Fate/Grand Order【Epic of Lancelot】 (カチカチチーズ)
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番外
有り得たかもしれない道:番外


IFルート


 

 

 

────ガンッ、キィンッ、タァンッ!

 

 

 深夜の街の一角、港付近の人気の無いコンテナ区画にて金属のぶつかるような音が響いていた。

 ぶつかる勢いが強いのか音はかなり大きく響いているのにも関わらず周囲の人間には何も聞こえない。

 それは何故か。

 それはこの場には既に何らかの超常の力が……魔術によってこの戦闘区域から一定範囲内の外に音が響かない様にされているからであった。

 

 

 さて、その肝心の響く金属のぶつかる音、その原因は……二人の戦士。

 片や深い緑の軽装を身に纏い布が巻かれ隠された短槍と長槍の双槍を扱う泣きボクロを持った男。

 片や全身鎧に包まれた右に大盾、左に剣を扱う、何やら黒い靄のようなものでその全容が掴めない騎士。

 互いに達人以上の技量の持ち主か、常人では理解出来ぬぶつかり合いを行っている。

 

 双槍の男はその身に纏う軽装と短槍と長槍の双槍だが軽い身のこなしによる手数で騎士に仕掛けるが、騎士はまるでそれらを先読みするかの如くその右手の大盾で防いでゆく。

 大盾で防ぎ生まれた男の僅かな隙を逃さず騎士はその左手の剣で男の首を狙うが、軽装である為容易く男は回避する。

 こんな一進一退の戦闘が始まってから何度も何度も繰り返されていた。

 

 だが、遂に戦闘に変化は訪れた。

 男が騎士の攻撃を回避しそのまま後方へと退り槍を降ろし騎士を見て笑みを浮かべる。

 

「よもや、狂戦士の身でありながらこれ程の技量とは……感服するしかないぞ」

 

「…………ァァ」

 

 男の感心し敬意を感じさせる言葉に騎士は短く人語ではない唸り声のようなもので返答する。

 そんな騎士の行動が意外だったのか、男は一瞬目を見開き先ほどのようにいや先ほどより深い戦士の笑みを浮かべた。

 

「こちらの言葉に反応出来るとは、なるほどただの狂戦士ではないわけか……それは僥倖だ」

 

「ただの狂犬との戦いと思えば、よもや貴様のような狂気に身を堕としながらも己を保つほどの傑物と戦える、これ程の幸運があろうか」

 

「ァァァ…………ァァッ!!!」

 

 男の言葉に騎士は一際大きく叫び、剣を握る位置を変える。先ほどまでは鍔本辺りを握っていたがいまは柄先の辺りを握る。

 これによりリーチが僅かながらに変化する。

 変化にして10センチ有るか無いか、しかしこの二人の戦闘においてこの変化は大きなものとなる。

 柄先である為先ほどと違い動作が遅くなるがこの騎士にとってその遅延は速さを売りとする男に対しても問題はないのだろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ゆくぞッ!!」

「ァァァァァァッッ!!」

 

 低姿勢で飛び込む男に騎士は大きく剣を振るう。

 低姿勢で動くため段々と加速していく男は大振りな騎士の剣をいとも容易く避けるが騎士の大盾による堅牢な防御は変わらず男は騎士に一撃を入れる事は出来ず、騎士は先ほどまでと違い遅延がある剣を振るわずそのまま大盾で打撃を繰り出す。

 しかし、騎士の大盾による打撃は男に当たる寸前に後ろに飛ぶ事でダメージを最小限に抑える。

 

 互いに決定打は生まれず。

 しかし男は少しずつ騎士の動きを理解していく。

 その防御が堅牢であるが故に騎士は迎撃を避けられた後に追撃はしない。狂戦士でありながら防御の隙を造らないようにする、そんな狂戦士とは思えない騎士の動きに先ほど以上の感嘆の意を抱きながら男は高らかに望む。

 

「我が主よ!どうか、宝具を使う事を許されよ!」

 

 目の前の騎士に出し惜しみは出来ないと感じ、このコンテナ区画の何処かでこの戦闘を見ているおのが主に懇願する。

 何より宝具、その内の一つを用いれば目の前の狂戦士の堅牢な防御を打ち破れるという自信を持っているため。

 

 

『…………』

 

「主よどうか!」

 

『……よかろう。ランサー、宝具の開帳許可しよう』

 

「ハッ!!勝利を主に捧げましょう!」

 

「…………ァァ」

 

 男の懇願にコンテナ区画の何処からともなく男の主の声が響き男に宝具の開帳を許した。

 その言葉に男は歓喜し主へ勝利を捧げる事を高らかに宣言し改めて騎士を見る。

 

「……狂戦士よ、貴様に我が宝具を御覧に見せよう。これは俺から貴様への敬意の表れだ」

 

 そう言って男は双槍の内長槍に巻かれていた布をとく。解かれた布の下から現れるのは紅。

 紅い長槍、これこそが男の宝具。

 これこそが男の勝利の自信の理由。

 騎士はその槍を見て警戒故か盾を自分の近くに引きどのような攻撃にも耐えうる状態を取る。

 

「……行かせてもらおうッ!!」

 

「ァァァァァッ!!」

 

 長槍による刺突。

 剣による対応をするにも男は速く、剣を振れば防御は間に合わず当たると騎士は直感し大盾により流す事を選び

 

「無駄だ!」

 

「ァァッ!!」

 

 男の紅槍が大盾に触れた瞬間、大盾は溶けるように紅槍の触れた箇所が消えた。

 騎士はそれに短いながらも驚愕するがすぐに身体を動かし肩を掠める程度に収める。

 無論、紅槍に触れた肩の鎧部分も溶けるように消え騎士の肩を浅いながらも抉った。

 騎士は抉られた右肩を無視し、鍔本に握り変え柄で男へ撃つものの男は短槍で剣を受け止め鍔迫り合う。

 

「まさか、咄嗟に避けるとはな。普通ならばあのまま心臓を貫かれ終わっていたのだが……やはり貴様はなかなかの傑物だな」

 

「……ァァ」

 

「どうした、御自慢の防御を俺は貫くぞ。殻に籠らず攻めてこい!」

 

 武装、否魔力を無力化する紅槍に騎士は下手に距離を取れない。

 紅槍は長槍である為、間合いに踏み込んでいれば使用が難しくなり防御を無力化される事は無い。しかし、騎士にとって間合いが近ければ、攻撃に転じてもすぐに防御に移れず短槍による一撃を食らうと理解しているのか、短槍を抑える為の鍔迫り合いを続ける事しか出来ない。

 無論、その間紅槍が振るわれる危険性がないわけではなく。

 

「攻めぬならば────」

 

 男は騎士の行動に対し、紅槍をすぐさま短く持ち直して

 

「このままその首を貰い受けるッ!!」

 

 魔力を無力化するその紅槍で首元へと刺突を放つ。

 盾による防御は紅槍に無力化され、

 剣は短槍と鍔迫り合い、

 頼みの鎧は盾同様魔力で構成されていて、

 

 

「────(この勝負貰ったッ)」

 

 

 

 

「然シ 甘ク アル」

 

 首元へ突き立てられる筈だった紅槍は突如首元に出現した手を貫き首元に届かず止まる。

 

 

「な、に……?」

 

 それは目の前で起きた目を疑う様な光景にか、それとも先ほどまで人語ではない唸り声を口にしていた狂戦士がカタコトなれど明確な人語を口にした事にか。

 紅槍は現れた手に握られている。相当の握力か、手を貫かれているというのに握られている紅槍からは軋む様な音が聴こえてくる。

 男の驚愕は最もな反応ではあるが、この場においてそれはあまりにも致命的な隙で

 

「フン!」

 

「ヌゥッ!?」

 

 騎士は左足で驚愕で動けない男を蹴りつける。

 そこまでの力は篭っていなかったのか男は僅かに後退するだけだが紅槍は握られて動かせない為手放してしまい。

 

 

 

「────!」

 

 

 

 騎士の剣が男の短槍を持っていた右肩を切り落とした。

 

 

「ガアァァァッッ!!??」

 

 

 断ち切られ大量の血が吹き出す断面を抑えながら男は絶叫する。

 そんな様を見ながら騎士は剣を地面に突き刺してから何らかの術を行使していたのか首元に出現していた手から貫通していた紅槍を引き抜く。

 その後、貫かれていた手は消え盾の裏からその手を出す。傷がない左手で盾裏から何やら液体の入った瓶を取り出し右手にかける。

 忽ちに傷は塞がり元通りの手になり穴の空いた篭手は魔力で修復される。

 騎士は何を思ったか、盾をその場から消して落ちている紅槍を拾い上げる。

 そして、再び男を見る。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……いったい、何が……」

 

 男は驚愕する事があまりに連続で起きた為か何がどうなったのかきちんと分かっていないようだった。

 そんな男に騎士は

 

「ワカラナイ カ」

 

「タダ 一部ノ 空間の繋がリ ヲ置換したダけ だ」

 

 落ちていた男の右腕から短槍を拾い上げその布をといて

 

「下位の 基礎魔術だ」

 

 男の胸に背後から黄色の短槍が生えた。

 

 

「カハッ────」

 

 男は血を吐きながら胸から生えた己の槍を見る。

 ありえない、それが男の心中だった。

 必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)。それは生前男が妖精王より贈られた治癒不能の傷を負わせる呪いの短槍。

通常のディスペルは不可能でこの槍で負った傷は槍を破壊するか、男が死なない限り癒えぬ事がない。

 しかし、しかし、この槍は使い手である男を傷つける筈がなく────

 

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)……この槍は俺の槍だ」

 

 

「宝具、を、奪う……宝具、だと」

 

 もはや狂戦士であった人語ではない唸り声でも無く、カタコトでも無く、流暢な言葉で騎士は語る。

 その語られた言葉に男は驚愕するしか無かった。

 

 

 

「『騎士は徒手にて死せず』……アロ、いやアレは使えずジョワイユは解放ができない代わりに使う事の出来る直接的な攻撃力を持たない俺の宝具」

 

「────よも、や、まだ力を、隠して、いたとは……」

 

「紅槍は無理だが、この黄槍はこのまま使わせてもらおう。逝けランサー、貴様の聖杯戦争はこれにて終わりだ」

 

 

 男へ告げる男の敗北に男は涙を流しながらこの戦いを見ていた主へとこんなところで敗北する己の至らなさを深く深く謝罪した。

 

 

「もう、しわけ、ございません……わが、ある、じ…………」

 

 

 こうして男、ランサーのサーヴァント・ディルムッド・オディナの聖杯戦争は終了した。

 後に残るのは騎士だけ。

 

 

 だが

 未だ夜は終わらず

 むしろ、ここから

 

 

 

 

 

「まさか、既に我々より先に来ていて且つサーヴァントを一騎落とした、とは……さぞ名のある英雄なのでしょう」

 

「セイバー……気をつけて」

 

 

 

 

───ああ、来たか

 

 騎士は声のした方を振り向く。その手にはランサーより所有権を宝具で奪った黄槍と愛剣ジョワイユ。

 バーサーカーのイレギュラークラス、シールダー・ランスロット・デュ・ラックの聖杯戦争はまだ始まったばかりなのだ。

 

 




何も言うな。
分かってる。
何も言うな。

バーサーカーぽかったのは魔術です。


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騎士と魔術師:番外

IFルート


 

 

 

 

 

 

「ガアァァァッッ!!??」

 

 

 

 

 サーヴァントによる、他のサーヴァントを釣るかのようなあからさまな魔力の流れを感じ取ってコンテナ区画へと足を踏み込んだ、アインツベルンの魔術師アイリスフィール・フォン・アインツベルンとサーヴァント・セイバーの耳に飛び込んだのは何者かの絶叫だった。

 すぐにセイバーはそれがサーヴァントの戦いによるものだと理解し、驚いた。

 自分たちよりも先にここへと訪れた別の陣営のサーヴァントにがいることに。

 それに対しアイリスフィールは僅かながら恐れを抱いた。

 自分たちのサーヴァントであるセイバーは最優のクラス。

 だが、この聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントはどれも名のある英霊の筈なのだ。

 それがあのような絶叫をしたという事はここで起きた戦いはもはや終わりが近いということで…………ここに誘われてから自分たちが来るまでに三十分程しか経っていない、にも関わらず終わりが近いという事は片方のサーヴァントがそれほどの強者なのだと考えそんなサーヴァントにセイバーが勝てるのか、と恐れ疑ってしまった。

 

 アイリスフィールはそんな考えを恥じ、セイバーなら勝てると先ほどまでより強く信じた。

だが、それはすぐにまた揺らいでしまう。

 

 

 

 

「まさか、既に我々より先に来ていて且つサーヴァントを一騎落とすとは……さぞ名のある英雄なのでしょう」

 

「セイバー……気をつけて」

 

 

 

 視界が開け、戦闘が行われていたと思われる場所に出たセイバーとアイリスフィールはサーヴァントの消滅を感じより一層警戒心を強めて広間の中央に立つサーヴァントと思わしき存在を見る。

 

 濃紺の葉脈の様なモノが走った黄色の短槍を右手に美しい剣を左手に持った全身鎧に包まれた存在。何やら黒い靄のような何かを纏っておりその細部までは見る事が出来ない。

 そんな存在がセイバーとアイリスフィールを見ていた。

 

 

『…………なる、ほど、きさ、マラもランサーに誘われ、た口カ』

 

 

 なにやらノイズがかった老人なのか若人なのか、男なのか女なのか分からない声を発するサーヴァントにセイバーは身構える。

 ランサー……すなわち三騎士の一角を討ったという事は少なくとも最弱のキャスター───正直に言えばセイバーはキャスターが最弱と聞いて首を傾げるが───ではないと判断し、ノイズのような声から狂化がかかっている考え目の前のサーヴァントがバーサーカーと結論付けた。

 

 

「なるほど、つまり我らを誘ったのはランサーだったわけか……そして、それを貴様は倒した」

 

『さよ、ウ』

 

「疲れた敵を討つというのは騎士道に反するが……これは戦争、倒させてもらおうか」

 

 

 そう挑戦的な笑みを浮かべたセイバーはアイリスフィールの用意した黒のスーツからセイバー本来の青と銀の騎士装束へと変化する。

その手には風で覆われ不可視となった剣が握られる。

 

 

『…………風、か』

 

 

 サーヴァントはセイバーの剣を隠す風を見てそう呟く。サーヴァントにとって風の鞘の中身には興味はなく、風の鞘にこそ注意を向ける。

 

 

『…………』

 

「……さて、貴様はさぞ名のある英雄なのだろうが……ここはこの聖杯戦争のルールに則り名乗らせてもらう。サーヴァント・セイバー、貴様は?」

 

『……………………スマ、んな、ゾォルゲン』

 

 

 セイバーの名乗りに対し、サーヴァントは名乗りに関する念話でもしていたのか唐突に謝る。

 アイリスフィールはサーヴァントが漏らした言葉の中に聞いた名前がある事に気づきこのサーヴァントが間桐のサーヴァントであるのだ、と理解した。

 

 

『…………おま、えが相手ならば偽る理由もなかろう……」

 

 

 靄のような何かが消え始め、ノイズがかった声が段々と鮮明になり青年の声になっていく。

ハッキリと見え始めるその姿とその声にセイバーは一瞬その身体を硬直させる。

 

 

「……まさか」

 

「……サーヴァント・シールダー。此度の聖杯戦争にてバーサーカーのイレギュラークラスとして顕現した。盟友よ、悔いなき戦いをしよう」

 

「……シールダー?」

 

 

 セイバーはサーヴァント・シールダーの言葉にその正体を理解し、アイリスフィールはシールダーのクラスに疑問を抱いた。

 本来聖杯戦争は

・セイバー

・アーチャー

・ランサー

・ライダー

・キャスター

・アサシン

・バーサーカーの計七つのクラスのサーヴァントが召喚されるはずなのだ。稀にルーラーのクラスが八騎目として呼ばれるらしいが、少なくともアイリスフィールの知識の中にシールダーというクラスは存在しなかった。

 そんなアイリスフィールの疑問を察したのかシールダーは話し続ける。

 

 

「シールダーは他のエクストラクラス以上にイレギュラーなクラスだ。此度は貴様らアインツベルンが六十年前にしでかした事象故のイレギュラー」

 

「私たちが六十年前にしでかした事象?何の事を言ってるの?」

 

「……聞いていた通りのようだな。知らぬというのなら知らない方がいい、知らぬほうが幸せな事もある」

 

 

 酷く冷静な態度でアインツベルンを非難しつつシールダーはセイバーに黄槍を向ける。

 

 

「構えろ盟友よ。此度の出会いもまた何かの因果。久方ぶりに身分を忘れしのぎを削るとしよう」

 

「……フ、なるほど。ならば私も容赦はしません。その槍は見たことがありませんが……恐らくはランサーより得たのでしょう」

 

 

 剣を構えるセイバーに槍を構えるシールダー。

 セイバーにとっては最初の戦い。

 シールダーにとっては連続二度目の戦い。

 疲労を考えれば万全のセイバーに軍配は上がるが…………そうもいかないのが聖杯戦争である。

 

 

「どのような理由で召喚に応じたかは知らぬが……負ければこちらの軍門に下ってもらおう」

 

「まさか。その手の剣はジョワイユでしょう?如何にその剣でも私のコレと打ち合えるとでも?」

 

 

「武器の優劣でそうも調子に乗るか……面白い、なんならそこらに落ちてる鉄パイプで相手してやってもいいぞ?鉄パイプに負けるお前……御笑い種だな」

 

「おや、妬みですか?自分の自慢の剣がないから、と。貴方を慕っていた彼女らに言えばそれこそ御笑い種ですよ」

 

 

 

「ァ?」

 

「は?」

 

「セ、セイバー?」

 

 

 段々と不穏な空気がセイバーとシールダーの間に漂っているのを感じ取ったのかアイリスフィールは動揺しセイバーに声をかける。が、それが合図となったのだろうか

 

 

「上等だ!アヴァロンに送り返してやろうッ!!」

 

「それはこちらの言葉ですよ!エレイン姫にでも泣きつきなさい!!」

 

「セイバーッ!?」

 

 アイリスフィールの驚愕の声を背に、怒りに燃えるセイバーとシールダーによる戦いがいま始まった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「まったくシールダーも律儀なものだな。かけ直した魔術を解くとは」

 

 

 男は戦闘が行われているコンテナ区画の一角を歩いている。

 男は自身の相方に呆れた様な言葉を漏らすがその表情には笑みが浮かばれていた。

 文句を言うものの相方との日々に少しずつ楽しさを憶えてきた男はこのような事になった時の事を思い出す。

 本来ならば相方の精神上、自分はいの一番に滅ぼされるべき存在であるというのに相方は罪深い自分に罪を償う時間を与えるという慈悲を示した。

 かつて平和を願う者として駆けたというのにいつの間にかに邪智暴虐の見るに堪えない存在に成り下がった自分に。

 

 

「まずはこの戦いを乗り切るか……」

 

 

 しばし男が歩いていると前方から男の方へと駆ける影。

 男はよもやアサシンか、と疑ったが現れたのは目的の人間。その為、男はその人間に声をかける。

 

「ロード・エルメロイだな?」

 

「……ッ!き、貴様は何者だ!」

 

 その人間は声をかけた男に過剰に反応する。

そんな反応に男は嘲笑しそうになるがそれを抑え、目の前の人間に手を向ける。

 

「他のサーヴァントと契約させるわけにもいかんのでな、死んでもらう」

 

「!貴様、あのサーヴァントのマスターか……丁度いい貴様を殺してその令呪を持って再び私は戦うとしよう……何故ならこのケイネス・エルメロイ・アーチボルトの聖杯戦争はまだ終わってないのだから!」

 

「…………」

 

 自分の勝利を疑わないケイネス・エルメロイ・アーチボルトに男は流石に表情を歪める。

ああ、この男は駄目だ、と。

 アーチボルトには決定的に挫折が無い。やる事なす事その輝かしい結果は当たり前、世界は己を中心に回っている。

 そんな憐れな魔術師なのだと男はアーチボルトを断じ、一瞬だけ自嘲する。

 結局は私も同じ穴の狢であったろうに、と。

 男がそんな事を思っている間にアーチボルトはその手に何やら銀色の液体の様なものが入った試験管を取り出し

 

 

「Fervor,mei ッガ!?」

 

 

 起動術式だろうか、悠々と詠唱しそして途中でアーチボルトの喉が裂けた。

 

 

「────ヒュー、ヒュー」

 

「言葉による術式起動、喉を潰せばいとも容易く封じることが出来る。どうした、その程度の事に対策は出来ていないのか?」

 

 

 喉が裂け、空気の漏れる音しか出ないアーチボルトは怒りの形相で男を見る。

 喉が裂けた事で相当の激痛が襲っているというのにそんな事が出来ることに男はズレた感心をする。

 

 

「考えうる最悪に対する対策を用意する……当たり前の事だというのに……たかだか二百年そこらでこうも魔術師とは惰弱になるものなのか?」

 

「────!!」

 

 

 男の言葉に返ってくるのは空気の漏れる音だけ。

 

 

「では、さようならだ。アーチボルトの小僧」

 

 

 

 その言葉が合図かコンテナ区画のあちこちから現れた無数のむし、ムシ、虫、蟲がアーチボルトに殺到し、更にはアーチボルトの突如裂けた喉からも数匹の蟲が湧き出す。

 聞こえるのは蟲たちの咀嚼音のみ。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはただ蟲たちの血肉となった。

 

 

 




明日明後日は忙しいので休みます。
zeroルートは基本的に浮かんだら時々放り込むので気長にお待ちを
あくまでメインはGOなので


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もしも憑依or転生先が〇〇だったら

ちょっとした筆休めというか気分転換です。
明日は普通に投稿しますので気にせず


 

 

 

 

 

「愛しい人────」

 

 

 鈴のような声が聞こえた。

 

 

「愛しい人────」

 

 

 愛しい声が聞こえた。

 

 

「嗚呼────」

 

 

 哀しい声が聞こえた。

 

 

愛してます(殺します)

 

 

 ()を告げる言葉を聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 さて、いったいどれほどの時が経ったろう。

 この地に来てどれほどの時間が過ぎたろう。

 血の味がする、血の匂いがする、死の味がする、死の匂いがする。

 噎せ返るような味と匂い。だが、酷く心地が良く、酷く心地が悪かった。

 ここは何処なのだろう。そこは何処なのだろう。

 ()は誰なのだろう。()は誰なのだろう。

 

 

 此処はフランス。其処は焼却される国。

 私は悪竜(エインヘリアル)。俺は竜殺し(ドラッヘン)

 

 

 ()がいるというのなら(エインヘリアル)が居るのだろう。

 ()がいるというのなら竜殺し(ドラッヘン)が居るのだろう。

 

 

 分からない。理解する。

 理解できない。分かった。

 

 

 顎より洩れるは焔。

 口より漏れるは息。

 

 

 ある女に呼ばれた。俺と同じ贋作の女に。

 憎悪する過程しか知らない女。愛した過去を知らぬ女。憐れな哀れな女。

 

 

 だが、だからこそ、見捨てられようか。

 されども、しかし、見棄てられようか。

 

 

 憎悪せよ、憤怒せよ、俺はお前を肯定しよう。それしか知らぬのだ、そんな乙女にいったい何を言えようか。故に私は肯定しよう。

 お前が望むのならこの翼を羽撃かせ何処までも行こう。お前が望むのならこの焔で街々を焼き尽くそう。

 乙女よ。

 お前を私は愛そう。

 

 

 例え悪と呼ばれようとも乙女を見捨てられようか。

 

 

 

故に────────

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…」

 

 

 戦場でセイバーの言葉はあまりによく響いた。

 既に悪竜はいない。

 男の宿敵たる財宝を求める悪しき竜はそこにはいない。

 セイバーの宝具でもって殺されたから────ではない。

 セイバーの目の前には何かがいた。

 

 

 

 

「…………問おう」

 

 

 

 

 流れるような長い黒銀の髪を馬の尾の様に束ね、竜を模した具足に身を包み、開けた胸元にはセイバーの胸元にある刻印に酷似したものが光り、血塗られた魔力を纏った男がそこに居た。

 

 

 

「貴様が()(竜殺し)か────」

 

 

 

 美しき魔剣を担い、翼のような布を首元に巻いた黒銀の男はセイバー、ジークフリートにそう告げた。

 

 

 

「お前……は」

 

「俺の名か……」

 

 

 

 ジークフリートの驚愕の問いに男は静謐さを伴う声で答える

 

 

 

 

 

 

「俺はシグルド」

 

 

 

 

 此処に悪竜(ドラッヘン)を殺した二人の英雄(エインヘリアル)が対峙した。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

「愛してます」

 

ああ、愛してる。

 

「愛してます」

 

ああ、愛してる。

 

「愛してます」

 

ああ、愛してる。

 

「困ります、困ります……」

 

ああ、君の柔肉を貪りたいのだ

 

「シグルド、シグルド」

 

ああ、君にこの熱き猛りをぶつけたいのだ

 

「そんなそんな」

 

ああ

 

愛してます(殺します)

 

抱きしめたい(喰らいたい)

 

 

 

 

 





ネロ祭イベント礼装の『チア・フォー・マスター』を見たら書いていた。作者は悪くない。ブリュンヒルデの本増えねえかな

シグルドさんになった結果、殺死愛?になってしまった


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ネロ祭:スペシャル

都合上1日空けたら書き方が飛んだチーズです。
とりあえずネロ祭のを投稿しますね。
大丈夫です。ちゃんと書きますから安心してください。

ところで去年のエキジビションマッチが復刻してますがホームズおかしくね?無敵貫通と防御無視付与はでかい。
ハサンズにはガッツ持ちアタッカーでハサンを殺りつつ後半は孔明マーリンリリィでひたすらアサシンを狩りました

若干のネタバレ注意 あくまでもしもなので本当にこうなるかは作者の頭しだいです



 

 

 

 

 

「……ふむ、話は理解した」

 

 

 活気づく民衆、市場は賑わいサーヴァント、NPC問わず興奮していた。

 その理由はとても簡単なもの。

『ネロ祭』

 いつの間にかに秋の恒例イベントとなっていたネロ祭により腕に自信のあるサーヴァント、サーヴァント同士の激突に湧き立つ者達、そんな彼らによってこのコロッセウム及び市場は大きな賑わいを博していた。

 

 

 そして、そんな市場の一角。

 カフェを模した場所で立香とマシュは一人の男……ランスロットと共にいた。

 三人の間に流れる空気は決してカフェでお茶を楽しむ、というようなものではなく、立香とマシュには緊迫した鬼気迫る様な雰囲気が感じ取れる。反してランスロットは落ち着いたいつも通り落ち着いた雰囲気で二人の話を聞いていた。

 

 

 二人の話はこうだ。

 『ネロ祭』により腕に自信のあるサーヴァントらが参加する中、エキジビションマッチとして一部のサーヴァントが本来は制限されている力を十全とは言わずとも発揮している。

 無論、見る側からすればそのエキジビションマッチはとても胸踊るものとなるだろう。何せ、そのエキジビションマッチは普通の戦い以上のものになるのだから…………だがしかし。

 二人はそのエキジビションマッチに参加する事になっている……挑戦者として。

 

 主催者であるネロからエキジビションマッチのことを聞いた時は胸が踊ったろう、しかしその後の言葉に二人はとてもそのエキジビションマッチが始まるのを恐れ、そして出来る限り戦力を集めようと決めた。

 結果、こうしてカフェにいたランスロットのもとに助力を請いに来たわけなのだが…………

 

 

「お願いしますッ!ランスロットさん!!」

 

「本当にお願いしますッ!!」

 

「…………」

 

 

 鬼気迫る助力の請願にランスロットはその首を縦に振りたくなった。

 当初は前世の記憶に刻まれている『ネロ祭』のエキジビションマッチなんぞに挑戦したくなかったランスロットだが、流石に娘の様に思うマシュと立香に断りの言葉を告げるのは良心の呵責に苛まれることになるだろうと判断し、その首を縦に振ろうとして

 

 

「ここにいたのかランス」

 

「……なんだ、アル」

 

 

 背後から現れたアルトリア・オルタによってそれは止められた。無論、アルトリア・オルタも縦に振らせまいとしたわけではないだろう。

 後ろを振り返ったランスロットは目頭を掴み、ため息をつく。

 その原因はアルトリア・オルタの格好。

 

 

「何故、まだそれなんだ……」

 

「ふ、この格好に何か問題でも?というより格好自体はいつもと変わらんだろう」

 

 

 そう言って堂々とするアルトリア・オルタ。

その格好は黒のティアラを頭に乗せ、普段のドレスよりかなり露出度がある服に黒のコートを羽織ったもの……即ちアルトリア・オルタ・ライダー(夏の水着仕様・第三再臨)である。

 そんな堂々としたアルトリア・オルタにランスロットはより深いため息をつく。

 

 

「……いつもよりも露出度があるし、そもそもそれは水着だろう」

 

「露出度どうこうというのなら私よりも露出度のあるサーヴァントなど探せばいるだろう。例えばあの酒好き鬼娘だのジャックだのと」

 

「…………そう、だな」

 

「「(あ、あきらめた……!?)」」

 

 

 もはや頭が痛くなってきたランスロットは早々にアルトリア・オルタの主張を認め、それに蚊帳の外となった立香とマシュは心を一つにしていた。

 さて、そんなランスロットを見てアルトリア・オルタは何度か頷きコートから何かの紙を出しながら言う。

 

 

「さて、ランスロット。お前には我々と共にエキジビションマッチに参加してもらう」

 

「は?」「え?」「はい?」

 

 

 アルトリア・オルタの口から出てきた言葉に困惑する三人。立香とマシュは一瞬自分たちと一緒に参加するという事なのかと考えたが数々の特異点で培った勘がそれは違うと訴えかけてきていた。

 ランスロットは嫌な予感がしつつもアルトリア・オルタの差し出した紙を受け取りそこに記載された事項を読んでその肩を落とした。

 

 

「………………マジか」

 

「マジだ」

 

 

 アルトリア・オルタの慈悲無き肯定にランスロットは席を立ち立香とマシュを見る。

 

 

「…………すまない。どうやら、そういう事らしい」

 

「え」

 

「そんな」

 

 

 謝罪するランスロットに全てを察したのかマシュは絶望に顔を染め、立香は縋るような表情でランスロットを見る。が、ランスロットは顔を逸らし立香は突っ伏した。

 

 

「………………その、……頑張ってくれ」

 

 

 カフェを出るアルトリア・オルタに続くようにカフェを後にするランスロットは最後に立香とマシュにそう言い残した。

 その言葉は立香とマシュに現実の悲しさを教え二人は暫くその場を動く事が出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が動き出したのはランスロットがいなくなってから十数分後の事だった。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「…………ふむ、俺は控え室と聞いて来たんだが……」

 

「あら、マスター。あなたも来たのね」

 

 

 Pことパラケルススに控え室へと案内された俺に待っていたのは試合前の待機場所にしては待機というにはどうかという光景だった。

 先に来ていたアルがいつの間にに用意したのか分からない大量のジャンクフードを食べていて、ジャンヌがゲームをしているのか端末を操作している部屋。

 試合前の待機場所だというのに伸び伸びしすぎではないだろうか。

 

 

「ジャンヌも参加するのか」

 

「ええ……というかそんなのその紙に書いてあるでしょ?」

 

「……ああ、確かに」

 

 

 俺はジャンヌの隣の席に腰を降ろして、アルから貰った紙に目を通す。

 確かにそこにはジャンヌの名が記載されていた……だが、ジャンヌは白いジャンヌとリリィ、天草と共に出るのではなかっただろうか。

 その事を聞けばジャンヌは苦々しい表情で

 

 

「…………速攻で抜けて来たのよ。それに何より抜ける理由がありましたし」

 

「そうか」

 

「ええ」

 

 

 そして、俺とジャンヌは口を閉じる。

 控え室にはアルの咀嚼音のみが響き…………

 

 

「「(か、会話の種がない……)」」

 

 

 沈黙は続いていく。

 その沈黙はきっと試合が始まるまで続くだろうと思われた。

 だが、その時ある意味救世主が現れた。

 

 

「あ!マスター!よかったぁ、ちょうど探しにいこうとしていた所なんです」

 

 

 給湯室からポットとカップを持って現れた人物に俺は救いを感じた。

 

 

「リリィか」

 

「はい、マスター!」

 

 

 テーブルにポットとカップを置いて紅茶をいれる彼女に沈黙が無くなる事を確信し自然と笑みを浮かべてしまう。

 隣からジャンヌとジャンクフードを食べ漁っているアルから何だか視線を感じるがこの際、気のせいだと割り切りリリィのいれてくれた紅茶を飲む。

 

 

「どうですか、マスター?アルトリアさんに教えてもらったんです」

 

「……ああ、美味しいよ。ありがとうリリィ」

 

「はい!」

 

 

 とりあえずアルが紅茶をいれられた事に若干の驚きはあるが気にせず俺はリリィを褒める事にする。ああ、二方向からの視線により圧力ががががが

 

 

「…………ランス」

 

「ん?」

 

「時間だ、行くぞ」

 

 

 連絡の入った端末を見せてくるアルに俺は休めた時間なんて皆無だと思いつつ立ち……ん?

 

 

「おい、アル。彼らは?」

 

「既にあっちにいるそうだ」

 

「……なるほど」

 

 

 むしろ此処じゃなくてあっちで彼らといた方がよかったのではと思いつつ、俺らは控え室を後にする。

 

 

 

 

 

「頑張ってくださいね、マスター(シグルド)

 

 

 

 部屋の中から聴こえた誰かの声に耳を背けて。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「…………私たちは乗り越えた……目を閉じれば思い出すあの戦い」

 

 

 

『────!!!』

 

『先輩ッガッツが多すぎです!?』

 

『ガフッ!?』

 

『アストルフォォォォォオオッ!!!???』

 

 

 

「ガッツの多すぎるギリシャの大英雄」

 

 

 

『と、危ねぇ危ねぇ』

 

『どうした!その程度か!』

 

『先輩ックー・フーリンさんがひたすら避けます!?』

 

『おいマスター!!当たらねぇぞ!?』

 

『モーさん、マシュ頑張って!!』

 

 

 

「回避しすぎで即死させてくるケルト師弟」

 

 

 

『闇に紛れるは我らが得手よ』

 

『ふははは!我らの力、存分に味わうがいい!』

 

『……お覚悟を』

 

『お、多すぎませんか?』

 

『串刺しだねぇ?わかるとも!』

 

『普段もこれぐらい頑張ってくれないかな……』

 

 

 

「ばかすか分裂する暗殺集団」

 

 

 

『ハァァァッ!!!!』

 

『ダメージが入りません!?』

 

『硬すぎるよ馬鹿!』

 

『ジークフリートが硬すぎる……』

 

 

 

「ただ、ただ硬いネーデルラントの英雄」

 

 

 

『ふふ、ふふ、此処がイイんでしょおッ!!』

 

『ブヒィィィィィッ!!!メイヴちゃんんんさ”い”こ”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ッ!!!!』

 

『ひ、ひぃぃ!?へ、変態です!?』

 

『こんなところでおっぱじめんじゃねぇよ!?』

 

『へ、変態だぁぁぁ!?』

 

 

 

「プレイをおっぱじめるコノートの女王とその取り巻き」

 

 

 

『ほう、面白い。興が乗ったぞ』

 

『僕も……出し惜しみ無し(フルスロットル)で行くよ、ギル』

 

『た、退避ィィィィィ!!??』

 

『巻き込まれるぅぅぅ!?』

 

 

 

「世界最古の英雄王と味方の宝具に何故か巻き込まれかけたり……」

 

 

 

 

 立香は目を閉じながらこれまで何とか乗り越えてきた試練を振り返る。

 そのどれもが一筋縄ではいかないものだった。

だが

 

 

「私はみんなと乗り越えた。だから、ランスロットさん!きっと貴方も私たちは乗り越えて見せる!」

 

「はい、先輩!」

 

「よぉし、頑張っちゃうぞー!」

 

「へ、ランスロットか。まったくもって問題なんかねえ!」

 

「うん、存分に使い潰しておくれよ、マスター」

 

 

 

 共に戦ったサーヴァントたちと共に立香は高らかに宣言し

 

 

 

 

「そうか、では本気で潰そう」

 

「エンジンを回せ、処刑の時間だ」

 

「さぁて、焼かれる準備は出来てるかしら?」

 

「お任せ下さい、マスター!」

 

『グルルル……』「…………」

 

 

 

「え」

 

 

 

 立香たちのエキジビションマッチはまだ始まったばかり…………

 

 

 




構成
ジャンヌ・オルタ
メディア・リリィ
新宿のアヴェンジャー
アルトリア・オルタ・ライダー
ランスロット

ジャンヌとアヴェンジャーは退却時にNPを0に
メディアは退却時に敵全体の体力を半分回復
アルトリアは退却時と出現時全体のチャージをフルに
ランスロットは令呪を3回まで使用し鯖一人にバフがけ……なお、弱体無効とクラス:シールダー扱い

考えて思った。おかしい。だけど二次小説だから気にしなくていいよね!



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書きたいから書いた


番外です。
アンケートで出されたものを使いました。




 

 

 

 

 

 

 

拝啓、我が妻エレイン、息子ギャラハッド

 

 家長であり特異点調査班の現地指揮を任されている俺だが、どうやら日頃の疲れが溜まっているらしい。

 度重なる特異点調査、サーヴァントらとのコミュニケーションなど多忙な毎日。

 ロマンに言われ俺は次の特異点が見つかるまでしばしの休暇を過ごす事となった俺は一先ずマイルームのベッドに横になったわけだが…………

 

 

「どうしてこうなった…………!」

 

 

「……?どうしましたランスロット」

 

 

 頭を抱える俺を心配するように声をかけるのはアル。しかし俺と契約している黒つまり反転したアルではなく本来のアルトリア・ペンドラゴン。

 これは夢なのだろう。

 アルがいるだけならただの夢と一蹴する。だが、これは尋常の夢ではない……!!

 

 

「頭を抱えてますが大丈夫ですか?ランスロットさん」

 

「いつもの事だ気にするな」

 

 

 更に目の前のアル以外に心配する声といつもの事と一蹴する声を聞いて俺はより一層頭痛が辛くなってくるというか胃痛ががががががが

 横目でその声の主らを見てみればそこにいるのは二人のアル。

 だが、本来のアルトリア・ペンドラゴンではなく…………

 

 

「オルタ……とこの場合リリィと言えばいいのか……」

 

 

 いつもの反転したアルトリア、そして白百合の騎士王……選定の剣を抜きすぐに王とならずマーリン、ケイ卿と共に修行の旅に出たというIFのアルトリア。

 此処にいるのが誰か一人なら俺もこうはならなかった……だがしかし此処にいるのは一人ではない…………

 

 

「はい!リリィと呼んでくださいランスロットさん!」

 

「ふ、歓喜しろ」

 

「冗談は寝て言え」

 

 

 本当に辛い。助けてくれエレイン、ギャラハッド。

 

 

「さて、ランスロット。早速ですが料理を作ってください」

 

「早速すぎてビビる……!」

 

 

 俺はより一層頭を抱えてから、立ち上がる。

 少なくともオルタもリリィも要求する事を考えると三人分……いや、此処にいるのはアルトリア、オルタ、リリィ……だが、だが、

 

 

「他にいないとは限らない……!!」

 

 

 そう、この三人だけなわけがない。

 衣装違いはあくまで衣装違い。恐らくサンタやら水着やらはいなくとも……槍やXの可能性が捨てきれない。辛い。

 それらを考えると七人分もの料理を用意しなければならない……だが、和菓子は流石にすぐ用意など出来んぞ?

 そう思い食堂へと入るとそこには────

 

 

「おや、ランス」

 

「遅かったな」

 

 

 やっぱりか────!!

 

 食堂のテーブル席に座っているのは二人の英霊。青と黒。

 本来の彼女より成熟した姿の二人。すなわちそれは槍のアルトリア。

 

 

「……ああ」

 

 

 この場合、俺はなんて呼べばいいのだろうか。槍のアル?槍のオルタ?

 わかるかッ!?

 ともかく俺は厨房に立ち、冷蔵庫から食材を取り出し包丁を愛用のモノに置換し、愛用の黒エプロンを付けて

 

 

「────円卓最強乃ち料理においても最強よ」

 

 

 若干テンションおかしくね?と思いつつ俺は料理へと取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 気がつけば俺は何処かに召喚されていた。

 アルトリア軍団に料理を出していた筈だが何故召喚されるのだろうか。夢だからか?マーリンのせいなのか?マーリン殺す。

 

 召喚の際の光に煩わしさを感じつつ俺は瞳を開ける。

 どうやら、いつも通りの鎧姿らしい。これでエプロン姿だった時には笑うしかないからな。

 

 

「……サーヴァント・セイバー、真名を湖の騎士ランスロット・デュ・ラック。問おう貴様が我がマスターか?」

 

「…………」

 

 

 召喚の口上を告げ、俺は召喚者を見る。

 そこにいるのは見知った制服を着た黒い髪の少年と薄紫色の髪で片目が隠れた少女。

 OH…………

 

 

「え、あ、へ!?ラ、ランスロット!?」

 

「ど、どういう……!?」

 

「…………また面倒な」

 

 

 慌てふためく二人に俺は胃痛を感じつつ察する。

 落ち着きを取り戻した二人に俺は召喚部屋の外にある待機室にて、此処で待っているようにと言われとりあえず座って待つことにした。

 あの二人があのような反応をしたという事はそういう事なのだろう。

 とりあえず、予想が正しければ盾で殴る事を心とギャラハッドとエレインに誓いながら待っていると…………

 

 

「え、ええっと……」

 

「セイバーでいい。状況は察した」

 

 

 待機室の扉が開き俺をどう呼ぶか迷った彼に俺は真名でなくていいと伝え、立つ。

 彼と隣の彼女の背後には何人かおり、そのどれもが知っているもの。

 

 

「それじゃ、セイバー……君の真名がその……」

 

「ランスロット・デュ・ラック。嘘偽りなど何も無い。アヴァロンに眠る我が騎士王と我が妻子、そして湖の乙女に誓ってな」

 

「………………えっと、そう言ってるんだけど」

 

 

 不安な表情の彼は背後の人物らにそう言う。

 金髪に青い衣服を身にまとった騎士王、赤い髪に細目の騎士、白い鎧の王子の様な風貌の騎士、騎士王に似た顔の我が剣の弟子、銀腕の騎士、そして

 

 

「………………」

 

「…………ふむ」

 

 

 紫紺の髪に白い鎧を纏った見覚えのある騎士。しかし、アレではない。

 

 

「なるほど、卿は私と同じであるが違うのだな」

 

「……卿はいったい」

 

 

 困惑した表情の男にもう一度俺は告げる。

 

 

「ランスロット。それ以下でもそれ以上でもない」

 

「…………」

 

 

 見れば見るほどこの男はアレに似ている。だが、アレとは違う。

 

 

「待て。割り込むようで悪いが貴方はランスロットなのですか?本当に?」

 

「無論。少なくとも我が魂が記憶が私をランスロットと認めているが……信じられぬか騎士王」

 

「…………いえ、どうやら、嘘はついていないようですね」

 

 

 直感と俺の言葉に納得したのか騎士王は簡単に引き下がった。

 やはり、騎士王の直感というものは信頼出来るな。

 

 

「えっと、じゃあ、ようするにアーサーみたいに別世界のランスロットって事なのかな?」

 

「ふむ、その別世界の騎士王という事に些か興味があるがそれに間違いはなかろう。こちらの騎士王及び円卓の騎士が知らねばそうなる」

 

 

 彼の言葉に俺は首肯する。確かに俺はこの世界においてプロトアーサーと同じような存在となるのだろう。

 さて……

 

 

「……して、卿よ。召喚にあたりある程度知識が付与されるわけだが…………卿の逸話は真か?」

 

「へ?あ、ああ……残念ながら本当だ」

 

「そうか」

 

 

 そうかそうか。つまり、寝取り騎士か。

 よし、求められてないだろうが一発だけ殴ろう。

 

 

「では、この世界のエレインとギャラハッドらを想い身勝手ながら一撃殴らせろ」

 

「何故に!?」

 

「己が仕える王の王妃と蜜事を交わすとは何事か!」

 

「ゴフッ!?」

 

 

 俺の放ったアッパーカットは見事にこちらのランスロットの顎へと入りそのまま吹き飛ばす。

 吹き飛んだランスロットを他の騎士たちは受け止めず避ける。

 

 

「見事です」

 

「素晴らしく綺麗に入りましたね」

 

「おお……ランスロット、映像に残せなかった事が私は悲しい」

 

「思いっきり飛んだな、おい」

 

「良くやってくれました」

 

「え、ちょ、マシュ!?みんな!?というかランスロット!?」

 

 

 他の円卓の騎士は俺のアッパーカットを賞賛するだけでランスロットの心配をするのは彼だけ。

 いと哀れなり。ザマァ。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

「────はっ!?…………夢か。ああ、夢でも胃痛ってするんだな」

 

 

 

 





ちょくちょく出してきますね


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番外:ある日の話

ダン卿とアーチャーがとても好き。
執筆しながらパズドラ楽しい。
ふじのん?当たらなかったよ…………皇女様の為に石を貯めるんだ……

注意:時系列が本編とは違います。ついでにそういうifなのでネタバレではありません


 

 

 

 

 

 

 

 魔術王……第一の獣による大偉業・逆行運河/創世光年は藤丸立香という人類最後のマスターである少女と人理継続保証機関フィニス・カルデアの者達によって打破され、人類に未来は戻った。

 しかし、安らぐ事なかれ。未だ君たち今を生きる人類の未来には障害が横たわっている。

 

 探せば不安な点はいくらでもある。

 

 第一の獣が遺した数柱の魔神。

 

 ビーストの連鎖顕現。

 

 マリスビリーの不審な自殺。

 

 そして────

 

 

「クリプター……カルデアの四十七人いるマスターの内、Aチームに括られた七人のマスター。マリスビリーがそう呼んでいたが……さて」

 

 

 嫌な名前だ。

 

 俺のカルデアとは切り離された秘匿端末に詳細を打ち込みながら俺はこの不信感を吐露する。第一の獣が遺した魔神柱自体は恐らく後一柱であるだろうが……第四の亜種特異点セイレム。

 第二までの記憶しか無い俺からすれば未知数。そして、やはりというべきか俺は亜種特異点にレイシフトの許可が下りない。立香に負担をかけてしまうことを申し訳なく思う。

 

 

「査問会まで後一、二ヶ月……予測では年末年始頃には有るのだろうが…………」

 

 

 文字を打ち込む指が止まる。

 不安からか、それとも未知への恐怖故か。

 

 

「…………いや、考えすぎか」

 

 

 俺は端末を閉じ、羽織っているコートをベッドに脱ぎ捨てそのまま俺自身もベッドへ倒れ込む。

 知らないというのはこうも恐ろしいのか。

 聞けば第三亜種特異点である下総では七騎の英霊剣豪という存在がおり、宮本武蔵と同じ放浪者がいたという。そして彼を唆した謎の存在。

 セイレムにもそういう存在がいるのか、それともその先…………駄目だな。

 

 

「一度考えると歯止めがきかん……気分転換に何処か……そうだ食堂にでも行くか」

 

 

 そうと決まれば、と俺は意気揚々と部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、ランスロット殿。この様なところで奇遇ですね」

 

「む、確かに奇遇だなインフェルノ」

 

「そういえばランスロット殿はゲームを嗜んでいると黒髭殿や刑部姫様に教えていただきまして」

 

「まあ、それなりには……」

 

「では!今から黒髭殿よりいただいたマイクラなるものを何人かでやるのですがどうですか」

 

「…………あー、また今度誘ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

「────」(奇遇ですね、食堂ですか?)

 

「ああ、少し気分転換にでもな」

 

「────」(なるほどでは途中まで御一緒させてもらっても?)

 

「問題ない……ところでカルデアはどうかな」

 

「────」(ええ、皆良くしてくれます)

 

「そうか、それは良かった」

 

 

 

 

 

 

「おー、ランス。奇遇だな、おい」

 

「モードレッド……そのコート」

 

「ん?これか?食堂に落ちててよ、ランスお前これ誰んか知らねえか?」

 

「そうだな……持ち主なら背後にいるぞ」

 

「え?」

 

「────モードレッド、それは私のモノだ」

 

「え、あ、く、黒い方の父上……えっと、なんで、怒って……」

 

「────」(合掌)

 

 

 

 

 

 

 食堂近くで首無しの彼と分かれ、俺は一人食堂に入る。するとそこには夕飯時が過ぎた頃でもチラホラとサーヴァントが残っていた。

 俺はいつも通りの席に腰を下ろし、対面の席に座る人物を見る。

 

 

「あ、お父さん」

 

「やあ、マシュ……そういえば今日会うのは今が初めてだったな」

 

「そうですね。私は先程までダ・ヴィンチちゃんと一緒に情報の整理をしていたので……」

 

 

 お父さんは?というマシュの視線に俺は疲れた笑みを浮かべ言葉を返す。

 

 

「ついさっきまで私も情報整理さ」

 

「なるほど、お父さんもお疲れなんですね」

 

 

 そう、苦笑する彼女に俺は首肯し、先程席に着く前に取っておいた水を飲む。

 思えばマシュも俺と同じように亜種特異点には行けないのか……いや、俺はアガルタだけは行ったが。……いや、他意は無い。

 そう、そうだ。アガルタだ……今思い出せば少し大人げなかった気がする。本性を現したあの男の耳を話を聴かずに切り落としたのは……少し騎士としてどうかと思った。

 

 

「……それで、お父さん。調子はどうですか?」

 

「……ああ、右腕の腱はもう大丈夫だが……やはり、ギフトの影響だろうか。ハロウィンのように騙し騙しでないと……少しな」

 

「そうですか……」

 

 

 思い出すのはアガルタを攻略してしばらくの事。トリスタンの暴走……と言えばいいのか、アレとの戦いで負った傷は治ったものの後遺症は未だに残っている。あの場に現れたアル曰くモルガンが関与しているようだが…………さて。

 

 

「すいませんがマシュ、ランスロット卿をお借りしても?」

 

「あ、ベディヴィエールさん。はい、大丈夫ですよ」

 

「というわけでランスロット卿、少し来てくれませんか?」

 

「ん、わかった」

 

 

 と、少し考えにふけっていたようだ。近くに来たベディヴィエールに気づかなかったとは。

 席を立ち俺はそのままベディヴィエールに付いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

:ある時の昼下がり────

 

 

 

 

 

 

「そうだ、マッシュポテトを作ろう」

 

「………………ランスロット、疲れたのならば休め。これぐらいならまだ私だけでもなんとかなる」

 

「待て、勘違いするなアグラヴェイン」

 

 

 コイツは何を言っているのだろうか、という表情で対面の席に座り執務をしている友人ことランスロットを男───アグラヴェインは見る。

 時折、ランスロットは執務で疲れた時などに疲れから現実逃避紛いの事を言う事があるため今回もそれかとアグラヴェインは判断し、ランスロットに休憩を勧めるがランスロットはそれを否定する。

 ではなんだ、と言いたげな表情で見るとランスロットは細く笑みながらその手に握られたものを見せる。

 

 

「それは……?」

 

「ジャガイモ……ブリテン島より西にある大陸で栽培されている根菜だ」

 

「…………待て、ブリテン島より西の大陸で栽培されているだと?どうやって手に入れた」

 

 

 後の世で伝わるジャガイモを手で弄びながらアグラヴェインの質問にランスロットは軽く答えてみせる。

 

 

「一度湖の乙女母のもとへ足を運んでブリテン島でもなんとかなるようなモノは無いかと尋ねた所、幾つかくれたんだ」

 

「湖の乙女が?…………なるほど、精霊ともなれば海程度なんとでもなるのか……」

 

「まあ、母は湖……水に関する精霊だからなある程度はなんとかなるのだろうさ」

 

 

 ランスロットの言葉にアグラヴェインは納得したのか頷き、再度友人の掌にあるジャガイモを見る。

 黄色味のある拳大の大きさのそれを見て、味は未だわからずとも精霊がこのブリテン島でも充分育てられると太鼓判を押しているのなら信用できそうだ。と考えながら思った事を口にする。

 

 

「それで?その……ジャガイモとやらはどういった野菜なんだ」

 

「先にも言ったが根菜だ。植えて育てば、食べる部分は地下でできる。後は痩せた土地でも充分に栽培が可能だ……味は……まあ、普通に美味いぞ?……それと芽の部分に毒があってだな、調理する際にはきちんと芽を取り除いて水につけるのがいいらしい」

 

「ふむ…………量は?」

 

「試食用に一箱、栽培用の種芋が入った二箱がある」

 

 

 なるほど、ならばひとまず我々で試食するか。とアグラヴェインが提案するとランスロットはそれを首肯し、まずは目の前の執務を終わらせるかと掌のジャガイモをおいて筆を持ち仕事へと取り掛かった。

 

 

 

 

 時と場所は移り変わり、ランスロットが私的理由で拵えた厨房内。

 当初、この厨房が造られた際に何人もの騎士らがランスロットに対して騎士が厨房に立つなど……と苦言を呈していたがそんな彼らにランスロットは堂々とした振る舞いで、

 「騎士たるもの王の為になるのならば、如何なるモノも出来ねばいざという時に王に恥をかかせてしまうだろう」という旨の言葉を言い放ち、苦言を呈した騎士らや言わずとも良く思わなかった騎士らが心打たれていたらしい…………がそれを聞いたアグラヴェインはとりあえず「いやそれはおかしい」と思った。

 

 さて、そんな場所でアグラヴェインは意気揚々と調理の用意をしているランスロットとその隣や自分の座る席の横を見てため息をついた。

 

 

「ランスロットの食事は美味しいですからね、少し楽しみです」

 

「悲しい事に此処に王はいない……王の不運を私は悲しく思います」

 

「アレ?トリスタン卿……先ほどベディヴィエール卿が探していましたよ?」

 

 

 いったい何処から湧いたのかこの場にはアグラヴェインとランスロット以外に四人もの人物がいた。

 アグラヴェインの実の兄である太陽を思わせる朗らかな雰囲気を持った王子の如き騎士ことサー・ガウェイン。

 ランスロットの友人でありアグラヴェインの同僚である赤い長髪の詩人の様な雰囲気を持つサー・トリスタン。

 ランスロットの従妹でありランスロットの率いる部隊の副官を務める明るげな性格でランスロットに子犬扱いされているライオネル。

 そして今もランスロットを手伝っているガウェインとアグラヴェインの実の妹であるサー・ガレス。

 どこで耳にしたのかジャガイモの試食をする気満々な四人に対してアグラヴェインは呆れるしかなかった。だが、アグラヴェインとランスロットだけで様々な方法で調理したそれらを全て処理できるかと言われれば首を振るしかない以上、アグラヴェインとしてはまあ良い誤算と判断した。

 

 

「(だが、トリスタン……呼ばれているのならば行け。後で説教を受けるのは卿だぞ)」

 

 

 とりあえずトリスタンはいつも通り、ここにはいないベディヴィエールに愚痴愚痴と説教を受けるのであろう。

 しかし、アグラヴェインはトリスタンに言わないでおくことにした。そう、行かないトリスタンが悪いのだから。

 

 

「まったく……」

 

「いやぁ、すいませんねアグラヴェイン卿。なんだかいきなりガレスちゃんが直感か何かで……そのランスロット卿のもとへ行ってしまって……こうなりました」

 

「……止めようとは?」

 

「いえ、まったく」

 

 

 ある意味マトモである枠のライオネルはとてもいい笑顔でアグラヴェインの言葉を叩き切った。従兄が従兄なら従妹もこう常識的でありながら面倒な所でおかしいのだ。

 その事に何度目になるか分からないが再確認しアグラヴェインはため息をまたついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なんだこれは」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 調理が終わり出された皿に乗っているのは山であった。そう紛うことなき山である。

 黄色味のある白い根菜の山。

 そうすなわちは『マッシュポテト』と後の世で呼ばれる料理である。

 まさしくネビス山の如き様相のマッシュポテトの山がアグラヴェイン、ライオネル、トリスタンの前に出されていた。

 アグラヴェインは一言、冷淡な声音で目の前のランスロットとガレスに問いかけるが二人はあらぬ方向を見て素知らぬふりをしている。

 

 

「………………これはなんといいますか」

 

「すごく、マッシュです……」

 

 

 トリスタンとライオネルはただこのマッシュポテトの山に驚くばかり、だが一人足りない。

 三人と共に座っていたガウェインはどうしたのか?

 それは簡単な事だった。

 

 

「マッシュ、マッシュ、マッシュ。なんでも潰せば、食べられマッシュ〜」

 

 

 食材への冒涜が如き歌を口ずさみながら朗らかに満足げに笑うガウェイン。その手にはまだマッシュされていない蒸かしたジャガイモが入ったボウルと棒が…………。

 

 

「…………何故アレにやらせた」

 

「何も見えない聞こえない」

 

「私は知りません。これは全て妖精の悪戯です」

 

 

 あくまでガウェインが勝手にやりましたという姿勢を崩さない友人と妹にアグラヴェインは何度目になるかもわからないため息をつき……

 

 

「この山はモードレッドとガウェインにでも食べさせるか……」

 

 

 こうして戦犯ガウェインと何故かここにいないというのに巻き込まれたモードレッドがこのマッシュポテトの山を処理する事となった。

 この後、きちんとランスロットとガレスで作ったジャガイモ料理はアグラヴェインを始めとする城の者に大層気に入られたらしい。

 

 

 こうして、ブリテンにマッシュポテト・ガウェインが誕生してしまったそうな。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

「────おぅ」バタンッ

 

 

「ッ!?ランスロット卿!!」

 

「ランスが倒れてしまいましたね…………私は悲しい」

 

「やはり、調子が悪かったのでしょう……」

 

「いえ、ガウェイン卿……兄上は単純に貴方が作ってしまったこのマッシュポテトの山にやられたのでは…………」

 

 

 

 カルデアに来て、なぜにまたお前のマッシュポテトを見ねばならんのか……ガクッ

 

 

 



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バレンタイン後日談:if

バレンタインデーをすっかりと忘れ、気がつけば15日。
なお、投稿したのは更に次の日。

ちなみにセミラミスは当たりました。
藤乃を当てよう。

今回の話はあくまでif。今回のバレンタインイベントのようにあったかもしれない話。
あくまでifだからネタバレでもない。



 

 

 

 

 

 セミラミスならぬチョコラミスによる繁栄のチョコレートガーデンズ・オブ・バレンタイン及びバレンタインデーが終わり、俺ことランスロット・デュ・ラックは貰ったバレンタインプレゼントを食べていた。

 …………エレインをはじめとする日頃から共にいるサーヴァントやカルデアスタッフからプレゼントを貰った訳で数があるのは仕方がない。

 だが、だがな?

 

 

「キツすぎるだろ、コレは……」

 

 

 俺の目の前、テーブルの上にあるのはアルトリア(ランサー)から貰ったバレンタインプレゼントである巨大な城型のチョコ……確か名前はワールドエンド・キャッスルだったか?聞けば円卓、俺以外の騎士たちに作るのを手伝ってもらったそうだが…………デカ過ぎないか?

 次にその横に置いてあるのはこれまたデカいチョコ、アルトリア・オルタ(ランサー)から貰ったワールドエンド・ホワイトという名前らしいロンゴミニアド型のチョコ。

 エレインやスタッフ、マシュ、ガレスやライオネルから貰ったチョコは食べ終わったが未だにあの二人のモノはここに残っている。

 すまん、嘘ついた。

 

 

「槍と城のチョコに対してチョコぜんざいとホットココアの量が少なすぎると僕は思うんだけど?」

 

「……量か?そこは問題じゃないだろ……どう考えても」

 

 

 巨大チョコ二つに対して、チョコぜんざいとホットココアだぞ?口の中の味何も変わらないんだが!?

 

 

「強いて言うならほのかに小豆の味はするがそれでもチョコだ。ひたすらチョコだ」

 

「そこは、ほら……湖の乙女直伝の魔術的なもので何とかなるんじゃないかな?」

 

「魔術はそこまで万能じゃないだろ」

 

 

 向かいに座っているであろう馬鹿の言葉に俺は呆れつつもぜんざいを口に運ぶ。

 あぁ……白玉が美味しい。

 

 

「それにしても沢山貰ったねぇ……羨ましいよ」

 

「キャスターから貰え」

 

「えぇ……それはちょっと、なんというか恥ずかしいというかさ」

 

 

 こいつは何をほざいてやがるのだろうか。

 エレインから俺はチョコ貰ってもまったく恥ずかしくないぞ、むしろとても嬉しい。

 ついでに言うならマシュからバレンタインプレゼントを貰った際に不覚にも泣きそうになった。

 

 

「ところでさっきからかかってるコレなんだい?」

 

「ん?ああ、これか」

 

 

 どうやら、今かけている曲が気になったらしい。そういえばこいつは知らなかったな。

 俺は手元に置いてあるCDケースの表紙部分を見せる……いや、残念ながらワールドエンド・キャッスルのせいで見えないな。

 向かい側に送ろうにも送れないためしょうがなく表紙に記されてるタイトルを教えてやる事にする。

 

 

「ベスト・オブ・トリスタン……トリスタンの馬鹿が何やら調子に乗ってレコーディングした挙句わざわざこうして諸々もやった奴だ」

 

「……うんと、円卓の騎士ってなんていうか誰も個性が強いね」

 

「…………個性が強くて悪かったな」

 

 

 毎度毎度思うが何気にこいつ、失礼な事を言うな、おい。

 いや、こいつ程になればそういうのも仕方がないといえば仕方がないか。……いや、駄目だ許さん。

 

 

「……マシュからチョコを貰えなかった癖にな」

 

「そういう事を言わないでくれるかなぁ!?」

 

「去年は貰えたが今年は貰えなかったわけだ」

 

 

 これだからヘタレは。スペースバックスで手に入れたというホットココアを飲みながら呟くがどうやら聞こえていなかったようでこいつはまだ嘆いている。

 そんな馬鹿には目もくれず、三分の一程食べ終わったワールドエンド・ホワイトをよりいっそう食べ進めていく。

 

 まったく、こいつは…………。

 

 

「マシュに頼めば適当に小さいのぐらいくれるだろうに……」

 

「そんな!?頼むもんじゃないだろうバレンタインって!?」

 

「知らん」

 

 

 少なくとも俺はライオネルにチョコをくださいと言われたぞ。ついでにエクターにも……後は何故か知らないがガウェインやトリスタン、マーリンにも言われたな…………え?Xオルタ?ズイっと来られたら流石に首を縦に振らざるを得ない。

 

 

「…………それで?」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「お前は何がしたいんだ」

 

「────」

 

 

 音が止んだ。

 部屋の音が、俺の咀嚼音が、心音すらも今この時ばかり消えた。

 静寂ばかりがこの部屋を支配する。

 姿の見えない彼の息遣いなど聴こえない。

 だが……

 

 

「────ランス」

 

「きっとこれから先、いままで味わった事も無い困難に君たちはあうだろう」

 

「君たちが悪となるかもしれない」

 

「君たちこそが世界の敵となるかもしれない」

 

「君たちの手で希望を摘まねばならなくなるかもしれない」

 

「ランス……だからこそ」

 

 

「知らんよ。俺たちは……いや、立香はきっとお前の心配事なんて関係ないと言うだろう」

 

「だから────安心しろ」

 

 

 俺の言葉を皮切りに部屋に音が戻る。

 俺はホットココアを飲んで姿の見えないあいつに笑いかける。

 

 

「俺たちはお前が繋いでくれたモノの為に頑張っていくから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さん……お……さん……」

 

「……お父さん」

 

 

「ん」

 

 

「お父さん、大丈夫ですか?」

 

 

 どうやら寝てしまっていたようだ。目を開ければそこにはマシュが顔を覗いていた。

 

 

「ん……大丈夫だ。少し疲れて寝てしまっただけさ」

 

「それなら、いいんですが…」

 

 

 心配そうな顔をするマシュの頭を心配するなと適度に撫でて俺は椅子から立ち上がる。

 ふとテーブルを見てみればキャッスルは一番下の部分まで食べ終わっており、槍はなくなり当たり前といえば当たり前かぜんざいとホットココアは空になっていた。

 時計を見れば既に朝の八時を指している。

 

 

「それで、マシュどうした?」

 

「あ、朝食の時間になっても食堂に来なかったのをお母さんが心配してまして、それで部屋を覗いて見たところ」

 

「いないな。日付が変わる頃からここにこもってたからな」

 

 

 とりあえずチョコはあらかた食べ終わったが……にしても何故にランサーはこうもデカイものを渡してくるのか。

 アレか?胸部装甲がデカくなると贈り物もデカくなるのか?アルトリアもオルタも普通……普通ではないが手頃なサイズだったしな。

 

 

「えっと、お父さんと昨夜たくさんのバレンタインプレゼントをこの部屋に運ぶのを手伝ったとトリスタン卿が教えてくれたので」

 

「なるほど……」

 

 

 ありがとな、とマシュの口にキャッスルの一部だったものの欠片を入れてやりキャッスルの残った部分を備え付けの冷蔵庫に入れる。

 

 

「さて、見ての通り朝食は無理そうでな。残念だがエレインにそう伝えといてくれないか?」

 

「わかりました」

 

 

 そう言って部屋を後にするマシュ。その背を見ながら俺はついでに入れたコーヒーを飲み、容器の片付けを簡単にだが行い出口へ向かう。

 

 …………その背に何かしらの感覚が突き刺すが俺はそれを無視しこの部屋────ロストルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

────どうか、あの情けなくも勇気ある優しい医者に感謝と謝罪のバレンタインプレゼントを送れる日が来ることを俺は祈る

 

 

 



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カルデアボーイズ・コレクション:2018・・・if

今年でカルデアボーイズ・コレクションも3年目ですね。
3年目……?人理修復中に一度目……修復後に二度目……あれ?3度目って……うっ頭が……


 

 

 

 カルデアボーイズ・コレクション

 

 それは何処ぞの変態万能キャスターがホワイトデーに開催し始めた男どもによる謎の企画である。

 当初俺とロマニは奴のその提案に首を横に振ったのだが負担は全て奴持ち、男性サーヴァントに着せるコスチュームも設備も全て自分で用意するから、とまあ騒ぎ立て立香がそれに賛同しマシュもまた悲しい事に賛同してしまった。女三人寄れば姦しいとはこの事か、三人による説得とは言えない何かによって俺とロマニは仕方なしに首を縦に振ることとなった。

 いや、待て、そもそも約一名女じゃねえだろ……身体はともかく中身オッサンが交じってるんだが。

 

 話がズレたな。ともかくそんなカルデアボーイズ・コレクションだが今回で三回目の開催となり…………ん?……んん?三回?少し待て、そもそもこれは人理修復中に始まって解決して……三回目とはいったいどういう…………

 

 

────おっと、気づいてはいけないことに気づきそうだ。安心するんだランスロット、いつもの事さ

 

 

……うん、いつもの事だな。それでボーイズ・コレクションもカルデアのサーヴァントが増えていくことで段々と規模が増していき何ともアレな感じである。

 例えば昭和か大正風な探偵だったりアウトレイジだったり学園モノだったりカフェだったりとまあ、アレでな……俺自体はそういうのには参加していないんだが段々と規模が大きくなった事でレオナルドだけでは手が回らなくなり俺も服飾作成に駆り出されているわけだ。

 流石に当初の約束を反故したからボーイズ・コレクションはやらないと言えば女性サーヴァントやカルデアの女性スタッフからのブーイングが溢れるわけで仕方なくこうして手伝っている。

 

 

……わけなんだが。

 

 

「ランスロット、どうか貴方にも今回のカルデアボーイズ・コレクションに参加していただきたい」

 

「我ら円卓の絆を見せるのです、ランス」

 

「…………どういう事か説明を頼む」

 

 

 作業室でアーチャー・アラフィフの衣服を仕立てている最中にこの馬鹿共は現れた。

 何やら無駄にやる気を出している根菜の騎士と珍しく目を開いて力説する眠り豚。

 そんな二人の後ろで困った顔のベディヴィエールに何故ここにいるのかわからないアグラヴェイン。

 

 

「…………頭が愉快に常温で沸騰しているだけだ」

 

「いつもの事、としか言いようがない気が……」

 

 

 ああ、なるほど。子女に自分らの魅力を伝えたいがためにモテたいがためにこいつらはいつも通り、それは違うだろ、と言われるような方向に全力を注ぐのか。

 おい、円卓の騎士は大体駄目な奴ばかりなのか?まともなのは俺とアグラヴェインとベディヴィエールだけか。ケイは泳ぎが変態レベルだぞ?

 

 

「……却下だ」

 

「なんと!?」

 

「私は悲しい」ポロロン

 

「当然だな」

 

「当然ですね」

 

 

 そもそも仕事が増えるのは嫌なんだ。思えばこの二人はまだ生前の頃も仕事を増やしてくるド畜生だったな。はぁ、辛い。休みたい。

 ふう、アラフィフのはこれで終わりか……次は柳生殿だな。ちなみに前世や受肉後でわりと頻繁にこういう刑事モノを観てた……面白いし刑事の一人か二人が大体個性的……アラフィフか。

 

 

「ランスロット、お願いします……どうか、どうか我々に救いの手を……!!」

 

「ランス、あなたは見せたくはないのですか?レディ・マシュやあなたの愛するエレイン姫に!」

 

「…………うぐっ」

 

「おい」

 

「揺れないでくださいランスロット」

 

 

 いや、そうは言ってもだな。マシュやエレインに勇姿を見せるというのはとてもその魅力的というか、な?

 いや、だがしかし。下手に醜態を晒すというのもアレだろう。それを考えればやはり、出ないということで────

 

 

「話は聞かせてもらった」ドンッ

 

「あ、あなたは……!?」

 

「白い槍の王、ではありませんか!?」

 

「陛下」

 

「王よ……」

 

 

 あっ…(察し)。作業室に勇ましく入ってきたのは我らが騎士王のロンゴミニアドを持ってる白い方の王。うん、ちょっと良くわかんね。

 ちなみにだが、黒い方でも白い方でも兜を外しているだけで鎧は纏っていたり男モノの衣服を着ていることが多い。どうやらアグラヴェインへの配慮らしい……うん、アグラヴェインの胃が下手したら死ぬもんな。

 ともかくそんな通称獅子王なアルトリアが現れた事で俺は先が見えた。

 

 

「卿らの話は聞かせてもらった。ランスロット、騎士として乙女もといおのが伴侶や娘を愉しませるのも必要な事ではないか?卿の事だ、もしも醜態を晒してしまったらなどとらしくない事を考えているのだろうが…………それでも卿は円卓の騎士か!」

 

「我が王よ……!!」

 

「王は騎士の心が分かっていらっしゃる」

 

「…………陛下もこう言っているのだ、やれ」

 

「…………お疲れ様です、ランスロット」

 

 

 思いっきり掌返したぞアグラヴェイン。王大好きだなおい、多分本人に言ったら殴り殺される。

 そしてお前らは気づいていないだろうが、このアルトリアから何やら良くないものを感じる。具体的にはボーイズ・コレクションに参加した俺らをワインの肴にしようしているという感じのものが。

 そんな未来、俺が焼却してやろう。焼却式ランスロット────

 

 

「ちなみにだが、エレイン……彼女は期待して待っているそうだ」

 

「カフッ」

 

 

 未来焼却失敗。おのれぇ……いや、エレインが期待しているというのならば本気でやるしかない…………。

 

 

「…………何とも嵌められた気がしなくもないが、いいだろう卿らに協力しよう」

 

「「おお……!!」」

 

「(恨むからな)」

 

「(ワイン片手に愉しみにさせてもらう)」

 

 

 本当に許さんぞアルトリア……!!

 

 

 …………こうして俺のカルデアボーイズ・コレクション参加が決まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

「やはり、ここはいつも通り気高い騎士としての姿を見せるべきだと私は思うのです」

 

「気高い?」

 

「いえ、ガウェイン卿……ここは女性にとって理想とも言える白馬の王子がいいと思うのです」

 

「それは異世界の我が王に任せておけ」

 

 

 ランスロットら円卓の騎士がカルデアボーイズ・コレクションに参加することが決まり彼らはその際のテーマを意見しあっていた。

 作業室の一角にホワイトボードを置いて参加するガウェイン、トリスタン、ランスロット、ベディヴィエールが各々の意見────といっても発言しているのはガウェインとトリスタンだけだが────を出していく。

 なお、アグラヴェインはランスロットが参加することとなった為に不参加を許された。どうやらアグラヴェインはランスロットを売ったらしい…………がそれを悪いと思っているのかこうして案をホワイトボードに書いていく書記を引き受けていた。

 

 

「……はぁ、ベディヴィエール。卿は何かないのか?」

 

「私ですか?……そうですね、二年前の夏にやった船乗りはどうですか?アレはかなりの好評があったと聞いていますが……」

 

 

 なかなか決まらない討論に嫌気がさし始めたアグラヴェインがベディヴィエールに意見を聞いてみれば出されたのは嘗てやった事のあるテーマ。ランスロットはその時のことを思い出し頷く。

 思い出すは二年前の夏。レイシフトしたら無人島でサバイバルをする事となったあの時の事。作業も順調になっていき暇な時間が多くなってきたある日、獅子王なアルトリアの気まぐれによりランスロットら円卓の騎士六人はコスプレをしてアルトリアの無聊を慰める事となった。

 なお、その際にマシュによって撮影された写真はカルデア女性スタッフにたいそう人気だったようだがそれはまた別の話としよう。

 

 

「ふむ、確かにあの時の制服は残っている。無論、そのままというのもあれだから多少の手直しはするが」

 

「いえ、ランスロット。考えてみてください……同じものをやっては我々円卓の騎士の顔に泥を塗る畏れがあります」

 

「ひいては我らが王の顔にもそうなる可能性がありますよ」

 

「「「(少なくともお前ら/貴方がたの言動の方が泥を塗りかねないのだが/ですが)」」」

 

 

 割りとオープンな二人の言葉に対して常識人枠の三人は呆れてしまう。まったくどうしてこの二人はこうも自信があるのだろうか……三人には到底理解できないだろう。

 

 

「ともかく、やはり新しいものがいい」

 

「ええ、乙女の心をこう……鷲掴みにするようなものを」

 

 

 俺はお前らの首根っこを鷲掴みにしたい、とランスロットは心に思った事を口に出さないようにして考える。安牌なものは何かを……と、そこで乱入者がチラホラ。

 

 

「へー、まだ決まってねえのか」

 

「モードレッドか。何のようだ」

 

 

 彼らの下に現れたのは同じ円卓の騎士であるモードレッド。その手にはランスロットが数時間前に作ったあんドーナツの入った袋が握られている。

 

 

「ここではあまり食べるなよ」

 

「わーってるって。どれどれ……白馬の王子に気高い騎士?うわぁ……」

 

「そんな目で私を見るな。私はやらん」

 

 

 ホワイトボードに書かれている案にモードレッドはあからさまな表情で反応し、アグラヴェインはそれを否定する。どうやらモードレッドはアグラヴェインにそれらが似合わないと判断したようで、ランスロットもベディヴィエールもそれには肯定の意を示しつつも苦笑する。

 と、ランスロットはモードレッドから視線を切り一緒に入ってきた従妹のライオネルを見る。

 

 

「にしてもお前とモードレッドとは……なかなか珍しい組み合わせだな」

 

「あ、そうですか?私結構モードレッド卿と話しますよ?ほら、同じ雷系ですし」

 

 

 金髪ポニテですし。そう、騎士らしくない頭の足りない馬鹿娘っぽくにへらと笑うライオネルに、この馬鹿娘が……とランスロットはやや呆れるもその頭を少し乱暴気味に撫で付ける。

 

 

「わわっ、やめてくださいよぉ……崩れるじゃないですか」

 

「……それは置いといてどうした」

 

 

 ガウェインとトリスタンの相手をベディヴィエールに押し付けランスロットはライオネルにここへ来た理由を問いただす。その間、モードレッドはアグラヴェインの手伝いと称して紅茶を入れ始めていた。

 

 

「えっとですねぇ、我らが獅子王陛下にランスロット卿たちがCBCに出るからそのテーマを決めるのを手伝ってやれ、と言われまして」

 

「CBC……?いつの間ににそんな略称を……というより王の差し金か」

 

 

 だって陛下ですよ?そう笑うライオネルにランスロットは疲れたように笑うしかない。

 思えばあの獅子王アルトリアがカルデアに来てからランスロットは疲れることが多くなったというよりも生前の疲労度に戻り始めている気がしてならなかった。キャメロットとは別ベクトルの疲れで胃に穴が空きそうな思いでランスロットは日々増えた騎士王の相手をしている。

 と、ランスロットはやや後ろ向きになり始めた自分の思考を心のアロンダイトで切り伏せライオネルに協力をしてもらう。

 

 

「執事なんてどうですか?」

 

「……執事か…………アグラヴェインはさしずめ執事喫茶のオーナーか」

 

「強面の執事じゃないですか?需要ありますって」

 

「ふむ……モードレッドも執事として動かせるな」

 

「メイドよりも執事の方が似合いますよね」

 

 

「おい、何か言ってるぞ」

 

「知るか」

 

 

 ライオネルとランスロットの話し合いは当人らを置いてどんどんと進んでいく。

 なお、話が終わった時にはベディヴィエールに愚痴愚痴と文句を言われ流石のランスロットもそれには大人しく聞くこととなった。

 

 

 






 思い返すは二年前────

 あの夏のある日の事、暇を持て余し海で戯れる事に退屈しだした獅子王の一言

────卿らに我が無聊を慰める栄誉を与えよう

 絶対に面倒事だ、と判断したランスロットは泉に猪狩りを、トリスタンは川釣りをするべく逃げ出すものの獅子王の尖兵と化したモードレッドにより捕縛され獅子王の無茶振りを聞くこととなった。

 モードレッドより没収し本来の舟としての姿を現したプリドゥエン。興が乗った影の国の女王により流麗な船員服を着込んだ六人の騎士は獅子王の無聊を慰めるべく凡そ三日ほどの奉仕をするのであった────────



【ナイツ・オブ・マリーンズ】


不夜「ところでランスロット、泳ぎの心得は?」

凄烈「無論あるとも。水蛇の群れが住まう妖川であろうとも泳いでみせよう。卿は?」

不夜「私は嵐のただ中にある川を横断する程度ですね」

不要「それを程度で済ませていいのか、私には分からんのだが……」

暴走「太陽脳筋にそういうところ、求めちゃ駄目だろ…………ところでトリスタンとベディヴィエールはどうした」

凄烈「トリスタンなら無断で私物を持ち込んだ事を船長室でベディヴィエールに説教されているよ」




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IF:騎士の選択

 

 

 

 

 それは凍てつく大地。

 

 

 ただ人であれば生き延びる事など不可能な世界。

 

 

 剪定された世界。

 

 

 そんな世界で私は目を覚ました。

 

 

 『異聞帯』『汎人類史』……なるほど、理解した。

 

 

「我々も剪定されていたかもしれないわけだ」

 

 

 柄を握る手がやんわりと冷える。大地を踏みしめる脚はこの世界の辛さを教えてくれる。

 視界は吹雪で覆われている。

 降り積もる雪は進みを妨げる。

 

 

「それでも足を止めるという選択はないか」

 

 

 マスターはいない。

 呼び出した者はいる。

 何をすべきかはわかっている。

 それをする理由はない。

 

 

「では、どうするか────それはひとまず」

 

 

 柄を握る手に力を込める。

 

 

「この場を切り抜けてから考えるとしよう」

 

 

 周囲へ気を配れば、そこには白豹の様な模様を持つ獣が群れをなしこちらを囲んでいた。

 はてさて、種族として恐らくワイバーンに近い魔獣だろう。

 この世界と属性は合わない事を考えれば……さて、やるか。

 

 

「来い」

 

『────!』

 

 

 嘶き正面から突っ込んでくる魔獣に右手の盾を叩きつけそのまま潰し、左右から挟撃する魔獣には先にやや近い左側の魔獣へ剣を突き放ち、すぐさま魔術回路を起動させ空間置換を用いて右側の魔獣の首を落とす。

 盾を握り、振るうように動けば隙を突こうとした魔獣の首へ盾を叩きつけそのまま首を折る。次に盾を振るった際の反動を利用し近づいてきた魔獣の目につま先を抉りこませる。

 

 

『────!?』

 

 

 痛みに絶叫し、仲間を呼ぼうとする前にその首に腕を潜り込ませてそのまま捻り折る。

 数頭ほど、逃げたのを視界の端に収めつつすぐさま仕留めた分の魔獣の血抜き作業を行い腰に括り付けていた縄で尾を結び引き摺るように運ぶ。

 食べた事がない種族ではあるが、少なくともゲイザーやらなんやらよりは癖はないだろう。毒素があっても加護による対毒が何とかしてくれる……筈だ。

 

 

「────ふむ、どうやら機会があちらから来たようだ」

 

 

 少し急ぐか。

 そこまで遠くはない場所。そこで何やら騒ぎが聞こえる。

 魔獣の縄張り争いとは違う。明らかに人間またはそれに準ずる者の争いだ。

 荷物があるが気にせず駆ける。

 その際に鎧の表面が凍りつくがすぐに剥がれていく。

 

 

「────!!」

 

「────!!??」

 

 

 襲ってる数に対して襲われている数の方が多い……野盗とそれに襲われている村人と言ったところか。

 行くか。

 

 

「……!?誰だ……!!??」

 

「フン」

 

「ぎぃぃあぁぁ!!??」

 

 

 一番近くに立っていた野盗の様な装いの人狼の様な男……男だろう……ともかくそれが刀剣を握っている手首を切り落とす。

 その返し刃で銃を持っている野盗の手首へ斬撃を放つ。

 

 

 血を吹き出させ絶叫する彼らに盾の代わりに持っていた魔獣の尾を束ねている縄を振るい束ねた魔獣を叩きつけ他の仲間らに吹き飛ばす。

 

 

「ひ、ひぃぃい!!??」

 

「…………」

 

 

 気絶した者をまだ意識のある者が引き摺って逃げていく……それにしても丈夫だ。

 視界を逃げゆく彼らから襲われていた側の者らへと移す。

 

 

「ぁ……あ」

 

 

 村人……見た目は人狼と言うべきそれだが……獣人という類ではない……ニンゲンか。

 いったいどのような経緯でこのような進化を遂げたかは知らんが…………ああ、だから剪定されたのか。召喚された際の知識でこの大地がロシアである事は理解してるし、ロシアがこんなにも寒いわけがない。

 恐らくこの寒さに耐えるために何かをしてこうなった……そして、彼らは生き延びる事が出来て未来は閉ざされた。

 つまりは汎人類史側のこちらは彼らにとって悪でしかない…………さて、騎士としてどうするべきか。

 

 

「ぁ、あ、ありがとうございました……」

 

「…………」

 

 

 そうだな。それがいい。

 

 

「あ、あなたは……いったい……」

 

「……私か?私は────」

 

 

 

 息子よ。聖杯に選ばれた君ならどうする?

