Fate/GrandOrder 特異点レベルX災厄病魔巣聖都 1 (beisou)
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I'm on the MISSION

0 ???

 

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 ――不正なアクセスです。続行しますか?

 

 

 ――登録中……

 

 

 ――藤丸立香、マシュ・キリエライト。両名の登録完了しました。

 

 

 俺たちは殺される。

 ある時から、運命は、力関係は一変した。

 その時までは、共に生きていたのに。どうしようもないアクシデントは、神の気まぐれと笑っていたのに。

 いつからか、俺たちはただ憎まれる絶対悪と化した。

 何故だ。何故憎む。何故殺す。

 「生きたい」、その願いは、俺もお前も一緒のはずだ。

 

 

 

 

1 マシュのはじめてのおつかい

 

 早朝、藤丸立香は久しぶりの冴えた目覚めを迎えていた。時計を見れば、あと数分でマシュが起こしに来る時間だ。子供の頃、お楽しみの前日はなかなか寝付けず、まだ太陽が顔も見せないころに覚醒していたものだ。

 それほどまでに、立香は静かに高揚していた。

 人理修復を終えて初めてのミッション。この日のために、非力ながらも努力を重ねていた。それでも、マシュの足元にも及ばないが。

 

 最終特異点での出来事を思い出すと、大切な二人の、いや三人の仲間に悲しい選択をさせてしまった自分を情けなく思う。人類最後のマスターと呼ばれる自分はどこまでも凡人で、マシュの命を対価に生き残る資格は――

 

 マイルームの自動ドアが開いた。思わず、伏せた視線がそこに寄せられる。

「おはようございます。今朝は早いですね、先輩」

 自分のことを先輩、と、マスター、と慕ってくれる少女、マシュ・キリエライトがそこにいた。

「うん、おはよう。久しぶりのミッションだからさ、興奮しちゃって」

 

 嘘はついていない。言葉を選びながら、マシュに笑いかけた。

 

 「さてと、ご飯食べに行こうか。いっぱい食べて力つけとかないとね」

「はい、エミヤさんに「今日からミッションなんです」、って話したら少し考えて「そうか……」と呟きながら中華鍋の準備をしてましたから、今日はいつも以上に期待大かと」

「大げさだなあ、ミッションっていうよりちょっと実家に帰るようなものなのに」

「旅先での事故が一番危険だという話です。あくまでこれは任務なのですから、先輩はもうちょっと危機感を持ってください」

 

 普段からやや堅物でクールな印象を受けるマシュ。今日はそれに輪をかけて緊張した雰囲気を纏っていた。

「そうだね。気を付ける」

「あ、いえ、先輩が浮かれていたとしても私がキッチリガードすれば無問題ですから! むしろ沖田さんや信長さんのようにぐだぐだして頂くべきかと。折角、故郷に帰るのですから……」

 

 マシュは浮かれている、というよりも混乱しているようだ。いろいろな特異点を旅したとき、彼女は緊張に体を強張らせることはあっても、このように慌てている様子を見せることはなかった。マスターのせめてもの務めとして、その原因をそれとなく察知し、対処すべきだろう。

 特異点のような困難な戦いになるとは思えない。ミッションもさほど難易度の高いものでもない。とすれば、彼女の緊張の原因は――

 

 「実家――!」

 未成年を一年以上所属させている手前、カルデアとして何か挨拶でもしておくべきでは、というのは前々からのマシュの提案であった。無論、カルデアの名は伏せた上で。それを今度のミッション上で済ませてしまおう、という話になったのであった。そして職員代表としてマシュが推薦されたのだった。

 恐ろしく自己評価の低い彼女のことだから、カルデア職員代表として立派に振舞えるか不安なのだろう。

 

 「大丈夫だよ、マシュ」

 不思議なことに彼女は、自分の言葉で勇気づけられるらしい。

「マシュは立派なカルデアの一員だよ」

「はい、頑張ります、先輩!」

少々力んだ、力強い返事。

 

―――

 

 「それじゃあ、作戦内容を確認するよ。藤丸立香、マシュ・キリエライト両名は日本の聖都に赴き、EX-AIDのサンプルを受領、帰還すること。あ、ついでに帰郷なり観光なりしてくるといい。お土産も忘れずにね」

