マイスのファーム IF【公開再開】 (小実)
しおりを挟む

『クーデリア』ルート
クーデリア【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』(トトリのアトリエ 5年目)


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『クーデリア』◄(ぽちっ)



※2019年工事内容※
 一部表現の変更、句読点、行間……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

 

「僕が投票したのはクーデリアだよ」

 

「……何よあんた、寝ぼけてるの?」

 

 ジトリとした目つきで、マイスを見るクーデリア。

 ある種の趣味を持った人であれば喜び、普通の人だったら嫌な思いをしそうな視線だが、当のマイスは特に気にした様子も無く、ただ単純に思った通りの事を言うのだった。

 

「寝ぼけてるって、別にそんなことないけど……?」

 

「そっ。まあ、からかうために嘘を言ったりする奴じゃないからね、あんたは」

 

 

 クーデリアはマイスから視線を離し、プイッと(うつむ)き気味に他所(よそ)を向く。

 

 

 と、ロロナが回り込むようにしてそのクーデリアの顔を覗きこんだ。そして、何を見たのかわからないが、いつもの悪気も何も無い笑顔をして口を開く。

 

「あっ、くーちゃん、もしかして照れてる?」

 

「なんであたしが照れなきゃなんないのよ。わっけわかんない」

 

 そう言って顔を上げて睨みつけた顔は、確かに照れていない様子で、むしろ……

 

「あららっ、本気で呆れてる。これはそういう線は無いのかしらねー……」

 

 「ざーんねん」とメルヴィアが言うように、これでもかというほどの呆れ顔だったのだ。

 

 

 そんな顔をしたままクーデリアはゆっくりと首を横に振る。

 

「何を期待してるかは知らないけど、思考回路がお子様と同レベルのマイスに何か言われたところで「あらそう」で終わりよ。それ以上に思うことなんて何にもないわ」

 

「クーデリアさん、いくらマイスさん相手だからってバッサリ言い過ぎなんじゃ……」

 

「普段のトトリとあんまり変わりないと思うんだけど……ここはツッコんだらダメなのかしら?」

 

 クーデリアへのトトリの一言。それに対するミミの呟きは、多くの人が共感を持てるものだっただろう。

 

 

 そして、マイスのほうには今いるメンバーで唯一の同性であるステルクが近づき、マイスの肩を叩いた。

 

「あー……私からどう声をかけるべきかわからないが、そう気を落さなくていいと思うぞ」

 

「えっ、気を落す? なんで僕が?」

 

「自分の票を無下(むげ)に扱われたのであれば、ショックを受けるのではないかと思ったのだが……違ったか?」

 

 そうステルクは小声で聞いたが、当のマイスは本当に気にしていないようで、いつも通りのボリュームで喋り続ける。

 

「無下って言うほどじゃ……。それに、僕の票だってお祭りに来ている人たちの沢山の票の内のたった一票なんですから、そんな一票一票を全部わざわざ気にしてたら大変ですよ? クーデリアみたいに「票は票」ってバッサリとするのが正しいですって」

 

「いつもの調子で笑って言っているあたり、まぎれもない本心か……。まぁ、キミは相変わらずということだろうな」

 

「……? よくわからないですけど、ステルクさんがそう思ったならきっと間違い無いと思います」

 

 男同士の会話は、結局あまり意味の無いもののまま終わったのであった。

 

 

 

 

 

 なんとも微妙な感じで終った男性二人の投票先の話。

 一区切りがつき、「お祭りをまわるの、再開しましょうか」というトトリの鶴の一声で一行はあたりの出店に目をやりながら移動をはじめた。

 

 

 その途中……歩きはじめてからそう経たない頃に、いつの間にかマイスの隣まで来ていたクーデリアがマイスに問いかけた。

 

「ねぇ、ちょっと」

 

「ん? どうかした、クーデリア?」

 

 すぐ隣にいたことを別に驚きもせずにマイスは聞き返す。

 

「参考までに聞くけど……どうしてあたしを選んだのよ?」

 

「どうしてって……それはまぁ、クーデリアがかわいかったからだよ?」

 

「カワイイ、ねぇ。それは喜んでいいのか微妙な言葉だけど……まっ、それでいいことにしとくわ」

 

 クーデリアの着ていた水着的に、受け取りようによっては「子供っぽかった」という感想として受け取れなくもなかったマイスの言葉だったが……クーデリアは「やれやれ」といった様子で肩をすくめた後、手をヒラヒラ振って前方にいるロロナの方へと早足で行ってしまった……。

 

 

 残されたマイスは、よくわからないクーデリアの反応を自分なりに解釈していき……

 

「怒ってる……ってわけじゃなさそうだったけど、なんだったんだろう? あっ! もしかして自分が選んだ水着の感想を言ってほしかったとか!? なら、悪いことしちゃったかなぁ……」

 

 きっと今までの流れを聞いた人がいれば「それは違うだろ」と突っ込まれそうな結論に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たっく。人を褒めるなら褒めるで、あんな単調じゃなくて、もうちょっと言葉を工夫してほしい所だけど……まあ、マイスならあれくらいが限界かしらね」

 

「あれ? くーちゃん、良いことでもあった? あっ、何かいいお店でも見つけたの?」

 

「んっ。ま、そんなところかしらね」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』とは異なり、一緒には行かない組なので出発前のお話となっています。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*2*】

 

 

 

 僕を訪ねてきたトトリちゃんから「『塔の悪魔』を倒しに行く」ことを伝えられ、僕はその準備をすることに……。

 

 『塔の悪魔』のことや、それを今後倒しに行くという話は以前に聞いていたので、前々から色々と考えていちおう準備を進めはいた。なので、持っていく武器やアイテムを選別しまとめるのには時間はかからなかった。

 

 準備をサクッと終えた僕は、さっそくトトリちゃんたちとの集合場所である『アランヤ村』に……行くわけではなかった。

 出発は明日。僕の手元には『トラベルゲート』があるから『青の農村(ここ)』から『アランヤ村(あっち)』まで一瞬で行ける。そのため、家を出るのは明日でも問題は無い。

 

 もちろん、早めに行っていても何も問題は無いんだけど……でも、やっておくべきことが僕にはあった。

 それは、遠出をする際に行く前と帰ってからいつもしている「挨拶回り」だ。

 

 

 

――――――――――――

 

***アーランドの街・冒険者ギルド***

 

 

 

 『冒険者ギルド』。その名前の通り、主に冒険者が利用する施設で、冒険者としての登録や免許の更新、あとは依頼の受けたり報告ができる。また、依頼を出すために冒険者以外の人がきたりすることもあるんだけど……それはとりあえずおいておこう。

 

 今、僕がいるのは、冒険者の免許関係の受付と依頼関係の受付のうち前者のほう……クーデリアが受付嬢をしている、免許関係の受付。そこで『塔の悪魔』を倒しに行く話をしていたんだけど……。

 

 

「ああ、その話。やっぱりマイスも行くのね」

 

「あれ?知ってたの?」

 

 予想外の反応に僕は少し驚きながらもそのことについて聞いてみる。するとクーデリアは「まあね」と返し、そのまま言葉を続けてきた。

 

「マイスのとこに行く前か後かは知らないけど、コッチにもトトリが来たのよ。で、その時に「『塔の悪魔』を討伐しに行く」って話を聞いたの。まぁ、『塔の悪魔』の話自体は前から聞いてたから個人的には「ようやくか」って感じだったんだけどね」

 

 クーデリアの説明に「なるほど」と頷きかけた僕だったけど、後半の話に「ん?」と首をかしげてしまう。

 

「えっ? 『塔の悪魔』のことも知ってたんだ」

 

「あんたらが東の大陸(むこう)にたどり着いて帰ってきてからトトリ(あの子)が街に来るまではちょっと間が空いてからだったじゃない? で、こっちに来たトトリ(あの子)から報告を受けたのよ。まぁ冒険者免許の最終ランクアップのためのポイント集めの一環でしょうけど、おおよその航路とか立ち寄った島や東の大陸の地図、あとついでに村のことや塔のことも多少報告があったわけ」

 

 「その中で『塔の悪魔』のことも聞いてたの」とクーデリアは話を締めくくった。

 

 

 そこまで聞けば、さすがの僕も理解出来た。

 

 というか、僕がうっかりしすぎだろう。モンスターを倒したりすることも仕事の内だけど、訪れた土地の地図を描いたり、その地の特徴や環境を書きしるしたりすることも『冒険者』の仕事の一部じゃないか。

 そして、それは報告して初めて意味があるわけで、その報告先は冒険者免許関係を扱う受付……つまりはここであり、担当であるクーデリアの目にも当然入るわけだ。もちろんトトリちゃんが直接来るだろうから地図や書類以外にも口頭で話も聞いたりしている可能性も大いにある。

 ……そう考えたら、そりゃあクーデリアも少なからず『東の大陸(むこう)』のことを知れているはずに決まっているだろう。

 

 自分の思慮の浅さを痛感しながらも、そう大きな問題に繋がりそうにもないことだったので「まぁ、これから気をつければいっかー」と思い、僕は流すことにした。

 

 

 と、そんなことを考えていると、「クスリッ」というより「ふふん」といった感じの可愛らしく鼻で笑っているのが聞こえた。距離からして、笑ったのは目の前にいるクーデリア以外にありえないだろう。

 何かおかしいことでもあったのだろうか?と疑問に思い、僕はクーデリアに問いかける。

 

「どうかした?」

 

「別に? 相変わらずわかりやすいなって思っただけよ。あとは……そうねぇ?」

 

 腕を組んで僕の顔を見てニヤリと笑うクーデリア。

 一体どうしたって言うんだろう?

 

「この調子じゃあ、トトリの冒険者ランクがマイスに追い付くのも時間の問題じゃないかなって。冒険者としての実力のほうも、そろそろ追い抜いたりするんじゃないかしら?」

 

「ああ、なるほど。まぁ確かに、あり得る話かもね。事実、トトリちゃんが冒険者になってすぐの頃には僕が教えたりしたこともあった『錬金術』は、とっくの昔に僕を追い抜いちゃってるわけだし」

 

「あら? 焦ったり、悔しがったりはしないの?」

 

「まあね。僕の本職は『錬金術士』でもなければ『冒険者』でもなくて、あくまで『農家』だからね。成長を喜ぶことはあっても、それを悪く思うことは無いよ」

 

「ふぅん、そんな感じなのね。……実際は、あんたのことを「『農家』だ」って認識してる人は逆に少ない気もするけど」

 

 クーデリアが苦笑いをしながらそう言った。

 

 ……いや、でも、僕が『農家』じゃないとしたら、一体何だと思っているんだろう? 一応肩書に持っている『村長』? でも、村長として何か特別なことをしてるわけじゃないし、そう思われてるとも考えにくい気がするんだけどなぁ?

 

 

 

「まっ、追い付く・追い抜かれるって話を抜きにしても、最高ランクの冒険者が「仕事を全くしてない」、「報告の仕方を忘れてる」なんてことがあったら、後輩冒険者たちに示しがつかないでしょ? たまにはマイスも『冒険者』として冒険の報告をしに来なさい」

 

「ええっと……じゃあ帰ってきてから今回の『塔の悪魔』討伐のことを報告に来たらいいかな?」

 

「そうね。帰ってきたら都合を合わせて『サンライズ食堂』でって感じでいいんじゃないかしら?」

 

「はーい……って、あれ?」

 

 流れのまま返事をしたけど、それっておかしくないかな?

 報告って普通『冒険者ギルド(ここ)』でするものであって、『サンライズ食堂』でゴハン食べながらするようなものじゃない。

 

「それこそ後輩冒険者の手本にはならないような気がするんだけど……?」

 

「どうせちゃんとした報告はトトリのほうからくるだろうし、あんたはもうポイントためる必要も無いから、そんなしっかりと手順を踏んだ報告じゃなくても別にいいじゃない」

 

「えぇ……。もしかして、ただ単にお酒を飲みたいだけだったりする?」

 

「さぁ? それはどうかしらね?」

 

 はぐらかすように言ってるけど、この感じはほぼ間違い無いと思うなぁ……。

 そういえば、クーデリアに家には良いお酒もあったりしたし、一緒に飲みに行ったりした時も結構飲んでいたし……もしかしてクーデリアって、かなりのお酒好きだったりするのかな? 普段はそんな様子を全く見せないけど、意外とそうなのかもしれない。

 

 

 それにしても、帰ってきてから都合を合わせて『サンライズ食堂』かぁ……『サンライズ食堂』に行くこと自体は別に嫌じゃないし、もうそういうことでいいかも?

 

「ううん……じゃあそういうことにしとこっか」

 

了解(りょーかい)。まっ、その日の内に行けるかはわかんないけど、そういう予定で決まりってことで」

 

 まあ、ピークの時間に当たらない限り……お酒を飲むような陽が沈みきってからの時間であれば、そう()んでなくて問題無く席にはつけるだろうから、わざわざ予約したりとかしなくても大丈夫だろう。

 僕は、そう思いながらその予定の事を頭に刻み込む。

 

 

「……そういうわけだから、ちゃんと無事に帰ってきなさいよ」

 

「大丈夫だよ。今回はいつも以上に事前の準備をしてるし……僕の実力は、一緒に冒険したこともあるクーデリアもよく知ってるでしょ?」

 

「まぁそうだけど……相手が『塔の悪魔』だからって、肩に力を入れ過ぎちゃあ逆にダメなんだからね?」

 

 トトリちゃんからの報告で『塔の悪魔』の凄さを聞いているからなのか、やたらと念を押してくるクーデリア。

 そんなクーデリアの不安をなるべく拭い払うべく、僕は改めて「大丈夫」と笑顔で頷いてみせるのだった……。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 挨拶回りを終えてマイスが出ていった『冒険者ギルド』。

 そのカウンターに残されたクーデリアはひとり、誰かに聞かせるわけでもなく、とても小さな声で呟いていた……。

 

 

「無理して笑ってるって感じでもなかったし、いい感じにリラックスできてるのかもしれないけど……」

 

 

 クーデリアの中でひっかかっていること。

 それは、()()()()について……最も、クーデリアとしてはマイスの中で折り合いが付いているのであれば、わざわざ自分からソコに触れてしまうつもりは無い野だが……どうしても、()()()の事態を考えてしまっていた。

 

 

「けど、もしかして、ギゼラのことを未だに知らないってことは無いわよね? いやまあ、『塔の悪魔』のこともちゃんと知ってるみたいだし、ありえないとは思うんだけど、いちおう確認しておけばよかったかしら? マイス本人も色々と抜けてるし、なんていうか変に運が悪いところもあるから……やっぱり、真っ先に聞いておけば……」

 

 

 こうして、クーデリアはマイスたちの安否とはまた別のことで気を揉むこととなるのだった……。

 




 『トトリのアトリエ編』以降のこの二人は、お互いに嫌いではなくむしろ好意は少なからず持っているし、気が合わないわけじゃないのだけど、間に他に誰かが入ったり外部からの何かが無いと本当にずっとこんな調子で「一定の距離を保っててイチャイチャしたりはしない仲良しコンビ」のまま続きそうなんですよね……。

 ……で、くっついてもそのままな感じなのか、デレッデレになるのか……どっちかだけか、二人ともなのか……。妄想は絶えません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

 サブタイトルには『マイス「」』とありますが、第三者視点となっています。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*3*】

 

 

 

 

 

***サンライズ食堂***

 

 

 

 『アーランドの街』の『職人通り』と呼ばれる通りにあるお店の内の一軒、『サンライズ食堂』。様々な種類の料理がリーズナブルな価格で食べられるということもあって、昼を中心ににぎわっている料理屋である。

 夜間は、昼ほどのにぎわいではないものの、仕事終わりに一杯飲みに来た人や約束のある人、そんなの関係無しに年がら年中飲んでいる人などが、日ごと日ごとに訪れている。

 

 

 さて……その日は、ある種の名物とも言える二人組が夜の『サンライズ食堂』を訪れていた。

 

 (いわ)く、「不可侵領域」、「触れてはいけない存在(モノ)」、「気にしたら負け」などと、結構散々な言われ方を裏でされていたりするのだが……別に嫌われているとかそういうわけではなく、むしろ「普段見れない意外な意味な一面が見れる」とか「見てる分には癒し空間」などと一部から言われていたりもするくらいには人気だったりする。

 そんな、裏では隠れファンがいるのが……

 

 

「「かんぱーい」」

 

 

 『青の農村』の村長・マイスと、『冒険者ギルド』の受付嬢・クーデリアだ。

 

 お酒片手に乾杯をする、外見年齢は二十歳以下の二人組。

 もし二人に「子供がお酒を飲むんじゃない!」などと注意した人がいたとすれば…………お酒が入っているため、大惨事は(まぬが)れないだろう。

 

 店側(イクセル)からしてみれば、不安要素が多くてちょっと気が気でないそんな夜。

 今日もまた二人の飲み会が始まるのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「あー……なんとなくそんな気はしてたけど、()()()は知らなかったのねー」

 

 建前では「『塔の悪魔』討伐の報告」となっている今回の飲み会。必然的に話題は『塔の悪魔』との戦闘から始まり……次第に討伐後にあったひと騒動の「マイスがギゼラの最期を知らなかった件」に移っていった。

 平たく言えば「塔から出てきた悪魔を押し返すもギゼラも大きな傷を負ってしまい、それが原因で……」という話なのだが……一応内容が内容なだけに『サンライズ食堂(ここ)』での会話ではマイスもクーデリアも、お酒が入りはじめてもその辺りを(にご)して話してはいた。

 

「『塔の悪魔』のことは知っててそのことを知らないっていうのは、逆に凄いんじゃないかしら?」

 

「それ、向こうでも言われたよ。というか、知ってたなら教えてくれても……」

 

「無理よ。あの時、辛かったり複雑な気持ちもあるけど「トトリのためにも頑張らなきゃ!」って自分を奮い立たせているもんだと思ってたし。そこに「知ってる?」って聞いて水を差す度胸は流石のあたしにも無いっての」

 

「あぁ、うん。それは無理だねぇ」

 

 「あははっ」と苦笑い浮かべるマイスと、それに「でしょう?」と返してニヤリと笑うクーデリア。

 

 お酒が回り始めたせいかはわからないが、客の視線の多くが二人のほうを向いていることにマイスとクーデリア(二人)は気づいていない。そして、二人の笑みを見て「おぉ……」と極々小さな歓声が複数の客の口から漏れたことにも、当然気付くことは無かった。

 客でもマイスとクーデリア(どちら)でもないイクセルだけが気付いたのだが、「ん? なんかあったか?」とその歓声の理由まで察することは出来ていなかった。

 

 

 

 と、会話はまた別方向へ。「あっ、そういえば……」と何かを思い出したかのように声をもらしたマイスがそのまま口を開いた。

 

「クーデリアって、東の大陸にある村の話も聞いてるんだよね?」

 

「ええ、トトリからある程度は報告は受けてるわ。あと、その村出身のピアニャって子はトトリだけじゃなくてロロナからも聞いてるし、一応『豊漁祭(あの時)』に会ってて……そのくらいかしら?」

 

 そう言われたマイスは「それくらい知ってれば十分だよ」と言い、続けて本題について話しだした。

 

「あの村、っていうか地域? 年中冬の気候らしくって、それを活かした農業とか考えてるんだー。あと、人の行き来もできたらいいんじゃないかなーって」

 

「ちょっと待って。なんか()()()で言ったことがトンデモ無い気がするんだけど……。あんた、今、別のことも何かしてたわよね? それもかなり大事を……確か、今度のお祭りで発表するんじゃなかった? よくもまあ、そう次から次に思いつくものよね」

 

「そんな~たまたま思いついただけのことだよ? 第一、「やってみたい」ってだけでやれるかどうかは正直微妙なんだけど」

 

 「残念ながらねー」と言いながらも、あいかわらずの微笑みを浮かべているマイス。どうやら「難しい」と思ってはいてもやり様はあるらしく、諦めていたりしていそうな様子は全く感じられなかった。

 

「人の行き来は、その遠さがネックなんだ。『錬金術』の道具を駆使すればそれこそ距離なんて関係ないけど、アレは使える人が限られてるからね。それに、僕としてはやっぱり『アランヤ村』で造られた外洋船を使った旅が一番良いと思って。船の旅っていうのは……」

 

 そこから珍しく長々と海の旅を語りだすマイス。

 ついでに言うと、その航海は先日行った『塔の悪魔』討伐よりも前……ギゼラを探しに出た、『フラウシュトラウト』と戦ったりもしたあの旅の日々の話だ。

 

 

 マイス個人の感想も交えつつ語られる海の旅の話を、クーデリアは要所要所で「トトリの報告でもそんな話があったわね」なんて思いながら時折グラスを(かたむ)けてお酒で喉を潤していた。

 

 

 と、不意にマイスの声が止まった。

 「ん?」と不思議に思ったクーデリアは傾けかけたグラスから口を離し、マイスのほうを見た。マイスは--ただただジーッと真っ直ぐクーデリアを見つめていた。

 

「何?」

 

 そう聞いてはいるものの、クーデリアは内心そこまで疑問にも思っていなかったりする。

 というのも、今現在のクーデリアの思考は……「あぁ、今回はマイスのほうが先に酔払ったのね」というもので……つまりはよくある事なのだ。まぁとは言っても、自分(クーデリア)自身が先に酔払った場合は逆にマイスに「今日はクーデリアが先かぁ」と思われているのでどっこいどっこいだろう。

 さらに言うなら、「マイスが先」、「クーデリアが先」、「ほぼ同時」の全てを毎度見ているイクセルからすれば「今回は、呂律が段々と怪しくなっていくタイプじゃなくて、黙った後に切り替わるタイプかぁ」とパターンまで完全に把握済みだった。

 

 

 急に黙ったマイスだが、少しの間を空けてからクーデリアの問いに答え出した。

 

「ん~……ええっとぅ、実際にクーデリアも一緒に船に乗ってみたらいいのになーって思ってー」

 

東の大陸(あっち)の村との人の行き来の話じゃなかったの? それで船を使うって……。あたしだって興味が無いわけじゃないけど、まずはソッチの話が優先でしょ?」

 

「それはそれでちゃんと考えてますよー? ……で、さっき話した通り、船での旅は景色も良いし、発見も色々あって楽しいんだって!」

 

「「楽しい」ってだけじゃなくってねぇ、もっとこう……航海中の生活の安定化を考えると、食料の確保とか衛生面とか病気とか非常時の対処のこととか課題は山積みじゃないかしら? というか、そもそも----あの『フラウシュトラウト』が出るかもしれない海域をどうするかって話あるじゃない」

 

 遠洋まで出てきた船を過去に何隻も沈めてきた海竜型とでもいうべき大型モンスター『フラウシュトラウト』。

 マイスが同行したトトリたちのギゼラを探す冒険でも現れたのだが、トトリたちは無事撃退した。……が、撃退しただけであり、今は負った傷を癒すために隠れているのかもしれないが、今後再び縄張りを広げて船の航路上に出現しないとも限らない。

 一人前の『冒険者』6人で何とか撃退出来たモンスター。そんな奴が出没するかもしれない海域をそう気軽に行き来できるだろうか?

 

 クーデリアからそこまで言われて、マイスはピタリと動きを数秒止めてから……手を口元に当てて唸った。

 

「あっ、うー……考えてなかった」

 

「ほらっ、ダメじゃない」

 

 ドヨンと落ち込むマイスに、それを見て「やれやれ」と苦笑いを浮かべるクーデリア。

 

「なんとなくで喋っちゃってたんでしょ。とはいえ、自覚も無い様子だし、そんなにどうこう責め立てる(いう)つもりは無いけど……ちょっとペースが早かったかしら? ここから抑えるべきでしょうね。ねぇ、マイスにお水……あたしにはお酒をもう一杯頂戴(ちょうだーい)

 

「あいよー。ちょっと待ってろー」

 

 カウンターの向こうから聞こえてきたイクセルの返事に満足した様子のクーデリア。

 そして、クーデリアは注文したものが届くまでの間、目の前にいるマイスと談笑を続けることにした。酔払ってきて微妙にズレた反応を示したりちょっとテンションの上がり下がりが激しかったりもするが、基本はいつも通りのマイスである。それに……酔払った時のマイスとの会話を楽しむ(すべ)も、クーデリアはこれまでの経験で既に理解していた。

 

 こうして、また『サンライズ食堂』の一角で談笑の花が咲くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「あー……ちゅまり、(おちょこ)云々(うんにゅん)以前(いじぇん)に、カワイイが(ましゃ)っちゃてたってわけんにぇ?」

 

そうです(しょうれす)あの(あにょ)村の人たち、マークさん(しゃん)やジーノくんは遠目でジロジロ見るだけだった(らけりゃった)のに、僕だけ(らけ)村のそば(しょば)の畑の土を(いじ)ってたら(っれたら)「まだちっちゃいのに詳しいねぇ」とか「いつも畑仕事手伝ってるの?」とか「偉い偉い♪」とか言って頭を撫でまわしてきて……!」

 

「女だけの村れも、あんたのカワイがられはいつも(ろー)だった(らった)ってわけ? もはや、男や子供どころか……小動物(しょーろーぶつ)的な扱われかた(かちゃ)かしら?」

 

「間違っ(ちぇ)ない! 間違っ(ちぇ)ない気がするけど(けろ)、違うって言いたい!」

 

 

 あれから後、()()()()()()()キレイに出来上がってしまっていた。

 そもそも水一杯ですぐどうなるってわけではないし、ストッパーとなるべきクーデリアが普通にお酒を飲み続けたため、次の追加注文の時点で止めが聞かなくなっており、二人そろってお酒の注文をしたので当然の結果だろう。

 

 まぁ、会話の内容は相変わらずの自分たちの自虐ネタのようなものなので、周囲は触れると火傷しそうだが……二人は盛り上がっているので、よしとすべきかもしれない。

 

 

「こないだも、ステルクさんは怖がって()のに、僕には普通に寄って来て……」

 

「アイツも相変わらずねえ(にぇえ)……。っていうか、それ(しょれ)いつもの(いちゅもの)光景じゃない?」

 

 一部の(ある特定の)人物は聞いているだけでもダメージを受けそうな気もするが、それもある意味ではいつも通りなので気にしなくていいだろう。

 

 

「ああ、そういえば(しょういえば)あたしもこの前……」

 

 まだまだ続く、マイスとクーデリアのある意味危険な談笑。

 こうして今日も夜は(ふけ)ていくのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 なお、今回の飲み会はどちらかが酔いつぶれたりすることも無く、「じゃあ……」、「(しょ)うねー」と案外あっさりとお開きになった。

 

 ただし、『サンライズ食堂』を出る二人の足取りは微妙にふらついており、それをお互いに肩を貸し合って支え合うという……どちらかがこけてももう一人も踏ん張りきれずに倒れてしまいそうな、逆に不安なってしまう手段をとって帰路へと付いた。

 

 

「……というか、マイスは『青の農村』までちゃんと帰れるのか?」

 

 そんなイクセルの不安をよそに…………

 

 

 

 

 

 翌日、朝早くにフォイエルバッハ家から出てくるマイスの姿が目撃されたとか、されてないとか……。

 




 い・つ・も・の

 相変わらずの気の置けない仲の二人……ですが、こんな風に飲んで喋って……端から見れば、イチャイチャしているようにも見えなくも無いような……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』




※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***アーランドの街・冒険者ギルド***

 

 

 『冒険者ギルド』。

 『アーランド王国』が『アーランド共和国』となった時、様々な事情・経緯を経て確立された職業・冒険者が集う場所であり、その冒険者の登録やランクアップ等業務、活動の補助、依頼の斡旋が行われる場所である。

 

 

 そんな『冒険者ギルド』なのだが、今日は何故か少しばかり空気が違う……と、入ったクーデリアは思った。

 

 朝一に来て『冒険者ギルド』を開けるのは、勤めている人たちの中から当番制で決まっており、その日はクーデリアの当番の日ではなく、別の人……ちょうどフィリーが当番だったのだが……。

 

 

「あわわわわ……!?」

 

「……なにこれ」

 

 

 『冒険者ギルド』に入ったクーデリアが目にしたのは、自分の持ち場である依頼の受付カウンターで、直立しこれでもかと言うほど震えながら口をパクパクとさせつつ目を泳がせているフィリーだった。

 いや、でもまぁ、仕事から逃げたりすることも過去にあった事を考えると、自分の持ち場にちゃんとついているだけ()()なのかもしれないが……なんにせよ、褒められたものでないし、これでは到底いつも通りに業務をこなせるとはクーデリアは思わなかった。

 

 

「にしても……フィリー(あいつ)だけならまだわかるけど、他の子たちも何か変ね?」

 

 そう言うクーデリアが目をやるのは、受付カウンター以外の場所で各々(おのおの)自分の仕事にとりかかっている『冒険者ギルド』に勤務している人たち。

 

 清掃や案内役、書類整理や記録保存の裏方等々様々な業務を行う人がいるのだが……まだ全員揃っているわけではないが、今、目に入る範囲にいる者はもれなく、クーデリアの目には何やらいつもとは様子が違うように見えた。

 なんというか、落ち着きがないというか、心ここにあらずというか……

 

 

 そんな光景を、ただつっ立って見ていたところでどうしようもないクーデリアもわかっていた。

 故に、「なんか面倒くさそうね……」と思いため息を吐いてしまいながらも、自分の持ち場である冒険者免許関連の受付カウンターへと向かうのであった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 カウンターについたクーデリアは、まずは身の回りを整え確認し、いつ業務が始まっても――利用客が来ても問題がないように準備を終えた。

 

 ここからはいつもならば免許関連の書類整理を行ったり、他所からあがってきた書類や報告の確認をして、勤務している人としてではなく一般的な利用者から見て『冒険者ギルド』が開くまでの時間を有効利用するのだが……

 

「あばばばばっ……!」

 

「…………はぁ」

 

 隣の受付で相変わらずガクブル状態のフィリーが気になってしょうがなく、放っておいても後々の業務で失敗されて結局はクーデリア自身にも支障が出るのは目に見えている。そのため、気は乗らないもののクーデリアはフィリーを何とかすることにしたのだ。

 

 

「ちょっと。さっきからずっと変だけど……正直、気持ち悪いわよ? どうしたのよ」

 

「うぇぅっ!? く、クーデリア先輩!? いつの間に……っていうか! どうしたも、こうしたも、無いですよ~!?」

 

 驚いたことに――いや、薄々そんな気はしていたが――今の今までクーデリアのことに気付いていなかったフィリー。

 かけられた声に驚き、跳び上がってからクーデリアのほうへ向きなおるフィリーの目は涙目になっていてる。どうやら大事……でもないかもしれない。フィリーが泣くのはよくある事であり、場合によっては悲鳴からの気絶というコンボもあるくらいだ。

 

 「結局、何があったのか」その説明をしびれをきらしたクーデリアが催促するよりも早く、フィリーが目に涙を溜めたまま話し出す。

 

 

 

「結婚ですよ! 結婚!! マイスくんが結婚するって話です!」

 

 

 

「ふーん……で?」

 

「で、って……! 一大事じゃないですかぁ!? このままじゃあ私、お姉ちゃんの二の舞……ヒィ!?」

 

 何を言おうとしたのかは知らないが、顔を青くしてより一層震えだすフィリー。それを見ていたクーデリアは呆れ顔で言う。

 原因は……まあ、おそらくは()()()だろうと心当たりがあったクーデリアだったが、今はどうでもいいことだとソコには触れずにいることにし、早々に話しを進めることにした。

 

「いやまあ、確かにアンタはマイス以外にまともに接せる男がいないのは知ってるけど……自分の将来のこと心配するなら、マイスのことで一喜一憂するより、まずは対人恐怖症まがいのソレをなんとかすることが先じゃないかしら?」

 

「そんな簡単に何とかできるなら苦労してませんよ~!? ……って、あれ?」

 

 「わーん!」と泣き出しそうになっていたフィリーだが、ふとここまでの会話で違和感というか疑問に思ったことがあったのだろう。目をパチクリとまたたかせた後、その顔をクーデリアのほうに少し寄せて問いかけた。

 

「あのー……クーデリア先輩? マイスくんの結婚の話、驚かないんですか?」

 

「まあね」

 

「ええっウソ!? 前から知ってたとか!? あっ、え……も、もももっもしかして、お相手ってクーデリアせ――」

 

「違うわよ? 何口走ってんのよ、アンタは……」

 

 「頭が痛いわ……」とでも言いたげに、片手を自分の(ひたい)に当ててため息をつきながら首を振るクーデリア。そうしてから顔を上げると、フィリーにと「それで?」と質問をした。

 

「いちおう確認だけど、その話ってマイスから直接聞いたんじゃないわよね?」

 

「えっ、まぁ……朝、ここに来る途中に街の通りにいたおばちゃんたちから聞いた話ですけど……」

 

「なら、ただの噂話じゃない」

 

 そうビシッと言って話を終わらせるクーデリア。

 しかし、あんなに慌てふためいていたフィリーが、説明になっているか微妙なくらいの短い会話で納得できるわけも無く……だが、それを見越してか、察してかはわからないが、フィリーが口を開く前にクーデリアが言う。

 

 

「仮に本当に結婚するんだとすれば、噂で聞くよりも先にアイツ(マイス)が報告しに来るでしょ」

 

 

「ああ……そんな気はしなくもないですけど……」

 

「そういうこと。あくまで誰が行ったかもわからないような噂話なんだから、気にするほうが馬鹿らしいわよ」

 

 そう言った上で「ほらっ、仕事の準備に戻りなさい」と付け足したクーデリア。対するフィリーは、頷ける部分があるのも事実だが完全にスッキリしたわけでもないようで、少し不満げにしていたが「はーい……」と返事をして、依頼書の束の整理を始めた。

 それを見たクーデリアもまた、自分のすべきことに手を付け始めるのだった……。

 

 

 

 

 

 そんなことがありながらも、いちおうはいつも通りの業務に戻ったわけなのだが、業務が始まってからというものの……

 

 

――――――――――――

 

 

 ある時は、依頼をしに来るだけの街の御婦人がクーデリアのほうの受付にも来て……

 

「あの村長さんが結婚するんだって? お相手が誰だか聞いたりしていないかい?」

 

「聞いてないわ。そもそもアレは噂話でウソみたいなものだから真に受けるんじゃないわよ」

 

 

――――――――――――

 

 

 ある時は、普段は『冒険者ギルド』を利用することはまず無い『貴族』出身の子共が来て……

 

「ねぇねぇ! マイスが結婚するって話、本当? お祝いって何してあげたらいいと思う?」

 

「アレはウソだから、祝う必要は無いわ。というか、アタシに聞くんじゃないわよ。ほら、帰った、帰った」

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ある時は、普段はおどおどしていて記憶にあまり残らない駆け出し(モブの)冒険者が受付に来て……

 

「あの村長さんの結婚相手がクーデリアさんだと聞きました……でも、諦められないんです! クーデリアさん! 貴女を一目見た時から好きでした!! 無茶を承知で言いますが、自分とお付き合いを……!!」

 

「アイツもあたしも結婚はしない。あと、アンタはウソの噂も見抜けないその節穴な目と耳を取り換えるかどうかしてきなさい」

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ある時は、『青の農村』の人が何故かわざわざクーデリアのところまで来て……

 

「あのっ、あのっ! 村長が結婚って本当なんですか!?」

 

「……いや、なんでコッチに来るのよ。本人に聞きに行きなさいよ、そこは」

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

「……ってことがあって、正直な話、業務に支障が出てるのよ。早く何とかしてくれないかしら?」

 

「いやぁ……そう言われても困るかなぁ。僕からしてもどうしようもないというか……ね?」

 

 苦笑いをしながら首をカクンッと傾けるマイス。

 そんなマイスと、()()()()晩ゴハンの広げられたテーブルを挟んで反対側にいるクーデリアは、『グラタン』をすくったスプーンを口元まで運び、パクリと食べた。

 

 

 何故、クーデリアがマイスの家に来ているのか……それは言わずもがな、例の噂によって引き起こされた面倒事の文句を言いに来たのが半分。あとは、一応マイス本人からちゃんと確認を取っておこうとクーデリアが考えたからである。

 そのため、クーデリアは仕事を終えてすぐにマイスの家へとむかったのである。

 

 そうしてクーデリアがマイスの家へ訪問したわけなのだが……そこでちょうどマイスが晩ゴハンの用意をしていたため、急きょそれを二人分に増やしてマイスはクーデリアを晩ゴハンへ招待したわけだ。

 

 

「それにしても、なんでこんなことに……。ずいぶんと噂が独り歩きしちゃってるっていうか、いつの間にか村や街どころかもっと外にまで広まっちゃってるくらいで……勢いが凄すぎて手の付けようが無いんだよね」

 

「なんでって、何か心当たりは無いの? なんかこう……きっかけとか」

 

「たぶん、このあいだ『青の農村(ウチ)』であった結婚式だと思うんだ。村の誰かが結婚するたびに「村長は結婚しないの?」って聞かれてて、今回も聞かれて「しない」って話しに……なったはずなんだけどなぁ?」

 

 心底どうしてこうなったかわからない、といった様子で首をかしげるマイス。

 そんなマイスの様子を見て、改めてやはりただの噂なのだと確信したクーデリア。だが、同時に「マイス(コイツ)、自覚がないだけでまた何かやらかしたってことは無いわよね?」と一抹の不安は(ぬぐ)えぬままだったりする。

 

 

 

「噂の事とか抜きにして……実際のところはどうなのよ? 予定だったり、結婚のこととか考えたりしてないものなの?」 

 

 これまでの話の延長線上ではあるが、ただ単純に興味本位で問いかけるクーデリア。

 その問いに、マイスは「うーん……?」と腕を組んで少し悩んだ後……ゆっくりとしゃべり出した。

 

「考えたことが無いわけじゃないけど、とりあえず今は予定は無いかなぁ?」

 

「あら? そうなの? アンタの事だから、なんだかんだ言って相手の一人や二人いるもんだと思ってたんだけど?」

 

 意外そうにしながらも、マイスをからかうように言葉を続けたクーデリア。その言葉にマイスは少し苦笑いをもらして「二人もいちゃダメでしょ」とツッコミを入れた後に自分の考えを述べ始める。

 

「学校の事とか、やるべきことがいっぱいあるから……っていうのもあるんだけど、やっぱり出身地とか『ハーフ』であることとかを考えたら、どうしてもさぁ」

 

「ああ……あたしが「アンタの考え過ぎだ」とでも言ってあげられればいいんだけど、流石に無責任に言っていいほど軽いでも無いものねぇ……。けど、逆に言えばそこを受け入れてくれる人なら良いってわけでしょ?」

 

「最低でも……って付くかもしれないけどね。じゃないと相手に迷惑になっちゃうし」

 

 そうマイスが言うように、長い目・広い目で見れば結婚相手以外の周りの人からも受け入れてもらえていないと、肝心の結婚相手に少なからず被害が出てしまいかねないだろう。

 

 

 ……だが、それでもやっぱり最初に考えるべきは「相手が受け入れてくれるかどうか」だろう。

 その点を考えた上でクーデリアは口を開いた。

 

「アンタの事を知ってるのっていえば……確か、リオネラとかフィリーとか、そのあたりだったかしら? その二人とかは結婚相手にはどうなの?」

 

「ええっ!? そ、それはー……二人とも可愛くて、綺麗で、優しくて、いい人だとは思うけど……リオネラさんはなんて言うか仲はいいんだけど、いつも一歩引かれているっていうか時々壁を感じてさ「ちゃんと本音で話してくれてるのかな?」って不安になることがあって。フィリーさんはどっちかと言うと僕と言うよりは『モコモコ』が好きって感じで、向こうも結婚とかは眼中にないと思うんだ」

 

「本当に好意が無いなら、あんなに何度もマイスの家(ここ)に泊まったりしないと思うんだけど……でも、アンタの言うこともわからなくはないかも。本当に壁が無かったらとっくに結婚してそうだし。フィリーのほうは……まあそうよね」

 

 フィリーの金のモコモコの溺愛ぶりを思いうかべたからなのか、珍しくケラケラと笑うクーデリア。

 

「他には……ああっ、あのホムも知ってるんだったかしら?」

 

「ホムちゃんは、錬金術でも家事全般でも凄く頼りになるし、そばにいてくれるだけでも凄くなごんで、一緒に何かするのも楽しくって……」

 

「客観的に見てだけど、友達っていうか本当に兄妹みたいで、結婚相手って感じが全くと言っていいほどしないのよねー」

 

 マイスが言っている最中に割り込むようにして言う。だが、それを「的外れだ」とか「割り込むなど無粋だ」などと言う人はほとんどいないだろう。

 というのも、マイスとホムの二人の様子を見た人の感想が大抵の場合クーデリアが言ったこととほとんど変わらないからだ。

 

「あとは……誰かいる?」

 

「クーデリアとメルヴィアくらいかな?」

 

「メルヴィア? ああ、あの『アランヤ村』の冒険者の? あんまり一緒にいるイメージは無いんだけど、そんなに仲が良かったの? ……というか、ロロナはまだ知らないのね」

 

 「まぁ、なんとなくあの時のままな気はしてたけど」と漏らすクーデリア。

 

「メルヴィアが知ったのは、たまたまっていうか、なにも言ってないのにむこうから察して来たっていうか……」

 

「そんなこともあるのね。じゃあ、特別仲が良いとかそういうわけじゃない、と。なら候補から外れるとして、残りは……あたし?」

 

 ここまでの人数を指折り数えた後、クーデリアは自分自身を指差してマイスに問いかけた。

 それに対するマイスの返答は……

 

 

 

「クーデリアは……クーデリアだし?」

 

「いや、それどういう意味よ?」

 

「それに、僕にはジオさんみたいな威厳も無ければ渋みも欠片も無いからなぁ」

 

「それはまぁ……。アンタ以上に威厳とか渋みとかいう表現が似合わない(おさ)っていうのもいないものね。……まあ、そういう視点じゃあ、あたしの好みからはズレてるわよねぇ」

 

 

 そこから、クーデリアに「そういうアンタの異性の好みって何なのよ?」と疑問を投げかけられ「ええっ」とアワアワしだすマイス。そして、それをクーデリアは少しからかいながら食事を進めて行く。

 ……お酒が入っていないが、マイスとクーデリア(二人)らしいとある日の晩ゴハンのひとときだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 なお、これが原因で一層例の噂がおさまりを見せないようになってしまうのだが……それは本人たちの気付かないことであった。

 




 見よ、これがマイクー(マイス×クーデリア)だ!

 ……いや、イチャイチャしろよ。仲がいいのはわかるけど、こう言うのじゃ無くて、どっちかかどっちもが赤面してアワアワしたりツンツンデレデレしたり……そんなのが求められてるんだよ!
 この後、どうなるっていうんでしょうねぇ? ロロナを間に入れても、フィリーを間に入れても、この二人の関係に進展があるのかどうか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*5-1*】

 クーデリア視点でのお話しとなってます。
 前置き、というか、繋ぎというか……でも、何かと意味のある回。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***アーランドの街***

 

 

 『冒険者ギルド』での受付の仕事は……他の人に任せられているから、今日は丸一日休み。久々に羽を伸ばせるってわけ。

 

 そんな貴重な日に、何もしなくていいからって「一日中家でゴロゴロしてる」なんていう選択肢は勿論無い。

 けど、今日(今回)は事前に何か予定が入ってるってわけでもないから、今から「さて、何をしようかしら?」と今日の予定を考えないといけない。

 

 とはいえ、ボーっとつっ立ったってり、柔らかいソファーに身を預けた状態でノンビリ何をしようかと考えるのも(しょう)に合わないから、とっとと身支度を整えて街へと繰り出すことに……。

 

 

「と、まぁ出てきたのはいいんだけど……さて、どうしたものかしら?」

 

 口でそうは言っても、実のところ、もうすでにあたしの足は動き始めてた。一種の(くせ)というか、習慣というかで……まあ、その……アトリエのある『職人通り』の方面へと向かってた。

 

 いや、この選択は別段間違っている訳でも無いと思う。

 確か、まだトトリは『アランヤ村』に帰ったままのはず。なら、よっぽど仕事を受けていたりしなければ、トトリ(弟子)のことにかかりっきり気味だったロロナは暇を持て余していることだろう。そして、『冒険者ギルド』で仕事をしていたあたしが記憶している限りでは、ここ数日の間にロロナがそんな依頼を受けに来たことは無かった。

 なら、ロロナは今……というわけだ。

 

「まっ、きっと大丈夫でしょ」

 

 そう呟きながら、わたしはちょっと心なしか足早になってしまいつつ歩いていってた、んだけど……

 

 

「ん? あれは……」

 

 その途中、道すがらに見知った顔を見つけた……いや、見つけてしまった。

 正直なところ、わざわざ見たくも(会いたく)無い顔だし、それがせっかくの休日(こんな時)にならなおさらだけど……そいつがやってることが余りにも放置するのはどうかと思えることだったので、本当に、本当(ほんとー)に不本意ではあるけど、声をかけることにした。

 

 

 

「こーんな時間から()()()なんて、良い御身分ですねー? ()()()()?」

 

「げっ!」

 

 あたしが声をかけたのは、『アーランド共和国(この国)』の大臣職を務めているトリスタン。通りの傍らで……親繋がりで一応はあたしと顔見知りではある『貴族』の娘とくっちゃべっているその姿は、妙に手慣れた雰囲気を漂わせ、その微笑みはあたしが声をかけた瞬間に崩れ、驚きの色に染まる。

 

「ほらっ。あんたもあんたで、職務放棄して女の子に誰彼構わず話しかけるような不真面目な軟派者に引っかかってんじゃないわよ」

 

 「いやっ、流石にそこまで言われるのは心外……」なんて言ってる奴がいるけど、気にせずに『貴族』の娘に言っておいた。すると、その子はあたしに軽く頭を下げて一言言ってからその場から離れて行った。

 

 

「……で? 仕事ほっぽり出してのナンパで、何か収穫はあったのかしら?」

 

「さっきの()が一番好感触だったんだけど……いや、そうじゃなくって、今のはナンパじゃなくってだね」

 

 そんな苦し紛れの言い訳にもなりそうにないことを言い始めた大臣(トリスタン)

 

 大臣であるコイツとは、『冒険者ギルド』が国営で切っても切れない関係にあることから、仕事上、少なからず繋がるがある。……が、それ以前から何かと付き合いはあるのだ。

 というのも、ロロナのアトリエが閉鎖の危機にあった頃、あたしはロロナの手伝いなどをしていたんだけど……ある時期からチョイチョイ顔を出してきてロロナの手伝いをするようになった人たちの内の一人が「タントリス」と名乗っていたトリスタン(コイツ)だった。……でもって、歯の浮くようなセリフでロロナに言い寄ったりする問題児でもあった。

 

 そんな奴がこうして仕事から抜け出して街行く娘に声をかけるのは……まあ、やっぱりコイツが軟派でロクでもない奴だったって話だろう。

 

「……なんだか、もの凄く失礼なことを考えられてる気がしたんだけど、気のせいかな?」

 

「失礼も何も、ただの事実よ。……んで、ロロナのことはついに諦めたの? それとも……まさかとは思うけど、さっきの娘のほうがロロナより魅力的だとでも言いたいのかしら?」

 

「諦めてなんかないし、それにロロナの方が……って、あれ? さっきのを止めたことといい、もしかして僕とロロナの仲を応援してく――」

 

「んなわけないに決まってるでしょ! 止めたのは、常識的に考えて仕事から抜け出してる奴を戻すべきだから。あとは……ロロナに寄ってくる悪い虫がいなくなるのは嬉しいけど、ロロナのどこかが悪いって思われるのは(しゃく)だったからよ」

 

 的外れな想像をし始めたトリスタンに言い放ったところ、「メンドクサイ人だなぁ……」なんて呟かれたけど、別にそのくらいどうとも思わない。というか、名前も立場も偽って、妨害工作するわけでもなく手伝って、最後には自分から離れて行って……という遠回りなことばっかりしてた奴にメンドクサイ人呼ばわりされる筋合いは無い。

 

 

 そんな奴にこれ以上時間を費やすつもりもないため、「仕事場に戻るように」と一言言ってから、とっととこの場から離れることにしようと思ったんだけど……

 

「一応、もう一回言っとくけど、アレはナンパとかじゃないからね?」

 

 まだ言うか……。

 たぶん、あたしの口からロロナへと伝わる事を案じて何とかしようとしてるんだろうけど……正直なところ、『王国時代(あのころ)』からロロナはコイツの事を「恥ずかしくなるような事を誰彼かまわず時と場も考えずに言う人」っていう認識だったから、今更どうしようもない気がするけどねぇ?

 というか、ロロナは例の「歯の浮くようなセリフ」もトリスタン(コイツ)から言われる分には慣れきってしまってて、「また言ってるよー」程度で何とも思われなくなっていそうな(ふし)さえある。

 

 それでも「まだいける」と思ってそうなあたり、一周回ってコイツがかわいそうに……は、思えてこないわね。あくまでロロナに寄ってくる悪い虫のひとりでしかないし。

 

 

「……じゃあ、ナンパじゃなかったなら、何だったのよ?」

 

 とはいえ、全く信じないのも流石に悪いと思い、そう聞いてみるけど……トリスタンは……

 

「あー、いや……それはー……さ?」

 

「うわぁ……」

 

 どう見てもアウトじゃない。

 言葉は詰まるわ、目は泳ぎまくるわ……むしろこれでどう信じろっていうのよ。

 

「いやっ!? 本当に違うんだって!」

 

「そうねー、違うんだろうし、気にしないことにするわー……ロロナに寄ってくる悪い虫が減って良かったわー」

 

「信じてない!?」

 

 

 足早に立ち去ろうとしたところ、必死に引き止められた……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 引くぐらい必死だったから、仕方なく言い訳……もとい、事情説明を聞いてあげたんだけど…………

 

 

 

「うわぁ……」

 

「なんでそうなるのかな!?」

 

 別の意味でドン引してしまった。いや、だって……

 

「あの噂で心配になったからって、ロロナとマイスの関係進展妨害のためにマイスの所に見合い相手を差し向けるって……そもそも色々間違ってるし、あんた馬鹿でしょ?」

 

 なんていうか、遠回りし過ぎてるというか、無駄というか、ホントはロロナの事を射止める気は無いんじゃ……いや、ただ単にへたれてるだけか……。なんにせよ、そりゃあ、こんな調子じゃあ間が詰まるわけがないわ……。

 

 そんなことは全く思っていない様子のトリスタン(職務放棄大臣)は、妙に自慢げに胸を張って語り出す。

 

「そんなこと無いと思うけどなぁ……これはそう、必要な下準備……保険さ!」

 

「んなことしてる暇があるなら、普通にロロナ本人にアタックしたほうがよっぽど有意義に決まってるじゃない」

 

「やっぱり、なんだかんだ言って応援してくれてるんじゃ……」

 

「まず、そのすぐに仕事から逃げる根性を鍛え直して、これまでの軽率さを払拭させるほどの誠実さを身に付けて、ロロナの隣を歩いても恥ずかしく無いくらいファッションセンスを磨きあげて、絶対に他の女性になびかないと信頼されるくらい馬鹿真面目になってから出直してきなさい」

 

「……注文多くない?」

 

 これでも譲歩してかなり削ったくらいだというのに、目の前のトリスタンは不満そうに漏らす。……結局のところはロロナ自身なわけだから、あたしからは本当に最低限のことしか言ってないつもりなんだけど……それでも、厳しいと思ったのかしら?

 

 というかねぇ……

 

「そもそも、その()をどうにかしたほうがいいと思うわよ?」

 

「め?」

 

「焦ってるのか何なのか知らないけど……あんた、ものの見方がズレてるっていうか、視野が狭まってるわよ?」

 

 あたしの指摘を聞いて……首をかしげるだけだった。どうやら何が言いたいのか理解してないみたいで、声にこそ出ていないけど「はぁ? 何言ってるんだ?」と言いたげなのは一目でわかる。……目は口程に物を言う、とはよく言ったモノねぇ……。

 まあ、これ以上コイツに付き合う気もないから、端的にズバッと言って終わらせてしまい……いい加減、立ち去ってしまおう。

 

 

 

「あの子らの親友として言わせてもらうけど、()()()()()()()()()()()()

 

「……ん?」

 

「だーかーらー! 互いにそういう意識はしてなくって……近しい間柄であっても、あくまでそれは親愛とかそういう感じの……そうねぇ、あえていうならそれこそロロナが何時も言ってるような姉弟関係みたいな距離であって、それ以上は有り得ないって話よ」

 

 これは決して間違ってはいないと思う。

 

 絶対に一回も異性として意識したことがない……とまでは断言できないけど、あったとしても周りから何か言われたりした時くらいで、そこから数歩歩いたりすれば忘れるくらい……っていうのは言い過ぎかもしれないけど、大体その程度のものだろう。

 

 

 ロロナの方は詳しく確認をしたことは無いけど、マイスに関してはすでに少し前に恋愛関係の話をしてきたばかりでほとんどわかりきっていると言っても過言じゃない。面と向かってした質問をマイス(あいつ)がごまかすならともかくウソで返せるわけもないので、ほぼ間違い無く本音だったはずだ。

 

 例の噂から話題が転じて「結婚相手はいないのか?」って話になったんだけど……その時、マイスが真っ先に挙げた()()によって候補が選別されたわけだけど……「マイスが金のモコモコ(あの毛玉)である」ことを知らないため、その候補の中にロロナは残らなかった。

 けど、それは正直、あまり意味は無い。というのも、どうやらマイスは自分があの毛玉であることを明かす必要性を特別感じていないような部分があり――それはまあ、そうなのかもしれないけど――ロロナに対しても明かすタイミングが無いだけで、明かしたくないという拒否的な意識は無いらしい。そして、ロロナはといえば……ほぼ間違い無く気にしないだろう。むしろ相乗効果で愛で始めるだけじゃないかしら? どこぞの「モコちゃん(毛玉)大好きっ!」なあの後輩受付嬢(フィリー)みたいに……。

 そして、仮にあの時、候補に残ってたとしても……ホム(あの子)と同じく「一緒にいるのは楽しいけど、そういう目では見れない」みたいな感じで落ちつくはずだ。

 

 

「第一、良くて「恋に恋する少年少女」、最悪「純粋無垢な幼児」レベルの恋愛観しか持ち合わせていなさそうなあの二人が、マトモにお付き合いだなんて出来ると思う? まず、よっぽどの事でもない限りその段階までいかないでしょ?」

 

「……えっ? あー、うん。そんな気もしなくも無いような……? 特にロロナはともかく、マイス()のほうは僕と同じ男なのかどうかも怪しいくらいだと思う」

 

 結構な言われようである。

 でも、事実、トリスタン(こいつ)は知らないでしょうけど、『豊漁祭』の『水着コンテスト』でのことを思い返せば……あの元騎士ですら赤面したりと()()があったのにマイスはいつも通りだったりと、まあ確かにアイツは同年代の男性と比べてそういう方面に疎い感じがあるから、そのくらい言われても仕方ない気もする。……もちろん、あたしもそう思ってる。

 

「まぁ、そんなんだから、あの仲良し二人組の間柄は気にするだけ無駄だって話。わかったら、裏でアレコレする前に、ちゃんと仕事に戻って真人間になりなさい」

 

「うーん……姉弟ってアレくらいが普通、なのかなぁ?」

 

 言うこと言ったあたしは、改めて『職人通り』方面を目指して歩きはじめる。

 トリスタンはいまいち納得できてはいない様子だけど、今度は立ち去るあたしを引き止めたりはしなかった。それは、納得云々じゃなくて、ナンパの誤解を一応は解けたからなのかもしれないけど……。

 

 

 

 何はともあれ、これでようやくあたしはアトリエへと行けるわけだ。

 

「たっく……無駄に時間費やしたっちゃわね」

 

 その分、アトリエでは気持ち普段以上にノンビリしようと考えつつ、わたしは足早に歩を進めるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「色々と思うところはあるけど…………「()()()()()()()()()()」ねぇ……ふぅん? もしかすると、案外()()()()()のほうが……」

 

 

「何処だぁ! トリスタン!! また仕事を放り出して、抜け出しおって!」

 

 

「げぇっ!? 街は広いっていうのに……なんで親父はこうも変に勘がいいのかなぁ? 見つかる前に、大人しく先に執務室に帰るとしますか……」

 




※『クーデリアルート』特有の変化※

……というよりも

※『ロロナルート』以外※
 トリスタンがちょっと焦ったりして行動はするものの、すぐに思いとどまる程度には余裕がある(『ロロナルート』と比べ、ロロナとマイス君の絡み自体が減ってる&トリスタンが目撃する機会も減ってるから)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*5-2*】

 だらだら短めです。クーデリア視点でのお話しです。


 この二人、順序が多い『ロロナルート』とは別の意味で進展し辛いです。ただ単純に「きっかけが無い」&「完成された安定感」。

 重要なことをいくつか散りばめてはいるものの、今作恒例いつものマイス×クーデリア(マイクー)
 もう親友でいいんじゃないかな?




