元紅魔館の執事は転生者 (土岐宙)
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執事長の一日(前編)

紅魔館の執事長の朝は早い。

朝5時に起きて大食堂へ向かい、竃に火を点ける。

自身の能力を応用して開墾した農園まで野菜を取りに行った帰りに小さな鶏舎に入り、卵を採って若鳥を〆る。

〆た鶏を含めた朝食の材料に下拵えをしたら、能力で劣化スピードを大幅に拡げ、劣化を遅くする。

朝6時に門へと向かい、門番と組手をする。

 

「おはようございます!」

 

「おはよう、美鈴」

 

門番の紅美鈴。紅い長髪に健康的な小麦色の肌の女性。

個人的な趣味を言ってしまえば、浴衣が似合いそう。

 

「今回は4割増しで組手しようか」

 

「5割増しでも行けますよ」

 

「美鈴。君、今日は本調子じゃないのに5割にしたら門番の仕事に万が一があるかも知れなくなる。だから駄目だよ」

 

「わかりました」

 

美鈴はちゃんとした理由を説明すればすんなりと納得してくれる。何処かの我が儘お嬢様とは違って。

 

「合図はいつも通りで良いよね」

 

「はい!」

 

私は左袖にある取り外し可能な銀ボタンを外し、右腕を水平に持ち上げ、軽く指を握り込む。そして、人差し指に親指を引っ掛けて、銀ボタンを上空に弾き飛ばす。

落ちてくる時間は決まっており、凡そ5秒となっている。

 

 

「ハァァァァァァッ!」

 

銀ボタンが着地した瞬間に美鈴が腰を落とし、滑るように走行した勢いを乗せた正拳突きが撃ち込まれる。その拳に対して横から掌で往なし、もう片方の掌で突撃の勢いを殺さずに美鈴の拳を掴み引きながら足払いをして空中に浮いたところを背負って高めに放り投げる。

 

「ッ!? せいッヤァァァァァ!!」

 

空中宙返りをして足を曲げて着地した美鈴が、曲げていた足をバネに加速し、飛び蹴りの構えをとる。ギリギリまで引き付けてから、半身で躱し、下腹部のある位置に腕を置き、後頭部にもう片方の腕を添えて、両腕を半時計回しに回転させる。

 

「ひゃッ!?」

 

何回か回転した後に背中から着地したところに、首まで一寸程度空けて手刀を落とす。

 

「ここまで」

 

痛たたぁ。と腰を擦りながら体を起こす美鈴に手を差し伸べて、美鈴を立たせる。お互いに相手の顔が最低限見える程度まで礼をして、体を起こすと………。

 

「毎度のことながら、ここまでしますか? 普通」

 

「やるなら最後までやらないとね」

 

美鈴からの小言が送られてきた。

 

「ほら、ご飯にするよ。早く体流してきなさい」

 

「はーい」

 

ここで美鈴と別れて、私は大食堂に向かう。美鈴は勿論大浴場だが。

朝6時半に大食堂にて調理を開始する。今日のメニューは若鳥から採れた骨で出汁や採れたての人参等の野菜を入れた鶏ガラスープと採れたての卵と此方は鶏ガラを濃く摂った出汁を混ぜて作ったオムレツ、昨年の秋に採れた小麦や適当の砂糖を練り込んで今朝作ったタネを作っておいたクロワッサンに今朝採れたトマトを使った食後のトマトシャーベットを仕上げる。

クロワッサンが焼き上がると同じくらいに美鈴がシャワーを終えてきたらしく、若干湿った髪で大食堂へ入ってきた。

朝七時に朝食を開始する。

 

「わぁ。今日も美味しそうです」

 

「それじゃあ、食べてみようか」

 

「「いただきます」」

 

余談だが、『いただきます』と『ごちそうさま』の掛け声は私から始まったものだ。どこぞのグルメ漫画のように壮大な感謝の気持ちなどは持ってはいないが、食材となった生命への感謝の念を籠めて言ってるところを、まだ幼いレミリアに見られ、そこから真似が始まり、今や紅魔館の食の掛け合いへと繋がってしまったのだ。

 

「やっぱり美味しいです!!」

 

「それはよかった。それは良いけど、落ち着いて食べようか」

 

「うっ!」

 

矢張と言うかなんと言うか、美鈴もこれでも女の子らしく、子供っぽく騒ぐところを誰かに見られるのは恥ずかしいらしい。体の成長は早くても、まだ200歳前半だから、人間で言えば思春期のようなものだ。美鈴を拾ったのは確か美鈴が10歳程度の時だったと思ったが、細かくは覚えていない。それでも、レミリアがやっと100歳に届く位だったと記憶しているが。

 

「「ごちそうさまでした」」

 

朝7時半には食器洗いを済ませて、新しくクロワッサンを竃に入れて焼き始める。そして、レミリアお嬢様とフランお嬢様を起こして、着替えの開始を見届けてから大食堂へ戻り、スープを暖め、オムレツを再び作る。

クロワッサンが焼けてから数分後、レミリアお嬢様とフランお嬢様が大食堂に入ってきた。

 

「パチェとこぁは?」

 

「研究が山場だからお昼頃に軽食を用意するように言われてるよ」

 

「おとぉさまー、今日のご飯はー?」

 

「フラン。今はお仕事中だからアズマと呼んでもらえるかな?」

 

「東さんの方こそ、そこまで気を使わなくて良いんじゃないの?」

 

この子達の成長は嬉しいよ。執事としても、親としても。

しかしながら、今は執事として振る舞っているので、お父さんや東さんと呼ばれると困ってしまうのが本音なのだけど。

 

「わかった。今日だけだよ」

 

「やったー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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執事長の一日(後編)

レミリアたちが食べた朝食分の食器を洗ってから、私は30分間の休憩時間を与えられている。しかし、私は休まずに霊力や永く生きすぎたせいで持つことになった妖力、技が鈍らないように武術などの鍛練に費やす。

 

