D-side もう一人の幽霊 (JeiJ)
しおりを挟む

0.プロローグ

進藤ヒカルは私とは対極の存在

 

明るく元気で運動神経抜群で、そんな彼の周りにはいつもひとだかりがあった

 

かという私はクラスに馴染めず、隅っこで本を読んでる存在感皆無な子

本を読むのは好きなので、これはこれで構わないのだけど

 

 

進藤が変わったのは小学6年の冬のことだった

元気が取り柄だった彼が救急車で運ばれ、その後も頻繁に体調を崩すようになった

今まで全くやってこなかった社会の宿題をやってくるようになったのも変化の一つ

 

そして何よりも驚いたのは、囲碁をはじめたことだった

囲碁なんてお年寄りや私みたいに暗い子がやるものだって思ってた

 

それからというもの進藤は囲碁にはまったようで碁会所というところに出入りしているらしい

入るのに1回500円もするんだって

そんな大金私には絶対払えないな、新しい本を買った方が有意義だって思っちゃうもの

 

 

ある日、新しい本を買いに本屋へ寄ったところ進藤とあかりちゃんがいた

あかりちゃんが私に気付いて手を振りながら小走りで近づいてきた

 

「こんにちはアンちゃん」

 

右代宮アン、私の名前である

2人は囲碁の本を買いにきたんだって、囲碁の本とはいえ本を読む人がクラスにいるのは素直に嬉しいよね

 

そんな気持ちが顔に出てたのか、私が囲碁に興味があると進藤に勘違いされちゃったみたい

 

「お、右代宮も囲碁やるのか?」

 

なんとも嬉しそうな声、そんなに囲碁仲間が欲しいのかしら

確かに共通の趣味について話せる人がいたら楽しいよね

私も読書仲間が欲しいって思うもん

 

「ううん、囲碁はルールすらわからないわ」

 

興味がないことを進藤が不快にならない程度に伝えたつもりだったけど

進藤には伝わることはなかった

 

「右代宮もやろうよ、あかりもまだ初心者だけどこの本読んで勉強するんだ」

 

そういって進藤が渡してきた本を受け取ってパラパラと読んでみると、

そこには白と黒の丸の中に数字が書いてあるだけで文字が一切なかった

 

「・・・これ読んで勉強って、こんなんで勉強できるの?」

 

そんな馬鹿なと進藤は私がもってる本を覗くと、これは自分用であかりのはこっちだと別の本を渡してきた。

そこにはさっきの本とは違ってかわいいイラスト付きで(たぶん)丁寧に解説が書いてあった

なるほど、確かにこれなら私みたいな初心者でも囲碁を覚えることはできそうね

 

そう考えながらふと思った

さっきの本を進藤は「自分用だ」っていった

 

あんな文字も書いてない本を読んで勉強なんてできるものなの?

 

 

*****

 

 

私の学校の成績は自分で言うのもあれだけどもとてもいい

そんな私が運動以外のことで進藤に負けているという状況がとてつもなく腹立たしかった

 

進藤にできて私にできないことなんてないんだから

 

わたしは本を買うのすら忘れそのままおじいちゃんの家へ向かう

確かおじいちゃんの家に碁盤があったはずだ基礎さえ教えてもらえば

進藤にだって簡単に追いつけるはず

 

 

「おじいちゃん、囲碁教えて!」

 

いきなりの訪問に最初はびっくりしたおじいちゃんだが、そうかそうかと頷き

そこで待っとれと、私を和室へと通した

 

そこには足つきの、見るからに高価な碁盤が飾られていた

私はその碁盤の美しさに目を奪われた

碁盤ってこんなにも輝いて見えるものだっけ

 

 

 

みえるのか・・・?

我の声がきこえるのか?