「了解! 行ってきます!」

 いつもよりやや緩いブリーフィングを終え、コフィンに向かって強く足を踏み出した立香。突然、肩に手をおかれ、ぐいと引き戻された。

「ああ、言ってなかったっけ。今回はレイシフトは行わない。ここから麓に降りて、日本に向かってくれ」

「そうだった……すっかり忘れてました……」

「おいおい、大丈夫かい?」

 

 笑うような、心配するような目つきでダ・ヴィンチがこちらを覗き込む。すると身を屈めて顔を立香の耳元に寄せ、耳打ちをした。

「自分の役割は忘れないでおくれよ。君はマスターだ。サーヴァントじゃない。適材適所というものがある」

 内心を見透かされた気がして、立香は小さく飛び上がった。

「君は自分の責務をしっかり果たしているよ。君が無駄にあれこれ悩んでいると、マシュがもっと苦しむことになる。彼女、君を魔神王と戦わせてしまったことをひどく悔やんでいるんだ。今になっても。だから頼むよ。そこを救ってやれるのは君だけなんだ」

「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」

「もう説教させないでくれよ、疲れるんだ、真面目ぶるの」

 

 ダ・ヴィンチに頭を下げ、ドアの前で待つ後輩むけて走り出す。マシュも医療スタッフと話をしていたらしい。彼女のもとにたどり着くと、マシュは申し訳なさそうにうなだれていた。

「先輩、今度のミッションですが……戦闘面ではお力になれません」

「え?」

「サーヴァントとしての魔力が起動できない、という話です。原因も不明で……とにかく、申し訳ありません」

「……大丈夫なの?」

「ヒトとして生活するには問題ないとのことです。ただ、デミ・サーヴァントとして戦うことができない、というだけで……」

「なんだ、それなら大丈夫だよ

「え?」

「マシュは側にいてくれれば、それだけでいいから」

 

 「それに、二人だけで行かせるつもりもありません」

 二人の中に、凛とした声が飛び込んだ。ツカツカと、軍靴の音を立てて歩み寄る彼女はナイチンゲール。確固たる信念の下粛々と治療を行う、医術に長けた英霊だ。

「護衛として私も同行します。万一の場合の処置もできますし、最新の医学には興味があります」

 「私も行く」

 英霊エミヤ。日本の英霊らしいが、生前のことは今でも語ろうとしない、謎の多い男である。立香やマシュを気にかけているらしく、今日のようにミッションに出発する前には、腕を振るって料理をする。

 

 

 「ダ・ヴィンチちゃん、大丈夫なんですか? 目立ちそうな気がするんですが」

 立香が振り返り、ダ・ヴィンチを呼び止めた。

「ん? ああ、今までは必要がなかったからしなかったけど、サーヴァントには霊体化能力があるからね。それに、目だってくれれば好都合さ。もっとも、サーヴァントは必要最低限が望ましいけれども」

「え?」

「カルデアに、魔術協会が査察に入るかもしれない、という話はしただろう? 君に協会がどれくらいの尾行をつけるかで、どのくらいの規模で干渉してくるか、だいたいの概算がしたいのさ。それに協会だけじゃなく、他のきな臭い連中が君を追いまわしているかどうかも。勿論、グランドオーダーの時と同様、君の観測は続けるさ。もし危険な状態になったら、ニ騎のサーヴァントに守ってもらうといい。いいかい?」

「了解、今回もお願いします!」

「ふふ、任されたよ」

 

 二人と二騎は、吹雪が吹き荒れる銀世界に飛び出した。ここから麓に降り、極東の島国に向けて旅立つのだ。



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2 聖杯のPRAYER

時系列としては、FGOはレムナントオーダー発令前です。
マスターネームはデフォルトの藤丸立香、性別はどちらともとれるように台詞を考えております。
某アーチャーの真名ネタバレありましたね……


……来ちゃった」

「ここが、聖都……!」

 

