仮面ライダーアズライグ (ヘンシンシン)
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プロローグ前編 すべての始まりと怪人と

名もなきA・弐氏の作品に影響を受けて書き始めました!


「さて、それではそろそろ動くべき時だと思うが、どうする?」

 

 暗い部屋の中一人の男が、一人の少年を前にしてそう尋ねる。

 

「当面は貴方に任せるさ。真の魔王の力を俺に見せてくれると俺としてもうれしさ」

 

 少年はそう答えるが、しかしそれは男の言葉の裏の意味を理解しているからだ。

 

 男は意見を聞いているようで、実際のところは聞いていない。

 

 ただ単純に、自分の望む言葉を少年が言うことを命令しているだけなのだ。

 

 すなわち、我々に従え下等種共、と。

 

 しかし、少年たちはあえて素直にそれに従った。

 

 別にそれを受け入れているわけではない。

 

 どうせ彼らが失敗することがわかりきっているのだ。

 

 だったら、わざわざ内輪もめをする必要などない。

 

 適当に動かしておいて、せいぜい敵となる者たちを減らしていけばいい。そして彼らがいなくなった後に実権を握ればいいのだから。

 

 そう判断し、少年―曹操はこの場の実権を男―シャルバ・ベルゼブブに譲る。

 

 シャルバが無自覚の時間稼ぎを行っている間に、自分たちは自分たちで準備を整えるべきだ。

 

 そう判断し曹操はシャルバと別れ、そして一つの研究室にたどり着く。

 

 ……その研究室では、大量の培養槽が存在した。

 

 その中にいるのは、大量の人間。否、人間もどきといってもいい者たち。

 

「研究は進んでいるかい、プロフェッサー」

 

「もちろんだとも!!」

 

 大声でそれにこたえるのは、白衣を着た白髪の男。

 

 初老といっても差し支えない年齢の男は、しかし夢に向かって邁進する者が持つ若々しさがあった。

 

「それで!? あの馬鹿はやはり主導権を握りたがっていたかね!?」

 

「ああ、まあプライドだけは一人前の旧魔王末裔なだけあるよ。兵力を提供する必要もあるだろう」

 

「問題ない! 問題ないとも!! この世の中屑は腐るほどいるのだからな!!」

 

 そういいながら、男は危機を操作すると培養槽の中の人間を調整する。

 

 その人間たちは少しずつ異形の姿に変わっていくが、曹操も男も意に介さない。

 

 しょせんは彼らは偉大な存在に利用される資源なのだ。しかも何百万人もいるのなら、いくら使用しても当分問題はなかった。

 

 少なくとも、彼らはそう思っている。

 

 そして、男は振り返るとそれを見物する者たちを見て口元をゆがめる!!

 

「さあ! 馬鹿が愚行を働いている間に我々賢者は世界を導くために働こうではないか!!」

 

 そういいながら取り出すのは、注射器のような機械。

 

「このドラッグシリングによって生み出される、新たなる未来のために頑張りたまえ!! 世界を作るのはいつだって勤勉な天才なのだよ!!」

 

 そして、その言葉にこたえるかのように彼らは一斉に注射器を取り出すと、それを突きさす。

 

『チューニュー!!』

 

 その合成音声とともに、その場にいた者たちは異形の姿へと変貌する。

 

「さあ、俺たちも準備を始めよう。ドラッグシリングとドラピングによる、この世界を作り変える戦いはもうすぐそこまで迫っている」

 

 曹操もまたそう告げながら異形へと姿を変えると、そして彼らは魔方陣を展開しながら世界各地へと転移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数年前、炎に包まれる家の中で、一人の少年はへたり込んでいた。

 

「父さん、母さん!! しっかりしてくれよ!!」

 

「……イッセー、か」

 

 父親の方はかろうじて目を開けるが、しかし母親の方は目を覚まさない。

 

 当然だ。すでに彼女は死んでいるのだから。

 

「ごめんな、イッセー。俺は、お前や一美にひどいことをしちまった。だから、これはそのせいなんだ」

 

「ひどいことってなんだよ!! 俺もアイツも、父さんにも母さんにもいいことしかされてないって!!」

 

 今にも死にそうな父親の肩を揺さぶりながら少年は―兵藤一誠は声を荒げるが、しかし父親は静かに首を振る。

 

「いや、俺はお前にひどいことをしてしまった。そうするしか方法がなかったとはいえ、俺たちは、自分の子供を悪魔の実験にささげたんだ……」

 

 震える手で彼はカギを取り出すと、そのままイッセーに押し付ける。

 

「日記と、それと奴の作った試作品がそこに、ある。……一美を……た………の」

 

 最後まで言い切ることなく、彼はそのまま血を吐いて無言になる。

 

 そして、炎が近くにあるにもかかわらず、その体は冷たくなっていった。

 

「父さん? 父さん……父さん!!」

 

 何度もゆすり、しかし反応は帰ってこない。

 

「う……うぁああああああああああああああああ!!!!!」

 

 叫び声が、空に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー! そろそろ朝だけど起きないのー!?」

 

「も、もう起きてる! 起きてるから!!」

 

 その声で俺は目を覚まして、慌てて飛び起きる。

 

 目覚まし時計をセットするのを忘れてたみたいで、もう時間は結構すぎていた。

 

「……いやな夢、見ちまったな」

 

 最近は全然見てなかったのんに、久しぶりにあの時の夢を見ちまった。

 

 俺は兵藤一誠。親しい友達からはイッセーって呼ばれてる。

 

 夢はハーレムを作ること!! それも、おっぱいブルンブルンのきょにゅうだらけのハーレムとかできたらいいって心から思ってる高校生さ!!

 

 でも、いまだに彼女ができたことすらない。なぜだ!! これでも頑張って筋トレと化してるのに!!

 

「いやいやイッセー。覗きの常習犯が持てる世の中とか何かが間違ってると思うんだよ、ヒトミ」

 

「うるっせえよ!!」

 

 俺は心を読んできた一美にツッコミを入れると、朝ごはんを勢いよくかっこんだ。

 

 ……この茶髪の女の子は兵藤一美(ひとみ)。俺の双子の姉だ。

 

 そして、俺の唯一の家族。

 

 俺が中学生のころ、俺たちは家族を失った。

 

 その時の細かい事情はまだ一美にはいってない。いや、いえるわけがない。

 

 ……でも、いつかは言わないといけないってことも分かってるんだ。

 

「イッセー? 手が止まってるよ?」

 

「え? あ、もう急がないと遅刻する―」

 

「先に行ってるからねー」

 

「あ、ちょっと待ってぇえええええええええええ!!!」

 

 一美の奴! 俺を置いてさっさと行っちまいやがった。

 

 くそ! このままだと遅刻だから急がねえと!!

 

 俺は慌てて朝食をかっ込んで、急いで出ようとして―

 

「―その前に」

 

 ああ、あんな夢を見た後ぐらい、仏壇に手を合わせておくか。

 

「父さん、母さん。言ってくるよ」

 

 大丈夫、俺は、必ずヒーローになる。

 

 ………いつか必ず来る、ドラピングとの戦いに諮って見せる。

 

 

 

 

 

 

一美Side

 

 

 

 

 

 

 はい! 初めまして!!

 

 私の名前は兵藤一美!! いつか素敵な男子と結婚することを夢見ている女の子!!

 

「「「「「「「「「「待てこら覗き魔ぁああああああああああああああ!!!」」」」」」」」」」

 

「「「に、逃げろぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 校舎の近くでジュースを買ってると、いつもの光景に出くわしちゃった。

 

 慌ててきたのか微妙に服が乱れた女子たちが、イッセーや、友達の松田っちと元浜っちを追いかけてる。

 

 三人とも気のいい人たちなんだけど、なぜか覗きがやめられなくて、ほとんどの人たちから嫌われてるの。

 

 いや、父さんも母さんも死んじゃって距離をとられている私やイッセーと仲良くしてくれてるいい人なんだけどね? 女は見られてなんぼだから下着までなら私は気にしないし。でも普通の人にはきっついみたい。

 

 むぅ。見られて欲情されてるうちが花だと思うんだけどなぁ。

 

 とはいえ、やっぱり一応犯罪だから仕方ないよね。

 

 三人ともー。もてたいならそれ本当に直した方がいいからねー。

 

 そんなアドバイスを心の中で送ってから、私は旧校舎の方に行く。

 

 私はオカルト研究部に所属してるの。

 

 え? なんでだって?

 

 それはね―

 

「あら、早かったわね、一美」

 

 と、渡しに超えるかけるのはオカルト研究部部長のリアス・グレモリー先輩。

 

 間違いなくお兄ちゃんがテンション爆上げするようなおっぱいの持ち主で、そして―

 

「今日、大公から指示が来たわ。はぐれ悪魔よ」

 

 ―私も含めて、悪魔なんだよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔や天使って本当にいるんだよね実際。

 

 なんでも、ほかにも神様とかもいるらしくって、人間世界でいう冷戦っていうのに近い感じになってるの。

 

 それで、悪魔や天使、そしてだてんしは三大勢力って呼ばれてるの。それも長い間戦い続けてたんだって。

 

 それで悪魔の当時の指導者の四大魔王はみんな死んじゃって、いまはリアス部長のお兄さんたちが襲名してるの。

 

 その魔王様たちが行っている政策の一つが、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)による転生悪魔。

 

 それを使って多種族を悪魔に転生させるのが、最近の上級悪魔の基本なんだって。

 

 そして、父さんと母さんが死んじゃった私は、悪魔と契約してお世話になってるの。

 

 あ、これはイッセーには内緒。いつかは言わないといけないけど、それを言ったらいろいろと大変そうだから。

 

 そして、そんな転生悪魔の中には主から逃げ出して好き勝手する人たちが何人もいるの。

 

 そんなはぐれ悪魔を倒すのも、転生悪魔の大切な仕事!

 

 と、いうわけで―

 

「さささささあああああたたたたたおおおおおそそそそそううううう!!」

 

「落ち着いて一美さん。右手と右足が一緒に出てるから」

 

「……汗が出すぎです」

 

 同級生の悪魔仲間の木場祐斗っちと、後輩だけど悪魔としては先輩の小猫っちに突っ込まれた!

 

 ちゃ、ちゃうもん! そんなんじゃないもん!

 

「こ、これは難波歩きや!!」

 

「あらあら、関西弁になってますわよ」

 

 うぅぅ! 先輩の姫島朱乃さんにまで言われた!!

 

 うぅ、ホント悪魔になってから結構たつけど、全然治らない!!

 

「もう五回ぐらいはぐれ悪魔を討伐してるけど、全然治らないわね、それ」

 

「しゅしゅしゅいましぇん!!」

 

 だめだ、噛み噛みだよ。

 

 これが私のどうしようもない欠点なんだ。

 

 どうしても、命の奪い合いとか命がかかってるとかいうのが緊張するというかビビっちゃう。

 

 汗はだらだら流れるし、心臓はバクバク動くし、体の動きはがちがちになるし、どうしても思い通りに動けない。

 

 そのせいで、はぐれ悪魔の討伐とかだといまだに全然役に立ってないんだ、私。

 

「……や、役立たずでご、めんな、さい」

 

「いいわよ。気にしないで」

 

 そんな私を、リアス部長は優しく抱きしめてくれる。

 

「戦いが怖いのは当然。それに、あなたはそれでもちゃんと自分の足でついてきてくれるもの。むしろその勇気は褒められるべきだわ」

 

 優しくなでられて、私は本気で泣きそうになる。

 

「怖さを乗り越えたり怖くないから戦場に出てこれるのは当然。でも、怖さを乗り越えられないのに戦場に自分から出てくるのは大変だもの。私達はそこは評価してるわよ?」

 

 う、うぅううううう!! 部長ぅううううう!!

 

 頑張ります、頑張りますから見捨てないでくださいねぇええええええええ!!!

 

「さあ、そのためにも線上になれないといけないわね。……行くわよ皆、主を裏切り欲望のままに人間を害するはぐれ悪魔を滅してあげる!!」

 

「「「「はい、部長!!」」」」

 

 うん、私頑張るよ。

 

 そしてお兄ちゃんも楽させてあげるんだから!!

 

 そして私たちは廃工場に押し入って―

 

『んあ? なんだぁ?』

 

 そして、化け物を見た。

 

 全身に針が突き刺さったかのような後を持つ、悪魔どころか天使や妖怪でもないわけのわからない化け物。

 

『ああ、こいつを狙ってたのか。へっへっへ、悪いけど俺が殺しちまったよ』

 

 気づけば、そこにははぐれ悪魔みたいな死体がいた。

 

 うそでしょ、まるでミンチ……っ。

 

「そう、それであなたはいったい何者?」

 

 部長は警戒心を見せながら訪ねるけど、どう見てもまともな相手には見えない。

 

『ちょうどいいぜぇ? こいつだけじゃ物足りねえところだったんだ。……ついでに殺させろヤァあああああ!!!』

 

 その怪物は私達相手に舌なめずりすると、一騎に突撃する。

 

 マズっ!?

 

「させない」

 

「やらせないよ!!」

 

 小猫っちと祐斗っちが同時に攻撃するけど、その化け物はそれを腕で受け止めた。

 

 嘘でしょ!? すでに小猫っちはともかく、祐斗っちは剣なのに!!

 

「きくかよぉ!!」

 

 強引に二人を吹き飛ばすなか、さらに朱乃さんの雷が叩き込まれるけど、それを喰らってもぴんぴんしてる!?

 

 な、なに? なんなの!?

 

 ううん、そんなこと気にしてる場合じゃない!!

 

「りりりりりりりりりりリアしゅ部長には手を、だ、させない!!」

 

「一美! 危ないから下がって!!」

 

『そいつが大将かぁ!!』

 

 あ、やば! 逆効果!?

 

 うぉおおおおおおお! でも逃げたりなんてしないんだからねぇえええええええええええええ!!!

 

 私はせめてもの意地でその化け物をにらみつけて―

 

「そこまでだ、ドラピング!!」

 

 いきなりバイクがぶつかって、その化け物が弾き飛ばされた。

 

 ……え? うそでしょ?

 

 なんで、ここにイッセーが!?

 

「大丈夫か姉ちゃん! 助けに来たぜ!!」

 

「な、なんでイッセーがここにいるのよ!!」

 

 うそぉ!? マジでなんで!?

 

 いや、そんなこと気にしてる場合じゃなかった!!

 

「そこの君!! ここは危ないから下がって!!」

 

 リアス部長の言う通り! ただの人間のイッセーじゃ、あんなバケモノどうしようも―

 

「いや、ここは俺に任せてください!!」

 

 いうが早いか、イッセーはベルトを巻き付ける。

 

 何ていうか、医療用具を思わせるそのベルトを取り付けると、さらにイッセーは何かを取り出す。

 

 なにあの機械! 注射器に似てるけど―

 

「変身!!」

 

 そういうとイッセーはベルトにその注射器もどきを注入する。

 

『ブッスーン!! チューニュー、ドライグ!!』

 

 ……え? ドライグ?

 

 私はその音声が言った名前に驚く中、イッセーの体に鎧みたいなものが取り付けられる。

 

 まるでドラゴンを模したその姿は、そう―

 

『て、てめえ何もんだぁ!!』

 

「俺は、仮面ライダーアズライル!!」

 

 そんな、あれは赤龍帝!?

 

「さあ、張り倒すぜ!!」

 

 

 

 

 




とりあえず長くなったので二分割。

次で初戦闘と簡単な説明があります。


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プロローグ後編 仮面ライダーと眷属悪魔

後編です!!


 

 

 

 

イッセーSide

 

 あっぶねえ!! まさか姉ちゃんがドラピングに襲われてるだなんて思わなかったぜ!!

 

 ドラピングの力は戦車やヘリなんかじゃ勝てないからなぁ。っていうかよくわからないんだけどオカルト研究部って何者?

 

 いや、そんなことよりドラピングだ。

 

『てめえ、むかつくなぁ……っ』

 

 ドラピングはイラつきながら、どんどんパワーが上昇していく。

 

『ホントむかつくんだよどいつもこいつも!! リストラされてからずっとこうだ!! ようやくスカッとするものを手に入れて発散できると思ったのによぉ!!』

 

 なるほど、奴の能力は怒りでパワーが上昇するタイプってわけか。

 

 だったら短期決戦で叩き潰す!!

 

『てめえもまとめて叩き潰して―』

 

「遅いんだよ!!」

 

 俺は真正面からドラピングを殴りつける。

 

 ドラピングは虚を突かれたけど、底を見逃すわけにはいかない。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

 

「アダダダダダダダダ!?」

 

「オラァ!!」

 

「フンヌラバァ!?」

 

 思いっきり殴り飛ばして、俺はドラピングをぶちのめす。

 

 よし、こいつ自身は大したことない!!

 

『なめるなこらぁ!!』

 

 あ、結構しぶとい!!

 

 ドラピングは吹っ飛ばされた先で鉄骨をつかむと、そのままごういんに引きちぎってたたきつけてくる!!