午前9時半には大食堂にへ向かい、10時の間食を製作する。今回はバタークッキーを300枚焼く予定だ。

 

午前10時、レミリアやフランにクッキーを届けてから大食堂へと戻り、パンのタネを捏ね始める。本日は米食ではなく、パン食の日である。米食とパン食を交互に繰り返し、飽きが来ないようにメニューを工夫する。それが執事長の必須事項である。

 

午前11時半から昼食の準備を始める。本日の昼食は、玉子やサラダ等のサンドイッチと能力の応用で改造してある庭園から採った玉蜀黍で作ったコーンスープに米霰を入れたものを用意する。昼食後のデザートには10時に作ったクッキーを出す。

 

正午0時にまずはレミリアたちに昼食を届ける。その次に美鈴にサンドイッチと冷えた紅茶の入った竹筒を届けてから、最後に大図書館の実験室から出てきたパチュリーや小悪魔たちにサンドイッチと紅茶、食後用のクッキーを届ける。私自身は大食堂に戻り、サンドイッチやコーンスープを戴く。

 

午後2時半からは、3時の間食を製作する。今回製作するのは、7号のホールケーキ。その内、3時の間食の内訳はレミリア、フラン、パチュリー、小悪魔となっている。美鈴と私は間食を摂らず、夕食後に回す。大抵私はフランにあげているが。

ホールケーキの材料、というよりは料理の材料の殆ど全ては私が自給している。農園に鶏舎、牛舎や豚舎、果実園等々全ては私が能力の応用で管理している。

 

午後3時。間食を、レミリア、フラン、パチュリー、小悪魔の順番で配給し、午後4時までの休憩時間を過ごす。

 

午後4時からは、紅魔館の掃除や洗濯、大浴場の掃除に大食堂の厨房に設置してある竃の手入れを行う。

 

午後6時半から夕食の準備を行う。今晩のメニューは、固くなりすぎないようにタネから工夫したフランスパンと能力の応用で改造した倉庫の一つ、冷蔵室から取り出した豚の股肉に牛舎の牛から絞って煮沸させた牛乳、農園から採った人参や馬鈴薯などを使ったシチュー、能力を使って熟成の早さを縮めて熟成させたワイン、3時の間食で作って冷蔵室に入れといたケーキとなっている。

 

夜7時。紅魔館の皆が大食堂へと集まる。各々に座る定位置というのがあり、其処へ料理を配膳する。夜は私と美鈴も一緒に食事し、正しく皆で夕食と共にする。

 

「流石東さん。朝食でも昼食でも夕食でも、いつでもご飯が美味しそうです!」

 

「そんなの当たり前だよ! だってお父さんだもん!!」

 

「アズマさんのご飯は最高ですからねぇ。本来なら私やパチュリー様は食事は要りませんが、アズマさんのご飯は魔力回復の効果があるという特殊な料理な上に美味しいのでついつい食べ過ぎてしまいますよ」

 

「最近では食べ過ぎて(魔力を摂り過ぎて)太ってきたんじゃないの? こぁ」

 

「はいはい。レミリアを見習って席に着いたら先ずは静かにしようか」

 

「「はーい」」「わかったわ」「わかりました」

 

「それじゃあ」

 

『いただきます』

 

始めの掛け合いを皆で終えたら、フランや小悪魔、美鈴を中心に食卓に会話の渦が生まれた。しかし、不快ではなく、温かくて優しい雰囲気である。そんな風に食べながらも食卓を眺めていると、いつの間にか皆が食べ終わっていく。

 

『ごちそうさまでした』

 

「お粗末様でした」

 

「東さん、食器洗い手伝いますよ」

 

「私も手伝いますよ、アズマさん」

 

「ありがとう。でも、大丈夫だから入浴を済ませてきなさい」

 

「「はーい」」

 

小悪魔と美鈴は、食器洗いの手伝いを毎回申し出てくれる。それはすごく嬉しいのだけど、流石に我が子のように育ててきた女の子にひび割れが出来るのは憚られる。なので、毎回私は申し出を断っているのだが、私はそろそろ家事を二人に教えるべきだと思っているので、今度家事を教えようかと考えている。

 

夜9時。食後のデザートであるケーキを各々の部屋へと運ぶ。今回は私の分を切り出していないので、皆の分が少しだけ大きい。

 

午前0時。入浴を済ませ、魔道の研究を始める。

 

私の一日は午前2時に終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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吸血鬼異変①

秋が過ぎ、冬の気配が漂い始めた頃。新しい家族を迎えた紅魔館では何やら怪しい計画が練られていた。

 

私は世茂嗣(よもつぎ)東。紅魔館の主に仕える執事兼紅魔館の主の保護者というか、親のような存在をしている1000年以上生きている人間だ。

能力は【幅を操る程度の能力】。

距離を操ることを始めとし、寿命等様々なモノの幅を操ることができる。

私が生きているのは、最盛期の幅を永続的とも言える長さまで拡げたからだ。もちろん、寿命はそれ以上に永い。

 

紅魔館では、幻想郷に転移するという話が上がっており、そのための準備に私は駆け回っている。私が元々やっていた家事や炊事などは、私の後輩の咲夜ちゃんに任せている。最近では、私よりも家事が上達してきたために、私が今やっているのは農園などの管理のみなのだが、能力応用するだけで管理が終わるために私の仕事は殆どなにもない。その為に私は転移の準備に走り回ってるのだ。

 

「パチュリー。転移からの座標固定、周囲への環境適応を含めた魔法の準備終わったよ」

 

「ありがとう、アズマさん」

 

「なに、来月になるまで仕事がないからね。今月は自由に過ごしていいことになっているんだけど、流石に何もしないのは憚られてね」

 

私と咲夜ちゃんとで一ヶ月周期で家事炊事掃除などを交代で回している。私は一週間周期で良いと言ったのだけど、レミリアが、『お父様はこれまで私たちのために身を粉にして働いたのだから、暫くは一ヶ月周期で回します』と気遣いをしてくれて、嬉しくて陰で涙したのだ。