 重いスーツケースを引きずりながら、静かな雪山とは打って変わった都会の喧騒に身を浸す。

「カルデアで見た吹雪、太陽……特異点での光景も好きですが、都市の空気も味わい深いですね……」

 若干ふらつきながら、マシュが立香に追いつく。

「大丈夫、マシュ?」

「大丈夫……です、多分……」

 

 飛行機や列車、彼女にとって初めて目にするものばかりで、彼女は好奇心旺盛な子犬のように目を輝かせ、あちこちに顔を振り向けていた。その疲れが来たのか、足どりがおぼつかない。

 

 「ここから大学病院までは近いけど、ちょっと一休みしようか?」

「いえ、先輩のお邪魔になる訳には。行きましょう、今すぐ」

 息を切らしながら歩こうとするマシュの腕を、立香が掴んだ。

「令呪をもって命ず。休憩しよう、マシュ」

「それは……卑怯です、先輩」

「うむ、素直でよろしい」

 立香は安堵したような笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 「さて、休憩するような場所、っていうけど、どこがいいかな……? エミヤ、この辺りは詳しい?」

 立香は後ろを振り返って、霊体化したエミヤがいるであろう空間に向かって話しかけた。

「いや、私はここの出身ではないな。とにかくマシュを座らせよう。彼女は不調を口に出すタイプではないから、目に見えて様子がおかしいときは危険だぞ」

「うん。とりあえずこっち、座らせてもらおう。……ねえ、エミヤ」

「どうした?」

「こういうの、手慣れてるの?」

 戯れと、少々嫌味の入った視線をエミヤに向けた。

「勘違いするな、年の功というやつだ。別にどうというわけではない」

「ふーん」

 

 

 立香は眠りの浅瀬に立ち入ったマシュに肩を貸して、喫茶店の座席に彼女を降ろした。マシュはすぐに小さな寝息を立てはじめた。少々悔しいがエミヤの言う通り、かなり無茶をさせていたようだ。

「あ、飲み物頼むけど、エミヤとナイチンゲールさんは?」

「私は遠慮しておきます」

「……ここで飲み物を飲むとなると、二人分のテレポーテーションか、虚空に浮かび中が減っていくドリンクという怪奇現象を見せつけることになるが?」

「……そうでした」

 

 

―――

「ん……う……あ、先輩、私……」

マシュが身をよじり、ゆっくりと瞼を開ける。寝顔を覗き込んでいる立香と目が合った。

「わ、マシュ、うっ!?」

立香は急いで体をひっこめた。体のどこかで鈍い音がした。

「ごめんなさい、私、眠って……」

 マシュは目をこすりながらも、立香に頭を下げた。

「こっちこそごめん、マシュが疲れてたなんて……」

「時間は大丈夫ですか……?」

 寝ぼけた状態でも時間のことを心配するあたり、やはりマシュは几帳面な性格のようだ。

「うん。指定された時間にはまだ早いかな。だからもうちょっと――」

「外を見て回りませんか、先輩」

「はい?」

 

 立香は呆気に取られて生返事を返すことしかできなかった。

「でも、マシュ、疲れて……」

「もう大丈夫です。今はそれより、この街を歩きたいんです。私たちといっしょに生きている人のいる街を」

 その一言で、立香ははっと気づかされた。

 二人は様々な特異点を旅し、そこにいる多くの人々とふれあってきた。ウルクの人々と手を取り合って、魔獣の被害の修復作業をしていたことも、まるで昨日のことのように覚えている。

 しかし、マシュは彼女の時代の人間と触れ合ったことはない。カルデアの職員が精々であった。

 短く、儚く消えるはずだったマシュの命が人並みまでに延びた今、彼女には今を楽しんで生きてほしい。そう考えている立香が首を横に振るはずがなかった。

「そっか、よし、行こう!」

 

 

