 

「入学式頑張ってねって言ったのに…」

 

「ああああああああほんとごめんなさい!でも…」

 

「なに?もしかして私なんかに応援されても頑張る気にならなかったとでも言いたいの…?」

 

「そんなことないですぅぅ!!僕が悪かったから許してくださぁぁい!!!」

 

なんだか今朝の仕返しをされているみたいだ。などと頭の片隅に思いながら花音さんに全力で謝っていると、1人の少女が声をかけてきた。

 

「花音?何してるの?」

 

「あっ千聖ちゃん、もう帰るの?」

 

花音さんの知り合いらしい。親しげに話しているということは同級生だろう。ふと、いいことを思いついた。

 

「ええ、日直の仕事も終わったから。…所でその人は知り合いなの?とても言い難いのだけど…はっきり言って少し怪しいわ」

 

千聖、と呼ばれた少女は俺のことを見ながら花音さんに尋ねた。

 

「どうして…?別に怪しい人じゃないはずなんだけど……って、何で土下座してるの……!?」

 

思いついたのは花音さん対する仕返しだ。子供だと思うだろうか?自分でもそう思う。

 

「花音様が許してほしいなら誠心誠意、全力で謝罪しろとおっしゃったからです!土下座して靴を舐めろとも言われました!」

 

「花音。まさかあなたにそんな趣味があったなんて…」

 

「そんなこと言ってないよ!?千聖ちゃんも信じないで!」

 

ふっふっふ…焦ってる焦ってる。おっと、笑うのはまだ早い…ここで更に追い討ちをかける!

 

「私を待たせたことを心の底から申し訳ないと思うなら、今この場で土下座しろって言われました!」

 

「花音……」

 

花音さんが泣きそうな顔をしている。思った通り効果は覿面だ!

 

「千聖ちゃん信じないで!」

 

「…冗談よ。花音がそういう性格じゃないのは知ってるから。そんな泣きそうな顔しないの」

 

「チッ」

 

まぁ、そりゃそうだよね。そう簡単に信じないよね…

 

「さて、この人はどうしようかしら?」

 

千聖さんが笑顔で詰め寄ってくる。

 

「今起きた事をくるっとまとめて水に流してくれたりしません?」

 

「「だめ」」

 

綺麗にハモっていらっしゃる。

 

「oh......」

 

「ほんとにどうしようかしら花音?」

 

「うん、それなら……」

 

 

 

 

 

«喫茶店»

 

 

 

 

 

「まさか花音さんだけじゃなく千聖さんにもケーキを奢ることになるとは…」

 

「あら、よかったじゃない。この程度のことで済んで。花音が本気で怒るとすごいんだから」

 

「マジですか…」

 

「千聖ちゃん!?」

 

「冗談よ。でもほんとによかったの?私にもケーキを食べさせるってだけで許して」

 

「うん。せっかくだから一緒に食べようと思って…それに、あなたも流石に懲りたでしょ?」

 

花音さんはこっちを向いて笑顔で言った。やっぱりちょっと怒っていらっしゃる。

 

「あはははは…はい、もう十分懲りました」

 

実際本当に後悔している。理由はこの状況なら簡単に推測できるだろうが、花音さんの食べる量が異様に多いのだ。それこそ千聖さんの皿の枚数にダブルスコアの差をつけるくらいに。そろそろなんとかしないと所持金がすべてなくなってしまう。止めなければ…

 

「ほんとに反省してますからあんまり食べ過ぎないようにしてく…」

 

「遅刻…」

 

無理でした!

 

「どうぞお食べ下さい!僕の財布を食い潰すつもりで!!」

 

今日最大の弱みを突きつけられた。

自分の財布の中身を気にかけながらどうにかして花音さんに食べるのをやめてもらおうとしていると意外にも千聖さんが助け船を出してくれた。

 

「花音…流石に私もちょっと食べ過ぎだと思うわよ?」

 

やっぱり花音さんの食べた量は食べ過ぎの部類に入るらしい。女子の中ではこれが当たり前だと思うところだった…

 

「そうかな…?」

 

だがしかし、千聖さんに注意されても花音さんは食べるのをやめない。その様子を見て千聖が更に一言。

 

「あんまり食べ過ぎると太るわよ?」

 

花音さんの手が止まる。

 

「う、後1個だけ…」

 

だがケーキを諦められないのかまた食べるのを再開しようとした。しかし千聖さんがそれを許さない。

 

「だめよ。もうそれで最後にしなさい。」

 

「うん…」

 

「千聖さん、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「いいのよ。食べ過ぎなのはほんとなんだから」

 

確かに食べ過ぎだ。あの細い体のどこにあんなに入るんだろうか。

 

「いえいえ…ほんとに助かりました。それじゃ僕は会計行ってきますね」

 

「ええ、よろしく頼むわね」

 

千聖さんに礼を言ってレジへ向う。

 

「あれ?誰もいない…」

 

レジまで来たのはいいものの、そこには誰もいなかった。奥の方から人の声と食器が擦れる音が聞こえるのでちょっと恥ずかしいが呼んでみることにした。

 

「すいませーん。会計お願いしまーす」

 

幸い、平日の昼過ぎということでこの喫茶店にいる客は自分達を含めて数グループほどしか居ない。少しくらい声を出しても注目されることはないだろう。

 

「誰も出てこない…いくら人が少ないからってこれより大きな声出すのはちょっと恥ずかしいなぁ…」

 

声が小さかったのか誰も出てくる様子がない。

 

「仕方ない。さっきよりも大きな声で…」

 

めいいっぱい息を吸って…いざ!

