原作と違いすぎてどうすればいいのかわからない (七黒八白)
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プロローグ
ふと、意識が覚醒した。さっきまで自分が何をしていたのか思い出せない。寝てたのか?俺は?だが意識ははっきりしている。
「まぁ、落ち着きなよ、人間。あとここは僕が君を招くために造った空間だよ。」
せせら笑うような声が聞こえた。というか何だ?人間よばわりって?しかも造った空間?招くために?何を言っているのか分からない。.......いや、直観的に分かったかもしれない。だが正直分かりたくない、いや分かりたくなかった。
「うん、僕は君たち人間の言うところ、『カミサマ』だよ。」
まるで他人事のように『カミサマ』は言った。察するに人の定義に合わせてるだけなのかもしれない。
「会話して頭が冴えてきたのかな?結構冷静だね。」
頭どころか体すら見当たらないんですが?
「いやぁごめん。それよりさ君神様転生って知ってる?」
謝る気ないだろ。てか、その言葉で全部悟ったわ。実家のような安心、いや安定感を感じる。
「テンプレって言いたいのかい?でもまぁ、そう邪険にしないで、ちょっと転生してくれない?」
いやノリ軽いなお使い感覚か。てか、え、マジで死んだの?俺?死んだ時どころか生前すら思い出せないんだけど?
「うん、死んだ死んだ。マジで。というか僕が殺したんだけどね。」
.....................は? 一瞬、こいつが言ったことを理解できなかったが、すぐにその訳を話し始めた。
「いや、君結構よさげだからさ、ついね。やっちゃったよ、うん。」
もうわかった。こいつは神は神でも邪神の類だ。そして理由になってねえよ。
「やっぱ、君いいね。結構察しがいい。じゃあ、そろそろ話を進めるよ?君にはさ転生してその世界で面白おかしく生きて欲しいのさ。でもって原作改変して、つまりIFの物語を見せて欲しい。転生する世界はもう決まってる。教えないけどね。そして君には加護を、いや特典?を与えるよ。テンプレって大切だと思うし。」
最近は賛否両論あるけどな。しかし娯楽為に殺されて今度は操り人形になれって、ごめん被る。
「いいのかい?それは無に帰るってことだよ?それに今言ったように見せて欲しいってことは、君が君のまま生きればいいのさ。何大丈夫さ、一回転生してくれたらそれで解放する。何度もやったらいずれは壊れるだろうしね。」
何気なく『カミサマ』は言った。無に帰る、左手に鬼を封じた教師の漫画ではよく聞いたフレーズだが、どんなものかは想像できない................できてたまるか。選択肢なんて無いに等しい。
「わかってもらえて何よりだ。それで、どんな特典が欲しい?割と何でも叶えられる自信あるよ?」
いきなりだな。転生する世界が分からない以上かなり限られる。魔力のない世界で無限の剣製とかやってみ?不発ならまだいい。実際起こったら、下手すりゃ解剖されるかもしれない。
「ちなみに、西暦2000年以降の日本に転生することは確定してるよ。」
それだけじゃ安心できない。東京喰種とか亜人だったら死ぬより辛い目に合うかもしれない。
「弱気だねぇ。大丈夫さそこまでファンタジー色強い世界じゃないし、努力次第でどうとでもなるさ。それに........」
それに?なんだよ、そこで止めんなよ。不安になるだろうが。
「原作に限りなく似てるだけで、原作そのものの世界じゃないからさ、もしかしたら君が何もしなくとも勝手に改変するかもよ?」
それはそれで、恐ろしいことが起きそうだが....よし、じゃあ特典は健康で強靭な体に生まれるようにしてくれ。頼むからサイヤ人とかにはすんなよ?日本でも違和感ない程度にしろよ?
「えーつまんないな。魔力SSSランクにするとか、大嘘憑きとかいらないの?」
いらないよ。てか結構詳しいな?何?よく読んでたの?あと後者は本人いたらどうすんだよ。
「はいはい、じゃあ干渉するのはこれで最初で最後だ。良き人生を。死んだらまた会おう。」
そんなこんなで転生を果たして、はや4年。俺こと雨木 梟助《あまぎ ほうすけ》は絶賛幼児です!.........うん、誰に何言ってんだろう俺?ちなみに、前世の記憶とかは全く戻ってない。年齢にそぐわない理性と知識はあれど、人生の記憶は転生に当たって邪魔とあの邪神が消したのだろう。考え方によるが悪くはないのかもしれない。自分がどんな人だったのかとかは気になるが、今俺が生きてるのはこの世界なのだから。....ぶっちゃけ、赤ん坊の体でこの理性があるのは色々きつかったが、うん、忘れよう。おしめの交換とかなかった。
しかし、この4年色々と情報収集したが、普通の日本である、埼玉県川越市である、厳密にはここにきたのは今日引っ越してきたばかりなのだが、それでも普通である。霊力とか魔力とか、喰種も亜人も、箱庭学園もありはしない。いやあったら、困るけど。今は西暦2013年である。ドラえもんが生まれるにはまだまだかかる。
平和に越した事はないがいいのか?これ?まじ何もないよ?引っ越し報告だけで終わるぜ、これ?そんな誰に対しての脅しか分からないことをかんがえていると、
「おーい、梟助!近所の皆さんに挨拶するぞ!早くしろ!」と実の父からの呼び出しがかかった。勿論俺の知る限り、父も母も普通の両親だ。血はつながってるし、俺に虐待などは一切していない。
もうこれわかんねぇな、など考えながら父の後に続いていくと、何故か見覚えがあるような家があった。
それは、一軒家にしては珍しく道場があった。庭もなかなか広いようだ。何でだろう?珍しいが何故見覚えが.....しかしそれも次の瞬間氷解した。
「どうも、桐ヶ谷さん。この度は近所に引っ越してきた、雨木と申します。何卒宜しくお願い致します。」
「わざわざありがとうございます、雨木さん。夫は単身赴任でいませんが、こちらこそよろしくお願いします。」
桐ヶ谷。この苗字で何らかの漫画もしくは小説、いやライトノベルとなれば、少なくとも俺は一つしか知らない。
「梟助、お前も挨拶しなさい。何をボーっとしてるんだ?腹でも痛いのか?」
「いや、でかい家だなーって、こんにちは。桐ケ谷さん、ボクは雨木梟助です!雨の木に、梟の助太刀で、梟助です!あと4歳です!」
「あら、若いのにちゃんと挨拶できるのね、こんにちは。うちの直葉とも同い年だし、仲良くしてくれるとありがたいわ。」
やはり、ここはソードアート・オンラインの桐ケ谷家か!アニメでしか家は見たことが無かったが.....直葉、間違いないな、ここに桐ケ谷和人ことキリトがいる!確か、物心つく前に交通事故で両親を失ってしまったはずだから、多分5歳ぐらいのキリトが.....!
「直葉?って女の子?男の子はいないの?」かなり踏み込んだが、子供なら怪しまれないはず!
「ごめんね、梟助君。うちには直葉しかいないのよ。でもいい子だから仲良くしてね。」
「梟助、異性でも仲良くできるだろ?我儘言うなよ。」
What......? えっ?いや?おまっ?主役いないって、どゆこと?など言えるはずもなく。
「うん!わかった!仲良くするー!」と満面の笑みで答えた、まさか、原作に限りなく似てるだけの世界と言っていたが、いやまさかな?
「じゃあ梟助君。直葉に会って見る?今は道場でお父さんの稽古見てると思うから」
「じゃあお言葉に甘えて、梟助、お前ちょっと挨拶に行ってきなさい。」
しめた!キリトがいない理由がわかるかもしれない!原作の主人公がいないのはいくら何でも無視できない。もしかしたら、早急に事を早めなくてはならないかもしれない。そんな事を考えながら俺は「じゃ、行ってきまーす!」と言いながら道場へかけだした、と言っても、家の庭すぐに直葉らしき幼女を発見した、道場で竹刀を振っている祖父を覗いているようだ。邪魔はしたくないが、許可は得ているし、こちらの事情もある。すぐに話を.........。
「君は一体誰かね?ここらじゃ見ない顔だが?」
その声を聞いた瞬間口から心臓が飛び出るかと思った。信じられないことに道場で竹刀を振っていたはずの桐ヶ谷祖父がこちらに気づき、こちらが気づく前に、扉を開きこちらを見ていた。嘘だろ、いつ近づいた?直葉を見てたのも、ほぼ数舜だぞ!?なんてこちらの動揺も気にせず、
「直葉、お前の友達か?何もきいていないが?」
「ううん、ちがうよ、みたこともない。」
やばい、平和なはずの日本なのに、死亡フラグが立っている気がする!
「驚かせてしまったなら、ごめんなさい。ボクは今日引っ越してきた、雨木梟助です、桐ケ谷さんに許可を貰ったので挨拶に来ました。」
「へぇ~こんにちは。あたし、すぐは。よろしくね!」
「.........桐ヶ谷 武蔵だ、よろしく、梟助くん?」
明らかに武蔵さんがこちらを疑っている!?何故だ、いくら何でもそこまで疑うか!?怖いよ!?
「で?それだけかね?」
「あっ、はい、粗品は父が渡していると思いますので.........」
やばい桐ヶ谷祖父が怖すぎる、何も聞き出せそうにない.........。
「すまないが、私は外せない用事があるのでね。行かせてもらおうか。直葉、梟助と遊んでなさい。」
「はーい!いってらっしゃーい!」
と俺がビビッている間に、桐ヶ谷祖父はさっさと行ってしまった、俺を怪しんでたのではないのか?しかし、あの厳つい顔はなんだったのか.........。
「ねぇねぇ、なにしてあそぶー?」
「!?っと、あ~ちょっとまだ荷物を運ばないといけないから、遊ぶのはまた今度かな?」
いきなり話しかけられて驚いたが、直葉はどうやら俺のことは 警戒していないようだ.....いやまて、これはチャンスなのでは?しかし、どうする?普通に兄がいるか聞くか?だが、桐ケ谷母のあの様子は嘘ついてるようには、そもそもそんな理由ない.....はずだ。
「ちぇ、おじいちゃんもいないし、ひまなのにー」
「.....少しなら遊べるよ?」
「ほんと!やったー!」
流石俺とは違い純粋な4歳、素直である。この後ある手伝いを、忘れてたことにして、今くらいは直葉と遊ぶことにしよう。だが、驚くことにこれが功を奏した。
「でも、おじいちゃんは何処に行ったんだい?」
理由なんてない。会話を繋ぐためになんとなしに聞いただけだ。なのに、
「うん、おはかまいり、
わたしのいとこのかずとくんの。」
それは、俺が聞きたかった、でも聞きたくなかった、答えだった。
桐ヶ谷和人は、原作の主人公は死んでいた。恐らく数年前に起きたであろう事故で。
ここまで、読んでくださってありがとうございます。タグにはありましたが、
これからどんどん原作はこわれます。ソードアート・オンラインですが、中身は全くの別物かもしれません。キリト君が好きな人はこれ以上はオススメできません。
あと、出来るだけ控えたいと思いますが、オリキャラが出るかもしれません、今回で言うなら、桐ケ谷祖父に名前をつけたり、といった感じで。未定ですのでタグはまだつけません。
8/23 色々端折りました。
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第一話 決意と下積み
すぐは「かずとくんのおはかまいりー」
梟助「\(^o^)/オワタ」
シリアス以外も書く予定です。
あの『カミサマ』は言った。原作とは限りなく似てると、つまり原作とは違う点があるということ。それ位のことは予測はしていた。だけど、だけども主人公が原作始まる前から死んでるって、きつい、かなりきつい。確かに物心つく前のキリトはそこまで特別ではないだろう。少なくとも、客観的に見て身体能力がぶっ飛んでるとかはないはずだ。
だから、両親が死んだ事故で同じように死んでいてもおかしくはない.........。
俺が悩むのも筋違いだが、キリトが死んだことでどの位この世界に影響があるのだろうか?SAOはクリアされるのか?ALOは須郷の実験場のままか?GGOでシノンは救われるのか?最大の問題はアリシゼーションはどうなるか?これらの出来事は全てキリトの活躍により繋がっている、どれか一つ成り立たなくなれば、総じて破綻するだろう.........
「.....いや、それも怪しいな.........。」
主人公が死んだのだ。どんな事が起こってもおかしくないように思える。茅場や、菊岡など、可能性ならいくらでもある。そもそもキリトが死んでるなら、シノンも死んでるかもしれない。彼女も確か、幼少期に交通事故で父親を亡くして、母が壊れたと.........。
「言いたかないが、他の原作キャラも死んでない保証はないよな.........。」
目下の問題はSAOだろう。この世界の茅場が死んでない限り、恐らくはSAOは起こる。起こらない予測は甘えだ、その時は普通に生きればいい。拍子抜けだが人が死なないのだ。ある意味原作崩壊、良いことだ。
だが、デスゲームは多分起こる。俺が解決しないと、なんて英雄願望はない。いやあるかもしれないが、一番の理由はこの世界はどれだけ原作崩壊を起こそうと、「ソードアート・オンライン」であることには変わりないのだ。SAOに限らず、VRに慣れておかねば、まずいかもしれない.........。
「違うな.........そんな徳の高い理由じゃないな.........」
生前の記憶を奪われたとはいえ、何故俺は転生を受け入れた?死ぬより辛い目に合うかもしれないことは予測していた。自分にとって都合の良いことが起こる保証なんてない。何もかも不確定。ファンタジー色が強くなくとも地獄を見れるだろう。どこの世界でも。
では、何故か。理由は簡単だ。
「楽しめる、端的にそう思ったからだろう.........」
倫理はある。道徳もある。良識は捨ててない。だが、我欲もあるし、捨ててないし、必要だ。キリトが死んだことは喜べない。例え彼がどれほど女性を引っかけようと、英雄の様な功績を建てようと、嫉妬がないとは言えないが、それでも死を望みはしなかったし、喜ばなかった。むしろ引け目のようなものすら感じた。他人が得るはずの栄光を横取りするような、いや、まさにそうなんだろう.........。
「でも、俺は俺の人生が生きたい。キリトには悪いが、だからって自殺するつもりはない。」
キリトの代わりなど務まらないし、務まるべきではないだろう。彼への侮辱ともとれる。だが、例え転生者という、イレギュラーでも生きることを楽しみ、生きることを選ぶことは許されるはずだ。俺は運が良かっただけなのかもしれないが、結局俺がここで死んでも、俺の自己満足で終わる。キリトは蘇らない。
「生前なんて思い出せないけど、聖人じゃあなかったはずだ。」
ならば、生きる。思いのまま。誰も彼も犠牲者全員救うつもりはないけれど、救えるとは思えないけど、
「俺は生きたいんだ。俺の人生を、新しく。俺はお前じゃないし、お前は俺じゃない。」
そう俺は桐ヶ谷和人が眠っているであろう墓で決意表明をした。
そよいだ風は、彼の後押しか、なんて都合がよすぎるかな?
さて、さっきまでパネエ位シリアスだったが、ここらはギャグテイストで行くぜ!.....................いやだからさ、誰に何言ってんだ俺は?落ち着けよホント。何か台無しだよ。でもしょうがないね。ずっとシリアスな雰囲気は疲れるし、さっきの決意表明も他人から見れば、ただの痛い子である。......見られてないよな?
キリトが死んだということは、物語の修正力とか、強制力はないと考えた方がいい。つまり転生者だからといって鍛えなけりゃお陀仏である。SAOはVR。体の強靭さはさして関係ないだろう.....特典ミスったなこれ.........。時間はまだ9年あるし、剣道とか、柔道とか、警察官になりたいとか言って、親に習うように頼んでみよう。もしかすると直葉や桐ヶ谷祖父に鍛えてもらえるかもしれない。SAO自体を止めるとなると、茅場を殺害しないと無理だろう。でもデスゲーム起こす位だし、お手製の殺傷力バリバリの飛び道具位作ってそう。量子物理学が何なのかは詳しく知らないけど、簡単なレールガン位作れそうだし.........。うん!茅場殺害はなしの方向で!多分無理ゲー。
「4歳じゃ、流石に武道は無理かな?本でも読んで知識蓄えるかな?」
そんな事を考えながら、家のネットで武道の事を調べたり、武器の事を調べたりしていると、インターホンが2,3回鳴らされた。
「うん?誰だ?回覧かな?」
俺は4歳なので、昼間は家に一人だ。普通は考えられないかもしれないが、中身はほぼ成人男性(のようなもの)なので、保育所の類には行ってない。両親を説得するのに、だいぶ手間取ったが関係ないので閑話休題。
それよりもインターホンを押したのは誰か調べなくては。息を殺し、足音を殺し、ドアの覗き窓からそっと覗くと.........。
「ふむ、そこにいるんだね。梟助君?」
桐ヶ谷祖父がいましたとさ、めでたしめでたし、じゃない。何でこっち覗いてないのにいるの分かるの?あの時の挨拶も偶然じゃないの?孫娘に近づく悪い虫を察知したの?俺の冒険始まってないのに終わるの?
「怖がらずともいい、扉を開けずそのまま聞いてくれ。」
踵を返す選択肢はないんですね分かります。
「以前は睨みつけて、すまなかった。あの時は少し気が立っていてね....。君が直葉に良からぬことを企んでいるなどと勘ぐってしまった、申し訳ない。」
.........やはり、というべきか桐ケ谷祖父はこちらが怯えていたことに察していたようだ。そして俺が直葉にキリトのを聞き出そうとしたことも感づいてたらしいですね、死亡フラグばっちり立ってたよ。というかだ、桐ヶ谷祖父の容姿を伝えると、左目は眼帯をして、老成してはいるが、腰も膝も曲がっておらず、声もしっかりしている。白髪交じりの鉛色の髪はオールバックにしている.........。あの、声(CV 〇田 〇勝)とか眼帯とか、出る作品間違えてませんか?その眼帯の下、刺青とかありませんよね?単騎で戦車相手にした事とかないですよね。
「私の事はいい、だが直葉とは仲良くしてやってくれないか?近所に同い年の子ができたことを喜んでたんだ。」
.....................原作では桐ヶ谷祖父の事はほとんど書かれていなかったはず。せいぜい昔かたぎだということ位。だが俺には不器用なおじいちゃんにしか思えなかった。普通するだろうか?こんな謝罪。孫娘がいじめられないようとか、理由は考えれるが...................よし、物は試しか、せっかくの特典だし。
「大総t....武蔵さん、確かに俺は怯えましたがあなたに悪気がなくわざわざ謝罪までして下さった。」
「.....................」
間違えかけたが、ギリセーフ。しかし、この人の血を引いてるならキリトが強いのも頷ける気がする。何か至近距離から放たれた砲弾もぶった切りそう。
「孫娘に得体のしれない奴が近づけば、警戒するのが普通でしょう。別に気にしてませんよ。」
「...そう言ってもらえると、助かr「しかしですね、武蔵さん。」ん?なんだい急に?」
ちと食い気味だったが、巧みな話術なんて持ち合わせてないのでこのままゴリ押しする。
「出会ったばかりの、女の子と直に仲良くなるのは、子供でも難易度高いですよ。」
「むぅ.....そうなのか?子供なら簡単に意気投合しそうなものだが.........。」
「人によりますけど正直俺には難しいですね、共通の何か趣味とかないと.....。」
「.......何とかできんかな?私にできることがあれば 良いのだが.........。」
そ れ を 聞 き た か っ た !
「じゃあ、武蔵さん。俺に剣道教えてくれませんか?」
「?何故そうなる。それ自体は構わないが.........。」
「直葉ちゃんって多分剣道興味あると思うんですよ。なら必然的に、話題ができるんじゃないかなって、あとちょっと訳あって、体鍛えたいんですよね。」
「.........そうか。」
流石に怪しんでるが、問題ないだろう。いくら桐ヶ谷祖父でも未来に起こる事件の対策の為など分かるはずもない。それに具体的な月日は知らないが、原作が始まる頃には桐ヶ谷祖父はきっと.........。
「君が何を考えてるかは分からないが......何あったらまずは大人に相談しなさい。子供だけで出来ることはたかが知れている。認めたくないかもしれんが。」
「..................わかってます。」
わかっている。少なくとも自分が転生者であっても何でもかんでもできるとは思わないし、したくない。キリトの墓の前で決意を固めたりしたが、未だに俺は生きることに当たっての目標が希薄だ。4歳児でも中身は違うのだ。何か、明確な目標を作ることも大切だろう。原作に関わる以外で.........。まずは原作の事件を丸く収めたいが。
「では、親御さんの許可を得られたら、私の所に来なさい。毎日は無理かもしれんが、護身位にはなるだろう。」
「わかりました。そのように」
多分原作が始まるまでの9年はこんな感じですごしていくことになるだろう。この間にも原作のキャラと出会ったりするかもしれないが.....望み薄だな。シノンに至っては東北の何処かもわからんし。
自分で出来る限り見直してますが、誤字が結構酷いですね。すみません
多分、この作品はキリトのやるはずだったことをオリ主が何とか丸く収めようとする感じです。でも6歳の時点でPC自作できるキリトと彼じゃ当然違うので、その辺を丁寧に書こうとおもってます。
あとギャグネタのタグとかは付けてた方がいいんですかね?
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第二話 過ぎる日常 まだ何も始まらない
桐ケ谷祖父「さて、梟助君。君はどうすれば直葉と仲良くなるのかね?(CV.〇田〇勝)」
梟助「((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」
そんな感じでマイペースにはじまります。原作はまだ先ですね。
桐ヶ谷祖父となんやかんやあって、もう三年経ち2016年。俺は7歳になった。直葉も原作通り剣道を始めている。ちなみに、僅差だが俺の方が始めたのは早いので兄弟子ということになっている......あと分かってたけど桐ヶ谷祖父めっちゃ強い。もうそろそろ80歳になるそうだが、全く老いを感じない。身体能力が勝っても勝てる気がしない。やっぱりあの眼帯の下には自分の尾を飲み込む蛇の刺青があるとしか思えない。本人は「若さゆえの過ち」と笑ってたが、どこの赤い彗星だよ。確かにあんた素早いけど。
「雨木君どうしたの?考えながら歩くと危ないよ」
「あぁ、すまん。いやどうしたら武蔵さんから一本とれるかなって」
「いやぁ無理でしょ?若い頃凄かったらしいし、雨木君も凄いけどおじいちゃんは別次元だよ。」
「確かに70台後半の動きじゃないな、あれは。」
そして俺が望んだ、或いは桐ヶ谷祖父が望んだ通り直葉とも繋がりが持てた。自画自賛かもしれないが中々仲が良いんじゃなかろうか?暇なときはよく竹刀でしばき合っている。この夏休みも大体そんな感じで過ごした。直葉の力も借りる時が来るかもしれないので是非とも原作以上に強くなって欲しい。
「でも雨木君も色々おかしいと思うよ?飲み込みの早さとは別に体の頑丈さとか、傷の治る速度とかさ。」
「....そうか?若いからじゃないかな?俺は別に何とも思わないけど?」
そうだった、それがあった。『カミサマ』に健康で強靭な、日本でも違和感ない程度の体を頼んだが俺の体は近しい人でなければ気が付ないだろうがかなり凄い。まず病気に罹らないのはまだ普通だが、罹ったとしても風邪薬を飲めば3分で完治し、捻挫も2,3日で治る。今の所分かってる異常な事はこれくらいだが.....サイヤ人は駄目だといったがマサラ人も駄目だろ『カミサマ』。
「おじちゃんも言ってたよ、心身ともに子供とは思えん。天才というより異端だって。」
桐ヶ谷祖父のチート具合は今に始まったことではないが、もうあの人は俺の正体に気づいているかもしれない。てかあの人もしかしてオリ主なのでは?
「カンガエスギダヨ、それより学校に遅れるから早く行こう。」
「なんか凄い片言な気がしたけど......わかった、行こっか。」
なんやかんやと話しながら俺と直葉は学校に向かう。のほほんとしてると忘れそうになるが、ここは「ソードアート・オンライン」の世界なのだ。色々と対策をしておくに越した事はない。原作キャラの動向も頑張っているが、当然収穫は皆無である。ユウキの生存を確かめるため横浜の病院を原作以外の所もマラソンがてら走りまくって探したが、流石に病院のセキュリティーは固く子供の身分でも無理だった。原作通りならユウキはHIV患者...機密としては最高峰のものだから無理もないが.........。
「なあなあ!夏休みにやってたあの映画見たか!」
「あぁ見た!凄かったよな!」
「俺の弟なんか影響受けすぎてずっと主題歌歌ってるぜ!君の前ー」
おっとそこまでにして貰おうか。色々と危ないからな。教室に着いて、クラスが違うため直葉と一旦別れ、自分のクラスでのんびりしていた。この学校に原作キャラがいないことはもう判明している。だがそれとは別に、俺は重大な問題にぶち当たっている。それは.........ボッチだと言うことだ!!
「チラッ.........ヒソヒソ」
「ヒソヒソ.........ヒソヒソ」
「アイツ.........ヒソヒソ」
何故にこうなった、別にいじめとか、クラスの皆に惹かれるような事はしてないはずなんだが。体育の時間とか、もう、ほんとね、先生わざとですか?いい加減さ、分かれよハブられてること位。何で毎回「はい、二人組作ってー」なんだよ、女子に嫌な顔された気持ちあんたには分からないのか!一番辛いのはハブられてる理由が分からないことだ。虐めっ子をボコボコにしたとかないし、先生の事を論破したこともない。いやマジで何でだ?わからん。まぁ時間を割かずに済むからいいけど.........。目を向けただけであからさまにビビらないで欲しい。なんて考えてるうちにチャイムが鳴り、先生が入ってくる。
「お前らー、席に着けー。はい、あとそこ、その映画の話すんな、先生まだ見てねえから。」
一時間目は...算数か。流石に小学生の勉強は聞いてるだけでも、百点とれるので予め用意していた英語と漢検の問題集を算数の教科書で隠しながら、先生にばれないように解く。あの先生は結構いい加減なのでこれでごまかせる。コナン君はどう過ごしているのか、非常に気になるところである。
「(おい!見ろよ!あいつまた何か凄いの解いてんぞ!)」
「(あれ、英語だよな、何であんなもんやってんだ?)」
「(その癖テスト満点だよな、おかしくね?)」
「閑却」?何て読むんだコレ?全くわからん。知能も何か特典貰った方がよかったかな。
あたしには不思議な幼馴染兼兄弟子がいる。
「...ッ!!!」
「ふむ...。」
無声の気合とともにあたしのおじいちゃんに、そしてあたしと彼の師範に特攻を仕掛ける。その速さはとてもではないが小学生のものとは思えない。あたしにはまだ違いがわからないが、おじいちゃん曰く技術ではなく純粋な身体能力による物だという。
「シッ!!!」
「温い。」
が、それでも子供の域を抜けきっていないのか容易く対処される。76歳の老人といえども、あたしが物心ついてから一度も鍛錬を怠っているところを見たことが無い。外見も白髪が混じっているが、70台には見えない程若々しい、そんな相手に力業で挑むのは無謀極まりない。だがそんなことが分からないあたしの兄弟子ではない。突き気味に放った面を竹刀で払われ、立ち位置がちょうど入れ替わった。直後振り返り今度は姿勢を低くし、顔の横に竹刀を添えたまま特攻をしかける、おじいちゃんは少し呆れたようにまた同じように竹刀で払おうとするが、
「ハッ!!」
「!なるほど。」
竹刀を払われるよりも先に、自分の竹刀を片手持ちに変えてリーチを急に伸ばした。簡単なフェイントだが同時に弾丸のような速度で前に跳び、竹刀の速度を超えた、これなら払われない。
「なら、こうだな。」
「!?」
それに対しておじいちゃんがどう防いだのかは見えなかったが、どうやら兄弟子の策は敗れたようだ。成長の早さ、随所に見られる工夫、抜きんでた身体能力。正直天才の類かとおじいちゃんに尋ねたが、「才能とはまた違う、努力とも少し違う、育ちが早いんだろう。特に精神面がな。」と言っていた。確かに子供らしくない所は多々あるように思える。おじいちゃんに剣道の師事を頼んだこと、豊富な知識、同年代の男子とは違う形の落ち着き、性格ではなく、まるで弟を見ている兄のように思えた。
「ッオォ!!」
「気合だけか?」
また背を晒す形になり、振り返る形で横に竹刀を振るうが初めから範囲を見切られていて振った直後を狙い今度はおじいちゃんが特攻を仕掛ける、いやすでに仕掛けていた。
「年にしては動けている」
「....!!」
「だがそれだけだ。」
四方八方から飛んでくる竹刀を動きながら、竹刀で捌きながら回避しようとするが、素人目でも明らかな程体が追い付いていない。埒が明かないと思ったのだろう、自分からエビのように飛んで後退した。
「ハァッ「突きに拘り過ぎだ!」ごッばあぁ!!?」
追いかけてきたおじいちゃんに対してカウンターに放たれた突きは竹刀で上に逸らされ、がら空きの胴に下から突き上げるかのような肩からの体当たりが諸に入った。叫び声というより、肺から無理に空気が絞り出されたような声だった。その勢いのまま3,4回後転し、
「ぐ...ぁあ...」
「.........。」
「......ありがとうございました。」
「うむ、このくらいにしておくか。」
膝まづいた状態でそう言った。立つ程の体力もないのだろう。防具を付けて動き回るのは体力の消耗が激しい。剣道の試合は一試合原則5分だが、それでも体力はかなり使う。そして兄弟子は通常の稽古だけでなく、おじいちゃんとの試合をほぼ毎日、40本、休日は倍行っている。平日でも単純計算200分である。ぶっ続けで無いにしろ、二人ともおかしいです。
「あー、負けに不思議な負けなしというけど、勝てねー。」
「気にすることは無い。君はすでに中学生が相手でもまともにやり合えるさ。」
「嬉しいんですが、武蔵さんにはいつ勝てますかね?」
「.......私が死ぬ前までの課題だな。」
「まさかの皆無ですか!?」
「それより雨木君もおじいちゃんも、今何時だと思ってるの!?夜の9時半だよ!?」
「すまん、家近いからついな。」
「すまん、梟助君が頑丈なもので。」
この二人は案外似てるのかもしれない。
桐ヶ谷祖父強すぎワロタWWWWWWWWWW.........。いや笑ってる場合では無いけど。反省しなきゃだけど。あの人リーチ伸ばしたフェイント突きを竹刀の柄頭で逸らした.............人間業じゃねえよ。どんな動体視力と反射神経だ、それとも予測してたのか?原作キャラよりキャラができてないか?あの人。しかし、力業でゴリ押してる一面も否定できないけど中学生とやり合えるか。あの人の言葉だ信じてもいいだろう。戦闘の慣れはある程度できた。後は何が必要だ?知識?ネトゲに関する?その辺も調べるけど、SAOに従来のネトゲの常識が当てはまるのか......?謎だ。体術とかにも手をだそうかな。二束わらじ出来るかもしれんこの無駄に頑丈な体なら。
「原作に関する情報収集と体術の練習かな?今後の課題は。」
多分この特典の活用法これくらいしか今のところないし、俺にどれだけVRの適正があるかは分からないが。原作では幼少期に剣道を辞めたキリトでも通用し、ALOから参戦した直葉はその実力で初めから強かったというし、結構いい線行けるのでは?
「しかし、まだまだ先だしな。今はのんびりするか。」
原作まであと、6年。キリトの軌跡を知った上で俺はどんな冒険をするんだろう。
「これでSAO参戦出来なかったらどうしよう.........。」
怖すぎるのでそのことを考えるのはやめた。
戦闘描写が難しい、直葉視点だったからかもしれませんがその辺は今後調整してきます。
あと、2,3話くらいかな? ヒロインは候補はありますが、未定です。タグに出すのもかなり先だと思われます。
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第三話 嬉しい誤算 狂い始めていた運命
直葉「人間やめてない?」
梟助「せやろか?(マサラ並感)」
一話にもあったように、これはソードアート・オンラインの皮を被った別の小説、IFのそのまたIF位の気持ちで見て頂ければ幸いです。
悲劇も喜劇もそのままかもしれませんが、そうじゃないかもしれません。
気が重い。2016年、冬休みももうすぐという普通の小学生ならワクワクする中、朝っぱらからそう思わずにいられなかった。きっとみんなは冬休み期間に何をするか考えているのだろう。スキーやら初詣やらそんなイベントに胸躍らせてるのだろう.........俺?年末恒例のケツをシバかれるあれを見ながらソバすすって終了である。だが俺が気を揉んでるのはそんな事でなく、
「何で、いつの時代もこういうイベントはあんのかね.........。」
今日は何でも近所の子供に入学前に学校の事を知ってもらおう的なイベントがあり、俺たち二年生はその5歳児達の引率というか、案内役をしなくてはならない。めんどい(小並感)。
「.........ふけようかな。」
別に子供が嫌いなわけではない。自分も子供だが.........。ただ周りにハブられている理由も分からないのに、初対面の子供を泣かさない自信は無いだけである。いやもういいかな?ふけようかな?いいよね別に、相手にも悪いし。
「てか最近の子供は結構賢いとこあるし、いらないだろこの行事。3,4歳でもポチポチスマホいじる時代だぜ?」
勿論返す相手などいない。もう俺もボッチを受け入れつつあった。土台無理があるのだ。精神年齢一回り違うのに対等な関係を結ぶなど。三者面談で「雨木君は友達とかいないの?」という精神攻撃を堪えればいいだけの話である。というか、先生は気づいてるだろ俺がボッチなことを。わざと?ねえわざと?
「あーさっさと原作始まんねーかな。」
若干ダメ人間になりかけてる気がしないでもないが、あと6年弱くらいとはいえやっぱ長い。やってることもそんな代わり映えしないし、桐ケ谷祖父に鍛えてもらい、直葉と切磋琢磨し、合間に伝説の傭兵のCQCを真似たり。
「マンネリ化を否めないな.....でもやることないし。」
とかなんとか考えてるとチャイムが鳴り授業が始まる、まぁいいか。別に原作キャラに会えるわけでもなし。適当に済まそう。
「こんにちは!ボク、紺野木綿季です!今日はよろしくね!」
「( ゚д゚)」
「(゚д゚)」
マジでか。ほぼ思考停止している俺の中に浮かんだ感想はその程度のものが精一杯だった。いや、確かに病院では見かけなかったし、無事だったらいいなぁ、とか考えてたが、そもそも何で川越市にいるのだろう?原作では横浜の病院に入院していたことから住んでるのもそのあたりだと考えていたのだが.........。
「?どうしたの?お兄さんおなかでも痛いの?」
「え?いや別に?ただ、あの、なんか、君ここらでは見たことないなーって。」
わざとらしい。自分でもそう思うほど挙動不審だった、おまわりさんこいつですされても仕方ないレベルだった。おい、やめろ、やめて、通報しないで。
「あ!わかる?僕ね最近ここに引っ越してきたんだ!」
天真爛漫。そんな言葉が似合いそうなユウキ(推定5歳)はあまり気にしてないようだった。しかし引っ越しか、時期的にはおかしくないのか?よくわからん。そしてHIV患者かどうかはまだ分からない。潜伏期間や、初期症状が面倒なのもHIVの特徴だからだ。原作ではどの位の時に発症したんだ?しかし「君、HIV患者?」なんて聞けるはずもない。そして知るべきなのか?知ってどうする?俺に治せるはずもない。自己満足以下の下衆の勘繰りである.........。
「.........ユウキはどうして、ここに引っ越してきたんだ?」
でも、聞いた。それらしい理由もない、ただ聞いて、その上でユウキと接する。そんな当たり前のような事しか、俺には思い浮かばなかった.........我がことながらさもしいことこの上ない。
「んー?さぁ?ボクはよく知らない。お姉ちゃんなら知ってるかもだけど、それより学校案内してよー。」
少なくとも俺の目には憂いらしきものは見られなかった。この世界では紺野姉妹はHIV患者ではないのか?身内でも何でもないがそうであることを願う。
「そうか......慣れない環境で体調を崩すかもしれないからな。気分が悪くなったら直ぐに言えよ。」
「大丈夫!ボクは元気が取り柄だから!」
そうであってほしい、願わくば一生。
結局ユウキがHIV患者かどうかは分からずじまいだった。自然を装って質問したが収穫は無かった。学校案内も拍子抜けな程何事もなく終わり今は放課後。ユウキ達5歳児は校庭で複数名の2年生と遊んでいる。中には直葉も見える。ユウキと似てる子も見えるが.....あれが姉の藍子だろうか?
「血液製剤......出生時なら
そして俺はというと、荷物を見張ると辞退してスマホ(こっそり持ってきた)で血液製剤について調べていた。簡単に言うと血液製剤にも種類があり出産時なら血漿分画製剤が使われたと思われる。しかし逆算するとユウキ達の生まれは2011年、この年には(少なくともこの世界では)HIVの感染対策は進んでおり、献血の際はしつこい程質問に答えなければならない。数年の間に海外にいったか、異性または同性と粘膜接触したかとか。実際考えにくいのだ。完全完璧とまではいかないけども日本で出産時にHIVに感染することはほぼ無いだろう。輸血は使われる際必ず検査が挟まれるし。
「不特定多数の人の血液を原料にする、か.....海外から輸入されたものを使ったのか.........?」
予測はできても答え合わせは出来ない。そもそもHIVは今では発症させずに過ごす事は不可能ではないし、理論上完治させることは出来るとされている。種類にもよるがHIVは不治の病ではないのだ。実際治った例もあったらしい。
「それを期待するのは流石に無理があるか....。」
「何が無理があるの?」
「いや、何でもないよ。」
近くに来ていた直葉に声をかけられるが、動揺することなくスマホをしまう。このことを直葉に話す気はない。俺もわからないのだから。
「ユウキとはどうだった?」
「どうって.....普通に遊んでただけだけど?」
「姉がいるらしいけど、仲良くできたか?」
「うん、急に引っ越すことになって不安だったらしいけど仲良くできてるよ。」
「.....そうか。」
個人的には
「......どうしたの?本当に?今日なんかおかしいよ?」
「何でもないよ、何でもないんだ。」
自分に言い聞かせるようにランドセルを持ってその場を後にする。もうみんな帰ったのか夕暮れ時の校庭は不気味な程静かだった。忘れがちだが2年生なのだから日が落ちきる前に帰らなくては。紺野姉妹に関して俺が出来ることなど何もない。気にするだけ無駄だ。
「直葉。」
「ん?何?」
「ユウキ達と仲良くしろよ。」
「.........私は雨木君の方が心配だよ。」
「いや、俺はハブられぼっちだし、もう開き直ってるし。」
「気づいてないの?みんなからガリ勉君だと思われてドン引きされてることに?」
「.........。」
そういう事は気づいていたなら早く言ってください。
「あとたまに朝ランニングの後シャワーでシャンプーするの忘れたのか汗臭いし、背が高いから威圧感凄いし、目つき悪いし、.........。」
「え?なに?どうすればいいの?しねばいいの?」
幼馴染兼妹弟子が容赦無さすぎる件について。てか後半はどうすりゃいいんだよ、目つき悪い?マジで?そんな事始めて言われたよ?小説なら「伏線なしでそんな後付けすんなよ」的なこと言われるよ?
「おじいちゃんと似てる気がする.........。」
まさかの桐ケ谷祖父!
「ずっと稽古してたからおじいちゃんのしかめっ面移ったんじゃない?」
「5歳くらいから剣道始めたからな.........。」
そんなのありか?と思わなくもないが、なってしまったのは仕方がない。桐ケ谷祖父には頭が上がらないし、これからもお世話になるだろうから。
「まるで梟みたい。」
「.....梟、ね。」
梟、猛禽類の鳥であり桿体細胞の多さから昼間は目を細めている。俺の名前に使われてる漢字でもある。とある宗教の伝説では梟は神の事を拒んだとかで、太陽の光を見れなくされたんだとか。
「神に呪われんでも日の光は眩しいと思うがね。」
俺も日の光を拝めなくなるんだろうか?そんな事を考えながら夕日を背に帰って行った。
原作崩壊、紺野姉妹生存?が加わりました。HIVの事は調べまくったのですが、こんな感じになりました。何か間違えていたらすみません。
書き方を色々考えながら書くの遅くなるかもしれませんが、頑張りたいと思います。
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第四話 出来過ぎた 禍福
ユウキ「ボクは元気が取り柄だから!」
梟助「(守りたいこの笑顔(´・ω・`))」
原作前の話は今回で最後です。多分、きっと、メイビー.........。
原作まで残すところあと2年、今は2020年の2学期に入った直後くらいである。運よく土日と祝日が重なり休みが増えて、あるものは宿題に四苦八苦し、あるものは悠々自適に過ごしている。俺は後者だ。ユウキとの出会いから4年弱程経った。あれからというもの平和なもので少なくとも紺野姉妹が虐められてるなどといった事件は無い。成績優秀、運動神経抜群といった紺野姉妹はちょっとしたアイドルみたいな存在だった。確証はないがHIVはもう俺の考えすぎだったのだろう。俺は今11歳、体もぐんぐん大きくなり170㎝に届いた。流石天性の肉体ならぬ転生の肉体。身長はSAOのステータスには関係ないらしいがリーチが長いのは良いことだ。早かったような遅かったような。どちらにせよもうすぐあの小学校ともおさらばだ。
「しかし、何だ。君は自分を高める以外にすることは無いのかね?」
「.........。」
はい、無いです(白目)。今、俺は桐ヶ谷家にお邪魔している。家に居るのは俺と桐ヶ谷祖父だけである。直葉は紺野姉妹とかなり仲良くなったらしく、紺野家にお泊りしている。直葉の助言(致死)により色々努力したのだが、無理だった。決定的なのは直葉が同年代や年上を剣道で圧勝したことで、報復に出た悪ガキを瞬殺したことがいけなかったのだろう、しかもその後瞬殺した俺に対する報復に出た悪ガキの兄までなぎ倒したことが学校に広まり俺の扱いは完全にニトログリセリンか何かの爆発物に対するものだった.........自分でも意外だった。直葉のことであそこまで取り乱すのは。
「(ある意味、オリ主らしい行動だけど)......何してんだろう、俺。」
「....直葉の事は感謝している。子供の喧嘩に大人が出るのは逆効果だからな......。」
「いえ、完全に俺の暴走です。間違っても直葉の為なんて言えません。」
誰かのためという考えは、誰かのせいという考えにすり替わりやすい。直葉をダシに使いたくはない。俺の自滅、それでいい。そうでなくてはならない気さえする。
「それでも直葉が救われたことは事実だ。君は確かに途中からは力に酔ってたのかもしれん。だが、人間得たものは力であれ、知識であれ、試してみたくなるもの.......君が特別な訳ではない。思い上がってはいかん。反省するのはいいが、守れたものもあることは忘れんでくれ.........直葉もだが、君が一番救われん。相手にも非はある。」
.........今更だが、俺はこの人に剣道を教わってよかったのだろうか?SAOで活躍するためなどという不純な我欲でここまで来た.........上手く言えないが、不誠実極まりない気がする。桐ヶ谷祖父も後悔するんじゃないだろうか。自分の育てた弟子が、技術が、ゲームで使われる.........ふと、考えただけなのにどんどん申し訳なさが膨らむ。
「.........私は、終ぞ、君が何を目指してるのか分からなかった。」
それに対して俺は、何も返せない。
「直葉に向けていた興味も、紺野君達に向けていた憐憫も。」
言葉だけではない、恩さえも。
「だが、一つ確かなことがある。」
にもかかわらず、
「私は、君と過ごせて楽しめたよ。老人にいい余生をありがとう。」
この人は今でも無条件に愛情を注いでくれている。
なんの憂いもない、微笑み一つでそれを物語っていた。別に俺は親に虐待されてるわけではない。だがここまで理解しその上で見守ってくれたのは武蔵さんだけだ。明確に何をするかは分かっていないのだろう。だが何かをするということは分かっていた.........少なくとも武蔵さんはその目的を追及してもいい立場だった。子供と言えど得体がしれないのだから。だが、武蔵さんは何も聞かずに鍛えてくれた。何故なのかは分からない.........理解するには、この人はあまりにも偉大だった。
「......私は今年で80。今の時代なら静かに過ごせば生きながらえるだろう。」
「武蔵さん.....?」
「だがね、興味無いのだよ!布団の上だけで過ごす余生なんて!」
いつも以上に声を出し笑っていた。老いてなお、その心、その気迫は微塵も衰えていない。死を恐れていない。
「修行もいいが、折角の休みだ。何処か行かんかね?何、親には適当に上手いこと言えばいいさ、得意だろう?そういう事は?旅費は私が出す。」
いたずらでもするかのような笑みでそう言った。そこには昔かたぎの雰囲気はなく、ただの孫思いの好々爺だった。
「あ~良い湯だ、五臓六腑に染み渡る。」
「本当に疲れが取れるんですね。いい温泉って。」
そんなわけで俺と武蔵さんは東北のとある有名温泉に浸かっていた。朝風呂は体にいいのか悪いのかはっきりとは知らないが俺としてもテーマパークとかよりもこういう方が気が休まる。何より今は静かなところで自分の方針について考え直したかった。原作とそのキャラクター、いや、人間に対してどういうスタンスをとるか。
「温泉から上がったら、どうする?梟助君。」
「そうですね、折角ですし街でもブラブラ歩きますかね。」
旅館でずっとごろごろしてるのも勿体無いし。
「そうか、私はルームサービスでマッサージでも頼むかな。何かあったら連絡してくれ。」
取り合えず直葉と紺野姉妹に土産を買わなくてもならないが、何にしよう?なまはげの面でも買うか?そんな事を考えながら温泉から上がり脱衣所で着替えようとする時、
「.....?はて?何か忘れてるような.........。」
洗面具などは持ってきてるし、いったい俺は何を忘れているのか。何も思い出せん。気のせいか?
「まぁ、今はいいか。しっかり息抜きしよう。」
そして俺はわずかな違和感を忘れる。
もっとも直に思い出す、いや直面するのだが。
「せんべい、クッキー、饅頭.........これは、雛あられか?なまはげ全面押しだな。」
ご当地キャラは違うのに、そんなことを苦笑しながら俺は街を散策していた。土曜の午後だというのに人は少なかった。ここらは田舎なのだろうか?確かにただの連休で旅行に出るやつなどそうそういないだろうが旅館も繁盛してるようには見えなかった。暇を持て余してる大学生くらいの青年、手元のメモと睨めっこしてる小学生、ベンチで日向ぼっこしてる老人、娘の手を引きどこかへ向かう主婦.........主婦?
「何だ?、何か今?、物凄いことに直面しかけてるような.........。」
あの主婦に何かあるのか?そう思い自然を装い距離を取り横から顔を見た。その瞬間、電撃が走るような衝撃に襲われた。実際電撃が走ったわけではないが主婦が手を引いてる女の子には見覚えがあった。
「朝田.....詩乃...?」
聞こえないように声を抑えることは出来たが、それでも俺は衝撃を隠せなかった。もし、今、二人が向かってる先が郵便局だったら?原作と乖離しなかったら?それ以前に二人とも死ぬかもしれない........。
「.........ここが分水嶺、今どうするかで俺のスタンスは決まる.........。」
馬鹿げてるかもしれないが、もうこの世界にいる以上意識せざるをえない「原作」というもの。目の前にいる悲劇に合うかもしれない二人......ここで動けないなら、俺はSAOだけでなく全ての出来事に関わるべきではない。都合の良い時だけしゃしゃり出て、悪ければ知らん顔。許されるはずがない、少なくとも俺はそう思う。責任があるわけではない。あの日の決意通り誰も彼も救う気はない。がしかし、ここで怖気づくなら、俺は....生まれるべきではなかった。そういう事になると思う。
「命を懸ける.......この展開は予測してなかったが、覚悟はあったはずだ。SAOに入るため武蔵さんに鍛えてもらうよう頼んだ時から.....。」
或いは、それ以前から。
「.........。」
どれほど迷っていたのか、二人の姿は見えない、もう行ってしまった。だがこの先に郵便局があるのは覚えている。
「......人のとる行動は、その人の考え方を最も的確に表明するものである。」
とある政治哲学者の言葉だ。他者の言葉をあまりあてにはしたくないが、今ばかりは前に進むために。
俺は迷いを振り切るように走り出した。
それは土曜日の午後のことだった。私は母親についていき郵便局で本を読んでいて、他に客は誰もいない。母が何らかの手続きを窓口でしているのを見ながら私は暇そうに待つ。そんな中、キィと扉が開く音がした。入ってきた男は妙な奴だった。灰色の目立たない格好で軍手をしてる。目はなんだかせわしなく動いていて片手に持ったボストンバッグを少し見た後母がいる窓口まで行き、強引に横に突き飛ばした。驚いたのも束の間、私が大声で抗議するより先にバックの中から黒く光る何かを取り出し、轟音、郵便局の中は静まり返った。
「誰も動くな!!動けば殺す!!」
一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、おそらく局員もだろう。魂がぬけたかのように呆然としている。
「こいつに金を詰めろ!!警報は鳴らすな!」
そこまで言ったところでようやく事態が飲めたのだろう。局員が悲鳴を上げた。が、
「うるせぇぇ!!!騒ぐな!!ぶっ殺すぞ!!」
男性局員に向けて発砲する。狙いは甘かったのか肩に少しかすった程度のようだが一般人にはそれで十分過ぎた。唾を飛ばしながら叫んでいることは悪ガキのそれと大差ないが、実際に人を殺せる武器が手元にあるなら話は180度変わる。
「さっさとしろ!!金を詰めろ!!こいつも撃つぞぉ!!」
座り込んだ局員を引きずり、立たせようとするが思うようにいかず、業を煮やした強盗犯は私の母に拳銃を向けた。
私が
私が、母を、
私が母を守らなくてh―「そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!」!?!?
今まさに強盗犯に飛び掛かろうとしていたその直後、この場に似つかわしくない声が聞こえた。
転生してから考えていたことがある。俺が選ばれた理由は何だったのだろう?というもの。もうほとんど思い出せないが、あの『カミサマ』はそれっぽい事を言ってた気がする。もし、理由があったなら、今分かった気がする。目の前で起こることを知っていたら、悪化する可能性があるのを分かっていても何かせずには居られない.....きっとそんな気質があの『カミサマ』の琴線に触れたのだろう。あの『カミサマ』が何をするまでもなく、俺は操り人形と大差ないのだろう.........だがそれでも構わない。自分の為でもあり、誰かの為でもある。そんな普通の人間としての行いをする。そう決めた。偽善で結構、転生した時点で本物などもう分からない。ただ目の前の最善をつかみ取る。今はそれだけでいい!
強盗が銃を発砲し喚き散らしてる間に俺はそっと扉を開けて郵便局に入る。銃声で全員耳がイカレてるのだろう。扉を開く音も聞こえた様子はない。誰もが強盗の銃に視線が釘付けになってる間にカウンター側に回りこみ誰にも気づかれないように電気ポットをとる。よし、中身は十分ある。そして、その中身をぶっかける!
「そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!」
でもこの叫び声は無かったな。いやどんな風に出ようか迷って最終的にはこんな声になってしまった.........なんだよ、そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!って、丹田に力込めて出した、文字にしたら太字なってるくらい出たけど、声量とは別に驚くわ。そんな間抜けなことを考えてると、
「ぎゃあああああああああ!!!」
強盗が叫んでた。服と帽子があるとはいえ90度の熱湯、不意にかけられたら誰だって泣き叫ぶ。ここで安心はしてられない。確かあの銃は安全装置が無いのが特徴、さっさと取り上げないと!強盗が呻いてる間にカウンターから飛び出し、トカレフを持ってる右手を脇固めの要領で締め上げ、落としたトカレフを遠くに蹴っ飛ばす。
「てめぇ!!何をしやがる!!離せぇ!!」
「てめえこそ何してやがる?」
無理矢理拘束を解こうとするので、お望み通り離してやり。
「死ねぇぇえええええええ!!」
懐にでもしまってあったのだろう、ナイフを突き出してきた。だが、まぁ、
「武蔵さんに比べたら欠伸が出るな。」
右手で突き出されたナイフを右手ごと左手で内側に捻り、緩んだところをはたき落とす。そして、
「セイッ!!!」
「ゴハッ?!?」
右手とともに前に出された右足を大外刈りのように刈り、相手の顔面を後ろに落ちるよう押し出す。結果、後頭部が真下の床にぶち当たって、しばらくの間死に掛けの虫のように動いてたが、そのまま気絶した。
30分弱くらい経ってから警察がやってきた。もちろん強盗犯は手も足も、目もガムテープで塞がれてる。強盗はどれくらいの刑期かは分からないが拳銃所持で懲役3年、一発撃つごとに無期または3年以上の懲役、単純計算10年弱は表に出れない。いや、人に向けて撃ったことや麻薬使用の疑いもあるから、もっとか?どちらにせよ俺とシノンにはもう関係ない.........何気なくシノンと考えてたが、俺が介入したので朝田が『シノン』、つまりVRに関わるフラグはへし折れたのではないだろうか?
「あの...。」
「ん?」
しかし、
「.........助けてくれてありがとう。」
「気にすんな、馬鹿が馬鹿やらかしただけだよ。」
それでもいいと思う、今の俺にあるのはただ一人の女の子を救えた充実感だけだ。
「じゃ、署までついてきてね。聴取とるから。」
例え、この後警察に連れてかれ、武蔵さんと家族に怒鳴り散らされるとしても.......やっぱり逃げ出したい。
この後めちゃくちゃ事情聴取された。
後日談的な物、精魂尽き果て搾りかすのようになった俺は桐ヶ谷家の縁側で話していた、何かもうここの家の子じゃないかってくらい馴染んでるな、俺。
「いい顔をするようになったな。」
「え、そうですか?」
「少なくとも今までの迷子のような顔ではない。」
この人は何処までお見通しなのだろう.........。
「これで私も心置きなく逝ける。」
「.........直葉が怒りますよ?縁起でもないって。」
この人が死ぬことが想像できない。少なくともこの時の俺はそんな事を考えていた。
3月中旬俺と直葉の小学校卒業式。式を終えて晴れ姿のまま桐ヶ谷家と雨木家で宴会を開いた翌朝、
桐ヶ谷 武蔵は死んでいた。役目は終えたと言わんばかりに笑って。享年82歳。
「.........ありがとうございました.........。」
この日俺は生まれて初めて、泣いた。
詰め込み過ぎた気がする、そしてチートキャラ老衰死。正直ここまでキャラが出来るとは自分でも考えてませんでした。
次回からSAOです。
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第五話 人の和 逸れる鳥
武蔵「迷いは吹っ切れたか?」
梟助「.........。」
今回からSAOです。桐ケ谷祖父の人気が凄いですね。あれ、オリ主どっちだ.........?
2022年11月、自室。俺こと
「.........仮想世界は兎も角、こっちのコンディションは最悪だな。」
今年の春になる少し前に、直葉の実の祖父であり、俺の師である桐ヶ谷武蔵が亡くなった。それからというもの俺の体は調子が悪かった。命にかかわるような事はないが体が怠く、言うことを聞かない。そればかりか、
「まさか13歳で白髪交じりになるとは.........。」
医者が言うには精神的な物らしい。確かに自分自身でさえあまり気づけてなかったが武蔵さんは俺にとって大きすぎる存在だった。転生し、それに浮かれ、あの人から沢山のものを頂いていた。そして気づいてなかった。もう少し早くあの人の思いやりに気づけていれば、あれからずっとそんなことを考えている。.........かつての武蔵さんのように鍛える事により、若さを保つことも出来るだろうが、それにも限界があるだろう。
「下手すりゃ20代で老人みたいな姿か.........男でもゾッとする。」
女が若さに執着するのが分かった気がする、そんな事を考えながら自室のテレビをつける。どこもかしこも世界初のVRMMORPGソードアート・オンラインのことを報道している。ナーヴギアも飛ぶように売れている。懸賞や福引などでも手に入る可能性があるようだ.........これも茅場の思惑の内か。直葉は部活の合宿の為間違ってもSAOには入ってこないだろう。
「キリトとはあえて違う道を選ぶのも手だな。俺にギルドが立ち上げられるとは思わないが。」
今更だが、ベータ版が受かった事は本当に幸いだった。原作知識だけでは流石に無理がある。モンスターもほとんど苦労しなかったし、当たり前と言えば当たり前だが。ポリゴンにAIを突っ込んだだけの存在が武蔵さんの剣を遮れるものか。
「いったいどれくらい原作と乖離するのかね。出来る限り丸く収めたいが。」
出会って早々茅場を暗殺するのもありだが、果たして大人しく死んでくれるだろうか?75層でなく、1層だもんな。流石に無理か。
「13時から始まり、17時くらいだっけ?デスゲーム開始のアナウンスは。」
あと10分程で地獄の門が開く。はっきりいって俺がたてた対策なんぞ俺自身を安心させるための物でしかない。どれだけ役に立つか.........取り合えずアルゴとコンタクトを取るとしよう。あいつの方が上手くやるだろう。
「.........13年か。」
背は175㎝程、目元は武蔵さん譲りの猛禽類を連想させる鋭い目つき、髪は白髪が混じり鉛色に見えなくもない。早く何とかしなくては肌にも影響が出始め、内臓器官などもやばいかもしれない。
「.........まぁ、SAOに入ったら関係ないか。」
嘲笑うように自分に向けて言う.........自分の命にも頓着しなくなっているのが分かるが、
「リンク.....スタート。」
これからの事に比べると、どうでもよかった。
アカウントを入力.........クリア。
パスワードを入力.........クリア。
ベータ版のデータを使用しますか?.......YES.