※2019年工事内容※
 細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*5-2*】

 

 

 

 人っ子一人の結婚云々(うんぬん)で大騒ぎになろうが、職務怠慢大臣が裏でこそこそ何かやろうとしていようが、日は昇ってはまた沈んでを繰り返して日常は過ぎていく……。

 

 まあ、何が言いたいかっていうと――いつも通りの仕事漬けの日々は相変わらずってことよ。

 

 

 

―――――――――

 

***冒険者ギルド***

 

 

 

「……っと。はい、これでランクアップ完了よ」

 

 『冒険者ギルド』の冒険者免許関連の受付で、あたしはランクアップの手続を終えた冒険者免許をカウンター向こうにいる新米冒険者へと返しながらそう言った。

 

「一番最初だから上手い具合にランクアップ出来たみたいだけど、次からはそう簡単じゃあなくなるから油断しないことね。まっ、頑張りなさい」

 

「ハイ!」

 

 

 新人らしく元気な返事だけは一丁前な新米冒険者を見送りつつ――その足取り軽そうな後ろ姿を見て、長年の経験からちょっとだけ嫌な予感を覚えた。

 

「やっぱり調子に乗っちゃってる気がするのよね。足元すくわれて痛い目見なけりゃいいけど……」

 

 当然『冒険者ギルド』として最低限のサポートや、何か問題があった場合の対処等々やることはある。けど、冒険者一人一人に監視やらサポートを付けたりすることは流石にできるわけがない。

 あたしがいくら心配したところで結局は冒険者本人の自己責任、ってことになるわけ。

 

「……あとは、冒険者同士の助け合いに期待しておこうかしら」

 

 荒っぽい印象もあったりする冒険者連中だけど、なんだかんだ言って人助けはする。中には、どこかの自称騎士に助けられた経験から率先して駆け出しの冒険者を助ける(サポートする)ような冒険者なんかもいたりするくらいだ。

 一から十まで手助けする()()()()()()()()のような面倒見が良いお人好しこそほんの一握りだろうけど……まぁ、なんとかなるでしょ。

 

 

 

「ねぇ? どっかの誰かさん?」

 

 あたしは……あたしから見て右手の方から来た人影(ひと)――マイスに向かってそう声をかけた。

 

「ええっと……何の話?」

 

「気にしなくていいわよ。別に大したことじゃないから」

 

 いきなりのことに首をかしげるマイスだったけど、あたしがそう言うととりあえずは納得した様子で「そっか」って引き下がった。きっと、元からそこまで気にはしてなかったけど聞いてみただけ、ってくらいの感じだったんだろう。

 

 

「それで? アッチはもういいの?」

 

 そう言ってあたしがチラリと視線をやるのは、さっきマイスが来た方向……依頼の受付カウンターのあるほう。そこにはカウンターを挟んで、フィリーとリオネラが喋っているのが見えた。

 ということは……まあ、そういうことなんだろう。

 

 その予想通りの答えがマイスの口から聞けたのは、そのすぐあとだった。

 

「内緒話しだしたかと思ったら、そのまま二人の話がちょっと盛り上がっちゃってみたいで……。手持ち無沙汰になってさ」

 

「でしょうね。そんなことだと思った」

 

「あはははっ、二人とも昔から仲良しでちょっと羨ましいんだけどね……。それでこんな風に話しちゃってるけど、お仕事の調子はどう? 忙しかったりしない?」

 

 こっちが苦笑混じりに言ったら、マイスも軽く笑いつつ言葉を返してきて……そのままの流れで世間話に突入した。

 

 

「このあいだ、マイス(あんた)のことで多少ゴタついたこと以外は結構余裕持ってやれてるわ。『冒険者制度』の再整備のほうももう目途が立ってるし、普段の仕事も『青の農村(あんたのところ)』の子たちが交代で来てくれるようになってからはずいぶん楽になったもの」

 

「それは良かった。そうそう、『青の農村(ウチ)』でも『冒険者ギルド(ギルド)』での仕事は結構評判だよっ。村全体の収穫物とかの集計とは違って色んな人と接する機会があるから、とか……あと、やっぱり『冒険者』って職業は『青の農村(ウチ)』でも人気があるみたいでさ」

 

「へぇ? モンスターを倒しまくるっていうイメージがついてるから、むしろ嫌われてたりするのかと思ったけど……」

 

 けど、考えて見れば村の村長であるマイスが普通に『冒険者』だし……それに、ギゼラ(トトリのお母さん)が結構な頻度で訪れてたらしいから、拒否反応は無いのかしら? もしくは、村の人たちがしっかりとモンスターたちのことを線引き出来て考えることが出来てるとか……?

 

 とにかく、あたしはそうやってそこまで忙しくはなくなっているわけだけど……

 

「そういうあんたは大丈夫なの? 村のこともそうだけど、例の『学校』の件でここ最近はかなり忙しいんじゃない?」

 

「まあ、そこそこ忙しくはあるかな? 打ち合わせしたり、実際に作ってみたら思ってたのとは勝手が違ったりもするからね。それに、準備しておくに越したことはないモノは山ほどあるから」

 

「なら、こんなところに来てないで、ソッチを優先したらどうなのよ? 免許のほうもそうだけど、依頼も『冒険者ギルド(ウチ)』なんかに来なくたってマイスのところに直接くるだろうし……」

 

「切羽詰まってるわけじゃないし、僕が良くても周りの皆も休まないとやってけないから。何日かに一回、街に来るくらいのお休みはむしろ取っとかないと! それに、やっぱりロロナやクーデリアに会ったりして、こうして昔みたいにいつも通りに過ごすのが一番気が休まる気がするんだ」

 

 

「ふーん……()()()()()()、ねぇ?」

 

 マイスのその言葉にちょっとだけ引っかかりを感じたんだけど……その原因に、すぐに思い当たることが出来、あたしは「そうだっ」とそのままマイスに問いかけてみることにした。

 

「そういえば、前に『マイス(あんた)(うち)』で結婚の噂(例の噂)を消すために「いつも通りにみんなと接する」みたいなこと言ってたじゃない? アレって結局、効果はあったの?」

 

 今日『冒険者ギルド(ここ)』に一緒に来たリオネラや受付嬢のフィリーをはじめとして、ロロナやトトリなどと交友が深いマイス。だから、あたしから言わせてもらえば、マイスが言ってたようにそういう娘たちともいつも通りに接してるとむしろ誤解が悪化しかねないんじゃないか?……って思ったんだけど……。

 そういう噂はそんなに聞かなくなってはきてるみたいだし、そこのところどうなのかしら?

 

 

 あたしの問いに、マイスは珍しく眉間にシワを寄せ、腕を組んで首を傾げ「うーん」と呻って考え込んでしまう。

 数秒の間をもってから顔をあげたマイスは、何とも言えない自信なさげな表情で口を開いた。

 

「あったような……なかったような?」

 

 煮え切らない答えに、今度はあたしが首をかしげてしまう。

 

「何よ? どういうことなの?」

 

「なんというか、悪化はしなかたけど即座に消えたわけでもない自然衰退? ……そんな感じ、かな?」

 

「それ、効果無しってことじゃない……」

 

 

 たっく……お祭りや農業とか(オハコ)以外、一人じゃあ絶妙に上手くいかない感じはマイスらしいと言えばらしいけど。

 そう考えると、噂が悪化してないだけで上出来なのかしらね……。

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 苦笑や微笑みの応酬をしながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな二人をチラチラ見ながら内緒話をする影が4()()……。

 

 

「マイス君とクーデリア先輩のあの感じ……もしかしたら()()()は本当なのかも……っ!」

 

「そ、そそんなっ……!? でもっ、有り得ないって言えないのが……うぅ……」

 

「うーん……二人はこう言ってるけど、アタシの目にはいつも通りなようにも見えるんだけど……ねぇ、どう思う?」

「オレ的にはマイスのせいで何とも言えねぇな……。アイツ、()()以外は障害(ハードル)的には低い気がすっからさー」

 

 




い つ も の
前回に引き続き、本人たち()いつも通り、といった感じ。



 あーだこーだ……そんなこといいつつも、実はプロット自体は『IF』内では真っ先に完成したんですけどね。

 少しずつ出てきて……()()するのは【7-○】くらいですかねぇ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデリア【*5-3*】

7/30投稿(31日一時間前)

 お久しぶりです。
 色々あったのは、ツイッターの方で少しだけ呟いております。そっちでも、端的にですけども。しかも、何日も跳び跳びで。
 『本編』のほうの更新に合わせて、活動報告のほうで少々書かせていただきますので、詳しくはそちらでまとめられるかと。

 一文で言うなら、「主に実家と職場が大丈夫かと思ったけど大丈夫じゃなくって、その延長で踏んだり蹴ったり」


 なにはともあれ『クーデリア【*5-3*】』です。
 今回はクーデリア視点でのお話となっております。




※2019年工事内容※
 一部表現の変更、句読点、行間……



【*5-3*】

 

 

 

 いわゆる『王国時代』にはほぼ毎日。『青の農村』の原型ができ始めてからは2,3日に一度。そんな頻度でマイスは自分の家から『アーランドの街』へと通っているのだが、そのたびに様々な場所へと寄って顔を出していき、街をほとんど一周してまわることがほとんどだ。

 

 

 そんなマイス(あいつ)が立ち寄る場所の一つが、『王宮受付』……今で言えば、ここ『冒険者ギルド』だ。

 

 あたしも勤めている(いる)『冒険者ギルド』は、その名の通り『冒険者』に関係するアレコレが集まった場所なわけだけど……ひと昔前ならまだしも、今のマイスにはあまり関係の無い場所になってる。

 というのも、マイスは冒険者ランクはとっくに最高ランクに到達している。そして依頼のほうも、マイスには『青の農村』のほうでまとめられてか直接本人に頼みにくるかになっていて、今更『冒険者ギルド』から斡旋(あっせん)しなくとも仕事はマイスの下にくるようになっている。

 

 その上、最近では『学校』のこともあって、時間的な余裕もずいぶん減っているはずだ。近々ある月一の『お祭り』のこともあるし、普通に考えればかなり忙しいはず……。

 

 ……だというのに、マイスは相変わらず『冒険者ギルド』をはじめ、『アーランドの街』のあちこちに顔を出してまわっているのだ。

 

 

―――――――――

 

 

***冒険者ギルド***

 

 

 まあ、そうやって定期的に、そして大抵の場合「おすそわけ」やら「さしいれ」などと言って何かしら持ってくるマイスが今日も『冒険者ギルド(ここ)』へ来たのだけど……

 

 

「うーん……」

 

 ……何やら、マイスらしからぬ周りをチラチラ気にする素振を見せて、困り顔で小さく唸ってる。

 

「どうしたのよ? 珍しく眉間にシワなんか寄せちゃって。何か困り事?」

 

「困り事っていうか……気になること?」

 

 自分で言いながら首をかしげているマイスに、内心「はぁ?」と漏らしつつ――けど、すぐに案外よくあることだということに気付いて気持ちを切り換え――原因を想像しつつ、単刀直入に聞いてみることにした。

 

「何? 『学校』の授業の受講希望者が集まるかどうかとか、逆に集まり過ぎやしないかとか、そういう所を気にしだしたり?」

 

「そうじゃなくて、最近()()周りからチラチラ見られてるような気がして……」

 

()()? って、ああ、そういう……ってことは、やっぱり()()()()っぽいの?」

 

 言葉を濁し、「ソッチ系」なんて回りくどい言い方をしたのは、口にするのは恥ずかしいから……などではなく、ただ単に『冒険者ギルド(公共の場)』のど真ん中で堂々と言うのは少しだけ躊躇われたから。

 

 

 で、結局何の話かといえば、少し前にもあった結婚云々の話だろう。ほぼ間違い無い。

 あの噂のせいで色々とあったあのちょっとした騒動。独り歩きした「結婚」の噂に対して、当のマイス(本人)曰く「手は打ってある」らしいけど……アレはお世辞にも対策と呼べるものじゃなかったから……まあ、そういうことだろう。

 

 そのあたしの予想はやはりと言うべきか、的中していたようで、マイスは当時の事を思い返しているような雰囲気で今回の事を少しだけ喋った。

 

「うん。例の噂が立ちだしたころと似てる気がするんだ。けど、嫌な視線ーって感じはしないから、たぶんそんな大変なことにはならないと思うけどね」

 

「まあ、あんたはそうでしょうね」

 

 あの時も、マイス本人以上に周りが噂に振り回されてしまってたし。

 特に、あたしの働いている『冒険者ギルド(ここ)』とも繋がりの深い国の上層部なんかは上へ下へとてんやわんやだったようで……その余波がこっちにも少なからずあったりもした。

 

「ったく。アレでこっちに余計な仕事まで周って来たっていうのに、当の本人がこれなんだもの。そりゃ国の連中も頭抱えるわ」

 

「え?」

 

「まぁ、その辺がユルいのはマイスらしいし、むしろ、その手の話に察しが良すぎるマイスなんて……何か気持ち悪いわね」

 

「ええっ!?」

 

 あたしが、何のことを言っているのかは完全に把握できてはいない様子だけど、マイス(自分)の事を言ってるということと「気持ち悪い」って言葉はちゃんと理解したようで大きく目を見開いて驚くマイス。

 「冗談よ」と軽く笑いながら言えば、マイスはヘニャリと表情を崩し安心した様子で大きく息を吐いた。……そこまでショックだったのかしら?

 

 

 

 さて、何はともあれ、とりあえず今はマイスが気にしている視線や、その原因であろう噂への対処だ。

 どうでもいいような気もするけど、なんだかんだ言いながらもマイス自身どうにも気になってしまっているみたいで、『学校』や『お祭り』をはじめとしたマイスの仕事に影響が出てしまっては、何かと困ってしまう。

 

 

「どうしても気になるって言うなら、何かしら変えて行ってみたほうが良いんじゃない?」

 

「というと……どういうこと?」

 

「いい加減「特に何もしないでいつも通りに」じゃあどうしようもないから、何か新しくちゃんとしたアプローチをしたらどうなのよ?って言いたいの」

 

 特に何もせずにいつも通りに……。

 確かにそれなら、よほどのことが無い限り加熱はせずに噂やその勢いも自然衰退していくだろう。……が、残念。それはどうやらうまくいっていない様子。まぁ、考えてみればすぐにもわかりそうだけど、()()()()()()。本人は「何も問題の無いいつも通りの自分」のつもりでも、周りから見れば何かやらかしてる……なんてことは普通に有り得る。

 だからこそ、今のままじゃなく確実に効果のあることをしたほうがいい。

 

 けど、マイス自身には何も妙案は無さそうで……

 

「うーん。でもそれって、結局何をすればいいのかな? 全然見当もつかないんだけど……」

 

 そう言って、眉間にシワをちょっと寄せながら首をかしげるマイス。

 そんなマイスに目を向けながら、あたしは人差し指を天井を指し示すようにピンと立ててから口を開く。

 

「一番手っ取り早いのは、噂を噂じゃなくしてしまう――つまりは、本当に誰かお相手を見つけちゃうっていう選択肢。けど、この前ソッチ方面の話はしたばかりだし……あれから、誰か気になる子が出来たとか、逆に告白されたとは……?」

 

 あたしの問いに、マイスは「ううん」と首を横に振った。

 ……まあ、そうでしょうね。

 

「じゃあ、後はもう一つの選択肢、今とは別の手段で噂の鎮静化を図るの」

 

「別の手段? 今とは違うってことは……「結婚の予定はありません」とか「恋人はいません」って言ってまわるとか?」

 

「それで鎮まるんなら、ここまで長引いたりはしないでしょ。っていうか、そもそもの事の発端が『青の農村(あんたのところ)』であった結婚式で「村長は結婚しないんですか?」って言う話があったからじゃないかって言ってたじゃない。ついでに、その時に「しない」ってちゃんと言ったって話も聞いたわよ」

 

 あたしがそう言うと、マイス自身もちゃんと思いだしたようで「あー……」と気の抜ける声を苦笑いと共に漏らしだしていた。

 

 

 しかし、それらがダメだってことは分かっても、マイスは未だに「じゃあどうすればいいのか?」がわからないままなみたい。

 そうね……結婚云々の噂の鎮静化に効果がありそうなのといえば……

 

「簡単なところで言えば、噂になりそうな相手……あんたの場合、ある程度親しくて未婚な年頃の女性と少し距離をとってみるとかかしら? 会うのを最低限に減らしてみるとかそんな極端な感じにしなくてもいいから、ちょっとしたとこから変えてみたらどう?」

 

「距離をとるって、なんだか悪い事してる気がするんだけどなぁ」

 

「だーかーらー、別に相手のことを「無視しろ」とか「一切会話するな」とか言ってるんじゃないっての。そんなことより、むしろ今のままマイス(あんた)に変にかかわっただけで、ありもしない噂を立てられてることのほうがよっぽど迷惑になりそうだけど?」

 

「ううっ、それは確かに……。僕でもジロジロ見られてなんとなく変な感じがするんだから、他の人だったら絶対いい気はしないよね。……うん、頑張ってみようっ!」

 

 途中渋りつつも、自分だけでなく噂の相手になってしまう相手の事も考えてか、意外にも積極的なマイス。この様子なら、何かしらマイス(自分)なりにちゃんと対策とその実行はするでしょうね。本当に効果が出るかは置いといて、ね。

 

 

 

 

 

 ……にしても、自分でも言っておいてなんだけど、マイス(こいつ)と噂になる相手ねぇ?

 噂が立っている以上、少なからずお相手候補扱いされてる人はいるんでしょうけど……噂の相手はまた前みたいにぼやかしたアバウトな感じなのか、誰か明確に名前が挙がってるのか……どっちなのかしら?

 

「まっ、フィリーとかリオネラ……あの二人あたりなら、まんざらでもないのかしら。……どっちにしろ、落ち着きは無くなるでしょうけど」

 

 そんな無意識のうちに漏れていたの呟きは、「距離を取る方法」を一生懸命頭を捻って考え始めているマイスの耳には入ってなかったようで、あたしはそのまま四苦八苦して悩んでいるマイスの様子を数分間眺めることとなった……。

 




 マイス君が気付く(気付いていない)。

 肝心な部分がすっぽ抜けてしまってます。
 クーデリアもクーデリアで、()()()()()を無意識のうちにすでに除外してしまってて……。


 【*6*】以降ではその辺りに焦点が行くかと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ホム』ルート
ホム【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『ホム』◄(ぽちっ)





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、句読点、行間……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

 

「僕が投票したのはホムちゃんだよ」

 

「そうだったんですか? ありがとうございます……とホムはお礼を言っておくべきなのでしょうか?」

 

「あははっ、そんなに気にすることじゃないよ。僕はただお祭りの催し物に参加しただけだから」

 

 さも当然のように言うマイス。そこから「水着がどうだった」とか「可愛かった、綺麗だった」などと言わないので、本当にただ何となく投票したと思われても仕方がないような状態である。

 ……が、対するホムはそんな態度に不機嫌になるわけでも、(とがめ)めるわけでもなく、「そうですか」と受け入れていた。もちろん、水着への感想なども求めたりせずに普段通りに(たたず)んでいる。

 

 二人揃って通常営業のマイスとホム。だが、あの『水着コンテスト』の後であると考えると、逆に落ち着き過ぎていて首をかしげたくなってしまう。

 

 

 

「マイスもホムちゃんも、別に恥ずかしがったりとか照れたりはしないんだ。なんだかなぁ……」

 

「でも無関心ってわけでもなさそうだし、むしろ仲は良いように見えるわよ? ……なんていうか、ちょっと不思議な感じね、あの二人」

 

 反応を見て茶化したりして面白おかしく盛り上げようと話題を振ったメルヴィアは残念そうにしていたが、その隣でピアニャの手を引いているツェツィは二人を見てなんとも言えない感覚に(おちい)っていた。

 

「まぁ、あの二人は昔っからあんな感じだったからな」

「そうね。良くも悪くも淡々としているって感じかしら?」

 

「でも、息もぴったりでちょっとうらやましいかも……」

 

 『青の農村』での二人を中心に、ロロナの次くらいには二人の事を多く見てきたであろうリオネラが、両腕でホロホロとアラーニャを抱きしめながら、無意識のうちにそんな言葉をこぼす。

 

 

 

 さて。そんなふうに色々と言われている二人なのだが……不意にホムの眉がほんの少し歪み、八の字……とまではいかないが、それに近いものになった。

 

「ですが、困りました。ホムに投票したということは、おにいちゃんもホムにヨクジョーする変態さんなのかもしれません。そうなると、グランドマスターの(めい)でボコボコに殲滅(せんめつ)許可がおりることとなるのですが……」

 

「ええっ!? ヨクジョーっていうのはよくわからないけど……投票はしたわけだし、僕、ホムちゃんにボコボコにされるのかな?」

 

「その心配はいりません。グランドマスターは「してもいい」と言ってましたので最終判断はホムに(ゆだね)られています。……おにいちゃんに投票してもらえたという事実は、不思議と心地の良いもので嫌ではありません。なので、ホムはおにいちゃんをボコボコにはしません」

 

 いつもの無表情に戻り……そして次にはうっすらと笑みを浮かべたホム。

 彼女の表情の変化に気付けた人は驚くことだろう。『水着コンテスト』中や、マイスを探しながらみんなで祭りの村の中を歩いてまわった時など……それらとは比べ物にならないくらい表情豊かであることに。

 

 残念なのは、ホム本人にその自覚は無く……それを向けられているマイスも「昔より元気になったなぁ」と思いつつも「ソレが今の普通」だと思ってしまっているため、別段何とも思っていないことだ。

 

 

 

「合流に時間がかかりましたが、今からは約束通り一緒にお祭りをまわれます。グランドマスターとホムへのお土産を探すのを手伝ってください」

 

 そう言って、フリルの付いた長い袖に隠れた手を自然と差し出すホム。

 

「いいよ。アストリッドさんも難敵だけど、ホムくんの分も難しいところだね。食べ物は無理だろうし、他には……」

 

 ホムが言った「ホム」をどっちなのか瞬時に判断しつつ、差し出された手を握るマイス。

 そうして手を繋いで並び立った二人は、行き交う人々の合間に見え隠れする店を、指差して一緒に見ながら「あれはどう?」だとか「あちらのお店は?」と何やら二人で相談し始めた。

 

 

 

 そんな二人に、周りの誰よりも強い視線を向けている人物が一人。

 

「む~……っ! マイス君が、マイス君がホムちゃん取った!! わたしの弟と妹なのに!」

 

「なに変なこと言ってるんですか、先生?」

 

「ていうか、前々から思ってたけどあの二人がああやってるのを見ると、外見は似てなくても本当の兄妹に見えてくるわね」

 

「うっ!?」

 

 弟子の言葉にショックを受け、親友の言葉に「そ、それは……」と、自分でもどこかそう思っていたのであろう反応を示すロロナだった……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』とは異なり、一緒には行かない組なので出発前のお話となっています。



 …………って、あれ? 何かがおかしいような……?





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、句読点、行間……


【*2*】

 

 

 僕を訪ねてきたトトリちゃんから「『塔の悪魔』を倒しに行く」ことを伝えられ、僕はその準備をすることに……。

 

 『塔の悪魔』のことや、それを今後倒しに行くという話は以前に聞いていたので、前々から色々と考えていちおう準備を進めはいた。なので、持っていく武器やアイテムを選別しまとめるのには時間はかからなかった。

 

 準備をサクッと終えた僕は、さっそくトトリちゃんたちとの集合場所である『アランヤ村』に……行くわけではなかった。

 出発は明日。僕の手元には『トラベルゲート』があるから『青の農村(ここ)』から『アランヤ村(あっち)』まで一瞬で行ける。そのため、家を出るのは明日でも問題は無い。

 

 もちろん、早めに行っていても何も問題は無いんだけど……でも、やっておくべきことが僕にはあった。

 それは、遠出をする際に行く前と帰ってからいつもしている「挨拶周り」だ。

 

 

 

――――――――――――

 

***青の農村・マイスの家前***

 

 

 

 ……で、挨拶周りに行こうと家を出たところで、僕は固まることとなった。

 その理由は……

 

「…………。」

 

「え、ええっと……?」

 

 玄関を出たすぐ外に無表情の()()()――おそらくは僕が玄関戸を開けた時にすぐ目の前にいたんだと思うんだけど、特に驚いた様子は無いーーが、静かに立っていたから。そしてその子はジッと僕の顔を見つめてきているのだ。

 

 僕は、この子が僕に何か用があって来たんだろうということはすぐにわかった。そうでもなければ、わざわざ僕のところに来たりはしないだろう。

 

 じゃあ「知り合いなのか?」と聞かれれば答えはNO。

 目の前の男の子が「村長に挨拶しにきました」って言いそうかと聞かれてもNOだろうと思う。挨拶に来る人は他所の地域の人や行商人を中心にこの数年で沢山あって来たけど、この男の子のような子(こういった子)は経験上まずウチには来ないタイプだ。

 

 

 なら「なんの用かな?」とでも聞けばいいんだろうけど……何故か僕には目の前の男の子のことがが妙に引っかかっていて、何か聞く前に頭の中で「あれ?」っと考えてしまったのだった。

 

 さっき思ったように、この男の子にはこれまでにあった覚えは全く無い。が、その男の子には何故かはわからないけど既視感を感じる。

 服装は……動きやすさとかよりも見た目を重視しているデザインに見え、どちらかと言えば街の貴族の人たちなんかが身に纏っているようなものに近い。だけど、キッチリカッチリって感じでもなく、首元や襟元にはフリルがあったりしてどっちかといえばフンワリ系? あと、袖が手が隠れるくらい長い……

 

「あっ!」

 

 っと、ここである事に気がつき、自分が感じていた既視感についても理解ができた。

 そしてそのことの裏付けを取るため、僕は目の前の男の子に問いかけてみることにした。

 

 

「えっと、もしかして……()()()()?」

 

 僕の問いに男の子は表情を変えないまま頷き、口を動かす。

 

「はい。ホムはホムです。そして、ホムをホムだと認識したことを含めた様々な要素から、ホムはあなたを「マイス」だと判断します。間違いはないでしょうか?」

 

「うん! 僕がマイスだよ。よろしくね、ホムくん!」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 礼儀正しく深々とお辞儀をするホムくん。

 そんなホムくんを改めて見ると、僕が出合い頭から既視感を感じたのも当然のことだろうと納得できる容姿だ。

 

 さっき注意深く見た服装が、長い袖をはじめとした部分部分がホムちゃんの服と()た傾向のデザインだということがわかる。

 そして、無表情のその顔もよくよく見てみれば……いや、よく見なくてもその目や鼻、口といったパーツをはじめ、全体的にホムちゃんの(それ)と瓜二つだと言っていいくらいだ。髪も髪型こそショートカット(違うもの)だけど、その色や髪質はとても良く似ている。

 また、何て表現をしたらいいのかわからないけど、その独特の雰囲気も同じで、やはり総合的に見てもホムちゃんとホムくんは似ているんだろう。

 

 双子のように似ている二人だけど……でも、確か生まれた時期はアストリッドさんが街を出る前と後という差がある。本当に双子ってわけでもないのに、どうしてこうも似るのだろう?

 二人とも正確には人間じゃなくて『ホムンクルス』っていう存在らしいけど……つくったのがアストリッドさんであるという共通点からか、もっと別の何か……作り方や素材で変わったりするのだろうか? いや、ちむちゃんたちのことも考えると、『ホムンクルス』という存在自体が「似やすい」という性質を持ってたり?

 ……色々と考えてみるけど、やっぱり『錬金術士』ではない僕には考えつかない領域なのか、前々さっぱりだった。

 

 

 

 そんなことを考えていたのだけど、ふと()()()を疑問に思い、そのことを目の前にいるホムくんに聞いてみた。

 

「ええっと……それで、ホムくんはどうしてここに?」

 

 挨拶をするためだけにわざわざ『青の農村(ここ)』まで来たりはしないだろう。というか、そもそもホムちゃんからホムくんのことを聞いたのは結構前のことだし、借りに挨拶だとしてもタイミングがおかしいと思う。

 

「グランドマスターから調合の素材の調達を命じられました。こちらでそろえられるとの話でしたが……」

 

「ああ、なるほど、いつものおつかいだね。ちょっとリストを見せてくれる?」

 

「はい、どうぞ」

 

 ホムくんがから手渡してもらった四つ折りにさせた紙を広げ、そこに書かれてあるリスト表に目を通し、素材とその必要個数を確認していく。

 確認しながら家のコンテナや倉庫で保管している物を思い浮かべ「うん、とりあえず量は問題無いし、品質も悪くなかったはずだから大丈夫かな?」と一人考える。

 

 

 ……と、そんな確認作業の最中、またある疑問が浮かび、さっきと同じようにホムくんに聞いてみた。

 

「そういえば、普段はホムちゃんがおつかいで、ホムくんがその間アストリッドさんのお世話をしてるって聞いたんだけど……交代制にでもなったの?」

 

 ホムちゃんだけでなく、ホムくんもアトリエの外に出しておつかいとかをさせて「社会勉強」をさせるとか、そういう理由で交代制にするようにしたのかなぁ?

 そんなふうに思ったんだけど、アストリッドさんのことだし、もっと何か後々の事を考えて判断したんだろう……

 

「いえ。ホムがホムの代わりに来たのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へぇ、なるほど…………え? 謹慎!? なんでホムちゃんが!?」

 

 一瞬納得しかけてしまったけど、よくよく聞いてみればおかしな状況だ。

 あのホムちゃんが何かそんな失敗をするとは思えないし、したとしても、そんな外出禁止を言い渡されるほどの大事を起こしてしまうとは考えられないんだけど……?

 

 

「グランドマスターの言葉をそのまま言うと……「休みを与えたらどっかに行ってしまったかと思えば、ロロナとその他諸々(もろもろ)の水着姿を一人楽しんでただと!? 許せん! お前は当分外出禁止だ!!」……とのことです」

 

「思いっきり私情じゃないですか、アストリッドさんっ!!」

 

 

 けど、その謹慎処分って僕に原因があるんじゃ……?

 『水着コンテスト』のことを知らなかったとはいえ、朝、うちに来たホムちゃんを誘い、そのまま『豊漁祭』に連れて行ったのは僕なわけで……。うん、これは何とかしてあげたほうが良いような気がする……というか、なんとかしてあげたい。

 

 でも、「僕のせいなんです」って伝えたところでアストリッドさんの反応は「で?」というどうしようもない言葉か、「ならお前が『水着コンテスト』を開催しろ」という無茶振りか、どちらかだろう。……どっちもいろんな意味で無理だよ。

 

 なら、代案かを出したり、別の物で満足させたらいいんだろうけど……「アストリッドさんを」という時点ですごく難しくなってしまっている。

 

 

「……そういえば、『学校』のこともあってマークさんとハゲルさんと『サンライズ食堂』に飲みに行った時、酔払ったマークさんが「僕も『豊漁祭』には行っててね、その一部始終をカメラで撮影していたんだ」って言ってた気が……。アストリッドさんがロロナたちの水着姿が見たいなら、マークさんに言えばなんとかなるかもしれないかな?」

 

「はぁ、カメラで撮影、ですか?」

 

「うん。あっ、でも冒険者免許とかで使ってる『写真』じゃなくて『えいぞう』ってモノを撮るカメラらしいよ? 話を聞いてもよくわからなかったんだけど、目の前で見えてる光景や動きを記録して、いつでも繰り返し見れるとか何とか……」

 

「……ホムにもよくわかりませんが、グランドマスターにそう伝えてみます」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 それから、リストに書いてあった素材を用意して、ホム君に渡した。

 

 本当はゴハンを食べていってもらいたかったんだけど、ホムくんには「いえ、必要ありません」と断られてしまった……。

 

 そして僕は、帰っていくホムくんの後ろ姿を見つめて「そういえば、会った最初の頃はホムちゃんもあんな感じにそっけなかったっけ?」と少し懐かしみながら…………なーと戯れたり、金のモコモコ()をブラッシングしてくれたり、一緒にゴハンを食べてくれ、()()()()ホムちゃんの事を思い出し……

 

「次のおつかいはホムちゃんが来てくれるかなぁ?」

 

 自然とそんな言葉が口から出てきていた……けど、「それはそれ、これはこれ」と挨拶回りを再開することにした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 後日、マークさんの研究所(ラボ)で、鍵などの防犯対策等には全く形跡を残さずに研究所内の機械を盗み出すという人間離れした所業をなしとげた泥棒が現れた、という噂が広がることになるとは、僕は想像もできなかった……。

 




Q,『IF』はマイスと各ルートのお相手の絡みを見る場所では無いのですか?

A,全体のストーリーの流れの都合で、マイス君とお相手のどちらかが登場しないお話があったりします。ご了承ください。


 ……本当にすみません。
 本編で取り上げられなかった『豊漁祭』のマークさんがチラ見えしたり、ホムちゃんが大変なことになってますが……どうしても必要なお話だったので……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

サブタイトルには『マイス「」』とありますが、第三者視点でのお話しとなっています。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、句読点、行間……


【*3*】

 

 

 

 『塔の悪魔』の討伐を終えて『青の農村』に帰ってきたマイス。

 マイスを待っていたのはいつもの日常。……とはいっても、ちょっと前から間近に迫っている()()()を発表するお祭りのことや、その()()()関係のこれから先のことで色々とあるため、ヒマというわけではなくそこそこ忙しい日々を過ごしていたりするのだが……。

 

 時に村の人たちと祭りの予行練習や確認作業を行い、時に家にその道を行く知り合いを呼んで各教科の教科書や授業の方式について議論を交わしたりするマイス。

 

 

 そんな日々の内の、とある日のこと……

 

 

 

――――――――――――

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

 太陽がその日の内の最も高い位置にさしかかろうかという時刻。

 一人「農具も用意しとかないとなぁ」と『作業場』の『炉』の前で延々と『農具』を作って(量産して)いたマイスだったが、お昼前になったことに気付き、一旦片付けてから昼ゴハンを作りに『作業場』を出た。

 

 『作業場』からリビングダイニングをそのまま通り過ぎ『キッチン』へ。様々な調理器具が揃った調理台を前にしたマイスが「さて、さっそく調理にとりかかろうっ!」、そう意気込んで手を動かそうとしたちょうどその時……。

 

 

 「コンコンコンッ」という小気味良い(ノック)が、『キッチン』の隣のリビングダイニングと外とを(へだ)てる玄関戸のほうから聞こえてきた。

 

「はーい! ちょっと待ってくださーい!」

 

 ノックに気付いたマイスは調理を始めようとしたその手を止めて、その足を玄関のほうへと向けた。

 

 

「お待たせしましたー……あぁっ! ホムちゃん! いらっしゃい! 謹慎処分って聞いた時には驚いたけど……無事に解いてもらえたんだね!」

 

「こんにちは、おにいちゃん。ちょっとだけお久しぶりですね。謹慎処分については……おかげさまで、といったところでしょうか?」

 

 そう。マイスが扉を開けた先にいたのはホムちゃん。いつも通りのスッと正された姿勢でたたずんでおり、出てきたマイスに礼儀正しくお辞儀をした。

 

「この間のおつかいにはホムくんが来てくれたから会えなかったもんねー。って、あれ? いつも以上におつかいの間の期間が短い?」

 

「それについては、先程少しだけあがった謹慎処分の解除にも関係しているのですが……」

 

 

 「実は……」とホムはマイスへと、今回のおつかいの経緯を語り始めるのであった。

 

「それが、先日のおつかいの際にあちらのホムが持ち帰った情報……おにいちゃんの情報提供によって判明した『水着コンテスト』を『さつえい』したカメラ。それをグランドマスターは入手したのですが……」

 

 そこまで聞いて、マイスはマークの研究所(ラボ)に泥棒が入ったという話を思い出し、「あっ、あれってやっぱりアストリッドさんが……」と半ば確信に近い予感だったものがやはり事実だったということを理解した。

 

「残念ながら記録したものを『さいせい』する機能は不完全だったらしく、また、『さいせい』専用の機械も開発途中でグランドマスターは『えいぞう』をまともに見ることが出来なかったのです。……が、「再生する機械が無いのであれば、暇潰しに調合して(作って)みるか」とグランドマスターが思い立ち、その素材集めにホムたちが奔走することになった……というわけです」

 

「えっ!? それって、アストリッドさんが『さいせい』のための機械を作るってこと!?」

 

「グランドマスター(いわ)く、理論的にも『錬金術』による調合は不可能ではないそうです」

 

 『錬金術士』が機械を……。

 そう考えると違和感を感じてしまったマイスだったが、いちおう、どういうものが必要なのかがわかっていれば機械の部品を『調合』すること自体は出来なくないことだということにすぐに気がついた。問題は、現象の原理やその理論、作る機械の仕組みをよく理解する必要がある事なのだが「アストリッドさんなら何だかできちゃいそうなんだよなぁ……」という思いがマイスの頭の中にあった。

 

 

「……それでこれが今回のおつかいのリストです」

 

「はーい。ちょっと待ってねー……っと、うん! パッと見た感じウチで全部そろいそうだよ!」

 

 「機械を作るのに、『鉱石類』はともかく『植物類』や『毒の素材』、『神秘の力』の素材が必要になるのは何で……?」と疑問を抱きつつも、リストに書かれた素材が全て手元か倉庫のコンテナに保管されていると記憶していたマイスが、笑顔でホムにOKサインを出す。

 

「それじゃあ、その素材はまとめとく……けど、その前にお昼ゴハンだね! 今から造るから、座って待ってて!」

 

「はい。と、その前になーを…………ぁっ」

 

「……?」

 

 玄関からキッチンへ戻ろうとしたマイスだったが、ホムの声が不意に途切れたことに疑問を感じ、すぐに振り返った。

 「なーのことで何かあっただろうか?」と考えてみるが、思い当たるのは、ここ最近、ホムが村に来ればホムが迎えに行かなくてもいつの間にかホムのもとに来るようになっている。動物特有の敏感な感覚で、ホムの気配を察知しれいるのかもしれない。

 

 それで「迎えに行かなくてもいいかな?」ということで言葉を途中で止めたのか、とマイスは予想したのだが……そうではないという事を、マイスはすぐに察する。

 

 

 ホムが一歩踏み出さずに――家に入らずに扉の開いた玄関の前で、顔を少しうつむかせて立ち尽くしていた。

 

 振り返ったマイスが見たホムの表情は、眉が()()()()下がり、口角も()()()()下がって「へ」の字に。そして、その目は普段よりも潤んでいる()()()()()()()()()()……そんな表情(かお)

 

 マイスの頭に真っ先に浮かんできたのは、()()()のホムの姿だ。

 そう、それは……当時は「こなー」だった「なー」をその両手で抱えて立ち尽くしていたホムと『職人通り』で出会ったあの時の事。拾って来た「こなー」をアトリエで飼いたいと言ったところアストリッド(グランドマスター)に拒否され「捨ててこい」と命令を受け……「命令をこなさなければいけない」でも「こなーを捨てたくない」と葛藤して、ホム自身は自覚できていなかったがとても苦しんでいた。

 

 

 今のホムの表情(かお)()()()以上に歪んでおり――それが、あの時よりも苦しいからか、あの時よりも感情表現が豊かになったからなのかは不明だが――「そんなのはどっちでもいい」と言わんばかりに、マイスはすぐさまホムの元へと駆け寄るのだった。

 

 

「ホムちゃん!? どうしたの? どこか痛いの? それとも……謹慎の時にアストリッドさんに何か言われた?」

 

 マイスがアストリッドの名前を出した時、ホムの身体がピクリと動き……それを見たマイスが「あぁ……やっぱり」と察して、彼としては珍しく怒りの感情をわき上がらせる。

 それを見てか見ずかはわからないが、顔をうつむかせたままのホムがポツリッポツリッと、話し始めた。

 

「ホムが謹慎処分を受けた、()()()()()は……おにいちゃんと選んだおみやげを渡した後……普段グランドマスターは聞いてこなかった「祭りは何があったんだ?」という質問をされて話した『豊漁祭』の一件ですが……もう一つの理由は、ホムがグランドマスターからのいいつけを守っていなかったことが、事情聴取でバレたからです」

 

「いいつけ?」

 

 マイスに聞き返されたホムは、顔をうつむかせたまま「……はい」と小さく頷く。

 

「休暇以外の外出であるおつかい……ホムは()()()おつかいの時には出発の際にその上限期間を伝えられます。それは、「その日までは外に出ていていい」のではなく「指定した素材が集まらなかった場合であっても、この日までには絶対に帰ってくること」と。つまり……」

 

 そこまで言われたマイスは、ホムちゃんが言葉を詰まらせてしまっているその先を、理解した。

 

「つまりは、素材が全て集まった場合はすぐに帰らないといけなかった……そういうことなんだね?」

 

 僕が聞くと、今度は何も言わずにゆっくり頷いた。

 

 

 何がどういうことなのかといえば……

 

 これまで、ホムはおつかいの時にマイスの家に立ち寄り、必要な素材をリストを渡して用意してもらっておきながらも数日間――おつかいの上限期間の間――そのままマイスの家に滞在していた。

 しかし、それはアストリッドからのいいつけを破る行為であり、それが『豊漁祭』の一件から芋づる式に露呈して、余計にアストリッドの怒りを買ってしまったのだろう。

 

 

 つまり、ホムがマイスの家に踏み込めずにいるのは……

 

「ホムが、今、ここでお昼ゴハンをいただくのも、マイスの家でお喋りするのも、『青の農村』で遊ぶのも……してはいけないことなのです。出発の際にグランドマスターから重々忠告を受けました」

 

 相変わらずのうつむき加減で言うホムの肩はわずかに震えており……その足元近くには数滴の雫が落ちはじめた……。

 

 

 

 ホムの話を聞き、その姿を見たマイスは……

 

「ちょっと待ってて!」

 

 そうホムに言って一目散に何処かへ走って行った。

 その数秒後……

 

 

 

 

 

ガンッガンッガンッ!

 

ガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!

 

ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!!!!

 

 

 

 

 

「!?」

 

 いきなりどこからかなり響き出した音に、目元を少し赤くしているホムも驚き、さすがにその顔を上げその目を見開かせて辺りをキョロキョロと見渡した。

 

 ……と、玄関とはリビングダイニングの部屋を挟んで反対方向にある『離れ』や『モンスター小屋』に続く渡り廊下のある方向の扉が開き、そこから何処かへ行っていたマイスがいろんな素材をその手に持って現れた。

 

 

「あー! たいへんだー! 素材、全部揃ってると思ったのに、『鉱石類』の品質が全部最悪レベルだー!」

 

「……品質が最悪というか、粉々に砕けているように見えるのですが……」

 

「そ……そうかなー? とっとにかく、これを渡すんじゃあアストリッドさんに怒られちゃうよー」

 

「もの凄く視線が泳いでいますが……というか、いったい何を……」

 

 

 

「ここで素材が集まらないなら、ホムちゃんは採取に行かないといけないけど、早く帰らないとアストリッドさんに怒られちゃうかもだよねー? だったら……僕が責任を持って採取のお手伝いをしないとなー」

 

 

 マイスの言葉に目をパチクリとまたたかせるホム。そして……

 

「おにいちゃん……それは何というか、屁理屈なのでは……?」

 

「うぐっ……!!」

 

 自覚があったのか、まるで腹部に何かをグサッと刺されたかのように、身体を「く」の字に曲げてうめき声をあげるマイス。

 が、すぐになんとか体勢を立て直して……背筋を伸ばした。

 

「屁理屈だって言うよ。だって……やっとホムちゃんに会えた。ホムくんには悪いけど……やっぱり、僕はホムちゃんと話して、笑って、ゴハン食べて、遊びたいんだよ。だから、この前、ホムちゃんが来れなくて、やっと今日会えたのにすぐにお別れだなんて僕は嫌なんだ……僕のワガママでも何でも……」

 

 

 

 

 

「ワガママなんかじゃないです」

 

 マイスの言葉を(さえぎ)るように、ホムが言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。一緒にゴハンを食べたいです。お話もいっぱいしたいです。だから……ウソが苦手なおにいちゃんのひとり芝居にまんまと乗せられることにします」

 

 さきほどまでの気の沈み様は何処へ行ったのか、微笑むホム。数秒、間を空けてマイスは「そっか」と嬉しそうに呟き、続けて言う。

 

「それじゃあ、ちょっと家を空けることと、予定をずらすこととかをコオルに伝えてくるから、その間にホムちゃんは(ウチ)に入って、持って行くゴハンとおやつ……もとい、採取を効率的に行うための栄養補給の物資の用意をしててくれないかな?」

 

「お任せ下さい」

 

 

 こうして二人は足りない素材の採取のための冒険の準備を始めるのだった……。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 そして……

 

 

「………………。」

 

 

 そんな二人を遠くから観察する目があることを、二人は知ることは無かった……。

 




 仲良し(?)義兄妹。


アストリッド「祭りのお土産? なんだいつものか……ん? ちょっと待て」

 ……このあたりのやりとりが、今後の展開にも関わって……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、句読点、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***????・????***

 

 

 そこは、『アーランドの街』や『青の農村』から遠く離れ、『アランヤ村』からも遠く離れた地。

 『アーランド共和国』という枠組みで見ても、とても遠く感じてしまうほど離れた土地に、ある一軒の建物。その建物内の一室は、どこかで見たことがあるような気がする機材の数々と、棚に入りきらず机や床に積まれるようになってしまった本たち、そして二つの錬金釜があり……見る人が見れば『錬金術』のアトリエなのだとすぐに理解できるだろう。

 

 

 そんな室内空間で動く影が一つ。

 少女が二つある錬金釜のうちの一つの前に立ち、その中を杖を使って一定のペースを保って混ぜ続けている……『錬金術』で何かを調合しているのだろうと推測することが出来る。

 

 錬金釜の中を混ぜ続けている、そのフリルがふんだんに付けられた服と左右にまとめられたお団子ヘアーが印象的な少女……ホムンクルスのホムは、このアトリエの主人であるアストリッドの命令により調合を(おこな)っているのである。

 

 その命令を与えたアストリッドはといえば、今現在『アトリエ』から外出しておりこの場に()らず……もう一人いるホムンクルス、男の子のほうのホムもホムとは別の仕事を、()()()()()()を任されており、錬金釜のあるこの部屋にはいなかった。

 

「…………。」

 

 唯々(ただただ)黙々(もくもく)とかき混ぜているホム。その顔はいつも通りの無表情に()()()()()()()()。しかし、彼女(ホム)との付き合いが長い者……例えば、アストリッドやロロナ、マイスなどといった面々が見れば、無表情でないことがすぐにわかり「機嫌が悪そう」や「楽しくなさそう」などと言ったことだろう。

 

 

 さて、そんな表情をしているホム(当の本人)はと言えば……

 

「ぐーるぐーる、ぐーるぐーる……何か、違います。マスターの真似をしてみましたが、さして楽しくもありません。この作戦も失敗でしたか……」

 

 そう言ってため息を吐き、残念そうに肩を落とすホム。それでも相変わらず一定のペースで錬金釜の中をかき混ぜ続けているあたり、流石と言うべきだろう。

 

 

 独り言を言い、一見すると片手間で仕事をしているような不真面目な印象を受けかねない状況であるホムだが、当の本人は大真面目であり、真剣に悩んでいる。

 というのも……

 

「……お仕事とは、こんなにも退屈で楽しくないモノだったでしょうか?」

 

 ここ最近ホムは、グランドマスターから受けた命令に従い仕事をこなすことが退屈に感じ始めてきているのだ。

 

 もちろん、与えられた仕事が簡単すぎるとか、単純作業で眠くなるとかそういうわけではない。今こうしてかき混ぜてやっている調合だって、一見簡単そうに見えて、作るものの難易度によってはかき混ぜるペースを見極めて保ったり、材料を加えるタイミングなど難しい部分も多くあり、決して楽ではない。

 だが、難しい調合であっても完璧にこなし、アストリッド(生みだした者)の要望に最大限に応えるのがホム(ホムンクルス)の役目であり、生きがいであり、存在意義である……()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、それがどうだろうか。今のホムにはその過去の自分自身の考え自体に疑問を持ちだしてしまていたのだ。つまりは……自分の存在意義そのものに疑問を持ってしまったのだ。

 

 

 そして、ホムが一番困っていることは……

 

「ここ数日でいろんな事を試してみましたが……一向に前のような感覚に戻りそうにないです。それに、何故こんな風になったのか皆目(かいもく)見当がつきません……」

 

 他でもない。アストリッド(グランドマスター)から与えられ行っている仕事に対して、こうも意欲が湧かなくなった理由が全くと言っていいほど本人(ホム)にもわからないのだ。

 

 普段、「ナニがドウだからソウである」とか「後でアアなるだろうから、今、コウすべきである」などと蓄積された知識と経験を元に、順序立てて()()()に考えを出すのがホム(ホムンクルス)なのだが……今回に関しては、完璧に仕事をしている時に感じている、自分自身の()()()なものがほとんどを占めている。

 そのため、「何故そう思う?」と自問自答しようとしても上手く答えが出せず、ただ無意味と思えるほど頭を悩ませることに時間を費やしてしまうわけだ。……とはいえ、今回は調合をしながらであるため、全くの無駄な時間というわけではないのだが……。

 

「こういう時、誰かに相談できればいいのでしょうが……」

 

 そうは思うが、残念ながら相談が出来るような相手は手近にいなかった。『錬金術』の事であれば、別の仕事を任されているホムくん(ホム)や、今は外に出ているアストリッド(グランドマスター)に相談できるだろう。

 だが、今回は内容が内容なため二人には相談できない。ホムくん(ホム)に相談すれば真顔で「ホムたちがグランドマスターのために働くのは当然のことで、それが第一なのでは?」と聞き返されるだろう。アストリッド(グランドマスター)は話した場合、何をされるかわかったものではない……と、ホムはそう思っているのだ。

 というわけで、相談など到底できそうにも無いわけだ。

 

 

 

 

「今帰った」

 

 「手近でなくても、他に誰か相談にのってくれそうな人は……」そんなことを考えながら錬金釜をかき混ぜ続けていたホムの耳に、ドアの開閉音と聞きなれた声が聞こえてきた。

 どうやらこの『アトリエ』の主人であり、ホムを作った人物でもある自称「天才錬金術士」……他称「悪名高い錬金術」だったりする()()アストリッド・ゼクセスが帰ってきたようだ。

 

「おかえりなさいませ、グランドマスター。調合途中で手が離せず、このようなお出迎えになってしまい申し訳ありません」

 

 ホムは、あいかわらず錬金釜をかき混ぜ続けつつも、その顔だけはアストリッドの方へ向けてそう言った。

 そんな様子を一瞥(いちべつ)したアストリッドは特に気にした様子も無く――鼻歌でも歌いそうなくらい――軽い足取りで錬金釜から少し離れたところにある、本が積み重ねられながらもわずかにスペースが残っている机の方へと歩いて行く。

 

「まぁ気にするな。むしろ下手に手を離して調合を失敗でもされたほうが困るからな。……で、進捗状況は?」

 

「全体の工程の八割を超えたあたりです。あと2,3時間ほどで全行程を終えると予想されます」

 

「ふむ。今回の調合の難易度を考えれば上々だろうな。その調子で続けてくれ」

 

「はい。わかりました、グランドマスター」

 

 アストリッドの言葉にいつも通りの返事を返すホム。だが、やはりその心の中の違和感と表情まではいつも通りとはいかず、ホムは内心、より一層「どうしたものでしょうか……」と首をかしげるのだった。

 

 

 

 そして…………

 

 

 

 そんなホムの変化に気付かないほど、アストリッドの目は曇ってなどいなかった。

 ここ最近、ホムが悩んでいることもしっていたし、その理由も、ホムが気づけていない原因さえも大方(おおかた)見当がついていた。

 

 そもそも()()は、アストリッドの中では随分前から「可能性は低くとも、将来的にはあり得なくはない事象」として頭の片隅にあったものだ。故に予兆が見らせた際にもさほど驚きはしなかったし、本来ありえないと思っていた感情の芽生えのきっかけであり促進剤ともなった『ネコ』のことを黙認したように、今回も特に干渉せずに観察に(てっ)するつもり……だったのだが……。

 

「まさか、ここまで影響がでるとはな……」

 

「……? グランドマスター、なんでしょう? 次の命令ですか?」

 

「気にするな、ただの独り言だ」

 

 ポツリと呟いた言葉を聞きとれなかったものの反応したホムの問いかけに、アストリッドは手をヒラヒラと振って「何でも無い」と返す。

 そんなことをしながら、アストリッドは自信の思考に没頭する……。

 

 

――――――――――――

 

 

 徐々に出てきていた変化をだったが、アストリッドが大きく「変わった」と感じたのは三回。

 

 

 一度目は、アストリッド自身のちょっとした興味がきっかけとなったあの時……何故マイスのことを「おにいちゃん」と呼ぶのか問いかけたあの後だ。その前から小さな兆候はいくらかあったのだが、それを元に自身がたてた推論を確かめるためにアストリッドは聞いたのだが……結果的に、それがホムの変化を(うなが)すこととなったようだった。

 

 

 二度目は、働き詰めだったホムに何気なしに与えた休暇。それから帰ってきたホムが、ホムくんとアストリッドにお土産を渡したあの日。

 「お祭りのお土産です」とお土産を渡された時、アストリッドは「またマイス(あいつ)のところに行ってきたのか」程度にしか思わず、お祭りの内容についても特に気にしてなかった。というのも、ホムが『青の農村』のお祭りに行くことは何度もあったし、その度にお土産も買って帰ってきていたので、アストリッドには「いつものこと」くらいにしか思えなかったわけだ。そして、月一の頻度であるマイスの(ところ)のお祭りということもあって、お祭りそのものにもさほど興味もわかなかった。

 ……のだが、アストリッドは「ん?」と首をかしげることとなった。その理由はお土産がこれまでの「実用性に(ともな)った物」とは趣向が違い、いかにもお土産といった記念品色の強い小物だったから。アストリッドから言わせてみれば、論理性や効率性を重視する傾向にあるホムンクルスらしからぬお土産だった。

 

 故に、気になってホムに直接今回の休暇中の事を聞くことにしたのだが……そう思ったアストリッドが目にしたのは、普段のアトリエでの生活に戻っているが、妙に機嫌が良すぎるホムの姿だった。天才のアストリッドでなくともわかったことだろう、「これは絶対何かあった」と。

 ……問い詰めた結果、お祭りはいつもの『青の農村』のモノではなく『アランヤ村』で行われた『豊漁祭』というもので、機嫌がよかったのはその中の『水着コンテスト』に色々あって参加し、優勝は逃したもののマイスに票を入れてもらえたからだということが判明することとなる。

 

 

 三度目はつい最近のこと。「一人で勝手にロロナの水着を見たこと」という半分本音、半分建前の理由で、ホムのバイタルチェックなどといった身体・精神の双方の検査期間も兼ねた「謹慎処分」を下した時のこと。

 おつかいの際に与えた上限期間のいっぱいいっぱい『青の農村』にいたことなど、アストリッドからしても「そこまでなのか」と驚くことが判明したりもしたのだが……それ以上にアストリッドの目に止まるようになったものがあった。

 

 それが、「()()()()()()」だ。

 

 アストリッドは「期限に余裕があるからといって遊んではダメだ」とか「お前は謹慎中は私のそばから離れないように」などと叱ったり、命令したり、何かしらの制約を言ったりする度に、本人に自覚があるかは不明だが、口では良い返事をするのに顔は不満顔になっていたりするのだ。

 特にひどかったのが、ホムの代わりにおつかいに出るホムくんを二人で見送った時など、ホムくんのことをうらめしそうにジットリと睨みつけていた時。それには流石のアストリッドも苦笑いをしたほどだ。

 

 

 

 そんな、普段のアトリエでの仕事中などといった日常に影響を与え始めたホムの変化。それを観察し続けたアストリッドは思った。

 

 

 「ああ、これはもうほぼ確実か」と。

 

 

 「おにいちゃん」呼びに執着し他には無い繫がりを求め、そばにいることを好み、マイスのことを「特別だ」と思い、思われたい……ホムはマイスにある種の好意を感じているのだろう、と。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

()()()見え透いた嘘に喜々として乗るほどなのだ。間違い無いだろう。もっと時間のかかるものだと予想していたのだが……」

 

 イスに座り、体重を背もたれに預けるようにして体をそらす。アストリッドが思い出していたのは、先日謹慎処分を解きおつかいに行かせたホムを隠れて追跡したあの日のこと。

 アストリッド(自身)の言いつけを不満そうにしながらも守るホムと、そんなホムと一緒にいたいからと家にあった素材を粉々に壊してまで一緒に冒険に行く(いる)理由を作ろうとしたマイス。そんな様子をアストリッドは隠れて見ていたわけだ。

 はたから見ていて、「兄妹などという表現が合っているのか?」と疑問を浮かべてしまいそうにも見える光景だった……が、アストリッドにとっては、それくらいは大したことでは無かったりするのだが……。

 

 

「さて。どうしたものか……」

 

 

 他にもすべきことはあるのだが、ホムとマイスのことをこのまま放っておくのもどうかと思っている。半鐘は控える、などと決めていたが……アストリッド自身、感情の芽生えから始まり、作りだした自分が思っていた以上の変化をしていくホムに少なからず興味が湧いているのだ。

 

 少し考えたアストリッドは、ふとある事を思い出し……そこからちょっとホムの感情を(つつ)いてみることにした。

 

 

「ホム。そう言えばお前には私が今回どこに行っていたのか伝えていたかな?」

 

「はい、聞いています。『さいせい』する機械の調合のために、レシピのヒントを求めて「異能の天才科学者、マーク・マクブライン」のラボに潜入しに行く……でしたか?」

 

 アストリッドの問いかけに錬金釜をかき混ぜる作業を続けたままのホムが答える。

 

「そうだ。警備が強化されていたが……まあ、あの程度のトラップは私にとっては在って無いようなものなのだがな。……あとは、ちょっと変装をして街とロロナの様子を見てきたのだが……そこで面白い話を聞いてな」

 

「面白い話、ですか?」

 

 

 

「ああ。「()()()()()()()()」という話なのだが――」

 

 

 

「……………………」

 

「ホム?」

 

「…………」

 

「おいっ、今混ぜる手を止めるのは最終的な品質に……」

 

 いきなり固まってホムを見て、イスから立ち上がりそばに歩み寄るアストリッドだったが……そこである事に気付く。

 

「立ったまま、気絶している……だと……!?」

 




 自覚の無い気持ち。
 感じるのは胸のモヤモヤと、一緒にいない時の満たされない心。

 さて、マイスの結婚騒動を知ったホムが取る行動とは……!?


