Grand Eins (アクワ)
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偽牙

全て世は事もなし。





 

 

俺の体の七割は既に俺のものではない。だから、何もしなくていいと言われたときは素直に嬉しかった。特に不自由の無い生活を支給され、その中で怠惰に向こう数十年を溶かしてしまっても構わないと思った。そもそも俺の体は俺の自由には出来ない。だから拒否権なんてなかった。拒否するなんて勿体無いとも思った。そしてこれ以上痛みも苦しみも与えないと約束されたとき、戸惑った。捨てられたら死ぬ以外にどうしようもないから。せめて満足な死に方をしたいと願った。だから、学校に通ってみないかと誘われたときはとても困った。

 

昊陵学園。世に名高い超えし者(イクシード)養成機関として知られる戦闘技術訓練校。今日からここに入学するわけだが、否、『あなたなら間違いなく入学できますわ』と言われてここに来た訳だが。俺を誘った当の本人は一体どこで何をしているのやら。それにしても久々に浴びる日の光は心地よい。五年も家の中に閉じこもっていれば、なんてことのない日常も貴重な経験となる。だから、きっと学園生活をしていれば俺というものを手に入れられるかもしれない。

 

俺が誘いを受けた理由は一つ。『青春を謳歌する』をするためだ。聞けば俺と同い年の十五歳の一般人はこの春から青春をエンジョイするというではないか。そして青春というものは後々己のアイデンティティを確立する上でなくてはならないものなのだとか。ならばこのチャンス、みすみす逃してなるものか。

 

「青春、謳歌しなきゃ」

 

「そんなに青春を謳歌したいのですか?」

 

予想していなかった声が後ろから聞こえて、戸惑った。振り向きはしたもののどうやって反応すればいいのか。対人経験は勿論皆無に等しい。『はい』と答えてしまえばいいのか、でもネットではあまりそういう事は公言してはならないとか聞いたことがある。はて、どうしよう。

 

「突然声をかけてしまい、申し訳ありません。わたくしは来栖折々(クルスオリオリ)と申します。恐らくは貴方と同じ、新入生です」

 

「あ、いえいえそんな。俺は有咲奈々(アリサキナナ)。新入生だ……です」

 

いわゆる和風美人で、大和撫子と言ってもいいのかもしれない。桜並木に佇む姿はあまりに美しく魅力的で、思わず見とれていた。

 

「綺麗、ですね」

 

「えっ……。急にそんなこと……」

 

そして思わず口走っていた。顔を真っ赤に染めてしまう来栖折々さん。まさか俺の言葉で彼女を辱めてしまったのだろうか。だとすれば早急に謝罪の言葉を述べなければならない。対人経験が無いと自覚したばかりだというのに、俺という人間は本当に愚かだ。

 

「あの! 変なこと言ってすみません! その、出来る範囲でなら何でもするので許してくれませんか?」

 

いま彼女は激怒していて拳の一撃くらいはお見舞いされるのではないかと思っていたが、どういう事か杞憂だったようだ。それどころか可笑しそうにくすりと笑うと、嫌味の欠片も感じさせない声で言った。

 

「そのようでしたら奈々さん、わたくしとお友達になっていただけますか? わたくしの事も折々で構いません。それで対等、いかがでしょうか」

 

「そっちがそれで良いのなら、それで。それじゃあ、折々。新入生同士よろしく頼む」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「随分と新入生が多いですね……。一体何人が集っているのでしょう」

 

「多分、六十六人。急いで数えただけだから間違ってるかもしれないけど」

 

「そんな一瞬で数えたのですか? わたくしにはとても真似出来ません」

 

やはり学生たるもの雑談を楽しむべし。騒がしくも面白く過ごすためには大事なことだと何かで知ったが、実際に経験してみれば痛いほどよく解る。ついでにこういう時一般的には何を思うべきか知りたいのだが、流石に心までは読めない。

 

「静粛に!」

 

教師の声が入学式会場に響き渡ると、途端に辺りは静まり返る。コツ、コツ、と床を叩く靴の音と共に何者かが登壇した。

 

「げっ……」

 

「皆様、ごきげんよう。私は学園長の九十九朔夜ですわ」

 

俺の生活費負担者であり、ドーン機関の遺伝子学者。俺をこの学園に招いた張本人が目の前に学園長として君臨していた。こちらは学園長をやっているなど聞いていない。この学園が彼女の所有物である事からして、間違いなく何かしらの実験に使われているのは想像に難くない。

 

「ここにいる貴方がたは黎明の星紋を投与され、力を得た醒なる者。千分の一の可能性を秘めた者達です」

 

焔牙。闘争本能、或いは魂を具現化・具体化したモノ。特殊な生体超化ナノマシンによって発現し、適合すれば常人を遥かに上回る身体能力を得られる。しかしながら、何故そんな代物をわざわざ必要とするのだろうか。

 

九十九朔夜曰く、新人類を生み出すため。どう考えても狂人の思考だが現代社会に於いては納得できる部分も少なくない。例えば年々深刻化する地球温暖化や異常気象。最早止められる段階には無く、現人類がそれにいつまで耐えられるだろうか。学会の見立てでは百数年が限界だとか。

故に、誰かが考えた。我々からこの異常に適応すればいい。幾億年もの月日の中で数多の生物がやってきたように進化すべきである、と。

 