名前は《
WELCOME TO SWORD ART ONLINE
一瞬の浮遊感の後に、意識がポリゴンで生成された体に入ったことを確認し周りを見る。そうしている間にどんどんープレイヤーが入ってくる。みんな美男美女だが俺は黒目黒髪の普通の容姿だ。戻されるのにわざわざいじるのも馬鹿らしい。ここは一層、始まりの町の中央広場。
「対象年齢に届いていない奴もいるかもしれないが.......もう遅いか。」
そう言いながら右手でメニュー画面を開く。この時点でログアウトボタンは無い。しかし誰も気づく様子はない。
「まぁ、無理もないか。ある程度の事は自分でしてもらわないと俺も死にかねない。」
何様のつもりだと自分でも思うが、ここで混乱を招くのは無意味だ。計画通り初期武器を2本買って、ペンとメモ帳も.........。
「おーーーい!そこのあんた!」
これからすることを考えながら走ってるとそんな無遠慮な声が聞こえた。まさか、
「なぁ、そこのあんた!あんたもしかしてベータテスターか?」
「....そうだけど、あんたは?」
「俺はクライン!SAO始めたは良いんだけどよ。何からすりゃいいのかさっぱりで.........すまんが、一つレクチャーしてくれねぇか!?いずれ恩は返す!」
「.........。」
やはりクラインだった。どうする?アルゴとコンタクトを取ったらアナウンスがあるまでレベリングするつもりだったが......いやここは、
「そうか、俺はオウルだ。クライン、レクチャーと言っても何から何までじゃなく戦闘だけでいいか?知りうる知識全てとなると、1か月あっても足りないからな。」
「マジかよ!あんたもしかしてスゲェプレイヤーなのか?」
「戦闘には自信がある。で?どうなんだ?」
「あぁ構わねぇ、頼むぜ!」
「ぐっほおおぅ!?」
数分後、クラインはフレンジーボアの突進で股間を強打していた。リアルならクラインのクラインはご臨終しているだろう。リアルなら、
「ペインアブソーバがあるから痛くないだろ。」
「あっ、そうか。」
買い物は道中で済まし、俺はメモ帳に一層のベータ時の情報を書きながら言った。
「でもよ、あいつらすばしっこいし。」
「カカシじゃないから当然だろ。言ったろ、まずはソードスキルで倒せって。スキルの説明欄にあったモーションを取れ。あとはシステムが動かしてくれる。」
「ふーん、敵は全部ソードスキルで倒すのか?」
「いや、ソードスキルは威力は高いが隙がでかい。自前の剣の腕も必要だ。でもまずはスキルが使えないと話にならない。」
「なるほどなるほど、モーション、イメージを.........。」
分かり易く説明したかいがあったのか、クラインの曲刀が淡い赤色を帯び、
「でええい!」
フレンジーボアが情けない悲鳴を上げながら霧散するのはそうかからなかった。
「おっしゃーー!どんなもんよ!オウル!」
「おめでとう、でもそいつ某狩人ゲームのロケット生肉程度の敵だぞ。」
「マジかよ!てっきり水竜くらいの敵かと.........。」
「ネームドでもないのに亜空間タックル使うモンスターがそこかしこに出たら批判殺到するわ!」
最近は当たり判定が安定してるが特にP2Gの時は凄かった。知識にあるだけだが......このフレーズも久しぶりだな。
「だよなぁ.......暫くは戦闘になれるのが最優先か。」
思わず突っ込んでしまった。こんな会話もするのは久しぶりだった。武蔵さんが死んでから直葉とはあまり話せてない。親もどうすればいいのか分からなかったのか距離を測りかねていた。誰も悪くないのに確かに周りの空気は死んでいた。主に俺のせいで.........。
「おーい、どうしたオウル。」
「いや何でもない。それよりクラインこれ持っとけ。」
そう言って書きたての攻略本を渡す。
「ん?なんだこれ?」
「俺がベータテストで知った事が書かれてる攻略本だ。見せびらかしたりすんなよ?まず間違いなくPKに遭う。」
「怖えよ!?呪いのアイテムかよ!」
特にテスターにとってそれは自分たちのアドバンテージを脅かしかねないものだ。そしてデスゲームにおいてそれは命綱になるということまではまだ明かせないが、兎に角仲間内でしか明かさないように言う。
「だから俺と情報屋のネズミのアルゴってやつ以外には見せるな。」
「わかったけどよ、何でここまでしてくれんだ?」
「お前結構将来有望そうだからな。後はソードスキルのちょっとしたテクニックを教えよう。」
残り時間ギリギリまでクラインにレクチャーした何のかんのクラインは筋がよく、もしかしたら良い方向で原作を崩壊させてくれるかもしれない。そしてフレンド登録を終えてアルゴのもとへ駆け出す。同じ層ならフレンド登録してない者同士でもメッセージを届けられるインスタントメッセージで場所を指定しながら。
「...........なんで隠蔽で隠れてんだアルゴ。」
「.........当然のように見破んなヨ。フー坊。」
待ち合わせの人通りが少なく、NPCもいない路地裏でベータぶりに出会う情報屋はもうすでにひげを書いていた。ちなみにオウル→梟→フー坊、である。ネーミングセンスないなこいつ.........。
「毎回どうやって看破してるんダ?あとなんか失礼なこと考えてないカ?」
「仮想世界特有の気配を感じ取るというか、あと俺のログには何もないな。」
ぶっちゃけ直観としか言えない。電子で全て構成されてるこの世界は目に見えずともそこに何かあれば必ず情報量は変わり、何らかのラグのようなものが生まれ、それを感じる.........全てキリトの弁だが、成程。確かに的を射ている気がする。
「で?始まってそうそうオイラ何のようダ?フー坊なら大概の情報は持ってるだロ。単独でボスに挑むやつなんだからナ。」
「自分の現時点の限界が知りたかったんだ。遥かな高みってのを知ってるだけに。」
武蔵さんがSAOに居れば、ギルドを作り攻略も楽だったろうが......今は関係ないな、やめよう。
「頼みたいことは二つ、一つはテスターとニュービーの差を縮めるため攻略本を作って欲しい。」
「.........正気カ?フー坊?」
自分のアドバンテージを自ら捨てるのだから無理もないが、あと数時間でそんなことも言ってられなくなる。
「情報はこっちから渡す。1層の情報はもうまとめといた。」
「フー坊、何を考えてル?」
受け取りながらアルゴはこちらを訝しむ。
「二つ目はクラインっていうプレイヤーを出来る限りフォローしてやってくれ。」
「それは難しいナ。情報屋は基本中立だかラ。」
「まぁ、お前の判断に任す。代わりにベータの情報は融通を利かすから。」
「何が目的なんだ、フー坊。」
語尾が消えて完全にこちらのことを警戒している。しかし、
「クラインは有望株だから。自分も強くなるし、仲間も率いる、クセはあるがカリスマもあるっちゃあるだろう。いつか攻略の役にたってくれる。」
「.........ベータの時からそうだが何故そこまで攻略に拘る?」
答える気はない、誰であろうと。
「.........何となくだ、勘は昔から良い方なんだ.........。」
俺は、一人で戦うことしかできない。仲間ができても猜疑心ですぐに離れるだろう。自分の中の原作知識というものがある限り。
「.........そうカ。」
アルゴはそれ以上何も聞いてこなかった。ただ憐れむ目で見てきただけだ.........。
中途半端に時間が余ってしまったので、圏外でレベリングすることにした。対象は近くの森の主のといっても過言ではない強さを誇るワーウルフだ。アニールブレードを取りに行くには時間が無さすぎる。そしてこのワーウルフは逃げることの大切さを教えるボスだ。始まりの街に近いのに討伐推奨レベルは5、この数字はベータ時の最前線でも見かけた。つまり始まりの町から出たプレイヤーが調子に乗るとこいつに食い荒らされることになる。だから、
「ついてないな、あの女プレイヤー。」
珍しくこれと言って容姿に特徴がない女性が短剣でワーウルフを相手にしていた。2メートルで二足歩行し、ボロイ曲刀を持っている。しかもHPバーは二本ある。
「経験値欲しいし、手を出すか。」
女性プレイヤーはほとんどダメージを与えられてないし、それにもう時間があまりない。死ぬ可能性だってある。
「はいちょっと失礼しますよ。」
「え?いや、ちょっとー」
何か言い切る前に、ワーウルフの鼻に《レイジスパイク》を放つ。犬科だし急所だろ、多分。
「GURRRRRRRGAAAAA!!!!」
適当な予測だったが正解のようだ。レベル1の俺の攻撃にしては結構削れ、のけぞったお陰でスキル硬直は狙われなかった。
「GUAAAAAA!!」
左から右へ横なぎに曲刀を振るが身長差から簡単に避けれる。そして曲刀を持った腕に飛びつき、
「フンッ!!」
背を全力で反らし、肘関節の逆にへし折る。
「GRUAAAAAA!?!?」
この世界には骨折などのバットステータスはないが、それでも人の形をしてると可動域には限界があり、それを狙うと部位欠損などを引き起こせる。
「武器も無くなったしあとはちまちま削るか、なぁ?」
ワーウルフが怯えたようなそぶりを見せ踵を返すが、それを逃がす俺ではなかった。
「いっきにLV3か。いいね、悪くない。」
「.........。」
こっちをジト目で見てる短剣使いをなかったことにできるならなおよかった。忘れてたが、俺は紺野姉妹と直葉以外の女子と話せたことなどない。どうするか.........事実だけ述べるか。
「.....悪いとは思うけどあんたに勝ち目はなかったよ。」
「みたいね。許すのとは別だけど。」
「うん、すまん。じゃ。」
「許すわけないでしょ、そんな適当な謝り方で。」
肩をつかみ行かせまいとする短剣使い。笑ってるのに笑ってない。
「あんたベータテスターってやつ?」
「イイエ、チガイマスヨ?」
「隠す気ないでしょ、ソードスキルとかいうの使いこなしてたし。」
「あーはいはい、そうでござんすよ。だったら何?」
「ちょっとレクチャーしt「はいこれ、攻略本。」....用意周到なのね...。」
時間が無いから仕方ない、
「周りの奴らに見せたら殺されるから気を付けてね。」
「は!?っていうか投げやり過ぎない!?」
「すまんが、もう時間が無いんで。」
「え?どういうー」
言い切る前に、SAO内全域に響く鐘の音が鳴った。そして俺と短剣使いは青い光に包まれた。
「ようこそ私の世界へ、プレイヤーの諸君。私は茅場晶彦。この世界を創った者だ。」
そして2年に渡る悲劇が開演された。
今回はほぼオープニングですね、我ながら見どころがない。
主人公、師が死んでやさぐれ中。
何か気づいても、場合によっては答えられませんので悪しからず。
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第六話 選ぶは 人か鬼か
オウル「ゲームもリアルもボッチでコミュ障。」
アルゴ「.........。(憐みの目)」
もっと原作崩壊させたいけど、まだかかりそうですね。
今から二時間弱程前に
「さてと、クエストを受けてアニールブレード手に入れてから寝るか。」
今の俺のLVは3。そして装備は初期武器のスモールソード二本とワーウルフが落とした灰色のモッズコートのような防具である。首まわりの狼の毛皮が意外と肌触りがいい。この装備ならリトルペネントを倒すには十分すぎる。
「ポーションはクラインといた時に買い込んだからな。あとはクエストを受けるだけだ。」
確かめるように喋りながら、とある家を目指した。この後に待ち構えてるかもしれない出来事を考えると気が滅入るが早くしなければ他のテスター達が来るかもしれない。後ろめたいことはまだ何もしてないが俺の行動は傍から見ると少し奇異に映るようだ。面倒なことは出来る限り避ける。まぁそばで俺の行動を見てた(ストーキングともいう)奴なんてアルゴ位しか居なかったが.........。
「よしクエストは受注したし、さっさと行くか。」
そして現れた奴の対応の仕方ももう決めてある。
「セェイ!!」
気合と同時に水平斬り《ホリゾンタル》を放ち、前方2体のリトルペネントの茎を切断する。奇妙な叫び声を上げながらポリゴンと化して空気に溶ける様に消える。
「.......これで20体だぞ、まだ花つきは出ないのか。」
頭に花があるリトルペネントさえ現れれば胚珠のドロップは確定なのだが、戦い初めて十分程。出るのは普通の奴と実付きだけである。ベータの時よりポップ率が低いのか、俺のリアルラックが問題か。もういっそ実付きをわざと割って片っ端から狩るかと考えるが、それで誰かを巻き添えにはしたくないので断念する。あと流石に危険だ。同じことを考えて死んだテスターをベータ時代に見たことがある。
「レベルも上がりにくいし、早く終わらせたいんだがな.........。」
このSAOはレベルを上げて物理で殴るという戦法が取りにくい。何故なら戦うmobとのレベル差が激しい程経験値は増減するからだ。そのためワーウルフの時は一気に上昇したが、今はレベルアップにまだまだかかりそうだった。早く経験値効率がいい狩場に移動したい。
「このコート、隠蔽率がかなり高いみたいだけど.......今は意味ないな。」
スキルスロットは《片手剣》と《索敵》、そしてLV3になった為増えたスロットには《隠蔽》を突っ込んでいるが、ここではあまり使えない。何故なら.........
「君、凄いね。」
唐突に声を掛けられた。しかし驚きはしない。
「.....そりゃ、どうも。だが背後から声かけるのは感心しないな。俺が殺し屋だったらどうする?」
「ここは剣の世界で銃器はないはずだよ。でもごめん、悪気はなかったんだ。」
ネットゲーマーはやはりそういったネタに詳しい傾向にあるのか、バックラーを持った片手剣使いは明言せずとも分かってくれた。これが直葉なら馬鹿じゃない、と無邪気に笑われ、ユウキなら苦笑して誤魔化す.......何だろう、俺はもしかしたら二人の幼馴染ともまともに話せてなかったのかもしれない。
「.........何で中年男性みたいな哀愁漂う目をしてるのさ.....。」
「いや.........何でもない。」
人前で考え事に耽るのはよくないな。
「それより何の用だ。アニールブレードか?」
「あっ、うん、君もだね?良ければここはお互い協力しないか?僕はコペル。」
「オウルだ。協力はありがたい。正直一人でこいつらの相手はうんざりしかけてたところだ。」
出来ることなら遭わずに、若しくは早く種子を手に入れて森から出たかったがそうもいかないようだ。もしこいつをこのまま放置すれば周りに被害が出かねない.......不安の芽は.........摘み取るに限るのだ。
「.........出た?胚珠。」
「いや......何か実はドロップしたけど。」
「.........どんなアイテムなの?」
「『リトルペネントの実。とても臭い液体が詰まっている。特定のモンスターを引き付ける効果があるが薬効には使えない。』」
「捨てなよ.........そんなの.........。」
呆れながらコペルが言う。そう言うなって意外とこういうアイテムが生死を分けたりするんだぜ?しかし胚珠が落ちないこと、落ちないこと.........
「.........森に火を放つか.........。」
「駄目だよ!?何考えてんのさ!?」
俺がサイコなことをボソリと言うとすぐさま止める。いや冗談だよ、三割くらい。
「やる気満々じゃん!?」
「だって俺もうLV4だぜ。コペルも上がったし、そろそろ.........!!コペルこっち来い!」
身をかがめて茂みに隠れ、コペルを呼ぶ。
「どうしたの?」
「あれ見ろ。」
俺は《索敵》のお陰で暗視に補正があるが、コペルには無いらしく目を凝らしてる。やっぱこいつ.........いや、まだ分からない。
「.....!花付き!でも実付きが二体.........。」
やっと現れたか。そう脱力したいがそうもいかない。重要なのはここからだ。
「どうする?どっちからやる?」
「.........僕が実付きが引き付ける。オウルは花付きを速攻で頼む.........」
逡巡するようにコペルが言った.........実際逡巡してたのだろう。だが俺は何も言わず、
「よし、俺が奥の花付きに突っ込んで実付きの気が逸れたら攻撃を頼む。倒したらお前の援護に行く。」
「.........わかった、頼むよ。」
その言葉を言い終えると同時に全力で駆け出す。敏捷寄りのステータスは実付きの間を通っても反撃を受ける事無くすぐに抜け出し、
「遅ぇよ!馬鹿野郎!」
今まで出なかった鬱憤を吐き出しながら、勢いに乗せて《ホリゾンタル》を弱点の茎に放つ。レベルの差もあり一撃で屠った。だがしかし、
「よし!コペル!仕留めたぞ!」
「そう.........ごめんね。オウル.........」
場違いな謝罪、だが俺は動揺しなかった........あぁ、やっぱりかよ......畜生。
そしてコペルは垂直斬り《バーチカル》を実付きの一体に放つ。風船が割れるような音と共にカメムシのような悪臭が周囲に広まった。そしてコペルは《隠蔽》を発動しながら茂みに隠れた。
「コペル.......お前.........」
索敵のサーチに次々とピンクの点が現れる、リトルペネントだ。だが俺は一切気にせずコペルが相手するはずだった実付きを瞬殺し、
「MPKか.........ある意味お前はこのデスゲームに真摯に向き合ってるのかもな.......だが聞きかじった行為を実戦でするもんじゃない.........隠蔽使ったの今日が初めてだな。」
恐らくコペルがいるだろう茂みに向けて言う、
「隠蔽はどれだけ習熟しても、mobによっては無意味なことがある......リトルペネントのような視覚がない奴とかな。」
それに答えるように茂みが揺れた.......だが信じ切ってないのかコペルは出ない。サーチ範囲には3,40体の反応が見られる.........一度にこれだけ出ると流石に危ないかもしれない。
「とりあえず自分の身を守るか。」
後ろから来てるペネントを振り返りざまに《ホリゾンタル》で三体瞬殺。奥からどんどん出てくるペネントに向かって特攻を仕掛ける。ツルの鞭をわざとギリギリで避け、腐食液だけをしっかり避ける。鞭はあまり脅威ではないが腐食液は装備の耐久値をかなり削る。予備の武器はあるが、浴びる気にはならない。
「うわぁああああああ!?!?」
後ろからコペルの叫び声が聞こえる。だが振り返らずペネントを二体、四体、八体屠りながら、
「落ち着け!しっかり対処すればいい。数が多いだけだ!」
「ッ!!?あ、あぁ!!分かった!」
パニックにはなってないのか、返事が聞こえた。腐ってもテスターなだけはあるか。
「腐食液だけはしっかり回避しろ!鞭は大した威力じゃない!」
だがこの助言は遅かったのか硬質な物が折れる音が聞こえた。マジかよ......コペル.........
「けっ、剣が!」
「チッ!使え!」
思わず舌打ちしてしまったが、予備のスモールソードを声が聞こえた方へ投げる。これで俺にはミスは許されなくなった。これで死んだら流石に恨むかもしれない.........だが俺も、そしてコペルもペネントを次々狩っていき予想よりずっと早く決着は着いた。
「.......生きてる.......死んだかと思った........。」
コペルは泣きそうになりながら、そう言っていた.........だが俺の戦いはまだ終わってない。肩に剣を構えてソードスキルを発動させる。《ソニックリープ》現時点で一番距離を稼げる技だ。
「ッ!!?何を!!?」
狙いはコペルではなく剣。粗い使い方をしたのか簡単にへし折れ消えていった。
「何を?こっちのセリフだ。カーソルがオレンジにならなければ許されるとでも?」
「!!.........」
コペルは項垂れ何も答えない、答えられるはずもない。直前で謝ったのだから胆力は然程ないのだろう.........少なくとも人殺しに何も感じないわけではないらしい。
「.........ほらよ、」
「?....!!これは.....」
リトルペネントの胚珠、先の大群で花付きが居たのだろう。いつの間にかもう一つ持っていた。
「.........俺じゃなければ死んでたかもしれない、少なくともお前は死んでた。」
「.........。」
コペルを見殺しにすることも、考えなかった訳ではない。はっきりいって自業自得だから同情はしない。SAOの被害者という点では俺もあまり変わらないのだから。だがそれは鬼の所業、そこまで堕ちるつもりはない......ただ俺が臆病なだけかもしれないが........
「そいつはやる。二度とこんな真似はすんな......自分の心を削るだけだ。死にたくなるぞ、日常に戻れば.........。」
「.........ッ!!!」
コペルは噛み締めている。後悔か、俺への苛立ちか。分からないし、分かるつもりもないが.......
「じゃあな、いつかはクリアされる。自棄になるな。」
そんな事を言いながら《ホルンカ》へ戻る。また会ったら気まずいなんてものではないので、次の村へ行かなくては。
「.........畜生.........。」
.........俺には何も聞こえなかった、そういうことにした。
2022年11月 アインクラッド 盾なし片手剣使いオウルLV6。俺は最初の戦いを終えた。
「へぇ.........中々面白れぇもんが見れたな.........。」
本格的に始まりました、少なくとも自分的には。
コペル生存、出番は.......少しお待ちを。
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第七話 人は集い 思惑は交錯し
オウル「そんなんしてもええことないで(´・ω・`)」
コペル「.........。」
サクサク進めたい、でも時間がないし話は丁寧に書きたい........
マイペースが一番か。
SAOが始まり二週間と少しが経った。俺ことオウルは拠点を迷宮区に一番近い《トールバーナ》にし、少しでも早くSAOを終わらせるため(という程善意に満ちてる訳でもないが)馬鹿みたいに迷宮区を攻略していた。デスゲーム初日《アニールブレード》を手に入れてからはクエストを行い経験値を得ていたが、今はmobを相手にレベリングをしている。スキルの熟練度も上げないといけない。
「下はコボルトばっかりだな。ボスの変更はないと考えていいか?」
迷宮区は全二十階。今情報屋が出してるマップデータは確か十四、五階だが、俺は十九階に踏み出した。ここをマッピングすれば二、三日の間にボス戦に突入するはずだ。
「宝箱ばかりは早い者勝ちだよな、悪く思わんでくれ。」
見つけた宝箱を開きながら言う。もちろん誰に向けたわけでもない.....最近独り言が多くなった。自覚はないが寂しいのだろうか?今俺のレベルは13、一層ではこれぐらいが限界だろう。フィールドボスなどのかなり強いmobを一人で相手にしても、徹夜でクエストをこなしても、これが限界だった。安全マージンが階層×3であることを考えれば十分すぎるが。
「それにしても.......この階層、さっきからmobを見かけないな。サーチ範囲にもいない.......。」
まさか誰かが狩りつくしている?考えにくかった。デスゲームと化したSAOは最前線でもLV10に届くかどうかというプレイヤーが多い。パーティーを組めばレベルが低くてもここまで来れるが、マップがあればの前提。転移結晶がない下層では「まだいける。」は「もう危ない。」である。となれば、
「もしかしてこの先に.....?時期的にはおかしくない.....のか?」
少し早い気もするが........足音を殺して先を急ぐ。すると剣戟が聞こえてきた。鋭い音だった。これは片手剣などで出せる音ではない。もっと尖った剣、そう、
「細剣.....間違いないな。」
フード付きケープで顔は見えないが、栗色の髪、そしてここまで来れる実力とくれば彼女は.....
「ハアァッ!!!」
細剣単発突きのソードスキル《リニアー》、だが恐ろしい程速い。反射速度には自信があるが、アレは初動から剣が通るところを見切らなくては避けられないだろう。現に《ルインコボルト・トルーパー》は体勢を崩した瞬間胸をぶち抜かれ、壁に叩きつけられた。プレイヤー自身の動きでソードスキルをブーストしてなければこの芸当は不可能だ。
「.....いいセンスだ、だがオーバーキルだな。」
「!?」
伝説の傭兵のセリフを言えたことに密かに感動しつつ原作主人公と同じことを言う....俺の言葉が介入する余地が無いことに少し泣きたくなった。
「.......オーバーキル?だったら悪いの?」
こちらをmobでないことを確認したが、それでも警戒を解いてない。
「悪い。とどめにソードスキルを使った事とかな。残り数ドットならちょいとつつくだけで倒せたはずだ。それに単発と言えど発動後の硬直はあるからソロプレイならスキルを使わないに越した事はないし、ソードスキルを連発すればHPは減らないにしても精神的に疲れるだろう........帰りはどうするつもりだ?」
喋った、かなり。アルゴ位としか話さないボッチの俺にしては上出来だった。
「.......問題ないわ。私、帰る気ないもの。」
「正気か....?何日ここにいる。」
「多分....三日間くらい...もういい?そろそろモンスターが湧いてるだろうから........。」
「........随分前向きな自殺だな。」
実のところ俺も似たような事はしたことがあるが、《索敵》と《隠蔽》を併用した上でのもの。だが、彼女はそんな事はしてないだろう。
「......遅かれ早かれみんな死ぬわ........。」
そのまま奥に向かおうとしたが、やがて受け身も取らず前から倒れた。
結城明日奈こと私がこのデスゲームと化したSAOをプレイしたきっかけは全くの偶然であった。
兄の浩一郎が買ってきたが、急に海外に行かなくてはならなくなり、部屋にポツンと置いてあったのを私が被った。最初こそ人生初のちゃんとしたゲームに驚きと感嘆を隠せなかったが、ログアウトが出来ず、そして茅場晶彦からのデスゲーム宣言........私は寂れた宿屋に駆け込み助けを待つことにした。現実で起こってることを想像しながら、発狂しながら、待って、待って、待って、待ち続けた。
そして一週間が経った頃、流石に空腹が我慢できなくなり、しかしモンスターを倒してない為お金が無く、どうするか考えてたところ。ヘアバンダナを付けた年下の女の子にパンを渡された。貰うつもりはなかったが、あれよあれよとパンを押し付けられた。パン自体は(女の子には悪いが)おいしくはなかったが、何故か涙が止まらなかった。年下に気遣われたことか、戦わず怯えてるだけの自分が情けなかったのか、死んだ祖父母を除けば人生で間違いなく一番優しくされたことか、或いはその全て。.......私は戦うことを決意した。店に置いてあったガイドブックで町のクエストなる物を受けてお金を貯めて武器を買い、ポーションを買った。慣れない単語に四苦八苦しつつも、レベルを上げながら迷宮区まで来た。そしておそらく四日目の昼前程に妙な男が現れた。
「.....いいセンスだ、だがオーバーキルだな。」
近くに来ていたことに驚きつつもオーバーキルじゃいけない訳を聞いた.....暗い迷宮区でも分かるほど剣呑な目つきだった。少し話せばわかったがどうもこちらに危害を加えようとする気はないようだ。警戒は怠らないが。
「........随分前向きな自殺だな。」
......そう言われてもしょうがない事は分かっている。ゲーム初心者でも自分のしてることが自殺行為だという自覚はある。............だが、
「......遅かれ早かれみんな死ぬわ........。」
これが私の本心だった。そして上下左右の感覚が消失し、一瞬ののちに意識も消えた。
「くっそ重い!」
やっとこさ迷宮区から抜け出した。寝袋に突っ込んだが荷物に余裕があり、筋力にもステータスポイントを振っていなければ恐らく運べなかった。でもアスナ.....いや誰であろうと見殺しは嫌だった。それに間違いなく強くなるであろうプレイヤーが死ぬのは攻略を目指すものとして無視はできない。
「木陰に置いとくか。」
仮想と言えど疲れた、少し休もう...........ん?
「.......余計なことを.....。」
起きるの早くね?30分位よ、君が寝てたの?
「.......誰だろうと見殺しにはしたくなかったからな。あと強くなるであろうプレイヤーが死ぬのは攻略を目指すものとして無視はできない。」
「攻略?本当に100層までクリアする気?」
「2,3年はかかるだろうが、俺は本気だ。あんたのマップデータがあれば明日にでもボス戦が始まるだろうしな。」
「.......ボス戦。」
「.......死ぬにはまだ早いんじゃないかな。細剣使いさんよ。」
「....アスナよ、助けてくれたのはこれでチャラね。」
お前の名前はどんだけ価値があるんだ.....?まぁいい、間違えて呼んだりしたら目もあてられないし。
「そうか、俺はオウルだ。」
それから暫く話した後、《トールバーナ》に向かうことにした.........かなり距離をとられたうえで。傷つくからそういうのやめて欲しい、ホント。
十二時ぴったしに《トールバーナ》に着いた。俺とアスナはその後マップデータをアルゴに渡し「ボスに挑むためレイドを作ろうとしてるやつを知ってるからそいつに渡してくル。今日の二時くらいに広場に来るといい攻略会議が開かれるはずダ。」と言われた後何もせずに別れた........フレンド登録?出来るわけもない。
「二時か、何しようか。」
「オイラとお喋りでもしないカ?」
「二時間はきついな。あともう渡したのか?マップデータ。」
「まぁナ、近くにいたシ。それより何処で知り合ったんダ?」
「誰と?」
もう俺の目を欺くことは出来ないと悟ったのか急に現れることにしたらしい。街中では流石にきついが........いい気にさせるのも癪なのでその内適応してやろう。
「あのフェンサーサ。ネトゲ素人なのに中々強イ........何者なのかネ。」
「知ってんのか?」
「五百コ「やっぱいいわ。」.....つれないナァ。」
多分お前よりは知ってるしね、
「じゃ俺は行くから。」
「待っタ、商談ダ。お前の剣二万九千八百で買い取るそうだガ?」
「........愛着あるからって、断れ。あと詐欺くさいんだが........。」
俺の剣《アニールブレード+6》は丈夫さ4と鋭さ2だ。だが三万もあればここまで強化するのは難しくないはず。やはりこれは、
「いヤァ、オイラそう言ったんだガ.......名前は買うかイ?」
「.......まだ上げてくるようならな、もうないと思うが.....今度こそ行くぞ。」
「待テ。」
「まだあるのか?」
いや、お前油断できないから長時間話したくないんだけど........
「お前の情報を買いたい奴がいるそうだガ?」
それを聞いた時正直驚きを隠せなかった。テスターの時と名前を変えてないので口止めに一万払っているのだが........誰だ?
「........そいつの名前は?」
まさか原作のキャラか?と思ったが、結局聞き覚えのない名前だった。コルを消費したくないので上乗せはしなかったが........何故俺の情報を?そんな事を考えながらアルゴと別れ、時間つぶしに街の中をブラブラ歩くことにした。
「........。」
「........もう居たのか、まだ一時間あるぞ?」
目ぼしい事もないので遅刻しないように広場でメニュー画面をいじりながら待つことにしたのだが、まさかのアスナさん。
「別に........食事も終えたし、することもないから。」
無趣味か、と突っ込みたくなったが俺も似たようなものだった........現実では違うし、ホントだし........誰に対しての言い訳だ?
「そうか、俺はまだだし今食うかな。」
そう言って距離をとって座ったのだがさらに一メートル程横にスライドするアスナさん........やめてね?そういうこと?泣くから?マジで。もういいや、と諦めながら黒パンにクエスト報酬のクリームを付けて食べる、クリームは割となんにでも合うが個人的にはこの街の黒パンが一番だ。何より安いし。
「........それは?」
「クエスト報酬のクリーム。ここの黒パンに合うんだわ。」
「........。」
殺してでも奪うかどうか考えてる目だった。そういやあんた生で食ってたな。
「ほい、使うといい。」
そう言って黒パン二つと瓶を渡す........いや、遠慮すんなよ。凄い目してたじゃん、あんた。
「........!!?........。」
意外な程に旨かったのか、無心でがっつき始めた。俺も食べる......旨いなぁ、もっと増えてくんねぇかなこういうの。SAOは変な料理が大半だし。
「ッ!?........。」
「いや睨むなよ、俺悪くないじゃん。クエストのコツ教えようか?」
「.................ご馳走様、あと結構。私は美味しいもの食べるためにここまで来たわけじゃないから。」
絶対悩んでたな........コイツ。
「じゃあ何のため?」
デザートにリンゴ、しかし何故か梨の味がする果物をシャクシャクしながら聞く。
「私が私でいるため........宿に閉じこもって腐るくらいなら、戦って前のめりに死にたい........私は、この世界に負けたくない。」
「なら尚更死なない方がいいと思うが........自己満足は生きる上で必要な栄養価みたいなもんだ。でもそれの為に死ぬのか?」
「........あなたに何が分かるの?」
「何か分からなければ何もしてはいけないのか?」
「........。」
「........極論、自分以外の人間は家族でも他人だ。内心なんて本当の意味で知ることはない。超能力でもあるならべつだがな........楽しめよ、仮想だろうが現実だろうが、生きるってことを。」
「........覚えておくわ。」
アスナが何を思ったか、それを知る術はない。だがもう自殺紛いの事はしないだろう、そんな確信が何故か俺にはあった。
「さてと、そろs「あっーーーーーーーー!!」!!?」
何だ!何があった!!?青いツナギを着たイイ男でもいんのか!?俺はビビッて左手を剣の柄まで持っていくが、
「梟助!!」
「......ユウキ!!?」
まさかの紺野木綿季だった。
「ほう、それでSAOに?」
「うん、たまたま懸賞が当たったから。」
「ランは?」
「ラン姉ちゃんは来てないよ、ナーヴギアうち一つしかないし。」
そうか、でもラン姉ちゃんって聞くと別の人と勘違いしそうだからやめてね?メガネの少年が居たら死者がもっと出るからね?そして後ろのフード付きケープは誰だ?もう間に合ってるんですけど?
「あなたは........。」
キャラかぶりに物申すか?と思ったがどうやらユウキの方らしい。
「あっ、宿屋で凄い目してた人。」
「ブフッww、ちょ、ユウキ、言ってやるな。」
笑うわ、こんなの。さっきまで自殺行為止めてたんだぞ?あっ、ごめん、やめてね?剣抜かないでね?ここ圏内だよ?
「一緒に行動してたの?」
「いや、迷宮区でちょっとな.......お前の方こそ後ろのそいつ誰だ?」
アスナと色違い(若葉色)のケープを着て口元も包帯みたいなもので隠してる。夜に出会ったらアサシンと間違えそう。
「え~~~~~っとね、悪い人じゃないよ?ただ恥ずかしがり屋で........。」
そっか、と言いこの会話を切る。リアルと同じ顔になったここでは顔を隠す、もしくは髪色、髪型、目の色を変える者は珍しくない。(多分)彼女もそんな一員なのだろう。さっきから俺のことガン見してるけど、誰だ?ランじゃない、直葉も違う、立ち振る舞いでわかる。俺の知り合いではないはず........とか何とか考えているともう結構なプレイヤーがいる。人数は........ここを合わせて四十五人か。レイド総数に三人足りない。
「........こんなにたくさん。」
「いや、自己犠牲の精神が発露してるやつはそう居ないと思うがね。」
「ボクは折角のゲームだし、楽しみたかったから。」
「凄いな、お前。俺でも無理だわ、ボス戦は流石に。」
そして謎フード2はだんまりである。声も聞かれたくないのか?確かに声もリアルと一緒だが........。
「はーい!注目!ちょっと早いけどそろそろ始めまーす。そこ、あと三歩くらいよって!」
大声で呼びかけてきたのは中々イケメンな青い髪のナイトっぽいプレイヤーだった。
「俺はディアベル!気持ち的にはナイトやってます!」
........コミュ力も高そうだ。俺が敵う物は果たしてあるのか?とどうでいいことに思考を割いてると、
「今日情報屋から聞いた話では、ボス部屋を除いた迷宮区のマップデータが全部揃ったそうだ。」
本題に入った。騒いでたやつらも静まり返る。カリスマはありそうだな。
「SAOが始まり17日目、そろそろいい頃だと思う。2層へ上がりこのデスゲームはクリアできると証明しよう!!」
大きな声で全員に呼び掛ける。熱に浮かされたように周りも同調する。悪くはない、怯えるよりもよっぽどいい。
「ちょお待ってんか。ナイトはん。」
だが出るか、こいつは。裏で繋がってるのだとしたら大した忠誠心だ。
「仲良しこよしする前に、言わしてもらわんとあかんことがある。」
「勿論意見は大歓迎さ。だが、名前くらい名乗って欲しいな。」
「........フン。」
演技うめーーなー、でも早くしてほしいなーー。(緊張感/zero)
「ワイはキバオウってもんや。」
この
「こん中に五人か十人くらい、詫び入れなあかん奴らがおるはずやで。」
キバオウが食って掛かり、ディアベルは芝居がかったような動作を付け言う。隠す気ないな、こいつら。
「詫びって、誰が誰にさ?」
「元テスターに決まっとるやろ!そして死んでったニュービー約八百人にや!ちゃうか!?」
そのままこちらに演説するように言う。
「奴らテスターはデスゲーム初日に自分の為に碌にベータの情報も出さずに街を去った。そして自分らだけ強なった。土下座させてため込んだアイテムとコルを吐き出させな仲間として背は預けられんし、預かりとうない、そういうとんねん!!」
成程、で?お前がテスターじゃない証拠は?何て考えてるが俺が出る気は無い。そこまで主人公力高くないしエギルらしい人物が見える。きっと彼が論破してくれる、
「........むぅ~。」
と思ってた時期が僕にもありました。ユウキさん、そんな如何にも怒ってるって顔してるということは........
「........よし、」
よし、じゃねぇよ。ヒロイン力高いけど良くないよ。流石に妹分をこんな場所の前に立たせるわけにはいかない。
「ty「発言いいかい、キバオウさん、ディアベルさん?俺はオウルという者なんだが。」!........。」
立とうとしたユウキの頭を押さえ込み俺が立つ。俯いてた周りがこっちを見ている。一瞬「何だ!?」という顔をしていたが「チッ......爆発しろ。」みたいな顔になった。何故に!?と思ったが俺の周りは二人はフードをしてるが女だらけだ。多分侍らせてる女の前でイイかっこするモテ男に見えたのだろう。すみません、自分ハーレム系オリ主ではないんですが?この空気のまま喋んの?どうか噛みませんように。
「.....!何だい、オウル君?」
「なんやねん!」
二人のブレない姿勢に癒されつつ、いや落ち着け俺。アウェー感すごいけど錯乱すんな。
「キバオウさん、あんた死んだ八百人つったな?」
「あぁ、言うたで。それがなんや。」
「その内半分がテスターだ、多分正確にはそれ以上だが概算的にな。」
「なっ、なんやと!?」
「........。」
ディアベルは沈黙か。しかし迷宮区の攻略が早かったから死んだ奴少ないな、良い傾向だ。
「信頼できる筋からの情報だ。自分の為に走ったテスターは自滅したんだよ。それでも生きてるやつは生きてるだろうが.....あんたが言った事すればそれこそ戦争が起きるぞ。もっとたくさんの人が死ぬ。」
まぁ戦争は行き過ぎかもしれんが、キバオウも引き際は弁えてるだろうし。それに、
「俺も発言いいか?」
聞きほれるような見事なバリトンボイスが響いた........俺はホモじゃないよ?
「俺の名はエギル。オウル、よく言った。若いのに大したもんだ。」
罪悪感で死にそう!ホントは立つ気なかったんです!
「キバオウさん、金とアイテムは兎も角情報はあったぞ、間違いなくな。」
言いながらエギルさんが出したのはアルゴのマークが入ったガイドブックだ。
「それは........。」
「これは俺が村に行けばもう置いてあった品だ。ならもうわかるだろ?これを作ったのはテスターだ。」
「...........ふむ、つまり裁く人はもう亡くなって、そしてテスターもニュービーを見捨てたわけではない。キバオウさん、これ以上はいいんじゃないかな。それでも無理だって言うなら........。」
ディアベルがそう締めくくった、潮時と悟ったな........何かさっきから俺腹黒いな。
「........チッ!!」
キバオウは舌打ちをして不満ですよと言わんばかりに下がった。俺も戻ろうとした時、
「フッ........。」
エギルさんが微笑みながら手を出してきた。一々カッケーな、この人。
「ありがとうございます。」
「あぁ、君も。」
手を握り返しながら、感謝する。よくよく考えたら、ありがとうはおかしいかも知れないが俺はテスターなのでこれでいい。感謝すべきだ。こういう人が居るからなんのかんの戦う意味があるというもの。でなきゃいくら何でもやってられん。
「さてと、テスターとニュービー、問題は沢山あるけれど!気に食わないなら無理にとは言わない!だが手伝ってくれる気があるなら、六人パーティーを組んでくれ!」
巻きで行きたいのか、ディアベルはそう言った。俺とアスナとユウキと謎フード2、あと二人はどうしよう?
「あの~~オウル?ちょっといいかな?」
元の場所に戻るなりユウキは言った。
「ボクらは、エギルさんとこと組むよ........。」
「................????(脳が理解を拒んでる)」
端的に言おう、死にたくなった。
「........。」
「........いじけすぎでしょ。」
「妹に近い存在にぞんざいな扱いを受けたら、いじけもするさ........。」
何故だろう?ほんとに何で?エギルさんに惚れたのか、ユウキ?それとも謎フード2のせいか?そっちのほうが考えられるな........おのれ謎フード2、夜道に気を付けろよ?
「そして、お前が来るとは思わなんだわ。」
「あはは........ごめん、オウル。」
俺のパーティーメンバーはアスナはまだわかるとして、何とコペルも入ってきた。俺ならボッチを貫きかねない、それ位彼と俺は気まずい関係だ。
「ちゃんと、自分から謝りたかったんだ。ごめん、ほんとに........。」
「いいさ、もうしないならな。」
「何?知り合い?」
ちょっと喧嘩別れみたいな、と誤魔化す。まさか殺されかけたと言うわけにもいかない。
「で?どうする?もう解散でいいわよね?」
「えっと、アスナさん?即興パーティーだし、スイッチとか練習しませんか?」
コペルが申し出るが、
「スイッチ?って何?」
「........ユウキがエギルさんと打ち合わせ終えたら来るから、その時説明するよ。」
多分、あいつも知らない。
「え?スイッチ?知ってるよ?」
え?知ってんの?ガイドブックには載ってないのでは?アスナは知らなかったし。
「え?あっ、まぁ、似たようものがあったから、えへへー。」
明後日の方向を見ながらとぼけるユウキ。まさか謎フード2はテスターなのか?それなら納得できるが........どうしてユウキと行動してる?あと俺を探るような視線はなんだ?
「じゃあ、ボクらここに来たばっかだからさ。オウルの拠点に泊めてよ。」
11歳で俺ともリアルで交流があるからそういうが、
「嫌よ、話で済むなら明日でもいいでしょ。私はここで。」
うん、そうなると思った。確かにスイッチは入れ替わるだけだし、アスナは賢いから大丈夫だろ。
「まぁ、俺の宿は広いから連れがいいなら、いいぞ。」
「大丈夫!さっき聞いたから。」
謎フード2の目的が分からん。俺のことを敵視してるわけではないのか?
「じゃあこっから近いし、飯も中々旨いし、ミルクと風呂もついてるかバッ!!?」
突然横から衝撃が走った、目を動かしてみると人の手があった。張り手の如く飛んできて鷲掴みされたようだ。
「お風呂........あるの?」
面倒くさいなぁ、俺はそうため息をつきたくなった。
夜になり、俺が泊ってる民家には
「ZZZZZZZZZZZ」
「........。」
ユウキは分かり易いくらい寝てる。謎フード2は《調合》のスキルでポーションか何かを作っている。アスナはもちろん風呂だ。しかし調合か、ベータの時でもあまり見なかったスキルだ。毒のポーションも造れるが直接殴った方が早いのがほとんどだった。PK専門のプレイヤーは使っていたがまさかユウキがそんなプレイヤーと組んでるとは思えない。何かを憂うような表情も見られなかった。SAOでは感情を隠すのは難しい。かなり感情表現がオーバーなのだ。
「調合スキルとは珍しい物持ってんな。」
「........。」
「何作ってんの?」
「........。」
無視、ガン無視である。いや、話したくないだけでもしかしたら声を出すようなコミュニケーションを避ければいけるかもしれない。
「ちょっと作って欲しい物のがあるんだけど。」
「........?」
「これとこれで作れるはずだから。」
「........??」
こんな物何に使うんだって反応だな。秘密兵器だよ。明日の運命は多分それで変わる。密かにそう企んでいると、
「...!アルゴか。」
「.....?」
「いや、だから何で分かるんだヨ。」
「!?!?」
謎フード2はあからさまに驚いていた。気にすんな勘だ、勘。
「電子の世界で勘っテ.....?」
「それより何の用だ?」
「お前の剣を三万ky「よし名前二千で買うわ。」.....話し聞けヨ。」
「さっさと済ませたほうがいいだろ?」
「ハア、ちょっと待テ..........いいそうだ。まぁ、もう知ってるだろうガ。」
メールの返信速いな、分かってたのか?俺が聞くこと、
「キバオウか?」
「........即答か。オイラはたまにオウルが怖くなるヨ。」
「まぁ梟だし、天敵だからな。」
「そうやってまたとぼけル。」
嫌なことだけ原作通りに進む傾向がある気がするな、気のせいか?
「用はこれだけダ。隣の部屋借りていいカ?」
「フェンサーが風呂浸かってるからダメだ。」
「.....ほほぅ?」
「圏外で殺されても俺は知らんからな。あと貴重な女性プレイヤーを敵に回すのか?」
「.....何かオウルはオイラにとことん利益をもたらさないナァ。」
マップデータとか無償でやってるじゃねぇか、欲張るな。そんな事を話しながらアスナが上がってくるまで話していた。コペルはいま何してんだろ?
「イッツ・ショーウ・タァーイム」
何処かで誰かが嗤った。
長すぎる、でも二話に収めたかった。ごめんなさい。
これからもこんな感じで書いてきますのでお願いいたします。
キバオウ喋らしづらい。
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第八話 そして梟は 呪われた
オウル「思い上がったな!雑種!」
キバオウ「なんでや!」
シリアスは辛い、ここだけでもはっちちゃけたい。
原作崩壊の為ある程度原作沿いになるジレンマ。
夢見がちな子供が現実を見始めるきっかけとはどんなものか?初恋の女の子に振られたときか?聖夜に入ってきたのがサンタではなく両親だった時か?
別に私は夢見がちな子供ではなかった。どちらかと言えば冷めていた子供だった。少なくとも聖夜に入ってきたのがサンタではなくお父さんでもがっかりはしなかった。というか知らない老人が部屋まで勝手に入り得体のしれない物を置いていくのは恐怖と言わず何という。それくらい冷めていた子供だった。それにお父さんはサンタのコスプレをしていたが、私が物心つく前に交通事故で意識不明の重体になり、幸い通りがかった(お父さん曰く有名な剣豪と同じ名前の人らしい)老人が救急車を呼んでくれた。だが片足に障害が残り、杖が無くては足を引きずってしまう。だから子供の私でも簡単に見破れた。
足に障害が残り車の運転ができなくなり、仕事に支障が出て辞めることになり。転職して母の実家の近くの温泉で治療することになった。湯治が思いのほか効いたのか、お父さんの足は年々良くなっていった。しかしそんな最中私と母がとある事件に巻き込まれた。
そして、その事件が夢見がちでなく、冷めていたはずの私が一つだけ、夢をみるようになったきっかけ。
「彼にまた会ってみたい」
もっとも、会ってもどうすることも考えてなかったので、今は姿を隠しているが。
その道中は楽しいと言えるものでは無かった。ユウキは謎フード2とエギルのチームに加わり、俺は初日にMPKをしようとしたコペルと謎フード1とパーティーを組んでいる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
くっそ、気まずい。これを何とかできるコミュ力があるのはディアベルくらいだろう。どうすりゃいいんだよ。何で誰も何も言わねぇんだよ。話せよ、もっと。
「・・・・・・ね、ねぇオウル?僕らは打ち合わせ通り取り巻きのコボルトの排除をするわけだけど・・・・・・」
と、コペルが話しかけてきた。GJ!コペル!今ばかりはこれをきっかけに話を無理にでも広げる。
「あぁそうだ、コボルトのPOPが変わってる可能性があるからボスとの闘いに支障が出ないようにする。それが俺たちの仕事だ」
「そう、それだよ」
「?何がだ」
「おかしくないか?A~G隊の内A~E隊はボスの相手、残りはコボルトの相手。僕ら三人は人数が足りないからコボルトの相手をさせられた・・・・・・と思ってたんだけど」
コペルは少し溜めて言う。
「レベルを確認したわけでもない、にもかかわらずベータの時より強化されてるかもしれない敵を相手するのに、他のパーティーから一人か二人入るように指示もすることもなく、僕らは普通のパーティーよりも人数が少ないまま戦わなければならない・・・・・これがデスゲームでなければあり得るけど、そうじゃないだろう?何か釈然としないんだ・・・・」
コペルは難しい顔で言った。意外と鋭いな、こいつ・・・・確かに俺たち以外にソロプレイヤーなどがいたのにそうしなかったのは少し不自然な気もするだろう。俺はあらかじめ知っていたのでその訳を知っているが、その理由だけでそこまで行きついたのなら大したものだ。
「ディアベルに何か考えがあるのかもしれないし、リーダーと言えど急造レイドだし、あんまりアレコレ命令は出来ないんじゃないか?」
「そうかなぁ・・・・・何も起こらなければいいけど」
「ちょっと、不吉なこと言わないでくれる?」
だんまりを決め込むかと思えば混じってくんのか、アスナさん・・・・。
広場ではアルゴが徹夜で作ったであろうガイドブックを手にして会議を行ったが、ベータの時とは違うという一文があったにもかかわらずろくなことを話さず出発してしまった。
一応、俺が異議を唱えたが、ソロでディアベルにとっては目の上のたん瘤のような存在。「その時はタンク隊に前に出てもらって様子見すればいいだろう?」と論破された。確かに定石ではあるが・・・・
「でも確かに最悪は想定しておくべきだ。ボスと戦うことになったら俺が攻撃を捌く。二人は攻撃に回ってくれ」
「ちょ!?僕らだけで戦う前提かい!?」
「最悪っていったろ?何かあれば、みんなパニックに陥るかもしれない」
「私達だけで戦えるの?」
「周りに取り巻きが居なけりゃ俺一人でも戦えなくもない。三人ならまぁ、多分大丈夫だ」
「.....君は底がしれないな」
そんな事を話してるとズカズカと、
「おい、おどれら」
「あ?」
思わず殺気を混ぜて返事をしたがキバオウなら良いだろう。てか感じ悪いな。(ブーメラン)
「ッ!.....おどれらは取り巻きの雑魚に構ってたらええねん。余計な事すんなや?」
さっきの会話が聞こえたのか、釘を刺しに来たようだ。怨敵でも見るような目つきで言ってきた。
「何もなければ、何もしない。あんたもしくじんなよ」
昨日の事で俺とは顔を合わせづらいとか思わなかったのか?
「.....チッ!!」
隠しもせず思いっきり舌打ちをして、帰っていく.....はっきりいってこの先力を合わせられるのか不安である。
「何よアレ、感じ悪いわね.....」
「オウル、何かしたの?」
「何も、勝手に敵認定されたみたいだな」
或いはそう仕組まれた。俺はディアベルの方を見たが、あちらはパーティーメンバーと何か話していて何も気づかない。
その後は特に何もなくボスの部屋前にたどり着き、最後の点呼をとった。
「よし!45人誰一人かけることなくここまで来たな!」
ディアベルが言う、多分この中で俺だけが冷めた心持だろう。
「実を言うと、もし誰か一人でも来なかったら俺は今日のボス戦はやめようかと思ってた」
それは俺でもか?心の中で独り言ちる、だがこれからあいつは茨の道を歩むことになる。汚れ仕事もしなくてはならなくなるだろう。人がいる限りそういう腐敗は必ず起こるものだ。だから、まぁ、
「ちゃんと歩みきれよ.....」
ここで死んでもらっては困るのだ、ディアベル。お前が居ればきっと攻略は楽になる。
「でもそんなの皆への侮辱だったな!すまない!」
そして扉へ手を乗せ、
「.....行くぞ!!」
全員がボス部屋へと流れ込んだ。
「スイッチ!」
コボルトのハルバードを単発斜め斬り《スラント》でぶった斬り、衝撃でのけぞったコボルトの喉へアスナが《リニアー》を放つ。ここでHPが残ればコペルが追撃するのだがそのままコボルトはパシャンと消えていった。
「....凄い......僕いらないんじゃ」
「馬鹿言うな、俺はいいからアスナと交代だ。細剣は耐久値が低いから温存に越したことはない」
「まだ行けるわよ?」
「念の為だ、折角の武器へし折りたくないだろ?ボスともやり合うかもしれないんだぞ?」
そう言うとアスナは渋々下がる。落ち着けよバーサーカーかお前は。まだまだ活躍してもらうから安心しろ。ポーションはいっきに回復するものではないので予め飲んでいる。そのため俺もアスナもコペルもHPは満タンだ。
「コペル、戦況は?」
「順調だよ。コボルトロードを封殺してるといっても過言じゃない」
まぁ指揮官がテスターだからな。だが最後の武器が変わっていれば話は別だ。
「おい」
「?........またかよ、何だ」
話しかけてきたのはキバオウだった。暇なのか?コイツ?
「当てが外れたやろ?えぇ?」
「何の話だ?」
「とぼけんなや!LAボーナスの事や!」
「へぇ?それがなんなんだ?」
「ワイは聞かされとんねん、お前がベータの時汚い立ち回りでLAを取りまくったって!」
「ディアベルにか?」
「なっ!ちゃっ、ちゃうわ!ネズミじゃ、ネズミ!」
予想はしてたが、実際聞くと苛立たしいことこの上なかった。あいつは何のかんの頑張ってんだぞ?それにボスの情報もあいつ当てなのに・・・・
「アルゴは何があっても人の命に関わるような情報は売らない。口には気を付けろよ?スケープゴートに奴を使うな!」
そう言い残し、またPOPしたコボルトの相手に戻る。
「........何を話してたの?」
「聞きたければあとでな。コペル!準備!」
ポーチの中に入った普通ならPK目的と思われても仕方ないような秘密兵器の感触を確かめながらコペルとコボルトに向かった。
迷宮区の奥で出会った剣呑な目つき、白髪交じりの髪、灰色のモッズコートを着た片手剣士オウルはさぞ強いのだろうと思っていたが、それでも想像以上だった。
「弾いたよ!オウル!」
「任された!」
コペル君がハルバードを弾き、オウル君が《レイジスパイク》で喉を貫く、やってることは私と同じだが彼の武器は細剣ではなく片手剣。私の今の剣は《ウインドフルーレ+4》、細剣の命中力を更に高めているが、それでもボス部屋にPOPするだけあるのか私一人ではコボルトの喉を貫くのは難しいだろう。
しかし彼は命中力は並の武器で命中力補正無しで喉を貫いた。当然の如く一撃死だ。
「手慣れてるわね・・・・」
「まぁな、コペルも上手いし、楽だわ」
恐らく二人共テスターだろうが、それでもオウル君の動きは頭一つ飛びぬけている。現実でも武道の類をしていたのだろうか?動きが速いだけでなく相手の動きも初動から見切ってる様に思える。掠める様に避けてるのに危なげな雰囲気はなく、自分が弾く役になると絶対相手の武器を破壊する。
万が一にも反撃させない為か。
「・・・・ボスと一人でも戦える、強ち出鱈目でもないのね・・・・」
「え?なんて?」
「何でも無い。それより出番まだ?」
「もうPOPしないんじゃないかな?ディアベルさんのパーティーがコボルトロードを倒すの待つだけだよ」
コペル君が答える。若干不満が無いわけではないが無事に戦いが終わるならそれはそれでいいか、そう思いながらコボルトロードの方を見る。
HPバーはあと少しでレッドゾーンに入る。そうすればガイドブック通りにタルワールに持ち替えるはずだ。
「・・・・アスナ、タルワールってどんな武器だっけ?」
「え?・・・・えっと、中東アラビア、イスラム圏の・・・・」
違う、言いかけて止まった。アレはもっと身近な物だ。私でも知ってる。いや、日本人なら誰でも分かる。
「まずい!ディアベル!!武器が違うぞ!!引けぇーーーーー!!」
オウル君が叫ぶ、だが届かない、距離があり過ぎる!床を揺るがせ、垂直に跳ぶ、地面に着くと同時に捻った体の力を『刀』に乗せて開放する!
「GURRRRRRRRAAAAAAAA!!!!」
それは今まで封殺された王の怒りの様だった。三百六十度に放たれた水平斬りはディアベルさんのパーティーを全員スタンさせた。
「やばい!二人とも準備!!」
「え?ちょ!?ちょっと!!」
言い終えるより先に駆け出し何かポーチから出そうとしている。そしてコボルトロードは追撃を始めた。引っかける様にディアベルさんを宙に浮かせる。あのままではディアベルさんが死ん・・・・・・
「そぉぉぉおおおおおおおおい!!!!!」
突如、そんな間抜けな掛け声と共に何かがコボルトロードの顔面に何か放たれ、離れているここにまでとんでもない悪臭が漂ってきた。
ギリギリセーフ!!内心そう思わずにいられなかった。俺の狙い通りコボルトロードは悪臭に悶えている。
「今のうちに仲間を回収しろ!」
「おっ、おう!!」
エギルさんから頼もしい声が返ってきた。やっぱ頼りになるな、あんた!
「ねぇ?何したの?」
「・・・・・」
力仕事では役に立てないのかユウキと謎フード2はこっちに来た。
「そっちのフードに昨日《リトルペネントの実》から臭い玉を造ってもらったんだ」
臭い玉、ようは某狩人ゲームの肥やし玉である。だが一つ違う点がある。mobの種類によっては引き寄せる効果もあるのだ。そのためデスゲームとなったSAOではこの類の道具は忌避されている。
コボルトは犬っぽいので効いていたため、ロードにも効くだろうとポーチに忍ばせておいた。まさかペネントの実がここで役に立つとは・・・・
「今からボスを仕留める。俺が刀を防ぐから前面百八十度の範囲より後ろに行かず攻撃しろ。囲んだら範囲技が来る」
「オッケー!好きに攻撃してもいいんだね?」
「・・・・・」
ユウキと謎フードは武器を構える。ユウキは片手剣なのは分かるとして謎フードは短剣か。いや、今はそんな事はどうでもいい。残りHPバーは17.5パーセント位か。行ける!
「あとでうちのメンバーも来るから同じよう言っといてくれ!俺は多分余裕がない!」
言ってるそばから一番近い俺に刀のソードスキル《浮舟》が飛んでくる。ここから《緋扇》に繋ぎ一気に殺す気だろう。だが、《浮舟》は威力が低い。
「ゼアァッ!!!」
「GGURRッ!?」
下から迫る刀を《バーチカル》で叩き落とす。流石にこちらものけぞるがその間に二人が切り込んでくれる。
「いくよ!!囲んじゃだめだからね!!」
「わかった!」
「・・・・・」
いつにのまにかアスナも来ていたようだ。勝てる、間違いなく。
そして俺は次のソードスキルを迎え撃つ準備をした。
彼は考える、あの人の言葉を。上に上がる階段で突き落とすつもりだったが、あれだけの実力者が簡単に落ちてくれるだろうか?はっきりいってこちらが落とされそうだった。彼ならそうする、そんな確信があった。
なのでここで殺すとしよう。背に腹は代えられない。ビクビク過ごす位ならいっそのこと不安の種を消し闇であの人についていく。彼はそう決めた。一度深呼吸して対象を見据える。
あの日と変わらない灰色のモッズコートを着た恐らくSAO最強であろう、白髪交じりの剣士。
多分、二十回目位。ソードスキルをソードスキルで相殺してる最中にふと思った。
「あれ?コペル何処だ?」
目に映る範囲には三人全員いるのにコペルだけが見当たらない、と思った時だった。後ろから誰かに思いっきり後頭部を殴られた。
「ガッ!?!?」
「・・・・・」
ソードスキルではない為威力は低い。減ったHPは2,3ドット程度。だが問題はそこではない。体勢が崩れ、目の前からくる刀のソードスキル《幻月》。
「ッうぉおおおおお!?」
咄嗟に剣を盾代わりに手を添えて前に構えた。下から来た刀は俺のHPを2割弱持っていき、後ろに12,3メートル程吹っ飛ばした。ユウキとアスナが何か言ってるが気にしてられない。
「何のつもりだ!コペルッ!!」
「殺すつもりだけど?」
事投げにそう言って《ソニックリープ》で切りかかってきた。何で?しかも今何だ?かつて手を染めず、俺の事を殺そうとしたのに、今は俺のHPを減らしたためにオレンジになってしまったカーソルを見て考える。
「どうして!ここで!殺しに来る!?」
「じゃないと死んでくれそうにないからさ!」
《ソニックリープ》の軌道から大きく避けたがすぐさま切りかかってくる。剣で迎え撃ちながら聞くが、コボルトロードはどうなった!?
「余所見してていいのかい!?」
「てめえなんぞ余所見してても十分だ!!」
防戦一方だが何とか戦前は保ってる様だった。しかしどうする!?コペルもテスター、侮れる実力ではない。まず第一になんでこんな真似を、
「コペル!今なら間違いで許す!剣を捨てろ!両手を切り落とさせろ!」
「馬鹿か君は!?殺すつもりって言ったろ!?」
「いつからだ!!」
俺は言う、
「初めからさ!!」
コペルは答える、
「どうしてだ!?」
俺は聞く、
「関係あるか!?」
コペルは答える、
「やめろこんな真似!!」
俺は止めようとした、
「君が死んだらねぇ!!」
コペルは止まらない、
もはや道中で話してた仲間とは思えなかった。周りは困惑している様だった。ディアベルがまだ指示を出していないようだ。そして新たに沸いたコボルトもいる。
ここはあまりにも混沌としている。
「コペル、殺すぞ!?引け!」
子供じみた脅しだった。俺も必死だった、
「だからっ、僕はっ、」
剣を払いのけて上段に振り上げる。いつかと同じ《バーチカル》。
「最初からそのつもりだぁああああああああ!!!」
大声と共に振り降ろすそれを同じくソードスキルで反らし、
「まだだぁ!!」
「いや、終わりだ」
「えっ?」
「まさか・・・・お前に使うことになるとはな・・・・・」
コペルは何が起こったのか分からなかったのだろう。連続のソードスキルはベータの時のデュエルでも使われなかった。初撃を避ければ格好の的だからだ。まさかこの土壇場で使うとは思わなかったのだろう・・・・・・いや、もしかすると、
「あっ、嫌だっ!!そんなっ!?」
俺が本気で殺すとは思ってなかったのかもしれない。
「・・・・・・」
消えてくコペルに、俺は何も言えなかった。
コボルトロードは見事に撃破した。congratulationの金色の文字が出て経験値が入り、私アスナはLV12になった。他のみんなも同じような物だろう。
だが誰も喝采を上げない。まるでお通夜のように静まり返っている。
「・・・・・・・・・・・」
彼、オウルを中心として。
「ピッPKだっ!?」
金切り声で誰かが言った。
「こいつ仲間を殺しやがった!!」
オウル君は何も言わず冷たく金切り声の主を見据える。
「おい、ジョー・・・・ちょお黙っとれ」
「でもキバオウさん、こいつ「黙れいうんが聞こえんかったか!?」・・・・・・・・・・・」
静かな空間にキバオウさんの怒鳴り声が響いた。ディアベルさんがオウル君に近づき、
「誰にも・・・・君を攻める権利は無い、ここは任せてくれないか?」
「・・・・・・・・・・・」
何も言わずオウル君は背を向けて、上層へ行く。
追いかけるべきか?と、考えて何故?と自問自答する。
「・・・・あっ・・・」
もう、オウル君の姿は見えなかった。
こんな事になるとは思わなかった、という考えは甘えだろう。コペルが俺のパーティーに入ったのは俺を殺すためだった・・・・・・予想はできるはずだった。
「コート・オブ・ミッドナイト・・・・人殺しには似合うかもな・・・」
答える者は誰もいない。ここは2層の門の前。後ろに続いて来たものはいない。ディアベルに任すしかないだろう。俺が刀のソードスキルを対処できたことなど誰も気にしてなかった。それ程の事なのだ、SAOでのPKは。
「次の攻略には参加できるのかね?」
呑気にそう言って《ウルバス》に行こうとすると、
「待って!オウル!」
「ユウキ・・・・」
ユウキだった。だが一緒に行動は出来ない。
「何の用だ、連れてはいけないぞ」
「そんな事言わないでよ!それにボクだけじゃないよ!」
他に誰がいる?そう思っていたら謎フード2が門から出てきた。
「・・・・・・・そういや誰なんだ?お前は?」
「・・・・・・まぁ、分かるわけないか、隠してるしね」
その声を聞いた時、俺はひっくり返りそうになった。フードを取り、口元の包帯を取る。
「久しぶりね、オウル」
「・・・朝田・・・・」
今から二年ほど前に強盗から助けた少女、朝田詩乃だった。
アスナファンごめんなさい。ここからはアスナの活躍は必然的に減ります。
そしてやっとこさシノンが出せた。予想してた人どれくらいかな?