咲夜ちゃんもオフモードで、『東さんには恩返しがしたいので、私に任せてください』と可愛らしくも凛々しく発言したため、私は今月は特にやることがないのだ。咲夜ちゃんに従者のイロハを仕込んでいる期間も、咲夜ちゃんに懸かる負担を私が殆ど抑えていたことがバレていたらしい。

美鈴やパチュリー、小悪魔たちからも休むように言われているため、組手や魔道の研究も控えるように言われているが、フランは私と遊びたいようで、私の今月の仕事はフランと遊ぶことになりそうだ。しかし、今回のように唯大人しくしている訳には往かない状況もある。

今回の発端は、近年発達した科学が様々な妖などに型を嵌めた結果、妖怪などが弱体化後消滅という事態が起こる可能性が出たために、我が故郷日本に存在する幻想郷というところへ居を移す。それが今回の始まりだ。

 

「お父様。今月の十五夜に幻想郷に転移して、幻想郷をある程度支配する予定なのだけど、お父様にはあまり戦闘に参加しないでほしいの」

 

「それは構わないよ。レミリア。私が言いたいことはわかるよね?」

 

「わかってるわ」

 

「判ってたとしても一応言葉にするよ。もし、レミリアたちが危ないとわかった時点で私は直ぐに戦闘に加わるよ」

 

「お父様は本当に心配性なんだから」

 

わかってるよ。でもね、レミリア。私はレミリアたちの実力は把握してるし、どの程度が限界かはわかってる。だからこそ、それを越える存在とは対峙してほしくないんだ。

人間ならば限界なんて簡単に越えられるけど、妖怪が限界を越えるってのはそんなに簡単なことじゃないんだよ。

確かに、私の知り合いには限界を越えた妖怪は居る。けど、限界を越えるまでに何度も死にかけてたし、体がグチャグチャになってた。それでも、限界を越えるのには足りなかったんだ。

妖怪が限界を越えるには極限まで酷使した体で、何らかの強い思いが必要になる。その思いというのが妖怪には難しいんだ。誰かのために、自分以上に想える。その思いがなくては限界は越えられない。

限界を越える条件は人間と同じで、誰かのために極限まで酷使した結果なんだ。限界を越えるっていうのは。

人間はね、一人じゃ生きていけないからこそ、限界を越えられる。けど、妖怪は一人で生きていける。だからこそ、妖怪が限界を越えるっていうのは難しいんだ。

 

「頑張って勝ちなよ、レミリア」

 

「当然!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のことを忘れてない?」

 

パチュリーごめん。忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ええっと、本来ならこの話が執事長の一日(前編)だったのですが、編集と次話投稿が混ざってしまった結果。
この話が最新話へ置き換わりました


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吸血鬼異変②

 

 

 

──大空を染める暗き墨。

──大地を照らす薄明の大岩。

──幻想の世界に恐怖を与える幼き悪魔。

 

 

 

 

 

────吸血鬼異変の始まりである────

 

******

 

突然な話になるが、私の知り合いには超越者が数人居る。

超越者とは、種を越えた者達の総称である。例えば、夜桜をイメージした着物を纏った桃色の頭髪を始まりの鬼や悪鬼羅刹と戦い抜いた勇猛な山伏、人と妖怪の共存共栄を夢見て魔道に身を落とした末に悪魔との契約を破り捨て、悪魔を従えた尼さんなど、咄嗟に挙げられる人物の一人だけでも世界を破壊できる存在たち。それが超越者と呼ばれる者達になる。

私が何千年も生きているのには訳がある。

私は、生まれる前の記憶があった。今でも残っては居るが、あくまで誰かの記憶と言った程度だ。

それとは別に、私は生まれたときからとあるものを宿していた。

それは、荒ぶる神の集合体。その集合体と殆ど別存在でありながら融合したという、とある少女から助けを得て私はその集合体を下した。

その時から私は超越者となった。

いや、正確には超越者になったからこそ荒ぶる神々を下せたのだが。

そして、超越者となってから、その集合体に変化が起きた。人形へと姿を変えて、個性的な従者と化したのだ。その光景に少女……いや、そろそろ名前で呼ぶことにしよう──シオは驚愕した後、一頻り笑ってから涙を流していた。

私は事情を聴いたが、現在の状況へと繋がるものはないので、いつか語ろう。

私は超越者達からこう呼ばれている。

ゲートキーパー、と。

先程も述べた通り、超越者だからこそアラガミを倒すことができる。シオの世界ではゴッドイーターと呼ばれる、生体実験を行ったものしか倒せないらしいが、超越者は普通に倒せる。

この話の通り、超越者と認められるには私の元に参じてから、アラガミを倒す必要がある。

資格在る者のみを超越者(遥かなる高み)と続く関門(参道)の監守として判りやすい私が超越者とそうでないのを選別するために居るのだが、今回の侵略(我が儘)では私の仕事が在ったらしい。

眼前に居るのは、700年前に別れた我が弟子である風見幽香。度々求婚されていたが、1000年も生きていない子供と付き合うのは私の倫理観に反す為に断り続けていたが、まさか門前に立って再開するとは想わなかった。

二重の意味でも門前だが………。

具体的には、紅魔館の門前という意味と超越者としての門前の二つである。

 

(いやはや。今回は手を出さないでと言われていたが、流石に門前に立って居る者が複数人相手に若いあの子達を宛てるなんて出来るわけない)

 

(ツバサ)(カブト)(ロウ)緋蓮(ひれん)(ヒレ)………おいで」

 

私の体から周囲へ黒い霞のようなものが放出され、5つの人形を形成する。

最初に姿を現したのは橙色のオーラを纏っている。また、青髪を腰まで延ばした踊り子のような服装をした20代前半に見える女性。

次に姿を現したのは出現してから何処からともなく鋭い槍を出している。また、正体不明の金属でできた甲冑を身に纏う190㎝代の巨漢。

次に姿を現したのは火の粉を身に纏っている。狼の耳と尻尾を携えた白銀の髪を持つ少女。活動的なのか、髪は短く端整に纏まっている。しかし、着ている物を観れば全く違う印象を受ける。その風体は、神かナニかに仕える神聖なる装束を身に纏った18歳くらいの少女である。