俺はその為に己の大半をドーン機関に奪われた訳だが、両親に売られた俺にはそれを拒む権利も理由も無かった。体を弄り回される痛みに耐えることが出来れば今日の食事に有りつける。それを己に絶対のルールとして言い聞かせて幼少期を過ごしてきた。

 

「選ばれたが故に、貴女がたには戦いを求める義務がある。それではこれより我が校の伝統行事、『資格の儀』を執り行いましょう」

 

九十九朔夜は俺に一瞬だけ試す様な視線を寄越し、そして。

 

「隣の席に座る者と組み、決闘を行いなさい。その為の力は既に与えている筈」

 

困惑、怒り、その他諸々の感情が混沌と場を支配する中九十九朔夜は容赦なく言葉を重ねる。

 

「さあ、争い、蹴落とし、勝ち取りなさい! さあ、焔牙の名の元に!」

 

誰かが言った。『焔牙(ブレイズ)』。

次々聞こえた。『焔牙(ブレイズ)』。

 

誰もが理解したのだ。全寮制で学費無料。そんな待遇を、いくら選ばれたとはいえ入試の一つも無しに得られるわけが無い。気が付くと俺達の周りは既に戦場と化していた。そして、そんな中で俺と折々は見つめ合ったまま微動だにしないでいた。

 

「こんな事だと分かっていたなら、話しかけませんでした」

 

「こんな事なら、黙っていればよかった」

 

ここからはずっと友達としてやって行けると信じて疑っていなかったから。初めての友達が出来て、本当に嬉しかったから。

 

「「でも」」

 

「青春のために」

 

「御家のために」

 

「「絶対に負けられない!」」

 

手を胸に重ねて意識を集中させる。驚く程に強く、そして熱いエネルギーが身体中を駆け巡り、そして右手には一本の剣が現れた。それはまるで造られたかのように均整のとれた一振りだった。剣の芯となる薄緑の結晶体を縁取るように黒い刀身が形を成す。そして、先端が菱形になって突き出ている。他のみんなの焔牙は脈打つような紋様を描き出しているというのに、俺のそれはまるで心臓が止まったかのようだ。

対して折々の焔牙は弓矢。恐らくはその魂が尽きるまで、その矢は尽きることがない。とても美しい武器だった。

 

「行くぜ」

 

「行きますよ」

 

低く呟くと同時に地を蹴って間合いを詰める。一薙ぎすれば間違いなく勝負は着くと確信できた。しかし向こうも手合いは慣れているようで、瞬時に後方へ飛びつつ矢を放ってくる。目線と指先の方向から起動を予測し弾き返す。間合いは変わっていない。

 

「出来る事なら奈々さんとここで学びたかった!」

 

「俺もだよ! 折々が初めての友達で嬉しかった!」

 

「それでは何故」

 

「それなら何で」

 

「「戦っている!!」」

 

飛来した矢を剣で叩き落とす。このままでは宣告された十分を過ぎて共倒れになる。それだけは絶対に嫌だ。これが変えられない宿命だというのなら、せめて全力で送り出す。どちらかが片方を継いで行かなければ駄目だ。それだけは絶対だ。

 

でも、俺は最初から卑怯な立ち位置にいた。俺の大半が俺ではないという事は、その大半は名も知らぬ誰かで詰まっているという事だ。かつての英雄、豪傑などの修めた有りと有らゆる戦闘技術、知識、思考をフィードバックされた改造人間が俺だ。故に、負ける事は絶対に許してくれない。俺が許そうと、俺以外の七割がそれを絶対に是としない。

 

だから、どれだけ最低な方法でも戦闘においては勝利をもぎ取るしかない。然もなくば俺という人格が壊れて無くなってしまうから。

 

「使いたく、無かった……っ」

 

呼び起こされるのは昔も昔、騎士の中の騎士と謳われた誰かの面影。体内に循環するエネルギーを意識を用いて加速・増幅し、右手を通して剣へと収束させる。これより放つは至高の絶技。その一端。

 

「その光は……っ?」

 

一閃、咆哮。

 

偽・聖星剣(カレトヴルッフ)

 

音も、色彩さえも置き去りに黄金の激光が圧倒的暴力で折々を吹き飛ばした。そのまま折々は気絶したらしい。命に別状は無いようだ。しかし、勝ったというのにこの絶望感は何だ。この虚無感は何だ。多分、否、間違いなくこんな物は青春などではないと心が叫んでいるからだ。

 

やがて、地獄のような一時は終わりを迎えた。

 




こんにちは。アクワです。アニメ見たらどうしても書きたくなって、書きました。いつもの様に書き捨てするかもしれませんし、原作知識皆無でアニメから必死に知識拾って書いた物なので色々間違ってるかも知れません。ですからどうか、教えてくださいお願いします!

