縁切り(仮題) (White-Under )
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縁切り-現実の夢-
縁切り-1-


あの修学旅行のあと俺の居場所は無くなった。

『貴方のやり方、嫌いだわ』

『 もっと人の気持ち考えてよ!! 』

奉仕部の二人から拒絶された。

それに加え小町にも拒絶された。

『お兄ちゃん二人に謝ってきて!謝ってくるまで絶交だから』

 

それ以降一度も話してない。

小町に話しかけても無視。

ご飯も用意されてない。

あの二人とあの状況になってしまった理由を話そうにもあの依頼を話せないという負のスパイラル。

 

そして、周りの汚物のように見る目。

戸塚も川……さきさんも材木座も。

平塚先生も見て見ないふり。

誰も助けてくれない。

俺が信じたものは所詮偽物だった。

小学校、中学校から何も変わってない。

 

だから俺があいつらと関わらなければいいと。

 

 

 

「……ここか。」

 

俺は学校を休んで京都の安井金比羅宮にいた。

そう、ここは縁切りで有名な神社。

 

俺の最悪な縁も切ってしまえばこんなに苦しまなくてもいい。

 

平日の昼間だから誰もいないと思っていたが何人かいた。

それも俺みたいな男じゃなくて美人な女性。

俺には関係ないけど。

 

それから俺は玉串を買い願いを書いた。

『今までの人間関係の縁が切れて、このような縁が一生来ませんように』

 

くぐる石をくぐりながら願った。

 

そして、玉串に書いた内容を絵馬にも書きお堂にある板に吊るす。

 

「これであいつらと「ねぇ。」」

いきなり誰かが話し掛けてくる。

「!」

俺はその声で後ろを見るとそこには俺と年があまり変わらなそうな女性がいた。

 

「どんな願い事を書いたんですか?」

その女性が絵馬を見ようとしたので俺は手で隠す。

しかし、それは無駄な行為であった。

俺は自分の絵馬を確認しなかったせいで隣の絵馬を隠していた。

「ふーん。なるほどねー。」

「ちょ、見ないでください!」

俺はその女性を絵馬から離すが既に手遅れだった。

 

「何でそんなこと書いたの?」

「……。」

俺はその女性の質問に黙った。

小町に言わなかったことを赤の他人に言うわけがない。

 

「まあ、無理に言わなくて良いけど。」

と言いお堂から出ていく。

 

「バイバイ。」

そして、女性が俺に手を振って帰っていった。

 

「……。」

二度と出会いたくないと願ったがこの願いは届かなかった。

 

 

俺はそこから京都駅に向かった。

スマホを見ると着信が10件、メールが30件来ていた。

今さら何だよ。

一日サボったくらいで。

 

スマホの電源を落とし顔をあげると目の前にさっきの女性がいた。

 

「また会ったね。運命かな。」

「……。」

自分の運の悪さを呪った。

「露骨に嫌な顔をしなくても。」

「最近まで似たような人が近くにいたので。」

「へぇー、私みたいに可愛いんだ。」

「性格だけですけど。その人、強化外骨格をつけていましたから。」

あの仮面野郎とは全然違う。

 

「ふーん。私が可愛いのは否定しないんだ。」

そんなこと一言も言ってませんが。

「あ、時間大丈夫?」

女性が腕時計を見せる。

 

「……。」

新幹線の時間まで二時間以上ある。

 

「うん、大丈夫みたいだね。じゃあ、遊ぼう。」

女性が俺の手を引っ張ろうとするが俺はそれを振り払う。

 

パシッ

「止めてくれ!」

「ビクッ!」

そんなものは要らない。

俺には必要ない。

「ご、ごめん……。」

女性が泣き始める。

 

ヒソヒソ

 

「あ……。」

よく考えるとここは京都駅の目の前でした。

 

「……大声出して悪かった。遊ぶから泣き止んでくれ。」

「ほ、ほんと?」

その女性の泣き顔にドキッとする。

「お、おう。」

「ありがとう……。」グスッ

嘘泣きじゃなかったのか。

良かった……って良くない!

え、えーと……。

 

ヨシヨシ

「カァー/////」

女性の顔が赤くなる。

「わ、悪い。」

俺は手を離す。

「あ……。」

えーと、これは。

ヨシヨシ

「エヘヘ。」

女性が笑顔になる。

ドキッ

「……。」

 

ヒソヒソ

 

「……静かな場所でもいくか。」

周りの視線が気になる。

俺は女性の手を引っ張りそこから脱出する。

 

「ふぅ。」

だいぶ歩き何処かの境内に入る。

ここまで来たら大丈夫だろう。

「「……。」」

「「あ、」」

「「……。」」

気まずい。

「そっちから……。」

「いや……。」

「私の方が悪いから。」

「でもな……。」

「……。」

あー、ダチがあかない。

 

「わかった。遊ぼうにも互いの名前もわからないから自己紹介しないか?」

「コクン……い、稲城金比羅。高校2年生。」

やっぱり同い年だったのか……。

「俺は比企谷八幡。同じく高校2年生だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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縁切り-2-

※作者に文章能力は皆無です。

※京都の地理を全く知らないのでそこは大目にみてください。

※Pixivに掲載したものをそのまま掲載してます。


自己紹介をし終えた俺たちは再び京都の町をぶらぶら歩いていた。

 

「「あ、あの(ね)!」」

「「……。」」

あー、またこれかよ……。

信号待ちの度に話し掛けるが、どうしても声が重なってしまう。

 

「あー、良い天気だな。」

そう言い俺は空を見上げる。

 

ゴロゴロ

 

「「……。」」

 

おい、さっきまで雲一つ無かっただろ!

空気くらい読め!ってあんなことをしてきた俺には無理な願いだな……。

 

「あそこで少し休憩するか?」

稲城がチラッと俺が指差した所を確認して返事をする。

「……コクリ。」

 

俺たちは近くにあった店に入った。

 

「いらっしゃいませ~。二名様ですね。」

「こちらへどうぞ。」

店員さんに奥のテーブルに案内されそこに座る。

 

「ご注文が決まり次第お声をおかけください。」

「わかりました。」

 

俺はメニュー表を広げる。

……やっぱりマッカンは無いのか。

これは仕方がないな。

店の人には悪いが砂糖をいっぱい入れて我慢しよう。

俺は正面に座っている彼女を見る。

 

「……。」

メニュー表を見ているだけで口を閉じている。

 

「決まったか?」

「コクリ。」

「すみません。」

 

俺は近くにいた店員さんに声をかける。

 

「注文良いですか?」

「大丈夫ですよ。」

「俺はカフェオレで……稲城さんは?」

「スーウ……よし。」

 

彼女が息を吸う。

 

「稲城さん?」

 

「えーと、季節のキノコ(パスタ)とトーストサンドのBLTEと……コーンのサラダと……カフェオレとスイーツでモンブランとティラミス……大盛りのイチゴパフェ……以上で。」

 

「「……。」」

 

俺も店員さんもそれらが彼女の細い体のどこに入るのかと静かに考えていた。

 

「あの~店員さん?」

 

「あっはい!確認させていただきます。カフェオレがお二つ、季節のキノコ、 トーストサンドのBLTE、コーンのサラダが各お一つずつ、スイーツでモンブラン、ティラミス、イチゴのパフェが各お一つずつの以上八点でお間違いはありませんか? 」

 

「は「はい!」……。」

 

「スイーツはどうしましょうか?あとの方がよろしいでしょうか?」

「はい!」

「わかりました。少しお待ちください。」

 

………………

…………………………

……………………………………

………………………………………………

 

 

 

「お腹空いていたのか?」

「あはは、いやーお腹が空いているとどうしても黙っちゃうんだ私。会話して余計なエネルギー使いたくないしね。」

「…………どうして空いたときに言わなかったんだ?」

 

言ってくれればどこかに入ったのに。

えーと…………サイゼリヤとか。

 

「……ハズカシイカラ。」

「ん?」

 

余計なことを考えていたせいでうまく聞き取れなかった。

 

「は、恥ずかしいから……気付いてよ。」

「わ、悪い。」

「それだか…………あ、ごめん。」

 

稲城が再び下を向く。

そうだよな……今日初めて会って、名前しか知らない仲なのに……。

俺があそこにいた理由も……稲城があそこにいた理由も……。

 

「「……。」」

 

「カフェオレと季節のキノコ、トーストサンドののBLTE、コーンのサラダに……なり……ます?」

 

お通夜のようなこの空間に店員さんが疑問形で言ってしまっていた。

……ごめんなさい。

 

 

「モグモグ」

「パクパク」

「あ、あの~。」

 

パタリと稲城の動きが止まる。

 

「なに?」

「お金はあるのか?」

そこまで持ってきてないからな。

 

「大丈夫、これがあるから。」

スーと財布からお金とは違う四角いものを出す。

 

「……それお前のだよな?」

「親から貰った。」

「……。」

Oh…… .

 

 

 

 

 

こいつもしかしてお金持ち?

あの強化外骨格の人たちと同じ?

あー、今ではある意味良い思い出だな。

リムジンとの事故。

 

「私、リムジンとか乗ったことないから安心してね。自転車派だから。」

「……。」

 

何で俺の周りにはこういう人たちが多いの?