次に姿を現したのは、柴電を纏った白髪の少女である。全体的に黒いセーラー服を身に付けていが、緋色のマフラーを軽く首に巻いており、仕組みはわからないがマフラーが同じ幅で7本くらいに分かれており、背面は殆ど黒色が見えない。

次に姿を現したのは猛毒の鱗紛を撒き散らしていた。その当人は知ったことじゃない、という態度をしている。淡い瑠璃色のフリフリの沢山付いたドレスを身に纏った10代半ばの少女。その髪色は富裕層を体現したような、見事な黄金を飾っている。

 

「皆来たね。これより任務を与える。今回の相手は門前に立った強者だ。しかし、相手を殺すことは許さない。もし、禁を犯した者はコアを砕き吸収する。いいね?」

 

『御意』

 

「ツバサは眼下に居る者と、カブトは地下に出現した巫を、ロウはエントランスホールに居る闇の主を、ヒレはダンスホールに居る賢者を縛せよ。私は山の主から受けた招待へと応じる。緋蓮は着いてきなさい。各自散開」

 

『御意ッ!』

 

 

 

 

 

 

 



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吸血鬼異変③

周囲一体を埋め尽くすような、濃密な妖力を纏う山。本来ならば、この様な異常な山ではないが、今宵は正しく妖怪の山であった。

そんな異常な山へと歩を進める執事とセーラー少女が居た。外見のみならば、少女に仕える執事だろうが、少女の方が執事の右後方三歩ほど位置に張り付いていた。

つまり、少女の方が執事に仕える身であるという証である。

 

「あの山には巌蔵爺さんが拠点を張ってる。巌蔵爺さんと戦闘になったら近づいてきた者達を通さないように。もし、私達の闘いに巻き込まれたら確実に巻き込まれるので」

 

「わかりました」

 

緋蓮は考える。

もし、自分が邪魔をする者達を停めきれなかった場合、主はどう声を掛けるのだろうかと。自分に文句を言うのか、それとも罰を与えるのか、と。

しかし、自分は知っている。主は手を抜いた(・・・・・)程度のことでは咎めず、心の中で評価を下げるのだと。もちろん、全くやる気の無いものは消され、創り治される。しかし、我が主は愛着が湧くと途端に甘くなる。甘くなるとしても、仕事をしなければ注意もされるし、度が過ぎればある程度のモノを残して創り治される、というともある。

自分としては、手抜きを良しとはしない。主のことが好きであるから、寧ろ手抜きをする者達には険悪感を感じている方の派閥だ。好きというのは、もちろん雌としてだが。

 

「曲者!」

 

主の代わりに対処しようとするが、主の手で制される。

主の顔を見上げれば、キリッとしていて格好がよいく、若干体温が上昇するのを自身で感じ取れる。

相手を観れば、白銀の短髪で耳が生えていて、臀部付近から一房の尻尾を携えている。その手には青竜刀に似た太刀を持ち、もう片方には鉄板をそのままドーム状にして持ち手を取り付けたような盾を持っている。

 

「巌蔵爺さんの子孫よ、私は君達の始祖に呼ばれて来た者だ。邪魔をするのは得策ではないぞ」

 

「失礼しました!」

 

白狼天狗の少女、犬走椛は思う。

もし、目の前の執事以外がこの言を吐いたならば、問答無用で斬りかかっていたであろう。この執事から発せられる気配は、我らが長である人物と同質で異質のモノを纏っているのだ。さらに言えば、今夜に限り、争い事を好まぬのに我らの長が、山を覆い尽くす程の妖力を解放させたのだから。たとえ一端のモノだとしても、普段はこの様なことは絶対にしない人物なのだから。

しかし、椛は気づいていない。目の前の人物、ゲートキーパーが来たということは、外の世界にはもう門前に立つものがいないという事実を。そして、彼女の長を含め、頂に立った者が認知されていないのを含めて4人になったことを。認知されていない、封印された尼さんが目覚めたとき、何が起こるかは誰も想像がつかないであろう。もしかしたら、何も起きないかもしれないが。

また、門を開ける可能性がある者が一人居るということも彼女はわかっていないだろう。

 

       ──閑話休題──

 

 

「案内します。御仁。御名前を伺っても?」

 

「畏まらなくて良いよ、私はちょっと特殊な人間なだけだからね」

 

「人……間………?」

 

「なぁにがちょっとじゃ。5000年も生きている人間がちょっとなら、儂ゃあ粉微塵じゃわい」

 

「久しいね、巌蔵爺さん。元気にしてたかな? といっても、その様子じゃあまだ全然族長交代なんてありそうもないね」

 

「お主に爺さんと呼ばれるとむず痒ゆぅなってくるわ! 儂ゃあまだ3502歳じゃて、お主のように5200前後の年寄りとは比べるなんぞ烏滸がましい。まあよい。お主に試して貰いたい者も居るで、さっさと終わらせてこい」

 

「そっちについてはツバサ達を送ってるよ。此方は此方で背比べといこうじゃないか」

 

「グァハッハァ! 久しぶりに揉んで貰おうかのぉ!」

 

これから此処で起きる闘いは、頂に立つ者の試合。

周囲など気にせずに、破壊を振り撒くモノへと昇華された業を打ち合う、常識外の闘い。

巻き込まれたものは皮膚の一片も残らずに消滅する。

止められるとするならば、同じく頂に立った者のみ。

例え妖怪の賢者と謳われていようとも、止めることはできない。

 

 

超常なる闘いが幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き

前回の
1000歳以下の女性とは付き合うことはない。
というような発言についての補足。

もし、五十代の男性が、二歳の幼い子に興奮してる場面を目撃したら?
私ならば、一本背負い極めてから腕菱木十字固めで利き腕貰ってから、痛みで悶絶しているところに顔を滅多メタに踏み抜いてから玉潰して、それから通報します。

アズマさん的にも似たような考えとさせていただいています。
まあ、アズマさんの場合はもっと(体を)軽くすると思いますが。

なので、別にアズマさんは熟女好きなわけではありません。

後書き終わり!