感想その他お待ちしております。



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亡絆刃


恋をいつか、可視化できたなら。




 

泣いて、泣いて、泣いていた。顔をぐしゃぐしゃにして、目元を真っ赤に腫らして、鼻を何度もすすり上げて。

 

……俺が。

 

「どうして貴方がそんなに泣いているのですか……」

 

「だって、だってぇ……」

 

入学式で退学式なんてもう泣くしかない。折々は呆れながらも俺の鼻や目元をハンカチで拭ってくれていた。教室へと集合するまではまだ幾分か時間があるので、それまでは会話を許されている。これまでの時点で非人道的ではあるが、慈悲の欠片ほどは残されていたらしい。

 

「いいのですよ。貴方がどんな経験を以って私を打ち倒したのかは存じませんが、確かに私は敗者となりました」

 

「それは……そうなんだけど」

 

「永久の別れというわけでもありません。携帯の番号も交換しましたし、今の世の中滅多なことでは繋がりは絶たれません」

 

美しく一礼してから、折々は踵を返した。ほんの少しの絆を残して。

 

だから何とかして俺はこの大失態を挽回しようと考えた。教室ではぎこちないながらも談笑にまじり、そこそこながらも名前を覚えてもらうことに成功。実際に自己紹介をする時には、よりクラスにも馴染むことが出来るハズ。しかし、俺にとっては天地を揺るがすほどの大誤算が発生していた。

 

()()()()

 

どうしてこうなった。少し待ってくれ、これは何かの間違いだろう。勘弁してくださいお願いします。描いていていた理想の学校生活に徐々にヒビが入っていくところを幻視しながら俺はただただ途方に暮れていた。ただひたすらに、どうしよう。

 

「お、おーい……。大丈夫か……?」

 

「ハ、ハハ、ハハハハハ。――大丈夫じゃ、ないです」

 

「よかったら名前教えてくれないか。君の戦い見ててずっと気になっててさ。俺は九重透流」

 

「俺は有咲奈々。女っぽい名前だけど男な、まあ理由あるんだけどそれはまたの機会に」

 

「気になるから教えてくれよ。な、いいだろ?」

 

「大声では言えないんだけど、俺実は……あ、先生来た」

 

「え?」

 

俺が窓を指さすと、そこから狙い違わず何者かが見事に空中三回捻りを繰り出しつつ教卓の上に着地。そして小刻みにぴょこぴょこと跳ね始めたのは、ウサ耳を付けたメイドのような服装の変人だった。先生ではなく、変人だ。絶対そうだ間違いない。

 

「みーんなー! 初めましてっ! あたしは月見璃兎、このクラスの担任でーっす! 気軽にうさ先生って呼んでねー!」

 

空気が凍ったかと思った。未だぴょんぴょん跳ねる自称担任を俺たちはただただ眺める他ない。

 

「あれあれー? みんなどうしたの……ああっ! もしかしてうさ先生に見とれちゃってる?」

 

違ーよ。

 

「まーそんな訳で今日からみんなと一緒に学んでいこうと思いまーす。てなわけで、次は君らのターン! まずはそこのぼっち君!」

 

「ぼっちじゃないです! あーもう何でこんなことに……。えっと、有咲奈々です。学園生活を通して『青春を謳歌する』をやっていけたらいいなと思います。女子っぽい響きですけど女子じゃありません。どうぞよろしく」

 

「はーいよろしくねぼっちちゃん! あと学園長から連絡があったんだけど、君《特別(エクセプション)》枠らしいから絆双刃も授業も免除! もちろん授業サボり過ぎたら先生は激おこだからそこは注意!」

 

「えっ、待ってください。特別って何ですか特別って! 俺普通でいいですから、よくわかんないですけど取り消しって出来ますよね?」

 

「決定事項だから変更不可――って学園長は言ってたよ?」

 

あ――のロリババア! 実年齢10歳のロリババアめが!

 

初のホームルームは俺だけを置き去りにして終了した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「無事に入学出来たようで何よりですわ。お友達は出来ましたか?」

 

「アンタのせいですでに一人友達失くしたよ! あと何が特別だ! 俺をぼっちにしたいんですか、そうなんですか」

 

「ええ、そうですわ」

 

さも当然と言わんばかりの態度には絶句するしかない。ネトゲで日課のレベリングをしていたところ、三重にカギを掛けていたはずのドアをチェーンソーで無理矢理ぶち抜いて『学校で青春すべきですわ』とか狂ったことを言い出すのはいつもの事ではあるけれど。

 

「あなたはわたくしの伴侶(モノ)ですから。独占欲を覚えてしまうのも当然ですわ」

 

「俺はお前のモノじゃない。偉大なる……先の英雄たちのものだよ」

 

「あなたはそうは仰いますが、同じ実験を受けた伊智(イチ)()(サン)()()呂久(ロク)は廃人となって殺処分されたのですよ? 七号であるあなただけはたった一度も問題を起こさず実験全てに成功した。それ故に完成品として世に送り出された訳ですが、実験動物として飼い殺されたにも関わらず何の精神的障害もなく寧ろダメな方向へと進みニート化……。いえ、いい意味ですからね」

 

「お前ぶっ飛ばすよ? 俺に封じられた魂が暴れ狂うぞ?」

 

「あながち間違いでもないのですわね……。それはいいとして、そんな過酷残酷極まった幼少生活を送り、現在においては平然と他人の魂すら受け入れながら生きているあなたをわたくしは尊敬していますし、それ故に一目惚れし、愛しているのですわ」

 

「どーせペット的な愛し方なんだろ天才科学者? 念を押しておくが俺に『俺』なんてないんだよ。《焔牙》だって俺の魂を反映させているわけじゃない。俺じゃないもっとすごい人の魂を無礼にも無駄遣いしてるのが俺なんだよ」

 

