銀色に憑依した悪逆皇帝 (甲斐太郎)
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00.【Cの世界で】

□ルルーシュ□

 

最愛の妹であるナナリーの『愛しています、お兄さま』というトリップ成分たっぷりの発言を頭の中で何度もリピートさせながら、夢心地で瞼を閉じた俺であったが、誰かに揺さぶられる感覚に襲われ渋々目を覚ます。すると暖かな光が差し込む白い空間に立たされていることに気付いた。背後に気配を感じた俺がその場で振り返ると、不気味な白い仮面をつけたナニカが殴りかかってきたところだった。

 

【僕たちに明日を望んでおいて早速自殺するとか、何をやっているんだぁあああ!!】

 

鳩尾に突き刺さる拳。

 

“運動神経を母胎に置いて生まれてきたのではないか”と揶揄され笑われるほど貧弱な俺の身体では到底耐え切れない一撃。

 

身体は“く”の字に曲り、足先が地面から離れる。

 

一瞬の浮遊感の後、地面の上に崩れ落ちた。内蔵が体内で暴れ狂う感覚に身悶えして地面をのた打ち回る。

 

スザクが扮するゼロに剣で心臓を一突きされた時は痛さよりも熱さや息苦しさが先行したので、こんな痛みは久しぶりの感覚である。

 

【僕たちに明日を望んだ君だからこそ、光ある未来を見せてくれると期待したのに、何この結末!ふざけんなしっ!】

 

白い仮面をつけたナニカは俺の身体を掴んで持ち上げると逆さにした。そして両脚を掴んで俺の首を肩口で支える。白い仮面をつけたナニカの息遣いが傍で感じられるが、自身が強制されているこの体勢に不安しか感じることが出来ない。

 

もしもこんな状態でジャンプされて空中から尻餅をつくように着地されたら……。

 

【僕たちの思いを踏みにじった悪逆皇帝に裁きをっ!くらえ、キン○バスター!!】

 

「おい、馬鹿、やめっ!?」

 

俺の制止の言葉を無視して白い仮面をつけたナニカは飛び上がった。細いモヤシ体型とはいえ、成人男性を抱えたまま一足で飛び上がれるジャンプ力ではないだろうと現実逃避する俺。上へ上へと向かっていたのが、地面に吸い込まれるように落ちて行く。

 

俺は思わず目を瞑る。

 

その直後、首と背骨と股間が引き裂かれるような激痛を感じると同時に俺は意識を手放した。

 

 

 

 

目覚めて早々に自身の体がどこも壊れていないことを確認した俺の前に、白い仮面をつけたナニカが現れた。俺は思わず身構えたが、白い仮面をつけたナニカはどこからともなく机と椅子を引っ張り出すと腰掛けた。そして、俺に自身の向かいに用意した椅子に座るように無言で促してくる。ガラスの様に透き通った机と椅子だなと思いつつ、ちゃんと座れるかを確認して腰掛けた。

 

【出会い頭にすまなかったね、悪逆皇帝】

 

「まさか死んだ後に死ぬことになるなんて思いもよらなかったぞ」

 

【僕たちに明日を望んでおいて、自殺する悪逆皇帝が悪い】

 

「“僕たちに明日を望んで”か。つまり、お前は俺がギアスという名の願いを掛けた無意識集合という認識でいいのか?」

 

【その認識で問題ないよ。今、君が見ている僕たちの姿は君の記憶に基づいて構成されている】

 

俺は無言で無意識集合の姿を見る。不気味な白い仮面をつけていること以外は、偽りの記憶を与えられた頃の俺の弟を演じていた少年の姿だ。ただ妹も目的も自分の軍隊も何もかも失い自暴自棄になっていた俺の命を救うために、自分の命をかけて守ってくれた『ルルーシュ・ランペルージ』という男の唯一の家族で頼りになる弟の姿。確かに彼が生きていたら、『どうして死を選ぶの!』って怒っていたかもしれない。

 

【さてと、悪逆皇帝。僕たちは君が示した明日が見たいんだ。君のいない明日が来る世界に興味はない。君がいなくなったあっちの世界は『時空の管理者』に世話するように丸投げしたからさ、気にしなくてもいいよ】

 

見ればどこか遠い目をした長身の女性が立っていた。毛先に行くにつれて薄紫色へと変色している黒髪は肩口で切り揃えられている。首元にはギアスの紋章が浮かびあがり、その表情はどこか達観しているようにも見える。

 

【さすがに君を君のまま、並行世界に放り込むと厄介なことにしかならないから、“器”を用意させてもらったよ】

 

無意識集合が指を鳴らすと同時に瞳に生気が感じられない少年が素っ裸で突然現れた。

 

目視で確認する限りであるが身長は俺とほぼ変わらないが、筋肉のつき方が半端ではない。俺はまさに吹けば倒れるモヤシ体型であるが、無意識集合が用意した少年は細く引き締まった筋肉という名の鎧を全身に渡って纏っている。容姿は銀髪碧眼で、顔の輪郭や目鼻の位置は俺に良く似ているが、股間にそそり立つモノは俺のとは比べ物にならない。

 

【とある並行世界で君を補佐する立場となって世界を護ったり、敵として立ちはだかったりする君のご先祖さまさ】

 

「は?ご先祖さま?」

 

【初代皇帝の子供で第2代ブリタニア皇帝。『狂王』として親兄弟を皆殺しにしたり、『賢帝』として民の暮らしを良くしたり、国外の敵を叩きのめしたりして、後に強大な国となるブリタニアの礎を築いた偉大な王様さ。聴覚に作用するギアスも持っているよ】

 

俺は無意識集合の話を聞いて頭が痛くなる。

 

どう考えても『ボクの考えた強いオリジナルキャラクター』でしかない。

 

しかも設定を盛り過ぎだ。俺は魂が入っていない等身大の人形でしかない少年を見る。そして、無意識集合を見ると一枚のプリントを差し出される。俺は何も言わずに受け取って、書かれている内容を読む。

 

名前は『幻の美形』。

 

年齢は『君と同い年』。

 

性別は『君と一緒』。

 

父親はブリタニアの建国の当事者であるリカルド・ヴァン・ブリタニアで、母親は嫁いで来た極東の島国出身の皇族の女性。つまりブリタニア人と日本人のハーフ。

 

ちなみに母親と同じ黒髪の妹がいた。大和撫子な妹がいたらしい。大事なことだから2回言った。

 

俺はプリントを裏返したり、無意識集合に写真はないのかと視線を送ったりしたが色よい返事はもらえなかった。気を取り直して資料を読み進める。

 

少年の設定では『君並みの知性』、『スザク並の運動神経』、さらに『聴覚に作用する絶対遵守のギアスを持っている』という破格の待遇。

 

こんな優良物件をその世界の俺が見逃すはずがない。スザクと一緒にいるところなんて見たら『何故だっ!』と歯軋りしながら世界を呪うこと間違いなしだ。

 

 

 

「“彼”のスペックは理解した。だが、無意識集合。お前たちは“彼になった俺”に何を望むんだ?彼が自分の意思で俺の側にいたり、スザクたちと世界を創ったりする様子は見たことがあるのだろう?……だから、俺を彼の器に憑依させるのか」

 

【理解してくれたようで、僕たちは嬉しいよ、悪逆皇帝。そうさ、バッドエンドで終わらせたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしての記憶を持つ君なら、色々な悲劇を喜劇に変えて、『未来ある明日』を創ってくれるよね?】

 

白い仮面をつけた無意識集合の口ぶりはお願いの形ではあったが、1人の人間でしかない俺に拒否する権利も抵抗する力もない。どうせやるなら徹底的にやってみるかと俺は椅子から立ち上がって、銀髪碧眼の少年の器の側に移動する。

 

そして、軽く彼の肩に触れた。

 

 

 

 

誰かの声に導かれるように、ふいに目を覚ます。

 

上半身を起こして、ベッドの木枠に寄りかかりながら立ち上がるが、うまく身体を動かせずにその場に倒れこんだ。全身を床に打ち付けた痛みで涙が浮かび上がる。

 

すると突然、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。俺が部屋の中で倒れた物音を廊下で聞いて飛んできたようだ。

 

俺はその人物に手伝ってもらってうまく動かない自分の体をベッドに座らせてもらう。たったそれだけの動作で汗だくとなった少年に感謝の言葉を述べようとした俺は言葉を失った。

 

「はぁはぁ……。ここに運ぶ時も思ったけれど、見掛けによらず筋肉質だよな。お前」

 

「…………」

 

「うん、どうしたんだ?」

 

そこにいたのは黒髪と紫の瞳を持つ、記憶にある自分の姿よりも幼い容姿の『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』だった。

 

 



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01.【アッシュフォード生徒会メンバー】

□???□

 

『Cの世界で銀髪碧眼の少年に憑依することになった』ということを頭で理解はしていたが、目覚めたら自分が目の前にいたことや慣れない身体に困惑し、少々パニックを起してしまった俺を不器用ながら落ち着くまで一緒にいてくれたこの世界の俺に心の中で感謝の言葉を紡ぐ。

 

すると俺の目が覚めたことを他の人間に伝えてくると言って部屋から出て行ったこの世界の自分を見送った俺は、パタリとベッドに寝転がって天井を眺める。顔を横に向けて窓の外を眺めると麗らかな陽気が感じられる。

 

ベッドから降りて窓の近くに移動するとクラブハウス前に作られた庭園に植えられた花々の手入れをするメイドの姿があった。その近くには車椅子に腰掛けたブロンズの髪の少女の姿が見える。

 

意図せず透明な二粒の水滴が瞬きと一緒にはじき出され、頬を伝って落ちていくのを感じ取り指の背で拭う。

 

すーっと息を引くような音で部屋の扉がゆっくりとスライドするのが分かった。扉がある方へ身体を向けると、そこには黒髪の少年の他にも多くの少年少女が立っていた。

 

その中にいた俺の所為で命を落としてしまった少女の姿を目にした瞬間、じーんと鼻の奥が痺れるほど熱い涙が溢れ出て、何度服の袖で拭いても涙が止まらなくなった。

 

「目が覚めたみたいねって、号泣してるー!?」

 

部屋に先陣を切って入ってきた金髪の女性がハンカチを取り出しながら俺に近づいてきて、それを俺の頬に優しく押し当てる。まるで泣きじゃくる子供の相手をするお姉さんのようだと思ったところで、泣いているのは自分だったと苦笑いを浮かべた。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「いいのよ、これくらいね」

 

心配するような声色で話しかけてくる金髪の女性の姿に俺は心の中でこの人はこんな感じだったなと思い直す。

 

「改めて、自己紹介するけれど、わたしはここアッシュフォード学園生徒会長のミレイ・アッシュフォード。あなたが学園の敷地内に倒れていたから、近かったここにつれてきたのよ」

 

「初めは保健室に運ぼうと思ったんだが、俺と会長の2人ではお前を長い距離を運ぶのは無理だったからな」

 

ぞろぞろと部屋に入ってきた生徒会メンバーの中にいた黒髪の少年が米神を押さえながらそう呟いた。その言葉に対して茶髪の人懐っこい笑みを浮かべた少年や調子の良い事を言う青い髪の少年たちが囃し立てるが、ミレイ会長の咳払いで静かになった。

 

「こほん!……えっと、あなた名前は?」

 

「……わからない」

 

俺は正直に答えた。本名は『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』であるが、“ルルーシュ”は俺の目の前にいるし、今の俺は銀髪碧眼の少年の姿。

 

「記憶喪失ってこと?」

 

「確かに目覚めた直後は自分の身体を隈なく触った上で混乱していましたよ、会長。まるで『自分の身体が自分のものではない』と言いたげな様子でした」

 

「そっかぁ。名前も分からないくらいの記憶喪失か。厄介ね」

 

「すまない」

 

俺が頭を下げると慌てた様子のミレイ会長の声が聞こえてきた。

 

「いいのよ、あなたが悪いわけじゃないしね。……よしっ、決めた!記憶が戻るまでわたしが面倒を見ます!」

 

「はぁっ!?会長!危険ですよ!とりあえず、ブリタニア軍に預けるべきです!」

 

寝耳に水といった様子で黒髪の少年がミレイ会長に食って掛かるが、彼女はあっけらかんと笑いながら両手を腰に当ててはっきりと告げる。

 

「いーえっ!見ます。助けることを選択した以上、『私たちの手に負えないからさよならー』、なんてことできません!最後まで責任を持たないとわたしの名が廃れます!」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「とりあえず、仮入学って形にしておくから今はゆっくりと休みなさいな」

 

俺の返事も待たずに、そう言ったミレイ会長は『そんな話は聞いていない』と喚いている生徒会メンバーを連れて部屋から出て行く。最後に残っていたのは紅い髪の少女であったが、彼女は俺に興味をあまり示さずにさっさと部屋から出て行ってしまう。部屋に1人残された俺はベッドに寝転がって天井を見上げる。

 

「カレンとスザクが生徒会メンバーとしているっていうことは、アーサーがゼロの仮面を被って逃げ回るイベントを消化済みっていうことだよな。ならば必然的に黒の騎士団は結成していて河口湖での宣言も終わっている。となると、黒の騎士団が現在しているのは“正義の味方”としての活動か」

 

 

 

 

夕餉の時間となった。

 

部屋でベッドに寝転がるか、窓から外の景色を見て過ごしていた俺のところに食事を運んできたのはメイドの女性だった。彼女は俺に向かってゆったりと一礼すると机の上に食事を並べていく。「食べ終えたら部屋に備え付けてある電話を使って呼んでくださいませ」と言って、そそくさと退室していく。

 

俺以外の誰もいなくなった部屋で晩ご飯にありつく。『懐かしい味だ』、と思ったらまた涙が零れ落ちた。

 

この身体は『やけに涙脆くないか』と文句を呟きながら、用意された食事をぺろりと食べ終えた俺は備え付けの電話機の前に立った。しかし、俺は電話するのはもう少し経ってからの方がいいかと思い直した。今頃、黒髪の少年は盲目の妹の食事に掛かりきりだろうし、メイドもそのフォローに回っているはずだ。

 

時間を見計らい、『もうそろそろいいか』と思って電話機を取って連絡を入れると、出たのはメイドではなく黒髪の少年だった。

 

『随分と食べるのに時間が掛かったみたいだな。口に合わなかったか?』

 

「いいや。美味しくて、すぐに食べ終えたよ。けど、“君たち”の団欒を邪魔したら悪いと思って」

 

『……。ちょっと、待っていろ』

 

そう言って電話を一方的に切った黒髪の少年。これは踏んではいけない尾を踏んだかもしれないと冷や汗を掻いていたら、自動で扉が開き黒髪の少年がズカズカと入ってきた。彼は机の上に置かれている空になった容器を見た後で、俺に視線を向けてくる。

 

「……どこまで把握しているんだ?」

 

「君には、目と足が不自由な妹さんがいる。これは扉が人の気配に反応して自動で開閉するセンサーが備え付けられていることと、この建物の前にある花壇の手入れをするメイドの横に車椅子に腰掛けたブロンドの髪を揺らす可憐な少女を日中に見ていることから推測しただけだよ」

 

「……お前の言う通りだ。そのこともあってお前がこのクラブハウスで過ごす事を俺は反対していたのだが、会長は一度言い始めたら聞かないからな。だからお前には最低限、視力や身体にハンデのある妹に配慮して過ごしてもらいたいと思っていたのだがすまない。俺が言うまでもなかったみたいだな。そういえば、自己紹介が遅れたな。俺はルルーシュ・ランペルージだ、よろしく」

 

「ああ。こちらこそ、よろしく。少しの間、お世話になるよ」

 

「しかし、名前がないっていうのは不便だな。いつまでも『お前』なんて呼び方は世間体もあるし」

 

日中とは打って変わって親身になって俺のことを考えてくれるルルーシュの姿に、俺は一先ずの不安を覚える。俺が、自分の愛する妹のことを配慮してくれる人間だって分かったからってチョロ過ぎないか、この世界の俺。そんなことを考えていると、腕を組んで考えていたルルーシュが何か思いついたのか顔を輝かせた。

 

「そうだ。最近流行りの映画の主人公の名前を借りるとしよう。今からお前の名前は『ライ』だ。会長たちにもメールしておくから覚えておけよ」

 

そう言ってルルーシュは空になった食器を持って部屋から出て行ってしまった。俺の名前なのに、結局彼が独断で決めてしまう始末。でも、まぁ、名前がなくて困っていたのは事実であるし、甘んじて受け入れることとしよう。

 

翌朝、ルルーシュとその妹のお世話をしている咲世子さんが俺に挨拶すると同時にアッシュフォード学園の男子制服を手渡してくる。制服に袖を通してみるとサイズはほぼぴったりで相変わらずの仕事の正確さに苦笑いを浮かべる他なかった。

 

朝食を食べ終えたルルーシュが俺を迎えに来て、そのまま生徒会室へ通される。授業が始まる前に生徒会メンバーを紹介する流れらしいが、生徒会室には机の上に山ほど載せられた書類がある以外に誰も来ていなかった。

 

「少し早かったか。だが、直に会長たちも来るはずだ。それまで自由にしていていいぞ、『ライ』」

 

「ああ、ありがとう。ルルーシュ」

 

俺はそう言って生徒会室に飾られている写真や掲示板、ニーナが使っているパソコンなどを見ていく。するとルルーシュが席に座って書類仕事をし始めていた。俺の視線に気付いたルルーシュは苦笑いしながら、「これが副会長としての仕事なんだ」と言う。

 

俺は彼の傍に近づき、山積みになっている書類の一番上のプリントを手に取った。内容を流し読みして気になる箇所に鉛筆で軽く印をつけ、ルルーシュに差し出す。

 

「……ふっ、記憶喪失なのに、こういう知識はあるんだな。この調子で手伝ってもらっていいか?」

 

「わかった」

 

俺はルルーシュの隣に座って山積みになっている書類を確認して、気になる点に印をつけてルルーシュに渡す作業をしていく。俺が協力することで元々効率が良かったルルーシュの仕事の速さはどんどん増していく。

 

気付けば億劫になるほど積まれていた書類は1枚残らず、ミレイ会長の机の上に移動しきっていた。仕事を終えて機嫌を良くしたルルーシュは椅子から立ち上がると、俺に「少し待っていろ」と言って生徒会室から出て行き、コーヒー豆やドリッパーなどの道具を持って戻ってきた。

 

 

 

 

「おっはよー、ルルーシュ!それにライ!……って、あらいい匂い?」

 

「おはようございます、会長」

 

「おはようございます、ミレイさん」

 

元気良く生徒会室の扉を開けて入ってきたミレイ会長であったが、コーヒーを優雅に飲みながら一服している俺たちの様子に目を丸くした後、ルルーシュの机の上に置かれていた書類の山が自分の机にそっくりそのまま移動しているのを見て涙目になった。

 

ルルーシュに「溜まっていた仕事はどうしたの?」と詰め寄るミレイ会長に、彼は満面の笑みを浮かべて「会長が来るまでに全部終わらせました」と告げる。俺が手伝ったってことを言わないところを見るに、昨日の俺に対する対応の仕方に関してのことで彼女に少し灸を据えるつもりなのだろう。

 

その後、次々と生徒会メンバーが入ってきたので、ルルーシュに詰め寄っていた会長は気を取り直すように姿勢を正した。

 

「コホン。……改めて、アッシュフォード学園にようこそ、ライ!今日からあなたはこの学園に仮入学することになったから、気が向いたら授業に出ても大丈夫よ。クラスはルルーシュと同じところにしておいたから」

 

「ありがとうございます」

 

「暇があったら生徒会の仕事も手伝ってくれると嬉しいわ。じゃあ、生徒会メンバーを紹介していくけど、ルルーシュ?」

 

ミレイ会長がルルーシュに視線を向ける。彼は俺を見ながら微笑むと言う。

 

「俺のことはいいだろう?ライ」

 

「うん。話す時間はたっぷりあったしね」

 

俺はコーヒーカップを見た後に苦笑いする。

 

「そっか、じゃあ……時計周りに行こうかな」

 

ミレイ会長が右回りに振り返った。俺から見て一番左側に立っていたのは青い髪の少年だった。

 

「よっし!俺はリヴァル・カルデモンド。一応、書記な。リヴァルって呼び捨てでいいぜ!」

 

「よろしく、リヴァル」

 

リヴァルが言い終えるのを見計らって手を大きく上げたオレンジ色の髪を持つ少女。活発な印象を与える自然な笑みに惹かれる。

 

「はいはーい!次は私、シャーリー・フェネット!水泳部と掛け持ちだけど、生徒会も盛り上げていくよー!私もシャーリーでいいわ」

 

「よろしく、シャーリー」

 

次の人物に視線を向けると濃い緑色の髪を持つ眼鏡を掛けた少女がミレイ会長の影に隠れながら俺を見ていた。

 

「あ、あの……ニーナ・アインシュタインです。よろしくお願いします」

 

「うん。よろしく、ニーナ」

 