 

 うおっと! あっぶねえな!!

 

 だけど、そんなもんで俺は倒れないぜ!!

 

「舐めんな!!」

 

 そっちがその気なら俺だって武器を使うだけだ!!

 

 俺は、腰につけられている拳銃、ズバットマグナムを取り出すと遠慮なく発砲する。

 

 銃声が鳴り響いて、ドラピングに何発も直撃した。

 

『ぐぎゃぁああああああ!?』

 

 なんたって動力が動力だからな、効くだろう!!

 

 そして、俺の力は長期戦になればなるほど有利!!

 

「さあ、決着だ!!」

 

 俺は一回ドラッグシリングを取り出すと、もう一度挿入しなおす。

 

『ヒィイイイイイッサツ!!』

 

「ライダー、キック!!」

 

 一気に相手に接近して、そしてエネルギーが込められた必殺の一撃を、俺は躊躇なくドラピングに叩き込んだ!!

 

『ぐぎゃぁあああああああああ!?」

 

 爆発と同時に弾き飛ばされ、そのままドラピングは人間の姿に戻ると倒れ伏す。

 

 よし! 何とかなったな!!

 

 初めての実践だけど、それでも何とかなるもんだ。

 

 俺は変身を解除して―

 

「イッセー?」

 

 ぽん、と肩をたたかれて―

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!? 何この力、肩が砕けるよ!?」

 

「うるさいよこの馬鹿弟!! どういうことかお姉ちゃんに説明しなさい!!」

 

「そうね。私も説明を聞きたいわ」

 

 そして、リアス先輩もまた俺に鋭い視線を向ける。

 

「助けてもらったのは感謝するけど、ちょっと私達も事情を知りたいの。……情報量はちゃんと払うから、説明してくれるかしら?」

 

 あ、あっちゃー。これは、逃げれないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔に天使に堕天使に、ほかにも神話がいっぱいあるって嘘だろ……」

 

 俺は一美やリアス先輩からの説明を聞いて、天を仰いだ。

 

 そりゃ俺だって神話とかがいろいろあるのは知ってるけど、そのほとんどが全部存在してるとかびっくりだよ。

 

 しかも援助してくれる人がリアス先輩だったなんて。顔をも知らない親戚だって聞いてたけど、全然関係ないじゃん!!

 

「ごめんなさい。一美から内緒にするように頼まれていたの」

 

「だってイッセー。そんなこと聞いたら自分も悪魔になるとか言いそうだもん」

 

「いや、なるにきまってるだろ!!」

 

 酷いよ姉ちゃん! 俺たちは一緒に生まれたんだから、悪魔になる時も一緒だろうが!!

 

 第一、ハーレムを合法的に作れるだなんて話をなんで俺に黙ってた!? なんてひどい姉ちゃんなんだ!!

 

「くそ! 俺が一生懸命こっそり隠れてトレーニングしてた時に、姉ちゃんは逆ハーレムを作る準備を着々と整えてたっていうのかよ!! ふざけんなこの馬鹿姉貴!! 謝れ、俺に謝ふぐぅ!?」

 

「……そんなだから黙ってたんでしょう、変態先輩」

 

 と、塔城ちゃん、痛いよ……。

 

 そんな光景を笑ってみながら、リアス先輩は笑顔だった。

 

「まあ、私は駒に空きもあるから入れてもいいんだけどね」

 

「うぅ……。これはもう断れない雰囲気だぁ」

 

 当たり前だ姉ちゃん。こうなったら意地でもついていくぜ。

 

「それで兵藤くんだっけ? 君が変化したあの姿は一体何なんだい?」

 

「そうですわね。上級悪魔にも匹敵する、あの力は一体……?」

 

 木場祐斗と姫島先輩が質問するのは当然だ。

 

 俺は、家に帰ってからとってきた手紙をみんなに見える位置に差し出した。

 

「これは、父さんの文字?」

 

「ああ、俺が知ってるのもこれだけだ」

 

 一美には、つらいことを言うことになるんだろうな。

 

 なんだかんだで弱いところがあるから、俺はもちろん父さんも知らせたくなかったんだと思う。

 

 だけど、もうこうなったら知らせるしかない

 

 俺は、手紙を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセー。この手紙を見てるころ、俺も母さんもこの世にいないと思う。

 

 俺たちは、お前たちにとてもひどいことをしてしまった。

 

 実は、母さんは結構体が弱くてな。お前と一美を妊娠するまでに何度か流産を繰り返していたんだ。

 

 だから、お前たち二人を妊娠したと知ったとき、俺は最初どちらかを堕ろそうと思ったんだ。

 

 一人だけなら無理してでも産もうと決意していた母さんも、二人同時となるとどうしても恐怖があって無理があった。

 

 ……そんな時、その病院で俺たちは一人の男にあった。

 

 その男はたまたま来ただけで個々の病院の者でないことを自分から告げると、俺たちに交渉を持ちかけたんだ。

 

 生まれてくる子供に受精卵の段階から施術をする代わりに、必ず安全に子どもを産ませて見せる……と。

 

 正直、なんであの時二人して頷いてしまったのか今でもわからない。

 

 わからないけど、そうでもしなければ二人とも生むことはできなかったってことだけはわかる。

 

 だけど、それを俺たちはすぐに後悔した。

 

 そんな後悔をずっと続けていくことに耐えられず、俺たちはそれを告発しようとしている。

 

 ……その科学者は、自分のことをトールバソンと名乗っていた。

 

 彼は、ドラッグシリングという不思議な道具の研究のために、受精卵を求めて病院にたどり着いていたんだ。

 

 ドラッグシリングは、情報エネルギーを集めた注射器型のアイテムで、それを人間に差し込むことで、ドラピングという超人に変身させる。

 

 なんでもいろんな種類があって、しかも出せる能力には個人差があるらしい。

 

 トールバソンは、その能力をより引き出すための研究をおこなっていた。

 

 イッセー。お前の中には、そのトールバソンが開発したテンテキドライバーが埋め込まれている。

 

 これを読んでるということは、俺たちはトールバソンに殺されている。だから、お前が一美を守れ。

 

 本当なら、お姉ちゃんの瞳にお前を守れというべきかもしれないけど、トールバソンは一美に目をつけていた。だから気を付けてくれ。

 

 銀行の貸金庫に、トールバソンからくすねたドラッグシリングを一本隠してある。だから、いざとなったらそれを使ってくれ。

 

 頼んだぞ、イッセー。愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一美Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、ことが……。

 

「一美、しっかりしなさい」

 

 呆然とする私を、リアス部長が抱きしめてくれる。

 

 うん、いまはすっごくありがたいです。

 

「あなたのお父様もお母様もあなたを愛してくれている。だから、貴女はそれを否定しちゃだめよ」

 

「うぅ……部長ぅ」

 

 なんかいろいろ涙が出てきた。

 

 それに、そのトールバソンは許せない!!

 

 そうしなけりゃ母さんやイッセーと一緒に死んでたのかもしれないけど、そのせいで父さんも母さんも殺されたんだ!!

 

「絶対、絶対一発殴ってやるんだから」

 

「ああ、俺もだよ姉ちゃん」

 

 イッセーも頷くと、静かな目でリアス部長を見て頭を下げた。

 

「お願いします。そのトールバソンってやつが何をしてくるかわからない以上、姉ちゃんを助けてほしいんです」

 

「……何を言ってるのかしら?」

 

 うんうん。リアス部長の言う通りだね。

 

「貴方のことも助けるにきまってるじゃない。一美の弟なら私にとっても弟だわ」

 

 そうだよねリアス部長! あなたならそういってくれると信じてたよ!!

 

「え、でも……」

 

「嫌だといっても聞かないわよ。さっきも言ったけど、眷属の弟は私の弟。見捨てるわけがないじゃない」

 

 うわぁああああん!! リアス部長、大好きだよぉおおおおおお!!

 

「だ、だけど、俺は……」

 

「それに」

 

 それでもためらうイッセーに、リアス部長は最後のダメ押し。

 

「私の眷属になれば、ハーレムを作れることを忘れてない?」

 

「兵藤一誠、貴女に忠誠を誓いマッス!!」

 

 うん、こうなるよね。

 

 だけど、結局イッセーも眷属かぁ。なんか複雑。

 

 ねえ、どう思う相棒?

 

 そう心の中で尋ねると、わたしの相棒が返答する。

 

『そんなことを言われてもな。お前の弟の決断なんだから尊重するほかないだろう』

 

 うん、そういうと思ったよ、ドライグ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、私兵藤一美と弟兵藤一誠の二人が生まれる前から決まっていた、因縁を生産する物語。

 

 うん、いろいろと波乱万丈だけど、皆、頑張ってみてくれると嬉しいな?

 




後半終了です。

ドラッグシリングとドラピングが、ガシェットと怪人の名前になります。

イッセーではなくオリジナルキャラクターの一美が赤龍帝になりましたが、イッセーも赤龍帝の情報で変身するので事実上のダブル赤龍帝です。

因みにドラッグシリングがドライグなのには理由がありますがこれはまた後日……


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第一話 特訓とメイドと

初手から原作とはストーリーが異なります。

というより、諸事情により飛んでいます。


 

 おいっちにさんっし! にっにっさんっし!

 

「イッセー、一美! 足元が乱れてるわよ!!」

 

「「はい、部長!!」」

 

 朝もはよから私とイッセーは、リアス部長に先導されてランニングをしてるんだ。

 

 眷属は鍛える方針のリアス部長は、この辺がスパルタなのが欠点といえば欠点。

 

 でも、それにちゃんと付き合ってくれるから立派な主だよね。

 

 特に上級悪魔は自分や眷属を鍛えるって発想があまりない人が多いらしいから、そういう意味でも好感持てるかも!

 

 でも生身で朝からトレーニングは厳しいです!!

 

 いや、それでも健全なる精神は健全たる肉体に宿るとか聞いたことあるし! 頑張るし!

 

 いつまでも実戦でビビりのまま見てるだけなんて駄目に決まってるし!! しかも私赤龍帝だし!!

 

 ブリテンの伝承にしるされる、赤い龍と白い龍。

 

 赤龍帝と白龍皇の二天龍は、かつて世界でも準最強クラスにまで届いていた超絶クラスのドラゴン。

 

 その片割れを宿してるんだから、実戦で戦えるようになればすごく戦えるはずなんだもん!!

 

「さあ、腕立て五百回!! イッセーは男の子だから私が上に乗っかるわよ!!」

 

「「はい、部長!!」」

 

 うぉおおおおおお!!! きついぃいいいいいい!!

 

「な、なめるな今畜生!! こんな美人のお尻が上に乗っ勝てるんだ興奮するぜぇええええええ!!!」

 

「あ、イッセーさすが!」

 

 さすが変態な弟。エロが絡むとどんどんすごい!

 

 くっそぅ! 私だって美少年のお尻がのっかってたら……。

 

 いや、それ絵面的にどうよ!

 

「一美! 動きが遅れてるわよ!!」

 

「ひゃい! すいません!!」

 

 うん、いけないいけない集中集中!!

 

 今日も一日頑張るよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おいイッセー!!」」

 

「ぐわぁっ!?」

 

 後ろから、松田っちと元浜っちのダブルアタックを喰らって、イッセーがつんのめった。

 

「ちょ、二人ともいきなり何してんのさ!」

 

「止めるな一美ちゃん! 俺たちはこいつを殴らなきゃならない!!」

 

「そうだ! 朝からグレモリー先輩と一緒だったそうじゃないか! どういうことだオイ!!」

 

 血涙を流しそうな勢いで、二人はイッセーに詰め寄った。

 

 あーもう。こういうのごまかすのってすごい面倒だけど、やるだけやるか。

 

「イッセーはオカルト研究部に入ったんだよ。それで、部長が直々に最低限の体力をつけるために早朝トレーニング手伝ってくれてるの!」

 

「……オカルト研究部になんで早朝トレーニングが必要なんだ」

 

 ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたね元浜っち。

 

 このままスルーされるだなんて思ってないもんねー。

 

「夏休みは部活動でUMA探しに南米の熱帯雨林とかに行くんだよ。だから体力付けとかないと遭難するの」

 

「……一瞬でも入りたくなった俺を呪いたいぜ」

 

 松田っちすらドンビキするこの言い訳は、すでにオカ研のみんなにも伝えてある。

 

 それぐらいしないと美少女ぞろいで美少年までいるオカルト研究部に人が集まりかねない。

 

 悪魔の隠れ蓑でもある以上あまり人は入れられないし、それとは別にオカルト研究に興味ない人を入れるのもどうかと思うので一生懸命カバーストーリーを組み立てたのさ!!

 

 それに、夏休みにはリアス部長の付き添いで冥界に行くからね! そこで特訓もするだろうし、あながち間違ってはいないのさ!!

 

「でも! でもそれなら俺たちにも女の子を紹介してくれよイッセー!!」

 

「そうだそうだ!! 俺たちばっかり女の子と出会いがないのはひどすぎるだろ!?」

 

 あらら、こんどは泣き落とし入っちゃった。

 

 でも、イッセーの周りにいる女の子はたいていが悪魔関係者だけだしなぁ。普通にそれ以外には嫌われてるもん。

 

 どうするの? イッセー。

 

「じゃ、ミルたんを紹介するか」

 

「この外道!!」

 

 それはさすがにないでしょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。今日も一日疲れたなぁ。

 

 毎日毎日あまり変わり映えしないけど、それでも充実した日々。

 

 朝はトレーニングをして昼は学校。そして午後は部活動をして夜は悪魔稼業。

 

 いろいろ大変なことも多いけど、それでも毎日充実してるよ。

 

「うん、私は幸せだよ、父さん母さん」

 

 仏壇の写真に手を合わせながら、私は二人に報告する。

 

 うん、毎日これなら本当にいいんだけどね……。

 

 私の脳裏に、あの時のモンスターが出てきた。

 

 フンヌドラピングとかいう怪人に変身した人は、リストラされたサラリーマンだった。

 

 彼は「ストレス発散にどうですか?」などといわれてそれをチーマー風の男に渡されたらしいけど、それ以外何も知らなかった。

 

 だから、リアス部長が記憶を消したうえで就職先のあっせんまでして監視してるんだけど、今のところ動きは全くない。

 

 うぅん。この調子だとまずいような気がするんだよなぁ。

 

「どう思う、ドライグ?」

 

『ああ、確かに問題があるだろう。あのドラピングという化け物は、今のグレモリー眷属には手が余る。半端な禁手を上回る戦闘能力だぞ』

 

 だよねぇ。私達、まだ若手だもん。

 

 なんかそう思うと、もっと本格的なトレーニングを考えるべきなのかもしれない。

 

 うん、ちょっとイッセーに相談しないとね。

 

「イッセー、入るよー」

 

 あ、ノック忘れて……た……。

 

「ひ、ひと、み……」

 

「あら、一美じゃない」

 

 なんで、イッセーのうえに全裸の部長がいんの?

 

「一美、悪いけど退出してくれないかしら? ちょっと急いでイッセーに処女を奪ってもらわないといけないの」

 

「いやいやいやいや! 落ち着いて部長! 事情は分からないけどいろいろ焦って周りが見えてないから!!」

 

 うん、よく見たら目が据わってるよ! 落ち着こう!!

 

「女の処女はもっと大事にするべきですって! 部長お嬢様なんだからなおさら!!」

 

「いいえ、そんなことをしている暇はないわ!! ここで捨てないと間に合わないの!!」

 

「しょ、処女を、俺で捨てる……? 俺の童貞が、捨てれる……?」

 

 この馬鹿は牡丹餅すぎて理性失ってるし!!

 

 いや、男としてはラッキーかもしれないけど、これ絶対我に返って後悔する類だよ!!

 

「ちょ、誰か助けてぇええええええ!!!」

 

 思わず助けを求める悲鳴を上げると、そのとたんに床が光り輝いた。

 

 そのとたん、部長は体から力を抜くとため息をついた。

 

「……時間切れね」

 

 え? と、とりあえず……止まったの?

 

「危ないところでした。まさかそんな強硬策をとってくるとは」

 

 そんなため息交じりの声とともに、銀髪のメイドさんが現れる。

 

「そちらの方は眷属ですか?」

 

「ええ、私の眷属の一美とイッセーよ」

 

「イッセー。とりあえずシーツで体隠して。下着姿はまずいって」

 

「お、おう」

 

 ……とりあえず、今回はこれでお開きになったみたい。

 

 少しの間メイドさんと話していたリアス部長は、イッセーの頬にキスをするとそのまま帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあったんだよ~」

 

「お前、それ言っちゃうのかよ!!」

 

「あ、あはははは……」

 

 私が祐斗っちに相談すると、祐斗っちはほおを引くつかせるしイッセーはイッセーでツッコミを入れてくるしでもう散々。

 

「とにかく、なんでそんなことになったのか祐斗っちは心当たりある?」

 

「まあ、なんとなく予想はつくけどね。こういうのは当人に聞いた方がいいよ」

 

 うん、祐斗っちは人間ができてるね。

 

 まあそれはともかく。事情は説明してもらわないといけないよね。

 

「でも、ちょっと惜しいことをしたかもなー」

 

「イッセー……。確かに部長は女の私から見ても魅力的だけど、あれで童貞卒業していいの!?」

 

「そ、それは確かに!!」

 

 まったくもう! イッセーはこうなんだからっ!