俺の体は最初から誰にも必要とされていなかったから、何かに食い荒らされるだけのものだったから、全部諦めていたから。だから吐きそうになるほど流れてくる誰かにひたすら懇願していたのだ。()()()()()()()()()()()()、と。それでも誰も叶えてはくれなかった。そして千人目の誰かに聞いてみたのだ。どうして誰も俺を食べようとしないのですか、と。すると珍しく答えが返ってきた。

 

『時は止まらない。貴様は美しすぎる』

 

その夜だけこっそり泣いたのを覚えている。最後の救いであったはずの死すら禁じられてしまったのだから、あの時はあれでよかったのだと思う。その日以外に泣いたのは、今日が初めてだ。折々は俺のことを恨んでいないだろうか。次に会えるとすればどんな顔をすればいいのだろうか。

 

「そういえば、貴方にはまだパートナーが居ませんでしたわね。ではわたくしと同じ部屋で構いませんわね?」

 

「嫌だ。お前と一緒の部屋にいると何されるか分からないし」

 

「気づかれていましたか」

 

「気づかれないとでも思っていたのか」

 

しかし俺一人のために二人用の部屋をあてがう訳にもいかないらしく、結局朔夜の部屋で寝泊まりするしか道は無かった。広く豪勢な部屋はあまり落ち着かない。多分、長年薄暗い部屋で過ごしていたから少し明るいだけでも眩しく感じてしまう。それだけの話だ。

 

明日からは本格的に授業も始まる。カリキュラムの多くは《黎明の星紋(ルキフル)》に順応するための体作りなのでしっかりと休養は取るべきだ。

 

「悪い、先に寝るから」

 

「分かりましたわ。どうか、ゆっくりと休んで明日に備えてください」

 

目を閉じてから、いつものように祈りを捧げる。

 

願わくば、明日もこの身を使うことをお許しください。

 

――()()()()()()()

 

 

 

***

 

 

「あなたは、自分を認められていないだけですわ」

 

愛する者の寝顔を見つめながら少女は呟く。既に決めている。身も心もすべて彼に捧げようと。しかし彼はその感情を理解できない。恋だとか愛だとか、彼がそういったものを理解できないようにしたのは他でもない少女自身だ。

 

だから、彼には選んでほしい。彼が自身が朽ち果てるのを待っているだけのような、幽霊のような存在にはなってほしくない。己の幸せを、己の力で自覚して掴んでほしい。

 

「あなたはわたくしを恨んではいませんか? 恨んでいたとして、わたくしに欠片ほどの怒りすら見せないのはなぜ?」

 

いいや違う。そうではない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これは、ほんのちっぽけな恋。ただ、それだけの話。

 

 




アクワです。GEの二話です。アブソリュート・デュオのラノベをそろえたいとは思っているのですが読む時間もお金もなく困っている次第で……。
SAOの方も並行して書き進めていきますので!

感想その他お待ちしております。


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真銘



例えるならば完結しているにもかかわらず未発表の、世紀の超傑作小説。




 

 

揺形(フラクター)》。俺の牙はそのような名称で学園のデータベースに登録されている。《焔牙》の種類を始めとして《絆双刃》というシステムを成立させるために学力といったある程度のプロフィールは同学年の生徒には公開されるようになっており、当然俺の《焔牙》は疑問といった形でクラス内で囁かれることになった。だがまだまだ奇妙なぼっちというレッテルに悲観するのは早い。本格的な学校生活は今日から始まるのだ。対話を重ね、磨きあうことで、いくらでもイメージなんて払拭してしまえるのだから。

 

「おはよう九重。一緒に朝ご飯を食べてもいいか?」

 

「もちろんだ。みんなで一緒に食べたほうが美味しいだろうからな。ユリエもいいだろ?」

 

「ヤー。私も歓迎します。それと、おはようございます、有咲さん」

 

「シグトゥーナさんもおはよう。俺のことは気軽に奈々でいいから」

 

「ヤー。私のこともユリエで結構です、ナナ」

 

「いやシグトゥーナさんはシグトゥーナさんだし」

 

「ユリエです」

 

「シグトゥーナさん」

 

「ユリエ」

 

「シグトゥーナ」

 

「「ユリエ=シグトゥーナ」」

 

「キミたちは朝から何のコントをかましているんだ……」

 

真面目でいかにも堅物そうな、侍然とした少女。橘さんは呆れ顔をしながら終わらないボケにツッコミを入れてくれた。俺らと同じくビュッフェで朝食を取るために既に食べ物の乗ったトレイを両手で持っている。そして、その陰に隠れるように身を縮めているのは穂高さん。人見知りなのかあまり人と顔を合わせるのが得意ではないようだ。それとも、橘さんとは普通に接しているであろうことを鑑みるに、男性との距離感をつかみあぐねているのかもしれない。情報では女子高出身だとか。

 

「いえ、特に意味は。橘さんも穂高さんもおはようございます」

 

「ぇ……ふえぇ……」

 

「もう名前を憶えてくれたのか? とにかくいくら一学期の初日とはいえ気を抜きすぎるのもよくない。ああそれとそこのキミ。なぜ肉と白米しか皿に載せていない? 有咲……だったか。九重、少しは彼のことを見習うといい。野菜は勿論のことタンパク質に至るまで豆腐といった良質な植物性のものを取り入れている。肉も散見されるが鶏のささみや胸肉と言った低カロリー高タンパクのものばかりだ。いささか健康志向過ぎてそれはそれで心配だが、キミの、その、あまりに偏った肉食嗜好は早々に改善すべきだ。ほら、茄子の和え物に……このサラダも摂るといい」