 

ああ、この時をどれほど待っていたか

あまねく神よ、感謝する

我は再び、よみがえる

 

 

私の意識はそこで途絶えた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1.邂逅

気が付いた時は病院のベッドの上だった

 

 

目を覚ますとそばにいた母は泣きながら抱きついてきた

父は先生を呼んでくると病室から出て行った

そして、父が出て行った扉の横には、真っ白な和服を着た初老の男がこちらを見ていた

 

「あの人は誰?」

 

母に尋ねてみるが、疑問符を浮かべるだけで誰のことを言っているのか本当にわかってないようだ

私以外には見えていないのか・・・

 

私は自然に笑みが漏れた

そこには恐怖心はなく単純な好奇心だけがあった

 

 

先生がやってきて軽く診察をする

今日は安静のため入院して明日退院ということになった

 

母と父と先生が病室から出て行ったあと、私は彼に声をかける

 

「あなたは誰?」

 

 

彼はふと笑いこう言った

 

(名前は捨てた。我は神の一手をただ追い求めるもの)

 

彼の口から発せられていることはわかるが、その声は直接脳に響いた

 

(おぬしは碁を打つのか?)

 

「ううん、まだ打ったことない。でもやってみたいと思ってる、勝ちたい奴がいるの」

 

(そうか、ならば我が碁を教えてやろう。その代わり我にも碁をうたせろ)

 

 

 

****

 

 

翌日私はいつも通り学校に行った

進藤が救急車に乗せられた次の日はクラスは大騒ぎになったが、私が倒れたところで誰も騒ぎはしない

尤も私が倒れたことを知ってる人はクラスでは担任くらいだろうけどね

 

 

授業中、幽霊さんはとてもおとなしかった

何をするでもなくただただ私の斜め後ろに立っていた

 

 

さて、囲碁をするとは言ったものの困ったことがある

倒れたことからおじいちゃん家への出入りがしばらく禁止となってしまった

碁盤は家にはないので囲碁をすることができない

 

どうすれば良いかわからず私はあかりちゃんに相談してみた

 

どうやらあかりちゃんは近所の囲碁教室に通っているらしい

私もついて行っていいかと聞いたところ、いいよと言ってくれたので、放課後に行くことにした

大喜びしたあかりちゃん可愛かったな

 

 

放課後になると私はあかりちゃんと囲碁教室に向かった

囲碁教室ではプロの先生が丁寧に基礎を教えてくれた

 

その後、あかりちゃんと対局することになった

対局といっても9路盤という時間のかからないやつだ

 

1局目は何をやっていいのかまったくわからず手も足も出ないまま負けた

ただそこで分かったことがある

 

私が明かに間違った手を打ったときに幽霊さんは露骨にがっかりするということだ

事実、私の石があたりになっていることに気付かず別のところに置いたら

幽霊さんは「ああっ」と声を出してしまっていた

 

この幽霊さん威厳のあるたたずまいをしているけども結構お茶目だ

 

 

その後あかりちゃんと2局ほど打ったあたりで

幽霊さんがそろそろ我にも打たせろと言ってきた

しかも19路盤で打たせろってさ、わがままだね

 

あかりちゃんは19路盤ではまだできないといって代わりに進藤を連れてきた

進藤は初心者の私の相手をするのが嫌なのかあまり乗り気ではなかったが対局してくれることになった

 

 

黒番は私、幽霊さんが指示した場所に石を置く

数手ほど進んだところで進藤が次の手をなかなか打たなかった

顔を上げると、進藤は驚いた顔をして私の方を見ていた

 

しばらくして進藤は次の手を打った

今度は幽霊さんの手が止まる

 

進藤や幽霊さんが何を考えてるのか今の私にはまったくわからない

それがとても悔しかった

 

すると幽霊さんが私に話しかけてきた

 

(アンよ、この小僧は何者だ?)

 

(何者って、ただの同級生だけど…)

 

(この小僧、かなりの打ち手だ。指導碁でもしてやろうと思ったがこの石の流れ・・・

先ほど教えてもらったコミのことも考えると、本気でかからなければ負けるやもしれん)

 

 

がっかりだ

 

 

幽霊さんは200年前の碁打ちだったらしいが、

碁は200年の間に進化しているところもあり昔の手が今は通用しないということは知っていた

でも、囲碁を始めたばかりの進藤に幽霊さんが勝てないってのは残念だ

碁が好きとか言っておきながら大したことなかったのね

 

 