 汎人類史が白紙化され、かつての人理は消えた。

 異聞帯が構築され、いずれその人理は消える。

 生存に善悪の優劣などない。

 生きたいと望むことは悪などではない。

 

 だが、私は────────

 

 

 

 

「俺はランスロット。円卓の騎士ランスロット・デュ・ラック」

 

 

────君たちを生かす為に召喚された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

「彼らの味方だというのならば、我らと共に雷帝に叛逆するのが道理だろう!!」

 

「未だ身の振りを定めず宙ぶらりんでしかない貴公の許に行くほど俺は愚かではない」

 

 

 自分たちはこの世界にとって悪でしかないと泣く女がいた

 

 

 

 

「やれやれ……悪いが掃除屋の定めなのでね……大人しく倒されてもらおうか」

 

「掃除か。なれば貴公は悪だよ……汎人類史の奴隷」

 

 

 世界の為に無辜の人々すらも虐殺する世界の掃除屋がいた

 

 

 

 

「はじめまして────湖の騎士殿」

 

「巫山戯た面だ。連れていけ────」

 

 

 怪僧の手により騎士は異聞帯の王の許へその歩みを進めた

 

 

 

 

『────よい、サー・ランスロット。卿の力を余に、このロシアに貸して欲しい』

 

「無論。生存に善悪の優劣無し……ならば、今を生きようとしている彼らの為に戦いましょう」

 

 

 生きる為に、民草の為に、剪定の道へと踏み切った偉大な皇帝がいた

 

 

 

 

「…………アンタがそんな態度をとるとこっちが反応に困る」

 

「あいにく私は知らん。適当に直せ」

 

 

 凡夫でありながらも利用出来るものを全て利用し最善へと手を伸ばそうとする少年がいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いこう、キャスター、ランスロット。僕たちがこの世界を救う」

 

「ええ、行きましょう。マスター」

 

「くっ、やってみせろよ。少年」

 

 

 

 

────彼らの為に私は君らを討つよ

 

 



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其れは有り得ざる道:IF


本編もうすぐ更新できるぅ!と思ってたらなんか書いてァ!?
とりあえず投げ込んどけ
そんな感じのお話です。

アーチャーインフェルノ可愛いよ、欲しいよ。
よう考えればアレですよね。本来の世界から考えれば社畜ロットは武蔵ちゃんと同じ存在ですよね。片方サーヴァントですけど



 

 

 

 

 

 

「………………────ふむ」

 

 

 目を覚ます。

 頭が虚ろだ。

 四肢にはうまく力が入らない。

 さながら前日の晩に酒盛りでもしてそのまま酔い寝てしまった翌朝の様。

 されどしかし、前日の晩に酒など一滴も呑んだ記憶は無く────────

 

 

「……なるほど。これが英霊召喚か」

 

 

 そう、前日の晩などというモノは無かった。

 あるのは黄昏の中、同胞敵一切の血を浴び続け到底馬鹿な行為をやらかした己を自嘲し死んだ記憶。今思えば何故わざわざ自害したのだろうか、よもや前世の祖父にでも影響されたか?

 仲間を友を血の繋がる肉親を殺したというのならばそのまま王無き国を纏めれば良かったのだ。

 少なくとも、文官として有能な騎士が二人残っていたのだから彼らと共に王無き国で波乱が起きない様に尽力できた筈だろう。そうしていれば幾分か殺した彼らにも顔向け出来るものだが、さて。

 

 

「まずは貴様らか」

 

『────』『────』

 

 

 立ち振り向けば周囲には大量の鬼、鬼、鬼。

 無論、それはあの二騎の様な純粋な鬼種ではない創りもの。まあ、召喚されたばかりの俺が何を知ったような口を叩いてるのだと呆れるが少なくともこれらからは幻想種の類のソレが感じられず、あるのは何やらズレた様な感覚。

 そして、視覚情報。これらの見た目だが前世で見たことがある。ならばつまりこれらはどこかの神秘殺しの裏が創り上げたモノだろう。

 

 

「さて、何時だ」

 

 

 今は何時なのか。

 あの丑が支配する時なのか、それともまったく関係の無い時なのか。

 それが何よりも重大な点だ。

 支配された時ならば恐らくここにはカルデアのマスターがいるかもしれない。違うのならばそれは別にどうでもいい。

 だがしかし……

 

 

「…………聖杯よりの知識はある以上、抑えねばならないな」

 

 

 血の滴る剣を払って血を落とし、近くに落ちていた筵で血を拭い俺は歩き出す。

 そうだ。まずは聖杯をとろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぬぅッ!この門は我こそが守護する門よ!人間、とく失せよ!!』

 

「知らん」

 

『────』

 

 

 かれこれ三度目の門……赤い門の前に立つ大柄な赤鬼の口上を聞き流しその首を穿ち千切る。

 一度目、二度目……緑門と青門の緑鬼、青鬼どうようそこまでの耐久力生命力は無くいとも容易く死に絶えた鬼に少々物足りなさを感じつつも俺は歩いていく。

 

 さて、そういえば俺はどのクラスで呼ばれているのか分からない。

 というのは俺が自分のクラスをイマイチ認識できていないからだ。何やら頭に靄のようなモノがかかっておりそれが俺のクラスやらに少し不具合を起こしている。

 ちなみに先ほど靄のようなモノと言ったが既にその正体は理解している。

 それは……

 

 

「狂化。それなりにまともな思考があるのに狂化とはどういう事だ」

 

 

 剣を鞘に収めて山道を進んでいく。

 狂化は低ランクの様でそこまでバーサーカーな思考にはなっていない。せいぜい円卓の騎士らしい、湖の騎士らしい思考を回すのに影響があるだけで至極問題は無い。

 

 

「────いや、低ランクか?まさか。アレだけ騎士たらんとしていたのにそれが出来ない。そこに問題を感じない?」

 

 

 転生か憑依か、俺がランスロットになった事で俺は騎士たらんとした。

 裏切りの騎士とならないように。

 良き騎士になろうとした。誰かに慕われる様に頑張った。努力をした。

 自分らしさを殺しながら……そしていつの間にかに俺はその新しい俺が本物となっていた。そして死んだ……生前の様な事が出来ないというのに問題は無い、と俺は思考した。何故?

 

 

「簡単だ。いつの間にかに我が物顔をしていた紛い物が消えたのだ。なら、今の俺にとって一切不都合などない」

 

 

────昔の様に。

 

────まだ、紛い物が我が物顔になる前までのように。

 

 俺は俺らしくやってればいい。

 そうだ。新しい愛を探してみるのも面白い。

 無論、エレインの事は愛している。だが、俺は死んだ。彼女も既に死んでいる、というより召喚された際に付属した知識の中には彼女は俺の死後の数年後に病死したらしい。

 俺が死んだ事がそれほどショックだったのかもしれない。そんな彼女を俺は深く深く愛している。だがしかし……

 

 生前と死後は別だろう。

 少なくともそういう認識のサーヴァントはそれなりにいるはずだ。

 

 

「まあ、それも恐らく意味の無い考えであろうがな」

 

 

 そう。どちらにせよ、聖杯があるのならばそれを回収するカルデアが来るわけでさっさと聖杯を押し付ければ俺は御役御免で退去する。

 そうなればここにいる俺は消え、きっと呼ばれたとしてもその俺は今の俺ではなく騎士なのだろう。

 

 そう、だから………………

 

 

 

「────頂上。さて、聖杯は何処か」

 

 

 足を頂上に踏み入れる。

 薄暗く所々邪気を感じさせる頂上。

 しかし、彼の島に比べればそんなのは大したものではない。

 

 

『…………』

 

「……お前か」

 

 

 頂上に座すのは一騎のシャドウサーヴァント。その姿は黒い靄でよくわからない。だがしかし……

 

 

「知っているな。何となくではあるがお前には覚えがある。さて、何処かの聖杯戦争でかち合ったか?」

 

『…………ラン……』

 

 

 ノイズ混じりの声で俺に対してランと口走ったシャドウサーヴァント。恐らくランスロットと言おうとしたのかもしれない。殺気はあまりに薄く、どうやらここにいるだけのようだ。

 それにしてもこのシャドウサーヴァント、その元は誰なのか。

 靄がかりとはいえ体躯はそれなりに鍛えられており、女という訳ではなく紛れもない男であろう。

 男のサーヴァント。さて、何者か。

 

 

「────普通ならばお前が聖杯を持っているのだろうな、大人しく引き渡してもらおう」

 

『……せい、はい……せいはい……聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯聖杯イィッ!!!!』

 

「ほう」

 

 

 俺の放った聖杯という言葉がキーとなったのかシャドウサーヴァントはひたすらに聖杯と連呼し咆哮して俺へと襲いかかった。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 ランスロットは剣を抜き放ち襲いかかって来たシャドウサーヴァントを剣腹で横撃ちすることでシャドウサーヴァントをずらしその側面つまりは脇腹を蹴りつける。

 

 

『グゥゥゥッ!!』

 

「獣。獣だな、それも兎に劣るな!」

 

 

 蹴り飛んだシャドウサーヴァントはすぐさま槍を取り出し刺突の連続を放ってくるがしかし、ランスロットはそれを全てその剣で流していく。

 シャドウサーヴァントとなっている為か雑さの目立つ槍捌きをランスロットは嘲笑し、時折蹴りを打ち込む。

 きっと、この戦いをランスロットを知る物……円卓の騎士らが見れば目を疑うだろう。ランスロットの戦い方に騎士としてのモノはなく、あるのは殺技。どのように打ち込めば確実にダメージを入れる事が出来るのか、どのように刺し込めばどのように心臓を穿つ事が出来るのか、どのような力加減で蹴れば骨に罅を入れ、骨を折る事が出来るのか。

 殺し方がわかるのならそれは殺さない方法がわかると同様でランスロットはシャドウサーヴァントに致命傷を与えていない。

 

 

『ガァァァァッ!!!』

 

「────なるほど。宝具を使わないのではなく使えない、か」

 

 

 本来ならばそろそろ宝具の一つは使いそうな中、シャドウサーヴァントは宝具を使ってこない事にランスロットは一瞬疑問を浮かべたがすぐに応えを導き出した。

 ランスロットの中でシャドウサーヴァントは宝具を使えないか使えるかが分からなかった。それは今いるこの世界がどちらを基準にしているかが分からなかったからだ。

 だが、ランスロットはここまで来てどちらなのかを察した。

 

 ランスロットは後方へと跳躍しシャドウサーヴァントと距離をとる。

 それは臆したわけではない。

 それは────

 

 

「槍と剣、交えてわかったぞ。貴様の真名」

 

 

『ヌゥッ!!』

 

 

 嗤うランスロットに勢いよく突っ込むシャドウサーヴァントをランスロットはその場から動かず見る。

 動かず防御姿勢を取らないランスロット。シャドウサーヴァントの勢いならばそのまま槍はランスロットを穿くだろう、しかし。

 

 

『────?』

 

 

 槍は空を穿く。

 

 

 

「【其の血は、我が白世に光を与えたもうた】」

 

 

 空を穿いた槍を見て困惑するシャドウサーヴァントの後方、不安定な岩の上でいつの間にかにいたランスロットはその手にある剣。

 白と淡青の剣、その柄頭を握り引く。

 すると、剣の柄が伸びていき刃の部分もあいまって槍のような長さとなり……

 

 

「後輩様々と言うべきか。俺はこんなものを仕込んだ覚えはないからな………しかし、なるほど確かにこれは俺にそういう適正を与えなくもないな」

 

 

 聖なるかな。信仰する者が見れば目を離せなくなる力を宿す柄、不浄なるものを祓い清める浄化の剣。

 伸びた柄をもってランスロットはペン回しの要領で軽く槍を回しシャドウサーヴァントへとその鋒を向ける。

 

 

「はてさて、シャドウサーヴァント、汝が真名を理解したならば異派であれども同じ信仰を抱く者として卿にこの死を与えよう」

 

 

 兄弟殺しの咎人、その子孫が造り上げた槍の柄と接続した浄化の剣は並の宝具にあらず。

 魔性を浄化し、嘆きをもって不治の疵を与う聖浄の槍なれば、魔性に堕ちたシャドウサーヴァントへの手向けとして充分なお釣りが来るものであろう。

 

 

「────ほんの僅かな時間であれど、さらば」

 

『────余は……』

 

 

 シャドウサーヴァントの後方に瞬間移動と言ってもいい現れ方をしたランスロットはそのままその槍でシャドウサーヴァントの胸を背後から穿った。

 浄化の力はシャドウサーヴァントの靄を払い、シャドウサーヴァントは本来の姿を見せていく。金刺繍が施された黒い貴族の服を纏った男は正気の声で呟く。

 

 

「余は……吸血鬼など、ではないのだ……」

 

 

「────そうか、理解したぞ。黒のランサー」

 

 

────卿とは前にも戦ったな

 

 ランスロットは消えゆくシャドウサーヴァント……ランサーを見て当初抱いていた既知感を理解した。

 ここではないどこか。

 そこでランスロットは目の前のランサーと殺しあった。

 その記録を思い出しそして

 

 

「だが、もはや関係はない。また何処かの戦いで会うだろうさ」

 

 

 消えゆくランサーを尻目にランスロットは聖杯を探し始める。感覚としては近くにある事を理解している為、少しずつ少しずつ確かに聖杯に近づいていく。

 

 

「────さて」

 

 

 ひときわ大きな岩に嵌っていた聖杯と呼ばれる水晶体を見つけ手に取ったランスロットは手頃な岩に腰掛け思案する。

 それはこの聖杯をどうするかという事。

 無論、普通ならばこの聖杯を感知しやってくるであろうカルデアのマスターに押し付けるのが妥当。しかし、そのカルデアのマスターがやって来るのが何時なのかは誰にもわからない。

 ならばランスロットはどうするのか。

 

 

「────一先ずは預かろう。それに探偵が何の裏技かレイシフトが出来るのであればコレの力なら出来なくもなかろう」

 

 

────何より、すぐに消える気もないからな

 

 そう、ランスロットは嗤い聖杯の輝きと共にこの鬼ヶ島からその姿を消した。

 

 

 

 




クラス:ランサー
真名:ランスロット・デュ・ラック
ステータス
・筋力:A ・耐久:A
・敏捷:A+ ・魔力:A+
・幸運:D- ・宝具:EX
保有スキル
・無窮の武錬[A+]
・精霊の加護[A]
・聖槍の祝福[A++]
クラススキル
・対魔力:B
・騎乗:B
・狂化:E

宝具
・浄化の剣ジョワイユ
・無毀なる湖光:真名解放不可
・騎士は徒手にて死せず
・己が栄光の為でなく


後悔はしていません。
本編投稿はもう少しお待ちを

Twitterで更新状況やらなんやらを呟いていたりするので興味のある方はマイページにリンクあるのでどうぞ



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ハロウィンそれは突然に:番外

気にしてはいけない。
今日で二話目の投稿だ。
時間軸などは本編とは違っております。
本編とはちょっと違う未来なので気にしなくても大丈夫です。


 

 

 

 

 …………ついにこの日が来てしまったか。

 

 

 思い返されるのは去年、一昨年の惨劇。

 

 ……いや待て、まったく身に覚えがないのにどうしてその二回ともの記憶があるのだろうか。

 

 

────ハハッ

 

 

 地獄に堕ちろクズ。

 ともかく、目を覚ました俺はどこぞのクズか何かのせいで、ある覚えのない二回のハロウィンの記憶が思い返される。

 一回目は元々のそれ……前世の知識通りで何も変わらなかったようだが……問題は二回目のハロウィン。

 俺の…………ランスロットのいる場所には我が異母弟ことエクターがいた。

 

 

 

フォフォーウ──────回想────

 

 

 

 

 

『あ、兄上ッ!?』

 

『マシュ!殴っていい許す!!』

 

『はいッ!!』

 

『ガフッ!?ゴフッ!?ま、まって……ゴベバァッ!!??』

 

『ああ、エクターが見る見るうちにボロ雑巾になっていく…………ですが、これも仕方がない事なのでしょう』ポロロン

 

『複雑な家族関係なのね……』

 

 

 

 

フォフォーウ────終了────

 

 

 

 

 俺とマシュに叩きのめされるエクター……別に悪いとも思ってないし後悔なんてしていない。

 むしろ清々しく満ちている…………まあ、俺自体にそんな覚えはないんだがな!…………ともかくそんな記憶が存在していることに不安があるが忘れよう。

 さて、三回目のハロウィンはどんなだったか……駄目だな。そもそも剣豪とハロウィンどっちが先にあったのかすら憶えてなかったのだから、その辺りはどうしようもないな。

 

 部屋着からいつもの格好に着替えてマイルームから出る。

 行きたくはない。行きたくはないが……行かなければならないのだろう。うん、丁度いい今回のイベントで少し前からやりたかった事をやろう。

 そして、適当に道すがら道連れを見繕うとするか。とりあえず一人目として───

 

 

「パライソ」

 

「────ここに」

 

 

 名を───表記上真名ではないが音声的には真名を言っているよ。byみんな大好き花の魔術師───を呼べばどこからともなく、忍然とした眼帯の少女が現れる。

 彼女はアサシン・パライソ。英霊剣豪七番勝負に出てくるサーヴァントの内の一人。前世での剣豪に関するサーヴァントで武蔵以外に唯一記憶に残っているサーヴァントでもある。

 ちなみに記憶にある某音楽家のようなアレな格好ではなくきちんと服を着た姿……恐らく第二、第三再臨辺りの格好だ。

 

 

「どうなされたでござるか、御館様」

 

「今日が何の日か知っているか?」

 

「……たしかハロウィンなる日と聞いているでござる」

 

 

 どうやらハロウィンという日なのは知っているがハロウィンがどういうものなのか、このカルデアにおけるハロウィンがどういうものなのかは知らないようだ。これならいけるか?…………いや、流石にな……

 

 

「実はだな、そのハロウィンで少し人手が必要なんだ。トリスタンかベディヴィエール辺りを探して食堂に連れてきてはくれないか?」

 

「御意」

 

 

 俺の頼み事に一言応えて、出てきた時のようにどこかへ姿を消したパライソ。

 流石にな。カルデアに来たばかりの彼女を地獄に巻き込むのは気が引ける。それならトリスタンやら円卓勢を道連れにするのが気分的にもいい。

 

 

「さて、食堂までの道すがら何人かに声だけでもかけてみるか」

 

 

 はたして何人いけるだろうか。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

《匿名:太陽のマッシュポテト》

 

 

『やはりハロウィンですか。私は断固として行きませんからねランス』

 

『ガウェ院』

 

 

 

 

 

 

《匿名:私こそがセイバーオブセイバー》

 

 

『ハロウィンですか?セイバーの気配がしないので行きません』

 

『知ってた』

 

『それはそうとお腹が減りましたアビスウォーカー』

 

『…………』

 

 

 

 

 

 

《匿名:ダークソウル・蒼の大狼》

 

 

『…………グルルル』

 

『────』(機嫌が悪そうなので今回は遠慮させていただきたい)

 

『…………』ひとりでにジャグリングが起きている。

 

 

『わかった。留守はよろしく頼む』

 

 

 

 

 

 

《匿名:神槍日本代表》

 

 

『む、ハロウィンか……ふむ……よし、お主ほどの男が頼むのだ。行かせてもらおうか』

 

『────そうか。それは助かる』

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 ……………………と、まあ四人目……四人目?でハロウィンへの同行者を無事獲得した俺は同行者……胤舜と共に食堂の一角で茶を啜っていた。

 

 

「胤舜はもうカルデアに慣れたか?」

 

「うむ、皆良くしてくれる。多種多様な国、時代から来ているというのになかなか良い者が多い。これもお主らカルデアのマスターやカルデアのスタッフのおかげだ」

 

「そうか、それはよかった」

 

 

 軽快に笑う彼に俺はホッとする。

 ここカルデアもだいぶ大所帯となった。新しく召喚されたサーヴァントがなかなかカルデアに馴染めず孤立してしまうのは同じサーヴァントとしてあまり好ましくないからな。

 これは良かった。

 

 

「ところで、胤舜はカルデアのハロウィンについて知っているか?」

 

「ああ、何やら拙僧と同じ槍兵の娘が企画しているらしいな。後はその娘が毎度毎度やらかすと聞いている」

 

「ああ、それで合っている。色々とアレな企画ではあるがこのカルデアではそういったイベント事が好まれる…………ライブとかさえ無ければ充分楽しめるんだがね」

 

 

 そうか、それは楽しみだ。と湯呑みを片手に笑う胤舜に最後の言葉が聞こえてなかったことを少し良かったと思いつつ、そういうアレなハロウィンと知っているにも関わらずに参加してくれる事に感謝の念が絶えない。

 だからこそガウェイン、お前は後で叩き潰す。

 

 と、そこで

 

 

「御館様」

 

「ん、パライソか」

 

 

 背後から声をかけられ振り返るとそこにはパライソがトリスタンを連れて立っていた。

 ベディがいないが……逃げたか。

 

 

「ありがとうパライソ。後で南瓜のケーキを差し入れに持っていこう」

 

「……!!こ、これぐらい、た、容易い事でござる……で、ですが……その、ありがとうございまする!?」

 

 

 そう言ってパライソはこの場から消えた。どうやら先日にパライソや武蔵、インフェルノ、柳但に振る舞った南瓜のケーキがお気に召したようだ。作り手としてそれは嬉しく思う。

 さて、トリスタンに視線を投げかけるとトリスタンは一歩下がった。

 

 

「なんでしょうかランス」

 

「ハロウィン。お前も」

 

「拒否権は」

 

「ない」

 

「知ってました」

 

 

 お前が逃れる事などKINOKOが許そうとも俺が許さない。

 

 

「ふむ、それで拙僧とお主、トリスタンの三人だけで行くのか?」

 

「いや、そこに立香と誰かが入る」

 

 

 胤舜が投げかけた質問に俺はすぐにそう返す。

 憶えていないから誰がついていくのかはわからないが……まあ、きっと誰かついてくるだろう。多分

 

 

「あ、胤舜殿!!ちょおっと手伝って欲しい事があるんだけども!!」

 

「む、あ、待て武蔵!?」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 食堂に顔を出した武蔵に止める間もなく連れていかれる胤舜。

 

 

「…………胤舜、離脱……だと」

 

「なんと……」

 

 

 これ以上減っては面倒か。

 俺は席を立って、すぐさまトリスタンの鎧の襟首を引っ掴み、逃がさないようにして食堂から出ていく。

 

 

「ゴフッ!?」

 

「行くぞトリスタン」

 

「せ、せめて、そこ以外を掴んでほしいのですがぁ!?」

 

 

 仕方がないので襟首ではなく肩を掴むことにする。逃さない。

 先日、迷惑をかけたのだから、否が応でもハロウィンにつれていく。人のギフトを使って俺らをボコボコにしよってからに……ガウェイン以上の堅さを手に入れるな、やりづらい。

 

 

「ら、ランス……まさか先日の件をまだ怒って────」

 

「あ?」

 

「いえ、何でもないです。はい」

 

 

 そんなこんなで中央管制室へと入ると既にそこには立香、マシュ、レオナルド、新宿のアサシン……そしてエミヤやロビンフッドに茨木童子、ヘクトールらがいる。

 今回の道連れは多いな。

 

 

「おっと、我々は見送りだ」

 

「チッ」

 

「君を待っていたのさ、ランスロット」

 

 

 エミヤの言葉に軽く舌打ちをして、俺はトリスタンと共に立香と新宿のアサシンのもとへ行く。

 

 

「よし、それじゃあ全員揃ったから行くよ、いろんな手順は省略だ!三度目のハロウィン、楽しんできたまえよ────!」

 

 

 

レイシフト開始────────

 

 

 

 

 




ハロウィーンのキャスター『星五』
クラス:キャスター
真名:ランスロット・デュ・ラック
性別:男
宝具:血に酔うか、葡萄酒か(シャッセント・レス・デモンズ)
保有スキル:
・置換魔術:EX
・精霊の魔術:A+
・己が栄光の為でなく:A
クラススキル:
・対魔力:B
・陣地作成:A
・道具作成(武器):A-

宝具……血に酔うか、葡萄酒か(シャッセント・レス・デモンズ)
Buster 敵単体に超強力な攻撃[Lv]&宝具強化[OC]&敵に呪い付与(5ターン)[OC]

スキル……
置換魔術……自分の被クラス相性変更(シールダー化)(3ターン)&全体Arts強化(3ターン)
精霊の魔術……味方全体に星付与状態(5ターン)&自分のNP付与
己が栄光の為でなく……自分に回避2回&攻撃力ÜP(3ターン)&BusterÜP(3ターン)付与


……黒コートに仕掛け武器多数持ち……


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幕間:微睡む騎士と嗤う魔女・Ⅰ

これはキャラ幕間に当たる話です。
時系列は本編とは違います。




 

 

 

 

 歩いている。

 見知った廊下を歩いていく。

 

 壁に付いている窓から光は差し込んでいるが薄暗い廊下を一人歩いていく。

 

 こんなに暗かっただろうか。明るかった筈だ。俺の中にあるこの廊下はこんなに薄暗い場所では決してなかったはずだ。

 

 ああ、あそこには確か部下の一人が作ってくれたモザイクアートがあったはずだが……何も無い。のっぺりとした影があるばかり。

 

 廊下の窓から見える美しかった小さな庭園には嘗ての記憶にあるような色鮮やかな花々は無く、その代わりと言うのか寒気を感じさせるように黒い薔薇が咲き乱れている。

 よく見れば壁面や、床には黒いタールのような何かがこびりついているようにも見える。

 いったい誰の悪戯だ。いや、悪戯などでは済ませられない、そもそもなぜに俺はここにいるのか。わからない。

 

 

 だが、きっと目的地にこの元凶またはそれに準ずるものがあるのだろう。故に俺は廊下を歩き続ける。

 決定的に何かがズレていると、俺は感じながらもこの歩みを止めることは無かった。

 

 

 

 

 

 

───ふふ……私の愛しい御方。早く、私のもとに…………

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「変な夢?」

 

 

 カルデア、その数ある施設の中でサーヴァントやスタッフらの憩いの場である遊戯室にてカルデアのマスター兼サーヴァントであるランスロットは遊戯室で共にトランプに興じていたマーリンに一つの悩みを告げた。

 

 

「ああ。ここ最近何やら変な夢を見ている……はずなんだ」

 

「はずって、なんだい…………」

 

 

 悩み、それはここ最近ランスロットが見ているのであろう夢の事。

 見ているのであろう……そんな曖昧で疑問符が湧くような言い方をしたのには理由がある。

 

 

「感覚としては夢を見ている、というのは分かるんだが起きると酷く曖昧になる……それならただのよくある夢と思うんだが……」

 

「何やら嫌な予感がする、というわけだ」

 

 

 直感のスキルを所持している訳では無いがランスロットはここ最近の曖昧な夢?に対して嫌な予感を抱いていた。

 それはただの夢と断ずるには嫌な予感が過ぎる。

 故にランスロットはこと夢に関しては専門家とも言うべきマーリンへと相談したのだ。

 

 

「うーん、とりあえず診るだけ診てみようか」

 

「ああ、頼む。ほら、ジャックのフォーカード」

 

「おっと、キングのフォーカードだよ」

 

 

 くたばれキングメーカー。フォーウ。

 マーリンの出したカードにランスロットは中指を立て、膝上のキャスパリーグもマーリンへ文句の鳴き声をあげる。

 そんな一人と一匹にマーリンは笑みを浮かべながらその手をランスロットの頭へと伸ばしその額に触れる。

 

 

「一瞬、お前が女で額と額を合わせたら────と夢想したがそんなのは人理焼却で焼かれるべきだと思った」

 

「あはは、君の前で女体化したら黒いアルトリアに斬られかけたからね。やらないさ────あ」

 

 

 ランスロットのジョークにマーリンは笑みを浮かべその表情が氷のように固まった。

 それにランスロットは胸中に渦巻く嫌な予感が確固たるものと変わったのを感じとり

 

 

「……ランスロット、悪いがこれは私には少し手に余るようだ」

 

「…………そうか」

 

「いいかい?暫く自室で安静にしておくんだ……大丈夫、一日ぐらい横になってれば解決するさ」

 

 

 マーリンの告げた言葉にランスロットは何か引っかかるものを感じつつも信じ頷いて席を立ちそのまま遊戯室より出ていった。

 そんなランスロットの背をマーリンは複雑そうな表情で見送り、すぐさま何やら魔術式のようなものを広げ始めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、ガウェイン卿。どちらへ?」

 

「ああ、トリスタン卿。今日はベディヴィエール卿と共にトレーニングをしに行こうと話しあったところで」

 

「トリスタン卿もどうですか?」

 

 

 ランスロットのマーリンへの相談より翌日、ランスロットと同じ円卓の騎士であるトリスタン、ガウェイン、ベディヴィエールは昼食を終え話しながらトレーニングルームへとその足を向けていた。

 

 

「なるほど……それはいいですね。ところでランスを知りませんか?」

 

「ランスロットですか?いえ、今日は見ていませんが……ベディヴィエール卿は?」

 

「いえ、私も今日はまだ見かけていませんね」

 

 

 三人の話題は同じ円卓の騎士でありこの場にいないランスロットへと移る。仕事などの都合でアグラヴェイン共々遅くに就寝しようともそれなりに早く起床する彼を昼食が終わっているにも関わらず三人の誰も目にしていないことに三人は首を曲げる。

 三人の中ではだいたい昼食の頃にはアグラヴェインと共に書類を片手に軽い昼食を取っていたり、我らが王とりわけトリスタン曰く「機嫌の悪い方の王」の供回りを務めているなどの認識だが今日はそのどちらでもないことを不思議に思いつつもそういう時もあるだろう、と結論付けた。

 

 

「きっと疲れて自室にでもこもっているのでしょうね」

 

「そして、休んでいるにも関わらず面倒事が転がりこんでくる…………ああ、それは悲しい」

 

「…………ベディヴィエール卿が私のネタを使っているような違うような……複雑な心境に私は悲しい」ポロロン

 

 

 互いに笑い合う三人。

 だが、すぐにその笑みは止まることとなる。

 

 

『緊急連絡です────ガウェイン卿、ベディヴィエール卿、至急管制室におこしください……あ、トリスタン卿もお願いします』

 

 

 館内に響き渡る放送に三人の表情は先ほどと打って変わる。

 

 

「何やら緊急事態のようですね」

 

「ええ、我々円卓の騎士が必要のようです、急ぎましょう」

 

「………………まるで私がおまけのように呼ばれて、私は悲しい」ポロロン

 

「悲しんでないでさっさと行きますよ、トリスタン!!」

 

 

 何やら嘆いているトリスタンにベディヴィエールは叱咤し、その首根っこを掴んでガウェインと共に管制室へと急いでいく。

 幸か不幸か三人のいた場所はそれなりに管制室に近く、すぐに管制室へとたどり着き入室した。

 

 

「円卓の騎士ガウェイン及びベディヴィエール、トリスタン、三名ともに到着しました」

 

 

 管制室へと入った三人を待っていたのは司令代理であるレオナルドに立香やマシュ、さらには騎士王アルトリア・ペンドラゴンにアグラヴェインとモードレッドという三人以外の円卓の騎士もそこにいた。

 三人が来たのを見てレオナルドは一度頷き用件を述べ始める。

 

 

「案外早くてよかった。実は微小な特異点が観測されてね……この前の件に似たような反応が感知された」

 

「この前というとそれは……トリスタン卿の件ですか?ダ・ヴィンチちゃん」

 

「…………」

 

 

 マシュの質問にトリスタンはその表情をやや申し訳なさそうにするが誰もそれは気にとめずレオナルドの言葉に耳を傾ける。

 

 

「ああ、それであってる。で、今回円卓の騎士を呼んだのは前回の微小な特異点との類似性を調査してほしいんだ」

 

「なるほど……アレ?ランスロットさんは?」

 

「……ランスロットは少し不調ということもあり今日は自室待機だそうですリッカ」

 

 

 トリスタンを中心とした謎の微小な特異点。確かにそれと似通った反応があるというのならばその類似性を調査するのに円卓の騎士が派遣されるのは納得のいくことであるがその一人であるランスロットが管制室に不在。

 それに気づいた立香へすぐさま騎士王は今朝マーリンより伝えられた事を立香に伝える。そんな二人を尻目にレオナルドは今回のレイシフトについて話し始め……

 

 

「それで、今回のレイシフトのメンバーだけど────」

 

「おっと、間に合ったみたいだ」

 

「────マーリン」

 

 

 その話を途中で遮って管制室へとやってきたマーリンに視線を向ける。急いできたのかやや羽織っているローブが乱れているがマーリンは気にせず立香の下へ近づき、懐から何かを取り出した。

 外套だ。

 特になにか紋様があったり、装飾がされているわけではない無地の外套。

 

 

「えっと……」

 

「これを持っていくといい、今回の特異点には必要になる」

 

「え?」

 

「マーリン、それはどういうことだい?」

 

 

 マーリンの外套と言葉を受け取り立香は唖然として、レオナルドやマシュをはじめとする円卓の騎士も皆一様に怪訝な表情でマーリンをみる。何か知っているのか、と。

 

 

「それなりに、ね。だからこそ今回のレイシフトメンバーは少し私が口出しさせてもらうよ。アルトリア、アグラヴェイン、トリスタン、ガウェイン、モードレッドの五人を連れていくのがいい」

 

「……マーリン、何故私は……?」

 

「ベディヴィエール、君には念の為にこっちに残って欲しい。念の為にね……」

 

 

 というわけで、さぁ早く用意して!そうマーリンは急かして立香らにレイシフトの用意を始めさせる。

 そんなマーリンを見て騎士王は詳細を聴くことを諦め、アグラヴェインは溜息をつき逃げようとするモードレッドの首根っこを掴み用意へと向かっていった。

 残るのはベディヴィエールとレオナルド、マシュにマーリン。

 レオナルドはマーリンに怪訝な表情を向け続けるがマーリンはそれを無視しそのままベディヴィエールへ一、二言喋りかけるとベディヴィエールは頷きすぐに管制室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンサモンプログラム スタート。

霊子変換を開始 します』

 

『レイシフト開始まで あと3、2、1……』

 

『全工程 完了。

グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 湿った音がする。

 なにかに浸かっている気がする。

 暗い昏い冥い。

 右腕が何かに濡れている感覚がする。

 どこかで感じた事のする感覚だ。

 

 

 嗚呼、そうか。気をつけろ魔女が嗤っているぞ。

 

 




Twitterや活動報告の方でも言ってますがアナスタシアを無事引くことが出来たらカドックくんに憑依転生してアナスタシアを召喚するSSを書きたいなと思います。
ランスロットの方もきちんと少しずつではありますが書いていくので安心してください。

感想や評価、意見、誤字脱字報告お持ちしています


ランスロット自体久々で少し書き方を忘れかけた件


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幕間:微睡む騎士と嗤う魔女・Ⅱ

ついに二部開幕ですね。
そして、アタランテ・オルタ……ふむ、何故にオルタなのかは置いといてありがとう……バサランテ……ありがとう。

アナスタシア欲しい、バサランテ欲しい、謎のダークヒーロー仮面欲しい……無償10連で結果はジークフリート……うん、アポ勢だけど君じゃないぞ。活躍出来なかった腹いせなのだろうか……すまない



 

 

 

 

 

 暗い。まず最初に抱いた感想はそれだ。

 

 

「屋内ですね……」

 

「見る限り何処かの城、か?」

 

 

 微小な特異点へとレイシフトした私たちはどうやら何処かのお城?の中にいるみたいなんだけども城内ってのはこんなにも暗いものなのだろうか?

 

 

「いえ、リッカ。本来城内はここまで暗くはありません、それに窓を見てください。光が差し込んでいるにも関わらず暗い」

 

「……つまり、魔術とか何かしらの原因がある?」

 

 

 私の言葉に頷いてくれるアルトリア。そんな中、アグラヴェインをはじめとするみんなは辺りを警戒しつつも調べてくれている。

 私たちがいるのは城内の広間のような所。上へと上がる階段が見えるがすぐに動くのは危険と判断してるんだろう。誰も階段については何も言わない。

 

 

「……なあ、トリスタン」

 

「なんです、モードレッド」

 

「ここってよ…………」

 

 

『………………あー、あー、テステス』

 

「……?」

 

『おっと、通信が繋がったようだね』

 

 

 と、カルデアの通信が開いたようだけど……投影されたホログラムはマシュやダ・ヴィンチちゃんじゃなくてまさかのマーリン。

 というか何故にマーリン……あ、貰った外套はちゃんとレイシフト前に着といたよ。

 

 

「マーリン……何故、あなたが?マシュやダ・ヴィンチはどうしました」

 

『んー、今回は私がやった方がいいと思ってね。さて、君たちがいる場所だが……モードレッドやトリスタン辺りは分かってるかい?』

 

「……まあな」

 

「恐らくは……」

 

 

 え?モードレッドとトリスタンは知ってる?どういうこと?……円卓の時に来たことがあるとか?

 でも、そうなるとアルトリアとかが知らないのはどうしてだろう。

 

 

「トリスタン、ここは何処ですか?」

 

「…………いえ、いまだ確証はありません。ひとまずは奥へ行きましょう」

 

「……陛下、まずは調査せねば何もありません」

 

 

 うーん、なんというか口が挟めない。モードレッドとトリスタンの表情から聞き出せないし、アグラヴェインの言う通りここはまずは調査しないと駄目だね。

 

 

「アルトリア、行こう。調査すれば結果的に分かるんだし」

 

「リッカ……そうですね。貴女とアグラヴェインの言う通りまずは調査を優先しましょう。トリスタン卿、確信が持てたのならばすぐにでも報告を」

 

「ハッ、お任せを」

 

 

 そうと決まれば調査だけども

 …………とりあえず、普通に無視されたモードレッド……どんまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、光が遮られているようですね」

 

 

 立香らカルデアはこの微小特異点である薄暗い城の廊下を歩いていた。

 廊下には中庭へと続く吹き抜けがあり中庭の様子を見る事が出来、中庭はそれなりに明るいがその光はまったくと言っていいほど城内には入っていなかった。

 そんな様子を見てガウェインは光が魔術か何かによって遮られている、と判断した。太陽の加護を持つ彼だからこそその辺りを詳しく察せれた。

 この城には自身のスキルを妨げる力があると。

 

 

「ふむ……ガウェインが来る事を想定していたのか偶然……いや、前者の方が高いな」

 

「あ?なんでだよ」

 

 

 ガウェインの言葉にアグラヴェインはこの城にかけられた遮光に対して自身の考えを口にし、そこにモードレッドが振り返る。

 そんなモードレッドにアグラヴェインはまるで駄目な兄妹を諭す様に言葉をかける。

 

 

「そんな事も分からんのか、駄犬。この城に走る魔力を考えればわかるだろう」

 

「誰が犬だ、誰が!」

 

「犬で充分だろう」

 

 

 文句を騒ぎ立てるモードレッドを無視しアグラヴェインは壁に触れながら進んでいく。ガウェインやガレスらとは違い魔術もある程度齧っていたアグラヴェインにしかわからない事があるのだろう、と立香らは考えそのまま廊下を歩いていき────────

 

 

「あ?」

 

「……!リッカ、下がって」

 

 

 先行するモードレッド、立香と並んで歩くアルトリアがそれに気づいた。直感のスキルを持ち合わせているからだろう。

 それが現れる前に気づいた二人はすぐさま武器を構え、それに続いてトリスタンはフェイルノートを、ガウェインはガラティーンを。

 

 

「……シャドウサーヴァント?」

 

「いえ、違います……アレは」

 

 

 薄暗い廊下、その先からまるでインクが滲み出るかのように現れたのは黒い瘴気の様なモノを纏った人型。

 立香はそれを見てシャドウサーヴァントを思い浮かべたがアルトリアの言葉に否定される。

 次第に人型は明確な形を持ち始める。それは鎧を纏った存在。その姿を立香は知っている、円卓の騎士は知っている。

 

 

「キャメロットの騎士────」

 

 

 嘗てアルトリアら円卓の騎士の下で戦ったキャメロットの騎士、第六特異点で獅子王の円卓の下で多くの民を殺した粛清騎士。

 それとまったく同じ姿の騎士が現れた。いや、差異があるのをトリスタンとガウェインは目敏く見つけた。

 

 

「対面する双乙女……」

 

「……やはり、ここは」

 

 

 騎士の正体を理解した二人を置いておき、剣と盾を構える騎士。それを合図にしたのか次々と騎士が現れていく。

 前方、後方から現れた騎士ら、その数は十余り。挟み撃ちとなった事を理解した円卓の騎士はすぐさまマスターである立香を中心に動く。

 

 

「モードレッド、前方は我々で抑えます。いいですね」

 

「ああ、分かってる」

 

「トリスタン、貴様はマスターの隣で援護をしろ。後方は私と陛下で抑える」

 

「アグラヴェイン、隣は任せます」

 

 

 そんな騎士らへと突っ込もうとしている円卓の騎士にすかさず立香は礼装による強化をかける。マスターらしい事がこの微小特異点にレイシフトしてからろくに出来なかった為にその行動は素早かった。

 そんな彼女の強化にモードレッドは獰猛な笑みを浮かべ、ガウェインはガラティーンを握る手に力を込め騎士らへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

「はァッ!」

 

『────』

 

 

 撃ち込まれるガラティーン、それを騎士は盾で防ぎすぐさま後ろにいる他の騎士が槍をガウェインに放つ。

 そんな槍とガウェインの間に赤雷が走る。赤雷は槍を砕きガウェインはガラティーンに焔を灯し盾ごと騎士を焼く。だが、そんなものはお構い無しと言わんばかりに騎士は焼ける身体ごとガウェインへと迫る。

 ガウェインはすぐさま騎士の首を切り押し返し、槍を失った騎士は腰から剣を抜き放ちモードレッドへ迫るがモードレッドは騎士に蹴りを放ちトリスタンの音の刃が切り刻む。

 

 

「フン……」

 

 

 騎士の振るう槍を紙一重で避け、兜の隙間へ的確にその剣を突き刺すアグラヴェイン。

 騎士王の補佐役、キャメロットにおける文官のランスロットと共にまとめ役、円卓随一の尋問官、円卓の騎士らが主人公となる物語があるなか彼を主体とした物語がないがしかし円卓の騎士である以上その実力は高水準。アグラヴェインの剣は的確に騎士らの鎧の隙間へ潜り込む。

 そんな鮮やかな手際にアルトリアは内心感嘆しながら自分の目の前にいる騎士へエクスカリバーを振るう。

 

 

『────』

 

「ハッ!」

 

 

 エクスカリバーに纏った風の鞘はサーヴァントではない騎士らの剣を絡めとり胴をがら空きにする。次の瞬間には断ち切られる騎士、アルトリアは後方より響いた音色に苦笑しつつも次の騎士へと向かっていく。

 

 

 戦闘は十分も経たずに終了した。薄暗い廊下に飛び散る赤い血、倒れ伏す騎士ら。

 彼らを見下ろしながら立香らカルデアは言葉を交わす。

 

 

「……モードレッド、この騎士と戦って貴様はどう感じた」

 

「あ?……そーだな、なんつうか普通の騎士よか強えだろうけど────」

 

「何か欠けている、ですね」

 

 

 アグラヴェインに答えるモードレッドの言葉を遮ってモードレッドの言わんとしている事を口にするトリスタンにモードレッドは睨みつけ、ガウェインとアルトリアに立香はトリスタンの言葉に首を傾げる。

 

 

「ねぇ、欠けているってどういうこと?」

 

「そうですね……マーリン、そちらでの調査はどうでしょうか」

 

 

 トリスタンの問いかけに応えるように空中にカルデアとの通信が表示されマーリンはやや真剣味のある表情を見せ、口を開いた。

 

 

『そうだね、城の全体像や城に満ちる覚えのある魔力も大方判明したよ。十中八九、君らの考えはあってるよ』

 

「……そうですか。マスター、まずこの城について話しましょう…………

 

 

────カーボネック、それがこの城の名です」

 

 

 





数日後にログボ石が貰えるのでそれでアナスタシアがアタラナスシア(何言ってる)だったらカドック(憑依転生)くんにはアナスタシアを召喚ではなくクラスカードとして使ってもらいましょうか……だから、来てくれ

感想、意見、誤字脱字報告をお待ちしております


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ある筈の無いIF

ちょいと舞い降りてきたので投稿
シグルド欲しい
これは本編では無いです


 

 

 

 そこには屍山血河が広がっていた。

 広い、広い、城塞の外に広がる草原だったものを染めるのは血、血、血。

 無造作に積み上げられているのはいたるところに致命傷のある武装した兵士らの遺体、地面に転がるのは鎧兜に身を包むそれらがひしゃげ使い物にならないほどボロボロな騎士らの亡骸、無惨に破壊され死臭を撒き散らすのは常人より大きな体躯に目の部分に穴の空いたフルフェイスヘルメットのようなものを被った緑の人型の死骸。中には尋常ではない獣もちらほら見えるがそこは一切どうでもよい。

 そんな死山血河のど真ん中を悠々と歩く人影が一つ。

 

 それは何ににも憚られる事なく堂々と────とは言えないが己を害せるものなどないと言わんばかりにゆったりとした歩みで進む者。

 大仰な装飾など施されず、暗銀色の鎧に身を包み背から触手のようにうねる幾本の細布を棚びかせ、その頭部には竜か狼か何らかの獣を模した様な兜が被さっている。そんな騎士であろうそれに何かが渦巻いていた。

 黒、宇宙の色、深海の色、深淵、そう表現するしかない色の何か……それは魔力、それは呪力、それは澱み……この島に、この島が生まれた時より溜まり続けた原始の魔力。常人では触れただけでその精神が塵に変わってしまうほどの深淵の澱みをその身体にまとわりつかせ、時折汚泥が滴るように澱みを地面に垂らしながら歩く。

 ふと、それが何やら引きずっているのが分かる。

 一つの腕に一つ。

 全体的に澱みに包まれているが、所々包まれていない部分がありそこから見えるのは青白くなった人肌に鎧の一部分。すなわちは人間である。

 大人且つ鎧に身を包む人間二人を引きずる騎士からは一切意思のようなものは見えず、さながら人形のように見えて────

 

 

「よお、なんだまた来たのか」

 

 

 そんな騎士に声がかかった。それに反応したのか騎士は首を動かしその声の主を探し始めて、ある一箇所にその面を向ける。

 城塞の門、その近くに積み上げられた兵士の遺体の山、その頂上で遺体に腰掛けた一人の青年。メガネをかけたギャングの一員のような風体の伊達男、そんな印象を抱かせる飄々とした雰囲気の青年はその顔に返り血のようなものをつけたまま、騎士に軽くさながら友人に声をかけるように喋りかけた。

 

「アサシン。いったい今回は何処のどいつだ?」

 

「ガリアのボールス・ド・ゲイネス、ペリノアの子パーシヴァル」

 

 

 まるで夕食を聞いてるかのような口調の青年にアサシンと呼ばれた騎士はくぐもった聞くものの脳に直接響く様な異質な声音で無感動に答える。

 そんなアサシンの言葉に青年は愉快そうに笑う。

 

 

「ハハッ!ボールスは七人目、パーシヴァルは十二人目……なかなかどうして顔見知りになってきたなぁ、おい」

 

「どうでもよい」

 

 

 笑いながら話す青年にアサシンは素っ気ない態度を取り、そのままボールスであろうものとパーシヴァルであろうものを引きずっていく。彼らもまたこの屍山血河を構築するものの一つとなるのだろうか。

 彼らは邪悪なのだろう。普通人が忌避する光景に笑みを浮かべ、無感動な彼らは正しく悪なのだろう。

 だが、それを彼らに糾弾したところできっと彼らは愉快そうに笑い、無感動に切り捨てるのだろう。

 青年の名はベリル・ガット。

 このブリテン島を領域とするクリプターの一人である魔術師にして、無感動に他者を葬るアサシンのマスター。

 

 

「────で、今日はまだ終わりじゃねえみたいだ」

 

 

 ひとしきり笑って、冷徹に呟いた。

 その呟きは静かに響き、アサシンはその鎧を軋ませ────振り返る。

 

 

「…………どうやら、貴方々がこの異聞帯の首魁のようですね」

 

 

 それは白銀の騎士であった。

 太陽を思わせる輝かしき金色の髪に、騎士の清廉潔白さを表すかのような美しい白銀の鎧、威風堂々とした悪を討つ聖騎士が正しく現れた。

 彼は自らが跨っていた馬より降り、その腰に下げていた剣を抜き放ちアサシンとベリルを睨みつける。

 そんな聖騎士にベリルはやはり、笑みを浮かべて

 

 

「よお、太陽の騎士(ガウェイン)。今回のあんたで────五人目だ」

 

「何を言って────ッ!!」

 

 

 ベリルの言葉に怪訝そうな表情を浮かべた聖騎士、太陽の騎士ガウェインはすぐさま剣で防御態勢を取る。数瞬遅れでそんなガウェインへとアサシンは迫り、その右手に掴んでいたパーシヴァルを叩きつけた。

 

 

────(Traître )!!!!」

 

 

 戦いは始まった。

 アサシンは先程までの無感動さとは裏腹にまるで獣の如き咆哮をあげながら、ガウェインへとパーシヴァルを、ボールスを叩きつけていく。

 決して武器ではない。人間は武器などではないが……成人男性の体重否、騎士である彼らの強靭な肉体に彼らの鎧、そしてそこにアサシンの筋力が加わる事で正しく彼らはメイスと変わった。

 ガウェインには彼らがいったい何処の誰かなど分かりはしない、だが彼らが人間である事は理解している。だからこそガウェインは彼らを防御するしかないのだ。

 

 

「おのれッ、外道が!!」

 

────(Cécité )!」

 

 叫ぶガウェインなど意に介さず、アサシンは叩きつけていく。

 

 

「くっ、すまない」

 

 

 だから、ガウェインはこれ以上彼らの身体を弄ばせないためにその刀身に炎を這わせ、アサシンが叩きつけてきたタイミングに合わせ彼らを焼き尽くす。

 それにより完全に死に絶えたのか、サーヴァントである彼らはその身体を光の粒子に変えてこの世界から消え去った。

 

 

「でぇあああ!!」

 

「────」

 

 

 ボールスとパーシヴァルを失ったアサシン、その隙を逃すガウェインではなく刀身に炎を這わせたまま兜割りさながらの脳天直下の一撃を放ち────

 だから、どうした。

 

 

「徒手だからと、死ぬわけないだろうが」

 

 

 刀身の炎など気にもとめず、片手で剣を受け止めガウェインの鳩尾に蹴りを叩き込む。

 予想外の一撃だったのか、ガウェインは呻きそのまま後方へと吹き飛ぶ────事は無かった。既に剣の柄から片手は外れており、その腕は鳩尾に叩き込まれたアサシンの脚を掴みそのまま身体を捻り逆にアサシンを投げ飛ばして見せた。

 

 

────(Saleté )!」

 

 

 大きく開いたガウェインとアサシンの距離。

 だからこそこの瞬間を逃すわけには行かず、ガウェインは全力をもってアサシンを滅ぼす事を誓いその聖剣を天へと投げた。

 

 

「これこそはもう一振りの星の聖剣、あらゆる不浄を祓い清める焔の陽炎────」

 

 

 いつの間にかに空を覆っていた厚い雲は失せ、太陽の輝きがガウェインへと降り注ぐ。

 溢れ出るは太陽が如き炎熱の魔力、一切の邪悪を焼き払う陽光の輝き。

 汎人類史によるバックアップにこのブリテン島にて召喚されたというステータスへのボーナス、そしてスキルによる超強化をもってここに生前すら超える一撃をガウェインは放つのだ。

 

 

「さあ、邪悪なるもの一切よ。消え果てよ!!!『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラディーン)』!!!!」

 

 

 対軍宝具の全力解放。アサシンだけではなくそのマスターであるベリル、更にはその後方の城塞ごと消し飛ばさん勢いのそれはいま放たれた。

 

 

 

 

 

 

「ハッ────」

 

 

 嗤った。

 ベリル・ガットはそんな絶体絶命を前に嗤って見せた。

 それは何故か、そんなのは簡単だ。

 アサシンの魔力が荒れ狂う。身に纏う澱みが並々動く。

 

 

────(Die )────(Die )────(Die)

 

 唸り声を上げて抜き放たれるは澱みに濡れた黒い星の魔剣。

 愛する者を殺した。親しき者を殺した。肉親を殺した。殺して殺して殺し尽くしたが故に黒く染まり堕ちた星の魔剣は担い手に応えるように魔力の呪力の澱みが吹き上げ唸り、太陽を飲み干さんばかりの威を撒き散らして。

 

 

「『いまは遠き湖光、奈落の魔剣(Aroundight Caledbwlch)』」

 

 

 ブリテン島の澱みが太陽の輝きを穢した。

 

 

「馬鹿なッ────いえ、それよりもこれは」

 

 

 アサシンの放った宝具がガウェインの宝具を穢し消え、ガウェインが再度構える前にその人外じみた身体能力でガウェインの前へと躍り出て、その魔剣を振るう。

 やはり円卓の騎士と言うべきか、すぐさまガウェインはそれに対応して聖剣を振るう。

 ぶつかり合う魔剣と聖剣。

 鍔迫り合い、どのようにしてアサシンを打ち倒すかガウェインは思考を回そうとして────

 

 

「『死ね(Aroundight Caledbwlch)』」

 

「なっ……!?」

 

 

 魔剣が唸り、澱みが撒き散らされる。

 これほどまでの近距離、鍔迫り合いという状況上担い手であるアサシンも被害を受けるというのに宝具の再発動にガウェインは目を見開きすぐさま離れようとするが、もはや遅く第二射が発動した。

 

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 

 汚泥のような澱みが撒き散らされた草原、吹き飛んだ屍山血河。

 遺体も亡骸も死骸も澱みに呑まれ、まともなものは無い。

 草原を騎士は歩く。

 ゆったりとゆったりと。生き急いだ過去を忘れる様にゆったりとゆったりと。

 そんな騎士に『狼男』は笑みを浮かべて出迎える。

 

 

「ひゅう、やっぱりイカれてるよアンタ」

 

「いったい誰が予想できる。反転したアンタがここまでイカれてるなんてな。他のクリプターの誰もこんなの予想できるか────ああ、デイビットなら予想してそうだ」

 

 

 騎士がそれに答えるわけない、と分かっていながら、いやそもそも騎士に向かって言ってるわけではないのだろう、誰かに言ってるわけではないのだろう。

 ただ、ただ、嗤い笑って、獰猛な狡猾な笑みを浮かべ

 

 

 

「アンタだって思ってもなかったろう?────ニヴィアンの旦那」

 

 

 

マスター:ベリル・ガット【クリプター】

サーヴァント:ランスロット・オルタナティブ【アサシン】

 

 

 

 

 




ランスロット・オルタナティブ
アサシン
宝具である己の栄光の為でなくが異常強化され、アロンダイト使用時も解除されず真名を理解できない。
ブリテン島の原始の呪力に呑まれ反転した深淵歩き、澱みの騎士
円卓虐殺マン


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本編
湖の騎士、それは



────彼の話をしよう

Fateを深くとはいかなくともそこそこには知っている自称中の中の中堅FGOプレイヤーの元大学生。
 生まれは東京だが諸事情で北海道の大学に通っており、その大学寮の外に放置していてガッチガチに凍っていたチーズの角に後頭部を打ち付けて死亡。
 推しキャラは岸波白野(男女共に)。苦手なキャラはレオナルド・ダ・ヴィンチ、便利で優秀な役に立つ人物なのは理解してるが若干ウザさを感じてしまう。そんな彼を生暖かい目で見てやってくれ


 

 

 

 いったい、どうして、こんな事になったのだろう。

 

 

 俺はその場で立ち尽くした。

 その手に握っていた聖剣はいつの間にか手からすり抜け地面に突き立ち、傷からはとめどなく血が流れていく。

 足下には物言わぬ屍が無造作に倒れ伏している。一つではなく二つでもなく何人も何人も何人も、その中には俺の事を慕っていた部下が、友の部下が、見知らぬ名前も知らぬ人間が、チラリと見たことがある程度の人間、様々な人間がいた。

 

 血が流れる。血が、血が、血が流れていく。

 このブリテンへ、このカムランに、余りに多くの人間たちの血が流れていく。

 一昔前なら、いや、俺が俺になる前までならきっと何か聞くに耐えない事を叫び散らして目を背けていたであろう悲惨な光景が俺の前に広がっていた。

 蛮族や幻想種を殺して広がるような光景とは違う。侵略者や遠征で感じるものとは違う。友を、仲間を、同胞を、知り合いを、殺した殺した殺した殺したそんな形容し難い何かが俺を襲った。

 覚悟をしていた筈だった。

 俺が、ランスロットになった時から

 俺が、湖の畔から旅に出た時から

 俺が、ブリテンに辿り着いた時から

 俺が、円卓の騎士となった時から

 俺が、俺が、俺が、俺が、俺が、

 

俺が、マーリンに未来を告げられたその瞬間に覚悟していた筈だろう────!!!

 

 

 立ち尽くす俺の口内に鉄の味が広がる。

 どうでもいい。

 

「……ランス、ロットォォ…………ッ!!」

 

 背後から金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。

 息も絶え絶えの枯れながらも必死な声が聞こえてくる。

 振り上げられた剣が空気を切る音が聞こえてくる。

 血の染みた大地を踏みしめる音が聞こえてくる。

 

「……ランスロットォォォッ!!!」

 

 振り降ろされた剣が空気を切り俺の背へと向かう音が聞こえてくる。

 

────斬ッ

 

 握り締められていた手が、腕が、振り切っていた。その手には血に濡れてなお波紋一つ無い湖面の如き刃の聖剣が握られていた。

 聖剣の先には剣が半ばから断ち切られ、その胸を腕と共に切り裂かれた騎士がいた。兜は砕け、額から流れる血に濡れた醜悪であるがしかし義憤に満ちた善性のその顔に俺は血の涙を流す。

 

「エクター……何故……」

 

「……な、ぜ?何故、だと?……ラン、スロット……貴様が、きさ、まが、それを言うのか…………!!」

 

 俺のような男と比べとても美しく人々に愛された異母弟……円卓の騎士にはなれなかったがそれでもキャメロットの騎士としてガウェインを始めとする騎士らに称賛されたエクター。

 額から流す血が、その義憤に満ちた善性であるはずの表情が、その憤怒に満ちた感情が、鳥の囀りの様な美声を枯らし、美顔を醜悪に変えた。

 既に死に体ながらもその眼光は見るものを焼き殺さんが如き力を宿している。その眼光を受けながら俺は涙を流しながら我が弟に問いかける。

 

「何故、お前は……」

 

「ランス、ロット……!こた、えろ……何故、な、ぜ、……何故、我が、王を裏切ったァァァ!!!!」

 

 

 

嗚呼、そうだ。

 何故こんな事になったのか。

 それは至極簡単な事だった。

 

俺は、彼女を、騎士王を、我が友を、アルトリアを裏切ったのだ。

 

 

 理解した。いや、理解したくないと頭の片隅へと追いやったものを手に取ったに過ぎない。

 悲劇の主人公でも気取りたいのか?違うだろう。何を喚こうが、何を唄おうが、何を叫ぼうが、結果を見ろ。俺がこの国を、騎士王を、裏切ったのだ。

 この戦いなど俺が差し込んだ切れ込みに、彼女が、モードレッドが暴走してその切れ込みを広げた結果起きた事だ。

 いや、違う。モードレッドのせいではない。彼女は俺の開いた切れ込みに手を加えただけで誰が開こうがそんな切れ込みを作り出した俺が悪いのだ。

 

「何故、何故、な、ぜ………………」

 

 血を流しすぎたのか、いや、単純にもう気力だけで動いていただけだったのか、エクターは倒れ伏した。その瞳は未だ力を宿している、俺はエクターの眼を閉ざさせ、辺りを見渡す。

 

「……ああ、そうだな」

 

 ガウェイン、ガヘリス、ガレス、パロミデス、パーシヴァル、ライオネル、ボールスらそしてエクター…………共に語らいあった嘗ての友らが冷たくなって倒れ伏している。

 とめどなく溢れていた血はもはや止まり彼らはもう二度とその身体を動かすことは無いだろう。

 殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した。

 

 友を、仲間を、兄弟を、部下を。

 

ふと、剣戟の音が聞こえた。そちらを見れば槍に貫かれたモードレッドがいた。

 

「ああ、終幕か」

 

 そして、俺は自らの首に聖剣を添え、そのまま幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、どうすれば良かったのだろうか、アル。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

────────────

 

 

 アーサー王伝説に曰く、円卓最強の騎士と誉れ高い、『湖の騎士』サー・ランスロットはアーサー王付きの魔術師マーリンとアーサー王の命により、ブリテンが大きく崩れ滅ぶ前に静かに国の解体作業をしていたと言う。

 しかし、国の存続を願うアグラヴェインとの衝突、アーサー王の異父姉たる魔女モルガンの策略、アストラット王によるアーサー王の妻王妃ギネヴィアとの不義の捏造未遂、ローマ遠征の際に起きた諸侯の活動。

 これらの要因が複雑に絡み合った事によりアーサー王が厚く信頼した『湖の騎士』は彼を中心に出来た罅へと最後の一打を降ろしたアーサー王と魔女モルガンの不義の子『叛逆の騎士』モードレッドによって『裏切りの騎士』とその名を貶められた。

 ローマ遠征より急ぎ帰還したアーサー王と謀叛を起こしたモードレッドによる激突、後にカムランの戦いと呼ばれる戦にて件のランスロットは円卓の騎士としてアーサー王に味方しようとするもランスロットを『裏切りの騎士』と信じたランスロットの親友サー・ガウェインを始めとするサー・ガヘリス、サー・ガレスら、更には血を分けた異母弟であるエクター・ド・マリス、従兄弟であるボールス、ライオネルらの反発にあい彼は少数の自身を信ずる部下たちと共にモードレッドの軍へと遊撃する事となった。

 だが、彼は彼を裏切り者として見ていた嘗ての仲間たちに襲われ、遂には一人でガウェインらとモードレッドの軍と戦うこととなり、嘗ての仲間を兄弟を従兄弟を殺し、悲嘆の中自害しその遺体を生き残った彼の部下が湖へと流したという。彼の故郷ではないが彼の好んだ湖で安らかに眠れるように、と。

 

 後にアーサー王を看取ったベディヴィエールとアーサー王の秘書でありランスロットと衝突したアグラヴェインにより『裏切りの騎士』という汚名は晴らされ悲劇の忠臣として知られるようになった。

 

 

 

 

「ああ、なるほど、悲劇の忠臣か……馬鹿め。美辞麗句で罪が晴れるものかよ……」

 

 カフェの屋外テーブルについていた青年はそう悪態をつきながらその手にあった厚めの本を閉じた。

 興味無さげにアーサー王伝説解体新書と表紙に綴られた本をテーブルに放り、紅茶の入ったカップに口をつける。

 濃紺の髪を束ねた髪型、俗に言うポニーテールにし、ワイシャツを着崩した二十歳を超えるか超えないかの青年。その瞳は波紋が立たない湖面のような何処か不思議なもので何処と無くこの世ならざる雰囲気を纏う青年はカップを置き向かいに座る人間に目を向ける。

 

「それで、俺に何の用だ。こんな本を持ってきて」

 

「うん?ただの嫌がらせだけれども?」

 

「…………」

 

 青年は目の前の人物の全く悪気のない言葉にイラついたのかその人物に向ける眼を鋭くし舌打ちをする。青年にとって目の前の人物に悪気のない悪戯をされるのは幼い頃から日常茶飯事であった為、もはや慣れた事ではあるがやはりこの様な嫌がらせには流石にイラつきを隠せないのだろう。

 

「…………本題はなんだ。大人しく言わないなら俺は帰る」

 

「べ、別に君に会いたかったわけじゃないんだかr、ごめんごめん冗談だから座って座って」

 

「………………」

 

 青年の冷ややかな視線は目の前の人物にさっさと話せと言わんばかりのもので目の前の人物は冷や汗を垂らしながら本題を話し始める。

 

「────────」

「────────」

「────────」

 

「…………」

 

「────────」

「────────」

「────────」

 

「…………」

 

「────────…………と、言うわけだけど」

 

 目の前の人物の話を聞き終え、青年は聞いている間閉じていた瞳を開き一言

 

「断る」

 

「え?」

 

 まさかの返答に唖然とした人物をそっちのけにウェイターを呼び飲んだ分の代金を払い、荷物を持って席から立ち上がる青年。

 席を立つ音に意識を現実に戻した人物は慌てながら青年に話す。

 

「待って待って、なんで!?き、君にとって悪い話じゃないだろ!?」

 

「知らん。そんなもん受けるかどうかは俺の勝手だ」

 

「でも────!」

 

 青年の背後から聞こえる人物────女性の声に耳を貸さず青年は歩く。

 歩く。歩く、歩く。

 歩く。歩く、歩く。

 歩く。歩く、歩く。

 歩く。歩く、歩く。

 歩く。歩く、歩く。

 後ろを振り返らずただ歩いていき、何度目かの角を曲がったところで唐突に左の手の平を空へと掲げる。

 

 その掲げた手の甲を見上げ自嘲する様に青年は嗤う。

 

 

「ああ、誰がやってやるものか。昔からお前の善意は何らかの仇となって帰ってくるんだよ」

「だから、お前の提案、頼み事は蹴る」

「その上で俺は、俺がしたいからするんだ。それになにより、そんな事は知ってる、だからこそのこの10年間だ」

 

 その手の甲には薄らと赤い紋様のような痣の跡があった。

 

 

 

 

 

 

 





読んでくれてありがとうございます。
感想や意見を頂けると嬉しいですよ。

ところで水着の我が王は引けました?
引けませんでした。


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ニヴィアンという男

評価を貰い見てみたら9?
ああ、期待されているようで辛いなぁ……
でも、頑張ります!



 

 

 

「して、俺の部屋で何故ケーキを食べているのかアーキマン」

 

 

 額に手を当てながらため息をつく彼を見て、僕はショートケーキを食べる手を止めて曖昧な表情で彼を見る。

 

「…………サボるのなら俺の部屋じゃなく別の部屋でしてくれ。まだ全員来ていないだろう?なら、誰も使ってない余り部屋がある。そこに行け」

 

「ははは、いいじゃないかランシア。ボクと君の仲じゃないか」

 

 そんなボクの言葉に彼は、ランシアは何処と無くイラついた表情で僕に冷ややかな視線を投げかけてくる。僕はそれを誤魔化すようにケーキを食べるのを再開する。

 そんな僕を見て彼は溜め息をついて二人分の紅茶をいれる。まったく、なんやかんや言いながらもそういう事をしてくれる辺り彼の面倒見の良さが感じられる。

 

「もうすぐプロジェクトが始まるんだ。俺もフェイトの調整で忙しくなる、こっちに戻るのもきっと片手で数えられる程度になるだろう……だから、サボるんなら俺の部屋じゃなくて別の空いてる部屋でしてくれ」

 

「いやー、そう言われてもね。ほら、君の部屋って時々マリーやスタッフ、ごく稀にレフが訪ねて来るぐらいだろう?サボるには丁度いいのさ」

 

「サボるんなら、誰か来る可能性がある部屋より揃うまで誰も来ない空いてる部屋にしろ……!」

 

 僕の言葉に頭を抱えるランシア。彼はやや言葉が強いが決して彼が僕の事を煩わしいと思っているわけではなく、きっと僕がサボっている時にマリーと鉢合わせした時の事を考えて言ってくれているんだろう、……そう思っておこう。流石に友人にウザがられている訳じゃないはずだから……うん。

 

「正直に言うとだな、呑気にサボってるお前を見ると軽くイラッとするのは確かだ」

 

「今、ナチュラルに心読んだ!?」

 

「まさか、降霊科でなら上から数えて三本指で足りる俺だとしても流石に人の心は読めんよ。なにより、それは俺の専門外だ」

 

「え、いまの自慢?」

 

「お前からすれば団栗の背比べみたいなものだが、な」

 

 紅茶の入ったカップを僕に差し出した彼はデスクに腰掛け、紅茶を飲みながら自嘲する様に言う。

 そう、僕が彼の部屋に入り浸る理由の一つ。

 彼は僕の正体を、目的を知っている。

 知っている上で彼は僕以外に何も言わなかった。

 正体、それはあの時あの場にいたのだから知っているのはわかる。だが、目的を何故知っているのかはわからない。だけれども、僕は彼は大丈夫だ、と直感できる。

 嘗ての様な力を失いはしたけれども、この信じるという自分を疑うという事もするけれども、何故か酷く納得が出来るのだ。

 彼は、ランシア・ニヴィアンは信じられる…………筈だ。

 

「…………さて、食べ終わったな?」

 

「え?うん、食べ終わったよ?」

 

「そうか」

 

「え」

 

 彼は食べ終わった皿を僕の手から取ってデスクに置き、僕の襟首を掴んだ。

 何故に?

 

「ちょうどオルガマリーから連絡が来た、お前を連れてこい、だとよ」

 

「ははは……なあ、ランシア。ボク達友人だよね?」

 

「残念だが、俺まで説教食らいたくないんでね。それにこの程度は聞いてやらねば面倒だ」

 

 何処と無く面倒くさそうな表情でそう言って彼は僕を引き摺り始めた。

 そう、向かうは所長室。すなわちサボっていた僕へ雷を落とそうとしている我らがマリーの下に。

 

「はなせぇぇぇ!!ボクはサボりながらマギ☆マリのブログを見るんだぁぁい!!」

 

「そんなにマギ☆マリが好きなら中の人に会わせてやろうか!」

 

「中の人なんていない!」

 

 

 

 まあ、結果的に言えば僕の抵抗虚しく僕は雷を落とされてしまった…………辛い。

 マギ☆マリに中の人なんていない。いいね?

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 彼、ランシア・ニヴィアンは人理継続保障機関フィニス・カルデア、通称カルデアの前所長マリスビリー・アニムスフィアにより招聘された魔術師兼技術者だ。

 時計塔には属していないがこと降霊に関しては時計塔の降霊科の魔術師と比べて上から三本指に入るという実力者だという触れ込みでカルデアに入り、既にその実力はカルデアスタッフらにとって本物だと認識され、彼の人柄……やや強めな言葉使いと態度だがそこには相手を思いやっているものが見え隠れし、役職や身分関係無く接するような人柄からスタッフ全体、特にメインスタッフではなくサブスタッフから信頼を置かれている。

 

 そんな彼の担当するのはカルデアの重要施設の一つである守護英霊召喚システム・フェイト。この発明はカルデアの召喚した第二号英霊と、前所長マリスビリー・アニムスフィアと同じく十年前の極東で開催された聖杯戦争に参加した前所長の同盟者である彼、ランシア・ニヴィアンの協力によりようやく実証に至ったもので、この事もカルデアスタッフからその実力を買われている一因となっている。

 

「ミスタ!ミスタ・ニヴィアン!」

 

「ん?どうした」

 

「実はフェイトに小さなバグがあるようで……」

 

「わかった。すぐ行こう」

 

 現所長オルガマリー・アニムスフィアとの衝突からカルデアの運営から離れフェイトのみに仕事を割り当てられて久しいが、彼は一切の不満を抱かなかった。

 オルガマリーによる不当な文句を投げかけられても、カルデアの運営に関わる事が出来なくなっても彼はランシア・ニヴィアンは何も文句を言わなかった。

 ある時、彼の部下ではないが彼を慕うスタッフが「何も不満に思わないのか?」と問いかけた事があった。それに対し彼はぎこちない笑みで一言「仕事だからな」ただ、そう答えたという。

 その事を知った周りのスタッフらはそんな彼の精神に感銘を受けた、らしいが……実際の所単純に彼の経験上、不満なんて持っていたらやってられなくなるから、という少しズレた考えの下で、感銘を受けるほどのものでは無いと彼は思っているようなのだが……何事も知らないほうがいい

 

 

 

「ん?…………キャスパリーグか」

 

「フォーウ」

 

 部下に伝えられた作業を終え、休憩スペースで一息をついていたランシアの下に一匹の白い小動物が訪れていた。

 狐と羊を足して割ったような外見のキャスパリーグと呼ばれた小動物は、ランシアの膝へと飛び乗りそのまま猫のように丸くなる。

 

「ふむ……お前はいつも俺の膝で丸くなるがそんなに良いものなのか?…………自慢、とは言えないが俺の膝は女子供に好かれるようなものでは無いと思うのだが」

 

「フォウフォーウ、フォウ(ガレスやライオネルとか時々騎士王に膝枕をせがまれていた癖に何を言ってるんだコイツ)」

 

「…………キャスパリーグ。もうすぐレイシフトが始まる。その時は俺じゃなくマシュ、いやキリエライトについていてやってくれ」

 

「フォーウ?」

 

 何処と無く憂いを感じさせる表情と言葉のランシアに、キャスパリーグは顔を上げ首を傾げる。

 

「彼女は、あの子に似て純粋無垢だ。俺のように穢れてはいない。彼女の傍ならお前もその理を肥え太らせるという事も無いだろう。…………ああ、俺のような男に似なくて本当によかったよ」

 

「………………フォフォ、フォーウ(駄目だ。自虐思い込み激しい……早く何とかしなきゃ)」

 

 憂いを感じさせる表情の男とそれに擦り寄る美しい小動物、見る者が見ればきっと一枚の絵に感じさせるような光景だが、この一人と一匹は全くもって考えが噛み合っていなかった。

 といってもランシアが悪いのだが。

 嘗ての主君やその周りからの評価など自分の事だというのに過小評価してそう思い込み、きちんと話し合えばいいのに裏切り者扱いされれば「ああ、やっぱりな」とそれを撤回させる様な動きをせず、「目指すは二次小説で時おり見かけるマトモなランスロット」などと意気込んでいた結果自身を過小評価しすぎて一言足りないような某施しの英雄よりも酷い湖の騎士になってしまった彼が悪いのだ。

 無論、それを仮に誰かに伝えられたとしても彼は「ああ、やっぱりな」と自身を変えないのかもしれないが。

 

「…………さて、俺はもう行く。きっと当日までフェイトの近くで過ごすだろう」

 

「フォーウ」

 

 膝の上のキャスパリーグをランシアは退かして立ち上がりそのまま休憩スペースから立ち去っていく。だが、その動きはまるで何かから逃げるようで

 

 

「フォウさん?こんなところにいたんですか」

 

 ちょうど入れ違いの様に休憩スペースに一人の少女が訪れた。

 髪で片目が隠れている眼鏡を掛けた少女。

 どうやら、キャスパリーグを探していた様で、ランシアの膝の上から退かされベンチで丸くなっていたキャスパリーグを抱き上げその頭を撫でる。

 

「フォーウ」

 

「……?どうしたんですかフォウさん?」

 

「フォフォーウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランシア・ニヴィアン

 十年前、前所長マリスビリー・アニムスフィアの同盟者として聖杯戦争に参加していた。

 聖杯戦争終了から一年後、マリスビリー・アニムスフィアの助手ロマニ・アーキマンと共にカルデアに招聘。

 高い降霊の魔術力量と、高次霊体との融合を行い且つ聖杯戦争にて英霊に触れていた事から守護英霊召喚システム・フェイトに携わった。

 

 

 曰く、清らかな湖、その騎士たるこの身はあの日穢れ堕ちた

 曰く、この身は罪、もはやどれだけの勲功があっても許されまい

 曰く、だがしかし、これ以上どれほど穢れようとも、人理修復だけはしてみせよう。

 

 

 穢れ堕ちた、と嗤う湖の騎士と純潔無垢な盾の騎士。

 罪を抱く父親と無垢な娘。

 

 父親と娘・息子を再び繋ぐ人類最後のマスターが来るまであと僅か。

 

 




読んでくれてありがとうございます。
感想や意見待ってます!