SAOに入ってる理由は次回に持ち越しです。
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第九話 人道行く 白梟
オウル「お前か」
シノン「私よ」
ヒロインタグは必須ですか?
あと前回言っちゃいましたが、やっぱりもう少しだけアスナも活躍します、すいません
会話が多めですが、始めます。第九話
何故ここに?単純極まりないがそう思った。
朝田詩乃はゲームをするような女の子ではなかったはずじゃ?
不思議に思い「ゲーマーなのか?どうしてSAOに?」と聞いてみた。あまりゲームに詳しくなさそうだし、知らない仲ではないからそれ位は教えてくれそうだが・・・
「私がSAOに来た理由?まぁ、お父さんが買ってきたからかな」
そんな馬鹿な、原作では死んでるはずの父親が生きてる?何故だ?だがそんな事聞けるはずもない。そのまま俺とユウキとシノン三人で主要区《ウルバス》に向かいながらシノンに話してもらう。
「私の誕生日にお父さんがナーヴギアを買って、SAOのベータテストに応募したの「小説以外にファンタジーを体験させたかった」って。でも結果は落選、買ったナーヴギアも持て余しちゃって、リベンジのつもりなのか徹夜してまでSAOのソフト買ってきたの」
お父さんのガッツ凄いな、ナーヴギアとSAOソフト、両方買ったら十数万だぞ?娘溺愛してるじゃねえか。だが幸せそうで何よりだ、もし朝田父を救った人に出会えたら感謝したいくらいだ、俺は全く関係ないが知ってるだけに心苦しい物があったし。
「そうか・・・・親父さん、発狂してなきゃいいけど・・・」
「その時はお母さんが止めるでしょうし、私達が心配してもしょうがないわね」
「ボクも姉ちゃんに叱られるかなぁ・・・・・」
そこには日常的な雰囲気があったがそれも街までだ。俺は人殺しになってしまった、悲劇の主人公ぶる気はないが側に居られたら二人に迷惑、いや本物のPKすら現れる可能性もある。
二層であの事件が起こればそれこそ間違いなく。
「言っとくけど、人を殺したからソロで行くなんて駄目よ」
「・・・・・・・」
お見通しか、だが、
「何でだ?お前に何の権利がある?何で俺について来る?」
「・・・・・二つ、ユウキがあなたに会いたがっていたから」
「えっ?いや、会いt「何?」何でもありません!マム!」
え?何今の?明らかに恐怖を刻みこまれてたけど?シノンは父親を亡くし、母親が精神的まいったために原作の強気な少女になったと思っていたが・・・・成程、ある程度資質はあったようだ。
軍人の如く敬礼するユウキを見てそう思った。
「もう一つ・・・・あなたに助けられたから、あとその強さを近くで見てみたかった」
「・・・・それじゃ三つじゃないか、しかも助けたのは二年前、礼はいらないよ」
「まぁ、強さを見てみたい動機はボス戦で出来たものだし、あと二年前だけじゃないわよ」
そう言ってシノンは何か本の様な物を出した、ガイドブックにしては分厚く、何よりアルゴのマークが付いてない。
・・・・・・・なんかどっかで見たことある気もするが。
「・・・・あのモッズコート、始まりの街近くのワーウルフからドロップしたの?」
「!何でわか・・・・あ、お前、あの時の・・・」
そこでやっと分かった、ユウキが何故ガイドブックに載ってない「スイッチ」を知っていたか。載っていたのだ、俺が書いたガイドブックには。そしてあの時の短剣使いがシノンだった。
「でも何で顔を隠してた?しかもエギルさんとチーム組むように言ったのお前だろ?」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・オウル・・・・」
何で?何でそこで「駄目だな・・・こいつ」みたいな空気が流れるの?至って普通の質問だと思うけど?
「いや・・・・二年前ことなんて忘れてて、誰だお前って言われるんじゃないかと・・・・」
「あんな出来事早々忘れねえよ、我ながらよく被害ゼロで押さえ込めたなと思うわ」
「ねえ?さっきから二年前、二年前って何の話?」
「シノンから聞いとけ、で?結局お前らついて来るのか?何があっても保障出来んぞ?」
「デスゲームで何か保障出来る奴なんていないでしょ?」
「うんうん、オウルなんかちょっと気取ってない?」
「・・・・・・・・・・・」
なんだろう、俺は妹キャラにディスられる運命なのだろうか?直葉もユウキも容赦ないな・・・・泣きたい。
「街にいったらどうするの?」
「・・・・あー、そうさな・・・・クエストいくつか受けて、アイテム補給と武器の整備、その後街を出てあるとこに向かうつもりだ」
「あるとこ?ていうか、街すぐに出るの?」
「ディアベルが先の事件どうみんなに説明したか分からんが、俺はあまり街には居られない」
緘口令を出してたとしてもすぐに広まるだろう。人はそういう生き物だ、アルゴでさえこの情報は売らないだろう、自分のステータスさえ売るが倫理や道徳は多分人一倍強いはずだ。そういや今何してんのかな?何のメッセージも来ないが・・・・
「そっか・・・・まぁ、しょうがないよ、他人事みたいで悪いけどさ・・・・」
「実際他人事だしな気にするな、早く行こう、二時間すると勝手にアクティベートされるから」
「歩きながら行きましょ・・・・ボス戦の後で流石に疲れたわ・・・」
仮想世界では肉体的な疲れはそこまで続かないが、精神的な疲れは十分な睡眠を取らなければ治らない。まぁ、確かに街まであと二十分もあればつくだろうし、急がなくてもいいだろう。
「あぁ、あとそれと」
「?」
シノンが俺の頭の上辺りを見ながら言う。
「あんたその白髪交じりの髪どうにかしなさいよ」
「グハァッ!?!?」
「オウルが死んだ!この人でなし!」
「は?」
「ごめんなさいなんでもないです」
だからユウキはシノンと何があったんだよ、パートナーというよりその構図は下僕に近いぞ?
そしてシノンよ、めっちゃ気にしてることダイレクトアタックかましたな、効いたぞ。
確かに俺ことオウルは恩師が死んでから精神的に不安定になり白髪がめっきり増えた、十代がこれは目立つだろうし、何より俺もどうしよう?とは前々から悩んではいたのだ。
「一応、メーキャップアイテムはあるんだが・・・・」
「使いなさいよ、デメリットないでしょう?」
「折角だし赤色とかにしようよ!」
白髪染めするみたいで今まで忌避していたが遂に染めるのか・・・・あとユウキそれは尚更目立つだろ?
「えー?髪色位大丈夫だって、自意識過剰だよ」
「若しくは被害妄想ね」
「君ら慰める気/zeroか、死にたくなるな」
フルボッコじゃん、俺。
このメーキャップアイテム、中々レアで十数回は髪や目の色を変えられオークションにでも出せば四、五万はする、ボス戦前にこれを売って装備を強化するか考えたが・・・・結局売らなかった。コルはいつでもカツカツである。
それはもう某人類史を救わんとするソシャゲーの如し、羽がねえ、歯車がねえ、心臓がねえ、まずそもそもQPがねえ・・・・そういやこの二人と同じ声のキャラ何人もいたな。
「で?何色にするの?」
「えっ、まぁ黒で・・・」
「え~~~?つまんないよ、それじゃ」
「折角だし冒険してみれば?」
「年頃の息子を持つお母さんか!!あと冒険ならもうしてんだろ!?」
その後街に着く三分前まで議論はなされた、個人的にはシノンはペールブルーにして欲しかったがにべもなく断られた。似合うと思うのだが・・・・
「何故に白色?赤と同じくらい目立つわよ?」
「現実でもありえそうな色にしたかったから・・・・あと梟ってやっぱ白いイメージあるじゃん?」
あとは願掛け、最強喰種捜査官をイメージした。メガネは掛けない、そこまで似せたらファンや信者に批判されかねない。あとコートも黒だしこのまま黒に統一したらそれはそれで嫌なのでキレイな総白髪にした。
「よし、一時間後にここに集合な?その間に全部終わらせろよ?」
「了解」
「うん、わかった!」
あと一時間経っても二十分は余裕がある、俺は三十分でも良かったが女の買い物が時間がかかるのは一々言うまでもない。
そんな事を考えながら買い物をし、クエストの受注を終えて。武器の整備をNPCに頼む、ボスと打ち合い、コペルと切り合ったため、丈夫さに+4振ってるが見るからにボロボロだ、
「コペル・・・・・・・・・・・」
自ら殺しておいて今更被害者面するのは虫のいい話だとは思うが、それでも気が沈む。例え憎まれても自分で救った命を自分で殺した・・・・かつて見殺しは鬼の所業などと考えたが・・・・直接殺した俺はやはり殺人鬼になるのだろうか?
何もしてないとこんなことを考えてしまう・・・さっき起こったばかりだからかも知れないが・・・
「・・・・・しかし何でいきなり?」
俺なら夜の目立たない場所で決行する・・・・ボスとの戦いの最中に攻撃、刀スキルで殺すつもりだったのか?
死んでくれそうにないとも言っていた、別の方法があったが成功しないと見てあの乱戦で殺すことにした・・・・そういうことなのか?しかしそれでも、
「・・・・解せない・・・・いくら何でも豹変し過ぎだろ・・・」
それだけの度胸があるなら初日の森で殺しに来たはず・・・・誰かにそそのかされた?誰にだ?考えれるのは今のところあの原作キャラだけだが・・・・・・!
「まさか・・・・アルゴから情報を買ったのはコペルの後ろに居た奴か・・・・?」
金だけ渡して他人に情報を買って貰い、自分の素性は明かさない、よくある手口だ。少なくともアルゴも黙認するくらいは・・・・
「ユウキとシノンにも言っとくか・・・・」
「何をさ」
「!っと、何だユウキか、びっくりさせんな」
「いやふつーに話しかけただけだよ」
どうやら武器の整備に来たようだ、アルゴに前俺の情報を買った奴の素性を調べてもらうことを頭の片隅に置いておき、思考を中断する。
「どうかしたの?」
「・・・・あとでシノンと一緒の時話す」
アインクラッドで殺人鬼の類が居るかもしれないことを。
「よし!準備は終わったな?てか早かったな?」
結局三十分位で終わった。女子ってもっと買い物かかるのでは?
「買うものはほとんど決まってるし、ファッションに気を使ってる場合じゃないでしょ?」
「そうだねー、あんまり美味しいものもないし」
「それは激しく同意せざるを得ない」
食料も良さげな物を見繕ったが・・・・飽くまで良さげだ、ここでは見た目は当てにならない。
「でさ、どこいくの?」
「役に立つスキルが手に入る所」
「どんなスキル?」
「体術、読んで字の如く体術を覚えられる」
この森を抜けて、岩壁を登り、洞窟を抜けて、ウォータースライダーで滑り降りた後、更に進む。
そして東の山の頂上にたどり着く、直径2,3メートル位の岩がゴロゴロしあって、飲み水の為の泉もある。
近くにはノンアクティブの牛しかいない。こいつらは経験値効率がいいため後で乱獲する。
「やっと・・・着いた」
「・・・・私まず、休む、クエストはそれから・・・・」
「バテたか・・・まぁ、俺も結構疲れたが・・・」
俺も休みたい気持ちも無いわけではないが、俺が先にクエストを受けて実演しなければ時間が掛かるし、何より二人に恨みを買うことになる。
「じゃあ、そこら辺の岩の上で見てろ、割と簡単だから」
そして一時の恥を覚悟し、ボロイ小屋をノックする。
「・・・・・入門希望者か?」
「あぁ、体術を覚えに来た」
「ならばよし・・・お前に貸す試練は一つ、そこにある岩を素手で砕け、それだけだ」
そして次の瞬間、
「岩を砕くまでここを下りない証を立ててもらう」
シュバッ!そんな効果音と共に顔に何か走る、やっぱこれ不可避なのか・・・・
「砕け、されば道は開かれん」
そんなどっかで聞いたことがあるキャッチフレーズを残し、小屋に戻る・・・・
「・・・っく・・ぷ・・ふふ・・」
「ぶふぅーwwwwオウル、それは反則だよww」
「・・・・・お前らもあとでするんだぞ?」
率直に言おう、あの師範代に殺意が湧いた・・・・何時まで笑ってんだ、おい。
そして赤い布を取り出し、近くの牛mobをここまで連れてきて闘牛士のように岩にぶつけさせ続けた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「いや・・・そこまで落ち込むなよ・・・」
人の事笑っておきながら自分たちがいざやるとなると逃げ出そうとしたので師範代に「すいませーん!彼女たちも修行受けたいそうでーす!」とけしかけ、「是非もなし!」ととんでもない速さで追いつき二人の顔にひげを書いた、ゲーム開発スタッフの悪意が垣間見えた瞬間である。
思いっきり笑ってやりたかったが目が凄いことになってるのでやめておいた・・・・ハイライトがないな、これ。
「覚えときなさいよ・・・・?」
「この恨みはらさでおくべきか・・・・」
マジすぎる、ひげが書かれて面白いことになってるのに笑えない。
「いいから、さっさと牛釣ってこい、普通に殴ってたら三日かかるぞ」
時間が掛かる系のクエストは大体何らかの救済措置みたいなものがあるのでそれを見破るのも必要だ、今回は俺が教えるが・・・・やめろ、俺を殴ってもクエストは終わらん。
「怒りの力で一撃で割る・・・・」
「できねえよ、・・・多分・・・」
「結局野宿か・・・・お風呂・・・・」
「そうね・・・・いくらノンアクティブしか沸かないとは言え、圏外はそれだけで疲れるわ・・・・」
「まぁ、明後日の昼には下山するさ」
その日はそのままクエストの岩場で過ごす事になった、岩の割れ具合は6割くらいか?後で俺が体術スキルの試し打ちがてら殴っておこう。他人が割っても、二人のひげも消えてスキルを獲得出来るはずだ。
「明後日?一日半位余るじゃん、その時間どうすんの?」
「ここよりいい狩場あるでしょ?」
「・・・・二人にはここでデュエル形式で対人戦に慣れてもらう、武器だけじゃなく素手でもな」
そして昼に考えたことを話す、意外に二人とも、特にシノンは実際過去の経験からか俺の話はかなり信じてくれた。それに闘いの基本は格闘だ、武器や装備に頼ってはいけない・・・・あの名作ゲームの灰色の狐も言っている。
「まぁ・・・・ここでは法律はあってないようなものだし、ストレスとかで豹変する奴もいるでしょう・・・」
「コペルさんを唆した奴って、一体誰なのさ?」
「分からん・・・だがPKを扇動するのが目的なら・・・・それっぽい事件は全部そいつ、もしくはそいつの息がかかった奴がいるはずだ」
アルゴからメールを受け取りながら答えた・・・昼間に忍者に追われた・・・・忘れてたな、ごめんアルゴ。そして望み薄だとは思うが大金はたいてコペルと関わっていた奴、そして俺の名前を買った奴の身辺調査を頼む。
「明日からは対人戦な、今日はもう寝とけ」
そして俺たちが《ウルバス》に戻ったのは、二層が開通してから三日後の事だっただった。
「ふっざけんなよ!!」
溜める様に思いっきり、そんな絶叫を中央広場で聞いた。
さっきLV13に上がり、今日は少し贅沢しようかと考えてたところこれだ。ウンザリするのは私だけではないだろう。
「あぁ、プロパティだだ下がりじゃねえか!」
どうやらプレイヤーが出している店で武器の強化に失敗したようだ、「元に戻せ!」と小柄な男性に叫んでいる。
あの剣は見たことがある、そうアレは、確か・・・・
「アニールブレードの強化失敗か・・・・」
「!!?」
自分の隣からまさしくその剣の使い手の声が聞こえてきた、いつから居たのだろう?
まるで気づかなかった、というか、
「あなたここで何してるの!?」
小声で叫ぶという我ながら器用な真似をしながら問う。
「いや・・・武器を強化出来ないかなって来たんだが・・・どうした?」
「どうした?じゃないわよ!何処で何してたの!?」
「まぁ、色々とな・・・・お前こそ、ここで何してんだ?」
貴方には関係ない、そう言おうとしたがちゃんと答えてもらえなかったにせよ自分だけそう突っぱねるのはあまり褒められたことではない。
「私も武器の強化、そうしようとしたところあの騒ぎよ」
「みたいだな・・・やめとこうかな、失敗引きずられそうだし・・・」
「そんなオカルトあるわけないでしょ・・・・多分」
まさかこの剣士からそんな弱気な言葉が出てくることに驚いたが、確かに先の一連の流れを見ると私が集めた素材による成功率では少し心もとない気もする・・・・ここは現実ではないから確率も一定とは限らない気もするし・・・
「素材はどの位あるんだ?」
「成功率八割分」
「妥協しない方がいいぞ、ソレ、気に入ってんだろ?」
「・・・・・じゃあ、手伝ってよ」
「あーーー・・・・ユウキとシノンも呼ぶか」
「えっ?三人で行動してたの?」
てっきり一人で動いてるかと・・・・あの事件があっただけに街にも近寄れないのでは?とずっと思っていた。
「その辺俺も聞きたいから情報交換としよう、素材集め手伝うから」
こうして私アスナは、何故かキレイな総白髪になり名前も相まって猛禽類の様な目つきをした、ボスドロップであろう黒いコートを着た剣士、オウルに再会した。
「成程、思いのほかディアベルがやってくれたみたいだな」
「お礼言っといたほうがいいわよ」
「オウルー!蜂が降りてこない!」
「だからって剣投げないで!ユウキ!」
街に出る途中で短剣使いのシノンさんと片手剣士のユウキちゃんを拾い、全員で《ウインドワプス》を狩っていた。ユウキちゃんは思いのほかヤンチャでシノンさんはそれを咎めている、まるっきり保護者役だ。
「なんかごめんなさい、私の用事に付き合わせて・・・・」
「いいわよ、オウルが言うには経験値効率悪くないみたいだし」
「飛ぶ敵の練習にもなるしね!」
「てか、二人には謝って俺は当然の如く突き合わせるって・・・・」
「言いだしっぺの法則」
「アスナさん?何処で覚えたんです?そんな言葉?」
「アルゴさんから」
「ネズミって喰えんのかな?」
目を血走らせながらオウル君は言った。仲いいのか、悪いのかイマイチよく分からない。
あの事件はディアベルさんが上手く処理した、混乱に乗じてPKを行おうとした者がいたが、ボスに殺された。
攻略メンバーは公表されてはいないがそれがコペル君であることはやはりというか広まってしまい、そして眉唾の噂程度にしか認識されてないが、本当は攻略組の誰かが
「多分その辺はアルゴも関わっているだろうな、俺に気を使って最小限にまで『火消し』をしたな・・・・情報操作は奴の十八番だし」
「あんたみんなに迷惑かけすぎでしょ」
「攻略会議には出るの?」
何のかんの元気そうだった、心配したこちらが馬鹿のようだ。
「・・・・・ねえ、私達今一人当たり蜂を五十匹狩ろうとしてるわけだけど」
「ん?あぁ、シノンの武器も同じ素材で強化できるからな、ついでに百匹追加だ」
「ビリはここの名物ケーキ奢るってのはどう?」
「「「是が非でも勝つ!!!」」」
急に三人の目が飢えた獣のようになった・・・・まずい、イラついて早まってしまったかもしれない・・・・
「34匹目ぇ!!」
「くっ!32匹目!!」
「ハチイィィ!!降りて来てぇぇえ!!!」
というか、何故シノンさんとユウキちゃんまであそこまで飢えてるのだろう?そう考えつつも蜂の腹部の付け根に《リニアー》をぶち込む、
「35匹!!」
負けるのは、性に合わない。
「うん!これ美味しい!」
「久しぶりにまともな物食べたわ・・・・」
「・・・・今まで何してたの?」
「山籠もり・・・・この珈琲意外とイケるな・・・・」
結局勝負は私が負けてしまった、《トレンブル・ショートケーキ》を奢ることになった。
オウル君は一口食べただけで辞退して珈琲を飲んでいる、甘いものは苦手なのだろうか?
だが正直ありがたい、あれだけ狩ったのに儲けが吹っ飛びあんまり食べられないとなると泣きたくなる。
「それにしてもさっきのスキルは何なの?」
「今言った山籠もりで得たスキルだ、あと三日間位修行してた」
「だからあんなに飢えてたのね・・・・」
シノンは(同い年位だから呼び捨てでいいとのこと)上品に食べてるがユウキちゃんは口の周りにクリームが付くことも気にせず食べてる・・・・なんだかすごく和む。
「オウルホントに一口だけでいいの?」
「これかなり美味しいわよ?」
「・・・いや、
「・・・?」
どこか含みの様なものを感じるが・・・・気のせいか?
しかし久しぶりに誰かといっしょに食事をした、ここではこういう事が一番羽休めになる・・・・・そもそもリアルでも私は誰かと一緒に食事することがあまりなかったが・・・・
「・・・・どうした」
「ううん・・・何でもない」
そう、何でも無い事なのだ、本当はこれくらいの事。
だが私は一生この時間を忘れられそうになかった。
「あぁ~美味しかった」
「高かったけど・・・また食べたいわね」
「また今度な、他にもいいとこは知ってるし」
三者三様に感想を言いながらレストランを出た、しかしさっきから気になってるがこのアイコンは何なのだろう?
「何かさっきのケーキに幸運のバフがあったみたいだな、ベータテストの時はなかったな」
もうテスターであることは隠さない様だ、私が気づいてることに気づいてるのだろう・・・十五分か、モンスターと戦うには少し時間が足りない・・・・どうしよう?
「じゃあ、試しに寄りたいとこあるからそこで解散にしないか?」
「これを有効活用出来るの?」
「多分、だけどな」
そう言って彼は中央広場の方へ歩き出した、成程、そういうことか。
「武器強化に影響あるの?」
「分からん、でも無いよりいい効果ありそうだなって」
「十五分なら全員強化出来るよね?」
「急げば全員間に合うだろ、俺は一口だけだったけど時間は変わりないみたいだし」
シノン、オウル、ユウキちゃんはそれが当たり前のように横に並びながら広場に向かう・・・・流石にそれに何も感じない程、孤高を貫いてるわけではないが、かといってさも当然のように混じるのも・・・。
そんな事をウンウン考えてると、
「ねぇ、アスナ」
「えっ?な、何?」
ユウキちゃんに呼ばれどもりながらも答えた、
「ボクお腹一杯で苦しくて・・・おんぶして!」
「え、え~と・・・」
いきなりの要求に戸惑いを隠せなかった、何故いきなり?わけが分からない。
「じゃあユウキの剣は俺が持とう、今は荷物少ないし、スピードビルドで軽いからアスナのLVなら持てるだろ」
何故かオウル君も叱ったりしなかった。シノンも黙認している。
「えへへ~、姉ちゃんにも負ぶって貰ったな、昔は」
「・・・・・・」
・・・・・あぁ、成程。きっと、気遣ってくれたのだ、私が輪に混じれないことに。甘えん坊のふりをして、二人もそれを察して・・・・
「時間はあるし、ゆっくり行くか」
「そうね」
願わくば、こんな時間が長く続いて欲しかった。
「すっ・・・すみません!!あの、手数料は全額こちらが負担しますので・・・・!」
「・・・・・」
だが、呼んでもいないのに波乱は巻き起こり始めた。結論から言うと、オウル君の剣が粉々に砕けた。
小説のプログレッシブ4巻を読んで、スキルスロットの増え方が少し違ってましたが、この小説はこれで行きます、申し訳ございません。
LV3→スロット三つ
LV5→四つ、あとは5上がるごとに一つ増えるということで、
~おまけ~
とある老人M「年金どうつかお・・・(´・ω・`)?」
M「せや!東北の温泉行こ(´・ω・`)!」
M「車落ちとる!119せな(´・ω・`)!」
多分こんな感じ。
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第十話 罰の 矛先
オウル「・・・・・・・・・・・」
アスナ「剣が・・・・・砕けた?」
物語が進むにつれて原作の設定にはない、でもそれ自体が原作を崩壊させない程度に設定を織り込むかもしれません。
始めます第十話。
やはりもう手が回っていたか。
その現象を目の当たりにして頭に浮かんだのはそんな物だった。
「あの・・・本当にごめんなさい・・・・店売りでよければ、武器を・・・」
「あぁ・・・いや、それよりも聞きたい、武器の強化失敗で破壊とかあり得るのか?俺はテスターだが・・・・見たことも聞いたこともない」
「・・・・以前にも同じことがありましたので・・・もしかしたら正式版で追加された・・・のかも・・・」
目を合わせることなく、蚊が鳴くような声で鍛冶屋のネズハは言う・・・・さて、どうするか?この後の行動を考えていると、
「オウル・・・・どうするの?」
「剣・・・折れたけど・・・?」
シノンとユウキが心配そうな目で見てくる、確かに修行とクエストでLV16に上がったが、メインウェポンを失ったとなるとかなりきつい・・・・・・・
「・・・オウル君・・・」
「・・・・取り敢えず、今日はもう宿をとろう、明日考えるさ」
アスナもどうしていいかわからないという目をしているが、
流石にどうなるかわかってるのにアスナに先に強化させるのは気が咎める。
「すまないなネズハさん、時間取らせて・・・」
「いえ、そんな・・・僕は・・・」
怯えたような目でこちらを見る、はっきり言って安心した。もしここで生き生きしてたらそれはそれでどうすればいいのか分からなかった。
「じゃあ俺は一人部屋取ってるから」
「オウルは何で一人になりたがるのさ?」
「いや・・・純粋過ぎるぞ、ユウキ」
「別に今日だけならいいわよ?」
「三人で女子会でもしてるといい、何かあったら呼ぶから」
その後すぐに近くで宿を取った、勿論俺は一人部屋だ。そして三人は同じ部屋に消えていった・・・・アスナが終始浮かない顔だったが、まぁ、大丈夫だろう。
部屋のタンスにいらない荷物を置いて可能な限り身軽になり
「よっ!と」
部屋の窓から飛び降りる、向かう先はネズハのところだ。
尾行する必要は無いかもしれないが念のためメンバーの顔と、
そんな事を考えながら《隠蔽》スキルを発動させ、《ベンダーズ・カーペット》というほぼ商人専用アイテムと言っても過言ではないソレを担ぎながらどこかへ向かうネズハを尾行する。
目は死んでるし、足もトボトボといった感じだ。それで許されるわけではないが・・・・だからと言ってSAOで悪習が生まれるかもしれないこの事件を見過ごすのはあり得ない。
「全部杞憂だったら良かったんだが・・・・」
コペルの件はまだ定かではないが、
・・・・俺がSAOに来たのははっきり言えば、転生者という意識からくる罪悪感から逃れるため、日常生活ですら感じていた違和感の様な物と折り合いをつけるため、ここで必死に戦えば自分に対して許せるような気がしたから・・・・
「醜いことこの上ないな・・・・」
だがそれを意識するあまりコペルの事件が起きた、もしかすると初日にコペルを殺すべきだったのかも知れないが・・・・俺はSAOのサーバーからある程度プレイヤーの行動が外部に知られてることを知ってるし、何より日常生活を滞りなく送るために戦ってるのに自ら殺人鬼に堕ちるのは本末転倒である。
「・・・・めんどくさいな、我がことながら・・・」
しかし今は関係ない。
ネズハはあまり人が居ないところを通って寂れた酒場に入った、話の内容を考えれば確かに丁度いいのかもしれない。
「(入るのは・・・論外・・・扉を開いて盗み聞き?ばれない保証はない)」
どうする?街中で《隠蔽》を発動させるのも結構グレーゾーンの行為だったが、《聞き耳》スキルはないし・・・・天窓があったのでそこから聞くことにした。
屋根に登って、僅かに窓を開けて話を聞く、酒を飲んで夢中になっているのか覗き込んでも気づいた様子は無い。
「ネズオー、おかえり~」
「うん・・・」
「今日の儲けは?どうだ!?」
「・・・・アニールブレードを二本・・・」
「おぉーー!マジで!?まだ残しとけよ、売らずに使うかもだから!」
それ俺のなんですけど?と普段なら言うが今はまだだ。見たところ全員顔見知りそうだが・・・・流石に無理だったか?扇動だけが目的なら接触は不要か・・・。
「ね、ねえ?もう辞めないか?そろそろバレるよ・・・」
「・・・・大丈夫だって、全然噂になってねえし、な?」
「あぁ、でもあの黒ポンチョさんも人がいいよな、自分がやればぼろ儲けなのに・・・・なあ、オルランドさん?
」
「・・・・むぅ・・・」
・・・・・・黒ポンチョ、それが聞けただけでも収穫だな。しかし、あのオルランドとかいう奴は乗り気じゃないのか?槍使いと斧使いはかなり乗り気みたいだが・・・・・
「・・・・原作とは違う展開になるか?」
俺は窓を戻して、宿に戻った。勿論《所有アイテム完全オブジェクト化》で剣は取り戻した。
「強化詐欺!?あり得るのソレ?」
「・・・・見た感じそんなことする暇無かったように思えるけど・・・・」
「でもあの後尾行してそれっぽい話を聞いた、剣も取り戻せたし」
翌朝、自分の事だし夜中に女子の部屋に突撃するのは何かと気が引けたのでそのまま寝て、今俺たち以外誰もいないので宿の食堂で話してる。
強化詐欺の推察、所有権がまだ移ってなかったこと、そしてネズハ自身の事。
「でもそれを知ってオウル君はどうする気なの?」
「探偵を気取るつもりはないが・・・自分の武器が犠牲になりかけたんだ、是が非でも止める。それにSAOで愛用してる武器を奪うことははっきり言って重罪だ、バレたらプレイヤー達の反感から公開処刑とかあり得る」
恐らく黒ポンチョの狙いはそれだろう、ネズハ自身からも色々聞きたいが。
「いや~流石にそれは・・・・」
「あと今回の事件は確実に誰かが手引きしている」
「!誰なの」
「分からん・・・・黒ポンチョの奴としか・・・・そいつが強化詐欺を教えたことは間違いないが・・・」
ユウキとシノンは既に話しているためすんなり通じるが、アスナはイマイチ要領得ないようだ。
「ちょっと長くなるけど・・・・同一の人物とは限らないが俺はコペルが誰かに唆されたか、或いは脅されてあんな行為に走ったんじゃないかと思ってるんだ・・・・実はあいつデスゲーム初日にも俺にMPKを仕掛けてな、結局失敗したんだが・・・・人前で殺そうとするだけの度胸があるならあの時に殺してたんじゃないかって思えて、しかもボス戦前日に俺の情報買われてるし、全部繋がってる気がしてならないんだ。」
一気に喋ったためお冷で飲むが、アスナがすぐに切り込んできた。
「あなたね、そう言うことは先に言ってよ!私も同じパーティーに居たのよ!?」
「すっ、すまん・・・・だが事が事だけに言いづらくて・・・・」
全くその通りである、俺がコペルの善性を信じたかったためにアスナは知らない間に危ない橋を渡っていたことになる。もし誰かこの先それで死んだら・・・・俺はどうするのだろう・・・・流石に考えすぎか・・・
「全く申し訳ない・・・・」
「・・・・あなたその黒ポンチョを追いかけるの?」
「育つ前に不安の芽は摘む・・・・牢屋にぶち込むだけで済めばいいんだが・・・」
はっきり言って
「じゃあ私もついてく」
「は?」
「だって、無関係では居られないし、お金儲けが目的なら攻略組は必然的に狙われるでしょ?」
確かに攻略組が一番効率がいいだろう、武器が弱ければ死に繋がるのだから。
必然的に強い武器を持っている。
「・・・・そういや、今日フィールドボスの攻略じゃなかったっけ・・・・」
「・・・・行きましょ、オウル、もしかしたらネズハと一緒に居た奴らも居るかも」
反論する暇もなく決まってしまった。ユウキとシノンもついてく気満々の様だった・・・・・・ここで何か言ってもどうせついてくだろうし、いっそ頼らせてもらうとしよう。
「儲けた金は・・・・多分自分たちの装備に使ってるだろう、ここのボスは装備の耐性が重要だからな」
「で?君たちはレイドには入らないのかい?」
「あぁ、代わりに周りの蜂は任せてくれ」
そんなこんなで私とオウルとユウキと、新たに加わったアスナを率いてフィールドボスのところまで来た。
私達の目的はネズハと繋がってるパーティーの素性を調べること・・・・その為ボスの取り巻きである蜂の駆除に回る。
因みにオウルは今アニールブレードを装備していないし、防具もモッズコートに変えていて、髪も黒くしている。ここにネズハというプレイヤーはいないが念のためだ。
「ディアベルさんが認めてるとは言え、よく周りが騒がないね・・・・」
確かに、それは危惧していたことではある。
オウルは初のPKプレイヤーになってしまった、一部始終を見ていたため正当防衛であることは明らかであったが・・・・それで人が騒ぎ立てないとは私は思えなかった。
「・・・・今のSAOは顔を覚えられたら報復もありえるからでしょうね・・・・」
ここでは大人しくしていても目の見えないところではどうしているか・・・・こんなことは考えても仕方ないが。
「ところで向こうのパーティーの人達は何でレイドに加わらないのにボスと戦えるの?」
ユウキが視線を向ける先には昨日オウルが酒場で見たらしいネズハと繋がりがあるパーティー、確かパーティー名は《レジェンド・ブレイブス》・・・・恥ずかしくないのだろうか・・・・・。
「シノン、それは言ってやるな・・・・俺たちは飽く迄対等だ、強く出られたら力量が不足してない限り参加拒否はできない・・・それにさっき言った様にこの層のボス戦は装備の耐性が重要になる、ディアベルはそれを見越してあのパーティーにも強くなってもらうつもりなんだろう」
成程、確かに理には適っている。だがあのパーティーが使ってる装備は十中八九強化詐欺で得た資金で作った物だろう。ということは・・・・
「この層のボス戦で活躍して一気に攻略組のトップになろうとしているってこと・・・・?」
「ほぼそれで間違いないだろうな・・・・問題の強化詐欺は昨夜俺も試してみたが・・・・俺のは人前でやれるもんじゃないな・・・・多分何かのスキルを利用した物だろうが・・・・」
「スキル?《強奪》とか?」
《強奪》、mob(オウルが言うにはこれが一般的なモンスターの名らしい)からアイテムなどを奪ったりできるようになる、盗賊やトレジャーハンターの様なスキルだ。
「考えたが・・・・多分違う、それなら剣の所有権が一瞬で移って取り戻せなかった」
テスターでない為そのあたりはあまり分からないが・・・・・そうだ。
「あのカーペットを利用した線は?」
「《ベンダーズ・カーペット》か・・・・・ウインドは出してても隠せるかもな、だがそんな機能はないよ、ベータの時アレは一回事件があって修正パッチがあてられたから間違いない」
ふむ、言ってはみるものだ。ウインドを出してても大丈夫と考えるとワンタッチの猶予はあると思える・・・・が、
「人前でするとなるとなぁ~~~」
間延びした声でユウキが考えてる、そう武器をワンタッチで変えられてもサウンドやその時のエフェクトは誤魔化せない。何より変わる時、武器は一瞬消えるのだ、人前なら尚更バレないわけがない。
「・・・・いや、いい線いってると思うぞ、あの時武器が変わったのなら炉に素材を入れて発光エフェクトが出てる時だろうから、ある程度の誤魔化しは効くと考えていい」
「あぁ、マジシャンがよく使うミスディレクションって奴?」
「でもそれならあの時の壊れた武器は何だったの?オウル君の武器は戻ってるし・・・」
確かにアスナの言う通りだ、目の前で剣が砕け無くなったように見えた。だからこそ私とユウキは一緒に攻略が出来なくなるのではと危惧したのだから・・・・
「それは多分エンド品を使ったダミーだな」
「エンド品?なにそれ?」
「武器は強化試行回数ってのがあって、それ以上武器を強化しようとすると問答無用で壊れる、一層でアニールブレードに変えるときスモールソードで試したから間違いない」
「・・・・何でそんな事を」
「知的好奇心、あと何か有効活用出来ないかなって・・・・」
オウルのちょっとした奇行は置いておいて、大分話は煮詰まってきた気がする。カーペットでウインドウは出してても隠せる、ミスディレクションでワンタッチの猶予はある、エンド品と交換で怪しまれない・・・・あともう一歩だと思うが・・・・
「ねえ、そろそろボス戦始まるよ?」
「・・・・後にするか、今は戦おう」
「こいつらの相手もいい加減飽きてきたな!」
「文句言わない!ていうか情報より多くない!?」
「今更だけどボク、虫苦手!」
ここまで来たら虫というか、もはやクリーチャーだと思うが・・・・内心ツッコミながら弱点に二連ソードスキル《ラウンド・アクセル》を叩き込む、LV14でオウルの教え通りシステム任せでなく任意でブーストしたため一撃で屠れた。
「今回のボスは変更ないのね」
「まだわからん、フィールドボスは変更しないとは限らんし・・・」
背後を取られないように背中合わせでオウルと話す・・・・身長差が激しいためほぼこちらがもたれかかってる様な体勢だが気にしない。
「例のパーティーは?」
「危なげなく戦ってる、装備だけではないみたいだな・・・」
「・・・・戦えるだけの技術と度胸はある?なら何で詐欺を?」
リスクを背負うならそれなりの理由があると思うのだが・・・・てっきり足りない力か何かを補うためと・・・・
「勘だが・・・・それはネズハにあるのかもな・・・」
確かに同じパーティーなのに一人だけ戦わないのは何故だ?今は攻略組に合わせる顔が無いにしても鍛冶だけで彼が戦ってる姿はアルゴさんも見たことがないらしい。役割分担?・・・・・・それか・・・・
「・・・・いざという時の為、切り捨てるから?」
残酷だが、それが一番濃厚な線だと思う。
「・・・・・・決めつけはよくない、もう少し探ろう、詐欺の仕組みが分かればネズハに・・・・あっ!・・」
どうしたのだろう?と視線を追って見ると、フィールドボスの巨大牛にタンクが押し負けて吹っ飛ばされているのが見えた。
「まずい!カバーに入れ!」
ディアベルが叫ぶがタンクは必然的に遅い、他のプレイヤーも間に合わないだろう、
「しょうがない、シノン、迎え撃つぞ」
「了解」
二人だけで?と思わなかったわけではないがオウルが判断したのならいけるのだろう。その辺はもはや疑ってない。
「足の関節を狙え、頭のコブには行くな、吹っ飛ばされるぞ」
「わかった!」
すれ違う一瞬なら、突進系のソードスキルがいい。単発突進《アーマー・ピアス》を脳内で選択する。
「3・・・2・・・行くぞ!」
私は左を、オウルは右を、オウルは利き手が左なので合わせやすい。寸分のブレもなく同時に膝関節を穿つ。巨大牛は体重を支え切れず、呻きながら倒れた。
「ダウンとったわ!!」
「間髪入れず行くぞ!」
現時点で一番強い二連ソードスキル《クロス・エッジ》、オウルは山籠もりの時、徹夜で戦い手に入れたばかりらしい三連ソードスキル《シャープネイル》を弱点のコブに叩き込む。
弱っていた巨大牛は一瞬不自然に固まり、そのままポリゴンとなって消えた。
「またLAボーナス掻っ攫ったわね・・・」
「いや、マジで偶然だよ・・・・これは、まぁ、使えなくも無いけど・・・」
何かドロップウインドウを見て難しい顔をしている、それよりもさっき吹っ飛ばされたタンクの人は大丈夫なのだろうか?武器が明後日の方向へ飛んでいたが・・・・とその時、
「・・・!!?」
何かウインドウをいじったかと思えばすぐに無くしたはずの武器が出てきた。
「オウル!今のって・・・」
「ん?あぁ、《クイックチェンジ》だな、武器を無くしたり、落としたりした時便利なやつだ、多分タンクだから剣も防御方面に鍛えてるんだろ、だから早めに・・・・・・」
「違う、そうじゃないわよ!アレなら・・・!」
「・・!そうか、成程」
探偵風に言えば謎は全て解けた、という奴だ。
その夜、迷宮区でmobを乱獲した後、《タラン》というフィールドボスを倒した先にある村に来た。ネズハはここ居る、というか私達の視線の先で鎚を振っていた。今は私とユウキとアスナはNPCの民家の二階から様子を伺っている。
「・・・・まだするのかな、詐欺」
「もし私が被害にあってたら、許せなかったと思う・・・」
「・・・・オウルは何で拘ってるのかしらね・・・・」
疑問に思ったことを言う、確かに無視できることではないが・・・・それ以外に目的があるような気がする。
「?コペルさんを唆した奴と会えるかもしれないからじゃ・・・・」
「そうなんでしょうけど・・・何か腑に落ちないのよね・・・」
俗に言う女の勘である、ほぼ根拠は無い。彼の目的はさらにその先にある・・・・・そんな気がする。そんな事を話してると、
「必要な物は買い揃えた、あとはアルゴが来るのを待つだけだ」
買い物から帰ってきたオウルが部屋に入って来た。
「ネズハは?」
「ずっと同じ場所ににいるわ、強化を頼みに来た人は居ないみたい」
「良いことだ・・・多分、ネズハ自身は文無しだろうからな・・・」
何故ネズハ自身は戦わないのか未だに分からないが、恐らくそれが彼が詐欺をすることになった理由なのだろう。
賠償金を払うにはレジェンド・ブレイブスが罪を認めなくてはならない、詐欺のお金は全て彼らに流れているだろうから・・・・認めるだろうか。
「・・・・ずっと気を張り詰めても仕方ない、肉まんみたいなもの買ってきたからみんなで食おう」
「えっ!肉まん!?頂戴、頂戴!」
「何の肉が使われてるの?」
「さあ?多分牛だろ?」
そう言ってホカホカの肉まんみたいなものを差し出す・・・・・確かに空腹を覚えていたところだ。
「ホカホカだな・・・・少し冷まそう」
梟が猫舌とはこれ如何に?など考えながら肉まんにかぶりついた瞬間、
「むみゃっ!?」
「わぶっ!?」
「ッ!?」
アスナやユウキの様な声は出さなかったが顔に何かが勢いよく掛かった、粘り気のある、白い物が、
「・・・・・・やっべ・・・」
まるで何かを忘れてたと言わんばかりにオウルがそう呟いた。そして、
「・・・・・・・うわぁあオ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつに間にかアルゴさんが扉の前に立っていた、それを見たオウルはしばし沈黙し、清々しい顔をした後、
「死ねぇええええええええ!!!!アルゴオォオオオオ!!!!!」
「理不尽だロォォおおおああああああああああああ!!!!???」
殺しにかかった。何故そんな真似をしたのか、幼く、比較的純粋な私が知るのはもう少し先だ。
「いやア、でも大したもんだヨ、シノのんハ」
「・・・・その呼び方で行くんですか?」
「まあネ、クセみたいなもんだからサ、テスターでも分からなかった強化詐欺を見破るなんテ・・・・情報屋顔負けだヨ」
さっきの騒動から少し経ち、オウルは今変装しアスナのレイピアを借りて強化詐欺を暴こうとしている。ほとんど勘だったし、オウルが居なければわからなかっただろうが・・・・
「ねえ、アルゴさん?何でネズハさんはこんな真似したんだろ?」
「さア・・・・でも、もう少しで分かるサ・・・」
ユウキとアルゴさんが窓に噛り付くように見ている、窓の先を見るとまさに強化真っ最中だった。
「大丈夫よね?私の剣・・・・」
「じゃんけんの結果とは言え・・・・ごめんなさいね」
公平に決めるためと、オウルが提案した。
「大丈夫だよ、ホントはオウルが自分の使いたかったらしいけど・・・・」
流石に無理があるだろう、相手はNPCではないのだから、
「・・・・こっちに来るナ・・・無事暴いたみたいダ」
さて、本番はここからだ。
「金は全部使って、文無し・・・・と?」
「・・・・はい・・」
「嘘だろ?ネズハ?いや、
「!!?」
オウルが尋問している、しかしナーザ?どういう事だ?
「・・・Nezha・・・これはネズハじゃなくて、ナーザと読む、中国のナタク、もしくはナタ太子の事だよ」
ナタ太子、私もその名前は知っている。封神演義に出てくる美少年で神でもある、負けたがあの孫悟空とも戦ったことがある紛れもない英雄。
「クーフーリン、ギルガメシュ、オルランド、ベオウルフ・・・・最後の斧使いは知らんが、ナーザ、君もレジェンド・ブレイブスの一員だ・・・・或いは
「・・・ッ!・・・」
ナーザは何も答えない、ただ唇を噛むだけだ。
「何でこんな真似をした、脅されたのか?「違うッ!!」!・・・」
脅された、その言葉が出た瞬間急に叫んだ。
「ぼっ僕が独断でしたんです!みんなは、オルランドさん達は関係ないんです!」
「・・・・ああ、俺も見てたよ・・・・あの夜オルランドって奴だけ難しい顔してたのは・・・・だが装備を見る限りオルランドも同罪だ、少なくとも事情を知らない奴からはそう見えても仕方ない」
「・・・・・ッ・・・」
もはやその顔からは生気すら感じられない、絶望、ただそれだけだ。
見た目は少女、声はエロい、その名は名探偵シノン!
原作知識のせいで主人公がたまに動かしづらい、ちょっと中途半端ですが、予定で暫く投稿出来なさそうなのでここで切ります。
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第十一話 それでも彼は 選ばない
シノン「謎は全て解けたわ!」
オウル「(主人公より目立つ奴多くね?(´・ω・`))」
やっとこさ投稿できる、疲れた。
前置きは此れ位で始めます。
何だか流れで俺が尋問してたが、こういうのは謎を解いたシノンがすべきだったのではなかろうか。
目の前で項垂れているネズハ、いやナーザを見ながら場違いなそんな事を考えていた。誘導したとは言えアスナではなくシノンが解くとは・・・・
「・・・・僕らレジェンド・ブレイブスはこれまでにも色々なゲームで入賞したりして・・・・今じゃ出遅れてるかもしれませんけど、『ここで本物の英雄になろう』って・・・みんなでSAOを買ったとき誓って・・・」
「それがどうしてこんな事に・・・」
「・・・・FNCです」
・・・・やはりか、強化詐欺を行ってた時点でもう確信していたが。
しかし、レジェンド・ブレイブスってリアルでも交友があったのか?俺が忘れてただけか?それとも・・・・
「ねぇ、オウル。えふえぬしーって?」
「ん?ああ、フルダイブ不適合。民間用のナーヴギアじゃ稀に起こるらしい、本来なら個人ごとに脳波に合わせた調整が必要なくらいデリケートな機械だからな・・・・大概は五感のどれかが機能しない位のものだが、酷いとダイブすらできないらしい」
「じゃあ、ネ・・・ナーザさんは・・・」
「ネズハでいいですよ、アスナさん。僕は遠近感が分からなくて・・・・正直、鎚を振るのもキツイんです」
「近接しかないSAOじゃ致命的ね・・・」
シノンの言う通り、ここに遠距離武器はない。俺の原作知識でも知る限り《投剣》位しかないはずだ。
「初めは《投剣》を鍛えていたんですが、コスパが悪すぎて・・・・結局熟練度100に届く前に中断しました・・・」
「・・・・あなたは・・・その・・・見捨てられなかったの?」
おずおずとアスナが聞いた、そう、それは俺も気になっていた。
事件に直接関係は無いにせよ、どうも俺の知識と『レジェンド・ブレイブス』が嚙み合わない気がするのだ。
俺が知ってる限りでは『レジェンド・ブレイブス』の結束はそこまで強いものでは無く、ネズハを見捨てることも考えていた・・・・と思っていたのだが、
「・・・・周りはきっと、見捨てることも考えてたでしょうけど・・・・実際僕も逆の立場なら・・・・でも、オルランドさんは僕を見捨てなかったんです」
「・・・・・・・・・・・」
オルランド、きっとレジェンド・ブレイブスのリーダーだろう。やはり俺が知ってる原作とは少し違うようだ、確かに限りなく似てるだけとは言ってたが・・・・
「それで・・・黒ポンチョの男に強化詐欺を持ち込まれた・・・だな?」
「・・・・はい」
「その黒ポンチョの男からは何か要求されたりハ?」
アルゴが聞く、事が事だけにこういうのはこいつに頼った方がいい。
「いえ・・・・何も、酒場で困ってた時に教えてくれた時も何も要求しませんでした・・・・」
「オウル・・・・」
シノンがこっちに意見を求める、
「まず間違いなく親切心じゃないな、引っ掻き回して、お前を追い詰めて、いつか誰かを介して攻略組にリーク、そして公開処刑でもさせるつもりだったんじゃないか?」
「そっ、そんな!?」
あり得ないことじゃない、このSAOの現状を分かっていれば。
強化詐欺を思いつくほど賢いならこうなることも分かっていただろう・・・・人は慣れる生き物だ、ここでは人もポリゴンと化して死ぬ。普段のmobと変わりない、少し遠回りだが攻略組に公開処刑の悪習を作ろうとした。
「でも・・・そんな事をして何になるの?クリアが遠のくだけでしょ?」
「さあ?或いは何も考えてないのか・・・・常人には図りかねる」
兎に角、ネズハには何とかして罪を償ってもらわなくてはならない。
この事件を丸く収められなければSAOの内情は間違いなく荒れる。
「でもさ、どーやって?しらばっくれるかもよ?」
「オルランドが自白すれば勝ち確定だが・・・・ネズハお前LVは幾つだ?」
「10です・・・・」
「スキルスロットに空きは?」
「・・・・ありません」
よし、丁度いい。アスナも居るし、アルゴにはボス攻略のクエストがあるから俺が連れてくことになるが。
「
「!!!」
「ただし特殊なスキルが必要だ、お前がこの層のボス戦で活躍して、そこで謝罪しろ。攻略組のリーダーは寛大だ、処刑何て真似はしないだろう」
周りの悪意は抑えられないかもしれんが・・・・それ位は甘んじて受け止めてもらう。
さあ?どうする?手伝いはするが、人の悲痛な声を真正面から受ける覚悟はあるか?
「・・・・この世界で剣士になれるなら・・・他に何もいりません」
「いい覚悟だ・・・・だがお前が死んだらSAOは荒れる、命だけは捨ててくれるな」
まだコペルが誰かに唆されたとは限らないが・・・・俺は、もう犠牲者は出したくなかった。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
何か・・・・以前もこんなことなかったっけ?
俺とアスナとネズハは東の山の頂上を目指している、ユウキとシノンは攻略会議、アルゴはボスのストーリークエストで情報収集である。
その為今ここにいるのは、コミュ力/zeroの梟、脳筋バーサーカーアスナ、罪悪感に苛まれてる元鍛冶屋。
気まずい、ありえない位気まずい。もう滑ってもいいから何か話すかな、それ位気まずい。
「・・・・あのっ!ちょっといいですか?」
そんな俺の気持ちが伝わったのか、なんとネズハはが声を掛けてくれた。まじかお前、この空気で話し出せるって・・・・もうお前ある意味英雄だよ。
「ん?何だ?何でも聞いてくれ」
「ええっと・・・・オウルさんは何時から誰と付き合ってるんですか?」
「「・・・は?」」
ハモった、いっそ見事なくらい俺とアスナの声がハモった。
「だって、有名ですよ?クールなシノンさんに活発なユウキさんに細剣という玄人向きの武器を使いこなすアスナさん・・・・めちゃめちゃ話題です」
いやまあ、SAOはハンパじゃない男女比だからそういう話題は結構上がるだろうけどさ・・・・
「付き合ってないから!私と彼はそんな関係じゃないから!!」
「うん、まぁ、そうだな。あとシノンとユウキも違うからな?」
俺はハーレム系主人公では無い(断言)。
現実問題、今の日本(2022年)では同性愛はまだ議論の余地があるが一夫多妻は無い。
別に俺は性欲は持て余してない。
「でも・・・とある情報屋が三人を連れて風呂付きの宿に連れ込んで一夜を共にしたと・・・・」
「アルゴさんんんんんんん!?!?」
アルゴてめえこの野郎!!!やりやがった!!!
「え?何?いくらだ?いくらでその情報買った?」
「私も気になるなぁ・・・・ちょっとアルゴさんと
「いやいやいやいや!!?飽く迄も噂ですので!買ったわけじゃありませんから!!」
だとしても奴とは色々話さないとな・・・・アルゴを捕えて、椅子に縛り付けて、エグイ系の虫を・・・・とアルゴと次会った時のお話の仕方を考えてながら歩いてると、やっと着いた。
「ここが・・・」
「エクストラスキル体術の・・・」
「SAOでこれだけ大規模で手のかかったクエストはこれが初めてか?」
バカでかい広場にでかい石がゴロゴロしている、つい数日前までここでユウキとシノンと殴り合ってんだよなぁ、何かもう懐かしい。
「オウルさん、ここで何をすればいいですか?」
「小屋の中に居る師範代からクエスト受注してそこら辺の石を素手で割る・・・・でも工夫しろよ?普通にやったら四日位掛かるからな?」
「四日!?ボス戦は明後日でしょ!?今からやっても間に合わないじゃない!」
「こういうのは大概何らかの救済措置あるもんだ、それを探せ・・・・言っとくが教えないからな、SAOで戦うならそういった推理も試される場面が多々ある・・・・特にネズハ、お前に一番足りないのは思慮深さだ、分かるよな?」
仲間の役に立ちたい感情が利用されたのだとしても怪しすぎるだろ、顔隠した奴からのそんな情報。
「・・・はい、それはもう・・・」
「アスナも丁度いいから取っとけ、武器が無くなっても戦えるのは安心感がある」
「あ~、一層にも居たもんね。武器を落させる技使う敵・・・」
「沢山の犠牲者が出たそうですね・・・・参考にオウルさんはどうやって対処したんですか?」
「んー?武器投げて、突き刺さったのを取ろうと悶えてるところを首絞めて、そのままへし折った」
「「・・・・・・」」
何だその目は、「駄目だコイツ・・・早く何とかしないと」みたいな目は。
「普通の人には真似できませんよ、ソレ・・・」
「前から思ってたけど、オウル君・・・何か、戦い慣れし過ぎじゃない?」
「ここだけの話俺の師がめっちゃ強かったからな・・・・これ位は成果というより経過だな」
相手の動きについていけない?初動で見切ればいいじゃない。
武器のリーチが負けてるときの対処法?カウンターで武器を壊せばいいじゃない。
自分より格上に勝つ方法?捨て身で斬ればいいじゃない、死んででも殺しに行きなさい。(菩薩の笑み)
こんな感じだったからな・・・・何だろう、原作でキリトと仲良くならなかったのも無理はない気がする・・・・
「まぁ、俺の事はいいんだよ、じゃあ俺は行くからな、ほい野営道具」
「ありがたいけど・・・・なんで毛布も寝袋も赤いの?」
「気にすんな、ガンバ」
さてと、俺もちょっと用事あるから早くしないと・・・・アスナのひげ面は見たかったが・・・・
「唐突だが死ねええええええええ!!!!」
「何でサ!?」
圏内の為ダメージは入らないので体術スキル《閃打》を会った瞬間高速でかます。チッ、避けられたか・・・・
「いやいやいや!!?どうしたのサ!急二!」
「俺が何か三股掛けてるみたいな噂が流れてるじゃねえか!ネズハから聞いたぞ!」
「あぁ~~・・・・ハハッ☆」
いや、そんな高い声でテヘペロしても誤魔化せないから、あと危ないネタかますな、お前の二つ名からしてやるとシャレにならん。
「SAOにもあんなテーマパーク無いのかネェ?」
「いやそんな話をしに来たんじゃねえよ、あとその話あんましないでくれる?マジ危ないから」
そしてコントする為に呼んだんじゃねえよ。仕事はちゃんとしてんのか?
俺とアルゴは取り敢えずお互いの仕事を終えたので、俺の買い物に付き合ってもらった(アルゴの奢り)後、昼飯を取りながら話し始める、ストーリークエストはもう終えてディアベルに報告したそうだ。
「仕事位ちゃんとしてるサ、失礼ナ。でも・・・黒ポンチョの男はノーヒット。フー坊の情報を買った奴も迷宮区の宝箱が空な理由が知りたいって事で聞いてきたことかラ、関係ないと思うゾ?」
・・・そうか、流石に考えすぎか。
アスナとネズハを送って二日、ここは迷宮区に一番近い村。闘牛士の真似事が出来てればもうそろそろ来てもいい頃だが・・・・何の音沙汰もないとなると駄目だったか?まだ一日あるが・・・・
「アーちゃんとネズハは間に合うのか?それ以前にフー坊の方法は上手くいくのか?」
「賭けにはなるな、だがそのくらいでいい。ネズハに全く非が無いわけじゃないし・・・・はっきり言って俺はネズハ自身を助けたいわけでもない、SAOに公開処刑という悪習が生まれるのを阻止したいんだ」
ネズハでなくとも同じことをしていた。聞こえ方は良いかもしれないが、俺の場合は「目の前の人間をちゃんと見てない」ということでもある。
実際原作知識がある時点である程度の打算は入るものだ、純粋な善意には程遠い。
「俺は別に聖人じゃないしな・・・」
「・・・・他人にしちゃ十分すぎるくらいやってるとは思うがネ」
「それはそれとして俺の名を買った奴の名、何だっけ?」
「ん?ああ、フー坊の名を買った奴はフ「おーーいオウル!」あリャ?」
名前を聞こうとした矢先、遠くからユウキがこっちに爆走してきた。
「攻略組がもう出るって!」
「はあ!?まだ一日あるぞ!?」
「それが変更点も弱点も分かったから、これ以上は無為に時間を減らすべきじゃないって・・・・」
ディアベル・・・・流石に急過ぎるぞ。まだ二層に着いて七日目、焦るような段階じゃないだろ。
「レジェンド・ブレイブスが話し始めたら周りも同調してさ、ほら一層のボス戦でオウルを真っ先に非難した人が周りを調子づかせちゃって」
ヤバイな・・・・俺の行動に気づいたとは思えないが、レジェンド・ブレイブスが焦ってるのは間違いない。
ネズハがいなくなって行動を早めたか。そしてジョーとかいう奴、やってくれるな・・・・
「仕方ない、俺らも行くぞ、シノンは?」
「フレンド登録してたら追跡可能ってことでソロでレイドに参加してる」
「よし、GJ。アルゴはアスナとネズハにこのことを頼む」
「ああ、分かっタ」
ボスは三体出る事、王の弱点は頭の王冠。情報は出そろってるし、死人は出ないかもしれんが・・・・
「不安だな・・・・」
「早く行こう!オウル!」
頼むから間に合えよ、ネズハ。それが無いと王手は難しいだろうから。
「あら、結構早かったのね」
「レイドとソロならそりゃな・・・・お前パーティーは?」
「あなたとユウキとアスナ以外と組む気は今のところないわね」
まるで気高い猫・・・・まぁ、こいつを猫で例えると狩りをする山猫とかになるだろうが事投げにシノンは言った。
「何か知らないけど、あなたが居ないと周りがパーティー勧誘で煩わしくて仕方なかったわ・・・・」
「女に飢えてんだろうな・・・・」
「ソレボクも対象に入ってるの?」
多分な、世の中にはそういった需要もあるのは事実だし。悲しいかな、そればかりは逆らえぬ性だよ。
そして俺ってそんなに怖がられてんの?
「仕方ないでしょうね・・・・みんな下手すればPKされると怯えてるんじゃない?」
「正当防衛だったんだがな・・・・まぁ、PKへの忌避感が強まるならいいかもしれない」
「・・・・・・あんまり好きじゃないな、ボク、その考え方」
狙ったわけではないがいい方向に働いたと思おう、
「・・・・ねぇ、オウル」
「ん?何だ?」
「貴方は何がしたいの?」
急だな、しかも抽象的でどう答えればいいのか分からない。誤魔化すのは簡単だが・・・あえて言うなら、
「・・・・いつか起こるだろう悲劇を前もって防ぎたい、そんな処かな・・・・」
「?・・・・そう・・・」
まぁ、これだけでわかるはずもないか。
さてと、ボス戦はもうすぐだ。気を引き締めろよ?