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吸血鬼異変④

なんというか、吸血鬼異変関係なくなってきたので、
裏吸血鬼異変と変えようと思ってるんですが、
御意見いただけないでしょうか?


魑魅魍魎が潜む山、妖怪の山では二人の人影が対峙していた。

一人は、背丈が二メートルを優に越す、衰えを一片も感じさせない五十代の漢。

一人は、5000年もの月日を鍛練に注いでいる、吸血鬼の執事長を勤めている漢。

 

間に立つのは荒ぶる神と畏れられた怪物。

 

「今、此処に開戦を告げます。双方、構えてください」

 

「勝負開始!!」

 

アズマが構えている武器は刀。

刀の銘は【出雲禊之太刀(イズモミソギノタチ)

巌蔵が構えるのは剛弓と数多にある無名の槍。

弓の銘は【倶利伽羅之天弓(クリカラノテンキュウ)

どちらも無名の鍛冶師()が鍛え上げた、不朽の業物である。

 

「先ずは一本、【像の悲葬(ゾウノヒソウ)】」

 

巌蔵が槍を手に取り、弓に構えて妖力を籠める。

射出された槍は音を越え、標的へと文字通り突き進む。樹を凪ぎ風を貫き空気をを穿つ。正に死の槍。

 

「【瞬神神楽・断絶(シュンシンカグラ・ダンゼツ)】」

 

目の前に迫った槍ごと高さ凡そ50㎝の幅で横一文字に裂け、月光により裂けた部分が湾曲していた。

アズマが起こした現象は、空間の断絶。

抜刀術を極め、そして新たに創った流派【瞬神神楽】。

瞬く間に神速の抜刀し、敵を身削()ぐ抜刀術。

 

「続けて五本、【毘沙門の右腕(ビシャモンノミギウデ)】」

 

五本の槍を扇状に弓に構え、空へと放つ。

重力によって加速した槍が、五角形に大地に突き刺さる。

五角形の内側に五芒星が展開されて、5メートル程の鬼が降臨する。

黒い皮膚に、天を突くように伸びた鋭角を持ち、二本の大太刀を腰帯に差している。

 

     ───羅刹天───

 

戦海(センカイ)

 

出雲禊之太刀を地面に突き刺し、霊力の1割を流し込む。

すると、紫のオーラが周囲に迸る。その中から姿を表したのは180㎝の男。

和服の上から、両肩側面部や二の腕、胸板と腰、脛のみを軽装で守り、和服の帯に2本の剱を差している。

肩くらいの黒髪襟足で括り、纏めている。

顔は獰猛な笑みで彩られており、妖艶な貌を成している。

 

     ───スサノオ───

 

「久しぶりじゃねぇカ。そっちの名で呼ばれんのはよォ、旦那ァ!俺の仕事は目の前のデカブツを細切れにすることだよナ?」

 

「任せた。【瞬神神楽・葬魂仏離(シュンシンカグラ・ソウコンフツリ)】」

 

暗黒の霞を纏った刀を下段に構え、斬り上げる。

それだけの行為で、超越者の起こす天災に決着がついた。

 

「そりゃねぇゼ!まあ、こっちも終わったがナ」

 

反り血の一滴も付かずに羅刹天をバラしたスサノオが、鍔に付着した血を振り払っていた。

 

******

 

場所は移ろい巌蔵の屋敷(縁側)。

徳利にお猪口、肴として山菜の天麩羅と調味された牡丹の干し肉。

 

「ハッハッハァ!

お主、そんな理由で仕えとったのか!?

……まあ、儂が言うこっちゃ無いが、それなら別に仕えんでも親として共に過ごせばよかろうに」

 

「レミリアが自立する頃……まあ、後凡そ100年で500歳になるからね。

その時にでも私は館を出るつもりだ」

 

「………お主は元々根無し草じゃからなぁ。

この400年よく旅もせずに1ヵ所に留まっておったと言える程じゃ。

して、何処に行くつもりじゃ?」

 

「そうだね。取り敢えずは家を建てるさ」

 

「ふむ。手伝いは必要か?」

 

「まさか。思ってもいないことは口に出すものじゃないよ」

 

お猪口の酒を飲み下し、天麩羅に塩をつけて咀嚼する。

良い味だ。

咲夜ちゃんにも揚げ物を仕込むべきかもしれないね。

紅魔館の農園などの管理も後100年で継がせなきゃいけないからなぁ。

 

「そろそろ私は失礼するよ」

 

「家が出来たら儂らを呼べ。鬼殺しを馳走してやるわい」

 

「人間にそんな度数の高い酒を飲ませるものじゃない。

まあ、旨いのは否定しないがね」

 

「そうじゃのぉ。まあ、先ずは此処(幻想郷)に迎えられることじゃ」

 

「ハハハッ!そうだね」

 

やはり、小さくても庭があるものを建てようか。

池を作って囲いを造り、鯉の数匹でも飼ってみるか。

畑を造り、田圃を造り、果樹園を造り、鶏舎を建て、牛舎を建て、豚舎を建て………。

これじゃあ紅魔館と何ら変わらないか。

田圃と畑を造って、後は山や河で済ませるか。

牛や豚、鶏が食べたくなったら其は其で召喚すればいいかな。魔法で。

 

「さて、まずは家を建てようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写(武器あり)は苦手です。
何か良い資料(アニメ)はありませんか?
出来れば教えてほしいです。
無手ならば得意なんですけどねぇ(リアルでも)。
まあ、世間体と言うものがあるので止められてますが。