 

「すいません!遅れまし「すーいーまーせーん!」きゃあっ!」

 

やってしまった…なんとも最悪のタイミング。

 

「ああああすいません!驚かしてしまって」

 

今日僕は何回「すいません」と言ったのだろうか…

 

「いえ!私がもう少し速く来ればよかっただけなので気にしないで下さい!」

 

奥から出てきたのはおそらく自分と同い年位であろう茶髪の女の子だった。これといって目立つ特徴がないが充分顔が整っていて可愛らしい。

 

「あの会計お願いします」

 

「はい!えっと合計で4698円です!」

 

「思ってたよりも高い!?」

 

レシートを見ると同じケーキの名前がたくさん並んでいた。少しだけ違う名前のケーキが混じっているのは千聖さんが食べたものだろう。

 

「すごい食べましたね。そのケーキそんなに美味しかったですか?」

 

想像以上の金額に驚いていると店員さんが目を輝かせてきいてきた。

 

「いや、食べたのは僕ではないので…」

 

「そうですか…」

 

嘘をついても仕方がないのでケーキを(馬鹿みたいに)こんなにたくさん食べたのは自分ではないことを伝えると店員さんは「しゅん…」という擬音をつけるのがぴったりという程に落ち込んだ。何故かものすごい罪悪感を感じる。

 

「ああでも!こんなにいっぱい食べたんだからきっと凄く美味しかったんだと思います!だって普通はこんな同じケーキばかり食べないでしょうし…」

 

「そうですよね!実はこのたくさん注文してもらったケーキは私が考えたメニューなんです!」

 

咄嗟のフォローが成功したようで店員さんの顔に笑顔が戻った。やっぱり自分が作ったものを美味しいと言って貰えるのは嬉しいんだろう。

 

「えっと…5000円からで良いですか?」

 

「はいっ!ではおつりの302円とレシートです!ありがとうございました!」

 

「ごちそうさまでした。また来ます」

 

そう言って花音さんたちの元へ戻ると、何やら2人はひそひそ話をしていた。

 

「どうしよう千聖ちゃん…我慢しようと思ってたのに食べ過ぎちゃったよぉ…後で何か言われるのかな?」

 

「流石に食べ過ぎよ…さっき会計してる時見えたけど、すごい顔してたわよ」

 

「ふぇぇ、どうしよう」

 

…もう少し続きを聞いてみよう。

 

「もしかしたら、この後暗がりに連れ込まれて…」

 

「ふぇぇぇぇ…」

 

「そんなことしません!」

 

「ふぇ!?」

 

あまりにも酷い言われようにちょっとイラッとしたので花音さん軽くデコピンをした。

 

「2人は一体僕のことをなんだと思ってるんですか…」

 

「「ちょっと変でヘタレな人」」

 

「…だいたいあってるのが悔しい。でもだからってちょっと冗談が過ぎますよ。ヘタレじゃないです」

 

不名誉な印象を取り消すために千聖さんと話していると、花音さんが小さい声で一言。

 

「あ、あとちょっと意地悪な人」

 

「聞こえてますよ花音さん…?」

 

「だって今朝」

 

「ごめんなさい。僕が悪かったです」

 

「やっぱりヘタレじゃない」

 

「ち、違いますよ!」

 

「それじゃあ私はこれから用事があるから失礼するわね?ケーキごちそうさまでした♪美味しかったわ」

 

「僕の言ってることスルーしないで!」

 

「はいはい…ヘタレじゃないってことにしておくわね♪またね、花音」

 

「うんっ。またね、千聖ちゃん」

 

「ええ、また明日」

 

そう言って千聖さんは行ってしまった。

 

「…行っちゃいましたね。花音さんはどうします?」

 

「うーん…私はもう少しゆっくりしたいな……」

 

あれだけケーキを食べれば少し休みたくもなるよね。

 

「わかりました。それじゃもう少しおしゃべりでもしましょうか」

 

「うん、ありがとう」

 

花音さんは少し申し訳なさそうにそう口にした。正直に言ってこの後は暇なので気にすることではないことを伝える。

 

「いえいえ、僕は家に帰っても特にすることはないので僕からしてもありがたいですよ」

 

「そっか、よかった…。無理させてるんじゃないかっててちょっと心配だったんだ…」

 

「ほんとに気にしないで下さい。そもそも花音さんみたいなかわいい人と話せるだけで役得ですから」

 

「…ほんとに心配してたのに」

 

ちょっと怒らせてしまったらしい…

調子に乗りすぎたかもしれない。

 

「嘘じゃないですって…。まぁこの話は置いておいて、普通におしゃべりしましょうか」




文才が欲しい…


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「…なんて。すこしかっこつけすぎかな?」

もっと文章上手く書きたい…


千聖さんが帰ったあと、もう一度席に着いてケーキと紅茶を頼んだ。さっきの店員さんに「あれ?」っておもわれるんだろうなぁ…

 

「はいっ!ショートケーキと紅茶ですね!って…あれ?」

 

「あはは…すみません。なんか」

 

「い、いえ!」

 

というか言われた。再入店ってなんか恥ずかしいよね…

 

「それじゃぁどんなことを話しましょうか…」

 