「貴方もね・・・・アスナとネズハは?」
「あの方法使ってたらもう終わってる頃だと思うけど・・・・」
「間に合わないかもな・・・・だがもう止められん」
ディアベルとレジェンド・ブレイブスがボスとの戦う編成を話し終えて、ボス部屋の扉が開かれた。
「来る!下がれ!」
了解の応答と共に地面に揺るがすほどの衝撃と黄色の火花が足に絡みつこうとする、この層に出るミノタウロスの様な奴らは似たような
「来るぞ!総員退避ーーッ!!」
ディアベル本体とレジェンド・ブレイブスが戦ってるのは《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》、ナト大佐より二倍はでかく、そしてナミング技の範囲も広い。
指示が出た瞬間全員後ろへへダッシュしたが、間に合わず二人ほど火花の様なものに捕らわれる。
「チッ!!逃げ損ねたか・・・・」
スタン、数あるバットステータスの中では易しい物だ、三秒捕らわれるだけなのだから。しかしこのボスたちに限っては違う。
「GOOOOOOOOAAAAAAA!!!」
スタンが解けた瞬間、もう一度ハンマーでナミング。今度も直撃しなかったがそのまま体ごと倒れる、体には薄い緑の痺れてる様なエフェクト。
「麻痺ったな・・・・シノン!ユウキ!速攻で大佐を殺るぞ!!」
ちまちま時間をかけては居られない、ディアベルの指揮のお陰かそこまで麻痺のプレイヤー出てないが、どちらも倒してない状況で本命が出ては困る。
「うん、わかった!」
「どうすればいい?」
「フィールドボスの時と同じだ、俺とシノンが大佐の膝を折る。ユウキはソードスキルで角の間を殴れ、高確率でスタンする。エギルさん達はユウキが殴ったら囲んでソードスキルを!」
「了解!」
大佐を倒し、ジェネラルがレッドゾーンに入る前に回復を済まし、出てきたキングのタゲを取る。ディアベルはそこまで指揮していなかったがこれ位は別に良いだろう、てかちゃんと作戦考えろよアイツ。
「行くわよ!」
「いつでもどーぞ!」
シノンは右膝を二連範囲《ラウンド・アクセル》で斬り、同時に俺は《ホリゾンタル・アーク》で左膝を斬る。部位欠損にはならなかったが、膝を折って片手を着いている、
「よーし!行くぞー!」
幼さが分かる声だがその動きは既に攻略組のトップクラスだろう、しっかりブーストさせた上で《ソニックリープ》を放ち、
「BUMOOOU!!?」
「よし!全員削り切れ!」
「おうッ!!」
エギルさん達も飛び込んでくる、これならレッドゾーンのバーサーカーモードが出る前に倒せる。様々なソードスキルスキルが飛び交ってナト大佐を追い込む。
「オウル!!本隊が!」
「何だ!?」
ユウキに促され見てみると、ディアベルのソードスキルが決まり、退避するはずがレジェンド・ブレイブスだけ残り攻撃を続けている。
「命令無視か!焦り過ぎだろ!あいつら!?」
ネズハが居なくなったのがそんなにショックだったのか?兎も角ナトを倒すのが先決だ、
「BURUUUUAAA!!」
攻撃を中断したためか思ったよりも早く立ち直ってしまった、だが・・・・
「寝てろ!ウスノロ!!」
三連ソードスキル《シャープネイル》を鼻に叩き込み、《閃打》をスキル硬直直前に放つ。これで三連の長い硬直を短い硬直にすり替えられる。
「こいつで終いだ!」
《ホリゾンタル・アーク》で胸をぶった斬り大佐はポリゴンと化す、LAボーナスが入ったようだが気にしてられない。
「全員ポーション飲んどけ!」
「オウルはどうするの!?」
「ディアベルと話してくる、俺たちがキングを相手取ることになるかもしれないから準備を怠るなよ!」
言いながらディアベルの方へ駆け出す、レジェンド・ブレイブスはまだバラン将軍を相手取っているが・・・・LVのせいかそこまでダメージは与えられてない様だ、何故命令無視してまで戦おうとする?自分たちの立場が危なくなるのが分からないのか?いくら攻略が全プレイヤーに許された権利だとしてもレイドリーダーの指揮から外れるのは度を越してる・・・・
「何してる!?さっさと下がらせろ!ディアベル!」
「それが是が非でも戦うって聞かないんだ!すまないが将軍は俺たちがやる!キングを引き留めてくれ!」
「ッ!・・・死ぬなよ!」
「ああ、君もな!」
明らかにレジェンド・ブレイブスは何かを狙ってるが気にしていられない、俺も体力を回復させて備えないと・・・・
「来たぞッ!!本命のキングだ!」
誰かが叫んだ。
マジか、そう言われて奥を見てみると、玉座が開きまるでエレベーターのように上がり、
「・・・・・・GOOOOOOUUUU・・・・」
天井に届きそうな牛が鎮座していた、《アステリオス・ザ・キング》ここのフロアボス。装備はハンマーなので攻撃方法は変わらないだろうが・・・・・
「でかい・・・・どの位止められる・・・?」
大佐と将軍とは比べ物にならない、1パーティーは流石にきついか・・・?
「行くよ!オウル!」
「ぐずぐずしてないで、ほら」
「止めろって言われたんだろ?ならちゃっちゃとやろうや!」
「・・・・気軽に言ってくれるな・・・・情報通りならブレス直前に王冠に攻撃すると確実に長めの硬直に入る、それは俺が何とかするから全員さっきと同じ隊列と戦略で攻撃、目的は足止め、無理に攻勢に出るなよ!」
いつの間にか全員が戦闘態勢で横に居た・・・・頼もしいことこの上ないが、流石にHPバー四本あるフロアボスは倒しきれないだろう、だから俺の攻撃に全て掛かっている。
「ネズハ・・・・早くしろよ!」
左手に剣を持ちながら、ピックを王冠めがけて投げる《シングルシュート》、まっすぐ飛ぶだけで何の面白みもなく、しかもコスパが悪すぎるが一層から鍛えて、このために弾はありったけ買ってきた。
「全員ソードスキル!!」
「了解!」
長く持たないことを確信しながら、俺はピックを投げ続けた。
「オウル、ピックはあと何本?」
「さっきので打ち止めだ、だがもう十分だろう」
結局四十本くらい投げて全部当てたが、HPバーは一本が限界だった。削り切れるとは思ってなかったが・・・・・出費に合わないな、シノンにも買わせておけばもう少し投げれたかな?
「あんな小さな的に全弾命中させるのも凄いと思うけどね・・・・」
「将軍はたおされたみたいだし、一回引こっか?」
「そうだなユウキ、エギルさん達にも言っといてくれ」
流石に疲れた、しかしこれで王冠で硬直させる戦法は取れなくなった。あの武器はネズハにやったし・・・・
「ッ!まずい!引けええ!」
こちらにディアベルが絶叫する、見てみるとアステリオス王が何か片足を上げている・・・・まるで相撲の四股踏み・・・・・・・!
「シノン!!下がるぞ!!」
「え?」
だが間に合わなかった。
直後、落雷の様な音が鳴った。俺とシノンは一メートル程上に飛ばされ、そのまま力なく床に転がされた。体が動かない・・・・・!
「ス、スタン?これ・・・!」
「こんな攻撃方法もあったのか・・・・まずい・・・!」
アステリオス王がもう一度四股踏みをする、これが大佐や将軍と同じなら・・・・
「BURUMOOOOUUU!!!」
「ガッ!?」
「・・・ッ!!・・」
体に不快な感触が絡むそして口と手くらいしか動かなくなる、麻痺か・・・・まずいな近くに運んでくれそうなプレイヤーはいない・・・・
「・・・・ここまで・・・かな?・・」
「諦めんな!ポーションを・・・」
「無理よ・・・即時回復するわけじゃないんでしょ?ソレ・・・」
だが・・・・それでも・・・・・
「・・・・・お前を・・・・死なせたくないから・・・・」
「・・・・・」
シノンがここに居るのは間違いなく俺のせいだ、SAOに入ったのは他が原因でもボスに挑むことになった要因は俺だろう・・・・俺がボスに挑まなければシノンとユウキもきっと・・・・
「・・・・馬鹿ね・・・・」
「それでもいい、麻痺を何とか・・・!」
だが気が付くとそこにはもうアステリオス王が佇んでいた、俺もシノンもHPは半分、タンクではない為直撃すれば死ぬ、助けは間に合わない・・・・だが・・・・だが!
「お前だけは・・・!」
「・・・・・・私、貴方に会え・・」
と、シノンが何か言いかけた瞬間、回転しながら空気を割くような音と共に何かがアステリオス王の王冠に当たった。
「BUGGOUU!!?」
「すみません!!!遅れましたか!?」
「オウル君まだ生きてる!?」
「・・・いや・・・・ナイスタイミングだ・・・今回ばかりは死を感じたよ」
「・・・・・」
何かシノンが拍子抜けしたような顔してるが・・・・・どうしたんだろ?
「どうした、そんな顔して?」
「別に・・・何でも・・・」
そっぽ向きながらポーションを飲んでいる、さっき何か言いかけてたのが原因か?でも言い切ってないから何を言おうとしたのかわからんし・・・・・
「ヨォ、お二人さん、元気かイ?」
「アルゴか、二人は無事に・・・」
「あア、ちゃんとクエストクリアしたサ、でもあんな武器があったとは・・・・オイラもまだまだだネ」
ネズハの手に戻った武器、チャクラムを見ながら言う。このSAOに残弾が無限の武器は無いし、無限にするバンダナもないが、アレはその中でも例外中の例外、手元に戻ってくる武器だ。手にしていればそのまま殴ることも出来るし・・・・・
「俺も使いたかったな・・・・」
「馬鹿言ってないでさっさと行くわよ」
「何でシノのんは機嫌が悪そうなんダ」
いや・・・俺が知りたいくらいだ。
そこからは総員でHPバーをあっという間に削った、キングから離れればほぼ確実にブレスを放とうとしてくるのでそこにすかさずネズハのチャクラムが入る。
必ずスタンする代わり背が高いため届かないという問題は解決され、ほとんど作業に近かった。
でもなぁ・・・・
「なぁ、このままじゃレジェンド・ブレイブスにLAボーナス取られるよな」
「そうね・・・防具のお陰でずっと張り付いてられるし、命令もいざとなったら無視するでしょうし」
はっきり言って気に食わない、このままいい気にさせたまま、戦況を狂わせたまま、LAボーナスまでやるのは何か腹が立つ。
それにユウキは呆れたようだが、意外にもアスナは乗り気の様だ。
「子供みたいな言い分だね・・・でもじゃあどーすんのさ?」
「考えがあるなら乗るわよ?オウル君」
「一つな・・・タイミングはシビアなうえチャンスは多分一回だ・・・やるか?」
一応聞いてみたが、答えは・・・・
「「「やる!」」」
聞くまでもなかった。
「よし!F隊下がれ!H隊前進しろ!」
言ってるそばからチャンス到来の様だ、
「全員合わせろよ?俺たちにしかできないだろうが、攻撃はこれっきりだろうから!」
「分かってるわよ」
「うん!なんかわくわくしてきた!」
「ユウキちゃんは元気ね・・・和むわ」
「お前らなぁ・・・・ったく、行ってこい!」
ガードは任せましたよ、エギルさん。
俺たち四人は駆け出す、F隊が下がりレジェンド・ブレイブスにタゲが移った。その間に背後に回り現時点で最強のソードスキルを食らわせる。
「ゼアァッ!!」
レジェンド・ブレイブスより俺たちの方が平均レベルが高いのだろう、グンとHPが減りこちらを向いた。
「エギルさん!」
「おうよ!!」
ムキムキの重装備を使ってる四人組が王のハンマー攻撃を止める、衝撃で硬直するが追撃は俺たちがさせない。
「今だ!!」
そして俺が先行して、受け止めている四人を踏み台に突進ソードスキルを王冠にかます。
「「「「ハアァア!!!」」」
俺が一番高く飛び、左右にシノンとユウキが広がり、アスナは下からそのまま突き刺す!
「BUMOOOOOOOOOOOAAA!!??」
が、まだとどめを刺すには至らなかった、レジェンド・ブレイブスは大技の準備をしている・・・・・・が、ここまでは予想通り。
恐らく攻略組でも俺たち四人しかこれは持ってないだろう、
「そぉい!!」
自分の中で一番しっくりつつある掛け声と共に、四人で《閃打》を胸に放った
「BUMOO・・・」
そしてボスはそのまま消え、俺の前にLAボーナス獲得のウインドウが出てきた。
「やっぱり確信犯でしょ、貴方」
「イエ、偶然デス」
「怪しい・・・片言だし」
「油揚げをさらうのはトンビだけじゃ無いのかしらね・・・」
三人から睨まれながらLAを確認する、将軍のLAはレジェンド・ブレイブスが手に入れたようだが・・・・まぁ、それ位は仕方ない。
一層の時と同じく喝采が溢れる中で、俺はこれから起こることに対して心構えをした・・・・丸く収まるだろうか?収めてもいいのだろうか・・・・・・
「オウルさん!お疲れ様です!!」
「ああ、お疲れ、良い活躍だったよ。ネズハ」
本当ならナーザと呼びたいが、まだだ。まだその時ではない。
「はい・・・・本当にありがとうございました・・・・思い残すことはもうありません」
まさか・・・こいつ・・・やめろ、それはまずいんだって・・・!
「おい、ネズハ・・・「すまん、ちょっといいか?」!・・・」
横から誰かが来た、背負ってる武器は店売りの物、然程強くなさそうなものだということは・・・・
「あんた、確か前線で鍛冶屋開いてた人だよな?どうしたんだ?その武器と防具は?そんなに儲かったのか、戦士に転向出来る程?」
やはりか、気づけば喝采は聞こえない、痛くなるような静寂が広間を包んだ。
レジェンド・ブレイブスの面々は俯いてる・・・・歯を食いしばっているのか、厳つい顔でオルランドだけが見ている・・・・
「で?どうなんだ・・・・・」
少し間を置き、ネズハが真っすぐ見据えて言う、
「・・・・僕が、強化詐欺でシヴァタさんの武器を奪い、お金に変えてしましました・・・・」
・・・・・・・肌がひりつくような空気が流れ始めた・・・・詐欺の被害者はシヴァタだけではないだろう、ネズハの答えに何人かのプレイヤーも顔色がかわった。
「・・・・そうか・・・なら、金での弁償は出来るか?」
弁償それは不可能ではない、レジェンド・ブレイブスが罪を認めればだが・・・・しかしネズハはそのまま膝まづき、
「・・・・いえ、もう全て使ってしまいました、高い宿やレストランで・・・」
土下座で続けた。
「僕は、償えません。せめて煮るなり焼くなり・・・」
ネズハ・・・・・・彼に非が無いわけではない、だがその大部分は止めずにそのまま続行させたレジェンド・ブレイブスにもあるだろう・・・・だがその罪を一人で背負うことを選んだ・・・・選んでしまった。
「おま・・・え・・・お前・・・・お前えぇぇぇええええ!!!!」
攻略組の一人が怒鳴りながらネズハの胸倉を掴み強引に引き上げた、
「自分が何したか分かってんのか!!?ここで愛用の武器を奪うことがどれだけ重いか分かるだろ、普通!!なのに高い宿で寝ただ!?飯食っただ!?ふざけんなよ!!!挙句ボス戦割り込んでヒーロー気取り!?てめえ・・・どんな神経してんだゴラアアアアアアアアアァァァ!!!」
元々荒っぽい性格なのか・・・いや・・だとしても、その言い分は正しかった。その叫びは確かにその通りだった。
命を預ける武器、例え本質がデータでもありがたみを感じるプレイヤーは少なくない、むしろここに居るプレイヤーはほとんどそうだ。
「俺も・・・・俺も、武器無くしてもう戦えないと思ったんだぞ!?でも仲間がカンパしてくれて・・・素材集めも手伝ってくれて・・・・お前は攻略組全員の心踏みにじったんだ!!!」
その言葉が切っ掛けだった、被害にあった奴、そうでない奴、だが皮肉なことにボス戦以上に心が一致し、怒号が一人に振り注ぐ。
レジェンド・ブレイブスは、動けない・・・・・もしくは動かないのか。
ディアベルが前に出る、そのことに気が付いたのか少しづつ声は収まっていった・・・・一時的な物だろうが・・・
「君の・・・名前は?」
「・・・ネズハです・・・」
その顔は先ほどの歓喜は感じられない。
見捨てられそうになってたにも関わらず仲間を差し出せず、かと言って罪からも逃れる気も全くない・・・・・・ふと何故か、その姿に、英雄とはこういうものか、と思ってしまった・・・・レジェンド・ブレイブスはまだ動かない。
「そうか、ネズハ君。君のやったことは許されることじゃない。カーソルはグリーンでも、いや・・・・だからこそ重いと言える・・・弁償が出来ないと言うなら、君が剣と共に奪ったみんなの時間と労力、同じ分だけ・・・・・・」
流石のカリスマと口の上手さ、このまま進めばいいが・・・・・・
「違うッ!!」
耳障りな声で誰かが叫んだ、フードで顔は見えないが恐らく俺をPK呼ばわりした奴だろう・・・・俺の場合は事実だったが・・・・
「そいつが奪ったのは剣と時間だけじゃない!!」
わざとらしく体を振り動かし、ネズハを指さして言う、まるで呪うかのように。
「俺知ってる!・・・そいつが武器奪ったせいで今まで倒せてたmobに殺されたプレイヤーが居るんだ!!」
しん・・・・・・と静まり返り、
「そんなのもう、詐欺師じゃねえだろ・・・・・」
「ピ・・ピ、 PKだ・・・」
やはりこうなるのか・・・・そのつぶやきに便乗し、フードの男は金切り声で叫ぶ、
「そうだ!こいつも人殺しだ!!PKなんだ!どーすんだよお前!金くれーで許されるはずがないぜ、だって死んだ奴はもう帰ってこないんだからなぁ!!!」
その声は何処か楽しんでる気がした、いや実際楽しんでるのだろうコイツとコイツのバックについてる黒ポンチョの男は。
その叫びを皮切りに他の奴らも叫びだす、集団心理という奴か・・・・・・・・・しかし・・・・・・
「おめーどーすんだよ!どーやって責任取んだよ?えぇ!!?」
「・・・・皆さんのどんな、裁きにも従います・・・・」
「じゃあ死ねよ!!人殺しは人殺しらしく、処け・・・・・・」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ、そんなに人を死に追いやりたいのか?」
ムカつくな、俺の中にあったのは怒り一色だった、周りの事なんぞ全く頭になかった。
全員が俺に視線を向ける、だが全く堪えない、緊張は無い、考えなしの馬鹿どもとさえ思える。
「大した奴らだな、オイ。こっちは正当防衛と少なからず周りに認められても罪悪感が消えねえのによ」
シノン達も俺の豹変ぶりに驚いているようだ、だがそんな事は心底どうでもいい。
「お前・・・こいつのした事分かってないのか!?」
フードの男が叫ぶが、
「だから殺すのか?意図的でなかった、にも拘らずお前は意図的に死に追いやるのか?そもそもそんなプレイヤーが本当に居んのか?名前は?仲間は?」
「えっ、いやっ、その・・・噂だから・・・」
やっぱそんな物か、ますます苛ただしい。
「どいつもこいつも・・・・のぼせやがって・・・日常に帰るために戦ってんのに人殺しになってどうする?俺たちの行動が外部に全く漏れてない保証は無いんだぞ?その怒りは正しい、その嘆きも正しい・・・・で?処刑?豚箱にでも帰りたいのか?」
被害者は兎も角、関係ない奴も何故便乗する?義憤にでも駆られたか?
「愚かだな!!!その一言に尽きる!!俺たちが生きてる世界が例えリアルだろうが、バーチャルだろうが、人の世であり人が叶わずとも平和を望む限り、人殺しが正当化されることは無い!!!」
復讐?したけりゃ結構。地獄に堕ちる決意があるなら好きなだけしろよ、ただし生き地獄だがな。死にたくなったら一人で勝手に死ね。揃いも揃って一々喚き散らすんじゃねえよ!!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰もが聞き入ってる。
もはや怒りの気配は感じない、だがまだだ、まだ終わらない、終わらせない。
「そんなに殺したいか?」
「殺せ」と周りで叫んでた奴らに目を合わせる、だが全員無言で逸らす。
「そんなに血が見たいか?」
剣を抜く、人の命を奪ったことがある、俺の罪を着せてしまった剣を。
「どうしてもと言うなら、俺がコイツの首を刎ねてやる!!」
跪いたネズハの横に立つ、首に剣を添える・・・・・ネズハは、動かない・・・・・・身じろぎすらしない。
「いいんだな?」
この場に居る全員に言い聞かせる様に、言う。
「こいつがなぜ態々ここまで来たのか・・・・しらばっくれることをせずに謝罪したのか・・・・全てに蓋をして、闇に葬って、英雄面・・・・」
剣を握りしめて、上段に振りかぶる、
「いいんだな!!?それでも!!!」
「・・・・・・すまなかった、ネズオ・・・・」
オルランドと呼ばれてた奴の声が聞こえた。
「ネズオに・・・いやネズハに強化詐欺をさせてたのは俺の命令です・・・裁くなら俺も」
そして全員が、レジェンド・ブレイブスが、鎧と武器を置いて
待っててくれた人、遅れてごめんなさい。そしてありがとう。
時間が空いてどうしよう?こうしよう?ああしたい!こうしたい!と悩んでたらこんなに時間が空いた上に、一万四千字、長ぇ!!?と自分でも思いましたが、これでも端折った方なので許してください。
こればかりは一話に収めたかった。
後日談的な物は次回に持ち越しです。
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第十二話 木漏れ日の中 戸惑う梟
オウル「のぼせんな!!!」
シノ・ユウ・アス「(誰だコイツ)」
ネロ祭楽しい、でもブリュンヒルデが当たらねえ・・・・
そんな事は置いといて始めます、第十二話。我ながらまさかの展開。
森林浴で体の調子が良くなるのは錯覚では無い。
これは森の木々が虫に喰われることを防ぐため殺虫作用のある揮発性物質、フィトンチッドと呼ばれるものを散布するからだ。これは虫を殺そうとはするが人体には極めて優しく、脳波を抑え精神に安らぎを与えてくれる・・・・・のだが・・・・
「でも、SAOでは関係ないのかね・・・・・」
樹齢何百年と言う大樹がそこかしこにあるアインクラッド第三層の森の中で俺は呟く、真昼間なのにも関わらず日光が遮断されてるところはまるで暗闇、死角から襲われてはかなわないので《索敵》を常にフル活動させておく。
しかし、ここの森は索敵に引っ掛からない奴もいる、常に直観を周囲に張り巡らさなくては、
「オウルーー!何してんのーーー?おいてくよーーー?」
割と遠くから活発そうな少女の声が俺に掛けられる、考え事をしてる間に結構離れてしまったようだ。《索敵》で追跡のスキルはまだないので、この常に霧が充満してる森で仲間と離れるのは自殺行為。ボス戦で戦いまくったお陰で経験値がたくさん手に入り、LV18ももうすぐだが置いてけぼりだけはごめんだった。
「ああ、すぐ行く!
白髪片手剣士こと俺、オウルは今、彼女フィリアとコンビで《翡翠の秘鍵》というクエストを受けようとしていた。
シノン、ユウキ、アスナは今は居ない。
SAOが始まり二十数日程、あと一週間もしない内に丸一ヶ月が経つ。
原作よりも早く進んでることに喜びと一抹の不安を覚えずに居られないが乖離するときは勝手に乖離するだろうから気にしないことにする。
二層でのボス戦の後は俺も驚くほど丸く収まった、何故かと言えばオルランドは元から謝罪するつもりだったらしい、それを信じられるほど今回の事件は決して簡単でないし、小さいものでは無いが・・・・兎に角、武器と鎧ボス戦で得たアイテムとコル、そして前から賠償金として溜めていた分で取り敢えず
ネズハ改めナーザは無事に(と言っていいのか俺は分からないが)レジェンド・ブレイブスに戻れた・・・・・・他のメンバーも思うところがあったのか謝罪やら何やらあったらしい。
そしてらしい、というのは俺はレジェンド・ブレイブスが名乗り出た後、街に戻ってレジェンド・ブレイブスの武具でオークションしようとする帰りの道中《隠蔽》でこっそり抜けたからだ、事の顛末はアルゴとナーザからフレンド登録によるメールで知った。
ポンチョの男と繋がってるであろうジョー(ちゃんとしたプレイヤー名かは分からない)にあれだけ迫ったのだから、間違いなく目を付けられただろう・・・・・シノンを俺の油断で死なせかけ、アスナにも危ない橋を渡らせた手前これからはソロの方がいい、ユウキは絶対怒るだろうが・・・・・・フレンド登録も消した、追跡の可能性は出来る限り無くしたい。
そして、そのままボスの広間に戻り三層へ上がろうとしたのだが、
「・・・・・・・・?」
何やら見られてる様な感じがした、上手く形容できないが・・・・アルゴではない、奴ならすぐに出てくる。
「まさか・・・黒ポンチョの男・・・?」
《隠蔽》で隠れている?俺の《索敵》掛からないレベルとなると相当な手練れということ。ジョーからもう連絡が入って俺の抹殺に来た?圏外で俺を攻撃すればオレンジになる、そのリスクを冒してまで殺さなくてはならないと思ったのか・・・・・?
「(・・・いや・・・・むしろ好都合だ、奴だけは何としても・・・・)」
装備も消耗し、精神的にも疲れは無視できるレベルではないが・・・・スキルもレベルもボス戦に参加してる俺の方が流石に上だろう、ここで確実に仕留める・・・!
俺は何も気づいてないふりをしてゆっくり歩きながら周りに目を配る、すると広間の隅が僅かに歪んだ気がした。
「ッ!!」
距離は遠い、突進系のソードスキルでも届かない。だがシノンに作ってもらった煙玉があったのでこいつを《シングルシュート》で投げる。
「ええッ!!?ちょっ!?」
何やら声がやたら高いが気にしない、多分アレだ、裏返ったのだろう。十秒しか持たないので一気に距離を詰めて手足を切り落とし、仲間の名前も出来れば吐かせたい。転移結晶はまだ無いため口だけでは絶対に逃げられない、レイドに混じって居るであろう仲間ももう遠くに行った、確実に成功させる!
「(武器は・・・短剣か!間違いないか!?)」
「くッ!!」
迷宮区の最上階に一人で来れるだけあってその短剣裁きと身のこなしは攻略組と比べても遜色ないが・・・・・・
「すっとろいな」
「なッ!??」
シノンとの模擬戦で短剣使いとの戦い方は大体わかる、左胸、心臓めがけて突き出すソレを払うように力強く左手で手首を掴み外側に捻る、同時に右手で軽く相手の目元に手刀を入れる。
「ぐぅッ!!」
「いいセンスだ・・・だが見つけられた動揺が手に取るように分かる!」
右足の踵で相手の右膝をHPを減らさない程度に引っ掛け態勢を崩し短剣を奪い、そのまま背負い投げで地面に叩きつけて袈裟固めで押さえ込む、STRにどれだけ差があってもこの拘束からは簡単に逃れられない。
丁度十秒経ったのか黒い煙幕が晴れる。
「はッ離せ!!この変態!!」
「変態?こんな所で隠蔽してる怪しさ満点の奴に言われるとは・・・・・ん?」
何やら脇の辺りに柔い感触があるが・・・・・まさか・・・、
「私はただ三層に向かおうとしてただけよ!」
「・・・・じゃあ何で隠蔽で隠れてた?」
女か・・・・流石に彼女が黒ポンチョの男ではないだろう、てかこいつ誰だ?
「索敵で何か来るのがわかったから反射的に隠れただけよ!」
「・・・・そうか、すまん・・・・」
一言謝罪し、離れる。本当に彼女がそのつもりでここに居たのか、隠れたのかは分からないが黒ポンチョの男以外は問答無用で殺すつもりは今のところ無い・・・・にしてもまいったな、勘違いだったとはな・・・
「本当にすまない、さっきここで色々あっただけに君がオレンジプレイヤーと勘違いしてしまった」
「オレンジプレイヤー・・・・?ここで何があったのよ・・・・」
全体的に青い装備、金属の類は見当たらない。明るい茶髪、アイテムで調整してるのか薄いオレンジ色にも見える。武器は片方に武器を壊すためにギザギザが付いてるソードブレイカー、
「お詫びにそれ位はいくらでも話す、お前の名前は?俺はオウルだ」
奪った短剣を返しながら訪ねたら、
「・・・オウル?それってアルゴさんから買った・・・」
何だと?じゃあ・・・こいつが・・・
「私、フィリア。ソロでトレジャーハンターやってる・・・・と言っても自称だけどね」
その名はかつて一層で俺の名前を買い、そして先ほどアルゴから教えてもらった名前だった。
「公開処刑・・・・そんな事が・・・・」
「まぁ、とあるプレイヤーの説教と首謀者の仲間が自白して事なきを得たんだがな」
俺とは言わない、恥ずいから。トレジャーハンターを自称するフィリアと次の階層に繋がる階段を昇りながら事の顛末を話す。そしてフィリアがあそこにいた理由は俺に宝箱を取られる前に先に三層の宝箱を総どりするつもりだったらしい・・・・俺は兎も角、攻略組の連中はブチ切れかねないぞ。
「そんなのとぼければいいし、それに原則ダンジョンの宝箱は早い者勝ちでしょ?」
「じゃあ俺の名前は買わなくてもよかったんじゃ・・・・」
「・・・・それとこれとは別よ・・・」
こいつ・・・・まぁ、気持ちは分からないでもない。ソロで危険を冒して入ったのに宝箱が空っぽ、何も感じないとは俺でも言えないし、あからさまにケチを付けてくる奴らは相手にしたくないのも普通の心理だろう。
「だがな、ソロで行動するならもうちょっと慎重になった方がいい、PKもないとは言い切れないが・・・それ以前にmobに袋叩きにされるぞ」
「これでもLV12よ?それに貴方はどうなの?」
「俺は元テスターだからな、それに一人で動きたいわけがあるんでな・・・・」
フィリアの反応を見る限り俺の一層での事件は広まってない様だが安心は出来ない。俺の事を危険視した奴が殺しに来る可能性もあるし、何より一人なら自重せずに動ける、どれだけ展開に対して先回りしても怪しまれない・・・・・それに、もう俺は簡単に人に背は預けられそうにない・・・・。
「成程ね、テスターだから先回りして宝箱の在処が分かったのね・・・」
「まぁな、フィリアは違うのか?」
「うん、近所の店で偶然売ってるのを衝動買いして・・・・ゲームもそこまでするわけじゃなったんだけどね」
無理もない話だ、バーチャルの世界に憧れてやって来た人間は若者だけではない。ベータの時は顔はリアルの物では無かったが話していたり、その行動を見る限り結構な高齢者も居たと思う。老いて動かなくなった体がゲームの中とは言えまた全力で動かせるのだ、フルダイブの技術は医療機関に導入も考えられていた。フィリアの衝動買いはむしろ真っ当な理由に思える。
少なくとも俺よりは。
「・・・・・・よし!決めた!」
「?」
何やら難しい顔で悩んでたが決めたようだ、それよりも三人が追いかけてくる前に行かなければ、あのクエストを受けてレベル上げとポンチョの男の手先との接触を図って・・・・
「オウル!私とコンビ組んでよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・え?何だって?」
俺はまるで難聴系主人公のように答えた。
「どーしてこうなった」
「どーしたの?急に?」
いや君の事だよ?ソロまっしぐらのはずが何故また仲間出来てんの?仲間増やして次を目指すのは俺じゃないよ、もう二十年間近く十歳のまま旅し続ける少年だよ、体質は同じかもしれんけど。
「え~?私は別に強要はしてないんだけどな~?」
「嘘ダゾ、『襲われたって言いふらす』って明らかに強要だし、脅迫ダゾ」
もしあの三人に知れたら、「一歩音超え・・・二歩無間・・・三歩絶刀!」とか、「本格治療を開始します。覚悟は、よろしいでしょうか」とか、「来たれぃ我が忠臣、我が手足、我が具足!四天王なぞこれこの通り・・・」とか、なりかねない。
もしそうなったらSAOは秒速でクリアされるが間違いなく俺は死ぬ(確信)。
「だってさ、貴方ほっといたら宝箱全部取るでしょ?」
「そりゃな、剣は未だしも防具は強化の余地がありまくりだし、コルもアイテムもあり過ぎる位がいい」
「うんうん、それはわかる、そして貴方は私にソロは危ないって忠告した」
「まぁな、顔合わせただけとはいえ死なれたら目覚めが悪いし」
「だったら!一緒に行った方がいいじゃん!大丈夫!これでも結構やるから私!」
理には適ってるが・・・・確かに彼女の戦闘能力はアスナと同等位はあるだろう、ユウキとシノンは俺が鍛え、日頃の鍛錬も怠らないように言ってあるので流石に及ばないが。それにトレジャーハンターと自称するのだ、バリバリ戦闘ビルドの俺より小回りが利くスキルも持ってるだろう。
「・・・・俺と来れば危険に晒されるかも知れないぞ?それに俺が君に危害を加えないとも限らない」
いつかと同じように問いかける、フィリアがどういう存在なのかは気になるが・・・・何と言えばよいのか、身もふたもない言い方をすればフィリアは『キャラが出来過ぎてる』気がするのだ。
無論NPCとは思ってない、最近は全く意識していなかったが俺は転生するにあたって『記憶』だけ消され『知識』だけ残った、その二つの明確な境界線は分からないが、確かに俺は原作の展開、キャラクターを覚えていた。そして今俺の目の前にいるフィリアも俺が知らないだけで原作のキャラクター・・・・そんな気がするのだ。
だから正直言えば知りたい、彼女はどんな立ち位置だったのか?何をするのか?だがその我欲で窮地に追いやるのは論外だし・・・・・
「・・・・何を悩んでるのか知らないけど、貴方が私に危害を加えるならさっき武器を奪って押さえ込んだ時、もうしてたでしょ?油断させるためとも考えたけど、あれだけ完全に押さえ込んだならそのまま何かすればいいし・・・・多分信用できる!」
多分て・・・・考えてんのか、そうでないのか・・・
「・・・・俺は俺の目的で動く、宝探しが後回しになるかもしれない、それでもいいのか?」
「う~ん・・・それはあんまり良くないかもだけど・・・でもクエストとかでもお宝は手に入るかもしれないし、私だけで動くよりは効率良いだろうし、着いてくよ!」
こうしてソロに戻ったはずが俺にはまた仲間(しかも普通に美少女)が出来た。何故だろう、敵が増える予感がそこはかとなくする・・・・
「でさ、今どこに向かってるの?主要区はあっちだよ?」
「今からまさにクエストを受けに行くのさ、かなり大規模で、レアなアイテムももらえるぞ」
「やった!で、どんなクエストなの!?」
「慌てんな、ここの情報を与えながら教える」
第三層は全体的に森に包まれている、その上霧も充満してるためマップも大してあてにならない。mobは植物系なのでソードスキルは使ってこないが・・・・
「フィリア、ちょっとしゃがんでみ?」
「え?う、うん」
戸惑いながらも頭を押さえてしゃがむ、避難訓練では無いんだが・・・まぁ好都合だ。俺は素早く抜剣し、ボス戦で覚えた四連ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》をフィリアの後ろの木にかます。
「なっ、何してんの!?」
「見りゃ分かるだろ?」
そしてウロらしきものが顔の形になり「MORORORO・・・・」と奇妙な鳴き声?を発する。
「この階層のどこの森でも湧く《トレント・サプリング》だ、索敵に引っ掛からない上、普段は擬態し森の奥に誘い、迷わせようとして来る」
「ほえ~・・・索敵に引っ掛からないなら何で分かったの?」
「勘」
やっぱり「何言ってんだコイツ」みたいな目で見られるか・・・・ちゃんと理論は教えてるのだがまだ誰も同じ真似ができたことはない、おかしいな・・・・
「ここはVRの世界だよ?直観って・・・」
「分かる物は分かるんだから仕方ない、百パーでは無いが、どんどん精度が増してるし」
プロの将棋棋士などは最善の一手を直観で打つという、これはアマチュアにはない経験則からくるもの。今まで戦った記憶の中から無意識に最善を拾い上げそれを感じるらしい、もっと難しく言うとシナプスがどうとか読んだ気がするが・・・それは置いといて。
「さてと、このへんかな?フィリア、耳を澄ましてみてくれ、剣戟の音が聞こえないか?」
「剣戟?それがクエストの合図なの?」
「そうだ、予め言っとくとこのクエストは九層まで続く、その全部に付き合う必要は勿論ない、俺もボス戦で中断する可能性があるしな・・・」
「やると決めたからにはやるよ、でもどんなクエストなの?」
そればかりは見てのお楽しみだ、そして目を閉じ全神経(SAOでその言い方が正しいかは分からないが)を耳にだけ集中させる、鳥のさえずり、葉の擦れる音、虫の音、様々な音が聞こえるがそれら全てをシャットアウト、効きたいのは剣戟だけ・・・・・・・・・・!
「聞こえた!」
「え?嘘?何にも聞こえなかったよ?」
「いや確かに聞こえた、こっちだ!」
街道から外れ森に入る、《索敵》と勘で出来る限りmobは避ける。勝手に決着が着くとは思えないが急ぐに越したことは無い。
「森に入って大丈夫なの!?」
「クエストを受ければ戻ってこれるさ、あとここからはあんまり大声は出すな」
「クエスト受けれなかったら?」
「行くぞトレジャーハンター、野営の準備は万端か?」
「・・・・お風呂」
まず女性が少ないが絶対それに拘るな、確かにリラックスできるけど・・・・
「・・・・クエスト受けたらとある拠点に行ける、そこなら風呂あるぞ」
「やった!」
分かり易く、誘導しやすい、今のところ俺のフィリアへの評価はそんなところだった。
「居たぞアレだ」
「あれって・・・・エルフ?」
茂みに隠れながら伺う、俺たちの視線の先には金髪碧眼の美青年のフォレストエルフ、もう一人はスモークパープルの髪の女性のダークエルフ。この二人のうちどちらかに助太刀し、そして秘鍵を預かる。それを助けた方の拠点へ持ってくというもの。今も一進一退といった感じで斬り合っている。
「でもさ・・・・何か凄い強そうだけど・・・」
「いくら安全マージンがあってもあの二人は七層のエリートmob、勝てる可能性はかなり低い」
「え?やばくない?ここで死んじゃったら・・・・」
「それは無い、間違いなくな・・・・俺たちがイエローゾーンに入ったら加勢した方が奥義を使う、命と引き換えになるがそれでクエストは一先ず進む」
「・・・・・・そう・・・」
だがしかし、俺は我ながらメンドクサイ性格をしてる、
「なあ、フィリア?」
「何?」
「お前さ、超有名な某RPGの第五作目の奴やった事あるか?」
「?・・・・ああ!あの親子三代に渡る、勇者が主人公じゃなかったり、最強装備が杖だったりするアレ?」
まぁ、間違ってないけど・・・・その言い方はないだろ、あとカジノの武器を含めたら最強装備は剣だからね。因みに俺は幼馴染派です。
「俺さ、ずっと昔に多分主人公の父親救うため幼少時代にスゲーレベル上げしたんだよ」
記憶はないが、そんな事をしていたような知識がある。
「オウル、まさか・・・」
「何もかも茅場の思い通りは気に食わないからな、一つ運命に逆らわないか?」
「・・・・・うん、いいよ!やってやろうじゃんか!」
中々彼女はノリがいい様だ、一応アスナの事があったので黙って勝手に事を進めるのは避けたい。
「よし、じゃあ俺が攻撃を担当するからフィリアは防御主体で行け、戦いは俺の方が上だろうから」
「身に染みてますよ、それは」
それに人型なら色々有効な技があるしな、スキルばかりが戦いではない。
「でも、どっちに加勢するの?」
「野郎より女の方がモチベが上がるんだが・・・・フィリアは?」
「・・・・・・・」
ジト目で見られた・・・・しょうがないね、そればかりは逆らえぬ性だよ。そんな事よりさっさと行こう。
俺とフィリアは茂みから出て、俺はそのまま《ソニックリープ》を森エルフに喰らわせる、不意打ちに対処は出来ないのか、まともに受けたが・・・・ほぼ減ってないな、ちょっとしたボス戦だと思った方がいいな。
「何故邪魔をする!!人族よ!!?」
「人族の間じゃ婦女暴行はかなり重罪でな、その辺にしとけよ」
「貴様ら・・・・我が剣の露と消えるか・・・」
「下がっていろ!貴殿らの敵う相手ではない!」
「でも、貴方だけじゃ勝てないでしょ?事情はよく知らないけど手伝うよ!」
別に森エルフが悪というわけではないが、この構図は完全に森エルフが敵役だった。だがそんな事で引く奴ではない、イエローのカーソルが血のように赤く染まる・・・・ギリギリ勝てるかどうかといった感じだな、油断すれば間違いなくやられる。
「愚か者どもよ!ダークエルフと共に消えるがいい!!」
「・・・!!」
滑るようにこちらに迫ってくる、メタい事を言うと人型mobはその動作の元となった人間の動きがある、その為ソードスキルもシステム任せでなくブーストされてる場合もある。この森エルフはどうやらその数少ないブーストのソードスキルを使ってくる奴だ。
「ゼアアッ!!!」
「シッ!!」
剣はまともに受けず流す、今の剣ではへし折れかねないし、ステータスも向こうが上だ。なので、
「フィリア!!」
「何っ!?」
「ヤアァッ!!
足を引っかけて体勢が崩れたところをフィリアに斬らせる、二連ソードスキル《クロス・エッジ》がまともに背中に入る。
「くっ・・・・舐めた真似を・・・」
「やっぱりあんまし効いてないか・・・・」
「どうすんの?ジリ貧じゃない?」
それは流石に早い、まだまだ手はある。
「今度はこちらの番だ!!」
「やってみろ、出来るもんならな」
ソードスキル《シャープネイル》、予備動作だけでそれを見切り距離をとらずに森エルフに近づく、三連とはいえ一回位はまともに当たっても大丈夫だ、それにそんな馬鹿真面目にソードスキルを使うところやはりAIは単純だな、肩の辺りに振りかぶったそれを左手で掴み抑える、前髪を右手で鷲掴み、そして端正なその顔に膝蹴りを入れる。
「ガッ!?!?」
「まだまだぁ!!」
そのままたたらを踏んだところに右手で顔面に《閃打》、後ろにある左足を前足の外側に回し、旋体からの水平蹴り《水月》、そしてバック転のように《弦月》で顎を刈る、全て体術スキル、だがブーストは極限までしている。この手の稽古も武蔵さんから良く受けていた。
「ギッ!?」
「おっ?スタン入った?」
まぁ、狙ったんだけどな。スタンは僅か三秒しか持たない、それを意識するより早く《ホリゾンタル・スクエア》を放ち、硬直を《閃打》で短くし《バーチカル・スクエア》に繋ぐ。ソードスキルには冷却時間があるので無限につなげることは出来ないため一旦退く、
「ぐあああぁぁッ!?!?」
「・・・オウル・・・強ッ・・・」
「何と・・・・・!」
「感心してないで手伝え、まだイエローに入ってないぞ」
このコンボならイケると思ったが・・・・予想以上に固い。だが勝てることはもう確信した、後は作業の様な物だ。
十分後________
「ばっ・・・・馬鹿な・・・」
一度天を仰ぎ、そのまま力なく倒れる。そして大量の経験値とアイテムが手に入る、おぉ、LV18になった。マージン取りまくってるからもう少しかかるかと思ったんだがな・・・・やったぜ。
「倒せた・・・・・強すぎでしょ・・・・」
その場にへなへなといった感じでフィリアが座り込む、俺なんかボス戦直後だぞ?剣もかなりヤバイ、メンテしないと・・・・、
「・・・・これで聖堂は一旦守られる・・・・すまない、そなた達、助けられてしまったな」
森エルフからドロップした、巾着袋の様なものを拾い黒エルフの女性が言う、あれが秘鍵か。上手く進んだとみていいのかな?
「私の名はキズメル、そなた達のお陰で第一の秘鍵は守られた、我らが司令からも褒賞があろう、野営地まで同行するがいい」
「あ、ありがとう・・・・正直疲れた・・・」
「俺も武器を何とかしないとな・・・・案内頼めるか?」
わざとYESの意味をはっきりさせなかったが、
「よかろう、ここから南に少し歩くぞ、道中の敵は任せてくれ」
黒エルフのキズメルは快く承諾してくれた、敵と戦ってくれるのもありがたい。俺のアニールブレードはもはやボロボロだ・・・・・・そろそろ、か・・・
「私フィリア、よろしくねキズメルさん」
「敬称はいらないさ、暫くの間よろしく頼むぞフィリア」
「剣が折れそうなんで道中役に立たないかもしれんがよろしく、オウルだ」
「構わんさ、奴はフォレストエルフの精鋭、むしろ剣が折れそうなくらいでとどめたなら快挙だ」
こうして、キズメルと俺にとってイレギュラーなフィリアを交えてクエストが始まった。あの三人は心配ないだろう、アルゴ経由で俺手製のガイドブックを渡しておいたし、それに・・・・
「どうしたの?早く行こうよ?」
フィリアはいったい何者なのか、俺は今それが気になる・・・・・・もはや原作知識はあてにならなくなりつつあるのかもしれない。
まさかの原作ヒロイン(一時)退場、すかさず登場ゲームヒロインフィリア!
これもまた原作崩壊・・・・本当のことを言うとフィリアはもう少し後の登場予定だったのですが、同行者が多すぎると作者の文章力では捌ききれないのでプロットを少し変えて早めに出させました。
懲りずに声優ネタも使っていきますがそれでもよろしければこれからもよろしくお願いします。
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第十三話 殺戮の 抑止力
フィリア「私はトレジャーハンター!(自称)」
オウル「(うなじとか削いできそう(巨人並感))」
時間がちょくちょく飛びますが分かりにくかったら、感想で教えてください。
沖田ピックアップとか、聞いてない・・・・
鈴虫の様な鳴き声がが聞こえる、いつもよりたくさん。
「ん・・・・ん?・・・・あぁ、そっか・・・」
普通の宿屋ではなくフカフカのの毛皮が敷き詰められたテントの中で私、フィリアは目覚めた。かなり広いテントで反対側には昨日コンビを組んだばかりの、白髪で年齢がよく分からない剣士、オウルがいる。
本当は男性と同じテントで寝るのは結構勇気を使ったが、一旦捕えたにもかかわらず、すぐに謝罪し解放してくれたことから人としては信頼できると見て同じテントで寝ることにした、本人は「落ち着かない」と言って外で寝ようとしたが・・・・。
昨日(と言っても今は午前三時なので体感的にはさっき)、キズメルにここダークエルフの野営地に連れてこられた。オウルの言った通り普通の街では見かけないアイテムがたくさんあり、クエストの報酬でもかなりレアなアイテムが貰えた。そしてオウルはここの鍛冶屋に《アニールブレード》を一度溶かして、その金属から新しい剣を造ってもらった。確か《ソード・オブ・ディキャピテート》とかいうものだった、聞き覚えのない英語だったので意味は分からなかったがオウルは「本人の心情とか案外関係あるのかもな・・・・」と言っていた、どういう意味だろう?
そして驚くことに《ソード・オブ・ディキャピテート》は強化試行回数20回というオウルが使っていたアニールブレードの三倍は強く、十層までは通用するであろうとんでもない代物だった。
「・・・・ん、朝か?・・・」
何故そんな凄い武器が出来たのか謎だがオウルは気にしていない様だ、まるでここで強い武器が出来るのが分かっていたかのようだ、ベータの時の知識だろうか。
「おぉ、おはよう、フィリア」
「おはよう、でもまだ日は出てないよオウル、昨日は夜遅くまで戦って見たみたいだけど・・・・」
「ショートスリーパーでな、むしろ長時間寝ると調子が狂う、それにベータ時と違うmobが居たら面倒だしな」
もっともそんなmobはいなかったが、と続けた。森エルフとの戦いを見た限り彼はレベル以上の実力があり、しかも見たこともないスキルがある。その上元テスターと来た、かなり強引だったが着いてきてよかったと思う。トレジャーハンターとして誰も行ったことが無いダンジョンにいち早く潜れるのは何にも代えがたいチャンスだったのだ。
「でさ、今日は何するの?」
「毒蜘蛛退治、だが巣はランダム配置だから蜘蛛を倒しながら探すしかない」
「お宝は?」
「・・・・まぁ、あるっちゃあるが・・・」
そんな顔をしないで欲しい、こっちはそれが目的で同行しているのだから。同行と言えばオウルは前は誰かと一緒だったのだろうか?そんなこと言っていてた気がするが・・・・
「機会があったら紹介でもするさ、そう言えばフィリアはボス戦はどうするんだ?」
ボス戦か・・・・正直怖いので辞退したいのだが・・・・
「そうか、じゃあ辞めとけ、SAOでは精神的動揺でいざという時動けなくなるなんてザラだからな」
オウルには悪いがそうさせてもらおう、ボスドロップのアイテムが欲しくないわけではないのだかもう少しレベル上げしてからにしよう。お互いに準備をしながらそんなことを話してるとキズメルが入って来た、装備をもう整えて後は出発するだけの様だ。
「二人とも、日はまだ昇ってないがそろそろ行こうと思うんだが?」
「あぁ、準備は出来てる、行こうか」
こっちを見ながら返事をする、さて、どんなダンジョンでどんなお宝があるのだろう?
「じめじめしてる・・・・」
「まぁ、蜘蛛が巣にするくらいだしな」
大型犬位ある蜘蛛を五、六匹倒して難なくダンジョンを見つけたのは良かったのだがそこは空気は淀んでるわ、お足元はタランチュラ位の蜘蛛がたくさんいるわ、薄暗くて松明があっても二メートル先も分からない、《索敵》で暗視ボーナスがあるはずなのに・・・・
「暗視ボーナスが無かったらもっとひどかったと思うぞ、それにキズメルが前に進んでくれてるから不意打ちの心配がないし」
「我らダークエルフは暗闇に適した目があるからな、騎士の徽章も早く見つけられるだろう」
うらやましい限りだ、流石は第七層のエリートmobといった所か・・・・しかし、それにしては・・・
「しかしそなた達には及ばんよ、《幻書の術》、様々な物を収めて持ち運べる・・・それに比べたら我らの目など子供だましさ」
自嘲するかのように、しかし嫌味の様な物は感じない・・・・これは本当にNPCなのだろうか?中に演じている人が居ても信じられそうなくらいだ、まさか・・・・
「・・・・SAOスタッフが入ってるって事は無いと思うぞ」
「どうしてそう言えるの?」
あまりにも自然過ぎるのだ、今まで見てきたNPCとはまるで違う。言葉もこちらに合わせて選んでる気がするし、オウルの指示通り道中も戦っていた。通常のNPCでは絶対にありえない。
「・・・・現時点じゃ何も断定できないが・・・・茅場の思惑の内なのかもな・・・」
「どういう意味?」
「始まりの街であの赤ローブが言ってたこと覚えてるか?」
覚えてる、というか忘れられないだろうあんな事。世界を創り出し観賞するとか、そこだけ何だか喜色の感情が混じっていた気がする・・・・まさしくマッドサイエンティスト。
「そう、そこだ。世界を創り観賞する、それだけなら顔を戻す必要性は弱い・・・奴はここをもう一つのリアルな、それこそ異世界にしたかった。そしてその範囲がプレイヤーだけじゃなかったとしたら?」
「・・・・まさか・・・NPCは全部知性がある?人と同じ?」
あり得ないことだ、いくら何でも。ナーヴギアでも凄まじい技術が詰まってるのだろうが・・・・
「勿論完全じゃないだろうし、全部では無いだろうが・・・・多分キズメルは特別な存在なんだろう」
私達の先に行って安全を確保してくれているダークエルフの騎士を見る、もしそうならキズメルはほとんど人と変わらない?
「・・・・俺はプレイヤーと変わらないように接して、後ゲームの用語は出来る限り避けたい、フィリアも頼む」
「・・・わかった、なんていうか精神的に良くないしね・・・・」
いきなり壮大な話になった、ただトレジャーハントの為だったのに。オウルに付いて行くとこれからもこんな事があるのだろうか?それは何だか、本当の冒険の様な・・・・・
「二人とも、少し止まってくれ」
「どうした?」
と、いきなりキズメルが立ち止まり思考が遮られる。何となく周囲に注意を張り巡らしてみると・・・・
「金属音?・・・・プレートアーマーみたいな・・・」
「!!ッチ、まずったな・・・・」
オウルがやってしまったと言わんばかりに顔を歪める。
「どうしたの?」
「ここはギルド結成の為のクエストで来ないといけないダンジョンでもあるんだ」
だが私たちは見つかっても困るような事は・・・・・あ、
「オウル、フィリア、私は人族にはあまり顔を知られたくないんだが・・・」
「奇遇だな、俺たちもだ、どっかに隠れよう」
そうだった、キズメルが居た。イベントmobがパーティーに加わっているなどと知れたらどうなるか、少なくとも何らかのいちゃもんはつけられそうだ。
「そこの窪みに入れ、私が隠す」
言いながら私とオウルを窪みに押し込み外套で隠す。いや、確かに薄暗いため分かりにくいかもしれないがこれで騙されるとは・・・・
「ハイドレートが95だと・・・・」
「《朧夜の外套》と言ってな、我々が使える手練手管の一つさ」
何と、いくら暗いとは言えそこまで高度なハイディングが出来るとは・・・・・・・・・・・・
「・・・・多分人間には使えないぞ」
「・・・・別に盗ろうとか考えてないし、失礼ね」
確かに反射的に《強奪》スキルの熟練度は幾つだったか考えてしまったが、
「二人とも、来るぞ静かに・・・」
「なんでや!何で宝箱全部空っぽやねん!?」
見事な関西弁が聞こえた、何だかオウルは頭を抱えてるし・・・・
「アイツかよ・・・・いや待てよ・・・?」
掠れるような小さな声で呟き、オウルは目の前を通り過ぎようとするパーティーを凝視する。一瞬関西弁で叫んだイガグリ頭の男性がこちらを見てハイドレートが下がったが看破には至らなかった。オウルは何故私の隠蔽を見破れたのか、未だに謎だ・・・・・・
「・・・・もう大丈夫だろう」
「キバオウの奴、ディアベルの命令か?」
キバオウ、どうやらさっきのイガグリ頭の事らしい。
「そのキバオウさんがどうかしたの?」
「攻略組のメンバーでも結構面倒なやつだ、見つかったらアイテム寄こせとかとか言ってきたかもな・・・」
「横暴でしょ!いくら何でも!」
ダンジョンで手に入れたアイテムは早い者勝ちなのに!
「ほう、人族は長らく争って無いと聞いたが?」
「あからさまな殺し合いはしてないけど、それぞれ主義主張は違うから馬が合わないのさ、特に俺みたいな奴は」
確かにソロプレイヤーだとパーティーを組む事を強要されるボス戦では肩身が狭いだろう、そしてテスターなら周りの目も気にしないといけないだろうし。
「オウルは何か引け目でもあるのか?」
「・・・・・・・そうさな、悪目立ちはしてるだろうな・・・・」
どういう意味だろう?実力は凄まじいが、それだけではない気がする。彼は今まで何をしてきたのだろう、攻略組に居るだけでも凄いが・・・それ以上の何かを感じる、上手く言えないが修羅場慣れしてる様な・・・・
「何してる?おいてくぞ、フィリア」
「あっ!今行く!」
でもまぁ、気にする必要は無いだろう。キズメルに対する接し方など考えるに彼は良心的な人間だ。
少なくともこの時はそう思っていた。
「さてと・・・・ユウキとシノンとアスナに見つかったらどうしよう?」
あの後フィリアのお宝に対する嗅覚によって徽章は簡単に見つかり、キバオウが連れてきた女王蜘蛛のダンジョンボスを相手にしたりと一悶着あったが、これから起こるであろうイベントに比べれば些細なことだ。
「どう言い訳すっかな・・・・」
無理ゲー臭い、勝手に居なくなって、フレンド登録も消して、何食わぬ顔でボスの攻略会議に出る・・・・
「死ぬな、確実に」
今フィリアは野営地に居るはずだ、ボス戦には参加しないと言ったのだから。なので周り、もしくは本人達からあらぬ誤解が掛けられることは無いだろう。もう一度パーティーを組む選択は無い、四人じゃ小回りが利かないので目を付けられやすいし、本当ならフィリアも連れて行きたくないのだから・・・・危険と思って身を引いてくれる事を願おう。
「・・・・もう時間がないな、腹くくるか」
結局良さげな言い訳は全く思いつかなかった、しょうがないね、コミュ力は碌に鍛えてないからね。とか何とか考えてるとここ主要区の中央広場に着いた、五分前だがもう全員いるようだ。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
そして凄い形相で睨む美少女が三人。
衣食住を共にし、一緒に死線をくぐり抜けて来たにもかかわらず、無断で消え去り、あろうことか別の女とコンビを組んでる男が居た。
ていうか俺だった。うーーん、実にデンジャラス、何でここに来たんだろ、俺?
でもレベルが低かったら戦えないし・・・・・。
「よし!みんな集まってくれたな!じゃあ早速だけど攻略会議を始めよう!」
流石に三回目ともなればスムーズだ、キバオウ達もクエストをクリアしたのか鎧の下のインナーが青色で統一されている、ディアベルの趣味だろうか。
しかし・・・・・・
「・・・・・・二十人だけか?」
少ない、四十数人の内半分以下だ。シノン達は最初から除外、エギルさん達も入らないにしてもこの少なさは何なんだろう、ディアベルが死ななかった事でキバオウとリンドとかいう奴が対立せずにまとまると思ったのだが・・・・ディアベルは思ったよりも人望が無いのだろうか?
そしてそんな失礼な事を考えながら攻略会議を聞いてるとディアベルと目が合った、その目は敵視とまではいかないが何かを警戒してるようだった、え?何で?俺なんかしたか?
「・・・・さて、ここからは少し話が逸れるんだが聞いて欲しい。今朝がたキバオウさんの活躍によって俺たちはギルドを結成した、ここに居る人達なら制限はあってないようなものだ。希望があればすぐに受け付ける・・・・どうだろう?入りたい人は居るかい?」
広場のプレイヤーにディアベルは呼びかけるが、意外なことに誰も興味なさそうだった。人が多いから目立たない様にしてるとかではなさそうだ。本当にディアベルのギルドに入る気がない、少なくとも俺にはそう見えた。
「・・・・ふむ、いないか・・・・じゃあ、オウルさん、貴方はどうかな?」
「・・・・・・・・あ?」
一瞬何を言われたのか分からなかった、俺を?ギルドに?何故だ、奴は俺がテスターであることは知ってるはず。むしろ自分から遠ざけたいのでは?いや、近くにおいて制御したいと見るべきか。
一秒足らずでそこまで考えてやっと気づく、シノン達だけではない。広場のプレイヤー全員が俺を見ていた。理由は全く分からないがどうやら俺は攻略組の間で注目されてるようだ、何かしたっけ?
「いや、遠慮しておこう」
端的にそんな返事しか出来なかった、無理もない、ここまで注目される謂れはないはずだからだ。予想外のことで口が回らず、現実逃避のように頭だけがグルグル回る。
「そうか・・・・因みにここで敢えてギルドに入らない理由は?」
・・・・・あぁ、成程、その言葉を聞いて何となく察した。
どうやら俺が何かしたせいでディアベルはギルドメンバーが集まらず、そして俺がギルドを立ち上げるのでは?と危惧してるようだ。しねえよ、そんな事。てかどうしてそんな結論に至った?考えすぎでなければ周りのプレイヤーは俺が立ち上げるかもしれないギルドに入ることを考えてるのか、杞憂にも程がある。
「回りくどいな、ディアベル。安心しろよ、ギルドなんぞ造るつもりは無い・・・・少なくとも今はな」
絶対とは言えないので一応保険は掛けておく、そもそもSAOがデスゲームになったとはいえプレイヤーの行動を制限することなど出来ない、そしてディアベルの思惑にも乗るつもりは無い。引っかけるような言い方をしてきたのでこっちから爆弾発言をする、キバオウは青筋を立て、ディアベルもわずかに顔をしかめたが・・・・
「・・・・そうか、すまないね。こっちにも色々立場があってね」
いや、俺関係ないじゃん。思わずそう突っ込みたくなったが、グッと堪える。ここで言い争ってもしょうがない。そして会議はその後は滞りなく進み、
「じゃあ、
透き通るような凛とした声で、シノン達に囲まれた。あらやだ、目に光がないわ(錯乱)。
「いやいやいや!待て、ホント待って!悪かったとは思ったよ?でもな、やっぱパーティーだと、こう、色々とな・・・・・・」
まるで言いたい事が言えない、中身のない言葉ばかりがあたふたと出てくるだけだ。
「フレンド登録も消して・・・・ボク達邪魔だった?」
上目遣いでこちらを見てくるユウキ、おいやめろ、周りにまだ人が居るんだぞ、ガン見されてるよ?あいつらめっちゃ見てるよ?しかも明らかに年下を泣かしてるこの構図はヤバイし、
「オウル君?・・・・今までどこで何してたの?」
一緒に行動してた時間が短いはずのアスナにまで怒られてるし、お前俺の事避けてたじゃん、むしろ居なくなって良かったんじゃないの?
