東京喰種 -二人の境界線- (のりちゃん)
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1話
-21区の路地裏-
「ひ、ひぃッ……!」
俺は走った。必死に、腕を大きく振って。
「オイオイ逃げてんじゃねェよォ!!」
後ろから迫り来るのはターゲットの喰種。俺が逃げられる訳が無い。無力な俺なんか… ────
▽
俺は運動神経音痴で頭も悪く何も取得が無いただの三等捜査官。10区担当だけど、あまりにも役立たず過ぎて21区の手伝いに回されちまった。今は上司に着いてきて任務遂行中だ。後を付いているとふと、上司が振り向いた。
「俺はあっちを見てくる。お前は此処で待機だ。」
「了解です。」
そのまま俺は上司の命令に従いその場で待機していた。ところが…上司の姿が見えなくなった瞬間、その出来事は起きた。
「よォ、テメェは…神田智徳か?」
目の前に現れたのは資料で見た今回のターゲット"双頭黒戌"だった。俺はクインケを展開しては直ぐに相手に斬り掛かる…が肩を抉られたと同時にクインケも弾き飛ばされる。俺じゃ到底敵わない、と確信した俺は情けないが相手を後にして逃げた。
___
そして…今に至る。俺は逃げ続けていたが、もはや行き止まり。目の前には壁、後ろにはターゲット……逃げ道なんてなかった。
『××。本当にこの子なの?君の狙いは』
「あァ、コイツだ……ッたく、手間掛けさせんなよ。」
相手は一人の筈なのに、まるで誰かと会話している様に一人でぶつぶつと呟いている。俺は抵抗出来ずに相手に背を向け怯えるだけで精一杯だった。そんな俺に喰種が嘲笑っているかの様な声質でこう告げてくる。
「ハッ、無様で間抜けなノリト君…そんなテメェには俺様が力を貸してやるよ。良かッたなァ?俺様と同じ名前で…、殺されなくてよォ」
「…?それってどうい……ぅ」
相手の言っていることがさっぱり分からなかった。それに何故俺の名前を知っているのかも。痛みで思考もままならない俺は相手から鳩尾に強烈なワンパンをくらえば一瞬で意識を失ってしまった。
..........................................
ゴ-ン…ゴ-ン……
「…ン?」
俺様は鐘の音で目を覚ました。此処は教会、俺は此処に住んでるから俺の家でいいのか…まぁ、居眠りでもしちまったんだろう。
それにしても随分と昔の夢を見た…そういえば俺様が変わったのはあの時からだった。あの"俺様"と言ってた奴は一体……。
『おはようお兄ちゃん…随分とぐっすりでしたね。仕事続きで疲れが溜まってたの?』
考え込んでいた時にふふ、と微笑み乍声掛けてきたのは俺様の弟。歳は17歳、深紅のロングの髪を後ろに結んでる…ま、本当の兄弟じゃねぇんだけど。此奴は此処の神父であり俺様の同居人でもあるな。
「あァ、疲れてた。つか俺様どんくらい寝てた?」
『ええと、帰ってきて直ぐに倒れるように寝てたので…12時間くらいは寝ていたような』
俺様がいつも寝てる睡眠時間に二倍した時間帯を聞けば少し吃驚して慌てて時計を見てみた…ヤベェ、10時、遅刻じゃねぇか。
『…その、起こさなくてごめんなさい。お兄ちゃんにゆっくり休んでもらいたくて……遅刻ですが、ちゃんと連絡はしておきましたので。朝ご飯はちゃんと食べて行くんですよ?』
「あ―、へいへい。」
俺様はリビングに行き、朝食が並べられてあるテーブル席へと座り食事を済ませた。
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2話
-CCG局内-
「はァ…」