 

 もう、仕方ないからとりあえず話を聞かないと―

 

「……これはっ!?」

 

 ん? 度したの祐斗っち?

 

「何かあった?」

 

 そんなことを言いながらドアを開けると、そこには部長と朱乃さんだけじゃなく、メイドさんまでいた。

 

「あ、あの時のメイドさん」

 

「うぉおおお! よく見てみるとおっぱいでかい!!」

 

 確かに、あれを枕にしたら気持ちよさそうだなぁ。

 

 じゃなくて!!

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はグレモリー家のメイドを務めております、グレイフィアと申します」

 

 ご丁寧にお辞儀までしてくれるグレイフィアさん。

 

 で、問題は……。

 

「それで部長、なんでメイドさんが来たりイッセーで処女捨てようとしたりしたんですか?」

 

「それは……」

 

 部長もさすがに頭が冷えて恥ずかしそうにしてたけど、それでも少し言いずらそうだった。

 

「お嬢様。よろしければ私が話しますが」

 

「いいえ。さすがにこれを人任せにできないわ」

 

 部長はそういうと、口を開いて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ふん。いつものことながら嫌な風だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな言葉とともに、部屋中に炎がまき散らされた。

 

 うわぁあああああ!! 火事だぁあああああ!!

 

「み、みず! いやいやいやいや119-」

 

「落ち着いてください一美さま。これは鍛冶にはなりませんのでご安心ください」

 

 グレイフィアさんが私の携帯電話を奪いながらそういうけど、これは冷静にはいられないよ!!

 

 と、とにかくどうにかしないと―

 

「フェニックス」

 

 え? 小猫ちゃんなんて言った?

 

「木場、フェニックスってなに?」

 

「部長のグレモリーと同じく、72柱の悪魔の家系の一つだよ。……まさかここに来るとはね」

 

 イッセーにそう答えながらも、祐斗っちの表情も結構硬い。

 

 え、え、なに? なんなの?

 

 ………あ、ぁあああああ!! 思い出した!!

 

 そうだ、この人―

 

「ようやくあえたな、愛しいリアス」

 

 そうきざったらしく言うのは、金髪の髪をしたイケメンの男。

 

 そう、こいつは。

 

「あ、あ、あ、部長の婚約者もどき!!」

 

 そうだ、観たことある!!

 

 部長と婚約者ってことになってるけど断られている人だ!!

 

「だ、誰がもどきがこの女!!」

 

 うるっさいよ!!

 




はい。フェニックス編からのスタートです。

一美が数年前からリアスの眷属になっている以上、レイナーレが駒王町に来ることもないので、一巻のストーリーを再現することは困難だという判断でした。

つまり、あの糞女やクソ野郎にとっては都合のいい展開ということでもありまして―

眷属関係は原作とは違い二転三転する予定ですので、其のあたりのオリジナリティをお楽しみください。


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第二話 婚約者といがみ合いと

はい、第二話です!


 

「いやー、リアスの女王がいれてくれたお茶は美味しいなぁ」

 

「それはどうも」

 

 ライザーの誉め言葉に、朱乃さんはそっけなく返す。

 

 うん、舌が肥えてるのは褒めてあげるし、イケメンなのも認めるし、実力だってルーキーの範囲内なら高いはずだ。

 

 ライザー・フェニックス。72柱の悪魔の一つであるフェニックス家の三男坊。

 

 そして、リアス部長の婚約者だ。

 

 とはいえ、部長はそういうの嫌がってるんだけどね。

 

 親御さんは何を考えてるんだろう。政略結婚っていうのは今後のお家の関係を密接にするのが目的だから、二人の関係性もちゃんと考慮に入れるのが本来基本だって話なのに。

 

 心底嫌がられてるのに気が付いてないよライザー。お前そんなんでモテてるのはどうしてなの?

 

 そしてイッセー。何鼻の下のばしてんの

 

 

 おおかた、裸を見たことがあることに優越感を感じてるとかそんな感じなんだろうけどさぁ、下僕悪魔なんだから考えてよ。

 

「……卑猥な妄想禁止」

 

「イッセーくん、とりあえずよだれを噴いた方がいいよ?」

 

 うんうん。小猫っちも祐斗っちもごめんね?

 

「……いい加減にして、ライザー!!」

 

 そして、いい加減我慢の限界なのかリアス部長は立ち上がるとライザーを怒鳴りつけた。

 

「私の結婚相手は私が決める! 私は貴方とは結婚しないわ!!」

 

「……やれやれ。相変わらずのわがまま姫だな、リアス」

 

 そういい返すと、ライザーも立ち上がって死線をぶつける。

 

「君のところのお家事情だって、結構切羽詰まってるんだろう?」

 

「余計なお世話よ! 私が次期当主である以上、婿の相手は自分で決める。第一、私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれる話だったわ!!」

 

「それは事実だ。大学に行ってもいいし、下僕のセレクトも隙にすればいい。だが、君のお父様もサーゼクス様も心配なんだ」

 

 ライザーは、諭すようにそう告げる。

 

「ただでさせ先の大戦で多くの純血悪魔がなくなり、お家断絶した家は数多い。いまだ堕天使や教会とはにらみ合いを続けている以上くだらない小競り合いで純血悪魔の跡取りをなくすだなんて笑い話にもならないだろう? 字上級悪魔のお家同士がくっつくのは当然で、純血の上級悪魔の新生児は貴重なことだって知ってるはずだ」

 

「だからって、結婚相手まで決められるなら話は別よ。自分の結婚相手は自分で決める。帰りなさい」

 

 部長は、はっきりとそう言い切った。

 

「……本当に我儘だな、リアス」

 

 そして、ライザーも引く気はないみたいだ。

 

 私の全身から汗が噴き出て震える中、ライザーは全身から炎が噴き出ていく。

 

「俺だって、フェニックスの看板を背負ってるんだ。この名前に泥を塗られるわけにはいかない」

 

 そして、部屋中に炎がまき散らされる。

 

「―これ以上我儘を言うなら、俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでも君を冥界に連れて帰るぞ」

 

 私は、腰を落とさないようにするので精一杯だった。

 

 まずい、本気でライザーはそうするつもりだ!!

 

「―おい、焼き鳥」

 

 そんな中、イッセーが一歩前に出る。

 

「……ぁあ?」

 

 ものすごい罵倒を受けた顔で、ライザーはイッセーをにらみつける。

 

 そして、それに負けずとイッセーもライザーをにらみつけた。

 

「俺の姉貴を殺そうっていうなら、お前も殺される覚悟はできてるんだろうな……っ」

 

 すでにイッセーはテンテキドライバーを出してドラッグシリングを挿入する準備までできている。

 

 あ、これマジモードだ。

 

「吠えたな、下級悪魔。まずはお前から焼き尽くしてやる―」

 

「上等だよ。できるもんならやってみやがれ!!」

 

 ライザーが炎をあつめ、イッセーはドラッグシリングをベルトに挿入して―

 

「―そこまでです」

 

 ―それ以上に、すごい気配が部屋中を覆い尽くした。

 

「イッセーさまもライザーさまもそこまでです。これ以上人間界で狼藉を働くというのならば、私も黙ってみているわけにはいきません」

 

 あ、たぶんこの人がこの場で最強だ。

 

 そして本気で言ってるよこの人ぉおおおおおお!!

 

「ぃ、いいいいいいいいいイッセー。と、とりあえずおおさえてお、さえて」

 

「……わかったよ」

 

 はあ、とため息をついてから、イッセーはドライバーを戻すとドラッグシリングもしまった。

 

「最強の女王と称される貴方にそんなことを言われたら、俺もさすがに怖いよ」

 

 ライザーも炎を消して、そのままソファーにどっかりと据わった。

 

「こうなることは両家の御当主様も想定の範囲内でした。ですので、もしこの場で話が終わらなければということで最終手段を用意しております」

 

「最終手段?」

 

 部長が首をかしげると、グレイフィアさんは話を続ける。

 

「お嬢様が自らの意志を押し通すというのであれば、この縁談の是非は『レーティングゲーム』でお決めになるというのはどうでしょうか?」

 

 レーティングゲームは、眷属を持つ上級悪魔同士が戦うゲームだ。

 

 悪魔の駒がチェスの駒を模して造られていることから、自分の眷属自慢の決着をつけることを目的として始まったらしい。

 

 いつの間にやら実戦訓練と娯楽もかねて冥界の一大イベントとなっていて、噂ではほかの勢力もこっそり映像を集めて楽しんでるとか。

 

 で、これは本来成人になった悪魔がやることだけど、非公式で行われてることもあるんだ。

 

 それが、お家騒動とかいがみ合いとかの決着。

 

 だけど……。

 

「正直出来レースなんで使いたくないんだけどな。ほら、リアスは眷属まだ空いてるし?」

 

「そう、どこまでも私の人生を弄びたいのね、お父様もお母様も!!」

 

 うん、ぶっちゃけ不利なんだよねぇ。

 

「イッセー、覚悟した方がいいよ?」

 

「ん? なんで?」

 

 イッセーが首をかしげるのと同意に、またしても炎がまき散らされた。

 

「言っとくが、俺の眷属は15駒全部埋まっている。そしてその戦力もみな優秀で―」

 

 炎の中から現れるのは、ライザーの眷属たち。

 

 そして眷属は全員―

 

「―美少女、だと!?」

 

 イッセーが愕然とするほどの美少女だった。

 

 うん、このライザーってひと、ハーレム作ってるんだよ眷属で。

 

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおん!! 夢は、かなうんだねぇえええええええええ!!」

 

 イッセーはうらやましいやら感動したのやら、すごい勢いで号泣したよ。

 

「うんうん。とりあえず落ち着け馬鹿弟」

 

「イッセーくん、とりあえずハンカチ使いなよ」

 

 祐斗っち。そんなことしなくていいから。

 

「……リアス、あの下僕悪魔くん、俺の女たちを見て号泣してるんだが」

 

 ライザーもドンビキしてるし!!

 

「ごめんなさい。彼、上級悪魔になってハーレムを作ることが夢なの」

 

 リアス部長も申し訳なさそうな顔してライザーに事実上の謝罪をしてるし!!

 

 イッセー! 恥ずかしいから落ち着いて!!

 

「ふっふっふ。そうかそうか、うらやましいかぁ? うらやましいだろぉ?」

 

 そしてライザー! あんた人が悪いな!!

 

「ああそうだよ! うらやましいよ!! 悪いかこの野郎!!」

 

「そうか、そうか、そうだろうそうだろう。お前にはこんなことはできないもんなぁ」

 

 そんなことを言うと、ライザーは近くにいた眷属を抱き寄せるとキスをする。

 

 うっわぁ! 下まで絡めたディープキスぅ!!

 

 ……本当に性根が悪いなこの人。そりゃリアス部長も結婚嫌がるわけだよ。

 

「……殺すぞ、この種馬ならぬ種鳥野郎!!」

 

「はっはっは。敗者の負け惜しみにしか聞こえんなぁ?」

 

 ライザー? 額に怒りの青筋浮かべて言っても説得力ないよ?

 

 あ、コレ同レベルだ。

 

「部長! 一発殴っていいですか!?」

 

「抑えなさいイッセー。大丈夫、レーティングゲームで容赦なく殴ってしまえばいいわ」

 

 部長も煽らないで!!

 

「……とりあえず、そういうことですのでレーティングゲームを始めましょうか。開始日は―」

 

「―十日後。それでどうでしょうか?」

 

 と、グレイフィアさんの言葉をさえぎってライザーは言った。

 

「私にハンデをくれるっていうの?」

 

 うわぁなめた発言! 部長が起こるのも当然だよ!!

 

 だけど、振り返ったライザーの顔は至極真剣だった。

 

「屈辱か? だが感情だけで勝てるほど『レーティングゲーム』は甘くない。初めてゲームに臨むの君が下僕たちと修行をするのは当然だ。いくら素質があろうと、初戦で力を出し切れずに負けたチーム何て俺も何度も見てきたぞ」

 

 あ、意外とリアス部長のこと考えてるんだ。

 

 部長もそれがわかったのか、すこし落ち着くと静かにうなづいた。

 

「いいわ。その余裕を後悔させてあげる。」

 

 その言葉に満足そうにうなづくと、ライザーは一歩下がって魔方陣を展開する。

 

 そして最後に、イッセーに視線を向けた。

 

「お前、駒は?」

 

「び、僧侶(ビショップ)だ」

 

 そう、イッセーは僧侶になった。

 

 魔力が少ないから、それを補うための措置だ。おかげで何とか転移魔方陣で転移できるようになった。

 

 むしろ、魔力を強化する僧侶の駒でその程度なのがあれなんだけどね?

 

 それはともかく―

 

「貴様ら全員気合を入れておけ。お前たちの一撃はリアスの一撃なんだからな」

 

 ―まあ、ライザーは部長のこと気に入ってないわけじゃないんだけどね。

 



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別荘と恋愛と

感想こねえええええええええ!!!

くそう! 世の中うまくいかないなぁ。何が原因だ畜生!!


 

 そんなこんなで、私たちは特訓のために山を登っていた。

 

「えっほ、えっほ」

 

「えっほ、えっほ」

 

 私もイッセーも結構ペース良く山を登れている。

 

 ここは人間界にある山奥。

 

 グレモリー眷属が購入して所有権のある山々で、その一つに別荘があるんだって。

 

 すっごい金持ちだよね、グレモリーって。おかげで生活費も万全だよ!!

 

 そのうちの一つを使って本格的なトレーニングを行うことになったの。

 

「それで、部長? あとどれぐらいでつくんですかー?」

 

「そうね、あと一時間といったところかしら」

 

 気持ちよさそうな汗をかきながら、部長は私の死質問にそう答える。

 

 さすがに魔力戦闘タイプである部長も朱乃さんも荷物は少ないけど、その分肉弾戦はの私たちは結構な荷物を背負ってる。

 

 背負ってるんだけど……。

 

「お先に失礼します」

 

 ……一番ロリッ娘の小猫ちゃんが一番荷物持ってるんだよなぁ。

 

 祐斗っちも線が細いのに結構な荷物を背負ってるし、イッセーも私も結構荷物を背負ってる。

 

 それでも意外と楽に登れるんだから、悪魔ってすごいんだよねぇ。

 

「……うぅ、やっほぉおおおおおお!!」

 

 やっほー、やほー、ゃほぉ……

 

 うん、やまびこ気持ちいい!!

 

「あらあら、一美ちゃんは元気いっぱいですわね」

 

「もちろんです! だって死人が出ないから気楽だしね!」

 

 うん、そういう意味だとすごく気が楽。

 

 いつもはぐれ悪魔が死ぬのを見たりするのは気が気がじゃないんだよね。

 

 だって、自分も逆に殺されるかもしれないって否でも考えちゃうんだもん。

 

 だけど、レーティングゲームなら戦闘不能になったらすぐ転送されるからその心配はないんだよね。

 

 だから、結構気楽に参加できるかな?

 

「うふふ。でも部長の今後の未来がかかっているから、真剣にやりましょうね?」

 

「はい! わかってます!!」

 

 そこはきちんとわかってるから安心してください!

 

 やっぱり女の子としては、好きな男の子と一緒になりたいもん! そこは譲れないよね!!

 

 そんなことをしていたら、ついに別荘まで到着したよ。

 

 うん、ここから私達のトレーニングが始まるんだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すごい、イッセーすごい!!

 

 私も頑張って特訓してたけど、イッセーってばあんなにすごくなってたんだ!!

 

 具体的には―

 

1 祐斗っちとの剣術特訓!

 

「せい、や!」

 

「そうそう、周りの様子もよく見て冷静に対応するんだ!」

 

 祐斗っちは剣の使い手。

 

 今まで戦ってきたどんなはぐれ悪魔も、祐斗っちの動きに対応できずに切り刻まれるんだよね!

 

「うん、だいぶ良くなってきたね」

 

「これでも頑張ってるからね!」

 

 戦闘では全く役に立たないんだけどね、ちっくしょー!

 

「さて、それじゃあ次はイッセー君だ」

 

「ああ、でもちょっといいか?」

 

「なんだい?」

 

 イッセーは短い警棒を取り出すと、それを木刀に括り付ける。

 

 たしか、ズバットマグナムだっけ? あれにそっくりな形になった。

 

「ズバットマグナムには接近戦用の使い方があるからさ、それに近い形の方がやりやすいんだよ」

 

「なるほど。慣れた武器があるならそっちの方がいいよね」

 

 祐斗っちもすぐに納得すると、そのまま修行を始めたんだけど―

 

「は! とぅ! やぁ!!」

 

「これはなかなか……っ!」

 

 すごい! 互角に渡り合ってる!!