 店を出れば、昼過ぎのぬるい空気が彼らを出迎えた。今日は休日のようで、少年少女が往路を埋めている。見渡せば、その多くが恋人同士で――

「ま、マシュっ」

「はいっ、何でしょうっ」

「CRからはさ、できるだけ目立たないようにしてくれって、カルデアとは事情が違うみたいでっ、そのっ」

 立香は右腕を震わせながら、マシュの左手に手を伸ばす。

「そうですね、目立たないように、周りに馴染まないといけないですからねっ」

 マシュは関節を極めるかのような勢いで、立香の右腕を挟み込んだ。

「ほ、ほら、あっちに美味しそうなクレープがあるよ!」

「いいですね、一度食べてみたかったんです、いきましょう!」

 二人はぎこちなく腕を組んだ。馴染むどころか、むしろ悪目立ちする格好となった二人が、まるで魔神柱に挑むかのような勇み足で屋台に向かう。

 

 

 「……はぁ」

「如何しましたか?」

「逢引きがしたいならしたいと、はっきり言えばいいものを。二人とも」

「……そういうものですか」

「ところで看護師殿。飲み物の一つなど――」

「結構です」

「……そうか」

「はい」

 

 

 「……先輩」

「どうしたの?」

ベンチに腰かけてクレープを齧るマシュ。

「私、幸せです」

「いきなりどうしちゃったの」

「私はまだ生きていて、素晴らしい人々に囲まれて、こうしておいしいものも味わえる……特異点では苦しみながら死んでいく人々を大勢、見てきました。それは、今も変わらない。私だけがこんなに幸せで……いいんでしょうか?」

「……マシュ。全てを救いたいと考えるのはね、きっと傲慢だよ」

「傲慢……ですか」

「うん。それにさ、カルデアの人達はなんでマシュを代表にしたと思う?」

「……分かりません」

「それはね、マシュに楽しく過ごしてほしいからだよ。みんな、マシュが楽しそうにしてるのを見るのが幸せなんだよ」

「誰かの幸せが自分の幸せになる……そういうことはあるのでしょうか?」

「あるよ。きっとそれが――」

 

 二人の平穏な時間を切り裂いたのは悲鳴だった。二人が瞬時に臨戦態勢に切り替わるのも、慣れたものであった。

「先輩!」

「聞こえた! 行こう! エミヤ! ナイチンゲールさん!」

 緊急事態を察してか、二人はすぐに現界した。

「ああ」

「了解です」

 

 

―――

 悲鳴の聴こえた場所へ駆けつけた二人が見た者は、サーヴァントとも魔物ともとれない、奇怪なデザインの怪物だった。

「マシュ、これってエリちゃんとかの仕業!?」

「たしかに少々ファンシーな……こちらを確認しました、来ます!」

 

 「人を襲うなら、私たちの敵に違いない……!」

「……治療します」

 エミヤとナイチンゲールが二人の前に立ち、怪物と対峙した。

 エミヤは瞬時に弓を出現させ、矢を引き絞って接近してくる怪物に目がけ――寸分たがわず頭部を射抜いた。嫌味に、小さく鼻を鳴らした。

「何……!?」

 エミヤの表情が、瞬時に険しくなった。確かに彼の一撃は、怪物に直撃した。しかし、死亡するどころか、ダメージを受けた様子すら見せない。エミヤは遠距離戦を諦め、二振りの短剣を投影して怪物と組み合った。

 「甘いな、お前たち、甘いぞ!」

 怪物は嘲笑の言葉を、二刀流の騎士に浴びせかけた。

「言葉を!? 何者だっ!」

「このソルティ伯爵を知らぬとは、不敬なァ!」

 

 ソルティと名乗った怪物は左腕のハンマーを振り下ろし、エミヤを吹き飛ばした。

「がッ!」

 エミヤは次々に武器を投影していったが、全て彼の前に弾かれるか、打ち砕かれた。防戦一方どころか、その防戦すらままならない状況である。

 

 「下がって!」

 ナイチンゲールが発砲し、エミヤを援護した。しかしその銃弾も彼には痛くも痒くもないらしい。

「フハハ、甘い甘い甘ァい!」

「ぐ、ふっ……」

 銃弾をものともせず、一直線に駆け抜けたソルティはナイチンゲールの鳩尾に一撃を見舞った。力なく崩れ落ちた彼女を、ソルティは無造作に蹴り飛ばした。

 