 

顔を青ざめさせる九重。そんなに野菜が嫌いなのだろうか。美味しいのに、野菜。

 

「橘さんって寮母さんに向いていますね。卒業後は志願してみては?」

 

「キミは一体私をどう思っている!? そんなもの私に務まるはずがないだろうっ!」

 

「でも普通以上に食についての知識もありつつ他人への気遣いが出来るなんてまさに寮母――」

 

「し、食だって訓練の一部なのだぞっ? それに気遣いというが通っていた道場では怪我も多く手当てするのも珍しくなく常に気を配っていたからつい癖が出てしまったっというか……その……」

 

「す、すごい……巴ちゃんが小さくなってる……」

 

「そう? 今更だけど橘さんと穂高さんて話す量がちがいすぎるよなー。マシンガントークする相手って疲れたりしない?」

 

「ナナ……今の状態の巴を放っておくのはあまりよくないかと」

 

「確かに凄いな……その調子で俺の肉好きも認めさせてくれよ」

 

「その前にお前はさりげなく俺のさらに野菜を移すのはやめようね? 計算してメニュー選んでるんだから」

 

朔夜から提案された豪華なモーニングも悪くはないのだが、今は一秒でも早くクラスメイトと打ち解けあうことのほうが大事だ。紆余曲折ありつつも知り合いと呼べる関係は次第に構築されつつある。後はどうやって《絆双刃》を組む相手を見つけるかだけなのだが、《特別》という特権階級がそれの邪魔をする。()()()じゃあるまいし。なんで俺がこんな目に合わなければならないのだろうか。これでは『青春を謳歌する』には程遠い。

 

()()()()()のように出来るはずもなく、時はぐんぐん進んでいく。俺たちは課された40キロ走を丁度終えたところだ。

 

「あり……有咲貴様……。貴様は今までずっとニートだったから体力に自信はないと言っていなかったか……はあ……はぁっ」

 

「うーん……そうかなあ……。みんなもう少し本気出してよ。俺だけガチってるとか思われたら嫌じゃん」

 

「ナナは……早すぎます……ニートなんて、絶対に嘘です」

 

トラくんとシグトゥーナさんに詰問されるも俺は全く嘘を言っていない。本当に自堕落なニート生活を送っていたのだが、絶やさず魔力を体中に流して基礎体力は欠かさず鍛えていた。大気中のオドが呼吸によって取り込まれ、体が勝手に活性化し疲労すらも常時回復している。これくらいはみんな普通にやっていることじゃないのだろうか?

 

「はーい! それじゃあ今日はここまで! 明日もメニューは同じだからしっかり体は休めておくよーに!」

 

うさ先生はそれだけ伝えるとダウンしてしまった生徒の救護に行ってしまった。そんなにつらかっただろうか?

 

 

 

***

 

 

 

放課後になり、暗くなってくると、やることが本当になくなってしまい、俺は一人で敷地内の森を歩いていた。持ち物はただ一つ、招待状を携えながら。内容は、《邂逅(ランデブー)》へのお誘いだかなんだかよく分からないことが書いてある。俺にこんなクソくだらない手紙をよこす奴は一人しかいない。自由奔放で天衣無縫。贅沢が好きで自身の物差しで決めた価値未満のものは醜いと断定する正真正銘の馬鹿。

 

そして指定された位置に着いた瞬間、《力在る言葉》も無しに《焔牙》を呼び出し、片手サイズの《砲撃銃(ブラスター)》形態に在り方を変える。そして丁度俺から見て5時の方角に向けて躊躇いなく引き金を引いた。収束した魔力が真っすぐに狙った方向へ射出される。

 

「わっ、きゃあっ!」

 

悲鳴をあげながら獣のような勘で瞬時にその場から人が飛び退いた――事が音でわかる。おそらく先ほどまで誰かがいたはずの地面は見事に抉れており、当たれば確実に絶命していたであろう事実を鮮明に表していた。

 

「ちょ、ちょっと、いくら狙撃しようとしてたからってあんまりじゃない! 《特別》の私を殺す気!?」

 

「ああ、いいからそこを動くなブリストル。なんてったって今から正当防衛を行使するんだからな」

 

「それは! ただの! 殺戮! わかったわよ、謝るから話を聞きなさいよ! これでも旧知の仲でしょ!」

 

「チッ……」

 

しぶしぶ牙を引っ込めると金髪の女子が立ち上がるのを待った。対話がしたいというならこれ以上攻撃する意味などない。

 

「全く。朔夜に頼まれてこっちに来る予定を早めてあげたっていうのに。私にも目的があるから別にいいけど」

 

「《異能》目当てか。それにしても九重はすごいよなあ……。友達多いって羨ましいなあ……」

 

「貴方には他者なんて必要ない。それは貴方が貴方である限り絶対の法則のようなものよ。自分でもわかっているでしょ」

 

前々からこの金髪の少女、リーリス・ブリストルは気に食わない。俺を憐れみ、故に嘲笑いながら無駄な気遣いをするから。俺に対する好意なんて欠片もなく、ただ同情で俺を無駄に気遣う嫌な奴。俺がどういう存在であるのか、機関の暗部を熟知している彼女なら知ることは容易い。