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旅立ち

幻想郷に移住してから50年の歳月が過ぎた。

そろそろ別居を提案しようと思っている。

この50年で咲夜ちゃんに農園を委譲したから、私が居を移しても何の問題もない程に廻っている。

なので、今日にでも提案しようと考えている。

 

「アズマさん、お昼が準備できました」

 

「ありがとう、咲夜ちゃん。それなりに大事なことを言いたいから、大食堂に全員集まるように言ってもらえるかな?」

 

「わかりました」

 

咲夜ちゃんは良い子だなぁ。

とは言っても、確実に混乱するだろうね。皆。

私もそろそろ所帯持たなくてはね。

天羅にも、巌蔵爺さんにも先を越されたから、流石に5263歳まで恋愛経験も、付き合った経験も無いのは不味いと思う。

とは言っても、良い人なんてそうそう居ないだろうけど。

考えている間に大食堂前まで到着したみたいだ。

中に入ると全員揃っていた。

 

「食事の前だけど聞いてもらいたいことがある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ──私は紅魔館を出ようと思ってる

 

「ちょッ!お父様!?」

 

「突然なにを言ってるんですか東さん!?」

 

「…………」〈飼い主に捨てられた子犬的表情

 

「あちゃー」

 

「おとぉさま!?」

 

「アズマ……」

 

六者六様の反応を見せてもらったが、私はそろそろ番──お嫁さんを貰わないと色々と不味いと思っている。

なので、先ずは幻想郷内から探して、それで無理ならば外の世界を回ろうと思っている。

私もそろそろ腰を据えようと思っており、それなのに妻が居ないのは少しばかり寂しいものなので、(番探しの)旅に出ようと思っているのだ。

 

「まあ、最後まで聞いてくれ」

 

『………』

 

「私もそろそろ歳だからね、何処かに腰を据えようと思ってるんだ───」

 

「それなら、此処に住んでても良いじゃない!」

 

「レミリア。話は最後まで聞くものだよ。

それで、お嫁さんを探しに行こうと思ってるんだ。とは言っても、見つけたとしても紅魔館には戻らない予定だけどね。私だって、新婚生活は新居で迎えたいからね」

 

『…………』

 

「だから、私は紅魔館を出ようと思ってるんだ。もちろん、お嫁さんを見つけたら幻想郷に戻るつもりだし、幻想郷内で見つけられるに越したことはない。けれど、少なくともこの館にはそう言った対象はいないし、今まで師事してた者達の中にも居ないからね。だから、旅に出ようと思ってるんだ」

 

「まあ、東さんに今後会えない訳では無いみたいなので、私は構いませんが、式には呼んでくださいね」

 

「…………」〈能面のような無表情

 

「初夜には是非、私特製のびや……ん゙ん゙。薬を使ってくださいね。いつでお渡ししますよ!」

 

「用事が出来たら使います……いえ、この屑(小悪魔)パシる(走らせる)わ」

 

「おとぉさま結婚するの!? 私もお嫁さんやりたい!!」

 

「………フラン。お父様、結婚の際は必ず招待してください。それと、良い人が見つかることを願っています」

 

この流れで食事をするのは厳しい。何が厳しいかと言えば、咲夜ちゃんの表情が厳しい。具体的に言えば、今にでも人を殺りそうな顔をしている。

私は逃げるべきだ。と、本能が警笛を鳴らしている。

 

「…………善は急げ。と、言うからね。私は此れから荷物を纏めよう。すまないが、食糧を幾らか貰っていくよ」

 

「………ッ! わ、わかったわ。道中(特に咲夜に)気を付けると良いと思います。ハイ!」

 

「ありがとう。では、私は失礼するよ」

 

久し振りに感じた死の気配が、可愛い妹分だとは………思いたくないが、紅魔館に帰ったときにナイフが飛んでこないことを祈ろう。

それと、咲夜ちゃん。

女の子がそんな殺気を滲み出させるのは正直なところ、お兄さんは反対だよ。

喩え、私を異性として好意を寄せていて、此処(紅魔館)にそういった対象が居ないと正面から言われたとしても、ね。

それはそうと、先ずは豚、牛一頭と鶏三羽、野菜を一ヶ月分に果実を二週間分、魚を50㎏、米を300㎏巾着に(牛と豚、鶏に魚を)加工して放り込んで、私服(着物)に着替えて、衣類を風呂敷に畳んで詰め込む。それに、調理道具も多少は持った。………小物の煙管は私服に入ってるから大丈夫だし、早速紅魔館を出よう!

障らぬメイド()に祟りなした。

 

「戻ったら覚悟してくださいッ!!」

 

聴こえない。ナニも聴こえない。

咲夜ちゃんの声なんて聴こえないったら聴こえない。

 

「はぁ。出だしが悪いと結果も悪くなりそうだ、ッと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作中に出てきたアイテムの説明

①魔法の巾着
入れ口がほぼ無限に拡がる。また、内部が四次元空間になっているため、ほぼ無限に収納できる。
アズマが遊び半分で創っていたが、パチュリーからすれば仰天もの。

②魔法の風呂敷
包んである重箱に入るものなら、幾らでも収納が可能。また、収納してある物を自由に処理できるため、衣服の浄化に便利。
段毎に機能が変わる。
例:乾燥、浄化、保温・保湿など

あと、次回で(開始早々)旅が終わります。
旅の間は約、3日となっているので、旅の間は書く予定がありません。まあ、濃密な設定は組まれてますが。
例えば、鬼子母神と喧嘩したり飲み合ったりとか、風見幽香に追いかけられたりとか


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出逢い

旅に出てから、慌ただしい3日間が過ぎた。

今日で幻想郷を出る予定だ。

無縁塚から外の世界へ旅路を拡げる。

魔法の森や人里、地底に天界、妖怪の山、迷いの竹林など、様々な場所を巡ったが、良いと思えるヒトは居なかった。

漸く無縁塚が見えてきた………

 

「………やめッ!」

 

「ッ!呪縛……砕閃!」

 

