俺、踏み台転生者にされました (サクサクフェイはや幻想入り)
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プロローグ

「パパー、これなーにー?」

 

「ん? お前もまた、なんて物を見つけてくるんだ......」

 

「い、いけないものだった?」

 

娘は俺の言葉に不安そうな表情をするが、俺も大人げないと思い、苦笑しながら頭を撫でる

 

「いや、いけないものじゃないよ。 ただこっちよりも、そうだな......これの方が見ていて面白いはずだ」

 

そう言って、娘が持ってきたディスクを机に置き、違うところから一枚のディスクを取り出す。 これならば娘も楽しめるはずだ、俺とか全カットだからな

 

「これは?」

 

「そうだな、出会いの物語かなー」

 

「パパとママの?」

 

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 

「難しくてわかんない」

 

少し怒っているのか、頬を膨らまして不満そうにこちらを見る娘に、笑ってしまいそうになるが、笑わないように気をつけながら娘に促した

 

「そうだろうな、ママに見せてって、お願いしてくるといい」

 

「うん!わかった、パパも一緒に見よう」

 

「わかったから、引っ張るな」

 

元気のいい娘に思わず苦笑する、こういうところは、お母さんに似たのだろう。 俺を引っ張る娘の姿に、そう思わずにはいられなかった

 

「おかーさーんー、これ見せてー」

 

「うーん? これどこから取ってきたのー?」

 

娘の頭を撫でながら聞く、お母さんの顔は笑顔だ、本当に幸せそうだな

 

「パパがこれなら良いって!」

 

「お父さんが?」

 

こちらを見るお母さんが驚いていた、その視線を受け俺は肩をすくめる。 しょうがないだろ、アレを見せるよりはこっちの方がうん万倍ましだ。 言葉には出さないが、視線だけで会話をする

 

「早く見よ!」

 

「あー、うん、わかったちょっと待っててね」

 

「パパはこっち!」

 

お母さんがディスクをセットしている間に、娘に手を引かれソファーに座ると、まるで自分の特等席だ、と言わんばかりに娘は、膝の上に座り、背中を預けてくる

 

「ソファーに座った方が、気持ちいんじゃないのか?」

 

「ここがいい!」

 

娘に笑顔で言われては仕方ない、俺は大人しく椅子役に徹するのだった

 

「珍しいね、貴方がこれを見ようだなんて」

 

「それ見せるよかましだろ」

 

膝の上に座った娘の、邪魔にならないように、隣に座ったお母さんと小声へで話す。 俺が顎で示した方向を見て、驚くお母さん。 まぁ、あのディスクは俺やお母さんにとっては、ね

 

「まだ持ってたんだな」

 

「・・・・・・うん」

 

それっきり俯いて黙ってしまうお母さん、表情は見えないが、たぶん俺の想像している通りだろう。 まだ気にしてるのかコイツは

 

「たく......」

 

「あっ......」

 

頭を撫でると、こちらを向いているようだが、俺は目の前の画面に集中しているためわからない

 

「ほれ始まるみたいだぞ」

 

「うん」

 

さっきより幾分か元気の出た声に、俺はほっとしながら映像を見るのだった

 

------------------------------

 

「すごかったね!私もママたちみたいに、あんなふうに派手な魔法撃てるかな!」

 

「頼むから、あんな砲撃飛び交う喧嘩とかはしないでくれよ?」

 

興奮冷めやらぬ、という感じで夕食を食べている娘に、心の底からお願いをする。 本当に娘にあんな風になられたら、死ねる。 主に、見せなかったディスクを見られたときに

 

「それってどういう意味かな?」

 

「イエ、ナンデモ」

 

お母さんの静かな怒気に、俺は口を噤んだ。 これ以上の失言は俺の命に直結する、そう思ったからだ。 夕食も終わり、娘がお風呂に入っている隙を見計らってか、お母さんが話しかけてくる

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「貴方はさ、どう思ってるの、あの時のこと」

 

新聞から少し目を離し、お母さんの顔を見ると、思いつめたような顔をしていた。 また目線を新聞に戻し、ばれないように小さくため息をつく

 

「またその話か?」

 

「ごめん、でも気になって」

 

「昔のことだ、もう気にしてないさ」

 

「・・・・・・」

 

新聞を通して視線を感じる。 あの時のことは仕方のないこと、その一言で片付けられるはずなのだ、コイツ等は。 責任を感じるのは俺だけでいい、そのはずなのだが。 まぁ、こいつらも当時、いろんな奴らにあることないことふきこまれたからな、それで必要以上に責任感じてるだけだろうけど

 

「パパー、ママー、上がったよー」

 

ちょうどいいタイミングで娘がきたようだ、俺は新聞を置き立ち上がる

 

「それじゃあ、風呂入るかな」

 

「ママと一緒に入らないの?」

 

「そんなこと誰から聞いた」

 

思わず真顔で聞いてしまう。 お母さんは顔を赤くして、うつむいてしまった

 

「え、えっとー......」

 

まずいみたいな顔を見るにたぶんアイツだろう、こんなことを純粋な娘に吹き込むのは

 

「あいつは後でしめる」

 

そう誓いを立てながら、俺は風呂へと向かった

 

------------------------------

 

「ふぅ......」

 

風呂につかり、考えるのは当時のこと。 やはりあのディスクが原因だろうか、こんなこと考えるのは。 そう思いながら思い出すのは当時のこと。 神のいたずらで、踏み台転生者として転生させられた、当時のことだ

 



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原作開始前
第一話 始まりの始まり


追記:2018/1/16 誤字を修正 誤字報告ありがとうございます


気が付けば俺はいつの間にかそこにいて、何にもない空間に一人で立っていた。 いや、もう一人いる、立派な髭を生やしたおじいさん? が

 

「立派な髭を生やしたおじいさん? か......まったく、失礼な小僧じゃの」

 

「!? 考えを?」

 

「神じゃから、そのくらいは当たり前じゃ。 まったくこれだから人間は......だが精々役に立ってもらおうかの」

 

なんだ? なんだかわからないが、俺の直感が告げている、ろくなことにならないと。 だが、目の前の神様と自称するおじいさんは何かしらの情報を持っている、自分がどんな状況か知る為に会話をしなければならない

 

「神様なんですよね、あのここは?」

 

「お主にそれを答える義理はない、まったく、本当に仕事の邪魔しかしないのぅ」

 

何で初対面の人にここまで言われなければならないのだろうか? 説明を求めただけなのに、全く意味が分からない。 そんな態度に俺は少しずつイラつき始める

 

「ふん、本来なら貴様などどうでもいいが、まぁワシは優しいからな、お主は死んで、踏み台転生者になるのじゃ」

 

「は?」

 

コイツは今なんて言った? 死んだ、俺がか? 確かにここに来るまでのことは思い出せないが、いきなり死んだと言われて納得できるはずもなく、俺が驚いている間にも目の前のじいさんは勝手に話を進めていく

 

「最低限の説明は果たした、持っていける特殊能力は王の財宝でいいかの、踏み台の定番だしな。 ただ使えなかったら困るからの、魔力は無限で、だが世界観を壊されても困るからのぅ......」

 

人のことを気にせず思考に没頭しているようだが、俺もいつまでも驚いている場合じゃないのはわかるので、どういう状況なのか再度聞こうとしたのだが

 

「待てよ! 死んだって「ん? あぁ、まだいたのか。 こっちで勝手に決めておくから、お主はもう用なしじゃ、とっとと行ってこい」っぁ......」

 

何か言おうと口を開こうとするが、そこで意識がブラックアウトした。 クソォ......

 

------------------------------

 

「行ってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい」

 

お母さんに見送られ、僕は友達と遊ぶために公園に走って向かっていた。 その間考えるのはあの時の不思議な体験、神様とあったなんて、しかも出会い頭に死んだとか。 多分夢だったんじゃないだろうか? 最近はそう思えてならない。 もう僕が生まれて数年も経つ、でも夢じゃないと、そう思う自分もいる。 あの後無事に前世の記憶が蘇ったのだ、死んだときの記憶がないのだけど......それと、勝手に刻まれた記憶、いや記録かな? 前世の記憶から、刻まれた記録に関してわかることもあった。 魔法少女リリカルなのは、友達に勧められて一話だけは視聴したのだが、それに関する記録が僕に刻まれていたのだ。 なるべく思い出さないようにしてるけど

 

「リキー!」

 

「ごめん、遅くなっちゃった」

 

公園につくと、もう友達はきていて名前を呼ばれる。 神木理樹、それが僕の名前だ

 

「いいからサッカーやろうぜ!」

 

「うん!」

 

そうしてサッカーを始めたのだが、子供の体力なので、すぐにばててしまう。 休憩しながらやってるいると、友達の一人が息絶え絶えになりながら口を開く

 

「なぁ、あいつ誰?」

 

指さした方向を見ると、ひとりの女の子がブランコに座っていた。 ただ、ブランコをこぐわけでもなく、こちらを見て羨ましそうに。 だが、声を掛けてくるようなことはない

 

「僕もわからないけど、仲間に入りたいのかな?」

 

「どうなんだろ?」

 

みんなで首を傾げるがわかるはずもなく、考えるのに飽きた僕たちはまたサッカーを始める。 そんなことを繰り返し、夕方になる、よいこは帰る時間だ

 

「またなー!」

 

「じゃーねー!」

 

それぞれ別れるのだが、僕は公園に残っていた。 なんでかと言われれば、さっきの女の子が、どうにも気になるのだ。 公園の中をのぞくと、やはりブランコに乗っていた

 

「帰らないのかな?」

 

どうしても気になった僕は、勇気を出して、聞いてみることにした

 

「あのさ、帰らないの?」

 

「え?」

 

声を掛けられると思ってなかったのか、凄く驚いていた。 すごく悪いことをした気分になるが、今更言葉をひっこめるわけにもいかず、勢いで乗り切ることにした

 

「か、帰らないのかなーって」

 

「・・・・・・まだ、帰らない」

 

「でも、もう暗くなってきてるし、お家の人心配しない?」

 

「・・・・・・」

 

おんやぁ? ここで無言? もしかして、地雷踏んだ? 心なしか瞳もうるんできてるし、やばい!どうしよう!? 体に精神年齢が引っ張られてるのか、すぐパニックになる。 ちなみに親からは、普通の子供より落ち着いてる、そう言われてるがそんなことはどうでもいい!とりあえずポケットを確認、なにか、何かいいものは! テレレテッテレー、飴玉! あーそう言えば、食べよう食べようと思って家のおやつ箱から取ってきたのを食べてなかったんだ、でもこれなら

 

「飴!食べない!?」

 

「・・・・・・食べる」

 

どうやら釣れたらしく、僕から飴玉を受け取ると、舐め始めた。 一安心したのもつかの間、ちょっと自己嫌悪。 いきなり家族のこととか、ちょっと無神経すぎたかな?

 

「えっと、落ち着いた?」

 

こくりと頷く女の子、よかった。 飴をなめ終わったのは良いんだが、辺りはもう暗くなり始めていた

 

「えっと、帰ろう? 流石に暗くなってきてるし、危ないよ?」

 

飴をなめ始めたあたりからほっとくわけにもいかず、隣のブランコに座っていたが、立って手を引くと、意外にもすんなり立ってくれる

 

「お家まで一緒に行くよ!僕家がこの近くだし、男の子だから多少遅れても大丈夫!」

 

多分この子、少し強引にいかないとダメだとわかったので、少し強引に話を進める。 いやな場合は仕方ないけど。 でも、頷いてくれた

 

「そうだ僕、神木理樹。 君は?」

 

「・・・・・・高町なのは」

 

「なのはちゃんだね!なのはちゃんのお家に行こう!」

 

「・・・・・・うん」

 

いきなり名前呼びなのもどうかと思ったけど、ちっとも気にしていない様子だ。 なのはちゃんの手を引きながら家に案内してもらう。 なのはちゃんの家に着くと、家には明かりがともっていなかった。 でも

 

「ばいばい」

 

なのはちゃんは手を離し、家の中に入っていった。 僕はしばらく立ち尽くしたが、他の人の家にはほかの人の家の事情がある、そう思って家に帰ることにした。 もちろん、お母さんからは叱られた。 でもお母さんは、理由を話してみると褒めてくれた。 どんな理由がっても、女の子を放っておかなかったのはえらい、だそうだ

 

------------------------------

 

それからというもの、僕は友達と約束していない日でも毎日公園に足を運んだ。 特に約束していたわけでもないけど、なのはちゃんはいつも公園にいて、僕はなのはちゃんを見つけると話したり、このごろはすこしずつだが遊ぶようになった。 と言っても、なのはちゃんはあんまり体を動かす運動が得意ではないのか、砂場で城を作ったりだとか、あまり走らなくて、それでいて公園でやっても迷惑のかからないスポーツとかだ。 でも最近はバドミントンだとか、体を動かすスポーツにも興味が出てきたみたいだ。 とにかく、遊ぶようになった。 最初は警戒されて泣かれそうだったというのに、徐々にだが打ち解けてきている。 でも、僕が大人数で遊んでるときは声を掛けてこない。 と言っても、僕の友達が声を掛けると、僕の後ろに隠れながらでも返事をするあたり、とってもいい傾向だと思う。 それと、なのはちゃんの家族関係もわかってきた。 どうもお父さんが大怪我をしたらしく、その入院費の捻出や喫茶店がオープンしたてで、忙しくなのはちゃんをかまってあげられないらしい。 だからいい子にしてないといけない、そう聞いた時何も言えなかったけど、家に帰って寝ないで考えた答えをなのはちゃんに伝えた

 

「僕は迷惑かけてもいいと思うんだ」

 

「で、でも、お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも忙しいし」

 

「でもね、話してくれない方が辛いんだって」

 

「え?」

 

「僕もね、状況は全く違うけど、同じようなことがあったんだ」

 

そう、あれは四歳になりたての頃、僕には前世の記憶というものがあり、しかもこの世界の記憶があった。 こんな作り物の世界、と思って自棄と言うか、擦れてたというか、とにかくそういう時期があったのだ。 当然誰にも話せないし、話す気もなかったんだけど、お母さんはそんな僕を心配して声を掛け続けてくれた。 それを煩わしくも思ったけど、それ以上に嬉しかった。 だから転生とかのことを伏せ、所々ぼかしながら、変な夢を見たと内容を伝えた。 多分お母さんも、包み隠さず伝えてくれているとは思ってなかっただろうけど、そんな僕を気持ち悪がらずに受け入れてくれた。 その思い出をぼかしながら伝える

 

「でね、お母さんが泣きながら、話してくれてありがとう、頼ってくれてありがとうって言ってたんだ......だからなのはちゃんも、なのはちゃんのお母さんたちと話した方がいいんじゃないかな? て言っても僕のお家の話だけど」

 

なんか長々語ったが、少し恥ずかしくなり話を終わりにすると考え込むなのはちゃん、僕がしばらく待っていると、顔を上げた

 

「私、私話してみる」

 

「うん、頑張ってね」

 

力強く頷くなのはちゃん、どうやら吹っ切れたみたいだ。 走って帰ろうとするけど、転びそうになり、僕は急いで支える

 

「えっと、送ってくね」

 

「お願いします」

 

俯いて恥ずかしそうに頬を染めるなのはちゃん。 そんなこともありながら、喫茶店翠屋の前までなのはちゃんを送り、扉を入ったのを見ると僕は家に帰ることにした。 次の日公園に入ると、なのはちゃんに泣きながら抱き着かれたのはびっくりしたけど

 

 

 



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第二話 始まりの始まり ~なのは視点~

~なのは視点~

 

お母さんは仕事、お兄ちゃんとお姉ちゃんはそのお手伝い、私はまだ小さいからお手伝いも出来なくて、お家で独りぼっちで......気が付いたらお家を出てきてしまっていて、何も考えないで街を歩いてた。 疲れたって思って、近くに公園があったからブランコに座っていたけど、目の前にはサッカーをする私と同じくらいの男の子たち。 でも、どう声を掛ければいいかわからなくて、結局は声を掛けられなくて、いつの間にかサッカーは終わっていてみんな帰っていた。 私も帰らないといけないのに体が動かない、いい子にしてなくちゃいけないのに、これじゃあみんなに心配かけちゃう

 

「あのさ、帰らないの?」

 

いつの間にか下げていた顔をあげると、さっきサッカーをやっていた男の子たちの一人が声を掛けてきた。

 

「え?」

 

帰ったと思っていたから、声を掛けられたのに驚いてそれだけしか返事をできなかった。 すると男の子は焦った様子で聞いてきた

 

「か、帰らないのかなーって」

 

「・・・・・・まだ、帰らない」

 

思っていることと正反対の言葉が出る。 帰らないとみんなが心配するのに、どうして自分はこんなことを言ってるんだろう、自分のことなのによくわからない

 

「でも、もう暗くなってきてるし、お家の人心配しない?」

 

「・・・・・・」

 

いつの間にか夕日は沈み始めていて、辺りは少しずつ暗くなってきていた。 なのに帰るっていう言葉が出ない。 それどころか知らない男の子に心配されて、お家の人と聞いた瞬間に泣きそうになってしまう

 

「飴!食べない!?」

 

「食べる」

 

男の子が焦った様子で飴を近づけてくる。私のせいなのに、なんで焦るのかはわからなかったけど、飴はもらっておいた。 男の子は私が飴をなめ終わるまで、ずっと隣にいてくれた

 

「えっと、落ち着いた?」

 

少し冷静になって考えると、いきなり泣きそうになってしまったのが恥ずかしく、顔を合わせられないので、目を合わせないようにしながら頷く

 

「えっと、帰ろう? 流石に暗くなってきてるし、危ないよ?」

 

私の目の前に来て、手を引いて立たせてくれる。 相変わらず帰らなきゃいけないのは気が重いけど、さっきよりは気分的に落ち着いてきた

 

「お家まで一緒に行くよ!僕この近くだし、男の子だから多少遅れても大丈夫!」

 

強引に、本心ではそう思ってないけど、私の手を引いて歩き出す男の子に私はついて行く

 

「そうだ僕、神木理樹。 君は?」

 

「・・・・・・高町なのは」

 

「なのはちゃんだね!なのはちゃんのお家に行こう!」

 

「・・・・・・うん」

 

いきなり自己紹介したからびっくりしたけど、私も自己紹介をしていなかったことを思い出し、小さい声だったけど、カミキ君には聞こえたみたいだった。 あれだけ帰りたくなかった家なのに、目の前に着けば自然と足が前に出た。 カミキ君の手を離し、別れを告げる

 

「ばいばい」

 

鍵を開けて、明かりのともっていないお家に入る。 寂しいけどそれ以上に

 

「カミキ君の手、温かかったな」

 

そう言ってカミキ君とつないでいた手をじっと見る、そんな自分の行動を不思議に思いながら、お母さんたちが心配しないようにお部屋の電気をつけ始めた

 

------------------------------

 

それから私は毎日公園に行った。 お家にいるのは寂しいのもあったけど、それ以上に公園に行けばカミキ君と会えるような気がした。 その予感は当たっていて、カミキ君は毎日公園にいて、私に声を掛けてくれた。 他の男の子にも声を掛けられたけど、カミキ君の後ろに隠れて会話したりもしたし、バドミントンとかでカミキ君と遊んだりもした。 私はいつの間にかカミキ君に家のことを話していた。 お父さんのこと、お店のことや、自分のこと、話してカミキ君の顔を見ると難しい顔をしていた。 でも

 

「僕は迷惑かけてもいいと思うんだ」

 

「で、でも、お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも忙しいし」

 

私はいい子でいないといけない、そうしないとお父さんも帰ってこないし、それに私が我慢してればいつか

 

「でもね、話してくれない方が辛いんだって」

 

「え?」

 

どういう意味なのか分からず、思わず聞き返してしまう

 

「僕もね、状況は全く違うけど、同じようなことがあったんだ」

 

カミキ君の話は少し難しくてわからなかったけど、でも

 

「でね、お母さんが泣きながら、話してくれてありがとう、頼ってくれてありがとうって、だからなのはちゃんも、なのはちゃんのお母さんたちと話した方がいいんじゃないかな? て言っても僕のお家の話だけど」

 

そう言ってカミキ君は困ったように笑っていた、でも私はカミキ君のお話を聞いて、迷っていた。 本当に迷惑をかけてもいいのだろうか、この胸にある思いを言ったら、これまで以上に迷惑をかけてしまうんじゃないか。 でも、カミキ君は言ってた、カミキ君のお母さんは話してくれない方が辛いって、もしお母さんが気が付いているなら、私はお母さんを困らせてる、なら

 

「私、私話してみる」

 

「うん、頑張ってね」

 

私は頷いて走って公園を出ようとしたのだけど、運動音痴の私は転んでしまいそうになるけど、カミキ君が急いで助けてくれる

 

「えっと、送ってくね」

 

「お願いします」

 

恥ずかしい。 そう思いながらも、このまま走ったらさっきと同じことになりそうだし、お母さんに余計な心配をかける、だからカミキ君と一緒に行くことにした。 お店まで送ってもらい、扉を開けるのは戸惑ったけど、さっきまでカミキ君とつないで手を見て勇気をもらう。 扉を開けるとお母さんが駆け寄ってくる

 

「なのは? どうしたの?」

 

「お、お母さん! あのね、私、伝えたいことがあるの!」

 

------------------------------

 

 次の日公園に行くと、リキ君の姿がなくて早く来ないかなって思っているとリキ君が来たみたいだった

 

「リキくーん!」

 

「え、なのはちゃん!あ、危ない」

 

リキ君が何か言ってるけど、私は嬉しくて聞こえてなかった

 

「あのね、あのね!お母さんたちと話したよ、そしたらね!」

 

「う、うん。 とりあえずベンチに移動しよう?」

 

「お母さんがねごめんなさいって! でも、その後抱きしめてくれたんだ!

それでねそれでね!」

 

「ああ、うん、もう好きに話して......」

 

リキ君が何か言ってたけど、私は昨日のことを細かく説明する。 お母さんに思っていたことを、寂しかったことを、もっと私を見て欲しかったことを。 いろいろお母さんに話した。 途中詰まったりもしたけど、リキ君はわかってくれたらしく、それも嬉しかった

 

「仲直り......ではないね、喧嘩してたわけじゃないし。 もっと仲良くなった、ってことでいいのかな?」

 

「よくわかんないけど、そういうこと!」

 

話がひと段落したところで、私たちはブランコに移動して話していた

 

「よかったねなのはちゃん」

 

「うん!これもリキ君のおかげだよ!」

 

「そうかな? なのはちゃんが選んだことだし」

 

そう言って、また困ったように笑うリキ君。 そんなことは関係ない、リキ君のおかげなのだ

 

「違うよ、リキ君のおかげだもん!」

 

「じゃあどういたしまして」

 

「うん!」

 

少しおかしくなって二人で笑い合う

 

「そう言えばさ、なのはちゃんいつの間にか僕のこと、名前で呼んでるね?」

 

「あ、うん......ダメ、だった?」

 

「ううん、別にダメじゃないよ?」

 

「よかったー、そうだ!私のことは呼び捨てでいいよ!」

 

「えっと、なんで?」

 

意外そうに聞いてくるリキ君、そんなに意外かな?

 

「私も呼び方変えたし、そういう感じで」

 

「いや、いいと思うんだけど......」

 

「なのは!」

 

「・・・・・・なのは」

 

「うん!」

 

何故だろう、なんか胸がポカポカする。 でもなんでリキ君そっぽ向くのかな?

 

「リキ君、遊ぼ!」

 

「うん、今日は何しよっか」

 

そうして、私とリキ君は日が暮れるちょっと前まで遊んだ

 

「あ、もう帰る時間だ」

 

「あれ? 少し早いね」

 

「うん、お母さんたちが今度から早く帰ってきてくれるって言ってたから」

 

「そっか、じゃあまた明日ね!」

 

「うん!」

 

~なのは視点 end~

 

 



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第三話 終わりと始まり

基本今回は、前書きと後書きは書く気はないのですが、たくさんのUAとお気に入り、感想ありがとうございます! 感謝は忘れてはいけないですからね!

本編どうぞ!


楽しい日々、とっても大切な日々、だがそれは、すべて終わってから気が付く

 

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終わりは突然だった。 なのはの悩みを解決して、毎日一緒に遊んで、家に帰ればお母さんとお父さんがいて、そんな何気ないけど大切な日々。 僕の誕生日、そのすべてが終わってしまった。 いつものように友達やなのはと一緒に遊んだ帰り、家に帰ると誰もいなかった

 

「ただいまー、お父さん、お母さん居ないのー?」

 

居間の電気はついているのに、返事がない。 僕はおかしいと思いながら靴を脱ぎ、居間に続く扉を開ける。 やはりお父さんとお母さんの姿はなく、机の上にはケーキや料理だけ

 

「ケーキ? あ、僕今日誕生日だったっけ」

 

何で忘れてたのか、でもそうしたら悪いことしたのだろうか。 こういうサプライズは、お父さんとお母さんは大好きなので、見つけたと知ったら少しがっかりするだろう。 子供の僕がお父さんとお母さんに隠し事は無理なのだ、二人とも無駄に鋭いし。 まぁ、見てしまったものは仕方ない、ということで書置きなどがないか探すと、机の上によくお母さんがしていた結婚指輪にチェーンを通した、即席ネックレスと手紙が置いてあった。 なんでだろうかとても嫌な予感がする、あのネックレスはお母さんは肌身離さず持っていた、それがここにある意味と手紙、僕は手紙を急いでみる。 そこには信じられないような内容が書いてあった

 

まったく忌々しい、主人公の転生者を決めている間に、メインヒロインと仲良くなるとはの。 まぁそれも今日までだ、お主はただの踏台転生者として活動してもらう予定じゃったが、気が変わった。 お主には期限内までにポイントを集められなければ死んでもらう、なにワシも鬼ではない、二期つまり闇の書事件の終了時までに一定のポイントを集めればお主を解放しよう。 ポイントの集め方は、普通に踏み台として活動すればいいだけじゃ、良心的じゃろ? 詳しい説明はデバイスに聞くと良い、そのネックレスがデバイスじゃ。 それではの

 

僕は呆然となって手紙を落とす。 落とした手紙はいつの間にか消えていたが、僕にそんなものを気にする余裕はない。 よろよろとお母さんのネックレスに近づき、それを手に取る。 すると指輪の宝石の部分が淡く光り始める

 

「お初にお目にかかりますマスター」

 

「・・・・・・お母さんとお父さんは?」

 

指輪の宝石が喋ったとかどうでもいい、今聞きたいのはそれだけだ。 どう考えてもおかしい、だがこの家の状況と手紙の内容から察するにもうお父さんとお母さんは......認めたくない!認めない!!

 

「大変申し上げにくいですが、神の力によって存在ごと消されています。 もともと存在していない、つまり」

 

「もう、いい。 それ以上何も言わなくていい」

 

「・・・・・・」

 

だが現実は非情だ、認めたくなくてもわかっていた、お父さんとお母さんはもう、この世にはいないのだ......俺はそれを認識した瞬間足元から崩れ落ちた。 膝を抱え静かに泣き始める。 思い出すのは短い間とはいえ、お父さんとお母さんのこと。 前世の記憶があるからと言って、この世界のお父さんとお母さんも大事な存在だった、なのに、なのに、もういない......

 

「お父さん、お母さん......」

 

僕はそのまま静かに泣き続けた

 

------------------------------

 

「あの、マスター」

 

どれくらい泣き続けたのかはわからないが、もう涙も枯れて俯いていると、お母さんの形見の指輪から声が聞こえる。 だが反応する気にもなれない

 

「マスター、そのまま聞いてください。 機械の私がこんなこと言うのはおかしいかもしれませんが、私はずっとマスターのそばにいます」

 

ずっと、その言葉に体が反応する。 でも信じられない、お父さんとお母さんを失うのは一瞬だった、だから信じられない

 

「信じられないのは百も承知です、ですが私を信じてください。 私はずっとあなたのそばにいます」

 

「・・・・・・本当に?」

 

「貴方に誓って」

 

胸の前まで指輪を持ってきて両手で包み込むように握る

 

「それではこの世界についての説明を、それとあなたの能力と新しい家族を」

 

「新しい家族?」

 

指輪を見つめる。 相変わらず指輪は淡い光をともしながら、状況を説明してくれる

 

「はい、流石に子供だけで生活している。 と言うのは認識で誤魔化せるそうですが、やはりおかしいと思う人がいるかもしれない、そう言う対策だそうです」

 

反吐が出る、勝手にお父さんとお母さんを消しておきながら、不都合があるからとそんなこと

 

「サーヴァント、そう言えばわかりますよね?」

 

「Fateシリーズの英霊?」

 

Fate 僕の前世で人気だったアニメのシリーズの名称で、魔術師と呼ばれる人たちとサーヴァント、と呼ばれる過去の英雄たちが、聖杯という願望機を求めて殺し合う物語だったはずだ

 

「はい、大盤振る舞いで四騎だそうです。 と言っても戦闘能力が高いものはダメだそうですが」

 

「・・・・・・キャスター 玉藻の前、セイバー アルトリアペンドラゴン[リリィ]、アサシン 呪腕のハサン 、シールダー マシュキリエライト」

 

「引っかかりそうなのが、キャスターとシールダーと言ったところでしょうか。 どうやら承認されたようですね」

 

現れる四つの魔法陣。 サーヴァントを召喚するためのものらしいが、どうやら形見の指輪の話だと、召喚するのに数日はかかるらしい。 それから僕はこの世界、魔法少女リリカルなのはの世界について説明を受けた。 と言っても未来は知っているので、この世界の魔法と僕の使う魔術がどう違うのか説明を受けただけなのだが。 一応僕も魔法が使えるらしいが、魔力量はそこまで多くないようで、何故かについては後で説明する。 魔術と魔法がわけられている意味は、僕の特典である王の財宝およびサーヴァントの運用の方に関係があるらしい。 王の財宝やサーヴァントの運用は、潤沢な魔術側の魔力を使えるらしい。 そしてさっきの、魔法と魔術がわけられている意味なのだが、この世界の魔法を魔術側の魔力を使わせないためらしい。 この世界の魔法に関しては、魔術側の魔力が使用できないことはないが効率が悪いらしい。 なぜこういう仕様にしたかと言われれば、主人公にしないように、つまり踏台本来の仕事をさせるためにしたようだ

 

「当然の制限かな」

 

「そうですね、後バリアジャケット等の形成をしたいのですが、どうしますか?」

 

「また明日にする、でも名前は決めておく。 ペイルライダー、ヨハネの黙示録、第四の騎士。 死を象徴する騎士、俺の覚悟の表れだ」

 

「了解しました、個体識別名称 ペイルライダー登録しました」

 

ネックレスを首にかけ、そのまま居間のソファーに横になり目を閉じる。 すべては明日

 

------------------------------

 

目を覚まし、最初にしたのはバリアジャケットの形成。 まぁほとんど着ることはないだろうけど、金ぴかな鎧、英雄王ギルガメッシュと同じ鎧にしておいた。 その後、踏み台についての制限について細かい説明を受けた。 要点としては、ほかの転生者や原作メンバーに転生者とばれてはいけない、ばれたらその時点で死ぬようだ

 

『本当によろしいんですね?』

 

『くどい、俺はもう決めた』

 

『・・・・・・マスターがそう言うのなら、私はもう何も言いません』

 

それっきり黙るペイルライダー、俺は今ある人物をとある場所に誘導しながら歩いていた

 

「あ、リキくーん!」

 

手を振って近づいてくるなのは、だが俺はそれに答えない。 奥歯を食いしばり、これからする最低なことに対して心の中でなのはに詫びる

 

「来たか我が嫁よ!」

 

「よ、め? お嫁さん? ・・・・・・ふえぇぇぇぇぇぇ!?」

 

赤い顔をして驚くなのは、そのリアクションに心が痛い。 いっそ気持ち悪がってくれればどんなに楽か、そんな俺の胸中とは真逆の言葉を吐く

 

「何をそんなに驚いている!まったくうぶなやつよな」

 

「ふえっ?」

 

そろそろ来る頃だろう、ペイルライダーも魔力感知してるし。 少し吐き気を覚えながら顎に手を添え、なのはをこちらを向かせる。 突然のことにぽけーっとするなのはだが、その瞬間声がかかる

 

「何やってるんだ?」

 

同い年くらいの少年が公園の外から声を掛けてくる。 逆光でよく顔は見えないが、その視線からはこちらを訝しんでいる感じがする

 

「うん? なんだ貴様は、我と嫁の邪魔をするとは、どうなるかわかっているのか?」

 

なのはから手を離し、少年を睨みつける

 

『ペイルライダー』

 

『間違いありません、感じていた魔力と完全に一致。 この少年こそ我々が探していた、オリ主』

 

そう言われさらに目を細める、コイツには責任はないがその一端はある、逆恨みなのはわかっているが、それを押さえられるほど俺も大人じゃない

 

「その子は嫌がってる」

 

「雑種が、興がそがれた。 これで失礼する、ではな我が嫁よ」

 

そう言って公園を後にした

 




追記:新年からせっせと誤字修正 2018/1/1


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第四話 retribution

俺は家に戻るとすぐにトイレに駆け込んだ。 胃の内容物を吐き出し、トイレから出ると壁に背中を預け、ずるずるとその場に崩れ落ちる

 

「最悪だ......」

 

「マスター......」

 

「ペイルライダー、ポイントの方は?」

 

「流石に集まりが悪いですね、今回ので五ポイントほどです」

 

あんなことをして五ポイント、これからのことを考えると気が遠くなりそうだ。 俺がA's終了時までに集めなければいけないポイントは、一万。 本当に

 

「最悪だ......」

 

俺は膝を抱え、その場で俯く

 

------------------------------

 

~なのは視点~

 

いつもの通り公園に行くと、そこにリキ君の姿はありませんでした。 いつもなら先に公園にいるとブランコに座って待ってるけど、今日はそうじゃなかった。 でも、他のお友達と遊ぶときなんかは、遅れてくることも多いのでしばらく待ってると、リキ君が来たみたい

 

「あ、リキくーん!」

 

嬉しくてリキ君に駆け寄る。 この頃はリキ君のお友達に混じって駆けっことかやるようになったため、転ぶことも少なくなった。 それでもリキ君は危なっかしいとか言うけど。 リキ君は一瞬顔をしかめたけど、本当に一瞬だったので気のせいだと思う、そしていつもの笑顔で

 

「来たか我が嫁よ!」

 

「よ、め? お嫁さん? ・・・・・・ふえぇぇぇぇぇぇ!?」

 

よ、め? お嫁さん? 私がリキ君の? リキ君が言ったことに驚く私、でも嫌じゃないけどいきなりそんなこと言われてもー......どうすればいいんだろう!?

 

「何をそんなに驚いている!まったくうぶなやつよな」

 

「ふえっ?」

 

そう言ってリキ君は、私のあごに手を添えてリキ君の方に向かせる。 私はそんなリキ君に見惚れてぼーっとしてしまう

 

「何やってるんだ?」

 

「うん? なんだ貴様は、我と嫁の邪魔をするとは、どうなるかわかっているのか?」

 

リキ君が何か言ってるみたいだけど、頭に入ってこない。 このままキスとかされちゃうのかな? 

 

「その子は嫌がってる」

 

「雑種が、興がそがれた。 これで失礼する、ではな我が嫁よ」

 

そう言われると共に顎から手を引かれる、最後のリキ君の顔、笑顔だったけどなんか悲しそうだった? その後男の子から何か言われたけど、私はどうしてもそのことが気になった

 

~なのは視点end~

 

------------------------------

 

その日俺はとある家の一室に忍び込んでいた。 隠しても無駄だし、白状するとなのはの家だ。 不法侵入? 心は痛むが知ったこっちゃない。 ・・・・・・どうせ俺がここに来た証拠は残ってないし、それにこれからすることに比べれば、な

 

「王の財宝」

 

後ろに現れる無数の穴から、一つの穴を選びあるものを取り出す。 その瓶に入った薬は霊薬で、効果は人の記憶を封印するもの。 もちろんついになる封印を解く薬もある、使うことは、あるのだろうか?

 

『本当によろしんですか?』

 

『・・・・・・なのはが今の記憶を覚えていたら色々不都合だ、なら記憶を封印するしかないだろ?』

 

『・・・・・・』

 

何も言わないペイルライダー、これは元から決めていたのだ。 今日のポイントの集まり具合から見てなのははそこまで嫌がっていない、今日はいきなり言われたからあんなに呆然としていたのだろうけど、慣れれば多分普通に流すだろう。 ならば記憶を消すか封印するしかない。 消す薬は見つからなかったのでこの薬で代用なわけだが。 すべては俺が生き残るため、そう思っていても胸が痛む。 だが、それでもやらなければならない

 

「ごめんな、なのは。 そしてさよなら」

 

詰まらないように気をつけながら、薬を飲ませ俺は別れを告げる。 仕方ないなんて逃げるつもりはない、だってこれは俺の自分勝手な都合からなのだから

 

「リキ、くん......」

 

寝言のようだが、どんな夢を見てるのかわからない。 しかもいつの間にか泣いていたようだ、片目だけ涙の跡がある。 いや

 

「泣いてるのは俺か」

 

透明な雫がなのはに落ちる。 どうやら俺はかなり器用なようで、左目だけ泣いてるようだ。 どうりで左だけ視界が悪かったわけだ

 

『行くぞ』

 

『次は高町士郎の病室ですね』

 

『あぁ......』

 

もう一度なのはを見て

 

「さよなら」

 

そう呟き窓から身を乗り出す、もちろん鍵を閉めることも忘れない。 不慣れな飛行魔法をペイルライダーに補助してもらいながら飛ぶこと数分、士郎さんの入院している病院に着いた

 

『ペイルライダー』

 

『スキャンは完了してます。 見回りなどがいるため、窓から侵入した方が得策かと』

 

『にしてもこれ、ホント便利だよな』

 

病室に侵入しながら念話をする。 身隠しの布、この布を被せる、もしくは括ったものは魔術的・光学的に観測不能となり、高度な結界にも探知されることはない。だが音や匂い、体温に気配その他諸々はだだ漏れで、全く役に立たない場合もあるようだが。 てか英雄王にこんなのいらないだろ、あの人の場合真正面から圧殺だし

 

「王の財宝」

 

さっきと同じ形をした、霊薬が入った瓶を取り出す。 もちろん中身は違って、どんな傷でも死んでいなければ治す霊薬だ。 この状態の士郎さんにはうってつけだろう

 

『ストックの少ない霊薬の大盤振る舞いですね』

 

『こっちは本当に少ないから、慎重に使いたいけどな。 まぁ、せめてもの罪滅ぼしだよ』

 

『・・・・・・』

 

点滴に霊薬を混ぜると、すぐに効果が表れる

 

『なぁ、士郎さんの体うっすら発光してないか?』

 

『ですが傷は治っているようですし、放っておいても問題ないと思われます』

 

『そうだな』

 

よく見ると身じろぎしている、どうやら目覚めが近いようだ。 俺が窓枠に足を掛けると、後ろから声を掛けられる

 

「だれ、だ?」

 

『すごい回復力ですね、いくらランクの低い宝具でそういう効果がないにしても、たったいま意識の戻った人間が気配を感じるなんて』

 

さっすが戦闘民族TA☆KA☆MA☆TI☆ですね!関係のない考えを思考の隅にやり、少し低めに声を出す

 

「その机の上にあるメモを見ろ」

 

そう告げて俺は病室を後にした。 メモに書いてある内容は

 

高町なのはが寂し想いをしている、気にしてやれ

 

そう書いておいた。 自分で書いておいてだが、ほんと何がしたいんだろうな俺

 

------------------------------

 

次の日、また同じように魔力を垂れ流しにし、追ってきているもう一人を確認しながら、公園まで歩く。 昨日家に帰ってポイントを見てみたら、増えていたことを見て、たぶん俺のことを四六時中監視しているようだ。 アイツの監視をかいくぐる方法を考えているのだが、いまいちいい案が出ないがそこらへんは今日帰ってから考えることにする。 公園には先客がいた。 まぁ多分いるとは思った、会いたかったけど会いたくなかった。

 

「よう我が嫁!」

 

昨日と同じように声を掛ける、だがその反応は違う

 

「え、えっと......私のこと?」

 

「それ以外に誰がいるのだ、我が嫁のなのはよ!」

 

戸惑っているなのはに遠慮せず、俺は距離を詰める。 心が痛む、足が重い。 昨日あんだけのことをしでかして何をいまさらと、自分に喝を入れて進む。 そうして、ブランコに座っていたなのはを立たせ、手を引く。 そろそろ現れるころだろう

 

「さぁ行くぞ!」

 

「あの、行くってどこに?」

 

「そんなの「またお前か、懲りないな」・・・・・・雑種、一度ならず二度までも、そんなに死にたいか?」

 

王の財宝は出さないが、殺気は送っておく。 たじろいだようだがなおも一歩踏み出すオリ主、そうだ、そうじゃないと困る

 

「その子が嫌がってる、手を離すんだ」

 

「誰の許可を得てこの世界の主人公たる俺に指図している、貴様本当に死にたいようだな」

 

なのはの手を離し殴りかかる、前世で喧嘩なんかしたことはないが、出来るだけゆっくり殴るが違和感を感じる。 まるでコイツは、俺が殴ることを予想していたかのように避けたのだ。 大振りでゆっくり殴っていたので、普通転ぶことはないのだが、ここは転んでおく

 

「貴様!よくも我が嫁の前で恥を!!」

 

自分で転んでおいてなんじゃそらって思うが、一応キレておく。 再び殴りかかろうとするが、止めたのは意外にもなのはだった

 

「やめて!」

 

「・・・・・・」

 

「我が嫁よ、なにを?」

 

「やめてって言ってるの!私は貴方のこと知らないし、お嫁さんじゃない!」

 

強い言葉での否定、知らない、そうだなそれもそうだ、昨日俺が記憶を封印したのだから。 自分でも思った以上にダメージが大きい、今日は帰ろう。 確認したいことは確認できた

 

「命拾いしたな雑種......」

 

下を向いて、目の前の二人に表情がばれないようにしながら、俺はその場を後にした

 

『なぁ、ペイルライダー。 かなり虚しいな』

 

『・・・・・・』

 

 




追記:新年からせっせと誤字修正 2018/1/1


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第五話 新しい家族、そして......

アレからどうやって家に帰ったのかは覚えていない。 家に帰ってみると、人の気配を感じた、よろよろと危なっかしい足取りで居間の扉を開けると、キツネ耳をつけた女性に、家で甲冑を付けてるのはどうなのだろうか? とりあえず甲冑付けた二人、最後にマスクをつけた人が一人。 どうやら召喚が終わったようだ

 

「貴方がマスターですね!私はアルトリア「ストップ!ストーップ!」なんですか玉「セイバーさん、それ以上はまずいかと!」

 

なんか白騎士が何か言おうとするたびに、キツネ耳をつけた女性ともう一人の甲冑をつけた子が止めてるんだけど、そんなことはどうでもいい。 俺は椅子に座って俯く。 思い出すのは昼間のこと、自分でやったとはいえ、仲の良かったやつに知らないと言われるのは、想像以上に心が痛かった

 

「俺は、本当に......」

 

悔しくて、悲しくて、歯を食いしばって泣くのをこらえる。 これは自業自得な結果なのだ、俺に泣く資格はない

 

「マスター殿?」

 

「すまないけど今は一人にしてくれ、ペイルライダー説明の方は頼んだ」

 

声的に多分マスクをつけた人だろうが、今は一人にしてほしかった。 俯いたまま首からネックレスを外し手渡す

 

------------------------------

 

~玉藻の前視点~

 

召喚したのにマスターは目の前におらず、他のサーヴァントが三騎と意味の分からない状況。 とりあえず実力的に勝てそうな人はいなかったので、私は素直に降参しまーす

 

「えーっと、この中で今回の世界について、知識を持っている方はいらっしゃいますか?」

 

周りも困惑するばかりで、戦闘の意思はないようなのです。 ですので私から切り出したわけですが、全員が首を横に振る。 本当にどういう状況なんでしょうか? そんな風に途方にくれていると、玄関から鍵を開けるような音と人の気配が。 周りも感じたようで、玄関につながる扉を見ると入ってきたのは小さな子供でしたが、その瞬間わかりました、この方が私のマスターだと。 でも、それにしては元気がないようですがどうしたんでしょうか? 一応マスターだとは思うのですが、違った場合の時を考えマシュさんと一緒にアルトリアさんが何か言わないように止めたりしたんですけど......ハサンさんが声を掛けても、いえ、それがどうなのかとは思いますが、一人にしてくれと言ってネックレスを渡していますし

 

「それでは私が説明しますので、皆様は二階へ」

 

ネックレスについている指輪が喋った!? 周りの方も驚いていたようですが、私たちはその声に従って二階に上がり説明を受ける

 

「そんな、ことが?」

 

「ではマスターは......」

 

「はい、今は一人にしてあげてください」

 

「何とも言えねーですね」

 

マスターのここ数日の説明を。 周りを見ると皆さんも俯いていて、どうやら私と一緒の気持ちのようです。 まぁ一応私も元を辿れば神ですが、でもそんな胸糞悪い神は聞いたことないので、たぶん下っ端でしょう。 いえ、そんなものと言われればそこまでなんですが......ともかく!ペイルライダーにはマスターを一人にしてくれと言っていましたが、出来るはずもなく私はマスターのところまで行き、疲れ果てて寝てしまったマスターを抱き上げる

 

「あなた一人で背負うにはその責任は大きすぎます、ですから私たちにもその責任、背負わせてくださいね?」

 

ゆっくりとソファーに移動させる。 あれ? これ私こそ本妻じゃないでしょうかね?

 

~玉藻の前視点end~

 

------------------------------

 

~なのは視点~

 

思い出すのは昼間のこと。 今日はとっても嬉しいことがありました、朝お父さんが目覚めたって病院から連絡があって、眠い目をこすりながら病院に行くと、お父さんは私を抱き上げてくれました。 私もみんなも、お父さんも泣きながら抱きあってました。 そのことを伝えようと思って公園に走ったけど、公園について思いました、私は一体誰に伝えたかったんだろうって。 心にぽっかり穴が開いたよう感覚がする、わからないけどブランコに座ってれば、その人が来るって確信があったけど来たのは

 

「よう我が嫁!」

 

私と同じくらいの歳をした変な子でした。 初対面? なのに私のことをお嫁さんて言ってました、でも嫌な感じはしなくて、不思議な感じ。 そんなことを考えていると、いつの間にか手を引かれ公園から出ようとしていたけど、もう一人の男の子がきて何か言ってると、手をつないでいた男の子が殴りかかってた。 後から来た男の子が避けると殴りかかった子は転んでいた。 なにか後から来た男の子に向けて何か言ってたけど

 

「やめて!」

 

自分でも驚くような大声が出たけど、殴りかかった男の子は止まってくれた

 

「・・・・・・」

 

「我が嫁よ、なにを?」

 

「やめてって言ってるの!私は貴方のこと知らないし、お嫁さんじゃない!」

 

本当のことを言ってるだけなのに、なぜか私は胸が痛かった。 そのことに戸惑いながらも殴りかかった男の子に言うと、その子は

 

「命拾いしたな雑種......」

 

そう言って公園から去って行った。 その表情が寂しそうだったのに、私は声を掛けられずにいた。 自分の感情に戸惑いすぎていて。 その後は助けてくれた子と友達になった。 でも

 

「なんなんだろう......」

 

私は自分の感情に戸惑ってそれしか言えなかった

 

~なのは視点end~

 

------------------------------

 

次の日、ハサン以外の英霊を家に留守番させ公園に来ていた。 驚いたことに、ハサンたちも念話が使える。 俺はびっくりしたが、都合がいいと思い特に何も言わなかった

 

『マスター、あのツインテールの子ですか?』

 

『そうそう、暫くは問題ないだろうけど、もしかしたら監視してもらうかもしれないから』

 

『なんというか、マスターも心配性ですな』

 

『俺やあのもう一人の転生者が転生してるしな、もしかしたら未来が変わるかもしれない。 だったら念には念を、だ』

 

『了解しました、マスターの指示通りに。 それで、これからどうしますか?』

 

その言葉に俺は考えていたことを念話する

 

『家に帰ったら話したいことがある、そんなわけで家に帰ろう』

 

『わかりました』

 

そうしてハサンと共に家に戻ったのは良いんだが

 

「みこーん!ご主人さまと会えなくて私寂しかったですぅー!」

 

「自重しろ、タマモ!」

 

飛び掛かってくるタマモを避け一発殴っておく。 どうやら俺は、あの後いつの間にか眠っていたらしく、それをソファーに移動し横にしてくれたのは感謝してる。 してはいるが、なんか目が覚めた時から妙になれなれしい

 

「それより重要な話がある。 昨日ペイルライダーから説明があったと思うけど、俺の特典、王の財宝に関してだ。 これを主眼に置いた戦い方の前に、俺には魔法、魔術、戦闘技術に関する知識、経験が圧倒的に足りない。 だから力を貸してほしい」

 

頭を下げる。 戦い方を学び、俺の特典を制御しなければ他の人たちの迷惑にしかならない、だから

 

「マスター殿頭を上げてください」

 

「・・・・・・」

 

俺が頭をあげると、なぜかみんなが生暖かい視線で見てくる。 非常にいたたまれないのだが!あ、ハサンは仮面付けてるからわからないけどね

 

「私はマスターの意見には賛成です。 過ぎた力は何とやら、力の制御、それをするのは素晴らしいものかと」

 

「私も賛成です。 と言っても私はアルトリアさんみたいに、教えられることは少ないと思いますけど」

 

「私は......反対です」

 

そんな中で反対意見を出したのは、意外にもタマモだった

 

「なんで?」

 

「戦闘なら私たちに任さればいいからです。 そのために私たちは呼ばれたようなものですし、それに、そういう術を教えればマスターはもっと傷つきます」

 

真剣な表情、本気で俺の身を案じてくれているのだと思うとうれしくなる、なるが

 

「ありがとうタマモ、俺の心配をしてくれて。 でもな、俺が選んだ道だから、力を貸してくれないか?」

 

「・・・・・・っ」

 

タマモが本気で俺のことを思ってくれるなら、俺も本気で答えないといけない。 真剣にタマモを見ると、先に目を逸らしたのはタマモだった。 そして

 

「わかり、ました」

 

「ありがとう、タマモ」

 

渋々ながらも返事をしてくれるタマモ、俺は頭を撫でると尻尾を揺らしていた

 

「それじゃあ頼むな、みんな!」

 

「「「「はい!!」」」」

 



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原作開始
第六話 動き出す物語


夢を見た、変な民族衣装を着た少年が何かと戦って、それを逃がしてしまう夢。 その夢のせいで若干寝不足ではあるが、自然といつも通りの時間に目が覚める。 気分は最悪だ、夢のせいではあるがそれ以上に

 

「ペイル」

 

「おはようございますマスター、未確認の魔力反応の件でしたら昨日の深夜、感知しています」

 

「やっぱりか......」

 

「はい、いよいよということになります」

 

その言葉に俺の気分は一層悪くなる。 未確認の魔力反応、寝ている時に見た夢、そして今日の放課後に俺の予想通りのことが起これば、いや100%起こるだろう。 この世界、魔法少女リリカルなのはの原作が開始したことになる。 そして俺の命へのカウントダウンも

 

「マスター」

 

ペイルの声を掛けられハッとする。 いつの間にか、シーツがくしゃくしゃになっていた。 どうやら考え事をしている間に、知らず知らずのうちに握りしめていたようだ。 自分の行動に苦笑しつつベットから起き上がり、カーテンを開け外の景色を見る。 今日も晴れのようだ、少し気分がよくなり着替え始めようとすると

 

「マスター起きていますか? 返事がないですね......ここはタマモの熱烈チッスで!「起きてるよ」そうでございますか......朝ごはんの支度は出来てますので、早く来てくださいねー」

 

「ありがとうタマモ、着替えたら行く」

 

「はいマスター」

 

毎朝毎朝起きているのにもかかわらず、自己完結して部屋に侵入して来ようとするタマモに呆れながら返事をする。 多分俺のためにやってくれてるんだろうが、この頃本気で、ああいうキャラじゃないのかという疑問も出てきた。 まぁでも、感謝はしているのだ、毎朝ちゃんとご飯を作ってくれるし、弁当や夜ご飯も

 

「マスター、早くしないとタマモが部屋に突撃してきますよ」

 

「おっと、それもそれで困る」

 

ペイルに言われ急いで着替え始める。 着替え中だろうが何だろうが、アイツは突撃してくるのだ。 着替えを手早く終え、階段を降り居間に通じる扉を開ける

 

「おはよー」

 

「おはようございますマスター」

 

「おはようございますマスター、先にいただいてます」

 

「おはようございますマスター殿」

 

居間にいた人物たち、上からマシュ、リリィ、ハサンが挨拶を返してくれる。 俺は席に座り箸を持つとご飯が目の前に置かれる

 

「さてと、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

「はーい、召し上がれ」

 

どうやらマシュとハサンは俺を待っていたようだ。 前は待たなくてもいいと言ったのだが、全然聞いてくれないし長々話し込まれたのでそれ以来言わないことにしている。 タマモは嬉しそうににこにこしながらこちらを見ていた

 

------------------------------

 

俺の家は少し学校からは遠いのだが、俺は徒歩通学をしている。 バスに乗ってもいいのだが、いかんせんバス停までも遠いし、それに朝くらいは、な

 

「おはよー」

 

「おー、はよー」

 

遠いと言っても、ショートカットできる道を知っているので、学校に遅れたことは今までに一度もない。 もちろん魔法は使っていない、本当に遅れそうになった時だけ使ったことはあるけど。 もう歩いても余裕で間に合う所にいるので、同じく登校する生徒がちらほら出てくる。 今挨拶を交わしたのもクラスメイトだ。 さて、学校も見えてきた。 校門をくぐり下駄箱で靴を履き替え、そして教室にはいる。 友達と挨拶をかわし、とある一団を発見し近づく。 その一団は俺が近づくごとに少しずつ逃げているが、俺は気にせずに近づく、そして

 

「おはよう我が嫁たちよ!」

 

いつもの朝の挨拶をした。 これが俺の日常、もうこの挨拶にも何も感じなくなるほど繰り返した、俺の嫌な日常。 この後の返しもわかっている、まずはアリサ・バニングスが噛みついてくる

 

「だから毎朝毎朝言ってるでしょ! 私達はあんたの嫁じゃない!!」

 

「まったく、そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろうに、まぁそういう所がかわいいんだが」

 

そう言って頭を撫でようとすると、その手を強めの力で弾かれる。 これもいつものことだ、何も感じない。 これ以上やると本当にぶっ飛ばされそうなので、次は月村すずかだ

 

「はっはっは! 流石我が嫁だ、そのくらい元気でなくてはな!なぁすずかよ!」

 

「・・・・・・そうですね」

 

目を逸らして言う月村すずか。 俺と一切目を合わせようとせず、無理やり合わせようものなら、泣かれるかアリサ・バニングスに殴られるかのどっちかだ。 なので早々に諦め、最後は高町なのはだ

 

「おはようなのは!今日も可愛いな、こんなところなど抜け出してデートでもいかないか? いいところを知っているぞ」

 

「あの、その......ごめんなさい」

 

「お前も懲りないな神木理樹」

 

「黙れ雑種、我も毎朝言っているが、嫁たちとの語らいを邪魔するとは死にたいか?」

 

後ろから声を掛けられたが、振り向くことなくそう口にする。 どうせ振り向かなくても、この三人と俺を遮るように立つのだ

 

「織、遅い!」

 

「藤森君」

 

「織君」

 

藤森織、コイツがオリ主であり俺の呪いの原因だ。 俺はこいつのことを名前では呼ばない、話しかけもしないし雑種としか言わない。 基本言葉を交わしたくもないのだ

 

「俺はアリサたちが嫌がっているからお前に言ってるんだ」

 

「ハッ!貴様の見間違いであろう雑種、ただ照れているだけというのもわからないのか」

 

「本気でそう見えてるならお前が心配になるな」

 

本当に心配したような顔をする雑種、お前にそんな顔をされる筋合いはない。 反吐が出る。 それとは別に演技を続ける

 

「・・・・・・ほぉ、どうやら本気で死にたいらしいな」

 

「・・・・・・」

 

一触即発の空気になるが、チャイムが鳴り先生が入って来る。 まぁ、元々計算してやっているので予定通りだ

 

「はーいみんなー、席に座ってー」

 

「チッ......命拾いしたな雑種」

 

「・・・・・・」

 

雑種と三人は席につき、俺も席につく。 これがこのクラスの日常で、最早だれも止める人はいない。 慣れって怖いよな

 

「今日もフラれてやんのー」

 

「うるさい黙れ」

 

「連敗記録更新だな」

 

「・・・・・・」

 

周りの席の男子がこそこそと話しかけてくる。 基本俺が仲が悪いのはあの三人と雑種ぐらいなもので、他の奴らとは比較的に仲がいい。 結構人間関係築くのは大変だが、やっておかないとボッチになるわけで、そう言うことだ

 

『ペイル、何ポイントたまった』

 

『いつもの通りです。 ですが今回で六千ポイントを越えました、この分でしたら早ければ無印終了時にでも一万ポイントたまると思われます』

 

『サンキューペイル』

 

先生の話を聞きながら、ペイルと念話をしポイントを確認する。 このポイントが貯まればアイツらと関わることも、こんな生活ともおさらばできる

 

------------------------------

 

適当に休み時間も三人に絡み細かくポイントをため、昼休み。 俺はクラスメイトと共に弁当をつついていた。 昼間は基本絡むときと絡まない時がある、あいつ三人には悪いと思っているが俺も休憩が欲しいのだ。 クラスメイトの話題は、昼休み何やるか放課後どうするかなどを話しているが、その中で一人違う話題を出してるやつがいた。 今日の授業であった将来についてだ。 将来、将来か......俺の将来はどうなるんだろうな。 若干ブルーになりかけたが、頭を振って思考をやめる。 どうせ考えたところで意味がないのだ、まずは目先のことをどうにかしないと俺には未来がないのだ。 目的は変わらない、彼女たちに嫌な思いをさせても俺は生き残ると、そしてあいつを殺すと

 



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第七話 運命の出会い

今年最後の投稿なので一言を。 今年はありがとうございました、来年もよろしくお願いします! 

それでは本編どうぞ!


放課後、俺はいつもの通りの絡みを終え、下駄箱で靴を履き替えていた

 

『ハサン』

 

『ここに』

 

ドアから外に出るときにハサンへと念話を飛ばす、すると後ろから肩をたたかれた。 もういるとは思わなかったが流石ハサンだ、頼りになる。 手短に用件を告げる

 

『来てもらってすまない。 だが前から話していた通り原作が始まる、頼んだぞ』

 

『了解しましたマスター、私にお任せください』

 

念話で会話を終えるとハサンの気配が消える。 多分俺が前から頼んでいた通り、高町なのはの護衛に向かったのだろう。 俺と雑種がこの世界に来たのだ、もしかしたら原作が変わっているかもしれないということで、ハサンに前から護衛を頼んでいたのだ。 一応原作の主人公なのだ、何かあったら困るのだ、ただ、それだけ。 タマモなんかはふてくされながらそんなのいらねー気がするんですがと言っていたが

 

『タマモ、マシュ、リリィ』

 

『マスター学校が終わったんですね!なら合流して『そういうのいいから』ちぇ.......』

 

『あははは......お疲れ様でしたマスター、それで何か御用でしょうか?』

 

『こうやって放課後すぐに念話を入れるなんて珍しいですね』

 

念話を入れるとすぐに反応してくれる三人、タマモのはいつものことなので、最低限のツッコミだけ入れて後はスルーだ。 二人の質問に答えるために、念話を飛ばす

 

『前から言ってた通り原作が始まる、ジュエルシードの探索は任せる』

 

『わかりましたマスター』

 

『はい!」

 

『あー、もうそんな時なんですね......探索探索ッと』

 

どうやら他の奴らも言った通りに動いてくれるようだ、タマモなんかもうやってくれるようだが

 

『マスター』

 

『おや? ハサンさんどうかしたのですか、いつの間にか出て行っていたようですが』

 

どうやらハサンは全員に念話をしているようで、マシュが反応していた。 というかマシュよ、いつの間にか出て行ったって言ってやるなよ、この頃影が薄いって悩んでんだぞ? アサシンだから気配を貸すのが上手いだけだってフォローしておいたが

 

『高町嬢がフェレットを拾いました、どうやら病院に行くようです』

 

『そうか......全員聞いたな、原作が始まる。 みんなの手を借りると思うがよろしく頼む』

 

『『『はい!!』』』

 

タマモ以外の声を聞こえたが、タマモはどうしたのだろうか? 不思議に思って首を傾げていると、タマモからの念話が来た

 

『やっぱりジャミングか反応が弱いのかわかりませんけど、ジュエルシードの位置は特定できないみたいですね......あ、もちろん先ほどの話なら聞いていましたよ? もちろん喜んで力をお貸しします、マスター』

 

『・・・・・・ありがとうなみんな』

 

今出来ることは何もない、俺はそのまままっすぐ家に帰ることにした

 

------------------------------

 

~なのは視点~

 

変な夢を見ました、変な民族衣装を着た私と同い年くらいの子が、何かを取り逃がすような夢。 おかげで朝はちょっと寝不足です、バスに乗ってアリサちゃんたちとお話してるけど、ちょっと眠い

 

「どうしたのなのは、ちょっと眠そうよ?」

 

「眠るの遅かったの?」

 

「にゃはは......ちょっと変な夢見て」

 

「「夢?」」

 

「うん」

 

朝のことだし夢だからちょっとあやふやだけど、ちゃんと説明したつもりだったんだけどアリサちゃんとすずかちゃんからなんというか、そのぉ、生暖かい視線が

 

「夢、夢だからね!?」

 

「大丈夫よなのは、私たちはずっと友達よ? あ、もう降りる所じゃない」

 

「うん、アリサちゃんの言う通りだよなのはちゃん。 私もずっと友達だから。 アリサちゃん待ってー」

 

「絶対わかってなよね!? と言うよりもそのやさしさの方が辛いよ!? 待ってよー!ふにゃ!?」

 

アリサちゃんとすずかちゃんに夢だと言っているのに痛い子判定されまして、それでバスを降りて急いで追いかけようとしたら転びました。 うう、お鼻が痛い......それから教室に入って、みんなに挨拶をしてアリサちゃんたちとお話してたんだけど、あの子が入ってきました。 途端に顔をしかめるアリサちゃんと目を逸らすすずかちゃん、私も少しあの子は苦手です。 神木理樹君、私たちを嫁と呼んでいつも声を掛けてくるけど、私はなんでか彼のことが気になります。 本当に自分でも何でかわからないけど

 

「おはよう我が嫁たちよ!」

 

こんな風にいつも挨拶をしてきます。 アリサちゃんはいつも何かしら反応して、すずかちゃんは目を合わせません、私はどう対応すればいいかわからなくて、いつも黙り込みます。 そういう時に

 

「お前も懲りないな神木理樹」

 

私の小さいころからの幼馴染で、藤森織君が助けてくれます。 そしていつも睨み合いが始まったタイミングで先生が入っきて、席につく。 そんな感じです

 

------------------------------

 

「あー、ようやく昼休みね......今日はあいつが絡んでこないからゆっくり出来るわね」

 

「うん」

 

アイツとは神木君のこと、お昼の時は話しかけてくるときとこない時があるので、今日は話しかけてこない日みたい。 アリサちゃんは苦い顔をすっぱりとやめ、話題は今日の授業にも合った将来の話に。 アリサちゃんはお父さんの会社を継ぐみたいだし、すずかちゃんは機械いじりが好きなので機械系の大学に進んでみたいなことを言っていた。 みんなは決まっているのに私には明確なビジョンが思い浮かばない。 そんな考えをしていると、アリサちゃんたちの会話が耳に入る

 

「ねぇ、織はどうなの?」

 

「僕? 僕は特に決まってないかな、まだ小学生だから早すぎると思うし」

 

「でも先生は考えてみるのもいいって言ってたし、これを機に考えてみたらどうかな?」

 

「そうしようかな」

 

織君もどうやら将来のビジョンが決まってないみたい、焦る必要ないのかな? その後私も聞かれたけど、取り柄がないって言ったらアリサちゃんにレモンぶつけられた......後取り柄がないってどの口が言うのって言われて、ほっぺつねられたし......確かにアリサちゃんより理数系は点数いいけど

 

------------------------------

 

放課後、いつもみたいに神木君に話しかけられたけど、織君が仲裁に入ってくれたので、アリサちゃんがヒートアップしないで済みました。 織君は塾がないけど塾の近くに用があるって言ってたので、私たちと一緒に行動してる。 いつもの道とは違うアリサちゃん曰く、近道を通って塾に向かってたんだけど、どこかで見たことがあるような気がして立ち止まって周りを見回す

 

「なのはー?」

 

「なのはちゃん?」

 

「あ、ごめーん、今行くー!」

 

もしかしたら夢で見たのと同じ風景? なんて思ったけど、気のせいだと頭を振ってアリサちゃんたちに追い付く、すると

 

『助けて......』

 

「!?」

 

「なのは?」

 

「織君もどうしたの、周りを見回して」

 

声が聞こえた気がした、気のせいかと思ったけど織君も周りを見回してる。 気のせいじゃないのかな?

 

『お願い、助けて......』

 

「「!?」」

 

「おーいなのはー? って、どうしたのよ!?」

 

「織君!?」

 

織君と目を合わせ頷き合う、どうやら織君も聞こえたみたいで一緒の方向に走る。 そして見つけたのは

 

「イタチか?」

 

「ううん、フェレットだと思う」

 

抱き上げてみると、怪我をしているのか少し傷ついていた。 織君を見ると、考え事をしてるのかこっちを向いていなかった。 どうしよう

 

「なのは、織!急に走り出してどうしたのよ!」

 

「なのはちゃんその子」

 

「うん、ここに来たらこの状況で」

 

「病院、とにかく動物病院よ!!」

 

「この近くにあるかお家に聞いてみる!」

 

そこからはとっても早かった。 すずかちゃんがお家に電話して、近くにあるみたいなのでアリサちゃんちの車に乗って、動物病院へ。 先生に手当てしてもらって、私たちは塾の時間が迫っていたので塾に。 塾ではフェレットを誰が飼うか話してたけど、私たちは厳しく塾が終わったら織君に話してみたけど、織君も厳しいらしかった。 一応、家族のみんなに聞いたらOKで、そのことをアリサちゃんとすずかちゃんにメールをして寝ようとすると

 

『助けて!』

 

「あぅ?」

 

突然声が聞こえてベットに倒れ込む。 この声は昼間の? ということはあのフェレットさんが? いろいろ考えたけど答えは出なかったけど、あのフェレットさんが助けを求めている

 

『助けて!ここに危険が、この声が聞こえている人は誰か、たすけ......』

 

声はそれっきり途切れてしまう。 こんなのを聞いてじっとしていられず、着替えて私は外に飛び出した

 

 



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第八話 First battle

『助けて!ここに危険が、この声が聞こえている人は誰か、たすけ......』

 

意味不明な念話が途切れる。 全員聞こえていたのか顔を顰めている、いやタマモだけか。 ちなみにここにハサンはいない、ハサンには高町なのはの護衛を頼んでいるので、ここにはいないのだがさっきから念話は届いている

 

『マスター殿、高町嬢に動きが』

 

『どこに向かっているかはわかるか?』

 

『多分動物病院のほうかと』

 

ハサンとの念話をいったん終わりにし俺は立ち上がる

 

「行くんですねマスター」

 

「あぁ、そんなわけで後は頼む」

 

俺は玄関から外に出ると、ちょうどよく結界が発動されたようだ。 俺はその上から覆うように結界を作る。 この結界は魔術要素も絡んでいるため、魔力の消費はない。 効果は結界内の再生、簡単に言えば壊れたものを直す効果だ、後は簡単に人払いと高度の魔術結界なので、余程のことがない限り魔導士にもばれない。 効果はタマモのお墨付きだ。 転送魔法を起動させ、動物病院の近場の高い建物に転移する。 ちょうど思念体が病院に突っ込むところだった、周りを見回すと高町なのはの姿も。 だが一人役者が足りない

 

『ペイル』

 

『結界の方は範囲を伸ばしておきましたのでじきに......いえ反応ありましたこちらに近づいてきます』

 

どうやら役者は揃ったようだ、ちょうどなのはも思念体に襲われそうになっている、なら

 

「おい雑種、我が嫁に何をしている」

 

ちょうど高町なのはの目の前に降りるように計算をして、建物から飛び降りる。 王の財宝から剣を射出し弾幕をはる、だが何もせずただ単調に撃ちだしているためか、思念体には当たらない。 まぁ当てることを狙っているわけでもなし、別によしとする

 

「神木君? どうして?」

 

「嫁よ大丈夫か? 怪我などはしていないようだな」

 

見ていたので怪我をしていないことはわかっているのだが、一応心配しておく

 

「何かすごい音が......なのは!?」

 

「なんだ雑種遅れてきたようだが? 肝心なところで役立たずよなぁ!!」

 

遅れてきた雑種が高町なのはの姿を確認した瞬間駆け寄ってきたが、俺はここぞとばかりに煽る

 

「まったく、いつもいつも関わるなだの、困っていると言いながら今回の貴様の体たらく、飽きれて物も言えぬぞ?」

 

「お前に言われる筋合いはない!!」

 

激昂したように言う雑種だが、俺はそれを見て逆に冷めた。 激昂したいのはこちらなんだけどな、100%お前のせいじゃなくても、数割はお前のせいでこうなっているのにもかかわらずな、俺は思念体に向き直る。 どうやら俺を警戒しているようだが、タダ剣を射出しただけであんなに警戒されても困る

 

「ふん、勝手に喚いている雑種、アレは俺が倒す!!」

 

俺のと言うか、この借り物の能力である王の財宝だが、ペイルによると機能にロックがかかっているらしく、今現在使えるのはCランクまでの宝具と一部霊薬などだ。 それでも数は膨大なので射出する分には困らない。 だが思念体も学習してきたようで、段々当たらなくなってきた

 

「チィ!」

 

俺は焦ったように演技をし射出する数を増やす。 数を増やすということは被害が拡大するということで、そこら辺を軒並み更地にしていた

 

「やめるんだ!君のその力はこういう場所の戦いには向かない!!」

 

「黙れ!俺に命令するな!!」

 

「ならこうするまでだ!!」

 

王の財宝射出中は動けないとでも思っているのか、殴りかかって来る雑種、だが俺はそれをあえて受ける

 

「ぐっ!!」

 

ど素人が殴った為それほど距離は出ないはずだが、魔法で軽く飛んで距離を伸ばしておく。 まったく、こういうのも役目だからな、嫌な役目だ。 そこから俺はただ見ているだけだった。 高町なのはがジュエルシードを封印するところを、そして

 

「こういう戦い方はやめて」

 

瞳の端に涙をためながらなのははその場を後にした

 

------------------------------

 

なのは視点

 

家を出て向かったのは、昼間に保護したフェレットさんを預けた動物病院へ。 なんであのフェレットさんだと思ったのかわからなかったけど、妙な確信があった。 動物病院の近くまで行くと、突如轟音が響き渡った。 その音に身をすくめるけど、音がしたのは動物病院の方からだった。 いやな予感がして動物病院に向かうと、そこにはフェレットさんと変な物体が。 変な物体はフェレットさんの方に突っ込むけどフェレットさんは避ける。 でも、避けたのはよかったけど結構高く飛んでいたため、私は着地地点に行きキャッチすると

 

「来てくれたんですね......」

 

声がした。 どこからと言われれば下の方からだったんだけど、右良し左良し、上下よし。 特に誰もいない、ということは? 胸の方を見るとフェレットさんがいる

 

「よかった......」

 

「しゃべった!?」

 

「えぇ、はい......じゃない、危ない!!」

 

「え?」

 

喋ったことに驚いていたけど、フェレットさんの鋭い声に前を見る。 さっきの変な物体が迫ってきていた。 これは避けられない、そう思った。 突然のことに驚いて私の体は動かない、でも

 

「おい雑種、我が嫁に何をしている」

 

怒気がはらんだ声が聞こえると同時に、空からいくつもの剣が降り注いだ。 続いて降りてきたのは

 

「神木君? どうして?」

 

ここにいるはずのない神木君がいた。 なんで、どうしてとも思うけど、どこか嬉しく思った。 相変わらず自分が分からない、この気持ちは何なんだろう? そんな私の内心とは関係なく、神木君は

 

「嫁よ大丈夫か? 怪我などはしていないようだな」

 

いつも通りだった。 そのことにちょっと苦笑するけど

 

「何かすごい音が......なのは!?」

 

織君も来たみたいだ。 織君もたぶん声が聞こえてきたのかな? 今は神木君と言い争ってるけど。 話し合いは決裂したのか、神木君が剣の射出を再開した

 

「すごい......どういうレアスキルなんだろう?」

 

腕の中でフェレットさんが何か言っているけど、私は別のことが気になっていた

 

「ねえフェレットさん」

 

「あ、はいなんでしょうか?」

 

「あの家って直るの?」

 

「いえ? っ!?」

 

フェレットさんも気が付いたのか呆然としていた。 だっていつの間にか周りの家は更地になっていて、たぶんフェレットさんのこの驚き方ってことは

 

「やめるんだ!君のその力はこういう場所の戦いには向かない!!」

 

「黙れ!俺に命令するな!!」

 

フェレットさんはそう言って止めるけど、意地になっているのか神木君はとまらない。 その間にも家は次々に壊れていく、これじゃあ!

 

「フェレットさん、これを止める方法はないの!?」

 

「一応あります、これを使ってあの思念体を封印すれば!」

 

そう言って私に差し出したのは、フェレットさんについていた赤い宝石。 私はそれを受け取る。 この宝石、少し暖かい感じがする

 

「お願い!私にこれを止める力を貸して!!」

 

「了解ですマスター」

 

宝石が喋ったとかそんなことに驚いている暇はない、そんなことよりも早く止めなきゃ。 頭に浮かんできたのは多分この子の名前と呪文、私はそれを唱える

 

「我、使命を受けし者なり。 契約のもと、その力を解き放て。 風は空に 、星は天に、そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を!レイジングハート、セットアップ!!」

 

「初期起動を確認、貴女を守るバリアジャケットと魔法の発動を補佐する杖を想像してください」

 

レイジングハートの言葉を受けて想像するのは、杖と衣服。 杖は魔法少女っぽく、服は思いつかなかったので聖祥大付属小学校の制服にしておいた。 ピンク色の光が晴れ目を開けて見ると

 

「え、えぇ、えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

私の姿は想像した通りの姿になっていた。 なにこれ!?

 

「マスター、呆けている時間はありません、ジュエルシードの封印を」

 

「はっ!でもジュエルシードって?」

 

「詳しい説明をしている時間はありませんので簡潔に、あの思念体を動かしているものの名称です」

 

いつの間にか神木君の攻撃は終わっていて、少し離れたところに倒れながらこちらを見ていた。 そうだ、早く封印しなくちゃ! 神木君が攻撃しなくてもあの思念体っていうのが被害を増やすかもしれないし!

 

「どうすればいいのレイジングハート!」

 

「心に浮かんだ呪文を唱えてください、封印はこちらでします」

 

そう言われて集中する。 心に浮かんだ呪文......

 

「レイジングハート、お願い!リリカルマジカル、ジュエルシード封印!!」

 

レイジングハートがピンク色の光の帯で身動きを取れなくして、何故か苦しみだす思念体、次の瞬間青い宝石が宙に浮いていた。 何が起こったんだろう?

 

「封印は成功だ! あれがジュエルシードです、レイジングハートで触れてください!」

 

フェレットさんに言われた通りレイジングハートでジュエルシードに触れると、レイジングハートの宝石部分にジュエルシードが吸い込まれていった

 

「これで終わり?」

 

「うん」

 

フェレットさんの言う通り終わったのか、変身が解けてさっきの服装に戻る。 終わったのはいいけどなんだか呆然としてしまう。 遠くからサイレンの音が聞こえる

 

「なのは行こう、ここにいたら疑われる」

 

「あ、うん、ちょっと待って」

 

織君の言葉にハッとなるけど、その前にどうしても言いたいことがあった。 

 

「こういう戦い方はやめて」

 

私はそう言うとそのままこの場から立ち去った

 

~なのは視点end~

 

------------------------------

 

「マスター殿」

 

「ハサンか、なのはの方の護衛は?」

 

「すぐに戻りますが、よかったのですか?」

 

「・・・・・・さっさと護衛の方に戻れ」

 

「了解です」

 

ハサンが行ったのを確認し仰向けに寝転がる。 街灯も壊したためか星がよく見える

 

「ペイル」

 

「今回の行動でポイントもだいぶ溜まりました。 やはり民家を壊すように見せかけて、なのは様を怒らしたことが神的にはよかったのでしょう」

 

「ふん」

 

小さく鼻を鳴らし、結界の魔力を多めに注ぐ。 こうすれば再生するスピードも少しは早くなる。 周りを見ると更地ではなくなったとはいえ、壊れた民家がちらほら見受けられる。 再生すると言ってもやはり心が少し痛い。 俺は頭を振り再生を見届けてから結界を消し家に帰ることにした

 



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第九話 二度目の戦闘、そして.......

UA1万突破、お気に入り100件突破。 みなさんありがとうございます!これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!

それでは本編どうぞ!

追記:2018/1/16 誤字修正 誤字報告ありがとうございます


~なのは視点~

 

昨日の夜の出来事もあって少し眠いけど、学校に登校しアリサちゃんたちに挨拶をする

 

「おはよー」

 

「おはよーなのはちゃん」

 

「おはようなのは、メール見たわよ放課後が楽しみね!」

 

アリサちゃん達と挨拶を交わしたのはいいのだけど、放課後? メール? 私は少し違和感を感じる、確かに昨日の夜にアリサちゃんたちには、ユーノ君を飼えることになったのでその報告と、明日の放課後一緒に動物病院に行こうって言ってあったけど......でも、動物病院は昨日の騒ぎで......私はアリサちゃんが言ったことが気になりそのことを聞こうとしたのだけど

 

「あの、アリサちゃ「今日もいい朝だな嫁たちよ!!」・・・・・・」

 

昨日の騒ぎの犯人である神木君が登校してきたので、結局聞けずじまいだった

 

~なのは視点end~

 

--------

 

危ない危ない、別にいつかは知られるので構わないが、こんな早い段階で知られるわけにはいかないし、雑種が話を聞いていないのは困るのだ。 あいつが結界を張っていたのはペイルライダーの報告で知ってはいるが、自分の結界の効果と思ってもらわないと。 なので今回は遮ることにした。 遮られた高町なのはは、別の意味でも怒っているのか視線が厳しい

 

「ん? どうしたのだなのはよ、そんなに見られてはいくら我でも照れるではないか、ハハハハハハ!」

 

「別に、なんでもないよ」

 

「いい加減わかりなさいよ!私達が迷惑していることくらい!」

 

「照れ隠しか? ハハハハハハ!」

 

そのあと何時ものやり取りをしていると、雑種の登場だ。 いつも以上に辛辣な雑種に特に俺は何も思わず、いつも通りに先生が入ってきたので席に着く。 いつも通りの授業風景、ただ一つ違うことがあるとすれば少なからず魔力を感じることだろうか? 多分だがあのフェレット、ユーノって言ったけ? ユーノから念話でジュエルシードや魔法についての説明を受けている、と思う。 なんとなく魔力を感じるというだけで、念話を傍受できるわけではない。 ・・・・・・多分やろうと思えば出来るだろうけど

 

『ペイル、今日ってこの後何かあるか?』

 

『放課後にジュエルシードが暴走して、戦闘になると思います』

 

『場所は?』

 

『神社です』

 

神社で戦闘ね......思い出した、確か子犬取り込んで強くなった暴走体との戦闘か。 ジュエルシードは願いを歪んだ形で叶える性質があるらしいけど、生物を取り込んで強くなるとか厄介な性質だよな。 といっても全部が全部あてはまるわけじゃないけど。 先生から指名されるが余裕で問題を解き、着席する。 小学生の問題だし、何よりマルチタスクを使えば余裕なのだ。 とりあえず、神社の近くにいる奴らがいないか念話をしてみる

 

『おーい、誰か神社の近くにいる奴いるか?』

 

『私が近いですが、何かご用でしょうかマスター?』

 

『リリィか、その近くにジュエルシードがあるらしいんだけど、回収はしなくていい。 もし放課後前に暴走しそうになったら教えてくれ、大惨事になりかねんから』

 

『わかりました』

 

リリィとの念話を終え、俺は一息つく。 念話の内容もそうだが、ようやく午前の授業を終えたのだ、一息つきたくもなる。 確かに原作に関わるジュエルシードの位置は特定は済んでいるが、四六時中見張ってたら精神が持たないし、そもそもそこまでの人数がいない。 二十個を五人で監視するとか正気の沙汰じゃない、しかも俺なんかは学校あるし。 さて、友達からも呼ばれてるし、さっさと飯食いに行こう

 

------

 

放課後、俺はゆっくりと神社に向かって歩いていた。 どうせ発動するのはわかってるし、高町なのはや雑種の後から行った方が都合がいいのだ。 後からと言っても、終わってからでは意味ないが。 神社の近くに行くと魔力を感じる、どうやら雑種の結界のようだ、ペイルが教えてくれる。 なら俺はその上から前回と同じ結界を張り、リリィと合流する

 

「状況は?」

 

「なのはさんが敵のとびかかり攻撃をプロテクションを使って受け止めた所です」

 

リリィの言葉を受け俺は目の前を見る。 どうやら雑種は高町なのはをかばうように立っていたようだがよけるタイミングが遅かったのか、いきなり引っ張られた高町なのはは対応できず棒立ちだった。レイジングハートがいなきゃ死んでただろ今の、あぁでも、あの雑種がいきなり引っ張ったからってのもあるか。 そんなことを冷静に考えながら、リリィに声をかける

 

「リリィ、出てくる」

 

「わかりました、お気をつけて」

 

「何に言ってんだよ」

 

リリィの言葉に思わず苦笑い。 表情を引き締め、セットアップ中のなのはと雑種の戦いに乱入した

 

「今度こそ我が封印するぞ!」

 

「なっ!? どこから現れたんだ!」

 

「はっ!貴様と話す舌など持たんわ雑種!!」

 

今回は射角を調整し石畳の間に入るように調整、また直すのに時間がかかるのも嫌だからね。 剣をいくつも射出するが適当と言ったらおかしいけど、適当に撃っているためか当たりもしない。 それどころか暴走体は剣の隙間を縫って俺に接近していた

 

「ぬぅ! 何故だ、なぜ当たらん!!」

 

「冷静になるんだ!危ない!!」

 

「ぐぉ!?」

 

ユーノが冷静になれというが、元々演技をしているだけで冷静なのだ俺は。 体当たりを食らう瞬間、俺はばれないように後ろに跳び、小さくプロテクションを展開して衝撃を殺す。 といっても、吹っ飛ばされたように見せるために、かなりの距離飛ぶけどね

 

「くそぉ!!ん?」

 

悪態をつきながら起き上ったのはいいのだが、なぜか暴走体に背中を向けながら雑種が立ちはだかっていた。 ・・・・・・どういうつもりだこいつ

 

「雑種貴様、どういうつもりだ」

 

「お前はもう闘うな、お前が戦えば戦うほど周りへの被害が増える」

 

よく見ればわかるはずなのだが、今回の被害は石畳みの隙間に刺さった剣のみ、実際被害はそこまでない。 そして適当に撃ってるので、暴走体にダメージもゼロ。 暴走体の方は......仕方ないにしても、今回の周囲への被害はないに等しいのだが頭に血が上った雑種は気が付いていないようだ。 後ろでは高町なのはが一人で暴走体の封印を行っていた。 一人じゃなくユーノもか

 

「雑種、貴様誰に向かって口をきいている......今ここで殺してやる!!」

 

俺は王の財宝から剣を一本取出し、それで雑種に切りかかるが、やはりというかなんというか、まるでそう来るのがわかっていたように回避行動をとる雑種。 まぁわかっていたことだ。 俺とペイルでシュミレーションをし、出した答えは、あいつの転生特典の一つに未来視があることがわかっている。 ひらりと軽く避け、俺の鳩尾に拳を入れる雑種

 

「かはっ!?」

 

「・・・・・・」

 

俺はその場に倒れ動けないふりをする。 実際鳩尾にあんな軽い拳を入れられても、動けなくなるほど柔な鍛え方はしていないが、封印も終わったようだしこのまま動かないことにする

 

「帰ろうなのは」

 

「え、あ、うん......」

 

高町なのはは俺を見て何か言いたそうにしていたが、何も言うことなく雑種と一緒に立ち去る。 それと入れ違うようにやってきたのは、リリィだった。 俺は射出していた剣を消し起き上る

 

「・・・・・・お疲れ様でしたマスター」

 

「気に入らない顔だなリリィ」

 

「いえ......」

 

俺は服のほこりを払いながら立ち上がる。 その際リリィの顔を見ると、怒っているような悲しいような複雑な顔をしていた。 別にリリィがそんな表情をする必要はないんだがな

 

「まぁ、気にするなよリリィ、俺は大丈夫だから」

 

「・・・・・・」

 

リリィはそれに返事をすることはなく、俺たちは微妙な空気のままその場を後にした

 



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第十話 二度目の戦闘、そして...... リリィ、なのは視点

~リリィ視点~

 

お昼のハンバーガーを食べながら、私はマスターに言われた通りジュエルシードを監視しています。 お昼とはいえ神社には人の気配もありません、これなら誤って発動ということもなさそうです。 時間は経ち時計を見ると、ちょうどマスターが放課後になって少し経つくらいでしょうか? ジュエルシードの方を見ると、ちょうど発動したところのようでなのはさんともう一人の転生者の方が来たようです。 やっぱりマスターのように戦闘経験を積んでいないからでしょうか、なのはさんの動きはどこかぎこちないです。 もう一人の転生者の方は、実戦経験が足りないみたいですね

 

「状況は?」

 

「なのはさんが敵のとびかかり攻撃をプロテクションを使って受け止めたところです」

 

マスターもちょうど来て状況を簡潔に説明をすると何か考えているようですが、顔を上げて

 

「リリィ、出てくる」

 

マスターが決めた顔で出ていく中、私は

 

「わかりました、お気をつけて」

 

そう言うことしか出来ませんでした。 多分マスターは私が行くと言っても聞いてくれないでしょうしそれに、それが自分の役目だとわかっているからこそ、協力もさせてくれませんから。 マスターの戦い方は基本、王の財宝の射出ですが、本当の戦い方は違います。 踏み台を演じるうえで必要なのはわかりますけど、やっぱり生で見るのは心が痛いですね。 前回の戦闘で、いくら結界をはっておいたとはいえ民家を壊したことを悔やんでいましたし。 今も射角を調整して被害を最小限に抑えようとしています。 ですがあの二人にはそんなことは関係ないのでしょうね、今もフェレットが喋っていますが、マスターの気遣いには気が付いていないようですし。 マスターが暴走体に吹き飛ばされたようですが、衝撃を後ろに飛んで逃がした上に、プロテクションで防いでいたのでダメージはないに等しいようですが。 少し様子がおかしいですね、マスターが吹き飛ばされて距離が開いたのは良いですが、なのはさんは暴走体と戦闘を始めたようですが、もう一人に転生者がマスターと向き合って動きませんね。 戦闘中に敵に背を向けるのもそうですが、戦闘に不慣れななのはさんに戦闘を任せきりなのは感心しません。 マスターも気になったのか会話をしているようですが......

 

「貴様、どういうつもりだ」

 

「お前はもう闘うな、お前が戦えば戦うほど周りへの被害が増える」

 

思わず私は剣を取って斬りかかろうとしましたが、寸でのところで押さえました。 ここで斬りかかってしまってはマスターのここまでの努力が水の泡ですし、それにマスターもそんなことは望んでいません、ですが!

 

「マスターがどんな思いでそこに立っているのかも知らずに......」

 

そんな私の言葉に同意してくれる人は、ここにはいません。 そんな私の想いとは裏腹にマスターは、王の財宝から一本剣を出し斬りかかりますが、まるで分っていたかのように避けマスターの鳩尾に拳を入れる転生者。 予知系の能力でしょうか? マスターが前にそんなことを言っていたような気がします。 あんな軽い拳でマスターが動けなくなるはずはないようですが、封印ももう少しで終わるようですし、気絶したふりをしていることにしたようです。 封印も終わりこの場を後にする転生者となのはさん。 気配が遠ざかると同時に、私は草むらから出てマスターに声を掛けます

 

「・・・・・・お疲れ様でしたマスター」

 

「気に入らない顔だなリリィ」

 

ほこりを払いながら立ち上がるマスターに私は何も答えられない、マスターはこんなに辛い思いをしているのに私は何も力になれない、なのに

 

「気にするなよリリィ、俺は大丈夫だから」

 

またマスターに気を使わせてしまった。 私が欲しいのはそんな言葉じゃないのに、もっと私たちを頼ってほしいのにマスターは......

 

------------------------------

 

その夜

 

「そんなことがあったんですか......」

 

「・・・・・・」

 

今日の戦闘中の話をすると、難しい顔のマシュと明らかな不機嫌になるタマモさん。 ハサンさんは相変わらず護衛です

 

「私としては、もっとマスターは私たちに頼ってもらいたいですが......」

 

「それはしねーと思いますよ、マスターですし」

 

不機嫌ながらも意見を出してくれるタマモさん、それにしても本当に不機嫌ですね

 

「私たちは待つしかないですよ、たぶん本当に切羽詰まったときしか頼ってくれないと思いますけどー」

 

不機嫌からすねたように言うタマモさんに、私とマシュは苦笑しながら同意する。 私たちを頼るも頼らないもマスター次第、結局私たちはマスターに頼られるまで待つしかない、と言うわけですね

 

~リリィ視点end~

 

------------------------------

 

~なのは視点~

 

昨日のこともあったのに普通な様子な神木君に私は、少し怒りを覚えながら放課後ユーノ君と念話をしているとジュエルシードの発動が!

 

「織君!」

 

「なのはも感じたか、行こう!!」

 

一緒に探す約束していた織君と神社に向かうと、女の人が暴走体に襲われそうになっていた

 

「待て!」

 

織君が声を掛けると暴走体はこっちに向いたけど、いきなりとびかかってきた!

 

「っ!」

 

「プロテクション」

 

レイジングハートが防いでくれたおかげで助かったけど、怖かった......暴走体が距離を取るけど変身している間は無防備だし、どうしようと考えていたけどバリアジャケットを展開しないと危ないと思ったので変身していると

 

「今度こそ我が封印するぞ!」

 

と神木君が近くの草むらから出てきて、前と同じように剣を射出していた。 ユーノ君が言うにはレアスキルってことだったけど、でもアレじゃあ被害が!

 

「ぬぅ! 何故だ、なぜ当たらん!!」

 

どんどん射出してるけど神木君が言う通りまったく当たらない、でも

 

「あれ?」

 

地面を見て少しおかしく感じたけど

 

「冷静になるんだ!危ない!!」

 

「あ!」

 

暴走体が神木君に体当たりをして神木君が吹っ飛ばされる、自分も一歩間違えればああなっていたことを考えるとゾッとするけど、それと同時に暴走体に少し怒りがわいた。 何故かはわからないけど、暴走体の前に出てレイジングハートを構える

 

「レイジングハート、お願い!!」

 

「了解ですマスター」

 

後ろではなんか言い合いをしてるけど、そんなことを気にしてる暇はなく、私は封印に集中していた。 封印が終わって織君の姿を探すと、近くに神木君が倒れていた

 

「帰ろうなのは」

 

「う、うん......」

 

織君に話を聞きたかったけどとてもそんな雰囲気ではなく、倒れている神木君が気になったけど私はその場を後にした。 その夜、私はユーノ君と話していた

 

「ねぇユーノ君」

 

「何かななのは?」

 

「私が封印している間に織君と神木君、何があったの?」

 

「なのはが封印している間は神木君は織に斬りかかってた」

 

「斬りかかってた?」

 

あんなに吹っ飛ばされたのに斬りかかってたって、ユーノ君の話だと神木君はバリアジャケットを展開している様子がないのに、体が頑丈なのかな?

 

「うん。 あの後神木君は多少痛がってたけど逆上して織に斬りかかってたんだ。 織は攻撃を避けてそのまま気絶させたみたいだけど」

 

「そうなんだ......」

 

神木君、本当によくわからない。 なんでかわからないけど気になる存在、今日だってなんで神木君が吹き飛ばされたときに私は怒ったんだろう、アリサちゃんたちももっと怒っていいとか言ってるけどどうにも怒れないし...... そう言えば戦闘中何か気になったんだけど、何だったんだろう?

 

「なのは?」

 

「ううん、なんでもないよユーノ君。 もうこんな時間だ、お休みユーノ君」

 

「おやすみなのは」

 

~なのは視点end~

 

 



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第十一話 息抜き?

前からタマモたちと約束していた屋内プールに来ているのだが......

 

「どうしてこうなった......」

 

遠目からステージを見ると、アリサ・バニングスがステージでノリノリで歌っていた。 本当にどうしてこうなった。 まぁ、原因が俺にあると言えばあるのだが。 ステージの方を見回すと高町なのはと月村すずかの姿もある。 学校が午前で終わったので来たのだろうが、まさか予定が被るとは......

 

「ホントどうしてこうなった......」

 

「ふっふっふ、ちょうどいいですね。 ここで呪っておけば「おい馬鹿やめろ」ちぇ......」

 

タマモが手に持っていた札を胸の谷間にしまっていた。 出す時もそうなのだが、何で谷間に仕舞って濡れてないんだ? 一応今プールに入ってるんだが。 俺は浮き輪でぷかぷか浮いているだけだけど。 無駄なことを考えていたが気持ちを切り替え、俺はプールから上がる

 

「リリィとマシュはもしジュエルシードの被害が出そうなら、一般客を守ってくれ。 俺は......ハサンとでも見回りでもしてくる」

 

「あれ? 私は?」

 

高町なのはが近くにいるならハサンも近くにいるだろうということで、見回りをしようとしていたのだが、唯一呼ばれなかったタマモが声をあげる。 気を使って呼ばなかったのだが、仕方ない

 

「今回のこのプールだってタマモ発案だろ? だからゆっくりしててもいいぞ?」

 

「むー!そういう気遣いはいいですから!私が一緒に行きます!」

 

プールから上がったかと思ったら俺の腕を取り、ずんずん歩き出してしますタマモ、いや変装したかったのだが、とりあえず

 

「それじゃあリリィ、マシュ頼んだ」

 

「了解ですマスター」

 

「そちらもお気をつけて」

 

------------------------------

 

髪をオールバックにし、グラサンをかけ簡単な変装をする。 少しバレないか心配なのだが、声も少し変えるつもりだし大丈夫だろう、多分。 タマモに腕を組むのをやめてもらい、探索しているのだがまぁ見つからない。 と言うよりも思い出したのだが、今回のジュエルシードって確か分裂してるはずだし

 

「タマモ、ピンポイントで魔力追うんじゃなくて、今回は大まかな場所でいい」

 

「了解ですマスター、結界の方はいかがしますか?」

 

「今回はタマモがはってくれ、バレてはいないと思うが念のためだ。 今回はタマモ達ときてるからな、バレるのは避けたいし。 身体強化して高速戦闘なら姿は見られないだろうからな」

 

「マスター、見つけました!」

 

タマモの報告にあった方を調べてみると、どうやら高町なのはや雑種とは別の方向なようだ。 なら高速戦闘などの心配はないので、結界をはってもらい戦闘を開始する。 どうも水が元になっているようで、打撃系は効かないようだ、なら

 

「呪相、氷天」

 

都合のいいことにプールから離れている暴走体、一匹また一匹と凍らせる

 

「マスター」

 

「こっちでも魔力が近づいてくることは感じてる、ありがとなペイル。 タマモ、結界解除してずらかるぞ」

 

「はーいマスター」

 

少し離れたところからその後の事態を監視する。 雑種が動きを止めながら、高町なのはがレストリクトロックという収束系の上位魔法で動きを止めた後封印をしていた。 なんだろうか、あの雑種ほとんど役に立ってないような気がするのは気のせいだろうか? 前の戦闘などを思い出してみるが、俺の動きを止めるだけで戦闘にはあんまり参加していないような気がする。 まぁ些細なことか

 

「さてと、行くかタマモ」

 

「はーいマスター。 全く、なんで私たちが手伝わないといけないんでしょうかねぇ......」

 

「そう言うなってタマモ」

 

タマモの愚痴を聞きながらリリィたちの元に戻る、どうやらリリィたちもこちらを見つけたようで、手を振りながら近づいてくる

 

「マスター!」

 

「リリィ、マシュお疲れさん。 聞くまでもないと思うけど被害は?」

 

「特にはありません、姿を見られるようなこともなかったですし」

 

「そっか、ならゆっくりプールで遊ぼうかね」

 

そう言いながら俺はウキワを取り出し、またプールに浮かび始めたのだが場所が悪かった。 そこは流れるプールで、浮いているだけということは流されていくわけで、タマモたちとどんどん離されていく。 まぁそういう時もあるだろうということで、俺はそのまま流されながらプールを楽しんだ

 

------------------------------

 

~なのは視点~ 

 

今日は前からアリサちゃんたちと約束していたプールに来てるわけなんですが、何故かアリサちゃんが目の前のステージでノリノリで歌ってます。 お兄ちゃんはこのプールで監視員をしているので見かけたから声を掛けたんだけど、近くにステージがあってアリサちゃんがお兄ちゃんにステージのことを聞いて歌おうってことになったけど、言い出しっぺの法則でアリサちゃんが歌うことになったんだけど、最初は少し恥ずかしそうだったけど、いつの間にかノリノリで歌ってる。  今も歌が終わって満足そうに降りてきてる

 

「お疲れ様アリサちゃん!」

 

「お疲れ様!」

 

私とすずかちゃんで声を掛けると、照れたように笑いながらアリサちゃんがお礼を言う。 歌も終わって泳ぐことになり準備運動をしたのはいいけど、すずかちゃんとお姉ちゃんが水泳対決でデットヒートを繰り広げていた。 私は少し泳いで休憩を繰り返しながらゆっくり泳いで、アリサちゃんはノエルさんに泳ぎ方を教わっていた。 本当は織君もいたんだけど、用事があって遅れたみたいで、今はユーノ君と一緒に行動してる。 そんな風に休憩しながら過ごしていたんだけど

 

「っ」

 

あの独特なジュエルシードが発動した時の感じがする

 

『ユーノ君!』

 

『なのは、ジュエルシードが発動した!今織と一緒に戦ってるから来て!』

 

『うん!』

 

魔力の反応がする方に行こうとすると、近くでも同じ反応がする! そちらに視線を向けると、アリサちゃんとすずかちゃんの水着がとらていた

 

「アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

「こっのー! 水着を返しなさいよ!!」

 

「なのはちゃん!」

 

アリサちゃんは水を殴って、すずかちゃんは私に気が付いたのかこっちを見ているけど、私は気が付いてしまった濁流が二人を飲み込もうとしているのを、でも間に合わないだけど、濁流は二人を避けるように二股に流れていく。 不思議に思ったけど、どうやらユーノ君が来てくれたみたいで二人を眠らせてくれる

 

「なのは!」

 

「ありがとうユーノ君!レイジングハート、お願い!」

 

「スタンバイレディ、セットアップ!」

 

バリアジャケットに着替え、レイジングハートを使いすぐに封印しようとするけど

 

「シリアルが浮かんでこない?」

 

「なのは、たぶん分裂してるんだ!だから全部封印しないといけないんだけど......」

 

「えぇ!?」

 

いきなりそんなこと言われても、どうすればいいんだろう!? ユーノ君も考えこんでるのかブツブツ言ってるし、とりあえず目の前の封印しちゃわなくちゃ!

 

「えっと、とりあえず封印!」

 

「と、とにかく封印していこう!」

 

幸いこの施設はあまり広くなかったから、織君と合流してすぐに見つかったのはよかったんだけど、なぜか数十匹いたみたいなんだけど、数匹は氷漬けにされていた。 理由は気になるけど今は封印の方が先で

 

「なのは、僕が押さえるから封印よろしく!」

 

「うん!」

 

「まずは一か所に集めて!」

 

ユーノ君の指示のもと、私と織君は協力しながら暴走体を一か所に集めることに成功する

 

「レイジングハート!」

 

「了解です」

 

「リリカルマジカル!」

 

捕縛、固定魔法を使いいつものように封印する。 今回はシリアルも出てきたので完全封印した見たい

 

「結界が......お疲れユーノ」

 

「ううん、気にしないで。 それより戻らないと」

 

ぐったりとしているユーノ君を抱え、私と織君はみんなのところに戻る。 織君はユーノ君と散歩、私はと言うとウキワでぷかぷか浮かんでいたんだけど

 

「どーん!!」

 

「それー!」

 

「にゃー!?」

 

アリサちゃんとすずかちゃんに襲撃されました......

 



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第十二話 転生者と踏み台 戦闘

日曜日、今日も朝からジュエルシードの探索だ。 昨日の夜も封印があったので少し寝不足だが......と言っても、踏み台のポイントも十分集まってきたので、昨日の夜の戦闘は遠くから見ていただけで手を出していない。 話を戻すが今回発動するジュエルシードはどんなものかはわかっている。 今回発動するジュエルシードは、高町なのはの父親である高町士郎が監督を務めるサッカーチームのキーパーが持っていて暴走させてしまうわけだが、今回俺はどうしようか迷っていた。 ハッキリ言って今回のジュエルシードは街に被害が大きすぎる。 俺の結界で直してしまうのは簡単だが、小さい被害ならまだしも大きい被害を直すほどの魔力はあの雑種にはないだろうしな。 雑種に勘違いさせたのはよかったが、ここでそれがネックになるとは。 順調にとは言うが、こんな呪いも早く解いてしまいたいのでここでポイントを取らないわけにはいかない

 

『どうすればいいと思うペイル』

 

『私は......たまにはいいと思います。 闇の書事件終結にはまだまだ時間があります、今回を逃しても......』

 

『優しいなペイル、でも今回も踏み台としての役目は果たす、こんな呪い早く解除するに越したことはないからな』

 

そのためには今回どうするかを考えなくてはいけないのだが、基本今回はジュエルシードは発動させない。 街に被害は大きすぎるし、キーパーは前にクラスが一緒だったことがあるのだ。 問題はどうやってキーパーからジュエルシードを譲ってもらうかなのだが、物々交換か? 理由はどうしよう......それにどこで声を掛けようか。 さっきハサンからの念話で試合が始まりそうなのはわかってるんだが、ん?

 

『ハサン』

 

『マスター殿? どうされました?』

 

『試合は?』

 

『始まりましたが』

 

どうやら試合が始まっているらしい。 なら、ハサンには悪いが確認して作戦に移ることにする。 簡単なことだ、サーヴァントは霊体化して透明になることができる、しかもハサンはアサシン、気配を消すなんてお手の物だ。 少し良心は痛むし、ハサンに頼むのも嫌なのだが。 もしハサンが嫌がったらやめにして、別の作戦を考えよう

 

『荷物の周りに人影は?』

 

『見晴らしのいいとこにおいてはありますが、周りに人はいません』

 

『ハサン、すまないけどキーパーの荷物の中にジュエルシードがあるはずなんだ、それを取ってきて俺がいるところまで持ってきてくれないか?』

 

『わかりましたマスター殿、少しお待ちを』

 

どうやら持ってきてくれるらしいのだが、いいのだろうか?

 

『・・・・・・いいのか?』

 

『はい、それがマスターのためになるのなら』

 

『ありがとう』

 

受け渡しのために人気のない裏路地に入りしばらく待つ、すると近くに気配を感じる、そちらの方を見ると霊体化を解除したハサンの姿があった

 

「お待たせしましたマスター」

 

「いや、助かったハサン」

 

ハサンからジュエルシードを受け取り軽く封印しておく。 少しの想いでも暴走の危険性があるからな、軽く封印しておけば、俺が封印したこともわかるまい。 流石に落ちていたものを拾ったとはいえ、それがなくなってるのもかわいそうなので、似たようなものを王の財宝の中から探し、ハサンに持たせる

 

「これをもとにあったところに戻しておいてくれ、それが終わったら監視よろしく」

 

「わかりました、失礼しますマスター殿」

 

そう言ってハサンの姿が消え、気配も遠ざかって行く。 手の中のジュエルシードを見て策をめぐらす。 このジュエルシードを使って、どう踏み台を演じるかを。

 

------------------------------

 

夕方、俺はある路地裏を目指して歩いていた。 踏み台を演じるためだ。 ハサンに確認して高町なのはがどこにいるか把握している、どうも家にいるらしいが。 そしてもう一人

 

「探し物はこれか雑種」

 

「お前は!」

 

俺が雑種なんて呼ぶのは一人しかいないわけで、もう一人の転生者は驚いたようにこちらを向いたが、手に持っていたものを見てさらに驚いていた。 まぁそうだろうな

 

「本来なら雑種である貴様になど用はないのだが、嫁が見つからなくてな、どこにいるか知らないか?」

 

「・・・・・・お前に教える義理なんてない」

 

「そうか、ならば死ね!!」

 

挨拶代わりに王の財宝、あいてはしぬ。 ふざけている場合ではないが、埃で姿が見えなくなるが構わず撃ち込む。 数分間射出して、油断したふりをして射出を中断する

 

「ふん、いつも偉そうにしおって口ほどにもない」

 

後ろを向いてこの場を去ろうとしたのだが、ジャリと音がする。 まぁあのくらいで死んでないことくらいわかってたし、気配もする、だが俺はそのまま去ろうとする

 

「結界もはらずに何をしてるんだお前は!!」

 

「なにっ!?」

 

そう言いながら、突撃して剣を俺に振り下ろしてくる。 俺は王の財宝から一本剣を出し、辛うじて受け止めるふりをする。 結界もはらないでとは言うが、とっくの昔にはってあるし、そうやって攻撃前に声を出すのはどうなのさ? しかも俺バリアジャケットも展開してないのに、そんなんで切りかかられたら死ぬぞ?

 

「ぬぅ!」

 

「それは渡してもらう!!」

 

「調子に、乗るなぁ!!

 

「っ!?」

 

少し押されてるように見えるが、もちろん本気は出していない。 魔法の漏れ具合から見て、たぶん身体強化系を使用してるみたいだが、それでも強化してない俺には届かないみたいだ。 非力だな。 鍔競り合いの最中、ジュエルシードが入ったポケットに手を伸ばしてきたが、王の財宝から剣を射出し盗られるのを防ぐ。 大きく距離が離れると同時に王の財宝を複数展開し、射出する

 

「死ね!死ねぇ!!」

 

「はあああぁぁ!!」

 

「ぬぅ!?」

 

周りの民家に当たるのを避けるためか、空に逃げる雑種だが、剣を避けながらこちらに向かってくる。 わざと穴をあけてるからな、そこを通りながら俺に近づく。 ある程度まで近づくとシューターを放ち、俺の足元の地面をえぐり目くらましをしてくる

 

「こんなもの!!」

 

気配でわかるが、ここはあえて敵の考えに乗ることにする。 煙を払うために後ろから射出していた王の財宝を体の周りに展開し、一気に射出し煙を払う

 

「どこだ!どこにいる!!」

 

わざといる方に背を向けながら周りを見回す。 それで気配が消せてると思うなら、もう一回修行をやり直した方がいいレベルだ。 今回は無言で接近してくる。 今回は攻撃しないところを見ると、どうやら高速で接近してジュエルシードを掠め取るつもりらしいが、そこまで俺も優しくないぞ?

 

「うお!?」

 

「っ!?」

 

盗られそうになる一瞬、その一瞬で俺は足元の抉られたところに足を取られ転んだ風に見せかける。 高速で通り過ぎながら驚いているようだが、見つけた

 

「こっの、ハエめ!!」

 

「はぁ!!」

 

王の財宝を射出するが当たらす、全部雑種の後ろを通り過ぎる。 方向転換した雑種は、馬鹿の一つ覚えのようにまた真正面から向かってくる。 さっきと同じような状況になるが今回は、スピードを乗せて斬りかかって来る。 流石にこれには吹き飛ばされるが、剣を地面に突き刺し体勢を立て直したところに、また斬りかかって来るのを辛うじて受けたが

 

「がはっ!?」

 

「貴方は一人で戦っていますが私たちは二人なのです、油断しすぎですよ?」

 

「・・・・・・」

 

シューターが一つ飛んできて鳩尾に当たる。 多分雑種のデバイスだろうが、かなり生意気なことを言ってくる。 バラしてやろうかこの野郎。 雑種はそのまま俺のポケットを漁り、ジュエルシードを手にするとそのまま去ってしまう

 

「ふぅ......弱すぎだろ、本気じゃないだろうけど」

 

「大丈夫ですか、マスター?」

 

「平気だペイル」

 

俺はゆっくりと起き上がり周りを見回す、どうやら順調に治っているようだ。 服についた埃を落とし、立ち上がる

 

「ポイントの方は?」

 

「今回はオリ主に挑み無様にやられる、そういうのが好みらしくかなり稼げました」

 

「そうか、いつも悪いなペイル」

 

「いえ」

 

俺はいつものように直ったのを確認して、家路を急ぐことにした 

 



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第十三話 潜入、月村家

月村家でのお茶会、敵側であるフェイト・テスタロッサと初邂逅を果たすイベントではあるのだが、当然俺がそんな場所に招待されるわけなく、どうしようと頭を悩ませるところなのだ。 まぁ、侵入方法なんていくらでもあるわけで、結界はって空から、身隠しの布で透明になって侵入とか、そんなわけで対して頭を悩ませる問題でないことに気が付いた俺は、ジュエルシード発動までタマモたちと買い物をすることにした

 

「リリィ、食べすぎだよ......」

 

「そ、そんなに食べてませんよ!?」

 

「いやいやいや、本当はサーヴァントは食事の必要がないんですけど、あんなに食べるのはリリィさんだけですよ?」

 

「あはは......」

 

最後の良心であるマシュでさえ苦笑しながら流す、リリィがどれだけ食べたかと言うと、ハンバーガー十個、メロンパン五個、コロッケを数十個と結構食べたのだ。 商店街の人たちもいつものことなので、逆に良い食べっぷりだなんて言って買わせてくるし。 いくら王の財宝の中に金の延べ棒とかあるから予算的には問題ないにしても、もう少し節約してもらいたいものである。 タマモなんかも苦情言ってるしな。 リリィは落ち込んでいるが誰もフォロー入れる様子がない

 

「ハサンさんもゆっくり出来ればよかったのですが......」

 

「俺も休んでいいって言ってるんだけど、気にしないでくださいって言って効かないからなハサンも」

 

「流石ハサンさんですね、クラスに忠実です!」

 

「それ言ったらタマモはどうなるんだ?」

 

吹けない口笛を吹きながら俺から視線を逸らすタマモ、まぁタマモも俺の知らないところでジュエルシードの反応探ってるみたいだし、冗談だけどな

 

『マスター殿』

 

『ハサンか、念話ってことは』

 

『はい、ユーノ殿となのは嬢が動き始めました』

 

『了解、念話ありがとう』

 

どうやら俺の休日はここまでのようだ、タマモたちを見るとこちらに注目していた。 どうやらわかってるようだ

 

「さて行ってくる」

 

「お気をつけてマスター」

 

「ありがとなマシュ、それじゃあ買い物頼んだ」

 

そう言って俺はその場から駆け出す。 人通りの少ないところまで行き、そこから身体強化をし自分の周りに結界をはり、人目を誤魔化し建物を飛び移りながら移動をする。 本当は飛んでいったりした方が早いんだが、俺の魔力は普通ぐらいなので、余り長距離は飛べないのだ。 結界? 魔術側の魔力なので潤沢にあるので関係ない。 ペイルと協議して飛行魔法を改造しているのだが、もともと俺の飛行適性は普通レベルらしく、なかなかうまくいかない。 なので、こうやって建物などを飛び移った方が早いのだ。 かなりの距離を移動してようやく月村邸の前につく、身隠しの布で身を隠しそのまま中に突入、どうやら戦闘は始まったばかりのようで高町なのはが猫の上に乗ってプロテクションを展開していた。 だがフェイト・テスタロッサはそんなのをものともせずに接近戦に移行、だが数の差は高町なのはたちの方が利があるので拮抗していた。 三人で拮抗とは、この時点でフェイト・テスタロッサ戦闘力の高さがよくわかる。 これを追い抜く高町なのはもすごいが さて、どっちに加勢するわけではないが拮抗を崩さないとな。 俺は王の財宝から一本の剣を出し、雑種に投げつける。 別に私怨ではないぞ?