 

「貴方、どうしても《絆双刃》が欲しいらしいわね」

 

「ああ。俺だけ《特別》なんてそんなものは要らない。ただ普通に居させてくれさえすればそれでいい」

 

「なら、特別に私がなってあげる。条件付き、期間限定だけどね」

 

「なっ……お前、本当か? 本当に俺と組んでくれるのか? ひょっとしてお前いい奴だったのか?」

 

「そんなわけないじゃない。当然タダで組んではあげないわよ。悪魔との契約には代償が必要だって言うでしょ?」

 

そうしてリーリス・ブリストルは俺に耳打ちした。

 

「《異能》を――九重透流を手に入れるのに協力しなさい? それまでは貴方とお望み通りの関係になってあげる」

 

 

 




続けられるかどうかも分からないけど取り敢えず書いてみよう精神で書いております。2018年初めての投稿はアブソです。あけおめです。そういうわけでお年玉で原作を五巻まで揃えることが出来ました! ある程度設定を理解してきたので思い立ったらまた投稿させていただこうと思っております。

感想その他お待ちしております。


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奪取



操り人形って案外楽なのかも。






 

 

学校が始まって三日目、リーリス・ブリストルが転入してきた。繰り返す。学校が始まって三日目に転入生、だ。ある者はその美貌に目を奪われ、ある者は唐突な呼び出しに面食らい、ある者はそれに待ったを掛けるも軽くあしらわれ、ある者は転入生の態度に激怒するも何とか取り繕い、俺は溜息をついていた。

 

「さあ九重透流。行くわよ」

 

「ちょ、ちょっと待てって。もう授業始まるぞ。てか始まってるぞ!」

 

「いいのよ。私、《特別》だから。そうでしょう先生?」

 

「ソ、ソウダネー」

 

完全に限界を通り越して今すぐにでも怒鳴ってやりたいが、それが出来ない。うさ先生はそんな表情をしていた。はっきり言って俺もブリストルの阿保がここまで無謀なことをやらかすとは思っていなかった。どう考えても九重はシグトゥーナさんと組むだろ。何故って九重がシグトゥーナさんを放り出して他の誰かと組むような軽薄な人間ではないと思うからだ。それを見抜いているのかいないのかは知らないが、会って早々に拉致なんてやはり馬鹿で阿保だ。単に自尊心が強いだけなのだろうが、これでは好印象なんて持ってもらえるはずがない。

 

そんなことを頭の片隅で考えながらも俺は、最早やけくそで授業をしているうさ先生の言葉にしっかりと耳を傾けていた。

 

「一体多数の状況に陥った時にも基本的な戦術っていうのは絶対に幾つかあるんだけどー……答えられる人いるー?」

 

「はい」

 

「それじゃあぼっち君!」

 

「とにかく入り組んだ地形に逃げ込みつつ敵を分断し各個撃破すべきかと。予め仕組まれていた暗殺の可能性を鑑みるとするならば、罠の発見或いは解除は困難なので正面戦闘のほうが生存率は上がると思います。開けた平地などにおいては正面戦闘だけではなく逃走という手段も考慮に――」

 

「お、おい。有咲の奴こんな状況でも普通に授業受けてるぞ……」

 

「アイツなんなんだ……? 運動も座学も自称ネトゲ廃人ニートのレベルじゃねえぞ……?」

 

「はーい! 大正解! 特に逃走の一手に気が付けたのは凄い!」

 

「うさ先生も普通に授業してるし! この学校どうかしてるだろ! 知ってるけど!」

 

腕を引き続けるブリストル。抵抗する九重。狼狽える橘さんと穂高さん。言いくるめられて歯ぎしりするトラくん。力こぶ作るタツくん。無表情のシグトゥーナさん。無視を決め込む俺。授業どころではないクラス。さて、この中で最も状況を打開できる確率の高いのは誰でしょう? 答えは俺です。皆の授業時間を潰さないためにも、立ち上がれる俺がやるしかない。俺は静かに挙手をした。

 

「はいぼっち君! 質問かな? 分からないところあった?」

 

「特別に、席を立つ許可と私語をする許可を」

 

「――――やっちゃえ!」

 

俺の意図を完全に理解してくれた担任のゴーサインを免罪符に禁忌である授業中の立ち歩きとお喋りの得た俺は真っ先にブリストルの腕を九重から引き剥がし、九重を席に戻した。そして無理矢理ブリストルを廊下に引っ張り出す。

 

「何のつもりかしら。契約に反するのなら貴方との約束も破棄よ」

 

「馬鹿が。これも契約の一部だ。お前、あれで九重がお前になびくと思ってんのか」

 

「当然よ。でも貴方……何か考えがあるの? ふーん、面白うそうじゃない。――続けて」

 

「お前はどうせ自分のやり方でなんて言うんだろうが九重には逆効果だぞ? 九重は誠実で不正を嫌うような根っからのいい奴だ」

 

「それが一体私のやり口とどう関係あるわけ?」

 

「さっきの態度をちゃんとクラス全員に詫びることで誠意を見せろ。結果的にマッチポンプだが……周囲の好感度を上げたうえでお前の実力を他人との比較によってあいつに見せつけたほうが絶対に成功率は上がる」

 