一応、微笑んだつもりだったのだが、ニーナはすぐにミレイ会長の背後に顔を隠してしまった。仕方がないので俺から見て一番右側に立っている紅い髪の少女へ視線を向ける。

 

「カレン・シュタットフェルトよ。ルルーシュ君やシャーリーさんと同じクラスなの。私もつい最近生徒会には入ったばかりだから、一緒に仕事する機会があればよろしくね」

 

「こちらこそ、よろしく。えっと……シュタットフェルトさん」

 

「いや、どうしてこの流れで私だけ家名?そっちで呼ばれるのは嫌いだから、名前で呼んで」

 

「うん。ごめんね、カレン」

 

「いやだから……もういい」

 

ツンとそっぽを向くカレンの様子を見て、リヴァルやシャーリーたちが呆れるように乾いた笑みを浮かべていた。すると、ミレイ会長が一歩前に出てきた。

 

「生徒会メンバーにはあともう2人いるんだけれど、彼らの紹介は本人がいる時にしようと思うわ。それで今日はどうする、ライ?」

 

「どう、とは?」

 

「ライは仮入学という立場だから、授業に出るのも自由っていう話はしたでしょう?けれど、それよりも重要なのは名前も含めて失ってしまった記憶を取り戻すこと。学園で学生として過ごしながら記憶を取り戻すのもありだし、租界の街に出て記憶の手掛かりを探すのもよし!なんだけれど、いきなり街に出ちゃって迷子になっちゃったら目も当てられないしさ。今日のところはアッシュフォード学園の敷地内を探索するっていうのはどうかな?これなら、最悪生徒に聞けばここに戻ってこれるし」

 

ミレイ会長は俺の反応を見ながら提案してくる。俺がアッシュフォード学園で迷子になるということは考えられないが、『記憶喪失の少年のライ』であれば、彼女の提案に乗るのも一興かと思い頷く。

 

「分かりました。今日は学園内を散策するようにします」

 

「よかった。街に出る時は言ってね。時間が空いている生徒会メンバーに付き添いを頼むから」

 

「いや、それぞれに用事があるかもしれないのに、付き添いまで頼む訳には」

 

「シャラーップ!困った時はお互いさまって言うでしょ。申し訳なく思うのであれば、皆の手伝いを率先してやればいいのよ。例えば、……いつの間にか山積みになっちゃった生徒会長の仕事を手伝うとかさぁ」

 

眉を情けなく下げながら自分の机に置かれた書類の山を見て溜め息を吐くミレイ会長。見れば全員が視線を逸らして、手伝う気が全くないのが窺える。俺は微笑みを浮かべるとミレイ会長に声を掛ける。

 

「分かりました。皆の授業が終わる夕方頃に生徒会室に戻って、ミレイさんの仕事を僕が手伝いますよ」

 

「うわぁーい!ありがとう、ライ!」

 

俺の両手を手にとって上下にぶんぶん振って喜びを体言するミレイ会長を見る生徒会メンバーの視線はやけに生温かった。その後、掛け時計を見て予鈴が近いことに気付いた生徒会メンバーたちが次々に走って出て行くのを見送った俺は、咲世子さんに一言告げてクラブハウスの外へ出る。

 

降り注ぐ柔らかな陽光を身に浴びながら伸びをする。心地よい風が吹きぬけて、花壇の花を優しく撫でていく。

 

 

 

 

この世界は、まだルルーシュの根幹を支える者を誰一人喪っていない世界だ。

 

ユーフェミアも生きているし、スザクとも仲違いしていない。シャーリーもいるし、何よりナナリーがルルーシュの傍にいる。

 

懸念すべきことは唯一つ、ラグナレクの接続のみ。

 

「それがこの世界で俺のやるべきことだというのなら、喜んで対処してやろう」

 

俺は舌なめずりすると、そう呟いて歩き出したのだった。

 

 



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02.【ライ】

□ルルーシュ□

 

1週間前、アッシュフォード学園の敷地内に迷い込んだ銀髪の少年ライ。

 

名前すら覚えていない記憶喪失なライをミレイ会長の思いつきと独断によって俺とナナリーが住んでいるクラブハウスに居候することになった彼は生徒会の仕事を手伝ったり、運動系のクラブ活動の助っ人として活躍したり、中等部の後輩たちに勉強を教えたりして過ごす内に、学園の生徒から『生徒会メンバーの中でも頼りに出来る人物』として認識されるようになった。

 

勿論、俺もライのことは信じているし、頼りにしている。

 

だが、それは時と場合による。何故かというと俺は現在、ライに俵担ぎされた状態で空を眺めている。

 

 

 

事の発端は記憶探しをするライと共にトウキョウ租界の散策に出かけた時のことだ。

 

他愛ない雑談をしながら歩いていたら、路地裏の暗いところで黒の騎士団のメンバーの男(イレブン)と会話するカレンを“ライ”が発見してしまったことだ。“イレブンの男に話し掛けられて困っているカレン”を心配したライが声を掛けた。ぎょっとした表情を浮かべた男を不審に思ったライが纏う雰囲気が少々険悪だったこともあったのだろうが、何の躊躇いもなくライが近づいて来たことに驚いた男が思わずカレンの腕を強く握ったことによって、意図せず漏れてしまった短い悲鳴。それを聞いた彼の目が瞬く間に据わる。その直後、ライから毛が逆立つような殺気がカレンの腕を握った男に向けられた。

 

「ひぃっ!?」

 

ライから放たれた殺気を受けた男は悲鳴を上げて逃げ出した。カレンの腕を掴んだまま。

 

カレンもまたライから放たれた殺気によって意識が軽く飛んでいたらしく、気付けば逃避行の真っ只中。カレン本来の力であれば振りほどくことは簡単であるが、俺とライという邪魔なファクターがいるため、病弱な女性徒という枷を外せない彼女は男と一緒に“銀髪の鬼”から逃げるしか方法がない。

 

当初、カレンを連れて逃げる男を単独で追おうとしたライであったが、思い出したように俺の下へ戻ってきて流れるような手付きで担ぎ上げる。はっと俺が気付いた時には、ライは暴漢から友人を救うための追跡者として走り出しており、俺を置いて追うように告げるには手遅れの状態であった。

 

カレンを連れて逃げている男は路地裏に置かれたゴミ箱や酒を入れるケースなどをなぎ倒しながら逃げているのだが、ライは壁を蹴って飛び越えたり、細かいステップで隙間を縫うように走ったりして、どんどんと距離を縮めていく。俺は臨場感たっぷりのジェットコースターに乗っているような感覚に吐き気を堪えながら為すがままにされている。

 

見える風景が租界からゲットーに変わった時点でヤバイと冷や汗を掻いていた。ゼロのコスチュームはクリーニング中で所持していない。そもそもゲットーに来る予定ではなかったから当然だ。どう収集をつければいいのかと俺が頭を悩ませていると

 

「ルルーシュ、すまない!」

 

「へ?……ほぁあああっ?」

 

ライに俵担ぎされていた俺であったが気付けば空に向かって放り投げられていた。

 

普通、取り乱すところなのかもしれないが俺は一週回って逆に冷静になりながら地表の方へ視線を向ける。その先ではカレンをつれた黒の騎士団のメンバーに追いついたライが男を叩きのめす姿が見えた。鳩尾に一発、首筋に手刀を振り下ろして意識を刈り取ったライがカレンの手を引いている。ちなみに俺はそんな2人に向かって落ちて行く。ガシッと力強く俺を抱き留めたのは勿論ライであったが、お姫さま抱っこってお前……。

 

地面に降ろされた俺は思わず膝に手を置いてがっくりと項垂れた。恨めしそうに顔を上げた俺は長い距離を全力で走ってきたにも関わらず息切れひとつしていないライとカレンを見て、同じ人間なのにどうしてこうも違うのだろうと頭を抱えそうになった。

 

「カレン、大丈夫だったか?怖くなかったか?」

 

「ええ、ありがとう。……正直、追いかけてくる貴方の方が怖かったわ」

 

カレンを気遣う声かけをしたライにした彼女の返事には物騒な続きがあったが、俺は華麗に聞き流した。ここにいる俺たちで事情を理解していないのはライだけだ。だが、俺こと『ルルーシュ・ランペルージ』がその事情を知っていることはおかしいことになるので、とりあえず2人に話しかける。

 

「2人で見詰め合っているところ申し訳ないのだが、早くゲットーから出ないとイレブンから謂れのない中傷を受けることになるぞ」

 

「……っ!そ、そうね」

 

「いや、2人とも。そう簡単にはいかないようだ」

 

ライの真剣な言葉を聞いて俺とカレンは顔を見合わせた。「どうしたんだ」と声を掛け様としたところで大きな爆発音と共に地響きが起きて俺は思わず尻餅をついてしまった。カレンも揺れに耐えられずに地面に膝をついている。ライだけはしっかりと地面を踏みしめていたこともあって、微動だせずに黒煙が立ち上っている箇所に視線を向けている。『ドンドン』と爆発音と黒煙がゲットーの至る箇所で上がっていく。初めは小さく聞こえていた声が大きくなりながら近づいて来た。

 

『我々は黒の騎士団である!これはブリタニアの支配に対する抵抗の炎だ!我々は拳を振り上げる!この拳がブリタニアの血で染まり真っ赤な日の丸に染まるその日まで!』

 

拡声器を通して放たれた言葉を聞いて俺は奥歯を噛み締め、苦々しい表情を浮かべてしまっているのを自覚する。

 

「何を言っているの……」

 

隣を見ればカッと見開いたカレンが怒気を隠さず、拳を握り締めているのが分かった。

 

本物の黒の騎士団のメンバーとして日夜アッシュフォード学園の生徒とテロリストの二足草鞋を履いて生活している彼女にとってすれば、彼らの行動はそれを踏みにじる行為以外の何者でもない。その時、黒煙を割って数機のKMFが現れた。ブリタニアのグラスゴーを改造して作った無頼であるが、黒の騎士団で使っている機体ではないことは一目瞭然であった。

 

『立ち上がれ日本人よ!犠牲を恐れるな!我々黒の騎士団とともに支配者を討て!ブリタニア人を殺せ!!』

 

先日のシンジュク事変によって強化されていたブリタニアのパトロール隊を襲撃するだけに留まらず、逃げ惑う同郷の住人すら巻き込んで無秩序に暴れる黒の騎士団を名乗った奴らの行動に俺は自身の腸が煮えくり返るのを自覚する。ガチガチと歯を鳴らして身体を震わせていたカレンが吠えた。

 

「あんなの黒の騎士団じゃない!黒の騎士団は弱い者の味方だ!ブリタニア人でも日本人でも無差別に巻き込んだりしない!絶対にしない!」

 

非常に熱くなっているカレンには悪いのだが、俺やライが側にいるのを忘れないでもらいたい。ヒートアップして犬歯を剥き出しにして吠える姿はご主人さまに手を出そうとしている敵を排除しようとしている忠犬に見えなくもないのだが、今の俺は彼女のご主人さまのゼロではない。

 

「ブリタニア軍も出張ってきたな」

 

ポツリと呟かれたライの言葉を聞いて戦場を見ると警察の白い装甲のナイトポリスの他にブリタニア軍の青い装甲を持つKMFサザーランドの姿が多くなってきていた。相手が黒の騎士団を騙っているため、軍もそれ相応の対応をしてきたということだが、ブリタニア軍はゲットーの住民やテロリストに関係なく銃弾をばら撒く。テロリストたちも負けずと撃ち返すが、時間が経つにつれて増えていくブリタニア軍に対してジリ貧になっていく。中には逃げ出す者も。

 

『テロリストは周囲のイレブンに紛れて逃げ込む可能性大。包囲網のイレブンは1人も逃がすな。繰り返す包囲網のイレブンは1人も逃がすな』

 

『了解した。イレブンは1匹残らず駆除する』

 

オープンチャンネルで放されるブリタニア軍人の会話を聞いてカレンが目尻に涙を堪えるのが分かった。黒煙が立ち上り、銃器の音が鳴り響き、断末魔が響き渡る。コンクリートが崩れ、アスファルトが弾け飛ぶ。こんな光景はもう見たくないと目を逸らすと、ライが俺とカレンを抱きかかえてその場から飛び退く。

 

俺たちがいた場所を被弾してバランスを崩した無頼が通り過ぎ、斜面に躓いて転倒した。倒れた衝撃なのか操縦席が開き、搭乗していたテロリストは何かを喚き散らしながら一目散に逃げていく。

 

俺とカレンを抱えた状態でも運動能力が落ちていないライの横顔を小脇に抱えられた状態で見ていると彼はじっと倒れたままの無頼を見ていた。そして周囲を確認して静かに頷く。ライは俺やカレンを抱えたまま倒れ伏した無頼に近づくと勢い付けて飛び上がり操縦席の上に音もなく着地して、操縦席を覗き込んだ。そして、何かを確認したのか俺たちを降ろして操縦席に入り込んだ。

 

「ライ、どうするつもりだ?」

 

俺とカレンが操縦席を覗き込むとライは無頼を起動させなおし設定を弄っていた。ライはゴキゴキと首を鳴らすと操縦席を覗き込んでいた俺とカレンを中に引きずり込む。間違いない、ライはこのテロリストの機体を使って包囲網を突破するつもりだ。

 

「ルルーシュとカレンをこんな所で死なせはしない!」

 

モニターに映し出された機体情報では頭部を損傷し、内蔵式対人機銃とアサルトライフルの弾はほとんど残されていない。使える武装はスタントンファとスラッシュハーケンのみだ。カレンもKMFの操縦は出来るのだが、俺とライという枷が邪魔となりそうすることも出来ない。

 

「ハッチが閉まらないから目視操縦で戦う。ルルーシュ、カレン、舌を噛まない様に気をつけてくれ!」

 

ライはそう言うとスラッシュハーケンを壁に打ち込んですぐに巻き取ると機体の姿勢を立て直す。そしてランドスピナーを高速回転させて移動する。その流れるように滑らかな機体制御にギョッとする俺とカレン。

 

被弾して倒れたはずのテロリストの機体が動き出したことに気付いたブリタニア軍のサザーランドがアサルトライフルを構える。ノズルフラッシュが焚かれ銃弾が迫ってくる。しかし、その銃弾がライの操縦する無頼を掠めることはなかった。俺が見たのは信じられない速さで操縦桿へのコマンド入力をするライの指と、インジェクションシートを発動させて崩れ落ちたサザーランドの後姿。

 

「冗談でしょ……放たれたアサルトライフルの弾の軌道をすべて読んだっていうの!?」

 

カレンの発言からするに、ライはサザーランドが放ったアサルトライフルの銃弾の中を最低限の回避行動で“まっすぐ突き進み”唖然とする相手の懐に入り込んで、悠々とスタントンファで戦闘不能に陥れたようだ。

 

こんな馬鹿げた芸当が出来る人物を俺は知らない。カレンもKMFを操縦するセンスがあると思っているけれど、ライはそれ以上だ。下手すればブリタニア本国で最強と呼ばれるナイトオブラウンズに匹敵する能力があるかもしれない。

 

「ルルーシュ、カレン。ブリタニアの包囲網を抜けたら君たちを安全圏に降ろす。俺のことは気にしないで逃げてくれ」

 

「ちょっと待って。それってどういう意味?」

 

「俺はこのゲットーにいる人たちをこのまま見捨てることは出来ない。展開しているブリタニア軍をすべて叩く。だから……」

 

「ちょっと待て。俺は降りないぞ。KMFの操縦に関しては門外漢だが、ライが凄いっていうのは分かる。俺たちを安全圏に連れて行く暇があるなら、ブリタニア軍の凶行を止めてくれ、ライ」

 

「そうよ。私たちのことは気にしないで、自分の意思を尊重して、ライ」

 

俺が自分の命を他人に預けるような真似をするとは思ってもいなかったと言いたい様子のカレンであったが、そういう風なやり取りをしている間が惜しいと判断したのか、ライに行動するよう促す言葉掛けする。

 

ライは俺たちに向かって大きく頷くと人間に対してアサルトライフルを放つブリタニア軍のKMFに向かって無頼を駆けさせた。ライは機体の武器である機銃とアサルトライフルが使えないというハンデを物ともせずにブリタニア軍、そして黒の騎士団を騙ったテロリストたちの機体を1機ずつ確実に仕留めていく。

 

そして、気付けばゲットーで動くKMFはライが操縦する無頼のみとなっていた。

 

「すごい。本当にやり遂げちゃった……」

 

カレンが率直な感想を呟いた。

 

ブリタニア軍にも慢心があったのだろうが、第4世代のグラスゴーの改造機でしかない無頼で、第5世代のサザーランド29機撃破は俺やカレンからしてみてもありえない戦果だ。

 

もしかしたら、ライは記憶を失う前は最前線でも名立たる兵士だったのかもしれない。このまま俺たちの近くに置いておくのは危険だ。しかし、だからといって手放すのはもっと危険だ。下手してコーネリアの目にライが留まるようなことがあれば、ブリタニア側に白兜に加えてライという強敵を生み出してしまって黒の騎士団の総力を持ってしても手も足も出ない可能性が出てくる。

 

……ライにギアスを使うか?『俺を裏切るな』と。

 

「ルルーシュ、カレン。出来るだけ“省エネ”でやってきたが、もうすぐエナジーが尽きる。租界に近いところへ2人を連れて行こうと思うが、テロリスト側に新手みたいだ。最短で租界に行くにはあの集団を蹴散らすしかない。形振り構っていられないから、舌を噛まないようにしっかりと身体を固定させていてくれ」

 

「ちょっと待って、ライ?もしかして、今までの動きは本気じゃなかったの?」

 

カレンが頬を引き攣らせながらライに告げた。彼はカレンの言葉に返事をせずにただ困ったような苦笑いを浮かべている。その反応で分かった。俺と病弱設定のカレンが同乗していたから、ライは態と自身の実力にセーブをかけながら戦っていたのだと。しかし、租界に戻るためのエナジーが尽きようとしていることや、テロリスト側に新手が来てしまったことでそう言っていられない判断を下したのだ。

 

「……あれ?もしかして、今来ているのって扇さんたち?」

 

ライの言う新手に目を向けたカレンが冷や汗を流しながら小声で呟いた。確かに戦場へやって来た無頼たちはゲットーの住民を助けたり、黒の騎士団を騙ったテロリストたちを捕縛していったりしている。その中でも好戦的な者たちは俺たちが乗っている無頼へ武器を構えて近づいてきている。

 

『黒の騎士団登場だ!俺たちが来たからには、もうお前らの勝手にはさせねーぜ!!』

 

馬鹿丸出しの発言をオープンチャンネルで話す玉城に俺は頭が痛くなった。

 

来るにしても遅すぎる上に、ゲットーの住民たちはブリタニア軍を壊滅させたのがライの操縦する無頼であることを知っているので、不用意に武器を構えたまま近づいて行っている玉城たちを止めろと救出活動をしている扇たちに身振り手振りで伝えている。

 

カレンは俺とライの顔を交互に見て、どうすればいいのかを悩んでいる。ちなみに俺も心の中ではカレンと同じ状態で浮かび上がった選択肢を前に『どーすんの?どーすんの俺?!どーすんのよ!!』と謎のワードが浮かび上がるくらい混乱している。

 

『ちょーっと強いみてぇだが、ゼロの親友であるこの玉城さまの相手じゃねぇぜ!!』

 

という謎のコメントを吐いた玉城がただ立っているだけで敵対行動を取っていなかった俺たちが乗っているかつライが操縦する無頼に向けて発砲してきた。

 

ロックオン警報と迫り来る銃弾の雨。

 

馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうしようもないくらい馬鹿だな、玉城ぃいいいい、ぐぅううう!?今までの人生で感じたことがないくらいの何か強大な力によって押し潰されるような感覚。それが上下左右と前後に連続して襲い掛かってくる。

 

時間にして5秒くらいだろうか、白く霞む視界の中で扇や玉城たちが乗っていた無頼からそれぞれインジェクションシートが発動して飛び立つ様を見届けた俺はそこで意識を手放したのだった。

 

 




○ネタ

ガンダム種運命のズラと子獅子の1話のやりとり

ライフカードのシーエム


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03.【魔王、魔神の真似をする】

□ルルーシュ□

 

冷たい風に身体を撫でられ、『寒いな』と身震いしながら目を覚ますと俺はトウキョウ租界にある自然公園のベンチに座らせられていた。身体の左側には人の温もりがあり、そっとそちらへ視線を移すとカレンが静かな寝息を立てつつ俺に凭れ掛かっていた。

 

人の気配を感じて、視線をそちらに寄越すと目尻を下げ申し訳無さそうに俺たちを見るライの姿。彼の手元には缶コーヒーは3本。

 

「ごめん、ルルーシュ。もう少し加減できればよかったのだけれど……」

 

ライはそう言いながら無糖のブラックコーヒーを俺に差し出す。それを手にとって俺はプルタブを開け、寒風に当てられて冷え切った身体に暖かなコーヒーを流し込む。胃に到達したのか、そこから身体の芯がポカポカと温まってくるのを感じ取る。その間にライはカレンを起し、俺と同じように缶コーヒーのカフェオレを渡していた。