 

 何ていうか動きが見えなくなってきそうだよ!!

 

 そのあと数十分もの間戦いを繰り広げて、時間切れで引き分けになった。

 

2 朱乃さんとのドキドキ魔力訓練。

 

「魔力は体全体を覆うオーラから、流れるように集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

 うんうん、こればっかりは慣れが必要だからイッセーでも苦労するよね。

 

 ちなみに私は結構できるよん♪。

 

「はい、できました!!」

 

 よっしゃ! バスケットボール大にまででっかくなったよ!!

 

「ぬぉおおおおおお! 姉貴に負けてたまるかぁあああああ!!!」

 

 イッセーもすごい気合を入れて魔力を出すけど、出てきたのはピンポン玉ぐらい。

 

「………」

 

「ドンマイ」

 

 うん、ちょっとかわいそうになってつい励ましちゃった。

 

 僧侶の駒を使ってこれっていうのは、さすがにちょっときついかな?

 

 そんなこんなで私は次のステップ。

 

 魔力で水を動かして、ちょっとした水芸の練習をしている。

 

 私は兵士の駒八つで変身しているけど、やっぱり僧侶が一番得意かな?

 

 逆に一番苦手なのは騎士。どうも武器の扱いは苦手なんだよね。走るのも結構遅いし。

 

 そんなことを考えてたら、イッセーは朱乃さんとこそこそと話をしていた。

 

 そして、なぜか野菜を渡されて皮むきを魔力でやってた。……何やってるの?

 

3 小猫ちゃんとの体術特訓!

 

 私とイッセーは小猫ちゃんを二人係で追いかけていた。

 

「イッセー! 左側よろしく!」

 

「おう! 姉ちゃんは右からたのむ!!」

 

「同時にどうぞ。……負けませんから」

 

 兄弟だからそれなりに連携はできるんだけど、戦闘での連携は初めてだから結構苦戦する。

 

 それでも、結構触れそうなところまで来るんだけど―

 

「えい」

 

「ぐわぁ!!」

 

「あ、イッセー気張って―うわぁ!?」

 

 連携が乱れると簡単に伸されるんだよなぁ。

 

 うわ~ん! いつまでたっても小猫ちゃんには格闘戦で勝てないよぅ!!

 

 これでも僧侶の次ぐらいには戦車のが得意なのに!!

 

「単純に打たれ強いだけです」

 

 心を読まないで小猫ちゃん!!

 

「イッセー先輩。打撃は体の中心線を狙ってください。……なぜ狙っている場所がバラバラなんですか?」

 

「いや、ドラピングは硬いのが多いけど人間の体の影響を受けるから、点穴とかを狙った方が効果的にダメージが入るんだよ」

 

 ふーん。ドラピングもやっぱり体の影響を受けるんだ。

 

「確かにそうですが。イッセー先輩は体つきはしっかりしているのでパワータイプの攻撃を行った方が有効です。急所を個別に狙うのは、非力なものの戦い方です」

 

 うんうん。子猫ちゃんはやっぱり体術の達人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな日が何日も続く中、私は夜に目が覚めた。

 

 ……さて、そろそろ終わりだけど、勝てるのかな?

 

 ライザーは結構強いんだよね。

 

 フェニックスの特性は不死。大きなダメージを受けて肉体が欠損しても炎とともに再生する。

 

 しかも、その涙は特殊な方法で生成すると傷をいやす薬にもなるの。マジすごい。

 

 レーティングゲームが始まってからはもうそのせいで成り上がりまくってて、だからか結構地位が高い。

 

 もしかしたら負けるかもしれない。いや、勝てる可能性能方が本当は低いんだ。

 

 だけど、それでも……。

 

「私は、グレモリーなのよ」

 

 と、そんな声が聞こえてこっそり身を隠す。

 

 のぞき見ると、イッセーと部長が話してた。

 

「どこまで言っても、どこに行っても、私は()()()()()として見られるわ」

 

 そっか、それが部長の不満なんだ。

 

 親の七光りってやつなのかな。やっぱり、個人として見られないのはつらいんだよね。

 

 そういうのって、すごい親を持ったりすると例外なく持っちゃうものだよなぁ。うんうん、悩むよね。

 

「もちろん、グレモリーであることは誇りなのよ? だけど、同時に私をどこまでも縛ってるの」

 

 部長、そんなに苦労してるんだ。

 

「確かに、ライザーは嫌なところもあるけどお父様が選ぶだけあってダメな人じゃない。だけど、彼は私をグレモリーのリアスとして愛するの。……それが、どうしてもいやなのよ」

 

 部長、そんなに……。

 

 ちょ、イッセー? どうするの? どうするのよ?

 

「……えっと、俺、難しいことはわかりませんけど」

 

 おいぃいいいいい!! わかって、そこはわかってよイッセー!!

 

「でも、俺、リアス部長のこと大好きです」

 

 ……ってうぉい!?

 

 ふぉ、フォローするにしてもそれは殺し文句!!!

 

 あ、だめだ。これは聞いてたらすごい恥ずかしいことになる。

 

 私は急いでベッドに戻りながら、しっかしすごい創造をしてしまった。

 

 リアス部長、わたしのお姉ちゃんになっちゃうかも!?

 



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レーティングゲームと赤龍帝と

 

 そして、レーティングゲーム当日。

 

 私とイッセーは駒王学園の制服に着替えていた。

 

 レーティングゲームに学校の制服? って思ったけど、部長曰く―

 

「私達オカルト研究部にコスチュームがあるとしたら、それは駒王学園の学生服ね」

 

 だってさ。ま、悪魔同士の戦闘で服なんてすぐ壊れるから仕方ないか。

 

 敗れたら修繕費だしてくれるっていうし、うん、人の金なら気にしなくていいよね。

 

「それで、どうするのイッセー?」

 

 私が行ったのは仮面ライダーのことだ。

 

 正直、あれを使ってもライザーを倒せるかはわからない。

 

 それほどまでに上級悪魔の機体のルーキーはすごいし、フェニックスだっていうのがさらにすごい。

 

 だけど、イッセーは少し悩んでいた。

 

「どうしたもんかな。部長は使わなくていいって言ってくれたけど」

 

「だよねぇ」

 

 部長は、仮面ライダーにはならなくていいとイッセーに言っていた。

 

 あれが知られれば、一部の悪魔がよからぬ考えを持つかもしれない。そして、そうなればイッセーの身に危険が訪れるかもしれないからだ。

 

 でも、なんとなくイッセーの考えていることはわかる。

 

「いざとなったら、使っちゃうよね」

 

「ああ、最後の切り札だな」

 

 うん、それがイッセーだ。

 

 私は、そんなイッセーを抱き寄せる。

 

「ね、姉ちゃん! 近親相姦は背徳的だよ!!」

 

「そんなんじゃねえよ馬鹿」

 

 お前は姉をそんな風に見てたんかい。好都合だな

 

 そうじゃなくて。

 

「大丈夫。いざとなってもお姉ちゃんは味方だから」

 

 これは言っておかないとね。

 

「うん。だってお姉ちゃんはイッセーのお姉ちゃんで、イッセーは覗き以外は悪いことしてないもん。だからそれ以外のすべてでイッセーの味方をしてあげる」

 

「姉ちゃん……」

 

 うん、だから―

 

 いざという時は、使おうね、ドライグ。

 

『ああ、思う存分使うといい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜十二時ちょっとまえに、私たちはオカルト研究部の部室に来ていた。

 

 祐斗っちは剣を壁に立てかけて準備万端。小猫ちゃんもオープンフィンガーグローブをはめて待機していた。

 

 そして、朱乃さんとリアス部長はお茶を飲みながら優雅に準備してた。

 

「余裕ですね、二人とも」

 

「慌てたところで結果は変わらないもの。だったらすこしぐらいリラックスしないとね」

 

 おお、結構勝負強いね。

 

 私は私で緊張しているけど、それでも実戦に比べたら少しは気が楽だ。

 

 これなら、結構戦えると思う。うん、大丈夫。

 

「―皆様、そろそろレーティングゲームが始まります。準備はよろしいですか?」

 

 と、グレイフィアさんが私たちに尋ねる。

 

 私もみんなも無言でうなづくと、グレイフィアさんは部長の方に向いた。

 

「私の立場では言いにくいですが、頑張ってくださいまし」

 

「もちろんよ。最善は尽くさせてもらうわ」

 

「大丈夫です!」

 

私も元気よくグレイフィアさんに答える。

 

「私とイッセーがいますから! ライザーは倒させてもらいます!」

 

「全くです! あんな焼き鳥にリアス部長は渡しません!!」

 

「……そうですか」

 

 グレイフィアさんはそういうと、一歩を下がった。

 

「開始時間になりましたら、戦闘用に創られたフィールドに転送いたします」

 

 そう、レーティングゲームは其のためだけに創られた専用のフィールドで行うんだ。

 

 だけどそれを知ってなかったイッセーは少し首をひねってた。

 

 まあ、上級悪魔同士の対決を人間世界でやったら目立つからね。

 

 最上級になったら小さな山なら消し飛ばしかねないし、これは必要なことだよ。

 

「あの、一つ質問してもいですか?」

 

 グレイフィアさんが退出した後、イッセーは手を挙げて質問した。

 

「部長には俺のほかにも僧侶がいたって聞きますけど、その人は参加しないんですか?」

 

 ……うわっちゃぁ。それ聞いちゃうかぁ。

 

 一気に空気が重くなるけど、イッセーもそれに気づいたのかちょっと戸惑った。

 

「あ、あのねイッセー? その僧侶なんだけど……上から使っちゃだめだって言われてるの」

 

「え? なんでそんなことに?」

 

 えっと、これ言っていいのかな?

 

「それについては、また次の機会があれば話すわ」

 

 ああ、やっぱり今は言えないか。

 

 うん、これって結構デリケートな問題だからね。

 

『皆様、準備はよろしいでしょうか』

 

 そんなとき、グレイフィアさんのアナウンスが鳴り響いた。

 

『本日、リアス・グレモリー様とライザー・フェニックス様のレーティングゲームを担当させていただくグレイフィア・ルキフグスです』

 

 そう告げると、さらにグレイフィアさんは言葉を続ける。

 

『なお、今回のレーティングゲームは両家の皆様も中継でフィールドをご覧になります。魔王ルシファー様も拝見されておりますので、そのように』

 

 あ、やっぱりルシファー様も見てるんだ。

 

「な、なんでふたつの貴族の結婚騒ぎに魔王様が出てくるんだ!?」

 

 イッセーが驚いて目を見開くけど、事情を知っているものからすれば驚くことでもない。

 

「ほら、先代魔王様がすでに死んでるのは知ってるでしょう? そのあとルシファーの座を継いだのが、リアス部長のお兄さんなの」

 

「ま、マジでぇえええええええええ!?」

 

 イッセーが驚いてリアス部長の方を向くと、部長はあっさりとうなづいた。

 

「お兄様も見ているのなら、これは情けない戦いはできないわね」

 

 リアス部長は割と本気でやる気に満ち溢れている。

 

 うん、これは確かに負けられない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、作戦会議が終わって私たちは体育館へと潜入している。

 

 なんと! 今回のレーティングゲームの舞台は駒王学園‥‥‥‥を模したフィールド。

 

 こんなものを使い捨てで用意できるだなんて、冥界の技術は本当にシャレにならないよね!

 

 一緒にいるのはイッセーと小猫っち。祐斗っちは1人別行動。

 

「想定通りならそろそろ出てくるよね」

 

「だろうな」

 

「はい、四人ほどいます」

 

 こっそりと縁談の裏側で打ち合わせをしようとしたら、それより早く足音が響く。

 

「そこにいるのはわかってるわよ!! あなたたちがここに入ったのは監視していたんだから!!」

 

 うわ! やっぱバレてる!!

 

「仕方ねえ。だったら出てやるとするか」

 

 イッセーがそういいながら一番に前に出て、私たちもそれに続く。

 

 そこにいたのは四人のライザーの眷属。

 

 チャイナドレスを着た戦車に、棍を持ったロリ兵士。そして体操服を着た同じくロリな双子。

 

 ちなみに戦車は結構ナイスバディ。ライザーはそれなりにジャンルを広く集めてるみたいだね。

 

「さて、やりますか」

 

「はい」

 

「おう!!」

 

 私は二人より前に出ると、速攻で覚悟を決める。

 

「悪いけど、命がけじゃないなら私はかなり強いから!!」

 

 言うが早いか、私は速攻で赤龍帝の籠手を展開すると、さらにその()()()を発動させる。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

 発動されるのは神器の究極系、禁手(バランス・ブレイカー)

 

 赤龍帝のそれは、一気に出力を上昇させる鎧を展開する。その名も赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

 その姿を見て、ライザーの眷属は全員が度肝を抜かれた。

 

「……な、うそでしょ?」

 

「赤龍帝はビビリってきいたのに!?」

 

 うん、そうだろうね。

 

 だけどそんなものは通用しない!!

 

「ビビリだからこそ、死ななくていい時は調子乗れるんだよね!!」

 

 言うが早いか一瞬で殴り飛ばすと、速攻でライザーの眷属たちはリタイアの光に包まれる。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名と戦車一名、戦闘不能』

 

 よっし楽勝! 

 

 うん、死ななくて済むなら気楽だし、こっちも元気用できるんだよね!!

 

『ライザー・フェニックス様の兵士三名、戦闘不能』

 

 おお! しかも追撃!!

 

 これはたぶん祐斗っちだよね!

 

 禁手にもならずに同等の戦果を挙げられたよ!!

 

「マジでヘタレだよね私! 死にたい!!」

 

『まあ頑張れ。この程度で死んでいたら白い奴との戦いでは持たんぞ?』

 

 多分出てきたら瞬殺されるよ。命がけだと弱いもん。

 

「お、俺の必殺技が出番なし―」

 

「イッセー先輩、そんなの作ってたんですか」

 

 イッセーが落ち込んでいるけど、こっちも死なないときぐらい成果上げないとやってられないんだよね。

 

「まあまあイッセー。ここはお姉ちゃんに花を持たせて―」

 

 私はフォローを入れようとそう言って近づいて―

 

「―隙だらけね」

 

 とたん、一気に爆発が発生した。

 

 




一美はすでに禁手に到達しています。イッセーよりはるかに赤龍帝としての素質はあるのです。

そして命がけでなければ大いに真価を発揮できるのです。少なくとも、仮面ライダーであるイッセーを別格とすればこのレーティングゲームでライザーと二強を張れるでしょう。


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洋服崩壊と不意打ちと

 

 あ、ああああ危な!!

 

 マジで危な! 死ぬかと思った!!

 

「二人とも! 大丈夫!?」

 

「あ、ああ。かばってくれた助かった」

 

「……有難うございます」

 

 何とかギリギリでかばえたから無事だったけど、おかげでいったん禁手が解除されちゃった。

 

 やっぱり私弱いなぁ。一瞬レーティングゲームなの忘れ手死ぬかと思ったらすぐ不調だよ。

 

『とはいえ、あの破壊力は上級悪魔クラスだ。それを難なく防ぐ当たり、お前はビビリがなければそこそこできるほうだよ』

 

 フォローありがとうドライグ。でもやっぱり落ち込むよ。

 

「―そう簡単にはいかないようね。これが現赤龍帝ということかしら」

 

 その言葉とともに、上から声が響いてくる。

 

 そこにいるのは、明らかに魔法使い的な印象を与える一人の美女。

 

 あ、この人確かライザーの女王だ!

 

「この年魔! 卑怯じゃない!!」

 

「誰が年増よ!! ……第一、戦場では油断した方が悪いのよ? 相手が勝ったと確信した隙をつく程度がどうしたというの?」

 

 ぬぉおおおおおお!!! 正論むかつく!!

 

「上等! こうなったらもう一回禁手発動させてぶっ倒して―」

 

「あらあら。私の出番を奪ってしまってはいけませんわ」

 

 その言葉とともに、雷が敵の女王に襲い掛かった。

 

 それを魔方陣を使って防ぎながら、敵の女王は相手をにらみつける。

 

 そこにいるのは、巫女服に身を包んだ朱乃さん!!