溜めた石で20連……来たのは頼光さん…………違うんや……オルタが来てくれれば儂はそれだけで……


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寝坊の騎士

書く度に本当にこれでいいのか?と悩み頭が痛くなってきそうで何十話と続けている他の作者さんたちに尊敬の思いを隠せません。



 

 

 

 

 何処からも無数の剣戟が響く戦場。

 その中で一際俺のいるこここそが激しいだろう。

 

 

「この剣は太陽の移し身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎。『転輪する勝利の剣』!」

 

 

 放たれる太陽の一撃。

 嘗て轡を並べ戦い、戦場で背を預けあい、戦に勝ち凱旋した後は共に語らいながらエールを酌み交わし、卿の悩みは俺の悩み、共に切磋琢磨した最高の騎士。

 嘗て心強いと感じた太陽の一撃が今この瞬間己の死を望んで放たれた。

 湖の加護を受け炎熱に対する高位の耐性を得たというのに鎧越しでありながら肌がチリチリと焼けるほどの熱量に感嘆の念を抱きながら俺は聖剣を持った手で魔術を行使する。

 一工程ではあるが湖の加護を用いた魔術である為、ある程度────せいぜい水が蒸発から沸騰に変わる程度だが────感じる熱を抑え、俺は迫り来る焔を湖の大盾を構え真っ向から迎え撃つ。

 

「ハァァァアッ!!!」

 

 この焔の壁の向こう側から聞こえる友の叫び声。これだけで彼の気迫が想いが理解できる。

 嗚呼、それほどまでに俺が憎いのか友よ。

 

「グゥゥ……オ、オ、オォォ!!!」

 

 長い長い時間焔に耐えた。いや、きっと俺の感じた時間は本来の何十倍もの時間でしかないのだろう。

 俺は焔が消えても尚、湖の大盾を構えながら走り出す。前方が見えなくなれども既に透視の魔術を起動している。これで前方の彼は捕捉出来る。後は………

 

「ランスロット卿、覚悟ッ!!!」

 

「ハアッ!!」

 

 左右から挟撃を仕掛けてくる二人の騎士。

既にガヘリスは胸を貫き、パロミデスは肩から心臓を刺し殺し、ボールスは盾で圧殺し、パーシヴァルは心臓を撃ち抜いた。なれば挟撃を仕掛けてきたのは

 

「ガレスッ!ライオネルかっ!」

 

 前方にいる我が友の妹で俺が騎士に任じた少女騎士、ボールス王の死後弟のボールスと共に俺と同じように湖の乙女に引き取られ実の兄妹のようにあの湖の畔で過ごした我が従妹である少女騎士。

 聖剣はこの左手に握られた一振りのみ、右手は湖の大盾を構え前方のガウェイン卿に対して。

 迎撃するにしてもガレス、ライオネルの片方のみにしか対応出来ずその間にもう片方が俺に一撃を入れる。盾で対応しようものなら前方のガウェイン卿が……なるほど、だからどうした。

 

「フンッ!!」

 

「「なっ!?」」

「なんと!?」

 

 湖の大盾を地面に叩きつけ、その反動で後退する。これによりガレス、ライオネル、ガウェイン卿共に俺の前方になった。

 ガレス、ライオネル共にすぐに体勢を立て直し、俺の下へ突っ込んでくる。そんな二人に反してガウェイン卿は防御の姿勢をとる。

 流石、と感嘆するしかない。

 

「無毀なる湖光────」

 

 聖剣に魔力を流し込み、湖面の如き淡い魔力の斬撃を放つ。ガウェイン卿の太陽の一撃程の威力がある訳では無いがそれでも数多の幻想種を屠った一撃。こちらへすぐさま突撃した為に防御をすぐさま行えない二人にはこの速度を持つ一撃はあまりにも致命的で

 

「あ」

「こふっ」

 

 斬撃は容易く二人の胸に深い傷を残し消えた。

 あの深さでは如何に魔女モルガンの娘、湖の乙女の加護を受けた少女といえども多量出血を回避する程の治療魔術は行使できないだろう。

 故に俺は友へと駆ける。

 

「ガウェインッ!!」

 

「ランスロットッ!!」

 

 既に一部が砕けて視界に影響を与えている兜を放り捨てる。

 他の騎士ならともかくガウェインを相手に視界の一部とはいえ隠れている兜は致命的な隙となる。兜を外せば加護が一部消え炎熱に対する耐性が著しく低下してしまうが今は耐性ではなく視界を取り、ガウェインへと駆ける。

 未だ日は沈まず、太陽の加護は消えていない。されど日没まで耐え凌ぐつもりは無い。

 俺自身の力で太陽の加護を超えて見せよう。

 

 

 

 

 

嗚呼、例え裏切り者と呼ばれようとも

今この瞬間だけ

俺は

ランスロット・デュ・ラックは軋む想いを忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢、か」

 

 どうやらいつの間にかに眠っていたようだ。

 如何に人の身を超越した存在とはいえ、やはり疲れは溜まるのだろう。なにより、受肉しているのだ普通のサーヴァントらよりも疲労は溜まりやすいだろう……他のサーヴァントがどうかは分からないから確証はしていないが。

 

「いや、あの変態は疲れ知らずで何やら発明だの何だのしていたな」

 

 趣味だから。と言われれば納得せざるを得ないがアレを見る限り疲労が溜まる様子は見えない。

 

「…………さて、今日はいったい何日だ?流石に四日目辺りから記憶が曖昧だぞ」

 

 

 目の前の重要機関、守護英霊召喚システム・フェイトの最終調整やその他の主にレフによって破損させられた時の事を考えて用意した予備システムなどの調整に少なくとも四徹はしたのだが……四日目から記憶が曖昧すぎて実際何徹したのかが分からない。

 騎士であった時はアグラヴェインと共に六徹は余裕だったのだがな。

 

「……緊迫感の違いか。あの頃は下手すれば明日にも滅ぶ可能性があったからな……終わりを知っていてもあくまでそれはそういうのがあるだけで現実はいくらでも滅びがある、か」

 

 俺は固くなって軋む身体に若干の苦痛を感じながら立ち上がり出口に向かう。

 変な姿勢で寝ていたせいか、首周りがやや痛むので首を抑えながら廊下を歩いていく。

 端末を見たらプロジェクト当日だった事に驚きつつ、時間が時間なので部下に一度交代しマイルームで三十分間ほど仮眠をとることにした……したのだが

 

「…………なるほど」

 

 俺の視線の先にはレフとマ……キリエライト、そして橙色の髪の少女がいた。

 ああ、つまりこの世界の我らがマスターは立香くんではなく立香ちゃんだった訳だ。

 とりあえず、これから彼女が辿るかもしれない悲しい辛い運命に合掌しておこう。溶岩を泳ぐあの三人組の相手は辛いだろうが頑張ってくれ…………。

 俺は踵を返す。マイルームでの仮眠は諦めこのままフェイトの近くで仮眠をしよう。そっちの方が有事に対応出来るだろう。

 

 

「それに、礼装はマイルームじゃなくフェイトの所に保管しているしな」

 

 

 背後で聞こえる彼女らの談笑に耳を立てながら俺はフェイトの元へと戻っていった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「大丈夫ですか先輩?」

 

「うーん、大丈夫かなぁ?」

 

 髪で片目が隠れた眼鏡を掛けた少女、マシュに心配されている先輩と呼ばれた橙色の髪の少女は赤くなった頬を抑えながら唸るようにマシュに答える。

 つい先程の集会に遅刻した挙句、居眠りして追い出されるという類を見ない暴挙をやらかしてしまったなんとも剛胆な精神を持った少女にマシュはなんとも言えない表情で笑う。

 

「そう言えば」

 

「どうしたんですか?」

 

「所長がさ、なんか召喚とか何とかの説明の時に何だか怒ってたけど、私以外に居眠りしてた人でもいたの?」

 

 少女は先ほどの集会での眠気と我慢の間で聞いたような聞かなかったような記憶をふと思い出しマシュに問いかけるとマシュは困ったような表情で

 

「ええと、それはですね…………守護英霊召喚システム・フェイトによって召喚されるサーヴァントの事について説明する予定だったのですが……」

 

「……?」

 

「その、説明をする責任者がいなかったんです」

 

「いなかった?えーと、それはどういう?」

 

 より一層疑問を深めていく少女にマシュはなんとも言えない表情で語っていく。

 

「ランシア・ニヴィアンという方でして、本来ならあの時間あそこで説明をする筈だったんですが……何故かあの場に居なくて……フェイトの方に連絡しても連絡が無くて……」

 

「あー、それで所長は怒ってたんだね?」

 

「はい」

 

「そっかー、若しかしたら何時かその人にも会ってみたいなぁ。同じ集会で所長に怒られる仲間として」

 

「きっと、会えますよ先輩」

 

 

 

 マシュは少女を少女に宛てがわれた部屋へと案内してミッションへと向かった。

 少女はマシュの遠ざかる背中を見送り部屋へと入る。

 

 

 

 

 

 始まりまでもう僅か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

「…………うん、寝過ごした」

 

 




今日からリアルで仕事がまた忙しくなってきましたので若干遅れますが暫くすれば一話一話の期間が短くなると思います。

今回も読んでくれてありがとうございます!
感想や意見待ってます!

ここのランスロットの見た目はダクソのアルトリウスの背中からあの原作ランスロットの伸びてる飾り?がついてると思ってください


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好みはコーヒー

忙しくなるので投稿遅れます……アレェ?おかしいな、きっと2日ぐらい開くと思ったのになぁ?

日間ランキング1位という……そのなんとも、喜ぶべきなのでしょうがとても心に突き刺さりますね。これからも頑張っていきたいとおもいます。



 

 

 

 備え付けの紅茶を一口飲む。

 

 先ほど、直レイシフトが始まる為、オルガマリーからの確認の連絡が来た際に短いながらも説教を食らってしまい、未だに痛む耳を抑えながら紅茶を飲む。

 俺の担当する守護英霊召喚システム・フェイトは今回のレイシフトであちら、つまり冬木に赴いてレイラインを確保した後に疑似霊子演算器との併用であちらにサーヴァントを召喚するので暫くは暇だ。だから、こうして紅茶をゆっくりと飲むことが出来る…………というのは建前で本当は出来る部下たちに仕事を取られたのだ。

 

「…………喜ぶべきか喜ばざるべきか」

 

 曰く、「何時も会議が始まる一時間前から一人赴いて出席する人々の資料や何やらの用意を誰も頼んでないのに率先してやってるミスタが集会に仮眠で来れなかった、なんてきっと仕事のやり過ぎなんです」

 曰く、「上司がそんなに疲れるほど仕事していたというのに俺たちは……!」

 曰く、「大丈夫です、ミスタ。今回は我々にお任せを。ミスタはあちらでどうぞ紅茶でも」

 曰く、「上司以上に部下が頑張らなくてどうするんだァ!」

 

 

 なんというか……その……キャメロットと部下の信念が違いすぎて泣けてくる……。

 キャメロットでは、俺とアグラヴェインがひたすらデスクワークをしていて、他の文官共は実力の半分も出さんし、資料まとめが杜撰だし、中には武具や兵糧の調達の際の経費を一部盛ってその盛った経費を懐に入れるのもいた。

 まあ、入れた奴は容赦なくしょっぴいたが。

 俺の隊の騎士達は上司の俺の前に出ず後ろから支えるという感じだったからな。それに対して、ここの部下は上司の俺に負担をかけさせない、という自分から前へ前へと行く感じだからな…………間違えてたら恥ずかしいな、考えるのはやめよう。

 

 

「まあ、丁度いいと考えるか」

 

 仮眠から目を覚ました後、このフェイト及びその近くの機材や床、天井、壁にレフの爆弾が無いか探っておいた。その結果爆弾の類は無いことが判明した以上、ここの部下は無事だろう。

 いざという時の礼装もコートの下に潜ませておいた。

 …………嫌なものだな。

 湖の騎士と名乗っていた癖に今の俺はこうしてレイシフトするA班、B班の魔術師とオルガマリーやスタッフらの事を助けようとも考えていない。なにより、彼が、あの子がいるからといってキリエライトの事を下手すれば見殺しにしようとしている。

 こんな俺が騎士などと間違えているにも程がある。裏切りの騎士と呼ばれるのも当然だな

 

 

「……甘い」

 

 いつの間にかに砂糖を入れ過ぎたのか飲んだ紅茶は酷く甘かった。

 

 

 

 

 

 

 後数分ほどでレイシフトが始まる。

 カルデアスタッフが皆緊張し始めた頃、ランシアは一人これからの事を考えていた。

 

「……少なくとも聖都には必ず行こう。本来の事を考えれば俺がここにいる以上あの場に俺以外のランスロットがいるとは限らない……行けばほぼ間違いなくギャラハッド……いや、キリエライトに穀潰しだの裏切り者だのなんだの言われそうで怖いが…………」

「ロンドン、首謀者に会うというリスクがある。これは……いや、ロンディニウムの危機なれば向かわぬのは円卓の名折れ…………行かなくとも充分名折れだがそれでもモードレッドもいるのだそこまで問題にはならんだろう……ならんだろう」

「フランス、フランスは地域は違えど祖国だからな、救うべきだろう……しかし、あそこには狂戦士のランスロットが召喚されていたわけだが…………俺には狂戦士になるような逸話なぞ…………無いな」

 

 このまま恐らく辿るであろう人理修復の旅、その訪れる特異点とそこに召喚されるであろうサーヴァントらの事を考えながらランシアは一人胃を抑える。

 ヒトヅマニアにはならなかったが裏切りの騎士にはなってしまった以上、息子であるギャラハッドと彼が憑依しているマシュと改めて顔を合わせると原作のランスロットの様になるかもしれないと戦々恐々としつつ、時折緊張を紛らわせる為に話しかけてくる部下たちに軽く応答しランシアはいつの間にかに用意されているスコーンを口に運ぶ。

 

「…………」

 

「ッ!?ミスタ!?」

 

「すまんな、気晴らしに手洗いに行ってくる……すぐ戻る」

 

「は、はい」

 

「(立ったぐらいでビビるなよ……どんだけ緊張してるんだ…………あ、俺がアルに初めて謁見した時ぐらいか?ンなわけないか)」

 

 

 

 内心傷つきながら、ランシアは廊下に出る。

 レイシフト間近からか廊下には誰も居らず空調の音がやけに喧しく感じれた。

 マシュは中央管制室でレイシフトの準備をしていて、人類最後のマスターとなるであろう少女はマイルームでサボっているロマニと鉢合わせ、キャスパリーグは今どこにいるんだ?となんともアレな事を考えながらランシアは手洗いを済ませフェイトの元へ戻っていく。

 

 

「とりあえず、これからの彼此は後で考えるとして、まずは冬木だ」

 

 

 途中で足を止めて、ランシアは休憩スペースへと足を向ける。

 残り数分だがコーヒー一杯程度なら充分時間はある、と考えながら。

 

「(とりあえずは部下にいくつかの指示を出して中央管制室へと向かう。そこでロマニやサブのスタッフらと共に冬木のオペレーターをこなすか)」

 

 アニメ通りならば、それ以降がどうかは分からんが、アプリ通りなら何とかなるだろう。そう、零しながらコーヒーをいれる。

 コーヒーぐらいなら本来マイルームや様々な施設の所に置いてあるのだが、残念な事にフェイトの設置されている部屋ではコーヒーをいれることが出来ない。何故かと言うとフェイトを任されているスタッフの大半がコーヒーより紅茶を好んでおり、使われなくなったコーヒーは撤去されているからで、ランシアの今の職場に不満な所があるとすればコーヒーが無いことだろう。

 そんなこんなでランシアは何時も考え事をする時にはこの休憩スペースでコーヒーを飲んでいる。

 

「(…………さて、あと五分もないな)」

 

 ランシアは最後に二杯目のコーヒーを一気に飲んでフェイトへと足を向けて

 

 

 

 

『────────!!』

 

 

 地鳴りが響き一拍おいて廊下の電気は一斉に消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

湖の騎士。それはまだ赤子の時に湖の乙女に攫われ育てられたフランス出身の騎士。

 円卓においてその実力は騎士王アーサー、太陽の騎士ガウェインすらも上回ると言われ、聖杯に選ばれた純潔の騎士ギャラハッドの実の父親と語られる。

 様々な栄光を手にした彼はそれまでの栄光に反するが如く様々な要因が絡みあい裏切りの騎士と呼ばれることになる。

 しかし、彼は後に悲劇の忠臣として知られる事になる。

 

 

 だが、忘れてはいけない。

 彼は共に肩を並べた騎士らをカムランにて殺している。

 仕方がなかった、と言えばそうなのだろう。だが、それでも彼にとってそれはなにより辛い記憶だ。

 親友とも言える太陽の騎士ガウェインのその胸にカーボネックのエレイン姫───後のギャラハッドの母───をモルガンの幽閉塔より救った旅路に得たという槍の穂先による嘆きの一撃を撃ち込んだ事など彼を最も苛ませる記憶だろう。

 

 だから、だからこそ私は彼に人理修復を願った。

 きっと、その道程にて彼は再び過去に出会うかもしれない。

 ガウェインと殺し合うかもしれない。

 トリスタンと戦うかもしれない。

 モードレッドとぶつかり合うかもしれない。

 ガレスと語らうかもしれない。

 アグラヴェインと考えの食い違いで衝突するかもしれない。

 アルトリアと会うかもしれない。

 だが、それはまだ分からない。だから私は彼に望んだ。

 人理を救え、と。彼は過去に直面し苦しむかもしれない。だが、それが何より彼には必要だろう。

 なんせ、ボクは悲しい別れとか大嫌いだからね。余計な事?知ったもんか、何せボクは昆虫みたいなものだからね。罪悪感?知らないよ、アルトリアには酷い事をした、彼にも酷い事をした、だから、ボクはランスロット、君にもう一度騎士に戻って欲しいんだ。

 別に昔みたいに仲良くなれとは言わない。

 ただ、その誤解による不仲をどうにかしろ、とボクは言いたい。なんせ、昆虫みたいなボクでさえ君らが争っているのは心が痛むからね!

 その為の荒療治だ、諸手を挙げて喜んでくれると嬉しい。

 

 

 

 さて、君がどうするのかボクは暫くここで見ているとしよう。

 何せマギ☆マリのホームページの更新しなきゃいけないからね!

 

 

 え?なんでランスロットに会う時女の子なのかって?ほら、私自体は塔から出ない事にしてるから外にいるランスロットいや、ランシア?だったかな、ともかく彼に会う為のアバターを用意してね。

 ああ!マギ☆マリだよ!声はアルトリアにしたんだ!

 え?なんでって嫌がらせというか悪戯?あとなるんなら女の子の方がいいじゃないか!

 

 

 




今回も読んでくれてありがとうございます

感想でも多くありましたが、ここのランスロットはカーボネックのエレイン姫と結婚して息子としてギャラハッドをもうけております。
ランスロットにはギネヴィアへの異性的な好意はありません。はい、無いのです。

次回こそ更新は遅れます。それでも頑張って書いていきたいと思いますので応援よろしくお願いします。
感想、意見待ってます


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始まりそして変革

合間合間に書き進めていたら何故か1日で書き終わったという……
ただ、もしかしたら自分で納得いかずに書き直すか付け足すかもしれませんが一応投稿します

短いのでもしかしたら付け足す可能性が高いですね……


 

 

 

 

《緊急事態発生。緊急事態発生》

 

 電気の消えた廊下で俺は立ち止まり、カルデアに響くアナウンスを聞く。

 

《中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。

中央区画の障壁は240秒後に閉鎖されます。

職員は速やかに第二ゲートから退避してください》

 

「始まったか……確かロマニは一度中央管制室に向かう途中から合流を……いや、まずはあいつらへの指示か」

 

《繰り返します。

中央発電所、及び中央────》

 

 そう判断した俺はすぐさま端末で副班長の回線に繋ぐ

 

『────ランシアさん!』

 

「聞いたな?お前たちはすぐさま第二ゲートに向かえ」

 

『は、はい!……ラ、ランシアさんは?』

 

「俺か?俺は……

《動力部の停止を確認。

発電量が不足しています。

予備電源への切り替えに異常 が あります。

職員は 手動で 切り替えてください》

……だ、そうだ。カルデアスの火を消すわけにはいかん。俺は地下の発電所に向かう」

 

『な────』

 

 部下の驚愕で言葉が出ない様子を察し、反対される前に指示を続けていく。

 

「いいか、お前らはさっさと第二ゲートへ向かえ。脇目も振らずに行け。いいな?」

 

《隔壁閉鎖まで あと 190秒

中央区画に残っている職員は速やかに───》

 

『そんな、ランシアさん、あなたも────』

 

 通信を一方的に切り、走る。

 ここからなら地下の発電所へと向かう途中で中央管制室から来るロマニと合流が出来るはずだ。

 

「……よし、さっさとロマニと合流して……」

 

────あ?

待て。

 中央発電所と中央管制室に火災が────

 分かっている。

 だから、俺は、こうして、

 ロマニ、と合流して、地下の発電所に……

 マシュ…………あの娘はどうなる。

 ギャラハッドがいる。だが、もし、即死だったらどうする。

 足を止める。

 俺という存在がいる。ブリテンは崩壊した。だが、アグラヴェインは生き残った。

 俺というイレギュラーを忘れたのか?イレギュラーがいるのなら先が変わるという可能性を考えなかったのか?少なくとも聖都の円卓に変化はあるだろう。なら、なら、マシュが即死している可能性もあるだろう。

 何事も知識通りに進むわけなどない。

 俺は走り出した。

 

 

 

 走る。走る、走る。

 ただただ、中央管制室へと向かって。

 本来ならロマニと合流する筈だった。

 だというのに……いや、いい加減にするべきだな。

 

「……ランシア!?な、どうしたんだい!?」

 

 前方から走ってくるロマニを見つける。どうやら、もう彼女とは別れたようだ。なら、隔壁閉鎖までもう僅かだろう。

 

「お前は地下に急げ」

 

「君は!?」

 

「…………」

 

 問いかけるロマニを無視してすれ違う。サーヴァントの脚力による加速はロマニを遥か後方へと置き去りにする。

 ロマニの制止の声が聞こえるが無視して駆けていく。

 

そして、

 

《中央隔壁 封鎖します

館内洗浄開始まで あと 90秒です》

 

 隔壁封鎖の直前に俺は中央管制室へと滑り込んだ。目前に広がるのは瓦礫が散乱し、火災が広がる悲惨な光景。

 入り口辺りから見えるコフィン内部の魔術師らは皆既に意識は無い。

 まだ崩れていない瓦礫が今にも崩れてきそうな音を立てる中聞き覚えのある声が聴こえてきた。

 

「……嗚呼、よかった」

 

 少なくともマシュは生きていて彼女もキャスパリーグもいるようだ。安心してしまったのか俺の足取りはゆったりとしたものになり瓦礫の山を登っていく。

 

《コフィン内マスターのバイタル

基準値に 達していません

 

レイシフト 定員に 達していません

該当マスターを検索中……発見しました

 

適応番号48 藤丸立香 及び

適応スタッフ ランシア・ニヴィアン を

マスターとして 再設定 します》

 

 

《アンサモンプログラム スタート

霊子変換を開始 します》

 

 ちょうど彼女らを見ることの出来る位置に辿り着いたところで霊子変換が始まった。

 

 

 

 

 

 少しずつ自分の意識が薄れてゆく中、俺はキリエライトの前に誰かがいるのを見た。

 ぼんやりとした人影。俺とキリエライト、そして名前はわからないが48番目の少女藤丸立香以外の誰かがそこにいた。

 こちらに背を向けているためその素顔は見ることは出来ない。いや、全体像がぼんやりとしている以上、顔が見えたとしてもきっと判別は出来ないだろう。

 わからない、わからない。

 既に意識を失った二人の為にも俺は意識が薄れ始めているにも関わらずその誰かを警戒する。するとその誰かは立ち上がってゆっくりとこちらへと振り返り────!!

 

「────」

 

 

 いや、そうだったな。

 何故、忘れていたのだろうか。つい数分前までお前の事を憶えていたというのに。

 いや、許せ。柄にもなく必死だったのだ。

 

「────」

 

 彼は口を開く。

 ぼんやりとした人影、口が動いたというのは見えない。声も聴こえない。

 だけど、わかる

 

「────────、────────」

 

「……クッ、お前といいエレインといい、何故そう痛い所を突いてくれるのか」

 

 わかる。例え声が聴こえなくとも。

 俺は彼の言葉に苦笑し足下の瓦礫に腰掛ける。

 この数瞬の語らいが長く永く、何時間にも感じられる。

 きっとこうして彼と語らうのはこれが最後かもしれない。少なくとも俺の知る地下世界までに彼が彼として現れた事はこの時しか知らない。

 いや、若しかしたら、何時か再び語らう時が訪れるかもしれない。

 だが、それは来るかもわからない事。

 彼もその事を察しているのか、俺にその想いを伝える。

 

「────────」

 

「ああ、お前がそう言うのなら。お前がそう望むというのなら」

 

 俺にしか伝わらないその言葉を胸に抱き、少しずつ途切れ始める意識にこの語らいが終わるのを悟る。

 そして、彼も徐々にその姿を消していく。

 

「────」

 

「ああ、また何時か」

 

 触れる事が出来ない、その事に悔しさと悲しさを抱きながら俺の意識は途切れた。

 

 

《レイシフト開始まであと3》

 

 

《2》

 

 

《1》

 

 

《全工程 完了

ファーストオーダー 実証を 開始 します》

 

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、どうか貴方は貴方らしく。

 言い足りない事は山ほどあれども、今はいいのです。

 だから、うだうだしてないで行動してください。

 貴方らしくない

 私の焦がれた、彼の日の憧憬。私の憧れた湖の騎士にそんな後悔は似合わない。

 

 剣を持ち、盾を持ち、その背をどうか彼女に、マシュに見せてあげて欲しい。

 君に宿る、私の父はこうも強いのだ。と私に密かに自慢させてほしい。

 

貴方の後悔に、ブリテンの崩壊に、私はただ一言言わせて欲しい。

────ただ間が悪かっただけ。と

 

他の事はきっとマシュが言ってくれるでしょう。どうか、良き旅を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで話は変わりますが、父さん。親不孝な僕が言うのはどうかと思いますけども、貴方はまず母さんに土下座をした方がいいと思うのは僕だけなのでしょうか?

 

 

 




短かったですが読んでくれてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございました。

ちなみにランスロットの嫁であるカーボネックのエレイン姫ですが
プリヤドライのアンジェリカに容姿がクリソツです
理由?好きだからだよ。特に新刊の表紙

付け足すなら明日再投稿、付け足さないなら数日空いて次話更新となります

感想、ご意見、辛辣な言葉待ってます。Mではありませんよ


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炎上汚染都市:冬木
彼女は藤丸立香



…………な、なにも悪くないよ!?
時間があったから多少でもいいから進めようとしただけで書きおわす気なんてなかったんだよ!?

と、とりあえず投稿です……

あ、誤字報告ありがとうございます。


 

 

 

 

「ハァァァァァッ!!」

 

 気合いの入った大きな掛け声と共にマシュがその大きな盾でなんで動いてるのかわからない骸骨を先ほどまでの様に殴り壊した。

 どうやら最後の一体だったらしく、マシュは息を吐き一度辺りを見回して、先ほど骸骨たちに襲われていた女の人に私と一緒に近づく。

 

「戦闘、終了しました。お怪我はありませんか?所長」

 

 あ、ほんとだ。

 マシュが女の人に声をかけて漸く私はその襲われていた女の人が所長である事に気がついた。

 うん、本当だよ?いくらミーティング中に寝てたからってビンタされたのを根に持ってるわけじゃないよ?

 

「…………………………。

………………どういう事?」

 

 何やら所長さん────残念ながら名前は憶えていません。決して恨んでるからではありませぬ────が怪訝な表情で言葉を零した。

 それにマシュは一瞬なんの事か、と思ったのか少し間を開けてその理由に気づいたようだ。

 

「所長?…………ああ、私の状況ですね?信じ難い事だとは思いますが、実は────」

 

「サーヴァントとの融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ」

 

 当たり前だ、とでも言うような落ち着いた態度でそう言った所長はその態度を一変させ

 

「私が訊きたいのは、どうして今になって成功したのかッて話よ!!

いえ、それ以上に貴女!この私の演説に遅刻した挙句居眠りなんて事をした一般人!!」

 

「!?」

 

 まさかの私に飛び火した……でも眠たかったし…………それにいきなりだったし……とりあえずビンタの恨みは忘れるものか。ちなみに学校の集会は何時も目を開いたまま寝てました。

 

「なんでマスターになっているの!?サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!

アンタなんかがマスターになんてなれるハズないじゃない!!この子にいったいどんな乱暴を働いて言いなりにしたの!?」

 

 

 …………はい?

 え、なに、私、マシュに乱暴したと思われてるの?えー、心外なんですけど。

 というより、元陸上部ないたって平凡な私がそんな事出来るわけないじゃないですか……。

 

「そんな事言われても……」

 

「それは誤解です所長。強引に契約を結んだのは、むしろ私の方です」

 

「なんですって?」

 

 私を庇うマシュの言葉に所長は怪訝な表情をする。ありがとうマシュ……

 というか、体力とかならともかくあの骸骨を一体すらなんとか出来ない私が骸骨をあんな大きな盾で殴り壊してるマシュに乱暴なんかしたら逆に私がミンチになりそうなんですが……

 

「経緯を説明します。

その方がお互いの状況把握にも繋がるでしょう」

 

 

 

────────────

 

「エレインを召喚できたら童貞を殺す服を着せたい」

 

「ごめんランシア、何言ってるかわかんないよ僕」

 

「まあ、童貞じゃなくともエレインが着れば死ぬな……俺?死んでから蘇生するわ」

 

「……大丈夫かい、君」

 

────────────

 

 

 

「……以上です。私たちはレイシフトに巻き込まれ、ここ冬木に転移してしまいました。

他に転移したマスター適性者はいません。所長がこちらで合流出来た唯一の人間です」

 

「でも、希望が出来ました。所長がいらっしゃるのなら、他に転移が成功している適性者も」

 

 マシュは一度区切り、俯き沈んだ声に期待するような声で続けた。だが、

 

「いないわよ……ここまで逃げる中確認したわ。それに彼ら、本来レイシフトする筈だったマスター適性者はコフィンに入っていたわ……コフィンはレイシフトの成功率が95%を切ると自動的にブレーカーが落ちるように設定されてるのよ」

 

「つまり……コフィンに入っていなかった私や先輩、そして所長だけがここ冬木に転移してしまったのですね」

 

「落ち着けば頼りになる人なんだね」

 

 そんな、ポツリとした私の呟きが聴こえたのか所長はこちらの方を睨んだ。

 

「ちょっと、それどういう意味!?

普段は落ち着いてないって言いたいわけ!?そもそも貴女は今日初めてでしょッ私と会ったの!!」

 

「(始終ヒステリックでしたからしゃあないでしょーだ)」

 

 私に一気に叫んだからか、所長は息を調え睨むのをやめた。

 

「……フン、まあいいわ。状況は理解しました……不本意ですが、ええ、ほんっとうに不本意ですが!緊急事態ということで…………貴女名前は」

 

「藤丸立香です」

 

「そう、立香ね……立香、貴女とキリエライトの契約を認めます」

 

 所長は髪をかき上げ改めて私たちを見て、組織の長らしい威厳で指示を出し始める。

 いや、ほんと落ち着けば頼りになるな……

 

「まずはベースキャンプの作成ね……霊脈は…………」

 

「このポイントです、所長。

霊脈は所長の足下だと報告します」

 

「うぇっ!?あ……そ、そうね、そうみたいね。わ、わかってる、わかってたわよ!?そんな事!」

 

 

 本当だろうか……というかなんだろうこの人からはポンコツ臭が感じられる…………間違いなくボッチだろこの人。具体的には部下とか取り巻きはいるけど友達は一人もいないとかそういう類の……実際は凄く寂しい人だ。

 でも、私は絶対に友達にはならないでおこう。ビンタの恨みは忘れるものか。

 

 

 

 

 

 

『報告は以上です』

 

 はっ!?ぼーっとしてたらいつの間にかに謎空間が広がっていて空間ディスプレイ?にドクターが表示されていた。

 い、いつの間に出てて喋ってたんだろうか……もしや近くにギャングのボスでもいるのだろうか。

 

「そう、わかったわ。きっと私がそっちにいても同じ方針をとったでしょう。……納得いかないけど私が戻るまでカルデアを任せます……私たちはこの特異点Fの調査を続けます」

 

『えぇ!?あのチキンな所長が!?そんな爆心地みたいな現場で!?怖くないんですかッ!?チキンなのに!!』

 

「誰がチキンよ!というか2回も言うな!!……今すぐ戻りたいのは山々だけどレイシフトの修理が終わるまで時間がかかるのでしょう?

それに」

 

 一度言葉を区切りチキン所長はマシュを見て

というかチキンなんだ……いや、確かにチキンぽい。

 

「この街にいるのは低俗な怪物だけだと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュがいれば安心よ」

 

 そんなマシュがいてよかった、という表情なチキン所長にはあの事は言わない方がいいかな。

 初っ端からマシュが盾で防いでも守られていた私にすら衝撃を感じれた狙撃?をしてきた何かがいることは…………。

 言ったら絶対この人ビビるだろうし……。

 

「事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。

これより藤丸立香、マシュ・キリエライト両名を探査員として特異点Fの調査を開始します」

 

「……とはいえ、現場のスタッフが未熟なのでミッションはこの異常事態の原因、その発見に留めます。解析・排除はカルデア復興後、第二陣を送り込んでからの話になります。貴女もそれでいいわね?」

 

「はい、それで大丈夫です」

 

 とりあえず黙っておこう。

 ビビらせたいけど、したらしたで面倒くさくなりそうだし。

 

 

『了解です、健闘を祈ります所長…………ん?』

 

「……?」

 

「どうしたのロマン」

 

「ドクター?」

 

 なんだか、通信中のドクターがなんか疑問点でも見つけたのかそんな疑問符が聴こえそうな声を出した。

 私とチキン所長、マシュはそんなドクターに怪訝な表情を向けて

 

 

『立香ちゃんにマシュ?……探査員が未熟?…………所長、もしかして所長合わせて3人だけなんですか?』

 

「何言ってるの、そうに決まってるじゃない」

 

『────そんな……』

 

 ドクターの質問に所長がぶっきらぼうに答えると通信の向こう側からドクターの何か焦ったような声が聞こえてくる

 

「どうしたのよ」

 

『彼奴は……ランシアはそこにいないんですか?』

 

「は?」

「「え?」」

 

 

 ドクターの放ったその一言は私たちを開いた口が塞がらなかった。

 ランシアってあのミーティングをボイコットしたあのランシアさん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 場所は変わり、無数の骸骨が互いを剣や槍で貫いている摩訶不思議な光景が広がっている。

 

 元は武家屋敷だったのかそのような周囲の家屋よりも大きな土地と木造家屋の一部が残った場所で一つの人影が石垣に幾つかの武具で縫い付けられていた。

 それは正しく影だった。黒く靄がかった人型の何か。それが呻きながら自身を縫い付けているものを取り除こうと身じろいでいる。

 そして、それの前に立つ一人の男。

 濃紺の髪をポニーテールにして、カルデアの制服を着崩しその上からフードのついたコートのようなモノを羽織った男。

 男、いやランシア・ニヴィアンの手にはその影のように靄がかったしかしその表面にハッキリと濃紺の葉脈の様なモノが走った薙刀が握られていた。

 

「────────!!」

 

「喧しい」

 

 影が一際大きく叫んだ瞬間にランシアはその手の薙刀を振るって影を頭から股下へと一刀両断した。薙刀はまるでバターを切るかのように影を切り、影は消滅。それに続くように薙刀も消えた。

 

 貼り付けられていた影も消え、残るのは摩訶不思議な光景を晒す骸骨らとランシアのみ。

 いや、ランシアが指揮者のように指を振ると骸骨らをそのようにしていた置換魔術が解け、そのまま骸骨らは消滅していった。

 

 

 そこに一切の慈悲はなく。既に消したモノに興味など持たない騎士の冷酷さが垣間見えた。

 そして、ランシアは影が消えた場所に何故か落ちていた虹色の結晶を拾い上げ、この武家屋敷跡を立ち去った。

 

 

 

 

「(これで3個目……ガチャろう……ピックアップ?男ならストーリーガチャだろ。なお、ストーリー限定鯖は誰も開放されてねえっていう)」

 

 

 

 

 ランシア・ニヴィアン、現在一人寂しく冬木をさまよっております。

 

 




今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。

ランスロットが得意とする魔術は降霊と湖の加護による強化と置換魔術です。

感想、意見、辛辣な評価お待ちしております。
感想でもちらりと言いましたが少なくとも来週の火水はきっと更新は無いです。きっと多分


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もう、あの頃には戻れないッ

凄いいまそれ?な話ですがやっぱり幕間の物語って入れた方がいいんですかね?
ランスロットと他の鯖やマシュたちとの絡みで。

詫び石プラス持ち石で十連を回しました……詠唱にメイドを入れてみたら………………エルキドゥワンコの礼装が二枚も出るという
辛い

そういえば、必須タグつけ忘れてて一時非公開なってました。すいません


 

 

 

『え…………ランシア本当にそこにいないんですか?』

 

「…………ま、待ちなさい……待ちなさいッ!?」

 

 想定外の事がロマニの口から出てきた事で一時思考停止していたオルガマリーは漸くある程度思考の整理がついたのか復帰し、ロマニに食ってかかる。

 

「ランシア!?ランシアってあのランシア・ニヴィアン!?」

 

『は、はい!?置換魔術が魔術師からしたら、は?何それ……それ本当に置換魔術?で有名な守護英霊召喚システム・フェイト担当のランシア・ニヴィアンです!!』

 

「なんであの男が出てくるのよッ!!??」

 

 オルガマリーの言葉にロマニが余計な説明を交えつつ答えるとより一層オルガマリーは声を荒げる。

 

『そ、それは……僕がカルデアスの火を消さない為に地下の発電所に行く途中でですね……中央管制室に向かっていって…………と、止めたんですが……その……』

 

「…………ちょっと待ちなさい、それ以前にあの男がレイシフト適性者だなんて聞いたことないわよ!?」

 

『あ────』

 

「いまのあ、って何。アンタ、私が知らない事を知ってるの?言いなさい」

 

 何か言ってはいけない、知られてはいけない事について口が滑った事に気付いたのか、漏らした音に目敏く反応したオルガマリーがロマニを追及していく。

 

『えっと、その…………色々と様々な事情がありまして……所長やレフその他数名に伝えてませんでした…………えっと、すいませんでしたァ!?』

 

「……カルデアに帰還したら覚えておきなさい」

 

『ア、ハイ』

 

 オルガマリーの言葉にロマニは肩を落とし縮こまる。そんな様を見て笑いそうになる立香は頑張って笑いを堪える。

 

「……それで?あいつの反応は?」

 

『えっと、そちらに反応があるのは分かるのですがちょっと詳しい場所はわからないです。

恐らく彼が何時も着てる認識阻害の礼装による影響だと思われます……多分置換魔術も併用してるんじゃないでしょうか、それで擬似的にアサシンのサーヴァントが使うという気配遮断を起こしてますね』

 

「…………そう、それじゃあアイツへ通信が出来るようになったら教えなさい。通信が可能になれば私たちに近いって事でしょうから」

 

『はい、分かりました所長』

 

 

 それで一通りロマニと話し終えたのかオルガマリー率いる特異点F探査チームは調査の為にその場を動いた。

 この後すぐにミーティングでの出来事を掘り起こして再びヒステリーを起こすオルガマリーがいるのだがここでは置いておくとしよう。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

「…………まさか、予想してなかったというか慣れすぎた」

 

 教会の跡地と思われる場所でランシアは項垂れていた。彼の目の前には武家屋敷跡で拾った虹色の結晶が合わせて三つほど円を描くように配置されていてその中央にデミ・サーヴァントとなったマシュが所持していた盾のミニチュア版のようなものが置かれていた。

 

「……普段なら、三つで繋げれたんだが…………クソッこの特異点の大気に満ちる魔力が乱れすぎてて三つじゃ上手く繋がらないって…………」

 

 彼がやろうとしていたことはサーヴァントの召喚であった。

 マシュの盾によるベースキャンプ作成及び召喚が出来ない中、簡易的にサーヴァントを召喚する為の礼装を用意していたランシアだがその触媒に使う結晶体こと聖晶石が何時もなら三個で充分だった所、この特異点の大気間に満ちる魔力が乱れ過ぎていた為に三個ではなく四個必要という事が判明し、こうして項垂れていた。

 

「……四個、四個かあ……マフィア……ルルブレ……三十個…………そういや、剣豪どうなった…………ん?俺冬に死んだよな……チーズで記憶飛んでやがる……!!」

 

 触媒の数で連想していった結果、大変な事実を判明してしまったランシアだが、仕方なしと割り切り触媒とあらかじめ教会の跡地を探索し見つけておいた古い概念武装を持って立ち上がる。

 

「とりあえず、もう一つの石を探すか……ランサーは俺が倒したわけで残りはライダーとアサシンとアーチャー……バーサーカーはこの際無視するとして……ふむ、アサシンとライダーはマシュたちに任せるか」

 

 少なくとも雑魚からも石は取れたからな、と付け足しながらランシアは教会の跡地を後にしようとして…………

 

「ッ────!!」

 

 横に飛ぶように動く。

 その数瞬後に先程までランシアがいた場所に何本もの爆撃が着弾する。

 本来のランシアならばあの程度の狙撃、多少古い程度の黒鍵でも充分に弾き飛ばせていただろう。しかし、それをランシアは選ばなかった。何故なら

 

「(そんな事したら石を落とす。集め直しなんてしたくないんだよ)」

 

 四個の時代から走るランシアには石一個の重さはとても理解できる。

 ガチャの排出率を考えると四個時代は石は貴重なのだ。

 ウィークリーミッションもなかった、チュートリアル十連なんてなかった時代からのランシアには石一個は重いのだ。

 

 

「……これで一つでも落としたら無毀なる湖光でたたっ斬る。…………ああ、クソ、四徹ちょいのせいで忙しい時に喧しいモードレッドに対する感じになってきた…………寝たのになぁ」

 

 段々とボヤき始めたランシアは次から次へと降り注ぐ爆撃から走って逃げていく。

 現状、認識阻害の礼装と置換魔術の併用によりサーヴァントである事を誤魔化しているランシアはサーヴァントのような速度ではなくあくまで強化を使った魔術師程度の速度で逃げている為何度か危ない部分が見える。

 時折、建物を盾にして少しずつ狙撃手即ちアーチャーのサーヴァントの居場所を探していく。

 

「……まあ、射ったらすぐに移動してるんだろうが…………流石に捻じれ狂われたら回避じゃなく迎撃しなきゃならんな。……アレは正直シャドウでも投影品だから使ってくるんだよな……ああ、まったく」

 

 聖晶石をコートの内ポケットにツッコミながら黒鍵を持った手を前へと出すと、人一人程の大きさの菱形の紋様が浮かび上がって……その場からランシアの姿は消えた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「ランシアがどんな奴か?」

 

「はい、私カルデアに来たばっかなんでそのランシアさんについて全く知らなくて……ミーティングをボイコットした、ぐらいしか」

 

「……そう、そうね。とりあえず見つけたらその事についても追及しなくちゃ……あの時は時間的にろくに説教出来なかったし」

 

 調査の合間に私がふと疑問に思った事を質問すると、所長は若干表情を歪ませながらランシアさんへの説教の追加を確定させていた。

 ……ごめんなさい、ランシアさん。私のせいで見知らぬ貴方への所長の怒りが積み重なりました……。許してください、なんでも(ry

 

「……それぐらいならマシュに聞きなさいよ」

 

「えっと、所長……その私もニヴィアンさんとはそこまで接点がなくて……」

 

「…………分かりました。話せるとしても精々アレの性格というか人間性、ついでに言うとあくまで私の主観の話よ?アレの役職とかはロマニやマシュに聞いて……それぐらいなら知ってるでしょ?」

 

「はい」

 

「……そうね、アイツは理解出来ないわ」

 

「え?」

 

 所長の口から出てきた言葉は私に疑問を抱かせた。理解出来ない?それはどうして。

 所長なんだからそれぐらいわかるんじゃ……

 そんな私の考えを見抜いたか、たまたまか、所長は続きを語り出した。

 

「曰く、お父様が参加した聖杯戦争での同盟者でお父様の友人……らしいけども私はいままで一度たりともお父様の口からランシア・ニヴィアンという男の名前を聞いたことはないわ」

 

「私がお父様の死後にカルデア所長を継いで漸くその存在を知ったのよ……なにより、アレには言った私でさえ理不尽だと思うような理由で言いがかりをつけた事が何度かあるわ」

 

「……(理不尽だ)」

 

『(自覚してたんだ……というか言いがかりって自分で言っちゃった)』

 

「(言いがかり何ですね……)」

 

 所長は私とドクター、マシュの曖昧な表情に気づかずにそのまま続けていく

 

「普通ならどんな人間でも不満の一つは感じるわ……少なくとも経験上私には何となくそういうのが察せられるのよ……なのに……なのに、アレはそんな小さな不満すら抱かなかった。わかる?まるで人形の様に淡々と受け止めて淡々と処理してくのよ、アレは」

 

 不満を抱かない。字面だけ見れば凄い人だなと思うけれども、所長からしたらそんなランシアさんがとても不気味に映ったんだろう。

 現にランシアさんの事を話す所長の表情はまるでおぞましい物でも見たような怯えの混じった表情だった。

 

「前にとあるスタッフがアレに不満は無いのか?って聞いたらしいわね……それでアレがなんて答えたか知っている?」

 

「……仕事だから、ですよね?」

 

「何よそれ……仕事だから?不満を抱かない?理解出来ない、分からない……あんなの人間じゃないわタダの人形よ!?」

 

「…………ッ」

 

え?

 所長がランシアさんのことを人形と叫んだ瞬間、一瞬だけだがマシュの表情が歪んだ気がした…………まるで怒る様に、大切な何かを侮辱された様に。でも、本当に一瞬だったから見間違い?かな。

 と、黙っていたドクターが口を開いたのか通信からドクターの声が聞こえた。

 

『……まあ、そうなるよなぁ。アイツ、仕事に関しての失敗とかは全部自分のせいにするから……』

 

「ドクター?」

 

『ん?ああ、アイツとはもうかれこれ10年の付き合いだけどもアイツ基本的に自分で物事を解決しちゃうからそういう風に上の人間に不気味がられるんだよ』

 

「えっと、ドクターそれはどういう」

 

 ドクターの言葉に私やマシュ、所長も耳を傾ける。

 

『基本的に失敗があったり、上司に言いがかりをつけられたりしたら自分が悪いと納得する。不満なんて持ってたらやってられない、そんなブラック企業で鍛えられたんじゃないかってぐらいの駄目な性格だからねぇ』

 

「うわぁ、凄いブラック企業なサラリーマン」

 

「えっと、その……なんて言えばいいんでしょう」

 

「…………」

 

 流石の所長もドクターの話になんというか微妙な表情で黙っちゃった。

 というかホントにどんな環境にいればそんな性格に……ブラック企業か。

 ランシアさんの話で若干変な空気になったのに気付いたのか、所長が手を鳴らす。

 

「ともかく、アレの話は終わりよ。引き続き特異点の調査をするわよ」

 

「「はい」」

 

 

 所長の言葉に私とマシュは元気に返事をした。きっとマシュもランシアさんの話で変な空気になっていたのを誤魔化そうとしたのだろう。

 だから、分からなかった。

 

 忘れてた。

 所長をビビらせまいと伝えなかったマシュと同等の怪物がいた事を。

 

 思わなかった。

 それ以外にも同等の何かがいるかもしれない可能性を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ソノ 首 貰オウカ」

 

 

 

 

 




ランスロット、聖地巡礼中で若干口調が元のが出ています。

匿名解除して幕間のアンケした方がいいんかねぇ。
はよ、未来さんガチャに来て。エクスドライブ(仮)当てたい



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アサシン

まさかの今日二話投稿。
アサシンシャドウに狙われた所長


 

 

 

 

 

 

「所長ッ!!!」

 

「ホウ 反応スルカ」

 

「えっ、きゃあッ!?」

 

 所長の背後から現れた黒いというか影みたいなモノで全身靄がかったような人型の何かが所長に手をかける前にマシュが所長を引っ張って影から離す。

 

 輪郭が靄がかってハッキリしない影に私は一歩下がる。

 少なくともあの影は所長の後ろに突然現れた。私やマシュが所長の方を見ていたのに近づいたのが分からなかった……これがゲームならさしづめステルス性能持ちの怪物。

 

「ハァ、ハァ……何よ……これってサーヴァントじゃない!!」

 

「サーヴァント……ッ」

 

 マシュに影から離され息を整えながら所長は怒るように叫ぶ。

 この影がサーヴァント……つまりそれはマシュと同じ存在って事なんだろうけども……サーヴァントってこんなに黒いもんなの!?

 というかサーヴァントって昔の偉人とかそういうのらしいけどもこんなんいたの本当に!?

 

「なんでサーヴァントがいるのよ……ッ」

 

『そうか……聖杯戦争だ!その街では聖杯戦争が行われていた!』

 

 所長のサーヴァントを睨みつけながらこぼした言葉にドクターの通信が答えた。

 聖杯戦争って確か所長が言ってた所長のお父さんやランシアさんが参加してたっていう……。

 

『本来なら冬木で召喚された七騎による殺し合いだけど、そこはもう“何かが狂った”状況なんだ!マスターのいないサーヴァントがいたって不思議じゃない。そもそも、サーヴァントの敵はサーヴァントだ!』

 

「それじゃあ、あのサーヴァントは私を狙って……!」

 

『恐らく君のマスターを所長と誤認したんだろう……だから、所長を先に狙った』

 

「……ここで死んでたまるもんですか」

 

『新シイ獲物 ソノ 首イタダクゾ』

 

 サーヴァントは靄がかって表情は見えないけれど明らかに嗤ってる。殺すのを楽しんでいるように……こんなのが偉人って……でも織田さんは寺焼いたしな……

 

『サーヴァント反応、確認!そいつはアサシンのサーヴァントだ!』

 

「……!応戦します。先輩、指示を!!」

 

「う、うん、任せて!所長もサポートお願いします!!」

 

「……!まったく、分かったわよ!」

 

 

 これが初めてのサーヴァント戦、何とか頑張って勝たなきゃ!!

 ……そういえばアサシンって元々は中東の宗教の一団が語源だったっていうのをゲームで見た気がする。一年の仕事を40日で終わらせたとかそんな人だったような……。

 

「貴様等 鈍間ニ 見切レルカ?」

 

 

 アサシンはそう言いながら素早く細かい動きで私たちを翻弄し始めた。

 あっちと同じサーヴァントになったマシュもなかなか目で追いきれてないみたいだ。

 それでも時折放たれるナイフかなんかはきちんとその盾で防げてるけども……

 

「…………速すぎるッ」

 

「流石はアサシンのサーヴァントと言ったところかしら……」

 

 そう言いながら所長は何度か素早い動きで翻弄するアサシンに前に骸骨へ撃ってた魔力弾?を放っていくけども全然当たらない。

 見た感じマシュはそう素早くはないっぽいからあっちが直接殴りに来た時にカウンターするしかないけど……

 

「あっちもそれぐらい分かってるよね……ッ」

 

 

「フハハハハ 鈍間 鈍間ヨ!ランサー ガ コチラ ニ 来ル前ニ 終ワッテシマウナ!」

 

「くっそぉ……思いっきり嗤いやがってぇ」

 

 

 動きながら嗤ってるせいで四方八方から嗤い声が聞こえてきた段々とイライラしてくる……!

 でも、私にはマシュや所長を助ける方法なんてないし……どうすれば……!

 

「…………囮」

 

「……!駄目よ立香!そんな事してもマシュが反応する前に死ぬわ!」

 

「でも……!!」

 

「ホウ ソウモ 死ニ 急グカ」

 

「あ」

 

 私が零した何とかなるかもしれないけれども私が死ぬ可能性が遥かに高い選択肢を所長に反対された矢先

 声が背後から聞こえた。

 

 

「先輩ッ!!??」

 

「デハ 望ミ 通リ」

 

 

 振り向けばすぐそこにアサシンがいた。その腕は振りかぶられていてその手には恐らくナイフのようなもの。

 マシュも所長も間に合わないこの距離で私は生まれて初めての死を感じた。

 

「死ヌガヨイ」

 

 

 とても遅く感じるその一瞬。

 私は死にたくないと強く願って…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、御手を拝借」

 

 

 鮮血が舞った。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 エミヤの狙撃から置換魔術を使った転移もどきをして暫く。俺は何故か冬木にいる蟲の群れをガンドでひたすら撃ち落としていた。

 いや、何でいるのかなんて別にわかるんだ。まあ、間違いなく間桐の家にいたのが野生化したんだろうけども…………少なくともエネミーとしては出なかった……単純に集ってるところにフリクエがなかったからってのはわかるが。

 

「それでも多すぎだろッ!」

 

 もう百は撃ち落としてる筈だが数は一向に減らず、ついでに言えば鳳凰の羽根は一枚もドロップしない。

 というかドロップ品があるのかは知らない。いや、そもそも蟲からなんで鳳凰の羽根が落ちるんだろうか…………。

 ブリテンにいた時は竜の牙なんて一頭何十本もドロップしたしなぁ……ロンドンの歯車はとりあえずドールの首落とせば取れそうだな。

 

「最悪、群れを纏めてるのを殺せばいいか」

 

 そう言いながら群れを観察していく。というか、キモイな流石に。

 そういえば、モルガン嬢も流石に蟲は嫌い、と言ってたな……凄く意外だった。魔女だからそれぐらい平気だろうと思っていたがやはり女性か。

 

 

「……ひたすら蟲が出てくる高難易度クエスト出たら面白そうだな……あ、高難易度じゃないけども似たようなのあったな」

 

 200体の雀蜂。

 俺、ホントに200体殺さなきゃいけないんだと思ってデミヤを抑えつつ十数体は倒して、流石にデミヤが邪魔だったからブレイクしたら終了で辛かったな。

 

「ん?アレか、何処かの炎虫な蛾のポケ〇ンそっくりな蟲……流石にガンドでは落とせないか……となると」

 

 俺は拾った黒鍵を抜いて宝具・騎士は徒手にて死せずを使用、ランクDの宝具へと変化させウル〇モスに向かって構える。

 

「石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ石落ちろ」

 

撃つッ!!!

 

 

『────!!』

 

 放たれた黒鍵は物の見事にウル〇モスの頭部を撃ち抜き落とす。宝具化させたとはいえ元々がかなり劣化していたせいか黒鍵は落ちた衝撃で柄諸共砕けてしまった。

 

「……消えたな」

 

 ウル〇モスも流石にDランクとはいえ宝具を食らったからか消滅していて……そこには石が……!!!

 勝った、第一部完!まだ円卓に会ってないけども!

 取り巻きの蟲どもは親玉が消えた事で散り散りになっていき、俺は邪魔される事無く石を拾う。

 

「これで四つ目……やるか」

 

 懐からインスタント・フェイトを取り出し地面に置く。

 これはマシュの盾がなくとも現地で英霊召喚が出来るようにフェイトの一部を利用して作成した簡易英霊召喚礼装。

 欠点はあくまで特異点での英霊召喚で、カルデアによる召喚のように永続的に使役できるわけではなく恐らく聖杯を入手し特異点が崩壊した際に現地サーヴァントと同じ様に座に帰ること。

 メリットはとりあえず礼装が出ないこと……いや、こっちで召喚する時に礼装が出るのかは知らないが。

 インスタント・フェイトの周りに円を描くように聖晶石を置いていく。段々と緊張してきた。

 冬木解決までの相棒となるサーヴァントを召喚するのだ、緊張するのは当たり前だ。

 サーヴァントになれどもマスターはやったことが無い…………リアル召喚楽しみ。

 爆死?最悪俺が無毀なる湖光振るから。

 

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が母ヴィヴィアン・デュ・ラック

降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

────────」

 

 

 魔力と詠唱により触媒である聖晶石が召喚陣を起動させる。

 徐々に魔力は三本の円環に変わり廻りだす。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 魔力は増大し、陣の中心は魔力の渦で見えなくなる。

 しかし、手応えは感じられる。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────」

 

 

 魔力はそのまま広がって視界が潰れる。

この光が止めばそこにはサーヴァントがいる。

 誰が来る。

 出来ればまともなサーヴァントが来て欲しい。

 

 

 そして、光が止み

 

 

「────召喚の命に従い参上しました。貴方が私のマスターですか?」

 

 

 




英霊召喚ぞい

今回も最後まで読んでいただきありがとうございます
感想意見お待ちしております


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御手を拝借

…………何も言いませぬ。
筆が乗った!……別に構いやしないのですが……クオリティが下がってそうで怖いです


 

 

 

 

 

「────え?」

 

「ガアァァァッ!!??」

 

 アサシンが短剣を握っていた左腕から大量の血を噴き出しながら叫ぶ。

 それは唐突な事であった為、いま殺される寸前であった立香ですら唖然としていた。

 

 予兆は無かった。

 いや、立香は殺される寸前に誰かの声が聞こえた気がしたがあまりに突然の事で動きが停止していた。

 

 

「……ハッ!マシュ!!」

 

「……は、はいっ!!」

 

 予想外の出来事で生まれた大きなチャンスを逃さんとばかりに硬直から戻ったオルガマリーはマシュに指示を飛ばす。

 

「はあぁっ!!」

 

 盾を大きく振りかぶり、アサシンの頭部を殴りつける。

 

「ゴッ!?」

 

「……あ、マシュ!」

 

 マシュがアサシンの頭部を殴打した事でアサシンから出た苦悶の声で立香は漸く意識を取り戻しすぐさまオルガマリーの元へ走っていく。

 

『よしっ!マシュそのままトドメだ!』

 

「はいっ!!」

 

 苦悶で動けないアサシンの顎目掛けてマシュはその盾をかちあげる。

 これによりアサシンはそのまま吹き飛んでいき

 

 

「グ────オノレ 聖杯ヲ 目前トシテ」

 

 

『アサシンの消滅を確認!初サーヴァント戦は勝利だ!』

 

「だ、大丈夫でしたか先輩ッ!!」

 

「う、うん……」

 

 

 アサシンは消滅し、初サーヴァント戦の勝利に喜ぶロマニ、死ぬ寸前であった立香の身を確認するマシュ……だが

 

「…………いったい何者かしら……ランシア?いいえ、いくらアレの魔術が普通よりズレていてもサーヴァントにアレほどの傷をつけることは不可能でしょうし……サーヴァントかしら、仮にサーヴァントだとしたらどうしてわざわざあんな事を」

 

 オルガマリーはその場で自分たちを助けた何者かについて思案する。

 この場にいない魔術師が脳裏を過ぎるものの有り得ないと断じて他の可能性を考えていく。

 

「……所長?」

 

「……え、あ、何かしら?」

 

「いえ、その……心配をおかけしてすいませんでした」

 

 オルガマリーに声をかけた立香はオルガマリーに頭を下げる。自身に力がなかったからあのような殺されるかもしれない状況に陥った事を謝罪する。

 オルガマリーはそれを見て穏やかな表情になり

 

 

「別にイイわよ。怪我、ないんでしょ?」

 

「はい、怪我はしなかったです」

 

「そう、ならいいわ。でも囮になろうなんて考えはやめなさい。貴女は仮にもマシュのマスターなの……サーヴァントを信じなさい」

 

「……はい!」

 

 

 穏やかな表情で立香を許し、マシュを呼ぶ。

調査自体はまだまだ進んでいない。

 アサシンの左腕に深傷を負わせた存在が何なのかは未だ分からないがオルガマリーは調査を続行させる事を決めた。

 

 

 

未だランシアは現れず。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………ふむ、マスターは我が友に似ていますね」

 

「似ているんじゃなくて本人だ」

 

「………………」

 

「………………」

 

「…………なるほど、どのような事情かはわかりませんが貴方が私のマスターなのですね友よ」

 

「ああ、卿が来たのは若干ながら不満はあるが、縁召喚による戦力としては最優と言える」

 

「おや、ガウェイン卿を差し置き私を最優と呼ぶとは…………いえ、失言でしたね。どうか容赦を」

 

「気にはしてない。諸事情でな、その事については本人と会ったときに解決する予定だ」

 

「そうですか、それは友として喜ばしい」

 

 ランシアにより呼ばれた赤髪の騎士姿の英霊はしばしランシアと見つめ合い沈黙を保っていたが己のマスターを見て一言零すとランシアに訂正され、再び沈黙したが無かったことにするかのように話し始めた。

 二人の間にはとても親しげな雰囲気が流れる。

 

「して、友よ。此度の召喚は如何様な理由なのでしょうか」

 

「…………ああ、そうか。カルデアでも現地の聖杯またはカウンターでもないからその辺りの知識は無いのか」

 

「ええ、残念ながら」

 

 周囲は地獄の様に燃え上がっているというのにこの赤髪の騎士とランシアは変わらず談笑する。

 場違い感はあれどもこの二人にとってこの特異点に存在するサーヴァント及びエネミーに敵はなく、この談笑はその自信の表れなのだろう。

 

「では……この特異点Fにて異常事態が起きている。俺と卿はこの特異点解決までの間だけだがマスターとサーヴァントの関係となるわけだが…………何か不満はあるか?」

 

「いえ、不満はありません。強いて言うなら────何やら隠していますね?ランスロット」

 

「…………勘が鋭いな」

 

 ランシアの説明を受ける中不満の有無を問われた赤髪の騎士はその細目を開きその鋭い視線をランシアに向ける。

 そんな赤髪の騎士の視線に肩をすくませ、笑みを浮かべる。

 

「そうだな、情報源は言わんが……この特異点には俺と卿に因縁のある者がいる」

 

「…………なる、ほど……ですが構いません。今さら顔を背ける事など出来ますまい」

 

「…………そうか」

 

 ランシアの言葉から何となく察したのか赤髪の騎士は再び目を細め頷く。

 しばし沈黙が流れ…………

 

「さて、動くか。実はいま所属している組織の人間が離れた所にいるんだが……経験を積ませたい。合流するのは時間を置きたい」

 

「……ですが、経験を積ませたいということは未だ未熟……つまり」

 

「対応出来ない部分を影ながら支える」

 

「…………卿がそこまでするとはいったい……いえ、深くは聞きません。お任せをマスター」

 

 赤髪の騎士の言葉にランシアは若干表情を歪ませた。

 それに気づき、その理由を察したのか赤髪の騎士は笑みを浮かべる。

 そして、まるでランシアを揶揄う様な口調で喋り始め

 

「おや、どうしましたマスター」

 

「…………」

 

「どうやらマスターは虫の居所が悪い様ですね……大丈夫ですかマスター」

 

 額に青筋を浮かべつつランシアは目の前の赤髪の騎士を睨む。

 

「…………トリスタン。揶揄うな」

 

「……ええ、少し調子に乗りました」

 

 

 ランシアは赤髪の騎士……トリスタンの揶揄いを強制的に終わらせ、ランシアはトリスタンを連れてその場から離れる。その際に魔術を用いてトリスタンにも認識阻害を付与させるのを忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、彼女らですか…………なるほど、そういうわけですね」

 

 ランシアの下を一時離れたトリスタンはマシュらがアサシンと戦っている場所からやや距離を置いた場所で待機し見ていた。

 シャドウといえども元々の敏捷のステータスが高いアサシンにサーヴァントになったばかりのマシュと魔術師たちが翻弄される姿を見てトリスタンは何故ランシア、ランスロットが彼女らに目をかけているのかを理解し、弓に張られた数本の弦のうち一本に指をかける。

 

 

 そして、アサシンがマシュとオルガマリーから数歩離れた所にいた立香の背後に現れその短剣を握った左腕を振るいあげ

 

「では────御手を拝借」

 

 弦にかけていた指を弾く。

 音階を矢として放つというアーチャーというクラスにおいて一際異彩を放つトリスタンの矢はそのままアサシンへと迫り

 

「ガアァァァッ!!??」

 

 

 

 その左腕を刻んだ。

 

 

「さて、後は彼女でも何とかなるでしょう………」

 

 

 トリスタンはもう一度マシュを見てランスロットの下へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもあのシャドウサーヴァント…………何処かで見た記憶がありますね。そう、例えば………………なるほど、彼なのですか。ああ、私は悲しい、我が非道を止めた技に生きた翁があのような姿になった事に私はこの悲しみを隠せない」

 

 

 

 




トリスタンの状態は霊基再臨二段階目です


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全てマーリンって奴が悪い

何だかだんだん駄文になってる感が否めない。
明後日から2日間忙しくなるから、いったん休むのが正解かな?

それと前回の最後の言葉から察せれるようにこのトリスタンは六章の記憶がありますがあくまで思い出せるのは自分のやった事と呪腕もとい自身の結末だけです。
なので他の円卓や立香たち、ランスロットの行動などは思い出せません。


 

 

 

 

 

 

「それにしてもランスロット。このような場でも卿は寝れるのですね」

 

「…………色々あってな仮眠しかとってないんだ」

 

「…………なんと、では少しでも身体を休めた方がいい。卿は昔から働きすぎの部分がありますからね」

 

「主に卿らのせいだが」

 

「寝ている間の見張りはお任せを」

 

 

 唐突に話を変えたな、胸の内に浮かび上がった言葉を胸に仕舞っておき、俺はエネミーを駆除した穂群原学園の比較的綺麗な状態────だいたい何処も瓦礫があったり窓が割れていたりしている為、どこもさして変わらないが────の教室の一角で壁に背を委ねる。

 カルデアで仮眠前の寝落ちしていた時間はあの後端末を見て調べてみた所一時間も無かったことに頭を抱え、仮眠は一時間弱……流石にこんな状態で彼女と相対するのは少し失礼な気持ちになる。

 通常のアルならばともかくオルタとなったアルとは会ったことがない以上どのような事になるかは分からない。最悪トリスタンと共に開幕モルガーンされる可能性を否めない。

 それになにより、バーサーカーが危険だ。アインツベルンの森に行かなければ会うことはないだろうが…………イレギュラーが発生する可能性を考えれば用心するべきか。

 

 

「……ランスロット」

 

「なんだ」

 

「……寝ないのですか?考え事ばかりしてますが」

 

 

「…………寝る。二時間程で起こしてくれ」

 

「分かりました」

 

 

目を瞑り、俺は寝始めた。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

王の話をするとしよう

 

 

 己の失敗により友に裏切り者の汚名を着させ、異父姉の姦計により生まれた自身の写身に叛逆され、国を最悪の形で終わらせてしまった。

 我らが王の話を────

 

 

 

 彼女はカムランの丘、叛逆の騎士との戦いで負った致命傷を抱えながらベディヴィエールと共に傷を癒す為に森へと潜む事にしたが騎士ベディヴィエールに彼女は自身の聖剣・約束された勝利の剣を湖の乙女に返却するように命じた。

 ベディヴィエールは湖の乙女への聖剣返却を二度躊躇うも三度目に返却を成した。

 

 

 そして、彼女はアヴァロンへと旅立ったわけだが────

 

 

ああ、そうだった言っていなかったね。

 

 

 IFの世界、我らが社畜騎士ランスロットがなんとも残念なやはり円卓か、というような別人のランスロットだった世界では彼女はブリテンの救済を望んで世界と契約をしたらしいが……我らが王は契約をしなかった。

 何故?それは簡単だ。

 

 

 友の行いを、騎士達の歩みを、民草の人生を、踏みにじる事に繋がるからだ

 

 

 さて、アヴァロンに行った以上彼女は座に登録されるのか怪しいがそこはそれ、お隣の国の神話に出てくる女王様と同じさ。

 人理が焼かれた以上、アヴァロンもいずれ消えるだろう。

 そのために彼女は召喚される。私?期間限t(ry

 

 

 きっとこの人理修復の旅の中、彼女とランスロットは会うかもしれない……それはまた違った歩みをしたIFのアルトリアかもしれない。

 

 

 ランスロット、君は何やかんやで色々と彼女に影響を与えていたわけだ。

 でも……流石に一人隠れてまともな料理を食べていたから、という理由でアルトリアとガチの殴り合いをするのはどうかと思うんだ。何で私にそれをくれない。

と、脱線したね。

 

 

 まあ、そんなアルトリアが反転した、ならどうなるかはこの私の眼をもってしても見抜けないんだ。

 ランスロットとアルトリアはよくある異性としては絶対に見れないような幼馴染────別に幼馴染ではないけども────みたいな関係なわけだが、そんなアルトリアが反転したら……うん、何だか楽しみになってきたぞ☆

 

 

 

 おっと、殴っても無駄さ。

 今の君は私に気づいているわけではなくぶっちゃけ無意識だからね……それにさっきから君の台詞出てないだろ?

 メタいなんて気にしないでくれ!

 

 

 さて、そろそろ起きる時間だ。

 君はわかっているんだろう?情報源は私でも知らないけどね。

 次に会うのは第四……いや、第五かな?

 ま、頑張ってくれ。色々と胃とかメンタルとかダメージが入るかもしれないけども!

応援してるからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「………………………………会ったら殴ろう」

 

 夢を見た。よりによってまさかのマーリンが現れて何か言ってきた。

 何を言ったのかはほとんど覚えていない。

 期間限定とかなんとかほざいていたのは思い出せるが…………

さて、起きるか。

 

「トリスタン、何時間ほど寝てた俺は…………」

 

 

 寝る場所が場所だった為か首辺りに若干の違和感を感じるが俺は見張り役兼起こすのを頼んだトリスタンに声をかける。かけたのだが……

 

「(っ˘ω˘c )スヤァ…………」

 

「…………」

 

 寝ている。

 この眠り豚、寝ているんだが。

 俺は教室の備え付けの時計を見る。

 寝る前に動いている事を確認済みだ。

 正確な時間ではなくともきちんと動いている以上どれぐらい寝ていたかはわかるわけで…………

 

 

《18時58分》現在

 

《12時41分》寝る前

 

 

……………………。

 

「四時間超過してるだろ!?」

 

「……ガフッ!?」

 

 起こさなかったというか見張りやらずに寝てるトリスタンの脛に蹴りを打ち込む。

トリスタンはその一撃で眼を覚まし悲鳴をあげる。

 とりあえず俺は立ち上がりコートを着直す。

四時間も長く寝ていた以上、予定は崩れる。

例えば……マシュらの経験の為に手を出さなかったシャドウライダー……そして一度も見てないキャスター。既に戦闘があって会合している可能性がある。

 その時に合流しようと考えていたんだが……此処は目的地で待機していた方が得策だな。

 

「立てトリスタン、とりあえず何故卿も寝ていたのかは追求せん」

 

「ぬぅぅ……流石はランスロット……例えツッコミといえども地味に芯へとダメージを通す一撃を放つとは……無窮の武練の無駄使いですね……!」

 

「……黙れ。それ以上阿呆なことを言うなら令呪で不能にするぞ」

 

「……なんと、それは止めていただきたい。一人の男としてそれは辛い」

 

 適度にトリスタンとコントじみた掛け合いを終えて俺は穂群原学園を出た。

 目指すは大聖杯のある鍾乳洞。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「丁度いいわ、ひとまずこの学校で休息をとりましょう。キャスター、それでいいわね?」

 

「おう、構わねぇよ。俺らサーヴァントならともかく嬢ちゃんらは人間だろう。ちゃんと休んでもらわにゃあ困るからな」

 

「おー、学校かあ。……そうだよね、こういう状況でも学校ならある程度安心して休めるからね」

 

「これが、学校……大きいですね先輩」

 

 




とりあえず活動報告で幕間の物語についてアンケートしたいので今日の18時から匿名解除してアンケート貼りたいと思います。
期限や内容は活動報告に載せて起きますので興味がおありなら是非18時頃からのアンケートにご参加ください。

ここまで読んでいただきありがとうございます
意見感想よろしくお願いします


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進撃と騎士

明日明後日休みます


 

 

 

 

 

 特異点Fすなわち冬木の核となる聖杯があるのは別の可能性世界及び俺たちが経験した十年前の聖杯戦争と場所は変わらない。

 冬木の円蔵山と呼ばれる山の内部に存在している。そして聖杯戦争における大聖杯とは大空洞に設置されている冬木の土地を聖杯降霊に適した霊地に整えていく機能を持つ、超抜級の魔術炉心。

 少なくともそういう背景がある以上この特異点Fの聖杯は大空洞にあるのは変わらないだろう……そして、そこに聖杯の護り手としてアルトリア・オルタがいるわけだが。

 

 

「ロマン、大空洞侵入はオルガマリーらに任せる。露払いは任せろ」

 

『えぇと……とりあえずなんで聖杯が山……円蔵山の中にあるって事を知ってるのかは深く聞かないとして……通信遅くないかなぁ?』

 

「しょうがないだろう。レイシフトした先の周囲にマシュらの反応がなかったのだから通信も何も無い」

 

 

 穂群原学園を出て数分後にいきなり俺の端末にロマンからの通信が入りこうしてこちらの動きを報告していた俺は怪訝な表情のロマンに対応する。

 

 

『合流してない理由は?』

 

「少なくともここへ来るのは二度目である以上、ある程度動ける。それで情報を集めていたからだ」

 

『…………本音は?』

 

「オルガマリーの説教もとい癇癪から逃れる為」

 

 

 俺の本音を聞くとロマンは自分の額をパチンと手で叩き呆れた様な表情で俺を見てきた。

 

『君なぁ……そんなに所長の事、嫌いなのかい?』

 

「いや?少なくとも上司として癇癪を不満無く受け止める気概はあるが」

 

『いやいや、そうじゃなくてね……』

 

「ともかく、だ。オルガマリーに伝えておいてくれ……説教諸々はカルデアに帰還したら聞くと」

 

『ちょ、ランシ────

 

 止めようとするロマンとの通信を切り、俺は背後のトリスタンに声をかける。

 通信中にエミヤの狙撃が来た時の事を考え、見張りを任せていた。如何にエミヤといえどもシャドウとなっていて、更には円卓の騎士トリスタンならば容易く迎撃できるだろうと判断した為だ。

 

「トリスタン、俺らは予定通りこのまま円蔵山に行く」

 

「…………」

 

「……トリスタン?」

 

 返事がない。

 俺は嫌な予感がして急いで振り向けば……

 

「(っ˘ω˘c )スヤァ……」

 

「…………」

 

 

 …………。

 …………嗚呼、駄目だこの眠り豚。

 俺はキャメロットにいた時よりも駄目になった同僚を見てそんな事を感じてしまった。

 俺のサーヴァントがこんな眠り豚な筈がない……これで二次小説一本書けそうだな……書かないが。

 とりあえず、俺は落ちていた木の枝を拾い上げて『騎士は徒手にて死せず』で宝具化させトリスタンの脇腹を殴りつける。

 

「イゾルデッ!!??」

 

 予想以上の威力が出たのか殴りつけられたトリスタンは錐揉み回転をして近くの薮の中に突っ込んでいった。

 俺はただそれを白い目で見ているだけ。

 うん、トリスタン置いてこう。

 

 

「起きたら追ってこい」

 

 

「…………」ポロロン

 

 

 とりあえず返事は返ってきたので俺は一人先に大空洞へと向かった。

 

 この後数分たって漸くトリスタンは追いついた。

 

 

 

────────────

 

 

 

「そう……そう…………」

 

 特異点となって使われなくなった学校で休んでいた中唐突にドクターから通信が来て所長がドクターの話を聞き始めてから数分……その、なんというか、所長は笑っているんだけども目が笑っていなかった。

 怖い……私とマシュは同じ事を思ってたのか身を寄せあって少し離れた所から所長を見ていた。

 

「あの……男……なにが『所長の説教もとい癇癪から逃れる為』よ。……この私をそこまでコケにした挙句、自分はここに来ないでロマンに伝言?喧嘩でも売ってるのかしらッ!!!」

 

 

『しょ、所長、お、抑えてください……ラ、ランシアだって悪気があったわけじゃ…………』

 

「少なくとも悪気ないならさっさとここに来て謝罪の一つはするものでしょう!?」

 

 ごもっともです。……とりあえず私に矛先が向けられるのはいやなのでこっちに来てください……。

 まだ会ったことも無い、ランシアさんに私はただ祈る。

 

「……なあなあ、嬢ちゃん」

 

「へ?何ですかキャスターさん」

 

「そのランシアって奴はよ、どんな奴なんだ?見た目とか」

 

「見、見た目ですか?……濃紺の髪を後ろで一括りにまとめてまして……後は何時もスタッフの制服の上にコートを着てますね」

 

 マシュにランシアさんの見た目をいきなり聞いたキャスターはマシュの言葉に、指で顎を擦りながら考え事?をしていた。

 そして、何か分かったのか納得したような表情で顎を擦るのをやめて、口を開いた。

 

「そりゃ、あの蟲の群れ相手に無双してた魔術師か」

 

「へ?」

 

「蟲の群れ、ですか?」

 

 キャスターの口から出てきたのは意外な言葉。

 虫の群れ?虫ってあの虫?……その群れって言うと藪蚊とか?

 

「いやいや、ちげぇよ。お前さんの頭ぐらいの大きさの蟲が群れてやがっててよ。俺はうっとおしかったから避けてたんだが、そんな見た目の魔術師が魔術使ったりして無双してやがったよ」

 

「……それ、早く言うべきだったんじゃないかな」

 

「いえ、先輩、我々がランシアさんの話題を出していなかったのでしょうがなかったのでは……」

 

「悪ぃ悪ぃ、今の今まで忘れてた」

 

 まったく悪びれないキャスターに私はため息をついて所長の方を見る。

 どうやら、ちょうど良くドクターの通信も終わり、ここにいないランシアさんへの色々なアレが収まったようだ。

 

 

「立香、マシュ、そしてキャスター……我々はこれからこの特異点Fの原因とも言える聖杯がある円蔵山の大空洞へと赴きます。休息は取れたわね?」

 

「はい!」

 

「はい」

 

「お、ようやくか」

 

 どうやら遂に本丸へと向かうようだ。不安だけども何だかワクワクしてきた!

 …………でも怖いなぁ。

 マシュに助けてもらおう。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 大空洞の奥底で一騎の英霊が閉じていた瞳を開いた。

 竜の如き金眼とその身に纏う重装備と漂わせる王威は見る者に畏怖の念を抱かせるモノ。

 黒く染まれどもその根本は変わらぬ星の造り上げたラスト・ファンタズムたるその聖剣はただあるだけで周囲に圧をかけている。

 その担い手たる英霊はその金眼で何を見ているのか

 

 

「……来るか」

 

 

 

 彼女には嘗ての師のような見通す瞳は無いがその代わりに未来予知に等しい直感を持つ。

 されど、それは反転した事によりワンランク下がっている。だからどうした。

 

 

「ああ、お前の事ならば手に取るように分かるぞ」

 

 

「ほう、いったい誰が来るのかねセイバー」

 

 

 

 そして、大空洞に訪れる人影が一つ。

 冬木に現れていたシャドウと同じように黒い影になりかけている一騎のサーヴァント。

 彼女はそのサーヴァントに鋭い視線を向ける。

 

 

「……アーチャーか」

 

 

 彼女が反転してから一番最初に討ったサーヴァント。どういう理屈か他のシャドウサーヴァントと違い、未だに理性を保っている。

 その事が彼女は何より不可解だが、もはやそれはどうでもいい事として切って捨てる。なぜなら求めているものがすぐそこまで来ているが故に

 

 

「……貴様には外敵の狙撃を任せた筈だが?」

 

 

 不可解さ故に彼女は己のいる大空洞からアーチャーを離すために他のサーヴァントの狙撃を命じていた。だが、アーチャーはこうして大空洞にいた。

 

 

「なに、キャスターとそのお仲間である異邦人がここを目指して来るようなのでね。先回りというわけだ」

 

「…………」

 

 

 彼女はアーチャーの口調に苛立ちを感じ、その黒き聖剣をアーチャーに向ける。

 

 

「生憎だがここに来る者らを討つのはこの私の仕事だ。失せろ」

 

「…………」

 

「……ついでに言うが私は奴ではない」

 

 

 邪魔だ、という彼女の言葉に無反応だったアーチャーは彼女の続けて出た言葉に表情や行動に出ないものの僅かではあるが反応した。

 それを目敏く見つけたのか彼女は目を閉じ語る。

 

 

「この身は反転体……奴が私になった時点でこの霊器は別人だ。何より奴と私では決定的に違うものがある」

 

「…………属性、かね」

 

「否。愛だ」

 

 

「……何故、そこで愛ッ」

 

 

 彼女の口から出た言葉にアーチャーは顔を歪ませ疑問を吐く。

 反転する前の彼女はいったいこんなんだったか、という差異から来るものだろう。

 

 

「無論、奴にとて愛はあろう……ああ、未熟な一人の魔術師……嘗てのマスターにな?だが、私は違う」

 

「…………」

 

「この私が愛するのはアレだ。略奪愛?全く以て知らんな、あの国にあるものは私のモノだ」

 

 

「…………」

 

 

 アーチャーは頭を抱える。

 嘗て共に戦った憧れの騎士王が反転するとこうなる事を知ってしまったがために。

 こんな事を知る事になるなら中には来ずに入口付近で待っていればよかった、と。

 暫く反転する前の別の自分との差異を語った彼女はアーチャーを睨みつけ

 

 

「だから、とっとと失せろ。貴様の憧れた女はここにはいない。ここにいるのはオルタだ」

 

「……なるほど、よく分かった。私はもう何も言わん……好きにしてくれ」

 

 

 疲れた表情でアーチャーは大空洞の最奥から出ていった。

 後に残ったのは彼女だけ。

 

 

 

「…………来い、人理の為とはいえ、そう易々と私は敗れるつもりは無いぞ。我が騎士よ」

 

 

 黒き反転体は大空洞で湖の騎士を待ち続けている。

 

 

 




今回もここまで読んでいただきありがとうございます

そういえばランスロットの声ですが……原作とは違いほとんどカルナさんと同じと思ってください。

アルジュナ「カルナが二人ッ!?」声だけ聞いて


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赤と湖

少し急ぎ足の気もしますが、作者の技量的に下手に伸ばすときつくなるので。

休み?思いついた時にやらねば……
某美食屋も思い立ったが吉日、その日以外は全て凶日です。



 

 

 

 

 

「それで、キャスター。大事な事を確認していなかったのだけれど」

 

「んぁ?なんだよ」

 

 私たちは大聖杯?のある大空洞という所を目指して山登りを始めてから五分ほど……中腹に差し掛かった所で唐突に所長がキャスターに話を切り出した。

 ところで所長、所長なんだか体力とかなさそうなのに意外とあるんですね。

 

 

「セイバーのサーヴァントの真名は知ってるの?何度か戦っているような口ぶりだったけど」

 

「そういえば、言ってなかったような」

 

 たしか、セイバーが強いとかなんだとかは言ってたけども真名に関しては一言も言ってなかった気がする。

 別に黙ってたわけじゃなくて、多分言うタイミングが無かっただけなんだろうけども。

 キャスターは所長の質問に少し間を開けてから答え始めた。

 

 

「……ああ、知ってる。奴の宝具を食らえば誰だって真名……奴の正体に突き当たる。他の奴らがやられたのだって、奴の宝具があまりに強力だったからだ…………」

 

「強力な宝具……ですか?」

 

「ようするにそれだけ有名って事だよね…………ねえ、もしかしてその宝具ってエ」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

騎士王と誉れ高い、アーサー王の持つ聖剣だ」

 

 私の言葉を遮って、唐突になんだかイイ声が解説をしてきた……というかやっぱりエクスカリバーじゃないですか、やだー。

 だよね、セイバーって剣使いでしょ?それで有名で強いって言ったらエクスカリバーのアーサー王ぐらいだよー。え?ヤマトタケル?たしかにあの人天照の子孫だからアーサー王以上だけれども、世界的な英雄ではないから。

 あと、とりあえず、

 

「誰ッ!?」

 

「アーチャーのサーヴァントッ!?」

 

「おう、言ってるそばから信奉者の登場だ。相変わらず聖剣使いを護ってやがんのか」

 

 

 キャスターの言葉と同時にちょうど私たちの背後の高所から現れるのは黒いインナー?みたいな軽装に弓を構えたちょっと肌が黒っぽい白髪の男性……。

 所長が言ったが……この人がアーチャーのサーヴァント。アーチャーって事は遠距離狙撃で……つまり、私たちがレイシフトして最初に狙撃してきたのはこのサーヴァント?