即行の陰陽術だったが、下級妖怪には十分だったみたいだ。

しかし、こんなところに来るような者は早々いないはずなんだけど………。

見た感じ外の世界からやって来た人間ではないようだ。

外見を表すならば、くすんだ銀髪を腰の辺りまで伸ばしている、背丈160㎝前半の女性。母性の象徴などと言われる胸も、人並み以上には在るようだ。

種族は、長命種(エルフ)と人間のハーフみたいだが、氣が淀んでいる。暫くの間マトモな生活をしていないのだろう。

 

「……ありがとう」

 

「礼を言われることをした訳ではないが、素直に受け取っておくよ。しかし、こんなところまで何をしに来たのか聞いても良いかな?」

 

「……趣味を探求しに来ていただけ」

 

恐らくだが、この人は趣味に埋もれるタイプだろう。

対人関係を良くするつもりが無いところを見ると、何か抱えているモノがありそうだが、私としてはこの人を放ってはおけない気がする。

まあ、簡潔に言えば、好意を持ってるという話だが……。

現状からすれば、一目惚れじゃなく、(異性として)気になる程度のものだが、何やら神の意思を感じるものがある。

 

「……そうだね。私が護衛しよう」

 

「何故?」

 

そうなるだろう。当たり前だ。

偶然助けられただけで、本来ならば喰われていたとは言え、本来ならばそのままサヨナラだろう。

何か目的があることを想定し、警戒をするのは当たり前だ。

特に、長命種と人間のハーフなんて、マトモな人生など全うできる筈がない。

そろそろ答えなくては本格的に警戒されてしまいそうだ………。

 

「出会ってすぐに言うものじゃないけどね、私は君のことが異性として気になるんだ。私は元々結婚相手を探すために外へ行こうとしていたんだが、ちょうど今、良い人を発見したのでね。まあ、簡単に言うと関係を築きたいわけだよ」

 

「……そう」

 

「……貴方からは義姉さんと同じ気配がする。

……たぶん、貴方は信頼できると思う」

 

私と同じ気配、か。

恐らくは超越者のことを言ってるのだろうけど、義姉さんとはどっちのことを言っている?

凪は気分次第で保護するから判断をし難いが、聖ならばほぼ確実に助けるだろう。

しかし、聖はここ1000年姿を眩ましてるが、目の前の女性は明らかに2000年以上生きている。

現状からは判断が出来ないので、聞いてみるようか……。

 

「義姉さんとは誰のことか聞いても良いかな?」

 

「……鬼子母神」

 

「答えてくれてありがとう」

 

凪に気に入られたハーフエルフかぁ。嫁にもらうとしたら絶対に面倒が起きるだろうなぁ。

とは言え、嫁さん候補をみすみす逃すのは戴けないので、付いて行くことにするが……。

 

「何をするか聞いても良いかな?」

 

「……ん?」

 

この人は天然なのだろうか?

いやまあ、可愛いとは思うけども………。

 

「分かり難かったかな。この無縁塚で何をするのかを聞いたんだ」

 

「外の世界から流れ着いた物を探す」

 

趣味に関してだけは間があまり無いところを見るに、趣味に熱中して、衣食住を疎かにしているから氣が淀んでたのだろうか?

 

「ひとつお願いして良いかな?」

 

「……構わない」

 

「私を君の家に住まわせてくれないか?」

 

流石に会って早々に『家に住ませてくれ』とは急すぎただろうが、これは見過ごせないよ。

紅魔館の元執事兼ヒトの親として、衣食住を欠いて趣味に浸るのは人として正さなくてはいけない。

なにより、この人は明らかに年単位でお風呂に入っていない。つまり、お風呂の掃除もしていないということ。

住居内が様々なもので溢れているのは確定的明らかだ。

 

「……………構わない」

 

何を考えて、どの様な答えを出したのかは知らないが、家に着いたならば、即座に掃除を開始するとしよう。

まあ、どうして許可を出したのは想像できるが。

 

「私は君に付いて行くから、好きに動き回って構わないよ」

 

「わかった」

 

******

 

一刻程歩き回った末に、様々なものを拾った。

中には、前世の記憶を元に復元できる物や電気を充電すれば使用できる物、どうやっても修復できない物、どこから流れ着いたのか、神剣なども収集できた。

 

「運ぶの手伝って」

 

「構わないけど、この巾着に全部入れて運んで良いかな?」

 

「…………」

 

「魔法で創った素材を使った物に、魔法を付与した物だから心配は要らないよ」

 

「わかった。

 ……ありがとう」

 

「家に住まわせてくれるんだから、このぐらいはやらないとね。喩え、ゴミ屋敷みたいな有り様の家だとしても」

 

「……何故?」

 

これは、『ゴミ屋敷だとわかってるならば何故住もうとするのか?』という意味だろうか。

 

「私は元執事でね。

 掃除や家事、炊事などは得意なんだよ。

 お嫁さんを探すために退職したのさ」

 

「うぅ」

 

顔を真っ赤にしてると言うことは、恥ずかしがってるのだろうか?

家事などろくに出来ない女性などは沢山居るのだから、そこまで気にするものではないと私は思うのだけど。

凪は家事万能だったし、聖も同様に得意だ。

そう考えると、現在の超越者組の中で家事ができないのは巌蔵爺さんだけ………否、巌蔵爺さんも万能とは言えないが、十分家事が出来るんだったね。

 

「家まで案内してもらえるかな?」

 

「……わ、わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




執筆開始時からみて、この先凡そ数話分の話構成は完成していますので、前回の更新時にタイトル変更にしたのは、元々の予定でした。
解りづらいあらすじを書いてしまって、この場でお詫びします


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買い物× 謎の電波◎

いつの間にか
総閲覧数4500越えていました!
しかも、お気に入り数が57人まで増加してました!!