 

「気にするな、ライ。あの場面ではアレがベストだった。失神したのは俺やカレンの落ち度だから気にすることはない」

 

「……そ、そうよ。元々は私がイ…イレブンに連れて行かれたのが悪いんだし」

 

罰が悪そうに呟くカレン。

 

彼女に関してはそれなりにKMFを使いこなせている訳だから、少し激しい程度の動きでは失神するなんて無様なことは起きるはずが無かった。しかし、ライのKMF操縦技術はカレンの常識を上回った。

 

きっとカレンは『ゼロ』に今日のことを報告してくるだろう。型落ちの機体でブリタニアの機体を29機、黒の騎士団を騙ったテロリストの機体10数機を単騎で倒せる能力を持つ人材を、人材不足が否めない黒の騎士団のリーダーである『ゼロ』ならばみすみす見逃すなんて真似は絶対にしない。

 

むしろ話をはぐらかす方が危険だ。

 

「もう時間も遅いし家まで送っていくよ、カレン。ルルーシュはどうする?」

 

「いや、ここで俺だけ先に帰るのはおかしいだろ」

 

カレンは俺とライの顔を交互に見て、悩む仕草を見せているがライがいる現状で断るのは悪手でしかない。そう、病弱でイレブンに攫われそうになったブリタニアの子女であるカレン・シュタットフェルトにとっては。

 

「まぁ、送ると言っておいてなんだけれど、カレンの家がどこにあるか知らないのだけれどね」

 

そう言って苦笑いを浮かべるライに毒気が抜かれたのか、カレンはベンチからスッと立ち上がり、『こっちよ』と先導を始める。俺も立ち上がり、ナナリーや咲世子さんに『遅くなること』を伝えるために連絡を入れようとポケットから携帯端末を取り出す。

 

しかし、それは『ゼロ』として使っているもので思わず眉を顰めたが、着信履歴を一応確認する。思ったとおり扇から何件か連絡が来ている。恐らくゲットーでのテロリスト騒動とライが駆る無頼のことだろうなと中りをつけ、携帯端末をもとのポケットに入れ直すのだった。

 

 

 

「お兄さま!ライさんと男色に走られたというのは本当ですかっ!?」

 

「(@´ω`):;*.':;ブッ」

 

翌日の朝食の席で頬を紅潮させてモジモジしている妹のナナリーに何か気になることでもあるのかを問うて返ってきた答えがコレだ。

 

優雅に飲んでいた紅茶を俺は思わず噴出してしまった。ナナリーの件のことを吹聴したと思われるメイドの姿はもうない。俺は席から立ち上がって雑巾で床に飛び散ってしまった紅茶を拭き取っていく。

 

「お兄さまがまさか男色の道を歩んでしまうなんて……私の所為ですよね。ごめんなさい、お兄さま……」

 

最愛の妹の口から『男色』なんていう言葉が飛び出てくるとは思いもよらなかった俺はショックを受けつつ、なんとか否定の言葉を紡いでいく。

 

「ちょっと待て、ナナリー。断じて俺は男色ではない。その話はいったいどこの誰から聞いた話なんだ?」

 

「えっと……でも、シーツーさんがアレは男同士の友情ではない。あれはまさに愛だ、とおっしゃって」

 

妹に大法螺を吹聴した犯人はメイドではなく魔女であった事実を聞き、俺はナナリーを置いて駆けた。クラブハウスのどこかに潜伏している魔女を探し回り、俺の部屋のベッドでピザを頬張っていた奴に向かって飛び蹴りをかます。『グエッ!?』とカエルが潰されたような声を上げつつ、ベッドの上から転がり落ちる魔女。彼女が持っていたピザはベッドのシーツの上に落ち、トマトベースのピザソースで赤い染みが広がるが、そんなこと今はどうでもいい。

 

「おい魔女、一体どういうつもりだ」

 

「なんだ。ちょっとしたお茶目ではないか。そんなに慌てるのは心にゆとりがない証拠だぞ、童貞坊や」

 

そう言いながらC.C.は無事なピザを手元に手繰り寄せる。その後、彼女はベッドに顎を乗せただらしない格好でピザを食べ進める。目の前に腕を組んで仁王立ちしている俺がいるのに、本当にふてぶてしい女だ。煮ても焼いても食えそうにない。

 

「ライ、だったかあの男の名は」

 

「ああ、そうだ。言っておくがあれは俺たちが好き合ったからあんな抱き方になった訳ではなく、宙から落ちてくる俺を抱きとめた格好があれだっただけだ。変な憶測でナナリーに嘘を吹き込むな!」

 

「そんなこと知っているに決まっているだろう。お前をからかうのは妹を巻き込んだ方が面白い反応をしてくれるのを知っているだけだ」

 

ドヤ顔でそんなことを言ってくるC.C.に毒気を抜かれた俺はナナリーの誤解を解くためにリビングへ向かう。その途中、制服姿のライと擦れ違い心配をされたのだが、何も問題はないと告げて別れるのだった。

 

 

 

□ライ□

 

どんよりとした影を背負い、トボトボとした足取りで歩いていくルルーシュと廊下で擦れ違うことになったのだが、俺の心配を余所に力なく笑う彼を見送った後、クラブハウスから出て直ぐにググッと背伸びをする。

 

全身の筋肉をほぐすつもりで軽くストレッチをするが、身体のどこも痛みを発していない。前世の自分の身体であれば筋肉痛で動けなくなりそうなほど、昨日は激しい運動量であったにも関わらず、馬鹿げた回復力だと恐れつつも頼もしくもある今世の身体を感慨深く思いながら校舎へ向かう。

 

 

 

教室には先客がいた。

 

腕を枕にして歳相応のあどけない寝顔を晒している茶髪の少年・枢木スザク。日本最後の内閣総理大臣の息子であり、日本をブリタニアの侵攻から守るためにその父親を殺害した当人。自分が起こした行為によって敗戦国となった日本の惨状を見て『間違ったやり方で得た結果には意味はない』という考えに至り、結果を重視するこの頃のルルーシュとは絶対に相容れることの出来ない相手になっていた。

 

そのことに気付いた時には引き返せないところまで行ってしまった後だった。

 

俺はちらりと教室に備え付けられている時計に視線をやり、直に他の生徒たちも登校してくる頃合だと寝ているスザクを起こすことにした。しかし、ただ起こすのは面白くないなと考えた俺はルルーシュの真似をして起こすことにした。喉に手を当てて声の高さを調整し、歩幅や息遣いに細心の注意を払い、スザクに近づき軽く握った拳で彼の脳天を『コツン』と叩く。

 

「スザク、いい加減に起きないと先生に怒られるぞ」

 

「ご、ごめん。ありがとう、ルルーシュ。……あれ?」

 

「どうしたんだ、スザク。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているぞ?」

 

「え……いや、えぇ……もしかして僕はまだ、寝ぼけているのかな?ルルーシュがライに見えるよ」

 

スザクは起きて感謝の言葉を述べながら俺を見て目を丸くした。そして何度も目を擦っては俺を見て困惑している。こんなにも大人しいスザクを見るのは久しぶりだなと俺は内心でほくそ笑み、彼の言葉に傷ついた体で話を進める。

 

「ひどい奴だな、親友の顔も分からないのか?」

 

「いや、えっと……その……ごめん、ルルーシュ」

 

スザクは立ち上がって俺に向かって頭を下げる。そろそろネタ晴らしをした方が無難かなと思ったのだが、それよりも先に俺たちに話しかける存在がいた。

 

朝早くからどんよりとした影を背負っていたはずのルルーシュだ。その表情は晴れやかで、今朝の鬱蒼とした雰囲気は微塵もない。

 

「何をやっているんだ?スザク、ライ」

 

「あ、本物が来た」

 

「え、本物?」

 

顔を上げたスザクは教室の入り口に立つルルーシュを見て合点が行ったのか、頬をプクッと膨らませて抗議してくる。

 

「なんだ、やっぱりライだったんじゃないか」

 

「いやいや、声色と態度で騙されてしまうスザクも悪いだろ?」

 

「状況が分からない。ちゃんと説明しろ」

 

教室に来たばかりで事情が全く分かっていないルルーシュに俺がスザクに仕掛けたドッキリについて話すと、どこで聞いていたのか分からないがミレイさんがやってきて、放課後に生徒会メンバーだけでゲームをすることになった。

 

 

 

□カレン□

 

昨日の出来事を成し遂げたライのことをゼロに報告しなければならないのに、教室から出ようとしたところでミレイさんに捕まってしまい生徒会室まで連れて来られたのだが、普段とは様子が違っていた。何故か部屋の一角が衝立で仕切られているのである。

 

生徒会室にはシャーリーやリヴァル、中等部でルルーシュの妹であるナナリーちゃんの姿もあるのだが、そのルルーシュとライの姿だけがない。

 

「ミレイさん、これは一体……」

 

「カレン。貴女だけが頼りなの、お願い!このゲームに勝ってちょうだい!!」

 

「はぁ……」

 

発端は朝早くに登校したスザクをライがルルーシュの真似をして起こしたことに起因する。あまりに似ていたため、容姿が全く違うライのことをルルーシュであるとスザクは認識し頭を下げて謝ったのだという。

 

そんな馬鹿な、と説明を聞きつつ、このゲームに参加した面々の話を聞いたのだが正解したのはナナリーちゃんだけであとの全員は敗北しているのだという。

 

特にルルーシュに対し好意を向けているシャーリーは悩んで、悩み抜いた挙句に選んだルルーシュが、申し訳無さそうにしていたライであったことに大変なショックを受けて部屋の隅で真っ白に燃え尽きている。

 

「さて2人とも、次はカレンよ。準備はいいかしら?」

 

ミレイさんが衝立の向こう側にいるルルーシュとライに話しかけると左右2枚の衝立から手と足が出される。ルルーシュが無意識にしている組んだ足の膝の上に手を置くスタイルだ。マジマジと彼らの手足を見てきた訳ではないのでアレだけではどちらかを判別することは出来ない。

 

「では、今まで通り会話スタイルでいくわよ!じゃあ、右から~」

 

『はぁ、まだ続けるんですか会長?付き合いの長い生徒会メンバーも分からなかったのに、生徒会に入ったばかりで休みがちなカレンが分かる訳がないじゃないですか?』

 

《いや、付き合いが浅いからこそ分かることもあるだろう。まぁ、俺としてはナナリーに分かってもらえただけで満足なのだが……》

 

『今朝のことがあったばかりなのに、スザクはまんまと引っ掛かってしまったがな』

 

《ああ。そのことについては失望したぞ、スザク》

 

視界の端でスザクが崩れ落ちる。

 

両手で顔を覆って肩を震わせているところを見るに、本当に堪えているようだ。そんな彼をナナリーちゃんが慰めているのだが、彼女の穏やかな笑みの裏に【私は正解しました】という雰囲気を纏っている気がする。

 

私は思わず隣にいるミレイさんをじっと見ながら話しかける。

 

「ルルーシュくんが1人2役している訳ではないんですか?」

 

「残念ながら片方はライが喋っているわ。向こう側にいるニーナが不正をしていないかをちゃんと判定しているし」

 

衝立と衝立の間に椅子を置いて座っている緑髪でメガネを掛けた後輩の女の子は私たちの視線に気付くと大きく頷いた。不正はしてないらしい。

 

『どうする、ルルーシュ?この様子では確信を持った答えではなく、当てずっぽうの解答になりそうだが?』

 

《そうだな、ルルーシュ。こんなゲームは早く終わらせるに限る。時間の無駄だ》

 

『何か考えがありそうだな』

 

《以前、カレンが居眠りをした際に【黒の騎士団発言】をしただろう?》

 

私は思わず両手で顔を覆った。あの時のことは今でも夢に見るほどのトラウマである。あの時は何とか誤魔化せたが暫くの間、話に尾ひれがついて大変だったのだ。

 

?ルルーシュ許すまじと衝立の奥にいるであろう人物を睨む。

 

《ネットでも流れているゼロの動画くらい、ルルーシュも見たことがあるだろう?俺は河口湖での演説が好きなのだが、カレンの琴線に触れそうなセリフを一言ずつ言って決めてもらってはどうだ?》

 

『お前もそんなものを見るんだな。意外だよ、ルルーシュ』

 

《では、俺から言おう。コホン……人々よ、我らを恐れ、求めるがいい。我らの名は、黒の騎士団!》

 

『仕方がない。俺はゼロが表舞台に現れた時のセリフだ。……いいのか、公表するぞ、オレンジを』

 

「右がルルーシュくんね。そのセリフをチョイスするところが君らしいわ」

 

左右の衝立の脇からそれぞれ現れるルルーシュとライ。当然、私の解答通り右の衝立から出てきたのがルルーシュであり、左側の衝立から出てきたのがライだった。

 

「さすがに黒の騎士団の話題は“無い”だろう、ライ」

 

「そうかな、時事ネタだと思うのだけれどね。スザクもブリタニア軍所属とはいえ技術班って言っていたし、特に問題はないかなって思ってね。本当は振り付けまでバッチリ再現できるのだけれど、これ以上は怒られそうだからやめておくよ」

 

と、言いつつライはゼロが時折するポーズをビシッと決めている。

 

それを見たルルーシュは呆れ、リヴァルやシャーリーたちはここに来た頃よりも随分と明るい性格になったねと苦笑いしながら近づいていく。そんな中、スザクだけはキッとした視線をライに向けながら声を掛けた。

 

「ライ、君は黒の騎士団。……いや、ゼロのことをどう思う?」

 

「結果的に救われている人がいるならば、彼らの行為を咎めることもない……かな。ただその過程で無実の人が犠牲になっているというのであれば、話は別だけれどね」

 

ライの言葉に黒の騎士団のメンバーとして活動している私はすこしジーンと来てしまった。私たちの活動は、表向きには報道されていない。けれど、ライのように理解してくれている人がいると知れたのは凄く心強い。

 

対してスザクはライの言葉の前半を聞いて悩むような仕草を見せた後、付け加えられた後半の言葉を聞いてあからさまにほっとした様子だった。

 

「……ありがとう。変な質問をしてごめん」

 

「いや、黒の騎士団の話をネタにしたのはこっちだから。ブリタニア軍人であるスザクに対して無神経だったな、此方こそ本当にごめん」

 

男2人が頭を下げあっている。話が先に進まないなぁと思って周囲を見渡していると、ルルーシュが嬉しそうな表情を浮かべていた。しかし、私の視線に気付いたのか、彼は何を考えているのか分からない、いつものポーカーフェイスに。

 

「はーい、これにて今回の『本物のルルーシュはどっちだ?』を終わりまーす。正解者はナナちゃんとカレンの2人だけかー。私もまだまだねぇ。リヴァルとシャーリー、スザクくんとニーナも次回は当てられる様に2人の違いをちゃんと見つけておくこと!いいわね?」

 

「「「はーい」」」

 

え、ミレイさん?このゲームって今後もやっていくつもりなの?

 



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04.【再生】

□ルルーシュ□

 

携帯端末のコール音を聞き、俺はディスプレイに映し出された名前を確認し通話ボタンを押す。

 

「私だ」

 

『夜分にすみません、ゼロ。カレンです、早急にお伝えしたいことがあります』

 

「聞こう」

 

俺はカレンの説明を聞きながら同じ建物内に住んでいる銀髪の少年のことを思い浮かべる。

 

俺たちの前に現れた当初は自分の名前すら覚えておらず、不安そうにしていたが、気付けばアッシュフォード学園において教師や生徒たちからも信頼されて尊敬される人物になっていった『ライ』。人付き合いもよく、後輩たちから勉学を教えて欲しいと請われているところを見ることも少なくない。運動神経抜群で色々な部活動の助っ人として入り、交友関係が瞬く間に次々と広まっていっている。

 

先日、カレンのイレブンによる誘拐騒ぎでゲットーに足を踏み入れ、テロリストの騒ぎに第3者の立場で立ち会うこととなった。その際にライが見せたKMFの操縦技術は俺やカレンの常識を打ち崩すには十分なものであり、『このまま自分たちの傍に置いておいてよいのか』、『ギアスで行動を縛った方がよいのではないか』と早まりそうになった程。

 

早とちりしなくて良かった、グッジョブだ、あの時の俺。

 

『それで近い内にその者との面通しをお願いしたいのですが?』

 

「……カレン」

 

『はい。なんでしょうか、ゼロ』

 

「声が浮かれているが、どうした?」

 

『も、申し訳ありません。でも、きっとゼロも彼のことを気に入ると思います』

 

「誰でも無いカレンにそこまで言わせる人材だ。私も楽しみにしている。面通しの日程は後日連絡する」

 

俺はそう言って通話を終わらせる。

 

そして、物言わなくなった携帯端末を机に置くと、椅子に深く凭れ掛かって天井を見上げる。先ほどはカレンに声が浮ついていると指摘をしたが、それは俺も同じ事だ。スザクの時は考え方の違いで泣く泣く手放すほかに方法が無かったが、ライは俺とほぼ同じの考えを持っている。さすがに無実の人間を巻き込むことに対しては忌避感があるようだが、起こした行動の先に救われる者がいるのであれば結果を重視すると彼は自分の口で語った。

 

それを聞いた瞬間、嬉しくて感情が込み上げてきて、つい笑ってしまったがカレンが見ていたので必死に表情を作ったくらいだ。

 

取らぬ狸のなんとやらではないが、ライが黒の騎士団に加入すれば出来る事が確実に多くなる。今のような正義の味方と称したちまちまとした行動だけでなく、ブリタニアの正規軍と事を構えても生還できる確率がグッと上がるはずだ。

 

ましてや無頼のようなデチューン機体ではなく、ライの身体能力や思考、戦闘の仕方に合わせた機体ならば憎き白兜の相手も出来るはず。アレが単騎で抑えられるのであれば、作戦の難易度は確実に下がるだろう。

 

「と、なると……」

 

俺は部屋を見回し、窓際に置かれたチェス盤に視線を向ける。咲世子さんが定期的に磨いてくれるので埃一つ乗っていないが、最近は駒にも触れていない。俺はライの好みを考えつつ、コーヒーの準備をすると内線を使ってライを俺の部屋に呼び出す。暫くして部屋着姿でやってきたライは用意されたチェス盤を見て苦笑いを浮かべた。

 

「結構、夜も深いんだけれどルルーシュ?」

 

「勝負が長引く前提で言うということは、十二分にやれる訳だな。さぁ、席に座れ、ライ」

 

「困ったな。“勝負に俺が勝ったら俺の話をちゃんと聞いて実行してもらう”。くらいしてもらわないと割に合わないよ」

 

そう言いながらもチェス盤を挟んだ向かいの席に腰を降ろしたライは手元にあるコーヒーに口をつける。好みの味だったのか、朗らかな笑みを浮かべた。

 

「まぁ、コーヒーもご馳走になったし、始めるかルルーシュ」

 

「ああ。ライがどんな手を使うのか楽しみだよ」

 

俺がそう言うとライは右手で白のポーンを掴み、定石どおりe4へ動かす。俺もライの動きに対応するように黒のポーンをe5の位置へ動かす。彼が次に動かしたのはナイト。俺がライの出方を窺っているように、彼もまた俺がどういった戦略を持って対応してくるのかを窺っているようだ。

 

賭けチェスを行うためにリヴァルといった裏カジノでは味わうことが出来なかった緊張感で、喉が瞬く間に渇いていく。甘いところに差せば、鋭い斬り返しが待ち受けているに違いない。今夜は楽しい夜になるだろうなと自然と笑みが零れる。

 

結果、徹夜をする羽目になった。

 

一応俺のクラスに所属している形であるが、正式なアッシュフォード学園の生徒ではないライは屋上でのんびり寝ているらしい。チェスでの勝負は五分五分。初戦では俺が負けてしまった。王が後方でのんびりと指揮していては勝てる勝負も勝てないという持論でキングを動かしたのだが、ライは俺のその思考を完全に読んでいた。

 

あの時の「ルルーシュなら、そこの位置にキングを置くと思ったよ。あと14手だ」というライの勝利宣言にムッとしてしまったが、結果的にチェックをかけられ敗北してしまった。ただ負けたのであれば、まだ納得できた。たぶん……。しかし、勝利宣言後のチェックメイトは俺のプライドがこのまま負けるのは許さないと言っていた。ここで引けば俺はずっと負け犬だ、と。

 

再戦を挑んで2戦目も負けた辺りで何が何でも勝たなければならない、とプライドをかなぐり捨てて挑んで漸くもぎ取った勝利。しかし、まだ勝利数が足りないと連戦を重ね、気付けば朝日が昇っていた。俺は目を充血させていて足もガタガタと震えていたのに、ライの身体は特に変調もなく体力と集中力の差をまざまざと見せ付けられた。

 

神は残酷だ。

 

ライにはどれだけ贔屓をしたのだろう。俺とカレンを抱えて走って跳躍しても息切れひとつしない体力、遊戯とはいえチェスでの真剣勝負を繰り返しても切らすことの無い集中力、型落ちの機体で勝ちを呼び込む卓越したKMF操縦技術、老若男女関係なく惹きつける魅力。戦略レベルも俺に匹敵するようだし、文句のつけようが無い。