「何よその言い方!みんな心配してたんだよ!?あんな後の事だからPKされたんじゃ・・・って!」
不安を煽るような事ばかり言ってたからな・・・・そう考えるのも無理はないか。
「心配すんな、問題無い。とは言ってもこれからは別行動にしよう、何故かは知らないが俺は目立ってるようだからな」
もっとも目立ってる理由にはお前らと一緒だからという理由もあるだろうが・・・・
「何でよ、一緒に居られて困ることがあるわけ?」
「・・・・シノン、お前はいざという時人が殺せるか?」
「は?」
「それとも殺人鬼を説得出来るほど口が達者なのか?」
「何を言って・・・・」
「『これはゲームであっても遊びではない』」
「・・・・・・・」
ここで人を殺せばそれは間違いなく殺人、『罪』だ。大切な誰かを守るためだとしても、自分の命を守るためだとしても、今の社会では最大の禁忌とされている。
「でも、SAOには間違いなく殺人鬼の類が居る。説得なんて出来ない、百歩譲っても捕縛・・・・出来るなら事なら・・・・」
コペルの時のように正しくなくとも、その命を摘む、確実に。
「・・・・・・・」
シノン達は黙り込んでしまった、俺は今どんな顔をしてるのだろう、あのアスナでさえ怯えてるようだ。
「・・・・・・心配してくれてるならすまない」
でも連れてはいけない。
お前らまで人殺しにさせたら俺は一体何の為にここに居るのか分からなくなってしまう、その本音は死ぬまで語らないし、語れないが、
「・・・・もう、俺には関わるな」
「ッ!・・・・・」
こうするより俺にはいい方法が思い浮かばないのだ、シノンは顔を伏せたまま踵を返し走り去っていった、一人では不安と思ったのかアスナもその後を付いて行く。一瞬、こちらに向けた目の意味は怒りか憐みか・・・・
「・・・・オウル、」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・死んじゃだめだよ・・」
「・・・・あぁ」
ユウキも行ってしまった、三人でいる限りは大丈夫だろうが・・・・
「・・・・いるんだろ、アルゴ」
後ろの陰から見慣れた砂色の外套が出てくる、恐らく全部聞かれていたのだろう。
「いいのカ?あんな言い方しちゃッテ?」
「正直分からん・・・・・・それより聞きたいことがある」
この話は無理にでも打ち切った方がいい、俺自身どうしたいのか分からなくなって来ているのも事実だ。
「何だイ?コルは勿論いただくゾ」
「ディアベルのギルド、何か規模が思ったよりも大したことが無いんだが・・・・あと何でか俺が注目されてるようなんだが・・・・」
「あぁ・・・・それはナ、お前に皆がカリスマを感じ始めてるからサ」
・・・・・・?
「いや、意味が分からんぞ?どういう事だ?」
何故俺が攻略組の一癖も二癖もあるゲーマーの心を掴み始めてる?自覚無いんですが、
「一層でのPK・・・・そして二層での処刑を否定するその考え・・・・オイラが思うにお前は悲劇の英雄とでも皆に思われてるんじゃないカ?」
「何を馬鹿な・・・・」
「でも実際ディアベルから求心力が無くなってるのも事実ダ」
「・・・・・・・」
俺が一層で正当防衛でPKをした事、そして二層で人を殺した人物からの人殺しの否定・・・・・・確かにゲームならそんな感じの英雄や聖人が出ても可笑しくは無いだろうが・・・・
「俺はそんなつもりでやったんじゃない、俺は英雄でも聖人でも無い。これまでもこれからも」
「だが、人の噂なんていい加減なものサ。独り歩きしてもう民衆向けのヒーロー像が出来てるんじゃないカ?」
勘弁してほしい・・・・・・こちとら好きで罪を犯したわけではないのだ。俺はゲームのキャラではない、滅私奉公何てごめん被る・・・・・・・いや、だが、これは言い換えれば・・・・
「そう、オウル自身がPKへの歯止めとなりつつあるんダ。黒ポンチョの男が何を企んでるのか未だに分かんないけど・・・・これは使えると思うヨ」
「・・・・まるで核抑止論だな」
これはSWORD・ART・ONLINEであって
「だが悪くないな、その案は。アルゴ」
「また情報操作かイ?金にならない仕事は勘弁してほしいんだけどナァ・・・・」
「マップデータの代金とでも思っとけ、頼むぞ、SAOを蟲毒の壺にするわけにはいかない」
いつかキバオウに言った戦争がここで起こればそれこそクリアどころではない、茅場にも収拾は付かないだろう。
「わかったヨ・・・・ったく、何でこうなるのサ・・・」
悪態付きながらも仕事はちゃんとすると信じてるぞアルゴ、建物の陰に隠蔽を発動させながら消えていくその背中を見送る。さてと、俺もそろそろ行かなくては、
「今日の夜だな・・・・・・」
もし原作と同じことが起きるなら居るはずだ、黒ポンチョの手先が。これからも攻略とPK対策の二束わらじを履くことになるのだろう、俺は気が重くもなりながら街を出てフィリアと合流するため野営地に向かった。
書く時間が本格的になくなってきた、不定期になりますがちょくちょく書いていきますので。
今更だけど文章力ないな、自分・・・・・
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第十四話 月明かりの 狂宴
オウル「俺自身が抑止力となる事だ」
アルゴ「カッコつけんなヨ、馬鹿に見えるゾ」
このあらすじに拘る必要はない気がしながらも、投稿。
正しさとはなんだろう。
SAOに来てそろそろ一ヶ月、青白い月光を夜の森から見ながらそんなことを考えていた。
今俺は《翡翠の秘鍵》の潜入クエストを進行させている、隣にはフィリアもキズメルも居ない。今回のクエストは森エルフの大型キャンプ地から指令所をくすねる事が目的である。このクエストの大まかなクリア方法は二つ、一つは森エルフの皆殺し。ベータの時はこちらがよく使われていた方法だ、何故なら森エルフの経験値効率が良かったため大抵のプレイヤーは真正面から戦いを仕掛けに行った、だが今の俺ははっきり言ってそんな気分ではないのでもう一つの方法、恐らくこっちが正攻法の《潜入》をすることにした、無論囮役など居ないので完全に単独でだ。
デスゲームでこんなリスキーな真似をするのは褒められたことではないがNPCと言えどキズメルの様な存在を改めて確認すると皆殺しは気が引けるどころではない、トラウマにすらなりそうだ。出来る限り不殺を貫きたいが・・・・・・
「・・・・俺は梟であって、蛇じゃないんだけどな」
何か伝説の傭兵とやってることがよく被るな、別に意識してるわけじゃないんだが、
「でも、人殺しの俺が人殺しの抑止になるか・・・」
大した皮肉だと思う。俺がSAOに入ってきた理由は『未来で起こるであろう事を見て見ぬふりする罪悪感から逃れる為』、しかし今はどうだろうか?少なくともコペルの件やこれから行う事は俺がやる必要はあるのか?それこそアルゴに口裏合わせてもらいディアベルに任せることも出来ただろう、奴が俺の事を気に食わなく思っていても他のプレイヤーの為とあらば力は貸してくれるはずだ。
でも俺はそれをしなかった。シノン達を遠ざけて、ディアベルに頼らず、一人で人殺しの集団になるだろう奴らを相手にしようとしている。
「独り善がり・・・・何が抑止力だ・・・・」
説得出来る気がしないなど都合の良い言い訳、俺はただ人を信じられないだけだ、そして信じてもらえないと思ってるだけだ。実際そうだろう「俺は未来が分かる」なんて言われたら俺も頭おかしいと思うし、でも俺は何もせずにいられなかった。シノンの事件もそうだ、初日のコペルの事件もそうだ、そしてこれからもそうなんだろう・・・・・・
「俺は、正しいのか?」
俺は間違ってるのでは?そう思えてならない、人殺しの抑止力になる事はまだいい、だがだからと言って人殺しの集団を一人で相手をして、そして最悪の場合は殺す、これは正しい選択と言えるのか?俺は人に頼らないという意地で自ら選択肢を狭めて、これしかないと思い込んでいるだけなのでは?
「そもそも俺はコペルを殺した時こそ動揺したが、その後はうなされたりすることは無かった」
俺は人殺しを望んでいる・・・?
昨今では何かが間違ってるということは声高に唱える人や読み物が増えたが、「これが正しい」という考えや教訓はあまり見ない。まるでそれを唱えることは禁忌であるかの様に。
考えながら俺は夜の森を進む、大型キャンプ地は傾斜がキツイ丘の下だ、このまま進んでいけばキャンプ地を見渡せる場所に出るのでそこから潜入する場所を決めればいい、のだが・・・・
「・・・・・・いるんだろ?出て来いよ」
少し開けた河原がある場所で対岸の茂みに向けて言う、先程から粘つく様な冷たい視線を感じる。俺の勘違いでなければこれは・・・・
「あれぇー?バレちゃいましたかぁ?」
隠れていたにしてはわざとらしい程間延びした、大きな声で返事をしてきた。ここからもうキャンプ地は然程距離は無い、いざとなれば大声を上げるつもりか。
「ていうか、明らかにこっち見てないのに分かってましたよねぇ?何ですか、エクストラスキル《直観》とかですかぁ?」
「・・・さぁな、教える義理は無い。お前こそそこで何してたんだ?」
「そっちが教えないのにこちらに問いかけてきますかぁ、でもざんねーん教えられないんですねぇ、これが」
わざとらしい動作と共に間延びした声で鎖頭巾を被ったそいつは言う、縁の鎖はほつれてチャラチャラぶら下がっているので顔は見えない。
「お前もエルフのクエストをうけているのか?」
「お前じゃなくて自分、モルテってもんです、以後お見知りおきをー」
「以後ね、俺がキャンプ地に入った瞬間大声を上げてMPKをしようとしてたんじゃないのか?」
「・・・・・嫌だなぁ~そんな激ヤバな真似はしませんよぉ、それともあれですか、されたことあるんで?」
クスクス笑うように聞いて来る、さっきから苛立たしい行為ばかりして来るが自分でも意外な程俺の心は平静を保っていた。
「しかし、モルテね・・・・綴りはMORTEか?イタリア語か何かで死神を意味する名前だよな?」
それを聞いた瞬間、一瞬だけモルテから余裕綽々といった笑みが消えた気がした。図星か?
「・・・・さあ~?どうでしょうか?でもでもそんな事言ったらディアベルさんも悪魔の名前じゃないですかぁ?それだけで人を判断するのは良くないですよぉ?」
「でも他人はそんな事分かってくれるかな?お前は知らないかも知れないが二層ではボス戦の後攻略組では処刑が行われそうになったんだ」
「わぁ~~~それはそれは・・・・・・穏やかじゃないですねぇ」
「だろ?だからさ、」
一度溜めて俺は言う、これでこいつが釣れなければ俺はMPKされるリスクを背負ったまま《潜入》をしなくてはならない。
「これから何かPKやら何やら事件が起こったらそんな事を企んでる奴らが居るんじゃないかって、疑り深い奴は
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
今度こそモルテからは笑みが消えた、口元しか見えない為どんな表情かは分からない。ただ嫌らしい笑みを描いていた口は真一文字に噤まれている。
「・・・・うーん、そんな皆を不安にさせるような事はしない方がいいと思いますよ、てかしないで下さい」
「別に俺がするなんて言ってないだろ?あと指図するなよ、何様のつもりだ?こそこそ隠れて、顔を隠して、黒幕ロール楽しんでるつもりになってる根暗野郎が」
「あははは~~、これはただの趣味ですよぉ?でもでもぉどうやらオウルさんは自分の事を疑ってるみたいですし?ここは一つ賭けでもしますか」
「賭け?というと?」
「今から決闘しましょう、勝った方は負けた相手に一つだけお願いが出来る。あ!勿論実行可能なマイルドなやつですよ?女性プレイヤーにセクハラとかは無しですよ~?」
「・・・・・いいだろう、初撃決着でいいよな?」
一応俺から提案するが、まぁ、そうは問屋が卸さないだろうな・・・・・・
「えぇ~~?そんな簡単に済ませていいんですかぁ?自分が何を頼むか分からないんですよぉ?ここは半減決着にしましょう!そうしましょう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
それを聞いて俺はまた考える、この場に置いての正しさとは、この世界に置いての正しさとは一体何なのだろう?
何処にもそんな物は存在しない、そう思えてならない。
「オウルが居ない?」
「そう!キズメル何か心当たりない?」
夜になり、オウルとクエストを進めるはずがパーティー欄からオウルの名前が消えていた。彼の強さを考えると死んだとは思えないが・・・・
「・・・・私はこれからフォレストエルフのキャンプ地に指令書を奪いに行くところだった、もしかすると・・・・」
「オウルは先に?」
「だが何の為かが分からん、単独で潜入など正気の沙汰とは思えん」
「・・・・・・・・・・」
それは恐らく、オウルはNPCの可能性をキズメルから見出したからではないだろうか?今のSAOではPKが忌避されてる様に彼は肉の体が無くとも心が人と同じならば同じように接したい、そんな心遣いが感じられた。
キズメルが居れば戦うことになるかもしれないから一人で潜入クエストに行った?いくら何でも勝手が過ぎる!
「・・・・考えていても仕方ない。敵に見つからない様に隠密で行こう、時間は掛かるが」
「それでオウルが窮地に陥ったら元も子もないもんね」
装備はもう整えている、ポーチの中もアイテム補充したばかりだ。今からすぐにでも行ける。
「予め言っておくが私の外套はフォレストエルフには効きづらい、私が陽動してる間にオウルと合流するんだ」
「うん、近くまで行ったら私のスキ・・・・能力で分かると思う」
ダークエルフの野営地から出て幻想的な夜の森を走りながら答える、危うくスキルと言いかけた。慣れないとこれ面倒だなぁ。そんな事を考えながら人騒がせな梟とどう
「・・・待って!誰か来る!」
私の索敵範囲に二・・・いや三人引っ掛かった、スピードは然程ない。むしろ辺りを警戒しながら動いている様だ、何かを探しているのだろうか?
「こんな深夜に人族が何をしに・・・・」
「わからない、ダークエルフの野営地に用があるのかな?」
「フィリアとオウルなら兎も角、見ず知らずの人族を受け入れる程我らは友好的では無いよ・・・・嘆かわしいがな」
では一体何の為に?まさかとは思うが・・・・オウルが言っていたPKを扇動するプレイヤー?
「・・・・人族ならば私の外套が通じるはずだ、話を聞いてみるぞ」
「・・・・分かった」
私とキズメルは茂みの中に隠れて、キズメルの外套で隠してもらった。声が聞こえてくる。三人とも女性、というより少女の声だ。珍しい、ここでは男女差が凄まじく偏っているのに。
「アルゴさんが言うにはこの辺で反応が途切れたみたいだけど・・・」
「何も無いよ?霧が濃いし、迷わないようにしないと」
「・・・・・・・・」
細剣という珍しい武器、一番背の低いヘアバンダナを付けた片手剣士、そしてずっと沈黙してる短剣使い。しかしアルゴさんの名前が出たということはやはりここに何かを探しに来たようだ、反応が途切れた?プレイヤーを探しているのだろうか?
「アイツが今何を目的にして動いているか分かればいいんだけど・・・」
「わかんないよ、オウルはただでさえ話さないし」
オウル!今まさに自分たちが探しているプレイヤーの名前だ。じゃあこの三人が、
「キズメル、多分この人たちは信用できると思う」
「そのようだな、オウルが共に動いていたならばオウルの行先も分かるやもしれん」
今不足しているのは情報だ、男性プレイヤーならば兎も角同じ女性プレイヤーなら話位は聞いてくれるかもしれない。キズメルともそう話隠蔽を解いて茂みから出る。
「あの、ちょっといい?」
「誰!?」
一番近かった細剣使いが反応する、残り二人は声も上げずに既に武器を抜いている。明らかに戦い慣れている、オウルが指南でもしたのだろうか、両手を上げて敵意が無いことをアピールしながらオウルの事を聞く。
「えーっと、私フィリア。オウルとコンビを組んでたんだけどオウルが急にいなくなっちゃって」
「オウルと・・・・・・?」
「コンビ組んだ・・・・?」
「しかも女の子・・・・?」
あれ、何かヤバげ雰囲気がする?オウルは一体何をしたのだろう?
「ねぇフィリアさん?オウル君が何処行ったか、知らない?」
「私達今ソイツに用があるのよ」
「・・・・・・・人族の女はほったらかしにされただけで、ここまで殺気立つものなのか」
オウル、釣った魚には餌をやらないと・・・・
「(誰かに勘違いされてる気がする・・・・)半減決着でいいんだな?」
「はい、勿論負けたからと言って約束を反故する気はありませんよ?HPバーが半分以下じゃ自分も危ないので」
その言い方はMPKを企んでいたと言ってる様な物だが、もう隠す気はないのか?それともここで終わらせる気だからか。モルテがデュエル申告をこちらに飛ばしてくる、内容は半減決着。俺はベータの時は何度もデュエルをしたがデスゲームになってからデュエルをした経験はシノンとユウキに稽古をつけた時だけだ、鈍ってなければいいが。
「・・・・剣、抜かないんですかぁ?」
「お前こそ構えたらどうだ?」
デュエルが始まるまで丁度一分、かつては長すぎると批判があったが結局これは改善されることは無かった。思えばSAOのシステムはもとからデスゲームに調整されていたのだろう、俺は残り三十秒を切っても棒立ちのままモルテを見る。頭には鎖頭巾、ヌラリと月光を反射するスケイルアーマー、そして俺も使っていたアニールブレード、何処まで強化されてるかは分からないが最大まで強化されてると考えていいだろ。
残り、十秒。
「・・・・」
「・・・・」
俺もモルテも何も話さない、考えてることはただ一つ、
残り、五秒。
モルテが剣を抜く、肩に構えるそれは《ソニックリープ》。河原を飛び越えて一気に切りかかるつもりか、
ワンテンポ置いて俺も剣を構える、《ソード・オブ・ディキャピテート》、断罪や首切りを意味する剣。アニールブレードと比べると斬ることに向いてるのか長く、鋭い。強化値は+5、丈夫さに2、鋭さに3振ってある、現時点で手に入る武器よりずっと基礎スペックが高いので攻撃型にしてある。
残り、一秒。
「
呟いたのは俺か、モルテか、
ソードスキルのモーションを極限まで伸ばしたモルテは一秒になった0,5秒後ほどにこちらに跳んで来た、デュエルが始まる前に攻撃を仕掛ければその時点でオレンジになるが、
「シィィイイイイヤッ!!!」
俺の目の前に着た瞬間、【DUEL!】の文字が輝く。
「ゼヤァァアアアアッ!!!」
水平斬り《ホリゾンタル》、モルテの剣と俺の剣がぶつかり、水色の輝きと翡翠の輝きが金属音と共に辺りを照らす。上から斬りかかるモルテの方が有利な状況ではあるが、
「ッ!?」
「ッォオオ!!」
ピキッ、っとモルテの剣がひび割れる。ほんの僅かな物だがこれでモルテは剣のスペックでは負けていることが分かったはずだ。しかし一度発動したソードスキルは中断すればスタンが入る、モルテはもう後ろには下がれない。
気合と共に剣を押し出しそのままアニールブレードを真っ二つにしようとするが、運がモルテの味方をした。足場が悪かったのか力を加えた瞬間ズルッと滑り俺とモルテの初撃は空振りに終わった。河原という状況では未だに戦った事が無かったな・・・・反省しなくては、生き残れたら。
「ショウッ!」
「ハァァァ!」
そのまま戦えば不利と悟ってるはずだがモルテは下がることなく攻撃してくる、ニヤニヤした笑いは消えており明確な殺意を迸らせていることが分かる、やはり半減決着の狙いは俺を殺す事。命令されたのか、自分の判断かは分からない、だがこの状況は裏を返せば、
「
「あらあらぁ!?殺る気MAXみたいじゃあないですか!」
モルテの突きと斬りの中間的な攻撃をステップとパリィで捌きながら俺は言う、最短距離を駆けて心臓などを狙うその技量は確かな物ではあるがいささか太刀筋が正直すぎる。クロスカウンターのように俺も刺突を放つ、刀身同士が擦れて火花を散らし、剣と剣の鍔に引っ掛かり一瞬の硬直が生まれた、
「ハァッ!」
身を屈めて下から突き出すように肘打ちをモルテの鳩尾に向けて放つ、
「チィイ!」
しかし、やはり戦い慣れているのか空いてる左腕でガードする、かなりいい衝撃が伝わってきたので暫くは痺れてまともに使えないだろう。
「シャアアッ!」
「ッ!?」
苛立つように剣を振り払い、逆手に持ち替えてそのまま前傾姿勢で斬り込んでくる。咄嗟に刀身に手を当てて反らしたがそんな真似も出来るのか、コイツ!
斬り込んで二、三度斬りはらったら自然に持ち替えてまた刺突の嵐、だがな、もう見飽きてるんだよ。
「ッガ!??」
「ぶっ飛べ!」
刺突を出した右手の外側に回るように回避、そして同じく右手で掴み剣の柄頭で鼻の辺りにカウンター気味に殴る。モルテのHPバーが一割強減った。勢いに逆らわずそのまま後転し、水飛沫をこちらに飛ばして来る、そんな古典的な目つぶしは効かん、武蔵さんの教育は伊達ではない。
距離を取ったモルテが次に出た行動は、メニューウインドウを出す事だった。
「ゥ・・・オオォオオッ!!!」
溜める様に叫び突貫する、いくらメニューの操作が長けていようとも十メートルも離れていないこの距離で武器を替えることなど出来ない、この間に二、三撃は叩き込める!
右側の腰に剣を構え、前傾姿勢でモルテに迫る。
「フェイント、だろ?」
「なっ・・・!」
恐らく使ったスキルは《クイックチェンジ》、そして出したものは剣ではなく、ラウンドシールドだった。タイミングに合わせて俺の剣を弾くつもりだったのだろうが水平に素早く振った俺の左手は、空っぽだ。絶対に引っ掛かる自信があったのだろう、モルテは分かり易く動揺している。
「生憎両利きでなッ!!」
右手に握った剣を地面すれすれから腰を捻り、上体を反らし、足を今度は滑らない様にしっかり踏みつけ斜め下から《スラント》でラウンドシールドの縁を叩く、剣に比べると鈍い、しかし馬鹿でかい音と共にシールドはすっ飛んでいった。
そしてモルテの上体も勢いで泳いでいる、
「歯ァ食いしばれぇ!!!」
「ッ!!!」
反らした上体の左脇に痛くなるほど強く折りたたんでる腕を、拳を、体を戻す勢いに乗せてモルテの顔面に放つ!赤く尾を引く拳はまるで流星の如くモルテの顔面に突き刺さった。
「ウォラアアァ!!」
「ゴッ・・・ブ!!」
真っすぐ、しかし肩は必要以上出さずに《閃打》の勢いをモルテに押し付ける。残りHPは七割弱、これなら《ホリゾンタル・スクエア》からすかさず体術スキルに繋げば、俺は、モルテを、
「おいおい、ショータイムにはまだ早ぇだろう?」
蠱惑的な、男の声だった。聞き覚えは無い、しかし理性と本能が誰か一瞬で悟らせた。
振り返る途中の視界の端に捉えたのはシンプルな造りの短剣、
「うおおぉ!?」
ほぼ反射的にバック転で《弦月》を発動、目元に迫っていた短剣だけを蹴り上げる。まさかコイツが出てくるのか・・・!
「お前は・・・!」
「ヨォ、梟さん。人殺しは良くないぜぇ?英雄の名が泣いちまう」
黒ポンチョの男、どこかリズミカルな喋り方でこちらに語りかけてくる。
「そっちのコイフのプレイヤーさん?今のうちに逃げちまいな」
「・・・・いやぁ、
言い切る前に《クイックチェンジ》でシールドを戻し、夜の森に消えてくモルテ・・・・ここで仕留めたかったが、目の前のこいつの事を考えればあんな奴は小物である。
「白々しい・・・お前らどうせグルだろ?ネズハに強化詐欺を教えた黒ポンチョの男よ?」
「何のこと言ってんのかわかんねぇけどさ、まぁ強化詐欺はその通りだぜ?梟よ、しかし黒ポンチョの男か・・・いいねぇ、殺人鬼には通り名は必須だよなぁ・・・」
恍惚といった感じでソイツは呟く・・・・立ち振る舞いだけで分かる、
「何の為に出てきたのか知らないし、知るつもりもないが・・・お前は危険だ、俺の独断と偏見で悪いが死んでもらう」
「おおっと!?平和ボケした国で生まれ育ったにしてはいいSENSE持ってんじゃあねぇか?いいねぇいいねぇ・・・!ますます惜しいぜお前さんよぉ・・・!」
気色悪い・・・・コイツ、一体何の為に出てきたんだ?仲間は死なせない、とかいうキャラでも無いだろうに・・・・
「何の為に出てきたか分かんねぇ、って面だな。簡単なことだよ、
「・・・・何でお前なんぞに兄弟呼ばわりされないといけないんだ」
「同類だからさ、同じ人殺しだろう?仲良くしようや」
「・・・・俺が同類ね、確かに人殺しであることは否定しないが・・・俺はお前らと違って快楽目的じゃ無いんでね」
確かに俺はコペルを殺した、人殺しだ。それはもうどう言い訳のしようもない事実だ。だからと言ってコイツの仲間になるなんて論外だが、
「・・・オイオイ、オイオイオイオイ?お前まさか自覚無いのか?」
「・・・?何のことだ?」
心底不思議そうに黒ポンチョの男は聞いて来た、自覚がない?本当に何のことだ?それとも得意の話術で引き込もうとしてるのか・・・・
「お前さんは倫理、道徳、秩序を弁えろみたいなことを言ってたがよ、人を殺すと決めたらそこから悩んだり、魘されたりすることは無かったんじゃあないか?ん?」
「・・・・だとしたら何だ?」
「職業柄分かっちまうんだよなぁ・・・・そういう理屈抜きで合理的に命を天秤に乗せ、摘むことが出来る奴。お前さんは秩序がなんだと叫んじゃいるが善人じゃあない、むしろ程遠いと思うぜ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
コイツ・・・・良い目してやがる、人の悩んでることピンポイントで打ち抜きやがった。
「いや、良いんじゃねえか?気にすんなよ、悪いのは茅場晶彦だろ?ここはゲームの世界だぜ、現実じゃ許されないが人殺しはここでは一つのspiceさ。一緒に来いよ、歓迎するぜぇ、兄弟・・・!」
「・・・・・・・」
俺は、確かに自分が善人というには我執が強すぎると常々から思っていたがまさかコイツにそれを指摘されるか。・・・・いいのかもしれない、それでも。俺が何もかも背負う必要は無い、ここで楽な道を選んだって、
「確かに、俺だって人と全力で戦う事に何の高揚もない訳じゃない・・・・お前に付いて行けばもっと充実した闘争があるのかもな・・・」
「あぁ!約束するぜぇ、兄弟。退屈はさせねぇ一緒に________」
「だが断る」
でもそもそもの話、俺の目的は俺自身の正否ではないのだ。地獄に堕ちたって構わない、陳腐だが守りたいものがある、始まりは違ったかもしれないが今はそうなのだから仕方ない。誰かのためにという考え方は、誰かのせいという考えにすり替わりやすい、しかし、それでも、
「間違いだらけでもいい、多くは望まない、ただ一つの願いの為に・・・・」
「その為には・・・・同族でも死んでもらうぞ」
「へぇ・・・俺には分からんね、その感情」
理解は求めていない、元よりお前に限らず人と分かり合えるとは思っちゃいないしな、
「お前はただ死んでくれればいい」
「お前じゃねぇ、POHってんだ。よろしくな、兄弟・・・・次があればだが」
短剣を抜く、俺も剣を構える。索敵に引っ掛からなかったところを見るに間違いなくモルテよりも強い、身のこなしも体術、というよりもっと実践よりの格闘術の心得があるようだ。短剣も日頃から使い慣れているのかクルクルと手の中で回している。
「楽しもうや!」
「嫌だね、死ね」
デュエル申告など行わない、これから始めようとしているのはただの殺し合い_______
「オウル!!」
が、突如、聞き覚えがある凛とした澄んだ声が聞こえた。
「シッ・・・・!」
名前を呼びそうになって、自分で口をふさぐ。こいつに名前を知られるのはまずい。そして気を取られた為に俺はPOHから目を離してしまった、
「ヒャッハァッ!!」
赤いライトエフェクトを纏った黒い短剣が俺の胸を抉った、斬られた個所から体全体に冷たく痺れるような感触が走る。これは____
「麻痺か・・・・!」
「yes、of course.ただ斬り合うだけが殺し合いじゃないぜ?卑怯何て言うなよ、むしろ搦手の一つも用意してない、お前の舐めプが悪いんだぜ?」
全くその通りだった、俺はここに至るまで何故毒の有用性が分からなかったのだろう。殺しを行う奴らと全員まともに斬り合うつもりだったのか?我ながら馬鹿すぎる!
いや自分の愚かさを呪うのは後だ、シノンは逃がさなくては、
「逃げろ・・・・!」
「嫌よ、あんたとは色々話さないといけないから、主に女の子の扱い方とか」
あっ・・・(察し)。
「オイオイ?兄弟?恋人をほったらかしで他の女とよろしくしてたのか?スゲェな、オイ」
「違ぇよ・・・馬鹿が・・・」
さっきまでの緊張感は何処にいった、何だこのいたたまれない空気は。返せ、俺の決死の覚悟。
「フーーーム・・・・このまま続行してもいいが、ショータイムには早いって言ったのは俺だしな・・・今日のところはずらかるぜ」
「いや・・・その前に解毒剤を寄こせ・・・」
「わりぃな兄弟、俺昼ドラとか結構好きなんだよ」
「今、夜ですけど!?」
この野郎見捨てる気満々だ!ヤバイよ、空気がコミカルな感じになると同時にシノンから殺気が膨れ上がってるよ!
「じゃあ、あばよ。次会う時まで死ぬなよ・・・・いやマジで」
待ってくださいお願いします何でもしますかr「オウル、ちょっとOHANASIしましょうか」・・・・詰んだ\(^o^)/オワタ。
後日談的な物。
あの後フィリア達とも合流しクエストは簡単に終わった、モルテと黒ポンチョの男、改めPOHには逃げられた。そして俺はと言うと____________
「なぁ・・・そろそろ降ろしてくんない?現実なら頭パーンだよ?」
「パーンするほど中身詰まってないから大丈夫でしょ」
フィリアとキズメルを除いた三人に木から逆さづりにされている、シノンさん中々毒舌ですね。
「死んじゃダメって言ったのに一人でPKとやり合うなんて・・・・援護の余地ないよ、オウル」
いや、あるだろ?このリンチから解放するように進言するとか、
「大丈夫、ここ一応圏内だから」
いや、心配してるとこはそこじゃないよ?アスナさん?
「大丈夫よ、一応フィリアが弁護人になってくれるから」
弁護しきれなかったらどうなるんですかねぇ・・・?あまりにもあんまりなこの状況、果たしてフィリアに打開できるのか。
「えっと・・・取り敢えず、オウルの罪状は何なの?」
「一人でPKと戦おうとして事」
とユウキ、まだ分かる、
「一人で動くことを仄めかして置きながら別の女と行動してたこと」
とシノン、その理由でPOHを退けたって考えるとすごく複雑なんですけど、
「二層のクエストで教えるべきことを教えてなかった事」
とアスナ、まだ体術スキルの事根に持ってたのね、いいじゃん別にそれ位の事。
「あのね、オウル君は少しは乙女心を理解しようとは思わないの!?」
「男に理解できるもんじゃないだろ、それ」
理解出来たら出来たでオネェになるじゃないかな?今の状況的に「ごるぱ!!」ってなるよね?それよりもフィリア、早く弁護してくれ、いくら仮想でも気持ち悪くなってきた。
「あ、うん。オウルが勝手に行動してたのは事実だけど、私達が居ても何かできたとは限らないし・・・その辺で勘弁してあげたら?」
「・・・そう、ね」
あの時俺がいざという時、人が殺せるか?という問いを思い出したのかしょげながらシノンは返事をする。この三人が周りの酷評を気にしないとしても実際に殺人を犯すとなると話は別だ。どうあがいても俺はこの方法しか選べない、ていうか女に殺人させる方がよっぽど罪悪感が凄まじい、
「それに一応オウルは私のコンビだし・・・」
「・・・・そうね」
シノンさん?声が低いですよ?怖いですよ?
「それに一緒に冒険して、夜も共に過ごした仲間だから手荒な真似はやめt「夜を?共に?」・・・あっ・・・」
今までの事をペラペラ話してると無意識にフィリアが爆弾を投下した、空気が凍てつく。おかしいな、誰だよヒャド系の呪文使ったの。そんな事を考えてるうちに三人がこちらをゆっくり振り向く、あの温厚なユウキも形容しがたい顔をしている・・・・
「オウル・・・?」
「ボク達が心配してた時・・・」
「何をしていたのかしら・・・・?」
「・・・・間違っているのは俺じゃない、間違っているのはこの世k_________」
責任転嫁の言い訳を言い切る前に、三人同時に体術スキルをこちらに発動した。わぁすごい、仮想空間でも強い衝撃を受けると気絶できるんだぁ。
遠目にこちらを、何とも言えない表情で見ているキズメルを最期に、俺は意識を手放した。
主人公、死亡(嘘)。
最後の展開は天啓のように閃いた、最近シリアス(と言える程でも無いけど)が続いてたのでやってしまった。
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第十五話 偶には のんびりゆらゆらと
オウル「ごるぱする人より、ごるぱされる人に・・・・」
シノン「1000引く7は?」
飛ばすか迷いましたがせっかくなので書きました。
「ボス戦、あっけなかったね」
「毎回毎回死に掛けてたまるか」
三層のボスは
「LAボーナスまたオウル君が掻っ攫ったね・・・」
「いつもなの?オウル?」
「二層での中ボス以外はコンプしてるわよ、コイツ」
「うん、何かもう、自重しないことにした」
今のパーティーはシノン達とフィリアも加わった、結局ボス戦の時もフィリアは参加し、周りからは凄い目で見られた。エギルさんしみじみと「英雄色を好む、か・・・」とか言わないで下さい。前回リンチされた時もシノン達は俺がフィリアと(意味深)な事をしたと勘違いしたらしいが俺まだ13歳だからな?ありえねーから。
「だって・・・あんな言い方されたら誰だって・・・」
「アスナさんの脳内が常時桃色なだけじゃ・・・あぁ嘘ごめん止めて剣向けないで」
ギラリと輝くそれはウインドフルーレではなく、俺を三人でボコした後、フィリアとパーティーを組んで勝手にクエストを進めてエルフの野営地で新たに造ってもらった細剣《シバルリック・レイピア》だ。ユウキとシノンも新調したらしいがまだどんなものかは聞いてない。
「すぐに暴力に訴える癖何とかしたら?」
「勝手に行動し続ける貴方の方が
せやろか?階段を上りながら考えるが、そもそも何でアスナは付いて来るんだろう?シノンとユウキはまだリアルで繋がりがあったからわかる、フィリアも誰よりも早くダンジョンに潜りたいからと言っていた。アスナは何でついてきてるのだろう。
「何?付いてきちゃ悪い?」
「いや?途中下車するタイミングを見失ってるわけじゃないならいいさ」
「・・・・効率悪いのは嫌なだけ、貴方に付いてった方が攻略簡単そうだし」
アスナって効率厨なのか?そっぽ向きながらそう言ってるが、
「ところで聞きたい事があったんだけど、オウル?」
「ん?どうした」
「何でエルフの野営地ではここまで強い武器が出来たの?私あんまり詳しくないけど、これじゃゲームのバランス崩れるんじゃないの?」
「あっ、それボクも思った」
「あー・・・キズメルが言うにはあの職人は偶に凄い業物を造るらしい、でも普段は鈍らしか打たないんだとか。」
「じゃあ、これは偶然の産物?」
「どうかな?SAOには様々な隠しパラメーターがある、それこそナーヴギアのスペックがあれば感情も測ったりできるだろう。キズメルはこうも言ってた、不心得な注文は適当に済ます、と・・・・もしかしたら俺たちの心情によって確率が変わったのかも・・・」
シノンとユウキの疑問に俺は答えるが俺自身もまだ分からない、この電子の世界でシステムに許されたスペックとは別に本人の能力はどこまで通用するのか。それは感情などと言った物も含まれるのか?これが解明できれば色々役に立ちそうだが・・・
「みんなー!こっち来てー!この階層凄いよー!」
先に行ってたフィリアから声が掛かる、四層は確か----------
「わぁ~~!これって海!?」
「いや、多分湖じゃないかな。にしてもベータの時は埃っぽい渓谷だったんだがな・・・」
「・・・これってもしかして主街区まで泳がないといけないの?」
「どうだろう?SAOの泳ぎは慣れてても危険だしなぁ・・・」
アスナの疑問に答える、俺たちの目の前に広がるのは渓谷などではなく、青い水面。地形そのものは変わってない様なのでここから二百弱は泳がないと主街区にたどり着けない。
「ねぇオウル?SAOでは服着たまま泳ぐとどうなるの?」
「皮装備なら水吸って重くなる、ここでの着衣泳はかなり危険だな、《水泳》スキルでもあれば別だが・・・」
装備を脱がなくてはならない事になると悩んでるのだろう、シノンだけじゃなく全員・・・・いや、ユウキだけ喜々としている、てかもう脱いでた。スク水の様なインナーになっている。
「って、オイ!早いだろいくら何でも!!」
「え~?でも着衣泳は危ないいんでしょ?なら脱がないと」
そうだけども、そうなんだけども何でそう恥じらいが無いんだよ、お前は。武蔵さんが直葉と一緒に海水浴に連れていってくれたことがあるので慣れてはいるが、それでも他のプレイヤーが来ないか気が気でない。俺はロリコンじゃないよ?
「大体こういうのは何か救済措置があるはずなんだけどな・・・」
「でも折角だしボク、インナーで泳ぐよ」
「・・・・脱がないとだめなの?」
「身動き取れない間にmobが襲ってこない保証はないしね・・・」
アスナは未だに百面相してるがシノンとフィリアは覚悟を決めつつあるようだ、気まずいなぁ、このパーティーで水泳って。エギルさんとかなら笑いながら競泳とかしたんだろうなぁ・・・・。そんな現実逃避しながら周りを見渡すとなだらかな丘の上にでかい広葉樹らしきものを発見。
「ちょっと待て、あの木・・・もしかして」
「えっ?ちょっ、泳がないのーー!?」
準備体操してるユウキをほっといて木に向かって走り出す、よく見ると色とりどりの実がなっている。形状はまんまドーナッツだ、それを確認した瞬間《閃打》。
ドシン!、と重い音がした一瞬後、木の実がぼとぼと落ちてくる。念のため予備に何個か取っておくか、
「わぁ!これって食べれるの?それとも高いの?」
「金勘定すんなよ、これがキーアイテムなんだから」
「これが?どう使うのよ?」
水色の木の実を見ながらシノンとフィリアが疑問符を浮かべるが話すより実践した方が早い、ヘタの部分を咥えて一気に息を吹き込む・・・・駄洒落じゃないよ?そんな馬鹿な言い訳をしてると風船のように膨らみ、ある程度大きくなるとボン!、と形が整い真の姿を見せる。
「・・・あ、これってもしかして」
「浮輪?・・・でもどちらにせよ泳ぐのね」
まぁ、そうなるわな。取り敢えず俺はサーフパンツに見えなくもないトランクスを履いてるので上と下を脱いで泳いでも違和感は無いだろう。
「俺が先行するからお前らは脱がなくてもいいんじゃないか?」
気を使った、というよりも俺に気を使って欲しい状況だが、一応聞いてみる。いや、女性の水着姿に興味が無い訳じゃないんだけど今のパーティーが何処まで続くのか分からない以上蟠りは作るべきではない、我ながら誰に対する言い訳なんだと思ったが誰だってそうなる、俺だってそうなる。
「・・・いや、いいわよ。これから先も似たようなことが無いとは限ないし」
「そうだね・・・オウル?じろじろ見ないでね」
いや無理せんでもええんやで?
なぜか関西弁になりながら止めるがそのままメニューウインドウを弄ってある程度装備が解除され薄着になる、元々そこまで重装備じゃないので変化は薄いがもしチュニックの様な装備とスポブラみたいな装備が水に濡れて透けたらどうしよう・・・・・・・・もうそんなこと考えてもしかたないか、視界の端ではアスナもフード付きケープを外してるようだ。俺もメニューウインドウを開き装備を解除、これで見た目は海パン姿の少年だ、今は真冬だが。
「丸腰は怖いからピックと投げナイフを装備できるベルトはつけとくか」
「ねぇまだー?もうボク準備体操終わったよー?」
元気だなぁお前は!こっちは周りが水着の美少女だらけで落ち着かないってのに・・・・だがしかし、スク水のユウキ、スポブラのシノン、チュニック姿のフィリアとアスナ、凄い光景だった。何かもうこれを見れただけで青春を満喫したような感じがする、ここが全て尊き理想郷か・・・・
「・・・・間違っちゃいなかったんだ、俺は」
「急に何言ってんの?」
今俺はSAOに来て本気でよかったと思ってるんだよ、しかし・・・・・・アレだな、ナニがとは言わないが「アスナ=フィリア>シノン>ユウキ」って感じだな。大丈夫だシノンとユウキ、まだ成長の余地はあるぞ、多分。
「・・・・何だろう、急にオウルに殺意が湧いて来た」
「奇遇ね、私もよ」
「さぁ!行こう!他のプレイヤーが来る前に!(超早口)」
ペロッ、これは・・・
この後滅茶苦茶泳いだ。
「で?今からどうするの?」
「俺が知ってるクエストは全部三人任せだから、俺たちはベータの時との変更点を探そう」
私達は四層の主街区《ロービア》に着いた、道中で見掛け倒しのmobが現れたがオウルの投剣と裸締めで簡単に終わった。オタマジャクシみたいなmobだったが裸締めが効くのか・・・・
「俺も必死だったからな・・・水中戦はあんまり経験が無い」
「全くじゃないの?ベータの時とここは全く違うんでしょ?」
ベータの時は四層は渓谷と聞いていたが今のここは水の都、イタリアのヴェネツィアのようだ、実際に行ったことがあるわけではないが。先程生まれて初めてゴンドラに乗った、ユウキは言わずもがなフィリアも興奮し、あのアスナもはしゃいでいた。
「一層の時に亜人型のmobを湖に中に引きずり込んだりしてな」
「・・・・あんたは河童か何か?」
泳ぎもやたらと上手かったし、あと体もアスリートのように鍛え上げられていた。ナーヴギアのキャリブレーションとかいう調整のお陰で体も正確に再現されてる、ということはあの筋肉は自前か・・・・オウルは一体何歳なのだろう?リアルの詮索はご法度だが考えてしまう。多分年上だろうが、
「どうせならゴンドラに乗ったまま昼寝したかったが・・・・まぁ、そうもいかない。少しでも情報を集めないと移動が全部浮輪だよりになってしまう」
「・・・・それは流石に・・・」
パーティーメンバーが同世代位の女子で、オウルも誠実、というか女子の扱いに慣れてないのかそこまであからさまにセクハラをしたりしないので下着で泳いだが他のプレイヤーは別だろう。
「あの浮輪の実のように何らかの移動手段を手に入れるイベントとかあるはずだ」
「パーティーを分けたのはそのため?」
「まぁな、あいつらが見つけてくれればそれはそれで良し」
そう、《ロービア》に着いた瞬間オウルはまた別行動を提案した。コイツ懲りてないな?と私とユウキとアスナで締め上げようとしたがどういうやらそういうわけではなく、五人で固まるのは効率が良くないと言い三人と二人に分かれて情報を集めたりしないかとのことだった。
効率を持ち出されては一概には否定できず、アスナも渋々ながら従いくじ引きの結果、私とオウルが情報収集、ユウキ達がクエストを進めて経験値を集めることになった。
「もう一人になるのは諦めなさいな」
「・・・別に一人で行動するのは_____」
「私達の為?押しつけがましいわよ、頼んじゃいないし望んでもいないわ。何も出来ないかもしれない、でも勝手に人殺しのダシにしないでくれる?」
「・・・・・」
「・・・・あんたが何考えてるかはわからないけど、少しは人を頼りなさいな」
オウルの強迫観念は一体何処から来ているのだろう?
POHとか言うPKと相対した時も見間違いでなければ殺そうとしていた、あの時の言葉は私達を遠ざける方便では無かった、だがだからこそ分からない。
何故そこまで危険視しているのか、確かにナーザの強化詐欺の件は無視できることではないがそれも黒鉄宮の牢獄に叩き込めば済む話だ。
「・・・・あなたは、何が見えてるの・・・?」
自分の前を歩く梟はきっと、何も答えない。
「多分ここ、だと思うんだが・・・」
そう言ってオウルが連れてきたのは北西の船着き場のずっと端にある、少しでかい民家だった。
「ここが?何の変哲もない民家じゃない」
「でも、アルゴから買った情報ではベータの時はここにはクエストは無かった」
「アルゴさん?いつ会ったのよ?」
「昼飯食ってる時、後ろから迫って来てたからアイアンクローで止めてコルと情報交換してすぐに追い払った」
「・・・・あなたアルゴさん嫌いなの?」
勘のいい女は苦手なだけだよ、とオウル。その言い方は色々勘違いされそうだが、ただでさえコイツは攻略組の中でも色んな意味で目立っているというのに、
「・・・それについては何も言うな、早くクエストを進めよう」
「そうね、やっぱり造船とかかしら?」
他の層に持っていけるなら便利なのだが、上の階層に行けばちゃんとした水着とかもあるのだろうが実際に着るかどうかとはまた別問題だ。
「無理かもな、ここが最前線の時しか需要が無いし」
「ふーん、そういうものなのね」
言いながら民家に入る、RPGではよくあることなのだろうが勝手に民家に入るってどう考えても不法侵入で訴えられると思うのだが。
そんな事を考えてるとオウルがクエストを進め始めた、何でも街の水運ギルドが船材を独占したため船づくりを辞めたそうだ。まさかギルドを壊滅させなくてはならないのかと思ったが、何でも街の南東の森の熊や木などを倒して素材を集めればいいらしい。私、オウル、フィリア、アスナ、ユウキ、五人乗りとなるとかなりの素材が要るだろうが・・・まぁスキルの熟練度を上げるには丁度いいかもしれない。
「・・・・ユウキ達は今クエストを進めてるらしい、素材集めは俺達だけでやろう」
メールを見ながら提案する、折角なのだからいい船を造りたいのだが時間が掛かり過ぎるだろうか?
「いや、多分フィールドボスとかも水上に合わせられてるだろうから、妥協はしたくないな」
「じゃあいい船造りましょうか!」
「・・・珍しく乗り気だな、楽しいか?シノン?」
少なくとも皆で船に乗るのは楽しかった、オウルも言っていたように偶にはのんびりと船にでも乗って過ごしたいものだ。
「そうか、なら『ヌシ』を狙うか」
ヌシ?今更熊に手こずるとは思わないが、熊ならそんな特殊な攻撃もしないだろうし。
「・・・・あれ・・・熊?」
「熊ってか・・・KUMAとでも言うべきか」
隠れている茂みの視線の先に居るそれは立ち上がったところ目測八~九メートル、手足は太くも意外と長い、真っ赤な目に、黒光りする角・・・・そう、角だ。
「今まで倒した熊と全然違うじゃない・・・・」
ここに来るまで、足元の小さな泉に足を取られながらも熊を倒してきたが大きさは半分以下、そして角は生えていなかった。ていうか熊は角生えてないでしょ?
「まぁ、ヌシって言われるくらいだし・・・俺も見たのは初めてだ、史上最大の熊、ショートフェイスベアよりデカいな。逃げる時は煙幕を忘れんな、熊は見た目よりずっと速く動ける」
「らしいわね、でも下り坂とかは前足が短いから苦手らしいわよ・・・・熊って天敵とかいないの?」
「強いて言うなら同じ熊、縄張り争いとかメスの取り合いで殺し合う。オスは子連れのメスを見つけたら子どもを殺して交尾しようとするらしいし」
「・・・・・」
自分の遺伝子を残すためか・・・・それにしても女子に対して交尾とか、もう少し気を使って欲しい。だがそれだと弱点はないということになる、ヌシなら同種の雄も関係ないだろうし、見た感じアレは完全にフィールドボスクラスのmobだ。
「ハチミツとかあったら気を引けたかもな」
それで気を引けるのは子供に人気のあの黄色の熊だけだろう、
「いや、熊は実際甘いものが好物らしい」
「・・・・・・私達の前に居るのは肉の方がお好みのようだけど?」
えっ?、とオウルが前を向いた時にはもう熊が、いやKUMAがこちらを見ていた。
「・・・・・・」
「・・・あっ、どもーーー・・・」
まるで漫才師のように気軽に挨拶する、何してんだコイツ。
「GYUGOROOOOOOOO!!!」
「意思疎通は無理っぽいなー」
「出来るわけないでしょうが!!」
言いながら左右に跳んで丸太の様な腕の振り降ろしを躱す、直後、落雷が落ちたような音が昼の森に響いた。まともに喰らったらただでさえ軽装の私達では致命傷は免れないだろう。
「哺乳類の声とは思えないな!!」
「それよりどう戦えばいいと思う!?」
「正面には立つな!弱点は多分鼻だが無理には狙うな!」
「狙えないわよ!」
余りにも身長差がある、突進系のソードスキルを使っても途中で叩き落とされそうだ。そうしてる間にもKUMAはブンブン腕を振り回す、木にひっかると思ったが大木と言って差し支えないソレを小枝のようにへし折る。
「リーチに差があり過ぎて攻撃に出れないんだけど!」
「慌てんな!必ずどっかで途切れる!!」
言うや否や、KUMAは勢いを殺しきれず振った腕の勢いのまま仰向けにゴロン、と転がった。その衝撃で少し足元がふらついたがこれなら攻勢に出れる。
「ハァァアッ!!」
「シッ!!」
私は鼻にソードスキルを、オウルは目にソードスキルを放つ。いくらデカくとも生き物である以上ここは最低限ダメージが入るはず、斬りつけると同時に、ザシュッ!という肉を切り裂くような音が出る。手ごたえあり。
「GUGYAUU!!」
その予想は外れずKUMAは低く唸る、だがその後の行動は全く予想できなかった。
「GOOOOOOOO・・・・・・!」
「・・・・何してるのかしら?」
「・・・・え、いや、うせやろ?」
いや、何故に関西弁?実際に関西弁かどうかは知らないがそんなイントネーションでオウルが反応する、KUMAはこちらを見ながら息を大きく吸い込んでる、喉の奥は血のように紅く輝いている・・・・輝いている?
「シノン!すまん!!」
「えっ?ちょっと!?」
オウルが腹から抱える様に肩に乗せ、そのまま近くに会った比較的デカい泉に入る。中は冷たかったが突如、上が紅くなり徐々に水温が上がる。如何やらあのKUMAが炎を吐いたらしい、いやだから熊はそんな真似できないでしょ!?
そのままずっと続くかと思われたがお風呂と同じ位の温度でブレスは止まった。
「・・・・茅場は何を考えてあんなのデザインしたの・・・」
「まずどんな仕組みで火吹いてんのかな・・・てかメタいぞ、シノン」
体から水滴を滴らせながら、短剣を構える、頼むからこれ以上は熊を逸脱した行動はしないで欲しい。
「あんなに強かったのにLAボーナスは無しか・・・」
「強かね、あんた」
「多分レアモンスターってだけでボス扱いでは無いんだろうな、途中で同じの出てきたし」
つまり出てくる確率が低いだけで、フィールドボスでは無いので新しい『ヌシ』がPOPした・・・・と言うわけか、素材は集まったが冷や汗を掻いた。
「・・・正直、二層での牛よりきつかったわ・・・」
対処法が分かったとはいえ、一人で新手のKUMAに飛び掛かるオウル。梟ってそんなに闘争本能剥き出しだったっけ?
「繁殖期に近づいた人が襲われたとか聞いたことがあるが・・・まぁどうでもいいな、行こう、もう二時過ぎだ」
「そうね・・・三人もクエスト一通り終えたでしょうし」
ストレージにいっぱいに集まった、KUMAの素材と銘木は今日中に船になるだろう。
「火が出る船とか作ってくれないかなぁー」
「ゴンドラじゃなくなるから却下」
そんな船絶対リラックス出来ない.
暫くは主人公の視点以外から書いてみる事にします、全部とはいきませんが。
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第十六話 意味が無ければ 動けない
シノン「言うほどのんびりできてない件について」
オウル「人の夢と書いて儚い」
分かってたはずなのに結構察しのいい人達が居て感想欄を見てビビった。
感想ありがとうございます、本当に励みになります。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
もうそろそろ何番煎じだよって突っ込まれそうだなぁ、ガレージのベンチに腰掛けて夕食のカニグラタンを食いながらLV19になった白髪片手剣士、俺ことオウルは思った。ちなみに隣でシノンはボンゴレパスタらしきものを食べている、猫っぽいのに貝食ってるのは少し複雑だ・・・・。
今から少し前に、シノンと熊ならぬKUMAを相手して見事最上級の素材を集めてロモロと言う船を造ってくれる爺さんの元に持って来たのだが・・・・・・
「アドベンチャー・ギャリー号!!」
とフィリア、確かキャプテンキッドの船の名前だ。
「ティルネル号!!」
とアスナ、確かキズメルの亡くなった妹の名前だ。ていうかアスナ同性とは仲良くなるの早くね?俺の事は未だに警戒してるのに。
「ゴーイングメリー号!!」
とユウキ、元ネタ?言うまでも無い。でもその名は最終的に別れることになるよね?あのシーンは未だに忘れられない・・・・
「・・・・何で涙目になってんの?」
「気にするな・・・それよりシノンはなんか無いのか、船名?」
「無い訳じゃないけど、争う位ならいいわ」
まぁ、争いって言っても他愛のない物だがこのままずっと続くのだろうか。メンドクサイな、夕食もう一品買ってこようかな?俺もボンゴレパスタ食いたい。
「「「オウル(君)はどれがいいと思う!?」」」」
何でそこだけ息ピッタリなんだよ、今まで仲良かったのに何で船名だけでそこまで白熱すんだよ。口いっぱいにグラタンを含めながら辟易する、シノンは我関せずといった態度だ。この中で一番大人びている、アスナが最年長のはずだが。
「何でもいいよ、よっぽど変じゃ無ければ」
「何でもってなに!?」
ヒステリックみたいな叫び方しないでくれ、最初期のアスナってここまで性格きつかったっけ?キリトの様に仲良くできる気がしない。
「ありったけの
してねぇよ、それは未来の海賊王にでも頼めよフィリア、ひとつなぎの大秘宝でも何でも手に入れて来いよ。でも悪魔の実だけくれ、ロギア系な。
「しっかりしてよオウル!大海原に漕ぎ出すんだからいい名前考えようよ!!」
いや、お前らがしっかりしろ、特にフィリアとユウキ。ワンピネタ好きだな、あとここは海じゃなくて湖だからな?
「えー?じゃあ、エスポワール号」
咄嗟に出たのはギャンブルで破滅した奴が乗りそうな船の名、別に誰もギャンブルしてないけど。
「果てしなく不吉ですけど!?」
「エスポワールって、フランス語で希望って意味よね?悪くはないと思うけど・・・・」
「ざわざわ・・・ざわざわ・・・」
フィリアはネタを知っていたためツッコんでくれたがどうやらアスナは知らないようだ。この船名にしたら面白いかもしれない.
あとユウキ、キャラ崩壊も甚だしいぞ?ていうか何処で知った?お前そういうネタあんま詳しくなかったよな?
「アルゴさんから」
「アイツとはちょっと色々話さないと駄目そうだな・・・」
まさかのアルゴ、いやまさかと言うほど意外でも無かったな。
閑話休題(まぁそれはそれとして)、結局船名どうしよう?三人はまとまりないし、俺はまるで考えて無かったし・・・・やっぱエスポワール号は無いわ。なので、
「シノン!君に決めた!」
「あんたの顔面に『きあいパンチ』叩き込めばいいの?」
なつき度ゼロどころかマイナス。
なかなかキレがある返しだな、だがそうではない。その構えを解くんだ、そんな事の為に護身術を教えたのではない。
「そうじゃなくってさ、船名だよ。三人は決められないからシノンの名前を採用する、俺に決定権があるならだが」
「・・・そうね、昔読んだ本にノーチラスとかあったけどアレ確か最後は沈んだ気がするし・・・ティルネルでいいんじゃない?」
それ確かフランスの小説だぞ?子供の頃からそんなの読んでたのか?博識だなシノン、でもノーチラスは潜水艦だ。沈んだというのも持ち主の遺言で棺桶代わりに一緒に沈められたというのが正しい、まぁそれは置いといて。
「じゃあ、ティルネルで」
無難に原作通りにしておくか、実を言うとゴーイングメリー号は捨てがたかったが。
「えー?サウザンドサニー号がいい」
「変わってるじゃねぇか」
でもワンピからは離れないのか、言いながら船のネーム欄に『tilnel』と打ち込む。多分これで間違って無いだろう。
「よし!乗り込め、これから早速新しいクエストに行くぞ!」
「何のクエスト?」
ロモロ爺さんが言うには船が造れなくなったのは何かわけがあるらしく、詳しい理由は教えてくれなかったが何でも木箱を乗せた大型船をスニーキングしろとのことなのでこれからその大型船を待ち伏せするため一度街の外に出る。
「だからまだクエスト終了のウインドウが出なかったのね」
「オウルは何か知らないの?」
アスナが納得したといった感じで頷き、シノンが聞いてくるが残念ながら俺も知らない。このクエスト自体ベータの時は無かったのだから、そして細かいところは俺の原作知識は当てにならなくなりつつある。
フィリアに出会ってからはあまり当てにしない様にしているが、モルテとの戦いでPOHが乱入してきたし。
「POHか・・・そいつ今どうしてるのかな?」
「さぁな、俺を攻撃したからオレンジになったが・・・ナーザの件があるから元々《圏内》には立ち寄ってないはずだ」
残念ながら抑止としては弱い、モルテとジョーとかいうプレイヤーが手足となって動くだろうから今のアイツにはほぼ枷なんてないに等しい。
しかしどうやってあんな奴らを手なずけたのだろう?洗脳とかできるはずがないしアイツの話術はそこまで巧みなのだろうか。
「ディアベルさんには言ったの?」
「言ってない、多分ギルメンの中にもスパイがいる・・・アスナも気を付けろよ」
あえてジョーとは言わない。先入観は出来るだけ与えたくないし、ジョーだけとは限らないからだ。キバオウは多分大丈夫だろうが.。
「なんでキバオウは大丈夫なの?」
「俺がPOHならあんな悪目立ちする奴は仲間にしたくない」
「あー・・・確かに」
苦笑しながらフィリアが賛同する。
あのギルドの中でも年長だからか酸いも甘いも噛み分ける大人の一面を感じさせるところもあったのでPOHの甘言にそう簡単に乗りはしないだろう。出来る事ならそのまま英雄王まで超進化して欲しいが、今のままでは下ネタ好きの音楽家以下だろう。ワイのケツを舐めろ!とか言い出さないだろうな、そんな言い出せば多分コイツらは暗殺しにかかる。
そんな事を考えながら待っていると目当ての大型船が《ロービア》から出ていくのが見えた。
「アレだな・・・」
「これさ、バレたらどうなるの?」
「あのお爺さんの言ってた感じだと戦闘でしょうね」
「オウル、絶対見つからないでね」
シノンがフィリアの疑問を答えてユウキが念を押してくる。まぁ多分大丈夫だろう、もう夜の八時だが暗視ボーナスと船の大きさから尾行は然程難しくない。問題はmobとの戦いだ。
「俺は船の操縦で手が離せないから戦闘はお前たち任せだ、頼むぞ」
「任せて、そっちこそ船を転覆させないでよ」
そう言うがアスナさんよ、これ結構難しいからな?ていうか俺任せなのね。今更ながら貧乏くじを引かされた。最初のほうは新鮮味があって楽しかったが今ではもう単調な作業に飽きてきている。明日は誰か変わってくれないだろうか、日差しを浴びながら昼寝したい。
「・・・・明日は私が変わってあげるよ」
「すまんなフィリア、主街区に戻ったらパニーニっぽいの奢るから」
「九個でいい」
「お前じゃねぇよユウキ」
お前いつの間にそこまでアルゴに教え込まれたんだ?いや、それよりお前いいの?そんなネタキャラ路線で?悲惨だよ最近のネタキャラに走ったヒロインの末路は。某何でも屋のチャイナ娘を知らんのか、実写でもゲロッてたよ?頼むからお前はああなるなよ?