 

「顔に書いてあるからね。ふふ。」

「マジか。」

「本当って書いてマジと読む。ははっ……これ古いかな?」

「さぁ?」

そういうの興味無いからな。

 

「ま、良いけどね。そういうの気にしないし。」

じゃあ聞くなよ。

 

「パクパク、モグモグ……ふぅ~食べないの?」

「あまりお金使いたくないからな。」

 

「……アーン。」

 

稲城がパスタを巻いてあるフォークを近付ける。

 

「……何これ?」

「パスタだよ。」

「……。」

それは知ってます。

この行為をする意味がわからない。

 

「あー、なるほどー。うん、わかった。」

 

稲城がフォークを皿に戻す。

ふー、良かった良かった。

さっきから男の視線が怖い。

 

「間接キスが嫌だったんだよね。はい、アーン。」

「……。」

 

いやいや、どう考えたらこうなる。

確かに間接キスのことも考えていたけれども……。

 

「アーン。」

「ちょっと……。」

「パスタ嫌い?」

「嫌いじゃないけど周りの視線が……。」

特に男の視線が……。

俺、この店から生きて出れるか。

 

「もう知らない。何言ってもあげないからね。」

 

これでもう安心だな。

死線も施しも無くなった。

 

グゥー

 

「「……。」」

「誰のお腹の虫が鳴ったのかな~?ふふーん。」

俺はドリアを注文するために店員さんを呼ぼうとする。

 

「すみま「アーン。」……。」

「すみ「アーン。」……。」

「S「アーン。」」

発音すらさせてもらえないと。

 

「はい、アーン。」プルプル

……腕が震えるくらいなら最初からしなければいいのに。

 

 

 

「はぁ、わかった、わかった。食べればいいんだろ。」

俺はパスタではなく手がつけられてないトーストサンドを取った。

 

「……。」

「誰もパスタを食べるとは言ってないだろ。」

「……私、帰る。会計よろしく。」

といい稲城が立ち上がり帰ろうとする。

 

「わ、わかった。わかりました。します。しますから、稲城さんにアーンをしてもらいたいです。」

黒歴史確定だな。

 

「しょうがないな~。この私がしてあげよう。」

エッヘン

無い胸……アイツよりはあるか……。

むしろ丁度いいかもしれない。

 

「ジー。」

「な、なんだよ。」

「……えっち。」

「な、な、な、何でそうなるんだよ!」

 

稲城がウーンと考える素振りをする。

そして……。

 

「女の勘?」

「勘かよ!」

「でも当たってたでしょ?」

「うっ……。」

 

否定しようにも否定できない俺がいる。

 

「……ごめんなさい。」

俺は警察に電話される前に綺麗な土下座をした。

 

「何でそんなことするの?」

「何でって、電話するんだろ?」

「どこに?」

「どこって、警察だろ。」

「どうして?」

「嫌じゃないのか。」

「う~ん、だって私が誘ったんだから。それにそれだけ私が可愛かったからでしょ?」

 

そういうものなのか?……って絶対違う。

可愛いのは否定できないけど……。

 

「それより、時間大丈夫?」

「……今、何時?」

「5時過ぎ。」

「……。」

 

終わった、オワッタ……オワタ。

俺、帰れない。

野宿決定。

 

「もしかして過ぎてる?」

「……。」

「……私の家に泊まる?部屋余っているから。」

「……えっ?」

 

 

 

 



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縁切り-3-

「比企谷君、まだまだ食べなさい。男の子なんだから。」

「そうよ。遠慮しないで。食べてくれる人が増えると私も作りがいがあるわ。」

 

「……はい。」

 

「モグモグ」

 

どうしてこうなった。

 

…………。

 

 

神社で稲城と出会う。

駅前で稲城が泣いて野次馬が来る。

その場から逃走する。

自己紹介をする。

店でご飯を食べる。

時間が過ぎて帰れなくなる。

稲城が家に部屋が余っているからと提案する。

…………。

 

あれ?

店から出た記憶も会計した覚えもないぞ。

 

「さあ、遠慮しないで食べなさい。口に合わなかったかな?」

 

「け、決してそう言うわけでは……。」

 

「比企谷君、そんなに硬くならなくても良いんだよ。ハハハ!」

「そうよ。コンのお友達なのだから。ふふ。」

 

「……はい。」

 

何でこの人たちは一人娘が知らない男を連れてきて何も言わないんだよ。

普通…………なんかするだろ。

 

「モグモグ。」

 

「……。」

 

稲城さーん、さっきから食べてばっかりですよね?

少しくらい会話に入ってもらっていいですかね。

ご飯を沢山食べるように勧められても胃がキリキリして食べられないんですけど。

 

「金比羅……。」

 

稲城のお父さんが稲城に話しかける。

会話に入ってこないから何か言うのか。と期待したが違った。

 

「コン、口にケチャップが付いているぞ。」

 

金比羅だからコン……普通だな。

ヒッキーよりも良いな。

 

「フキフキ。付いてない?」

「もう付いてないぞ。比企谷君に拭いてもらった方が良かったかな。ハハハ。」

 

な、な、な、何言ってるんだこの父親は!

普通に頭のネジ数本抜けてるんじゃ……。

 

「拭いてみる?」

稲城がわざと口元にケチャップを付ける。

 

「……遠慮しておきます。」

「コン!」

 

おっ!やっと期待した答えが……「食べ物をお粗末してはダメよ。」来なかった。

 

確かに食べ物を粗末にしちゃいけないんだけど……何か違うよな。

 

「メインの餃子できたわよ。」

餃子がメインなのか……。

 

「やった~。」

「比企谷君、妻が作る餃子は美味しいんだよ。私が取ってあげよう。」

「あ、ありがとうございます。」

 

……と言いつつ正直、いろいろありすぎてお腹一杯です。

まあ、出されたなら食べますけど……。

 

「いただきます……パクッ。……う、うまい!」

「それはよかった。なあ、母さん。」

「お世辞でも嬉しいわ~。」

 

お世辞じゃないんだけどな。

このうまさならお店に出てもおかしくはない。

 

「ふぅ~、ご馳走さま~。お腹一杯だよ~。」

 

「……。」

 

店にいるときにも思ったが何でそんなに食べられるんでしょうかね。

胸の大きさは違うがアイツと同じくらいかそれよりも細く見える。

 

「比企谷さん、今日はどうするの?泊まるところ無いんでしょう?」

 

「おお、そうだったな。コンが迷惑をかけたようで。」

 

「い、いいえ。むしろいつもよりゆっくりできて良かったですよ。」

 

この家に来た記憶が無いけど。

それは言わないでおこう。

 

「そう言ってもらえると助かるよ。詫びとしてはあれだが今日は家に泊まっていきなさい。」

 

これ以上施しを受けるのはまずい。

 

 

「ご飯を食べさせてもらったのにそこまでしてもらうわけには……。」

 

「まあ、良いじゃないか。今日くらいは人に甘えてもね。」

 

稲城の父親が俺の何かを見透かしたかのように言う。

 

「今からだと部屋が取れないわね~。」

 

母親が追撃をしてくる。

……野宿でも。

 

「泊まらないの?」うるうる

 

「……よろしくお願いします。」

 

稲城さーん、それは卑怯ですよ。

 

「それなら母屋に帰ろうとしよう。」

 

ん?母屋に帰ろう?まさか……。

 

「ここが母屋じゃないんですか?」

「ははっ、比企谷君、なかなか面白いこと言うね。ここは離れだよ。」

 

「……。」

 

…………

……………………

………………………………

…………………………………………

……………………………………………………

 

 

「「「お帰りなさいませ。浩志様、ミエ様。金比羅御嬢様。」」」

「ご苦労様。」

「お疲れ様。」

「ただいま~。」

 

俺がこっそり中に入るが……。

 

「「「比企谷様。」」」

 

「……お、お世話になります。」

 

メイドによりステレスヒッキーが無力化された。

 

「ははっ、比企谷君。ビックリしたかね?」

「まあ……。」

近くに似た人がいましたけど……。

 

「そうか……夜はまだ長い。男同士でゆっくり話そうじゃないか。」

「…………。」

「風呂の準備をしてくれ。」

「既に出来ております。」

「それじゃあ、比企谷君行こう。」

 

ズルズル

 

稲城の父親が俺を引き摺っていく。

 

「……。」

 

ドナドナドナドナ~。

アホ毛が揺れる~。

 

……

…………

………………

 

ガラガラ

 

「今日も素晴らしい!」

「……。」

 

これ何人用?

普通に10人は余裕で入れるぞ。

 

「よし、比企谷君、背中を流してあげよう。」

「結「そう、遠慮するな。そこに座ってくれるか?」」

「……。」

 

俺はそれに従い座る。

 

「ではいくぞ。」

ゴシゴシ

ゴシゴシ

 

「痒いところはないか?」

「特には……。」

「そうか……。」

 

ゴシゴシ

ゴシゴシ

 

「「……。」」

 

「では流すぞ。」

「はい。」

 

ジャアアー

 

「よし、私もお願いしよう。」

「はい。」

 

ゴシゴシ

 

「大丈夫ですか?」

「もう少し強くてもいいな。」

「はい。」

 

ゴシゴシ

ゴシゴシ

 

「痒いところは?」

「特にないな。」

 

ゴシゴシ

ゴシゴシ

 

「ふむ、流してもらってくれるか?」

「はい。」

 

ジャアアー

 

「よし、浸かるとしよう。」

「……。」

 

チャポンッ

 

「ふぅ~。疲れがとれる。比企谷君はどうかね?」

「気持ちいいです。」

 

普段は家の浴槽で我慢しているからな~。

俺はポキポキと首を鳴らす。

 

「……比企谷君。」

「はい。」

「今日はコンの我儘に付き合ってくれてありがとう。」

稲城の父親が頭を下げてくる。

 

「あ、頭を上げてください!」

「いや、私がしたいからこうしているんだ。」

「……。」

 

そして、頭を上げて俺に言う。

 

「コンがあんなに食べている姿を久しぶりに見たからね。」

 

言っている意味がわからなかった。

普段はあそこまで食べないと言うことか?

俺が疑問に思っていると答えてくれた。

 

「……普段は少食だよ。」

「えっ……。」

 

俺は信じられなかった。

だってそうだろ。

店で、家でも沢山食べていたのだから。

 

「何か理由があるんですか。」

「……知っているけど私の口からは言えないよ。コンが隠しているからね。コンが言ってくれるのを待ちなさい。」

「……はい。」

 

今の俺がこれ以上聞いても何も答えてはくれないだろう。

 

「私はそろそろ上がろうと思うが比企谷君はどうする?」

「もう少し浸かっています。」

「ゆっくり考えなさい。君の今後のこともね。あと私のことは浩志さんと呼びなさい。あと妻も含めてね。」

「いや「い・い・ね」」

「は、はひ!」

 

やっぱりこういうひとが怒ったら怖い。

浩志さんが頭を洗って風呂から出る。

 

 

「……。」

 

今後の俺……か。

俺はどうしたらいいんだろうか?

千葉に帰るか……帰らないか。

学校も……。

…………わからない。

 

ブクブク

ブクブク

 

「比企谷くーん、まだ~?」

 

稲城!?もうそんな時間か!?