今後も皆様よろしくお願いします!!!
<(_ _*)>

サブタイトルのミスをしたため、追記しました。


無縁塚で助けた女性、森近霖之助というらしい。

何故男の名前かを聞いたのだが、凪に拾われる時に板に彫られたモノが置いてあったので、そのまま命名したらしいので、理由はわからないとのことだった。

そして、何だかんだあって霖之助さんのことは霖と呼ぶことになった。堅苦しいのは嫌いらしい。

 

そんなやり取りがあったが、家に案内されて驚愕した。

予想していたよりも酷い。家の周りにゴミが積み上げられているなど、屋内の惨状は考えなくてもわかる。

屋内の掃除を能力全開で三時間掛かったのだから、余程のモノであろう〈能力で時間の幅を本来の100倍延ばした結果である〉。

今回ばかりは応用の幅が狭いが、時間停止が(私が手を加えたことにより)負荷無く出来る咲夜ちゃんのことが羨ましく思ってしまった〈魔法を使えば時間停止は1日くらいは疲れるが可能だが……〉。

悪戦苦闘した結果、屋内に散乱した外の世界からの放流物は、私が全力で改造した倉の一室に全て丁寧に並べて整理した。

霖には私が直せる物が多いことを伝えたので、私の仕事として追加された。さらに、霖から『使い方を教えてほしい』とお願いされたので、条件として、『衣食住をしっかりする』というものをだした。その結果、私は霖のお世話係になったが、私は結構旨味のある状況になった。

これが、この2日ほどで起きた出来事である。

 

******

 

私の朝は早い。

紅魔館に居たときもそうだが、私の朝は5時から始まる。

 

5時に起きてから、鍛練を行う。

6時になったら鍛練を終わり、この家の周囲に(使い魔)を放つ。

7時には朝食を作り終わり、霖を起こす。

8時からは、霖に説明をしながら放流物の修理を行う。

12時には昼食を食べる。

13時からは修理した物の使い方を説明したりする。

15時になったらお菓子を作って霖と食べる。

食べ終わったら、掃除などを行う。

19時には夕食を食べる。

21時になったら霖を風呂へと放り込む。

23時には霖を寝かせる。

24時半に入浴を済ませる。

入浴後、3時までは魔法や陰陽道、錬金術などの研究をしてから就寝する。

 

これが私の新しい基本的な生活スケジュール

 

******

 

今日は霖と人里まで買い物に行く予定だ。

そろそろ食材の備蓄が無くなりそうなので、人里まで買い出しに行く。ついでと言っては難だが、霖の服も買おうと思っている。何時も(複数持っている)同じ服しか着ないのは、女性としてどうなのかと思ったため、霖の服も買うことにした。

そんな訳で霖と人里まで買い出しに行く予定なのだが、霖はどうやら外出するのが余程面倒らしく、布団の中で(外出に対して)ストライキを勃発させている。

仕事の不満ではなく、趣味の時間を潰されることに対して不満があるらしいが、生活費を稼ぐためにやっている店に居るときも外から入ってきた本を読んでいるため、まともに店番をしていない。

なので、見た目が整ってるので、本を読んでても客寄せできる服装を見繕う予定だと説明しても話を聞かずに布団にこもっている。

しかし、私としてはさっさと用事を済ませてしまいたいため、ノヴァと融合した少女……シオを召喚することにした。

 

「アズマ! ひさしぶり!!」

 

「シオ、久しぶりだね。霖を布団から引きずり出してほしいのだけど、お願いできるかな?」

 

「わかった。いってくるね!!」

 

【相変わらず、シオちゃんは可愛いなぁ。なんでノヴァと一緒に月に行っちゃうかなぁ!

 本編で中、後半にしか出てない上に月に行っちゃうし、制作者なに考えてるのさ!!!】

 

よくわからない電波を拾ってしまった。

このラジオ、もう一回メンテナンスした方がいいだろうか?

 

【ねぇ、アズマさん聞いてる!?

 シオちゃんが可愛いのはわかるけど、手を出したら私の権限で(自主規制)だからね!

 それと、シオちゃんには絶対に幸せになってもらわなきゃダメなの! だから、美味しいご飯食べさせてね!!

 レーションなんて食べさせたら(自主規制)からね!!!】

 

物凄く物騒な電波を受信しているんだけど、このラジオ。

しかし、レーションを食べさせるのはダメだって言うのは何故だろうか? 否、私はレーションを食べさせてる訳ではないのだけど、もしかしてシオはそういった場所で育ったのだろうか?

今度、フルコースを振る舞おうと思う。

その様子を見てシオへの対応をさらに改善しなくては……

私が(自主規制)されるのは別に構わないが、シオには命を助けられた恩がある。

流石にそんな少女の過去の一端を垣間見て、悲惨な過去を過ごした可能性があるのに冷たい対応をするような奴には私から(自主規制)のフルコースをお見舞いしてあげよう。

私は今まで通り、一緒に甘味を食べたり他愛もない話をしたり、可愛い妹分を甘やかすが、場合によっては対応(主に任務の内容)も変えなくてはいけない。

 

【あと、過去についての検索はダメだよ!

 シオを泣かせたら私が直接(自主規制)しにいくから、相応の覚悟しておいてね

 今度、があるかわからないけど、宙のハッキング(天啓)は終わり!!】

 

「アズマー。リンを連れてきたよー!!」

 

恐らく、シオが来るのわかっていたのだろうが、直接会いに来て良いのだろうか?

天啓、等と言うのならば神様なのだろうに、たった一人のために(自主規制)するために降りてくると言うのは如何なものだろうか?

とはいえ、今はそんなことよりシオや霖と一緒に買い物に行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の後半については思い付きであり、私の本心であります。
シオちゃんには幸せになってほしいと、ゴッドイーター(初期作)をやって心の底から思いました。
しかし、最後までやってみればシオちゃんがノヴァと共に月に昇って行くという悲しい結末を迎え、涙を溢したものです。
なので、今作のシオちゃんは幸せにしたいので、思い付きで後半を変えました。



なので、人里での買い物と(秘密)は次話に持ち越しです。



今後の更新速度は一日毎では出来なくなるので、手が空いたときに更新します。
夏期休暇がもうすぐ終わることが理由です。


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