そこから激しい闘いが始まった。いや、始まったらしいかな

私にはわからないけれども白と黒の石がどんどん増えていき盤面を覆いつくした

 

「これで終局だな」

 

進藤がそう言って白石を打った

それに対し幽霊さんも頷き終局となった

 

黒:54目、白:55目半

1目半の差で負けた

 

 

こんな子供に負けて幽霊さん悔しいだろうなと後ろを見ると

幽霊さんはとても満足そうな顔で涙を流していた

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.始動

原作うろ覚えなのでヒカルの棋力とか囲碁への姿勢とか全然違うかもしれないけど気にしない
お気に入り登録ありがとうございます。


 

目の前にある盤面は私には理解できなかったが

それでも綺麗だということはわかった

 

惹きつけられる、そんな碁

しかしその盤面は進藤によって崩された

 

もったいないと思いむすっとした顔をあげると、プロの先生がそこに立っていた

 

「進藤君、右代宮さん…今の碁は一体……」

 

先生に見られちゃってたのか。どこから見てたのだろう

今日始めたばかりの初心者が19路盤で碁を打つとこみるとやっぱ不思議に思うよね

さて、なんて言い訳しようかな

考えていると進藤が先に口を開いた

 

「白川先生!今の見てたの!前にじーちゃんに見せてもらった棋譜?っていうんだっけ、右代宮にも手伝ってもらって並べてたんだ!」

 

「いや・・・ちらっとしか見れなかったのだけれども。なるほど棋譜並べをしていたんだね。それにしても進藤君、棋譜を覚えれるなんてすごい記憶力じゃないか」

 

進藤は照れたように頭をかいて、たまたまだってなどと言っていた

先生は進藤の言い訳に一応は納得したみたいだ

 

勉強できないのにこういう言い訳考える頭の回転は速いのね

すらすらと嘘をつく進藤に意外性を感じながらも、疑問に思う

 

進藤が嘘をつく理由は何だろうか、もしかして

 

 

・・・・・・私と同じ?

 

 

外で遊ぶのが大好きだった進藤がいきなり囲碁を始めた

そのタイミングで囲碁好きの幽霊が憑りついたと考えれば辻褄があう

 

確かめてみようか…

もしも私と同じでなかった場合、私は頭のおかしい女とレッテルをはられる

進藤にそう思われるのは腹立たしい

 

私が頭を抱えていると、一通り言い訳をし終わった進藤が声をかけてきた

 

 

「ちょっと俺ん家に来てくんない?」

 

 

 

*****

 

 

 

同級生の家に行くのは幼稚園ぶりかな

それにしても進藤の誘い方はなんとかならならないものか、隣にいたあかりちゃん絶句してたじゃない

しかもあかりちゃんが着いてくって言ったのに、2人で話したいからお前はくるなって

あかりちゃん泣き顔になって帰っちゃったよ?女の子泣かせちゃだめじゃない

 

・・・正直私にも罪悪感あるけど。明日学校で会ったら謝っておこう

 

 

「それで進藤、話があるんでしょ?」

 

「流石、よくわかってるな。……お前も、憑いてるんだろ?」

 

 

お前『も』ね、こんな不思議な現象がまさか身近にも起こってたなんて思いもしなかった

私も打ち明けるべきか少し迷ったけど、すぐに打ち明ける決意をした

どうせばれてるし、幽霊さんの相手も欲しいもんね

さっきみたいな言い訳をする必要のない相手が

 

 

「俺に憑いてるのは佐為って名前で、囲碁打つのが大好きなんだけどさ、さっき見たいに俺が佐為の代わりに打ってるのを見られると面倒なんだよね。よかったらさ、週に1回でいいから佐為と打ってくんねえかな」

 

後ろをちらっと確認すると幽霊さんはすごい勢いで頷いていた。さっきの対局そんなに楽しかったんだ

迷うまでもない。私にとっても願ったりかなったりだ

 

「いいよ。その代わりといっちゃなんだけどさ、私も碁覚えるから進藤と対局させてよ佐為さんじゃなくて進藤と」

 

「なんだそんなこと全然いいぜ。・・・あー俺とだけじゃなく佐為とも打ってもらっていいか。こいつ打ちたい打ちたいってうるさくて」

 