 

もしゼロとして接することになる黒の騎士団でのライの面通しが失敗したら、俺はショックで確実に寝込むことになるだろう。

 

そんなことを考えつつ、教師の視線が黒板の方へ向かったのを確認した俺はそっと意識を手放す。ゼロとして黒の騎士団の面々を率いて事を起こした翌日よりも疲れているのは何故だろうな。

 

 

 

黒の騎士団の活動を行う前のミーティングの席で俺はカレンにライに対する面通しの日付を伝え、扇たちに先日のゲットーで起きたことに関する説明を行った。新しく入隊するかもしれない人物に対しての反応は2つ。黒の騎士団としての戦力増強に喜ぶ者と、カレンが手放しで絶賛するライに対して嫉妬し嫌味を吐く者。悪態をついた団員に対し、カレンが噛み付き、売り言葉に買い言葉。

 

ミーティングは荒れることになった。俺は扇を連れて喧騒から離れ、今夜の活動は中止する旨を伝える。

 

「すまない、ゼロ。玉城たちには俺から言っておくよ」

 

『面倒を掛けるな、扇』

 

「よしてくれ。ゼロがいなければ、俺たちは何も出来ないということをあいつらは理解できていないんだ」

 

『これから黒の騎士団は巨大な組織になっていく。私は仲間の足を引っ張ることしか出来ない者を重宝するつもりはない』

 

「分かっている。場合によっては俺たちを切る場合もあると言いたいのだろう?そんなことにならないように、最善を尽くすさ」

 

『ああ。扇、私は君に期待している』

 

「っ!?ま……任せておいてくれ、ゼロ!」

 

そう言うと扇は来た道を引き返し、未だに汚い言葉の応酬を繰り返しているカレンや玉城たちをはじめとした団員たちの中に割って入り、言い争いを止めるように叱りつける。俺はそんな扇たちの様子を見ながら、先日のチェスの場でライが言っていた言葉を思い出す。

 

『『意思や覚悟を行動で示すのもいいが、結局のところ言葉にして伝えないと想いは伝わらない』、か。言葉ひとつ掛けるだけであんなにも変わるのならば、実践しない訳にはいかないな。ライと接していると俺に欠けていたものが次々と見つかる。本当に何者なのだろうな』

 

ライの加入を賛成するカレンをはじめとした団員たちと、加入を反対する玉城をはじめとした団員たちの両方の言い分を聞いて、意見を纏めている扇の今まで見た事がないくらい気概に満ちた後姿を見た俺はその場を後にする。

 

もしも、ライの加入を反対する意見が勝るのであれば、そいつらは見捨てた方が今後、黒の騎士団が活動していくには都合がよいかもしれない。

 

そうなった時は何の実績も無かった『ゼロ』を信じ、スザク奪還を手伝ったカレンと扇、そしてライを加えた4人でやり直そう。組織の礎の部分がガタガタではどんなに巨大な組織になっても、崩されやすい脆い組織にしかならない。

 

少しずつ大きくしてきた黒の騎士団を一度無き物にするのは勿体無いが、焦る必要は無い。黒の騎士団というブリタニアに相対する存在は民衆に求められている。まだ組織として固まっていない今だからこそ、やり直す選択肢があるのだ。

 

 

 

 

後日。カレンと扇だけを呼び出し、先日の話し合いがどういう結果に落ち着いたのかを尋ねると、反対多数でライの加入は見送るという話になったと扇はその場で俺に土下座した。地面に額を擦り付けて謝罪の言葉を重ねる扇。カレンもまた下唇を噛み、両拳をギリギリと握り締めて、悔しさをその姿で表している。

 

『扇、お前の所為ではない。現状を理解していない、玉城をはじめとした面々が悪いのだ』

 

「しかし、ゼロ!俺は君の期待に応えられなかった。玉城や南たちに言われたよ、『今更リーダー面すんな』って、すまない……すまない!」

 

「ゼロ!私がもう一度、団員たちを説得します。だから、ライのことは!」

 

『扇、カレン。少し落ち着いたらどうだ。周りを見渡せ、見覚えがあるだろう?ここは黒の騎士団の礎が築かれた場所だ。とはいっても、あまり良い光景ではないがな』

 

ここはスザクの護送車を止めるためにクロヴィスの公用車の偽者を俺の指示の下でカレンと扇が作製した場所。所謂ゴミ捨て場である。俺は汚れることも厭わず、その場にあった手ごろな粗大ゴミに腰掛ける。

 

『あの時、私には何の実績もなかった。君たちをシンジュクゲットーで助けたこと以外には何も。それでも私の言葉を信じ、君たちは力を貸してくれた。その結果が枢木スザクの奪還であり、後の河口湖の活躍へと繋がっていった。私が扇グループを選んだのは他でも無い、カレン、扇。君たちがいたからだ』

 

俯いていた扇が、がばっと顔を上げて俺を見てくる。カレンもまた目尻に涙を浮かべ、ふとした拍子に号泣してしまいそうだ。

 

『今の黒の騎士団は小さな歪を抱えて大きくなろうとしている。今はまだこの程度だが、いずれ取り返しのつかない状態になってしまうかもしれない。だから、一度リセットしようと思う。……私と、君たちとの関係も』

 

カレンと扇の表情が歓喜から一気に絶望へと様変わる。

 

扇は傷ついたといわんばかりの表情を浮かべているがそれも仕方がないかと目が諦めかけている。カレンはがっくりと膝を付き、ポロポロと大粒の涙を零している。

 

罪悪感が半端無いが、これも“参謀”が考えた作戦のひとつだ。俺はゼロの象徴である仮面をそっと外した。そして、素の状態で2人に声を掛ける。

 

「カレン、扇。俺はお前たちを信頼している。俺たちともう一度、黒の騎士団をやり直さないか?」

 

「え……ルルーシュ!?」

 

「俺たち?黒の騎士団をやり直す?」

 

目を白黒させて驚くカレンと扇の背後から歩み寄ってきたライが2人を立ち上がらせる。これは賭けだ。だが、条件の悪くない賭け。

 

規模は小さくなってしまうけれど、信頼のおける仲間が『ゼロ』を支えてくれる強固な組織の礎となるための賭け。

 

「それでは自己紹介からはじめようか。俺の名前はルルーシュ・ランペルージ。いや……『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』、父親である皇帝に売られ、日本では人質としての価値もなく、戦争によって呆気なく存在を抹消された元皇子だ」

 

 



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05.【ギアス】

□ライ□

 

ルルーシュとチェスをした後、俺は普段と同じ日常を過ごしていたのだがある日、神妙な様子の彼に都合の良い日を聞かれ約束通り赴いたアッシュフォード学園の敷地内にある教会で『実はブリタニアの皇子なんだ』とカミングアウトされ、昨今巷を騒がせている黒の騎士団のリーダーであるゼロでもあると告白された。ルルーシュのまさかの告白に唖然としたが、なんとか受け止めて詳しい話を聞いた。

 

父親であるブリタニア皇帝や皇族に対しての憎悪と復讐心を持っているというくだりは実際に俺も抱いていた感情なので理解しており聞き流す。肝心なのは「王が動かなければ部下がついてこない」という信念から自ら陣頭に立って作戦を遂行する行動力があり、結果を重視する合理的な考え方を持つはずのルルーシュが、親交を育んだとはいえ身元不明の不審者でしかない俺に『自分にとって絶対である秘密を打ち明ける』に至った理由だ。

 

確かに愛する妹であるナナリーをはじめとした自分の気に入った仲間には情に甘いことも知っている。そして、非情になり切れないところがあるところも。

 

「ライとチェスをしている時に話をしたよな。その話を参考にしていくつか実行してみたんだ。こちらが言うことに反論せず従う機械を相手にしている訳ではないということに、ようやく気付けたよ。ブリタニアと正面を切って戦うには今の黒の騎士団では駄目なんだ」

 

椅子に腰掛けて達観したように話をするルルーシュの言葉に、彼の部屋でチェスをした夜のことが脳裏に浮かぶ。

 

Cの世界で無意識集合体に言われたはずだ。俺のこの身体には聴覚に効果を及ぼす【絶対遵守】のギアスがあると。ルルーシュとの会話のタイミングでいつの間にか発動していたとしか思えないほどの性格改変に俺は思わず頭を抱えたくなった。

 

元々ゲットーでの戦い振りを見て黒の騎士団へ招待しようとしていたらしいが、俺を加入させるかどうかの賛否を団員たちに採ったところ、汚い言葉で応酬するほど荒れたとのこと。扇とカレンに任せたが、あの状況だと戦況は芳しくないという。

 

この頃の俺は正義の味方と称して黒の騎士団の団員たちのモチベーションを固持させていた。多少のことは目を瞑っていたが、黒の騎士団はお前たちが作り出したものではないだろうと忠告を何度したことか。この世界の俺は暴走しかけている彼らに忠告することを諦め、自分の信頼の置ける面々と新たにやり直そうとしている。

 

本来のルルーシュであれば絶対に取る事のなかったはずの選択をさせてしまったのは俺の責任。

 

元々『ゼロ・レクイエム』なんて馬鹿げた考えに達しないようにこの世界の自分を支えるつもりで行動してきたんだ。今更、彼が差し伸べて来た手を振り払うはずがない。

 

俺は椅子に腰掛けたままのルルーシュに手を差し延べ立ち上がらせると、今後の活動について考えるために話を聞かせて欲しいと告げるのだった。

 

 

□ルルーシュ□

 

自分が何者であるのか、何を目的として黒の騎士団を結成し、ブリタニアに反旗を翻したのかをカレンと扇の2人に話した。その後、2人は何も言わずにそれぞれがおぼつかない足取りで去って行く。その様子を思い出しながら最悪の場合、俺とライの2人だけで黒の騎士団の再出発か、と計画の練り直しが必要だとパソコンを起動した時、カレンから連絡が来た。

 

俺はゼロのコスチュームを身に纏い、ライには顔を隠すバイザーを渡して共にカレンは指定したゲットーの一角へ向かう。そこにはカレンと扇の姿があった。ライに確認させたが、他に気配はないらしい。俺はゼロの仮面を外し、素顔を晒す。

 

「やっぱり夢じゃないのね、ゼロ。いえ、ルルーシュ」

 

「ああ。俺がゼロだ」

 

カレンは言葉を紡ごうと口を開くが、何を言えばいいのか迷っているのかすぐに口を閉じてしまった。俺自身も彼女に何を話せばよいのか分からず、視線を逸らしてしまう。そこでようやくカレンの側にいた扇の姿がないことに気付き、視線をそのままスライドさせると彼はライとなにやら会話していた。

 

「君個人にキョウトの方から接触してきたのか!?」

 

「正確にいえば彼らが抱えている技術者から。“あの日の無頼”の戦闘ログをその技術者に直接送りつけたら食いついてきたよ」

 

「あの日の君の活躍はカレンから聞いて気になってはいたが、本当に驚いたな」

 

先日会ったばかりだというのに、すでに扇と腹を割って話をしているライの姿を見て俺は笑みを零す。見ればカレンも2人の打ち解けた様子を見て毒気が抜かれたように呆れており、視線が合うと同時に俺たちは吹きだしながら笑った。一頻り笑った後、俺たちはライと扇が話している場所に近寄って行き話に加わる。

 

「それで、あんたたちはこれからどうするつもりなの?」

 

そう言ってカレンが話を切り出す。

 

「……そうだな。当面の目標はエリア11、いや“日本の奪還”だな」

 

俺がそう言うとカレンと扇はほっと胸を撫で下ろす。俺は視線をライに向け、彼に秘密を明かした後に話し合ったことを彼女たちに説明するように促す。ライは思わずジト目で俺を見てきたが態と気付かない振りをする。

 

「あー……、そのためにはブリタニア帝国でも精強と名高いコーネリア総督率いる軍と正面を切って戦える部隊が必要になる。ルルーシュはそれを黒の騎士団に見出していたようだが、俺の所為でこんなことになってしまって扇さんやカレンには申し訳ないことをしたよ」

 

「いや、ライくんが気にする必要はないよ。ゼロがいなければ、シンジュク事変で俺たちはクロヴィスに殺されてしまっていた。玉城や吉田たちは現在の状況が自分たちの力だと自惚れてしまっている。ゼロ、いやルルーシュくんに見限られて当然だ。本当なら俺だって、見限られていてもおかしくない立場だった」

 

「つまり、本当の意味でブリタニアと戦う為の組織を作り直すってことで良いの?」

 

「概ね、そのような感じだ。ただし、これまでのような活動は自粛せざるを得なくなる。それに伴い、あいつらからカレンや扇に対して『ゼロの指示はどうなっている』という旨の文句が来るだろう」

 

「ええ。……ありありと思い浮かぶわ」

 

カレンは米神を押さえながら唸るように頷き、扇は苦笑いしながら肯定するように頷いた。2人は完全に今までの仲間を見限る覚悟を決めているように見えた。俺は2人の核心をつくための最後の質問を行う。

 

「カレン、扇。君たちは俺やライとブリタニアと正面を切って戦える新たな黒の騎士団の組織作りを共にやり直してくれると判断していいのか?」

 

「その質問、本当に今更ね。私はお母さんと約束をしたの。お母さんが当たり前に過ごせる世界を作ってみせるって、今それが出来るのはゼロである貴方だけ。貴方が私たちを利用するっていうのであれば、私も夢のために貴方たちを利用するまでよ」

 

鼻息を荒くしながら自分の意見を言い切るカレン。扇はカレンの覚悟を聞いて、ひとつ深呼吸をすると決意を話し始める。

 

「俺は大層なことは言えないが、今の日本には苦しんでいる人が大勢いる。ブリタニアを倒すために俺に何が出来るか分からないけれど、この国を取り戻したいという気持ちは君たちには負けないと思っている。……ああ、やっぱりうまく纏まらないなぁ、何を言っているんだろう俺は」

 

そう言って後頭部を手で掻きながら苦笑いを浮かべる扇。俺は罰が悪い表情を浮かべている扇をまっすぐ見据え、軽く首を横に振って話す。

 

「2人ともありがとう」

 

俺は2人に向かって頭を下げる。そして、顔を上げると同時に話し始める。

 

「では、早速これからの活動についての話し合いを行う。黒の騎士団への入団を求めるブリタニア人からのリークで、コーネリアがナリタを攻めるという情報を得た。それに伴いキョウトからKMFが数機送られてきている。これはキョウトが黒の騎士団を見極めるための試練と思われるが、俺たちだけではコーネリア軍と戦うことは出来ない。そこで、ナリタから離れて行動している日本解放戦線の藤堂と接触し、共闘を図ろうと考えている。今後、活動していく上で彼らに恩を売っておくのも悪くないという判断だ」

 

俺はそう言ってゼロの仮面を被るとライに先導させて歩き始める。

 

「2人に見せたいものがある」

 

2人はキョトンとした表情で顔を見合わせた後、俺たちの後をついてくる。会談の場所を指定したのはカレンであるが、先に準備が出来ないかといえばその限りではない。建物の地下に向かい、鎮座する赤と青の機体を見てカレンと扇が目を丸くする。

 

『キョウトから送られてきた日本製のKMF『紅蓮弐式』と『月下先行試作型』だ。紅蓮はカレンに、月下はライに任せる。扇は私と同じ無頼で我慢してくれ。恐らく、この組み合わせが今の私たちにとってベストな選択だ』

 

「いや、君の判断に異論はないよ。むしろ、カレンやライくんを差し置いて、ワンオフ機に俺が乗るビジョンが思い浮かばないしさ」

 

『そうか、感謝する。では、扇よ。ひとつ指令を下す。ライと共に藤堂たちと接触し、ナリタでの戦いで共闘する旨を伝えてきてくれ。現地での采配は扇に任せる』

 

「えっ!?」

 

 

 

□ライ□

 

ゼロの命令で藤堂と話をつけるために扇と急遽2人旅することになった訳なのだが、思っていたよりも快適な環境に置かれている。変に偽る必要もないので、他愛ない好物の話や恋愛観、日本を奪還した後の将来の話などをしながら藤堂が四聖剣と共に潜伏している地域に向かってトラックを走らせている。

 

「ところでライくん、カモフラージュ用に荷台に載せられている荷物が何かを聞いているかい?」

 

「ええ。何なら泥水の方が美味しいと思えるくらい、クソ不味いジュースですよ。けどブリタニア人の貴族の中には特異な方もいるらしく、これを飲むと身体の一部がギンギンになるらしいです。もし検問で止められたら兵士に飲ませてみろってルルーシュも言っていました」

 

トラックを運転している扇が小声で「ギンギン?」と呟いていたので、「夜の生活で使うところ」とぼそりと呟く。彼は頬を引き攣らせて乾いた笑いを零す。

 

「碌な物じゃないっていうことは分かったよ。……というか、飲んだのかい?」

 

「ルルーシュが口をつけた瞬間に吐き出して、残りを全部捨てていましたからまともで美味しいものではないのは察しが付きます」

 

「それもそうだな」

 

扇はそう言うと前方を見据える。そこには車による長蛇の列が出来ており、数キロ先にはサザーランドが2機立っているのが見える。

 

「俺は名誉ブリタニア人で雇われの運転手、ライくんは荷物がちゃんと引渡しされるかを確認する監視役という設定だったよな」

 

「そこまで緊張することないですよ。末端の兵士にとって、検問なんて仕事は面倒以外の何物でもない。下手に刺激して貴族の関係者だったら、平の兵士はすぐに首を切られるんですから、そこまで本気でする必要がないんです。それこそ、日本人だけで突破しようとする馬鹿でもいないとフラストレーションを溜まりそうだ」

 

その時、検問待ちの長蛇の車の列に並んでいる俺と扇が乗っているトラックの横を猛スピードで駆け抜ける銀色の乗用車。車はスピードを落とすどころか、どんどん加速して検問に向かっていく。

 

「もしかして、フラグ立てた?」

 

「いや、さすがにそれはないかな……」

 

銀色の乗用車は検問にて待機していたサザーランド2機からアサルトライフルによる銃弾の雨を受け、爆発四散した。流体サクラダイトを積んでいたのか、桃色の発光を放った後、検問のために並んでいた車を数台と検問所にいたブリタニア軍人に加えてアサルトライフルで攻撃したサザーランドを巻き込んで。

 

幸いにも道路が通れなくなるほど壊れることはなかったのだが、特攻というやり方を選んだ人間に対しては冷ややかな視線しか送る事が出来ない。

 

「他にもやりようはあったはずなのに、どうしてそんな手を」

 

「どこかの組織による作戦だったのならば、犯人の上にいる奴は無能だな。……扇さん、周囲が落ち着くまで待ちましょう。直にブリタニア軍の援軍が来ると思いますけれど、自分の車から降りて逃げ出したり、その場から離れようと動いたり方が危険です」

 

「……確かに。それじゃあ、少し車内で待とうか。ライくんは何か食べるかい?」

 

「いえ、まだ腹は空いていないので。席を倒して、少し眠ります」

 

「分かった。動きがあったら知らせるよ」

 

 

 

暫く休んでいると扇に起こされる。トラックに備え付けられているデジタル時計を確認すると時間にして30分ほど経過している。見れば、厳つい表情をした軍人がトラックから降りるようにハンドサインを出していた。俺は態と大きな欠伸をしながらトラックの助手席から降りる。

 

「はぁ……ただでさえ納品の時間が押しているのに、まだ時間が掛かるのかよ」

 

「納品?念のために荷台を検めろ!」

 

「「イエスマイロード」」

 

兵士が数人トラックの荷台に回る。残った軍人の中で偉そうにしている男に近づき声をかける。

 

「あと、どのくらい掛かりますか。トラックの荷台に載せている強力な精力剤……おっと強力な炭酸の入った清涼飲料水をチョウシに住んでいる貴族さまに届けないといけないのですが?」

 

「精力剤、だと?……うーむ、“それならば”検分が必要だな」

 

ワザとらしく告げる兵士に分からないように、俺は運転席に座ったままの扇にウインクするとトラックの後方に回り鍵を使って荷台を空ける。兵士たちが見ている前で荷台一杯に立ち並んだダンボールの中から一箱取り出し、封じているガムテープを乱暴に引き剥がした。そして、中に入っていた缶を取り出し、兵士たちに1本ずつ配る。彼らは意気揚々と口にして、あまりの不味さに顔を思い切り顰める。

 

「俺もそういうものだと聞いて、一本拝借したんですけれど、飲めたものじゃなかったんですよね。貴族さまの好みはまったく分かりません」

 

賄賂を要求した兵士も口に含んだ分を道路に吐き出し、眉を顰めた本当に嫌そうな表情を浮かべている。口元の何度も拭った兵士は俺たちに対して『さっさと行け』と言わんばかりに追い払うような仕草を見せるのだった。

 

 

 

「っ!?これは、なかなか……」

 

「だから、不味いって言っただろう、扇さん」

 