 

「も、もう少しで出る!」

「それなら私も入ろうかな~。」

「!!!!」

 

ジャバッ!

ドテーン!

バターン!

 

「ひ、比企谷くん、大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だ。」

 

ギャグみたいに転けたな。

疲れがとれたはずなのに全身が痛い。

 

「本当に大丈夫?」

ガラガラ

 

「だ、大丈夫だから!出るの待ってて!」

 

「……わかった。何かあったら言ってね。」

 

「ああ……。」

 

ガラガラ

 

きっと湯気で見えてないはず。

たぶん……。

 

 

 

「…………結構筋肉あった/////」

 

 

「さっさと頭を洗って出るか。イテテ。」

 

 

………

………………

………………………

 

メイドが案内してくれる。

一人だったら迷子だな。

 

「比企谷様、お部屋はこちらになります。」

「あ、はい。」

「何かありましたら内線電話で088と押してください。私がすぐ行きますので。」

「は、はい。」

「それでは失礼します。」

「あ、あの~。」

「何か?」

「ト、トイレの場所は?」

 

「この廊下の突き当たりの右側とそこの階段を上がった場所にあります。」

 

 

「他に何か?」

「いいえ。」

「それでは、改めて失礼します。」

 

シュンッ

き、消えた!?

キョロキョロ

 

「比企谷様、消えたわけではございません。天井に通り道があるのです。」ドヤ

 

先程のメイドが天井から顔を覗かせる。

 

「……。」

 

凄いですけど、ドヤ顔しなくても……。

 

「それでは、失礼します。」

 

ガチャッ

天井にある蓋を閉める。

 

……部屋に入るか。

 

「広すぎだろ。うちのリビンクぐらいあるぞ、ってあの家に帰るかはわからないけどな。」

 

俺はベッドの上で浩志さんに言われたことを再び考える。

縁を切ったあと俺はどうするつもりだったのだろうか。

あの神社に行ってそのまま千葉に帰ろうとした……。

誰も助けてくれないあの場所に……。

 

もしかしたら『死』を選んでいたのかもしれないな……。

 

……もう寝るか。全身が痛いしな。

 

俺は電気を消そうと立ち上がりスイッチのある場所に向かう。

 

バーン

突然ドアが開く。

ビクッ!

 

「い、稲城!?」

「遊ぼう!」

「学校は?」

「今は……行ってないんだ。」

「あ……「き、気にしないで。それよりなにして遊ぼうか?テレビゲーム?トランプ?」」

箱から色々出してくる。

 

って風呂から出たばかりなのかかなり色っぽい……ゴクッ。

…………八幡の八幡落ち着け。

こう言うときは深呼吸だ。

スーハースーハー

よし……。

 

「二人でトランプは……。」

「と言っている比企谷くんは一人でトランプしたことあるんでしょ?」

「ウッ!」

 

確かにしたことはあるが、あれはしない方がいい。

複数でしたときに序盤で上がれなくなる。

トランプのピラミッドは別だが。

 

「う~ん、これしよう!」

 

稲城が配管工やら黄色いネズミなどがでてくるソフトを見せる。

 

「はぁ、少しだけだぞ。」

「やった~。」

 

両手を上げて喜びを表現している。

大袈裟すぎる。

 

「俺はこれだな。」

「私はこれ。」

「ってランダムじゃねーか。」

 

…………

……………………

………………………………

……………………………………………

 

「稲城、強すぎだろ。」

「比企谷くんもね。」

「俺、3勝7敗だぞ……。」

 

動画とか見て研究してたんだけどな……。

動画以外の動きをしてくると対処しきれない部分も出てくる。

 

「あ、もうこんな時間だね……そろそろ寝る?」

「ああ、そうだな。」

 

俺たちはゲームを元の位置に片付ける。

 

「じゃあね、楽しかったよ。おやすみ~。」

「おう、おやすみ。」

 

稲城が部屋から出ていく。

………元気そうだけどな。

見た目だけではわからない……か。

 

ガチャッ

ドアから稲城が顔を覗かせる。

「忘れ物か?」

「違うよ。」

「じゃあ何だよ。」

「言い忘れたことがあったから。」

 

言い忘れたこと?

何だ?

 

「……風呂から出たばかりだとどうしても色っぽく見えるよね!おやすみ~。」

 

バターン

稲城が勢いよくドアを閉める。

 

……な、な、な、何言ってるんだよアイツは!

折角ゲームで忘れかけていたのに思い出しちまったじゃねーか!

 

忘れるために俺は電気を消して布団に潜る。

心頭滅却―――。

 

 

「……寝れねー。」

 

 

湿った髪に火照った表情……。

 

 

「…………。」

 

 

 

俺は何かと格闘し眠りについたのは朝方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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縁切り-4-

 

「あー眠い。」

 

やっと寝れたと思ったらあのメイドに2時間後に起こされてしまった。

 

「何で?」

 

「何でって…………。」

あの事を言えるわけがない。

 

「言えないことでもヤってたのかな?」ニヤニヤ

 

「や、ヤるわけないだろ!」

 

かなり危なかったが。

八幡の八幡が八幡するところだった。

 

「ふーん。」

「な、何だよ。」

 

稲城が怪しげな目で見てくる。

嘘は言ってない。

もちろん真実も言ってないが。

 

「……それはそれで良いんだけど……もしかしてED?」

「違う。」

現役です。

 

「もうどうでも良いや。今日、帰るの?」

 

どうでも良いこと聞くな!って話変わりすぎろ……。

 

「決めてない。というよりはあのあと何がしたかったのかわからないでいる。」

 

浩志さんに言われて考えているが、頭のなかがグシャグシャで整理ができてない。

 

「そうなんだ。」

 

「「……。」」

俺たちに気まずい空気が流れる……。

 

ゴホンッ

「「!!」」

 

浩志さんとエミさんが仕事に行ったのでこの話をしていたが、俺たちはこの屋敷にメイドがいることをすっかり忘れていた。

 

「金比羅御嬢様。比企谷様。申し訳ございませんがこういう話は自室か人がいないところでした方が良いかと……。」

 

稲城が立ち上がる。

「比企谷くん、部屋に帰ろう。」

「お、おう。」

 

 

俺たち以外、誰もいない廊下で話す。

 

「……結局どうするの?決まっていないならしばらく止まっても良いよ。父さんも母さんも喜ぶと思うし。」

 

…………。

 

「…………少し一人で考えさせてもらっても良いか?」

 

俺は稲城の方を見る。

 

「わかった……今日は我慢するから必ず答えを出してね。」

 

稲城が見つめ返す。

俺は稲城のその表情に何かを感じ取った。

 

「わかった。ありがとう。」

 

「またあとでね。バイバイ」フリフリ

稲城が自分の部屋に帰っていく。

 

「……落ち着いた場所に行くか。」

 

 

 

俺は初めてこの屋敷……広大な敷地から出た。

 

「……。」

 

迷子にならなくて良かった。

危うく稲城を呼ぶところだった。

 

番号交換してないから呼べないけどな。

……スマホの電源入れてない。

 

ポチッ 

 

通信が再開される。

 

メールが300件以上来ていた。

 

着信は……。

 

「……アイツら暇か。否定した人にメールなんて送るなんて。送ってきても削除するから意味無いけど。ポチッ。」

 

それから俺は電車を乗り継いでとある公園に来た。

街を一望できる。

 

ここに来るとき、いろんな人にジロジロ見られていたが、更に目が腐ったのだろうか。

と思っているとカップルが話しかけてくる。

 

「もしかしてこれは君?」

 

彼氏(イケメン)の方がスマホの画面を見せてきたので、それを見るとそこには俺の写真がネットにアップされていた。

 

行方不明者扱いとして。

 

俺みたいのがたった一日いなくなっただけでニュースになるわけがない。

俺の両親はそういう人たちだから。

 

……あの姉妹だろうか。

 

「そうみたいですね。」

 

俺は正直に答えた。

隠すこともない。

 

「早く警察に!」と彼女が言う。

「ああ!」

 

それを聞いた彼氏が電話をかけようとしたので遮る。

 

「しなくて良いですよ。俺、捨てられたので。」

 

「「!」」

 

カップルが驚く。

それもそうだろう。

行方不明者が自ら捨てられたと言ったのだから。

 

「それなら!」

「……。」

 

誰かに助けを求めれば良い。

『助けて』と言えば……。

だが俺にそんな権利はない。

そんなもの捨てたから…。

 

「……ここにいること誰にも言わないでください。お願いします。」

 

俺はカップルに頭を下げた。

とにかく今は考える時間が欲しい。

俺が俺ではなくなるかもしれないから。

 

「行こう。」

「……。」

 

そして、カップルがいなくなる。

 

「……。」

 

俺は再び街を見て目を閉じる。

 

家族旅行に行ったことがない。

アイツが泣けば俺が怒られた。

小学生、中学生のときは虐めの標的にされた。

最近は犬を助けて入院、強制入部、暴力・罵倒・キモい等の繰り返し。

俺が依頼で動けば……それを否定される。

 

 

……俺は一体何のために生まれてきたのだろうか。

 

「君が比企谷君かな?」

 

肩をトントンされ後ろを向くとそこには数人の警察官とパトカーが二台停まっていた。

 

「……。」

 

俺は………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び降りた。

 

逃げるために。

 

それは警察からか、アイツらからか、それとも…………自分自身からか。

 

目の前が真っ暗になった。

 

 

 



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縁切り-5-

 

ここは……病院か?

 

違う………………………………

……………………………………………………

……………………………………………………………………

………………………………………………………………………………

 

 

はい、ごめんなさい。

ここは神様がいるところではなく病院です。

一度やってみたかった。

 

テヘペロ……テヘペロ。

 

…………やっぱり俺がすると気持ち悪いな。

 

「……。」

 

横を見ると稲城が俺の手を握っていた。

 

「…… 稲城?」

 

「八幡!」

 

 

「嫌。」

「稲「金比羅って呼んで。」……。」

 

稲城ってこういう奴だったか?

 

何があって……ああ、俺が飛び降りたからか?