それから花音さんと二人で最近の事を話していた。俺は叔父さんに誘われてライブハウスで働くことになったことやここ数日楽器の勉強で徹夜続きであまり寝れてないことを話した。花音さんは千聖さんや他の友人のことやドラムをやっていることを話してくれた。

 

「花音さん楽器やってたんですね。ちょっと意外です」

 

「なんでみんな同じこというのかな…」

 

それは仕方がないと思うんだけど。事実今日1日花音さんと過ごしてもそんなイメージ一度もわかなかったし。

 

「いいじゃないですか。ギャップがあって」

 

「そんな笑いながら言われても説得力がないよぉ…」

 

「いや〜花音さんの演奏聞いてみたいです」

 

「もぉ〜」

 

「あはははは、そんな拗ねないでくださいよ。花音さんのドラムを聞きたいのは本当なんですから」

 

「そっか…でも、もうすぐドラムやめるんだ」

 

「どうしてですか?」

 

「その、下手なんだ。ドラム」

 

「誰かに言われたりでもしたんです?」

 

「ううん。誰かに見せるなんて勇気なかったから…」

 

「誰に言われた訳ではないと」

 

「うん…」

 

「そうですか…。確かに下手なのにそれをやり続けるっていうのもなかなか精神的にきついですよね。僕も色々と途中で投げ出したりしましたし。ただ…」

 

「ただ…?」

 

「誰かに下手だと言われた訳でもないのに自分で諦めちゃうのは、なんだか勿体無い気がしなくもないですけどね」

 

「……」

 

「あっ…」

 

気にしていた事を直接言われたせいか花音さんが泣きそうだ。というか目が死んでる。

 

「ちょっと言い過ぎました…何様だって感じですよね!」

 

「そんなことないよ…私がわるいんだし……」

 

とりあえずこの話はもうやめなければ。

 

「こ、この話はやめにしましょう!…だいぶ話しましたしそろそろ帰りましょうか」

 

「そう、だね…もう外は真っ暗になっちゃったね」

 

「せっかくですから送りますよ」

 

「ほんと?でも、これ以上迷惑かけることになっちゃうよ…」

 

ただでさえ暗かった花音さんの表情がさらに暗くなる。

 

「気にしないで下さい。真っ暗な中女の子を一人で帰らせる訳にはいかないですから。というかむしろ送らせて下さい」

 

「ほんとに大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

「それならお願いするね…?」

 

「はい。任されました」

 

そうして花音さんと一緒に店を出た。花音さんの家の場所は当然ながら知らないので道を教えてもらいながら家まで送ることにした。

 

「……」

 

「………」

 

会話がない。店の中だと他に人がいたが今は二人っきりだから当然と言えば当然だ。会話が全然弾まないどころか何を言ったら良いのかすら分からない。

 

「あ、そういえば花音さんは同じケーキばかり食べてましたけどそんなに美味しかったんですか?」

 

5分ほど経ってから沈黙に耐えきれず、話題を必死に考えて花音さんに声をかけた。

 

「うん。あそこのケーキはどれも美味しいんだけど新メニューのあのケーキは今までで1番美味しかったんだ♪」

 

思いのほか食いつきがよかった。この話題でいこう。

 

「そうだったんですか。店員さんが凄い喜んでましたよ?今度僕も食べてみようかな」

 

「私ももう一回食べたいなぁ…。あ、この角は右に曲がるんだよ」

 

「ま、まだ食べる気があるんですか……」

 

ほんとに花音さんの体はどうなっているんだろうか。ブラックホールにでもなってるんじゃ…

 

「いま失礼なこと考えたでしょ…?」

 

「そそそ、そんなことないですよ…。それにしても花音さん、僕と話すのだいぶ慣れてくれましたね」

 

「あ、話変えた」

 

「引きずりますね…」

 

「ふふっ。冗談だよ?」

 

店を出るときよりもかなり機嫌が治ってくれた様で、雰囲気がだいぶ明るくなった。

 

「冗談を言えるくらいまで慣れてくれたの嬉しいんですけどほどほどにして下さい…」

 

「えー…」

 

「いやいや、えーって言われましても…」

 

「冗談だってば」

 

「ほんとかなぁ…」

 

「ほんとだよ?」

 

さっきまで食べていたケーキのお陰か、今朝やさっきと比べてテンションが高い花音さんは楽しそうに笑っている。自分がしたことでこんなに喜んで貰えると自分も嬉しくなる。財布が空になるのはごめんだが。

 

「それにしてもほんとによく食べましたね…」

 

「えへへ…反省してます。あ、次の角を左に曲がればもうすぐだよ」

 

「意外と近いんですね。」

 

「うん!このまままっすぐ歩けば見えてくるよ…。ほら!」

 

そう言うと花音さんは今いる場所から6軒程先の家を指さした。

 

「おー…なんか花音さんらしい感じですね」

 

「え、どういうこと?」

 

「いや…ただ屋根の色とかが花音さんの雰囲気にぴったりだなって思っただけで別に深い意味は無いですよ?」

 

「そっか、なんか照れちゃうな…」

 

「あはは…」

 

まずい…話題を変えたせいで会話が続かなくなってしまった。

元々人と話すのは得意ではない上に女子(しかも凄く可愛い人)が相手となると、何を話せばいいのかわからくなってしまう。

横を見ると何を話したらいいのかわからないのは自分だけではないようで、花音さんも先程からもじもじしている。

 