検問を越えた後、運転を交代してトラックを走らせている車内で件のジュースを口にした扇は顔を顰めながら、ジュースホルダーに飲みかけのそれを置く。

 

ただ、形容し辛いくらい不味いと聞いていても実際に口にするのとしないのでは興味具合が違う。人はどこか怖い物見たさなところがあるし、扇の行動も仕方の無いことなのかもしれない。

 

「もう少し行けば、藤堂たちの潜伏している町です。ここで藤堂は協力者から無頼の改造機を受け取る算段になっているようなので、それに合わせて接触するようですね。ルルーシュが立てたプランだと」

 

「……うぅ……」

 

「どうしました、扇さん?」

 

運転をしながら助手席に座る扇を見ると青白い顔色でしきりに腹の上辺りを手で擦っていた。かなり緊張しているらしい。

 

「これから『奇跡の藤堂』に会って話をしないといけないと思うと胃が……」

 

「扇さんたちは藤堂を神格化しすぎだと思いますよ。そうだなぁ、……扇さんの将来の夢が教師だったっていうのならば、授業参観に来た生徒の気難しいお父さんだと思って接すればいいのでは?話せば意外と分かってくれるかもしれませんよ」

 

「ライくん、さすがにそれは無理だと思う……」

 

「じゃあ、場の雰囲気が険悪になったら一旦リセットするために、お近づきの印ってことで、荷台のジュースを配りましょう!」

 

「……俺を気遣う冗談だよな?」

 

心配そうに俺を見てくる扇に対し、にっこりとした営業スマイルをプレゼントすると彼は『俺がしっかりしないと』と意気込み始める。扇は何でもかんでも難しく考え過ぎなんだ。

 

俺たちはブリタニアがナリタに攻撃をしかける正確な日付と戦力の情報を渡し、日本解放戦線の戦況が悪くなった場合、撤退をしやすくするために戦力を投じる。それだけを伝えればいい。あとはこの情報をどう判断し、活用するかは藤堂たちの自由。

 

俺たちはカレンの紅蓮と青色の月下をブリタニアにとって脅威的な存在であると認識させられれば良いのだ。これはルルーシュがコーネリアに執着しなくなったが故に難易度が軽くなっているのだが、それが俺のギアスの所為だと思うとなんともいえない。

 

これは何としてもコーネリアが操縦するグロースターに致命傷を与え、スザクが駆るランスロットにも傷を負ってもらい、キョウトに一目を置いてもらわないと割に合わない。

 

俺はポケットに入っている菱形の起動キーを一撫でするとハンドルを握りなおし、グッとアクセルを踏んでトラックを加速させたのだった。

 



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06.【ナリタ攻防戦・序】

□ライ□

 

藤堂たちが協力者から『無頼・改』を引き渡される現場に運よく辿り着けた俺と扇はゼロからの伝言という体で、コーネリア率いるブリタニア軍のナリタ連山への攻撃日程と戦力についての情報を渡す。情報の整合性を怪しむ四聖剣を余所に、俺は藤堂に話しかけた。

 

「ふーん、貴方が噂の藤堂か。見た感じ、堅物の軍人っていう感じしかしないのだけれどな」

 

態と軽い口調で藤堂に話しかける。傍に控えていた千葉の眉がきりりと吊りあがり、一歩踏み出そうとするのを手で制し立ち上がった藤堂がまっすぐ俺の目の前にやってくる。鷹の様に鋭く冷たい眼差し、一文字に結んだ口元。黙して騙らず、を実行する武人。そんな藤堂が俺を見下ろし睨みつけながら口を開く。

 

「……君は?」

 

「俺はライ・ランペルージ。ブリタニア人の父と日本人の母を持つハーフだ。縁あって黒の騎士団にいる」

 

嘘は言っていない。

 

確かに父親は神聖ブリタニア帝国の礎を築いた『リカルド・ヴァン・ブリタニア』で、俺自身の肉体は『狂王』と呼ばれた第2代ブリタニア皇帝であるが、今ここにいて俺として存在しているのはルルーシュが名付けてくれた『ライ』だ。藤堂による値踏みが行われているが、悪逆皇帝として世界中から憎悪の視線を向けられた経験を持つ俺は今更個人の視線程度でたじろぐことも無い。

 

むしろ、武器を持ってここにいる解放戦線のメンバー全員に襲いかかられても、扇を護りながらの不利な状況でも1人で制圧できそうなほど神経が研ぎ澄まされていくのを自ら感じ取れる。身体の重心を少しずらして、いつでも戦闘態勢に移れるようにしようとした瞬間、

 

「……。ゼロに『貴重な情報、感謝する』と伝えてくれ。朝比奈、卜部、トレーラーに機体を積み込め、搭載完了したらすぐにここを発つ」

 

「「はっ!」」

 

踵を返して去っていく藤堂の後を追う様に初老の男性軍人の仙波と四聖剣の紅一点である千葉も遠ざかっていく。俺は頬を掻きながら深く溜め息をついている背後にいる扇に話しかける。

 

「緊張しすぎですって、扇さん」

 

「彼らの殺気を混ぜ込んだ視線が君に集まった時は生きた心地がしなかったよ、ライくん」

 

「手を出してきたら、その場で返り討ちにしてやろうと思ったのですけれど、藤堂に“見抜かれて”制されてしまいました」

 

俺が指の骨をポキポキと鳴らしながらそう言うと扇は乾いた笑いを零し後ずさっていた。

 

「ゼロが俺をライくんと組ませたのって、君がリスクを考えず突っ走る可能性があったからなのか?」

 

「さて、どうでしょうね。ゼロとの合流はナリタになると思うので、その時に聞いてみてはいかがです」

 

笑顔でそう告げると扇は「確信犯だろ」と眉と目尻を下げた情けない表情を浮かべながら天を仰ぐように見上げたのだった。

 

 

 

□藤堂□

 

キョウトより受け取った『無頼・改』を積み込んだトレーラーが日本解放戦線の本拠地があるナリタ連山に向かって2台連なって走っている。

 

私はトレーラーの中で先ほど出会った黒の騎士団に所属しているという銀髪の少年のことを思い浮かべていた。私に対し挑発的な態度と言葉を発し、その場にいた部下たちの殺すぞと言わんばかりの視線を集めたのにも関わらず、不遜な表情はそのままに私の前に立ち続けた少年。

 

彼の背後に立っていた黒の騎士団のナンバー2だという扇という青年もふらつきはしたものの、朝比奈や千葉から発せられる殺気に耐えた。仮面で素顔を隠した男が率いる黒の騎士団など烏合の衆だと考えていたが、中核にあのような者たちがいるということは一概に侮れないということだろう。

 

「黒の騎士団から齎された情報が正しければ、ブリタニア軍との戦いは避けられない。今のうちに機体の整備を行っておくようにするんだ」

 

「藤堂さんは彼らの言うことが本当だと信じているのですか?」

 

「東北各地に展開していた反政府勢力がコーネリアによって殲滅された。その矛先がナリタに向くのも時間の問題だった。黒の騎士団が我々に嘘の情報を流して彼らに何の得がある」

 

「それは……」

 

朝比奈が私の問いに対して言い淀む。

 

日本解放戦線の中には草壁中佐が起こした河口湖での事件で、彼らを制して登場した黒の騎士団に対して恨みに似た感情を抱く者たちがいる。私は草壁中佐にあの計画を見せられた時、協力することも、計画を止めるように諌めることもしなかった。彼は彼なりにこの国を思い行動を起こした。

 

しかし、銃を持たず戦う立場にいない一般市民を盾にしてしまったことで、ゲットーに住む日本人からの求心力も減衰してきている。代わりに民衆の心を掴む者たちが現れたからだ。

 

「少なくとも秘密裏に進められていた私たちがキョウトとの協力者と接触する場に現れ、啖呵を切ってきたライくんと扇くんのことは信頼に値する。あの時、千葉が斬りかかっていたらライくんに返り討ちにされていただろう。あの佇まいと私の眼光に怯まぬ精神、彼もまた只者ではない」

 

「……藤堂さん。嬉しそうですね」

 

トレーラーを運転する朝比奈の言葉に私は、自分自身が自然と笑みを浮かべていることに気付いた。

 

そういえば、ライくんは一度も私のことを『奇跡の藤堂』とは口にしなかった。あろうことか『堅物の軍人』と称される日が来ようとはな。

 

私はトレーラーの窓から見える朽ち果てていくしかない街並みを眺める。恐らくナリタには黒の騎士団たちも現れることだろう。それが我々の加勢なのか、それとも我々を囮にしコーネリアを狙うつもりなのか、彼らの考えは理解できないがブリタニアにとっては良くないことが起こる事は間違いない。私は朝比奈の問いに答えず、トレーラーが進む方角に聳える日本解放戦線の本拠地であるナリタ連山を見据えるのだった。

 

 

□ルルーシュ□

 

日本解放戦線の本拠地がある山の頂上へカレンと共に来た俺は作戦に使う掘削機を計算された位置に打ち込んでいく。ライと扇の2人は山の麓に潜伏しており、ブリタニア軍の動きを見て行動することになっている。

 

ちなみにライたちと連絡を取った際に攻撃プランと撤退ルートに関して話し合いをしたのだが、ライと扇が藤堂たちとの会見を終えた後に考えたという計画と俺とカレンが考えた計画はほぼほぼ一致。

 

撤退のルートに関してだけは地元の人間しか知らない情報を得てきた2人の方が多かったほどだ。

 

「ルルーシュ、確認するけれど今回の目的は私の紅蓮とライの月下の力をブリタニア軍に見せつけるだけなのよね?」

 

「ああ。コーネリア自ら先陣を切って戦場を闊歩するだろうから、時機を見て“人為的な土砂崩れ”を起こし親衛隊とその他の兵力を分断する。コーネリアと親衛隊だけになったところで俺とカレンが頂上から一気に駆け下りて奇襲を掛ける。恐らくコーネリアは嬉々として俺を狙ってくるだろうから、カレンには親衛隊の処理を頼むことになるが」

 

「任せておいて、私と紅蓮にとっての初陣。必ず白星を上げるわ」

 

「頼もしいよ、カレン。だが、慢心するなよ。ライからの報告で、『白兜』を擁する特派のトレーラーも戦場に来ている。どのタイミングで戦場に投入されるか分からない、場合によっては『白兜』の接近を察した段階で撤退しなければならないかもしれん。そのことは頭の隅にでも置いておいてくれ」

 

「『白兜』の怖さはシンジュクで戦って直に体験している。撤退に関しては了解したわ。……ルルーシュ、空気が変わった」

 

遠くの方から銃撃や爆発音が聞こえてくる。リークされた情報どおり、コーネリア軍の日本解放戦線に向けての攻撃が始まったようだ。俺は手の指に引っ掛けていたゼロの仮面を持ち上げる。カレンもそれを見て、両手で頬をパチンと叩いて気合を入れる。

 

「では、日本解放戦線のお手並み拝見と行こうか」

 

俺はゼロの仮面をつけると無頼のコックピットに乗り込む。モニターに光が灯り、カメラを通して映し出された画面にはバイクに跨るように紅蓮のコックピットに乗り込むカレンの姿。

 

まさか、たった4人でコーネリア率いる後方支援部隊も含めてではあるが4万の兵力に戦争を吹っかける事態になるとはな。しかし、玉城や南といった扇グループをはじめとした理念も覚悟も持たない連中がいくらいようが、今この場にいるカレン・扇・ライの3人にはどうやっても勝てないだろう。

 

『新しい黒の騎士団の旗揚げとなる大事な初戦だ。心して掛かるぞ、カレン』

 

「はいっ!」

 



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07.【ナリタ攻防戦・前】

□ライ□

 

チカチカと点滅するように光を放つ灯りの下、洞窟のように入り組んでいる廃坑を進む俺と扇。俺はタブレットでGPSを確認し、扇は先導して壁に亀裂はないか、床が滑りやすくなっていないかを確認している。

 

「……うーん。扇さん、座標的にその分岐は右ですね」

 

「わかった。……それにしても廃坑にしては結構整備されているなぁ。灯りもトラックのエンジンに繋いだ程度で賄えるくらい微量で済むし、地面も踏みしめられていて子供やご高齢でも大丈夫だ」

 

将来は教師を目指していただけに目の付け所が己とは違うなぁと感心する。俺は最短距離を行こうとして、ぬかるんだ土を踏みつけて転び、斜面になっていたこともあり、腰を打ち付けた衝撃も引かぬ内に滑り落ち、背中側が泥だらけになってしまっている。

 

「……元々は石炭を狙って掘られたらしいですが、何も出ず廃坑にせざるを得なかったのに発想の転換でキノコ栽培に使っていたくらいですからね。ここら辺の住民の貴重な収入源だったようですよ」

 

と、撤退ルートのために近くのゲットーに住んでいるという、着ているボロボロの衣服のわりに毅然とした佇まいであった高齢の女性のことを思い浮かべる。

 

俺を見た時に目を見開いていたのはブリタニア人に見つかってしまったからというよりも、ありえないものを見たような感じだったが、まさかこの身体には『ブリタニアの第2代の皇帝の肉体である』という地雷の他にも、厄介事があるのだろうか。もう勘弁してほしい。

 

「はぁ。それにしても掘り過ぎだろう?しかも、塞がれてしまっているとはいえ、日本解放戦線の“居住区”に繋がっているなんて」

 

「今回はそれが功を奏したんだし、気にしなくても大丈夫だと思いますよ。問題はどうやって、民間人を逃がすかですけれど」

 

「それこそ戦闘が始まれば逃げてくれるだろうけれど、懸念すべきは不利を悟った途端、民間人にも『名誉の自決だ』って死を強制するような軍人気質な人間がいないかどうかだよ」

 

「その時は俺が悪人になるので、フォローは扇さんに任せます」

 

俺と扇はそんな会話をしながら廃坑を日本解放戦線の居住区に向けて進み続けた。

 

そして、廃坑と日本解放戦線の居住区を別ける壁のところまで辿り着いたのだが、そこには藍色の着物を身に纏った高齢の女性の姿。俺と扇をここへ向かわせた張本人がいた。

 

「扇さん、俺たちどこで彼女に追い抜かれました?」

 

「いや、分岐がいくつもあったし、俺が安全な道ばかりを選んでいたから追い抜かれていても不思議じゃないと思うけれど……」

 

「お待ちしておりました。黒の騎士団のお二方」

 

素状は完全にばれているようだと俺と扇は開き直ることにした。さすがにコーネリア率いるブリタニア軍の攻勢が迫る中、俺たちを拘束するメリットは日本解放戦線にはない。考えられることと言えば、やはり……。

 

「民間人の退避準備は完了していると見ていいのか?」

 

「はい。本当であれば、日本解放戦線の誰かが先導しなければならないのですが、生憎と眼前に現れた敵兵に全ての兵士が視線を向けており、護らなければならない者たちのことを二の次にしているのです」

 

ゆっくりとしながらもはっきりとした物言い。身に纏う雰囲気と佇まいから只者ではないというのは分かっていたのだが、俺はこの気配を持つ者に心当たりがあった。

 

「もしや、篠崎の者なのか?」

 

「いえ、私はそのような大元の者ではありませぬ。……少し、その手のことを嗜む程度の者でございます」

 

嗜むって、業界用語では達人級であると言っているようなものなのだがな。

 

俺はタブレットを操作し、凡そ3000人近くいる民間人を逃がすために用意した逃走ルートを扇と女性に見せるようにする。

 

「分かった、日本解放戦線に保護されている民間人の逃走を手助けしよう。ダミーのトラックを数十台、コンピューターの自動操縦で街中を走らせる。その間に、廃坑入り口側にある沢を上った先にある地下水道を通り安全圏まで脱出させる。だが、俺たち黒の騎士団に3000人の命を存えさせる物資はない。後はキョウトが面倒を見てくれると信じていいのか?」

 

「……。その智謀、胆力、それに優れた解析力。まさか、貴方さまが『ゼロ』なのでしょうか?」

 

「さて、どうだろうな。……っと、これ以上は話をしている時間はない。早速、民間人の退避をはじめよう。扇さん、準備はいいですか?」

 

「ああ、ルートには石灰をまきながら来たから、地下水道への誘導だけあればいいと思う。その人が手伝ってくれるならば、ここは俺だけで大丈夫だ」

 

俺は扇の顔をしっかりと見据える。彼は普段通り落ち着いており、取り乱したり焦ったりしている様子もない。俺は扇に近づき、タブレットを渡す。地下水道の入り組んだマップを見て、感嘆の声を上げるが物怖じした様子はない。

 

「分かった。扇さん、ここは任せます。代わりに俺は、月下を駆って首級を挙げるよ」

 

「ライくん、気をつけるんだよ」

 

俺が日本解放戦線の居住区に背を向けて駆け出すと同時に扇さんが女性に近づき、誘導の手順を説明する。俺はその様子を見て大きく頷き、来た道を急いで引き返す。頭に叩き込み、扇が残した目印を使って。

 

直にブリタニア軍による攻撃が始まる。

 

そして、ルルーシュとカレンによる山崩しによる影響が出る前に3000人もの民間人を移動させなければならない大仕事。俺がルルーシュであった頃の扇ならば、そんな大それた作戦を指揮するのは無理だと放り投げていたはずだ。

 

俺が何もかも仕事を行い、彼らに成長する機会を与えなかったから。俺が欲しかったのは命令に殉ずる駒だったから。駒に意思は不要としたから。生きている人間にそんな真似ができるはずもないのに。

 

俺がルルーシュを変え、ルルーシュが扇を変えた。思ったよりもいい方向に変わっている。それならば、俺がすべきことは決まっている。コーネリア率いるブリタニア軍を蹴散らし、コーネリアとスザクが駆るランスロットに被害を与えることだ。

 

ルルーシュなら出来なかったことだが、今の俺ならば出来る。廃坑から飛び出た俺は来ていた服を脱ぎながらトラックに飛び乗り、偽装した荷台の中に滑り込む。パイロットスーツに着替えた俺は月下の操縦席へと身体を滑り込ませる。

 

「ブリタニアは3方向から侵攻中。定石どおり圧倒的物量による、包囲殲滅戦。航空戦力は……無し。俺の記憶通りであれば、コーネリアはこのルートを通る。ルルーシュたちの土石流の範囲はここからここまで……。エナジーを戦闘まで節約するには、雑木林を抜けるルートが最も効率良い。ナイトメアを操縦する者にとって敬遠すべきルートから飛び出してくれば、大なり小なり混乱が呼び込めるか」

 

起動キーを差し込む。

 

目の前のディスプレイには、コンテナが上下に開いたことで光が差し込む様子がありありと映し出される。軽く慣らし運転をした感じではあまりにじゃじゃ馬で操作系もピーキーであったが、『ライ』の身体能力と反応速度があれば、特に問題はなかった。紅蓮とは違って完成されていない機体を急いで送ってきたあたり、余程シンジュクゲットーで戦った無頼のデータに価値があったかが窺える。

 

「さてと、もうそろそろ行くか。……頼むぞ、月下」

 

俺は操縦桿を握りしめる。月下のランドスピナーを低速で動かし、戦場へ最短で着くルートを走る。見えてきた鬱蒼と茂る雑木林を見て、俺はブレーキを掛けることなく、むしろアクセルを踏み月下を加速させながら雑木林に突っ込んだ。

 

 

 

□藤堂□

 

黒の騎士団のゼロから齎されたブリタニア軍の侵攻の情報は正しく、我々は万全の体制で立ち向かう。しかし、篭城の他に手段のない我々を嘲笑うかのように3倍近い兵を引き連れて現れたブリタニアの魔女は後方で踏ん反り返ることなく、最前線に出てきて同志たちの命を奪い取る。ブリタニア軍の総指揮を執るコーネリアさえ倒せればと戦力を集中させたことが更に危機を招く。

 

私は四聖剣と共にキョウトから預かった『無頼・改』を駆り、戦場を動き回るがコーネリアに近づくことも出来ず、我々の機体の方が傷ついていく。

 

『消耗戦』、という文字が頭を過ぎる。引く場所を持たない日本解放戦線、その基地の地下には戦火から逃れようと頼ってきた大勢の民間人もいる。我々が負けるということは、その3000人という命も奪われてしまうということだ。

 

『藤堂さん、このままではジリ貧です。一旦、体勢を立て直しましょう!』

 

『中佐が引くまで殿はワシと卜部が』

 

「引いて何になるというのだ!ここで我々が引けば、今ここで戦っている仲間の命が散ることになる。ナリタが落ちれば、誰が日本人を救う!」

 

私は廻転刃刀を構え、またひとつ奪われようとしていた仲間の命を救う。しかし、それと同時に敵の懐へと入り込むことになる。それを承知の上で私についてくる部下たち。

 

『中佐があるところに四聖剣ありってね』

 

『私たちもお供します、藤堂さん!』

 

「最後まで、我々は日本人としての心を失うことなく戦い続ける」

 

そう武器を構えた時、我々を包囲していたブリタニア軍の動きが変わる。どこか戸惑うような動きに、誘いか罠か何かかと考えた時、視界の右端から左端に掛けて青い閃光が瞬く間に通り過ぎた。その光がなんだったのかを考える暇を与えず、次々とスパークして爆発四散するブリタニア軍のナイトメア。