 次回! 「おにいちゃんどいて!そいつ(コロ)せない!」(嘘です)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*5-1*】





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、行間……



【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家前***

 

 

 

「え?」

 

 僕は、耳に入った突拍子も無く思える言葉に理解が追い付かなくて、ついそんな間の抜けた声を漏らしてしまった。

 

「どうかしましたか?」

 

 玄関先にいる……さっき(ウチ)を訪ねてきたホムちゃんが、その目を僕のほうに向けたままコテンッと可愛らしく首を傾げる。

 ……が、どうしたもこうしたも、ホムちゃんの口から出てきた(と思われる)言葉のせいでこんなことになっちゃったんだけど……。

 

 そう言うわけにもいかないから、とりあえず、僕の聞き間違いの可能性もあるから、一応ホムちゃんに聞き返してみることにする。

 

 

「ええっと……ごめん、ホムちゃん。()()()なんて言ったのかな? できれば、もう一回言ってくれたら嬉しいんだけど……」

 

「はあ? それはまあ、かまいませんけど」

 

 傾けていた首を真っ直ぐに戻し……でも、どこか納得していないのか釈然としていない様子で……何かが詰められたカゴを持ったホムちゃんは改めて口を開く。

 

 

 

 

 

「この(たび)()()()()()()()()()

 

 

 

 

「あはははっ……聞き間違いじゃ、ないんだね……」

 

「…………?」

 

 あまりに予想外の出来事に、僕は頭を抱えずにはいられなかった……!

 

 いや、だって! あの家出だよ!? 家出!!

 不良のする非行と言われて思いつくことの代表格の一つでもあるため、この場にいたのが僕じゃなくてロロナだったとしたら「ホムちゃんが悪い子に~!?」とか言って騒ぎだしたことだろう。

 それはもう、僕だって耳を疑いたくもなるよっ!

 

 「そんな事する人は知り合いにも流石に……」と考えて「あれ?」と首をかしげた。

 未遂ならある気が……? というか、『アーランド(こっち)』の知り合いじゃあトリスタンさんなんかは、昔、家を飛び出して行ったことがあるって話を、愚痴と自責の言葉と共にメリオダスさんから聞いたことがある。

 

 

 いやっ、例があるからって別に良いことってわけでもない。

 家出する子が悪いか、される親が悪いか、どっちもなのか、どっちでもないのか? 難しい問題だし、いったい何があったのか聞いてみないとわからない……なので、何があったのか聞くべきなのだろうけど、デリケートな問題だと予想されるからいきなり聞くのはあまり良くないと思う。下手をすればホムちゃんを傷付けてしまいかねないから、ホムちゃんのほうから切り出してくるまで、その辺りはひとまず触れずにそっとしておく。

 だから、とりあえず今僕がすることは()()現状確認のはずだ。そして、今、真っ先に聞くべきなのは……。

 

「ええっと……家出をしてて、それで僕の家(ウチ)に来たってことは……?」

 

「はい。おにいちゃんの家に居候(いそうろう)させてほしいのです」

 

 まぁ、大体予想は出来てたし、僕としては断る理由も無い。

 事情はともあれ、家出してしまうほどの状態にあるホムちゃんを放置しておくなんてことは出来ない。あと、ホムちゃんが僕を頼ってくれるのは単純に嬉しいし、そんなホムちゃんのためにも何かしてあげたい。

 それに、ホムちゃんが家に泊まること自体はこれまでにも何度もあったから僕もホムちゃんも勝手を知っている。だから、「食べ物の好き嫌い」や「枕が変わると寝れない」云々(うんぬん)の確認事項だとか、早急に何か用意しないといけないとか、そういうことも無いからササっと受け入れることもできるから、問題無しなのだ。

 

 

 だから僕は、当然のように頷くんだけど……それよりもわずかに先に、ホムちゃんが続けて話し出したため、僕は一旦止まることとなった。

 

「ホムがいることで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことはわかってます。でも、ホムはおにいちゃんのところに居候させてほしいのです。でないとホムは、人通りの少ない街道のかたわらで寒空の下、ひとり身を震わせることに……」

 

「あははっ……そんな必死に頼まなくたって、僕のほうはいつだってOKだよー…………あれ?」

 

 家出という不安な状況のせいか、余計にマイナス思考になってしまっているようで、随分と具体的な最悪のイメージをしてそれを口にしているホムちゃん……なんだけど、その前の遠慮がちな感じでホムちゃんが言ってたことに、数秒遅れて首をかしげることとなった。

 

 「おにいちゃんと()()()()」……?

 

 「ええ?」と思ったけど、それは一瞬で、経験が()きた……って言うのもおかしいかもしれないけど、ホムちゃんが何の事を思って言っているのか、僕はすぐに察した。

 「マイス()が結婚する」っていうあの噂のことを真に受けているんだろう。

 これまでにもいろんな人に誤解されてしまったけど、ホムちゃんもその人たちと同じく信じてしまい……そのせいで、ちょっとだけ遠慮をしてしまったんだと思う。遠くにいたはずのホムちゃんが、いつ、どこでその噂を聞いたのかはわからないけど、間違い無いと思う。

 

 そうとわかれば、まずはそこの誤解を解いておくべきだ。

 

 

「えっと、ホムちゃん?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「たぶん「マイス()が結婚する」っていう話をどこかで聞いたんだと思うけど……あれ、誰かが勝手に言い出した真っ赤な嘘だからね?」

 

「……そうなんですか?」

 

 僕の目をジィーっと見つめて聞いてくるホムちゃんに、僕は大きく頷いてみせる。

 

「本当に、ですか?」

 

「うん、本当だよ」

 

「ウソだったら『うに』千個()み込めますか?」

 

「嘘じゃないってー……随分疑われてるみたいだけど、僕、そんなに信用無いかなぁ?」

 

 ちょっと悲しくなって肩を落としてしまうけど、目の前にいるホムちゃんは静かに首を振り「別に、そういうわけではありませんが……」と否定してくれたから、たぶん、信用はされている……のかな?

 じゃあ、なんでそんなに確認してくるのかって話になるんだけど……それもやっぱりわからないんだよなぁ?

 

 

 

「では、ホムは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「うん…………うん?」

 

「……? どうかしましたか?」

 

「いやっ、ちょっと何か変だった気が……気のせいかな?」

 

 なんだか、ホムちゃんの言ってることが微妙にズレてた気がしたけど……

 ホムちゃんって、喋り方が変に丁寧過ぎたり、難しい言い回しや表現をしたりするから、たぶんそういう独特な部分があるせいでちょっと変に聞こえただけ……だよね?

 

 

 でも、なんか気になるっていうか、引っかかる感じがして、そのことを考えようとしたんだけど……またまたホムちゃんが喋りだしたことで思考は中断されることに。

 

「それはそれで良しとして……ホムは家出をしました。住む場所が無く、他にアテも無いホムは、このままでは雨の日に外に放り出されグショグショな濡れ鼠になったネコのように、見るも無残な状態に……」

 

「だから、なんでそんな聞いてるだけでかわいそうな状況ばっかり……って、んん?」

 

「また、何か?」

 

 コテンと首をかしげるホムちゃん。

 僕が言葉を途中で止めてしまったのは、さっきのようにホムちゃんの言ったことに変な違和感を覚えたから……では無かった。原因は僕の目の前にあるその傾けられられたホムちゃんの顔……その表情にあった。

 何か、って言うか……

 

 

 

「ホムちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「笑ってる……? ホムがですか?」

 

 心底不思議そうに言ったホムちゃんは、手に持ってたカゴをその場に下ろしてから、自分の両手で自身の顔をペタペタと触りだす。

 

 

 そう。これまでは、いつもの無表情に近いけど悲しんでいる顔をしていたのに、何故か今はうっすらとではあるけど口角が上がり、確かにホムちゃんは()()()()()んだ。言ってることはあいかわらずなのに、だ。

 

 これって……本当にどういうこと?

 だって、「雨でグショグショになったネコ」みたいなこと言ってるけど、普段のホムちゃんならそんなこと言った時点で自分で勝手に想像してちょっと辛そうな顔をするはずだ。……いやいや、それ以前にホムちゃんは家出の真っ最中なわけで……。最初っから楽しそうにしていたならまだしも、最初は悲しそうな顔をしていたホムちゃんが家出を楽しんでて笑ってるはずがないし……。

 しかも、僕はまだ「OK」とは言ってない(言えてない)。だから「許可が出て喜んだ」ってわけでもないわけで……? 本当に何でホムちゃんは笑顔になったんだろう?

 

 

 けど、僕がいくら考えても答えは出てきそうになくって……当のホムちゃんも相変わらず笑顔になってる自身の顔をペタペタ触っては首を左右に傾げて続けていた。

 

「おかしいですね……? おにいちゃんの同情を誘うために、ホムはポロポロ涙を零す演技(マネ)をして語らなければいけないのに……どうしてでしょう?」

 

「それは、まあ、嬉しいことでもあったからなんじゃ……? ん? ()()?」

 

 それ以外にも、なんか気になることが聞こえたような気が……?

 それらを追及するよりも先に、いつの間にかいつもの無表情に戻ったホムちゃんが口を開いてビシッと言ってくる。

 

「はて? なんのことでしょう? 大方おにいちゃんの聞き間違いでは?」

 

「ええ!? いや、でも……」

 

「もしくは、()()()()()というものでしょう」

 

「ううん……そういうものなのかな? って、それってやっぱりホムちゃんが言ったことは違いないんじゃない!?」

 

 僕はそう言って聞き返すけど、自身の足元に置いていたカゴを拾い上げたホムちゃんは「なんのことでしょう?」と言うばかりで、あとは軽く首を横に振るだけだった。

 

 

 

 

 

「コホンッ……そんなことより、家出をしたホムの今後についてです」

 

 ひとつわざとらしくも可愛らしい咳払いをしたホムちゃんが、改めて僕の顔をジッと見て口を開いた。

 

「このままではホムは「捨てネコ」ならぬ「捨てホムンクルス」になってしまいます。このままでは野垂れ死にか、グランドマスターに()()()()()()()()無理矢理連れ帰されてしまいます。……おにいちゃんの家に居候できないでしょうか?」

 

 言っていることはやっぱり不安のありそうな後ろ向きなことなんだけど……その表情はなんて言うかこう、不安そうどころか何故か自信に満ちてる気さえするほどで、目もいつもより輝いている……気のせいかな?

 

それは置いといたとしても、自分から飛び出して行ったのを「捨て」と表現するものかな? あと、アストリッドさんはホムちゃんに一体何を……。

 気になることは増えるばかりだけど……最初に思ってた通り、ホムちゃんを(ウチ)に泊まること自体は何の問題は無い。だから、僕はホムちゃんにそう伝えることにした。

 

 

「心配しないで。事情は結局よくわかんないままだけど……でも、ほむちゃんの頼みとあれば(ウチ)や『離れ』はいくらでも使っていいよ! いつも通りに、ね」

 

「おにいちゃんならそ言ってくれると思ってました」

 

 僕が行った後、ほとんど間も開けず、噂の真偽の時のように確認を取ったりもせずに、何故か胸を張ってそう言うホムちゃん。

 

 ……って、ああ、なるほど。さっき自信満々だったのは僕の答えがすでにわかってたからで……

 ……ん? それだと、最初のほうに表情からして不安そうっていうか悲しそうだったのは何で……? 僕の答えがわかりきってたならあの時から自信満々でもおかしくないような? 何か状況的に変わったこととかあったっけ? そんなのそれこそ例の噂のことくらいしか……。

 

「では、さっそく、この荷物を『離れ』の方へ持って行きましょう。そして、それから()()に会いに行って、よかったらなーにも(こっち)に来てもらいましょう」

 

「えっ、あ、うん。そうだね。毎日掃除もしてるし大丈夫だと思うけど、一回『離れ』のほうの状態を僕も一緒に確認しておこっか」

 

 僕がアレコレ考えているのは当然のようにおかまいなしに本格的に居候の準備を始めるホムちゃん。いやっ、おかまいなしっていうか、こころなしか興奮気味(ハイテンション)で……もしかして、ホムちゃん自身自制が利いていなかったりするのかな?

 

 

 でも、結局どうしてホムちゃんはこんな元気があるのか無いのかわかんない状態なのかは不明なままで……家出の原因も()()()()アストリッドさんの仕事の頼み過ぎや()()理不尽とも思える謹慎処分とか、そういったのの積み重ねだろう……っていう()()しか出来てない。

 

 うーん……これからどうなるんだろう?

 

 そうちょっと不安に思いながらも、ホムちゃんから少しずつ事情を聞いたりとか自分に出来ることを最大限するしかないだろうなぁ、という考えにしか至らない。

 まあ、きっとなんとかなる……よね?

 

 

 

 

 

「そういえば、何か忘れてる気がするんだけど……なんだろう?」

 

「おにいちゃんが忘れてしまうことですから、たいしたことではないのでは……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 

「ぇっ、へぷしっ……!! うう、風邪? 季節の変わり目だし、気をつけてるつもりなんだけどなぁ?」

 




※『ホムルート』特有の変化※

 ホムちゃんの家出&居候。
 本編の共通のお話に一番影響を与えてしまっている……んけど、『ロロナのアトリエ編』『番外編』~『IF』までの『ホムルート』のことを考えると、ある意味当然の流れだったりする。
 ……ホムちゃんのホムンクルス離れ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*5-2*】

ホムちゃんホムホム

家出したホムちゃん。マイス君の家に転がり込んで……さぁ、それからどうなっていくの? ってお話。マイス君視点になっております。





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……






【*5-2*】

 

 

***マイスの家***

 

 

 

 

「「いただきます」」

 

 二人でソファーに並ぶようにして座り、声を合わせて言う僕とホムちゃん。

 目の前のテーブルの上にはそれぞれ半分ずつにした『サンドウィッチ』と『フルーツサンド』が。『パン』に挟んでいる中身が違うだけの料理だけど、食べてみると全然違う……そんな料理たちである。

 

 

 そんな料理を昼ゴハンにしている僕たちだけど……ホムちゃんが家出してウチにお泊まりするようになってから3日目になっている。

 

「はむっ……もきゅもきゅ」

 

「おいしい?」

 

「……んくっ。はい、おにいちゃんの料理はとても美味しいです」

 

「あははっ、それは良かった!」

 

 ホムちゃんの感想を聞いてから、僕も『サンドウィッチ』に一口かぶりつく。

 ……うんっ。ホムちゃんの言う通り、今回のは一段と美味しく出来ている気がする。

 

 

 

 それにしても、だ。

 

 僕はモグモグ口を動かしながら、隣にいる小さな口で少しずつゆっくりと食べ進めているホムちゃんのほうを見た。

 

 アストリッドさんの所から家出をしてきたホムちゃんなんだけど、()()()()()()()()()()()()僕の知っている「いつも通り」のホムちゃんだった。

 

 例えば……

 

 

 

――――――

 

*朝*

 

 

 

 朝日が昇り出すのとほぼ同時刻に起き、僕は身支度をすませて家の前の畑仕事を始めるんだけど……

 

 畑仕事をしている最中に、気付けばいつの間に起きたのかホムちゃんが。

 僕にいつもの朝の挨拶に来た村のモンスターたち。ホムちゃんは畑を囲う簡易的な柵の外で、その子たちに順番にブラッシングをかけてあげていた。

 

 ブラッシングを一通り終えたホムちゃんは、そのまま家の中へと戻っていった……。

 

 

 そして、僕が畑仕事を終えてひと息つくころ……

 

「おはようございます」

 

 柵の外からそう声をかけて(挨拶をして)くるホムちゃん。

 僕が挨拶を返しながらそばまで来ると……

 

「お疲れ様でした。これをどうぞ」

 

 そう言ってタオルと水を手渡してくれる。

 お礼を言いながら受け取り使わせてもらっていると、手で家のほうを示しながらホムちゃんが言う。

 

「お食事の準備は済ませてあります。以前、おにいちゃんに教えてもらった料理に挑戦してみましたので、一緒にいただきましょう」

 

 

 

――――――

 

*昼*

 

 

 

 お祭りを中心とした村の運営関係のこと。そして、ここ最近忙しくなってきている『学校』関連のこと。

 

 最近の、僕の日中の仕事はその辺りだ。

 そのために僕が家で色々したり、村の中をあちこち移動したりする中……ホムちゃんは僕のそばに居て色々手伝ってくれた。

 

 簡単な書類整理から、軽い荷物の運搬、教科書の誤字脱字の校正……などなど。

 そして、僕が家の外で村の人たちなんかと打ち合わせ等をしていて手伝えそうなことが無い時は、村のモンスターの健康チェックや村の人たちとの交流(情報交換)などを自主的にやっていた。けど、僕が見える場所よりも遠くへは離れないから、何かあったり僕が呼んだりすればすぐに戻って来てくれるんだけどね。

 

 

 そして、お昼(どき)前に仕事が一区切りつくと、家に帰ってお昼ゴハンの準備。

 

 朝とは違い昼と晩(これ以降)は今まで通りに基本的には僕がするんだけど、ここ三日(家出してから)は……

 

「ホムもお手伝いします」

 

 ……と、一緒にキッチンに並ぶことが多い。

 とはいえ、以前からなーのゴハンの準備とかそういうことを一緒にしたりもしていたから、その延長だと思う。

 

 

――――――

 

*夜*

 

 

 今日の仕事を終えて、一緒に作った晩ゴハンを食べて……

 

 それから先の夜は、僕一人の時は主に眠気が来るまで薬の調合や装飾品の生産をしたりしてたんだけど――

 

「今日はみゅうが一番元気が良かったです。なーから生まれた頃は一番身体が小さかったのに……あっ、あとそれと――」

 

 ――ホムちゃんがいる時はもっぱら「お喋りの時間」になっている。

 

 内容は、今日あったことや明日どうするか、はたまた突然の関係無い話題だったりと種類は様々。

 テーブルを挟んでソファーとイスで対面に座ったり、ソファーに二人並んで座ったり、変身した(金モコ)状態の僕をホムちゃんが()(かか)えて座ったり……体勢も様々だったりする。

 

 

 そして、どちらかが眠たくなると……

 

「名残惜しいですが明日もあります、今日は寝てしまいましょう。戸締まりを確認しましょう」

 

 というわけで、身支度を整えてから僕は二階へ、ホムちゃんは『離れ』へと向かう。

 最後の最後、裏口から出て行くホムちゃんが、本当に名残惜しそうにコッチをチラチラと何度か見てきて、それから……

 

「おにいちゃん……もし……いえ、おやすみなさい」

 

 そう言って小さく手を振ってからホムちゃんは裏口から『離れ』へと寝に行く……。

 

 

 

――――――

 

 

 

 それがここ最近の僕たちの一日なわけだけど……

 

 

(うーん、特に変わった様子はないんだよね)

 

 

 基本的に、前に素材集めでウチに立ち寄ってそのまま数日滞在していた頃と、大きな差はない日常だった。

 

 というか、ホムちゃんは本当に良い子すぎる。

 昔からそうではあったんだけど、『学校』関連で以前よりも忙しくなっているせいか、より一層実感できてるような気がする。

 

 家出なんかしちゃってるから――偏見かもしれないけど、荒れてしまって暴力的になったり口が悪くなったり――いわゆる「グレる」なんてことになってるんじゃないかと心配しちゃってたんだけど、それは僕の杞憂に終わった。

 

 

 

 そんないつものホムちゃんだからこそ、なんでアストリッドさんの所からどうして家でなんてしてしまったのかが分からなくて、心配になってしまう。

 

 普段の行動から何かを避けたり嫌ったりと、何かに過敏に反応するようであればソレに何かヒントがあるって推測できるんだけど……そんな様子は無くってどうしようもなかった。

 

 

 日常の様子から分からないなら、直接ホムちゃんから聞くしかないんだけど……()()()()()()()()()()()()()()()()」《じゃない点だったりする》》。

 

 「どうして家出したの?」って聞くと、難しい顔をして押し黙ってしまうんだ。

 もしかしたら根気強く、根掘り葉掘り聞いて問い詰めてしまえば何か分かるのかもしれない。……けど、黙ってしまった時のホムちゃんの表情(かお)を僕が見てられないために、その質問をすぐに止めて別の話題を振ってしまうんだ。

 

 家出の理由を知らないことには、ホムちゃんの生活環境を改善してあげられないんだけど……それはわかっていても、あんな顔をするホムちゃんに無理矢理聞くっていうのは僕には出来そうもなかった。

 

 

 

(うーん……でも、このままっずーっと僕の家(ウチ)でっていうのは、ホムちゃんにとって本当に良い事なのかな?)

 

 

 ホムちゃんより一足先に『サンドウィッチ』を食べ終え、続いて僕は『フルーツサンド』へと手を伸ばし――――「バァンッ!!」とノックも無しに開け放たれた玄関戸に一瞬ビックリしてしまいながらも、そっちを見た。

 玄関(そこ)にいたのは……

 

 

「ほむちゃんがいるって本当っ!?」

 

 

 ロロナだった。

 

 ツェツィさんの「トトリちゃん大好き!」に負けず劣らず、ロロナもホムちゃんのこと大好きなんだから。

 

 

(ホムちゃんのほうもロロナの事は嫌いじゃなさそうなんだけど、ちょっと淡白な感じが……って、あっ)

 

 色々考えながら、その思考の中心付近にいた今僕の隣に座ってるホムちゃんに目を向けると……口元あたりの右頬に『サンドウィッチ』の中身の潰した『ゆでタマゴ』がちょんとついていた。

 

 

「あー! 本当にいたー!? ずるいよマイス君っ! ホムちゃんのことひとりじめ――」

 

 

「こんなところに……はいっ、とれたよ」

 

「あっ……すみません、気付きませんでした。ありがとうございます、おにいちゃん」

 

「あはははっ。気付かないくらい夢中になってくれてたなら、ちょーっと嬉しいんだけどなぁ?」

 

「ホムとしては、おにいちゃんの料理のひとカケラを無駄にしてしまったことが嫌だったので……今からは気を付けます」

 

 

「聞いてよっ!?」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 ホムちゃんの一件でプンプン怒っていたのに、タイミングの問題で僕らがちょっとスルーしてしまってイジケテしまったロロナ。

 

 そんなロロナのことをなだめつつ……聞くまでも無く大体わかってたロロナが来た理由を改めて聞いた。やっぱり「ほむちゃんがいるって聞いたから!」だけだった。

 

 そして、逆に「どうしてほむちゃんがいるの? 素材集め?」って聞いて来たから、ホムちゃんと一緒に家出のことを説明した。

 すると、ロロナはひとしきりアストリッドさんへの不満を口にした後……ホムちゃんに()()()()をしてきた。

 

 

「それじゃあ、昔みたいに私のアトリエに来ない? 師匠、私が師匠を探してたこと知ってるだろうから、わざわざ捕まりに来るような真似はしないと思うよ」

 

 

 ロロナの提案に、ホムちゃんはわずかに眉間にシワを寄せ、ほんの少し首をかしげて考えるような仕草をした。

 

 ……けど、相手がアストリッドさんだって考えると、ロロナの目をかいくぐってスイスイーっと侵入&拉致くらいしてみせそうで、あんまり「アトリエだから」っていうのは効果は無い気がする。

 

(あれ? じゃあなんで、アストリッドさんは今『青の農村(ここ)』に来たりしてないんだろう?)

 

 アストリッドさんのことだし、移動時間は一瞬だろう。そのうえ、僕としては一言二言(ひとことふたこと)言いたいことはあるんだけど、特に何かしらの罠や撃退手段を用意しているわけじゃないし、できそうもない。

 だから、侵入してホムちゃんのことを連れ戻すことなんて朝飯前だと思うんだけど……?

 

 

「マスターのアトリエで、ですか……」

 

 僕がそんなことを思い考えている最中、ホムちゃんがポツリ、ポツリと言葉を漏らしはじめ……段々としっかりとした言葉になっていく。

 

「可能性は(ゼロ)ではないでしょう……もしかしたら、昔やっていたようにマスターのところでなら、以前のように楽しく…………はい、わかりましたマスター。確かに、試してみる価値はあるかもしれません」

 

「やったー! ほむちゃん、ご案内(あんなーい)♪」

 

 「ばんざーい!」と両手を高々と上げるロロナと、いつも通り涼しい顔をしているホムちゃん。

 

 

 

 まぁ、僕としては、ホムちゃん自身がどうしたいか決めるべきことだから特別どうって思ってるわけじゃない。

 ……でも、ホムちゃんの呟いてた(こと)、なんだかまるで「失敗しても何とかなる」って感じにも言ってる気が……? アストリッドさんに捕まったら強制的に連れ戻されるだろうし、失敗してもいいって言う考え方を持っているのは、どうしてだろう?

 僕の気のせい、かな……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホム【*5-3*】

 『ホム【*5-3*】』です。
 今回はマイス視点でのお話となっております。

 今回、ホムちゃんは出番がありません。ただ、代わりにと言ってはなんですが、アノ人が本編のタイミングより一足先に出てきたりしてます。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更……



 

【*5-3*】

 

 

***アーランドの街・某所***

 

 

 

 ホムちゃんが家出をして僕の家(うち)に来てから数日、ロロナが突撃して来てホムちゃんがアトリエに行くことになったのが三日前のこと。

 

 昔のように『ロロナのアトリエ』で生活することになってからその後のホムちゃんの様子が何かと気になってはいたんだけど、昨日、一昨日は『学校』や直前に迫った『お祭り』の準備で忙しくて様子を見に行くことが出来なかった。だけど、今日はこうして時間を作ることが出来て数日ぶりの『アーランドの街』を歩いている――

 

 ――んだけど、実は今僕が向かっている場所は『ロロナのアトリエ』アトリエでは無かったりする。

 

「っと。確か、このあたり……だったよね?」

 

 ついついそんな呟きをひとりで漏らしてしまいつつ、僕は辺りを見渡してお目当ての「()()」を探す。

 

 

 

 

 

 

「あっ、あったあった。ここだ」

 

 多少時間がかかっちゃったけど、「目印」は無事に見つけることが出来た。

 

 「目印」……それは、一つの看板。

 

 

 そこに書かれているのは「()()()()()()()()()()()()()――――「()()()()()()」。

 

 

 そう、僕が目指していたのは、アストリッドさんのアトリエだった。……「(もと)」ってつけた方がいいかもしれないけど。

 

 というのも、『王国時代』にロロナが王国課題の最後の結果発表を受けたその日の内に街を出て旅に出たことがあった――――のだが、それから一年も経たないうちにアストリッドさんは街に帰ってきたそうだ。自分で新たなアトリエを開店し、周囲がアストリッドさんのことを察するよりも早く『ロロナのアトリエ』の客をふんだくるほどの実力と営業力を見せつけて……クーデリア曰く「本気出せばこの程度造作も無い」と得意げにしていたらしい。

 ……ただ、「~そうだ」とか「~らしい」っていってるように、僕は当時の事をあんまり知らない。だって、ちょうどそのころ僕の周りでは、『農業』を教えていた人たちの本格的な移住計画とか、その延長上の村の構想なんかにかかりっきりになってたころで、今以上に街のほうに行ってる余裕がなかったから又聞きでしか知れなかったんだ。なので、『アストリッドのアトリエ』は今回が初めてなのだ。

 

 

 玄関先に金具を使って吊るすタイプの看板は未だに出たままだが、玄関戸には貼り紙がされてある。そこには「気が向くまで休業中 アストリッド・ゼクセス」と書いてある。

 ……単純計算で7,8年以上前に貼られた(もの)なのに紙も書いてある文字もシッカリ綺麗に残ってることを考えると、きっと『錬金術』でなにかしらの加工がされてるんだと思う。

 

 

 

 

 そんな玄関先の様子を見て……僕は「さて、どうしよう?」と首をかしげた。

 

 そもそも、僕が『アストリッドのアトリエ』に来たのには()()()理由がある。

 

「家出の理由を知るには、アストリッドさんから聞くしかないからね……」

 

 ホムちゃんが教えてくれない以上、そのことを知るであろう人物はアストリッドさんくらいだ。……ホムくんも何か知ってるかもしれないけど、以前にホムちゃんが謹慎を受けていた時にしか会ったことが無いことや()()()()()()もあって、候補にはギリギリ入らないと判断した。

 

 ……で、だ。

 先に在ったように、()()()()()()()()()()()()()()()()。何年も前から街から姿を消していて、『アストリッドのアトリエ(ここ)』に来たところで会えるわけでもない。現に、ロロナが国中探し周っても見つけ出せなかったのだ、ここに居たら驚きだ。

 

「って、そもそも中に入れないし、入れたところでどうしようもない気も……。うーん……でも、ココ以外にアストリッドさんの手掛かりがありそうな場所ってわからないからなぁ?」

 

 冷静に考えれ見れば、ここの事を調べるだなんて、国中を探し周るよりも先にロロナもしてるだろうことはすぐに想像できる。きっとすでにしてるはずだ。

 

 

 でも、だからと言って何もせずにはいられない。

 少しでも何か手がかりが……ほんの少しでも可能性がありそうなら意地でも探しだしてみせる。家出をした理由を聞いた時の、何も言わないホムちゃんのわずかに――しかし確かに歪んだ辛く苦しそうな顔を思い出す度、僕の中でその意志はどんどん強くなっていってた。

 

 

 

「よしっ、やるぞ! まずはなんとかしてこの鍵を開けないと……」

 

「ほう。留守の他人の(アトリエ)に無断で侵入しようとするとは……ずいぶんと「悪い子」になったものだな」

 

「昔からアストリッドさんには僕の家(ウチ)に勝手に入られて物も盗られてましたし、おあいこだと思います」

 

「「アストリッドさんなら持って行った物を最大限に活かしてくれると思ってますから」などと言っていた純粋無垢で素直な少年はいなくなったのだな。ううっ、私はかなしいぞー(棒)」

 

「それはー……あれです! 状況に応じて臨機応変に……というか、ホムちゃんの事を考えたら、手段は多少手荒だったとしてもなんとかしてあげ――」

 

 

 ……あ、あれ? ちょっと待って。

 今、僕、誰と……?

 

 無意識のうちに自然と会話をしてしまっていた相手――その声がするほう……向かって左手のほうへ顔を向けてみると、1,2メートルほど先にあるアトリエのいつの間にか開け放たれてた窓には――――

 

 

「……アストリッドさん?」

 

「どうした? ロロナにでも見えたか?」

 

 

 ――――窓の桟にもたれかかるように両肘をついて顔を覗かせ、視線をこちらへと向けてきているアストリッドさんの姿があった。

 

 ……え? いや、何で!?

 

「おおっと、叫んだり大声を上げたりするんじゃないぞ? 今日は訳あって秘密裏にココに置いてきていた装置の点検をしにきていたんだ。……全く、何処かの誰かがいなくなったせいで、人手が減って、わざわざこうして私が出向かなければいけなくなったのだから困ったものだ」

 

 驚く僕に制止をかけながらそう言ったアストリッドさん。

 

 アトリエにおいてるっていう装置も気にはなるけど、今はひとまずおいておこう。

 後半の部分はきっと……ううん、間違い無くホムちゃんの事を言っている。……なんだか、昔もみたことがあるはずの「やれやれ」といった感じのアストリッドさんの態度が、今日はなんだか見てるとやけにイライラしてくる気がする。

 

 

 

「アストリッドさん! ホムちゃんが家出してウチに来たんですけど、一体ホムちゃんになにを――「なにもしていない」

 

 僕の言葉にくってかかるように、アストリッドさんは被せて言ってきた。

 

「なにもしていない……《だからこそこうなったのだろうな》》。ずっと(さかのぼ)れば、私の選択肢に間違いが無かったとも言い切れんが」

 

「つまり、結局はアストリッドさんが原因って事なんじゃ……?」

 

 そう思って、僕がアストリッドさんに問いかけてみるけど、アストリッドさんは静かに首を振ってから、その目で僕をジットリと睨みつけて……その上でため息を吐いた。

 

 

 

「ハァ……いいや。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……え?」

 

 それって、どういう……

 

「今度……そうだな、あと1,2週間で今の研究に一区切りがつく。それからホムを迎えに行くからな。それまでに決めておくといい」

 

「ちょ……待ってください! いっぺんに色々頭に入ってき過ぎて、何が何やら……決めるって一体何を……!?」

 

 いきなりの事に困惑しつつ何とか整理しようとする頭に、(相手)の都合なんて知ったことじゃない様子のアストリッドさんの口は止まりそうもない。

 

「お前は……いや、ホム自身も理解していないだろうが、今のホムは非常に不安定な状態だ。正直に言えば、できるのであれば初期化してしまったほうが良いくらいに()()()()()()()()()。存在意義そのものが根元から折れかかってると言ってもいい……一応、見方を変えれば「進化」とも言えなくはないのかもしれないがな」

 

「だから! 一体、何の話なんですか!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 僕が、ホムちゃんの全てを……?

 その責任って、一体どういうこと……?

 

「……お前が決めないなら、私が都合の良い様に決めてしまうぞ」

 

 そう言ったアストリッドさんは、僕へ向けて手のひらをかざし……て…………

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

「―――ったく、――、おい!」

 

 

 呼ぶ声、揺すられる感覚……

 この掴んできてる手の大きさ、この声の感じ……ステルク、さん?

 

 ようやく瞼が開きはじめて目に光が入り見えたのは、想像した通りの人物、ステルクさん。仏頂面とよく言われるその顔には、僕の目が正しければ安堵した表情(ようす)が見て取れた。

 そして、周りは……アストリッドさんのアトリエの前、だね。

 

「やっと起きたか」

 

「んっ……ステルクさん、なんでここに……?」

 

「アストリッドにここの管理を任せ(押し付け)られているんだ。それで、定期的にこうして鍵を持って様子を……そう言うキミこそ、どうしてこんなところで寝ていたんだ? 最近忙しそうにしているそうだが、睡眠不足で倒れてしまうほなのか?」

 

 ステルクさんにそう言われて、僕は「はて?」と首をかしげる。

 

 「寝ていた」? 僕が? そんなはずは、無いと思うんだけど……だって、さっきまでアストリッドさんと話してた、というか色々言われてたはずなんだけど……?

 ……いや、まさかさっきまでのアレは全部、いつの間にか居眠りしてしまってた僕が見た夢?

 

 

「……? どうした、まだ寝ぼけといるのか?」

 

 

 ステルクさんの声をどこか遠くのことのように聞きながら、僕は夢か現かわからなくなり始めてたあの会話の中でのアストリッドさんの言葉が、頭から離れずに繰り返し鳴り響いていた。

 

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『トトリ』ルート
トトリ【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『トトリ』◄(ぽちっ)





※2019年工事内容※
 細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

「僕が投票したのはトトリちゃんだよ」

 

「へぇ、わたしに……わたし!?」

 

 自分を指差しながら目を丸くするトトリ。よほど予想外だったのか、周りのみんなをチラチラ見ながらワタワタし始めた。

 

「わ、わわわ、わたしなんかよりも、おねえちゃんとかメルお姉ちゃん、あと先生とかのほうが全然キレイですよ!? ね? マイスさん、今から変えちゃいましょう!!」

 

「そうは言われても、もう投票しちゃってるし、集計も終わってるからどうしようもないよ。それに、僕のたった一票が動いたところで一位は変わったりしないだろうから、どっちにしろ意味がないよ?」

 

 よくわからないことを言いだしちゃってるトトリを「まあまあ」と諫めるマイス。だが、彼の言っていることはなんだか微妙にズレていた。トトリが気にしているのはそういう所じゃないだろう。

 

 

 と、騒がしい本人たち以外の面々も、その騒がしさに(じょう)じてあれこれ言い出すのだった。

 特に、投票した相手がトトリということもあってか、メルヴィアはノリノリである。

 

「ほほぅ……マイスの好みが、まさかトトリみたいな子だったなんてねぇ」

 

「ええっ!? メルヴィ何言ってるの? マイスさんがトトリちゃんをだなんて……!」

 

 メルヴィアの言葉に真っ先に反応を示したのは、トトリ大好き、ツェツィだった。彼女は驚きつつも、そのことを否定するようなことを言った。

 だが、そこで「そうよねー」と引き下がるメルヴィアではない。ニヤニヤしながら、まるでツェツィの反応を楽しんでいるかのように話しだす。

 

「でもそうじゃない? あれだけ女の子が集まってる中でわざわざトトリを選ぶんだから、少なからず好意はあると思うんだけど?」

 

「そんなっ! ウソ!?」

 

「まっ、実際に本人に聞いてみればいいんじゃないかしら?」

 

 慌て始めるツェツィに対し「トドメ!」と言わんばかりにたたみかけるメルヴィア。その一手は、悪ふざけにしてもストレート過ぎるものだった。

 

「ねぇねぇマイス。マイスって、トトリのこと好きなんでしょー?」

 

 これにはツェツィだけでなく、トトリも、他の周りにいる人たちも大半が「何言ってるの!?」と驚きの表情を見せた。

 メルヴィアとしては、マイスが肯定しようとも否定しようともちょっと顔が赤くなったりでもしたら、そこからいじれる。さらに、それに対するトトリの反応を……さらにさらに、そのトトリの反応を見たツェツィも……といった具合に楽しみ放題なわけである。

 

 ……が。

 

 

 

「うん、好きだけど?」

 

 

 

 マイスも直球も直球、ドストレートだった。それも恥ずかしがったりせず、いつも通りに。

 

「「ええっ!?」」

 

「いやぁ、まさか即答とはねぇ……」

 

 これにはヘルモルト姉妹も驚き、聞いたメルヴィアさえも驚くどころか若干(じゃっかん)引いていた。

 

 他の面々も驚いている人が多かったが……一部、そうでもない人たちもいた。

 その一人、クーデリアがため息をつきつつ呆れ気味に口を開いた。

 

「そりゃそうよ、だってマイスだもの。当然に決まってるじゃない」

 

「ウソっ!? ま、まままっマイスさんがわたしを……って、え? それってどういうことですか、クーデリアさん?」

 

「勘違いさせるのもかわいそうだから、さっさと説明しようかしらね」

 

 「めんどくさいけど」と付け足して言ったクーデリアは、そのままマイスに向かってこんな問いかけを立て続けに投げかけ始める。

 

「マイス。ロロナは好き?」

 

「好きだよ?」

 

「ホムは好き?」

 

「うん、好き」

 

「じゃあ、ステルク(元騎士)は?」

 

「……ステルクさんはいい人だし、嫌う理由はないと思うんだけど」

 

 

 ロロナやホムだけで無く、同姓であるステルクに対しても何のためらいも無く「好き」と言い切るマイス。

 

「じゃあ、ピアニャのことはー?」

 

「うんっ、ピアニャちゃんのことも好きだよ」

 

「そっかー! えへへ、ピアニャもマイス好きー!!」

 

 最後に乱入して来たピアニャの頭を優しく撫でるマイス。

 ……まあ、ここまでくれば誰でも察しがつくだろう。

 

「ええっと、もしかして……?」

 

「そうよ。メルヴィアが聞こうとした「好き」とマイス(こいつ)が言ってた「好き」っていうのは、意味合いが違うわ」

 

 昔からマイスと面識のあるメンバーは「そうだよね」といった様子で、うんうん頷いていた。

 ……が、その中の一部が顔を赤くしている。もしかすると、()()()()一緒になって勘違いしてしまっていたか……もしくは、()()()()トトリちゃんと同じような勘違いをしてしまった経験があるのかもしれない。

 

 

 そして、トトリたちはと言えば……。

 

 

「あははははっ……なんていうか、マイスさんらしいと言えばらしいような……?」

 

「確かにそういう男女の関係とかには(うと)そうな雰囲気はあるわよね。……けど、なんだかちょっと面白く無いわよねぇ」

 

「はぁ……とにかく、トトリちゃんが盗られなくてよかったわ」

 

 残念がっているメルヴィアはともかくとして、ヘルモルト姉妹もとりあえず落ち着きを取り戻したようだった。

 

 

「それじゃあ、わたしを選んだ理由って……?」

 

 ふと疑問に思ったことを、トトリは口にした。すると、マイスはまた躊躇(ためら)ったり恥ずかしがったりすることもなく、いつもの調子でその理由というものを喋りだす。

 

「今とか普段のトトリちゃんって、おっきなヘッドドレスとかヒラヒラの服とかが特徴的で、そのあたりが全部無いトトリちゃんが新鮮に思えて、なんだか印象に残ったんだ。それで……」

 

「つまり、水着だとかスタイルがとかじゃなくて……ギャップ?」

 

「そんなこと無いよ? 水着の青色がなんだかしっくりきてカワイくて……いつもピンクがベースの服着てるけど、きっとトトリちゃんは青い服も似合うんだろうなって新しい発見もあって面白かったよ!」

 

 マイスはおおよそ二十代後半。目覚めていないにしては遅すぎ、()れるにしては早すぎる気がするのだが、全く下心の感じられない綺麗な笑顔でそんなコメントをしたのだった……。

 

 

 

「なんだか、ジーノくんと同じかそれ以上に、マイスさんも子供っぽい気がしてきたような……。なんだかちょっと残念かも。せっかくおねえちゃんやメルお姉ちゃんに勝てたんだから、ウソでも「綺麗だった」とか「セクシーだ」とか言われてみたかったのに……」

 

 トトリもトトリで、「自分以外の人に投票すべき」とか言っていた割には注文が多く、なおかつ思った通りでなければ不機嫌そうに口をとがらせていた。

 ……彼女ももう華の十七歳。難しいお年頃というやつなのかもしれない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』と同じく、一緒に行く組、その1。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点……


【*2*】

 

 

***東の大陸・塔への道***

 

 

 

 僕の元を訪ねてきたトトリちゃんから、「『塔の悪魔』を倒す」と伝えられたのが昨日のこと。

 僕らは『トラベルゲート』を使い『東の大陸』に移動し、今、その悪魔とやらがいるという『塔』を目指して、雪が降り積もり道があったかも確認できない雪原を歩いている。

 

 塔へと向かっているメンバーは過去最多であろう八人(プラス)一人。

 トトリちゃん、ミミちゃん、ジーノくん、メルヴィア、ロロナ、マークさん、ステルクさん、そして僕。最後の一人は、生贄役のパメラさんだ。

 道中、悪魔のいる『塔』の影響なのか。全くと言っていいほどモンスターの気配がしないため各々(おのおの)自由気ままで、気になるものを見つけては近寄ってみたり、誰かと一緒に話ながら歩いていたりと、これから大物を倒しに行くというのになんだかいつも通りな感じだった。

 

 

 そんなことを考えながら歩いている僕は、一人でこれからの戦闘の事を考えていた。

 人が多いというのは、手数的にもスタミナ的にも良い点がある。……が、同時に立ち回りや連携が難しくなってくるというのも事実だ。敵の大きさにもよるけど、大人数だとかえって戦いにくくなってしまう可能性だったある。

 

 僕がここまで戦闘のことを意識しているのかというと、この前、最初に『東の大陸』にたどり着いた際の航海……そこで『フラウシュトラウト』と戦った時に、戦略の重要さを感じたからだった。あの時のように、海の船の上という特殊な状況ではないとはいえ、どうしても慎重になってしまう。

 

「ロロナとトトリちゃん以外は、みんな基本接近戦主体だから……面倒だとか思わないで、やっぱりここは僕が後衛にまわるべきなんだろうなぁ」

 

 というわけで今回は気分一新、いつもとは違う用意をたくさんしてきてるんだけど……ぶっつけ本番な部分も沢山あるから、大丈夫かちょっとだけ不安だったりする。

 それに、いきなりいつもしたことの無いような動きを要求するわけにはいかないから、あくまで僕の中だけで「ああしよう」「こうしよう」と考えているだけで、戦略とは言えないレベルだろう。……でも、もしもの事態も考えて、緊急で指示を出すことも想定しておいた方が良いかもしれないかな?

 

 

 

 

 

「ま、マイスさ~ん……!」

 

 考え込んでいて俯き気味だった僕の耳に不意に聞こえてきたのは、普段よりも弱々しい、僕を呼ぶトトリちゃんの声だった。

 

 声の主がトトリちゃんだとわかってすぐに僕は顔を上げ、トトリちゃんが歩いていたはずのばらついた集団の先頭のほうを見た。すると、歩いてきた道を逆走するようにしてヨタヨタとこっちへ歩いてきているトトリちゃんが見えた。

 

「トトリちゃん、どうかした……って、もしかして、どこか痛くなった!? それとも気分が悪く……ああっ! そんな格好だからお腹が冷えちゃった!?」

 

「あっ、いや、そういうわけじゃなくて……あと、寒さ対策はちゃんとしてますから。それに、そんなこと言ったらメルおねえちゃんのほうが……」

 

 そう言ってトトリちゃんがチラリと見た方向には、何やらミミちゃんとジーノくんにちょっかいを出しているメルヴィアが。その格好はいつも通りで、上は水着や下着と言っていいようなモノのうえに前開き半袖を一枚は折ってるだけ、下は短いスカートとブーツ……お腹だって丸出しだし、どう見ても寒そうにしか見えない。

 それで平然としているんだから驚きだ。鍛えているからか……もしくは前に聞いた「オシャレは我慢」というやつなんだろうか?

 

 まあ、それはさておき……

 

「えっとそれじゃあ……どうして元気が無いの? これから『塔の悪魔』と戦うけど大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です! パメラさんのことについて本人と先生から色々聞いてたら、ちょっとと疲れちゃっただけで……少し休んで気持ちを切り換えられれば問題無いと思いますから」

 

 ああ、前のほうでロロナとパメラさんと一緒にいたのは、パメラさんのことについて話してたからだったんだ。トトリちゃんが反対していた「生贄を捧げる」ことへの抜け道と言える「パメラはもう死んでるから、生贄にしても死なない」という話をするには必要なことだろうから、ちゃんと聞けたなら良かった。

 ……って、あれ?

 

「それで、何で話を聞いてて疲れてたの?」

 

「なんでってそれは……なんていうか、自分の中にあった常識が崩れてゴチャゴチャーってなったところに新しい話がドンドン入ってきて、ちょっと整理しきれてないって言うか……」

 

 なるほど。どうやら知恵熱……じゃないけど、いっぺんに色んな新しいことを知って、こんがらがってしまっているみたいだ。まあ、普通に一緒の村で暮らしていた人が幽霊だったと知れば混乱してしまっても仕方ないと思う。

 でも、最後にポツリと小声で呟いた「マイスさんで慣れたつもりだったんだけどなぁ」って言葉……どういう意味なんだろう?

 

 

「そういえば、パメラさんって昔は今みたいな身体(からだ)は無くって……その幽霊のパメラさんを、マイスさんは全然驚きも怖がりもしてなかったらしいですけど、本当なんですか?」

 

「え、うん。本当だよ?」

 

 僕の返答に、トトリちゃんが「ええっ!?」と驚いた。……いやぁ、そこまで驚かなくてもいいと思うんだけど……。

 

「とはいっても、浮いたり透けたりしてて、初めて会った時はさすがにほんのちょっとだけ驚いたんだけどね。そもそも幽霊(ゴースト)はいきなり消えて、変なところに現れたりするから戦うのは「面倒だ」とは思ったけど、「怖い」って思ったことはないかなぁ?」

 

「な、なるほど? ゴースト系のモンスターのことを考えて……って、それ、どこかズレてる気が……?」

 

 首をかしげてしまい納得できてなさそうな様子のトトリちゃん。

 ううん……でも、これ以上言えることって無いような……? あっ。

 

「パメラさんに初めて会った時って言ったら、ちょっとおすそわけで、うちで作った作物を使った食べ物を持っていってたんだけど、パメラさんは「幽霊だから食べられない」って……あれは残念だったなぁ」

 

「えっと、それ、怖がらなかったことに関係あるんですか?」

 

「あると言えばあるし、ないと言えばないかな?」

 

 そう僕が返すと、トトリちゃんは「ええっ……」と呆れ気味に声をもらしていた。

 ……ちょっとだけ心外だったりする。けど、僕がちょっと遠回しに、もったいぶり過ぎて言ってしまったって言うのもあるかな?

 

 とにかく、僕が何を言いたかったのかを伝えることにした。

 

「相手が人間でも、モンスターでも、幽霊でも、いつも通りの自分で接してみて……その上で、今後どうしていくか決めたらいいんだよ。一緒に過ごしてみて楽しかったらもっと仲良くなってみるのもいいし、性格が合いそうになかったり、怖かったらちょっと距離を置くとか……」

 

「…………」

 

「あとは「仕事上の付き合い」とか最低限の範囲にするとか……って、どうかしたの?」

 

「あっ、その、マイスさんがそんな色々考えて人と接してるのが意外で……」

 

「いやまあ、実際のところはいつも通りにしてたら楽しくなって、すっかり忘れちゃってることがほとんどなんだけどね?」

 

「やっぱりですか。マイスさんらしいというか、なんというか」

 

 「なんとなく、そんな気はしてた……」とこぼしたトトリちゃんを見て、僕は苦笑いをした。

 トトリちゃんの場合、時々出てくる毒舌のせいでトトリちゃんからではなく相手から距離を置いてきそうな気もするけど……その時々ある痛烈な一言以外は本当に良い子だから、なんだかんだ言って離れられる(そういう)ことはそうそう無いんじゃないかな?

 

「でも、マイスさんって誰とでも仲が良いですし、誰かと距離を置いたりなんかしてない気がするんですけど……」

 

「実はしてたりしたんだけどね……その、今さっき話したパメラさんとか」

 

「ええっ!? って、そういえば、前に「全然お店に来てくれないー」ってパメラさんが言ってた気も……欲しい道具が無かったとか言ってましたけど、実はやっぱり幽霊が怖かったんですか~?」

 

 驚いたかと思えば、最後にはまるでからかうように聞いてきたトトリちゃん。

 ちょっと前まであんなに疲れてる様子だったのに、無事元気が戻ってきたようで何よりだ。

 

 っと。それはそれでいいんだけど、まずは誤解の無いように言っておかないと……

 

「怖かったからじゃなくて……さっきも言ったけど、霊体のパメラさんって何も食べられないんだよね。で、おすそわけをアトリエに持って行って、ロロナとホムちゃんと一緒にお茶にして……って時に、パメラさん一人だけ食べれないってなっちゃって、それでちょっと気まずくて……それで、どうしても今でも苦手意識がちょっとだけ残ってるんだ」

 

「な、なるほど……。でも、この間『青の農村』に一緒に行った時のパメラさんは、そんなこと気にしてる様子はなかったですし、マイスさんが気にし過ぎな気も……。というか、わたしやジーノくんの時もそうでしたけど。マイスさんにとってのコミュニケーションの第一歩って、自分の作った物をごちそうすることだったりするんですか?」

 

「うん! やっぱり僕を知ってもらうには、僕が丹精込めて作った作物を使った料理を食べてもらうのが一番だと思うからね!」

 

 そう僕が言うと、トトリちゃんが小声で「まあ、確かに「驚かされる」って意味じゃあ一発で知ってもらえると思うなぁ、うん」とこぼしていたけど……なんだろう? それは僕がいつも誰かを驚かせてるみたいな言い方のような……? 『青の農村』のお祭りではみんなを驚かせて楽しんでもらおうとは思ってるけど、そのことかな?