 

稲城の顔を見ると目が赤くなっている。

 

俺のために泣いてくれたのか?…………いや、勘違いだな。

 

今までがそうだったから。

 

周りに期待するのは止めた。

 

だけど、泣いたのは本当だから一応謝っておこう。

 

「……悪かった。」

 

「……二度とこういうことをしないでね。」

 

「ああ。」

 

約束はできないけどな。

俺は俺だから。

 

「約束を破ったら駄目だからね。」ニコッ

 

ブルッ

稲城の笑顔で体が震える。

これは……。

「……すみませんでした。」

 

「もう破ったんだ。」

あ……。

 

「何でもしますから。許してください。」

 

「何でも?」ニヤ

 

俺と違ってニヤっとしても可愛い……って今は違うだろ!

変なことを言われる前に言っておこう。

 

「俺にできる範囲でお願いします。」

体が動かせないので首だけを動かす。

 

「何にしようかな~♪♪」

 

「……。」

って俺の声が届いてない。

 

「あ!」

 

「き、決まったのか?」

 

「決まってないけど、重要なことを言うの忘れてた。」

 

「?」

 

重要なこと?

 

一生ベッドの上で暮らすことになったとか?

 

こ、これで働かなくて済む!

 

って、それは流石に駄目だろ、俺。

 

その前にさっき足を動かせたし。 

 

「八幡、もうあっちに帰らなくていいよ。」

 

「は?」

意味がわからない。 

どうゆうことだよ?

 

「あっちってどこだよ。」

 

「勿論、千葉にね。いやー、八幡が病院に運ばれたって聞いてここに来たら、変な人たちがいてね。

『どちら様ですか?』って聞いたら

『私たちは迷子の比企谷君(ヒッキー)の友達』って言うんだよ。

八幡は嫌がっているのにね。だからここに来たんでしょ?」

 

おいおい、アイツらここに来たのかよ。

そして、友達……笑えねー。

ここにはいないみたいだが。

 

「でも、安心してね。いろいろ言って追い返したから。」

 

「……。」

 

「聞きたい?」

 

「いいえ。」

絶対聞かない方がいい。

きっと後悔する。

…………アイツらを言い負かしたんだから結構なことを言ったのか?

姉の方も居ただろうし。

 

「あー、でも……八幡が言ってた、強化……外骨格の人は居なかったよ。」

 

ん?

居なかった?

 

あの人、こういう面白いところには必ずいそうな気がするが…………。

 

どうしたんだろうか?何かトラブルでも?

 

まさか…「八幡、余計な詮索するのはよくないと思うよ。」ニコッ

 

稲城が俺にニコリと笑う。

 

ゾクリ

その瞬間、俺の背筋が凍る。

 

なんだよ……これ……稲城ではない何かに心臓を鷲掴みされているような感覚は……。

 

今の稲城が何を考えているのかわからない。

 

あの人の仮面とはなにか違う……別の次元だ。

 

「……。」

 

「どうしたの?」

 

「いや……ただ、マッカンが飲みたいなと。」

 

余計な詮索は……しない。

 

「この病院の自動販売機にマッカンがあるみたいだよ。」

 

「マジか!」

ガバッ

俺はマッカンが飲めるという嬉しさに怪我をしていることを忘れて体を起こした。

「イテッ!」

 

全身が痛い。

 

「アハハ。そんなに飲みたいんだ。私も飲んでみようかな~。」

 

「俺の唯一の癒しだからな。」

 

「へぇー。でも残念なことに先生の許可が降りないと飲めないけどね。ワタシヨリモ…ケス…デモ、ハチマンガカナシムノハイヤダ……。」

 

「何か言ったか?」

最後の方が聞き取れなかった。

 

「ううん、何でもないよ。こっちのはなし。」

 

「そうか…………今更だが飛び降りた理由聞かないのか?」

 

「聞きたいけど、八幡はそういうの嫌なんでしょ?大体予想はできるけどね。」

 

「あぁ。」

でも言わなくてもわかるのね。

女子ってコワイ。

 

「「……………。」」

 

会話が続かず、無言な時間だけが過ぎていく。

そこへ看護師さんが顔を覗かせた。

 

 

 

「稲城さん……あら、比企谷さん起きたのね。」

 

「はい。」

 

「……。」

結構美人だな。

出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。

まさに、パーフェクト。

こんな女性に……。

 

ツネリ

「イテッ!!何つねるんだよ!」

 

「知らない。」

 

「知らないって、稲城がしたんだろ。」

 

「忘れた。」

 

「忘れたって、早すぎだろ。」

 

はぁ、めんどくさい。

女子って何でこう……はぁ……。

溜め息しか出ない。

 

ここで俺たちのやり取りを聞いていた看護師さんがふふっと笑った。

そして、笑ったあと衝撃的な発言をする。

 

「ふふっ、あなたたちお似合いカップル。初々しくてあの頃の私を思い出すわ~。」

 

「「か、カップル!」」

 

「お、俺たちそういう関係では……。」

 

「そ、そうですよ!マダ、ソコマデ……デモ、イズレハ……。」

 

「そう、なら私が比企谷さんを狙おうかしら。それに比企谷さんみたいな男の子大好きだから。」

 

看護師さんが俺にウインクをする。

ドキッ

 

~妄想1~

 

『比企谷さん、点滴の時間よ。』

『…………。』

『どうかしました?』

『注射はどうも苦手で……。』

『仕方がないわね…『そ、それは!』………勿論、これは比企谷さんだけの特別サービスよ。』

『はい!』

 

良い。

 

 

~妄想2~

 

『比企谷さん、昼御飯の時間よ。』

『……。』

『どうかしましたか?』

『トマトが苦手で……。』

『好き嫌いは駄目よ。』

『…………。』

『仕方がないわね…………勿論、これは比企谷さんだけの特別サービスよ。これを食べて大きく逞しくならないと……ね。』

『はい!』

 

…………完璧だ。

 

 

 

「ダメ~!」

ん?

いきなり稲城が大きな声を出す。

 

「何が駄目なのかしら?」

 

「ダメなものはダメなの!」

 

「んー、でも昨日退院した○○さんと同僚の○○は付き合い始めたから大丈夫よ。イケナイ関係ではないわよ?」

 

「そ、それでもダメなの!」

 

「俺は別に「ダメ!」」

 

「看護師さんの冗談かもしれないし……。」

 

「お姉さんは冗談言うの好きじゃないの。」

 

ちょっ、何言っているんですか!

そこは冗談と言ってほしかった……。

 

「八幡!」

「比企谷さん♪」

 

ガバッ

 

俺は痛みを耐え、布団に包まった。

 

 

 

 

気が付くと俺は寝ていたようで、夕御飯の時間になっていた。

 

「八幡、やっと起きたんだ。」

 

「……えーと。」

 

頭が回らない。

確か何かあったような……絶対避けたい出来事があった気がする。

 

「美味しそうなおかずが並んでいるね。」

 

「そうだな。」

おかずより何か思い出さないといけないことが…………。

 

「痛みがあるなら食べさせてあげる。はい、あーん。」

何だっけな? 

んー。

 

「八幡、口開けて。」

……口?

俺は口を開けた。

すると、口の中に何が入ってくる。

 

「…………何してんだ?」

 

「あーん。」

 

「…………何入れた?」

 

「なんだと思う?」

 

「トマト。」

口に入った瞬間わかった。

 

「あったり~。」

イエーイ

ピースサイン

 

「……。」

 

不味い。

女子にあーんされても美味しくない。

でも、ピースサインする稲城は可愛い。

って、何考えているんだよ!

煩悩を断ち切るために頭を振る。

 

「ど、どうしたの!?そんなにあーんが嫌だった!?」

 

「そういう訳じゃない。無性にしたくなっただけだ。」

 

「そ、そうなんだ…………ねぇ、八幡。」

 

下手したらただの頭のおかしい人だな。

…………そう言えば、目覚めてから呼び方がずっと八幡だった。

 

「突然だけどカップルってどう思う?」

 

「ブーーーッ

い、いきなりなんだよ。」

 

「寝る前に看護師さんが言っていた、お似合いカップルのことどう思っているかな~と。」

 

「あー、あれか。」

言われて思い出した。

そんなことがあったな。

あの看護師さん、良かった。

 

「八幡、聞いてる?」

 

「聞いてます。」

 

「怪しいな~。」ジトー

 

「ウグッ、そ、それでカップルがど、どうしたって?」

動揺しすぎだろ、俺。

 

「もう!だから、私と八幡がお似合いカップルと言われてどう思ってるかって話。」

 

それか…………。

 

「私は嬉しかったかな。人生で初めて言われたから。誰とも付き合ったことないから。八幡は?」

 

「俺は………。」

嬉しかったのか?

どうだろう。

稲城みたいな可愛い女子と付き合えるなら……あり得ないけど。

 

「嬉しいかもな。」

 

「な、なら、付き合ってみる?」

 

「はぁあ!」

 

「あ……ち、違う。これは違うから////

私、付き合ったことないから、一度でもカップルの体験してみたいな~と////」

 

「そ、そうか…………見た目だけだと何人かいそうだけどな。」

 

「私はそこら辺にいる尻軽女とは違うから。」

 

誰もいないドアの方を指差す。

 

「誰かいるのか?」

 

ガラガラ

 

 

 

「気付いてた?」テヘッ

 

あの看護師さんが俺たちの会話を盗み聞きしていた。

何歳か知りませんけど、テヘッは止めた方がいいと思います。

美人なのは認めますけどね…………。

 

そこへ誰かがあの看護師さんに話しかける。

 

「○○さん、ここで一体何をしているのかしら?暇なら手伝ってほしいことがあるのだけど……。」

 

「あ、○○(同僚)と飲みに行くんでした!失礼します。」

ピューン

 

あの看護師さんがあっという間に消えた。

 

「大丈夫だった?」

 

「は、はい。」

 

「あの子も悪気はないのよ。ただ……。」

 

「ただ……。」

 

「人を弄るのが大好きなのよ。」

 

「…………。」

それって悪気があるのと変わらないような。

 

「真面目にすればあの子も一気に私を抜くのに……。」

 

へぇー。

見た目とかなり違うな。

行動はあれだが。

 

「そろそろ、仕事に戻らないと。若いって良いわね。」

と看護師さん(2)と言って、仕事に戻っていった。

 

「「……。」」

 

「それでどうする?」

 

「え、何を?」

話の流れでわかっているが一応惚けてみる。

 

「か、カップルの真似!/////」

 

「えーと……稲城の方はどうなんだ?」

 

「わ、私は……したいな。」

 

「俺以外じゃあ、ダメなのか?」

俺、目腐っているしコミュ力ないし。

あの中身を除けば『ハザン』みたいな容姿の方が釣り合っている。

 

「私は……八幡が良いな/////」

 

「…………俺で良かったらお願いします。」

そんな顔で言われると断れません。

それに……。

 

「ほ、本当に良いの?私の我が儘に付き合ってもらっても……後悔しない?」

 

「とりあえず、"真似"だからな。」

それに……これはカップルの真似だから。

間違えることはない。

 

「……"真似"。」

 

「どうかしたか?」

稲城の顔が少し暗い。 

 

「ううん、何でもないよ。私、そろそろ帰るね。」

 

「おう。」

 

「明日も来るから。」

 

「無理しなくても良いぞ。」

 

「ダーメ、私たち一応カップルでしょ。真似だけどね。」

 

「おう、楽しみにしてる。」

そうだったな。

 

「バイバイ。」

 

俺は稲城に手を振った。

ガラガラ

ドアが閉まる。

 

「…………。」

真似だとしても人生で初めての彼女が稲城みたいな可愛い子で良いのか?