 

「うぉおおおおお!!! 朱乃さぁあああん!!」

 

「あらあら、イッセーくんは可愛い反応ですわ」

 

 そうにっこり微笑みながら朱乃さんは敵の女王と対峙する。

 

「ここは私が引き受けますわ。イッセーくんたちは祐斗くんと合流してください」

 

「了解です」

 

 朱乃さんの言葉にうなづいた小猫っちは、私たちの手を取って走り出す。

 

「え、いいの小猫ちゃん!?」

 

「それが作戦ですから。それに、一美先輩の禁手はできるだけ温存するべきです」

 

 ためらうイッセーに小猫っちは冷静に返す。

 

 うぅ。確かにレーティングゲーム中ずっと出せるほどまだまだ禁手は慣れてないけどぉ。

 

 そんなことを思いながら走ってると、すぐに祐斗っちが合流してくる。

 

「やあ、三人とも。大丈夫みたいだね」

 

「祐斗っち! そっちも大活躍だね!」

 

 私がそうほめると、祐斗っちは照れくさそうにしていた。

 

「いや、何とか見回りの兵士だけは倒せたんだけどね。ここを任さられている騎士と戦車、そして僧侶の三人が動きを見せないんだよ」

 

「……様子見ですか」

 

 小猫っちの言う通りだね。

 

 これは犠牲(サクリファイス)っていう立派なレーティングゲームの戦術だけどさぁ。

 

「ハーレム作る男が、自分の女を捨て駒にするとかどうだろ?」

 

「いや、戦術としては決して間違っていないよ。レーティングゲームでは死なないわけだしね」

 

 祐斗っちはクールだなぁ。

 

 そんなことを言いながら話していると、祐斗っちの視線がイッセーの方にむく。

 

「緊張しているのかい?」

 

「あ、ああ。レーティングゲームは初めてだから、ちょっと緊張してる?」

 

「そう? 誰も死なないんだから気楽じゃない?」

 

「……部長の結婚がかかわってることを忘れないでください」

 

 あ、そうだね。ごめん小猫ちゃん。

 

 あ、ヤバイ、そう考えるとだいぶ緊張してきた。

 

「実は僕も結構緊張してるんだよ。実戦はともかくレーティングゲームは僕も初めてだしね」

 

「実は、私も結構」

 

 祐斗っちも小猫っちも結構マジ緊張だよ。

 

 だけど私ほどじゃないね! なんか本気でブルってきたから!!

 

 そんなとき、グラウンドの方で大声が響いた。

 

「こそこそと腹の探り合いをするのはもう飽きた!! 私はライザーさまにつかえる騎士、カーラマインだ!!」

 

 うひゃぁ!! 声出るかと思った。

 

「リアス・グレモリーの騎士よ、騎士として誇りがあるなら、いざ尋常に勝負!!」

 

 え、えっと……。

 

「……行っちゃう、祐斗っち?」

 

「そうだね。騎士としては隠れているわけにはいかないよ」

 

 そういうと、祐斗っちは堂々と前に出る。

 

「あのバカ、かっこいいじゃねえか」

 

 だよねイッセー。伊達にイケメンとして駒王学園で有名じゃないんだよ。

 

 中身も含めてマジイケメン。それが木場祐斗なのだ。

 

「仕方がありません。私達も出るとしましょう」

 

 小猫ちゃんの言う通り。これは、さすがに出るしかないよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を観客席で眺めながら、サーゼクス・ルシファーは微妙な表情をしていた。

 

 その表情を横目で見ながら、サーゼクスとリアスの父親であるジオティクス

 

「やはり、お前は気に入らないか?」

 

「そうですね。恋愛結婚をしたみとしては、リアスが望まない婚姻は気が進みません」

 

 父親に対してそう告げながら、サーゼクスはしかしと続ける。

 

「ですが、赤龍帝を眷属に迎え入れた以上、白龍皇に対する対策は立てないといけない」

 

 そう、それこそがこの婚姻を強行した理由の一つだ。

 

 古来より、二天龍に深くかかわってロクな死に方をした者はいない。

 

 そして、二天龍の片割れである白龍皇は極秘情報だが堕天使側についていることが確認されている。

 

 もしかすれば、白龍皇は堕天使を大量に引き連れて赤龍帝との決戦に臨むかもしれない。そして、そうなれば今のリアスと赤龍帝では勝ち目がない。

 

 赤龍帝は禁手にいたっているが、しかし実戦では途端におびえてしまうという欠点がある。それを考慮すると、とても今のままリアスを放っておくことなどできはしない。

 

 少なくとも、ライザーとその眷属をまとめて相手をして倒すぐらいでなければ、安心することなどできはしないのだ。

 

「できれば私自らリアスを守りたいですが、魔王としてそれを行うことはできませんからね」

 

「ああ。私も領主としての務めがあるから動けないしな。お互い不憫なものだ」

 

 同時にため息をついてしまう。

 

 白龍皇そのものも脅威だが、堕天使側にはもう一つ神滅具の保有者がいるという情報もある。それを考慮すると堕天使側の戦力は非常に強大になっているといわざるを得ないのだ。

 

 できることなら冥界に戻ってもらいたいが、おそらくそんなことを言ってもリアスは首を縦に振らないだろう。

 

 となれば、多少強引な手を使ってでも戦力増強を図らなくてはならないはずだ。

 

「しかし、ライザーくんはそんなに気に入らないのだろうか? 確かに多少女にだらしないところはあるが、それでも彼はリアスをないがしろにしないと思うのだが」

 

「確かにそうですね。リアスはハーレムなどにも肝要だと伺いましたが」

 

 ……ちなみに、二人はリアスが結婚相手に選ぶ最低条件を知らない。

 

 もし知っていれば、二人は別の方法を模索ぐらいはしただろう。それ位にはリアスバカである。

 

 そんなことを語り合いながら二人は試合を観戦していたが―

 

『必殺! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!』

 

 その言葉とともに、赤龍帝の弟である兵藤一誠が敵の洋服を破壊して全裸に追い込んだ。

 

「「………」」

 

 それをついはっきりとみてしまい、二人は動きを硬直させる。

 

 そして、ガタガタブルブルと震え始めた。

 

「ヴぇ、ヴェネラナになんといえばいいのだ」

 

「私もグレイフィアに怒られそうです」

 

 ちなみに、ヴェネラナとはジオティクスの妻である。

 

 そして、グレイフィア・ルキフグスはかつて敵対していたことなどからメイドとしてふるまっているが、サーゼクスの妻である。

 

 ついでに言うと、二人とも妻は一人しか持っていない愛妻家でもある。

 

 そして最後に言うと、二人は割と恐妻家でもある。

 

「……ちょうど話をしていて見ていなかったということにしましょうか」

 

「無理だ。いきなりあんなことになれば視線を向けてしまうことぐらい、ヴェネラナはわかる」

 

 沈黙が響いた。

 

「そういえば父上。日本には土下座という謝罪文化があったはずです」

 

「そうだな。練習をしようか」

 

 そんなことを言っているうちに、試合は大きく動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっしゃ! これで眷属はほぼ撃破!!

 

 これぞ赤龍帝の籠手のもう一つの能力、譲渡!!

 

 倍加の効果を他人に与えることができる、赤龍帝の籠手の能力の一つ。

 

 これで祐斗っちの神器、魔剣創造(ソード・バース)を倍加して一気に撃破したんだ!!

 

 だけどそれはそれとして急がないと!!

 

 リアス部長とライザーが一騎打ちを始めちゃってるもん! このままだと不死で押し切られるよ!!

 

「急ごう皆! 部長を助けるんだ!!」

 

 そうイッセーが言ってみんなが続こうとしたとき―

 

『リアス・グレモリーさまの女王、戦闘不能』

 

 ―んなぁにぃ!?

 

 朱乃さんがやられた!? うそでしょ!?

 

 え、え、どういう―

 

「……一美先輩!!」

 

 とたん、私は小猫っちに突き飛ばされる。

 

 そして次の瞬間、爆発が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リアス・グレモリーさまの騎士と戦車、戦闘不能』

 



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赤龍帝と仮面ライダーと

ついに決戦タイムのスタートです!!


 

 

 小猫っちにかばわれて、私はギリギリで無事だった。

 

 だけど、そのせいで小猫っちがやられた。

 

 ……誰のせいだ?

 

 決まってる。

 

 今目の前で勝利の笑みを浮かべているあの年増女だ!!

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 一瞬で鎧を身にまとうと、私は躊躇することなく年増を殴り飛ばす。

 

 何が起こったのかもわからずに、年増は地面へとたたきつけられた。

 

 うん、骨は粉砕したしこれで終わりでしょ。

 

 もうこれ以上考えるのはやめだ。なんていうか、慣れてないからいろいろと抑えられない。

 

 今からあの焼き鳥をぶちのめす!!

 

 一気に校舎の上まで飛んで、部長と戦闘中のライザーの横っ面に一発パンチを叩き込んだ!

 

「……ほう? まさかすでに禁手にまで目覚めているとはな」

 

「うるさいよ! 悪いけど、いろいろと抑えられないから八つ当たりさせてもらうよ!!」

 

 悪いけどさぁ、ちょっと機嫌が悪いんだよこっちは!!

 

『落ち着け相棒!! テンションが上がりすぎて消耗が激しいぞ!!』

 

「わかってるけど、もう我慢できない!!」

 

 後輩の小猫っちにかばわれて、こっちはいろいろと来てるんだよね!

 

 ……先輩の私がフォローしなきゃいけないのに、油断したせいで小猫っちがやられちゃった。

 

 だったらその分成果を上げないと、小猫っちに悪い!!

 

「面白いな女!! いいだろう、伝説の二天龍を叩きのめせば俺の白も作ってもんだ!!」

 

「小物のセリフだよ焼き鳥!!」

 

 私とライザーは真正面から殴り合う。

 

 ライザーは全身から炎をまき散らしながら、こっちに躊躇なく反撃を叩き込んだ。

 

 うん、マジで痛い。

 

 だけど、それがどうしたっていうんだよ!!

 

「ライザー!! あんた、隙でも無い男に嫁ぐ女の気持ち考えたことある!?」

 

「なにぃ!?」

 

 そうだ、誰一人としてその辺を全く考えてない。

 

 政略結婚を受け入れる者もいるだろう。それが平気な人は当然いるし、恋愛かどうかはともかくお互いに不快な感情を抱かない人もいる。

 

 だけど、リアス部長はそういうタイプじゃないんだよ!!

 

「好きでもな男の子をはらむなんて、神でもごめんな人だっている!! なんでそれがわからない!!」

 

「失礼な!! 結婚すれば幸せにする自信はある!!」

 

 それがわかってないっていうんだ!!

 

「ライザー!! あんたはリアス部長をグレモリーのリアスとしてしか見ていない!!」

 

「何を言っている! リアスはグレモリーの跡取りだろうが!!」

 

 カウンターの拳が突き刺さるけど、その言葉で絶対にこいつがアウトだってよくわかった。

 

「部長は! グレモリーの色眼鏡がない男と結婚したいんだよ!!」

 

 真正面から私はヘッドバッドを叩き込む。

 

 そして、遠慮なくそれを連打した。

 

「それが! できない! 焼き鳥に! 私達の! 部長は! やらせない!!」

 

 連続で、連続で頭突きを叩き込む。

 

 鎧が砕けて額が割れて、血が目に入るけど構うもんか!!

 

「だからやらせない!! 私たちを、イッセーを救ってくれたリアス部長には、幸せになってほしいから!!」

 

 そう、私はリアス部長に感謝している。

 

 赤龍帝の籠手があるからこそとはいえ、部長は私を救ってくれた。イッセーを救ってくれた。

 

 だから、私は部長に恩返しをするんだ!!

 

「お前に、部長を、渡すもんかぁああああ!!!」

 

 だから、ここで必ず―

 

『―Burst』

 

 そして、限界を超えた。

 

 鎧が音声とともに消えて、体は重くて、全身痛くて―

 

「……げほっ」

 

 口から、大量に血が出た。

 

「……どうやら、お前はもう限界のようだな」

 

 ライザーが、傷をいやしながらそう告げる。

 

 くっそぅ。もう回復しちゃうの!?

 

 まだ、まだだよ。からだは、かろうじて動く―

 

「……もうやめろ。お前の体は限界だ」

 

「一美もうやめて!! このままじゃ貴女が!!」

 

 部長どころかライザーまで止めるけど、そんなことできるわけがない。

 

 だって、ここで負けたら、朱乃さんが、祐斗っちが、小猫っちが……

 

 そして、何よりリアス部長が………っ!!

 

 だから動いて私の躰。

 

 戦いじゃ何の役にも立たないくせに、それでも私を見捨てなかった皆のためにも!!

 

 お願い、動いて―

 

「―もう、大丈夫だ」

 

 そんな私の肩を、やさしくたたいてくれる人がいた。

 

 つらい時、ずっと聞きたかった大事な大事な弟の声。

 

 たった一人の私の家族の声―

 

「あとは任せて、休んでろ姉ちゃん」

 

 イッセーが、来てくれた………っ!

 

「ここまで粘ってくれたから、俺がライザーを倒せるんだ。姉ちゃん、有難う」

 

 そういって、イッセーはにっかりと笑ってくれた。

 

 ………イッセー、イッセーイッセーイッセー!

 

「………お願い、勝って!!」

 

「任せろ!!」

 

 私に堪えるイッセーが、ドラッグシリングを構えて変身する。

 

『ブスット! チューニュー! ドライグ!!』

 

「変身!!」

 

 そしてオーラが龍の形をとり、スーツとして結晶化する。

 

「……なんだ、その姿は!」

 

「俺は……」

 

 イッセーは、少しの間沈黙してから、そして意を決したように顔を上げる。

 

「俺は、仮面ライダーアズライグ!!」

 

 そして、言うが早いかズバットマグナムを構えて突撃した。

 

「お前を倒す男だ!!」

 

 そして、反撃のために突き出されたライザーの腕を一撃でぶった切る。

 

「やるな! だが、その程度では―」

 

「まだまだ!!」

 

 ライザーが言い切るより早く、素早く攻撃を叩き込む。

 

 連続で叩き込まれる攻撃が、遠慮なくライザーを叩きのめす。

 

「ぬ、ぬぉおおおおおお!!! 下級悪魔風情が、なめるなぁ!!」

 

 ライザーは反撃のために炎をまき散らすけど、イッセーは全く気にせず突っ込んだ。

 

「そんなちんけな炎で、俺を倒せるわけがねえだろぉ!!」

 

 そしてそのままとびかかると、顔面に拳を叩き込む。

 

 ライザーの顔面から、鮮血が飛び散った。

 

「この、クソガキがぁあああああああ!!!」

 

 ライザーは頭に血が上ったのか、強引にイッセーを弾き飛ばそうとする。

 

 だけど、イッセーはそれをすべて交わしてカウンターを何回も叩き込んだ。

 

「がっ! ぐっ! ぐがぁっ!?」

 

「この程度か、焼き鳥野郎!!」

 

 強い。イッセー強い!!

 

 あれが、ドラッグシリングの力……。

 

 ううん、違う。

 

 ドラッグシリングだけの力じゃない。少なくても、前にドラピングと戦った時はあんなにすごい動き出来なかった。

 

 私の脳裏に、この十日間の特訓がよみがえる。

 

 無駄じゃなかったんだ。あの戦いは、無駄じゃなかったんだ!!

 

「……く、くくくくく」

 

 だけど、ライザーはそれでも倒れない。

 

 ああもう! フェニックスの不死面倒!!

 

「無駄だ! その程度の力でフェニックスの不死は越えられん!!」

 

 ライザーは勝利を確信したのか、攻撃に迷いがなくなっていく。

 

 やばい、余裕を取り戻して動きが精彩になってきている!!

 

「俺を倒すには神クラスの一撃が必要だ! そして、お前の体力なら俺がガス欠になるより先にお前が持たない!!」

 

 そんな、それじゃあ、この戦いは―

 

「―ああ、だからこうする」

 

 イッセーは、そんな声を出した。

 

 そして取り出すのは、あの時倒したドラピングのドラッグシリング。

 

「こいつには、こんな機能もある!!」

 

 そういうと、イッセーはドラッグシリングをテンテキドライバーの左側に突き立てた。

 

『ツイカチューニュー! フンヌ!!』

 

 その合成音声とともに、アズライグの全身がさらに赤くなる。

 

「俺だってなぁ……」

 

 そして、ライザーの懐にもぐりこむと―

 

「……お前には腹が立ってんだよ!!」

 

 その腹に一撃叩き込んだ!!

 

 そのパンチはライザーを粉々に吹き飛ばし、さらに衝撃波が向こう側の木々を跡形もなく粉砕する。

 

 うっそぉ!? 何あの破壊力!!

 

 しかも、そのラッシュは全く衰えず、連続でライザーを叩きのめす。

 

「ぐ、ぐぅうおおおおおおおおお!?」

 

 ライザーは再生させて逃れようとするけど、遠慮なく拳が叩き込まれて、まったく反撃ができない。

 

 そして、その炎も弱弱しくなっていく。

 

「待て! この婚姻は、悪魔の将来のために必要なことなんだぞ? お前なんかが、下級悪魔が、とやかく言っていいことじゃないんだぞ……っ」

 

「それがどうした。もとより、俺程度どうにかできないような奴が部長と結婚なんて冗談じゃない」

 

 ライザーの懇願を一蹴したイッセーは、遠慮なくドラッグシリングを再装填する。

 

『ヒィイイイイイッサツ!!』

 

「ライダー、キック!!」

 

 そして、遠慮ない止めの一撃がライザーを吹っ飛ばした。

 




仮面ライダー恒例、フォームチェンジ。

敵を倒せば倒すほど強くなる、それがインフレに対抗するためにこの作品が考え出した作品の一つ。仮面ライダーアズライグはそうやって強くなっていくのです。


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勝利と同居と

今回はだいぶ短めです。


 

 その光景を見て、サーゼクスもジオティクスも言葉を失っていた。

 

 赤龍帝とライザーの戦い以上に、仮面ライダーという存在に目を奪われた。

 

 あのライザーを一気に圧倒するその力は、間違いなく上級悪魔の中でも上位に位置するだろう。

 

 何よりも赤龍帝の力を使って戦っているところが驚異的だった。

 

「……サーゼクス。わかっているな?」

 

「はい。今後、リアスに彼の情報を送らせます」

 

 ジオティクスもサーゼクスも、この事実の重要性をいやというほど理解していた。

 

 なぜなら、赤龍帝とは唯一無二の存在なのだ。

 

 それが、この世界に二つも存在している。それは本来あり得ないことなのだ。

 

 もし、もしも同様の力を量産することができたとしたら?