「バカやってないで集中しなさい」
「「へーい」」
完全におかんポジションに嵌ったシノンに窘められ擦れた悪ガキのような返事をする、ユウキが頭上がらないわけだ。シノンから逆らえない空気を肌で感じながら船を操る。
「こちらオウル、大佐、聞こえるか?潜入に成功した」
「何やってんのよ」
あの後船を進め続けたら洞窟に入ったので《索敵》と《隠蔽》を持っている奴と俺のペアでスニーキングすることになった。
アスナは持っていないので除外、ユウキは隠蔽が無いので除外、残るところシノンとフィリアになったが十数回に及ぶジャンケンのあいこの末シノンが勝った。
そんなにしたかったのかスニーキング、将来が不安である。主にお前らに好意を向けられた男が。SAOのヒロインって妙にヤンデレがマッチすると思うのは俺だけではないはず。
「あんたが馬鹿やらかさないか不安だっただけよ(なんか失礼な事考えてるわね・・・)」
「失敬な、やる時はやるさ」
「今さっきふざけてた奴がそれを言うの?」
水浸しの体を拭きながらジト目でコチラを睨む。船は表の三人に任せてきたので泳いできた、幸い大型の船だったのですぐ近くを張り付いてもバレることはなかった。本来ならば水も滴るいい女に見とれるところかも知れないがここは敵の本拠地(かも知れない場所)そんな愚を犯せば武蔵さんが化けて出て来て殺しに来る。
「行くぞ、投剣に意識攪乱のボーナスがあるから俺が先行する。後をすぐに着いて来い」
「わかった」
短く返事をし、周囲と武器の確認をする冷静さはこちらも落ち着ける頼もしさがある。
こういった斥候役に一番適正があるのかもしれない、四人の中で一番強いのは恐らくユウキだろうがシノンも何か感じさせる強さがある。今はそれを上手く形容できないがいつか開花する所を見てみたいものだ。
そんな事を考えながらも神経を張り詰めて水没した洞窟ダンジョンを進む、それらしい言い方をするなら『海賊が宝を隠した洞窟』と言った感じだ。周りに錆びついたドアがあるが下手に開けて敵に知れたらたまったものでは無いので今はスルー。
進んでる内にエルフと水運ギルドの商人が何やら怪しげな取引をしているところを発見。後ろからは誰も迫って来ていない、アポトキシン何とかという薬を飲まされる心配はない。
「アレって・・・・エルフよね?何でこんなところに」
「さぁな・・・嫌悪してるはずの人間の力を借りるなら相応の理由があるだろうが・・・」
大きな木箱をフォールンエルフがせっせと運んでいく、三層ではシノン達が合流した後戦った事もあるがあの時はキズメルが居たし、今は戦う事が目的では無い。
ギルドの商人達が船で帰ってくのを見送り、エルフが一通り木箱を運んだのを計らって俺たちも扉の向こう側へ行く。
「・・・このまま後をつけるの?」
「あぁ、アイツらうるさいしバレないだろ」
このまま後を付けて箱の中身を確認すればいい、それでクエストは達成・・・・のはず。
「はずって・・・・」
「しょうがないだろ、俺もこのクエストは初めてだ。というかフォールンエルフが居ること自体ベータの時と違う、そもそもあいつらはここに出ないはずだった」
囁き声で会話しながら尾行、そして木箱を一旦端に集めて両開きのデカい扉の向こう側に消えていった。何やら擦ったり、削ったり、ノコギリの様な音が聞こえる。
「何やってるのかしら・・・」
「この箱の中身を見ればわかるだろ、かなりの大金を貰ってたし」
言いつつ木箱の中身を覗いてみるが・・・・
「「・・・・?」」
何も無い、え?マジか、コレでクエスト達成なの?しかしクエストログは何の変化も無い。どうすればいいのだろうシノンに意見を仰いでみるか、と考えた瞬間。
「・・・!?ヤバイこっち来る・・・!」
「えっ、どうするの!?」
驚きながらも大声は上げないその精神は感嘆したくなるがそんな場合では無い、此方にガシャガシャと鎧を着た者の足音が近づいている。木箱の陰に・・・・いや無理だ、エルフは総じて気配に敏感だ。隠蔽でも陰に隠れた位ならすぐに看破する。なら残された手段は_________
「箱に隠れろ!隠蔽は忘れんなよ!」
言いながら木箱の蓋を素早くずらし中に滑り込む、俺の身長は175㎝、しかも剣を背負っているのでかなり狭いがそれでも胡坐をかく態勢ならば余裕がある、代わりに身動きは取れないが状況的には見つからなければデメリット足りえない。
「ちょっと、もう少し端によって!」
「!!??」
でもお前が入ってくるのは予想外だったよ、シノン。
「何故に同じ箱に入ってくる!?」
「だって・・・その、心細かったし・・・」
若干拗ねたように上目遣いでこっちを見る。
こ う か は ば つ ぐ ん だ !
どうやら土壇場でどうすればいいのか咄嗟に判断できなかったようだ。それはそうだろう、SAOでは常に命が掛かっているのだ。何も動じずいきなり行動に移せる俺は自分で言うのもおかしな話だが少数派だろう。
「動くなよ、隠蔽が解ける。見つかったらクエストは諦めて一目散に逃げるぞ」
「うん・・・」
しかしこの態勢はあまりよろしくないな、俺の胡坐の上にシノンがしゃがんでる様な体勢。顔の近さは10㎝以下だろうか、女子特有のなんかいい香りが漂ってくる。茅場ァ!!どこにリアル追及してんだ!でもありがとう!!
シノンの吐息を鼻の辺りで感じる。あまりにも照れくさいので木箱の隙間から外を見ようと試みる様に顔を逸らす。べっ、別に恥ずかしいわけじゃないだからね!・・・・キメェな、死にたくなった。
「・・・・・顔、紅いわよ」
しかも赤面になってるのバレてるし、索敵の暗視ボーナスがありこれだけ近ければそりゃあそうなるか。思いっきり叫んでエルフに八つ当たりしたい衝動に駆られるが。
「ノルツァー閣下、予定通り材料は集まりました」
「ご苦労、では五日には出れるのだな?」
「勿論でございます」
と何やら重要そうな話が聞こえてきた、いや俺の八つ当たりの衝動を消し飛ばしたのはそこではない。ノルツァーなるエルフのカーソルだ。今まで見てきたどのカーソルよりも赤い、というか最早黒だ。四層の安全と言えるレベルは12程だろう。それより高い、下手すればSAOで一番高いかもしれない俺でも絶対に、勝てない。
________見つかったら間違いなく、死ぬ。
この時の俺の思考は間違いなくシノンと同じだったろう。アレだけ黒ければ逃げる事すら難しい、無理矢理うるさい心臓の鼓動(恐らくナーヴギアの機能によるものだが)を鎮める。俺が死ぬだけならまだしもここにはシノンも居るのだ。
「ハッ・・・・ハァ・・・!」
「落ち着け・・・大丈夫だ・・・!」
ここに来て分かり易い
「許せよ、シノン」
「!?・・・・・・・」
セクハラ覚悟で胸、俺の心臓の辺りにシノンの顔を押し当て鼓動を聞かせる。過呼吸はパニックによって起こるもの、ならば落ち着かせればいい。ハグされると人はストレスが軽減されると聞いたし、心臓の鼓動も母体の頃の記憶か本能かリラクゼーションの効果があるらしい。
「・・・・・ハ・・・ァ」
意外な位効果があったようだ、シノンはそのまま溶けるかのような吐息をした後一気に脱力した。取り敢えず一難は去ったか。
「しかし・・・・滑稽なことだな、我らはエルフにあってエルフに非ず・・・にも拘らずこうして禁忌に縛られている」
俺達が入っている箱とは別の箱を撫でながらノルツァーは言う、禁忌?生木を切り倒せないというエルフの誓いの事だろうか?これは自然と共に生きるエルフの自然への礼儀の様な物で破ることは出来ないらしい、分かり易い例えで言うならケルト神話でよく出てくるゲッシュの誓いと思えばいい。
しかしどうしてそれがここに出てくる?
「まぁ、言っても詮無きこと。エドゥー、必ず五日後までには・・・」
「分かっております、全ては我らの大願成就が為・・・」
返事をしたエドゥーなる人物、いやエルフに視線を合わせると流石に閣下程カーソルは紅くなかった、アレならばいざという時は倒せるだろう。しかし注目するべきはforemanなる単語、職人頭?あのハンマーは工具か・・・・!
「そうか、分かったぞ・・・・」
その単語に反応したわけではないだろうがクエストログが『しかるべき相手に伝えろ』と変化する。恐らくここで出来る事はもう無いだろう。
「行くぞ、シノン・・・・シノン?」
何故か俺の胡坐の上のパーティーメンバーから返事がない、木箱の隙間から視線を移してみると。
「・・・スゥ・・・スゥ・・・」
寝てた。見事な程穏やかに寝息を立てている。
「・・・担いだままここ出れるかな?」
起こすという選択肢は、何故か思いつかなかった。
「・・・・一体何してたの?」
「いや・・・スニーキングミッションだけど?」
シノンを担いだまま洞窟から出て(道中避けられそうにないエルフは後ろから羽交い絞めで首を麻痺毒ナイフで切り裂いた)船に戻ると寝てるシノンを肩から下げてる俺を見て何故かご立腹のアスナさん、怒りのツボが分からない。
「じゃあ何でシノンは寝てるのよ!」
「ちょっと色々あってな、俺よりシノンから聞けよ」
どうせ俺からの言うことは信じないだろう、こめかみに青筋たてているアスナから視線を逸らし船を漕ぎ出す。フィリアとユウキは追及してこないところを考えるに俺はそこまで悪いことをしたとは思えないのだが・・・・・。
「オウル、アスナは初めから仲間外れにされたことでピリピリしてるんだよ」
「それにしたってあそこまで怒るか?シノンのは不可抗力だぞ?」
未だに寝てるシノンをユウキに任せて、フィリアがこっそり教えてくれる。
「う~~~ん・・・・私は最近パーティーに加わったばっかりだから分からないけど、シノンのことがそれだけ心配だったんじゃ?」
つまり俺の力不足でああなったのだと、アスナは怒ってるわけか?成程、それなら分かる。アスナの怒りも的外れでは無い、確かに俺の力不足ではあったし、やはりスニーキングミッションは単独で行うべきだった。
「まぁ、それはそれとしてこれからどうするの?」
「まずはフィールドボスの情報収集だな、その後攻略組で戦う」
でないと恐らく『しかるべき相手に』伝えられない、もうそろそろアルゴのガイドブックがロモロ爺さんのクエストを広めている頃だろう。現在の時刻は22時、フィールドボスとの戦いに30分程度費やして、明日の9時に戦い始めるとしても十分に休息は取れる。
「・・・早めに起きてレベリングするかな」
《ロービア》に向かいながら俺は呟く、仮想世界でも疲れは生じるが肉体的な疲れは無いせいかただでさえショートスリーパーの俺はめちゃ早起きである、白髪も相まってユウキには爺さん扱いされる始末である。
そんな事を考えてるとフィールドボスの縄張りのカルデラ湖に着く、さてここからは思考を切り替えよう。
「・・・・・・・んぁ?」
真夜中、予約しておいた個室に風呂付の宿屋の一人部屋で目が覚めた。時間は午前五時、フィールドボスとの戦いは予定通り30分で終わり街には23時に戻り宿に着くなり俺は寝た。
「流石にシノン達が目覚めるには少し時間があるか・・・・」
よろしい、ならばレベリングだ。
頬を自分でバシンと叩き意識を完全に覚醒させる、試したいこともあるし。ストレージからポーションなどをオブジェクト化、必要な物を片っ端からポーチに突っ込み、いざという時の為に作っておいた(と言うには出来は子供の工作レベルだが)保険を確認しストレージにしまう。
「ボス戦でLV20に上がる位は経験値溜めとくか」
そして全ての準備を終えて宿屋から出ると思いもしなかった先客がいた。
「・・・何してるの?」
「まだ何も、これからレベリングしようとしてた」
シノンだ、お前もショートスリーパーなのか?季節もあって辺りは薄暗く霧がかかっている。
「少し早めに寝させてもらったからね・・・・」
あぁ、気絶したままだったから早くに目が覚めたのか。
「どうする?お前もレベリングするか?」
「・・・・ちょっと話したいことがあるんだけど」
話か・・・人とお喋りを楽しんだ経験は殆どない。シノンの相談事を解決出来る気はしないが・・・・
「・・・為になる様なことは期待しないでくれよ?」
「いいわよ、聞いてくれるだけで・・・」
言いながら近くのベンチに腰を下ろした、朝早いせいか周りにはNPC以外誰もいない。攻略組の連中に騒がれる心配は無いだろう。
「話って、洞窟で気絶したことか?」
「それも関係無い訳じゃないけど・・・・あなたは何で戦うのか知りたくて」
「何のため・・・?」
それは唐突な話だった。俺が戦う理由、罪悪感と・・・救済欲だろうか?
なぜこんな話をシノンが降ってきたのかイマイチ意図が読めなく頭の中が疑問符で埋め尽くされる。そして少しずつシノンが話し出す。
「私ね、あんまり社交的な性格じゃなくってさ。幼い頃からずっと本を読んでばかりでね・・・・」
「・・・・・・」
今でも『幼い』が通じる年齢だと思うが、口にこそ出さないがそう思う。だがシノンが醸し出す雰囲気は確かに大人びているため、あまり違和感は感じなかった。
「空気が読めないというか・・・・よく周りと衝突したのよ、いたずらで上履き隠した男子を殴ったり、とか」
「それはその男子の自業自得だと思うが・・・・それで?」
「まぁ見事に孤立して、クラスの人間からは腫れもの扱い。清清するけどね、正直」
これは私見だが、読書をする人間は総じて賢いと思う。本を通じて頭の中の語彙が増えるとその分思考が回り知能指数が上がる。現に痴呆の予防になるとか聞いたことがあるし。
多分シノンは頭の良さから周りが馬鹿騒ぎしてることが理解できず、集団に馴染めなかったのだろう。子供の馬鹿騒ぎに意味などない、幼い子供は基本何も考えていない。本能のまま暴れ、時にその無邪気さから虐めなどを行う。
虐められる側に原因がある場合などありはしない、ある場合はそれは虐めではなく喧嘩、咎める側の大人でもすることだ。
大概の虐めは考えなしの無邪気で馬鹿なクソガキが暇つぶしにするものだ。そして殴った方は忘れ、殴られた側は何時までも忘れず、いつか報復に出る。そしてなぜこんな真似をしたと問われればこう答えるのだ。
________『自分で何とかしろって言われたから』
誰も助けてくれなかったからそうしたのに。
みんな見て見ぬふりしてたのに批判する時だけモラルを振りかざし善人ヅラでソイツを魔女裁判。
虐め、それは人の弱さと悪癖から出る物なのに誰もがそれを理解せず、報復に出る者を狂人扱いする。本当の被害者は報復するまで傷ついた人なのに。それを理解せず、或いは見て見ぬふりで『学校』という場所は馬鹿の一つ覚えの様に性善説を敷く・・・・・・嗤える話だ。
「ついつい思っちゃうよな、どいつもこいつも無能だって」
「そこまで思わなかったけど・・・・まぁ、聖職者なんて嘘っぱちだとは思ったわ」
「でもその話が何の関係が?」
ついつい自分哲学を語ってしまったが、ここからどう繋がるのか。
「・・・・私は、誰も頼らないことにした」
その顔は十三歳の少女がしていい顔では無かった、強い、強すぎる決意が固まった顔だった。
「親族は兎も角、自分の事は自分で何とかしないと、って思った。誰も信じないって決めた」
「・・・・それで?」
「あなたとの、あの強盗事件が起きた」
また唐突な、その時のことは今でも思い出せるが・・・・
「何か、わけ分かんなくなっちゃったわよ。他人を信じないって決めてたのに・・・・赤の他人に親子共々救われるなんて」
「一つの考え、答えで人生をやってけるとは思わない方がいい。善悪の価値観、秩序すら時代で変わるんだから」
このデスゲームが最たる例だろう、ここの秩序は人の心に委ねられているのだから。最善にもなり得るし、最悪にもなり得る。
「・・・・私は、いつかあなたとのパーティーも解散するんだろうなって思っていた」
「助けられた理由を知れば俺と一緒にいる理由は無いから?」
「うん・・・・それで、何であなたは________」
「______ねえよ理由なんて、ただ居合わせたからだ」
実際必死過ぎてあんまり考えて無いしな、というかあの時言ったろ。
「馬鹿が馬鹿やらかしただけだよ」
「・・・・・私の知ってる馬鹿はそんな勇敢な行動には出れなかったけど?」
「そいつらは馬鹿と言うより間抜けだよ」
馬鹿は馬鹿なりに考えて行動するが、間抜けは何も考えて無いし、感じてない。
だから人を傷つけることを躊躇わない。
「お前が何を感じて考えて、どう生きるかは自由だ」
「・・・・・・」
「でもまぁ、人なんて生き物例外の固まりみたいなもんだし。あんまり凝り固まった考え方はしない方がいいぞ、足元掬われたくなかったらな」
「・・・・あなたは戦う時、何も考えて無いの?」
「そういうわけじゃない、ただケースバイケースってだけだ」
もっとも、方針はあるがな。
何か結局説教みたいになったな、為になる事は言えないとか言ってたのに。
「・・・・・・もう明るくなってきたな、レベリングは辞めだ」
「そうね・・・ねえ」
「ん?なんぞ?」
宿に戻り、食事をとろうとしてた所を呼び止められる。
「これからもよろしくね、オウル」
「・・・?あぁ、こちらこそよろしく」
何だそれだけか?態々言うことでも無かろうに。
朝日を背に俺とシノンは一旦宿に戻り、皆と食事をとった。
ボス戦はもうすぐだ。
遅くなり申し訳ありません。
遅れた理由は忙しかったことや体調を崩した事などありますが、エタらせるつもり無いので恐る恐る投稿しました。
まだ忙しい時期が続きそうなので文字数減らしてもいいですかね?
もっと時間が欲しい。
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第十七話 いと低し ヒラルキー
シノン「今後ともよろしく」
オウル「お前の中の人、今回の作品は出ないっぽいけど?」
もう少しでディープストレンジャー二発売ですね。買いたいのですが金欠です。
沢城さんは出ないみたいですが、後にこの小説でも出るだろう『あの人』は出るようですね、楽しみです。
オウル達のステータスを小説に出てる分だけ公開します。
オウルLV19 スキルスロット枠6個《片手剣》《体術》《索敵》《隠蔽》《投剣》残り不明
シノンLV18 スキルスロット枠6個《短剣》《体術》《索敵》《隠蔽》《軽業》《調合》
ユウキLV18 スキルスロット枠6個《片手剣》《体術》《索敵》《軽業》残り不明
アスナLV17 スキルスロット枠6個《細剣》《体術》《疾走》残り不明
フィリアLV15 スキルスロット枠6個《短剣》《索敵》《隠蔽》《強奪》残り不明
この小説で出してるスキルとレベルはこんなものですね、フィリアは後から参戦したので少し低めです、それでも原作アスナと同レベルですが。
「よし!皆集まったな。それじゃあこれから早速だけどフィールドボスの攻略会議を始めようと思う!」
攻略組全員がフィールドボスの攻略会議に集合し、ディアベルが号令をかける。勿論ゴンドラは全員持ってるが流石に《ティルネル号》の様に最上級の素材ばかりの船は中々ない様だ。
「まぁ、あんだけデカけりゃステータスとは別に戦いずらいわな」
「エギルさんの船はどれ位の素材から造ったんですか?」
「主熊は倒せたんだが、素材がちと足りんかった。だがそれでも支障はないはずだ」
後ろに並べられてるゴンドラを見てみると確かに使われてる材料が所々違う、だがそれでも攻略組の中では上位に入るだろからフィールドボスに壊されることは多分無いだろう。名前はなんて言うんだろう?
「こいつの船名か?ピークオッド号だ」
「・・・・縁起があんまり良くないんじゃないですか?」
「え?どーいうことなの?」
アスナは元ネタを知っていたのだろう、すぐに分かったようだが流石にユウキは知らなかった。俺はかの名作ゲームを当時プレイしてたため知っている。
「ピークオッド号、『白鯨』っていう小説に出てくる捕鯨船ね。エイハブ船長が白いクジラ、モビィ・ディックに報復の為にクイークェグって人と船員達と乗船するの。最期はイシュメイルって人を除いて皆海に沈んじゃうんだけどね」
とシノンの読書知識。割と有名な小説とはいえ子供が読むには結構難しい本だと思うが・・・流石の一言だ。
「それは確かに縁起が良くないね・・・・エギルさん、メアリー・セレスト号に改名したら?」
フィリア、それ幽霊船だぞ?何で進めた?
「いやそっちの方が縁起わるいだろ!?大丈夫だって!今から戦うのは白鯨じゃなくてガメr・・・いやアーケロンって亀だろ?」
オイコラ、今大映の怪獣の名前出しそうになったろ?特撮大好きか。確かに似てたけども。まぁ、確かにこれから戦うのは亀だしピークオッド号を沈めたのは白鯨なのだから。
「若しくは『サヘルの人』の異名を持つ直立二足歩行型兵器だな」
「知ってるのか?あのゲーム?」
「of course.俺位の年代が一番知ってると思うぜ?全シリーズやり込んだからな」
いいなぁ、だったら俺もピークオッド号にしたかったなぁ。
船に乗る、攻略の為。パニッシュド・ヴェノムオウルとか名乗りたかった。
「いいなソレ、Punished・venomAgilってか?」
「ネイティブの英語で話せるから様になるなぁ」
見事な発音で名乗るエギル、180超の身長でこんな名乗りされたら多分誰も笑えない。眼帯とかバンダナされたら子供は間違い泣く。
「え~~?バンダナはボクとキャラが被るからやめて欲しいなぁ」
「安心しろ、お前のキャラはもう定まってるから」
てか180超の大男とお前がキャラかぶり何て起こすわけないだろ。
「じゃあボクのキャラって何なのさ」
「ロリコンホイホイ」
「
「
あっ、墓穴掘った。
それを悟った瞬間俺の行動は早かった。背を向けてクラウチングスタートの態勢になりいきなりトップギアで走り出す、この一連の行動に掛かった時間、凡そ、0.5秒。スピードビルドの俺に追い付ける者はそう居ない。
しかし俺と共に行動し、ボス戦の時も活躍して来たパーティーメンバーは逃走を簡単に許してくれるほど甘くは無かった。
「逃がさないよ」
「!!?」
まずユウキが顔に飛びついて来た、前が見えねえ。それを思うより先に踏み出した足が横から刈られるように空を切った。
「今のはオウルが悪いよ?」
多分声からしてフィリアがスライディングで足を滑らしたらしい。そして前から感じる途轍もない威圧感。
「オウル君・・・・言葉は選ぼうね?」
イマイチ考えが読めないため俺が苦手意識を持ってるアスナさん、腰が入った正拳突きを俺の鳩尾に躊躇なく放つ。現実なら死んでても可笑しくない位の勢いだ。お前さんは俺に何の恨みがあるの?
「オウル・・・・」
「待て・・・シノン・・・暴力系ヒロインとか流行らな___________」
「歯ァ食いしばりなさい」
後ろから腹に手を回されガッチリホールド、僅かに感じる背中の柔らかい感触に何か思う前に上に持ち上げられて________
「ハァァァアアア!!」
「ギャァァアアア!!」
ジャーマンスープレックス、いやコレ歯の食いしばり関係なくね?
主街区の攻略会議中にパーティーメンバーの連携技でフルボッコにされて、挙句ジャーマンスープレックスかまされてる男がそこに居た。
ていうか俺だった。
脳天から石畳に叩き落とされて視界がグワングワン揺れる、よく気絶しなかったものだ。
「あのーー・・・・攻略会議・・・」
「なんでや!なんでお前だけ青春しとんねん!!!」
コレの何処が青春に見えんだよ。現実だったら脳漿ぶちまけてるぞ、脳漿炸裂ボーイだよ。
「・・・・頼りになるパーティーメンバーだな・・・」
エギルさん、正直に言っていいんですよ?おっかないって。
文字通り視界が揺れる程の衝撃を頭に受けて仰向けで晴天を眺めながら思った。
十二月半ばをそろそろ過ぎそうな頃、朝10時。ボス戦前の日常だった・・・・ボコされるのが日常って嫌だな。やはり俺の仮想世界のラブコメは間違っている、ラノベにできそう。
「来るぞ!!B隊退けぇー!!」
ディアベルが大声と共に銅鑼を叩きならす、そんなオプション何処から引っ提げてきたのか気になるところだが、今はそれどころではない。
怪獣映画に出てきそうな馬鹿でかい亀が今まさに突進してきている。速度はそこまで早くは無いがやはり初めての水上のボス戦。普段と勝手が違うので避けるタイミングが分かりずらい。
「ヤバイよオウル!引っかけられて転覆する!!」
「助けに行くな!今行ったらむしろ邪魔だ!!」
例えノーマルの素材だけで作られた船でも流石に一撃で沈むことは無い。
逃げ遅れたB隊の船がひっくり返るが案の定プレイヤーはほとんどダメージは無い、このボス戦はダメージは殆ど船が吸収してくれるためプレイヤー自身に危険はあまり及ばない。
「でも船壊されたら逃げるのも難しいわよ」
「そこだよな、カルデラ湖から出ればボスは追ってこないだろうが道中絶対mobが来る」
シノンの言う通りだ。初めて四層に来た時俺は投剣と裸締めでmobを倒したがアレはmobが弱かったから出来たことだ。それに重装備のプレイヤーは船にしがみ付かないと浮くこともままならない。
「攻撃自体槍とかリーチが長い物じゃないと届かないしね」
「俺とユウキは片手剣、アスナは細剣、フィリアは船の操作、シノンは短剣」
全員そこまでリーチは長くない、シノンに至っては最悪だ。この戦いはやりずらいことこの上ないだろう。
「みんな!衝角攻撃行くよ!!」
その合図と共に全員船にしがみ付く、フィリアが全力で漕ぐ。代わろうか?と言ったが一番レベル高い俺が攻撃に回らないのは非効率的だと却下された。
漕ぐごとにスピードが上昇、そのままアーケロンに向かって行き_______
「ここ!!」
「GUOOOOOO!!?」
______ぶつかる瞬間にブレーキを掛けてティルネル号の喫水線下の衝角が紅く輝きながらアーケロンの柔らかそうな横腹を穿つ。あのKUMAの角をオプションとして付けておいたが、どうやらボス戦でも有効な様だ、強い炎属性もあるようで水蒸気を噴き出しながら冷却期間に入る。目に見える程アーケロンのHPが削れた。
「退け!来るぞ!」
怯んだ隙にソードスキルを叩き込むが、やはりそこは亀と言った所か。甲羅がかなり固いため通常の斬撃ではあまり効果が無い。両手武器の打撃ならば話は別だろうが生憎俺たちが持ってる打撃技など《体術》スキルによる物くらいだ。小さかったり、人型ならば兎も角ここまでデカい亀となると体術はあまり役に立たない。隙は小さいが攻撃力は武器依存でないため低いのだ。
「このままなら押し切れそうだけど・・・・」
「最後に絶対なんかあるだろうな、今までと同じなら」
船を巧みに操ってくれるフィリアの希望観測を切って捨てる。
HPバーはもう半分を切っているが情報以上に変わったところは無い(そもそもその情報を集めたのは俺たちなのだが)。
「今回ばかりは梟さんもLAボーナス持っていけないだろうなぁ!!」
と、すれ違いざまにディアベルのギルメンが何とも心温まる掛け声を掛けてくれた。いやあ、応援ありがとう。顔は覚えたからお礼参りは期待してくれ、この野郎。
「せめて頭にソードスキルを入れる事が出来れば・・・・・・」
「頭か・・・・」
船で真正面に行けば頑丈な顎で噛みつかれる。その攻撃は範囲は狭くめったにしてこない分攻撃力はバカ高い。まともに喰らえばいかにティルネル号でも危ない。詰まる所船無しでアーケロンの前に行ってソードスキルを叩きこめなければいけない。
ただし水上で。
「誰か《水泳》スキル持ってる奴いない?」
「「「持ってない」」」
三人から同時に同じ答えが返ってくる。
ふーーーーむ、使いたくなかったがアレを使うか・・・・
「よしフィリア、俺達三人が隙を作るからトドメを頼む」
「いいけど・・・・そこまでどうやって持っていくの?」
「壇ノ浦の戦いって知ってっか?」
言いながら俺はこの四層に来た時余分に取っておいた《浮輪の実》を九個正方形に紐で固めてベニヤ板に縛り付けた物を水面に4個投げ出す。元々船無しでも溺れない様に作った物だがこんな風に使うとは・・・・・。
「・・・・え、まさか・・・」
「八艘跳びと洒落こもうか」
「いやいやいやいや落ちるでしょコレ!?」
アスナが叫びながらツッコんでくる、大丈夫大丈夫、行けるって。
「大丈夫だ、浮輪九個分の浮力で沈みはしない・・・・ひっくり返りやすいけど」
「同じようなものでしょ!!?」
でもユウキとシノンはノリノリですぜ?
「シノン、《軽業》スキル持ってたっけ?」
「ユウキも持ってるのね、アスナは?」
「《疾走》スキルがあるけど・・・・」
「よーーーし!逝ってみようか!!」
「発音おかしくなかった!?今!?」
ちょっと何言ってるか分かりませんねぇ。
そんな風にすっ呆けながら先陣を切る。牛若丸の様にはいかないかもしれないがアスナも源氏だし大丈夫だろう。
「いや何のこと!?」
「将来刀とか使うようになったら言ってくれ、俺が戦装束をデザインするから」
「何のことか分からないけど絶対嫌!!」
そうか・・・・まぁ流石にアスナじゃ似合わないかもな。
特に胸部が___________
「今変なこと考えたでしょう?」
「滅相もございません」
こいつサトリか何か?こっちの考えを適切に見ぬいてやがる。
「バカやってないでさっさと行きなさい、ユウキはもう行ったわよ」
シノンに言われ見てみるとユウキはもう浮輪板を渡って亀の甲羅に乗って背中からソードスキルを連発している。
「ボクは甲羅から斬りつけるから頭の方行って!!」
「分かった!行くぞシノン、アスナ!」
ティルネル号の縁に足を掛けて前傾姿勢で前に跳ぶ。亀がこちらを向く前に首にソードスキルを叩き込む。
「スイッチ!」
首に攻撃され、仕返しに噛みつこうとしてくるアーケロン。その口は俺を丸ごと入るだろう大きさだ。確実に古代にいたというアーケロンよりもでかい。
まともに殴り合う気はないので口が開ききる前に上嘴に足を引っ掻けて空高くバク宙回避。そして________
「行くよ!シノのん!」
「遅れないでね、アスナ」
アーケロンの目に同時に突進系のソードスキルを突っ込んだ。
「GYUAAAAAAAAAA!?!?」
クリティカルヒットだったのだろう。とんでもない勢いでHPバーが減少し、一気にレッドゾーンに入る。そして二人だけでなく周りの船も払いのけようと脚を縮ませて力を溜めるモーションを取る。初めて見る動きだが十中八九回転する気だろう。
「まずい!!早く退避するんだ!!」
「いや、突っ込め!フィリア!!」
ディアベルが叫ぶがここまで来たら退くことは考えない、削り切る。俺は既にティルネル号に乗っているが三人はまだ亀の背中に退避している。あのまま回れば確実に水中に落とされる、跳ぶには遠いし、泳ぐには時間が無い。
「オウル!仕留めきれなかったらお願い!」
「任せろ!」
トップギアで白波をたてながらアーケロンに突っ込んで行く、そしてもう一度横腹にティルネル号の衝角が突き刺さる。
「GYURRRRRRRR・・・・・・」
瞬間水蒸気が今まで以上に噴き出し亀が真っ赤に膨れ上がり、見慣れたポリゴン片となって消えた。
早くアンダーワールド編が書きたい。(なお現実はGGOどころかSAOすら終わってない模様)
FGOの小説も書いてみたい、型月設定が難しいからかなり遅筆になるだろうけど。
そしてサブタイが適当になりつつある今日この頃。
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第十八話 泡沫の 夢に溺れるのか?
ユウキ「亀が!死ぬまで!殴るのを辞めない!」
オウル「浦島太郎もドン引き、てかそこは『ロードローラーだッ!』の方じゃないの?」
メタ時空はいい文明。十七話のシノンとフィリアのスキル項目を間違えてて申し訳ありません。
アズールレーンを友人に勧められ始めました。チャットが面白すぎる。
未だ嘗てここまでの窮地に陥った事は無い。
「ぐっ・・・・・」
かなりの力を加えても後ろで手首に括られた縄はビクともしない、目隠しもされている。千切ることなど出来はしないだろう。SAOが始まって以来の窮地。
絶体絶命。
四面楚歌。
助けてくれるものは誰もいない。
_________このままじゃ・・・!
焦る、焦る、焦る、されど縄は解けない。玉の様な汗が吹き出し、顔と言わず体中から流れ落ちる。息苦しさも感じてきた、あぁ、俺はここまでなのか。熱気が支配するこの空間は意識も朦朧とする、瞼に浮かんできたのは現実世界に残してきた大切な物。まだ一ヶ月を過ぎたばかりなのに泣きたくなる程懐かしい物。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・」
拝啓、現実世界の父さん母さん、仲良くやってますか?
直葉、剣道頑張ってるか?お前なら全国一位も夢じゃないぞ。
そして武蔵さん、どうやら、俺は________
「___________ここまでの様です」
志半ばで倒れることになるのは自分でもどうかと思いますが・・・・許してください。あなたから教わった術をもってしてもこの場は抜け出せそうに無い。
そう、この_____________
「さぁ、精々悔い改めなさい!」
「次は逆さづり、鞭攻めをしよう(提案)」
「アスナよ、何故オウルはユウキとシノンから責め苦を受けているのだ・・・・・・」
「キズメル・・・・知らない方がいいこともあるのよ・・・・」
「うわぁ・・・・うわぁーー・・・・・(興味津々)」
________ダークエルフのヨフェル城の唯一の大浴場で女性しかいない中たった一人で女性プレイヤーから
「まともなのは俺だけかッ!!!」
事の発端を思い出すと同時に現実逃避に数時間前まで記憶を遡らせる。
フィールドボスのアーケロンを倒し、めでたく俺ことオウルはLV20になった。多分一緒に乗ってる皆も同じようにレベルアップしたはずだ。
LAボーナスはフィリアの物になったが俺のパーティーメンバーが手に入れたことは変わりないし他者には誰がLAボーナスが入ったかは予測しかできないので、取り敢えず前回暖かい声援を送ってくれた彼には礼儀としてNDKしておいた、m9(^Д^)プギャーwwwwザマァwwwww。
「何をニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわよ?」
「相変わらず容赦ないっすね、シノンさん」
おっといけない、シノンに指摘されるまで気づかなかった。一人回想に耽るのも程々にしておかないと。
今回のボス戦で活躍したフィリアに代わって船を漕ぎながら口元を抑える、あの後で攻略組のメンバーは消耗品を買い揃えてから進むとのことで今ティルネル号の前にも後ろにも船は無い。
「でさ、オウルは今どこに向かってるの?」
「ん?まぁすぐに分かるよ、のんびりしとけ」
「そうだね~~いい天気だから昼寝したいよ」
「駄目だよユウキちゃん、いつmobが現れるか分からないんだから」
アスナの言う通りここは圏外なのだから最低限警戒はしておかないといけない。ユウキの言うことも分かるのだが、冬を感じさせない温かい日光とさわやかな風、船に揺られて眠れたらどれだけ幸せだろう。
「そうだねぇ・・・・せめて何か美味しい物とかあったらピクニック気分が味わえたんだけど・・・・」
「食材は兎も角、料理はストレージに入らないからなぁ。バケットとか持ってないし、手に入れる方法も知らないし」
ベータ時の時は気にしなかったため、そういった情報は知らない。いつも迷宮区や圏外で食べる物は大体mobがドロップした食材を生か塩で焼く程度の物だ、せめてカ〇リーメ〇トが欲しい。特にチョコ味。
「わかるわかる、私はプレーン味かな」
とフィリア。
「ボクもチョコ味かな?」
とユウキ。
「私、フルーツ」
とシノン。
「私はメープル味ね」
とアスナ。
「オイラはチーズだナ、やっぱリ」
とアルゴ・・・・・・・・・・・・・・・・オイコラ。
「いや待てどっから沸いた、お前」
「沸いたっテ、酷いナァ。オウル?」
いやいや、勝手に乗船してんじゃないよ。運賃払え、幼児扱いでいいから。
「喧嘩売ってるんだナ?そうなんだナ?よし買っタ」
「おい馬鹿辞めろ、落とそうとすんな洒落になら・・・ちょ、おまッ、何で全員手をワキワキさせながらにじり寄ってくる!?辞めろ辞めて辞めてくだしあ____________」
ドボン、と。ボスを倒したばかりの昼下がりに馬鹿が一人落っこちた、というか仲間から突き落とされた。お前ら全員グルになって嵌めようとしてんだろ?
「てかさ?」
「うン?何ダ?」
水も滴るいい男となった俺は突如として現れたアルゴに聞く・・・・・ごめん、やっぱ今のなしで、自分で言うのは無いわ。
「お前俺の事フー坊って呼んでないじゃん」
「・・・・センス悪いと思ってナ、新しいのを思案してル」
「ファーーーwww自覚あったんですねーーーwwwこれを機にもうちょいマシな・・・・うんごめん、俺が悪かった、だから皆して突き落とそうとしないで?そんなに俺の事嫌いですかそうですか?」
ユウキはまだ分かるがアスナやシノン、フィリアまでもがノリに乗っている。主に俺への懲罰に。
「いや・・・何となく・・・・」
「何となくでmobが出る湖に落とされちゃ敵わないんですけど」
ダ〇ウ倶楽部じゃねぇんだよ、押すなよ?押すなよ!?絶対に押すなよ!!?女友達出来たからってはしゃいでんじゃないよ。
「うん分かった(ゲス顔)」
「一番わかってないですよねぇ?ユウキちゃん?」
コイツもう初期のキャラ跡形もなく無くなってるじゃん。オイコラお前のせいだぞアルゴ。
「いやぁー何か凄い化学反応が起きたみたいだナ」
「こっち向けや、化学反応どころか核反応が起きてんだよ。世界観揺るがしかねないレベルだよ」
もうここに居るユウキは大人気のヒロインとしての姿は無い、下手をすればメタ発言連発しかねないギャグキャラだ。どうしてこうなった?
「そんな事よりアルゴさんは何処から来たの?」
「そんな事ってお前の事ですよ?」
「あァ、主街区でこのサンダル見つけてナ」
「アッレレ~?おかしいぞ~?まるでそこに居ないかのように扱われてるぞ~?(某少年探偵風)」
「何そのサンダル?」
「・・・・・・・・」
「これを履くと水上を走れるんダ、尤もかなり装備体重を軽くしてよっぽどAGIにステを振ってないといけないけどナ」
「・・・・・・・・」
「ふ~ん、そんなのあったんだ・・・オウルどうして教えてくれなかったの?」
・・・・・・・・都合の良い時だけ会話振らないでくれます?
船の隅っこの方で体育座りで拗ねてるとユウキが会話を振ってきた。辞めるんだフィリア、頭よしよししないで、泣きそうになるから。
「ベータの時と何もかも違うから知らなかったんだよ、クエストだって変わってたし」
「オウルって実はそんなに役に立ってないよね」
「ぐっはぁあああ!!?」
「やめたげてよお!」
割りと理由がなくもないユウキの心の無い罵倒が俺を襲う。そしてそれを慰めるフィリア、そのセリフは直葉に言って欲しかったが。
「相変わらずハーレム系主人公やってんナ」
「何処が?事あるごとに肉体的にも精神的にもフルボッコですが?」
「攻略組ではお前は嫉妬の対象にもなったゾ?」
「仮想でも現実を見ろ、女子と楽しく話せるコミュ力が無けりゃ一緒に居ても気まずくなったりヘイト溜まるだけだ」
「あとファンクラブとか出来かけてるらしいゾ」
「おい攻略しろよ」
ディアベルがちゃんと統制取れてるのか不安になってきたんだが・・・・。
ユウキとフィリアは寧ろお喋りな方なので困らないがシノンだと偶に無言の空間が出来る、そこまで気まずいものでは無いがそこまで楽しくもない。そして一番の鬼門、アスナさん。
「馬鹿やってないで折角アルゴさんが居るんだから、情報買ったら?」
「アッハイ・・・・で、何か目ぼしい情報ある?」
絶対零度の視線と共に早くしろとアスナに促される、信じられるか?これでパーティーリーダーじゃないんだぜ?
「抽象的過ぎて答えられないナ、強いて言うならお前が目を掛けていたクラインってやつが今は三層でレベリングしてるゾ、もうちょいで攻略組入りするんじゃないカ?」
「そうか・・・・クラインが・・・」
早いな、原作は確か二十層の中盤辺りだったと思うが・・・・流石に忘れて来たな、覚えてるのだけでも暗号でメモ取った方がいいかな。
「誰?クラインって?」
「俺がデスゲーム初日に会ったプレイヤー、その内紹介するよ」
言いながら櫂を操作し、《ウスコ》と言う村に着く。ここで消耗品を揃えて、クエストをこなし休憩したら次の所へ向かう。
「そういえばエルフのクエストは変わったとこが多いって話だガ・・・・」
「辞めとけ、その情報は売らない方がいい」
「だよナーー」
「なんでさ?」
ユウキが不思議そうに聞いてくる、確かに普通なら情報の独占と思われかねないが。
「欲張って三層のあのエリートmobと戦って死んだりしたらまずいだろ?」
「注意書き書いとけば?」
「一層でのボス戦の時みたいに楽観視して『こんなはずじゃなかった』がオチになるだろうな」
キズメルの事はまだ謎が多いし・・・・・そして俺自身、この世界の事をゲームという虚構と認識させたくないという謎の感情があるのもまた事実だった。
「ねえー?まだー?」
「もうちょいで着くよ」
「この先には何があるの?」
飽きたようにシノンの膝枕で寝転んでるユウキがさっきからずっと同じ問い掛けをするので、同じ答えを返す。いい身分だなオイ、そこ代われ。
《ウスコ》の村でクエストを消化し、アルゴと商談を終えて、また船を漕ぐ。《操舵》スキルなる物があれば100は超えてるのではなかろうか?
「ロモロさんのクエスト、まだ終わってないの知ってるよなシノン?」
「まぁ、昨日のことだし」
「多分この先でクリアできるはずだ」
「先って・・・・あの霧の中?」
正面を訝しげに眺めながらフィリアが聞く、確証はないがここしか怪しい所がない。まず間違いないだろう。
「ちょっと!これぶつかったりしないの!?」
「大丈夫だって、俺を信じろ」
「ボス戦で無茶ぶりさせた人が何言ってるの!?」
落ち着けよアスナ、何かいいことでもあったのかい?この先に行けばきっとご機嫌になるだろうが女の叫び声は耳が痛くなるから勘弁してほしい。
「あなたが勿体ぶるからでしょ!?」
「落ち着けって、今同じ船に乗ってるんだから下手な事はしないって」
渋々、と言った感じでアスナは一旦落ち着いてくれたが・・・・はてさてこの先はどうなるのやら。
「・・・オウル、これ本当に大丈夫なの?前全く見えないよ?」
「此処まで来て誰も思い出さないのか?この霧、何か思い出さないか?」
「あっ、これ、もしかして・・・・」
「知ってるのか!?フィリ電!」
「お前は何処までネタに走れば気が済むんだ?ユウキ?」
「うむ、これはまさに・・・・」
「乗らなくていい、乗らなくていいからフィリア」
そのネタ知ってることにも驚いたけど乗っかった事が一番驚いたわ。キャラ崩壊もいいところだよ、まともなのは俺だけか?
「オウル、そろそろ教えなさいよ。この先には何があるの?」
「・・・ちょっと遅かったみたいだな、前見てみ」
言われてシノンは前方に視線を向けて、唖然とした。
「これって・・・・」
「ダークエルフの城、後はもうわかるだろ?」
某夢の国にも負けない程馬鹿でかい、まさに西洋といった城が建っていたからだ。霧の部分はマップ切り替えの為、周りはカルデラ湖の様になってるので霧を抜ける以外ではここには入れない。
「早く早く!オウル君早く岸に騎士に!」
「だから落ち着けって!あと発音おかしくなかったか!?」
俺の肩をガックンガックン揺らすアスナは、まるでプレゼントの包装を破きたくて仕方ない子供の様に無邪気な顔であったが、視界がブレる事ブレる事・・・・調子いいなぁ、このお嬢さん・・・・・。
「ほい、到着s「キズメルーーー!どこーーー!?」・・・・」
「・・・・ボクが後を追うからオウルは城主にでも会ってきたら?」
「・・・・取り敢えず、そこの兵士に通行証見せとけば大丈夫だろ」
言いながら俺はそこに居た兵士に前の層で貰った通行証を見せる、よくアスナの事を襲わなかったな、キズメルの名前を叫んでいたからか?
俺が言い切る前にアスナはそのステータスを全開にして城の後ろに駆けていった、しかも自分が索敵持ってないのでフィリアも連れて行ってる。フィリアも乗り気だったからいいけど・・・・。
「ここでロモロさんのクエストがクリアできるの?」
「多分な、俺達も行くか。ここまでデカい城だと案内無しだと迷いそうだ」
「そうね・・・それにしても・・・」
「うん?どうした?」
シノンが何故かぼんやりした感じで城を見上げている、俺も見上げてみるが黒くドッシリした城とそろそろ日が暮れそうなので紅くなった空しか見えない(実際は空ではなく天蓋なのだが一々言うのは野暮と言うものだ)。
「ううん、ただ、奇麗だなって・・・・」
「・・・そうだな・・・奇麗だ・・・・」
ここでコミュ力カンストのイケメンなら「君には負けてるけどね☆」的な事を言って好感度を稼ぐのかも知れないが、俺はその言葉をオウムの様に返すので精一杯だった。
黒い西洋の城、夕暮れの空、それを映す湖、それを感慨深げに眺めるシノン。
______________あぁ、奇麗だよ。ホント・・・・カメラが欲しいくらいだ。
勿論そんな物は無いので脳と瞼に焼き付ける事しかできない、シノンには悟られない様に。
「・・・・・行きましょうか」
「そうだな、いつまでも見惚れてるわけにはいかない」
索敵に四つ反応がある、多分ユウキとフィリアとアスナと_______
「オウル!!シノン!!久しいな!」
思考の途中でシノンと一緒に抱きしめられる、かなり強い力で。しかし不思議な事にあるはずの固さを感じない。むしろ何か柔い気がする。
「・・・キズメル?なんでドレスに・・・?」
「まぁ、それは城内に入りながらでも話すさ。早く行こう、三人も待ってることだしな」
二、三日ぶりに出会ったダークエルフのエリート騎士は何故かドレス姿だった。成程、つまりさっきの柔さは________
「その先考えたらぶん殴るわよ?」
「・・・・・・・・・・・・はい」
なんで分かるの?とはツッコまない。無駄だから。
「ふーーん、ここの司祭たちが?」
「あぁ、『目障りだ』とのことでな。お陰でこんな格好なのさ、似合わないだろう?」
「ううん!奇麗だよ、キズメル!」
そうか?、と気恥ずかしいのか頬を軽く人差し指で掻いてるキズメル。本当にNPCとは思えない位感情表現が豊かだ、下手すりゃプレイヤー以上だ。
「ところでさ、今どこに向かってるの?」
「ユウキ達が泊るところだ、残念ながら男女別とはいかないが・・・・」
「いいのよ、キズメル。こんなお城で泊めてくれるだけでありがたいわ」
被害妄想で無ければ俺が居なければ、なお良しって事じゃないですよね?
そんな事を考えながら前を歩くアスナとユウキとキズメルの後を追う、シノンとフィリアは会話より城の中の様子が気になるのかキョロキョロと見渡している。
「シノンは兎も角、フィリアは何か値段が付きそうな調度品の位置と逃走経路を覚えてるみたいだな」
「ちょっと!それどういう事よ!」
「そうね、案外正面玄関からの方が逃げやすいんじゃない?」
「シノンまで!」
「辞めておけよ、フィリア?ここの物を許可なく持ち去ると霧から抜け出せなくなる」
「・・・・・・・・・もーキズメルまで、しないってば。そんな事」
待ちなさい、さっきの間はなんだ?下手な事すればクエスト中断になるから辞めてくれよ?
「さぁ着いたぞ、此処だ」
「わぁーーーー!凄いよオウル!主街区のスイートルームでもこんなの無いよ!」
確かに俺もベータの記憶を遡ってもここまで豪華な部屋に泊まれたことは無かった。
どんな材質か分からないがフカフカのカーペット、北国で見そうな暖炉、その前にあるこれまた人を駄目にしそうなソファー、五人でも寝れそうなキングサイズのベット。
「まぁ、俺はソファーか」
「・・・・・・・・・・・・」
何故か、シノンがこっちを見てるがアレだけフカフカならソファーでも熟睡出来る。迷宮区の安全地帯で隠蔽を発動させながら、地面と同系色の布を被りながら仮眠することに比べれば天国である。
「三階には大浴場があるから、後で行って見るといい」
「「「「大浴場!?」」」」
これには流石のシノンでも驚かずにはいられなかったようだ、確かにユニットバスが付いてる宿でさえ稀なのだから。ぶっちゃけ俺も興味津々である。
「よし行こうすぐ行こう」
「待て待て、せめて要らない荷物をここのチェストにでも______」
「そんな事はどーでもよかろうなのだあぁぁあ!!」
何処の究極生命体だ、お前は。そんなツッコミを炸裂させる暇もなく四人はいざ鎌倉と言わんばかりの速度で来た道を戻り、階段を昇っていった。はえーよ、ホセ。
「私は城主にお前たちの事を伝えてくる、オウルも興味があるなら行ってくると良い」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ボスと戦ってちゃんとした休憩は取ってないので俺も大浴場に入りたかった。
思えばここが分岐点だったのだろう、原作知識の事を忘れていたためにあんなことになる。
三階に昇り、暖簾らしきものをくぐると、
「・・・・・なんで立ち尽くしてんの?」
まだ四人が居た、服すら脱いでない。いや別に期待してたわけじゃないけど、いやマジで。
「それがさ・・・・オウル」
「ここ・・・男女別に分かれてないみたい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
絶句、である。絶望と言った感じでユウキとアスナが立ち尽くしている。
三層は野営地だったのでまだ分かるが城でも男女にわかれてないのかよ、何なの?エルフの性別意識はそんなに薄いの?それとも俺たちが過剰に反応してるだけなの?
キズメルがいたら詰問していたかもしれないが生憎ここには来ていない、今頃城主に俺たちの事を報告してるだろうから。
「はぁーー・・・・・じゃあ、俺は後で入るから、お前たち先に楽しんで来い」
ここで俺が先に入るなど言おうものなら血で血を洗う戦争が始まることは想像に難くなかったので譲ろうとしたのだが、去ろうとする俺の袖をアスナが掴む。
「でも私達が入ってる間に男性のNPCが入ってくるかもしれないし・・・・」
「いや、野営地でも一回も入って来なかったし、大丈夫だって」
「その時、私達全員が戦ったら言い訳出来ないけど、あなたが居ればなんとかなりそうだし」
「スケープゴートですね分かりたくありませんでした」
意外と腹黒いですねアスナさん、ていうか結局どういう事だってばよ?俺がここで仁王立ちしてりゃいいの?まぁ別にいいけど・・・・・
「いや、もうオウルも入っちゃえばいいじゃん?」
「「「!!?」」」
ユウキ?お前は一体何を言ってるんだ?
「折角の大浴場だし皆で入らないのは勿体無いよ、それに水着着れば平気でしょ?」
ここで一番肉体的にも精神的にも年齢が低いからこその発言だろうが、とんでもない理論だなぁ・・・・。
「・・・・確かに、それならいいかもね」
「マジで言ってんすか、シノンさん?」
最近の女子はイケイケドンドン(死語)なのか、シノンも「水着だから恥ずかしくない」理論に賛成の様だ。
「・・・・わかった、じゃあ《裁縫》スキルあるからパパっと作っちゃうね」
「あっ、どうせならビキニがいい!」
言いながら後ろでアスナが水着を作り始めて、フィリアは何故か大胆なオーダー。なんでやなんでや、オオウなんでや(錯乱中)。
何故だろう、何故ここで俺は素直に喜べないのか、残念ながら精神年齢が高いだけで十三年と少ししか生きてない男子中学生の人生経験では分からなかった。
「わーい!ひろーーーーい!」
「ちょっと!ユウキちゃん!泳いじゃ駄目だって!」
「まぁまぁ、もうこんなお風呂入れるか分からないし」
「そうね、どうせ私達以外いないんだし」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そこは中々の、いやまさに絶景であった。
「フィリア!競争しよう!」
「いいよー!負けたらジュース奢りね!」
「銭湯じゃないんだからジュースなんて・・・・・」
「あったわよ?部屋で何故か中が冷えてるチェストの中に果実酒みたいなのが数人分」
縦十メートル程、横は二十メートル位だろうか?深さは俺でも座れば肩まで浸かる。何か混ぜられてるのか若葉色で良い匂いがする、そして前面はガラス張りで外の星明りを反射しキラキラ輝く湖面が見える。
____________しかしそこではない。
ユウキは相変わらずインナーの様なスク水。
アスナは白いワンピース、フリルの様な物が付いている。
フィリアは本人の希望で少し薄い青のビキニ、何故かビキニ。
そしてシノンは俺の隣で縁に腰掛けてさっき言っていた果実酒の様な物をちびちび飲んでいる、パレオを着て。
「・・・・・」
何故にパレオ?しかも黒?何故にそんなに大胆な物選んだの?いや肌の露出はそこまでじゃないけど、違うよね?ここに来た時最初に来てたスポブラみたいなのじゃダメだったの?今ここで着るものじゃないよね?それ。
ハワイかどっかの南国で、パラソルの下でサングラスを額に掛けてジュースを飲んでればモデルにもなれるんじゃないかと思わせる程、
________それは見事な黒パレオだった。
「・・・・・・・・・・・・・リアルだったら『前かがみ』不可避だった」
「ん?何て?」
「いいいいいややややっや?何でもなかとですよ?」
「何処の方言よ・・・・」
成程、ここが妖精郷、或いは桃源郷、或いは幻想郷、或いは
例え自分の独り相撲と分かっていてもやはりここは男子が居るところではない、そうと分かればさっさと逃げようそうしよう。
「畜生!こんなところに居られるか!俺は自分の部屋に戻るぞ!」
「なんか死にそうね」
今なぜか自然と死亡フラグを建ててしまったが大丈夫だろう、ここは圏内ではないが危険は無いはずだ。素早く湯船から上がり、後ろから掛けられる声も無視して脱衣所に向かう。
ここでは服はウインドウを使えばすぐに着れるが流石に大浴場の中で着る程非常識ではない。
「リアルだった危なかったな・・・・・」
「何が危なかったんだ?」
壁に手を着き息を整えていると背後から声が掛けられる、恐らく報告を終えたキズメルだろう。
「ん?あぁいや、何でもな____________」
「・・・どうした?急に固まって?」
・・・・・・・そりゃあ固まりもしますよ、えぇ。
あの四人でさえ水着は来ていたのに。
一応言っておくとキズメルはエルフであり人間の二十台半ば位の見た目で俺たちの中では誰よりも成熟した顔と体をしている、そしてダークエルフの基準は知らないが人間基準だとキズメルは中々のスタイルをしている。
つまり、まぁ、なんだろ、何て言えば良いのか・・・・・・。
「キズメルさん・・・・何故に・・・・・服・・・」
「ん?風呂に入るんだから服は邪魔だろう?」
ここで男子たるものなら両手を上げて万歳でもするべきなのだろうが、俺にはそんな事は出来なかった。何故かと言うと・・・・
「・・・・何か、言い残すことは、ある?」
「・・・・・・最後に酒が飲みたかったな」
絵に残したくなる程、奇麗な笑顔のシノンが______________
「ゴバッハアアア!?!?」
「おーーーい、起きろ」
突如冷水をぶっかけられて朦朧としていた意識が強制的に覚醒させられる。
さっきから茹蛸になるまで湯に沈められ、冷水をぶっかけられる拷問が続いてる。
パーティーメンバーって何だろう?(哲学)
「さぞかし楽しかったでしょうねぇ?私達じゃなくてキズメルの裸体を見て、ねぇ?」
「ちゃ、ちゃうねん!アレは事故やってん!」
「ホモは嘘つき」
「何でホモ扱い!?」
関西弁はスルーされさっきからホモ呼ばわりされ、アスナとフィリアはキズメルと仲良く談笑、何だこのカオス空間は。
「人族は風呂に入る時水着を着るのか・・・・」
「そういうわけでも無いんだがッガボボボボボッボ」
言い切る前に頭を鷲掴みにされ、沈められる。ここは流石に圏外なのでHPバーが減り始める前に顔をあげてくれるがそれでもキツイ、生かさず殺さずを心得ている。
「な、なぁ?もう許してやったらどうだ?私は別に気にしてないが・・・」
「大丈夫、オウルは昔から自分を苛めることが好きなんだ」
「そ、そうなのか?」
後頭部を抑えつけたまま俺の首にまたがり足だけ湯につかってる状態でユウキが言う、ただ鍛錬してただけだよ、ドḾみたいに言わんでくれ。しかしお湯の中なのでゴボゴボ泡立つだけで何も言い返せない。
「前から思ってたけど、ユウキちゃんってオウル君と昔からの知り合いみたいね」
「うん、ボクが五歳になる直後か直前だから・・・・もう六年かな」
「ユウキ、ここじゃあんまり素性は話しちゃいけないわよ」
「人族ではそんな取り決めがあるのか?」
「あ~~~~~・・・・・・ほ、ほら!家族を特定されて人質にされたらまずいでしょ!?」
「成程・・・・難儀な物だな」
ユウキが俺と自分のリアル事情を話しそうになり、シノンがそれを窘め、キズメルが不思議そうに聞き、フィリアが上手い事誤魔化した。仮想と現実という事を誤魔化さなくてはならなかったが、皆リラックス出来ているようだ。
「ゴボボボボボ、ガボ、ガガッボボボボボ!?!?」
俺を除いて。
「それにしても何で急にここに来たんだ?」
「えーーーっと・・・・なんでだっけ?」
「いいんじゃない?今はゆっくりしましょう」
「そうだね・・・いい景色・・・」
「こういう海とか湖に繋がってるプールをインフィニティ・エッジって言うんだよ」
「へえ~~~~なんか短剣のソードスキルにありそう」
ユウキがのんびり答える、
「ゴボゴボ、バゲッボ!!(そろそろ、上げろ!!)」
しっかり俺の後頭部を抑えながら。あかん、息がヤバイ。
「あ、忘れてた」
「忘れんな!!」
息を吸い込みながら答えたので掠れ声だったが何とかツッコんだ、毎度毎度ボスと関係ないところで死に掛けてんな、俺。
「無事のようだな、オウル」
「恩師が川の向こう側で手を振ってるのが見えたよ」
「ふむ、噂に聞く「三途の川」と言う奴か。ユウキ?シノン?じゃれつくのも程々にな」
「「はーい・・・」」
なんかできるお姉さんに叱られてる妹みたいな光景だった。そしてキズメルの顔が見れない、だってマッパだったんだもん、そして俺十三歳だもん、しょうがないね。
「そしていきなりで悪いが、あまりここには長居しない方がいい」
「そりゃまた何で?」
本当にいきなりだったので、早口に答える。いつまでも居ようとは思ってなかったが・・・・何かまずい事でもしたっけ?