 

「っ!? 誰だ」

 

「何故貴様がそこにいる雑種!そこは俺のポジションだ!!」

 

そう言って俺はまた剣を出し、雑種に斬りかかる。 いきなりのことで処理が追い付かないのか、そのまま鍔競り合いをしながらフェイト・テスタロッサに笑顔で話しかける

 

「嫁よ大丈夫か?」

 

「・・・・・・?」

 

こちらを不審そうに見ているが、何も言ってくることはない。 それどころか俺のことを無視してジュエルシードに向かって行く

 

「待って!」

 

「待てなのは!一人じゃ「雑種が我が嫁に話しかけるな!!」くっ、邪魔だ!!」

 

もう一本剣を出し両手で切りかかるが、雑種は俺を押し返し距離を開ける。 そのまま睨み合う俺達、だがその硬直状態も崩れる

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

「っ!?」

 

「なのは!!」

 

高町なのはが落とされた。 どうやら気絶しているのか、雑種が呼んでも反応がない。 落下地点に急いで走るのだが

 

「んご!?」

 

・・・・・・変な声が出たが、何でか知らないが人のことを踏み台にして、空中で高町なのはをキャッチしていた。 これが本当の踏み台転生者だね!ってか、ぶち殺すぞ雑種。 高町なのはがいるから撃ちはしないが、雑種だけだったら撃ってるぞ確実に。 ふと空を見てみるとフェイト・テスタロッサが俺たちを見下ろしていた

 

「嫁よ、そんなところにいないで降りてきて一緒に愛を語ろうではないか」

 

我ながら気持ち悪いセリフだが効果はあったらしく、少し顔を顰めながらすぐにその場を去った。 さて、フェイト・テスタロッサも帰ったことだし、俺がいつまでもいるのもおかしいので、フェイト・テスタロッサを追いかけるふりをして帰ることにする

 

「待つのだ嫁よ!!」

 

------------------------------

 

~高町なのは視点~

 

すずかちゃんの家でお茶会をしているとジュエルシードの反応が、ユーノ君や織君と念話で話していたんだけど、ユーノ君を探しに行くことにして私がその場を離れて、織君が少し経ってから私を探しに行くことにするっていう作戦でうまくいった

 

「「・・・・・・」」

 

ジュエルシードの発動地点まで来たけど、私とユーノ君は呆然としていた。 猫さんが、猫さんがおっきくなっていた。 大人の猫ぐらいではなく、こう絵本とかに出てくる巨大化したような猫が。 どうしたらいいんだろうこれ......ユーノ君を見るけど、ユーノ君はこちらを見てないから困る

 

「封印しないのか?」

 

「あぁ、うん......」

 

「そ、そうだね」

 

そうだ封印、封印。 余りにも猫さんのインパクトが強くて呆然としてた。 レイジングハートを手に持ち変身しようとすると

 

「にゃああぁぁ!?」

 

「「「!?」」」

 

猫さんがどこかから攻撃を受けた、連続で飛んできてるみたいでそちらに視線を向けると、金色の髪をした子が攻撃をしていた

 

「なぁーう」

 

「はっ!レイジングハート、お願い!」

 

「スタンバイレディ、セットアップ」

 

手早く変身をし、猫さんの上で猫さんを覆えるぐらいのプロテクションを展開して、金色の髪の子からの攻撃を防ぐ。 驚いたように攻撃が一瞬止まるけど、今度はすごいスピードで接近してきた、驚いたけど対応しようとするんだけど、猫さんが倒れ始めててバランスを崩してしまう。 でも

 

「っ」

 

織君が助けてくれる。 ユーノ君がバインドで動きを防ごうとすると、凄いスピードでかわしてしまう。 三人で戦ってるのに隙が見つからない

 

「っ!? 誰だ」

 

「何故貴様がそこにいる雑種!そこは俺のポジションだ!!」

 

いきなり織君に剣が飛んできたと思ったら、何故かわからないけど神木君が織君に斬りかかっていた。 またまたいきなりのことに呆然としてしまうけど、それは金色の髪の子もおんなじみたいで呆然としてた。 そんな様子に気が付いてないのか、神木君は構わず話しかけていた

 

「嫁よ大丈夫か?」

 

「・・・・・・?」

 

えっと初対面のはずなのに、なぜか私たちと同じように嫁発言をしていた。神木君を不審そうに見ているが、何も言わない、それどころか神木君のことを無視してジュエルシードに向かって行く。 ってジュエルシード!

 

「待って!」

 

「待てなのは!一人じゃ「雑種が我が嫁に話しかけるな!!」くっ、邪魔だ!!」

 

織君が何か言ってたけど、ジュエルシードはユーノ君の探し物で危険なものだ。 どんな目的で集めているかわからないけど、ともかく話し合わなきゃ!

 

「ねぇ待ってよ! なんで貴女はジュエルシードを集めてるの!」

 

「・・・・・・話しても、意味はないから」

 

急に方向転換をして手に持っているデバイスで切りかかって来る、何とか反応は出来たけど

 

「・・・・・・ごめんね」

 

「えっ? きゃ!?」

 

切り払われてすぐに砲撃、それで私は

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

すぐに気を失ってしまった。 目が覚めたときにはすずかちゃんのお家で寝てて、どうやら私はユーノ君を探してる間につまずいて気を失ったことになってたみたいで、それで......

 

------------------------------

 

「ねぇユーノ君、今日のあの子とまた戦うことになるんだよね」

 

「・・・・・・ジュエルシードを集めてるみたいだったし、そうなると思う」

 

その日の夜、寝る前にユーノ君に聞いてみるとそんな答えが帰ってきた。 戦うのは怖い、でもそれ以上に私は、あの金色の髪の綺麗な赤い瞳が寂しそうだったのが気になった

 

~高町なのは視点end~

 

 

 



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第十四話 The second time of the encounter

おはこんばんにちわ、神木理樹です!・・・・・・俺はいったい誰に自己紹介をしているんだろう、しかもハイテンションで。 そんな些末なことはさておき、ゴールデンウィーク、一般的な家庭なら家族とゆっくり家で過ごすか、家族で泊りがけで出かけるなんてことをすると思うのだが、うちの一家はジュエルシードを探していた。 でもよくよく考えると、去年までも修行しているか家でゆっくりしているかなどで、ゴールデンウィークは出かけたことがない。 そう考えるとどこか出かけてもいいのではと思うのだが、今は目の前の件に集中しよう

 

「ハサンさんは今頃温泉でしょうか?」

 

「一応偽名で旅館に泊まれるようにはしたけど、泊まってるとは思えないんだよなぁ......」

 

今日の街の見回りはマシュと行っているのだが、マシュと話すのはハサンのこと。 本当に休んでいいと言ってはいるのだが、昼間つまり俺が学校に行っている間だけしか休んでいない。 今回は監視をしつつ温泉などでゆっくりしてもらうために偽名まで使って旅館に予約したのだが、泊まってる気がしない。 俺がため息をついているとマシュは隣で苦笑していた。 今日の街の見回りでのジュエルシード結果、収穫なし

 

------

 

『マスター殿!』

 

『ハサン? どうしたんだ』

 

『ジュエルシードが発動しました!』

 

『わかったすぐに向かう』

 

夜も更けそこそこ遅い時間、ハサンから念話が飛んできた。 内容を聞いてみるとやはりというか、ジュエルシードが発動したようだ。 急いで着替えをして転送魔法の準備をする、ハサンの位置は大体わかるので転送をすると

 

「マスター殿、こっちです」

 

「ハサン、どういう状況だ」

 

「まだ発動したばかりですが、この通りです」

 

草むらから状況を見るに今いるのはフェイト・テスタロッサと使い魔だけで、封印も終わったようだが魔力反応が近づいてくる。 どうやら主人公の到着のようだ。 何か話しているようだが、使い魔が襲い掛かる。 だが使い魔はユーノが自分ごと転送魔法を使い、二対一になる。 気を引き締めるフェイト・テスタロッサ、先に動いたのはフェイト・テスタロッサで、高町なのはに切りかかる。 戦力的には不利だが、前回の戦いからそこまで時間がたっているわけではないので、高町なのはを戦闘不能にしてから雑種を相手にするのはいい判断だが、雑種がそれをさせまいとフェイト・テスタロッサと高町なのはの間に入るが、そうはさせない

 

「ハサン、戦闘に介入する」

 

「わかりましたマスター殿」

 

俺の隣にいたハサンは霊体化して透明になる。 それと同時に気配も遠ざかっていくのを確認した俺は王の財宝を展開し、フェイト・テスタロッサと雑種の間に剣を射出する。 いきなり飛んできた剣に警戒し距離を開けるフェイト・テスタロッサ、雑種は俺のことを睨んでいる

 

「ふむ、嫁のピンチに颯爽と駆けつける俺、流石だな!」

 

「・・・・・・なんでお前は俺となのはの邪魔をするんだ」

 

「貴様などどうでもよい雑種、それに俺はなのはの邪魔などしていない。 もちろんフェイトのもだが」

 

「!」

 

俺がフェイト・テスタロッサの名前を呼ぶと明らかに警戒される。 まぁ、当たり前だな。 この時点じゃ誰も......いや、俺ともう一人は知ってるか。 ともかく知らないはずなので、警戒するのは当たり前だ。 だが俺はそれに気が付かないふりをして、フェイト・テスタロッサに話しかける

 

「ん? どうしたのだ嫁よ、俺としては見られるのは構わないが今は戦闘中だぞ?」

 

「・・・・・・神木君はなんでその子の名前を知っているの?」

 

フェイト・テスタロッサの不快度を稼いでいると、高町なのはが疑問に思ったのか俺に話しかけてくる。 まぁ、正直に俺が言うわけもないので、適当に誤魔化しておく

 

「ん? フェイトばっかりかまっていて寂しかったのか? だが安心しろ、俺はなのはも愛している!」

 

「そんなことを聞いているわけじゃないだろ、ふざけるな!!」

 

激昂したようにいきなり切りかかってくる雑種、俺は焦ったように王の財宝から剣を取り出しかろうじて受け止めるふりをする

 

「毎回毎回貴様は......我と嫁の愛の語らいの邪魔を、いい加減にしろ!!」

 

「それはこっちのセリフだ!!」

 

激昂したように見せながら王の財宝を射出するが、それを避けた雑種はシューターをこちらに発射してくる。 それを舌打ちしながら俺は王の財宝を射出する。 再び切りかかってくる雑種だが、距離が離れたことによりスピードもプラスされているため、そのまま切り払われ吹き飛ばされる

 

「ぬぅ!まだまだだ!!」

 

何とか体勢を立て直すふりをして逃げながら王の財宝を射出、だが穴だらけの射線を縫うように近づいてくる雑種、俺は反転してさっきとは逆に切りかかる。 これだけ離れれば高町なのはやフェイト・テスタロッサも流れ弾で被害を負うってことはないだろう。 そもそも俺の転生の特典、王の財宝は味方との共闘には向かない。 味方居ないけど。 脱線はしたが、本気を出せば王の財宝は使わないがそれじゃあ意味がない。 つまるところ、俺は逃げながら戦って、自分の戦いやすい所に行くしかないわけだ

 

「お前は戦うのをやめろと言ったはずだ!お前の能力は危険すぎるんだ!」

 

「雑種如きが、我に指図をするな!!」

 

鍔競り合いから距離をとり、王の財宝を射出する。 雑種シューターを駆使しながら、俺に近づき切りかかる。 俺はかろうじて剣で受け止めているためか、切り傷が増える。 余裕は余裕なのだがわざと肩で息をしながら、高町なのはとフェイト・テスタロッサの方を見る。 やはり高速戦闘はフェイト・テスタロッサに分があるらしく、高町なのはは苦手な近接戦闘に持ち込まれていた。 どうも記憶に刻まれた戦闘より、若干だが近接戦闘が苦手なように見える。 やはり俺たちみたいなイレギュラーがいるためか、記憶に刻まれた通りというわけにはいかないようだな。 まぁ、闇の書事件に関わるつもりはないから、とやかくは言わないがこれに関しては目の前の転生者は考えているのだろうか? 何もかも原作通りにしろなんて言わないが、これから先雑種がいない状況で高町なのはが一人になったとき、原作より戦力の低下は致命的になると思うのだが。 それじゃなくても、さっきも言った通り、俺たちのせいで原作通りに行かない可能性もあるのに。 それにしても、マルチタスクを使用しているとはいえ、こうやって長いこと考え事しているのに攻撃してこないとは、完璧になめられてる。 あっちも苦しそうだし、もう終わりにするか

 

「はぁ、はぁ......雑種ぅぅぅぅぅ!!」

 

王の財宝を多数展開しそれを射出、穴だらけの弾幕だからこれまで通りよけられて、接近を許し剣をふるうが弾かれ手から剣が飛ぶ

 

「雑種がぁぁぁぁぁぁ!」

 

手元に王の財宝を出現させるが、拳が顔面に迫っていた。 剣をとるとするが俺は思いっきり殴られて吹き飛ぶ。 吹き飛ばされながら俺は雑種から見えないようににやりと笑った。 どうやら俺の作戦は上手くいったようだ。 地面に着地し、ゴロゴロと何回か転がり止まる。 近くから離れていく気配、毎度毎度思うのだが気絶したのを確認してから離れろよ。 結界も解除され魔力反応が全員離れてから俺は仰向けに寝転がる

 

「マスター殿、大丈夫ですか?」

 

「問題ない、ないんだが傷自体は治してから帰らないとタマモがキレるな」

 

「ですな」

 

俺が仰向けになると同時に近くに現れるハサン、どうやら心配してくれているようだ。 タマモのことを言うと仮面があるから表情はわからないが、苦笑しているような雰囲気が。 実際タマモはキレたら何するかわからないからな、こんなことで令呪消費するのは嫌だし

 

「温泉入ったかハサン」

 

「いえ、せっかくですが遠慮させていただきます」

 

「まったくお前は......」

 

今度はこっちが苦笑してしまう。 傷も治り周りの修復も終わったので、俺は起き上がりハサンに一言告げてから帰ることにした

 

「それじゃあ頼むなハサン」

 

「ありがとうございますマスター殿、では」

 

またも霊体化して消えるハサン、俺も帰るために歩き始める。 帰りは転送魔法じゃなくて飛ぶことにしたからな!

 



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第十五話 The second time of the encounter なのは視点

~なのは視点~

 

ゴールデンウィークがやってきました!今日は家族や友達のアリサちゃん、すずかちゃん、すずかちゃんのお姉さんの忍さんやメイドのノエルさんとファリンさん、そして幼馴染の織君と一緒に車で温泉に向かっています。 ジュエルシード集めは今回はユーノ君や織君に言われてお休みです、なので私は今回子供らしく温泉を楽しみたいと思います。 どここからか、そんなこと言ってる時点で子供らしくないって言われたような気がしますが。 温泉についてさっそく温泉に! なのですが......

 

「なんでよ!?」

 

「いやいやいや、僕男湯に入るから」

 

こんな感じで織君とアリサちゃんが揉めています。 すずかちゃんも困ったように見てるし、私もそんな無理を言って入ろうとは思わないから静観中です。 アリサちゃんもどっちでもいいらしかったんだけど、あまりにも織君が興味なさそう男湯に入るって言ったからか、なんか女のプライドがなんて言ってヒートアップしてる。 すずかちゃんと目を見合わせるけど、あそこまでヒートアップしてるとなかなか止められないから困ってるんだけど

 

「きゅっ!」

 

「あ、ユーノ君!?」

 

腕に抱いてたユーノ君がいきなり地面に着地し、なぜか男湯の方に入って行ってしまった。 どうしたんだろうユーノ君、いきなり男湯の方に行くなんて

 

「ユーノが男湯に行ったみたいだし、僕行くね?」

 

「あ、ちょっと!」

 

織君はアリサちゃんが何か言ってるけど気にせずに男湯に入って行ってしまった、もしかしてユーノ君と念話で話してた?

 

------

 

「はふぅ......」

 

お姉ちゃんの背中を流して温泉の中で一息つく、体がポカポカして日頃の疲れが抜けていく感じがする。 隣を見るとアリサちゃんとすずかちゃんも気持ちよさそうに目を細めていた、はふぅ

 

------

 

お姉ちゃんや忍さんたちはもっと入っているみたいだけど、私たちは十分温泉を堪能したので旅館内を探検することにした。 発案者はアリサちゃんで、いざ周ろうと女湯の入り口から出ると織君が待っていた。 ユーノ君が織君の肩に乗ってる。 アリサちゃんがさっきのことで詰め寄ろうとするけど、牛乳瓶を渡すことで言い合いを回避してた。 でも温泉とかでもそうだけど、お風呂とか入った後に飲む牛乳はなんか味が違うような気がするけど、気のせいなのかな? 気を取り直して旅館を移動中、オレンジ色の髪をしたお姉さんに話しかけられた

 

「んん~? ほうほうほう、君らだねうちの子にアレをあれしてくれたのは?」

 

「え?」

 

「・・・・・・」

 

身に覚えのないことを言われて固まる私、ユーノ君と織君はオレンジ髪のお姉さんを警戒していた。 私が呆然としていると、アリサちゃんが私とオレンジ髪のお姉さんの間に入ってくれる

 

「ねぇなのは、この人と知り合い?」

 

「ううん、知り合いじゃないと思うけど......」

 

アリサちゃんが聞いてきたので正直に答ええると、アリサちゃんはオレンジ髪のお姉さんに向き直り

 

「この子貴女とは知り合いじゃないって言ってますけど、人違いじゃないですか?」

 

「・・・・・・あーはっはっはっは!!」

 

いきなり笑い出すオレンジ髪のお姉さん、私たちはぎょっとして後ずさってしまう。 ひとしきり笑って満足したのか、私たちに向き直る

 

「ふぅ、ごめんごめん。 知り合いの子に似ていたもんで勘違いしてたみたいだ、そのフェレット撫でてもいいかい?」

 

「あ、はい」

 

それまでのピリピリした雰囲気から一転、フレンドリーになったお姉さんはユーノ君をなでたいって言っているので、織君がユーノ君を差し出すと撫で始めたんだけど

 

『これは警告だよ』

 

『『『!?』』』

 

オレンジ髪のお姉さんを見ると鋭い目で私や織君、ユーノ君を見ていた。 また警戒をし始めるとその様子に満足したのか、一言言ってその場を後にするオレンジ髪のお姉さん

 

『いい子はお家でいい子にしてな、してなかったら......がぶっと行くからね』

 

「じゃーねー、おちびちゃん達!」

 

角を曲がって完全に姿が見えなくなると、アリサちゃんが一言

 

「あーもー!なんなのよ!!」

 

------

 

夜、ふと目が覚めると織君が着替えていた

 

「織君?」

 

「なのは起きたのか」

 

「なのは」

 

ユーノ君は肩に乗って準備万端、私は......

 

「私も行くよ」

 

旅館を出て森を歩く。 今日の昼間にあったオレンジ髪のお姉さんは、たぶんこの間会った金色の髪をした子の関係者だろうということになった。 そして金色の髪をした子がいるってことは、この付近にジュエルシードがあるってことで、私たちはそれを探している。 でも、少し離れたところで光が

 

「ジュエルシードだ!」

 

「レイジングハート、お願い!」

 

私と織君が変身、ユーノ君が結界を張ってくれたので急いで飛んでいくと

 

「やっぱり!」

 

「昼間の人もいるな」

 

ジュエルシードは金色の髪の子が封印したみたいだけど、その傍らには昼間のオレンジ髪のお姉さんがいてこちらに気が付いたのか、笑顔で手を振っている

 

「やっほーおちびちゃん達。 昼間に言ったはずだけど、いい子はおうちでいい子にしてろってね!!」

 

オレンジ色の光に包まれたと思ったらお姉さんの姿はなく、狼? 犬が

 

「使い魔だ!」

 

「使い魔?」

 

私は気になってユーノ君に聞くと、ユーノ君ではなく狼さん? が答えてくれる

 

「そう、そのフェレットの言う通りさ。 使い魔というのは魔法生命体、製作者の魔力を糧に命の限りご主人様を守るのさ、だからぁ!」

 

「させない!!」

 

飛びかかってくる狼さん? だけどその攻撃をユーノ君が防いでくれる

 

「そんなもんで!」

 

「織、なのはをお願い!」

 

ユーノ君はそういうと転移魔法でどこかに転移してしまう。 そんなに離れていないとは思うけど、ちょっと心配。 でも、目の前を見て気を引き締める

 

「いい使い魔を持ったね」

 

「ユーノ君は使い魔じゃないよ、友達」

 

「・・・・・・」

 

そのまま見つめ合う私と金色の髪の子

 

「・・・・・・それを渡してくれないか? それは危険なものだしなにより、ユーノが集めているんだ」

 

「それは出来ない、私たちだってこれを集めてる」

 

「話し合いは? 集めてる理由次第だけど、協力できるかもしれない」

 

私の言葉に考える金色の髪の子。 でもすぐにデバイスを構えて、見てくる

 

「話し合うだけじゃ何も変わらない。 言葉だけじゃ、伝わらない!」

 

「っ!?」

 

そう言って向かってくる金色の髪の子、一瞬姿を失ったけど後ろからの攻撃をかがんで避ける。 次の攻撃が来るけど、織君が防いでくれた

 

「確かにそうかもしれない、でも話し合わなきゃ何もわからない!」

 

距離をとる金色の髪の子だけど、織君と金色の髪の子の間に剣が通り過ぎる

 

「ふむ、嫁のピンチに颯爽と駆けつける俺、流石だな!」

 

神木君だった。 旅館で見かけなかったけど、なんでここにいるんだろうか? ジュエルシードが発動したのを感知したからなのかな? いろいろな考えが浮かぶけど、今は目の前のことに集中しようとする

 

「・・・・・・なんでお前は俺となのはの邪魔をするんだ」

 

「貴様などどうでもよい雑種、それに俺はなのはの邪魔などしていない。 もちろんフェイトのもだが」

 

「!」

 

織君は神木君と対峙してるとき、いつもと雰囲気が違う、それに言葉遣いも。気になるけど今はそんな場合じゃない、神木君はあの子のことフェイトと呼んでいた。 なんで? 二人は親しいのかと思ったけど、今の様子からして絶対に違う。 事実、フェイトって呼ばれたあの子は明らかに神木君を警戒してる

 

「ん? どうしたのだ嫁よ、俺としては見られるのは構わないが今は戦闘中だぞ?」

 

「・・・・・・神木君はなんでその子の名前を知っているの?」

 

神木君に気になって聞いてみたけど

 

「ん? フェイトばっかりかまっていて寂しかったのか? だが安心しろ、俺はなのはも愛している!」

 

何時ものように適当なことを言って誤魔化される。 でも、そんな神木君の態度が気に入らなかったのか、織君が神木君に詰め寄ってる

 

「そんなことを聞いているわけじゃないだろ、ふざけるな!!」

 

「毎回毎回貴様は......我と嫁の愛の語らいの邪魔を、いい加減にしろ!!」

 

「それはこっちのセリフだ!!」

 

「ぬぅ!まだまだだ!!」

 

そのまま神木君たちはどこかに行ってしまい、残されたのは私とフェイトと呼ばれた子だけ

 

「ねぇ、聞いてもいいかな?」

 

「・・・・・・なに?」

 

「神木君とは知り合いなの?」

 

ふるふると首を振るフェイトと呼ばれた子、ならなんで神木君は知ってたんだろう?

 

「っ!」

 

「っ!? レイジングハート!」

 

考え事に没頭していた私は、いつの間にか接近していたフェイトと呼ばれた子に気が付いたのは、目の前に来てからだった。 レイジングハートに頼んで飛行魔法を展開し空を飛ぶけど、すぐに追いつかれて武器を振るわれる。

 

「っ!いきなり、話を!」

 

「かけて、あなたが持つジュエルシードを」

 

そのまま切り付けられなんとか防いでるけどけど、このままじゃ!いったん距離開けるフェイトと呼ばれた子だけど、大きく武器を振りかぶってこちらに迫ってくる。 でも

 

「っ!?」

 

高速で私とフェイトって呼ばれた子の間を何かが通り過ぎていく、大きく距離を離すフェイトってよばれた子。 今なら!

 

「レイジングハート!」

 

「ディバインバスター」

 

「・・・・・・」

 

私の放った砲撃に飲み込まれるフェイトって子、少しやりすぎたかと思ったけどその直後

 

「なのは!」

 

ユーノ君の声とともに、私の首元には何かが添えられていた。 それ添えてるのはさっき砲撃に飲み込まれたはずのフェイトって呼ばれた子で、私はそのまま動けない、でも

 

「プットアウト」

 

「レイジングハート何を!?」

 

レイジングハートはジュエルシードを取り出していた。 それを見たフェイトって子は

 

「ご主人思いのいい子なんだね」

 

そう言ってレイジングハートから出されたジュエルシードをつかみ、地面に降りはじめる。 私も徐々に高度を落とし地面に着くころには、フェイトて呼ばれた子は背を向けて歩きはじめていた

 

「ま、待って!その」

 

「もうジュエルシードには関わらないで、次は止められるかわからないから」

 

そう言われて思い出すのはさっきのこと、でも

 

「私高町なのは!貴女は?」

 

「フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

なんでかわからないけど自己紹介をしていた。 そのまま飛んでいくフェイトちゃんを見ながら考える

 

「もっと強くならなきゃ、そうじゃないと話も聞いてくれない」

 

~なのは視点end~

 



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第十六話 The second time of the encounter フェイト視点

~フェイト視点~

 

ロストロギア、ジュエルシード。 それが母さんが集めている物の名前。 私はそれを集めるために、使い魔であるアルフと一緒に第九十七管理外世界 地球に降り立っていた。 ジュエルシードを集めていると、現地の魔導師と思われる白い子と会った。 ジュエルシードを巡って戦いになったけど、結果は私の勝ち。 ジュエルシードは私が貰ったけどその時に変な男の子にあった。 なぜか私のことを嫁と呼んでいたけど、わけがわからなかった。 そのことをアルフに言ったら、かなり怒ってなだめるのが大変だった。 それから数日、私は森の中でジュエルシードを探していた。 広域のサーチで大体の場所は割り出せたので、場所の特定をしているところだ。 その途中、アルフから念話が来る。 内容はこの間の白い子に会ったらしい、アルフは大したことはないと言ってたけど関係ない。 私の目的はただ一つ、母さんのためにジュエルシードを全部集める、それだけだ。 アルフとは夜に落ち合うことにして、私はより正確な位置を知るためにサーチをかける。  そして夜、私と合流したアルフの目の前には発動したジュエルシードが

 

「ほぇー、これがジュエルシードかい、すごいもんだねー。 でも、なんでフェイトのお母さんはこんなものを集めてるのかねぇ」

 

「わからない、けど母さんが必要だって言うんだから集めるだけ。 バルディッシュ」

 

「イエスサー」

 

私は手の甲についている宝石に話しかける。 バルディッシュ、私の大切な家族が作ってくれたインテリジェントデバイス。 声をかけると宝石は輝きはじめ、持ち手の長い斧の形になる。 そしてそれを構え

 

「アルフ、サポートよろしく。 ジュエルシード、封印!」

 

封印すると流れ出ていた魔力は止まり、こちらに飛んでくる。 飛んできたジュエルシードにバルディッシュを近づけると、吸い込まれる。 ジュエルシード封印は完了した、あとは

 

「やっほーおちびちゃん達。 昼間に言ったはずだけど、いい子はおうちでいい子にしてろってね!!」

 

この前の白い子と、その白い子より少し強いくらいの男の子。 アルフが狼に変身して飛びかかるけど

 

「させない!!」

 

多分あの子たちのどちらかの使い魔、と思われる動物がプロテクションを展開したみたいだ。 でも、あの程度でアルフを止められるはずがない、事実アルフが押す力は強くなる。 けど

 

「そんなもんで!」

 

「織、なのはをお願い!」

 

使い魔の転移魔法でどこかに転移してしまう。 アルフも私も少し油断していたかもしれない

 

「いい使い魔を持ったね」

 

「ユーノ君は使い魔じゃないよ、友達」

 

「・・・・・・」

 

返事をしたのは白い子で、どうやら使い魔ではないらしく友達だったようだ

 

「・・・・・・ジュエルシードを渡してくれないか? それは危険なものだしなにより、ユーノが集めているんだ」

 

今度は男の子がそう問うてきたけど、私の言葉は決まっている

 

「それは出来ない、私たちだってこれを集めてる」

 

「話し合いは? 集めてる理由次第だけど、協力できるかもしれない」

 

私の言葉に女の子の方は納得できないのか、そう言ってくるけど

 

「話し合うだけじゃ何も変わらない。 言葉だけじゃ、伝わらない!」

 

「っ!?」

 

私は持ち前のスピードを活かして、まずは女の子の後ろに回り込みバルディッシュを振るう。 でも、死角からの一撃だったのにもかかわらず、女の子は屈んで私の攻撃をかわした。 私も一撃で決まるとは思ってはいない、続いてバルディッシュを振るうけど

 

「確かにそうかもしれない、でも話し合わなきゃ何もわからない!」

 

男の子に防がれる。 やっぱり二対一、一筋縄じゃいかない。 仕切りなおすために距離を開け、再び切りかかろうとすると私と白い子たちの間を剣が通り過ぎる

 

「ふむ、嫁のピンチに颯爽と駆けつける俺、流石だな!」

 

この間の変な子だった。 女の子たちの仲間なのかとも思ったけど、どうも違うらしい。 男の子同士の会話は険悪なものだ

 

「貴様などどうでもよい雑種、それに俺はなのはの邪魔などしていない。 もちろんフェイトのもだが」

 

「!」

 

アルフや母さんしか知らないはずの名前をどうして知っているのか、考えたけど思い当たるはずもなく。 私はこの変な子に対して警戒を強める

 

「ん? どうしたのだ嫁よ、俺としては見られるのは構わないが今は戦闘中だぞ?」

 

私に笑いかけてくるけどどうしてだろう、どうにも受け付けられない。 何を言っても無駄な気がするので、より一層警戒することにした

 

「ん? フェイトばっかりかまっていて寂しかったのか? だが安心しろ、俺はなのはも愛している!」

 

私が思っていた通りだったらしく、今も白い子と会話していたけどまったく話が噛み合っていなかった。 そんな変な子の態度に男の子は怒っているのか、切りかかる。 そのまま二人ははどこかに行ってしまい、残されたのは私と女の子だけになる

 

「ねぇ、聞いてもいいかな?」

 

「・・・・・・なに?」

 

「神木君とは知り合いなの?」

 

私は女の子の質問に首を振る。 あんな変な子会ったこともないし、話したこともない。 私の答えに考え込むようなそぶりを見せる女の子。 でも今は戦闘中だ、私は接近してバルディッシュで切りかかる

 

「っ!」

 

「っ!? レイジングハート!」

 

目の前でバルディッシュを振るったのに、寸でのところで避けるなんて、やっぱりこの子は油断できない。 少しこの子への評価を改めながら切りかかる

 

「っ!いきなり、話を!」

 

「かけて、貴女が持つジュエルシードを」

 

話なんて聞くつもりはない、私が欲しいのはジュエルシードで、そして......私はそのまま連続で切りかかる。 やっぱり対応できなくなってきているらしく、少し体勢を崩したところで、このまま勝負を決めようと大ぶりの攻撃をしようとしたけど

 

「っ!?」

 

高速で私と女の子の間を何かが通り過ぎていく。 どこから来たのかわからないけど、追撃が来たら間違いなくまずい! 急いで離れるけど、それは女の子に隙を与えてしまったようだった

 

「レイジングハート!」

 

「ディバインバスター」

 

「・・・・・・」

 

私に迫るのはピンク色の砲撃。 確かにこれに当たれば私は落ちないにしても結構なダメージだけど、加速の魔法を使い高速移動。 砲撃を避けるためにまず真上に移動し、そこから彼女の目の前まで移動しバルディッシュの魔力刀を首筋に当てる。 どうやら女の子は動けないようだけど

 

「プットアウト」

 

「レイジングハート何を!?」

 

「ご主人思いのいい子なんだね」

 

本当にそう思う。 バルディッシュもいい子だけど、このレイジングハートって子もとってもいい子みたい。 私は吐き出されたジュエルシードを受け取り、そのまま背を向ける、けど

 

「ま、待って!その」

 

「もうジュエルシードには関わらないで、次は止められるかわからないから」

 

これは本当のこと。 何度も何度も当たるなら容赦は出来なくなる

 

「私高町なのは!貴女は?」

 

「フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

なんでかわからないけど自己紹介された。 正直に自己紹介しちゃったけど大丈夫かな? 内心ちょっと不安だったけど、そのあとは転移魔法で拠点であるマンションに戻ってきたけど、気になるのはあの変な子。 何故私の名前を知っていたのか

 

「・・・・・・でも、考えてもわかるはずないよね」

 

「ん? フェイト、何か言ったかい?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

気にはなったけど、正直言ってあの変な子のことを思い出すと少し気分が悪くなるので、私はその疑問を頭の片隅に追いやり、少し仮眠をとることにした

 

 



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第十七話 Happy dream

夢を夢だと認識できる夢、明晰夢

 

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~フェイト視点~

 

なんでか私は今夢を見ている。 夢を夢って認識できるのはおかしいと思うけど、懐かしい記憶を夢で見た。 リニスがいた時の夢だ。 リニス、母さんの使い魔であるリニス、リニスは高度な知性とハイレベルな魔力を持った使い魔で、私に魔法やいろんなことを教えてくれた。 バルディッシュを作ったのもリニスだ。 リニスの授業は厳しかったけどすごくためになった、今使っている魔法もリニスから教えてもらったものがほとんどだ。 リニスのことを思い出していると夢は、アルフと会った時のことを思い出していた。 アルフは元々野生の狼で、病気で弱っていたところで出会ったのだ。 でもアルフは病気で長くなく、リニスにかなり無理を言って使い魔の仮契約をしたのだ。 あの時は魔力をかなり吸われて大変だったけど、リニスの考えで食事などをちゃんととり、規則正しい生活をして魔力を増やしたためか魔力を吸われる感覚も気にならなくなった。 あのころのアルフ可愛かったな、言葉とかも少し疎かったし。 場面は変わりリニスと勉強をしている場面だ。 リニスは忙しく母さんの世話や私の魔法の訓練、時の庭園の管理などいっぱい仕事していたけど、私やアルフといるときは常に笑顔だった。 お風呂は......恥ずかしいから思い出したくない。 場面は変わって、あぁ、ここはアルフと契約を交わした時だ。 あの日はアルフと出会った時のように朝から雨が降っていて、いつもなら呼べば出てきてくれるアルフなんだけど、その日はいくら探しても出てきてくれなくて、リニスに相談したら探索魔法を使ってくれてようやく見つけられたのだ。 アルフは外にいてずぶ濡れだった。 なんで外にいたのかっていうと、書庫に出してあった使い魔関連の本を見たのか、私に捨てられたり消されると思ったのかショックを受けてたんだ。 でも、私の使い魔の契約内容を聞いて勘違いは解けた

 

汝使い魔アルフ、主フェイトとの契約の元、以下の制約を遵守し履行せよ。 その四肢と心を持って自らの望む、満足できる生き方を探しそれを行え。いかな地にあっても、主と遠く離れていても命が尽きるまでその制約を胸に

 

これがアルフとの契約内容だ。 アルフは

 

我使い魔アルフ、狼の血と誇りをにかけてフェイトの心と体を守り、その身に訪れる災厄をこの手で振り払うことを誓う

 

だ。 契約を改めてしたその日から、私とアルフの絆はさらに深まった。 今までアルフは私が勉強しているときは一人で遊んでいたんだけど、次からは一緒に勉強を始めた。 冬が深まるころにはアルフの手足も伸び始め、冬が明けるころには完全に大人になっていた。 私が最終課題をクリアしてそのお祝いに母さんが開いてくれたパーティー、とてもとても嬉しかったけどその日の夜を境にリニスは姿を消した。 アルフはどこか使いに出ると言ってたらしいけど多分、リニスは......私はバルディッシュをリニスから受け取り、一生懸命に訓練をして、そして

 

------

 

「んっ......」

 

「フェイト、ごめん起こしちゃった?」

 

「ううん、大丈夫」

 

見回すとそこは借りているマンションで、少し寂しく思うが気持ちを切り替える

 

「ベッドで寝るなら運ぶよ、お姫様」

 

「ううん、少しウトウトしただけだから」

 

私はアルフの膝から起き上がり立ち上がる。 それを心配そうに見るアルフに私は笑いかける

 

「大丈夫だよアルフ」

 

「本当かいフェイト?」

 

「うん。 屋上でジュエルシードを探してくるね?」

 

「なら私はフェイトのご飯を買ってくるけど......」

 

「うん、お願いねアルフ」

 

アルフと別れ屋上にやってくる。 屋上とだけあって風は少し強く、風は冷たいけどぼうっとした頭を覚ますにはちょうどいい温度だった。 リニスが作ってくれたバルディッシュを構え呪文を唱える

 

「バルディッシュ、行くよ」

 

「イエスサー」

 

「アルカス クレタス、範囲設定 広域探索」

 

「ゲットセット」

 

「探して青い宝石の輝きを」

 

意識を集中するとすぐに見つかる。 だが正確な位置をつかむ前に、魔力が切れて座り込んでしまう

 

「魔力切れか、弱いな私......」

 

でもこんなところで諦めるわけにはいかない、少し休んだら回収に向かおう。 リニスが残してくれたバルディッシュにアルフだっている。 私は母さんのために負けられないのだから



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第十八話 Heartfelt cry それと次元震

2/18 誤字報告の方ありましたので修正しました、ありがとうございます


「いい加減にしなさいよ!!」

 

ここ最近の高町なのはの様子に堪忍袋の緒が切れたのか、アリサ・バニングスが声を荒げて高町なのはに詰め寄っていた。 いうまでもなく原因は、フェイト・テスタロッサのことだろう。 誰が見ても何か考え事をしている様子がわかり上の空、アリサ・バニングスがキレるのも仕方のないことだろう。 ここ最近はアリサ・バニングスが機嫌悪いのがわかっていたので、俺は特にちょっかいを出していない。 それにアリサ・バニングス達にちょっかいを出さなくても、ポイントは結構たまっているので後は原作に介入してポイントを稼ぐだけでいいのだ。 どうも雑種がなだめているようだが、アリサ・バニングスは肩を怒らせながら教室を出て行ってしまう。 それを追いかけて教室を出る月村すずか、残されたのは高町なのはと雑種だ。 雑種は高町なのはを慰めているようだが、その表情は一向に晴れない

 

「おいおいいいのか、嫁が落ち込んでるぞ?」

 

「俺にだってそういう気分じゃないときくらいあるさ。 それに雑種が慰めてるんだから充分だろ......」

 

そう言って机に突っ伏す俺、ここ最近に見られる日常だ。 俺が積極的に絡まなくなったせいか、友達はたびたびこうやって俺を煽ってくる。 それにクラスもいつ行くのか、なんて目で見てくるし。 他の奴らは面白くていいよな、こっちは死活問題だっていうのに。 内心ため息をつきながら、次の授業の準備をし始めた

 

------

 

放課後、結局高町なのはとアリサ・バニングスが仲直りすることはなく、稽古事があるらしくアリサ・バニングスと月村すずかは先に帰ってしまった。 まぁ、子供ならあの程度の擦れ違いすぐに解消するとは思うのだが。 刻まれた記憶でも仲直りはしていたし、問題ないだろう。 俺には関係ない話か...... 俺はいそいそと帰る準備を進め、高町なのはと雑種より先に教室を出る。 一応発動していないとはいえ、ジュエルシードの監視はしているので放課後は忙しいのだ。 と言ってもその監視もタマモやマシュ、リリィがやってくれているので異常さえなければ俺の役割はあまりないのだ。 確か今日は夜が発動なので、それまで散歩でもして時間をつぶすことにする。 商店街に足を向ければ夕方時ということもあり、買い物中の主婦でにぎわっていた。 そんな平和な光景にほっとすると同時に、自分がひどく場違いなような気がする。 そんなことは表情には出さないが。 適当にたい焼きを買い、商店街をぶらぶらする。 くだらない考えなどすぐに頭の隅に追いやり、気の向くまま散歩をしていたのだが

 

「ありゃ、ビル街の方に来ちまったか......」

 

気の向くまま散歩をしすぎたらしい。 いつの間にかジュエルシードの発動地点の近くまで来てしまっていたし、時間ももうすぐ発動と言うところだった。 面倒なことになったわけなのだが、まぁビルの上からでも見学していればいいので、そこまで問題でもない

 

「マスター?」

 

「マシュ、なんでここに?」

 

まだジュエルシードは発動していないので、流石に結界を張るわけにもいかず、徒歩で人気のないところまで移動しようとしていると声をかけられる。 呼ばれた方を向くと、マシュが少し離れた所に立っていた。 俺の姿を確認すると急いで駆け寄ってくるマシュ

 

「マスターがどうしてここに?」

 

「散歩してたらここにな。 どっちにしろジュエルシードが発動するし、ちょうどいいかなって思って人気のない所に移動しようとしてたんだ」

 

「そうだったんですね。 っ!?」

 

「魔力を打ち込んで強制的に発動したみたいだな。 結界は間に合ったようだし、行くぞマシュ」

 

マシュと話し込んでいると、フェイト・テスタロッサが行動を開始したようで、急いで結界が張られたようだ。 俺はいつものようにその上から結界を張り、マシュの手を引き近くの屋上まで飛ぶ。 そうして屋上を飛び移ること数回、現場近くまで行くとちょうど封印が行われたようだった

 

「すごい魔力のぶつかり合いですね......あれでちゃんと封印されたのでしょうか?」

 

「いや、されてない」

 

雑種がどこにいるのかは知らないが周りを見回しても姿がなく、高町なのはたちはジュエルシードが封印されてないことに気が付いた様子はなく、その近くで魔法を使って戦っていた。 どんどん高まる周りの魔力に呼応してか、ジュエルシード自体も怪しく光り始めていた

 

「マスター!」

 

「わかってる。 マシュは手を出すな、俺が行く」

 

話し合いをしていた高町なのはとフェイト・テスタロッサだったが、フェイト・テスタロッサが反転、ジュエルシードの方に向かっていく。 高町なのはも遅れて追いかけてはいるが、ジュエルシードの輝きは増すばかりだ。 普通に行っては高町なのはやフェイト・テスタロッサを追い越すのは不可能だが、俺には特典がある

 

「ふっ、かっこよく我、参上!!」

 

屋上から王の財宝より剣を射出しつつ飛び降りる。 もちろん当てる気はないが、射線上には高町なのはやフェイト・テスタロッサの姿もある。 俺の登場に驚いたのか二人とも動きを止めていたが、先に動いたのはフェイト・テスタロッサで、剣を冷静に避けたが止まってしまっていたため、その間に俺が追い越す。 高町なのはもフェイト・テスタロッサが動き出してすぐ後に避けたので、当たってはいないようだ。 地面に着地し、少し離れたところにあるジュエルシードを見る。 さっき射出した数本の剣のおかげで、さっきよりは輝きは収まってはいるのだが、やはり危険な感じだ

 

『ペイル』

 

『マスターの思っている通り、少しでも衝撃を与えれば次元震が起きます。 さっきの宝具でいくら魔力を強制的に放出させたとはいえ、危険すぎます!』

 

『もとより方法はない。 プラン通りに行く』

 

『マスター!』

 

ペイルの制止を振りきり、俺はいつもの考えなしで突入する演技をする

 

「雑種もいないならば我の独壇場。 嫁たちよ、我の勇士を見ておくいといい!」

 

『マシュ、もしもの時は高町なのはとフェイトテスタロッサを頼む』

 

『マスター、やめてください危険すぎます!!』

 

マシュに後を任せ、俺はバリアジャケットも展開せずに素手でジュエルシードを掴む。 その瞬間、視界は閃光に包まれ全身を衝撃が襲う。 正直言って想像以上だった。 瞬間的に何メートルも飛ばされたのは感覚的に分かったし、どちらが上も下かもわからない。 とりあえずプロテクションを全身に展開して、ダメージをコントロールする。 あんだけ吹き飛ばされたのに傷を全く負わないのも変だが、必要以上に負いたくないのは事実だ。 閃光も晴れようやく爆風みたいなのの勢いも弱まり俺の体は止まる。 思ってたよりもダメージが少ないのはいいのだが、起き上るのが面倒な俺は片目を開け状況を見る。 呆然とする高町なのはにジュエルシードを奪おうとするフェイト・テスタロッサ、そしていつ来ていたのか知らないがジュエルシードを守るように戦う雑種の姿があった

 

『ペイル、雑種はいつ来たんだ?』

 

『・・・・・・ほんの少し前です。 閃光はやんでいましたが、爆風いえ衝撃波でしょうか? その影響がやんですぐにフェイト・テスタロッサは動き出すのと同時に、と言うところでしょうか?』

 

『随分と都合のいい時に来たな。 まさか近くで見てたのか?』

 

『信じたくはないですが、本当に偶然だったようです』

 

俺たちが話している間にも戦いは続いていたが、やはり魔法を使って長いフェイト・テスタロッサの方が上手だったのか、雑種がジュエルシードを奪われ、決着がついたようだった

 

「マスター!」

 

「声を落とせマシュ。 どうやら雑種が結界といたようだし、周りの人に紛れて俺を運んでくれ」

 

「わかりました」

 

サーヴァントの身体能力を生かし、俺を楽々運ぶマシュ。 俺はその間に治癒魔法を使い体の傷を治し、ある程度離れたところで降ろしてもらい自分で歩く。 余談だが、家に帰るとマシュが今回のことをみんなに報告したため、俺はタマモ、マシュ、リリィにこってり絞られた。 ペイルは運ばれているときから延々と怒り続けていたから問題しかない

 



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第十九話 Heartfelt cry それと次元震~なのは視点~

~なのは視点~

 

「いい加減にしなさいよ!」

 

「え?」

 

目の前のアリサちゃんは、なぜか私に怒っていた。 いきなり怒鳴られたことにびっくりしたけど、理由を考えれば当然なのかもしれない。 ここの所私は考え事ばかりしていて、どこか上の空だった。 考えていたのはきれいな瞳をしているのに寂しい目をしたのが印象的だったフェイトちゃんのこと。 たぶんアリサちゃんが怒っている理由は、何も私が話さないからだと思う。 でも魔法のことなんて言えないし、どうやって話せばいいかもわからず私が俯いて黙っていると、アリサちゃんは

 

「もういいわよ!」

 

そう言って、足音が遠ざかっていく。 急いで顔を上げるけどアリサちゃんの姿はなく、どうやら教室を出て行ってしまったようだ

 

「ごめんねなのはちゃん、ちょっと外すね」

 

「ううん、今のは私が悪いから......ごめんねすずかちゃん、お願い」

 

「うん、任せておいて」

 

私を安心させるように微笑むすずかちゃん。 その後すぐにアリサちゃんを追って教室から出て行った。 アリサちゃんには悪いと思ってる、もちろんすずかちゃんにも。 でも話したら二人を巻き込んじゃうから、そんなことは絶対に嫌だから

 

「ごめんね、アリサちゃん、すずかちゃん......」

 

そんな私の呟きは二人に届くはずもなく、私はそのまま俯く

 

「まったくアリサの奴......なのは、そんなに気にすることはないぞ? アリサだってなのはが心配だから言ってるんだ、だからそんなに落ち込むな」

 

「うん......」

 

織君が何か言ってるみたいだけど内容が頭に入ってこない。 私が思うのは、アリサちゃんとすずかちゃんへの謝罪の気持ちでいっぱいだった

 

------

 

放課後、アリサちゃんとすずかちゃんは先に帰ってしまった。 習い事があるからだけど、アリサちゃんには挨拶もできなかった。 でもしょうがないと思う、私が話さないのがいけないからアリサちゃんも怒っているんだから。 織君が一緒に帰ろうって言ってくれたけど、私は一人で帰りたいって言ったら気を使ってくれたみたいで、一人でジュエルシード探しに行くって言ってくれた。 本当にダメダメだな私...... ふと俯いていた顔を上げると、ガラスに映る私の顔はとっても沈んでいた

 

「こんな顔、家族のみんなに見られたら心配されちゃうよね、寄り道して行こう......」

 

海沿いにあるたい焼き屋さんの屋台でたい焼きを買って、ベンチで一休み。 そのまま私はぼーっと夕陽を見ていた。 色々なことを考えるけど、浮かんでくるのは今日のアリサちゃんとすずかちゃん。 ふと、私たちが仲良くなったきっかけを思い出す。 アリサちゃんとすずかちゃんとは最初から仲がいいわけじゃなかった。 アリサちゃんは今では考えられないほど悪い子で、すずかちゃんは今よりもずっと気が弱かったと思う。 私が見かけたのは偶然だった、中庭の花壇のところでアリサちゃんがすずかちゃんのカチューシャを振り回していて、すずかちゃんは何も言えずそれを見ているだけだった。 私はそれを見て、間に入ってアリサちゃんをいきなりぶったんだっけ。 それでアリサちゃんと取っ組み合いの喧嘩になって、止めたのはすずかちゃんだった。 それで騒ぎを聞きつけたのかわからないけど織君が来て、なぜか神木君もいて

 

「懐かしいなぁ......」

 

------

 

「そんなことが......」

 

「ユーノ君が気にする必要ないよ? 私がボーっとしてて、アリサちゃんのお話聞いてないのが悪いんだから」

 

「でも親友なんだよね?」

 

「そうだよ、入学してすぐからね」

 

「・・・・・・」

 

思いつめた顔をするユーノ君。 いつものように帰ってきて学校のことをユーノ君に話すんだけど、今日のアリサちゃんとすずかちゃんの話をするとこんなふうになってしまった。 言ってる通り私が悪いのに、ユーノ君は気にしてしまってるみたいだ。 いつまでもこのままではいけないと思い、さっき買ってきたたい焼きを半分に割り、頭の方の半分をユーノ君に差し出す。 ユーノ君は少し驚いた顔をしてこちらを向く

 

「半分こ。 今日は塾もないからジュエルシード探しも長くできるし、ね?」

 

「・・・・・・そうだね」

 

少しずつ食べ始めるユーノ君に私は少し安心して、私も自分の手に持っているたい焼きを食べ始める。 やっぱり冷めちゃってるけどおいしい。 私とユーノ君で買ってきたたい焼きを食べ終えると、私服に着替えてジュエルシード探しに出かける。 色々なところを探すけど簡単には見つからない。 ユーノ君が織君と念話で連絡を取り合ってくれてるので、探す場所が被ることはない。 織君は時間があったからと言うことで少し遠くを探しているらしく、合流に時間がかかるみたいでユーノ君と一緒に、織君が探していない近くを探そうってことになった

 

『ううーん、やっぱり簡単には見つからないねー』

 

『人通りもなかなか多いからね、仕方ないと思うよ』

 

ユーノ君と念話をしながら探すけど簡単に見つかるはずもなく、時計を見てみるともうそろそろ帰らないとまずい時間帯になっていた

 

『もうタイムアップの時間だ......』

 

『僕がもう少し探すよ』

 

『ユーノ君だけで大丈夫?』

 

『うん、織もいるしね。 だから夜ご飯は残しておいてね』

 

本当は私ももう少し探したいんだけど家族のみんなを心配させるわけにもいかないし、少し心配だけど織君もついているなら大丈夫だと思うし、私はユーノ君にジュエルシード探しを任せて帰ることにする。 走るのは苦手だけど走って帰ることにする。 途中で立ち止まって携帯を見てみるけど、新着メールは無し。 二人とも忙しいのかな? それとも......嫌な考えを振り払い、家に急ごうとしたけど何かを感じた。 空を見るとほんの数分前まで晴れて星が見えていたのに、いつの間にか分厚い雲が出てきていた。 もしかしなくても何かある、そう感じた瞬間ユーノ君の結界が展開されたみたいだった

 

「レイジングハート、お願い!」

 

私はレイジングハートに語りかけ、空にレイジングハートを投げる。 すると閃光に包まれ、何時もの通りに変身する

 

『なのは、発動したジュエルシードの光が見える?』

 

『うん!』

 

『なら封印を!あの子たちも近くにいるはずだから、あの子たちよりも早く!』

 

ユーノ君からの念話を受けて私はレイジングハートを構え

 

「リリカルマジカル!」

 

封印のための呪文を唱える。 直後封印するための砲撃がまっすぐジュエルシードに向かっていく。 反対側からも同じような砲撃が見えた。 多分魔力の色から見てフェイトちゃんだと思う。 私の砲撃とフェイトちゃんの砲撃は発動したジュエルシードにぶつかり、ジュエルシードは無事に封印できたみたいだった

 

「なのは、早く確保を!」

 

いつの間にか近くに来ていたユーノ君が叫び、私はゆっくりとジュエルシードに歩いて行く。 アリサちゃんとすずかちゃんとも最初は仲が良いわけじゃなかった、むしろ最初の出会いは喧嘩だった。 そう思い出し思わず苦笑する。 だって今の状況と似てるから、これは喧嘩じゃないけどあの時と似ている。 アリサちゃんみたいに怒らせたわけじゃないけど、私は言いたいことをちゃんとフェイトちゃんに伝えてない。 なんとなく、ずっと胸がモヤモヤしてたけど少しモヤモヤがとれた気がする。 改めてジュエルシードを見ると、上から狼さんが降ってきていた

 

「そいつは渡さないよ!!」

 

「させるか!!」

 

ユーノ君がプロテクションを展開してくれたおかげで私は無傷で、改めてジュエルシードの方を見るとそこにはフェイトちゃんがいた。 さっき考えていたことを、伝えたいことを口にする

 

「このあいだは変な感じになったけど、まずは自己紹介!私なのは、高町なのは!私立聖祥大付属小学校三年生!」

 

「・・・・・・フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

そう言ってフェイトちゃんは手に持っていた鎌を構え、こちらに向かってくる。 振り下ろされる鎌をバックステップで回避して、そのまま空を飛ぶと後ろからフェイトちゃんが追撃をしてくる。 私は高速移動魔法などを使い、何とかフェイトちゃんの後ろをとりディバインシュータを当て硬直状態を作り出すことができた。 互いにデバイスを構えるけど

 

「フェイトちゃん!」

 

「っ!」

 

驚いた顔をするフェイトちゃん、でも私は思いを告げていく。 だって話さなきゃ何も変わらないと思うから!

 

「フェイトちゃんが覚えてるかどうかわからないけど、話し合うだけじゃ何も変わらないかもしれない......でも!話し合わなきゃ何も伝わらないよ!!お互いにジュエルシードを集めてるから競い合うのは仕方ないのかもしれないけど、だけど何もわからないままぶつかり合うのは私嫌だよ! だから言うね」

 

そこで私はいったん言葉を切り、私がジュエルシードを集める目的を話す

 

「私がジュエルシードを集めるのはそれがユーノ君の探し物だから。 ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、それを元通りに集めないといけないから!私はそのお手伝いで集め始めた、偶然だったけど、でも!今は違う、私は自分の意志でジュエルシードを集めてる!自分の住んでる街に、自分の周りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから!!これが私の理由だよ!フェイトちゃんは?」

 

驚いた顔のフェイトちゃんだけど徐々に顔は俯いていき、私がフェイトちゃんの理由を聞くと完全に顔を俯いてしまった

 

「わたし、私は......」

 

「言わなくていい!! 答えなくていいよフェイト!優しい人たちに囲まれてぬくぬく育ってきたガキンチョに、言わなくていい。 私たちの最優先事項は、ジュエルシードの確保だよ!」

 

「「っ!?」」

 

狼さんの言葉にはっとした表情のフェイトちゃん、さっきまでの雰囲気はなくデバイスを構えている。 そして、ジュエルシードの方を一瞬見たと思ったら、そっちに向かって飛んでいく。 出遅れたと思い急いで追いかけていると、私たちの前を剣が横切る

 

「「っ!?」」

 

驚いて急ブレーキをかける私とフェイトちゃん、剣の降ってきた方の視線をたどると

 

「ふっ、かっこよく我、参上!!」

 

そう言って地面に着地する神木君、私とフェイトちゃんはいきなり現れた神木君に気を取られその場から動けずにいた。 でも神木君はそんなこと関係ないと言わんばかりに

 

「雑種もいないならば我の独壇場。 嫁たちよ、我の勇士を見ておくいといい!」

 

そう言って何の考えもなくジュエルシードに近づき、素手でジュエルシードを掴んだ。 直後、神木君の周りは閃光に包まれ吹き飛ばされていた

 

「なのは大丈夫か!?」

 

いつも間にか織君がきて何か言ってるみたいだけど、私の頭には入ってこなかった。 今のはなに? なんで封印したはずのジュエルシードが光を? それに神木君が何で吹き飛ばされたの? 突然のことに頭はぐちゃぐちゃで、私は茫然としていた。 気が付いた時にはジュエルシードは奪われ、神木君も忽然と姿を消していた......

 

~なのは視点 end~



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第二十話 Heartfelt cry それと次元震~フェイト視点~

2018/4/7 誤字修正しました。 報告ありがとうございます


~フェイト視点~

 

魔力切れを起こした私は、家に帰ってきたアルフの出してくれた食事を少し食べて、布団に横になっている。 早くジュエルシードを集めて母さんを安心させなければいけないのに動けない私、本当に弱いなぁ...... そんな自分を歯がゆく思いながら魔力の回復を待つ。ジュエルシードのことと言えば、思い出すのはあの白い魔導師。 前回のあれで諦めてくれればいいけど、多分...... そしてもう一人、白い魔導師と一緒に言葉を投げかけてくれた男の子。 そして、あの変な子。 敵は一杯いるけど、母さんのために...... そんなことを考えていると、後ろから近づいてくる気配がする

 

「あー、また食べてないじゃないか!」

 

「少しは食べたよアルフ」

 

体を起こしながらベッドのふちに座ったアルフに答える。 アルフはこちらを心配そうに見るけど、私は大丈夫

 

「そろそろ行こうアルフ。 次のジュエルシードの大まかな位置特定は済んでるから。 それに、あまり母さんを待たせたくないし」

 

「そりゃあ私はフェイトの使い魔だからさ、フェイトが行こうって言えば行くけどさ。 でもねフェイト」

 

なぜか渋るアルフに内心私は首をかしげながら、アルフの手に持っているものを見て納得する

 

「それ、食べてからでもいいよ?」

 

アルフが手に持っていたのはドックフード、それを指さしながら言ったんだけどアルフは慌ててそれを隠す。 どうしたんだろう?

 

「そうじゃなくて!私はフェイトが心配なんだ!そりゃあフェイトは強いし自慢のご主人様だけど、広域探索の魔法はただでさえ魔力を使うのにフェイトろくに休まないし、ろくに食べないじゃないか......それにその傷だって」

 

確かにこっちに来てから食事はあまりとってないし、休んでもいない。 背中の傷はまだ少し痛いけど大丈夫だ、だってこれは私がいけないのだから。 アルフを心配させるのは当然だと思う。 でも、母さんのためだ。 こうやってアルフに心配かけるのも私が弱いからなのだろうか? でも、今はそんなことを言ってる場合じゃない

 

「大丈夫だよアルフ、私は強いから。 だから大丈夫」

 

私はアルフを安心させるようにそう言ったのだけど、アルフの顔はとても心配そうに私を見ていた。 私はそのアルフの表情を見なかったことにして、バリアジャケットを展開する

 

「行こうアルフ。 母さんが待ってる」

 

------

 

アルフを連れてやってきたのは、辺りで一番高いビルの屋上。 ジュエルシードは近くにあるはずなんだけど、大まかな位置しか特定できてないしそれに

 

「ジュエルシードの反応はここら辺のはずなんだ」

 

「まぁ、仕方ないんじゃないかい? こんだけごみごみしてたら仕方ないよ」

 

街中と言うこともあり人などもいるから、あまり精密にできなかったというのも理由の一つなのだ。 もちろん魔力切れが大きな原因なんだけど

 

「少し乱暴だけど、魔力流を打ち込んで強制発動させよっか」

 

そう言ってバルディッシュを構えると、アルフが待ってほしいと声をかけてきた

 

「あー、待って待って。 その役目はアタシがやるよ」

 

「大丈夫? 結構疲れるよ?」

 

魔力流を打ち込むから相応の量の魔力が必要になる。 アルフなら問題はないと思うのだけど、それでも心配なものは心配なのだがアルフはあっけらかんと答える

 

「大丈夫だよ!アタシを誰の使い魔だと思ってるんだい」

 

「・・・・・・うん、じゃあお願い」

 

「オッケー!!」

 

そう言うとアルフは足元に魔法陣を展開し魔力を高めていく。 それを開放すると星が見えていた空は曇り、雷が発生するようになる。 ジュエルシードは無事に強制発動したみたいだけど

 

「見つけた」

 

「けどあっちも近くにいるみたいだね」

 

「・・・・・・うん」

 

街の景色がだんだんと変わっていく。 どうやら向こうの魔導士の友達? だったかな、その子が結界を発動させたみたいだ

 

「早く片付けよう、バルディッシュ!」

 

「シューティングモード、セットアップ」

 

バルディッシュは素早く槍のような形になり、魔力をチャージする。 封印しようと砲撃を発射すると、どうやら向こうも同じタイミングで発射したようで、ジュエルシードでぶつかるが、無事に封印できたみたいだ

 

「アルフ」

 

「わかってるよフェイト。 そいつは渡さないよ!!」

 

アルフが攻撃をするけど、またも友達? に防がれる。 そして私は、また白い魔導士と対峙する。 今度は仲間のこと変な子はいないみたいだけど、油断は禁物だ。 どのくらい無言で見合う時間が続いただろうか、先に沈黙を破ったのは白い魔導士の子だった

 

「このあいだは変な感じになったけど、まずは自己紹介!私なのは、高町なのは!私立聖祥大付属小学校三年生!」

 

「・・・・・・フェイト、フェイト・テスタロッサ」

 

なぜかまた自己紹介をされたけど、私はバルディッシュをサイズファームで展開し、白い魔導士、ううん、タカマチナノハに向かって行く。 この間戦った時よりも動きがよくなってきているのがわかる。 今だって鎌を振り下ろすが、危なげなく避けられそのまま空中戦に流れ込む。 終始私は後ろをとって有利に戦闘をしてたけど、一瞬のすきをついてタカマチナノハは高速移動魔法を使い私に砲撃を当ててくる。 もちろんプロテクションで防ぎはしたが、距離が離されてしまう。 またも続く硬直状態、今度も口を開いたのはタカマチナノハだった

 

「フェイトちゃん!」

 

「っ!」

 

いきなり名前を呼ばれ驚いたけど、油断せずに武器を構えるけど

 

「フェイトちゃんが覚えてるかどうかわからないけど、話し合うだけじゃ何も変わらないかもしれない...... でも!話し合わなきゃ何も伝わらないよ!!お互いにジュエルシードを集めてるから競い合うのは仕方ないのかもしれないけど、だけど何もわからないままぶつかり合うのは私、嫌だよ! だから言うね」

 

その口から語られたのは前の会話。 話し合うだけじゃ変わらないといった私の言葉を真剣に考え、自分で真剣に考えその答えを私に伝えてくれる。 その言葉に私は、戦闘中だということも忘れ視線が下がって行ってしまう

 

「私がジュエルシードを集めるのは、それがユーノ君の探し物だから。 ジュエルシードを見つけたのはユーノ君で、それを元通りに集めないといけないから!私はそのお手伝いで集め始めた。 偶然だったけど、でも、今は違う!私は自分の意志でジュエルシードを集めてる!自分の住んでる街に、自分の周りの人たちに危険が降りかかったら嫌だから!!これが私の理由だよ!フェイトちゃんは?」

 

私の、私の理由は......

 

「わたし、私は......」

 

「言わなくていい!! 答えなくていいよフェイト!優しい人たちに囲まれてぬくぬく育ってきたガキンチョに、言わなくていい!! 私たちの最優先事項は、ジュエルシードの確保だよ!」

 

「「っ!?」」

 

アルフの言葉に私は目が覚めた思いだった。 そうだ母さんが待ってるんだ、だからこんなことをしている場合じゃない!改めて私は武器を構えなおす。 一瞬ジュエルシードの方を見ると私の方が距離が近い、なら!自分の最高速でジュエルシードの方向に飛んでいく。 いきなりのことでタカマチナノハは出遅れ、その分私がリードしていたけど、私たちの前を剣が横切る

 

「「っ!?」」

 

驚いて急ブレーキをかける私とタカマチナノハ。 剣の降ってきた方向を視線で辿ると

 

「ふっ、かっこよく我、参上!!」

 

そう言って地面に着地する変な子がいた。 何時ものことだけど、いつの間にか現れた変な子に私は驚きその場から動けずにいた。 でも変な子は

 

「雑種もいないならば我の独壇場。 嫁たちよ、我の勇士を見ておくいといい!」

 

そう言って何の考えもなくジュエルシードに近づき、素手でジュエルシードを掴んだ。 直後、変な子の周りは閃光に包まれ、変な子は吹き飛ばされていた。 今のが何だったかはわからないけど、いち早く目の前の光景から立ち直った私は、ジュエルシードを掴もうとするけど

 

「なのは、大丈夫か!?」

 

タカマチナノハの仲間の魔導士に阻まれた

 

「っ!?」

 

タカマチナノハが心配なのか、一瞬力が抜けた隙にジュエルシードを確保して、私はそのままアルフと一緒に飛び去った

 

~フェイト視点 end~

 

 

 

 



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第二十一話 clown and puppeteer

今回は胸糞悪いというか、フェイトちゃんファンは注意です! 人によってはと言うか、大多数は嫌なんじゃないかなぁ......と思うのですが、いかんせん物語には重要なことなのです、広い心でお読みください


次元震を起こした翌日、俺は学校にも行かずとある場所にタマモとともに来ていた。 時の庭園、フェイト・テスタロッサの母親であるプレシア・テスタロッサがいる場所だ。 何故俺が時の庭園の場所を知っているかと言えば、ハサンにフェイト・テスタロッサを監視させていたからだ。 高町なのはの監視と並行して、監視してもらっていたからだ。 監視させていたといっても、高町なのはが学校行っている間は監視の必要がないので、ハサンが独断で監視をしていただけなのだが。 それが今日の朝実を結んだ。 本来なら学校に行くはずの俺だったのだが、昨日の件でお叱りを受けているうちに時計の針は天辺を超えており、そのまま爆睡しているところにハサンからの念話が入ったのだが。 そしてなぜタマモと一緒に来たのかと言われれば、タマモの宝具が関係するからだ。 水天日光天照八野鎮石、タマモの持つ宝具なのだが魂と生命力を活性化させる効果を持つらしい。 今は一尾だが本来は九尾の狐であり、その力を全開放すれば死者すら蘇らすことができる。 俺もタマモも使いたくはないが、目的のためには仕方ないとタマモを説得、しぶしぶだが許可は取れた。 話はそれたが、俺はある場所を目指して歩いているわけなのだが

 

「迷った......」

 

「だから私は言ったんですよマスター、ペイルの読み込みが終わるまで待ちましょうって」

 

隣のタマモが呆れながら言ってくる。 確かにペイルには内部のスキャン、誤魔化すための映像の加工などをやってもらってはいるが、そのスキャンが長すぎるのだ。 ペイルがいくら高性能だと言っても、こんな広い空間の内部のスキャンが早く終わるはずもなく、数時間かかると言われたので、待ってられないと言わんばかりに歩いているのだが、迷った

 

「ペイル、どんな感じだ?」

 

「最低限のスキャンは終わらせましたので、アリシア・テスタロッサまでのナビゲートを開始します」

 

「流石ペイルですね。 ささマスター、行きましょう」

 

なぜか案内役はペイルなのにタマモに手を引かれ、俺はまた歩き出す。 俺のこの数十分間はなんだったのか、と思うぐらいあっさりついた。 俺は落ち込んでいたのだが、タマモもペイルも気にせずロックを解除していた。 酷くない? 俺のそんな内心は知らずに無情にも開く扉、せっかくペイルがロックを解除したのだから中に入ると、予想通りの光景が

 

「これが......」

 

「はい、プレシア・テスタロッサの娘、アリシア・テスタロッサ本人の死体です」

 

アリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサの狂った原因にして、フェイト・テスタロッサの大本。 数十年前に起こった事故の被害者だったか? プレシア・テスタロッサがジュエルシードを集めているのも、すべてこの子を蘇らすため

 

「タマモ、どうだ?」

 

「完全に死んでいますね。 ですが私の力を使えば可能です」

 

「そうか」

 

踏み台ポイントのためとはいえ、人の思いやその目的まで利用するなんて、俺も落ちるところまで落ちたな

 

「マスター」

 

「どうしたタマモ?」

 

なぜかタマモにいきなり抱きしめられる。 いつものようなふざけた感じではなく、俺を心配したように

 

「無理は、しないでください。 いやなら「それは出来ない」っ!?」

 

タマモの言わんとしていることがわかると、俺はその言葉を遮るようにして言葉をかぶせる。 タマモの言わんとしていることはわかる、でも引き返すにはもう遅すぎるのだ。 ならば俺はタマモたちサーヴァント、いや家族を心配させないように道化を演じ続けなければならない。 それにもう少しでポイントはたまるわけだ、この生活もあと少しなのだ、そうすれば...... 俺は、抱きついているタマモをやんわりと離し、頭をなでる

 

「大丈夫だタマモ。 もう少しなんだ、だから力を貸してくれ」

 

「っ......マスターは!マスターは、ずるいです」

 

泣きそうになるのをこらえながらタマモは頷いてくれた。 俺はそれに感謝しながらも、心の中で謝る

 

「ペイル」

 

「プレシア・テスタロッサの位置の特定、およびフェイト・テスタロッサの位置の特定は済んでおります」

 

「そうか、案内頼む」

 

「了解しましたマスター」

 

「行くぞタマモ」

 

「・・・・・・はい」

 

タマモは霊体化して姿を消してもらい、俺は時の庭園を歩く。 これからする最低なことの覚悟を決めながら。 とある扉の前、中からの気配は三人。 どうやら役者はそろってるようだ、なら俺は...... 目の前の扉を開け、中に入る

 

「「っ」」

 

中に入ると注がれる視線、敵意、困惑など俺に対してあまりいい視線ではない。 俺は部屋を見回しある一点で視線を固定する。 アルフに抱きかかえられているフェイト・テスタロッサだ。 俺はすぐに視線をそらし、もう一人の方を見る。 プレシア・テスタロッサだ

 

「貴方は、誰なの?」

 

「我が誰なんていうのはどうでもよかろう? 人形遣いよ?」

 

「・・・・・・」

 

目がより一層細くなる。 その目は敵意なんて生易しいものではなく、憎悪だ。 問答無用で攻撃ではなく、一応話は聞いてくれるようだ。 と言っても、俺が変なことを言えば容赦なく攻撃するんだろうが。 アルフは状況についていけず、呆然としていた

 

「人形をいじめるのにも飽きたか人形遣い」

 

「何を、言ってるのかしら?」

 

「うん? ついに病気が頭にまで回ったか? 一から十まで言わなければわからないとは、それでも過去の大魔導士か? 聞いて呆れる」

 

俺が両手を上げ仰々しく言うと、額に血管が浮かぶ。 ある意味挑発は成功してるみたいだが、これ交渉まで移行できるかが心配だ。 それにあの結界も試したことがあるわけでもないので、そちらも心配だ。 タマモが言うにはそんなに長くはもたないが、大丈夫らしいが......結局いつもの出たとこ勝負、と言うわけだ

 

「まぁよい。 わからないなら言ってやろう、我に感謝するといい!人形とはそこの「黙りなさい!!」うおっ!?」

 

フェイト・テスタロッサを指さそうとして、それはプレシアの放った魔法によって阻まれる。 俺はこけたふりをして、その雷撃を避ける

 

「アルフ、フェイトを連れて下がりなさい」

 

「・・・・・・わかったよ」

 

会話の内容も気になるのだろうが、フェイト・テスタロッサが最優先なのかプレシア・テスタロッサをにらみながら部屋から退室するアルフ。 まぁ一応、第一段階はクリアだ。 問題は、魔法陣を展開して魔力を放っているプレシア・テスタロッサをどう止めるかだ

 

『タマモ、例の結界を頼む』

 

『効果は大丈夫だと思いますが、長いこと展開していれば不審に思うかもしれません、なるべく早めにお願いします』

 

『わかった』

 

タマモが結界を展開してのを確認して、俺はペイルを構える

 

「ペイルライダー、セットアップ」

 

「セットアップ」

 

展開される金色の鎧。 まぶしくて動きづらくて嫌なのだが、攻撃されたらたまったものではないので一応展開しておく。 明らかに警戒を強めるプレシア・テスタロッサ、このまま無言で見合っていても埒が明かないし、時間は有限なのだ話しかけることにする

 

「プレシア・テスタロッサさん、さっきまでの非礼はお詫びします、ですのでまずは魔力の放出をやめてほしいのですが」

 

「どういうつもりなのかしら? いきなりそんな礼儀正しい態度をとっても、怪しいだけよ?」

 

にやりと笑うプレシア・テスタロッサだが、俺もその通りだと思うのでツッコミ入れないでおく。 もともと英雄王みたいな我様けいではないし。 時間もないので簡潔に要件を告げる

 

「こちらも時間がないので簡潔に要件を。 自分にはアリシア・テスタロッサを蘇らせることが出来ます」

 

「待ちなさい!蘇らせるなんてどうやって、それよりもアリシアのことをどこで知ったの!!ごふっ!?」

 

魔力を多く放出しすぎたせいか、プレシア・テスタロッサは喀血していた。 おかげで魔力の放出は止まったし、いいのはいいのだが、流石にこの状況はまずいだろう。 だが今はこのままにしておく、この後の交渉材料でもあるのだ

 

「こちらには時間がありません、余計な詮索は無しにしてもらいたい。 ジュエルシードのような不確定なものに頼らずとも、自分が蘇生しますがどうしますか? そちらにとってはメリットがありすぎると思いますが?」

 

「・・・・・・何が、目的なの?」

 

アリシア・テスタロッサが蘇る、そのことにつられてどうやら話は聞いてく入れるようだ。 ならここから畳み掛けていくだけだ

 

「目的、ですか? 特にないですよ? しいていうなら、ね......」

 

言葉を濁しておく。 ただ未来を知っていて、自分の目的のためにあえて未来を変えなかったのだ、その罪滅ぼしくらいの気持ちしかない。 それはここで言う必要はないし、教える必要もないのだ。 プレシア・テスタロッサはこちらを疑っているようだが、徐々に乗り気に見える

 

「ただそうですね、蘇らせるにあたって聞きたいことが一つあります。 貴女はフェイト・テスタロッサをどう思っているのですか?」

 

「・・・・・・」

 

「彼女は貴女の娘のクローン体だ、愛情を持って接しているのかと思えばああいうふうに鞭で打っている。 なのにもかかわらず廃棄処分などにしない。 クローン体が生きているといっても廃棄処分など貴女の意志でいくらでもできるはずだ、それを何故しないのですか?」

 

黙り込むプレシア・テスタロッサに問いかける。 ずっと気になっていたのだ、刻まれた記憶を見ながら。 失敗作、愛情を注いでいなかったなどいいながらなぜ廃棄しなかったのか。 プレシア・テスタロッサの性格上いくらでも出来たはずだ。 体がいうこと利かないなど昔からだろうし、製作に時間がかかるのもあるかもしれない、でもあの様子だとまるで

 

「まるで貴女はわざと「えぇ、わざとあの子を遠ざけていたわ」

 

疲れたように俯き語りだすプレシア・テスタロッサ。 俺はその話に耳を傾けた

 

「貴方の言う通り、廃棄しようとすればいくらでもあの子を廃棄する機会はあったわ。 でも、出来なかった。 最初のころは、様子を見よう、そのうちにアリシアになるかもしれない、なんて淡い希望をしていたの、でもそうなることはなかった。 私は絶望したわ、そうしてクローン技術の方からは手を引き、アリシアを蘇らせることにした。 ちょうどそのころからかしら、アルハザードについて調べ始めたのも。 そしてアルハザードにわたるためには、高濃度の魔力の結晶体が必要なこともわかった。 そこで魔導士を育てようと思ったのよ、それがフェイト。 リニスを作り出し、一流の魔導士に育て上げることを目的にして。 日々フェイトの成長を聞くたびに私の胸には懐かしい感情が蘇った。 でもそれを見ないふりをしていたわ、だって......」

 

言葉を詰まらせるプレシア・テスタロッサに俺は、その続きの言葉を紡ぐ

 

「褒めてあげたかったんでしょう? フェイト・テスタロッサを。 でもそれをすればアリシア・テスタロッサを忘れてしまうような気がしたから、だから出来なかった」

 

「そうよ......本当に何がしたかったのかしら私は......アリシアを蘇らすと誓って頑張ってきたのに、フェイトが頑張った途端そっちに行ってしまうなんて......」

 

ふとプレシアさんの表情を見てみると、泣き笑いのような疲れたような表情をしていた。 だからだろうか、無意識のうちに言葉が出たのは

 

「・・・・・・後悔してるならやり直せばいい、貴女にはまだ家族がいるのだから」

 

「でもアリシアは! それにフェイトにも酷いことを!」

 

「そんなものやり直せばいいだろ!!アンタにはまだ家族がいる、アリシアは俺が蘇らせてやる!アンタの病気だって俺が治してやる!後悔してるんだろ!? まだ家族がいるんだ、やり直せるに決まってる!!」

 

「貴方、まさか」

 

「そうだよ、俺にはもう元の家族がいない...... でも、あんたは違う。 確かにリニスさんは失ってしまったのかもしれない、でもアリシアは蘇らせられるし、フェイトはまだいる、それにアルフだって。 間違えたってわかってるんだったら、そこからやり直せばいい。 最初はぎこちなくても、ちゃんとやり直せるんだから」

 

「・・・・・・」

 

お互いに無言の時間が過ぎる。 だが俺には言い忘れたことがあるので付け足しておく

 

「確かに俺にはもう元の家族はいない。 でも、新しい家族は出来た。 最初はぎこちなかったけど、今は大切な家族だ」

 

「・・・・・・そう」

 

天井を見上げたプレシア・テスタロッサ、多分俺の話を受けるか受けないか考えているのだろう。 俺はそれを静かに待つ。 それから数分後、こちらを向いたプレシア・テスタロッサは覚悟が決まったのか、強い意志を持った目をこちらに向ける

 

「お願いするわ、アリシアを蘇らせて」

 

「わかった、と言いたいところなのだが条件がある」

 

「条件?」

 

眉をひそめるプレシア、まさかここまで来て条件の話が出るとは思わなかったのだろう、だが簡単に行くはずもないのだ

 

「一つはこのままジュエルシードは集め続けてほしい、フェイト・テスタロッサへの態度は多少軟化させても構わないが、そのままでな。 そしてもう一つはこれにサインをしてほしい」

 

「これは?」

 

俺が渡したのはセルフギアススクロール。 なぜか王の財宝の中に入っていたのだが、ちょうどいいと思い使ったのだ。 内容はアリシア・テスタロッサを蘇らせる条件でプレシア・テスタロッサは今回の取引の内容、それ以外にも取引に関係する内容を誰にも喋ることが出来ないというものだ。 まぁ、俺の方は内容をつけたしてもし蘇らせるのに失敗した場合、自害するという内容も付け足しているのだが。 もちろん誰にもばれないようにすごく小さな文字で書いた。 苦労したけど

 

「セルフギアススクロール。 決して違約不可能な取り決めをする時に使用される、最も容赦ない呪術契約の一つだ。 契約が完了すればいかなる解呪魔法でも解除できない、呪いだ」

 

「そんなものを使ってまでするの?」

 

「俺の覚悟の表れだ。 サインしない限り今回の取引は無しだ」

 

「・・・・・・いいわ。 条件は飲むわ」

 

「契約成立だ」

 

プレシアがサインしたセルフギアススクロール受け取り、丸める。 そして俺は、思い出したように王の財宝から霊薬を取り出しプレシア・テスタロッサに放り投げる

 

「これは?」

 

「プレシアさんを治す薬です。 俺が帰ってから飲んでください」

 

『タマモ結界の解除を』

 

『了解ですマスター』

 

プレシア・テスタロッサが薬をしまうのと同時に、タマモに指示を出し結界を解除する。 俺もバリアジャケットである金色の鎧を解除するのを忘れない。 その時ちょうど回復がし終わったのか、フェイト・テスタロッサとアルフが部屋に入ってきた

 

「母さん!」

 

「フェイト!」

 

「「・・・・・・」」

 

俺の方をちらりと見るプレシアさんに俺は肩をすくめ歩きはじめる

 

「私は少し休むわフェイト。 その少年は放っておきなさい」

 

「クックック......」

 

俺は笑いながらその場を後にする。 その俺の様子とプレシアさんの様子をおかしく思ったのだろう、フェイト・テスタロッサが詰め寄ってくる

 

「母さんに何をした!!」

 

「さてな? ただ契約をしたとだけ言っておこう。 解除不能な契約をな」

 

そう言ってセルフギアススクロールを見せ転送を開始する

 

「ではな」

 

「待て!!」

 

目の前は閃光に包まれ、目を開ければそこは家のリビング、俺は肩の力を抜く

 

「はぁー......」

 

「お疲れ様でしたマスター」

 

タマモがねぎらってくれるが、今の俺はそれどころじゃなかった。 人の思いを踏みにじり、契約をしてしまったことに自己嫌悪をしていた。 だがそんなことも俺には許されない。 あの時、踏み台として生きることを決めた時から、俺は前に進むしかないのだから



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第二十二話 clown and puppeteer ~フェイト視点~

~フェイト視点~

 

封印したはずのジュエルシードが大量の魔力を放出した出来事があった次の日、私はアルフと一緒に朝から活動拠点であるマンションの屋上に出ていた。 本当は部屋でもいいのだけど、何かあっても嫌だから屋上に出てきているんだけど。 今日は母さんに成果報告のためにいったん帰るのだけど、アルフはどうも乗り気じゃないみたい。 元々アルフは母さんとの仲はお世辞にはいいとは言えない、でも私は二人に仲良くしてほしい、そう思ってる。 そのためには私が早くジュエルシードを集めて、昔の母さんに戻ればきっとアルフも......

 

「あの人がこれで喜ぶのかねぇ......」

 

私が思考の渦にはまってると、いつの間にか近づいてきていたアルフは私が持っていた箱を持っていた。 中に入っているのはケーキで、せっかくあそこに帰るのに手ぶらで帰るのもどうかと思って、前に買っておいたのだけど。 正直言って、アルフが言うように母さんが喜ぶかわからないけど

 

「こういうのは気持ちだと思うから、ね?」

 

「・・・・・・」

 

アルフは難しい顔をしていたけど、あまり母さんを待たせるわけにもいかないし、転送を開始することにする。 細かい座標を唱え、場所を

 

「開け誘いの扉。 時の庭園、テスタロッサの主のもとへ」

 

閃光に包まれそっと目を閉じる。 ゆっくり目を開けると、数日? 数週間ぶり? なのに懐かしく感じる風景が。 そのまま道を進み、大きな扉の前に

 

「アルフはここで待ってて」

 

「わかってるけどさぁ、大丈夫かいフェイト?」

 

「母さんと会うだけだから大丈夫だよアルフ」

 

少し背伸びをして心配性なアルフの頭をなで、手に持っていたケーキの箱を受け取る。 ノックをして返事を待つけど、いくら待っても返事がない。 不思議に思って扉を少し開けるけど、中には誰もいなかった。 なので先に中に入り、中央の椅子の近くにあるテーブルに買ってきたケーキを置いておく。 ほどなくして、母さんはきたみたいだ

 

「フェイト、ジュエルシードの方はどうかしら」

 

「四つ集まりました」

 

母さんの方を見てそう言ったのだけど、途端に母さんの目の色が変わる。 そして母さんの持つ杖は変化し、その形状を鞭に変える。 その瞬間私は悟った、今回も母さんを失望させてしまったのだと、今回も期待をお裏切ってしまったのだと。 だからこれから行われる行為も、仕方ないのだと

 

「っ!!」

 

「くっ!」

 

母さんは鞭を振るい、振るわれた鞭は私を傷つける。 これは私がいけないから、母さんを落胆させてばかりの私に相応しい罰なのだと。 どのくらいの時間が経っただろうか、母さんは私に鞭を振るうのをやめ、同時に拘束も解かれる。 私はもうろうとする意識の中、立ち上がろうとする。 母さんにこんな姿見せたらまた落胆されるから。 これ以上落胆させるわけにはいかないから

 

「フェイト!」

 

遠くからアルフの声が聞こえる。 待っててって言ったのに、私のせいでごめんねアルフ。 心配かけてごめんね。 私が薄れる意識の中最後に聞いたのは

 

「貴方は、誰なの?」

 

「我が誰なんていうのはどうでもよかろう? 人形遣いよ?」

 

あの変な子の声だった

 

------

 

「・・・・・・ここは?」

 

「目が覚めたんだね!よかったよフェイト」

 

私が目を覚ますとさっきの居た部屋のすぐ近くの部屋だろうか、ベッドに寝かされていた。 アルフが私が目が覚めたことがわかって抱きついてきたんだけど、少し苦しい。 腕を二、三回たたくとすぐに離してくれた

 

「ごめんねフェイト、でも短い間とはいえ気を失ってたんだ心配にもなるさ」

 

「ううん、ありがとうアルフ。 でも気を失ってたってどのくらい?」

 

「数分てとこかな」

 

質問をしてすぐに答えてくれるアルフに感謝しつつ、私はその数分前のことを思い出す。 確か母さんとの話が終わる直前に私は気を失いそうになって、それで.......それでそうだ!あの変な子が!

 

「アルフ、あの変な子は!」

 

「あの変なガキンチョならプレシアと話してるよ。 フェイトが気を失った後、なんかプレシアの逆鱗に触れるようなことを言ったみたいでね。 攻撃されてたけど間一髪で避けてたよ。 それで私とフェイトはプレシアから部屋から出るように言われてね、この状況ってわけ」

 

「そう、なんだ」

 

どうしてここがばれたとかの疑問はあるけど、今は母さんのもとに向かうのが先だ。 急いでベッドから出て、立ち上がる

 

「そんなに焦らなくても大丈夫だと思うけどね。 よくて半殺し、あの様子だともう終わってることもあり得るだろうし」

 

「それでも母さんが心配だから、行こうアルフ」

 

私がその部屋から出て走り始めると、アルフも渋々ついてきてくれた。 幸いそんなに遠い部屋じゃなかったのか、すぐに目的の部屋の前に着く。 軽く深呼吸をして扉を開ける

 

「母さん!」

 

「フェイト!」

 

「「・・・・・・」」

 

私が中に入ると、二人は無言でこちらを見ていた。 母さんは一瞬変な子の方を見ていたが、変な子は肩をすくめ歩きはじめた

 

「私は少し休むわフェイト。 その少年は放っておきなさい」

 

「クックック......」

 

変な子は私を見ずに笑いながら私の横を通り過ぎて行ったけど、私は母さんに違和感を感じる。 母さんが侵入者を放っておくはずない、それも私やあの二人よりも弱いこの子を。 母さんに何かしたのかもしれない、そう思うと居てもたってもいられず変な子に詰め寄る

 

「母さんに何をした!!」

 

「さてな? ただ契約をしたとだけ言っておこう。 解除不能な契約をな」

 

そう言って変な巻物のようなものを見せてくる。 意味が分からない。 解除不可能な契約? そんなものをこの子が? できるはずがない、出来るはずがないのに、なぜかできている確信があった

 

「ではな」

 

「待て!!」

 

問い詰めようと近寄るのだが、転送は始まってしまい逃がしてしまう。 すぐに追おうとしたけど、バルディッシュも追跡不可能なようだった

 

「なんだったんだいあのガキンチョ」

 

「わからない、わからないけど母さんに何かしたのは間違いない」

 

「あのプレシアにかい? 私には信じられないけど......」

 

アルフは少し驚いて、信じられないようなものを見てる感じだけど、私には何かをした確信だけはあった

 

「とりあえず戻ろうフェイト。 プレシアにも報告は終わったんだし」

 

「・・・・・・うん」

 

釈然としないまま、私たちは地球に戻ることにした

 



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第二十三話 介入者

目が覚めると夕方になってた。 時の庭園に行った後、思っていたよりも精神的に疲れたのか俺は眠ってしまっていた。 今日の夕方と言えば第三勢力、時空管理局がジュエルシードの戦闘に介入してくるはずだ。 俺は起き上がると出かける支度を始める

 

『ハサン』

 

『マスター殿、どうかなされましたか?』

 

『高町なのはは?』

 

『高町嬢でしたら何時もの通りジュエルシードの探索をしておりますが?』

 

『了解した。 そのまま監視を続けてくれ』

 

『了解しました』

 

俺は着替えながらハサンに念話をし、今の高町なのはの行動を確認しておく。 確認しておかないといざというとき、結界の範囲設定などもあるからな。 そんな時、誰かの気配が俺の居るリビングに近づいてくる。 俺はそのまま気にせずに着替えを続けていると、背中に声をかけられる

 

「マスター、目が覚めてたんですね」

 

「あぁ」

 

声の主はマシュのようで、他に気配を感じないようだから、どうやらタマモはジュエルシードの捜索に出たようだ。 マシュは家に休みに来たのだろうか?

 

「今日も探索ですか? タマモさんから話は聞きました、今日くらい休んでも......」

 

「心配はうれしいけどな、俺は大丈夫だ。 みんな心配しすぎなんだよ」

 

俺は苦笑しながらマシュの頭をなでる。 どうやら俺が寝ていることを心配したのか、どうやらタマモがマシュを呼んだようだ。 俺はマシュの頭を撫で終えると、その横を通り過ぎ外に出た。 瞬間、魔力の反応を感じた。 どうやらジュエルシードが発動したようだ、ハサンから念話で連絡が来る

 

『マスター殿!』

 

『こっちでも確認した、座標を』

 

ハサンから念話で座標を聞き出し、その座標をもとに転送魔法を発動する。 転送が終わると戦いは始まっていて、今回の敵は大きな木だ。 だが今までとは違うのか、フェイト・テスタロッサの攻撃をバリアで防いでいた。 その攻撃に怒ったのかどうか知らないが、大きな木は地面から太い根を動かし雑種に襲い掛かる。 どうやら今回は囮役のようで、根を切り裂きながら一定の距離を保っていた。 高町なのはは上空から砲撃を撃ってはいるのだが、バリアを超えられないのか拮抗していた。 徐々に出力が上がってきているのか、木が地面にめり込んでいるがそれでもバリアは抜けない。 フェイト・テスタロッサも魔力刀を飛ばして根を切り裂きながら攻撃をするが、それでもバリアは越えられない。 だが、フェイト・テスタロッサはバリアを破壊できないことがわかると、すぐに直射砲を発射する。 ついに二人の砲撃はバリアを貫通し、大きな木になった暴走体は消滅、ジュエルシードが宙に浮いていた。 すぐに封印を行うが前回と同じで、二人同時に封印。 相殺し合ったのかどうかわからないが、封印はされていなかった

 

『ペイル殿、あれで封印はされているのですか?』

 

『いえ、軽く封印されている程度です。 あの横で戦闘行為でもされれば、すぐにでも発動しますよ』

 

『前回とほぼ同じか......』

 

前回と違う点があるとすれば、声は小さくて聞こえないが話し合いをしているようだ。 だが、武器を構え直しているところを見て話し合いは決裂したのだろう。 雑種、ユーノ、アルフはジュエルシードの近くで睨み合い、互いに牽制しあっていた。 結局前回と同じか...... 俺は少しうんざりしながら王の財宝を発動、しようとしてやめた。 ちょうど高町なのはとフェイト・テスタロッサがデバイスを振り下ろす中心に、転移反応があったからだ

 

『どう見るペイル』

 

『十中八九このタイミングでの転移です、管理局でしょう』

 

俺もペイルと一緒の意見なので、様子見をすることにする。 光は一瞬で晴れ、中心には黒い男の子が宙に浮いて居た

 

「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる!!」

 

「「っ!」」

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!詳しい事情を聞かせてもらおうか!」

 

二人に睨みを利かせながら言う執務官。 二人は一応指示に従い、地上に降りる。 俺はまだ様子見をする。 先に動いたのはフェイト陣営で、アルフが執務官に向かってシューターを発射。 プロテクションで空へと角度をそらし、アルフをにらみつけるが

 

「逃げるよフェイト!」

 

アルフが連続でシューターを発射する。 近くにフェイト・テスタロッサはいるがすぐに飛び上がる。 着弾した砂埃で執務官や高町なのはの姿は見えなくなるが、雑種が高町なのはのところに急いで移動していたので大丈夫だろう。 飛び上がったフェイト・テスタロッサの次の行動は、ジュエルシードの確保なのだが、スピードにいつものキレがない。 なので迎撃は簡単で、砂埃から無数のシューターが発射される。 当然フェイト・テスタロッサに当たりそうになるが

 

「ふんっ......」

 

俺は様子見をやめ、王の財宝から剣を射出しシューターをすべて撃ち落しておく。 砂埃も晴れ、こちらを警戒してデバイスを構えているクロノ・ハラオウン。 雑種は俺を睨みつけ、高町なのはは呆然とこちらを見ていた。 フェイト・テスタロッサは、俺を睨みつけている

 

「何者だ!」

 

「それに答える義理はない。 それで執務官よ、アレはいいのか?」

 

みんな俺のことに注目しているが、俺はジュエルシードをさす。 すると執務官は俺を警戒しながらも、デバイスをフェイト・テスタロッサに向ける。 だがフェイト陣営も馬鹿ではなく、アルフはそんな執務官にシューターを連続で発射し牽制する。 後手に回った執務官は防御に回るしかなく、プロテクションで防いでいた。 高町なのはの方も雑種が防いでいるようだし、問題なさそうだな。 俺に攻撃が来ないことを不思議に思っていると、その本人から念話があった

 

『フェイトを助けてくれてありがとう、一応感謝しておくよ』

 

『ふん』

 

「フェイト、さっさと逃げるよ!」

 

相変わらず俺を睨みつけているが、アルフの声を聞きジュエルシードを確保するフェイト・テスタロッサ

 

『お礼は言いません』

 

『クックック、そんなものはいらんさ。 さっさとあの人形遣いと家族ごっこを続けるがよい、人形よ』

 

「つ!!」

 

こっちをひときわ険しい目で睨みつけてくるが、すぐにアルフと一緒に転移をし戦闘は終了した

 

「くっ、逃がしてしまったか......敵対している人間をどうして助けたんだ?」

 

執務官は相変わらずデバイスをこちらに構えながらそう問いかけてきた。 敵対と言っても、それは高町なのは達の話なので俺には関係ないのだが

 

「勘違いしているぞ執務官、我は嫁の味方なだけで誰の味方でもない」

 

「・・・・・・どういうことだ?」

 

本当に不思議そうに見られるが、そう言う他ない。 だがそんな執務官に、雑種が近づいていく

 

「そいつの言うことは気にしなくていい」

 

「雑種、貴様いい加減にしろ......」

 

「お前もいい加減にしろ」

 

王の財宝を背後に展開すると、雑種も臨戦態勢を整える。 だが、それを止めたのは意外にも第三者だった

 

「申し訳ないけどそこまでにしてもらってもいいかしら、こちらも聞きたいことがたくさんあるの」

 

 

 



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第二十四話 時空管理局

高町なのはの誕生日と言うことで、上げときますねー。 なのはー!誕生日おめでとう! まったく内容関係ないけど


転移魔法でやってきたのは次元航空艦と呼ばれる空飛ぶ戦艦の中、名前はアースラだったか? 空飛ぶ戦艦と言っているが、空も飛ぶのだろうが飛ぶのは主に次元と次元の間なので、そこらへんはいい。 執務官の案内の元、俺たちは船の中を歩いていた。 と言っても空気は最悪だが

 

「「・・・・・・」」

 

おもに空気の悪い原因は俺と雑種で、雑種が俺のことを睨みつけているのが主な原因だ。 正直言ってぶっ飛ばしてやってもいいのだが、艦内でおっぱじめるわけにもいかず俺はひたすら無視しているような感じだ。 あれ、オリ主よりオリ主してね? 馬鹿な考えは捨て置き歩き続ける。 なのだが、ふと執務官が止まると俺たち全員を見回す

 

「言い忘れていた。 もうバリアジャケットは解除してもらって構わない、君も元の姿の方が楽だろう?」

 

「あ、えっと、はい」

 

「わかった」

 

「わかりました」

 

高町なのはと雑種はバリアジャケットを解除し、ユーノはそのまま閃光に包まれたかと思うと人間になっていた。 ・・・・・・あー、元々人間だったっけな、ユーノって。 初めて見たけど、ちょっとびっくりした。 事前知識がなかったら多分、今の高町なのはと同じリアクションしてたと思う

 

「ふぅ......なのはにこの姿を見せたのは久しぶりだったよね?」

 

「え、え、えーーー!!?? ゆゆゆ、ユーノ君、人間だったの!?」

 

「あれ? 最初に会ったのってこの姿で」

 

「最初っからフェレットだったよ!?」

 

「・・・・・・あー!!ご、ごめん、そうだったね......」

 

なんで漫才やっているのだろうかこの二人は。 少し呆れながら見ていた執務官だったが、俺の方を向く

 

「君もバリアジャケットの解除を」

 

「うん? 何を言ってるのだ執務官、我はバリアジャケットなど展開していないぞ?」

 

「「「!?」」」

 

「・・・・・・」

 

雑種はわかっていたのか驚かなかったが、高町なのは、ユーノ、執務官は驚いていた。 いや、確かに展開しないであんなこと俺もしたくないけど、仕方ないじゃん踏み台故。 驚かなかった雑種はわかっていて俺に斬りかかってきたわけなのだが、それは俺を殺す気だったということでいいのかな? まさか魔法だから、非殺傷だから死なないとでも思ったとでもいうつもりだろうか? 非殺傷でも当たり所が悪ければ死ぬし、そもそも非殺傷と言ってもバリアジャケットを展開していればの話で、一般人にとっては脅威でしかないと思うのだが。 まぁ、脳みそお花畑の雑種に言ったところで仕方ないと思うが

 

「本気、で言ってるのか?」

 

「本気も何もデバイス自体はもっているが起動しないのだ、仕方あるまい?」

 

指輪付きのネックレスを出すが何の反応もない。 念話でペイルに謝りつつ、それを制服の中に仕舞う

 

「君は......いや、その件もあとで聞く。 すまないが艦長が待っている、行こう」

 

違う意味で重くなった空気はそのままに、また歩きはじめる俺たち。 さっきと違うことがあるとすれば、高町なのはの心配そうな瞳が加わったことか。 それから数分間歩き続け、執務官はとある扉の前で止まった。 一男子としてやはり戦艦とか憧れるが、今の状態じゃそういうのに感動するのは無理そうなので心の中で感動しておいた。 自動ドアが開かれ外から中を見るのだが、なんだろうか、こうこれぞ日本て感じで、外国人の日本感があらわされた部屋だった。 思わず顔が引きつるが、雑種は何事もなかったかのようになかに入っていく。 次に高町なのはだが、やはり高町なのはも顔をひきつらせていた。 俺の感性がおかしかったわけじゃないみたいだな

 

「中に入らないのか?」

 

「い、いや、入らせてもらう」

 

中に入るのだが、やはり戦艦に和室と言うのは合わず顔がかなり引き攣る。 思うのだが、なんで戦艦の壁がそのままなんだ? ホログラムかなんかで和室みたいにすれば、もっと違和感がなかったとおもうのだが......他人の趣味なのでとやかく言わないが、先に部屋の中にいた女性、さっきの俺たちを止めた女性の対面に腰を下ろす

 

「お疲れ様クロノ。 四人もようこそアースラに」

 

そんなふうに始まった話し合い。 なぜかお茶うけに羊羹が出されたり、お茶に砂糖とミルクとかお茶の風味を殺しにかかったことがあったりしたが、俺は何も見ていない。 いや、抹茶オレがあるのだから許されるのか?

 

「そう、貴方があのロストロギアを......」

 

「はい、なので僕が回収をと思ったのですが......」

 

「立派ではあるが無謀でもある!」

 

今はユーノがジュエルシードを集めている理由を聞かれているのだが、執務官は怒っていた。 ユーノの行動には好感は持てるが、確かに無謀ではある。 なんでほかのスクライアの一族に助けを求めなかったとか、人を雇うだとか考えなかったのか突っ込みどころはあるが、ユーノが回収しようと思わなければこうやって被害が少なくできなかったのだから何とも言えない。 何故ここで管理局を持ち合いに出さなかったのかと言われれば、万年人手不足の管理局だ、ユーノが管理局を頼ったとしてもすぐに動いていてくれてたかどうか......

 

「事情は分かりました。 ユーノさんとなのはさん、織さん、理樹さん危険なことなのにありがとうね」

 

「は、はい!」

 

「い、いえ......」

 

「「・・・・・・」」

 

なのはやユーノは恐縮していたが、俺と雑種は無言。 いつもなら何か言っていただろうけど、ポイントは順調だ。 ここで管理局の心証を必要以上に悪くする必要はない、故に俺は無言を貫く。 雑種は別に当然だという顔をしているので無視。 そこで高町なのはがずっと疑問に思っていたのか、質問をしていた

 

「あの、ロストロギアってなんなんですか?」

 

「あぁ、そうだったわね。 ロストロギアっていうのは、遺失物世界の遺産・・・・・・って言ってもわからないわよね? この次元の海には様々な世界があってね、その世界の中で極稀に進化しすぎる世界があるの。 自分たちの行き過ぎた科学や技術、それによって世界が崩壊。 その失われし世界の危険な技術の塊、それらを総称してロストロギアと言うの」

 

「補足だが、使用方法、使い他によっては次元世界も滅ぼすことも可能だ」

 

「そんなロストロギアをしかるべき手続きのにっとり、しかるべきところに集め、封印する。 貴方たちの探しているロストロギア、ジュエルシードも次元干渉型のエネルギー結晶体。 数個集めて特定の方法で起動させれば次元震さえ引き起こすことが可能なの」

 

「君が起こした、振動と魔力の奔流。 それが次元震だ」

 

そう言って俺に向く視線。 そこまで詳しい説明は知らなかったが、次元震は知っている。 それが危険なことも。 だが、起こす必要があったのだ。 原作通りに進めるには...... 一応神妙に頷いておく。 そんな俺の様子に納得したのか続きを話し始める

 

「ジュエルシードひとつで、しかも本来の起動の何万分の一の起動であの次元震だ。 複数個、それも本来の力で起動したらその被害は計り知れない」

 

「聞いたことがあります。 過去に大きな次元震が発生して、その隣接した世界の多くが被害を受けたとか」

 

「アレは酷かったわ...... 隣接していた世界七つ、環境の変化や津波のせいで多くの命が失われ、人が住めなくなる星まで出てきたのだから」

 

「そんなこと、再び起こしてはいけない」

 

空気が少し重くなる

 

「ジュエルシードはこれより時空管理局が責任を持って捜査をします、ですのでこれ以上の協力は不要です」

 

「「え?」」

 

「ここからは時空管理局が責任を持って捜査する、だから君たちは日常生活に戻ってくれ」

 

こうなるのは当然の結果なのだが、ユーノと高町なのはは呆然としていた。 雑種は腕を組んで目を瞑っているため表情は読めない。 俺は勿論最後まで関わるつもりだ、プレシア・テスタロッサとの契約の件もある

 

「いきなりそんなこと言われても納得できないだろうから、今日はゆっくり考えてまた明日話をしましょう?」

 

そんな艦長の笑顔に押され、高町なのは、雑種、ユーノは立ち上がる。 俺の立ち上がろうとしたのだが

 

「あぁ、神木理樹君。 貴方だけは残って頂戴?」

 

「どういうことだ?」

 

「君はあの次元震、魔力の奔流を間近で受けたんだ、精密検査をしていくといい」

 

そんなわけで俺だけ残されることになった



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第二十五話 時空管理局 ~なのは視点~

~なのは視点~

 

ジュエルシードが閃光に包まれて神木君が吹き飛ばされた次の日、私は学校で彼の姿を探していた。 昨日はあの後少し残って探したけど、結局神木君は見つからず、多分自力で帰ったんだろうって思って帰った。 胸の中は不安でいっぱいで、よく夜も眠れなかったけど、学校に行けば会えるそう信じて。 でも学校に来て、朝の会で伝えられたのは彼が休みだってこと。 アリサちゃんやすずかちゃんはほっとしたような顔をしていたけど、私はさらに不安になった。 もしかしたら、そんな嫌な予感もするけど頭を振ってその嫌な想像を振り払う。 学校も終わってジュエルシード探し、織君は休んでいて良いって言ってくれたけど、多分ジュエルシードの反応があれば神木君がいるはずだから。 私はそう思って、ジュエルシード探しに参加する

 

「本当に、どうしてこんなに気になるんだろう? 神木君......」

 

その呟きは誰にも聞こえずに消えていく。 しばらく探索を続けていると、ジュエルシードの反応が

 

「なのは!」

 

「うん! 行こうユーノ君、織君!」

 

「あぁ!」

 

ユーノ君の先導に従い私たちはジュエルシードの発動場所に行くと、すでにジュエルシードは発動していて、お化けみたいな巨大な木になっていました。 軽く辺りを見回すけど神木君の姿はなくて、私は気持ちを切り替えて木に向かってレイジングハートを構える。 直後、木に向かって黄色い閃光がいくつも降り注ぐけど、バリアみたいなので防がれていた

 

「なのははそのまま空に!俺はこのまま地上から引きつける!」

 

「わかった!レイジングハート、お願い!」

 

レイジングハートにお願いするとすぐに飛行魔法を展開して、私を補助してくれる

 

「行くよレイジングハート!ディバイン」

 

「バスター」

 

砲撃をするけど木のバリアは破れない。 少し込める魔力を増やすと木はつぶれるけど、バリアを貫通するまでにはならない。 もっと込める魔力を増やそうかと思ったけど、フェイトちゃんの鎌をの刃を飛ばす攻撃が見えたので少し待つ。 でもバリアは二か所同時に展開されて、攻撃は防がれるけど少しバリアが弱まった! 少し魔力を込めると、フェイトちゃんからも砲撃が来て見事にバリアを破る。 共同作業、なのかな?

 

「いまだ!」

 

「ジュエルシード、封印!」

 

急いで封印するけど、前回と同じで私とフェイトちゃん二人の砲撃でジュエルシードが封印されていた。 私はジュエルシードに近寄ると、フェイトちゃんも近寄る

 

「ジュエルシードには衝撃を与えちゃいけないみたい」

 

「うん、昨日みたいなことになったら私も、私のレイジングハートも、フェイトちゃんやフェイトちゃんのバルディッシュもかわいそうだもんね」

 

静かに頷くフェイトちゃん。 本当に神木君は大丈夫だろうか? ついつい考えてしまうけど、フェイトちゃんが武器を構えたことで気持ちを切り替える

 

「でも、譲れないから」

 

「私はフェイトちゃんと話がしたいだけだけど...... 私が勝ったら、私が甘ったれた子じゃないってわかったら、お話聞いてもらうから!」

 

私がフェイトちゃんに向かって飛びながらデバイスを振りかぶるのと同時に、フェイトちゃんも同じようにデバイスを振りかぶってくる。 でも、ぶつかることはなくて

 

 

「ストップだ!ここでの戦闘は危険すぎる!!」

 

「「っ!」」

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!詳しい事情を聞かせてもらおうか!」

 

いきなり私とフェイトちゃんの間に出てきた子が、私とフェイトちゃんのデバイスを掴んだからだ。 時空管理局とか執務官ていうのはよくわからなかったけど、戦闘が危険だと言われて、私とフェイトちゃんはデバイスをおろし地上に降りる。 だけど

 

「逃げるよフェイト!」

 

アルフさんが連続でシューターを発射する。 狙いはクロノ君みたいで、近くにいたフェイトちゃんと私は当然巻き込まれる。 でもフェイトちゃんはすぐに飛び上がり、私とクロノ君は砂埃で回りが見えなくなってしまう。 いつの間にか織君が来てくれてたからか、私たちに魔力弾が当たることはなかった。 いきなりクロノ君が魔力弾を空に向かって放つからびっくりしたけど、その方向は確かジュエルシードの方で。 魔力弾の風のおかげで一瞬見えたけど、フェイトちゃんに当たりそうになっていた魔力弾は剣によって相殺されていた

 

「ふんっ......」

 

聞き覚えのある声が聞こえてその方向を向くと、私が探していた人物がいた。 神木君だ、何時ものように腕組みをして立って居た。 よかった、無事だったんだ。 私がホッとしている間に、クロノ君は神木君に詰め寄っていた

 

「何者だ!」

 

「それに答える義理はない。 それで執務官よ、アレはいいのか?」

 

神木君の指差す方向を見てみると、ジュエルシードを確保しようとするフェイトちゃんの姿が。 するとクロノ君はデバイスを神木君からフェイトちゃんの方に向けるけど、アルフさんがすかさず魔力弾を連続で発射してサポートしていた

 

「フェイト、さっさと逃げるよ!」

 

「つ!!」

 

そう声がしたのでフェイトちゃんの方を見てみると、なぜか神木君を睨みつけていた。 どうしたんだろう、いつもなら神木君ももうちょっと反応しそうな気がするし、フェイトちゃんもあそこまで睨むようなことはなかったような気がするけど...... 結局答えはわからないまま、フェイトちゃんは転移魔法でこの場からいなくなってしまった

 

「くっ、逃がしてしまったか......敵対している人間をどうして助けたんだ?」

 

敵対している、って言われてハッとなる私だけど、神木君は特に気にした様子もなく

 

「勘違いしているぞ執務官、我は嫁の味方なだけで誰の味方でもない」

 

と言っていた。 なぜか胸がもやもやするけど私にはわからなくて、そのまま考えていたけど、気がついたら何故か織君と神木君が臨戦態勢だった。 私は急いで止めようとするけど、止めたのは目の前に映ったモニターの女の人だった

 

「申し訳ないけどそこまでにしてもらってもいいかしら、こちらも聞きたいことがたくさんあるの」

 

------

 

『え、えとえと、ユーノ君ここは一体?』

 

『時空管理局、その次元航空艦の中だね。 簡単に言うと次元の海を渡るための船、というわけだよ』

 

『あんまり簡単じゃないかも......』

 

お話を聞きたい、そう言って転移魔法でやってきたのは、ユーノ君が言うには次元航空艦の中らしいのですが、私には何がなんだかさっぱりです

 

『簡単に言うと、俺たちの世界も次元世界のの一つで、他にも俺たちのような文明を気付いている世界を次元世界と言うんだ。 そのいくつもある次元世界がお互いに干渉し合うようなことを監視するのが時空管理局、時空管理局については俺たちの世界の警察と軍隊、裁判所が合体したような組織だと思ってくれ』

 

『ほぇー、織君詳しいね』

 

正直言って織君の説明でも少しよくわからなかったけど、少しはわかったかな? でも織君、なんで神木君のこと睨んでるんだろう。 そのせいで少し空気が重い。 前に織君になんで睨むのか聞いたけど、答えてくれなかったし

 

 「「・・・・・・」」

 

そんな空気が悪い中、ふとクロノ君立ちが止まると私たち全員を見回し

 

「言い忘れていた。 もうバリアジャケットは解除してもらって構わない、君も元の姿の方が楽だろう?」

 

「あ、えっと、はい」

 

「わかった」

 

「わかりました」

 

そう言ってくれた。 すっかり忘れていたけど、私たちはフェイトちゃんと戦った後だったのでバリアジャケットに変身したままだった。 私はバリアジャケットを解除したけど、なんでかユーノ君が光に包まれていた。 その光がはれると、ユーノ君は消えて、男の子が...... 男の子が!?