いろいろと後悔させそうで怖いんだが。 

それに、浩志さんを怒らせたくない。

 

こうして、俺の長い長い夜が過ぎていった。

 

 

 

 

 



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縁切り-6-

『俺の名前は比企谷八幡。

先日、リア充(仮)になりました。

なんと!

相手はあの稲城金比羅さんです!はい、拍手!』

パチパチ

………………。

何で俺なんだよ。

「なー「んー、初デートどこにいこうかな~。」……。」

「あの~、稲「こ、ん、ぴ、らでしょ♪あっ、コンちゃんでもいいよ♪エヘヘー。」いや、何でもーーーー。」

「あ、わかった!八幡も初デートだから一緒に決めたいんだね。私ばっかり考えちゃってゴメンね。エヘヘ。」

「………。」

可愛いから許す。

「それでね―――――。」

「というわけで、結局街を適当にブラブラすることに決まりました!イエーイ!」

ピース

「まてまて、十何冊も雑誌を見て決まらないってどういうことだよ。」

「行きたいところがあり過ぎて決まらないんだもん。」

デートスポットのリストを見ると、京都以外にも大阪、神戸の観光名所が書いてあり、既に旅行となっていた。

「それはデートと言うのか?もう旅行だろ?」

「そうなのかな~?そう言われると1日で全部回りきれないかも。」

「………………。」

これ全部1日で回る気だったのか………どう考えても無理だろ。

ガラガラ

「比企谷さん、ラブラブしているところ申し訳ないけど、昼御飯の時間よ。」

あの看護師さんが昼御飯を持ってきたようだ。

※前話を参照してね。

「今日の昼御飯はなにかな~と。」

「稲城さんのは無いわよ。」

「エッ(゜д゜)!」

「それはそうでしょ。入院しているのは比企谷さんなんだから。」

稲城………その表情は止めておいた方がいいぞ。

俺の経験上、間違いなくネタにされるから。

「私にゅ、八幡とご飯食べたい!」

あ、稲城が噛んだ。

うん、噛んだ。

「それならさっさと買ってくればいいじゃない。その間に私が食べさせておくから。」

「ムウウ………八幡!絶対食べちゃダメだからね!」

シュパッ!

どっちの意味でだ?

ご飯か、看護師さんか。

「………。」

「比企谷さん………じゃなくて、は・ち・ま・んと呼んだ方がいいかしら?ウフフ。」

「いや「とおぉぉ~。」」

「八幡!大丈夫!?貞操とか貞操とか!?」

「ちょっ、まっ「チッ!」」

チッ!って何でそこで舌打ちするんですか!

今度から二人きりになるの怖いんですけど!

あと、帰ってくるの早すぎ!

「そこは大丈夫よ。私がリードしてあげるから。」

そういう問題じゃない!

「八幡!多分リードはできないけど、私の初めてをあげるから!それで許して!」

アウト。

完全にアウト。

誰がどう見てもアウトだ。

うん………………………………………………………………………稲城って初めてだったのか、良かった。

………じゃねーよ!

何、考えているんだよ!

安心しているんだよ!

そんなのただの変態野郎と変わらねえよ!

はあー、疲れた。

「「それでどっちにする(の)?」」

『出ていけー!』

俺は二人を部屋から追い出した。

グゥゥ

「食べよ。」

モグモグ

「………………うまい。」

………………

………………………………

………………………………………………

「はぁ~、追い出されちゃった………恭子さんのせいだからね!」

「良いじゃないの。あの事がバレずに済んだんだから。あと、彼には本当のこと言うの?これは絶対にバレることなんだから。」

「八幡には悪いけど、私は今を楽しみたい。」

「そう。ところで昼御飯は?」

「あ、病室に忘れたー!あの袋には限定のアイスが入っていたのに~!」

「それは残念ね。きっと今頃比企谷君に食べられているわよ。」

「八幡はそんなことしない!」

「でも部屋には戻れないから溶けるわね。比企谷君が個室にある冷蔵庫に入れない限り。」

「スッー、はちまーん入れておいてねーーーー。」

バシンッ!

「痛い。」

「病院で大声を出さない!近くにいる私も怒られるでしょ!」

「斎藤さん、どうされましたか?また何か問題でも起こしましたか?」

ビクッ!

二人の後ろから話しかけられる。

「い、いいえ。してません!」

「そうですか。」

「あと、稲城さん。」

「はい!」

「元気なことは良いことです。それでもあまり無理はしないようにね。」

「はい…。」

「それと比企谷さん、明日から敷地内までなら外出していいわよ。」

「本当に!」

「えぇ。」

「帰って準備しないと!」

シュパッ!

「廊下は走らない!もう。」

「斎藤さん、今日くらいはいいと思いますよ。」

「そうですね。今日は優しいですね。」

「………暇ならこちらの仕事を手伝ってもらいましょうか。」

「比企谷君に伝えないと「先ほど言いに行きましたよ。」」

「では行きましょう。」

「イヤー。」

………………

………………………………

………………………………………………

次の日

「ルンルン~♪」

車椅子を押してくれるのは有り難いが、速い。

ドンドン車椅子を押してくる。

まるで一人用のジェットコースターに乗っているかのようだ。

「危ないから少しスピードを落とせ。」

「嫌だよ~。そういう子にはこうだ~!」

ビューン

「ちょっ………まっ………。」

稲城が更にスピードを上げる。

「お客さ~ん、喋っていると舌を噛みますよ~♪」

ビューン

暴走している車椅子(押している稲城)に周りが上手く避けている。

それは老若男女関係無く。

「間も無く終点、終点 。終点の温室です。入り口は右側~、右側です。入る前は歩いている人に注意してください。」

注意するのはお前だ。

周りが上手く避けてくれたから良かったものの、一歩間違えれば他の人に怪我をさせているところだ。

この真似をしたら駄目だからな。

「こんなところがあったんだな。」

「ここ良いでしょ!」ニパー

「中はまだ見てないけどな。」

「早速入ろー!」オー

稲城が右の拳を上げる。

そして、大きくもなく小さくもなく程好い大きさの胸が微かに揺れた。

「ほら八幡もオーしようよー。」

「ほら、早く!オーって!」オー

再び揺れる。

素晴らしい。

これ以外の言葉が出てこない。

男に生まれてきてよかった瞬間でもある。

「ォ、オー。」

俺は少し拳を上げた。

「声に元気がないな~。でも………。」

でも、なんだよ。

「八幡のアレは元気だね!」

「ちょっ。」

ば、馬鹿な!?

そんなはずは!?

チラッ

下半身

特に目立った変化は無し。

「八幡一体どうしたのかな~?下を見て~?」ニヤニヤ

は、謀ったな!

「私が言ったのはアホ毛の事なんだけどな~。」ニヤニヤ

「………帰るわ。」

コロコロ

「ちょっ、八幡!?」

俺は来た道を引き返す。

「待って~。」

ギュウッ

稲城が車椅子のハンドル(握り)の部分を掴む。

「うぉ!」

あぶねー。

もう少しで前に転ぶところだった。

少し進んで戻るつもりでいたが、直ぐに掴むとは思わなかった。

「ごめんなさい!」

稲城が頭を下げて俺に謝る。

「!」

謝ってくるのは予想していたが、頭を下げるのは予想外だ。

普段がアレだからな。

「そこまでしなくても「でも!」まあ、こっちも帰ろうとしたのも悪かったしな……。」

ポリポリ

こういうときの対処が一番困る。

今までの経験上な。

「八幡が素直だ。」

失礼な。

嫌なことは嫌だと言うタイプだぞ。

土日は外出したくないとか、面倒なことはしたくないとかいろいろある。

「……行くぞ。」

「逝くぞ?」

「違う!」

助かったのに死んでたまるか!

まあ、飛び降りたのは俺の意思だが。

助かったのなら生きる。

「イクぞ?」

「論外だ!」

「出る派だった?ド○ツて。」

「ワーワー聴こえないぞー。」

「……これがずっと続けばいいのにな、無理だけど。」ボソッ

ん?

稲城があの流れから違うことを言ったような?

気のせいか。

「しゅっぱーつ!」

稲城が勢い良く進み出す。

「い、入り口は!」

「私たち以外いませーん。」

「……。」キョロキョロ

俺たち以外がいないのではなく、周りが距離を取っているのが正しい。

「おぉ……。」

「凄いでしょ!」

「あぁ……。」

テレビやネット、本でしか見たことがない植物がある。

時々、こういう体験もいいかもしれないな。

千葉村以外で……。

もう二度としない。

あんなことは。

「八幡、まだ外出は無理だった?」

稲城が心配そうな顔でこちらを見てくる。

「いや、大丈夫だ。少し昔のことを思い出しただけだ。」

やはり縁を断ちきるのは無理なのか。

神ですら俺の運命は変えられないらしい。

「稲城、あそこに行ってくれないか?」

俺は温室の中央にある噴水を指差す。

「わかった。」

稲城が先程とは違いゆっくりと進める。

普通はこれが正しい。

噴水に近付くと、俺は目を閉じる。

今は水の流れる音で忘れよう。

暫くして目を開けると稲城がいなかった。

俺は周りを見渡す。

キョロキョロ

直ぐに稲城を見つけることができた。

噴水の近くにあるベンチに座って、時より頭がこくりと上下している。

「……たまには良いか。」

…………

……………………

………………………………

「んっ?」

「起きたか?睡眠不足は体に悪いぞ。」

「あれ?夢じゃない?」

「夢じゃないぞ。現実だ。」

バッ!