 「エミヤさん……ナイチンゲールさん……」

「攻撃が効かない!? 一体これは……」

『解析中だけど、結論から言うと今の君たちに勝ち目はない! 今すぐ緊急レイシフトで……』

 ダ・ヴィンチからの通信が入った。どうやら、いままでずっと見守られていたらしい。

 

 「まだだ、所長代理」

『無茶だ、もうボロボロじゃないか!』

 エミヤが気力だけで立ち上がり、一人でソルティの前に立ちふさがった。

「三人を逃がすくらいなら、今の俺でもできる、行け」

 エミヤは三人に背中を向けたまま、振り返って告げた。

「エミヤ!」

 立香ナイチンゲールに抱えられ、それでも手を伸ばして、彼を引き留めようとする。そんな甘っちょろいマスターに、反英雄はいつもの・・・・笑顔で応えた。

「立香。俺がこんなところで終わるとはまさか思っていなかったが……今まで、割と楽しかったよ。感謝を。……熾天覆うロー……」

 

 彼の決死の宝具が花を結ぶ、その時。

 

 戦域外から、紅い光がエミヤとソルティの間に突き立った。

 「何っ!」

 二人の、いや、そこにいた全ての視線がその方向に引き寄せられる。

 その先にいたのは、なんとも不釣り合いな二人組だった。

 一人は年端もいかない少年。もう一人は……

「バグスターだ! 襲われてるよ、ランサー! 助けてあげて!」

「へん、任せろって」

 少年にランサーと呼ばれた長身の男は、その赤い光の中めがけて戦場に飛び込んだ。つまり、エミヤとソルティの間に割り込む形となる。

 

 「なっさけねえなあ、テメェは」

そう言って振り返った男は、軽薄さの中にそれ以上の獰猛さを飼っている、そんな顔立ちをしていた。

「貴様……」

「おっと、真名バラしはここでは御法度だ。ランサーと、呼んでくれや」

 

 ランサーはそう言うと、ソルティに向きなおった。

「乱入とは、貴様しょっぱいことを……!」

「悪いな。だが俺はあいつらに訊きたいことが山ほどあってな。引き下がらないようなら……ご退場願うぜ」

「狩りの邪魔をされて、黙って帰るとでも思ったか! 貴様も獲物に追加だ! まとめて塩漬け肉にしてやる!」

 

 ランサーが目にも止まらぬ速さでソルティと組み合い、すれ違いざまに一撃を叩き込んだ。

「ぐはっ!? 貴様、正々堂々と戦え!」

「力馬鹿に正面から打ち合うかっての」

 

 「すごい、クー……ランサーさん、ソルティにダメージを!」

「一体どうして……教えて、ダ・ヴィンチちゃん! ……いや、ここではキャスターと」

『絶体絶命の中でもボケるところ、私は好きだよ。うん。今のランサーだけど、霊基が通常のサーヴァントと一部異なっている……そこが何かなのはまだ分からないけれど、多分それがあの怪物に攻撃できるカギだ』

「そうなんですか……? カルデアにいる彼と、全く同じように見えますが……」

 

 クー・フーリンはソルティの一撃をかわし、後ろに回り込んだ。そして、槍先で膝裏を切り裂く。

 ソルティはバランスを崩し転倒した。そこに一条の死が容赦なく襲い掛かる。ソルティは転がってそれを辛くも回避した。

「貴様、よくも……」

 息も絶え絶えのソルティがめちゃくちゃに攻撃を仕掛けた。しかし、ランサーに届くことはない。巧みに猛攻を捌いては、的確に一撃を見舞う。

 

 「さて、行くぜ」

ランサーの周囲に、激しい魔力の波が立つ。大地が軋み、木々はただ凪ぐ。

 「――突き穿つ死翔の槍ゲイボルク!」

 真名解放された槍はランサーから飛び立ち、ソルティを貫いた。

 うめき声すら上げることなく倒れ、消滅した。

 

 「ふう、やれやれ」

 瞬く間にソルティを斃したランサーが転がった槍を拾い上げ、一息ついた。

 そして、立香に向きなおり、歩み寄った。親しい友人にでも会ったようなその緩みきった笑顔に浮かぶそれは、

「じゃ、お前たちも」

 それは、明確な殺意。

「死んで貰う」



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