 

「ふぅ......なのはにこの姿を見せたのは久しぶりだったよね?」

 

男の子が声をかけてきたと思ったけど、その声は聞き覚えのある声で。 まさか、ユーノ君!?

 

「え、え、えーーー!!?? ゆゆゆ、ユーノ君、人間だったの!?」

 

「あれ? 最初に会ったのってこの姿で」

 

「最初っからフェレットだったよ!?」

 

「・・・・・・あー!!ご、ごめん、そうだったね......」

 

私の記憶違いかと思ったけど、ユーノ君も思い出したみたいで私が正しかったみたい。 流石に最初会った時が人間の姿だったら、もっと大変な事態になってたと思う。 私がユーノ君と話し込んでいると、驚く会話が耳に飛び込んできた

 

「うん? 何を言ってるのだ執務官、我はバリアジャケットなど展開していないぞ?」

 

「「「!?」」」

 

「・・・・・・」

 

バリアジャケットを展開していなかった? 前にユーノ君も言ってたけど、やっぱりバリアジャケットを展開していなかった神木君。 と言うことは昨日吹き飛ばされていたけど、それは何も衝撃を吸収するものがなかったということで。 私はその後の会話を呆然と聞いていた。違う意味で重くなった空気、私は心配になり神木君を見るけど、神木君は気がついていないのかそれとも...... クロノ君がある扉の前で止まり、私たちも止まる。 自動ドアが開かれ外から中を見るのだけど、なんだろう戦闘の神木君の表情がちらっと見えたけど、顔が引きつってる? 神木君のそんな表情を気にせず織君が中に入って、私もその後に続くように入ろうとするけど、なんで神木君の顔が引き攣っていたのかわかった。 外国の人がこれぞ日本、っていう間違ったイメージそのまんまのような感じの部屋だったからだ。 一瞬呆然となったけど、入らないわけにもいかず、中に入る。 やっぱり神木君もためらったようで、クロノ君に入室するように言われようやく入っていた

 

「お疲れ様クロノ。 四人もようこそアースラに」

 

そんなふうに始まった話し合い。 お茶やお茶うけに羊羹とかが出されたけど、どうやって手に入れたんだろう? それとリンディさんが飲んでいたものだけど、私はあれを飲み物とは認めない

 

「そう、貴方があのロストロギアを......」

 

「はい、なので僕が回収をと思ったのですが......」

 

「立派ではあるが無謀でもある!」

 

今はユーノ君がなんでジュエルシードを集めている理由を聞かれているのだけど、ユーノ君はクロノ君に怒られてる。 リンディさんも難しい顔で頷いているってことは、クロノ君の意見に賛成みたい...... でも、ユーノが回収しようと思わなければもっと被害も出ていたかもしれないし、私は少し悲しくなった。 織君を見てみると、無言で腕を組んでいて、よくわからなかった。 神木君は微妙な表情をしている。 私と一緒なのかな?

 

「事情は分かりました。 ユーノさんとなのはさん、織さん、理樹さん危険なことなのにありがとうね」

 

「は、はい!」

 

「い、いえ......」

 

「「・・・・・・」」

 

リンディさんに褒められたのは嬉しいけど、私はずっと疑問に思っていたことをリンディさんに質問してみる

 

「あの、ロストロギアってなんなんですか?」

 

「あぁ、そうだったわね。 ロストロギアっていうのは、遺失物世界の遺産・・・・・・って言ってもわからないわよね? この次元の海には様々な世界があってね、その世界の中で極稀に進化しすぎる世界があるの。 自分たちの行き過ぎた科学や技術、それによって世界が崩壊。 その失われし世界の危険な技術の塊、それらを総称してロストロギアと言うの」

 

「補足だが、使用方法、使い他によっては次元世界も滅ぼすことも可能だ」

 

「そんなロストロギアをしかるべき手続きのにっとり、しかるべきところに集め、封印する。 貴方たちの探しているロストロギア、ジュエルシードも次元干渉型のエネルギー結晶体。 数個集めて特定の方法で起動させれば次元震さえ引き起こすことが可能なの」

 

「君が起こした、振動と魔力の奔流。 それが次元震だ」

 

よくわからないところもあったけど、とても危険なものと言うことはわかった。 クロノ君の視線は神木君に向いていて、昨日の魔力の爆発? は次元震と言うかなり危険なものらしい。 神木君はその説明を聞いて、神妙に頷いていた

 

「ジュエルシードひとつで、しかも本来の起動の何万分の一の起動であの次元震だ。 複数個、それも本来の力で起動したらその被害は計り知れない」

 

「聞いたことがあります。 過去に大きな次元震が発生して、その隣接した世界の多くが被害を受けたとか」

 

「アレは酷かったわ...... 隣接していた世界七つ、環境の変化や津波のせいで多くの命が失われ、人が住めなくなる星まで出てきたのだから」

 

「そんなこと、再び起こしてはいけない」

 

そんなものを神木君は生身で受けていたの? 再び思考の渦にのまれそうになっていた私を元に戻したのは、衝撃的な一言だった

 

「ジュエルシードはこれより時空管理局が責任を持って捜査をします、ですのでこれ以上の協力は不要です」

 

「「え?」」

 

「ここからは時空管理局が責任を持って捜査する、だから君たちは日常生活に戻ってくれ」

 

協力は不要? 日常生活に戻ってくれ? どういうことなのか理解できない。 そんなふうに私は茫然として、それでも何か言わないとと思うのに口が動かない。 そんな私の様子にリンディさんはにこりと微笑んで

 

「いきなりそんなこと言われても納得できないだろうから、今日はゆっくり考えてまた明日話をしましょう?」

 

そう言われて、正直有難かったかほっとしたかわからない。 でも、色々なことがありすぎて頭が混乱していたことだけはわかる

 

「あぁ、神木理樹君。 貴方だけは残って頂戴?」

 

------

 

「とりあえずお家、帰ろうか?」

 

「あ、うん」

 

場所は変わって、お話前までフェイトちゃんと戦っていた公園。 なんだろう、目の前の光景に少しホッとする。 織君は転送が終わるとすぐに帰ってしまい、今は私とユーノ君の二人きり。 もう少し海を見て少し落ち着きたかったけど、それじゃあ暗くなりそうだったから思い切って帰ることにした

 

「同い年くらい?」

 

「あー、うん...... ごめん、なんか隠していたみたいになっちゃって。 別に隠していたわけじゃないけど、怒ってたりするかな?」

 

「ううん、別に怒ってないよ? 少し驚きはしたけど、それだけ」

 

「そっか......」

 

ユーノ君は心配そうにこっちを見ていたけど、私が素直に伝えるとホッとしたような顔をしていた。 本当に人間に変身した、ううん、この場合は戻ったっていう方が正しいのかな? ともかくいきなり変身した時には驚いたけど、別に怒ってはいない

 

「あ、でも普段はこっちの姿でいるようにしようかな?」

 

そういうと、またいつも通りのフェレット姿に戻り、私の肩に飛び乗ってくるユーノ君

 

「うん、そうだね。 それじゃあ帰ろうか? 帰って話し合おう、これからのこと」

 

そう、これからのことを......



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第二十六話 真実


2018.5.23 誤字の方修正しました。 報告ありがとうございます


執務官が高町なのは達を送っている間、俺は艦長と二人きりだったが特に話をすることなくお茶を飲んでいた。 何故残されたかわからないが、俺一人だけと言うのが気になった。 あれこれ考えてみるが、結局この後話があるので静かに待つことにした。 若干の居辛さはあるが、目の前の光景を視界に入れないようにすれば気が楽だった。 あのお茶、そもそもお茶と呼べるような代物なのかさえ気になるところなのだが、それを幸せそうな表情で飲んでいる艦長を見なければ

 

「すみません、お待たせしました艦長」

 

「いえ、大丈夫よクロノ。 理樹さんも大丈夫よね?」

 

「・・・・・・」

 

無言でうなずいておく。 さっきと同じように執務官が艦長の横に座ると、艦長は姿勢をただしこちらを真剣な表情で見る

 

「貴方に残ってもらったのは他でもないわ、あなたのレアスキルについて」

 

「レアスキル? なんの話だ?」

 

とりあえずとぼけてみた。 レアスキルと言うのは、間違いなく王の財宝のことだろう。 今回も使っているし、次元震を観測したのなら、その前後を監視しているはずなので、使ったところを見ていてもおかしくない。 一応地球出身だ、そんなことを知っていてはおかしいのですっとぼけているのだが、どう出るか

 

「レアスキルと言うのは文字どおりの意味で、希少なスキルのことだ。 君が射出した剣や斧、そのほかにも射出しているがそれはレアスキルだろう?」

 

やはりばれているようだ。 ならシラを切る必要はない、俺は頷いて肯定する

 

「やはりそうなのね...... あの射出された剣自体がレアスキルなのかしら?」

 

「それを語る必要はないであろう? いくらこれから協力関係にあると言っても、自分から手の内を語る必要はあるまい?」

 

挑発するように笑みを浮かべるが、それに乗ってくることはなく目の前の二人は冷静だ。 流石執務官と艦長職と言ったところか、腹芸は得意らしい。 だが今更態度を改める気もないので、このまま話し合いを続ける

 

「協力関係だからこそ、ある程度の手の内を明かすことも必要だと思うが?」

 

「それも確かに一理あるが、あったばかりの人間をすぐに信用するなど馬鹿のやることだ」

 

「・・・・・・この話はいったんおいておきましょう。 次の話なのだけど、次元震の時の話よ」

 

「・・・・・・嫁たちに我の勇姿を見せた時の話か」

 

「・・・・・・」

 

一瞬反応が遅れたが、不審には思われなかったようだ。 勇姿と言ったところで執務官には睨まれているが、何か言ってくることはない。 予想通りと言えば予想通りだ、次元震の時のことが聞かれるのは。 さて、どう質問してくるか。 頭の中で質問の内容や答えを用意しつつ、相手の出方を見る

 

「勇姿、と言うよりも無謀よ。 バリアジャケットを着用せず、あの魔力に突っ込んでいったんだもの。 いくら前準備で魔力を放出させても、微々たるものでしかないのだもの」

 

「何を言っているのだ? 魔力の放出? 我はそんなものはしていないぞ? 我がやったのは、剣を射出して嫁の視線を我に向けただけぞ?」

 

「あの剣を僕たちが解析していないわけがないだろう。 流石に材質や能力などはわからなかったが、ただ一つ分かったのは、あの剣に魔力を放出させる力があったことだ。 実際、あの剣が近くにないときとある時では、ジュエルシードに内包された魔力に違いがあった」

 

「偶然であろう? 我にそんな意図はない」

 

ばれている。 俺が宝具の原点を選んで射出していることが。 苦しい言い訳なのはわかるが、ここでばれるわけにはいかない。 踏み台のポイントは十分集まっているとはいえ、まだ必要だ。 こんなところで躓くわけにはいかない

 

「偶然? 刺さった数本の剣が全部同じ反応を示しているのにか!」

 

「クロノ、落ち着きなさい。 偶然、と言い張るなら偶然でもいいです。 では次に、貴方はジュエルシードを素手でつかみ吹き飛ばされました。 なのになんであんなに怪我が少なかったのかしら?」

 

「・・・・・・」

 

あくまで冷静な艦長。 やはりばれていたようだ。 あのまま素直に吹き飛ばされて、怪我を負うべきだっただろうか? 今考えても仕方のないことだが、考えてしまう

 

「反論、あるかしら」

 

「・・・・・・我の体は頑丈だからな、あの程度の怪我で済んだのだ」

 

「まだ言うのか!? ならば言ってやる! ジュエルシードを彼らから引き渡してもらうとき、一緒に封印の様子をデータとして貰った。 君はふざけているようだが、被害が拡大しないように気を使って戦闘していただろう!! たとえば神社の時だ!」

 

俺の襟首をつかみながら、怒る執務官。 どうやら、すべてわかっていたらしい。 それでこの話し合いを設けたなら、最高のタヌキだあの艦長。 俺はあの結界を張り、執務官の話を遮る

 

「わかった、もういい」

 

「なにがいいんだ!」

 

「話すさ、すべて」

 

「クロノ座りなさい。 それで、話って何かしら?」

 

「その前に一言、この狸め」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ」

 

俺の皮肉の利いた一言にも、笑顔で返す艦。 ホントいい性格してる

 

「それで、何から聞きたいんですか?」

 

「まずはレアスキルについてかしら? アレは、なんなの?」

 

「簡単に言えば、異次元に収納してある武器を自由自在に収納、射出できるスキル、でしょうか?」

 

「あの金色の波紋が門みたいな役割、と言うことでいいのかしら?」

 

「そういうことになります」

 

それを聞いて、納得したような難しい顔をしていた。 王の財宝についてはこんなものだと思う。 詳しく説明しろって言われれば、面倒だし、それに長くなる

 

「一応それで納得しておきましょう」

 

「なら次の質問だ。 次元震の時に使った剣だが、アレはどういうものなんだ?」

 

「さっきも言った通り、周りの魔力を放出させるものだ。 ジュエルシードの周りに刺さってるすべてのものが、その効果が付与してあるものだ」

 

「それ以外にもある、と言うわけね?」

 

「基本はさっき言ったレアスキルの中に収納されている武器ですからね、効果はいろいろありますよ?」

 

それを聞いて一気に顔を引きつらせる執務官、そこまでとは思っていなかったらしい。 と言っても、今の俺じゃあ全部使いこなせないし、そもそも機能ロックがかかっているから、高位の宝具は使えない。 王の財宝単体で見れば初見殺しは出来るだろうけど、二回目からは対策されると思う。 俺も結構長く使ってるから調整は出来るけど、それでも達人級と当たれば微妙なところだ

 

「レアスキルについてはわかりました。 では最後に、貴方の目的は何?」

 

「・・・・・・」

 

目的、目的か。 この人たちが信頼できるかと言われれば、答えはYesだ。 原作の記憶から見ても主人公たちとは長い付き合いだし、好感ももてる。 でも、俺の目的を話してしまっていいのだろうか? 内心葛藤していると、話せないことと勘違いしたのか執務官が詰め寄ってくる

 

「彼らは気がついていないようだが、君は毎回登場するタイミングが良すぎるんだ! 次元震の時や今回の時も、近くで見ててなぜ助けないんだ。 すぐに助けていれば勘違いも......」

 

「それは違う」

 

執務官の言葉を遮り、俺は話し始める。 どうやらこの執務官は、こんなどうしようもない俺のことまで気にかけてくれているらしい。 それが執務官からくる義務感なのか、元々の性格なのかはわからないが、俺に真摯に向き合ってくれている。 なら俺も...... それにどうせここまで話したのだ、ここまで来たら変わらないだろう。 俺はある程度ぼかして目的を語ることにした

 

「俺はわざとそういうふうに行動しているんだ。 突然突拍子もないことを言うが、俺には呪いがかけられてる」

 

「呪い? また非科学的な......」

 

「魔法も十分非科学的だと思うが...... ともかく呪いがかけられているんだ。 この呪いを解除するには人に嫌われ、その嫌われた分をポイントとして集計し、一定のポイントがたまれば呪いが解除される」

 

「「・・・・・・」」

 

執務官は胡散臭そうに俺のことを見ているが、艦長の方は目で続きを促してくる

 

「これが目的の一つ目。 そして二つ目に、このジュエルシード事件を無事に終わらせること。 レアスキルとはまた違うんですが、俺はこの先に起こること、つまり未来視と言うんですかね、それがわかります」

 

「なんだって!? 相当なレアスキルだぞ!?」

 

「と言っても完璧に未来がわかるわけじゃないし、少しの行動によっても未来は変わる。 俺はそのズレを少なくして、知ってる未来に修正してる。 タイミングの登場が良かったりするのは、先に言った人に嫌われるのもあるが、未来視の通りに未来を進めるためでもある」

 

「「・・・・・・」」

 

今度は茫然とする執務官、艦長の方は目を閉じて考え込んでいるようだった。 思ったよりものどが渇いていたので、お茶を飲みのどを潤す

 

「・・・・・・あなたの目的はわかりました。 ですが、なぜ語ったんですか? 貴方の話によると、人の嫌悪感をポイントとして稼がないといけない、と言うことは監視者がいるのでしょう?」

 

「その通りです。 ですが、その監視者の目はすでに結界を張ることで誤魔化しています。 先に言えればよかったんですが、勝手に結界をはらしてもらっています、すみません」

 

「「・・・・・・」」

 

今度は艦長の方も驚いたようだが、それもそうだろう。 この結界は魔術の方の魔力を使って、探知させないようにしている

 

「それに、この話が監視者にばれた時点で俺は死んでます」

 

「え?」

 

「呪いの効果ですよ。 ポイントをある一定期間中に集めないと死ぬ、それにプラスして第三者にばれた時点で死ぬ。 そういう呪いですから」

 

「辛く、なかったの?」

 

「もう慣れました」

 

顔を伏せる艦長に、膝に置いた手を固く握りしめる執務官。 ホントいい人たちだな、この人たち。 だからこそ、俺は話した

 

「このことは内密に、誰かにばれて俺も死にたくないので」

 

「・・・・・・わかったわ」

 

「それともう一つ。 俺を管理局に所属させてください、このレアスキル役に立つでしょう?」

 

「それは構わないが......」

 

「自分から言っておいて条件が一つ。 これから俺が人に嫌なことをしても黙認してほしいんです、やっぱりある程度自由が欲しいですから」

 

「・・・・・・わかったわ」

 

悲痛な顔をする艦長から目をそらし、俺は立ち上がる。 そういえば一つ忘れるところだった

 

「僕の名前は神木理樹です」

 

「リンディ・ハラオウンよ」

 

「クロノ・ハラオウンだ」

 

「これからよろしくお願いします、リンディさん、クロノ」

 



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第二十七話 The choice of their own

~なのは視点~

 

アースラから帰ってきた私とユーノ君は、家で夕飯を済ませて久しぶりにゆっくりしています。 私はお母さんの手伝いをしながら皿洗い、ユーノ君は多分私の部屋で、アースラと連絡を取っていると思います。 民間人がかかわることじゃないって言われたけど私もユーノ君も、納得できなかった。 途中で投げ出すことも嫌だし、何よりもフェイトちゃんとこんな終わり方するのも私は嫌だった

 

『なのは』

 

『ユーノ君』

 

『うまくいったよ』

 

『わかった、ありがとうユーノ君』

 

アースラの人たちと連絡は終わったみたいで、ユーノ君は念話をしてくれた。 お手伝いが正式に決まった、そのことをお母さんたちに話さないといけないわけで、実は時間は貰ってあったりする

 

「それじゃあなのは、桃子、お父さんたちはこれから裏山に行ってくるから」

 

「今日も練習?」

 

「あぁ」

 

お父さんとお兄ちゃんは日課の裏山のトレーニングに行くみたいで、お姉ちゃんは

 

「あ、待って待って、私も見学!」

 

「来るなら早くしろー」

 

「今行くから待ってー、いったー!!?」

 

鈍い音が聞こえて、お父さんとお兄ちゃんの笑い声が聞こえてきた。 たぶん今の鈍い音はお姉ちゃんがどこかにぶつけた音で、私とお母さんは顔を見合わせると小さく笑ってしまった。 皿洗いも終わり、お皿を拭いて戸棚に戻すと

 

「これでお終いね。 それじゃあ、お話って何?」

 

「うん.....」

 

お母さんが顔を覗き込みながら聞いてきた。 少し...... ううん、かなり言いにくいことだけど、決めたことだから言わなくちゃ。 それから私が話したのは、ユーノ君と出会ってから今までのこと。 もちろんユーノ君の正体や魔法のことはいえないけど、それでも話せることは全部話したつもりだ。 それと、そのために少し家を開けないといけないこと

 

「もしかしたら危ないこともあるかもしれないけど、友達と始めたことでもあるし、私自身最後までやりたいの。 心配かもしれないけど、だめかな?」

 

「うん、話は分かったわ」

 

お母さんは私の話に特に口をはさむことはなく、目を閉じながら真剣に聞いてくれていた。 私はお母さんの次の言葉を待つ

 

「心配、確かに心配よ、お母さんだもの。 とっても心配よ? でもね、なのはが迷ってるなら危ないことはやめなさいって止めたかもしれない。 でもなのははもう決めてるんでしょ?」

 

「うん......」

 

お母さんが心配だって言ってくれたのは嬉しかったし、胸も締め付けられる気持だったけど、お母さんの言う通り私はもう行くって決めた

 

「だったら私は止めないわ。 なのはが選んで決めたんだもの。 それにね、その友達と始めたことやり通したい、話に出てきた女の子ともう一回お話ししたい、そう思ってるんでしょ? 心配だけど、私はなのはを応援するわ。 お父さんとお兄ちゃんの説得はお母さんに任せなさい!だから、後悔しないように行ってきなさい」

 

「お母さん...... うん、うん!」

 

お母さんは静かに私の頭を撫でてくれた。 それが嬉しくて、お母さんに心配をかけてしまうのが申し訳なくて、思わず抱きついてしまった。 目の奥があつくなったり、鼻の奥がつんとしたけどそれを飲みこみ、お母さんから離れる

 

「お母さん、行ってきます!」

 

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

何時ものように送ってくれるお母さんに感謝して、私は部屋に戻り用意してあった荷物を背負う。 レイジングハートを見ると、わかっていたように私のもとに飛んでくる。 それを私は大事に包み込み、首にかける。 行こう

 

~なのは視点 end~

 

~フェイト視点~ 

 

「もう逃げようフェイト!」

 

「・・・・・・」

 

アルフはそういうけど逃げるわけにはいかない。 さっきの戦闘で時空管理局が介入をしてきた、その戦闘が終わり拠点であるマンションに帰ってくると、アルフはしきりにそう言ってきた。 確かに時空管理局は厄介だし、多分あの執務官も相当な実力者だろうけど、それでも私の答えは変わらない。 母さんがジュエルシードを必要としているなら私は......

 

「雑魚クラスの局員ならともかく、今日でてきた魔道士は一流クラスだよ!? 本気で捜査されたらここだっていつまでばれずにいられるか...... それにあの鬼婆、アンタの母さんだってわけわからないことばっかり言うし、フェイトに酷いことばっかりするし......」

 

「母さんのこと、悪く言わないでアルフ。 ね?」

 

アルフの頭をなでる。 少しとはいえ精神リンクしてるからわかるけど、アルフの心配な思いが伝わってくる。 アルフはいつも私を心配してくれる、それはわかってはいるけど...... でも母さんのことを悪く言うのは駄目なんだ。 アルフも母さんも家族、家族が家族の悪口を言っちゃダメ。 それに母さんだって本心であんなことをしているわけじゃない、私が弱いから......

 

「言うよ!! 私はフェイトが悲しんでると私も悲しくて、心がちぎれそうになるんだ! フェイトが泣いていると、目と鼻の奥がつんとしてどうしようもなくなるんだ...... フェイトが泣くのも、悲しいのも私嫌なんだよ!!」

 

「アルフと私は少しだけど精神リンクしてるから、ごめんね。 アルフが痛いなら私、悲しまないし泣かないよ」

 

私がそういうとアルフはなぜかふさぎ込んでしまう

 

「違う、違うよフェイト!私は、私はフェイトに幸せになってほしいだけなんだ......なんでわかってくれないのさフェイト」

 

そう言って泣き出してしまうアルフ。 そっか、アルフはそう思ってたんだね...... アルフの想いは嬉しいけどでもね

 

「ありがとう、アルフ。 でもね私、母さんの願いをかなえてあげたいんだ。 母さんのためだけじゃなく、私のためにも。 だからねアルフ、あともう少し、もう少しだけ手伝ってくれるかな?」

 

アルフの頭をなでながらそういうと、涙で頬をぬらしながら顔を上げ

 

「約束して。 あの人のためじゃなく、フェイトはフェイトのために頑張るって。 そしたらアタシはフェイトを守るから」

 

「うん」

 

アルフの言葉を嬉しく思いながら、私はより一層ジュエルシード集めの思いを強くする。 少しだけ休息を取り、私は立ち上がる

 

「フェイト」

 

「大丈夫、だから行こうアルフ」

 

マントと手袋を形成し、バルディッシュを構える。 そしてそれを見上げ、私はジュエルシード集めを再開する。 母さんのために、アルフのために。 ・・・・・・自分のために



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第二十八話 共同戦線

2018/4/7 誤字のほう修正しました。 報告ありがとうございます


「さて、本日午前零時をもって本艦の任務はジュエルシードの回収となります。 気を引き締めましょう」

 

会議室(?)のようなところに集まり、リンディさんがこれからのことを説明している。 俺や雑種、高町なのは、ユーノは協力者として、臨時職員として艦の同乗が許された。 基本的に行動は自由でいいとのことだが、有事の際、つまりジュエルシードやフェイト・テスタロッサが見つかった際は、優先的にそちらの解決にあたること。 とのことだった。 今はジュエルシードが見つかっていないので自由時間、なのだが、俺たち協力者は全員ブリッジに集まっていた

 

「そういえばなのはさんと織君、理樹君は学校の方は大丈夫なのかしら?」

 

「大丈夫です。 友達にも知らせてきましたし」

 

「はい、問題ありません」

 

「問題ないぞ」

 

元々、俺は学校に行かなくてもいいのだがポイント集めるために通ってるだけだし。 だが一応連絡はしないといけないので、そこらへんは玉藻に頼んで何とかしてもらっている。 雑談をしていると少し騒がしくなる艦内。 耳を澄まして聞いてみると、どうやらジュエルシードが見つかったようだ。 二か所同時、と言うことでチーム分けをされているわけなのだが

 

「おい!何故嫁と一緒ではないのだ!」

 

「それは君が問題を起こすからだ」

 

俺と一緒のチームになったのはクロノ。 戦力の温存、として高町なのは達を迎え入れたような気がするのだが、ここでクロノが出てもいいのだろうか? ちなみに嫁こと高町なのはは、雑種とユーノと一緒だ。 ぶっちゃけ、ここで揉める必要はないのだが、この頃踏み台としての活動は自重しているとはいえ、ここで何も言わないのはかえって変なので言っている感じだ。 クロノもそれがわかっていると思う

 

「お前はこういうときまで!」

 

「貴様は黙っていろ雑種が!!」

 

「理樹君、これは命令です」

 

「チッ! 行くぞ執務官」

 

「勝手に行かないでくれ......」

 

一応リンディさんは今回の責任者、事前に命令を無視すれば艦を下ろすともいわれている、という体になっているので渋々いうことを聞く。 実際そんなことは言われていないのだが、そちらの方が都合がいいのでそういうことにしていたのだ。 転送装置に先に走って向かうと、クロノは呆れながら追いついてくる。 光に包まれた次の瞬間には転送が終わっていて、少し離れたところにはジュエルシードの暴走体が

 

「さて、どう攻めるか」

 

「うん? 嫁がいないのだ、執務官一人で戦闘をやってもらうぞ?」

 

「君は......」

 

苦笑するクロノだが暴走体が待つはずもなく、こちらに攻撃を仕掛けてきた。 どうも今回の暴走体は扇風機を取り込んだようで、常に強風で吹き飛ばそうとしてくる。 しかも強風に交じって鎌鼬でもしているのか、周りの木々が切れていた。 今回、高町なのはたちの方は火の鳥で、俺たちはこの扇風機を各自で当たることになっている。 どちらにしろ、俺は空飛べるか飛べないか未知数なので、今回はこういう振り分けになったわけだ。 もちろん本当は飛べるが、高町なのはたちの前では飛んだことがない。 さて、目の前の暴走体だがまだまだ風が強くなる。 クロノは俺をかばうためにプロテクションを展開していて今は動けない

 

「それで、本当にどうする?」

 

「我はさっき言った通り観戦する。 せいぜい頑張るといい執務官」

 

「別に僕はそうしてもいいが、これを解けば君は吹き飛ばされるぞ? それに、アレを一人で止めればなのはにいいところを見せられるんじゃないか?」

 

クロノは俺をうまいように誘導していく。 こっちの内情を知っているからか、本当にやりやすい。 しかもクロノ自身、冷静に状況判断をしているので、神にばれる心配も多分ない

 

「・・・・・・執務官の口車に乗るのも癪だが、いいだろう。 その代り我の武勇、嫁にしっかりと伝えるのだぞ!!」

 

そう言って普通の大きさの剣を射出。 威力は調整しているが相手の風が強くなったせいか、剣が猛スピードでこちらに帰ってくる

 

「なにぃ!?」

 

「驚いてる場合じゃないぞ!」

 

「チィ!」

 

プロテクションの直前で剣を再収納する。 こうでもしないと、違和感を持たれるだろうからな。 それはそうと、生半可な攻撃だとかえって危ないわけで、ここは

 

「扇風機の分際で!!」

 

「待て待て! そんな大きな剣を刺すのはいいが、これまでのように学習して形でも変えられたら」

 

「我に命令をするな!」

 

射角を調整し、大きな剣を思いっきり射出する。 扇風機は通常手を巻き込まないようにカバーがついているわけだが、それはあくまでも手の話。 それより細いものなら入るわけで。 俺がその隙間に剣を貫通させ、タイミングもばっちり調整したので羽と羽の間に入り、扇風機の風がやむ

 

「チッ...... 本当は首のところと下をおさらばさせてやろうと思ったのだが、少しずれたな」

 

「君は...... いや、何も言うまい。 ジュエルシード、封印!!」

 

高町なのはよりも細い青色の砲撃がジュエルシードを包み込み、扇風機は元の大きさに戻っていく。 興味を無くした俺は空を見上げ、転送を待つ

 

------

 

俺たちがアースラに移って九日目の夜、俺は結界を張りアースラの一室にいた。 部屋の中にはリンディさん、クロノもいる。 今日集まったのは他でもない、俺の刻まれた記憶、つまりは未来が知りたいとのことだった

 

「ジュエルシードはあと六個、君の未来視ではどこにあったんだ?」

 

「海の中だ。 ただ、正確な位置まではわからないからそっちで探してくれると助かる」

 

「やっぱり、そうなのね......」

 

リンディさんも予想通り、と言う顔でため息をつく。 まぁ、地上もあらかた探し終わった、なんて聞いたし、明日から海の中を探すって言ってたからこのくらい予想通りだろう。 別に俺も情報を出し渋ったわけでもなく、聞かれたのがたまたま今日だったというだけだ

 

「相手の動きとかわかるか? そうなれば対策も立てやすいんだが」

 

「未来視って言ってもそこまで万能じゃない。 俺から言えるのは、フェイト・テスタロッサが無茶なことをするってことくらいしかわからなかったしな」

 

「フェイト・テスタロッサ、その少女についての情報はないかしら?」

 

「さっきも言った通り、未来視は万能じゃないんです。 今回のこの事件に関係あるものから、関係ないものまでいろんなものを視る、それの取捨選択...... あげたらきりがないですが、ピンポイントでその情報だけ見れるわけじゃないですから」

 

「そう、よね。 ごめんなさい」

 

本当は知ってはいるが、それをやったら本当の意味で俺の知っている未来からずれる、それだけは避けなくてはならない。 どんなペナルティが待っているかわからないし。 すこしリンディさんやクロノに罪悪感を感じながら、話は終わる

 

「ごめんなさいね、貴方も大変なのにわざわざ時間をとってもらって、結界を張ってもらってこんな話」

 

「いえ、それじゃあ結界を解除しますのでこれで」

 

「あぁ」

 

部屋から出ると同時に結界を解除し、俺は自分に割り当てられた部屋に帰る

 

------

 

そして夜が明け次の日、朝から海の中を捜索しているようだがいまだ反応が出ず。 小腹がすいたので食堂に行くと、高町なのは、ユーノ、雑種が集まって話していた。 特に興味はなかったのだが、久しぶりにポイント集めをすることにした

 

「なのはよ何を話していたのだ? まぁ、我の話だと思うが」

 

「神木君」

 

「・・・・・・」

 

「や、やぁ」

 

どうも少し空気が重いようだが、俺は気にせずに話しかける。 相変わらず雑種は睨んできているが特に気にせず、ユーノは俺を複雑な表情をしながら挨拶をしていた。 勝手になのはの左隣に座り、さっき貰ってきたクッキーを食べながら返事を待つ

 

「えっと、神木君のことは話してなかったけど、ジュエルシードのこととかをちょっと......」

 

「ん? 別に恥ずかしがることはないぞなのは、我の話なら我の話と言ってくれてもよいぞ?」

 

「にゃはは......」

 

「誰もお前の話など」

 

雑種の言葉は遮られる。 警報が鳴ったということはジュエルシードが見つかったのだろう、クッキーはもったいないが仕方なく立ち上がる。 少し後ろ髪をひかれる思いをしながら、同時に立ったなのはたちの後を追いかけるのだった



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第二十九話 共同戦線~なのは視点~

2018/4/6 誤字のほうありましたので修正しました 報告ありがとうございます


~なのは視点~

 

「さて、本日午前零時をもって本艦の任務はジュエルシードの回収となります。 気を引き締めましょう。 また、今回は特例としてジュエルシードの発掘者であり、結界魔導士でもある」

 

「ユーノ・スクライアです!」

 

「彼の協力者で現地の魔導士の」

 

「高町なのはです」

 

「藤森織です」

 

「そして最後に」

 

「神木理樹だ」

 

「この四名が臨時局員として事態の解決にあたってくれます」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

アースラに転移してもらって最初にしたことは、会議室みたいなところに集まって自己紹介でした。 少し緊張したけど、アースラの人たちはいい人で優しく声をかけてくれます。 クロノ君がこっちに注目してたから笑いかけたんだけど、なんか目をそらされちゃった。 顔も赤かったし、大丈夫かな? 織君は相談していたからいるのはわかってたけど、神木君がいるとは思わなかった。 自己紹介が終わると自由行動って言われたけど、リンディさんたちについて行くとブリッジみたいなところに来た

 

「これからはジュエルシードの位置特定はこちらでやります、場所がわかったらなのはさんたちに出てもらいますね」

 

「は、はい!」

 

「艦長、お茶が入りました」

 

リンディさんから説明を受けていると、エイミィさんがお茶を持ってきていた。  お茶のはずなんだけど、その...... 前も見たけどリンディさんはお茶に砂糖とミルクを多量に入れて、飲んでいた。 開いた口がふさがらないって言うのはこういうことなんだと思いながら見てたけど、リンディさんが話しかけてきたので急いで口を閉じる

 

「そういえばなのはさんと織君、理樹君は学校の方は大丈夫なのかしら?」

 

「大丈夫です。 友達にも知らせてきましたし」

 

「はい、問題ありません」

 

「問題ないぞ」

 

みんなも学校や友達に言ったみたいで、神木君は話しにあんまり参加してなかったけどしばらくして、ジュエルシードの反応が二か所同時に出たみたいだった。 転送してもらおうとみんなで準備してたんだけど

 

「おい!何故嫁と一緒ではないのだ!」

 

「それは君が問題を起こすからだ」

 

神木君が編成を気に入らないのか、クロノ君に詰め寄ってました。 編成は私、織君にユーノ君。 もう一方に神木君とクロノ君と言う編成になり、それが気に入らない神木君はクロノ君に詰め寄ってるんだけど......

 

「お前はこういうときまで!」

 

「貴様は黙っていろ雑種が!!」

 

神木君の態度に、織君が怒ったように注意? を始める。 いつもそうなんだけど、なぜか神木君もなんだけど織君も神木君のことになると怒りっぽくなる。 二人とも仲良くしてほしいけど、なんでか出来なくて。 今は喧嘩を止めないとと思って一歩前に出ると

 

「理樹君、これは命令です」

 

リンディさんが止めてくれた。 リンディさん言うには、船に同乗を許す代わりに命令は絶対に守るように、っていう交換条件を飲んだって言ってたけど......

 

「チッ! 行くぞ執務官」

 

「勝手に行かないでくれ......」

 

神木君はリンディさんを睨みつけて舌打ちすると、先に転送装置に乗る。 クロノ君はそれを呆れた様子で追いかけて、二人は先にジュエルシードの確保に向かったみたいだった

 

「さ、なのはさんたちも」

 

「はい......」

 

私たちも転送装置に乗り転送してもらう。 私たちが担当する暴走体は鳥なのだけど、火に覆われた鳥だった。 バリアジャケットに変身した私と織君、ユーノ君で作戦を立てる

 

「封印はなのはに任せるとして、どうする?」

 

「僕が動きを止めるから、織は敵の注意をひきつけて」

 

「了解」

 

「気をつけてね織君」

 

作戦は何時もの通り織君が敵の注意をひきつけて、その隙にユーノ君がバインドで動きを止めて私が封印。 織君と少し離れたところでレイジングハートを構え、封印の時を待つ。 織君が引きつけて油断した隙にユーノ君のバインドが何重にも絡まり、火の鳥の動きを止める

 

「なのは!」

 

「うん!」

 

「シーリングモード、セットアップ」

 

ジュエルシードのナンバーを唱え、レイジングハートを使って封印する。 今回封印したのはシリアルⅧ。 ジュエルシードをレイジングハートで触れると、回収される。 これで一安心、かな?

 

「お疲れ様なのはちゃん、ユーノ君、織君」

 

「今回収用のゲートを作るから、そこで待ってて」

 

「はーい」

 

「「わかりました」」

 

回収されるのを待ちながら私は、もう一チーム、神木君たちの方も無事に終わったかどうか気になっていた

 

------

 

私たちがアースラに移って十日目、ジュエルシードの回収数は、私たちが五個、フェイトちゃんたちは0個で残りがあと六個。 最初の方は、反応があってすぐに現場になんてこともあったけど、この頃は全然そんなことがない。 もちろんそれに不満があるわけじゃないけど

 

「ごめんねなのは、織」

 

「ふぇ?」

 

「いきなりどうしたんだユーノ」

 

部屋にいてもやることがなくて、部屋の外でユーノ君とばったり会ったから食堂に来たんだけど、何故かユーノ君に謝られた。 織君とは食堂でばったり会った

 

「だって二人とも家族や友人と会えないわけだから、寂しくないのかなって」

 

その言葉を聞いて、私は織君と思わず顔を見合わせてしまう。 寂しいって言われても、ユーノ君や織君と一緒にいるし、そんなふうには感じなかった

 

「大丈夫だよ、ユーノ君や織君だっているし。 それに小さいころはよく一人ぼっちだったから......」

 

「なのは」

 

別に昔のことはそんなに気にしてない。 お父さんが仕事で大けがして、しばらくベッドがら起き上がれなかったあのころ、翠屋もオープンしたてで、お母さんもお兄ちゃんも忙しくて、お姉ちゃんはお父さんの看病で...... みんな忙しくて、私は一人ぼっちだった。 家で一人ぼっちでいるのが嫌で公園に行ったけど、けどそこでも一人で...... でも、みんなと仲直りして織君と出会って? あれ? なんだろう、私とっても大切なことを忘れている気がする。 この感じは、そう

 

「なのは、大丈夫か?」

 

「あ、ううん、大丈夫大丈夫!」

 

声が聞こえてハッとなり見ると、織君やユーノ君が心配そうに私を見ていた。 にゃはは、失敗したかも。 別に思い悩んでいたわけでもないので、早々に話を変えることにする

 

「そういえば私、あんまりユーノ君の家族について知らないね?」

 

「そういえば俺も聞いたことなかった」

 

どうやら話をそらすことに成功したようで、ユーノ君や織君は特に気にした様子もなく話し始める

 

「両親は元々いなかったから、僕はスクライアの一族みんなに育ててもらったんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、だから家族って言ったらスクライアの一族みんなが家族って感じかな」

 

「そうだったのか」

 

「織はどんな感じなの?」

 

そういえばふと思ったけど、神木君はどうなんだろ? こうやってアースラにいるってことは家族の許可をとってきたんだろうけど、聞いたことなかったかも。 そんなことを考えていると

 

「なのはよ何を話していたのだ? まぁ、我の話だと思うが」

 

「神木君」

 

神木君が現れた。 手にクッキーを持ってるところを見ると、私たちと同じ感じかな? 神木君は私の左隣に座り、私を見ながらクッキーを食べ始める。 えっと、さっきの答え待ってるのかな?

 

「えっと、神木君のことは話してなかったけど、ジュエルシードのこととかをちょっと......」

 

「ん? 別に恥ずかしがることはないぞなのは、我の話なら我の話と言ってくれてもよいぞ?」

 

「にゃはは......」

 

「誰もお前の話など」

 

なんかこの感じ久しぶりな感じがする。 なんて思っていたのだけど、艦内に警報が鳴り響く。 私たちはすぐにブリッジへと向かうため走り出した

 

~なのは視点 end~

 



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第三十話 水底にGO!

走って走って、走り抜ける。 食堂からブリッジがこんなに長く感じたのは初めてだ。 警報はもう鳴りやんでいるが、俺たちはブリッジを目指して走っていた。 ようやくブリッジにつき表示されているモニターを見てみると

 

「フェイトちゃん!あの、私急いで現場に!」

 

フェイト・テスタロッサが苦しい表情を浮かべながら暴走体と戦っていた。 それを見てか高町なのはは急いでリンディさんに駆け寄るが、帰ってきたのは非情な答えだった

 

「その必要はない、放っておけば彼女は自滅する。 仮に自滅しなかったとしても、消耗したところを捕獲すればいい」

 

「それでいいのか!?」

 

「私たちは常に最善の選択をしなければならないの、ごめんなさい」

 

クロノの言葉に食って掛かる雑種だが、リンディさんが冷静に返事をする。 最善の選択、ね...... 俺は目の前の表示されているモニターを見ながら考える。 フェイト・テスタロッサの魔力は切れかけなのだろう、魔力刀の展開も危うくなっている。 今も暴走体に吹き飛ばされたが、何とか体勢を立て直していた。 何が最善かなんて俺が言えた義理ではないが、ここで放っておくことが最善かと聞かれれば首をかしげる。 高町なのはは俯いていたが、いきなり顔を上げる。 俺に刻まれた記憶が正しければ、高町なのははフェイト・テスタロッサを助けに行く。 クロノ達を見てみるが歯を食いしばっている。 やはりクロノ達もこのまま見ているだけと言うのも嫌なようだ、何か方法はないだろうか? 俺だとばれず、なおかつあそこに行かせる理由が。 そうこう考えている間に、高町なのはと雑種が転送ポートに乗っている

 

「君は!」

 

「悪いなクロノ、こんな状況で俺たちは見ているだけ、なんて出来ない!」

 

「ごめんなさい!高町なのは、命令を無視します」

 

「あの子の結界内へ、転送!!」

 

どうやらユーノ達と念話で話していたらしく、リンディさんやクロノが止める間もなく転送準備が整い、転送されてしまった。 モニターを見ると映し出されているのはフェイト・テスタロッサだが、なぜか違和感を覚える

 

『ペイル、モニターの映像で変わったところはあるか?』

 

『変わったところ、ですか?』

 

『あぁ、具体的にどことははっきり言えないが、とにかくないか?』

 

ずっと注視しているためか今は感じられないが、さっき改めてみた時は何か強烈な違和感を感じた

 

『フェイト・テスタロッサや使い魔の位置はめまぐるしく変わっていますし、それ以外は...... まさか、竜巻の位置が変わっている?』

 

『ペイル、どういうことだ?』

 

『多分マスターが感じた違和感はこれです。 竜巻、正式にはジュエルシードが起こしている竜巻ですが、その位置が少しずつではありますが変わっています。 まるでお互いに引き合うかのように、中央に!』

 

『ペイル、秘密裏にクロノにその情報を送れ、手遅れになる前に!!』

 

モニターには高町なのは達が映っている。 やはりジュエルシードはたがいに引き合っているのか、さっきよりも近くなっていた

 

「何をやっているんだ君たちは!む?」

 

俯くクロノだったが、ペイルが秘密裏に送ったデータが届いたのか焦った様子でオペレーターに確認をとっていた

 

「すまない!数分前の竜巻の位置と現在位置、確認してもらってもいいか? 早急に!」

 

「は、はい!」

 

クロノの焦った様子にオペレータは驚いていたようだが、すぐに調べた結果は

 

「まさか、そんな!ジュエルシードの位置が......」

 

「やっぱりか!艦長、出撃許可を!」

 

「クロノ執務官、どういうことですか?」

 

「ジュエルシードはたがいに引き合っているのか、ジュエルシード同士の距離が近づきつつあります!このままだと融合の恐れも!」

 

俺の予感は正しかったようで、やはり引き合う性質があったのか近づいているみたいだった。 その報告を受けどよめくブリッジだったが、リンディさんの判断は早かった

 

「クロノ出撃を、理樹君も行けるわね?」

 

「よかろう、行くぞ執務官」

 

「転送をお願いします!」

 

海上に転送される俺とクロノ。 うーむ、飛行魔法は適正がないことはないが、あんまり使いたくないのだが。 元の魔力が少ないし、あまり俺の手の内を見せたくないというのもある。 どうしようか途方に暮れていたのだが、ある程度の高さまで行くとクロノが足場用のプロテクションを展開してくれたようだ

 

「ふん、余計なことを......」

 

「・・・・・・」

 

こっちを一瞥し高町なのはとフェイト・テスタロッサの方に向かうクロノ、本当にありがたい。 ユーノとアルフは竜巻を抑え、雑種は...... 竜巻と遊んでいるようにしか見えない。 いや、多分吹き飛ばされながらの動きを見る限り、高町なのはとフェイト・テスタロッサに攻撃が行かないようにしているんだろうが、それにしたって遊んでいるようにしか見えない

 

『神木作戦が決まった!なのはとフェイト・テスタロッサ、僕が封印を行う、君はその援護だ!』

 

「だから、我に命令するなと言っているだろうが執務官!!」

 

王の財宝を使い宝具を射出する。 たぶんクロノが言っていた援護とは、周辺の魔力を放出させる類のものと判断し、それを連続で射出していく。 もちろん近くにいる雑種に当たりそうになるのだが気にせず、どんどん打ち込んでいく。 剣がジュエルシード付近を過ぎたら即回収をかけているのでストックの方は問題ないが、放出させられるのなど微々たるものだ。 高町なのはとフェイト・テスタロッサは高度を上げていくが、それを追いかける暴走体がいる。 雑種は遊んでいるため俺が迎撃するしかないわけで、当たらないように調整をしながら剣を射出する。 まぁ、たまにユーノやアルフが展開しているチェーンバインドに当たるのだが、切れてないから平気だろう

 

『神木、織、十分だ!』

 

「せーの!」

 

高町なのはの掛け声とともに封印が開始される。 と言っても三人の封印は成功で、竜巻はすぐに収まった。 だが竜巻の影響か波は高く、すぐにはジュエルシードに近づける状態ではないが。 それがわかっているのか、クロノも近づく様子がない

 

「友達に、なりたいんだ。 私、フェイトちゃんと友達に、なりたいんだ」

 

ジュエルシードを見ていると思ったら、いきなりフェイトテスタロッサの方を向いて、高町なのはが言い始める。 直後、そんな二人を引き裂くように紫色の雷が、二人の間を通り過ぎる

 

『今の魔力』

 

『マスターの思っている通り、プレシア・テスタロッサのものです』

 

やはりというかなんというか、プレシアさんのものだったようだ

 

「母さん......」

 

「フェイト、ずらかるよ!!」

 

いつの間にやらジュエルシードを六個回収したアルフはフェイト・テスタロッサに声をかけ、転移して逃げたようだ。 逃げたのはよかったのだが、俺はその時海に落ちていた

 

「おのれおのれおのれー!!!!」

 

------

 

「して、ここに我を呼んだ理由は?」

 

さっき海に落とされたことを形だけ散々文句を言った後、クロノに聞く。 さっき海に落とされた理由は簡単だ。 クロノに展開してもらっていたプロテクションが展開不可能になり、足場がなくなったため海に落ちたのだ。 あの空間攻撃はアースラと、特に現場にいたクロノに重点的に行われ、それによりクロノのデバイスが一時的に機能不全に陥ったためだ。 たぶん俺が思うにプレシアさんからのメッセージだと思う。 貴方には水底がお似合いよ、てきな

 

「説明しているとき君はシャワーを浴びていたからね、プレシア・テスタロッサの情報についてさ」



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第三十一話 最後のジュエルシード

~なのは視点~

 

長い廊下をやっとの思いで走りきり、ブリッジで息を整えながらモニターを見るとフェイトちゃんが竜巻に吹き飛ばされながらも戦っていた

 

「フェイトちゃん!あの、私急いで現場に!」

 

そんなフェイトちゃんの姿に私は出撃しようとするけど、クロノ君たちの答えは私の思ってたものとは違った

 

「その必要はない、放っておけば彼女は自滅する。 仮に自滅しなかったとしても、消耗したところを捕獲すればいい」

 

「それでいいのか!?」

 

「私たちは常に最善の選択をしなければならないの、ごめんなさい」

 

クロノの言葉に食って掛かる織君、だけどリンディさんは冷静に返事をする。 最善の選択ってなに?  目の前の表示されているモニターを見ると、フェイトちゃんの魔力は切れかけなのか、いつも展開している魔力刀も消えかかっている。 今も暴走体に吹き飛ばされたけど、何とか体勢と立て直したみたいだった。 せっかくの魔法の力なのにこんな時に、誰かが困っているときに使えないなんて...... 私は顔をうつ向かせる。

 

『行って』

 

「っ!?」

 

いきなりの念話に驚いたけどい、話しかけてきたユーノ君のほうを向くと私たちのほうを向いていた 

 

『行ってなのは、織』

 

『ユーノ......』

 

『僕がゲートを開くから、行ってあの子を』

 

『でもユーノ君、私がフェイトちゃんを助けて話したいのは』

 

『関係ないかもしれない。 でもね、なのはが困ってるなら力になってあげたい、なのはが僕にそうしてくれたように』

 

思い出すのは最初のユーノ君との出会い。 念話が聞こえてユーノ君を助けたあの日。 一度目を閉じ織君のほうを向くと、織君もこちらを向いていた

 

『ユーノ君、ありがとう!』

 

『すぐに来いよユーノ!』

 

『うん!』

 

私と織君が転送ポートに乗りこむと光はじめ、視線が集中する。 アースラの人たちには悪いけど、私は見ているだけなんて出来ないから

 

「君たちは!」

 

「悪いなクロノ、こんな状況で俺たちは見ているだけ、なんて出来ない!」

 

「ごめんなさい!高町なのは、命令を無視します」

 

「あの子の結界内へ、転送!!」

 

光に包まれ転送される。 目を開けるとたぶん結界内の上空なのかな、青空が広がっていた。 周りを見ると織君がいないけど、私がやることは変わらない

 

「行くよレイジングハート」

 

私の呼びかけに答えるように暖かく光るレイジングハートに、うれしい気持ちになりながら変身する

 

「風は空に 、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に!レイジングハート、セットアップ!!」

 

「スタンバイレディ、セットアップ」

 

バリアジャケットに変身し厚い雲を抜けると、さっきモニターで見た風景が。 ううん、モニターで見るより風が強くなっていた。 そんな私にアルフさんが攻撃しようとしてくるけど

 

「フェイトの、邪魔をするなー!!」

 

「違う、僕たちは戦いに来たわけじゃない!」

 

ユーノ君がプロテクションで防いでくれる。 安心したのも束の間で、念話が来る

 

『何をやっているんだ君たちは!む?』

 

でもすぐに切れてしまい私とユーノ君は首を傾げたけど、すぐに織君が合流したので気を引き締める

 

「何をするにしてもジュエルシードの封印が先だ!俺が気を引くから封印を!」

 

「織!あー、もう!なのはは彼女をお願い、僕は織となのはのサポートをするから!」

 

「うん!」

 

ユーノ君の話を聞かずにジュエルシードが起こしている竜巻に向かっていく織君、そんな織君を放っておけないのかユーノ君はアルフさんとの会話をそこそこにサポートに向かう。 私は私の仕事を、そう思ってフェイトちゃんに近づきながら声をかける

 

「フェイトちゃん!お願い、手伝って!」

 

そういいながら私はフェイトちゃんに魔力の半分を渡す。 フェイトちゃんは呆けた顔をしていたけど、私がその場を離れようとすると

 

「なのは、フェイト・テスタロッサ!」

 

「クロノ君!?」

 

さっき途中で念話を中断したクロノ君がこの場にいた。 てっきり怒られるのかと思ったけど違ったようで、少し焦ったように話しかけてくる

 

「警戒するな、と言うのも無理な話だろうが聞いてくれフェイト・テスタロッサ。 時間がないから簡潔にアレを早急に封印したい」

 

そういってジュエルシードを指すクロノ君、封印したいも何も今から封印するつもりだったのだけど...... フェイトちゃんも訝しげにクロノ君を見ている

 

「二人の反応は分かるが事態は思ったよりも深刻だ。 六つのジュエルシードが一つに融合しようとしてる。 一つでアレだ、融合したらその被害は計り知れない。 だから早急に封印を施したい、二人とも頼めるかい?」

 

その言葉に神妙に頷くフェイトちゃん。 私も頷き、封印しやすいように高度を上げるんだけど、ユーノ君やアルフさんでも抑えきれない竜巻が私やフェイトちゃんに向かてくる。 迎撃しようとするけど、剣がいっぱい飛んできて払ってくれる。 驚いてそちらのほうを見ると、クロノ君が展開したプロテクションの上にいつものように腕を組み、剣を射出している神木君の姿が。 さっき声が聞こえたような気はしてたけど...... それに、プロテクションてああいう使い方もあるんだ。 神木君がバックアップをしてくれているので私たちは上空に上がり

 

「ディバインバスターフルパワー、行けるねレイジングハート?」

 

「オーライ、マイマスター」

 

チャージを開始する。 どのくらいかわからないけどとりあえず全力で!

 

「せーの!」

 

私のせーので砲撃が発射され、封印は見事に成功する。 竜巻はすぐに収まったけど、竜巻かはたまた封印の影響か波は高くて、フェイトちゃんもすぐにはジュエルシードを回収する様子はない。 その間に私は、私は伝えたいことを伝える

 

「友達に、なりたいんだ。 私、フェイトちゃんと友達に、なりたいんだ」

 

フェイトちゃんが驚いたようにこちらを向く。 私はそんなフェイトちゃんを見て、ゆっくりと返事を待つ。 だけど、紫色の雷が私たちの間を通り過ぎる

 

「母さん......」

 

フェイトちゃんのそんなつぶやきが聞こえた

 

「フェイト、ずらかるよ!!」

 

いつの間にやらジュエルシードを六個回収したアルフさんがフェイトちゃんに声をかけ、あっという間に転移魔法を使ってこの場からいなくなってしまった。 でも私はそのことを残念に思う暇もなく

 

「おのれおのれおのれー!!!!」

 

声がしたほうを向くと、ちょうど神木君が海に落ちていた。 海に落ちた!?

 

「神木君!?」

 

--------------------------------------------

 

「今回の件は不問とします」

 

神木君が海に落ちたあの後、無事に神木君は回収されて今はシャワーを浴びています。 私たちはその間説教というかなんというか...... クロノ君が言っていた通り、あのジュエルシードは互いに引き合っていたらしく融合の可能性があったみたいで、そのことはアースラの人たちも気が付いていなかったみたいです。 結果的に私たちがあの場にいてスムーズに封印できたことと、アースラでも気が付かなかったので、今回のことは不問になったみたいです。 でも組織に属する以上、命令無視などは自分や仲間にも危険にさらすということで注意を受けました。 そこは私も反省です

 

「さて、これとは別件でクロノ?」

 

「はい、艦長」

 

空気を切り替えるように明るく言うリンディさん。 名前を呼ばれたクロノ君は前に出ると、中央にモニターが浮かび女の人の映像が

 

「あら、この人は」

 

「はい。 僕たちと同じミットチルダ出身の魔導士、プレシア・テスタロッサです。 専門は次元航行エネルギーの開発、偉大な魔導士でありながら違法研究と事故によって放逐された人物です。 登録されていた魔力波動とさっきの攻撃、一致しています。 そして、あの少女フェイトは......」

 

最初クロノ君が何を言っているかよくわからなかったけど、さっき攻撃してきたのはこの人で...... あれ?

 

「でもフェイトちゃん、母さんて......」

 

「親子、ね」

 

私のつぶやきが聞こえたリンディさんはそう言ってたけど、なんでフェイトちゃんお母さんのこと怖がっていたんだろう...... 私はどうしてもそこが気になった



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第三十二話 最後のジュエルシード ~フェイト視点~

~フェイト視点~

 

あの管理局の介入からというもの、ジュエルシードの集まりは芳しくなかった。 見つけたと思ったらすでに封印された後、ということが何度もあり空振りに終わった。 そして今回は

 

「だめだフェイト、今回も」

 

「みたいだね」

 

「やっぱり管理局に見つからないようにやるのは難しいね」

 

「そう、だね...... あと六個」

 

今回も封印された後だったみたいだった。 あと六個、一応サーチできる所はすべてサーチした。 後は

 

「行こうアルフ、後は」

 

「あぁ、たぶん海の中、だろうね」

 

私とアルフはその場を後にする

 

--------------------------------------------

 

数日後、私とアルフは海の上空にを飛んでいた。 残り六個のジュエルシードを強制的に発動させて位置を特定、封印をするためだ。 今回は少し無理をすることになるし管理局にもばれるけど、これ以上ジュエルシードをとられるわけにもいかない。 だから!詠唱を終え私は雷の魔力流を打ち込む。 もともと曇っていた空だけど、今は雷もなっている。 魔力流を打ち込み終えしばらくすると、ジュエルシードが発動したのか竜巻が発生し始めた

 

「残り六個、見つけた!アルフ、空間結界と補佐をお願い、全部封印するよ」

 

「任せといてフェイト!」

 

「行くよバルディッシュ、頑張ろう」

 

アルフの頼もしい声を聞き、私は発動した六個のジュエルシードに向かって相棒であるバルディッシュと共に飛ぶ。 竜巻一個一個はそうでもないけど、密集しているし、さっきの魔力流のせいか放電していてうかつに近づけない。 それにだんだん竜巻の風が強くなってきてる

 

「くっ!」

 

「フェイト!」

 

たまらず私は吹き飛ばされたけど、宙返りをして体勢を立て直す。 状況は悪いどころではなく最悪、でも母さんのために! 何度も何度も向っていくけど、そのたびに竜巻に吹き飛ばされる。 一刻も早く封印しないと、この間にも管理局の介入があるかもしれないのに。 冷静になろうと思えば思うほど私の思考は熱くなっていく。 そんな中、感じたことのある魔力を私は察知する。 戦い中にもかかわらずそちらを向けば、あの白い子、タカマチナノハが空から降りてきたのだ。 不覚にも戦い中だというのに、私はその姿にくぎ付けになる

 

「フェイトの、邪魔をするなー!!」

 

「違う、僕たちは戦いに来たわけじゃない!」

 

アルフがタカマチナノハに向かっていくけど、使い魔じゃなくて友達の男の子に防がれていた。 その後、遅れてもう一人の男の子も来たみたいで二、三言話すと竜巻のほうに向かっていってしまう。たぶんそんな男の子を放っておけなかったのか、アルフの攻撃を防いでいた男の子もその補佐に向かったようだ。 タカマチナノハは話し合いが終わると私に近づいてくる。 呆けている私に向かって

 

「フェイトちゃん!お願い、手伝って!」

 

タカマチナノハはそういうと、私に魔力を譲渡してくる。 その魔力はなぜか暖かく感じて、タカマチナノハをみるとなぜか笑っていた

 

「なのは、フェイト・テスタロッサ!」

 

「クロノ君!?」

 

どうやら周囲の警戒を怠っていすぎたらしく、執務感が来てしまったみたいだ。 警戒をしながらバルディッシュを構えるけど、そんな私の様子を見た執務官は気にせずに話を始める

 

「警戒するな、と言うのも無理な話だろうが聞いてくれフェイト・テスタロッサ。 時間がないから簡潔にアレを早急に封印したい」

 

そういってジュエルシードを指す執務官だけど、封印したいも何も今から封印するつもりだったのだ。 訳が分からないことを言う執務官に私はさらに警戒を強める

 

「二人の反応は分かるが事態は思ったよりも深刻だ。 六つのジュエルシードが一つに融合しようとしてる。 一つでアレだ、融合したらその被害は計り知れない。 だから早急に封印を施したい、二人とも頼めるかい?」

 

アレが融合する? 一つを封印しようとしても大変なのに、これ以上大変に? 執務官が嘘を言っている様子はなく、私は協力するために頷く。 タカマチナノハも頷き、封印しやすいように高度を上げようと飛ぶけど、あの子やアルフでも抑えきれない竜巻が私やタカマチナノハに向かってくる。 あまり魔力は使いたくないけど迎撃しようとするけど、剣が飛んでくる。 驚いてそちらのほうを見ると、いつものようにふてぶてしい態度で腕を組み、剣を射出しているh変な子の姿が。 今はジュエルシードの封印のほうが先決で、変な子にかまっている暇はない。  急いで上空に上がり

 

「行くよバルディッシュ」

 

「シーリングモード、セットアップ」

 

「せーの!」

 

タカマチナノハの掛け声で砲撃を発射する。 封印は見事に成功したけど、竜巻かはたまた封印の影響か波は高くて、すぐにはジュエルシードを回収できない。 歯がゆく感じながら波が引くのを待っていると

 

「友達に、なりたいんだ。 私、フェイトちゃんと友達に、なりたいんだ」

 

タカマチナノハが友達になりたいと言ってきた。 いきなりというのもあるけど、これだけ敵対しているのにこの子はなんでそんなことが言えるのかわからなくて、どう返事していいかわからなくて沈黙していたが。 紫色の雷が私たちの間を通り過ぎる

 

「母さん......」

 

今の雷は間違いなく母さんで

 

「フェイト、ずらかるよ!!」

 

いつの間にやらジュエルシードを六個回収したアルフが私にに声をてくる。急いでアルフと合流し、転移魔法を使ってこの場を離れた

 

--------------------------------------------

 

転移したのは母さんの待つ時の庭園、今回私は油断しすぎたから当然罰があるんだろうと思っていたのだけど

 

「そう、ジュエルシード六個ね。 魔力を放出して疲れたから休むわ、貴女達も今のうちに休んでおきなさい。 残りのジュエルシード、管理局が持つジュエルシードも後で回収してもらうのだから」

 

そういって母さんは大広間を後にした。 そんな母さんの態度にアルフは珍しがっていたけど、やっぱり私にはおかしいとしか感じなかった。 やはりあのへんな子に何かされた、あの巻物こそが原因だと。 でも今は魔力の放出しすぎでとっても眠い、母さんの言うとおり少し休ませてもらうことにした

 

~フェイト視点 end~



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第三十三話 決戦前夜

プレシア・テスタロッサの情報を聞き終えた俺は、そのままアースラを後にした。 どちらにしろ、ジュエルシードの封印および回収は終わり、残すは両陣営のジュエルシードをかけて高町なのはとフェイト・テスタロッサの対決を残すのみだ。 俺が介入したことによって正史が変わるといけないので、後でプレシア・テスタロッサのところに確認に行くつもりだが。 久しぶりの帰宅となり家のドアを開ける

 

「ただいま」

 

「お帰りなさいませ、マスター!!」

 

「「お帰りなさいマスター」」

 

「お帰りなさい、マスター殿」

 

玄関を入ると玉藻に飛びつかれ、みんなからお帰りと言われる。 ようやく帰ってきたような感じがする。 と言ってもすべてが終わったわけではなく、一時的なものだけど。 念話で連絡を取り合ってはいたが久しぶりということもあり、玉藻の抱擁は熱いものとなったがそれを受け入れる。 その様子を微笑ましそうに見てるマシュとリリィ。 たぶんハサンもだろうけど

 

「ぐへへ.......ついにマスターもデレたみたいですね、このまま」

 

「お前は何を言っている」

 

「みこっ!?」

 

なんだか危ない雰囲気になった玉藻の頭をはたき、拘束から抜け出す。 他の奴らはヤレヤレみたいな表情で苦笑しているが、そうなる前に止めてほしいものだ。 リビングに入ると料理が作ってあるようで、イイにおいが漂っていた

 

「マスターが帰宅するということで、腕によりをかけて作らせていただきました!」

 

「私も微力ながらお手伝いを」

 

明らかほめてほしいといわんばかりにしっぽをフリフリしている玉藻と、少し恥ずかしそうに挙手をするマシュ。 リリィを見るとなぜか胸を張っているが、ハサンを見ると首を振っていた。 どういうことだよ、そんな風に思いながら玉藻とマシュにお礼を言って、席に座る

 

「それじゃあ」

 

「「「「「いただきます」」」」」」

 

--------------------------------------------

 

「ペイル」

 

「準備はできています」

 

「それじゃあ転送を」

 

「了解しました、マスター」

 

夕食後、俺は用を果たしに時の庭園を訪れた。 用とはこれからのこと。 俺や雑種が介入したことで変わってしまった正史をどう軌道修正するかということだ。 プレシア・テスタロッサには事前に通信を入れておいたので、会う用意はできている。 前と同じように扉を開け、そのまま中に入る

 

「また会ったな人形遣い」

 

「・・・・・・」

 

一応秘密裏とはいえ取引をしたが、神が見ているのだ仲が悪いように見せておく必要がある

 

『玉藻、結界を』

 

『改良を重ねていますから一応長くは展開できますけど、やはり時間はかけないほうがいいですので』

 

『了解』

 

「何か言ったらどうだ人形遣い?」

 

「・・・・・・」

 

結界の展開を確認すると俺は息を吐きだし、一呼吸置く

 

「お久しぶりです、プレシアさん」

 

「えぇ久しぶりね、神木理樹」

 

それまでの険悪な空気はなく、ようやく話し合いをする空気になった

 

「体の調子はどうでしょうか?」

 

「貴方のくれた薬を飲んだら良くなったわ、ありがとう」

 

「・・・・・・礼には及びませんよ、取引相手に死なれても困るからそうしただけです」

 

「そう」

 

顔色も良かったのでそんなことはないだろうと思ってはいたが、やはり治っていたようだ、素直にほっとする。 プレシアさんは俺の返事を特に気にした様子はないのか、普通の表情だった。 なんかやりづらいな

 

「さて、これからの話ですが」

 

「フェイトには管理局のもつジュエルシードを回収するようには伝えてあるわ、今は仮眠をとってると思うからその後、ということになるけど」

 

「それは好都合ですね」

 

もしかしたらこちらから条件を出さないと戦いはないかもと思っていただけに、プレシアさんがそう言ってくれているのは好都合だった。 これで戦いは問題ないが、今度は日時をどうするかだがそこは俺が何とかすればいい話だ。 そのために管理局のほうについているわけだしな、クロノたちを利用しているようで悪いが.......

 

「一つ聞きたいのだけど、いいかしら?」

 

「はい?」

 

「フェイトが負けるとは思わないけど、その後はどうするのかしら? 私は集めたジュエルシードを管理局に渡せばいいのかしら、犯罪者として」

 

すごく皮肉が込められているが、プレシアさんも考えていなかったわけでもないだろう。 だが、それについては別のプランを用意してある。 あいつの転生特典が全部わかってない以上、協力してくれているプレシアさんたちのその後の生活についてまで考える必要がある。 なるべく罪は軽くなるようなプランだ

 

--------------------------------------------

 

時の庭園から帰った俺はクロノと連絡を取り、アースラに来ていた。 とんぼ返りとはこのことだが仕方ない。 とある一室にいるのは俺とクロノ、リンディさんだ

 

「それで、いきなり呼び出してどうしたんだ? 急用だとは言っていたが」

 

結界は展開してあるためクロノは普通に話しかけてくる

 

「すまない。 家に帰って仮眠をとってたんだが、いきなりアレがな」

 

「アレ?」

 

「このタイミングでの呼び出し......未来視かしら?」

 

「その通りですリンディさん」

 

クロノはすぐに思い当たらなかったようだが、さすがリンディさんだ頭の回転が速い。 俺が返事をすると神妙な顔つきになる二人、それを確認し俺は話し始める

 

「夢では高町なのはとフェイト・テスタロッサがジュエルシードをかけて戦ってました」

 

「ジュエルシードを賭けて、だって?」

 

「あぁ日時なんかははっきりしないけどな」

 

「そう......」

 

考え込むリンディさんたちだが、俺は意見を出すことにする

 

「俺はいい考えだと思いますよ」

 

「どういうことだ?」

 

「もし仮に高町なのはが負けても、こちら側のジュエルシードに発信機みたいな機能をつけて後を追っていけばプレシア・テスタロッサの居場所もわかると思うし、勝ってもあっちはジュエルシードは必要なものなら回収する。 その反応を追えば」

 

「確かに一理あるが、それならフェイト・テスタロッサが現れた時点で確保したほうが早くないか?」

 

「確かにそうだが、警戒しないとも限らないだろう? ならいっそ、高町なのはにジュエルシードを持たせ一対一で戦わしたほうがいいと思うが? 使い魔が邪魔するなら雑種を当てればいいし」

 

「そう、ね。 第三者の介入があるなら、クロノや貴方を当てれば大概の介入者は無力化できるでしょうし」

 

「そこで俺を戦力に数えないでほしいんだけど......」

 

リンディさんも思い切ったことをすると思いながら、一応返事をしておく

 

「そうなるといつなのはさんに渡すかなのだけど......」

 

「たぶん戦ってた時間ですが早朝だと思うんですよね、あまり空も明るくなかったですし」

 

「ならすぐになのはさんにジュエルシードを渡しましょう、夕方だから部屋にいるでしょうし」

 

そこからの行動は早く、結界をすぐに解除し二、三言いつものように話しその場を後にする。 これで準備は整った、後は俺にかかってる

 



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第三十四話 決戦前夜 ~なのは視点~

~なのは視点~ 

 

フェイトちゃんのお母さん、プレシアさんの情報を聞き、アースラの強化が完了するまでの間私たちは一時帰宅が許されました。 学校を長い期間休んでいることもあるし、リンディさんが気を使ってくれた結果なのだけど。 そういうわけで久しぶりに私は家に帰ってきました。 大事な子供を預かったということで、リンディさんが挨拶に来たのだけど

 

「そういうわけで、なのはさんはとってもいいこで」

 

「そうなんですか」

 

『リンディさん、誤魔化しがうまいというか、真っ赤なウソというか』

 

『すごいよね』

 

ユーノ君と念話で会話していたけど、ユーノ君もそう思っていたみたいで。 確かに魔法のことやリンディさんの正体なんかは言えないけど、私にあそこまで誤魔化せるだろうか? 無理だと思う

 

『本当のことは言えないんですから、ご家族を心配させない気遣いと言ってください』

 

「本当になのはさんはいい子で、うちの不愛想な子にも見習わせたいくらいです」

 

「そんな」

 

ここにはいないクロノ君が可哀想に思ってくる。 リンディさんも本気じゃないだろうけど、優秀さならクロノ君のほうが優秀だと思うのだけど...... なんて、とりとめのないことを考えているとお姉ちゃんたちが話しかけてくる

 

「ねぇねぇなのは、一日、二日くらいは家にいられるんでしょ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「アリサやすずかちゃんには連絡入れたか? 二人とも心配してたぞ?」

 

「うん、さっきメールで連絡したよ」

 

地球に転移してくると同時にメールで連絡入れたから今頃は...... アリサちゃんとすずかちゃん、元気かな......

 

--------------------------------------------

 

「なのは!」

 

「なのはちゃん!」

 

「アリサちゃん、すずかちゃん、久しぶり!」

 

「元気にしてた?」

 

「うん!」

 

次の日の学校、教室に入るとアリサちゃんとすずかちゃんが駆け寄ってくる。 挨拶もそこそこに席に着くと、アリサちゃんとすずかちゃんと話し始める。 なんだろうこの感じ、かなり久しぶりなような気がする

 

「元気そうで安心したぁ...... でも、またすぐに行かないといけないんだよね?」

 

「うん、そうなんだ」

 

「でも今日は大丈夫なんでしょ?」

 

腕を組みながら横目でちらちらこっちを見るアリサちゃんに、すずかちゃんはおかしそうに笑ってたけど、返事はもちろん

 

「うん、大丈夫」

 

「なら家に来る? 新しいゲームとかもあるし」

 

--------------------------------------------

 

放課後、アリサちゃんの家の車に乗ってやってきたのはアリサちゃんのお家。 すずかちゃんのお家もそうだったけど、最初見たときは圧倒されたなぁ...... 正門から入って、広いお家の中を歩く。 今回は織君は用事があると言って断っていた。 そもそも神木君は、学校にすら来ていなかったけど。 リンディさんに聞いたけど、昨日には帰ってたのだけど学校で姿は見なかった。 アリサちゃんが部屋の扉を開け中に入っていくので、私とすずかちゃんも中に入っていく。 部屋の広さも広くて、本当に最初は圧倒された...... アリサちゃんがテレビとゲームのスイッチを入れると、映し出されるゲーム

 

「あれ、これって」

 

「そうそう、この前発売した新作よ!」

 

「ようやく手に入ったから三人で一緒にやろうってアリサちゃんが」

 

そういいながらキャラメイクに入るすずかちゃん。 私もアリサちゃんからコントローラーをもらい、キャラメイクに入る。 結構な時間遊んでいたのか外を見ると、来たばかりの時は青空が広がっていたのに、もう夕暮れになっていた。 きりのいいところまで進んだので終わりにして、ティータイム

 

「やっぱりなのはちゃんがいたほうが楽しいね」

 

「にゃはは、ありがとう。 もう少ししたら全部終わるから、そしたらもう大丈夫だから」

 

すずかちゃんの一言に一瞬動きが止まる。 すずかちゃんは何げなく言ったんだろうけど、寂しい思いさせてたことに私は申し訳なくて、ジュースを飲んで誤魔化す

 

「なのは、なんか少し吹っ切れた?」

 

「え? えっと、あの、どうだろう?」

 

実際どうなのだろう? フェイトちゃんのことは今でも悩んでいるけど、前よりは悩んでいない。 友達になりたいって思ったから。 でも、また新しい問題が出てきて...... どうなんだろう?

 

「心配してた...... 私がさ、怒っていたのはなのはが隠し事していることでも考え事していることでもなくてさ、不安そうだったり迷ったりしてたこと。 それで時々、私たちのところに帰ってこないんじゃないかって思うような眼をすること」

 

そういわれて私は泣きそうになった。 実際そんなことは考えてなかったけど、アリサちゃんやすずかちゃんにそんなに不安に思うようなことを考えているように見えたってことに。 そして、アリサちゃんもすずかちゃんも事情も言えないのに、真剣に私のことを考えてくれたことがうれしくて。 ありがとうアリサちゃん、すずかちゃん

 

「行かないよ、どこにも。 友達だもん、行かないよどこにも」

 

「そっか」

 

少し湿っぽくなっちゃたけど、私は思う。 大丈夫、ちゃんと帰ってくるって

 

--------------------------------------------

 

『なのは、ちょっといいかい』

 

アリサちゃんの家を出て車に乗り込むとクロノ君から念話が

 

『うん、大丈夫だけどどうしたの?』

 

『ジュエルシードなんだが、君に預けておこうと思って』

 

『どういうこと?』

 

『アースラのシールド強化は終わって明日、予定通り君を早朝に回収するのは変わらないんだが、もしもアースラが攻撃されシールドが割られた場合大変な被害が出る。 そんなことになればジュエルシードの保護もままならなくなるかもしれない、だから君に預けておこうと思ってね』

 

『えっと、わかった』

 

もしそんなことになったら大変だと思うから、私は一応ジュエルシードを受け取っておく。 レイジングハートに直接転送してくれたみたいだった

 

--------------------------------------------

 

「いい目になったな」

 

「お父さん」

 

庭にある道場で木刀を見ているとお父さんに声をかけられた。 精神を集中、じゃないけど、考え事をするならここが落ち着いてできるからここに来たのだけど。 お父さんにはお見通しだったみたいで、立ち上がってお父さんのほうに歩いていく

 

「気が付いてたの私が悩んでるって」

 

「それはもちろんだよ、お父さんはなのはのお父さんだからな。 また明日も朝から行くんだろう?」

 

「うん...... ご心配をおかけします」

 

こういうのもきっちりしないといけないと思い頭を下げると、お父さんが片膝をついて、私と目線を合わせる。 そして、頭をなでてくれる

 

「お父さんはそれほど心配はしていないよ、なのはは強い子だから。 だから頑張ってこい、しっかりな」

 

意志のこもった強い目で見られて私は、少しだけその意志を分けてもらえて気がした

 

「うん!」

 

--------------------------------------------

 

早朝、私は玄関を開け門をから家を出る

 

「行ってきます」

 

いつもの挨拶をする、これからする小さな小さな旅、自分が自分らしくまっすぐいるため、後悔しないようするための旅を終え、必ず帰ってくるという思いを込めて。 転送の予定位置に着くけれど

 

「ここならいいよね、出てきてフェイトちゃん、アルフさん!」

 

家を出てからずっと追いかけてきたアルフさんとフェイトちゃんに声をかけると、その姿を現した

 

「ジュエルシードを渡して」

 

「ううん、渡せないよ。 フェイトちゃんこそジュエルシードを渡して」

 

「・・・・・・」

 

そのままデバイスを構え睨みあう私とフェイトちゃん。 でも均衡は第三者によって崩された

 

「なぜジュエルシードを渡さないんだ! ジュエルシードを渡せば君は、プレシアの呪縛から解き放たれるのに!!今のままじゃ君は不幸のままだ!!」

 

「何も知らないのに母さんのことを悪く言うな!」

 

たぶん先に来てアースラで待機していたのか、織君がフェイトちゃんに言葉をかけるけど、織君の言葉はフェイトちゃんには届かない。 それどころかフェイトちゃんを怒らせていた

 

「ならアルフ、君ならわかるだろう、このままじゃ!」

 

「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいよ!!フェイトは私に約束してくれたんだ、それをごちゃごちゃ言う資格は、アンタにない!!」

 

怒ってしまったアルフさんはそのまま織君に攻撃する。 織君はプロテクションで受けたとはいえ、吹っ飛ばされてしまったみたい

 

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね、逃げればいいってわけじゃもっとない。 きっかけはたぶんジュエルシード、賭けようお互いが持ってる全部のジュエルシード。 それからだよ、全部それから。 私たちのすべてはまだ始まってもいない、だから本当の自分を始めるために始めよう、最初で最後の本気の勝負!」

 

バリアジャケットに変身し、レイジングハートを構える。 フェイトちゃんもそれを見てデバイスを構えた

 

 

 



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第三十五話 決戦前夜 ~フェイト視点~

~フェイト視点~

 

「んっ......」

 

「目が覚めたかい、フェイト」

 

「うん、アルフ」

 

まだ少し頭がぼぅっとするけど、起き上がる。 管理局の持つジュエルシードを集める前に仮眠をとったけど、思っていたよりも寝ていたらしい

 

「どうして起こしてくれなかったのアルフ」

 

急いで部屋を出て母さんが待っているであろう広間に走っていくのだけど、アルフは苦笑いしながら答える

 

「気持ちよさそうに寝てたしさ。 それに、フェイトはこの頃ゆっくり休んでなかっただろう? 最後の戦い前だし、せめて体調だけでも万全にしてほしくてさ。 バルディッシュだって賛成してくれたんだよ?」

 

その言葉にバルディッシュを見るけれど、バルデュッシュは反応しない

 

「それにあの鬼婆だ、フェイトが寝てても用があるなら起こしに来るさ」

 

そう呟いたアルフの声に私は俯く。 確かにそうかもしれない。 ようやく広間の扉の前につき、息を整えて扉を開ける。 扉を開けると母さんは目を閉じていた。 母さんを待たせてしまったみたいだ、謝らないと、そう思い急いで中に入る

 

「寝てるんじゃないのかい?」

 

「来たようね、フェイト」

 

「すみません母さん、遅れました」

 

遅れてきたことを謝罪したのだが、母さんは怒っていないし、怒るような気配がなかった

 

「気にしてないわ、よく眠れたかしら」

 

「え、はい。 体調はばっちりです」

 

気にしてないといわれて戸惑っていたところに、よく眠れたかなんて聞かれてさらに混乱する。 横でアルフは感心しているようだけど、急な変化に戸惑ってしまう。 確かに母さんは優しかったけど......

 

「そう、ならジュエルシードをと言いたいところなのだけど、今日は休みなさい」

 

「ど、どういうことだい!? こんな時に悠長にしてる時間は」

 

アルフが母さんに食って掛かるけど母さんは特に気にした様子はなく、普通に対応していた。 昔に戻った? でも、何か違うような気がする

 

「聞きなさいアルフ。 管理局はジュエルシードをあの白い子に預けたようなの、しかも明日朝一番で回収するようだからその時に回収すればいいわ」

 

「・・・・・・なんでそんなこと知ってるんだい?」

 

アルフが胡散臭そうに母さんに聞くと

 

「・・・・・・情報を提供してくれる者がいるのよ」

 

「あの変なガキンチョかい?」

 

「・・・・・・」

 

それに母さんは答えない。 結局、情報の提供者は誰かは分からなかったけど、たぶんそうだと思う。 あの変な巻物で母さんの行動を制限しただけでなく、管理局をも裏で手を引いてる? あの子にそんなことができるとは思えないけど、母さんを手玉に取った子だ、油断はできないし許せない。 その日は結局休むことになり、最後の戦いは明日に持ち越しとなった

 

--------------------------------------------

 

次の日の朝、久しぶりにぐっすり寝て体調は万全で、私は今タカマチナノハを追っている。 母さんに言われた通り、回収する直前は隙も大きいだろうからそこを狙ってだ。 回収ポイントなのだろうか、立ち止まるタカマチナノハ。 隙を伺い飛び出そうとすると

 

「ここならいいよね、出てきてフェイトちゃん、アルフさん!」

 

「「っ!?」」

 

つけていたのは気付かれていたようで、アルフと顔を見合わせて茂みから出る。 つけていたのはばれてしまったけど、目的を果たすためにデバイスを構える

 

「ジュエルシードを渡して」

 

「ううん、渡せないよ。 フェイトちゃんこそジュエルシードを渡して」

 

「「・・・・・・」」

 

睨みあう私とタカマチナノハ。 だがそのにらみ合いは突然登場した第三者によって崩された

 

「なぜジュエルシードを渡さないんだ! ジュエルシードを渡せば君は、プレシアの呪縛から解き放たれるのに!!今のままじゃ君は不幸のままだ!!」

 

その言葉に頭に血が上る。 母さんのこと何も知らないくせに!知らない他人が母さんのことを悪く言うな!

 

「何も知らないのに母さんのことを悪く言うな!」

 

「ならアルフ、君ならわかるだろう、このままじゃ!」

 

私が説得できないとわかると今度はアルフを説得しようとしているみたいだけど、感情が少しでもリンクしている私にはわかる、当然アルフも怒っている

 

「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるさいよ!!フェイトは私に約束してくれたんだ、それをごちゃごちゃ言う資格は、アンタにない!!」

 

アルフはそのまま男の子を吹き飛ばす

 

『フェイト、こっちは任せな!!』

 

『うん、アルフもよろしくね』

 

念話で互いに会話をし、改めてタカマチナノハに向き直る

 

「ただ捨てればいいってわけじゃないよね、逃げればいいってわけじゃもっとない。 きっかけはたぶんジュエルシード、賭けようお互いが持ってる全部のジュエルシード。 それからだよ、全部それから。 私たちのすべてはまだ始まってもいない、だから本当の自分を始めるために始めよう、最初で最後の本気の勝負!」

 

タカマチナノハは変身し、デバイスを構える。 私とタカマチナノハは互いにデバイスを構えにらみ合いを続ける

 




なんか毎回フェイトちゃん視点を書くと短い気がする、なんでだろ? 

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第三十六話 最初で最後の本気の勝負

「ついに始まった、か」

 

回収ポイントである海辺の公園に着くと、すでに高町なのはとフェイト・テスタロッサの戦いはすでに始まっていた。 シューターが飛び交い、時には近接戦闘。 目まぐるしく変わる状況、それに視線を合わせる。 二人とも魔力を結構放出したのか、肩で息をしている。 先に動いたのはフェイト・テスタロッサで、どうも魔力の大きさからして大技のようだ。 遠くで戦闘音が聞こえる所からして、援護は期待できそうにないな。 もちろん真剣勝負だ、俺も援護する気はない。 その間にも、高町なのはは四肢をバインドで拘束され動きを封じられていた。 そして撃ちだされる大量のシューター。 確かフォトンランサーファランクスシフトだったか? 30発以上のフォトンスフィアより繰り出される、フォトンランサーの一点集中高速連射。 目の前で見るのはすごいが、果たして高町なのははどうなったのか。 フェイト・テスタロッサはフォトンスフィアをまとめ、一つの槍状にしているが。 着弾点である高町なのはの周りは、煙のため姿が見えない。 煙も段々晴れていき、高町なのはの姿があらわになる。 見たところ防ぎ切ったようで、バリアジャケットがところどころ焦げているくらいだった。 その姿に驚くフェイト・テスタロッサだったが、スフィアをまとめたものを投げる。 高町なのはもお返しと言わんばかりのディバインバスターを放つと、フェイト・テスタロッサの攻撃は拮抗するどころか一瞬でかき消されてしまった。 フェイト・テスタロッサはプロテクションで防いではいるが、耐えきれるかどうかは微妙なところだ。 ディバインバスターの衝撃か、バリアジャケットはところどころ破れ満身創痍、だが長い砲撃も終わりを告げる。 肩で息をしながら耐えきったことをかみしめているようだが、高町なのはの次なる手の準備が始まっていた。 魔法陣を展開し、集まり始める周囲の魔力。 収束砲撃魔法だ。 それを見て抵抗を試みるフェイト・テスタロッサだが、先ほどの高町なのはと同じように四肢をバインドによって拘束されてしまう。 無情にも撃ち出される収束砲撃魔法。 アレは砲撃だなんて生易しいものではなく、大きい壁が迫ってくるようなイメージだと思う。 桜色の光も晴れ、高町なのはを見ると肩で息をしていた。 いくら収束していたといっても、さすがにあの量の魔力を打ち出したのだ、限界だろう。 一方フェイト・テスタロッサは、防御もろくにできずあの魔法を受けたのだ、海へと落ちていく。 高町なのはもそれに気が付いたのか、急いでフェイト・テスタロッサのもとに向かうが間に合わない。 海の中に沈むと思われたフェイト・テスタロッサだったが、すんでのところで助けが入ったようだった。 アルフではなく、雑種だったようだが。 目を覚ましたフェイト・テスタロッサは高町なのはと話していたが、やがてジュエルシードを出す。 勝敗も付いたようなので空を見上げれば、高町なのはたちの上空に雷雲が。 そして放たれる紫色の雷。 思った通りプレシアさんのもののようだ。 それをアルフと一緒に防ぎきる雑種。 だがジュエルシードは消えてしまった。 

 

--------------------------------------------

 

いつまでもあの場にいるのも無駄なので俺たちはすぐに転送され、アースラのブリッジにいる。 もちろんフェイト・テスタロッサやその使い魔アルフも一緒だ

 

「なのはさんたちはご苦労様。 それから、初めましてフェイト・テスタロッサさん、アルフさん」

 

「・・・・・・」

 

それにこたえる元気はないのか、フェイト・テスタロッサは俯いていた。 アルフはそんなフェイト・テスタロッサを心配そうに見ていた。 映し出されるモニターにはちょうど武装局員たちが時の庭園に乗り込み、プレシア・テスタロッサを捕縛しようというところだった

 

「プレシア・テスタロッサ、貴女を時空管理法違反及び、時空管理局艦船攻撃の容疑で逮捕します」

 

「武装を解除して、こちらへ」

 

武装局員がそう声をかけると、玉座に座っていたプレシアさんが立ち上がる

 

「・・・・・・ここら辺が潮時かしらね」

 

そう言って持っていたデバイスを局員に投げる。 局員もいきなりのことで混乱しているようだが、それはアースラ内でも同じだった

 

「なに!? どういうことだ!」

 

「おい、これで終わるならいいだろう!」

 

「黙れ雑種が!貴様か、貴様が余計なことをしたのか!?」

 

そう言って俺は雑種に殴りかかるが、容易く組み伏せられてしまう。 なんか拘束あまくてすぐ抜け出せそうだが、一応形だけの抵抗をしておく

 

「離せ雑種!!」

 

「うるさい!!」

 

「神木君、今は貴方に構っている暇はありません、静かにしていてください。 さもなくば退出してもらいます」

 

「おのれ、おのれおのれおのれ!!」

 

ポイントはもう目前、今回のこの騒ぎで溜まったので後は好きにさせてもらう。 ひとしきり叫ぶと黙っておく。 状況は動きプレシアさんは捕縛され、武装局員は奥の部屋へ。 そこで見つけたのはフェイト・テスタロッサそっくりの少女、アリシア・テスタロッサ、プレシアさんの娘だ。 そして明かされるフェイト・テスタロッサ誕生の秘密

 

「彼女はアリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサの実の娘なの。 プレシアはヒュードラの実験の時に彼女を亡くしているの。 彼女が最後に行っていた実験は、使い魔を超える人造生命の生成、死者蘇生の秘術。 フェイトって名前は、当時彼女のしていた研究の開発コードなの」

 

「よく知っているわね。 まぁどちらにしろもう終わり、アリシアは丁重に運んでちょうだい」

 

連行されるプレシアさん、だが話はそこで終わりではなかった

 

「困るなプレシア・テスタロッサ、勝手に計画を降りられては」

 

「っ!? 貴方は」

 

黒いマントを羽織り、変な仮面をつけた男が現れた。 声バレを気にしているのか、合成音声を使っているため気味が悪かった。 こんなもの、俺の記憶にはなかった!

 

「まったく、こんな簡単な仕事もできないとはな、君にはがっかりだよ。 こんにちは管理局諸君、名前は名乗れないが少しお付き合い願うよ」

 

「・・・・・・何者だ!」

 

クロノが何者かを問うが、仮面の男は肩をすくめるだけで答えはしない。 それどころか武装局員を一瞬で全員気絶させた。 これにはさすがに全員驚き、警戒を引き上げる

 

「武装局員への攻撃は犯罪行為です」

 

「そんなの今更だろう? ジュエルシードの輸送艦を襲いバラまかせ、収集を指示していたのだから。 まぁ、管理局は気が付いていなかったようだが」

 

「待て!お前が犯人だとでもいうのか!?」

 

「? だからそう言っているだろう、馬鹿なのか君は?」

 

雑種をあざ笑うかのように言う仮面の男に、雑種は肩を震わせていた。 そんな中、フェイト・テスタロッサは顔を上げる

 

「一つ聞きたいことがあります」

 

「なにかね? 今の私はとても気分がいい、何でも質問に答えよう?」

 

「彼は貴方の仲間ですか?」

 

そう言って俺を指すフェイト・テスタロッサ。 高町なのはや雑種、リンディさんたちも驚いているようだが、フェイト・テスタロッサは構わずに話を続ける

 

「母さんに変な巻物を使って、契約解除不可能な呪いをしたと言っていました」

 

「契約解除不能な巻物? そんなものがあるなら私が使いたいものだよ。 その少年は興味深いが私の仲間ではないよ、私ならもっとうまく使うしね」

 

「おい、どういうことだ!我を馬鹿にしているのか!!」

 

「ははは、威勢のいい少年だ。 さて、そろそろかな?」

 

周りを見回す仮面の男、直後倒れている局員やプレシアさんが転送された。 リンディさんたちもただ話していただけでなく、武装局員やプレシアさんの転送を進めていたのだが、仮面の男にはバレていたようだ

 

「私とて無益な殺生は好まないんだ、邪魔な人間が消えてくれたほうが楽だからね。 まさかプレシアまで転送するのは予想外だったが、まぁいいだろう」

 

そう言って玉座に歩き始める仮面の男。 何かやろうとしているのは明白なのだが、手を出すことができない。 一応クロノなどを転送しようとしたのだが、転送できなかったのだ。 なのでここで見ていることしかできないのだが

 

「本当は全部のジュエルシードを解析したかったのだがないものは仕方ない、せめて私の期待通りのものならいいのだが」

 

「ジュエルシードで何をするつもりだ!!」

 

「それを管理局に語る必要はないさ。 ・・・・・・ふむ、これも期待外れだ。 こんなものどうでもいいが、ただでくれてやるのももったいない」

 

「え、うそ!?」

 

「まさか、貴方!」

 

「そのまさかさ!!」

 

直後艦内に鳴り響くアラート音、どうやら敵はやったみたいだった

 

「さて管理局の諸君、後は頑張ってくれたまえ」

 

そう言って消える仮面の男

 

「追跡は!?」

 

「だめ、追えない!!」

 

「出力さらに上がっています、このままでは!」

 

アラート鳴り響く艦内、呆然とする高町なのは達。 そんな中命令が下された

 

「ジュエルシードを止めます!」

 



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第三十七話 最初で最後の本気の勝負 ~なのは視点~

~なのは視点~

 

睨み合いをしていたけれど最初に動いたのはフェイトちゃんで、デバイスを思いっきりふるってくる。 それに対して私はレイジングハートを突き出しつば競り合う。 力は拮抗していて、少し距離をとるために後ろに飛び上がるとフェイトちゃんも同じ考えだったのか飛び上がる。 それじゃらは空中戦で、フェイトちゃんは高速で飛び去り私はそれを追いかけるけど追いつけない。 でも急にフェイトちゃんは止まり反転、私にシューターを撃ちだしてきた。 私はその場に急停止、シューターを四つ作り撃ちだし迫ってきているシューターを避けながらファイトちゃんに近づく。 フェイトちゃんはプロテクションで防いだみたいだけど、私は構わずレイジングハートを振り下ろす。 それをデバイスを構え、受け止めるフェイトちゃん。 さっきと同じように距離を離し、シューターを撃ちだす。 フェイトちゃんも同じように撃ちだしプロテクションで防いだみたいだけど、今回は違う。 私はさっきよりも玉数を増やし、シューターを撃ちだす。 フェイトちゃんは防げないと悟ったのか、デバイスを変化させシューターを切り裂く。 いっきに四個切り裂かれ、残りの一つはそのまま避け私のほうに向かってくる。 私はシールドを展開し、その一撃を受けながら明後日のほうに行ったシューターを操り、フェイトちゃんに攻撃しようとするけど防がれてしまう。 でも、私の狙いは私から注意をそらすことだった。 高速移動魔法を使いフェイトちゃんの頭上からレイジングハートを振り下ろす

 

「やあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!?」

 

フェイトちゃんは驚いたみたいだったけど、すぐにデバイスを構え受け止める。 でも、私の一撃には耐えられなかったみたいで吹き飛ばされるけど、姿が一瞬にして消える。 上から何かを感じ急いでその場から飛ぶと、フェイトちゃんがデバイスを振り下ろしていた。 もう少し反応が遅れていたら、あの一撃で負けていた。 実際胸のリボンが少し切られた。 距離を開けようと振り返るけど、シューターがセットされていて、すぐに打ち出される。 レイジングハートがプロテクションを展開してくれたおかげでそらせたけど、強力な一撃には間違いなかった

 

「「はぁ、はぁ......」」

 

デバイスを構えたまま私たちは息を整えていた。 最初は手も足も出なかったけど、今は戦えてる。 でも、状況は五分くらい、油断はできない。 そう思っていたけど、フェイトちゃんがデバイスを抱え込むように持ち、嫌な予感がした私はその場から飛び去ろうとしたのだけど、バインドによって四肢を拘束されてしまう。 バインド、油断していたわけじゃないけど。 目の前ではフェイトちゃんが魔法を展開していた。

 

「フォトンランサーファランクスシフト、ファイア!!」

 

撃ちだされる大量のシューター、レイジングハートがプロテクションを展開してくれる。 結構魔力は使ったけど、これなら! 雨のように降り注ぐシューターに不安にはなるけれど、レイジングハートを信じる。 時間にすれば短い時間だったかもしれない、でも永遠のように続くかと思われたシューターの雨は終わりを告げた。 バインドが終わり、四肢も自由になる

 

「撃ち終わるとバインドも解けちゃうんだね」

 

煙が晴れフェイトちゃんを見ると信じられないようなものを見る目で見られる

 

「今度はこっちの!」

 

「ディバイン」

 

「番だよ!!」

 

「バスター」

 

ディバインバスターを撃つとフェイトちゃんもシューターみたいなものを放ったけど、チディバインバスターにはかなわず一瞬で掻き消える。 フェイトちゃんに直撃する、と思ったけどプロテクションで攻撃を防いでいる。 結構な魔力を消費して撃ってるけど、プロテクションは破れない。 うん、流石フェイトちゃん。 でも、私の切り札はこれ

 

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション」

 

「スターライトブレイカー」

 

レイジングハートと考えた私の切り札。 周囲の使いきれなかった魔力や、漂う魔力を集めた私の必殺技。 フェイトちゃんがこれを見て離れようとしてるけど、さっき私がやられたようにバインドで拘束する

 

「受けてみて、これが私の全力全開!スターライト、ブレイカー!!」

 

撃ちだされる砲撃は一瞬でフェイトちゃんを包み込む。 閃光がやみ肩で息をする。 切り札だけあって、もう魔力が少ししかない。 フェイトちゃんを見ると気を失っているのか、落ちていく

 

「フェイトちゃん!!」

 

急いで降下するけど、フェイトちゃんには手が届かない。 海に落下する、と思ったけどすんでのところで織君がキャッチしたみたいだった。 遅れてきたのはアルフさん、すごくフェイトちゃんを心配していた

 

「フェイトちゃん!」

 

「やりすぎだなのは」

 

「ありがとう織君」

 

織君にたしなめられたけど、どうやらフェイトちゃんは無事なようだ。 すぐに目を覚ますフェイトちゃん。 どうもボーっとしているようだった

 

「気が付いたフェイトちゃん。 ごめんね、大丈夫?」

 

「・・・・・・」

 

目が覚めたフェイトちゃんに聞くと、静かにうなづいてくれた

 

「私の勝ち、だよね?」

 

「そう、みたいだね」

 

「プットアウト」

 

フェイトちゃんが負けを認めると、デバイスからジュエルシードが出てくる

 

「ジュエルシードを......なのは、フェイトを頼む!」

 

「え、う、うん!」

 

織君の様子が変わったと思ったら、フェイトちゃんを任される。 フェイトちゃんに肩を貸しながら飛んでいると、空の状況が急に変わり私たちに雷が落ちる。 アルフさんと織君が防ぎきってくれたみたいだけど、ジュエルシードが!

 

『すぐにみんなを回収するわ、少し待ってて』

 

--------------------------------------------

 

転送された私たちはアースラのブリッジにいる。 もちろんフェイトちゃんやその使い魔であるアルフさんも一緒に

 

「なのはさんたちはご苦労様。 それから、初めましてフェイト・テスタロッサさん、アルフさん」

 

「・・・・・・」

 

ショックなのかわからないけど、フェイトちゃんは俯いていた。 アルフさんもそんなフェイトちゃんを心配そうに見ていた。 映し出されるモニターにはちょうど武装局員の人たちが時の庭園に乗り込み、フェイトちゃんのお母さんプレシアさんを捕縛しようというところだった

 

「プレシア・テスタロッサ、貴女を時空管理法違反及び、時空管理局艦船攻撃の容疑で逮捕します」

 

「武装を解除して、こちらへ」

 

武装局員がそう声をかけると、玉座に座っていたプレシアさんが立ち上がる

 

「・・・・・・ここら辺が潮時かしらね」

 

そう言って持っていたデバイスを局員に投げた。 武装局員の人たちはいきなりのことで混乱しているみたいだけど、それはアースラ内でも同じだった。 だってフェイトちゃんのお母さんはフェイトちゃんを使ってジュエルシードを集めていた人で...... 聞いていた話と違うので戸惑ってしまう

 

「なに!? どういうことだ!」

 

そんな中一番動揺したのは神木君で、そんな動揺した神木君に怒鳴ったのは織君だった。 神木君も織君も何か知っているみたいだったけどそれを気にしている様子はなくて

 

「おい、これで終わるならいいだろう!」

 

「黙れ雑種が!貴様か、貴様が余計なことをしたのか!?」

 

そう言って神木君は織君に殴りかかるけど、容易く組み伏せられてしまう。 抵抗してるけど拘束は解けないみたい

 

「離せ雑種!!」

 

「うるさい!!」

 

「神木君、今は貴方に構っている暇はありません、静かにしていてください。 さもなくば退出してもらいます」

 

「おのれ、おのれおのれおのれ!!」

 

リンディさんに冷たく言われひとしきり叫んだあと、神木君は黙ってしまう。 モニターから目を離しエイル隙にプレシアさんは捕縛され、武装局員は奥の部屋へ。 でも、そこにある光景に目を疑ってしまう

 

「えっ?」

 

そこで見つけたのはフェイトちゃんそっくりの少女。訳が分からない私たちにエイミィさんが状況を説明してくれる

 

「彼女はアリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサの実の娘なの。 プレシアはヒュードラの実験の時に彼女を亡くしているの。 彼女が最後に行っていた実験は、使い魔を超える人造生命の生成、死者蘇生の秘術。 フェイトって名前は、当時彼女のしていた研究の開発コードなの」

 

じゃあフェイトちゃんはクローン? でも

 

「よく知っているわね。 まぁどちらにしろもう終わり、アリシアは丁重に運んでちょうだい」

 

連行されるプレシアさん、表情は見えないけどその声は悲しそうで。 でも、それで終わりじゃなかった

 

「困るなプレシア・テスタロッサ、勝手に計画を降りられては」

 

「っ!? 貴方は」

 

黒いマントを羽織り、変な仮面をつけた男の人が現れた。 声バレを気にしているのか、合成音声を使っているためどこか気味が悪かった

 

「まったく、こんな簡単な仕事もできないとはな、君にはがっかりだよ。 こんにちは管理局諸君、名前は名乗れないが少しお付き合い願うよ」

 

「・・・・・・何者だ!」

 

クロノ君が何者かを問うが、仮面の人は肩をすくめるだけで答えはしない。 それどころか武装局員を一瞬で全員気絶させた。 私たちはさらに警戒する

 

「武装局員への攻撃は犯罪行為です」

 

「そんなの今更だろう? ジュエルシードの輸送艦を襲いバラまかせ、収集を指示していたのだから。 まぁ、管理局は気が付いていなかったようだが」

 

「待て!お前が犯人だとでもいうのか!?」

 

「? だからそう言っているだろう、馬鹿なのか君は?」

 

リンディさんが冷静に問うけど、仮面の人は耳を疑うような言葉を口にした。 あの人が犯人? そして織君ををあざ笑うかのように言う仮面の男に、織君は肩を震わせていた。 そんな中、今までうつむいていたフェイトちゃんは顔を上げ一歩踏み出していた

 

「一つ聞きたいことがあります」

 

「なにかね? 今の私はとても気分がいい、何でも質問に答えよう?」

 

「彼は貴方の仲間ですか?」

 

そう言ってフェイトちゃんは神木君を指さしていた。 どうしてそこで神木君指さすの? 頭が真っ白になりつつ神木君を見るけれど、神木君の表情は見えない。 私たちが驚く中、フェイトちゃんは続ける

 

「母さんに変な巻物を使って、契約解除不可能な呪いをしたと言っていました」

 

「契約解除不能な巻物? そんなものがあるなら私が使いたいものだよ。 その少年は興味深いが私の仲間ではないよ、私ならもっとうまく使うしね」

 

「おい、どういうことだ!我を馬鹿にしているのか!!」

 

「ははは、威勢のいい少年だ。 さて、そろそろかな?」

 

食って掛かる神木君だったけど、仮面の人はそれをものともせずに周りを見回す。 直後倒れている局員やプレシアさんが転送された。 リンディさんたちはただ話していただけでなく、武装局員やプレシアさんの転送を進めていたのだ。 仮面の人には考えがお見通しみたいだったけど

 

「私とて無益な殺生は好まないんだ、邪魔な人間が消えてくれたほうが楽だからね。 まさかプレシアまで転送するのは予想外だったが、まぁいいだろう」

 

そう言って玉座に歩き始める仮面の人。 何かやろうとしているのは明白なのだけど、手を出すことができない。 一応クロノ君などを転送しようとしたみたいなんだけど、転送できなかったのだ。 なのでここで見ていることしかできない

 

「本当は全部のジュエルシードを解析したかったのだがないものは仕方ない、せめて私の期待通りのものならいいのだが」

 

「ジュエルシードで何をするつもりだ!!」

 

「それを管理局に語る必要はないさ。 ・・・・・・ふむ、これも期待外れだ。 こんなものどうでもいいが、ただでくれてやるのももったいない」

 

「え、うそ!?」

 

「まさか、貴方!」

 

「そのまさかさ!!」

 

直後艦内に鳴り響くアラート音、話を聞いてみるとジュエルシードや魔力炉を暴走させたみたいで

 

「さて管理局の諸君、後は頑張ってくれたまえ」

 

そう言って消える仮面のひと

 

「追跡は!?」

 

「だめ、追えない!!」

 

「出力さらに上がっています、このままでは!」

 

アラート鳴り響く艦内、私たちは呆然としていた。 ううん、いろいろなことが起こりすぎて頭が追い付かない。 そんな中リンディさんから命令が下された

 

「ジュエルシードを止めます!」

 

~なのは視点 end~



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第三十八話 最初で最後の本気の勝負 ~フェイト視点~

~フェイト視点~

 

睨み合いを続けていたけど、先に動いたのは私。 デバイスを構え振り下ろすけど、タカマチナノハはそれに反応してつば競り合う形になる。 力は同じくらいで拮抗していた。 距離を離すために後ろに飛ぶけど、タカマチナノハも同じことを考えていたのか同じ行動をする。 空中戦が始まった。 高速で私は飛び、その後ろをタカマチナノハが追いかけてきている形だ。 しばらくはそう飛んでいたが、私は急停止し反転する。 フォトンランサーを四つ作り撃ちだし、私もその後をデバイスを構えながらタカマチナノハに迫る。 これには少し驚いたようだったが、冷静に停止しシューターを同じ数作り撃ちだしてきた。 私は距離が近すぎたためプロテクションで防ぐのだけど、最後のシュータを受けるとプロテクションが切れてしまう。 その隙に迫ってきていたタカマチナノハはデバイスを振り下ろしてくる。 さっきと同じように距離を離すとタカマチナノハはシューターを撃ちだしてきたのだが、数は五つ。 私は防ぎきれないと悟り、バルディッシュをサイズフォームにしてシューターを切り裂く。 時間差の攻撃なのか一つだけ遅れてこちらに向かってくるけど、それを避けタカマチナノハに向かう。 バルディッシュを振り下ろすがプロテクションで防がれる。 タカマチナノハが瞳を閉じ何かを始めたようだ、私は視線をタカマチナノハから離さないようにしつつ周囲を伺う。 さっき避けたシューターを操っていたようで、だんだん近づいてきていた。 これで攻撃するつもりだったのだろうけど、ぎりぎりまで引き付けてプロテクションを発動。 防いだのだけど、タカマチナノハの姿を見失ってしまった。 一瞬のうちに移動された。 周囲を見回すがタカマチナノハの姿はない

 

「やあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!?」

 

上にいたのは少し驚いたけど、バルディッシュを目の前に構え振り下ろされる一撃を防ぐ。 体重や速度が乗った重い一撃だったけど、受けきれないわけではなく。 体勢を整えながら高速移動魔法を使って頭上をとり、バルディッシュを振り下ろすのだけどよけられた。 どうやら距離を開けようと飛ぶつもりらしいけど、フォトンランサーを仕掛けておいた。 その場から私が飛び去ると発射されるフォトンランサー、だが防ぎ切ったみたいだった。 

 

「「はぁ、はぁ......」」

 

初めて会ったときは魔力が強いだけのただの素人だったのに、もう違う...... 早くて、強い。 迷ってたら、こっちがやられる! 残りの魔力は少ないけれど、私は大魔法を行使することに決める。 リニスに教わった最高の魔法。 この魔法は発動までは長いけど、その弱点はすでに手を打ってある。 事実、タカマチナノハは離れようとしたみたいだけど、ライトニングバインドに拘束されていた。 呪文を唱え、魔力を高めていく。 フォトンスフィアをいくつも生成し、それのコントロールをする。 そして

 

「フォトンランサーファランクスシフト。 打ち砕け、ファイア!」

 

スフィアから撃ちだされる大量のフォトンランサー。 あの子には悪いけど、私は母さんのために勝たなければならない。 私が撃ったフォトンランサーの雨は、防御できないタカマチナノハに吸い込まれていく。 煙が上がるが構わず私は撃ち続ける。 時間にして数秒、撃ち続けた私は撃つのをやめ、もしもの時のために残ったスフィアを一つにまとめる。 煙が晴れてくる。 あの量を撃ったのだ、あの子には申し訳なく思うがもし気を失っていなかったら、これでとどめを刺させてもらう。 そう思っていた。 だが

 

「撃ち終わるとバインドも解けちゃうんだね」

 

煙が晴れタカマチナノハがその姿を見せる。 所々バリアジャケットに焦げがあるくらいで、タカマチナノハはほぼ無傷だった。 信じられない、そんな気持ちが私の中を支配する

 

「今度はこっちの!番だよ!!」

 

デバイスを構え、砲撃魔法を放ってくる。 だが、私も負けるわけにはいかない!!

 

「はぁ!!」

 

一つにしたスフィアを投げるが、タカマチナノハの砲撃の前では意味もなく一瞬でかき消されてしまった。 プロテクションを展開し、タカマチナノハの砲撃に耐える。 直撃したけど、あの子だってファランクスシフトを耐えたんだ、残りの魔力だって少ないはず。 これさえ防げば勝機は見える。 私は残っている魔力の大半を込めてプロテクションを維持する。 砲撃の余波はバリアジャケットを裂くが、私は耐えきった。 でも

 

「受けてみて、ディバインバスターのバリエーション」

 

そう言って展開される大きな魔法陣。 集まりだす周囲の魔力。 収束砲撃魔法! 絶望しかけるけど、ああいう技にはチャージ時間はつきもの、その隙をたたけば! そう思い残りの魔力を飛行魔法に費やそうとするけど。 拘束される手足。 見てみるとバインドで拘束されていた

 

「受けてみて、これが私の全力全開!スターライト、ブレイカー!!」

 

直後放たれた収束砲撃魔法、私はなすすべもなく桜色の壁に飲み込まれた

 

「フェイトちゃん!!」

 

--------------------------------------------

暖かい、それが私が感じた感想だった。 海に落ちたはずなのに感じる温かさ、よくわからなかったけど私は目を開ける。 見知った顔がある、母さんを悪く言ったあの子の顔だ。 視線を動かすとさっきまで戦っていたあの子、タカマチナノハが心配そうにのぞき込んでいた

 

「気が付いたフェイトちゃん。 ごめんね、大丈夫?」

 

「・・・・・・」

 

一応うなづく。 まだ頭がボーっとしている

 

「私の勝ち、だよね?」

 

「そう、みたいだね」

 

「プットアウト」

 

私が負けを認めるとバルデュッシュがジュエルシードを出す。 そうだ私は負けてしまった、母さんの期待には答えられなかったのだ

 

「ジュエルシードを......なのは、フェイトを頼む!」

 

「え、う、うん!」

 

直後、騒がしくなったと思ったら雷が落ちた。 どうやら母さんは怒っているようだ。 当たり前だ、今回こそは母さんを失望させてしまった。 その証拠にジュエルシードは回収される。 私は騒がしくなる周りの声は耳に入らず、それを呆然と見ていた

 

--------------------------------------------

 

私たちはタカマチナノハ達と一緒に転送され、時空管理局の船にいた

 

「なのはさんたちはご苦労様。 それから、初めましてフェイト・テスタロッサさん、アルフさん」

 

「・・・・・・」

 

たぶんこの船の責任者なのか、緑髪の女の人が話しかけてくる。 でも、それに返事をしている余裕は今の私にはなかった。 母さんを失望させてしまった私は...... 目の前のモニターには母さんが映っていた

 

「プレシア・テスタロッサ、貴女を時空管理法違反及び、時空管理局艦船攻撃の容疑で逮捕します」

 

「武装を解除して、こちらへ」

 

母さんを取り囲んでいる武装局員がそう声をかけると、玉座に座っていた母さんは立ち上がる。 あぁ、母さんの手をわずらわせてしまったんだ、と目の前のモニターで確認させられる

 

「・・・・・・ここら辺が潮時かしらね」

 

でも母さんはそう言って持っていたデバイスを局員に投げた。 武装局員の人たちはいきなりのことで混乱しているみたいだけど、それは私も一緒だった。 どう、して? だって母さんの目的はジュエルシードの収集で、それが終われば母さんと一緒にやさしく暮らせるはずなのに。

 

「なに!? どういうことだ!」

 

「おい、これで終わるならいいだろう!」

 

「黙れ雑種が!貴様か、貴様が余計なことをしたのか!?」

 

「離せ雑種!!」

 

「うるさい!!」

 

「神木君、今は貴方に構っている暇はありません、静かにしていてください。 さもなくば退出してもらいます」

 

「おのれ、おのれおのれおのれ!!」

 

周りがうるさいようだけど、今の私にはそんなことを気にしている様子はない。母さんが逮捕されているけど、その表情は疲れ切っていて...... 今の状況が全く理解できない

 

「えっ?」

 

それが誰の声だったかはわからない。 もしかしたら私の声だったかもしれないし、違う人の声だったかもしれない。 それが分からないくらい今の私は目の前の光景が信じられなかった。 だって、モニターには私が映っていたからだ

 

「彼女はアリシア・テスタロッサ、プレシア・テスタロッサの実の娘なの。 プレシアはヒュードラの実験の時に彼女を亡くしているの。 彼女が最後に行っていた実験は、使い魔を超える人造生命の生成、死者蘇生の秘術。 フェイトって名前は、当時彼女のしていた研究の開発コードなの」

 

誰かが説明している。 アリシア・テスタロッサ。 なら私は?