 

『嘘だろ、俺たちの前方にいたサザーランド8機が、全部破壊された!?』

 

私は卜部の声を聞き、機体の向きを変える。我々を四方に取り囲んでいたブリタニア軍のサザーランドは残り6機となっていた。加えて一瞬でロストする形になった仲間たちを見て取り乱している。私は先陣を切ってサザーランドを切り捨てる。ハッとしたように朝比奈、千葉が私に続いて我々を包囲し優位に立っていたはずのブリタニア軍のナイトメアを殲滅する。

 

「我々も往くぞ、あの青い閃光は恐らくブリタニア軍の総指揮官であるコーネリアの下へ向かったはずだ」

 

『『『『了解!』』』』

 

片瀬中将からは基地の守りを固めるようにと指令が来ていたが、私はそれを無視する。

 

恩のあるお方であるが、今更守りを固めたところで手遅れだ。ここからブリタニアを引き下がらせるには、コーネリアを始めとした前線の指揮官を潰さなければならない。

 

そうして、辿り着いた戦場には日本解放戦線の仲間は1人たりとも残っていなかった。

 

居たのは、青い一つ目のナイトメアと両腕を失ったグロースターを守るように布陣するブリタニアのナイトメアの集団。その中の1体がランスを構えて、青い一つ目に突撃を掛ける。

 

ランドスピナーが勢い良く地面を蹴り、砂煙が立つほどの加速がついた一撃だったが、青い一つ目は左足のランドスピナーだけを回転させて時計回りに回転し、グロースターのランスによる攻撃を避けた直後、回転して勢いをつけた左腕でグロースターを横から殴りつけた。

 

直後、その左手の先から紅い閃光を迸った。ぶくぶくと気泡が立つように、グロースターの装甲が膨らんでいき、朝比奈がごくりと喉を鳴らした瞬間、パイロットの命を守るための機構であるインジェクトシートが発動する間もなく、赤い炎を上げながら爆発四散した。

 

先ほど、我々の窮地を救った者に間違いはないが、これだけの操縦技術の腕を持つ者が今までどうして現れてくれなかったのかと歯噛みする。すると、突如通信が入る。

 

『あと2分ほどすると、ここにあるもの全てを飲み込むくらい大規模な山崩れが起きます。それでブリタニアの正面部隊を殲滅しますので、貴方方は撤退されてください。直にコーネリアを守るために多くの機体が集まりますし、『堅物の軍人』がいても何の役にも立ちません』

 

私を堅物の軍人と呼ぶ人間に心当たりのあった千葉が顔を真っ赤にして吠える。

 

『な、何だと、お前!藤堂さんに向かって、どういう口を』

 

『忠告はした』

 

グロースターの爆発が収まる前に動き出した青い一つ目が地面にスラッシュハーケンを打ち込み宙へ飛び上がる。遅れて反応したブリタニア軍はアサルトライフルの銃撃の雨を向けるが、青い一つ目は宙を移動しながら右手で握った小刀で銃弾を弾き、スラッシュハーケンを地面やブリタニアのナイトメアに刺し、反動や巻取りを絶妙なタイミングで行って縦横無尽に動く。

 

機体性能だけでなく、機体を操縦する人間の実力の差が明白であると判断した私は部下たちに撤退する旨を伝える。私の決定に朝比奈と千葉が噛み付くが、仙波と卜部に諌められ我に戻った。

 

我々が戦っていた場所へ戻ろうとした時、突如として地響きが発生し、ブリタニア軍の多くが展開していたナリタ連山の正面が滑り落ちる様をまざまざと見せ付けられる。

 

「こんな馬鹿げた作戦を実行できる黒の騎士団が烏合の衆だと?なら、我々は今まで何をしてきたというのだ……」

 

 

 

□ルルーシュ□

 

山崩れを起こすタイミングは完璧だったはずなのだが、俺とカレンはライの実力を過小評価していたらしい。俺たちが頂上部から奇襲を掛けようとした駆け下り始めた段階ですでにコーネリア機の両腕はなく、親衛隊のグロースターも1機を残し大なり小なり損害を被っていたようだ。

 

俺は『こほん』と咳払いをひとつするとオープンチャンネルで告げた。

 

『サイタマゲットーでは世話になったな、コーネリア』

 

『ゼロ、貴様ぁああああっ!!』

 

コーネリアの怒号が響き渡ると同時に、両腕の無いグロースターが俺の駆る無頼に向かおうとしたが、右腕を無くし前面装甲にいくつも傷があるグロースターに引き止められている。

 

『ほぉ、この状況下で冷静な判断が下せる者がいるとは。さすがはコーネリアの選任騎士さまだな』

 

と言いつつ考える。

 

ここに来るまでにカレンが駆る紅蓮は輻射波導を十分に使い、多くのブリタニアのナイトメア屠ってきている。コーネリアを始めとした親衛隊が壊滅しているのは、どう考えても山崩しによって起きた圧倒的物量を誇る土砂崩れによるものではなく、その前に攻勢に出たライの駆る月下にやられたものだと。

 

“うまく行き過ぎている”気がする。

 

『我々の目的は達された。紹介しておこう、コーネリア。我が黒の騎士団が誇る最強の戦力である『紅蓮』と、げ……いや『蒼月』だ。今後はこの2機を中核とした作戦を実行する。今までのような小物ではなく、大物も狙う。覚悟してお『格好つけているところ悪いけれど、ゼロ。白兜だ』……コーネリア、自分の子飼いの犬くらいしっかりとリードに繋いでおけっ!!』

 

俺はオープンチャンネルを切り、カレンとライの回線に割り込む。

 

『オッケー、まずは私と紅蓮からね』

 

『俺がやばいと判断したら勝手に割り込むからね』

 

『まさかだと思うが、一戦交える気か?』

 

『強い奴との戦いは経験がものを言うからね。それにこう平地だと、片足くらい貰わないと簡単に追いかけてきそうじゃないか。ま、ゼロは高みの見物でもしていなよ。カレンはともかく、俺が負けるなんてことはないから』

 

『私だって負けないわよっ!!』

 

俺にとって、白兜はトラウマでしかないがカレンやライたちにとってはどうってことのない相手なのかもしれない。頼もしい仲間が2人いるというだけで俺の心に余裕が生まれる。その時、雑木林や未だに流動する土砂を吹き飛ばし、コーネリアたちを守るように現れた白い装甲を持つナイトメア。

 

俺が乗る無頼の両脇を固めるように立ち並んでいた赤いナイトメア、カレンの駆る紅蓮が進み出る。

 

 

 

白と赤がぶつかったのはその直後だった。

 



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08.【ナリタ攻防戦・後】

□コーネリア□

 

エリア11の最大反政府勢力である日本解放戦線の本拠地であるナリタ連山を我々は攻めていた。日本解放戦線のモグラのように山を掘削し、一大拠点として作り変える労力は認めよう。

 

しかし、我々からしてみれば弱者の浅知恵に過ぎず、圧倒的な兵力の差で何事もなく反政府勢力を根絶やしに出来る……はずだった。ダールトン率いる部隊が日本解放戦線の使用している通用口を発見し、雪崩れ込んだという報告を受け制圧も時間の問題だと。

 

気分を高揚させる私へ冷や水を掛ける様な切羽詰った通信が寄越されたのはその時だった。ブリタニア軍の第4世代KMFグラスゴーの劣化コピーに毛が生えたような改造機を相手にしていた部隊が壊滅的なダメージを受けたと将校たちから連絡を受けた私は思わず悪態を吐く。

 

その行為自体は選任騎士であるギルフォードに咎められたが、通信を寄越してきた将校たちの使えなさに眩暈がしそうであった。

 

劣化コピーの改造機数機すら押さえられないなど、やはりエリア11の部隊は弛んでいる。一度本国に戻して、一から性根を正す必要もあると考え、ディスプレイに作戦区域のマップを映し、私たちがいる場所に向かって“味方を表す光点が次々とロストしていっている”のを確認し、私は咄嗟に怒号を上げる。

 

「ギル!隊列を組みなおせ、“何か”が来るぞ!」

 

指示を言い終わろうかした時、そいつは我々の前に降り立った。海のような深い青色の装甲を持つ一つ目の機体であった。

 

ブリタニア軍のKMFには全く似付かぬ鋭角なフォルム。右手には小振りな赤い剣が握られ、左腕の先には赤い爪がある。

 

「姫さま、恐らくイレブンが独自に開発した機体かと思われます」

 

「小癪な真似を……」

 

エリア11がブリタニア帝国に対し頭を垂れてから、もう数年の年月が経っている。政に疎いクロヴィス主導の下であったにしても、イレブンの反抗精神はほとほと手を焼かされる。だからこそ、このエリア11最大の反政府勢力である日本解放戦線を殲滅することは必要不可欠なのだ。徹底的に叩き潰すことで、イレブンの意識に希望など有り得ないことを叩き込むために。

 

「ギル、手を出すなよ。こいつは私が屠る」

 

私は操縦桿を操作しランスを構え悠然と佇む青い一つ目の機体に向かって疾走させる。ランドスピナーが地面を明確に捉え、土埃を上げつつ瞬く間に最大速力へ到達。

 

このナリタで日本解放戦線の塵滓たちの血を何百も吸ってきた我が必殺の一撃は、紙一重で避けられた上に左肩を撫でる様に斬られた。

 

スラッシュハーケンを用いて体勢を立て直そうとした時には青い一つ目は宙へ飛び上がっていて、私のグロースターが放ったスラッシュハーケンを自身のスラッシュハーケンを使ってワイヤーを断ち切っていた。

 

「ちぃっ!!」

 

最大速力まで達した自分の機体を立て直そうとランドスピナーを使うが減速させるよりも、戦場を大回りして再度突撃した方が有効と判断し、左に旋回しようとしたのだが、横殴りされたような衝撃を受け思わず下唇を噛む。

 

地面を削るような音とシートに身体が固定されているにも関わらず前後左右へと大きく揺さぶれる感覚に歯噛みする。衝撃と音が止んだのを見計らって、ランスを地面に突き立てて機体を立ち上がらせる。

 

泥と土に塗れたカメラによって映し出されたのは、縦横無尽に動き回る青い一つ目の機体によって次々と部下たちが殺されていく光景だった。青い一つ目の機体はあらゆる角度から放たれるアサルトライフルの銃弾の雨を掻い潜り、右手に持つ赤い剣をコックピットに突き立てていく。

 

包囲されれば、スラッシュハーケンを地面に放った反動で宙へと飛び上がり、ワイヤーの巻き取るスピードを左右で変えたり、操縦者が殺され動かなくなった機体を踏み台にしたりして戦場を支配している。

 

「姫さま、お下がりください!」

 

「……ギルフォード、何者だ。あれが、エリア11の英雄『トウドウ』なのか!?」

 

「分かりません。しかし、無闇に攻めたところで『一つ目』には通用しないことは確かです」

 

「……分かった」

 

私は戦闘が始まる前に最愛の妹であるユフィの“お願い”を使うことを決める。部下に指示を出し、信号弾を撃たせる。どうやって、ユフィに取り入ったのか知らないが、チャンスをくれてやろうではないか。

 

私は自分の機体の後方で白い煙が立ち昇るのを確認した後、付近にいる部隊を集める。ユフィのお願いとはいえ、イレブンをパイロットとしている『特派』を使いたくなどない。呼び出すだけ呼び出して、何の用事もなく帰すのも一興か、と考えた私はギルフォードを含めた部下たちに檄を飛ばす。

 

「精強なる我が兵たちよ。連携し、『一つ目』を討つ。ログナーとエイドマンは挟撃せよ。他の者たちはアサルトライフルで援護、ギルは私と共に来い!」

 

「「「イエスユアハイネス!」」」

 

息を合わせて距離を詰める2機のグロースターの動きを見ていた青い一つ目の機体の周囲に降り注ぐ銃弾の雨。先ほどは動き回る青い一つ目を追う様に無秩序に放たれていたが、今回は移動を制限するためのもの。

 

フェイントを織り交ぜ、着実に青い一つ目を追い込んでいくログナー機とエイドマン機。だったのだが、2機の動きに合わせて撃たれていた援護射撃の隙を縫うようにして包囲から抜け出した青い一つ目が我々の方へ向かってきた。

 

その一瞬の攻勢に気付いたギルが私の前に立ち、青い一つ目と相対する。ギルのグラスゴーのランスによる薙ぎ払いの攻撃を受けた青い一つ目の機体が左方向へと流れていくのを見て、私の頬は吊り上がるのが分かった。所詮イレブンなど、この程度と。

 

「姫さまっ!」

 

「なんだ、ギr」

 

私は次の瞬間には、世界がひっくり返ったような衝撃を受けた。

 

何が起きたのかを確認する前にディスプレイに映し出されたのは、左腕の爪を大きく開き、赤い迸りを発光させるナニカ。その青い一つ目の左腕がランスに当てられた直後、赤い閃光が走った。ぶくぶくと内側から気泡が立つように膨れていくランス、そしてそれを持つ両腕。

 

私は咄嗟に両腕をパージし、反動を利用してその場から離れた。その判断が正しかったことを、私はランスと両腕が爆発四散する様を見て悟った。ギルをはじめとした親衛隊の面々が私を守るために近寄ってくる。

 

『時間か……』

 

オープンチャンネルから聞こえてきた若い男の声。

 

その言葉の意味を察する前に、地面が揺れていることに気付く。直後にはブリタニア軍の回線は阿鼻叫喚の声で埋め尽くされた。日本解放戦線の拠点への入り口を攻めていたダールトン率いる正面部隊が地響きによる土砂によって流され、甚大な被害を負った事実を、G-1ベースから送られてきたデータを受け取った私は操縦桿を握る手にギリギリと力を篭める。

 

こんなやり方を日本解放戦線が思いつくとは思えなかった。青い一つ目の機体を操る人間も日本解放戦線の戦力であれば、私が赴任する以前からこのエリア11でブリタニア軍を相手に暴れていたはずだ。それが無かった時点で、この青い一つ目が所属している組織が何者であるかなど一目瞭然だ。

 

案の定、青い一つ目の機体と良く似た赤い機体と共に悠々と現れた角付きのグラスゴーの劣化コピー機に乗る人物が私に向かって語り掛けて来た。

 

『サイタマゲットーでは世話になったな、コーネリア』

 

「ゼロ、貴様ぁああああっ!!」

 

腹違いの弟であるクロヴィスを殺し、神聖ブリタニア帝国に対し宣戦布告を叩き付けた憎きテロリストである『ゼロ』。

 

そのゼロを守るように両脇を固める青い一つ目の機体と赤い機体。

 

黒の騎士団の戦力はたった3機しかいないにも関わらず、ほぼ無傷の状態。

 

対して私が率いる部隊は親衛隊とエリア11に常駐しているブリタニア兵士たち。数こそ多いが、親衛隊の機体は大なり小なり傷ついている。私など、青い一つ目との戦闘によって両腕とスラッシュハーケンを失ってしまっており、この戦場において完全なお荷物だ。

 

こんな屈辱は、今まで味わったことがない。

 

ギリギリと私が歯軋りを立てていると不意に影が差し込んだ。岸壁の上から飛び降りてきたのは白いKMFだった。

 

 

 

□ルルーシュ□

 

コーネリア率いる親衛隊とドンパチを勝手に始めていたライの説明で、彼女が操縦するグロースターの損傷具合を聞き、彼を味方に出来て本当に良かったと大きく頷く。日本解放戦線の戦力の撤退と彼らに保護されていた民間人の退避が大方済んでしまっている現在、目的は十二分に達成されたと見ていい。

 

俺にとってのイレギュラーの塊である白兜との戦闘はあくまで“おまけ”だ。

 

戦力として完全にお荷物状態のコーネリアを抱えている今、ギルバート・G・P・ギルフォード率いる親衛隊も迂闊に動けない。下手に動いて流れ弾がコーネリアの機体に当たったりすれば、ただではすまないのを理解している。

 

コーネリアの性格上、自分の所為で部隊が壊滅する憂き目にあった場合、自身を見捨てるように促すはずだが、これだけ揃っているとそう指示することは出来ない。

 

「ライ、周囲の状況はどうだ?」

 

『土砂崩れによる混乱はまだ収まっていないけれど、近くの基地に対し航空戦力への援護要請が出された。タイムリミットはあと8分といったところかな。退避ルートは29のパターンBが無難』

 

「カレン、聞いていたな?」

 

『了解っ!』

 

カレンが操縦する『紅蓮弐式』の最大の武器は右腕の輻射波導機構。たとえ強固な装甲を持つ白兜でも、あれに掴まれればタダではすまない。

 

ちなみに白兜は紅蓮との戦いの最中、時折俺に向けて銃を向けてくるのだが、その都度ライが亜光速で飛来する銃弾を切り裂いてくれるので頼もしい。

 

ただ、俺が乗っている無頼の後方は凄まじいことになっている。まるでモーゼが割った海のように、俺の真後ろだけが無事でそれ以外は見るも無残なほど、掘削されてボロボロの荒れ放題となっている。

 

『こいつっ!このっ!このぉおお!!』

 

ただカレンにとっては目の前にいる自分よりも『ゼロ』を倒すことを優先されているようで面白くないのだろう。

 

どんどんと目が据わり、獣染みた気配というか、殺気が漏れ出ている気がする。しかし、それによって攻撃が単調になり、冷静な白兜に翻弄されているようにも見える。恐らく潮時だ。

 

「カレン、航空戦力による援護が来るまで5分もない。ライと交代だ」

 

『……ぐぬぬ。ライ、拠点に戻ったら相手をしてよね!』

 

『いいよ。カレンが納得するまで相手になる』

 

今まで白兜と接近戦を繰り広げていた紅蓮がその場から飛び退き、俺の乗る無頼の傍まで下がってくる。通信を通してカレンの洗い息遣いが聞こえてくる。山頂部から下ってくる際にブリタニア軍のKMFを相手にしていた時は相手を寄せ付けることなく、圧倒的な強さを発揮していたが、カレンはまだ紅蓮を受領して間もない。まだ完全には使いこなせていないのだろう。

 

そういった意味ではライも月下を使いこなせていないはず、

 

『おい、白兜。紅蓮との戦いでは余裕があったのかゼロに銃を発砲していたが、俺の前でそんなことをしてみろ。跳ね返してコーネリアを狙うぞ』

 

って、おいぃいいいいい!?

 

オープンチャンネルでライがそんなことを言い放った。幸い声自体は変えられたものだったから良いものの、これを挑発されたと白兜が認識したらヤバイのではないか。

 

そう俺が考えていると案の定、白兜が銃をまっすぐ俺へと向ける。射線上にはライが駆る青い月下がいるが、白兜が銃を手元で操作すると“銃の形状が変わる”。今までが連射が出来る通常の状態であったとすれば、次に放たれるのは攻撃力に特化されたものとなる。

 

『えっ、ちょっ、嘘でしょ!?』

 

「そう言いながら、俺の後ろに隠れるな!カレン!!」

 

今まで白兜と熱戦を繰り広げていた紅蓮は無頼を盾にするように後方に回った。見ればコーネリアたちもヤバイと感じ取ったのか白兜の真後ろを陣取るように移動している。

 

これは一体、どうなるんだと思った俺たちの前で繰り広げられた戦いは一瞬だった。

 

お膳立てされた銃を捨て、左手に握った剣で斬りかかってきた白兜を右手に持った小刀でいなした月下の左脇に、その場で一回転して遠心力によって攻撃性を高めた白兜の右足が叩き込まれた。

 

『ライが負けた!?』と浮き足たった俺たちの前で、爆発したのは白兜の脚部。忘れていたが月下の左腕もまた簡易的とはいえ紅蓮と同じ輻射波導機構だ。つまり、誘いだったわけだ。

 

白兜は爆発の衝撃でコーネリアたちがいる方向へ弾き飛ばされ、その間にライは月下の左半身に思い切り叩き込まれた白兜の右足を左腕で抱え、勝負の前に白兜が落とした銃を拾い上げて戻ってきて、俺たちの横をさっと通り抜けた。

 

「『は?』」

 

『やべぇ、調子に乗りすぎた。……後は頼む』

 

目的は果たしたと言わんばかりにさっさと戦場から離れていくライが駆る月下。俺はちらりとコーネリアたちを見据え、咳払いをひとつする。

 

『最初に言ったはずだぞ、コーネリア。我々の目的はすでに果たされている。白兜との一戦はおまけに過ぎん。我々の戦場はこのナリタではない、もっと大きな舞台となるだろう。では、その時が訪れるまで首を洗って待っているといい。フハハハハハハッ!』

 

俺は精一杯格好つくようにそう言った後、ライの月下を追うように無頼を走らせる。カレンが操縦する紅蓮も続く。負ったダメージが余程大きかったのか、ブリタニア軍による追撃はほとんど起きずに俺たちは撤退することが出来たのだった。

 

 

 

□???□

 

「スザクが、……負けた?」

 

私の記憶によれば、このナリタでスザクはゼロをあと一歩のところまで追い詰めること出来ていたはず。解析された画像では緑色の髪を持つ女性との接触でスザクは取り乱し、ゼロを逃がした。

 

「今回は、この青い機体が邪魔を?」

 

コンソロールを触り映像を進める。

 

お姉さまやギルフォードさんの動きすら自身の掌の上と言わんばかりに翻弄し、赤い機体を引かせたスザクを挑発。そして、一瞬の攻防でランスロットの右足を奪い取った。

 

私と同じイレギュラーであるはずだが、一体……誰なのでしょう?