「…」

 

「…」

 

別れの挨拶くらいは気を利かせなければ格好がつかないと思ったので、勇気を出して口を開いた。

 

「「えっと…」」

 

花音さんも同じ様なことを考えていたのか、思いっきり声が被ってしまった。

 

「……」

 

「………」

 

「ぷっ…」

 

「ふふっ」

 

緊張がほぐれたせいで思わず2人で笑ってしまった。

 

「今日はありがとね…。それと、朝からお世話になってばっかりでごめんね」

 

数秒笑ってから花音さんは申し訳なさそうに言った。でも、今日の事は花音さんに喜んで貰いたくてやった事なので、こんなふうに罪悪感を持たれることは望んでいない。

 

「そんな気にしないで下さい。自分が好きでやっただけなので…むしろ、喜んで貰えたなら嬉しいくらいですよ」

 

それを伝えたくて自分なりに言葉を考えたつもりだったが逆効果だったようで、花音さんの表情は更に暗くなった。

きっと、花音さんはすごく〝良い人〟なんだろう。だから感謝の気持ちを抱くのと同時に後ろめたさを感じてしまう。

 

「そう…なんだ……。ほんとに、ごめんね…」

 

でも、その事は決して悪いことではないと思う。むしろ素晴らしいことじゃないか、優しいことじゃないか…『自分なんかにこんなふうに良くしてくれてありがとう。』なんて思えるなんて。ただ、少し過剰すぎる。さっきも述べた通り、今回の件は花音さんに喜んでほしくてやったことで、罪悪感なんてもってほしくない。それに、いちいち罪悪感を感じていては心が疲れてしまう。それは、花音さんのことを大事に思っている人がが望んだこととは真逆で、何より花音さんが苦しいだけだ。

 

そのことをしっかり伝えたい。

 

「花音さん!」

 

花音さんの肩を掴んで目線を合わせて名前を呼んだ。

 

「ひゃっ、ひゃい!」

 

「今日、僕が何で花音さんに色々したかわかりますか?」

 

「えっと…」

 

「それは花音さんに喜んで貰いたかったからです。楽しんでほしかったからです。気にしないでほしい、というのは強がりでも何でもなくて本心です。だから、そんな暗い顔をしないでください…今日が楽しかったって感じてくれているなら、笑ってください」

 

言いきれた…。ちょっとカッコつけすぎた様な気がする。自分の口から出た言葉を思い出すと顔が赤くなる。

 

「…………」

 

花音さんは俯いていて、どんな表情なのかわからない。もしかしたら、怒らせてしまったのかもしれない…。いや、最悪の場合、花音さんを傷つけてしまったのかもしれない。

 

今、自分がしていることはただのお節介だ。花音さんに笑ってほしいという我儘だ。そのことに気づいたら急に不安になった。

 

「花音さん、すみませ…」

 

自分が取り返しのつかないことをしたんじゃないかと心配になって謝ろうとすると、花音さんは肩を震わせてすすり泣いていた。

 

「えっ、ちょ、花音さん!?」

 

やっぱりただのお節介だったのだ。とにかく花音さんを傷つけてしまった以上謝るしかない。

 

 

 

 

■■■

 

 

花音さんが泣き始めて数分、落ち着いたのを確認してから声をかける。

 

「花音さん、すみません。大きなお世話でしたよね…」

 

「ううん…ずっと気にしてた事だから、言ってくれて嬉しかったよ。ありがとう」

 

「そう…ですか……でも、やっぱり…すみませんでした」

 

「なんで謝るの?」

 

「本来、本人が心の底で悩んでいることに会ったばかりの人間が余計なことを言うべきじゃないからです。例えその内容が正しいことだとしても」

 

花音さんは黙って聞いてくれている。

 

「たまたま、花音さんは素直に受け止めてくれたのでなんの問題にもなってませんがそれは単純に運がよかっただけです。もしかしたら花音さんを深く傷つけていたかもしれません。だから……すみませんでした!」

 

「うん。そっか……君は優しいね」

 

「え?」

 

「だって、そこまで他人のことを考えてる人なんてなかなかいないよ…」

 

「花音さん…」

 

「だから、私は君がなんて言ってもちゃんと言うよ…ありがとうって!」

 

「……」

 

「…なんて。少しかっこつけすぎかな?えへへ…」

 

そう言うと花音さんは少し照れながらまっすぐこっちを見てくる。

 

「そんなことないですよ…ありがとうございます」

 

「うん!今日は楽しかったよ!」

 

「僕も楽しかったです」

 

「それじゃまたね!今度は私がオススメの喫茶店に連れて行くから!約束だよ?」

 

そう言うと花音さんは家に向かって走って行ってしまった。

 

連絡先を聞くの忘れてたけど、まぁ、なんとかなるか…。そう思いながら花音さんの後ろ姿を見送る。

 

「いたっ」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「うん…大丈夫。ちょっと転んじやっただけだから」

 

「そんな涙目で言われても説得力ないですよ…ちゃんと家の前まで送りますね?」

 

「うん、お願い…」

 

このあとちゃんと連絡先を交換しました。



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「花咲川女子学園の『異空間』」

走る…走る…走る……

 

後ろから足音が迫ってくる。

足音の主は歩いているはずなのに、何故か走っているはずの自分との距離を縮めてきている。

 

走る…走る…走る……

 