 

「よく知っているわね。 まぁどちらにしろもう終わり、アリシアは丁重に運んでちょうだい」

 

知っているはずの母さんは何も説明してくれない。 私は全身に力が入らなくなってきていた

 

「困るなプレシア・テスタロッサ、勝手に計画を降りられては」

 

「っ!? 貴方は」

 

母さんが動揺していた。 その相手は黒いマントを羽織り、変な仮面をつけた男の人だった。 声バレを気にしているのか、合成音声を使っている。 あんな人見たことないけど、誰?

 

「まったく、こんな簡単な仕事もできないとはな、君にはがっかりだよ。 こんにちは管理局諸君、名前は名乗れないが少しお付き合い願うよ」

 

「・・・・・・何者だ!」

 

執務官が何者かを問うけど、仮面の男は肩をすくめるだけで答えはしない。 それどころか武装局員を一瞬で全員気絶させた。 何が目的なんだろう。 それに母さんに仕事を依頼していた、ということは

 

「武装局員への攻撃は犯罪行為です」

 

「そんなの今更だろう? ジュエルシードの輸送艦を襲いバラまかせ、収集を指示していたのだから。 まぁ、管理局は気が付いていなかったようだが」

 

「待て!お前が犯人だとでもいうのか!?」

 

「? だからそう言っているだろう、馬鹿なのか君は?」

 

今聞き捨てならないことを口にした。 収集を指示していたと、ということは母さんがやさしくなくなったのもすべてあの男のせい? それに怒りがわいてきたけど、そうなると少し疑問に思うことがある。 あの変な男の子だ。 話すのも嫌だけど、聞いておかねばならないから、私は一歩踏み出し仮面の男に質問をする

 

「一つ聞きたいことがあります」

 

「なにかね? 今の私はとても気分がいい、何でも質問に答えよう?」

 

「彼は貴方の仲間ですか?」

 

そう言って私は、男の子に組み伏せられている変な子をを指さしていた。 仮面の男の反応はない。どうやら続きを待っているようだ、私はは続ける

 

「母さんに変な巻物を使って、契約解除不可能な呪いをしたと言っていました」

 

「契約解除不能な巻物? そんなものがあるなら私が使いたいものだよ。 その少年は興味深いが私の仲間ではないよ、私ならもっとうまく使うしね」

 

これで変な子が怪しくなくなったわけじゃない、それに仲間じゃないという証拠でもない。 それに、母さんに呪いをかけたのは事実だ。周りは騒がしいけど、今はこの件を頭の隅に置いておく

 

「ははは、威勢のいい少年だ。 さて、そろそろかな?」

 

仮面の男は周りを見回す。 直後、倒れている局員や母さんが転送された。 ここの局員の人たちはただ話していただけでなく、武装局員や母さんの転送を進めていたのだが、仮面の男には考えがお見通しだった

 

「私とて無益な殺生は好まないんだ、邪魔な人間が消えてくれたほうが楽だからね。 まさかプレシアまで転送するのは予想外だったが、まぁいいだろう」

 

そう言って玉座に歩き始める仮面の男。 何かやろうとしてはいるのだろうけど、私は母さんが心配だった

 

「本当は全部のジュエルシードを解析したかったのだがないものは仕方ない、せめて私の期待通りのものならいいのだが」

 

「ジュエルシードで何をするつもりだ!!」

 

「それを管理局に語る必要はないさ。 ・・・・・・ふむ、これも期待外れだ。 こんなものどうでもいいが、ただでくれてやるのももったいない」

 

「え、うそ!?」

 

「まさか、貴方!」

 

「そのまさかさ!!」

 

直後艦内に鳴り響くアラート音、話を聞いてみるとジュエルシードや魔力炉を暴走させたみたいだった

 

「さて管理局の諸君、後は頑張ってくれたまえ」

 

そう言って消える仮面の男。 追いかけて真実を話させたい気持ちはあったが、それよりも母さんのほうが心配だった

 

「追跡は!?」

 

「だめ、追えない!!」

 

「出力さらに上がっています、このままでは!」

 

アラート鳴り響く艦内、そんな中責任者の人は

 

「ジュエルシードを止めます!」

 

~フェイト視点 end~

 

 




すごくこの作品とは関係ないんですが、とある方の作品を見てゼロカス装備のなのはがいいなと!プロトゼロじゃないよ? ウイングガンダムゼロカスタムだよ? フォースのフォートレスを翼に見立てて、カノン装備であら不思議。 ゼロカススタイルなのはさんの完成!なんて妄想がね。 後はー、同じ人の作品でなのはが刀使ってるとかね? 魔法と出会わないで剣術に興味を持ったら、なんてね。 実際、無印始まるのは9才頃ですし、習う時間はあるよね? だれか書いてくれませんかね?(チラチラ 言い出しっぺの法則とか言われても、トラは詳しくないから書けませんよ俺は

以上、この作品に全く関係ない後書きでしたー。 感想評価、お願いします


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第三十九話 決戦

「フェイト・テスタロッサ、君は一応容疑者でもある、母親と一緒に居てくれ。 藤森、神木を離すんだ。 神木のレアスキルはあれの掃除に役に立つ」

 

クロノはてきぱきと指示を出していく。 それはそうだ、この間にも次元震は少しずつ進行し、被害が出る可能性が出てきているのだ。 だが雑種は違うようだ

 

「だがクロノ、こいつはあの仮面の男と繋がりがあるかもしれないんだぞ!!」

 

「今はそんなことを言っている場合か!!次元震が次元断層が起ころうとしているんだぞ、放っておいたらどれだけの被害が出ると思っているんだ!!取り調べなら後でいくらでもできる、時は一分一秒を争うんだ、だから早く離せ」

 

クロノの言葉に渋々だが俺を離す雑種。 俺は体の具合を確かめる。 元より抜け出せるほどの緩い拘束だ、このぐらいなんてことない。 ただ一つ、こんな奴に拘束される屈辱があるだけだ

 

「クックック、残念だったな雑種。 まぁそんなことはどうでもいい、我に汚名を着せ、しかも!この我を愚弄したあの男は後で必ず探し出し、相応の報いを受けさせてやる!!」

 

雑種は悔しそうに俺を見ているがそんなことは関係なく、あの仮面の男に対して恨みつらみを言っておく。 そんな俺にクロノは鋭い視線を向ける

 

「今の君はフェイト・テスタロッサの言葉もあり容疑者として疑われている、そこら辺の自覚はしっかりと持ってくれ」

 

「ふんっ!あの男の手のひらで踊らされるのは癪に障るが、事がことだ協力してやる。 さっさと行くぞ執務官!」

 

そう言って歩き出す俺を追いかけてくるクロノ。 遅れて雑種や、高町なのはも付いてくる

 

「みなさん、今回は私も出ます。 できるだけ次元震は押さえますので、皆さんは封印を最優先にしてください。 それと、あの仮面の男がまだ潜んでいるかもしれません、それを十分に注意してください」

 

リンディさんの言葉を受け、俺たち全員は頷き。転送ポートまで急ぐ

 

--------------------------------------------

 

転送されてきたのは時の庭園の入り口。 モニターで見た通り、通路は機械の兵隊で埋め尽くされていた。 だがこの程度

 

「神木、出番だ」

 

「ふん...... さてガラクタどもが、この我の道を邪魔するとはいい度胸だ。 今の我は非常に機嫌が悪い、塵芥となれ!!」

 

王の財宝を背後に展開。 武器の大きさなど関係なくランダムに配置、それを一斉射したらどうなるか? 答えは簡単だ、目の前には何もなくなる

 

「すごい......」

 

高町なのはの声が聞こえたがそれに反応することもなく、がら空きになった道を歩く。 邪魔な大きな扉があるが宝具を射出し破壊する。 どうせ次元震のせいで所々ボロボロなのだ、構いやしないだろう

 

「みんな気を付けてくれ、その黒いものがある空間は入らないでくれ」

 

「え?」

 

「虚数空間、あらゆる魔法が使用不可能になる空間なんだ」

 

「飛行魔法も展開不可能、落ちたら重力に従い落下する」

 

「き、気を付ける」

 

俺たちは穴を避けながら進む。 いくつもの大きい扉を壊し、そのたびに現れる機械を壊しながら。 またも大きい扉だ、いい加減うんざりしながら壊し、中に入るとこれまでより多く機械がいる

 

「ここからは二手に分かれよう。 なのはと藤森、ユーノは最上階の駆動炉を止めてくれ。 僕と神木は最下層のジュエルシードを止めてくる」

 

「・・・・・・大丈夫なのか?」

 

俺を見てくる雑種だが、俺は視線を軽く受け流し前を向く。 こうやって作戦会議をしているにもかかわらず襲ってこないところを見ると、ある程度近づくか襲ってきたやつを排除するタイプらしい。 まぁ、そんなことが分かってもただ壊すだけだが

 

「変な動きをすればアースラで拘束するだけだ。 神木!」

 

「ようやくか執務官!!」

 

クロノの呼びかけに王の財宝を展開、射出し一掃する。 俺はクロノの後を追い走り出す

 

「クロノ君、神木君!」

 

高町なのはに呼ばれ俺たちは立ち止まり振り返る。 心配そうな目でこちらを見ているが、首を振り

 

「気を付けてね!」

 

そう言った

 

「そっちもな!」

 

「ふっ」

 

俺とクロノは返事をし、走り出す

 

「今回の件、後で聞かせてもらうぞ」

 

「ふん」

 

最下層に向かう途中、クロノと短く会話を交わす。 そうだな、今回のことすべて終わって、呪いも終わったら正直にはなそう。 決心を新たに最下層にたどり着く

 

「これは......」

 

「有象無象が群れを成しているな、クックック!!」

 

今まで以上の機械。 それはジュエルシードを守るように群れていた。 だが、俺達にはそんなものは関係ない。 俺とクロノは一歩踏み出し、クロノはデバイスを構え、俺は王の財宝を展開する

 

「援護、頼むぞ」

 

「せいぜい足を引っ張らないようにな執務官」

 

王の財宝を一斉射し、大半が巻き込まれガラクタと化すと思っていた。 だが

 

「「っ!?」」

 

今までになかった動き、隊列を組み王の財宝から射出された宝具を少ない被害で防ぎ切った。 これには俺とクロノも驚き足を止める。 だがそれがいけなかった、足を止めた隙にクロノと俺に迫る機械。 クロノはそれに気づいておらず、俺は王の財宝を射出するが避けられる。  俺の方もたぶん避けられただろうが、それを確認している暇はない。 王の財宝から剣を抜き出し、クロノに迫っていた機械を切り裂く

 

「神木、すまない!」

 

「足を止め、ぐぅっ!?」

 

足を止めるな、そう言おうとしたが言葉は続かなかった。 なぜなら、俺の腹を剣が貫いたからだ。後ろを見ると、やはり俺の方に迫っていた機械だったらしく、そいつが俺を刺していた。 俺は持っている剣を横なぎに振るい、機械を機能停止にする

 

「神木!!」

 

「我のことを気にする余裕があるなら自分の心配をしろ執務官!!」

 

次々と俺に迫ってくる機械を王の財宝で牽制しつつ、クロノに声をかける。 実際クロノの方にも迫っているが、それまで牽制していたら手が回らなくなる。 幸いか、クロノの方に行く個体は少ないが、俺の方に来る個体は多い。 何がどうなっているかわからないが、気を抜いたら死ぬ。 しかも実力を必要以上にセーブした状態だ、一歩間違えば本当に死ぬ

 

「くっ!ジュエルシード封印まで時間を稼いでくれ、そうしたら僕も加勢して一掃する!!」

 

「ふん!我一人で十分だ!!」

 

いつものように軽口で返す。 クロノは歯を食いしばりながら迫ってくる機械に肉薄し、ジュエルシードに距離を詰めていた。 王の財宝を牽制目的から、一機ずつ殲滅していく方向に切り替える。 やることは簡単だ、今まで通り牽制しつつ、一機だけ集団から離れたら、こちらにおびき寄せつつ盾で防げない大きい剣を射出して壊すだけだ。 ただ問題は、偶然を装わなければいけないことだが

 

「ふははははは、ガラクタが我に刃向かうからこうなるのだ!」

 

順調に撃破数を伸ばしていたのだが、目に見えて動きが変わる。 王の財宝は隙間がないように大小さまざま大きさの剣やナイフを面射撃しているが、機械は比較的小さいサイズの剣やナイフを被弾覚悟で進んできている。 どういうことだ!?

 

「ぐぅっ!?」

 

今迫ってきた一機の剣を受けたが、受けた腕がしびれるくらいの衝撃が伝わってくる。 たまらず距離を離そうとするが、一瞬で詰められる。 俺は剣を避けながら、俺の頭の位置にセットしておいた王の財宝で機械を撃ち抜く。 明らかに動きや力が変わった。 今も機械は煙を吹きながら、三体が俺を囲んでそれぞれが攻撃してきている状態だ。 機械がコンビネーションなんて、笑えない冗談だ。 数は減らしたとはいえ、まだ数十機はいる。 それも、俺の方に向かってきていた。 こんなのに時間をかけていたら死ぬ。 三機の剣を両手に持った剣をクロスし、頭上で受け止める。 腹から血が噴き出し痛いがそんなことも気にしていられない。 ギリギリ押され剣が迫ってくるが、全方位に王の財宝で射出。 どうやら一機巻き込めたようで、他の二機は距離を離したのでうち一機に切りかかり二機目を機能停止にする。 がら空きの背中を切りかかってくるが、さっきと同じ様に避けセットしてあった王の財宝を射出、三機目も機能停止させる。 迫ってきている数十機だが、その姿が掻き消えた。 そちらの方向を見ると、クロノが肩で息をしながらデバイスを構えていた

 

「・・・・・・」

 

お礼を言おうとしたが意識が混濁し始める。 どうやら限界のようだ、クロノの怒声を聞きながら俺は意識を手放した

 



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第四十話 決戦 ~なのは視点~

~なのは視点~

 

「フェイト・テスタロッサ、君は一応容疑者でもある。 母親と一緒に居てくれ。 藤森、神木を離すんだ。 神木のレアスキルはあれの掃除に役に立つ」

 

リンディさんの言葉を受け、クロノ君は呆然としている私たちに指示を出していく。 私たちはその言葉を受け準備を開始するけど、織君は神木君を離さない。 それどころか

 

「だがクロノ、こいつはあの仮面の男と繋がりがあるかもしれないんだぞ!!」

 

その言葉に胸を痛める。 フェイトちゃんが一時期から神木君に厳しい視線を向けていたのは何かあったからで、仮面の人は関係ないと言っていたけど本当かどうかわからない。 こんな時だけど、その事実を再確認する

 

「今はそんなことを言っている場合か!!次元震が次元断層が起ころうとしているんだぞ、放っておいたらどれだけの被害が出ると思っているんだ!!取り調べなら後でいくらでもできる、時は一分一秒を争うんだだから早く離せ」

 

クロノ君の言葉に渋々だけど神木君を離す織君。 織君の表情は悔しそうで、そんな織君を気にせず神木君は体の具合を確かめていた

 

「クックック、残念だったな雑種。 まぁそんなことはどうでもいい、我に汚名を着せ、しかも!この我を愚弄したあの男は後で必ず探し出し、相応の報いを受けさせてやる!!」

 

仮面の人に相当な恨みがあるみたいで物騒なことを言っている神木君だけど、クロノ君はそんな神木君にくぎを刺していた

 

「今の君はフェイト・テスタロッサの言葉もあり容疑者として疑われている、そこら辺の自覚はしっかりと持ってくれ」

 

「ふんっ!あの男の手のひらで踊らされるのは癪に障るが、事がことだ協力してやる。 さっさと行くぞ執務官!」

 

そう言って歩き出す神木君を追いかけるクロノ君、慌てて私たちも追いかけようとするけどその前に

 

「フェイトちゃん、すべて終わって帰ってきたらお返事聞かせて?」

 

「え?」

 

呆けた顔をするフェイトちゃん、いきなりすぎたかな?

 

「友達になりたいっていうののお返事」

 

「あ、うん」

 

私はフェイトちゃんと新たな約束をして、その場を後にする。 色々なことがあったけどこれが最後、気を引き締めないと

 

「みなさん、今回は私も出ます。 できるだけ次元震は押さえますので、皆さんは封印を最優先にしてください。 それと、あの仮面の男がまだ潜んでいるかもしれません、それを十分に注意してください」

 

リンディさんの言葉を受け、私たちは全員は頷き。転送ポートまで急ぐ

 

--------------------------------------------

 

転送されてきたのは時の庭園の入り口、なのかな? モニターで見た通り、通路は機械の兵隊で埋め尽くされていた。 レイジングハートを構えようとするけど、それをクロノ君が手で制す

 

「神木、出番だ」

 

「ふん...... さてガラクタどもが、この我の道を邪魔するとはいい度胸だ。 今の我は非常に機嫌が悪い、塵芥となれ!!」

 

神木君のレアスキル、いつ見ても不思議だ。 詳細は教えてもらってないからわからないけど、金色の波紋が現れてそこから剣や斧が射出される。 煙が立って状況が分からないけど、煙が晴れたころにはあれだけいた機械の兵隊もきれいさっぱりなくなっていた。

 

「すごい......」

 

私は無意識にそう呟いていた。 がら空きになった道を歩き、大きな扉の前に来たけど、神木君は気にせず破壊していく。 いいのかなぁ...... 確かに次元震のせいで所々ボロボロになってるけど、なんて思っていると

 

「みんな気を付けてくれ、その黒いものがある空間は入らないでくれ」

 

「え?」

 

クロノ君が注意を促してきた。 確かに足元は穴ぼこだらけで危ないけど、どういうことなのかわからず声を上げる

 

「虚数空間、あらゆる魔法が使用不可能になる空間なんだ」

 

「飛行魔法も展開不可能、落ちたら重力に従い落下する」

 

「き、気を付ける」

 

織君も青い顔をしていた。 と、とりあえず落ちたらまずい穴ってことだね!気を付けよう。 改めて気を引き締めつつ、私は通路を走る。 大きな扉を破壊し中にいる機械を神木君が破壊する、何度も何度も繰り返したけどクロノ君がストップをかける

 

「ここからは二手に分かれよう。 なのはと藤森、ユーノは最上階の駆動炉を止めてくれ。 僕と神木は最下層のジュエルシードを止めてくる」

 

「・・・・・・大丈夫なのか?」

 

神木君を見る織君だけど、神木君は視線を軽く受け流して前を向いていた。 いつでも打てるように準備をしてるのかな? クロノ君は織君の言葉に特に気にした様子もなく、神木君に指示を出していた

 

「変な動きをすればアースラで拘束するだけだ。 神木!」

 

「ようやくか執務官!!」

 

クロノ君の呼びかけにレアスキルを発動し、目の前の機械を全部破壊する。 神木君とクロノ君が走り出すけど私は不安で、思わず声をかけていた

 

「クロノ君、神木君!」

 

私に呼ばれて立ち止まり振り返る神木君とクロノ君。 ただ一言

 

「気を付けてね!」

 

「そっちもな!」

 

「ふっ」

 

二人は一瞬びっくりしていたみたいだけど、表情を緩めて返事をしてくれた

 

「行くぞ!」

 

織君の言葉に私たちは階段を上がる。 神木君たちも心配だけど、私は私に任された仕事をしなくっちゃ!

 

--------------------------------------------

 

「くそ!数が多すぎる!!」

 

「でも、やるしかないだろ!!」

 

「ちょっとずつでも前に進めてる、頑張ろう!!」

 

神木君たちと別れた後、最上階を目指し進む私たちだったけど、敵の数が多くてなかなか進めずいた。 前半は神木君のおかげで魔力の消費はほとんどなかったけど、少しまずいかもしれない。 いつものように、なんて思うのだけど織君が敵の注意を引く前に数がいすぎてそんなことも言ってられなかった。 今はコンビネーションなんて関係なく、各個撃破してるんだけど

 

「くっ!?」

 

「織、前に出すぎだ!」

 

「そうしないとなのはが砲撃撃てないだろ!!」

 

「ユーノ君、バインドが」

 

「くぅ!!」

 

自分で撃破しつつユーノ君の方も手伝ってるけど、手が回らない。 このままじゃ!

 

「なのはー!!」

 

ユーノ君のが叫んで後ろを指さしていた。 私が振り返ると、機械が大きな斧を私に振り下ろしていた。 このタイミングじゃプロテクションも間に合わない、すべてがスローモーションに見える。 私はゆっくりと目を閉じたけど

 

「サンダーレイジ!」

 

ここにいるはずのない子の声が聞こえた。 驚いて目を開け、その方向を見ると

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

フェイトちゃんがいた。 ゆっくりと降りてきて、私の高さに合わしてくれる。 でも、再会を喜んでいる暇はなく、横の壁が破壊され、大きな機械が現れる

 

「バリアが強い」

 

「それにあの後ろの」

 

壁を破壊した機械は今まで見たこともないくらい大型で、しかも大きな筒? みたいなものを背負っていた。 その筒をこちらに向け、魔力をチャージし始めている。 どうしよう、と頭に浮かんだけどフェイトちゃんの言葉でその不安も吹き飛ぶ

 

「だけど二人でなら」

 

「うん、うん!うん!!」

 

私は嬉しくなって何度も頷くとフェイトちゃんは少し恥ずかしそうだったけど、表情を引き締める。 私も気持ちを引き締めなおし、機械を見る

 

「行くよ、バルデュッシュ」

 

「こっちもだよ、レイジングハート!」

 

モードをカノンモードにして魔力のチャージを始める。 後はフェイトちゃんの攻撃に合わせるだけ!

 

「サンダー、スマッシャー!」

 

「ディバイーン、バスター!」

 

フェイトちゃんの攻撃に合わせディバインバスターを撃つけどバリアは抜けない、けど!

 

「「せーの!」」

 

二人が力を合わせれば!込める魔力を少し多くするとバリアは抜け、そのまま機械を包み込む。 後ろの壁まで巻き込んだけど、大丈夫だよね?

 

「・・・・・・返事だけど、もう少し待って。 これをすべて終わらせないと始められないから、ほんとの自分を」

 

「うん!」

 

そう言ってくれたことが嬉しくて泣きだしそうになるけど、ぐっとこらえて前を向く。 そうだ、まだ駆動炉の封印は終わってないんだ。 だから

 

「行こうフェイトちゃん!」

 

「うん」

 

--------------------------------------------

 

「アレが駆動炉だよ」

 

新たにフェイトちゃんとアルフさんを加え、私たちは最上階へとたどり着いた。 これまでより多い機械だけど、だけど!

 

「私が数を減らしながら気を引く、だから」

 

「私は砲撃と封印、だよね!」

 

静かに頷くフェイトちゃん。 私とフェイトちゃんならこんな数!

 

「ならあたしはフェイトと一緒に戦うまでさ!」

 

「僕はなのは攻撃がいかないように防御と補佐だね」

 

アルフさんは果敢に飛び込み、フェイトちゃんはちょっと苦笑いしていたけど、アルフさんの後を追って機械の群れの中を高速で飛ぶ。 流れ弾なんかは来るけど、それはユーノ君が防いでくれる!

 

「いつも通りだね」

 

「え?」

 

「いつも通りユーノ君は私と一緒に居てくれて守っててくれたよね、だから戦えるんだよ、背中がいつもあったかいから!」

 

ディバインシューターをフルパワーで駆動炉に向かって撃ち込む。 予想通り空を飛んでる機械が防御に回るけど、あっさり貫きそのまま駆動炉のバリアに当たる

 

「・・・・・・あはは、そうだね。 でも織や、あの神木って子もいつも一緒に居たからね、忘れないで上げてね」

 

ユーノ君はそう呟いて自分の役目に戻ってく。 ディバインシューターをフルパワーで撃ち込んだおかげか、駆動炉を守るバリアはひび割れていた

 

「レイジングハート、ディバインバスターフルパワー、行けるね」

 

「オーライ、マイマスター」

 

ディバインバスターをフルパワーで撃つためチャージを開始する。 色々あったけど、これで!

 

「ディバイーン、バスター!!」

 

フルパワーで撃ったディバインバスターは見事駆動炉のバリアを貫通、そのまま駆動炉を封印した

 

「終わったな、これで......」

 

長かったジュエルシード集めもこれで終わり、意外なこともあったけどこれで...... そのあとすぐにクロノ君に連絡を取り転送が開始された

 



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第四十一話 決戦 ~フェイト視点~

~フェイト視点~

 

「フェイト・テスタロッサ、君は一応容疑者でもある。 母親と一緒に居てくれ。 藤森、神木を離すんだ。 神木のレアスキルはあれの掃除に役に立つ」

 

艦長さんの言葉を受け、執務官は呆然としているタカマチナノハたちに指示を出していく。 タカマチナノハ達はその言葉を受け準備を開始するけど、男の子は変な子を離さない。 それどころか

 

「だがクロノ、こいつはあの仮面の男と繋がりがあるかもしれないんだぞ!!」

 

「今はそんなことを言っている場合か!!次元震が次元断層が起ころうとしているんだぞ、放っておいたらどれだけの被害が出ると思っているんだ!!取り調べなら後でいくらでもできる、時は一分一秒を争うんだだから早く離せ」

 

男の子はそう言って変な子を指すけど執務官の言葉に、変な子を離す男の子。 男の子の様子には特に気にせず、変な子は体の具合を確かめていた

 

「クックック、残念だったな雑種。 まぁそんなことはどうでもいい、我に汚名を着せ、しかも!この我を愚弄したあの男は後で必ず探し出し、相応の報いを受けさせてやる!!」

 

どうやら仮面の男に恨みを持っている様子だけど、この変な子が仲間じゃないとも限らない。 どうにも怪しい

 

「今の君はフェイト・テスタロッサの言葉もあり容疑者として疑われている、そこら辺の自覚はしっかりと持ってくれ」

 

「ふんっ!あの男の手のひらで踊らされるのは癪に障るが、事がことだ協力してやる。 さっさと行くぞ執務官!」

 

自分が疑われているとわかっているのに気にせずにいつものようにふるまう変な子に、執務官は呆れながら追いかけていく。 執務官は一応警戒はしているようだけど...... そんな風に私が変な子を疑ってみていると、タカマチナノハが話しかけてくる

 

「フェイトちゃん、すべて終わって帰ってきたらお返事聞かせて?」

 

「え?」

 

きっと私は呆けた顔をしていると思う。 だって、言っている意味がよくわからなかったから

 

「友達になりたいっていうののお返事」

 

「あ、うん」

 

私が返事をすると満足そうな顔をして執務官たちの後を追っていく。 ・・・・・・本当によくわからない

 

--------------------------------------------

 

局員の案内のもと、母さんのいる食堂まで案内される。 なんでも負傷した武装局員もそこに転送され、一緒に居るということらしかった。 あの仮面の男の言葉を全部信じたわけではないけれど、少しどんな顔をして母さんと会えばいいかわからなかった。 そんな私を心配そうに見るアルフだけど、笑顔を向け安心させる。 食堂につき母さんの姿を探すとすぐに見つかった。 ケガとかは全然ないのは分かってたけど、間近で見てようやく安心できた。 母さんに駆け寄るけど、どう言葉をかけていいかわからなくて

 

「「・・・・・・」」

 

私と母さんは無言だった。 でも

 

「その、今までごめんなさいね」

 

「え?」

 

「今更謝っても遅いってわかってるし、許されることでもないのは分かってる。 それでも謝らせて頂戴、ごめんなさい」

 

そう言って頭を下げる母さんに

 

「そ、そんなことない!私はもとから怒ってないし、それに今までのことは全部私が悪かったからで......」

 

「っ!いいえ、いいえ、違うわ!私が、私が弱かったから!!ごめんなさいフェイト、つらい思いをさせて」

 

そう言って抱きしめてくれる母さん。 その温かさは昔と同じように暖かくて......

 

「かあ、さん...... グスッ、うぅ......うわあぁぁぁぁぁぁん!!」

 

母さんの胸の中で思わず泣いてしまった

 

--------------------------------------------

 

それからしばらくして、私が泣き止むと母さんは私の出生の秘密を教えてくれた。 私はアリシア・テスタロッサ、あの奥の部屋でカプセルに浮いていた私とそっくり、と言ったら少し語弊があるかもしれない、あの子が私のクローンの元なのだから。 私はアリシア・テスタロッサのクローンで、最初はアリシアの代わりとして作られたこと。 でも、時間はかかったけど私を娘と認めてくれたこと。 それでも、アリシアのことを忘れられず葛藤したこと。 最初の方の冷たい態度は、私が母さんに冷たくされ憎しみでもいいから強い感情を持ち生きることを願っていたからだそうだ。 でも、ジュエルシードの捜索での仕打ちは母さんとしても本位じゃなかったみたい。 アレはあの仮面の男に態度を軟化させれば私たちに危害を加えると脅されていたらしい。 その説明にアルフは納得しなかったけど、母さんが謝ると渋々ながらも母さんを責めることはなくなった。 私はというと、いろいろなことをいっきに言われたせいか、頭が混乱しているけど

 

「フェイト、いろいろなことを言われて混乱していると思うけど、貴女は貴女よ。 私が言えた義理じゃないけど、貴女はアリシアじゃない、フェイト・テスタロッサよ。 貴女は貴女のしたいように生きなさい」

 

「母さん......」

 

私は私のしたいように...... 今までは母さんの言う通りに生きてきた、いきなりそんなことを言われても困るけど。 ふいに視線を逸らすと、映し出されたモニターにはあの子たちが二手に分かれる所だった。 自然に目が行くのは白い魔導士、タカマチナノハ。 不意に、あの子に言われた言葉がよみがえる

 

『ただ捨てればいいってわけじゃないよね、逃げればいいってわけじゃもっとない。 きっかけはたぶんジュエルシード、賭けようお互いが持ってる全部のジュエルシード。 それからだよ、全部それから。 私たちのすべてはまだ始まってもいない、だから本当の自分を始めるために始めよう、最初で最後の本気の勝負!』

 

あの子に言われた言葉。 こんな私でも友達になりたいって言ってくれたあの子。 それに返事も、この件も終わっていない。 そんな私にやさしく声をかけてくれる母さん

 

「行ってきなさいフェイト」

 

「え?」

 

「行きたいんでしょう、あの子のところに」

 

そう言ってモニターを見る母さん。 そこに映っているのはタカマチナノハ。 そう、だよね。 この件のことも、お友達のことも、始まってすらいない。 捨てればいいわけじゃない、逃げればいいってわけじゃもっとない。 そう、教えてもらったから

 

「・・・・・・本当の自分を始めるために、行ってきます母さん」

 

「えぇ。 行ってらっしゃい、フェイト」

 

「もちろんあたしも行かせてもらうよフェイト!」

 

私がバリアジャケットに変身を済ませるとアルフはそう言ってくれる、もちろん言葉はなかったけどバルデュッシュもコアを光らせる

 

「うん、うん!ありがとうアルフ、ありがとうバルデュッシュ!」

 

--------------------------------------------

 

さっきモニターで見た位置の近くに転移してきたのだが、予想以上に数が多い。 戦闘音も聞こえるってことは近くにいるはずだ、と思い探しているとタカマチナノハが襲われそうになっていた。 それを見て私は魔法を放っていた

 

「サンダーレイジ!」

 

呆けた表情をしているタカマチナノハの近くまで飛行する

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

どんな顔をして会えばいいかわからなかったけど、再会をどうこう思っている暇はなく、横の壁が破壊され、大きな機械が現れる

 

「バリアが強い」

 

「それにあの後ろの」

 

壁を破壊した機械は大型で、しかも大きな筒? みたいなものを背負っていた。 その筒をこちらに向け、魔力をチャージし始めている。 どうしよう、そう思ったけどこの子となら

 

「だけど二人でなら」

 

「うん、うん!うん!!」

 

嬉しいのか何度も頷くタカマチナノハ、私はなんだか気恥ずかしくなる。 そんなことじゃいけないと思い表情を引き締めると、タカマチナノハも気持ちを引き締めなおし、機械を見る

 

「行くよ、バルデュッシュ」

 

「こっちもだよ、レイジングハート!」

 

見るとこちらにタイミングを合わせてくれるようだった、なら!

 

「サンダー、スマッシャー!」

 

「ディバイーン、バスター!」

 

タカマチナノハと私の攻撃がバリアにぶつかるが、このくらいじゃ抜けないみたいだった。 でも、私たちはこんなものじゃない!

 

「「せーの!」」

 

二人で声を合わせ込める量の魔力を多くする。 するとバリアは簡単に砕け、機械を包み込む。 あっけないほど簡単に終わった。 何か話そうかとも思ったけど、今はその時じゃない、だから

 

「・・・・・・返事だけど、もう少し待って。 これをすべて終わらせないと始められないから、ほんとの自分を」

 

「うん!」

 

嬉しそうなタカマチナノハに、私は前を向く。 まだ駆動炉の封印は終わっていない、なら

 

「行こうフェイトちゃん!」

 

「うん」

 

--------------------------------------------

 

「アレが駆動炉だよ」

 

私たちは最上階へとたどり着いた。 これまでより機械の数が多いけど

 

「私が数を減らしながら気を引く、だから」

 

「私は砲撃と封印、だよね!」

 

静かに頷く私にタカマチナノハは嬉しそうだ。 なんか少し恥ずかしい 

 

「ならあたしはフェイトと一緒に戦うまでさ!」

 

「僕はなのは攻撃がいかないように防御と補佐だね」

 

それぞれ役割分担をし、それぞれ分かれる

 

「がんばろう、アルフ!」

 

「ああ!!」

 

私とアルフが前で機械を次々と破壊していく。 彼、ユーノって言ってたけど、ユーノは私とアルフを補佐しながら、タカマチナノハの防御をしていた。 そして放たれるタカマチナノハの砲撃。 見事駆動炉のバリアを破り駆動炉の封印をした。 それにより動きが止まる機械。 どうやら、終わったみたいだった。 ここを見るのは最後かもしれない、何も思わないわけじゃないけど。 さよなら



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第四十二話 Not told the truth

「・・・・・・」

 

目が覚めれば知らない天井で、なんてお約束何回やっただろうか。 起き上がろうと全身に力を入れると

 

「っ......」

 

腹の傷が疼いた。 どうやら治療はされているようだが、完全にはできなかったらしく無理をすれば腹の傷はそのままぱっくり開きそうだ

 

「なんで目覚めて早々君は起き上がろうとしているんだ」

 

声のした方向に視線を向ければ、見覚えのあるやつがいた。 クロノだ。 部屋内を軽く見まわしてみるが、他に人影はいない。 不用心だこと、もしあの仮面の男に繋がりがあったらどうするつもりだったのか

 

「ふん、貴様にそれを言う必要はない」

 

いつものように軽口を言い結界を張る

 

「それにしても不用心じゃないか、仮面の男とつながっていたらどうするんだ?」

 

「君はまたそういう減らず口を、だから勘違いされるんだろう」

 

「勘違いも何も、その通りだからな」

 

天井を見つめクロノと会話をする。 あいにく目を見て話したいところだが、起きると腹の傷が開きそうだからな。 クロノもそれが分かっているのか、特に何か言ってくるようなことはなかった

 

「勘違いどうこうは今更どうでもいいさ。 どうなった?」

 

「君が気絶した後の話かい? ジュエルシードは無事封印、駆動炉も封印処理は完璧さ。 なのはもユーノも藤森も大した怪我はないそうだ、フェイト・テスタロッサもな」

 

「フェイト・テスタロッサ? ふーん、そうか」

 

意外は意外だが、まぁ大方高町なのはが心配だったとかそんなところだろう。 それかプレシアさんが背中を押したか。 まぁ、些末なことか

 

「大きい怪我をしたのはジュエルシード組の僕たちだけ、というわけさ。 僕は軽く額を切った程度だったけどね」

 

「まぁ被害がなくてよかったよ」

 

「っ!君は、君はどうして!」

 

何故かクロノが怒っているようだったが、意味が分からない。 まぁいいさ

 

「それで、テスタロッサ家はどうなったんだ?」

 

「今は護送室さ。 彼女たち、プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサ、アルフは本件の重要参考人なんだ。 アリシア・テスタロッサに関してだが、カプセルのままこことは別の医務室で保存している。 プレシア・テスタロッサの強い要望でね、すべてが終わったら自分の手で埋葬したいらしい。 それまで預かっていてくれ、とのことだ」

 

プレシアさんもうまい言い訳を考えたようだ。 後はここに玉藻を連れてきて蘇生させれば契約は完了というわけだ。 聞きたいことも聞けたし本題に入ろう

 

「俺の取り調べってところか? 見たところ人が少なすぎるが」

 

「そう、だな、君も取り調べしないといけないんだったな」

 

「それでいいのか執務官」

 

呆れというかなんというか。 言うまで気が付かなかったみたいだし、それで良いのかよ

 

「それじゃあ一つ目、フェイト・テスタロッサが言っていた巻物というのは?」

 

「さて、よくわからんね」

 

「はぁ...... 二つ目、あの仮面の男とのつながりは?」

 

「それはない。 未来視でもあの男は出てこなかった。 俺と雑種の驚きようからある程度は推察できただろうけどな」

 

「それは、まぁ......」

 

クロノの言葉が詰まる。 演技の可能性も否定はできなかっただろうが、たぶんクロノやリンディさんならおおよその見当がついていたと思う

 

「わかった、これで取り調べは終わりだ、ゆっくり休んでくれ」

 

「おいおい、そんな適当でいいのか?」

 

俺は部屋から出ていこうと扉の前に立ったクロノに視線を向ける、クロノはこちらを一瞥すると興味のなさそうにこういった

 

「確かに君の証言は不確かで何かを隠している。 でも、それをひっくるめて君を信じると決めた。 君はあの時、僕を助けてくれた。 すべてが終わったら話してくれればいいさ」

 

「・・・・・・ふん」

 

結界を解除すると部屋から出ていくクロノ、たぶん証言は少し変えて上に提出するのだろう。 ホント、本当に......

 

「本当に甘すぎるよクロノ。 そんな信頼してくれているお前すらだましているのに」

 

結界を再度展開しつつそう呟く。 天井を見るのも億劫になり腕で目を隠す

 

--------------------------------------------

 

アレからすぐに魔導士が来て、腹の傷に治癒魔法をかけてくれた。 どうもクロノが手配したようだ、本当におせっかいな奴だ。 しかも治癒魔法をかけた魔導士に伝言を頼んでいたようで、動けるようなら帰っても構わないということだった。 ホントなんというか、いろいろと言いたいことはあるが帰らせてもらうことにした。 ようやく終わりが見えてきた、家を見てそう思った。 ポイントはもうたまっていて、あの神がどうやって接触してくるかわからないが呪いを解いてもらうだけ、という状態になっている

 

「ながかったな、ここまで......」

 

「マスター、お体に障りますので」

 

「ありがとうペイル、さて入りますか」

 

そんなに長い時間外にいたわけではないが、ペイルが気を使って声をかけてくれたようだ。 鍵をひねり、ドアノブを回す。 そして扉を開ければ

 

「「「「お帰りなさい、マスター!」」」」

 

家族が温かく出迎えてくれる。 今回は腹の傷もあるので玉藻の抱擁はとびかかってきた瞬間沈めておいたが、他のみんなも嬉しいようだ

--------------------------------------------

作ってあった夕食をみんなで食べ、風呂上り、俺は縁側で星を見ていた。 気配を感じ声をかける

 

「ハサンか?」

 

「はい、マスター殿」

 

俺の隣に片膝をつくハサン、別にただ会話をするだけなのだからそんな必要はないと思うのだが。 そのことに内心苦笑しつつ、一応結界を張っておく

 

「それで、何か用か?」

 

「今回の事です。 予想外とはいえあんなことになるとは、いくら謝っても謝りきれません」

 

「あの機械のことか? それならお前の責任じゃない。 お前はよくやってくれたよハサン、今回の件はお前がいなきゃこうもスマートにはならなかった」

 

「いえ、ですが......」

 

「だから気にするなって。 今回の仮面の男役、ご苦労様」

 

「・・・・・・はい」

 

頭を下げ消えるハサン。 おそらく霊体化してここから離れたんだろう。 さて、仮面の男の正体はハサンだったわけで、そこはいいのだ。 俺が作戦を立案したこともあるし。 あの時にプレシアさんに話した内容は、悪役、つまりハサンにやってもらった仮面の男にすべての罪を擦り付け、プレシアさんたちの罪を軽くするというものだった。 これに関しては上手くいった、どう考えても情状酌量の余地はあるだろうし。 だが予想外だったのはあの機械群だ。 最後腹を貫かれたのは本当に予想外だったが、まぁいいさ。 俺はその場から立ち上がり自分の部屋のベッドに入る。 家のベッドというのも久しぶりな気がする。 これまでいろいろなことがあった影響か、ベッドに入り寝るまでにそこまで時間はかからなかった

 



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第四十三話 Followed by despair

注意! 今回の話は重いです。 正直見る人によっては鬱状態になるかと、その点だけ気を付けてお読みください

あ、あと別作品のことで活動報告のほうありますので、興味がある方は見てください


目が覚めたらそこは自分の部屋で、いつも通りの日常がなんていかなかった。 周りを見回してみれば何もなく、浮いているのか、地に足がついているのかそんなのもわからない。 そもそも感覚と呼べるものがあるのか、だがこの感じは知っている。 そう、それはあの時の、転生したときのあの空間のようで

 

「あの空間も何もあっておるよ」

 

「神」

 

第二の人生のきっかけともいえる存在、神が俺の目の前にいた。 その目は忌々しいものを見る目で、あの時と全く変わっていない

 

「お前のようなものの評価など変わるわけがない、楽しませてはもらったがな」

 

「・・・・・・」

 

相変わらずの口の悪さは健在のようだ、殺してやりたくなるのを抑え用件を聞く

 

「今日はどんな用件で俺を呼んだんですか? ポイントの件なら目標のポイントは集め終わったはずですが」

 

「そうじゃ、そのことで呼んだのだ。 ずいぶん察しが良くなったな、だからと言って関心などしないがな」

 

「・・・・・・」

 

何を言われても必死に耐え、次の言葉を待つ。 だが、その言葉はあまりにも俺の思っていたものとは違った

 

「目標ポイント集まったようじゃな、予定よりもだいぶ早く集まったのはちと予想外だったが。 約束通り解放しよう、おぬしをポイント集めからな。 これからも踏み台として、残りの人生を謳歌するんじゃぞ?」

 

「は?」

 

「それじゃあ、もう会うことはないじゃろうが「ちょっと待てよ!!」なんじゃ騒々しい」

 

「ポイント集めってなんだよ、呪いからの解放だろ!なのになんで踏み台としての生活をしなきゃならないんだ!!」

 

「それこそおぬしの勘違いじゃ。 わしは解放とは言ったが、一言も呪いからなんて言ってはおらぬぞ」

 

「何を!」

 

「のうペイルライダー」

 

その言葉に俺は首元を見る。 さっきはか確認していなかったが、首には母さんの形見であり俺のデバイスのペイルライダーが淡く光っていた

 

「確かにあなたからの手紙には開放するとしか書かれていませんでした、まさか最初からこの状況を狙って」

 

「フフフフフ、ハハハハハ! 狙ったも何も、おぬしたちが勘違いしただけだろうに。 それをわしのせいにするなど、おぬしの器が知れるな、なぁ神木理樹よ」

 

名前を呼ばれた瞬間俺の思考は真っ白から真っ赤に染まった

 

「お前が、お前がその名で呼ぶな!!殺してやる、殺してやる!!ペイルライダー、セットアップ!!」

 

「セットアップ」

 

バリアジャケット姿、金ぴかの鎧になり怒りに任せて飛ぼうとするが体が動かない

 

「なんで!!」

 

「ふん、体ごと持ってきてはいるが動くわけなかろう。 おぬしという存在はそこで固定され、動かぬようにわしが決めているのだからな」

 

必死に体を動かそうとするがびくともしない、動くのは口だけだった

 

「殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!」

 

「哀れなものだな人間。 こんなことになるなら、あの機械に殺されていたほうがましだったのではないか?」

 

俺のことを冷たい目で見下しながら、ニタニタ笑うクソ野郎。 あの機械、機械に殺されそうになったのは...... まさか

 

「お前、まさか!?」

 

「そうだ、ジュエルシード封印の時明らかに機械の動きが変わっただろう? それはわしが介入した結果じゃよ。 まさかあれで死なないなんて思いもしなかったが、おぬしには幸運が味方していたようじゃな」

 

「・・・・・・っ!!」

 

奥歯をかみしめ動こうと必死になるが、やはり動けない。 歯を食いしばり、唇から血が出るが気にしやしない。 あの神を殺せるなら、どうなっても構いやしない!!

 

「ふん、時間を無駄にしたな。 本当は目障りなおぬしを今すぐ消してしまいたいところだが、わしは優しいからの残り少ない人生を楽しむがよい」

 

世界が暗転して意識が飲み込まれる。 神はもうこっちすら向いていなかった

 

--------------------------------------------

 

「クックック......」

 

気が付けばそこにいた。 神の世界ともいうんだろうか、そこから切り離され気が付いたらここにいた。 目の前には金ぴかな鎧、そして笑い声。 たまらず視線を上げるとそこには、圧倒的な存在感を放ち、俺なんて一瞬でも生ぬるいくらい押しつぶせる存在がいた。 体が震えそうになるのをこらえ、無様に横たわっている体を起こし、片膝をつき首を垂れる。 この存在に逆らったり機嫌を損なえば間違いなく殺される、本能なのか俺が自然とそうしなければと思ったのかはわからなかったけど、自然とそうしていた

 

「ほぅ...... 一応の礼節はなっているようだな。 道化にしてはなかなか...... 良いだろう、我は今機嫌がすこぶるいい、頭を上げよ」

 

そう言われて頭を上げる。 圧倒的な存在感、威圧感、それを正面から見て気圧される。 だが視線をそらしてはいけない、視線を逸らせば待っているのは明確な死。 本来なら俺のような有象無象、視線などもむけないだろうが、今は向けられている。 値踏みされている。 時間にすれば短い時間だろうが、俺には永久とされる時間だった。 値踏みが終わり、ふと目を閉じる。 そして

 

「クハハハハハ!!望んでなったではないにしろ、自分から道化を演じに走るとは面白い。 しかも自分の行いが迷惑になっていることを知りながら、それでも続けるその図太さ、愉快以外の何物でもない!しかもその行いに後悔などの負の感情を抱えながら、相手に罪悪感を感じるなど矛盾が過ぎるぞ!!よせ、よせ、我を笑い殺させるつもりか!!」

 

値踏み、それは俺のこれまでの人生だったらしい。 俺にとって後悔や忘れたいものだが、英雄王にとっては愉快なものだったようだ

 

「そして一番面白いのが、絶望を知って救いがないとわかっているのに、まだあの娘たちのために道化を演じるつもりか?」

 

「え?」

 

始めて声を上げた。 英雄王の真面目な雰囲気でもなく、その言葉に。 俺はこんなことになってもまだあいつらのために道化になるのか? こんな絶望を知ったのに? わからない、わからない

 

「ふん、今は分からずともよい。 それにしても本当に面白い男だ。 面白いものが漂っていたから拾ってみたが、大当たりだったようだ」

 

思考をいったん打ち切り英雄王の言葉に耳を向ける。 漂っていたから拾った、って。 そんなゴミじゃないんだから

 

「道化、これを受け取れ」

 

王の財宝の中に手を突っ込んでいたと思ったら、鍵のようなものを投げてくる英雄王。 それを何とかキャッチして英雄王を見る

 

「我が宝物庫のカギだ。 貴様が持っている我が宝物庫の複製の宝具、Aランクまで使用可能にするものだ。 それで我をもっと楽しませよ道化」

 

またも意識が遠くなっていく、完全に失う前に言わなくては

 

「ありがとうございます、英雄王!」

 

「ふん、気が向いただけだ。 それと神殺しなど大それたことをしでかそうとする大バカ者への餞別か? 」

 

--------------------------------------------

 

~???~

 

「まったく本当に忌々しい、あそこで死んでおけばこんな無駄なこともしなくてよかったじゃろうに。 まぁよい、そのかわりこれからも楽しめそうじゃ」

 

老人は歩いていく、どこかわからない空間を。 時間にすればそこまででもないが、とあるカプセルの浮かぶ空間でその老人は止まる

 

「さて、これからどううなるか楽しみじゃ。 願わくば暇つぶしになるといいのじゃが」

 

老人はその場から消える。 残ったのはカプセルが二機、そこに表示される文字には、あいつを殺せ

 



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第四十四話 Contract completion

えっと、感想を見ている方は分かると思いますが、俺の本作中での分かりにくい表現のためわからない方がいるかもしれないので、一応今の踏み台君の状況を説明しておきます

まず最初に、踏み台君の解かれた呪いというのはポイント集め。 第三話で言っている、A's終了時までに一定のポイントを集めなければ死ぬ。 というののポイント集めのことです。 ですが、あくまでも解除されたのはポイント集めのことだけなので、死亡に関しては解除されておりません。 よって今の置かれている状況は、他の人に踏み台と言う役割がバレたら死亡、そのほか細かい条件での死亡、一番絶望的なのがA's終了時に死亡が確定、ということです。 まったく、誰ですかねこんなゲスな設定を考えたのは。 

茶番はここまでにして、本編どうぞ

もし質問等ございましたら、感想の方にお願いします。 できるだけ答えますので

2018.5.28 誤字修正しました。 報告ありがとうございます


目が覚め、ゆっくりと起き上がり周りを見回す。 ここは間違いなく俺の部屋で、あれは夢だったんじゃないかって思えた。 だが夢じゃない。 口の中は血の味がするし、全身汗で気持ち悪い。 ただそんなくそったれな状況でも、事態は好転した。 握っているカギを見る。 あのよくわからない空間で、英雄王ギルガメッシュにもらった宝物庫のカギ。 王の財宝を出現させその中にカギを突っ込む、するとカギを刺した時のような感覚が伝わってくる。 そこから捻ってみると、何かが変わった

 

「ペイル」

 

「宝物庫の中のものを再確認します」

 

「頼む」

 

これでAランクまでの宝具の原点が使用可能なはずだ。 全身は気怠いが何とか立ち上がり、脱衣所に向かう。 全身汗のせいで気分は最悪で、とりあえずシャワーだけでも浴びておきたかったのだ。 風呂場の窓を見るとどうやら真夜中のようで、外は暗かった。 シャワーを浴び着替えてリビングで時間を確認すると、午前二時、かなり早い時間だ。 リビングに近づいてくる気配がする、誰かは分からないけど

 

「マスター?」

 

「玉藻か?」

 

ドアから顔を覗かせたのは玉藻で、暗いので表情は分からない。 こんな夜中にどうしたのだろうか、水でも飲みに来たのだろうか?

 

「どうした?」

 

「いえ、物音が聞こえたので気になってきたら、という感じですが...... なにかあったんですか、マスター」

 

「・・・・・・」

 

玉藻の心配そうな声に驚いたというか、何故わかったんだろうというほうが大きかった。 そのため一瞬反応が遅れてしまったが、何とか答える

 

「呪いがさ、解けなかったんだ」

 

「え?」

 

「最初っから解放する気がなかったんだよ、あのクソ野郎は」

 

「マスター?」

 

「・・・・・・」

 

俺の様子に戸惑っているのか、玉藻は近づいてこない。 そんな俺の様子を見かねてか、ペイルがその後の説明を引き継いでくれた。 俺はそれをソファーにさらに体を沈めながら聞いていた。 聞き終えた玉藻は、静かに俺に近づき、やさしく抱きしめてくれる

 

「マスター」

 

「・・・・・・」

 

玉藻はとても暖かかった。 幾分か沈んでいた心が落ち着くのを感じる。 ふと思い出す、いまだ最後の仕事が残っていたことを。 最後で、とても大切な仕事だ

 

「玉藻」

 

「はい、マスター」

 

俺が呼びかけると離れる玉藻。 俺はソファーから立ち上がり、王の財宝からとある布を出す。 身隠しの布、使用頻度が多いな

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

転移魔法を使用する、もちろん行先はアースラだ。 最後の仕事、アリシア・テスタロッサの蘇生だ。 アースラに楽々転移した俺たちは、ペイルの案内に従ってアースラを歩く。 玉藻は霊体化、俺は身隠しの布の効果で特に怪しまれることなく目的の部屋に着く。 部屋の開閉ログを消し証拠も残さない。 部屋の中に入れば、アリシア・テスタロッサは最初と変わることなくカプセルに浮いていた

 

「玉藻」

 

「本当によろしいのですか?」

 

「これは契約の内容でもあるしな、頼む」

 

「わかりました」

 

結界を展開する。 魔法を感知させない隠匿魔術、センサー類の反応を消すジャミング、いろいろなものをセットし終え玉藻に向き直る

 

「令呪を持って命ず、玉藻の前、本来の力をすべて開放しこの少女を救え」

 

手から消えてなくなるサーヴァントに対する絶対命令権。 その力をもとに、玉藻は真の力を開放する

 

「はい、マスター」

 

瞳を閉じ、真の力を開放する玉藻。 魔力は膨れ上がり、膨大な魔力が解放される。 尻尾は増えてはいくが、最初から生えているもの以外はどこか透明だ。 仮想展開ということだろうか。 玉藻自身も、たぶん開放したくないものだろうから仮想展開という形にしたんだろうけど

 

「ここは我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国。 国がうつほに水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光。 我が照らす。豊葦原瑞穂国、八尋の輪わに輪をかけて、これぞ九重、天照……!水天日光天照八野鎮石」

 

収束される魔力、その魔力はアリシア・テスタロッサを包み込む。 水天日光天照八野鎮石おろし、一息つく玉藻。 どうやら成功したようだ。 アリシア・テスタロッサの方はというと、薄く目を開き、そして

 

「がぼっ!?」

 

「やば!?」

 

「みこーん!? 蘇生してすぐに死ぬとか勘弁ですー!?」

 

溺れかけていた。 いや、この表現も適切ではないのだが。 アリシア・テスタロッサをカプセルから出せばどうなるかわからないからカプセルに入れたまま蘇生をしたが、カプセルは液体で満たされいるわけで、そりゃ目が覚めたら息をする時に液体吸うわな。 玉藻と俺は大急ぎでカプセルを壊し、アリシア・テスタロッサを救出する

 

「ぜーはー、ぜーはー、ひどい目に、あった......」

 

「いや、本気ですまん......」

 

「よくよく考えればわかることですけど、そこまで頭が回っていませんでした」

 

なんだこれとも思うが、蘇生は成功したようだ。 周りを見回すが服のようなものはない。 王の財宝に何かあっただろうか? 王の財宝を適当に探すと、何故か新品の薄緑のドレスが。 しかも何故か子供サイズ。 ・・・・・・英雄王の趣味? どこかからそんなわけあるか!という声が聞こえたが空耳だろう

 

「キャスター、これ」

 

「ドレス、ですか? 私用にしてはサイズが小さいような、それともそういうご趣味なんですか!?」

 

「ば、か、な、こ、と、言ってないで彼女に着せてやれ」

 

「痛い、愛が痛いです、マスター!?」

 

玉藻にドレスを手渡すと馬鹿な答えが返ってきたので、ぐりぐりをしながらそう言うと、渋々といまだ床に手をつきながら、大息をついているアリシア・テスタロッサを着替えさせていた。 なんというか、いろいろと不安だ。 これでプレシアさんとの契約は終わり、関わり合いはなくなる。 これからどうするかを考えようとしたところで、玉藻から声がかかった

 

「マスター、着替えが終わりましたよ」

 

「あぁ、すまないキャスター。 さて、初めましてアリシア・テスタロッサ」

 

「うーん、初めましてか......うん、初めまして神木理樹君」

 

「・・・・・・」

 

この返しに俺は警戒せざるを得ない。 玉藻はマスターとしか言ってないため俺のフルネームは知らないはずだ、少なくともアリシア・テスタロッサの前では俺は名乗っていない。 俺が警戒しているのが分かっているのか、アリシア・テスタロッサは苦笑していた

 

「あはは、まぁ警戒するよね。 でも安心して、ここで起こったことや、お母さんと交わした契約について漏らすことはしないから」

 

「・・・・・・何を言っている」

 

「うーん、どうしたら警戒心を解けるかな...... 私が一から説明すればいいだけか。 まず、私は私が死んだことを知ってるよ。 事件の正式名称を知ったのはつい最近だけど、ヒュードラ事件。 その内約は、新型魔力炉の暴走、それに巻き込まれて私は死亡した」

 

「・・・・・・」

 

冷静に語っているアリシア・テスタロッサだが、何故そのことを知っている

 

『玉藻』

 

『確かに蘇生はしました。 ですがその際に記憶を、蘇生するまでの空白の時間を埋める、なんて芸当できませんよ』

 

どうやら玉藻ではないようだ。 最初から玉藻だとも思ってもいなかったが、なおもアリシア・テスタロッサの説明は続く。 母親が悲しみ自分の蘇生方法を探していたこと、その過程でフェイト・テスタロッサが生まれたこと。 リニスやアルフのこと。 ジュエルシード収集のこと。 すべて語ったことは実際に起こったことで、まるで自分で見てきたかのように語っていた。 ・・・・・・まるで見てきたかのように?

 

「まさか...... いや、そんなことが可能なのか?」

 

「ふふ、わかったみたいだね」

 

「貴女は魂ともいえる存在で、実際に見てきた。 そうですね、アリシア・テスタロッサ」

 

「せいかーい、えっと玉藻さん?」

 

「キャスターとお呼びください。 その名で呼んでいいのはマスターだけです」

 

「了解!」

 

何やらもめているようだが、大丈夫なようだ。 しかし、魂とも呼べる存在、幽霊か。 幽霊となり実際に見てきた、というなら説明も付く。 だが厄介だ、俺のやったことをばらされれば今までの苦労は水の泡だ。 ・・・・・・まぁ、もうそのほとんどが意味をなさなくなったけどな。 どうするか考えていたのだが、その問題の本人から声がかかる

 

「そんなに難しそうな顔をしなくても大丈夫だよ? 私はばらすつもりはないから、なんならセルフギアススクロールだっけ? それで契約してもいい」

 

真剣な目だった。 俺のことを見てもなお、何故そんなことが言えるのか。 もはや考えるのもバカバカしくなり、その提案を首を振って否定する

 

「いや、いい...... 実際に俺を見てきて、なんでそんなことを言えるのかなぁ......」

 

「マスター......」

 

玉藻の声は悲痛だが、そんなことを気にしている余裕はない。 俺は本当に最低な奴なのに、なぜそんな俺に向かってそんなことが言えるのか。 本当によくわからない

 

「だって、貴方悪い人じゃないもの」

 

「は?」

 

人の大事なものさえ踏みにじり、交渉材料にした俺。 嫌がられているのをわかってなお、それを続ける俺。 どこが悪い人じゃないのか教えてほしい

 

「確かに貴方がなぜそこまで必死になって嫌われるための演技をしているのか、その理由までは分からないけど、貴方は悪い人じゃない。 お母さんを助けてくれた、フェイトを妹を助けてくれた。 そんな人を私は悪い人だとは思えない」

 

「・・・・・・違う、それは違う。 俺は未来を知っていながら、それを変えないように立ち回ってきた。 プレシアさんの思いを踏みにじり、大切な君まで交渉材料にした。 フェイト・テスタロッサに悪口を、高町なのはは都合の悪い記憶を封印した、アリサ・バニングスや月村すずかだって、嫌がってるのに言い寄ってる。 そんな俺のどこが!」

 

最後まで言葉は続かなかった。 その途中で俺はアリシア・テスタロッサに抱きしめられたからだ

 

「うん、そうだね。 でも、貴方は私も含めて家族を救ってくれた。 タカマチナノハやそのほかの人だって、その理由がかかわってるんでしょ? 確かに貴方がやったことは悪いことかもしれない、でもそれを悔いて反省してる、悪い人だったらそんなこと反省しないよ」

 

そう言って背中をやさしくたたいてくるアリシア・テスタロッサ。 俺はされるがままだった

 

「ハッ!!このガキンチョ、何マスターに抱き着いてるんですか!!離れなさい!!」

 

「おっと!」

 

玉藻に引き離されるアリシア・テスタロッサ、その顔はなんだか楽しそうだ。 俺はいまだ呆然としていた。 こうやって肯定されることなんてないと思っていたからだ

 

「さって、話しこんじゃったけどこれからどうすればいいのかな?」

 

「え?」

 

「これからだよ、これから」

 

一瞬何を言っているかわからなかったが、これからか。 そうだな、これからのことを考えなくてはならない

 

「そうだな。 まずこの部屋には人が訪れることはないだろうからな、ある程度のところまで俺たちが先導するからついてきてくれ。 それからあと誰かに見つかれば、目が覚めて歩いていたとでも言っとけば大丈夫だと思う」

 

「りょうかーい。 はい!」

 

「ん?」

 

手を差し出すから何かと思い首をかしげるが、アリシア・テスタロッサはその反応が気に入らなかったらしく、もう一度手を差し出してきた。 いや、わからんのだけど

 

「?」

 

「先導!」

 

「いやするけど」

 

「手をつないだほうがいいでしょ!」

 

「なんで?」

 

「なんでも!!」

 

なんかおかしいような気もするが、まぁいいか。 身隠しの布をかぶり、手をつなぐ。 どうも手をつないだぐらいでは、効果が現れないらしい。 いざ部屋を出ようとすると

 

「あ、そうだ!」

 

「まだ何かあるのか?」

 

隣で騒ぐ玉藻をなだめながら、アリシア・テスタロッサに反応する。 いい加減疲れてきた

 

「自己紹介!ちゃんとやってなかったから。 私アリシア・テスタロッサ!」

 

「・・・・・・神木理樹」

 

「よろしく理樹!」

 

「いきなり下の名前で呼び捨てとは...... まぉあいいけど、人前ではするなよアリシア・テスタロッサ」

 

「アリシアでいいよ!」

 

「・・・・・・アリシア」

 

「おーけー!それじゃあ出発!」

 

そう言われ部屋を出る。 なんか蘇生してから圧倒されっぱなしだ、正直疲れる。 ブリッジに近くなると流石に気が付いたのか、近くで足音がした。 それを合図に手を離し、転移魔法を発動する。 一瞬で景色は変わり、薄暗い室内に転移する

 

「疲れたから寝る。 お休み玉藻」

 

「私も疲れました...... おやすみなさい、マスター」

 

 

 



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第四十五話 事件後、それから ~なのは、フェイト視点~

話が前後して申し訳ありません。 書き溜めてはいたのですが、どうも表示がバグっていたらしく、何故か前のものが出てきてしまって。 もしかしたら、こういうのが何本か出てくるかもしれませんので、ご了承ください。


~なのは視点~

 

あの事件から数日、私たちはアースラでお世話になっていました。 なんでもそれほど大きな次元震ではなかったにしろ、次元震が起きてしまったため地球までの航路が安定しないためです。 地球までの航路が安定するまでの数日、お世話になっていました。 あの事件も、終わってすぐは大変だった。 駆動炉の暴走を止めてアースラに帰還したけど、フェイトちゃんは無断出撃でそのままプレシアさんと護送室。 私とユーノ君、織君は帰ってきて早々事情を聴かれた。 そうはいっても庭園内で怪しいものがなかったかなど、簡単なことを聞かれて答えただけだけど。 それから少し休んで、ユーノ君や織君は負傷者の治療として出て行った。 なんとなく手持ち無沙汰な私が食堂に行くと、ユーノ君や織君、頭に包帯を巻いたクロノ君が治癒魔法を使って局員の人たちを治していた。 クロノ君の怪我が気になって私はクロノ君に近づくと、クロノ君も気が付いたのか話しかけてくる。 クロノ君の怪我はそこまででもなかったみたいなんだけど、そこで私は予想外のことを聞く。 神木君がジュエルシード確保中に負傷したらしい。 その言葉を聞いて私は頭が真っ白になり気が付いたら医務室の扉の前にいたけど、その扉があくことはなかった。 私がいきなり走り出したことに驚いたのか、遅れてクロノ君も到着する。 その後ろにはユーノ君や織君もいて、どうしたのか聞いてくる。 それよりも、神木君の姿が見たかった私はクロノ君にお見舞いできないのか聞くと、面会謝絶らしかった。 どういうことなのか聞くユーノ君たちに、クロノ君はため息をつきながら説明を始めた。  その時のことはよく覚えていない。 ただ神木君が心配で心配で、それだけだった。 それから数日、今回の件で表彰されたり色々話したりしたけど、アースラを出るまで神木君の面会が許されることはなかった。 お家に帰ってきて、みんなにただいまって言うとお姉ちゃんに抱きしめられたり、お父さんが頭をなでてくれてようやく、あぁ、帰ってきたんだって実感がわいた。 学校に行くと、アリサちゃんとすずかちゃんにただいまって言うと、やさしく出迎えてくれた

 

「なのはー、何難しい顔してるのよ?」

 

「ふぇ?」

 

そんな風にここ数日を振り返っていると、アリサちゃんから声がかかる。 今は屋上でお弁当を食べていて、私の箸が長いこと止まっていたから気になったみたいだった

 

「お弁当、食べないの? 長いこと箸が止まってたから」

 

「にゃはは...... ありがとうアリサちゃん、すずかちゃん。 ただ、ここのところのことを思い出してただけだから」

 

「ふーん」

 

「そっか」

 

たぶん気になると思うのに、アリサちゃんとすずかちゃんは何も言わずにお弁当を食べるのを再開した。 それにありがたいと思いながら少し罪悪さんを感じる。 少しずつお弁当を食べていると、ふとアリサちゃんは思い出したようにつぶやく

 

「そういえばアイツ、この頃見ないわね」

 

「アイツ?」

 

「たぶん、神木君のことだと思うよ?」

 

言われて納得する。 私の場合、アースラで顔を合わせていたけど、確かにこの頃ずっと来ていないことになる。 たぶん、先生に理由は説明していると思うけど...... そう思いながらも、思い出すのはアースラで聞いたこと。 神木君、大丈夫なのかな? 気になった私は、夜になったらクロノ君に聞いてみようと思った

 

~なのは視点 end~

 

--------------------------------------------

 

~フェイト視点~

 

あの事件(仮面の男のせいとは言え、起こした私たちがそう言っていいのかわからないけど)の後、アースラに帰ってくると私はすぐに護送室へと連れていかれた。 それについては不満はなかった。 もともと、容疑者でもあった私は無断で出撃したわけだし、こういう扱いになるのは納得している。 護送室に来ると、母さんが迎えてくれる

 

「お帰り、無事でよかった」

 

言葉にすれば普通のことだけど、言われた私は思わず泣いてしまった。 ずっと、言われたことがなかった。 こうあればいいな、そうずっと思っていた言葉だった。 母さんは私が泣き止むまで抱きしめて背中をさすってくれた。 ずっと謝っていたけど母さんは悪くないのに...... それからは早かった。 次の日から私と母さんの取り調べが始まった。 と言っても私とアルフは母さんの言うことを聞いていただけ、そう判断され取り調べ事態はすぐに終わった。 母さんはというと、まずはあの仮面の男との関係性から聞かれていた。 母さんによると、あの男はリニスが消えて少し後、ちょうどジュエルシードが発掘された(クロノが時期的にそれぐらいと言っていた)ときぐらいに接触してきたらしい。 ジュエルシードが母さんの願いをかなえる可能性があることを上げ、集めるのに協力させたみたいだった。 母さんもただで協力するはずがないのだが、私やアリシアが人質に取られていてうかつに手が出さなかったらしい。 そして、犯罪者の娘として生きさせるくらいならいっそ、ということでああいう態度だったようだ。 それを聞いたとき泣きそうになったけど、それよりも私が弱いせいで母さんに迷惑をかけた。 だから私はこの時、誰よりも強くなろうと誓った。 そこから後は知っての通り、私はジュエルシードを集め、ああいうふうになったわけである。 でも、クロノは一つだけ腑に落ちない点があった。 それはなぜあの場で裏切ったのかだ。 その理由についてはジュエルシードを全部集めることが契約だったらしく、だが集まったジュエルシードの数は少なかった。 契約違反を問われればただでは済まない、そう考えた母さんはあのような暴挙に出たらしかった。 母さんが管理局に投降すればあの男は必ず出てくる、仮に出てこなければ母さんはともかく私は管理局の庇護を受けられる。 そこまで考えていたらしかった。 仮に出てきたとしても、男の力は未知数だとしても、局員などと一緒に私やアリシアだけ転移してもらい、自分が相手をすればいいと考えていたみたいだった。 話をし終えた私たちは部屋に戻されたけど、それ以降はアースラ艦内ならば自由に出歩きを許可された。 私は母さんに許可をもらってあの子を探したけど、数日前に帰ってしまったらしかった。 それに少し残念に思ったけど、クロノ曰く時間を作ってくれるとのことだった。 そしてその次の日

 

「アリシア!!」

 

「お母さん!!」

 

「「・・・・・・」」

 

私のクローン元、アリシア・テスタロッサが蘇った。 なんでも昨日の夜に目が覚めて、艦内をさまよっていたら局員に保護されたみたいだった。 母さんは泣きながらアリシアと抱き合っているけど、私は正直どうしていいかわからなかった。 今まで存在も知らなかったし、いきなり蘇ってこうしてる。 戸惑わないほうがおかしいと思う。 そんな私の内心を知らずに、アリシアは母さんと抱き合っていた。 数分後、アリシアは母さんから離れると、私に話しかけてきた

 

「貴女がフェイトだよね、私はアリシア!」

 

「う、うん。 フェイトです、よろしく」

 

同じような外見なのに、全く違うテンションに押され返事がどもってしまうけど、アリシアは気にした様子はない。 それどころか

 

「うーん、なんかちょっと他人行儀っぽいね。 よし、私のことはお姉ちゃんって呼ぼう!」

 

「え、えぇ!?」

 

「さ、はやくはやく!」

 

いきなりそんなことを言われて周りを見るけど、アルフは驚いた感じで止まってるし。 母さんはにこにこするだけ、アリシアは満面の笑みでこっちを見ている。 ど、どうすればいいんだろう? 慌てながらも、でも

 

「お、お姉ちゃん」

 

「・・・・・・うん!!」

 

「うわっ!?」

 

私がお姉ちゃんて言うと少し驚いたみたいだったけど、さっきよりも笑って私に抱き着くアリシア



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第四十六話 また会う日まで

またもや出てきました。 ほんと何なんだろ...... しばらくは話数が前後しますので、ご了承ください


~なのは視点~

 

普段通りの日常に戻ってきて数日後、休日の朝に電話が鳴りました。 最初はアラームかと思って電話を切ってしまったけど、もう一回鳴ったので見てみると管理局の文字が。 登録してないとか、どうやってかけてきたとかそんなことを考えている暇はなくて、すぐに出る

 

「は、はいもしもし!」

 

「クロノだ、フェイトの件で電話をしたんだ」

 

クロノ君の説明によると、フェイトちゃんの裁判の日にちが決まったためフェイトちゃんの身柄は本局に移される。 裁判は行うけどほとんど無罪にになるだろう、とのことだった

 

「それから、フェイトが君に会いたがってる。 短い時間だが、会うかい?」

 

「うん、うん!!」

 

「じゃあ、そうだな。 十時くらいに、海沿いの公園に集合にしよう。 それじゃあまた後で」

 

「わかった」

 

電話を切って準備をしようとすると、机の上のベッドで寝ていたユーノ君が声をかけてくる

 

「何かあったの、なのは?」

 

「あ、ユーノ君、起こしちゃった?」

 

「ううん、大丈夫だけど。 それで、何かあったの?」

 

「うん!フェイトちゃんが裁判のために身柄が本局に移動になったんだけど、その前に少しだけど会えるんだって!」

 

「へえー、そうなんだ、よかったねなのは」

 

「うん!、私に会いたいって、言ってくれてるんだ」

 

嬉しくて笑顔になるとユーノ君も笑てくれる。 十時までって言ってたけど、時計を見ると余裕はあるけど急がなくてはいけない時間なので着替えようとすると

 

「うわー!待って待って!」

 

「あ」

 

ユーノ君がいるのを忘れてました。 にゃはは......

 

--------------------------------------------

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

公園まであと少し。 少し息は上がってるけど、全然大丈夫で。 かなり遠くだけど、フェイトちゃんたちの姿が見えてきた。 フェイトちゃんにアルフさん、プレシアさんにもう一人いるけどよく見えない。 それに、クロノ君。 みんなもこっちに気が付いたのか、手を振ってくれる。 私も手を振り返して

 

「おーい!フェイトちゃーん!!」

 

フェイトちゃんの前で立ち止まる。 するとユーノ君は気を使ったのか、私の肩から降りてアルフさんの肩へ。 少しの間息を整えていると、クロノ君が話しかけてきた

 

「少ない時間だ、僕たちは向こうにいるから二人だけで話すといい」

 

そう言ってアルフさんとクロノ君、ユーノ君が歩いていく。 でもプレシアさんと、もう一人。 え、でもあの子は......

 

「タカマチナノハちゃんね。 今回はごめんなさ、私たちのせいでこんなことになってしまって」

 

「い、いえ!とんでもないです!プレシアさんたちだって命令されたからやってたわけですし!」

 

頭を下げてくるプレシアさんに私は慌てる。 事件のことはクロノ君に少し聞いていたし、プレシアさんは仕方がなかったと思う

 

「それに、こうやって魔法やフェイトちゃんやみんなと会えましたし」

 

「そう...... フェイトから聞いていた通り本当にいい子なのね。 ありがとうナノハちゃん」

 

「えっと、はい」

 

少しお礼の言葉にくすぐったく感じていると、フェイトちゃん似のあの子が私の前に出てくる

 

「貴女がタカマチナニョハ?」

 

「なのはだよ!?」

 

「あはは、ごめんね? まだちょっとうまく発音できないんだ。 ナノハ、ナノハ...... よし、おっけい! ナノハだね!改めましてフェイトのお姉ちゃんでアリシア・テスタロッサ、よろしくねナノハ!」

 

「う、うん」

 

テンションの高さに少し押されながら、手を差し出されてので握手し返したけど。 訳が分からずフェイトちゃんやプレシアさんを見るけど、二人とも原因が分からないのか苦笑いして首を振っていた。 アリシアちゃんは死んでいたはずだけど、どういうことなんだろ。 謎は増えたけど、こうやってみんな笑顔なので、頭の片隅にとどめておくことにした

 

「それじゃあ行きましょう、アリシア。 フェイトも、しばらく会えないんだからしっかり話すのよ?」

 

「う、うん」

 

そう言ってはなれるプレシアさんとアリシアちゃん。 本当に仲良しな親子になったんだね

 

「「・・・・・・」」

 

改めてフェイトちゃんと二人っきりになって、二人で笑い合う。 少し前までぶつかり合ってたのに、こうやって笑い合うことができるなんて。 本当に頑張ってよかった

 

「そういえば、オリは来てないの?」

 

「私は連絡貰ってないけど......」

 

クロノ君から何も言われなかったし、織君も何も言ってなかったけど。 そんなことを考えていると、後ろから誰かが走ってくる

 

「すまん、遅れた」

 

「織君」

 

「オリ」

 

振り向くと少し息の切れた織君が手を上げながら合流した。 これでようやく、お話しできるんだけど。 やっぱり神木君の姿はない。 この頃学校にも来ないし、姿を見ていない。 心配だけど、フェイトちゃんとは今しか話せないから。 でも、いざ話そうとすると

 

「なんでだろうね、フェイトちゃんと話したいこといっぱいあったのに、顔を見たら安心しちゃって......」

 

「そう、だね。 私も、うまく言葉にできない。 だけど嬉しかった、まっすぐ向き合ってくれて」

 

「そんなもの、当たり前だろ。 なぁ、なのは」

 

「うん!」

 

私たちがそう言うとわからない顔をするフェイトちゃん。 そうだよ、当たり前だよ、だって

 

「友達になれたらいいなって、思ったから!」

 

「・・・・・・うん」

 

少し照れた風に笑うフェイトちゃん、それにつられて私も笑うけど、でも......

 

「でも、これから出かけちゃうんだよね」

 

「そうだね、少し長い旅になる」

 

少し暗くなる雰囲気、だけど

 

「二人ともそんなに暗い雰囲気にならなくてもいいだろ? また会える、そうだろフェイト?」

 

「・・・・・・うん。 少し悲しいけど、やっとホントの自分を始められるから。 今日来てもらったのは返事をするため、君が言ってくれた友達になりたいっていうのの返事をするため」

 

「・・・・・・うん、うんうん!!」

 

「私にできるなら、私でいいならって。 でも私、どうしたらいいかわからない...... だから教えてほしいんだ、どうしたら友達になれるのか」

 

そう言ってうつむくフェイトちゃん

 

「そんなもの、簡単だよ。 な、なのは」

 

「うん。 簡単だよ、とっても簡単だよフェイトちゃん。 名前を呼んで? はじめはそれだけでいいの、君とかアナタじゃなくて、ちゃんと相手の目を見てはっきり名前を呼ぶの。 私、高町なのは、なのはだよ!」

 

「俺は藤森織、織でいい」

 

「ナノハ、オリ?」

 

「うん!」

 

「そうだ」

 

「ナ、ノハ、オリ?」

 

「うん!!」

 

「あぁ」

 

「なのは、おり」

 

「うん!!」

 

「泣き虫だな、なのはは」

 

嬉しくて、とても嬉しくて、泣きそうになる。 フェイトちゃんの手を取ると、織君はからかってくるけど、しょうがないと思う。 だって、とても嬉しいから!

 

「ありがとう、なのは」

 

「うん」

 

「なのは......」

 

「・・・・・・うん」

 

「君の手は暖かいね、なのは」

 

「・・・・・・ぐすっ」

 

嬉しいけど、それと同じくらいこのあとすぐに迫っている別れが悲しくて。 我慢してたけど、ついに泣いてしまう

 

「少しわかったことがある、友達が泣いていると同じように自分も悲しいんだ」

 

その言葉に私は感極まってフェイトちゃんに抱き着く。 フェイトちゃんも少し驚いたみたいだけど、抱きしめ返してくれる

 

「フェイトちゃん!!」

 

「ありがとう、なのは。 今は離れてしまうけど、きっとまた会える。 そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」

 

「うん、うんうん」

 

「会いたくなったら名前を呼ぶ、だからなのはも私を呼んで? なのはに困ったことがあったら、今度はきっと私が助けに行くから」

 

そのままフェイトちゃんに抱き着いて泣いていた。 しばらくして

 

「時間だ、そろそろいいかい?」

 

「うん」

 

その言葉に私とフェイトちゃんは離れる

 

「フェイトちゃん!」

 

無意識のうちにフェイトちゃんに声をかけ、髪を結んでいたリボンをとる。 無意識だったから、なんでこうしたかわからなかったけど

 

「思い出に残るようなもの、こんなのしかなかったけど」

 

そう言ってフェイトちゃんにリボンを差し出すと、フェイトちゃんは驚いたようだったけど

 

「それなら、私も」

 

フェイトちゃんもリボンを私に差しだしてきた。 お互いのリボンに手を重ね、リボンを交換する。 私はフェイトちゃんのリボンをそっと握る

 

「ありがとう、なのは」

 

「フェイトちゃん」

 

「きっとまた」

 

「うん!また、ね」

 

そうしてフェイトちゃんと見つめ合っていると、肩に重さが。 見ると、ユーノ君がこちらを見ていた

 

「ありがとう、アルフさんも元気でね!」

 

「あぁ」

 

「ぶーぶー、いーなーナノハは」

 

「にゃはは...... 今はこれしか持ってないから、ごめんねアリシアちゃん」

 

「ううん、気にしてないよ。 ナノハ、元気でね!」

 

「まったく、アリシアは...... ナノハちゃん、もう一回お礼を言わせて、ありがとう」

 

「そ、そんな!とんでもないですよ、プレシアさん!」

 

そうやって挨拶をすますと、最後にクロノ君が

 

「それじゃあ僕も」

 

「クロノ君もまたね」

 

「ああ」

 

転送の準備も整い、光に包まれる魔法陣の中央に行くフェイトちゃんたち。 フェイトちゃんは手を振ってくれて、私も手を振り返す。  徐々に光の強くなる、魔法陣。 そして、閃光に包まれた次の瞬間にはみんなの姿はなかった。 少し寂しく感じたけど

 

「フェイトちゃん、アルフさん、アリシアちゃん、プレシアさん、クロノ君、またね」

 

「なのはー、帰らないのかー」

 

「うん、私も帰るよ織君!」

 

「行こうか、なのは」

 

「うん!帰ろう、ユーノ君!」

 

 



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無印終了~A's開始までの空白期
第四十七話 事件後、それから


2018.5.28 話数修正。 数話分書き溜めの方話数がバグっていまして、もしかしたらこの後も修正されるかもしれません。 ご了承ください。

2018.6.3 話数修正。 またまた書き溜め分の話数がバグってまして、修正しました


~なのは視点~ 

 

私、高町なのはの朝は早い。 私、誰に言ってるんだろう? まぁ、いっか。 ついこないだ終息したジュエルシード事件、それにより私を取り巻く環境は大きくではないけど変わった。 魔法と知り合い、大切な友達であるフェイトちゃんと出会って。 神木君以外特にけがもなく、ジュエルシード事件は終わりを告げた。 それからというもの、いつもの生活には戻ったけど、私的にも少し思うところもあって、魔法の訓練だけは続けていた。 時間もなかったというのもあるけど、レイジングハートに頼りきりだった魔法をクロノ君やエイミィさん、管理局の人たちに協力してもらい基礎からやり直している

 

「うん、そんな感じかな」

 

「うー、ちょっときつい......」

 

今も最後の訓練が終わり、ユーノ君からOKを貰った。 本当にレイジングハートに頼りきりだったというのが分かり、私的にもちょっと申し訳なく思うのですが、レイジングハートは気にしなくていいとのことでした。 ユーノ君から差し出されたタオルで汗を拭いていると、携帯に電話がかかってきていた。 見てみると時空管理局からだった

 

「はい、もしもし」

 

「おはようなのはちゃん」

 

「おはよう」

 

「おはようございますエイミィさん、クロノ君」

 

かけてきたのはエイミィさんとクロノ君で、いつもの定期通信と魔法の進捗はどうかということでした。 さっきも言った通り、訓練協力のために教本みたいなものを作ってもらったからか、出来はどうか聞いてくることが多い。 とは言っても、ユーノ君のおかげで少しは知っていたとは言え、ほぼ予備知識がない私でもわかりやすく作ってくれていて、とっても助かっています

 

「そうそう、ビデオなんだけどお返事、出来たら通信してね? フェイトちゃん楽しみにしてるから」

 

「はい!」

 

「フェイトのことだが、公判も終わり判決待ちだ。 実刑を求める声なども出ているが、執務官や提督の証言がある以上無茶なことはないだろう。 プレシアさんに関してはいろいろな罪状があるが、少し切り札があるからな、何とか管理局への奉仕活動と保護観察処分で済ませられそうだ」

 

「フェイトちゃんもプレシアさんも、よかった......」

 

家族で離ればなれになるのはとっても悲しいから、クロノ君の話を聞いて私はホッとした。 その後も話していたんだけど、リンディさんが管理局へどうかって誘ってきたけど、流石に小卒で就職はどうかとも思ったので丁重に断っておきました。 それでもリンディさん諦めてなかったみたいだけど...... いつのまにかクロノ君とユーノ君も喧嘩してるし。 その様子を見ると、男の子なんだなぁと思って微笑ましくなった

 

「あ、そうだなのはちゃん。 夜、時間空けといてね?」

 

「あ、はい、わかりました」

 

「どういうことだエイミィ?」

 

「女の子同士の秘密の通信だよー。 じゃあねー」

 

「はい、またー」

 

なんかクロノ君がすごく気になってるみたいだたけど、エイミィさんが通信を切って強制終了。 その様子に私とユーノ君は苦笑いだったけど、すぐに気持ちを切り替える

 

「そういえばもう届いてるのかな?」

 

「届いてるかも」

 

「なら帰ろっか!」

 

--------------------------------------------

 

今、私はアリサちゃんの家に遊びに来ています。 というのも、朝練の後に家に帰るとビデオレターが届いていて、それをアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に見ることになったからです。 ビデオレターはこれで三通目。 一通目は事件のすぐあと、リンディさんが手配してくれたことや、ビデオレターをやれる喜びなどが記録されていて。 その返信で私は友達や家族のことを紹介することを記録して、その返信、つまり二通目でお返事が返ってきた。 この二通目から魔法関連の話をせずにみんなに見せる用のディスクと私とユーノ君用の二枚組になった。 それで、その返信で家族や友達のことを紹介して、これが三通目

 

「それじゃあ、再生するわよー」

 

「うん!」

 

「お願い、アリサちゃん」

 

アリサちゃんがリモコンを操作し、DVDが再生される

 

「えっと、もう喋っていいの?」

 

「ああ、大丈夫だよフェイト」

 

「コホン。 えっと、これが三通目になるわけだけど、久しぶりなのは。 えっと、いろいろとありがとうアリサ。 色々と映画のDVDを貸してくれて、まだ全部見れてないけど空き時間とかに見てます。 私映画とかは初めてだったけど、楽しく見れてます。 それからすずか、写真とか本とかありがとう。 写真は三人が笑顔で映っているのが一番のお気に入りです」

 

最初はちょっとつっかえつっかえだったけど、私たちに向けてメッセージを言うフェイトちゃん。 最初はぶつかり合って、冷たくて寂しい目をしていたフェイトちゃんだけど、今は見る影もない。 優しくて暖かい目をしていて、雰囲気もとっても暖かくて。 たぶんこっちのフェイトちゃんが本当のフェイトちゃんで、私はそう思うとなぜか涙が出てきてしまった

 

「なのははさ、フェイトとのことで迷ったり直接話して時には喧嘩したわけでしょ?」

 

「うん......」

 

「でもそれを解決して、私たちに紹介してくれたわけでしょ? なら泣くようなことないじゃない、フェイトに笑われるわよ?」

 

「そうだよなのはちゃん。 フェイトちゃんは今こうやって暖かな笑顔を浮かべている、それでいいんじゃないかな?」

 

「うん、うん...... そうだね」

 

二人に励まされる。 私は涙を拭いて、二人をもう大丈夫だという気持ちで見る。 すると二人も頷いて、少し巻き戻して再生を始める

 

「三人からもらったビデオレター、何度も見返してるよ。 そのたびに心が温かい気持ちになるんだ

 

--------------------------------------------

 

お稽古があるということなのでアリサちゃんとすずかちゃんと別れ、家に帰ってきて今はユーノ君と一緒に魔法関連のビデオレターを見ている

 

「それじゃあ続き」

 

こっちに関しては特に隠す必要もないので、魔法関連、アルフさんとかも普通にしゃべっている。 アルフさんの話は私たちが元気かということとこっちで会えるようになったらユーノ君と一緒に散歩に行こうということだった。 言葉は短かったけどアルフさんらしい言葉に私とユーノ君は笑い合った。 次はフェイトちゃん魔法の話、クロノ君と模擬戦をやってるとかこっちに来たらユーノ君に防御魔法を教えてもらいたいとかそんな話だった

 

--------------------------------------------

 

夜、エイミィさんに言われて裏山にやってきたけど、何だろう? ユーノ君と首をかしげていると、いきなり通信がつながった。 驚いた私とユーノ君だったけど、フェイトちゃんとアルフさんが部屋に入ってきて何かを話している。 聞くと、フェイトちゃんとアルフさんの契約記念らしかった。 いきなりのことでプレゼントとかはできないけど、何かできることはないかって考えたけど。 そうだ、ブレイカーを使えば。 いまはとりあえず

 

「フェイトちゃん、アルフさん、契約記念、おめでとう!」

 

「おめでとう」

 

「なのは、ユーノ!?」

 

フェイトちゃんは驚いたみたいだった。 エイミィさんを見ると知らせていなかったのか、笑顔でフェイトちゃんとアルフさんを見ていた。 でもリアルタイム通信はいけないと思うんだけど、エイミィさん曰く

 

「0.5秒遅れてるから、リアルタイム通信じゃない」

 

らしかった。 それって屁理屈では? と思ったけど、こうやってフェイトちゃんと直接喋れるわけだし、いいよね?

 

「それじゃあ私とユーノ君から!」

 

念話でずっと練っていた作戦をユーノ君に合図して、始める。 威力を調整して、スターライトブレイカー。 フェイトちゃんを見ると喜んでくれたみたいで、そこから連発して打ち上げる。 なんだか少し楽しくなってきたけど、魔力もあと少しなのでここで打ち止め。 少し残念だけど、フェイトちゃんは喜んでくれたし、満足した

 

「今できるのはこれだけ。 プレゼントなんかはお返しのビデオでちゃんと送るね?」

 

「うん、楽しみに待ってる」

 

少しだけ涙ぐんだ顔で返事をするフェイトちゃん

 

「あーっと、いいところなんだけどもう少しで時間になっちゃう!」

 

「あ、はい!それじゃあまたね」

 

「また、ね? なのは」

 

そう言って切れる通信。 私は座り込んだ。 流石にブレイカーを連射はちょっと疲れたみたい

 

「ありがとうユーノ君、レイジングハート」

 

「ううん、気にしないでなのは」

 

「気にしないでくださいマスター」

 

「にゃはは」

 

それから体力が回復するまでの少しの間私は座り込んでいた。 ようやく回復したころ

 

「それにしてもうまくいってよかったー」

 

「うん、本当だよ。 他の操作もしてなかったから、集中......」

 

「ユーノ君?」

 

ユーノ君の言葉が途切れきになってユーノ君を見てみると、何故か顔を真っ青にしていた

 

「ほかの操作、もしかして結界」

 

「え”」

 

「結界を展開し忘れた」

 

「それってそのぉ、ここに居たらまずいのでは?」

 

「うん」

 

「「・・・・・・」」

 

私たちは顔を見合わせ

 

「「ごめんなさいでしたー!!」」

 

そう言ってその場を離れた



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第四十八話 Each selection

2018.5.20 タイトル話数修正。 ぐぎぎ、なんで五十話だったんだ

2018.5.28 話数修正。 数話分書き溜めの方話数がバグっていまして、もしかしたらこの後も修正されるかもしれません。 ご了承ください。

2018.6.3 話数修正。 またまた書き溜め分の話数がバグってまして、修正しました


~玉藻視点~

 

マスターと家に帰ってきた私は少し睡眠をとり、居間へと向かう。 睡眠時間が少ないのはお肌にとって大敵ですが、仕方ないでしょう。 どこかからサーヴァントは睡眠も食事も必要ないだろう、なんてツッコミが聞こえますが聞こえないったら聞こえないのです。 居間に入るとマスター以外の人たちはそろっているようですね、ちょうどよかったです

 

「玉藻さん、おはようございます」

 

「玉藻殿、おはようございます」

 

「おはようございます、玉藻さん」

 

「おはようございます、皆さん。 少しお時間いいですか? 大事な話があります、マスターのことで」

 

私の雰囲気がいつもと違うのが分かったのか、はたまたマスターの話だからなのか分かりませんが、いつもの雰囲気は消え去り真剣な表情で皆さんは私を見つめます。 さて、何から話したものでしょうか? 全部話すのはもちろんですが...... 先に結論から言うのがいいですかね?

 

「まずいきなりですが結論から。 マスターの呪い、つまり踏み台転生者としての活動の呪いは解けませんでした」

 

「・・・・・・玉藻殿、どういうことですか?」

 

「理由については今から説明します」

 

それから私はペイルに聞いたことを皆さんに話しました。 マスターが神に呼ばれ、異空間に行ったこと。 その異空間で呪いが解けるのかと思いきや結局解けず、そのままの状態で帰ってきたこと。 そして、機械のこと

 

「ではあの機械は!」

 

「神が操っていた、そういうことになります」

 

「そんな、こんなことって......」

 

「マスター......」

 

いつもの雰囲気は何処へ行ったのか、今の雰囲気はまるでお通夜のように最悪でした

 

「・・・・・・マスターのことは、しばらくそっとしておいてあげましょう」

 

「ッ!? 何故です、何故ですか玉藻さん!!」

 

掴みかかってくるリリィさん、マスターのことは本当に心配なのはわかります、ですが!

 

「マスターには逆効果だからに決まっているでしょう!!私たちが心配して、マスターがちゃんと相談してくれたことはありましたか?!逆に気を使わせて、本心を隠して、私はもう、そんなマスターを見たくありません......」

 

これは紛れもない私の本心です。 マスターの力になってあげたいのに、マスターは優しすぎるからすべてを背負ってしまいます。 心配をすれば心配をかけないように動き、逆効果になるくらいだったら私はいっそ。 荷物にならないように、見守るしかないじゃないですか...... これは逃げ、なんでしょうかね

 

「玉藻さん...... リリィさん、玉藻さんを離してあげてください。 私はお二人の気持ち痛いほどわかりますから。 みんなそう思ってるはずですから」

 

「すみません玉藻さん、熱くなりました」

 

「いえ、こちらこそすみません」

 

何とも言えない空気の中、離れて謝り合う私とリリィさん

 

「マスターに関しては、いつも通り見守っていましょう。 マスターが相談してくれば、その時に力になってあげましょう」

 

「マシュさんの言う通りですね。 いつものように」

 

そこで話は終わり、各自分かれて行動する。 今はマスターにとって時間が必要でしょうし、みんなが家から出かけたようです。 ですが、私には私にしかできないことをしましょう。 自分の部屋まで行き、瞳を閉じる。 本当は行きたくありませんが、背は腹には代えられません

 

--------------------------------------------

 

不意に懐かしい感覚に包まれます。 少し嫌な気分になりながら目を開けると目的の場所についていたようです

 

「フフフ、お前が来るなんて珍しいのぅ」

 

「相変わらず時代錯誤な喋りと、イライラする容姿ですね」

 

目の前には美しい私を大きくしたような、いえ私の本体ともいうべき白面金毛九尾の狐がいる。 性格は私と似ても似つかない冷酷で冷淡で、本当に私とは大違いです!

 

「貴様の考えは大体わかるが、貴様も同じようなものだろうに」

 

「何を言ってるかさっぱりわかりませーん、聞こえませーん」

 

「・・・・・・何を言っても無駄か。 頭の真っピンクの万年発情狐に何を言っても無駄か」

 

「・・・・・・」

 

落ち着け私ー、ここでキレても何の得にもならないし、あいつを助長させるだけだー。 落ち着け私、いつものようにクールに

 

「コホン、用件は分かっているのでしょう?」

 

「ふむ? わからんなぁ」

 

「っ!!」

 

ちょっとペースに乗せられているような気もしますが、まだ大丈夫です。 頑張れ私ー

 

「力を貸してほしいのです、マスターのために」

 

「ふん、やっぱりか面白くもない。 して、何故あのものに我が力を貸す必要があるのだ?」

 

「貴女だってわかっているのでしょう? 今回の件は低級とは言え神がかかわっています、マスターの力だけではどうにもなりません」

 

悲しいことですが、これは純然たる事実です。 いくらあの金ぴかの力があるとはいえアレも神に与えられた力、封じるのも容易いでしょうし。 たぶん、使えなくなるとみて間違いないでしょう。 事実、ペイルもそう言っていましたし

 

「くっくっく、一度や二度人間に裏切られただけでは駄目か? やはり貴様は脳みそがお花畑のようだ」

 

「そんなの今は関係ありません。 たとえマスターが望もうが望まなかろうが...... いえ、マスターはこんなこと望まないでしょうね。 ですが、私がマスターの力になりたいからこうするのです」

 

目の前の、私の元ともいえる、神とも呼べる存在をにらみつける。 確かに私は人間に裏切られた、それこそ数えきれないほどだ。 サーヴァントだからそんな経験山のようにある。 でも、マスターは、あの子だけは違う。 私は胸を張ってそう言い切れる、だから目の前の存在をにらみつける

 

「ふっ...... もう貴様と話すことはない」

 

「ちょ!? 私の話は!!」

 

「ふん」

 

軽く手を振られ、その風圧に吹き飛ばされる。 比喩的な表現ではなく、体が大きいため本当に吹き飛ばされるのだけど

 

「私の話、終わってないんですけどーーー!!」

 

目の前が暗転し、目が覚めるとそこは自分の部屋で

 

「あんの、クソ狐ーーーー!!」

 

~玉藻視点 end~

 

--------------------------------------------

 

~白面金毛九尾の狐視点~

 

「ふん」

 

ようやく我の分霊ともいえるものが去り、あたりは静寂に包まれる。 本当にアイツはうるさいものだ。 だが、同時に収穫もあった。 あいつの新しいマスターだ。 どうもほかの神のおもちゃにされているようだが、少し興味がわいた。 あのサーヴァントになっている分霊があそこまで私に大見えを切ったのだ、気にならないはずがない。 少し興味が出た程度でここには呼ばないが、少し過去をのぞき込むくらいならいいだろう。 どうも過去を見てみると、中々に愉快な人生を送っているようだ

 

「ほほぅ、神を殺すか」

 

なかなか面白いことを言うガキだ、ますます興味がわいた

 

「それを我に言えるかどうか」

 

来る対話の時、それはそう遠くない未来だろうと思いつつ目を閉じる。 その時に覚悟を示せるかどうか、見ものだ。 もし覚悟が示せるなら、その時は力を貸してやることもやぶさかではない。 だが、我をがっかりさせればそれ相応の対応をさせてもらう。 なに、普通の人間よりは歯ごたえがありそうだ

 

~白面金毛九尾の狐視点 end~



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第四十九話 傷心

2018.5.28 話数修正。 数話分書き溜めの方話数がバグっていまして、もしかしたらこの後も修正されるかもしれません。 ご了承ください。

2018.6.3 話数修正。 またまた書き溜め分の話数がバグってまして、修正しました


自然に目を覚ます。 部屋の中は真っ暗でカーテンを開けると、外は明るかった。 時計を見れば昼を少し過ぎたくらい。 休日ならまだしも、平日でこの時間は致命的だった。 ・・・・・・どちらにしろ、学校なんて行く気になれないが。 家の中に人の気配はない、気を使ってくれたのか買い物中なだけなのか。 どちらにしろ丁度よかった、一人になりたい気分だったしな。 多少の眠さはあるが、頭を振ることで眠さをとる。 机の上に置いておいたネックレスをとり首にかけ、着替えて下に降りる。 机にはラップがかかったサンドイッチ、脇には書置きが。 今日はゆっくりお休みください、ね。 書置きから察するに、わざと起こさなかったというところか。 ありがたく思いながらサンドイッチを食べ始める

 

「ペイル、王の財宝の方はどうだ」

 

「さすがに数時間やそこらで全て確認し終えるなんてことはできません。 確認の終わったものだけリストアップしますか?」

 

「それで頼む」

 

目の前に浮かび上がるホログラム、効果なども載っているのでチェックしつつサンドイッチを食べ終える。 ペイルに声をかけチェックを一時中断する。 家にいると呪いが解けなかったことを思い出して気が滅入るので、外に出ることにした。 気分転換、とでもいうのだろうか。 学校に連絡されても面倒なので、人目を避けつつ当てもなく歩く。 結局外に出ても考えていることは変わらず、昨日の呪いが解けなかったことだ。 最初からあのクソ野郎は呪いを解く気はなかった、今までは呪いを解くために頑張ってきたがこれからはどうすればいいだろう? 英雄王は俺はさらにあがくと言っていたが、正直言って今の俺にはそんな気力はない。 死にたいわけじゃないが、今までの苦労は水の泡。 やる気がなくなるのも当然だ

 

「いや、こんなんじゃいけないよな」

 

それこそあのクソ野郎の思う壺だ。 今はあの特有な視線を感じはしないが、ここで諦めればそれこそ思う壺だ。 かといって、あのクソ野郎を殺す算段がないのも確かだ。 あのクソ野郎の性格上、たぶん闇の書事件の終了間際に俺に会うはずだ。 気分はどうだとか俺の悔しがるのを見るために。 それまでに殺す算段を、なんて思うが思いつかない。 たぶん、あの空間では王の財宝は使えない。 英雄王からカギはもらったが、もともと特典を付けたのはあのクソ野郎だ。 たぶんあの時、無意識とはいえ発動しようとしたはずだ。 それでもどうにもならなかった。 体も動かせず、出来たことと言えば暴言のみ

 

「いっそ口からナイフでも吐くか?」

 

言って自分で否定する。 無理だろうな。 気が付けば海沿いの公園にたどり着いていた。 俺は欄干に体を預けつつ海を見る。 考えてもいい案は浮かばない、八方ふさがりとはこのことか。 でも

 

「そうだな、今までもそうだった」

 

未来を知っているとはいえ、雑種や俺の介入によってそもそも俺の知っている知識とは違ってきている。 大筋で行けば正史通りだが、細部に関しては手探り状態だった。 これまでより圧倒的に状況は悪い、だが俺は死にたくない。 なら、何を利用してでも自分の生き残るすべを探す。 これまで通りじゃないか、そう、自分に言い聞かせる。 少し気分は上向いたが、それでも気分は晴れない

 

「・・・・・・やめよ」

 

このままではいろいろ考えて死にたくなる、俺はその場を後にする。 当てもなく歩き、ついたのは図書館。 何でこんなところに、なんて思いもしないが中に入る。 普段図書館なんて利用しないが、ここなら頭を空っぽにして本を読めばいい、そう思っていた。 中に入り適当な本を選ぶ、後は読書スペースで本でも読めばいいだけ、そのはずだった。 車いすの少女がいた、普段なら気にしないかもしれない、でも見てしまったのだ届かないながらも本をとろうとする姿を。 自然とその方向に足が向いていた

 

『マスター』

 

『ペイル、どうした?』

 

『いえ...... なんでもありません』

 

変な奴だと思いながら、少女の後ろに立つ。 取ろうとしている本を確認し、後ろから手を伸ばす。 普段ならしない行動、それだけ心が追い詰められていたのか、それとも。 後になって考えれば、もう少し慎重に行動するべきだったとか思わなくもないが。 少なくとも、この時の俺は親切心で本をとった

 

「これでいいの?」

 

「え、あ、はい」

 

本を渡し、その場を去ろうとする。 だが、その背に声がかかる

 

「あの」

 

「なに?」

 

「私、八神はやて言います。 貴方は?」

 

「神木理樹」

 

どこかで聞いたような気がしたが、思い出せなかった。 それなら大したことじゃないだろうと思い、自己紹介をした

 

「取ってくれて、ありがとう」

 

「いいよ、気にしないで」

 

俺はそのまま歩きだし、奥の読書スペースに座った

 

--------------------------------------------

 

~はやて視点~

 

その日もいつも通りやった。 朝目が覚めて、朝食を作って、一人で食べて。 それから洗濯や掃除、基本的なことをやったら病院へ。 いつもと同じ。 実際いつもと同じやった、小さなで出会いを除いては。 病院での検査も何時もと同じやったし、検査結果も変わらず。 良くもならないし悪くもならない。 石田先生は心配してくれてるみたいやけど、私はどうとも思わなかった。 良くも悪くもならない体、そのうち緩やかに死んでいくんやろうなって思ってる。 検査を終えて、行ったのは図書館。 ちょうど返さなければいけない本があった。 その本を返却して、新しい本でも借りようかなって思ってた。 前に借りたかったけどなかった本を見つけて、借りようとした。 でも、その本は車いすに乗った私では届くか届かないかの高さにあった。 頑張って取ろうとするけど、少し届かない。 でも、そんな私の状況にはだれも見向きもしなかった。 いつものことや。 でも、その日は違った

 

「これでいいの?」

 

「え、あ、はい」

 

後ろから手が伸びたと思ったら、本を渡してくれる。 同い年くらいの子で、金髪だった。 特に体が悪そうには見えないし、本来なら学校のこの時間、ずる休みかもしれない。 でも、一番気になったのはその子の目。 なぜかわからないけど、無性に気になった。 だから

 

「あの」

 

「なに?」

 

自分でも驚いたけど、声をかけていた。 彼は何とも思ってないのか普通に振り向いた、だけど私はこの後の会話をする準備はできていない。 必死にひねり出したのは

 

「私、八神はやて言います。 貴方は?」

 

自己紹介やった。 人はテンパったりすると天気の話か自己紹介いうてたけど、本当の話やったんやな...... まさか自分で証明するとは思っていなかったけど。 彼は一瞬考えこんでいたけど、普通に自己紹介をしてくれた

 

「神木理樹」

 

「取ってくれて、ありがとう」

 

「いいよ、気にしないで」

 

そう言うと、さっさと行ってしまう。 どうしても彼が、神木君が気になる私はその後をつける。 どうやら奥の読書スペースで本を読むつもりらしかった。 私はその前につき本を開く。 何でこんなに彼が気になるんやろ?

 

~はやて視点 end~

 

--------------------------------------------

 

何故か俺の後ろをついてきた八神はやては、俺の目の前に座る。 他にも席はあるはずなのだが、まぁいいか。 気にせずに本を読み始める俺だが、何故かちらちら八神はやてが見てくる。 集中できないわけじゃないが、意味が分からない。 結局、話しかけてくることはなく、俺は本を閉じると立ち上がる

 

「ところで何か用事だった?」

 

「ふぇ?」

 

「いや、本見てる間ずっと見られてたから」

 

「・・・・・・気が付いてたん?」

 

なんか気まずそうに見られるが、一応これでも視線は敏感だからな、気が付かないわけがない。 わざわざそんなことは八神はやて本人には言わないけど

 

「途中からだけど」

 

「ごめんなさい」

 

「気にしてないけど......まぁ、いいや。 そろそろ暗くなってきたから帰るけど、八神はやてさんはどうするの?」

 

「なんでフルネーム?」

 

「癖みたいなものだけど......変?」

 

「いや、まぁええわ。 八神でもはやてでも好きに呼んでええよ? ただしフルネームはなし」

 

「なら八神さんで」

 

「呼び捨てでもええけど、私も帰るよ」

 

そう言って車いすを押し俺の横に並ぶ。 別に帰るなら帰ればいいと思うが、気にしないことにする。 俺はそのまま歩き始め、本を元あったところに返す

 

「借りへんの?」

 

「ただ手に取って読んだだけ、興味があったわけじゃないし」

 

「ふーん」

 

「八神さんは?」

 

「私は借りる、ちょっと待ってて」

 

そう言うと一人で貸し借り所まで向かおうとするが、まぁこれくらいならいいか。 そう思い後ろから車いすを押す

 

「?」

 

「まぁ気にしないで」

 

そう言うと、変な顔をしたと思ったら、微笑んで前を向く。 意味が分からん。 その後貸し借りを終え、出入り口を出る。 外はいい感じに暗くなっている

 

「それじゃあね、八神さん」

 

「またー」

 

奇妙な出会いだったが、八神さんと別れる。 なんか、また会うような気を胸に秘めながら

 

 

 



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第五十話 Casual everyday?