 

「とにかく、次の一手を考えなければなりません。……待っていてくださいね、【ルルーシュ】」

 



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09.【ブリタニアとキョウトからの使者】

□ルルーシュ□

 

事の発端は今にも死にそうな程の青白い顔色で土下座しながら俺へと謝罪の言葉を紡ぐスザクとのやり取りから始まった。

 

 

 

ナリタ連山での攻防戦でキョウトが日本解放戦線を見放し、黒の騎士団と接触を図ろうとしている旨の情報を経て、どういった風にアプローチをするかを俺はカレンとライの3人で話し合っていたのだが、軍の任務で連日休んでいたスザクから連絡があった。

 

その時のスザクはひどく混乱しているようで電話口から聞こえてきた彼の言葉からは内容を察することが出来なかった。放課後にはアッシュフォード学園へ来るというのでクラブハウスで待った。

 

 

 

来訪を歓迎するナナリーとライに申し訳なさそうな表情を浮かべるスザクをとりあえず自室へ引っ張り込んだ俺は、どうして彼がこんなにも取り乱していたのかを知った。その後、スザクは肩を落とした上にすっかりと意気消沈し、『一緒に夕食を』と引き留めようとするナナリーに『ごめん』と一言だけ告げて去って行った。

 

深夜、ナナリーが寝静まったのを確認した俺はライを自室へと呼び出し、スザクから告げられた内容を告白した。

 

「はぁっ!?ユーフェミア副総督がアッシュフォード学園の視察に来る!?しかも、目的はルルーシュとナナリーって、どういうことなんだ?」

 

「スザクとユーフェミアにどんな繋がりがあるのか知らないが、スザクがアッシュフォード学園に通えるようにしたのはユーフェミアらしい。それで学園のことを調べている内に通っている生徒たちがインターネット上にアップしているブログに俺とナナリーのことが書かれているのを見つけた、と。無論、名前は伏せられていたが、ユーフェミアは何らかの確信を持った上で、スザクに『学園生活において貴方を助けてくれる親友にも会いたい』と告げたようだ」

 

「俺がルルーシュに成りすますのはどうだ?妹役は中等部の子に頼めばいいだろう?」

 

「……不可能だ。学園に通う生徒全員の口を塞ぐ方法が無い。俺とナナリーの幼少期の写真か何かを見せられながら、学園の生徒に生徒会副会長は誰と尋ねられれば、一発で俺だと分かる。芋づる式でナナリーの特徴も伝わるだろう。……詰みだ」

 

俺は両手で顔を覆う。幸い、新生している最中の黒の騎士団はライとカレンと扇が核となれば再建することは出来る。だが、俺はもうそれに関わることは出来なくなる。……俺はいったい何のために。

 

「副総督の狙いは何だ?ルルーシュたちを見つけて何をしようとしている?」

 

「分からない。だが、皇帝に俺たちが生きているという情報が渡れば、また別の国へと人質として利用されるだろう。さながら使い捨ての道具のように」

 

俺はベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を眺める。俺とナナリーを捨てたあいつを倒すために、強大なブリタニアに反旗を翻すために、俺だけの軍隊を作り上げたのに、ただの思いつきによる行動で俺たちの未来はこんなにも呆気なく潰されてしまうのか。

 

「なぁ、ルルーシュ。なんでもソツなく出来るルルーシュなら、『皇子の身分を隠しながら生きているルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』ではなくて、『ただのルルーシュ・ランペルージという名前の少年』として演技はできないのか?」

 

「……演技?……そうか、その手があったか!」

 

ライは俺の喜色の返事を聞いて色々な設定を口にしていく。

 

俺はその設定の数々を聞き流しながら、絶対遵守のギアスを自身に掻けることを思いついた。手っ取り早いのはユフィにギアスを掻けて、『俺たちのことを気にせずに帰れ』とでも命じることなのだろうが、恐らく実際に彼女を前にしたらギアスを掻けることなど不可能だろう。ならば、自分自身に掻ける他に方法はない。

 

「ルルーシュが皇族だって知っている学園の関係者は?」

 

「アッシュフォード家に連なる者だな。今のところは会長や学園長に話を通せばいいと思う。あと、演技することはナナリーにも伝えなければな」

 

「ナナリーは聡い子だ。外に存在がバレれば、ルルーシュと一緒に過ごす事が出来なくなることくらい理解していると思う。そこまで心配はいらないと思うが、副総督が来るのはいつだ?」

 

「3日後。……キョウトとの会合が行われる日でもある。俺とカレンは副総督の受け入れ準備に生徒会メンバーとして借り出されるだろうから、抜け出すことは出来ない。キョウトとの接触はライと扇に任せる」

 

「……当然、ゼロに扮するのは俺だよな?」

 

「お前以外で俺の影武者が務まるとは思えないよ」

 

俺はゼロのコスチュームが入ったトランクを渡すのだった。

 

 

 

□ライ□

 

日本解放戦線の本拠地があったナリタ連山におけるコーネリア率いるブリタニア軍との攻防戦後、黒の騎士団の実績が認められキョウトから資金援助を検討している旨の連絡を受けた。当初はルルーシュたちも一緒に来るはずだったのだが、諸事情があり俺がゼロに扮して扇と共に指定された施設に赴く形となった。

 

手土産にランスロットの右脚とヴァリス付きで。

 

先に連絡がついていたのか、俺たちが到着した時点でゲートの方に技術者たちが殺到しており、ランスロットの右脚とヴァリスが搭載されたトレーラーのキーを扇から受け取ると『月下のパイロットにくれぐれもよろしく頼む』と伝言を預かるくらい、彼らはひどく興奮した様子だった。

 

『……行くか、扇』

 

「中々、熱烈な歓迎だったな。……ゼロ」

 

『緊張しているのか、扇?日本解放戦線がコーネリア相手に敗走した今、これからこの国においてブリタニアに対し銃を向けることが出来るのは我々『黒の騎士団』だけだ。そこを痛いくらい理解しているキョウトが私たちに手を出すはずがなかろう?』

 

「……分かっている。“慣れない”だけだ」

 

『これから、“こういうことは増える”。扇、君は黒の騎士団の『No.2』としての自覚を持ち、より一層励んで欲しいものだな』

 

扇はげんなりとした表情を浮かべている。それを見て俺たちを先導している人間がクスリと笑みを零した。彼女にはカリスマ性の高い正体不明のリーダーと、素朴で真面目だけが取り得そうな青年のやり取りに見えたのだろう。

 

だが、俺と扇の内情は違う。急遽キョウトとの会合に行けなくなってしまったルルーシュの影武者となった“ゼロに扮する俺”が、初対面の藤堂に喧嘩を売るような言動を取ることがあることを扇は知っている。故にいざとなったら自分がフォローしなければならないと意気込むと同時に胃を痛めているのだ。

 

『トウキョウ租界へ帰ったら、いい女がいる店に連れて行ってやろう』

 

「いや、いい。遠慮しておく」

 

『そう遠慮するな。私は頑張っている部下を労わない無能とは違う。結果に応じて報酬を与えるのは当然のことだ。扇も美味い日本食が恋しいのではないか?私の行きつけの店の女将が作る揚げ出し豆腐は絶品だぞ』

 

「いい女ってそっちか!?」

 

『どうした、扇?……どんなことを考えていたのか、私は追求しないが。……あまり溜め込むなよ。クックック……』

 

「ぐぅおおお……」

 

両手で頭を抱えてその場で悶える扇。俺がそれを見て肩を揺らしながら笑っていると、先導していた女性が小型携帯端末を使ってどこかへ連絡を入れる。

 

扇にも正体をばらしたとはいえ、こんな会話は絶対にルルーシュならしない。猥談を会話に取り込むなんて真似は童貞の高校生にはキツイからな。ある程度、落ち着いた様子の扇を伴い先導する女性の後を追う。

 

そして、通された部屋からはサクラダイトを搾取され続ける、かつて日本国民から霊峰と呼ばれた富士山が見える。美しき山の面影はすでになく、土色の山肌に金属の板が被せられ痛々しい。

 

「お主が、『ゼロ』か」

 

しわがれた老人特有の低い声色に導かれるように視線を部屋の奥へと向ける。そこには仕切りが設けられ、中にいる人物の顔を見る事は出来ないが、前回とは違い無頼が護衛としてついていない。

 

『ああ。私が黒の騎士団を率いる『ゼロ』だ。先日のナリタでは、貴様たちが寄越した紅蓮と月下を有効に使わせてもらった。手土産の方は喜んでもらえただろうか?』

 

「無論じゃ。今頃、技術者たちが目を血走らせながら解析をしておるはずだ。して、ゼロよ。お主、酒はいける口かの?」

 

『「は?」』

 

桐原公と思われる老人が放った言葉の意味が理解できず、俺と扇は同じタイミングで呆けた声を漏らした。

 

 

 

部屋の奥で踏ん反り返って『仮面を外せ』と言ってくると思われたのだが、桐原公はあっさりと仕切りから顔を出し部下たちに向かって手を鳴らした。側に仕えていた部下たちがそれぞれ慌しく動き出したのを見計らい、俺たちの下へ杖をつきながら歩み寄ってきた桐原公は、自ら俺と扇を先導して移動を始める。

 

「ゼロよ、わしが何者かは知っておるな」

 

『勿論だ。ブリタニア侵略前は枢木政権を影から支えるフィクサーであり、ブリタニアの日本占領後はサクラダイト採掘の権利を独占し、この国の植民化政策を推し進める結果となった『売国奴の桐原』。一方で、各地の反政府勢力に対して経済的な支援を行っているスポンサーであるキョウトの代表』

 

「その通りじゃ。しかし、それもこの国の未来のため」

 

俺と扇は桐原公に案内される形で移動しているため、彼がどんな表情で『未来』の話をしているのか分からないが、少なくとも俺が経験した世界ではユーフェミアが提唱した特区日本でのサクラダイト採掘権保護が承認されて、その恩に預かれなかったキョウト他家から疎んじられていたはず。

 

とはいえ、ルルーシュにはルルーシュの。俺には俺の思惑があるように、桐原公には彼なりの考えがある。上手い様に利用されないようにしながら、こちらが利用していけばいいだけの話だ。

 

『ところで、桐原公。どこへ向かっている?』

 

「ふむ。お主たちとは酒を酌み交わしながら話をした方が有益と考えてな。抱えている料理人たちに腕を振るわせておる。扇とやらは久しく日本食を口にしておらんというではないか」

 

顔を覗かせた桐原公はにこやかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

俺と扇が通された部屋は奥行きのある和室で、障子に仕切られた向こう側には青々とした葉を茂らせる木々と巨石で作られた日本庭園のような中庭が見える。上座に腰を下ろした桐原公が自分の正面に俺、俺の左隣に扇が座るように促してくる。

 

『郷に入れば郷に従え、か。扇、どうやら桐原公が『おもてなし』をしてくれるようだ。ご同伴に預かろうじゃないか』

 

「まじかっ!?」

 

扇の驚きはどちらの意味だろうか。その判断は後にすることにして、俺はふかふかの座布団の上に胡坐を掻く様に座る。扇は緊張してか正座したが、長い時間は保つまい。

 

「カッカッカ!ゼロは肝が座っておるのぅ。扇よ、お主もこの者のような剛毅な人間を主にするとは運がいいのか、それとも悪いのか。しかし、扇。先日のナリタでの民間人の避難誘導の手際は実に見事であった。“鶴”も感心しておったぞ」

 

「い、いえ!戦いに関係のない人たちを助けるなんて、俺は当然のことをしただけです」

 

扇は頬を赤らめ後頭部を手で掻きながら照れる。それを見て好々爺のように桐原公は笑うが、これは前哨戦だろう。酒が入ることで俺、いや扇の口が滑るのをひたすら待つつもりなのかもしれない。

 

そうこうしている内に俺たちがいる和室へ、彩り鮮やかな料理の数々、そして艶やかな着物を身に纏った女性たちが入ってくる。

 

『なぁ、扇。あれがキョウトの舞妓という奴か?』

 

「ああ。ニュアンスが違うと思うが、たぶんそうだと思う。俺も生で見るのは初めてなんだ」

 

笛や太鼓の奏者たちが奏でる音楽に合わせて踊りを披露する舞妓たちを眺めながら、桐原公は食事を勧めてくる。俺がゼロの仮面を被っていて食べられないこともあり、扇が料理を口にし、ホロリと涙を流す。桐原公はそんな扇を見ながら自身も料理を口にし、使用人を呼んで酌をさせはじめる。気付けば扇にも専属の者がおり、トクトクと酒を勧めている。

 

何か嫌な予感がすると思いながら視線を右隣に移すと、濡れたような黒髪と翡翠のような輝きを放つ瞳を持つ少女が映った。高貴な雰囲気を纏う小柄な少女は白魚のようなほっそりとした手で陶器のとっくりを持ち構えている。

 

「お酒は嗜まれますか、ゼロさま?」

 

鈴振るような声で花が咲いたような笑顔を向ける皇神楽耶の登場にどうしたものかと頭を悩ませる。

 

彼女は河口湖におけるホテルジャック事件から黒の騎士団に注目しており、紅蓮と月下が俺たちに渡されることになったことにも一枚噛んでいる。今でこそ、キョウトにおいてお飾り的な立ち位置であるものの十代前半の少女にしては頭の回転が早く、先を見据えた行動が取れる逸材だ。彼女に顔を見せるのは、『アリ』だと俺は判断した。

 

『桐原公。彼女を残して、あとの者は人払いを』

 

俺がそう告げると桐原公はニヤリと笑う。そして、手を叩いて合図を送ると舞妓や奏者たち、桐原公や扇に酌をしていた使用人も下がった。

 

気配が遠ざかったのを確認し、俺は左手を仮面に当ててもったいぶる真似もせず、一思いに顔を晒す。2人は俺を見てどんな反応をするのかと瞼を開けると桐原公は俺の行動に感心しているが、神楽耶の方は目を見開き両手を口に添えて驚いている。

 

その反応はあれだ。

 

俺たちに日本解放戦線の居住区に繋がる廃坑の存在を教えた高齢の女性が見せた表情に良く似ている。

 

「ゼ、ゼロさま!貴方さまは、もしや我が日ノ本の皇族の血筋の御方ではございませんか?」

 

「「(@´ω`):;*.':;ブッ」」

 

神楽耶の衝撃的な発言に俺と扇は同時に噴出し、桐原公はもんどり打って倒れ後頭部を床に敷き詰められた畳に強打。ただ単にゼロの中の人を晒そうとしただけなのに、どうしてこうなる!

 

ブリタニア皇族かつ日本の皇族って、地雷にも程があるだろ、集合無意識ぃいいいい!!

 

「歴代の皇族の方々の姿絵や写真を拝見したことがございます。中でもゼロさまは大国の王の妃として迎え入れられた皇女さまと良く似ていらっしゃいます。特にこの透き通った翠玉のような瞳は紛れも無く、日ノ本の高貴な身分の証です!」

 

俺の右腕を絡め取りながら力説する神楽耶。こんなことになるくらいなら、アッシュフォード学園にて厄介な見学者を招く形になって身動きの取れなくなったルルーシュに変装してやり過ごす方がマシだった。

 

これ、どうやったら収拾がつく?

 

2回目の俺でさえも全く分からなくなってしまった。

 

 

 

嗚呼、今すぐにでもアッシュフォード学園のクラブハウスに帰ってナナリーに癒されたい。

 



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10.【ライに任せたら駄目、絶対】

□ルルーシュ□

 

俺が持つ絶対遵守の能力を持つギアスを使い、アッシュフォード学園へ視察に訪れたユーフェミアとの遭遇をなんとか何事もなく済ませることが出来たのだが、ギアスの解除条件であったライとの再会にてフラッシュバックした記憶の中で、彼はとんでもないことを仕出かしていた。

 

「ハイウェイを走る車から車へ飛び移りながら移動し、バスジャック犯によって占拠されたバスの窓を蹴破って中に入って、人質に被害を出さずに犯人を半殺しにして解決したって、いくら何でも無茶苦茶すぎるだろ」

 

「助けを求める子供たちを見捨てられなかったんだ」

 

「……被害にあった子供たちを無視してゼロを取り囲もうとしたマスコミと、犯人を引き受けにきた警察に説教をしたのはこの際、目を瞑る。だが、『ゼロ』を捕らえるという功績に目を眩ませながら殺到した、武装したブリタニア軍人たちを素手で無力化するって、お前。おまえ……」

 

「いや、あいつら放っておいたら民間人まで巻き込みそうな雰囲気だったから、即急に対処しないといけないと思って……」

 

「これから『ゼロ』として活動する俺がライみたいに動けるはずがないだろぉおおおお!!」

 

「正直、すまんかった」

 

ライは申し訳無さそうに目尻を下げているが、すまんと謝られて済む問題じゃないんだよ!

 

 

 

 

翌日、ライを伴って教室へ向かう。すると先に登校していたクラスメイトたちの話題は昨日のゼロが起こした騒ぎで一色に染まっていた。ユーフェミアという皇族が視察に訪れた翌日にも関わらず。クラスメイトたちは各グループで話をしている。

 

少し耳を傾ければ『ゼロの正体はエリア11に古くから存在するニンジャだ』とか、『子供たちを狙った犯人たちを見逃さない正義の味方だ』とか、『民間人がいるのに武器を発砲しようとしたブリタニア軍人を無力化できるって凄い』とか、ブリタニア帝国に対し弓引く存在であるにも関わらず、悪い印象は持たれていないようだ。

 

それによって、以前寝ぼけて『黒の騎士団』発言をかましてしまったカレンが『トレンドの最先端を行く者』として生徒たちに囲まれている。時折、救助を求めるような視線が寄越されるが俺はそっと視線を逸らし、実行犯のライはリヴァルを見つけて駆け寄り、助け舟を出すことはしなかった。

 

結果。昼休みに屋上へと呼び出された俺とライに対し、怒り心頭のカレンによる文句のオンパレードがなされる。俺とライは特に反論せず、カレンの鬱憤が晴れるまで聞き、落ち着いたのを見計らって声を掛けた。

 

「で、あのお姫さまに関してはもう大丈夫なの?」

 

機嫌伺に購買で購入してきたメロンパンをカレンに献上しつつ、俺とライはそれぞれ咲世子が作ったサンドウィッチを口にしている。そんな中、不意にカレンが俺に質問をしてくる。俺は食べ掛けだったサンドウィッチを詰め込むとよく咀嚼して飲み込んだ後で返事を行う。

 

「ユーフェミアは俺とナナリーが皇族としての記憶を持ち合わせていないと結論づけたようだ。会長もうまい具合にフォローしてくれたし、不本意ながらライによる『ゼロ』の大立ち回りで視察時間が大幅に削られたのも大きい」

 

「その大立ち回りの結果、うちのクラスでは、ゼロは『悪の組織によって改造された善良な人間が復讐に走った存在』ということになったんだけれど?」

 

「二度と、ライにゼロの影武者は頼まん」

 

「……あのさ、そのことについて一つ報告し忘れていたんだが」

 

そう言ってライからキョウトの代表である桐原公、そして皇神楽耶との会合の際の話を説明される。ブリタニア人と日本人のハーフの件でカレンがライに親近感を持ったようだが、彼が日本の皇族の血を継いでいる可能性があることを聞いて頬を引き攣らせた。ライは血液を桐原たちに渡しており、現在キョウト傘下の遺伝子工学研究所にて調査されているとのこと。

 

「神楽耶嬢が確実視していたから、恐らく……」

 

「え、でもそんなことって有り得るの?」

 

「俺たちだけでは判断しようがない。もし、ライがそういう血筋でも黒の騎士団の仲間という事実は覆らない。そうだろう?」

 

「それもそうね。ふふっ、まさかブリタニアの皇子さまと、日本の皇族に連なる人物が横に並ぶなんて、後にも先にもないんじゃないかしら?」

 

カレンの言葉を聞いて顔を見合わせる俺とライ。

 

後々、この事実を使える日が来るかもしれないと俺が思っているとライの目がカッと見開いた。次の瞬間にはライの手が俺の胸元へ伸びていて、すぐさまカレンの方へ放るカレンは最小の動きで俺が倒れてこない位置へ逃げたため、俺は屋上の床に身体を打ちつけ悶絶する羽目に。

 

打ち付けた顎を擦りながら涙目で起き上がると、険しい目でとある一点を睨みつけるライの姿があった。彼の視線の先には屋上に出るための扉がある。その扉が少しずつ開け放たれ、現れたのはアッシュフォード学園の女子の制服を身につけた緑色の髪をポニーテールにした魔女の姿。