 

 

「信奉者なんぞになったつもりは無いがね。それと別に護ってはいないさ、ただ彼女に厄介払いついでに外敵の狙撃を命じられていてね」

 

「ハッ、んだよ、黒い奴とは仲が悪いってか?いいぜ、丁度いいここらで決着をつけるとするか!」

 

「魔術師になってもその性根は変わらないと見える……文字通り、この剣で叩き直して、ッ!!」

 

 やっぱり、狙撃してきたのはこのサーヴァントだったんだ……。

 と、アーチャーのサーヴァントがキャスターの売り言葉に買い言葉で返そうとしたところでアーチャーが唐突に横へ回避した。というかアーチャーなのに何故に剣。

 …………いま、なんか音がしたような……どっかで聞いたような。

 と、私たちが通ってきた道の方から誰かの足音と声がした。

 

 

「おや、良い眼をお持ちのようだ」

 

「この場合は目じゃなく耳の気がするが忘れておこう」

 

「ラ、ランシア!!」

 

「ランシアさん!?」

 

「…………あれがランシアさん……じゃあ、あの赤い人は?」

 

 現れたのは濃紺の髪をポニーテールにしたドクターに似た制服の上にコートを羽織った高身長のイケメンの人と鎧?まるで物語に出てくるような騎士の格好をした赤い長髪の寝てるんじゃないか、と思う細目の男の人……多分あの人もサーヴァントなのかもしれない。

 あの人が件のランシアさんなんだろうけども…………なんだろう、予想してたのはドクターみたいなちょっと不真面目な人だったんだけどもどう見てもボイコットなんてしそうにない人なんだけれども!?

 というか短時間に人が集まりすぎでは……

 

 

 

「……ロマンに頼んだ伝言通り露払いは任せてもらおう。それぐらいはやらねばな」

 

「おいおい、そいつは……」

 

「キャスター……悪いがこちらは散々狙撃されたんでな。その鬱憤を晴らさせてもらう…………行け」

 

「…………たくっ、わかったよ。んじゃ嬢ちゃんら、ここはアイツらに任せて俺らは大聖杯ンところに行くぞ」

 

 獲物を盗られたキャスターは若干不機嫌そうな表情を見せたけどすぐに元の表情に戻り、所長の方へ向き直り先へ促す。

 多分ランシアさん?と一緒にいるのはサーヴァントなわけだろうから私たちがいなくても大丈夫だろうけど…………。

 ただ、不安なのはいままで戦ったサーヴァントのアサシンやライダーが影みたいな存在だったのに対してあのアーチャーのサーヴァントは影みたいじゃない……キャスターみたいな普通の見た目だ……それだけが私の不安。

 

 

「ちょっと、ランシアあんたねぇ!……ああもう、カルデアに戻ったら覚えときなさいよ!!」

 

「ランシアさん御武運を!!」

 

「…………その、頑張ってください」

 

 走って先に行く所長、マシュ、キャスターの後を私は走る。

 あのランシアさんがどんな強さなのかは知らないけれど、あの赤い長髪の騎士に頼るしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………カルデアに戻ったら、か」

 

 俺は決して叶わぬ約束を口にする。

 如何に俺の置換魔術が人間の域を越えているとはいえ、彼女の魂が、精神がカルデアスで焼かれる以上、人形にも置換は不可能だ。

 いや、可能ではあるが。俺はそれをしない。決して。

 

 この身が反転せぬ限り、黒く堕ちぬ限り、俺は魂を精神を人形には置換せん。

 

 俺は大空洞へと向かったオルガマリーらを見送りアーチャーを見る。

 アーチャーはアーチャーらしい挑発めいた表情でこちらを見ている。

 

 

「いいのかね?サーヴァント3人がかりなら勝利は確実だが?」

 

「おや、異な事を。何処の英霊かは知りませんが……罪深き身であれどこの身は円卓に名を連ねた騎士…………そう甘く見ないでいただきたい」

 

「そういうわけだ。アーチャーのサーヴァント、正直にいえばシャドウではない事に些か驚きはしたが……」

 

 

 そう、アーチャーがシャドウではない事が俺に驚きを与えた。

 ランサー、アサシン……ロマンとの通信からライダーもシャドウだったらしいが……奴はシャドウではない……それはつまり、宝具を使う可能性が高い事だ。

 さて、アーチャーはトリスタンの弓に目をやる。恐らく、トリスタンの円卓という言葉に反応したのだろう……円卓は奴にとっても無視出来る言葉ではないはずだからな。

 

 

 

「なるほど、その弓、そして円卓の騎士……トリスタン卿というわけか……いやはや、抗わせてもらうとするか」

 

「では、しばし我が琴の音に傾聴してもらいましょう」

 

 

 魔術回路を起動させ、アーチャーとの戦闘に備える。

 トリスタンへの支援魔術も……同時に発動させる。

 ただのサーヴァントならトリスタンへの支援など要らんだろうが…………目の前のサーヴァントは別だ。

 

 

「トリスタン、出し惜しみは無しだ……早々に片付ける」

 

「ええ」

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 戦いが始まりしばらく経つが場はトリスタンの優勢であった。

 

 

────ポロン、ポロロン

 

 たて続けに鳴り続ける琴の音がアーチャーへと迫りゆく。

 矢を番え引き射る、弓に必要な最低限の動作を省いたトリスタンの音の刃は次の矢を射つのに挟む時間は一切無く。

 アーチャーに接近するという時間を与えず、矢を番えるという時間を与えない。敵に決して思うように動かさせないトリスタンの攻撃は事実アーチャーの動きを阻害していた。

 

 

「クッ、私に攻撃をさせないつもりか!」

 

「生憎だがアーチャーの癖にそういうモノを使うという事は何らかの秘密があるのだろう?それに、こちらは無傷ですむならそれでいいんだな」

 

「騎士としてどうかと思いはしますが…………この戦いに負けるわけにはいきませんので、ここはこうして圧倒させていただきます」

 

 

 正直に言えば最低限の騎士道さえ守れればランシアは初手宝具、恐らくアイアスで防がれる可能性のが高い、アイアスの解除と共に俺が斬ればいいのだがな。

 まあ、トリスタンの為だ。此処はトリスタンに委ねるとしよう。と考えているのだがランシアはそれを胸にしまっておく。

 

 

「ならばッ!」

 

「ぬ、これは!」

 

 

 トリスタンの琴の音による間隙の無い刃の檻に囚われたアーチャーは干将・莫耶を投擲した。

 干将・莫耶は間隙の無い筈の刃の檻を抜けそのままトリスタンとランシアへと迫るがやはり、円卓の騎士である二人にとってそれは容易く避けられるもの。

 ランシアはやや、その意図を理解するが何もしない。

 

 

「なるほど、私の音が届く前に新たな刃を創りだせる……矢は番えずともその程度の余裕はあるのですね」

 

「生憎、いくらでも出せるのでね。さて、そちらはこのままでいいのかね」

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

「何、言葉の通りだよ。如何にキャスターがいれども未熟なサーヴァントもどきが足を引っ張ってしまえば彼女に勝てるとは思えん」

 

 

 挑発ともとれるアーチャーの言葉にトリスタンはやや顔を顰める。

 なるほど、キャスターはともかく少女マシュでは大空洞にいるというあの英霊に勝つ事は難しいだろう、しかしトリスタンは友であるランスロットがマシュたちに任せたのを信じその挑発を無視する。

 そして、

 

 

「トリスタンッ!!後ろだ!」

 

「ッ────!」

 

 

 背後からトリスタン目掛けて回転する先ほど投擲した干将・莫耶にランシアは寸前で気が付きトリスタンに叫ぶ。

 それによりトリスタンは迫る干将・莫耶を回避する事が出来た……だが、それは先ほどのように数歩移動する程度のものではなく急な事であったために大きく飛び退いた。

 その間、トリスタンは妖弦フェイルノートを弾いておらず

 

 

「────I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

「……これはっ!?」

 

 

 問題のアーチャーの方を向いたトリスタンに待っていたのは螺旋状の刀身が矢のような形状になった歪なソレを弓に番えていた。

 トリスタンはソレに込められた魔力に驚き一歩後退する。だが、すぐさまフェイルノートの弦に指を添え、放とうとして

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグII) !!」

 

 

 トリスタンよりも先に空間すらも捻じ切らんとする一撃が放たれた。

 

 

 

「…………円卓の騎士……と言ってもこれ程の距離でならば……ただではすまないだろう」

 

 

 円卓の騎士とてひとたまりもない一撃にアーチャーは一瞬だけ気を緩ませたか。しかし、それはやってはいけないことであった。

 

 

 

 

 

「そうだな。あの距離で食らえば日中のガウェインでなければ……あるいはだな。だが────起きろ」

 

「なッ────!!!???」

 

 

 唐突に背後から聴こえた声にアーチャーは振り向き、背後から身体を断ち切られた。

 声のした方には何もなく、先ほどまで見ていた方向からの一撃。

 崩れゆく身体、意識が遠のき消えてゆく中、アーチャーは己を斬った者を見る。

 それは美しい剣だった。

 月夜の湖面の如き美しい剣。

 それは嘗て彼が憧れた一人の女騎士の持っていた剣のように人の心を掴んで離さない星の聖剣、その一振り。

 

 

「……そう、か…………君も……英霊だったのか」

 

 

 その言葉を残してアーチャーはその身体を消滅させた。

 後に残ったのは、あの一撃があったというのにどうやったのか無傷のままで聖剣を握ったランシアとトリスタン。

 

 

「…………いくぞ、トリスタン」

 

「ええ……行きましょう」

 

 

 

 

「……(カラドボルグ……空間を捻じ切る一撃……保険があったとはいえ後少し置換が遅ければ…………些か傲慢が過ぎたか)」

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
今度こそ明日は休みます。

ちなみになんで先に行ったランシアらがオルガマリーらの後ろから来たかというとルートが違う上にトリスタンが来るのが遅かったからです

少し変えました


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大聖杯は目前

休みって何なんだろうね
明日は未来さん。20連で当たるかなー


 

 

 

 

 大聖杯?に向かって洞窟を進んでいく私たち。大聖杯という重要物がある洞窟と聞いて相当な難所と思ったが時折上がったり下ったりするものの特に辛いと思うような事は無い。

 

 あと、どれぐらい進めばいいのだろうか、と思った頃に前を歩いていたキャスターが足を止めてこっちに振り向いた。

 

 

「……と、そろそろ大聖杯だ。どうする、ここらで一度休憩とるか?」

 

「……ううん、大丈夫」

 

「そりゃ頼もしい。ここ一番で胆を決めるマスターは嫌いじゃない。

まだまだ新米だが……お前さんには航海者として一番必要なもんが備わっている」

 

「それって?」

 

「運命を掴む天運と、それを前にした時の決断力だ。……その向こう見ずさを忘れんなよ?そういう奴にこそ、星の加護って奴が与えられる。きっとこれからも必要になるだろうからな」

 

 

 天運と決断力……運は無い方だけど……決断力は…………うん、とりあえずだいたい何とかなってるはず。

 でも……向こう見ずさってマイナスのイメージしかしないな。暗に猪って言われてる気にしかならないし……

 というかこれからって何?これで終わりなんじゃ…………

 

 

「……それってどういう」

 

「ちょっと、止まりなさい!なんで2人してサクサク進んでるのよ!?休憩させないよ!!」

 

 

 と、私がキャスターに聞きかけたところで後ろから所長の怒鳴り声が聞こえた。

 でも所長は体力あるんじゃなかったのかな。山登ってたし。

 そんな所長の様子にキャスターは頬をポリポリとかきながら笑う。

 

 

「あー、だってよ嬢ちゃん」

 

「あ……すいません普通に忘れてました」

 

「アンタねぇ!?」

 

「その、先輩は体力というかその足腰が強いんですか?こんな足場の悪い洞窟でもスイスイ進めてますけど」

 

 

 いやー、しょうがないじゃないですか。前を進むキャスターについて行ってたんですから……これぐらいは見逃してほしいですよ。

 さて、マシュのしてくれた質問に少し私は良い気分になる。

 

 

「うん。こういう洞窟とかなら、おじいちゃん家の近くにあるからさ。ちっさい頃によく遊んでたんだよ」

 

「なるほど……」

 

 今思い出すだけでもおじいちゃん家の周りには色んなものがあったな。天然の鍾乳洞もあったし大きな熊や猪が出るような山もあったし、夏は従兄弟と集まって沢で釣りもしたなぁ……。

 

 

「……はぁはぁ……ロマン、きちんとバイタルチェックしてるの?あんな風にサクサク進んでこんな事言ってるけど立香の顔色、普通より悪いわよ?」

 

『え!?あ……うん、これはちょっとマズイね。突然のサーヴァント契約だったからかな、使われていなかった魔術回路がフル稼働して脳に負担をかけてる』

 

 

「……うーん、いつも通りな気がするんだけどな」

 

 ドクターと所長の言葉に私は少し疑問を感じた。顔色が悪いとか脳に負担とか言われても私はいつも通りなんだけれど……。

 それに私よりも所長の方が疲れてそうなんだけど………

 

『実際バイタルチェックがそう言ってるんだよ……マシュ、キャンプの用意を。温かくて蜂蜜のたっぷり入ったお茶の時間だ』

 

 

「了解しましたドクター。ティータイムには私も賛成です」

 

 ドクターはなんだか呆れたような口調で言うけど……

 あ、蜂蜜のたっぷり入ったお茶は飲みたい。

 

 

「お、決戦前の腹ごしらえかい?んじゃイノシシでも狩ってくっか」

 

「え?いるのイノシシ?なら狩ってきてー」

 

 

「いないでしょ、そんなの。それより肉じゃなくて果物にしてくれない……」

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「うーん、たまに食べるドライフルーツって美味しいね」

 

「そう、それは良かったわ。頭痛には柑橘系が効くのよ。それより────」

 

「……………………」

 

 

 所長から貰ったドライフルーツをつまみながらお茶を飲んでいた私を、何故か知らないけれど所長はじっと見てる。

 なんだろうか……また、私は怒鳴られるような事したっけ?

 ドライフルーツを食べてるだけで……はっ!?もしかして

 

「おかわりですか?」

 

「一杯で十分よ!それと、私は紅茶より珈琲派だと覚えときなさい!……いえ、そうじゃなくて……ああもう!」

 

「?」

 

 

 いえ、言うならハッキリ言ってください

 

 

「こ、ここまでの働きは及第点です。カルデアの所長として、あなたの功績を認めます」

 

「…………」

 

「……ふん、なによその顔。どうせまぐれでしょうけどここにいるのが今は貴女だけなのよ……ランシアは一人勝手に動いてるし……。ともかくその調子でうまくやれば褒めてあげてもいいってコト。三流でも一人前の仕事は出来るんだって分かったし」

 

「…………」

 

『なんと……立香ちゃんを一人前と認めてくれるなんて、何か甘いものでも食べました?』

 

「所長がデレた……だと?」

 

 

 いや、ほんと。

 いままでツンツンだった所長が遂に私にデレてくれた?でも生憎私はノーマルで……あ、でも所長はなんだか弄るととても楽しくなりそう。

 と、ドクターの揶揄いに所長はまた若干不機嫌そうな表情をして

 

 

「ロマン、無駄口を叩く暇があるなら立香に救援物資の一つでも送りなさい。あと、デレてないわよ」

 

 

 ええー、ほんとでござるかー?

 …………これなんのネタだろう。

 私、知らないんだけど……うーん、でも出てきたって事は知ってる筈だし……まあ、いいや。

 

「キャアアアッ!?」

 

 と、所長の悲鳴がした。すぐさまそっちを向けば

 

 

『────』

『────』

『────』

 

 

 大量の骨でできた何か変な奴!街の方に出てきた骸骨と違って人骨の形をしてない!?

 

 

『竜牙兵だ!大聖杯が近い証だ、街の方に出てきたスケルトンとは少し違う!』

 

「だが、まあ、サーヴァントからすりゃどっちも雑魚に変わらねぇがなぁ!」

 

 

 ドクターの注意勧告を無視するようにキャスターは持ってた杖でその竜牙兵?を殴り砕いた。

 待て、お前キャスターだろ?魔術師だろ?いや、ライダーとの戦いで若干怪しかったけどさ……とりあえず

 

「キャスターが白兵戦ってなにさ!?」

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「さて、面倒な事になったなトリスタン」

 

「ええ……まさか、こんな事になるとは」

 

 

 

 大空洞前の見晴らしの良い開けた場所で赤髪の騎士トリスタン、そして全身を黒い騎士甲冑で覆い濃紺の布を付けた大盾と剣を持った騎士。

 その眼前に立つのは影に濡れた巨人。

 

 

『────────!!』

 

 

 アーチャーのサーヴァントを討った直後に木々を砕きながら現れた巨人。

 それを前にトリスタンと騎士は冷静に観察していた。

 

 シャドウ化しているという事を考えれば宝具は使えず、ステータス低下がある。円卓の騎士である二人からすれば如何に目の前の巨人が高位の英霊としてもこの二つの条件がある以上、十分に倒す事が出来るシャドウサーヴァントであるが……。

 

「ランスロット……いけますか?」

 

「……問題ない。宝具も無く、ステータスも低下している以上、俺とお前の敵にはなれん……いくぞ」

 

『────────!!』

 

 騎士、ランスロットはその大盾と剣を擦り合わせ改めて構える。

 トリスタンは妖弦フェイルノートの弦に指をかける。

 巨人────バーサーカーのサーヴァントは一切構えずただ咆哮を上げてランスロットとトリスタンへと突っ込んでくる。

 

「では…………始めましょう、悲しみの歌を」

 

「魂に刻め────我が湖光を」

 

 

『────!!』

 

 

 突っ込んできたバーサーカーを真正面でその大盾をもって受け止めるランスロット。脚がしっかりと地面に踏み込まれ、バーサーカーの突進をものともせずむしろ少しずつ押し始めるランスロット。

 そして、トリスタンは既にバーサーカーの背後へと回りたて続けに琴を弾きその音の刃を放ちバーサーカーの身体を刻んでいく。

 

 

「トリスタン!」

 

「ええ……お任せを」

 

 

 ランスロットの言葉にトリスタンは一定の距離をとり、それを見たランスロットはその大盾でバーサーカーを上に殴り飛ばす。

 

『────!!』

 

「……来い」

 

 殴り飛ばされようともバーサーカーはそのままランスロットへと落下する。

 落下の勢いでランスロットを押し潰すつもりなのか、しかし────

 

 

「────痛みを歌い、嘆きを奏でる」

 

 

 落下するバーサーカーへと先ほど以上の音の刃が殺到する。先ほどよりも深く深く深く刃はバーサーカーを刻んでいく。

 そして、かなりの魔力がトリスタンの妖弦フェイルノートに溜め込まれ、トリスタンは弦を掴み弓のように引き絞り

 

痛哭の幻奏(フェイルノート)

 

 

 無数の音の刃が絡み込み、バーサーカーの落下する身体が一瞬止まり

 トリスタンは再び引き絞る。先ほど以上の魔力の高まりを放つ

 

「これが、私の矢です」

 

『────ッ!!??』

 

 

 放たれた一射はバーサーカーの半身を抉り飛ばし、そして

 

「……起きろ」

 

 ランスロットの魔力を纏った剣がバーサーカーの残った半身を両断する。

 

『………………』

 

 消滅するバーサーカーを背にランスロットとトリスタンは洞窟へと足を踏み入れた。

 

 




次回で我らが黒王様ですね。
ちなみになんでヘラクレスがいるのかというと実はエミヤ戦の一部宝具解放の魔力の余波に反応して来ました(速すぎる

活動報告でオルレアンの予告紛いなものがあるので見てない方はどうぞ。



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大空洞の戦い

黒王メイドラスト……当たるかな


 

 

 

 

 

「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……、なんで極東の島国なんかにこんなのがあんのよ」

 

 

 暗いがほのかに明るい場所、大空洞に辿り着いたオルガマリーらが見たのは大聖杯。

 この冬木の土地を聖杯降霊に適した霊地に整えていく超抜級の魔術炉心がそこにあった。

 オルガマリーの口から零れるのは畏怖。それは恐ろしい程の魔力を溜め込んだ大聖杯とそんな大聖杯を創った存在へ抱いた感情。

 

 

『……資料によると、制作はアインツベルンという錬金術師の大家だそうです……魔術協会に属さないホムンクルスだけで構成された一族のようですが……』

 

「と、悪いな。お喋りはそこまでだ……奴さんに気づかれたぜ」

 

 

 ロマニによる大聖杯についての補足を遮る様にキャスターは喋った。

 その眼と杖は大聖杯の前に立つ一騎のサーヴァントに向けられていた。

 

 

「……な、なんて魔力……あれが、本当に……あの、ブリテンの騎士王……アーサー王なんですか?」

 

『……間違いない。何故か変質している様だけど、彼女はブリテン島の王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、きっと事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう……』

 

『ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろう? お家事情って奴で男のフリをさせられていたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんっとうに趣味が悪い』

 

 

 膨大な魔力を滲み出させながら大聖杯の前に立つサーヴァント、アーサー王の姿にマシュはアレがアーサー王なのか、と疑うがそれをロマニは否定しアレはアーサー王なのだと語る。

 最後のマーリンについて語る時にまるで見たか会ったか、知っているかのような口調と表情だったがそれに反応し追求する者はいなかった。

 

 

「……え? ホントだ……真っ黒で重厚そうな鎧を着てるけどあのサーヴァント……女の人だ」

 

「はい、そうみたいです……先輩、眼もいいんですね」

 

「おい、見た目は華奢だが甘く見るなよ?アレは筋肉じゃなくて魔力放出でカッ飛んでくる化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い……気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

 

「……はい、理解しました。全力で応戦します」

 

 

 アーサー王の性別に気づく立香とマシュに女だからと甘く見るな、と警告するキャスター……その語る表情はとても苦々しい顔。

 そして、そんなキャスターの警告にマシュはその大盾を握る手に力を込める。内から感じる何かに気づかず。

 

 

「――ほう、面白いサーヴァントがいるな」

 

「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!? ……いや、あの弓兵野郎が命じられた……つってたな」

 

「何を語っても見られている。故に案山子に徹していた……だがまあ、あのサーヴァントがうっとおしかったので、厄介払いついでに邪魔者の排除を命じたな」

 

 

 アーサー王が喋れた事にキャスターは驚きつつも大空洞を目指す前、山を登っていた時に出会ったアーチャーの言葉を思い出し納得する

 冷徹さを感じさせるアーサー王の言葉にオルガマリー、立香、マシュは冷や汗を垂らす。

 そのプレッシャーは距離があっても感じられ、特にアーサー王のその視線を向けられたマシュは一瞬硬直した。

 

 

「────面白い、その宝具は面白い」

 

 

 マシュ、いやマシュの持つ盾を見てアーサー王はそう呟き黒く染まった聖剣を向ける。

 

 

「構えるがいい、名も知らぬ娘。奴が来るまでの手慰みとして、その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!!」

 

「来ます────マスター!」

 

 

 特異点Fにおける最後の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「ふん」

 

「くっ!」

 

 

 アーサー王の振るう黒い聖剣は容易く、盾で防いでいる筈の私を押してきます。

 強すぎる。

 ただ、私の中でその言葉だけが反響し、焦らせていました。

 私ではアーサー王に勝てないのではないか、と。

 

 

「ふん、あまりに脆い!」

 

「きゃあっ!?」

 

 

 先ほどよりもやや力の篭った一撃を盾に叩きつけられ私はまるで木の葉のように吹き飛び…………ッ

 身体に簡単に傷がついていく。時折後方で支援に徹している先輩と所長からの魔術で傷は修復されますが……それでも失っていく体力は戻りません。

 

 

「蹂躙してやろう」

 

「あ」

 

 

 吹き飛び倒れ伏す私にアーサー王はその黒い聖剣を振り上げ

 

 

「おいおい、相手は嬢ちゃんだけじゃねぇぞ!!」

 

「チッ!」

 

 横合いから飛んできた何発もの炎がアーサー王へと迫った事でアーサー王は私の近くから離れた。私は急いで立ち上がり盾を持って助けてくれたキャスターさんを見ます。

 

「ありがとうございます、キャスターさん」

 

「おう、気にすんな。こっから先は俺に任せとけ……なぁに、勝機はあんでね」

 

 

 そう言って駆け出すキャスターさん。

 その背を見て私はただ不甲斐ない感情が胸に湧いてきたような気がしました。

 

 

 

 

「アンサズ!!」

 

 

 駆けるキャスターさんの声と共に展開されるルーン文字からアーサー王目掛けて殺到する炎。

 全力ではないとはいえ、あの炎を何度も防いだ私はあの炎の威力を知っている。

 並大抵なら致命傷と言わなくとも十分な火力を出す炎。けれど

 

「目障りだ」

 

 剣を振るうだけで簡単にキャスターさんの炎は消し飛ばされてしまう。

 それでも、キャスターさんは怯まずに寧ろ笑って次々と炎を放っていく。

 

 

「…………すごい」

 

「あれが、正規のサーヴァント同士の戦い……」

 

『……しかも、片やブリテンの騎士王、片やアイルランドの光の御子……ですからね。並のサーヴァントが間に入ったらあっという間に倒されますよ』

 

 

 後方からそんな先輩や所長、ドクターの声が聞こえる中私は……あの戦いの中に入れない事にもどかしい思いが隠せない。

 今は先輩たちに見えるのが背中だけだからいいけども…………きっと、今の私の顔を見られれば…………とても辛いです。

 いえ、これから、そうこれから強くなっていきます……みんなを護れるように……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、いい加減に飽きてきたぞ。キャスター、貴様何を企んでいる」

 

「はっ、いいぜ。そんなにお望みってんなら見せてやらァ!!とっておきってなぁ!!」

 

 

 キャスターさんの戦い方に何かを察知したのかそう言うアーサー王にキャスターさんは力強く笑ってその手を地面に付けました。

 すると、アーサー王の足下から炎が吹き出して……って何ですかアレは!?

 

 

「き、木の人形!?」

 

「ウィッカーマン!?ドルイド信仰に出てくる木の人形!」

 

 

 巨大な木の人形はアーサー王の足下から現れます。

 流石のアーサー王もあの人形には驚きを隠せず

 

 

「なっ!?これはッ!!」

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社────」

 

 

 剣を構えながら人形の腕の上を駆けるアーサー王ですが、その重厚な鎧が足を引っ張ったのか人形の手に捕まりそのまま人形の中に入れられてしまいました。

 確かウィッカーマンはその中に収穫物や家畜を入れて燃やすという人形だった筈……つまり!

 

 

「くっ、この程度!」

 

「倒壊するは焼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!オラ、善悪問わず土に還りなァ────!!!」

 

 

 いつの間にかに燃えていた地面にアーサー王を入れた人形は倒れそのまま…………

 大爆発を起こしました。

 倒した、のでしょうか……?

 

 

「……ふぅ、ま、こんなもんかねぇ」

 

 

 とても疲れた様子でこちらを振り返るキャスターさん、でもその表情は満足気な笑みでした。

 キャスターさんがそんな表情をしたということはつまりアーサー王を倒したということで

 

 

 

「凄いですキャスターさん!」

 

「…………まさか、アーサー王を倒すなんてね」

 

「………………」

 

「はっ、これぐらい朝飯前……とはいかねえがまあ、これで大聖杯は何とかなるわけだが」

 

 

 はい、後は大聖杯をどうにかするだけ。

 これでこの特異点Fはなんとかなりますね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────まったくだ」

 

「なっ!?」

 

 

 キャスターさんの背後いまだ煙立つ場所から聞こえた声に私たちは硬直し、そしてキャスターさんの胸から黒い聖剣が……

 目の前で起きている事態を理解するのに数秒かけ、ようやく硬直が解けた私たちは各々の反応を見せる。

 

 

「キャスターさん!?」

 

「嘘っ、アレでまだ生きてるなんて……ッ!!」

 

「てめ、……流石にアレ食らって……それって、反則、過ぎん、だろ」

 

「ふん、あの程度火傷にもならん。何より私には会わねばならん者がいる。故に貴様は邪魔だ、『卑王鉄鎚(ヴォーティガーン)』」

 

 

あ────

 キャスターさんの胸を貫いていた黒い聖剣から漆黒の風の塊が放出され、キャスターさんの身体には大きな孔が!!

 

「────!!!……クソッ……ここで、だつ、らく、か」

 

 

 そう言い残してキャスターさんは…………

…………。

 

 

「さて、次は貴様だ。キャスターはもうおらず、いるのは未熟な貴様だけだ」

 

「あ……あ、ぁ」

 

「構えろ。その盾を私に見せてみろ」

 

 

 ゆったりとした歩みで私に向かってくるアーサー王に私は強い恐怖を覚える。

 同時にゆっくりと振り上げられた黒い聖剣には膨大な魔力が収束されていく。私は一歩退って

 

 

「マシュ!!」

 

「マシュ・キリエライト!貴女ならきっと……!!」

 

「……先輩!所長!」

 

 

 そうだ。私の後ろには先輩と所長がいる。

 私が、護らなきゃいけない。

 私は盾を構え、足腰に力を入れる。

 すると盾に魔力が流れていくのを感じる……これなら……!

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!」

 

「宝具、展開します……!!」

 

 

 

 眼前に展開される守護障壁。

 アーサー王の振り下ろした剣身から放たれた光すらも飲み込んでしまうのではないかと感じてしまう黒く染まった極光が仮想宝具の守護障壁に激突する!!

 

 

「ぁぁあああああッ!!!!」

 

 

 強い。

 アーサー王の宝具はその膨大な魔力そのままで守護障壁にぶつかってくる。

 それはいままで受け止めてきた一撃も比べものにならず私はその衝撃を殺しきれない。

 

 

 

「ぁぁぁぁあああッ!!!」

 

 

 止まらない。いったいどれほどの魔力が込められているのだろうか…………一向に宝具は止まらない。殺しきれていない衝撃が少しずつ少しずつ私の身体に影響を与えてくる。

 嗚呼……

 腕から力が無くなってくる………

 地面を踏み締める足から力が無くなってくる……

 心が折れそうになってくる……

 辛い。辛い辛い。苦しい苦しい。

 でも、でも…………背後から聞こえる先輩の声、所長の声、ドクターの声。私が折れればみんなが…………

 力の入らなくなってきた手足に力を込める。だけれど、それはあまりにも無情に訪れた。

 

 身体が重くなった。

 宝具が乱れ始めた。

 これ、じゃあ…………でも、私は……!

 

 

「はぁぁぁぁあああッ!!」

 

 

 あの人に合わせる顔がなくなる────!!

 

 

「見事────だが、それは空元気というものだ娘」

 

 

 アーサー王が発したその言葉と共に私の身体が軋む。

 それはアーサー王が宝具に先ほど以上の魔力を流し込んだからだろう。いくらこの宝具がアーサー王の宝具と相性が良くても、その際の衝撃に私自身が耐えれていない……きっと、私が私にその力を貸してくれた彼の真名を、宝具を私が知っていればきっとこんな事にはならなかったかもしれない。

 でも、それでも、

 

 

「から、元気と、言われ、ようとも!」

 

 

 全身で盾を支える。

 決して先輩たちに怪我をさせない為に。

 私は、マシュ・キリエライトは全力でここを護る!!

 

 

「どれほど、耐えられるか見物だな!!」

 

 

 更に魔力が高まる。

 意識が朦朧としてくる。

 それでも、それでも、私は……先輩を、所長を護るッ!!!!

 

 

「はぁぁぁぁあああッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駄目だ。

 身体が沈む。

 未だ息吹は止まらず。

 朦朧とする意識。

私は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────いや、卿はよくもった。後は私に任せてほしい……ああ、だが意識は強く持ちなさい。まだ寝るには早いのだから」

 

「あ」

 

 抱きとめられる身体。

 どこか懐かしいと感じられる声。

 朦朧としていた意識は次第にハッキリし、そこには貴方がいた。

 

 

 

「サーヴァント・セイバー。真名ランスロット・デュ・ラック……御生憎だが乱入させてもらおう我が王(マイロード)

 

 

 その湖光の剣で黒い息吹を切り裂き貴方はそう笑った。

 

 

 

────────────

 




マシュ視点で書くのはなんだか難しいですね。
なんだか変な感じです。

若しかしたら書き直すかもしれませんね……でも頑張りました
まさかのルビ振り忘れてました。

意見感想待ってます。

黒メイド……執事ランスロット……


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湖光と黒い極光

ふう、頑張りました。
未来さん20連……当たらず、泣こう



アロンダイトのランクを本来通りに戻しました


 

 

「サーヴァント・セイバー。真名ランスロット・デュ・ラック……御生憎だが乱入させてもらおう我が王(マイロード)

 

 

 崩れ落ちかけたマシュを抱きとめ、いまだ健在でマシュへと迫っていた黒き息吹をその剣で切り裂きながらランスロットはそう告げた。

 あまりにも唐突に現れたランスロットにマシュの後方、大空洞の入口に近いオルガマリーと立香は驚愕を隠せない。しかし、通信しているロマンだけはランスロットの姿に溜息を吐く。

そして

 

 

「……フ、フフ、フハハハハ!!!ランスロット!ああ、ランスロット、ランスロット!!」

 

 対峙している黒いアーサー王は先ほどまでの冷徹な表情から一変、獰猛な笑みを浮かべながら声を上げて笑う。

 そんなアーサー王にオルガマリーと立香はより驚愕し、ランスロットは頭痛がした。

 

 

「…………よく来たな。歓迎しよう……だが、生憎ここには特にこれといったものは無くてな。故に私手ずから歓迎の品をやろう────構えろ」

 

「…………なるほど、反転するとこうなるのか」

 

 

 笑いをやめたアーサー王はランスロットにその手の黒い聖剣を向ける。その表情は獰猛な笑みではあるが喜悦が感じられる。

 そんなアーサー王にランスロットは抱きとめていたマシュをランスロットのもとに来たトリスタンに預け剣と盾を構える。

 

 

「……トリスタン、手を出すなとは言わん。マシュをオルガマリーらに預けて速やかにこっちに来い……些か骨が折れそうだ」

 

 

「ええ、分かりました。元来の我らが王ならばともかく……あちらの黒い王は些か強大だ。さながら、ランス貴方を想い書いた少し残念なポエムを私やガヘリス、ボールスの前で音読したガウェインに憤激するガレスのよう」

 

 

 

「……何も聞かなかった事にする」

 

 

 マシュを受け取ったトリスタンはオルガマリーらのもとへ下がり、ランスロットは再びアーサー王を見る。

 

 

「……なるほど、トリスタンもいるのか。アレのことだ罪悪感にでも苛まれているのだろうが…………ランスロット、後でお前が何とかしておけ。私では余計にアレの傷口に剣を突き立てるだけだろうからな」

 

「なんとも……お優しい事だな。反転している故にもう少し悪辣かと思ったぞ」

 

「ふん、確かに反転した私はあの私より悪辣であろう。しかし、それはあくまで秩序があってこそ。無闇矢鱈に悪を振りまく訳では無い」

 

 

 トリスタンを一瞥し語ったアーサー王の言葉にランスロットは兜の中で呆れたような疲れた様な笑いを零し、纏う鎧と盾そして剣に刻んだ疑似魔術刻印及び疑似魔術回路を起動させる。

 聖杯によるバックアップを受けた黒いアーサー王の実力は本来のアーサー王以上のものと理解し万全の状態に整えていく。

 

 

「……大人しく負ける気はある、……わけないだろうな」

 

「無論。私を退かせたければ私を斬って見せろ。だが、こちらも負けるつもりは無い……お前の戦意を砕きこの人理が消えるまで共に過ごしてもらおう」

 

「…………何故に悪属性になると姉妹揃ってそう言うのか……」

 

 

 ランスロットは苦笑する。

 その脳裏に過ぎるのは生前の記憶。

 同僚の母親にまるで生娘の如き表情でその心中を吐露された時の記憶。

 ランスロットは目の前の反転した王と記憶の中の彼女が重なり今すぐにでも頭を抱えたくなるが頭を振り、腰を落とす。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………ッ、行くぞッ!!」

 

「湖光を刻め────」

 

 

 

 地面を蹴り、そのまま激突する────

 

 

 ランスロットは盾でアーサー王の黒い聖剣を受け止め空いている左手の剣で斬りにかかるがアーサー王はすぐさま横にズレそれを回避、流れるように魔力放出で勢いをつけた蹴りを放つがランスロットは盾を振るってアーサー王のその脚に殴りつけて止める。

 ランスロットはアーサー王の蹴りを止めてすぐ様、魔力を纏った剣を地面に突き立ててる。それにより発生した衝撃波は一瞬アーサー王の視界を奪い生じた隙にいつの間に盾を離したのかランスロットの右拳がアーサー王に迫る。

 だが、アーサー王は持ち前の直感でそれを避け、お返しと言わんばかりに黒い聖剣を振るいその剣圧をランスロットにぶつける。

 だが しかし それに対して けれども

 

 

 

 そんな、攻防一体の激突が数分にも満たない間に何度も何度も繰り返されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ、あれ……」

 

「……キャスターとアーサー王の戦いよりも……激しいと言うかおかしい」

 

「…………凄い」

 

「無論。それは仕方の無いことでしょう…………片や我らが誉れ高き騎士王の反転体、片や我らが誇りたる湖の騎士のぶつかり合いです。あの戦いに首を突っ込むなど我ら円卓の騎士でも難しい」

 

 

 二騎の戦いが先ほど見ていた戦い以上のものである事にさっきから驚きっぱなしのオルガマリーらにトリスタンはマシュに肩を貸して語っていた。その言葉と態度はまるで彼らの事を自分の事のように誇っているものだった。

 そんなトリスタンにオルガマリーは視線をやり問いただす。

 

 

「……アンタ……アーチャーのサーヴァントの所でランシアと一緒にいたサーヴァントよね」

 

「ええ、それであっていますよ。アーチャーのサーヴァント、真名を……トリスタンと申します」

 

 

 一瞬トリスタンは真名を明かすか明かさないか迷ったが既にランスロットの事を真名で言ってしまったのと我らが王と言った事、そして自分の武装を見て、すぐにオルガマリーが自分の真名に行きあたる事を理解し、真名を明かした。

 

 

「……つまり、ランシアは人間ではなくサーヴァント……しかも真名はあのランスロットって事なのね…………お父様の同盟者は同盟者でもマスターではなくサーヴァントだったって事……」

 

「…………貴女とランスとの間にどのような事があるのかは私には分かりませんが、少なくともランスは邪な思いからその素性を明かさなかった訳では無い……それは円卓の名にかけて保証します」

 

「…………そう、ロマン……貴方知ってたの?」

 

『………………』

 

 

 オルガマリーはランシアの素性に気が付きやや苛つき混じりの声音で呟くとトリスタンは宥めるように語り、それを聞いたオルガマリーは落ち着いた声で通信先の先ほどから黙っているロマンに問いかけるがロマンは沈黙したまま。

 それに察してオルガマリーは再びアーサー王とランスロットの戦いに目を向ける。

 

「…………勝ちなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

「ふふふ、楽しいなランスロット!」

 

「私は楽しさよりも胃の痛みしか感じないがな」

 

 

「ほう、なれば剣を置いて休むといい。滅びの結末が訪れるがお前がいるのならばそれでいいと思う自分がいる!」

 

「なるほど、ならば休むわけにはいかんな。早々にお前を倒すしかないな」

 

 

 俺はアルトリア・オルタの言葉に一々胃が痛くなりながら攻防を続ける。

 何故かまるで生娘のように恥じらいながら心中を吐露してきた嘘偽りないモルガンが先ほどから脳裏にチラチラ映ってくるのでそれが俺の胃痛に拍車をかける。

 何故この姉妹は俺に胃痛を与えてくるのか……というか、オルタになるとこうなるのか……ああ、後々が辛い…………具体的にはサンタイベとかレースイベとか……!

 

 トリスタンに助けを求めたいがどうやら、俺とアルの戦いが激しすぎて援護が難しいようだ。だが、それでも俺を巻き添えにする覚悟で援護はして欲しい……無窮の武錬で全部避けてやるから。

 

 

「……ちっ」

 

 

 俺は一度距離を取り盾を消す。

 アロンダイトに施した魔術を起動させその刀身と柄を伸ばし左手ではなく右手で柄頭の辺りを握りしめる。

 

 

「ほう、盾を置いたか。なるほど、存外本気で来ているようだな!」

 

 

 アルは笑い、その剣に黒い魔力を溜めていく…………宝具のぶつけあいか。異論などない。

 脚を固定し、大きく腰を捻る。

 疑似魔術刻印及び疑似魔術回路、一番から三番までの生成魔力を無毀なる湖光に廻せ。

 濃紺の魔力が俺のアロンダイトを包んでいく。それにより魔力で構成された刀身が精製されていく。

 

 

「満ちよ────湖面に光在れ」

 

「極光は反転する。光を呑め」

 

 

 

 ……約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)はA++ランクの対城宝具、それに対して俺のアロンダイトはA++ではあるが対城ではなく対軍または対人。

 如何にある程度モルガンと乙女の力で改造していても完全な真名解放ではなく、無毀なる湖光として振るう以上聖杯によるバックアップを受けているアルの、さらにはオルタとしての宝具には押し負けるだろう…………だが、それは問題ではない。

 

 

 

 

無毀なる湖光(アロンダイト)!!!」

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!」

 

 

 捻っていた身体を戻し、その勢いで大剣化したアロンダイトを振るう。それに対してアルは黒く染まった極光を振り下ろす。

 互いの魔力がぶつかり合う。

 少しずつではあるが押し負けている。

 それに気づいているのかアルの表情には笑みが浮かんでいる。

 ああ、構わんそのままやれ。

 

 

 

「オオォォォォオオオッッ!!!!」

 

「ハァァァッ!!!」

 

 

 

 ああ、押し負けていく。だが、それでいい

 何故なら

 

 

 

 

 

 

 

「────では、御手を拝借」

 

 

 

 

 

 奏でられた琴の音が俺を包む。

 そして、俺はアロンダイトの魔力をそのままに黒く染まった極光の嵐に身を投げる。

 

 

「な!?」

 

「そんな!?」

 

「どうして!?」

 

「…………!!??」

 

 

 前方からアル、後方からオルガマリーやマシュ、立香の驚愕の声が聞こえるが問題は無い。

 黒く染まった極光の中を駆ける。

 嘗ては不安であったが、既に試した事。

 如何にアルの聖剣が強くとも、一回は一回だ。

 

 

 黒く染まった極光を掻き分け、アルのもとにたどり着く。

 

 

 

「馬鹿なッ!!!??この反転した極光を掻き分けただとッ!!!一体どんな!」

 

「なに、ちょっとした御都合主義と友人のお蔭だ」

 

「何を言って────グッ!?」

 

────ポロロン

 

 

 極光を消したアルはすぐさま俺を斬ろうとしたがトリスタンの放った音の刃がアルの腕を切りつける。

 流石に思いがけぬ一撃にアルは怯み、そのまま振り上げたアロンダイトを勢いよく振り下ろした。

 

「ガッ────」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

「────フ。柄にもなくはしゃぎ過ぎたか……聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いた挙句敗北してしまった……結局、どう運命が変わろうと私ひとりでは同じ結末を迎えるのだな」

 

「…………」

 

 

 ランスロットの大剣化したアロンダイトによる傷は予想以上に深かったのかアーサー王は黒い聖剣を地面に突き立て杖代わりにしてなんとか立っていた。

 悔しそうな物言いだがその表情には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

「ランスロット……お前は既に理解しているのだろうな。グランドオーダー────聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだという事を」

 

「…………アル」

 

 

 どうやら、今回の特異点の異変の原因である大聖杯を守っていたアーサー王が敗れた事で少しずつ異変が戻り始めているのかアーサー王の身体が少しずつ金色の粒子に変わっていく。

 

 

「…………ランスロット。呼べ、私を呼ばねば殺す」

 

「おい待て。最後の最後で脅しに走るな!?」

 

 

 最後に言いたいことを言えたのかアーサー王は満足した表情でそのまま消えていった。

 残されたランスロットは困惑した表情で嘆くが……

 そして、オルガマリーらのもとにいたトリスタンも消えかかっていた。

 

 

「では…………ランスロットをよろしくお願いします。彼は些か働きすぎな部分がある……どうか適度な休みを与えてあげてください」

 

「え、ええ……」

 

 

 

 トリスタンも消え、この場にいるのがランスロットとオルガマリーらのみになり、ランスロットはオルガマリーらのもとに向かった。

 

 

「……大丈夫かオルガマリー」

 

「ええ、大丈夫よ……それにしてもアンタね……なんでサーヴァントだって隠してたのよ!」

 

「受肉した以上、わざわざサーヴァントとマスター以外に名乗る理由も無いだろうと判断した。何より自由に動いているサーヴァントがいると知れば面倒ごとになるのは必然だ」

 

「…………」

 

 

 ランシア、ランスロットの正体について責めるオルガマリーはランスロットの返しに苦渋の表情をする。

 そんなオルガマリーにランスロットは話を変える。

 

 

「それよりもだ。既に聖杯を守るアーサーはいない。どうする」

 

「……え、あ……そうね。よくやったわ立香、マシュ……ラン……」

 

「ランスロットでいい」

 

「それじゃあランスロット……不明な点は多いですが、ここでミッションは終了します。まずはあの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由…………。冬木の街が特異点になっていた原因はどう考えてもあれでしょうし」

 

 

 オルガマリーはアーサー王のいた場所辺りに浮かんでいた水晶体の回収をランスロットに命じる。

 ランスロットは剣を元に戻し水晶体、聖杯へと近づき

 

 

「────ランスロットさん!」

 

 

 マシュの声にランスロットは足を止め、大空洞の奥、高台を見上げる。

 

 

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。

48人目のマスター適性者。全く見込みのない子供だからと見逃していた私の失態だ……いや、何より君がまさか、サーヴァントだったとはねランシア。いや、ランスロット────」

 

 

 

 

 

 

 




次回冬木最後ですね。
ちなみに現在書いてるのでもしかしたら今日中に出せるかもしれません

レフさんは今の今までランシアがサーヴァントだという事に気づきませんでした。理由としてはある程度霊器を誤魔化していて、カルデアでは高次の霊体を降ろして取り込んでるという風にマリスビリーが情報操作していたからです。



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炎上汚染都市冬木:エピローグ

ちょいと急いで書き上げました。
九月一日中に終わる?そんなの無かったんや……


 

 

 

 

 

 

「────────」

 

 

 

「────知らない天井だ」

 

 

 

 目を覚ました私の視界に映ったのは、白い天井。別に知らない天井と言う訳では無いがネタを回収出来た。

 心の中でガッツポーズしつつ、私は起き上がり

 

 

 

「おや?本命の子が目覚めたね。よしよし、それでこそ主人公ってもんだ」

 

 

 なんだか私の寝てたベッド横に見知らぬ……見知らぬ?変な格好のお姉さんが座っていた。

 なんだろう知らない……知らないけどなんか知ってる……変な人。

 

 

「おはよう、こんにちは、藤丸立香ちゃん。意識はしっかりしてるかい?」

 

「え、あ、はい」

 

 

 誰だろうかこの人は。

 というか片手がゴツゴツしてるし。なんか変なもの着けてるし……変態?

 

 

「んー、まだ思考能力が戻ってないのかな?こうして直接話すのは初めてだね」

 

 

 誰だろうか、カルデアのスタッフ?にしては格好がおかしいし……

 と、黙っている私に何を勘違いしたか、目の前の謎の女性は唐突に胸を張り

 

 

「なに?目が覚めたら絶世の美女がいて驚いた?わかるわかる、じき慣れるから」

 

「自意識過剰なんですか?」

 

「……………………………………………………………

……………………………………………………

………………………………………………………………

……………………………………………………

………………………………………………………………」

 

 

 固まった。

 微笑んだまま固まった。

 とりあえず、片手にゴツゴツした何か変なものを着けてる時点で絶世の美女かどうかは怪しいところだ。だって、絶世の美女って顔だけじゃなく他の部分も綺麗じゃなきゃいけないわけだし…………

 

 

「私はダ・ヴィンチちゃん、カルデアの協力者だ。というか召喚英霊第三号みたいな?……あー、いや、彼がいるんだったね……となると四号?でも彼はカルデアが呼んだ訳じゃないから…………三号でいいか」

 

 

 たっぷり時間を空けて再起動した目の前の女性はダ・ヴィンチというらしい。召喚英霊と言っていたからサーヴァントなのだろう。

 ということはレオナルド・ダ・ヴィンチ…………あ、どっかで見た事あると思ったら……モナ・リザか…………ちょいとモナ・リザと違う様な気がするけど三次元と二次元の違いか。

 

 

「とにかく話は後々、キミを待っている人がいるんだから早く行ってあげなさい」

 

「……ドクターですか?」

 

「ロマン?ロマンも待ってるけど、あんなのどうでもいいでしょ。まったく他にもいるだろうに、大事な娘が。まだまだ主人公勘ってヤツが足んないなぁ」

 

 

 私の返答に呆れたような口調で話すレオナルド・ダ・ヴィンチ(仮)。というかドクターディスられてる…………あんなのって。

 というか主人公勘って…………あ

 

 

「フォウフォーウ」

 

「マシュ……」

 

 

 フォウくんが私の肩へと登ってくるが気にせず私はベッドから出る。

 そうだ、マシュはどうなったのだろうか。

 このレオナルド・ダ・ヴィンチ(仮)の言葉からは恐らくマシュが待っているんだろう。

 私はすぐさま部屋を出て────

 

 

 

 

 

 

 

 

 すぐに戻ってきた。

 

 

「えぇと、何処に行けば……」

 

「あー、ごめんね!言い忘れてた、管制室だよ」

 

「ありがとう!」

 

 

 改めて私は管制室へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからはキミが中心になる物語だ。キミの判断が我々を救うだろう。

人類を救いながら歴史に残らなかった数多無数の勇者たちと同じように……。

英雄ではなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ」

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「マシュ!」

 

「おはようございます、先輩。ご無事で何よりです」

 

「おはよう、助かったんだねマシュ……!」

 

 

 

 管制室へと飛び込んだ私の前に現れたのは冬木でのサーヴァントとしての姿ではなく初めて会った時のような制服姿。

 そんなマシュが安堵した表情で私に挨拶をしてくれた。そんなマシュの姿に私も安堵する。

 

 

「はい。先輩が手を握ってくれたおかげです。二度ある事は三度あるという格言を信じたい気持ちです」

 

「コホン。再会を喜ぶのは結構だけど、今はこっちにも注目してくれないかな」

 

 

 私とマシュが手をあの時とはまた違ったように握り再会を喜びあっていた所にドクターが咳払いをしたので私はひとまず喜ぶのは止めてドクターを見る。

 ドクターの後方には柱に寄りかかるランシア……ランスロットさんがいた。

 

 

「あっ」

 

「すいません、ドクター」

 

「……まずは生還おめでとう立香ちゃん。そしてミッション達成、お疲れ様。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、君は勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた」

 

「その事に心からの尊敬と感謝を送るよ。君のおかげでマシュとカルデアは救われた」

 

「べ、別に私だけじゃ……ランシア、ランスロットさんもいましたし……」

 

 

 ドクターの言葉に私は何処と無く照れてしまい、私だけではないと否定する。

別にこれは照れ隠しだからじゃない。事実だから。

 私だけじゃ勝てなかった。マシュを信じて無いわけじゃなかった……でもあのアーサー王との戦いは本当に負けてしまうんじゃないかと思った…………ランスロットさんが来なかったらどうなっていたのか…………。

 

 

「……そうだね。そこの馬鹿のおかげでもあるね。ともかく……所長のことは残念だった。でも今は弔うだけの余裕はない、悼む事しか出来ない」

 

「…………」

 

「……所長」

 

 

 

 

 ドクターの言葉に私やマシュはあの時の事を思い出す。

 特異点の最後で…………レフに殺された所長の事を…………

 

 

『所長ッ!!』

 

『駄目だ、行くな……!……君も下手すれば焼かれかねん』

 

『でも……!!』

 

『ラン、スロットさん……』

 

『………………ッ!!』

 

 

 所長を助けようと走り出そうとした私を止めたランスロットさん。私は何故止めるんだ、と反抗しようとした……だが、あの人の顔はとても悲しかった。必死に堪えていた……。

 所長に続き私たちを失うまいと私たちを止めていた。

 あの時の事を……私は思い出していた。

 

 

 

「いいかい、僕らは所長に代わって人類を守る。それが彼女への手向けとなる。……マシュとランシア……いや、ランスロットから報告を受けたよ。聖杯と呼ばれた水晶体とレフの言動」

 

「カルデアスの状況を見るに、レフの言葉は真実だ。外部との連絡はとれない。……カルデアから外に出たスタッフも戻って来ない。…………恐らく既に人類は滅びている」

 

「このカルデアだけが通常の時間軸に無い状態だ。崩壊直後の歴史に踏みとどまっている……というのかな?外の世界は死の世界だ。この状況を打破するまでね」

 

「……ということは」

 

 

 ドクターの言葉に私は希望を見出すことが出来た。打破するまで、つまりそれは打破する事が出来るという事で……

 

 

「ああ、勿論ある。君たちが冬木の特異点を解決したにも関わらず、未来は変わらなかった……それはつまり、他に原因があるということ。そう、僕らは仮定した」

 

「そして、見つけた。人類のターニングポイント。

“この戦争が終わらなかったら?”

“この航海が成功しなかったら?”

“この発明が間違っていたら?”

“この国が独立できなかったら?”

そういった現在の人類を決定付けた究極の転換点だ」

 

「これらの特異点が出来た時点で未来は決定してしまった。レフの言う通り人類に未来はない。けど、僕らだけは違う。カルデアはまだその未来に達していないからね」

 

 

「わかるかい?僕らだけがこの間違いを修復できる。今こうして崩れている特異点を元に戻す機会がある」

 

 

「結論を言おう」

 

 

 ドクターは一度言葉を切った。

 きっと、ドクターはドクターで心を整理しているんだろう……あの時、特異点で言っていた。いまこのカルデアにはドクター以上の権限を持つ人はいないと。ランスロットさんも昔はそうだったらしいが……今ではそこまでの権限は持っていないようだ。

 このカルデアをまとめるものとしての整理を。

 

 

「……この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しい形に戻す。それが人類を救う唯一の手段だ。けれど僕らにはあまりにも力が足りない」

 

「マスター適性者は君とランスロットを除いて凍結。所持するサーヴァントはマシュとランスロットだけだ」

 

 

 ……ランスロットさんが使い回されてボロボロになりそうだ。

 トリスタンさんが言ってたような休暇は望めないかもしれない…………。

 

 

「…………この状況で君に話すのは強制に近いと理解している。それでも僕はこう言うしかない……。

マスター適性者48番、藤丸立香」

 

「君が人類を救いたいなら、2016年から先の未来を取り戻したいなら。

君はこれからこの七つの人類史と戦わなくてはならない……」

 

「その覚悟はあるか?

君にカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」

 

 

 ドクターの言葉に私はすぐに答えれなかった。

 私に……私なんかに人類の未来を背負う事が出来るのだろうか、そう考えた。

 だけれど…………マシュを見た。ランスロットさんを見た。ドクターを見た。最後にフォウくんを見た。

 それでも私は…………

 

 

「…………自分に、私に、出来るのなら」

 

 

「────ありがとう。

その言葉で僕たちの運命は決定した。

これよりカルデア所長オルガマリー・アニムスフィア代理としてロマニ・アーキマンが発令する。

カルデア最後にして原初の使命。

人類守護指定・グランド・オーダーを」

 

 

 

 

 ここに私の、私たちの人類を、未来を取り戻す旅は始まった。

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

炎上汚染都市:冬木

特異点F

A.D.2004年

────定礎復元────

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ランスロット。君はなんで突っ走るかなぁ?」

 

「……身体が動いていたんだ」

 

「いや、自分の身体だろう?バーサーカーじゃないんだから」

 

「ぐぅ……」

 

 

 

 グランドオーダーが発令されたすぐあとに管制室でそのままドクターはランスロットさんに説教を始めていた。

 マシュに聞けばランスロットさんはドクターの制止も無視して私のように管制室に来ていたらしい…………。流石にランスロットさんも悪いと思ってるのかハッキリとした反論はせず大人しく説教を受けていた。

 

 

「まったく…………あ」

 

「どうしたんですかドクター?」

 

「いやぁ、ちょっとした事を思いついてね」

 

 

 何を考えたのかドクターは悪戯をする子供のような、嫌がらせをする大人のような悪い表情でランスロットを見る。

 とりあえず何をするかは知らないけれど……哀れランスロットさん

 

 




例のシーンは残念ながらカットされました。
ただ、その辺りの立香らは書きました。
活動報告の幕間募集は終了します。
ご協力ありがとうございました。

さて、ロマンはいったい何を考えたのでしょうか
立香ちゃんが途中で変な事を考えたのは重圧に潰されないように無意識に別の事を考えて重圧を誤魔化そうとした結果です


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幕間Ⅰ
幸運:D-(かなりEより)


うちの立香ちゃんはイメージとしてはシンフォギアの響ですね。
ほら、諦めない心がありますから

今回は短いです。


 

 

 

 

 

 

「……まさか、ミスタが英霊だったなんて……」

 

「まさか、彼のサー・ランスロットだったなんて……」

 

「つまり、私たちは湖の騎士ランスロット卿の部下…………」

 

「……まったくもってアリだな」

 

「「「それな」」」

 

 

 

「…………アレは無視してくれていい」

 

 

 システム・フェイトの操作をしながら妙なテンションで作業している部下たちに俺は頭痛を隠せない、そんな光景を見ているロマンや立香、マシュに俺は無視を頼むしかない……。

 だが、残念ながらロマンは声を大にして笑っている…………そんなロマンに対して立香やマシュは困惑しているようだ。それはわかる。

 

 

 今、俺たちがいるのは守護英霊召喚システム・フェイトに隣接した召喚実験場。

 そこにはギャラハッドの盾に似た術式が展開されており…………専門的な用語が飛び交うことになるので説明は思いっきり省かせてもらう。 

 要するに英霊召喚の為の部屋だ。

 

 

 

 ……まあ、これで分かるだろうが。

 俺たちはこれからカルデアの戦力強化の為に英霊召喚を行うわけだ。

 

 

「さぁて、ちゅうもーく」

 

 

 いつの間にかにいた変態の方を見ると、変態の手には二枚の金色の札があった。

 

 

「これがダ・ヴィンチちゃんお手製、英霊召喚触媒こと呼符だよ。聖晶石だと嵩張るからね、圧縮してこんな感じにコンパクトにしてみた」

 

 

 …………呼符って聖晶石を圧縮して創ってたのか。……マナプリズムじゃないんだな。

 変態から呼符を受け取った立香は何やらガチャチケットなどと言っているがあながち間違えではないから俺もロマンも訂正はしない。マシュは何やらぎこちない笑みを浮かべてるが。

 

 

「それじゃ、君たちにはカルデアの戦力強化の為に英霊召喚をしてもらう。別にマシュやランスロットの実力を疑ってるわけじゃないけれど、これからの特異点に何が待っているかは分からない。もしかしたら二人では対応出来ないことがあるかもしれない。その為の英霊召喚だ…………頑張ってくれ」

 

「先輩、ランスロットさん、頑張ってください」

 

 

 応援するロマンとマシュに頑張るもないだろ、と思いはするが胸にしまっておき、立香と共に前へ出る。

 

 

『システム・フェイト起動』

 

『システム……オールグリーン』

 

『英霊召喚、何時でもいけます』

 

 

 機械音声で召喚を促す声に一瞬身体を硬くした立香に俺は声をかける。

 

 

「肩の力を抜きなさい、大丈夫だ。いざとなれば俺が君を護る」

 

「……ランスロットさん」

 

 

 恐らく冬木でのシャドウサーヴァントやアルの事を思い出したのだろう。キャスターや俺、マシュのような善性のサーヴァントではない悪性のサーヴァントを呼ぶかもしれない、と。

 少なくとも冬木でのサーヴァントはどれも基本的にまともだが……シャドウであった為に立香には悪性にしか映らなかったはずだ。

 そんな立香を俺は安心させる。仮にも……俺は円卓の騎士だ。そうそう負けることは無い…………はずだ。

 

 

「…………よし!一番藤丸立香行きまーす!!」

 

 

 自分の頬を叩いて気合を入れたのかやや場違いな掛け声を上げる立香に俺は小さく笑う。

 召喚術式の前に立つ立香はその手にある呼符を使う。

 それにより魔力が吹き荒れる。

 魔力は段々と視覚化されていき、3本もの光の円環へと変わる

 変化した3本の光の円環は段々と廻り出す。

その円環には金色の光が混じっていた。

 …………初ガチャで星4以上だと……立香の運は化物か…………いや、こっちにレア度なんてあるのか知らんが……俺は間違いなく星4だがな。

 

 

 段々と光の強さは大きくなっていき、一番近くにいる立香は両腕で顔を庇うようにしてその光から目を庇う。

 

 

 今更だが、俺というサーヴァントがいる以上、俺の縁が召喚するサーヴァントに影響される、なんて事はあるのだろうか?

 

 段々と光は収束していき、サーヴァントが現れる。

 光は消えていき、召喚されたサーヴァントの全容が見え、て…………

 

 

「やっほー!僕のクラスはライダー、真名はシャルルマーニュ十二勇士が一人アストルフォ!それからそれから…………うーん、とりあえずよろしくね!」

 

 

 現れたのは一部に白い髪がある桃髪の少女の姿に白のマントを着た何処と無く騎士のようなサーヴァント…………というかコイツ、息を吐くように真名言ったぞ。

 

 

「…………えっと、シャルルマーニュは知ってるけどアストルフォはわからない、かな」

 

「えー!うーん、まっ、仕方ないか!」

 

 

 ライダー……アストルフォは立香の知らないという言葉に驚きはしたがすぐに元の溌剌とした表情になって立香を許し……俺の方を見た。

 

 

「んー?サーヴァント?マスター?…………?」

 

 

 どうやら、俺のサーヴァントとしての霊器とマスターとしての霊器に困惑しているようだ。

 俺は頬をかきながらそんなアストルフォに理由を話す。

 

 

「ああ、昔聖杯戦争で受肉していてな……魔術を齧っていてマスター適性を得ているんだ、気にしないでくれ」

 

「へぇー、そういう事もあるんだねー」

 

 

 俺の話した理由に納得したのかそのままぐいぐい立香に話しかけるアストルフォ。

 俺はアストルフォと立香に下がる様に言って前へ出る。

 

 こうして召喚するのは二度目だが、やはり緊張するものだな。

 背後からアストルフォの興味津々な視線を感じるが気にせず手の呼符を握る。

 脳裏に過ぎるのは冬木での出来事。

 

 

 

 

『ランスロット、私を呼べ。呼ばねば殺す』

 

 

 

 

 

 辛い。

 嫌な予感しかしない。

 胃が痛い。

 俺は胃のあたりを押さえつつ、出来る限り面倒事にならないようなサーヴァントを心の底から願いながら呼符を使う。

 

 どうか、どうか、俺に優しいサーヴァントであってほしい。

 

 魔力は円環になり廻り出して────

 

 

『なっ!?サークルが!?』

 

『大変ですッ!魔力が乱れてます!』

 

『ミスタッ!下がって』

 

 

 円環が大きく乱れて不定形になって強力な光が実験場を包み込んだ。

 幸運:D-……恨もう。

 

 光が少しずつ弱まり、視力が戻っていくと……そこには

 

 

 

 

「我が名はアルトリア・ペンドラゴン。召喚に応じ参上した。

問おう、私と共に歩むか?歩むか、歩むんだな!よし!」

 

「…………oh」

 

 

 

 我らが黒い騎士王がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 




こっからだいたい2話ぐらい書いてからオルレアンの予定です。

ランスロットのアロンダイトですがとある宝具との調整でランクをA++からA+にダウンさせてましたが読者の御意見などと作者の考え、設定を見直し、元のA++に戻す事にしました。
御迷惑をおかけし申し訳ございませんでした。

これからもどうかこのFate/Grand Order 【Epic of Lancelot】を宜しくお願いします


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マスターとサーヴァント:Ⅰ

前回の悲しい出来事

トリスタン「おや?ランスが呼んでいますね……では私が」

黒王「モルガーン!!!」

トリスタン「」ジュッ




 

 

 

 

 

 

 カルデア食堂。

 その一角にある五人席でサーヴァントとマスターらは交流を深めていた。

 

 

「ほへー、つまり君は、あの円卓の騎士の、いや僕たちフランス騎士の憧れの湖の騎士なんだね」

 

「まあ、そうなるな。しかし憧れか……それは、何ともこそばゆい話だ」

 

「シャルルマーニュ陛下もローランのバカも憧れてたし……あ、特にオリヴィエなんて凄かったなぁ。ほら、オリヴィエのオートクレールは元は無毀なる湖光だったらしいから」

 

「ああ、聖杯からの知識で知ったよ。まさか、俺の無毀なる湖光が後々祖国の後輩騎士に受け継がれていたなんてな」

 

 

 ランスロットとアストルフォ。互いにフランス出身の騎士で先輩後輩にあたる為か話が弾んでいた。

 ……いや、ランスロットは間違いなく隣の光景を見ないように正面のアストルフォと話しているのだろう。

 

 

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

 

「…………凄い、ですね」

 

「うん……」

 

 

 本来アストルフォのマスターとして、同じマスターに従う同僚サーヴァントとしてアストルフォと話すはずの立香とマシュは目の前の光景に呆然としていた。

 

 そう、それはポテトだった。

 

 ただ、ひたすらなまでにマッシュマッシュされたポテトの山。

 マシュはその皿に盛られたマッシュポテトを見て何故か『マッシュ、マッシュ、マッシュ。何でも潰せば、食べられマッシュ~♪』という何処かで聞いた事のあるようなないような声が脳裏に過ぎっていた。

 立香は見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。

 さて、そんなポテトの山を食べているのは誰か?無論この四人以外となれば一人。

 

 

「もきゅもきゅもきゅもきゅ……ランスロット水を出せ」

 

「…………御意」

 

 

 反転したアーサー王ことアルトリア・ペンドラゴン・オルタ。

 彼女はただ只管ランスロットがマッシュしたポテトを食べていた。

 嘗てはブリテンの雑な料理に辟易していたが仕方ないと思っていたところにランスロットが隠れて一人美味しいものを食べていて喧嘩になった事があったが今のアルトリアは反転し、それによりこの様な雑な料理を好むようになっていた。

 アルトリアの命令でランスロットは水を取りに行ったので話し相手がいなくなったアストルフォは本来、最初に話し合うべきの立香に話しかける。

 

 

「それでマスター」

 

「へ?何かなアストルフォ」

 

「うん、マスターはさ好きな事って何?」

 

 

 まったくもって唐突なアストルフォの質問に一瞬、間が空きつつも立香は答える。

 

 

「うーん、ご飯とか走る事かな?あ、あとはゲーム」

 

「走る事……そういえば以前お爺様の家の近くの山や洞窟で遊んでたと言ってましたね……」

 

「へぇーマスターって結構お転婆なんだね!」

 

「ゴフッ」

 

 

 アストルフォの言葉が容赦なく胸に突き刺さり立香は胸を押さえる。

 元陸上部、同年代の男子よりも男子っぽかったと評判だった立香といえども花の女子高生にあたる年齢。流石にお転婆と言われるのは心が辛かった。

 

 

「アストルフォ。不用意に女性にそういう事を言うもんじゃない……如何に理性が蒸発してるとはいえもう少し考えて言葉をかけろ」

 

 

 と、そこで水を取りに行ったランスロットが戻りアストルフォに苦言を呈する。

 如何に理性が蒸発しているアストルフォといえども流石の憧れであるフランスの先輩騎士の言葉には素直に従い立香にすぐさま謝罪する。

 

 

「あー、そのごめんねマスター」

 

「う、うん…………」

 

「せ、せんぱい」

 

 

 それでも暫く立香は胸を押さえている。

 流石にバツが悪いのかアストルフォもマシュのように立香を慰め始め…………

 

 

「…………」

 

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

 

「……(辛い)」

 

 

 話し相手のいなくなったランスロットは否応なしにアルトリアの対応に務めなくてはいけなくて。

 

 

「ランスロット」

 

「……なんだ」

 

「やはり、お前の料理は食べていて心地が良い」

 

「ただマッシュしたポテトは料理と言わんだろ」

 

「………………そうか」

 

「………………ああ」

 

「……(どうすればいいどうすればいいどうすればいい……ここからどう繋げればいいんですか!!??マーリン、円卓議決を!!)」

 

 

 なお、アルトリアは内心とてもとてもテンパっていた。

 外面にはそのテンパっている様子は微塵も感じ取れないがその冷徹な表情の下は正しく乙女のようなものであった。もし、それをランスロットが見ればきっと「……ああ、やはり姉妹」そう言うだろう。

 

 

「……アル」

 

「……ッ!?な、なんだ」

 

「……(どうしたコイツ)……まあ、これから共に特異点を行く訳だが、嘗ては王と騎士の関係だったがいまはマスターとサーヴァントだ。ある程度はこっちを尊重してもらいたい」

 

「……呆れた男だ。もはや王も騎士もない……私はお前のサーヴァントだ」

 

「そうか……」

 

 

 二人は目の前の暴走する立香を抑えるマシュとアストルフォの楽しそうな光景を見て微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「ところでランスロット」

 

「なんだ」

 

「生前と死後、お前はどうわける」

 

「はい?」

 

「生前を忘れろとは言わん。だが、もはやお前は第二の生に生きる者…………わかるな?」

 

「────お前絶対に許可なく俺の部屋に入るなよ」

 

「────フ」

 

「その不敵な笑みはなんだ!?」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでランス」

 

「…………いきなり愛称で呼ぶのか」

 

「なんだ……お前だけ私の事を愛称呼びしているだろう。ならば私がそう呼んで何か不都合か?」

 

「いや……別に」

 

 

 食堂からうって変わってランスロットとアルトリアは守護英霊召喚システム・フェイトのもとにいた。

 その理由はこれからランスロットは立香と共に特異点攻略をしていく事になり、このフェイトの様々な調整やらなんやらをする事が出来なくなるためランスロットは部下たちに引き継ぎをしていた。

 そしてアルトリアは引き継ぎ業務をしているランスロットを後ろの方で立ってみている。

 

 

「実はだな、お前に頼みたい事がある」

 

「俺の部屋の合鍵以外ならある程度、都合はしてやる」

 

 

 話しかけるアルトリアにランスロットは只管業務をこなしていく。

 

 

「私の今の格好を見ろ」

 

「………………いつも通りだな」

 

「そう、今の私は鎧姿だ」

 

「…………おい、まさか」

 

 

 重厚な鎧を指して言うアルトリアに嫌な予感を募らせるランスロット。しかし、業務の処理速度は一切落とさない。

 

 

「……流石にな常時鎧姿というのもアレだ。故に私の普段着を仕立てろ」

 

「…………」

 

「無論。仕事には報奨を出そう」

 

「…………」

 

 

 アルトリアの言葉に絶句するランスロット。しかし、業務の処理速度は一切落とさ(ry

 

 

「……やれるな?」

 

「………………とりあえずこの引き継ぎ終わったらな」

 

「「「「(やるんだ…………)」」」」

 

 

 引き継ぎ作業をしているランスロットの部下たちの心は正しく一つになっていた。

 ランスロットの社畜具合に。

 この後、ランスロットは引き継ぎ業務を終わらせアルトリアの普段着を仕立てる為にアルトリアと共に部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「待て……わざわざ下着まで脱ぐ必要は無いだろ」

 

「なに、気にするな。それに何よりサイズが合わなかったら困るだろう?」

 

「流石に下着の上からでも出来るわ」

 

「ふむ、そこまで言うのなら着てやろう…………本当にいいのか?」

 

「着ろ」

 

 

 

 

 




ランスロットは雑な料理も美味しい料理も作れます。
そしてアルトリアの普段着やイベント着は全てランスロットが仕立てていく事に……



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邪竜百年戦争オルレアン
邪竜百年戦争オルレアン:プロローグ


うーん、少し変な気がする。
文もだが右腕が。
やはり、ガチ勢とのバトミントン試合は駄目だったか


 

 

 

 これは夢だろう。

 少なくとも夢だと理解できる。

 私はカルデアのマイルームで寝ていた筈だ。なのに、何故こんな所にいるのだろうか。

 

 

 そこは美しい街だった。

 現代の街ではなくファンタジーや中世で出てくるような城下街。

 ここは何処だろうか。

 

 ここがいったい何処なのか、そう考えていたらいつの間にかに場所は変わっていた。

 何処かの城の中。きっと、先ほどの街から見えた美しい白亜の城の中だろう。

 ここは恐らく城の中にある中庭の一角かもしれない。空は暗く、夜の帳が落ちていた。

 

 そんな時に丁度中庭に一組の男女がいた。誰だろうか。私は影に隠れながらその男女に近づいた。

 

 

『……この様な時間に何でしょうか』

 

『おお……この様な時間にこの様な場所にお呼びした無礼をお許しください王妃』

 

 

 そこにいたのはやはり、現代の格好ではない男女。

 女の人はとても綺麗な姿で清らかなドレスに身を包んだ美しい女性。

 男の人は白い鎧に身を包んだ何処と無くランスロットさんに似た風貌の短い紫色の髪の男性。

 

 

『王妃……貴女を私は救いたい』

 

『……何を言っているのですか卿は』

 

『貴女は知っているでしょう。我らが王は男性ではなく女性だと』

 

『…………ッ』

 

 

 何を話しているのかはあまり聞き取れないが男の人の言葉に女の人が苦い顔をしたのは見て取れる。

 その手は強く握られている。

 

 

『女性が男性と偽る女性に嫁ぐなど苦痛でしかない筈だ。どうか、どうか私に貴女を救わせてほしいのです』

 

『…………』

 

 

 なんだか、男の人は憂いている表情で何か語っているけれど、女の人は俯いて男の人からは見えないけれど口許から血が出てきてるぐらい噛み締めてる。

 男の人は女の人の為を思っているのかもしれない……だけれど、きっと女の人にとって男の人の言葉はとても我慢ならないのだろう。

 

 

『貴女を救えるのは私だけ……ランスロットでもガウェインでもアグラヴェインでも我が王でもなく、私だけです』

 

『…………ッ!』

 

 

 そして、遂にその時が来たのだろう。

 女の人は顔を上げて

 

 

『卿』

 

『はい、王ひ――』

 

――パァンッ

 

 

 男の人の頬を張った。音はいい具合に響いた、見ていて気持ちのいいぐらいに。

 頬を張られた男の人は何が何だか理解出来ていない顔で女の人を見る。

 

 

『恥を知りなさい! 誇り高きキャメロットの騎士でありながら王を軽んずその言動、そして誇りある円卓の騎士を侮辱するその言葉……貴方のような騎士がいる事はキャメロットの恥以外の何物でもありません!』

 

 

 そう言って女性はその場を後にした。

 残ったのは男の人だけ。

 男の人は張られた頬に手を当ててしばし呆然としていた…………。

 

 

 

 

 

 また変わった。

 今度は何処かの一室。

 そこには何人もの騎士たちがいた。

 そして、先ほどの男の人も

 

 

『なあ、ランスロット卿と王妃様のアレどう思うよ?』

 

『……ふむ、アストラット王とその子である我らキャメロットの騎士の一人ラヴェイン卿による不義捏造未遂か……アレは未遂でよかったよ』

 

『だな。捏造だとしてもそんなのが広まったら国が割れたな……何せランスロット卿は円卓の中でも王をも越える最強の騎士だ。それにブリテンの諸侯や民草からも人気がある』

 

『清らかな王妃と言えども、もしあのランスロット卿に迫られたら……なぁ?』

 

『なあ、卿はどう思うよ?』

 

 

 何人かの騎士が何かの話題について話していて、唐突に壁際で何かを飲んでるあの男の人に声をかけると男の人は不機嫌そうな顔で語り出す。

 

 

『……貴様らアレが捏造未遂だと思っているのか?』

 

『はぁ?』

 

『……火がないところには煙は立たんだろ?アレは捏造しようとしたんじゃない、真実を晒そうとしたのさ』

 

『おい、何言ってんだ』

 

『ランスロットと王妃の不義こそが真実。そう、私は確信している』

 

『…………』

 

『…………』

 

『……お前、酔いすぎじゃねえのか?』

 

 

 男の人の勝ち誇った様な表情に周りの騎士たちは首を振り呆れた様な視線を、呆れたような言葉を投げかけて再び最初のように話し始めた。

 

 そして私の視界は暗転し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――何故私は

 

――何故私は

 

――何故私はそんな事を考えたのだろう

 

――どうして私はあの人を疑ったのだろう

 

――王妃に拒絶された腹いせか?

 

────私ではなくあの人が王妃の相手として流布されようとしていたからか?

 

────私はどうして

 

────貴方の裏切りという有り得ない報を聞いて、やはり、と考えたのだろうか

 

────心の中でそんな事は有り得ないと信じていたのに

 

────何故私は……貴方が王を裏切ったなどと信じたのだろうか

 

────赦すな

 

────赦すな

 

────赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな赦すな

 

 

 

 

 

どうか……こんな憐れな畜生を赦してくれるな

 

 

 

兄上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

「フォウ? ……キュ、フウゥゥ?」

 

「……なんだろう……変な夢を見た気がする」

 

 

 夢の内容はイマイチ覚えてないけど変な夢を見たのは確かだ。枕元のフォウを撫でて私はベッドから出て制服に着替える。

 備え付けの冷蔵庫に入っていたランスロットさんお手製のサンドイッチを食べながら私は髪型をセットしているとフォウくんがいきなりドアの方に走り出した。

 

 

「ミュー、フォーウ! フォフォーウ!!」

 

「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングのじか――きゃっ!?」

 

「あ」

 

 

 ちょうど良くドアが開きマシュが私に挨拶しながら声をかけて、飛び上がったフォウくんによる肉球パンチを額に食らった。

 アレ、痛いんだろうかそれともやわらかいんだろうか?少し気になる。

 

 

「キュウゥゥゥ……」

 

「ごめんなさいフォウさん、避けられませんでした…………でも、朝から元気そうで嬉しいです。

先輩も昨夜はよく眠れましたか?」

 

「うーん、まあ眠れたかな?」

 

 

 攻撃を受けた側なのに攻撃してきたフォウくんに謝るマシュに私は少し笑いながら、マシュに返事をする。変な夢を見たのは確かだが、よく眠れたのも事実だ。

 そんな私の返答にマシュは笑顔になる。

 

 

「それはよかった。よく眠るのも才能の一つといいます。目が覚めたところでブリーフィングの時間です。皆さんも集まってますよ」

 

「うん、わかった」

 

 

 残ったサンドイッチを口に詰めて私はマシュとフォウくんと共にマイルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室に入ると待っていたのはドクター。

 いつも通りのヘタレな笑顔で私を迎えてくれた。

 

 

「おはよう、立香ちゃん。よく眠れたかな?」

 

「はい」

 

「おっはようマスター!」

 

「うん、アストルフォもおはよう」

 

 

 いつの間に私の背後にいたのか分からないアストルフォにも挨拶を返してドクターの方へと進む。入口からは見えなかったがランスロットさんやアルトリアさんも既に待っていた。

 

 

「…………立香も来たようだロマン」

 

「うん、それではブリーフィングを始めようかな。まずは……そうだね。君たちにやってもらう事を改めて説明しよう」

 

 

 私に目線をやったランスロットさんはドクターを促して、ドクターは説明を始めた。

 

 

「一つ目は、特異点の調査及び修正。

その時代における人類の決定的ターニングポイント」

 

「君たちはその時代に飛び、それが何であるかを調査・解明して、これの修正をしなくてはならない。さもなければ2017年は訪れない、2016年のまま人類は破滅するだけだ」

 

「以上が第一の目的。これからの作戦の基本大原則になる。第二の目的は────」

 

「聖杯の探索だ」

 

「……ランスロット」

 

 

 話を遮られ、言おうとしていたことを取られたドクターはランスロットさんに咎めるような視線を向けるがランスロットさんは肩を竦めるだけで悪気など無いような態度で話し始める。

 

 

「すまんな。……推測ではあるが、特異点発生には聖杯が絡んでいる」

 

「聖杯とは願いを叶える魔導器の一種でな、円卓の探した聖杯とは違うが……膨大な魔力を宿している」

 

「レフは恐らく聖杯またはそれに準ずる何かを手に入れ利用している。時間旅行やら歴史改変をする以上そういったものでなければ不可能に近い」

 

「というわけだから、特異点調査の過程で必ず聖杯もしくはそれに準ずる何かの情報は得れるはずだ。元の歴史に戻したところでそこに聖杯があっては元の木阿弥だ」

 

「故、聖杯の破壊もしくは回収をする必要があるわけだ」

 

 

 確かに原因であるその時代に無いものがあったら大変だ。それが聖杯何ていうやばい代物なら尚更……

 

 

「……以上二点がこの作戦の主目的だ。わかったかな?」

 

「はい、分かりました」

 

 

 話を取られていたからか何処と無く不機嫌そうなドクターの口調に私は苦笑いしながら返事をする。

 

 

「よろしい……それじゃあ他の事は現地でランスロットから聞いてくれ」

 

「おいおい、待ちなよロマニ。私は?私の自己紹介は?」

 

 

「貴様の自己紹介はもうしただろ」

 

 

 いきなり現れたというか多分さっきからいたんだろうダ・ヴィンチちゃんが自己紹介をドクターに要求し、ランスロットさんに却下される。

 何度か見てきたけど、ランスロットさんはダ・ヴィンチちゃんが嫌いなのだろうか?少なくとも毎回ダ・ヴィンチちゃんに辛口な気がする。

 

 

「改めてだよ。天才の自己紹介ってのは何度聞いてもいいものさ」

 

「俺はすぐさま無毀なる湖光のサビにしたい」

 

「ちょっとこの円卓の騎士凄い物騒なんだけれども…………さて、改めて自己紹介するとしよう。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ、キャスターのサーヴァントだ。君たちマスターと正式に契約してるわけじゃないからほいほいレイシフトは出来ない。主に支援物資の提供、開発、英霊契約の更新などのバックアップ担当だ、よろしくね?」

 

 

 

 

「うん……ところで……レオナルド・ダ・ヴィンチって男じゃ」

 

「コレは自分で自分をモナ・リザに改造した変態だ、気をつけろ」

 

「え、マジですか」

 

「マジだ」

 

 

 マジなんだ……というか自分の身体をモナ・リザに変えたってサーヴァントってそんな事も出来るの?……それともこのダ・ヴィンチちゃんが凄いだけ?