どうしてこの意味のわからない足音から逃げることになったのかよく覚えていない。今日もいつも通りのコンビニの帰り道を歩いていたはずだ。誰かの反感を買うようなことをした覚えもないし、この足音が〝追いつかれたらいけない〟ものなのかもわからない。けれどただ、走る。

 

気が付くと、周りの景色が知らないものになっていた。こっちで暮らすようになってからまだ少ししか経っていないのだから無理もない。

 

走る…走る…走る……

 

今いる場所が知らない場所だろうが関係ない。ただただ追いつかれたらいけないという恐怖心に煽られるままに走る。

 

日が沈んでから数時間が経過し、日付が変わる間近のこの時間帯には当然ながら出歩く人がほとんどいない。

 

「あの足音はなんだ?」

 

わからない。

 

「追いつかれたらどうなる?」

 

わからない…

 

「今自分はどこにいる?」

 

わからない……

 

「いつまで走り続ければいい?」

 

わからない…。わからないわからない!

 

自分が置かれている状況がわからないことに対する恐怖心。追いかけられることに対する恐怖心。頭の中がぐちゃぐちゃになって吐き気がする。けれども走ることをやめることができない。

 

走る…走る…走……れない。

 

追いつかれた。考えることに熱中しすぎたせいで周りに気を配る事ができていなかった。肩を抑えられているのか腕を掴まれているのか、それとも足か……。どこに何をされているのかわからないがとにかく体が前に進まない。自分の背後に何かがいる。それだけで充分不安を感じる。

 

追いつかれてからたっぷり数分経った。緊張と恐怖による不安のせいで時間が長く感じているだけなのかもしれない。ただ、後ろのナニカは何もしてこない。

 

もしかしたら、足音も追いかけてくるナニカも存在しないのではないか?高校に入学してから始めたライブハウスの仕事で疲れた自分が勝手に想像した妄想なのではないか?そんな希望を抱いてしまった。

 

一度抱いた希望は心の奥で膨れ上がり、やがて決めつけに変わった。

 

「足音なんて聞こえていなかった。ただの気の所為だ。」

 

「自分のことを追いかけていたナニカなんて存在しない」

 

決めつけはやがて安易な確信に変わる。

先程まで心に巣食っていた恐怖は押し潰され、無謀な希望に支配されていた。

 

「なんでこんなに怖がっていたんだ。馬鹿らしい…」そう思って振り返った。

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

朝一番とは思えない程の叫び声を上げながら布団から跳ね起きる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

呼吸を整え激しく脈打つ鼓動を落ち着けてから無意識に呟く。

 

「なんだ夢か……」

 

「夢じゃねぇよ…」

 

「ほわぁぁあああああああああああああああああ!!!」

 

「な〜んてなっ!冗談だよ冗談。」

 

本来ならば聞こえてこないはずの声が聞こえてた方を向くと、叔父がこちらに指を指してわらっていた。

 

「心臓が止まるかと思った……」

 

「はっはっは。高校生にもなって怖い夢を見てうなされるとか大丈夫か?今日から一緒に寝るか?」

 

「馬鹿にしすぎ!というかなんでここにいるのさ…」

 

「いつもなら起きてる時間なのに起きて来ないから一応見に来たんだよ。そしたらお前がこわーい夢にうなされてたんで、起きるのを待ってた」

 

「いや起こしてよ…。起こしてくれれば最後まで見なくて済んだのに……」

 

「まぁいいじゃないか。とりあえず朝飯だ。早く着替えて来いよ〜」

 

そう言うと叔父はすぐにリビングの方に行ってしまった。

 

「はぁ…。なんであんな夢を見たんだろう」

 

そう疑問に思って思い出すのは昨日のこと。

コンビニで間食用にパンを買っていた時に、最後の一つだったチョココロネを譲り合って仲良くなった可愛い女の子ことだ。

 

買い物が終わってから少し話して別れたのだが、その時に「このネット小説、すごいおもしろいんですよ。ぜひ読んでみてくださいね」

と言われて寝る前に全文読んだのだ。

 

おかげでいつもより夜更かしをしたし、めちゃくちゃ怖い夢もみた。名前も知らない少女にトラウマを植え付けられかけるとは情けない…。

 

今度もし出会うことがあるならその時はたっぷりお礼をしなければ……

 

小さな決意を固めてリビング向かう。

今日は日曜日でライブハウスの手伝いをすることになっている。基本的に奇数日が休みで偶数日が仕事だと叔父と話し合って決めている。

 

「今日はどんなバンドが演奏しにくるんだっけ?」

 

「あぁ、今日は……」

 

この生活が始まってから数度続いたやり取りを始めながら朝食を食べる。

 

朝食を終えたら食器を流しに起き、身支度を済ませて家を出る。ライブハウスまでは歩いて通うことにしている。叔父は車で行っているので乗せてもらえば楽なのだけれども、運動は大切だと思っているので歩いていく。

 

日曜日となると、街中は人で溢れかえっている。人混みに紛れないように歩いていると、人だかりが2つ出来ていることに気がついた。

 

片方の人だかりの方には何やら「また失神者が〜」とかなんやら聞こえてきたので関わらないようにしよう。

 

もう片方の人混みの奥からはドラムの音と歌声が聞こえてくる。歌声ははっきりと、ドラムはどこか拙い音だったがどちらも明るく快活なリズムを刻んでいた。

 