「オウルがキズメルの裸を見たこと?」
「もうそれは掘り返すな、頼むから」
心が砕ける音がする。
「ここは見ての通り四方を湖と断崖に覆われた鉄壁の城塞だ。一度も破られたことは無いという・・・・そのせいでここの司祭どもはたるみ切っている、一度も経験してないんだ、本当の戦と言うものを」
苛立ちを交えているであろうその表情と口調に引っかかるものを覚えるがまだ思い出すには至らない、何だっけ?ここに来た理由は・・・・・。
「でもさ?フォレストエルフが船で攻め込んできたら・・・・・」
「あり得ないよ」
ユウキの言葉を待たずに断じる。
「どうして?エルフのお呪いは同じエルフにはあまり効かないんでしょう?」
「確かにここに城があることは奴らも知っていようさ、だが我らエルフが使う木は自然の成り行きで倒れた物だけ、ましてやフォレストエルフがそれを破ることなどあり得ん」
「船を大量生産できないってことね・・・・」
「__________それだ」
「え?」
やっと思い出した、ここに来た理由。二人の拷問で忘れてたがここに来たのはそれが理由だ。
「キズメル、近い内にここをエルフが攻め込んでくるぞ」
「オウル、だからここには_______」
「・・・・あのフォールンエルフはそのために木箱を・・・・?」
「何だと!フォールンがこの層に!?」
シノンが呟いたその瞬間キズメルが顔色を変える、そして俺のクエストログにクリアされたことが表示される。しかるべき相手とは俺たちの場合キズメルの事だったのだ。
「何で忘れてたのさ!」
「いや・・・・お前らのせいだよ」
さっきまで水責めしてた人が言うことじゃない、なんやかんやと騒ぎながら風呂から上がりキズメルに城主のところまで案内してもらう。
恐らく全員で初めて人型mobの集団戦になるだろう、パニックやトラウマにならなければいいが・・・・・・。一抹の不安が俺はぬぐい切れないまま戦いに赴く。
更新速度が安定しないなぁ、SAO終わるのいつになるんだろうか。
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第十九話 頑なに 心固く
オウル「裸見て 焦ってもいいじゃないのか 中一だもの by オウル」
前回の話でコメント欄でかなり批判が来ました、返信しようかと思いましたが複数人から来ていた事と話の展開にも関わるのでこの場を借りる事にしました。
まず初めに前回の話で不快に思った方、誠に申し訳ありません。これは完全に作者のさじ加減が下手なために起こった事です。弁解の余地がありません。
主人公の事を掘り下げようかな、と思い。きっかけを作ろうとしたまでは良かったのですが必要以上に暴力的な描写になりました事を謝罪します。原作ヒロインのイメージ崩壊になったこと、深くお詫び申し上げます。
「いやー、それにしても最近バイオレンスな事ばっかり続いてる気がするな、もう女子の修羅めいた笑顔も見慣れてきた気がする」
後ろの方でいつもの黒コートと剣を携えてる白髪の剣士、オウル君が自分の扱われ方に呟いている、修羅めいた笑顔って何?
「ていうかさ、見て見ぬふりは酷くないか?アスナさんよ」
「あのね・・・・入浴中に急に隣でSMプレイを始められた私の身にもなってよ・・・」
考えてみても欲しい、自分が銭湯に行ったとしよう。
例え相手が子供であっても急にかなり本格的なSMプレイを始めだしたら声を掛けられるだろうか?誰だって触らぬ神に祟りなしと無視するだろう、誰だってそうする、私もそうする。
「・・・・うん、だな。悪かった、仮想世界だからって色々デリカシー的な物が欠けていた」
「まぁ、溺死寸前までいってたのに無視してた私も悪かったけど・・・」
「ここじゃHPバーがゼロにならなかったら、息苦しさは感じても溺死はしないけどな」
「そうなの?」
「あぁ、圏内ならほぼ半永久的に潜水できるぞ、コードが働いてる限りは絶対HPバーがゼロにならないから」
知らなかった・・・・果たしてその知識が役に立つかはどうかは別として。というか試したことがあるのだろうか?圏内での潜水?噴水位しか水があるところ無いけど?
「デスゲームでもやっぱゲームの世界だからな、その辺のシステムは理解しとかないと後で痛い目見るぞ?ここじゃ手足が取れてもポーション飲んでしばらくしたら生えてくるし」
「・・・・・・言われてみたら凄いよね」
オウルの横でフィリアが手をまじまじ見ながら呟く、言われてみれば確かに・・・・・・今の私達はイモリの様に手足が取れても周りに敵が居なければ大したことでは無いのだ、しょせんこの体はアバターなのだから。
「何年ここに居ることになるのか分からないけど、現実に帰った時の乖離感とかどうなるんだろ・・・・」
「先の事はあんま考えんな、今が大切よ?『今でしょ!』って塾の先生もよく言ってたろ?」
「古い古い、ネタが古いよオウル」
物まねをしながらいつも通りにおちょけるオウル君にフィリアがツッコむ。いつもは私が知らないネタなので反応しずらいが流石にこれは知ってる、でも古い、圧倒的に古い。
「それよりも・・・・前の方でキズメルと何か話してるシノンの事だが・・・」
「そればっかりはオウル自身で何とかしないと」
「そりゃあ~ないぜ~?フィ~リア~ちゃ~ん」
何処の怪盗の子孫だ、あと物まねのクオリティが妙に高い。
「いやまあね?俺もキズメルの事ガン見してたのは女子的にアウトだとは思うよ?そもそも混浴自体避けるべきだったとも思うよ?でも何故にあそこまで怒ってんの?」
「・・・・黒パレオ、似合ってるとか一言でも言った?」
「・・・・それが原因なの?」
「・・・・さあ?」
「お前も分からないんかい」
フィリアと相談してるが・・・・・・彼には難しいのかも知れない、乙女心は。
「まずそもそも女子とも会話経験がそこまであるわけじゃないしなぁ・・・・」
「そうなの?オウル結構軟派な感じに見えたけど」
「おいおい、自慢じゃないが人の心が分からないことに関しちゃ右に出る者はいない、生粋のボッチだぜ俺は?」
「本当に自慢にならないね・・・・・」
「言いながら悲しくなった・・・・・」
何故かフィリアまでがお通夜の様などんよりした空気に巻き込まれている。
ユウキちゃんとはリアルでも知り合いだった様だがリアルの彼はどんな人柄なのだろう?住んでる場所、年齢、趣味、今までの人生どうやって生きてきたのか・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・私、変わったのかしら・・・・」
「ん?ごめん、聞こえなかった、何て言った?」
「何でも、行きましょう。城主に会うんでしょ?」
一層の迷宮区で助けてくれたとはいえ何故そんな事を考えるのか?ボス戦の後も何故か追いかけようかと考えた。私と彼はこのデスゲームを効率よく攻略するだけの中のはず。
必要ない、そんな情報は。
知らなくていい、彼の自信の事なんて。
思考をそこで打ち切るように早歩きで前を歩くキズメルの隣へ行く。
キズメルに連れてこられたのは城の五階の執務室だった、廊下の絨毯よりも毛足が長いため少し躓きそうになった。窓は全てカーテンで閉ざされているので不自然な暗さが部屋を包んでいる。嫌な感じこそしないものの圧迫感や威圧感の様な物を感じるのは気のせいだろうか・・・・。
「城主ヨフィリス閣下、執務中失礼いたします。急ぎ報告することを先の人族の剣士から聞き、まかりこしました」
「・・・・・・・ここに人族を連れてくるということは信に置ける者なのですね?騎士キズメル?」
磨き上げられた黒壇製の重厚なデスクの向こう側から声が返ってくる、抑揚のない声だった、男女の区別もつかない。
「はい、第一の秘鍵の功に成した者たちです。腕もたちます」
「・・・ふむ、それならば湖の魚の餌にするわけにはいきませんね」
少し笑いを含んだ声でヨフィリス閣下は言う、ボス部屋を連想させる圧迫感に包まれたこの場所で、自分たちより格上のキズメルより強いであろう城主にそんな事を言われると思わず肩に力が入る。
それを見透かしたようにランプの灯りが不自然に揺れ、ヨフィリス閣下も怪しく微笑んだ、気がした______________
「横からすみませんがヨフィリス閣下、それはもう間に合ってますので本題に入らせてはいただけませんか?」
______________にも拘わらず全く緊張してないのか破天荒な白い剣士、オウル君は話を問答無用とばかりにぶった切った。お願い、お願いだから空気読んで!?オウル君!!?
「ほう?間に合ってるとは・・・・・・落ちたのですか?」
何故か会話に乗る閣下、意外とお喋りなのか?いやそれよりも反感買ってないよね?大丈夫な流れよね?コレ?
「はい、道中私は仲間とはしゃぎすぎて船から落とされました」
「それはそれは・・・・・・随分愉快な仲間たちで・・・・・」
うん、ごめんね?同年代で同性のここまで打ち解けた友達はいなかったからはしゃぎすぎて君なら大丈夫だろうと湖に落としたことは本当にごめんね?だから、お願い、空気、読んで!?今そんな雰囲気じゃないから!?キズメル若干血の気が引いてるから!?
しかしむしろその豪胆さ(一昔前の言葉ならKYと言う)が気に入ったのかオウル君が懐から出した、私達の三層での活躍を記したこの城の通行証にも使ったスクロールと引き換えにダークエルフの紋章が刻まれた指輪を貰った。大丈夫だったの?駄目そうな雰囲気だったけど?うるさい心臓を落ち着かせながらオウル君から指輪を受け取る。
「その指輪があれば、今後リュースラの衛兵に咎められることは無いでしょう・・・もっともお前たちが裏切らない限りに於いて、ですが」
貴重な指輪を貰ったというのにさらりとプレッシャーをかけてくる城主、しかしながらオウル君はやはり応えて無い様だった。
「ですか・・・・それでヨフィリス閣下、本題なのですが」
そこから先の話は私も聞き覚えが無い話だった、恐らくオウル君とシノのんが洞窟の中で見た物だろう。曰く人とフォールンエルフが手を組み船を造って攻め込もうとしている、恐らく三日後に、此処へ。
「成程・・・・どうやら本格的にフォレストエルフと手を組んだようですね、ノルツァーは・・・・船の数は分かりますか?」
船の材料をどれだけ見たのかは分からないがオウル君は顎に手を当てて少し考えた後答えた。
「最低でも・・・十人乗りが十隻」
「ふむ、此処の船は十人乗りが八隻、恐らく数では負けるでしょうね・・・」
デスクを指でコツコツと叩きながらヨフィリス閣下が答える、果たしてこれだけの短時間でそこまでの船を造れるのか懐疑的ではあるが、そこはゲームなのでツッコんではいけないところなのだろう。
その後秘鍵の事を聞いてみたりしたが、実のエルフでさえ「伝承で守ってるだけであり、どういうものなのかは分からない」とのことで何だかモヤモヤしたものを抱えたまま私達はキズメルとまた戦う事になったのだ。
「まぁ、人族が快く思われてないとは言えだ。城主から許可は貰ったからしばらくはここでゆっくりしよう」
そう言いながらボスドロップのコートを脱ぎ、剣をストレージに入れてオウル君はソファーの上で横になった。もう彼はそこを寝床に決めたらしい。
「三日間何しよう?」
「各自自由行動で、閣下からクエスト渡されたら俺が知らせるから」
「船は?」
「あーーー、取り敢えず使う時はメールを全員に送ってくれ」
ユウキとフィリアの疑問を解消する、が。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
やはりシノンとはどこかまだ気まずい様だ、二人とも人に素直に謝れるような性格では無いのだろう。かく言う私もだが、非を認めることは出来てもそれを表に出すのは何故だか憚れるのだ。
特にオウル君は自ら人の心に疎いと言っていたし・・・・・。
いつまでも続くのだろう、この気まずい空間は。出来れば今日中に改称して欲しいのだが・・・・とか何とか考えてるとメールが来た、差出人は、
『from:ユウキ:二人だけ残して私達は出て聞かない?フィリアにはもう言ってあるから』
顔は動かさずにユウキちゃんの方を見ると視線が合った、フィリアもこちらを見ている。確かにこのまま此処に居ても何も始まらなさそうな気がする・・・・よし。
「じゃあ、私ちょっとレベリングしてくるね」
「あ、じゃあ、ボクも。フィリアは?」
「わかった、一緒に行く」
「え?じゃあ俺も」
「「「来ないで」」」
「かつてない程強い拒絶!?」
いや、あなたが来たら話が始まらないでしょう!?なんでシノンほっといてレベリングしようとしてるわけ?どうやら人の心が分からないというのは結構本当らしい。こちらの事を察したのかシノンは私に向けてちょっとだけ首を傾けた、多分謝罪の意だろう。
なんでや!と言わんばかりに驚愕しているオウル君と何を話そうか全力で頭を回しているであろうシノンを置いて私達は客間を出た、さてここからどうしよう?本当にレベリングに行くのは何か違うし・・・・。
「大丈夫!ボクに考えがあるよ!」
元気よく発案するがユウキちゃんもオウル君と同じく結構はっちゃけるからなぁ・・・・少し不安な気がしないでもない。
「窓は閉め切ってるとシステム的に聞こえないけど・・・・さっきカーテンを閉めた状態で窓を少し開けておいたんだ」
「何だかユウキの方が盗賊染みてない?」
確かに抜け目のなさではオウル君より上かも知れない、ここは三階、裏へと回ってよじ登れば盗ty・・・・兎も角中の様子は伺えるだろう。
「問題はあの二人が索敵持ちだから、ちょっとしたことで気づかれかねないんだよね」
「オウルも意味不明な勘の良さがあるし・・・・」
「話してれば気が散ってるから気づかれにくいとは思うけど・・・・」
階段を降り、廊下を歩きながら問題点を話す。
聞いた話ではアルゴさんのガイドブックよりも事細かに書かれた、悪く言えば要らなさそうな情報まで乗ってる辞書の様なオウル君手製のガイドブックを熟読したシノン、電子の世界で原理が未だに不明な勘の良さを発揮するらしいオウル君・・・・何だろう今までで一番難易度が高いのではなかろうか。
「私が隠蔽発動させるから、二人は動いちゃだめだよ」
「立つだけなら大丈夫だけど・・・・あんまり動けないね、コレ」
まるで忍者の様に城壁をよじ登り、出っ張りに足を掛けてどうにか客間の裏側に回り込んだ。良かった、気づかれていないのか窓は開いている。
「まぁ・・・・・いうか・・・・すまん・・・な」
「こっち・・・・めん・・・・さい」
もう、と言うべきか。それともやっと、と言うべきか話してるようだ。
「・・・・今更だけど、私達凄く悪いことしてるんじゃ・・・」
「さぁ、盛り上がってまいりました」
ユウキちゃん?あなたも後で謝りに行きましょうね?
とか何とか言いつつ私も共犯者なのだから笑えない、距離があるのか上手く聞きとれないが恐らくまだ話し始めたばかりだろう。
「わた・・・・・怒りっぽい・・・・かしから」
「かく言う・・・・・俺・・・・空気・・・・めてないって・・・・」
当たり障りない会話が続いている、これならもう心配ないだろうが、
「ねぇ、もういいんじゃない?」
「まだ、まだもうちょっとだけ!オウルがフラグをどうするかボクは見届けないといけないんだ!」
「ユウキェ・・・・」
フィリアが不思議な発音で呆れ、ユウキちゃんが頑なに続けようとする、いやまぁ、気持ちはわかるのだが・・・・。
「その言い方だとやっぱりオウル君とはリアルで関係があるのね?」
「うん、オウルはよくリアルでもボッチだったよ」
「オウルェ・・・・」
いやだからその発音どうやってるの?そしてリアル事情をあんまり話しちゃいけないのでは?
「でもねぇ・・・・これからの事を考えるとそうも言ってられないかも知れないんだよね」
「? どういう事なの?」
オウル君の事を知っておいた方が良いことがこの先SAOで必要になる様な言い方、というかそれ以外の解釈が出来ない。
「多分、ボク達はこの世界に年単位で過ごす事になるよね?」
「それがどうしたの?」
いや、『それが』で済ましていい程、軽い事では無いのだが。
「ゲームを始める前のボク達と、終えた後のボク達・・・・一切変わってないって言える?」
「・・・・私は_______」
「変わるつもりは無い?無理だよ、老年なら未だしもボク達程多感な年齢で死線を何度もくぐり抜ける・・・・賭けてもいいよ、絶対別人と言っていい程変わるよ」
「・・・・・・・」
普段の態度からは考えられない程真剣な顔で話すユウキちゃん、はっきり言って意外である。彼女がそんな事を考えていたなんて・・・・・。
「でもそれがいったいどういう関係が?」
「多分近い内、またオウルはボク等から離れようとする」
「!」
「オウルがボッチな理由って一人が気楽って性格もあるけど、それ以上にPOHとか言うPKをボク達に会わせる気もないと思う。一人で全部こなそうとするよ、絶対」
「オウルの事よく知ってるんだね・・・・」
ユウキちゃんの言う通りだ、出会って間もない私も彼が進み好んで私達を殺人鬼に会わせるとは考えにくい。
「それにね、何となく予感がするんだ、必然的な。ボク達はこのSAOを通して切っても切れない縁を結ぶんだって・・・・だから一人にさせちゃダメだよ、絶対」
「ユウキ・・・・」
「ユウキちゃん・・・・」
・・・・・・切っても切れない縁、そんな物私にはあるのだろうか?
家族でさえ碌に集まることは無く、世間一般的なクリスマスや大晦日などの行事も私の家では関係なかった。あると言えば家付き合いの挨拶位の物、いやそもそもだ、母の手料理を最後に食べたのは何時だったか?
「・・・・・・・・・切っても切れない、縁」
はっきり言ってリアルに帰ったら両親が離婚していても私は驚かない、冷え切ってる、わけではないが一緒にいる必要性を感じない。
血が繋がって、書類上は夫婦、それだけあれば十分、そんな風に子供の頃から思えた。
もしかすると、そういう家族愛もあるのかも知れない。
ずっと続く愛は家族の中でも在りえないのかもしれない。
強すぎる愛は忌避され所有欲になりかねないのかもしれない。
今でも思う、
子供の頃から思う、
ずっと、思っていた。
寒い、切ない、寂しい、そんな虚しさを。
上手く言葉で表現できない程幼い頃から。
塾の窓で、サッカーを楽しんでいる同年代の子共達を、
通学路で、泥だらけになる程遊び夕日を背に帰る兄妹を、
車の中で、日曜日だからか何処かの外食に出かける家族を、
独りで、勉強道具片手に、羨ましそうに、でも表情は冷めきって、見てたんだ。
ずっと、ずっと、ずっと、独りで・・・・・・・・・・。
「アスナ・・・・?」
「・・・・!なっ何でも無い何でも無い!」
呆然としていたのを気になったのだろう、フィリアがこちらを覗き込んできた。ここは一応圏外なのだから考え込むのは褒められた行いではない。
「気を付けてね、死にはしないだろうけどここから落ちたらかなりHP持ってかれるよ」
「う、うんごめん。分かってる」
「・・・・・・まぁ、兎も角だよ。オウルの勝手な行動を制限するために少しでも情報が知りたいんだ、何故だか分からないけどシノンにはある程度心を許してる気がするから」
ユウキちゃんがこちらを少しを訝しむ様な視線を寄こした後、この行動の目的を言った。デバガメしたかっただけじゃないんだ・・・・・いや、ちょっと待った。
「シノンとはリアルでの交流は無いの?」
「実の所、ボクはSAOでシノンと出会ったのが初めてで、シノンとオウルにリアルでどういった交流があったのかは知らないんだ」
「ご近所さんとかじゃないの?」
「ボクとオウルはそんな感じだけど・・・・シノンは見たことないから、まず違うね」
フィリアの疑問も一蹴、では彼と彼女は何処で出会ったのだろう?しかもあの感じはただの知人とか友人を超えてると思う、少なくともシノンの彼への信頼はそれ位簡単に超えているだろう。
「ボクも良く知らないんだよね、それに聞きずらいし・・・・」
「何で?」
「その・・・・トラウマ的な・・・・」
突如として言い淀む、トラウマ?彼の?のんべんだらりとした風来坊、といったイメージの彼が?
「あれで結構繊細で激情型なんだよ、普段はそのイメージで間違って無いけど」
「怒ると手が付けられないって感じ?」
「うん、まぁ、滅多な事じゃキレないけどね?」
「うん、まぁ、でもこれはキレてもいいよね?」
・・・・・・・・・・・・何故だろう、今、一人分、声が多かった様な・・・・。
「やあ!こんにちは!そんな所で何をしているんだい?」
「こんにちは!いやぁ、男女が部屋で二人きりになったらやることは自ずと決まってるでしょ?」
気持ち悪い程、ニッコリと楽し気な会話をするユウキちゃんとオウル君、しかし笑ってるのに笑ってない、特にオウル君は顔面にビシバシと青筋が走っている。SAOは感情がオーバーになりやすいと聞いていたが・・・・成程、これが修羅めいた笑顔か、怖い。
「首謀者は名乗り出ろ、何、OHANASIするだけだ」
「フィリアです!!!」
「ちょっ!えぇ!?」
首謀者がいきなり仲間を売った、ちょっとぉ!?ユウキちゃん!!?
「よし、ユウキ。お前だな?ちょっと城の裏まで来い、腕が鈍ってないか確かめてやる」
「何でや!何で一瞬でバレたんや!」
アホ毛ごと頭を鷲掴みされ、部屋の中に引き込まれる。流行りそうね、その関西弁。
「だってお前以外ありえないし」
「それでもボクはやってない!!」
「お前ら全員のメールログを確認しても同じことが言えるかな?」
「お巡りさん、ボクがやりました」
変わり身というか、手のひら返しが速い。急に真顔になり謝罪し始めたユウキちゃんを連れてオウル君は部屋を出ていく、対人戦の訓練かなぁ、ユウキちゃんの目が凄く死んでいた。そんなにキツイのだろうか。
「何してるのよ、あなた達は・・・・」
「いやー、悪いとは思ったんだけど気になっちゃって・・・・」
部屋に入り込むとシノンがこちらを呆れたように見ていた、いやはや・・・・恥ずかしい。
「アスナはそんな事をする人には見えなかったんだけど、この短期間で変わったわね」
「・・・・・」
『別人と言っていい程変わる』
脳内でユウキちゃんの言葉がリフレインする。もう、変わっているのだろうか?私は?だとしたらこれからも変わっていき、最後はどうなるのだろう?現実に帰った時どうなっているのだろう?
「・・・・何悩んでるか知らないけど、アスナは難しく考えすぎだと思うわよ」
「・・・・そうかな?」
「そうよ、その辺はオウルを見習ったら?」
「彼は彼で色々考えてそうだけどね」
「それならもう少し、その、こっちの事とか察しして欲しいんだけど・・・・」
・・・・何の事だろう?ついリアルでの彼との関係を聞きたくなるが、自重する。聞けばきっとシノンは困るだろうし、そこまでして聞きたいわけではない。
その後は何気ない会話をし、そして城の裏でコッテリ絞られたであろうユウキちゃんを片手にオウル君が戻ってきた。彼もまた変わっているのだろうか、少なくとも、人を殺めた以上同じでは居られないだろうが・・・・・。
私はこのSAOで何を見て、感じ、どう変わるのか、今はまだ分からない。
更新遅れてすみません、色々行事が重なってまとまった時間が取れ無かったためにこんなに空きました。
これからも不定期更新になるかもしれません。
ディープストレンジャー二ー面白い(ボソ)
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第二十話 死ぬる時 何選ぶ?
作者「スランプから回復しました!」
オウル「いや、お前ココ出んの?」
不定期ですが、これからも更新していきます。
待ってた方々ありがとうございます。久々で調子はあまり出ませんが更新。
十二月二十三日、アインクラッド第四層、ヨフェル城にて。
私達が城主に会わせてもらってから三日後、つまり今日、ここにフォールンエルフなる者達と手を組んだフォレストエルフがここに攻め入ってくる。
はっきり言ってボス戦の時よりも緊張する、城と中の住人を守るというプレッシャーがあるからだろう。手に握っている剣にも思わず力が入る。
「遂にこの時が来たね、オウル」
「あぁ、フィリアとシノンとアスナは桟橋で敵を城に近づけないくれ」
曰く、取り回しが片手剣より楽だろうから、とのことだ。
確かにただでさえ広いとは言えない桟橋でダークエルフ達と一緒に乱戦するのだからその辺は気を付けておいた方が良いだろう、プレイヤーならフレンドリーファイア(オウル君に教えてもらった)は起こらない様にシステムが働いてるらしいが、今から共闘するのは飽く迄もNPC、敵認定されれば私達はダークエルフとフォレストエルフとフォールンエルフを相手にしなければならない。
そうなれば『詰み』だ。
「で、あなたとユウキとキズメルがティルネル号で、直接船に仕掛けるのね?」
「一撃の重さなら俺とユウキが上だからな、水に叩き落とせばわざわざHPをゼロにしなくてもいい、お前達も体術スキルを使って早めに片付けろ」
確かに、そちらの方が効率は良いだろう。
私も別に皆殺しがしたいわけではない・・・・だが。
「・・・・オウル君」
「ん、何だ」
何故か、私の方を見ずに返事をする。
此方が何を考えているか分かっているのだろうか。
「本当に、危ない時は・・・・私達に言ってね」
「・・・・・・わかってるよ」
一層の時、イルファング・ザ・コボルトロードを相手にしていた為、彼一人にコペル君の対処を任せた。その結果彼は望まずして、その手を血に染めることになった。
あれだけ人目に付いた状況だ、オウル君に限らず誰でも殺そうとしただろう、『誰かがしなくてはならなかった』、そしてやったとしても『誰も悪くない』、要するに正当防衛、理論だけなら、しかし倫理は?
ディアベルさんも、キバオウさんも、エギルさんもきっと分かってくれている・・・・しかし、未だに彼は心のどこかで引きずっているのだろう・・・・それが時折顔を出し、人型NPCを殺める事を躊躇わせる。
根拠は全くないのだが、いつの日かそれが命取りになるのでは・・・・。
「それよりもオウル、そろそろ来そうだよ」
「そうか、船に乗り込んでおけ、キズメルを呼んでくる」
ユウキちゃん、しっかり手綱を握ってね。
少なくとも、今の私には彼を止めるだけの力や理解は無い。
「あなたーの船に狙いをきーめて!!!!」
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!超☆エキサイティンッ!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうしてこうなったの・・・・?」
心配した私も馬鹿だったかもしれないが、きっと彼の方が馬鹿だろう。
そう思いたい、後ろで二人の悪ノリについていけないキズメルを見るとそう思わずに居られない。あれでちゃんとHPをゼロにせずにフォレストエルフを退場させているのだからたちが悪いというか、やることはやってるというか・・・・。
先程からあの調子でティルネル号を巧みに操り相手の粗雑な船を沈めている。こっちの船の方が小さいため小回りが利き、何よりキズメルとユウキちゃんの強さが尋常ではない。
「エ〇ダァァァァァァァァ!!」と白髪の剣士が、
「イ〇ァァァァァァァァァ!!」と可愛らしい剣士が、
「二人とも、さっきから何だ、その掛け声は・・・・?」とエルフの騎士が、
・・・・今のオウル君とユウキちゃんは、昔たまたま再放送でやっていた核が落ちた世界で一子伝承の暗殺拳を極めた主人公が出て来るアニメの敵キャラの様にヒャッハー!している。
モヒカンではないけど。
「汚物は消毒だー!!」
ユウキちゃんの教育に悪いと思わないのだろうか?
「汚物じゃなくても消毒だー!」
もう手遅れのようだった。
こればかりは彼の責任ではないが拍車をかけたのは事実だろう。
そんなふざけつつも、迅速かつ着実に敵を沈めているが・・・・
「でも時間の問題でしょうね・・・」
「あの三人の活躍以上に敵が多すぎるよ!!」
そう、如何せん頭数が違い過ぎる。
エルフ同士は実力が拮抗しているが、数はフォレスト側が圧倒的。そしてその差は私達が抑えているのだが、桟橋では一度に戦える数が限られているし、ダークエルフとの連携も、キズメル程上手くはいかない。
水上戦もかなりの数をこなしてきたが、やはり限界がある。
ティルネル号の衝角にもクーリングタイムがあり、連発は出来ない。
速さがあっても広いカルデラ湖、敵も三々五々にやってくるのでどうしても打ち漏らしが出てくる。
「こっちの兵力は限られていて、敵はまだこっちの倍は居る、それにティルネル号だって何時までもつか・・・!」
正面から斬りかかってきたエルフの攻撃を避けて、水平蹴りで水面へ叩き落とす。
真綿で首を絞められている様な焦燥感を感じながら、ずっと戦い続けているが・・・・打開策は無いのだろうか。
「オウル君!何か策とかないの!?」
「ぶっちゃけ無いな!武術とかは兎も角、軍略とか戦術とかは門外漢だ!」
まぁ、それはそうだろう。
何処の世界に武術だけなら未だしも、軍略にも明るい青年が居るのだ、いや居るかもしれないが、実際に戦う事を想定してる人間はそう居ないだろう。
「エルフの指揮官は!?『引っ込んでろ!』って偉そうに言ってた人!」
「開始五分で沈められた!」
「早いよ!?あの如何にも戦い慣れてそうな風貌はなんだったの!?」
「指揮官は置いて来た、ハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうにも無かったからな・・・」
「オウルくーん?そろそろ危機感覚えようねー?私達今、押されかけてるんだよー?」
「ヤ無茶しやがって・・・」
「ユウキチャンモ、ダヨ?」
役割は十全にこなしていても、限度と言うものがある。状況を考えなさい。
何故か二人が顔面蒼白になり、キズメルが今まで見たことが無い顔をしている・・・・心なしか、私に代わって戦ってる二人も急に攻勢が増した。何で何だろう(素)?
「アッ、ハイ、そのですね、私が考えるに、これはちゃんとした指揮官が居ないから押されてるんだと思うんです」
ちゃんとした指揮官が居ない?最初の偉そうな人じゃなくて?
「確かに現実では軍師と城主は別だろうけど、ゲームとかでは案外兼任されてたりすることがある・・・・んですよ」
何故か所々敬語になりながらも説明するオウル君、と言うことは、この状況を打開できる人が居るとすれば、
「閣下を連れてこればいいの!?」
「可能性があるとしたら、もうそれ位しか思いつかない!」
叫びながら、オウル君が背後から斬りかかってきたエルフの剣を受け止め、ユウキちゃんが蹴落とす。
この調子なら、水上戦もまだ余裕があるだろう。
「ごめん二人とも!五分持たせてくれる?」
「五分でも!!」
上段から振り落とされる剣を、蹴りで反らしながらシノンが
「十分でも余裕だよ!」
態と鎧の部分にソードスキルを当てて、ノックバックで桟橋から落とすフィリアちゃん。
これならもう少しは持つだろう。
つい数日にキズメルに案内された道を全力疾走しながら、考える。
確かキズメルから聞いた限りでは、ヨフィリス閣下は奇病のせいで昼間でも真っ暗な執務室から出ない。
「出てきてくれるのかな・・・?」
今は昼間、日の光を浴びたらどうなるのかは分からないが、このままではフォレストエルフを抑えられない。私は執務室の扉の前で一瞬だけ躊躇い、叫ぶ。
「ヨフィリス閣下!失礼します!」
「・・・入りなさい」
少しの間を置いて、扉の向こう側から声が返ってきた。
足を踏み入れた先はやはり暗闇だった、足元と先のランプと、その近くに佇む人影しか見えない。
「どうやら劣勢のようですね」
まるで他人事のような言い方だった、此処はこの人の城で、今まさに自分の騎士達が戦っているのに。
「そんな・・・そんな言い方は無いんじゃないですか!?確かに私達が力不足なせいで、こちらは旗艦を含め半分以上沈められましたが・・・!」
少し、いやかなり失礼な物言いだった。冷静さを欠いているのは百も承知だったが、キズメル達の事を考えているような物言いには、どうしても聞こえない。
「別に責めているわけではありませんよ?実際あなた達は良くやってくれました、ここに敵が来る前に仲間と共に脱出しなさい、フォレストエルフも私達に背を見せるような真似はしないでしょう」
飽く迄、ヨフィリス閣下は平静を崩さなかった。何と言えばいいのだろうか、まるで・・・
「・・・諦めているのですか?」
「・・・・少し違いますね、受け入れているのです、聖大樹の導きを、運命を。永遠に勝ち続けることなど不可能、いつかは敗れる時が来るものです。今日この城が陥ち、私が剣に斃れるというなら、我らリュースラの民は受け入れるだけです」
いつかは敗れる/勝ち目何て無いから、
いつかは斃れる/生きる目的も曖昧で、
いつかは・・・・死ぬ/惰性のように、ここに至った私の人生。
それは、少し前まで私の頭の中を埋め尽くしていた言葉。
投げやりだった、ヤケクソだった、勉強ばかりだったが悪くはない人生だったのかも知れない、でも満足とは口が裂けても言えなかった、今も。
だから、別に、此処から逃げ出せば死にはしないだろう。
禍根は残るだろうが、オウル君さえ説得すれば皆で逃げ出せるはずだ。
そしてその禍根も、時間が経てば忘れられるだろう。この世界にはプレイヤー以外の命は存在しないのだから。
逃げればいい。
忘れればいい。
誰も責めない。
誰も死にたくはない―――――――
「ふざけないで!!!」
――――――――――そんな風に生きれなかったから!
「まだ手があるのに!まだ死んだと決まった訳じゃないのに!」
私はずっと悩んでいたんだ!!足掻いていたんだ!現実でも!仮想でも!
「戦ってください!運命というなら、尚更!せめて一声、騎士達に声を掛けてあげてください!!」
私には、騎士としての矜持も、城主としての矜持も、エルフとしての矜持も分からない。
だからこれは独り善がりだ、私の独善だ。
私もついこの間まで、似たようなことを考えていた、だが今は少し違う。
「死ぬかもしれません、勝てないかもしれません、何も成せないかもしれません」
「でも!城の皆が戦っているのに・・・・どうしてあなただけ勝手に諦めているんですか!?」
足掻く、何処までも、生きている限り、少なくとも――――――――あの、よくおちょける剣士はそうするだろう。
「・・・・下々の者が諦めない限り、上に立つ者も諦めるべきではないと?」
「少なくとも、貴方が出れば勝機はあるかと」
流石に、少し言い過ぎかもしれないがオウル君に任された以上、私は成すべきを成すだけだ。
「一つ、答えなさい、人族の・・・いや、アスナ」
「!・・・何ですか?」
「何故、お前たちはカレス・オーの民でなく、私達リュースラの民の味方をするのですか?」
簡単な質問だった、だからこそ簡単に答えられるものでは無かった。
この場合のカレス・オーとはフォレストエルフの事だろう、私達(シノンとユウキ)は途中から参加したため、何故ダークエルフに味方しているのかは知らない。
だが、この質問は答えられなければきっと、閣下の力は借りる事は出来ないのだろう。
「・・・・始めは、成り行きでした。ですがキズメルと一緒に冒険を続けて、私は・・・」
上に立つ者に感情論は通じない、そんな理屈は分かっていたが、塞き止めていた何か外れたかのように自然とその言葉が出た。
「私は、好きになったんです。キズメルとこのダークエルフの国が、私達人間が受け入れられないのだとしても、守りたい。彼女が愛したその国を」
「―――――・・・・そうですか」
何を思ったのかは勿論分からない、だが、姿も見えないのに何故か、感慨深いものを感じているかのようだった。
「その言葉、真実と認めましょう。ならば私も真実を持って応えましょう・・・・あなたが聞いた病の話―――――」
椅子から立ち上がり、此方の横に回り込んでくる。仄かな森の香りが漂よい、
「―――――――すみませんね、あれ、嘘です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
笑いを含みながら言う。かなり間の抜けた声で返してしまった。
オウル君とのやり取りと言い、さっきの雰囲気と言い、とてもではないがNPCとは思えない。何故か嵌められた気がする。
「ついてきなさい」
言いながらヨフィリス閣下は北側の壁の何かをガコンと動かし、暗闇に包まれていた部屋を明りが差し込む。どうやら外壁が開く機構があったらしい、風が強く吹き込んでくる。
「先に行ってますよ」
「えッ!?ちょ、ここ五階!?」
言うや否や、階段状に五十センチ程出ている窓庇を跳びながら降りていく。勿論手すりの類は無い、高さは十数メートル。何かボス戦でも似たような事、強要された気がするなぁ・・・・!
ヘラヘラ笑いながらコチラにサムズアップする梟を幻視しながら、後を付いて行く。
以外と足元はしっかりしているのでボス戦の時の八艘跳びよりは難易度は低い、もうしたくは無いが。
少し遅れて、地面にたどり着く。改めてヨフィリス閣下を姿を見てみると貴族らしい格好だった、モールとボタンがついたロココ調のフロックコートにベスト、腰に細剣があるが、戦いに向いているとは思えないが・・・・・よく見ると、中性的で端正な顔には大きな切り傷が走っていて隻眼になっていた。
「この顔の傷を隠すため長い間、暗闇に身を潜めていましたが・・・・よもや、最初に見せる相手が人族とは」
「すっ、すみません、そんなつもりじゃ・・・」
「いいのです、私は恥を隠そうとするあまり、己の本分を見失っていたのかもしれません。では、行きましょうか。私の兵士達とお前の友人達が戦っている場所へ」
「開門!」と叫び、城門が開く。桟橋では敵が既に上陸しており、敵の副官、指揮官含め十数人程。
此方のエルフ兵士は五人しか残っていない、オウル君達は大して消耗していない様だが。
「まともに殴り合ったら、不殺とか温い事言ってられないな・・・・コレは」
視線の先は湖の最終防衛ライン、もう味方の船は小型が三隻しか残っていない。それに対して相手の船は十人乗りが四隻、アレも上陸すれば五倍近いの兵力差が生まれる。
剣を強く握りなおしながらオウル君が呟く、何を考えているか大体予想がつく。
ヨフィリス閣下を連れ出せたはいいが、これは流石に、と思ったのも束の間。
「リュースラの兵士たちよ!私はいまこそ長きに渡る不在を詫び、そして希う!」
鮮烈な刃鳴りはヨフィリス閣下が細剣を抜剣した音だろう、そのまま演説は続く。
「ここで果てるは運命に非ず!友のため、家族のため、国の未来のため!今ひとたび立ち上がり、共に戦ってくれ!」
刹那、静寂が戦場を包んだ。
そしてフロア全体を揺るがすほどの雄叫びが爆発した、見れば湖に落ちた兵士も拳を突き上げている。
「アスナ・・・!でかした!」
言いながらオウル君は、前方の敵兵士に水平二連斬り《ホリゾンタル・アーク》を放つ。
いつもの倍の剣戟と共に兵士を三人吹っ飛ばした。いくら何でも強すぎると思えば、視界の端に様々なバフのアイコンが出ている。
「――――ヨフィリス閣下凄すぎない?」
士気が上がるとかもう、そういう次元ではない。ダークエルフもフォレストエルフを押し返しつつある。これなら――――!
「恐れるな!今の今まで引きこもっていた城主が出張った所で、我らの優位は揺るがん!!」
叫んだのは後方に居たフォレストエルフの指揮官だった、するとオウル君に叩き落とされた三人に代わって、新たな兵士が六人同じソードスキルを放とうとする、構えからして《バーチカル》。
単発と言えど、単純計算六倍。いくらなんでもはじき返すのは不可能だろう、逃げて!と叫ぼうと思ったが、どうやらまだ閣下のターンは終わっていなかったらしい。
「左に避けなさい!」
「ッ!!」
閣下の指示で桟橋の左端ギリギリまで退避し、一瞬前までオウル君が居た場所を純白の巨大な光の槍が通った。
凄まじい衝撃と共に兵士が人形のように飛ばされ、全員湖に落ちた。
「今の、ソードスキルなの・・・!」
「細剣最上位突進技、《フラッシング・ペネトレイター》・・・・ベータの時でも見たことは無いが・・・」
成程、つまりヨフィリス閣下は士気向上だけではなく、普通に戦っても強すぎると。敵からしてみれば悪夢以外の何物でもない。
「惚けてらんないぞ、アスナ。奴さんはお怒りの様だ」
「ッ!みたいね!」
桟橋に上がっていた敵はオウル君と閣下の活躍により最初の半数以下になった、もう部下には任せていられないと思ったのか指揮官と副官が憤怒の形相でこちらに向かってくる。
「対人戦の心得は?」
「一つ、自分の有利な戦いをすること。一つ、恐れ戦いたり、惑わされないこと。一つ、騙しや引っ掛けは掛かる方が悪い。一つ、見てから反応では遅い、挙動と視線で間合いを把握すること」
「はい上出来、まぁ、お前なら負けんさ。気楽にやれ」
三日間だけだったので、簡単な模擬戦と心得位しか教えてもらってないが大丈夫なのだろうか?
だがここで勝てさえすれば、この戦いは終わるだろう。
それを確信しながら私は剣を抜いた。
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第二十一話 彼の 強み
オウル「段が二つ違えば―――――――」
――――――――この主人公、思った以上にソード・アートしない――――!!
そんな感じで始めます。
何かアスナ、憑き物が落ちたような晴れやかな顔してるな。
ヨフィリス閣下を連れて行くときに何か覚悟でも決まったのだろうか、偉丈夫のエルフ副官相手に全く遅れをとってない。
重武装の《フォレストエルブン・ヘビーウォーリアー》のヒョイヒョイ躱し、少しずつHPを削っている。殺めるのはきっと、嫌だろうから早く加勢しなくては。
「おのれ人族の分際で!」
「人種差別は良くないんじゃない!?」
エルフに対して『人種』と言い方が正しいのかは知らないが。
とぼけた事を言いながら、怒声と共に上段から振り降ろされた剣を、こちらも全力の振り降ろしで答える。
鋭い剣戟が衝撃となって前髪を少し揺らした、様々なバフが掛かって今はステータス以上の威力が出てるはずなのに、全く押し返せない。
今いる層を考えれば、俺のレベルはかなり高いはずなのだが・・・・。
「小僧・・・・貴様は何故、ダークエルフの味方をするのだ・・・?」
「・・・・・」
何故、と来たか・・・・。
勿論ここはクエスト云々ではなく、どんな思惑があってこの戦争に割り込んでいるのか、と言う事だろう。
ぶっちゃければ、「野郎より女の方が気が進んだからです」なのだが、そんな答えを出せば必死に戦っている女性陣から、いよいよ見限られる。
「そもそも、何でお前ら同じエルフで殺しあってんの?人族でもここまで大掛かりな戦争はしてないよ?」
勿論ゲーム内での話だが。第一、コペルを正当防衛とは言え殺した俺が言っていい事じゃないかもしれないし。
「我らカレス・オーの民は古の時代より、ダークエルフと戦い続けてきたのだ!それも全て、この虚空に浮かぶ城を解放せんがため!我らのその尊き使命、貴様なんぞに邪魔はさせん!」
「先祖代々からの報復を、未だに続けてるのか・・・・」
しかしフォールンエルフの暗躍を考えると、先祖の頃から何か仕組まれていた可能性がある。だとすれば、このエルフ達はする必要のない戦争をずっと続けていることになる。
「やるせないな・・・・」
近代の戦争の理由は(宗教関係を除くと)大体、経済・・・・詰まる所『金』だ。
ゲームのシナリオとは言え、彼らの戦いはリアルの戦争を考えれば、十分すぎる程正当性のあるものだろう。金が決して汚いというわけではなく、『先祖のため』、私腹を肥やすためではない。
何もかもゲームと割り切れない俺が軽く止めても良いものか・・・・?
「迷いがあるなら戦場に出るなッ!!」
「うおっと!?」
此方が考えていることを察したのか、鍔迫り合いから急に引き、横から蹴りを放ってくる。
咄嗟に柄で受け止めたが、騎士らしい鎧を纏っているので重量では負けている、無様に尻もちをついてしまった。
そしてそれを見逃す指揮官ではない。
「恨みは無いが覚悟ッ!!」
「――――――――」
此方が尻もちをついて、のしかかるように《バーチカル》を俺の顔面目掛けて放ってくる。
目の前の景色がスローモーションになり、こちらの顔を真っ二つにせんとゆっくり剣が迫ってくるのが分かる。
近くでは目を見開いたアスナとシノンが、遠くでは船に乗ったまま戦っているユウキ達がこちらを凝視している、これが走馬灯と言う奴か?今生の記憶は別に思い出していないが。
だがしかし、これをまともに受ければスタンが入り、続く連続ソードスキルで俺は死ぬだろう。
そんな事を正確に把握し、全神経を集中させている俺の生存本能は成程、中々有能な様だ――――――
「―――――躰道基本技、斜状蹴り」
―――――――まぁ、流石にこれ位では死ぬつもりは無いが。
尻もちをついてしまった状態から左足で相手の右腕から振り降ろされる、前に横から打つ。
ソードスキルはかなりの命中補正があるため、避けるには同じくソードスキルで迎え撃つか、大きく軌道から離れる必要がある。
「なっ!?」
が、流石にこんな無様な格好からソードスキルを放つことも出来なければ、大きく軌道から離れることも出来ない。
なのでその威力と命中補正を逆手に取り、蹴りの反作用で剣から逃げ、隙を可能な限り減らし追撃を牽制する。目の前ギリギリをライトエフェクトを纏った剣が通り過ぎた、危ねぇな!
「猪口才な!!」
ソードスキルの硬直、と言っても単発で恐らくその強さから、スキルで言う《スキル硬直時間短縮》辺りの効果ですぐさま体制を戻すだろう。
「それ実際に言う奴初めて見たわ!!」
だから勢いのまま続けて放つ。
仰向け、と言っても左足のつま先と掌で地面から数センチ浮いている状態から、体を捻じる様に右足の踵で敵のこめかみを狙い打つ。
「がッ!??」
「―――――躰道基本技、半月当て(試合ならこれで勝ったんだろうけどなぁ・・・・)」
残念ながらこれは命がけの戦闘、そしてここは戦場である。
ついでに言うならこれは飽く迄もただの武道の技、スキルではないので大してHPは減らせていない。
「ぐっ・・・咄嗟にしては中々の蹴りだが、蚊に刺された程度だな!」
「―――――言ったな?(こいつ、徒手空拳の方が・・・?)」
さっきの蹴りと言い、鍔迫り合いと言いステータスは同等だが恐らく・・・・素手の方が御しやすい。
確信を得たので俺は足もとに転がっている《ソード・オブ・ディキャピテート》を―――
「くたばr「さっきからやかましいよ、お前」なっ!!」
――――
ウル〇ラマンの八つ裂き光輪の如く回転しながら、俺の剣が指揮官に向かって行く、さしもの指揮官も度肝を抜かれたのかクラウチングスタートの様に伏せる。
「愚かな、剣を捨てるとは―――」
「―――考えなしでするかよ」
立ち上がりきる前に、距離を詰めて剣の間合いの内側に入る。
相手の右手首を掴み、肘の外側に左手を添える、左足の踵を相手に向け、踵を戻す勢いと同時に左手を上げて
「セイヤァッ!!」
「があぁぁぁぁぁ!?!?」
剣を持ったままへし折った、躰道捻体法形技、左右掌底逆手折り。
当然そのまま剣を相手に渡すわけもなく、湖に捨てる。
「おッ・・・のれぇええええええッ!!」
「―――――・・・・」
――――――――――躰道。
明治に生まれた『剣道』『柔道』『合気道』、有名な『空手道』に至っては(諸説あるが)15世紀辺りにできたという。
それに対して『躰道』が確立されたのは1965年程、『昭和中頃』辺りである。
歴史は比較的浅い、そして聞きなれない理由はもう一つ。
例えば、剣道には『剣術』という平安からの歴史が。
例えば、柔道には『柔術』という戦国からの歴史が。
しかし躰道にはそれが
近代から出来たこの武道は独自の『武術』という前身が無く、
その理念も殺傷目的では無く、人間成長を重んじるスポーツ的要素が強い。
しかも足運びも独特で、アクロバティックな三次元的な動きはすぐには覚えられない。
結論を言うと、決して躰道自体が弱いのではなく、『動きが玄人向けな上、現実的に実戦でアクロバティックな動きは使わない』という観点から躰道
「シッ!!!(旋体手刀打ち、盾を払い、首をへし折るつもりで!)」
「ガ・・・ヒュッ・・・!!」
―――――では何故、雨木梟助は躰道を体得したのか? 理由は二つ。
一つ目、仮想世界では肉体の限界が限定的にだが無いこと。
レベル1でもオリンピック選手並みの身体能力が発揮されるこの世界。
それこそHPバーがゼロにならなければ呼吸さえ必須ではないため、スタミナ切れの心配はない。
そのため現実ではあり得ない様な三次元的な動きが出来る。
二つ目、躰道の動き自体仮想世界に合っていると判断したため。
少し先程の武道の歴史に話が戻るが、剣道に至った剣術にせよ、柔道に至った柔術にせよ、地に足を付けて、一対一での実戦を想定したものが多い。
ボクシングの様に打ち合うことは少なく、本質的に『一本=即死』である。
だが、競技としての色合いが強い躰道は少し違う。
判定は『一本』『有効』『技あり』と他の武道と同じだが、
試合でも間合いは計るが体力が続き、有効打が取れない限りずっと技を放ち続ける。
そして空手と違い曲線的な激しい動きが多く、伏せてから攻撃もあり、近代の武道にしては珍しく
「ハァッ!」―――首を狙う飛燕蹴り
痛みも息切れもなく
「フッ!」――――伏せて躱した敵に追撃の旋体膝頭当て
仮想世界ならではの動きに調和し
「ウォ―――」――――距離を取られたら!
円を描くように避け、身体の合理性を生かし連続で攻め続ける。
「ラァァアッ!!」――――顔面に転体宙捻転蹴り!
「ガッハ!?!?」
そのままエルフの指揮官は受け身もまともに取らず湖に落ちた―――――――『一本』である。
――――――――上手くいって良かったぁー!
「原態復帰」、剣道で言う残心をしながら距離を取る。
ユウキやシノンで試してはいたがまさかここで使うとは、しかも丸腰で。
落ちた指揮官は右腕が取れているにも関わらず、こちらを睨みつけながら器用に泳ぎ撤退していく・・・・・・勢いで腕もいだけどプレイヤーと同じように生えてくるのだろうか?
「オウル君終わったなら手伝って!」
「っと、すまんすまん!」
《クイックチェンジ》で捨てた剣を取り戻し、アスナと副官の間に割り込み振り降ろされたハルバードを下から《スラント》で弾き返す。
「スイッチ!」
後ろからアスナが言いながら入れ替わり、鳩尾に《リニアー》を打ち込む。重装兵だけあってそれだけでは落とせなかったので、間髪入れず《ホリゾンタル》で叩き落とす。
「撤退―!撤退―!」
敵のエルフ艦も指揮官と副官が落とされた事により戦いを中断し霧の向こうへと消えていく、シノン達もキズメルも無事だ。
「・・・ふ、勝ったわ、風呂入ってくる(慢心王)」
「フラグ建てないでくれる?」
お前もか、ブルータス。
こちらのボケに合わせて、着実にツッコミスキルを上げつつあるアスナとハイタッチをする。出会いはじめを考えると、かなり社交的になったなぁ。
何かヨフィリス閣下と話し合うことがあるのかアスナはヨフィリス閣下の元へ行った、そして入れ替わる様に、
「やったな!オウル!」
「凄いじゃん!あれ何て武道なの!?」
「躰道っていうんだが・・・・そっか、フィリアには見せて無かったな」
ティルネル号から降りてきたキズメルとフィリアが労いに来た。
俺が船から降りアスナの穴埋めをすると同時に代わりにフィリアが操舵をしてくれたのだ。指揮官や副官クラスとなると戦闘向けではないフィリアでは不安が残ったため。
「勝てたからいいけど、あの武道は拓けた場所ではうまく使えないんじゃなかったの?」
「いやー、あの指揮官とまともに剣で殴り合うと手こずりそうだったから・・・」
「不意を突いてステゴロの方が勝てると思ったわけね」
そういう事だ。シノンのメイン武器は短剣なので相性は良さそうだが・・・・・・。
「まぁ、今はいいか、ところでユウキは?」
「外に出てメールを送るって、ここじゃ外の人とは連絡取れないしね」
そいうやここは隔離マップだったな、迷宮区もいい加減最上階にたどり着いていることだろう。無礼というか、礼儀知らずな話かもしれないが、早いとこ報酬をもらって攻略組に合流しなくては。
「見事な体術でした、オウル」
「ヨフィリス閣下!」
いつの間にかアスナと話し終えたヨフィリス閣下が後ろから来ていた、暗闇では声しかわからなかったが、こうして目の当たりにしても性別が分からない。
エルフはやはり性別が曖昧なのか?と思ったがキズメルの時のことを思い出し、すぐにその疑問を払拭する。シノンさん何故睨んでおられるのです?(すっ呆け)
「貴方方が居なければヨフェル城は無事では済まなかったでしょう・・・・私の心からの謝礼、そしてそなた達の武勇を称える褒賞として、二品持って行きなさい」
見てみれば後ろに馬鹿でかいチェストがあり、どれも現時点では凄まじいレアリティなのだろう。キラキラ輝いている、ついでに言えばフィリアの目もキラキラ輝いている。
うん、いいよ、俺が話しとくから行って来いよ。目で「私もういっていい?」と訴えかけていたのでGOサインを出す。
「ヤッホー!どれも凄そうなのばっかり!どれにしようかな?これにしようかな!?」
「・・・・・・何か、スミマセン」
「いえいえ、命がけで戦ってくれたのですから」
クスクスと微笑みながら、フィリアを眺めている。閣下、お歳お幾つ?
孫を見ている老人の様だ、そんな馬鹿な事を考えながら俺もチェストの品定めを始める、でもやっぱりこういうのはRPGの醍醐味だよね、スキルしかり、アイテムしかり、ポ〇モンしかり。
効率無視して御三家はいつも炎タイプです。
「剣はまだまだいけそうだからなー、コートもこっちのがまだ強いし・・・・ブーツとアクセサリーかな?」
小声でブツブツ呟きながらプロパティを見ていく。袴とかあったら後々欲しいけどアインクラッドにあるんだろうか?
そんな事を考えていると――――――
「おーい、オウルー!」
「んー?ユウキどうした、今ちょっと手が離せないんだけど」
「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
「出来る事なら何も聞きたくない、聞かなかったことにしたい」
それも立派なフラグですよね?そのセリフが出たドラマとか映画、大体後で面倒な事が起こるよね?
「じゃあ独断と偏見で悪いニュースから」
「なんでだよ、せめてそこは良い方からだろ」
「攻略組がボス部屋に特攻しました」
「うん、もうそれで全て片付いたよね?良い方はどうせ迷宮区の最上階まで行ったとかだろ?」
実質悪いニュースだけだった。
ディアベルが先導したのか、キバオウが先走ったか、ジョーとかいう奴が扇動したのか。
それともあの、なんだ、何だっけ?
ディアベルの事信奉してるシミター使い?ハイ〇ル王国いつも救ってる緑色の勇者みたいな名前の奴。
「あ~・・・攻略組が昇り始めたのはどのくらい前だ?」
「一時間位前かな?」
「どうするの、オウル?」
もう選び終えたのか、真新しいブーツを履いてるシノンが問いかけてきた。
いや、どうするって言ってもな、正直褒賞選びに専念したい。そんな意識低い系攻略組オウルこと俺は、取り敢えず今から追いかけた場合のデメリットとメリットを天秤にかける。
「今からじゃあ、ボス部屋に割り込む形になるからな。いいんじゃない?この層位、参加できなくても」
今や、このパーティーの平均レベルは17程、多分フィリア辺りがレベル上がったのでもう少し高いかもしれないが、リーダー格のディアベルやキバオウでも14,5位だと考えれば十分すぎる。
「オウル?天柱の塔の守護獣に挑むのか?」
「正確には俺たちの・・・・同僚?がね。まぁ、もう間に合いそうにないし、足並み乱して事故とか起こったら怖いし、今回は見送るよ」
自惚れではないが、俺が戦おうと言わなければここに居る全員無理に戦いに行きはしないだろう。アスナもやり切った顔しているし、今から効率云々言わないだろう。
しかし閣下とキズメルの顔は翳っている。
「オウルよ、人族の戦士は水の上を走れるのですか?」
「え・・・・いや無理ですよ?少なくとも戦いながらは・・・」
閣下が聞いてくるので一瞬考えるが・・・・アルゴの奴は走っていたがあれは特殊な例だろう、攻略組にアルゴと同じくらいAGI極振りの奴なんていないはずだ。
「そうですか・・・・私達も伝承でしか聞いたことが無いのですが、ここの守護獣はヒッポカンプという怪魚らしく、どれだけ乾いた土地であろうと水を湧かせる能力がある、と」
ヒッポカンプ、確かギリシャ神話の海馬だっけ?ベータの時のボスはヒッポグリフ、ハリー〇ッターで有名になった奴だ。
と言うかだ、その話が本当なら早く行かなくては全員溺死してしまう。正義の味方でもないのに理想を抱いて溺死する。
「マズいな・・・・全員一回褒賞選びは中止!今から迷宮区に昇る!ユウキ、アルゴに―――」
「大丈夫!念のために迷宮区の入口で待機してもらってる!」
「でかした!シノンとアスナは―――」
「「もう選び終わった!」」
早いね、君ら。じゃあ―――――
「行くぞフィリア」
「あと五分!」
寝起きか。
「行こうねフィリアちゃん」
「あと気分!」
どんだけー。
「四十六億年!」
「不老不死かお前は!てか地球もう一個出来るわ!」
ファミレスのおもちゃコーナーに噛り付く子供の如く駄々を捏ねるフィリアを、肩の上に米俵の様に担ぎ、ティルネル号に乗り込む。
わがまま言うんじゃありません!また戻ってくるから!
「慌ただしくてすみません、また戻ってきますので。キズメルもまたな」
が、何と言うか、エルフは顔立ちこそ北欧系な感じだったが、思いやりはジャパニーズ基準だった。
「何を言っている?私も行くさ、勿論」
「what’s???」
思わずメッチャネイティブな感じで聞き返してしまった。そして二次会の飲み屋に同行するかの如し気軽さで、
「あぁ、では私も」
ヨフィリス閣下が言って、数舜間を置いて。
「「「「ええぇぇぇぇーーーーーーー!?!?」」」」
四人の少女の驚愕が湖面を大きく震わした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふ、勝ったわ、風呂入ってくる(正気/zero)。
武道にかなり詳しい方が居たら、少し不自然な所があるかも知れませんが、「まぁ小説だし」と流してください。
好きな休載してた漫画が再開する目途が立ち、今回はこんな感じになりました。
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第二十二話 すくわれぬ先に 封殺
オウル「書き方とか安定しないな」
作者「友人にも言われた」
色々悩みながら書いている、そんな小説。
―――――――実際の所オウルってどれくらい強いんだろう?
シノンこと朝田詩乃は、最近よくそんな事を考えていた。そして今、それが試せる時だった。
時間も相まって辺りは薄暗い、遺跡の大広間のような場所で、目の前では素手で佇む白髪の剣士が一人、一々明言する迄も無くオウルである。
(私は別に武道なんてやったことないけど―――――――)
シノンとユウキは二層以来の、少しだけ懐かしい空気を、
アスナとフィリアは恐らく、生まれて初めての空気を感じていた。
―――――――何故か踏み込めない。
素手である、四対一である、距離は三メートル、しかも囲んでいる。
だが、理性以上の何かが足を踏み出させることを押しとどめていた。
(―――――気圧されるって、こんな感じなのかしらね)
彼女たちが、まだ対人戦において『戦い慣れている』という域に達していないのか。
それとも目の前の青年がそれほど強いのか、シノンにはまだ理解できなかった。
その横顔はいつもと同じ鋭い目つき、しかし伏目で何処を見ているのか、何を考えているのか、まるで見当がつかない。
その時の少女たち四人の考えは全く一緒だった、『いつ仕掛けるか?』
そして最初に仕掛けたのは――――――――
「ッ!!」
「・・・・――――――」
―――――――――オウルの真後ろに立っていたアスナだった。
使う技は《リニアー》、狙いは頭部ではなく胴体、前面であれば鳩尾の部分。首であれば避けられる確率が高い、そして胴体なら躱すとき態勢が崩れ、例え避けても他の三人が追撃する、と。
真後ろからの攻撃、無論死角であり出来る限り音は立てなかった、掛け声などもってのほかである。
何より彼女が使う《リニア―》は攻略組でも視認不可で回避不可であり、見てから反応できるのはユウキだけである、まして背後から――――――
「え――――?」
「―――
(不味い―――――――!)