 もしかして、ランスロットさんがダ・ヴィンチちゃんを嫌ってるのってそういう変人だからとかそんな感じの理由なのかな?

 

 

「ちょっと~何でそんなに辛辣かなぁ?」

 

 

 そう言いながらダ・ヴィンチちゃんは管制室を後にする。

 ……本当に自己紹介だけして帰ってった…………それでいいのか天才。

 

 

「……ほんとに自己紹介だけして帰ったな。さて、話の腰は折られたが本題に戻るよ。休む余裕なくこれからレイシフトするけども、いいかい?」

 

「大丈夫です!」

 

 

 私はドクターの言葉に勢い良く返事をする。

 何より下手に休んでたら踏ん張りがつかなくなりそうで怖い。だから、やるなら早い方がいい。

 

 

「よかった。今回はきちんと君たちのコフィンを用意してある。レイシフトは安全かつ迅速に出来るはずだ」

 

「向こうについたら、こちらは連絡しか出来ない。ランスロットが色々と指示を出すから最初はそれをする事。その時代に対応してからやるべき事をやるんだぞ?では────健闘を祈る」

 

 

 そう締めくくったドクターを背に私達はコフィンに入る。不思議と緊張はしていなかった。

 何故だろうと思ったがすぐにその理由は分かった。きっと、マシュがドクターがランスロットさんがアストルフォ、アルトリアさんが居るからだろう。

 私は一人ではない。

 だから、緊張はしなかった。

 

 

 

 

 

『アンサモンプログラム スタート。

霊子変換を開始 します』

 

『レイシフト開始まで あと3、2、1……』

 

『全工程 完了。

グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 




次回は少し遅れると思います。それでも水曜までには投稿しますが

そう言えば今年中に1.5部は終わるらしいですね?ということは一気に来るのか……セイラムでモルガン実装しないかな



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フランスの地

……なんでしょうね。
書いてて、うーん、と思いました。
いえ、この部分は仕方ないと思ってます。極力原作に沿って書いているんでこうなることはわかってましたが……うーん
これは一回気分転換がてらに何か書いて見た方がいいのかな


 

 

 

 

 

「…………レイシフトは成功したか」

 

 

 目を開ければそこには草原が広がっていた。

 目頭を揉みつつ周囲を見回すとやや離れた場所に立香らがいるのを確認する。

 

 

「アル」

 

「なんだランス」

 

 

 何故か俺の背後に立っているアルに指で上を見ろと伝える。

 そして、一拍遅れて、

 

 

「……なんだアレは」

 

 

 驚愕の声が聞こえた。

 俺はそう思うのも仕方ないと考えながら立香らのもとへと歩く。

 

 

「調子はどうだ立香、マシュ」

 

「あ、ランスロットさん」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

 どうやら彼女らもレイシフト完了したばかりで周囲の状況を確認していないと見える。

 俺は後々混乱させない為にまずは上空のアレを教える。

 

 

「二人ともアレを見ろ」

 

「アレ…………え?」

 

「…………なんですか、アレは……」

 

 

 俺は改めて空を見上げる。

 そこには空にかかった光の輪。

 この時代に有り得ざるもの。無論、俺はその正体を知っているがいまは語るべきではない。

 

 

「少なくともこの時代にあんなものがあるという情報はない。恐らく未来消失の理由の一端だろう……ロマンに聞いても十中八九同じ答えが返ってくるぞ」

 

「……はい」

 

 

 俺はこれ以上アレに集中し過ぎるのも問題だろうと思い話を変える。

 

 

「さて、マシュ時間軸の座標を」

 

「はい…………時間軸の座標確認しました。どうやら1431年です」

 

「……1431年? ……それってたしか」

 

「百年戦争だっけ?」

 

 

 周囲を見回していたアストルフォとようやくきたアルトリアが話に参加し始めた。

 

 

「イギリスとフランスの戦争だな。たしか、フランスに領地を持っていたイギリス王とのフランス王継承問題、だったと思うが」

 

「あながち間違いではない。とりあえずイギリスとフランスによる戦争だが――」

 

「はい、この時期は戦争の休止期間の筈ですね」

 

 

 俺らの話に若干立香がついていけてない気がするが俺は気にせず続けていく。

 説明なら移動中でも可能だろう。

 

 

「ロマン、通信はどうだ」

 

『――よしっ、大丈夫だ! それで現地はどうだい?』

 

「…………映像を送る」

 

 

 上空の光帯の映像を送る間に立香がマシュから百年戦争について聞いているのを視界の端に収めつつ、俺はこれからを考える。

 何かの変化が無ければこの特異点に現れるサーヴァントに対して変化はない筈だ…………まずはジークフリートを探し、その呪いの解呪を優先するべきだな。

 

 

『これは――光の輪……いや、衛星軌道上に展開された何らかの魔術式か?何にせよとんでもない大きさだぞ?』

 

「ああ、それにこの時代にそんなものがあったという情報はない。……こちらでも情報を探すが基本はそちらで解析してくれ」

 

『ああ、任された。君たちは現地の調査に専念してくれ……まずは霊地を探してほしい』

 

「ああ……ロマンの言った通り俺たちはまず霊地を探す。いいな?」

 

「はい」「大丈夫です」

 

 

 俺の指示に二人は返事をしてくれたが……ふむ、なんだろうな。カルデアの部下でもなく、騎士たちでもない少女らに指示を飛ばすというのはいまいち慣れない。

 ガレスやモードレッドらとは違い、ある程度彼女らの事を考えながら指示をしなければいけないな。

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ねぇーランスロットー、兵士の一団がいるよ? 多分斥候部隊かな?」

 

「なに?」

 

 ランスロットらが霊地を探し移動している中、唐突にアストルフォがやや遠くを見ながらそう言ったのを聞いたランスロットはすぐさまアストルフォのもとへ向かいアストルフォの見ていた場所を見る。

 なるほど、確かにいた。少人数ではあるがしっかりとした武装の兵士らが。

 

 

「どうしましょうか、接触しますか?」

 

「ああ、霊地を優先するべきだが、少なくとも街または村に寄って休息する必要もある」

 

「わかりました」

 

「危なくないかな?」

 

「大丈夫です。見たところヒューマノイドですから話し合えばきっと問題ありません」

 

 

 心配する立香にマシュはそう言って兵士の一団へと向かおうとした所、アルトリアにその肩を掴まれ止まった。

 

 

「へ? あの、何故止めるんでしょうかアルトリアさん?」

 

「……マシュ、貴様では友好的すぎる。多少の警戒のある方がこの場合は吉となる。ランス」

 

 

 アルトリアの言葉にランスロットはやれやれ、と首を振りながら一人、兵士の一団へと近づいていく。

 立香と違いランスロットの格好はカルデアの制服ではなく、鎧をやや軽装にしたモノを纏っていた。

 傍から見れば旅の騎士と言っても通じるだろう。

 

 

「ところでマシュ」

 

「はい、何でしょうかアルトリアさん?」

 

「貴様はフランス語は話せるか?」

 

「え……日常会話なら辛うじて」

 

「ならば正解だったか」

 

 

 アルトリアはマシュの返答に一人頷き、その理由にアストルフォは気づいたようでアストルフォも頷いた。

 立香もマシュもそれには気が付かない。

そんな二人にロマンが助け舟を出した

 

 

『ほら、マシュはフランス語より英語を使う機会の方が多かっただろ?なら、きっとあの兵士たちに話しかける際にフランス語ではなく英語を使う可能性があったからね』

 

「…………え、その……いえ、そうですね。今考えると英語で話しかけていた可能性の方が高いです」

 

「……あー、そっか百年戦争だもんね。英語で話しかけたら襲われちゃう」

 

 

 ロマンの言葉にマシュと立香は納得する。

 

 

「それにしても、ここって僕やランスロットがいた時代のフランスより未来なんだよね?そんなに変わんないなぁ……」

 

「それはそうだろう……いや、変わっているだろ。少なくとも幻想種の数は圧倒的に減っているはずだ」

 

「あー、そうだよね」

 

 

 アルトリアの言葉に首肯するアストルフォ。

と、そこに

 

 

「お前ら、終わったぞ」

 

「あ、ランスロットさん」

 

「それでどうでした?」

 

 

 戻ってきたランスロットにどうだったかを問うと半眼で答える。

 

 

「とりあえずは砦までは案内してくれるようだ」

 

「そうか、それはよかった」

 

 

 こうして、カルデア一行は兵士らと共に砦へと向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 





お知らせですが、イベントアンケをしようと思います。
予定ではサンタと贋作は確定しています
〇時に活動報告でアンケ出しますね


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フランスの戦い


ネロ祭始まりましたね。
一応ネロ祭終了までにちょろっとネロ祭の話を投稿しようかな、と思います。
ちなみに時間軸とかガン無視なのでゲームみたいに本来立香ともランスロットとも契約してないような鯖なども出てきます。
後注意としてはランスロットの契約鯖になるかもしれない鯖が数騎ランスロットと共に書きます。



 

 

 

 

 

 

「これは…………。酷い、ですね……」

 

『中がボロボロじゃないか……外壁はそこそこ無事だけど、砦とは呼べないぞ、これ』

 

「……負傷兵ばかりだ」

 

 

 斥候部隊に案内されカルデア一行が辿り着いた砦は砦とは言えない有様だった。

 外壁はまだまだ使えるものではあったが、その内側……兵士の宿舎などが壊滅的だった。

 家屋は崩れ、煤汚れた材木が放逐され、至る所に大小問わずの負傷兵がいた。

 

 

「そうですね。戦争中ではないはずなのに」

 

「……ねえ、セイバーこれって」

 

「ああ、これは……」

 

 

 砦の外側に比べ内側が酷い有様という異質な状況にアストルフォはアルトリアに声をかけるとアルトリアも同じ事を思ったのか首肯する。

 そんな二人を一瞥しランスロットは案内してくれたフランス兵に問いかける。

 

 

「すまないがこれは……」

 

「……本当に知らないんだな」

 

「……イングランド軍……というわけではないだろ?外壁に対して内側の被害がデカすぎる」

 

 

 そう、まるで空から内側に入ってきたかのような被害だ、と内心付け足しながらランスロットはフランス兵に問いかけるとフランス兵の口からありえないような言葉が飛び出した。

 

 

「…………魔女になったジャンヌ・ダルクだ」

 

「え?」

 

「イングランドはとうの昔に撤退した。だが、俺たちはどこへ逃げればいい……ここが故郷なのに、畜生……どうすることも出来ない」

 

 

 フランス兵の言葉にマシュや立香、アストルフォは驚愕の表情を見せるがアルトリアは自分という前例を知っている為、さしずめ反転体だろうと考え、ランスロットは一切反応はしない。

 

 

「……ジャンヌ・ダルクが魔女?」

 

 

 

「「「「────!!!」」」」

 

 と、そこで砦外壁上から兵士たちの叫び声が聞こえた。

 その叫び声が何を表すのか知っている兵士は立香らに向かって叫ぶ。

 

 

「……ッ!来た!奴らが来たぞ!」

 

「……ランス」

 

「ああ」

 

 

 アルトリアとランスロットは流石は円卓の騎士か、何が来たのかを察する。ただの人間、別の軍や賊が来たのなら外からも声が聞こえよう。しかし、外からは声は聞こえない、ならば人語を解さぬ獣か?なれば遠吠え唸り声咆哮はあろう…………では?

 

 

『注意してくれ!魔力反応がある!少量の魔力による人体を用いた使い魔……骸骨兵だな』

 

 

 ロマンからの通信にアルトリアとランスロットはやはり、と呟く。

 無論、骸骨兵以外にも候補はいるが少なくともランクが下がったとはいえアルトリアの直感が外れる事は少ない。

 ランスロットは単純に死体か骸骨かの二択に当てつつ記憶を頼りにしただけだが。

 

 

「それって」

 

「はい、冬木でみたエネミーです」

 

「よぉし、蹴散らすぞー!」

 

 

 アストルフォの掛け声と共にマシュ、アストルフォは骸骨兵へと突撃し立香もその指示をする為に追いかけた。ランスロットとアルトリアは経験蓄積の為にその光景を静観に決めたのかその場からややゆったり歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、お疲れ様でした」

 

「他愛もなかったな」

 

「まあ、骸骨兵だしねぇ」

 

 

 如何に数がいても所詮は骸骨兵。立香の指示通りマシュとアストルフォは骸骨兵を打ち砕き、アルトリアは討ち零しを片付けて、砦入口へと戻ってきた。

 そんなマシュらを見てフランス兵は感心したように話す。

 

 

「アンタたち、あいつら相手によくやるなぁ」

 

「慣れだ」

 

「……さて、一から話を聞かせてもらおうか」

 

「はい、ジャンヌ・ダルクが蘇ったというの本当なんですか?」

 

 

「……ああ、俺はオルレアン包囲戦と式典に参加してたからよく覚えてる。髪や肌の色は異なるが、あれは紛れもなく嘗ての聖女様だ」

 

「イングランドに捕えられ、火刑に処されたと聞いて俺たちは憤りに震えたものさ…………だが────彼女は蘇った。しかも、悪魔と取引して!!」

 

 

「悪魔?さっきの骸骨兵みたいなヤツ?」

 

「いや、違う……あれだけなら俺たちでも対処できる」

 

 

『────!!』

 

「ッ!?」

 

 

 唐突に響く何かの咆哮。先ほどの骸骨兵を掃討してから殆ど時間が経っていないにも関わらずまた別の何かが来るのはある意味不幸としか言えない。

 

 

「くそ、やっぱりだ!来たぞ、迎え撃て!!

ほらほら立て立て!!ドラゴンが来たぞ!抵抗しなきゃ食われるぞ!!」

 

 

 目の前のフランス兵はマシュらや他のフランス兵らを焚きつける様に叫ぶ。それにより周囲のフランス兵らは慌ただしく動き始めているというのにランスロットやアストルフォはやや軽い調子で話す。

 

 

「…………この感じ懐かしいな、まだ生き残ってたのか?」

 

「いやいや、そんなわけないからね?流石にもういないでしょ。普通」

 

『君たちの周囲に大型の生体反応!しかも、速い……!!』

 

「目視しました!?あれは、まさか────!?」

 

「ワイバーン!?」

 

 

 

 ドクターの通信と視認した生体反応の正体に驚愕するマシュと立香だが……やはり、生前日頃から幻想種を狩ることがあったランスロットはやや場違いな事を口にする。

 

 

「ほう、知ってたか。アレは竜の亜種だ、つまり雑魚だ。ちなみにきちんと血抜きすれば食える。特にタタキが美味いぞ」

 

「……ちょ、ちょっと食べてみたい……!?」

 

「先輩っ!?」

 

『みんな、来るぞ!?』

 

「さっきの骸骨より強いけども問題なし!いっくよー!」

 

「ふ、適当に狩ってランスにハンバーガーでも作らせるか」

 

「アルトリアさんッ!?」

 

 

 この一行の中で真面目なのは私だけなのだろうか、マシュは内心その思いを隠しきれなかった。

 時折ズレたことを言う立香に気にせず進んでいくアストルフォ、そして並の幻想種程度では調理またはその後の事を考えるアルトリアとランスロットを見てマシュは頭を抱えかけた。

 なお、本来苦労人側のランスロットは時代は違えど久しぶりの故郷にやや調子がおかしくなっていてむしろ苦労をかける側にいる事にランスロット本人も気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 既にアルトリアとアストルフォはワイバーン狩りをしに行った後、唐突に一人の少女が現れた。ランスロットはそれを半眼で見つつ近場のフランス兵に声をかける。

 

 

「兵たちよ、水を被りなさい!彼らの炎を一瞬ですが防げます!!」

 

「え……!?」

 

「そこの御方!どうか、武器を取って戦ってください!私と共に!

続いてください────!!」

 

「あの人は……」

 

『おおう、サーヴァントだ!しかし反応が弱いな、彼女は一体……』

 

 

「…………旗にフランスと来れば知らなくとも察せるな」

 

 

 

 金色の髪に白い旗を持ったサーヴァントを見ながら、そうランスロットは呟きながらフランス兵から弓を借り受けワイバーンの群れへと走っていった。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

『────!』

 

「とりゃあ!」

 

「ふん」

 

「はぁぁ!」

 

 

 フランス兵に交じりワイバーンを倒すアストルフォ、アル、マシュ。だが、飛行可能な幻想種である為かマシュとアストルフォは何度かその攻撃を空振りしてしまう。

 アルは避けられる前にその翼を切り落としているため問題は無い…………さて、フランス兵の前でアレを捌くのは色々と遠慮したい。悪魔だ何だを食べるなんてなどとは言われたくないからな。

 適度に矢を放ちつつ、前線でワイバーンらをその旗で殴り倒している聖女のもとへ走る。

 

 

「────背中が疎かだ」

 

「ッ────!」

 

 

 聖女の背後から襲おうとしていたワイバーンの脳天に矢を直撃させて俺は聖女と背中合わせに構える。

 

 

「…………ありがとうございます」

 

「気にするな……さて、その旗と邪気の感じなさから聖女殿とお見受けするが間違いないか?」

 

「……そう、ですね。確かに私は聖女と呼ばれていました」

 

 

 背中合わせのまま、互いの顔を見ずに話をしていく。無論、その間もワイバーンを薙ぎ払う。

 

 

「貴方は────」

 

「続きはこのワイバーンらを排除してからで頼む。私たちは卿が敵でないと分かれば充分」

 

「……では、貴方がたは敵ではないのですね?」

 

「信じて欲しい、とのみ応えよう」

 

「…………はい、分かりました。今はこの群れをどうにかすることだけに集中しましょう!!」

 

 

 どうやら俺たちが味方と信じてくれたようだ。

 彼女はそのままワイバーンへ向かっていく。

 そんな先程みたいな事が起きる可能性を忘れたように突撃する彼女の背を見て俺は微妙な表情で笑うしかなかった。

 

 

 




ランスロット若干胃痛から解放されてるでした。落としますが←


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イングランドとフランス出身鯖しかいない


一日空けての投稿です。
活動報告に泣き言がありましたが、やっぱり急ぎ足過ぎたんでしょうかね?
書かなきゃと思った途端に頭が白んでくる……どうすればいいんでしょう。あ、活動報告で励まし?の言葉をくれた ヒカゲさん 草歌さん huntfieldさん ありがとうございました。

スパルタクス勝てねぇ


 

 

 

 

 

「はぁぁ!」

 

『────!?』

 

 

 マシュの一撃が勢いよくワイバーンの頭部に直撃し、脳へダメージが入ったのか頭を揺らして地面に落ちた。

 どうやら、いまのが良く効いたのかワイバーンはピクリとも動かない。

 

 

「……今ので最後のようですね」

 

 

 安心した様にマシュは片手で額の汗を拭い、周囲を見渡す。既に周囲のワイバーンはアルトリアとアストルフォ、ランスロットと金髪の女性サーヴァントに討ち倒されている。

 マシュは自分と他のサーヴァントらの間にある差にやや悩むがそれは何処か腑抜けた声に途切れさせられた。

 

 

『ようし、良くやったぞ諸君!いやあ、手に汗とゴマ饅頭を握って見入っちゃったなあ』

 

「…………ドクター、それは私が用意したゴマ饅頭じゃないですか?」

 

「あー、やっちゃったね」

 

『え、あ、その……ごめんね?』

 

 

 ドクターとの他愛もないやり取りに先程マシュが抱いた悩みはマシュの心の片隅へと消え、マシュの表情から陰りは無くなり、立香と共にワイバーンの襲撃時に現れた金髪の女性サーヴァントとランスロットのもとへ集まる。

 

 

「怪我は無いだろうか」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 

 そこにいたのは清廉な女性だった。

 濃紺の衣服に身を包み、手には何か大きな布を巻いたような長物を持った美しい金髪のサーヴァント。

 そんなサーヴァントとランスロットが話し合う中、彼女を見ていたフランス兵が有り得ないモノを見たような表情で

 

 

「そんな、貴女は────いや、お前は!逃げろ!魔女が出たぞ!」

 

「え、魔女……?」

 

「…………」

 

 

 フランス兵の放った言葉にマシュと立香は困惑の表情を浮かべランスロットは察していた様な表情でその言葉を流す。

 フランス兵の言葉に表情を曇らした彼女は砦の中へと逃げ込んだ彼らを一瞥しランスロットらに頭を下げる。

 

 

「…………あの、助力ありがとうございます」

 

「い、いえ、当然です。それより貴女の名前を────」

 

 

 頭を下げる彼女にマシュは慌てたように反応し、名前を聞き

 

 

「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名をジャンヌ・ダルクと申します」

 

「ジャンヌ……ダルク!?」

 

「死んだはずじゃ」

 

「やはりな……」

 

 

 彼女、ジャンヌ・ダルクの名にマシュと立香は驚愕しアルトリアは察していたのか頷く。

 しかし、そんな反応を見てジャンヌは

 

 

「……その話は後で。彼らの前で、話す事でもありません」

 

 

 砦の方を一瞥して森の方へと歩きながらランスロットらに言う。

 

 

「こちらに来て下さい……お願いします」

 

「……ランス」

 

「ああ、行こうか」

 

 

 アルトリアの短い言葉にランスロットは首肯し、カルデア一行はジャンヌ・ダルクの後をついていった。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 砦を離れ森の中へと入ったカルデア一行とジャンヌ・ダルク。

 途中、アンデッドらの魔性の気を取り込んだからか異形の存在となった獣らが現れ一行に襲いかかったがアルトリアに軒並み蹴散らされていた。

 

 

「……ここら辺なら問題ないだろう」

 

「そうですね。此処ならば落ち着けそうです」

 

 

 周囲を見渡したランスロットの提案にジャンヌ・ダルクは頷き、足を止めランスロットらの方を向く。

 

 

「失礼だとは思いますがまずは貴方がたのお名前をお聞かせください」

 

 

 申し訳なさそうにそう言う彼女にランスロットは構わない、と告げてから名を名乗る。

 

 

「人理継続保障機関カルデア所属マスター兼サーヴァント・ランスロット・デュ・ラックだ。またはランシア・ニヴィアン、好きに呼んでほしい」

 

「……ランスロットのサーヴァント、クラスはセイバーだ」

 

「サーヴァント・ライダー、アストルフォだよ」

 

「私はマシュ・キリエライトです。それでこちらが」

 

「どうも、マシュとアストルフォのマスターしてます。藤丸立香です」

 

 

 笑みを浮かべながら自己紹介するランスロットにやや不機嫌そうなアルトリア、いつも通りのアストルフォとマシュ、立香。

 そんな多様な自己紹介に困惑しつつもジャンヌ・ダルクはその自己紹介の中にあった単語に反応する。

 

 

「マスター……?この聖杯戦争にもマスターはいるのですね。それに……マスター兼サーヴァント?」

 

「いや、聖杯戦争とは無関係だ。それとマスター兼サーヴァントというのは……本来サーヴァントだったのが過去の聖杯戦争で受肉した結果、マスター適性を持った為だ」

 

「……なるほど」

 

 

 ランスロットの説明に納得したような表情で頷くジャンヌ・ダルク。そんな彼女にランスロットは質問を始めた。

 

 

「それで君のクラスはルーラーだと言ったが」

 

「……そうですね。まずはそこから話さねばなりませんね……」

 

 

 そうして、ジャンヌ・ダルクの口から語られる話をランスロットらは清聴し

 

 

 

 

 

「というわけだ。すまないな、君の事情説明に間を空けずこちらの事情説明をしてしまい」

 

「いえ、大丈夫ですよ。それにしても世界が焼却されているとは……」

 

 

 話はいつの間にかにランスロットらカルデアの事に移っていた。

 ジャンヌ・ダルクの状況とカルデアの目的を加味してランスロットはまとめていく。

 

 

「ジャンヌ、君の目的はこのフランスを脅かしている黒のジャンヌを倒す事、そして我々カルデアの目的は恐らく黒のジャンヌ又はその陣営の者が保有しているであろう聖杯の奪取。互いの目的は微妙に異なるが最終的に言えばこのフランスを救う事……相違ないな?」

 

「はい、問題ありません」

 

 

 ジャンヌ・ダルクの返答に頷いたランスロットは話を続けていく。

 

 

「君のサーヴァントととしての力は大きく弱体化している。ルーラーとしてのサーヴァント探知機能もステータスも……目的達成には些か心もとないだろう。その点も考えてどうか我々カルデアに協力して欲しい」

 

「……いいのですか?」

 

「無論。何せ我々には土地勘がない。カルデアによる通信などもあるだろうが実際の所とは細かい差異がある筈だ。その細かい差異が命取りになる可能性を考えると君のような現地を知ってるものがいるのは好ましい……故郷と言えども私とアストルフォはだいぶ時代が違うのでね」

 

「……なるほど」

 

 

 ランスロットの言葉に納得するジャンヌ・ダルク。確かにランスロットとアストルフォはここフランス生まれの英雄だ。だが、既に数百年の時が流れている以上、二人の持つ土地勘は効果が見込めない。

 ならば、死してまだ数日も経たないジャンヌ・ダルクならば役立つ土地勘があるだろう、とランスロットは判断した。

 それを理解したのかジャンヌ・ダルクは首を縦に振り

 

 

 

「では、私からも言わせてください。どうか、この国を救う為に皆さんの御力を貸してください」

 

 

「無論」

 

「…………ああ」

 

「はい、お任せ下さい」

 

「時代は違うけど故郷のピンチだからね、頑張っちゃうぞー」

 

「うん、頑張るよ」

 

 

 こうして、カルデア一行とジャンヌ・ダルクは目的の為に協力する事がここに決まった。

 

 

 

 

 

 

 





はい、一日空けた癖に駄文な気がしてなりません。チーズに頭打ちつけますね。
もしかしたらこれからも一日空けて投稿とか本編置いて、別可能性とか番外とか投稿するかもしれませんが寛大な態度でお願いします

タイトルにも書いてますけどギャラハッド含めてイングランドかフランス出身しかいないですねサーヴァント


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夜営

日を空けた癖に文字数少ない。
すいません。
次は頑張ります。


 

 

 

 

 

 既に夜の帳は落ち、辺りは闇に包まれる。

 焚火の火はきちんと消され、明かりとなるものは夜空に浮かぶ月明かりのみ。

 

 

 そんな森の中、休息をしている皆から離れた所で一人、何やら作業をしている者が。

 

 

 

「────」

 

「寝ないんですか?」

 

「……ジャンヌ・ダルクか」

 

 

 その人……ランスロットに声をかけるのはジャンヌ・ダルク。ランスロットは作業をしていた手を止めて隣に腰を下ろしたジャンヌ・ダルクを見る。

 

 

「ジャンヌ、でいいですよ?」

 

「……では、ジャンヌ。君こそ寝ないのか?」

 

「いえ、私は見張りを」

 

「……見張りは私に任せるといい」

 

 

 ジャンヌはランスロットの言葉にランスロットは譲らないと察したのか話をあからさまに変えることにした。

 

 

「え、えっと、何をなさっていたんですか?」

 

 

 ランスロットはそんなあからさまな話の変え方に少し笑い、その手に持っていたものを見せる。

 それは矢だった。何の変哲もない矢。

 それにジャンヌは首を傾げる。それは仕方の無いことだろう。ランスロットは自分の事をセイバーのクラスで召喚されていたと教えてくれていた。

 故に何故セイバーのランスロットが矢など作っているのだろうか、と。

 そんなジャンヌの疑問をランスロットは察したのか

 

 

「ああ、私はセイバーだからな。矢は使わない、がこの特異点にはワイバーンが多い。剣では届かない場所にいる時もある、その時のためにこうして用意している」

 

「……なるほど……宝具。確か、旅の途中とある策略によって丸腰で戦うことになった際に楡の枝で敵を討ち倒したという伝承があったはず……その伝承が宝具となったのですか?」

 

「ああ、よく知っているな」

 

 

 ジャンヌの知識に感嘆するランスロットにジャンヌは胸を張り、誇る様に話す。

 

 

「ええ、アーサー王伝説、特に貴方の逸話はフランス・イングランド問わず幼子から老人まで人気ですから。恥ずかしながら私は文字が読めませんでしたが……その、村の知識人に幼い頃聞いて……」

 

 

 途中からやや恥ずかしそうに頬を赤く染めながら話すジャンヌにランスロットら穏やかな笑みを浮かべながら新しい枝を取り出し削っていく。

 

 

「それはなんとも……アストルフォにも言ったがこそばゆい話だ。俺はそう語られるほど凄い人間ではなかったのだがな」

 

「そ、そんな!」

 

「説明する事を勝手に諦めて仲間を殺した愚か者だぞ?」

 

「…………それは」

 

 

 諭す様なランスロットに言葉が詰まるジャンヌ、そんな様を見てまたランスロットは笑いやや乱雑にだがジャンヌの頭を撫でる

 

 

「わわっ!?」

 

「少し意地悪な事を言ったな。許して欲しい」

 

「は、はい……」

 

 

 恥ずかしかったのか、怒ったのか頬を赤く染めてランスロットから視線をずらすジャンヌにランスロットは肩を竦める。

 そんなランスロットにジャンヌは顔を顰め抗議するかのようにランスロットがまだ手をつけていない枝を拾い上げてペン回しの要領で回し始める。

 そんなジャンヌの様子をまるで微笑ましいものでも見るような視線をランスロットはジャンヌに向けつつ背後から感じる視線に笑う。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、気にしなくていいさ」

 

「そうですか……」

 

 

 談笑する二人を包む夜は段々と深くなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………(かんっぜんに出遅れた……)」

 

 

 木を握り締めながらそんな二人を見る黒い王様がいることをランスロットはともかくジャンヌは知らない。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「……朝か」

 

 

 目を開ければやや暗めだが光が差していた。

 まだ早いためか、霧がかっているが特に問題は無いだろう。俺は寝ていた木から降りる。

 

 

「すぅ…………」

 

「うぅん……」

 

「ふにゃァ…………」

 

「すぅ…………」

 

「……寝ているのか。いや、当たり前か」

 

 

 まだ起きる様な時間でないのだからしかたない。俺は立香の毛布をかけ直して、夜営地から少し離れる。

 早朝の霧が涼しく感じる。

 嘗ての湖とは時代も場所も違うがこういうものはどんな時代、どんな場所でもいいものだな。

 

 

「だが────」

 

 

『グルルル……』

 

『グルルル』

 

 

 森を歩く俺の前に姿を現すのは赤毛の獣人たち。どうやら、集団から離れた俺を狙っていた様だな。

 確かに彼処からある程度離れた此処なら早々気づかれないが…………

 

 

「相手が悪かったな」

 

「ああ、まったくだ」

 

 

 そう言って木の上から飛び降りてくるのは黒いドレスを身にまとったアル。

 追いかけていたようだな。

 

 

「とりあえず何で追いかけてきたのかは聞かないでおく」

 

「私を構わないお前が悪いとだけ言っておこう」

 

「それは悪い」

 

『グルルル』

 

『グラァァッ!!』

 

 

 悠長に話す俺たちに痺れを切らしたのか獣人たちは吠え声を上げて突撃してくる。

 俺は半分をアルに任せて、もう半分に迫る。

 

 

「さて、蹂躙するか」

 

「獣人は食えんからな?(とりあえず世界樹の種を落とせ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に言えば獣人たちは俺とアルに蹂躙された。

 世界樹の種?蹂躙した獣人たちの四分の一ほどから取れたがアルに食えんと言われ全て踏み潰された…………辛ぇ。

 

 





ちなみになんで日が空いてたかというと、主人公が別作品に行っていた場合の作品とかが頭の中に展開されていてなかなかこっちが形に出来ませんでした。

・ハイスクールD×D:エインズワースとクラスカード
・シンフォギア:魔術師

まあ、こんな奴ですかね……こんなのに対して何日を空けてんだという話ですね


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ラ・シャリテ

また数日空きましたね。
 これは単純に仕事の都合上書く時間が取れなかった事と何故かポケ〇ンgo熱が再発した両親と共に夜の散歩へと巻き込まれたのが原因です許してくださいなんでも(ry

超高難易度初代様はおかしい



 

 

 

 

 

「おはようございます……ランスロットさん?」

 

「……ああ、マシュか。おはよう」

 

 

 既に霧は晴れ、空には青空が広がり時折ある雲で光帯が見え隠れし始めた中、顔を洗い調子を整えたマシュがランスロットのもとへ行くと、ランスロットに何処か疲れた様子が見えた為、マシュは首を傾げる。

 

 

「どうしたんですか? ……もしかして寝れなかったんでしょうか」

 

「いや、そういうわけじゃないさ。少し早朝早々疲れる事があっただけでね」

 

「はぁ……」

 

 

 ランスロットの言葉にマシュは首を傾げながら納得する。

 ランスロットはそんなマシュに小さく笑うとその手に持っていた矢の束を矢筒へと入れていく。マシュはその姿に何処と無く既視感を覚えつつアストルフォと何やら話している立香のもとへ歩いていった。

 

 

「…………なんだアル」

 

「……いや、まだ機嫌が悪いのか、と思ってな」

 

「…………とりあえず食べれんからという理由でアレを潰すな」

 

「むぅ……」

 

 

 マシュが離れたのを確認してから木の上からアルトリアがランスロットの近くに降りてきた。そんなアルトリアにランスロットは目線をやらず作業のままアルトリアに声をかける。

 既に早朝から時間が経っているのに何処と無く疲れた……不機嫌な様子を感じていたアルトリアはランスロットに問いかけるとやはりと言うべきか苦言を返され、アルトリアは頬を膨らませる。

 

 

「…………アルトリア」

 

「なんだ」

 

「いけるか?」

 

「誰にモノを言っている。この身はブリテンの騎士王だ」

 

「…………だな」

 

 

 唐突に空気を張り詰めさせたランスロットにアルトリアは騎士王然とした態度で応答する。

 特異点にて未だ主だったサーヴァント戦は無い、だがジャンヌの目的である黒ジャンヌの排除を考えれば、これからサーヴァント戦があるのは必定。

 その中でアルトリア以上のサーヴァントとぶつかる可能性をランスロットは考慮し、アルトリアに問うた。その答えをわかっていながら。

 

 アルトリアの答えにランスロットは当たり前か、と呟き矢の束を全て入れ終えた矢筒と早朝から今の内に作り終えた大弓を持って立ち上がり、アルトリアを引き連れてジャンヌらのもとへと向かう。

 

 

 

「あ、おはようございますランスロットさん」

 

「おっはー」

 

「ああ、おはよう立香、アストルフォ。調子はどうだ?」

 

 

 ジャンヌのもとには既にマシュと立香そしてアストルフォ。

 どうやら、三人とジャンヌも既に出発する支度は出来ているようだ。

 

 

「……ふむ、ジャンヌ、そろそろ動くとしよう」

 

「はい。ここから一番近い街はラ・シャリテです。とりあえずはそこで黒ジャンヌについての情報を集めようと思います」

 

 

 ジャンヌの言葉にランスロットは頷く。

 現状黒ジャンヌの情報は竜の魔女と虐殺の二つ。無論、ランスロットはだいたい知っているがそれは一切口には出さない。

 

 

「では、ジャンヌの言う通りまずはラ・シャリテに向かおう。……ただ、ジャンヌ、暫くは顔を隠してくれると助かる」

 

「はい、今の私が人々の前に現れれば要らぬ混乱を招きます……」

 

「とりあえず簡易ではあるが外套を用意しておいた。暫くこれを被っておいてくれ」

 

 

 そう言ってランスロットは背負っていた荷物の中から紺色の外套を取り出す。

 

 

「あ、ありがとうございます…………」

 

「どうしたんですか、ジャンヌさん?」

 

「どうしたのー?」

 

 

 ランスロットから外套を受け取りそれを広げたジャンヌは表情が固まった。そんなジャンヌの様子が気になったのかマシュらはジャンヌの側から外套を見て一緒になって固まった。

 そんな四人にランスロットはまた何かやってしまったのか? と首を捻る。

 

 

「「「「(これが簡易?)」」」」

 

 

 広げられた外套には白の十字架とジャンヌの旗に施されていたモノと同じモノが縫われおり、その完成度は凄まじく、四人はこれをランスロットが簡易と呼んだ事に若干の恐ろしさを抱き、それを察したのかアルトリアは誇らしげに笑みを浮かべる。

 

 

「……なるほど、そういう事か」

 

 

 どう受け取ったのかランスロットはやや悔しそうな表情をしながら話し出す。

 

 

「すまない。一時の為のものとはいえ流石に簡易にし過ぎたようだ…………私とて妥協はしたくはなかったのだが時間が無くてなそれぐらいしか出来なかった……すまない」

 

「え、あ、いえ、大丈夫ですよ?流石にやり過ぎると逆に目立ちかねませんから……(このままこの外套を座に持ち帰りたいのですが)」

 

「(とりあえずカルデアに戻ったら僕もなんか作ってもらおー)」

 

「(わ、私も頼めば作ってもらえるんでしょうか……)」

 

「(…………むしろこれの完成品が見てみたい)」

 

 

 ジャンヌの言葉にランスロットは安堵の表情を浮かべつつ何処と無く納得のいかない様子で荷物を背負い直し、改めてジャンヌを見て

 

 

「さて、それではラ・シャリテへと向かうとしよう。ジャンヌ、道案内は任せた」

 

「はい、任せてください」

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

「これは……!!」

 

「そんな」

 

「……一足遅かった」

 

 

 

 ラ・シャリテに着いた俺たちの目の前に広がっていたのは焼けた街の残骸だった。

 民家は焼け崩れ、所々から肉の焼けた臭いがする……そんな光景。

 遅かった。

 ロマン曰く既にサーヴァント反応はこの街付近から離脱しているようだ…………戻ってくる可能性を考えると早めに移動するのが吉となる……だが、しかし

 

 

「ドクター、生体反応を――」

 

『……駄目だ。その街に生命と呼べるものは残ってない』

 

「そんな――」

 

 

 目の前の状況を容易く肯定出来ないマシュと立香がロマンに通信で生き残りを探す事を望むがそれを遮ってのロマンの言葉に二人は言葉を失っていた。

 二人共そう簡単には納得出来ないだろう。俺やアル、アストルフォ、ジャンヌの様に二人は戦場というものを経験したわけではない。

 無論、冬木での光景を見ているがそれとこれとはわけが違う。アレはもう終わっていた……助けれるものなど無かった。だが、ここは違う……ついさっきまで此処には生きていた人々がいたのだ。

────と、どうやら

 

 

────ガタッ

 

「ッ!!待ってください。今、音が……!」

 

「違う……アレって」

 

 

 やや近場から物音がした。

 崩れて出る音ではなかった。

 それに反応したマシュは安堵にも似た声でロマンに訴えかけたがそれを立香が否定した。

 立香の指差す方向、物音のした方向を見ればそこにいるのは人間ではないモノ

 

「……リビングデッド、か」

 

 

 レイシフトしたばかりの時に砦で見たモノと同じリビングデッドとやや離れた所にいる緑色の甲殻を持つ幻想種……

 

 

『────!』

 

「……あ」

 

「……ッ!!」

 

『ワイバーン……死体を漁ってるのか……!!』

 

「……ア、アア、アァァァッッ!!」

 

「マシュッ!?」

 

 

 焼死体か圧死体か、人間の死骸を食い漁る数頭のワイバーンを見て、目の前の光景を認めたくないのか叫びながら突貫したマシュに俺は辛さを感じながらアルとジャンヌに指示を飛ばす。

 一先ずはあのワイバーンどもとリビングデッドを排除するしかないな。

 

「ジャンヌ、アル、いくぞ」

 

「はい……ッ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 上空へ逃げようとするワイバーンの額を寸分違わず撃ち抜く。『騎士は徒手にて死せず』により宝具化してる弓ならばこれぐらい容易い事だな。

 ワイバーンを仕留めた俺は次の標的に移るために周囲を見回そうとしてロマンの声が聞こえた。

 

 

『今のが最後のワイバーンだ。周囲に反応はないよ』

 

「……そうか」

 

「……これをやったのは恐らく『私』何でしょうね」

 

 

 先ほどのワイバーンやリビングデッド、そして目の前に広がるラ・シャリテの光景にジャンヌは浮かない表情でそう呟いた。

 俺とアルは口をつむぐ。ここは俺らが口を出すところではないとわかっているから

 

 

「ジャンヌさん……」

 

「そうと決まったわけじゃ────」

 

「いえ、分かります。私には……ですが、どれだけ人を憎めばこの様な事が出来るのでしょう。私にはそれが分からない」

 

 

 流石のジャンヌの言葉に否定しようとしたマシュと立香は口を閉じる。

 きっと自分から派生した存在であるからだろうか……彼女は察せられるらしいが…………その憎悪について分からないのはそれは黒ジャンヌが正確に言えば彼女の一側面というわけではないからだろう。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

『────ん? ッ!! 大変だ! 先ほど離脱したサーヴァントが反転した! 拙いな、君たちの存在を察知したらしい!!』

 

 

 二人の沈黙を破る様にロマンの通信が響く。

 

 

「ルーラーの索敵能力か…………数は!」

 

『数は────五騎!ッ、速度が速い……これはライダーでもいるのか?』

 

 

「五騎……退避する。この場を離れるぞ!」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

「数はこっちも同じですよ!!」

 

 

『駄目だ!ランスロットの判断は正しい……!

まだ未熟なマシュに……ステータスが大きく弱体化しているジャンヌ・ダルクでは一対一は分が悪い……』

 

 そうだ。如何にワイバーンやリビングデッド、シャドウサーヴァントと渡り合ったマシュと言えども支援無しでのサーヴァント戦は幾ら何でも荷が重すぎる。そして、ジャンヌはステータスが弱体化している以上キツい。此処に来るサーヴァントが記憶通りならマシュ同様荷が重い。

 ロマンと俺の言葉に自分なら大丈夫だ、とでも言いたそうなマシュの肩に俺は手を置く。

 

 

「ッ……で、ですが」

 

「…………退避だ。マシュ分かってくれ」

 

「…………はい」

 

 

 きっと、マシュの中では劣等感が渦巻いているのかもしれない。だが、いまは……我慢してくれ……。

 

 

「すまん……ジャンヌ、サーヴァントがやってくる、すぐに────ジャンヌ?」

 

 

 ジャンヌに退避を促そうとして彼女を見ればその表情は先ほど以上に真剣なものであった。

 

 

「……逃げません。せめて真意を問いたださなければなりません」

 

「だが────」

 

 

 ここは退避しなくては駄目だ。そう言おうとした俺を遮る様に通信からロマンの声が響く。

 

 

『駄目だ!?もう間に合わない!!出来る限り逃げる事を優先するんだ!わかったね!?』

 

 

 ロマンの悲鳴のような忠告が終わると同時に複数の通常よりもやや大きなワイバーンが空から降り立つ。

 その背には五つの影、否サーヴァント。

 黒い衣服に身を包んだ王の如き男、やや特殊なドレスを見に纏った仮面の女、俺たちとは違う近代の騎士衣装を纏った中性的な姿のサーヴァント、鉄甲を填めた杖を片手に持つ聖性を感じさせる女…………そして

 肌の色、髪の色、纏う衣服の色の違いなどがあるがジャンヌと瓜二つの姿を持つ女サーヴァント────────ちょろ……んん、竜の魔女。

 彼女を見て驚愕に表情を染めるジャンヌと冷徹に嗤う竜の魔女……此処に会合した。

 

 

 

「…………!!」

 

「────なんて、こと。まさか、まさか、こんな事が起こるなんて」

 

 

 





こっちを書きつつ合間合間で別作品を書きたいと思います。ようは一つ書いてたら発症する持病をどうにかするためにですね。
まあ、基本的にこっちなんで安心してください。
 その別作品はこっちの主人公がランスロットではなくて別作品に行っていたという話ですので興味があればどうぞ。駄文かもしれませんがね


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ラ・シャリテの攻防

実は風邪をひきまして数日開けてしまいました。
まことに申し上げございません。

さて、fateがキャンペーンで星4鯖プレゼントですが皆さんは何にしますか?ちなみに作者は黒王か乳上で迷ってます。トリでもいいんですけどね?
それと剣豪七番勝負が10月だそうですが……キーワードに五芒星ありましたから清明出るんですかね?……それともしかして将門来るの?


 

 

 

 

「────なんて、こと。まさか、まさかこんな事が起こるなんて」

 

「────」

 

 

 黒ジャンヌと会合しその顔を見て、絶句するジャンヌ。それに反し黒ジャンヌは……

 

 

「ねえ、お願い、誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの、本気でおかしくなりそうなの……だってそれぐらいしないと、あまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう!!!」

 

「貴女は……貴女は、誰ですか!?」

 

 

 大元のジャンヌからじゃ決して想像も出来ないような悪属性に満ち満ちた表情で嗤う黒ジャンヌ……きっとそういう意味ではないのだろうがジャンヌの言葉には賛成する。

 だが、ちょろ……ちょろいオルタだからこれぐらいの違いはあってしかるべきなのだろうか…………。

 おかしな事を考えた自分に若干ながら頭痛がしつつ俺は二人を見る。

 

 

「アハハハハ、ゴホッ!?ゴホッ…………そ、それは、こちらの質問ですが…………そうですね、上に立つ者として答えてあげましょう」

 

「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の私」

 

 

 むせたな。明らかにむせたぞ。

 前世での記憶的に違うが……まあ、現実はこんなものだ。むせた事を無かった所にしてドヤ顔を決める黒ジャンヌに俺は頭を抱えたくなるがとりあえず止めておこう。今はそうじゃない。

 

 

「馬鹿げたことを……貴女は聖女などではない。私がそうでないように……いえ、それはもう過ぎたこと。語ることでは無い

それより────この街を襲ったのは何故ですか?」

 

「……何故、かって?同じジャンヌ・ダルクなら理解していると思っていましたが」

 

 

 黒ジャンヌは呆れたように嘆息し言葉を続けた。

 

 

「属性が反転していると、ここまで鈍いのでしょうか?この街を襲った理由?馬鹿馬鹿しい問いかけですね?そんなもの明白じゃないですか」

 

 

「────フランスを滅ぼす為です。それ以外に理由なんてありませんよ?経済的とか政治的なんて分かりませんし、それなら物理的に全部滅ぼした方が手っ取り早いでしょう?」

 

「そんな────」

 

 

 一拍空けて語られたその言葉にジャンヌは驚愕にその目を染めて二の句が出ない。

 そんな彼女の為にも俺は感じた事を口にすることにした。

 

 

「……呆れた話だ。裏切られたから滅ぼすと?短絡的だ」

 

「なんですって?」

 

「そのままの意味だよ。少なくとも裏切ったのは国の中でも上の人間だろう。それになりより貴様を異端と貶めたのはイングランドの筈だが?ならばわざわざフランスを滅ぼしてどうする」

 

 

 俺の放った言葉に黒ジャンヌは顔を顰める。

 無論、彼女にそう言ったところで無駄なのは分かっている。何せ彼女は自分の真実に気づいていない…………それに俺の言葉に揺れる理由もないしな

 

 

「……そう、あんたが、ランスロット…………貴方とて国に裏切られたのでしょう?私のように国を滅ぼそうとは思わないのかしら」

 

 

 やはり、ルーラー……真名看破持ちか。

 それにしてもそこを突かれるとは……頭の痛い話だ。

 

 

「……アレは俺が言葉を尽くさず勝手に諦めた結果だ。己を恨みこそすれ、国を恨むことなどない……何より、再び俺が滅ぼしてどうする」

 

「…………つまらないわ」

 

 

 俺の言葉に黒ジャンヌはどうでもいいと言わんばかりの表情で俺を見て

 

 

「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘と騎士様を始末なさい。雑魚ばかりでそろそろ飽きたところでしょう?彼らは強者、勇者を平らげる事こそが貴方たちの存在意義。存分に貪りなさい」

 

 

 そう、黒ジャンヌは背後の二騎のサーヴァントに命令を下す。黒き護国の王と拷問城の夫人………………さて、どうするか

 

 

「────よろしい

では、私は血を頂こう」

 

「あら、いけませんわ王様。私は彼女の肉と血、そして臓を戴きたいのだもの」

 

 

「強欲だな。では魂は?魂はどちらが戴く?」

 

「魂なんて何の益にもなりません。名誉や誇りで、この美貌が保てると思って?」

 

 

「よろしい。では私が戴こう!

……皮肉なものだ。血を啜る悪魔に成り果てた今になって、彼女の美しさを理解できるようになったとは」

 

 

 獲物の取り分について話し合うヴラド三世、カーミラを見つつ俺は一度後ろに目線をやる。

 緊張気味のマシュとジャンヌ、立香に俺は仕方ないと感じ目の前の二騎に視線を戻す。

 …………ステータスが弱体化しているジャンヌ、未だ実力不足のマシュ、決して強いとはいえないアストルフォ…………対してバーサーク……狂化したヴラド三世とカーミラ。カーミラ自体はそう強い英霊ではない……だが、狂化していることを考えると……致し方なし、か

 

 

「────アルトリア、マシュらと共にアサシンを」

 

「なに?」

 

「俺はランサーをやる」

 

 

 俺の言葉に怪訝な表情をアルは浮かべたがすぐにやれやれ、と呆れたような表情で笑い

 

 

「お前という奴は…………任された」

 

「応」

 

 

 互いに笑みを浮かべ、俺はヴラド三世────バーサーク・ランサーへと鎧を纏って駆ける。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「────シッ」

 

 無慈悲の剣がバーサーク・ランサーの首へと迫る、

 

「フッ────!」

 

 だが、そんな必殺の一撃をバーサーク・ランサーは狂化の恩恵であるステータス上昇により、寸前に槍を挟み込みそれを防ぎ片手を振るい地面から何本もの杭を生やす。

 やはり、ランスロットか、それをすぐさま回避した。

 

「ふむ……流石は湖の騎士。その名は伊達ではないようだ」

 

「それはこちらの台詞だぞ、竜の仔(ドラクル)

 

「ほう、余の真名を知っているのか……だが、此度は竜の仔(ドラクル)ではなく悪魔(ドラクル)よ────!」

 

 

 笑みを浮かべながらランスロットへと無数の杭を放つバーサーク・ランサーにランスロットはその盾で叩き折り、その兜の下で笑う。

 

 

悪魔(ドラクル)か、ならば我が盾は格別貴様に効くだろうよ!」

 

 

 盾と杭がぶつかり合う音がラ・シャリテに響き渡る。

 堅牢な戦闘を行うランスロットの僅かな隙を突いてバーサーク・ランサーの杭が迫る、しかしランスロットにとってそのような隙は隙にあらずランスロットはその盾から漏れる聖性が迫り来るバーサーク・ランサーの杭を先から塵のように崩す。

 

 

「ぬぅ!その盾、ただの盾ではないな!」

 

「応ともさ、我が盾こそは湖の乙女と魔女の加護を刻んだもの!まあ、貴様の杭に影響を与えている理由は違うがな」

 

 

 互いに笑いながらぶつかり合う二騎。

 バーサーク・ランサーは堅牢な戦い方のランスロットと杭を通さぬ盾に攻めあぐね、ランスロットは狂化によるステータス上昇に上手く対応出来ていない。

 互いに決定打が取れない状態が暫く続くが……

 

 

「────やはり、堅い。これでは如何にバーサークしている余でも勝ちをとるのは難しかろう」

 

「ほう?ならば大人しく退くか?それなら私も剣を下ろすが」

 

「愚かな。難しいとは言ったが、とれぬとは言ってはおらんぞ!」

 

 

 そう嗤うと同時にランスロットの四方八方より迫り来る無数の杭にランスロットは盾を使い防ごうとするが四方八方の杭全ては防げず……

 

 

 

 

 

「グッ────!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

「ハッ!!」

 

「とりゃあッ!」

 

「フンッ!!」

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

 マシュ、ジャンヌ、アストルフォ、そしてアルトリアの四人と戦っているバーサーク・アサシンは追い詰められていた。

 そもそも彼女は元々そう強いサーヴァントではない。吸血鬼という側面が主となっているとしてもせいぜい並のサーヴァントレベル。

 そんな彼女が狂化したとはいえ、相手はやや弱いサーヴァント三騎にトップサーヴァントの反転体であるアルトリア。ジャンヌ・オルタの陣営の中でも弱い方の彼女にはこの四騎というより、アルトリア・オルタの相手は無理があった。

 なにより……

 

 

「なぁッ!?」

 

「ハァッ!!!」

 

 

 彼女の女性特攻の特性を有する宝具を発動しようにもその隙がない。

 尽くアルトリア・オルタにその隙を潰されていく。そんな状況にバーサーク・アサシンはイライラし始めるのは仕方ない事だろう。

 

 

「いい加減にッ!!」

 

「堕ちろ────」

 

「キャアッ!?」

 

 

 バーサーク・アサシンのイライラが爆発し、反撃に出ようとした所で懐に潜り込んだアルトリア・オルタのカチ上げを喰らい吹き飛んでいく。堕ちろと言っておきながらカチ上げとはこれ如何に…………

 

 

「…………」

 

 

 ボロボロとなり、退るバーサーク・アサシンを尻目にアルトリア・オルタはランスロットとバーサーク・ランサーの戦闘に目を向ける。

 

 そこには激しい戦闘が行われていた。

 

 

 




いま頭の中にあるのはカルナさんになる話とハイスクールD×Dに魔獣創造持ってイレギュラーな存在になる作品ですね。多分ハイスクールD×D書くと思います……書ければね?


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ラ・シャリテの攻防・2

まさかのマーリンピックアップ!
まあ、持ってるんですがね?それよりも黒王と乳上が欲しい。
剣豪七番勝負で10連回す予定でしたが今回貰える30個で黒王と乳上狙いますね。




 

 

 

 

 

「グッ────!!」

 

 

 鮮血が舞う。

 黒ジャンヌの予想していた光景。

 バーサーク・ランサーにより全身を串刺しにされるランスロット。

 

 しかし、そこに広がるのは

 

 

「なん、と…………!?」

 

「…………」

 

 

 全身を串刺しにされたランスロットではなく脇腹を剣で刺し貫かれたバーサーク・ランサーという光景。

 黒ジャンヌを始めとするこの場の全員……当の本人であるランスロットとよく知っているアルトリア・オルタ以外の者らはその光景に驚愕していた。

 四方八方より迫り来る無数の杭。

 逃げ場など無いその死地からいったいどのような手でバーサーク・ランサーに悟られずに抜け出し、あろう事かバーサーク・ランサーにその剣を突き刺したのか。ただその現実に対して驚きを誰も隠せなかった。

 

 

「クッ!!」

 

 

 すぐさまバーサーク・ランサーは突き刺さった剣から無理矢理逃れる。

 血がとめどなく溢れる脇腹を抑えながらバーサーク・ランサーはランスロットを見る。

 兜により表情の見えないランスロットにバーサーク・ランサーはいったいどのような手であの状況より抜け出たのか、という疑問とこの男ならこの気に食わない状況をどうにかするのでは?と思う。

 

 

「……いったい、どうやって抜け出た」

 

「…………置換魔術」

 

「なに?」

 

「ただ、空間を置換して貴様の背後へと逃れえた……そんな簡単な事だ」

 

 

 ランスロットの言葉にバーサーク・ランサーは驚愕しつつも納得する。

 しかし、魔術師でもあるマシュや通信を通してこの光景を見ているカルデアスタッフの心内には「何が簡単なのか全く以て分からない」という言葉だった。

 

 

「さて、大人しく下がるか?」

 

「……まさか」

 

「だろうな……では」

 

 

 バーサーク・ランサーへの退却を促すランスロットの言葉にバーサーク・ランサーは痛みの中笑みを浮かべそれを否定すると、ランスロットは当たり前か、と零しその場から消え────

 

 

「シッ────」

 

「ガッ!?」

 

 

 バーサーク・ランサーの背後に現れその右腕を切り落とす。

 バーサーク・ランサーはすぐさま反応するがそれよりも速くランスロットは移動しバーサーク・ランサーの脚の腱を断つ。

 

 

「ガアッ!?」

 

「…………」

 

「なに、が…………」

 

 

 今度はバーサーク・ランサーの前に戻ったランスロットをバーサーク・ランサーは膝をつきつつ睨み見る。その目には先ほど以上の疑問の感情が込められていた。

 つい先ほどまで、ランスロットは狂化された事によりステータス上昇したバーサーク・ランサーの動きに手をこまねいていた筈だ。だが、今はどうか?

 バーサーク・ランサーの反応速度以上の速度でバーサーク・ランサーを削っているではないか。

 そんなバーサーク・ランサーの考えを察したのかランスロットは変わらぬ声音で語る。

 

 

「慣れただけだ」

 

「は?」

 

「狂化……なるほど、ステータス上昇の恩恵は凄まじいものだ。だが、その程度慣れれば問題は無い。俺を殺したければせめてトゥルッフ・トゥルウィスレベルが無ければ困る」

 

「…………くっ、言ってくれる……!」

 

 

 まるでさも当たり前かのように語るランスロットにバーサーク・ランサーは苦渋の表情を浮かべる。右腕は切り落とされ、両脚の腱は断たれ動く事が出来ない……吸血鬼としての治癒能力も損傷が激しく満足に働いていない。

 もはや、バーサーク・ランサーはまともな戦闘は出来ないだろう。

 いや、それ以前に

 

 

「────ここで、終わりか。忌み嫌った怪物に成り果て、世界焼却に手を貸した……我が罪は重い。殺せ、湖の騎士」

 

 

 バーサーク……狂化した事でバーサーク・ランサーは元来の在り方を歪められている。

 本来ならば護国の鬼将、キリスト教の盾たるルーマニアの英雄は人理焼却を良しとする英霊では無いだろう、しかし黒ジャンヌによる狂化は彼を人理焼却の手先に変えた。

 だが、言動は歪めれてもその内までは歪められぬ。故に彼は足掻かずその首を差し出す。

 

 

「了承したワラキア公」

 

「ワイバーンッ!!」

 

 

 バーサーク・ランサーの姿勢にランスロットは敬意を払いアロンダイトを構える。

 無論、むざむざと駒を殺されるのを見ている黒ジャンヌではない。配下のワイバーンを数体ランスロットへと差し向ける。だが

 

 

「フン、それは認められん」

 

「とりゃあッ!」

 

 

 アストルフォとアルトリア・オルタが割って入りランスロットへ迫るワイバーンを叩く。

 

 

「……湖の騎士よ、そしてそこのマスターよ。次こそは余を召喚するがいい。であれば、その時こそ我が槍の真髄を見せてやろう。

 護国の槍────民を守る武器は、さぞ貴様らの手に映えるだろう」

 

「────ああ」

 

────ザシュッ

 

 

 振り下ろされたアロンダイトはバーサーク・ランサー……ヴラド三世の首を落とした。

 それと共にヴラド三世の身体は金色の粒子へと変わっていく……これにてヴラド三世のフランスでの悪しき闘争は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「────恥を知れ、ヴラド三世」

 

 

 ヴラド三世が消滅した事により静寂に満ちたラ・シャリテに侮蔑の声が響く。

 その声の出処はワイバーンの上、このフランスを滅ぼさんとする竜の魔女、黒ジャンヌ。

 そんな彼女の言葉にヴラド三世の最期を見届けたマシュや立香らは怒りを混じらせた表情で黒ジャンヌを睨みつける。

 

 

「怪物の癖にただ田舎娘一人、田舎騎士一人も殺せないなど恥を知りなさい」

 

「────ッ!」

 

 

 そのような視線など何処吹く風、黒ジャンヌは侮蔑の表情でヴラド三世を侮辱する。

 そんな黒ジャンヌに食ってかかろうとする立香をアルトリア・オルタがその肩を掴み押し止める。

 

 

「アルトリアさん────!」

 

「…………下がれ」

 

「でもッ」

 

 

 止めるアルトリア・オルタに立香は非難の声を上げるがしかし……

 アルトリア・オルタはそれでも立香に行かせない。何故、という疑問に満ちていく立香、しかしすぐにそれは消えた。

 

 

「そうか────では死ね」

 

 

 湖光の輝きを放つ聖剣を握る騎士が魔女の背後に現れたから────

 

 

 

「ッ!!!」

 

「なっ!?」

 

 

 それに反応したのは近代の騎士衣装に身を包む中性的なサーヴァント。

 バーサーク・セイバーはすぐさま細剣を割り込ませ、黒ジャンヌにその聖剣が触れるのを防ぐがその代償は大きい。

 

 

「くぅッ────!!」

 

 

 湖光はバーサーク・セイバーの腕を縦に走る。

 ただ一撃を受けただけ、だというのにバーサーク・セイバーは深手を負った。

 それを確認し、すぐさまランスロットはアルトリア・オルタらのもとへ戻る。

 

 

「左腕ではあるがまあ、良しとするか」

 

「この田舎騎士が!!」

 

 

 黒ジャンヌの怒号などなんのそのランスロットは剣を消し、弓矢を用意する。

 

 

「…………しかし、ここは退るべきか」

 

 

 挑発紛いの行動で黒ジャンヌの怒りを引き出したランスロットは未だ動かないサーヴァント……バーサーク・ライダーに目線をやりながらそう呟く。

 如何にランスロット、アルトリア・オルタという実力者がおれどもバーサーク・ライダーの使役するソレに対しては他の者らを支援しつつ対峙するのは難しい。

 無論、気にせず暴れるというのなら二人の宝具でバーサーク・ライダーごと打ち倒せるのだろうが。

 

 

 

 そんな風にランスロットが思考をフル回転させる中

 

 

「え?」

 

「────何?」

 

 

 戦場に咲き落ちた一輪の

 

 

「ガラスの────薔薇?」

 

 

 

「今よ、アマデウス。機械みたいにウィーンとやっちゃって!」

 

 

「まったく、任せたまえ。死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)

 

 

 

「なっ!?」

 

「何この重圧ッ!!」

 

「────嗚呼、なんて壮麗で邪悪な音でしょう!」

 

 

 

 突如としてラ・シャリテに響き渡る壮麗ながらも邪悪さを感じさせるレクイエム。

 黒ジャンヌらはその音色に縛られ動けず

 

 

「────行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

 

 その隙を見逃さぬランスロットはマシュらに指示を飛ばし、ラ・シャリテより離脱を始めた。

 

 

 





ランスロット、マリー、デオン、サンソン、クズ「「「「ヴィヴ・ラ・フランス!」」」」

マリーまだ当たらないんだよなぁ


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フランスの道程1

どうもー、病院に行ったらなんかだいぶ治ってきてて、担当医だった友人に呆れられたチーズです。
最近ブルーチーズにハマりました。
Dies IraeのEDですが……アレ中毒になりますね……
そういえばロクボの十枚呼符の五枚目でついに……ついに!黒王が来てくれましたありがとうございます!!でも今は乳上育ててるんです!!


 

 

 

 

 

 

「────ふむ、ここまでくればいいだろうか」

 

『ああ、反応は消失してる』

 

 

 ラ・シャリテよりそれなりの距離を離れた丘で俺たちは足を止めた。

 これぐらいの距離ならば如何に挑発したとしても本人が来る事は無いだろう……きっと。なによりロマンの通信からも大丈夫だという言葉がある。

 さて、俺は足を止め各々休んでる皆を軽く見てから隙を作った功労者らを見る。

 

 

「……隙を作ってくれた事に感謝したい……がその前に君たちが何者かそれを聞きたい」

 

「……そうね。まずはそれが一番ね」

 

「まあ、そうなるよね」

 

 

 赤い大きな帽子……帽子?を被った高貴さを感じさせるツインテールの少女サーヴァントと明らかにクズさを感じさせるクズキャスターは当然だと頷く。

 なんだろうこのキャスター殴りたい。マーリンではないが殴りたい。現物を目の前にすると殴りたい。

 

 

「わたしの真名はマリー……マリー・アントワネット」

 

「僕はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト……クラスはキャスターだ」

 

「マリー・アントワネット王妃!?」

 

「モーツァルト!?」

 

 

 そういえばマリー・アントワネットはフランスの英霊扱いだが実際はオーストリアの英霊だろうと時々思うんだが…………まあ、もしかしたら彼女の行動していた地域が嫁いだフランスだったからフランスの英霊扱いなのかもしれんがね……。

 さて……俺は二人を見つつこれからの事を思案する。

 原作通りならば野営地でバーサーク・ライダーことマルタと戦闘だが……ふむ。

 

 

「ええっと……マリーさん?」

 

「マリーさん、ですって!」

 

「え、あ!?失礼しましたァ!?」

 

「せ、先輩この方は王妃ですから……」

 

「失礼じゃないわ、とっても嬉しいわ!いまの呼び方、耳が飛び出るくらい可愛らしいと思うの!お願い素敵な異国のお方。これからもそう呼んでいただけないかしら……!!」

 

「うーん、マリアは王族だったからね……そういう呼び方の方が新鮮なんだろうさ」

 

「なんだろうこのキャスターからローランと対して違わない変態さを感じるんだけど……」

 

 

「…………」

 

「えっと……」

 

「ふむ」

 

 

 アルとジャンヌからのどうにかしろという視線を感じつつも俺は口を挟む気は無い。

 こういった交流もいいものだ。マリー・アントワネットはマシュや立香にきっと良い影響を与えてくれるかもしれない。それとアストルフォ、それは気のせいじゃないぞ。

 

 

「え、えっと……ミス・マリー、とかマドモアゼル・マリー…………では?」

 

「ダメ。ぜんぜんダメ。マリーさん、がいいのっ!羊さんみたいで!」

 

「それってメリーさんじゃ……」

 

「はい!はいはいはい!はじめまして、マリーさんです!話の早い方は魅力的よ?当ててみせるわ、貴女とてもおもてになるのではなくて!?」

 

「…………ランスロットさん」

 

「ランス……」

 

「…………」

 

 

 女が三人集まれば姦しいというがなるほど……そろそろ騒がしくなってきたようで。流石にこれ以上放置していれば色々と問題になってくるだろうし、なによりアルとジャンヌからの信頼も下がりかねん。

 俺はマシュ、立香、そしてマリーの話に割り込む。

 

 

「すみません、マドモアゼル。楽しいお話の途中申し訳ないですが宜しいでしょうか?」

 

「ああ、ごめんなさい。わたしったら一人で舞い上がってはしたない……それでご要件は何かしら?…………それとそんな堅苦しくなくていいわ!」

 

「では、失礼しまして……マリー、この近くに霊脈があるようなので詳しくはそちらで拠点を用意してからで構わないかな?」

 

「もちろん構わないわ。いいですかアマデウス?」

 

「僕に意見を求めても無駄だってばマリア」

 

 

 ロマンからの通信で近くの森に強い霊脈がある事は分かっていたので一度話を中断させ、そちらへ向かうという提案をすればマリーは白百合のような笑顔で了承してくれてクズを見れば、クズはクズらしい返答をした。やはり、マーリンみたいなこと言うなク………ヴォルフガング。

 二人の了承を得てから俺はジャンヌを見る。

 

 

「というわけだ移動するとしよう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、霊脈のある場所へ向かって歩いていく俺たちだが……

 

 

『────!』

 

『────!!』

 

「ハァッ!」

 

「とりゃあ!」

 

 

 目の前でジャンヌやマシュ、アストルフォが森の獣人どもを薙ぎ払っていく姿を見ながら俺たちは悠々と進んでいく。

 俺も戦おうとしたのだが、ジャンヌや立香、マシュに休んでてくださいと頭を下げられてしまいこうして立香らと共に彼女らの戦いを見ていた。

 ついでに言えばもしもの為の護衛としてアルが待機しているという……そこまでして俺に戦わせないつもりか。

 

 

「それにしても強いんだねぇあの娘ら」

 

「なに、まだまだ未熟だよ」

 

 

 獣人どもを薙ぎ払う彼女らを見て感嘆するヴォルフガングに俺は肩を竦め否定する。

 事実、アストルフォを除く彼女らはまだまだ未熟だ。

 片やサーヴァントの新人という微妙な状態、片や融合したサーヴァントの名前も宝具の真名も未だ分からない。これを未熟と言わずなんと言えばいいのだろうか。

 まあ、未熟だからこそこうやって経験を積んで貰っているのだがな。そこの事を考えれば彼女らがああして戦闘を引き受けているのは良いことだ。

 

 

「そういえば君の名前だけど」

 

「……ああ、言っていないな。だが、それはどうか拠点を置いてからで構わないか?全員まとめての自己紹介の方が早い」

 

「うーん、仕方ないね。ま、楽しみにしておくよ」

 

「すまんな」

 

 

 へらへらと笑ってヴォルフガングは俺から少し離れて歩く。よくよく考えれば確かに俺らはマリーらに自己紹介はしていなかった。せいぜいジャンヌの事を知っているだけだろう。

 敵の首魁たる黒ジャンヌをラ・シャリテで見たのならば瓜二つな彼女の真名を察するのは容易い事だろうから。

 

 

「さて……」

 

 

 

「ハッ!!」

 

「そりゃあ!」

 

「ハァッ!」

 

『────!!??』

 

『────!!!』

 

『────!?』

 

 

 

 

「あとどれぐらいでエネミーは尽きるんだろうか」

 

 

 減る気配のない襲撃に俺はため息をついた。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 森へと入っていったいどれほどの時間が経っただろうか。既に日は中天を過ぎ、西へと傾き始めていた。

 正しく無尽蔵とも言うべき獣人の襲撃は途中からアルトリア・オルタを押し退けて参戦したランスロットが無双した事で殆ど討伐された辺り、あのままマシュらに任せていれば恐らく夕方にならずともそれぐらいにはなっていただろう、とランスロットは内心不安な思いで拠点作成の間の周囲を警戒していた。

 

 

「…………まだ、大丈夫か」

 

「……どうしたランス」

 

「いや、周囲から気配はしない。しばらくはエネミーも湧かないだろう、と思ってな」

 

「そうか」

 

 

 警戒するランスロットにアルトリア・オルタが近づき何事かと聞くと、問題ないという返答が帰ってくる。

 そんな返しだけでなんとなくアルトリア・オルタは察したのか何処と無くつまらなさそうな表情で立香らのもとへとランスロットから離れていく。

 

 

「…………さて、この特異点を乗り越えたら硬いサーヴァントを召喚するか」

 

 

 ランスロットの脳裏に過ぎるのはこれから先の特異点に現れるであろうサーヴァントたち。

 帝国に現れるであろうソラより来たるモノの一片たる破壊の大王。封鎖された海に現れるであろう神話の大英雄。霧の都市に現れるであろう最果ての槍を携えた王。新大陸に現れるであろう狂王。

 そして神霊と化したモノ。

 

 それらと対峙する以上、防御面の強化を考えるのは当たり前の帰結だった。

 しかし、ランスロットは決してマシュの事を信じていない訳では無い。信じている……信じているがそんな彼女への負担を減らす為の考え。

 

 

「おーい、ランスロットさーん!」

 

 

 と、思考の海に沈んでいたランスロットを拠点制作を終わらせたのか立香の呼ぶ声が現実に引き戻した。

 

 

「ああ、すぐ行こう」

 

 

 わざわざ大声で呼ばなくてもいいのに、とランスロットは笑いつつ立香らのもとへ歩いていった。

 

 

 





────間違えない

────もう二度と間違えるわけにはいかない

────私は、貴方に会いましょう

────私は、貴方を救いましょう

────あの間違えを正さなければいけない

────貴方を疑った事こそ我が罪、貴方に剣を向けた事こそ我が罪

────我が胸に抱くのは騎士王の光ではない……我が胸に抱くのは湖の光だ

────故に聖杯よ、我が願いを聴けよ

   とある雷光の少女騎士の意志────


【注】フランス関係無いですこの娘は


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フランスの道程2

右腕の痛みがぶり返し気がつけば日曜日。
本来なら早く投稿できたろうに……
悲しいことに金曜まで忙しい。もうどうすればいいのよォ!!

パールヴァティー当てましたか?作者は致し方なしと貯蓄を選びました。GOD EATER3や新アプリのアリサに興奮しつつ次話を書きたいと思います


 

 

 

 

「さて、拠点設置も終了し落ち着いた所で改めて自己紹介をさせてもらおうか」

 

 

 拠点設置を終了させ、周囲の木々を適度に切り開いた事で作ったいくつかの切り株に布を敷いてモーツァルト以外を座らせたランスロットは頭部を覆っていた兜を外してそう笑いかける。

 そんなランスロットを見て観測室のロマンは静かに『うわぁ、女誑し』と零すのをランスロット 聴き逃さず小さい声で「後で倉庫裏な」と呟いた、がそれにモーツァルト以外は気づかない。

 

 

「私は……人理継続保障機関カルデアの特異点探索隊のリーダーを務めているマスター兼サーヴァントのランスロット・デュ・ラックだ。クラスはセイバー」

 

「……ランスのサーヴァント。クラスはセイバー、真名をアルトリア・ペンドラゴンだ」

 

 

 穏やかなマスターと不機嫌そうなサーヴァントという正反対な自己紹介をする主従にモーツァルトは何となく何故アルトリア・オルタが不機嫌なのかを察し、マリーはランスロットの名に反応した。

 しかし、マリーが口を開く前にランスロットは自己紹介が滞る事を察知したのか立香らに自己紹介を続けるよう目で促す。

 

 

「あ、……ええっと、ランスロットさんの部下?をしてます特異点探索隊のマスターやってます。藤丸立香です、よろしくお願いします!」

 

「先輩のサーヴァントを任されています。デミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトです……クラスは……シールダーです」

 

「次は僕だね。マスター……ええっと、立香のサーヴァントをやってるシャルルマーニュ十二勇士が一人アストルフォだよ!クラスはライダー、よろしくね!」

 

「……カルデアに所属しているサーヴァントではありませんが彼らと協力関係にあるサーヴァント、真名をジャンヌ・ダルクです。どうぞよろしくお願いします」

 

 

 全員の自己紹介が完了した事を確認したランスロットは何か言いたそうにウズウズしているマリーに一度断りを入れて本題を話し始める。

 

 

「まずはカルデアと現状を説明させていただきたい。お話ししたい事はおありでしょうが今はどうぞ御我慢してください」

 

「そうね、説明の後にたくさんさせていただきますね」

 

「ありがとうございます。では、まず我々カルデアとは────────」

 

 

「現状は歴史のターニングポイントに出来た七つの特異点により人理焼却が行われ────────────────」

 

 

 ランスロットの説明はわかりやすく噛み砕いて説明され、マリーもモーツァルトも改めてジャンヌ、立香らも人理焼却とカルデアの目的を理解した。

 観測しているロマンは内心『アレ?説明係の僕ってこれもういらなくない?』と思いつつランスロットが作り置きしていたクッキーを口に運んでいた。

 

 

「────と、まあ……こちらの事情及び目的はこういうものです」

 

「……そう、つまりそういう異常事態では私たちみたいにマスターのいないサーヴァントがいてもおかしくないのね?」

 

「ええ。恐らく貴女がたは竜の魔女の呼んだサーヴァントに対するカウンターに近い者だと思います」

 

「……カウンター」

 

 

 ランスロットの説明にマリーは納得し、カウンターという言葉にジャンヌはなるほどと頷く。

 事実、ジャンヌやマリー、モーツァルトは竜の魔女黒ジャンヌによって呼ばれたサーヴァントらへのカウンターとして呼ばれている。その事実を知識で知っているからこそランスロットはこうも自信のある言い方が出来た。

 

 

「……と……堅苦しい話はここまでにしておこう。どうぞ、御我慢はここまでとさせていただきます」

 

「────ええ!とてもとても待ったわ!あ、大丈夫よ。ちゃんと話は聞いていましたから!」

 

 

 ランスロットの許可に目に見えて喜ぶマリーに立香とマシュは驚き、モーツァルトは呆れていた。

 

 

「湖の騎士に聖女!お二人に出会って、一緒に戦えるなんてとても光栄よ!」

 

「そ、そんな……」

 

「こちらこそ、王妃と共に戦えるとは光栄です」

 

 

 興奮するマリーにやや困り顔で反応するジャンヌに慣れたように礼を述べるランスロット。

 そんな対称的な反応を示す二人に立香はつい笑ってしまう。

 

 

「幼い頃に聴かされた円卓の騎士の御噺の中でも貴方の御噺はとても好きでした。何度聴いても飽きる事がないくらいに!」

 

「それはそれは……ですが、貴女の御家はフランスの王家と仲が悪いと聞いていましたがその辺りは問題なかったのでしょうか?その、フランスの田舎騎士と蔑まれていたりなど……」

 

「いいえ!貴方がた円卓の騎士の御噺は国関係なく讃えられていました!」

 

「な、なるほど……」

 

 

 ランスロットはマリーの憧れの篭った強い言葉の数々に若干引き気味になり、少しマリーから離れた。

 

 

「……(原作でもテンション高い王妃と思ってたがアレだな……従妹(ネル)を思い出させるな……いや、あの馬鹿娘はもう少し大人しいか?)」

 

 

 生前の記憶、その中で今のマリーに似た知己を思い出しながらランスロットはアルトリア・オルタのもとへと近づいていく。

 代わりにジャンヌをマリーへの生贄ではなく話し相手に添えて。

 

 

「……いいのか?王妃と話さなくて」

 

「……アル、言葉尻から怒気が洩れてるぞ」

 

「ほう、そうか。つまり理由はわかってるのか?ん?」

 

 

 藪蛇だったか、ランスロットはアルトリア・オルタに聞こえない声量でそう呟きつつアルトリア・オルタの頭をやや乱暴に撫で付ける。

 

 

「むぅ……」

 

「お前とて分かるだろう。新しく参入した者とはコミュニケーションを交わして命令系統を構築しつつ信頼を築く必要がある」

 

「そうだな。ランス、今のお前は私のマスターである以前にこの特異点調査における纏め役だ。その立場上現地で得た戦力との信頼関係の構築をするのは分かる……だがな、自分のサーヴァントを蔑ろにするのはどういう事だ?ん?」

 

「…………いや、まあ、それもそうだが」

 

「つまり、お前はそういう奴なんだな?これはエレインも嘆くだろう」

 

「エレイン関係ないだろ」

 

 

 ランスロットはアルトリア・オルタの言葉に苦々しく笑いつつマリーに振り回されているジャンヌやモーツァルトのセクハラ発言に困るマシュと立香を守るアストルフォを見る。

 目の前の光景にランスロットは何処と無く既視感を覚えつつもこれから先にある筈の事を考える。

 

 

「………………」

 

「……ランス、何を考えているかは知らんがいまは目の前の事に集中しろ」

 

「ああ」

 

 

 脳裏にチラつく嘗ての戦いをランスロットはひとまず脳の片隅へと追いやる。

 まだまだフランスにおける特異点調査は始まったばかりである以上その先の特異点を考えている場合ではない。

 黒ジャンヌ……竜の魔女ジャンヌ・ダルク・オルタ、彼女が使役する邪竜ファヴニール。未だランスロット以外にファヴニールを知っている者はいない以上こちらのファヴニールがどれほどなのかは分からない。

 ランスロットは出来るだけ早くにファヴニールを倒す為のキーであるジークフリートのもとへ行こうと考えつつ周囲の警戒を始める。

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 さて、マリーとヴォルフガングとの交流を始めてからそれなりに時間が経ち、空は暗くなり始めた。

 そろそろか。

 俺は腰のアロンダイトの柄に触れる。

 

 

 森が騒がしくなってきた。獣人の様な駆ける音ではなく風圧やら踏みしめる音が僅かに感ぜられる。

 ヴォルフガングを見てみれば、あちらも音に感づいたようで顰めっ面をしている。ならば、黙っておく必要も無い

 

 

「ロマンッ!!」

 

『え?……ッ!サーヴァント反応一騎と多数のワイバーンの反応を確認!!気をつけてッ!』

 

「へぇ、君も気づいてたんだ」

 

「何、育った場所が場所なのでね、こういう森の音には敏感なんだ」

 

 

 アロンダイトを抜き放ち、鎧を装着する。

 ワイバーンだけなら片手間で終わる。問題は来るであろうサーヴァント……バーサーク・ライダーとその宝具。

 

 

「最悪の場合、槍を使う事も視野に入れておくか……」

 

 そう、俺は自身の大盾を見ながら呟いた。

 

 

 

 

 





マリーの会話が大変だったお!!
でも、次はタラスク殴り!楽しいね!!
社畜ロットが社畜イーターになればいいのにアリサ可愛いお
(´・ω・`)
ハロウィンイベを考え中です。腕の調子とかそのへん考えて書きたいと思います


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竜の聖女

頑張ったぜ☆
やれば出来るものなのだな。
次話はとりあえず金曜までお待ちを


 

 

 

 

 

『────!!』

 

「邪魔だ」

 

 

 振るわれるランスロットさんの剣が襲いかかってきたワイバーンの群れを次々と斬り裂いていく。

 それでも零すワイバーンはいるわけで……それをマリー……さんやモーツァルト、マシュたちが倒していく。

 凄いとしか言えない。

 ランスロットさんの剣はまるでワイバーンをバターでも斬るかのようにさっくりと斬っている。一回倒されたワイバーンを触った事があるけれど、その時ワイバーンの鱗というか甲殻?は岩ぐらいに硬かった……でも

 

 

「────」

 

『ッ!!??』

 

 

 いとも容易く斬り裂かれている。

 ……サーヴァントってこれが当たり前なのかな?と思って他のみんなを見てみればマリーさんやモーツァルトは魔力弾?みたいなものでワイバーンたちを攻撃しているが決定打にはならず怯ませるだけで、その生じた隙をマシュやアストルフォ、ジャンヌが攻撃を叩き込んで倒していた。

 アルトリアさん?ランスロットさんみたいに容赦なくワイバーンを叩き斬ってるよ。

 

 

 そんな、ランスロットさんとアルトリアさんを見ていると私たちの力不足を切実に感じる……マシュが何だか陰があったのもそれが影響してるのかもしれない。

 

 

 

「────ちッ、アル」

 

「ああ、任せろ」

 

 

 と、ランスロットさんが何やらアルトリアさんに声をかけるとアルトリアさんはエクスカリバーを水平にワイバーンの群れへと剣先を向けて…………エクスカリバーの刀身に黒い魔力が纏って…………

 

 

「『卑王鉄鎚(ヴォーティガーン)』さあ、散れェッ!!!」

 

 

 エクスカリバーから放たれた黒い一撃。

 あれは……見た事がある。特異点Fでの最終決戦、キャスターさんに止めを刺したあの一撃。

 

 

『────!?』

『────!!』

『────!!?』

 

「まあ!」

 

「うっわ、つい引いちゃうぐらい凄いな」

 

「────」

 

 

 放たれた魔力がワイバーンの群れを軒並み吹き飛ばしていく。

 凄い。

 これなら!