「ふぇぇ…」

 

「ららら〜♪」

 

あれ?この声はもしかして…

 

明るく歌う声とは別の、助けを求めるような声を聞いて人混みに向かって足を進める。

 

「すいません。通してくださ〜い!」

 

もしかすると自分の知り合いが演奏しているのかもしれない…。と思いならがら人を避けて進むと案の定ドラムを叩いていたのは花音さんだった。

 

「ふぇぇぇ……」

 

「ら〜ららら〜♪」

 

一体何をしているんだろう……。花音さんはこの前、ドラムをやめると言っていたはずだが考え直したのだろうか。いやそれにしてもいきなり路上ライブとは…。意外と花音さんも大胆だったんだなぁ。

 

「うっわ…。何あれ……」

 

とりあえず心配(面白そう)なので見守っていると、自分の右隣にこの様子にドン引きしている女子高生がいた。制服から見て問題の花音さん達と同じ花女の生徒のようだ。

 

ちょうどいいから、金髪の少女について聞いてみよう。

 

「すいません。あの歌っている女の子ってどんな子なんですか?」

 

「えっ?…いや、いきなりなんですか?」

 

うわぁ。ものすごい警戒されてる…。当然と言えば当然なんだけどすごい傷つくなぁ。

 

「実はドラムを叩いている女の子が知り合いでして。その彼女はドラムやめるって言ってたのになんで路上ライブなんてやってるのかわからなくて…。怪しい者じゃないです。決して」

 

「そう…ですか」

 

まだ警戒心は残っているようだが一応信用してもらえたようだ。

 

「え〜っとですね…。あの金髪の女の子は“弦巻こころ”といって、花咲川女子学園の『異空間』と呼ばれている人物です。これで大体わかってもらえますか?」

 

「あぁ。納得。」

 

「それは良かったです。あたしは同じクラスですけど関わらないようにしてるのでこれ以上の説明ができないので」

 

「うん。それは正しい判断だと思うよ…?」

 

「ですよね…。正直、どんなことに付き合わされるのかわかったもんじゃないですからね……」

 

「確かに…。僕も巻き込まれるのはごめんだなぁ……。あっ。」

 

などと話していると花音さんと目が合った。

 

「どうしました?急に黙って…」

 

「目が合っちゃった…」

 

「…………。」

 

女子高生は「諦めろ」と目線と無言で伝えてくる。その音の無いメッセージにこちらも無言で返す。諦めたくない。

 

「………………。」

 

花音さんには悪いがこのまま立ち去らせてもらおう。目は合ってなんかいなかった。今度またケーキでも献上すれば許して貰えるだろう。

 

頭の中でこの場から逃げ出すことが決まった。こちらを泣きそうな顔で見つめてくる花音さんの顔をなるべく見ないように一歩一歩下がって行く。花音さんの顔が更に泣きそうなものに変わっていくがこのままならバレることはないだろう…

 

「あら?花音はさっきから誰を見ているのかしら…?」

 

ふと、急に歌が止まった。花音さんが紡いでいた快活なリズムも数秒遅れて鳴り止んだ。

 

「ねぇ!そこのあなた!あなたも一緒に歌いましょうよ!」

 

まずい…。何とかして知らん顔で切り抜けなければ!もしかしたら呼ばれているのが自分じゃないかもしれないし。

 

「あなたよあなた!いまここから立ち去ろうとしていたあなた!」

 

「oh......」

 

淡い希望は先程建てた完璧なプランと共に砕け散った。何とか逃げ出す方法がないかと考え、先程の女子高生に視線を向けた。

 

「あ、あたしはこれからバイトがあるので…失礼します」

 

逃げられた。

 

「さぁ、はやく!」

 

急かす金髪の少女、泣きそうな花音さん、そそくさと立ち去った女子高生、こちらに集まる観客の視線…。

 

もう逃げ道はない。八方塞がりだ。

心做しか先程家を出た時よりも数倍重たく感じる足を動かして、前に進んだ。



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「初めて電話っていうのをしてみたのだけど」

お久しぶりです。


「ほんとに歌わなきゃいけないのか…?正直自分言うのもなんだけどそこまで上手くないぞ」

 

呼ばれたから来てしまったが、本音を言うと歌いたくない…。今からでも観客に戻らせてくれないかな。花音さんは泣くだろうけど。

 

「そんなの関係ないわ!そんなことよりも楽しまなくちゃっ!それに、上手い下手を決めるのはあなたじゃないもの」

 

遠回しに自分の意思を伝えたつもりだったが上手くいかなかったらしい。というか意外にも正論を返された…。

 

「それは…確かにそうだけど……」

 

言葉を濁してどうにか逃げようとするこちらの様子に気付かずに、弦巻こころは続けた。

 

「なら、歌いましょう?勇気が無いならあたしがあげるわ!だから…一緒に歌いましょう!それで世界中を笑顔にしましょ!」

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

 

「「ららら〜♪」」

 

先程まで鳴り響いていた音楽の中に自分の音が混ざっているのは変な感じだったけれどもそれは嫌な気分にならず、むしろ楽しかった。

 

「〜〜♪」

 

花音さんも先程とは違い笑顔で演奏していた。

花音さんだけじゃなく観客も、

もちろんこころも笑顔だった。

 