 

 

グゥ~……

 

 

「「…………」」

 

 と、不意にお腹の虫の声が聞こえてきた。発信源は……いわずもがな僕の隣を歩いているトトリちゃんだった。

 

「……『塔の悪魔』を倒したら、僕の家でみんなで『お疲れさま会』でもしよっか? 色々料理も用意してさ」

 

「ううっ、今のはスルーしてくれた方が嬉しかったんですけど……!」

 

 チラリとそっちを見てみると、恥ずかしがってか顔を赤くしているトトリちゃんが、頬を膨らませ、うらめしそうに僕をジトーっと睨みつけてきていた。

 

「あははははっ! 大丈夫だよ。ロロナやステルクさん……他の皆も心強い人たちばっかりなんだから、『塔の悪魔』も問題無く倒せて、すぐにゴハンも食べれるって!」

 

「それじゃ、まるでわたしが食いしん坊みたいじゃないですか!? そういう話じゃ……って、もうっ! 笑わないでくださいよー!!」

 

 

 頬を膨らませたトトリちゃんにポカポカと叩かれながら、僕は先に見える雲に刺さるほど高くそびえる塔を見つめた。

 

 トトリちゃんと話すまで、あの塔での戦闘について不安なことばっかり浮かんでた。だけど、今はなんだかスッキリしている。

 やっぱりわからないこともあるし、不安が全く無いとは口が裂けても言えないけど……それでも、なんだか頑張れる気がしてきた。

 




 正直な話、『トトリルート』は『塔の悪魔』イベントが終わってからやっと一歩踏み込めるんですよね。
 それでもきっかけが無く、なかなか間が狭まらないんじゃないかなーっと思っています。なので、ある程度距離を置いた絡みが続くかと。

 ……早くイチャイチャさせたいですねぇ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』


 ……第三者目線で書いてばっかりな気がして、ちょっと感覚が狂ってきている気がする今日この頃。

 『塔の悪魔』を倒し、マイス君もギゼラさんの最期をやっと知り、ギゼラさん関係が一段落してようやく進展が……と思いきや、トトリちゃんは色々と気にしていたりするのに、他ルートと同じくマイス君が……というお話。
 でも、ある意味ではここがターニングポイントだったりします。






※2019年工事内容※
 特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*3*】

 

 

 

 

 

***青の農村***

 

 

 晴れ渡る空。

 その下でクワを振るう農夫に、店先で談笑する商人と客。

 道端で寝転んでいるモンスターや、広場でたわむれる子供とモンスター。

 

 つまりのところ……いつもの『青の農村』である。

 

 

 そんな『青の農村』を手を繋いで歩く二人の人影があった。

 

「~♪ ~~~♪」

 

「鼻歌なんて歌っちゃてー。そんなに嬉しいの?」

 

「うんっ! ピアニャ、『青の農村』好き! 楽しくて、賑やかで、マイスのおやつが美味しくて、いろんなモンスター()と遊べるもん!」

 

 一人は、『アランヤ村』出身の『冒険者』であり、指折り数えるほどしかいない『錬金術士』の一人でもあるトトリ。

 もう一人は、『最果ての村(東の大陸の村)』からトトリの家に居候をしているピアニャだ。

 

 二人が『青の農村』に来た理由は、聞いての通り遊びに来たようなものだった。

 もちろんその中心になっているのは、ピアニャなのだが……トトリのほうも、別にただの単なる付き添いとして来ているわけではなかった。トトリはトトリで目的があって『青の農村(ここ)』まで来たのである。

 

 

「マイスさん、あの時は大丈夫そうだったけど……元気にしてるかなぁ?」

 

 そう。トトリはマイスのことが気になっているのだ。

 というのも、先日の『塔の悪魔』討伐後に判明した「マイスがギゼラの最期を知らなかった」一件。『最果ての村(あちら)』でちょっとした騒ぎになったのだが、その後、改めてマイスはトトリから話を聞くこととなったのだが……どうにもトトリはその時のことが引っかかってしまっていた。

 

 最初、『最果ての村』で「ギゼラが『塔の悪魔』との死闘が原因で致命傷を負って、それが原因で……」という話を初めて聞いたマイスの反応は半ば混乱状態だったと言っていいほどあわてふためいていた。

 だが、その後、詳しく話をしたトトリから見て、その話を聞いていたマイスの様子は()()()()()()()()()()()()気がして逆に心配でならなかった。悲しんで泣くわけでもなく、気が沈んでいるわけでもなさそうで……(しま)いには話してくれたトトリに「話してくれてありがとう」と()()()言った……その無理をしてるんじゃないかと思える姿を思い出す度、トトリは何故か胸が締め付けられるような感覚がした。

 

 内心悲しんでいても人前で泣いたりは出来ず、家に帰って一人になってから泣いたりしているのかもしれない……とトトリも考えた。しかし、仮にそうだったとしても「自分の中だけに溜め込みすぎて苦しいんじゃ……」と、まるで自分の事のように心配になってきてしまう。

 

 

「お母さんと仲が凄くよかったみたいだから、絶対何とも思っていない、なんてことはないはずなんだけど……」

 

 マイスとギゼラの仲の良さは、本人(マイス)を含めたも誰もが認めることだと思う。

 

 事実、ギゼラの事を話すマイスは――例えそれが物を壊されたりといった迷惑をかけられた話であっても――楽しそうに笑いながら話し、ギゼラから聞いた冒険の話はまるで自分がしたことであるかのように誇らしげに語る。……一部の人からは、「ギゼラの事を話しだすと一気に子供っぽくなる」と言われたりもする。

 そして、グイードなど二人のことを周りから見ていた人たちからも、「長年の友人のように仲が良い」と称されるほど。

 無論、トトリもそう思っている。以前にギゼラ(母親)のことを知りたくてマイスから話を色々と聞いたことがあるのだが、その際に「わたしがお母さんのことを忘れてるせいかもしれないけど、わたしよりもよっぽどお母さんのことが好きなんじゃ……?」とトトリが思ってしまうほど、マイスはギゼラについて知っていることを話したのだから。

 

 ……となると、やはりギゼラの最期のことであんな反応だけで終ってしまうっていうのは、トトリにはどうにも不思議に思えて仕方がないのだ。

 

 

 

「うーん……それにしたってどうやって確かめればいいんだろう?」

 

 もうここまで来てしまっているというのに、未だにそんなことで悩み続けているトトリ。

 ピアニャの「『青の農村』に行きたい!」という駄々を聞いて「これは良い機会かも……!?」と思い立ったが吉日と突撃したわけだが……もう少し考える時間を取った方がよかったのかもしれない。

 

「ここはストレートに「無理してませんか?」って聞いちゃうべきかなぁ? それとも、さりげなくお母さんの話に持っていってそこからドンドン思い出していってもらって、そのまま泣いてもらって……って、わたし、そんな誘導するように話したり出来る気がしないよ……」

 

「トトリー? なあにー?」

 

「えっ、あ……ううん! なんでもないよ?」

 

 考えていたことが全部口に出ていたため、手を繋いで歩いているピアニャから「どうしたの?」と聞かれてしまうトトリ。彼女は慌てて首を振るが、ピアニャは違和感を拭いきれないのか「ふーん……?」と首をかしげたままだった。

 そんな反応にトトリは困ってしまい、誤魔化すように笑ってみせようとするが……上手くいかず中途半端になってしまう。そのため、トトリはさらに「どうしよう……?」と頭を悩ませてしまうのだが……。

 

 しかし、何かを思いつくよりも先に、『青の農村』の中でも目的地である場所のすぐ近くまでいつの間にか来ていることに気付き、ピアニャの気をそちらへとそらすことにした。

 

「あっ! ほらっ、もうすぐマイスさんのお家に着くよー」

 

「わぁ、ほんと! マイスに、モンスターたち(みんな)と一緒に食べれるおやつ作ってもらうんだー♪ でね、でね! ピアニャもそれを手伝う!」

 

 目をキラキラさせて、ワクワクを抑えられずにスキップを始めてしまうピアニャ。トトリはその微妙に早くなったピアニャのスピードに合わせる様に、少しだけ歩幅を大きくする。

 未だに「マイスの様子をどう確かめるか」が決まっていないため、トトリの中には不安も残っているのだが……それでも覚悟を決めて、一歩また一歩とマイスの家へと歩を進めて行くのであった……。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 

 そんなこんなで、トトリとピアニャはマイスの家にたどり着き、その玄関の扉をノックをするのとほぼ同時に開けた……というのも、トトリがノックをしたのも気にせずピアニャが開けてしまったからである。

 トトリは驚きながらも、ピアニャに合わせて挨拶を……

 

「「おじゃましまー……」」

 

 

 

 

 

「なるほど……前に言ってた『名前問題』はもう大体解決できてる……というか、もうしかたのないことだと割り切ってるんだね。じゃあ、当面の問題は『パイの自給自足問題』ってことになるのかな?」

 

「ちむー!」

「ちむっちむっ」

「ちちむ!」

「ちぃ↓ーむぅ↑ー!」

 

「えっ? 『ロロナのパイつまみ食い問題』、『パイの木の味が一種類問題』()含めた上でひとまとめにした『勤務地格差問題』が正しいって? ……ロロナとの調合で出来たアクティブシード『パイの木』のことはコッチでどうにかできるとして、残りは……」

 

 

 家に入ったトトリとピアニャが目にしたのは、ソファーに一列に並んで座っている『ちむちゃんず』と、テーブルを挟んで反対側にあるイスに座っているマイスが何やら話している光景だった。

 

 ソファーに座っているちむちゃんたちは、トトリとピアニャ(二人)が来た『アランヤ村』の『トトリのアトリエ』にいた面々ではなく、トトリにとって第二の活動拠点である『アーランドの街』の『ロロナのアトリエ』にいる()()の四人(?)だった。

 それぞれ……女の子の「ちみゅみゅみゅちゃん」、「ちみゅみみゅちゃん」。男の子の「ちむドラゴン」、「ちむまるだゆう」である。

 

 マイスは、どうやらちむちゃん(彼ら)から不満を聞いているようで、「前に言っていた『名前問題』は……」などと言っていることから、こういった場は今回が初めてじゃないことが話を聞いているだけでもうかがえるだろう。

 ……なお、『名前問題』というのは……女の子たちは「ロロナが名前を呼んでくれる時に、いつも噛んでて申し訳ない」と感じてしまうことを悩んでいて、男の子たちは「ロロナが名前を呼んでくれる時に、いつも申し訳なさそうにするのが逆に辛い」と感じてしまうからで……つまり、名付け親であるトトリと、彼らが今仕事をしている『ロロナのアトリエ』の店主のロロナによって引き起こされた問題だったのだ。

 今現在は、ロロナのほうも、ちむちゃんたちも、良くも悪くも慣れてきたため、もうそこまで問題になっていないらしい。

 

 

 

 さて、今日新たに挙がった『勤務地格差問題』なのだが……本格的に話が始まる直前に、予想外にもトトリが来てしまったわけで……

 

「って……あれ? トトリちゃんとピアニャちゃん? いらっしゃい!」

 

「「「「ちむ!?」」」」

 

 マイスはいつも通りの様子だが、ちむちゃんたちはトトリの突然の来訪に驚きを隠せないようだった。まあ、仕事環境の不満の相談とはいえ、本人のいない場所で悪口をいっていたようなものであり、本人たちも後ろめたさを少なからず感じてしまったのだろう。

 なので……

 

 ちみゅみゅみゅちゃんは、ソファーから飛び降りてソファーの下に潜りこんで隠れ……

 ちみゅみみゅちゃんは、「私は関係無い」とでも言いたいのかピアニャに跳びついてだっこしてもらい甘え始め……

 ちむドラゴンは、ソファーに座ったまま明後日の方向を向きながら「ちむ~ちむ~」と口笛を吹いている()()をし始め……

 ちむまるだゆうは、ソファーから前方へ転げ落ちてテーブルの下をくぐりマイスの足にぶつかってしまうのだった……

 

 

 しかし、考えてみて欲しい。

 裏で文句を言われるのもキツイことだが……今のように、それがバレた時にそうやって隠そうとしたり誤魔化そうとすることのほうが、辛かったり、頭にきたりするものである。

 つまりは、その状況を見たトトリは……

 

「……マイスさん? ちむちゃんたち?」

 

 ついさっきまでのマイスへの心配はどこへやら。良い笑顔(黒)である。

 

「えっ、えっ? ど、どうかしたの?」

 

「「「「ち、ちちむ……」」」」

 

「トトリの顔、こわい~……」

 

 マイスには悪気は無いのだが……これは仕方ない。ちむちゃんと一緒に、トトリの説教に付き合うしか無さそうだった。

 そして、それにともないピアニャも少しの被害を被る事に……。

 

 

 

 この後、説教の途中でトトリが泣きだしてしまい、それをなぐさめるためにマイスとちむちゃんずが頑張るのだが――それが結果的に()()()()に繋がることとなるのだけれど――それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 なお、「いや、でも、一日三食の食事が、基本的に自分たちが仕事で複製した『パイ』っていうのは、いくら何でもかわいそうだと思うよ?」とマイスに言われて、それは流石にトトリちゃんのほうからちむちゃんたちに謝ることになるのだった。 

 




 なにやってるんだマイス君(いつもの)

 そして、『トトリのアトリエ』では、本来であれば5人しかつくれないはずのちむちゃんたちの後半の子達が、本編ではチラ見せ程度だったんですが、今回登場。『メルルのアトリエ』では普通に5人いじょういますからね。


 そして、ちむちゃんの『パイの自給自足問題』。実際のところ、よくやることなんですが……よくよく考えてみると、何だか可哀相に思えるというか、なんというか……。



 そして、今回のお話も大きく絡む次のトトリルートのお話は……!?


 次回!「トトリ、毒を吐く!」お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

 二度と登場しないと思ってたあの人の登場。
 第三者視点となっています。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***アランヤ村***

 

 

 建物の一部が『トトリのアトリエ』となっているヘルモルト家。その家がある海に面した丘から村へと降りてくる道を歩いているのは、『アランヤ村』が生んだ錬金術士であるトトリことトゥトゥーリア・ヘルモルト。

 

 

 冒険者免許のランクアップもとりあえずは大丈夫だろうというランクまで上げ終え、『冒険者』になるきっかけであった母親・ギゼラを探す旅も望む最高の結果では無かったものの足跡をたどってたどり着き、たどり着いた先の『最果ての村』が抱えていた問題である『塔の悪魔』も倒した。

 解決すべきと考えていた大きな目標は全て解決したトトリは、ようやく()()()()()()自分のために冒険ができるようになった。……のだが、特に何が変わるというわけではなかった。

 

 『錬金術』をするための素材集めに冒険に出て、依頼をこなして困っている人を助け、時には直接会った人から悩み事を聞きそれを解決するべく調合をしたり、時々『青の農村』に立ち寄り学校の『錬金術』の授業・教科書の準備の手伝いをする……そんな日々が続いている。

 変わった事と言えば、活動の拠点が『トトリのアトリエ』に定まってきていることくらいだろう。『アーランドの街』の『ロロナのアトリエ』のほうにも行かないわけでもないが、以前のように長期間滞在することは無くなっている。ランクアップの必要性が無くなった事や、ツェツィ()やピアニャが村にいること、そしてその気になれば『トラベルゲート』ですぐに行けるからどちらで生活してても冒険にはさほど影響が出ないことが理由にあげられるだろう。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、比較的のんびりと過ごしているトトリだが……今日は受けていた依頼の納品・報告をするために、『バー・ゲラルド』へと向かっていた。

 なお、ピアニャは『トトリのアトリエ』担当のちむちゃんたち――ちむちゃん、ちみゅちゃん、ちみゅみゅちゃん、ちむおとこ、ちむぐれーと――と、お留守番中である。

 

「依頼の報告をしてー、そのまま酒場にいるお姉ちゃんのところで買い物してー、あとで『パメラ屋さん』にも寄ってー……他に何かあったかなぁ? あっ。あれって……」

 

 村の中で他に用事がなかったか考えつつ歩いているトトリだったが、建物が増えてきて『アランヤ村』の中心地であり『バー・ゲラルド』もある広場が見えてきた時、あるものが見え、彼女の意識はそちらへと向かった。

 当然、視線もそちらへといくのだが……そのため、()()()と偶然にも視線が合ってしまい、無視するわけにもいかなかったためトトリは『バー・ゲラルド』を少し通り過ぎてソッチへと歩を進めることとなった。

 

 トトリがそばに来るよりも先に、視線の先にいる人物のほうからトトリに向かって声がかけられる。

 

「よぉトトリ。元気にしてたかぁ?」

 

「何事も無くって感じだよ。そういう()()()()()()はどうだったの? どこか行ってたみたいだけど……」

 

 トトリの問いに、ここ最近馬車と共にどこかへ行っていて『アランヤ村』にいなかった村出身の御者ペーターが、いつも通りの何とも言えないニヘラとした笑みを浮かべて喋りだす。

 

「まぁ、相変わらずってことだな。行先は街のほうだったし街道もキチンとしてるとこしか通ってないから安全だった……けど、やっぱり馬車の長旅は体のあちこちが痛くなってさ、特に腰回りが」

 

「ああ、いつも言ってる……だから「相変わらず」なんだね」

 

「まあな。だから、これからちょっとの期間、仕事は休みにして体をいたわろうかなーって思ってんだ。というわけで、馬車に乗りたいって言っても、俺は働かないぜ?」

 

「あーうん、別にいいよ? 馬車が無くても特に困らないから。そもそも最近はペーターさんの馬車、全然使ってないし……」

 

「あれ? そう言えばそんな気が……なんでだぁ?」

 

 最近、トトリが馬車を使っていないことを本人に言われて初めて気付き疑問に思うペーターは「あれ? あれぇ!?」と焦り気味に首を傾げ始めた。基本仕事に不真面目な彼だが、それでも生活がかかってはいる。そんな中、固定客だと思っていた相手(トトリ)が馬車を使わないとなると少なからず利益を得る機会が減るわけで……かなり大きな問題である。

 ……だというのに、何故、今の今までトトリが馬車を使わなくなったこと(そのこと)に気付かなかったのだろうか? やはり、色々と残念なペーターである。

 

 

 

 と、そんなペーターが「あっ、そうだそうだ!」と何かを思い出したようで、自分の生活に関わる問題を放り投げて別の話題を出す。

 

「街に行った時に聞いた話なんだけどな、あいつ、結婚するんだってよ」

 

「あいつ?」

 

 聞き返すトトリに向かって、一度頷いた後にペーターはその人物の名前を出した。

 

 

()()()()()。あのお前のかぁちゃんに「アタシの次に強い!」て言わたり、俺のこと海にブン投げたりした……」

 

 

 言っていてその時の事を思い出したのだろう。ペーターは少し顔を青くしてブルリッとその身を震わせる。

 そんな姿を見てトトリは呆れ顔で短くため息を吐いた。

 

「いやぁ、『水着コンテスト(アレ)』はマイスさんのお祭りへの熱意もあるけど、それ以上にペーターさんが()()っていうか、気色()()()()というか……って、あれ?」

 

 「はて?」とトトリはその口を止めた。そして考える……「今、何の話をしていてマイスさんの名前が出てきたんだっけ?」と。

 

「えっとー……確か、結婚するって……結婚? …………ケッコン!?」

 

「ちょっ、トトリ! 今俺のこと気色悪いって……!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!! それで! マイスさんが結婚するって本当(ホント)!?」

 

 トトリの言い様に「ひでぇ!?」と目と口をあんぐりと開けて驚愕するペーター……だったが、トトリにこの程度の事を言われて再起不能になるのであれば『アランヤ村』ではやっていけない。

 内心ではまだ完璧には立ち直れずとも、すぐになんとか気持ちを落ち着けて律儀にトトリの問いに答えるのであった。

 

「マイス本人から聞いたわけじゃなくって、噂でそんな話があってたんだよ。聞く相手を変えたら微妙に内容が変わってたりしたから、ホントかウソかっていうのは半々(はんはん)くらいじゃないかぁ?」

 

 ……と、ここまでは比較的まともな返答をしたペーターだったが、「けどなぁ……」と呟いたかと思うと、眉をひそめて何やら怪訝そうにして続けて言いだした。

 

「俺個人としては、この噂にはなんか裏がある気がするんだよな……」

 

「裏がある、って、噂にですか?」

 

「だって、考えてもみろよ。()()()に、八方美人でお人好しなだけの()()マイスが結婚なんて出来ると思うか? どう考えたって「いい人」どまりが関の山だろ? それに……俺より先にあいつが結婚だなんて有り得ない、いやっ! あってはいけないと思う!」

 

 「俺以外」という部分をやけに強調するペーター。やはり『水着コンテスト』の一件で海に投げられたことが根深く印象に残っているのだろう。

 前半は、マイスのことを知っていれば「まぁそうかも?」と思えなくも無い内容……だが、後半はどう考えても完全にペーターの私情であり、それを聞いて頷く人はまずいないに決まっている。

 

 

 話を聞いていたトトリも、ペーターの言葉に「うわぁー」と引きつつツッコミを入れようとして……急にピタッと数秒固まったかと思うと、目を少し見開いてから薄っすらとイタズラを思いついたかのような笑みを浮かべた。

 

「そうだよねっ! ()()マイスさんが結婚だなんて、絶対ありえないよー。だって、マイスさんってカッコイイっていうかカワイイ系で、身長もミミちゃんとほとんど変わらないくらいだし、童顔でロロナ先生以上に成人してなさそうに見えて……そもそも、外見も子供っぽいのに、性格とかも一見落ち着いてるように思えるけど、実は結構はしゃいだり頑固でワガママだったり、内面も子供っぽくって」

 

「おおっ! 今日のトトリはあいつにもかなりズカズカ言ってくなぁ……。でもまあ、トトリの言う通りだと思うぞ。やっぱりお嫁さんを貰う男っていうのは、立派な大人じゃないとダメだ! ああいう子供っぽい奴だと仕事とか外との付き合いも心配だし、頼りがいも無いからな」

 

「それだとペーターさんもダメダメじゃないかな……? まあ、それは置いといて。その点でマイスさんは、経済面は全く心配がない……ように見えて、額が高すぎて問題になりそうだったり、マイスさんのその辺りの感覚と常識が頭のネジと一緒に吹っ飛んでいっちゃってて、数万コールを「別にいいよー」ってポーンって投げ捨てちゃうようなことする人だし、逆にある意味悩み事だらけでそばにいたら胃に穴が開いちゃいそうかも」

 

「あ、んん……?」

 

「ナヨナヨしてて「へたれ」なペーターさんとは別方向に頼りない見た目だったりするけど、実際はいろんな分野の事を知ってたり、普通に強かったりするから凄く頼りにはなる…………んだけど、やっぱり変な方向に飛び抜けちゃってて、戦闘なんか……「レックウ!」って前へ()びかかったかと思ったらすぐに後ろへ()()ねたり、回転して敵に突っ込んだり、いきなり光ったかと思ったら残像が見えるくらい速く動き出したり、『魔法』で最早(もはや)何でもありで……力や技術が「強い」とか「凄い」じゃなくって、なんていうかもう「怖い」とか「気持ち悪い」レベルで……」

 

「…………なぁ、トトリって、実はマイス(あいつ)のこと大嫌いだったりするのか? あと、ついでに俺のことも」

 

 流れ弾を受けて、目尻に涙を溜めながら引きつった笑みを浮かべるペーター。

 だが当のトトリはその問いかけに「ふぇ?」とマヌケな声をもらして首をかしげるのみだった。つまり、自覚も悪気も無いようだ。

 

 

 

 と、そんなトトリの様子を見て、ペーターとは少し違った顔の引きつらせ方をしている人物が一人。

 

「うわぁ……」

 

 それは、『バー・ゲラルド』から出てきたメルヴィアだった。酒場の前あたりが少し騒がしい気がしていたのだが、どうやらその声の一つがトトリのモノである事に気付き「何してんだろ?」と興味をひかれて酒場から出てみれば……この状況である。そりゃあ引きもするだろう。

 

「マイスの悪口合戦? どうしたのよ、トトリ? いつもの毒舌にしては盛り盛りというか……いや、そもそもなんでマイスの? こないだのお祭りなんて、「マイスさんの『魔法』のこと、みんなが受け入れてくれなかったらどうしよう」っていうふうな心配顔までしてたってのに……えっ、何? ()()()反抗期ってやつ?」

 

「心配くらいするよ。……っていうか、メルおねえちゃん! ソレはソレ、コレはコレなの! それに、わたしだってちょっとくらい陰でマイスさんのこと悪く言ったっていいでしょ!? 今度は私の番なんだもん!」

 

「ああ、うん……なるほど」

 

 頬を膨らませて、両手は握りこぶしを作ってブンブン振るトトリ。

 それを見たメルヴィアは、先程までの引きつった顔を消し、代わりに真剣な表情になって…………

 

 

 

 

 

「ペーターのそばにいすぎたから、ひねくれ曲がった根性が感染(うつ)っちゃったのね」

 

 ……ペーターの肩にポンッと手を置いた。

 

「ちょ!? ちが……」

 

「あ、大丈夫よ? 別に物理的に叩き直そうとかそういうわけじゃなくって「トトリに悪影響が出てるみたい」ってツェツィに相談するだけだから、ね?」

 

「「ね?」じゃないだろぉ!? ヤメロー! そっちのほうがマズイんだよー!!」

 

 ガチで泣き出しそうになりながら、酒場にいるツェツィに報告(チクリ)に行こうとしているメルヴィアの脚にすがりつくように抱きついて止めようとするペーター。

 

 

 そんなメルヴィアとペーターのそばにいるトトリだが……

 

「結婚……結婚って……ふ、ふーんだ! どうせウソに決まってるよ! マイスさんって一人でなんでもしちゃうし、できちゃうから、お嫁さん候補がいたって「私、彼には必要無いのかも……」って振られるにきまってるし、それに……うん、もっと悪口言っちゃおう! そんなことに付き合ってくれそうな人っていったら……」

 

 目の前のイチャイチャ(?)は眼中にないようで、大きな独り言を呟きながら、当初の目的地の『バー・ゲラルド』ではなく『パメラ屋さん』へと向かって行った。

 どうやら悪口を言っているところを姉のツェツィに見られるのは、流石に抵抗があったらしい。

 

 

―――――――――――――――

 

 

 なお、『パメラ屋さん』にて「結婚できそうにないマイスさん」といった感じの内容で話してみたところ、思った以上に店主のパメラが「そうよねぇ~!」とノリノリでくいついてきて盛り上がったのだが……

 

「カワイイ系で~。そうねぇ~旦那さんっていうか、弟……子供……? ううん、ペットかしらぁ~♪」

 

 という、パメラの発言で今度はトトリが引き、少し冷静になったり……。

 しかし、その「ペット」という表現がある意味ではそう間違っていないことをトトリが知るのは、もう少し後のことである……。

 




 マイス君のことを誉めたいのか、けなしたいのか、よくわからないトトリちゃん。
 トトリちゃんからしてみれば、マイス君とちむちゃん達の相談会の意趣返しのつもり……なんでしょうけど、色々と間違えちゃってます。

 こんな状態のトトリちゃん。マイス君に会ったらどうなるんでしょうねぇ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*5-1*】

※『トトリルート』特有の変化※
 マイス君の結婚云々が気になり、他ルートよりも早い時期に街にくる。


 そして……今回、『トトリルート』ですがマイス君視点でも無く、トトリ視点でも無く、第三者でも無く、まさかのロロナ視点です。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……



【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***職人通り***

 

 

 わたしです、ロロナです。

 ……どうしてこんなことになっちゃったんだろう?

 

 どうして? なんで?

 ありえない……あっちゃいけないことなのに……。

 

 でも、目の前に見える光景(それ)は目を擦っても変わったりしなくて、間違い無くそこにあって……。

 耳から聞こえてくる()もまた、聞き間違いなんかじゃなくて……。

 

 嘘だと言いたい。嘘だと思いたい。

 けど、けど……っ!!

 

 

 けど、何回確認し直しても、今アトリエの前で起きている出来事はどうしようもない現実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いーい? ちむちゃんたちは今から『すぱい』なんだよ? そう気取られないようにしながら、マイスさんの秘密を……弱みを調べるのがお仕事です!」

 

「「「「ちーむー?」」」」

 

 

トトリちゃんが、笑顔で悪巧みする悪い子になっちゃったー!?

 

 『アランヤ村』に帰ってたはずのトトリちゃんが、聞いてた予定より早く『アーランドの街(こっち)』に来てわたしは嬉しかったんだけど……来て早々、ちむちゃんたちを集めて何かし始めたのっ!

 しゃがんでちむちゃんたちの視線に近づけて喋ってるトトリちゃんは、笑顔なんだけど……わたしの目が変になってないなら、笑顔の裏にっていうかトトリちゃんの背後になんか凄い黒いモヤモヤ~ってしたオーラが見えてる……。

 

 ほっ、ほほほ……本当(ホント)にどうしてこんなことになっちゃったのー!?

 わたしの育て方が悪かったのー!? わたしなんかが先生だったから、トトリちゃんの性格が歪んじゃって、お腹まで真っ黒な悪い子になっちゃったんだー!!

 

 で、でも、どうしたら……!?

 

 

「ちむっ! ちっむ、ちちむー?」 

 

 あっ、トトリちゃんの前で整列してた『ロロナのアトリエ(わたしのアトリエ)』でお仕事しているちむちゃんたちの内のひとり、ちみゅめぅっ! ……じゃなくて、ちみゅみゅみゅちゃんが、元気良く手をあげて首をかしげながらトトリちゃんに何か聞いた。

 

「ちっちむ?」

「ち~む~?」

「ちむ?」

 

 それに続いて、他の子たちも顔を見合わせたりしながら、まるで何かを確認するように喋って……いや、ちむちゃんたち、何言ってるんだろ、これ?

 

「どんなことでもいいけど、誰でも知ってるようなことじゃダメだよ? ……で、さっきも言ったように、やっぱりマイスさんの弱みになるような秘密が……って、これじゃあまだ、大雑把すぎてボンヤリしてるかな?」

 

 あっ、トトリちゃんにはちゃんと伝わってるみたいで、真っ黒なモヤモヤをモワモワ出しながら、笑顔でちむちゃんたちに……

 ……って、あれ? 急にトトリちゃんから黒い笑顔が消えて、目がどっか明後日(アッチ)のほうをむいたりして……落ち着いてないって言うか、なんか変な感じ……?

 

 

そ、ソウダナァー。ナンデモイイケドー……主に女性関係とかカナァ?

 

 

「「「「…………ちむー……」」」」

 

 あっ、今のちむちゃんたちの反応はわかった! 「えー」とか「あー」っていう感じで呆れてるっていうか、引いてるっていうか……とにかく、思いっきりちむちゃんたちのテンションが下がったのは間違い無いと思う。

 

 でも、トトリちゃんはそんなやる気の無くなったちむちゃんたちを見てもそんなに気にしてないみたいで……また黒いモヤモヤを出しながら笑顔で……今度は「くっくっくっ!」って物語に出てくる悪者くらいしかしないんじゃないかって感じの笑い方をしながら、しゃがんでいた体勢から立ち上がって、()()を右手に持って高々とかかげた!

 

「ちむちゃんたちは意地悪ダナー?……あーあ。ちゃんとお仕事出来た子のためのご褒美で、お姉ちゃん直伝の『おさかなパイ』を沢山作ってキテタノニナー?」

 

「「「「ちむっ!?」」」」

 

『青の農村』の人たちでも知らないような、極秘情報(ごくひじょーほー)を調べて教えてくれた子のために、いつもの『コヤシイワシ』じゃなくて、最高クラスの品質の『トゲマグロ』をふんだんに使ったスペシャルでゴージャズな『おさかなパイ』も用意シテタノニナー?

 

「ちむ!!」

「ちむーっ!」

「ち↑~む↑~!!」

「ちっむ! ちっむ!」

 

 ああっ!? わたしが気分転換で作るか、マイス君がおすそわけを持ってくる以外、自分たちで量産したもの(パイ)か、前にわたしとマイス君で調合した時にできたアクティブシード『パイの木』になる(パイ)がほとんどのちむちゃんたちに、効果的過ぎるご褒美が!?

 さっき、やる気が無くなってテンションだだ下がりになったちむちゃんたちが態度を一気に変えて、わーわー賑やかになって『おさかなパイ』を高々とかかげているトトリちゃんの足元に(むら)がってった。

 

 

「……というか、スペシャルでゴージャズな『おさかなパイ』はわたしも欲しいんだけど……わたしが調べてきたら貰えたり……?」

 

「演技がヘタな先生は黙っててください!」

 

「ええっ!? そんなぁ!?」

 

 

 トトリちゃんの足元に群がっているちむちゃんたち。

 仕事へのやる気を示すように手をあげて声を上げる子。甘えた声を出してトトリちゃんの足にすり寄っていく子。トトリちゃんの足元で半狂乱気味に踊り出す子。ピョンピョン()()ねて全く届きそうにもない『おさかなパイ』に跳びつこうとする子。

 そんなちむちゃんたちを前にしてトトリちゃんは……

 

「ふぅはっはっはー!」

 

 カワイイちむちゃんたちに群がられてか、ただ単にテンションが上がっただけなのかわからないけど、本当に悪者みたいな変な高笑いをし始めちゃった……。

 

 

 弟子が悪い子になっちゃうなんて、わたしは先生失格だぁー!?

 

 で、でもっ、このまま何にもしないわけにもいかないよね? こういう時、なんとかするのも先生の役目のはずだもん!

 けど、なんとかするって、結局のところなにをすればいいんだろう……?

 えっと、ええっと……! 何か参考にできそうな…………

 

 先生……そうだっ! こんな時、師匠なら……!

 って、ダメだ!? 師匠だったら絶対面白がって悪ノリするよ!? 参考にならなーい!!

 

 

 

「さぁ! ちむちゃんたち、行ってきてちょーだい!」

 

「「「ちむー!」」」

 

 そんなことを考えてるうちに、トトリちゃんがちむちゃんたちに号令をかけて、ちむちゃんたちが一斉に走り出していった。

 目的地はマイス君のいる『青の農村』なんだけど、ちむちゃんたちは……雑貨屋さんのあるほうへと続く階段をピョンピョン跳んで降りて行ったり、アトリエの脇の裏路地に入っていたり、アトリエ前を流れる水路を(また)ぐ橋へと駆けて行ったり……。

 

「……って、んぇ?」

 

 今気づいたんだけど、ひとりだけまだトトリちゃんの足元にいる子が……?

 さっきまで踊ってた男の子……えっと、確かあの子はちむどらごんくん……じゃなくて、ちむまるだゆうくん?

 あっ、トトリちゃんも気づいたみたい。

 

「あれっ? ちむまるだゆうくん、どうしたの?」

 

「ちーむー?」

 

 なんていうか、さっきまで元気そうだったのになんだか眠そう……?

 あっ、眠いんじゃなくて、ただ単に目を細めてるだけっぽい。見てるのは……ちむまるだゆうくんから見てトトリちゃんがいるその向こう……『冒険者ギルド』があるほうの道かなぁ?

 

「ちむー!」

 

 細めてた目を見開いた後、ちむまるだゆうくんは真っ直ぐ見ていた方向へとットコ走り出していった……って、あれ? もしかしてあっちにいるのは……?

 

 

 

「あれっ? ちむまるだゆうくん? おつかいかな?」

 

「ちむっ!」

 

 ちむまるだゆうくんが駆け寄った先……『サンライズ食堂』の前ありで出会ったのは、マイス君だった。もしかして『冒険者ギルド』に行ってきた帰りだったりするのかな?

 ん? ってことは、さっき走って行っちゃったちむどらごんくんやちみゅぬぅっ!? ……ちにゅ!? ちみゅみゅみゅちゃん! ……え、えっと、あと、ちむっ……ちみゅみみゅちゃんは、誰もいない『青の農村』のマイス君の家に行ってるってこと? ……あらら。

 

「ちむ、ちむーむ、ちっちむ! ちーむちむちむっ!」

 

「へっ!?……ちょ、それは……! 他の人には秘密にしてっていう話で……」

 

「ち~む~? ちむ、ちっちむーちちむ!」

 

「えっ、スペシャルでゴージャスな『おさかなパイ』? あー、それで……うーん、でも良いよって言うわけにも……」

 

 ちむまるだゆうくんとマイス君が、何かお話をしてるみたい。なんだかトトリちゃん以上にスムーズにお喋りしてるような気もするけど……? っていうか、何話してるんだろう?

  ああっ、でも、マイス君をはじめとした『青の農村』の人ってモンスターとお話しできるみたいだし、ちむちゃんも……って、あれ? ちむちゃんって、ホムンクルスってモンスターの一種だっけ? 違うような……?

 

「というか、僕のことを調べるって……そもそもなんでトトリちゃんがそんなことを……?」

 

「ちむ、ちっちむー……」

 

「す、すけこまし? なにそれ?」

 

「ちむち~」

 

「えー……とりあえず、トトリちゃん本人に聞けばいいかなぁ? 忙しいけど、ちょっとだけなら寄り道する時間は作れなくはないし……」

 

 あっ、ちむまるだゆうくんを抱っこしてマイス君がアトリエの方(こっち)に来て……って、あれ?

 

 

 

「やあ、ロロナ! こんにちは!」

 

「ち~む~」

 

「あっ、うん。マイス君、いらっしゃい……なのかな? ちむまるだゆうくんは、おかえり?」

 

 え、ええっと……色々と気になるって言うか、「これでいいのかな?」って思うことはあるし、ふたりで何を話してたのかも気になるけど……それよりも、今は……。

 

「あれ? トトリちゃんは? ちむまるだゆうくんがいるって言ってたんだけど……?」

 

「ちちむー?」

 

「うーん……それが、ちむまるだゆうくんが走ってった時にはまだいたんだけど、気付いたらいなくなってて……」

 

 玄関戸を開けて覗きこみ、アトリエの中も見渡してみるけど……うん、中にもいそうにない。

 

「やっぱり、どこか行っちゃったみたい」

 

「そっか……うーん? いったい、どうしたんだろう?」

 

「ちーむっ?」

 

 いきなりいなくなっちゃったトトリちゃん。

 わたし達さんにんは揃って首をかしげた……。

 




 あっ(察し


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*5-2*】

 休む時間を削っていろいろやってた結果、ちょっとした失敗をしてしまい最近慎重になっている「小実」です。


 本編の感想返信おそくなってしまっておりますが、明日の夜中にしますのでもうしばらくお待ちください。




※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【5-2】

 

 

―――――――――

 

***アランヤ村***

 

 

 

 私の故郷『アランヤ村』。

 「マイスさんが結婚する」っていう噂を聞いてから、そのことが時間が経つにつれてドンドン気になってしまって……今朝、『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』に『トラベルゲート』で跳んで行く(とんでく)まで私がいた(ばしょ)だ。

 

 

 気付けば私は、村の中心付近にある広場の一角に一人で(たたず)んでた。走ったわけでもないのに、息を切らせてしまってる。

 

「ハァ、ハァ……とっさに『トラベルゲート』使っちゃったけど、失敗しなくてよかったー」

 

 ちむちゃんたちをマイスさんへの「すぱい」として放った後、いきなり現れたマイスさんに驚いて、気付けば逃げるように『アランヤ村(コッチ)』まで飛んできてしまってた。

 

 とっさの転移だったから座標がズレてしまう可能性が十分にあるって、使った後に気付いたんだけど……幸運なことに、大変な事態にはならなかった。

 まぁ、アトリエからはかなりズレちゃってるけど……海に落ちたりしてないんだから、全然マシだよね?

 

 

「それにしたって、まさかマイスさんがギルドの方(後ろ)から来るなんて……」

 

 完全に予想外だったなぁ……。てっきり『青の農村』のお家にいるとばかり思ってたもん。

 おかげで、こんな風にドタバタ逃げるはめに……

 

「……って、あれ? 私なんで逃げたんだろう」

 

 それはまあ驚いたのは事実だし、間違い無いんだけど……何も逃げ出さなくっても良かったような……?

 

 ああっ!? そうだ!!

 ちむちゃんに「すぱい」になってもらって、マイスさんのことを周りには秘密にして調べてもらおうとしてたから、やっぱり後ろめたさがあって……って、あんまり無いなぁ、後ろめたさ。だって、アレは「マイスさんが結婚する」なんて噂がたってるからで……噂がたってるのが悪いんであって、私は別に悪くないもん。

 

 

 というわけで、私にはそんなに逃げ出さないといけない理由なんて無いはずなんだけど……

 

 でも、なんだかマイスさんの顔を見たら「逃げなきゃ!?」って思っちゃって。なんていうか、こう……見た瞬間に「カチッ」っと変わる感じ?

 ……自分の頭の中で整理してるはずなのに、結局よくわかってない気がする……。

 

 

 

「うーっ、考えてたらなんだかモヤモヤしてきた。気分が悪い……わけじゃなくって、イライラする……っていうのとも違って……考えるの()めようと思っても、畑とか野菜とかちょっと関係ある物見たらすぐに顔が思い浮かんじゃってまた離れなくなっちゃうし……何なんだろ、これ?」

 

 

 

 

 

「うふふ~、それは『』ね~」

 

「こい……故意、かぁ……ん? コイ?」

 

 「故意」って、何が? 誰が、いったい、何を考えて?

 「コイ」って、お魚? 今のところ実際に見たことはないけど、そんな種類の魚が居るとかいないとか、昔読んだ本に書いてあったような気が……?

 

 ええっと、他に「こい」っていえば……?

 

 

「――――!?」

 

「こいー?」

 

「そうよぉ~? 今、トトリちゃんは『』してるの。間違い無いわ~」

 

 お散歩してたのか何なのかは知らないけど、いつの間にかそばに居たパメラさんとピアニャちゃん。

 

 手を繋いでもらっているピアニャちゃんがコテンッと首をかしげて疑問をそのまま口に出し、パメラさんがそれに頷きながらニコニコ笑って……って、そうじゃなくって!!??

 

「ううウソだよっ! わたわわわた私が、っあ、あのっまま……マイスさんに……恋っ!?」

 

「あら~! お相手はマイスなのね~!」

 

「わわわぁー!? 違うっ! 違いますって!! マイスさんは、そのそんなんじゃなくってー!!」

 

 わけもわからないまま、首も手も一緒にいっぱい振って否定してみる。

 けど、パメラさんは「あらあら~」ってクスクス笑ってばかりでちゃんと聞いてくれなくって……!

 

「そんなに恥ずかしがらなくていいじゃな~い? 乙女に恋の一つや二つは付きものなんだから」

 

「そ、そういうものなんですか……?」

 

 それなら、コレも別に気にしなくっていいってこと?

 ……って、そうじゃなくって!? そもそも、私がマイスさんに恋してるってこと自体、本当かどうかもわかんないんだから!

 

 

 そんなことを考えたら、クイックイッって私の服の裾を軽く引っ張られて……「どうしたのかな?」って見てみたら、頭の上に「?」が見えそうなくらい眉を八の字しにて首をかしげたピアニャちゃんが、いつの間にか私のそばまできててジッと見てきてた。

 

「トトリ。『こい』、ってなぁに?」

 

「うえぇっ!?」

 

 そそそっ、そんな質問、どう答えたら……!?

 ああっ、ピアニャちゃんも()()()()()()が気になるお年頃……って、そもそも理解してないかな? 『最果ての村(あそこ)』って女の人しかいなあったわけだし、()()()()()()とは全然縁は無いだろうから、知識はゼロでもおかしくない……かな?

 

 どっちにしろ、私の口からは何にも説明してあげられそうにないんだけどー!?

 

「ねぇねぇ、なんなのー?」

 

「そ、それはー……そのー……」

 

 というか、この気持ちが本当に『恋』なのかどうかとか、その辺りはむしろ私が教えてほしいっていうか……。

 

「大丈夫。ピアニャちゃんも女の子だから、そう遠くないうちにわかるようになるわよ~?」

 

「ほんと? でも、ピアニャ、今知りたいなー……」

 

「うふふ~、そんな焦らなくても心配いらないんだから~」

 

 

 

「そ、それじゃあ私、用があるからこれで……」

 

「えー? トトリ、もう行っちゃうの? ピアニャと遊んでくれないの……?」

 

 遊んであげられないっていうより、この場に居たら私がどうにかなっちゃいそうっていうか……とにかく無理だと思う。

 私は、心の中でピアニャちゃんに深々と頭を下げて謝っておく。

 

「ダメよ、ピアニャちゃん。トトリはこれから愛しのマイスに会いに行くんだから、邪魔しちゃお馬さんに蹴られちゃうわ~」

 

いきません!! ええっと……そうっ! 今からお仕事、お仕事なんです! だから行ってきます!」

 

 パメラさんの言ってることは……! と、とにかくよくわかんないから、これ以上は聞いてられません!!

 

 

 私はふたりの反応や返事を気にするのもそこそこに、この場を離れるための言い訳で言ってしまったお仕事をしに、依頼の受付のある『バー・ゲラルド』へ早く行くことにした……。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「トトリ、行っちゃった……」

 

「あらっ……ちょっとからかい過ぎちゃったかしら?」

 

 足早に行ってしまったトトリの後ろ姿を見送るピアニャとパメラ。

 残念そうな表情(かお)をするピアニャ。対して、パメラはほんの少しだけバツの悪そうな表情(かお)をしていた。

 が、すぐにいつものニッコリ笑顔に戻り……その耳に届いていないだろうことを百も承知で『バー・ゲラルド』へと入っていってるトトリへと言葉を投げかけた。

 

「頑張ってね~トトリちゃんっ。女の子は恋をして綺麗になるのよ~」

 

「ふーん?」

 

「それじゃあ、私たちも休憩終わりにして『お店屋さんごっこ』に戻りましょーか?」

 

「はーい」

 

 再び手を繋いだ二人は、そろって『パメラ屋』へと歩いていくのだった……。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

***バー・ゲラルド***

 

 

「――というわけで、『ぬし』を釣ってきて欲しいんだ」

 

「いや、なんでそうなるんですか?」

 

 それこそ逃げ込むように入った『バー・ゲラルド』なんだけど――気づけばカウンター越しにゲラルドさんに詰め寄られてた……。

 

 

 きっかけはといえば、酒場に入って挨拶したところで「ちょうどいいところに!」といきなり話を振られたのが始まりだった。

 

 以前に私がゲラルドさんに頼まれて作った『アランヤ村(この村)』の特産品になるようなお酒を造ってほしいって話があったんだけど……マイスさん(とついでに先生)にお酒の基本的な作り方を教わって、自分でアレンジを加えてみるようになって……上手くいかなくて、つい勢いだけの思いつきで『コヤシイワシ』をお酒にぶちこんだ『アンチョビア』を、何を血迷ったのかゲラルドさんが凄く気に入っちゃったの。

 あの、魚の生臭さそのものが液体化しちゃったようなお酒のどこが良かったのか分からないけど……それからというものの、ゲラルドさんに「別の種類の魚を使ってバリエーションを増やしてくれ!」ってことになって……。

 

 追加で数種類作ったところで一段落したんだけど、当然のようにゲラルドさんが望んだような「お客さんの増加」は発生しなかったみたい。そして、また悪い方向に進んでるみたいで「もっとインパクトを」とのこと。そのために今度は村の近海に現れる『ぬし』を使った酒を作ってほしい、って言い出しちゃった……ってわけ。

 

 

「『ぬし』を使った酒なら、村の連中も飛びついてきて店も繁盛すること間違い無しだ!」

 

「まず、お魚でお酒を造るってところから変えないと、どうしようもないんじゃ……って、ああ、もう全然聞いてない」

 

 もう変に熱くなっちゃってるゲラルドさんには私の言葉は届いてないみたいで……私の言ったことには気づかないまま、勝手に「『ぬし』を釣る方法」を話しだしちゃった。

 

 ……要約すると、「丈夫な船」「釣竿」「エサ」、そして釣れる「場所」「時間」、最後に『ぬし』を釣り上げられるだけの「腕力」が必要……とのこと。

 

 「場所」と「時間」のことは教えてもらえた。場所は村の港から出てちょっと行ったところ。時間は新月の日の夜。

 あとは「丈夫な船」はもうあるんだけど、「エサ」はゲラルドさんがしっかり憶えてなくって「フルーツ」とだけしかわからなかった。あと「釣竿」はゲラルドさん曰く、グイード――つまり私のお父さんが使っている――あの、ロロナ先生を釣り上げた事もある釣竿を借りればいい、っていったんだけど……。

 

「でも、そんなことしたらお父さん、やることが無くなってヒマしそうで……。普段、働かないで釣りばっかりしてるし」

 

「流石に辛辣すぎやしないか? 事情もあったのだから、何もそこまで言わなくてもだな……」

 

 それはそうだけど……。

 でも、もう船造り、本当にしないのかなぁ?

 

 

 

――――――

 

 

 

「んー、困ったなぁ。誰かいないかなぁ……?」

 

 とりあえず、ゲラルドさんのもとから離れて『ぬし』を釣るのに必要なものをあつめることにしたんだけど……。

 

 「エサ」はあてずっぽうである(フルーツ)をとりあえず全種類持って行けば、どれかが当たるとして……問題は、衰えたっていう今でも筋肉隆々なゲラルドさんでも昔力負けするほどだったという『ぬし』を釣り上げることの出来る力の持ち主。

 誰かいるかなぁ?

 

「あら? トトリじゃない。『アーランドの街(むこう)』に行ったとばかり思ってたんだけど……どうしたの? 忘れ物か何か?」

 

 『バー・ゲラルド(酒場)』から出ようとしたその少し前に、一足先に扉を開けて酒場に入ってきたのはメルおねえちゃんだった。

 

「あっ、メルおねえちゃん。実は……

 

 

 

って、いたー! 怪力の人!!

 

「うん、まあ事実は事実だけど……いきなりソレは、流石に失礼じゃないかしら……?」

 

 メルおねえちゃんは笑って……でも、口角をピクピクと震わせながら、そう言ってきた。

 

「あっ! ご、ごめんなさい、つい」

 

「つい、って……」

 

 少しの間をあけて、諦めたように大きなため息を吐いたメルおねえちゃん。

 そのまま帰っちゃうかもしれない、って思ったけど、メルおねえちゃんは「で?」と私に話の続きを催促してきた。

 

 というわけで、私はメルおねえちゃんに説明を始めたのだった……

 

 

 

――――――

 

 

 

「はぁ……? 『ぬし』釣り、ねぇ? なんというか、色々変なことやるわね、あんたも」

 

「やりたくてやってるわけじゃ……とにかく、そういうわけで力のある人が必要なのっ! メルおねえちゃん、手伝ってくれない?」

 

「手伝ってあげたいのは山々だけど、今回はパスね。あたし、魚とか苦手だし」

 

 あれ? そうだっけ?

 メルおねえちゃんが「魚が苦手」とか、そんなことあったかなー?っと記憶を必死に探ってみると……やっぱり覚えがなかった。

 

「食べるのは好きなんだけど、生きてるのは……ね? なんかネチョネチョしてて気持ち悪いじゃない、生きてる魚ってさ」

 

「へぇー……」

 

 聞いてみれば、まあ分からなくも無い理由ではある。

 でも……うーん……?

 

「……何かしら、その目はー? 「なに女の子みたいなこと言ってるんだ、似合わねぇなコイツ」とでも言いたげね」

 

「えっ、ち、違う! そこまで思ってないよ!?」

 

「つまり、少しは思ったと?」

 

「……ごめんなさい」

 

 否定しきることが出来なくって謝った私だったけど、そんな様子を見てまたメルおねえちゃんはため息をついた。

 やっぱり私、一言多いんだろうなぁ……?

 

 

「まぁ、あたしは手伝えそうもないわけだけど……そうだ、ステルクさんとか丁度いいんじゃない? あの人、基本お人好しだし、トトリが頼めば手伝ってくれるんじゃないかしら?」

 

「ステルクさん……?」

 

 

 ステルクさんかぁ……。

 

 ああっ、そういうえば前に『青の農村』であった『大漁!釣り大会』で一匹だけしか釣れてなかったけど、その一匹が大物だったんだっけ? 普段大きな剣をふりまわしてるし、ステルクさんなら『ぬし』も釣り上げられる……かも?

 

 でも、ちょっと頼み辛いなぁ……。

 メルおねえちゃんも言ってたように、基本いい人なんだけどやっぱり顔が怖いし、それ以外も愛想が無いっていうか……結果頼み辛いことに変わりなし。

 

 

 ん……あれ? 『大漁!釣り大会』?

 あの時、小物ばっかりだったけど私がいっぱい釣って一位だったけど……何か別にあったような?

 

 

 

「ああっ、そうだ! ()()()()()! マイスさんならきっと大丈夫っ!」

 

「あら? ……って、そういえば背は低めだけど確かに怪力の持ち主ね。人だってモンスターだって簡単にぶん投げるんだったわ、あの人」

 

 そうっ! 身長はミミちゃんと変わらないくらいだけど、力に関しては随一って言ってもいいくらい。マイスさんの筋力はそれこそメルおねえちゃんに負けず劣らずスゴイんじゃないかなーって私は思ってる。

 あと……

 

「マイスさんならフルーツ(エサ)のほうも何とかなると思うし、釣竿も凄いの自分で作ってそうだもん! それに……」

 

「それに?」

 

 

 

「釣りが一人だけ段違いに上手過ぎて、村の釣り大会で出場禁止処分受けてるんだって!」

 

 

 

「へ、へぇ……それ、誇らしげに言っていいことなのかしら?」

 

 え……?

 でも、事実だし、野菜コンテストと一緒で「殿堂入り」扱いっぽいから良いことなんだろうし……別にいいんじゃないかな?

 

 

―――――――――

 

***青の農村***

 

 

 

 そんなこんなで、思い立ったら吉日。

 私は『トラベルゲート』を使ってさっそく『青の農村』に……でも、何か引っかかってる(忘れてる)気が……。

 

 

「よーし! それじゃあ、さっそくマイスさんに頼んでみて……あれ?」

 

 『ぬし』釣りなんて無茶苦茶な話ですっかり忘れてたけど、私、今朝にちむちゃんたちを使って秘密が無いか探ろうとしたり、いきなりのマイスさんに逃げ出してしまったりしてたような……?

 

 ……このままじゃあダメな気がする……。

 これはどうすれば……!!

 

「う、ううん! アレはちょっとした気の間違い。だから気にしなくていい……気にしちゃダメなの!! がんばれっ私! 勇気を出してやれば、きっと大丈夫だから!」

 

 

 大きく息を吸って……吐いて……

 それを繰り返して、深呼吸を二度三度――――うん! 落ちついてきた! これなら、今、マイスさんを見ても逃げ出さずにいられる気がする!!

 

 

 

 

「よぉーし! それじゃ――」

 

「ん、トトリちゃん? もしかして、ウチに用事かな?」

 

「――ふぇ?」

 

 声がしたほう……後ろへと「まさか? まさか!?」と思いながらギギギッと振り向いていく……。

 そこにいたのは…………想像してた通りの人物だった。

 

 

 

「ああ、そうそう! さっきアトリエの前を通ったら「トトリちゃんがいきなりいなくなったー!?」ってロロナが心配してたよ? もしかして、お出かけすることロロナに伝え忘れて出てきちゃった?」

 

 

え、あっはい。ソンナトコロデス……

 

 ……だ、大丈夫!? 私っ!?

 




 何気に久々の原作『トトリのアトリエ』内のイベントを元にしたお話でした。


 そして、次回【5-3】は……原作イベントを知ってる人は内容がおおよそ予想できてるかもしれませんが「VS『ぬし』」です。

 …………えっ? この予告がマイス君はついて行くのかどうかのネタバレになってるって?
 マイス君が断るところ、想像できるでしょうか?
 冗談はさておき、言い訳をするなら、今回の最後でサラッとするか、次回の最初でサラッとするかで悩んだ結果、お話の最初にサラッとすませたほうが良いと思ったからです。そういうことです、申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トトリ【*5-3*】

 『トトリ【*5-3*】』です。

 前回のあらすじ!
 何でかわかんないけどトトリがマイス君から逃げるように村に帰っちゃって、パメラに「それは恋よ~」とちゃかされて、ゲラルドさんに「『ぬし』を釣ってきてくれ」と頼まれて、色々考えた上で「マイスさんなら!」と色々と建前……もとい正当な理由をつけて、トトリはマイス君に協力を仰ぎに行くこととなった!

 きっと、たぶん、だいたいあってる……はず。




※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、細かい描写の追加、句読点、行間……


【*5-3*】

 

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 これまで『アンチョビア』などなど、『アランヤ村』の名物になるお酒をつくることとなり半ばやけくそになってる部分もあって、断るにも断り切れず流れで請け負ってしまったゲラルドさんからのお願い――『ぬし』釣り。

 

 それに必要なもののひとつとしてあげられていた「『ぬし』を釣り上げることのできる力の持ち主」であり、他の必要なものである「くだもの(エサ)」や「釣竿」とかも一気に解決できる人物として、()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 玄関戸をノックするよりも先に、家の外に出てたマイスさんから、心の準備が出来上がってない状態で後ろから不意打ちで声をかけられちゃったりするハプニングもあったりしたけど……こうして、なんとか事情を説明してお願いすることが出来た。 

 

 

 対する、マイスさんの返事は……?

 

 

「うん、いいよ!」

 

 

「ですよねー」

 

 満面の笑み(いいえがお)で大きく頷くマイスさんを見て、私の口からは「やったー」とかじゃなくて、そんな言葉がこぼれてしまってた。

 

 もちろん、マイスさんと一緒に冒険できる(行ける)のは嬉しいし、すごく楽しみだよ? でも、マイスさんならそう言ってくれるってわかってたし、嬉しくはあるんだけど……緊張してた私がおかしいような感覚になってしまって、なんだか変に気が抜けちゃうっていうか……。

 

「それに、私から頼んでおいてなんですけど……本当に大丈夫なんですか?」

 

「任せといてよ! 『ヌシ』って呼ばれている奴を釣り上げた事はまだ無いけど、釣りに関してはそれなりに実力もあるから」

 

 そう言って力こぶを見せるような仕草をするマイスさん。

 

 

 ええっと……普通に細いです。

 いやまあ、昔から間近で見てきたメルおねえちゃんっていう例もあるし、マイスさん自身の実力も知ってるから「見た目で判断しちゃいけない」っていうのは十分理解しているつもり。

 

 ……けど、やっぱり頼りになるっていう腕っぷしには見えないなぁ。もっとこう……ゲラルドさんとかハゲルさんみたいにムキムキだったら…………かわいくなくなっちゃうんで遠慮しときます。

 子供っぽい顔つきだって事もあって凄くアンバランスで気持ち悪いマイスさんを想像しちゃった。うぅ、夢に出てきそう……。

 

 

「って、そうじゃなくって! 時間とかそう言った都合のほうですよ。いつもの『お祭り』とかはもちろん『学校』の事だって色々ありますよね? そのあたりは大丈夫なのかなーって」

 

 私の言葉に、マイスさんが合点がいったといった雰囲気で「ああっ」と手を打つ。と、その後ひとつ間をおいてから、どこか恥ずかしそうな笑みをうかべる。

 きっと、勘違いしてしまってたことを誤魔化そうとしたんだろう。ちょっと誤魔化しきれてない気がするけど……そういった芝居(しばい)ができないあたりも、マイスさんらしいっていうか……うん、イイと思う。

 

 思考が反れてしまったことに気付いて、自分の中で区切りをつけるために――ちょっとわざとらしいかもしれないけど――ひとつ咳ばらいをしてからまた話しはじめることにした。

 

「こ、コホンッ! それで、時間のほうは大丈夫そうですか?」

 

「そうだなぁ……トトリちゃんは、いつに行こうとか考えてたりするのかな?」

 

「ええっと、それがゲラルドさん曰く『ぬし』は真月の夜に出るらしいので……今月の月末にいけたらなーって思ってるんですけど」

 

 ゲラルドさんに教えられたことも絡めて私の考えを伝えると、マイスさんは「ふんふん」と小さく数度頷いてから目をつむって。

 

「それじゃあ、釣りのポイントに行くまでとか準備の事を考えたら、それより数日前から時間を取っておいて……うん、うん。来月の初めも1、2日予定をあけといたほうがいいかも? そのあたりは、もう村のお祭りも終わって一段落してるころだから……うんっ、大丈夫だよ! スケジュールの調整は難しくないからその予定で計画を立てて行こう!」

 

 

 その後はとんとん拍子で計画が立てられ……「くだものも釣竿も任せといて!」というマイスさんの一言で、『ぬし』釣りに関して私が出来ることは「船の点検」くらいになった…………。

 

 

 

―――――――――

 

***アランヤ村***

 

 

 そういうわけで、さっそく村に帰って私たちの船の調子を確認したんだけど、何の問題もなさそうだった。たまたま埠頭にいた――いるのを見つけられた――お父さんが言うには、私はこれまで全然気づかなかったけど私が使っていない期間もお父さんが定期的に点検や掃除をしてくれてたらしい。

 あとは、食料とかその辺りの準備だけど……あての無い旅ってわけじゃないし、そう遠くも無いからコンテナの中にある食料品だけで十分すぎるほどたりそうで……『秘密バッグ』一つ持っておくだけで解決できてしまった。

 

 

「となると、あとできることは……」

 

 家に帰る道を歩きながら、私は考える。

 

 船は大型だし、一人二人でも操れなくはないけど……負担や睡眠とか休憩の事を考えると人数は多いに越したことは――

 

「あー……でも、そのあたりもいざとなればマイスさんの『アクティブシード』とかで何とかなるかぁ」

 

 おかあさんを探して東へ東へと旅したあの時の航海でも、自分で動き手伝ってくれる『アクティブシード』にはいろいろとお世話になったからわかるけど、よほど細かい作業とか人の目が必要な確認作業以外は大抵どうにかなるだろう。

 

 となると、あとは……そうだなぁ?

 いくら『ぬし』を釣るスポットが、村の港からほんの一、二日の比較的近場だとしても、『フラウシュトラウト』みたいな規格外はありえないとしても、空を飛ぶ普通のモンスターとは遭遇する可能性は十分にある。そう考えると戦える人がもっといたほうが――

 

「って、それこそマイスさん一人で事足りそうだよね、うん」

 

 

 

 ええっと、他には…………

 

 

 

「無い、かな?」

 

 そうと決まればあとはコンテナの中を整頓して、()()()()()()()()()()分の食料を他とは分けておいて取りやすくしてみたり……

 

 

「ん? 私とマイスさん……?」

 

 えっと?

 ええーっと…………?

 

 うん、何度考えても二人だ。それで大丈夫だし、考え得る限りのありとあらゆる事態も問題無い。

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

………………………………。

 

 

……………………。

 

 

…………。

 

 

 

問題しかない!?

 

 暑いっ! なんだかすっごく暑いよ! もうそろそろ冬になるっていうのに……原因がワカンナイナー!!

 

 別に、マイスさんのことが気になるとか、パメラさんに言われた「恋してる~」っていうのが頭から離れないとか、そういうわけじゃ……!

 

 

「って、これじゃあ私、ミミちゃんかクーデリアさんだよぅ!」

 

 

 とにかく落ち着け私っ。

 そう、別に意識はしてない、してないったらしてない!

 

 いつもどおりにしてれば、なんの問題も無いもん!!

 

 

「……でも、色々調整してまで手伝ってくれてるんだよね? なら、お礼に何かしてあげられたらいいんだけど……」

 

 お礼になりそうな……マイスさんが喜びそうなこと?

 何かあるかなぁ? 無難にプレゼントにしたって、マイスさんって何あげても大体喜びそうだし……。その上、考えれば考えるほど、マイスさんって自分で何でもできちゃうから「欲しいもの」が無さそうにも思えてきて……うん、プレゼントはダメそう。

 

 他に何かマイスさんが喜びそうなの……お祭り?

 いやいや、お祭りって何? 私が何か開催しろってこと? そりゃあ喜びそうではなるけどなぁ……

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 「お祭り」って考えて一つ思い出した。

 喜ぶっていうのとはちょっと違うかもしれないけど……『豊漁祭』の時の事を。

 

「私の水着を見て「いつもと違って新鮮味が――」みたいなこと言ってた気がするような? マイスさんって意外とオシャレに敏感だったりするのかな? 本人の格好はあんな感じであんまり代わり映えしないけど」

 

 「服をプレゼントする」っていうのはサイズとか色々とハードルが高いけど……。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?