2018.5.27 誤字修正しました。 報告ありがとうございます

2018.5.28 話数修正。 数話分書き溜めの方話数がバグっていまして、もしかしたらこの後も修正されるかもしれません。 ご了承ください。

2018.6.3 話数修正。 またまた書き溜め分の話数がバグってまして、修正しました


「お、俺のそばに近寄るなぁ!? この化け物」

 

「化け物とは、随分な言いようだな」

 

尻もちをついた男に、王の財宝からあらかじめ抜いておいた剣を突き付ける。 男は大層おびえた様子でこちらを見ているが、俺は気にせずバインドでとらえる

 

「ペイル、この男で間違いなんだよな」

 

「はい、魔力残滓、顔認証等すべてが一致しています」

 

「そうか、クロノに連絡を」

 

「了解しました」

 

ペイルはクロノに連絡しているのかそれっきり黙る。 地球ではない別の星、平日にもかかわらず俺はここにいる。 簡単な話、学校にも行かずにクロノたち、管理局の嘱託魔導士として次元犯罪者を捕まえていた。 まぁ、犯罪者の俺がお笑い事ではあるが。 だが、そんな俺でもクロノたちには借りがある。 そのままでは気が済まないのだ、俺は。 だから少しでも借りを返せるように、ということで資格を取ってこうしてクロノたちに協力している

 

「相変わらず鮮やかだな」

 

転移の反応があったと思ったら、クロノが俺の横に転移してきた。 クロノは別のところで陽動をやっていたのだが、ここに来たということはそっちの仕事も終わったのだろう

 

「鮮やかねぇ..... どうでもいい」

 

「どうでもいい、か...... 君らしいな」

 

苦笑するクロノに俺は特に答えない。 資格取りたての頃はツーマンセルで仕事していたが、この頃はそうでもない。 まぁ俺の特性上、一人だろうが多人数だろうがあまり関係ないのだが

 

「これで最後の一人だ、転送も終わった」

 

「作戦終了か、お疲れ」

 

俺の捕まえた最後の一人が転送し終わり、俺とクロノはハイタッチをして転送を待った

 

--------------------------------------------

 

犯罪者を本局に引き渡し、書類仕事中。 正直言ってこんなもの嘱託魔導士にやらせるなとも思うが、規則らしく仕方ない。 クロノに全部任せるとふざけて言ったら、ほんとにやり始めようとしたから流石に止めた。 あいつはただでさえ仕事が多いのだ、これ以上やったらパンクさせるからな

 

「っあー......」

 

数時間座っていたためか体が固まっていて、伸びをすると骨が音を立てる。 俺の場合普通の書類だけではなく、レアスキルのせいで書類が増えてるわけだが。 まぁ、一応魔法ということにはなっているが、剣を射出してるわけでいろいろと厳しいのだ。 これは自業自得なのだが、微妙に納得が言ってない

 

--------------------------------------------

 

「今日もいるのか......」

 

「あ、理樹君。 やほー、後今日もいるのかは失礼やと思うで?」

 

この頃日課になりつつある図書館来訪。 奇妙な出会いをした八神さんとは、何故か毎回会う。 意味が分からんが、気にせずに指定席になりつつある席に座り本を開く

 

「今日は何読んでるんや?」

 

「人間失格」

 

「ま、また子供向けじゃないものを......」

 

「どうせ八神さんも読んだことあるんじゃないの?」

 

そう言って本から視線を上げると、ペコちゃんみたいな顔をした八神さんがいた。 殴りたい、この笑顔!特に反応せずに視線を本に戻す。 八神さんだが関西の血が騒ぐのか、こういうのに反応するとそれはそれは話が長くなる。 前に一度司書さんに注意され、それから無視をするようにしてる

 

「なんで反応しないんや、つまらないやろ?」

 

「反応したら反応したで面倒になるだけだからね」

 

「よくわかっとるな」

 

自分で言うのかよとも思うが、もはやいつものことなのでスルー

 

「それで、今日は何読んでるんだ」

 

「この間言った新刊、ようやく帰ってきたみたいやったから」

 

「よかったじゃん」

 

「うん」

 

本を開く音がしたのでそれから話しかけるのをやめる。 マナーというかなんというか、本を読み始めたら俺は話しかけるのをやめる。 八神さんは気にせず話しかけてくるけど。 まぁそれはさておき、結構この時間が好きだったりする。 まぁ、八神さんも独特な人だから会話してても楽しいけど、こういう静かな時間も好きだったりする。 勉強する人、本を読む人。 家だとゆっくり本を読むこともできないからな、玉藻のせいで。 まぁ、あいつのおかげで空気が明るいっていうのもあるが、モノには限度というものがある。 なのでこうやって図書館に足を運んで、っていうのが日課になっているわけなのだが

 

「なぁなぁ」

 

「ん? なんだ」

 

「学校、行かなくてええの?」

 

「・・・・・・まぁ、行っても行かなくても変わらないからな」

 

「ふーん」

 

突然だった、いままでこういう込み入ったことを聞いてこなかったのだが、突然聞いてきた。 それに少し驚いたので反応が遅れたが、答える。 実際、前世の記憶もあるのだ、問題ないと言えば問題ない。 それに、今あいつ等に会えばひどいことを言ってしまいそうで。 いまだあの視線を感じないとはいえ、いつ視線が復活するかもわからない。 俺の雰囲気が変わったのが分かったのか、それとも興味がなくなったのか、たぶん前者だと思うがそれ以上聞いてくることはなかった。 しばらくは本を読んでいたがやがて

 

「おーい、理樹君」

 

「なんだ?」

 

「そろそろ私、帰るけどどうする?」

 

そう言って読んでいた本をぱたんと閉じる八神さん。 俺も本を閉じ立ち上がる

 

「なら俺も帰ろうかな」

 

「ほならよろしくー」

 

「はいよ」

 

最初は遠慮していた車いす押しも、この頃は何も言わないどころか頼んでくる。 別に俺も気にしていないので、自分の読んでいた本を棚に戻す

 

「今日はどうするんだ?」

 

「借りるからカウンター行こか」

 

「はいよ」

 

そのままカウンターまで向かい、本を借りる手続きをする。 司書さんも手馴れてるからすぐに終わる。 いつものように入り口まで来ると

 

「それじゃあまたな」

 

「うん、またー」

 

 

 



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第五十一話 誕生日プレゼント

学校に行かず管理局の任務と休みを繰り返す日々、別に今の生活には問題もなく普通に過ごしている。 過ごしているのだが、俺は今ショッピングモールで頭を悩ませていた。 というのも、図書館での本の虫こと、八神さんの誕生日が迫ってきているからだ。 誕生日を知ったのは偶然だった、暇つぶしに宝石などの本を見ていた時に誕生石の話になったのだ。 八神の誕生石はムーンストーンやパール、つまりは六月ということらしかった。 そして日にちまで知って六月四日。 本人は催促したみたいやな、なんて言ってたが俺が聞いたことだからそんなに気にする必要はないと思うのだが。 そして今日から六月に入ったわけなのだが、俺は頭を悩ませていた。 女性に贈り物なんてしたことがないのだ。 もちろん家族である玉藻やマシュ、リリィなんかは除くが。 そんなわけで玉藻、マシュ、リリィに来てもらったわけなのだが。 ハサン? ホント社畜じゃないかっていうぐらい働いてる、今もたぶん学校の高町なのはやその友達を監視していると思う。 別に俺はいらないと言ったのだが

 

「誕生日プレゼントですよね、まずはどういうコンセプトなんですか?」

 

「コンセプトなぁ...... そもそも形に残るものがいいのか、そうじゃないものがいいのかわからん」

 

「人それぞれですし、そこはマスターに決めていただかないと私たちは意見も出せませんよ?」

 

俺の言葉に苦笑するマシュだが、仕方ないと思うのだが。 確かに図書館で会っては会話をしているが、日常に関してなんかは聞かないし。 たぶん俺が八神さんといまだに話しているのはそこの理由も大きいと思う。 たがいに事情を抱えているからか、俺も八神さんも基本込み入ったことは聞かない。 まぁこの間は聞かれたが、あんなの当然の疑問だしな。 そんなわけで、赤の他人以上友達未満の人のことだ、良く知らなくてもおかしくないと思う。 そんな風に自分をごまかしながらショッピングモールを歩く

 

「とりあえず、そういうのから決めないといけないか」

 

「私は構いませんよ? こうやってマスターとお買い物できるんですから!」

 

「抱き着いてくんな」

 

「ちっ」

 

抱きしめようとした玉藻を避けそのまま歩く。 玉藻も避けるのをわかっていたのか、そのまま何事もなかったかのように歩き続ける。 そんなわけでプレゼントを探すためにウインドウショッピングをしているわけなのだが、正直言ってかなり迷う。 いやまぁ、プレゼントを買うなんて漠然とした目的しか決めてないからというのもあるのだが

 

「マスター、一ついいですか?」

 

「なんだ、玉藻」

 

「このまま漠然と見るのって時間の無駄じゃないですか? いえ、私は嬉しいからいいんですが」

 

やはりというかなんというか、玉藻も同じ気持ちだったようだ。 やっぱり何も決めないで漠然と、はだめなようだ。 そうなると何を買うか、なんてピンポイントではないが、ジャンルで決めて歩くほうがいいかもしれない

 

「どうしたもんか?」

 

「お相手の方の趣味とか、そういうもの系でもいいんじゃないでしょうか?」

 

「趣味、趣味なぁ...... 図書館で会ってもあんまり話さないからな、そこらへんわからんのよなぁ......」

 

「図書館で会うなら読書が趣味じゃないんですか?」

 

「まぁ確かに趣味っちゃ趣味だろうけど...... 例えばブックカバーを送ったとして、毎回毎回借りた本にブックカバーつけるか? すごい手間だと思うぞ? それにあいつは読むのが速い」

 

「それは...... 一理ありますね」

 

俺の言葉にマシュが撃沈する。 実際、俺も毎日行っているわけではないが、毎回本の貸し借りやってる気がする、しかも違うタイトルをだ。 なのでブックカバーとか本関係はなし、のような気がする

 

「ならギフト券とかはどうでしょうか!」

 

「アホかお前は」

 

リリィが自信満々に言ってきたが、俺はすぐに却下してやった

 

「なんでですか!ギフト券とかならそのお店お店という制約がありますが、お金を気にせずに買い物等ができるんですよ!」

 

「どこに子供の誕生日にギフト券送るやつがいるんだ、しかも同じ子供が。 受け取るほうが逆に気を使って遠慮するわ」

 

「そこは、盲点でした......」

 

別に親とかに送るならギフト券でもいいだろうが、子供が同じ子供にギフト券を贈る、なんて聞いたこともないぞ? 金持ちとかならわからなくもないが、普通に遠慮する

 

「マスターもわがままですね。 つまりマスターとしては相手が遠慮しない、それでいて邪魔にならないものを探している、ということでいいんですか?」

 

「まぁ、誕生日だし相手に変に気を遣わせるのもな。 普段から気を使っているような奴だし」

 

「そもそも誕生日プレゼントじたいそんな相手では気を遣わせるような気もしますが、まぁいいでしょう。 となると、身に着けるものなんていかがでしょうか? 料理をするかはわかりませんがエプロンとか、キッチンミトンとか?」

 

「え、でもさそういうのって汚れとか気にしないかな? なんかせっかくの誕生日にもらったのにとか」

 

俺がそう言うと、何故か三人がうわー、こいつないわーみたいな顔をし始めた。 あのさ、地味に傷つくんだけどそんな顔されたら。 ため息をつき、三人は俺のことを攻撃し始める

 

「はぁ、マスターそんなことを言ってたらもう何がいいのかわかりませんよ?」

 

「はぁ、確かに相手を思いやるのは大事ですが、それを気にしていたらプレゼントなんてできませんよ?」

 

もはや俺のライフはゼロに近いよ...... 恐る恐る玉藻の言葉を待つと

 

「はぁ、マスターめんどくさいです......」

 

「グフッ......」

 

その言葉に俺は胸を押さえ膝をつく。 いや、確かにメンドクサイかもしれないけどさ、胸の奥にしまってくれてもいいんじゃないかな? もはや大打撃なんですが......

 

「さてマスター、好きに選んでください。 一応意見は言いますから」

 

玉藻に手を引かれ立たされる。 俺はとぼとぼとショッピングモールを歩き始めた

 

--------------------------------------------

 

さっきの出来事はいまだに心が痛いが、それを参考に汚れない身に着けるもの、ということでアクセサリーを中心に見ていた。 というか、さっきのダメージが大きいせいか、うまく考えられないだけなのだが

 

「うーん、なんかこれだっていうものがないんだよな」

 

「マスターしかそのお友達のことを知らないわけですし、私たちは意見をはさめません。 マスターのセンスにかかってますので」

 

地味にプレッシャーをかけてくる玉藻だが、実際あったことがあるのは俺だけなので何も言い返せない。 それにしてもアクセサリー関係の店ももう何件も回ったのだが、いい加減疲れてきた。 だからと言って適当に選ぶわけにもいかないのだが。 次の店に向かって歩いている途中、露店が目に入る。 どうやら手作りのアクセサリー販売みたいだが、暇つぶしに見ることにする。 色々なアクセサリーがあるようだ。 ネックレスやブレスレット、それに名前とかを掘るサービスとか。 手作りを売りにしているようだが。 その中の一つを手に取る。 剣十字がモチーフなのか、それらしい意匠が施されている。 色は金色と少し派手だが、まぁいいだろう。 値段を見てみると手ごろな値段で、ちょうどいいだろう。 これをはやてのプレゼントとして、購入する

 

「マスターマスター、値段が高いものは相手が遠慮するってさっき言ってませんでしたか?」

 

「そこまで高くないだろう」

 



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第五十二話 静かに動き出す物語

プレゼントを買ったのはよかったのだが、俺は重大なことに気が付いた。 急な任務が入ったのは別にいい、別にプレゼントを渡せばいいからな。 なのに、こういうときに限って八神さんは図書館に来ない。 もう図書館も閉館時間になり、俺は夕飯の買い物に出ていた。 それにしても何とも間の悪い...... なんか、プレゼントって誕生日の後に渡したら台無しなような気がする。 いや、本当に外せない用事があってとか言うなら別だが。 ううーん、その場合でも前もって用意しとくのが普通だしな。 なんて考え事をしていたのがいけなかったのか、予定よりも時間がかかってしまっていた。 玉藻に怒られることを覚悟して、俺は家へと帰った

 

--------------------------------------------

 

それが起こったのは夜、俺はかすかに感じた魔法の反応で起きた

 

「なんだ、こんな夜中に......」

 

時計を見れば、時計の針は短いほうも長いほうもてっぺんに来ており、ちょうど日付が変わったところだった。 ということは、八神さんの誕生日になったわけで、少し申し訳ない気持ちになった。 いまだに続いている魔法の反応に憂鬱になりながら、着替え始める。 流石に放っておいて何かあったら嫌だし、確認するぐらいならと軽い気持ちだった

 

「ペイル、ハサン」

 

「・・・・・・」

 

「ここに」

 

珍しいことにペイルが返事をしない。 それを少しおかしいと思いつつ、こんな夜中に呼びかけに応じてくれたハサンに礼を言う

 

「すまないなこんな夜中に」

 

「いえ、マスター殿の呼びかけに参じたまでです」

 

「ありがとう。 それで、ペイルはどうした?」

 

「・・・・・・マスター、このかすかに感じている魔力、確かめに行くんですか?」

 

「何言ってるんだお前は? 当たり前だろ?」

 

「・・・・・・」

 

それっきり黙ってしまうペイル、俺とハサンは首をかしげながら窓を開けベランダの柵に足をかける

 

「さて、今回はさっきペイルが言ったようにかすかに感じる魔力の調査だ。 もしかしたら管理局の力を借りることになるかもしれないからな」

 

「了解です」

 

「行くぞ」

 

ハサンに声をかけ出発する。 屋根を伝い、時には電柱の上に登ったり。 様々なルートを経て、かすかに感じた魔力に迫っていく。 だが、途中で魔力が感じられなくなってしまう。 だが、あれだけ長く漏らしていたのだ、ペイルによって場所はつかんでいる

 

「ペイル、ナビゲート頼む」

 

「・・・・・・」

 

「ペイル?」

 

いったん止まり、待機状態のネックレスを取り出す。 だが、相変わらず反応はない。 俺とハサンは顔を見合わせ、もう一回ペイルを呼ぶ

 

「ペイルライダー」

 

「・・・・・・マスター、悪いことは言いません戻りましょう」

 

「何を言ってるんだお前は? 魔力を使うやつがいる、しかも今まで感知したことがない反応だぞ? 俺や雑種が原作に介入してるんだ、細部が違ってきてる。 ならその面倒を見るのも、俺の仕事だ」

 

「それによって日常が壊れるとしても、ですか?」

 

「本当に何を言ってる、ペイルライダー」

 

今までこいつはこんななぞかけのようなことを言ってきたことはない。 どっちかと言うと、俺の指示には従って、時には助言をくれるような存在だった。 なのに、なんでこんなことを言うんだ?

 

「ペイル」

 

「・・・・・・ナビゲートを開始します」

 

ようやく開始されたナビゲートに従って進むと、一軒の家に着く。 何の変哲もない二階建ての家だが、どういうことだ? 少し離れたところからハサンと家の様子をうかがう

 

『特に変わったところはないな』

 

『そうですね、普通の二階建てですな。 ですが油断なさらぬように』

 

『それはもちろんだが...... 中の様子が知りたいな、軽く石でも投げるか?』

 

『それだと割れる可能性があります。 私がノックしてきましょう』

 

隣から気配が離れる。 たぶん言った通り、ハサンが窓をノックしに行ったのだろう。 しばらくして、警戒するように窓が開けられる。 ピンク色の髪をした女性が窓を開ける。 だが俺はそれよりも、カーテンを開けたときに見えた知り合いの顔にがくぜんとした

 

「八神、さん」

 

おかしい。 あの子からは魔法の感じがしなかった。 うまく隠すにしても、四六時中隠していたのか? なら、なんでこの前に起こったジュエルシード事件に介入しなかった。 情報がうまくまとまらない

 

「どういう、ことなんだ?」

 

「マスター殿?」

 

俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、ハサンが俺を揺らす。 それにより少しは動揺が取れたが、まだ動揺していた。 八神さんがイレギュラー? いや、それなら俺たちに突っかかってきたはずだ。 そうじゃないなら

 

「まさか。 ペイル、お前は知っていて」

 

「・・・・・・」

 

沈黙、つまりは肯定ということだろう。 いや、そもそも八神はやての時点で気が付いていないとおかしかったんだ。 原作、魔法少女リリカルなのはA'sの重要人物。 闇の書の主であり、最後の夜天の主。 そして闇の書が目覚めるのは

 

「六月四日、深夜......」

 

「マスター殿?」

 

俺の雰囲気が変わったことが分かったのか、ハサンは遠慮がちに声をかけてくる。 それに俺は力なく手を上げて答える。 そうか、そういうことだったのか。 ペイルがあの時声をかけてきたのも、俺がどこかで聞いたことがあると思ったのも

 

「ペイル、お前は分かっていたんだな、いつかこうなることを」

 

「・・・・・・すみませんマスター。 違えばいい、そう思って声をかけるのをやめたのですが」

 

「いや、お前の責任じゃない......」

 

俺は屋根から飛び降りる。 ハサンは俺の後ろをついてきているようだ。 そして件の、八神はやての家の前にたどり着く

 

『マスター殿?』

 

『・・・・・・』

 

何故これがここにあるのかはわからない、俺自身も驚いていたがそれを取り出す。 メッセージを添え、ポストへと入れる。 そして、家の方に振り向き

 

「さよなら、八神さん」

 

そう言って走り始める。 ハサンはその後ろをついてきていた

 

--------------------------------------------

 

「なにか、あったのか?」

 

「何がだ?」

 

クロノと会うと開口一番でそんなこと言われた。 本当に意味が分からないのだが

 

「いや、疲れたような顔をしているからね」

 

「あー...... 昨日中々寝付けなくてな、遅くまで起きてたから」

 

「はぁ...... 体調管理はしっかりしてくれ」

 

「すまん」

 

クロノに思いっきりため息をつかれた。 本当に呆れられているのか、それとも俺が何かを隠しているのがばれているのか。 たぶん半々かな。 それでもこいつは聞いてこない

 

「気を取り直して、行くぞ」

 

「あぁ」

 

こうして、俺とクロノの任務は始まった

 

 

 



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第五十三話 再始動

~はやて視点~

 

六月四日、これは私こと八神はやての誕生日。 いつもなら、変わらない日常を過ごすはずだった。 だが、今年はちょっと違う。 神木理樹君、図書館で会うようになった仲やけど彼が祝ってくれる、そう思ったんや。 本人はめんどくさがっているように見えてマメで、こういうイベントごとは外さないと思ったから。 もちろん短い付き合いやから、アクションがない可能性があるけど。 でも、それ以前の問題になってしまった。 闇の書、私が物心ついた時から傍らにあった本は、そういう名前らしい。 しかもただの本やなくて、魔導書と言うものらしい。 普通の人に言ったら何を馬鹿なことをなんて言われそうやけど、現実や。 昨日、いや正確には今日の深夜、本から四人の人が出てきた。 守護騎士、ヴォルケンリッター、闇の書の守護騎士らしい。 と言っても、私はいきなりのことに目を回して気絶してしまったけど。 説明はその日の朝、つまり今してもらっているというわけや。 闇の書はリンカーコア、つまり魔法を使うのに大切な器官を大量に蒐集することによって人知を超えた英知を手に入れることが出きりらしい。 でも私はそんなものいらない。 確かに足は動かなくてお父さんもお母さんもいないけど、私は今の生活で満足している。  さて、幸い貯金はおじさんのおかげで大量にある。 まずは新しく増えた同居人のための服やな。 みんなのスリーサイズや身長を測り、外に出る

 

「あれ?」

 

「どうかされましたか、主はやて」

 

「外で主はやめてな? いや、ポストに何か入ってるみたいやから」

 

桃色の髪の女性、ヴォルケンリッターの将、烈火の騎士でシグナム。 少々というか、かなり一般常識がないから一苦労やけど。 ポストを見てみると。何かが入っておりシグナムに取ってもらう。 見ると箱みたいやけど、裏返してみるとメッセージカードが。 差出人も見ると神木君みたいやけど...... 何故家を知っているか疑問に思いながら、カードを見ると。 まず誕生日おめでとう、言葉で申し訳ないけど今日は予定があるからさ。 それと、しばらく用事で外すから図書館には行けない。 さよなら、八神さん

 

「なんや、これ......」

 

「主?」

 

シグナムがなにかいっているようやけど、頭には入ってこない。 なんやこれ、まるで、まるでもう私の前に姿を現さないみたいな手紙やん! 思わず手紙を握りつぶすけど、今はどうすることもできない。 気持ちを切り替えて、誓う。 次に会ったときにぶん殴る!!

 

~はやて視点 end~ 

 

--------------------------------------------

 

「起きろ、起きぬか」

 

その声に目を覚ます。 確かベッドで寝ていたはずなのだが、俺は地面に横たわっていた。 周りを見回せば、そこには圧倒的存在感を持った存在が。 この感覚は英雄王に似てはいるが、視覚的にも存在的にもこちらのほうが圧倒的だ。 いや、比べるのは英雄王に失礼か。 体を起こし、立ち上がる。 首を垂れなかったのは、何故だろう、自分でもわからない

 

「やっと起きたか。 まったく」

 

「お前は誰だ」

 

知らず知らずのうちに口調が荒くなる。 玉藻に似てはいるのだが、いろいろと違う。 それに、こいつはどの存在より邪悪なのもわかるが、口が悪くなる

 

「くくっ!ハハハハハハ!!本能的に私がどのような存在かわかっているのにもかかわらず、それでも態度を変えぬか。 大した人間だ。 だが図に乗るな、貴様など消し去るのは簡単だ」

 

笑ったと思えば、殺気を向けてくる。 その殺気は圧倒されるもので、本当に寿命が縮んでいる感覚がするが、それでも睨み返すのはやめない

 

「お前は誰なんだ、答えろ!」

 

「なるほど、根性だけはあるようだな。 アレが力を貸してほしいといったから見定めようと呼んだが、気に入ったぞ貴様。 我は貴様の元にいる狐の本体ともいえばいいか、白面金毛九尾の狐だ」

 

白面金毛九尾の狐。 日本三大化生。 玉藻の大本。 俺が気に入らない理由もわかった、こいつは神の力の一部を持っているからだ

 

「理解が速いな。 あの阿呆にも見習ってもらいたいものだ」

 

「何故俺をここに呼んだ。 玉藻に頼まれたと言っていたが」

 

「その通りだ。 貴様を見定めつまらぬものなら消そうと思っていたが、気に入ったからな特別に力を貸してやろう」

 

「・・・・・・・」

 

あのクソと同じ神ということだから信じられはしないのだが、俺一人の力ではどうにもできないのは事実だ。 ここで突っぱねたりしたら、玉藻にも申し訳がない。 たぶん、玉藻自身ここに来るのは嫌だったに違いないのだ。 くだらないことでも相談に来る玉藻が、今回は相談に来なかったのだ

 

「我としてはどちらでもよいのだ、人間」

 

「・・・・・・力を貸せ、白面金毛九尾の狐」

 

「いいだろう、愚者。 なら話は終わりだ」

 

意識がだんだんと遠くなる。 白面金毛九尾の狐は俺を見て笑っていた。 笑いたきゃ笑え、俺はなんでも利用すると決めたんだ

 

--------------------------------------------

 

目が覚める。 寝汗がすごかったのか、服が肌にくっついて気持ちが悪い。 冬だというのにこんな思いをするとは思わなかった

 

「マスター? あ、目が覚めてましたか」

 

「玉藻か、おはよう」

 

そっとドアを開けた玉藻は、俺を見た瞬間妙に残念そうな顔をする。 そんな玉藻を気にせず、俺は挨拶を返す。  どうせツッコミをしたところで、ろくな結果にならないのは目に見えている。 とりあえず、シャワーを浴びようとベッドから出て

 

「みこ?」

 

「あれ?」

 

玉藻の頭をなでていた。 なんか自然に撫でているのだが、何故だろう?

 

「あの、マスター?」

 

「わからんが、しばらく撫でていいか?」

 

「は、はい」

 

恥ずかしそうに身を縮こませる玉藻にほっこりしつつ、カレンダーを見る。 十二月二日、どうやら今日から原作、A'sが始めるらしい。 何故そう思ったかと言うと、うざったい視線が復活したからだ

 



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A's 開始
第五十四話 Worsening of the situation


玉藻をひとしきり撫でた後、シャワーを浴びて居間に入る。 そこには玉藻、リリィ、マシュ、ハサンがおりすでに席に座っていた

 

「毎回言ってるけど、別に食べてていいんだぞ?」

 

「なら私たちの返事はいつもと同じですね」

 

リリィがそういうと全員が頷いている。 別にそれくらいで目くじら立てるようなことはしないのだが、いつも聞いてくれない。 どちらかと言うと待たせているほうが申し訳ないのだが、もはや恒例なので言っているようなものだが。 俺も席に座り、ようやく食べ始める

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

全員揃って朝ご飯を食べ始めた。 いやはや、朝からリリィはよく食べるものだ。 マシュや玉藻は普通で、ハサンは少食だがリリィは本当によく食べる。 相変わらずリリィに関しては玉藻のお小言が発生しているが、ほぼ玉藻も諦めている。 少しリリィの食べっぷりに充てられてか、そこまで食べていないのにおなかが一杯になってしまう

 

「ご馳走様」

 

「マスター? いつもより食べる量が少なくありませんか?」

 

「あー、まぁ、その、な?」

 

リリィを見ると玉藻は納得してくれたようで、ため息をついていた。 食後のお茶を飲んでいると、同じく食べ終わったハサンが話しかけてきた

 

「マスター殿、気になっていたのですがその服装ということは?」

 

「あぁ、復学する」

 

俺が今着ている服は、学校の制服であり、みんな気になっているようだが聞いてこなかった。 どちらにしろ、お茶が飲み終わったら言うつもりだったが

 

「復学、ですか?」

 

マシュが苦い顔で聞いてくるが、やはりあまりいい感情がないようだ。 俺は結界を張り、いうことにした

 

「あぁ、どっちにしろリンディさんからは学校に通えってうるさく言われてたしな。 それに視線が復活してる」

 

俺が空をにらみながら忌々しげに言うと、空気が重くなる。 何とかするとはいえ表面上は踏み台として生活しなけれなまらないし、どっちにしろ学校には通わなければならない

 

「玉藻、復学の連絡頼む」

 

「わかり、ました」

 

結界を解除し、玉藻にそう頼むと苦虫を嚙み潰したような顔で返事をする。 いや、そこまでの表情しなくても。 そんなことを思いながら、学校の準備をするために部屋に戻る。 どうせ今回は介入するつもりがないのだ、どうなろうが知ったことではない

 

--------------------------------------------

 

久しぶりの学校ということで、職員室によって復学のことを伝えると、連絡が言ってるのにもかかわらず驚かれた。 まぁ、半年以上も学校に来なかったのだ、驚かれもするのか? 先生との会話を早々に終え、教室に入る。 クラスメイト達がこちらに注目するので挨拶を返すと、近づいてくる。 まぁ、話しかけてくる内容は休んでいる間何処に行っていたかだ。 異世界に行ってましたー、なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、世界を転々としていたと言ったが。 ある意味嘘ではない。 そんなわけで久しぶりに会ったクラスメイトから質問攻めにされているわけだが、どうやらまだあの四人は来ていないようだ。 それはそれで助かるが、きたらきたで面倒だ。 ポイント集めはないとはいえ、アクションを起こさなければ死んでしまうわけだ。 本当に忌々しい

 

「おはよー、って何の騒ぎよ」

 

「みんな集まってるみたいだけど......」

 

「何かあったのかな?」

 

「・・・・・・」

 

雑種だけはこの人混みでも気が付いたのか、俺をまっすぐにらみつけていた。 気持ち悪い、お前なんかにわかられても嬉しくねーよ。 他のメンバーは気が付いていないようだが、気が付かれるのも時間の問題だろう。 先にこちらから声をかけることにした。 どこか期待された目を向けられているし、口々に嫁が来たぞとかいわれてるしな。 ある意味怖いはこの空気

 

「久しぶりだな嫁たちよ!我がいなくて寂しかったか!」

 

俺が声をかけようと移動しようとすると、モーゼのように道ができたのでそこを突っ切りながら声をかける。 そして俺の声と俺が見えた瞬間、苦い顔になった三人。 期待通りの反応ありがとう。 それに構わず声をかける

 

「いや、みなまで言わなくていい!寂しかったのは当然だろうからな、俺の胸に飛び込んでくるがいい!さあ!」

 

久しぶりだっていうのにこういうことがスラスラ出てくるあたり、口が達者になったようだ

 

「・・・・・・」

 

「雑種、俺は今は機嫌がいい。 そこをどけば許してやる、そこをどけ」

 

無言で三人の前に立つ雑種にそういうが、どく気配がない。 まぁ分かり切っていたことだけど、本当にうざいなコイツ。 久しぶりだからなのか、余計にそう感じる

 

「もう一度言う、そこをどけ!」

 

「・・・・・・」

 

雑種はただにらみつけるだけでどく気配はない。 俺が一歩踏み出すと、チャイムが鳴る。 まぁ、ここまでは計算通りだ、後は捨て台詞の一つでも吐いて退散すればいいだけだ

 

「ちっ、命拾いしたな雑種。 今度の休み時間は甘えさせてやるからな、嫁たちよ!」

 

先生が入ってくる前に自分の席に退散し、先生を待つ。 休学してたから机とかないかなーなんて思っていたが、普通にあった。 それか、先生が俺の連絡を受けて用意してくれたとか? まぁ、どっちでもいいか。 出欠席確認をする先生に返事をしつつそう考えることにした

 

--------------------------------------------

 

「まさかここまでとはな」

 

いたくなる頭を押さえながら、俺は帰路についていた。 頭の痛くなる原因は、雑種だ。 アイツ、にらみつけるだけではなくごく小さく殺気までぶつけてきやがった。 しかも、前より過剰反応していた。 俺が声をかけようとすれば必ず間に入るし、無視して声をかけようものなら殺気を出しながら遮ってくる始末。 前はここまで過剰じゃなかったような気がするが...... そして極めつけは、他のクラスメイトに用があるとき、高町なのは達の真横を通ると守るように立ちはだかることだ。 前はここまででもなかった、これは確実だ。 おかげで今日何回もその場面があり、高町なのは達が少し驚いていた。 クラスメイト達もあいつの様子がおかしいと思い俺に聞いてきたが、そんなもの俺が知るわけがない。 なので俺はその対応に頭を悩ませていた。 別に雑種に嫌われようがアイツの評判が悪くなるのはいいが、俺の評判が悪くなるのは勘弁してほしい。 高町なのは達の評価は最悪だろうが、クラスメイト達の心証を必要以上に悪くする必要はないのだから。 今日も少し勘違いされそうになったため、その都度クラスメイト達に説明していたが。 男連中はアイツをよく思わないやつも多いため、そこまで気にしてはいなかったのだが、女子連中の半分はアイツの肩を持っている。 まぁ、高町なのは達たちにあんなことをしているのだからそうなっても仕方ない部分はあるのだが、それ以外は別に普通な俺だ。 なので女子の半数には理解があるのだが、その理解がない半数にあることないこと憶測でしゃべられて、そのしりぬぐいを俺がしていたのだ。 本当に疲れた。 大体の予想はつく。 大方、フェイト・テスタロッサが何か吹き込んだのだろう。 雑種がフェイト・テスタロッサと個人的なビデオレターをしていたのは知っている。 たぶん、その時になんか吹き込まれたか、あるいは。 俺は空をにらむ。 あの屑野郎が何かを吹き込んだかだ。 まぁ、どっちも些末なことか。 俺は家のカギを開け、家の中に入る。 時間があるとはいえ、いろいろと用意しないといけないことがある。 もちろん、夜に向けてだ



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第五十五話 喜劇、開園

「マスター」

 

「わかってる」

 

次の瞬間、景色が変わる。 封鎖結界、範囲を探るとこの海鳴の街を丸々一つ分覆うほどだった。 まぁ、この街で魔力反応出たからなんだろうが、随分大雑把に範囲指定したこと。 俺はベットから起き上がり、ペイルを首にかける。 下に行くとハサンを除いた三人が、俺のほうを向く

 

「マスター、分かっていると思いますが」

 

「あぁ、結界だろう? 玉藻はもしものことがあるといけないからな、家で待機だ。 マシュとリリィは霊体化して俺についてきてくれ、イレギュラーがあったら対応してもらう」

 

「わかりました」

 

「マスター、お気を付けください」

 

「・・・・・・あぁ」

 

心配そうな玉藻に見送られ、俺は家を出る。 どうにも嫌な予感がするのだ、何もなければいいのだが。 身隠しの布を被り、建物を飛び移っていく。 派手な光や戦闘痕、ハサンから連絡がないからまだ始まってはいないのだろうが、時間の問題だろう

 

『マスター殿』

 

『ハサンか』

 

『戦闘が始まりました』

 

噂をすればなんとやら、どうやら戦闘が始まったようだ。 ハサンから教えてもらい、その場所まで急ぐ。 近くまで来たのでひときわ高いビルに上り、戦闘の様子を見る。 どうやらシューターを当て敵の動きを止め、その隙に砲撃をしたようだ。 だが避けられてしまい、帽子を焦がされた少女は怒ったようだ

 

『アレがカートリッジシステムか』

 

『はい、予め魔力を込めたカートリッジをデバイス内で炸裂させ、瞬間的に爆発的な魔力を得るシステム。 素人が使えばただの自爆装置になりますが、彼女らのような騎士、それも闇の書の騎士ですからね、恐らく今の騎士たちと比べ物にならないほど強いです』

 

『・・・・・・』

 

実際、カートリッジを使用した攻撃は強力で、紅い少女のデバイスは変形し、ブースター付きハンマーの一撃は高町なのはのプロテクションを破り、レイジングハートにまで攻撃を与えていた。 ハンマーの一撃で高町なのはは吹き飛ばされ、ビルのガラスに激突し、そのまま中に入っていった。 それを追いかける紅い少女、主人公君はまだ登場しない

 

『マスター......』

 

マシュの心配そうな念話に俺はハッとする。 どうやら知らず知らずのうちに、手が白くなるほど握っていたようだ。 ゆっくりと手から力を抜く。 今回俺は介入する気はない。 クロノから話が来た時から介入するのは遅くはないし、それでいいと自分でも納得している。 いや、納得していたはずだった。 だが目の前で高町なのはが、いやなのはが傷ついている。 あれだけボロボロになって力も出ないはずなのにレイジングハートを紅い少女に向け、それでも可能性をつなごうとしている。 だが俺はどうだ? のうのうと安全圏から戦いを見て、イレギュラーがなければ介入するつもりもない。 アレだけのことをしでかして、アレだけのことをしておいてだ。 俺は

 

「俺は......」

 

不意に思い出したのはあの英雄王の言葉

 

『そして一番面白いのが、絶望を知って救いがないとわかっているのに、まだあの娘たちのために道化を演じるつもりか?』

 

道化を演じる。 たぶん英雄王はこの状況になるのを知っていた、そしてこれから俺がしようとしていることも。 ならいいさ、始めようじゃないか、哀れでくそったれな道化の劇、第二幕の始まりだ。 それまで頭の中をぐるぐる回っていたくだらない考えはきれいさっぱりなくなり、思考がクリアになる。 高町なのは達がいる階の外に身を躍らせれば、フェイト・テスタロッサが高町なのはと紅い少女の間に入っており、デバイスごと紅い少女を弾き飛ばしていた。 その足元に俺は、王の財宝から剣を数本射出する。 弾速は遅いから避けるのは楽ちんだが、全員がこっちを見て驚いていた

 

「おいそこの、プログラム風情が嫁に何をする」

 

これを今の時点で言ったら駄目なのだが、この達者な口は言ってしまうらしい。 そもそも、フェイト・テスタロッサの時もそうだったな。 俺が部屋の中に降り立つと、フェイト・テスタロッサは紅い少女を警戒しながら俺を警戒している。 そんなフェイト・テスタロッサを一瞬見ただけで、俺は紅い少女に向き直る

 

「聞いているのかプログラム」

 

「・・・・・・」

 

こちらを睨みつけてくる紅い少女を俺も睨みつける。 こんな状況になってしまったのだ、マシュとリリィに謝っておくことにした

 

『マシュ、リリィ、すまん』

 

『私は...... マスターのしたいようにすればいいと思います、その判断に私はついていきますから』

 

『気にしないでください。 こうなった以上、私とマシュは全力を尽くしマスターを守りますから』

 

『・・・・・・ありがとう』

 

俺が勝手に飛び出してったにもかかわらず、その判断を尊重してくれたマシュ。 俺を守ることを約束してくれたリリィ。 本当にいい家族を持った。  さて、そろそろこの硬直状態を終わりにしようか

 

「聞いているのかと、言っている!!」

 

王の財宝を展開、即射出すると驚いたようだったが、すぐに俺が作っておいた射撃の穴から外に逃げ出す紅い少女

 

「ぬっ!待たぬか!!」

 

それを追うように王の財宝を射出しながら追いかける。 正直言って、こういう使い方ってぶれるからあんまり使わないのだが、ここから紅い少女を離れさせるためにやっている。 窓から飛び出し、波紋の上に立ち剣を射出し続ける。 まぁ正面しか射出してないし、見切りやすいらしく、こっちに攻撃が飛んでくる

 

「うぉっ!?」

 

それをしゃがむことで回避する。 別にプロテクションや普通に飛んで避けてもいいのだが、そもそもそっち系の魔法はこいつらの前ではからっきしということになっている。 なのでこうしているわけなのだが。 するとようやくフェイト・テスタロッサが中から飛び出してきた。 すれ違いざまに邪魔しないでと言われたが...... 中を見るとユーノが高町なのはを治療していた。 接近戦をしているフェイト・テスタロッサがいるため王の財宝を撃つのをやめたが、どうも違和感を感じる。 フェイト・テスタロッサやアルフの連携がうまいのは分かるが、どうも実力を出し切れていない感じがする。 闇の書の騎士たちの目的は魔力の蒐集、そのためには殺しては意味がないのは分かるが...... それならカートリッジを使用して一気に勝負をつければいいだけだ。 まさか、カートリッジの残りが少ないのか? そんなことを考えている間に、紅い少女は捕まる。 捕まるのだが、嫌な予感は消えない

 

「ふっはっはっは!とどめを刺してやる!」

 

「ちょ、アンタ何やってるんだ!」

 

「っ!!」

 

剣先はつぶしてあるため当たったら気絶くらいはするかもしれない剣を射出する。 当然射線にはアルフやフェイト・テスタロッサもおり、俺の攻撃を避けなければならない。 避けた次の瞬間、フェイト・テスタロッサのいたところには剣が振り下ろされ、アルフがいたところには拳が振り下ろされた。 やはり増援。 その場にずっといるのは狙撃などの危険性があるから動かすために撃ったのだが、それが功を奏するとは思わなかった。 ついでに言うと、俺が射出した剣は紅い少女に届く前に新手によって叩き落とされた

 

「プログラム風情が、我の剣を叩き落とすな!」

 

「ふぅ、大丈夫か?」

 

俺の言葉を無視し、新手の剣を持った女性は紅い少女の拘束を解いていく。 もう一人の新手の男は、その前に立ちはだかる

 

「さっきから貴様らは、この我を無視しおって...... そんなに死にたいか?」

 

王の財宝をかなりの数展開し、いつでも撃てるようにする。 流石にこの数には驚いたようだが、剣を持った女性は冷静だった

 

「レヴァンティン」

 

カートリッジがロードされ魔力が高まる。 剣からは炎が噴き出し、剣を覆っていく。 どうやらこの騎士は炎の魔力変換質を持っているようだ

 

「プログラム風情がぁぁ!!」

 

「紫電、一閃!!」

 

剣を射出すると、剣を持った女性は大部分を叩き落し、男はプロテクションでガードしていた。 カートリッジシステムを使っていないのに固いが、質量の前には勝てないのか徐々にひび割れていく。 そこにフォローに入ったのが紅い少女だ。 カートリッジをロードし、耐えている。 この隙に動き出したのはフェイト・テスタロッサで剣を持った女性に向かい、バルディッシュを振るう。 だが、弾き飛ばされてしまう。 だが、この場から離すことは成功したようだ。 さっきユーノから全員に念話が来たのだ。 高町なのはを安全そうな場所に移動し、転送準備を始めると。 なので、この場から離そうとしている。 アルフは男に向かい、この場に残ったのは俺と紅い少女だけだ。 さて、どうするか

 

『こっちは何とか大丈夫そうだ、神木、今援護に』

 

「ええぃ、早くこんかフェレットもどき!」

 

移動はどうやら終わったようだが、俺的には絶体絶命だ。 今までも結構そうだったが、今回はやばい。 バリアジャケットを貫通する相手の相手にバリアジャケットを着ていない俺だ、今回は割とマジで絶体絶命だ。 ユーノが補佐してくれているおかげで空は飛べるが、それでも防御系は王の財宝から引っ張り出すしかない。 宝具の原点で通じはするだろうが、どの攻撃にどのぐらいのランクを当てればいいかわからない。 それをミスしようものなら死が待っている

 

「さーて、今までさんざんコケにしてくれたからな、ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「ほざけ、プログラム風情が!」

 

鉄球を飛ばしてくる紅い少女に剣を射出し応戦する。 正直言って縛りプレイをして勝てるほど楽な相手じゃないが、それでもやるしかない。 だが現実は甘くなく、剣の射出は回避され、鉄球は俺に迫る。 着弾するかに思われた鉄球はユーノのプロテクションによって防がれるが、その後に続く紅い少女のハンマーの一撃までは防げず、俺は王の財宝から盾を取り出す。 ガード自体は成功したが、魔法で強化された一撃に俺は耐えられず、吹き飛ばされてしまう。 後ろの建物にぶつかる瞬間プロテクションを展開したが、衝撃を全部回収しきれずに血を吐く

 

『神木!』

 

『我のことはいい!!結界は!』

 

思わず念話で返してしまったが、結界は破れないようだ。 追撃と言わんばかりにハンマーで迫ってくるが、二度も連続で受けてやる気はない。 その場からすぐに離れ、ほんのわずかな時間差で攻撃。 見る人が見れば、全部同時にやってるようにしか見えないが。 どっちにしろ射線には穴があり、そこから接近されてしまう。 俺は剣を取り出し切りつけるが、勢いに押されまた吹き飛ばされる

 

『ユーノ君、アルフさん、フェイトちゃん、神木君、私が結界を、スターライトブレイカーで破ります』

 

確かに結界を破れるだろうが、そんなことをすれば居場所がばれてしまう。 現に発射するために貯めた魔力は、目視できてしまう。 使いたくはなかったが、追尾式の剣を選び紅い少女に射出する。 いつものように避けて高町なのはの方に行こうとするが、追尾式の剣はそうさせず、やむなく迎撃を選んだようだ。 俺はその隙に高町なのはの方に飛ぶ。 大きい高町なのはの魔力に交じって、ごくわずかだが知らない魔力反応がした。 ようやく高町なのはの姿が見えるが、鉄球が迫ってくる。 スピードを落とすわけにはいかないし、ユーノの援護も期待できない。 俺は後ろに王の財宝を展開し、迫ってくる鉄球をことごとく撃ち落とした

 

「神木君!?」

 

俺が来たことにびっくりしたのだろうが、構ってる暇はない。 高町なのはのすぐ後ろに何かが展開され、そこから手が出始めていた。 たぶん命とかに別状はないのだろうが、魔力を抜き取るつもりだろう。 高町なのはを抱え、そのまま飛ぶ

 

「か、神木君」

 

「もう撃てるんだろ!早く撃て!!」

 

こんな状況で何を言ってるんだとも思うが、時間はないのは確かだ。 フェイト・テスタロッサが抑えられなかったのか、剣を持つ女性はこっちに向かってきているし、見覚えのない狼もこちらに向かってきていた。 件の手はなくなっていたが、展開されているものはそのままで、何があるかわからない。 この状況が分かったのか、高町なのははスターライトブレイカーを発射する

 

「スターライト、ブレイカー!!」

 

解放された大魔力は空に向かい何かにぶつかるがそれも一瞬で、何かを突き破り空まで向かっていく。 これで終わりか、そう思っていたが悪寒がした

 

『リリィ、マシュ、高町なのはを頼む!』

 

「きゃ!?」

 

高町なのはを放り投げ、後はリリィとマシュに任せる。 俺はそれどころではない。 俺の胸から腕が生えているからだ。 途端に息苦しくなるが、その腕をつかむ。 血が出てないところを見ると、多分そういう魔法なんだろうがその手のひらには小さな光が。 そして俺は理解する、これが自分のリンカーコアだと

 

「ふむ、こんなものしかないのか」

 

「誰だ、貴様は」

 

後ろから声がする。 おそらく俺がつかんでいる腕の男なのだろうが、返事はない。 後ろを確認しようとするが確認することはできなかった

 

「ガハッ」

 

腹に衝撃が走り見てみると、腹から腕が生えている。 正面を見ると仮面をした男が立っていた

 

「今ここで殺してもいいが、それをあのお方は望んでいない」

 

「だからせいぜい苦しめ」

 

「せいぜいあのお方を楽しませろ」

 

「「だって、お前はもう少しで死ぬのだから」」

 

両方の腕が同時に引き抜かれる。 倒れる俺の体、見上げれば同じ背格好で仮面をつけた二人の男。 どこかで見たことがある。 そう思いながら俺の意識は闇に沈んでいった

 



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第五十六話 戦闘後、目が覚めれば

すまない...... 書いてはいたんだが、予約投稿にするのを忘れていた...... 寝ぼけていたんだ、すまない......


どうも周りがうるさい。 ここは何処なのだろうか? それに真っ暗だが、どういうことだろうか? 答えは簡単で、俺が瞼を閉じているからだった。 瞼を開いて周りを見れば、目に入ったのはこちらを睨みつけているクロノ。 うん、最悪だ

 

「・・・・・・なぜ貴様なんだ執務官、嫁は?」

 

「はぁ...... またそれか君は」

 

開口一番互いに軽口を言い合う。 嫁云々はなしにしても、目覚めが睨まれてるというのは控えめに言っても最悪だと思うんだけど。 体を起こすと腹が少し痛いがそれ、以外は何も問題はなかった。 結界を張り、改めてクロノと話すことにする

 

「ようクロノ、状況は?」

 

「さっきの感じから察するに、監視が付いたようだな。 状況だが、君が怪我してリンカーコアを抜かれたのと、藤森がリンカーコアを抜かれたことか」

 

普通に話し始めるクロノだが、なんかおかしなことを聞いた気がする。 雑種がリンカーコアを抜かれた? 雑種はあの戦闘に参加していないはずなのだが、どういうことだ?

 

「待て待て待て、普通に流そうとするな。 雑種のリンカーコアを抜かれた? あの時、あの場には雑種はいなかったぞ? どこかで戦闘をしていた、ということか?」

 

「その通りだ。 本人はいまだに寝てるが、修復中のデバイスの情報だとなのはが戦闘を開始したころ、彼らもちょうど戦闘になったようだ」

 

「なんだそれ、かなり距離が離れてたのか?」

 

「いや、そこまで離れてはいなかったが、藤森が魔力を開放するまでもなく一撃でやられたんだ」

 

「えぇー......」

 

アイツの転生特典に未来視があったはずなんですが...... それが役に立たなかったということでしょうか? その後クロノに詳しい話を聞くと、結界が張られたのと同時に外に出た雑種は、剣を持った女性と男に遭遇したらしい。 そして戦闘。 街の被害をなくすために飛び上がった雑種だったが、まず男の方に突撃されそれをデバイスでガードしたのはいいが、剣を持った女性の攻撃にプロテクションで対応したらしい。 まぁそんなのが持つはずもなく、すぐに破られたがそこは未来視を発動していたのかすぐにデバイスでガードしたようだ。 だが相手が悪かった。 カートリッジをロードされ、あの紫電一閃にあっさりとデバイスは切り裂かれ、そのまま地面にたたきつけられて気を失ったそうだ。 なんとまぁ、お粗末な

 

「そういうわけで、リンカーコアは抜かれ、眠っているわけだ」

 

「えぇー...... 本当の役立たずじゃないですか、えぇー......」

 

「口調が変わってるぞ」

 

いや、それくらい呆れてるんだって。 力押しで役に立たなくなる未来視って...... いや、それ以上にアイツの自力がないだけか。 流石にそれは本人が鍛えるしかないので、俺がどうこうする問題じゃない。 それであのクソ野郎からペナルティーを受けようものなら、アイツを殺したくなるものだが。 まぁ、それでペナルティーがあるなら、とっくの昔にあったはずなので多分ないだろう

 

「まぁいいや、状況は分かった。 他は?」

 

「フェイトはそんな状態の藤森を見て悔し涙を流していた。 自分に力があれば、なのはや藤森を救えた、ってな感じに、ね......」

 

多分、クロノはフェイト・テスタロッサの面倒を見ていた分、フェイト・テスタロッサが悔しがるのを見てやりきれない気持ちなのだろう。 まぁ結局は、雑種の自業自得なのだが。 高町なのはに関しては、まぁ俺も悪いのだが

 

「それで、高町なのはは?」

 

「なのはは...... なのはもひどい状態だった。 今はある程度落ち着いてるが。 君が放り投げて誰かが受け止めたみたいだが、その時君から腕が生えているのが見えたらしくてな。 ここに運ばれたときは、泣き叫んで大変だった。 君の手術が無事成功したと言ったら、疲れたのか眠ってしまったがね。 今度は目が覚めたら覚めたで、君の面会をして、目覚める直前までいたんだけどね」

 

「だからうるさかったのか」

 

「まぁ、そういうことさ」

 

クロノと一緒にため息をつく。 流石にあの場面を見られていたとなると、泣くぐらいはあってもそこまでひどいとは思わなかった。 マシュとリリィにお願いしたが、そこまでは気を遣えなかったか

 

「さて、状況確認はここまでだ。 あの襲撃事件のことを話してもらいたい」

 

「了解だクロノ執務官」

 

意識を切り替える。 流石にここで誤魔化しを言うほど腐っちゃいないので、正直に話す

 

「まず事の発端は夜だ。 いきなり結界が発動されてな、通信をしようにも封鎖結界だったらしく何をやってもダメだった。 監視がある以上表立って動けない俺は、ばれないように高町なのは達を見に行こうとしたわけだが、大きな魔力を感知した。 現場に行けば紅い少女に高町なのはがやられていたわけで介入。 ちょうど同時に合流したフェイト・テスタロッサが紅い少女を拘束。 だが嫌な予感がした俺はレアスキルを発動して、刀の刃をつぶした剣をフェイト・テスタロッサ、アルフ、拘束した紅い少女に向かって射出。 敵の増援の到着ってわけだ。 そこからはそれぞれ分かれて戦闘。 俺の補佐に高町なのはを安全な場所に移したユーノが合流。 俺の補佐をしながら転送準備をしてもらうが、封鎖結界の解析が進まず時間だけが立った。 そのまま戦闘を進めていると高町なのはが結界を破るという念話が入り、スターライトブレイカーが発射されるまで死守。 だが増援の可能性もあって、俺が高町なのはの方に向かうと空間魔法かわからんが高町なのはの真後ろに手が出ていた。 俺はその場から急いで離脱させ、スターライトブレイカーを発射させ結界を破壊。 その後は知っての通りだ」

 

「なのはを受け止めた二人組について知ってることは?」

 

「そもそもいたことすら知らないんだが......」

 

本当は知っているが、これをそこで言う必要はないだろう。 ひとしきり説明すると、クロノは難しい顔のまま固まる

 

「どうした?」

 

「たぶん、今回の事件はアースラで担当することになると思う。 君には申し訳ないが、裏で動いてもらうことになると思う」

 

まぁそうなるだろう。 監視があるから表立って動けない、しかもほとんどのアースラクルーには秘密なのだ。 そこまで仲は悪くないと言っても、いらぬ情報が高町なのはたちに漏れるのは避けたいためだ

 

「そういえばデバイスの方は?」

 

「そっちもひどい状況だ。 今ユーノに自己修復をかけてもらってはいるが、基礎フレームのほうが済み次第パーツの交換もしなければならない」

 

「そうか」

 

それだけ聞くと俺は再度横になる。 そろそろ腹の痛さが限界だった

 

「すまなかったな目が覚めたばっかりなのに」

 

「気にするなって」

 

クロノはそれっきり黙ってしまう。 部屋を出ていくわけでもないし

 

「「・・・・・・」」

 

無言の時間が過ぎる。 流石にこのままずっといられるのも面倒なので、話しかけることにした

 

「まだ何かあるのか?」

 

「・・・・・・」

 

「未来予知か?」

 

「っ」

 

「図星か」

 

この状況だ、少しでも情報が欲しいのだろう。 ならいつものように、ヒントともいえないものを与えるだけだ

 

「まぁ、おぼろげだが闇の書関連で。 夜天の書と言う単語を聞いたような気がする」

 

「この後の襲撃は?」

 

「あると考えていいだろう。 どこかまでは分からないが。 あともう一つ、ギル・グレアムには気をつけろ」

 

「どういうことだ?」

 

クロノが目を細めて聞いてくる。 確かにクロノからしたら恩人でもあるが、俺からしたら碌な人間ではない。 八神はやても感謝はしているが、八神はやてを犠牲にして闇の書の封印を考えていたぐらいだ。 これで、牽制にもなるだろう



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第五十七話 これから、そして.......

あの襲撃の次の日、俺は家でまったりとしていた。 リンカーコアは抜かれたが、元々俺の魔力は微々たるもの。 王の財宝やサーヴァント運用は別口の魔力なのだ、そこまで問題ではない。 目下問題なのは

 

「あの仮面の男たち、何だったのでしょうか?」

 

「マスターの記憶の中に、あんな人たちはいましたか?」

 

マシュとリリィが聞いてくる。 昨日のことは直前まで一緒に見ていたのだ、疑問に思うのは当然だ。 だが、俺はその質問に首をひねる

 

「見たことがある、といえばあるんだが、登場はもう少し先のはずなんだ」

 

「先?」

 

「どういうことでしょう、マスター」

 

「どういうことも何も、もっと先出てて来るはずなんだ俺の記憶の中では。 俺や雑種の介入で未来を変えた、ということにしても今回の戦闘で出張ってくる必要がない」

 

あの仮面の男、いや正確には女か。 使い魔の女たちが出てくるのはもう少し先。 ギル・グレアムの使い魔で、リーゼロッテとリーゼアリア。 本局で動けない提督の代わりに動き、守護騎士たちを助け最終的には八神はやてごと闇の書を封印しようとした奴らだ。 今回出張ってくる必要は感じられない、そう思たのは本当だ。 リリィやマシュと言ったイレギュラーはいたものの、高町なのははほぼ戦闘続行不可能、フェイト・テスタロッサもあのまま続けていればやられていたのは確実だ。 雑種はどうでもいいとして、あのまま合流されれば本気を出せない俺は、物量に押しつぶされていた。 そもそも、雑種を蒐集したのだから今回はいい結果のはずだ。 アレでも、総魔力量は高町なのは、フェイト・テスタロッサを超えるのだ。 なので、たとえ二人に逃げられたとしても邪魔が入らないときに回せばいいはずだ。 わざと陽動を起こし、そっちに回るようにしてもいいわけだし。 なので、今回その猫姉妹の介入ではないと推測できる。 ならあれは誰なのか、ということになるのだが大体予想はついている。 あのお方と言う仰々しい言い方に、俺が死ぬことを知っている。 答え合わせをするのもバカバカしい、だが情報は共有しないといけない

 

「だが今回の一件、誰の差し金かは分かる」

 

「・・・・・・神、ですね」

 

吐き捨てるように言ったのは玉藻だ。 さっきの言い回しで気が付いたようだが、流石としか言いようがない。 それを聞いて、一気に顔が険しくなるマシュとリリィ。 ちなみに、ハサンはこの場に居ない。 今日も今日とて高町なのはやフェイト・テスタロッサの監視だ。 さっき来た念話によると、テスタロッサファミリーとハラオウン家は高町なのはのうちの近くのマンションに引っ越してきたようだった。 別に、俺には関係がないので気にしないでおく。 そんなわけで、結果はさっそく出てしまった

 

「目的は俺を痛めつけ、最後に殺すことだ」

 

「そんな!」

 

「そんなことが許されるはずが!!」

 

「落ち着け」

 

激昂するリリィだが、これが許されるのだ、神なのだから。 だが、死んでやるかは別問題だ。 俺だって死ぬつもりはないし、ただで死ぬ気はない。 それはさておき、今後のことについて話し合わなければならない

 

「これからだが、ハサンを除くみんなには護衛についてもらいたい。 俺もだが、高町なのはにテスタロッサファミリーに、だ」

 

「マスターは分かりますが、何故テスタロッサまで?」

 

玉藻が気に入らないという表情で聞いてくるが、こればっかりは言わせてもらう

 

「前回の件でこっちもかなり迷惑をかけたしな、その恩返しだ。 それに原作知識がこれからも役に立つかわからない、一応な。 ハラオウン家に関しては、自分らで身を守ってもらう。 一応警告はしておくつもりだが」

 

「わかり、ました」

 

納得は言っていないのだろうが、一応了解してくれる玉藻。 他の二人を見るが、一応は頷いてくれた。 今回、八神はやては一応大丈夫だと思うが、ハサンをつけておくことにする。 これからのことを決めるため、もっと詳しい相談に俺たちは入った

 

--------------------------------------------

 

~なのは視点~

 

昨日の襲撃事件の次の日、フェイトちゃんが海鳴の街に引っ越してきました。 本当は嬉しいはずなのに、素直に喜べない私がいる。 神木理樹君。 私を助けて傷ついた。 レイジングハートはボロボロで、それでもみんなを逃がすために、結界を破壊するために力を貸してくれた。 私自身も傷ついて注意力散漫になっていたというのもあるけど、後ろからの攻撃には気が付けなかった。 なのに神木君は紅い子と戦いながらもそれに気が付き、私を救ってくれた。 その時私は抱き上げられてになんだか気恥しかったけど、神木君の声で正気に戻りスターライトブレイカーを撃った。 私とレイジングハートのスターライトブレイカーは見事に結界を破り、終わったと思った瞬間私は神木君に投げ捨てられた。 でもそれは私を巻き込まないためで、投げられて黒い騎士さんなのかな? にキャッチされたときに私が見たのは、神木君の胸から手が生えていたところだった。 その手のひらには小さな光があって、そこから私の視界はふさがれた。 気が付いた時にはことが終わって、私は本局で治療してもらった後だった。 その時に聞いた、神木君はお腹を貫かれて重傷になり手術中だって。 そこに向かうとクロノ君とユーノ君が椅子に座ってうつむいていた。 私はそれがなんだか嫌で、扉の前に立ち尽くしていた。 直後手術が終わり、神木君はベッドに寝せられていた。 それを見て涙があふれて、気が付いた時にはクロノ君に羽交い絞めにされてた。 これは後になって聞いたけど、私は錯乱して神木君に抱き着こうとしていたみたい。 私は覚えてないけど。 その後も、神木君の病室に行ったけど面会謝絶で、クロノ君に管理局の偉い人から話があるといわれてついていったけど、話は聞いていなかった。 たぶんなにかは話しているし、受け答えもしっかりしてたと思う。 クロノ君は何も言ってこなかったし、フェイトちゃんも何も言ってこなかったから。 そのフェイトちゃんも、織君のことで参っていたみたいだったけど。クロノ君と本局に戻った私は、真っ先に神木君の病室に行った。 面会謝絶は取り消されていて問題なかったけど、検査やら遅い時間ということもあってクロノ君に追い出されたけど。 そしてその後話もあったような気がするけど、もやがかかったみたいに思い出せない。 家に転送してもらったけど、そこからは何もする気が起きずに寝てしまった。 朝、クロノ君が昨日の内容を覚えているかと言うメールを送ってくれなければ忘れていたと思う。 クロノ君曰く、神木君はもう回復して家にいるみたいだった。 それで少しは気持ちが上向いたけど、会いたいよ神木君......

 

「なのは、それにフェイトも、何かあったの?」

 

「え?」

 

「な、何かって?」

 

「えっと、何かそんな感じが私もするんだけど......」

 

「ほほぅ、中々に鋭いね二人とも」

 

プレシアさんとリンディさん、それとお母さんが話している中、アリサちゃんにそうそっと聞かれて言葉に詰まる私とフェイトちゃん。 アリシアちゃんは、そんな私たちとアリサちゃんとすずかちゃんを興味深そうに見ていた。 前回のことは片付いたけど、今回の事はまだ始まったばかり。 それに魔法関連だ、言うわけにはいかない。 それと別に、神木君のことを快く思っていないアリサちゃんとすずかちゃんに言っても、困らせるだけ、なら

 

「ううん、何でもないよ?」

 

「なんで疑問形なのよ......」

 

私の返事に呆れたアリサちゃんはそれ以上聞いてくることはなかった。 たぶん、私がまた隠し事をしているのが分かってるんだと思う。 心配そうに見てくるすずかちゃんも同様だと思う。 ごめんねアリサちゃん、すずかちゃん。 今回も巻き込むわけにはいかないから、私はうそをつく。 そんな私をアリシアちゃんは複雑そうな目で見ていた

 

~なのは視点 end~

 



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第五十八話 物語の裏で

「まったく、こんな夜中に呼び出すのはやめてくれクロノ」

 

「・・・・・・」

 

夜中、クロノに呼び出され、俺はアースラクルーの仮拠点であるマンションに来ていた。 もちろん、結界は常に覆っているため問題はない。 基本、家にいる間は監視はついていないがな。 ともかく、呼び出した張本人であるクロノは口をつぐんだままだ。 まぁ、昨日いきなり恩師を警戒しろ、なんて言われたら付き合いの短い俺を警戒するのは当たり前か

 

「ごめんなさいね、こんな時間に。 エイミィがさっきようやく寝たから、こんな時間になってしまったの」

 

「なるほど。 まぁ、仕方ないですね。 でもこういうことは控えてくださいね、一応俺も学生ですから」

 

「善処はするけど、貴方と作戦会議するとなるとこんな時間しか取れないのも事実よ」

 

存外に一応は努力するけど、改める気はないってことですよねそれ。 まぁ、俺との時間がこんな時間しか取れないというのも事実なので特に何も言うことはない。 それまでの軽い空気はどこに行ったのか、リンディさんは姿勢を正しこちらに尋ねてくる

 

「グレアム提督を警戒しろとはどういうことかしら」

 

「・・・・・・」

 

やはり来たか。 ここでたとえ馬鹿正直に言っても信じてもらえるはずもなく、証拠が必要だ。 ここはいつもの通り、のらりくらりと交わすしかない。 交わせれば、の話だが

 

「一応、予知夢に関しては信頼を置いているわ。 前回の事件、それでスマートに対応できたのも事実です。 でも、それとこれとは話が別よ。 前回の事件、不審な点もいくつかあった。 でも、それには目をつぶったけど、今回のこれはそんな次元じゃない、それは分かるわよね?」

 

「まぁ、そうですね。 と言っても所詮は予知夢、信じるも信じないも貴女たち次第では?」

 

「そうね、だからここで話してもらえないかしら、貴方が予知しているこの闇の書関連の事件のことを」

 

まぁ、疑われている、ということは分かっていたつもりだが、ここまで不信感があったとは。 たぶん、ここで全部話したとしても話半分くらいしかリンディさんは聞かないだろう。 クロノを見るが、こちらを真剣に見るだけだった。 クロノは何を考えているかはわからないが、リンディさんは指揮官として当然のことだ。 まぁ、一応正史が変わらない程度に情報は教えるが

 

「まずクロノにも言いましたが、夜天の書。 これは何処で聞いたかはわかりませんが、この事件に深くかかわります。 調べておいて損はないと思います。 そして次に、高町なのは、フェイト・テスタロッサ両名の魔力、つまりリンカーコアは奪われてました。 詳細までは分かりませんが、これは確実です」

 

「待って頂戴。 夜天の書と言うものは置いておくとして、なのはさんとフェイトさんのリンカーコアが奪われるっていうのは本当なの?」

 

待ったをかけるリンディさん。 この両名に関しては驚きだったのだろう。 だが、高町なのはに関してはすでに奪われていそうになっており、フェイト・テスタロッサの方もカートリッジシステムがなければ危ういのは確かだ。 不確定要素として、プレシアさんがいるからどうなるかはわからないが

 

「事実です。 大規模な戦闘時、高町なのは、フェイト・テスタロッサ両名の魔法の使用が闇の書から確認できましたから」

 

「それはあなたの夢、予知夢からってこと?」

 

「そうです。 付け加えるなら、高町なのははたぶん今回の襲撃で奪われていたんじゃないでしょうか? 断片的なものしか見れないので、それと今回の状況を照らし合わせて、ですが」

 

「「・・・・・・」」

 

事の重大さに気が付いて黙り込む二人。 クロノは何かを考えているのか、目を閉じ、リンディさんはこちらの嘘を見抜こうとこちらをじっと見ていた。 まぁ、どうでもいいがな

 

「これからなのは達が襲われる可能性は?」

 

「そんなもの聞かなくてもわかっているんだろうクロノ。 それに襲われようが襲われまいが関係ない、この事件にアースラが担当になった以上出撃してもらわねばならない状況が必ず出てくるだろう?」

 

「・・・・・・」

 

それっきりまた黙り込むクロノ。 正直言って、たぶん闇の書の魔力蒐集的には高町なのはやフェイト・テスタロッサの蒐集出来ないのは痛いだろうが、それよりも()()()()()()()を出来るプランは用意してある。 後は、守護騎士たちにどうやって気付かせるかなのだが。 それはまぁ、後でもいいだろう

 

やっぱり、CVK-792の搭載、完成を急がせる必要があるわね

 

無意識につぶやいたのだろうが、ばっちり聞こえていた。 でも、CVK-792って何だったか。 ペイルに聞いてみることにした

 

『ペイル』

 

『CVK-792ですね? CVK-792、ベルカ式カートリッジシステムのことです。 今回、レイジングハートとバルディッシュは自分たちの無力さに心を痛め、主たちの力になれるようにと望んだのです』

 

『その結果がベルカ式カートリッジシステムか?』

 

『フレーム強化でも十分ですが、やはり出力差はどうしても埋められないですからね』

 

とのことらしい

 

『お前にも組み込めるのか?』

 

『どうするおつもりなのですか?』

 

『一応、な。 俺は少しでも可能性があるほうにかける』

 

『・・・・・・なるほど。 技師の問題がありますが、搭載自体は可能です。 身近に一人いますが、その人に頼めば可能かと』

 

『・・・・・・考えておく』

 

短い念話を終え、改めてリンディさんたちを見る。 二人とも何かを考えているようだが、どうするのやら。 クロノの方は考えがまとまったのか、俺に話しかけてくる

 

「君にお願いがある。 高町なのは、フェイト・テスタロッサのデバイスの修復が完了するまで、二人の護衛についてほしい。 虫のいい話だというのは分かっているつもりだ」

 

「何故俺に頼む? 雑種でもいいだろう?」

 

俺がそう言うと、クロノは呆れた表情で俺を見てくる

 

「今の彼にそれが務まると思うのかい? 魔力もない彼に」

 

「あー、そういえば無様にリンカーコア抜かれたんだっけか。 それなら条件は俺も同じだと思うんだが?」

 

「君にはレアスキルがある。 アレは魔力に依存しないんだろ? それに藤森はこの際置いておくとして、高町なのは、フェイト・テスタロッサ両名と一緒に居る時間も多いだろう?」

 

「まぁ、それはな」

 

実際、帰りや家を除けば、踏み台の仕事をしている俺だ。 一緒に居る時間が多いのは確かだ。 クロノもそこら辺を考えてのことだろう

 

「・・・・・・頼めないだろうか?」

 

「デバイスが直るまでの間。 それと学校にいる間だけ、と言う条件なら受けるしかないだろう?」

 

どちらにしろ雑種やフェイト・テスタロッサに邪魔されるだろうが、デバイスは持ってないのだ、守るしかないだろう

 

「すまない。 僕たちも自由に動ければいいんだが」

 

「動けないものは仕方ないだろう? どっちにしろ俺以外にも局員数名とユーノ、アルフ、プレシアさんあたりもつけるんだろ?」

 

「あぁ。 流石に君一人にすべてをカバーさせるわけにはいかないからな、そうするつもりだ」

 

どうも申し訳が抜けなさそうなクロノだが、何だろうな。 時計を見れば、深夜と言っても過言ではない時間。 そろそろ帰りたい

 

「リンディさん、そろそろ」

 

「あ、あぁ、そうね。 それじゃあ、後の事は追々」

 

「えぇ」

 

俺は踵を返し、マンションから出ようとする。 だが、その背中に声がかかる

 

「神木!」

 

「なんだ?」

 

クロノに呼び止められたが、俺は振り返らずに答える

 

「何故今回の話を受けたんだ、僕や艦長が君を信じていないことは君のことだ、分かってるんだろう?」

 

「・・・・・・お前たちには借りがある、ただそれだけだ」

 

そう短く答え、俺はマンションから出た

 



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第五十九話 朝の一幕

件の話が合った次の日、と言うよりもその日の朝、俺は微妙にボーっとする頭を振りながら通学路を歩いていた。 任務に行っていた時はきっちり睡眠をとってはいたが、学校に行くとなると夜中に呼び出されると睡眠をきっちりとれないから辛い。 眠い、シャレにならないくらい眠い。 玉藻たちも言っていたが、学校休めばよかったかも。 クロノと約束した手前、休むなんて出来るはずもなかった。 そんな俺の内心とは裏腹に、クラスメイトに挨拶をする俺。 ・・・・・・外側は何とかなってるみたいだし、大丈夫そうだな。 心配に思っていた学校だったが、何とかなりそうだった、そう、この時までは。 学校につき、教室に入ると事件は起こった

 

「おはよー」

 

俺が教室に入ると、高町なのはが()()()()()きたのだ。 何も言わず、無言で。 突然のことに頭は真っ白になる。 周りが黄色い声をあげるが、俺はそれを気にしている余裕はなかった。 いつもの軽口も、出てこなかった。 アリサ・バニングスと月村すずかと言えば、いきなりのことで状況についていけないようだ。 いや、俺だってついていけないのだが。 時間にすれば短いと思うが、俺には数十分抱きしめられているような感覚だった。 俺の金縛りが解けたのは、この状況を作り出した高町なのはだった

 

「グスッ......」

 

「・・・・・・」

 

鼻をすするような音が聞こえた。 それに、制服もかすかに濡れているような気がする。 たぶん心配したのだろう、こいつは昔から責任感が強いから。 自分のせいで俺が死にそうになった、そう考えているのだろう。 実際、俺はこいつを助けない選択肢もあったし、その場合でも結局同じことになっていたような気がする。 それに、俺は未来を知っていながら傍観者を気取っていたのだ、こいつに心配される資格はない。 そう考えると思考はクリアになり、いつものような軽口も戻ってくる

 

「ははは!ようやく嫁も我の魅力に気が付いたか!だが少し待て、これから先生が来る。 厄介ごとになるのは明白だ、別に我は構わんがな。 なぁ、アリサにすずかよ」

 

ここで話を振れば、多分この二人も動き出す。 ここで抱きしめ返して優しい言葉でも言えればよかったのだろうが、俺にはその資格はない。 ほんと、なんでお前は俺をそんなに気にするんだ...... いっそのこと、アリサ・バニングスや月村すずかのように嫌っていてくれれば、こんなことを思わずに済むのに。 内心俺は、高町なのはを俺から引きはがすアリサ・バニングスと月村すずかを見ながら、自嘲気味にそんなことを思っていた。 すると、教室の後ろのほうが別の意味で騒がしくなる。 そちらを見れば、拳を俺に振るっている雑種の姿が。 俺はそれに対してリアクションをせず、そのまま殴られる。 軽い拳だな、そんなことを思いながら机を巻き込み倒れる。 そんな俺に、雑種は容赦なく襟を持ち起こす。 少し首元が締まって苦しいが、まぁいい。 それよりも、目の前で怒っている雑種をどうにかしないとな

 

「何のつもりだ、雑種」

 

俺は静かに問うが、雑種はそれを全く不自然に思わず、怒りに染まった瞳でこちらを睨みつけてくる

 

「もう一度言うぞ雑種、どういうつもりだ!!」

 

「お前こそどういうつもりだ!なのはを泣かせて、抱き着かせて。 お前は一体、何をしたいんだ!!」

 

「ちょっと、やめなさい織!!」

 

「そうだよ藤森君!」

 

さっきとは別の意味で盛り上がる教室、流石にこの状況は見逃せないのかアリサ・バニングスと月村すずかは雑種を俺から引きはがそうとしていた。 だが雑種は止まらず、拳を俺に振り上げたままだった。 さて、こいつは俺が高町なのはに何かしたと思っているようだが、実際俺は何もしていない。 そもそもだ、こいつがあの時無様にリンカーコアを抜かれてさえいなければ、こんな状況にならなかったはずなのだが?  自分のことを棚に上げて、俺を殴るとはどういう了見なのだろうか? 泣かせて、抱き着かせてと言ったが、俺がニコポかナデポでも使ったと思われているのだろうか? そんなものあるなら、とっくに使ってると思うが? 意味のない思考ばかり流れるが、本格的に何とかしないとな。 時計を見れば、もう先生がいつ来てもおかしくない時間だ

 

「何をしたいんだ、だと? はははははは、ついに頭がわいたか雑種!我と嫁は愛し合っている、抱き合うのは当然だろう? それに泣かせたというが、うれし涙だ。 そんなこともわからないのか?」

 

「お前は!お前は!」

 

凄いな。 アリサ・バニングスと月村すずかの拘束を解き、俺を殴ってくる雑種。 すごいと思ったが、月村すずかはともかく、アリサ・バニングスの力は一般的な女子小学生のそれだ、無理やり振りほどくこともできるか。 またも吹っ飛ばされ、容赦なく俺に追撃をくらわせようと迫ってくる雑種。 殴られるのは癪だが、これも踏み台ゆえだ。 雑種が殴ってくるのは本当に癪だが、俺も誰かに殴られてい気分だったのだ、甘んじて受けようとするが、俺の目の前に立つ影が一人。 高町なのはだった

 

「やめて!!」

 

「なのは...... でもこいつは、お前を泣かせて、あまつさえ抱き着かせたんだぞ!!」

 

「勝手なこと言わないで!!神木君は私のせいで!」

 

「嫁よ、それ以上は言うな。 雑種、俺を殴るのは構わないが時間ぐらい見ろ、もう先生が来る」

 

これ以上言わせるのはまずいと判断した俺は、横の机に手をつき、かろうじて立ち上がっているようなふりをする。 正直言ってかなり軽い拳だ、全然ダメージは入っていないが効いているというポーズはとっておかないとな

 

「それとすまないが、みなは机を直すのを手伝ってくれ」

 

「こんなの、そいつにやらせればいいだろ!」

 

「そうよ!もとはと言えば、藤森君が勘違いして殴り掛かったんだから!」

 

口の端が切れたのか、血をハンカチで拭いながらクラスメイトに言うと、当然反論が飛んでくる。 まぁ事情を知らないとしても、今回のは言いがかりだからな、みんな俺の味方をするのは当たり前だ。 まぁ、雑種は自分が正しいと思い込んでいるからな、それを受けても謝る気はないようだ。 本当の歳は知らないが仮にも転生者だろうに、ここは上っ面だけでも謝っておけば周りは納得するだろうに。 俺は内心、かなり大きなため息をついたが面には出さず、みんなに声をかける

 

「まぁ、みなの言いたいことは分かるが、こんなことで先生に怒られるのは癪だ。 それと先生にも申し訳ないだろう? 頼めぬか」

 

そう言ってみんなに頭を下げれば、渋々机を直すのを手伝ってくれた。 まぁ、雑種はお察しの通りだ。 机を戻さず見てるだけ。 これでクラスとの溝が深まったのは言うまでもない。 机を直し終われば先生が来て、出欠をとる。 その際青くなり始めた頬や切れた口元などを聞かれたが、朝思いっきりぶつけたといったらその場は収まった。 まぁ、多分後で誰かがさっきのことを言うだろうが。 それに、先生も納得していない様子だったし。 先生も気を取り直し、次に移る

 

「はい、それじゃあ今日は皆さんに嬉しいお知らせです!なんと、今日から新しいお友達がやってきます。 海外からの留学生さんです。 フェイトさん、どうぞ」

 

「失礼します」

 

か細い声が聞こえたと思ったら、入ってきたのはフェイト・テスタロッサだ。 まぁ、分かりきっていたことなので特に俺は反応はしない。 周りの奴らはさっきのことも忘れ、転校生であるフェイト・テスタロッサを迎えるため拍手で忙しい。 自己紹介も終わり、休み時間に入り、フェイト・テスタロッサの周りにはあっという間に人だかりができる。 切り替えが早いね、子供は。 俺はどこか他人事のように思いながら、窓の外を見ていた



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第六十話 悩み相談

「はぁ...... これだからガキのおもりは嫌なんだ」

 

突然だが、俺はイライラしていた。 今日一日ろくなことがなかったからだ。 朝の高町なのはが抱き着いてきた一件から始まり、雑種の暴力。 フェイト・テスタロッサの転校。 イベントが目白押しだ。 しかもこれが、朝だけで。 高町なのはが近寄ろうとすれば、雑種とフェイト・テスタロッサの二人で止める始末。 俺としては会話することもないし、朝の二の舞になるのはごめんだったので助かったといえば助かったが。 雑種は俺のことを四六時中睨みつけ、フェイト・テスタロッサは俺を監視していた。 これにはアリサ・バニングスも月村すずかも不審に思い、俺に話を聞きに来る。 まぁ、俺が馬鹿正直に言うはずもなく、いつものように我様節を発動してけむに巻いたが。 そんなことが一日あり、俺はイライラしていた。 一日目からこれだ、クロノには悪いが護衛をやめようと思ったくらいだった。 学校が終わると同時に、リリィの方に監視を任せたが。 そんなわけで、俺はとある方向に向かって一人で歩いていた

 

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~はやて視点~

 

今日は朝から定期健診で、今日の付き添いはシグナムやった。 定期健診、それは私の足の検診。 この足ともずっとの付き合いや。 最初はなんで私だけと思っていたこの足も、年を経るにつれてそんな思いも消えてった。 ううん、気にしてる余裕がなくなったんや。 お父さんとお母さんが死んで、一人で生きなアカンようになった、あの日から。 でも、悪いことばかりやなかった。 いや、足が悪いのは悪いことなんやけど。 この足が悪くなかったら()と出会うこともなかったし、すずかちゃんと出会うこともなかった。 良くも悪くもならない足。 いや、誤魔化すのはやめにしよ。 石田先生の奮闘虚しく、だんだんと悪くなってきている足。 自分の体や、自分が一番よくわかってる。 病は気から、なんてよく言うけど、この足にかんしては私は最初から諦めてたんや。 原因不明の足の麻痺。 何度も検診したけど、やっぱり原因が分からなかった。 そんなものに治療法なんてあるはずもなく、元々治療は難航していた。 石田先生は信じてるけど、この足が治るはずがないのは分かっていたこと。 人は遅かれ早かれ死ぬ。 ただ、私は人から比べたらかなり早いってだけ。 心残りがあるとすれば、せっかくできた新しい家族を残していくことと、彼、神木理樹君を殴ってないことやな。 お別れをするにしても、手紙やなくて面と向かっていってほしかった。 だから私は、草の根を掻き分けてでも探したいんやけどなぁ...... みんなに止められてる。 主が探すくらいなら、自分たちが探すといって聞かなかったんや。 妙に目が血走ってたけど、多分大丈夫、やな? 私は首にかかっているネックレスを触る。 なんや不思議と昔からあったような感じがするけど、本当に不思議や。 それと、私も意外に女々しいのかもしれない。 だって、なんだかんだ言いながら、理樹君のプレゼントを身に着けているのだから

 

「はやて、お待たせしました」

 

「ううん、待ってないよ」

 

石田先生とお話していたシグナムが部屋から出てきた。 私の後ろに行くと、そのまま車いすを押してくれる

 

「石田先生、なんて?」

 

「これからの治療の話を少々と、はやての日常生活を」

 

「そっか。 あ、シグナム、帰り図書館よってほしいんやけど」

 

「わかりました」

 

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借りていた本を帰し、図書館を歩いていると呼び止められる。 姿を確認すれば、すずかちゃんだった。 シグナムは気を使ったのか、少し離れた位置で私たちを見てた。 べつに、ええのに

 

「はやてちゃん」

 

「すずかちゃん、こんにちは」

 

月村すずかちゃん。 私と同じく本が好きな子で、出会いはここだった。 私が少し高い位置の本をとれなかったとき、後ろから本をとってくれたんや。 まるであの時と同じで、振り向き際に殴ろうとした私は悪くないと思う。 まぁ、すずかちゃんやったし、殴ることはなかったんやけど。 それでお礼を言って、なんか見覚えがあるなーと思ってみていたら、向こうも同じだったようで。 確認してみれば、前から来ている同じぐらいの歳の子やったんや。 そこで意気投合、話していくうちに友達になったっていうわけや。 実際、歳も同じやったし

 

「すずかちゃんは何借りたん?」

 

「今日はね、ちょっと悲しくて、でも素敵な物語で」

 

「へー、面白そうやな!」

 

話題はすずかちゃんの借りた本に。 シリーズものらしいのだが、一巻があるということで後で借りに行こう。 それから日常生活の話になり、やがて学校の話に。 一応、勉強とかはできるけど、学校なんて数えるぐらいしか行けなかったからな。 こうやって、生の話が聞けるのは嬉しい。 まぁでも、すずかちゃんに付きまとってくる男の子は勘弁やけどな...... 実際、すずかちゃんには親友がいて、その二人にも付きまとってるらしい。 それを王子様とはちゃうけど、守ってくれる男の子も。 まぁ、私はその男の子二人とも興味はないんやけど

 

「それでね、今日転校生が来たの」

 

「へー。 ん? それって、前から話してたビデオレターの子?」

 

「よくわかったね!」

 

「なんかすずかちゃん、嬉しそうやったし」

 

「そ、そうかな」

 

少し恥ずかしそうなすずかちゃん。 別に、恥ずかしがることでもないような気がするけど。  でも、その顔が少し曇る

 

「どうしたん?」

 

「えっとね、前から話してた子、いたでしょ?」

 

「あー、嫌がらせする方?」

 

「嫌がらせって、あはは......」

 

力なく笑うすずかちゃんだが、否定できてないで。 ともかく、話が進まないのでツッコミは入れないでおく

 

「それでね、その子なんだけど、復学してから少し様子がおかしいというか、何と言うか......」

 

「なんや? すずかちゃんから見ておかしいって思うなんて、相当やと思うで?」

 

「む、それってどういう意味かなはやてちゃん」

 

言い方がまずかったのか、すずかちゃんが少し怒ったように見てくる。 その様子を見て、慌てて勘違いを解くことにする

 

「いい方が悪かったけど、すずかちゃんてその子の事嫌いやん? その嫌いなすずかちゃんから見て、おかしいと思うって相当おかしいってことやで? 嫌いなんだから、その人の事必要以上に気にしないようにするやろ? まぁ、絡まれるのは仕方ないにしても。 その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、おかしく見える。 だから相当って言ったんや。 まぁ、私の勝手な思い込みかもしれないけど」

 

「うーん...... でも、そうなのかも」

 

「それで? おかしいって?」

 

「なんていうのかな? 休学前ってところかまわずっていうのかな? 声をかけてきたけど、最近は少なくなったと思うし、それにこの頃はどこか事務的な気がするんだ」

 

「・・・・・・なんか、その男の子の事、ますますわからなくなってきたんやけど」

 

すずかちゃんの話を聞いて、思った感想がそれや。 前はしつこいほど付きまとってきたのに、最近はそこまででもなくどこか事務的に声をかけてくる。 なんやそれ

 

「うん、私もそんな感じ。 それで、アリサちゃんに聞いても私もよくわからないって言ってたし。 なのはちゃんはなのはちゃんで、今日の朝いきなり抱き着くし」

 

「うわー、もう状況カオスやん......」

 

「うん...... 藤森君は、そんななのはちゃんを見て、神木君のこと殴り飛ばすし......」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 



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第六十一話 裏での取引

インターホンを押せば

 

「はいはーい!ちょっと待ってくださーい!」

 

と元気な声が聞こえ、ドアが開けられる。 一つ言いたいが、そんなに不用心でいいのか。 呆れる反面、少し警戒する。 中から聞こえてきたのは元気のいい少女の声だったが、もしもということもある。 俺はすぐに逃げられる準備をしつつ、その少女と対面する

 

「あ、理樹!久しぶり!!」

 

「おい、いきなり抱きつくなよ」

 

いきなり熱い抱擁を受ける。 そう、応対したのはアリシア・テスタロッサ。 俺が警戒したのはフェイト・テスタロッサだったが、アリシアだったようだ。 いつまでも玄関にいるわけにはいかず、俺は部屋に通される。 いやまぁ、隣の部屋がハラオウン家なのでそっちに見つかってもまずいのだが。 中に入れば、アルフの姿はなくプレシアさんだけのようだ

 

「あら、久しぶりね」

 

「お久しぶりです、プレシアさん」

 

腰掛けるように言われたのでソファーに腰掛ければ、隣にアリシアが座る。 それを見てプレシアさんは笑顔だが、額には青筋が浮かんでいた。 いやプレシアさん、俺のせいじゃないので笑顔で威圧するのはやめてください。 内心そんなことを思ったが、言っても無駄なことは分かっているので言わない。 それにフェイト・テスタロッサがいつ帰ってくるかわからないのだ、用件は早く済ませるに限る

 

「時間がないので簡潔に。 今回の事件についての警告と、事件とは別件ですがお願いが」

 

「聞きましょう」

 

それまでの温和な雰囲気はどこへやら、プレシアさんは真面目な表情だ。 それを受け、アリシアもほんわかした雰囲気から真面目な表情になる

 

「すでにハラオウン家から聞いていると思いますが、今回の事件、その中核をなすのは闇の書。 プレシアさんが狙われる状況が多々出ると思います、ですのでその警告を。 と言っても、言うまでもないと思いますが」

 

「えぇ、リンディから聞いているわ。 わざわざありがとう。 それで、お願いと言うのは?」

 

本当はウチのサーヴァントに警備をつけているが、そこまで言う必要はないだろう。 言って状況をわざわざややこしくする必要はないし、手札をさらす意味はない

 

「お願いは、俺のデバイスにカートリッジシステムの導入をお願いしたいんです」

 

「・・・・・・」

 

プレシアさんは無言で俺を見る。 俺のデバイス、ペイルライダーは一般的に使えないということで通っている。 使える事実を知っているのはクロノ、リンディさん。 そして、プレシアさんとアリシアだ。 アリシアはものの流れだが、プレシアさんは使うところをもろに見ている。 プレシアさんの目を見れば、そこまでの敵なのかと訴えかけてきている

 

「敵はそこまでではありませんよ、俺が本気を出せば。 まぁ、出せるかどうかは別として。 酷なことを言うようですが、高町なのは、フェイト・テスタロッサにはカートリッジシステムがなければ荷が重い相手でしょうけど」

 

「おぉ、理樹も大きく出たね」

 

俺がそう言えば、プレシアさんの表情は厳しくなる。 まぁ、娘が貶されたのだ、そう思う気持ちもわかるが。 アリシアはアリシアで、俺の言ったことに感心していた。 そもそも、俺はアレ(クソ野郎)の監視もあり、誰の前でも本気を出したことがない。 俺の本気を知っているやつらと言えば、アイツ等(サーヴァント)ぐらいだし

 

「っ!・・・・・・まぁ、そうね。 でも、この間怪我したみたいだけど?」

 

「・・・・・・」

 

今度は俺が黙る番だった。 この間、つい数日前の事だが、俺は腹に穴をあけられている。 原因はあのイレギュラー(仮面の男たち)だ。 改めて言われれば、その通りだ。 油断、慢心、そんなものはしていないつもりだったが、事実怪我はしているのだ。 言い訳にはなるが、一応事情は説明しておく。 俺のレアスキルに未来視があり、それではあんな敵が現れることがなかったことを

 

「イレギュラー、ね...... それに対応するために、っていうことかしら?」

 

「そうなります。 カートリッジシステム導入、お願いできますか?」

 

「・・・・・・」

 

黙るプレシアさん。 たぶん、これからのことを考えているのだろう。 俺がここに来たということは、管理局には知られずに秘密裏に事を進めたい。 そう言うのが分かっているからだろう。 ひとしきり考えたのか、口を開く

 

「・・・・・・なぜ、管理局を頼らないの?」

 

「ハラオウン家は個人的に信用していますが、管理局に闇の書側の人間がいないとも限らない。 事実、俺の未来視には一人の名前が挙がった。 無関係とはいかないでしょう? それに、俺のデバイスが使用できるのは一般的には知られていない、これが大きな理由です。 だから、貴女のところに来たんですプレシアさん」

 

「・・・・・・」

 

その言葉を受け、プレシアさんは瞳を閉じて考え始めた。 その間にアリシアが話しかけてくる

 

「ねぇねぇ、理樹」

 

「なんだ?」

 

「ちょっと気になることがあるの」

 

真面目な表情のアリシアに、俺は体を向きなおす。 アリシアが気になることと言うのは皆目見当がつかないが、真面目に聞くことにする

 

「私、フェイトと違ってリンカーコアがないから魔法は使えないはずなんだけど、なんか不思議な力があるような気がするの」

 

「不思議な力?」

 

「うん」

 

話を聞けば、アリシアを蘇生したあの日から、不思議な力が備わっていたという。 念じれば風や火が起こったりするようで、それについて心当たりがないかと言うものだった。 心当たりがないかどころか、ありまくる。 アリシアに断って、アリシアを調査してみれば魔力を感じた。 その魔力は、魔術側の魔力だった。 それは検査しても出ないはずだ。 俺も管理局のデータベースには、魔力ランクは低いもので登録されている。 原因として考えられるものがあるとすれば、蘇生の時にあの量の魔力を注ぎ込んだのだ。 使えるようになってもい不思議ではない

 

「・・・・・・その力は早急に制御する必要がある。 管理局にバレたら厄介だし」

 

「だよね。 お願いできる?」

 

「キャスターにコーチの話をしておく」

 

「うん、ありがとう」

 

「話は終わったかしら」

 

アリシアと話していれば、プレシアさんは待っていたのか呆れた表情で見ていた。 俺とアリシアは向き直り謝れば、プレシアさんは許してくれたようだった

 

「それで改造の件だけど」

 

「はい」

 

「受けてもいいわ」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし!アリシアの力の制御、ちゃんとやってあげて頂戴」

 

「はい」

 

これにて契約は成立した。 二、三言話すと、これ以上とどまって、アルフやフェイト・テスタロッサと鉢合わせしたら大変だということで、俺は立ち上がる

 

「それじゃあそろそろ」

 

「一つ言い忘れていたことがあったわ」

 

その声に後ろを向けば

 

「アリシアの事、生き返らせてくれてありがとう」

 

頭を下げる母親がいた。 それに俺は

 

「契約のうちでしたから」

 

そう言ってテスタロッサ家を出たのだった

 

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~なのは視点~

 

神木君を見つけて、いろいろな気持ちがごちゃ混ぜになって抱き着いてしまった日の放課後、私とフェイトちゃんは私の部屋で話をしていた。 さっきまではアリサちゃんとすずかちゃんもいたけど、アリサちゃんはお稽古事、すずかちゃんは図書館に用事があるということで帰ってしまった。 話すのは、襲われた時の事

 

「ねぇ、なのははあの人たちの事どう思う?」

 

「あの人たちって闇の書のだよね? 私は急に襲われてすぐ倒されちゃったからあまり話しできなかったけど、フェイトちゃんはあの騎士の人と話をしてたよね?」

 

自分で言った言葉だったけど、胸が痛かった。 あの時私がすぐにやられず足を引っ張らなければ、神木君はあんな風に...... 知らず知らずのうちに体が震えるけど、フェイトちゃんは気が付いてないみたいで、気にせず話し続ける

 

「うん、でも不思議な感じだった。 うまく言えないけど、悪意みたいなものを全然感じなかったんだ」

 

「そっか。 闇の書の完成を目指している理由とか、そういうお話が聞ければいいんだけど、話ができる雰囲気じゃなかったもんね」

 

フェイトちゃんの言葉に、あの時のことを思い出す。 何度も話を聞こうとしたけど、私が帽子を撃っちゃったからか、怒って話を聞いてくれるような雰囲気じゃなかった。 不意に、フェイトちゃんが独り言のように言葉を漏らす

 

「強い意志で自分を固めちゃうと、周りの言葉ってなかなか入ってこないから。 私も、そうだったしね......」

 

悲しそうに、そして後悔しているようにつぶやくフェイトちゃん。 たぶんフェイトちゃんと私が出会った事件、ジュエルシードの時を思い出しているんだと思う。 フェイトちゃんの独白は続く

 

「私は母さんのためだったけど、傷つけられても間違ってるかもって思っても、疑っても絶対に間違ってないって。 信じてた時は、ううん...... 間違ってないって信じようとしてた時は、誰の言葉も入ってこなかった」

 

その言葉に私はフェイトちゃんを見る。 そして、フェイトちゃんも私を。 そんな私を見てか、フェイトちゃんは慌てたように言葉を紡ぐ

 

「あ、でも、言葉をかけるのは、言葉を伝えるのは絶対無駄じゃない。 母さんのためだとか、自分のためだとか、あんなに信じようとしてた私もなのはの言葉で何度も揺れたから。 言葉を伝えるのに、戦って勝つのが必要なら。 それなら、迷いなく戦うことができると思うんだ」

 

よかった。 私の言葉が無駄じゃなかったってわかって

 

「フェイトちゃん......」

 

「なのはが教えてくれたんだよ? そんな、強い心を」

 

「そ、そんなことないと思うけど......」

 

そう、そんなことないのだ。 私はそんなに強くない、でも

 

「だから強くなろう、想いを貫くために」

 

「そう、だね。 私ももっと強くなる。 誰も怪我をさせないように、泣かないために。 だから頑張ろう、フェイトちゃん」

 

「うん、頑張ろう、なのは」

 

私は、ううん、私たちは新たな誓いをした



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第六十二話 スーパー銭湯

「みんなで銭湯に行きましょう!!」

 

「はぁ?」

 

どうやら、玉藻が少しばかりバカになってしまったらしい。 ご機嫌にしっぽを振りながら、そんなことを言い出した。 俺のそんな冷たい反応にもめげず、玉藻は絡んでくる

 

「え~? マスター、ノリ悪いですよ~」

 

「・・・・・・」

 

これでイラついてしまった俺は悪くないと思う。 実際、ここのところ雑種やフェイト・テスタロッサのせいでストレスが溜まり、イライラしているのだ。 だから、無言で立ち上がり玉藻の頭をアイアンクロウした俺は悪くない。 玉藻は痛がっているが、気にしない気にしない。 そんな様子を見かねてか、マシュが一枚のチラシを持ちながら近づいてくる

 

「マスターマスター、玉藻さんが言っていたのはこれの事です」

 

「うん?」

 

マシュからチラシを受け取り、内容を見てみる。 海鳴スパらくーあ、新装開店のお知らせ。 どうやら近くに、スーパー銭湯ができたようだ。 なのだが、行く必要性が感じられない。 銭湯と言うのは心惹かれるものがあるが、家に風呂があるし。 すると、マシュが耳打ちをしてくる

 

「マスター」

 

「なんだ?」

 

玉藻は俺にアイアンクロウをされているため、騒がしくて聞こえないらしい

 

「玉藻さん自分が入りたいのはありますけど、マスターのためなんですよ?」

 

「俺のため?」

 

「マスター、この頃疲れて帰ってきてますよね? それを心配して、疲れは仕方ないにしても心だけでもリフレッシュできないかって、一生懸命考えてたんですよ?」

 

「・・・・・・」

 

「うぅ~、ひどいですよマスター......」

 

頭を抑えつつ、涙目で睨んでくる玉藻。 流石に俺のためということを聞けばバツが悪く、俺はリビングを出ようと玉藻たちに背を向け歩き出す

 

「マスター?」

 

「準備しろ、行くんだろ銭湯」

 

「っ~!もうっ!ツンデレなんですから!」

 

「ええい!は な せ!!」

 

後ろから抱き着いてきた玉藻、何とか拘束から抜き出しつつ玉藻を投げる。 投げたのだが、綺麗に着地しこちらをニマニマ見てくる始末。 本当にイラっと来たが、そのまま無視して扉を開けると

 

「早く行きましょう、銭湯!」

 

何故か準備万端な白百合の騎士がいた

 

「・・・・・・俺が行かないっていったらどうするつもりだったんだお前」

 

「えぇ~、ないわー。 この王様、ないわー」

 

「あはは......」

 

--------------------------------------------

 

~マシュ視点~

 

どうも皆さん、おはこんばんにちわ。 初めての個別視点ということで、ちょっとテンパっているマシュ・キリエライトです。 初めてのスーパー銭湯でちょっと緊張していますが、大丈夫です。 ようやくスーパー銭湯に着いたのですが、男湯と女湯でマスターと別れてしまい落ち込んでいる玉藻さん。 大きなお風呂ということで、瞳を輝かしているリリィさん。 ハサンさんはなぜか銭湯で合流しました。 その理由は、銭湯の中に入った瞬間分かりました。 ハサンさんの監視対象である八神家の皆さんなんですが、なぜか銭湯に居たりしました。 マスターに念話をとってみると、知ってるということでした。 でも、今回は慰労目的なので無視してもいいらしかったです。 でも玉藻さんは、別の場所を見ていたりします。 その場所に目を向ければ、高町なのはとその姉、友達に、問題のフェイト・テスタロッサがいました

 

「玉藻さん、向こうは知らないのですからそんなに睨んでは......」

 

「それは私もわかってますよマシュ。 でも、分かっていても睨んでしまうんです。 貴女も、そうでしょう?」

 

玉藻さんはまっすぐに視線を向けてくる。 ・・・・・・確かに、その通りだった。 私も、そちら側を視界にいれないようにしている。 こんなこと思いたくはないが、彼女たちが居なければマスターはこんなつらい思いをしなくて済んだ。 そう思ってしまうから。 マスターは優しいから、背負わなくてもいいものを背負ってしまう、そんな人だから

 

「せっかく慰労に来たっていうのに、台無しです」

 

「なら気にせずに楽しめばいい、それだけでしょう?」

 

さっきまで輝かせていた瞳はどこへやら、何の感情を伺わせない瞳でリリィさんは彼女たち一行を見ていた。 私もその目線につられてみるが、やっぱりさっきと同じことを思ってしまう 

 

「まぁ、リリィさんの言うことも一理ありますね」

 

どこか冷たく感じる玉藻さん。 すぐに彼女たちに背を向け、他のお風呂に歩きだす。 私はその背を追って歩き始める。 楽しそうに談笑をしている二人を見ながら、私はマスターのことを考える。 マスターは、ちゃんと休めているんでしょうか? でも、その心配は杞憂で。 出入り口で落ち合ったマスターは、どこか満足げな顔でした。 逆に、ハサンさんがどこか疲れた様子なのは気になりましたけど。 ともあれ、マスターが元気になったのを確認し、ホッと胸をなでおろす玉藻さん。 どこか一歩引いて私たちのことを考えてくれる玉藻さんに感謝しつつ、その場を後にしました




すまない、短くて済まない...... 何とかサウンドステージねじ込んだけど、こんなのしか出てこなかったんだ。 すまない......


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第六十三話 戦闘、そして鬼

ようやく俺はガキのおもりから解放される。 ここ数日間は本当に苦痛だった。 雑種は俺のこと射殺さんさんばかりに睨んでくるし、フェイト・テスタロッサも警戒してくる。 高町なのはは俺のことをずっと心配そうに見るわ、この変な状況にしきりに首をかしげるアリサ・バニングスと月村すずか。 クラスの連中は、俺と高町なのは達が接触すれば歓声を上げる始末。 見世物じゃないっての。 これで疲れないものがいるなら変わってほしいぐらいだった。 クロノからのお願いということもあり、我慢はしていたが。 まぁ、それも今日で解放される。 今日は高町なのはの健診の日で、高町なのは達は本局に行っている。 俺は晴れてお役御免になり、ゆっくり出来るはずだったのだが...... 確かに、午前中はゆっくりしていた。 朝起きて家族(サーヴァント達)と買い物をし、ゆっくりしていた。 だが、夕方ぐらいだろうか事態は一変した。 守護騎士たちが現れたのだ。 結界の反応を探れば、ハラオウン家とテスタロッサ家の方で、早速クロノから連絡が来て出撃となったわけだ

 

「執務官貴様、我を顎で使うようになるとはよほど死にたいらしいな」

 

「今はそんなことを言ってる場合じゃない、艦長やプレシアさんのリンカーコアを蒐集されるわけにはいかないんだ。 協力してくれ」

 

「ふん!」

 

守護騎士たちを武装局員が包囲して逃がさないようにしているが、あの程度の戦力じゃ持たないだろう。 そう思っていればアレは囮らしい。 本命は、俺とクロノの攻撃で

 

「行くぞ神木!スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!」

 

「だから我に命令するなと言っている!!」

 

クロノの攻撃に合わせ、俺も王の財宝から剣を掃射する。 男の奴が少女の前に立ち前と同じようにガードするが、プロテクションは砕け始める。 そこにクロノの攻撃が直撃し、煙が立つ。 そこにお代わりで剣を掃射する。 まぁ、最後の駄目押しで例え紅い少女がカートリッジシステムを使って防いでいたとしても、ダメージを与えられたはずだが...... 煙が晴れれば、そこには信じられない光景が広がっていた

 

「闇の書が......」

 

「プログラム風情をかばったというのか? と言うよりも、我の剣を勝手に奪いおったな!!」

 

そう、闇の書が二人をかばうように開いた状態で浮いていたのだ。 だが、これには守護騎士たちも驚いたようで、驚愕の表情を浮かべていた。 どうでもいいが、驚いたのは分かるけどあまり敵の前で情報を漏らさないほうがいいぞ。 闇の書の()()()()()()()()()()()()なんて。 どうやら、クロノたちには聞こえてないようだが。 俺の目論見は、事通りに進んでいるようだ。 ただ、イレギュラーがどう行動してくるかが分からないが。 俺の目論見、剣を直接募集されることだ。 俺が放った剣は特殊なもので、周りの魔力をため込む性質のものだ。 本当の使用用途は違うのだが、今回はそれを代用させてもらった。 本当の使用用途は、魔力の補充やため込んだ魔力を暴発させることにより爆破などでダメージを与えるのだが、俺の場合こちら側の魔力が少ないのもあり使う機会がない。 そもそも、魔力なんて必要最低限しか使ってないしな。 これと似たような剣のストックなら、文字通り腐るほどある。 しかも、ランクも低い宝具の原点のため、いくら失ったところで痛くもかゆくもないが、一応フリはしておかないとな

 

「許さんぞ!!貴様ら!!」

 

「へっ、ちょうどいいぜ!!」

 

俺が放った剣を次々回収していく紅い少女と闇の書。 その異常事態に気が付いたのか、クロノは俺を急いで止める

 

「神木、やめ、やめろ!ここから落とすぞ!」

 

「ええい!離さんか執務官!」

 

俺を羽交い絞めにしつつ、徐々に守護騎士たち離れていく。 それを少し意外に思いながらクロノを見れば、下の方を見るクロノ。 見ろということだろう。 そちらを見れば、高町なのは、フェイト・テスタロッサが守護騎士たちを見上げていた。 ふむ、どうやら主役たちが来たようだし、俺たちはプレシアさんたちの方の警護に当たることになるのだろう。 そう思いながら、パワーアップしたことで初起動を始めた高町なのはたちをもう一度見ると、違和感を感じる。 こういう時は、その違和感に従って行動したほうがいいと、俺の経験が言っている。 高町なのはの周りにランダムに剣を発射すれば、何かが動いたのを確認できた。 俺がフェイト・テスタロッサに放たなかったのは、その必要がなかったためだ。 なぜなら、()がいたからだ

 

「執務官よ、()()にも話を聞く必要があるだろう?」

 

「その通りだ神木、行くぞ」

 

「ふん!だから我に命令するなと言っているだろう!!」

 

俺たちは高町なのは達を超え、その後ろ、仮面の男たちに向かっていく。 まずは、高町なのは達から離すことが先決だ。 プレシアさんはもう戦闘を始めていたが、アレはどうするのだろうか? 気になっていると、クロノが先に応えてくれた

 

「プレシアさんの援護は武装局員に任せる。 僕たちは目の前の奴に集中するぞ!」

 

俺とクロノはありったけの力を込めて、仮面の男を吹き飛ばす。 仮面の男は空中で体勢を整えようとするが、俺たちがそれを許さない

 

「クックック...... どっちがやったかわからないが、この前の借り貴様の死をもって返してもらうぞ!!」

 

「殺されては困るが、半殺しまでなら許可しよう」

 

クロノがなんか怖いことを言っているが、気にしないことにしよう。 俺が王の財宝を掃射すると危なげな様子で避けるが、俺は一人じゃない。 クロノの攻撃が当たるのだが、ぜんぜん応えている様子がない

 

「なん、なんだ!あの硬さは!」

 

「執務官、今度はお前がおびき寄せろ!!」

 

プロテクションや身体強化魔法を発動している様子はないが、クロノの攻撃が効いている様子はない。 そこで俺がやっていた役をクロノにやってもらい、今度は俺が掃射をするが、王の財宝の最高速で射出した剣を、男は特に気にすることもなく、指の間で受け止めた

 

「「なっ!?」」

 

これには、俺とクロノも驚く。 これが取れたということは、クロノの攻撃も余裕でとれたということだが。 こいつはそれをしなかった。 つまり、俺の攻撃は決定打になることを示してはいるが。 数本を死角なく、同時に放ってみるが、手に持った剣ではじき返される。 もう一回、剣を射出。 同時に手に持った剣を消してみるが、これは流石によけた。 だが、避け方がおおよそ人間的な動きではない

 

「執務官」

 

「あぁ、何かがおかしい」

 

あの神の人形だが、本当に人形だったらしい。 人ではなく、機械。 俺たちが話している間にも、人形は体制を整えこちらの様子をうかがっていた。 プレシアさんの方を見れば、案の定と言うか武装局員はやられ、残るはプレシアさん一人となっていた。 こっちは俺がいるから何とかなるが、プレシアさんの方はまずい。 俺的には好ましくないのだが、状況が状況的に仕方がない

 

『玉藻』

 

『はい、マスター』

 

『プレシアさんの方に加勢、頼む』

 

『了解しました』

 

プレシアさんの方に近づいた仮面の男だったが、その途中で突如火が上がった。 そして、プレシアさんの前にゆっくりと姿を現したのは、ぶっちゃけ玉藻だった。 だが何時もの戦闘服の青い着物ではなく、黒い着物に口元が分からないように黒い布で隠されていた。 狐耳はなく、髪もおろした状態で、普通に見ればわからないんじゃないだろうか?

 

「新手か!?」

 

「執務官、今は気にしている場合じゃないだろう!!こっちも来るぞ!」

 

クロノに声をかければ、慌てて目の前を見る。 どうやら、離れたところで戦闘音がしているところを見ると、高町なのは達も始めたようだった

 

 



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第六十四話 新たなる力

あちらの戦闘は始まったようだが、こちらの戦闘に動きはない。 数的不利もそうだが、俺とクロノのコンビネーションもばっちりで向こうも攻めてこない。 プレシアさんの方を見れば、玉藻とプレシアさんが遠距離から魔法で完封していた。 こいつらも魔法は使えるようだが、それをかき消す勢いで玉藻とプレシアさんは魔法を使用していた。 うーん、まぁ玉藻は分かるんだよ、俺から魔力ガンガン吸い上げてるし。 でも、プレシアさんて条件つきSじゃなかったでしたっけ? まぁ、いいんだけどさ。 さっきとは変わって、全く動かない人形。 と言っても、さっきも俺たちの攻撃に対するアクションを見せていただけだったが。 だが、俺たちと言うより、俺かクロノが高町なのは達の援護に向かえば、こいつは動くだろう。 俺たちはその確信があるから、動くに動けなかった

 

--------------------------------------------

 

~高町なのは視点~ 

 

今日は私と織君の健診の日で、別々に健診を受けていた。 健診の結果は無事に完治、リンカーコアも前より大きくなったらしい。 お医者さんにお礼を言って部屋を出ると、フェイトちゃんやユーノ君、アルフさんが駆け寄ってくる。 結果を言うと、フェイトちゃんたちも喜んでくれた。 織君がいないことに気が付きフェイトちゃんに聞いてみると、デバイスを見ているらしい。 これは後からクロノ君に聞いた話だけど、私とフェイトちゃんのデバイスの改造を先に行ったらしく、織君のデバイスまで手が回らなかったみたい。 それを聞いた時には少し申し訳なかったけど、織君は気にしなくていいって言ってくれた。 話はそれたけど、その時に私とフェイトちゃんの、レイジングハートとバルディッシュを受け取ってきたみたいで、私はレイジングハートを受け取る

 

「レイジングハート、お帰り」

 

「ありがとうございます、マスター」

 

レイジングハートは私の言葉に、嬉しそうに点滅しながら返事をくれる。 その後、エイミィさんから連絡があって、一番近い転送ポートを聞かれたけど、その時にアラートが鳴ったみたいでエイミィさんは慌ててた。 私たちは最寄りの転送ポートまで走ると、転送されてフェイトちゃんの家の近くに転送された。 転送されるとまず目に入ったのは、何故かクロノ君に羽交い絞めにされる神木君の姿だった。 えっと、どういう状況なの? 不思議に思ったけど、近くにいたこの間の子を見て気を引き締める

 

「レイジングハート!」

 

「バルディッシュ!」

 

「セーット、アップ!!」

 

体が浮き上がる何時もの感覚はするけど、いつものように変身が始まらない。 不思議に思いフェイトちゃんを見ると、フェイトちゃんも同じような顔をしてこちらを向いていた。 その間もレイジングハートとバルディッシュは、何かを読み込むかのように何かを言っていた。 は、早すぎて聞き取れない..... そして、その間に神木君が私に向けて剣を発射していた。 なんで!? フェイトちゃんの方には雷が...... ど、どういうこと!?