私の寡黙な幽霊さんとは違って佐為さんは元気なんだな

幽霊さんが佐為さんみたいに元気な人だったらと想像して――プっと笑ってしまった

 

「いいよ、曜日とか場所はいつにしましょうか」

 

 

これが私と進藤の不思議な関係のはじまりだった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.日常

お気に入り・コメントありがとうございます。
プロットを書いていたため投稿が遅くなりました。



 

進藤と私の初対局は次の土曜に決まった。今日は火曜日だからまだ4日ある

それまでに少しは打てるようにならないといけない

 

まずは勉強する環境作りよね

 

家に帰って親に碁盤を買ってほしいとねだってみたがダメだと言われた

それでも粘ってみたところ、次のテストで良い点数が取れたら考えてくれることになった

 

それじゃ遅いんだよ…

 

 

考えた末、私は学校のノートを4枚つなげることで、一つの大きな碁盤に見立てることにした

セロハンテープでつなぎ合わせたノートは正方形にはならないため、正方形になるよう余分な箇所をハサミで切り落とした

後は等間隔に線を引いて碁盤は完成。15㎝の小さな定規で線を引いたためところどころ曲がっちゃってるけど気にしない

 

碁石も同様にノートのページを丸く切り取って作った

風ですぐにでも飛んでいきそうだけど室内なら大丈夫だろう

 

丸く切り取った紙の半分をマジックで黒く塗って手製の囲碁セットが完成した

 

 

出来るや否や、幽霊さんは早速打つぞと言ってきたが残念ながら眠気の限界

普段動かない私が今日一日外で遊びまわったのだから仕方ない、そう仕方ない

不満そうな幽霊さんの顔を横目に私は床についた

 

 

・・・宿題やり忘れた。いいや寝よう

 

 

*****

 

 

翌日、学校に登校し朝礼までの時間の暇つぶしに読書をしていたところ

予鈴ぎりぎりで進藤とあかりちゃんが登校してきた

 

あかりちゃんはご立腹のご様子。いわずもがな昨日のことのせいだよね…

 

 

私は読んでいた本を鞄にしまいあかりちゃんのもとへ行く

 

「あかりちゃん、昨日は「アンちゃん!」…

 

私の言葉はあかりちゃんの声でかき消されしまった。こんな大きな声を出すなんて珍しい

クラスのみんなも何事かとこちらに注目している

 

「昨日ヒカルと何やってたの?ヒカルに聞いてもナイショって言われて教えてくれないの!!そんなに知りたいならアンちゃんに聞けって…」

 

進藤のほうを向くと両手を合わせてゴメンの形をつくっている

あいつ面倒だからって私に押し付けたな。

なによりあかりちゃんがこんなに怒ってるなんてかわいそう!(半分私のせいだけど)

 

というわけでちょっとした仕返しをしてあげる

 

「あかりちゃん、よく聞いて。昨日私を呼ばれたのはね、進藤が相談したいことがあったからなんだ」

 

「相談?そんなの、私にしてくれればっ「聴いて!」

 

あかりちゃんの言葉をさえぎって続ける

 

「少し考えれば簡単なことだよ。普段仲の良いあかりちゃんには相談しなくて、私に相談してきた。『私』にはできて『あかりちゃん』にはできない相談内容って何だと思う?」

 

「あかりちゃんのこと。だよ」

 

 

最後は耳元でささやいて仕返し完了。

頭にはてなを浮かべていたあかりちゃんは、意味を理解したのかみるみるうちに顔が赤くなっていく

 

「アンちゃんとヒカルの、バカーーー!!!」

 

あかりちゃんは更に大きな声を上げて教室から出て行った

ただその叫び声には怒りの感情は微塵も感じられなかった

 

 

****

 

 

放課後になり私は一目散に家に帰った。走って帰るなんていつぶりだろう

今日から囲碁の勉強が始まる。進藤に勝つために猛勉強してやるんだから

 

 

 

 

 

そう意気込んだ私は家に着いたとたん、激しい眩暈に襲われ倒れてしまった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。