俺様は飯食った後、あの世話焼き過ぎるクソ神父に車で送って貰ったが車内では、散々と 無理はしないでくださいね!だとか色々と言い纏われていた。それをずっと聞き流しては此処に着いたわけだ。仕事する前にもう疲れたぜ。
そしてくだくだと仕事場へ向かっていると後ろから声が聞こえたと思えば一瞬にして俺様はぶっ倒れた。そう…アイツが突撃してきた。
「智先輩ッ!遅いです〜、私凄く待ち侘びましたぁ。…ていうか智先輩が遅刻なんて珍しい!」
「朝から煩ェなァ……つか退けやがれェ」
「今は昼ですよぉ〜!」
「退けろつッてんだろ、聞けや!!」
威勢よく俺様の上に乗っかってんのは 桜坂姫織《サクラザカヒオリ》二等捜査官。目が死んでる血が大好きな18歳のJK。俺様の班に所属してる部下の一人。俺様的には普通に高校生活を送ってもらいたかったもんだな。まぁ、本人が好きでやってるから俺様は口出ししねェけどな。
「こらー、桜坂二等捜査官はん。退けなさい。神田特等が困っとるがな。」
「片桐先輩!?…はい、退けますッ(♡)」
「…大丈夫でっか?神田特等。」
「おう、さんきゅ。蒼真クン」
蒼真が来た途端デレッデレになった姫織が退けば後から来たもう1人に手を差し出され、その手を掴み起き上がった。
俺様に手を差し伸べたのは 片桐蒼真《カタギリソウマ》一等捜査官。元キジマ班だったがキジマ准特等が死んでからは俺様の班に配属された。昔、喰種に虐殺されそうになったが一命を取り留めたらしい。キジマ准特等の様に継ぎ接ぎがあり人工四股。今掴んでいるその義手はそれを物語る様な冷たさを感じられる。…まぁ、可哀想なんて言ったらあれだがコイツはサイコパスだしな、同情なんて要らねぇか。
「ほんで早速来よったとこでぇ悪いですけど、帝准特が呼んでぇます。今日は遅刻ってあってん…ごっつい怖い顔してました。」
「確かに、凄い怒ってましたぁ〜!黒いオーラむんむんで」
「マジかァ…めんどくせェな、オイ」
「まぁまぁ、物は試しと言います。行きましょぉ〜!」
「「それは物は試し とは言わねェ/て言わへん」」
「てへっ」
三人でその場を笑い済ませ、俺ら神田班の仕事場へと向かった。
___
扉の前に辿り着いた。何故か二人が俺様の後ろにくっついて離れない。それほど説教が嫌か……まぁ、俺様は何とも無ぇからそのまま扉を開け普通に入った。
「はよ〜…」
ダァンッ!! 俺が入った途端にデスクを叩く音が室内に響く。
「遅い……貴様、今何時だと思っている?」
「何時…ッて、時計見りゃ分かるだろ。つかあのクソ野郎が電話入れたろーが」
「口答えはいい…来い」
「だーかーらクソ「いいから来い」
この口煩いのは帝京臥《ミカドキョウガ》准特等捜査官。短気で潔癖症の30歳。顔は綺麗だけど性格が残念なんだよなぁ。あと、我らのオカンだ。
そんで、俺様はしぶしぶと呼ばれたアイツの元へと近寄った瞬間。頬を思いっきり打たれた。
「痛ッてーなァ…暴力反対」
「黙れ、お前はこれくらいしないとまたやらかすだろう。次は気を付けろ」
「チッ…分ーッたよ」
イラついた俺は相手が最も嫌うボディタッチ、相手の頭をポンッと軽く叩けば席に座った。
そんな京チャンは頭に手をやれば汚いを連呼して自分の頭をほろっていた。ザマァねぇな、と俺様は嘲笑ってやった。
「うるさ……あの、静かに出来ないんすか?」
「あ"?」
「静かに出来ないんすか?…って聞きました。耳大丈夫なんすかね」
双眸を細めこっちを見てくるコイツは周防獅王《スオウ レオ》一等捜査官。上司嫌いでクソ生意気な18歳。クソみてぇに馬鹿なのにクソみてぇにゲームメイクが得意。気に食わねぇ。
「……それが上司に向かって物言う態度か?」