世界中を笑顔にすると言っていた彼女は、宣言通り彼女自身が創り出したこの世界に大勢を巻き込み、巻き込んだ全員を笑顔にして楽しませいた。それはただの凡人には出来ることではなく、凡人である自分からはとても眩しく感じた。けれど同時になんだか羨ましく思った。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「すーっごく楽しかったわ!花音、ありがとう!あなたのドラムのおかげよ!」

 

「あ……私……」

 

路上ライブ(仮)が終わった後、花音さん達二人は満足げに話していた。仲良く話しているのを見るかぎり、もう立ち去っても良さそうだ。

 

逃げるなら今のうち…

 

「あなたも、ありがとう!一緒に歌えて楽しかったわ!」

 

見つかった。せっかくのタイミングを逃すなんて…。流石にこれ以上は付き合ってらんないぞ。

 

「そ、そりゃどうも。僕もなんだかんだ楽しかったよ」

 

できることならもうやりたくないけどね…

 

「じゃあ今から、あなた達とあたしでバンド結成ね!!」

 

「ふぇっ!?」

 

「花音さんごめん!」

 

「ふぇぇっ!?」

 

冗談じゃない…!流石にそこまでは付き合いきれない。花音さんには悪いがここは逃げさせてもらおう。花音さんなら、きっと弦巻こころとのバンド活動にも耐えてくれるだろう。

 

とりあえずここから…弦巻こころから逃げなければ!

 

 

 

 

 

《自宅前》

 

 

 

 

 

「こ、ここまで来れば大丈夫のはず…」

 

久しぶりに全力で走ったせいで呼吸が苦しい。最後にこんな走ったのは去年の夏だっただろうか…。などとどうでもいい様なことを考え、息を整えながら家に入ろうとすると後から声をかけられた。

 

「ねぇ、どうして急に走り出したの?」

 

「えぇ!?なんで追いついて…」

 

「黒い服の人達に聞いたらあなたの学校と家の住所を教えてくれて車で送ってくれたの!」

 

「えぇ…うそ……」

 

「嘘じゃないわ!だってあたしは今ここにいるじゃない!」

 

「じゃあ花音さんはどうしたの?まさかあのまま置いてきたわけじゃないよね…」

 

「花音ならあそこにいるわよ?」

 

そう言ったこころが指差している方を向くと、黒い車に乗せられこちらを涙ぐんだ目で必死に何かを訴えかけている花音さんがいた。

 

「誘拐だこれ!」

 

「さぁ!行くわよふたりとも!」

 

「人の話を聞いて!それにどこに行くって!?」

 

「決まってるじゃない。ほかのバンドメンバーを集めにいくのよ!」

 

「無茶言わないでくれ!そもそもどんなメンバーが必要なのかわかってるのか!?」

 

「ギターとベースとドラムでしょ?ドラムは花音がいるから、バンドを始めるにはあとギターとベースが必要なのよね!」

 

意外とちゃんと考えてたんだな…。これなら一緒にバンドはできないけど手伝うくらいならしてもいいかもしれない。

 

「花音がさっき言ってたの!」

 

「なんだ花音さんの受け売りか……」

 

前言撤回。やっぱり無理。花音さんには悪いけどこのまま自分だけ逃げさせてもらおう。

 

「ねぇ、弦巻さん?」

 

「なにかしら?こころでいいわよ!」

 

「じゃあ、こころ。さっきのバンドを組むって話だけど僕は無理だ。僕には仕事とかやらなきゃいけないことが沢山あるんだ。だからバンドは組めないしその手伝いも……」

 

「ふぇぇ……」

 

あぁやめて花音さん!そんな目で見ないで!

 

「手伝いは…できるかな……」

 

「そうなの?わかったわ!」

 

「あと、いきなりメンバー探しは大変だからまた別の日にしないか?花音さんの家族も心配するだろうしさ」

 

「そうね!それじゃあ明日にしましょう!花音はあたしの家の車で家に送るわね!」

 

「わぁ、言ったことの意味を全然理解してくれてない。それに花音さんの家の場所は…って心配ないか。ここもすぐに特定されたし……」

 

「それじゃあまた明日、駅前に集合ね!」

 

「え、ちょっと待って!」

 

有無を言わさず去って行ったこころを唖然として見送った後、電話がかかってきた。おそらくは叔父からだろう。冷や汗が止まらないなか恐る恐る画面をスワイプする。

 

「も、もしもし…」

 

『もしもし?今何処にいるんだ…?』

 

 

地獄のそこから響く様な声を聞き、全力疾走で今まで走ってきたみちを逆走しCircleまで行くことになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

《翌日の夕方:Circle》

 

 

 

 

メンバー探しは仕事があると言って参加しなかった。花音さんには申し訳ないが、昨日働けなかった分はしっかり精算しなければいけないのだ。

 

「はぁ…。昨日はすごい目にあった」

 

ため息を吐きながら昨日のことを思い出していると、まりなさんが声をかけてきた。

 

「どうしたの?ため息なんか吐いて」

 

「実は昨日……」

 

 

 

■■■

 

 

 

まりなさんに昨日の出来事を全て話した。夢のことから弦巻こころのことまで全部だ。

 

「あははははっ!それは災難だったねぇ…。いや、年頃の男の子としてはかわいい女の子と仲良くなれてラッキーなのかな?」

 

「からかわないでくださいよ……結構大変だったんですから。脚も筋肉痛だし」

 

「ごめんごめん。初心で小心者の君にとっては大変だったんだろうね」

 