 

 

「た、試すだけ試してみようかな?」

 

 でも、そうすると何か新しい服が必要だ。

 今着てる、先生お手製の錬金術士の服は数着あるんだけど、それ以外は最近はほとんど着てないからサッパリなんだよね……。

 

「昔のを引っ張り出す――――のは、なんか違う気がする。新しいのを今から買いに行くって言うのも……そもそも、自分の服を選ぶ自信が無いんだよね。オシャレって言ってもよくわかんないし、元々おねえちゃんが……って、あ!」

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***ヘルモルト家***

 

 

 

「ただいまー……」

 

 そっと入って行った家の中……。玄関から真っ直ぐ正面方向にあるソファーにおねえちゃんはいた。

 おひざにピアニャちゃんを乗せて絵本を読んであげてるみたいで、私が帰ってきたことにはいちおう気付いて、ピアニャちゃんと一緒に顔を上げてコッチを見てきた。

 

「おかえりなさい」

「トトリ、おかえり~」

 

 でも、そうやって言った後、おねえちゃんはすぐに視線を絵本に戻して……おねえちゃんが絵本を読み出したことでピアニャちゃんも自然とソッチを向く。

 

 ……もう慣れたし、寂しくなんかないよっ。

 それに、今は別に優先事項があるんだから!

 

 

「おねえちゃん、ちょっと……」

 

「ん? なぁに?」

 

「実は、おねえちゃんに頼みたいことがあって」

 

 そう言ってもまだ視線は絵本のほうにいってるおねえちゃん。私への返事をしながらも、声色を変えて器用にピアニャちゃんに読み聞かせをしてあげている。

 

「あら、久しぶりねぇトトリちゃんが頼み事なんて。……アトリエのお掃除?」

 

「さ、最近は爆発させてないからっ!? そうじゃなくって、えっと、その……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「へぇ~、お洋服ねぇ。珍しいじゃない、そんなこと頼むなんて――――――

 

 

 

 

 

――――――へ? トトリちゃんが……お洋服? 私の?」

 

 さっきまで絵本を見てたおねえちゃんの顔がギュルンとコッチを向いた。

 

「う、うん。先生に貰ったこの服も悪くは無いんだけど、たまにはこう……昔みたいにおねえちゃんが作ってくれたお洋服をきて冒険とかもしてみたいかなーって思って」

 

「ウソ……!? ゆ、夢じゃないわよね……?」

 

 いや、なんでそんなに疑って……って、泣いてる!?

 

「どうしたの!? どこか痛い所でも……!?」

 

「痛くなんて無いわ! そんなことより、またトトリちゃんのお洋服を作れるなんて……! そのお洋服を着るようになってから全然私のお洋服は着てくれなくなって……色々アイデアは浮かんではくるのに、トトリちゃんは着てくれなくって……!!」

 

 つまり、嬉しくって泣いてるってこと?

 そ、そんなになのかぁ。何がおねえちゃんをそこまで駆り立てるんだろう……。

 

 ちょっとびっくりしちゃった私を他所に、おねえちゃんはピアニャちゃんを膝から降ろして立ち上がった。

 

「ちぇちぃー?」

 

 不思議そうにコテンと首をかしげるピアニャちゃん。そんなピアニャちゃんにお姉ちゃんは頭を撫でながら優しく微笑む。

 

「ごめんね、ピアニャちゃん。私、用事ができちゃったの。絵本の続きは――――――トトリちゃんが読んでくれるわよ」

 

「えっ」

 

「わぁい!」

 

 嬉しそうに絵本を持って駆け寄ってくるピアニャちゃん。

 ううっ、私がおねえちゃんにお洋服を頼んだからだし、これは仕方ない。それに、このピアニャちゃんの笑顔を裏切るわけには……。

 

 

「それじゃあ、さっそく取り掛かってくるわ!」

 

 「あれとこれと、あとペアルック……いいえ、ピアニャちゃんも加えたトリプルでも!」なんて、いったい何着作るのかもわからない独り言を残しておねえちゃんは部屋を出て行ってしまった……。

 

 

 って、あれ?

 前にお洋服を作って貰ったのって結構前のことだし……今のサイズを採寸しなくてよかったのかなぁ?

 まあ、そのうち戻ってくるよね? 戻ってこなかったら…………どういうことなんだろう?

 

 

 一抹の不安を覚えつつ、とりあえず今はピアニャちゃんの相手をすることに……ん? どうしたのかな? 絵本を持って近くまで来てたピアニャちゃんがジーッと私の顔を見てる気がするんだけど……?

 

「ピアニャちゃん? もしかして、私の顔に何か付いてるの?」

 

「うぇ? なんにもついてないよ?」

 

「じゃあなんで……?」

 

「うぅーんとね、トトリ、もうキレイなのにもっとキレイになるのかなぁーって」

 

 ……? つまり、もう今の時点でおねえちゃんが作ってくれる新しいお洋服を着た私を想像したってこと?

 

 

 

 なにはともあれ、私は着実に『ぬし』釣りの準備を進めたのだった――――――これって、『ぬし』釣りの準備だったかなぁ?

 




 喜ぶんだ、ツェツィさん。いまのうちに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ミミ』ルート
ミミ【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『ミミ』◄(ぽちっ)





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

「僕が投票したのはミミちゃんだよ」

 

「あらっ? さすがマイス、見る目は確かなようね。とは言っても、この私が選ばれるのは当然のことなんだけどっ♪」

 

 「フフンッ」と少し胸を張って誇らしげにするミミ。……が、何故か顔だけ微妙に正面ではない方向を向いていた。具体的に言うと、マイスがいる方向とは反対方向に、である。

 

 

 しかし、ミミの言葉に納得いっていない人物が一人いた。

 もしかすると、他にもいたのかもしれないが、ミミに遠慮(えんりょ)容赦(ようしゃ)も無く言えるのはたまたま彼女……トトリだけだったのかもしれない。

 

「えー……。でも優勝したのは先生だったよね? 投票されて当然なら、なんでミミちゃんが優勝じゃなかったの?」

 

「うぐっ!? そ、それはあれよ。開催地が『アランヤ村(ここ)』だったから街とは美的センスに差があって、私の気品漂う美しさを理解できる人が少なかったからで……」

 

「気品? ええっ……?」

 

 心底理解できないと言いたげに目を細め首をかしげるトトリ。

 その様子にムカッとしたミミは、必然的に口調が強くなりケンカ腰になる。さらに言えば、子供っぽさが残っているためか、元々そういう気質なのかは不明だが、負けず嫌いでついつい見栄を張ってしまいがちになってしまうのであった。その結果……。

 

「そうよっ! これが街でだったら……もしくは『青の農村』でのイベントだったら、私が間違い無く優勝してたわよ!! そうに決まってるわ!」

 

「えー? 本当(ほんと)にー?」

 

「ホントよ! 『青の農村』に水着コンテストが無いのが残念なくらいね!」

 

 もうここまで来ると、引くに引けなくなってしまっているのだろう。もはや自棄になってしまっている気さえする。

 そしてトトリはといえば、自分の胸あたりに両手を持っていき……「はぁ」とため息をついた。

 

「ミミちゃんのその根拠の無い自信が、私にはちょっと(うらや)ましいかなぁ」

 

「なっ!? 何、どこのこと言ってるのよ!? 言いたいことがあるなら、ちゃんと言いなさいよーっ!」

 

 本人に自覚はあるかは不明だが(あお)り気味のトトリに、「ムキッー!!」とミミは怒り追いかけ回し始めのであった。

 

 

 あちこち行ったり来たりし、時にツェツィなんかの周りをグルグル回ったりして逃げ追いかける二人。

 そんな様子を見ていたクーデリアがマイスの隣まで行き、ため息混じりに呟く。

 

「気品ねぇ。今ののどこをどう見れば気品が感じられるのかしら?」

 

「あはははっ……確かにそうかもしれないけど、でも、元気なことはいいことだと思うよ?」

 

「なんでも肯定的ね、あんたは」

 

 苦笑いをして呆れ気味に言うクーデリアだったが、対するマイスは「そんなこと無いとおもうけどなぁ?」と首をかしげるばかりだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……なんでお祭りなのにこんな走り回ったのかな、わたし」

 

「それはコッチのセリフよ! 時間を無駄にしちゃったじゃない!」

 

「まーまー、トトリちゃんも、ミミちゃんも、一旦落ち着いてー。それで、もう一回お祭りをまわろうよ」

 

 追いかけっこを終えた二人の間にロロナが入り、そこから仕切り直しということになった。

 

 

 ……のだが、ここで主にミミにとって予想外の事態が、彼女から少し離れたところで起こっていた。

 

「確かに「貴族」って言われて思い浮かべるような装飾が多いデザインじゃなくて、逆に必要なもの以外は無くしたすっきりしたデザインは、黒いから()まって見えるミミちゃんの黒髪にはちょうどいい感じだったんじゃないかな? それにベースの色が赤っていうのも……」

 

「水着の良し悪しを、髪を基準に考えるって……ある意味間違ってはいないのかもしれないけど、それでいいのかしら?」

 

 あくまで総合的なバランスでしか評価をしてい無さそうなマイス。だが、その様子は真剣そのもの。開催者の不手際(?)などがあったとはいえ、やはりマイスはお祭りには手を抜かないのかもしれない。

 そんなマイスにクーデリアが「やれやれ」と肩をすくめていた。

 

 

 そして、それをたまたま聞いてしまったミミはと言えば……

 

「あの()()()()()から好評価を貰えるのは嫌じゃないんだけど、これはちょっと……でいうか、そんな真剣に考察されてもなんだか恥ずかしいわよっ! そもそも私、そこまで考えてないんだけど……!! しかも、鼻の下伸ばしてたら色々言えなくもないのに、いつもと変わらないあんな言い笑顔でっていうのもムズムズするというか……」

 

 どこか普段とは違う様子で、一人でブツブツ言っていた。それも……

 

「あれ、ミミちゃん顔が真っ赤!? 耳まで赤いよ!?」

 

「んなっ!? そ、そんなわけ……って、なに笑ってんのよ」

 

「う、ううん、なんでもないよ! 別に「()()ちゃんが()まで真っ赤」とか思って笑ったわけじゃ……あっ」

 

「ふぅーん……?」

 

 追いかけっこの第二ラウンドが始まる……と思われたが、トトリが逃げるよりも先に、ミミがトトリを捕まえた。

 

「いっつも余計なことを言う口は、どの口かしらね?」

 

「ひひゃぁ~!?」

 

 (ほお)をぐにぐにされて変な声を出してしまうトトリ。この二人の騒ぎはもう少し続きそうだった……。

 

 

 

 

 

「あっ、でも、あの水着だとホムちゃんみたいな髪型(おだんご)か、昔のミミちゃんの髪型(ツインテール)あたりが一番似合うと思うんだけど……」

 

 

そんな子供っぽい髪型、今できるわけないでしょーがーっ!

 

「ひひゃい! ひひゃいよ、みみひゃん!?」

 

 小声で叫ぶという器用なことをしながら、マイス本人に言えないからなのか八つ当たりのようにトトリの頬を(もてあそ)ぶ……今回は、自信の毒舌のせいでもないため、一番の被害者はトトリだろう。

 




 自分で『トトリのアトリエ編』で色々書いたくせにいうのもどうなのかと思うけど、ミミちゃんのマイス君への感情って、いちおう一つの区切りはつけられたと言っても本当に複雑なんですよねぇ……。
 そのあたりがどうなっていくのかがミミちゃんルートの分かれ目だったのでは?と思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』と同じく、一緒に行く組、その2。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*2*】

 

 

***東の大陸・塔への道***

 

 

 

 僕の元を訪ねてきたトトリちゃんから、「『塔の悪魔』を倒す」と伝えられたのが昨日のこと。

 僕らは『トラベルゲート』を使い『東の大陸』に移動し、今、その悪魔とやらがいるという『塔』を目指して、雪が降り積もり道があったかも確認できない雪原を歩いている。

 

 塔へと向かっているメンバーは過去最多であろう八人(プラス)一人。

 トトリちゃん、ミミちゃん、ジーノくん、メルヴィア、ロロナ、マークさん、ステルクさん、そして僕。最後の一人は、生贄役のパメラさんだ。

 道中、悪魔のいる『塔』の影響なのか。全くと言っていいほどモンスターの気配がしないため各々(おのおの)自由気ままで、気になるものを見つけては近寄ってみたり、誰かと一緒に話ながら歩いていたりと、これから大物を倒しに行くというのになんだかいつも通りな感じだった。

 

 

 そんなことを考えながら歩いている僕は、一人でこれからの戦闘の事を考えていた。

 人が多いというのは、手数的にもスタミナ的にも良い点がある。……が、同時に立ち回りや連携が難しくなってくるというのも事実だ。敵の大きさにもよるけど、大人数だとかえって戦いにくくなってしまう可能性だったある。

 

 僕がここまで戦闘のことを意識しているのかというと、この前、最初に『東の大陸』にたどり着いた際の航海……そこで『フラウシュトラウト』と戦った時に、戦略の重要さを感じたからだった。あの時のように、海の船の上という特殊な状況ではないとはいえ、どうしても慎重になってしまう。

 

「ロロナとトトリちゃん以外は、みんな基本接近戦主体だから……面倒だとか思わないで、やっぱりここは僕が後衛にまわるべきなんだろうなぁ」

 

 というわけで今回は気分一新、いつもとは違う用意をたくさんしてきてるんだけど……ぶっつけ本番な部分も沢山あるから、大丈夫かちょっとだけ不安だったりする。

 それに、いきなりいつもしたことの無いような動きを要求するわけにはいかないから、あくまで僕の中だけで「ああしよう」「こうしよう」と考えているだけで、戦略とは言えないレベルだろう。……でも、もしもの事態も考えて、緊急で指示を出すことも想定しておいた方が良いかもしれないかな?

 

 

 

 

 

「ハァ……何らしくない顔してるのよ」

 

 不意にすぐそばから聞こえてきた声に、僕はそれが誰の声なのか判断する間も無く先に驚いてしまい、ちょっとだけビクッて跳び上がってしまった。

 

 そして、あげた顔をキョロキョロさせたんだけど……そこで目に入ったのが、僕の左側にいたミミちゃんだった。きっとさっきの声はミミちゃんの声だったんだろう。

 僕は驚いてしまい高鳴ってしまった心臓を落ち着かせつつ、目が合ったミミちゃんに言葉を返す。

 

「あれ、ミミちゃん? どうかした?」

 

「どうかしたって、それはコッチのセリフよ。声をかけるまで気付かなかったみたいだけど……そんなことで大丈夫なの?」

 

「あはははは……、それはまあその……」

 

 確かに、普段の僕だったら近づいてくる人の足音にすぐに気がついて、それが誰なのかを探ったり確認したりして、今回のように驚いてしまったりはしないだろう。特に、今僕らが歩いているのは雪が降り積もった大地。雪を踏みしめる音はしっかりと聞こえてくるはずなので、なおさらのことだ。

 

 痛いところを突かれてしまい、どう返したものかと迷う僕。

 「問題無い」って言うのは簡単だけど、客観的に見て今の僕はいつも通りとは言えないのは間違い無いから、正直なところ嘘は言いたくないからそうは言えない。

 だったら、どこにどう問題があってこうなっているのか伝えるべきなんだろうけど……大丈夫かなぁ? これから大物と戦うって言うのに、変に不安にさせちゃったりしたら……

 

 そんな悩んでいる僕をよそに、ミミちゃんはもう一度「ハァ……」とため息をついた。

 

「まっ、言われなくてもマイスの顔を見てればわかるわよ。何か悩んでて考えこんでたんでしょ?」

 

「うん、その通りだよ。やっぱり顔に出てた?」

 

「顔に出てたっていうか、雰囲気的にね。いまさっきのマイスの様子を見たら、誰でもわかったと思うけど?」

 

 はぁ。そう言われてしまうと、考え込んでいた時の僕はどんな様子だったのか気になるところだけど……。残念ながら、それを確かめる方法は無いだろう。だって、当の僕本人が悩んでいるんだから、それを客観的に見るのは無理があるってものだ。

 

 

「……で、どうしたのよ?」

 

 僕の隣を歩きながら聞いてくるミミちゃんは、顔を向けてくるわけではなく、あくまで目だけをこっちに向けてきている。

 その目を見て、ちょっと困ってしまい笑って誤魔化そうとした……けど、やっぱりその顔を見ていると「黙ってるわけにもいかないなぁ」と思ってしまい、結局話すことにした。

 

「何かあった、ってわけじゃないんだけど……これからの戦いのことを考えてたんだ」

 

「何? 不安なの? ……まぁ、()()()()()()()()マイス()そう感じたりしてもしかたないとは思うけど……」

 

 そう言うミミちゃんの視線は僕から外れ……一番先頭を歩いて行っているトトリちゃんの背中を見つめた。その顔は、なんだかミミちゃんが自分のお母さんの話をする時の顔に似ているような気がした。

 

 えっと、でも……

 

「いや、別に不安ってわけじゃないんだけど……」

 

「なっ」

 

「あー、でも、『塔の悪魔』がどんなモンスターなのかわからない、っていう「不安要素」のせいで悩んでるわけだから、不安と言えば不安なのかな? でも――……?」

 

 一瞬、顔を赤くしたミミちゃんだったけど、僕の話を最後まで聞いたところで「はぁー」と大きなため息を吐いて首を振っていた。

 

「人の心配をよそに、あいかわらずマイペースな……まあ、元気が無いよりは良いのかもしれないけど。で、結局何が問題なのよ」

 

「ほら、『フラウシュトラウト』と戦った時、船のだったし相手も強かったから苦戦したよね? 今回は地形のほうはそこまで問題無いとは思うけど、やっぱり凄く強いだろうから色々戦略も考えておきたかったんだけど……」

 

 

 そこから僕は、さっき考えていたことをミミちゃんに話した。

 人数などの要素をから、自分は後衛に周りサポートを主体にしようと考えていること。連携(れんけい)も重視したいけど、いきなり慣れない動きを強要するのは気が引けること。結局は『塔の悪魔』の姿や動きを見てみないと決められない部分が多いこと等々(などなど)

 

 そんな僕の話を、ミミちゃんは時々頷いたりしながらも静かに聞いてくれた。そして……

 

 

「……伊達(だて)に最高ランクの冒険者じゃないというか、さすがは()()()()()と言うべきなのかしら? 自分だけじゃなくて周りへの配慮が中心なのがまた……」

 

「いやぁ、このくらいは普通だと思うんだけどなぁ?」

 

「そうかしら? ロロナさんはピクニック気分でパメラさんやトトリとおしゃべりしてるだけで、ステルクさんはキッチリカッチリしてるけど何考えてるのかわからないわよ?」

 

「ロロナはともかく、ステルクさんは僕と同じで周りに確認を取ったりしないだけで、ちゃんと色々考えてると思うよ? それに、僕は結局のところ「状況に合わせて臨機応変に」っていう、ほとんど考えていないのと同じようなものだし……」

 

 だから、そう褒められるようなことでも無いと思うんだけど……?

 でも、ミミちゃんはそうは思っていないみたいで、「それもそうね」とか言って同意してくれたりはしなかった。それどころか、小声で「そう謙遜(けんそん)するあたりも、昔からあいかわらずなのよね……」って呟いている。別に謙遜してるわけでもないんだけどなぁ?

 

 

「まあ、マイスのことはひとまず置いといて……それで?」

 

「え?」

 

「だから、マイス言ってたじゃない「連携を考えたい」だのなんだの……。ほら、対応できる人が一人だけでもいれば、ずいぶんと変わってくるでしょ? 私ならなんとでも出来るから、言ってみなさいよ」

 

 こころなしか得意()に胸を張って鼻を鳴らすミミちゃん。

 だけどなぁ……。

 

 僕が渋っていると、得意気だったのが段々と変わっていき、ミミちゃんはどんどんと不機嫌になっていった。

 

「何よ。私には任せられないの……? 力不足って言いたいのかしら?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけどね?」

 

 ジトーっと睨まれて、僕は慌てて首を振る。

 だって、やっぱりわからないことが多すぎて、どうするかなんて決めようが無い。だから現時点で言えることは……

 

 

「あっ……あった」

 

「ほら、あるんでしょ? 言ってみなさいっ」

 

 「ほら」と、視線だけでなく顔も僕のほうをむけて催促してくるミミちゃん。もしかしたら見間違いか何かかもしれないけど、ちょっとだけ口元が緩んでいる気がする。

 僕は、一回息を吸ってからミミちゃんに、あるお願いを伝えた。

 

「えっとね…………()()()()()()()()()()()()()()

「何する気なのよ」

 

 何故か間髪入れずにそう言われてしまった……。

 

 

「何? また『クワ』でも振り回すの?」

 

「戦闘用に調整した『農具』は持ってきたけど……でも、それで今更(いまさら)驚かないよね?」

 

 「戦闘用の農具って、どういうことよ……」と頭を抱えるミミちゃんを見て思ったんだけど……農具が武器になるっていうのはもう慣れてるって思ってたけど、もしかしてまだだったりするのかな? 一回見たら、そう抵抗感はないと思うんだけどなぁ……。

 

 なにはともあれ、本当は何をするのかを伝えておかないと。

 

「『魔法』を使うかもしれないんだ。()()の前だし、できれば極力秘密にしておきたくはあったんだけど……相手が強いならそうも言ってられないからね」

 

「『魔法』って……ああ、()()。……それは、驚かない人のほうが(まれ)でしょうね。動けなくなる人もいるんじゃないかしら?」

 

「そうなってもいいように、だよ。きっと戦ってるミミちゃんを見れば、固まっちゃった人たちもすぐに我に返るよ」

 

「事前に言ったり見せたりすれば済む話じゃない……?」

 

 それは……まあ、その通りなんだけど。でも、可能性は低いだろうけど見せずに終われるのならそれにこしたことはないから、事前に見せるのは極力避けたい……というワガママがあったりするのだ。

 やっぱりアレのためにも、お楽しみは取っておきたいからね。

 

 

 

 

 

「それにしても……『魔法』のことは昔に二、三回しか話してないのに覚えててくれたんだねー」

 

「……三回よ。――――――――――――――――――――――――――――――――。」      

 

 回数を指摘した後……ミミちゃんが何か言ったみたいだけど、その声はこれまでの呟き(独り言)よりもかなり小さくて、僕の耳でも聞き取ることは出来なかった。

 

 

 そう話したりしているうちに、塔がすぐそこまで近くになっていた。

 決戦の時は近い……。

 

 

 




「忘れるわけないじゃない、お母様やマイスとの大事な思い出なんだもの。」


 ……今作(うち)のミミちゃんは一回全部捨てて自分を曲げて、素直になったら変な気苦労とかもせずに過ごせると思います。
 でも、それだとミミちゃんじゃ無いんですよね。素直になるのはマイス君に陥落させられた後で……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

 『マイス「」』とありますが、第三者視点となっています。ご了承ください。


 地の文、多すぎる問題。
 どれもこれも、素直にマイス君とからんでくれないウチのミミちゃんがいけないんだ! ……で、ミミちゃんがそうなったのはマイス君のせいであって、もっともとを辿ればこんなシナリオにした作者のせいなわけで……。自分で自分を殴っておきます。

 早くミミちゃんをワタワタ慌てさせたり、照れさせて真っ赤にさせたいです。



※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、一部表現の変更、句読点、……


 

【*3*】

 

 

 

 

***アーランドの街・広場***

 

 

 

 ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング。幼くしてアーランドの貴族『シュヴァルツラング家』の当主となり、最近ではここ数年で『冒険者』として一流と言っても過言では無いほどの実力者である。

 

 ミミがそこまでの冒険者になれたのは、才能や運、周囲の環境など様々な要素が組み合わさった結果でもあるだろうが……彼女の知識・身体などといった内面的部分、外面的部分、そのどちらもおろそかにしない絶え間ない努力があってこそのものだろう。

 

 

 そんなミミだが……今は特に何をするわけでもなく、街の広場にあるベンチに一人で座っていた。

 なんということは無い、控えてあった少し前に大きな戦闘を終えたので休暇として一日とっておいたのだが、休みと言ったところで特別何かすることがある訳でも無く、ただ時間が余っていてそれを持て余していただけである。

 

 まぁ、というのも、ここ最近冒険はトトリと一緒に行くことがほとんどであったため、『塔の悪魔』を倒し、トトリの冒険が本格的に一段落したことによって彼女との冒険の時間が減ったのが直接的な理由だろう。

 

 

 

「自分で言うのもなんだけど、仕事しか頭に無い「仕事人間」とでもいうのかしらね、これは。趣味の一つや二つ、あれば苦労しないんだろうけど……」

 

 そう思い、ミミは自分の『趣味』と呼べそうなモノを思い浮かべようとした。

 

 まず、真っ先に思い浮かんだのが「鍛練」。ヒマがあれば槍を手に取り、戦闘に置ける一連の動きを実際に動いて確認したり、敵の種類や数などの状況を想定した上でのイメージトレーニングをしたり、技の改善点を探したり、新たな技を試行錯誤しならがら完成に近づけていったり……体力や体の疲労さえ無ければ、いくらでも時間は潰せるどころか、勝手に時間が進んでしまうくらいだろう。

 だが、「鍛練(これ)」が『趣味』かと聞かれれば、ミミは素直には頷けない。嫌でやっているわけではないが、客観的にも見てしまうためどうしても「仕事」の延長に思えてしまう。

 

 

 他には……

 

 「武器の観賞」は、冒険者として武器にはある程度精通しておくべきと思ってしたことはあるが、よほど無骨だったり逆に装飾過多で機能性を損なっていたりしない限り(こだわ)りがある訳でも無いので、ミミはそこまでのめり込めず。

 

 「裁縫」や「料理」は、初めてしたころは楽しかったし出来なくはないのだが、時間が経つにつれ「貴族のたしなみ(必要に迫られて)」として努力の末身に付けた部分が大きくなったため、ミミにとってはなんというかそこまで積極的にやりたいと思えることでは無くなっていた。

 

 「ショッピング」は、貴族としてそれ相応の身なりを整えることは当然であるし、ただ単純に服はもちろんのこと、髪飾りなどの装飾品にも人並みには興味はある……のだが、「コッチもカワイイ。アレもよさそう」などと思っても、いざ買うとなるとやはり日々の多くを街の外での冒険に費やしているだけに「でもこれ、冒険の時に付けて行くには……」と考えてしまい、結局買わないことがほとんどだったりするため、ミミはそこまで買い物を楽しめる気がしなかった。

 

 他に思いつくものといえば……

 

 

「読書、くらいかしら……? 自分でいうのもなんだけど、読んだ本は人一倍多いっていう自信はあるし……」

 

 もちろん、その読んだ本の全部が全部『趣味』の一環であるとは言えないことは、ミミ自身もわかっている。これまでにしてきた「読書」だって、その半分近くは知識を得たり見聞を広めるための手段として本を読んでいただけにすぎず、それはやはりどちらかと言えば勉強の色合いが強い。

 ……()、それはあくまで全体の半分の話。残りの半分は冒険譚やファンタジー系などの娯楽色の強い創作小説も()()()読んでいるのだ。

 

 最初に触れた本。それはもちろん読み書きの練習の意味もあったであろう、親から与えられた「絵本」。そういったものは大抵絵空事……フィクションであることが多いが、それがきっかけで小説などの本をよく読むのが好きになった……()()()()()()()()()

 そのきっかけというのは、もちろんミミ自身はちゃんと自覚していた。

 

「どう考えても、()()がきっかけなんだろうけど……まぁいいわ。今日は久々に本でも探してみようかしらね」

 

 冒険者になるまでは、鍛錬の合間などに本を読んでいた。

 しかし、冒険者になってからというもの、本を読むような時間も随分と減ってしまったわけで……ミミにとって、本そのものを新しく買うというのも随分と久々なことなのである。

 だからか、ベンチから立ち上がったミミの顔は、心なしか薄っすらと微笑みを浮かべているように見えた……本人がそれを自覚していたかどうかは、不明である。

 

 

 

――――――――――――

 

 

***街中・某所の本屋***

 

 

 

 『アーランドの街』には本を扱っている店は少なくない。というのも、料理屋なら料理本が、鍛冶屋なら鍛冶や鉱石に関わる本が……そういった具合にその店ごとに、自信の店にあった本を置いているところが多いからだ。

 そういった店がある中で、数軒だけだが街の外で見かける機会の少ない「本を専門に取り扱っている店」もある。

 

 このご時世、本は「珍しい物」ではないが「あふれかえっている物」でもない。

 が、アーランドは少し事情が違っていた。

 

 上質とは言えないレベルかもしれないが、機械による量産で紙の供給が安定している事と、機械による印刷技術確立がされている事、その二つが大きな要因であろう。正に、機械の恩恵を受け発展しているアーランドならではの豊かさだ。

 

 

 さて、機械技術を駆使して量産された本も、直筆で書かれている希少価値の高い本も、完璧にとは言えないものの取りそろえられている本屋に入店したミミは、さっそく棚に並べられている本の背表紙に目を通していき、気になる本がないか題名を確認していった。

 

 二つ目の棚の三分の二くらいの背表紙に目を通したあたり。そこでふとミミの目に止まるものがあった。

 ミミは当然、それを手に取った。

 

「あっ。この題名(これ)って、前に読んだことのある……続編なんて出てたのね」

 

 手に取った本と、その本があった場所の隣にある本を見比べながら、読んだ当時の事を思い出しつつ、その物語の内容を記憶の中から掘り出していく。

 

「確か、呪いのせいで身体が(むしば)まれている魔法使いの話だったかしら? 設定の割には中身は普通に楽しい魔法使いの冒険の物語で、読み終わった後に「あの設定って必要だったのかしら?」って思った気が……」

 

 「結局あの設定って何だったんだろう?」と思いながらも、ミミはその本に対する自分の印象は「楽しかった本」と残っているため、読んだことの無いその続編にも少なからず興味が湧いてきた。

 

「まぁ、何にしても暇潰しくらいにはなるでしょ」

 

 そう思い、ミミはそのままその本は手に持って、本探しを再開するのだった。

 

 

 

「にしても、『魔法』ねぇ……」

 

 手に取った本の内容から思い出したこと。それは先日、『塔の悪魔』を討伐しに行った時にマイスとした会話と、その後の戦闘、戦闘後のこと……という一連の出来事のことだった。

 

 塔に行く最中にマイスから言われた「『魔法』を使うかもしれないんだ」という言葉。

 実際に、戦闘中に使われた多彩な『魔法』の数々。

 そして……『塔の悪魔』を倒した後、『最果ての村』でマイスの口から聞いた「今度のお祭りで『魔法』を大々的に発表し、その『魔法』その他諸々を教える学校をつくる」という話。

 

 その全てに、ミミは少なからず驚いた。特に学校の話は「目から鱗」な部分も多くあり大変驚いた……が、それ以外に関しては多少は驚いても案外素直に受け止めることができた。

 というのも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 昔……ミミが始めてマイスに会い母親に薬を作ってほしいと家に連れて行ったから、母親が無くなってから少し経った後に「家に二度と来るな」とミミがマイスに言って追い出すまでの長いようで短い期間。

 その間、シュヴァルツラング家に通ったマイス。調子が悪くベッドから動けない母親から離れようとしないミミをみかねてか、そういう状況になる度に、マイスはミミとその母親(二人)に物語風だったり、ユーモラスな小話風だったりするお話を語ることがあった。

 

 マイスの語ったお話。それがミミが物語を読むことが好きになった「きっかけ」であり……

 ミミはそのお話を……()()()、街の外で実際にあった出来事だと思い熱中し……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、自分たちを驚かせ楽しませるための創作物語だったのだと思い……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、「……もしかして、あの話って本当に事実だったり?」とそんな気もしなくはない程度になっていた。

 

 故に、マイスが『魔法』が当然あるかのように話しだしても……で『塔の悪魔』との戦闘で物語に出てきた『魔法』が聞いたままの形で目の前に現れても……それが誰にでも使えるものだから使ってみたい人には教えてあげるようにするという話を聞いても……「ふーん、やっぱりそうなんだ」といった感じで受け入れることができたのだ。

 

 

 しかし、だからといってそれでミミの頭の中がすっきりさっぱりとしたわけじゃなかった。

 実のところ、むしろ疑問は増えているくらいである。

 

 

「『魔法』は実際にあったわけだけど……他のも全部事実だったりするのかしら?」

 

 

 そう。『魔法』なんてものはマイスがミミに語ってきたお話のごく一端に過ぎず、人・物・文化・お祭り・食べ物・その他諸々……本当に様々な方面で不思議な話があるのだ。それらが事実なのか。そして……

 

「そんな不思議にあふれている場所のことを、なんでマイス以外は知らないのかしら……?」

 

 当然と言えば当然の疑問。今回の『魔法』にしたってアーランドでは本に書かれた空想世界での話に出てくる程度で、マイスが語るような明確な種類区分やメカニズムについて記されている物は、アーランドには存在しない。

 その他についても、マイス以外の人の口から聞くようなことはまずありえなかった。

 

 

 そして、ミミがずっと気がかりになっている、マイスがしている「隠し事」。

 それは、ミミがマイスの口から聞いた「来ることはできたはずなのに、元いた場所に帰れない」という話とその理由。それと、イクセルが語った「マイスは自分の親が小さいことを知っている」という、ミミがマイスから聞いた「憶えてない」と言う言葉とは矛盾するために「あるのでは?」と思ったのだが……。

 

 ミミは『魔法』が現実にあることをその目で見てから、マイスの「隠し事」についてもある考えを巡らせていた。

 

「もしかしたら、マイスが話したお話の中にヒントがあるのかと思ったけど……どうにも、そういうわけでもなさそうなのよねぇ……」

 

 そう小さく呟くミミ。

 

 

 

 実は、ヒントもあり、答えに繋がる材料も全てミミは知っている(見ている)のだが……それに気づくことも無く、棚に並んでいる本の背表紙に目を通す作業を続けるのであった……。

 




「帰れないのは異世界だからで、記憶が無いのに親がわかるのは自分が『ハーフ』でその片方が『モコモコ』っていうアーランドでも時々見られる金のモコモコ(モコちゃん)と同種のモンスターだから、「親の片方は小さい」ってほぼ確信して言えるんだよ!」

 察しろ、とか無理ですよね、はい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

※注意※
 お話の都合上、モブキャラが出てきます。
 いちおうこれまでの話しに関係が全くないキャラというわけでは無いのですが……今回以外で出てくるかは不明です。


そして……


天の声「ほら、早く察しなよ」(無理ゲー)




※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***旅人の街道***

 

 

 『アーランドの街』から見て比較的近場の採取地『旅人の街道』。

 街にある『冒険者ギルド』で冒険者免許を取得した新人冒険者でも立ち寄ってもいいレベルとされている採取地だが……同時に次のランクに上がる前の難関とも言える少々難易度が高い採取地でもある。

 というのも、『旅人の街道(ここ)』に生息している主なモンスターとして挙げられるのが『耳ぷに』というモンスターで、そいつらが「仲間を呼ぶ」行動をしてドンドン増えてくる厄介者だと言うのと……もう一つ、新人冒険者が相手にするには強すぎる桁違いの凶悪モンスターが生息しているのだ。

 

 

「ピキュオオオォー……」

 

 ドシィィ……ン

 

 その凶悪モンスター、初心者の壁である『グリフォン』が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まぁ、こんなものかしら?」

 

 

 倒れた『グリフォン』の前にして余裕の表情でそう呟いたのは、今や一流の冒険者となったミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングだ。いましがた戦闘を終えたばかりだとは思えない、悠然とした立ち姿である。

 

 

 ミミの数メートル後方にいるのは、大きな荷物を背負った20歳ほどに見える青年だった。青年はミミの背中ごしに見える『グリフォン』に目をみはって驚いている。

 そんな青年に、ミミは振り返りつつ声をかけた。

 

「お怪我はありませんか?」

 

「あ、ああっ」

 

 まだ落ち着きを取り戻せずにいながらも、しかししっかりと頷く青年。それを確認したミミはとりあえず一安心し……けど、それは表には出さずに猫かぶりモードで「そうですか。それはなによりです」とだけ淡々と言い……その大きな荷物から『行商人』の類であると推測できる青年に対して忠告をする。

 

「『アーランドの街』と各地を繋ぐ街道はおおよそ整備されていますし、その中でもモンスターが徘徊しない道というのも確立されています。……ですが、相手(モンスター)もまた生物です。縄張りを広げたり普段と違う行動に出ないと絶対言い切ることはできません。持てるものに限りがあっても、獣避けなど最低限の対策を取っておくことをお薦めします」

 

「ああ、すまない。何度も通っているうちに慢心してしまっていたようだ。キミが通りかかっていなかった可能性を考えると、恐ろしい限りだ……本当に感謝する」

 

 そう言って深々と頭を下げる青年に、ミミは「まぁ、この様子なら大丈夫かしら?」と青年の今後のことを考えつつ……偶然にも青年がモンスターに襲われている場に出くわせたことに安堵した。

 というのも、ミミが『旅人の街道』の近くを通ったのは本当に偶然で、「これ以上街に(とど)まったままだと流石に腕が落ちそうだわ」と適当な依頼を受けて一人で冒険に出たのだが……今はその帰り。もうちょっと別の採取地で時間を使っていたり、別ルートから街に帰っていたりしたら、こうして青年を救うこともできなかっただろう。

 

 

「人と共に暮らし、わかり合えるモンスターもいる。そう思っているが……やはり危険なモンスターがいることも事実なんだな」

 

 倒れた『グリフォン』を見た後、目を瞑ってまるで祈るかのような仕草をした青年がそう言った。

 その言葉から――そして、青年が進んでいたであろう方向にある()()のことを思い浮かべ――ミミはこの青年がどのような人物なのか大方予想がついた。

 

「ああ、あなた『青の農村』で取引している行商人さんですか。……どおりで、というのも変かもしれませんけど、モンスターへの警戒心が低いわけですね」

 

「はははっ、お恥ずかしながらおっしゃる通りです。あそこ素晴らしい場所ですが……いかんせん、危機感が鈍ってしまいます。まぁ、それでもあの辺りには思い入れがありますので、何があっても嫌いにはなれそうにないんですよね」

 

 「『青の農村(あそこ)』の影響で、こうして警戒心が鈍ってしまって危険な目に遭ってもね」と青年は笑顔で言った。

 ミミは、そういう人も出てきて当然だろうと思いつつも、青年が言う別の部分が変に気になった。

 

「「あの辺り」というと、村そのものに思い入れがあると言うわけではないんですね?」

 

「ええ。あれは村が出来るよりも随分前のことでしたから……あれは、まだ私が幼かったころ、今の私と同じく行商を営んでいた父にせがんで商品を乗せた馬車で親子二人で街まで行った時の事です」

 

 懐かしむように語りだした青年に、ミミは少しだけ「早く話を切り上げればよかったかしら?」と後悔しつつも、別段急いで帰る用も無いので少しつきあうことにした。

 

 

 

「当時の私は親の仕事に興味があったとかそういうわけではなくて、ただ単純に街に憧れていて父の仕事についていったのですが、まぁ行商の旅自体も嫌いではありませんでした。……ですが、あの時は「ついてこなければよかった」という考えばかりに頭の中が埋め尽くされました」

 

 ミミのほうを見ていた青年の目がチラリと倒れている『グリフォン』のほうへと向いた。それを見てミミは「ああ、なるほど」と頷いた。

 

「今日のように、モンスターに襲われたんですか」

 

「ええ。あの時は……確か、鳥系と狼系のモンスターが数匹ずつの群れでした。馬車を引いていた馬に、私を守ろうとする父に襲いかかってくるモンスター……怖かったですよ、特に赤い血が飛び散った時は」

 

 そう言う青年だったが、その顔には何故か笑みが浮かんでおり……その理由へと繋がる話をすべく「ですが……」と続けた。

 

「そんな時、私達をモンスター助けてくれた()がいたんです……その方もモンスターだったんですがね。でもそのモンスターは、他のモンスターを追い払い、私と父にはどこからか持ってきた傷薬をくれ、混乱して暴れる馬をなだめてから傷を治療して……幼い私の目にはヒーローか神様が使わした天使か何かに見えました。相手は自分たちを襲って来たモンスターたちと同じモンスターなはずなのに…………まぁ、その方はまるでヌイグルミのような見た目で、そもそも凶悪(こわ)さのカケラもなかったんですけどね」

 

「ヌイグルミって……あっ、あの子か」

 

 最後に青年が笑いながら言った言葉を聞いて、ミミはあるモンスターをすぐに思い出して納得した。あの子ならそのくらいのことをするだろう、と。

 採取地で出会い戦うモンスターと同じ種族だとは思えないほど大人しくって人懐っこい子がそろった『青の農村』のモンスターたちの中でも、特に賢くてなんか人間っぽい子。「モコちゃん」と呼ばれる二足歩行の金のモコモコした毛が特徴的なモンスターだ。

 

「そんな経験があって、私は恐怖を感じつつも不思議とモンスターに引かれて行き、後にこうして自分も行商人になってからは、あの方と会った場所を通るようになって……そうしたら必然的に新しく出来ていた『青の農村』にも足を運ぶようになっていたんです」

 

「そこで、そのモンスターと再会ができたんですね?」

 

 半ば確信を持ってミミが言うと、青年は嬉しそうに笑いながら頷いてくるのだった。

 

「そうなんですよ! 初めて訪れた時に村長さんのところへ挨拶に行って、そのついでに今の話をしてあの方の事を何か知らないか聞いたところ、村長さんがあの方から話を聞いたことがあったみたいで「ああ、キミはあの時の……」って言って、その後、「連れてきますね」って言って出ていったかと思えば……本当に来たんですよ!」

 

 そのことがよほど嬉しかったのか、過去のことであるにも関わらずかなりテンションが上がり始めた青年。

 

 

 

 ……と、まだ自制心を発揮できるほどには冷静さが残っていたようで、ハッとした後「こほんっ」とわざとらしい咳ばらいをした青年。

 

「えー、そんなわけで、『青の農村(あそこ)』のことも、モンスターのことも嫌いになれないんですよ」

 

「ま、まぁ、熱心なファンというか、なんというかー……マイスさんは喜びそうではあるけど」

 

 

 少し呆れ気味に呟くミミだったが…………青年の言葉に固まることとなる。

 

 

 

「ああ、そういえば昨日すれ違った行商仲間から聞いた話なんですが、()()()()()()()()()()()()()()()()! あの人にも少なからずお世話になってますし、こうしてちょうどいい機会にこっちに来れて私は幸運です」

 

 

 

「…………はっ?」

 

「えっ、どうかしまし――」

 

 

はあぁぁーーーーっ!?

 

 

 猫かぶりモードは、剥された……というよりは、一瞬で砕け散ってしまったかのようで、パリィッン!ガシャァン!というガラスが割れるような音が聞こえた……ような気がした。

 

 

「え、ちょっ嘘!? 私が離れた数日間に何があったのよ!? っていうか、そんな予兆なかったわよね!? 何? 学校のこと頑張ってると思ってたら、隠れて女の子口説いてたの!? なんであの人、こういうところばっかり予想外の事してくるのよっ!!」

 

「ちょっと、落ち着いて下さ……」

 

うるさいっ! そもそも結婚って、そういうお祝いの時ってどういう物を贈り物にしたら……それとも、物じゃなくって気持ちとか言葉だけのほうが……ううん、やっぱり家事道具とか? ああもうっ! もっと早くに知ってればこんなに慌てなくても……って、ああっ!!??」

 

「ど、どうしたんですかっ!?」

 

「そういえば、『青の農村』の結婚式って街とはまた違った独自の方式だって聞いた気が……何か作法とか規則とか違ったりするのかしら? マイス以外にあの村に知り合いの人がいないからこれまで行ったことないし、全然わかんない……!! ……式? 式に参列するとして、どんな服装で行けば……ここは貴族として当然の立ち居振る舞いをして……って、でも服装には細心の注意をはらわないと、お嫁さんよりも目立つような見た目は…………って、誰よ!? マイスさんのお嫁さんって!?」

 

 思考が一転二転してせわしないミミ。もはや、周りのことなんてとっくに見えていないし聞こえていないだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 一度この目で確かめて……って、コレ裏があるんじゃ……つまり財産目当てで、マイスさんを騙して…………ったく! あの人、脳内お花畑なんだからっ!!」

 

 そう言ったかと思うと、ミミは足早に街道を『アーランドの街』や『青の農村』がある方向へと歩き出した。

 

 

 

 そして、残された行商人の青年はと言えば……

 

「……あの人、私を助けてくれた人と同一人物、ですよね? それとも、二重人格とかそういう……?」

 

 こっちはこっちで困惑していた。

 




 次回! 「突撃! (街の)隣の(村の)晩ご飯!」(嘘……ではないかも)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*5-1*】

※注意※
このお話には「独自解釈」や「捏造設定」が多々含まれます。主にミミちゃんの家のこととか……。


 また本編から大幅に遅れそうだから二話分投稿したいけど、根本的に書く時間が足りていないという問題にぶち当たりました。



 今回の『ミミ【*5*】』ですが、厳密に言うと、本編の【*5*】よりもほんの少しだけ前のお話になります。まあ、あくまでIFですので、実際に本編のほうとつながっているわけでは無いのですが……。

 あと、途中、別のも挟まっていますが、基本ミミちゃん視点での話となっています。





※2019年工事内容※
 特殊タグ追加、一部表現の変更、句読点、行間……


【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家前***

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 『青の農村』の一角、マイスさんの家の玄関の前で、私は数回深呼吸をして息を整えて気を落ち着かせる。

 

「って、なんで私がこんなに緊張しなくちゃいけないのよっ!? これは……そう! 強くて、優しくて、博識で、人望もある……けど、どうしようもないお人好しで、『ホットケーキ』みたいに甘くてホワホワな頭の()()()()()()()が騙されてるんじゃないかとかっ! あと、そもそも相手の女性がマイスさんに相応しいかどうかを……!」

 

 だから緊張なんてしないで、むしろコッチが高圧的に出れるくらいどっしりと構えて……

 

 あっ、でも、玄関戸(この扉)の向こう側で、例の結婚相手とマイスさんがいちゃ……えっと、こう……な、仲睦まじくしていたらどうしたらいいのかしら? と、とりあえず、静かにそっと戸を閉じて……って、いや普通に考えて、開けた時点でマイスさんはコッチに気付くわよね? それはつまり、いい雰囲気を邪魔しちゃってるわけで、複雑……じゃなくて、少し申し訳ないような……。

 ちょっと待って? どう考えても、扉を開ける前にノックをするのは常識でしょう? なんで私はそんなことまで忘れちゃってるのよ!? ……あっ、でもそれも結局はいい雰囲気を邪魔できて良い気味……そう言う話でもなくって!

 

 と、とにかく! 礼儀としてノックはすべきだけど、その前に中の様子を確認するべきよね。だったら、玄関から向かって右側にある窓からこっそり中の様子を覗いて……

 

「覗きぃっ!? そそ、そんなのはしたないわ! 『貴族』にあるまじき行為……あっ、でも前にトトリとケンカした時に気になってアトリエの中を……あ、あれは緊急事態で仕方なく……って、私は誰に言い訳してるのかしら?」

 

 自分で思っている以上に緊張していることを再確認してしまいながらも……それでもなんとか気持ちを落ち着けて、改めて玄関戸のほうを向いて――――

 

 

 

「…………」

 

「あははっ……」

 

 いつの間にか開いている扉と、そこからヒョッコリと顔を出しているマイスさん。

 

「あの、い、いつから聞いて……?」

 

「えっと、なんだか賑やかだなーって思って見てみたら、ミミちゃんが一人で首振ったり()()()()()頭抱えて(もだ)えたりしてて……で、覗きがどうとか言って……」

 

「~っ!?」

 

 ぜ……前半は聞かれてないみたいだけど……でもっ! 結局それはマイスさんに変なところを見られたことには変わらないわけでっ!!

 

 自分でも顔が真っ赤になるのがわかるほど、顔が熱くなって……!

 で……でもっ! ここで逃げ出すわけにはいかないわ! 羞恥心を我慢して踏みとどまり……「ふんっ!」と胸を張って背筋を伸ばし改めてマイスさんのほうを向く。

 

 

「あーえーっ、本日はお日柄もよく……じゃなくて! この度はおめでとうございます……って! まだ祝っちゃダメなんだってば!!」

 

「ミミちゃん……その、大丈夫?」

 

「はぁはぁ……あっ、はい、すみませんでした」

 

 自分で言うのもなんだけど、私、どれだけ緊張すれば気が済むのよ。おかげで、まだ何にも始まってないって言うのに凄く疲れちゃったんだけど……。

 

「と……とにかく、言いたいことは色々とあるんだけど……今、時間はある?」

 

「あるよー。……改まってて固い感じがしてたけど、いつも通りに戻すんだね?」

 

「そっそこは気分と言うか雰囲気と言うか……とにかく、いいでしょ、別に!」

 

 声を荒げてしまいながらも、一度「コホンッ!」と咳払いをして話にも自分の気持ちにも一区切りをつける。

 

 

「それで……例のお相手はここにいるのかしら? 祝ったりするよりも前に、その人の顔を見ておきたくて……私も知ってる人なら色々と手っ取り早いんだけど。なんにせよ、一度会っておきたいんだけど」

 

「例、の……? お相手? 祝ったり……え?」

 

「何首かしげてるのかしら? ほら、あのマイスの、そのっ……け、結婚、相手のことよっ! どこにいるのよっ!?」

 

「えーっと……それは、どこにもいないって言うか……?」

 

 ……? どういうことなのかしら? 「いない」って、相手は遠方の取引相手とかで村や街には今いないってこと? いや、それなら「どこにも」なんて言い方は……ん? 「どこにも」……?

 

 

 

「もしかしなくても、「マイス()が結婚する」って()を聞いて来てくれたんだよね?」

 

「ええ、まぁ…………噂?」

 

「うん、誰が流したのかは結局不明のままだけど……アレ、真っ赤なウソだから。僕、結婚する予定は全く無いから」

 

「…………はぁ!?」

 

 

 ええっ!? つまりは、私はあの行商人に真っ赤なウソをまんまと掴まされて……ええっ、いや、あの人はウソを言ってる感じはしなかったし、きっと行商人仲間から聞いた噂話を本気にしてしまっただけで……

 

「って、それでも結局は私がしてたのは勘違いで、その勘違いでマイス()()滑稽(こっけい)で恥ずかしい所を見せ続けてたってことには変わりないじゃないのよー!?」

 

「あはは……そんなに気にしなくていいよ? 『青の農村(ウチ)』の子供たちなんてまいす、けっこんおめでとう」って書いた横断幕を用意しようとしてたりしてて……それとかと比べればカワイイ失敗だと思うし、こうやって否定するのもやり易いからね? いやぁ、アレは別に僕が何か悪い事しちゃったわけでもなかったんだけど、何というか頑張ってる子供たちに申し訳が無かったっていうか……」

 

 きゃあぁーーっ!? しかも、途中から思ったことがそのまま口に出てたー!?

 そのせいで、マイスさんが何か気を遣ってくれて、今回の件であった他の人の失敗談を離しだして……それで、何故かマイスさん自身がもの凄くダメージ受けてるんだけど!?

 

「ちょ、なんでマイスが凹むのよ!? これは私がここに来る前に、話がウソだって気付けたり、他の人から聞いてれば……ば? …………ああっ~!?

 

 私が突然あげた大声に目の前のマイスさんがビクッと驚きすくみ上がっていたけど……今の私には、それは二の次三の次になっていた。何故なら……私は、今、私の手元にある急遽用意した「結婚祝いの品」を買った場所……冒険の準備でもお世話になったりしている『ロウとティファの雑貨店』でのことを思い出したから。

 

「あの雑貨屋の店主! (みょー)にニヤニヤしてる気がしたけど……あれ、私が噂のこと真に受けてるのわかってて……! だぁーっ!!」

 

「ああ、ティファナさんか……普段は普通に優しい人だけど、時々「あらあらうふふ」って感じであえて何もせずにスルーしたりするからね。でも、そういう時って大抵それでよかったりするんだけど……主にフィリーさんが弱音を吐きに来た時くらいだし……」

 

 そう言ったマイスさんは、「あれ? じゃあ、なんで今回は?」と首をかしげるけど……マイスさんはもちろん、私だってそんなことはわからない。ティファナさん(あの店主)の気まぐれ……じゃなかったら、なんだっていうのかしら?

 マイスさんの言ってる通りだとすれば、こうして私が勘違いしたままここに来て「よかった」ってことになるはずだけど……本気でそう思ってるなら、あの人、結構性格が悪いんじゃ?

 

 

 

「そういえば……話にティファナさんが出てくるってことは、雑貨屋さんに寄ったってことだよね? 何か用があったの?」

 

「あっそれは……あー……」

 

 私が目を向けるのは、自分の右手に持っている紙袋。

 そう、中には雑貨屋で買った物が入った箱が綺麗にラッピングされているのだけど……それの事を思い出して、私は何とも言えない気持ちになった。

 

「……実は、結婚の話を聞いたのが冒険帰りで、『青の農村』での結婚祝いの作法はわからなかったけど急いで何かお祝いの品を用意しなければと、街に帰ってすぐに冒険の必要品などを買う為によく使うあの雑貨屋に急いで行って、そこで「結婚祝いの品」を買ってからここに……あっ、でもコレをすぐに渡すつもりは無くて、結婚相手がマイスに相応しいかどうか審査したうえで、その人に渡そうと思って……」

 

「えっ? しんさ……?」

 

「な、なんでもないわっ! 忘れてちょ……ください、本当に、お願いします」

 

 顔から火が出そうなくらい恥ずかしい……けど、逃げ出したら負けなような気がするし、なにより、その「結婚祝いの品」の処理に困ってしまうため、他所へと走り出しそうになる脚を止めてその場に留まった。

 

 勘違いしたことからくる恥ずかしさやマイスさんへの申し訳なさで、途中、丁寧口調になりながらも言葉を続け……「これっ」と右手に持った紙袋をマイスさんに向かって差し出した。

 

「急で買ったからそんなに高いものじゃないけど、ペアのティーカップ。村長なわけだし、来客もあったりするんでしょう? そういう時に適当に使ってちょうだい。……勘違いで買ったまま(ウチ)でホコリを被るよりも、そのほうがよっぽどいいと思うから」

 

「ミミちゃんの家では使いそうにないの?」

 

「ええ。まぁ貴族のたしなみってわけじゃないけど、食器類は私が使ったことの無い物も含めていくらでもあるのよ。ウチで料理とかした時に見たことあるでしょ?」

 

 まだ、お母様が健在(いた)ころのことをマイスさんに言ってみると、心当たりがあったようで「ああっ」と納得したように頷いていた。

 それを確認し、マイスさんが受け取ってくれたことも確認した私は、一歩後ろに下がって一礼をする。

 

「えっと、その……今日はお騒がせしてすみませんでした。それでは、私はこれで……」

 

「いやぁ、そんなかしこまったり、謝ったりしなくても……それに、僕も今からちょっと作業の合間の休憩を入れるところだったから、よかったら休んでいっても」

 

「それはちょっと、色々と限界が近いから……そ、それではっ!!」

 

 これ以上何か言われて引き止められる前に、もう一度礼をしてから私は駆けだした。

 ……本当に色々と限界だったから。冒険帰りの肉体的疲労、色々あっての精神的疲労……あと、恥ずかしさとか。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 ミミが帰った後、マイスはラッピングを綺麗に剥し箱から出して、「結婚祝いの品」だったペアのティーカップがどんなものなのかを、その目で確かめた。

 

「うーん……これは、お客様用には出来ないなぁ」

 

 「あはははっ」と少し困ったように笑いながら見るそれは――――全体的にハート柄が散りばめられ、ペアの取っ手同士を合わせるとハート型に見えるものだった……。

 

「さて、どうよう……?」

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

***アーランドの街***

 

 

 

「はぁ……なんか、どっと疲れが出てきた気がするわ……」

 

 家への帰り道。『アーランドの街』の中にある住宅地でも特に『貴族』の家々がそれぞれ広い敷地を持って邸宅を建てている区画へと差し掛かったあたりで、ようやく「帰って来た」という実感が湧いてきたのか一気にこれまで以上の疲労感を感じ始めた。

 

「帰ったら早々に休むべきね、これは」

 

 とは言っても、当然身支度などもあるからすぐに休めるわけではないのだけど……ああ、それに家を空けていた間に変わった事がなかったかとか、当主としての責務を果たさなければいけないわね……。

 

 

 そんなことを考えながら家路についていたのだけど……

 

 

「あら?」

 

 ようやく見えてきた『シュヴァルツラング家』の邸宅前の門で、誰かが二人で話してるのが見えた。

 

 一人は、(ウチ)の管理のために王国時代のころからずっとウチに雇われてくれているメイド長。お母様が亡くなってからも、私が冒険者になって家を空けがちになってからもとてもお世話になっている人だ。

 

 もう一人は――直接話したことは確かなかったはず。だけど、何かと顔を見る機会はあって――個人的にちょっとだけ知っている人だった。

 

 

 メイド長が帰って来た私に気付き一言と共に礼をして一歩下がる。そして……もう一人の人物は、「ちょうどよかったよ」と呟きながらコッチに向きなおった。どうやら私にようがあるらしい。

 

 私は疲労感などを内面に隠しつつ、その人物に恭しくお辞儀をしながら挨拶をする……。

 

 

 

「これはこれは()()()、御機嫌よう。本日は『シュバルツラング家』にどのようなご用件でしょう?」

 

「ああ、そんなに堅苦しくしなくていいよ。僕はそういうの、あんまり得意じゃなくってね。それに……せっかく楽しい話になるのに、そんなにカチカチだったら味気無いじゃないか」

 

 ()()()という感じの雰囲気……マイスさんとはまた違った()()を見せるその大臣に、私は内心眉をひそめた。個人的にはどちらかと言えば苦手なタイプだ。

 

「あらあら、楽しい話……ですか?」

 

 

 

 

 

「うん。きっと……みんなが笑顔になれる話だと思うよ」

 

 




 本編でもやってた(かもしれない)某大臣様の犯行(?)がついに……!?