カチン来たのか短気な京チャンは獅王のデスクの目の前に立ち塞がった。それを見た獅王は反論するように立ち上がり。
「別に上司嫌いじゃなくて、アンタらを上司だと思ってないだけですから」
「……貴様ぁ」
不穏な空気が流れ今にも喧嘩しそうな時、室内の扉が開いて五人ほどの影が見えた。
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3話
「喧嘩しちゃ駄目だよぉ、仲良くしないと〜」
入ってきて早々、五人の内のど真ん中に立っている銀髪で身長が2m以上の巨人が声を掛けてきた。ゆったりとした口調が特徴だが俺様的にはいけ好かない。コイツは白夜炎士《ビャクヤ エンジ》特等捜査官。
此方へ近付いてきたと思えば京チャンと獅王の手を取りお互いに握り合わせ微笑む。
「はい、仲直り〜」
「ひっ…」
潔癖症の京チャンは直ぐに手を引っ込め自分の手を摩る。獅王は苛立つように席へと乱暴に腰掛ける。その様子を見た炎士はキョトンとして俺様の方に寄ってきた。
「ねぇねぇ、智徳。何で二人は仲直りした筈なのに怒ってるの?」
「あ"、テメェがKYだからだろ。……つか何か用か?」
先程の件が無かったかのように待ってました、と言わんばかりに笑顔で
「えっとねぇ、今度の任務で僕達一緒に組むことになったよぉ。僕待ちきれなくてね、メンバーと一緒に教えに来ちゃったぁ」
ぴょんぴょんと跳ねては俺様の首に手を回し抱き着く。子供か、とツッコミたくなったが言葉を続けようとした時、立っていた内の一人の銀髪の女か男か見た目だけじゃ分かんねぇコイツの妹 白夜氷麗《ビャクヤ ツララ》が割入る。
「お兄様、神田特等のご迷惑になっていますよ。すみません…いつもいつも」
「大丈夫だ。もう慣れた…つか何で一緒に組むことになってんだよ、上からの命令か?俺様聞いてねぇんだけど…」
途端にデスクにどっさりと資料が置かれる、側には蒼真が目の笑っていない笑みを浮かべて俺様を見てた。
「はいこれ、今週の資料ですー。班長は部下にみな任せっきりやから予定もなぁんも言われなきゃ分かりまへんな?その任務についても書かれてるさかい……ちゃんと読んでくださいね」
「…うぃっす」
くすくす、と笑い声が聞こえたと思えば炎士がにこやかに笑っていた。すげぇ嫌らしい笑みに見える。
「駄目だよ智徳〜、任せっきりはぁ。ちゃんと読んでおいてよ。それじゃ、また会おうね〜」
手をぶんぶん振っては巨体なくせにトテトテと子供の様に班員達と共に去っていった。一息付くもデスクの資料を読もうと手を伸ばせばその資料は無く、蒼真の腕の中に。
「ワイが予め読んでおぅたさかい纏めて話させてもらいますわ。…来週、オークションに潜入捜査します。場所は前もって他の班の人が調査してて把握済やさかいそこら辺は安心しといてください。」
ですけどちゃんと読め、と言うように結局押し付けるように渡してきた。俺様は生返事すれば改めて資料に目を通した。
___
目を通してから、デスクワークをこなしていればあっという間に帰宅時間。俺様は時間にせっかちだから班員に残業はさせねぇ、皆を帰らせれば俺様も帰ろうと局を出た。歩いて帰ろうとすれば黒いワゴン車が目の前に止まり。窓が開けば京チャンとその他メンバーが顔を覗かせ。
「智先輩!乗って行ってくださぁい」
「ンでお前ら…あ、そういや同居してんだっけか」
「チッ、乗るのか乗らないのかはっきりしろ。置いてかれてぇのか」
「あー、乗る乗る頼むわオカン」
誰がオカンだ!と運転席から聞こえるが構わずに助手席に乗り込んだ。
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