「だ〜か〜ら!いい加減に…」

 

「ごめんって。でも、話にでてきた女の子達と仲良くなれたのは満更でもないでしょ?」

 

「そりゃそうですけど…。」

 

「で、連絡先は聞いたの?彼氏はいるって?どんな人がタイプか聞いた?」

 

「聞いてませんし知りませんよ!ほらもうさっさと働いてください!仕事サボってるって叔父に言いますよ?」

 

「それはやめて!」

 

あまりにも執拗いので脅してみると効果は覿面だったのなすごい勢いで仕事に戻って行った。もしかしてもう既に何度か怒られてるんだろうか。

 

「あ、進展あったらまた教えてね〜!」

 

「いいから働いてください!普通に勤務時間なんですよ!今!」

 

「ごめんって。お詫びにアドバイスしてあげるから黙ってて…?」

 

「アドバイス?」

 

「そ。年上の…そして女の子としてのアドバイスです!……コホン。女の子の話はきちんと聞いてあげましょう。相手から連絡が無くても自分から定期的に連絡すること!」

 

「女の子って…」

 

「はい。そこはツッコんじゃダメなとこだよ〜。それに結構真面目にアドバイスしたんだけど…」

 

「もし役に立たなかった場合は容赦なく叔父にチクりますからね」

 

「なんか妙に私に対してだけ厳しくない!?ちゃんと役に立つから!女の子はこういうまめな優しさが嬉しいの!」

 

「ハイハイ。一応気に留めときます」

 

「人のアドバイスを聞かないで痛い目見ても知らないからね!もう私仕事する!ほんとに知らないからね!!」

 

「いや、今勤務時間なんだから働くのは普通なんですけど…。というか、なにこの茶番」

 

「ふんだ!」

 

仕事をガン無視して茶番を繰り広げた結果、年甲斐も無く拗ねてしまったまりなさんの機嫌をどうやって直そうかと考えているとズボンポケットから着信音が鳴り響いた。

 

ポケットからスマホを取り出して確認すると、表示されていたのは知らない番号だった。

 

 

「誰だろ…。わざわざ電話をかけてくるような知り合いはいないんだけどな…」

 

「ぼっち…」

 

「違いますからぁ!ぼっちじゃないからぁ!!」

 

「じゃあ、私達スタッフとオーナー、親戚の方以外でアドレス帳に乗ってるのって何人?」

 

「中学の頃の友達とネットで知り合った人合わせて3人です…」

 

「うわ…。流石にそこまでとは思わなかった。なんかごめんね?大丈夫だよ!きっと高校生活の間に友達くらいできるから…1人か2人くらい」

 

「電話に出るんで黙って貰えますか!?」

 

「あははは!ごめんごめん、ぼっち君怒んないで〜」

 

「あーあー!何も聞こえなーい!

もしもし!?どちら様でしょうか!?」

 

『もしもし?あたしよ!弦巻こころよ!初めて電話っていうのをしてみたのだけど楽しいわね!遠くに居ても会話がでk…』

 

「あれ?いいの?いきなり通話切っちゃって」

 

「ただの間違い電話だったみたいです。さぁ、仕事に戻りましょう」

 

予想外の相手過ぎて反射的に切ってしまった。弦巻家恐ろしすぎだろ…。何で昨日の今日で番号特定されてるんだ。

 

「いやでもまた着信きてるけど…」

 

「チッ…。」

 

「何で舌打ち!?」

 

「何でもないです。ちょっと外行ってきます」

 

「は〜い。行ってらっしゃい」

 

 

 

《Circle前》

 

 

 

「もしもし…?」

 

『もしもし?よかったわ出てくれて!さっきもそうだけどなかなか出てくれないし、やっと話せると思ったらすぐ切られちゃったからあたしと通話…したく…ないのかと…』

 

先程の元気な様子とは違い、どんどん声が尻すぼみになっていく。初めてかけた電話の相手に放置され速攻できられたのはいくら天真爛漫な彼女でも、こちらの予想以上に堪えたらしい。画面の向こうからすすり泣いているような声が聞こえる。

 

「僕が悪かったか泣くな!こころと話したくない訳じゃなくてただ仕事が忙しかっただけだから!!」

 

『ほんとう…?それならよかったわ!』

 

嘘は言ってない。

 

「それで?何か伝えたかったことがあるんじゃないのか?」

 

『ええ!実はバントのメンバーが揃ったの!』

 

「マジか…」

 

マジか。本当に揃うとは思っていなかったから驚きだ。あのこころと一緒にバンドをやりたいなんて言う奴はきっとこころと同じくらい頭がぶっ飛んでいるんだろう。

 

『こ、こころちゃん…まだ揃ってないよ…!!あとベースの人集めないと!』

 

予想とは違う知らせに唖然としていると花音さんの声がきこえてきた。

 

『そうだったわね!なら、今からベースを探しに行くわよ花音!それじゃあまた電話するわね?』

 

『ふぇ!?ちょ、ちょっと待ってこころちゃ…』

 

こころが走っていったであろう足音と、花音さんの必死の訴えを最後に通話は終わってしまった。とんでもない急展開に全くついていけず花音さんが可哀想だという感想しか浮かばなかった。

 

 

 




ハロハピのメンバー集めは薫さんが加わったところですね。
こころだけで「!」が30個以上になったのは仕方ないと思う。


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