「カァー////」

稲城の顔が紅潮する。

かわいいな、おい。

「な、な、な、何でひ、膝枕してるの!?」

稲城が言ったように俺は今、膝枕をしている。

何でって。

「なんとなく?」

無性にしたくなった。

今思えば恥ずかしいことだが、後悔はしてない。

「女の敵……。」

「嫌ならもう二度としないぞ。」

「……また、お願いします。」

「了解。」

「「…………。」」

「ぐぅー。」

稲城のお腹が鳴る。

時計を見ると昼御飯前だ。

「帰るか。」

「よし、帰ろう!今日のご飯は何かな~?楽しみ~。」

こいつ、昨日のこと忘れてないか?

用意されてないから買いに行って、それを持って帰るのを忘れ、今頃冷凍庫の中で眠っているはず。

まあ、無くても昨日のがあるし、きっと大丈夫だろう。

「……。」

何故二人分ある。

流れからしてここは一人分でいいだろ。

「八幡食べないなら食べてあげる。」

パクパク

俺の返答なしに食べ始める。

「食うな。」

「えー。ケチ。」

もう半分しか残ってないぞ。

仕方がない、我慢しよう。

俺は残りを食べ始める。

パクパク

うん、うまい。こま……あーダメだ。

まだ味を覚えてる。

頼りすぎたな。

はあー。

「どうしたの?」

「稲城が買った限定のアイスを食べたいなと。」

「あっ!」

こいつ、忘れていたな。

「病人が食べたら駄目だよ!」

「大丈夫だろう。」

パカッ

ヒラヒラ

冷凍庫を開けると一枚の紙が落ちてきた。

『アイス食べました。代わりにお金を置いておきます。恭子』

「「…………。」」

「ちょっと行ってくる。」

フラー

「い、行ってらっ……しゃい。」

止めたら殺される。

バタンッ!

『ちょ、稲城さん!?』

『食べ物の恨みは―――――!!!』

『お金置いていたでしょ!』

『最後の1個だったのにー!!』

『ネットで――』

『全国共通で店頭販売のみ!そして、昨日まで!』

『うっ…………』

『うがーーーー!!』

『誰かー!』

『『『…………』』』合掌

と、ドアの向こうから聴こえてくる。

「寝よう。」

俺の久し振りの外出は終わった。

はずだった。

「起きろー!!!!」

バサッー

「!?!?!?」

突然、掛け布団を剥がされる。

「何、寝てるの!?まだ面会時間は終わってない!」

「…………。」

寝起きで頭が回らない。

「起きて!」ユサユサ

「…………。」ボー

「もう!」

ツネリ

「……痛い。」

「起きない八幡が悪い。あと、金比羅で呼んでよ。」

「それは無理。」

「ブーブー。って八幡、起きてるでしょ。」

「ツネリで起きた、起こされた。それで何するんだよ。」

俺が起きたところで、何も面白くないぞ。

「う~ん、何しよっか?」

「……寝よう。」

「それは駄目。」

「…………屋上でも行くか?」

「行く!」

「ヨイショ。」

「あれ?車椅子は?」

「朝、調子が良かったから試しに松葉杖で行くわ。」

担当医から許可を貰ってないが大丈夫だろう。

痛くないし。

「一応、持っていくね。」

稲城が車椅子の準備をする。

「悪い。」

「これくらい任せて!」

「任せた。」

歩くのはここからエレベーターがあるところまでだが、時間がかかってしまった。

原因は負荷の時間が長ければ痛みは出てくるから。

「やっと屋上に着いた。」

「お疲れ様。座る?」

「いや、あそこにあるベンチに座ろう。」

「了解。」

…………

……………………

………………………………

「寒いが、気持ちいいな。」

「そうだね。」

「寒くないか?」

「大丈夫。こうして手を繋げばね。」ギュウッ

「…………。」

ヤバい、ドキドキで心臓が破裂しそうだ。

稲城の方は……チラッ。

紅潮している。

きっと俺も紅潮しているに違いない。

「「…………。」」

俺たちはしばらくの間、あの看護師さんが呼びに来るまでこの状態のままでいた。

そして、次の日。

俺たちは仲良く風邪を引いた。

以上、八幡

 



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縁切り-7-


退院した後からスタートです。

見ていない人は前回を見てください。

それではどうぞ。


俺が退院して約一ヶ月が経った。

入院前と対して変わらない生活を……………過ごしたかった。

過ごすつもりだった。

「寒い…………。」

天気予報で『雪が降るかもしれません。厚着をしましょう』と言っていたはず、俺はどうしてこんな場所にいる?

勘違いしないでほしいが、決してあのリア充の日ではない。

昨日、稲城に出掛ける理由を聞くと、

その日(24日、25日)は既に予定(企業のクリスマスパーティー)が入っているらしく24日のイブを一週間前倒ししただけらしい。

まあ、彼氏(仮)の状態でも待たせるのはどうかと思い早く来たが、余裕で集合時間過ぎている。

集合時間は10時、俺は9時半から待っている。

現在の時刻は11時である。

少し前に電話をしたら

『お願いだから待って』と言うので待っている。

「八幡!お待たせ~!」

と後ろから聞こえたので振り向くとそこには稲城がいた。

それ以外に誰がいるんだって話だが………。

「………。」

ってそれ短すぎないか?

チラチラ

通行人(特に男)が稲城を見ている。

「スカートに見えるショートパンツだから大丈夫!」

いや、それが逆に視線を増やす原因と俺は思うのだが………。

「それよりも時間が無いから、レッツ、ゴー!」

ズルズル

「引っ張らなくても大丈夫だ!」

「ムリで~す。時間は有限なんだから~。」

遅れてきたあなたがそれを言いますか。

………まあ、これが稲城クオリティーだから仕方がないか。

こいつの性格、いい加減慣れないと。

グゥー

「お腹すいた。」

「時間が時間だからな。」

「………。」

「どうした?」

「『何が食べたい?』とか聞いてよー。」

「………何が食べたい?」

俺は何でもいいが、できれば財布に優しい店で。

サイゼリヤとかサイゼリヤとか。

「言うの遅い!」

「わるい。サイゼリヤでもいいか?」

「しょうがないな~。今日は特別な日の前倒しなんだけどな~。」

チラッ

「うっ、」

確かに、今日が特別な日なのは変わりようがない。

「それなら、出会った日に行ったカフェで………。」

「………及第点かな?」

俺たちはあの日に行ったカフェに向かったが………臨時休業していた。

「よし、帰ろう!」

「帰らない、帰らないからね。」

稲城が俺の腕をホールドする。

ギュウッ

ムミュ

これは立ち止まらないといけないだろう。

そして、円周率を唱える!

3.1…………九字にしよう。

臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前………。

「何ブツブツ言ってるの?」

「 臨・兵…何って九…………口に出てたか?」

「バッチリと。そして、録音済み。」

稲城の手にはボイスレコーダーがある。

「………oh.」

「八幡の変な病気が治ったところで行きますか。」

「病気って………煩悩って何科だっけ?ボソッ」

「それより、他に案は?」

「ありません。稲城さん、ご教示してください。お願いします。」

「はぁ~、しょうがないな~。こういう困ったときに行くお店に行こう。」

………

…………………

………………………………

『喫茶 ミステリアス』

「………合ってるのか?」

「うん、ここだよ。」

「住宅地にこんな建物があっていいのか?」

「わかんない。」

閑静な住宅街に突如現れる中世ヨーロッパ風の建物。

そして、何処か異世界に迷い混んだと錯覚させる雰囲気。

チリン

「あら、いらっしゃい。珍しいわね。貴女に連れがいるなんて。」

「そういう気分もあるの~。」

「それも美味しそうな男の子。」ウットリ

「!!」ゾワッ

俺の全身の毛が逆立つ。

「八幡、大丈夫大丈夫。独神だから。」

「いやいや、そこは独神だから危険なんだろ!」

あの先生みたいに婚期を逃し、更に男が近付いてこないという負のスパイラル。

そこから伝説が生まれ、そして独身は神となる。

「美味しそうな男の子改めて、勘違い少年くん。私はそこら辺にいる可哀想な乙女とは違って相手は沢山いるのよ。昨日だってナンパしてきた男と夜の運動会を楽しんだわよ。少年もどう?何戦できるか挑戦してみない?」

「言った通り安全でしょ?」

「逆に危険性が高まったわ!」

「そう?人のものは取らないから安心できるけど。」

「俺はまだ誰のものにもなってないぞ。」

「………あ。」

「でも、コンの予約済みでしょ?違ったかしら?彼氏(仮)くん。」

「確かに彼氏(仮)ですけど、それはあくまでも(仮)なだけで付き合うと決まったわけでは………。」

「「ハァー。」」

「コン、その男(仮)のどこがよかったのかしら?」

「小枝さん、ゴニョゴニョで………ゴニョゴニョ………。」

「そう、コンらしいと言えばコンらしいわね。あと、付き合うなら気を付けた方がいいわよ。こういう男に限ってえげつないモノを持ってるから。あのときの貴方みたいに目の腐った男もそうだったわ………。」

「………。」

俺のように目の腐った男………………………身近にいるとは言いたくないな。

「コン、何しにここに来たのよ?」

「昼ごはんを食べに来た。」

「………ここはコンみたいな大食いが来る場所ではないのよ。その前にディナーしかしてないわ。」

「と言いつつもそれはな~に?」

稲城がテーブルの上にある卵料理を指差す。

「オムレツよ。」

「ランチあるじゃん。」

「新しいメニュー(ディナー)の試作品だからランチではないわよ。」

「ぶぅー。食~べ~た~い~。」

「仕方がないわね。不味くても文句は言わないこと。」

「わかってまーす。」

「………」

「パクパク、モグモグ。」

現在、既に5皿目である。

稲城のことをしっている小枝さんも呆れている。

「よく食べるわね~。私には無理。絶対胃もたれするわ。」

「私は小枝さんと違ってまだ若いから。見た目も体も。」

「………ボッシュートー。」

「いや~、わたしの~ひ○しくーん。」

「違うだろ。」

「面白くないわね。コントだったのに。本当にこれのどこがいいのかしら?」

「そこも八幡らしくていいんだよ~。」

「洗脳でもされたの?」

洗脳って、そんな犯罪染みたことしません。

「八幡はそんなことしませーん。」

稲城!