 

 

「後は────」

 

『ああ!残りはサーヴァントだけだ!!』

 

 

 森の奥から聴こえる足音に私たちは身構える。そう、まだサーヴァントが残ってる。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「……こんばんは、皆様。寂しい夜ね」

 

「そうか?寂しいにしてはなかなか騒がしい団体客だったが?」

 

 

 暗い森の奥から姿を現したのは青い髪のサーヴァント……バーサーク・ライダーこと聖女マルタ。俺は軽口を叩きつつアロンダイトを彼女に向ける。

 

 

「ワイバーンと共に来たという事は……いや、ラ・シャリテで見たな。黒ジャンヌの手先とお見受けする」

 

「……そうね、聖女たらんと己を戒めていたというのに、こちらでは壊れた聖女の使いっ走りだなんてね」

 

「……壊れた聖女」

 

 

 彼女の言葉に何か感じるところがあったのかジャンヌが彼女の口にした言葉の内の一部を零す。

 彼女はそんなジャンヌに首を浅く縦に振り、肯定する。

 

 

「ええ、彼女のせいで理性が消し飛んで凶暴化(バーサーク)しているのよ。いまも衝動を抑えるのに割と必死だし、困ったものねまったく」

 

「それにしてはこうして会話できているようだが?」

 

「…………だから、貴女たちの味方になることは出来ない」

 

 

 流したな。いや、それはどうでもいい。

 

 

「では、どうして出てきたのですか」

 

「……監視が役割だったけど、最後に残った理性が貴女たちを試すべきだと囁いている。貴女たちの前に立ちはだかるのは『竜の魔女』。究極の竜種に騎乗する、最悪の結晶」

 

 

 彼女の言葉に空気が緊張していく、だがこの程度なんら問題は無い。

 

 

「私を倒しなさい。躊躇なくこの胸に刃を突き立てなさい。私ごときを倒せなければ決して彼女を打ち倒すことなど出来ない」

 

「甘く見られたものだな我々も」

 

「事実、相対して隙など無数にあったが」

 

 

 そんな俺とアルトリアの言葉に彼女は笑みを浮かべる。何処と無く聖女らしからぬ黒い笑みを。

 

 

「ええ、そうね。貴方ならばきっと簡単に彼女を殺せるのでしょう。ですが、それでは駄目だ、と貴方は理解しているはずです」

 

「…………」

 

「これから先の為にも」

 

「…………そうだな」

 

 

 彼女の言葉に俺は首肯する。

 何せそれは事実だからだ。

 俺一人が突出したところで意味は無い。あくまで主人公……この人理修復の旅の中心にいるべきは藤丸立香だ。これからの為にも立香を成長させるためにも…………

 

 

「……さて、いきましょうか。我が真名はマルタ。出番よ、大鉄甲竜タラスク!!」

 

「聞いたな!相手は聖女マルタ!すなわち────」

 

 

 地響きが暗い森に響く。

 来るぞ。来るぞ。

 マルタの後方の木々を打ち倒しながら一体の幻想種がその姿を現した。

 

 

「安心なさい。マスターだけは狙いません。だから、存分に戦いなさい!!我が屍を乗り越えられるか見極めます────!!!」

 

 

 杖を持ち直し彼女は力強く宣言する。

 俺はすぐさまアルトリアにアイコンタクトをし、叫ぶ。

 

 

「マシュ、ジャンヌ、アストルフォ!マルタを頼む!!」

 

 

 こうしてフランスにおけるサーヴァント戦、その第二回がこの暗い森で始まった。

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 アストルフォとジャンヌ、マシュが駆けていく。

 本来、マスターを守護するべきシールダーであるマシュが前へと出るのは咎められるべきことだろうが狂化に今も尚抗うバーサーク・ライダーの言葉が本当ならば彼女がマスターを直接狙うことは無い。

 その為、マシュは立香の言葉もありジャンヌやアストルフォと共に前へと出ていく。

 

 

 立香とマシュをバーサーク・ライダーへとぶつけたのは、狂化されているサーヴァントとの戦闘がきっとマシュにも立香にも良い経験となると考えたが故の判断だろう。

 だが、肝心のランスロットはその戦闘に参加していない……ではどうしたのか?

 

 それはとても簡単な事だ。

 

 

「ハァッ!!」

 

「シッ!!」

 

『────ッ!!』

 

 

 黒き聖剣が、湖光の聖剣が、竜の鉄甲がぶつかり合い周囲に衝撃と金属音のようなモノが撒き散らされる。

 幻想種の頂点に位置する竜種・タラスクに対しランスロットとアルトリア・オルタは二人がかりで果敢に攻めていく。

 

 

『────ッ!!』

 

「ランスッ!!」

 

「ああッ!!」

 

 

 ブリテンという幻想と神秘の残る最後の国にて数多の幻想種やそれに近しい力を持っていた存在と戦い抜いた円卓の騎士にとって竜種の脅威というものは十二分に理解できる事柄であった。

 だがしかし。

 片やブリテンを守護する赤き竜の化身にして星の聖剣を携える騎士らの王の反転体(オルタ)、片や湖の乙女という幻想種の一角に育てられ更にはブリテンに潜む原始の呪力である黒く染まった魔力を受け継いだ魔女より加護を受けながら王の聖剣の姉妹剣であり竜殺しの側面持ち合わせる湖の剣を携える湖の騎士。

 ここにいるのが未熟な彼らならばいざ知らず、今タラスクと対峙しているのは卑王ヴォーティガーンを討ちしその後により強くなった王と騎士。

 そもタラスクはサーヴァントの宝具として召喚された竜種。

 はてさて、それがいったいどれほどのものか

 

 

「────シッ」

 

『────ゴォッ!?』

 

 

 ランスロットのアロンダイトが煌めき、タラスクの右後脚を斬り落とした。

 如何にタラスクの鉄甲や甲殻が堅牢であろうともアロンダイトは竜殺しにして無毀なる刃である星の聖剣。竜種の身を斬り裂けぬ道理などどこにもなく。

 一度、斬り裂ければもはやその後にあるのは蹂躙だ。

 

 

「ハァッ!!」

 

「フンッ!!」

 

『────ギォォッ!?』

 

 

 ランスロットがタラスクの甲殻を斬り裂き削る事で露出する柔らかい肉や傷へとアルトリア・オルタがその魔力を込めた一撃を次々に叩き込んでいく。

 外がどれほど硬くとも、中も硬いという事はなくタラスクはその蹂躙に悲鳴を上げるしかない。

 太陽にも等しい灼熱を放とうにも、その際の隙を狙ってランスロットがアロンダイトを喉下へ撃ち込んでいくため灼熱を放つ事は出来ず、鉄甲に籠ろうにも的確に籠った四肢に一撃を通していく。

 

 

「如何に聖書に記されし怪物の子孫と言えどもここまで来れば童話に出てくる(浦島太郎の)亀も同然か!!」

 

『────オノレェェ!!!』

 

 

 

 




アリサ可愛いお
可愛いおアリサ

やっぱり宝具の竜種って多少なりとも弱体化してますよね。
ところで白竜の血で超絶進化した卑王と財宝でいつの間にか進化した悪竜ってどっちが強いんですかね?やっぱりカリバーとかではまったく倒れなくてアルトリアが数時間粘って最後太陽とカリバーで足止め中にロンした卑王さんですかね?


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竜の聖女2

やっと終わったァ。
なんかアレ?と思う気もしなくもないですが…………

そういえばインフェルノ欲しくて十連をしてみたらなんと、金弓が来まして「おお!!」と思ったら出てきたのはアタランテ。
いや、好きだから嬉しいですよ?でも、でも、でもねぇ?

間違えてニコニコで剣豪のネタバレを見てしまい心が滾りました。
皆さんは間違えてネタバレ見ないように気をつけてくださいね?


 

 

 

 

────ッ!!

 

 

「────クッ」

 

『ォオオオオッ!!!』

 

 

 夜の森に響き渡るのは竜の咆哮。

 それは己を刻み続ける激痛によるモノと敗北してたまるものかという己への叱咤によるモノ、二つの意味を内包した咆哮であった。

 

 咆哮の主たる大鉄甲竜タラスクは目の前の己を切り刻んでいる騎士に咆哮しつつも内心感嘆の念を抱いていた。それは如何に姐さんと呼び慕う聖女マルタの宝具としてこの地にいるとしても竜種……その中でもそれなりに名の知れた強者たる己をこうも容易く切り刻んでいる為。

 主であるマルタにかけられた狂化は宝具であるタラスクにも影響を与えており、気を抜かせば次の瞬間にも暴れ回るしか能の無いマルタに打ちのめされる前の己に戻ってしまうと理解しているタラスクは目の前の騎士ならばそうなる前に己を殺してくれると判断した。

 

 だが、理解していても敗北というものは簡単に受け入れることが出来ないのがプライドというもの。

 

 

『ォオオオオッ!!!』

 

「────ッ!?」

 

 

 断ち切られたなど知らんと言わんばかりにタラスクは引っ込めていた足首から先のない右後脚を勢いよく突き出し騎士……ランスロットに叩きつける。

 予想外の事であったにも関わらず、すぐさまランスロットはアロンダイトの腹でその一撃を受け止めその衝撃を流し再び脚を動かしていく。

 重厚な身体のタラスクはその見た目に似合わぬ速度をもってランスロットを捉えようとするもののランスロットはその身に纏う全身鎧に合わぬ軽やかな動きでタラスクの攻撃を回避しつつ攻撃を繰り出していく。

 

 

「ランスッ!!」

 

「────チッ」

 

『グルゥッ!?』

 

 

 と、ここで場が動いた。

 噛み付き攻撃を放ったタラスクをランスロットはその大盾で受け止め、殴りつけた。

 無論、バーサーク・ライダーの拳に比べればそれは弱い。だが、怯ませるには十分で────

 

 

「斬る────」

 

 

 盾を手から放し、アロンダイトを両手で持ち大きく頭上に振りかぶって怯んだタラスクを睨み

 

 

────斬ッ

 

 

『────ッ!!!!!!』

 

 

 振り下ろされたアロンダイトはタラスクの額を割る。

 しかし、寸前で避けようとしたのかアロンダイトは浅くタラスクの額から鼻頭へかけて割いただけで殺す事は出来なかった。

 

 

「チッ、足りんか」

 

 

『グルルルル……』

 

 

 未熟、と吐き捨てるランスロットに疵から血を流しながらタラスクは唸る。

 

 ほとんど傷という傷はないランスロットに致命傷とは言わなくとも多くの疵を負ったタラスク。現状、未だ宝具の真名解放をしていない以上ランスロットへと天秤は下がる。

 

 

「ならば……満ちよ────」

 

 

 ランスロットがアロンダイトの刀身をなぞり、アロンダイトに光を灯してゆく。

 解放することでステータスの上昇を起こす無毀なる刃がその力を起こそうとして────

 

 

「タラスクッ!」

 

『オォォォッ!』

 

 

 

 ランスロットらから離れた位置でマシュらと戦っていたバーサーク・ライダーがタラスクを呼び寄せた。

 それを確認しランスロットはアロンダイトの解放を取り止めマシュらのもとへ向かっていく。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 さて、もう少しで止めのさせそうなタラスクがバーサーク・ライダーに呼ばれてしまったわけだが。

 

 

「ボロボロじゃない……タラスク」

 

『スマネェ、姐サン』

 

「しゃ、喋ってます!?」

 

「うっそ、あの亀喋るの!?」

 

 

 割れたタラスクの額を心配そうに撫でるバーサーク・ライダーと彼女に謝罪するタラスク。そして、喋ったタラスクに驚くマシュとアストルフォ。口にしてはいないが他の皆も驚いているようだが…………

 

 

「驚いている場合か。まだ戦闘は終わっていない」

 

「ッ、ランスロットさん」

 

「そうだな。まだ、ライダーは倒れていない」

 

 

 俺は消した盾を持ち直しながら、アルは聖剣を握りながら、バーサーク・ライダーを見る。

 タラスクを手元に戻したという事はそういう事だ。

 防御力上昇の強化魔術をいくつか行使すれば恐らく盾で充分受け止めれる筈だが、さて。

 

 

「…………タラスク、行けるかしら」

 

『オウ、任セテクレ姐サン』

 

 

 そう言うバーサーク・ライダーに応えるタラスク。

 来るか。

 俺は盾に魔術を仕込んでいく。

 

 

『ッ!?大変だ魔力の増大を確認したッ!!宝具が来るぞ!!!』

 

「ッ!?」

 

 

「愛を知らない哀しき竜、ここに────」

 

 

 通信越しにロマンの警告が響くがしかし既に遅い。彼女、否タラスクはその四肢と頭部を甲羅に収め回転し始めている。

 今からでは遅い。故に俺はマシュらの前へと踊り出し────

 

 

「星のようにッ!!愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)ッ!!!!」

 

『────ッ!!!!!!』

 

 

「ッア!!!」

 

 

 回転突撃するタラスクを俺はその盾で受け止める。回転による衝撃は盾を通して俺の腕を身体を脚を潰しに来ている。恐らく今のいままでいいように斬られていた事のお返しだろう。

 だが、それでもガウェインの真名解放に比べれば問題は、な、く────ッ!?

 

 盾から見える微かな先。

 タラスクを受け止めながら多少の余裕があるからこそそれに気がつけた。

 

 

「ッ────マシュ!!宝具をッ!!!!」

 

「え、あ、はいッ!!」

 

 

 すぐさまマシュが俺の隣に走ってきて盾を構える。

 間に合うか?

 

 

「仮想宝具疑似展開────」

 

「────どうか目をお瞑りください」

 

「ッ!!」

 

 

 瞬間、タラスクを通して馬鹿みたいな衝撃が俺へと襲いかかる。

 重い。重い、重い。ただひたすらに重い。

 

 

「ハァァァァッ!!!」

 

人理の礎(ロード・カルデアス)────!」

 

「オォォッ!」

 

 

 宝具を疑似展開したマシュと俺の盾がタラスク……いや、バーサーク・ライダーが放つラッシュの衝撃を防いでいく。しかし、それでもその威力は計り知れず守護している筈の俺たちへと少しずつダメージを入れていく。

 ガウェインの宝具のように魔力が押し寄せてくるのならまだしも、このように物理的な衝撃が何度も来るものはキツい。まるでピクト人の群れが押し寄せて来ている時のようだ。

 

 

「────行くわよ!鉄・拳・聖・裁ッ!!!!!!」

 

『姐サァァァァン!!??』

 

「────きゃあッ!?」

 

「爆破……だとッ!?」

 

 

 バーサーク・ライダーの掛け声と共に今までのラッシュの中で一番の衝撃がタラスクを通ってこちらに走り────タラスクが爆破した。

 前世ではあくまで最後の一撃の威力がアレすぎてタラスクの甲羅が砕けたエフェクトかと思ったがまさか、本当にタラスクが爆砕するとは思わないィィィッ!!

 

 

「ッオオオォオッ!?」

 

「ッああああ!!」

 

 

 タラスクの体内の魔力がバーサーク・ライダーの最後の一撃によってタラスクが爆砕した事でそのまま解き放たれ俺とマシュに襲いかかる。俺はまだまだ大丈夫だが、マシュはキツそうだ。

 やはりまだ経験が足りなかった…………いや、これもまた経験だ。これから先きっとこのタラスクよりも強い者がいるだろう。その為にもこれはきっと大切な経験となる。

 

 そして────

 

 

 爆砕した魔力が弱まり、先が僅かに見える。

 

 

「ここか────」

 

 

 盾を放り、アロンダイトをもって魔力の中を突き進み振るう。

 

 

「かハッ」

 

 

 振るったアロンダイトはバーサーク・ライダーの肩から脇腹にかけて大きく切り裂き、血飛沫が飛び散る。

 

 本来ならば彼女はこの一刀を避ける事は出来ずとも最小限の傷に抑えただろう。

 しかし、彼女には黒ジャンヌがかけた狂化があった。彼女はその狂化した己を律していた。

 要するにそれが結果を分けたのだろう。

 

 

「……カフッ…………そう、ここまでね」

 

 

 傷から大量の血を流し、血を吐きながらバーサーク・ライダー……マルタは満足そうにしかし残念そうにそう呟いた。

 

 

「マルタ……貴女は────」

 

「これでいい、これでいいのよ。まったく聖女に虐殺なんてさせんじゃないわよ」

 

 

 ジャンヌの言葉を遮り、マルタは言葉を続けていく。

 

 

「……いい。最後に一つ教えてあげる。『竜の魔女』が操る竜に、貴女たちは勝てない……万が一はあるでしょうけど確実にする為には……コフッ…………リヨンに行きなさい。竜を殺す人に会うために…………」

「……タラスク。ごめんなさい、次は……もう少し真っ当に召喚されたいものね」

 

 

 消えていくマルタ。彼女は最後に俺の方を……いや、俺の盾を見て

 

 

「……そう、その盾。いえ、その中身……そう、あの人を穿いた…………」

 

 

 この盾の中身に気がついたのか、彼女は何処と無く悔しそうな表情でこのフランスから消滅した────

 

 

 

「聖女マルタでさえ、逆らえないなんて……」

 

「召喚された事に加え狂化を付与されれば仕方ない……今は彼女の残したモノを」

 

 

 ジャンヌの悲壮の言葉に俺は言葉を被せ、マシュに治癒を施す。

 俺の言葉にヴォルフガングは頷き

 

 

「そうだね。彼女のおかげで次の目的地が定まったわけだ」

 

「リヨン────」

 

「彼女がああ言った以上、既に壊滅しているだろうが…………」

 

「行く価値はあるでしょう」

 

 

 アストルフォ、ジャンヌ、アルの傷を治癒し俺は野営の準備を始めていく。もう既に空は暗くなっている。今は彼女との戦いでの疲れを癒し明日に備えるべきだ。

 俺がその旨を立香らに伝え指示を出そうとして────

 

 

『すまない。ちょっと少し僕から提案がある』

 

 

 ロマンの言葉がよく響いた。

 

 




果たしてロマンの提案とはいったいッ……!!


そういえばようやく我がアズールレーンでオイゲンを迎えることが出来ました。
それと、作者の別作品の『鉄血の死神』ですが続きが出てこないのであそこを作者の妄想置き場にしたいと思います。もし、あそこが更新されたら作者は悩んでると察してください。

Twitterもやってるので気になる方はどうぞ
感想ご意見お待ちしております


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リヨン

十時過ぎには投稿するかなぁ、と言ったなアレは嘘だ。
いや、ほんとすいません。許してください何でもしますから……ランスロットが(おい
ちょいといろいろありましてですね?雨の中、近場のスーパーに行かされたり今朝当てたばかりのインフェルノちゃんを育てたりとか……

そう、インフェルノちゃんが当たったんですよ!!
いやぁ、財布がインフェルノにならなくてよかったよかった

そういえばロマンの提案って何だったんですかね?


 

 

 

 

「────そう、ライダーが死にましたか」

 

 

 特異点・フランスの某所にある城内でジャンヌ・オルタが静かに苛つきを混じらせながら彼女はそう呟いた。

 

 

「流石は聖女ですね。狂化していたというのにどうやら理性が残っていたとは困りものです」

 

 

 呆れたような彼女の言葉に近くにいた大柄な奇妙な出で立ちをしギョロりと目が飛び出た男はややオロオロとする。

 そんな男を一瞥し、ジャンヌ・オルタは言葉を告げる。

 

 

「とはいえ、彼女は全力で戦ったのでしょう。それを葬り去ったとは……いえ、あのランスロット卿とイングランドの冷血女がいる以上ある意味仕方がないでしょう」

 

「次は私と……彼も連れていきましょう。今回召喚したサーヴァントらも引き連れて」

 

 

「おお、ジャンヌ。貴女が出るまでもないでしょう!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に男が悲痛の声で叫び止めようとするがしかし、ジャンヌ・オルタは男に面倒くさそうな目を向けて……

 

 

「黙りなさいジル。相手は彼のランスロット卿、田舎騎士と謗りはしました。しかし、もはや卿を侮る事は出来ない、ならば私と彼も出陣せねばならない」

 

「ですがッ!!」

 

「くどいっ!」

 

 

 ジャンヌ・オルタの放った言葉に男────ジル・ド・レはそれでも食い下がるがしかし、ジャンヌ・オルタは軽く炎を放ちジル・ド・レェに距離を取らせる。

 驚き仰け反り下がったジル・ド・レェを一瞥してジャンヌ・オルタは出口へと足を向ける。

 

 

「バーサーカー、アサシン行きますよ。…………少しややこしいわね。真名でいいでしょう」

 

 

 出口へ向かっていくジャンヌ・オルタに付き従うように二騎のサーヴァントがその姿を現す。

 一方は黒い全身鎧を身にまとった騎士。一方は焦げ茶に近い色合いのコートに一本の剣を握った白髪の青年。

 

 

「キャメロットが騎士、エクター・ド・マリス。

処刑人、シャルル=アンリ・サンソン」

 

「ワイバーンに乗りなさい、私が先導します」

 

「────────Frère」

 

「……了解しました、マスター。王妃の首の話なら、僕以外に適任はおりません」

 

 

 ジャンヌ・オルタの言葉に応える黒い騎士────エクター・ド・マリスと白髪の青年────シャルル=アンリ・サンソン。

 ジャンヌ・オルタは彼らを率いてこの場を後にした。後に残るのは焼け焦げた絨毯とジル・ド・レだけ。

 

 

「…………いったい、どうなされたのかジャンヌよ」

 

 

 

 そんな言葉がその場に静かに響いた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「…………眠い」

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「あー、うん。大丈夫……」

 

 

 どうも、とても久しぶりな私視点。

 何を言ってるのか分からないだろうけど大丈夫、私もよくわかってないから。

 昨晩のバーサーク・ライダー襲撃と亀竜───後でタラスクという名前をランスロットさんに教えて貰った───爆散☆事件から少し色々あって身体を休める為に森で夜営したわけだけども少し寝付きが悪かったのか私はとても眠かった。

 なんでだろう。

 

 

「…………ふむ、眠気覚ましに何か入れようか?」

 

「え、大丈夫ですよ?……というか何かあるんですか?」

 

「ああ、昨晩のカルデアからの物資で少しな」

 

 

 そう言ってランスロットさんは腰に下げてる袋から紙コップとココアの粉袋を取り出してみせた。

 え?お湯は?牛乳は?その辺はどうするんですか?

 

 

「…………水を置換すればいける。かもしれない」

 

「目を見て言いませんか?」

 

 

 目を逸らしながら言うランスロットさんに私は冷静にツッコミを入れるとランスロットさんはぎこちなく笑って紙コップとココアの粉袋を腰の袋にしまった。

 ってしまうんですか。

 

 

「ランスロットさん、しまうんですか?」

 

「……ああ、流石にお湯やら牛乳やらに置換した事がないのでな。ここは大人しくしまうとするさ」

 

 

 マシュのツッコミにもランスロットさんは笑ってすませる。

 …………なんだろう、今日のランスロットさんは何かいつもと違う気がする。何かを隠しているかのような印象を受ける。

 

 そんななんとなくな違和感に私が首を捻っていると街の方からマリーが戻ってきた。

 というかあのマリー・アントワネットを呼び捨てとか絶対に出来ないなこんな経験。

 

 

「みんなー!情報を貰ってきましたー!」

 

「すいません、マリー。私が街にいるとそれだけで大騒ぎなので……」

 

「気にしないでジャンヌ。お互いにサーヴァントなのだから、ね?」

 

「……はい」

 

 

 尊い。

 決して百合ではないが見目麗しい女の子が仲睦まじいのを見るととても安らぎを覚えてついでに自分が如何に汚れているのかを感じてしまう。つらい、でも尊い!

 

 さて、興奮するのはそこまでにしておいてマリーが聞いてきたという情報に集中しよう。

 

 

「マリー、それで情報というのは?」

 

「ええ、聖女マルタが教えてくれた都市、リヨン。結論から言うと、リヨンは少し前に滅ぼされました。そこから逃げてきた難民たちがいて教えてくれました」

 

「…………そうか。しかし、仮にも聖女だ。狂化を抑えつけていた以上世迷言ではないだろう。何かあるんだな?」

 

 

 ランスロットさんに促されてマリーが情景について話したが……もう滅んでいるなんて。

 でも、マルタって黒ジャンヌのサーヴァントだったからそっち側としてリヨンを滅ぼす一員だったわけで…………んん?

 駄目だ。頭がこんがらがってきた……私そんなに頭弱いキャラだったっけ?これでも世界史日本史のテストは毎回一位だったんだけどなぁ。

 

と、ランスロットさんが何やらマリーに言っていたような気がするが私は脳内思考がはちゃめちゃになり始めてわからんて。

 

 

「ええ、なんでもリヨンには守り神がいたそうなの」

 

「守り神……ですか?」

 

「大きな剣を持った騎士様がワイバーンや骸骨を蹴散らしていた、とか」

 

「……なるほど、それが恐らくマルタの言っていたサーヴァントなのだろう」

 

 

 何やら話が進んでいってるけども、一回外れてしまったからなかなか入り込めない……

 チラリとランスロットさんやマリー、マシュたちから目線をずらせば少し離れた所で何やら話し合ってるアストルフォとモーツァルトが目に入り、そのまた離れた所でランスロットさんが昨晩カルデアから物資の一つとして送らせた外套を羽織って何やら機嫌のよさそうなアルトリアさんたち。

 うん、どうしよう。

 

 

「……なるほど、元帥ジル・ド・レェが……合流は出来ないな」

 

「ですね、今の私は……」

 

「そう?なんだか少し違う気もするのだけど……」

 

 

 …………うん、フォウくんと遊んでよう。

 

「フォーウ」

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 既に場所は街の外から移り変わり、ジャンヌ・オルタの一団によって滅ぼされた都市リヨン。

 やはり、というべきかマリーが街で得た情報通りリヨンは既に廃墟と化していた。建物は崩れ焼け焦げた木材が転がり何処と無く死の臭いが漂う。

 

 

「……誰も、いませんね」

 

「ドクター、生体反応は────」

 

『………………』

 

 

 マシュが縋るようにロマンへとリヨンの生体反応の有無を聞くも通信が乱れているのか反応は何も帰ってこなかった。

 

 

「通信の調子が悪いようだな…………」

 

「はい……あの、手分けして聖女マルタが言っていた『竜殺し』を探しましょう」

 

「ええ、どちらが早く見つける事が出来るか競走ね。私とアマデウスは西側ね」

 

「え、あ、はい」

 

 

 通信により有無がわからない事で気落ちするマシュを、場の空気を和ませようとマリーが明るくそう提案した。

 ランスロットは渡りに船と言わんばかりにそれに乗った。

 

 

「なら、ジャンヌとマシュにアストルフォ、立香は東側を頼もう」

 

「あ、はい。アレ?ランスロットさんはどうするんですか?」

 

 

 立香のふとした疑問にランスロットはしばし考えてそれに答える。

 

 

「俺たちはこのまま真っ直ぐいく。分かれることになるがその間は独自の判断で動いてほしい」

 

「独自の判断……」

 

「ああ、ここだけでなくこれから先の特異点でも分かれて行動する事がある筈だ。その為の予行練習……みたいなものさ」

 

「あぅ……」

 

 

 そう言って立香の頭を軽く撫でつけ笑う。

 それに立香は少し頬を染め、見ていたマシュはその表情を顰め、アルトリア・オルタは無表情で見ていた……ガリッと何やら口許から音が漏れているが。

 

 

「さて、それでは行くか」

 

「はい!」

 

 

 

 こうして、ランスロットらは三組に分かれリヨンを探索する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランスロットらと分かれてから数分もしないうちに立香らはその足を止め戦闘に入っていた。

 相手取るのは数十を超える生きる屍(リビングデッド)の群れ。

 

 

「はあァっ!!」

 

「そりゃあ!!」

 

「せいッ!」

 

 

 しかし、生きる屍(リビングデッド)とは何度目かの戦いである為かマシュやジャンヌはそれらにしっかりと対処をしていく。そんな二人の事を見つつアストルフォもきっちりマスターである立香の近くで生きる屍(リビングデッド)を対処していた。

 

 

「っ!、マシュ後ろ!!」

 

「はい!先輩っ!」

 

 

 成長しているのか立香も後ろで見ているだけでなく時折的確な指示をマシュたちへと飛ばしていた。ランスロットの狙い通りの成長にその事を聞かされていたアストルフォは一人その成長に喜び笑う。

 

 暫く戦闘が続き、最後の一体をジャンヌが砕いた。

 

『────』

 

「ふぅ……これで掃討は終了ですね。彼らの魂に安らぎがあらんことを───」

 

 

 

「安らぎ……安らぎを望むか……。それはあまりに愚かな言動だ……」

 

「ッ!?」

 

 

 最後の一体を砕き、一息ついて魂の安息を願おうとしたジャンヌ、しかし唐突に聞こえた言葉にジャンヌは……マシュ、立香、アストルフォたちは皆一様にその声のした方へと振り向く。

 

 そこにいるのは一体の奇妙な男。

 

 

「彼らの魂に安らぎはなく、我らサーヴァントには確実性存在しない────。

この世界はとうの昔に凍りついている……」

 

「……サーヴァント!」

 

「───何者ですか!」

 

 

 まるで歌うように話すサーヴァントにジャンヌは問いかけ、やはり歌うようにサーヴァントはそれへ応える。

 

 

「然様。人は私を────オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)と呼ぶ」

 

「竜の魔女の命により、この街は私の絶対的支配下に────」

 

 

 

 

「そうか、つまりは不信心者だな?」

 

 

 

 

 

刹那────

 

 

 一閃。

 オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)、と名乗ったサーヴァントのその首が薙ぎ飛んだ。

 

 

 




意見感想お持ちしております。

今回は少し早足感あるなと思います。


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リヨンの戦い


とりあえずフランスの流れは完全に浮かびました。
ええ、気合いですよ。腕?多少不都合がありますがまあなんとかなります。
今月中にどれだけ進めれるか……!!


 

 

 

 

 

『すまない、ちょっと僕から提案がある』

 

 

 カルデアからの通信、ロマンが言った言葉に俺はすぐさま返答した。

 

 

「提案?なんだ」

 

『……今の戦闘を見て少しね』

 

 

 投影ディスプレイに映し出されているロマンの顔には苦々しい表情が張り付いている。

 先の戦闘とその表情から俺はロマンが何を提案したいのかを察した。そして、それがどれだけ口にするのが辛いのかを。

 

 

「……ロマン」

 

『うん、わかってる。でも、これはカルデアの司令代理として言わなくちゃいけないことだ』

 

「…………」

 

 

 ロマンは苦々しい表情から一転、心に決めた表情となった。ああ、まったく……お前という奴は。

 

 

『……バーサーク・ライダー、いや聖女マルタとの戦闘。彼女の宝具であるタラスクをランスロットとアルトリア・オルタが抑え、彼女をマシュたちが受け持っていた……でだ、第三者として、司令代理として見て僕は戦力の増強を提案する』

 

「え?」

 

「……ドクター!待ってください、それは……!」

 

「うん……まあ、しかたないね」

 

 

 ロマンの提案に各々が違った反応を示す。

 立香はいまいちわかっていないようでポカンとしており、マシュはその意味が分かったのか咎めるように止めようとする、アストルフォはロマンの言葉の意味がわかったうえで仕方ないと言う。離れたところで見ているヴォルフガングとマリーは自分たちの実力不足がわかっているのか他人事のように笑い、申し訳なさそうにしていた。

 そう、ロマンの提案はただの戦力増強ではない。

 現地でヴォルフガングやマリー、ジャンヌのようなはぐれサーヴァントによる戦力増強ではなく俺と立香によるサーヴァント召喚の戦力増強。

 

 

「…………その、ランスロットさん、どういう意味なんでしょうか」

 

「……カルデアの実験場で召喚すればそのままサーヴァントの宝具などの魔力はカルデアもちですみ、マスターの魔力はサーヴァントの維持だけですむ。だが……現地での召喚はカルデアからの魔力供給はなく全てマスターが賄う必要がある」

 

「そうですッ!先輩やランスロットさんにこれ以上負担は……!!」

 

 

 そう、マシュが止める理由は俺や立香にこれ以上の負担をかけさせないため……だが

 

 

「……待ってマシュ」

 

「先輩……?」

 

「私は大丈夫。ううん、このフランスの先にはもっと過酷な特異点があるでしょ?なら、それぐらいどうってことない」

 

 

 ……まったく、頼もしい限りだ。

 だがな……

 

 

「ロマン、呼符を転送しろ。サーヴァントを召喚する」

 

「ランスロットさんッ!?」

 

「ランスロットさん……」

 

「だが、召喚するのは俺だ」

 

 

 魔力はあまりある。サーヴァントはアストルフォとマシュを抱える立香と違いアル一人。

 ならば、俺がやろう。未だここはフランス……第一の聖杯。こんなところでそんな負担をかける気は無い。

 

 

『……ランスロット、いいのかい?』

 

「ああ、問題は無い」

 

「ランスロットさん……」

 

 

 俺はカルデアから転送された呼符を掴む。

 立香の心配するような声に俺は気にするな、とこぼし呼符を構える。

 

 

 呼ぶのは攻守共に優れたサーヴァント。

 

 それは俺とアルが敵に集中している間、マシュと共に立香などを護っていることが出来且つ共に前線で戦うことが出来るのを望んでいるため。

 魔力が吹き荒れサークルを構成していく。

 

────胸に浮かぶは一人の護国の鬼将。

 

 

 さあ、来い────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「フハハハ!!不信心者よ、己の罪を悔いながら煉獄に焼かれるがいい!!」

 

「ヴラド先走るな」

 

 

 はて、どうしてこうなった。

 望んだのは星五バーサーカーなヴラド三世だというのに召喚されたのは星四ランサーなヴラド三世とは。

 いや、十分強いからいいのだが。何よりこの特異点には悪属性が多いので宝具が刺さるからとても頼もしいのだが、しかしバーサーカーよりもバーサークしている為とても不安だ。

 というかアルとぶつからないか不安だった。

 でもまあ、どうやら心配は杞憂だったようだがまだわからんて。

 

 

「おお!スマンな友よ、だが此奴は正しく悪であった。なれば串刺さねばならんよ」

 

「それはわかる。だが、いきなりいくな」

 

「ふむ……うむ、善処しよう」

 

「頼むぞ……」

 

 

 よもや振り回す側に今回は行くと思ったら、未だに振り回される側だったとは…………もはや逃れられないようだ。

 と、首を薙ぎ飛ばされたファントム・オブ・ジ・オペラは消滅し、あまりに唐突な事だった為に唖然としている立香たちがいた。

 なるほど、ファントムが出てきた所だったのか……憐れファントム。

 

 

「大丈夫だったか」

 

「え、あ、はい」

 

「うわぁ、一撃だよ一撃」

 

 

 あまりにアレだった為かアストルフォは呆れたように笑う。ぎこちないぞ。

 と、そんな時に

 

 

『ああ、やっと繋がった!!全員撤退を推奨する!!サーヴァントを上回る超極大の生命反応だ!!』

 

「────ああ、なるほど」

 

 

 響き渡る切羽詰まったロマンの通信越しの声に狼狽えるマシュたちを他所に俺は……いや、俺とアルにヴラドはロマンが言っているそれに勘づく。

 知識があるからというのもあるが……近づいてきているソレは確かに分かっている。

 俺もアルもその中で最大級のソレとやりあった事がありヴラドはヴラドでなんとなくソレが何なのか理解しているようだ。

 

 

「友よ」

 

「ランス」

 

「ああ、わかっている。マシュ!立香!」

 

 

 いつの間にかにマリーらが合流してロマンから色々と聞いていた立香らに俺は声をかける。

 

 

「「はい!」」

 

「竜殺しはお前たちに任せる。ヴラドは立香たちについて行ってくれ」

 

「友よ、そなたはどうする───いや、愚問であったな。任せよ」

 

 

 ヴラドは俺の指示に頷く。深くは聞かないで察してくれるのは頼もしい。

 

 

「ロマン。俺とアルはいい、竜殺しの場所を集中して頼む!」

 

『ッ……わかった!』

 

 

 ロマンが立香らに情報を伝えていき立香らは竜殺し……ジークフリートのいるであろう方向へと向かっていく。俺は共に残ったアルへと視線を投げかける。

 

 

「いけるか?」

 

「当たり前だ……だが、いまの私では駄目だ。用意はしておけ」

 

「……わかった。何時でもやれる用意はしておこう」

 

『────!』

『────!』

 

 

 空を見上げる。

 空にいるのは何十体ものワイバーンで構成された群れ。

 構えるのは弓ではなく無毀なる湖光。盾はいまは必要が無い。さて、本命が来るまでの暇潰しと行こうか────

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 それは蹂躙だった。

 

 空間が置換され、固定された大気は足場と変わり、そこを二人の騎士が跳躍する。

 飛行というアドバンテージがすぐさま意味の無いものと変わったワイバーンたちは抵抗しようともその前にその首を、翼を、胴を割られていく。

 圧倒的。

 蹂躙という言葉以外何を当てはめればいいのだろうかという程の状況であった。

 昨晩のタラスクとの戦いとは違い正しく作業のようなそれは二人の実力をより恐ろしく理解させる。

 

 逃さない。逃すものか。

 

 二人の恐ろしさを本能で理解したワイバーンは戦線から逃げようと各々違う方向へと飛んでゆく。だがしかし……ランスロットの魔術からは逃れられない。

 そも、ランスロットの魔術は幻想種のそれである。純粋な竜種でもないようなワイバーンが逃れる事など不可能でしかなく…………。

 

 

 

『────!?』

 

『────!!??』

 

 

 空間は置換され、逃げたはずのワイバーンはアルトリア・オルタの目の前に無防備にもその身体を投げ出してしまう。ならば、その先にある運命など両断以外にあるだろうか?あるわけがない。

 

 

 空を埋め尽くさん程に存在したワイバーンの群れはだんだんと本命が近づいてきている為にその数が増えているはずなのにみるみると減っていく。

 もはや、本命が到着するまでに空は青空のみが広がるのではないかと思うほどの殲滅速度。

 

 

 嗚呼、だがしかし残念ではあるがそれは果たせず。

 

 

 

『────────────────────!!!』

 

 

 

「来たな」

 

「フン……」

 

 

 断続的な咆哮を上げて彼方より現るのは黒き竜。その体躯は冬木でみたキャスターの宝具である人形ほどの大きさ。その時点で巨大である。

 だがしかし……驚く理由などあろうか?

 この場にいるのはブリテンが騎士王アルトリア・ペンドラゴン・オルタと湖の騎士ランスロット・デュ・ラックである。

 確かに黒き竜は巨大であろう。昨晩戦ったタラスクよりも遥かに。しかし、しかし、だからどうした?

 

 

「この程度、ヴォーティガーンと比べれば可愛かろう」

 

「なんだ?王の聖剣を、太陽の聖剣を受けても倒れぬのか?王が数時間戦っても毛ほども消耗しないのか?聖剣で足止めし聖槍でようやく討てるほど強いのか?」

 

 

────違うだろう?

 

 王は嗤う。

 貴様以上の怪物を知っているぞ?

 騎士は嗤う。

 貴様より強いモノを知っているぞ?

 

 

ランスロットの手の甲が鈍く輝き始める。

 

 

「あら、他のサーヴァントどもはどうしたのかしら」

 

「なに、貴様らなぞ我々だけで十分だ。という事だ突撃女」

 

「────そう、なら絶望しなさい。私のファヴニールで!!」

 

 

 竜の魔女は嗤う。

 己が騎乗する竜(ファヴニール)こそがこのフランスを滅ぼす災厄なのだと。

 

 しかし、何故だろうか。そう自信があるというのにジャンヌ・オルタは黒き竜───ファヴニールから通常のワイバーンよりも強力な黒いワイバーンに乗り移る。

 

 

 ランスロットはそれを戦闘に巻き込まれないためと判断し、その手に魔力を流し込んで────

 

 

 

 

 

令呪起動(我が剣に望む)────」

 

 

 

 

 

 




現地召喚ではカルデアに戻るまで魔力は全てマスターが負担します。

置換魔術の大盤振る舞い
刑部姫欲しいな。後、彼女のあのフード見て思ったのは電王のリュウタロスです。

感想意見待ってますよ


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黒き極光

頑張りました
実はハロウィンネタ考えてあるんですよ。


 

 

 

 

 

「三画全てをもって我が剣に望む。強欲竜(ファヴニール)を討て」

 

 

────ランスロットの手の甲、令呪が紅く輝く。

 

 元来、カルデアの令呪は本来の聖杯戦争で配られる正規の令呪と違い、いわばライト令呪という正規の令呪のような絶対的な命令権なんてものはない。

 だがしかし、優れた魔術師ならば魔力リソースの結晶たるこのライト令呪を用いてサーヴァントに呪いをかけることが可能だ。カルデアのマスターで令呪を持っているのは藤丸立香とランスロット・デュ・ラックのみ。

 前者には魔術師としての技能など半人前にも満たないようなものであるが後者は幻想種のそれに近しい魔術と技能を保有した魔術使い。令呪に対して自前の魔力を混ぜ合わせ使えばそれは十分サーヴァントへの呪いたりえる。

 

 さて、何が言いたいのかというと。

 

────そんな幻想種並の魔力と技能で底上げされた令呪三画による強化を用いた宝具はいったいどれほどなのだろうか?

 

 

 

令呪(オーダー)を受諾したマスター」

 

 

 瞬間リヨンの空へと吹き上がるのは黒く反転した極光の柱。

 それは冬木にて使用された時の比ではない。

 アルトリア・オルタの魔力、ランスロットの令呪三画の魔力、ランスロット自前の膨大な魔力が収束・加速していく。もはや、黒き聖剣から伸びる反転した極光は人間の振るう剣でなく戦神か、はたまた軍神が振るう神代の剣の如く。

 

 

「極光は反転する。光を呑め」

 

 

 伸びる。伸びる、伸びてゆく。

 数歩下がった所でランスロットはアルトリア・オルタに魔力を送りながらもあらかじめ仕込んでおいた魔術を起動させていく。

 

 

『────!?』

 

 

 本能で悟ったか空へと逃げようとするファヴニールの四肢に無数の鎖が絡みつく。

 無論、何も無いところから手品の様に出したわけではない。ランスロットの最も得意とする置換魔術によりリヨンの瓦礫や切り殺したワイバーンの素材から置換されたものだ。

 弱いといえども幻想種の端くれであるワイバーンの素材が素となっていた鎖だ。そう容易く千切れるものではなく────ファヴニールの動きを僅か数秒程度その場に止めた。

 

 たかが数秒、されど数秒である。

 

 その数秒はファヴニールにとって致命的なものとなる。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!!!!」

 

 

 振り下ろされる黒き極光の柱。

 

 柱は回避が遅れたファヴニールを容易く飲み込んだ。ジャンヌ・オルタらサーヴァントが乗っていた黒いワイバーンは既に柱の範囲外へと逃れていたが他のワイバーンらは尽く飲み込まれて塵となっていく。

 

 

 放出された黒き極光は暫くその場に存在していたが徐々に途切れ始め黒き極光は蜃気楼のように最初から何も無かったかのように掻き消えた。

 しかし、黒き極光があった事をその場の状態が明確に表している。

 

 極光の余波に巻き込まれ吹き飛ばされたリヨンの外壁の一部とアルトリア・オルタの周囲の塵となった瓦礫の数々。

 それら全てが如何に先程の黒き極光が凄まじいものなのだと語っている。

 

 

 

────────。

 

 

 掻き消えた黒き極光の後には何も残っていない。強大な竜種であるファヴニールの姿はもはや無く、かろうじて範囲外にあったファヴニールの尾が地面に落ち一秒も待たずに灰に変わった。

 

 

「ふ、ふ…………」

 

 

 そんな光景を目の当たりにしたジャンヌ・オルタはワイバーンの上で身体を小刻みに震えさせていた。それは恐怖故のではない。

 

 

「ふふ、ふふふ、ふァ、アハハハハハハッ!!!!」

 

 

 呵呵大笑である。

 近くのワイバーンに乗っているサンソンとバーサーク・アサシンはマスターである彼女の様子に気でも狂ったか、と視線を投げかけ

 

 

「ふっざけてんじゃないわよッッ!!!!」

 

 

 一転、ジャンヌ・オルタは怒号をあげた。

 それはこのフランスを滅ぼす災厄たるファヴニールが宝具の一撃で消し飛ばされた為か。

 その手の黒い旗を握りしめながらジャンヌ・オルタは怒りを爆発させる。

 

 

「何よ何よッ!?令呪全画使った宝具!?それで私のファヴニールが消し飛ぶ!?ふざけんな!!…………ハァハァ」

 

 

 呼吸を挟まず叫び散らしたせいか、ジャンヌ・オルタは一度呼吸を整え、ファヴニールを消し飛ばしたアルトリア・オルタではなく、そのマスターであるランスロットを睨みつけ

 

 

「サー・ランスロット……ええ、あの英雄こそが最大の障害。私の残滓?そんなものが障害なわけないでしょう。仕留めなさい……出来ずとも手傷を負わせなさい、バーサーカー、アサシン」

 

「…………」

 

「……分かりました」

 

「あら、私は?」

 

 

 一人指示が出されなかったバーサーク・アサシンはジャンヌ・オルタに問いかけるがジャンヌ・オルタはそれに反応せずにこのリヨンを離脱した。

 ジャンヌ・オルタの脳裏にあるのは意気揚々とカルデアと己が残滓を最強の駒で皆殺しに来たというのに、その最強の駒が本領を発揮する前にカルデアのサーヴァントに滅ぼされたという事実とそれによる羞恥心と怒り。

 

 故に次こそは、次こそは…………

 

 

 離脱したジャンヌ・オルタにバーサーク・アサシンは呆れバーサーカーとアサシンと共にランスロットと戦うことに決めた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「…………アル、大丈夫か」

 

「ああ、問題は無い……が流石に暫くは宝具を撃てんと思え」

 

「むしろ、撃てたら恐ろしいぞ」

 

 

 まあ、流石のアルも消耗するか。

 このまま座り込んでマシュらを待つ、かと思った矢先俺たちの許にカルデアからの通信が届いた。

 

 

『────ランス、ランスロット!!』

 

「聞こえている。どうしたロマン」

 

『どうしたもこうしたもないぞ!?いきなり馬鹿みたいな宝具を撃たせて!!通信がしばらく出来なかったんだぞ!?』

 

 

 喧しいロマンの声に俺は耳を抑えながら応対するがそれでもロマンの声は俺の耳に響いてくる。

 喧しい、がそれは心配の表れなのは理解している。まあ、グチグチ言っていても進まない為、ロマンに話を促す。

 

 

「で、どうした」

 

『あ、ああ、少し前に立香ちゃんらが城で竜殺し……はぐれサーヴァントのセイバー・ジークフリートを無事見つけた……見つけたはいいんだがそっちで本物の竜種が現れたと思ったらあの宝具だ。とりあえず咄嗟にリヨンから退避を命じといた』

 

「いい判断だ。すぐに追いつく、方角を教えてくれ」

 

 

 なるほど、そうなるのか。

 本来はファヴニールのブレスにマシュとジャンヌが耐えていたほんの少しの時間にほんの僅かながらも魔力が回復したジークフリートの宝具でファヴニールを退かし、その間にリヨンから離脱だったがここではそうなるのか。

 

 いや、まあ、ファヴニールをここで仕留めた以上これから先も大いに変化するだろう。というか、正直に言うとEXTRAなヴラド三世がいる以上この後のバーサーク・アサシンも逃さず仕留める可能性の方が高い。

 段々と知識からズレていくがもう俺というイレギュラーがいる以上そんなものは極力気にしない方がいい……何よりも、黒ジャンヌいやジャンヌ・オルタが召喚したバーサーカーがいったい何者なのかが気になる。

 バーサーカーの俺なのかはたまた彼なのか、それとも本来のランスロットなのか……。

 

 

『端末に情報を送っておいた』

 

「助かる。アル」

 

「了解した」

 

 

 オーバーチャージの宝具を使った後だとしてもそれなりに魔力がある為、魔力放出による加速でリヨンをすぐさま離脱する。

 端末に送られた位置情報を頼りに駆けていく。

 後方からワイバーンの鳴き声が聴こえた辺り、どうやら俺らを狙って追いかけ始めたようだ。

 

 足であるワイバーンを撃ち落とすか、と思ったが騎乗しているのはサーヴァント。

 ワイバーンに乗ってる間の方が遅いだろう。

 

 

 なら、このまま立香らと合流して迎え撃つ。

 ワイバーンはあらかたアルのオーバーチャージ宝具で消し飛んでいる、これならば迎え撃つ際にある程度楽になるだろう。

 

 

 

 

 

 

「ランス、見えてきたぞ」

 

「ん……ん?アレは……」

 

 

 立香らが見え、その前方の方には集団が見える。おそらくフランス軍だろう。

 

 

「なるほど……アル、ここで迎え撃つぞ」

 

「了解した」

 

 

 足を止めて振り返る。既に背後にはワイバーンの群れ。そして、黒いワイバーンが二体。

 見る限り一体には黒騎士と恐らくサンソンと思われるサーヴァント……そして、バーサーク・アサシン。

 

 バーサーク・アサシンはヴラド三世とジャンヌに任せるとしてサンソンは立香らに……黒騎士は俺の獲物だ。

 

 

「ランスロットさん!」

 

「ここで奴らを迎え撃つ。フランス軍を巻き込むのは悪いが、この際仕方がない」

 

「……!いえ、仕方がありません。このままフランス軍をすり抜けたとしてもワイバーンや彼らはフランス軍を襲うでしょう……それなら」

 

 

 ジャンヌも俺の案に納得し旗を構える。俺も再び無毀なる湖光を抜き放ち構える。

 

 

「来い。黒騎士」

 

 

 




オーバーチャージだオラァ!!(NP500)

すまないさん、出番消失。


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Frere

どもどもお久です。
遅かった理由はですね…………ちょいとログレスに戻ってきてと頼まれたり、紅眼について考えてたり、まだ投稿する気はないですがチーズがやらかした話とかやってたりしたらこうなりました。

刑部姫欲しくて回したら金色アサシン。
来た見た勝った!
カーミラ「私よ」
死んだ




 

 

 

 

「────!!」

 

「怯むなッ!!いけぇ!!」

 

「水を被れば多少火は抑えられる!!」

 

 

『────!!』

 

『────!!』

 

 

 

 フランス軍とワイバーンの群れがぶつかり合い互いの咆哮が号令が戦場に響き合う。

 それらを背に俺たちカルデアはワイバーンを率いているサーヴァントと対面していた。

 

 

「…………」

 

「……Lance…………」

 

 

 本来の歴史における俺と同じ出で立ちをした黒騎士と焦げ茶に近い色合いのコートを着込んだ白髪の男。

 既にワイバーンから降りているこの二人に対して未だバーサーク・アサシンはワイバーンの上。どうやらしばらく高みの見物を決め込むようだ。

 まあ、別にしたければすればいい。元々アレの相手は俺じゃない。

 

 

「……野郎……!」

 

 

 さて、睨み合いの最中、合流したヴォルフガングが二人のうち一人、まあ言うまでもなく焦げ茶のコートを着た男を見て顔を顰め言葉を漏らす。

 ああ、そうだな。彼とお前は仲が悪いな……お前が仮面を付けるとアレだが。

 

 

「───まあ、なんて奇遇なんでしょう。貴方の顔は忘れたことがないわ、気怠い職人さん?」

 

「それは嬉しいな。僕も忘れた事などなかったからね。懐かしき御方、白いうなじの君」

 

 

 マリーと彼……アサシンのサーヴァント、シャルル=アンリ・サンソンの会話が始まる。

 ならば、もういいだろう。

 こうして見たのだ。

 お前はバーサーカー。対話は出来ない。

 故に────

 

 

「行くぞ────」

 

 

 会話するマリーらを無視して俺は黒騎士へと迫りその頭部を掴みそのまま場所を離れた。

 

 

「Frere!!」

 

「応ともさ!」

 

 

 彼らから離れた場所でバーサーカーはその手の剣を振るい俺の手から逃れる。

 ああ、今の言葉でもはや確定した。

 目の前にいるサーヴァントが本来の歴史のランスロット・デュ・ラックなどではなく────

 

 

「エクター。何故バーサーカーなどで呼ばれているのかは……俺には分からない話だ」

 

「……Lan……ce……」

 

 

 無毀なる湖光を構える。あちらもその手の剣を構える。

 思えば、生前の知己と会うのはこれが四人目か。サーヴァントの知己としてはこれが三人目。

 

 

「見るに堪えん。せめてもの慈悲だ、一撃で殺す────などとは言わんよ」

 

「────!!!」

 

 

 距離を詰めて振るわれる剣を回避しながらアロンダイトを振るい刀身の腹でエクターの側頭部を殴りつける。しかし、エクターは無理矢理に身体を動かし引き戻した剣で受け止めた。

 無理矢理動かした為か硬直するエクターに俺は蹴りを入れて後ろにさがる。

 

 しかし、さがった俺にエクターはすぐさま追いかけ連続で突きを放ってくる。

 無論、受けるつもりはなく俺は姿勢を低くしそれを避ける。その際にエクターの姿勢を崩すために脚を払う。

 

 

「────!!」

 

「ラァ!!」

 

「────ッ!!??」

 

 

 脚を払われ姿勢が崩れたエクターの顔面───フルフェイスの兜だが───にアロンダイトの柄頭で殴りつける。

 如何にサーヴァントといえどもフルフェイスの兜の中で反響する金属音にやられたのか、一瞬フラフラとする。

 その隙を逃さずエクターの肩を蹴り、エクター自体を吹き飛ばす。

 

 

「────ァァ!!」

 

「ふぅ……さて、アイツの宝具は」

 

 

 なんだったか。

 エクターの宝具……剣?アイツがそういう聖剣やら魔剣やら特殊な剣を持っていた記憶は無い。弓?槍?まさか、アイツは剣しか使わなかった。

 となると、逸話を昇華した宝具か?

 

 エクターの逸話……なんだったか。

 召喚された際に付与された知識の中にエクターの逸話もあるのだろうが……まったく思い出せん。

 

 そんなに薄い逸話なのだろうか────と、俺がそう考えた瞬間、吹き飛んだエクターが咆哮しながらあるものを構えた。

 

 

「Frere!!!!」

 

「────いや、待て待て……なんでそれを持ってる!?」

 

 

 

 構えられたソレを見て俺は目を見開く。

 赤い葉脈が走った黒いガトリング砲。記憶にある限り確かそれはFate/Zeroでバーサーカー・ランスロットが戦闘機から手に入れた20mmガトリング砲「バルカン」だった筈だ。

 だがしかし、それはあくまで本来のランスロットが手に入れた武装で……宝具『騎士は徒手にて死せず』で擬似宝具化したものだが…………。

 

 

「サーヴァントが現代兵器を持ち出すなッ!!」

 

 

「Frereaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」

 

 

 

 無毀なる湖光に湖光を纏わせ、鎧に魔力を流して強化を施す。

 次の瞬間にはエクターにより構えられたガトリング砲から無数の銃弾がばら撒かれる。

 

 

『────!?』

 

「ギャアァ!?」

 

「ガァァ!?」

 

『────!!??』

 

「チィィィ!!」

 

 

 ばら撒かれた銃弾は敵味方問わず牙を向く。

 ワイバーンの翼膜はズタボロに穴が空き甲殻は砕かれていく、フランス兵はその鎧をまるで紙を破るかのように貫かれ死んでいく、そして俺は無毀なる湖光で弾いていく。逸れた銃弾が鎧の端々に当たるが魔力で強化されているためそれは簡単に弾かれる。

 

 

「流石に弾幕を弾くのは未経験だぞ!?」

 

 

 未経験故に少しずつ銃弾が当たり始める。

 しかし、それでも主だって当たりそうな銃弾はきちんと弾けている。

 さて、残弾はいくつか────

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 さて、久しぶりだね?

 そう、私だ。

 

 と、自己紹介はそこらにしておいて役目を果たすとしよう。

 

 王の話ではなく今回はエクター・ド・マリスの話をしよう。

 彼の逸話はとても少ない。それは彼がアーサー王伝説について主だった人物ではないからというのもある。まあ、単純に兄であるランスロットの影に隠れてしまっているというのもあるだろう。事実、そのせいでエクター・ド・マリスはランスロットを陥れようとしたのだからね。

 

 エクター・ド・マリスはキャメロットの騎士としてそれなりに強い人物だった……まあ、惜しくも円卓の騎士には封じられなかったがね。

 実力としては申し分なかった、なにせ知らなかったとはいえ聖杯探索中の円卓の騎士であるパーシヴァルに槍試合を挑んで負けたとはいえパーシヴァルに重傷を負わせたのだからね。では、何故円卓の騎士になれなかったかというと……そうだね彼は次期円卓の騎士であったボールスとその次期円卓の騎士をかけて試合をし負けたからだ。

 つまり、その実力自体は円卓の騎士と同レベルという事さ……まあ、周囲からはあのランスロットの弟として見られていたからある意味当然だろうという評価しかなかった。ようするに本人ではなくランスロットの弟という色眼鏡を通して見られていたのさ。

 

 

 さて、エクター・ド・マリスには後の世に知られている逸話が三つほど存在している。

 一つ目は先ほど話した円卓の騎士パーシヴァルに勝るとも劣らぬ実力だろう。

 彼には聖剣がなかった。魔剣がなかった。特殊な槍がなかった。特殊な馬がいなかった。特別な弓がなかった。

 特別な力なんて────たった一つを除いて存在していなかった。そんな彼が円卓の騎士の一人との試合でそんな凄い結果を残したのは本当に凄い。

 

 

 二つ目は特別な力を持たなかったが故に湖の乙女へと願い手に入れた腕輪だろう。

 異母兄であるランスロットには湖光を宿した決して折れぬ不朽の聖剣と乙女より与えられた魔術、従妹であるライオネルには乙女より与えられた魔術と自分の兄である筈のランスロットから託された聖浄の剣。もう一人の従弟であるボールスにも特別なものがあった。

 そんな彼が湖の乙女に恥を承知で自分に何かを与えてくれる様に乞い願った。

 その結果、手に入れたのは一つの魔法の腕輪。それは所有者が持つ武器全てを強化し、聖剣といかずともそれでも一級品の業物へと変化させる素晴らしい腕輪。

 それを手に入れた彼は乙女に感謝し、その後様々な武勲をあげた…………それが後の世に伝わっている逸話。ここから先が僕たちその時代に生きた者が知る話……ランスロットはそんな彼を嘲笑うかのような事をしてみせた。

 ちょっととある廃城に巨人が現れたという話があってね、とりあえずアグラヴェインがランスロットとエクター・ド・マリス、ガレスにそれの討伐を命じた。エクター・ド・マリスとしては……面倒になったなアルトリアの養父であるエクターと被るけどこの後はもうエクターでいいか。

 エクターとしては手に入れた腕輪の力を兄に、可憐なガレスに見せようとしたんだろう。ランスロットのアロンダイトに似せた剣を腕輪の力で一級品の業物に変えて意気揚々と巨人へと挑んだ……だが、剣は巨人の纏う鎧に弾かれてしまう。ならば、隙間を狙おうも上手く入らない…………呆然としたエクターの目の前でランスロットはとんでもない事をやらかした。

 廃城の周辺にあった嘗ての建物の瓦礫、そこからまだそれなりに形が残っていて堅い木材を引っ張り出したかと思えばそれをあろう事か巨人の首へと叩きつけた。普通ならそんなのは意味が無いと思うだろう、というか千里眼で見てた僕もそう思った……けどランスロットは魔力で強化していたのか木材はそのまま巨人の鎧を貫いて首を穿った。

 

 いやぁ、僕もアレは驚いた。馬鹿じゃないの!?ってつい叫んでしまったよ。そのせいで近くを通りがかったライオネルに馬鹿なのは貴方じゃないですか?って言われてしまったよ。

 まあ、見てた僕からはそんな笑い話だがエクターからすればたまったもんじゃない。自分は宝物を得て可能となった事を兄は魔力でやったんだからね…………。

 

 

 

 そして三つ目。これはそれなりに有名な逸話の筈だ。

 エクターとランスロットによるカーボネックのエレイン姫をかけての試練。

 まあ、これに関してはアレなんだけどね。ランスロットとエレイン姫は出会った瞬間、互いに惹かれ合う……俗に言う一目惚れな間柄だったんだが、そんな二人にエクターが割って入った。何時も何時も兄に負けている為に起こしたちょっとアレな思春期の男兄弟にあるようなアレだよ。え?そういうのはない?そんなのわからないだろ。

 ともかくエクターの横槍によりランスロットはエレイン姫との楽しい愉しい結婚生活の為にエレイン姫の父である漁夫王ペラムの代わりに審判を要請されたライオネルから出された三つの試練に挑む事となった。

 

 まず最初の試練は当時カーボネックの周辺で暴れていた二頭のキメラの討伐。まあ、言うまでもなく円卓の騎士であるランスロット、円卓の騎士並の実力であるエクターにとっては造作もなく討伐された。

 次に出された試練は早駆けだ。これは確か、妻の窮地にすぐさま駆けつけなければならないとかそんな理由での試練だったかな?意外や意外、これはエクターの勝利だった。実は騎乗スキルがエクターはランスロットを上回っていたようでね……いやぁ意外な才能だった。

 と言ってもランスロットにはその差を埋めて余りある愛馬がいた。灰色の駿馬シフは当時の馬の中でもアルトリアのドゥン・スタリオンやラムレイと互角なほどの名馬でね……では何故ランスロットは負けたか?それは早駆けの途中で困っていた民草を助けていたからで……まあ、これは運が悪かったとしか言えないね。いや、でもエクターは凄いよ?もしランスロットにシフがいなければ普通に負けていたんだから。

 

 最後の試練、それは二人の決闘だよ。まあ、刃引きはしたものでやり尚且つ殺さないがルールでだけどね?結果は察せって話さ。

 無事エレイン姫はランスロットと婚姻を結び楽しい愉しい子作り生活が始まったわけだ!……だがその裏でエクターは劣等感に苛まれていたんだがね。

 

 

 こんな三つの逸話が彼にはある。

 内の二つが結果的にランスロットの命運を決めてしまった。

 積もり積もった劣等感はエクターの精神を蝕みそして…………カムランの戦いでランスロットの部隊を孤立させた。エクター自体は本当にランスロットが裏切ったと思っていたはずだ。自分が原因の一つであるにも関わらずね…………

 恋した王妃は自分ではなく兄に好意を寄せ、自分の成した事を平然と超えてみせる兄……いやはや、劣等感で心が蝕まれてしまうとはねぇ……

 

 

 かくして彼のクラスは定まった。

 死ぬ間際までおのが狂気に気づけなかった彼が得たクラスの一つそれは『バーサーカー』。

 

 さあ、頑張ってくれよランスロット?

 

 

 

 




紅眼の更新ですがTwitterで少しアンケをしまして……更新出来る時にちょいちょい更新していくことになりましたのでしばらくお待ちを……

エクターの宝具はランスロットと同じ『騎士は徒手にて死せず』です。但し、擬似宝具化出来るのは剣や弓、槍などといった一般的な武器だけです。ランスロットは枝でも豆腐でも木材でもいけます。



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厚き信仰

今までエクターに言わせてた台詞ですがとある感想でスペルミスという事に気が付きました……辛い。
Luckerさんありがとうございました。
それと毎度誤字報告ありがとうございます、烏瑠さん。



 

 

 

 

 

 場所は移り変わり、ジャンヌらの戦いへと変わる。

 マリー、モーツァルトは立香らと共にアサシン・処刑人シャルル=アンリ・サンソンと取り巻きのワイバーンを相手しており、残ったジャンヌとアルトリア・オルタそしてヴラド三世はフランス軍へと襲いかかるバーサーク・アサシンの指揮するワイバーンの群れへ突貫していた。

 

 

「たあああぁぁぁぁ!!!」

 

「ふん!」

 

「フハハハ!!(みなごろし)である!!」

 

『────!?』

 

 

 弱体化しているジャンヌは一体一体少しずつ倒しているのに対し、アルトリア・オルタとヴラド三世は正しく一騎当千の如くワイバーンを蹴散らしていた……ヴラド三世に関してはまるで水を得た魚の様に暴れ回っていてアルトリア・オルタですら若干引いていた。

 内容はともかくサーヴァント三騎により次々とワイバーンの数が減少していくがそれでも全体から見て僅かな変化でしかない。

 

 

「……おい、なんで竜の魔女が……」

 

「……知るかよ……だが、都合が良い……こんまま共倒れになってくれりゃいい」

 

 

 ジャンヌとワイバーンのぶつかり合いを見てフランス兵らは困惑しつつその武器を下ろした。

 正しく高みの見物とも言えるその態度にジャンヌは唇を噛み、アルトリア・オルタとヴラド三世は愚か者め、と一蹴すると同時に憐れみを感じていた。

 

 

「あらあら、守っている相手に散々な言われようね、聖女様」

 

「……放っておいてください」

 

 

 そんなジャンヌに嘲笑の声をかけるのは黒いワイバーンに乗るバーサーク・アサシン。

 

 

「ああ、失礼。今の貴女は竜の魔女……ああ言われるのも仕方がないことね」

 

「……」

 

「ねぇ、聞かせてくださらない、ジャンヌ・ダルク?貴女はいまどんな気分なのかを」

 

 

 バーサーク・アサシンが紡ぐその言葉は端から端までジャンヌを貶めようとする意思と嘲笑に満ちていた。

 だからこそジャンヌはその力の篭った眼でバーサーク・アサシンを見る。

 

 

「死にたい?それとも殺したい?

あの兵士たちの胸に、その杭のようにその旗を突き立てたくてたまらないのでしょう?」

 

「……普通でしたら、悔しいと思うのでしょうね。絶望にすがりたくなるのでしょうね。

ですけど、生憎と私は楽天家でして」

 

 

 力強く、ジャンヌはその旗を握りしめバーサーク・アサシンへと告げる。

 

 

「彼らは私を敵と憎み、立ち上がるだけの力がある。それはそれで、いいかと思うのです」

 

「────貴女、正気?」

 

「さあ、フランスを救おうと立ち上がった時点で正気ではないとよく言われたので!」

 

 

 バーサーク・アサシンの嘲笑をその言葉で跳ね飛ばしジャンヌはバーサーク・アサシンへと駆ける。

 

 

「そう、どちらもイカれている事に関しては、白黒関係ないのね……ワイバーン!!」

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 

 バーサーク・アサシンの号令と共にジャンヌへと殺到するワイバーン。

 全体をみてそれなりの数がジャンヌへ向かっているとはいえアルトリア・オルタ、ヴラド三世にかかっているワイバーンが居なくなったわけではなく彼らは彼らでワイバーンと戦いジャンヌへと手助けは出来ない。

 しかし、多勢に無勢?だからどうしたと言わんばかりにジャンヌは目の前のワイバーンを打ちのめしていく。

 

 

 少しずつ確実にワイバーンを蹴散らすジャンヌ。前方左右を塞がれてもなおジャンヌは突き進む、だからこそバーサーク・アサシンはワイバーンの上で嘲笑し

 

 

「全ては幻想の内、けれど少女はこの箱へ────」

 

「ッ、まずい!」

 

 

 バーサーク・アサシンを中心に吹き上がる魔力。それは宝具発動の兆候と気づいたジャンヌはその場から飛び退こうとするも、バーサーク・アサシンの命令かワイバーンの群れが一斉にジャンヌへと襲いかかり邪魔をする。

 

 

「これでは……ッ!」

 

 

 ジャンヌの後方から巨大な鉄器が姿を現す。

 開かれた内側には大量の刃と針が備えられた、少女へ死の抱擁を交わす事でその生き血を一滴残らず搾り取る鉄の処女(アイアン・メイデン)

 これこそが彼女、バーサーク・アサシンの真名を露とするモノ────しかし、それは本来存在しないと判明した空想の……幻想の拷問器具すなわち

 

 

幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)────!!」

 

 

 バーサーク・アサシンの真名解放と共にジャンヌを抱擁せんとする棺桶。ジャンヌは逃れようにもワイバーンが多く逃れられない。

 嗚呼、これにてフランスを救わんとする聖女の二度目の生命は幕を引く

 

 

 

 

 

 

 

 

「────否だ」

 

「え?」

 

 

 投げ飛ばされるジャンヌ。

 その首を尽く引き裂かれたワイバーンたち。

 閉じる棺桶、その隙間から見えたのは嘗てこの特異点にて吸血鬼として猛威を奮った串刺し公、その別側面たる鬼将。その横顔である。

 

 

────ガキンッ

 

 

 閉じられた棺桶から大量の血が流れ出ていく。それは棺桶内の生命から搾り取られたもので

 

 

「フフ、フフフ、不様ね。聖女様の身代わりに死ぬだなんて!!」

 

「な……」

 

 

 投げ飛ばされ受け身が取れずに尻餅をついたジャンヌは目の前の血が流れ出ていく棺桶を見て茫然自失となり動けない。

 そしてそれを見て嗤うのはバーサーク・アサシン。

 

 別側面で召喚されたと思えばころりと優しくおなりになって。

 バーサーク・アサシンの嘲笑は周囲に響く。

 

 アルトリア・オルタはそれを耳にしつつも感情を出さずにひたすら目前のワイバーンたちを蹴散らしていく。

 

 

「フフ、面倒な王様はこれで退場。どうしたものかと悩んだけれど……フフ、なんて丁度いいのかしら」

 

 

 動かないジャンヌへとバーサーク・アサシンはわざわざワイバーンより降りて一歩一歩近づいていく。その手の魔杖に魔力を迸らせて。

 その表情から見て取れるのは嘗ての彼女そのもの。貴族たる彼女は虐げている者が自分に反抗しないと決めつけジャンヌを嬲ろうとその魔杖を振り上げて────

 

 

「さあ、快い声で鳴いて頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

────バキッ

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 殺到する銃弾の雨。

 毎分四千発から六千発もの弾幕をばら撒くガトリング砲、宝具で強化されたそれは十分にサーヴァントの脅威となる。

 それをランスロットは振るうアロンダイトで弾き落としていく。

 兜のスリットから覗くその眼光はただ、ただエクターを見つめている。

 

 

「Frere」

 

 

 弾幕をばら撒く最中、バーサーカーとして呼ばれた為か元来そんな機能が無いはずの鎧の飾りであるそれが触手か何かのように蠢き虚空から四つほど拳よりも一回り大きいモノを取り出す。

 本来エクター・ド・マリスというキャメロットの騎士が持ちえぬはずのソレ───無論、ガトリング砲もしかりだが───は今のエクターでは思い出す事など出来ぬ遠きとある戦争にて彼がマスターより与えられた武装の数々。

 だが、生前使っていたわけでもないその武装がここに呼ばれるなどありえない事だが今は人理焼却の最中、ありえない事などありえない。

 

 

「ッ────」

 

 

 エクターの鎧飾りが取り出したそれをみてスリットから覗くランスロットの瞳は細まる。

 器用に鎧飾りの先でそれのピンを引き抜き、四つ共にランスロットに投擲される。距離はあるがしかし、そこはサーヴァントそれもバーサーカーであればすぐにランスロットの許へと飛来し────

 

 

「チィッ────!」

 

 

 ランスロットはすぐさま横へと飛び退く。

 一拍置いて、投擲されたそれ───手榴弾が起爆する。擬似宝具化された手榴弾の爆発は本来のものではく威力規模共により強力なものへと変わっていた。

 

 

「ぐうっ!!」

 

「Frere!!!」

 

 

 如何に魔力で強化しているとはいえ流石に衝撃全てをどうにか出来るわけでなく、空中に身体があったこともあり擬似宝具化された四つもの手榴弾の爆風がランスロットを襲い吹き飛ばす。

 吹き飛んだランスロット、その隙を逃さずエクターのガトリング砲から弾幕がばら撒かれる。

 

 

「────ッゥ!!??」

 

 

 次々と着弾していくランスロット。強化の魔術は重要な箇所を重点的にかけられている為、薄い箇所である手や肩の強化の魔術を銃弾が撃ち抜く。

 流石のランスロットもこれには苦痛の声を漏らす。勝ち筋が遥かに鮮明となったことにエクターは狂化しているにも関わらず心の底からの喜悦を憶え、確実に強化の魔術を撃ち抜きランスロットを倒す為にエクターはより魔力を込めて────瞬間ランスロットが消えた。

 

 

「────!!??」

 

 

 ありえない。おかしい。

 どうして。どこへ。

 どうやって。何故。

 

 ひたすらなまでの疑問が狂化されたエクターの脳裏に過ぎる。

 一瞬たりとも視線を外さなかった。にも関わらずその場から消えたという事実にエクターは困惑し

 

 

「────ガッ!?」

 

 

 側頭部に衝撃が走る。

 正体不明の衝撃にエクターは蹌踉めき、次の瞬間に肘からハッキリと嫌な音がたったと同時に激痛が走る、無論両腕である。

 両肘が砕け、ガトリング砲をエクターはその手から落としてしまう。その大きすぎる隙に困惑するエクターに襲いかかるのは騎士。

 

 

「────このまま落とす」

 

 

 エクターの首下へ差し込まれる腕はそのまま背後へと引かれ、その背中に踏みしめられる。

 いったい、いつの間ににそこにいたのかランスロットはまるでエクターの首を引きちぎるかのようにその首を引き寄せる。

 

 

「ァアアア!!??」

 

 

 首が、鎧が悲鳴をあげる。

 すぐにでも意識を飛ばしかねない激痛が走るがエクターは本能で耐える。

 

 

「耐えるだろうな。お前なら」

 

 

 ああ、お前ならきっと耐えるに決まってる。

 だからこそ、俺はこうするのだ。

 

 兜の下で言葉にせずランスロットは語る。

 瞬間、エクターの背からランスロットの重みが消えエクターはそのまま首を引かれ仰向けで倒れてしまい────

 

 

「────兄、上」

 

「…………戯けめ。最後の最後で正気になるな」

 

 

 エクターの鎧を刺し貫きその心臓を穿つアロンダイト。

 馬乗りになったランスロットは狂化の解けたエクターに呆れたような悲しいような声を出しながらアロンダイトの柄を握りしめる。

 

 

「…………そう、ですか……」

 

「……正気になるならなるで最初からなれ。そっちの方が俺の気持ち的に助かる」

 

「……それは……なんとも……では次からはそうさせていただきます」

 

 

 兜の下でぎこちなく笑うエクターにランスロットは呆れる。

 

 

「なら、そうしてくれ」

 

「はい…………兄上」

 

「なんだ」

 

 

 エクターの声音が唐突に変わった事にランスロットは少し顔を顰めて問う。

 

 

「いえ…………御迷惑をおかけしました」

 

「戯け。迷惑ではない……弟なんだせいぜいかけてろ……心的迷惑以外でな」

 

「はい」

 

 

 ランスロットはなんとなくにエクターが言おうとしたことに察しがつきつつ答える。

 それにエクターも満足したか、そのまま今までのサーヴァントのように消滅した。

 

 

「…………次に会うのは何時か。その時こそは兄弟らしく話せるといいな」

 

 

 治癒を施しながらランスロットは立香らの許へと足を向けた。

 

 

 




次のイベントって何ですかねぇ……はやくやりたい。
もう刑部姫は諦め申した。後、刑部姫の部屋の武蔵ちゃんクッションが凄い欲しい。


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厚き信仰2

今回は少し短いです。
え?待ったのになんで短いかって?……本来の完成形が少しアレで分割したからです。
多分明日か明後日に続きを投稿します。


 

 

 

 

────ガキンッ

 

 

 

「は?」

 

「え?」

 

 

 それは金属音だった。

 ここは戦場。ならば金属音など何処からでも聴こえる場所。

 だが、それがバーサーク・アサシンとジャンヌの近く…………バーサーク・アサシンの宝具から聴こえてくるのなら話は別だ。

 何か金属が折れるような、割れるような音。

 これだけならば宝具の内側、鉄処女の抱擁を受けたヴラド三世の鎧が砕けたのだろうと思うだろう。しかし、そこから断続的に金属の軋む音が聴こえてくる。

 

 

「な、なにが……起きてるというの」

 

「まさか……」

 

 

 

────ギシッ

 

 

 ピタリと閉じられた棺桶に僅かな隙間が生じる。ゆったりとだが隙間が僅かに広がっていく。

 少しずつ、少しずつ。

 広がっていく度にバーサーク・アサシンの表情が固まっていく。仮面で隠れているというのに近くにいるジャンヌはバーサーク・アサシンの感情がなんとなくではあるが理解出来た。

 

 

「嘘よ……そんな事、ある筈」

 

 

 言葉を零すバーサーク・アサシン。そして、ある程度の隙間が出来た瞬間に隙間から槍が勢いよく突き出た。

 

 

「神の愛を知らぬ者に、我が魂は傷つけられぬッ!!」

 

 

 そのまま内側よりこじ開けられる鉄処女。

 開かれたその内側には血が搾られたワイバーンの数々と見るも無惨に折れた棺桶の刃と針、そして無傷のヴラド三世である。

 棺桶より出てくるヴラド三世はその手に槍を構え真っ直ぐとバーサーク・アサシンを見据える。

 

 

「そんな……私の宝具が……」

 

「───生きる為に血が必要だと語りながら、その中身は不老への渇望のみ」

 

 

 一歩。一歩。

 確実にバーサーク・アサシンへと近づいていくヴラド三世。その瞳は正しく罪人に終わりを告げる執行者。

 目の前の光景があまりに異質であった為か動けず逃げれぬバーサーク・アサシンにヴラド三世は静謐でありながら怒りを宿した声音で語る。

 

 

「我が『 』の前に立てば、恥辱から灰になろうよ」

 

「ッ!死になさい!」

 

 

 ヴラド三世がバーサーク・アサシンの目の前にたどり着いてようやくヴラド三世に気がついたのかバーサーク・アサシンはその魔杖をヴラド三世へと打つがしかし、堅牢な鎧の前に霧散する。

 霧散した事に驚き、無意識に後ずさるバーサーク・アサシン。だが、身のまとっているドレスの裾を踏みそのまま尻餅をついた。

 

 

「あ……」

 

「バーサーク・アサシン否、カーミラよ。我が槍が貴様の墓標」

 

 

 槍を振り上げ、ヴラド三世は一言告げる。

 

 

「死ぬがよい」

 

「────」

 

 

 

 振り下ろされた槍は深々とバーサーク・アサシン───カーミラの胸を貫き串刺しにする。

 鮮血を吹き出し、抵抗する力も無いのかその手から魔杖が転がり落ち、消滅した。

 これにてバーサーク・アサシンとヴラド三世の戦いは終幕。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「────サーヴァントが消えた……となるとバーサーク・アサシンか?」

 

 

 立香らから離れた場所で残っているワイバーンどもを切り殺しながら俺はそう呟いた。

 別にルーラークラスほどサーヴァントの気配察知に優れているわけではないが、このサーヴァントが多い戦場において何となくわかる。というのもサーヴァント同士がぶつかれば宝具の一つや二つは使われるのだからその際の魔力やらなんやらでわかる……はず。

 

 

「兎にも角にも、これで黒ジャンヌ陣営のサーヴァントは減ったな。ジャンヌ・オルタ、ジル・ド・レェ、バーサーク・アーチャー、バーサーク・セイバー、シャルル=アンリ・サンソン。ファヴニールとバーサーク・ランサーの脱落は大きいな」

 

 

 後五騎……少なくともこちらの戦力回復の為にも聖人を探す必要もあるが……そこはアレでも何とかなるはずだろう。しかし、戦力という面で見ればゲオルギウスを仲間に加えないのは悪手だ。

 だが……その場合二手に分かれるかもしれないわけで……安珍だけにはなりたくない。

 かといって立香に安珍という称号───呪いにより外せない!───を付与するのはどうかと思う、それに二手に分けた時にマスター二人を片方に集中させるのも駄目だ……

 

 

「どうするか……」

 

 

 安珍にはなりたくない。だが、立香に押し付けるのもどうかと思う。でも恐らく俺か立香どちらかが安珍になる。これは避けられない事だろう。

 どうすればいい。どうすれば…………

 

────逆に考えるんだ、安珍になってもいいさ。と

 

 ぶっ殺すぞマーリン。と、俺の脳裏に過ぎった濃ゆい顔のマーリンへアロンダイトしつつ、現実ではワイバーンの首を絞め落とす。

 

 

 それにしても手脚が痛む。

 治癒の魔術を施したとはいえ、流石に擬似宝具化したガトリング砲だ……対サーヴァント用の宝具となったそれが付けた傷は確実に俺を消耗させている。

 完全治癒に果たしてどれほどかかるか……少なくとも第二特異点に行くまでには治癒するだろうが…………この特異点中にどれぐらい治るかだな。

 

 

「無茶をしなければ治るのも早かろうが……無茶なぁ」

 

 

 無茶な事と馬鹿な事をするのが円卓だからな……脳裏に過ぎるマッシュポテトやら馬鹿どもに呆れつつワイバーンを踏み砕く。

 さて、どれぐらいワイバーンを倒しただろうか。ワイバーン程度、傷があろうが十分狩れる。

 周囲を見回せばかなりのワイバーンが倒れ伏していた。一瞬生態系の心配をしたがすぐにここが特異点でワイバーンは本来存在しない生物だということを思い出し胸をなで下ろす。

 

 

「回復役がいないのもネックだな。マリーはギリギリ出来るようだが……それでもキャスターではないからな。ついでにいえば彼女はこの特異点攻略中の仲間……出来れば立香にキャスタークラスを呼んでもらいたいものだ」

 

 

 となると、メディア・リリィが無難か?だがしかし…………なら通常のメディアか?なるほど、彼女なら立香の性格的に酷いことにはならなそうだが……。

 …………マーリンでも引っ張り出すか?いや、アレには第七特異点で馬車馬も過労死するレベルで働いてもらわなければいけない……だからここらで呼んで働かせてもな……というかお前は賢王を見習え。

 

…………あ

 

 

「…………いけるか?もしかしたらだが」

 

 

 脳裏に過ぎるのは一つの可能性。

 無論、この可能性はとても小さなモノ。出来ずとも問題は無い、少し俺のモチベーションがだだ下がりするだけで人理修復にはそんなに影響は出ないはず……多分、きっと。

 来なかった時は大人しくメディアを狙って召喚してもらおう。

 

 

「とりあえず彼女には魔術の逸話がある。それならキャスターとして呼ぶ事も出来なくない、問題の治療も出来るだろう」

 

 

 それに自衛自体も充分出来る。最悪マシュに立香と共に守る事を頼めば大丈夫だろう。

 と、なればこの特異点を終わらせたら上手い具合に立香にキャスターを召喚するようロマンを丸め込むか。

 ああ、今からそれを考えると少し足取りが軽くなるな。今ならトゥルッフ・トゥルウィスが群れで来ても勝てそうな気がするぞ。

 

 

「なら、さっさとこの特異点を終わらせるか」

 

 

 アロンダイトを鞘に戻し、ひとまずは立香らのもとへ足を向ける。

 

 

 

 



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胃痛は忘れた頃にやって来る(かもしれない)


前回、次の日に投稿すると言ったにも関わらず一日空いてしまったのにはきちんとした理由があります。
まず本来休みだった仕事が私情で休みになってしまった人の代わりに仕事に出て、仕事終わりに友人に食事に巻き込まれ、終わったのが日にちが変わる頃だったのでそのまま寝てしまったからです。
許してください、なんでもしますからランスロットが!