 

 間違いなく断言できる。世界は大きな混乱に包まれ、滅びの道を歩む可能性すらあると。

 

 それを避けるために、兵藤一誠についてはよく調べる必要がある。少なくとも、手放しにしていい存在ではない。

 

「ライザーくんとの婚約破棄など、どうでもよくなる問題が発生してしまったな」

 

「ええ。不幸中の幸いは、彼がいるなら白龍皇にも対抗できるというところでしょうか」

 

 二人はそういうと、真剣な表情で立ち上がる。

 

 悪魔と堕天使。三大勢力に二天龍が渡るなど異例の出来事だ。

 

 うまく乗り越えねば、三大勢力はおろか世界に大きな傷跡を残しかねないこの非常事態に、冥界はしばし揺れることになるがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやったぁあああああああ!!! 勝ったよぉおおおおおおおおお!!!

 

「やったねイッセー!!」

 

「ああ、姉ちゃん!!」

 

 私とイッセーは仲良く抱き着いて喜びを分かち合う。

 

 うん! うんうんうん!! 勝ったよ私達!!

 

「有難う、イッセー、一美」

 

 うん! 部長もよかったよぉ!

 

 なんだけど、部長は少し暗い顔をする。

 

「でも、今回のことを乗り越えたからってまた次の話が来たら……」

 

「その時も俺に任せてください」

 

 イッセーは、はっきりと言い切った。

 

「次もその次もそのまた次も、部長が婚約を望まないなら、俺が全員倒して見せます!」

 

「そうですよ、部長」

 

 私もはっきりと言い切った。

 

「イッセーはやると決めたらテコでも動きませんから。あきらめて任せた方が気が楽ですよ?」

 

「二人とも……」

 

 部長は涙を浮かべて笑みを浮かべる。

 

 ああ、これは落ちたな?

 

 なんとなくそう思ったので、私は先に戻ることにする。

 

「んじゃ、お姫様のエスコートよろしくね」

 

「あ、一美!!」

 

 イッセーが何か言ってくるけど、私は聞かずに走り出す。

 

 ………うん、それは聞けないよ。

 

 泣きたくなりそうだから、ここにはいられないもん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、私は速攻で救護室へと突入した。

 

「みんなぁああああ!! 勝ったよぉおおおおお!!!」

 

 ドバンと扉を開けて、私は元気よく勝利を報告する。

 

 ……その目が、ライザーのところの戦車(ルーク)の人と目が合った。

 

「………」

 

「………その様だな。参ったよ」

 

 な、なんかごめんなさい!!

 

「一美さん。ライザー氏の眷属もいるんだよ」

 

 ご、ごめん祐斗っち!

 

「いや、君たちは勝利したんだ。素直に喜んでくれても構わないよ。ほかの者たちは気絶しているしね」

 

 な、なんか気を使ってくれてすいません!!

 

「でも、イッセー君に助けられてしまいましたわ」

 

「……あとで謝らないと」

 

 朱乃さんも、小猫っちもなぜか表情が暗い。

 

 ああ、そういえば仮面ライダーになっちゃったもんね。

 

「だけど、いい機会なのかもしれないよ。……正直、あのドラピングという存在は驚異的だ」

 

 祐斗っちはそういうと顔をしかめる。

 

 確かに、あのドラピングとイッセーの戦いはレベルが違った。

 

 私は実戦だと役に立たないから除外するけど、それでもあのレーティングゲームで戦えるのは、たぶんライザーぐらいだろうね。

 

 そう考えると、魔王様に相談するっていう展開も必要かもしれないなぁ。

 

 あとでリアス部長に頼んだ方がいいかもしれないなぁ。

 

「うん、私も早く実戦で戦えるように頑張らないと」

 

「そうだね。僕たちも足を引っ張らないように修行しないとね」

 

 祐斗っちの言うことももっともだ。

 

 うん、頑張らないとね、皆!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思ったのは何も間違ってない。間違ってないんだけど……。

 

「はい。イッセー、あーん」

 

「え、えっと、その……」

 

 朝、珍しく寝坊して起きたら、なぜかリアス部長がいた。

 

 それも朝食を作ったうえで、イッセーにアーンしてる。

 

「何やってるんです、部長?」

 

「あら、おはよう一美。あなたの分も作ってるわよ?」

 

 ありがとうございます。だけどそうじゃないです。

 

「なんで私たちの家にいるんですか?」

 

 そう、ここは私たちの家だ。

 

 っていうか、よく見るといくつも段ボール箱が置かれてる。

 

「あれ? 姉ちゃんも聞いてなかったのか? 部長、今日からここに住むってさ」

 

「はいぃ!?」

 

 何それぇえええええ!!!

 

 いや、おかしいよね!? なんでいきなりそういうことに!?

 

「眷属の仲を深めるのも重要だと思ったのよ。だから、今日から私の兵藤家の一員ね」

 

 いや、だったらなんて祐斗っちたちはいないのさ!!

 

 照れ隠しだな!? 表向きだな!?

 

 本音はイッセーと一緒にいたいんだな!?

 

「……部長、はっきり言っておきますよ」

 

「あら、何かしら?」

 

 私はハリセンを取り出すと、部長の顔面に勢いよくたたきつけた。

 

「親しき中にも礼儀あり!! そういうことは前もってぇえええええ!!!」

 

 ……その後、私と部長は壮絶な喧嘩をしたけど、まあ十分後ぐらいには仲直りしました!!

 




ドラッグシリングの脅威を今回で認知した父兄。とはいえ実際のところはある事情があって脅威度は彼らの想像より低いのですが。

それはともかくブラコン一美は人生を間違えるのかそれとも何とか軌道を変更するのか。それは今後の展開をお楽しみにしてください。


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球技と生徒会と

 

「ストライク!」

 

 ぬぉ、すかった!!

 

「ストライク!!」

 

 またしてもぉ!!

 

「ストライク!! バッターアウト!!」

 

 うわぁん! 三振したぁ!!

 

 部長の声が無情にも、わたしの完全敗北を教えてくれる。

 

 酷いです部長、もっと優しくいってください!!

 

「……圧勝」

 

「だよねぇ!!」

 

 何気にピースサインまでしてるよ小猫ちゃん! 意外とそういう乗りがいいのね!!

 

 今日、私たちは球技大会のための練習をしている。

 

 部長は勝負事にこだわるタイプだったけど、前回のレーティングゲームで敗北寸前まで追いつめられたのがよほど答えたらしい。本気出しすぎ。

 

 おかげで、最近のオカ研の部活動はほぼ球技だよ。オカルトどこ行ったのかな?

 

 まあ、球技大会といえば高校の定番だけど、駒王学園の球技大会は結構本格的なんだよね。

 

 クラス対抗はもちろんのこと、部活対抗まで用意されてる。

 

 ちなみに、少人数の部活が多人数の球技をするときになった場合は生徒会からリザーブメンバーが出てくるという本格具合。不参加を許してくれない厳しい学校だよ。

 

 しかも球技は当日発表。そのせいで事前に一つだけ練習するってことができないわけ。

 

 だから、部長は毎日いろんな球技を練習させる。正直そろそろ休みたいなぁ。

 

「イッセー! 気合を入れなさい!! あなたが主力よ!!」

 

「ういぃいいっす!! 部長のためにガンバリます!!」

 

 イッセーはイッセーで気合が入ってるからそんなことは言い出せない。

 

 ああ、ホント疲れたなぁ。

 

「あらあら、イッセーくんはリアスと一緒に頑張ってますわね」

 

「ですよね朱乃さん。……最近は一緒にお風呂に入ってるんですようらやましい」

 

 むぅ。イッセーと一緒にお風呂だなんて、私は小学生の時までだよ。

 

 ずるいなぁ。

 

「……一美ちゃんって、もしかしてブラコンですの」

 

「そうです」

 

 私は即答した。

 

 どうせ知らないのはイッセーぐらいだし、逝っても別に構わないもん。

 

 はあ、血がつながってなければ告白してる自身があるぐらいイッセー大好きだよ。

 

 何事にも一生懸命だし、根性あるし、かっこいいし。それに何よりたった一人の家族ということがどんどん大好きになった原因だ。

 

 だけど血がつながってるからそういうわけにもいかないからね。たぶん冥界でもアブノーマルだし。

 

 ああ、私もそんなことを忘れさせてくれる出会いがほしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで練習していたら、足音が響いた。

 

「……元気でやっているようですね、リアス」

 

「あら、ソーナじゃない」

 

 リアス部長が返事をする中振り向いたら、そこにいたのは生徒会長。

 

 あ、そういえば言ってなかった。

 

「部長。そういえば生徒会長のこと、イッセーに行ってませんでしたよね?」

 

「あら、そういえばそうだったかしら」

 

 うっかりしてたな私も部長も。

 

 うん、ごめんねイッセー。

 

「え? え? 姉ちゃん、どういうこと?」

 

 うん、マジごめんイッセー。

 

「生徒会も悪魔なの。ちなみに、生徒会長は部長の幼馴染」

 

「………ええええええええええ!?」 

 

 当然のごとく度肝を抜かれるイッセーに、朱乃さんがニコニコ笑顔で補足してくれる。

 

「生徒会長の真なる名前はソーナ・シトリー。72柱の悪魔の一つであるシトリー家の次期当主にして、現レヴィアタンの妹君ですわ」

 

「マジすごいじゃないですか! え、すご、まじすご!!」

 

「ふっふっふ。そうだろうそうだろう」

 

 と、会長に伴っていた人がすごい得意げな表情を浮かべる。

 

 えっと、確か……。

 

「ハジくんだっけ? 会長の兵士の」

 

「匙だよ!? 惜しい!!」

 

 あ、そうだ。匙くんだ匙くん。

 

「うんうんそうだった。それで、どうしてついてきてるの?」

 

「何気にひどいなこの人! ……新顔の顔合わせってことで呼ばれたんだよ。ですよね会長」

 

「そうです。……とはいえ、兵藤くんと兵藤さん相手では見劣りしますけどね」

 

 えぇ……? それ言っちゃう?

 

「ひどいです会長! 赤龍帝の兵藤姉はともかく、俺は駒価値四なんですから駒価値三で間に合った兵藤弟よりかはできますよ!!」

 

 匙くんはそう文句を言うけど、しかし会長は首を振る。

 

「いえ。あなたでは勝ち目がありません。あのライザー・フェニックスを一対一で下した実力は本物です」

 

「………え゛!? あれって、ってっきり兵藤姉か姫島先輩あたりが頑張ったのかと思ったんですけど」

 

 驚愕する匙くんにため息をつくと、生徒会長は苦笑する。

 

「ごめんなさい。うちの匙はすこし失礼なところがあるもので。あとで言ってよく聞かせます」

 

「え、あ、いえいえ」

 

 イッセー。そこはもうちょっと起こっていいんだよ?

 

 匙くんも。もうちょっと良く試合を見てくれると嬉しかったなぁ。

 

「まあ、俺は気にしないけどね! お前なんか眼中にないし」

 

「言ったなこの野郎。必ずお前より強くなってやるから覚悟しやがれ」

 

 そういって、表情だけニコニコ笑顔ですごい火花を散らし合う二人。

 

 ……うん。これ、ビビりそうだよ。

 

「貴女も大変ね」

 

「いえいえ、あなたほどでは」

 

 部長も会長も止めてぇえええええええ!!!

 



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球技大会と集中砲火と

 

 そんなこんなで球技大会!

 

 野球だったクラスはともかく、部活動ではドッジボール!!

 

 なんだけど……

 

 考えてみて、皆?

 

 リアス部長→我らが二大お姉さまの1人。当てれない

 

 朱乃さん→同じく我らが大和撫子。当てれない

 

 小猫っち→我らがロリっ子マスコット。当てたらかわいそう

 

 祐斗っち→糞憎いイケメンだけど、当てたら女子から恨まれる。当てるわけにはいかない。

 

 私→まあ美少女。ちょっと当てにくい。えっへん!

 

 イッセー→なんで美男美女の群れの中にお前がいるんだ女の敵。こいつは殺しても罰あたらないだろうから遠慮なく充てれるぜヒャッハー!!

 

「死ぬがいい!」

 

「俺たちの判決を言い渡す、死だ!!」

 

「独占禁止法によりお前を極刑に処す!!」

 

「警察に代わってお仕置きよ!!」

 

 というわけで、容赦なくイッセーにボールが集中している。

 

 うわぁ、これはきついね!

 

「頑張れイッセー!!」

 

「うぉおおおおおお!!! クソッタレぇえええええ!!!」

 

 なるほど、これが犠牲(サクリファイス)戦術かぁ。確かに効果はてきめんっぽいよねぇ。

 

 うん、でもやっぱり趣味じゃないから助けるよ!!

 

「ふはははは! イッセーに当てたいなら、このお姉ちゃんを先にぶつけるがいい!!」

 

 私はボールのある方向に移動して、イッセーとボールを遮るように立つ。

 

 ふっはははは!! さあ、これならイッセーに当てたくても当てれないだろう!!

 

「な、なんて奴だ! マゾなのか!?」

 

「ひどいよ! 違うよ!!」

 

 なんでそうなるの!?

 

 くそう、イッセーにはイッセーのいいところがいっぱいあるのに、覗きのせいで全部台無しだ。

 

 リアス部長を惚れさせる手腕は見事なんだぞ! じっさいこれだけできる奴って相違ないんだぞ!!

 

 なのに、覗きのせいで全然持てない! ええい、そのせいでこっちはだいぶやきもきしてるのに!!

 

「この馬鹿弟! なんで覗きをやめれないの!」

 

「それ、いま言うことかよ!!」

 

 いや、だって思い返すと腹立ってくるし。

 

 くそう、こんないい男を弟に持ってしまったこっちの身にもなれってんだ!!

 

 ああ、これじゃあ私は一生彼氏ができないよぉおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんなこんなで何とか球技大会は優勝ができたけどね。

 

「いってぇ。あいつら容赦なくぶつけてきやがって」

 

「まあまあ。覗きばっかりやってるイッセーにも責任はあるって」

 

 うんうん。一応覗きは犯罪だよ、イッセー?

 

「だからってなんで俺だけ集中攻撃なんだよ。俺だけ倒したってドッジボールは勝てないだろうが」

 

「もうヤケクソの八つ当たりなんじゃない? あのルールだと全生徒に恨まれるか負けるかの二択じゃん?」

 

 そんな馬鹿なことを話しながら家へと返ろうとすると、急に寒気を感じて私たちは立ち止った。

 

 この感覚、たまに喧嘩腰でかかわることになる教会に人たちや教会に近づいた時の悪寒だ。

 

 嘘でしょ? ここがグレモリーの縄張りだってことは教会だってわかってる。そしてグレモリーを敵に回すことは魔王ルシファーを敵に回すこととニアイコールだ。

 

 それなのに、わざわざ眷属の家の近くにまで来るだなんて、何考えてるの!?

 

「イッセー。ごごごごごめん戦闘準、備びびびびびび」

 

「わかった姉ちゃん! とりあえず深呼吸!」

 

 あ、ヤバイ。失神しそう。

 

 それでも勇気を出して一歩一歩近づいて様子を見ると、そこにはローブを羽織った少女が二人。

 

 ……すいません。ここ一応一般市民もいっぱいいるんで気を使ってくださいな。

 

「俺たちの家に、教会の連中が何の用だ!?」

 

 イッセー! どこに人が出てくるかわからないから落ち着いて頂戴な!

 

 と、その声に当然気が付いて少女二人が振り返る。

 

 そして、そのうち片方の栗毛の少女がなぜかうれしそうな表情を浮かべた。

 

「あ、イッセーくんに一美ちゃん!! 久しぶりぃ!!」

 

 ………ん?

 

 悪魔相手にやけにフレンドリーな信徒だなぁ。

 

 ……あれ? 信徒?

 

 ………あ、あ、あああああ!!!

 

「い、い、イリナっち!?」

 

「うん! 久しぶりね一美ちゃん!」

 

 私は緊張感が緩んで驚いた。

 

 そうだ、紫藤イリナっちだ!