 

『二人とも、落ち着いて聞いてね。 この前の仮面の人達が襲い掛かってきたみたいで、今はクロノ君神木君、プレシアさんが相手をしてくれてるから!それと、レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの!』

 

『こ、この前の仮面の人?』

 

『か、母さんは大丈夫なんですか!?』

 

私とフェイトちゃんが心配したように言うと、エイミィさんは焦らずに対応してくれる

 

『大丈夫!だから、今は目の前の守護騎士に集中して。 さっきも言ったけど、レイジングハートとバルディッシュは新しいシステムを積んでるの!』

 

『新しい、システム?』

 

『この子たちが望んだの、自分の意志で、自分の想いで。 呼んであげて、その子たちの新しい名前を!』

 

目を閉じると、その名前が頭に浮かんでくる。 同時に、どこか温かい気持ちが流れ込んできた。 そっか、レイジングハート、ありがとう。 心の中でお礼を言うと、レイジングハートが点滅した気がした

 

「レイジングハート、エクセリオン!セーット、アップ!」

 

「ドライブイグニッション」

 

そして包まれるピンクの閃光、それがやめば。 今までと少し違うバリアジャケットが。 そして、私たちのデバイスを見て驚く女の子。 そして、目的を話す

 

「私たちは戦いに来たわけじゃない、話を聞かせて」

 

「闇の書の完成を目指す理由を聞かせて」

 

私たちの話に、女の子は呆れたように返事をする

 

「あのさあ、ベルカのことわざにこういうのがあんだよな。 和平の使者なら槍は持たない。 つまり話し合いをするのに武器を持ってくるやつがいるかよってことだよ、ばーか」

 

フェイトちゃんと首をかしげていると、その様子を見かねて馬鹿にされた!もしかしたらッても思ったけど。 でも、それを言うなら

 

「いきなり有無を言わさずに襲い掛かってきた子が、それを言う!?」

 

「それにそれは、ことわざではなく小話の落ちだ」

 

私が正論を言うとそれを無視して、男の人と話し始める女の子。 でもそれもすぐに終わる

 

「うっせ!いいんだよ細かいことは」

 

直後、空から何かが落ちてきた。 煙が晴れ姿を見れば

 

「し、シグナム」

 

フェイトちゃんがこの間戦った剣士の人だった。 戦いたくはないけど、話を着てくれる様子はない。 この間みたいに、誰も援護できる状態じゃない。 私は気合を入れなおす

 

「マスター、カートリッジロードを」

 

「うん。 レイジングハート、カートリッジロード!」

 

「カートリッジロード」

 

レイジングハートのカートリッジロードがロードされ、対戦の準備は万端だった。 先に向かってきたのは女の子で、私は飛行魔法を発動してその場から離れる

 

「結局やる気じゃねえかよ!」

 

「私が勝ったら、なんで闇の書の収集をしてるか、教えてもらうからね!」

 

そういうと笑った後

 

「できるもんなら」

 

前のように鉄球を出し、デバイスを打ち付ける

 

「やってみろ!」

 

鋭く飛んでくるそれを飛行魔法を使って上に避けると、この間のようにハンマーの形が変形し、こちらに勢いよく向かってくる

 

「プロテクションパワード」

 

レイジングハートがプロテクションを展開してくれて、次の瞬間女の子がぶつかる。 でも

 

「か、てぇ!」

 

レイジングハートの展開してくれたプロテクションは破れる気配はない。 これなら

 

「レイジングハート!」

 

「バリアバースト」

 

プロテクションを爆発させ、距離をとる。 そうすると、レイジングハートから次の指示が

 

「アクセルシューターの発射を」

 

「うん!アクセルシューター、シュート!」

 

直後シューターが発射されたけど、その数と込められてる魔力に驚く。 けれど、意識を集中しシューターを操る。 女の子は驚いたみたいだけど、すぐに

 

「こんな多くの弾、全部操れるわけが!」

 

女の子はシューターを飛ばすけど、それをすべて撃ち落とす。 うん

 

「私だけじゃ無理かもしれない。 でも、レイジングハートが力を貸してくれる、だから!約束して、私たちが勝ったら事情を聞かせて!」

 

残りのシューターを一気に女の子に向かわせる。 プロテクションみたいので防いでるけど、徐々にひび割れていく。 でも、シューターの隙間を縫って、飛び出してきた

 

「なめんなー!!」

 

「ふぅ!」

 

ハンマーをレイジングハートで受け止め、シューターをこちらに向かわせる。 力は向こうのほうが強いけど、これなら! もちろんこれで決まるとは思ってない

 

「ちっ!?」

 

ギリギリまで引き付けて避けるけど、私はシューターと共にそれを追いかける。 一個、二個と落とされるけど、新しいシューターを撃ちだす。 切り替えしてきて、こっちに向かってくる。 残りのシューターを全部放つけど、それでも勢いは止まらない。 またハンマーを振るってくるけど、それをレイジングハートで受ける。 直後、結界に魔法が直撃した

 

~なのは視点 end~

 



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第六十五話 強制終了

硬直状態はあっけなく終わりを迎える。 結界に魔法が直撃したからだ。 その魔法は結界を破る勢いであり、俺たちはその対応を余儀なくされたからだ

 

「くっ!結界が持たない、神木!」

 

「むぅ、あ奴らを逃がすのは腹立たしいが、嫁たちの方が先か」

 

「そっちはユーノとアルフに任せてある!少しは自分の心配をしてくれ!?」

 

どうやらクロノの話を聞くと、ユーノは結界内で闇の書の主、または闇の書を持つ騎士を捜索していたらしい。 なので、ユーノはそちらに向かわせたとのこと。 なのでどうやら高町なのは達は安心なようだ。 俺はクロノのプロテクションに隠れつつ、防御用の盾を展開する。 直後結界は破壊されたが、人的被害はなしだった。 魔力反応を見るが、やはり人形たちは逃げたらしい

 

「ちっ、逃がしたか」

 

「捕まえて事情は聞きたいところだったが、仕方ないだろう。 神木、帰るぞ」

 

「執務官、貴様いい加減に......」

 

今回の件の報告や情報の共有もある、なのでクロノに王の財宝を射出しつつ、司令部でもあるハラオウン家のマンションまで帰るのだった

 

--------------------------------------------

 

情報の共有はすぐに終わった。 俺やクロノ、プレシアさんが相手にしていた人形は、結局わからずじまいだったが。 だが、闇の書については少しわかったことがあったらしかった。 と言っても、俺にとってはもう知っていることあったので聞き流していたのだが。 闇の書の騎士たちは、守護騎士プログラムと呼ばれるプログラムの存在。 闇の書の機能である無限転生繰り返し、闇の書の主の護衛、蒐集。 過去の事件では感情らしい感情を見せなかったが、今回の事件では感情的になっている、そんなところか? そしてあとは、敵が増えたことか

 

「襲われた?」

 

「あぁ、そうなんだ。 闇の書の騎士が闇の書を持っていたから拘束しようとしたんだが、いきなり攻撃されてな」

 

「・・・・・・」

 

黙り込むクロノ。 聞けば、雑種はユーノと違い待機命令が出ていたらしい。 まぁ、デバイスもないのだから当たり前なのだが。 その待機命令を無視したことの処罰でも考えているのか、あるいわ。 まぁ、俺が考える所ではないので知らないが

 

「ふん、役立たずめ」

 

「なんだとっ!? お前だって、取り逃がしているだろうが!!」

 

俺が小声で言うと、目ざとく聞いていたのか食って掛かってくる雑種。 だが、今回に関しては攻めさせてもらうぞ

 

「大局もわからないのか貴様は。 あの場で我達がすることは、リンカーコアが抜かれないようにすることだ。 武装局員は抜かれてしまったようだがな」

 

「神木、そこまでにしろ。 藤森、君は待機命令だったはずだ。 それについての罰則は、艦長と協議し後で言い渡す」

 

「くっ!」

 

「ふん」

 

言い合いになるのを避けるためか、クロノが会話に入ってくる。 雑種は悔しそうに俺を見るが、俺はそれを取り合わない

 

「話は脱線したが、新しい敵が出た。 それだけははっきりしている。 映像がないから何とも言えないが、相手は僕たちの相手にした仮面の男たちのような手練れかもしれない、各自気を付けてくれ。 そしてもう一人、彼女だ」

 

モニターに映し出されるのは、黒い着物を着た女性だった。 ていうか、ぶっちゃけ玉藻だ。 画像が粗いのは、玉藻がそう言う結界を張っていたからだ。 プレシアさんとアリシアが喋ればバレるかもしれないが、プレシアさんは話す気がないのか黙っている

 

「ちょーっと、画像が粗くて分かりにくいんだけど、ごめんねー。 たぶん、認識阻害の結界をかけてるからだと思うんだけど」

 

そう言って画像を操作しているようだが、画像の粗さは一向に取れない。 やがて諦めたのか、エイミィさんは操作をやめた

 

「現状、彼女についてわかることはない。 プレシアさん、一緒に戦っていたんですから何か情報などは?」

 

「目の前の()の殲滅で忙しかったもの、会話なんてしてないわ」

 

「・・・・・・」

 

これにはみんな無言になる。 不機嫌なプレシアさんだが、殲滅って文字通り塵一つ残さずの殲滅じゃ、というのがみんなの共通の見解だろう。 触らぬ神に祟りなしということで、プレシアさんの話はそこで終了した

 

「敵か味方か、何処の所属かもわからない、彼女が現れた際も注意を払ってくれ」

 

「あの、プレシアさんを助けてるんですから、味方じゃないんですか?」

 

高町なのはがおずおずと手をあげ質問すると、リンディさんが首を横に振りながら答える

 

「彼女の目的が分からない以上、味方、とは断定できないわ。 今回は、偶然目的が一致したから加勢した、そうとも考えられるから」

 

その言葉に納得したのか、高町なのはは上げていた手を下げる。 他に質問がないのかを確認し、その場は解散となった

 

--------------------------------------------

 

「待たせてしまったかしら?」

 

「いえ、そんなには」

 

俺はクロノたちのマンションの屋上に居た。 作戦会議も終わり、帰ろうとしていたらプレシアさんからすれ違いざまに紙を渡されたのだ。 内容を読むと、たった一言。 屋上で待っていてほしい。 そう書かれていたため、俺は帰ることはせずにそのまま待っていたというわけだ。 プレシアさんも用事を終わらせたのかすぐに来てくれたため、俺も寒い思いをせずに済んだ

 

「まずは今回の事よ、玉藻を加勢させてくれてありがとう」

 

「いえいえ、どっちにしろ局員だけじゃダメだろうとは考えていましたから」

 

まぁやはりと言うか、玉藻の事だった。 もとから局員とプレシアさんじゃ局員が足を引っ張るのは分かっていた。 まぁそもそも、プレシアさんはバリバリの戦闘型というわけではないはずなのだが...... ともかく、元々警護するのに玉藻は近くに居たのだ

 

「それでも、よ。 ありがとう」

 

「はぁ...... どういたしまして」

 

これじゃあループになりそうだったので、俺が折れることにした。 ひとしきり笑い合った後、真剣な表情になるプレシアさん

 

「これ」

 

「あぁ、ペイルですか」

 

「お久しぶりです、マスター」

 

ペイルを受け取り声をかければ、ペイルも答えてくれた。 ペイルが渡されたということは

 

「カートリッジシステムの搭載、終わったんですね」

 

「えぇ、貴方に言われた通りにしておいたわ」

 

ペイルに言って内容を見せてもらうと、流石プレシアさんだ。 俺が思っていたよりも高性能に仕上げてくれたようだ

 

「ありがとうございます」

 

「いいわよ、今回の事もあるし、アリシアのこともある。 貴方には、感謝してもしきれないから。 それじゃあね」

 

そう言って去って行くプレシアさんを見送りながら空を見上げる。 空が近いためか、星がよく見える

 

「さて、帰るかペイル」

 

「久しぶりの我が家に、ですね」

 

屋上から階段に通じるドアを開け、俺はその場を後にした

 

 



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第六十六話 帰宅

家に帰ると、リビングの電気がついていた。リビングのドアを開ければ、みんなが出迎えてくれる

 

「お帰りなさい、マスター」

 

「遅かったですな、マスター殿」

 

「お帰りなさい、マスター」

 

「・・・・・・おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

一人だけ返事が遅れたのは、珍しいことに玉藻だった。 玉藻は机に突っ伏したまま、俺を迎える。 まぁ仕方ないか、久しぶりの本格的な戦闘だったわけだし。 そもそも、玉藻のクラスはキャスターだ。 真正面から戦うのは、本来できるだけ避けることだ。 それを可能にしたのは、俺から魔力を多量に取り、身体強化していたからだ。 まぁ、その分動いたため疲れたようだが

 

「今日は久しぶりに帰ってきたやつがいるぞ」

 

「お久しぶりです、皆様」

 

俺が服の中からネックレスを出せば、ペイルが挨拶をする。 そんなペイルを見てか、椅子に座っていたリリィとマシュが立ち上がりこちらに来る

 

「ペイル、改修は終わったんですね!」

 

「プレシア様のおかげで」

 

「早かったですね、でもよかったです。 お帰りなさい」

 

「はい、ペイルライダーただいま戻りました」

 

挨拶を終えると、俺も椅子に座り今日の報告会だ

 

「さて、報告会と言っても目新しいことは特にないかな。 あぁ、雑種が襲われたらしいが、誰か見ていた人はいる?」

 

全員が首を横に振る。 まぁ、見ているやつがいるとは思っていなかったが

 

「第三勢力、って言いたいところだけど、多分ギル・グレアムたちが動いたんだろう。 確認していないから定かではないけど」

 

「私たちの動きは」

 

リリィが確認するように言うが、別にギル・グレアムや猫姉妹は脅威ではない

 

「今まで通りで。 ギル・グレアムや猫姉妹が動いたんなら、いつも通りで十分だ。 ただ、人形でもない第三勢力だった場合、お前たちに動いてもらうことになる」

 

一人一人の顔を見回しながら言う。 猫姉妹や神の人形ならいいが、第三勢力だった場合俺の記憶にはない。 俺たちと同じ転生者ならある程度予想できないこともないが、全く違う場合は予想もつかない。 そもそも、プレシア・テスタロッサやアリシア・テスタロッサが生きている時点で、俺の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 イレギュラーがいつ発生してもおかしくない状態なのだ、それを念頭に置かねばならない

 

「わかりました」

 

「御意」

 

それぞれ返事をする

 

「それじゃあ、堅苦しい話はここまでにしよう。 玉藻は今回、お疲れ様」

 

「うぅ~、マスターにそう言っていただけるのはありがたいです~」

 

相変わらず机に突っ伏しているが、顔を上げる玉藻。 疲れてはいるようだが、大丈夫そうだ

 

「なら私と一緒にトレーニングなどを!」

 

「いや、私のクラスキャスターですから。 そんなことしませんから」

 

「ま、まぁまぁ、リリィさん」

 

そんな玉藻に声をかけるリリィだが、それをマシュがなだめていた

 

「そう言えば玉藻、少し聞きたいことあったんだけど」

 

「なんでしょう?」

 

「プレシアさん、どうしたのアレ?」

 

言っていたのはさっきの戦闘の事で、プレシアさんが玉藻に迫る勢いで魔法を乱発していたことだ

 

「あー、あれですか。 あれはまぁ、火事場のクソ力みたいな?」

 

どうも玉藻の話によると、娘を思う気持ちの暴走的なものらしい。 どこかからバックアップを受けてアレ、ならまだわかるのだが、バックアップを受けずにあれとは恐れ入る。 なので、今頃は玉藻以上にひどい状態だろうとのこと

 

「いや、少し待ってくれ」

 

「なんでしょうかマスター?」

 

「俺、帰りにプレシアさんに会ってきたけど、ケロッとしてたぞ?」

 

「ついでに言いますと、魔力等も通常時の値でした」

 

「えぇー......」

 

玉藻がどこか呆れたような声を出すが、仕方ないことだと思う。 普通に条件付きSが出せる魔力量ではなかったのだが、本人自体はケロッとしていた。 不思議なこともあったものだ

 

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~はやて視点~ 

 

昨日はすずかちゃんとみんなで食事するつもりやったんやけど、みんなの帰りが遅くてすずかちゃんが気を利かしてくれて家に招待してくれたんや。 猫と戯れたりして素敵な時間を過ごした次の日、すずかちゃん家のメイドで、ノエルさんに家まで送ってもらってるんや。 話は、昨日会えなかった私の家族の話

 

「ご親戚の方たちが一緒だと、にぎやかでいいですね」

 

「はい。 毎日こう、にぎやかで楽しいです」

 

ノエルさんと楽しい会話をしながら、守護騎士(みんな)が来てから半年がたつのかと思ってしまう。 最初は現在の知識がない皆に苦労したけど、今となっては楽しい思い出や。 最初にあった日も、石田先生に怪しまれたり。 あー、その前のこと思い出したらイライラしてきた。 私の様子が気になったのか、話しかけてくるノエルさん

 

「どうかなさいましたか?」

 

「あー、いや、その...... ちょっと友達のこと思い出してたらムカついてしまって」

 

「そうなんですか?」

 

「まぁ、ちょっと色々ありまして」

 

「そうですか」

 

深く聞いてくることのないノエルさんに感謝しつつ、やっぱり思い出すとむかつく。 誕生日プレゼントでもあるネックレスを見ながら、そう思う。 そして、これを付けている自分も、少し情けなく。 結局、嬉しかったからあのひからずっとつけてるしな。 とりあえず、会ったら話を聞いて一発ぶん殴ったる。 新たに決心をしつつ、ノエルさんの運転する車に揺られつつ、みんなが待っているだろう、家に帰る



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第六十七話 緊急招集

ん”ぁー!! なんなんですかね!? 行くサイトの広告が、ほぼすべてリリなののコラボなんですが(憤怒

なに? 俺にやれってことか!? ディアーチェのあの表情とか、シュテルのあの雰囲気とか、たまらなすぎだろ!!やるとしたら新規ですよ、この野郎!?(逆ギレ え?主人公三人とレヴィ? うん、まぁ、ありなんじゃないかな? はやてちゃんは、守りたい、この笑顔!みたいな感じだったけど

な、何をする!?ア”-!!

あのスマホアプリ、やった人がいるなら感想とか欲しいなー(チラチラ それによってやるか決めるから(露骨な感想稼ぎ


『こう、毎日毎日出撃だと疲れる』

 

『本当ですねぇ......』

 

俺は今、霊体化した玉藻と共にハラオウン家に訪れていた。 というのも、ここ連日闇の書の騎士たちの動きが活発で、俺もクロノに言われて夜に出撃などをしていたからだ。 ようやく休日なので休めるかと思えば、昼前にたたき起こされた。 闇の書の騎士が現れたそうで、エイミィさんに緊急招集をかけられたのだ。 今回、クロノもいないということで全指揮権はエイミィさんに譲渡されているため、泣く泣くだ。 玉藻を連れてきたのは一応、何があっても言いように、だ。 俺の他にも、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、雑種、召集はかかっていないはずなのだが、いつの間にか入ってきているプレシアさんだ。 まずは、シグナムが見つかったためフェイト・テスタロッサと雑種が出撃をする。 プレシアさんは心配そうだが、何かあった時の予備戦力ということで泣く泣く待機だ。 アルフはともかく、雑種が守るなんて言っていたが果たして守り切れるのか。 まぁ、一応玉藻も自分で転移してもらってはいるが。 俺は高町なのはと共に待機しているが、すぐに出撃となるだろう。 モニターを見ると、ちょうどフェイト・テスタロッサたちと、シグナムが接敵したようだ。 ・・・・・・相手を助けたようだが

 

「フェイトちゃん、その人敵!捕まえるんだよ、助けてどうするの?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

エイミィさんも指令代行ということで余裕がないのか、ついといった感じで口をはさんでしまう。 まぁ、どっちにしろ捕まってたし、あのままじゃ下手したらやられていた可能性もあるのでベストまではいかないも、ベターな判断だと思う。 またもアラートが鳴り、モニターに映し出されたのはヴィータだった

 

「なのはちゃん、神木君。 お願い!」

 

「はい」

 

「やっと我の出番か」

 

「神木君はこっちの指示に従うこと、いいね!」

 

「貴様まで我を顎で使うか」

 

減らず口を叩きつつ、転移される。 高町なのははバリアジャケットに変身し、俺は前を見据える。 ヴィータの数キロ先に転移された俺たちは、ヴィータを待つ形になる。 俺はその間、ばれないように索敵の魔術や、他の魔術を展開しておく。 人形もそうだが、雑種が襲われた正体不明の奴らの対策だ。 すぐに動けるようにしておく

 

「神木君、バリアジャケットは?」

 

「ふっふっふ、我にはそんなもの必要ないからな!」

 

本当は変身したいところだが、諸事情により俺は展開できないことになっているから辛い。 そんな俺を心配そうに見る高町なのはだが、俺は気付かないふりをしつつ前を見る。 どうやら来たようだ、紅い点が見える

 

「ふん、挨拶代わりだ」

 

「『ちょ!?』」

 

何か言おうとしている高町なのはとエイミィさんだが、俺が剣を射出する方が速い。 上げた手を下げると同時に、剣を射出する。 すると、どんどん近づいてきていた紅い点は急停止し、闇の書を構える。 なんだ、意外に冷静だったな。 そのまま闇の書に剣は吸収され、ページが増えていく。 まぁ、これも予想通りだ

 

『あー、もう何やってるのさ!神木君はなのはちゃんの援護!!今度勝手な行動をしたら、強制転移させるから!』

 

「くっ!覚えていろ!」

 

「いや、意味わかんねえから。 それと、高町何とか!」

 

「うぇっ!? なのはだってば!な、の、は!」

 

何とも緊張感がないが、足を止めることには成功した。 俺たちの任務は捕縛のはずなのだが、高町なのはは話し始める

 

「ねぇヴィータちゃん、お話聞かせてもらうわけにいかないかな? もしかしたらだけど、手伝えることとかあるかもしれないよ?」

 

「うるせぇ!管理局の人間の言うことなんか、信じられるか!!」

 

「私、管理局の人じゃないよ? 民間協力者」

 

あくまで、高町なのはは説得をしようとしている。 ヴィータも一瞬揺らぎかけたようだが、管理局の人間なんか信用できないとのこと。 まぁ、管理局も一枚岩じゃないしな。 それと、高町なのはは管理局の人間じゃなくても、俺は管理局の人間だ、一応。 何かを考えているようだが、ヴィータが口にしたのは

 

「なら、リンカーコアをくれよ...... 私たちは闇の書の完成を急ぐ必要があんだよ!」

 

「それは......」

 

それは出来ないだろう。 リンカーコアを差し出せば、闇の書は完成に一歩近づく。 管理局としても、それは好ましい事態ではない。 戸惑う高町なのはに、ヴィータは

 

「出来ねえんだろ!なら、簡単に手伝えるかもしれねぇなんて言うじゃねぇ!!ほえろ、グラーフアイゼン!」

 

直後、耳をつんざく轟音と共にまばゆい光が。 閃光弾、みたいなものか。 耳をふさぎつつ、剣を飛ばして、必要以上に飛ばせないようにしようとするが、闇の書がヴィータを守るように剣を吸収していく。 そんな機能、ありましたっけ? 素で聞きたくなるが、それをこらえる

 

『だから勝手な行動を!!』

 

『このままでは逃げられるぞ!!』

 

『いいわ、やりなさい。 少しでも足止めになればいいわ、なのはちゃんは砲撃の準備をしなさい』

 

『プレシアさん!』

 

「え、あ、はい」

 

なにやら内部分裂も起こっているが、気にせずに剣を射出。 仕方ないので、追尾式の宝具原点を高速で射出し、戻るのを利用して足を止めさせる。 にしても、少し距離を離しすぎたか。 高町なのはは戸惑っているようだが、プレシアさんに言われた通り、砲撃の準備をしている。 あまり剣を射出すれば、闇の書のページも溜まりすぎてしまうので、ほどほどにしておいた。 だがそのせいで、距離はさらに離れてしまう。 ようやくヴィータが止まるころ、高町なのはの砲撃準備が整う。 カートリッジを二発消費して、砲撃が放たれた

 

「ディバイーン、バスター!!」

 

『マスター』

 

『わかってる』

 

砲撃が直撃する直前、ペイルが念話をしてきた。 俺もわかっているため返事をする。 直撃したかに思われる砲撃だったが、煙が晴れれば人形とは別の仮面をつけた男がヴィータを守るようにプロテクションを展開していた

 

『あれは!?』

 

『守護騎士を守った、そう言うわけね』

 

呆けている高町なのはだったが、すぐに気を取り直し二発目の発射体制に入る。 それに伴い、俺も小手調べをすることにする

 

「ふん!同じようなのがぞろぞろ現れたところで!!」

 

高町なのはの砲撃よりも早く、俺は剣を射出する。 高速で射出された剣を、避けることなく取った。 まぁ、射線を転移に集中していたヴィータにかぶるようにしていたため、防ぐか取るかしかなかったのだが。 それにより、高町なのはの砲撃体制が整い二発目が発射される。 これはプロテクションで防ぐが、ひび割れ貫通する。 だが、貫通するのが少し遅かったようで、転移がの方が早く完了してしまった。 煙が晴れたが、誰もいない

 

『あちゃー、逃げられたみたい』

 

エイミィさんのその声に高町なのはは飛行魔法を解除して、俺の近くに降り立つ。 だがその表情は暗いままだった

 

「ちっ、逃がしたか。 せっかくの我の活躍の場が」

 

「ねぇ、神木君。 私は間違っていたのかな?」

 

高町なのはは暗い表情のまま、こちらを向くことなく尋ねてきた。 思い当たるのは、さっきのヴィータとの会話だろう。 だが、悪いがそれにこたえている時間はない。 転移反応が、高町なのはの後ろにあるのだ。 なので

 

「嫁よ、お前は...... うぉっ!?」

 

石に躓いたふりをして、右の拳を高町なのはの後ろに思いっきり振りかぶる。 もちろんこの時、高町なのはに抱き着くようなことはせず踏ん張っておく

 

「ぐっ!?」

 

「え!?」

 

高町なのはは驚いたように声をあげ、後ろを見れば、人形が割れた仮面を抑えつつ、こちらを睨んでいた。 ふん、腹の借りはこれで返させてもらった。 こちらをひとしきり睨みつけると、転移して行った。 反応を見るが、ここら辺にはもういないようだった

 

 



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第六十八話 強者

「さて、終わったから転送を」

 

「あれ、通信が......」

 

敵性の反応もなく、帰投するために転送してもらおうと通信をしようとするが、通信がつながらない。 詳しい原因などは分からないが、多分向こうで何らかのトラブルがあったのだろう。 一応、玉藻は向こうについていかせてはいるが...... ボーっとしていると、高町なのはが話しかけてきた

 

「ねぇ、神木君」

 

「なんだ嫁よ?」

 

視線を向ければ、相変わらず暗いままの高町なのは。 さっきと同じ様な雰囲気から見て、さっきの話の続きだろう。 ・・・・・・そう言う話は、雑種にでもしてほしいところなのだが

 

「私、間違ってたのかな? 手伝えることがあるかもしれないって思って、でもヴィータちゃんの言うようなことはできない。 それでもって思ったけど...... 私、間違ってたのかな」

 

「・・・・・・」

 

目尻に涙をため、絞り出すように言う高町なのは。 あいにく、俺はその問いに対する答えなど持ってないし、真面目に答えるつもりはない。 俺は踏み台を演じなければならないしな

 

「ふん、嫁が間違っているわけなかろう!なんせ常に正しい我と共にあるのだからな!」

 

「・・・・・・うん、ありがとう」

 

涙は収まったものの、その表情はすぐれない。 まぁ、当たり前か。 真面目に相談しているのにもかかわらず、俺はけむに巻いているようなものだからな。 でも、こんなことで悩むとはな。 前回も今回も、俺には似たような状況だと思うのだが。 いや、確かに悩んでいたか。 俺は一人で自己完結していると

 

『マスター』

 

『玉藻か、どうした?』

 

フェイト・テスタロッサと雑種の方について行っている玉藻から念話が飛んできた。 その念話はめんどくさそうな感じなのだが

 

『一応、守護騎士とフェイト・テスタロッサの戦闘には介入していないんですけど、その後に現れた仮面の男と人形は流石に介入しました』

 

『やっぱり現れたか、それで?』

 

『えーっとですね、まず仮面の男が最初に現れて、フェイト・テスタロッサのリンカーコアを魔法で摘出、って言うんですかね? した後に雑種が突撃したんですが、体よくあしらわれまして、さらにそこに人形が加勢してきたんですよ』

 

『あー、もうそれだけで頭が痛くなる状況だな。 それで?』

 

『ぶっちゃけ、気を失ったフェイト・テスタロッサを()()()守りながら戦うのはキツイので、援軍が欲しいなーと』

 

まぁ、大体は予想はついていた。 雑種が一人で守り切れるわけがないし、いくら玉藻が強いと言っても限度がある。 しかも、あまり身バレするのもよろしくないので、全力とは程遠いし。 予想の範囲内だが、一つ問題がある

 

『別に援軍はいいけど、どうやってだ? 俺は魔法使えんぞ? 高町なのはにしても、転送なんて時間かかるだろうし』

 

『そこは問題ありません!許可も取れましたし、それー!』

 

足元が輝き始めたと思えば、転送が開始されているようだ。 玉藻め、最初から準備万端だったというわけか

 

「え? え? なになにー!?」

 

「転送反応? これは......」

 

隣で高町なのはは騒いでいるが、レイジングハートは冷静に状況判断で来ているようだ。 というか今思ったが、第三勢力の玉藻が、俺たちのこと転送するっておかしくない? まぁ、そこはプレシアさんとかが上手く誤魔化してくれるか。 そんなことを願いつつ、転送が開始される。 と言っても一瞬だが

 

「なのは、よく悩むといい。 悩んで悩んで、前の時と同じく答えを見つけ出せ」

 

「え?」

 

一瞬でも時間があるのなら、といらぬアドバイスを出してしまう。 というよりも、口が勝手に動いた感じだ。 高町なのはは呆けているが、転送は開始され砂漠に居た

 

「か「どこだここは!?」」

 

高町なのはは何か言おうとしたようだが、俺はそれを遮るように大声を発した。 それにしても、何処を見ても砂漠だ。 風が吹いているせいか、服に砂が入ってじゃりじゃりする。 クッソ、自前の服なんだぞ。 ハラオウン家でシャワーは貸してもらえるだろうか? 割とどうでもいいことを考えながらた玉藻を探す。 まぁ、轟音がしたからすぐに見つかったのだが

 

「「「・・・・・・」」」

 

玉藻、シグナム、仮面の男、人形は四人で、睨みあっていた。玉藻はフェイト・テスタロッサを抱えているが、どうもまだ余裕そうだな。 解せないのがシグナムだが、大方勝負を邪魔されたからか? このまま観戦と行きたいところだが、四人とも気が付いたようだ。 こちらに視線が集まる

 

「む? 前からいるいけ好かないやつがいるな。 さっき殴り飛ばして、仮面が割れていたはずだが? フハハハハハ!そうだそうだ、二人いるのだったな!して、もう一人の新顔はさっきと同じやつか?」

 

挑発をしていると人形の方の殺気が増す。 ツッコミを入れるなら、周りから見ればさっきの仮面を割ったのはまぐれ当たりということになっているのだが。 仮面の男に声をかけるも、興味がないのか何も言ってこない。 転移反応とかしてないので、転移をするというわけでもないようだ。 仮面の男と人形が視線を離したすきに玉藻はこちらに飛んでくる。 高町なのはにフェイト・テスタロッサを押し付けて。 それもそれで困るのだが

 

「フェイトちゃん!? 気を失ってる......」

 

「謝りはしない!だが、テスタロッサが気を失っているのはこの二人が私とテスタロッサの真剣勝負中に後ろから襲ったからだ!」

 

シグナムが補足しているが、真剣勝負中にねぇ...... 俺が腹を貫かれた時、転移してきたんだから、転移反応とか見る結界を周囲に展開しておけばどうにかなったような気もするが、まぁ仕方ないか。 玉藻は高町なのはにフェイト・テスタロッサを預けると、その後ろで控えている。 これから第二ラウンドが開始してもおかしくない状況で、それは起こった。 天気のはずなのだが、空から紫色の無数の雷が落ちてくる。 ご丁寧に、俺と高町なのはを避けて。 広範囲に落とされる雷は、威力も相応のものなのか、仮面の男や人形が展開したプロテクションを安易に破っていた。 シグナムはデバイスで切ったりしていたが。 一応、そっち側は威力調整してあるのね。 この状況に高町なのははフェイト・テスタロッサを抱えながらポカーンとしていた。 一応、ここは戦いの場なので気を抜かないでほしいのだが

 

「消し炭も残らないほど、きれいさっぱり殺してあげるわ」

 

鬼が降臨した瞬間だった。 バリアジャケットはあふれ出る魔力のせいかユラユラしており、手からはバチバチと電気が迸っていた。 あかん、これ前回よりもマジ切れじゃん。 他の奴らにはバレないように玉藻に目で合図を送れば、結界を展開してくれた。 すると玉藻は用は終わったとばかりに、霊体化して姿を消す。 目の前では、圧倒的強者によって蹂躙劇が行われていた。 無限にお代わりが来る雷に()()はなすすべもなく焼かれていく

 

「か、神木君、織君が、織君が巻き込まれてるよ!?」

 

「いい気味だ。 ちなみにだが嫁よ、あの中に入れば問答無用で雷に焼かれるがそれでもよいのか?」

 

妙に焦った様子の高町なのはだが、俺がそう言うと青い顔をしながら下がっていく。 まぁ、目の前の惨劇を見て、進んで自分からあの中に入るドMがいたらぜひとも見てみたいものだ。 一応、プレシアさん手加減はしてるっぽい。 シグナムだけは。 雑種? 知らん。 度重なる落雷により砂ぼこりがひどく、状況の確認がしづらい。 煙が晴れたころには、雑種以外誰もいなかった

 

「・・・・・・やりすぎたわね」

 

今更!? とツッコミをいれたくなるのを我慢する。 やっちまった感を出していたのは一瞬で、次の瞬間には

 

「あぁ、フェイトは大丈夫なの!?」

 

高町なのはに駆け寄る親ばかに戻っていた

 

 

 



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第六十九話 The shuffle world

「フェイトさんですが、リンカーコアを抜かれたもののすぐに戻されたらしく、リンカーコアに異常もなく魔法の使用も問題ないそうです。 今は戦いの疲れ等で気を失っていますが」

 

「そう、それならよかったわ......」

 

心底安心したというように息を吐くプレシアさん。 戦いも終わり、アースラ艦内。 今回の出撃に関する報告会が行われていた。 進行はリンディさんで、今はフェイト・テスタロッサに関してだ。 まぁ、玉藻もいたことだしそこら辺の心配はしていなかったが

 

「えぇ、それはよかったですけど....... プレシアさんは今度から広域魔法は避けてくださいね?」

 

「えぇ、善処するわ」

 

にっこりと笑う二人だが、怖いわ。 広域魔法の件は、多分というか十中八九味方である雑種に直撃したからだろう。 その雑種だがしぶといことに、軽度のやけどだけで済んでいた。 改造されたデバイスが優秀なことに救われたな。 そんなわけで話もそこそこに、今回臨時の司令部の通信がつながらなくなった件がエイミィさんから語られる。 簡単な話、俺たちとの通信を最後にシステムがハッキングを受けあらかたダウンしたらしい。 臨時の司令部とは言え、通信機器やプログラムは本局で使っているものと同等、それをあらかたダウンさせたのだ、内部に裏切り者がいるのではという話になった。 エイミィさんが自分の責任だと言っているが、そんなこと予想もしていなかったのだから仕方がない。 まぁ、その犯人が今ここにいるんだけどな。 エイミィさんを慰めている使い魔を見る。 ギル・グレアムの使い魔。 彼女を通して、こちらの情報はギル・グレアムに筒抜けというわけだ。 警告はしたので、俺はこの件にこれ以上口を出すつもりはない。 あまり口出しすれば、未来も変わってしまうしな

 

「さて、これであらかた終わりね。 それじゃあ、今回浮上した問題点を二つ。 まずは、神木君貴方のレアスキルに関してよ。 今後は使わないで頂戴」

 

「貴様らの指示など我は聞かんぞ? それに、アレがなくなれば我は出撃ができなくなるぞ?」

 

「・・・・・・その件はまた考えましょう。 二つ目は前回藤森君が言っていた仮面の男が現れた、ということね」

 

「それと艦長、もう一つ。 最近確認されている三人です」

 

クロノがリンディさんの言ったことを付け足す。 表示されるのは、人形、仮面の男、そして玉藻、リリィ、マシュ

 

「仮面の男計四人は、闇の書の完成が目的、というのは分かるけど、この三人は......」

 

「はい、目的が不明です。 こちらを助けるような動きはしていますが......」

 

プレシアさんが俺を見るが、俺は知らないふりだ。 玉藻、リリィ、マシュのことを知られるわけにはいかない。 知られたらそれはそれで面倒だし、説明もしなくてはならない。 それに、家族(アイツ等)にはめいわくをかけたくないしな

 

「こいつらは仲間なのかね? 前回は神木、今回はフェイトを助けてるし。 服装も同じ黒だし」

 

「そう考えるのは早計だ、アルフ。 仮面の男たちは目的がはっきりしているが、この三人はそうじゃない。 警戒しておくに越したことはないさ」

 

クロノがそう締めくくり、今回の話は終了した。 これからは今まで通り、司令部はアースラに移るようだ

 

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「ただいまー」

 

「お帰りなさいませ、マスター殿」

 

「ハサンか。 珍しいなお前が家にいるなんて」

 

「ははは、そうですな......」

 

帰ってくると、ハサンに出迎えられた。 珍しいこともあるものだと、思っていたことをそのまま口に出していたらしく、ハサンが妙に落ち込んでいた。 ミスったな、素直にそう思った。 ここはフォローせねば

 

「まぁ、お前が家にも帰らずに八神はやての監視、警護してくれてるのは知ってる。 そのことには感謝しているんだ、ありがとう」

 

「いえ、私はアサシンで()()()ですから。 このくらいは朝飯前ですぞ」

 

「それならもうちょっと家に帰ってくるように」

 

「ははは、これは一本取られましたな」

 

ハサンと話しつつ、リビングに入ると他の三人も帰ってきていたのか、久しぶりに勢ぞろいだった

 

「お帰りなさい、マスター!あ、ハサンさんもいたんですね」

 

「お帰りなさい、マスター。 ハサンは久しぶりですね」

 

「お帰りなさい、マスター。 ハサンさんもお帰りなさい」

 

「うぅ、マシュ殿だけです、私にお帰りと言ってくれるのは......」

 

ハサン、まさかの男泣き。 まぁ、たまにしか家に帰ってこないからな。 しかも、帰ってきても短い間しかいないし。 そんなハサンの様子を見て、リリィはプチパニックを起こし、玉藻は気にせずに俺に抱き着いてきた。 玉藻ぇ...... 夕飯の支度は整っており、それを食べながらハサンが帰ってきた理由を聞く

 

「それで、ハサンは何か報告があったんだろ?」

 

「あぁ、すっかり忘れておりました。 実は、八神はやてが入院をしました」

 

その言葉を聞き、俺の箸は一瞬止まったが、食事を再開する

 

「そうか、そうなるとページの収集は順調、物語は終盤、というわけだな」

 

「・・・・・・えぇ、そう言うことになりますね」

 

相槌を打つのはハサンだけ。 リリィは箸が止まり、マシュはどこか思いつめたような表情をしていた。 玉藻は...... あ、普通に食べてた

 

「マスター、彼女は八神はやてはどうにかならないのでしょうか」

 

「ならないな。 闇の書を八神はやてから切り離すのは宝具の原点のどれかを使えば可能だろうが、そうなると次の主の元に行くだろう。 闇の書をこの世から消し去る、そう言う選択もあるが守護騎士たちが消える。 それは八神はやても望まないはずだ。 現状、出来ることはたぶんない。 それに、そのすべてのことをやったとして、失敗すれば八神はやてが死ぬ」

 

マシュもわかっていたのだろうが、その言葉に悔しそうにしていた。 重苦しい雰囲気の中、食事は続く

 

「結局、物語通りに進めるしかないんですよマシュさん。 それに、下手に八神はやてに手を出せば、マスターが死にますよ?」

 

「「っ!?」」

 

玉藻の言葉に、息をのむマシュとリリィ。 そう、もしも成功したとしても、八神はやてのことをずっと隠し通すのは不可能だ。 そうなれば疑われるのは俺で、下手をすれば死ぬ。 あぁ、本当にままならない

 

--------------------------------------------

 

~なのは視点~

 

一人になるとやっぱり考えてしまう、ヴィータちゃんに言われたことを

 

「なら、リンカーコアをくれよ...... 私たちは闇の書の完成を急ぐ必要があんだよ!」

 

私はそれを聞いて、迷ってしまった。 確かに手伝えるかもしれない、でもそれをしてしまったら闇の書の完成を手伝ってしまう。 だからすぐには答えられなかったし、手伝うと言った手前否定はできなかった。 呆けてるうちに、ヴィータちゃんは逃げ出そうとして、神木君はすぐに対応していた。 私とは全く違った。 その後は結局逃げられてしまって...... 今でも私は悩んでる。 手伝えることがあるんじゃないか、何て...... でも、悩むのは間違いじゃないって、今はそう思える。 神木君が、そう思い出させてくれたから。 前の時、フェイトちゃんの時も悩んで悩んで、答えを出した。 だから、今回も

 

~なのは視点 end~

 



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第七十話 interlude

「お見舞い?」

 

「う、うん。 すずかちゃんのお友達ではやてちゃんて言うんだけど、どうかな?」

 

放課後、帰り支度を進めていれば高町なのはからそんな誘いがあった。 何故俺に? とも思ったが、それよりも答えを言わないとな

 

「嫁からの誘いだ、もちろん!と言いたいところなのだが、遠慮しておこう」

 

「ど、どうして?」

 

断ったのにもかかわらず、今日は引き下がる様子はない。 不思議に思うが、こういうものかと思い理由を話す

 

「あそこで雑種とフェイト・テスタロッサが睨んでいるからな、そんな空気の中行ったところでそのはやてとやらも嬉しくなかろう」

 

「そっか......」

 

雑種とフェイト・テスタロッサの様子を見て、おとなしく引き下がる高町なのは。 とぼとぼとグループの中に入っていく高町なのはに後ろ髪惹かれながら、中断していた帰り支度を再開する。 すると、今度はアリサ・バニングスと月村すずかが声をかけてきた

 

「ねぇ、本当に行かないの?」

 

「む? 流石の嫁であるアリサとすずかのお願いでも、向こうの気分がよくないであろう?」

 

「そういうのいいから」

 

俺の言葉にいやそうに顔をしかめながら、そう言ってくるアリサ・バニングス。 この頃何故か前より拒否反応を示さなくなってきたが、言われ慣れたとか? 人間の適応能力はすごいが、これになれるのはいささかどうかと思う。 いや、やっている俺が言うのもなんだが。 すると、らちが明かないと思ったのか月村すずかが前に出てきて、とんでもない発言をした

 

「で、でも知り合いの人がお見舞いするのはいいことだと思うよ?」

 

「知り合い? 誰と誰が?」

 

「はやてちゃんと神木君」

 

妙に確信したように言う月村すずかだが、八神はやてが漏らしたか? いや、そんなことはないと思いたいが。 ともかく、その発言を聞き高町なのはたちの方が騒がしくなる。 意図的にシャットアウトしてるから問題ないが

 

「嫁よ。 我ははやてという子のことは知らぬぞ?」

 

「はやてちゃんも同じような反応してた」

 

「・・・・・・」

 

同じような反応、ねぇ...... 何も反応していないが、それが原因なのだろうか? どちらにしろ八神はやても何も言っていないなら、俺はしらばっくれるだけだ

 

「さすがにそんなことを言われてもな...... さて、我は帰ろう。 それでわな嫁たち!」

 

そう言って教室を後にした。 見舞いに行かない理由、本当の理由は八神はやてと接触すれば、予想が付かないからだ

 

--------------------------------------------

 

インターホンを押せば、中からスリッパの音が聞こえ、ドアを開ける。 玉藻が。 もう一度言おう、玉藻がドアを開ける

 

「あ、マスター、いらっしゃい」

 

「おう、色々と言いたいことがあるが、とりあえずお邪魔します」

 

ささ、どうぞー、と中に案内してくる玉藻に突っ込みをいれたくなるが我慢し、中に入る。 玄関口に居れば、隣人といさかいとまではいかないけど、面倒なことになるのは目に見えている。 中に入れば母親の姿はなく、金髪の少女が魔法の練習をしていた。  言わなくてもわかると思うが、俺が来たのはテスタロッサ家。 練習しているのは、アリシアというわけだ

 

「あ!理樹だ!」

 

「あのな? 毎回言うけど、抱き着くな」

 

「わひゃー!」

 

抱き着いてきたアリシアを首根っこをつかむことで引き離し、投げてやりたいところだがそのまま離す。 さて、ここまで来て黙っていないのが玉藻だ

 

「何をやってるんでしょうかねぇ、アリシア・テスタロッサさん?」

 

「何って、理樹を見つけたから抱き着いただけだよ玉藻さん?」

 

何でこいつら笑顔で威嚇し合ってんの? 幼女と女性が笑顔で威嚇し合いうという奇妙な光景に、俺はいみがわからなくなった。 まぁ精神年齢で言えば、女性と差し支えないアリシアとすごい年齢の玉藻なのだが。 無駄な考えを振り払いつつ、ここに来た目的を話す

 

「それで、アリシアの制御の方はどんな感じだ?」

 

「グルルルルル...... すみませんマスター。 アリシアさんの方ですが、順調ですよ? 私が思っていたよりも、進んでいますし」

 

「えへへー!ブイ!」

 

二人でうなり合っていたが、俺が声をかければすました顔で謝る玉藻。 どうやらアリシアの修行は順調なようで、アリシアはそれを聞いて得意げな顔でこちらにVサインをしていた

 

「さすがプレシアさんの娘、ってところか? まぁ力の制御は必要だし、このまま頑張ってくれ。 玉藻もよろしく頼む」

 

「わかりました、マスター」

 

「了解!」

 

用事も終わったので、お暇しようかと思ったら、そうも問屋が卸さなかった。 俺が帰ろうとしているのがバレたのか、アリシアがゆっくりしていけばいいとのこと。 話を聞くと、プレシアさんはアースラに呼ばれているらしくしばらく帰ってこないとのこと。 なので、空いた時間ができ玉藻に修行のお願いをしたらしい。 俺がお見舞いのことを聞くと、そのころには家に帰ってきていたらしく、断ったとのこと

 

「理樹はなんで断ったの?」

 

「うーん、まぁ、色々だよ、色々」

 

アリシアにそう聞かれ、俺は紅茶を飲みながら答える。 そう、色々だ。 そう答えると、アリシアは飲んでいた紅茶を置きながら聞いてくる。 真剣な表情で

 

「言い方は悪いけど、()()()()してるから?」

 

「・・・・・・まぁ、そうだな」

 

前回の事件の時もそうだったが、俺は未来を知っている。 その未来を知っているのにもかかわらず、変えようとしない。 自分で強制的に選ばされた(自分で選んだ)道だが、やはり覚悟を決めても後ろめたさもある。 たぶん、英雄王はそこら辺の苦悩が気に入ってるんんだろうが

 

「そっか......」

 

そう言い、納得したように紅茶を飲むアリシア。 俺もそれにつられ紅茶を飲む。 玉藻は何も言わない。 こういう話は、玉藻は意見を言ってこない

 

「でもさ」

 

「ん?」

 

紅茶を膝の上に置き、再び口を開くアリシア

 

「確かに知ってて、見ないふりしてるけどさ、こうやって救われた命もあるよ?」

 

そう言いながら、自分を指すアリシア。 ・・・・・・確かに、俺の知っている記憶ではアリシアはそのまま虚数空間に消えた。 だが、この世界では玉藻の力を借り生き返らせた

 

「だからさ、忘れないで。 たとえ貴方が自分の行いを悔いていたとしても、その行いによって救われて感謝しているものがいるって」

 

そう言って手を握り、俺を見てくるアリシア。 その瞳は真剣で......

 

「だーかーらー!毎回毎回、なんでアリシアさんはマスターにちょっかい出すんですか!」

 

「うわっ!?」

 

その手を引きはがすものが現れた。 まぁ、玉藻だ。 良い雰囲気だったのが耐えられなかったのか、玉藻がぶち壊す。 それに怒るアリシアだが、玉藻も怒っているため聞く耳持たない。 ヒートアップしていく言い合いに苦笑しつつ、紅茶を飲む

 

「玉藻、アリシア」

 

「なんですか!?」

 

「なに!?」

 

言い合いをしていたため、こっちを凄い形相で見てくる二人。 いや、いきなり呼んで悪かったけどさ。 ともかく、気を取り直す

 

「ありがとう」

 

「「・・・・・・」」

 

お礼を言えば何のことかわからず二人は目を丸くしているが、それでいいのだ。 飲み終わった紅茶を置き、立ち上がる。 そのまま部屋を後にして、外に出る。 ありがとう、玉藻、アリシア。 若干だが、気分が上向いた

 



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第七十一話 In the back of a smile

~はやて視点~

 

シャマルからすずかちゃんが友達を連れてお見舞いに来る、そう言われて私は楽しみにしていた。 つい先日、ちょーっと理由があり入院になってからというもの、毎日検査でちょっとつまらなく思ってた。 なので、すずかちゃんやその友達が来るて言うことになり、少し楽しみやった。 ・・・・・・まぁ、来ることないと思うけど()()()や、もう一人の男の子は話を聞いた限りご遠慮願いたいんやけど。 ともかく、すずかちゃんの友達、アリサ・バニングスちゃん、高町なのはちゃん、フェイト・テスタロッサちゃんが来るのは楽しみやった。 その時シャマルは何もない風装ってたけど、何かあるんやろか? すずかちゃん以外の人達には名前を出さないでほしいとか言ってたけど。 そんなことを考えてると、ノック音が

 

「はーい!」

 

「はやてちゃん、すずかだけど大丈夫かな?」

 

「どうぞー」

 

やっぱりすずかちゃんは礼儀正しい子で、こっちに気を使って中の様子を聞いてから入ってきてくれた。 その後ろには勝気な子、多分アレがアリサ・バニングスちゃんやな。 その後ろに何やら箱を持った女の子、高町なのはちゃんやろ。 そして最後に、金髪の女の子、フェイト・テスタロッサちゃんやな

 

「「「「こんにちわー」」」」

 

と思ったら、四人の声が聞こえた。 よく見えなかったけど、どうやら前に話が上がってたもう一人男の子が来たみたいやな。 内心ちょっと嫌な気分になりつつ、表にはそれを出さないようにした。 まぁ、すずかちゃんから聞いただけで決めつけるのは失礼な話やし、会話をしてからでも印象を決めるのは遅くない

 

「すずかから聞いてると思うけど、私はアリサ・バニングスよ。 気軽にアリサって呼んで頂戴!」

 

「私は高町なのは、なのはって呼んでね?」

 

「フェイト・テスタロッサです。 よろしくね?」

 

「藤森織だ、よろしく」

 

「八神はやてです、よろしく」

 

自己紹介を交わし、すずかちゃんが持っていた花を受け取る。 それを脇のサイドテーブルに置く。 後でシャマルに、飾ってもらおう。 そう思いながら、みんなと会話をする。 守護騎士(みんな)とはよくしゃべってるけど、こうやってほかの人と喋るのは久しぶりに感じる。 毎日喋るのは守護騎士(みんな)を除けば、石田先生や看護師の人数人やし

 

「今日はありがとうな? ちょっと具合が悪かっただけで、みんな慌てて救急車呼んだから、少し大事になってな?」

 

「全然!そんなに気にしなくても大丈夫だよ? それだけ、家族の人がはやてちゃんを心配していたってことなんだから」

 

「そうかな?」

 

ちょっと照れ臭くなり、頬を掻く。 すずかちゃんの言う通りなのかもしれない

 

「そうよ!それに、私たちのことなら気にしなくてもいいわよ? もともと、すずかの友達って言うことで、紹介してもらうつもりだったし」

 

「そう言うことだから気にしないではやてちゃん。 あ、これ私の家からの差し入れだよ」

 

そう言って差し出される箱。 少し甘いにおいがする。 中を見れば、人数分のシュークリームが入っていた

 

「これは?」

 

「私の家なんだけどね、喫茶店やってるんだ。 翠屋って言うんだけど、知ってる?」

 

「翠屋...... あー!前に雑誌かなんかで特集組まれてた店やろ? ほぇー、なのはちゃんの家だったんかー」

 

「にゃはは」

 

少し照れたように笑うなのはちゃん。 ほえー、美味しいって評判だったか楽しみやな。 それにドライアイスも入ってるから、少しの間は安心や。 これも机の上に置く

 

「でも、元気そうでよかったよはやてちゃん」

 

「さっきも言ったやろ? 守護騎士(みんな)が大げさにしただけだって」

 

「でも、調子が悪かったんなら、家族なら心配すると思う」

 

「それは...... まぁ、そうやな」

 

妙に実感のこもった声で言うフェイトちゃんに首をかしげつつ、肯定する

 

「本当はもう一人も来れればよかったんだけど......」

 

「もう一人? 誰やそれ?」

 

「神木理樹君」

 

「・・・・・・」

 

その名前に笑顔で固まるが、一瞬のことだ。 なんか、なのはちゃんが少し表情に陰りが出始めたけど気のせいや。 フェイトちゃんはそこまででもないけどともう一人、藤森君はあからさまに空気が変わったけどな?

 

「だれや、それ?」

 

「神木君と同じ反応だね、二人はやっぱり知り合いなの?」

 

「すずかちゃんの言ってる意味が分からんのやけど? 誰なん?」

 

すずかちゃんが私の顔を覗き込んでくる。 その顔は、どうも確信をつかんでいるような顔だった。 こう見えてもポーカーフェイスは得意や、このまま乗り切らせてもらう。 そもそも、その神木理樹君と私の知ってる理樹君が同一人物という保証は何処にもない。 我ながら苦し言い訳やけど

 

「知らないなー」

 

「すずか、それ以上はやめなさい」

 

止めに入るアリサちゃんに、おとなしく引き下がるすずかちゃん。 さて、気になってはいたけど藤森君、空気悪いし出て行ってもらいたいところやな

 

「それでえーっと、藤森君やったっけ? 正直言って、空気悪いから出て行ってほしいんやけど。 その神木君やったっけ? 話が出てから、こっちのほう睨むように見るのやめてくれへん?」

 

「あ、あぁ、すまない。 すずかが神木と知り合いだって言うから、つい、な?」

 

何がついなのやろう? 学校でのことはすずかちゃんから聞いているとはいえ、それを病室に持ち込まないでほしい。 病は気からって言うしな?

 

「ご、ごめんねはやて。 私たち、彼に嫌な思いさせられてるから」

 

「それとこれ、今関係ある?」

 

「・・・・・・」

 

「フェイト、関係ない話はやめなさい。 今は、はやてのお見舞いに来てるんだから。 悪いわね、はやて」

 

「ん。 こっちも熱くなってしもうた、ごめん」

 

早くも、アリサちゃんの立ち位置が決まった瞬間やった。 仕切り人や、アリサちゃん。 それにしても、同姓同名の人のために熱くなるとは、少し気恥しい。 すると、それまで黙っていたなのはちゃんが口を開く

 

「ねぇ、はやてちゃん。 本当に神木君とは知り合いじゃないの?」

 

「うーん、まぁ、会ってないからわからへんけど、少なくとも、そんな友達はおらへんかな?」

 

苦笑しつつ答える私。 嘘入ってない。 私と理樹君の関係を言葉で表すなら、赤の他人以上、友達未満だ。 理樹君は私のことを全く知らへんし、私は理樹君のことを全く知らない。 お互い踏み込むことはなかったしな?

 

「そっか......」

 

相変わらず表情の晴れないなのはちゃんを心配するフェイトちゃん。 笑顔でこちらを見るすずかちゃんに、ムスッとした顔の藤森君。 なんか微妙な空気になってしまったんやけど? その空気を引っ掻き回した本人は、にこにこしてるし。 アリサちゃんを見れば、眉間の皺をほぐしていた。 なんか、子供じゃないみたいなんやけど。 自分のことを棚上げしつつ、そんなことを思った。 アリサちゃんをじっと見ていると、目が合う

 

「あー...... そうね、はやてってクリスマス暇?」

 

「藪から棒に...... んー、入院してなければ? 入院してても暇やけど」

 

「ならちょうどいいわね。 クリスマス、みんなでパーティーしない?」

 

空気を変えるためなんやろうけど、少し驚いた。 こういうことに誘われたことがなかったからというのもあるけど、純粋にパーティーをするということにだ

 

「おー、いいなそれ!」

 

「ならもう一人もつれて来ないとね」

 

「別にええで?」

 

場を引っ掻き回そうとかそう言うことはないのだろうが、すずかちゃんが余計なことを言う。 私は笑顔で威嚇しておいたけど、すずかちゃんには効果がないみたいやな......

 

~はやて視点 end~

 



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第七十二話 お見舞い

クリスマスイブ前日、俺の姿はアースラのとある一室にあった。 ぶっちゃけ夜中ということもありすごく眠いのだが、クロノからの呼び出しだ、行かないという選択肢がないのが悲しいところだ。 結界はもうすでに展開しており、話は万全だった。 ただ、少し気になるのがクロノと俺の二人きりというところだ。 作戦会議かなんかだと思ったのだが、どうも違うようだ。 クロノは険しい顔をしながら口を開く

 

「夜遅くにすまないな」

 

「そう思うなら回りくどいのはよしてくれ。 これでも一応学生だ、明日も学校だしな。 て言っても、終業式だから式の最中に寝なければ問題ないが」

 

「あぁ、そうだな。 単刀直入に、グレアム提督は黒だ」

 

「・・・・・・」

 

どうやらクロノは、リンディさんの目を盗みギル・グレアムを調べていたようだ。 その表情は辛そうだが、話を聞かねばならないだろう

 

「黒、ということだが、どういうことだ?」

 

「君から注意しろと言われて、僕はその日から秘密裏にグレアム提督を調べ始めた。 もちろんそんな簡単に尻尾を出すとは思っていなかったし、注意するに越したことはないと思っていただけだ。 だが、調べてみたら少しおかしな点が出てきた」

 

クロノの話では、引退同然の身なのにもかかわらず、強力なデバイスを作っていたこと。 不自然なお金の動き、使い魔が時々どこかの世界に転移しているなどの情報があったという。 それらを総合し、今回黒と結論付けたらしい

 

「たぶん、グレアム提督は強力な氷結魔法によって闇の書を封印しようと考えているのだろうが......」

 

「そんなものでは封印出来ないだろうな。 そもそも、出来たとしても時を経れば解けるだろうそんなもの」

 

静かに頷くクロノ。 それにクロノも気が付いているのだろう。 俺が闇の書が見つかると同時に流した夜天の書と言う単語。 それにより、クロノとユーノの間では夜天の書に関しての情報は集まっている。 性質の変化、など。 そんな中で氷結魔法など発動すれば、主ごと処理するつもりだと

 

「それで、どうするんだ?」

 

「明日、正式な手続きを踏んで、ギル・グレアム提督を逮捕する。 闇の書を夜天の魔導書に戻す算段は付いていないが、騎士たちのこれまでの発言を考慮すれば、闇の書の主の命じゃないことは明らかだ。 無関係とはいえないが、主自身は何も知らない可能性がある。 そんな人物を巻き込んで封印なんて、とてもじゃないが許せれることじゃない」

 

顔は険しいままだが、その瞳には覚悟があった。 なら、俺がこれ以上とやかく言うことじゃないだろう

 

「そうか」

 

「あぁ」

 

短く言葉を交わし、クロノは俺の横を通りドアへと向かう

 

「話は終わりだ。 こんな時間に呼び出してすまなかった」

 

「いや、いいさ」

 

クロノが部屋から出ると同時に俺もドアに向かって歩き始める。 まぁ、何にせよ

 

『明日ですべてが終わりそうだな』

 

『マスターに刻まれた記憶通りとはいきませんが、概ねその通りに進んでいますからね』

 

『あぁ』

 

多分、使い魔が捕まったところで代わりに人形が原作通り遂行するだろうからな。 何も変わらない、そう、なにも

 

--------------------------------------------

 

あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!俺は終業式も終わり、眠気を抑えきれず教室で寝てしまったんだが、いつのまにか病院の前に居た。 な、何を言っているのかわからねーと思うが 俺も何をされたのかわからなかった。 頭がどうにかなりそうだった。 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を今も味わってるぜ。 冗談ではないが、ポルナレフごっこはさておき。 何故か教室で寝ていたら、目覚めたらとある病院の病室の前に立っていた。 いや、本当になんでだ? 周りを見れば、こちらを睨む雑種。 これは平常運転だが、俺のことを可哀想なものを見る目で見る高町なのはとフェイト・テスタロッサ。 頭を抱えるアリサ・バニングスに、こちらをニコニコ見る月村すずか。 ぶっちゃけ、原因はこっちをニコニコしてみる月村すずかだろうが、どういうことだペイル

 

『マスターが教室で寝ていたら、月村すずかの家のものがマスターを起こさないように車で運び、ここに来たというわけです』

 

『説明ありがとう、ペイル』

 

どうやら、そう言うことらしい。 これでも気配とかには敏感なのだが、俺を起こさないように運ぶとかどういう技術だ? 気になって聞いてみたら、ペイルから追加で口にハンカチが当てられており、そのハンカチから薬品の反応が出ていたらしくそれのせいでは? ということだった。 なにそれ、ガチすぎませんか? ともかく、当の本人に聞くか

 

「ここは何処だ?」

 

「病院だよ?」

 

何を言ってるんだみたいに首をかしげて言われるが、俺がおかしいわけじゃないからな?

 

「何故我は病院に? 確か教室で寝ていたはずだが?」

 

「何でだろうねー?」

 

やばい、話し通じない。 そんな月村すずかの様子にしびれを切らしたのか、アリサ・バニングスが騒ぎ始める

 

「いやいやいや!アンタが拉致ってきたんでしょ!? 何しらばっくれようとしてるのよ!?」

 

「えー、そんなことしてないよー?」

 

「棒読み!ならその棒読みやめなさい!」

 

「嫁よ、落ち着け。 ここは病院だ、他の患者に迷惑になる」

 

「あぁん!?」

 

ダメだ、冷静さを失っている。 俺には珍しく正論を言ってるのだが、何故かメンチきられた。 てか、女子がそんな口調はやばいだろ。 流石にこの状況はまずいと思ったのか、高町なのは、フェイト・テスタロッサがアリサ・バニングスを抑えに入る。 雑種は俺を睨んでいるだけ。 やくたたねー

 

「それじゃあ、いつまでも扉の前に居たら邪魔だし、お見舞い行こっか」

 

それまでのアリサ・バニングスの態度をまるでなかったかのように流し、扉をノックする月村すずか。 彼女は大丈夫なのだろうか? キャラがブレブレなのだが...... どうにもならないことを悟ったのか、それとも諦めただけなのか、アリサ・バニングスも月村すずかに続いて病室の中に入っていく。 俺は入りたくなかったのだが、月村すずかに引っ張られ病室の中に。 てか、結構本気で抵抗したんだが...... 病室に入れば、騎士の面々が。 男がいないが、些末なことだろう。 俺を見た瞬間驚愕したようだが、すぐに表情を引き締めいつでも動ける体制になる。 まぁ、間違ってはいないのだが。 俺は視界の隅にとらえていた、彼女の存在を。 彼女は、俺を確認すると同時に目にもとまらぬ速さで俺の目の前に来ると、頬を殴る。 とっさに踏ん張っていたからよかったものの、下手したら吹っ飛ばされてたぞ?

 

「久しぶりやなぁ、理樹君」

 

「いきなりご挨拶だな、少女よ?」

 

「あー、ごめんなぁ? 知り合いに似てたもんでな?」

 

笑顔でベッドに戻る八神はやてだが、目が笑ってないぞ。 まぁ、こうやって殴られるのも覚悟はしていた。 突然、一方的にいなくなったわけだしな。 騎士たちはそんな主の行動に驚き、ポカンとしていた。 まぁ、他の面々もだが。 そんな中、唯一突っかかってきたのが雑種

 

「お前、やっぱり!」

 

「やめろ雑種、病人の前だぞ? 貴様は常識もないのか?」

 

「せやね。 そんなんするんやったら、帰ってほしいんやけど?」

 

俺と八神はやての口撃によりいったんは俺のことを離すが、こちらを睨んだままだ。 何とも言えない空気になってしまったが、そこからはアリサ・バニングス、月村すずかがプレゼントを渡したりと楽しい時間になった。 まぁ、騎士たちも俺のことを睨んできているのだが。 俺は病室の端で背を預けながら、その光景を見ていた。 結局、こうなるんだな



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第七十三話 復讐

楽しい楽しいお見舞いの時間も終わり、アリサ・バニングスと月村すずかが帰る。 俺や雑種、高町なのは、フェイト・テスタロッサは帰してもらえず見送った。 重苦しい空気の中、シグナムたちに着いてこいと言われ、その後ろをついて行く。 だが、そのどこかへ向かう際中、俺は強烈な眠気に襲われていた。 それもいきなりだ。 その眠気に抗うことができず、俺はそのまま眠りに落ちた

 

--------------------------------------------

 

「おい、起きろ」

 

声が聞こえる。 それに、かなりの威圧感も。 どこか覚えのあるような威圧感だが、眠くて思考が働かない。 このままいっそ寝てしまおうか?

 

「だから、起きぬか」

 

「っ!?」

 

体が宙に浮く感覚がした次の瞬間、全身に衝撃が走り一瞬息ができなかった。 それによって目を覚まし目の前を見れば白面金毛九尾の狐がいた。 あぁ、だから覚えがある威圧感だったのか。 俺は立ち上がり、体の具合を確かめる。 別に何ともないようだ

 

「いきなり何しやがる」

 

「我は起きろ、そう言ったはずだ。 それを寝ようとした貴様が悪い」

 

相変わらずだるそうに寝そべる白面金毛九尾の狐。 確かに悪かったが、だからと言って体がバラバラになるほどの衝撃で起こされるとは思わなかった。 まぁいいや、本題に入ろう

 

「それで、何のようだ?」

 

「貴様とて分かっているのだろう?」

 

クツクツと笑いをこらえる白面金毛九尾の狐、相変わらずムカつくやつだ。 多分前の件、力を貸すという話だろう。 このタイミングで呼ばれたということは、なるほど。 急な眠気にも説明が付く

 

「相変わらずよく頭が回る。 貴様が思っている通りだ。 眠気は神の仕業。 だが相手は低級の神だ、我が割り込むのもわけがない」

 

「ならさっさと力をよこせ」

 

神と言うのは身勝手だ。 こいつがアイツより上級の神と言うのは分かる、ならその力で消し去るのも安易なはず。 それをしないというのは、結局こいつはこの状況がどうでもいいからに過ぎない。 ただ単に気が向いたから力を貸す、今回の事は運がよかったに過ぎないというわけだ

 

「まぁそう言うことだ。 それでは貴様に能力を授けよう。 なに、貴様が知っている能力だ」

 

そう白面金毛九尾の狐が言うと、俺の体が光に包まれる。 それもすぐに止むが、身体に変わったような感じが見受けられない。 訝し気に白面金毛九尾の狐を見れば、笑いだす

 

「ははは!表面上に変わりがあるわけあるまい。 そんなことをすれば、いくら低級とは言えばれるぞ? 貴様に渡した能力は直死の魔眼、知っておるだろう?」

 

直死の魔眼。 月姫の主人公、遠野志貴が使っていた能力か。 無機、有機問わず、“活きている”ものの死の要因を読み取り、干渉可能な現象として視認する能力。 だが、本人が対象の死そのものを理解できなければ意味がないはずだ

 

「その通りだ。 貴様の記憶から読み取っているし、そのくらいは知っている。 だから厳密に言えば、それは直視の魔眼ではない。 機能的に言えば直死の魔眼ではあるが、貴様が対象の死そのものを理解しなくても、死の線や点は見えるようになっている。 まぁ、デメリットはあるがな」

 

「デメリット?」

 

「記憶だ。 と言っても使うのは貴様に刻まれたこの世界の記憶。 つまりはリリカルなのはと言う物語の記憶だ。 正直、ここまでサービスしてやる義理はないのだが」

 

多分それは、これからの未来の記憶と言うので差支えないのだろう。 記憶を犠牲にして神を殺す。 別にこんな記憶、無くなっても構わない

 

「それでは行くがいい。 生意気な人間」

 

徐々に意識がなくなっていく。 完全になくなる前に、言わなければならない

 

「相変わらず、神は嫌いだが...... あり、がとう......」

 

--------------------------------------------

 

突然の覚醒。 こちらに背を向けているようだが、その人物には見覚えがあった

 

「てめぇ......」

 

体を動かそうとするが、やはり動かない。 いや、少しは動くか。 魔力を最大まで使えば辛うじて。 そんな様子を気にすることなく、(クソ野郎)は何かをやっていた

 

「おい、なんで俺をここに呼んだ!」

 

「・・・・・・」

 

「答えろ!!」

 

「まったく、本当にうるさいのぅ。 その口を閉じていろ」

 

「・・・・・・」

 

ようやくこちらを向いたと思えば、めんどくさそうな顔をしていた。 それと同時に、口も自由に動かなくなる。 何もできなくなってしまったため、睨みつけるしかない

 

「ほっほっほ。 睨みつけたところで結果は変わらぬ。 貴様が消える結果はな。 さて、わしは慈悲深い神じゃ。 最後にサーヴァントたちに合わせてやろう」

 

指パッチンをした瞬間、この何もない空間に玉藻たちが現れる。 玉藻たちは驚いたようだが、一瞬で事態を理解したのか臨戦態勢だった。 そのことも(クソ野郎)の予想通りなのか、もう一つ指パッチンをする。 すると、玉藻たちが足から消えていく

 

「くっ、貴様ぁ!!」

 

ハサンがナイフを投げようとするが、その瞬間消えるのが早まりもう体と顔しか残っていない

 

「や、めろ!!そいつら、を、消す、な!!」

 

「まだ喋れたか、見上げた根性じゃの」

 

「マスター!!」

 

「マスターは逃げてください、ここは私たちが!」

 

「お、まえたち、こそ、逃げろ!!このまま、じゃ、消えち、まう」

 

口が上手く動かず、片言みたいになてしまうが懸命に口を動かす。 だが、その思いは通じなかった

 

「いいんです、マスター。 たとえここで消えることになても、マスターのためならば!!」

 

お札と、鏡の形をした宝具を放つが消えてしまい、そして玉藻の姿も消えてしまった

 

「「玉藻さん!」」

 

「玉藻殿!!」

 

それからほどなくして、マシュ、リリィ、ハサンも消えてしまう。 俺はまた、家族が消えるのを見ることしかできなかった。 俺の様子を、どこか満足そうに見る(クソ野郎)

 

「ふん、いい気味じゃ。 いつの間にか八神はやてとも知り合っていたみたいじゃしの。 これではわしの計画がパーじゃないか。 まぁよいか、何故かわからんがアリシア・テスタロッサは生きておるし。 たぶんこのままいけばリインフォースも大丈夫で、藤森織による物語も完成じゃろ。 ほっほっほ、たのしみじゃ」

 

そんな、そんなくだらないことのために俺は...... 母さんや父さん、玉藻、マシュ、リリィ、ハサンは消されたって言うのか?

 

「ふ、ざけ、んな...... ふざけ、んな、ふざけんな!」

 

魔力を最大まで放出して、ようやく口を不自由なく動かすことに成功する。 神はそんな俺に気が付かず、何かをしている。 やるなら今しかない。 正直、どうやって使うのか説明はなかったが。 瞳を閉じて集中する。 すると、何かとつながったような感覚がした。 バリアジャケットを展開し、目を開ければ。 点と線がそこら中にある。 軽く吐き気もするが、今はそれよりも目の前の(クソ野郎)を何とかしなければ頭がおかしくなりそうだ。 視線を下げれば、自分に何か覆いかぶさるように線が続いていた。 直感的にわかる、これが俺の体の動きを阻害しているものだと。 プレシアさんに秘密裏に搭載してもらったカートリッジシステムを使う時が来た。 内部でカートリッジをロードし、あがった魔力で一気に体を動かし線をなぞる。 すると、今まであったおもりのような感覚はなくなる。 姿勢を低くし、気配を消す。 ハサン直伝だ、気配遮断はお手の物。 そのまま飛び出すように前に向かうと、ここまで来てようやく違和感に気が付いた(クソ野郎)がこちらを見る。 だが、もう遅い。 刀は首元の線を断ち切る。 その際脳が過熱したように意識が白くなるが、気にしてはいられない。 線に沿って(クソ野郎)をバラバラにして行く。 汚い肉片になったが、それでも生きている(クソ野郎)の点を突く。 その際、意識を失いそうになるが何とかつなぎとめる。 もう死の線すら見えない肉片に、達成感はなくただただ虚しいだけ。 そこで俺は意識を手放した

 



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第七十四話 Beginning of the end

皆様の感想が予想よりも多くて、ビビっている作者です

まだまだ続きますので、最後までよろしくお願いします

あっ、そう言えばここからの闇の書戦、映画準拠です。 理由は単純に、好きだから。 この戦闘が終われば、また原作に戻しますので


「起きろ、起きぬか!!」

 

「ぐおぉぉぉぉ......」

 

頭にかなりの衝撃が走り、飛び起きて頭を抱える。 本当に割れたんじゃないかと言うぐらい痛かったが、頭を触る限り割れていないようだ。 しばらくのたうち回っていたが、ようやく痛みも引いてきたので涙目になりながら周りを見る。 すると、目の前には金ぴかが。 いや、英雄王か

 

「ど、どうも英雄王。 いま頭が痛いんですが、どういう状況でしょうか?」

 

「たわけが。 貴様がいた空間が崩れそうだったので助けてやったと言うのに、その態度か」

 

「い、いえ。 ありがとうございました」

 

助けてもらったと言うならお礼をするのは当たり前だが、質問に答えてもらっていない。 と言っても今の様子から察するに、答えるつもりもないのだろうけど。 お礼もそこそこに、周りの確認だ。 前に来た時と同じような空間のようだが

 

「それで英雄王、何故俺をここに?」

 

「うん? まぁ、神殺しをしたみたいだったからな、我直々に招待したと言いうわけだ」

 

「えーっと、ありがとうございます」

 

少し上機嫌になる英雄王に困惑しつつ、お礼を言う。 その礼を受けて満足そうに英雄王は頷くと、王の財宝からワインを取り出し飲み始める

 

「貴様も一杯どうだ、道化?」

 

「いえ、未成年なので」

 

「む? あぁ、日本は法で決まっているのだったな」

 

そう言って一人でハイペースで飲み進める。 ひとしきり飲んで満足したのか、ワイングラスをサイドテーブルに置き、俺を見据える

 

「さて、さっきも言ったが神殺しをしたようだな。 まぁ、別の神、それも人類悪の力を借りたようだが」

 

そう言って楽しそうに嗤う英雄王。 神殺しをするのには俺の力だけでは無理だ、それをわかっているはず。 あくまで俺の口から言わせたいらしい

 

「・・・・・・たとえそうだとしても、俺だけでは(クソ野郎)を殺せません。 だから力を借りたまでです」

 

「別に悪いとは言っておらぬ。 ただ、自分も嫌っている神の力を借りてまでアレを殺したいと思ったら、笑いがこみあげてきてな」

 

「・・・・・・」

 

まぁ、ある意味でいい性格している英雄王だ、この程度ならそこまで頭に来ないのだが

 

「む? あちらも面白くなっているようだな」

 

突然俺から視線が外れたと思ったら、俺の後ろを見ていた。 後ろに何かあるのかと思い見てみると、空中に映像が映し出されていた。 そこにはそれぞれのデバイスを構え、対峙する高町なのは達の姿が

 

「助けたいと言いながら戦う、矛盾だな。 それに高町なのは達(あの子供ら)のやってることなど所詮善意の押し付けにしかすぎん、そこらへんはどう思う道化」

 

「・・・・・・確かに高町なのは達(アイツ等)のやってることは善意の押し付けにしか過ぎないでしょう。 人には人の信念がある。 守護騎士たちは八神はやてを助けたい、手段はどうであれ。 高町なのは達は、迷っている守護騎士たちひいては八神はやても助けたい。 目的は同じはずなのに、戦う。 どちらも言葉が足らないから」

 

「なら話し合えば解決すると?」

 

「しないでしょう。 その段階はもう通り過ぎてますから」

 

「だから戦う。 愚かなものだ」

 

俺はその言葉に何も答えず、英雄王に背を向ける

 

「なんだ、貴様は鑑賞しないのか道化」

 

「えぇ。 俺も首を突っ込んでいますから。 最後までやるつもりですよ」

 

「ククッ。 また傷つきに行くと、そう言っているのか?」

 

「・・・・・・けじめは、つけなければならないでしょう?」

 

振り向いて嗤っている英雄王を見る。 本当に性格が悪いと思う

 

「ククク、はははははは!本当に貴様は面白いな道化、気に入った!これを持っていけ」

 

そう言って放り投げられたのは前回と同じ鍵

 

「今回のカギで、我が宝物庫のすべての宝具原点、中身を複製させてやる。 ありがたく思え!」

 

「ありがとうございます」

 

早速王の財宝にかぎを差し込み、捻る。 すると前回のように鍵の感触が消える。 これで、すべてが使えるわけか

 

「それと道化。 お前とサーヴァントとだが、契約は切れていない」

 

「・・・・・・」

 

「その顔は分かっておったか」

 

サーヴァント。 あの空間で消えた玉藻たちだが、なんとなくパスはつながっているような感じはした。 それに、腕には令呪が残っている。 つまり、一時的に消されただけで呼べば戻てくるということだ。 だから俺もあまり取り乱していないのだ

 

「ならばいい。 後必要なら我を呼ぶと良い、理樹」

 

「へ?」

 

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~高町なのは視点~

 

はやてちゃんのお見舞いを終えて、アリサとすずかちゃんが帰ると、シグナムさんたちについてくるように言われた。 前にはシグナムさん、後ろにはシャマルさん。 元々逃げるつもりはなかったけど、逃げ道はなかった。 後ろについて行き、たどり着いた場所は屋上。 でも私はここで違和感を感じる。 誰かがいなかった。 一緒に屋上まで来たはずなのに、誰かがいない。 でも、そのことを確認している暇はなかった。 ヴィータちゃんがいきなり飛んできたからだ

 

「ヴィータちゃん、どうして!?」

 

「邪魔、すんなよ...... あとちょっとなんだよ、闇の書の収集も。 あとちょっとで、はやては元気になって私たちのところに帰ってきてくれるんだよ。 だから、邪魔すんなぁぁぁぁ!!」

 

辛うじてプロテクションの展開が間に合ったけど、ヴィータちゃんにどんどん押されていく。 そのままフルスイングで、私を飛ばすヴィータちゃん。 私は何とか体勢を整えるけど、そこに追撃が入る

 

「なのは!!」

 

「なのは!」

 

フェイトちゃんと織君の声が聞こえる。 けどそのことを気にしている暇はない。 プロテクションにハンマーが当たり、爆発を起こす寸前で何とかバリアジャケットの装着が間に合う。 あの様子じゃヴィータちゃんは話を聞く耳すら持ってない。 なら。 炎の中を歩いて外に出るとヴィータちゃんの声が

 

「悪魔め」

 

悪魔...... そう言われて落ち込むけど、話を聞いてくれるなら

 

「いいよ、悪魔で...... 悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!!」

 

「らぁ!!」

 

私のレイジングハートとヴィータちゃんのデバイスがぶつかり合う

 

「あたしらが闇の書のこと一番知ってんだ!だから部外者が口出しすんじゃねぇ!!」

 

「ならなんで。 どうして闇の書なんて呼ぶの!!どうして本当の名前で呼んであげないの!!」

 

「本当の、名前?」

 

その言葉に何かを思ったのか、ヴィータちゃんの闘志が弱まる。 さっきまで持ち上げていたデバイスも、今はおろしている。 今なら話を聞いてもらえるかもしれない。 でも

 

「バインド、また!?」

 

「なのは!!」

 

フェイトちゃんがいち早く私の状況に気が付いて、周囲を警戒し始める。 私もバインドを解こうと必死だけど、解けない!フェイトちゃんは何もないところを切り始めたけど、そのうちにそこのところだけ景色がぐにゃぐにゃし始める。 そうして現れたのは、この間の仮面の人で。 今なら手負いだけど......

 

「ダメ!フェイトちゃん!!」

 

二人目がフェイトちゃんに飛び蹴りをし、その隙に手負いの方が全員が捕える。 なんで、守護騎士のみんなまで。 そして、闇の書が二人の手に。 そんな、いつの間に!? 光始める闇の書。 そして

 

「な、なんで守護騎士のリンカーコアが!?」

 

わからないけど、今の状況はまずい気がする。 必死にバインドを解こうとするけど、解けない!

 

「最後のページは不要となった守護者、自らが差し出す。 これまでも幾たびか、そうだったはずだ」

 

「確かにそうかもな。 だが、例外だって存在するだろう?」

 

~なのは視点 end~



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第七十五話 始まった終焉

「確かにそうかもな。 だが、例外だって存在するだろう?」

 

そう言って仮面の男、いや、リーゼロッテとリーゼアリアのリンカーコアを引き抜く。 いきなりの俺の登場に、呆然とする守護騎士たちと高町なのは達。 俺はそんなことを構わずに、闇の書に声をかける

 

「闇の書、蒐集しろ」

 

「蒐集」

 

「ぐあああぁぁぁぁぁ!?」

 

悲鳴のような声をあげるリーゼロッテ、リーゼアリアをよそに後ろからの攻撃を避ける。 すると、人形たちが通り過ぎ振り返る。 八神はやてを抱えて。 気絶しているのか、特に動く様子もないが

 

「まさかお前が物語に介入するとはな、よほど死にたいらしいな」

 

「そんなに死にたいなら死ねばいいが、闇の書は渡してもらおう、こいつを殺したくないのならな」

 

そう言って無防備な八神はやての首に手刀を置き、いつでも殺せるアピールをする。 この状況に驚く守護騎士たちだが、八神はやてが人質に取られている時点で動けない。 高町なのは達も同様だろう。 蒐集は、完了したみたいだな。 闇の書を人形に投げて渡す

 

「それが賢明だ」

 

「なら死ぬと良い!!」

 

八神はやてを抱えているほうが闇の書を受け取り、そのまま転移で消える。 もう一人は俺の方に向かってくる。 まぁ、捻りつぶすのは容易いが、流石に変身が解けたリーゼロッテとリーゼアリアを抱えながらではままならない。 王の財宝を射出しつつ、地上まで降りる。 今回はいつものように手抜きではなく、ちゃんと考えて射出しているので、人形もなかなか近づけないようだ。 地上、と言っても病院の屋上だが、リーゼロッテとリーゼアリアを下ろし空を見上げる。 まぁ、上手く引っかかったこと。 これならしばらく来ることもないだろうと思い、呆然とする守護騎士に声をかける

 

「何をボーっとしているんだ? 自分らの主が攫われたんだぞ?」

 

「そ、そんなこと言われなくてもわかってんだよ!!」

 

俺が声をかければ、ようやくと言った感じで動き始める守護騎士たち。 各々散開して探そうとしているが、まさか位置が分からないのか?

 

「おい待て。 お前ら位置が分からないのか」

 

「なんだよ、お前ならわかんのかよ!!」

 

「わかるに決まってるだろ。 あの一番高いビルの上だ」

 

俺が指を指せば、疑わしいという感じで見る守護騎士たち。 どうでもいいけどな

 

「なぜおまえにそんなことが分かる」

 

「さっき闇の書を投げ渡した時に、位置を追えるようにしたんだ。 だまされたと思って行ってみろ」

 

それに返事をすることはなく、各々散開はしたが最終的な目的地は俺がさしたビルのようだ。 そうなると次は

 

「お前、今までどこに居た!!」

 

俺につかみかかってこようとするが、それよりも早く後ろに回り込み廻し蹴りを放つ。 すると、面白いように吹き飛ぶ雑種。 まぁ、実際全然面白くないけどな

 

「黙れよ」

 

「っ!この!!」

 

「フェイトちゃん、やめて!!」

 

次に向かってきたのはフェイト・テスタロッサ。 雑種がけられて怒っているのか、動きが直線的で見やすい。 さっきのように後ろに回り込んで蹴り飛ばしてもいいが、プレシアさんに何されるかわからないからな。 それじゃあなくても、あの人には借りがある。 振るわれたバルディッシュを受け止める

 

「なっ!?」

 

「驚いてる場合か? そもそも、こんなことして何になる。 今は八神はやての救出、保護が最優先だろう。 俺はあの人形に用があるから、アレを壊してから行くが」

 

「人形? 何を言ってるんだ!!」

 

「お前にはわからないか...... いや、そもそも何も知らされてないんだったな」

 

「何を、言ってるんだ?」

 

「黙れよ雑種。 お前に語る舌など持たんし、たいして役にも立たないやつが吠えるな。 さっさと八神はやての保護でもしてこい」

 

そう言って、掴んでいたバルディッシュを雑種の方に放り投げる。 すると、掴んでいたフェイト・テスタロッサも雑種の方に投げられる。 軽く投げただけだから、空中で体勢を立て直しこちらを睨みつけてくる。 はぁ、こいつら頭に血が上りすぎると周りのことが見えなくなるな。 まぁ、どうでもいいか。 横目で人形の方を見れば、服がボロボロになりながらこちらに向かってきていた

 

「さっさと行けよ。 お前もだ、高町なのは」

 

「まっ」

 

返事を聞くことなく、ボロボロな人形に向かっていく。 仮面はすでに割れており、俺が向かったことで嬉々とした表情になる

 

「ようやく、ようやく貴様に受けた雪辱を果たせる!」

 

「雪辱?」

 

向かってきた勢いを利用し、腹に拳をいれるが少し動きが止まっただけで、たいして効果がないようだ。 人形だから、痛覚もないのか?

 

「貴様に殴られただろう!」

 

「あー、お前が殴ったほうか。 で、それが?」

 

「貴様!!」

 

人形の癖に、人間のような感じだな。 まぁ趣味が悪いやつが作ったんだ、そうもなるか。 インファイトの応報だが、俺の圧勝だ。 アイツが一つの拳をたたき込むなら、俺はそれを防ぎ何倍もの拳を撃ち込む。 まぁ、動きは悪くなってきているのだが、聞いている様子は一切ない。 本当に面倒だ

 

「何故だ!何故なんだ!!貴様はそんなに戦闘能力は!」

 

「黙れよ。 お前が俺の何を見てきたか知らんが、お前が俺を語るな。 ペイル」

 

刀を握り、対峙する。 果敢に向かってくる人形だが、まだ実力の差が分からないらしい。 俺に蹴りをいれようとするが、その蹴りをいなすことはせずに、そのまま切り裂く。 これで片足。 踏ん張りは利かないはずだが、それは地上に限った話だ。 飛んでいれば関係ない。 まぁ、普通の人間なら動揺や痛みで飛行魔法の制御がおろそかになると思うが。 次に右の拳を叩きつけてくるがそれを片手で受け止め、刀で切り裂く。 続いて足、拳の順番で来るが、これも切り裂く。 それでもなお向かってくる。 こいつ、恐怖心というものがないらしい。 面倒なので、そのまま頭をつかみ地面に急降下し叩きつける

 

「き、さま」

 

「本当に面倒だな、お前」

 

王の財宝から小型のメイスを取り出し、頭に振るう。 すると、その一発で抵抗がなくなる。 だが死んではいないようで、ぴくぴく動いている。 これなら問題はなさそうだな。 そのぴくぴくしている人形の頭をつかみ、空を飛ぶ

 



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第七十六話 Help always

「なんともまぁ、悪趣味な」

 

吐き捨てるように言う。 件のビルの屋上、遅れはしたが状況を見る。 すでに戦闘は始まっていた。 人形は高町なのはに変身しており、守護騎士、高町なのは達を相手取っていた。 と言っても、数も質もこちらの方が上、人形は押されていた。 まぁ、事は人形の思惑通りに進んでいるのだろうが。 八神はやては目を覚ましており、戦いを見ている。 必死に戦いやめるようを呼び掛けてるし、守護騎士や高町なのは達もそうしようとしているが、人形が擬態している高町なのははそれを気にせず戦闘を続行している。 たぶん、闇の書の覚醒を促しているのだろうが、ページ数も足りていないので覚醒には至っていない。 だが、八神はやての苦しみようからして、覚醒までもう少し、か。 手に持った人形の片割れを見る。 結局、物語は予定通りに進む、か。 いや、ここで暮らしている限り、物語ではないが

 

「予定通りに進む?」

 

自分で言っておいてなんだが、どういうことなのか? いや、多分()()()()()のだろう、つい最近までの俺は。 原因は直死の魔眼。 白面金毛九尾の狐も言っていたように、()()()()()()()を犠牲にしたのだろう。 まぁ、いいさ。 これが終われば、俺も用済みだ。 人形を戦闘中のど真ん中に投げつける。 もちろん、高町なのはに変身している人形に見えるように。 相方の人形の変わり果てた姿に動揺してか、動きが止まる人形。 ・・・・・・流石にあの姿を切るのは、俺もいささか抵抗があるようだ。 何をいまさら、とも自分でも思うが。 あぁ、ちょうどいい魔法があるじゃないか、ストラグルバインド。 これでもいろいろな魔法を勉強しているのだ、俺は。 相手の強化魔法、つまり変身や肉体強化などの魔法を解く魔法だ。 高町なのはの姿から、仮面の男に戻っていく。 さて、これで腹に穴を空けた借りをまとめて返せる。 一気に接近して四肢を切断する

 

「なぜ、貴様が!」

 

「・・・・・・」

 

そのまま急ブレーキをかけ、頭をつかみ地面に押し付ける。 本当に耳障りなんだよ

 

「ぐあ!? そ、そもそも貴様は死んでいるはずだ!ぐっ!? あのお方の呪いが!」

 

「お前、喋りすぎだろ」

 

もう面倒くさくなり、宙に浮いている闇の書をつかみ、蒐集させる。 666ページ、全ページが埋まり妖しい光を放つ闇の書。 同時に、八神はやても胸を抑えて苦しみ始める。 だが、その苦しみながらも俺に問う

 

「なんで、っぅ...... どうしてなんや、理樹君!」

 

「・・・・・・軽蔑してくれても構わない、いくらでも罵倒も受けよう。 だが、今はその時じゃない。 少し待っててくれ、必ず助ける。 やった俺が言えることじゃないけどな......」

 

自嘲気味につぶやけば、八神はやての足元に魔法陣が展開される。 ベルカ式魔法陣。 白い魔法陣が妖しい紫色に染まっていく、そのなかで

 

「ホンマ、後で覚えとけ...... ああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その言葉を最後に、八神はやてを中心に魔力が解放され、莫大な魔力が俺の頬をなでる。 プロテクションを展開してはいるが、凄い暴風だ

 

「我は魔導書の主、封印解放」

 

八神はやて、いや、闇の書の意志とも言うべきものが闇の書の機能を開放する。 それを眺めていれば、ヴィータが俺に殴りかかってくる。 それを俺は受け入れる

 

「お前、お前!はやてに何をしやがった!!」

 

「何をした? 見ての通り闇の書の封印を解いただけだ、お前らが望んだように、な」

 

「アレが、アレが私たちのしたかったことだというのか!!」

 

「そうだ。 お前らが蒐集し、機能を開放して使おうとしていた代物はああなっていたんだ。 警告していたはずだ、高町なのはもフェイト・テスタロッサも。 それに耳を貸さなかったのはお前たちで、その結果がこれだ」

 

「じゃあ、じゃあ!私たちは間違っていたというの!?」

 

「そんなもの誰にもわかるはずがない、誰にも、な...... どちらにしろ、時間はもとには戻らないんだ。 自分で針を進めたんだ、その責任くらいとるさ」

 

それっきり反応がなくなる守護騎士たち。 自分たちが使おうとした代物がああなっていたのはショックだろうが、戦う気がないのならどっかに行ってほしい、邪魔だ。 すると間髪入れずに殴りかかってくるのは、雑種だ

 

「お前は!お前はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うるさいんだよ、お前」

 

「がぁ!?」

 

勢いよく殴りかかってきた雑種の拳を受け止め、そのまま身体強化した状態で背負い投げをする。 地面にたたきつけられみっともない声をあげる雑種だが、その瞳に諦めは見られなかった。 はぁ、一発で気絶すればいいものを

 

「あれを見て、何も感じないのか!知り合いだったんだろう!!」

 

「それがどうした? さっきも言った通り、起こってしまったことは変えようがない。 なら、そこからどうするかが問題だ」

 

「お前、は!!」

 

「だからうるさいんだよお前は、これ以上吠えるなよ雑種」

 

「っ!?」

 

立ち上がり俺に言ってくるが、背負い投げが相当なダメージが入ったのかその動きは鈍い。 気絶寸前というところか。 俺が親切に答えれば、弱弱しく拳を握りながらこちらに向かって来ようとする雑種。 俺はそれよりも早く雑種に近づき、鳩尾に拳をお見舞いする。 本気でやりたいところだがやればただでは済まないからな、加減はした。 ようやく気絶したのか、俺にもたれかかってくる雑種。 やめてほしい。 俺は雑種を投げ捨てる。 運が悪いことに、雑種を投げ捨てた方向がビルの柵が壊れており、高層階から真っ逆さまだが問題ないだろう

 

「織ぃぃぃぃぃ!!」

 

フェイト・テスタロッサが向かったし

 

「神木君、だよね?」

 

恐る恐る、と言う感じで高町なのはが近寄ってくる。 なぜそんなに恐る恐るなのかが分からないが、まぁいい

 

「そうだが?」

 

足元に転がっていた二体の人形にとどめを刺しながら応じるとヒッと、小さく悲鳴を上げる高町なのは。 まぁいいが

 

「本当に神木君なの? いつもと、雰囲気が......」

 

「さてな? お前の知っている神木理樹が本当の神木理樹なのか、今の俺が本当の神木理樹なのか...... 会話はここまでだ。 戦う気がないならどこかに行け、邪魔になる」

 

高町なのはとの会話もそこそこに、空を見上げる。 八神はやての姿はなく、代わりに

 

「また、すべてが終わってしまった。 一体、幾たびこんなことを繰り返せばいいのか......」

 

闇の書の意志がいた

 

「闇の書に意志、闇の書の管制融合騎、夜天の魔導書の管制融合騎、まぁ呼び方なんてどれでもいいか」

 

「・・・・・・我は闇の書、ただの道具だ」

 

闇の書が何かを言うと、闇の書の意志は上に手を掲げる。 その手から魔力があふれ出し、圧縮される

 

「広域殲滅魔法か。 フェイト・テスタロッサのところに行け、今は雑種の介抱でそれどころじゃないだろうからな」

 

「で、でも!」

 

「良いから行け、俺なら問題ない」

 

王の財宝から宝具の原点を取り出し、構える。 なかなか動こうとしないが、しびれを切らしたのかようやく動いた。 直後、黒い塊が広がり視界も黒くなる。 ダメージもないから問題ない。 ようやく黒いものが晴れた時、目の前に闇の書の意志がいた

 

「味方をも巻き込み、広域魔法とは恐れ入る」

 

「騎士たちのことを言っているのなら、闇の書の中だ」

 

まぁ、それもそうか。 主のためにと言っているコイツが、家族である守護騎士たちを傷付けるはずがないか。 出していた宝具の原点、盾を王の財宝にしまう。 暢気におしゃべりをするために来たわけじゃないだろうしな、デバイスを構える。 その間に、闇の書の意志は結界をはり終えたようだ

 

「一つ、聞きたいことがある」

 

「・・・・・・」

 

相手は構えていないが、闇の書がある。 油断はしないほうがいい

 

「お前はこうなることを知っていた。 防ぐ手立てもあったはずだ、何故それをしなかった」

 

「・・・・・・」

 

何を言ってもいいわけになる、それは分かっているがコイツ等には知る権利がある

 

「やりたくてもできなかった、そう言っても信じてもらえないだろうがな。 だから軽蔑も罵倒も受け入れる、お前らにはその権利があるからな。 だがな、八神はやては返してもらう。 アイツに言ったからな、必ず助ける、ってな」

 

「お前が、お前がやったことだろう!お前がこの状況にしたんだろうが!!何を今更ぁ!!」

 

闇の書の意志の怒りが反映されたかのようなシューターと言うか刃物の数。 それと同じ数を展開しながら向かってくる闇の書の意志を迎撃する

 

「お前の怒りももっともだ。 だが、俺は八神はやてを助ける、必ずな」

 



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第七十七話 falsehood

~なのは視点~

 

「フェイトちゃん!」

 

「織、織!なのは、織が!」

 

神木君の言った通り、フェイトちゃんは織君の介抱で手一杯と言うかパニックになっていた。 私が声をかけるけど、どうしようとずっと言っている

 

「広域の攻撃が来るからじっとしてて!」

 

「織ぃ......」

 

弱弱しくつぶやき、織君を抱き込むフェイトちゃん。 私の声が届いたかわからないけど、プロテクションを展開し衝撃に備える。 その瞬間、プロテクションにすごい衝撃と視界が黒く染まる。 こ、こんな攻撃なんて!あと少し展開が遅かったら巻き込まれていた、そう思うとぞっとする。 同時に、これを近距離で受けた神木君も心配だけど....... 広域の攻撃も収まったけど、声をかけてもフェイトちゃんが動こうとしない。 でも、ユーノ君とアルフさんが

 

「なのは、フェイト!」

 

「なっ!? フェイト、うずくまってどうしたんだい!?」

 

「アルフ? 織が、織が!!」

 

気絶している織君をアルフさんに見せるフェイトちゃん。 アルフさんはフェイトちゃんに何かあったんじゃないかと思って心配してたみたいだけど、フェイトちゃんに何もないとわかると安心したみたい。 でも、ユーノ君の顔が険しい。 どうしたんだろう?

 

「ユーノ君?」

 

「どうしてこんな状況に?」

 

「えっと......」

 

これまでの状況を説明する。 すずかちゃんのお友達が闇の書の主で、ヴィータちゃんたちと止む終えず、戦闘になってしまったこと。 その最中仮面の人達が現れて、その仮面の人達を神木君がリンカーコアを引き抜き闇の書に蒐集させたこと。 すると、仮面の人達はリーゼさんたちで、前から現れていた仮面の男たちがやてちゃんをかかえて出てきたこと。 それを追って戦闘になり、闇の書の覚醒が始まったこと

 

「つまり気絶させたのは、神木君...... こういう時クロノは別件でいないし、それに」

 

広域結界をはられた。 ユーノ君がそう呟くと、景色が変わる。 この結界は、何時もの

 

「閉じ込める結界じゃないか!」

 

「うん、出るには戦うしかない。 これで治癒は完了したよ、フェイト。 数分もすれば目を覚ますよ」

 

「ありがとうユーノ!」

 

フェイトちゃんも、一応回復したみたいだけど。 直後、轟音がして空の方を見ると、大きな岩が降ってきている。 ユーノ君とアルフさんがプロテクションで防ぎ、怪我もなかったけど。 どうして、岩が? その答えも、すぐにわかった。 空を飛び、戦闘する影が二つ。 金色の鎧を身にまとっているのは神木君で、相手は闇の書さん。 でも、神木君は空を飛べないはずじゃ。 それに、戦闘も

 

「待ちなよ、あのガキじゃアイツに......」

 

「でも、なのはの話だと仮面の男たちは彼が撃退してる。 それほどの戦闘力がある、ということになるけど......」

 

シューターのようなものを闇の書さんが発射すれば、それと同じ数だけ正確にレアスキルである剣を射出する神木君。 闇の書さんが接近戦を仕掛けても、全然苦戦している様子もなく近接戦をこなしていた。 でもこれじゃあ

 

「アレは一朝一夕でできる動きじゃないよ」

 

アルフさんが吐き捨てるように言う。 それは私にもわかった。 お兄ちゃんやお姉ちゃんも今のように動けるにはそれなりにかかった。 ずっと練習を見ていたわけじゃないけど、それぐらいは分かる。 神木君の動きは、意識して動いているようには見えない。 それはつまり、無意識下で動いている

 

「それにバインドだって、設置型も使いこなしてる」

 

バインドにかかる闇の書さん。 すぐに砕かれてしまうけど、神木君は苦手、ううん、全く使えないはずの魔法も使いこなしていた

 

「うぅ......」

 

「織!目を覚ましたんだね」

 

「フェイト? そうだ、はやては!? 戦闘は!?」

 

ユーノ君が指をさし、そっちの方向を見る織君。 戦闘が始まっていることが分かると、立ち上がりすぐにでも行こうとする織君。 そんな織君を止めるユーノ君

 

「織、待ってくれ」

 

「ユーノ、そこをどいてくれ!はやてを助けないと!」

 

「確かにその通りだけど、今戦闘にはいったら彼の邪魔になる。 それに、救うにしても作戦を」

 

「俺が何とかする!だからどいてくれ!」

 

「織君!?」

 

「フェイトまで!どうしたって言うんだい!!」

 

織君はユーノ君の静止を聞かず、戦闘の方に突っ込んでいく。 そんな織君を心配してか、フェイトちゃんも戦闘に割り込んでしまう

 

「ユーノ君!」

 

「あぁ、もう!」

 

「言ってる場合じゃないよユーノ!私たちもフォローに回らないと!」

 

そう言って私たちも戦闘に介入するけど、フェイトちゃんも織君もばらばらに攻撃するため砲撃の狙いが定まらない。 バインドで動きを止めようにも、こうも動き回られたら!

 

『フェイトちゃん、織君も少し落ち着いて!』

 

『なのはの言う通りだよ!僕たちが動きを止めるから、その隙に!』

 

『フェイト、危ない!』

 

強力な砲撃魔法がフェイトちゃんに直撃しそうになるけど、アルフさんが防ぎ、私が横から砲撃をして相殺することによって直撃は免れた。 でもフェイトちゃんはアルフさんの静止も聞かずに、闇の書さんに向かっていく。 これじゃあ

 

『神木君、聞こえるかい!』

 

『・・・・・・なんだ?』

 

ユーノ君が神木君に念話をつなぐ。 そうすると不機嫌ながらも、神木君も答えてくれる

 

『何とか、何とかして闇の書の動きを止めてくれ!そうしたら僕とアルフで動きを止める!それでなのはとフェイトが砲撃を!』

 

『別に動きを止めさせるくらいは簡単だが、この二人が邪魔なんだが。 それに、さっき見ただろう。 並みのバインドでは、すぐに砕かれるぞ?』

 

『ふん!私とユーノのこと舐めるんじゃないよ!』

 

『それなら期待しよう。 雑種の方はどうにかしろ』

 

そう言って、すぐにレアスキルで剣を射出し、闇の書さんの進行方向を遮る神木君。 それはフェイトちゃんと織君にも向かっており、気が付いたフェイトちゃんは急いでよける。 あ、当たらなくてよかった。 その隙に、神木君は接近して近接戦を挑んでいた

 

『フェイト!砲撃の準備を!なのはも!』

 

『わかった!』

 

『でも、闇の書が!』

 

『そっちは、神木君が何とかしてくれるから!このまま接近戦じゃらちが明かない!』

 

悔しそうな顔をしながらチャージを始めるフェイトちゃん。 私もチャージを開始する。 織君は相変わらず闇の書さんに接近戦を挑んでるけど、吹き飛ばされていた。 でも、その隙に神木君がバインドで拘束する。 続いて、ユーノ君とアルフさんも

 

「フェイトちゃん!」

 

「っ!」

 

私とフェイトちゃんの砲撃、直撃かと思われたけどすんでのところで防がれた。 でも、このまま二人の砲撃なら!そう思っていたけど、赤い何かが闇の書さんのほうから...... さっき神木君に使ってたシューター? それが私とフェイトちゃんに迫るけど

 

「おい、俺のことを忘れてないか?」

 

剣の雨によって、それは私たちに直撃することなく落とされる。 そして、それは当然闇の書さんにも

 

「っ!?」

 

闇の書を掲げて、吸収しようとしてるのかな? でも

 

「何度も同じ轍を踏むと思うな」

 

吸収されそうになったその瞬間、剣が爆発した。 爆炎に包まれる闇の書さん、プロテクションも突破して砲撃を浴びせたけど...... 

 

「チッ、簡単に終わると思ってなかったが...... おい、離れるぞ」

 

「お前が命令するな!!」

 

「ならお前はここに居ろ、雑種。 お前たちは逃げたほうが身のためだぞ。 アイツ、莫大な魔力にものを言わせて砲撃を撃つつもりだからな」

 

そう言うと同時に、神木君はすごいスピードでこの場を離れ始める。 煙が晴れた直後、闇の書の意志さんが掲げた手の先には収束された魔法の塊が

 

「くっ!アルフ、フェイト、なのは、織!」

 

私たちは頷いて一気にそこをはなれる

 

~なのは視点 end~

 



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第七十八話 Disintegration and absorption

さて、急いで離れたはいいが正直言ってあのクラスの純粋魔力砲撃だ、この狭い結界の中をいくら逃げたところで意味がない。 適当なところで防御でもしようと思うのだが、そうも言ってられないらしい

 

「マスター、近くに生体反応が」

 

「迷い込んだ一般人か? はた迷惑な」

 

舌打ちをしつつ、ペイルの指示に従い探す。 流石ペイルだ、すぐに見つかったのはいいのだが

 

「アンタは神木? 何でそんな格好を?」

 

「神木君」

 

「・・・・・・」

 

一般人はアリサ・バニングスと月村すずかで、急にこんな姿で現れた俺に目を丸くしていた。 アースラに通信をいれようにも、魔力砲のせいかどうにもうまく繋がらない。 俺一人ならいくらでもやり方はあるが、この二人を守るのは少し心配だ。 高町なのは達(アイツ等)を呼ぶか? 今は魔法がどうの言っている場合じゃないし

 

『誰か、聞こえるか』

 

『神木君? どうかしたのかい?』

 

『一般人を保護した。 アリサ・バニングスと月村すずかだ。 俺一人だと不安があるから誰か来てほしいんだが』

 

『アリサちゃんとすずかちゃんが!?』

 

どうやら全員で来たらしく、勢揃いだ。 まぁそれはさておき、魔力砲もチャージが終わったのか、こちらに向かって微調整をしていた

 

「なのは、織、それにフェイトまで!」

 

「みんな何を?」

 

「そ、それは......」

 

「話は後だ、ペイル、プロテクションを数枚展開しておけ、焼け石に水だろうがな」

 

「了解です、マスター」

 

俺の目の前に展開される数枚のプロテクション、だが言った通りこんなのは焼け石に水だろう。 あまり使いたくないのだが、緊急事態だ仕方がない

 

「マシュ、お前の盾、借りるぞ」

 

宝具には原点がある。 それは知っての通りだ。 その原点は人類最古の英雄であるギルガメッシュの蔵、つまり王の財宝(ゲートオブバビロン)に収蔵されているという。 もちろん、サーヴァント内にも自分の逸話から宝具に昇華する場合もあるため全部が全部あるとは言えないが。 そして、俺の王の財宝は、英雄王の宝具の原点のコピーが入っている。 もちろんあるのだ、マシュが使っている盾も。 もちろん、宝具を完全に展開できるわけではないが、仮想展開と言う形で本来の力の数パーセントぐらいだが展開できる。 盾を目の前に構え

 

「仮想宝具、疑似展開!」

 

仮想宝具が展開し終えると共に砲撃が直撃する。 何重にも展開したプロテクションは文字取り紙のように脆く、一瞬で崩れ去った。 ガンガン魔力を放出してはいるが、流石にこの物量を防ぎきることは不可能なのか徐々に押されていく。 だが、負けるわけにはいかない。 後ろには、今回の件に何も関係ないアリサ・バニングスと月村すずか(一般人)がいる。 流石に巻き込むわけにはいかない。 だが押し返そうにも力が足りない、はずだった。 だが突如として、温かい感覚と共に押し返せていた

 

「なるほど。 余計なことをする」

 

幻聴だろう、アイツ等はまだ呼んでいないし。 だが、頑張ってと言われた。 だから俺は、砲撃が終わるまで耐える。 徐々に力も弱まっていき、ようやく砲撃が終わる

 

「ほんと、阿保みたいな魔力だな......」

 

魔力を大量に放出したせいか、身体がかなり怠いが問題ないだろ。 後は両手が痛いくらいだが、こちらは治癒魔法をしているので痛みも引いてきている。 盾を王の財宝の中にしまい、前を見据える。 アレだけの魔力を放出したにもかかわらず、闇の書の意志は健在だった。 それどころか、ピンピンしている

 

「ねぇ、アンタたちは」

 

「ごめんアリサちゃん、すずかちゃん...... 後でちゃんと話すから」

 

「なのはちゃ」

 

後ろから気配が消えた。 どうやら転送したようだ。 と言ってもこの結界だ、安全なところに転送しただけで結界内に居るのだろうが

 

「ユーノ、アリサ・バニングスと月村すずかを頼めるか? いくらアースラでも、この結界から出すのにはそれ相応の時間がかかるはずだ」

 

「君たちが遠慮なく戦えるように、だね」

 

俺の言いたいことをわかっているのか、頷いてくれるユーの。 流石空気が読めるな、ついでに雑種もつれて行ってくれると嬉しいのだが。 ユーノとアルフは飛び去って行く。 なるほど。 あくまで目的は俺たち、と言うわけか。 直後、地面から勢いよく炎の柱が上がる

 

「早いな、もう崩壊が始まったのか」

 

「崩壊?」

 

「もう私も時間がないというわけか、そしてこの星も」

 

「崩壊って、まさか!?」

 

「くっ!!」

 

「落ち着け雑種、無策で突っ込んだところで結果は変わらない」

 

この星と聞いた瞬間突っ込もうとした雑種だが、バインドで縛り転がす。 本当に世話のかかるやつだ

 

「お前たちに咎がない、いや、神木理樹、貴様は別だ。 貴様だけは暴走前になんとしてでも」

 

「殺す、か? さっきも言った通り軽蔑も罵声も受けよう、だが八神はやては助ける、そう言ったつもりだが?」

 

「貴様さえいなければ!貴様さえいなければ、こんなことにはならなかった!!」

 

「逃げるのはやめろ。 守護騎士たちがページを集め続ける限り、どのみちこうなっていた違うか?」

 

「それでも、今日ではなかったはずだ!少なくとも、こんな日にこんなことは起こらなかったはずだ......」

 

「・・・・・・」

 

こんな日。 今日はクリスマスイブ。 確かに静かな聖夜を過ごせていたはずだ。 だが

 

「だがな、起こってしまったことは戻らない。 なら進めるだけだ」

 

「お前と主が出会わなければ!」

 

「・・・・・・」

 

なおも続く罵倒に、俺は口を閉ざす。 こいつは本の中からとは言え、八神はやての隣にずっといた。 隣で見てきたこいつには、言う権利がある

 

「タラれば話か、私らしくない...... 私はただ、主の命を果たすのみ。 ただすべてを壊して、終わらせるのみだ」

 

「はやてだって生きてる、シグナムたちだって!」

 

「もう遅い、すべてが遅いのだ。 闇の書の主の宿命は始まった時が終わりの時だ」

 

「終わりじゃない!まだ終わらせたりしない!!」

 

デバイスを構える高町なのはとフェイト・テスタロッサ。 だが、闇の書の意志は興味を示さない。 闇の書は妖しく光り、地面からは変な生物が。 いや、蒐集でリンカーコアをとられた生物か? 資料で見たような気がする。 高町なのはやフェイト・テスタロッサは手足を縛りあげる程度だが、俺は特別らしい。 かなりの数が俺を囲う

 

「泣いているのは諦めたくないからじゃないの!? 本当に全部諦めているなら、泣いたりなんて、しないよ!!」

 

「我は道具だ。 この涙は優しい主のものだ」

 

収束砲。 範囲は俺たちを軽く覆うものだが、このくらいなら

 

「呪相、炎天」

 

生物と砲撃を焼き払うならこのくらいで十分だ。 高町なのは達は自力脱出したらしい

 

「伝わらないんだったら何度でも言うぞ」

 

「助けたいんだ、貴女のことも、はやてたちのことも」

 

直後、火柱の後は、石の柱だった。 石の柱が地面からせり上がってくる。 どんどん時間が無くなってきているようだ。 だが、どうすれば?

 

「主や騎士たちの最後の思いを」

 

「この、駄々っ子!!」

 

ソニックフォームのフェイト・テスタロッサはその機動力を生かし急接近するが、闇の書はの意志は何もせずに突っ立っている。 いや、どういうことだ? 嫌な予感がした俺は、闇の書の意志が展開した魔法陣に触れる前にフェイト・テスタロッサを吹き飛ばす

 

「なっ!?」

 

「バカかお前は。 こんなもの、普通に考えても罠だろう」

 

それで、その代わりに魔法陣に俺が触れているのだから世話がない

 

「お前にも心の闇があるのだな」

 

「あー、ほんとままならないわ」

 

まさか吸収されるとは。 だんだんと意識が闇に染まっていく

 

「神木君!!」



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第七十九話 Happy dream

なんだこれ、書いておいてなんだこれ(大事なことなので二回言いました

そんなわけで、多少内容がカオスになりました。 ご容赦ください

ifストーリーでこの軸でイノセント行けるか?(ボソッ



目が覚める。 どこか頭がぼんやりするが、寝起きだからだろうか? 