 

 

 

 

「…………と、いうわけです」

 

 

 マシュとジャンヌによる各々の報告を受け、俺はひとまず頷く。

 ……ああ、今俺たちはリヨンの外から退散し放棄された砦へと腰を下ろしあの戦場での戦いを報告し合っていた。

 ジャンヌ、アル、ヴラドの三人は丁度リヨンへと向かっていた途中のフランス軍を襲いながらも向かってきたバーサーク・アサシン率いるワイバーンどもとぶつかったらしいが…………。

 あろうことかヴラドがバーサーク・アサシンの宝具を食らいそうになったジャンヌをすんでのところで庇い宝具を食らったそうだ。しかもその後、無理矢理宝具を内側から破ってバーサーク・アサシンを仕留めたようだ…………何してんだ、おい。

 

 

「(いや、ジャンヌを守ってくれた以上、責めることなんて出来ない……出来ないが……なぁ)」

 

 

 だとしても流石に無茶しすぎだろうに。

 いや、決してジャンヌを見捨てていいという訳ではなく、それに状況を聞く限りワイバーンが多くまとわりついてきて宝具で防御するにも出来なかった様だからな。………………いや、今回は流すとしよう。

 

 次に立香、マシュ、アストルフォ、マリー、ヴォルフガング……そしてジークフリート。

 この六人……と言ってもジークフリートはジャンヌ・オルタの呪いに蝕まれていて戦闘は出来ないようで、どうやら戦闘中はアストルフォのヒポグリフの背に乗せられて休ませられていたらしい。

 ともかくジークフリートを抜いた五人でシャルル=アンリ・サンソンとワイバーンの群れにぶつかり、そして逃げられはしたものの致命傷とはいかなくとも手傷は負わせたようだ。

 

 ふむ、まだまだと言わざるを得ない。が、そもそもエクターとの一対一に勝手に持ち込んで後を押し付けてしまった俺がそんな風に言っていい立場じゃないな。

 

 

 

 

 

 まあ、そんな諸々が終わった辺りで丁度俺が合流、マシュの提案によりフランス軍と何か面倒事が起きる前にその場を離れ、こうして放棄された砦へとやってきた、というわけだ。

 

 

「報告はよくわかった。まずはその、だな、マシュらに場を任せてすまなかった」

 

「い、いえ、その私たちは大丈夫でしたし……」

 

「ま、マシュの言う通り、別に大丈夫でしたし……」

 

 

 俺の謝罪にマシュと立香が慌てるが流石にアレは彼らの上司?としてやってはいけない事だと思う。

 それを思ってるのかアルは何処と無く呆れた表情をしている。

 

 

「大丈夫かどうかじゃなくてアレは立場上やってはいけない行為だ」

 

「で、ですけど……」

 

「……ランス、そこまでにしておけ。これ以上は色々とややこしくなってくる」

 

 

 俺とマシュらの会話に呆れたアルが俺に会話を切らせる。

 彼女の視線に俺はこれ以上続けるのを諦め話を変える。

 

 

「…………さて、今回の戦いでバーサーク・アサシンとバーサーカーが脱落した。これであちらの陣営にいるサーヴァントはわかる限りでは黒ジャンヌとバーサーク・セイバー、そしてアサシンだ。……無論、あちらが追加で召喚してこないとは限らない」

 

「ランス」

 

「なんだ、アル」

 

「いや、セイバーにランサー、ライダーとアサシン……ここまで来たのならバーサーク・キャスターとバーサーク・アーチャーの二騎がいる可能性はないか?」

 

 

 ……流石アルだな。

 オルタ化して直感のランクが下がっていると思ったんだがやはりこういう事に関しては頭が回るな。

 

 

「ああ、その可能性はない……とは言えないな。もしかしたら既に召喚されている可能性が充分ある」

 

 

 そう、ジル・ド・レェにアタランテ……警戒するならアタランテだな。彼女の敏捷は高い、普通にやれば仕留めるのは難しいだろう。

 だがまあ、戦いになった時は彼女のためにもアルの宝具で仕留めるしかないな。

 

 

「さて……次だがそちらの彼について話すか」

 

 

 アルへの視線を切り、壁にもたれて休んでいる胸元が開いた鎧に身を包んだジークフリートへ視線を移す。

 確かに呪いのようなものが彼を蝕んでいるのがわかる。如何にファヴニールはもうアルが消し飛ばしたから竜殺しに頼る必要がないとしても彼を見捨てるという選択はない。

 

 

「……すまないな。せっかく救ってもらったのに役立たずで」

 

「気にすることはない。こちらも救出に出向くのが遅れてしまった……もう少しこの特異点に来るのが早ければよかったのだが……」

 

「そうか」

 

 

 それを最後に俺とジークフリートは互いに黙る。そんな俺らを置いておいてジャンヌらが話し始める。

 

 

「……恐らくですが洗礼詠唱で解呪できるかもしれません。ただ高位のサーヴァントでなければ────」

 

「ジャンヌなら出来るのではありませんか?」

 

「……いいえ。試してみましたが、私だけでは力が足りないようです」

 

 

 ……洗礼詠唱か。となると、アレでの解呪は出来ないか?いや、できるだろうな。

 だが出来ない場合の事を考えてもゲオルギウスを確保するのが最善か。……となると、やっぱり二手に分かれるのは仕方なくて…………

 ああ、今から考えると少し胃が痛い。仮に彼女のターゲットが俺になったら…………ゲオルギウスのターゲット固定は使えますか?あ、使えない?…………アヴァロンに逝きたい。

 

 

「えっと、ランスロットさん」

 

「んぁ……なんだマシュ」

 

「あの、マリーさんが聖人を探す為にくじ引きをしましょうと言いまして……」

 

「……なるほど、そのくじを引けばいいんだな?」

 

 

 俺はそう言ってマシュの手に握られているくじの束から一本を引いておく。

 というよりいつの間にかにそこまで話が進んでいたんだな……あまり、考え込まないでいた方がいいなこれは。

 気がついたら何やら大変な事を任されているというのもあるからな……アグラヴェイン……別に仕事を任せるのはいいが人選をもう少しだな。

 

 

「…………さて、この場合は」

 

「どうやら、ランスロットさんは私たちと一緒なようですね」

 

「……ジャンヌか」

 

 

 引いたくじを見つつ、周りを見回すと俺のくじと同じものを持ったジャンヌとマリーがこちらへ近づいてくる。少し離れた所にはヴラドが別のくじを持って、そして俺ともヴラドとも違うくじを持ってこっちを見てくるアルがいた。

 ……やめろアル。そういう明らかに不機嫌な視線を俺に向けるな。辛いから

 というかくじが三種類?これは二手に分かれるではなく三手に分かれるのか?

 

 

「どうやら、私たちはランスロットさんとマリーの三人のようです」

 

「…………何やらヴラドのくじが俺や立香とは違うようなのだが」

 

「あ、それはこの合流地点での防衛ですわ」

 

「なるほど、あまり動けないジークフリートの護衛も兼ねているのか」

 

「はい」

 

 

 なるほど、サーヴァントが多いとこういう事になるのか。となればこれから先もこういうふうな事があるのかもしれない。とりあえず、次の特異点にあるであろう女神のいる島へ向かうイベントは留守番を選ぶとしよう。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 ジークフリートの呪いを解くため聖人のサーヴァントを二手に分かれて探し始めたカルデアと現地サーヴァントら。

 Aグループをランスロット、マリー、ジャンヌの三騎。

 Bグループを立香、マシュ、モーツァルト、アルトリア・オルタの一人と三騎。

 そして合流地点である放棄された砦で留守をする事となったアストルフォとヴラド三世とジークフリート。

 

 こんな分け方となってランスロットは胸をなで下ろすべきかどうかを考えていた。

 

 ランスロットの記憶ではゲオルギウスのもとへつくのはジャンヌとマリーの二人で立香とマシュらは清姫にエリザベートの二人と出会う事となっている。

 それの通りならばランスロットは当初の望み通りに清姫という不確定要素に出会わずにすむわけだが……しかし、この世界は既にランスロットというイレギュラーによりある程度変化している。その点を考えればその記憶通りにはいかない可能性は決して低くはない。

 その低くない可能性を脳裏によぎらせつつランスロットは胃を抑える。

 

 その姿は三人の中で一番前にいるため後ろの二人には見えない。

 

 

「────」

 

「────」

 

「……(うーん、女三人寄れば姦しいと言うが二人でも十分あれだな……)」

 

 

 歩きながら女子トークを続けている二人にランスロットは唯一の男として若干寂しく思いながらも感覚を研ぎ澄ませる。

 襲撃してくるかもしれないワイバーンやサーヴァントに備えて、味方側のサーヴァントとすれ違いになるかもしれない事を考えて。

 

 

「(さて、もしも清姫がこちらだった場合どう逃れるか……)」

 

 

 思い描くのはバーサーカー。嘘は通用しない以上真実を突きつける必要があるがしかし、バーサーカーである彼女に対して真実を述べたところで否定するだろう。

 少なくともランスロットに安珍という前世なんてものはない以上、彼女が間違えているのだが彼女はバーサーカーである為、簡単に考えを変えない。つまり、ランスロットや立香が安珍でなくとも安珍と彼女の中で位置づけられてしまえばもはやどうしようもない。

 

 

「(……その時は非難されることも諦めアロンダイトでたたっ切るしかないだろう)」

 

 

 元来ランスロットはバーサーカー、とりわけ狂信的な存在と相性が悪いのだ。

 まだ信仰に厚い人間なら一歩引いた対応をするか無視するかの二択で済ませられるが狂信者、こちらへ向かってくるような存在はランスロットも扱いが苦手だ。

 きっと、清姫と会わなかったとしても後々、ほぼ間違いなく出会うであろう狂化EXな某小陸軍省に出会ってしまった時は…………

 

 

「(…………)コフッ」

 

「?ランスロットさんどうしました?」

 

「いや……少しむせただけだ」

 

「はぁ……」

 

 

 恐れるあまり血を吐きかけたランスロットは何とか落ち着かせ、口許から音だけを漏らす。

 たまたまそれが聴こえたのかジャンヌが怪訝な様子でランスロットに問いかけるがランスロットは上手くそれを流す……しかし、どうすればいいのだろうか。

 ランスロットの実力があれば立香らから離れて行動することも可能だがそんな上手い具合にいくわけもなく、更にはその後の特異点を思えば出来る限り消耗を抑える必要もあって…………。

 

 

「(無理だな。頑張れ未来の俺)」

 

 

 諦めるしかないのである。

 と、そんな頃に

 

 

「わ!?」

 

「ッ!どうしたジャンヌ!」

 

「え、あ、通信機です!」

 

 

 唐突に声を上げるジャンヌにランスロットがすぐさま振り返るとジャンヌの手には通信がかかってきた通信機がある。

 恐らく唐突に通信音が鳴った為に驚いたのだろう。ランスロットは肩をすくめてから通信機を受け取り出る。

 

 

「俺だ」

 

『あ、ランスロットさん。立香です……そのサーヴァントを見つけたんですが…………』

 

 

 ランスロットが通信に出ると通信機からは何やら言葉尻が弱い立香の声が聞こえる。

 そんな立香の様子に怪訝な表情をするランスロット。

 

 

「どうした」

 

『あの、その…………なんか自称アイドルとか和装とかその……』

 

「────諦めろ」

 

 

 立香の報告につい天を仰いでしまうランスロット。なお、その内心には歓喜が満ち溢れている。これで少なくともランスロットが立香より先に清姫と会うという可能性が無くなったわけだ。

 安珍スロットになるかどうかは、いまだわからないが。

 

 

 

 







 世界が生まれたばかりの頃。すなわち世界の黎明期にて唐突に発生し、混沌渦巻く世界に秩序を齎した一体のドラゴンがいた。
 圧政を敷きつつも秩序により世界を統治した彼の偉大なるドラゴンの事を後世のドラゴンらは敬意を評しこう呼んだ。

────覇王龍(ドラゴン・オブ・ドラゴン)ズァーク、と


榊 遊耶
「さァ、お楽しみはここまでだ!!」

覇王龍ズァーク/榊遊耶
赤眷龍オッドアイズ
黒眷龍リベリオン
白眷龍クリアウィング
紫眷龍スターヴヴェノム

原作:ハイスクールD×D
死因はチーズではない転生系




────────

何となくやった後悔なんてしてもしきれませぬ。
ぶっちゃけ割と結構ノッてるヤツです。
ちなみに最近遅まきながら遊戯王ARC-Vにハマりました。ギミックパペット?あいつらは良い奴だったよ……ARC-Vの4ヒロイン可愛いですね。あ、なので上の四ドラゴンは人間態になると4ヒロインになります

さて、次回も頑張るぞい



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ヴィヴ・ラ・フランス

少しずつ調子が戻ってきたと感じるこの頃。
EXTRAアニメ、李書文先生はバーサーカー参戦なんですね。となるとアサシンはどうなるんだ?

セイレムはやすぎんよぉぉぉ!!??
アレだろ?ニコ生火曜だけど配信ニコ生後でしょ?間違いなく
あとあのサーヴァント、ラブクラフト何じゃないですかねぇ




 

 

 

 

 

 

『え、あ、み、耳がァァァァァァ!!!???』

 

「────ッ”!?」

 

「「ァ────」」

 

 

 通信機から響く立香の悲鳴とそれ以上の何かがランスロットとマリー、ジャンヌの聴覚を襲う。

 ドラゴンの咆哮もサーヴァントを怯ませるには十分以上であるがしかし、いま通信機から響いているソレはドラゴンの咆哮すらも霞む程の恐ろしきおぞましき冒涜の嘶き。

 ランスロットは経験上、ドラゴンとはいかずともそれなりに様々な幻想種と戦った経験がある。中には蝙蝠が異常発達したような幻想種や視覚が退化し聴覚などに特化したドラゴンもどきなど、どれもが音が強力な幻想種だった。

 だがそのどれもがソレの前では霞んでしまう。

 

 これにはランスロットも通信機を落とし、耳を塞いでしまう。

 というより一級サーヴァントなどの聴覚にダメージを与えるとかほんとあの自称アイドルは何なのか。そろそろそのおぞましさを自覚してほしいものである。次のハロウィンはどうかチェイテでない事を強く願うばかり、

 

 

「ッ”ァ”……ダァ!」

 

 

 もう耐えられんとばかりにランスロットは通信機の通信を切る。

 それによりソレは通信機から聴こえなくなったがいまだに耳にソレが反響してランスロットらは辛い。

 ついでに言うならばソレはランスロットの胃痛にかなりのダメージを与えていた。絶賛ランスロットの喉は血塗れである。

 

 

「…………ジャンヌ、マリー大丈夫か?」

 

「…………大丈夫、です」

 

「きゅう……」

 

 

 ジャンヌとマリーの様子を見るランスロット。ジャンヌは大丈夫だと言うがその顔色は青く、マリーに至ってはジャンヌに寄りかかりほとんど気絶に近い状態である。

 そんな状況を見て、ランスロットは心に決めた。

 

 

「(よし、エリザベート・バートリーをたたっ切ろう)」

 

 

 ランスロットは激怒した。必ずや彼の邪智暴虐なる鮮血魔嬢を尽く滅ぼすのだ、と。

 滅尽滅相である。

 

 

「とりあえず、マリーは俺が担ごう」

 

「はい、お願いします」

 

「あぅ……」

 

 

 そう言って全身鎧から軽装の姿に変えてマリーを背負うランスロット。

 その背に柔らかいものが触れる。きっとこれがランスロットではなく本来のランスロットや弟エクターなどなら内心喜悦に包まれようがこのランスロットはそういうモノは湧かない。というか胃痛諸々によってそんなの気にしてられないのである。

 

 

「(……というかこんなグロッキーな状態でゲオルギウスに会うのか?……会うまでに元に戻ってほしいものだが…………エリザベート・バートリーだからなぁ)」

 

 

 ランスロットはただ回復を祈るばかりである。ランスロットらよりも近い場所でソレを食らったであろうアルトリア・オルタらの心配はまったくせずに。

 哀れ彼女らは犠牲となったのだ。

 

 

「あ、……ラ、ランスロットさん」

 

「どうした、ジャンヌ」

 

「街です……」

 

 

 ジャンヌの指差す方を見ればそこには街が見えた。普段なら喜ぶが今のランスロットにとってはもう少し後にして欲しかったとしか言えない。

 これから会うのは聖人だ。流石に聖人にこんなグロッキーな状態で会うというのは宗教人ではないランスロットでも遠慮したい、という心境があった。

 

 

「……何となくサーヴァントがあそこにいるのはわかるが……」

 

「……はい、こんな状態で会うというのは……少し」

 

 

 ランスロットの言いたいことをジャンヌは察し、少し深呼吸をし始める。ランスロットはそれを疲れたような表情で見ながら、背負っているマリーに苦し紛れの魔術により回復を行使する。

 

 

「…………致し方ない。仮にいるであろうサーヴァントが聖人だったならこの状況を咎めないだろう。何、特異点である以上戦闘があるのは仕方ないこと…………きっと、都合の良い解釈をしてくれるだろう…………たぶんな」

 

「…………そこは断言してくれませんか、ランスロットさん」

 

「それは無理な相談だ」

 

 

 ジト目でランスロットを見るジャンヌにランスロットは肩をすくめる。

 そんなランスロットにジャンヌはため息をつき、街へ向かっていく。

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

『はい、とりあえず二騎のサーヴァントに事情を話して協力の了承を貰えました』

 

「そうか……こちらも丁度サーヴァントと対面できた」

 

 

 街へと入り、再度かかってきた通信に出るとマシュからあちらで出会った二騎のサーヴァント、清姫とエリザベート・バートリーを引き込むことが出来た旨を伝えられ、俺は笑みを浮かべて目前のサーヴァントを見る。

 

 

「そちらで止まってください。何者ですか」

 

 

 赤銅色の鎧に竜頭を模した鎧飾りを肩に付け、その反対側の肩には赤線の引かれた白布の飾りを付けたサーヴァント。すなわちゲオルギウス、聖ジョージと崇められる聖人のサーヴァントが俺たちの目前数メートル先でこちらに制止を呼びかけていた。

 

 

「こんな状態で失礼。私は真名をランスロット・デュ・ラック、本来はサーヴァントですが此度は諸事情により受肉している身です」

 

「……なるほど、確かに通常のサーヴァントとはどこか違う。それに狂化もされていないようですね」

 

「ええ、彼らと戦う側です。それからいま背負っているのがマリー。私とは別口でこのフランスに召喚されたサーヴァント、クラスはライダーです。そして彼女が────」

 

 

 あくまで相手は聖人。それに初対面である為、何時もの口調ではなく整えたものを使う、何か見破られそうな予感が無いわけでもないが気にしないでおこう。

 それにしてもマリーはいつ気がつくのだろうか。

 

 マリーの紹介の後にジャンヌを示すとゲオルギウスは察したのか頷き

 

 

「なるほど、彼の聖女ですか。……名は伏せておいた方がよろしいでしょうね」

 

「御配慮感謝します。して、この街はどうやら既に襲撃されたように見受けられますが」

 

「……ええ、この街も既にあの邪竜と魔女に襲撃をされました。一度目は私がどうにか退散させましたが次はないでしょう」

 

 

 ジャンヌがオルタとは違うと分かってくれたのか彼はジャンヌの名前は聞かないでおいてくれた。流石は聖人、見る目というかなんというか良い人だ。

 さて、やっぱり襲撃されていたか。街へと入る時に外壁などが焦げかけていたり、内部の建物にも一部壊れたような部分が見受けられたからそうなのだろうと思ったが本当だったようだ。

 

 

「…………流石ですね。彼の邪竜と魔女の一派を御一人で撃退なさるとは、さぞや高名な英霊とお見受けします。よろしければ名をお教え頂けませんか?」

 

「────私としたことが、貴方がただけに名乗らせ自分が名乗らないなどという事をしてしまうとは失礼…………我が名はゲオルギウスと申します」

 

 

 俺の台詞で自分が名乗ってなかったことに気がつきやや赤面するゲオルギウス。

 その名を聞いて何か納得するジャンヌ。

 よくよく考えればゲオルギウスについてそんなに知らないな、俺。ゲオルギウスについて俺が知ってるのはアスカロンっていう槍だか剣だかを使ってドラゴンを殺し最終的に殉職した聖人というものぐらいだ。カルデアに帰ったら一度調べてみるか。

 

 

「聖ジョージ!……どうか私たちと共に来ていただけませんか?仲間に掛かった呪いを退散させねばならないのです。ですが、複数の呪いが絡み合っているため貴方と私が揃っていなければ…………」

 

「なるほど、事情は理解しました」

 

 

 

『────────!!』

 

 

 …………いまの嘶き、ワイバーンか。数はそれなり…………いや、まてこの感覚は

 ん?

 

 

「んん……」

 

「気がついたかなマリー」

 

「え、ええ……ありがとう」

 

 

 ジャンヌとゲオルギウスが話し合っているあいだに気がついたマリーを背中から下ろし、少し魔術で彼女の体調を確認する。

 どうやら後遺症は無いようだ。

 

 

「えっと、いまは……」

 

「とりあえずは件のサーヴァント、ゲオルギウスには出会えたが……どうやらワイバーンが、いや魔女が来たようだ」

 

「────それは」

 

 

 

「ええ、市民の避難がまだ間に合っていません。私はここの市長から、彼らの守護を任されています。その願いを全うしなければ────私が聖人でありたい、と願うことも許されない」

 

「でも……!!」

 

 

 マリーに手を貸し立たせる。どうやらジャンヌとゲオルギウスで少し言い合いになっているようだ。

 だが、ジャンヌ。彼は君と同じ聖人とうたわれるサーヴァントだ、簡単に折れるわけがないぞ?

 

 

「……わかっています。残れば死ぬでしょう。

しかし、それでも────見捨てるわけには」

 

「ゲオルギウス様ったら、頭も体も堅い殿方ですのね」

 

 

 ────おい。

 

 

「なんですと」

 

「でもそんなところが大変キュートです。わたし、感動してしまったみたい。

ですので────どうか、その役目をわたしにお譲りくださいな」

 

「え…………」

 

 

 堪らず俺は天を仰ぐ。

 

 

「わたしはフランスの王妃。ここからは『未来』でも、わたしにとっては『過去』も『現実』もそれほど違いはありません。

市民を守ることはわたしにとっても大切な使命。ですので聖人ゲオルギウス、ジャンヌ・ダルクと共に仲間の呪いを解いてください」

 

 

 言ってしまったな。如何にファヴニールが既にいないとしてもこのまま彼女だけを残せば…………。

 

 

「マリー・アントワネットの名にかけて。この街は、わたしが必ず守りますから」

 

「ま、待ってください!

待って、ねぇ、待って!マリー!」

 

「マリー、一緒に戦いましょう!

ひとりは駄目でもふたりなら────」

 

「駄目だ」

 

 

 俺はジャンヌの嘆願に容赦なく却下の意を示す。俺のその言葉にジャンヌはこちらを振り向く、その表情からは何故どうしてという意思が感じられる。

 

 

「ええ、ランスロットさんの言う通り、それは駄目よ」

 

「マリー……!」

 

「ゲオルギウス様、それでよろしくて?」

 

 

 …………。

 

 

「……貴女が、それでいいのならば。私はこの役割を伏してお譲りいたしましょう」

 

「……マリー…………」

 

「じゃあ行って、ジャンヌ。ほんの少しだけど、貴女の旗の下で戦えて本当に光栄だったわ……ランスロットさん、お噺で聞いた湖の騎士と共に戦えてよかったわ」

 

 

 言葉を出さず俺は頷く。

 

 

「うん。待ってますから……」

 

「ええ、すぐに追いつくわ」

 

 

 彼女のその言葉を最後に俺はジャンヌとゲオルギウスを引き連れこの街より離れるべく行動を開始した。

 

 

 

 





はよ、エレイン動かしたい
はよ、ガウェインと絡ませたい


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オルレアン:20話


投稿期間空きすぎてすんませんでした!
一回半分までいったんですがそれを一回消して書き直したり忙しい事があって遅くなりました。

にしてもセイレムよかったですね。クトゥルフまったく知らなかったんですけどね!そして待ちに待ったエレちゃん!ありがとう!


 

 

 

 

 

 街から離れたランスロットとジャンヌ、ゲオルギウスはそのまま街道を移動していた。

 さて、街へワイバーンを率いるジャンヌ・オルタが向かった以上、その群れから漏れ出たワイバーンが近辺にてさ迷っているのは当然と言えるのだろう。

 

 

『────!!』

 

『────!』

 

「たァッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

「ふん」

 

 

 群れよりはぐれたワイバーンが街道を移動するランスロットらのもとへ襲いかかっていた。無論、サーヴァントである三騎からすればもはや容易くワイバーンを蹴散らしていく。

 

 

「…………」

 

『────!?』

 

 

 とりわけ大きなワイバーンを切り落としたランスロットは剣をしまいつつ何やら浮かない顔をしていた。ランスロットの近くにいたゲオルギウスはその表情の意を察したのかランスロットへと近づいていく。

 

 

「悔いているのですか、ランスロット殿」

 

「聖ジョージ。……気にしないでくれ、いやそれよりも聞きたいことがある」

 

「……なんでしょうか。それに私の事はゲオルギウスで構いませんよ」

 

 

 浮かない表情を払い何かを決めた顔になってランスロットはゲオルギウスに向き直る。

 

 

「では、ゲオルギウス。あなたはライダーと言った…………ならば足は呼べるだろうか」

 

「無論、我が愛馬ベイヤードは私の宝具にもなっています。呼ぶことは可能ですよ」

 

 

 ゲオルギウスの返答にランスロットは頷くと虚空からサーヴァントが現れるかのように一頭の灰色の駿馬がその姿をあらわした。

 

 

「……なるほどそういう事ですか」

 

「こう、言ってはなんだがマリーは俺やあなたのような戦闘系のサーヴァントではない。言いたくはないが、もしかしたらもう竜の魔女の配下のサーヴァントに倒されている可能性もある…………故に馬に乗って出来るだけ早く待ち合わせ場所に戻りたい」

 

「わかりました。では聖女は私と共にベイヤードに乗ってもらいましょう」

 

 

 そちらの駿馬は宝具というわけではない様ですしね。そんな風に言うゲオルギウス、しかしその表情はランスロットの内を理解しているようなものだった。

 ランスロットもそれを理解してるのか頷き、ジャンヌを呼び寄せる。

 

 

「あ、どうしましたランスロットさん」

 

「ジャンヌ。より早く待ち合わせ場所に行くためにゲオルギウスと私の馬に乗って行くんだが私のシフはゲオルギウスのベイヤードのように宝具ではなくてな」

 

「はあ……えっと」

 

「こう乙女に言う言葉ではないんだが速さの問題で君はゲオルギウスの馬に相乗りさせて貰ってくれ」

 

「────」

 

 

 普通に失礼な事を言ったランスロットにジャンヌは一瞬固まる。しかしそんなジャンヌを他所にゲオルギウスはベイヤードを呼び寄せる。

 

 

「────……ラ、ランスロットさん……」

 

「いや、本当にすまない……だが今はジークフリートの為にも急いで戻る必要がある。帰ったら非難を甘んじて受けよう」

 

「お二人とも」

 

 

 ゲオルギウスの催促を受けジャンヌはゲオルギウスの手を借りてベイヤードの背に跨り、ランスロットはシフの背に跨った。

 その後は何も互いに言わず愛馬を目的地へ向けて走らせる。

 この時、ふとジャンヌは啓示ではないが何やら嫌な予感を覚え後方のランスロットを振り返り────

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

────ガキィッン!!

 

 

 

 ランスロットらが離れてしばらく経った頃、街に金属が弾かれたような音が響いた。

 いや、弾かれたようなではなく本当に弾かれたのだろう。

 

 

「そんな、馬鹿な…………!?どうして僕が打ち負ける!?あの時から何人も殺して何倍も強くなったのに、どうして……!?」

 

「哀しいわね、シャルル=アンリ・サンソン。再会した時に言ってあげればよかった」

 

 

 街にはワイバーンの群れとマリーの目の前に姿を現したサーヴァント────シャルル=アンリ・サンソン。どうやら既に戦闘は行われたのだろう。マリーもサンソンも互いに肩で息をしている。

 そんな中、弾かれたのだろう剣を見て現実を理解出来ないかのようにマリーに、自分自身に問いかけるサンソン。その姿は見ていて哀しいもの。だからこそマリーはそんなサンソンに言葉をかける。

 

 

「あの時、既にあなたとの関係は終わっていたって。

だって、本当に────あなたの刃は錆び付いていたんだもの」

 

 

 このフランスで多くの人間を殺してきたサンソンは確かに殺人者としての切れ味を増していった。だがしかし

 

 

「殺人者と処刑人は違うのよ、サンソン。人を殺すのが巧くなれば巧くなるほど────」

 

 

 一息間を空けてマリーはサンソンに告げる。

 

 

「罪人を救うという、処刑人(あなた)の刃は錆び付いていく。

あなたは竜の魔女についた時点で、もうわたしの知っているサンソンではなかったのね」

 

「嘘だ……違う、そんなはずは……!!ずっと君が来ると信じていた!だから腕を磨き続けた……もう一度君に会って……」

 

 

 告げられた言葉はサンソンにとってあまりにも辛い現実。サンソンはそんな現実を否定するかのように言葉を紡いでいく……だがそんな姿はもはや見るに堪えないものだ。

 

 

「もっと巧く首を刎ねて────もっともっと、最高の瞬間を与えられたら!!」

 

 

 縋るようなサンソンの言葉にマリーは首を横に振り

 

 

「…………もう、本当に哀れで可愛い人なんだから。わたしはあなたを恨んではいない。

はじめからあなたは、わたしに許される必要なんてなかったのに」

 

 

「ぁ…………ああ、あ────」

 

 

 マリーの言葉に膝を着くサンソン。

 もはやサンソンは再起不能、故に出張ってくるのは彼女以外ありえない。

 

 

 

 

「……大きくなるのは長いけど小さくなるのは存外早いものなのね」

 

「ごきげんよう、竜の魔女さん。ずいぶんと遅い到着でしたのね」

 

 

 黒いワイバーンより降りて現れるのは竜の魔女。すなわちジャンヌ・オルタその人である。

 自身の手駒が敗れた事によりその表情を苦渋に満ちたものにした彼女にマリーは挨拶をする。それにジャンヌ・オルタは少し苛つくが流してみせる。

 

 

「……彼女(わたし)は逃げたのね、……なんて無様────いえ、違うわ。私に勝つ為の布石なのでしょうね」

 

「あら、てっきり馬鹿馬鹿しいなんて言うと思ったのだけれど……」

 

 

 ジャンヌ・オルタの零した言葉にマリーは目を丸くする。それも当然か、見て知ったジャンヌ・オルタの性格からして馬鹿にするのだろうと思っていたのになんとも違う事を言ったのだから。

 

 

「ふん、流石の私も敵の評価ぐらい改めます。ええ、わかっていますとも……ですから貴女がここにいる理由も察せれる」

 

「意外、気にしないと思いました」

 

 

 マリーは彼女と言葉を交わしながら違和感を感じていた。何かが違うのだ。

 

 

「さて、まずは貴女を殺しましょう。あの騎士の事です────来るでしょうしね」

 

「あら、どうしてそう思うの?」

 

「湖の騎士、アレこそが最大の障害。彼女以上に私にとって壁となりえる…………」

 

 

 だからこそ、保険を置いておいたのだから。

 その言葉を口にしようとしたが飲み込み、ジャンヌ・オルタはその手の旗の先端をマリーへと向ける。

 それにマリーはサンソンとの戦いで消耗したにも関わらず構える。

 

 

「さぁ、焼いてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

「────ふむ、存外変わらんようだな汝も」

 

 

「何のことだ」

 

 

 灰の駿馬シフに跨るランスロットは聖剣と大盾を持ちながら眼前のサーヴァントを見る。

 街の門の上にて一人佇むは翠緑の衣装を纏った野性味と気品を併せ持った少女。しかし、彼女から感じる尋常ではない雰囲気から彼女がバーサークしているのは見て取れる。

 彼女はその手に弓を持ちながらランスロットにまるで知己と出会ったかのように話す。

 

 

「む、覚えていないのか────いや、あの時の汝は……まあ、いい。私とてそこまで憶えているわけではないのだからな」

 

「…………それで貴様は竜の魔女のサーヴァントでいいんだな?」

 

「ああ、不本意だがバーサーク・アーチャー、真名をアタランテ…………うむ、今こうして話している間も狂化を抑えている」

 

 

 彼女、アタランテの言葉からランスロットはその意を察しシフに魔術を行使する。

 

 アタランテというサーヴァントの知識があるランスロットはシフを駆けさせる。彼女が狂化を抑えているうちに仕留めねばその敏捷を活かして翻弄されるだろうとわかっているから。

 そして何より、騎士として彼女を見殺しにするわけには行かぬから

 

 

「故に退けよ、アーチャー!」

 

「やってみせろ、ランサー!」

 

 

 放たれた矢をランスロットの大盾が弾き、戦闘が始まった。

 

 

 

 





今回のでオルレアン編が長いことに気が付きました。なので少しこっからは詰めると思います。なんかこれ以上のんびりしていると来年になりそうで怖い。あと正月大晦日番外を書くためにも

久々にZ/Xやろうとしたら家近辺のショップからZ/Xが軒並み消えていた事が悲しい。皆さんZ/Xで好きなキャラいますか?カノープスとルクスリアが好きです


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オルレアン:21

まさかの3代目はアルテラという。
ところでランスロットさんやお前はサンタするの?

獅子面の湖「ランスロット?誰のことだ、私はオーンサンタインだが?」

あ、はい。


 

 

 

 

 

 

 三本もの矢が続けて放たれる。

 内一本はシフの脚を狙って放たれたがしかしシフは軽々とそれを飛び上がりそのままランスロットを狙った矢すらも避けてしまう。

 そして着地と同時にアタランテへと駆けていく。

 

 

「シフ、このまま────」

 

────!

 

 

 逃さんとばかりに続けて矢を放っていくアタランテ、しかしランスロット共にピクト人の軍勢の中を駆けたシフは紙一重に避けていく。

 無論、アタランテもそのまま行かせるわけにはいかない。本心としてはこのまま通しバーサーク・アーチャーである己を討たせるのがいいと思っているが狂化されている以上それを良しとできないのだ。

 

 

「ッア!」

 

 

 放たれていく矢をシフは避けていくが少しずつかすり始めているのにランスロットは気づきシフの腹に脚を当てる。

 

────!!

 

「今度もまた頼むな」

 

 

 魔力を込めた斬撃を放ち矢の雨に風穴を開けたと同時にシフが跳躍し、ランスロットはシフを踏み台に風穴よりアタランテへと向かう。

 ランスロットの背後でシフの身体に矢が刺さる音が聴こえるが振り返らずランスロットはアタランテへと突き進む。

 

 その様を見てアタランテは数ではなく一に決める。狂化しているが故にその矢を引く手に力がこもってしまう、アタランテの持つ宝具・天穹の弓(タウロポロス)は引き絞れば引き絞るほどにその威力が増すという神より与えられ弓。

 通常時のアタランテの筋力ステータスはD、それですら限界まで引き絞ればAランクを凌駕するほどの物理威力を出すことが出来る。ならば狂化した状態の筋力で撃てばどうなるか────────

 

 

「────くっ」

 

 

 だがしかし、そんな心配をアタランテは切って捨てる。そこまで深くは憶えてはいないが確かにアタランテの記憶にはランスロットがいる。

 クラスは違うだろう。調子も違うだろう。だがアタランテの心中にはこの男ならば何かをするのだろう、という信頼があった。故にアタランテは笑いその限界まで引き絞った矢を撃ち放った。

 

 

 放たれた刹那、矢はランスロットの頭部の兜を穿つ────事は無かった。

 

 その鏃から二つに断ち別れる矢はそのまま勢いよくランスロットの後方へと流れていく。

 特別な事はしていない。ランスロットはただその矢の来るであろう場所に無毀なる湖光(アロンダイト)の刀身を構えたに過ぎない。

 

 

 ああ、やはり!アタランテは笑い二の矢を番えようとする。どうやら予想外に狂化は影響しているようで二の矢を番える事になんの遠慮もなかった。

 いや、恐らくは多少遠慮しなくとも目の前の男ならばなんとでもするだろうと考えているのだろう。

 

 故にアタランテは二の矢を番えて────

 

 

「な────」

 

 

 視界よりランスロットの姿が消えた事に目を見開く。

 なんだそれは?そんなもの私は知らんぞ。

 そう呟きそうになったアタランテは背後から立ち上った魔力に気が付き振り返った。そのまま跳び退くわけでもなく振り返ったのだ。

 

 

「────これで!」

 

 

 両手でその柄を握りしめ上段へと振り被られた無毀なる湖光。

 不思議なことに先ほどアタランテの感じた魔力など微塵も感じはしなかった。故にアタランテは振り返ったという事もあり反応が遅れ……ランスロットは聖剣をアタランテへと振り下ろし────────

 

 

「ハァッ!!」

 

 

────ギャリィッッ!!

 

 

 横合いから突き出され細剣がランスロットの籠手を削りながらその一撃に僅かばかりの猶予を与えた。

 

 

「ッ!!」

 

 

 与えられた猶予を好機とし、アタランテはランスロットから跳び退き、誰が手を出したのか気が付いた。

 

 

「……バーサーク・セイバーか」

 

「やあ、サー・ランスロット。邪魔して悪いと思うがこちらも狂化されているんだ……許してくれ」

 

 

 そこに現れたのは羽帽子を被った可憐なる男装の剣士。ランスロットと同じクラスのバーサーク・サーヴァント。

 その立ち振る舞いは凛として洗練され、狂化を施されているというのに礼節を失ってはいないがその言動から狂化の片鱗を僅かながらにランスロットは感じていた。

 

 

「二騎か……」

 

 

 嘗められていると考えるべきか……。ランスロットは兜の中で呟きながら無毀なる湖光を構える。アタランテ、バーサーク・セイバー共にランスロットからすれば十分に対処可能なサーヴァント、故にまずはアタランテを討つことを考え突貫する。

 

 

頑強たれ(Sir)────」

 

 

 突貫しながら無毀なる湖光に魔術を行使する。それにより無毀なる湖光はその刀身と柄を伸ばし大剣のような形状に変化する。

 柄頭近くを握り大振りに無毀なる湖光を振るいランスロットはアタランテを狙う。

 

 

「ッ!」

 

「ハァッ!!」

 

 

 その大きさが変われども変わらぬ攻撃速度。狂化を抑えつつ戦うアタランテはその変化したリーチに反応が遅れるがしかし、そこに再びバーサーク・セイバーが横合いから細剣をランスロットの左腕に打ち込み攻撃速度を遅らせる。

 先ほどもだが、本来ランスロットに対してバーサーク・セイバーが腕へと一撃を打ち込んだところで堅牢な護りを持つランスロットには大した事ではない、だが今この場においてランスロットは騎士として剣士として大切な腕を負傷しているのだ。

 そう、ゲオルギウス捜索の前にあった実弟エクター・ド・マリスとの戦闘の際に腕を始めとする各箇所にランスロットは宝具による銃創を負っている。

 そしてその傷は止血されたとはいえ未だ癒えていないのだ。故にバーサーク・セイバーの腕への攻撃はランスロットへ大きな影響を与えていた。

 

 

「チッ────」

 

 

 二度目の妨害についランスロットは舌を打つ。どうやら一回目のそれで傷を知られたようでバーサーク・セイバーの憂いのある表情を見、ランスロットは一度下がった。既にアタランテとの戦いの最中に街へ入り込んでいたランスロットはそのまま家屋の屋根の上で周囲の状況を探る。

 

 ワイバーンが多少いるのを感じる。

 リビングデッドがいるのを感じる。

 そして────────

 

 

「クッ」

 

 

 ランスロットは兜の下で不敵に笑い、新たに浮かんだ事の為にどうするか思考を回していく。

 さて、対するアタランテとバーサーク・セイバーはランスロットのいる家屋の屋根より少し離れた家屋の屋根よりランスロットを見て話していた。

 

 

「さて……どうするんだいバーサーク・アーチャー」

 

「わかっていると思うが今の吾々ではどうにも出来ない……狂化を受け入れるのならばまた少し話は変わるが……」

 

 

 それは御免こうむるだろう?

 アタランテの続く言葉にバーサーク・セイバーは頷く。ただでさえ、無辜の民を傷つけたのにその原因たる狂化に身を委ねるなど無理だと考えるバーサーク・セイバーはどうすればうまく自分とアタランテがランスロットに討たれるかを考える。

 

 

「と、なれば……」

 

 

 その時、ランスロットが動いた。

 無毀なる湖光の刀身と柄の長さを元に戻してランスロットは回した思考で割り出した考えを実行するために今いる場から見えるとある建物に目をつけ、それに向かって駆け出した。

 

 

「な!?」

 

「……何をする気だ」

 

 

 屋根の上を疾駆するランスロットをバーサーク・セイバーとアタランテは追いかける。その際にランスロットへワイバーンが襲いかかるがアタランテはランスロットを狙う体でワイバーンを射抜いていく。

 

 

「…………ふんッ」

 

 

 追いかけてくる二騎へとランスロットは駆けつつもナイフを数本投擲する。

 空間置換の応用により瞬間的に加速したそれはぎりぎりバーサーク・セイバーの反応速度を超え……

 

 

「グッ!?」

 

「…………」

 

 

 充分反応できるアタランテはそれを避けたが避けれなかったバーサーク・セイバーは左肩と左脚にナイフが刺さる。それにより減速するバーサーク・セイバーを尻目にアタランテは加速しランスロットの前へと躍り出る。

 

 

「フッ、取らせてもらう」

 

「やってみせろ」

 

 

 それなりに引き絞られた矢を放つがランスロットはそれを転ぶ様に回避してみせ起き上がりと同時に空間置換を挟み、アタランテの側頭部に蹴りを叩き込む。

 

 

「グウッ!!??」

 

 

 無論、寸前で防御してみせたが筋力値はランスロットの方が上、ある程度吹き飛ぶアタランテ。そんな彼女を気にせずそのままランスロットは目的の場所。

 辺りの家屋よりも一際高い教会の屋根に登り立ち止まった。

 

 何故ここに来たのか、それは簡単な事だ。

 

 

「ここなら良く見える…………」

 

「ほう、何がだ!!」

 

「ハァッ!!」

 

 

 用意は出来たと言わんばかりに細く笑むランスロットに追いついたバーサーク・セイバーと戻ってきたアタランテが襲いかかる。

 だがしかし、二騎の目前からランスロットはその姿を消して見せた。

 何ッ!?唐突のそれに思わず驚愕する二騎、ランスロットはそんな二騎の背後に転移してみせそのまま二騎の肩を掴みここから見えるとある場所へと割りと本気で投げつけた。

 

 無論、二騎は当たり前だがサーヴァント。いくらランスロットが本気で投げようとも負傷している腕でそんな事をしたところで勢いはたかが知れており空中で体勢を立て直そうとして────

 

 

「キャアアァッッ!!??」

 

 

 その途中で物の見事にとある人物の背へと二騎揃って直撃した。

 街に響く絹を裂くかのような悲鳴。

 まさかの状況に驚愕する二騎。

 故の好機。再び使う空間置換による転移。

 

 今度は自身の転移ではなく、仲間の転移に使う。目視出来ている以上、座標間違いなど起こるはずはなく……

 

 

「キャッ!?」

 

 

 ランスロットの腕の中に転移される仲間、マリー。ランスロットは彼女を姫抱きにして教会の屋根から飛び降り地面に降りる。

 予想外の出来事に困惑する彼女にランスロットを立たせ告げる。

 

 

「マリー。君の覚悟はわかっている……わかっているが騎士として乙女を残すのは認められない……故にこうして交代に来させてもらったよ」

 

「ランスロット……さん」

 

「さて、既にジャンヌとゲオルギウスは待ち合わせ場所へと向かっている……俺はここで戦うが一人で行けるかな?」

 

「…………そう。ええ、もちろんそれぐらい問題ないわ」

 

 

 ランスロットの言葉にマリーは少し怒っているように答え、ランスロットはそれに苦笑する。そんなランスロットに今度は微笑み宝具の一つであるガラスの馬を呼びそれに腰かける。

 

 

「ひとまず言いたいことは色々とありますが今は言いません。なのでどうか無事に戻ってきてくださいね、サー・ランスロット」

 

「ええ、その時は存分とどうぞ」

 

 

 それを最後にジャンヌとゲオルギウスを追う為に出発したガラスの馬に腰かけるマリーの背に一礼してからランスロットはアタランテとバーサーク・セイバーを投げつけてやった彼女を見る。

 ああ、怒っているな。ランスロットはそんな風に軽いように兜の下で呟く。

 表情は引き攣り、近くにある家屋の建材である木がチリチリと燃えている。心なしかアタランテは微笑み、バーサーク・セイバーは微妙な表情をしている。

 

 三対一という圧倒的な不利の場においてランスロットは笑ってみせる。

 左手に無毀なる湖光。右手に大盾。

 起動する武具に刻まれた擬似魔術回路と擬似魔術刻印。

 

 

────圧倒的な不利?笑わせる。それは並のサーヴァントの話だ。この身はなんだ、円卓の騎士だ。麗しき我らが騎士王に仕えし湖の騎士、なれば…………

 

 

「別にここで倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

 ランスロットはジャンヌ・オルタを前にして兜があろうとも理解出来る様に笑ってみせた。

 

 

 





ぶっちゃけエレちゃん当てれるとは思わない。何故?簡単さ……俺は凛ちゃんに嫌われてるからな!←イシュタルおらん(配布除く)
ところでアッくんとモルガンまだァ?

感想と意見お待ちしております


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オルレアン:22

エレちゃん当たらない!!
高難易度がガチすぎて笑えねぇ!
フリクエが強い?7章クリア前提だから仕方ないね!


 

 

 

 

 

「マシュさん、立香さん!」

 

「ジャンヌ!」

 

 

 やや雪崩込むように待ち合わせの砦へと入ってきたジャンヌに立香とマシュは立ち上がり迎え入れる。どうやら、ジャンヌがいた街にジャンヌ・オルタが攻めてきたという旨を通信で聞いて心配だったようだ。

 思わずジャンヌに抱きつく立香にアルトリア・オルタは仕方ないな、目を瞑りため息をついていた。

 

 

「良かったです。無事のようで……それでそちらの方が?」

 

「ゲオルギウス、と呼ばれています」

 

 

 ジャンヌの無事に安堵したマシュはジャンヌの後ろに立つ一騎のサーヴァントに目を向ける。

 サーヴァント、ゲオルギウスは柔和な表情で名乗るとそれを聞いたヴラド三世は目を見開く。どうやら、現れたサーヴァントがこれほど高名な聖人だったとは思いもよらなかったようだ。

 だが、そんな二人はともかく本来いるはずのもう二人がいない事にモーツァルトは口を開く。

 

 

「……マリアはどうした?」

 

「ッ……マリーは」

 

 

 モーツァルトの言葉と視線にジャンヌは言い淀むがすぐに首を振り、マリーがどうしたのかを語り始めた。

 街で起きたこと。

 マリーがゲオルギウスの代わりに街に残ったこと。

 マリーに任せてしまったこと。

 それらを聞いてモーツァルトは目を細める。その表情は怒りのものではなく悲しげなもの。

 

 

「そうか。そう言って残ったのか……ん?そういえば彼はどうしたんだい?」

 

 

 ふと、モーツァルトが零した言葉。それはジャンヌの表情を固まらせた。

 

 

「あの、人は…………」

 

「彼は一人街へと戻りました」

 

 

 まるでジャンヌを助けるように告げたゲオルギウス。そんな彼にアルトリア・オルタは、マシュは視線を向ける。

 それは理由を問うように。分かりきっている事だがその理由を知るために。

 アルトリア・オルタは経験上よく知っている、マシュはその霊器がよく憶えている。ランスロットのその悪癖を。

 言葉を交わしたのはほんの少しだけ。共に過ごしたのもほんの少しだけ。だが、それでもゲオルギウスはランスロットのそれを何となく察していた。故に彼は口を開く

 

 

「彼は────」

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ!?」

 

 

 ランスロットの無毀なる湖光(アロンダイト)を避けた際に着面した家屋の壁面。そこにアタランテの脚が着いた途端にそれは起きた。

 アタランテの足の甲より生えでる二本もの返しが付いた鋭い短刀。

 唐突なそれにアタランテは困惑するがすぐにランスロットの仕業であると考え短刀から足を引き抜こうとするが短刀の形状は容易く引き抜けるようなものではなく、さらにどうやら壁を貫通してアタランテの足の甲を貫いているようだ。

 ならば折るしかない、とアタランテは脚に力を入れるが折れない。

 

 

「くっ、小細工を……」

 

「悪いな。小細工をろうするのも戦いのうちだ」

 

 

 苦渋の表情を見せるアタランテにランスロットは兜の下で不敵に笑い、鍔迫り合っているバーサーク・セイバーの鳩尾に蹴りを叩き込む。

 

 

「うっ、ガアッ!?」

 

「さて、脚が止まってるのなら仕留めるまで」

 

 

 鳩尾に蹴りを叩き込まれた事でくの字に曲がったバーサーク・セイバーの右肩に足をかけ踏み台にするという騎士としてどうなのか、という行為を平然としてみせて無毀なる湖光を脚が固定され逃げることが出来ないアタランテへと投げつける。

 

 

「……そう、なら」

 

 

 ジャンヌ・オルタはそれを見ていて選んだのはアタランテを助ける……ではなく、バーサーク・セイバーを踏み台に飛び上がったランスロットを狙う為に同じく跳躍しランスロットへと旗を振るう。

 

 

「死ねッ!」

 

「断る」

 

 

 旗の先端で鎧の隙間を穿こうとするジャンヌ・オルタをランスロットは盾を出して対応する。

 早い対応にジャンヌ・オルタは舌打ちしそうになるがその際のロスの有無を考え、旗を持っていない方の手を伸ばしてランスロットの盾の淵を掴みそのままランスロットへと接近する。

 

 

「至近距離────」

 

「まさか……!」

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……!!」

 

 

 ランスロットに接近したジャンヌ・オルタの表情は苦渋の表情ではなく、余裕のある微笑。ランスロットはその表情に含まれているジャンヌ・オルタのやろうとしているものを読み取り、驚きの感情を露にする。

 気づいたところでもう遅い。既にジャンヌ・オルタはランスロットの襟元を掴み盾の外から盾の内……ランスロットの胸へと潜り込んだ。ならば────

 

 

「さあ、私諸共焼け落ちなさい!!!吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!!」

 

「ハァッ!?ふざけんなッ!!??」

 

 

 片手で旗を掲げる事で此処に宝具は発動する。

 ジャンヌ・オルタの身体から吹き上がるのは竜の魔女の業焔。ランクはA+の対軍宝具、ランスロットの知る同じ炎系の宝具である太陽の騎士ガウェインの持つガラディーンと比べれば対軍宝具というカテゴリーは同じであるがそのランクは一段階劣っている。A++とA+の差は+一つでしかないが、その+一つの差で威力は大きく変わる。

 如何に強力な耐火魔術の備わっている盾の内に入った事で盾によりその威力を下げられる事はないとはいえA+の焔では鎧に施されている耐火魔術によりその威力は削られるだろう。

 

 

 

 そう、それがそのままならば。の話だが。

 

 

「ッ”!!??」

 

 

 ランスロットとジャンヌ・オルタを呑み込む業焔はランスロットの予想していたものよりも遥かに強かった。盾が無くとも鎧の耐火魔術でなんとかなるだろうと考えていたランスロットはその威力に驚愕するしかない。

 ジャンヌ・オルタの宝具:吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)には自陣の者が死ぬ事でその威力を上げるという特性がある。

 この特異点における自陣の者で既に死んだ者はバーサーク・ランサー、バーサーク・ライダー、ファントム、バーサーク・アサシン、エクター・ド・マリスそしてつい先程アロンダイトにより霊核を貫かれたバーサーク・アーチャーの計六騎のサーヴァント。六騎もの自陣脱落者をもってジャンヌ・オルタの吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)はその威力を上げそのランクをA+よりA++相当のものへ至った。

 

 

「焼けろォォ!!」

 

「グゥゥッ!!??」

 

 

 盾による威力低下無しでガラディーンを食らうのと大差のないそれにランスロットは思わず声を漏らす。

 多少の軽減は出来ているが盾の軽減でない以上そこまで効果は期待出来ず、そのまま業焔は鎧ごとランスロットを焼いていく。

 

 

「アハハハハハ!!!!」

 

「ォォォオオ!!??」

 

 

 ランスロットはただ驚愕するばかり。

 いったい誰が考えるだろうか。この目の前のフランスの『ジャンヌ・ダルク・オルタ』が敵を倒す為に自滅覚悟の手段を実行してくるなど。

 これが人理修復を成した後の亜種特異点ならばありえるかもしれない。だが、彼女はこのフランスを滅ぼそうとする人理焼却側の存在。そんな彼女が自滅しかねない方法をとるなどありえない、何せここで死ねばジャンヌ・オルタはフランスを滅ぼすことは出来ないのだから。

 故にランスロットは困惑する。

 どうすればいいのか。どうすればいいのか。

 

 予想外のジャンヌ・オルタの行動にランスロットは対応しきれない。だからこそこうして至近距離の宝具を食らっているのだ。

 

 

「ガァァァッ!!」

 

 

 鎧は焼け焦げ、ランスロットの身体は焼かれていく。焼かれていく端からジャンヌ・オルタの呪いがランスロットを蝕んでいく。

 兜のスリットから光が失われていく。ランスロットの瞳がその光を閉じていく。

 

 

「────」

 

「ハハ、ハハハ、アハハハハハハ!!!!」

 

 

 ランスロットから力が無くなる。それを見て未だ焔を纏いながらジャンヌ・オルタは手に入れた勝利に高笑う。

 ギリギリの賭け。

 フランスを滅ぼすにあたって己が残滓である聖女なんかよりも大きな障害となる湖の騎士を討つのに生半可なものでは到底無理。故に今回の自滅覚悟の手段をとったのだ。

 

 

 これにて湖の騎士ランスロット・デュ・ラックの人理修復の旅は終了。

 

 ジャンヌ・オルタは勝利の余韻に浸りながら業焔を消し生き残っているバーサーク・セイバーを連れてこの街を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────湖光は満ちた、最果てへとその光は届くだろう

 

 

「────ッ!」

 

 

 突如としてジャンヌ・オルタの背筋に走る悪寒。

───振り返るな。

 それは背後より昇る魔力によるものか。

───振り返るな。

 どうやら湖の騎士を仕留め損なったようだ。だが、それでも死に体。死ぬ前の足掻き。

 いいだろう、その程度赤子の手を捻るように潰してやろう。故にジャンヌ・オルタは嘲弄する様な気分で振り返る────

 

 

宝具開帳(無毀なる湖光)────」

 

「は?」

 

 

 先程までランスロットがいた場所には誰もいない。ただ焼け焦げた道路があるだけ。

 では、ランスロットはどこだ。消えたのか?

 否。そこにいる。ランスロットはいつの間にかに手にしていた無毀なる湖光に魔力を流し込み、ジャンヌ・オルタの懐へ潜り込みそのまま下段に構えた無毀なる湖光(アロンダイト)を振るった。

 

 




別にチーズは決してデオンが嫌いなわけではありません。たまたまそこにいたのがデオンだっただけです。
今年中に終われたらイイなぁ……


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オルレアン:23

円卓ピックアップ……きっと1200万はアグラヴェインが来るに違いない。来てくれ、ふじのん当てれなかった代わりに当ててみせるからァ!!ガレスちゃんでも可



 

 

 

 

 

 浅い。ジャンヌ・オルタは不敵に笑った。

 この最大にして最後のチャンスでこの程度の、数分もあれば癒える様な傷しか与えられないとは。何たる無様か。

 ジャンヌ・オルタは剣を振り切った眼前の騎士に抱いていた評価を過大評価だったと呆れ、その手の旗を振り上げる。

 先程の宝具でもはや鎧は煤け最高の騎士という肩書きに合わぬその出で立ちにジャンヌ・オルタは己の勝利を確信した。

 

 

 

 

 だが、ジャンヌ・オルタは知らぬのだ。

 

 

「ジャンヌ・ダルク・オルタ。貴公に敬意を払い私はこの一撃を振るった」

 

 

 円卓の騎士サー・ランスロット。この騎士の宝具の力を。

 

 

「この旅においてよもや早速振るうことになろうとは…………彼の弓の大英雄に振るわれるものを貴公に振るうこととなろうとは」

 

「……何を言って」

 

 

 ランスロットの振るったのはアロンダイト。本来対軍宝具であるそれをランスロットは今この時ジャンヌ・オルタという個人に振るった。

 本来であれば騎士王のエクスカリバーやガウェインのガラディーンの様に光の斬撃となる筈のそれを敢えて放出せずに切り付けた相手の切断面にて解放するソレは本来の歴史において頑強のスキルをEXで所持しているアーラシュ・カマンガーに重傷を負わせるほどのもの。

 たとえ傷が浅かろうが切り付けたという事実があるのであれば────

 

 

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)

 

「は?……ッ!!??コレは────」

 

 

 ランスロットの真名解放をトリガーにジャンヌ・オルタに付けられた切断面から湖が如き青い光が迸る。それにジャンヌ・オルタは驚愕に顔を歪ませ、そして。

 

 

「ジャンヌには残念だが。ジャンヌ・オルタはここで討つ!!!」

 

 

 湖光の斬撃に動きを止め、隙を晒したジャンヌ・オルタの胸にランスロットは容赦なく無毀なる湖光(アロンダイト)を突き立てる。

 

 

「ギィッ!!??」

 

 

 宝具の魔力に自身も削られているが構わずランスロットはアロンダイトをより深く突き刺す。聖杯によって回復されない為に、深く深く柄まで通れ、と。

 背後に何かが現れるのを感じとりながらもランスロットは無視し、アロンダイトでこじ開けた傷口に腕を突っ込みジャンヌ・オルタの霊核……聖杯を捕まえた。

 

 

「ァ、ァ、アア……!!??」

 

「悪いな。こちらもまだ死ぬわけにはいかない…………ジークフリートやゲオルギウスに悪いが、この戦いはここで終わらせる」

 

 

 

 

「ジャアァァアァァァァンンヌゥゥゥゥゥゥゥウウウウウッッッッ!!!???」

 

 

 

 ランスロットの後方、ワイバーンより最後のサーヴァントが降り立った。

 振り返るまでもない。ジャンヌ・オルタの参謀たるサーヴァントなど彼のキャスターしかいないのだ。

 掴んだ聖杯をジャンヌ・オルタより引きずり出し、アロンダイトを切り裂きながら抜き放ちランスロットはキャスターに振り向く。

 

 

「おのれおのれおのれぇぇぇぇ、この匹夫めがァァァァ!!!」

 

 

 その眼を見開き憤怒に顔を染め上げ、激情のままに絶叫するキャスター……魔術王より聖杯を与えられこの第一特異点焼却を命じられた『魔元帥』ジル・ド・レェ。そんな彼に振り返ったランスロットは兜を被り直し、その下で笑ってみせる。

 

 

「ああ、悪いな。安心してくれすぐに後を追わせる」

 

 

 消した盾を呼び寄せ、稼働させる。無けなしのの魔力は盾の中にあるモノを駆動させランスロットを侵している魔女の呪いを消し払う。

 次にその手の聖杯よりリソースを引き出し無理矢理に自身の傷を回復させる。調子を戻したランスロットはアロンダイトを軽く振るい回復した身体の動きを確認して一歩歩む。

 

 

「ぬかせぇ……!!殺して殺して殺してその亡骸すら辱めて地獄の底に堕としてくれるわァァァ!!!!」

 

 

『『『『『『ギィィィィィィ!!!!!!』』』』』』

 

 

 ジル・ド・レェの言葉が引鉄にその手元で開かれた彼の宝具『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』がその力を発揮し、この街のワイバーンやリビングデッドを苗床に無数の海魔が溢れ出しランスロットへと殺到する。

 圧倒的な数による物量攻撃。如何に武功に優れようともそれで覆せる数の差をゆうに越える海魔の波にランスロットはあろう事かその兜の下で未だに笑みを浮かべている。

 既に聖杯は懐に。

 その左手にはアロンダイトを。

 その右手には盾を。

 

 なるほど確かに。生前数多くの幻想種や侵略者に反乱者と対峙したランスロットであってもこれほどの数の敵を相手にした事は無い。

 激情にかられながらもこのように物量をもってランスロットを殺そうとするジル・ド・レェは腐っても軍の元帥経験者なわけだ。素直にランスロットは感心し、しかしジル・ド・レェは分かっていない。

 

 これほどまでの絶望的な数の差、確かに並の英雄ならば容易く死ぬだろう。だが、だがしかし…………

 

 

「貴公は覆せる英雄()を知らぬのだ」

 

 

 懐の聖杯から膨大なリソースを改めて盾の中にあるモノへ回す。

 駆動する。稼働する。起動する。

 アロンダイトの真名解放によりランスロットはそのステータスのランクを一つ上昇させる。

 

 

「本当に悪いと思っている…………彼らの活躍の場を、出番を奪ってしまうのは」

 

 

 だが、嘗められたままでは円卓の騎士の沽券……もとい王の顔に泥を塗りかねない為。

 ランスロットは地面を蹴り、海魔の波へと突貫する。

 

 

「円卓の騎士ランスロット・デュ・ラック、ここに武功をたてよう」

 

 

 ピクト人に比べれば可愛いものだよ、貴公。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレを告げたのはアルトリアだった。

 ランスロットの悪癖。彼は自分の生命を無視し武功をたて、誰かを助ける悪癖がある。

 アルトリアは現状とランクが下がれども機能しているおのが直感からランスロットのやらんとしている事をその場にいた全員に告げた。

 それを聞いた彼らはマリーと共に撤退しているだろうと口々に言ったがマシュと彼のサーヴァントであるヴラド三世はアルトリアの言葉に肯定の意を示した。

 未だ召喚して僅かしか経っていないもののヴラド三世はランスロットの人となりを大雑把ではあるが察し、マシュは自身と融合したサーヴァントの霊器からランスロットの悪癖を何となくではあるが理解していた。そして、マスターである立香はそんなマシュを信じた。

 

 ランスロットがいない今ただ一人のマスターである立香にアルトリアは判断を委ねた結果、ランスロットの元へ何人か送る事を決めた。

 リーダーであり責任者であるランスロットのやらかしに通信越しにロマニは頭を抱え、帰ったら説教をする事を心に決める。

 

 そして、アストルフォのヒポグリフにアルトリアが乗りランスロットの元へ向かう事となった。当初、立香やマシュも行こうとしたが流石にロマニに止められそして…………。

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

「なんだアレは……」

 

 

 アストルフォとアルトリアが目にしたのは街を覆わんばかりの無数の海魔の群れとそれを単騎で蹴散らさんと戦うランスロットの姿。

 

 

「うげぇ……すっごくネチョネチョしてるんだけど」

 

「…………ジャンヌ・オルタはどうした」

 

 

 ここに来る途中で見つけたマリーからランスロットはジャンヌ・オルタと更に二騎のサーヴァントと戦っているという事を聞いたアルトリアは件の三騎の姿が見えない事にまず疑問を持ち、次にランスロットから感じる魔力にその答えを見つけた。

 

 

「なるほど、あの馬鹿が既に討ち倒し聖杯を奪取したわけか」

 

「えっ!?竜の魔女を倒したの!?」

 

 

 では、今戦っているのは三騎目のサーヴァントか新たなサーヴァントというわけだが果たして…………アルトリアは頷き、

 

 

「後は任せた」

 

「え?何、が……って、えぇ!!??」

 

 

 ヒポグリフから飛び降りた。

 ヒポグリフの高度はこの街を俯瞰出来る高度。サーヴァントだからといってもあの海魔の群れに覆われかかってる街に飛び降りるなど自殺行為だ、と思うだろうがアルトリアは問題ないと判断し飛び降りた。

 ある程度の高さまで降りたところで海魔たちがその触手をアルトリアに伸ばし喰らわんとそのおぞましい口を開いていくが、無駄だと言わんばかりにアルトリアは魔力放出で足元のそれらを吹き飛ばす。

 

 

「────アル」

 

「何時にも増して悪癖を披露するなランスロット」

 

 

 都合よくランスロットの近くに降りたアルトリアはその鋭い視線をランスロットに向けるがランスロットはどこ吹く風と海魔を切り裂く。

 

 

「風穴を空ける。そこに撃てるか」

 

「誰にものを言っているつもりだ」

 

 

 そうか、と笑う。ランスロットの背後にアルトリアは移動し、ランスロットは盾を握りしめる。

 聖杯のリソースをアルトリアに回し、ランスロットは海魔の海に突き進む。剣ではなく盾を前に。

 

 

「“盲目なる者は聖血を以て光を得たり”」

 

 

 盾を海魔に押し付ける。

 聖言は向かい合う双乙女の盾を駆動させ、その内部より宝具を剥き出しにさせる。

 

 

「極光は反転し、その醜悪を滅ぼす」

 

 

 背後のアルトリアが黒い聖剣に魔力を収束させる。

 

 

 「『嘆きの一撃(リ・シャグラン・ド・クー)』」

 

 

 

 盾に仕込まれた槍の穂先が放たれる。

 其は救世主を貫きその血を浴びた正真正銘の聖遺物。

 嘗てランスロットの義父たる漁夫王に癒えぬ疵を与えた嘆きの槍。聖杯という膨大なリソース源を得て放たれた其れはそのまま射線上の海魔たちを消し飛ばしその最奥に居た魔元帥を捉える。

 

 ありえない事態に硬直する魔元帥。アルトリアはランスロットの背を蹴り、敵を見据える。

 もはや逃げる事は不可能。

 

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)』!!!!!!」

 

 

 




嘆きの一撃。ランスロットの盾に収納された聖血を浴びた槍の穂先を対象に放つ宝具。つまりパイルバンカー
セイバーかシールダーでないと持ってこれない宝具ですね。

久々に本編書いたけども……うん、不安だが大丈夫です。タカキも頑張ってたし、チーズも頑張らなきゃ……

感想、ご意見、誤字脱字報告お待ちしております


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邪竜百年戦争オルレアン:エピローグ

ぎ、ギリギリだったぁ……楽観視し過ぎてた。
4月に2部が始まりますね、アナスタシアがとてもとても楽しみでございます。当たるかな……

そういえばブラボがフリーになり、ユーザーが増えるやもしれませんがいったい何人の狩人が夢から覚めることが出来るのでしょうかね……



 

 

 

 

 

 久方ぶりにはっちゃけ、聖杯という膨大な魔力リソースを利用しての聖槍起動というふざけた事をやらかし無事(?)に第一特異点を修復した俺は意気揚々とカルデアへ帰還したのだが…………その先にはオルレアン以上の熾烈な事が待っていた。

 

 

「聞いてるのかい?ランス」

 

「ん、あ、聞いてます」

 

「…………聞いてるとは到底思えないんだけど、そこのところどうだい?」

 

「い、いや、聞いてるぞ?」

 

 

 カルデアに帰還した俺を待っていたのはいつかの聖杯戦争で出会ったキャスターの様にのっぴきならないオーラを纏ったロマニ。流石の俺もそんな彼に逆らう事など出来ず、彼の命令通りに大人しく足を止めた。

 立香やマシュの心配するような表情、アストルフォやヴラド三世の苦笑、アルトリアの呆れた顔、キャスパリーグのまるでマーリンを見るかのような表情は割りと殺意が湧いたがともかく彼らが後にした管制室で俺は現在正座をしている。

 

 

「君は一応レイシフトによる調査隊のリーダーなわけなんだよ……その辺わかってるかい?」

 

「無論だ。リーダーとして、立香の先達として責任を感じている」

 

「……なら、独断専行はいったいどういう了見なんだい!?」

 

「反省はしているだが後悔はしていない」

 

「割とガチで殴り倒そうか!?」

 

 

 そもそも騎士として乙女を助けるのは至極当然の考えでそこを責められるのは少し遺憾の意を示したいところなのだが。

 

 

「別に彼女を助けた事は僕も流石に責めないよ……でもね、助けたなら一緒に逃げる事も出来たはずじゃないのかい?」

 

「敵サーヴァントには麗しの狩人アタランテがいた。彼女の逸話を考えると宝具ではない俺のシフでは逃げるのは難しいと判断した」

 

「なら、アタランテだけでも倒して離脱できたろ?」

 

 

 いやまあ、それもそうだが……。

 

 

「それとも何かい?息子もとい娘にカッコいいとこでも見せたかったの?見せてないけども、ねぇ?」

 

「い、いや、そんな下心はなくてだな……」

 

「じゃあさっさと退去しろよ」

 

「お前だんだん口調崩れてないか!?」

 

 

 何故にお前もまるでマーリンを見るかのような顔をするんだ。泣くぞ、おい。

 というかいまこいつ、退去しろよって言わなかったか!?撤退じゃなくて退去!?俺に消えろとお前は言うのか!?

 

 

「それで?聖杯を奪取?うん、まあ、それはレイシフトの目的だから文句は言わないよ……でもね?」

 

「………………」

 

 

 ロマニは一度言葉を切り、呼吸を整え一歩前に出た。

 

 

「なんで、それを使ってリソース確保に聖槍ブッパするかなぁ!?」

 

「おま、やめ、揺らすなぁ!?」

 

 

 ロマニは堰を切ったかの様に怒涛の勢いで俺の肩を掴んで前後に揺らしてくる。鎧兜を付けたままの俺は前後に揺れる事でところどころ顔が兜にぶつかり、脳が揺れて痛く気持ち悪くなってくる…………辛。

 

 

「サーヴァントとしての時ならともかく、君今受肉してるんだよ!?そんな状態で聖槍を使うなんて、いったいどんな副作用が起きるかも分からないのにさぁ!?」

 

「おい、ロマ、二……だんだん言ってる事が変になって、るぞ……」

 

「そもそも、君という奴は自分が受肉したサーヴァントだからってほいほい前に出過ぎなんだよ!わかってる?君は一応カルデアのマスターの一人なんだ、そんな君がもし倒れたらどうするっていうのさ!!」

 

 

 いや、マジですいません。

 というかそろそろ手を離してくれ、割りと辛い。

 

 

「いいかい!?人理修復中に君が倒れたら、立香ちゃんやマシュの精神的負荷が重くかかるんだからね!?」

 

「わか、ったか、ら……そろそろ……はな、せ」

 

「もっと君は自分の立場とか影響を考えてくれないと困るんだよ……」

 

「あ、はい」

 

 

 言いたいことは全て言い切ったのかロマニは俺の肩を掴んでいた手を離したがしかし、それなりの勢いと時間揺さぶられ続けた、ため、か……俺の、意識が…………ガクッ。

 

 

「え、ちょ、ま、メディィック!!メディィィィィィックゥゥゥウウウ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知ってる天井だ」

 

「ネタを回収しなくていいからねランス」

 

 

 医務室の天井を見て零したランスロットの言葉にロマニは呆れたように笑う。

 そんなロマニなど気にもとめずにランスロットは医務室の寝台から起き上がり勝手にコーヒーを入れ始める。

 

 

「………………」

 

「………………それで?」

 

 

 コーヒーを数口飲んだランスロットは寝台近くに置かれていた自身の兜を持ち上げ見ながらロマニに言葉を投げかける。それは普通の人では気づかないようなロマニの差異に気がついたランスロットだからこそ出せる言葉。

 そんなランスロットにロマニはいつもの弛緩した表情ではなくカルデア所長代理と同時に医師としての真剣な表情を向ける。

 

 

「……そうだね。ランスロット、君が寝ている間に出来うる限りの検査をさせてもらった」

 

「…………」

 

「聖杯と接続してのリソース確保に受肉した身による聖槍の真名解放……前者は君が魔術使いであったからそれなりにマシだった……だがそれでも両方共に君の魔術回路に大きなダメージを与えている」

 

 

 君の受肉が聖杯によるものならともかく別の方法だった故の不具合だよ。カルテを渡しながらそう呟くロマニにランスロットは済まなそうな表情をせずただ騎士として自分の身を切り捨てる冷静な表情でカルテに目を通す。

 

 

「…………」

 

「聖槍はもう片手で数えれる分しか撃てないと思った方がいい、ついでに言うけどその数えれる分ってのはそこまでなら大丈夫じゃなくてその範囲のどれかって事だからね」

 

「よくて四回、最悪一回……そういうことか」

 

 

 実質もう撃つなと言っているようなものだ。撃っても本当にここぞという時だけ…………ランスロットは思考しそういう状況を頭の中で羅列する。

 バビロニア……あの獣相手に通用するとは思えない。

 キャメロット……確かにあの槍に対抗する為に使えるやもしれない。

 そして終局特異点、魔神柱を吹き飛ばす程度だろうせいぜい。

 何時槍を放つか分からない。ならば当分は使えないだろう。

 

 

「あの娘たちの精神的負荷を考えれば戦力低下になるとしても聖槍の使用は禁止だよ」

 

「仕方の無い話だな」

 

「そして、君の魔術回路の調整やらなんやらを考えれば……君には何度かレイシフトを休んでもらう」

 

「何?」

 

 

 レイシフトを休む、それはつまりマシュや立香に何度か任せるという事だ。

 だが、しかしそれは……二人に負担を強いる事で。

 

 

「君の言いたいことはわかる。でも、人理修復には何時何処でどのような不測な事態があるかは僕にも君にもわからない。結果的にそうなっただけだけど、君に頼り切りになるのも駄目だろう」

 

「…………成長の為、と」

 

「ああ。それと別にあの娘たちだけってわけでもないだろ?サーヴァントもいるんだ」

 

 

 ロマニの言葉にランスロットは目を閉じ、思案する。といってもランスロットとしては第五や第六、第七で身代わりになって死ぬ可能性を考えている為にロマニの言葉に殆ど賛成であった。

 自分がいなくなっても大丈夫なように。

 

 

「……了解した」

 

「うん。ありがとう、というわけで次の特異点には君は同行できない。わかってると思うけど君がレイシフトしない以上君と契約している二騎のサーヴァントもレイシフト出来ない」

 

「分かっている……せいぜい、スタッフの為に甘味やらなんやらを大人しく作っているさ」

 

「あ、じゃあショートケーキ宜しくねランス」

 

 

 わさび入りのシュークリームを用意してやる、戯け。そう吐き捨てランスロットは医務室を後にした。

 

 

 

 

 

「えぇ…………って、あれぇ!?僕の楽しみにしてたあんドーナツがないぞう!?」

 

 

 





感想、ご意見、誤字脱字報告お待ちしております

次からは暫く幕間が続くので少し気が楽です


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幕間Ⅱ
マスターとサーヴァント:Ⅱ


|ω・)チラ

|ω・) つ 『最新話』

|)彡 サッ



 

 

 

 

 

「…………さて、どうするか」

 

 

 医務室よりくすねたあんドーナツもとい俺が確かレイシフト前に作ったあんドーナツを食いながら俺はふらふらとカルデアの廊下を歩いていく。

 確かにロマニの言う通り、俺はなんとなくではあるが身体の、魔術回路の不調を感じている。このままではサーヴァントへの魔力供給もままならないだろう…………そういう事もあるし、マシュや立香のランクアップも考えれば何度かカルデア待機もありなのだろう。

 少なくとも第六と第七を考えれば仕方がない。

 

 

「……いや、その先を考えれば」

 

 

 俺が知っているのはアガルタまで、その先にある特異点がどんなものかなんてわからない。

 少なくとも第五レベル以上のがあるのは間違いない。そして、もしも俺が途中で死んだ場合を考えて────

 

 

「らしくないな。自らの死を考えるとは」

 

「アル」

 

 

 冷徹な声に振り向けば、廊下の横道その影にアルトリアが寄りかかりこちらを見ていた。

 どうやら直感で俺の考えを察知されたようだが、お前のソレはランクが下がってるんじゃないのか?