 言うときは基本「マイス」なのに、内心やぽろっと口から出た本音とかでは「マイスさん」と言ったりして忙しいミミちゃん。書いていると、色々と考えてたはずなのにごっちゃになっちゃいます……。



 そして、色々と不明なミミちゃんの家の事情。貴族だしくーちゃんのところみたいにSPやら使用人がいてもおかしくないだろうし、『冒険者』という職業の都合上、家を空けることも多くてその間を中心に管理をする人が必要だとか、その他諸々……。
 特に、ミミちゃんが産まれたのだから存在はしていたはずのお父様は、原作中では全く登場せず、まだ十代前半のミミちゃんが「当主」を名乗ったりしていることを考えると健在とは考えにくいという……。
 まあ、親の片割れや両親についてほぼノータッチだったりするのは、『アトリエ』でも『RF』でもよくあることなんですけどね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*5-2*】

 一ヶ月以上間が空く&予告がドンドン先延ばし。
 コレハヒドイ


 今回は完成までに二転三転してしまったお話。
 本年の方のストーリー改変との兼ね合いとか、細かい描写の有無。何処までぼかすとか……あとは、ミミの心情の変化と彼女自身の捉え方、そのあたりの表現の試行錯誤などなど……。

 次回からがミミルートは本番……かなぁ?






※2019年工事内容※
 一部表現の変更、句読点……


【*5-2*】

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***シュヴァルツラング家***

 

 

 

 勘違いからマイスさんに結婚祝いの品を持って行ってしまった私。

 急いで品物を用意したのに結局はただの噂話で無駄足に終わっちゃったんだけど……()()()()()()()()()()()()()……。

 

 お祝いの品だったモノはどうしようもなくなったから、マイスさんにあげてしまい、私は勘違いしてしまったという恥ずかしい気持ちをまぎらわせるかのように……うん、実際紛らわせようと思って、早足で帰路へとついた。

 

 ……で、屋敷に帰り着いたのはいいんだけど、何故かそこにはちょうどうちを訪ねてきていた『アーランド共和国』の大臣さんが。なんでも私にお話があるそう。

 

 

 

そして今、その大臣さんからのお話――「みんなが笑顔になれる話」だそうなのだけど――それを聞き終えた私が思ったことは……

 

「……お話になりません。そのお話、お断りします」

 

「あっ、やっぱり?」

 

「…………」

 

 わざわざ時間を作らせておきながら、いざダメだとなると食い下がったりもせずにあっけからんとした様子でそう言ったトリスタン大臣。それも、これまでとは打って変わって一刻の大臣らしからぬ砕けきった口調で。

 

 その様子に内心呆れかえってしまい、私はため息が喉元まで出かかったけど寸前のところでなんとか抑え込み、それを悟られないようすぐに取り繕う。

 ……けど、隠しきれていなかったのか、何処か細かい仕草に呆れや苛立ちが出てしまっていたのか……それとも偶然か、私と対面しているトリスタン大臣は肩をすくめ首を振ってきた。

 

「ああ、ゴメンゴメン。話している途中から表情が変わっていってたのには気づいてたからね。だからキミの返事は予想できちゃってたんだ。まぁ、この喋り方に関しては元々堅苦しいのが苦手だっていうのもあるんだけど……」

 

「そうですか。では、お話はこれで終わりということで?」

 

「うん、そうなるね」

 

 やはり、先程と変わらず特に残念がったりすることもなく話をおわらせてゆくトリスタン大臣。

 

 

 まあ、変に食い下がられても面倒なだけだから、私としてはこれでよかったんだけど……でも、なんだかモヤモヤするし、それとは別に肩透かしを受けたような釈然としない感じもしている。

 けど、わざわざこうして屋敷を訪れるほどの用件だったはずなのに、こうもアッサリと……()()()にはそれほど本気では無かったってことかしら? ……聞けた内容や察せる事情からは、その実現しない方がいいような気がするのも確かだけど。

 

 他にも、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」なんてことまで考えだしてみたけど……そんな考えがまとまるよりも先に、トリスタン大臣が「ああっ、そうそう」と思い出したかのように――むしろわざとらしさの感じられる切り出し方で私に問いかけてきた。

 

「参考までに聞きたいんだけど……今回の話を断った理由、よかったら教えてもらえないかな?」

 

「参考になる保証は出来ませんが、それでも良いのなら……」

 

 ……まぁ、これ以上変な気を起こして余計なことをされても、私だけじゃなくきっとマイスも困るだろうし……今ここで私から()()()()()()()()から見た()()()()()()()()を指摘しておいたほうが、後々苦労しなくてすむはず。

 

 そう思い、私は今回の話――()()()()()()()()()()()――を断った理由を説明していくことにした。

 

 

「まず最初に、正当性と信憑性。「国からの話」と言って切り出した割には、説明等は表面こそキレイに整えてはいるものの内容はスカスカで行き当たりバッタリとさえ思えるくらいです。正直、決定事項として会議されたうえで作成されたものとは思えず疑心感を持ちました」

 

「おやっ、そこからバレて……意見は真っ二つだったし、よりによって首長含む上層部の多くが「不干渉派」だったからなぁ。それで僕が一人でこういうことすることになっちゃってさ……」

 

 何言ってんのよ、この大臣(ひと)は。

 何? 今の話聞く限りじゃあ、本当に「国からのお見合いの話」っていうのは嘘で、その上それは大臣(こいつ)が独断で勝手に進め(やっ)てるってこと?

 

 悪態を吐いてしまいそうな口や、ピクつくコメカミを何とか抑えつつ、私は言葉を続ける。

 

「コホンッ! 次に、善意の感じられなさと下心。十分いい歳になったマイスさんに出会いの場を……といえばそこそこ聞こえはいいですが、話を聞く限りでは相手は『貴族』や重役の親族かに絞られているようで……ほとんど政略結婚を目指した物だということ。倫理的に良いこととは言えません」

 

「そう見えるのは当然、か……まぁ()()()()()その辺りは二の次三の次なんだけど……仕方ないかな。だからこそ、以前から彼と家ごと関係があって、当たり障りの少なくて上手くいきそうなキミを候補にしたんだけど」

 

 ……?

 また大臣が何か言ったけれど……前半は今度はよくわからない。どこの事を言っているのかが理解できなかったから。ただ、ここまでで一つ分かったことは、この大臣(ひと)はとてもじゃないけど信用できそうにないっていうこと。

 そして後半は……まあ、一応何も知らないわけでも、考えていないわけではないっていうことは分かった。

 

「最後に……これは断った理由ではなくて、むしろ指摘や忠告に近いモノですが……もし仮に『貴族』や政治関係者の娘がマイスさんの妻になったところで、あの人が言うこと聞いたり、大人しくなったりすることは絶対無いと思いますよ?」

 

「ああ、うん、それは同感だ。彼って、そもそも「権力に屈しない」どころか「理解してない」レベルだし、ソッチの方で期待してもダメだろうね。……(かろ)うじて情で引き止められるかどうかってところかな……いや、それでも農業でもイベントでも、勝手にしだすなぁ間違い無く」

 

 最後の最後で大臣(こいつ)と意見が一致してしまったのが癪である。

 

 

 けれど、ここまでの返答で――満足できたかどうかは定かではないけど――トリスタン大臣は時間を作ったことへの謝辞を言い帰る用意をしだしたのだった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 正直な話、お見送りなんてしたくはなかったけれど、『貴族』として最低限の礼儀はしておこうと思い、屋敷を出るトリスタン大臣を門のところまで送っていくことに。

 

 

 屋敷から敷地の門までの道中、不意にトリスタン大臣が足を止め自分のあごをつまむように触れて思案顔をした。

 そうしたのかと思い、声をかけようとしたその直前に「ねぇ」と大臣はコッチを見た。

 

 

「これは大臣としてじゃなくて、僕個人の興味なんだけど……今回のお見合いみたいな裏側の事情とかとは関係無しに考えたら、彼との交際ってアリ? ナシ?」

 

 

「それは――――なしです」

 

 私の返答に、トリスタン大臣は目を見開いて随分と驚いた様子。

 

 ……そんなに、意外なことなのかしら?

 

 

 

「何故なら――――――」

 

 

 

 




 その先の言葉は……以前にも時々出てきていた「ミミの心情」となります。
 それは後のお話しで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミミ【*6*】

 おそらくは、各ルートの内一位二位を争うメンドクサイ状況(作者の偏見含み)になっているミミちゃん。

 前回色々ありながら「私には関係ありません」的なことを言って、それから……というお話しを今回はそれをトトリちゃん視点で書かれています。



 


 

【*6*】

 

 

***アーランドの街・門***

 

 

 

「あっ」

 

「あれ?」

 

 ちょっとした用があって朝一番から街の外に出ようとお出かけしたんだけど……街と外とを仕切る門の前でミミちゃんを会った。

 私の用はあくまでちょっとしたことだったから、普段の冒険みたいに誰かに声をかけて一緒に行く予定はなかった。つまりは、ここでミミちゃんと会うのも本当に偶然なんだけど、こんな朝早くからどうしたんだろう?

 

 

「おはよう、ミミちゃん!」

 

「おはよっ、朝から元気ね」

 

「あははは、今日はちょっと変な時間から目が冴えちゃってて……そういうミミちゃんは、もしかして今から冒険?」

 

 そう聞くと、ミミちゃんは軽く首を横に振りながら答えた。

 

「違うわよ。依頼とかじゃなくてちょっと『青の農村』に行くだけ」

 

「ミミちゃんも? 実は私も用があって行くところだったんだ。一緒に行かない?」

 

「それは、まぁ……別にいいけど」

 

 少しそっぽむきながらもそう答えたミミちゃんの手を取って、「じゃあ行こ!」って街の外へと歩き出す。

 

「ちょっ!? そんな引っ張らなくったってついてくわよ!」

 

 

 

―――――――――

 

***青の農村***

 

 

 ミミちゃんと色々お喋りをしながら歩いてたら、感覚的にはあっという間についた『青の農村』。

 

 村の中に入ってからも、そのままお喋りして歩いてたんだけど――

 

「ねえ」

 

「ん? どうかしたの?」

 

「もしかして、トトリ()マイスの所に用があるの?」

 

 

 そう聞かれて初めて、私がまだミミちゃんに今日『青の農村(ここ)』に来た理由を話して無かったことに気付いた。……とは言っても、そんな大した理由じゃないんだけど。

 

 けど、ミミちゃんもなんでこのタイミングで聞いてきたんだろう――って思ったけど、ふとあること思い当たった。よくよく考えてみれば、お互いに用があるって言ってるのに、『青の農村』に入ってからも特に何というわけもなく()()()()()()()()()()()()()()()。そこで「もしかして、同じ目的地目指してる?」って思ったのかな? 「()」って言ってて、ミミちゃんもマイスさんの家へ行ってるみたいだし。

 まぁ、そうじゃなかったとしたら、私が『青の農村』に行くっていったら、大抵マイスさんか『お祭り』かしかないってこと知ってたとか?

 

 とにかく、ミミちゃんの言う通り、私の目的はマイスさんなんだけどね。

 

 

「うん。ちょっとマイスさんに用が――」

 

「まさか本当にマイスさんに!? 用って何? まさかとは思うけど誰かに――いや、トトリに限って……でも……!

 

 脚を止めズズイッと顔を寄せて声を上げ、私に問いかけ……かと思えば、一人でブツブツ呟き出した。

 

「とにかく、落ち着いてミミちゃん!」

 

「あっ……ご、ごめんなさい。少し気が動転しちゃって」

 

 「気が動転」って、特に何があったってわけじゃないはずだけど……? それとも、私が気付かなかっただけで何かあったのかな?

 なにはともあれ、とりあえずはミミちゃんからの質問に答えるために、今日『青の農村(ここ)』に来た理由を説明することにした。

 

「私がマイスさんに会いに行くのは、『学校』に用意する『錬金術』の設備と確保できるスペースのことで相談したかったからで、他の科目との兼ね合いとかもあるだろうから、思いついたら早めに聞くに越したことはないから、こうして朝から来たんだよ」

 

「本当?」

 

「いや、どうしてウソつかなきゃいけないの?」

 

「まぁ、それはそうだけど……本当に、変な人に何か言われて来たとかじゃないのよね?」

 

 変なことを随分と念入りに聞いてくるミミちゃん。

 

「ホントにホントだってば」

 

「そ、そうよね。……第一、トトリは()s()m()a()l()l()()()()()()/()s()m()a()l()l()とは間接的にしか関わりないだろうし、貴族でもないし

 

 ミミちゃんの呟きは断片的には聞こえたけど、それじゃあやっぱり何の話なのかはさっぱり分からない。

 

 

 

 考えても仕方ないし、とりあえず気にせずマイスさんの所に――――って、そういえば……

 

「そういうミミちゃんは、マイスさんに何の用事があるの?」

 

「わわわ、ワタシィ!? べっ別にいいでしょ、なんだって!」

 

「ええぇ……? 私にはしつこく聞いてきたのに? ズルいよ、そんなの」

 

 「ズル!? 私が!?」って、そんなところにまでやけに大袈裟に反応するミミちゃん。

 これは、私の言ったことそのものがどうっていうよりも、本当にみみちゃんが気が動転してたりする感じなくらい敏感というか過剰というか、そんな感じになってる気がする。しかし、やっぱりその理由はわかりそうもない。

 

 でも、絶対何かあると思うんだよね……

 

「じー……」

 

「なっ!?」

 

「じーっじーっ」

 

「……っ!?!?」

 

 

 これまで以上に落ち着きが無い感じになり、目も思いっきりそらして、顔も赤くなっていって――――それでもジーッと見続けたら、勝手に喋りだした。

 

「あれよっ! 言わないのは、隠したいからとかそういうのじゃなくって……(たい)した用じゃないってだけ!!」

 

「ふぅ~ん?」

 

 

「な、何よその目はっ!? ()()()()()最近色々忙しそうだけど元気にしてるかなーとか、()()()()()に変わったことはないかなーとか、そういうのがちょっと気になるくらい普通でしょ!?」

 

 

「あっ、本当に大したことじゃなかった」

 

「言うなっ!!」

 

 普段から素材の事とか相談したりとかでマイスさんの好意に甘えちゃってどうこう言えるどころか、むしろ自重したほうがいいのかなって思うべきだろう私が言うのもなんだけど『学校』の一件が本格的に始まって以来、マイスさんの仕事量って言うのははね上がっているように思える。

 マイスさん本人は「大丈夫、大丈夫」とばかり言っていまいち|健康状況()()()()()とかに関しては信用しきれない。……だからと言って、あのマイスさんが体調を崩す姿は想像し辛いんだけどね。

 

 とにかく、ミミちゃんのように周りが気にしてあげた方が良いのも確か。そう考えると、用事としては大したことではないけど、大切なことだろうと思うし良いことだとも思う。

 

 

 ……でも、変に気にした分、なんだか損した気分。

 というか、なんでそんなことでミミちゃんは()()()()()になってるんだろう? そんな騒いだりしなくていいのに。

 

 お話に変な熱が入ってて止まってた脚を、またマイスさんの家に向ける。

 

「まぁ、とりあえず行こっか」

 

「最初からそうしてればいいのよ、最初から」

 

「最初に止まったのは、ミミちゃんだったような?」

 

「うぐっ!?」

 

 

 

 

―――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 

 そんなこんなでたどり着いたマイスさんの家。

 出迎えてくれたマイスさんは都合のいいことにそんな立て込んだ用事も無く、私の相談に乗ってくれることになった。

 

 そして、ミミちゃんはといえば、特別大した用事も無かったから、挨拶をしてマイスさんの顔を見たらそのままどこかへ行く……のかと思いきや、そのままマイスさんの家に居座ってた。

 それも、お話してる私とマイスさんにわざわざ追加のお茶を淹れてくれたりとか、お昼が近くなると「キッチン借りるわよ」とか言ってマイスさんに代わってお昼ゴハンを作りだしたり……というか、ミミちゃん料理で来たんだ。

 

 

 うーん? やっぱり今日のミミちゃんはなんだかおかしい気がする。

 

 マイスさんはそう気にしてないみたいだから、私の気のせいなのかなー?

 

 それに――――

 

 

 

 

「何よ? そんなに睨んできて」

 

「…………ふんっ! 別に?」

 

 たまたま用事があって来たっていうクーデリアさんに突っかかっていく感じはいつも通りだったし、きっと私の思い過ごしだよね。

 

「昔からの友好関係……適正年齢……貴族…………!!」

 

「……いや、ホントに何よ?」

 

 

 

 





 次回、ミミちゃんの心情メイン回に。
 おそらくは、過去最高レベルで地の文が多くなるかと思われます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『リオネラ』ルート
リオネラ【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『リオネラ』◄(ぽちっ)





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

「僕が投票したのはリオネラさんだよ」

 

 恥ずかしがったり、どもったりもせずに発せられたマイスの言葉に、みんなが驚いた……のだが、その中でも一人が大変なことになっていた。

 それは、他でもない、マイスに投票されたリオネラだ。

 

「…………」

 

 湯気が出ていそうなほど顔を真っ赤にして固まっている。それはまあ、そうなって当然かもしれない。

 

 が、問題はそのそばにいたアラーニャとホロホロがポトリと力無く地面に落ちた事だ。

 普段浮いているふたりがいきなり落ちたのことに周りは驚いているが、ふたりが()()()()()()()()()()()()知っている人であれば、その辺りの制御ができなくなるくらい完全に思考停止してしまっているのだとわかったことだろう。

 

 まあ、そんなことになれば周りも心配しないわけがなく……

 

「ねぇちょっと、起きてる……生きてるの?」

 

 落ちてしまったアラーニャとホロホロを拾い上げながら近づいていったのは、マイス繋がりでリオネラと知り合ったミミ。言ってることは少しアレだが、その視線は本当に心配している視線(それ)だった。

 

「りおちゃーん……? 聞こえるー?」

 

 リオネラが街に来た当時からの付き合いがあるロロナも心配そうに近づき、耳元で「おーい?」と言ったり、顔の前で手を振ってみたりしている。

 

 

 他の面々も「なんだ」「どうした」と寄ってきたわけだが――それらが効果があったのかは(さだ)かではないが――リオネラが「ハッ!?」とし、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

……あう、あううぅ……!!

 

 顔を真っ赤にして、両手をそれそれ左右の頬に付け、首をブンブンと振るリオネラ。

 ……と、ミミに拾い上げられていたホロホロとアラーニャが動き出し、ミミの手から飛び出して、しゃがんでいるリオネラのそばへとフイーッと飛んでいった。

 

「いやぁ。今のは仕方ねぇよな」

「そうね。普通に言うのも含めて予想外過ぎるもの」

 

 「やれやれ」といった様子で軽く首を振るふたり。

 

 そんないつも通りの様子を見てか、それともリオネラが動き出したからかはわからないが、マイスがしゃがみこんでいるリオネラに歩み寄りながら声をかけた。

 

「大丈夫ですか? リオネラさん」

 

「おっと、今近づくのは()めといてくれねぇか? さすがに色々とマズイからな」

 

「えっ……」

 

 ホロホロに制止をかけられ、動きを止めるマイス。その顔はすぐにドンヨリとし、そしてガックリと肩を落とした。

 アストリッドをはじめとした数人に「顔に出やすい」と言われているマイスだが……確かに、これは誰がどう見ても一瞬で落ち込んだことがわかるだろう。

 

「あーもう、そんな悲しそうな顔しないで。別にリオネラがアナタの事を嫌いになったとかそういうわけじゃないから、心配しなくていいわ」

 

 いちおう、アラーニャがフォローを入れるものの、その言葉を聞いたマイスの表情を「ホントに……?」と希望と不安が混じった状態以上にすることは出来なかった。

 

 

 

 さて。ここでホロホロとアラーニャのふたりによる緊急会議が行われる。

 彼らという存在の事情を知っている人からしてみれば、なんとも不思議な光景だが……そうでない人たちから見れば、人形同士がご主人様の近くで内緒話をしているという中々に可愛らしい光景だったりする。

 

 

で、どうすんよ? 安心してもらうにしても、リオネラの気持ちを説明したら、そういうことだって伝えちまうことになるぜ? ……って、いっそのこと、ぶちまけちまったほうが良い気もすんな

 

いいわけないでしょ!? こんな他にも人が沢山いる場所で告白だなんて! それに、そもそもリオネラの気持ちをワタシ達から伝えること自体間違いだし、伝えたところでマイスが理解してくれるかどうかが怪しいし……

 

あぁ、それもそうか

 

これは、とにかくリオネラ本人に頑張ってもらうしかないわね

 

 

 彼らがリオネラの精神の一部であると考えると、彼らがしているのはリオネラの深層心理にある葛藤なのだろう。……つまりは、リオネラの奥底には告白などや、ああいったことやこういったことの欲望もあるにはあるらしい。

 

 

 

 そんな会議をしているホロホロとアラーニャだったが、リオネラのすぐそばまで近寄ってきて肩に手をかける人物がいたため、一旦中断されることとなった。

 その人物というのは……近い性格だったからか意気投合し、親友と呼べる間柄にまでなっているフィリーだ。

 

「り、りおっリオネラちゃん、大丈夫!?」

 

 肩をゆすられたリオネラは、なんとか持ち直し、目の前にいるフィリーに向かって言葉を投げかけた。

 

「だ、だだだ……大丈夫って、そそんな……!! だって、だって、マイス君がぁ!?」

 

「うん、うんっ! 言いたいことはわかるから、とりあえず深呼吸してみようよぅ?」

 

 何故かリオネラに負けず劣らず取り乱しているフィリーに(うなが)され、リオネラは「スゥ……ハァ……」と深呼吸を始めた。ついでに、フィリーも勝手に始めている。

 

「はぁ……落ち着いた?」

 

「なんとか……」

 

 一緒になって深呼吸をしてなんとか落ち着きを取り戻し、笑い合う二人。

 

 

 そして……落ち着けたリオネラが真っ先にしたのは、少し離れてもらってしまっているマイスへの確認だった。

 

「えっと……ま、マイス君?」

 

「あっはい! 大丈夫ですか、リオネラさん?」

 

「う、うん。ごめんね、心配させちゃって」

 

 リオネラの謝罪にマイスは笑顔で「大丈夫だったなら良かったよ!」と返事をした。

 マイスが元気そうなことに一安心するリオネラだったが……ひとつ「ごくり」とつばを飲み込むと覚悟を決めたように小さく頷きゆっくりと口を開く。

 

「それで……その、わっ、私の水着……どう、だった?」

 

「とっても似合ってたと思うよ。あのまま本当に人形劇を観たかったくらい!」

 

 いつもの、柔和な笑顔でそう言うマイス。そこにはやはり照れや恥ずかしさは無く、本当に素直な感想からきている言葉なのだろうと察することが出来る。

 

「そ、そう……?」

 

 少し表情に固さは残っているものの、マイスの言葉にリオネラは表情を緩ませた。そして、人形劇のこととなると黙っていないのがあのふたりである。

 

「さすがに水着じゃ無理だけど、また『青の農村』でやる時に観に来てちょうだい」

「だな。まっ、マイスが「どうしても」って言うなら、お前の家に、お前のためだけの人形劇をしに行ってやってもいいぜ? それも、ご要望とあればあの水着でな」

 

「ちょっ!? ホロホロ!?」

 

 毎度、一歩踏み込んだ余計なことを言うホロホロである。

 が、何度も言うようだが彼らもまたリオネラの精神の一部。ということは、リオネラも少なからずホロホロの言ったようなことは考えているわけで……でも、実際に言ってしまうのはどうかと思う。

 

 

 しかし、そんなホロホロの上をいくのがマイスである。……斜め上かもしれないが。

 

「あははっ、それもいいかもしれないね! じゃあその時はごちそうをたくさん用意しておくよ! あと、『離れ』のほうもちゃんと泊まれるように整理して、あとは……」

 

「えええっ!? よ、よろしくお願いします……?」

 

 マイスは普通に申し出を受け入れたのである。その予想外の展開にリオネラも驚きその流れでよくわからないまま承諾したのである。……しかも、お泊まり前提のようだ。

 

 

 

 

 

「えっと……トトリちゃん。あの二人ってもしかして、お付き合いしてたりするのかしら?」

 

「仲はいいみたいだけど、してないと思うよ? ……でも、マイスさんの家にずっと長い間お泊まりしてたし、それも先生たちは内緒で……何も無いって方が不思議なんだけどなぁ?」

 

 姉のツェツィからの質問に答えるトトリ。確かに彼女の言う通り、あれで何も無い方がおかしいのだが……本当にあの二人には何も無いのだ。

 

 

 そして……ホロホロが提案したマイスの家での人形劇は、何の邪魔も入らず実現されるのだろうか……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リオネラ【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』とは異なり、一緒には行かない組なので出発前のお話となっています。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、句読点、行間……


【*2*】

 

 

 僕を訪ねてきたトトリちゃんから「『塔の悪魔』を倒しに行く」ことを伝えられ、僕はその準備をすることに……。

 

 『塔の悪魔』のことや、それを今後倒しに行くという話は以前に聞いていたので、前々から色々と考えていちおう準備を進めはいた。なので、持っていく武器やアイテムを選別しまとめるのには時間はかからなかった。

 

 準備をサクッと終えた僕は、さっそくトトリちゃんたちとの集合場所である『アランヤ村』に……行くわけではなかった。

 出発は明日。僕の手元には『トラベルゲート』があるから『青の農村(ここ)』から『アランヤ村(あっち)』まで一瞬で行ける。そのため、家を出るのは明日でも問題は無い。

 

 もちろん、早めに行っていても何も問題は無いんだけど……でも、やっておくべきことが僕にはあった。

 それは、遠出をする際に行く前と帰ってからいつもしている「挨拶周り」だ。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***アーランドの街・広場***

 

 

 

 『アーランドの街』の中心部にある広場。中央に噴水があり、ベンチや露店、そしてある意味街の象徴ともいえる『機械』もあるそこは、町の人々にとっては(いこ)いの場となっている。

 

 

 僕が、そんな広場に立ち寄ったのにはちゃんとした理由がある。

 

「予定通りなら、今日はこの時間にやってるはずなんだけど……」

 

 そう独り言を呟きながら僕は広場へと踏み込んだ。……とはいえ、そこまで不安感があったりするわけじゃない。

 予告があったのであれば、よっぽどの理由が無い限りいきなり休んだりはしないと思うし。それに……

 

「あっ、やってるやってる」

 

 広場の一角に出来ている人だかりを見つけ、そっちへと歩を進めた。

 ……まぁ、こういった感じに、やってるなら探し回ったりせずともすぐに見つけられるから、そこまで「見つからない場合」の心配はしなくてもいいのだ。

 

 僕はその人だかりに……観客の人たち混ざって()()()()()()()()()()を観ることにした。

 用があるのは、今、劇をしているリオネラさんだ。となれば、リオネラさんが劇を終えないと僕はどうしようもないのだから、劇が終わるまでの時間は好きにしていいわけで……それなら、目の前でやっている人形劇を観ていくのが一番だと思う。

 

 というわけで、僕はちょうど良くまだ最初のほうらしい人形劇を観るべく、ちょうどいい場所を探し始めた……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――のでした。めでたし、めでたし。……今日の劇はここまでです。ありがとうございましたっ」

 

 最後を締め、丁寧なお辞儀と共に劇の終了を告げるリオネラさん。観客たちからは割れんばかりの盛大な拍手と、それに(まぎ)れて劇の終わりを()しむ声も少なからず聞こえてきているから、今日の人形劇は大成功と言っていい結果だったと思う。

 

 他でもない僕も、リオネラさんの人形劇に引き込まれてしまってずいぶんと熱中してしまっていた。今度は、本当に最初の最初から観たいなぁ……。

 そういえば、この前リオネラさん()()と話した時に、僕の家で人形劇をしてくれるって話があったけど、あれなら最初から観れる……って、ああ、でも明日には『塔の悪魔』を倒しに行かないといけないし、さすがに今からっていうのもバタバタしちゃいそうで悪いよねぇ……。

 

 

 僕がそんなことを考えているうちに、他の観客の人たちは「おひねり」等をリオネラさんに渡し終えたようだった。おのおの移動しだしており、先程までの人だかりはどこへやら、あたりは閑散としはじめていた。

 僕はタイミングを見計らって、観客たちがいなくなってようやく一息つけている様子のリオネラさんの元へ行った。

 

「おつかれさま。リオネラさん、アラーニャ、ホロホロ」

 

「あっ。マイスくん」

 

「いらっしゃい。って、終わったんだから、こう言うのはおかしいかしらね」

「まぁ、なんだっていいだろ。んで、観ててくれてただろ? どうよ、オレたちの活躍をよ」

 

 僕が声をかけると、リオネラさんは微笑みを浮かべてコッチを向き、アラーニャとホロホロはいつもの調子で喋ってきた。

 

 ただ、そこでちょっとホロホロの言ったことが気にかかった。

 これまでにも感想を聞かれることはあったんだけど……その前に、色々話してからって言うのがいつものパターンだ。だけど、今日はまるで観ていることをわかってたかのような言い方なような気が……?

 

「もしかして、人形劇の途中で僕を見つけたりしたの?」

 

「まあな。最初からかどうかは知らねえけど、結構序盤から観てただろ?」

「ほら、二回目の場面転換の後のリオネラのセリフ、ちょっとうわずっちゃってたでしょ? あれ、直前にリオネラがアナタを見つけたからなのよ」

 

 ホロホロに続いて、アラーニャが僕に気付いたタイミングを明確に教えてくれた。どうやら僕の予想通り、途中で観客に()じって僕が人形劇を観てたことに気がついていたようだ。

 

 

 けど、また気になってしまう発言が……。

 確かに人形劇の途中に部分部分、なんだか声が裏返ったような時があった。「一見見ただけではわからないけど、何か失敗でもしたのかな?」って思ってたんだけど……アレって、僕を見つけたからああなったらしい。ってことは……

 

「もしかして、僕、気付かないうちにリオネラさんを驚かせるようなことをしちゃってたかな……?」

 

 「僕のせいで失敗をさせてしまったんじゃ」と、ちょっと心配になってしまい、ついその不安が口に出てしまう。

 そんな僕の呟きにリオネラさんは瞬時に反応をしてきた。それも、もの凄い勢いで首を横に振りながら。

 

「ううんっ! べ、別に驚いたとか、そう言うことじゃなくって……!! だ……だから、そのっ……そんな心配なんてしなくても、マイスくんが悪いんじゃなくって……」

 

「そうよ? 確かに「全く驚いてなかった」って言っちゃったらウソになっちゃうでしょうけど、本当にほんの少しだけだから気にするほどじゃないわ」

「どっちかっつーと、テンションが上がり過ぎて気合が空回りしちまった、って感じだからな」

 

「そうなんだ……。って、あれ? 何でテンションが上がったのかはわからないけど、話の流れからしてそれって結局僕のせいなんじゃ……?」

 

 ふと湧いてきた疑問を口にしてみたんだけど、それに対してもリオネラさんは首を横に振ってきた。

 

「そっ、そそそ……!! そんなことないよっ!? 別に、それは、ええっと……マイスくんが見に来てくれて嬉しかったからとか……だから、その、マイスくんが悪いんじゃなくって……!」

 

「ええっと……? あ、ありがとう……で、いいのかな?」

 

 ところどころ言葉に詰まったり、逆に妙に早口だったりする部分もあり……また、何故か興奮気味なのか声が裏返ったりしていたので、ちょっと聞き取りにくかったけど…………とりあえず褒められている気がしたので、なんとなくでお礼を言ってしまっていた。

 

 

 

「んで、今日はどうしたんだ? たまたま観に来てくれたってわけじゃなさそうだけどよ」

 

「えっと、それはね……」

 

 いきなりホロホロに指摘されてちょっと驚いたものの、僕は頷いて明日のことを……『塔の悪魔』とその討伐に行くことを話すのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……というわけで、その『塔の悪魔』を倒しに、トトリちゃんやロロナ、他の皆と一緒に行くことになったんだ」

 

 途中から並んでベンチに座って話していた僕らだったけど、とりあえずは経緯を伝え終えたところで話を切った。

 すると、やっぱりと言うべきか、大昔に国単位の勢力で塔に封印されたという『塔の悪魔』の存在に驚いているようで、リオネラさんは「信じられない」といった様子で……でも、僕を(うたが)ったりしているわけでは無さそうで、疑いの目ではなく心配するような目を僕に向けてきてくれていた。

 

 

 そして、僕がそう感じたのは間違いでは無い事は、リオネラさんの口から出てきた言葉からすぐにわかった。

 

「マイスくんやロロナちゃんが強いことは、私も知ってるけど……その、大丈夫なの?」

 

 本当ならここで安心させられるようなことを言ってあげるべきなんだろうけど……正直なところ、『塔の悪魔』についてはわからないことだらけで「戦ったら勝てるか?」なんてこともわからないから、「絶対勝てる」とはウソじゃないと言えない。

 ……となると、僕は何と言えばいいのやら。やっぱりウソは言えないし……。

 

「うーん……『塔の悪魔』が強いことは間違い無いんだけど、こっちもとっても強いとは思うし……でも、やっぱり『塔の悪魔』は未知数なところが多くて、絶対とは言えないんだよね」

 

「そう、なんだ……」

 

「おいおい。そこは嘘でも「僕一人でも倒せる」ってくらいは言えってんだよ」

「それは言い過ぎ。でも、マイスが馬鹿真面目ってことは知ってるけど……確かに、もうちょっと自信のある言葉を聞きたかったわね」

 

 案の定と言うべきかリオネラさんには余計に心配され、ホロホロとアラーニャからはダメ出しを受けてしまう。

 

 「事実」であり、「大丈夫」って言えるようなウソじゃないことといったら何かあったかなぁ……?

 ……あっ、あれなら、問題無いんじゃ……?

 

「大丈夫! もしもの時は僕の『魔法』でみんな一瞬で逃げ出せるから!」

 

「いやまあ、そりゃそうかもしれねぇけど……」

「そう後ろ向きに自信を持たれても、ちょっとコメントし辛いわ……」

 

「ああ……それもそうかぁ」

 

 冷静に考えれば、すぐにわかることだ。僕としたことが……一旦落ち着いて、冷静にならないとなぁ……。

 

 

 

 「はぁ~」と息を吐き、目を(つむ)ってゆっくりとベンチの背もたれにもたれかかってみる。

 

 自分では普段通りのつもりでも、『塔の悪魔(未知の強大な敵)』との戦闘を前にしてかなり緊張してしまっているのかもしれない。ほどよい緊張は集中に繋がったりもするしいいんだけど、緊張しすぎると逆に体が動かなくなってしまったりするから問題になる。それが無自覚だった場合はかなり危険だろう。

 なら、緊張をほぐせばいいんだろうけど……さて、どうしたものか……。

 

 

 そう悩んでいると、不意に(ひたい)の上あたりにある髪に何かが触れたような気がした。時折流れるそよ風とかとは違い、全体的にじゃなくて、こう部分的に何かが触れたような……?

 

 当然気になってしまい、反射に近い感じですぐに瞑っていた目を開いたんだけど、そこに見えたのは……

 

「あわわっ……えと、あっと……!」

 

 顔を真っ赤にして目を泳がせているリオネラさんだった。

 ついさっきま僕と並んでベンチに座っていたはずなのに、いつの間にか立ち上がってて座っていた僕の前まで来ていたみたい。……色々考えてて、そっちに集中しすぎてたから気付けなかったのかな?

 

 ちょっと首をかしげながらそう考えていたんだけど……突然、顔をなお真っ赤にしたリオネラさんが「あのっ!」と声をあげた。

 

「い、今のは、そのっ……! あ……アレなの! 自信が持てて、無事に帰ってこれるようにっていうおまじないっていうか、魔法っていうか……そ、そそういうのだからっ!!」

 

 ……一瞬「はて? なんのことだろう?」って思ったけど……おそらく、僕の髪に何かが触れたことの話なんだとなんとなく理解した。それ以外に心当たりが無いって言うのもあったんだけど……。

 効果があるかどうかは当然不明だけど、悪い気はしないしなんとなく嬉しかったから、僕は目の前にいるリオネラさんにお礼を言う……そのうれしさからか、自然と笑顔になっているのが自分でもなんとなくわかった。

 

「そっか。……ありがとう!」

 

「っ……うん!」

 

 

 それにしても、おまじないかぁ。てっきりリオネラさんが昔から使っている『魔法』ってものを浮かしたり動かしたりするモノばかりだと思ってたんだけど、こういうのもあるんだなぁ……。

 ()()()()()()()()()()()()()()、『塔の悪魔』の討伐から帰ってきたら、一回詳しく聞いてみよっかな?

 

 




 リオネラが何をしたのか……まあ、いわずもがなアレなんですけども。
 他のルートじゃあまだまだなのに、一人で勝手に三歩くらい前を行ってしまっているリオネラ。……「髪の上から」とかちょっとへたれてはいますけどね……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リオネラ【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

 『マイス「」』とありますが、第三者視点となっています。ご了承ください。






※2019年工事内容※
 細かい描写の追加、句読点、行間……


 

【*3*】

 

 

***青の農村・集会所前広場***

 

 

 

 

 『青の農村』。

 その中心部にあたる『集会所』の前の『広場』は、お祭りなど村で行われるイベントの際に活用されることの多い開けた場所だ。

 

 そんな広場に、今日はお祭りでもないのに人だかりが出来ている。いや、正確には人だけでなく『青ぷに』や『たるリス』、『ウォルフ』などといった『青の農村(この村)』の一員であるモンスターたちも交じっている。

その人だかり(?)の視線の先にあるものは……

 

 

 宙を自由自在に動き回り舞う黒猫と虎猫の人形。その二体をまるで踊っているかのように動きながら、見えない糸を扱うように指を動かし操る人形使い。

 

 

 世にも不思議な『人形劇』。……なのだが、公演は定期的に行われているため、この光景は『青の農村』や『アーランドの街』では実はよく見られる光景だったりする。

 

 

 その人形劇もちょうど終幕を迎えたらしく、二体の人形と人形使いが(そろ)ってお辞儀をすると、観客たちからは大きな拍手がわき上がり、それに交じって歓声や口笛、あとはモンスターたちの鳴き声も聞こえてきた。

 一通り拍手が鳴りやむと、観客たちは各々散っていったり、人形使いにおひねりを渡したり……子供は人形たちに跳びつこうとしたりする。

 それも落ち着き出すと、人形使いが未だに残っている観客たちに対して改めてお辞儀をして、その場を立ち去るのだった……。

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 

「ふぅ……」

 

 広場から離れた人形使い……リオネラが、家に入ってから短く息を吐いた。

 人形劇は長年続けてきているとはいえ、あれだけ踊れ(動け)ば少しは息も上がるだろうし、緊張も全くしないわけではないだろう。

 

 緊張など(それら)の最中にあったリオネラがようやく安心してひと息つける場所……それが『マイスの家(ここ)』なんだろう。

 活動拠点を再び街のほう移してからも度々訪れ、時には泊まっているため、正に第二の家とでも言えるのかもしれない。

 

 

 さて、そんなようやくひと息つけたリオネラに声をかける人物が……それはもちろんこの家の主であるマイスだ。

 

「お疲れさま、リオネラさん。今日も大盛況だったね」

 

 そう言いながらマイスはリオネラにタオルを手渡した。テーブルのほうに目を向けてみると、水差しとコップもあるため飲み水の用意もできているのだろう。万全の用意……それもそのはず、マイスは劇を観客の一人として見た後、リオネラがおひねりを受け取ったりしているうちに一足先に家に戻り、準備をしていたのだ。

 そして、それが『青の農村』が正式にできる少し前からの、ここでの人形劇公演のいつものことだ。

 

 その差し出されたタオルを受け取りながらリオネラは……ちょうどマイスと目が合ってしまったからか少し顔を赤くして、慌てながらもうっすらと笑みを浮かべてお礼を言う。

 

「ありがとうっ。今日の劇……どうだった?」

 

「うん! すっごく楽しかったよ! 他のお客さんたちも満足してるどころか次が待ちきれない感じまでしてたし……リオネラさんたちの人形劇はやっぱりすごいなぁ」

 

「そ、そう?」

 

 マイスに褒めちぎられて、なお顔を赤く染め恥ずかしがるリオネラ。

 と、そこに虎猫と黒猫の人形……アラーニャとホロホロが話に加わってきた。

 

「まぁ、そのあたりは飽きさせないためのお話作りと演出の工夫、日々の研究の結果よ。後は、ここ最近大きな失敗もしないで上手くやり続けれているからじゃないかしら?」

「だな。いやぁ~よかったぜ。マイスが『塔の悪魔』とやらを倒しに行ったあん時にちょうど公演の予定が無くってよ」

 

 アラーニャの言葉に「なるほど」と頷いたマイスだったが、続くホロホロの言葉に「え?」と首をかしげた。

 

 

 どういうことだろうと考え出すマイスに、それを察したホロホロが「それがだなぁ?」とことの証明を話し始めた。

 

「リオネラがな、マイスから話し聞いたあの日の夜にな、嬉し恥ずかしでベッドの上でもだえてたんだけどな……時間が経つにつれて「マイスくんは強いけど、『塔の悪魔』ってすごく怖そう……大丈夫かな……?」って一人で心配しだしたんだ」

 

「ちょ……! ホロホロ!?」

 

 語り始めたホロホロを慌てて抑え込むリオネラだったが、そのホロホロに変わり、今度はアラーニャが「そうそう」と引き継ぐようにして喋りだした。

 

「でね。次の日……マイスが出発した日なんだけど、一人でいるとドンドン不安になってきちゃうからって、フィリーに会いに『冒険者ギルド』に行ったのよ。でも、当然フィリーはお仕事してて、ずっとは話せなくって、ちょっと話したら辺りをウロウロして、また仕事の合間に話して、またウロウロして……って繰り返してたら、クーデリアに怒られたのよ」

 

「あはははっ……なんて言うか、その……ごめんね?」

 

「あっ、いや、別にマイスくんが謝るようなことじゃ……! もうっ! ホロホロ、アラーニャ!」

 

 自分の行動が原因でそうなってしまったのだと考えたのか謝るマイスに、そのことを否定しながらアラーニャとホロホロを叱ろうとするリオネラ。

 しかし、アラーニャとホロホロは気にした様子は見せず、続けて話し出した。

 

「でも、本当の事でしょ? あんな「心ここにあらず」な状態だったあの日、人形劇の公演があったら大失敗間違い無しだったわよ?」

 

「うっ……」

 

「そうだぜ? マイスが何かしでかす度にあんなんなってちゃあ、コッチの身が持たねぇってもんだ」

 

「それは……そうかも、だけど……」

 

 ふたりに言われて、()()()()()()()()()言われたことに心当たりがあるようで、シュンと委縮してしまうリオネラ。

 

 

 そんなリオネラに救いの手を差し伸べたのは、他でもないマイスだった。

 

「それじゃあ久しぶりにさ、今度一緒にちょっとした冒険に行こうよ! 学校の事とかで少し忙しいけど、そのくらいの時間を作ることは出来るから!」

 

「えっ?」

 

「いっつもノンビリしてるように見えるかもしれないけど、衰えたりはしてないし、むしろ強くなってるってところを見せてあげるからさ!」

 

 最初は疑問符を浮かべていたリオネラだったけど、マイスがそこまで言って何も察せないほど鈍感というわけでも無かった。

 

 

 つまり、マイスの頭の中では……

 

「行くって報告した時には笑顔で送り出してくれたけど、やっぱり心配させちゃったんだなぁ……」→「心配させたのって、僕の実力に不安な印象があったから?」→「そういえば、長い間一緒に冒険してなかったっけ?」→「長い間実力を見れてなかったら、不安にもなるかぁ……」→「じゃあ、一緒に冒険に行って間近で見せてあげよう!」

 

 ……という流れになっていたわけだ。

 そして、それをリオネラは察してみせた。

 

 

「馬鹿真面目っていうか、真っ直ぐすぎる天然ボケが地味にメンドいんだよなぁ」

「その面倒さが子供っぽく思えて愛らしい感じもするんだけどね?」

 

「マイス君らしいんだけどね……あはははっ」

 

 ちょっと困ったように笑うリオネラだったが、「でも」と言葉を続けた。

 

「そ、それに、一緒にお出かけに行けるのは、その、嬉しいし……」

 

「えーっと? つまりそれはー……結果オーライってことか?」

「……じゃないかしら? まったく、マイスもマイスだけど、リオネラも大概(だいがい)よね」

 

 ちょっと呆れ気味に言うアラーニャだが、その声の中からは呆れ(それ)以外の感情も少なからず感じられ……むしろ全体的には優しい温かな感情が大半を占めているように思えるくらいだった。

 

 

 

「うーん……この日は予定からしてずらせそうにないから無理として……コッチのをここにずらせば行けそうかな? それと、あとはここも……」

 

 カレンダーに目をやり冒険に出れそうな日程を本格的に考え、いくつか候補を絞り始めているマイス。その顔は、お祭りの日を楽しみにする『青の農村』の子供たちのようにイキイキとしていた。

 リオネラは受け取っていたタオルで顔を(ぬぐ)いながら、そんなマイスの姿を見て自然と微笑みを()らすのだった……。

 




 ……もう本当になんで付き合ってないんでしょうねぇ?
 「作者が言うな」っていう話しなんですが……。

 個人的にはやっぱり次の【*4*】が興味深いところです。そこで他のキャラとは違う「何故、くっつかなかったのか?」がわかってくるのですが……他のルートを見ながら、お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リオネラ【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

※注意※
 お話の都合上、モブキャラが出てきます。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、句読点、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***アーランドの街・広場***

 

 

 

「……えっ?」

 

 そんな間の抜けた声とほぼ同時に、ボトボトと何かが石畳で舗装された広場の地面へと落ちた。

 地面に落ちたもの……「ホロホロ」と「アラーニャ」という名前を持った黒猫と虎猫の人形。その人形たちの持ち主であるリオネラは、人形たちを拾い上げることも忘れてしまうほど呆然としていた。

 

 

 話しかけているのは、彼女(リオネラ)の人形劇を観に来てくれていて、人形劇が終わってからもホロホロとアラーニャと戯れたくてワイワイと寄ってきた子供たちだった。

 

「わー!?」

「ほろほろ、あらーにゃ、どーしたのー?」

「大丈夫ー?」

 

 浮いていたはずのホロホロとアラーニャが落っこちた事に子供たちは驚いている……が、この場でその予想外の事態を引き起こしたのは、実はその子供たちだったりする。

 そんなこととは知らずに、落っこちたホロホロとアラーニャをリオネラに変わって拾い上げてあげる数人の子供。

 

 ……と、相変わらずリオネラは呆然としていたが、子供たちによって助け上げられたホロホロとアラーニャが、その子供たちの腕の中から飛び出し、それぞれ定位置であるリオネラの左右へと飛んでいった。

 

「あーいやぁー……これは流石に驚いたぜ。まさかオレ様たちが放り出されるなんてな」

「確かに驚いたけど、これは理由が理由だし仕方ないと思うわよ?」

 

 アラーニャの言葉に「まあな」と返すホロホロ。

 そんなやり取りをする()()()に、子供たちの内の一人が声をかける。

 

「ほろほろー? あらーにゃー? だいじょーぶー?」

 

「ああ、わりーな心配かけちまってよ。リオネラ(こいつ)はこんなんなっちまってるが、オレ様たちはもう大丈夫だ」

「ええ、ホロホロの言う通りよ。だから……ってわけじゃなけど、さっきの話、詳しく聞かせてくれないかしら?」

 

 まだ呆然としているリオネラをよそに、()()()()()()()()()()ふたり。……これで()()()()は一人であるのだから、驚きである。

 

 アラーニャからの()()()に、街の子供たちは顔を一度見合わせた。それからふたりに向かって()()()()()()()()について聞き返すのであった。

 

 

()()()()()()()、マイスが結婚するって話》》のことー?」

 

 

「そう。そのことよ」

「やっぱ、聞き間違いじゃねーんだな……」

 

 頷くアラーニャと、やれやれといったジェスチャーをするホロホロ。

 そんなふたりを見てか見ずにかはわからないが、子供たちが各々(おのおの)勝手に話しだした。

 

「マイスが結婚するって話で街のみんなが言ってるんだ」

「お母さんも、お父さんも同じこと言ってた」

「『青の農村』でも大騒ぎだってー」

「わたしも、そんちょーさんとけっこんしたいなー」

 

 最後の子の言葉を皮切りに「本当かー」、「あたしもー」、「えー、そう?」などとぺちゃくちゃ喋りはじめる子供たち。

 

 

 そんな様子を見ながらも、ホロホロとアラーニャは言葉を交わし合う。

 

「マジで、結構大変なことになってるみてーだな」

「そうね。そんな様子は無かったように思うけど……」

 

 話を信じられない様子のアラーニャだが、「ありえない」と切り捨てることもできないようで言葉を詰まらせていた。その言い切れないと思っている理由を代弁するかのようにホロホロのほうが喋りだす。

 

「火の無いところに煙は立たねぇって言うからな。それに、マイスって恋愛とかに(うと)そうだけど、いろんな女と仲良くしてるからチョットやポッとのきっかけでゴールインっていうのも有り得そうだもんなー」

「そうよねー。むしろあれだけ仲の良い()が多いのに恋愛経験が無さそうって事のほうが不思議なくらいで「実は……」って誰かと付き合ってても、納得できちゃいそうだもの」

 

 ふたりして、互いに言ったことに頷き合う。

 

「どうしたものかしら……って言いたいところだけど」

「まぁ、ひとまずリオネラを落ちつける場所に移動させてからだな。考えるのはそれからだ」

 

 

 とりあえず、ここからの行動が決まった二人は……自分たちの意思で動いているのではないかと思えるくらいひとりでにスムーズに動き始めた。最早、リオネラの持っている(チカラ)の一部は無意識中に自立行動している、と言っても信じて疑わないレベルである。

 そうして動いたアラーニャとホロホロが、未だに呆然と立ち尽くしているリオネラの肩をゆすった。

 

「ほらっ、リオネラ。聞いたことを深く考えるのは後にして、とりあえず撤収するわよ?」

「いい加減戻ってこいってんだ。頭カラッポにして、考えるのは帰ってからだ!」

 

 途中からホロホロはリオネラの顔をペシペシ叩きはじめたが……その甲斐あってかどうかはわからないが、焦点が定まっていなかったリオネラの目は元に戻り、数回目をパチクリと(またた)かせた後「あれ?」と首をかしげた。

 

「ええっと……劇が終わってから、私は、この子たちと……確かお話をしてて……」

 

「ハイハイ。終わったのは終わったんだから、とりあえずもう帰りましょ」

「そうそう。もう帰っちまおうぜ? ほらっ、ガキ共にあいさつしな」

 

「あっ……それじゃあ、みんな。また観に来てね……?」

 

 

「「「「はーい、またねー!」」」」

 

 

 好き勝手に喋っていた子供たちだったが、リオネラのお別れの挨拶には仲良く返事をして、リオネラたちさんにんを手を振って見送るのだった……。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

***借り部屋***

 

 

 

「ただいまーっと」

「ふぅ。やっと一息つけるってもんだぜ」

 

「…………」

 

 『アーランドの街』での活動拠点としてリオネラが借りているとある部屋。そこまで帰ってこれた()()()()……その内のアラーニャとホロホロがある種の安堵を覚えてちょっと気の抜けた声を出したのに対し、リオネラはここに帰ってくる途中からずっと黙り込んでしまっていた。

 その理由をわかってしまっているふたりは、放置しておくわけにもいかずリオネラに言葉を投げかける。

 

「ちゃんと頭の中に入ってきてて、思い出しちまってるんだろ? さっきの話がさ」

「……まぁ、ちょっといきなりすぎて色々ついてけない感じはするわよね。だから、ちょっとの間、考える時間を取って――」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

 アラーニャの言葉に割り込むようにして、リオネラの口が動いた。

 

「驚いたけど……でも、マイス君にとって、幸せで大切な、門出なんだよ? お友達の私たちがめいいっぱいお祝いしてあげなくちゃ!」

 

 ハキハキと元気な声で言うリオネラ。

 だが、それに対するアラーニャとホロホロ言葉は対照的で、とても落ち着いたものだった。

 

「……リオネラ。わかってると思うけど……あなたの中にいるワタシたちには、あなたの思ってることって筒抜けなのよ?」

「そうだぜ? 馬鹿みたいに無理して言ってるのも丸わかりだってんだ。だからよ――」

 

「無理して言ってなんか、いないもん」

 

 幼いことから一緒に……一心同体(三心同体)でいたからだろうか? 今ここにいるのがホロホロとアラーニャだけだからか、意地を張っている子共のような口調になって今度はホロホロの言葉を(さえぎ)ってリオネラは言う。

 

 

「わかるでしょ? 周りの人たちからも、お父さんやお母さんからも()()()()で見られて、逃げるようにしてふたりと一緒に家を出ていって……色々あって、人形劇で生計を立てるようになって……でも、この(チカラ)で操る「見えない糸の人形劇」を怪しまれだす(たび)にまた逃げるように他の場所へ行って、そんな感じて旅する大道芸人になって……ずっと、ずっと一人(さんにん)で逃げ回るような生活をしてきて……」

 

「…………」

「…………」

 

「でも、『アーランド(ここ)』に来てから変わったの。これまでに無いくらいいろんな人とお友達になれて、人形劇以外にもいろんな楽しいことができて……(チカラ)のこともロロナちゃんもマイスくんもフィリーちゃんも「怖くない」って言ってくれて、さんにんとも一緒なのことも受け入れてくれて、これまで通りに接してくれて……」

 

「…………」

「…………」

 

「そしてマイスくんは……フィリーちゃんに協力してもらいながら、マイスくんの世界の『魔法』を杖に宿し使う実験を何回もして、『アーランド』の人でも杖無しで使えるようにって『魔法』そのものも改良していって、人を傷つけない安全なものに組み替えたりもして……そしてソレをこの前のお祭りで発表して、教える環境も作って……お祭りとか、他のことがあっても、何時間も、何年もかけて、「不思議なチカラ」が当たり前にある『世界』を作ってくれてる」

 

「…………」

「…………」

 

「わかってるよ……そうしてるのが、私()()()の為じゃなくって、マイスくん自身がただやりたくてやってるだけだって……でも、でもね」

 

 

 部屋の中に、唯々(ただただ)リオネラの声だけが響く。

 ホロホロも、アラーニャも、何も言わずに、言えずに、絶えず口から溢れ出してきているリオネラの言葉に、想いに飲み込まれるだけ……。

 

 

 

「たくさんの友達がいて、楽しいことにあふれてる街と村があって、私たちのことを受け入れてくれる人たちがいて、不思議なチカラがあたり前な……「()()()()()()()()()()()」がある――――これ以上の幸せなんてないんだよ?」

 

「…………」

「…………」

 

「だから、私は今のままでいいの。……ロロナちゃんと、クーデリアさんと、イクセルさんと、フィリーちゃんと、ホムちゃんと、マイスくんと、ホロホロと、アラーニャと……みんなと一緒にいられる『アーランド(ここ)』に居られれば、それで満足なの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を思ってるかわかるって言ってるでしょ、リオネラ」

「それにな。本当にそう思えてる奴なら……そんな風に泣いたりしねぇんだよ。このアホ」

 




 誰か、早く誤解を解いてください、お願いします。


 これ、『リオネラルート』以外でもあってると考えたら……正直、ストレスで胃が死にそうです。だから、ここまでディープな感じには無い……ってことになると思います。
 その当たりについては、ルートごとにメイン以外のキャラにも触れる機会を作るつもりですので、そこで補足できればと思っております。


 とりあえず、自分の気持ちを理解した上で押し殺しちゃってるこのルートのりおちゃんには本気でこれ以上無いくらい幸せになっていただきたいと思っています。切実に。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リオネラ【*5-1*】

 リオネラの心情というか、内面の話しが多い今回。
 色々と抱え過ぎなんですよね、この娘……。そして、やっぱり、今回だけで全部解決できる気がしないという。







※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……


【*5-1*】

 

 

 

 

 

 「友達ならちゃんと祝福してあげないと」

 「私は今、十分すぎる程めぐまれて幸せなんだ」

 「マイスくんが結婚するのは、()()()()じゃないほうがいいに決まってる」

 

 ……そう自分に言い聞かせ続けた。

 

 

 アラーニャとホロホロはそれを否定するけど……でも、私の思っていることは間違ってないと思う。

 マイスくんが幸せを掴もうとしている。それを邪魔してもいいのだろうか? 私が今更割って入るのは違うんじゃないか?

 

  ……もちろん、「もしも」と思わないわけじゃない。

 これまで言いだせなかったこの()()を打ち明けられたら、どれほど良かっただろう? その()()を受け入れてもらえたら、どれほど幸せだっただろう?