 

「理樹ー!いつまで寝てるのー?」

 

「もう起きてるー、()()()

 

いつも通りの日常(何時もとは違う日常)が始まる。 着替えを済ませて下に降りれば、母さんと玉藻さんが次々と朝食を作っていた。 玉藻さんは近所のお姉さんで、よく朝食を一緒する中だ

 

「今日は少し遅かったわね、夜更かしでもしたの?」

 

「ううん、なんか頭がボーっとして」

 

「まさか熱が!? お姉さんが熱を測ります!」

 

「玉藻さん?」

 

笑顔で玉藻さんを牽制する母さん、玉藻さんはその様子に冷や汗を流していた。 まぁ、いつも通りだな。 そんな玉藻さんをスルーしつつ、テーブルに着く。 父さんは相変わらずご飯を食べず新聞を読みふけっているようだ

 

「父さんオハヨー、ご飯食べないと母さんに怒られるよ? それかリリィさんに盗られるよ?」

 

「他人の分を食べるまで食い意地張ってませんよ!?」

 

「へー、この間()のおやつのプリン勝手に食べたくせに?」

 

「うぐっ......」

 

僕の言葉に言葉を詰まらせ、吹けない口笛を吹きながら視線を逸らすのは近くの道場の師範のリリィさん。 なぜうちに食べに来るのかと言われれば、生活能力がないから、その一言に限る。 掃除、洗濯などはできるのに、料理はそこそこなのだ。 そして、燃費が悪い。 ちょうど道場の練習終わりに倒れていたところを発見して、僕が家につれてきたことから交流が始まった。 普段ならお手伝いさんと言うか、料理を作りに来てくれる通い妻ならぬ通い夫がいるのだけど、恋人と旅行中らしい。 なので、その通い夫である赤毛と言うか茶色と言うか、ともかく赤茶色のつんつん頭の人が食事を頼んできたのは記憶に新しい

 

「そこらへんにしてあげなさい理樹。 そうしないとリリィさんに剣道でしごかれるぞ?」

 

「食べ物の恨みは怖いから。 それとこれとは話は別だと思う」

 

「はいはい、速く食べないと遅れるわよアナタ、それに理樹も」

 

「「はーい」」

 

何が悲しくて父さんと声を合わせなければならないのか。 母さんと玉藻さんが運んできた朝食を食べつつ、周りを見る。 リリィさんは朝食を早く出してほしいのか、ナイフとフォークをもって机をバンバン叩いている。 玉藻さんはそんなリリィさんをなだめつつ、料理を作っていた。 母さんはリリィさんを視線で制し、父さんは相変わらず新聞を読んだまま。 いつも通りの光景だ。 いつも通りなのに、なぜか心がざわつく

 

--------------------------------------------

 

「行ってきまーす!」

 

家を出てバス停まで走る。 今日は少し遅めだったので走らないと間に合わない。 遅れても最悪の場合ハサンさんに抱えて走ってもらえばいいのだが。 このハサンさん、なんと現代を生き抜く忍者なのだ。 ただ、おじいさんがめっちゃ怖い。 仮面付けてるし、目はLEDを仕込んでいるのか真っ赤に光る。 ハサンさんに聞いたら、怒ってるらしい。 でも、ハサンさんの家(?)に行くのは楽しい。 色々な人いるし、常時影分身とかしてる人もいたりする。 ただ、一番若いお姉さんが毒使いらしく近づくなと言われた。 冗談だと信じたい...... そうこうしている間に、見覚えのある二人組が。 この時間でここを歩いているなら、バスは余裕で間に合うと思っても大丈夫だ

 

「マシュさん、藤丸さん、おはようございます」

 

「お、理樹君じゃん、オッハー」

 

「おはよう、理樹君」

 

挨拶をしたのは、うちの学校、エスカレーター式なのだがそこの女子高に通う藤丸立夏さんとマシュ・キリエライトさん。 二人ともいい人だ、まぁ、藤丸さんはたまに暴走するけど...... なんか頭身が二頭身くらいになったり、たまにわけのわからないことを言い出すけど、い、良い人だ!

 

「今のは傷ついた、詫び石を要求する」

 

「先輩!?」

 

「さよなら!」

 

何で余裕で間に合うはずなのに走らなければならないのか...... ちなみに今のが二頭身モードで、支離滅裂な言動の時だ。 あの時は危険なので逃げるが吉。 逃げ切れるかどうかは定かじゃないけど。 こうなると沈めるのはマシュさんしかおらず、彼女はいつも人柱らしい。 これは聞いた話だけど

 

「少年、覚えていろ」

 

なんか耳元で藤丸さんの言葉か聞こえた気がするけど、気のせいだな、うん!

 

--------------------------------------------

 

「オハヨー!」

 

「オハヨー理樹君」

 

「おっ、理樹じゃん。 昨日のテレビ見たか?」

 

クラスに入れば、瞬く間に人だかりが。 す、進めん。 一応、クラス委員長として悩みの解決や、手伝いをしていたらいつの間にかこんなふうになってしまっていた。 こ、これじゃあ席にたどり着けない!

 

「はいはい、少しは落ち着きなさいよ、アンタたちは」

 

パンパンと手を叩かれ、そちらを見れば()()()が視線を集めて鎮静化を図ってくれていた。 クラス委員でもないのだが、彼女はこうして俺のことを助けてくれる。 鎮静化したことで、ようやく自分の席に着くことができた

 

「いや、助かったよアリサ」

 

「アンタも大変ね」

 

「おはよ、神木。 毎朝大変だな」

 

()()か、おはよ」

 

アリサと苦笑していると声をかけられる。 そちらを向けば、今日も熱々の藤森の姿が

 

「いやいや、ごちそうさまです。 ()()()()もおはよう」

 

「?」

 

「あ、神木。 おはよう」

 

その今気がついた、みたいな反応は流石に傷つく。 藤森の腕に抱き着いているのはフェイト・テスタロッサ。 この秋ぐらいから転校してきた転校生だ。 なんでも、前から藤森と親交があったようで、日本に来てベタぼれ。 いつもこんな感じだ。 もはや藤森は慣れてしまったのか、首をかしげていた。 こいつもなー、モテてたんだがなー。 心の中で相談に来た女子に黙祷をささげておいた

 

「お理樹君や、おっはよー!」

 

「それなら私も、おっはよー!」

 

「なんなのお前ら? 朝からうっとおしいんだけど」

 

抱き着いてきたのは()()()()()()()だ。 はやては少し離れていたところで()()()と喋っていたが、アリシアはどこから出てきたんだ? 

 

「もー、酷いなーアリシアちゃん」

 

「そうだねー、はやて。 いつもはなのはの一人占めだし、ちょっとくらい」

 

「「ねー」」

 

「ねーじゃねえよ」

 

「あはは」

 

笑い事じゃないからすずか。 はやてもアリシアも声をそろえて言っているが、別になのはが一人占めしているとは思わないのだが? お前らも、隙あらばくっついてくるし

 

「お、そろそろやな」

 

「だね」

 

二人して俺から離れる。 俺も時計を見て納得する。 そろそろアイツが来る時間だ

 

「おっはよー!理樹君」

 

勢い良く()()()が抱き着いてきて......

 

--------------------------------------------

 

「茶番だな」

 

目の前の光景を見て、殴りつける。 すると、俺以外を残してガラスを砕け散るような音が鳴り響く。 今まで見ていたものはまやかし、夢みたいなものだろうか。 まぁ、どうでもいいかそんなもの。 元凶である、後ろにたたずむものに聞く

 

「なぁ、夜天の魔導書の管制融合騎」

 

「・・・・・・」

 

答えは返ってこないが、その表情は悲しそうで、ただ俯くだけだった。 はて、なんでそんな表情をしているのか? 外では散々罵倒されたし、ここでもそうなのかと思ったが

 

「それで、俺にあんなもの見せた意味は? 大方足止めだと思うが」

 

「・・・・・・見せたは見せたが、アレはお前の願望を夢で具現化したものだ」

 

「あんなものを、俺が? 冗談はよせ、俺はあんなもの望んじゃいないな」

 

「お前は!お前はどうしてそこまでできる。 なぜ自分から悪役なんて......」

 

「・・・・・・意味が分からん。 頭まで壊れたか?」

 

「とぼけるな!お前を吸収したことで、お前の記憶は夜天の書に記録されている。 お前が無理やりやらされていたことも......」

 

なるほどね。 まさか、吸収されて記憶が記録されるなんて思ってもみなかった。 だがな

 

「それでも、自分で選んだ道だ。 この道を選んだ時点で、俺は被害者ではなく加害者になった。 他人を蹴落としてでも、俺は生きる道を選んだ。 だから俺に、あんな幸せな夢を見る資格はない」

 

「確かにお前のしたことはいろいろな人を傷つけたかもしれない、主もだ!それは許すことはできないが、それでも!」

 

「お前は優しすぎる、夜天の魔導書の管制融合騎。 これは俺の問題だ。 お前がとやかく言ったところで、俺の思いは変わらない」

 

「・・・・・・」

 

無言の睨み合い。 だが、それも長くは続かなかった。 空間自体がひび割れ始める。 なんだ、崩壊でも始まったのか?

 

「時間、か。 ここも時期消えてなくなる、出口はあっちだ」

 

泣いていたはずの管制融合騎はいつの間にか涙の後もなく、すまし顔に戻っていた。 指さされた方向を見ると、光っていた。 アレが出口か。 いつまでもここにとどまっている意味もないし、行かせてもらおう。 管制融合騎に背を向け歩き出す

 

「確かに貴方のしたことは許されることじゃないわ。 でも、そんなに思いつめないで」

 

「私たちはもういないが、お前には新しい家族がいる。 だから、一人で何でもやろうとするな」

 

「な、ぜ?」

 

懐かしい声が聞こえた。 気配もする。 だが、俺は振り返らない。 これもきっと、夢やまやかしの類だろうから。 ・・・・・・それか、俺が無意識に望んだ言葉かもしれないからな。 でも

 

「ありがとう、そしてさようなら父さん、母さん」

 

父さんと母さんは微笑んだ気がした。 背を向けていたし光に意識が飲み込まれ始めていたため、本当は分からないけど



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第八十話 Desperate strength difference

~なのは視点~

 

「神木君!!」

 

「なのはやめろ!」

 

「離して!神木君が!!」

 

「ダメだよなのは!なのはまで吸収されちゃう!!」

 

神木君が吸収されてしまった。 フェイトちゃんをかばって。 それを見ていることしかできず、気が付いた時にはもう神木君は吸収された後で...... そんな風に取り乱した私を、フェイトちゃんと織君が二人係で止めている。 でも、闇の書さんは何処か遠くを見ながらつぶやく

 

「我が主もあの子も、醒めることない眠りのうちに終わりなき夢を見る。 生と死の狭間の夢、それは永遠だ」

 

「永遠なんてない!私が救い出して見せる!!」

 

フェイトちゃんと織君を振り払い、レイジングハートを構える。 でも、闇の書さんはやはりどこか遠いところを見たままだ

 

「例え、それを本人が望んでいなくても、か?」

 

「え?」

 

本人が、神木君が望んでいない?

 

「どういう、こと?」

 

「いや、私が言えた事ではないか...... さっきまで、彼のことを責めていた私が」

 

「どういうことなの、神木君が望んでいないって!答えてよ!!」

 

ようやくこちらを見たと思ったら、その瞳はどこか悲しそうで。 答えを聞こうとしてもはぐらかされる

 

「彼が言わないなら、私が言うことではない」

 

「望んでいようがいまいが、関係ない。 アイツがこれまでしたこと、それを謝らせていないから。 だから俺が連れ戻す」

 

「ふっ...... 何も知らない、と言うのは幸せなものだな藤森織。 彼は自分のことを道化だというが、お前のほうがよっぽど道化ではないか」

 

「なに!?」

 

「織、抑えて!織やなのはのことを全然知らないのに、惑わすようなことは言わないで」

 

「お前もだぞ、フェイト・テスタロッサ。 まぁいいさ、知らないということは知る必要のないこと。 知らないほうが幸せな真実もある」

 

そう言って、構えをとる闇の書さん。 頭の中はごちゃごちゃで考えもまとまらないけど、やらなくちゃ

 

「はぁ!!」

 

一瞬で距離を詰められ、拳を振るわれる。 何とかレイジングハートで受けたけど、かなり手がしびれてる

 

「なのは!この!」

 

フェイトちゃんがバルディッシュを振るうけど、そこに闇の書さんの姿はなく数メートル離れたところであの紅いナイフを用意していた。 短時間であんなに!

 

「穿て、ブラッティダガー」

 

「アクセルシューター!!」

 

「フォトンランサー!!」

 

「「シュート!!」」

 

フェイトちゃんと私で何とか数を減らし、避けられるようにはなったけど。 織君がいない

 

「織!接近戦は危険だよ!」

 

いつの間にか織君は紅いナイフの弾幕を超え、闇の書さんに接近戦を挑んでいた。 フェイトちゃんの言うように危険なはずなのに、止まる様子はない

 

「フェイトちゃん!」

 

「わかってる!」

 

織君は向かっていったけど、投げ飛ばされはるか彼方に。 それを追いかける闇の書さんにフェイトちゃんと一緒に闇の書さんに砲撃を発射するけど、まるで効果がない

 

「フェイトちゃん!私は良いから、織君を!」

 

「わかった!」

 

ソニックフォームで織君に追いつくフェイトちゃんを確認しつつ、私はその場で停止しカートリッジをロードする

 

「レイジングハート」

 

「イエス、マスター」

 

これで防御を抜けるかわからないけど、足止めにはなるはず!織君もフェイトちゃんもまだ体勢を立て直せてないし、それくらいの時間になれば!

 

「ディバイン、バスター!!」

 

「・・・・・・」

 

足を止めるのには成功したけど、プロテクションを抜けてる感じがしない。 確かにカートリッジ一発分でチャージもあまりしてないけど、それにしたって。 硬い。 硬すぎる

 

「なのは、そのまま!ハーケンセイバー!」

 

フェイトちゃんが魔力刀を飛ばすけど、防がれる。 二か所同時はさっきも防がれた、でも三か所なら?

 

「もらった!」

 

織君の放った砲撃が直撃するかと思われたけど、闇の書から砲撃が出て、織君はそれに飲み込まれる。 そして、私やフェイトちゃんにも赤いナイフが迫っている

 

「くぅ!」

 

砲撃を素早くやめ、プロテクションを展開することでダメージはなかったけど、闇の書さんの接近を許してしまう

 

「沈め!!」

 

プロテクションを慌てて展開するも、その上から殴られて勢いよく海に落ちる。 途中で海面からせり出た岩に当たったけど、バリアジャケットのおかげでダメージはない。 少し離れた海面からせり出た岩が地面のようになったところから様子をうかがう。 闇の書さんの周りには、フェイトちゃんや織君の姿はない。 私と同じように海に?

 

『なのは』

 

『フェイトちゃん、無事だったんだね!』

 

『うん、織も一緒』

 

フェイトちゃんたちもあの後海に落とされたらしく、こことは別の陸地になったところで様子をうかがっているようだった。 そこまではよかったけど、これからどうするか

 

『砲撃は通じないから、接近戦?』

 

『でも、あの防御力が......』

 

『やっぱり』

 

『フルドライブ?』

 

私もフェイトちゃんも同じ結論に至ったらしい。 フルドライブ。 私はエクセリオンモード、フェイトちゃんはザンバーフォームがそれにあたる。 フルドライブは長く使うと体に影響があるらしいけど、今の状況ではそれしかない

 

「行こう、レイジングハート」

 

レイジングハートを持つ手に力を籠める。 それに呼応するかのように、レイジングハートの形が変わる

 

「フルドライブ、エクセリオンモード!!」

 

フェイトちゃんと織君も、示し合わせたように闇の書さんに向かっていいく。 カートリッジをロードし、チャージを始める

 

『織君、フェイトちゃん!』

 

頷いて離れるフェイトちゃんと織君、その時にバインドで動きを封じてくれる。 一瞬だけど、その一瞬さえあれば!

 

「バスター!!」

 

直撃したみたいだけど、煙が邪魔でよく見えない。 でも、これで駄目なら......

 

「驚いたな」

 

「「「っ」」」

 

その声とともに現れる闇の書さん。 目立ったダメージは、掲げている手のグローブが焦げてなくなっていることぐらい

 

「お前たちも眠れ、よくやった」

 

掲げていた手を下ろし、そう呟く闇の書さん。 その声は相変わらず苦しそうで、悲しそうだった。 でも

 

「いつかは眠るよ...... でも、それは今じゃない!!」

 

「行くよ!」

 

『フェイトちゃん、時間稼ぎ、お願いできるかな』

 

砲撃で闇の書さんを牽制しつつ、フェイトちゃんに念話をいれる

 

『いいけど、何か作戦があるの?』

 

『ちょっと、ね』

 

『わかった、なのはに任せる』

 

「レイジングハート」

 

「ACS、スタンバイ」

 

エクセリオンバスターACS、ストライクフレームを展開し、相手のプロテクションなどを貫通してゼロ距離で砲撃を当てる技。 もちろんゼロ距離で砲撃をするわけだから、私も...... でも、今はなりふり構ってる場合じゃない。 はやてちゃんや神木君を救い出さなきゃ

 

「ストライクフレーム」

 

「エクセリオンバスターACS、ドライブ!!」

 

「なっ!?」

 

「なのは!」

 

かなりの距離離れていたはずなのに、一気に闇の書さんに接近する。 急いでプロテクションを展開したみたいだけど踏ん張ることはできず、そのまま私の押す力に負け壁に激突する。 壁を何枚も抜き、ようやく止まったけど闇の書さんのプロテクションは抜けない

 

「フェイトちゃんが隙を、レイジングハートが力を貸してくれてる。 だからお願い、届いて!」

 

押し返されそうになるけど、カートリッジをロードして、無理やり押し込む。 そのかいあって、ようやく届いた

 

「ブレイク、シュート!!」

 

「くっ!?」

 

ほぼゼロ距離、プロテクションを抜いてのバスター直撃。 これなら

 

「あぁ、まさかここまでやられるとは思わなかった」

 

「え? っ!?」

 

煙と共に現れた闇の書さんは服がところどころ焦げ、擦り傷をいくつも負っていた。 でも、私もフェイトちゃんも織君も、捕まってしまった

 

「お前たちはよくやった、だからもう、眠れ」

 



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第八十一話 Those that support strong Tailwind of good luck Blessing of ale

~はやて視点~

 

意識が朦朧としてる。 私は誰、なんてふざけたことを言うつもりはないけど、ここがどこだかわからない。 周りを見回すも、もやがかかった頭では考えることができない。 何かあったような気がする、でも

 

「そのままお眠りを、我が主。 貴方の望みは、私が全て叶えます」

 

「・・・・・・」

 

声が聞こえて、顔を上げる。 アカン、視界もぼやけてきてる。 眠っちゃダメなのに、眠気が

 

--------------------------------------------

 

夢を、見ていた。 見たことある場所、見たことある景色。 ここは、図書館やな。 私が夢と決めつけた理由、それは多々あるけどその理由の一つに視界の高さ。 いまの私の視界はいつも見る高さより高い。 そして一番の理由は

 

「理樹君やん、やほー」

 

八神はやて()が目の前にいるから。 正確には夢じゃなくて、理樹君の記憶みたいやな。 なぜこんなものを見ているのかわからないけど、私は見なきゃいけない気がする

 

--------------------------------------------

 

視界が暗転したと思ったら、またさっきのところや。 それが考えられるくらいには、意識がはっきりしてきたみたいや。 でも、相変わらず大半の意識にはもやがかかってるけど

 

「私は、何を望んだっけ?」

 

「悲しい現実を、すべて消してしまいたいと」

 

そんなこと、望んだっけ? 違うような気がするのに、上手く考えが纏まらない。 また眠く......

 

--------------------------------------------

 

なんや? フェイトちゃんとなのはちゃんが遠くで戦ってる? さっきと同じなら、この記憶は理樹君のものということになる。 何で止めないんや? 場面は変わり、薄暗い廊下を理樹君と誰かが走っていた。 薄暗い廊下を抜けたと思ったら、そこには武装したロボットのようなものがうじゃうじゃと。 映画のワンシーンみたいやけど直感で分かる、これはノンフィクションつまり実際に起こったことと。 たぶん目的は光った石の確保なんやろうけど、それを守るように武装したロボットはひしめき合っていた。 戦いが始まり、理樹君のおなかが!

 

「やめて!」

 

起こったことは止められない、ということなのだろうか。 理樹君のおなかは、武装したロボットが持っていた剣で貫かれる。 それでも戦いをやめない理樹君。 なんで、なんでなんや......

 

--------------------------------------------

 

「そんなこと、私は望んでない...... たぶん。 私が欲しかった幸せは......」

 

「健康な体、愛する者たちとの日々。 そして、気を使うことのない神木理樹(友達)。 眠ってください、そうすれば夢の中であなたはずっと、貴女はその世界に居られます。 誰も貴女を傷つけない、悲しみも痛みもないそんな世界に」

 

「そんな夢あったらええなぁ...... せやけどそれは......」

 

ただの夢や...... また意識を失う直前、揺れた気がした

 

--------------------------------------------

 

さっきまでに比べると、視界が低い。 それもかなり。 色々な理樹君の記憶を見てきたけど、これが最後。 そんな気がする。 朝起きて顔を洗って、多分理樹君のお父さんとお母さんやろな、二人に挨拶をして。 どこにでもある一般家庭の朝の風景。 家を出て、なのはちゃんと遊んで。 それにしても、なのはちゃんとこのころから親交があったんやな。 かなり長いな。 家に帰る。 でも、家に帰ると誰もいなかった。 机の上にはケーキ。 チョコでできたプレートには理樹って書いてあるし、理樹君の誕生日なんや。 でも、サプライズパーティーにしては少しおかしい。 なんで仕掛け人の二人がいないのか。 買い物行ったといわれればそれまでやけど...... なんか、理樹君が焦っとる。 ネックレスを手に取って、その隣の手紙を読んで...... 

 

「なっ!?」

 

手紙の内容に愕然とする。 よくわからないが主人公とか踏み台とか意味のわからないことが書いてあったけど、一番驚いたのは理樹君が死ぬということ。 どういう、ことや?

 

--------------------------------------------

 

よく揺れるようになってきた。 なんやろか...... よくわからんけど、ここで寝てる場合じゃないことだけは分かる

 

「そや、私はまだ...... なんで泣いてるん?」

 

ようやく思い出してきた、ここに来る前のこと。 でもそれよりも、私と一緒に居てくれたこの子が泣いていることが気になった

 

「これは、私の涙ではありません。 それよりも、どうかお眠りください......」

 

「私の涙やないって、このバカ!自分の気持ちは自分だけのものや、人から与えられるものじゃない!悲しいのは、自分が悲しいって思ってるからや!」

 

「私は、わたしは......」

 

「自分に正直になろ? つらいなら辛いって、助けてほしいなら助けてって言っていいんや。 主の私が助けるから」

 

そう言って、目の前の子のことをなでる。 撫でたのがきっかけか、我慢の限界だったのか、ついにその子は泣き出してしまう

 

「助けてください!もう、もう、破壊なんてしたくない!」

 

「うん、その願い叶える。 主として」

 

この子が泣き止むまで、頭をなでる。 しばらくするとようやく泣き止んだのだが、恥ずかしそうに視線をそらしていた。 とはいえ、このままではここから脱出する事も出来ない。 助けるといったけど、プランがなかった

 

「ところで、今はどういう状況なん?」

 

「は、はい!」

 

妙にかしこまった様子で説明してくれる。 闇の書。 私が生まれた時から持っている本は、元は夜天の魔導書、と言うらしい。 元々は各地の叡智を記録し、研究に役立てるものだったらしいけど、度重なる改悪のせいで一部機能が暴走、今では闇の書と呼ばれるものになってしまったらしい。 今は外で防衛プログラムが戦ってるとのこと。 なんか、かなり迷惑をかけてしまってるらしい。 外では、世界を壊しかねない力で暴れているとか。 ま、まぁ、そこは後で謝るしかない

 

「止める方法は?」

 

「それが、ありません......」

 

「いやいやいや、そんなことないやろ? こう念じて、止まって!と言えば止まった、り?」

 

直後、足元に魔法陣みたいなものが展開され光り輝く

 

「暴走、一時的にですが止まりました.......」

 

そんな呆然として言わなくても...... それと、そのすごいみたい目やめて!偶然やから!ともかく!止まったんやから、次の手を考えないと。 こんな状況初めてやから具体策がないやろうし

 

「なぁ? 夜天の魔導書本体と、その防衛プログラムを切り離すにはどうしたらええんや?」

 

「完全に切り離す、と言うのは無理じゃないかと。 防衛プログラムはもとは夜天の魔導書の一部ですから、完全に切り離すとなると夜天の魔導書側の機能をいくつか破棄しなければ...... それに、表側に出ている防衛プログラムを何とかしないことには......」

 

「その切り離すプログラムに重要なプログラムは?」

 

「ない、とも言い切れませんが、夜天の魔導書の運営自体にはさほど問題ないかと......」

 

「それは本当やな?」

 

本当に、この子もあわせて一緒に居られるかの確認。 この子優しいから、自分を犠牲にとか言いかねへんからな。 それを確認するために、目を見て確認をとる。 嘘を言っているような目じゃない

 

「本当です、我が主」

 

「ん、ならそれで行こう。 外で戦ってる方、聞こえますか? その目の前にいる子、ぶっ飛ばしてください!」

 

外に声が届いていることを信じて、私は私にできることをしよう

 

「貴女に名前をあげる。 みんなから、もう一人いること聞いてたからな? みんな呼び方バラバラやったから、ずっと考えてたんや。 闇の書とか、管制融合騎とか。 そんな風には私が呼ばせへん。 強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リイン、フォース」

 

その瞬間、温かな風が吹いた気がした。 まるでこの子、リインフォースの誕生を祝福するかのように

 



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第八十二話 Fools of the chain

「お前たちはよくやった、だからもう、眠れ」

 

意識が覚醒すると同時に、そんな言葉が耳に入った。 高町なのは、フェイト・テスタロッサ、雑種はバインドで拘束されており、身動きが取れない状況。 そして闇の書の意志は、魔力にものを言わせた砲撃、と。 なんでこう、絶体絶命の状況ばかりなのだろうか? いや、高町なのは達が悪いわけじゃないのだが。 バリアジャケットはボロボロだし、激しい戦闘があったことくらいわかる。 それにしては、雑種のバリアジャケットがあまり汚れていないのだが。 ともかく、あの砲撃は俺では防ぎきれない。 なら

 

「令呪を持って命ずる、来いシールダー!重ねて令呪を持って命ず、宝具を開帳し高町なのは達(アイツ等)を守れ」

 

『了解しました、マスター!』

 

これで向こうは安心だ。 だが、闇の書の意志はどうしたものか。 拘束するのは容易いが、バインドだと砕かれてしまうし。 宝具の原点で拘束しようにも、ランクが低ければ砕かれてしまう。 まぁ、色々あるはあるが。 宝具の原点でいいものがないか探していると

 

「まさか、これまでコピーがあるとは......」

 

俺の蔵にあるとは思っていなかった()()()()()。 だが、これで拘束は完璧だろう。 ちょうど、闇の書の意志から砲撃が発射されたようだが、マシュの宝具ならあの程度何ともないだろう

 

「私は災厄の席に立つ...... 其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、いまは遙か理想の城(ロードキャメロット)!!」

 

瞬間、マシュの宝具が発動し、高町なのは達は白き城に守られる。 それを横目で眺めながら、王の財宝を闇の書の意志の周りに複数個セットする。 これにはさすがの闇の書の意志も気が付いたようだが、砲撃によって動きが取れない。 ブラッティダガーを射出しようとするも、こちらが先に剣を射出しそれをことごとく破壊する

 

「そろそろか」

 

砲撃も勢いが衰えてきたので、そろそろ拘束に入ることにする

 

「コピーとは言え、英雄王()も友の名を呼ばれるのは正直言い気はしないだろうからな、こう呼ばしてもらう。 愚者の鎖」

 

複数の王の財宝から出た鎖は、闇の書の意志の動きを止めるには十分だった。 かなりきつく拘束しているためか、身動きすら取れないようだ。 コピーとは言え強度はオリジナルと遜色ないようだし、そうそう破られることはないだろう。 まぁ、闇の書の意志の力がバーサーカー並みと言うのなら話は別だが。 マシュの方を見れば、変わらず白く輝く城壁が。 傷一つないようだ。 宝具の使用も終わったので剣を射出し、高町なのは達を拘束しているバインドを破壊する

 

「お疲れさん、マシュ」

 

「この程度、どうってことはありません!けど、よかったんですか?」

 

隣に来たマシュはそんなことを聞いてくる。 たぶんそのよかったのかと言う問いは、自分が姿を現してということだろう。 それについてなら問題はない

 

「どのみち、すべてが終わったらクロノたちには説明するつもりだった。 それが遅いか早いかの違いだ」

 

「そう言うことなら」

 

「神木君!」

 

高町なのは達も近づいてきたようだが、フェイト・テスタロッサが必要以上に近づかせないようにしていた。 まぁ、マシュがいる時点で当たり前か。 別に構わないが。 それにしても、これからどうしたものか。 拘束したのはいいが、どうすることも出来ない。 八神はやてはとりこまれたまま、救う手立てはないことはないがその場合どんなことが起こるか未知数。 手っ取り早いのは、中から何らかのことをしてもらえればと言うのが一番だ。 そんな都合のいいことはないはずだが

 

『外で戦ってる方、聞こえますか? その目の前にいる子、ぶっ飛ばしてください!』

 

いきなり声が響いた。 それも、滅茶苦茶物騒なことを言っている。 だがまぁ、都合のいいことが起こったようだ

 

「あの声ははやてちゃん?」

 

「闇の書に取り込まれても意識が?」

 

『なのは、フェイト、織、神木君、聞こえるか!』

 

念話をしてきたのは、比較的安全な場所でアリサ・バニングスと月村すずかを守っているユーノからだった

 

『今そっちに向かってる!』

 

『でも、アリサちゃんとすずかちゃんは?』

 

『それについては心配ないよ。 転送に時間がかかるのはそうだけど、強固な防御を強いといたから』

 

どうやらユーノ達がこちらに向かっているらしい。 それにしても、ホントに強固な結界らしい。 ここまで転移に時間がかかるとは思っていなかった。 まぁ、ちゃんと防御に関して対策をしたのならいいが

 

『融合状態で主が意識を保ってる。 今なら防衛プログラムを管制融合騎から切り離せるかもしれない!』

 

『本当?』

 

『でも、どうすれば?』

 

『純粋魔力砲で、ぶっ飛ばす。 全力全開で!!』

 

「さすがユーノ君」

 

「わかりやすい!!」

 

どうやら高町なのはとフェイト・テスタロッサは準備を始めるらしい。 そのことを闇の書の意志も感じ取りブラッティダガーの射出量を増やそうとするが

 

「そんなこと、させるわけないだろう?」

 

俺も王の財宝の射出量を増やす。 別に、このくらいの作業量、苦でもない。 だが、念には念をだ

 

『マシュ、もしもの時は防御を頼む』

 

『わかりました、マスター!』

 

発射される砲撃。 闇の書の意志は光に包まれ、姿が見えなくなる

 

「すごいな」

 

これで防衛プログラムと夜天の魔導書は分離しただろう。 事実、爆発が収まると同時に白い光とドロドロした黒い塊が分離している。 黒い塊はそのまま海に落ち、白い光は宙に浮いている。 闇の書の終焉、てな

 

「自分がしでかしたことだ、自分で終わらせるさ...... 令呪を持って命ずる、キャスター、アサシン、セイバー、来い!」

 

令呪が輝き、サーヴァントを呼び寄せる。 まぁ、念には念をだ

 

--------------------------------------------

 

~はやて視点~

 

まぶしいほどの白い光、それを感じながらゆっくりと目を開ける

 

「上手くいったみたいやな」

 

「はい。 ですが、防衛プログラムの暴走は止まりません。 切り離された膨大な力が、時期に暴れ出します」

 

「まぁ、心配あらへんよ。 何とかする。 それじゃあ行こか? リインフォース」

 

「はい、我が主」

 

光になって、私の中に入っていくリインフォース。 少しくすぐったいような気がするけど、どこか温かい。 それを嬉しく思いながら、夜天の魔導書を手繰り寄せる。 ページを開き、ある項目を指でなぞる。 初めて使うのに使い方が分かるなんて、少し変な気持ちや

 

「それじゃあ行こか、みんな」

 

夜天の魔導書から出てきた四つの光、それに声をかけながら瞳を閉じる

 

~はやて視点 end~

 

白い光が輝き始めると同時に、人型を形成していく。 光が晴れれば、四人の騎士と夜天の最後の主の姿が

 

「夜天の光に祝福を、リインフォース、ユニゾン、イン!」

 

多分管制融合騎だろう。 それがはやての中に入っていくと同時に、騎士甲冑が装着されていく。 髪色は変わり、瞳の色も変わる。 ユニゾン事故ではなく、ちゃんとユニゾンできたようだ。 守護騎士と、主、八神はやての感動の再会、てな。 ヴィータがはやてに抱き着くのを横目に、俺は切り離された防衛プログラムを見る。 それにしても、色々な生物と合体してか、ビジュアル的に気持ち悪い

 

「うぇ...... なんですかあのグロテスク」

 

「まぁ、我慢しろキャスター」

 

感動の場面に水を差すかのように、クロノが八神はやてたちに事情を聴いていた

 

「相変わらずKYみたいだな」

 

「相変わらず減らず口を...... その様子だと、目的は果たしたみたいだな」

 

「あぁ、ようやく、な......」

 

どうやら小さい声で言ったにもかかわらず、聞こえていたようだ

 



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第八十三話 闇の書の終焉

「まぁ、そのことは後で話そう。 時間がないので簡潔に、あの澱みはは闇の書の防衛プログラムで後数分で暴走を開始する、間違いないか?」

 

「間違いない、自動防衛プログラムの暴走体や」

 

俺との話はそこそこに切り上げ、クロノは今まさに再生を始めている闇の書の防衛プログラムを指さす。 八神はやても肯定し、その説明を融合騎が引き継ぐ

 

「周辺の物質を自分に取り込み、再生している。 臨界点を超えれば、この星一つぐらいは飲み込めるだろう」

 

「なっ!?」

 

数人が驚いているようだが、ため込んだ魔力を考えれば納得ものだ。 それに、度重なる改悪の存在だ、今まさにプログラムを書き換えていても不思議ではない

 

「停止のプランはある。 後はこちらに任せてくれと言いたいところだが......」

 

クロノはそこまで言うと、デバイスを展開する。 だが何時ものデバイスではなく、違うデバイスだ。 あのデバイスは確か、ギル・グレアムが秘密裏に作っていたデュランダルとかいうデバイスだったか

 

「協力者は多いほうがいい。 守護騎士は「不要だ」神木?」

 

「不要だと言ったんだ、クロノ。 俺たちだけで十分だ」

 

「待て神木!お前!!」

 

「自分の不始末は自分でつける。 キャスター」

 

「わかっています」

 

玉藻が札を持ち手を掲げる。 すると、結界が発動し誰も俺に近づけなくなった

 

「神木、君はなんでこういう時まで!!」

 

「・・・・・・シールダー、もしかしたらと言う可能性がある、そいつらを守ってくれ。 宝具も使って構わない」

 

「了解しました、マスター」

 

「セイバー、アサシン、キャスターは俺の援護を、少し集中する」

 

「「了解!(御意)」」」

 

一通りサーヴァントたちに指示を出し集中しようと目を閉じる。 すると、声がかかる

 

「理樹君」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、聞こえてると思うから言うけど、私はそんなに気にしてないから、気にしなくてもええで?」

 

「・・・・・・何を言っているかさっぱりだな、八神はやて」

 

「そか」

 

何を言ってるかわからない、口ではそう言ったがしっかり分かっている。 そんなに気にしていないと言ったのは、多分これまでのことだろう。 たぶん管制融合騎経由で、俺の記憶でも見たのだろう。 だが、気にしていないからと言ってそれまでのことはチャラにはならない。 許す許さない関係なく、これは俺の罪なのだから。 関係ない思考を頭の隅に追いやり、集中する。 英雄王は必要なら呼べと言っていたが、ぶっちゃけ呼びたくない。 だが、呼ばないとキレると思う。 かといって、普通に現界させれば余計なことを言うかもしれない。 ならなんとかなりそうな方法で呼ぶ。 上手くいくかわからないが、王の財宝と自分をつなげ英雄王の感覚を探す。 まぁ、探さなくても強大すぎてわかりやすいが。 自分とつながった感覚、これでいけるか? 初めての試みだが、たぶんこれで

 

「限定召喚、英雄王ギルガメッシュ」

 

無限にある魔力にものを言わせ、その感覚を引っ張る。 案外すんなりと引っ張られてくれたのでいいのだが、相手の意志が強すぎる。 何とかなりそうだが、長時間はきつそうだ

 

「ククク、ハハハハハハ!!面白い、本当に面白いな道化。 こんな召喚をされると思わなかったが、これはこれで面白い。 今回は許そう!」

 

口が勝手に動いているが、どうやらうまく行ったようだ。 体の主導権はほとんどあっちに持っていかれているが。 限定召喚と言っているが、実質感覚頼りの憑依のような感じだ

 

「「げっ......」」

 

「んぅ? なんだ性悪狐とセイバーではないか。 まぁ、今はよい。 それよりも、あの不敬ものを何とかしなくてはな」

 

どうもかかわりのある玉藻とリリィが嫌な顔をしたようだが、上機嫌な英雄王は気にせずに防衛プログラムの方を向く。 てか多分、あのおぞましいのが気に入らなかっただけか。 俺の王の財宝に手を突っ込むと、抜き出したのは俺がやばい認定した宝具のうちのもう一つ乖離剣エア

 

「神木君、なの?」

 

「うん? あぁ、道化の手のひらの上で踊っていた小娘たちか」

 

「それは、どういう!」

 

「貴様に答える義理はないぞ人形」

 

なんか知らないところ喧嘩売っているのだが、速くこの状況を何とかしてください。 中からそう念じてみるも、伝わったかどうかは定かではない

 

「英雄王、ギルガメッシュ......」

 

「正解だ小娘。 まぁ、貴様は()()知っているから当然ではあるがな」

 

「・・・・・・」

 

やばい、空気が重すぎる。 英雄王!!

 

「む、これからが面白くなるところだったのだが...... まぁ、今の我は機嫌がいい!何せ、興が乗っているからな!!まぁ、高町なのは達(キサマ等)には見せるのももったいないが褒美だ、人類最古の地獄を見せてやる..... には地の理では生温い。 天の理を示してやる。 さあ! 死に物狂いで耐えるがよい、不敬!フハハハハハハ! 死して拝せよ! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

直後、結界内は暴風に包まれる。 玉藻たちは大丈夫かと思い探すと、いくつも結界を展開しながら必死に耐えていた。 英雄王も手加減しているようだが....... 暴風も勢いが弱まり、防衛プログラムがいたところを見れば跡形もなく消え去ていた

 

「まぁ、なんとも脆いこと...... 今回は相手はどうであれ楽しい劇だったぞ、道化」

 

その言葉を最後に、つながっていた感覚が途切れる。 エアを持っていないほうの手を握ったり開いたりするが、ちゃんとできていた。 どうやら、英雄王は帰ったようだ

 

「はぁ......」

 

ようやく終わり一息をつく。 周りを見回せば、驚いた顔でこちらを見て固まる者たちの姿が。 まぁ、いいけどな

 

「クロノ、反応は?」

 

「・・・・・・あぁ、今確認する」

 

アースラと通信をしているのか、俯くクロノ。 俺は返事を待ちつつ、空を見上げる。 玉藻たちも終わったためか、俺の周りに集まってきた

 

「マスター、あの金ぴかを出す必要あったのですか?」

 

「と言うよりも、アレと仲が良くなっていたのに驚きなのですが......」

 

「お疲れ様でした、マスター」

 

「主殿」

 

「お疲れさん」

 

「神木、確認が取れた。 闇の書の防衛プログラムは完全消滅を確認した。 それと、艦長から直々に君に調書らしい」

 

「まぁ、だろうな。 行くぞ」

 

 

 



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第八十四話 事件後、すぐに

騙して悪いが、これも仕事なんでな

冗談はさておき、皆さん大切なこと忘れてませんか? ネタバレよりも先に、イベントがありますよ?


「あのバカげた威力を発揮する剣と貴方の底なしの魔力、サーヴァントと名乗る貴方の使い魔、すべて説明しても答えるかしら、神木理樹君」

 

「はぁ...... 何度も言っているように、あのバカげた威力を発揮する剣は乖離剣エア。 正確に言うなら、その最高出力であるエヌマ・エリシュを発動した状態がバカげた威力を発揮するわけですが。 宝具、つまり過去の英雄たちの逸話、アーサー王ならエクスカリバーなどの中でも、あの剣だけは異彩を放つ。 最古にして、最初の英雄が使った人類最古の地獄の再現と言ったところでしょうか。 続いて底なしの魔力に関しては、制限を付けた状態で無理やり持たされた、と言うのが正解ですね。 続いてサーヴァントに関してですが、アイツ等を使い魔と呼ぶのはいくらリンディ提督としてもやめていただきたい。 俺の家族、何ですから」

 

「・・・・・・その説明で納得しろと?」

 

「納得しろも何も、事実ですから。 それに、馬鹿正直に話したところで、今の貴女では全部信じないでしょう?」

 

アースラに戻ってきた俺を持っていたのは、艦長であるリンディさんの取り調べ。 これまでの行いと、最後のエヌマエリシュは到底看破できるものではなく、事情を聞く必要がある。 そういう体で連れてこられたが。 同じ話を何回もさせられたためか、俺も態度が悪くなってきていた。 ぶっちゃけ、ここに拘束されてから結構な時間がたっている。 戦闘の疲れもあるし、そろそろお暇したいところだ

 

「何度も言うけど、これは貴方のためでもあるの。 そんな力を持っていれば、管理局にいいように使われるのは目に見えてるわ。 それを防ぐためにも、ここで正確な能力を把握しておかないと......」

 

「俺自身、蔵にあるものすべて把握しているわけじゃないですよ。 それこそ、色々なものの原点が蔵には収納されているわけですしね。 この問答も何回もしましたよ......」

 

リンディさんが本気で心配してくれているのは分かるが、こうもしつこいと邪推してしまいそうになる。 ため息をつきながら、俺は天井を見上げた

 

--------------------------------------------

 

「はぁ......」

 

ようやく調書も終わり、部屋の外に出る。 座りっぱなしだったせいで、身体が固まっていた。 俺は体をほぐしながらアースラ内を歩く。 誰ともすれ違うことがないが、まだ事件の後処理で忙しいのだろう。 俺も一応嘱託魔導士として登録されてはいるが、今回の独断専行、命令無視、虚偽申告等で謹慎だそうだ。 まぁ、上にも俺のことはどう報告するかが問題なので、そこら辺をどう誤魔化すのかは俺の専門外だ。 玉藻たちも今回の事で、魔導士として登録されることになったらしい。 と言っても、俺の部下でアースラ内だけの登録にとどめるらしいが。 そんなわけで、これからもまだ調書はちょこちょこあるらしいが、今回の件は蹴りが付いたようだ。 俺は謹慎なので、とっとと家に帰ることにするが

 

「神木」

 

「クロノか」

 

少し気まずそうに声をかけてきたのはクロノ。 戦闘もこなし、これから書類仕事とは恐れ入る。 どこか話辛そうにしているクロノに、俺から声をかける

 

「色々とすまなかったな。 今回の事もそうだが、前回の事件(ジュエルシード)の時も」

 

「・・・・・・」

 

「お前らの善意に付け込んで騙していたんだ、許されるとは思っていないが謝らせてくれ。 すまなかった」

 

そう言って頭を下げる。 仕方ない、そんな言葉では片付かない。 今はもう命の危険がなくなったためこうやって素直に話すことができるが、謝ってすむ話ではない。 リンディさんには調書の時に話したが、クロノにはアースラに連れてこられるときにすべてを語った。 荒唐無稽な話だが、クロノは黙って聞いてくれていた。 それからすぐに調書だったので、話してから話すのはこれが初めてだったりする

 

「・・・・・・謝らないでくれ。 君は自分のやったことが間違いだったと思うのか?」

 

「・・・・・・どう、なんだろうな? 自分でもわからないさ。 何が正しくて、何が間違っていたのか。 やりようはいくらでもあった。 ジュエルシード事件だって、もっとスマートなやり方があったはずだ。 今回の件だって、先に八神はやてに知り合っていたんだ、忘れてたとはいえもっとスマートにできたはずだ。 未来視で見た未来のために、俺はあえて見てみないふりをした。 その結果が今現在さ」

 

「確かに、君のやったことは許されることじゃない。 犯罪行為だっていくつもある、証拠がないけどな。 だがそれによって助かった命もある、そうじゃないのか?」

 

「・・・・・・アリシア・テスタロッサとプレシア・テスタロッサのことか?」

 

本来の歴史なら、助からなかった二人。 そのことを言ってはいないはずだが、俺との会話で察したのか? 流石執務官と言うべきか、何と言うか。 まぁ、別にばれても問題はない

 

「胸を張れ、とも言わないさ。 君のした行為は間違ったものもある。 でも、必要以上に自分を貶めるのは、僕は許さない」

 

そう言って俺を睨みつけてくるクロノ。 本当に、何で俺みたいなのをそこまで気にするのか。 そこまで俺を気にする理由は分からないが、ありがたく思うと同時に、どこか悲しい気持ちになる。 それを悟られないように背を向け、歩き始める

 

「・・・・・・ほんと、お人好しだよ、お前」

 

「君に言われたくないさ」

 

俺のどこが優しいというのか、そのクロノの言葉には答えず俺はアースラ内を歩く。 すると、見知った顔が

 

「八神はやて?」

 

「理樹君!!」

 

車いすを漕ぎながら、どうも焦った様子だ。 周りに守護騎士がいないことを不審に思いながら、声をかける

 

「どうした?」

 

「リインフォースが、リインフォースが!!」

 

「リインフォース? あぁ、管制融合騎か」

 

少し眠いため頭がボーっとしていて、リインフォースと言われて誰かとも思ったが、管制融合騎の新たな名前がそんなんだったと思いだす。 それにしても八神はやての周りに居ない守護騎士、それにリインフォース。 いよいよ怪しくなってきた

 

「それで、リインフォースがどうしたって?」

 

「消えようとしてる!!」

 

「・・・・・・・」

 

未来の記憶がごっそりとなくなているためわからないが、多分これは原作通りなのだろう。 ペイルに聞いてみれば一発なのだが、今は解析に回されているため手元にはない。 これだけではよくわからないので、詳しく聞いてみることにする

 

「消えようとしているって、どういうことだ?」

 

「わからない、分からないけど、なんとなくわかるんや!だから理樹君、お願い!リインフォースを助けて!!」

 

そう言って俺に泣きついてくる八神はやて。 これも、俺がこの世界を引っ掻き回した影響なのか、それとも正史なのか...... わからないが

 

「リインフォースはお前に何も告げずに行くつもりだった。 つまり、何らかの理由や覚悟がある。 お前はそれお踏みにじりたいのか、八神はやて」

 

「そんなの関係ない!私がいてほしい、そう思うからお願いしてるんや!!あの子たちの主は私や!!」

 

「お前もつくづく傲慢になったな。 リインフォースの覚悟を踏みにじるとか」

 

「どっかの誰かさんの記憶みたからやな」

 

「はぁ......」

 

なんというか、負い目を感じているからか俺も甘い。 デバイスなしでの魔法なんてお手の物だ。 謹慎中だから使いたくはないが、まぁ別に構わないか

 

「もう一回確認するぞ、八神はやて。 さよならを言わないということは、それ相応の覚悟を持って消えたようとしたということだ。 お前はそれを踏みにじることになるが、いいのか?」

 

「このまま離ればなれは嫌や。 あの子には、これまでがこれまでやったんや。 幸せになる権利がある」

 

「・・・・・・そうか」

 

「もちろん、理樹君もやで?」

 

そう言って俺の顔を覗き込んでくる八神はやてだが、それに目を合わせず転送を開始する

 

「そう言えば場所分かるん?」

 

「上空から探せば何とかなるだろ」

 

「・・・・・・私は?」

 

「もちろん浮遊魔法はかける」

 

「なら、よろしくな理樹君」

 

「別に連れて行くだけだ。 本当にリインフォースが消える気なら、俺は止める気はないからな八神はやて」

 

「はやてでええよ?」

 

「・・・・・・転送」



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第八十五話 願い

空から探せばリインフォースたちはすぐに見つかった。 結界の反応もあったし、何より封印のために魔法陣が見えたからだ。 俺ははやてに気を使いつつ、そこに近づく。 何やら話しこんでいるようだが、間に合ったようだ

 

「リインフォース!!」

 

「我が主......」

 

どこか気まずそうなリインフォースだが、それも一瞬のことで顔を上げはやてのことをまっすぐ見る。 交差する視線。 それを俺は少し離れたところで見ることにした

 

「お前が、はやてを連れてきたのか」

 

「俺は頼まれたから連れてきたにすぎない」

 

怒り心頭、みたいな目でこちらを見る雑種だが、暑苦しいったらありゃしない。 来るときも思ったが、雪が積もっているということは、昨日からずっと降り続いているということか。 ホワイトクリスマス、まぁ関係ないことだが。 空からの視線を戻せば、相変わらずはやてはリインフォースと視線を交わしていた。 いや、いつの間にか睨みつけていたが。 後、何故か雑種がこちらに来ようとしていた

 

「愚者の鎖」

 

「お前!!」

 

「おいおい、やめとけやめとけ。 あまり動くと儀式が崩れるんだろ?」

 

王の財宝をセットし、雑種を縛り上げておく。 こいつ、本当に何をするかわからないからな。 そんなくだらないことをしていると、ようやく口を開くはやて

 

「なに、してるん?」

 

「・・・・・・封印を。 今は防衛プログラムがありませんが、じきに夜天の書が新たな防衛プログラムを作り始めます。 そうしたら今度は騎士たちも主はやても侵食してしまう。 そうなる前に封印を」

 

「そんなん私が抑える!だから封印なんてせんでええ!!」

 

「いいのです、我が主。 仮に今回は抑えられたとしても、次やその次、と繰り返すことになります。 私は、その都度主を危険にさらしたくないのです。 どうか聞き分けを、我が主」

 

「聞き分け、いうんならリインフォースのほうや!私が主なんや、言うことを聞いて!!」

 

「いいのですよ、我が主。 私の意志は、騎士たちや貴女の心に残ります。 私は、最後の最後でたくさんのものを貴女にもらえました。 ですから、笑って逝けるのです」

 

はやての言葉はリインフォースには届かない。 手を出す気はなかったが、アイツが嘘を言っているなら話は別だ。 何が笑って逝けるだ、表面上は笑っているが俺は見逃さなかった。 一瞬だけ、ほんの一瞬だったが泣きそうな表情を。 だから手を出すことにした。 無言で歩き続け、魔法陣の一歩手前まで歩く

 

「神木理樹」

 

「よお、管制融合騎。 それとも、リインフォースと呼んだほうがいいか?」

 

「リインフォースで構わない」

 

穏やかな笑顔、それが俺をイラつかせる

 

「ならリインフォース。 俺もお前に聞きたい。 お前はさっき、笑って逝けると言っていたが本当か?」

 

「あぁ、本当だとも」

 

その瞬間、俺は魔法陣を踏み、封印の術式を壊す。 こんなことを予想していなかったのか、一同が固まる。 だが、約一人だけ固まってはいなかった

 

「お前、何してるんだ!!」

 

「あぁ、うるさいなぁ...... 少し黙ってろよ」

 

「うぐっ」

 

口元の王の財宝を展開し、布を巻きつける。 少しきつく締まったかもしれないが、まぁいいだろう。 静かになったことを確認し、リインフォースに向き直る。 そのころには硬直も解け、俺に詰め寄ってくる

 

「お前は、何を!」

 

「慌てるなよ。 そんなに封印してほしいんだったら封印してやるが、俺の質問に答えてからにしてもらう」

 

結界をはり直し、膨大な魔力を開放し、封印の術式をくみ上げる。 完成したのを確認し、俺はリインフォースに向きなおる

 

「さて、準備は整ったが。 いくつか質問だ。 今回の封印、お前は納得しているのか?」

 

「何をいまさら!今回の事は私から彼女たちに頼んだことだ!納得していないはず、ない!」

 

感情的になっているのか、声を荒げるリインフォース。 まぁ、そっちのほうが本音を聞きやすくていいのだが

 

「はやてに封印のことを告げなかった理由は?」

 

「主は眠っておられた。 それを起こすのは忍びなかったし、それに......」

 

「こうなることが目に見えていた、違うか?」

 

「・・・・・・」

 

無言の肯定。 リインフォースは俺から視線を逸らす。 はやては俺とリインフォースの話を静かに睨みながら聞いているし。 逆に何も言わないほうが怖いが

 

「まぁ、いいさ。 もう一回質問だ。 お前は笑って逝けると言っていたが、本当なんだな?」

 

「なんなんだ!その質問ばかり、私は!」

 

「お前がさっきしていた表情だよ。 一瞬、ほんの一瞬だったが泣きそうな顔をしていた。 誰かに助けを求めるような、な」

 

「っ!......」

 

自分でもそんな表情をしていたと思っていなかったのか、拳を握り俯くリインフォース。 どれくらいそうしていたのかわからないが、俯きながら声をあげるリインフォース

 

「・・・・・・だったら、どうすればいいんだ。 ゆがめられた基礎構造、最早正常だったころも思い出せないほど、改造されたこの魔導書。 このまま最愛の主と一緒に居れば、私は主を殺してしまう」

 

ようやく本音を語るリインフォース。 だが、俺はそんな御託を聞きたいわけではない

 

「俺は聞きたいのはそんなわかりきったことじゃない。 お前がどうしたいかだ」

 

「そんなもの!そんなもの!!」

 

俺につかみかかってくるリインフォース。 あぁ、そうだろう。 お前の願いなんてわかりきっている

 

「主と一緒に居たいに決まっているだろう!!ようやく、ようやくこの本の呪いも一時的とはいえ終わりを迎えた。 だが、私がこのままいればいつか主を殺してしまう...... なら!私は消えるしかないだろう!!」

 

「・・・・・・」

 

「私だって消えたくない!騎士たちと、主と一緒に居たい!!だが、そんなことできるはずがない......」

 

泣きながら心情を吐露するリインフォース

 

「なら願えよ。 お前のその願いが、真摯なものなら届くかもしれないぞ」

 

そう言って、王の財宝の一部を開けておく

 

「私は...... 私は、()()()()!!別に多くは望まない!ユニゾンだってできなくていい、ただ、ただ、生きたい!主や、騎士たちと共に!!」

 

「へぇ......」

 

今回開けた王の財宝が輝き始める。 なるほどな

 

「喜べリインフォース、お前の願いは叶う」

 

「なに、を?」

 

涙にぬれた顔でこちらを見るリインフォースだが、俺はそれに答えない。 だって答える必要もなく、()()は始まっているからだ。 王の財宝から出た輝く金色の杯は、リインフォースの中に入っていく。 リインフォースは光に包まれるが、それも一瞬のことで、光が収まるとともに自分の体を探っていた。 これで終わりだ、そう思い俺は封印の術式を解除する

 

「リイン、フォース?」

 

「歪められた基礎構造も、防衛プログラムもすべて正常に戻っている? ユニゾンは出来なくなってしまっているが、それ以外に異常がない?」

 

「それって......」

 

誰もが息をのんだ。 それはつまり、リインフォースを()()()()()()がなくなったことを示しているからだ。 それにしても、()()があんなあやふやな願いをかなえるとは。 それだけリインフォースのあの願いが、真摯だったということだろうか。 泣いている八神家を横目で見つつ、そんなことを考える。 まぁ、あの聖杯自体あげたものだ、それをどう使おうが本人の勝手だ。 そう考えながら家へと転移することにする。 本当に、今日は疲れた

 



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A's終了
第八十六話 パーティー


「それで、どういうことか説明してもらってもいいか?」

 

「めちゃくちゃ眠くて、頭回らないんだが......」

 

家に帰って睡眠をとれば、三十分くらいで管理局から呼び出された。 まぁ、眠りが深かったので無視した形になれば、玉藻たちが迎えに来たという次第だが。 目の前のクロノは別れた時よりやつれており、頭を抱えている。 ふむ、眠いこともあり何故呼び出されたか皆目見当もつかない。 頭を振って眠気を覚まそうとするが、上手く覚めない。 まぁ、話をする分には問題なかろう

 

「それで、なんで呼び出されたんだ?」

 

「マスター、それは来るときに説明したんですよ......

 

玉藻が呆れたように言うが、仕方のないことだろう。 寝起きで何を言われても、頭に入ってくるはずがない。 しかも戦闘後、取り調べで寝てないのだからなおさらだ。 そんな言い訳も通じるはずもなく、クロノから再度説明を受ける

 

「夜天の魔導書、リインフォースについてだ」

 

「あぁ......」

 

管理局にも聖杯で直す前のリインフォースデータは残っていたのだろう、それを簡単に直す、いや改変か、したのだから当然の疑問だろう。 金色の光がリインフォースを包み、光が晴れると同時にリインフォースが直ってました。 なんて言われても、到底信じられないだろう。 たとえ、映像かなんかを見たとしても。 今回クロノが呼び出したのは、その説明を求めてということだろう。 ようやく呼び出されたことに納得がいった

 

「リインフォースについては、多分その時のことは聞いたな?」

 

「あぁ。 君が真摯に願えば言いといったあたりからな」

 

「なら種明かしだ。 あの時、俺が王の財宝の中にしまってあったものは聖杯と呼ばれる、おおよそあらゆる願いを叶えられるほどの魔力が満ち溢れたモノだ」

 

「聖杯? 願いがかなえられるほどの魔力が満ち溢れたもの?」

 

クロノが俺の言葉を復唱するが、よくわからない様子だ。 だが、聖杯と聞いた瞬間サーヴァントたちは驚く

 

「聖杯!? 聖杯と言いましたか、マスター!?」

 

「あぁ、言ったぞリリィ」

 

「確かに聖杯ならリインフォースの願いはかなえられるかもしれませんが、何故聖杯を?」

 

「基本的に、夜天の魔導書の防衛プログラムはなくてはならないものだ。 改悪されて暴走されていると言ってもな? だが、魔術的アプローチでも元に戻すのは難しい。 たぶん、財宝の中のものをいくつか組み合わせれば可能だが、対策されて不具合でも出たら面倒だ。 だから聖杯を使ったんだマシュ」

 

一応、サーヴァントたちは納得したのかそれ以上何かを言うことはなかった。 なのでクロノに向き直り、あらためて説明をする

 

「さて、聖杯についてだがさっきの説明以外言うことがない。 万能の願望器。 それが聖杯というものだ」

 

「その聖杯が願いをかなえたから、リインフォースは直った。 そう言うことか?」

 

「その認識で間違いない」

 

俺がそう言えば、クロノはまた頭を抱えだす。 まぁ、万能の願望器が願いをかなえたからリインフォースが直りました。 なんて上に報告できるはずもないよな。 その理由を考えて頭を抱えるんだろうが、頑張ってくれクロノ。 頭を抱えていたクロノだったが、顔を上げ眉間を抑えるまでに回復した

 

「そう言えばリインフォース、検査したのか?」

 

「ん、あぁ。 ユニゾンの機能は失われたようだが、それ以外は異常なし。 本人が言うには、防衛プログラムも正常に機能しているそうだ。 ただ一つ、問題と言うか厄介なことがな」

 

「厄介なこと?」

 

「魔力が大幅に上がった」

 

「あぁ...... 聖杯の影響だろうな」

 

さっきも説明した通り聖杯は、おおよそあらゆる願いを叶えられるほどの()()()()()()()()モノだ。 願いをかなえた後でも、魔力炉としては優秀すぎる。 それこそ忘れがちだが、俺の特典である魔術側の魔力無限とためをはれるぐらいには。 通常の魔法なら、無尽蔵に撃てるだろう

 

「まぁ、そっちに関してはリミットを厳重に掛けたうえで、非常時以外魔法を使わないという条件で何とかできそうではあるんだが」

 

例えリミットをかけたとしても、元が無限の魔力だからな、効果が薄いとも思うのだが。 まぁ、何とかすると言っているのだからそちらに任せよう

 

「これで話は終わりか?」

 

「あぁ。 眠っていたところすまなかったな」

 

「元々は俺がまいた種だ。 仕方ないだろうさ」

 

そう言って立ち上がりクロノに背を向ける。 すると、クロノからその背に声がかかる

 

「君のサーヴァントたちだが、君に言った通り君直属の部下扱いになっている。 一応謹慎中だが、いくつか任務には出てもらうかもしれないからそのつもりで」

 

「まぁ、管理局も人が足らないからな。 とりあえず、予定は空けておこう」

 

「すまないがよろしく頼む」

 

そう会話をして部屋から出る

 

「さて、家に帰って寝るか」

 

「正直言って、私たちも眠いです......」

 

「まぁ、お前たちも俺と一緒で夜通し調書だったからな」

 

「それに加えて、玉藻殿、リリィ殿、マシュ殿はリミッターをかけられてましたからな」

 

「なんというかお疲れさん」

 

--------------------------------------------

 

「いやもう、本当にどうしてこうなった?」

 

俺の姿は月村邸に会った。 クロノと別れ家に帰ってきたのが昼過ぎ、ようやく寝ようとしたところで来客を告げるチャイムが鳴った。 来客は月村すずかで、速攻扉をしめようとしたが月村すずかに阻まれ、なし崩し的にこうやって家に来てしまった。 いや、連れてこられたと言うべきか。 月村すずかの隣に居たアリサ・バニングスも、親友のあまりの強引さに開いた口が塞がらないと言った所だった。 それとも、呆れていただけだったのか。 そんなわけで連れてこられた月村邸、何をするのか全く聞いてないのだが

 

「はー...... 最近の子は、随分とアグレッシブなんですね、マスター」

 

「いや、月村すずか(アレ)が異常なだけだと思う」

 

マシュが耳打ちしてきたので間違いを正す。 今回、ハサン以外は全員月村邸に居る。 リリィは遠慮なしに机に盛られた料理の数々を食べているし、マシュと玉藻は俺のそばに居る。 ハサン以外と言ったが、ハサンも霊体化して俺のそばにいるのだが。 ともかく、ここは張本人である月村すずかに聞いてみたいと思う

 

「それで、何をするんだ?」

 

「なにって、クリスマス会だよ?」

 

首をかしげて言う月村すずかだが、俺には不気味さしか感じない。 人拉致った挙句、小首をかしげてクリスマス会と言われても、不気味さしか感じないのは当たり前だと思う

 

「なぁ、お前の親友頭大丈夫なのか? アリサ・バニングス」

 

「なんかねー、この頃すずかのことが分かんなくなってきたわ、私も」

 

「はぁ......」

 

どこか上の空のアリサ・バニングスに言うも、そんな答えが返ってきた。 うん、まぁ、この頃の月村すずかの行動は俺もよくわからない。 たぶん、アリサ・バニングスも同じ気持ちなのだろう

 

「まぁ、それはそれとしても、今回の事でお礼を言わなくちゃいけないしね」

 

「お礼?」

 

「それはなのはちゃんたちが来てから、だけどね」

 

「帰る」

 

「帰らせないよ?」

 

高町なのはの名前が出た瞬間帰ろうとするも、月村すずかに引き留められる

 

マスター、ここは言うこと聞いておいたほうがいいですよ

 

「玉藻?」

 

「こういう輩は言っても聞きませんし、それに......」

 

俺から視線を外し、一点を見る玉藻。 それを見る俺だが、理由を察する。 そう言えば、リリィがここの食事手を付けてましたっけね...... かなりの勢いで食っているが、それでも食事がテーブルから消えることがない。 かなりの額食っているんだろうなぁ...... 現実逃避をしつつ、俺は床に手をついた。 ちょうど扉も開かれ、誰か入ってきたようだ




はー、全くの私的事だけど、誰かアイマスについて説明して。 種類がありすぎてようわからん。 今週一挙放送あるみたいだから、一応モンハンやりつつ見ようと思ってるけど。 確かあれ、アプリもあったよな?

ともかく、感想評価お願いします

それとこの場を借りて、何時も感想、読んでくれている方に感謝を


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第八十七話 一休み

この休み、upできなくて申し訳ナス!




「神木君?」

 

「理樹君やん、やほー」

 

「「・・・・・・」」

 

俺がいるのが不思議そうな高町なのは、関係なく普通にしているはやて。 睨んできているフェイト・テスタロッサと雑種。 その他に夜天の騎士たちやプレシアさんとアリシアと、そうそうたる顔ぶれだった。 ますます居辛くなった俺だが、帰ることはできない。 いやホント、どうしてこうなった。 とりあえずorzの体勢から、立ち上がる

 

「あれー? どうして理樹がいるの? それに玉藻さんも」

 

「アリシア......」

 

アリシアの言葉に、全員の視線が集中した。 いや、八神家の連中は知っているからか、気にせずに中に入ってきたが。 プレシアさんはアリシアの言葉に、頭を抱える。 わざとじゃないから質が悪い

 

「あっ...... えへへ?」

 

「誤魔化し切れないわよ」

 

「対して接点はなかったはずだけど、何かあるわけね」

 

必死に誤魔化そうとするも、時すでに遅し。 アリサ・バニングスは俺とアリシアを交互に見て、何かを察したらしい。 アリシアは妹であるフェイト・テスタロッサに詰め寄られていた。 ・・・・・・しばらくかかりそうだな

 

どうやって収拾つけます?」

 

俺からは何もしゃべらん。 自業自得ということで、アリシアに収拾つけてもらおう

 

「わー、マスター鬼畜ー」

 

「・・・・・・」

 

玉藻の言葉に俺は特に反応せず、アリサ・バニングスに視線を向ける。 この事態を収拾つけるのに、アリサ・バニングスはうってつけだ。 俺の視線を受けてか、それとも元から収拾を付けようとしていたのか、手を叩いて視線を集めていた

 

「はいはい、そういうのは後でいいからこれで全員?」

 

「後リンディ達、ハラオウン家が来る予定よ。 仕事の影響でちょっと遅れるそうだけど。 もしあれだったら、先に始めていいとのことよ」

 

「そのハラオウンさん達はここが分かるんですか?」

 

「問題ないわ」

 

「それじゃあ」

 

その言葉を聞いて、近くの机にあったグラスを持つアリサ・バニングス。 すると、月村家の使用人たちだろうか、次々俺たち客にグラスを持たせその中に飲み物を注いでいく。 なんというか、流石金持ちだな。 使用人がいるとか、本当に住む世界が違うような感じがする

 

「今回会場を貸してくれたということで、すずかから一言!」

 

「えぇ!? 聞いてないよ、アリサちゃん!」

 

「言ってないもの」

 

シレっというアリサ・バニングスに諦めたのか、月村すずかは気を取り直し、グラスを改めて掲げる

 

「えーっと、今回はお集まりいただきありがとうございます。 あまり話が長くてもあれなので、乾杯の音頭はアリサちゃんに」

 

お集まりと言うよりも、拉致られたというのが本当のところなのだが、言わぬが花というところだろう。 玉藻やマシュが苦笑いしているが、同じことを思ているのだろう

 

「後で覚えときなさい、すずか...... それじゃあ、乾杯!」

 

「乾杯!!」

 

みんなが乾杯と言う中、俺は言わなかった。 と言うよりも、場違いな気がして。 無理やり連れてこられ、本当はこの輪に加わることすらおかしい俺だが、何故かここにいる。 まぁ、家族(サーヴァントたち)が楽しんでくれればそれでいいか。 なんか料理につられ、一番元気よく乾杯したのがリリィだったような気がするが。 クリスマスパーティーはいい感じの雰囲気だった。 アリシアとプレシアさん、それと玉藻がにこやかに会話してるし。 マシュはリリィの面倒を見ていて、他の面々はそれぞれ楽しんでいた。 俺はそれを壁に寄りかかりながら見ていた

 

『マスター殿、よいのですか?』

 

『別に、ここで構わないが?』

 

いきなりハサンが話しかけてきた。 少々驚いたが、それは表には出さず、ハサンと会話を続ける

 

『アリシア嬢が話したそうにこちらをチラチラ見ていますが?』

 

『そのままにしておけ』

 

『はやて嬢やリインフォース殿もこちらをチラチラ見てますが』

 

『そのままにしておけ』

 

『なのは嬢も』

 

そのままにしておけ

 

ハサンめ、いらないことに気を回しやがって。 高町なのは達がこっちをチラチラ見ているのは知っていたが、あえて話に行かなかった。 この雰囲気に加わるのもそうだが、フェイト・テスタロッサや雑種がこっちを監視しているからだ。 この和やかな雰囲気を壊すほど、俺も無粋ではない。 昔と言うよりも、踏み台を演じていた時なら...... いや、もう考える必要もないか。 そんなくだらないことを考えつつ、外に出る。 にしても、また夕方になって雪が降り始めたらしい。 外は相変わらず雪が降り積もっている。 しばらく空を見上げてボーっとしていると、背後に誰か立っている気配がする。 害がなさそうなので放っておいているが

 

「まったく、こんなおめでたい席なのになぜ君は外になんているんだ」

 

「ハラオウン家がくるって聞いていたが、お前も来たのかクロノ」

 

「まぁ、連れてこられたからな」

 

「そうか」

 

疲れ切った声から察するに、本人は仕事しようとしていたがエイミィさんあたりに無理やり連れてこられたのだろう。 まぁ、クロノは休みを覚えたほうがいいと思う。 適度にさぼらないと、人間息が詰まって効率も悪くなる

 

「それで? 何で君は外に居るんだ?」

 

「なんとなく、だ」

 

「はぁ......」

 

俺が理由を言えば、ため息をつくクロノ。 失礼な奴だな

 

「そんな見え見えな嘘をつくな、嘘を」

 

「・・・・・・」

 

「どうせ雰囲気的に居辛いとか、自分がここに居るのは間違っているとか思っていたんだろう?」

 

「エスパーかお前は」

 

思わずクロノのほうを振り返ると、俺のことを呆れたふうに見ていた。 その視線は腹が立つが、図星なので何も言えない俺。 そんな俺に背を向け、中に戻ろうとするクロノ

 

「ほら、中に戻るぞ」

 

「もう少し外に居たかったんだがな」

 

「今回の事について説明が必要だろう、魔法についても」

 

「高町なのは達がいれば十分だろう?」

 

「君は...... とりあえず君にも来てもらうからな」

 

「はいはい」

 

 

 




いやー、生放送でアニメアイマス、デレマス見たけど、正直しんどかった。 寝る時間が、ね? 歳かな?

でも、見てて書いてもいいかなーと? まぁ、書くとしてもだいぶ先でしょうが(笑)


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第八十八話

クロノの後をついて中に戻れば、リンディさんやエイミィさんがプレシアさんと喋っていた。 これで全員揃ったわけか。 余計に面倒になりながらクロノの後ろをついて歩く。 そして、クロノが止まり俺も足を止める。 まぁ、予想通り高町なのは達のところのようだ

 

「さて、連れてくるべき人物は連れてきた。 後は君たちで話し合ってくれ。 昨日、魔法は見られてしまったしな、こちらからは何も言わない。 ただし、くれぐれも魔法のことは内密に頼む」

 

「まぁ、それは」

 

「はい」

 

数回しか会っていないはずだが、クロノとアリサ・バニングス達は普通だな。 まぁともかく、クロノは役目を果たしたと言わんばかりに別の輪に入っていく。 こっちの空気も何とかしていってほしいのだが、そこまではどうにかするつもりはないらしい。 話し合いに来たはずだが、雑種やフェイト・テスタロッサは睨んできているし、高町なのはは今回の話の中心のはずだが、こちらをチラチラ見るばかり。 はやては...... まぁ、仕方ないにしても、アリサ・バニングスや月村すずかは誰かが口を開くまで待っている。 非常に重い雰囲気なのだが、話をしないなら帰っていいだろうか? そういうわけにも行かないからこそ、俺がここに居るのだろうが

 

「はぁ...... さっきクロノも言った通り、昨日魔法の使用は見られているんだ、何が聞きたいんだアリサ・バニングス、月村すずか」

 

「前は馴れ馴れしくアリサって呼んでいたのに、今はフルネームなのね。 それも後で聞くけど、まずはなのはや織、、フェイトやアンタがいつから魔法にかかわっていたのかを話してもらおうかしら」

 

「ほら、出番だぞ高町なのは」

 

「わ、私が話すの?」

 

「他に誰がいる、ユーノか? クロノか? 友達だと思っているなら、お前から話すべきだろうに」

 

「う、うん......」

 

妙に落ち込んだ様子の高町なのはだが、俺は気にせずに一歩下がる。 なんで俺がこんな役回りをせねばならないのか。 そう思っていると、悲しくなってくる

 

理樹君が話したほうが早いんやない? ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・」

 

気を抜いていたところに、はやてからそんな風に言われる。 俺の顔は、苦虫を嚙み潰したよう顔をしているだろう。 本当に嫌なところをついてくる。 俺の記憶を見た影響か、こういうところは容赦ない。 まぁ、仕方ない部分もあるだろう。 いきなり消えたからな、そこら辺を根に持っていても不思議ではない。 だが、それはそうかもしれないが

 

「俺が語って何になるよ。 確かに俺は当事者でもあるが、今聞きたいのは友達がどんな状況に居たか、だろ。 俺が語っても意味はないさ」

 

「ふーん、そんなもんかなぁ......」

 

そう言って俺ははやてから高町なのはに視線を戻す。 今度は誤魔化さなくてもいいからか、つっかえつっかえだがこれまでのことを話していく高町なのは。 その顔は何処か胸のつかえがとれたような顔だった

 

「なのはや織、フェイトは分かった。 でも、アンタは?」

 

高町なのは達の話を聞き理解をした様子のアリサ・バニングスは最後である俺に話を振ってくる。 と言っても最後だ、今の話を聞けば俺がどのような立ち位置だったかわかるはずだ

 

「俺の話は十分雑種やフェイト・テスタロッサから聞いたはずだが?」

 

「うん、そうだね。 でもそれはフェイトちゃんや織君の話だから。 私やアリサちゃんが聞きたいのは、そういう一つの視点じゃなくて神木君がどう感じていたかってことなんだ」

 

月村すずかの言葉に頷くアリサ・バニングス。 二人とも同じ気持ち、と。 まぁ、だからと言って馬鹿正直に話す気持ちはない

 

「俺から話すことは特にない。 雑種やフェイト・テスタロッサが言っていた通りだ」

 

「まーたそう言うこと言うんやな理樹君は」

 

「・・・・・・」

 

呆れた、とでも言いたげな顔で俺の顔を見るはやて。 その様子に月村すずかは気になったのか、探りを入れてくる

 

「前から思ってたけど、やっぱり神木君とはやてちゃんて知り合いだよね?」

 

「違う」

 

「そやで?」

 

俺とはやての答えは真逆だったが、その答えを聞いて月村すずかは笑みを深める。 それと、俺の答えが気に入らなかったのか、はやてがニマニマしながら俺のことを見る

 

「ほっほー、そんなこと言ってもええんやな?」

 

「・・・・・・」

 

なんとなーくだが、この後の展開が読めた俺は高町なのは達に背を向ける

 

「理樹くーん、何帰ろうとしてるんや? お話はこれからやで?」

 

「お前が話すならそれで十分だろ。 お前が話そうと話さなかろうと俺がしでかしたことは消えないんだからな」

 

「ちょっと、待ちなさい。 それはどういう意味よ?」

 

「・・・・・・」

 

俺はその質問に答えず、歩き出そうとする。 したのだが、腕をつかまれる。 それも、凄い力でだ。 引きずって歩いてもいいがそれもそれで面倒なので、振り返る

 

「どこ行こうとしてるの?」

 

「帰るんだよ。 もともと俺は連れてこられただけだしな」

 

「逃がすと思ってるの?」

 

それを笑顔で言ってのける月村すずかに感服ものだが

 

「逆に逃げきれないと思ってるのか?」

 

一触即発、みたいな空気になるが、その空気を払拭したのは意外にも雑種だった

 

「おい、待てよ」

 

「・・・・・・何だよ」

 

「お前のしでかしたこととかどうでもいい、興味もないからな。 だが、今までのことをフェイト達に謝れ」

 

「・・・・・・」

 

俺の今の顔は、はたから見たらとても面白いことになっているだろう。 それくらい衝撃だったのだ

 

「ククク、ハハハハハハ」

 

「何がおかしい!!」

 

思いのほか大声だったため注目を集めてしまったが、まぁいい。 雑種が掴みかかってきたが、それもどうでもいい。 謝れ、謝れと来たか。 このクリスマスパーティーで。 雰囲気が悪くなってきているとはいえ、俺さえいなくなれば元に戻る空気の中で、謝れと来たか。 こいつは本当に空気が読めないらしい。 まぁ、どうでもいいんだけど。 掴みかかってきた雑種の手を振りほどき、関節を極め床に押し倒す

 

「ぐあっ!?」

 

「織!やっぱり、お前は!」

 

「はしゃぐなフェイト・テスタロッサ」

 

流石にこの状況でフェイト・テスタロッサに関節を極めることはできないし、何よりの母親()がいる時点でそんなことをすれば俺の死亡が確定する。 なので、バインドで拘束するだけにとどめた。 まぁ、それでもプレシアさんからは睨まれているのだが

 

「さて、次はお前らだ。 全員武器を下げろ。 特にアサシン、お前は本気で殺そうとしやがって」

 

そうサーヴァントたちに声をかける。 俺が雑種に関節を極めたのはこのためでもある。 まぁ、私怨が混じっていないかと言われれば素直には頷けないが。 一瞬で玉藻とリリィが雑種の真後ろで剣と鏡を振り下ろそうとしていた。 マシュは盾こそ出していないものの、止める素振りはない。 ハサンは俺が関節を極めてるにもかかわらず、その首元にナイフを押し付けようとしていた始末だ。 全員渋々と言った感じで武器を下げる。 ハサンは一度霊体化を解き、ナイフを雑種に見せたうえでまた霊体化した。 まぁ、ハサンなりの警告だろう。 こういうのになれているやつらは何らかの形で対処しようとしていたり傍観していたりしていたが、高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかは何が起こったかわからなかった様子だ

 

「さて雑種、お前のおかげでパーティーがシラけたわけだが。 まぁ、どうでもいいか。 ちょうど良い機会だ、お前の望み通り高町なのは達には謝ろう。 今日は流石に雰囲気的にないから後日にしようと思っていたが」

 

そう言って雑種を愚者の鎖で縛り上げ、改めて高町なのは達に向き直る

 

「神木、アンタ」

 

「このオブジェクトは気にしないでくれ。 ともかく、今まで本当にすまなかった」

 

そう言って、俺は高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、フェイト・テスタロッサ、はやてに頭を下げた

 




ハハッ、この程度、想定の範囲内だよ! とでも言って笑ってください

いや、本当に焦らしているわけでなく、キリのいいところまで書いたのと、無計画さゆえの話の広がりが、ね?(殴

そんなわけで、ネタバレまで可能な限り一日一本ということで。 俺としても引き延ばしたくて、引き延ばしているわけではないので......


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第八十九話 ケジメ

「理由があったからと言って謝ってすむ問題でもないし、元から許してもらえるとも思ってはいない。 だが、謝らせてくれ、すまなかった」

 

高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、フェイト・テスタロッサ、八神はやてに頭を下げ続ける。 今言ったのは、まぎれもなく本心だ。 これまでやってきた嫌がらせは謝ってすむものではないが、謝らねばならない

 

「なにに、たいして謝っているのよ」

 

「これまでのことだ。 嫁発言や、つきまとったこと、そのすべてに対して謝ってる」

 

「・・・・・・どうして今更?」

 

「すべてに決着が付いたから」

 

「今更そんなことを謝るな!お前のせいで母さんは!」

 

「あぁ、お前なら納得しないだろうフェイト・テスタロッサ。 それに、お前は文句を言う権利がある。 それはお前たち(高町なのは達)に限ったはなしではなく、ここに居る全員に当てはまるがな」

 

顔を上げると、アルフに抑えられているフェイト・テスタロッサに、困惑する高町なのは。 意図が分からずにこちらを訝し気に見るアリサ・バニングス、厳しい表情の月村すずか。 はやては、次に言うことを伺っている

 

「さっきも言ったが、すべてに決着が付いたんだ、これからは俺の好きにやらしてもらうさ。 だから、こっちからお前たちに積極的に関わることはない、そう約束しよう」

 

「ちょっと待ちなさいよ、何を勝手に話を進めてるのよ。 さっきから何、決着が付いたって。 その決着とこれまでのアンタの行いに何の関係があるの?」

 

「・・・・・・言った所で信じないだろう、そんなの時間の無駄だ」

 

「それを決めるのは神木君じゃないよ。 それを決めるのは私たちで、信じる信じないも私たちが話を聞いたうえで決めること。 勝手に決めつけないで」

 

相変わらずはやては傍観を決め込むようだ、さっきから何もしゃべらない。 アリサ・バニングスも月村すずかも、思った通りには行かないらしい。 ここで怒って冷静な判断を下せないまま、次の計画に移行しようとしていたのだがなかなかうまく行かないものだ。 少し強引であるが、次の段階に行かしてもらうことする

 

「話にならん。 話を戻すが、口約束なんて信用ならないだろう? だから契約だ」

 

そう言って高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずか、フェイト・テスタロッサ、はやての上に王の財宝をセットし、そこからあるものを落とす

 

「これは!?」

 

「フェイトちゃん?」

 

「なぁ、理樹君。 これはどういうことや?」

 

中身までは知らないだろうが、見たことがある紙切れに驚くフェイト・テスタロッサ。 一方、ここまで傍観を決め込んでいたはやては怒ったようにこちらに詰め寄ってくる

 

「見た通りだ。 はやても知っているだろう? ()()のだから」

 

「だからどういうことか聞いたや!!」

 

「はやて!?」

 

「はやてちゃん!」

 

俺の服をつかみガタガタ揺らすはやてに驚いたのか、アリサ・バニングスと月村すずか声をあげる。 月村すずかの方は急いで止めに入り、俺とはやてを引き離す

 

「は、はやてちゃん、いったいどうしたの!?」

 

「どうしたのやって!なんでそんな暢気にしてられるんやなのはちゃん!」

 

「いやはやて、アンタは分かってるかもしれないけど私たちにはただの紙切れにしか見えないから」

 

怒ているはやてを引きはがしつつ、冷静に指摘をするアリサ・バニングス。 その言葉に怒りは収まらないようだが、一応説明を始めるはやて

 

「この紙切れはセルフギアススクロール。 決して違約不可能な取り決めをする時に使用される、最も容赦ない呪術契約の一つや。 契約が完了すればいかなる解呪魔法でも解除できない、呪い。 フェイトちゃんのお母さん、プレシアさんと契約を結んだときに使用したものや。 その内容も、自分の命かけてたくらいやしな!」

 

「・・・・・・」

 

俺を睨みつけてくるはやてだが、俺はそれに答えない。 それにしても、記憶が夜天の魔導書に記録されているというが、そこまで詳細なものまで読み取れるとは。 これは同じことをしようとすれば、見破られるな。 今回はそんなことをしていないが

 

「説明ははやてがしてくれた通りだ。 そこに好きに書き込んでくれ、契約は絶対だ。 消えろと書かれれば、ここから消えるし、顔も見たくないと書かれれば、金輪際姿を現すことはない」

 

「どうして、そこまで......」

 

「これが俺のけじめだからだ、高町なのは」

 

悲痛な面持ちで俺を見る高町なのはだが、俺は普通に返答する。 アリサ・バニングスも月村すずかもこれに関しては持て余しているらしく、紙とこっちを交互に見ていた

 

「なら私はこうや」

 

セルフギアススクロールをびりびりに破き、宙に舞わせるはやて。 なんか魔法陣が出てきたと思ったら、セルフギアススクロールが燃え始めたんだけど。 見回せば犯人が、はやてに向かって親指を立てていた。 いや、グッドじゃねーよ、リインフォース

 

「自分がやったことから逃げんな」

 

「これは手厳しい」

 

相変わらず表情は厳しいが、そう言ってくるはやて。 俺ははやての言葉に肩をすくめる。 記憶を見たといった時点で、はやてがこういう反応をするのは予想がついていたので元より諦めている

 

「ま、はやての言う通りね。 悪いと思ってるなら、逃げようとなんてするんじゃないわよ。 これは保留にさせてもらうわ」

 

「別に逃げてたわけじゃないけどな。 ご自由にどうぞ」

 

「まだ少し、思わないことがないわけじゃないけど、アリサちゃんもはやてちゃんも保留にするみたいだし、私も保留にしておく」

 

破らないにしても、紙を懐にしまうアリサ・バニングスと月村すずか。 いや、渡したものだからいいけど、取っといて後々何に使うのか謎である。 そんなアリサ・バニングスと月村すずかの様子に驚いたのは、フェイト・テスタロッサだ

 

「あ、アリサもすずかもそれでいいの!?」

 

「いいもなにも、気にしてないって言ったら嘘になるけど、こんなもの押し付けられてさっきのようなこと言われても、ねぇ?」

 

「うん、正直困るかなって。 もちろん、今までのことはこれでチャラになったわけじゃないし。 でも、謝ってくれたから」

 

「・・・・・・」

 

その答えに愕然とするフェイト・テスタロッサ。 セルフギアススクロールを見るも、書く気は起きないようだ

 

「高町なのは、お前はどうするんだ?」

 

「私は、私は......」

 

泣き出しそうな表情で俯く高町なのは。 感情の整理がついてないのか? よくわからないが、今ここで書く気はないようだ。 それを見届け、俺は背を向ける

 

「理樹君、どこ行こうとしてるんや?」

 

「帰るんだよ、さっきも言っただろ?」

 

「ぐぅっ!」

 

愚者の鎖を消すと、カエルがつぶれたような音が聞こえたが気のせいだろう

 

「ほら雑種、謝ったぞ。 これで満足か? こんなに空気をシラけさせて」

 

雑種の答えなど聞く気もなく、俺はそのまま歩いていく

 

「私があることないこと話すとは思わへんの?」

 

「お前はそんなことしないだろはやて。 付き合いは短いが、それくらいは分かる」

 

「・・・・・・はぁ」

 

はやてを見れば、ため息が帰ってきた。 失礼な奴だが、俺も失礼な奴なのでお相子だろう。 俺はそのまま振り返らずに外に転移する。 どうせ、月村すずかあたりが何か仕掛けていると思ったからだ。 しばらく歩けば、背後に四人分の気配が。 俺はため息をつきつつ、四人に話しかける

 

「まったく、お前たちくらいは楽しんでてもいいんだぞ?」

 

「マスター殿がいなければ、私たちはあのに居る意味がないので」

 

「それに、私たちがあの場に居ても空気が悪くなりますので」 

 

マシュとハサンがそう言うが、最早あの空気は俺たちが居なくなったところで修復不可能のような気がする

 

「なら、ケーキでも買って、家で食べるか?」

 

「賛成ですマスター!」

 

「まぁ、たまにはいいかもしれませんね。 リリィさんは自重してくださいね?」 

 




もう、ね、何を言ってもいいわけになるので俺は謝らない!(殴

冗談はさておき、またネタバレいけませんでした...... ちょこちょこ話してはいるけど、完全なネタバレは次回か、次回以降かなぁ...... そんなわけでもう少しお待ちを、なんとか時間見つけて書きますから、許して......

マムタロト君倒せなくてイライラする今日この頃。 まぁ、ソロハントでクソ雑魚なめくじの俺がそんな簡単に倒せるはずもないのですが。 あぁ、鑑定ガンス欲しぃ...... 睡眠の名!

ちょっと長くなりましたが、この話題が最後。 アイマスの一挙見た影響で、デレマス始めたんですがSSRの北条加蓮氏が来た模様。 来た瞬間、リアルで「ふぁっ!?」って声を出してしまった。 いやぁ、ようやく凛、加蓮、奈緒の三人がそろった模様。 もちろん、加蓮以外Rとかそこいらへんですよ?


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第九十話 変わるこれから

~なのは視点~

 

「やはりこうなったか......」

 

「クロノ君?」

 

どこか諦めた様子で神木君の立っていたところを見るクロノ君。 もしかしてだけど、クロノ君は何かを知っているの? そう思っても、どうしてだかわからないけど聞くことができない。 少しの間神木君の立っていたところを見つめていたクロノ君だったけど、何時もの表情に戻ってこちらを向く

 

「この空気ではパーティーどころの話じゃないな、悪いが帰らせてもらってもいいだろうか? この後、なのはの家族に魔法の説明があってね」

 

魔法の説明。 今日はクリスマスということもありうちのお店、翠屋は忙しい。 こうやってすずかちゃんたちにクリスマスパーティーに誘われていたし、魔法の説明もしなきゃいけないと思って夜にしていた。 外を見れば、いつの間にか暗くなっていて、雪も降り始めていた

 

「うーん...... 流石にこの空気でやるのもちょっと、それに勝手に帰った人もいるし......」

 

「私も構わないわ」

 

ちょっと困った顔のすずかちゃんにアリサちゃんも同意する。 さっきまでの楽しい空気はなくなり、どこか気まずい空気になりつつあるパーティー。 私も、この空気の中では流石に遠慮したいかなぁ...... でも、そんな解散の雰囲気に待ったをかけたのは、はやてちゃんだった

 

「あー、ちょっと待ってほしいんや」

 

「はやて?」

 

「はやてちゃん?」

 

どこか気まずそうに、そしてめんどくさそうに頭をかくはやてちゃん。 リインフォースさんを近くに呼び、夜天の書を受け取っていた。 何をするのかわからず私たちが首をかしげていると、はやてちゃんは説明をしてくれる

 

「あー、まぁ、簡単に言えば理樹君の記憶をダイジェストで見せる、そう言うことやな」

 

「記憶を見せる?」

 

「どういうこと?」

 

魔法に詳しくないアリサちゃんとすずかちゃんは首をかしげてこっちを向くけど、私だってわからないよ!? 私は手を前に出し、首と一緒に横に振る。 私たちがそれを行っている時、クロノ君もわからなかったのか聞いてくれる

 

「どういうことなんだ、はやて」

 

「闇の書の時理樹君を取り込んだやろ? その影響で、理樹君の記憶も夜天の書に記録されてるんや」

 

「なるほど。 アリシアは解せないが、君と神木が仲がいいのはそういう理由か」

 

「ま、そう言うことやな。 騎士のみんなも、理樹君のことに関しては一応許してるみたいやしな」

 

そう言ってはやてちゃんがヴィータちゃんたちを見ると、複雑な表情をしながら頷いていた。 記憶を...... だからはやてちゃんと神木君は仲がいい。 そう言われても、私は何処か釈然としない気持ちだった。 それに気づかないふりをして、話に耳を傾ける

 

「理由は分かったが、記憶を見せる意味は?」

 

「理樹君のこと、勘違いしてほしくないんや」

 

「勘違いも何も、アイツは」

 

「黙っとき」

 

織君が何か言おうとするけど、はやてちゃんは鋭い視線で黙らせた

 

「藤森織、アンタが理樹君を語るな。 特にアンタが」

 

「はやては知らないかもしれないけど、神木は」

 

「フェイトちゃんもや。 私が何も知らないと思ってるようやけど、全部()()きたんや。 知ってるに決まってるやろ。 だからフェイトちゃんも、理解しようとしないうちは語らないでほしいんや」

 

「見てきたならアイツの酷さは!」

 

「フェイト、そこまでだよ」

 

「お姉、ちゃん?」

 

なおもヒートアップしそうになったフェイトちゃんを止めたのは、アリシアちゃんだった。 でも、何時ものアリシアちゃんと違う気がする。 アリシアちゃんは元気一杯と言うか天真爛漫と言うか、ともかく明るくて突っ走るようなイメージだけど、今は違う。 どこか落ち着いていて、少し冷たい感じがする

 

「そこまでだよフェイト。 あまり知らないのにそれ以上言っちゃだめだよ」

 

「知らないって、私だって嫌がらせを」

 

「言い方が悪かったね。 一側面しか知らないのに、ううん、知ろうとしなかったのにそんなこと言ったら駄目だよ。 まぁ、理樹がそこらへん徹底していたからだけどね」

 

「ん、まぁ、そやな。 ばれないように徹底してたし。 サーヴァント達(家族)の前でも弱みを見せなかったくらいやしな」

 

苦笑しながらいつもの雰囲気に戻るアリシアちゃんに、同意するはやてちゃん。 少し、よくわからない気持ちになりながら話をじっと聞く

 

「そういうのは後にしてくれ、あまり夜遅くになるのもこちらとして好ましくないんだ。 それで、見せるといったがどうやってなんだはやて?」

 

「おっと、そうやった。 そんなものは、夜天の書に集まった叡智で何とかなるやろ」

 

「意外に行き当たりばったりだな...... だが、いいのか?」

 

「そのいいのか、が私の思った通りならいいやないかな? 方法をこっちに任せたのは理樹君やし、私としてはちょっとした意趣返しができるし」

 

「はぁ......」

 

クロノ君は頭を抱えつつも、特に否定的な意見を出さなかった。 ということは良いってことなのかな? その間にも、はやてちゃんはリインフォースさんと一緒に準備を進めていく。 それを数分やれば準備完了したみたいだけど

 

「あ、なのはちゃんレイジングハート貸してもらえる?」

 

「え? な、なんで?」

 

「流石に夜天の書から空間に映し出すのだと雰囲気出ないから、レイジングハートから映し出そうかなぁ、と。 ダメやったらいいんやけど」

 

「え、えっと、はい」

 

一応、レイジングハートに聞いたらOKが出たので、戸惑いながらもはやてちゃんに渡す。 それを受け取り、満足そうに頷くはやてちゃん。 その去り際に

 

「一応言っておくけど、多分なのはちゃん的に辛い記憶になると思うで。 見たくなかったら見なくてもいいと思う、一応レイジングハートにデータは入れとくからあとで見てもええで」

 

「え?」

 

聞き間違いかと思いはやてちゃんを見るけど、にっこりと笑ってこっちを見ていた。 それも一瞬で、すぐに準備を始めていた。 気のせい、だった? 違う、そんなはずないけど。 私にとってつらい記憶? どういうこと、なの? そんな私の思いとは裏腹に、頭が少しずつ痛くなってくる。 この頃はそんなことなかったのに、少しずつ痛みが増してくる。 まるで、これを見ないほうがいいといわんばかりに。 でもその一方で、私は見なければいけないと思う。 どうしてって聞かれるとわからないけど

 

「なのは、顔色悪いけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫、アリサちゃん」

 

「椅子は用意しておくから、辛くなったらいつでも座ってね?」

 

「すずかちゃんもありがとう」

 

アリサちゃんとすずかちゃんに心配をかけちゃったみたいだけど、今はそんなことを気にしている余裕はない

 

「それじゃあ、上映開始や。 レイジングハート、たのむで」

 

はやてちゃんがそうやって声をかけると、レイジングハートは答えるように点滅する

 

~なのは視点 end~

 




タイトルは適当です

感想が意外に多くてびっくり。 それはさておき、次回はいよいよネタバレ回! お待たせしてすみません


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第九十一話 道化の記憶

お話を始める前に、皆様にお礼を。 皆様のおかげで、何とこの作品がこの日間ランキングに載りました! 見た瞬間、二度見しましたけどね(笑)
これも皆様おかげです!目標も達成したことだし、もう終わりでもいいよね?(ニッコリ

冗談はさておき、もう終わりも見え始めていますが、もう少しお付き合いください


~はやて視点~

 

「それじゃあ、上映開始や。 レイジングハート、たのむで」

 

そう声をかければ、レイジングハートは応えるように点滅した後、理樹君の記憶が映し出される。 最初に映し出されたのは、どこかの公園。 理樹君が友達と遊んでいるところで、そしてこの後なのはちゃんと出会うところやな。 あー、でも

 

「え......」

 

「レイジングハート、ここは飛ばしてもらってええで?」

 

ちょうど、理樹君がなのはちゃんに声をかけたところで飛ばすように言う。 なのはちゃんは信じられないみたいな声をあげる。 その顔はなぜか蒼白。 覚えがないんやろうけど、まぁ仕方ない。 私は知ってるけど、理樹君はクスリかなんかで記憶を封印したみたいやしな。 出会いのシーンは飛ばされ、なのはちゃんや他の子と遊んで家に帰る理樹君。 あー、レイジングハートもなかなかわかってるみたいやな。 チョイスはいいけど、少々きついものがある

 

「は?」

 

「え?」

 

「そういう、事だったのね......」

 

アリサちゃんもすずかちゃんも意味が分からないという声をあげこちらを見るけど、プレシアさんは理解しているみたいだった。 私はアリサちゃんとすずかちゃんに続きを見るように促す。 でも、それに納得できないのか、声をあげる

 

「神様がこんなことを? いや、嘘だ!アイツが何かやったんだろう、はやて」

 

「理樹君が記憶を改ざんするようなことをするようには思えないんやけど? 仮にしてたとして、何のメリットがあるんや?」

 

「それは!そうだが...... でも、あの神様はいい人で!」

 

「黙ってみとき。 それですべてが分かるから」

 

相手にするのも面倒くさくなった私は、そう言って理樹君の記憶を見る。 ちょうど、藤森織がなのはちゃんを守っているところだった。 それから家に帰って、サーヴァント(家族)に出会い、頭を下げて文字通り血反吐を吐く特訓をしていた

 

「・・・・・・アイツ、どうしてここまで?」

 

「うーん...... どうしてかって言われてもなぁ....... 記録してるのは記憶だけやからどういう思いで、って言うのは分からないんや。 でも、記憶を見る限りでは未来を知っていたから、だと思う」

 

「未来を知っていたって...... じゃあジュエルシードの事件も、今回の闇の書事件も知っていて!」

 

「フェイト、落ち着いてくれ。 確かに彼は未来を知っていた、だが未来を変えようにも行動を制限されていたんだ。 誰か、何て言わなくてもわかると思うが」

 

見ていられなくなったのか、アリサちゃんは私に質問してくるけど私はそう答えておいた。 実際は分からない、言った通り記憶は記録されていても、感情は記録されていないから。 フェイトちゃんの疑問は、クロノ君が答えてくれた。 みんな、と言っても私の騎士たち以外は目をそらしていた。 それをレイジングハートも感じたのか、次の場面に切り替わる。 後はみんなの知っているジュエルシード事件、でも見るのはその裏側。 神木君がどのようなことをしていたか、だ

 

「これは、最初の、ユーノ君と出会ったときの戦闘?」

 

「アイツが街を更地にした時の......」

 

なのはちゃんの顔色は相変わらず悪いままで、それでも椅子に座りながら見ていた。 藤森織は嫌なことを思い出したといわんばかりの表情で見ていたけど、戦闘も終わり少しした時、表情が一変した

 

「更地になった町が、戻ってる?」

 

「そ、そんなことって可能なの!?」

 

「・・・・・・ある程度は、可能だ。 でも、すべて元に戻るって言うのは難しい。 僕も初めて知ったが、藤森、君に言われるまでもなく彼はそこら辺考えていたらしいぞ?」

 

場面は変わり、二度目の戦闘。 場所は神社のようで、リリィさんと合流したところのようだ。 すると、リインフォースが感嘆の声をあげる

 

「ほぉ」

 

「リインフォース?」

 

「あぁ、いえ。 彼には驚かされるな、と思いまして」

 

「?」

 

「彼のレアスキル。 剣を射出するあれですが、微調整をしてから撃っているのだなと」

 

「微調整、ですか?」

 

「あぁ、リインフォースの言う通りだ。 彼は必ず、石畳の隙間に刺さるように調整している。 しかも、アレだけの数にもかかわらずだ。 すごいコントロールだ」

 

私とすずかちゃんの疑問に答えたのは、シグナム。 確かに注意深く見ていると、射出された剣はすべて石畳の隙間に刺さっていた。 精密なコントロールどころの話じゃないような気がするんやけど...... 他にもプールでの戦闘、理樹君が藤森織に絡んだり。 そして

 

「これが真実だよ、フェイト。 お母さんは契約によって語れないけど、私は見てたから知ってる。 お母さんを治したのも理樹だし、私だって......」

 

「・・・・・・それでも、それでも神木のしたことは許せない。 母さんの想いや、葛藤を利用した。 私のことだって人形だって...... それに、なのはや織、アリサやすずかだって嫌な思いをさせられてきた」

 

「フェイト......」

 

「だから今すぐには許せない。 でも、これに何かを書き込むのは、もう少し考えてからにする」

 

「そっか」

 

今はそれが妥当な落としどころ、そう思ったのかアリシアちゃんは納得したように頷く。 まぁ理樹君の自業自得やけど、ようやく勘違いと言うか誤解と言うか、それは正せたみたいやな。 そしてジュエルシード事件も終わりを告げ、神との邂逅。 と言っても、見てて気持ちのいいものではない

 

「アレが、本当に神様なの?」

 

「まぁ、すずかちゃんの言いたいことは分かるで? そこらへんは、藤森織が知ってるんやない?」

 

「違う、アレは僕の知っている神様じゃない。 そうか、他人の空似。 そうだ、そうとしか考えられない」

 

「・・・・・・はぁ」

 

すずかちゃんの問いに、藤森織に目を向けてみれば一人でぶつぶつ何かを言っていた。 思わずため息をついた私は悪くないと思う。 場面は切り替わり、ちょうど私と会った頃の理樹君だった。 まぁ、あの時は何かあったんやろなぐらいにしか思わなかったけど、結構重い事情抱えていたんやな。 そして私の誕生日。 あの時は怒りでぶん殴るとか言ってたけど、事情があったんやなーと思いつつ苦笑い。 まぁ、そんなこと知らなかったんやから仕方ない!後は闇の書事件や。 ヴィータ達は居心地悪そうにしていたけど、まぁ、私のためやからそんなに怒ってはいない。 そんなに、やけどな。 シグナムが私との約束破っていたり、みんなが危険なことをしているけどそんなには怒っていない。 事件も終盤になり、神との二度目の邂逅。 アレにはレイジングハートも気を使ったのか見せることはなかったけど、まぁ、それが賢明や。 こうして理樹君のダイジェストは終わりを迎える

 

「まぁ、こういうことや。 あんまり理樹君のこと誤解してほしくないから見せたけど。 もちろん、理樹君にも原因はあるけどな?」

 

こう締めくくり、レイジングハートにお礼を言う。 何とも言えない空気の中、口を開いたのはクロノ君だった

 

「・・・・・・なのは、行こう。 流石にこれ以上は遅くなるといけない」

 

「・・・・・・」

 

なのはちゃんはそれには答えず、どこか虚ろな表情でフェイトちゃんに支えられながら帰っていく。 相当堪えたみたいやな

 

「なのは、大丈夫かしら」

 

「まぁ、なるようになるんちゃう? 後は理樹君となのはちゃん次第、だろうけど」

 

「そうだね......」

 

二人は心配そうになのはちゃんが出て行った扉を見ていた

 

「はなら、私たちも帰ろか」

 

~はやて視点 end~




はい、そんなわけで皆さんお待ちかねのネタバレ回でした。 皆さん納得のいくようなものでしたでしょうか? まぁ、雑種はねぇ......

そんなわけでまだ続きますのでお付き合いください


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第九十二話 訪問

えーっと、ネタバレ回の話ですが、いったん意見があるとは思いますが飲み込んでください。 ちょいちょいとこの後の話も書いてるもので...... それを全部書き直すとなると、流石にやる気が...... そんなわけで申し訳ないですが、ネタバレは前回で終わりということで...... 

ちょいと書き直したいところも出てきてますので、リメイクを出せたら出すかも......


~なのは視点~

 

朝、目が覚める。 少し頭は痛くて寝不足だけど、行かなきゃ。 昨日、すずかちゃんの家からどうやって帰ってきたのか、よく覚えていない。 たぶんフェイトちゃんが支えてくれていたと思うけど、詳細には思い出せない。 その後は家に帰ってきて魔法の話をしたけど、内容は覚えていない。 ともかく、着替えなきゃ。 そう思って立ち上がると、立ち眩みがする

 

「うっ......」

 

ベットに手をついて倒れるのをこらえる

 

「マスター」

 

「大丈夫だよレイジングハート。 着替えたら神木君の家に案内、よろしくね?」

 

「・・・・・・」

 

レイジングハートは直接は応えてくれなかったけど、点滅はしてくれた。 ひどく鈍く痛む頭をそのままにして、着替え始める。 着替え終わって一階に降りると、お母さんとすれ違う

 

「お母さん、おはよう」

 

「おはようなのは、出かけるの?」

 

「うん、大事な用事があるから」

 

そう言ったら、お母さんの表情は険しくなった。 どうしたんだろう? よくわからないけど、行かなきゃ

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「待ちなさい、なのは」

 

「お母さん?」

 

「そんなに顔色悪いのに、どこに行くの?」

 

寝不足と頭痛で顔に出ていたみたいだ

 

「大事な、用事なの。 お願い、お母さん」

 

お母さんに頭を下げる。 自分勝手だけど、今回は本当に大事な用事なんだ。 たぶん、今を逃したら一生聞けない気がするから。 そんな思いを込めて頭を下げていると

 

「・・・・・・わかった、少し待ってて」

 

そう言って、お母さんはリビングの方に向かっていく。 よくわからなかったけど、その場で待っているとお母さんはサンドイッチを持っていた

 

「これ、朝ご飯。 ちゃんと食べないと」

 

「でも、食欲が......」

 

「それでも、よ。 調子が悪いなら、なおさら食べなくちゃ。 それと、今回は何も言わないけど、次は止めるからね? なのはが思ってる以上に顔色、悪いんだから」

 

「お母さん、ありがとう」

 

「いいのよ、お母さんだもの。 行ってらっしゃいなのは、気を付けていくのよ」

 

お母さんに送り出されて、玄関の門を出る

 

「行こう、レイジングハート」

 

~なのは視点 end~

 

--------------------------------------------

 

朝、いつも通りに目が覚める。 結局、月村邸から帰った後、ケーキを買って家でクリスマスパーティーを開いたのだが、阿鼻叫喚な状態に。 酒を飲んで酔ったのか、玉藻は俺に抱き着いてくるし、リリィはケーキをドカ食い。 マシュはマシュで、そのケーキをドカ食いするのに合わせ、ケーキを作ってるし、ハサンは永遠に飲み食い繰り返しているし。 なんかよくわからないクリスマスパーティーだった。 まぁ、みんな楽しそうだったのでよかったが。 結構夜遅くまでやっていたためか、リビングには珍しく誰の姿もなかった。 適当にトーストを焼き、それをリビングの机の上に置き、新聞を広げる。 新聞を見ながら記事を見るが、特段面白いものはない。 謹慎のため任務もないし、久しぶりにゆったりとした朝だった。 謹慎も期間が決まり、年明けから俺は書類仕事らしい。 後は必要に合わせて、任務と言う形のようだ。 こうなると学校も行かなくてもいいかな、と思いつつ新聞をとたたむ

 

「おはよう、ございまふ......」

 

「眠そうだな、マシュ...... おはよう」

 

「おはようございます」

 

「リリィもおはよー」

 

「あ”ぁ”ー......」

 

「玉藻は二日酔いか? サーヴァントも二日酔いするんだな......」

 

そう言いながら席を立ち、玉藻に水を出す。 それを受け取り、一気に飲み干す玉藻。 にしても、サーヴァントも二日酔いするのか。 まぁ、蔵から出したかなり度数の高い酒だったからな、サーヴァントでも二日酔い、するのかなぁ? そんな疑問はさておき、気配を消して入ってきていたハサンにも、挨拶をする

 

「ハサン、別に気配を消す必要はないぞ?」

 

「・・・・・・バレてましたか。 もう、マスター殿には敵いませんね。 後敵うとしたら、初代様くらいでしょうか」

 

「いや、山の翁と比べられてもなぁ......」

 

そんな会話をしていると、玄関のチャイムが鳴る。 時間にして九時半くらい。 俺の家を訪ねてくる人物なんかに心当たりはないが、客は客だ。 出ないと失礼だな

 

「私が行きましょうか、マスター殿?」

 

「いや、俺がいく。 マシュ、悪いがリリィたちの朝飯を」

 

「はい、お任せください」

 

若干寝ぼけているマシュだが、多分大丈夫だろう。 玉藻たちのご飯はマシュに任せ、俺は来客の対応をすることにした

 

「はーい、どちら様ですか?」

 

「「・・・・・・」」

 

ドアを開ければ、そこには予想外の人物が。 ドアを開けた瞬間、俺は黙り込んでしまう。 尋ねてきたのは、高町なのは。 予想外すぎる。 お見合いのように黙っている時間が続くが、これではいけない。 よく見れば、高町なのはの顔色は悪い

 

「・・・・・・何か用か? それに、顔色も悪いが」

 

「ええと、その、あの......」

 

ようやく絞り出すみたいな感じで言う高町なのはだが、それっきり黙ってしまう。 いや、本当になんなんだ? 用があってきたみたいだが、いつも以上にはっきりしない。 本人がこれではらちが明かないと思い、首にかけているレイジングハートに目を向けるが応える気配はない

 

「用があるから来たんじゃないのか? どうやって家を知ったのかは知らないが」

 

実際、クラスメイトにも家の場所は教えていない。 仕事柄、リンディさんたちは俺に家の場所は知っているが、あの人たち、特にクロノが俺の許可なしにばらすとは思えない

 

「ええと、その...... っ」

 

「お、おい!」

 

いきなり泣き始めた高町なのはに俺は戸惑い、大きな声を出してしまう。 それを聞いたサーヴァント達は、玉藻以外が出てくる

 

「マスター、どうしたんですか? む?」

 

「えーっと、高町なのはさんですか?」

 

「泣いておられますな」

 

「いや、俺も何が何だか。 いきなり泣き始めて。 ともかく、マシュ運んでもらっていいか?」

 

「わかりました」

 

マシュに運んでもらい、リビングで一息つく。 流石に玄関先で泣かれるのは、色々な意味で困る。 ご近所さんとか、ね? リビングに運んだはいいが、空気が悪い。 その原因は言わずもがな、玉藻だ。 玉藻が睨んでいるからだ。 相変わらず泣いている高町なのはに戸惑いつつ、玉藻に声をかける

 

「玉藻、睨むのもその辺にしてやれ」

 

「・・・・・・むぅ」

 

睨むのをやめ、テレビの近くにあるソファーに移動する玉藻。 本当に迷惑をかける。 マシュやリリィも、飲み物を出すとソファーの方に移動してしまう。 ハサン? 霊体化して、外に出ている。 いや、なんでだよと思わなくもないが。 泣きじゃくる高町なのはに聞いても何も答えられないだろうから、今度はレイジングハートに質問する

 

「それで、なんで来たんだレイジングハート」

 

「・・・・・・マスターは知りたがっています、自分が覚えていないことを」

 

「・・・・・・」

 

今度は俺が黙る番だった。 自分が覚えていないこと、つまり記憶のことか。 何故、とも考えるまでもなく答えは明白だ。 はやての仕業だろう。 いや、仕業と言うのは失礼か。 あの場で俺は説明せず、はやてに任せきりで帰ったのだから。 自業自得、と言うわけだ

 

「貴方が封印した記憶を」

 

「・・・・・・なんでお前が知っている、レイジングハート」

 

「夜天の書に記録されていた貴方の記憶を、私に移し、皆様に見せたからです」

 

「アイツ」

 

まさかそこまでするとは。 予想外もいいところだった。 たぶん、所々はカットしたのだろうが、俺の記憶はほぼ見せられたと思っていいだろう。 まさかそこまでするとは思わなかったが

 



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第九十三話 記憶

先に謝っておく、御免!!

いやね、理由はありますよ? もうね、前と同じことになってるのは分かってるんですが、前の感想言われる前にこれが書き上がっていたわけでして...... そんなわけで許してください(土下座


「それで、お前は記憶を取り戻しに来た、そういうことで間違いないな?」

 

相変わらず泣きじゃくる高町なのはに確認すると、一応頷いていた。 それを見て、頭を掻きながら一応警告をする

 

「忘れているなら、それでいいんじゃないか? 思い出したら思い出したで、辛いだけかもしれないぞ?」

 

「それでも、それでも思い出したい...... 辛いからって逃げてたら、神木君と、向き合えない、から」

 

「・・・・・・」

 

頑固者と言うか、何と言うか。 つっかえつっかえになりながらも、自分の意志を言葉にする高町なのは。 瞳は涙にぬれているが、その目には確かに覚悟があった。 この世には、知らないほうが幸せということがあるのにな。 俺は王の財宝を開き、中から瓶を取り出し机に置く

 

「お前にそこまでの意志があるのなら、俺からは何も言わない。 これがその記憶の封印を解く薬だ。 たぶん、その記憶はお前にとってつらい記憶だがな」

 

「・・・・・・」

 

何のためらいもなく机に置いた瓶を手に取り、一気に飲み干す高町なのは。 飲み干した直後は何ともなさそうだったが、いきなり気を失う高町なのは。 それを一応受け止め、玉藻たちが場所を空けたソファーに寝かせる。 気を失ったようだが、顔色などは別に悪くない

 

「大丈夫なんですか、マスター?」

 

「わからんが、何かあったらやばいから様子見だな」

 

--------------------------------------------

 

~なのは視点~

 

いつの間にか、気が付いた時には私は公園に立っていた。 近くってわけじゃないけど、小さいころによく行っていた公園。 さっきまで神木君の家に居て、神木君と話していたはずなのに。 いつもより視線が低い、それに気が付いたのはブランコに乗ってから。 それをおかしく思いながら私は、サッカーをしている小さな子たちを見ていた

 

「いいなぁ......」

 

不意に漏れた言葉、でも私はそんなことを思っていない。 頭を振りながら、私は訳が分からなくなる

 

「あのさ、帰らないの?」

 

「え?」

 

訳が分からずボーっとしていた私だったけど、声をかけられてハッとする。 それと同時に、顔を上げるとさっきのサッカーをしていた子が声をかけてくる。 いつの間にか夕暮れで、辺りは暗くなり始めている。 帰らなきゃと思うけど、体は動こうとしない

 

「か、帰らないのかなーって」

 

「・・・・・・まだ、帰らない」

 

「でも、もう暗くなってきてるし、お家の人心配しない?」

 

「・・・・・・」

 

この子、見覚えがある。 誰だったか思い出すために考えていたけど、頭に靄がかかったような感じで思い出せない。 不意に会話に意識を向けると

 

「そうだ僕、神木理樹。 君は?」

 

「・・・・・・高町なのは」

 

「なのはちゃんだね!なのはちゃんのお家に行こう!」

 

「・・・・・・うん」

 

神木、君? でも神木君は、もっと背が高くて...... そこまで考えて思い出す、私が薬を飲んだことを。 これは、私の記憶? 封印した? そう考えれば納得した。 いつもより低い視線に、小さい神木君。 私は今、封印されていた記憶を追体験していると

 

--------------------------------------------

 

どうして、こんな大切なこと忘れていたんだろう...... 理樹君が封印したって言ってたけど、それでもこの記憶は忘れられるものじゃなかったはずなのに...... 理樹君にお母さんたちのことを相談して、勇気を持って話し合いしたらちゃんとわかって貰えて。 運動が得意じゃない私を、みんなの輪の中に入れてくれたこと。 他にも一杯、いっぱい大切な思い出があったのに......