「何でそんな回り道しなきゃいけないのよ。それともそれが正攻法とでも言いたいわけ?」

 

なおも頑なに自分のやり方とやらに固執するブリストルに、俺は用意しておいた魔法の言葉を放つ。こいつの性格上最も効果を発揮する言葉、それは。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ブリストルはハッと目を見開く。いい加減気が付いたのだろう。ブリストルはすでに出遅れており、すでに存在するシグトゥーナさんというライバルが油断していい相手ではないということを。事実としてブリストルは聡明な人間だ。ただ彼女自身が自分のことを客観視するのが苦手なだけで、お前は道を間違っていると説いてやれば正しい道を探し出し或いは作り出すことが出来る奴だ。問題はどうやって間違いを認めさせるかだが、それは俺がやってやってもいいだろう。契約は契約だ。

 

「なるほどね……。あの隣の銀髪よりも私のほうがいいってことを()()()()()()()

 

「お前は多少は考えられるんだから考えろ。九重はその……ぶっちゃけるとバカだからな。一緒に何日か過ごしたってだけでも情が動く。だからみんなと同じ空間の中で誰よりも濃厚な時間をあいつと過ごせばいい。学校生活という環境ならたとえ部屋が違ってもそれが可能だ」

 

ブリストルは納得したのか、先ほどよりもより明るく自信のある表情になった。こんないい顔が出来るなら、初めからやっておいたほうがいいと思うのだが根拠なしに言っても聞かないだろう。

 

「なるほどね。確かに貴方の言うとおりだわ。言われてみれば無理矢理に誘っても来てくれなかったし、基本的に鈍いんでしょうね、彼。だからまあ、貴方のアドバイスに従ってみるとするわ。時間を取らせちゃったかしら、戻りましょ」

 

「ホントだよ……。また変な目で見られたら友達出来ないかもしれないだろ……」

 

「本当に青春目的で来てるのね。朔夜から聞いた時は耳を疑ったけど……忠告しておくとこの学校は貴方の望むものとは程遠いわよ?」

 

「それでもいいんだよ。俺は俺の目的を叶えるんだよ。場所がとか時間がとかそういうのはどうでもいいんだ。ま、理解しろとは言わないよ」

 

教室のドアノブに指を掛けると、ブリストルはその手と反対の俺の手を握りながら言った。

 

「もしも、もしも《異能》が私を選んでくれなかったら――――私は貴方を選ぶ。そんな気がする」

 

「お前は特別じゃなくていいと思うけどな。普通にしてるほうがよっぽどいい」

 

「ねえ、最後に一個だけいいかしら」

 

「なに」

 

「何でこじれたのか分からないけど、仲直りしない? リーリスでいいわよ、()()

 

なんとなく不安が風に乗って漂っている気がして少し疑うようにブリストルを見つめるも、彼女には珍しく一切の哀れみがなく、代わりに友好が示されていた。不安の予兆を少し笑って追い払い、俺は扉を開いた。

 

「行くぞ()()()()

 

 

 

***

 

 

 

あっという間に一週間が過ぎ去り、《絆双刃》の登録の締め切りが過ぎ去り、また何日かが過ぎ去り、《新刃戦》本番は間近に迫っていた。

 

結果から言おう。リーリス・ブリストルはユリエ=シグトゥーナに完敗した。あれだけ言い聞かせたというのに結局拉致を敢行するなどリーリスが正気の沙汰では無かったことが原因だ。俺に言わせれば、負けて当然。

 

「何でよ! 何であのつるペタ大平原にこの霊峰が敗北しなきゃなんないのよーっ!」

 

「《絆双刃》だからって組手の授業中に愚痴を言いに来るな。さっさと向こうで対戦相手でも探せ」

 

「嫌ああっ! あんなつるペタに敗北なんて嫌あああっ!!」

 

「お前うるせえよ! 俺はもう行くからな! いつもみんな俺と組んでくれなくて、今日やっと初めてトラくんが相手してくれんだから!」

 

「いいやあああっ!」

 

リーリスを無理矢理引き剥がすと俺は白線の前に立った。向こう側にはトラくんがすでに控えていた。

 

「……夫婦というのは、大変なものなんだな……」

 

「やめろよ、本気で嫌だからやめてくれよ……。とにかく! 俺と組んでくれてありがとう! 俺、頑張るからな!」

 

「ふん。精々その威勢が空回りしないようにするんだな」

 

「始めッ」

 

瞬間トラくんが先制で放った一撃を受け流すと、その力を流用してトラくんの体を空中に浮かべた。当然トラくんは何もできずにそのまま落下する。結構鈍い音がした。

 

「おっ、これで一本かな?」

 

勝負はまだまだこれからと白線に戻ると、トラくんが何やら焦った様子でこちらに詰め寄ってきた。

 

「貴様、さっきの突きは牽制だぞ! そんな力の抜かれた技を一体どうすればあんな真似ができる! そもそも何をされたかも判らん!」

 

「うーん。トラくんて小柄だからどうしてもパワー入りにくいでしょ? だから普段の打ち込みも結構前に体重乗っけて打つようにしてるんじゃないかな。その癖が出て抜いてるようでも必要以上に力が入りすぎてる。君の持ち味は接近戦での高速戦闘なんだから、中距離戦の時は無理して一点集中しないで体重をバランスよく使えるといいかもね」

 