フォローに入る、とシノンが考えて行動に移す前に、オウルは攻撃を終えていた。
アスナが《体術》スキルを使う前に肘関節の逆方向に左手で力を加えてへし折る、
「確信、と言うより緊張に耐えかねたな?」
「なっ―――――」
そしてアスナが何か言い返す前に、今度は右側に立っていたフィリアが仕掛ける。
(振り降ろしはダメ!突き技の方がカウンターは合わせられないはず!)
ソードスキルの急な加速は本人の技量によっては、消えたようにさえ見える。
ソードスキルは一瞬の溜めがある、振り下ろす技は至近距離からだと押さえられやすい、突きならば、放てば当てられる――――
「―――――甘い」
「ぐッ!??」
―――――はずだった。
彼女が間違えたのは、オウルの技量の高さ。
スキルを使った時点で『どの位の速さで』『どこを通るのか』、オウルは見切り、カウンターで折りたたんでいた右腕で《閃打》を放った。
「ソードスキルは単発でも慣れてる奴は見切るぞ、特に元テスターなんかはな」
「・・・ッ・・・・ハハ―――――」
アスナ 決め手 関節技―――――『有効』
フィリア 決め手 カウンター《閃打》――――『有効』
アスナが仕掛け始めて、僅か五秒。
彼女たちは決して弱くは無かった、レベルもスキルも、仮想世界においての適性でさえ凡人のソレとはかけ離れていた。
しかし、
「まぁ、こうなることはわかってた・・・・だから――――――」
十年近い修練を、仮想世界で覆すならもっと経験か知識か―――――――
「――――――一番の鬼門はお前だよな、ユウキ?」
――――
「―――行くよ?」
「来いよ――――」
全てにおいて高速だった。
ユウキの剣による、斬撃、刺突、拳打、脚撃。
オウルの体術による、逸らし、足運び、牽制、回避。
当然、剣を持っているユウキの方がリーチは有利である、少しづつHPを削られながらオウルは後退していく。
しかし、ソードスキルと急所の攻撃だけは必ず避けるか牽制する。
(速すぎて割り込めない――――――!)
ユウキの攻撃速度にも、オウルの防衛力にも敵わないと悟ったシノンは無理に割り込むよりも、ユウキが隙を作ることを信じ、オウルの死角に入りながら距離を詰める。
そして―――
「ッ!」
「もう逃げられないよ!」
――――その瞬間が来た。
後退し続けた結果、遺跡の壁面にオウルは追い詰められた。ユウキは間髪入れずに腰だめに剣を構え、突貫してくる。
「ゼァッ――――!」
対するオウル、迎え撃つ形でスキルではない水平蹴りでユウキの顔を狙う。
上手くいけばスタンが入り、三秒間の優位が手に入る。
(―――――目を瞑るな退くな!!)
それでもユウキは退かなかった、むしろ足を限界まで伸ばし、蹴りを掻い潜る、すれ違う形で蹴りを避けるのはタイミングが難しいがユウキにははっきりと見えていた。
そして加速の一切を殺さないまま、オウルの軸足を《ホリゾンタル》で斬り落としにかかる―――――
「これで――「まだだッ!まだ終わってない!」!!?」
が、オウルはそのまま蹴りの勢いを殺さず、背面の壁を足の裏で蹴った。勿論スキルでも何でもないただの蹴りで壁を壊せるはずがない、オウルの目的はそこではない。
少し前の戦いと同じように、蹴りの反作用により背中からユウキにのしかかる様に《ホリゾンタル》を回避する。左足の踵が僅かに削られるが、まだHPバーはイエローゾーンには入っていない。
「《スラント》なら足首位は落とせたかもな!」
「がッ――――!?」
すかさずスキル硬直で動けないユウキの後頭部に《閃打》。例え反射速度が上であろうと、対処できない内に攻撃すればそこまでである。
(もっとも、コイツはまだまだ速くなるだろうが―――――)
将来が末恐ろしい、内心独り言ちながら最後の敵を迎え撃つ。
「・・・・・・」
「どうした?来ないのかシノン?」
今頃になって怖じ気づいているわけではない。
だが、オウルの言を信じるならユウキはSAOの頂点に立つかもしれない程の実力を秘めているという。
しかしそれがどうだ?アスナとフィリアを含めて、一分も経たないうちにやられてしまった。
(武道やってた、とかそういう次元じゃないでしょ!これは―――――!)
ボス戦も、PKプレイヤーの対処も、もうコイツ一人でいいのではないか?
そんな馬鹿な考えが浮かぶが、一蹴する。
「別に・・・・あんた攻められてばかりだから、そっちに先手は譲ってあげる」
「・・・・ふーーん」
折角出会えたのだ、折角ここまでついて来たのだ。
意地でも付いて行く。例えコイツがこれから先どれだけ泥にまみれようと。
腰を低くし、半身を逸らし正中線を隠す。手の中の短剣は今までと同じ感触を返してくれるのが頼もしかった。
「――――後悔すんなよ?」
「―――しないわよ、絶対」
その言葉を皮切りに、シノンをなぎ倒さんとオウルが迫ってくる。七、八メートルはあった距離を滑る様に一瞬で詰めた。
(速い―――――でも!)
(真正面からだと、やっぱ反応されるか!)
近接戦闘ではオウルを抜けば、ユウキとアスナが頭一つ飛びぬけてるが。今まで戦い続けてきたシノンも決して捨てたものでは無い。
「だが先手を譲ったのは悪手じゃないか!?」
「―――――ッ!」
今までの戦闘を見るにオウルはカウンターを得意としている、下手に攻めるより迎え撃った方がいいとシノンは考えたが、
(いくらこっちの獲物が短いからって、こうも攻められるの!?)
突きを体ごと滑り込ませて逸らす、振り降ろしは手刀で防ぐ、打撃は相殺する、しかも全て間髪入れず反撃してくるおまけつき。
「容赦なさすぎでしょ!貴方!」
「お前それサバンn・・・PK相手にも言えんの?」
―――――――何と間違えかけた、何と。
そんな事もいう余裕もない程追い詰められる。いくらオウルが素手だと言っても一方的に攻撃され続ければ、イエローゾーンに入るのもそう遠い話ではない。
ソードスキルを一発でも当てれば勝ち目はあるが、その一発が果てしなく遠い、短剣なので懐に入られても然程問題ではないが、ここまで近いとオウルでも無くともソードスキルの使用など見逃さないだろう。
(このままじゃジリ貧!賭けに―――――!)
「ハァッ!!」
「おっと」
鳩尾を狙い、素早く突きを繰り出す。当然の如く避けられるが詰め寄られていた間合いが僅かに広まる。それを見越してシノンは行動に出る。
広まった側からそばから間合いを詰めようとしてくるオウルに牽制で短剣を
「うおっと!?」
動こうとした瞬間に短剣を投げられ、流石のオウルも唯一のアドバンテージである武器を投げ捨てるとは思っていなかったので、上体をのけ反らしながら首を傾けて短剣を躱す。
その間にシノンはメニューウインドウを出し、幾つかのアイテムを取り出す。
それは――――――
「え?ちょ、おま、シノンさん?ソレずるくないっすか?」
「貴方それPK相手に同じこと言えるの?」
―――――――ダメージ毒瓶と麻痺毒瓶と火炎瓶。
「いやソードアートしろよぉおおおおお!!!!!」
「あんたにだけは言われたか無いわよ!!」
「嫌な・・・・事件だったな」
「うん・・・・まさか文字通り飛び火するとは・・・・」
「・・・・」
「一対四のデュエル、それも初撃決着でまさか火炎瓶投げてくるとはな・・・・」
「幸いHPは減らなかったけど、服ちょっと燃えたよ・・・・」
「・・・・・」
少し、本当に少しだけ、大人気なかったと言うか本気になってしまったというか。
兎に角対人戦を想定しての決闘だったにもかかわらず、《調合》で作った虎の子の火炎瓶を使ってまで負けてしまった。
「実戦ならいい判断だけど、パーティーメンバーに飛び火しない様に工夫するのがシノンの課題かな」
五人で焚火を囲み、鉄串で色々な食べ物を焼きながらさっきの模擬戦の反省会を開く。アスナとフィリアはどちらかと言えば料理スキルの話に夢中な様だが。
「まぁ、二人はまず対人戦をもっと経験して自分の戦闘スタイルを確立させる所からだな」
「戦闘スタイルねぇ・・・・あんたは確立できてんの?」
「うーーん・・・・ボチボチ、かな?現実の武道の動き全部がこっちで通用するわけじゃないし、発勁とか」
「あなたホントに日本人?」
「日本人だよ、アレも要は体重と筋力から放つ打撃だからコツ掴めば難しくない、この世界には臓器とか血液とかは再現されてないから使えないけど」
されてたらどうなっていたの?とは聞かなかった、使えるような環境だったら推奨年齢はもう少し上がっているだろう。
「仕方ないじゃない・・・・ここじゃ実際に命を削るんだから、対人戦は・・・・」
「言わんとしてることは分かるけど・・・・」
「逃げるに逃げられない状況とかになったら、嫌でも剣を抜かなくちゃいけないぞ?今のうちに折り合い付けておいた方が良い」
珍しく、オウルにしては辛口な気がした。
よく妥協や逃げ道を用意していたが対人戦に関しては譲る気はない様だ、確かに私達は半ば無理に彼について来たし、彼の行動方針に異を唱える気はないが・・・・・・。
「―――――近い内にまたPOH達が動く、ってこと?」
「・・・・・・詳しいことはアルゴが居る時に話すが、無きにしも非ずだな」
無きにしも非ず?
状況証拠だけで判断はしかねるということだろうか?
オウルの真意を測りかねながら目の前の焚火と軽食を眺める、昼食はあまり食べていないので、夕食前だがついつい目が引き寄せられる。
この世界はダイエットなど考えなくとも良い、おいしい物は食べたいときに食べられる。女子として危ない考えかもしれないが、必要のないダイエット行為で態々神経をすり減らす気にはなれなかった。
「しかしまぁ、アレだな。適当にストレージ漁ったら意外と出てくるもんだな食材」
中々イロモノも多いが、と続けながらオウルが差し出した芋を受け取る。地元でもよく食べたホクホクで黄金色のサツマイモだ。
「イロモノ?このサツマイモのこと?ただの芋にしか見えないけど・・・」
「オウル、これ落としたのって確か――――」
「うん、四層迷宮区の半魚人」
「・・・・・・何で半魚人がサツマイモ持ってんのよ」
「さあ?郷土愛じゃね?」
郷土愛?どういう事だ、まさか鹿児島に魚人伝説でもあったのか?
取り敢えず食べ物に罪は無いので黙々と食べる、うん、普通に美味しい。これが魚人の肉だったら食べ掛けであろうとオウルの口の中に押し込むところだが、その必要は無さそうだ。同じように芋を頬張りながら私の疑問にオウルが答える。
「確かに鹿児島には磯姫っつー妖怪がいるって話があるけど、俺が言いたかったのはアステカ、もっと昔の原産地の方だよ」
「アステカ?中南米の・・・・」
「アステカ神話ではね、人類は三回目か四回目位に魚に変えられてるんだって」
今度はユウキが口いっぱいに芋を頬張りながら答えた。仮想世界では熱さはほぼほぼ感じないため湯気が出る程の芋を口に押し込んでも火傷などしない、がリスの様に頬を膨らまし、湯気を出しながら喋るのはどうなのか。
そう言えばこの二人はリアルでも繋がりがあるのだった、だったら知識を共有していてもおかしくない。
正直ユウキが神話に興味がある正確には見えないし。
「じゃあ、もし肉がドロップしてたらカニバリズム・・・・」
「アスナ深く考えんなよ、ここはゲームだぜ?クール―病とか無いよ」
「それでも嫌なものは嫌よ・・・・」
「じゃあ、なんかいい食材あるの?」
オウルが芋を片手にアスナに尋ねる、そう言われてアスナは黙ってしまう、この芋はB級食材と中々レア物らしい。
いくら料理スキルを鍛えていても料理する食材が無いのでは話にならないのだろう、ていうかフィリアはまだしも、効率主義なのに料理スキルを持っているとは。
「二層の時みたいに変なもの食べさせられちゃたまらないからね」
「ちゃうんや・・・・わざとやないんや・・・・」
「ねぇ、シノン?二層で何があったの?」
項垂れながらエセ関西弁で嘆くオウルを横目にフィリアが尋ねる、あぁ、そういえばフィリアが入ったのは三層からだった。食事を中断し、会話に混ざっていく。
「いつも通りオウルが社会的地位を失いかけたのよ」
「え?俺いつもそんな事してた?」
「四層のボス戦、閣下を連れてきたせいで攻略組ほとんど役立たずで終わったじゃない、結果的に良かったとはいえ皆ドン引きしてたわよ」
そう、今私達がこの五層にいるのはヨフィリス閣下が無双してくれたからに他ならない。ボスが水を出せば水面を走り切り刻み、水が引けば神速の踏み込みで貫き、最終的にはアスナにLAボーナスを譲った。
攻略組はもう何が何やらと混乱していた、ついでに活躍の場を全て掻っ攫った原因はオウルにあるとされた。
「・・・・・・・」
「・・・・あなたが悪くないことは知ってるから、何か言ったら」
「良かれと思って!」
「アレ?何か全部確信犯でやってる気がしてきたぞ・・・・」
かつてない程オウルが目をキラキラさせて、ユウキが訝しんでいる。
今更だけどオウルもキャラ安定しなさすぎではないか?
「それよりも、芋もう無いのか?まだ食い足りないんだけど・・・・」
「うーん・・・・駄目だね、城ではずっと食堂で食べてたから補給とかしてないよ」
ストレージを弄りながらフィリアが答えた通り、私達は防衛戦の後すぐにボス戦に突入したのでほとんどアイテムが無い。これでも閣下が代わりに戦ってくれたから消耗は少ない方なのだが。
「ねぇ、オウル君?そろそろ主街区に向かわない?圏外の村とかじゃ碌に補給も出来ないよ」
「そうだなぁ・・・・食い足りないけど、そろそろ行くか」
言いながら立ち上がり、焚火を散らそうとすると――――――
「あ、待った。いい食材が一つあったよ」
「ダニィ!?でかしたユウキ!」
―――ユウキが待ったをかけた。そしてストレージを素早く操り出したのは、
「はい、召し上がれ♡」
「―――――――え?」
三十センチはある白い芋虫だった。
「―――ッ!?!?!?」
「ちょ!ちょっと待って!?イヤホントちょっと待って!??」
アスナは無言で引きつり、フィリアは待ってばかり連呼して全く要領得ない。
よく見たらうねうねしている、生きてる、めっちゃ生きてる。私はどちらかと言えば田舎の方に住んでいた為、女子にしては虫などは慣れている方だと思うが、正直これはキツイ。無言で抜剣し、距離を取る。
「ユウキ!?あんたいつそんなの手に入れたの!?」
「二層で蜂狩りした時の戦利品」
「あー、ありましたねぇそんな懐かしい日常!!じゃあハチノコかよ、それ!?」
未だにうねり続ける恐らく《ウインド・ワプス》の幼虫。
え?じゃあ何?今の今までユウキはあれをストレージの中に突っ込んで行動していたの?オウルばかりに目が行っていたが、ユウキもユウキでぶっ飛んでいる、いや才能とか別で。
そしてユウキは模擬戦の報復と言わんばかりにズイッとオウルにハチノコを差し出す。
「いや~ユウキさん折角ですが、やっぱり辞退させて・・・・ちょ、おい、やめろよ~近づけんなよ~、おい、ホント、やめッ―――HA☆NA☆SE!!」
退くオウルより早く詰め寄り、馬乗りになってオウルの口に近づける。
そのまま無駄の無い 無駄に洗練された 無駄な攻防が繰り広げられる。
「ダイジョーブ、毒はないしA級食材だよ?」
「ビジュアル的に無理!!」
「ドロップ率1パーセント以下のレア物だよ?」
「お前が食えよ!?」
「女性として無理かなーって」
「ほざけ!貧にゅ――――モゴゴッガ!?!?」
・・・・・・・・・・・・取り敢えず、私達が出発したのはもう少し後だった。
「―――――――伊勢海老だったわ」
「――――――――マジで!?」
その後、《カルルイン》なる五層の主街区でアルゴさんと合流し情報交換を行う、でもまず最初に行う情報交換がソレなのか、それに驚きのあまり素の口調になってるし。因みにユウキとアスナとフィリアはオウルの強い勧めにより地下墓地にクエストを消化しに行った・・・・・・・絶対に良からぬことを企んでいる。
「あぁ、味はもちろん食感に至るまで完全に伊勢海老だった、どうだアルゴこの情報?結構いい値段するんじゃないか」
いや伊勢海老だと分かっていても三十センチは下らないハチノコの情報なんて―――――――
「分かったヨ、三万くらいでいいカ?」
―――――売れるの!?しかもオウルが昔装備してた剣並の値段で!?
「だってなぁ、こんな下層で、しかもゲテモノだって多いのに伊勢海老だぜ?」
「うんうん、日本人は生粋のグルメだからナ、欲しがる奴はゴマンといると思うゾ」
「・・・・・私はゲームでも食べられない」
現実世界のハチノコでも食べられない、炒めてあっても無理である。
というか美味しかったのならオウルはユウキの事を許したのだろうか?
「フフフフフ・・・・・さあ?どうしようかな?もしかしたらもう、良からぬことを企んでるかもよ?」
凄むな凄むな、気持ちはわかるけど年下の妹分相手に本気で報復しようとするな。
この分ではオウルの強い勧めでクエストにいった三人が心配である・・・・・・・今更だが完全にフィリアとアスナは巻き添えではないか?
「いつ見てもこのパーティーは飽きないナ」
「そう言えばアルゴさん?ユウキを魔改造したことについて―――――」
「おおっと!そういやシノのんにはネズハの時の借りがあったな!何でも聞いてくれ!」
露骨に逸らされた、彼女も少し反省してるのかもしれない。
「――――今は見逃します」
「」
だが許すかどうかとは別である。
「残当、それより着いたぞ」
迷路の様な裏路地を右へ左へくねくねと進みながら着いたのは、奇麗に舗装などはされているが遺跡の様なレストランだった。まるで岩の壁を掘ったかの様だ、現に横には向こう側が見えない程高い壁がある。
「おお、中々の慧眼だなシノン」
「どうゆうこと?」
入れば分かる、とはぐらかしながら店に入る。本日のおすすめが書かれたメニュー看板も碌に見ないのはもう頼むものが決まっているからだろうか?
「シノのん、ここでは何があっても走っちゃだめだゾ」
「アルゴさんまで・・・・」
先を行くオウルは鋳鉄のリングが付いた扉を一気に開ける、瞬間冷たい夜風が体を包み込んだ。
「寒ッ!?何?冷房ききすぎじゃない!?」
「SAOに冷暖房設備なんてあるわけないだろ、見てみ」
言われて扉の先を見てみると、遺構を残したまま木材で修復し、おしゃれなカントリースタイルとなっている、がそれ以上に石造りテラスの先が異常だった。
「・・・・・これ、落ちたらどうなるの?」
「死ぬよ、勿論」
「ベータでは慌てた奴は何人も落っこちたナァ」
寒いわけだ・・・・目の前には濃紺の夜空が広がっている。今までは気にしていなかったが今の季節は冬だ、SAOでは対して気にならないが普通だったらこんな所では寒すぎて食事なんてする気にならないだろう。
「BLINK&BRINK、瞬きと崖っぷち。この店はアインクラッドの端を少しだけ補填工事して出してんだとさ」
「じゃあ、店の横にあった遺構みたいな壁は・・・」
「多分、この浮遊城の壁だろうナ」
そう言えばここは一応城の中なんだっけ、色々あったからそんな基本的な設定まで忘れてしまっていた。下の雲を少し眺め、今度は天蓋ではない本物の―――――いや、この夜空もある意味造り物だが、久々に外の空を見上げる。そこまで詳しい訳ではないが、現実の夜空と違い星座の類は見当たらない。
「まぁ、此処の名物は三人が来てからにしてだ」
コート・オブ・ミッドナイトを椅子に掛け、剣も横に立てかけてオウルは椅子に座りウェイトレスに珈琲を頼む、メニューを見ても名物がどれか分からないし、数時間前に食べたばかりなので、今は私も珈琲だけにしておいた。
「んでサ、話って何だヨ?まさかハチノコだけじゃ無いだロ?」
単刀直入、座るや否やアルゴさんは切り出した。
オウルがアルゴさんを呼ぶということは、それなりに重要な話があるのだと思われるが・・・・・・
「アルゴは・・・・覚えてないな、その様子じゃ」
「覚えてない?ベータの時の事カ?」
うーーーン、と頤に指を当て考えるが思い出せない様だ、何だろう?この五層で何かあるのだろうか。考えるにこの『五層』が問題点なのであってプレイヤーが主題では無い、とすれば―――――――
「―――――アイテム・・・・とか?」
情報屋のアルゴさんが忘れている、となればクエストは除外しても良いだろう。まさか五層が開通してからガイドブックを作成しているとは思えないし、ボスの情報も忘れているとは、これまでの活躍から考えるにあり得ない。
「正解だ、シノン」
オウルは然程意外そうでも無かった、私が当てることを予期していたのだろうか。あの三人では無く、私を付き添いになる様に仕組んだのも・・・・・流石に考えすぎだと思ったが、それこそ考えてみれば私は彼の何を知っているというのだろうか。今までの行動から彼は、まるで
「正式名称は忘れたけど、ここのボスはギルドを超強化する旗みたいな槍をドロップするんだ、因みにLAボーナスでは無い」
「マジかヨ・・・・・・その強化ってどの位ダ?」
「確か、半径十か十五メートル位の同じギルドメンバーの各種能力を上げる。地面にその旗をつけてる限り制限はない。地面から離しても、もう一回地面につければ同じ効果が出る」
「・・・・ねぇ、聞いてる限りじゃ悪いことじゃないと思うんだけど?」
「そうだナ、ディアベルのギルドがそれを手に入れれば・・・・アッ」
「そう、問題はそこなんだよ」
問題?ディアベルのギルドの何がいけないのだろう?
「今の攻略組の人数は四十数人だが
「あ・・・・」
そうか、言われてみればそうだ。
LAボーナスならまだしも、普通にドロップするのであれば確率は半分以下だ。どっかの誰かさんが活躍しまくってるのであっちは思うように人が集まらず、色々歯がゆい思いをしていることだろう。
しかしそれでも―――――
「別にいいんじゃないカ?譲ってもらうってのは希望観測だけド・・・・・ディアベルのギルド意外にドロップしたっテ?」
「そうね、惜しくはあるけどそこまで悩むことじゃ――――」
「――――攻略組にPOHの手先が居る」
「あーーー・・・成程ナ、考えすぎ・・・・とは言えないナ」
どういう事だ?
今度はアルゴさんの方が理解が速かった様だ、私には言わんとしてることが察せない。単純にそのスパイに旗が手に渡るのが不味いだけでは無いのか?
「勿論それが一番危惧してることだ・・・・・・でもな、組織力ってのは結構馬鹿にならないんだ。人がたくさんいるってだけでもスパイにとっちゃかなりの制限になる、単純に人目が多けりゃそれだけ隠密は難しい」
「だからもしダ?今の攻略組にはディアベルのギルド以外にでかい組織は無い、でも今回のアイテムで何処かがギルドを造ったとしよう、だがすぐには人は集まらないだろうナァ・・・・今のSAOじゃギルドマスターはただ強ければいいってもんじゃなイ、最低限でもディアベルの様なカリスマと指揮力が要ル」
「・・・・・・新しくギルドが出来る前に殺されて、奪われる?」
そうなれば確かに厄介だ。黒ポンチョの連中は私達と違いボス戦に積極的には参加できないためスキル及びステータスでアドバンテージがある。それが無くなれば奴らはもっと大胆に殺しにかかるかもしれない。
まだ予測に過ぎないが、実現する可能性はドロップ率だけで言えば五分以上。
「・・・・・はっきり言って、それだけならまだいいさ、問題は『スパイがギルドマスター、もしくはそれに近くになる事』だ」
「よーするに、今後のギルド同士の会議とかで発言力が生まれる事だナ」
「・・・・!」
確かにそれは困るだろう、いや困るなんてレベルでは無いが。
まず間違いなく私達は目をつけられている上、攻略組の中での発言力は残念ながら皆無に等しい。集団行動を求められる中で良くも悪くも逸脱しているのだ。そんな中、黒ポンチョの手先に今後の攻略を左右する立場になれば何が起きてもおかしくない。ディアベルのギルドと新しくできるかもしれないギルド、両方に裏切者がいれば、ギルド間の抗争も・・・・・・・。
「兎も角、まず間違いなく、POHの手先は俺たちの妨害と自分たちの勢力拡大を図るだろうな」
「でも、そもそも旗の事を知ってるの?」
「俺が森で戦ったプレイヤー、モルテは多分テスターだ。可能性は十分ある、旗は一度ギルド登録すればもう変えることは出来ない。現状ディアベルのギルドにドロップする確率は半分以下、だから確実に旗を手に入れるには信頼できるメンバーだけでここのフロアボスを倒さなきゃいけない」
正直、そんな厄ネタいらないんだけどなぁ、とオウルは続けた。確かにこれ以上逸脱するのは私達としても本分ではない。飽く迄効率的かつ見知った仲間と居れさえすれば、私自身は攻略にそこまで拘ってはいない。少なくとも黒ポンチョ達の事が無ければ、オウルだってここまで強くなろうとはしなかったのではないか?
兎も角、何も起きないと思うのは楽観的過ぎるか。
流石に何もかも相手の思うように上手くいくとは思えないが、今の話の『勢力拡大』か『スパイの昇進』、どちらかは出来そうな気もする。ウェイターが運んで来た珈琲は暖かかったが、緊張はまるでほぐれてくれない。
小説書きたいけど、自分で書くのは少しメンドイ(支離滅裂な思考・発言)
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第二十三話 温もり その対価
作者「気づいてるでしょうが、要所要所に作者の趣味が盛り込まれております」
オウル「伝説の傭兵ネタが一番顕著だったな」
そんな事はさておいて始めます、期間めっちゃ空いたなぁ。
アインクラッド五層、主街区《カルルイン》から遠く離れプレイヤーにとって需要がほぼ無い枯れた森の中。朝霧が漂い物々しい雰囲気が漂うなか、三人の男の姿があった。三人の内、倒木に腰を掛けている一人だけプレイヤーアイコンがオレンジ色となっている、システム的な犯罪者の烙印。
デスゲームと化した今のSAOでは《圏内》に入れないだけでなく、あらゆるプレイヤーから警戒される目印だが、
「――――――このチンケなモンが犯罪者の証か、どうせなら赤とかにすりゃいいのによ」
「頭《ヘッド》、それじゃあmobと勘違いされますよ?」
「そうですねー、ただでさえ見た目だけなら街のNPCもエルフも、違和感仕事しろ、て感じですからねぇ」
男の前に居る二人はまるで気にしていない様子であった。それぞれ装備は違うが、頭部は顔を隠すものを選んでいる。場所や顔を隠している事が彼らの立場を物語っている。倒木に腰を掛けている男――――――フードで顔を隠している男に
「んでぇ? ジョー?ナイト様のとこで何か有益な情報は手に入ったのかよ」
「いやーこれと言って特には・・・・・強いて言うなら五層は節目の階層なんでフロアボスが、ちぃっとばかし強いらしいです」
「―――――違ぇよ、あの白髪とお仲間の情報だよ」
さっきまでは抑えていたのか、それともそれすらも演技なのか、今度こそ不機嫌さを欠片も隠さずに殺気交じりで問い詰める。
実際の所、ジョーという男も、その隣で木にもたれかかっている鎖頭巾の剣士も
「そうか、その様子じゃボウズみてぇだな、オイ?」
「えぇ・・・・まぁ、そうです・・・」
だが言うは易く行うは難し。目の前で凄む男はそんな反抗も許さない。
暴力ではない、この世界では一介のプレイヤーが拷問などは絶対に出来ない、手足を切り落としても痛みはないし、出血もしないのだから。ただ純粋に、彼の纏う空気が自然と自分を、まるで三下の手下とするのだ。
「まぁ、いいさ、野郎が群れる気質じゃ無いのは何となく分かった。そして恐らくスパイ―――――お前ぇの事も警戒してるって事が分かっただけでも良しとしよう」
「俺が、ですか?確かにウザったいキャラを演じてる自覚はありますが・・・・でもいきなり
「所がギッチョン!そーでも無いんですよねー」
場の空気を読まない口調と蟹の仕草で、今の今まで黙っていた鎖頭巾の剣士が被せる様に切り込んだ。確かにこの男は三層のクエストで攻略組がエルフのクエストを進める際に
「どういう事だよ、モルテ?ていうかお前、攻略組の情報源として臨時の助っ人するんじゃなかったのかよ?何で急に辞退したんだ?」
ある程度助言をして、信頼を稼いだ所を裏切る。或いは現時点で周りに快く思われていないジョーの心証を良くするため、自作自演のスパイになる手もあったらしい。実際それが何処まで上手くいくか、そこまでどうやって運ぶか自分は分からなかったが、成功すればギルドの中で確固たる地位が約束されることだけは理解していた、にもかかわらず急にその計画を全てポイ捨てしたのだ、この男は。
「いやーそれがですねぇ、あのアホウドリさんに完全に先読みされて、殺されかけまして」
「はぁ!?」
色々とツッコミ所があり過ぎて完全に処理上限を越えた。
一体何を判断材料として先読みされたのか?実力があったとしても何故いきなり殺しに来たのか?いや、大前提としてそこまで読まれているのであれば、今自分達の事もほぼ筒抜けなのでは無いのか?
「誰かに監視でもされてんのか?」
苛立ちを抑える様に頭をガシガシと掻くが、募る焦りが増すだけだ、あのシラガ野郎はこちらの事をどこまで把握しているのか?これが他のプレイヤーならばまだ話は簡単だ、殺せばいい。だが鎖頭巾の剣士―――――モルテは元テスターであり、対人戦はかなり腕が立つ、スキル構成もその方向に鍛えているくらいだ。それを殺せるだけの実力があったということは、最悪
「be cool やりようは幾らでもあるさ。まず最初に考えるべきはモルテの言ってる例の『旗』だ」
こちらの思考を遮る様に
「ディアベルさんを殺せば、うまい具合にギルドが割れてくれると思うんですがねー」
「あぁ、リンドとキバオウが仲悪いからか・・・・一層の時、ディアベルが死んでりゃあな」
殺すのは、正直難しくない。実力は白髪の女共と互角かそれ以下、だが今俺たちが暗躍していることが表沙汰になるのは避けたい。そしてシラガ野郎がそれを警戒していないとは思えない。ディアベルもディアベルで馬鹿正直に戦いはしないだろう、流石に暗殺までは警戒してないだろうが。
「今はオウルの活躍で、ディアベルのギルドは人手不足だ。だが俺達の様なアウトローが行動しているとディアベルが知れば、いくら何でも、今ほど手あたり次第メンツを揃えようとは思わないだろう」
そうなればスパイが潜り込むのは難しくなる、どころか俺の事も疑われるだろう。あのシラガは下手に混乱させるのは得策ではないと判断しているのか、まだディアベルに俺達の事は話してない様だが・・・・・それも時間の問題か。
「大まかに方法は三つ、一つ、俺達が旗を手に入れる。これが一番ムズイがリターンが大きい、ボス戦に出れない差を縮めることが出来るし、攻略組を纏らせない歯止めにもなる・・・・・今後似たようなアイテムが出ないとは限らないがな。二つ、旗の事を知らせて攻略組で争わせる。リスクは少ないが・・・・今のとこディアベルのギルドと張り合えるギルドがねぇからな・・・・・本当なら《レジェンド・ブレイブス》辺りに情報を流すのもありだったが・・・・・」
プロDJの様な発音でFuck、と口汚く罵る、シラガ野郎がある程度お膳立てしたとは言え、あそこまで丸く収まってしまったことが気に喰わないのだろう。実際自分も苛付いていた、何より奴に真正面から気圧されたことが。
まさかあの空気の中、あれだけの啖呵を切るとは思わなかったのだ、ソロプレイヤーで、今のSAOは顔はリアルと同じ為目立つ行為は避けると思ったのだが・・・・・・。
「どっちも現実的じゃない気がしますねぇー・・・・三つめは何ですか?」
「いや、コイツが一番現実的じゃねぇ。前二つの方がメリットとデメリットがはっきりしてる分マシだ」
「・・・・・聞いてる限り、三番目のメリット皆無なんですが、
デメリットは未だしも、メリットもはっきりしないって・・・・策として成り立っていないのでは?正直頭の良さにそこまで自信ない自分としては、そういったことはモルテや
「何でそんな、策として成り立ってない物が選択肢に挙がるんですか?」
「――――――このままじゃ、奴の手の上で踊り続ける事になるかもしれねぇからだ」
「・・・・・・理由を聞いても?」
「考えてもみろ、出来過ぎてるだろ?強化詐欺はまだ分かる、デスゲームになれば良からぬことを企む奴が出ると警戒して、偶然ぶち当たった。だがよ、ジョーへの態度、モルテを殺そうとした事、俺ぁてっきり奴は、目立ちたがりで殺したがりのサイコパスか、何かと思ったがそれも違う――――――――情報が少なすぎて、はっきりとは言えねぇが、俺達の事を事前に知ってたんじゃねぇか?って位だ」
・・・・・・・・・流石に開いた口が塞がらなかった。いくら何でも考えすぎだろう、いっそ俺たち二人のどちらかが裏切っている方がまだ現実的だ。もっともクエストなどで同行していたし、メッセージ覆歴の確認からまずありえないが。モルテも表情はあまり見えないが、口元はその考えをあまり真剣に考えている様には見えない。
「・・・・・・ありえませんねぇ、例えネズミが動いていたとしても、絶対に何か痕跡は残ります。何らかのスキルと言う可能性もありますが、こんな下層から、それこそ神様視点を得られる様なスキル・・・・・バランス崩壊ってレベルじゃありませんよ?」
「逆に言えば、奴が神様に繋がっていりゃあ説明がつくわけだ?」
「はぁ?」
さっきから着いていけなかったが、今度こそ訳が分からなった。頭《ヘッド》は意外と信心深いのだろうか、などと絶対にあり得ないことを間抜けにも考えていた。
「・・・・・茅場の手先ってことですか?」
「それなら色々説明がつくんだがな・・・・・・疑問はあのマッドがこんな程度の事で人を寄こすとは思えねぇって事だな・・・・」
あぁ、成程・・・・・・俺はてっきり神様転生とかそんなことを言い出すのかと思った・・・・・・・・・。
「どうしたんです?さっきから黙ってますけど?
「・・・・・・いや、何でも。それより、奴が手先だろうとなかろうと、こっちの行動が全部読まれてるならどうするんですか?」
どうするもこうするも、手の内がバレバレならば勝負にならないと思うが。誰が相手は絵柄丸見えとわかっているのに、神経衰弱で勝負するというのか、今までの考察が正しければそれ位『勝てない戦い』と言うことになる。少なくとも自分が
「ほーー・・・・ジョー、お前いい線ついてるぜ」
「は、はぁ?」
「さっきからそればっかりですねぇー」
横の剣士がからかってくるが無視する、そして
ハッキリ言って、上手くいってもこれは・・・・・・・。
「ここいらで一つ勝負を仕掛ける、でなけりゃ――――――」
――――――あの鳥公に屍を貪られることになる。
「企みご苦労ォオォォォオ!オォウルクゥゥゥゥゥゥゥン!!?」
「何ゴットッデェェェェェェェェエエエエエ!?!?!?」
《カルルイン》所か五層の中でも上から数えた方が早い位には人気があるレストラン《BLINK&BRINK》でどこぞの学園都市で最強の能力者の様な発狂ぶりでアホ毛の黒い剣士を投げてくるフェンサー、開幕はそんな感じだった、いやどんな感じ?
「ウォオオ!?オォォォォ!?!?」
そしてぶん投げられた妹分の剣士を避けそうになる前に、此処の立地を思い出し裏返り過ぎて最早奇声になりながらも、ハラスメントコード覚悟で抱き留める。ステータス的にスピードビルドでもユウキを投げるのは不可能じゃないか?とか色々ツッコミ所はあったのだが、アスナの発狂具合と俺の混乱具合から最早キャパオーバーである。多分貧困な俺のボキャブラリー描写しきれない。
「いきなり何すんだよ!アスナ!?」
「ぶん投げられる僕の事完全に考えてなかったよね?」
「そのセリフそっくりそのまま返すわよ!頼まれたクエスト大半が、ユウ・・・オバッ・・・・・それ系じゃない!!」
「うーん見事なスルーパス、僕じゃ無かったら心折れてるね」
逆さまの状態で呟くユウキを一旦おいて置き、多分こちらにまだ完全にオバケとかが苦手とはばれてないと思っているのだろう、こちらが頼んだのだから言わんとしている事は分かるだろう?とアスナは詰め寄ってくる。
はてさて、これ以上追い詰めることも、出来なくはないがこれから先の事を考えるとそれは良くないので――――――
「あぁ、苦手だったの?肝試し系統のクエスト。アストラル系が出てくる奴」
―――――――取り敢えず、すっ呆けた(ゲス顔)。
「べべべべべべべべべっつに!????苦手じゃありませんけど!?」
『一部場面抜粋』~~~~
「あああアアアァァァaaaaaaAAAAAA■■■■――――ッ!!!!」
「アスナが!アスナが何かドス黒い何かを纏いながら発狂してる!?」
「やらないでバーサーカー!!その女の子どちらかと言えば被害者!」
~~~~~~~~
「でも圏内だし、途中からは冷静さを保てただろ?」
「勿論よ?そう何度も叫んでたら、喉が持たないじゃない?」
『一部場面抜粋』~~~~
「ナントカカントカパトロナァァァァアム!!!」
「ユウキ呪文を覚えてないじゃん!」
「そうね、呪文はちゃんと唱えないと・・・・」
「アスナ?」
「アバダ・ケダブラァァァァ(血走り目)!!」
「アスナ!?」
※先とは別のクエストで、設定的にはかけられている霊は悪人です。
~~~~~~~~
「・・・・・・・・・何だろう、キャラ崩壊とか生ぬるい何かが起こっていた気がする・・・」
「気のせいでしょ?それより人がクエスト頑張っている時にあなたは何をしていたの?」
どうせなら付いて行った方が面白かったかな、ほんの少しばかり後悔しながらウェイターに三人の飲み物を頼む。その間にシノンに話した事、これからの行動と具体的な案を考える。アスナとフィリアは怪訝な顔をしていたが、ユウキはある程度予想していたのか、もっともらしく頷きながらPOHの手先への対処を話してきた、もしかすると俺が思っている以上にユウキはドライと言うか、割り切りやすい性格をしているのかもしれない。
「確かさ、この五層ではよくPKが多発していたんだよね?」
「でもだからって、あいつらがそんな早く行動する?数でも戦力でもこっちが上回ってるよ?」
「フィリアの言う通りよ。いくら何でも―――――」
「―――――考えすぎ?ならいいさ、俺が笑い者になるだけなんだから」
何も起こらないに越したことは無いが、流石にそれはあり得ないと思う。
原作知識抜きにしても、今回の様な騒動になりかねないアイテムはそうそうドロップしない。攻略組が強化されるのを黙ってみている程、穏やかでもないだろうし、
「何より俺達が把握しているのが全員とは限らない、こうしている間にもメンバーは増えているかも知れないし」
「因みにディアベルのギルド、ドラゴンナイツ・ブリゲードはまだ二十人位ダ、半数は超えてないナ」
この層での安全マージンレベルは14,5位――――チームを組んでいればもう少し低い――――だがそこまで高いのはまだ攻略組のリーダー各位だろう。はじまりの町を出るプレイヤーは増えてきてはいるだろうが・・・・流石に登るペースが速すぎる、まだまだ戦力には数えられない。
「逆に言えばギルドの準備が整うまで、迷宮区に行くまで猶予はある?」
「・・・・長めに見積もっても一週間も無いだろうがな」
シノンの質問に答えながら考える。
まず旗を俺達で手に入れなくては話にならない、なので
一、 旗を差し出してくれる信用に足る仲間を揃える。
二、 実力者が必要、少なくとも、もう1パーティーは欲しい。
三、 POH達にバレない様に内密に、つまり現時点ではディアベル達は頼れない。
このぐらいだろうか・・・・?
「俺っチを加えても、今は六人・・・・2パーティー、12人で挑むこと自体かなり危険だがまだその段階ですらないナ」
「エギルさん達を加えても四人・・・・あと二人か」
まずエギルさん達が力を貸してくれるとは限らないが、そこはもう拝み倒すしかない。いざとなれば俺だけでもボスドロップのアイテムを無償で提供しよう。物で釣るのは気が進まないが、現時点ではそれ位しか約束できない。
「何でディアベルさん達は頼れないの?疑いが少ないディアベルさんやキバオウさんに力を貸してもらったら?」
「無理よ、ユウキ。組織を運営してるなら少なくとも、表面上は公平に期さないと。ディアベルやキバオウだけがボス戦に参加するなら相応の理由が無いと駄目ね、そしてスパイがいるなんて言うのは論外」
シノンの言う通り、それこそ正史の歴史通りギルドが二つに割れかねない。特にリンk・・・・違った、リンドの奴はキバオウとはあまり仲が良くないそうだ、いつかは暖簾分けするとしてもまだ早い。
「・・・・キズメルに頼る?」
「それは・・・・最終手段だな」
アスナの提案を一瞬ありかと思ったが、周りへの説明をどうすればいいか分からない。旗は未だしも、NPCに心が芽生え始めているとか、攻略どころではない気がする。
「・・・・やることは決まったんだし、今は食事にしよう?残り二人はもしかしたらエギルさん達が見つけてくれるかもしれないし」
「それもそうか、何も明日明後日に挑むわけでなし。二、三日は迷宮区の攻略とクエスト。アルゴにはエギルさん達との協力の締結と残りのメンバーを探して貰おう」
「実力があって、攻略組レベルの実力者っテ・・・・そうそう居ないゾ?そんな奴」
それでも見つけなければ挑むことすら出来ない、最低でも2パーティー無ければローテーションが組めないし、いざという時助けに入る人が均等でないと禍根を残すことになるかもしれないし・・・・・ギルドマスターってこんな事ばっか考えてんのか?SAOが特殊にしても面倒極まりない。
「オウルー?ここのおすすめって何?」
「ブルーベリータルト、てか頼むの早いな・・・」
「まぁ、なる様になるよ。いざとなったら極秘裏にディアベルさんに力を借りればいいじゃん、どうせスパイの事いつかは話すんでしょ?」
それもそうか、俺は一旦考えるのやめて手元のメニューを見下ろす。五層特有の遺物拾いの事を話しながら飯にするとしよう。
「遺物拾いに夢中になり過ぎた」
「いいじゃん!レアそうなアイテム沢山拾えたんだから!」
そう言いながらユウキちゃんは拾った遺物を確認している、かく言う私も色々拾えた。
「まさかアスナも夢中になるとはな」
「ん?意外だった?」
「割と。フィリアは兎も角、お前まで地面這いつくばる事に忌避感無いのはな・・・・」
「ちょっとオウル!何よ、その言い方」
フィリアは講義の声を上げるが、確かに彼女が一番夢中になっていた。一方あまり乗り気でなかったのはシノンだ、参加して無かったわけじゃなく、人の目がないとは言え四つん這いで遺物拾いするのに忌避感があったようだ。
「まぁ、それでも私もそれなりに見つけたわよ」
「別に地面にしかないわけじゃないしな、遺跡の付近なら屋根の上とかにも転がってるぞ」
この五層で人気のブルーベリータルトを食べたおかげで、何やら《遺物発見ボーナス》なるものが付与され、効果が切れる一時間、遺物拾い祭りが開催された。
大雑把な全員の戦果は、カルルインで換金される金貨、銀貨、銅貨が沢山。これまた換金アイテムの――――鍛冶系統のスキルがあれば使い道もあるが私達には無関係だ――――宝石がそこそこ。マジック効果があるアクセサリーが人数分。オウル君と私は指輪、フィリアはネックレス、ユウキちゃんとシノンはブレスレットだ。
「僕のはスタン耐性が少し上がる奴だった、ホントに少しだから微妙だけど・・・・」
「私のは《調合》スキルの補正があるわね、ハズレではないかしら?」
「シノンとユウキはまだいいよ、私なんて《吟唱》よ?使い道全くないよ・・・」
「歌手デビューすれば?」
笑いながらオウル君がフィリアを揶揄うが、確かに《吟唱》スキルは使い道がほぼ無いだろう、魔法が存在しないSAOでは珍しいグループ全体にバフとデバフが掛けられるスキルだ。しかしその名の通り歌わなくては効果が無く、色々と敷居が高いスキルだ。因みに私はカラオケなんて行った事は無い。
「ここのメンバー歌うの上手そうだけどな、俺のは・・・・・うん?《美食》?これまた珍しいのが出たな」
「何それ?使えるの?」
「食事のバフを長続きさせたり、効果を上げるスキル。ただし
「少なくとも、アタリではないって事ね」
効果をどれだけ伸ばせるかにもよるが、街でバフを得ても迷宮区の最上階につくまでマップがあっても二、三十分は掛かるし、私のスキルもそこまで高くなく、レアな食材など持ち合わせていない。
私のは《燭光》、そのままの意味なら明りが灯せるのだろうか?
「丁度いいんじゃないか?この階層は昼間でもやたら暗い場所が多いしな」
「何だったら交換してあげよっか?」
「・・・・・いや、いいよ。何が役立つかなんて分からないし、俺が拾ったのはこの指輪だからコイツでいい」
何やら少し考えていた様だが、自分が拾った指輪でいい様だ。確かにそこまで拘るものでもないか。
明りが必要なら松明とか使えばいいし、いざとなったら指輪を交換すれば―――――
「・・・・・・・・・」
「おーーい?どしたー?急に赤くなって?」
「いや!?何でもないけど!!?」
「?・・・・あっそう」
自分が考えていたことを思い返し、それによって沸き上がった感情をご丁寧にナーヴギアが読み取る、幸いオウル君は何も気づかなかったようだが、ユウキちゃんは「いやーアツいなー(棒)。南極の氷も溶けちゃいそうだよー(棒)」などと言っている。
ここぞとばかりに勘が鋭い、もう片方はここぞとばかりに勘が鈍い、いや悟られるのも嫌だが。
「それでオウル?これからの予定は?」
「今日は、もう寝よう。人はまだ少ないし本格的な攻略は明日からだ」
言いながら戻ってきたのは一時間前まで食事していた、《ブリンク&ブリンク》。やたら高い壁があると思えば、ここは宿も兼ねているらしい。
「しばらくしたら、タルト目的で溢れかえるでしょうね」
「一日三十個限定だから、そうでもないぞ・・・・・メールが届かないな。アルゴは今ダンジョンか?」
オウル君がホロキーボードを叩きながら呟く、アルゴさんとはフレンド解除してないのか・・・・。
「それも明日でいいかな。部屋は取ってるから、あと風呂もあるぞ」
お休み~、と背を伸ばしながら階段を昇っていく。こちらの視線は気付かなかった様だ、思えばパーティーであるにも関わらずフレンド登録は解除したままだ。
「オウル君って今誰とフレンド登録してるんだろう・・・」
「多分アルゴさんとナーザね」
「アルゴさんは兎も角ナーザって?」
そう言えばフィリアは三層からパーティーに入ったので二層の出来事は知らないのだ、私達は値段相応に大きな部屋四人部屋に向かいながら話す、オウル君が前々から何を危惧していたか、ネズハことナーザの強化詐欺事件。
「はぇ~・・・そんな事が。じゃあ二層で処刑を止めたプレイヤーって」
「オウルだねー、久しぶりに見たよ。あそこまでキレたオウルは」
「普段の様子からそこまで怒る感じはしないけどね、やっぱりフレンド登録しといた方がいいかな?」
「どーだろ?パーティー組んでいればぶっちゃけフレンド登録よりも融通聞くし、メールは制限掛かるけど違う層に行くことはそうないだろうし」
確かにそうなのだろうが・・・・何故だろう、何かモヤモヤする。向こうが気軽に「便利だし、登録しとくか」位言ってくれれば、「確かに効率的ね」くらい言うのに。私だけなのだろうか?
「・・・・今はいける階層もそこまで多くないし、いいんじゃないかしら?」
「そう?シノンがそう言うなら・・・・」
何だか腑に落ちないが、そこまで欲しいわけではないし。と思考を切り装備解除ボタンを押し、ベットにダイブする。クエストを終えた直後に、遺物拾いをしたので疲れは程よく溜まりすぐにでも夢の世界にたどり着けそうだ。
「アスナ?お風呂はいいの?」
「あ、忘れてた。ちょっと行ってくる!」
汗などの臭いが残るわけないと分かっているがそれでも入れるなら入る、ただでさえ野営などの機会が多く、まともな食事がとれない――――それでも虫は食べないが―――――こともある。
「この宿はお風呂場は男女分かれてるみたいだけど、あまり広くないらしいからお先にどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
シノンの好意を受け取り、普段の装備はストレージにしまったまま風呂場へ向かう。現在は午後九時、後ろに四人いるためそこまでゆっくり浸かれないが、明日の朝は特別早いわけでも無いので大丈夫だろう。などとどれくらい入浴していられるか考えていると、
「・・・ん?オウル君?」
最早見慣れた白髪と黒コートを着た青年が《ブリンク&ブリンク》一階ラウンジを横切り、素早く外に出るのを見た。階段上に居るこちらには気づかなかった様だ、慌てていたのだろうか?彼らしくない気がする・・・・・。
「・・・・アルゴさんに何かあったの?」
思い当たることは今のところそれ位だが・・・・果たしてテスターでもあり、デスゲームと化した現在でも一人で情報を集める彼女が危うくなることなどあり得るのか?敏捷性を極限まで高めているなら、そうなる前に逃げるだろう。
「一番考えられるのは黒ポンチョの男たちよね・・・・」
一人の方が上手くいく算段があるのかもしれないが、それでも何も言わずに出ていくのはどうなのか、そんな事を考えているうちに彼の姿は通りから消えた。
私はストレージにある装備を一式纏い、彼の後を追いかけながらインスタントメッセージを送ろうとするが、返ってくるのは素っ気ないエラーメッセージ。
「もう圏外に・・・・となると地下ダンジョンね」
彼に頼まれたクエストで散々な目にあった地下遺跡にまた向かうのかと思うと、踵を返したくなるが。
「・・・・いつまでも置いてかれるだけと思わないでよね」
システムウインドウをいじる手間も惜しみ、クエストの間に暗記したマップを脳内で展開し一気に駆け抜ける。
「地下一階はまだ圏内だったわね・・・・てことは二階」
下に降りる階段を目の前にしながら、装備とポーションを確認する。この程度のダンジョンなら今の私のレベルと装備なら苦戦するのが難しい位だが、それでも油断は禁物。圏外に出た警告メッセージを視界に捉えつつ前進する。
「問題は彼が何処に向かったか、だけど・・・」
フレンド登録してない上に、パーティーメンバーと言えどダンジョンマップに常にその座標は記されてるわけではない。《索敵》辺りならば追跡するようなスキルはあるのかもしれないが、周りにそのスキルを取っている者が複数いたため、今更取ってもあまり貢献できないだろうと所持していない。
つまり完全に自力で彼に追い付くしかない。
「まずオウル君がここに入ったことはほぼ間違いない。いくら何でも街の外のダンジョンは遠すぎるし、フィールドはメッセージが届かない説明がつかない」
いま持ち得る情報から何をすべきか組み立てていく、が私は失念してしまっていた。ここが圏外であることを、今自分が一人である事を。
そんな状態で部屋の真ん中に立ちすくみ考え事をしていればどうなるか。
ヒョウオォ、と隙間風が入ってくる様な音が背後から聞こえた。
背筋に小さな虫が駆けあがってくる様な感覚を覚えると同時にその音の正体を振り向く前に悟った。ここは地下墓地、ならば出て来るものなど子供でも予想がつく。
「HYOOOOOOOO・・・・!」
「ひッ・・・~~~~~~!!!」
叫びそうになるが、そんな事をすれば目の間に居るレイス、mobの仲間を引き寄せるだけだ。歯を食いしばり抜剣、いつもと変わらぬその音と感触に平静を取り戻すが、やはり苦手意識というものはそう簡単に払拭できない。
一度大きく後退し、迫ってきたところを何もさせずにソードスキルで仕留める、と行動に移そうとしたが、
「え―――――」
後ろに跳んだ先のタイルはカチッとした感覚を返した、反射的に飛び退こうとしたが目の前から迫ってきたレイスに意識を一瞬奪われ、
「ちょ、ちょっと!嘘で―――!」
しょ、と言い切る前に落とし穴は作動し、仮想世界の重力に従いさらに下層へ一直線。天然石造られた壁面は私の体を支えられるだけの取っ掛かりなど見当たらない。
どうするか、剣を素早く鞘に納め思考を加速させる。まず先に考えなくてはならないのは着地。幸い落とし穴は広くないため足からの着地は難しくない、問題は落差だ。
(このダンジョンは三階まで!高さは精々四、五メートル!mobもその階層から離れられないはず!)
最後は確信と言うよりも祈りに近かったが、高さに推測はあっていた様だ。二階と同じような床が見えた瞬間両手両足で出来る限り衝撃を殺し、後ろに転がった。
「ッ~~~~・・・・・さっきまでお風呂入ろうとしてたのにどうしてこうなるのよ・・・・」
悪態をつきながらも周囲の警戒は怠らない、さっきの様な事はもう御免だ。かつての、一層の迷宮区で彼と出会う前であればこうはならなかっただろうが・・・・!
「足音・・・・?」
自分が落ちてきた広間の通路からかすかに足音が聞こえた気がした、耳を地面にあて確かめてみると、恐らく二人分、そう遠くは無い。
隠れるべきか?出会うべきか?普通に考えれば隠れる必要は無い、夜も更けてきたがオウル君曰く、夜に活動するプレイヤーなんて珍しくもないとのことだが、自身の直感に従い反対側の一本道の通路に窪みがあったので、そこに隠れ様子を伺うことにした。かなり狭いがこの際贅沢は言えない、曲がり角の壁までは軽く五十メートルはある、流石にそこまで行けば会話など聞こえないだろう。
「オウル君なら私のHPバーが減ったことに気づいてる・・・・なのに走ってないってことは他人、会う必要性は薄いわね」
やましいことは何もしてないが、夜更けに別のプレイヤーと出会う必要もない。顔半分だけ伺わせ、誰が来るのか待っていると、顔をフードとコイフ?なる装備で隠した男性プレイヤーが現れた。暗いため良く見えないが、まず女性では無いだろう。
「おい、ホントにこっちから音がしたのかよ?」
「ウソつくメリットなんかないでしょう?この辺りで微かでしたが何か落ちる様な音がしたんですよ」
「mobか?それともクエストか?」
「少なくとも自分が知る限り、該当するようなmobもクエストも知りませんねぇ」
「《聞き耳》スキル持ってないだろ、お前?空耳じゃねえの?」
小声だがフードの方は聞き覚えがある、コイフは無いがもしかしたらオウル君が戦ったというPKプレイヤー?いや、いくら何でもそう決めるのは早とちりだ。だが、フードのプレイヤーは間違いなく二層でオウル君と口論になったジョーというプレイヤーだろう。
(密会・・・?オウル君はこれを予期していた?だとしたら絶対に見つかっちゃいけない、それと出来る限る情報を・・・・いや、バレたらどうする?)
一対一ならば未だしも、二対一ではこちらがオレンジになる事を覚悟しても果たして・・・・・。下手なリスクを背負うことよりも、《索敵》で彼らの事を探しているであろうオウル君を待つのが最善だ。
「・・・・何も無いですねぇ、戻りましょうか」
「いや、もうここでいいだろ?どうせ遺物拾いの奴らは来ても二階までだ、さっさと打ち合わせ済まそうや」
言いながらフードのプレイヤー、ジョーは鍾乳石に腰掛ける。壁に生えているヒカリゴケの輪郭を見るに、オウル君と違い然程背丈は無い様だ、この世界では体格=強さにはならないが。
「そうですねぇ・・・で?ギルドの方はどうなんですか?」
きた!この会話がギルドの内情をかき回すような情報なら、オウル君の危惧は的中したという事になる。逸る気持ちを抑え、少し顔を窪み側に戻し、耳を澄ます。
ジョーは未だしも、コイフのプレイヤーは黒ポンチョとコンビで無いのならほぼソロプレイヤーでベータテスターという事である、つまりオウル君と同レベルの《索敵》を持っているかも知れない。注視されるようなことがあれば暗闇でも見つけられるだろう。まずは見つからないこと、オウル君のようにシステムの力を借りず、気配を感じる事など出来ないと思うし。ていうかオウル君以外に居て欲しくない。
「レベルは足りてるが、しばらくはゆっくり攻略するらしい。明日はクリパ開くらしいし」
「ふーん、そうですか。普通騒ぐのはイブにするもの何ですがねぇ」
「しゃーねぇだろ、うちのイガグリ頭が先走るんだから。それにゲーマーどもにゃそんなイベント縁遠いだろうしな、騒ぐ口実があればなんだっていいんだろ」
・・・・聞いている限りそこまで重要な話だとは思えない。攻略組の内情と言える程機密ではない、少なくともクリスマスパーティーの誘いは私達にも来ていた。オウル君が何も言いださないし、昨日までヨフェル城で戦っていたので無理もないが。
(この二人は黒ポンチョとは関係ない・・・・?それかオウル君の読み違い、でもこんな場所で話す理由は?)
クロだとは思うが証拠がない、そんなもどかしい衝動を抑える様に少し深呼吸をする。
そしてまたしても予想外の事が起こった、体を支えていた手に装備していた指輪、《燭光》の効果を持った指輪が微かな、しかし確かな光量を生み出した、生み出してしまった。
「ッッ!!!!」
慌てて片手でその光をケープで包み、手で押さえ隠す。
「ん?何だ?」
「・・・・今、ほんの少しばかり、蛍の光みたいなものが向こうの通路から見えました」
「ここにそんなmobいたか?」
「いません。新しく追加されたとも考えにくいですねぇ、今までそんな事ありませんでしたし、それに―――」
システムウィンドウの無機質な音が聞こえる、何かを調べているようだ。まずい、まずい、まずいまずいまずい!
「――――――隠れてますねぇ、そこに、誰か」
「・・・・・あーあ、ざんねぇん。もうちょっとでステルスミッションクリアだったのになぁ」
―――――――気づかれた、剣を抜く音が聞こえる、意図は明らかだった。
「直接PKするのはベータ以来ですねぇ、一体誰がのぞいてたんでしょう?」
「知るかよ、俺の事知られた以上誰だろうと、ゲームオーバーだ」
GAME OVER、それを聞きいよいよ選択が迫られる。
思い切って走って逃げるか?無理だ、絶対に途中でmobにかち合う。
ならば全力で戦うか?勝てる見込みは薄い、オウル君程対人戦には慣れてない、話が本当なら相手は対人に特化したスキル構成すらしてる可能性がある。加えて二対一。
そもそも私に、例えアウトローと言えど人が殺せるのか―――――?
「自分が切り込むんでカバーお願いしますねぇ」
「俺の方がAGI高ぇからな。まずは足を斬り落とせ、そうすりゃ勝ち確だ」
死ぬ、死ぬ、このままでは死ぬ。
間違いなく私、結城明日奈はここで終わる。
そうなればどうなるだろう?何処かの病院で横たわっている私の体はただの蛋白質の塊となり、火葬場に運ばれ燃やされる。
私という人間は亡くなるのだ、永遠に、その事実が電流の様に頭に走った瞬間恐怖が体を支配した、立てない、剣が、抜けない。恐怖に縛られている場合ではないのに、ずっと一人だったのなら、こんなに恐怖を実感することは無かった。しかし今の私は一人ではないのだ、仲間が、陳腐な表現だか友達が出来たのだ。疲れる駆け引きが必要な女子校の同級生などでは無い。年齢さや目的さえ違っても、一緒に歩ける友人が。
ユウキちゃんに、フィリアに、シノンに――――――
「御免下さぁーーーい、どちら様ですかぁ?」
コイフプレイヤーの声が手の届く距離に来た時、私は、自身の恐怖に完全に押しつぶされた、だから、もう無意識だった。
「助けて―――――――――!オウル君―――――――!」
「―――――――――――――――――――待たせたな」
聞きなれた声と、剣呑な目つきが、視界に写った。
アスナは五人パーティーで原作より、若干メンタルが脆いです。
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