 

 でもそれは、今はもう有り得ないこと。他でもない、私自身が掴み取ろうとしなかった幸せ(もの)

 街での公演をマイス君が観に来てくれたり……『青の農村』での公演の後にタオルとか飲み物とかを用意してもらって、そこで感想を聞いたり……フィリーちゃんと二人で遊びに来て、一緒にお喋りしたり、ゴハンを食べたり……。

 それで、私が、十分すぎるほどの幸せを感じていたから、満足してそれ以上のことを望まずに「ずっとこんな時が続けば……」そう思う()()だったから……。

 そうやって何もしなかったから、気付けば自分の手の内からこぼれ落ちていた。

 

 

 ……考えてみれば、当然のことなのかもしれない。だって、マイスくんはいつも「自分がしたいから」と何かをする。例え、他人(ひと)からの頼み事であってもそう言い、それが結果的に「他人(ひと)のため」になっても、マイスくんはそんな気は無いし、スタンスは変わらない。

 『()()()()()も、間違い無くマイス君がそうしたかったからってだけで、()()()リオネラさん()のために」ってしてたことじゃない。

 

 私もわかっている……わかってる()()()だった。

 

 私が「特別」な気持ちを抱いても、マイスくん(向こう)が「特別」だと思っているわけがない。

 マイスくんにとっては誰でも同じなんだ。だからこそ、()()()()にも手を差し伸べてくれた、怖がらないでくれた、きらわないでくれた……

 

 わかってる……わかってるのに、どうしてこんなに…………

 

 

 

 

 

 そして…………

 

 

 どうして()()()()()になったんだろう?

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

***夜の領域***

 

 

 

「「どうして」って、それは……ねぇ?」

「まぁマイスのせいだろ。断れなかったオレらもオレらだけどよ」

 

 

 私の思考に返答をするのは、いつも私の()()にいるアラーニャとホロホロのふたりだ。

 そんなやりとりをする私たちが今、どこにいるのかと言うと…………星々が輝く夜が毎日一日中……年中常に夜の採取地『夜の領域』に()()()()()()来ていた。

 

 

 ……えっと、本当にどうしてこんなことに……?

 

 

 『夜の領域(ここ)』にいるのは、マイスくんと私(とアラーニャとホロホロ)だけ。他にロロナちゃんとかクーデリアさんとかがいるわけでもない。……本当に二人っきりなのだ。

 

 マイスくん、結婚前なのに、こんなことしてていいのかな……?

 

 

 

「いいも何も、マイス(むこう)から誘って来たんだから、問題ねぇだろ?」

「まぁ、一応は()()してたわけだし……それを律儀に守るあたり、とってもマイス(あの子)らしいといえばらしいんだけどね」

 

 

 アラーニャの言う「約束」というのには、私も覚えがあった。けど、マイスくんに「よし! 行こう!」って言われるまで忘れてたんだけど……主に、マイスくんが結婚するって話で頭がいっぱいになってたせいで

 

 

 「約束」

 ……たしか、あれはマイスくんがロロナちゃんのお弟子さんのトトリちゃんについて行って『塔の悪魔』を倒しに行ってきた後のことだった……はず。

 

 その時、帰って来たマイスくんにアラーニャとホロホロが「マイスが『塔の悪魔』を倒しに行っている時に人形劇の公演があったら、絶対大失敗してた」みたいなことを言ったのが始まり。それで何をどう思ったのかマイスくんが「確かに最近一緒に冒険したりしてないから不安になっちゃうかぁ……じゃあ、今度一緒に冒険に行こっか!」と、「何が「じゃあ」なの?」ってツッコミたくなる微妙にズレたことを言いだして、そのまま「今度、『学校』のこととかの都合を調整するから!」っていつの間にかそういう約束になったのだ。

 

 ……で、今回、それが本当の本当に行くことになったわけで。

 この約束をした時は、まだ結婚の話なんて聞いてなくて、唯々(ただただ)マイスくんと一緒にお出かけできることが嬉しくて頷いたわけだけど…………結婚のことでちょっと沈んでるところに「それじゃあ、約束通り行こっか!」とマイスくんが来た時には色んな気持ちがゴチャゴチャしてどうしたらいいかわからなくなって……

 

 結局、色々混ざった中から「マイスくんと一緒にいたい」というただ単純な私の欲で……マイスくんやその結婚相手のことも考えずに、こうして二人で冒険に出たのだ。

 

 

「はたから見たらどう思われるかはわからないけど……でも、わたしたちはリオネラの判断が間違ってるなんて思ってないわ」

「ずっと言ってんだろ? オマエはもっと自分に素直になれって。今更おせーかもしんねぇけど、でも、自分に嘘つき続けるのは辛いばっかだぜ?」

 

 

 けど、()()()()ところで、どうなるって言うんだろう?

 

 確かに、私の中に押し留められて行き場を失ったままのこの()を……()()をぶつけることができたなら、私が今感じている悲しみや苦しみから少なからず解放されるとは思う。

 

 でも、それをぶつけられたマイスくんは?

 きっと、唯々(ただただ)鬱陶(うっとう)しく思うだけだろう。結婚が決まって、これからって時に横槍を刺されるんだから、当然のことだ。……結婚すれば(えん)が切れるとは思っていない。マイスくんはそんな薄情な人じゃないって知ってるから。でも、それでも、幸せな結婚生活を邪魔する人が相手だとすれば、その限りではないはずだ。

 そのせいで、今、こうして()()として過去にした約束をしっかりと果たしてくれてるマイスくんが……その()()としての()()()を切ってくるかもしれない。

 

 

 マイスくんとの繋がりを切られた私に、何が残るんだろう……?

 ロロナちゃんも、フィリーちゃんもいるのに……今の私には、マイスくんとの繋がりを切られることが()()()()()()()()()()()

 

 だから、嫌だった。

 マイスくんに迷惑をかけるのは。

 迷惑をかけて嫌われるのは。

 

 だから、この()()は表に出さない。マイスくんに、伝えようとはしない。今の関係が崩れてしまうのが怖くて怖くて、恐ろしいから……。

 

 

「けどよ、こんなこと考えたのはこれまでで初めてじゃねぇだろ? 何回も考えて、何回も同じ答え出して、何回も自分に言い聞かせて……それでも納得できねぇから、またこうして問答しちまってる」

「このままだと、たぶん、一生()()で足踏みを続けるだけになっちゃうわよ? ワタシは、リオネラにそんな風になって欲しくないわ」

 

 

 ……じゃあ、どうすればよかったの? どうしたらいいの? これから何ができるって言うの……?

 

 

「簡単よ。()()()()()()()()()()()()。自分の中だけで納得した気になってるから、いつまでも続いちゃうの。……一人でじゃなくて、ちゃんと相手(マイス)に面と向かって伝えて、振られて、話を終わらせる。それでやっと()()()がつけられるものなの。相手にも、自分の気持ちにも、ね」

 

 でも、そんなことしたらマイスくんが困るし、それにその結婚相手の人もマイスくんになんて思うか……

 

「なんだっ? オマエの惚れた男は、心に決めた相手がいるってのに他の女に言い寄られたら簡単になびいちまうような軟派な奴なのか? それに、オマエの惚れた男は、自分のことも信頼してくれないような女を嫁に貰おうとする目の曇った奴なのか?」

 

 それは……それは……!

 

(ちげ)ーだろ? 」

「ワタシたちには御見通しよ?」

 

 ……私だって、わかってる。私自身が、わかっていない()()を続けてることも、ふたりが言いたいことも。

 

 

「オマエはただ、怖がってるだけなんだよ。「嫌われること」をじゃなくて「ふられること」をな。ふられた後、関係が崩れるとかを心配してるふりをして、そのこと自体から目をそらしてる。嫌なんだよな、「振られること」自体が。「拒絶」されるのが」

マイス(あの子)の優しさを知ってるから、想いを受け入れてもらえなくても、それで友達って関係が終わるなんてリオネラは全く思ってない。でも、拒絶されるって行為自体がトラウマに近いモノになっちゃってる。アナタの両親が、周りの人たちがそうしたあの時から……」

 

 

 ……だから、怖い。

 これまで以上に拒絶(それ)が怖い。

 そして、大切な……大切な友達のはずなのに、その友達を信じきれない自分に寒気が走り、そのゾワゾワとした感覚が私をより不安にさせてくる。

 

 

 なんで? どうして?

 こんなにも……魔法(チカラ)のことを初めて明かしたあの時よりも……不安で、怖くて、どうしようもなくなってしまうの?

 他でもない、あの時魔法(チカラ)のことを受け入れてくれた人なのに……。

 

 

「それはね、リオネラ……」

「それはオマエがだな……」

 

 

 

 

 

「「マイスのことを、それだけ好き(想ってる)ってこと()」」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「……ね……ん……リオネラさん?」

 

「……っ!」

 

 すぐ横から聞こえてきたマイスくんの声に、私はハッとした。

 地べたに座った状態のまま、周りを確認する。

 

 あたりは星が輝く一面の夜空。人工物と思ってしまうほどきれいで、一辺が10mほどありそうな巨大な立方体の岩と、それらが積み重なり(つら)なって出来た足場。そして、周囲に浮かんでいるものさえある立方体の岩が、この永遠の夜空をより幻想的なものへと仕立て上げている。

 ここは、間違い無く『夜の領域』だろう。

 

 

 

 ……そうだ、思い出した。

 

 冒険でここまで来て、それから襲ってきたモンスターを撃退して……それで、一通り敵がいなくなったのを確認して、それから「ちょっと休憩しよっか」ってことになってマイスくんが何か飲み物を用意してくれはじめて――――私はいつの間にか思考に浸ってしまってた。

 

 隣を見ると、いつの間にか火を起こして小型の鍋で何かを温めているマイスくんがいた。

 鍋をかき混ぜつつも、その目は少し心配そうにチラチラと私の様子をうかがってくれているのがわかる。

 

「なんだか、目のあたりがちょっとギューってなってたけど、どうかしたの? ハッ!? もしかして、どこか怪我でも……!?」

 

「う、ううんっ! 怪我はしてないよっ」

 

「リオネラだって、そこそこはやるし、しぶといのよ?」

「まっ、いつものマヌケっぷりは健在だから、時々、ぽけーってしてるだけだって」

 

 私に続き、アラーニャとホロホロも「大丈夫」っていう風に伝える。

 それでマイスくんは引き下がってくれたんだけど……でも、そこまで私が酷い顔をしていたのか、「でも……」と付け加えるようにして言ってきた。

 

「何かあったら、ちょっとしたことでも言ってくれていいんだよ?」

 

「ほんとだよ? そもそも、あの戦闘だってほとんどマイスくん一人で全部倒しちゃったようなものだし……」

 

「えっとまあ、戦う前に逃げてくれるモンスター()も多くなってくれたけど、いざ戦うってなると、どうしても力が入っちゃうって言うか……特に今回は、冒険の趣旨が「リオネラさんに僕の強さを再確認してもらう」だったから、「頑張らないと!」って余計に気合が入っちゃったって言うかー……」

 

 少し恥ずかしそうにしながら「あはははっ」と笑うマイスくん。

 そんなマイスくんが鍋で温めていたもの……『ホットチョコレート』をふたつのマグカップへと注ぎわけ、そのうちの一つを「はいっ」と私に渡してきた。

 

 あぁ……マイスくんは変わってない。初めて会った時、自分の作った作物や調理した料理を自慢げにしていた頃のマイスくんのままだ。それが自分の強さに変わっただけで、少し恥ずかし気にけど誇らしげにしている……どこか子供っぽさの残った感じ。

 そう、マイスくんは変わってない。変わったのは私。信じるべき友達()を人事きれなくなり、見たことも無いマイスくんの結婚相手()(ねた)んでしまうような性格にもなった。

 

 だからこそ、私はマイスくんに相応しくない。想いが実のならくて当然だ、そうなって当然のこと。ゆえに、わたしは一歩引くべきで、私の中でアラーニャたちがそう言ったように、ちゃんとケジメをつけるべきなのだ。

 

 

 

 私の隣に座り、無限に広がっていそうなほど壮大な夜空を見上げているマイスくんが、自分の『ホットチョコレート』に一口(ひとくち)(くち)に付けてから「はぁ~」と息を吐いてから語りだした。

 

「『夜の領域』でこんなにノンビリするのは初めてだけど、ほんと綺麗に星が見えていいよね。うーん……アッチとアッチとがああ結ばって『十字架座』……いやっ、アレがああなって『かんざし座』……? って、『シアレンス(あっち)』のほうと星が同じように並んでるわけじゃないから、僕の星座知識は役に立たないか」

 

 空の星を指差して結ぶように動かしたりした後に、空を見ていたその顔を私の方に向けて、困ったように笑うマイスくん。

 その後も、「季節は違うけど『モコモコ座』や『バッファモー座』に見えそうなヤツもあるような……?」って夜空を見上げては(くう)に指を走らせている。

 

 

「マイスくん」

 

「えっと、おすすめは『かぶ座』……いや、『かんむり座』かな? それっぽいのは……」

 

 そう言ってなおも夜空に目を向けるマイスくんだったけど、こっちの様子をうかがうようにチラッと視線を向けてきて……その目を止めて、そのまま私の方を向いてくれた。……私、今、どんな顔をしてるんだろう……。

 

「今日は……今回は、本当にありがとう」

 

「へっ、う……うん? どういたしまして? でも、これくらい当然って言うか、そもそもは僕が不安にさせるのが原因だし……?」

 

「本当に嬉しいの……でも、()()()()()()()()()

 

 私が言っていることが理解できないのか、マイスくんはより一層首をかしげた。

 

 

「二人っきりでお出かけ(デート)して、こうして並んで綺麗な夜空を見て、手が届くほどそばにいてお話する……マイスくんと一緒にそんな時間が過ごせるのは、私にとってこれ以上ないくらい「幸せな時間」なの。だって……」

 

 この想いを打ち明けようとする瞬間。自分の心臓が耳元で高鳴っているかのように、心音が大きく聞こえてくる……なんてことは無かった。不思議でもあったけど、思った以上に自分自身が冷静なんだということがわかった。

 それはなぜか? これまでに何度も自分に言い聞かせてきたからか、さっきの思考の際に何かを自覚ができたからか、もしくは、ふられるのがわかっているからか。

 

 

 

私は、マイスくんのことが大好きだから……愛してるからっ……!

 

 

 

 ……ああ、言った。言ってしまった。

 

 言った瞬間、自分の中で何かつっかえが取れた気がした。胸の内にあった苦しさが無くなって解放された……そんな感覚。

 でも、自分が解放される(その)ためにマイスくんに迷惑をかける……やっぱりそんな私は、マイスくんの隣に立つ資格なんて無いんだと改めて自覚する。

 だから、言葉を続けた。

 

「けど、わかってる……こんな幸せを受け取るべきなのは、私じゃないって。これで幸せになれるのは私だけだって……だから、これからは、お出かけ(デート)にはお嫁さんを連れてきてあげて? マイスくんのこの優しさはとっても素敵なところだけど、お嫁さんをやきもきさせちゃうよ?」

 

 そう言っている私は、自分で思っているようにちゃんと笑えているだろうか?

 

 甘さの感じられない『ホットチョコレート』を飲み干してしまう。

 『夜の領域(ここ)』から『青の農村』へ帰るのは、マイスくんの『魔法』で一瞬だ。だけど、ここに来るまでの時間は少なからずかかっている。……その間の時間を奪ってしまった、マイスくんの結婚相手の人には申し訳の無い事をしてしまった。けど、「これで最後だから、今回だけは許してほしい」と勝手に心の中でここにはいない人に謝罪をする。

 

 

 

「それじゃあ、早く帰ろう? お嫁さんのこと放っておくとマイスくん怒られちゃうかもしれないし、早く帰ってあげたほう……が…………?」

 

 その言葉は、どこまでが本心だろう? ……これ以上マイスくんと一緒にいてどういう顔をすればいいかわからないから、逃げ出すための言い訳……そういう気持ちが少なからず含まれていたと思う。

 

 立ち上がって、隣に座っていたマイスくんのほうを振り向いて「ね?」と催促しようとした……けど、変なことに気付いた。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 見つめてきてるって言っても、鋭い目で睨んできてるってわけじゃなくって……なんていうか、こう、呆然としてるっていうか……?

 

「ええっと……マイスくん? どっどうかした……?」

 

 私がそう問いかけると、マイスくんは「ハッ!?」としてワタワタしだして……トマトみたいに顔を真っ赤にして、私の事を見ていたはずの目も右へ左へと泳ぎ出した。

 

「うぇっ!? あ、あのっそのっ! えっと、ななな何から言えばいいのか……というかっ! あー……うー……!!」

 

 これまでに見たことがないくらい落ち着きがないマイスくん。

 その様子と言動は、普段のマイスくん以上に子供っぽいというか……それだけ慌ててる……のかな? でも、なんで?

 

 

 

「えっ、えっとね? もし違ったらゴメン……って、そんなことは無い気がするけど……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()?」

 

 

 

えっ?

 

 えっ、今、なんて……? ウソ?

 「騙された」って気持ちよりも、「よかった」っていう気持ちのほうがはるかに大きかった……。

 

「あっ、いやっ! そのころを勘違いして色々お祝いとかしてきた人とか、そのっ、イッパイいたからソコはそんなに気にしなくていいと思うよっ!? ……で、あ……あのー……? ぼ、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ーとか、ええっと……思ったり、思わなかったり?」

 

 「さっきのリオネラさん()の言葉」? マイスくんが「返事」をしなきゃいけないような言葉って……あれ? 私がさっきまで言ってたことって……!?

 

 

「ううん……ああっ……こっ、こういう時どうしたらいいんだろうね? (ウチ)のチビッコたち以外から「大好き」だとか、そんなこと言われたの初めてだから、そ、その……よくわからないっていうか……あはははっ」

 

 困ったように笑うマイスくん……じゃなくって!?

 いやっ! そのっ! ええっ!? マイスくんの言ってることって、もしかしなくても……!!

 

 

ふぇっ!? えええ、ええっとその、ねっ? さっきのは……!!」

 

「え、あ、うん。そっそうだよね? さっきのは勘違いで言っちゃったことで、別に特別な意味は無いよね? わかってるよーあはは――」

 

「ううんっ! その、()()()()()()()()()()()()()!! ……って、あっ…………~!?」

 

 マイスくんの顔が熟れすぎてるトマト……って例えも思いつかないくらい真っ赤に……それに、きっと私の顔も……!!

 マイスくんの目も未だに泳いでるけど、私の方も真っ直ぐマイスくんのことを見れなくて、アッチを見たり、こっちを見たり……!

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

「………………」

「………………」

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

「「あ、あのっ…………っ!」」

 

 

 

「えーっと……あ、あはははは……」

「うう………………」

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 チラチラと相手を見て、たまたま目が合ってはそれをそらして……。

 何か言わなくちゃ、って思って口にしようとすると……またたまたま被っちゃって、どうしようもなくって……。

 

 

 

 結局、この何とも言えない……苦しいような、幸せなような、沈黙は……

 

「……オイオイ、いつまで続けんだよ、コレ? 日が暮れちまいそうだぜ」

「何言ってるの? 『夜の領域(ここ)』はずーっと日は暮れてるわよ?」

 

 ……ホロホロとアラーニャがそんな横槍をいれるまで続いた…………。

 




 他ではやっと自覚したり、自覚までの過程だったりするのに対して、勝手に告白し始めた常に2歩先を行く『リオネラルート』!

 この最短のルート以外にも回り道したシナリオも考えたんですが……たぶん、それを書いていたら、作者の胃が死にます。


 「勘違いで」って意味じゃあ『ミミ【*5*】』よりもやらかしちゃったリオネラ。……でも、他ルートじゃあこれすらもできずに終わってるんだろうって言う話しで……本当にこの娘、マイス君無しで幸せになるにはどうしたらいいんでしょう……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リオネラ【*5-2*】

 勘違いから告白して変な雰囲気になったマイスとリオネラ。

 その後ふたりは……!?



 今回はイクセル視点です。




 あと、今更ですが『リディー&スールのアトリエ』DLC無しで一周目クリアしました!






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……


【*5-2*】

 

 

 

 

 

***サンライズ食堂***

 

 

 

 通りに面した窓から見える景色が夜の闇で黒く染まり、建物の中から漏れる光も段々と減ってきたそんな夜中。俺は面倒事になる予感がビンビンする場面に直面している。

 

 

 こんな夜中に(ウチ)に来るのは大抵酒飲みなわけで、それ故に度を越して騒ぐ奴や酔いつぶれて店内でイビキをかき始める奴がたまにあるんだが……今回はそういうのじゃない。

 客の行動が問題がある、ってわけじゃないんだ。その客自身がちょっと最近色々とあって、その言動次第でなーんとなくだが変に大事になりそうな気がするから、だから気持ち身構え気味になってしまっているわけで。

 

 まっ、どういうことかというとだな……

 

 

「えーっと。それでその、イクセルさんに相談に乗って欲しいんですけど……」

 

 

 カウンター席に座って、カウンター越しに厨房にいる俺にそんな言葉をかけてきてるのは、この街で知らない人はまず居ないだろう――特にここ最近は話題の中心になってばかりの――『青の農村』村長のマイス。

 

 そんなマイスだが、昔から何かと縁のある俺でもそうそう見たことの無いほど眉間にシワを寄せた悩み顔をしていて、「身長の成長が止まった~」とか「お祭りのイベントに参加者として出させてもらえない~」などといった愚痴っぽいのとは違う真面目な相談を持ち掛けてきていることがわかる。

 わかるんだが……。

 

「なぁマイス。相談(それ)って今じゃないとダメか?」

 

「できれば……ダメですか?」

 

 申し訳なさそうに言うマイスなんだが、自分から引き下がらないあたり、かなり深刻な相談かそこそこ緊急の用件なんだろう。

 

 

 いやまあ、知らない中じゃないどころか公私共に結構な繋がりあるわけだし、個人的にはマイスの相談に乗るのはやぶさかじゃねえんだけどな。

 それに、コイツが相談できる相手っていうのもそこそこ限られている。誰に対してもできる相談できる内容ならまだ相手に選択肢はあるだろうが、異性にはし辛い相談だとすればステルクさんか俺、あと行商のコオルなどといった『青の農村』在住の男連中くらいだろう……が、結婚騒動の発信源が『青の農村』の連中からだってことを考えると、今ヘタな相談をしようものなら尾ひれがついて変に巷に出回りかねない気がしなくも無い。……というわけで、俺に来た時点で色々マイスに選択肢が残されてない可能性も十分にある。

 

 俺は視線をカウンター席にいるマイスからずらし、店内――他の席にいる客たちに目をやる。

 

 時間は晩飯を食うにしちゃあ遅い時間帯、今店内にいる客は基本的にダラダラと酒を飲んでいるような連中ばかりだ。ついでに言うと、『サンライズ食堂(ウチ)』はそもそも酒の品ぞろえに関してはそこまで自信が無いこともあり、酒飲みも常連以外はそこまで来ることはない(いない)

 ってなわけで、今現在の客も、それこそマイスと話す余裕があるくらいにはまばらだ。

 

 でもなぁ……。

 実のところ、マイス自身は気づきようが無いだろうが、マイスが店に入って来た途端にそれまで店内にあった賑やかなお喋りがスゥーっと引いてしまっていたりする。どういうことかというと、客たち(連中)はマイスに気付いてすぐに()()()()()()()()()になったっつーわけだ。

 

 聞き耳を立てたくなるその気持ち、俺としてもわからなくはない。

 実際はただの噂だったとはいえ『マイスの結婚騒動(あれ)』がちょっと前にあったばかりだ。噂が嘘だったという話は大分広がっているが、知った後も「もしかして、本当は……」と考えてしまいマイスの動向が気になってしまうのも、まぁ仕方のないことだとは思う。

 が、マイスの友人としては「大概にしとけよ」とも思うわけで……あと、マイスの話題が広まると、繋がりのある俺が何か知ってたりしないかと一々聞いてきたりする奴らがいるのがメンドクサイ。

 

 

 何はともあれ、何とも言えない気持ちがあるわけだ。

 そこにマイスからの相談。結婚騒動に関係しているかは聞いてみなきゃわかんねぇけど、今ここでしたらマイスの真剣な相談が他の奴の耳にも入っちまうわけで……だが、マイスの力になってやりたい気持ちと、あと個人的には本当は興味があるって事もあるしなぁ……。

 

 そらしていた視線をカウンター向こうにいるマイスへと戻し、その真っ直ぐ俺を見ている目と数秒見つめ……そんでその後ため息をついてから肩をすくめてみせる。

 

「まっ、んな顔までされたら断るわけにもいかないな。力になれる保証はできねぇけど、話は聞くぜ?」

 

「あははは……ありがとうございます」

 

 やっぱりどこか申し訳なさそうなのは相変わらずに、マイスは承諾した俺に頭を下げた。

 それに合わせて……マイスが俺を見ていない間に、こちらを横目で見ている他の客たちに一応ジロリと目を向けておく。「何か聞いても他言無用だぞ?」ってことでな。その意図がちゃんと伝わったかはわかんねぇけど……まぁ、そもそも酔っ払いに口止めの効果があるかは微妙だけどな。

 

 

「……っで、どうしたんだ?」

 

「えっと、実は……」

 

 俺がちょっと気を遣って、少しだけ顔をカウンターのほうに寄せて声の大きさを抑え気味に聞くと、マイスも声を抑えておずおずと話しだした。

 

 さて、今度は何があったのやら……

 

 

 

 

「結婚の噂を真に受けた娘から……その、こ、告白を受けたとしたら、どう答えるのが正解だったと思いますか?」

 

 

 

 

「…………」

 

 俺は顔を寄せるために曲げていた背をゆっくりと伸ばして、軽く目をつむってから静かに深呼吸を一度二度と繰り返し……その上で先程耳に入った言葉をじっくりと噛み砕き、改めてマイスを見て口を開く。

 

「アレか? 前に聞いた『青の農村』の子供から「わたしもマイスとけっこんしたいー」って言われたってヤツか?」

 

「そうじゃなくって、普通に結婚できる歳の人で……」

 

「じゃあ、玉砕覚悟で「好きです」っつって、ケジメをつけて新しい恋に生きるって感じか?」

 

「玉砕覚悟というか……()()?」

 

「いやまあ、そりゃ結婚騒動(あの噂)で勘違いして言ったなら誤爆は誤爆だろうけど」

 

 というか誰だよ? そんなマヌケなことするお相手は? マイスの周りでそんなのことをしでかしそうな奴って誰か……いや、複数人思い浮かんじまうくらいそそっかしい複数人いるこたぁいるな。

 

 「まてよ?」とはたと思い、俺は一旦口をつぐんだ。

 マイスが言っている内容(こと)は「正解だった」とかいう部分からも分かる通り、過去の出来事の話だというわけで、つまりのところ……

 

「実際どうしたんだよ、お前は? ウチに来たってことは、その話には一応一区切りついたんだろ?」

 

「あー……それが、その、ですね? なんていうか、お互いにこう……何を言ったらいいかわかんなくなって、ついでに目も合わせられなくもなっちゃって。で、どうしようもなくなったその場の空気とか色々紛らわすためにいつも通りに帰って「じゃあ、またね」っていつものように別れて……」

 

 

 ヘタレかよ。

 

 

 俺は喉元まで出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。

 マイスがやったのは、答えを先伸ばし――悪く言えば勘違いからだったとはいえ相手の告白を無下にしたようなもの――だ。唐突な告白に即座に答えるのはそりゃあ難しいことだろうが、男としてせめて一言二言「待ってほしい」意思を伝えておくのが最低限の対処だろう。

 

 けど、なんていうか、そう強く非難(言えそう)もない。

 というのも、今俺の眼前にいるマイスだが……よくよく見てみれば、今日はまだ酒も飲んだりしてないってのに()()()()()()()()()()()()()()()()。加えて言えば、落ち着きがない……のはある意味いつも通りだが、いつもの()()()()()()()()()()()()じゃないっつーか、そわそわしてる感じで。

 

 このマイスの反応……聞き耳を立ててた連中も当然俺も察したが、これは十分脈ありだろう。ならなおさらマイスは相手にちゃんと返事をするべきだったろうし、俺は俺で今マイスに「ヘタレ」とか言ってでも発破をかけたりすべきだろう。

 

 だがしかし、だ。

 常識が微妙にズレてたり時々突拍子の無い事をしたりはするが、コミュニケーション能力も十分あり、顔も広く、評判も上々、経済力は文句なしで、人柄も十分良い……が、浮いた話しどころか、そもそも異性に()()()()()()で興味を持つ気配が全くと言っていいほどない男。それがマイスだ。

 そんなマイスがこうして頬を真っ赤にして初々しさの感じる反応をしているのを見ると、「やっとか」っていう親心というか、変な安堵感があって悪く言えない感じがするんだよなぁ。

 

 

 それにだな……

 

「で、誰なんだよ、その相手は? そのあたりがわからないと出来るアドバイスもしようが無いんだが……お前と普段から「またね」とか言う間柄ってことは俺も知ってる奴だったりするのか?」

 

 ……自分で言うのも何だが、いかにももっともらしい理由を付けて、そのマイスに告白した(してしまった)相手について聞いた。

 

 いやだって、しょうがないだろ?

 そりゃあ面倒事に巻き込まれるのは勘弁だけど、なんだかんだ言っても俺だって他人の恋愛関係(そういうの)に対して興味がわかないわけじゃない。ましてや、それがあのマイスなんだからなおさらだ。朴念仁どころか見た目のままの子供レベルの感性しか持ち合わせて無さそうだったマイスをこんな調子にしてしまった相手だ。知りたくないわけがないに決まってる。

 

 

「名前を言うのはあの人に悪いんで。僕の口から勝手に出していいものじゃないですから」

 

「……そういやぁ、いざという時にはヘタレたみたいだけど、根は変に馬鹿真面目だったな、マイスは」

 

「えっ、へたれ!?」

 

「ああ、いやっ何でもない……言葉のあやだ」

 

 ついポロッと漏れちまった。さすがのマイスも、ヘタレと言われるのは心外だったらしい。いちおう俺もなんとか取り繕ってみたが……

 あっ大丈夫そうだ。「あやって……そういうものなのかな?」って首をかしげつつもそれ以上は特に言わなかった。普段のマイスなら、もう少しどういうことなのか問い詰めてきたり嫌そうな顔をしてこちらに訴えかけてくるなりしたはずだけど……。おそらくは未だに告白の事が頭の中の大半を占めてしまっているんだろう。頬が未だに赤みをおびているあたり恐らくは間違い無いはずだ。

 

 つーか、本当に誰なんだよ。その告白してきた……マイスをここまでしてしまった相手ってのは?

 マイスの恋愛関係(その手の話)ではきっと最も大きな壁だったはずの「マイスに意識させる」を突破してるって時点で、正直なところ全く想像できねぇーっていうか、他にヒントも無しじゃあ考えても思い浮かびそうにも無い。

 

 

 

 

 完全にお手上げ状態――――けど、ここで終るほど俺は諦めは良くはない。

 マイスがその状況でどう返答するのがせいかいだったかを一緒に考える……ふりを半分しつつ、名前は聞き出せずともなんとかして他の情報(ヒント)を引き出してみるしかなさそうだな!

 

 

 

 つーわけで、さっそく話をきりだそうとした……んだが、ちょうど間の悪いことに店の扉についているベルが鳴った。つまりは新しい客が来ちまったってことで、俺はそっちの対応もしなきゃならなくなっちまったわけだ。

 

「いらっしゃー……おろ?」

 

 簡単な席の案内をするため、店の入り口のほうへと目を向けたんだが……そこにいたのは、見知った顔だった。

 

 

「うぇへへへーっ、やっぱり良いことがあった日のお酒は美味しいよねー! よぉーし! もっと飲んじゃおー!!」

 

「良いことっつーか、悪い事が「実は無かった」ってだけのはずなんだけどなー?」

「まあ、それは()()()そうなのよね、うん」

 

「あ、あははは……ど、どうしよう

 

 

 入って来たのは、二人+α。

 一人は頬を赤くして妙にテンションが高いフィリー。普段オドオドした印象が強いんだが……話の内容は一部は意味がわからないんだが、他所で一回飲んだ上で『サンライズ食堂(ウチ)』に来たみたいだ。

 んで、あとはフィリーの言葉に、いまいちわからないツッコミを入れた黒猫(ホロホロ)虎猫(アラーニャ)、それとその持ち主のリオネラも、フィリーに続くようにして入って来た。

 

 

 まあ、当然のことだがカウンター席にいるマイスに気付くわけで……おそらくは酒のせいで変にテンションの高いフィリーが、飛びつくような勢いでマイスのもとへと行き、その流れのまま隣の席へと座る。

 

「き、奇遇だね、マイス君! 今日は、一人で飲みに来てたのっ?」

 

「うわっ! フィリーさん!? ビックリし、た……っ」

 

「ちょっと色々あって、家でリオネラちゃんと飲んでたの。あんまり家にお酒買い置いてなくてなくなっちゃって、でも、もうちょっと飲みたいねーってなってねっ! こんなことなら、三人で飲みに来れば……な、なんて」

 

 俺やその他周りが見えていないんじゃないかって調子で、テレテレと照れまくりで喋るフィリー。ただでさえ酒で赤く火照(ほて)っていたその顔は、なお赤くなっていってるのが目に見えてわかった。

 つーか、見て分かる通り、フィリーもマイスに特別好意を持ってる人間の一人だろう。フィリー(こいつ)もマイスのお相手候補なんだが……ちょっとテンションが高いとは言っても普段とそう変わらない気がする。これは、告白(誤爆)したヤツとは思えないな、さすがに。

 

 

「ほらっ、リオネラちゃんも。こっちこっち!」

 

 フィリーとは違って、マイスを見るなり跳びついたりはしなかったリオネラは、二体の浮かぶネコに人形と一緒にまだ立っていた。そのリオネラを、フィリーは自分とは反対のマイスの隣の席を指し示しながら手招きして呼んだ。

 

 

 

 ………………()

 

 

 

 不覚にも、俺は思考が一瞬完全に停止してしまってた。

 人が一人、席に座っただけだ。だけど……俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

 店にいた他の客たちのほとんどはそう驚いてない感じがするが、俺は自分で言うのは変かもしれないが驚いてしまってもおかしくないと思う。

 そう短くない付き合いがある俺は知ってる。フィリーがそう勧めたように、歩く時でも、座る時でも、この三人が並ぶ時はマイスを挟んで左右に二人が……っていう俗に言う「両手に花」状態が基本形なんだ。酒が入っているから、今日はフィリーはそうでもなかったけど、リオネラも少し遠慮気味にしながらもどこか嬉しそうにはにかんで座る、それが今日は何故か()()()()()

 

 どういう事だ? 他の客はまだしも、マイスとフィリー(当事者の内の二人)もこれはおかし……い……って?

 

 

 …………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 座ったリオネラのヤツに顔を向けようともしていない()()()()()()()()()()()()()()()()ことに気付いた。が、何故かはわかならい。

 

 マイスの顔()リオネラのほうを向いていないんだが、俺から見て右手のほうを(マイスから見てリオネラが座っているほう)を目だけでチラチラ見ていて……どうしたかと思ってソッチを見たら、座ってからというもの一言もしゃべらず顔も伏せ気味だったリオネラもチラチラマイスのほうを見ているのがわかった。

 

 ほんの10秒にも満たないたった数秒の観察だったんだが、そうやって見てるといきなり二人揃って「ビクッ!?」っと座ったまま少しはね上がったかと思えば、二人してそれぞれ反対を……

 

 

 ……って、ここまでされりゃあ、()()()()()もあって嫌でもすぐに理解した。「()()()()()()()()()()」と。

 

 

 俺はついさっきのマイスからの「告白を受けたとしたら、どう答えるのが正解だったと思いますか?」という相談(質問)思い出し……俺の答えを導き出した。

 

 

 

――――付き合えばいいんじゃね?

 

 

 

 目の前で年齢にしては初々しすぎる二人の反応を見て、そう言いそうになったんだが……二人に挟まれ、すっかり酔いがさめた様子で目を白黒させながら二人の顔を交互に見る、おそらくは告白(誤爆)のことを知らないんだろうフィリーが目に入り……代わりに大きなため息を吐く。

 

 ヤべェ……すげぇ面倒だよ、この状況。

 

 さっきまで興味を持っといてなんだけど、俺は「他所(よそ)でやってくれよ」と心の底から思った……。

 




本編である『ロロナ』ルートでもあったように、突然のラブストーリーがフィリーのを襲う!!

 そして、本人達は……互いに言葉を発さなくなるくらい『夜の領域(あの時)』よりも悪化(?)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『フィリー』ルート
フィリー【*1*】


『豊漁祭《下》 【*1*】』


「そういえば、二人って誰に投票したんですか~?」

「僕は……」


『フィリー』◄(ぽちっ)






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、細かい描写の追加、句読点、行間……


***アランヤ村・広場***

 

【*1*】

 

 

 

「僕が投票したのはフィリーさんだよ」

 

「えっ、私?」

 

 マイスに名前を呼ばれ、ポカンとするフィリー。驚きや恥ずかしさよりも、信じられないという気持ちが勝っているのだろう。慌てたり、オロオロしたりすることも無く、むしろマイスに向かって「大丈夫?」といった視線を向けている気さえする。

 

「ええっ……マイスくん、もしかして適当に投票したの? わたし、ほとんど隠れてたし、何にも喋ってないから水着なんてほとんど見せてないはずなんだけど……」

 

「あはははっ、確かにいっつも腕とかで隠そうとしてたし、紹介の時もすぐに舞台袖に引いちゃったけど、それでもどういう水着を着てるかはちゃんと見えたし、恥ずかしくてもがんばってたのはわかったよ」

 

 いつもの調子でニコニコしながらマイスはそう言った。彼は腹芸が出来るような性格でもないため、思った通りの事を言っているのだろうが……それはそれでフィリーにとっては色々と問題であるということまでは、考えが回っていなかったようだった。

 

 

 というのも、ちゃんと水着姿も見ることはできたという事実は、フィリーにとってはあってほしくない事実なわけで……。

 

「ううっ……見られたら見られたで、それは恥ずかしすぎるんですけどぉ……! お嫁にいけない……」

 

 まあ、当然こうなるわけだ。涙目になり、まるでこの世のお終いだとでもいうかのように「もうやだー……」と呟きを漏らすフィリー。

 

「大丈夫ですよ、フィリーさん!」

 

 恥ずかしがりながら落ち込むフィリーを、マイスが放っておくわけがなかった。どこにそんな自信があるのか問いかけたくなるほど自信満々の表情をフィリーに向けていた。

 

 

 その時、フィリーに電撃が走った!!

 

 

 そう、彼女の頭の中に唐突に浮かび上がったのは、ある種の恋愛ものの物語でも時折ある「お嫁にいけない」からの「オレが貰ってやるよ」の流れ! あの日実在人物相手でも何度か妄想したあのシチュエーション!!

 今ここが、その流れの最中(さなか)であることにフィリーは気づいたのである!

 可能性は有るか、無いか。無い……とは言い切れない。なにしろあの美女・美少女(ぞろ)いの『水着コンテスト』で、マイスはわざわざフィリーを選んだのだ! これを「可能性有り」と言わずに何というか!!

 

 

 気づけばフィリーは、自分の顔が恥ずかしさとはまた違ったモノにより熱くなっていることを感じた。鼓動もまるで心臓が頭の中に移ったかのように大きく高鳴り、そのリズムも早いものとなっていた。

 

 そして、フィリーの視線は……次の言葉を発するべく動き始めているマイスの口元に釘付けになっている。

 「うわーっ!? うわーっ!?」という叫び声と、「さぁ来い! 来い! 来い!!」という期待の声に、彼女の心の中は満たされている。

 

 フィリーの内心がそんな状態になっているとは知る由もないマイスは、相変わらずの自信満々の笑みで言葉を続けるのであった……。

 

 

 

 

 

「お嫁にいけないなら、お婿さんを貰えばいいんです!」

 

 

 フィリーは前のめりにずっこけた。

 他の面々の多くも「ずっこける」まではいかなくとも、変な脱力感に襲われる結果となった。

 

「どうしてそうなるのよ……」

 

 おでこに片手を当てて「ハァ」とため息を吐くクーデリアの呟きが、その場にいた人たちの心の声を代弁してくれたことだろう。もはや、言葉遊びにすらなっていないレベルである。

 

 

 ずっこけたフィリーが立ち上がると、その鼻からは一筋の血が流れていた。それは、極度の興奮状態まで昇っていっていたからなのか、それともずっこけた拍子に出来た怪我なのか……マイスの一言が残念だった以上、正直どちらでもいい気がする。

 そんな鼻血を拭き取りつつ、フィリーは困ったように様子を隠そうともせずにマイスに言うのだった。

 

「ええっと、そういう意味じゃないって言うか、それじゃ解決できないって言うか……ね?」

 

「そんなことないと思いますよ? エスティさんだって諦めずにお婿さん探しを頑張ってるそうですから、まだまだ先はありますって!」

 

「おねえちゃんくらいまでなると、さすがに無理色々とがある気が……ひぃ!?」

 

 マイスにしては珍しいタイプの爆弾投下である。そこにはいない人物の地雷を的確に踏み抜いていったのだ。

 もちろんマイス本人に悪気はなく、むしろ彼自身はエスティを応援しているくらいなのだが……周りからしてみれば気が気じゃない。特にエスティの事をよく知っているロロナ、クーデリア、ステルク、そしてマイスに釣られるようにして失言をしてしまった妹のフィリーは、錯覚かただの気のせいかはわからないが体をブルリと震え上がらせてしまうほどの寒気(さむけ)を感じていた。

 ただし、何故かはわからないが、発言者であるはずのマイスはそういった様子を見せていなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 ……結局、謎の寒気のせいでなんだか締まらない感じになった「投票した相手の発表」。その寒気を忘れようとするかのように、フィリーたちを中心に『豊漁祭』をめいいっぱい楽しんだという……。

 




 他のキャラよりもイチャイチャ感は少ないフィリー。それには色々と理由があるのですが……それについては今後明かされる予定です!


 そして、これで【*1*】は終了となります!
 ……えっ? 『エスティ』ルートはどこ行ったかって? アンケートの際に票を取れなかったため、エスティさんはルートが作成されませんでした。一生独身です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリー【*2*】

『5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】』


 本編の『ロロナルート』とは異なり、一緒には行かない組なので出発前のお話となっています。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、行間……


【*2*】

 

 

 僕を訪ねてきたトトリちゃんから「『塔の悪魔』を倒しに行く」ことを伝えられ、僕はその準備をすることに……。

 

 『塔の悪魔』のことや、それを今後倒しに行くという話は以前に聞いていたので、前々から色々と考えていちおう準備を進めはいた。なので、持っていく武器やアイテムを選別しまとめるのには時間はかからなかった。

 

 準備をサクッと終えた僕は、さっそくトトリちゃんたちとの集合場所である『アランヤ村』に……行くわけではなかった。

 出発は明日。僕の手元には『トラベルゲート』があるから『青の農村(ここ)』から『アランヤ村(あっち)』まで一瞬で行ける。そのため、家を出るのは明日でも問題は無い。

 

 もちろん、早めに行っていても何も問題は無いんだけど……でも、やっておくべきことが僕にはあった。

 それは、遠出をする際に行く前と帰ってからいつもしている「挨拶周り」だ。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***アーランドの街・冒険者ギルド***

 

 

 

 『冒険者ギルド』。その名前の通り、主に冒険者が利用する施設で、冒険者としての登録や免許の更新、あとは依頼の受けたり報告ができる。また、依頼を出すために冒険者以外の人がきたりすることもあるんだけど……それはとりあえずおいておこう。

 

 今、僕がいるのは、冒険者の免許関係の受付と依頼関係の受付のうち、後者のほう……フィリーさんが受付嬢をしている、依頼関係の受付。そこで『塔の悪魔』を倒しに行く話をしていた。

 

 

 

「『塔の悪魔』……ううっ、聞いてるだけでものすごく強くて怖そうなんだけど……!」

 

「うん、だからこそいちおう封印されてるとは言っても放置は出来ないと思うんだ。トトリちゃんも同じようなことを考えて今回の討伐を決めたんじゃないかな?」

 

 トトリちゃん本人から聞いた話では、今『アランヤ村』のヘルモルト家に居候(いそうろう)しているピアニャが『最果ての村(あの村)』から飛び出してきた理由が「『塔の悪魔』が封印が弱まった時に出てきてしまい、あの村にいると食べられちゃうから」らしく、ツェツィさんのように溺愛はしていないトトリちゃんでもそんなことを聞いてしまっては黙ってはいられないわけで……さらに言うなら、一度立ち寄ったことがあり村の人たちとも面識があるわけで……そうなると、やっぱり見過ごせないわけだ。

 

 もちろん、僕がトトリちゃんと同じ立場だったとすれば間違い無く同じ選択をしたと思う。

 こちらから行くために塔の封印を解くのに必要な生贄がネックではあるけど、その一点を除けば倒しに行かない理由は無い。まぁ、ただ……僕だったら「みんな忙しいかもしれないし、巻き込んじゃうのも悪いから一人で倒しに行こう」ってなってたんだと思う。多少苦戦して長期戦になるかもしれないけど、回復魔法と薬と食べ物でなんとかなって勝てるはずだ。

 本当にそんなことしたら後で怒られそうな気もするけど……。

 

 

「……と、まぁそんなわけで、ちょっとの間家を空けることになると思うから。あっ、帰ってきたらまた挨拶にくるからね」

 

「ええっ!?」

 

 突然フィリーさんがあげた声に、僕は不意を突かれて少しビクッとしてしまう。

 『塔の悪魔』の話をしている間も驚いている様子はあっても、そんな声をあげてまで驚いてはいなかったのに、なんで今そんなに驚いたんだろう?

 

「えっ、ええっ!? も、もしかして、それって何日もかかっちゃうの?」

 

「うーん、一度行ったことのある場所だし移動時間は『トラベルゲート』で短縮できるし、戦闘も相手がいくら強くても日をまたぐとは考えにくいから、何日も、ってことはないとは思うけど……でも、塔の近くの『最果ての村(あの村)』のこともあるから、少なくとも明日一日は潰れるんじゃないかな?」

 

「そ、そんなぁー……」

 

 僕の話を聞いて肩を落とすフィリーさん。……本当にどうしたんだろう?

 

「それじゃあ、明日せっかく久しぶりのお休みで遊びに行けると思ったのに、マイスくんはいないんだね」

 

「ああ……なるほど、そういうことだったんだね。ゴメンね、僕だけの用事ならちょっとずらしたりできるんだけど……」

 

「ううん、いいの。さすがに今の話を聞いたら『塔の悪魔』のことは一大事だってわかるから、マイスくんがトトリちゃんを手伝うのも当然のことだし、わたしもそうしたほうが良いと思う」

 

 

 そう言ってくれたフィリーさんだったけど、「でも……」と小さく呟いたかと思えば「ハァ……」と大きく肩を落としながらため息を吐いた。

 

「ここ一週間くらいは「今度のお休みにはモコちゃんをモフモフできる!」って思って、逃げずにお仕事を頑張ってきたのに、そのお楽しみが無くなるのはさすがにちょっと(へこ)むなぁ……」

 

「本当にゴメンね? でも、やっぱりどうしようもないから……」

 

 

 「仕方のないこと」って言ってしまえばそこまでなんだけど……でも、目の前でこんなに泣きそうなほど落ち込んでいるのを見ると、なんとかしたい。せめて、何か代わりにしてあげられることが無いか、って考えてしまう。

 

 モコちゃんこと金のモコモコ()をモフモフするのが楽しみだったんだから、代わりにモフモフできそうなモンスター()を用意してあげるとか……? いや、でも明日の朝には僕は村を出ててもういないわけで、その子をフィリーさんに会わせてあげるっていうことは難しい。

 じゃあ、いっそのこと金モコ(自分)の毛を()って、それをあげるっていうのがいいかも……? ああ、だけどこれまでに刈った金モコの毛もそのほとんどがフィリーさんの元へ行っているわけで、それで満足できないからわざわざ僕の家(ウチ)にまで金モコに会いに来てるんだ。いまさら新しい毛を刈ってあげたところであんまり意味がないだろう。

 

 となると、後は何ができるだろうか?

 金モコとは関係無いけど、僕の得意分野の一つである料理で何とかするべきかな? でも、明日の出発までに何とかしないといけないってなると、やっぱり色々と厳しい部分があるんだよなぁ……。

 

 

 そんな風に「どうしたものか……」と頭を悩ませてたんだけど、そんな僕にフィリーさんが「あ、あのねっ」って言って、オズオズと言葉を口にし始めた。

 

「その、明日がダメな代わりにってわけじゃない……わけでもないけど、えっと、次のお休みの時には、時間とってもらえる?」

 

「うん! それはもちろん! 事前にいつなのかわかってれば、『塔の悪魔(今回)』みたいな大事でもない限り都合もつけられるから、大丈夫だよ!」

 

「本当? よかったー……。あっ、そ、それと、ついでというかコッチが本命なんだけど、その……ね? その時にモコちゃんを――」

 

 相変わらずオドオドしながらも、やや口調が強くなりだし、何故か頬を中心に顔を赤くしはじめたフィリーさん。だったんだけど……

 

 

トンッ! トンッ!

 

 

ひゃい!? く、クーデリア先輩ぃ! すすすっ……すみませーん!!」

 

 何かを叩くような音が聞こえたかと思えば、その瞬間にフィリーさんが()()ねて背をビシッと伸ばし、目の前には僕しかいないのに慌てた様子で()()()クーデリアに謝りだした。

 

 「どうしたんだろう?」と思い、そのクーデリアがいるであろう方向――僕から見て右手――カウンターが繋がっている「隣の受付」とは言ってもちょっと離れている『冒険者免許』等を取り扱う受付のほうに目を向けてみた。

 すると、そこにはやっぱりクーデリアがいて……こっちは見てなくて、顔は普通に正面のほうを向いているようだった。その視線は、クーデリア自身の手元にある何かの書類の束へいっているみたい。

 

 

 ……なるほど。さっきの音はきっと、あの書類の束をカウンター上でトントンと叩いて整えた時に出た音だったんだろう。

 

 でも、なんでその音を聞いてフィリーさんが謝ったりしたんだろう? あれに何か別に意味があった……とか?

 「まさか」とは思ったけど、いくらあの対人恐怖症のようなものがあったフィリーさんとはいえ、あれだけのことで意味も無くあんな反応をするとは思えなかったから、ちょっとだけどういう可能性がありそうか考えてみた。

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

 あっ、一つだけ思い当たることがあった。

 僕はそのことを少し声の大きさをおさえてフィリーさんに言い、話を切り上げることにした。

 

「あはははっ……お仕事中なのにフィリーさんにおしゃべりさせ過ぎちゃったかな? ゴメンね」

 

「ううん、わ私は大丈夫なんだけど……それに、先輩のさっきの行動(やつ)は、そういう理由でやったわけじゃない気が……」

 

「…………?」

 

 「じゃあなんで?」とは思ったけど、このまま長居してさっきみたいになったら、クーデリアに不快な思いをさせてしまうわけでやっぱり申し訳ないし、それにともなってフィリーさんにも嫌な思いをさせてしまうだろうから、それも避けておきたい。

 なら、さっきそうしようと決めたように、早々に切り上げた方が良いだろう。

 

「とにかく、今回の件が終わったらまた会いに来るから、次のお休みの時の話はその時にしよっか?」

 

「えぇ……うー……うん。わかったよぅ」

 

 フィリーさんは少し不満そうにしたけど、最後には頷いてくれた。

 

 

 それを確認した僕は、フィリーさんに「それじゃ、また」と言って受付から離れた。そして『冒険者ギルド』の出入り口の方へと歩いて行くんだけど……その途中で振り向きクーデリアのほうの受付を向いて手を合わせ、口パクで「ゴメンね」と言って頭を下げた。

 そうしてから、僕は改めて外へと出た。

 

 ……フィリーさんへの埋め合わせは、今度遊びに来た時に何か用意してあげるのが良いかなぁ?

 そんなことを考えながら、家へと帰るのだった……。

 




 フィリーが何か約束をしそうになったところで、くーちゃんキャンセル発動。

 ……くーちゃんが何を考えてこんなことをしたのかは、『フィリールート』の今後に大きく関わってくるのですが…………修羅場でしょうか?

 いちおう改めて言っておきますが、各ルートはIFであり、別々のお話なのでマイス君が二股溶かしているわけじゃありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリー【*3*】

『5年目:マイス「ある日の日常」【*3*】』

 『マイス「」』とありますが、第三者視点となっています。ご了承ください。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……


 

【*3*】

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

 窓から、爽やかな朝の日差しがめいいっぱい入ってくる……そんな快晴の日。

 普段から日が顔を出し始めた早朝(ころ)に起きて活動を始めるマイスは、当然のように畑仕事を終えてしまい、朝ゴハンを食べはじめるくらいの時間になっているのだが……今日のマイス()の家の様子は少しばかり違うものだった。

 

「「いただきまーす」」

 

 朝ゴハンの『フレンチトースト』と『野菜ジュース』を前にして声をそろえる()()。この家の主であるマイスと、何故かいるフィリーだった。

 

 フィリーは『冒険者ギルド』での仕事があるはず……その疑問は、先日、『塔の悪魔』を倒しに行く前に今後の予定を聞いたマイスなら湧いてきて当然の疑問だ。

 しかし、そこは『青の農村』が誇る「お人好しNO.1」、「おもてなしNO.1」のマイス。いきなりの訪問でも手際よく準備途中の朝ゴハンを一人分増やし、特に何も聞かずに相手(フィリー)を迎え入れる。……マイスにとってはそのくらい「よくあること」でもあるのだろう。手慣れたものだった。

 

「もぐもぐ……んくっ。マイス君、『塔の悪魔』ってどんな感じだった?」

 

「うーん? 何て言うか、人っぽかったかな? 見たまま悪魔-って感じじゃなくて、身体も特別大きかったり尖ってたりしてなくてさ。あと、何だか貴族っぽい服しっかり着こなしてたんだよね。ただ、あの顔を見たら「悪魔」というか「悪そうな奴」だっていうのは嫌というほどわかって……アレは絶対に対話できないタイプだろうなぁ」

 

「マイス君がそう思うってことは……ひえぇぇ! ど、どれだけ怖い顔してるの、その悪魔ぁ……!!」

 

 朝ゴハンを食べながら、そんな他愛のない会話をするフィリーとマイス。

 

 フィリーが驚いているのは……まあ、あれだろう。『ぷに』のようなカワイイモンスターから『ウォルフ』のような強面(こわもて)モンスター、果てには手の付けられない『暴れヤギ』や『熱帯ペンギン』など、村の外では『冒険者』ならまだしも一般人にとっては脅威でしかないモンスターたちと話して友達になったりするマイスでも相手に出来ないモンスターがいることに驚いている部分も大きいのだろう。

 なお、マイスによるモンスターとの会話は、実際のところはモンスターの種族や種類以上にその個体の性格や気質が大きく関係しているのだが……なんにせよ、多少の違いがあったところで、ただの受付嬢であるフィリーにとっては驚くには十分すぎるものなのだが……。

 

 

 

 多少話題が一転二転しながらも続いた会話と朝ゴハン。

 二人がちょうど食べ終えたあたりで……会話はようやく、あの話題に移るのだった。

 

「そういえば、今日ってお仕事じゃぁ……ここでノンビリしてて大丈夫なの?」

 

「うんー大丈夫だよー? だって今日はお休みだし」

 

 ニコニコ笑いながらそう返すフィリー。

 だが、対するマイスは「はて?」と首をかしげる。確か『塔の悪魔』を倒しに行くことを伝えた時にはその日から見て「明日がお休み」という話をしていたはずだ。今日ではないはずだが……最近いくらかマシになってきたそうではあるけど、『冒険者ギルド』はいつも忙しそうなイメージを持っていたマイスは疑問に思ってしまったわけだ。

 

「あれ? この間予定を聞いた時は次の休みはまだ後みたいなことを言ってた気がするんだけど……?」

 

「あーっと、あの後ね……どう言えばいいかなぁ」

 

 あごにチョンと指を当て、その時の事を思い出すかのようにウーンと呻った後、「実はねー」とフィリーは言葉を続ける。

 

「お仕事が終わって「さあ帰ろっかー。でも、明日マイス君いないんだ……」って落ち込みながら『冒険者ギルド』を出ようとしたんだけどね、そこで「ちょっと」ってクーデリア先輩に呼び止められて」

 

「呼び止められて?」

 

「「あんたの休み、変わったから明日も仕事ね」って。どういうことかよく話を聞いてみたら、なんだか知らないうちにお休みをずらされずらされちゃってたんだー。っで、そのズレたお休みがそれが今日だったの」

 

 つまりは「マイスが『塔の悪魔』を倒しに行く日が休日だったのに、いつの間にか勝手に変更されてて、それが今日だった」ということらしかった。

 

 

 それを聞いたマイスは「お休みが変更って、何か急ぎの仕事で人手が欲しかったとか? やっぱり忙しいのかな?」なんてことを考えていたのだが……そのことを話した当のフィリーのほうは、何故か首をかしげて眉間に少しシワを寄せていた。

 そんなフィリーの姿を見て、当然のように心配して声をかけるマイス。

 

「どうしたの? ……ハッ!? もしかして、今日の『フレンチトースト』美味しくなかった!?」

 

「えっ! そんなことないよ!? すごく美味しかった! ……そうじゃなくってね、なんだか悪い事でも起きそうだなーって思って」

 

「へ? なんで?」

 

「だって……クーデリア先輩が私にあんなに優しくするなんて、絶対なにかおかしいもん!」

 

 珍しく口調を強めて言ったフィリーだが、それを聞いたマイスはといえばキョトンとした様子で首をかしげて……

 

 

「クーデリアはいつも優しいと思うけど?」

 

 

「いやまぁ、マイス君にイジワルしてるとこはあんまり見たことはないけど……。でも、この前お話の邪魔してきたりしたのによく言えるねぇ……」

 

「あれは、お仕事中に長々とお話してた僕が悪かったわけだから、クーデリアがどうこうって話じゃあ……あれ?」

 

 先日の一件のことについて言っていたマイスだったが、ふと先程フィリーが言ってた事を思い出して、そちらへと話を進路変更させた。

 

「クーデリアに優しくされた、って、何かあったの?」

 

「何かというか、そのお休みがズレたって話をしてきた時にね……「この日なら、マイスも流石に帰ってきてるでしょ」って」

 

 マイスは頭に疑問符を浮かべ、首をかしげた。

 「なんで僕の名前が?」、「というか、それでなんで「優しい」?」とグルグル頭を悩ませ始めたマイスだったが、「そういえば……」と『塔の悪魔』を倒しに行くことを話した時の事を思い出し、そして今聞いたことと繋ぎ合わせて……ようやく答えを出せた。

 

「えっと、つまりー……クーデリアが勝手にお休みをずらしたのって、僕が討伐に出ている期間と(かぶ)らせないため?」

 

「うん……そうみたい。そもそも、こんなこと初めてで……」

 

 「ちょっとよくわかんない」と困惑顔で呟くフィリーに、マイスはなるほどと頷いた。

 確かに、クーデリアがそんなことをするというのは、マイスにも初めて聞くことだった。ただ、「悪いことでは無いからそんなに気にする必要は無いんじゃ……」というのが、マイスの考えだったりするのだが……。

 

 

 

 

「それに、なんかよくわからないことも言ってきて……」

 

「よくわからないこと?」

 

「うん。「たまには二人で買い物にでも行って来たら?」って」

 

「へぇ……ん? それってよくわからいこと?」

 

「そうだよー? だって、せっかくマイス君の家に来れてるのにお買い物って……そんなことしてる暇があったらモフモフするよー。だから、ね?」

 

 「さあ! さあ!」と()()を催促しながら、無駄にイイ笑顔で手をワキワキとさせるフィリー。

 対するマイスは、彼にしては珍しく冷や汗をたらし……けど、表情的にはすでに諦めムードで……浅く座っていたイス上で後ずさりをして、背もたれに背をピタッっと張り付けてしまっていた。

 

 

 

 

 

 この後、金のモコモコ(マイス)はめちゃくちゃモフモフされた。 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***後日・冒険者ギルド***

 

 

 

 

 

「で、どうだった? 昨日の休みは?」

 

 ちょうど利用者が途切れた受付カウンター。そのタイミングでクーデリアが隣の受付のフィリーにそんな風に話を振った。

 

「はい! モコちゃんと沢山触れ合いましたよ!」

 

「まぁ、なんとなくそんな気はしてたけど」

 

 クーデリアは呆れ気味に苦笑いを浮かべ、短くため息をついた。

 

「はぁ~、あのモフモフは最高ですよー。……やっぱり今度は自分の手で毛刈りをしてみたいなぁ……」

 

「……無理言って愛想(あいそ)()かされないようにしなさいよ」

 

 「やれやれだわ……」と首を振るクーデリア。当のフィリーはそんなことは目に入っておらず、ニヤニヤと口元を歪めて金のモコモコ(モコちゃん)へと思いをはせるのだった……。

 




 前回は邪魔をして、今回はサポート(?)をするクーデリア。
 そして、それに対していつも通りのフィリーとマイス君。

 なんでこんなことになっちゃってるんでしょうねぇ……?
 そして、この関係は次回の【*4*】でどんな変化が……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリー【*4*】

『5年目:結婚疑惑騒動【*4*】』

※注意※

 何度も言うようですが、各ルートはそれぞれ別の世界線IFでの出来事です。
 何が言いたいかというと……『クーデリア【*4*】』と似た状況ですが、こちらとあちらが同じ世界で起こっているわけではありません! マイス君、二股なんてしてません!