 

 

「気にするな」

 

「いや、思考を読むな」

 

 

 トリスタンやアグラヴェインも時々普通に俺の思考を読んでくるが、まったくどういうことか。思考が読まれるほど簡単な思考回路じゃないと思うんだが…………

 さて、それは置いといてだ。ここにアルが来たということはアレだろう、第一特異点でのやらかしに対して文句を言いに来たのだろうな。とりあえず謝らねば

 

 

「アル、先の戦いだが……」

 

「その事に関しては私からは何も無い」

 

「……何?」

 

 

 どういうことだ。オルタなアルの事だから皮肉を絡めて色々と言ってくると思ったのだが……いったいどういう心境の変化何だろうか……。

 そんな俺に対し、アルは少し不機嫌気味な表情でこちらを見て

 

 

「…………あんな暴挙を起こさせたのはひとえに私の未熟さが原因だ。そもそも力があるからと言ってマスターと別行動をするなどサーヴァントとしてどうかと思う」

 

「お、おう……」

 

「……さて、医務室で何か言われたか?」

 

 

 いきなり話を切り替えたな。

 まあ、隠すことでは無いので大人しく俺はアルに検査の結果を伝える。

 すると彼女はやはり申し訳ないような悔やむような表情を見せた。

 

 

「……やはり私が大人しく貴様を止めていれば」

 

「いや、アルトリア。お前のせいじゃない、アレは俺の選択で俺が悪い────」

 

「そうだな。悪いと思っているのならこれからは大人しく私の言葉を聞いてもらおうか」

 

「…………え?」

 

 

 だが、そんな表情も俺の言葉を聞いた途端にまるで鬼の首を取ったような笑みへと変わった。どうやら、嵌められたようだ。

 

 

「私は貴様のサーヴァントだ。サーヴァントとしてマスターの身を守らねばならん、わかるな?」

 

「……ぜ、善処する」

 

「どうだか……、さて食堂に行くぞ償いとして料理を作れ」

 

「……ハイハイ、仰せのままに我が王よ」

 

 

 話を終わらせそのまま食堂へと足を向ける彼女の背を見て、俺は苦笑いをしながら彼女のあとをついて行った。

 さてさて、何を作るとするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランスより帰還し、ダ・ヴィンチよりバイタルチェック等々を受けた後にドクターの軽い診断を受けた立香とマシュは帰還後倒れたランスロットに代わり、ランスロットのサーヴァントであるヴラド三世にカルデアを案内していた。

 

 

「ええっと、こっちの方にあるのが……ダ・ヴィンチちゃんの工房で、その奥が物資の保管庫だったかな?」

 

「ふむ」

 

 

 最初はその厳つい見た目と口調から一歩引いて対応していた立香だが、何言か言葉を交わすことでヴラド三世が存外優しいのだと、理解し今では親しげに言葉を交わしている。

 そんな立香にマシュもアストルフォも朗らかな笑みを浮かべながら付いていき、ふとアストルフォ立ち止まる。

 

 

「あれ?」

 

「ん?どうしたのアストルフォ?」

 

「どうしたんですか?」

 

 

 訝しげな表情でアストルフォを見るマシュと立香、ヴラド三世はアストルフォを見ずに一応ドクターより渡されていた簡易的なカルデアの地図に目を通す。

 

 

「んー、なんか美味しそうな匂いが……」

 

「へ?」

 

「……確かに微かですがとても美味しそうな、芳ばしい香りがしますね」

 

 

 スンスンと鼻を鳴らすアストルフォに立香は首を傾げ、マシュは同意しヴラド三世はそんな三人をチラリと見てから口を開いた。

 

 

「ふむ、地図を見るからに近くに食堂があるな。そこから匂っているのではないか?」

 

「おお、食堂かぁ!」

 

 

 何だか、お腹すいてきちゃったよ僕!

 そうにこやかに言うアストルフォに立香とマシュは苦笑いしつつ一度ヴラド三世の顔を窺うとヴラド三世は気にするなと言わんばかりの表情を見せた。

 

 

「では、食堂に行こうか。立香そなたは人間だ、我がマスターのような無茶をしたわけではないが未だ歳若いそなたには休息が必要であろう。私の案内は後で我がマスターにやらせる」

 

「ヴラド……うん、ありがとう」

 

「よぉし、そんじゃあ食堂に行こう!」

 

 

 ヴラド三世の優しさににへらと笑う立香と安堵の息を漏らすマシュ。そんな三人などお構い無しに空気を割って行くのはやはりアストルフォ、やはり理性が蒸発した英霊は一味違うのだろう。

 そんなアストルフォにヴラド三世はやれやれと肩を竦ませ、三人はアストルフォの先導のもと食堂へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 食堂へと足を踏み入れた四人を出迎えたのはとても芳ばしい肉の香りであった。

 嗅げば食欲が溢れ、唾が湧くような美味しそうな肉の香り。それによってアストルフォは当たり前のように口許を拭い、マシュと立香は喉を鳴らし、ヴラド三世は感嘆の息を漏らして────

 

 次の瞬間、マシュと立香はその表情を硬くする。

 

 

「…………ランス、後六枚追加だ」

 

「負傷してるマスターにステーキを只管ウェルダンで焼かせるサーヴァントがここに居るんだが、誰か助けろ。誰か、あの根菜騎士を召喚してくれ……労働力……」

 

「つべこべ言わずに焼け」

 

「Oui……」

 

 

 食堂のカウンター席。

 どういう意図で作ったのか、ステーキハウスのような鉄板が目の前にあるカウンター席に座るアルトリア・オルタ。そして、彼女の目の前にある鉄板で次々と肉を焼いているランスロット。

 皿に乗った五枚程のステーキをナイフとフォークで切り分け食べながら追加の注文をする彼女に疲れたように嘆く様に呟く彼。

 先日のマッシュポテトの山を憶えている立香とマシュは間違いなくアルトリア・オルタの皿に乗っているステーキは追加分のステーキなのだと確信していた。そして、同時に何枚食べるつもりなんだ……と考えながら。

 そんな二人を余所にアストルフォとヴラド三世はアルトリア・オルタとは違うテーブル席へと腰掛ける。

 

 

「ランスロット!僕はミディアムレアでよろしく!」

 

「レアで二枚頼もうか我がマスター」

 

「…………分かった」

 

 

 一瞬、手で目元を隠してため息をつくもすぐさまランスロットは新しい肉を取り出して焼いていく。

 そんな様になんとも言えない表情をしながら立香とマシュは用意されていたピッチャーで水をグラスに注ぐ。

 

 

「ランスロットさんも大変だなぁ……」

 

「ですね……」

 

 




正直ランスロットを2部まで残すかどうか悩んでる。
ちなみにオフェリアはランスロットと同じく降霊科でして、ええ、カルデアに関係なく顔見知りではありますね。キリシュタリア様はマリスビリー繋がりで……まあ、キリシュタリア様はランスロットが英霊というのを知ってます。

まあ、2部まで残すかどうかはベリルの異聞帯の内容によりけりなんだけどね……絶対あいつの異聞帯、あの緑色軍団がわんさかいるよ……


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幻想はここに

やっはろー
いやぁ、三章は楽しかったネ!
ガチャは回したかな?馬も虞も朕(?)も来たよ!1回で!

……ところでなんか知らないけど、うちの朕には首がないんやが。あとワンコに乗ってるんだよね……おかしいなぁおかしいなぁ……喋らねぇんだよこの朕



 

 

 

 

 

「と、言うわけで戦力強化をしようッ!」

 

「何がどうして、というわけなんだよ」

 

「前略するのはどうかと思うよ?ロマニ」

 

「理由話してくれないとわかんないドクター」

 

「……えっと、その、先輩に同じくです……ドクター」

 

 

 理由ある言葉の槍がロマニを貫く。

 ロマニは傷つき倒れた。

 

 

「うぅ……容赦ないぞお、みんな……」

 

「まずは理由を言え、理由を」

 

 

 カルデアのミーティングルームにて所長代理であるロマニ・アーキマン、技術部顧問(自称)ことレオナルド・ダ・ヴィンチ、召喚システムフェイトの管理者兼特異点探索チームリーダーのランスロット・デュ・ラック。そして、マスターである立香とマシュが顔を見合わせ一様にロマニを言葉で叩いていた。

 ロマニはもはや顔を机に突っ伏して嘆いているが、ランスロットはそれを嘲るように追撃を行うばかりである。

 

 

「うぅ…………ほら、ランスが……馬鹿やらかしたわけで次の第二特異点の様にレイシフト出来ない場合が他にもある可能性が高いじゃないか……」

 

「否定は出来んな」

 

 

 俯きながらロマニが口にする言葉にランスロットは視線をずらし、立香からジト目を受けつつ肯定する。

 今回の戦力強化は十中八九とは行かずとも半分近くは自分の責任であることを分かっているのだろう。

 

 

「それで、立香ちゃんの戦力を強化するのがいいと僕は思うんだ」

 

「なるほど……それなら、私は召喚したいです。ランスロットさん」

 

「先輩……」

 

 

 立香の言葉にランスロットは頷きながら、その心中を考える。

 先日、ランスロットは立香のカウンセリングをしていたロマニが立香よりある事を聞いたのだ。先の第一特異点での出来事、主にランスロットが前へと出て無茶をし結果として第一特異点を修復した事。

 それの事で自分はランスロットに信頼されていないのではないだろうか、自分が頼りないのではないだろうか。と、立香はロマニへぽつりぽつりと話した事をランスロットは知った。

 だからなのだろう。ランスロットが特異点へ赴けない分自分が頑張らねばならないと考えている。ランスロットにはそんな彼女の考えを否定する事は出来ない。

 

 

「レオナルド」

 

「ん?なんだい?」

 

「少なくともロマニがこう言ってる以上、今の立香がサーヴァントを召喚しても問題ないのだろうが…………実際問題、立香の負担が増えるのは変わらんのだろう?それでどの程度の負担が生じる?」

 

 

 ランスロットが口にするのは立香のサーヴァント召喚における懸念事項。

 生じる負担の大きさによって話は変わる。負担の殆どをカルデアが受け持っているとはいえほんの少しでも負担は立香へと残る。

 その負担が立香に対してどれほどの影響を与えるのか、本当にちょっとの気にする程でもないその場限りの負担ならばいいだろうだが、それが気にしなくとも確実に積み重なっていく負担ならどうだ?

 本人も気付かぬ内にその負担が積み重なって致命的なものになったら事だ。

 

 

「まあ、君が心配してる事は分かるよ。うん、大丈夫さ、少なくともまだ問題じゃあない……これが五騎も六騎もだったら流石に止めるけど、四騎までならまったくもって負担はない」

 

「そうか」

 

 

 ダ・ヴィンチの言葉にランスロットは頷き、そのまま椅子に深く座り直して口を閉じる。

 それをロマニは特に何か言うことはもうない、と判断して立香の方へ視線を向ける。

 

 

「それじゃあ、立香ちゃん。サーヴァントの召喚が決まったわけだけども、何か意見はあるかな?」

 

「……うーん、こう、パワー?」

 

「フフ、力が、欲しいか……?……アイタッ!?」

 

 

 立香が首を傾げながらロマニへ返す意見を茶化すようにダ・ヴィンチが言葉を挟み込むがランスロットにより発射されたフォウによりその額を叩かれる。

 そんな光景をロマニと立香、マシュは軽く笑いながら立香の意見に対して考えを深めていく。

 

 

「パワーって言うと、強いサーヴァントがいいってことかい?」

 

「確かに、ランスロットさんがいないとなるとヴラド公やアルトリアさんの前衛がいません」

 

「アストルフォは、ほら、前衛というより……ねぇ?」

 

「アストルフォだからな」

 

「うん、まあ、彼のスペックは前に出て奮闘するアタッカーとかじゃなくて、持ち前の宝具を使って戦線を掻き乱すものだからねぇ」

 

 

 ロマニとマシュを除いて三人ともアストルフォを軽くディスりつつ、みな立香の意見に賛成の意を示す。

 ランスロットとそのサーヴァントがいないという事はカルデア側に一騎足りともアタッカーが居ないということになる。シールダーであるマシュは言わずもがな、ライダーであるアストルフォは単純に多種多様な宝具による援護等が主になる為間違いなくアタッカーとは言えない。

 だからこそ、立香の意見は真っ当なものである。だが、そうそうお目当てのサーヴァントが召喚など出来るわけはなく────

 

 

「ある程度調整すればクラス指定……いや、クラス枠を潰す事は出来る」

 

 

 徹夜コースだな、分かってる。

 死んだ目をしながらそう乾いた笑みを浮かべる彼にマシュも立香も目を逸らし、ダ・ヴィンチはなにゆえかイイ笑顔で親指を立て、ロマニはランスロット同様乾いた笑みを浮かべるばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、アレだね、徹夜しながら何かを作るのって楽しいよね!!??」

 

 

「座に還れ」

 

 

 首を右手で、目頭を左手で抑えながらランスロットは隣で何やら妄言を口にしている変態に苛立ちながら言葉をぶつける。

 サーヴァント召喚システムフェイトの調整におよそ一日と五時間を使ったランスロットは言わずもがな、調整されたフェイトに対応する呼符を作り出すのに一日かけたダ・ヴィンチはその徹夜の影響を受けていた。

 無論、サーヴァントは本来食事不要睡眠不要などの大きなメリットがあったが受肉しているランスロットにはそんなものは通用せず、ダ・ヴィンチは単純にそういう性分であるから。

 

 

「書類業務、不眠不休の戦働きとはまた違って疲れる。分かるか?目が痛いし腰が痛いし肩も痛い、一応アラフォーなんだよ俺は」

 

「えぇ……その見た目でアラフォーなのかい?どう見てもアラサーじゃないかな?」

 

「乙女の加護だ、加護。受肉したとしてもある種のスキルだから幾ら年食おうが肌やなんやらは三十前後で止まってるよ」

 

 

 そんな風に疲れた顔で語るランスロットにダ・ヴィンチは興味深そうに相槌を打つ。

 

 

「肌やなんやらが一定の年齢で止まるのか……世の女性が聞いたら垂涎ものだねぇ……」

 

 

 ちなみに私も羨ましいと思う。

 お前は女じゃないだろ。

 なんて酷い言い草だ、マシュにチクるしかない。

 事実だろう。

 

 そんな風に軽口を叩きあって二人は振り返って視線を自分たちの背後、この召喚実験場の出入り口へと向ける。

 扉は開き廊下から何人かが入室していくのを確認してランスロットはシステムの最終調整を始めていく。

 

 

「やぁ、みんな。調整はほとんど終わってるよ」

 

「ほんとに出来ちゃったのかぁ……いやぁ、流石二人だね」

 

「全部この二人に任せてもいいんじゃ……」

 

「立香。それはやめておけ、ランスとアグラヴェイン二人に一度全て任せようとしたら、ランスは軽く発狂したしアグラヴェインは死にかけた」

 

「あ、ハイ」

 

 

 ロマニはクラス枠を潰して望んだクラスが召喚しやすくなるという荒業に頬を引き攣らせ、立香はこの二人に全て任せればいいのでは?と口にし、それが無理な事をアルトリアに諭されていた。

 一緒に来ていたアストルフォは召喚実験場を改めて色々見回っており、マシュとヴラド三世はそんなアストルフォが何かやらかさないかの監視をしている。

 

 

「さて、はい立香ちゃん」

 

 

 そう言いながらダ・ヴィンチがやや虹っぽく輝く呼符を立香へと手渡した。恐らくこれが今回の召喚に用いる触媒なのだろう。そう、立香は理解しそれを手にして実験場……実験管制室であるこの部屋からフェイトの部屋へと入っていく。

 そんな立香の背を見ながらロマニは心配そうな視線をランスロットへと向けて、

 

 

「問題は無い。実にアレだがそいつは天才だ、ほぼほぼ失敗は無い」

 

「それは、まあ、信頼してるけども……」

 

「立香―――最終調整を終えた、召喚を開始してくれ」

 

 

 手元のマイクで実験場内の立香に促し、ランスロットは窓越しに実験場を見る。

 

 

 

 立香がその手に握る虹の呼符を使用する。

 それにより魔力が吹き荒れていき、視覚化された魔力は三本の円環へと変わっていく。

 光の円環は廻り回りまわり、その内に虹色の輝きを迸らせて────────

 

 

「あっ」

 

「あっ」「むっ」

 

「え?」「は?」

 

 

 後方から漏れた声にランスロットが、ロマニが、マシュが、ヴラド三世が振り向いて……

 

 瞬間、魔力がぶれた

 虹色の輝きが大きく昂り

 そして、光の中に立香は人影を見た。

 

 

「おっと、こりゃどういうわけだ?いいや、理由なんてもんは関係ないね。

それよりも人理修復、カッコいい話じゃないか!」

 

 

 黒と白の衣服の上から軽装を付けた同じく黒と白の混じった髪の青年。

 白く裏地が水色のマントを羽織り腰には白い剣を携えて一人の英雄が召喚された。

 

 

「サーヴァント・セイバー。問おう、アンタが俺のマスターか?」

 

 

 




今回は立香の戦力強化です。
まあ、アストルフォとマシュだとねぇ……前衛がおらん。


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永続狂気帝国セプテム
永続狂気帝国セプテム:プロローグ



 私は帰ってきたぞ。
 自虐よりも読者のエールだよね。

 頑張ろうかな


 

 

 

 

「────というわけで」

 

「なるほど、では……」

 

 

 整備され、調整された管制室。

 そこに二人の男が言葉を交わしている。片や白衣の青年、片や黒衣の青年。

 互いに手に持つ端末に視線を向けながら語る彼らはふと背後から響いた扉の開閉音に振り返る。

 

 

「やあ、おはよう諸君」

 

「諸君と言うほどの人数はいないがね」

 

 

 カルデアの制服に身を包む二人の少女。人類史最後の人間のマスターである少女とデミ・サーヴァントである少女。

 そんな二人に白衣の彼、ロマニ・アーキマンはいつも通りの何処か気に抜けた朗らかな笑みを浮かべ、黒衣のランスロットはそんなロマニの言葉を訂正するように皮肉めいた表情で彼女らを迎えた。

 そうして彼女らを迎えてすぐに再び扉が開き、新たに三人の男女が入ってくる。眠たげなモナ・リザとアストルフォに先日新たに召喚した立香のサーヴァントであるセイバー・シャルルマーニュ。

 

 

「ふわーあ……や、おはよう〜」

 

「おっはよう!マスター!」

 

「おはようマスター」

 

 

 いつも通り元気溌剌なアストルフォと好青年らしいシャルルマーニュに立香もマシュも応え、そしてランスロットはダ・ヴィンチに軽く頭痛を覚える。そんなランスロットに苦笑しながら再び視線を立香とマシュへと戻し話の続きを始める。

 

 

「既にレイシフトの準備は整っている……今回のレイシフト先は一世紀のヨーロッパだ。より具体的に言うと古代ローマだね。イタリア半島から始まり、地中海を制した大帝国だ」

 

「ん、古代ローマ?ホント?私も行きたーい」

 

「お前は聖杯の解析作業を急げ」

 

「えぇー!」

 

 

 ロマニの説明に横からちゃちゃを入れ始めるダ・ヴィンチにランスロットはぶっきらぼうに言葉を投げかける。

 無論、ダ・ヴィンチとてランスロットの言い分は理解しているがしかし天才というものは得てして面倒なものであり、ランスロットに抗議する。言わずもがなランスロットはそんな抗議を何処吹く風と言わんばかりに無視しているが。

 

 

「ハハ……さて、いいかな立香ちゃん。転移地点は帝国首都のローマを予定している。多分知ってると思うけどローマ帝国の首都はローマでね。地理的には前回と近似だと思って貰って構わない」

 

「存在する筈の聖杯の正確な場所は不明。歴史に対して、どういった変化が起こったのかもだ」

 

 

 今回の特異点について知り得ている情報は前回のフランスと何ら変わらない。むしろ、百年戦争中でありジャンヌ・ダルクが処刑された日の近くであった分、まだフランスの特異点は分かりやすかったものだろう。

 だが、今回の特異点はローマ。皇帝ネロの治世以外の情報はないと言っていいだろう。知っているランスロットも流石に大っぴらに情報を話すことは出来ず、現地に行ってからの手探りになることは必至だ。

 

 

「すまないね。観測精度が安定してないようだ……」

 

「問題ありません。どちらも私と先輩で突き止めて見せます!」

 

「ランスロットさんの分まで頑張ります!」

 

 

 故に事前情報が揃えられなかった事に申し訳なさを感じるロマニの言葉にマシュも立香も大丈夫だ、と励ますように言う。

 彼女らには既にランスロットが今回の特異点にレイシフトが出来ないという旨は伝えており、彼女らだけ───アストルフォやシャルルマーニュはいるわけであるが───のレイシフトは今回が初だ。きっとその事で表には出さないが不安に思っているだろうにそんな彼女らの溌剌な言葉にロマニは申し訳なさと同時に頼もしさを感じた。

 

 

「うん。ありがとう、二人とも。とても頼もしいよ。……さて、作戦の要旨だけども、それは前回の作戦と同じ。特異点の調査及び修正と聖杯の調査だ」

 

 

 出来れば入手がいいんだけども、最悪破壊して構わない。

 そう追加で言うロマニに立香は頷く。

 と、そんな所にダ・ヴィンチの相手をしていたランスロットがやってきた。

 

 

「立香、マシュ。今回、人類史の存続は君ら二人の双肩にかかっている。その事に重みを感じるかもしれない、不安に思うかもしれない、投げ出したくなるかもしれない。分かっている、今回君ら二人に任せてしまうのは俺の不徳故だ。だがしかし」

 

 

 そこまで言って、ランスロットは一度言葉を切り立香とマシュの顔を見渡す。そうしてから二人の頭に両手を乗せて軽く、いや少し乱暴気味に撫でる。

 

 

「わっ」「ひゃっ」

 

「君らならばきっと出来る。俺はそう信じている。何より、後ろサポート側には沢山いるんだ、君らのバックアップは任せろ。だから大船に乗ったつもりで行ってきなさい」

 

 

 まるで父親の様に優しげな表情でそう言うランスロットに二人は軽く顔を合わせてからすぐにランスロットへと向き直り、表には出ていなかった不安がまるで消え去ったかのような表情で返事を返した。

 

 

「「はい!」」

 

 

 その返事にランスロットは満足したのか一度頷いてからその場を下がり、その変わりに再びロマニが前へと出る。

 

 

「きっと一世紀ローマにも召喚されたサーヴァントたちがいるかもしれない。可能であるなら、彼らの力を借りるように。ああ、でも敵対する者に対しては叶わない願いだけどね」

 

 

 と、そんなロマニの言葉にマシュは一つ疑問を抱いたのだろう。軽く挙手をし、ロマニはマシュに発言を促す。

 

 

「はい、それじゃあドクター。敵対サーヴァントと中立サーヴァント。これは反応感知の時点では見分けられないのでしょうか?」

 

「こちらの観測情報として把握可能か。ということだね、確かに出来るに超したことは無い」

 

「だが、どうやって敵対中立を見分けられるのか、という話になる。その辺りはもはやサーヴァント個々人の考え方に由来するものだからな。観測機器じゃあ内面までは観測は出来ない」

 

 

 マシュの疑問にロマニはいい質問だ、と言うように答えそれの続きを横からランスロットが語る。

 実際にカルデアにおける観測機器であるシバとトリスメギストスの両方を併用したとしても生体や魔力反応を読み取るのがせいぜいであり、ランスロットの言った通り敵対中立などのサーヴァントの精神的なモノに区分されているモノまでは数値として分類する事は不可能であった。

 そんな答えにマシュはややその表情を落ち込ませる。

 

 

「すいません、無理を言って。論理的に無理のあるお願いだと分かっています……けれども」

 

「戦闘は避けたいもんね……」

 

 

 マシュの想いを汲み取ったのか、自分も同じ気持ちであるのか立香はマシュの言葉の先を口にする。

 それには流石にロマニもランスロットも申し訳なさそうな表情をするしかない。

 

 

「作戦として考えるなら究極的には不要な戦闘を避けるべきか、と……ですが、いいえ。無理なお願いとは思っていました。すいません、忘れてください」

 

「いいや、こちらこそ済まない。無茶をさせるのは分かってる……だから、ランスがさっき言ったようにサポート・バックアップはボクたちに任せなさい。それだけは約束させてくれ、二人とも」

 

 

 それを聞きながら、ランスロットはシャルルマーニュとアストルフォにレイシフトの準備をさせる。

 アストルフォは前回のを憶えている───かは不明であるが、ランスロットは初めてのシャルルマーニュに説明していく。

 その様子を見たロマニも軽く自分の両頬を叩き、笑みを浮かべる。

 

 

「じゃあ、ぱぱーっとレイシフトと行こうか!」

 

「……ドクター」「ええ……」

 

 

 マシュと立香のジト目を受けつつもロマニはいつも通りの気が抜けるような表情を辞めずに二人の背中を押す。

 

 

「辛気臭いのはやめやめ!精神的にもボクはバックアップしていくぞい!」

 

「いいえ、その……突然そんなにテンションを……」

 

 

 マシュや立香の疑問など、聴こえないと言わんばかりのロマニに二人は軽くため息をつきつつもどこか笑みを浮かべてコフィンの中に入る。

 アストルフォやシャルルマーニュもレイシフトの準備が整ったようだ。

 ランスロットのいないレイシフト、そこに確かに不安はある。だが、信じているとまで言われてしまえば頑張るしかない。故にもう立香の中の不安はどこかに消えていた。

 

 

「プログラムスタート!」

 

 

 

『アンサモンプログラム スタート。

霊子変換を開始 します』

 

『レイシフト開始まで あと3、2、1……』

 

『全工程 完了。

グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 




FGOものは書くのが大変なんですよね。
 シナリオ確認しながら書かなきゃいけないのでええ。



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セプテム:1


 2日目!
 古戦場をひた走りながら、執筆してます!
 皆さんは箱開けてますか?作者は古戦場メインなのでそんなに開けれてません!



「ん……」

 

 

 目を開ける。しかし、すぐに私は目を閉じてしまう。

 カルデアとは違う明かり、人工のではなく天然モノの明かり、つまるところ太陽の陽射しが私には眩しかった。

 その為、私は顔を俯かせてからゆっくり目を開いていく。

 そうしてしっかりと視界を確保して顔を上げた私の目の前に広がるのは草が生え広がった丘と言えばいいのだろうか、そんな丘がいくつもある場所だった。

 

 

「ふぅ、今回も無事、転移に成功しましたね先輩」

 

 

 隣からマシュの声が聞こえ、そっちに視線を寄越せばそこにはいつもの制服ではなくデミ・サーヴァントの格好をしたマシュがいて、その後ろの方に辺りを見回すアストルフォとシャルルがいるのがわかる。

 恐らくここがローマないし、その近くなのだろう。

 

 ……一瞬、ランスロットさんの姿を探してしまったが大丈夫。ここにいなくてもランスロットさんやドクターがしっかりとサポートをしてくれてるんだ。

 

 

「風の感触、土の匂い────どこまでも広くて青い空。不思議です。映像で何度も見たものなのに、こうして大地に立っているだけで鮮明度が違うなんて」

 

 

 ……マシュ。

 そうだ、ランスロットさんが言ってたけどもマシュはカルデアで生まれてずっとカルデアにいたから……。

 そんなマシュに私は声をかけようとして

 

 

「そりゃそうさ!絵や他人から聴いたモノよりも自分の足でそこに立って自分の目でそれを見る。それが何よりも凄いんだよマシュ」

 

「しゃ、シャルルマーニュさんにアストルフォさん……!?」

 

 

 アストルフォとシャルルがそんなマシュの肩に手を置いて、笑ってる。それはマシュの反応に喜んでいるようで、私もそれに釣られていつの間にかに笑みを浮かべていた。

 そうして、私もマシュへと駆け寄ってそのまま飛びつく。

 

 

「マーシュ!」

 

「わっ!?先輩ッ!?」

 

 

 いきなりだったからか、一瞬マシュは盾を動かそうとしてたけどすぐに私を受け止めてくれた。この鎧……意外と柔らかいんだね……というかそれよりも盾動かそうとしたの見て寒気したよ、いやホントに。

 ん?なんかマシュの胸元が動いてるような、って!?

 

 

「フォーウフォーウ!!」

 

「フォウさん!?」

 

「いまマシュの胸元から出てこなかった!?」

 

 

 何してるんですかフォウさんや!?なんて羨まけしから……羨ましい事を!?いや、待って欲しい私は後輩の胸の中に入りたいわけじゃあないんだ。そう言う変態じゃあないんです、だからランスロットさんやめてください。

 …………大丈夫、オーケー、私はノーマル。

 

 

「キューキューウ!フォー!」

 

「……ど、どうやら、フォウさんは今回同行すると言ってるそうです……。狭い基地より外の世界の方がいいから、だとか…………私もたまには外の世界でのびのびした方が良いと思いますが……良いんでしょうか?」

 

「うーん、でも着いてきちゃったものは仕方ないしなぁ……」

 

 

 そう言いながら、私はなぜ故か私の頭の上に乗っているフォウを落とさないように軽く顔を上げて──────

 

 

「……ここにもあるんだ、「あれ」」

 

 

 私の呟きにアストルフォやシャルルもマシュも理解し頭上、空を見上げる。

 そこにはフランスの時にも見たあの光の輪が変わらず存在していた。

 

 

「あの光の輪。前回、フランスの空にも存在していたものと同一です。いえ、すいません、同一であるように見えます……正確に観測出来ているわけではありませんので」

 

「アレ、なんなんだ?一体。軽くサーに説明されたけども……あんなにデカい───」

 

 

 そう、マシュとシャルルが話していると電子音が響いた。

 カルデアからの通信だ。

 

 

『光の輪、か。相変わらず、こちらからはしっかりと観測出来ないんだよ』

 

『だが、無視出来るモノじゃあないのは間違いない。少なくとも人理焼却と無関係なわけではないだろうからな。引き続き調査は進めておく』

 

 

 ドクターとランスロットさんの声が端末より発せられてから、ドクターの映像が投影される。こうして通信が聞こえたり見えたりするとやっぱり安心するなぁ。

 

 

『ところで、そこは……おや?首都ローマ……では、ないのかな?』

 

「いえ、ドクター。ここは丘陵地帯です。古代ローマの都ではないと思われます」

 

『あっれぇ?おかしいな……確かにローマの首都じゃないっぽいね。転送位置は確かに固定化したはずなんだけどなぁ……』

 

 

 ありゃ?予定とはズレてる?

 それは一体どういうことなんだろうか……。

 

 

『まあ、レイシフトなんてモノをしている以上、いくら位置を固定化したところで多少のズレが生じるのは仕方ないだろう。それにレイシフト自体ほとんどデータもないんだ。これからの任務でその辺りは精度を高めていく必要がある』

 

「へぇー、アレ?ドクタードクターもしかして時代が違うってことは……」

 

『いやいや、流石に時代は正しいよ。特異点の存在する一世紀で間違いない。ローマ帝国第五代皇帝─のネロ・クラウディウスが統治する時代。それは確かだ』

 

 

 ランスロットさんによる解説?で私の中の疑問はすぐに晴れ、次の疑問も慌てたように言うドクターによってすぐに解決した。良かった、これで実は予定の時代よりも前の時代とか後の時代〜とかだったら、目も当てられないや。

 それにしてもローマ皇帝ネロ……世界史習ったけどもなんか、こう悪いイメージしかないんだよなぁ……なんだっけ迫害してたんだっけ?…………それぐらいしか世界史してないや…………皇帝ネロよりもカエサルとかの方が長くやった気がする。なんか、カエサルと他の二人の三大巨頭的なヤツ。

 

 

『しかし、残念だな。見たかったんだけどなぁ……まだ人に愛されていた時代の繁栄のローマが……まあ、仕方ないか』

 

『……ロマニ。まあ、いい、マシュ、立香、何か周囲で変わったモノとかは見受けられないか?それとアストルフォ、しばし飛行は控えてくれ』

 

 

 軽くドクターに呆れながらもランスロットさんが出した指示に私たちは周囲を見回してみる。

 ん?……なんだろう。

 

 

「フォーウ」

 

「はい、フォウさん……聞こえてきます」

 

「……こりゃあ」

 

「そうだね。この声は───」

 

 

 どうやら、私以外も聴こえてるらしい。通信越しのドクターに聴こえていないのか、投影された映像のドクターは首を傾げてる。

 

 

「どこかで戦闘が起きてるっぽい」

 

「ああ、マスター。丘の向こうで戦闘をしてる……それも大勢でだ」

 

 

 やっぱり。私の言葉を肯定するシャルルの言葉に私は表情を顰めてしまう。

 憶えたくはなかったけども、この感じはフランスでもあったような大勢の人が戦っているモノ。フランスだと相手はスケルトンだとかワイバーンだとかだったけども…………そういう唸り声は聴こえなかった。

 多分これは人同士のだ。

 

 

『多人数戦闘?戦争、か?いや、いやいや。ありえない話だ!この時代に首都ローマ付近で本格的な戦闘があったなんて話はないぞ!?』

 

『馬鹿。特異点だ───竜の魔女のジャンヌ・ダルク然り、特異点たらしめる何か歪みがあるんだ。そういう事だってある。ありえないなんてありえない』

 

「だな、サー。流石だ。人理焼却なんていうとんでもないありえない事態が起きてるんならそれぐらいのありえない、が起きてもおかしくないってな!」

 

 

 困惑するドクターにランスロットさんが冷静な判断を下して、それにシャルルが反応する。私もランスロットさんとシャルルと同じだ。

 特異点なんていう場所なんだから、歴史に異常が起きてるんだから、そう言うありえないが起きてるのは当たり前だろう。

 だから。

 

 

「音の方に急ごう、みんな!」

 

 

 今はそのありえないに対処するしかない!

 私たちはその戦闘が起きている場所へと走っていった。

 

 

 




シャルルマーニュの口調がイマイチ安定しなくて辛い……でも、頑張る。
 それとデモンエクスマキナ買いました!でも、諸事情でやれるのは来週からになりそうですね……


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セプテム:2

ふぅ、明日は……投稿出来ないかな?

 多分、明日の投稿はないです。あとカナエさんが最高でしたしのぶさんも大好きですカナヲも好きです炭カナ過激派です




 

 四人が音のする場へと辿り着いてその場に広がっていたのは戦場であった。

 

 

「……片方は大部隊で、もう片方は少数部隊……ふむ」

 

「両方ともおんなじ『真紅と黄金』だけど、ちょっと意匠が違うね」

 

『真紅と黄金は古代ローマで特に好まれた彩色だ。シャルルマーニュ、アストルフォ、他に何かないか?』

 

 

 大勢対少数という状況を前にシャルルマーニュとアストルフォは冷静に目の前の状況を整理していき、ランスロットが情報精査の為にさらなる情報を求めていく。

 それを聞きながら、管制室のロマニやこの場にいるマシュと立香は思わず口を閉じる。恐らく戦場にいるランスロットではなく指揮官としてのランスロットの普段と違う声音に驚いているのやもしれない、のかはたまたマシュと立香はこの人と人の戦場に呑まれているが故なのかもしれない。

 

 

「女性だ。こう、なんて言えばいいんだ?騎士王サマに似た……いや?似てない、のか?」

 

「あー、うん、確かに。こう……なんて言えばいいんだろ、もう少し血色良くして元気っぽさ?わんぱくさ?を足したりした感じ、かな?」

 

「そうそう、そんな感じだ。ともかくそんな感じの女性が小部隊を率いてるっぽいな。というか、ほとんど一人で大勢の敵部隊を相手にしてるな……首都方面に雪崩れこもうとしてる軍団をたった一人で」

 

『………………なるほど。少なくとも観測上では、少数側の方にはサーヴァント反応は見受けられない。サーヴァントではないだろう』

 

 

 そんな三人の会話にマシュも立香も驚く中、とりわけ驚いているロマニが割り込んでいく。

 

 

『でも、この時代で女性の名のある武人とかはローマにいない……いや、でも彼女は時代的に既に死んでいる筈だが……』

 

『勝利の女王か。だが、それならどうしてローマを護る側にいる。戦地で少数部隊?流石に無理がある……それと、今更性別なんて気にしてどうする。お前らからすれば明らかに性別が違う奴がいるだろう』

 

「あ、確かに……」

 

「アルトリアさん……ですね」

 

 

 ロマニの言葉に冷静なランスロットのツッコミが入り、立香とマシュがそれに納得する。が、そんな空気にアストルフォは軽く苦笑する。

 シャルルマーニュに至っては既に剣を引き抜き、何時でも突撃できる準備を整えている。

 

 

『…………ともかく、この時代にはありえない以上、介入せねばなるまい』

 

「はい!えっと、ローマを護ればいいんですよね!」

 

 

 ランスロットの言葉に威勢よく立香が応え、それにランスロットは軽く笑いつつそれを肯定する。無論、端末より投影されているのはランスロットではなくロマニである為、笑みを浮かべたランスロットの表情は立香らには分からない。

 

 

「はい、先輩。私たちで都市とあの女性を助けましょう」

 

「よぉし!いっくよー!」

 

「マスター。相手はサーヴァントやら怪物はいないが、規模が規模だからな。マシュから離れるなよ!」

 

 

 シャルルマーニュによる釘刺しに立香は一瞬、胸を抑えながらも突っ走ろうとした足を止めてマシュのやや後ろに移動する。

 そんな間にもアストルフォはその手に黄金の馬上槍を携えて、戦場へと突撃していく。それを見て、シャルルマーニュはため息をつきつつ軽く顔を手で抑えてから走り出す。

 

 

「まったく、あんのおバカは……」

 

「マシュ、よろしくね!」

 

「はい、任せてください。先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文字通り、格が違ったと言うべきだろう。

 サーヴァントという人間以上の存在であり、騎士であったシャルルマーニュとアストルフォからすれば彼らはあまりにも弱すぎた。

 槍を振るえば吹き飛び、剣を振るえば倒れ伏す。

 正しく一騎当千と言うべきその光景がしばし続くが、それもあっという間に終わる。

 

 

「剣を納めよ、勝負あった!」

 

 

 それを見計らったように少数部隊を率いていた真紅を基調としたドレスのような装いのアルトリアに似た顔立ちの女性が声を高らかにする。その声音から威厳を感じ、凡百の一ではないのは間違いない。

 

 

「貴公たち、もしや首都からの援軍か?首都は封鎖されていると思ったが……まあ良い。褒めてつかわすぞ」

 

 

 そうして、視線をシャルルマーニュやアストルフォらに移してからの言葉遣いからして、立香は何となくであるが目の前の女性がそれなりに偉い人物である事を理解しながら、戦闘前のランスロットの言葉を思い出しその正体に予想をつけた。

 無論、すぐさま自分でそれはないだろうと心中で首を横に振っているが。

 

 

「しかしその方ら、見慣れぬ姿よな……異国の者か?」

 

「え、えっと、通りのすがりの援軍です、はい」

 

「む?なんと都合のいい。ではブーディカあたりの手の者か?あやつの采配は抜け目がない故な」

 

 

 彼女の疑問に対して、しどろもどろながらも立香はマスターとして答える。

 これもカルデアでランスロットからマスターとしての振る舞いを教えてもらったが故だろう。疑問に対して沈黙ではなく極力言葉を返すというものは重要だということやマスターとして堂々と行動することを。

 堂々とは出来なかったようであるが。

 兎にも角にも立香の返答に彼女は納得したのか、何度か頷きながら威厳ある声を高らかにする。

 

 

「ともあれ、この勝利は余とおまえたちのもの。たっぷりと報奨を与えよう!……あ、いや、すまぬ。つい勢いで約束してしまった……報奨はしばし待つがよい。今はこの通り剣しか持っておらぬ故な」

 

「全ては我らがローマへと戻ってからのこと。では、遠慮なくついてくるがよい!」

 

 

 そんな風に言って彼女は、短い休息を終えた戦士らを連れて首都ローマの方面へと進軍を始めていった。

 それに立香たちはつい顔を合わせるが今はついて行くのが一番だと判断したのかそのまま頷いてからやや早歩き気味に彼女たちについて行った。

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、おまえたち。異国の者に違いないだろうがどこの出身なのだ?」

 

 

 と、私たちがこの女性に追いついて近ず離れずの距離を歩いていると唐突に女性がそう聞いてきた。

 多分、この女性の正体はあの人だから、下手な誤魔化しは効かなさそう……だけど、なんて言おうか。

 

 

「ブリタニア……ではないな。東の果て……と言うわけでも無さそうだ」

 

「あー、失礼。俺とこっちのピンクいのがガリア方面でこの二人はまた別のとこで」

 

「ほう、ガリアか……しかし、ガリアにしては見慣れぬ格好だが───」

 

 

 シャルルが先んじてフォローしてくれたが誤魔化せなかったようだ。彼女はより一層疑問を浮かべ始めて────あ

 

 

「マシュ、シャルル、アストルフォ!」

 

「おう。どうやら、第二波らしいな」

 

 

 ローマへ向かう私たちから見て、左方面から先程と同じぐらいの数の兵士!

 私の呼び掛けにすぐさまシャルルが応えてくれたけども、第二波……少なくともさっきみたいにはいかないと思う。

 こう、なんて言えばいいのかな。

 

 

「さっきとは何か違う」

 

『ほぅ……』

 

 

 ……ぅ、なんか端末からランスロットさんの面白そうなものを見たような声が聴こえてきた……嫌な予感しかしない。というか、多分アレですよね、間違いないですよね。

 ランスロットさんのお墨付きはもう……ちょっとキツイです、はい。

 

 

「ええい、せわしない連合帝国の者どもめ!余の玉音を妨げるとは不届きなっ!ゆくぞ!なかなかな姿をした少女よ、余の盾役を命じよう!」

 

「え!?あ、はい!?……せ、先輩……!」

 

「…………ゴー、マシュ」

 

「先輩……!?」

 

 

 嗚呼、マシュが彼女に率いられていく……なんだろう。この場には見合わないけどもドナドナが聞こえてくるようだ……私は……うん。

 

 

「ありゃりゃ、マシュ連れてかれちゃったね。しょうがないから、ボクがマスターのことを護衛しよう!」

 

「うん、程々に期待しとくよアストルフォ……」

 

 

 えー!何さその言い方はー!

 そんなほんとにこの場に見合わないような声をあげるアストルフォに護られる事を決めて、私は突撃して行ったシャルルやマシュと彼女の戦いぶりをここから見ることにする。

 私にはランスロットさんのような指揮官としての経験なんてほとんどない。だから、ないならこうして少しでも見て、経験を蓄えるしかない。

 本当は……本当は、人が人を殺してる様な普通に生きてたら絶対日本じゃ見ないようなこの光景から目を背けたいし、逃げたいけども……私は。

 

 

『……肩から力を抜け、立香』

 

「ランスロットさん?」

 

『レイシフトする時も言ったろう。何もお前だけがそう背負わなくていいんだ。緊張しすぎれば折れるぞ。アストルフォとまではいかんがほどほどにリラックスしとけ』

 

「え…………はい!」

 

「ランスロットまでそういうこと言う!?」

 

 

 そうだね。うん、帰ったらドクターとお菓子を食べながらランスロットさんと勉強して、ダ・ヴィンチちゃんと遊んでマシュといっぱい話そう。あとシャルルとアストルフォとも。

 よし、程々に頑張るぞい!

 

 

『…………アストルフォと同レベルな気がするが……まあ、いいか』

 

『は、はは……』

 

 

 え、酷くない?ランスロットさんとドクター。

 

 

 

 

 





 というか、無限列車やるって二期確定じゃないですか!
 煉獄さん……煉獄さん……あびゃああ!!??


 古戦場も頑張って走ってます。古戦場が終われば少し執筆も早くなるかな?と思います多分きっと。
 デモンエクスマキナがやりたいです。あと感想ください



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セプテム:3


 新年あけましておめでとうございます。
 今年もこのチーズをどうかよろしくお願いします。



 

 

 

 始まった戦いはやはり、サーヴァントとりわけ高ランクステータス保持者であるシャルルマーニュという明らかに規格外の存在により、彼ら敵兵士らが尽く叩きのめされていく。

 無論、相手が怪物であるわけでもなく、サーヴァントであるわけでもなく、討つべき邪悪であるわけでもなく、ただの現地人の兵士である以上シャルルマーニュは多少の手心を加えて戦っていた。

 そうして半分程を一人で打ち払ってから、シャルルマーニュは一度下がって戦況を読もうと考え──────

 

 

「っと、アレは……!」

 

 

 誰よりも先にソレに気がつき、地面を蹴った。

 目指すはマシュと彼女に護衛された尊大な少女がいる前線。

 サーヴァントの脚力で迅速にその場へ迎えば、ちょうどソレが彼女らの前に姿を表したのと重なり、そして同時に念の為持っていた通信端末からロマニの声が上がる。

 

 

『サーヴァントだ、マシュ、立香ちゃん!!一体のサーヴァント反応を確認した!』

 

 

 シャルルマーニュの視線が捉えたのは浅黒い肌に黄金の鎧を着込みさらに深紅のマントをつけた蒼い髪の男。

 剣は無く、弓は無く、槍は無く────クラスはその外見からは判断する事は出来ない。故にシャルルマーニュは一縷の望みをかけて通信端末に耳を傾ける。

 

 

『───戦闘は行っていないから、正確なクラスは不明だな。情報が足りん……いや、伯父?なるほど』

 

「伯父つうと……」

 

『なら、該当するのは』

 

 

 通信端末越しに少女と件のサーヴァントの会話を拾い上げ、ランスロットが速やかにサーヴァントの真名を理解し、シャルルマーニュもまた大きなヒントとなるワードから該当するであろうクラスと真名が脳裏に浮かび上がった。

 

 

「如何なる理由かさ迷い出でて、連合に与する愚か者!」

 

 

 少女とマシュの近くに着地し、サーヴァントへと睨みを利かせるシャルルマーニュを無視して少女はサーヴァントの真名をその罪と共に糾弾した。

 

 

「……カリギュラ……!!」

 

 

 ああ、やはり。

 通信端末越しにそう零すランスロットの言葉を耳にしながら、シャルルマーニュとマシュはすぐさまカリギュラについて頭を働かす。

 ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス。

 ローマ帝国三代皇帝であり、彼の第五代皇帝ネロの伯父と言われる悪名高き皇帝。暴虐と淫蕩、悪行と倒錯の限りを尽くし、恐怖で帝国を支配していたもののそれも長くは続くことは無く、元老院をはじめとする勢力を中心とした多くの人々の叛意の刃によって暗殺された四年程の在位期間の皇帝。

 しかし、彼の暴君としてのソレは当時のローマの価値観にからして曰く、月に愛されてしまった。ということであるらしい。

 その言葉が表すのは狂気。

 すなわち彼は月に愛されたが故に狂気に身を堕としたのだ。

 ならば、彼に該当するクラスなど一つしかあるまい。

 

 

『マシュ、シャルルマーニュ、アストルフォそして立香。これはこの時代において初めてのサーヴァント戦闘になる』

 

「はい……行けます!」

 

 

 カリギュラの姪である彼女を含めた三人の後ろ、アストルフォに抱えられて飛んできた立香にランスロットの警告が入るが、立香に一瞬であるが緊張が走るがしかしすぐにその緊張を抑え、目の前のサーヴァント・カリギュラを見据える。

 

 

「余の、───。余の、振る舞い、は、運命、で、ある。捧げよ、その、命。捧げよ、その、体。

すべてを 捧げよ!!

 

「くっ……!伯父上、何処まで……!」

 

 

「来ます!サーヴァント戦闘です!マスター、指示を!」

 

 

 彼女らの間で話は終わったのか、カリギュラはその拳を握りしめながら一歩前へとでた。

 その歩みは決して無視出来るようなものでは無い。

 ただの歩みではなく、アストルフォやシャルルマーニュなどの歴戦の騎士でなくとも理解が出来る戦いの為の一歩。その事にしっかりと気づけた立香は無意識に唾を飲み込んだ。

 

 

 そんな中、真っ先に突撃したのはシャルルマーニュ。

 白い閃光と化して、カリギュラへと迫りそのジュワユーズを頸目掛けて振るう、だがしかしカリギュラはその一撃を正しく紙一重で避け、その拳をシャルルマーニュの端麗な顔面目掛けて振るった。

 シャルルマーニュのステータスにおいて敏捷はBランク。それに対して、カリギュラのソレはB+。それが表すところはすなわち────

 

 

「(俺より、あっちの方が速い……!!)」

 

 

 本来、サーヴァントのステータスにおいて『+』という値はそのステータスにおいて瞬間的に倍の数値を出す事が出来るものであり、通常時においてはシャルルマーニュとカリギュラの敏捷ステータスに差というものは存在していない。

 だが、あくまでそれは通常時の話でありこの戦闘時で速度が同じなどとは考えるのは致命的となる───と言ったところでそもそもが話、キャスタークラスの中でもとりわけ特別なサーヴァントでもなければ、サーヴァントが敵対サーヴァントのステータスを覗くことなど不可能でしかなく、その為シャルルマーニュはカリギュラの敏捷ステータスをAランクであると誤認していた。無論、過小評価するよりかはマシである。

 さて、シャルルマーニュさ自身の保有スキルである魔力放出を行い、顔面への攻撃を回避しそのまま距離をとった。

 

 

「シャルルマーニュさん!」

 

「マシュ……アイツ、存外速いぞ」

 

「なんだ、アレは……伯父上はあそこまで速かったのか?」

 

 

 自分の記憶の中にある伯父の動きではない、と少女が驚愕する中、冷静にマスターである立香はカリギュラを見極めようとしていた。

 底辺の魔術師という訳でもない一般人の彼女ではサーヴァントの戦闘を視認し続けるのは無理であろうがしかし、それでも第三者的視点でもってカリギュラから情報を得ようと立香なりに動いていた。

 

 

「ああっぎいぃい!!」

 

 

 地面が炸裂し、カリギュラが飛び込んでくる。それに対して、マシュはその盾を構えながら、立香と少女を護るように躍りでそれをカバーするようにアストルフォとシャルルマーニュが迎え撃つ。

 刃と拳がぶつかり合い、普通ならば有り得ないような硬質的な激突音が戦場に響き渡る中、対峙するシャルルマーニュはその頬に汗を垂らしていた。

 

 

「(こいつ……!速い、速いが……ただ速いわけじゃない!!攻撃の瞬間に加速しているが時折加速せずに撃ってくる……緩急が付けられていて、見分けにくい……!)」

 

「うぅぅむぅぅうっ!!」

 

 

 下段からの一撃、中段からの連続攻撃、上段からの叩き落とし、バーサーカーとは決して思えない程の巧みな足運びと緩急付けた攻撃の組み合わせにシャルルマーニュは舌を巻き、防戦一方である。

 トップサーヴァントであるシャルルマーニュだが、その耐久ステータスはCランク止まりであり、カリギュラの攻撃を無視して討つというのは難しい。故にシャルルマーニュは自分のマスターが打開策を見つけるのを信じて────

 

 

「アストルフォ!!」

 

「OK!!!行っくよォ!!」

 

 

 立香の指示が始まった。

 呼ばれたアストルフォが自分の役割を理解し、その手に自らの宝具である黄金の馬上槍を持って死角からカリギュラへと迫る。

 

 

「ぅぅああ!!」

 

「『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』」

 

 

 死角から迫ったアストルフォであるがしかし、すぐさまカリギュラはそれを対処する為に自分へと放たれた突きを馬上槍の側面を叩き弾く事で回避し、そのまま武器を弾かれながら致命的な隙を晒して突っ込んでくるアストルフォの顔面めがけてその拳を振るう。

 

 

「なんっ!?」

 

 

────はずだった。

 踏み込んだ筈の脚は無く、視線を向ければ膝から下が霧散していた。

 両脚を失ったカリギュラは身体を落としていき、その場を飛び退いたアストルフォの代わりに致命的な隙を晒すカリギュラへとシャルルマーニュの『輝剣』が放たれる。

 凄まじい速度で迫る『輝剣』に対して、カリギュラは迎撃ではなく防御を選んだ。

 理性なきバーサーカーであるが、本能がそれを選んだのだろう。

 膝から下を失い、落下している途中である為に『輝剣』と身体の間に両腕を滑らせたカリギュラはそのまま吹き飛ばされる。地に足付かず、背中で地面を削りながら吹き飛んでいくカリギュラを見ながら、シャルルマーニュは剣を握りしめる。

 それなりのダメージはあるだろうが、まだ死んではいないと理解しているからだ。一瞬、後方の立香を一瞥すれば視線がかち合った立香は頷き、その意図を理解してシャルルマーニュは『輝剣』を数本新たに創り出す。

 

 土煙が晴れ始め、薄らいでいく土煙の中に立っている人影が見える。

 アストルフォの表情が歪み、シャルルマーニュは『輝剣』を何時でも打ち出せる用意をする。

 

 

「あ、あ……。我が、愛しき……妹の……子……。なぜ、捧げぬ。なぜ、捧げられぬ」

 

 

 完全に土煙が晴れ、そこにいるのは両腕を覆う黄金の篭手諸共ズタズタとなり、血を流している誰が見てもボロボロな姿のカリギュラ。

 ボロボロだからと言って気を抜くことは出来ない。

 相手はバーサーカークラス。自分の負傷を無視して暴れる可能性は充分にあるのだから、故にシャルルマーニュは次の『輝剣』を放とうとして、

 

「美しい、我が……。我が……。我が……。我が……。我が…………」

 

 

 何かを呟きながら、カリギュラはその姿を消した。

 

 

「き、消えた……?伯父上……」

 

 

 消えたカリギュラに少女は驚き、シャルルマーニュとアストルフォはしばし警戒をするが、完全に撤退したのだろうと理解しその肩を落とした。

 

 

「はふぅ……」

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「うん……大丈夫。緊張が解けただけだから……それにしてもバーサーカーなんだよね?多分」

 

 

 ため息を着きながら、その場にしゃがみ込んだ立香をマシュは心配して声をかけ、それに立香は応えながら先程のカリギュラについて思考を回す。

 彼女の中で生まれた疑問、それはバーサーカーのサーヴァントがボロボロになったとはいえ大人しく撤退したことについて。

 そんな彼女の疑問に答えるように通信端末からロマニの声が響く。

 

 

『多分マスターがいるんだろうね……オルレアンの清姫みたいにバーサーカーでもある程度の思考能力があるサーヴァントもいるけど、あのサーヴァントはそこまで思考能力があるようには感じなかった』

 

「マスター……」

 

「ん。むむ?」

 

 

 と、立香とロマニの会話に挟み込むように少女が疑問の声をあげた。

 それに、立香は何か不味いことでもあったか?と顔を強ばらせ、マシュが不安げに少女へと質問する。

 

 

「な、なんでしょうか」

 

「さきほどから声はすれど姿の見えぬ男がいるな。雰囲気からして魔術師の類か?」

 

 

 少女の言葉にカルデア一行はその表情が固まるがしかし、すぐさまロマニが少女に答えた。

 

 

「魔術をおわかりとは話が早い。そう、ボクたちとその二名はカルデアという組織の───」

 

「まあよい。そこの四名、いや、五名!姿なき一名はよく分からんが皆見事な働きであった。改めて、褒めてつかわす!」

 

 

 ロマニの言葉を遮って尊大な態度でそう告げる彼女にカリギュラの時から頭の中にあった彼女の名前がそうなのだ、と改めて理解して。

 

 

「氏素性を尋ねる前にまずは余からだ。余こそ────真のローマを守護する者。まさしくローマそのものである者!

必ずや帝国を再建してみせる。そう、神々・神祖・自身、そして民に誓った者!

余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである───!!!」

 

 

 

 

 



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IF/序章『見送る者』『見送られる者』



 なかなか進まない筆の中、唐突に湧いてきたのでこれだけ投下していきます。




 

 思考が回る、廻る、凍り付いていた思考が一呼吸、一動作を経る度に元へと戻っていくのを感じる。

 

 

「そこをどけぇっ!」

 

 

 床を蹴り、本来の直剣サイズに戻した愛剣を振るい、侵入者の胴体を文字通り叩き切って、視界の端に映った侵入者の振るう手斧を一瞬剣より手を放したことで空いた片手、振り下ろされた腕を折り砕き、手斧を奪い数メートル離れた先からボウガンで狙いをつけてきた侵入者へと投擲し、その頭蓋を砕く。

 既にここに至るまでに十三、手斧かボウガンか、その二択以外に一切違いの無い黒ずくめの侵入者たちを殺してきた。

 奴らがいったい、何者なのかは知らない。分からない。分かるのはその目的だけ。

 

 

「カルデアの敵、か……!!」

 

 

 相手が並みの人間でないことは既に最初の会合の時点で分かっている。不意打ちで、掠めた頬の傷がそれを証明している。例え、受肉していようがこの身は英霊に他ならない。

 ムジークが連れてきた傭兵程度では傷をつける事すら不可能であるが、不意打ちとはいえ、負傷とは言えない負傷だが、それでもあれらは人間でないことは理解できた。

 故に今やるべきことは一つ。

 

 

「職員の避難が先だ」

 

 

 立香やマシュも心配であるが、あちらにはレオナルドがいる。最悪、何とかなる、と信じている。確かにアレは戦闘向きのサーヴァントではない、それでも一度に二、三体は相手に出来るはずだ……。

 

 

「ああ、クソったれ、どうしてこうなった」

 

 

 誰に文句を言ったか、言ったとすれば間違いなく、抑止に対してだが……俺はそんな文句を口にしながら、この事態が起きた原因へと思考を巡らせながら、このカルデアの廊下を駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 2017年 12月 26日

 マスター・藤丸立香の職務は終了した。

 魔術王に巣くっていた人類悪(ビースト)、『憐憫』の獣ゲーティアによる人理焼却によって生じた特異点は全て消滅し、人類の危機はここに去った。同時に過去改竄という汎人類史を崩壊させかねないレイシフトは現時刻を以て凍結した。

 また、カルデアによって召喚されたサーヴァントはその役目を終えたことにより、契約を解除、退去した。これによりカルデア所長代行であるレオナルド・ダ・ヴィンチを除くサーヴァントはすべて、地上から消え去った。

 

 

 無論、例外は存在する。

 そもそも、カルデアによって呼ばれたサーヴァントではなく、先の聖杯戦争のおりに受肉を果たし、カルデア前所長であるマリスビリー・アニムスフィアの部下の魔術師として十年近く生きていた英霊ランスロットもといランシア・ニヴィアンは当然、カルデアが時計塔等に提出した書類においてはカルデア入りしたとき同様、魔術師兼技術者という肩書であった為、そのままカルデアに滞在していた。

 

 

「ミスタ、聞きましたか?例の査問団、もう麓まで来てるそうです」

 

「ああ、聞いた。魔術協会が選んだ新所長とその取り巻き、そして聖堂教会……難儀なモノだ」

 

 

 人理焼却が起きてからは生前の同僚らとマイルームで過ごすことが多く、滞在する時間が減っていた技術室にある自分のデスクでランシアは部下と共に珈琲を片手にこれから来るという査問団について話をしていた。

 物語というモノは得てしてこういうモノであるのをランシアは知っていた。彼は転生者でこの世界について、朧気ながらも覚えていた。もちろん、その記憶も死んだ時期の問題で途中までだった。

 下総しかり、セイレムしかり、分からず知らずであっても立香たちと共に乗り越えてきた。だが、そんな主人公たちの活躍もここで終わり、物語で語られる栄光も、語られない部分になればこうして組織によって貪られていくだけだ。

 例え、乗っ取られるとしても。

 

 

「カルデアが閉館するよりはマシさ。マリーも納得するだろう」

 

 

 そう目を閉じながら呟けばランシアと話していた部下は「そうですね」と一言呟いてしばし、部屋に換気扇の音と珈琲を啜る音、そして電子音ばかりが木霊していたが、そんな静寂を誤魔化す様に部下が口を開いた。

 

 

「ミスタは、どうなされるんですか?」

 

「……ああ、そうだな。元々魔術師としての俺はマリスビリーの子飼いだったからな、一応時計塔に声をかけられていてな、一先ずは時計塔にいってから適当な派閥に紛れるか……ああ、一つ行きたい場所がある。ブリテン、イギリスにある霊園なんだが、まあそれは行けたらでいいか……お前は確か」

 

「ええ、私も時計塔に。実家に戻って来い、と言われまして」

 

 

 お互い大変だな、そう二人して笑いながら二人はお茶菓子を口にしていく。

 そうして、思い出作りと称し部下が出ていったのを見届け、ランシア一人となった技術室でランシアは椅子の背もたれを倒し、足をだらけさせていく。

 およそ、生前も今も部下にも上司にも同僚にも、どこぞの花の魔術師や同じ苦労屋である二人の友人を除いて誰にも見せられないような格好でランシアは自分の前髪をかき乱して天井を見上げた。

 

 

「終わる、か」

 

 

 ランスロットとして転生したのか、憑依したのかは結局分からなかったが、ランスロットとして人生を走り抜けていき、サーヴァントとして聖杯戦争に参加、受肉を果たしカルデアのメンバーとしてここまで生きてきた。

 ランシアとしての人生は生前に比べても遜色ない濃さであった。これからの生き方、そんなモノはランシアにはどこにもなかった。

 だから、これからどうするか。

 ランシアは悩む、一応は記憶に薄らとある、イギリスの霊園のある村にいる少女に会う事がしばしの目標と言えるだろうか。では、その後は?

 そんな誰にする事も出来ぬ悩みを抱きながら、ランシアはしばし一人でこの技術室で過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 12月 27日

 

 その日、昨夜まで続いていた吹雪も落ち着き、夜明けとともに雲一つない晴天が広がっていた。そんな晴天を横切る黒いヘリコプターがこのカルデアの今までに幕を引く来訪者たちを乗せてやってきた。

 

 査問団。彼らを迎えるために現在カルデアにいるスタッフ全員が管制室に集合して、彼らを待っていた。その中には当然、ランシアの姿もある。

 そうして、入館を認めるカルデアの館内アナウンスを聞きながら待っていれば、立香たちの小声での会話がランシアの耳に入るが、ランシアがいるのは部下の技術者たちが固まっている場所で会話するほどの場所にいない為、ランシアは沈黙を保っていたが、管制室へ入るなり早々に大きな声をあげた来訪者に思わず眉を動かした。

 

 

「ほーう!ほほーう!いい!いいではないか!!」

 

 

 現れたのは正しく貴族といった風貌の男だ。

 ダ・ヴィンチと話している内容からして、ランシアにはこの新所長であるという魔術師の男、ゴルドルフ・ムジークはいささか尊大でどこか小心者であるというのが窺えたが、ランシアの興味は既に新所長から外れていた。

 移動した視線の先、新所長の斜め後ろに佇む女。言っては悪いが、カルデアのある南極に来るには薄着であるピンク色の髪の女で、話を拾うにどう考えてもこのピンクの女の方が問題であるように思え、だからこそ

 

 

「早速だが、キミたちを拘束させてもらおうか。私としても、まことに遺憾なのだがね」

 

 

 新所長の言葉で前に出てきた武装集団にも眉一つ動かすことはなかった。

 仮に強硬手段にあちらが出たとしても最低限に抑えると理解していた。何やら、ダ・ヴィンチの発言で予想外の反応だったのか焦りを見せる新所長にランシアはため息の一つも出そうであったが、すぐに新所長にアドバイスと言えば良いのか、何やら助言をしていく女に目を細める。新所長は十二分に付け入る隙の多い男であると、理解しその上で警戒するべきは秘書であろう女一人。

 そう、ランシアは確信して、同時に管制室に響いた男の声で、その確信が間違いである事を理解した。

 

 

「貴方と彼らは『進む者』と『去る者』相互理解は不要だ。懐かれては困るというもの」

 

「おお、そうですな。()()()()

 

 

 声を聴いた瞬間、ランシアは否定しようとした。しかし、その否定も新所長の言葉で容易くかき消されてしまった。

 新所長の連れてきた武装者たちの奥より、姿を現した男にランシアは目を見開いた。

 

 

「お初にお目にかかる。私は言峰綺礼」

 

 

 黒いカソックに蒼い布を羽織った神父に、ランシアはまだ終わりではないことを悟ってしまった。

 

 

 

 

 

 新所長が言った通りに、ランシアたちカルデアスタッフは四人一組で独房じみた部屋に割り振られた。完全退去までの間、ここで過ごして尋問の際にのみ、部屋の外。

 その尋問もおよそ6時間近く質問責め。特に滞らずに質問に答えていけばもう少し尋問も短縮されるが、概ね尋問というモノは効く側の都合によっていくらでも変わる事。ランシアのようにそういう事にも慣れているならともかく、ただの技術者やそこまで慣れていない魔術師では部屋に帰ってきても疲労ですぐに固いベッドに沈んでしまう。

 そうして、ランシアは一人ベッドで寝ずに壁に寄りかかりながら、解凍される予定の知己。カルデア当初の予定ではメインで特異点を攻略していくはずだったマスター達、所謂Aチームの彼らについて想起する。

 真っ先に思い返したのは、Aチームの中では一番の付き合いである男。キリシュタリア・ヴォーダイム、Aチームのリーダーであり、マリスビリーの一番弟子であった彼とは、すぐにマリスビリーによって顔を合わせた。 

 

 

「……身なり、立ち振る舞い、雰囲気、どれをとっても貴族然とした魔術師だったが、存外気安い男だった」

 

 

 言ってしまえば、プライド高い名家出身の魔術師という印象しかなかったが、実際に話して見れば気安く、友人として言葉を交わせる男であった、とランシアは思い返し何よりも、ロマニ、マリスビリーの二人を除いて唯一自分の正体を知っている男であった。

 次に思い返すのはペペロンチーノ・スカンジナビアという男。明らかに偽名とわかる名前で距離を掴み難い男であったが、実際に話せばランシアとしても話しやすく、実に気が利くような男であったのを覚えていた。

 そして、オフェリア・ファムルソローネ。降霊科出身という事でランシア自身、システム・フェイトに関する知見を聞くために何度か話をした記憶があった。何か、しこりの様なモノを感じつつもマシュと友好関係を結ぼうと努力していた少女、そんな印象がランシアにはあった。他に四人、その中で特筆するべきと言えば、ベリル・ガットだろう。

 と言っても、ランシアがどうこうというわけではない。どういう理由かは今となっては分からないが、ロマニによってランシアは知らぬ間にベリル・ガットに接触及び情報の閲覧を禁じられていた。

 そして、デイビット・ゼム・ヴォイド。彼に関してはキリシュタリアを介して関わる事が多く、二人だけで話すことはあまりなかった。

 そんな彼らを思い返して、ランシアは自分がこのカルデアにいる内に再開できる事を祈りつつ、脳裏に居座っては消える事の無い、言峰綺礼に思考を回して、眠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 2017年 12月 31日

 

 2017年最後のこの日、数日晴れていた空は、再び重い雲に覆われていた。

 そして、外も見れぬランシアは突如として館内に響いたアナウンスに、室内の誰よりも早く反応した。

 

 

《警告 警告》

《現時刻での観測結果に ■■ 発生》

《観測結果 過去に該当なし》

《統計による 対応、予報、予測が 困難です》

《観測値に 異常が検知されません》

《電磁波が 一切 検知 されません》

《地球に飛来する 宇宙線が 検知されません》

《人工衛星からの映像 途絶 しました》

《マウナケア天文台からの通信 ロスト》

《現在───地球上において

 観測できる他天体は ありません》

《疑似天球カルデアスに負荷がかかっています》

《観測レンズ シバ を停止 します》

 

《正門ゲート他、館内すべての

 ゲート機能が停止しました》

《館内から外部への移動は できません

 機能回復まで しばらくお待ちください》

 

 突如として響いた緊急事態を知らせる警告と、一体どういうわけかゲートが機能しない旨のアナウンスにランシアと同室の部下たちが互いに顔を見合わせ、最後にはランシアを見た。彼らの視線を受けながら、ランシアは極めて冷静に思考を回していく。

 

 

「(新所長、ではない。恐らく、あのコヤンスカヤという女か、もしくは言峰綺礼が何かしたのか……いや、それよりもまず何が起きたのかが重要だ。外部襲撃か?それとも内部?どちらだ、いやどちらにせよ……)」

 

 

 ランシアは一度部下たちを一瞥し、部屋の扉へ視線を向ける。

 耳を澄ませば戦闘音らしき音が聴こえてくる。片方は銃撃音、恐らくは新所長の私兵だろう。もう片方が襲撃者であるとランシアは思考を回して────

 

 

「ひっ!?」

 

 

 勢いよく扉が殴りつけられた。部下の一人が思わず悲鳴を上げ、それが聴こえたのかどうかは分からないが、更に何度も扉は叩きつけられて、

 

 

「しぃッ!!」

 

 

 扉が吹き飛ぶよりも先にランシアが一閃した。それにより何かが確実に切れた感覚がした後、扉が両断され向こう側の何かを巻き添えに崩れ落ちたのを確認して、ランシアはこの状況における最善手を選択した。

 

 

「ゲートは無理だ。地下格納庫へ向かう、そこにシェルター代わりに使えるコンテナがある。ここにいれば、死ぬ。分かったな」

 

 

 ランシアの指示に部下三人は無言で頷き返して、ランシアを先頭に四人は廊下へと出た。

 

 

「なに、これ……」

 

「カルデアが……」

 

 

 目の前に広がるのは新所長の私兵と侵入者の戦闘によって血や傷まみれのカルデアの廊下。見知っていたモノがまったく別の場所であるかのように彼らの視界を襲っていた。ランシアはそれに舌打ちつつ、固まった彼らに声をかけて思考をこちら側へと戻し、目的地である地下へ向けて先導していく。

 そうして、四人は西館へと向かって走っていれば、ランシアは視界の先に動く人影を視認した。

 

 

「(スタッフ?私兵?違うなッ!)敵か!」

 

 

 あちら側がランシアを視認したのと同タイミングで既にランシアは足元に転がっていた死体から即座に拾い上げたハンドガンで侵入者の顔面を撃ち抜いた。

 普通のモノならいざ知らず、剣を抜いていない今のランシアが持つ武器は宝具のソレだ。容易く敵を仕留め、崩れていく敵をランシアは見た。

 

 

「(黒づくめ、鳥の面か?身なりからして恐らく、雪国から来た?いや、ここは南極だ。それだけでは断定できない。いったい、どこの連中だ)」

 

 

 即座にそこまで思考を回したが、すぐに現時点の情報ではどうしようもないと判断したランシアは相手についての思考を破棄して、走り廊下の角へと至ろうとした瞬間、角の先から来る足音に反応した。

 崩れ落ちた敵からすれ違いざまに奪っていった手斧を宝具化しつつ、ランシアは万が一の為に何時でもすぐに止められるように意識しながら、互いに姿が見える合流ポイントへ踏み込むと共に手斧を振るい────

 

 

「「ッッ!!」」

 

 

 互いの得物が寸前で止まった。

 

 

「そちらは無事でしたか」

 

「ホームズ……」

 

 

 相手はこのカルデアが隠していたもう一人の戦力、ルーラーのシャーロック・ホームズであった。すぐに手斧を下げたランシアはホームズに部下たちを任せた。

 

 

「貴方は」

 

「他のスタッフを探す」

 

 

 互いに口数は少ない。やることを互いに理解しているからこそ、たったそれだけで意思疎通を行い、二人はつい先ほどまで向かっていた場所より反転した。

 

 

 

 

 

 

 そうして、ランシアは今に至った。

 見知ったカルデアの廊下を駆ける。

 道中に見つけたスタッフに指示を出し、道中に接敵した侵入者へと抜刀した剣を振るっていく。

 そうして廊下を進めば、当然見てしまうものだってある。

 

 

『実家に帰るんですよ』

「死ね」

 

『ミスタ!食堂からサンドイッチ、持ってきました!』

「死ね」

 

『いや、寝てください!本当に!』

「死ね」

 

 

 もはや取り戻せない日常を踏みにじる彼らを前にランシアはカルデアの制服を脱いだ。

 

 

「生かしては帰さん」

 

 

 脱ぎ捨てられた制服を余所に衣服は金属製のモノへと変化していき、蒼の布を巻いた騎士がそこに姿を現した。

 カルデアのセイバー

 ランスロット・デュ・ラックが床を踏み砕きながら目の前の敵へと駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 場所を移り変わり、館内放送で助けを求めていた新所長ゴルドルフ・ムジークを助けに来た立香、マシュ、そしてダ・ヴィンチはゴルドルフを回収して後はシェルターへと戻るだけというタイミングで足止めを食らっていた。

 彼女らにとっても見知っていたカルデアの廊下はどういうわけか、凍りついていた。そんな廊下の真ん中でこの襲撃の主犯であろう者らと彼女らは対面している。

 侵入者である黒づくめを大量に付き従えているのはゴルドルフの秘書として入館していたピンクの髪の女、コヤンスカヤ。そして、その女と共にいる美しい銀髪の少女。その出で立ちは彼女が貴族ないし王族、そういった家系である事が窺えるが、しかし纏っている雰囲気はあまりに危険だ。

 

 

「無駄よ。汎人類史のサーヴァントが異聞帯(ロストベルト)のサーヴァントに敵うものですか。生き延びた年月も、生存してきた環境も違うのよ。人生ハードモードを舐めないで」

 

 

 既にデミ・サーヴァントの力を振るうマシュとダ・ヴィンチとの戦闘は終わっているのか、サーヴァントであるらしい銀髪の少女との差を嘲笑うコヤンスカヤ。

 彼女の言葉にダ・ヴィンチは即座にその慢心を指摘し、瞬間何かをコヤンスカヤへ目掛けて投擲する。しかし、コヤンスカヤよりも先に近くにいた黒衣の侵入者がそれを弾き落とし、他の黒衣の侵入者がボウガンでそれを撃ち落として見せた。

 その反応にダ・ヴィンチは舌打ち、何とかして立香たちを逃がそうと自分を犠牲にする事を考えて────瞬間、不敵な笑みを浮かべた。

 目敏く反応したコヤンスカヤがまだ何か手があるのか?と思考し、しかしてやはり慢心ゆえかやってみせろと言いたげな表情を浮かべて、虚空に生じた歪みに目を見張った。

 小さな歪みはすぐに人一人通れるようなモノへと置換されていき、その内より一人の騎士が姿を現した。無論、カルデアを護る騎士だ。

 現れるとは思ってもいなかった、立香たちもまた目を見開く中、廊下に着地したランスロットは即座に床を踏み砕きながら、まるで狼のように俊敏な動きでコヤンスカヤではなく、未知のサーヴァントである銀髪の少女へと迫る。

 

 

「ヴィイ!」

 

 

 少女が叫び、ランスロットの刃が彼女の首目掛けて放たれたのと彼女を護るようにして床より氷の壁が突き出したのはほぼ同時であった。刃が氷を突き砕きはしたが、少女の首を捉えるにはならず、僅かな隙に少女は数歩下がって距離をとっていた。

 それにランスロットは兜の中で軽く舌打ちながら、声を荒らげる。

 

 

「行け!」

 

「ああ!ランシア!頼む!」

 

 

 ランスロットの言葉に即座に首肯したダ・ヴィンチは茫然としていた三人を無理矢理引き連れてこの場から離れていく。

 そうして後に残ったのは、ランスロットと襲撃者たちだけ。

 既に冷静さを取り戻したコヤンスカヤはランスロットを睥睨し、ランスロットもコヤンスカヤを睨みつける。

 

 

「まさか、カルデアにまだサーヴァントがいたなんて。それも受肉したサーヴァントなんて気づきませんでしたわ」

 

「ほざけ。貴様こそなんだ、サーヴァント?違うな、この感覚…………」

 

 

 互いに互いを暴き立てるように口を開くが、それも一度きり。

 ランスロットはコヤンスカヤから銀髪の少女へと視線を移す。既に先程の一当てでおおよそではあるが、ランスロットは彼女のクラスを理解していた。まず間違いなく三騎士ではない、無論氷を飛ばすからアーチャーなどと言われればお終いだが、だとしてもある程度のステータスはある。

 その上で考えれば、バーサーカー以外だろうと当たりを付けながら、アサシンないしキャスターと仮定していく。

 あの周囲の黒いのがもしも彼女の召喚系宝具由来ならばアサシン、実は関係無くて氷の魔術を使うキャスター。そういささか穴の空いた考えながらも、そう思考するランスロットは彼女を仕留める為に駆ける。

 

 

「悪いがここで仕留める」

 

「いいえ、それは無理な相談よ」

 

 

 少女の言葉に反応して黒衣の侵入者たち、殺戮猟兵(オプリチニキ)がランスロットへと殺到する。それだけならば、ランスロットからすれば即座に対応出来るが、それだけでは終わらない。殺戮猟兵たちの背後から、彼ら諸共殺すという殺意が剥き出しの超重量の氷がなだれ込んでいく。

 大盾を出して凌ごうにも今度は殺戮猟兵たちが邪魔であると判断したランスロットは即座に身体を捻り、向かってくる殺戮猟兵の内一体を踏みつけ、その勢いを利用し後方へと一度飛び退き、聖剣に魔力を灯して雪崩込む氷を縦一文字に切り開く。横側は殺戮猟兵たちを氷が押し潰した事で対処するべきは正面のみ、向かってくる殺戮猟兵を斬り、時には壁にし、時には剣に突き刺した状態で鈍器代わりにしながらその場を切り抜けていく。

 そうして、十四か五は斬り殺しただろうところで漸く殺戮猟兵たちの流入は止まり、鎧を血で濡らしながらランスロットはコヤンスカヤと少女を睨めつける。見れば、背後にはまだまだ大量の殺戮猟兵たちが待機している。

 

 

「……確か、人生ハードモードだか、イージーモードだとか言っていたな」

 

「ええ、言いましたとも。世界から要らないと切り捨てられず、しっかりと人類史を築いてきた貴方方にはお似合いでは?」

 

「……知るか。大概ブリテンもハードモードだと思うが、な」

 

 

 そんな軽口を叩きながら、ランスロットは思考を回す。

 時間稼ぎの役目としてはそろそろ充分だ。しかし、ここでせめて片方は落としたい、そう考えていた。この後の為にも、まだ足掻かねばならない彼女らの為にもせめて、少しでも旅路を楽にする為にも、そう考えてランスロットはここで一人は仕留めると決めた。

 聖剣に魔力が収束していく。

 

 

「(宝具を切る、だが使うのは近接。解放では、カルデアを破壊しかねん)」

 

 

 宝具を使い、確実に仕留める。

 そう判断したランスロットはその為にも斬らねば話にならない。だが、相手は肉壁が文字通り腐るほどいるのだ。連発するのは問題無いがやり過ぎれば、先に仕留められるのは此方になる。

 故にランスロットは賭けに出た。

 ランスロットが得意とする置換魔術による空間置換、相手は恐らくキャスタークラス。下手をすれば失敗するが、嵌れば一騎落とせる。

 

 

 

───刹那、ランスロットが走り出す。それに反応して銀髪の少女が無数の氷柱を床より生やし、更には殺戮猟兵たちがその間を通ってランスロットへと迫る。

 しかし、既にランスロットは先んじた。

 殺戮猟兵たちの目の前から、ランスロットが消えた。

 しかし、その事実を殺戮猟兵という肉壁たちのせいで視認出来ないコヤンスカヤと銀髪の少女は分からない。故に、銀髪の少女のすぐ近くに生じた歪みを少女が気づくのに時間差が生じてしまった。全身はまだ出ていない。

 しかし、ランスロットからすれば上半身さえ出ていれば何も問題無いのだ。

 

 

「『縛鎖全断(アロンダイト)過重(オーバー)───ッ!?」

 

 

 湖光が収束した聖剣による一撃。魔力光を放つのではなく収束し、敵内部で炸裂させる必殺の刃が少女へと振るわれた瞬間、ランスロットは自分の腕が切り飛ばされた事を知覚した。

 既にその時点でランスロットの視線は少女から外れ、自分の腕を切り飛ばした誰かへと向けられていた。それは黒衣であるが、しかし殺戮猟兵とは異なる存在、正真正銘のサーヴァント。

 

 

「二体目、だと……!?」

 

「死ね」

 

 

 鉄仮面に灯る赤い眼、振るわれた紅の刃とそれに付与されたモノが己を殺すものだと理解しランスロットは、即座に身体を捻り両腕を捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 複数回に及ぶ空間置換による逃走は、あまりにもランスロットに致命的であった。両腕を失った、だけならばまだ良い。

 だが、問題なのはランスロットの傷口を通して刻まれたモノ。

 ランスロットの養母は、湖の乙女だ。妖精たる彼女より魔術を修得したランスロットは自分の身を侵しているモノが何なのかを朧気になっていく思考の中で理解し、同時にもはや無理であるとも分かっていた。

 これがサーヴァントの身であるのならば、何とかしていたが既に受肉している以上明確に殺せるのだ。

 故にランスロットは何とかカルデアの外縁部へと移動し、吹雪に晒されながらもカルデアから離れていく黒いシェルターらしきモノを見送っていく。

 

 

「…………立香、マシュ……ああ、まったく……所詮俺は端役か。いや、違うな……死人は死人……新たな戦いは彼女たちが成す…………駄目だ、また背負わせるのか?………………すまない、どうか生きて、くれ……」

 

 

 自分の身体が急速に死んでいくのを感じながら、ランスロットは重くなった瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!おい!なんか、変な騎士がいきなり現れたぞ!?◼️◼️◼️◼️」

 

「もう、◼️◼️◼️◼️◼️、落ち着いてください。……すいません、大丈夫ですか?」

 

「………………ああ、大丈夫だ。状況は理解しているとも、それでは言わせてもらおう。────湖の寄る辺に従い、参上した。問おう、貴公が我がマスターか?」



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