 

~なのは視点 end~

 

--------------------------------------------

 

眠ってから一時間ぐらいが経った。 だが、今だ高町なのはは起きる気配がない。 流石にあの記憶の封印の薬を使ったのは高町なのはが最初で最後なので、これが普通なのか異常なのかが分からない。 あまり長く寝るようなら、強制的に起こすのも視野に入れないとだめか。 そんなことを考えていると、高町なのはは寝ながら涙を流していた。 器用だな、こいつ。 涙を拭いてやりつつ、そんなことを考えていた。 すると、瞼がかすかに震え始めた。 ようやくか、そう思いながら高町なのはから離れる

 

「ん......」

 

体を起こしながら、ゆっくりとあたりを見回す高町なのは。 そして、俺が目に入ると目を見開きながら泣き始める。 いや、こんな状況どうしろと? そんな高町なのはに戸惑っていると

 

「ごめん、なさい」

 

「はぁ?」

 

「ごめんなさい、理樹君との大切な記憶忘れて、あんな態度取って」

 

何を言い出すかと思えば...... 呆れてため息をつきたくなるが、ぐっとこらえる。 忘れても何も、記憶を封印したのは俺だ。 それなのに、なぜ高町なのはが謝る必要があるのか。 責められることはあっても、まさか謝られるとは思ってなかった

 

「その記憶を封印したのは俺だ。 文句を言われることはあっても、謝られることはないと思うが?」

 

「でも、忘れていい記憶じゃなかった!独りぼっちだった私に、理樹君は色々なものをくれた!お母さんたちと仲直りさせてくれたし、一緒に遊ぶ仲間だって。 でも、でも!それをくれた理樹君を忘れていたなんて!」

 

()()()もいったが、それはお前の選択だ。 別に俺のおかげじゃない」

 

「でも、辛く当たったのは!」

 

一向に人の話を聞こうとしない高町なのは。 流石にこう何回も、同じこと言わされるのは俺も怒る

 

「いい加減にしろ!」

 

「っ!?」

 

「俺の記憶見たのなら、知ってるんだろ。 俺は生き残るためにお前たちを利用した。 それは、どうあっても変えられないんだよ。 お前たちの好意を、優しさを、想いを、利用して踏みにじった。 それは紛れもない事実だ、たとえ命がかかっていたとしてもな」

 

「それ、でも、私は......」

 

「・・・・・・」

 

目尻に涙をためながら、それでもと手を伸ばす高町なのは。 だが、俺にはその手を取る資格はない。 その手に気が付かないふりをして、俺は高町なのはに背を向ける

 

「帰ってくれ、これから出かけるんだ。 用件は済んだだろ」

 

「・・・・・・ぐすっ」

 

少しづつ気配が遠ざかっていく。 顔は分からないが、多分泣いてるんだろうな。 胸は痛むが、知らないふりをする

 

「あぁそうだ、ずっと言おうとしていたことがあったんだ」

 

「・・・・・・」

 

そう言うと足を止める高町なのは。 記憶が戻ることが万が一あったとして、ずっと言おうとしてたのだ。 今言うべきじゃないのは分かっているが、今を逃したらずっと言えない気がするしな

 

「なのは、お父さん退院してよかったね」

 

「っ!?」

 

振り向く気配がするが、俺はそのまま台所の奥に消える。 ようやく、玄関の扉の音がする

 

「ふぅ......」

 

「よかったのですかマスター、あれで」

 

「良いも悪いもないさ、リリィ。 俺にはあの手を取る資格はないしな」

 

「逃げているだけ、じゃないんですか?」

 

「リリィさん、それ以上は怒りますよ」

 

「よせ玉藻。 確かに、そうかもしれないな」

 

一息つき、天井を見上げる。 逃げてるだけ、か。 確かに、そうかもしれないな。 リリィの言葉に同意しつつ、本当に人生はままならない。 そう考えつつ、立ち上がる

 

「マスター?」

 

「着替えて散歩でも行ってくる」

 

「なら、私がお供いたします、マスター殿」

 

「好きにしてくれ」

 

そう言いながらリビングを出る。 これからのこと、真面目に考えないといけないかもな

 



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第九十四話 男たち

「謹慎中なのに朝からいきなり来て、仕事をさせろとは...... 一体何があったんだ?」

 

「ま、細かいことは気にするな」

 

高町なのはが記憶を取り戻した次の日、俺はアースラに来ていた。 家が知られた以上、家に居れば誰が来るかわからないからな。 そういう意味で、俺はアースラに来ていた。 別に逃げたとか、そういうわけではない

 

「君の場合は、そう言って何かあるからな。 出来るだけ早く解決してくれ、今までのようにフォローはしないからな」

 

「へいへい」

 

相変わらず正直ではないクロノに適当に返事をしつつ、今回の闇の書事件に関しての書類を進める。 と言うかクロノ、何だかんだ言って書類やらせてるじゃないか。 正直にそんなことを言えば、クロノが不機嫌になって仕事をやらせてくれないのは目に見えているので言わない

 

「にしても、ちゃんと寝てるのかお前」

 

書類を進めながら、俺はクロノに聞く。 目の下のクマはすごいし、頭はぼさぼさだ。 仮眠などはとっているのだろうが、ちゃんと寝てないだろコイツ

 

「まぁ、君に嘘をついても仕方ないと思うが寝てはいる。 と言っても仮眠をとったりするぐらいだが」

 

「やっぱりかよ...... ある程度終わらせたら寝ろよ? 俺だっているんだし、ちょっとは楽になったろ?」

 

案の定ちゃんと寝てないらしい。 まぁ、身体のことは本人が一番わかっているだろうし、あまりうるさくは言わないが

 

「元々そのつもりさ。 ちょうどキリのいいところまで終わったところだ、艦長に提出したら少し寝てくる」

 

「あいよー」

 

今やった書類を持ち、部屋を出るクロノ。 俺はそれに返事をして、書類を進めた

 

--------------------------------------------

 

「おお、ゾンビが一杯いる」

 

「失礼すぎやしないか、君」

 

四時間くらい寝てクロノはすっきりしたのか、髪を整えて部屋に戻ってきた。 俺はその時書類と格闘していたが、昼時ということもあり食堂に来ていた。 俺が言った通り、食堂は徹夜明けのアースラスタッフが集まっており、のろのろ歩くその様はまさにゾンビだ。 かなり不気味な食堂だが、俺たちは特に気にせず隅っこの席に座り食事をとり始める

 

「みんなこんな様子ということは、闇の書事件の後処理は大変そうだな」

 

「あぁ。 まだアルカンシェルを使わなかったからよかったものの、やはり事件が事件だ。 君のことも含めて、慎重に事を進めないとな」

 

「あー、まぁその、何だ? 迷惑をかけるな、すまん」

 

「いや、気にしてないさ。 管理局(こちら)としても、得るものが多いだろうからな」

 

俺が謝れば、苦い顔をしながら言うクロノ。 まぁ、今回の件、リインフォースや夜天の魔導書が残ったのだ、それは管理局その上層部にとってかなりの収穫になるだろう。 それに長い間管理局を苦しませた闇の書事件も終わりを告げたのだ、管理局にとってはこれほどうれしいことはないだろう。 まぁ、そんなことはどうでもいい。 俺が助けられたのはクロノたちで、管理局ではない。 今回の事がどこからか漏れて、お上が何か俺にチョッカイをかけてくるようなら、その時は秘密裏につぶせばいいだけだ

 

「珍しい組み合わせだね」

 

「ん? ユーノか」

 

そんな風に会話をしていると、声をかけてきたのはユーノだった。 俺は口の中に食べ物があったので、会釈をする。 そんな俺に会釈を返しつつ、クロノの横に座るユーノ。 そのころには俺も口の中ものもがなくなり、改めて挨拶をする

 

「そこまで珍しくは...... あぁ、人前だと控えていたから。 とりあえず改めて、こんにちはユーノ」

 

「なるほどね」

 

そんなわけで一緒に食べることになったユーノだが、特に俺とクロノを気にしている様子はない

 

「それにしても、随分しっかりした顔をしてるねクロノ。 いつもなら、ゾンビみたいな顔をしているのに」

 

「君もかユーノ......」

 

「まぁ、今の状況じゃ誰だってそんな感じだろ。 ユーノは普通みたいだけど」

 

「僕の立場だと、民間協力者だからね。 調書なんかが終われば、それで終わりだから」

 

「なるほどな」

 

「まぁ今日は、どこかの謹慎者が手伝ってくれたからな。 今日の分の報告書の提出は終わったんだ」

 

「随分嫌味ったらしく言うな。 まぁ、気にしやしないが」

 

「ははは......」

 

苦笑するユーノ。 意外なことに、話は弾んでいた。 もはや俺の事情は、このアースラ内でも知られているしな。 今更俺が何かやっても、とやかく言われることはない。 それに加え、ユーノはパーティーにもいたからな

 

「それじゃあ、またこれから?」

 

「いや、今日はこのまま家に帰って寝なおそうと思う。 もしかしたら、明日からまた徹夜かもしれないしな」

 

「少しは計画的にやれよ......」

 

 

 



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第九十五話 これから?

結局、あの高町なのはのことがあってから、俺は家に寄り付かなくなった。 一日の大半はアースラ内で書類や、時に任務などに出て過ごした。 俺が家にいないということで、玉藻たちもアースラに来たが、特に何も言われることもなく任務に駆り出された。 年越しは、メールがあったようだが任務中だったし、違う世界に居たため参加できなかった。 そのことで月村すずかやアリサ・バニングスから怒りのメールが来たが、任務と言うとそれ以来返信はなかった。 というか、今思ったがアイツらどうやって俺のメールアドレスを知ったんだ? まぁ、月村すずかは人の家に来て、いきなり拉致るような人物なので、知っていても不思議じゃないが。 そんなわけで、冬休みを終え久しぶりの学校となった。 そもそも、もう学校にも行くつもりはなかったのだが、クロノもリンディさんも小学校くらいは卒業してほしいということで、通うことになった。 まぁ、その割には任務が夜遅くにあるとか、ふざけているとしか思えない

 

「ふわぁ...... おはようございます、マスター」

 

「おはようマシュ、眠そうだな」

 

「まぁ、昨日夜遅くに任務がありましたから...... それはともかく、おはようございますマスター」

 

「そう言えば、そうだったか。 お疲れマシュ、リリィ」

 

ともかく学校ということで、朝からせっせと起きて朝ご飯を作っていたというわけだ。 昨日の夜、任務だったマシュとリリィ。 玉藻は俺の代わりで連日任務だし、テスタロッサ家、主にアリシアに呪術を教えたりしている。 ハサンは...... たぶん元気にしているはずだ。 いや、魔力のパスはつながっているのでどこかに居ることは確かなのだが、何処にいるかはわからない。 まぁ、ハサンも自由時間が欲しいと思うので好きにさせている。 いざとなったら令呪で呼び出せるし。 そんなわけで朝は三人と少し寂しいが、朝食をとり、少し早めに家を出る。 流石に外は海も近いことがあって寒く、防寒対策は忘れない。 そもそも、この頃はアースラ内か、任務で違う星に居たので地球の寒さは久しぶりだ。 それなりに寒い土地に行ったりもしたが、身体強化魔法や防寒対策はしっかりしていたしな。 今も学校指定のコートにマフラーをしているが、やはり寒い。 吐きだした息が白くなるのを見ながら、学校に向かう。 学校につけば、クラスメイトに挨拶を交わし、自分の席に座る。 冬休み中どこに行っただとか、お年玉をいくらもらっただとか、子供らしい会話を右から左に聞き流しつつ外を見る。 外は晴れで、よく照っていた。 教室内ということもあり、程よい温かさが眠気を誘う。 任務の疲れか、休みで気が抜けているのか判断しづらいところだった

 

「お、来たみたいだぞ理樹」

 

「ん?」

 

クラスメイトに肩を叩かれ、視線を教室内に戻す。 何か楽しいものを見つけたかのように声を出すが、よくわからん。 ニヤニヤしたクラスメイトの視線を追えば、納得する。 高町なのは達だった。 言いたいこともわかるし、いつもならしたであろう行動を面白がっているのだろうが、それも今日で最後だ。 俺は立ち上がり、高町なのは達に近づいていく

 

「・・・・・・」

 

教室内がいつものが始まるということで静まり返るが、気にしない。 そして、高町なのは達までもう少しというところで、何時ものように邪魔が入る

 

「「・・・・・・」」

 

片や無表情で見下ろす俺に、睨みつけてくる雑種。 ギャラリーもいつもと違う雰囲気に、ざわざわし始める

 

「邪魔」

 

「いい加減にしろ!なのは達が迷惑しているのがまだわからないのか!!」

 

「それを謝るのに、お前が邪魔なんだよ」

 

「なんだと!?」

 

勝手にヒートアップしていく雑種だが、俺の対応は冷ややかなものだった。 つーか、謝るって言ってるんだからどけよ。 流石に俺の様子がおかしかったのか、高町なのはを守るように前に出たのは、フェイト・テスタロッサ。 まぁ、まだ冷静みたいだな

 

「織、やめなさいよ」

 

「おはよう神木君、私たちに何か用かな?」

 

そんなヒートアップしている雑種を止めるのはアリサ・バニングスで、さりげなく挨拶をしつつ俺に用件を聞く月村すずか。 てか、月村すずかが俺に挨拶したことで、再び教室がざわめきだしたぞ

 

「いやなに、今までのことを謝ろうと思ってな」

 

「・・・・・・」

 

その言葉に、真意を測ろうとしているのか目を細めるアリサ・バニングス。 別に嘘でも何でもないので、見続ける。 その間に月村すずかが話をして、雑種はようやくわめき散らすのをやめたようだ。 相変わらず睨みつけているけどな

 

「今まですまなかった。 金輪際、用がなければ話しかけないにする」

 

高町なのは達に頭を下げれば、別の意味で騒がしくなる教室。 とてもうるさく、やかましいがコイツ等は俺が謝ったという証人だ。 にしても、本当に外野がうるさい。 とりあえず、頭を下げるだけ下げ、さっさと席に戻る。 俺が席に戻れば、今のはどういうことかという質問攻めにされるが、俺が黙秘したこともあり聞きに来るものは減っていく。 そもそも、その前に先生が来てHRになったので、難を逃れたわけだが。 先生の話を聞き、休み時間。 珍しいことに雑種が俺の席にやってきた

 

「おい」

 

「・・・・・・」

 

確実に面倒ごとなので無視したのだが、それがいけなかったらしい

 

「聞こえてるんだろ、無視するんじゃない!」

 

「大きな声で騒ぐな、ガキか?」

 

興奮したのか、机をバンバン叩く雑種。 流石にこうもうるさいと反応しなければならないので、面倒くさくなりながらも空から視線を戻す

 

「お前が無視するからだろ!!」

 

「どうでもいいから用件を言え。 用件がないならさっさとどこか行け」

 

「なんだと!?」

 

本当に話が進まない。 勝手に一触即発の空気を出すのは勝手だが、これを先生に見られれば面倒ごとになるに決まっている。 本当にはたから見たら、どっちが踏み台かわかったものじゃない。 てか早く用件言えよ

 

「休み時間は短いんだ、早く言え」

 

「くっ...... お前と戦いたい」

 

「は?」

 

今なんて言ったこのバカ? 俺の耳が悪くなっただけと信じたいが

 

「お前は嘘をついている。 あの優しい神様が、あんなことをするはずがないんだ。 闇の書に取り込まれたとき、どうにかして改竄してあんなものをはやてに見せたんだろ? それに、あんなに血反吐を吐くような特訓を、お前がありえない」

 

「・・・・・・ククク、ハハハハハハ!」

 

何を言い出すかと思えば、闇の書が取り込んだ記憶はおかしいと抜かしやがった。 なるほどなるほど、通りでコイツだけ態度が変わらないはずだ。 アリサ・バニングスや月村すずかは、半信半疑ながらも信じた。 フェイト・テスタロッサはたぶんアリシアやプレシアさん、それにはやての言葉などがあったから態度を少しばかり軟化させた。 だが、こいつだけは変わらなかった。 別にどうでもよかったが、納得がいった。 こいつは初めから、否定していたんだ。 これが笑い話でなかったら、何なのか

 

「何がおかしんだ!!」

 

「いやいや、雑種お前の頭はお花畑だと思ってな。 まず、ここでそんな話をしていいのか?」

 

俺が周りを指せば、そこには目を点にしているクラスメイト達。 そりゃあ、いきなり神様がどうのとか、特訓がどうのこうのとか言い出せばこんなことになるだろう。 それを見て、流石にまずいと思ったのか自分の席に戻ろうと思った雑種だが、去り際に

 

「昼休み、校舎裏にこい。 そこで話を付けるぞ」

 

何て言われた。 集まってきたクラスメイト達に適当に説明しながら、別のことを考える俺だった



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第九十六話 おはなし

昼休み、俺は言われた通りに校舎裏に来ていた。 来たのはいいのだが、呼んだ当の本人はいない。 呼んだのにもかかわらずいないのは失礼な話だと思ったが、元々失礼な奴だということを思い出し納得した。 今朝は俺が朝食を作ったため、弁当は作っていない。 なので、家に適当に合ったパンをかじりつつ雑種が来るのを待つ。 校舎裏ということでさびれており、人気はもちろんベンチもない。 少し行儀は悪いが、校舎に寄りかかりながら食べている。 ほんと、なんでこんな薄暗いところで昼飯を食べなければならないのか。 どうせなら教室で食べればもっと温かいだろうに。 それに朝は晴れていたが、今は曇天。 外は余計に寒い。 なんて、何も考えずに空を見上げていると足音が聞こえる。 数までは分からんが、複数人校舎裏、つまりこちらに近づいてきている。 雑種が人数を連れてくるとは考えられないから、他の奴らかと思い少し警戒する。 が、それは無駄だとすぐに警戒を解く。 やってきたのは雑種で、仲良し四人組(高町なのは達)と、アリシアを連れてやってきていた。 人を待たせた挙句、人を連れてこないとまともに話も出来ないとは

 

「人が昼休み開始から待っていれば、人を連れてこないと話も出来ないのかお前は......」

 

「・・・・・・喧嘩を売っているのか?」

 

「事実だろうよ」

 

今回はこらえたようだが、本当のことだろうに。 今にも殴り掛からんとする雑種だが、それに待ったをかけたのはアリサ・バニングスだった。 本当に苦労人だな

 

「織はいったん落ち着きなさい。 神木はその喧嘩を売るような態度はやめなさいよ」

 

「俺は別に!」

 

「別に喧嘩を売ったわけでもないが...... まぁ、善処しよう」

 

「こうなることが分かってたから、私たちはついてきたんだけどね......」

 

「私はもうよそよそしくする必要がないから、理樹をお昼に誘いに来たんだ!」

 

俺がそう言うと、苦笑しながら答えたのは月村すずか。 まぁ確かに、俺はそんなつもりはないのだが売り言葉に買い言葉。 休み時間の雑種と俺の会話を見るに、何らかの緩衝材は必要だろう。 その役が、この五人、と。 ともかく、アリシアには悪いことをしたな

 

「もう昼なら食べたからな、悪いことをした」

 

「全然気にしてないから大丈夫だよ!」

 

俺とアリシアの会話を羨ましそうに、そして苦しい表情で見ている高町なのは。 意味が分からん。 高町なのはに気が付かないふりをしつつ、話を戻すことにした

 

「それで? 俺の聞き間違いじゃなければ、俺と戦いたいといっていたような気がするが、正気か?」

 

「ふざけているのか!!あんなものを見せて同情を誘うつもりだったんだろうが、俺は騙されない。 俺を転生させてくれた神様があんなことをするはずがない!お前がみんなを騙そうとしているのは明白だ!」

 

ここまでくると、あの人形どもと同じだな

 

「事実だから何も言えないんだろう?」

 

雑種がどこか勝ち誇ったように言うが、呆れを通り越して感心するというか...... 

 

「事実かどうかなんてこの際どうでもいいから置いておくとして、俺がそれをやるメリットは? こうやって距離を置いているのに、そんなことをするメリットが感じられないんだが?」

 

「それすらも演技、違うか?」

 

「ちょっと織、それはいくら何でも言いがかりよ」

 

雑種の様子を見かねてか、アリサ・バニングスが仲裁に入るが調子に乗った雑種は聞く耳を持たず、さらに突飛なことを言い始める

 

「大体おかしいと思ったんだ。 アリサやすずかだってついこの間まで嫌がっていたのに、今ではこうやってお前に味方している。 お前がなんか能力を使ったんだろう? それであの記憶だって」

 

「・・・・・・お前の言っていることが仮に、そう仮にだ、正しかったとして、なんで最初からその能力を使わなかった?」

 

「それは使おうとしても神様が防いでいた」

 

「ならなんでその能力を使って、ここに居る全員の好感度とかをあげないんだ?」

 

「流石にお前にも良心というものがあって、それが咎めているからじゃないか?」

 

「・・・・・・」

 

まるでお話にならない。 クソ野郎()の信奉者はみんなこうなのか? 話をする気もうせてきたのだが

 

「織君、いくらなんでもそれは私たちにも失礼じゃないかな? 私たちは、私たちに考えて今の神木君に接してるの。 それを能力でどうこうなんて、私たちにも失礼じゃないかな?」

 

「だからそれすらも能力で......」

 

「まるでお話にならないね」

 

「アリシア?」

 

それまで黙っていたと思ったら、口を開いたアリシア。 その声は冷たく、雑種を見下すように見ていた

 

「さっきから聞いてれば、神、神、神って、頭おかしいの?」

 

「か、神木の記憶を見たなら、神の存在は!」

 

「都合のいい時だけ理樹の記憶に頼るんだね、吐き気がするよ。 流石に幼少期やあの修行の時のことは分からないけど、私が見た範囲で嘘はなかった。 それを信じようともせずに、頭から全否定。 転生者なら見た目の年齢より上でしょ? 少しは考えなかったの?」

 

「・・・・・・」

 

ポカンとする雑種だが、アリシアの言い分は正しい。 と言っても、俺自身、はやてが見たといっている記憶を見ていないので何とも言えないのだが

 

「用件も言わずぐちぐちぐちぐちと、さっさと用件を話したらどうかな? 勝ち負けなんかわかりきったことだけど、勝負をすれば済む話でしょ?」

 

「あ、アリシア。 織がポカンとしてるから......」

 

「フェイトもフェイトだよ。 お姉ちゃんとして言うけど、こいつの肩を持った発言はやめたほうがいい、フェイトの評価にもかかわるから」

 

なんか問題が飛び火したが、あそこは家の問題なので気にしないことにした。 家族の話というのは、部外者が口を出し辛いものだ。 さて、変な空気になってしまったが昼休みもあと少しだ。 用件を再度聞かないとな

 

「それで? さっきも言ったけど用件は?」

 

「俺と戦え!今、ここで!」

 

「え? お前本当の馬鹿じゃないの? 今ここで? 場所を考えろ場所を。 何も関係ない、魔法も使えない一般人を巻き込むつもりか? それに、魔法はこういう魔法技術の発達していない世界じゃ、むやみに使わないことになってるだろ? 民間協力者なんだからそのくらいは知ってると思ったが、そこまで無知だったか...... それに俺たちは学生、これから授業だ」

 

「そんなのは関係ない、今、ここで!」

 

デバイスである剣のアクセサリーを構え、今にも変身しそうな雑種を結界を展開しバインドで拘束する

 

「結界......」

 

「展開が速い......」

 

「お前、何仕事増やしてくれてんの? 一応言っておくが、俺は嘱託魔導士の資格持ってるし、事件にもかかわるから逮捕権もあるからな?」

 

「離せ!」

 

「いやだよ。 離した時点で、お前俺に向かってくるだろ? そんな危険人物離すわけないだろ?」

 

そう言って、俺は背を向けその場を離れようとする。 さっきも言ったように、もう少しで予鈴が鳴る。 早退してもいいが、それは手続きが面倒なのでパスだ。 リンディさん達にバレれば、それもそれで面倒だし。 魔法はばれているだろうが

 

「ま、待って!」

 

「なんだよ?」

 

急いでその場を離れようとすれば、背中に声がかかる。 その声の主はフェイト・テスタロッサで、俺を見ていた

 

「織はどうするつもりだ」

 

「おいてくよ。 少し、頭でも冷やしてろ」

 

俺はそう言い残し、雑種たちをその場に置いていく。 まぁ、バインドは予鈴が鳴れば解ける仕組みなんだけどな

 



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第九十七話 会話

「それで? そんなくだらない理由で魔法を使用したと?」

 

「・・・・・・」

 

目の前にはお冠のクロノ。 当然のことだが、あの後すぐに事情を聞かれた。 授業中ということもありやめてほしかったが、そもそもまともに授業を受けてないのであまり関係ないのだが。 説明と言っても、簡潔に説明したため後で詳しい事情を聞くことになった。 もともと、俺は学校が終わればアースラに顔を出すつもりでいたので俺はそれを了承した。 今回の当事者ということで雑種も召集され、俺と雑種はクロノに事情を話していた。 まぁ、話し終わったら冒頭というわけだ

 

「待て待て待て、俺は悪くないだろう。 そもそも、こいつがいくら人気がないとはいえ学校でバリアジャケットを展開しようとしたんだぞ、人除けの結界と拘束は当たり前だろ」

 

「君の意見もわかる、が...... 君ならもっとスマートに対応できただろう?」

 

「まぁ、鳩尾に拳をいれて気絶させてもよかったが、それで逆上してこっちに手を出すやからがいるだろう?」

 

クロノの意見ももっともだが、俺が雑種に手を出せば逆上して襲ってきそうなのが一人いる。 そいつを見れば、こっちをまっすぐ見ていた

 

「そんなことはしない」

 

「どの口が言う」

 

「喧嘩ならよそでやってくれ」

 

クロノが額に手を当てやれやれみたいな顔で見てくるが、いささか心外ではなかろうか? ともかく、説明責任は果たしたので仕事の話に移ろうとしたのだが、それまでぶつぶつ何かを言っていた雑種が急に話に入ってくる

 

「やっぱりクロノもこいつに!」

 

「いったい何の話をしているんだ君は? それより魔法を、いや未遂だが使おうとした件についてだが......」

 

「それはこいつが!」

 

「確かに彼の言い方も悪いが、先に手をあげようとしたのは君だ。 念のために、デバイスから映像提供も受けている。 神木のだけでなく、なのはのレイジングハートやフェイトのバルディッシュからもな」

 

「何でだ!なんでわかってくれなんだクロノ!操られているとはいえ、お前ならコイツの危険性が分かるはずだ!自由にしておいてはいけないやつのはずだ!!」

 

「・・・・・・はぁ」

 

雑種の言葉に、思わずため息をつくクロノ。 散々な言われようだが、今のところお前の発言のほうがやばいからな? なおもヒートアップする雑種に、クロノはこちらに視線をよこす。 いやいや、俺の場合火に油を注ぐだけだから。 そういう思いを視線に込めてクロノを見返せば、頭が痛そうに顔をしかめる

 

「もういい、君の言いたいことは分かった」

 

「本当か、クロノ!?」

 

「今回の件は不問にしよう。 で、君の言い分だが当然通るものではない。 一応、曲がりなりにも神木は管理局所属だ、変な理由で拘束なんかは出来ない。 だが、君が彼と戦うというのは構わない。 場所もこちらで用意する」

 

喜ぶ雑種とは対照的に、クロノは疲れた表情をしていた。 場所などを整えるため、決戦は後日となった。 それまでの私闘、喧嘩も禁止だそうだ。 雑種は少し不満そうだったが、俺的には絡まれる回数が減るので万々歳だ。 ともかく、今日は解散となった。 まぁ、俺は仕事の関係もあるので残り、クロノに真意を聞くことにした

 

「それで、お前にしては珍しいなクロノ」

 

「このまま彼を放っておけば、君や僕の業務に支障が出る。 闇の書の事件の後処理も大体終わって、ようやく一息付けたんだ、僕だってこれ以上仕事は増やしたくない」

 

苦々しい顔をしながら言うクロノに、俺も苦笑して同意する。 まぁ手伝いとは言え、俺もかなりの枚数の書類を処理した。 しばらくはあんな数の書類は見たくない

 

「それに」

 

「それに?」

 

「形はどうあれ、君も彼とは決着を付けたかったんだろう?」

 

「・・・・・・」

 

流石クロノ、よく見ている。 俺が死ぬ気で修業した甲斐があったのか。 雑種は本当に守る価値があったのか。 そういうのを図るという意味では、今回の勝負は俺にとってもありがたい申し出だった。 この道を選んだのは確かに俺だが、雑種に責任がなかったかといわれれば首をかしげる。 責任転嫁するつもりはないが、俺は聖人君子ではない。 そう考えないとやってられない時期も確かにあった

 

「それに、監視できるところでやってもらったほうが、こっちとしても安心だしな」

 

「おいクロノ、それが本当の理由だろう」

 

俺の感動を帰せ



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第九十八話 バトル

もう完結まで駆け足だし、投稿ペース上げても誰も気づかへんやろ(ハナホジー
そんなわけで、投稿ペース上げます。 完結は本当ですので


「・・・・・・なぁクロノ」

 

「・・・・・・なんだ」

 

「俺が言いたいことは分かるよな」

 

「それなら君も、僕の言いたいことは分かるだろう」

 

「「はぁ......」」

 

クロノと俺はそろってため息をついた。 空は快晴と行かず、曇天。 まぁ、別にそれはいいんだけどな? 目の前にはバリアジャケットを展開し、戦う気満々の雑種。 何故こんなことになっているかというと、先日話していた決戦の準備が整ったのだ。 海の上での決戦だ。 そのほうが被害が少ないし、万一結界を破壊してしまっても大丈夫なように、だ。 なんか、思ったが決戦が海の上というのも多いような気がする。 高町なのはとフェイト・テスタロッサ然り、闇の書の時然り。 ここまではいい、()()()()()、な。 問題は、暢気に手を振っているはやての八神一家。 視線を向けると、満面の笑みでこちらに手を振るアリシアのテスタロッサ家。 それに高町なのはやアリサ・バニングス、月村すずかと、魔法に関係ない一般人までいる始末。 おい、魔法技術の秘匿はどうした、クロノ(管理局)。 あとは家族である玉藻、リリィ、マシュ、ハサンがこの場に居る。 まぁ、なんだ? 正直に言えばギャラリーが多い。 そんな余計なことを考えているのが気に食わないのか、早速雑種がかみついてくる

 

「おい、バリアジャケットはどうしたんだ」

 

「あぁ、展開しないとな。 ペイルライダー」

 

「セットアップ」

 

バリアジャケット、前のように鎧ではあるが、色は黄金から黒に。 前みたくごてごてにつけるのではなく、最低必要限に、だ。 別に重さはないのだが、とにかく動き辛かった。 なので、軽装というわけだ。 俺がバリアジャケットを展開すれば、雑種満足そうに頷き、こちらを指さしてくる

 

「これで準備は整った。 お前の嘘を暴き、お前がみんなにかけた能力を解くために」

 

「・・・・・・」

 

妄言もここまで来れば立派なものだ。 特に何も言う気が起きず、俺は腕を組んで開始を静かに待つ。 そこで、俺たちにクロノから通信が入る

 

『それじゃあ、勝っても負けても、後腐れなしだ。 これ以降、もし私闘をしようものなら厳罰に処すから覚悟しておいてくれ』

 

「当たり前だ!」

 

「了解」

 

緊張感も高まり、雑種は臨戦態勢だ。 俺はそのまま腕を組んで静かに開始を待つ。 そして

 

『開始!!』

 

という言葉と共に、雑種が勢いよく突っ込んでくる。 俺はそれを慌てることもなく、冷静に見る。 そう、移動することもせずにただ見てるだけ

 

「もらった!」

 

という声と共に出された拳を右手でいなしながら、左手を額に持っていく。 直後、バチンという音と共に雑種が吹き飛ばされた。 おー、おー、ただのデコピンなのによく飛ぶこと。 俺がした攻撃はデコピンであり、攻撃らしい攻撃ではない。 それなのに派手に飛んだ雑種。 少し離れたところで体勢を立て直し、俺にデコピンされたところを抑えながらこちらを睨みつけてくる

 

「つぅ...... な、なにが?」

 

「何がって、デコピンだよデコピン」

 

「ふざけてるのか!真面目にやれ!!」

 

「別にふざけてないんだが?」

 

再度真正面から向かってくる雑種に、芸がないと思いながら応戦する。 大ぶりの拳を上半身をそらすことにより回避し、がら空きのボディーに拳を打ち込み、デコピンで派手に飛ばす。 さっきのリプレイみたいになってしまった。 まぁ、今回はボディーに拳が刺さったわけで、さっきより長い時間をかけ体勢を立て直す雑種。 顔は苦しそうだが大丈夫だろうか?

 

「ふざけて、いるのか!」

 

「だからふざけてないって」

 

「ならなんで、デコピンだけなんだ!!」

 

「弱い者いじめは趣味じゃないんだ」

 

「っ!!」

 

俺のこと射殺さんばかりに睨んでいるが、何をそんなに熱くなっているのか全然わからない

 

「付け加えるなら、俺はこの場から一歩も動いてないし、身体強化も必要最低限だ。 王の財宝(チート)も元から使うつもりはないしな」

 

「ふざけるな!!」

 

「ふざけてねぇよ。 それくらいハンデを付けないと、いや、つけたとしてもお前は俺に勝てない」

 

「そんなことは...... ない!!」

 

ようやく学習したのか、真正面から来るのをやめる。 そして、それと同時にシューターもそれなりの数襲ってきているが、こんなもの余裕すぎる。 冷静にナイフで切っていき、雑種は剣の横っ腹に拳を打ち付け軌道をそらし、体勢を崩したところで襟をつかみ海に勢い良く投げる。 どれもこれも雑だ。 それにしても、雑種のチートである未来視の調子が悪いのか? さっきから攻撃がまる当たりだが。 もしかしたら...... いや、十中八九そうだろう。 ちょうど雑種は海から上がってきたところだ

 

「なぁお前、チートが使えないだろ」

 

「それがどうした!!」

 

戦いにおいて情報というのは大事なものだが、戦略や駆け引きというものは雑種には存在しないものらしい。 いや、これが嘘の可能性もあるが

 

「それがなかったとしても、僕は勝つ!」

 

「能力におんっぶにだっこだった奴がよく言う」

 

向かってくる雑種だが、そのすべてをことごとくいなし、デコピンで時には投げて応戦する。 シューターも飛んできてはいるが雑で、そのすべてをナイフで切り伏せる。 まぁ、言うことがあるとすれば数が増えてきているのと、学習しているのかフェイントなどが混じってきたのがうざいくらいだ

 

「な、なんで!」

 

「だから言ってるだろ、()()()()()()()()()()

 

「ならあれが本当だと? お前が神様を殺したって言うのか!!」

 

「あぁ、殺したよ、それがどうした?」

 

「それが? それがだと!? あの神様は僕たちの命の恩人で!」

 

「命の恩人、ねぇ......」

 

そう言いながら、王の財宝から剣を一本射出する。 それは雑種の頬をかすめ、その切り口から血が出る。 それを触りパニックを起こす雑種に、俺は問いかける

 

「こんな望んでもいない能力を付けられ、お前の引き立て役にさせられた俺が、感謝してると思うか?」

 

「それはお前が望んだ力で!!」

 

「それを望むほど俺はマゾじゃねーよ。 そんなんだからお前は、(アレ)の暇つぶし対象に選ばれたんだよ」

 

「暇、つぶし?」

 

「俺の記憶を見たのなら、(アレ)がどんなものかわかっただろう? (アレ)が本性ってわけさ。 俺たちは、いや、お前はそれに言いように利用されていただけだ」

 

「・・・・・・」

 

俺がそう言うと虚ろな表情になり、俯いてしまった。 これで終わりかと思い、アースラで見ているであろうクロノに通信をいれようとしたが、何かぼそぼそ聞こえる。 その音源は雑種だった

 

「・・・・・・」

 

「? お前、なに、っ!?」

 

「マスター」

 

「わかってるさ。 おい雑種、話し中に襲うとは感心したよ」

 

雑種のところに戻っていくシューターを見ながら、俺は感心したようにつぶやく。 まぁ、皮肉なんだけどな。 それを受けて、雑種は顔を上げる。 まぁ、何というか、今までの一番の殺意でこっちを見ている

 

「お前の言葉には惑わされない、神様は僕を救ってくれた。 前世のみじめなところから救ってくれたんだ。 だから嘘をついているのはお前だ」

 

「ある意味哀れだな、お前」

 

あんなのに救われたと勘違いしているとは

 

「うるさい!!手加減なんてなしだ!お前を再起不能にしてやる!!」

 

「クックック!雑種が、大きく出たもんだな!!」

 

魔力は爆発的に上がり、シューターの数もこれまでの比じゃない。 流石にこれじゃあ、管理局が張った結界は持たないな

 

『クロノ、結界はこっちではりなおす、いいな?』

 

『大丈夫、なのか?』

 

『俺があんなのに負けるはずないだろ』

 

クロノは心配そうに聞いてくるが、俺は自信を持ってそう返した。 そして、玉藻に声をかける

 

『玉藻、結界を頼む』

 

『わかりました、マスター』

 

『マシュはもしものことがあったら、防御を』

 

『はい!』

 

「さてやろうか雑種」

 

「神木ぃぃぃぃぃ!!」

 



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第九十九話 第二ラウンド

2018.11.5 指摘のあったところを、修正しました。 ご指摘ありがとうございます


動きは相変わらずワンパターンである物の

 

「チッ」

 

()()なってきている。 いや、学習してきていると言ったほうが正しいか。 被弾はしていないし、最初から一歩も動いていないがそれも時間の問題だろう。 一個でだめならふた二個、二個でだめなら三個。 同時に襲てくるシューターも魔力にものを言わせ増えてきているし。 まぁ、そっちはガラクタの操作だろうし、消費魔力は激しいが俺もシューターを使えば済む話だ。 雑種の方は相変わらず向かってくるが、デコピンで吹き飛ばされても起き上がるのが速くなってきた。 まぁ、プロテクションを展開しているのもあるんだろうが。 さっきから一発で割れないことも多くなってきてるし

 

「届いたぁ!!」

 

「腕掴んだくらいで調子こくな」

 

すぐに振り払い、掴まれていないほうの手で殴りつける。 プロテクションは簡単に割れ、雑種の顎をとらえる。 綺麗な入り方をしたから脳震盪を起こしているはずだが、飛んでるから関係ないか? いや、視線が定まってないようだが。 追撃を与えようか迷っていると、叫び出す雑種。 なんというか、うるさくて哀れな奴だ

 

「なんで!なんでなんで何で!!」

 

「うるさいやつだなぁ......」

 

「うるさいのはお前だ!偉そうに、僕のこと見下して!なんでお前に勝てないんだ!!」

 

飛ぶスピードは落ちた代わりに、シューターの数が増えた。 流石にアレを全部ナイフで捌くのは時間がかかりすぎる。 二十は超えるシューターを相手に、俺が作り出したシューターは五個。 シューターの解析など、とうの昔に終わっている。 ならそれに見合った魔力で作れば、魔力消費は最小限で済む。 チートがないと俺の魔力は低いのだ。 シューターを高速で射出し、雑種のガラクタが作ったシューターをことごとく打ち抜いていく。 だが、厄介なのがシューターを撃ち抜いても、その倍以上をすぐに作られることだ。 いや、本当に厄介すぎるんだけど。 雑種はもう目と鼻の先だ

 

「ペイル」

 

「お任せくださいマスター」

 

俺はシューターをさらに二つ増やし、操作をペイルに任せる。 その間に、俺は雑種の迎撃だ。 剣で斬りかかってくるが、大ぶりなそれを最小限の動きで避け、蹴りをいれる。 プロテクションを砕いた感触があったが、どうにも蹴った感触が重かった。 そのせいか、雑種の距離を離すことができずすぐに切りかかられる。 今度は横に薙ぐような攻撃を、身をかがめることによって避け、鳩尾に拳を叩き込む。 またもプロテクションを砕いた感触はあったが、最初のように吹き飛ばない。 まぁ、鳩尾を殴ったのだ苦しそうではあるのだが。 何で殴った感触が重いのかはわからないが、何かしているのは間違いない。 飛行魔法をいじくって、自分を重くしているとか、か? どっちにしろ、攻撃のスパンが短くなっている。 シューターも周りに飛んでるし、うざったい

 

「ああああああああ!!」

 

「・・・・・・ッ!!」

 

いい加減暑苦しかったので、突きを剣の腹を殴ることで軌道をそらし、勢い余って体勢を崩したところに身体強化を全力でかけ、腹に膝蹴り。 そして浮き上がった体をつかみ、海に思いっきり投げ込んだ。 着水した瞬間、かなりの水柱が経ったが本気で投げたのだ時間が稼げないと困る

 

「悪かったな、シューターのほうを任せて、ペイル」

 

「いえ、これくらいなんてことはありません」

 

状況を確認しつつ、ペイルをねぎらう。 雑種は上がってくる様子がないが、まさか気絶したか? それで海に投げ込んだのは流石に危ないので、クロノに連絡を取ろうとしたがそれは杞憂だったようだ

 

「ぷあぁ!!はぁ、はぁ......」

 

勢いよく海から上がってきた雑種は、酸素を求めながらも俺を睨みつけていた。 最初から変わらず睨みつけているが、そこだけは称賛に値するよ、いやホントに。 でもねぇ

 

「それで、まだ続けるのか?」

 

「・・・・・・」

 

「返答なしか...... 何度も言うように、弱い者いじめはしたくないんだが? お前の実力なんかたかが知れてるし、これ以上は無駄だと思うんだが?」

 

「・・・・・・」

 

これにも返答なし。 これは気絶させて、強制的に終わらせるしかないかなー、なんて思っていると、雑種が口を開いた

 

「・・・・・・お前のあの記憶が本当だったとして、何故神様を殺す必要があったんだ」

 

「はぁ? 見たならわかるだろ? 殺さなきゃ、俺が殺されてた。 ヤラレル前にヤッタ、それだけの話だよ」

 

「話し合う気はなかったのか!」

 

「え? お前本当に頭大丈夫か?」

 

話し合う気はなかったのかって、(アレ)自体が話し合う気がなかったのに、どうやって話し合いをするのだろうか? 話し合う気が合ったのなら、そもそもこんな状況になってはいなかったと追うのだが? まさか、デコピンのし過ぎで頭おかしくなったか?

 

「大体サーヴァント達も、サーヴァント達だ!」

 

「あ?」

 

「お前がこうなったのも、サーヴァント達が止めなかったからだろ!? あんな小さいころから血反吐を吐く特訓なんて、普通は止めるはずだ!!」

 

「・・・・・・」

 

コイツ、今なんつった? 俺がこうなったのは、サーヴァント達のせいだと? アイツ等は何時でも、俺を止めていた。 それを聞かなかったのは俺で、アイツ等は何も悪くない。 いつでも差し伸べられていた手を、取らなかったのは俺で、アイツ等は何時も説得しようとしていた。 それを、言うに事欠いて、アイツ等が悪い? ギャーギャー雑種がわめいているが、どうでもいいか......

 

「だから!「もういい、黙れよ」ッ!?」

 

雑種がこちらを見て驚いた顔をしているが、どうでもいい。 いや、最早雑種と呼ぶのもおこがましい。道の端に落ちている石ころ(あんなもの)

 

「おい、お前の言っていた通り、本気を出してやるよ......」

 

「ど、どこに!」

 

相手が俺を探しているが、おかしいものだ。 俺はすぐ後ろに居るというのに

 

「死ぬんじゃないぞ?」

 

「っ!? ぐぁっ!?」

 

後ろから、思いっきり背を蹴り上げる。 それを追うように、王の財宝から追尾式の宝具を射出する。 ガラクタのほうがシューターで対応しようとしているが、追加の王の財宝で生み出された瞬間に撃ち落とす。 なんとか対応している相手だが

 

「そっちばっかり気にしていていいのか?」

 

「な、なんで!?」

 

俺が自分の背に居るのを見ると、恐怖で顔が引きつっていた。 なんでも何も、気配を消すのは大得意だ。 そもそも、気配察知に敏感じゃない、一つのことにしか対応できない、そんな奴の背後くらい簡単に取れる。 王の財宝からハンマーを取り出し、振り下ろす。 腕でガードしたようだが、折れた感触があった。 そのまま水に着水するが、すぐに這い上がってきたようだ。 まぁ、関係ないけどな?

 

「呪相、氷天」

 

相手の周りの海を凍らせれば、そんなものは関係ない。 ちょうど、足が上がりきっていなかったようだ。 その場に縫い付けることができたので、ゆっくりと降りていき氷でできた地面に着地する。 外野がうるさくなってきているが、俺の耳には届かない。 相手はシューターを飛ばしてくるが、大多数は王の財宝で撃ち落とし、少数は刀で切り刻みながら一歩ずつ相手に近づいていく。 泣きわめいているようだが、最早気にしない。 だって、石ころなんて気にしても無駄だから。 設置型のバインド等もガラクタが仕掛けたようだが、そんなものは一瞬で破壊し、相手の目の前まで来た

 

「ペイル、カートリッジロード」

 

空の薬莢が排出され、それがカランコロンと音を立てる。 俺はペイルを掲げる

 

「お前は俺の家族を悪く言った、死ぬ準備は出来てるんだろう?」

 

「やめて、殺さないで!!」

 

「まぁ、お前が何を言っても、どうでもいいんだけどな?」

 

「やめて!やめてください!お願いします!!なんでもしますからぁ!!」

 

「・・・・・・」

 

俺は剣を振り下ろそうとして

 

「やめて理樹君!!」

 



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第百話 決着

「・・・・・・何のつもりだ、マシュ、リリィ、玉藻、ハサン」

 

相手に剣を振り下ろそうとしたが、それは叶わなかった。 マシュが俺と相手の間に入り、リリィは剣で受け止め、ハサンと玉藻で俺を抑えていた。 こいつを殺したいと言っていた玉藻たちがこいつを助けるとは、よくわからないもんだな。 まぁいい

 

「どけ、マシュ、リリィ。 そして、手を放せハサン、玉藻。 それを殺せないだろ?」

 

「ここは...... どきません」

 

「私もマシュと同じです」

 

マシュは顔を伏せながら、リリィは悔しそうに顔をゆがませながら俺の言ったことを否定する。 ハサンと玉藻はどうなのか、ハサンと玉藻を見ればこちらに視線を向けていないが、腕を放そうとしない

 

「もう一度言う、どけ、そして腕を放せ」

 

「・・・・・・放しませぬぞ、マスター殿。 どうしてもというのでしたら、令呪を使って命令すればいいのです」

 

「・・・・・・」

 

どうも俺も冷静ではなかったらしい。 そうだ、令呪で命令すれば強制的に玉藻たちは離すだろう。 俺は命令しようとした、俺を離せと、俺の邪魔をするな、と

 

「・・・・・・」

 

だが、言葉は出てこなかった。 何ともお粗末な結果だ。 家族に止められ、決心が鈍るとはな

 

「ふぅ...... 玉藻、ハサン、もう離していいぞ、腕が疲れた」

 

「「・・・・・・」」

 

俺の言葉に、二人は何の疑いもなく腕を放す。 とっくの昔に力が抜けている腕だ、離せばだらんと垂れ下がる

 

「ペイル」

 

「了解です、マスター」

 

俺の鎧は解除され、私服に戻る。 そこまで来て、ようやく剣と盾を下ろすマシュ。 続々と到着するギャラリー、なんとも言えない空気が流れる

 

「マシュもリリィも悪かったな」

 

「いえ......」

 

「気にしないでください」

 

「神木、アンタ......」

 

「神木君......」

 

「・・・・・・」

 

最後に遅れてやってきたのは高町なのはだった。 俺は何か言いたそうにしている高町なのはを一瞥し、転送魔法を使いその場を後にした

 

------------------------------------------------------------------------

 

転送してやってきたのは、アースラ艦内。 まぁ、さっきの戦いの始末書を書かねばならないからな。 元々クロノともそういう約束だったし。 艦内を歩くが、玉藻たちとの会話はない。 ないが、一つ言っておかねばならないことがある

 

「みんな、その、止めてくれてありがとう」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

俺は前を向いて言っていたし、玉藻たちは後ろを歩いていたため表情は分からない。 止めてくれなければ、俺はあいつを殺していただろう。 いくら家族のことを言われたからと言って、別に殺す必要はない。 ・・・・・・相手をどれだけ恨んでいたとしてもな。 だから、止めてくれたことは感謝している

 

------------------------------------------------------------------------

 

「また随分と派手にやったものだな......」

 

「まぁ、そうだな、すまん」

 

今回の私闘に関しての始末書を書きながら、俺はクロノに謝る。 結界をはっていたとは言え、結構な数のシューターが飛び交っていた戦闘だ。 管理局側が最初に展開していた結界は、雑種に見事破壊されていたらしい。 それに関しては俺が玉藻に行って結界を頼んでいたからいいものの、俺の最後の氷天は結構な範囲が凍っていたらしい。 今その解凍作業中だとか。 なので、それに伴い俺の報告書が増えた。 まぁ、それに関しては問題ないのだが

 

「まぁ、戦闘中の音声はこちらにも入っていたからな、理由が理由だけにこちらとしても責められないさ」

 

「いや、重ね重ねすまん、としか」

 

「艦長は、最後のにはご立腹だったけどね」

 

「・・・・・・」

 

始末書を作成していた俺の手が止まる。 最後のというのは、俺がアレを殺そうとしていたことだろう。 まぁ、局員としては問題か

 

「お前はどうなんだクロノ」

 

「僕かい? 僕は、そうだな...... 局員だって人間だ、そういう間違いがあるのは仕方ないんじゃないか? 君は、()()()()()()()人間だが。 あくまで僕個人だ、執務官的にはグレーさ」

 

「趣味の悪い質問だったな」

 

そう言って、始末書の作成に戻る。 沈黙が部屋を包むが、それもすぐに終わる

 

「終了」

 

「そうか、時間も時間だ、ご飯、食べていくか?」

 

「それもそうだな」

 

 




なんか、今回短くなってしまった...... とりあえず、これで許しちくりー


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エピローグ
第百一話 密談?


「なのはのことをどうにかしなさいよ」

 

「話があるからついてこい、って言われてのこのこついてきたらそんな話だとは......」

 

そう言いながら、俺は出されていた紅茶を飲む。 事の発端は朝、アリサ・バニングスに放課後暇なら付き合ってほしい、ということだった。 まぁ、俺もこの歳で仕事している身だ、そこら辺を解ってこの誘い方なのだろうが。 今日は管理局のほうの仕事もなくOFFだったので、了承したのだが。 あれよあれよと家に招待されこの状態だ。 まぁ、月村すずかのように拉致されないだけましか。 当たり前のことだが、高町なのははこの場に居ない。 まぁ、そのことについて話しているのだから当たり前だ。 と言っても、月村すずか、はやてなどはいるのだが。 件の二人に視線を向ければ、にこにことこちらを見ているだけ。 もっとも、はやては普通にニコニコしているが、月村すずかの方は笑みが深く何を考えているかわからないが。 関係ないことは明後日の方に投げておくとして、紅茶を置きながら答える

 

「答えはNOだ。 言ったはずだ、もうお前らには積極的にかかわらないと」

 

「それとこれと話が別でしょ!この頃のなのはを見て、アンタは何も思わないわけ!?」

 

机に手をついて、こちらを睨みつけてくるアリサ・バニングス。 親友のことを原因の男に丸投げしようとしているくせに、何を言っているのやら。 そう思ったが、俺も同じようなものかとすぐに考え直す。 あの件、記憶を戻して以来高町なのはは暗くなってしまった。 俺に罪悪感を感じているというのもあるのだろうが、記憶を失っていたことが一番ショックだったのだろう。 俺は本人ではないし、それが当たっているとも限らないのだが。 ともかく、あの一件以来高町なのはは変わってしまった。 だが、どこか既視感を覚えるのは何故なのか

 

「まーまーアリサちゃん、一回落ち着こう?」

 

「・・・・・・」

 

依然こちらを睨みつけてくるアリサ・バニングスだが、はやての言葉に腰を下ろす。 それを確認して満足そうに頷き、こちらに話を振ってくるはやて

 

「まぁ、今のなのはちゃんを見て何を思うかは別として、理樹君のせいやろ、なのはちゃんの今の状況は? なら責任を持って解決するのは理樹君の仕事やと思うんやけど、どうや?」

 

「・・・・・・その通りだ」

 

ぐうの音も出ない正論だ。 すべては俺が引き起こしたものだ。 俺が解決するのが筋だ。 あの時、伸ばされた手を取っていれば結果は変わっていたかもしれないが、そんなものは後の祭りだ。 リリィの言っていた通り、逃げていたつけが回ってきたのだ

 

「それで、どうするつもりなんや?」

 

スプーンで紅茶を混ぜ、こちらを見つつ紅茶を飲むはやて。 どうすると言われても

 

「話すしかないだろう? 解決するかどうかは別として」

 

「まぁ、そうやろうな」

 

紅茶を静かに置き、その紅茶をじっと見ていたと思ったら、アリサ・バニングスと月村すずかに話しかけるはやて

 

「ま、こういうことになったみたいやけど、アリサちゃんとすずかちゃん的にはどうや?」

 

「私は!私は、前のなのはに戻ってくれるならそれでいいわよ...... 今のなのは、見てられないもの」

 

そう吐き出すアリサ・バニングスの顔は、どこか悔し気だった。 今の高町なのはを見かねて、話しかけたりはしていたアリサ・バニングスだが、その表情は一向に晴れることはなかった。 親友に対して何もできなかったからか、親友というか友達想いなアリサ・バニングスからしたらそれは悔しかっただろう。 しかもその原因に頼らなければならない、なんてことになったら

 

「私は...... そうだね、前のなのはちゃんに早く戻ってほしいかな」

 

相変わらず笑顔で表情は読めないが、それは早くしろということなのか。 その二人の答えに、はやてはもう一度満足気にうなづくと、真剣な表情でこちらを向く

 

「まぁ、理樹君的にはこれまでずっと触れずにいた問題や、今更触れるのにはためらっているんやろうけど、逃げるのだけは許さへんからな?」

 

「・・・・・・わかってる、分かってるさ」

 

「ならええわ。 それに、この問題を片付けなきゃ真の解決なんて言えないやろうしな」

 

「・・・・・・」

 

真剣な表情でこちらを見られ、思わず目をそらしてしまった。 わかったようなことを...... そう悪態をつきたかったが、ぐっとこらえる。 実際、はやての言っていることは正しい。 ずっと逃げていたのだ、いい加減向き合わねばならない時が来た、それだけの話だ。 そう思って席を立つ

 

「神木?」

 

「話は終わっただろう? 帰らせてもらう」

 

かばんを持ち上げ、はやてたちに背を向ける。 何も言ってこないところを見ると、帰っても問題ないようだ。 それにしても、逃げずに向き合う、か。 アリサ・バニングスのうちを出ながら、考える。 どちらにしろ、先送りにしていた問題が今このタイミングで持ち上がっただけだ。 どういう形であれ、高町なのはとはちゃんと向き合わねばならない。 覚悟がなかったのは、俺のほうなのかもしれないな。 記憶を取り戻す薬を渡した時、俺は高町なのはに問うたけど、向き合う覚悟がなかったのは俺のほうだったのかもしれない。 そう考えると自嘲する、いまさら何をと。 どちらにしろ、ちゃんと向き合わなければならない。 はやてが言ったように、これを解決しなきゃ真の解決とは言えないだろうから

 



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第百二話 終局

学校に到着して教室内を見回すが、高町なのは達の姿はない。 まぁ、何時ものことなのだが。 距離は遠いにしても、余裕を持って家を出ているためバス通学の者たちより早いのだ。 適当にクラスメイトに挨拶を交わし、自席につく。 そこからは空を見上げボーっとしていた。 この頃は学校に来れば大体そうだった。 踏み台をしなくて良くなったせいか、よく言えば気が抜けた、悪く言えば腑抜けたためか、空を見上げボーっとしていることが多くなった。 まぁ、そもそも二回目の小学校だ、目新しいことでもない限りこんな反応にもなるだろう。 そういう意味では周りの奴らが羨ましい。 歳相応にはしゃいでいるのだから。 まぁ、そんなこと言ったら俺も歳相応になるのか。 くだらない自己問答をしていると、入り口のほうから声が聞こえる

 

「おはよー」

 

アリサ・バニングスの声ということは、どうやら一団が来たようだ。 視線をそちらに向ければ、俺の思った通りアリサ・バニングスに月村すずか、高町なのはにフェイト・テスタロッサともう一人がいた。 相変わらず高町なのはは元気がないようだ。 これで元気になってくれていれば、俺が出る幕もないのになとも思うが、それは逃げか。 席を立ち、アリサ・バニングスたち一行の方に向かう。 教室内が騒がしくなってきたが、相変わらずのようだ。 なんというか、歳相応にゲスというか

 

「あら神木じゃない、おはよう」

 

「あぁ、おはよう。 高町なのは、話がある。 放課後、時間取れるか?」

 

「え...... あの、その......」

 

横でアリサ・バニングスがアチャーみたいな顔をしているが、気にしないことにする。 俺が高町なのはに声をかけたことによって教室内がまた少し騒がしくなったが、気にしないことにした。 高町なのはは俺に急に話しかけられたためか、視線が忙しなく動き、泣きそうな顔を俯かせてしまった。 ため息をつきたくなるが、それをぐっとこらえる。 こういうネガティブになっているときにため息をつこうものなら、確実に自分を責めるからな、辛抱強く待つことにする

 

「「・・・・・・」」

 

辛抱強く待ってはいるものの、一向に何かを言ってくる気配のない高町なのは。 返事を聞かないことには話を進めようがないのだが..... この状況を見かねたのか、アリサ・バニングスが間に入ってくれるようだった

 

「・・・・・・なのは、どうなの? 放課後は予定空いてるの?」

 

「あい、てる......」

 

「らしいわよ?」

 

「わかった。 詳しい話は後にしよう、もう先生が来る。 アリサ・バニングスもすまない」

 

「良いわよ別に」

 

そう言って席につこうとするアリサ・バニングス。 俺も席につこうと歩き始めると、高町なのはからか細い声がした。 振り返れば、手をこちらに出している。 反射的になった、そんな表情をしていた

 

「・・・・・・話は後だ。 心配しなくても、今度はちゃんと話をするつもりだ」

 

俺がそう言うと、教室の扉が開く音がする。 そちらを横目で見ると、担任が扉を開けて入ってくるところだった。 それを確認した俺は、さっさと席につくことにした

 

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放課後の屋上、俺は高町なのはを待っていた。 まぁ来ない、ということはないだろうが心の準備ができてないのか、はたまた別の要因なのか放課後になってから結構な時間が過ぎていた。 屋上だから風がよく吹くため、少し寒い。 と言っても、身体強化の応用で体を温めているので風邪をひくような心配はない。 連絡はもちろん念話だ。 クラスメイトに聞かれれば、話を見ようとするに決まってるからな。 念話をした時、ピクリと体を震わせたので聞いているとは思うが

 

『ペイル、今何時だ?』

 

『もう最終下校時間近くになります』

 

意外にも時間が経っていたらしい。 学校が閉められるかもしれないが、そこは空を飛んで帰ればいい話だ。 魔法を気軽に使うな、何てクロノに怒られそうだが。 まぁ、ばれなきゃ犯罪じゃないのだ。 たぶん、大丈夫だろう。 落下防止の柵に体を預けながら、夕日を見ていた。 すると、屋上に通じる扉を開くような音がする。 ゆっくり振り返れば、高町なのはがこちらを見て呆然としていた

 

「何をそんなに驚いてるんだ?」

 

「だって、時間...... それに......」

 

「時間は特に指定してなかったしな、待つぐらいするさ。 それに、今度はちゃんと話をするつもりだ、そう言っただろ?」

 

そう言いながら、柵から体を離し、ちゃんと高町なのはに向き直る。 顔を合わせると、高町なのははうつむいてしまった。 まぁ、今回は気にせずに話をさせてもらうけどな。 ここに来たということは、話す気があるとうけとる

 

「今回呼んだのは記憶のことに関してだ、本当にすまなかった」

 

頭を下げ、言葉を続ける

 

「前にも言ったが、謝ってすむ問題じゃないのは重々承知だ。 高町なのは、君が何と言おうと俺は君の気持ちを踏みにじって利用した、それは事実だ。 君が何と言ったとしても。 だから責任を感じる必要はない」

 

「・・・・・・勝手なこと、言わないでよ。 勝手なこと言わないでよ!!」

 

「・・・・・・」

 

その言葉に、思わす下げていた頭を上げる。 ここ数日沈んだ顔しか見ていなかったが、高町なのはは怒っていた

 

「責任を感じる必要はないって、そんなことあるはずがない!!いくら薬を使われたからって言っても、忘れていい記憶じゃないかった!」

 

「・・・・・・薬の効果が効きすぎるのは当たり前だ。 アレははるか昔に作られたものだ、俺たちが抵抗できるはずがない」

 

「それでも!私は貰ったものを返せずに、それを仇で返すような真似をした...... 私は、それが......」

 

「何度も言ってるように、忘れていたのは仕方ないことだ。 お前は優しすぎるんだよ、なのは...... いっそのこと、責めてくれればどれだけ楽か......」

 

「それは理樹君もだよぉ...... 理樹君の状況じゃ、ああするしかなかったんだよ。 それなのに全部自分で背負いこんで、自分のせいだって、そんなのおかしいよ......」

 

「違う!それは違う...... 俺は逃げたんだ、お前から。 死にたくないって、それで......」

 

話は平行線だ。 俺は自分を許せない、高町なのはも自分が許せない。 それは分かっているが、感情を上手く制御できない

 

「「・・・・・・」」

 

無言の時間が続く。 高町なのはは泣きじゃくり、俺はそれを見ているだけ。 だって、俺にはその涙をぬぐってあげる資格はない。 何度も高町なのは、いや...... なのはから逃げたのだ、今更。 いや、これすらも逃げなのか。 なら俺のとる行動は一つなのだが、本当にいいのだろうか? そんな考えがぐるぐる頭の中を支配する。 でも、目の前でなのはが泣いているのは、嫌なのだ。 なら

 

「・・・・・・」

 

「え?」

 

無言でなのはを抱き寄せる。 まだ、俺は自分を許せないが

 

「まだ、俺は自分を許せない。 だがな、今目の前でなのはが泣いているのは嫌なんだ」

 

「理樹君......」

 

ぎゅっと抱きついてくるなのは。 胸がじんわりと暖かくなるが、上を見上げる。 もう夕日もほぼ沈み、空は星が見え始めていた。 なのはは俺の胸の中で、静かに泣いていた。 俺はそれを、泣き止むまで背中を叩いてあやしていた



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第百三話 エピローグⅠ

2018.11.10 誤字、サブタイトル修正。 ご指摘ありがとうございました


クリスマスに起こった闇の書事件も無事に解決し、季節は巡って春になっていた。 俺たちも小学四年生になったが、特に何も変わることなく生活を続けている。 いや、そう言えばはやてが編入するんだったか。 ともかく、生活面では変わりなく過ごしている。 まぁ、任務で忙しかったりしているのだが。 今日もその書類の処理で、俺はアースラにこもっていた

 

「こんなところに居たのか、まったく......」

 

「クロノ? どうしたんだ?」

 

扉の開く音がしたと思えば、クロノが呆れた表情でこちらを見ていた。 その表情ももう慣れたもので、俺はそのまま手を止めることなく書類を片付けていく。 この頃任務ばかりだったので、細かい書類が溜まっているのだ。 俺の様子を見てか、クロノはため息をつくと、こちらに近づいてくる気配がする

 

「今日のこと、何か聞いてないのか?」

 

「今日のこと?」

 

書類を処理しながら、横目でクロノを見ると額に手を当てヤレヤレみたいな表情をしていた。 なんなんだその表情は......

 

「なのはが連絡したと思っていたのだが...... それじゃあなくても、アリシアとかはやてとかがいるだろうに......」

 

「暇なら帰ってくれー、俺は見ての通り忙しい」

 

ぶつぶつ言い始めるクロノだが、こうなると長い。 なので、声をかけて退出を促す。 そうしないといつまでも続くからな、これ

 

「待て待て。 用があってきたのは本当だ」

 

「なら最初から用件を言ってくれ......」

 

キリのいいところまで終わったので、手を止めクロノに向き直る。 昨日任務から帰ってきてすぐに書類を始めたため、三分の二は終わった。 このままいけば、午後はゆっくりできそうだ

 

「花見だ、花見をしようということになってるんだ」

 

「花見ぃ?」

 

席を立ち、コーヒーを入れることにした。 自分の分だけではあれなので、クロノの分もいれ、自席に戻る

 

「あぁ、すまない。 話自体は前からあったらしい。 どうも都合が付かなくて、流れになっていたようだが」

 

「それってアースラクルーで?」

 

どうも朝から慌ただしかったが、ここ数時間は静かなものだ。 花見ということなら多分、最低限の人数しかアースラにはいないということで静かなのだろう

 

「そういうわけじゃない。 元々、この話はフェイトや、なのはの友達から来た話だしな」

 

「アリサ・バニングスと月村すずかか」

 

そう言えば前にも花見に誘われていたが、その時はみんな都合つかず、結局また今度となって連絡がなかったままだったな。 とすると、今回はいろんな人が集まっていそうだが

 

「まぁ、どのみちお前が来たってことは俺は逃げられないってことか」

 

「僕はそこまでするつもりはないさ、あくまで君の自由だ」

 

何て言っているクロノだが、ここに来たということは連れて行く気満々だろう。 正直言って、行きたくない。 そういう面倒なの嫌いだし、書類がまだ残ってるし。 まぁ、そんなこと言っても仕方ないので、カップを置き立ち上がる

 

「行くのか?」

 

「わかりきったこと聞くなよ。 それで場所は? というよりも、もう桜も散り始めてるから、花見もくそもないよな気がする」

 

「元も子もないことを...... 行こうか」

 

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宴会というものは、遅れて参加すると流れについて行けない。 そう思ったのは、俺だけではない。 隣のクロノを見れば、俺と同じ様な表情をしていた。 保護者または監督者ということを忘れたかのように酒を飲む大人組、大食いから何故か一触即発の空気を出す大食い組。 それを気にせず、談笑するもの...... まぁ、分かってはいたが宴会というものはカオスだ。 てか、さらっと流したがウチのサーヴァント達参加してるじゃないか。 いや、俺以外にも目を向けて仲良くなってくれえるのは嬉しいが、一言くれよ。 いや用事の内容まで聞かなかった俺が悪いのだが

 

「・・・・・・どうする、この惨状」

 

「・・・・・・僕も帰りたくなってはいるが、そうもいかないだろう...... とりあえず僕は、母さんとレティ提督、エイミィを拾ってくる」

 

「じゃあ俺は、あそこの大食いのところを何とかしますかね......」

 

互いにため息をつきながら、、その場を離れる。 なんか言い争いが聞こえるが、正直言って近寄りたくない。 だって内容の質が低いから

 

「リリィ」

 

「あ、マスター、遅いですよ!それと聞いてください、アルフが!」

 

「最初にアタシのをとったのはアンタだろ!」

 

「こ、こら!アルフ!」

 

フェイト・テスタロッサが必死に仲裁しようと入るが、仲裁できず。 というよりも、子供か貴様らは。 ともかく面倒になった俺は、リリィの頭を軽くはたく

 

「アイタっ!? マスター?」

 

「仲良く食え、いいな?」

 

「は、はい......」

 

俺が笑顔で言うと、若干引きつった表情のものの、了承するリリィ。 それを見てアルフは笑っていたが、フェイト・テスタロッサに注意されしょんぼりしているようだ。 俺は改めてフェイト・テスタロッサに向き直る

 

「すまんな、ウチの大食いが」

 

「えーっと...... ウチのアルフも悪かったから」

 

そっぽを向きながら言うフェイト・テスタロッサに特に何も思わず、その場を離れる。 離れるときに横目でリリィを見ていたが、今度は喧嘩をしていないようだ。 ちゃんとエリアを決めたらしい。 というよりそもそも、その鉄板、お前ら二人のものではないと思うのだが...... そんなことを想いながら、その場を離れ、酒飲みどもの元へ。 と言っても、玉藻やプレシアさん、アリシアと八神家の面々のほうなのだが

 

「あ、マスター、ようやく来たんですねー!」

 

飛びついてくる玉藻を躱しながら、はやて達に声をかける。 だって酒臭いし、酔っぱらいの相手はしたくない

 

「よぅ」

 

「あ、理樹だー!」

 

「ようやく来たみたいやなー」

 

手をあげて近づけば、こちらに気が付いたアリシアが飛びついてくるが、それをキャッチアンドリリースの形で放る。 まぁ、着地しやすいようにはしておいたので、難なくアリシアは着地した。 プレシアさんは相変わらず百面相。 はやては、担当医の石田先生だったか? と話していたようだが、こっちに気が付いたのか、挨拶をしてまた話に戻る。 そのほうが楽でいいのだが

 

「もー!女の子を放ったらいけないんだよ!それより遅かったね?」

 

「なら飛びついてくるな。 遅かったのは、今回の花見を知らなかったからだ。 それに書類も整理していたしな」

 

「ふむ、高町なのはは知らせていなかったのか?」

 

後ろから声をかけられ、振り返り確認する。 そこには、ジュースを両手に持ちこちらに歩いてくるリインフォースの姿が

 

「ま、俺もなのはも忙しかったからな」

 

「それだけではなさそうだが、そう言うことにしておこう」

 

笑ってそれだけ言うと、八神家プラスアルファーの方に戻っていくリインフォース。 さっきのことは、深く追求しないようにしよう。 それにしても

 

「玉藻さん、起き上がらないね?」

 

「・・・・・・まさかとは思うが」

 

アリシアと二人で近づいてみれば、玉藻は気持ちよさそうに寝ていた

 

「「・・・・・・」」

 

俺とアリシアは見なかったことにしておきたかったが、そうもいかず。 とりあえず、介抱はプレシアさんに任せ、そのまま散歩を続けることにした



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第百四話 エピローグⅡ

「おーい、アリサ、すずかー!」

 

「アリシアと、ようやく来たみたいね」

 

「遅かったね、神木君」

 

「そもそも、誘われていなかったからな」

 

何故かついてきたアリシアに引っ張られながら、酒を飲んでいる大人組の方に連行される。 こっちはあまり近づきたくないのだが、まぁ仕方ない。 アリサ・バニングスと月村すずかの両親に軽い挨拶をして、アリサ・バニングスと月村すずかに手招きをされたので、そちらに近寄る

 

「誘われなかったって、どういうこと?」

 

「言葉通りの意味なんだが?」

 

アリサ・バニングスが不思議そうに聞いてきたので、適当にコップをとり腰を下ろしながら自分の分とアリシアの分を注ぐ。 酒が散乱しているが、ちゃんとジュースをとったので問題ない

 

「なのはちゃんが誘うっていってたけど......」

 

「まぁ、俺もなのはも忙しかったからな」

 

場所を選んだのか、意外にも桜は散っていなかった。 それを見ながらジュースを飲む。 平和だななんて思いつつ、ジト目なアリサ・バニングスと月村すずかの方を見る

 

「なんだよ」

 

「本当にそれだけなのかと思ってね」

 

「それだけも何も、部署も違うし所属も違う。 会おうと思っても気軽には会えないだろ」

 

「会おうと思わなかったじゃなくて?」

 

「相変わらず失礼だな、月村すずか」

 

笑顔で威嚇してくる月村すずかを睨みつけ、黙らせておく。 やはりこの女、どこか黒い。 アリシアはこの話し合いをニコニコ見ているだけで、止めようとはしない

 

「大体俺を避けているのは向こうだ、そういうのは向こうに言ってくれ」

 

「ま、それもそうよね。 わかってはいたけど」

 

「・・・・・・」

 

「わかってたんなら言うなよ、って顔だね」

 

コイツ等...... そろいもそろって、分かっているなら言うなという感じだ。 俺の様子を見て、楽しそうに笑うアリシアに、微妙な表情のアリサ・バニングス。 月村すずか? 相変わらず笑顔で何を考えているかわからない。 声もかけずに立ち上がり、その場から離れるが、アリシアたちは何も言わなかった。 それどころか、三人で盛り上がっているようだ

 

------------------------------------------------------------------------------------------

 

散歩と言いつつ、結構歩いてきてしまった。 と言っても、公園を一回りしたくらいだが。 あまり席を外しすぎるのも何か言われそうなので戻るかと思い、歩みを進めようとすると前から見知った顔が

 

「よう、なのは」

 

「あっ....... 理樹、君?」

 

「なんでいるのって顔な」

 

暗い表情のなのはだった。 俺を見た途端、顔をそむける。 気まずい雰囲気だが、どちらかから話さなければいけない。 そう思い口を開いたが、出てきたのはどこか責めるような言い方になってしまった。 別にそんなつもりはなかったが

 

「そんなこと、ないもん」

 

「そうか」

 

会話が終わってしまう。 やはり俺は、なのはとの距離感をどこか測りかねているらしい。 まぁ、今まで拒絶していたんだ、すぐにはすぐ切り替えられるはずもない。 それはなのはも、だ。 風が吹き、桜が舞う。 風に流され、桜の花が宙を舞う。 まぁ散っていないと言っても、それはほかのところと比べれば、だ。 今日が花見でよかったのかもしれないな。 なんて考えながら、なのはのほうに歩き始める

 

「いつまでもここに居ても仕方ないし、行くぞ」

 

「・・・・・・」

 

なのはの手を取り、歩き始める。 昔も、どこかこんな感じだった気がする。 俺がなのはの手を引き、俺の友達と遊ばせる。 昔を懐かしく思う自分に苦笑しつつ、歳取ったななんて思う。 まぁ、実年齢考えれば納得なんだけど。 そんなことを考えていると、握られている手の力が強くなった気がする。 ともかく、ゆっくりと歩き続ける。 宴会場に近くなったのか、段々と声が聞こえてくる。 結構距離は離れているはずだが、ここまで聞こえるって結構騒いでるよなぁ、なんて思いつつ手を放そうとする。 のだが、離してくれない

 

「なのは?」

 

「・・・・・・離しちゃ、嫌だもん」

 

「と言っても、近くなってきたから繋いでたら、何か言われるぞ」

 

「・・・・・・」

 

今度は答えずに、首を横に振る。 はぁ...... なんか本当に昔に戻ったような感じだ。 昔、会った頃だと毎回こんな感じだった。 だから、ずっと手をつないで遊んでいた。 動きにくかったけどな。 喧騒に近くなる中、不意になのはが聞いてくる

 

「・・・・・・誘ってなかったのに、どうして?」

 

「クロノがな、書類を片付けているときに来てな。 行かなくてもよかったんだが、まぁ来ないと来ないでうるさそうだったしな」

 

「・・・・・・」

 

「ま、それはそれとして。 別に気を使わなくてもいいぞ」

 

「え?」

 

「俺のこと誘うように、言われてたんだろ? 忙しいのは分かってるし、こっちも忙しいが、もう決めたからな、逃げないって」

 

「理樹君」

 

振り返ってなのはにそう言えば、なのはが泣きそうな顔でこちらを見ていた。 いやいや、これからみんなのところに戻るのに、そんな泣きそうな表情も困るのだが。 俺もなのはも、歩み寄らなければならない。 今はまぁ、ぎこちないけど、いつか普通になるように。 昔みたいとはいかなくても、普通の関係に戻れるように。 そんなことを考えながら、歩き始める。 大人組の大部分は騒いでいるためか、子供と数人の保護者が固まっている。 俺はそっちのほうに歩き始めると、俺に気が付いたのかアリシアとはやてが手を振っていた。 なんか小さく悲鳴が聞こえたが、よくわからん

 

「いよ」

 

「どこ行ってたんや?」

 

「散歩だよねー?」

 

何て騒がしく迎えられ

 

「なのは、アンタどこ行ってたのよ!」

 

「え、えっと、えとえと......」

 

アリサ・バニングスに詰め寄られ、助けを求めるように見てくるなのはを無視しつつ、みんなの輪に加わった

 




そんなこんなで完結です。 長い間(?)ありがとうございました。 本当に途中で心折れて書く気がなくなったり、モチベーションが上がらず...... なんてことがありましたが、皆さんのおかげで無事に完結しました!

この後の予定ですが、活動報告のほうで改めて書きましたので、お手数ですが意見をお願いします。 

本当に、ありがとうございました!


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分岐ルート
第百話Ⅱ 


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

遠くから悲鳴が聞こえる。 いや、実際遠くじゃないのかもしれないが些細な問題か。 俺の刃は奴をとらえた。 刀を振り下ろしたのだ、返り血がひどい。 刀を握った手を見ても、何処を見ても血だらけだった。 切ったものを見れば、アレだけ騒いでいたのにもかかわらず、今は静かだ。 自分から流れ出ている血だるまの中で、ピクリとも動かない。 それを俺は、何も思わず見下ろしている。 すると、何か黒く、金色な物体が目の前のものを回収している。 俺を睨みつけて。 赤い瞳を見て、それがフェイト・テスタロッサだと、ようやく俺はこの時気が付いた

 

「理樹君......」

 

ほとんど無意識につぶやかれた自分の名前に、反射的にそちらを向けば、高町なのはが悲しそうにこちらを見ていた

 

------------------------------------------------------------------------

 

その後のことは、よく覚えていない。 誰かから罵倒されたような気がするし、そうでないのかもしれない。 俺はクロノに拘束され、アースラに転移させられた。 今は厳重に拘束され、クロノの目の前に座らされていた。 クロノの他に監視員もいるようだ

 

「どうしてこういう状態になったか、分かるか?」

 

「・・・・・・」

 

何を怒っているのか、クロノはこちらを睨みつけている。 対して俺は無言。 血が付いたまま、クロノに向かい合っている

 

「答えろ、神木!」

 

「アレを、手にかけたからだろ」

 

「正確に言えば違うが、大筋はあっている。 お前が振り下ろした刀は、奇跡的に致命傷にならなかったそうだ。 だが、数ミリずれていたら藤森を殺していたんだぞ!」

 

「・・・・・・」

 

数ミリずれていたら殺していた、ということは殺し損ねた。 その事実に俺は、残念に思ったのか、ホッとしたのかよくわからなかった。 自分のことながら、自分のことがよくわからない。 冷静に自分のことが判断できないらしい

 

「確かに、藤森はお前のサーヴァント(家族)を貶した、だがそれが殺していい理由にはならない。 神木、君にならわかるはずだ」

 

「・・・・・・」

 

クロノが何を言っているのか、俺にはさっぱりわからなかった。 何も答えない俺を見て、クロノはため息をつく

 

「・・・・・・事情聴取をしようと思ったが、今の君はどこか虚ろだ。 すこし、時間を置こう。 すまないが、君の戦闘能力などを考えて、拘束だけはさせてもらう。 ・・・・・・すこし、時間をおいて冷静になってくれ」

 

クロノは退室し、俺は監視員に立たされ移動させられる。 俺は俯き、手を引かれるままに歩く。 だんだんと通路は薄暗くなっていき、入るように指示されたのは薄暗い部屋。 監視員は、仕事を終えればさっさと行ってしまう。 俺は、壁に背を預け座り込む。 拘束されたままなので、ミノムシのような状態だ。 これが今の俺にはふさわしいのか、それとも不満に思えばいいのかわからない。 どうも、いつもの調子が出ない。 いやそもそも、何時もはどんな風に過ごしていたのか。 どうも自分があやふやだ。 心にぽっかりと穴が開いたような。 デバイスであるペイルも取り上げられたため、話し相手もいない。 いやそもそも、話すようなこともないのだが

 

「・・・・・・」

 

天井を見上げて、どれほどの時間が経ったか、それでも俺は天井を見上げていた。 だが、そんな静寂も終わりを告げる。 俺が連れられてきた入り口のほうから物音がする。 足音からして五人か? 今更、俺に会いに来る奴がいるのかとも思ったが、それでも天井を見上げる。 そして、俺に牢屋の前で足音はぱったりと止んだ

 

「マスター......」

 

そう、悲しそうに俺を呼ぶ声に視線を向けた

 




そんなわけで、別ルートです。 少し短いですが...... 分岐としては読んでいただいた通り、九十九話からの分岐です。 分岐は今のところこれしか考えていないので、本筋とこの分岐の二本で行きます。 続編は、リフレクションを買うまで待ってください。 少しはこっちも続きますので、ではではー


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百一話Ⅱ

「玉藻達か」

 

呼ばれたほうに目を向ければ、悲しそうな顔をした玉藻たちが居た。 何故、お前たちまで俺をそんな顔で見る。 いや、どうしたんだ俺は

 

「マスター、その今回の事は......」

 

何か言おうと口を開くマシュだが、結局言葉にはならず俺の顔を見て俯いてしまう。 言いたいことがあるならハッキリ言ってくれ

 

「マスター殿に報告を。 藤森織は一命をとりとめたようです。 予断は許さない状態のようですが」

 

『どうしますかマスター殿、とどめを?』

 

表と裏の声を使い分けるハサンに感服ものだが、俺は首を振って否定する

 

「マスター、今回の事は別に気にする必要は......」

 

違う、違うそうじゃない。 リリィの言葉に声には出ず、首を振って否定する。 俺はそんな同情の言葉が欲しいんじゃない、俺は

 

「マスター?」

 

心配そうにこちらを覗き込む玉藻に、俺の口は勝手に話始める

 

「・・・・・・どうして止めてくれなかったんだ」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

痛いほどの沈黙、誰も言葉を発さない。 だが、俺の口は勝手に追い打ちをかけるように大切なサーヴァント(家族)達を罵っていく

 

「どうして止めてくれなかったんだ!俺のことを思ってるなら止めてくれよ!!お前たちのことを言われて、俺が黙って入れるはずがないだろ!?」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

あぁ、どうして...... そんなこと思っていないはずなのに、俺の口は勝手にしゃべっているのか。 サーヴァント(お前)達はどうして、こんな理不尽なことを言っているやつをそんな悲痛な目で見て、言葉を受け止めてるのか...... 自分のことながら、どこか冷静に分析していた。 それからしばらくしてサーヴァント(家族)を口汚く罵って満足したのか、俺の口はようやく閉じる。 サーヴァント(家族)達は俺の暴言に言葉を挟むことなく聞いていた

 

「・・・・・・帰ってくれ」

 

これ以上悲しそうな顔を見ていられなくて、もう何も考えたくなくてサーヴァント(家族)達にそう告げる。 リリィが何か言おうとしたのか、俯いていた顔を跳ね上げたが、玉藻がそれを制した。 そして、一言だけ

 

「申し訳ございませんでしたマスター......」

 

悲しそうに頭を下げ、去って行く。 そんな表情を、そんな言葉を言わせるつもりじゃなかった

 

「俺は、俺は......」

 

考えるのも億劫になった俺は、そのまま気絶するように意識を失った

 

------------------------------------------------------------------------

 

「フム、あの時あった輝きは失われたか。 まさかこの我でも見通せないとはな。 いや、ないと切り捨てた未来だっただけの話か」

 

何やらつぶやきが聞こえる。 だが俺は、それを気にも留めず、再び眠りにつこうとした

 

「貴様が起きているのは知っている、道化。 いや、最早そう呼ぶことすら惜しいな、雑種以下の存在よ」

 

その言葉の直後、吹き飛ばされる。 無様に何回転しながらも、俺を吹き飛ばした相手を見る。 圧倒的な存在感。 前は畏怖や尊敬と言った念を抱いたものだが、今は何も感じなかった。 勢いもなくなり、倒れ伏したままその人物を見上げる。 英雄王ギルガメッシュ

 

「ある意味感嘆ものだな、我を見ても何の感情を抱かぬとは。 恐れ、死への恐怖。 我の前に居るものは、そう言った感情を抱くものが多いというのに。 ある意味、このような状態になっても見どころがあるとはな。 とはいえ」

 

鎖。 天の鎖だったか、それが伸びてきて俺を宙に浮かす

 

「貴様には失望した。 その体たらく、最早コピーと言えど、我の財宝を持たしておくことなどできぬ。 本当なら殺しているところだが、貴様には楽しませてもらったというのもある。 それに、今の我は上機嫌、特別に生かしておいてやろう」

 

俺の王の財宝に手を伸ばし、自分の渡した鍵を回収する英雄王。 俺はそれをただ眺めているだけだった。 回収し終えると満足そうに頷き、俺はそのまま落とされる。 そして、地面に倒れた俺を見ることなく、背を向ける

 

「用事は済んだ。 さっさとここから去れ」

 

「それはそれで、困るのぅ」

 

また声が聞こえる。 聞き覚えがあるし、英雄王が来たということは

 

「化け狐か。 フン」

 

そう言うと、英雄王の姿は一瞬で消えた。 徐々に大きな存在が近づいているが、俺は倒れたまま動かない。 俺のそばまで来たと思ったら、いきなり頭を鷲掴みされ視線を合わせられる

 

「久しぶりだのぅ、人間」

 

前にあった時とはサイズに差はあるものの白面金毛九尾の狐だった。 何故か人間サイズになっているのだが。 まぁ、用件は分かっている俺を殺しに来たんだろう?

 

「何を言っている。 ある意味で貴様はいいおもちゃだ、それを殺すはずがなかろう?」

 

やはり神は性悪、いやこいつはもともと悪神だったな。 もはや、今となってはどうでもいいがな

 

「とは言え、だ。 このまま遊んでいてもすぐに壊れてしまうのが関の山だ、なので呪いを」

 

「呪い?」

 

「そうだ、不死の呪いだ。 このままほっぽったところで自分で死ぬのが関の山だ、だからこそ、だ」

 

その顔は本当に楽しそうで、やはり性格が悪いと思った

 

「ああ、その通りだ。 なにせ、人類悪だからな。 処置は終わりだ。 これで貴様は自分では死ねなくなった」

 

その言葉と共に、俺の意識は薄くなっていった




でょっと無理やりで急展開

次回をお楽しみに!


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第百二話Ⅱ

先に言っておきます、この別ルートはバッドエンドです。 本編完結...... というか続編を書くまでのあくまでもモチベーション維持のためのつなぎです、そこを頭に入れてお読みください。 また、続編には全く関係ないので、読まなくても大丈夫です

これ以降、この作品がバッドエンドについての書き込みや、期待していたぶんがっかりしたなどの感想は読みますが、返信はしないものとします。 あくまで純粋な感想には返信しますが。 

そこを念頭に置き、お読みください


目が覚めてからは、取り調べの続きだ。 まぁ、昨日と同じ様に何も話さなかったのだが。 今日の取り調べの相手はリンディ提督で、何も話さない俺に業を煮やしたのか取り調べは途中で打ち切り、そのまま本局に輸送となった。 俺としてはもうどうでもよかった。 リンディ提督というか、クロノの好意で高町なのはやアリシア、八神はやて達とも会ったのだが、俺は一言も言葉を発さなかった。 相手も次第に話しかけてこなくなったが。 輸送されるとき、玉藻たちは会いに来なかった。 当然か、あんなひどい罵声を浴びせたのだから。 輸送にしては少ない人数に特に疑問も抱かず、俺はアースラから輸送艇に乗り込む。 寝ている間につくとのことだったので眠っていれば、不自然な揺れで目を覚ます。 辺りを見回せば、砂漠のようだ。 パイロットの男たちは、俺が起きた様子に気が付いていないのかニヤニヤしながら俺を抱え、船の外に出る。 そこには局の制服を着た連中が。 管理局も腐った連中がいるというのは知っていたが、ここまでとは

 

「このガキが?」

 

「そうです、レアスキルもちの」

 

「ふむ、受け取ろう」

 

受け渡される俺。 俺のレアスキル、いや、そのそも言葉の通りレアスキルもちは非常にレアだ。 解剖して、レアスキルの解明でもするつもりなのだろうか? もはやこんな世界に未練はない、そんなことをここ数日で思うようになっていたのだが、違ったらしい。 この言葉を聞くまでは

 

「このガキはどうするんですか?」

 

「なに、事故ということで処理さ、表向きはな」

 

「表向きは」

 

「このガキには精々レアスキルの解明のために役に立ってもらうさ」

 

「解明できなかったら?」

 

「その時は処理すればいいだけ、さ?」

 

処理、その言葉を聞いた瞬間、俺は無意識に動いていた。 まだ使えると思っていなかったが王の財宝からナイフを取り出し、俺を抱えゲスな笑みを浮かべている男の首を斬る。 男たちはいきなりのことで、まだ現実が受け止められないようだ。 全部で八人。 そのうちの一人は殺したので、残りは七。 王の財宝から剣を射出し、残り六。 その射出中に別の男の心臓を一刺ししたので、残り五。 ここで男たちも事態が分かったのか、デバイスを構えるが俺から見て正面の男に心臓を刺した男の死体を投げつける。 他の奴らは攻撃に手間取っているのか、まだ攻撃はない。 バインドをされても面倒なので気配を消し、心臓を刺した男に気を取られているうちに、背後に周り首を斬る。 残り四人。 ここで攻撃が開始されるが、首を切った男の死体を盾にして、直撃しそうな攻撃だけ盾にして、そのまま突っ込む。 悲鳴のようなものが聞こえるが、おかしなものだ。 そのままある程度の距離まで来たら、死体を蹴りつけ体勢を崩したところにナイフを刺す。 残り三人。 ここでバインドを何重にもされてしまう。 設置型か。 仲間を囮にしてやるとは、恐れ入る。 デバイスの補助なしにバインドを破壊するのは面倒なので、多少の傷など構わず王の財宝を自分に射出する。 大きく砂ぼこりを巻き上げ、目くらましになった。 その間に体の状態を確認するも、傷一つなかった。 そう言えば、あの悪神不死身にしたといっっていたが、こういうことなのか? 検証や疑問は後回しにして、近くにいる男に接近する。 その際、設置型に引っ掛かるのが面倒なので、王の財宝を射出し、男のどこかしらに剣を指しておく。 流石に砂ぼこりの目隠し状態で、狙って当てられるわけも無いしな。 射出した剣は、デバイスと左足に直撃したようだ。 下が硬い地面なら縫い付けられただろうが、生憎砂場だ。 動けなく命乞いのようなものをしていたが、首を跳ね飛ばす。  流石に学習したのか、空を飛ぶ残り二人だがそんなもの俺には関係ない。 王の財宝を最高速で射出し、一人はそのまま殺し、もう一人はデバイスを破壊し、撃ち落とす。 落下のダメージと剣が刺さったことにより、虫の息だったが、会話はできるようだ

 

「ひやだ、ひにたくない」

 

「誰の差し金だ?」

 

「しにたくない!」

 

「答えろ」

 

王の財宝を顔の真横に射出する。 小さく悲鳴が聞こえたが、気にせずに王の財宝から無数の剣を覗かせる

 

「ひう、ひうから!ただ俺たちは、ふえから命令さへただけだ!だへかまではしらまい!!」

 

まぁ、分かっていたことだ。 抵抗されてもいいように、下っ端をよこしたのだろう。 情報も必要最低限、そんなものだ

 

「あっそ」

 

「たひゅ」

 

眉間に持っていた剣を刺し、殺す。 そして俺は、その場に座り込んだ

 

「俺はまだ、死にたくないのか......」

 

処理と言われた瞬間、俺の思考はクリアになった。 死にたくないと他人を蹴落とし、ここまで来たというのに。 どうでもいいとサーヴァント(家族)達を罵倒したのに、おれは......

 



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第百三話Ⅱ

アレから数日たち、乗ってきた輸送艇から茶色い空を眺める日課が続いていた。 ここ数日分かったことと言えば、食事をとらなくていいことと自傷行為が全く意味がないということだ。 これも不死身の恩恵、ということだろう。 首を切ろうと刃を当てても、傷すらつかないし、王の財宝から自分に向けて剣を射出しても貫通はしても血も痛みもなく傷口すらない。 ただ、戦闘時にできたかすり傷、それだけは血がにじんでいた。 不死身とは言っていたが、細かい条件があるのか。 わかったのはそれくらいだ。 細かい条件など確かめる気にもならず、俺は輸送艇から空を眺める作業が続いていた。 輸送艇だが、燃料切れだった。 大方、受取人の輸送艇に乗って帰還するか、処理されるかのどっちかだったのだろうが

 

「・・・・・・」

 

静かだ。 探索もしていないのでこの星に生物がいるのかどうかすら知らないが、静かである。 このまま静かにずっと過ごせないかとも思うが、そうもいかないのだろう。 ここ数日感じなかった気配と、足音が聞こえる

 

「神木!」

 

「クロノか......」

 

来たのは予想通りというかなんというか、クロノだった。 息を切らしているところを見ると、相当駆けずり回ったようだった。 それにしても、公式の記録は知らないが俺は事故扱いで行方不明だったはずだ、どうやってここを探し当てたのか?

 

「無事だったのか...... 良かった」

 

「まぁ、数日食事をしていないのが無事に入るならな」

 

「あぁ、いや済まない。 思ったよりも元気そうで安心してな」

 

「別に分かっているさ」

 

クロノの手を借りて、立ち上がる。 数日間ずっと同じ姿勢だったせいか体がバキバキだが、動かすのに特に問題はないようだ。 そんな俺を注意深く見るクロノ。 俺はそれを気にせずに、話しかける

 

「それで、どうしてここが分かったんだ? 事故扱いで、行方不明と聞いたが」

 

「あぁ、そうだが。 君の家族が、まだ生きていると...... いや待て、どうして君が自分のことを、()()()()で処理されたのを知っている? この輸送艇だって、見たところ動きそうにない。 エンジンがかかるかだって定かじゃないのに。 それに、たとえ動いたとして、何かしらを調べようとすれば、こちらで分かっていたはずだ」

 

俺のことを訝し気に見るクロノ。 ふむ...... 今のことから察するに、やはりクロノたちはこの件にはかかわっていないようだ。 いやまぁ、どうでもいいことなのか、それも。 ともかく、俺の生存はサーヴァント達が、か。 パスがつながっているから、生きているのが分かったのだろう。 でもわかるのはそこまで。 とすると、輸送艇の直前の行動を洗って、目星をつけたというところか。 考察はこのくらいにして、クロノの質問に答えないとな

 

「あぁ、俺を運んだ奴から聞いた」

 

「・・・・・・その人たちは?」

 

「ん? あぁ、殺したよ?」

 

「神木、君は...... いや、いい...... 君も空腹やこれまでの疲れもあるだろう、行こう」

 

俺の答えを聞いた瞬間クロノは目を見開いたが、怒るわけでもなく悲しそうに頭を振って俺に背を向ける。 クロノが何を考えているかはわからないが、俺はクロノの後をついて行く

 

------------------------------------------------------------------------

 

俺は、アースラに極秘に戻された。 流石に俺の件は公にできるはずがない。 局事態では、俺は事故で行方不明扱い。 どこに墜落したのか、またどんな危険性があるかわからないので捜索隊すら出されていないらしい。 そんな中でも、クロノはサーヴァント達の言葉を信じ、俺を探していたそうだ。 今回の件はリンディ提督は許可を出していないらしく、それについて呼び出しを食らっている。 数週間ぶりに訪れたクロノの執務室は、相変わらず綺麗だった。 まぁ、机の上に報告書やらなんやらが載ってはいるが。 そんなクロノの執務室で、俺は数日ぶりにサーヴァント達と再会していた。 まぁ、空気は重いが。 クロノが部屋を出て行く前に俺が腹が減っているだろうということで大量の料理を置いていったが、俺は一口二口しか手を付けていない。 腹も減らないのだ、最早食事する意味もない。 このまま沈黙していてもらちが明かないので、俺から喋ることにする

 

「この前は、すまなかった。 どうも、冷静さを欠いていたみたいだ。 お前たちにあんなことを言うなんて、すまない。 自分のことなのに他人のせいにして、本当にしょうもないな」

 

「マスター殿、それは違います!止めなかった我々も!」

 

「よしてくれハサン。 結局、これは俺自身の責任なんだ。 お前たちにそれを被せる気はない」

 

「違いますマスター、私たちにも!」

 

「・・・・・・」

 

「リリィさん?」

 

同じ問答が繰り返されると思ったが、それを止めたのはリリィだった。 驚いてリリィを見るマシュだが、リリィは俯いていてその表情を見ることができない。 俺はそれに構わず、続ける

 

「それと今回の事は助かった。 あのままだったら、野垂れ死にしてただろうからな」

 

「・・・・・・嘘、ですよね」

 

発言した玉藻の方を見れば俯いていたため表情は分からないが、じゃたは小刻みに震え握りしめた手には水滴がついていた

 

「うそ、ですよねマスター。 私には、分かります...... マスターには、何かしらの呪術、かかってますよね? それが何か、までは分かりませんけど」

 

「・・・・・・」

 

流石というか、なんというか。 考えても見れば、呪いをかけたのは玉藻の大本。 常人にはわからなくてもサーヴァントだし、それに自分の大本がかけたものだ、分かりもするか。 まぁ、分かったところでどうしようもないんだけどな、この呪いは

 

「マスター?」

 

「マスター殿?」

 

マシュは心配そうに俺を見てくる。 ハサンも、なんとなく心配そうに見ているのは分かる。 だが、俺は答えない。 それどころか

 

「・・・・・・話は終わりだ、俺から話すことはもうない。 料理も食べるなら食べてくれ」

 

「マスター!」

 

俺がそう言い切ると、リリィが顔を跳ね上げる。 だが、その瞳は涙にぬれていた

 

「なんで、なんであなたはそうやって一人で抱え込もうとするのですか!私たちはそんなに頼りありませんか!? 家族じゃないんですか!?」

 

こちらを睨みつける勢いで見るリリィ。 その言葉に俺は、()()感じなかった。 あぁ、これはいよいよだな......

 

「・・・・・・すまん」

 

それだけしか言えず、気が付けば俺は一人だった



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第百四話Ⅱ

違和感は...... 元々感じていた。 あの戦い、アレを斬ってからどこか自分の心が分からなくなっていたのを。 いや、元々俺の心はすり減っていたのだ。 あのクソ神に両親を消されてから。 それに気が付かないふりして、修行に没頭して、学校では踏み台を演じて。 元々限界だったところに、今回の家族に暴言(アレ)。 決定的だったんだろう、もはや俺の心は壊れてしまった。 サーヴァント達にあんなことを言って、何も感じないようなら、もはや...... もはやここに居るのも......

 

「・・・・・・」

 

やることが決まったのなら、後は進むだけだ。 目の前の鉄格子を、王の財宝から剣を出し破壊する。 監視員が何か騒いでいるようだが、一瞬で近づき気絶させる。 元々していた準備の関係もあり、死体を残すと厄介だ。 少し遅かったのか、艦内は警報が鳴り始める。 それとアナウンスも。 まぁ、俺には関係ないがな。 久しぶりに身隠しの布を出し、それを頭からかぶる。 どうやらロックされているのか、扉は開かない。 これも破壊し、通路に出る。 局員を用意しているのか、それとも対応が遅いだけなのか通路には人がいない。 罠の可能性も考え、魔術的に調べてみたが何も出なかった。 厳重な割に、内部からの攻撃は脆いな。 それだけ俺が信用されていたのか、もはや俺にはどうでもいいことだった。 通路を歩いていると、無能な局員は俺の横をとりすぎる。流石は身隠しの布と言った所か。 一旦は明るいところに出たが、またも薄暗い通路に逆戻り。 それもそうだろう、俺が目指しているのは船の中枢。 エンジンルームではなく、船の脳ともいえるコントロールルーム。 ある程度歩けばそこが見えてきたのだが

 

「・・・・・・居るんだろう、神木」

 

身隠しの布で姿は見えないはずなのだが、クロノはまっすぐにこちらを見ていた。 流石執務官と言った所か。 俺は被っていた身隠しの布を脱ぎ王の財宝に回収する

 

「どうしてわかったんだ、無能な奴らは俺の横を通り過ぎて行ったぞ?」

 

「ただの勘さ。 本当は勘に頼るのはいけないんだがね」

 

そう言って苦笑するクロノだが、雰囲気が変わる

 

「お喋りはここまでだ、神木。 船の設備の破壊、これは君でも看過できるものではない。 ・・・・・・なぜこんな行動を?」

 

一瞬だけ、ほんの一瞬だけクロノは悲しそうな顔をした。 だが、一瞬だ。 すぐに執務官の顔に戻る。 この隙にもクロノは設置型のバインドなどを設置し、俺の無効化を図っているようだ。 それは分かっているが、ここは乗るとしよう

 

「何故、か。 もう何もかもどうでもよくなってな。 一人で、静かに生きたいと思ってな」

 

「確かに今回の事は申し訳なく思う、同じ局員として許せない行為ではあるが

 

「違う、違うよクロノ」

 

クロノの言葉を遮り、俺はクロノを見る。 やはり、クロノと言えど、分かっていなかったようだ

 

「そんな理由じゃない。 お上に腐った連中がいる、そんなのは分かりきって入ったことだ。 そこじゃない、そこじゃないんだよ。 もう、俺はお前の知っている神木理樹じゃなくなったんだ。 だから」

 

「なっ!?」

 

そう言って俺は歩き始める。 もちろんバインドに掛かるが、すり抜ける。 クロノは驚いたようだが、それもそのはず。 幻影魔法。 それに驚くクロノだが、その一瞬があれば俺はクロノに届く。 鳩尾に一発をいれ、身体をくの字に曲げたクロノに肘鉄をお見舞いし、地面にたたきつける

 

「かみ、き」

 

「こんなことだってできるんだよ、クロノ」

 

意識を失っていなかったのは驚いたが、俺はクロノの横を通り過ぎる。 過ぎようとしたが、出来なかった。 クロノに足をつかまれているからだ。 クロノを見れば、必死に歯を食いしばってこちらを見ている。 その瞳は真剣そのものだが、俺の心には届かない。 徐々にクロノの力が弱まっていくのを感じながら、俺は足を進める。 クロノは気絶したのか、その手を離してしまう。 俺はそれを気にも留めず、コントロールルームの中に入る。 こういう時ペイルがいればいいのだが、生憎ペイルはいない。 気にせずに、中央のコンソールをいじり俺の保存されていたデータを引っ張り出す。 もしもと思って用意をしておいた俺のデータや、これまでの履歴などを全削除するデータだ。 俺はそれを何のためらいもなく起動させる、直後船の電源が落ちる。 だが、すぐに復旧し始める。 さて、ここに居たら面倒なのに乗り込まれるだろう。 そうなる前にどこか、人が来なそうなところに。 そう思い、館内を歩き始める。 騒がしい艦内だが、意外と空き部屋がある。 俺はその一室に入り、魔術を使う。 さて、これで船の方は終わりだ。 後は、地球か。 魔法が艦内で発動したということでさらに混乱する艦内を尻目に、俺は転送ルームまで行き、装置を起動させる。 もちろん、行先は決まっている。 俺の故郷でもある地球だ

 

「もう、何もかも終わらせる。 そして......」

 

俺のそんなつぶやきは誰にも届かず、地球に転送されたのだった



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第百五話Ⅱ

地球に転送されはしたが、そんなにことが簡単に進むはずもなく、転送地点に現れたのはサーヴァント達や高町なのは達だった

 

「マスター......」

 

そう悲しそうにつぶやくサーヴァント達だが、俺はそれを特に気にせずに睨みつけている奴らに声をかける

 

「久しぶりだな」

 

「今のこの状況で、よくそんな能天気なのこと言えるなぁ、理樹君」

 

フェイト・テスタロッサはもちろんだが、俺を睨んでいるのは八神はやてもだった。 守護騎士は何とも言えない表情で、リインフォースは感情が読めない

 

「お前には悪いが、神木理樹。 拘束の命令が出ている、抵抗すれば......」

 

そんな風に分析していると、シグナムがはやての前に出て愛刀に手をかけながら俺に言ってくる。 ふむ、拘束命令ね。 こんなことをしでかしておいて拘束命令とは、甘いものだ。 と言っても、今更拘束命令を出したことすら覚えていないだろうし、履歴も消えているだろうけどな。 そう考えると少しおかしくなるが、表情には出さない

 

「それに従うつもりはない。 それに俺は、コレを発動させに来ただけだしな」

 

そう言って、用意していた魔術を空に打ち上げる。 アースラ内で発動したのと同じ魔術。 ()()()()()魔術だ。 前に高町なのはには記憶を封印する魔術を使ったが、アレの消す秘薬が見つかったのだ。 それに少し魔術的に手を加え、効果を限定的にしたものだ。 その効果は、俺の記憶だけを消す。 これで俺は晴れて自由になったわけだが、この魔術発動するまでラグがある。 だから発動するまで見届けないといけないのだが、目の前の奴らがな。 俺が魔法を使ったことには驚いたようだが、全員が...... いや、高町なのはとサーヴァント達を除く全員がデバイスを構える

 

「・・・・・・何してるんや? 地球での許可のない魔法発動は

 

「重罪だろ? 俺だって局員の端くれ...... いや、元局員だから知っているさ」

 

「だったらなおさら!」

 

ヴィータが何か言おうとしたようだが、それを遮ったのは意外にもプレシアさんだった

 

「そう。 もうあなたは、私たちの知っている神木理樹ではない、そう言うことね?」

 

「・・・・・・そのお前らが知っている神木理樹ですら、本当の神木理樹じゃないかもしれませんけどね」

 

「なぞかけとか、そんなのどうでもいいよ。 お前は犯罪者で、私たちは捕まえる義務がある、それだけだ!!」

 

「一瞬で距離を詰めてきたのは見事だが、それだけだな」

 

「っ!? は......」

 

それまで何も言わなかったフェイト・テスタロッサだが、突如として俺を襲ってくる。 少ない装甲をパージし、急襲してきたフェイト・テスタロッサだが、そんなものでは俺には届かない。 バルディッシュをつかみ、その鳩尾に拳をねじ込む。 すると力の抜けたフェイト・テスタロッサを、そのまま放り投げる。 それを見て以外にも冷静なプレシアさんが次の攻撃を放ってくる。 フォトンランサーのジェノサイドシフト。 高密度の魔力で作られたバリアジャケットを展開していない俺には一発が必殺の威力だが、俺もここで死ぬつもりはない。 フェイト・テスタロッサの急襲により、俺はもうスイッチが入ってしまっている。 直撃のものを王の財宝で相殺し、大部分は受け流しながらプレシアさんとの距離を詰めていく。 こいつらで厄介なのは、後方組。 プレシアさん、八神はやて、、リインフォース、シャマルだろう。 ここに高町なのはやサーヴァント達も入るのだが、サーヴァント達は戦意喪失しているし高町なのはは呆然としながらもフェイト・テスタロッサを助けに行っているので戦闘に介入する様子はない。 なので後方組からつぶす。 

 

「そう来ると思っていたわよ!!え......」

 

ある程度まで距離が詰まると、バインドが発動する。 設置型に追加でぐるぐる巻きにされるが、王の財宝を自分に向けて発射しそのことごとくを壊す。 それを見て驚き攻撃の手が止まるプレシアさんに容赦せず、プレシアさんも一撃で沈める

 

「リイン!」

 

「お任せください!」

 

ブラッティダガーが飛んでくるがそれを避けると、広範囲殲滅魔法、ディアボリックエミッションを発動する八神はやて。 殺す気満々な気もしないでもないが、相手の手札が分かっている以上それを対策しないはずもない

 

「残念だったな」

 

「はやて!?」

 

背後から気配を消してはやてを襲い、これも一発で気絶させる。 守護騎士は警護に当たっていたが、俺の気配遮断はそれ以上だったのだ。 動揺している守護騎士、一番近いヴィータを気絶させる

 

「ヴィータ!くっ!いったい何なのだ、お前は!!」

 

主をやられたことへの怒りと、自分への不甲斐なさか、冷静さを失うシグナム。 何の策もなしに俺に向かってくる。 不利だと悟ったのか、ザフィーラも同時に向かってくるが牽制に王の財宝を射出する。 その隙に、俺はシャマルのもとに向かうが

 

「これ以上やらせはしない!」

 

リインフォースに阻まれる。 こいつがかなり厄介だ。 なんせ、聖杯を持っているからな。 早めに退場させておきたかったが、ここまで後手に回ってしまった。 牽制に王の財宝を射出しても、こっちにまっすぐ向かってくるし。 剣を爆破しても、砲撃で逆にこちらを撃墜しようとしてくる。 ・・・・・・こいつに関してだけは、多少被弾覚悟するしかないか? そうなると、先に守護騎士をつぶさなければならない。 そんなことを考えている間に、ザフィーラがこちらに向かってくる。 それをあえて迎撃し、戦闘不能にすることに成功する。 だが、ここでリインフォースの説得により冷静になったシグナムは距離を開け、冷静に立ち回る。 こうなると長引く。 魔術の発動までもう少し。 発動確認と同時にここを離れたいが、間に合うかどうか...... いや、もう無理やり行くか

 

「将!」

 

「ああ!ここで決めに行く!!」

 

魔力の流れで大体わかったのか、あちらも決着を付けにくるようだ。 切りかかってくるシグナムの剣の腹を殴り、弾くが鞘が俺のボディーに吸い込まれる。 俺はそれをあえて弾かずに、そのままシグナムに魔力弾を乗せた一撃をたたき込む。 俺も相応のダメージを貰ったが、これでシグナムは。 間髪入れずに、リインフォースから砲撃が飛んでくる。 俺はそれを宝具の盾の原点で防御しようとするが、砲撃は前から来なく後ろから。 気が飛びそうになりながら確認すれば、空間が切り取られていた。シャマルの魔法か!!盾で視界が隠れたため、確認できなかったようだ。 だが、砲撃でお前も注意力が散漫になってるみたいじゃないか!王の財宝から剣を射出し、爆発させる。 いくらプロテクション等で防御していたとしてもかなりの数だ、砲撃はすぐに終わりリインフォースは落ちていく。 シャマルも無事に気絶させ、魔法発動までもうわずかだ。 俺は肩で息をしながら、空を見上げる

 

「どうして...... どうしてこんなことを、理樹君......」

 

「全員回収したのか。 お疲れ様だな、高町なのは」

 

流石に全員高町なのはが抱えられるはずもなく、サーヴァント達も手伝ったようだが。 泣きながら俺のことを見る高町なのはだが、俺は質問に答えずにまた空を見上げる。 直後空は光り始め、雪のようなものが落ちてくる。 まぁ、これこそが魔術なのだが

 

「さて、魔術の発動も確認したからな、さよならだ。 もう会うこともないだろう」

 

そう言い残し、俺は転移した

 




これで、こっちの続編も一旦終わりとなります。 新作というか、続編はもう少し待ってね? いや、年末忙しくてまだ買ったリフレクション、見てないんですよ。 それと明日や、元旦とかも忙しいので、更新はできないかも? まぁ、出来たらやっておきます

それでは皆様、残りも少ないですがよいお年を

それと結構早いですが、新年からもよろしくお願いいたします。


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