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、句読点、行間……


【*4*】

 

 

 

 

 

 

***冒険者ギルド***

 

 

 

「はわわわわ……!」

 

 営業時間が始まっていない『冒険者ギルド』の依頼受付カウンターで、変な声を漏らしつつ焦点の定まっていない目をしてガクガク震えているのは、依頼の受付カウンターを担当している受付嬢フィリー・エアハルトである。

 彼女がそんな風になってしまっている原因は……

 

「マイス君が結婚、マイスクンガケッコン、まいすくんがけっこん……」

 

 フィリーにとって数少ないまともに接せる相手でもあり、友人でもあるマイスの結婚の話である。

 今朝『冒険者ギルド(ここ)』に来るまでに「あの『青の農村』の村長さん、結婚するんですって」という会話を耳にしてしまい、その話をしている人が別々に複数人いたため、フィリーはただの噂話だとは思えず……最終的に、このように誰が見ても「壊れてしまった」と理解できるほどの状態になってしまった。

 

 

 そんなフィリーを呆れた顔をして見ている人物が一人。彼女が担当している受付とは別にあるもう一つの受付カウンター……主に冒険者免許関連の事を取り扱っているカウンターの受付嬢クーデリア・フォン・フォイエルバッハである。

 

「アンタねぇ……いい加減立ち直んなさいよ」

 

「そ、そんなぁ~!? 無茶言わないでくださいよ~……」

 

「無茶も何も言ってないでしょうが! ()()()はただの噂話だった、出たそれだけの話でしょう?」

 

 クーデリアが言っているのは、「フィリーが聞いた話はあくまで噂話であり事実ではない」ということ。確かにクーデリアの言っていることには一理あった。そもそも、マイスの周りで浮ついた話など聞いたことがほとんど無く、いきなり結婚の話が出てくるというのも、どうにもおかしい気はするのだ。

 が、一度疑ってしまうと中々その疑いを消しきれず、思考の方向が一新できないというのも人の(さが)である。妄想癖が根底に少なからずあるフィリーにはその傾向が強かったようで、クーデリアの言葉に不満がある様子であった。

 

「もしかしたら、もしかするかもしれないじゃないですかぁ!? そもそも、私は心臓に毛が生えてそうなクーデリア先輩とは違って繊細なんですよっ、そんなに簡単に割り切れたりしません」

 

「ふーん……まっ、ケンカを売る元気は残ってるみたいでなによりだわ」

 

 こめかみをピクつかせながら笑うクーデリアに、「ぴぃ!?」と悲鳴をあげるフィリー。

 そんなこと言わなければいいのに、と思ってしまうが、そういう後先の事を良く考えずにポロッと言ってしまうのも、彼女の持つ一面であるだろう。……それが良い点かどうかはひとまず置いておこう。

 

 

 

 マイスの結婚の一件のせいか、クーデリアが怒ったせいか、それともその両方か。ついにフィリーはしくしくと泣きはじめた……のだが、それを気にする人は『冒険者ギルド』にはいない。クーデリアに叱られたり怒られたりしてフィリーが泣く……仕事での失敗だったり職務怠慢だったりと理由は様々だが『冒険者ギルド』ではそこそこよく見られる光景なのだ。

 

 そのため、フィリーの一番近くにおり泣く一因を作ったとも言えるクーデリアも、泣いてるフィリーを見て「うわぁ、面倒くさい……」と言った風に嫌そうな顔をするばかりで、特に(なぐさ)めたりしようとする様子は無かった。

 

 

 ……が、「あっ、そういえば」と手を叩いたかと思えば、泣いているフィリーに声をかけた。

 

「ねぇ、一つ確認しておきたいことがあるんだけど……」

 

「う~? ぐしゅん……なんですか?」

 

 

 

 

 

「マイスの結婚話にそんなに敏感なのって、やっぱりあいつのことが好きだから?」

 

 

 

 

 

「え……ええ、あっ、はぅ……ちょ、ちょっと!? こんな時にこんな場所で、なんてこと言ってるんですかー!?」

 

「いや、聞くなら今でしょ? まぁ、その様子だと……あたしの目が節穴だったってわけじゃなさそうね。よかったよかった」

 

「よくないですよ~!?」

 

 安心したように笑うクーデリアだが、対するフィリーは顔を真っ赤にしてわたふたしだす。さっきまで泣いていたというのに、表情がコロコロと変わってなんとも忙しい物である。……まぁ、今のは仕方ない気もするが。

 

「ていうか、あれ? えっえっ? 何で私がそのっ……!」

 

 おそらくは「なんで私がマイス君のことが好きだと知っているのか」……ということを聞きたいのであろう。残念ながら未だに落ちつかず、頭のほうの整理もできずにいるため、上手く言葉に出来ていないのだろう。

 それを察して……というか、フィリーの表情や慌てっぷりがわかりやす過ぎてか、クーデリアは難なくフィリーの言いたいことに気付き「なんでって……」と返答をするのだった。

 

「今さっき言ったように、噂話への反応と……あとは、普段から漏れ出してる妄想とか呟きとかから十分わかるわ。 特にマイスに会う予定の前とか、会った後とかは色々ゆるくなってて「少なからず好意は持ってるんだろうな」っていうのは丸わかりよ」

 

「うそぉ!? そ、そそそうなんですかぁ~!?」

 

 自覚がなかったのだろう。さっきまでも十分赤かったというのに、顔をより一層真っ赤にしたかと思えば、両手で顔を隠しその場にしゃがみ込んでしまって、羞恥心から(もだ)えだしてしまうフィリー。

 それを見ているクーデリアはやっぱりフィリーの反応は想定の範囲内だったのか、特に気にした様子も無く淡々と言葉を続けた。

 

「まぁ、そんなこと言っても、あんたが普段からしてる別の言動のせいで「もしかして、あたしの勘違いかしら?」なんて思ったりもしちゃったわけだけど……」

 

「ふぇぇ!? あのっ! 私、知らないうちに他にも変な事しちゃってたりしたんですかー!? それで、クーデリア先輩とか他の人たちにもマイス君が好きってことを知られて……!!」

 

「ちゃんと聞いてる? 今してるのは逆の話で……というか、そうやってあんたが大声で言ってるのが一番周囲に知られる原因だと思うけど?」

 

 しゃがみ込んでいた体勢から、今度は勢いよく立ち上がって頭を抱えてワーワー言いだすフィリー。クーデリアはそれを見ながら苦笑いをしてツッコミを入れる。

 ……なお、クーデリアの指摘通り、今までのやりとりは受付以外で仕事をしているギルドの勤務者にも筒抜けであり……ついでに、その多くから、顔を赤くして慌てふためく姿を温かい目でみられていることをフィリーは知らない。

 

 

 

「話を戻すけど、あんた、マイスがいない時は「マイス君……♥」って感じなのに、本人を目の前にするといつも毛玉のことばっかじゃない。アレを見てると「マイス<毛玉」で、あいつへの好きって気持ちはたかが知れてるんだなー……って、思えたわけよ」

 

「ええっ? 私ってそんな風に……!? いやまあ、確かにモコちゃんは大好きですけど、別にマイス君のことが嫌いってわけじゃぁ……っていうか、先輩、何言ってるんですか? モコちゃんとマイス君はおんな――」

 

 

 パァンッ!!

 

 

 大きな短い音、いわゆる「発砲音」が『冒険者ギルド』内に響き渡り……フィリーの左頬の近くを風が通り過ぎた……。

 

「あら? 何か言ったかしら?」

 

「い……いえ~……」

 

 いつの間にかクーデリアの手の中に納まっている護身用のデリンジャー式の拳銃。その銃口からはうっすら硝煙が見える。

 それを見て大体何が起きたのか察したフィリーは顔を引きつらせながらゆっくり首を振ることしかできなかった……。もし振り向けていたら、フィリーは背後にある柱に新しくできた銃痕をその目で見ることができただろう。

 

「たっく、ちょっとは気をつけなさいよ? あんたはそう何とも思ってないのかもしれないけど、周りもそうだとは決まってないんだからね?」

 

「ええっと、それってどういう……あっ…………ああっ!? そういうことっ!」

 

 ようやくクーデリアが発砲するなんてとんでもない行動に出たのか理解したフィリーは目を見開いて手を叩いた。

 まあ、つまるところ「マイス=金のモコモコ(モコちゃん)」であることをうっかり口にしてしまいそうになったフィリーを強制的に止めるためだったのである。

 

 疲れた様子で「はぁ……」とため息を吐いたクーデリアが、再び話始めた。

 

 

「あんたがどっちのほうが好きだと思ってるかは正直知ったこっちゃないんだけど、何も言わないままで相手に勘違いされて愛想尽かされても知らないわよって話。……例えば、マイスの家に行っても毛玉のほうにばっかり構っていたり、ね」

 

 同僚兼後輩であるフィリーを思ってか、それとも友人であるマイスの事を考えてか、そんな助言(忠告)をするクーデリア。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、モコちゃんと遊ぶってことは、マイス君とあそ――」

 

 カチャリ……

 

ハイ、ナンデモナイデス。マイスクントモアソビマス

 

 鉄槌を上げる音を聞いた瞬間、フッ……と表情を消して頷くフィリー。

 そんなフィリーを見てクーデリアは、「本当に大丈夫かしら……?」と心配になり、片手を額に当てて「ハァー……」と今日一番大きなため息を深々と吐くのだった……。

 




 ちょっとお節介焼きな親友&先輩ポジションに綺麗に収まっているくーちゃん。
 たぶん、『クーデリアルート』以外では大体こんな感じになるんじゃないかと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリー【*5-1*】

 すすま……








※2019年工事内容※
 特殊タグ追加、細かい描写の追加、句読点、行間……


【*5-1*】

 

 

 

 

 

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

「だ、大丈夫……いけるっ、いける! ……はず」

 

 深呼吸をした後に()()()()()()()()()()()()()

 

「フィリーさん、また(ひと)(ごと)言ってるみたいだけど……大丈夫かな?」

 

 ティーポットの中の『香茶』がきれてキッチンの方へと向かって行くマイス君が何か言ったような気がするけど……たぶん気のせい、だよね?

 それに、「かもしれない」なんていう曖昧(あいまい)なことに集中を乱してしまうわけには……って、こんなこと考えてる時点で、十分集中を乱しちゃってる気も……?

 

 

 と、とにかくぅ! 今は、気を静めて、落ち着いて、無になって! それで、良い所で噛まないようにマイス君に話しかけないと……!

 本当に気をつけないと、今日、マイス君の家(ここ)に来た時に挨拶しようとして「おひゃよっ……!」ってなったみたいな大惨事になりかねない!

 

「ううっ……どれもこれも、こんなに緊張してるせいで……こんなに緊張することってほとんど無いのに……!」

 

 体の芯から震え上がってしまい、全身全霊を持って「平常心」だとか「落ち着いて……」とか考えていないと過呼吸になってしまうんじゃないかってくらい……は言い過ぎかもしれないけど、それくらいの緊張。

 

 こんなの、受付で男の人――特に身体が大きくて威圧感のある人――や、目つきの鋭い人、なんでもかんでもすぐに文句を言ってくる人、とにかく声の大きい人の相手をしないといけない時とか……あと、仕事で失敗をしてクーデリア先輩に睨まれた時と、ステルクさんの顔を見てしまった時と……

 少なくとも、それくらいの場面と同じくらい緊張して……!

 

 

 して……?

 

 

「……あれ? 「ほとんど無い」どころか「よくある」……っていうか「いつも通り」?」

 

 むしろ、それくらい経験してるはずなのに、一向にこの感覚に慣れてないような……? それどころか、悪化、してたり……? いやっ、あれ? ああ、でもそれはさすがに無い……かな?

 ……そんなことにも自信を持てない自分が情けないよぅ……。

 

 

 

「ま、まぁっ! 私が色々とダメダメなのは、今に始まったことじゃないし……!」

 

 自分で言ってて凄く悲しいけど……それよりも何よりも、今はこれからのこと(目の前のこと)に集中しないと! そのためにも、この緊張をなんとか……!

 

 

 そうだ……そもそもこの緊張(これ)は、何日か前にクーデリア先輩がマイス君が好きとか色々(あんなこと)言ってきたからで……それでいつも以上に意識しちゃった上に、「今度はあの毛玉じゃなくて、ちゃんとマイスと遊びなさい」なんて言ってきたから余計に難易度がはね上がって……!

 こんなの、駆け出し冒険者に最初の関門『グリフォン』を討伐しろ……どころか『ドラゴン』を討伐しろ、って言っているようなレベルだと思う。

 

 というか……今思えば「モコちゃんと遊びたい」っていうのも、人の状態の(カッコイイ)マイス君を意識してしまうことへの一種の逃げ道になってたのかも?

 

「あっ、でも、モコちゃんが大好きっていうのは間違い無いし、フワフワモフモフな毛も大々好きだし、あの後ろから抱きしめるのにちょうどいいサイズなのがまた何とも……ふへへへ~…………はっ!?」

 

 いけない、いけない! ついつい妄想に浸るところだった!

 ……でも、人の状態では逆にマイス君が私を抱きしめて……っていうのは鉄板だと思うけど、いっそのこと人の状態()()私がマイス君を抱き抱えるような体格差だったら……なんて妄想をしてみるのも悪くないよね?

 そもそも、現状じゃああんまり体格差はないし、これからどっちかが成長すればあるいは…………二十歳を過ぎても、成長、できる……かなぁ?

 

 

 いやいやっ! だ・か・ら!! そんな妄想じゃなくって、今日はちゃんとマイス君を誘って何処か遊びに……

 

 そこまで考えて、私は「あれ?」と首をかしげる。

 

 

 ()()()()()()()()()……()()()()()

 

 

 『香茶』でも飲みながらお喋り……は、どう考えてもモコちゃん状態でモフモフしながらのほうが良いに決まってる。うん、間違い無い。

 

 その、一緒に手、とか繋いだりしてお散歩……って、どう考えても、マイス君を見つけた人もモンスターも寄って来て、私の精神状態がヤバくなる未来しか見えない……。

 

 クーデリア先輩が言ってたような買い物(ショッピング)に行く……いや、何買うの? 私は、ちょっと欲しいモノとかあったりするけど、それにマイス君を付き合わせるのも何だか……じゃあマイス君は? っていうと、ほぼ自給自足だし、薬でも武器でも装飾品でも、何でも自分で作っちゃうから……欲しいモノなんてあるのかな?

 

 

 「他に何かあるかな?」って考えてもみたけど……うん、全然思い浮かばないよぅ……。誘うために勇気を出したり、緊張をどうにかしようとする前に、そのあたりの計画をちゃんと練らないといけないことに、私は今更ながら気付いたのだった……。

 

 

 

 

「はい、フィリーさん。これでも飲んで、ゆっくりのんびりして」

 

「う、うん。ありがとう」

 

 いつの間にかキッチンから戻ってきていたマイス君から新しいティーカップを受けとりながら、お礼を言う。

 

 ……ん? あれ?

 熱さに気をつけながら、受け取ったティーカップに口をつけてみたんだけど……前にだされた『香茶』とは香りも味も違うような気がした。なんていうか、こう、すっごく落ち着くっていうか、自然と力が抜ける感じがするっていうか……。

 普段、飲んでいる『香茶』とは違う……でも、これまでにもマイス君の家(ここ)で時々飲んだこともあるような気もする『お茶』。コレって……?

 

 そのことを私が問いかける前に、いつも通りの微笑みを浮かべたマイス君が先に私が聞こうとしていたことを言ってきた。

 

「『リラックスティー』って言ってね、こっちでメジャーな『香茶』とは素材とか色々違うんだ。その名前の通り、リラックス効果があってね、これまでにも時々淹れたことはあるけど……うんっ、今回が一番効果が出たのかな?」

 

「へぇ……そうなんだぁ」

 

 どうりでさっきまでの緊張がウソのように落ち着けたわけだ……。それでいて、眠くなったり、ポヤーってするわけでもなく意識はしっかりすっきりしているという、なんていうか少し不思議な感覚……。

 その効果に驚きつつ……その言ってる感じからして、マイス君が私の様子を心配してこの『リラックスティー』を淹れてくれたんだという事を察することは難しくなかった。

 

 

 そんなマイス君のおかげでこうして緊張がほぐれたわけだ。その気遣いにお礼を言いつつ、流れのままお散歩……いやっ、やっぱりお買い物……? ううん、わかんないから、もうなんでもいいっ! と、とにかく何かに誘って……!!

 

「ああ。まだ私が受付で働いてた頃に王宮で流行ってたあのお茶ね。確か、大臣……ああ、今は前大臣だけど……あの人もかなり気に入ってたわね。というか、重宝してた、って言ったほうが的確かしら?」

 

「普段からお仕事が忙しくて大変っ、そういう人ほど『リラックスティー』は効果覿面というか……今でも、メリオダスさんの定期的に茶葉を持って行ってますから」

 

 さあっ! 今こそ、勇気を出して! やらなきゃ、フィリー()!! って…………ん? あ、あれ? マイス君、誰と話して……

 

「まぁ、メリオダスさんもトリスタンさんに後を任せてからは、随分と楽になった……はず、ですし……?」

 

「マイス君? 言い淀んじゃってるあたりでもうわかってるかと思うけど、後任のトリスタン君が中々(なっかなか)真面目に働かないから、前大臣は頭を悩ませてばかりで結局あんまり変わらなかったのよ? とはいっても、最近のことは流石に私も把握しきれてないんだけど……ま、トリスタン君のことだし、相変わらずなんでしょ?」

 

 私が座っているソファーとも、マイス君が座っているイスとも別のイスに座って、『リラックスティー』の(はい)ったティーカップを持って話していたのは……そ、その、最近は聞いてなかったのに、こう、全身が忘れることが全く無くてビクッて反応してしまうくらい聞き覚えがある声……()()()()……っ!?

 

 

「お……おおおっ、()()()()()!?

 

 

「ひさしぶりね、フィリー?」

 

 反射的にソファーから跳び上がってしまった私の反応を特にどうと思った様子も無く、お姉ちゃんは手をヒラヒラ振って簡単に挨拶を…………って、そうじゃなくてっ!?

 

「なんでお姉ちゃんがマイス君の家(ここ)に!? 何時(いつ)入って……いやっ、そもそも何時帰ってきて……!?」

 

「あいっかわらず、驚いた(こういう)時だけ声が無駄に大きいわねー」

 

 お姉ちゃんは私の問いに答えようともせずに、ちょっと呆れた顔をしながらもケラケラと笑っうばっかり……。

 

 

 そこに、「あれ?」っと声を漏らして首をかしげたのはマイス君で……そのままマイス君は不思議そうに言ってくる。

 

「エスティさんが家に来たのはついさっきですけど……んん? でも、街に帰って来てからは少し()ってるような……? なんで二人はまだ会ってないような会話を? もしかして、本当に会ってない、とか、そういうことだったり?」

 

 (いぶか)しげに聞いてくるマイス君、「いや、まさか……」と自分でした予想を否定してはいる――んだけど、あの、そのー……ざ、残念ながらっていうか、想像通りっていうか……。

 

「ううん、ホントに会ってないのっ。 そもそも、(ウチ)に帰ってきてないし……っていうか、マイス君はもうお姉ちゃんに会ってたんだ」

 

 でも、そのこと自体にはそこまで驚きは無かったりはする。

 というのも、街を出ていったお姉ちゃんは(ウチ)には何の連絡も寄越さないのに、何故かマイス君とは最低でも月一回のペースで手紙のやりとりをしている……内容はなんというか報告文とかに近い感じのちょっと堅苦しさがあるものだった、はず。それを前に知る機会があったから、先に会ってたとしても、そういうの(報告関連)のことだろうって納得はできる。

 

 そう考えたところでお姉ちゃんが、その私の予想が的中しているという事をちょうど話し始めた。

 

「ちょっと仕事で……というより、国の今後に大きく関わることでマイス君に用があったのよ。家に帰ってないのは…………街に帰ったのが久しぶりなせいで、ありとあらゆる方面で忙しいからよ、うん……」

 

 そういうお姉ちゃんの目は……あぁ、ホントに()()()が忙しいんだろうなぁ……。「婿探し」だとか何とか言ってたけど……ちゃんと出来てるのかな? いや、まぁ、出来てたところで、お姉ちゃんには色々と厳しそうだからお婿さんは出来そうにないと思うんだけどね……。

 

 

 

 ああ、でも……お姉ちゃんの結婚関係(そんなこと)はどうでもいいとして、だ。

 

 これでまた、私はマイス君を遊びに誘うなんてことはできなくなったわけだ。お姉ちゃんの前でそんなことをするのは、難しいっていうか下手すれば自殺行為っていうか……。マイス君と出会ったばかりの「王国時代(あのころ)」ならまだしも、今は私もマイス君も(お互い)いい歳で……過敏なお姉ちゃんは……ねぇ?

 

 

 

 お姉ちゃんが帰ってきた『アーランド』。

 せっかく頑張ってちょっと勇気を出して「マイス君との間を詰められたならなぁ」なんて考えてたのに……ううっ、こ、これから大丈夫かなぁ……?

 




 ……ない!

 『フィリールート』のラスボス、STⅢが本格参戦!(まだ平和)
 まだなにもできてないのに、どうするフィリー!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリー【*5-2*】

 諸事情により、今回はこれまでに無い日記風の文となっております。 
 時間軸もかなり移り変わったりと、初めての試みで大変なことになっております。読みにくいかもしれませんが、ご了承ください。


 えっ? 誰の日記なのかって?
 それは、????さんのですよー。正確には日記では無く……。






※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、特殊タグ追加、行間……


【*5-2*】

 

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

某月某日

 

 

 長年の悩みであるあの子のことをどうにかするべく、新しい(こころ)みを実行ことにした。

 

 いい加減あの子の人見知りで引きこもりな所をどうにかしたい……いや、そろそろどうにかしないと、あの子のためにもならない。いつまでも親や私なんかがついていられるわけじゃないんだから。

 

 ちょうどいいことに、わたしはここ最近、同年代でありながらあの子とは対照的に活発でフレンドリーな子たちと交流する機会が増えていた。

 《font:0》その内の二人から、それぞれアドバイスと協力を得ることができた。

 

 あの子をおつかいに出す。

 

 おつかいの内容やそこに至るまでのおおよその道筋は考え終えた。あの子に渡すメモ用紙も用意できた。あとはこれを……。でも、メモ用紙を渡すのはおつかいに出す当日……つまりは明日の朝。直前じゃないとゴネたり、部屋に閉じこもってしまいかねない。

 

 あの子にとっては大冒険のはず。

 心細いかもしれないけど、手を貸してくれそうな子に護衛を頼むように仕向け、メモ用紙のほうにも名前なんかも書いておいたから大丈夫だろう。人との交流の機会も増えるわけだから一石二鳥というやつだ。

 

 これが刺激になって変わってくれればいいんだけど……

 第一、昔は今ほど引きこもったりしなかったし、私の後ろをついてくるって条件付きではあったけど、そこそこ活発に遊んでいたりもしたはず。だというのにあの子ったら最近は――――(以下略)

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

○月〇日

 

 

 おつかいは成功だったみたい。

 

 朝、無理矢理家から閉め出した時には、玄関先でメソメソ泣いて中々離れなかった時には無理かなと思ったし、時々振り向きながらトボトボと歩いていく姿を見て不安にもなったけど、あの時心を鬼にして良かったと今では思ってる。

 

 帰って来たあの子はニッコリとじゃなくて、ニヨニヨとでも表現しそうな変な笑い方だったけど、嬉しそうにしていた。

 頼んでいた物とそれ以外にも沢山の物をもらってきてたけど……別に失敗したとかそういうことじゃないと思う。というのも、おつかい先は私に協力してる子で、その子の性格を考えると「これも持って行っちゃって!」と余計に色々あげちゃうのは容易に想像がついてしまうからだ。

 

 なにはともあれ、成功は成功。

 あの子の様子からして、外が怖いことばっかりじゃないってことはちゃんと理解できたはず。すぐにとはいかなくても、あの子の性格も改善はしていくだろう。

 

 帰ってきたあの子のことはいっぱい褒めてあげた。……頭を撫でる時、妙にビクビクしてたのは気のせいだと思いたい――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

α月β日

 

 

 おつかいにあの日以降、あの子は目に見えて笑顔が増え、明るくなっていた。

 

 ただ、それが「一人で」って言うのが問題だ。一般的に言う「思い出し笑い」とかそんな感じで、一人じゃなくて私なんかと話すとなると、やっぱり目も合わせないし、オドオドしてしまうのはあいかわらずだった……雰囲気はほんの少し良くなった気はするけど。

 

 これでは改善したとは言えない。

 人見知りは、家から無理矢理連れだしてお店の人とかと話させてみたけど、「ギリギリ話せるようになった」レベルで、やっぱりまだまだだ。

 

 

 部分的には良くなっているのは事実。そのヒントは間違い無く協力してくれた子にあるんだろう。

 あの子におつかいの時に何があったのか聞いてみても「秘密」だと言って教えてはくれないから、協力してくれた子に色々と聞いてみるしかない。

 

 今度、何があったのか、何かしたのか直接聞いてみることにしよう。

 確か、ちょっと前に依頼を受けに来てたから、近々その報告に来るはず。その時に聞いてみても――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

#月*日

 

 

 驚いた。一応事前にあの人から話は聞いてたけど、本当にモンスターと一緒に暮らしてるだなんて。

 しかも、鎖でつないでたりするわけでもなく、野放しも同然の状態で過ごしてるらしい。

 

 驚いたし、そんなモンスターのいるところにあの子が行っていたということに不安を感じた。

 けど、話を聞いてみれば、あの子の性格が少し改善されてたのはそのモンスターの功績と言っていいものだったらしい。そう考えると頭ごなしに否定したり拒否反応を示したりしてしまうのは憚れた。

 

 それに、あの子が私に秘密にしたのが「仲良くなった相手がモンスターだったから」という理由だとすると納得できてしまう。

 あれな性格だし人見知りだけど、別に頭が悪いわけじゃない。「良いこと」と「悪いこと」の区別くらいできるだろうし、一般的な価値観も理解しているだろうから、モンスターだというだけで良い目で見られないかもしれないっていうことは予測できたんだろう。

 

 何色々考えてあの子とそのモンスターを引き合わせてくれたんだろう、その協力してくれてる子に、またあの子に会ってあげるようにとお願いした。

 

 これで、あの子はまた外に出る機会がドンドン増えていくだろう。そうすればきっと、もっと――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

何月何日

 

 

 私が手を回した子以外に初めて、あの子の友達が家に来た……らしい。

 本当に残念なことに、私はその場に立ち会うことはできなかった。

 

 その友達というのは、実は私の知らない子ではなかった。

 

 街の広場なんかで時々人形劇をしている女の子だ。

 劇をしている最中やその姿格好を見るだけじゃあ結構活発そうな子に見えるんだけど、実際に話しているのをみたり普段の様子を見てみると、意外と恥ずかしがり屋で、話すのも自分の思っていることを言葉にするので精一杯って感じの子。

 あの子とは性格面では似ている気もしなくはない。そういう似たような子とのほうが話が合ったりするんだろうか?

 

 とにかく、おつかいに出してから一番の大きな変化。喜ぶべきことだ。

 今回の事なんかは特にそうだけど、私の知らないところで随分といろんなことが変わっていっている気がしてきた。あの子の雰囲気も随分良くなってきたし、もう私が手を貸さなくってもどうにかなっていく時期なのかもしれない。

 

 少し寂しい気もするけど、それ以上に「やっとか」っていうある種の安堵感のほうが強い気も――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

A月Z日

 

 

 まだ駄目だった。

 一部を除いたほとんどの男性に対してはまともに会話もロクにできないみたい。ごく稀に女性に対しても怖がったりしてるけど……その基準はあんまり分からない。ちょっと注意深く観察してみる必要があるかも?

 

 以上のような不安な点はまだまだあるけど、それでも一歩一歩着実に改善されて行っているのは間違い無い。この調子でいけばそう遠くない未来、この子が普通にやっていける日がくるかもしれない。

 

 まだ目を離すことはできないけど、きっと大丈夫。

 何はともあれ、他に説くべきことはあるんだ。私生活のほうの改善ややる仕事のこととか、あの子には足りてないものが多い。私がなんとかしてあげられそうなところは、多少厳しくしてでも叩き込んでしまおう――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

△月▼日

 

 

 国が変わり、制度が変わり、そのせいで生まれた新たな仕事とその他諸々個人的な都合もあって、街を出ての仕事になることに。

 これまでの仕事は後輩とあの子にブン投げることになったのだけど……あれから何年も経ったけど、元気にやってるかしら?

 

 一応は、ある子に頼んで月一回くらいの頻度であの子の様子を報告してもらってるんだけど、気になるものは気になるのだ。

 報告では、日に日に冒険者への態度も良くなっているそうだし、仕事の失敗も減ってきて、失敗しても立ち直りが早くなっていっているらしい。

 

 ……が、それはあくまでも報告を書いてくれてる子の目線で見ればってだけの話。性格的に色々と甘い部分もあるし、実際は報告に書かれていること以上のことがあってもおかしくはない。

 特に「あの子に男の影は無いか?」という部分では、そもそもコッチの聞いてることをちゃんと理解して報告をくれているかはちょっと自信が無い。報告を書いてくれてる子って、女の子に囲まれたりすることもあるのに無反応っていう、その手の話に疎いどころじゃない鈍感さだから、自分のこと以外でも普通に何か見落としてそうな気がしてならない。

 

 忙しいのは変わらないんだけど、近いうちにこの目で直接様子を見てみたい。

 けど、どうせあの人がまた仕事を増やすだろうし、そもそもちょっと目を離したら――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

晴月雨日

 

 

 忙しいなんてものじゃなかった。上へ下への大忙し、国の上層部は大混乱で私やあの人も含めた色んな役職の人が急遽集まる事態にまでなった。

 

 ……だというのに、結果はただの噂話が一人歩きしてしまっただけでしたーっていう。人騒がせな!!

 

 本当だったら確かに一大事だったかもしれない。けど、嘘だったらただの徒労に終わってしまう。

 「こんなことが何度もあってはかなわない」という意見も少なからず上がり、対策やら何やらを議論するはめに。頷ける点もあったけど、「もう結婚させちゃえば?」みたいな話まであったのは流石に頭にきた。

 

 人権・倫理的に考えて、本人の知らない場で結婚を勝手に決めるとかそういうのは良くないに決まっている。……別に個人的な感情じゃない。断じて違う。違うったら違う。

 

 

 しかし、「火のない所に煙は立たぬ」なんて言葉もあるし、実は……なんてこともあり得なくも無いだろう。

 そこそこ長い付き合いだし、気になるのは気になる。ちょっと調べてみる必要があるかもしれない。

 

 別に先を越されたくないとかそういうわけじゃ――――

 

 

 

――――――

 

――――――――――――

 

――――――――――――――――――

 

――――――――――――

 

――――――

 

 

 

!?月!?日

 

 

先回り・乱入作戦を数回にわたり実行。

作戦実行の際の反応・言動、誘導尋問(おしゃべり)などの結果を集約し総合的に判断した結果……以下の結論に達する。

 

()()()()()

()()()()()

 

 

以上。これに伴い、直ちに新たな作戦の立案と迅速な実行をすべきと判断。

最優先事項とする。

 




あっ(察し


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX
感謝祭・前編(甘くはない)


 RF4では『バレンタインデー』『ホワイトデー』に分かれ、それ以前には『感謝祭』の名前で知られるイベント。
 『アーランドシリーズ』ではアプリの『アトリエクエストボード』にて期間限定イベントで『バレンタイン』『ホワイトデー』のイベントがあります。


 今回は、その『アトリエクエストボード』でのイベントをベースに「細かいところは気にするな」精神で書いています。

 時期的には【*5*】前後くらいのタイミングを想定していますが、あまり気にしてはいけません。
 主に、「イベントの概要」、「本編および各ルートでの状況・感情面整合性」等が色々と変化しておかしくなっています。


 また正確には「前編」ではなく「分岐点前」というのが正確な表現となります。


 

 

【IF】感謝祭・前編【EX】

 

 

 それは、本当にのんびりとしたいつも通りのお昼前。

 

 

 『エビルフェイス(塔の悪魔)』を倒したことで冒険者となった当初の目的だった「おかあさん探し」にも区切りがつき、それ以外でも期限が迫った依頼もこれといって無く、トゥトゥーリア()は少しばかり暇を持て余しちゃってた。

 (こっち)での活動の拠点にさせてもらってる『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』を朝から出て、そう目的も無く『アーランドの街』をふら~っと散歩してみて…………何があったってわけじゃないけどなんとなく満足したトトリ()は『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』へと帰ることに。

 

 その帰り道の途中、『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』のすぐそばの雑貨屋さんの前を通り過ぎようとしたその時、「あっそういえば……」と前回の調合で使い切る直前までに減らしてしまった素材(モノ)があったことを思い出して、急きょ雑貨屋さんに立ち寄ることにしたんだけど――――

 

 

 

―――――――――

 

 

 

***ロウとティファの雑貨店***

 

 

 

「あれ?」

 

 雑貨屋さんに入ってすぐお目当ての素材(モノ)を買うために、普段ソレが置いてある商品棚のほうへと向かおうとして、ふと違和感を感じた。

 

 その違和感の原因はすぐにわかった。

 いつもと商品の位置がちょっと変わってる、というよりも正確には――――

 

「なんだか、(かたよ)ってる?」

 

 いやまぁ、こういったお店の壁際じゃないお店に入ってすぐに目にはいる位置の商品棚に置かれる商品は、季節や流行、仕入れの状況によって入れ替えられて所謂(いわゆる)「おすすめの商品」としてキレイに並べられるっていうことは知ってるつもりなんだけど……それでも、ある程度はばらつきがあったような気がする。

 ただ、今日(今回)のおすすめの商品は、色々あるにはあるんだけど……コレ、ある意味一種類だよね?

 

 

 そう、棚いっぱいに並べられているのは、形や包装の色、そしておそらくは入っている素材(もの)やそれによって変わる味に違いがあるんだと思われる、シンプルな板状のものからちょっと手間がかかってそうなものまで沢山の種類の『チョコ』。色々あるけど、この棚には『チョコ』だけしか置かれてない。

 

「でも、どうしてこんなに『チョコ』ばっかり……?」

 

 これまで聞いたこと無かったけど『青の農村』で作られてるお野菜みたいに『チョコ』にも旬があるのかな?

 

 

「あら? もしかして、トトリちゃんは知らなかったかしら?」

 

 並べられた『チョコ』を前に首をかしげてしまった私に声をかけてきたのは、もちろんこのお店の店主の――

 

「ティファナさん、こんにちは! あの、それで、知らなかったっていうのは……?」

 

「このあたりだと、『チョコ』をプレゼントして相手に想いを伝えるっていう風習があってね。それで、ちょうどこの時期くらいからみんな用意を始めるから、その素材や完成品をウチの店でも取り扱うようになってるの」

 

 「トトリちゃんがいた村ではしてなかったかしら?」ってティファナさん聞かれて、思い返してみる。

 

 うーん……あったような、なかったような……?

 先生から『錬金術』を習うまでは私って自分で何かするってことも無かったし、そもそもゴハンとかおやつとか時々お手伝いすることもあったけど基本的になんでもおねえちゃんがしてくれてて……『チョコ』を貰ったことはあっても、それが同じ(この)時期だったかどうかは、憶えてないや。

 

 だけど、「想い」を伝えるなんてそんなイベントがあったなら、今よりもこどもだったとはいえ私が興味を持つと思うんだけどなぁ……? だとしたら、知っててもおかしくない気もしなくはないから、知らないってことはやっぱり『アランヤ村』ではしてなかったのかな?

 

 ……あれ? そういえば、普通に()()()()()()()()()()想像ちゃってたけど――――

 

「いちおう確認なんですけど……「想いを伝える」っていうのは、アレなんですか? そのー、こっ恋人とかそういう……?」

 

「ふふっ。もちろんそういう意味もあるけれど、家族やお友達への感謝の気持ちを伝える日でもあるわよ?」

 

「あぁ、そうなんですね」

 

 なんだ……安心したような、ちょっと残念なような……。 

 変に身構えちゃってただけに、どっと力が抜けて――――

 

 

「もっとも「感謝を伝える日」は別にもあるから、気になる相手への告白の意味合いが強いのも確かなのよねぇ」

 

「うぇえっ!?」

 

「あらあら? その反応……もしかして、トトリちゃんにもついに()()()()()()()が出来たのかしら?」

 

「そっ! そういうわけじゃ……!!」

 

 ううっ。否定しても、ティファナさんは意味有り気に微笑むばっかりでちゃんと聞いてくれない……

 それは、まあ、私だってそういう話に全く興味が無いって言ったらウソになっちゃうけど、だからと言って「自分が」ってなるとそれはまた別問題だよね。……興味がないわけじゃないけどっ。

 

 

 

 何はともあれ、そんなイベントがあるってことはわかったんだけど、一つ疑問が……

 

 

 

「私って、そういうイベントはマイスさんのところで真っ先に知るはず……なんで教えてもらってないんだろ?」

 

 

 

 

 

―――――――――

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 とりあえず買う物を買ってから帰り着いた『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』は、普段よりちょっとだけ賑やかだった。

 とは言っても、依頼が沢山舞い込んで忙しくしてたとかそういうわけじゃなくって、お客さんが来てただけなんだけどね。

 

 ロロナ先生と、お仕事がお休みだから先生に会いに来たっていうクーデリアさん。私が出掛けてる間に来て、すれ違いになっても悪いしその内帰ってくるだろうからと待ってくれてたミミちゃん。あと、何の用事かは詳しくは知らないけど、昔先生のお手伝いをしてたっていう――けど、私の中ではどちらかというとマイスさんとセットなイメージのある――ホムちゃん。

 帰ってきた私を入れて5人――と、それに加えて『ロロナのアトリエ』にいるちむちゃんたち4人が、今アトリエにいることに。

 

 

 

 

 私はとりあえず、先生からお茶を受け取りながら、お散歩中のこととを……そして、雑貨屋さんで聞いたイベントの話をしたんだけど――

 

 

「あー! あったね、そんなイベント。なつかしいなぁ~」

 

 先生以外も「そういえば」といった感じで、思ってたのとは違ってみんな興味が薄いみたい? あれ? もしかして、「ちょっと楽しそうだなー」なんて思ってたのは私だけなのかな?

 あと、ミミちゃんに関しては、送る相手(ともだち)がいた事にちょっと驚いてる……あっ、友達じゃなくて家族かな? それなら納得だね。

 

 というか……

 

「「そんな」って……。先生、なんだか少してきとーな扱いしてる気がするんですけど、もしかして嫌いだったりしました?」

 

「そ、そんなこと無いよ!? 良い風習だと思うし、私自身も色々と思い出もあって……!」

 

 ロロナ先生がなんとなくだけど()()()()()反応をしてる気がして、そこをつついてみる。すると、思った通りではあるんだけど、思った以上に動揺してて目が泳ぎ出してた。

 一体どうしたんだろう? ……もうちょっと、つっついてみよう。

 

「本当ですかー?」

 

「ううぅ~……感謝を伝えたり大事なイベントだって言うのはわかってるし、嬉しいし、気合も入るけど……けど、チョコの調合の依頼が山ほど入ってきて何日もチョコばっかり調合することになったり、国からの課題の進行具合とかと変に被っちゃったら、それはもう大変で大変でー……」

 

 ほんのちょっと涙目になりションボリしながら話し出すロロナ先生。

 

 その話を聞けば、先生のさっきまでの反応は納得はできた。

 国からの課題っていうのは、話には聞いてはいるあのアトリエ存続のためのやつだったよね? つまりは、楽しいことだけじゃなく、大変なこともたくさんあったってこと……うん、『チョコ』の依頼で忙しかったってことも含めて、きっと先生自身が楽しめるような状況じゃなかったんだろうなぁ。

 

 と、先生が言ってたことに静かにだけどしっかりと頷いていたホムちゃんが、私が見た限りではいつも通りの表情で――でも、こころなしか声はトーンが落ちてる感じてて――当時の事を少し付け加えて教えてくれた。

 

「時期的には課題の期限そのものと被ることはありませんでしたが、それでも休む暇も無いようないわゆる「修羅場」というやつでしたね。……ですが、今のアトリエの(この)様子を見る限り、どうやら最近はそういう依頼は入ってきてないようで」

 

「そういえば、イベントがあるなら依頼が入ってきててもおかしくないんだけどなぁ?」

 

「確かに……。それに、これまではトトリがそういった依頼受けてたことってなかったわよね?」

 

 ミミちゃんが(こっち)のほうを向きながら聞いてきたけど……ミミちゃんが言ったように、言われてみれば私が『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』を借りて活動するようになってから何年も経ってるけど、これまでにそういった依頼は無かった気がする。

 いや……一応『パイ』とか他のお菓子関係の依頼に交ざって『チョコ』系もあったような? でも、そんな大忙しになるほどじゃなかったし、そもそもこの時期でもなかったから、気のせいかな?

 

 とにかく、今までの話を聞く限りじゃあ、本来今頃こんなのんびりとお茶飲んでお喋りしてる暇なんて無いはずなんだけど……なんでだろう?

 

 

 そんな私たちの疑問は、今までチョビチョビと香茶を飲みながら話しを聞いてたクーデリアさんだった。

 

「それは、アレよ。ロロナが前に旅に出てた時期があったからよ」

 

「ふえ?」

 

「先生が旅に出て? ……あっ、もしかして?」

 

 一瞬、頭に疑問符(ハテナマーク)が浮かんじゃったけど……ここまでの話を改めて振り返ってみたら、クーデリアさんの言おうとすることは大体予想できた(わかった)

 私の考えが読み取れたのか、クーデリアさんは短く「そっ」と頷いてからそのまま話しを続けた。

 

「アトリエに誰もいなくなれば当然依頼も来なくなって、アトリエにお願いしてた人たちは他所に頼むようになったのよ。昔からこの時期には『サンライズ食堂』とかでも『チョコ』を取り扱ってたりしててね」

 

 そう言ったクーデリアさんだったけど、そこから「でも……」と少し話を変えつつ話しを続ける。

 

「もっと結果的なことを言えば、アトリエに来てた分を他所に回っても、ただでさえ忙しかった所に注文が増えても限度が出てイベントそのもののあり方も微妙に変わっていったのよ。つまりは、頼む側もそれとなく察せて……ちょっと過程は省くけどそれから色々あって、このイベントでのプレゼントの主流が市販のシンプルな既製品の『チョコ(ヤツ)』か、それを元にして作った手作りの『チョコ(ヤツ)』になったの」

 

「なるほど。それで『ロロナのアトリエ(ここ)』に私が居るようになる時期には、もうアトリエに『チョコ』の依頼をする人がいなくなってたわけですね」

 

 でも、少し勿体ない気がするなぁ。

 依頼が来てたら、このイベントの事をもっと早く知れてたわけだし、お菓子作りも別段嫌いなわけじゃないし、当然プレゼント様に先生やミミちゃん、他にもお世話になってる人たちの分とか、ついでに自分の分も作っちゃったりして……

 

 ……ううん、冷静に考えたらちょっと無理だよね。今でこそ余裕が出来てるけど、『冒険者免許』の期限の事やおかあさん探しのことを考えると、そんな『チョコ』作りに没頭するヒマはあんまり無かっただろうなぁ。というか、今の私なら何とかこなせるかもしれないけど、(まえ)の私じゃあそんな沢山の『チョコ』の依頼を期限を守りきれなかっただろうし……。

 先生、アトリエの存続がかかってた時期らしいのによくやれたよね……。おっちょこちょいなところもあるけど、『錬金術』に関しては昔から凄かったのかな?

 

 

 いや、でも……うん。改めて考えても、依頼のほうは無理だったとしてもイベントのことについては早く知っておきたかった。

 それはまぁ準備とか色々大変な部分もあるだろうけど、せっかくの楽しそうなイベントなんだから多少忙しくてもちょっとだけでもいいから参加しておきたかった。こういうのって、やっぱり楽しんだもの勝ちだし、どうせならお祭りみたいにみんなで盛り上がった方が…………なんだか、考え方がマイスさんみたいになっちゃってる?

 

 

 

 

 

 って、そうだった!

 私が今回のイベントを今の今まで知らなかった大きな要因って、やっぱり()()()()だと思ってるし、それが一番の疑問なんだ。だから、先生たちに聞かないと!

 

 

「あのっ! ティファナさんから聞いてからずっと思ってたんですけど……私、こういうイベントって大抵マイスさんのところで知るんです。だけど、今度のは今まで聞いた憶えが無くって……その、もしかして、何か理由があったりするんですか?」

 

 疑問に思っていたことを口にしたところ――

 

 

「えーっと……『青の農村』のお祭りには含まれてないし、告白とかそういうのはもちろん、()()()()()()()()()……マイス君だし、ね?」

 

 そう言ってちょっと困ったような笑みを浮かべる先生。

 でもマイスさんは、告白とかソッチ方面はそれはそうかもしれないですけど、感謝の気持ちはむしろ人一倍表しそう(ありそう)な気が……。

 

 

「おにいちゃんは感覚がズレてますので。おそらくは、そういったおにいちゃん特有の事情もあってお話になる機会が無かったのだと、ホムは思います」

 

 ホムちゃんはどこか残念なものでも見るような目をしてマイスさんの事を語った。

 マイスさん特有の事情? それがいったい何のことなのかはわかんないんだけど、感覚がずれてるのは否定できないし、する気は無い。

 

 

マイス(あいつ)の頭の中じゃあ「お祭り=皆で賑やかに」みたいになってんでしょ。……けど、参加自体はちゃんとしてるんじゃないかしら? リオネラは街にいない間はしらないけど、フィリーなんかは熱心に毎年あげてたみたいだし、それに対して律儀なマイスがお返しをしないわけがないし」

 

 私はクーデリアさんの言葉の前半で凄く納得して――後半には凄く驚かされた。

 えっと、もしかして……いや、もしかしなくても、わざわざ名前を出された二人は――――ううん、やめとこう。そもそも、それは私が聞いても良いものなのかな?

 いいなら、もうちょっと聞いてみたいんだけど……

 

 

「マイスさんはイベント自体はちゃんと把握してた(知ってた)わよ? ただ……前にいたところでは、似たようなお祭りを話に聞いたことはあっても、実際にしたことは無くて「どうにも馴染まない」とか「いつものおすそわけとの違いがわからない」とか言ってたわ」

 

 ミミちゃんは、クーデリアさんよりも詳しくマイスさん側の認識を教えてくれた。すっかり忘れてたけど、マイスさんって私と同じで『アーランドの街(このあたり)』出身じゃなかったんだったね。

 似たようなお祭りを話に聞いたことがある、ってことは他所の街でもそういった風習があったりするってことかぁ。街でのこともそうだけど、本当私が知らなかっただけで、意外と有名なのかな?

 そして……確かに、マイスさんって昔から「沢山出来てもったいないから」とか「いつもお世話になってるから」とか何かと理由をつけて、畑で作った野菜とかソレらを加工した『パイ』とか諸々を普段からよく持ってきてくれたりしてた。そう言われてみれば……なんというか特別感が無い気がするかも? もしかして、先生が言ってた「()()()()()()()()()」っていうのは「普段からやりまくってるから周囲もマイスさん自身も変に薄れてる」とかそういうことだったり……?

 

 

 というか、それら以上に気になるのは……

 

 

「ミミちゃん、まるで聞いたように具体的に言ってるけど……もしかして、そういう話をマイスさんとしたことがあるの?」

 

「あるもなにも、私がこのイベントの事を教えてくれたのはマイスさんで――――はっ!?」

 

 言ってる途中で()()に気付いたようで、ミミちゃんは柄にもなく目と口を大きく開いてしまいながらも、なんとか言葉を止めた――けど、もう遅いんじゃ? 私を含め、アトリエにいたみんなの視線がミミちゃんに突き刺さっちゃってる。

 そんな視線を一身に受けたミミちゃんは、案の定、これでもかというくらい顔を真っ赤っ赤にしちゃって……そして、首と手を振りながら「ちがうわよっ!」って必死に弁解(ごまかそうと)しだした。

 

「別に街出身なのに、全然知らなかったとかそういうんじゃなくて……だいいち、あの頃はまだ私はこんくらい小さい子供で知らなくて当然だったのっ! そこに本当にたまたまマイスさんがいて、怪我とか心配だからって『チョコ』の作り方とかも一から教えてくれたってだけで……!!」

 

「……前から思ってたけど、私と初めて会った時のミミちゃんって「マイスには会わないー」とか言ってたのに、実際はマイスさんのこと凄く知ってるし、よくお喋りしててなんだかんだで仲も良いよね? それに今の話じゃぁ結構昔からの知り合いだったみたいだし……一体、どういう関係なの?」

 

「関係!? そっそれはーまぁその……知り合い――昔からお世話になってるんだし、それはちょっと違う気が……? いいえっ、ともだ――でもないし……」

 

 一人でブツブツ呟いてうんうん唸りながら左右に何度も首をかしげるミミちゃん。

 ついには考えるのを放棄したのか、「あーもうっ!!」っておっきな声をあげて――――

 

 

「だだだっだからって、別にこうなんか特別とかそう言うのじゃないわよっ!? 『チョコ』をプレゼントしたのだって作り方教えてくれたののお礼と、あくまでお母様のオマケなんだから!!」

 

 

((((プレゼントしたことはあるんだ))))

 

 ……そこまでなら、やっぱりミミちゃんとマイスさんってただの顔見知りとかそういうのじゃないんだろうなぁ。

 気にはなるけど……でも、これ以上聞こうとしたらミミちゃんが逃げたり暴れたりしかねないから、今はやめとこう。

 

 それにしても、聞いてもいないことまで暴露してるけど……いいのかな? けど、結局はミミちゃんが恥ずかしいだけなわけだし、そんなに気にする必要はないかも?

 

 

 

 と、ミミちゃんの赤裸々な情報漏洩に、勝手に色々と考えてしまってる私だけど、周りのみんなも各々思い思いに好きに言ってるみたいだ。

 

「でも、ミミちゃんったら、そんなに恥ずかしがらなくていいのに……。わたしだってマイス君や他の人にも『チョコ』あげたことあるし、お世話になってる人にプレゼントするくらい普通だよ」

 

「以前グランドマスターが言ってました。「有ること無いこと意識して過剰な反応を示すのは若さゆえで、歳を取ればイタイだけ――だが、どちらもイジル分には面白い!」と。そして「ホムは『チョコ』を渡す際にもっと様々な変化を加えて相手をからかい尽くすべきだ」とも言ってました」

 

「何言ってんのよアストリッド(あいつ)は……。マイスとミミ(あのふたり)に関してはちょっと面倒だし仕方ない気はするけど。……あたしもギルド連中に配るための『チョコ』、そろそろ用意をはじめないとかしら」

 

 ミミちゃんの反応に「もしかしたら」の可能性については全く考えてない様子の先生に、なんだかマイスさんとは別方向にズレてる気がするホムちゃん。

 クーデリアさんは「あいつ」とか「あのふたり」っていうのはよくわからないけど、その表情からするに気苦労が絶えないみたいで……。それに、『チョコ』のプレゼントに関しても先生達とはなんだかちょっと違う感じ?

 

 

 というか、やっぱりというべきか、『アーランドの街(コッチ)』にいた事のある人達は、聞いてる限り皆このイベントに参加したことがあるみたい。

 私の勝手な妄想かもしれないけど、なんだか凄い疎外感が……

 

 

「せっかくの機会だし、今から準備して私も参加してみようかな?」

 

 感謝の気持ちっていったら、おねえちゃんやメルおねえちゃん、村の人たちにも何人か……あと、今ココにいる先生たちと、他には――――

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

***マイスの家***

 

 

 

「うっかり忘れてだけど……もうそんな時期だったんだね」

 

 今朝、起きてすぐに取り掛かっていた日課の畑仕事。その最中にコオル君が来て僕に渡した『チョコ』。

 「いきなりどうしたんだろう?」と首をかしげてると、コオル君は「まあ、最近の様子からして忘れてるとは思った」って言って――予想してたらしいのに、呆れ顔で大きなため息を吐いてたんだけど――いちから説明してくれた。

 

 

 とは言っても、僕もその説明の途中で思い出しはした。

 

 『青の農村(ウチ)』のお祭りには含まれていないものの、昔からの風習として続いているイベントで、内容としては、『シアレンス』のあるアッチの世界では『バレンタインデー』や『ホワイトデー』、『感謝祭』と呼ばれるお祭りと似たものだ。

 行われる時期やプレゼントするモノがそれぞれ微妙に違ったりするけど、おおよそは同じような行事(もの)……だと思う。『シアレンス』ではそういったお祭りは行われてなくて、必然的に僕も参加したことが無いわけだから大体でしか知らないからなぁ……。

 

 

 なにはともあれ、コオル君のおかげで思い出すことが出来た僕は、大急ぎで『チョコ』のお菓子を作りだした。

 都合のいいことに、材料自体は沢山あったから問題はRP(ルーン)次第だったんだけど……いざとりかかると、常日頃から料理をしていた僕には大した問題じゃなくて、ポンポン作ることが出来た。

 

「これだけ用意してとけば、とりあえずは大丈夫かな?」

 

 急ごしらえなため、全部(みんな)一緒のものになっちゃったけど、これでお返しができないっていう最悪の事態は免れただろう。

 

「待てよ? こういう時は、僕のほうから配って周ったほうが良いのかな?」

 

 そうなると、もっと用意したほうが良いかな? 『青の農村(ウチ)』にいるモンスター()たちにもあげたら喜んでくれそうだし……

 

 

 そうと決まれば、追加で作る作業を――――

 

 

 コンコンコンッ

 

 

 ――――そう思って改めてお菓子作りにとりかかろうとした僕の耳に、玄関のほうからノックの音が聞こえてきた。

 

「はーい! 今行きまーす」

 

 

 

 

 

「お腹を空かせたロロナかな?」◀

「クーデリアかもしれない」◀

「おつかいしにホムちゃんが?」◀

「トトリちゃんだったり……」◀

「規則正しいノックはミミちゃんだね」◀

「リオネラさんが律儀に今年も?」◀

「フィリーさんがモフリに……!」◀

「……誰だろう?」◀

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。