 

 昔家の近くに住んでいたクリスチャンの女の子!

 

「………あれ、誰だっけ?」

 

「思い出してイッセー! 昔家に御呼ばれしたことがあったじゃん!」

 

 さすがに昔のことだし仕方ないけど、もうちょっと頑張ってイッセー!

 

「あれ? おれ、女友達何ていたっけ? ……いたっけ?」

 

 うぉおおおおおい! 泣かないでイッセー!!

 

「ひっどーい! もしかしてイッセーくん、わたしのこと女の子だと思って無かったの!?」

 

「いや、言われてみたらイリナっち、男の子みたいな格好してなかったっけ?」

 

 遊びもほとんど男の子がやるようなものだったし、確かに勘違いしてもおかしくないかも。

 

「んもう! あとでおばさまやおじさまに怒ってもらわないと! そういえば家が改装されているうえに誰もいないけど、いまパート中か何かなの?」

 

 イリナっちはそういって首をかしげる。

 

 あ、そうか。イリナっちは知らなくて当然だったんだ。

 

「あ、その、実はお父さんもお母さんも死んじゃって……」

 

「……え? あ、ごめんなさい」

 

 イリナっちはすぐに謝ってくれるけど、だけどそれ以上に別の意味で表情が暗くなった。

 

「そう。それで二人とも悪魔になったんだね? この地の悪魔に拾われたってところかな?」

 

 あ、やっぱり気づいちゃうか。

 

 厳密にはイッセーは違うんだけど、まあ私の場合はそんなところかな。

 

 すごく微妙な空気になるけど、しかし青い髪の方が敵視しながら口を開く。

 

「両親の死が原因で悪魔に惑わされる……か。容赦はしないが同情はする。ご両親のご冥福はお祈りしよう」

 

 そう告げる青い髪の方は、やっぱり結構悪魔の私達を敵視してる。

 

 まあ、人間を捨てて悪魔になったって意味だと確かにその通りだけどね。ちょっと反論は難しいかな?

 

 とはいえこんなところで戦うつもりはないのか、二人とも戦闘態勢はとってなかった。

 

「……今日のところは失礼しよう。私たちはキリスト教徒だから、線香をあげるというのも不信心だ」

 

「そうね。日本はそんなこと気にしない人が多いけど、私たちは気にするから」

 

 そういうと、二人とも背を向けると去っていく。

 

 私は、イリナっちに何も言えなかった。

 

 うん、何か言えるわけがないよ。

 

 信心深いイリナちゃんからしてみれば、きっとショックが大きいんだもの。

 

 

 



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添い寝と聖剣と

 

 

 

 

 

「二人とも、無事でよかったわ」

 

 そして部長が返ってくると、すぐに私たちを抱きしめてくれる。

 

「ごめんなさい。ソーナから教会の人たちが来るとは言われてたけど、まさかイッセーたちの知り合いだなんて知らなかったの」

 

「気にしないでください部長。私達だって、イリナっちのことを言わなかったんだからお相子です」

 

 うん、前もって言っておいてもよかったよね。昔の友達に信者がいますって。

 

 かなり昔にさよならしちゃったから、まさか出会うだなんて思わなかったもん。

 

「でも、なんで教会の人がこんなところにわざわざ来たんですか? ここが悪魔側の縄張りだって、向こうも分かってるんですよね?」

 

 イッセーが質問するけど、そしたら部長は苦い顔になる。

 

「なんでも、この地を管轄する私に交渉がしたいようなのよ。詳しいことはまだ言われてないわ」

 

「うっそぉ。教会がわざわざ悪魔と取引するんですか?」

 

 ちょっと信じられないなぁ。

 

 だって、教会の教えって悪魔を怨敵とでも言わんばかりに教え込んでるんだよ? 欲望とか節制しろとか言ってるんだよ?

 

 それなのに悪魔とわざわざ使いが来て取引するっておかしくない?

 

「私も分からないわ。でも、いくら片方の知り合いだからって一美やイッセーに戦いを挑まなかった当たり、すぐにでもことを構えるきはないとみて間違いないわ」

 

 なるほど、町中だから気を使ったわけじゃないんですね。

 

 だったら、とりあえず今日は安心して寝られるかな?

 

「うん、だったら明日に備えて鋭気を養いましょう!」

 

 私はそういうと、さっさと寝ようと思いなおす。

 

 今から考えても仕方がないからね! こういう時はさっさと寝るに限るよ!

 

「そうね。すぐに寝ましょうか」

 

 と、部長もまた服を脱ぎ始め―

 

「ってちょっと待った」

 

 何いきなり服を脱いでんですか

 

「なにって、私は服を脱がないと寝られないのよ。知らなかったかしら?」

 

「いや、そうじゃなくてなんでイッセーがいるところで服を脱ぐんですか?」

 

「う、うぉおおおおっぱい!!」

 

 うん、イッセーは近所迷惑だから叫ばない。

 

「なにって、イッセーと一緒に寝るからにきまってるじゃない」

 

「痴女か!!」

 

 まだこくってもいない男と裸で寝るとか何考えてるの!?

 

「……そんな頭おかしいアプローチしている暇があるなら告白してくださいよ。そうすれば一発でしょうお義姉ちゃん」

 

「……何を言ってるのよ。こ、告白は男の方からしてもらいたいじゃない」

 

「なんでそんなところだけ乙女なんですか? 悪魔って頭おかしい人多いんですか?」

 

「人のことを気狂い扱いしないで頂戴! 別にいいじゃない、一緒にお風呂に入ったり寝るぐらい」

 

「階段を散弾飛ばし位で駆け上がってるって! そんなことよりまずすることあるでしょう!?」

 

 駄目だー! この人変な人だー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、僕こと木場祐斗は真夜中に散歩をしていた。

 

 教会からの使者が来ると聞いて、少し気分が高ぶっていたので、気を晴らしに来たのだ。

 

 はっきり言って教会の人間は好きになれない。

 

 彼らは僕らを利用するだけ利用して使い捨てた存在だ。嫌悪の感情が出てくるのは当然のことだろう。

 

 とはいえ、使者をあいてに無碍な扱いをするのはリアス部長の名誉に傷をつけることになる。

 

 それはダメだ。なんとしても我慢するしかない。

 

 なので気分を晴らすためにも少し外の空気に当たりたかった。

 

 そんな気分の中夜の街を歩いていると、視界の隅に一人の神父が映る。

 

 ……本来なら警告の一つでもするべきなんだろうが、しかし彼が使者の可能性を思うとそれも無理か。

 

「やあ。君が教会の使者かい?」

 

「ん~? 教会~?」

 

 その神父は、けげんそうな表情を浮かべるとにやりと笑う。

 

 その一瞬で理解し、僕はすぐに魔剣を生み出した。

 

 遠慮はいらない。おそらく彼ははぐれ悪魔祓いだ。

 

 悪魔を駆ることを使命とするのではなく、趣味として行う外道の徒。

 

 遠慮をする必要はかけらもないだろう。

 

 彼らは、基本的に教会からも追われる存在だ。殺したところで教会からとやかく言われることもないだろう。

 

「一応警告しておこうか。……ここはリアス・グレモリーが管轄する地だ。すぐに立ち去ることをお勧めするよ」

 

「しってるよん? 現四大魔王のクソ野郎サーゼクス・ルシファーの妹さんのクソビッチちゃんだろう? いや~いいご身分だねぇ」

 

 ……さすがはぐれだ。実に下品なクチだね。

 

 さらに部長を愚弄した。これはもう警告の必要なないだろう。

 

 ストレス発散もかねて、切り捨てるか。

 

「一応報告しておく必要があるんでね、名前を聞いておこうか?」

 

「OK♪ 俺様、素敵に無敵に悪魔をぶっころするフリード・セルゼン! あ、クソ悪魔の名前なんて聞きたくないから名乗らなくていいよん?」

 

 なるほど、どうやら精神に異常をきたしているようだ。

 

 まあいい。とりあえず動きから見て隙があるようでないから油断できないが、とりあえず切るか。

 

 そう思った僕は、しかし彼が手に持っている剣を見て驚愕した。

 

 馬鹿な……っ! あれは、あれはまさか!!

 

 狼狽する僕の様子をみて、フリードと名乗った神父は醜くゆがんだ笑みを浮かべる。

 

「お、もしかしてみたことあるん? そうです、これが、エクスカリバーちゃんです!!」

 

 なぜ、ここにエクスカリバーがあるんだ!!

 




木場くん暴走フラグ成立。

せっかくアルバムとかが燃えてフラグが立ってないけど、この辺に関しては多少はやっておかないといけないので買ってに襲い掛かってきました。

そしてフリードもようやく登場。









因みにフリードはドラピングではありません。今はね!

ほら、この章にはもっとふさわしい人がいて、ふさわしい能力もあったから


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聖剣泥棒と憎しみと

か、感想がなかった……(;∀;)


 

 そんなこんなで次の日になって、私たちは割と緊張していた。

 

 だってだって! 悪魔と教会が交渉だなんて、宗教に疎い私だってわかるぐらい何かがおかしい字面だよ?

 

 絶対よほどのことだってわかる。ライザーとのレーティングゲームがかすむぐらいの、すっごく大変なことだって想像できちゃうよぉ。

 

 イッセーも緊張しているのか、結構あたりを見渡している。

 

 反面小猫っちは結構落ち着いてるね。やっぱり悪魔としてはベテランだからかな?

 

 そんでもって、一番あれなのが祐斗っちだ。

 

 なんかわからないけど、すごいピリピリしてる。

 

 え、なに? なんなの? なんか今まで見たことがないぐらいイライラしてるみたいなんだけど?

 

「部長ぅ。祐斗っちどうしたんですか? 球技大会までは落ち着いてましたよねぇ?」

 

「私も分からないわ。どうも、昨日の夜に何かあったみたいなんだけれど……」

 

 うぅ。ただでさえ教会と揉るかもしれないってのに、なんでこんな時にイライラしてるんだよぅ。

 

「祐斗は教会にいい思い出がないから仕方が名かもしれないけれど、何かあったら取り押さえてね、一美、イッセー」

 

「はいぃ。頑張りますぅ」

 

 でも、祐斗っちがこの中で一番足速いんですけど?

 

 うぅ、でもなんていうか、爆発寸前って感じで嫌な予感しかしないんだけどぉ?

 

 頼むから、教会の人ともめ事を起こさないでね、祐斗っちぃ。

 

 そして、朱乃さんに連れられて教会の人が三人入ってくる。

 

 イリナっちに昨日会った青髪の人。そして見知らぬ金髪の男性。。

 

 なんだろう、金髪の人の敵意がすごくひどい。

 

「……ふっ」

 

「……ふん」

 

 うわぁ、敵意満々の祐斗っちと視線が合っただけでにらみ合いが発生してるよ。

 

 頼むからこんなところで殺し合い何て勘弁してよね。私とか絶対役立たずで足引っ張るから。

 

 っていうか、なんか寒気がするんだけどどういうこと? ここはあくまで悪魔側なんだから、むしろ教会側に重圧があると思うんだけど?

 

 よく見ると、寒気が出ているのは女の子が持っている布の包みだ。

 

 なんだろう? 聖別された武器か何か?

 

 っていうか、なんかそれに気づいた祐斗っちの視線が十割増しで険しくなってるんですけど!?

 

 なんか嫌な予感しかしないなぁ。これ、穏便に済む気配が欠片もないよ。

 

 もうとっくの昔に体が震える中、ついにイリナっちが口を開いた。

 

「簡単にまとめるわ。先日、ヴァチカン、プロテスタント、正教会から管理されていたエクスカリバーが盗まれました」

 

 なんか、すっごく知られたらまずいことを堂々と言わなかった!?

 

 確かエクスカリバーっていうと、アーサー王伝説に出てくる聖剣だよね? しかも超すごい!!

 

 あ、あまりに堂々と言われたもんだからリアス部長も朱乃さんも小猫っちすら目を丸くしてるよ。祐斗ッ値にいたってはなんか気でも狂いそうな表情になってる。

 

 あ、そういえばイッセーはなり立てだからよく知らなかったよね。フォローしないと!

 

「えっとイリナっち。エクスカリバーってたしか、かつての大戦で七つに砕けたんだっけ?」

 

「そうよ一美ちゃん。そして、七振りの件に作り直されて、うち六振りを教会が保有してたの」

 

 うんうん。そうなんだよ。

 

 私も詳しくは知らないけど、それでもエクスカリバーはすっごく強い聖剣なんだって。

 

 仕える人は十年に一人出ればいいぐらいだけど、その分使える人はそれだけで優秀扱い。中級悪魔なんて女じゃないらしい。

 

 そして、青髪の人が布をほどいて包みの中のものを見せる。

 

 それは、やけにごつい一振りの大剣だった。

 

 うわぁ、包みを解かれたと単に寒気が増したよ。

 

 っていうか、この展開で見せるってことは―

 

「そしてこれが、残存しているエクスカリバーの一つ、破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)だ」

 

 ぶっきらぼうにそういった女の子に続いて、イリナっちもローブをまくり上げると腕に結ばれたひもを見せる。

 

 っていうか、なんか紐からも寒気が見えるんですけど!?

 

「私のこれは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)っていうの。こんな風に姿を自由に変えられるから、持ち運ぶときすごく便利なのよ?」

 

 へえー。

 

「あれ? でもそんなことペラペラしゃべっていいの?」

 

「全くです戦士イリナ。悪魔は所詮倒すべき敵なのですから、うかつに情報を漏らしてはいけません」

 

 思わず口を突いて出てきた疑問に、男の人もそういってたしなめる。

 

 たしなめるけど倒すべき敵って。そういうことを言ったら本当に戦うことになりそうだからやめてくれない?

 

 女の子の方もいい気分はしていないみたいで、とがめる視線をイリナっちにむける。

 

「ジョージの言う通りだ。少しは機密保持という言葉を知ったらどうだい?」

 

「あら、ゼノヴィアもジョージさんも心配性ね。能力が知られたからって私がこの場の悪魔の皆さんに後れを取るとでも?」

 

 イリナっちぃいいいいいい!!! 喧嘩売らないでくれない!?

 

 うわぁあああああ!!! 部長も朱乃さんも小猫っちも機嫌悪くなったよぉ!!

 

 しかも祐斗っちが本当にひどい!! もうこれ切りかかってもおかしくないぐらいキレてるよ!!

 

 もう一発ぶんなぐって気絶させた方がいいような気がするよぅ。どうしようかなぁ。

 

「それで? それが私たちにどう関係するというのかしら?」

 

「それが、盗んだ堕天使コカビエルはこの駒王町に逃げ込んだんです」

 

 えっと、コカビエルって確か堕天使の統率組織である神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部だったけ?

 

 超大物だよ。すごいのが来たよ。

 

 なんでそんなのがこんなところに来るんだよぉおおおお! 私のビビリが収まってから来て頂戴な!!

 

「私の縄張りを逃げ場に選ぶだなんて、屈辱だわ」

 

 リアス部長もすごく苛立たし気にため息をつく。

 

 っていうか、そんなすごい人ならなわばりの一つぐらいあるでしょうに。なんでわざわざ悪魔の陣地に来るかなぁ。堕天使の本部とかに逃げ込んでよ。

 

 っていうかこれは大変だね。うん、すぐにでもなんとかしないと。

 

 なるほど、つまりこの人たちは迷惑をかけるからごめんなさいといいに来たのかな?

 

 そんなことを思っていると、ゼノヴィアといわれた人はリアス部長の目を見て堂々と言い切った。

 

「私たちの要求はただ一つ。今回の件に悪魔側は一切かかわるなといいに来た」

 

 はい? いや、ちょっとまって?

 

 ここは魔王様から直々にリアス部長が管轄するように言われた地域。つまり、ここで起きたもめ事は基本的にリアス部長が何とかしなけりゃいけないこと。

 

 それなのに、手を出すなって言ったよこの人たち。

 

 むちゃくちゃだ。ふざけてる。

 

「それは、宣戦布告ととってもいいのかしら?」

 

「ふむ、それならそれで都合がいいところもあるがな」

 

 おいおい、今まであまりしゃべってなかった金髪の人、笑顔すら浮かべてそんなこと言ったよ。

 

「ちょっとジョージさん。さすがにそれは私達も困るんだけど?」

 

「かまう必要などないだろう。薄汚い欲望を司る悪魔を滅ぼすことこそ我らが使命。確かに難易度は跳ね上がるが、見逃すこと自体が愚かなことではある」

 

 そういうなり、ジョージといわれた金髪男は光の剣と銃を引きぬくと静かに構える。

 

「我々としては悪魔も堕天使も信用していない。欲に溺れた者同士、どうせ共闘しているのだろう? そうでなければ堕天使が悪魔の領地を逃走先に選ぶわけがないのだからな」

 

「この私が、リアス・グレモリーが、寄りにもよって堕天使と手を組んでいるですって? 侮辱するのもいい加減にしなさい」

 

 リアス部長はまだ戦闘態勢に入っていないけど、こっちもこっちで切れかけてる。

 

 当然だ。いくらなんでも勝手なことを言いまくってる。

 

 人の縄張りに敵が侵入しているのに、そいつらが殺し合うのを黙ってみてろって、むちゃくちゃにもほどがある。

 

 しかも、このジョージって人はむしろそれが不満みたいだ。

 

「なに? 断るというのなら断ってくれて構わんぞ? どちらにせよ、悪魔の住まう土地に来たのならばその悪魔を切るのは悪魔祓い(我ら)の役目だからな」

 

「……ふざけたことを言ってくれるようね。そんなに教会は戦争がしたいのかしら?」

 

 部長はジョージに牽制球を放つが、むしろジョージは乗り気だった。

 

「私個人としては、ただでさえ無宗教などという狂った考えに汚染されているこの国の、さらに悪魔に裏から支配されている土地など軽蔑の対象でね。せめてどちらかでもなんとかしたいと常々思っている。……上からの指示がなければ真っ先に殺しているところだ」

 

 うわぁ、敵意満々。

 

 だめだ、このままだとマジで殺し合いになるかもぉ!!