「そうだったのか……?」

 

「それじゃあそれを踏まえてもう一戦行ってみよう! ささ、準備を――」

 

『次は俺だあああああ!!』

 

「ええっ!?」

 

数人の武術経験者がわっと一斉に集まってくる。どうしたんだ? この間までは全然相手にしてくれなかったのに。

 

「おいおいおいそんなに強かったなら早くいってくれよ! 人が悪いぜ有咲!」

 

「本当だよ! トラをあんなに簡単に負かすなんて俺でも出来ないのに!」

 

「な、なあ有咲。私は女子だが手合わせをしてみないか? その、さっきのあれを見てしまうと武者震いが止まらないんだ」

 

「ナナ、私とやりましょう。絶対に満足させてみせます」

 

「ユリエ、お前のその誤解を招く発言はいい加減直すべきじゃないか……」

 

「なぜですか? トール?」

 

楽しい。楽しい楽しい楽しい! 思わずにやける口を全開の笑みへと変えながら俺は叫んだ。

 

「手合わせする人この指とーまれっ!」

 

 

 

***

 

 

 

頭の奥から声が聞こえてくる。何度も聞いたその声は、偉大なる彼のもの。間違うはずがない。

 

「偉大なるゲーテ。数多の英雄の代弁者。今宵は如何なるご用事でしょうか」

 

「美しきものよ、故に生き続けなければならない者よ。まあ、特に用事は無いのだ。お前さんと話したくなってな」

 

「どんな会話をご所望でしょうか?」

 

「あのだな……会話とはそういうものではないのだ。自然な成り行きで自然に出てくる言葉を楽しむ、それこそが会話というものだろうに。お前さんはまるで儂がかつて出会った悪魔だな。取り入るために即物的な何かを押し付けようとする」

 

「申し訳ありません」

 

「冗談じゃよ冗談。お前さんにそんな意図が無いのは分かっている。まあそれにしてもだ。最近のお前さんはますます美しい。ますます輝いている。その魂を磨き終えた瞬間一体どのようになるのか、早く見てみたい」

 

「申し訳ありません偉大なる者。私はそのようなものでは決してありません。私は恐れ多くも貴方がたを不相応にこの身に宿す下賤なものです。私に裁きを。一刻も早く、貴方がた全てによる断罪を、私は望みます」

 

「だが宿すおかげで強さがあり、友人もできそうなのだろう? 我々は全員、お前さんが幸福であることを望んでいる。お前さんを不当に占拠している現状を悔いている。お前さんが壊れてしまうとすれば、それは我々の責任よ。罪があるというのなら、我々は過去の腐りきった産物にしてもっとも新しい英雄の器を持つお前さんを脅かしている。我々がそれを望むと思うてか。否、断じて否だ」

 

「いいえ、いいえ。私はもう――」

 

「今宵はこのくらいでいい。また話にこよう。願わくばお前さんが、お前さんを認められることを――」

 

「待って、待ってください! お願いです! 私は、俺は――」

 

()()()()()()()!!」

 

「どうしましたか!?」

 

「はあ、はあ……」

 

眠っていたはずなのに、気が付けば汗で体中びっしょりだ。朔夜が心配して駆けつけてくれる。

 

「また、夢を見たのですか?」

 

「ああ、俺を許すだなんて、あるはずのない事を仰るんだ。そんなはずが、そんなことがあるわけないのに」

 

「ああ……こんなに顔を青ざめさせて……。何か飲むものを持ってきますわ」

 

「ごめん朔夜。本当に、ごめん。その、お願いしてもいいか」

 

「ええ、すぐに持ってきますわ」

 

暖かいミルクを朔夜と一緒に啜る。少しは冷静になれたし、嫌な汗も徐々に引いて行った。

 

「慣れない環境に連れて来てしまい、本当に申し訳ありません。ですからその、わたくしのことを嫌わないでくれると嬉しいのですけれど……」

 

「ああ。それはない。俺は多分、お前を嫌ったりはしないよ」

 

「そうですか。安心しましたわ。わたくしにとってはそれが一番つらい事ですから。ですが何故? いくら貴方をそのようにしたのがわたくしの父上だからといって、その研究を引き継いでいるわたくしを恨む権利が貴方にはありますのに」

 

それは、どうしてなのか自分でも分からない。別に憎んでなんかいないし、感謝すらしてる。でも理由を聞かれても、よく分からない。分からないのだ。朔夜を見ているだけで自分でも制御できない謎の何かがあるから。

 

「お前の目を見てると、ずっと見ていたくなる。吸い込まれそうになる時があるんだ」

 

「えっ?」

 

「それにお前が笑ってると俺も嬉しいし、悲しんでると俺もすごく悲しくなる」

 

「奈々さん、それは――」

 

「なあ、お前なら分からないか? 何で俺がそうなるのか、知らないか?」

 

何故だか、何でも答えてくれるはずの朔夜は、この時だけは何も答えてくれなかった。

 

 




アブソ最新話です。アニメとはちょっと変化をつけて書いてます。一応は二次創作ですし、お手本に合わせて書くだけでは面白みがない……なんていっちょ前に言ってますが原作はリスペクトしてます。本にできるくらい書けるって凄いと思います。それだけで尊敬できてしまいます。次はSAOのコラボ回でしょうか……。もうすぐ終わると思うと少し寂しくなりますね。

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