 

「おお、怖い怖い。そんな視線を、女に向けるものではないぞ」

 

C.C.の言葉により一層の警戒の視線を送るライは俺とカレンを自分の背に隠すように移動する。カレンもいつも持参しているポーチに手を当てて、動きがあればすぐに行動できるように整えている雰囲気だ。俺はそこでようやく、彼女が何者なのかを知っているのが自分だけであることを思い出した。

 

「ライ、カレン。警戒する必要はない、彼女は俺の協力者だ」

 

俺がそう言うとカレンはポーチに当てていた手を離した。しかし、ライは警戒を解かず、扉を閉めてこちらへ歩み寄ってくるC.C.をじっと見据えている。魔女はライの視線を気に留めることもなく近寄り、俺が食べずに残していた咲世子のサンドウィッチを口に運ぶ。

 

「仮入学の身分である俺が言えることではないが、彼女はアッシュフォード学園の生徒ではないだろう?それに、この独特の気配はクラブハウスで何度か感じたことがある。近づこうとした瞬間、煙のように微かな残り香だけを置いて消えていたが」

 

「お前はルルーシュとは違って敏感だったからな、気配を消すのは苦労したぞ」

 

不遜な態度と言葉。魔女の調子は絶好調か。そう呆れながら振り向いてライに放り投げられたことによって打ちつけた顎や手の平を擦る。

 

すると、背後から男女の激しい叫び声が響き渡った。ギョッとしながら振り向けば、ライとC.C.の2人が気を失って倒れ伏していた。

 

「な、何が起きた。カレン!」

 

「私だって分からないわよ!この女がライに触れた瞬間、2人ともいきなり硬直して……」

 

「今の叫び声を聞いて、誰かが来るかもしれない。……カレンは彼女を連れて給水塔の裏に隠れてくれ。彼女を他の人間に見られるのは都合が悪いんだ」

 

「……仕方がないわね!」

 

カレンがC.C.を連れて行くのを見届けた俺は扉に耳を当てて、誰かが階段を上がってくる音が聞こえたと同時に扉を開けて大きな声で叫ぶ。

 

「誰か、手を貸してくれ!ライが倒れたんだ!!」

 

 

□ライ□

 

屋上でルルーシュとカレンと会話している際に訪れた闖入者は緑髪の魔女だった。

 

感慨深く思いつつも、一応初対面の体で警戒する視線だけを送っていた。ルルーシュの紹介で協力者という情報だけを得て、カレンが警戒を解いたので、相反するように俺は警戒心を無くさなかった。

 

その姿に興味を持ったのか、C.C.は俺の肩に手を置こうと手を伸ばしてきたのだが、彼女が俺に触れた瞬間、凄い量の情報量が頭に流れ込んできた。

 

 

気付けば俺は白亜の石畳が敷かれた不思議な回廊に立っていた。

 

 

壁や緑色の空にはいくつもの金色の額縁に収められた様々な心象風景の絵が飾られており、誰かの記憶を垣間見ているようだ。俺は周囲を見渡し、足を進める。

 

大輪の向日葵、広大な自然、化石といった当たり障りのないもの。

 

優しい修道女、己を崇める民たち、狂った嗤い顔で死んだ女性。

 

凛々しい表情の少年と、少しひ弱そうな雰囲気の少年。

 

自身の左右にいる息子と娘と共に穏やかな笑みを浮かべている黒髪の女性。

 

白亜の回廊を進んでいく途中で俺は様々なものを見た。そして、これが誰の心象風景であるのかを思い出した。

 

「さてと、もうそろそろ姿を現したらどうだ?」

 

俺がスッと視線を向けると、蜜柑色のドレスを身に纏った黒髪の女性が現れる。その女性は俺を見て首を少し傾げ、口元を扇で隠しながら話し始める。

 

「C.C.の意識が暗転するほどのショックイメージがCの世界に駆け巡ったようだけれど、貴方は一体何者なのかしら」

 

「それは応える必要があるのか、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア?」

 

「あら……。私のことを知っているのね。……そっか、C.C.の言っていたイレギュラーとは貴方のことね。困ったわ、私たちの計画に貴方は必要ないし、さっさと退場してもらいましょう」

 

そう言って口元を隠していた扇を捨てたマリアンヌの手に握られていたのは鈍い光を放つレイピア。

 

一足で懐に踏み込んできたマリアンヌの動きを完全に捉えることが出来ていた俺は身体を翻して、必殺の突きを避けると彼女の横面に思い切り拳をぶち込んだ。錐もみ回転しながら白亜の回廊を転がっていき、仰向けで倒れてしまったマリアンヌに止めをさそうと俺は近づいていく。

 

「初対面の女性の顔を殴るなんて、どんな教育を受けてきたのかしら?」

 

レイピアを床に付きたてて、それに頼るようにしながら立ち上がったマリアンヌに向かって、俺は鼻で笑う。

 

「はっ。どの口でそんなことを言うのやら。……死人が今更しゃしゃり出てきて『明日』に向かって一所懸命に生きている者たちの邪魔をするな」

 

俺は右の手をギュッと握り締める。何もない所からレイピアを出現させたマリアンヌに倣って、俺は銀色の光を放つ銃を創り出した。その銃口をまっすぐマリアンヌへ向ける。彼女は銃口を向けられているにも関わらず余裕の笑みを崩すことはない。

 

「撃ったところで何も変わらないわ。私はすでに精神体となっていて、この世界と同化している。あと少しで私とシャルルが望み、人々の誰もが求める人に優しい世界が訪れる」

 

「違うな。間違っているぞ、マリアンヌ。お前が言う優しい世界は、“自分に優しい世界”だ。人々が本当に求める優しい世界は、“他人に優しくなれる世界”だ。お前たちの押し付けの善意など、悪意となんら変わらない。……理想を抱いて、冥府に沈め」

 

俺は右手に持った銀色の銃の引き金に指を掛ける。そして、躊躇うことなく引き金を引いた。マリアンヌに向かって、まっすぐに飛んだ銀色の弾丸は彼女の胸を貫き、その勢いを殺すことなく飛び続ける。身体の真ん中に黒い穴が開いたにも関わらず、マリアンヌの笑みは消えない。

 

「言ったでしょう?私は精神体、肉体はすでになく、この世界で私が死ぬことはない」

 

「……ふっ、それはどうかな。俺が撃ったのはお前を殺すための物ではない。人々の願いという名のギアスを届けるための物だ」

 

「な、なんですって」

 

わなわなと身体を震わせながら恐る恐る振り返ったマリアンヌの視線の先にあったのは、ガラガラと大きな音を立てながら崩れ落ちていく『アーカーシャの剣』だったもの。

 

Cの世界は強く思い描くことによって、どんな場所へも行ける。前回、両親と対峙した際のことは鮮明に覚えている。俺は彼らの考えを否定し、そして『未来』を願った。

 

「貴方はいったい、何者なのよっ!」

 

俺と対峙しても自分の優位を全く疑わなかったマリアンヌであったが、自分たちの計画の要であった『アーカーシャの剣』が崩壊していく姿を見て完全に取り乱した。

 

結果、マリアンヌは前回と同じようにCの世界に飲み込まれるように手足の先の方から消滅していっている。

 

「お前がそれを知ったところで何も変わらない。……何故ならお前はすでに過去の人間だからな」

 

俺はマリアンヌの声にならない叫びを聞きながら、Cの世界を眺める。

 

この世界のC.C.との接触で意図せずに後顧の憂いを絶つ事が出来た。さすがは俺の魔女だなと苦笑いをしていると、『誰がお前のモノだ』と大胆不敵な魔女の声が聞こえたような気がして、すぐに視界が真っ白に染まる。

 

その真っ白な世界で俺をこの世界に送り込んだ張本人が『またね』と手を振る姿が見えたような気がした。

 

 

 

目覚めるとクラブハウスの自室だった。

 

部屋には俺以外に誰の姿もなく、窓の外は月明かりで照らされる幻想的な世界だった。

 

喉の渇きを感じて部屋から出ると、そこには緑色の髪を揺らす少女が立っていた。俺はひとつだけ溜め息を吐くと、彼女の横を通り過ぎようとしたのだが、ぎゅっと手首を掴まれる。

 

「お前は、何者なんだ?」

 

下から覗き込むような金色の瞳が揺れ動く。その瞳に篭められているのは、希望か不安かそれとも恐怖なのか。俺には推し測ることが出来ない。どう答えるのが一番良いのか検討つかなかった俺は率直な気持ちを伝えることにした。

 

「俺はルルーシュの味方で、君の理解者ってところかな」

 

「私の、理解者……だと?」

 

C.C.の手が自分の手首から離れたのを感じ取った俺はそのまま食堂へと向かう。彼女は俺の言葉を理解するために何度も、何度も反芻するように呟いていた。

 



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11.【友情のゼロアタックとモツ抜きパンチ】

□ルルーシュ□

 

ギアスという超能力を授ける力を持つ不老不死の魔女であるC.C.とアッシュフォード学園の屋上で接触したライは、その場に昏倒し意識を失った。

 

C.C.は学園の制服を着ていたものの、生徒ではないため、下手に教員やミレイに見られる訳にもいかず、カレンに命じて給水塔の裏に隠れさせた。俺はライの下に残り、屋上にやってきた人間たちと共に彼を保健室に運んだ。その後、クラブハウスのライの部屋に担架で運び、そのまま様子を見ることに。

 

中等部の方でも話題になったのか、ナナリーも心配していたがライの看病はその道のプロである咲世子さんに任せるから大丈夫だと言い聞かせた。その甲斐もあってか、翌朝にはライは回復しており、世話になった者たちへ謝辞を述べて回っていた。

 

その一方で、傍若無人が人になったようなC.C.はどこか上の空であった。普段のブリタニアに追われているにも関わらずに堂々と外を歩き回ったり、俺を馬鹿にするような言動をしたりするのが当たり前になっているため、こうも大人しいと逆に不気味で仕方がない。

 

そんなことを考えながら教室へ向かっているとライが向こう側から歩いてきた。

 

「ルルーシュ、昨日は世話をかけた」

 

「いや、別に構わないのだが。ライ、何か良いことがあったのか?表情がいやに晴れ晴れとしているが」

 

「ふっ。放って置いたら世界が終わっていたかもしれないことが解決して、少し肩の荷が下りたところだ」

 

「ほう、【世界の終わり】とは穏やかじゃないな」

 

詳しい話は放課後に話そうということになりライと一緒に教室に入ったのだが、俺は待ち構えていたミレイに手を掴まれて強制的に理事長室へ連れていかれる。

 

その先で理事長であるルーベン・アッシュフォードから聞かされたのは、俺やナナリーの実父でありブリタニア帝国の第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアが、体調を崩し倒れたという報せだった。

 

 

□ライ□

 

“この世界の俺”のやりたいことを手伝う上で気掛かりであった、【アーカーシャの剣】の破壊と【マリアンヌの精神体】の消去を早い段階で消化できたことは大きなアドバンテージになる。それに集合無意識が俺の知る“者”とリンクして、Cの世界の主導権を握った。その証拠にあの男はブリタニア帝国の皇宮にある黄昏の間から無碍もなく放り出され、再び入ることが叶わず卒倒したらしい。

 

政に興味を持たず、オデュッセウスやシュナイゼルに丸投げしていたとはいえ、腐っても皇帝だ。そんな男が倒れれば、周囲は勝手に騒ぐ。

 

すでに世界各国に散っている皇位継承権を持つ息子や娘たちが次々と本国に召還されていっている。エリア11を任されているコーネリアとユーフェミアも例外ではなく、近いうちに本国へ赴くことになる。

 

コーネリアが不在の間のブリタニア軍の指揮はダールトンが執ることになるはずだ。彼は兵士たちに好かれる良い将軍であるが、奇策を講じるタイプの軍人ではない。現状維持に努め、動くのはコーネリアが帰還後になるだろう。

 

「こんな好機、滅多にないよなぁ」

 

ナリタで大敗を喫した日本解放戦線の動きを確認し、前世と同じようにリーダーである片瀬が一部の高官たちと一緒にたっぷりの流体サクラダイトを載せた輸送船で国外脱出プランを練っていることはすでに把握済みだ。

 

そして、自分たちが安全に国外脱出が出来るように、各地のレジスタンスにコーネリアが不在であることを告げ、粛清された日本人の無念を晴らすのだとか調子のいいことを言って煽った上に、藤堂と四聖剣をも囮に使う予定であることも。それはこの国に残って必死に戦っている者への裏切り行為であり、絶対に許されないものだ。

 

「……とはいえ、これは俺の仕事かな」

 

教室に踏み入れて早々に切羽詰まった表情のミレイに連れていかれたルルーシュは、皇帝が倒れたことを知るだろう。「ブリタニアをぶっ壊す」という宣言をしているが、ルルーシュには守るべきものがある。何もかもを失った俺にはない、大切な者が。

 

俺は教室から出ると携帯端末を取り出して扇に繋ぐ。作戦概要を伝えると、ごくりと息を呑む音が聞こえたが、了解の言葉を得る。

 

「まずは、藤堂と四聖剣のメンバーと接触を図ります。扇さんには車の手配を頼みます」

 

「分かった。……それにしても、くそっ!必死に抵抗しているレジスタンスたちを何だと思っているんだ!!」

 

「なんとも思っていないからこんなプランを立てるんですよ。これがこの国最大の反政府組織で、一番の支援を受けていたんですから、キョウトも頭が痛いでしょう。桐原さんには俺から伝えます」

 

「……。なぁ、ライくん。場合によっては討つってことだよな?」

 

「藤堂たちの説得が失敗した場合は俺が討ちます。片瀬たちの国外脱出が成れば、この国に住む日本人たちは絶望してしまう。反抗する気概を失ってしまう。ゼロの、いや俺たちの活動が、今まで命を懸けてきた者たちの犠牲がすべて無駄になる」

 

「……その通りだ。けど、これはルルーシュくんやカレンには背負わせられない。……俺たちだけでやろう」

 

「その言葉が聞きたかったよ、扇さん」

 

電話の向こう側から聞こえてきた扇の言葉にはしっかりとした覚悟が載せられていた。

 

つくづく前世での自分の行為がいかに周囲の人間から成長する機会を奪っていたのかが分かり、嫌な気分になる。仲間や部下をチェスの駒同然に思っていた俺の驕りや傲慢さが、大切な者を奪われるということに繋がったのだと思うと更にやるせなくなる。

 

扇との通信を終えた俺は教室に戻って授業を受けた後、皇帝が倒れたことを聞かされて魂が抜け落ちているルルーシュと事情が分からず首をかしげているカレンに藤堂と四聖剣が潜伏している場所の情報を得たことを伝えた。放課後、扇の待つアジトへと移動し作戦会議を行う。

 

「えーと、つまりブリタニア本国で大きな事件があって、コーネリアも妹と一緒に本国に帰る。その隙をついて各地のレジスタンスが一斉蜂起するってこと?」

 

「ああ。ブリタニア軍の目がレジスタンスに向けられたところで、日本解放戦線の切り札ともいえる『奇跡の藤堂』や四聖剣のメンバーがブリタニア軍の主要施設に襲撃を掛ける算段になっているみたいなんだ」

 

「……」

 

「コーネリアがいない間、ブリタニア軍の指揮はアンドレアス・ダールトン将軍が執ることになるはずだ。彼は奇策を講じるタイプの人間ではない。しっかりと調べた情報を基にきっちりとした作戦を組み立てる。コーネリアが本国に召還されてこの国にいない間は、レジスタンスによるゲリラ攻撃があっても過激な反抗作戦は取らず、情報収集に徹すると思う。だから、レジスタンスが一斉蜂起し、藤堂たちが行動を起こす際の様子見は俺と扇さんだけで十分だ。ルルーシュとカレンにはコーネリアが戻ってきてからのことを考えて備えてもらいたい。静観した分、かなり過激な反抗作戦が展開される可能性があるからな」

 

先に扇と作戦会議した通り、日本解放戦線の片瀬をはじめとした一部の高官による国外脱出作戦については伏せて、ルルーシュとカレンには説明した。カレンは、皇族が呼び戻されるくらいのブリタニア本国で起きた事件って何だろうと首を傾げている。

 

しかし、ルルーシュは椅子に腰かけて腕を組んだまま微動だせず、俺たちの話を聞いているだけであった。そんな彼がゆっくりと瞼を開き、俺と扇を見据える。その瞳は、しっかりとした輝きを放っていた。

 

「何のつもりだ。ライ、扇」

 

「げっ」

 

「うっ」

 

「……。えっと?」

 

「何を気遣って、情報を伏せたのかは問わない。だが、ここにいる者の運命は一蓮托生だろう?カレン、本国で起きた事件というのは、俺の父親。つまり、ブリタニア皇帝が倒れたことだ」

 

「っ!?……なるほど。それなら、コーネリアや皇族たちが本国に戻されるのも分かるわ」

 

カレンはルルーシュから齎された情報を聞いて大きくうなずいた。その後、俺と扇に恨めしそうな『じとっ』とした視線を向けてくる。ルルーシュとカレンは俺たちに口を割らせたいようで、更に無言の圧力をかけてくる。俺は扇に目配せをした後、観念するように口を開いた。

 

「あー、俺たちが悪かったよ。……レジスタンスの一斉蜂起、藤堂達のブリタニア軍の主要施設の襲撃、それらを囮にした日本解放戦線の片瀬をはじめとした高官による国外脱出作戦の情報を得ている。俺と扇さんは藤堂達に接触を図り、彼らがその情報を得た後でどんな行動を選択するのかを見届けた後、どちらにしても日本解放戦線の高官たちを討つつもりだった」

 

キョトンとした様子で話を聞いていたカレンが、俺が告げた情報の意味をかみ砕いて理解すると同時に、山が噴火したように顔を真っ赤にして大きな声を張り上げた。

 

「ふっざけんじゃないわよ!この国で必死に反攻している人たちの命を何だと思っている訳っ!!」

 

「ことごとく元日本軍、日本解放戦線の将校たちはクズだな。これまでの作戦における功労者たる藤堂や四聖剣すら囮に使おうなどと。そんなクズたちは討たれるべきだ。だが、それは日本がブリタニアに負けて以降、日本人たちが頼りにしてきた日本解放戦線という柱を崩すことと同義だ。俺が、いやゼロが行かねば始まらない。違うか?」

 

「……。本当にいいのか、ルルーシュ?『ルルーシュとしての幸せ』、『ゼロとしての使命』。すぐにどちらかを選ばなければならない時が来る。大切な者たちを置いていく覚悟がお前にはあるのか?」

 

「ふっ、覚悟か。そんなもの、カレンと扇に顔を見せた時点で決めたさ。その時が来たら、俺はゼロを選ぶ。与えられた鳥籠の中で飼われて生きるのはもうやめたんだ」

 

「そうか。……なら、殴れ!俺をっ!」

 

「「はぁっ!?」」

 

俺の宣言と同時にすっとんきょうな声を上げるルルーシュとカレン。扇も目を白黒させている。

 

「よかれと思って2人に情報を隠し、嘘を吐いた。お前たちの信頼に背いた。だから、罰を受けたい!さぁ、殴れ。本気で来い!!」

 

梃子でも動かぬと言わんばかりの俺の姿に折れたルルーシュとカレンが1発ずつ殴ることになった。しかし、腕力が明らかに足りないルルーシュは特製のゼロ仮面で殴打。カレンはしっかりとした踏み込み、切れのある腰の回転諸々で威力が増大したモツ抜きパンチを叩きこんできた。

 

ルルーシュのゼロ仮面アタックは元より、カレンのパンチで悶絶することになったのは言うまでもない。

 

 

□ルルーシュ□

 

鳩尾を抑えて蹲るライと白い泡を吹いて倒れる扇。2人ともカレンによる制裁パンチを受けてこうなった。

 

銃弾を受けても頭部を守れるように特殊合金製の仮面よりも攻撃力のあるパンチを繰り出すカレンに戦々恐々としながら、コーネリア不在の情報を得て蜂起する予定のレジスタンス一覧の情報を読む。東北地方はすでにコーネリアの粛清でレジスタンスの数がごっそりと減らされており、西日本のレジスタンスが中心だ。かといってエリア11の中枢はトウキョウ租界である。

 

関東付近で蜂起するレジスタンス一覧の中には扇グループの名もあった。扇の話によると、未だに黒の騎士団を名乗って、警察組織と小競り合いを起こしたり、以前のようなゲリラ戦を行ったりしているようだ。

 

「まずは、藤堂さんたちと会うんだよね?」

 

「ああ。ライは彼らが潜伏しているであろう場所を3か所に絞り込んでいるが、俺の情報だとここだ」

 

パソコンに地図を開き、ポイントを示す。カレンはそれを食い入るように見つめ、うんうんと小刻みにうなずく。その内、ライと扇も回復したのか、集まってくる。しかし、彼らの足取りはまるで生まれたての小鹿のようにプルプルしていたのだった。

 



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