「八幡菌でーす!治療薬がありませーん。」

「そっちのがたちが悪いわね。目に見えないんだから防ぎようがないわ。近寄らないで。」

「そんな菌存在しません。」

「存在してないのに私は感染した。とういことは………。」

ということは………なんだよ。

「最初の感染者。」

「バイオハザード。」

「ウガー!」

「きゃーっ!」

「………帰りたい。」

「嫌だった?変な人がいるから?」

あなたです。

「変な人?そんな人どこにいるのよ?いるなら警察呼ばないと。」

あなたもです。

「「あっ!八幡(きみ)だ!」」

「……………。」ブチッ

俺の何かが切れる音が聞こえた。

「じょ、冗談だって!」

「そ、そうよ!暴力は良くないわよ!夜の暴力はウェルカムよ!」

「ウガー!!!」

「「きゃーっ!!!」」

「冗談ですよ。俺、帰ります。」

チリン

俺はあの空間から逃げ出した。

あー、胃がいたい。

「は、八幡!待ってよー。」

チリン

「………やっぱり若いって良いわね。」

………………

………………………………

………………………………………………

「は、八幡!」

「オムレツは良いのか?」

「十分食べました!」

「そうか。」

「「………」」

「ねぇ。八幡」

「何だよ。」

「私って何?」

「………」

いきなり何言ってるんだこいつ………稲城は稲城だろ。

クローンとかロボットでなければ本人だ。

………………稲城の表情からして求めている質問の答えでなさそうだ。

「………………お嬢さん?」

「そこはお姫様じゃないの!?」

「稲城からそんなイメージが湧かない。」

「ガーン…………。」

「ガーンってマンガみたいな「何か言った?」いや何でもない。俺は、稲城は稲城のままがいいとおもうぞ。」

何も変わらない方がいい。

何もな。

「私も八幡は八幡のままがいいな。」

「そ、そうか………。」

「けど………。」

「けど、なんだ?」

「目の腐りは変わっていいかも。」

「………。」

否定できない。

「あはは。」

キリッ

俺は今できる最高の綺麗な目を作った。

「稲城………。」

「なに?」クルッ

「これでいいか?」キリッ

「………。」

「………帰ろっか。」

「ああ。」

八幡は「(自分の綺麗な目でも人の気分を悪くさせるのか。)」と落ち込み、逆に、稲城は八幡の綺麗な目で破裂しそうになっている心臓を落ち着かせようとしていた。

「(うっ、心臓が破裂しそう!予想通り八幡の綺麗な目は殺人兵器と変わらない!)」

ドキドキ

こうして八幡たちはお互い逆のことを考えながら目を会わせずに帰っていった。

そして、24日と25日。

予定通り浩志さんとエリさん、稲城は出掛けていった。

俺は当然ボッチだったが、

あのメイドと某モンスターを狩るゲーム(Z)をして暇な時間を過ごした。

いつもと何も変わらない日を境に、

俺たちの運命の歯車が初めて動いた。

………………

…………………………

……………………………………

「やっぱり神様はいないんだ……。」

 

 

 

 

 

 

 



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縁切り-8-


注〉正月まで時間が飛びます。



「「「あけましておめでとう!!!」」」

「おめでとうございます」

 

「「「………」」」

「俺、何かしましたか?」

年が明けたのだから言っても………言わない方が良かった?

部外者だし。

 

「「「暗い」」」

「すみません。いつもこんな感じだったんで」

「まあ、仕方がないよね。こればかりは八幡が進化しないと」

「そうだな」「そうね~」

 

あれ?

浩志さん達に進化を求められているのか?

俺ってポ○モン?

目腐りポケ○ン………止めておこう。

 

「俺のことは置いておいて、この家にこんな部屋があったんですね」

 

 

「八幡君、失礼だな。私だってそこら辺にいる一般人と変わらないぞ。ははっ!」

「いやいや、どこが一般人なんですか!一般人は豪邸に住んでいません。まず、こんな広い部屋に炬燵一つしかないということは起こりません」

 

何畳あるかわからないが、きっと20畳くらいはあるだろう。

そんな部屋にポツーンと炬燵しかないのは異常だ。

 

「へぇ~そうなんだ~」

稲城さん?

友達の家とかで見たことありません?

あー、周りがこんな感じなんですね?

はい。

 

「ところで、八幡君。」

 

浩志さんが真剣な目で俺を見る。

 

「ゴクリッ………何でしょうか?」

 

本当に何か悪いことでもしたんだろうか………。

いろいろありすぎて思い出せない………ははっ。

笑えねーよ。

 

「コンとはどこまでいったんだい?」

 

「「ブッー」」

 

「もしかして、もうヤったのか?」

 

「お父さん!///」「浩志さん!///」

 

「あらあら、もうお祖母ちゃんなのかしら、フフッ」

 

「お母さんまで~///まだ早いよ~///」

 

エミさんまで!

ちょっと稲城、浩志さんのときは怒って、エミさんのときは恥ずかしがるってなんか矛盾してません?

その前に俺たちまだ付き合ってませんよね?

その時点でおかしくないですか?

………俺がおかしいのか?

と俺の脳内は混乱していた。

 

 

「冗談はそこまでにして………」

じょ、冗談って………俺の頭がおかしくなったかと思った。

 

「スキナノハ、ジョウダンジャナイノニ………」

ん?稲城が何かを………気のせいか。

俺はそれを勘違いだと思い、こたつの上の蜜柑を取った。

そして、俺が蜜柑の皮を剥き終わった時、再び浩志さんが俺に言った。

「八幡君はいつまで………」と。

 

ゴクリッ

そろそろだと思っていたが………今日聞かれるとは。

 

俺は正座に座り直し、背筋を伸ばした。

「お、俺は………」

 

 

 

 

 

 

「ふわぁー、眠い」

「コンはそろそろ限界か?」

「ま、まだ大丈夫………」

「フフッ、浩志さん。私はもう寝るわね」

「そうか、それならコンも寝なさい」

 

「うぅん、そうする………八幡は?」と稲城が目を擦りながら言ってくる。

 

「俺はまだ大丈夫だ」

「凄いね………私はもう駄目だよ」

「ははっ、やっぱり八幡君は夜が強いのか。ところでいつまで起きてるんだい?」

「3時くらいですかね」

 

ん?いつまで起きてるんだい?

ま、まさか………俺の勘違い?

いや、確かめないと。

 

「浩志さん」

「なんだい?」

「先ほどの質問は?」

「先ほどの質問?………それは今聞いたぞ」

「はぁ~」

俺は全身の力を抜いた。

やっぱり俺の勘違いだった~。

心臓が痛い。

 

「ああ、八幡君は勘違いしたのか」

「お恥ずかしながら」

「何の話?」

 

まだ部屋に帰ってない稲城が聞いてくる。

エミさんも笑ってないでメイドさんを連れてきてくださいよ。

炬燵で寝るのは良くない。

 

「コンには関係無いよ。男同士の秘密の話だ」

「聞きたい………けど部屋に戻る。お母さん」

「はいはい、わかっているわよ。イナイさん」

とエミさんが 天井に話し掛ける。

 

バッ!

「エミ様、お呼びですか」

と天井から顔を覗かせる、あのメイド。

もとい、イナイさん。

 

「コンをベッドにお願い」

「承知しました」

イナイさんは天井の蓋を閉め、再びドアから現れる。

最初からそこから出てくればいいのに。

と思う俺であった。

 

「八幡、おやすみ」

「おやすみ」

 

「コン、父さんには?」

「………」コテンッ

(゜ロ゜;。

 

メイドが稲城が倒れないように支える。

 

「それでは、連れていきます」

「お願いね」

イナイさんがおんぶしてスタスタと部屋から出る。

稲城より小さいのによく持てるな。

 

ギロッ

 

………俺が悪かったです。

バタンッ!

 

 

「私も行くわ。おやすみなさい」

「おやすみ」「おやすみなさい」

 

「「………」」

この無言の状態が20分続いている。

 

浩志さんは目を閉じて腕を組んで、俺は蜜柑を食べ続けている。

 

「………八幡君」

「はい!」

「蜜柑は好きなのか?」

「好きな方です!」

「そうか………ところでコンのことは本当にどうするつもりだ?既に気づいていると思うのだが」

 

やっぱりそこ聞いてきますか。

浩志さんを相手に騙せることは………。

ドーン

できないですよねー。

 

正直に答えてもいいのだが、はっきりとした答えが未だにない。

あのときから稲城が俺に好意があるのは気付いている。

しかし、俺はあのときから一歩も進めていない。

 

それは………あの光景がフラッシュバックするからだ。

奉仕部でのあの日常が。

 

「八幡君」

「すみません………まだ答えを見つけられていません」

「そうか……………八幡君、今から言うことは忘れないでほしい」

そう言い、浩志さんが立ち上がってドアの方に歩き出す。

「答えを先伸ばしにしていると何もかも失ってしまうよ。特に君たちのような年頃はね」

「はい………」

「私は寝るから。わかっていると思うが、炬燵で寝ないように」

「………」

バタンッ

 

「失う………か」

俺はまた同じことを繰り返すのか?

あの笑顔をこの手で壊すのか?

 

「………」

 

俺は大量にある蜜柑の皮を片付け、部屋に帰った。

 

そして、この迷いが運命の歯車を更に加速させることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出逢ったあの場所は…………縁切りと縁結び両方あるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその日、稲城がいなくなるという悪夢を見た。

 

 



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縁切り-9-

 

「俺は俺だ。比企谷だ。比企谷八幡だ。マッカン、千葉、サイゼリヤ好きの比企谷八幡でそれ以上でもそれ以下でもない…………………て、何してるんだ俺は」

 

ブクブク.。o○

と頭半分を風呂に浸かり現実逃避を試みるが、

今の俺には無理な話で、壁の向こうから聞こえてくる声で現実に引き戻される。

 

「はちまーん、そっちにいって良い~?」

 

「だだだだー(だ、ダメに)!に決まってるだろ!」

アレがアレ過ぎて言葉になってねー。

そもそもアレってなんだよ。

アレって………。

 

「壊れた八幡?八幡が壊れた?どっちも一緒だー。アハハー」

稲城の声が響き渡る。

 

「………」

至って普通、通常運転だ。

俺は壊れていない。

まだ理性は崩壊していない。

 

 

 

~回想~

とある昼下がり、俺たちは炬燵でゴロゴロしていた。

 

「八幡、どこかに行こうよ~」

「寒い」

「………それならミカン取ってきて!」

「………最後に食べた奴が行けよ」

「………食べた人がいない場合は?」

最後に食べた奴………………浩志さんか。

 

「それは………ジャン「その前は八幡」………」

「HachimanGO!!」

 

稲城が某ゲーム似たフレーズを言う。

そこには様々な俺が出てくるのか………きっと特徴は目とアホ毛だろうな。

 

「俺はボールで捕まえられないぞ」

「ボールじゃないよ。本物の手錠だよ~。あはは~」

クルクル~からのガチャッ

 

「oh.....」

 

 

こうして俺は逮捕された。

 

 

罪状:最後のミカンを食べて取りに行かなかった罪

刑:何処かに連行される

 

 

 

~回想終了~

 

 

 

 

 

「ふぅ~、食べた食べた。ゲフー」

 

「はっ!」キョロキョロ

俺は何をしていた?

えーと、回想が終わって………終わってから……記憶がない。

そして、目の前にある御膳には何もなく、右手には箸を持ち、左手にはきっと締めのカニ雑炊。

 

「美味しかったね~。お腹一杯だよー。ゲフー」

稲城がお腹をポンポンと叩く。

 

「………」

俺の方はお腹が一杯なこの身体………何も味わっていないこの舌。

 

そして、殻が真っ赤な伊勢海老とカニ鍋………。

 

二泊三日のこの旅行(?)………明日は夕御飯は肉らしい。

 

「お、おぅ。こんなに美味しいならデザートも期待できるな」

 

「えっ!デザートは私を食べたいって!?」ヌギヌギ

 

「そんなことは言ってない!!」

 

「ふーん。そんなこと言っていいんだ」

 

稲城が既に二つの布団が隙間なく並んでひいてある部屋に移動する。

そして、そのまま寝ると思いきや俺の方を向いて浴衣の隙間からスーと太ももを…………「そんなことは………この俺がさせるか!」

俺は襖をピシャッと閉めた。

 

危ない危ない。

 

「それにしても作者、何も思い付かないからってこれはやりすぎではないか?」

 

 

知りません。

前書きに書いてあるように、現在作者は壊れていますから

大丈夫です。

 

 

「それはそれでダメなような」

 

 

………サラバ!

 

 

「逃げやがった」

 

今は作者なんてどうでもいい。

この暴走した物語を止めなくては。

 

「おーい、稲城ー」

 

シーン

反応がない。

寝たか?

それとも"ふり"か?

襖で相手が見えないので判断できない。

策士め………………いや、閉めたのは俺か。

 

コソコソ

スー

 

「稲城さ~ん、寝てます~?」

 

「zzz」すぴー

 

「………よし、風呂にも入るか」

と襖から離れようとした。

そのとき。

 

「八幡、だーい好き!」

 

「!!!」

バッ!と俺は再び稲城の方を向く。

 

「わたしは………あきらめない…よ」

 

「?」

このときの俺はその意味がわからなかった………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~極楽極楽」

 

露天風呂で一人、しかも貸し切り!最高すぎる!!

あいつは居ないことだしな。

居たらリラックスできないし。

 

「………………そろそろ恩返しをしないとな」

俺を俺だと見てくれた人たちに。

 

「一体なにから手をつけたら………」

お金を返すのもいいが、はっきりいって今の俺には無理だ。 普通の家計とは桁が違いすぎる。

う~ん、どうしたものか………。

 

こうして俺は稲城がいない分、風邪を引くまでゆっくりと考えることができた………………。

 

 

 

「くっしゅんっ!あ゛ぁ゛ぁ゛ーさ゛む゛い゛ー」

「あんな寒い外で寝るなんておバカさんだねー♪」

ちょんちょん

稲城が俺の腕をつつく。

 

「………」

なにも言い返せねー。

 

あのあと俺は露天風呂で寝てしまったそうで、気付いたら病院のベッドの上にいた。

 

「んーでも死ななくてよかったね~」

「何でだ?」

「出るから」

「何が?」

「非現実的なものだよ~♪」

「マジで」

「マジで」

ガチトーンで返されると信じるしかない………のか?

 

 

「それで旅行どうしようか?」

「………………」

風邪で最終日を台無しにした俺。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

「………また行けば良いよね!これは行くしかないよね!うんうん」

「お、おう」

「次は時期的に『花見』だね」

「そうだな」

 

「「………………」」

 

 

「今日はもう帰るね。バイバイ」フリフリ

「じゃあな。また明日な」

 

 

 

 

 

 

俺たちの道は続く、どこまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、俺は再びあの悪夢を見た。

 

俺はその夢に出てきた場所を知っている。

 

俺たちが出会ったあの場所。

 

縁を切る場所。

 

 

 

 



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縁切り-終-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女……稲城金比羅が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『余命六ヶ月』

 

 

 

 

 

死んだ日は安井金比羅宮で出逢った日から六ヶ月後の日だった。

 

金比羅は『余命』があることを俺の目の前で倒れるまで話さなかった。

 

主治医の処置により意識が戻った金比羅は病院のベッドで全て話してくれた。

 

 

金比羅が言うには出逢ったあの日は自分の病気と縁を切るために来ていたらしい。

 

 

全てを終わらせて帰ろうとした。

そのとき、目の腐ったこの俺を見つけ、

余命がある自分でさえ目が腐っていないのに何であんなに腐っているのだろうと近付いたらしい。

 

 

俺の絵馬を見ると、

 

『 今までの人間関係の縁が切れて、このような縁が一生来ませんように 』

 

と書いてあった。

 

 

金比羅はそれを見て死ぬまでの間だけ友達になって欲しいと願った。

 

 

最初はただの友達と思っていたが遊んでいるうちにそれが好きな人に変わっていき、両親に頼んで、無理やり俺をここに居させた。

 

 

刻々と死が近付いているのがわかっていたから。

 

 

これが我儘だということはわかっていた……だけどこれだけはこの願いだけは聞いてほしかった。

叶えてほしかった。

 

『最期まで好きな人には近くにいてほしい』と。

 

 

 

 

 

倒れたあの日……

デートと称していつも通り遊び、帰る間際で金比羅の提案であの場所に再び行った。

 

 

…………俺は薄々気付いていた。

 

 

金比羅が本当に俺を好きということ……俺が本気で金比羅を好きになったこと。

 

 

だからこの縁が切れる前に俺、金比羅が同時に告白した。

 

 

後悔しないように。

 

 

そして、俺たちは『本当の恋人』になった。

 

 

その嬉しさ、喜びもつかの間、その日に金比羅が入院した。

 

 

入院した日からしばらくの間、金比羅は部屋(個室)から出ることができず、外でデートがしたいと主治医にお願いしていたが一蹴されていた。

 

当たり前だ。

 

 

ようやく病院の外(敷地内)に出る許可が降りて、俺たちはデート(?)をすることができた。

 

 

俺が車椅子を押す形で。

 

 

それから毎日、病院の敷地内ではあるがデートをたくさんした。

 

思い出になる写真もたくさん撮った。

 

でもその分だけ苦しくなることをお互い知っていた。

 

だけど、一緒にいられるのならその時間を共有したい。

 

 

共有しておきたい。

 

 

いつ、また出逢えるかがわからないから…………。

 

 

 

 

 

そして……金比羅が亡くなる三日前、急変して意識が無くなった。

 

前日まで元気で笑顔で……。

 

俺が金比羅の変顔の写真を撮って言い合いになったが目の腐ってない俺の写真を撮ることで許してくれた。

 

その写真を見てお互い笑い合った。

 

これ誰?という感じで。

 

 

 

そのあと屋上に行って明日は何をするかを話し合った。

 

三十路手間で結婚を急いでいる看護婦さんにイチャイチャを見せつけるとか、主治医の恥ずかしい写真を撮るとかいろいろ出し合った。

 

 

屋上から出る間際、金比羅が何かを感じ取ったのかお願いをしてきた。

 

 

それは…………俺と彼女の最初で最後になった『キス』。

 

最初はお互いに恥ずかしがって中々できなかったが勇気を振り絞って俺から唇を近付けた。

 

 

それをきっかけに時間が来るまで何回もした。

 

 

最後の一回は泣きながらキスをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

俺は金比羅の意識が無くなってから亡くなるまでの間奇跡を信じて話しかけた。

 

出逢った日のこと、俺を慰めてくれたこと、告白した日のこと……退院してしたいこと、いろいろ話した。

 

 

俺の願いは叶うことはなかったが亡くなる直前にそれは起きた。

 

俺の手を握り返したこと。

 

手を握っている俺にしかわからないくらいの力で…………。

 

そして、俺の手を握っている力が無くなると同時に金比羅が亡くなった。

 

…………

…………………

……………………………

………………………………………

……………………………………………………

 

 

 

俺は月命日でお墓に参る次いでに思い出の場所を訪れている。

最後が金比羅宮になるように。

あのときと変わらない夕暮れ時………………。

 

 

「そろそろ、帰るか」

 

俺が金比羅宮から出ようとすると突然強い風が吹く。

 

それが俺には金比羅が俺の背中を押しているように感じた。

 

 

 








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