 

 などと思っていたけれど、リアス部長はそれを見てむしろ笑った。

 

「なるほど。つまりバチカンはここで悪魔と揉めることを望んでいないというわけね」

 

「……っ」

 

 その言葉を聞いて、ジョージはイラついた顔をした。

 

 なるほど、敵意全開だけど、全面戦争を望んでいるわけではないようだ。

 

 つまりこの挑発はジョージって人の独断だと。

 

「まあ、そういうことだ。ジョージ、頼むから剣を収めろ。それ以上するようなら私が相手になる」

 

 と、ゼノヴィアも逆に聖剣をもってジョージに詰め寄る。

 

「我々はあくまで主の意向を広めるために動いている。その代行であるうえがそう決めた以上、我々が独断で悪魔を滅するわけにもいかないだろう」

 

「………ちっ!」

 

 ゼノヴィアに詰め寄られて、ジョージは舌打ちすると乱暴にソファーに座った。

 

「ごめんなさいね。ジョージさんは悪魔祓いを総動員してでもグレモリーごとコカビエルを倒すべきだって強く主張してたから」

 

 イリナっちがそういって誤るけど、あれ、ってことはつまり―

 

「……あなたたち、まさか三人でコカビエルを倒すっていうの?」

 

 リアス部長の言う通りだ。

 

 コカビエルって堕天使の中でも超強いって聞いたことがある。こっちの業界だと政治的に上に上り詰めるにはある程度戦闘能力も必要だからだ。

 

 それってつまり堕天使最強格。普通人間がたった三人で挑むような相手じゃないよね?

 

「ちょっと、正気なのイリナっち!」

 

「もちろん! 主のためなら命の一つや二つかけれるわ♪」

 

 ノリノリで答えないでよイリナっち!

 

「まあ、簡単に死ぬつもりはないが、そもそも命を懸ける覚悟がないならこんなことはしないさ」

 

「正気を疑うわね」

 

 リアス部長よく言った。私もちょっとこれはどうだろうと思うよ。

 

「貴様ぁ! 主の命を捧げることを狂気というなどふざけた真似を! ここで眷属まとめてみなごろしにしてやろうかぁ!!」

 

 ジョージは目を血走らせて剣を構えるけど、すぐにイリナっちとゼノヴィアに取り押さえられる。

 

「あの、本当にやめてくれないかしら?」

 

「いい加減にしないと本当に切ることになるんだけどね?」

 

「戦士イリナに戦士ゼノヴィア! 信仰を馬鹿にされて平然としていられるのかお前たちは!!」

 

 ジョージはそういって今にも切りかかりそうだけど、だけどまあ身内で止めてくれるならこっちが手を出す必要は―

 

「それ以上暴れるというのなら、僕が相手になろう」

 

 あ、ヤバ。

 

 そう思った瞬間には、魔剣が大量に入り乱れて部屋中を埋め尽くす。

 

 そして、それを生み出した張本人は壮絶な笑みを浮かべていた。

 

「何者だ? 貴様」

 

「君たちの先輩だよ。失敗作として処分されたけどね」

 

 うわぁ、にらみ合い。

 

 ど、どどどどうしよう! これってマジでまずくない?

 

 こ、このままだと殺し合いに―

 

「―そこまでにしておけ、ジョージ」

 

 と、そこでゼノヴィアがしびれを切らしたのか、本気で苛立たし気に声を出す。

 

「それ以上馬鹿な真似をするというのなら、私も切り札を切るぞ?」

 

「………チッ!」

 

 心底苛立たし気に舌打ちして、ジョージは武器を収めた。

 

「もういい。私は退席させてもらう。これ以上ここにいると本当に戦闘を開始しそうだ」

 

 そういい捨てると、ジョージは本当に部屋から出ていく。

 

 ふぅ。とりあえず危機は去ったね。

 

 そして、ゼノヴィアは軽く頭を下げた。

 

「ジョージが済まない。彼は教会でも屈指のタカ派でね。今回の件も半ば無理やり参加したようなものだ」

 

「どこも過激派っていうのはいるのね、心中お察しするわ」

 

 ため息をつきながら、リアス部長は片手を上げる。

 

 機先を制されたこともあって、祐斗っちも仕方なく魔剣をしまった。

 

「……先程の物言い。君はもしかしてバルパーの時の被験者か」

 

 そうつぶやくと、ゼノヴィアはリアスに顔を向けた。

 

「迷惑料だ、リアス・グレモリー。君たちに情報を伝えておこう」

 

 迷惑料? いったい何の話?

 

「……聖剣計画において被験者の殺害が行われたのはもう知っているようだ。……例の件は当時の主要研究者の暴走だ。当時の研究主任は追放されて堕天使側だ」

 

「……そいつの名前は?」

 

「バルパー・ガリレイだ」

 

 

 

 




だれが、オリキャラが一美だけだと言った?

と、いうわけで敵も強化するべくオリキャラを何人か投入します。まあ、十人も出てこない予定ですが


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過去の悲劇と変態同士と

はい、区切るタイミング的にこの正反対になってしまったタイトルの温度差よ……


 

 

 

 

 何とか、教会の人たちは帰っていった。

 

 ふう。一時はどうなることかと思ったけど、殺し合いにならなくてよかったよ。

 

 念のために準備はしといたけど、無駄になってよかったよかった。無駄足になった人にはあとで私が奢っておこう。

 

「でもどうしよっかみんな? これってまずくない?」

 

「そうですね。コカビエルはライザー・フェニックスの碑じゃないはずです」

 

 うんうん、小猫っちの言う通り。

 

 なにせこの業界で聖書に名前を残しているんだしね。間違いなく桁違いの強敵だよ。

 

 同じく歴史に名前が残っているクラスの存在の戦闘能力と照らし合わせれば、この駒王町を一日かからず更地にできる戦闘能力があるはず。そりゃあもう戦略爆撃機数十機分。

 

 そんなの相手に私達じゃどうしようもない以上、助けを求めるしかないんだよねぇ。

 

「……ドライグ、勝てる?」

 

『無理だな。禁手のお前と仮面ライダーが全力を出せれば勝ち目は十分にあるが、そもそもお前、実戦じゃ闘えないだろう』

 

 うぐぅ! ごめんねビビリで!!

 

 つまり、イッセーが戦うしかないってことなのかぁ。でもどうしよう。

 

 イッセーにすべて任せるのは、すっごい心が痛むんだけど……。

 

 そんな感じてつい視線が向けられるけど、それに気づいたイッセーはにやりと笑った。

 

「大丈夫だって、姉ちゃん」

 

「でも、イッセー? あいつは、間違いなく英雄とか損のが相手するような奴なんだよ?」

 

 コカビエルは、間違いなく今までの敵とは桁が違う強敵なんだよ?

 

 そんなことを言う前に、イッセーは私の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ。だったら英雄になればいいだけだろ?」

 

 うわ、すごいこと言ってるって自覚ある?

 

「大丈夫。家族や仲間のためなら、俺は英雄にでも何でもなってやるって!」

 

 そ、それはすごい格好いいんだけど、いろいろと困るよぅ。

 

「あらあら、惚れ直してしまいそうですわ」

 

「ちょっと見直しました」

 

 うわぁ! イッセーのハーレムは着々と検索されてるよぅ!!

 

 っていうか、私も惚れ直しちゃうから大変だよぅ!!

 

「……祐斗、待ちなさい!!」

 

 部長のするどい声が急に響いて、私たちは飛び跳ねるように視線を向けた。

 

 みると、祐斗っちが部屋から出てこようとしている。

 

「貴女には昏になってもらっては困るわ! お願いだから、落ち着いて祐斗!!」

 

「僕は、彼らの、同士達の恨みを魔剣に込めなくてはならないんだ」

 

 部長の静止を振り切って、祐斗っちは部屋から出ていこうとする。

 

 だけど、扉を開けたとたんに映ったヒトカゲをみて動きを止めた。

 

「お、落ち着けよ木場。なんだかわからないけどお前様子変だぞ?」

 

 そこにいたのは匙元士郎。

 

 うん、よかったよかった。

 

「な、なんでここに?」

 

「いや、こんど添い寝するからとりあえずここに来てくれって兵藤姉に言われたんだが……」

 

 おい正直に言うなぁあああああ!!

 

 とたんに視線が集まって、私はどうしたもんかと思おうけど素直に頭を下げる。

 

「怖かったんで助けてくれそうな助っ人に相談しましたぁ!! ごめんなさい!!」

 

「貴女ねぇ。そういうことを勝手にするのはさすがに辞めてほしいのだけれど?」

 

 いや、その、私ビビリなんで役に立たないし……。

 

「と、とにかく! 祐斗っちも落ち着いて!! っていうか、そもそもなんでそんなテンションになってるのさ!」

 

 うん、先ずそこから知らないとわけがわからない。

 

 エクスカリバーにいい想いを持ってないのはわかるけど、だからってなんでそこまで嫌な思いを持ってるのかわからないからどうしようもない。

 

 そもそも先輩って何? もともと協会の出身か何かだったの?

 

「姉ちゃんの言う通りだ。……木場、なんでお前がエクスカリバーを敵視しているのか教えてくれよ」

 

 あ、イッセー。

 

「それをする必要がどこにある―」

 

「何言ってんだ、当たり前だろうが!!」

 

 イッセーは祐斗ちを一喝する。

 

「ダチの苦労は一緒に肩代わりするのが当たり前だろうが!! ふざけたこと言ってんじゃねえ!!」

 

 ああもう! だからなんでそんな格好いいこと言うかなぁ!! 惚れ直すよ!!

 

 いやいやいやいやそうじゃない。

 

 それはともかくとして―

 

「祐斗っち。私たちは同じ部長の眷属仲間つまりは友達だよ?」

 

 友達だったら困ったことがあったら聞くのが当たり前。

 

「どうしても一人でやりたいっていうなら、せめてどうしてかを教えてよ。そしたら、私は我慢するからさ」

 

「………」

 

 祐斗っちは憮然としていたけど、やがて苦笑すると険を緩めた。

 

「わかったよ。どうやら行ってくれないと拉致もあかないだろうしね」

 

 そういうと、祐斗っちはすべてを語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗っちは、孤児だった。

 

 生まれたときから名前すらない祐斗っちは、ある時教会に拾われて名前を付けられるなどして育てられる。

 

 その時の名前は嫌なことがあったのか言わなかったけど、少なくともこの時の祐斗っちはやる気に満ち溢れいていたってことだ。

 

 神に選ばれたと、聖剣に選ばれた人間になるといわれて、祐斗っちは過酷な訓練や実験に耐えてきた。

 

 いつか手のために役に立てると、神に愛されてると信じて、聖歌を謳いながらつらいことにも耐えてきた。

 

 それが、最後は毒ガスだ。

 

「アーメンと、そういいながら、彼らは僕たちに毒ガスをまいた………っ!」

 

 拳を握り締めながら、祐斗っちは言葉を紡ぐ。

 

「そんな中、彼らは僕だけでもと、命がけで……命を捨てて僕を逃がしてくれた」

 

 そして、そこから逃れた祐斗っちはリアス部長に拾われて今に至った。

 

「同士達が命を犠牲にしてつないでくれた僕の命。それは、ただ生きているだけでは意味がない。彼らの無念を、彼らを無残に殺したバルパーにたたきつけるまでは、死んでも死にきれない!」

 

 祐斗っち……。

 

「ねえ、祐斗っち」

 

 私は、ちょっと言いたいことがあって祐斗っちに声をかける。

 

「復讐は何も生まないとか、わかった風なことは言わない。だけど、だったらまず最初にやることがあるでしょ?」

 

 うん、これは言っていいと思う。

 

 バルパーってやつのやったことは許せない。祐斗っちの怒りはもっともだ。

 

 復讐は何も生まないとか、憎しみの連鎖を産むだけだとかいうかもしれないけど、これは全部バルパーが悪い。

 

 追放なんかで済んでいいような話じゃない。もっとこう、ちゃんとした報いを受けさせなきゃ私だって我慢できない。

 

 だけど―

 

「だったら、なんで頼ってくれないの?」

 

 ―なんで、一人でやろうとするんだよ。

 

「え?」

 

「そういう事情なら、私はできるだけ協力する。っていうか、いらないなんて言われてもやるからね!」

 

 うん、それはもう決定事項。

 

 だってそんなクソ野郎許せないよ!!

 

 見つけ次第徹底的に叩きのめいしてやるんだから!!

 

「ああ、俺もマジでむかついてる。バルパーの奴、絶対に見つけたら叩きのめしてやる!!」

 

 うん、だよねイッセー!! そういってくれると信じてたよ!!

 

「……そうね。エクスカリバーを盗んだ以上、使い手を見繕う可能性はある。バルパーはコカビエルと手を組んでいる可能性もあるわ」

 

 リアス部長はそういうと、立ち上がった。

 

「朱乃。今すぐに教会の者たちを探し出して頂戴。バルパーを発見した場合、引き渡しを要請するわ」

 

「そうですわね。うふふ、お仕置きのしがいがありそうですわ」

 

「力仕事なら任せてください」

 

 朱乃さんも小猫っちもやる気満々だ。

 

「待ってください! これは僕の問題で―」

 

「馬鹿野郎!!」

 

 止めようとする祐斗っちに、イッセーが一喝する。

 

「俺たちは仲間だろう! なんで俺たちを頼らねえんだ!!」

 

 イッセー、やっぱりいうことが違うよ。

 

 そんなだから、私はお姉ちゃんなのに……。

 

「嫌だって言っても協力するからな! 仲間の、ダチの敵は俺の敵だ!!」

 

「イッセーくん……」

 

 祐斗っちがなにも言えない中、私はふと思い出したことがある。

 

 そういえば匙くんは?

 

「うぅ……! その通りだ、木場!!」

 

 うわ、マジ泣きしてる!

 

 っていうか、鼻水が床に落ちてるからとりあえずかんで、かんで!!

 

「お前にそんな過去があったなんて知らなかった!! 畜生、世の中は非常すぎるぜ!! お前がエクスカリバーをうらんでも当然だ!!」

 

 力強くうなずく匙くん。でもその勢いで鼻水が飛んでるよ?

 

「俺も協力するぞ! 何かあったらすぐに言ってくれ!! 会長にお仕置きされるかもしれないけど、その時はその時だ!!」

 

 勢いよくそういうと、匙くんは祐斗っちの肩をつかむ。

 

「だから、お前はリアス先輩を裏切るな!! せっかく助けてくれた人の想いを無駄にするんじゃねえ!!」

 

 おお、熱いセリフだ!!

 

 うん、この子イッセーと似たタイプだよ。

 

「そ、そうだね」

 

 よし祐斗っちの言質もとった!!

 

 そして匙くんは鼻水をすすると、へへっと笑いながら私たちに語りかける。

 

「っと。こんな秘密を知っちまったら、俺も一つぐらい言っておかないと失礼だな」

 

 しかも律儀だった。

 

 え、でも私たちは何も言ってないけどいいのかなぁとは思う。

 

 だけど、匙くんの秘密って何だろうと思う時になる。コレはちょっと黙って聞いているべきかな。

 

「俺には夢がある。……会長とできちゃった婚をすることだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤龍帝の鎧を展開して殴り倒そうかと思ったよ。

 

 あと、イッセーは非常に意気投合した。

 



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コカビエルとその目的と

 それから数日かけたけど、結局三人とも見つからなかった。

 

 うぅん。もしかして速攻でやられたとか? まさかねぇ?

 

 そんな風に不安に思いながら、私達は夜眠ることにしたんだけど……。

 

「部長! イッセーが野獣になるから服着てください!!」

 

「いやよ。私は裸にならないと眠れないし、こっちの方がイッセーも喜ぶでしょう!」

 

 私と部長は喧嘩していた。

 

 だって部長、いつまでたっても裸のままイッセーとベッドに入ろうとするんだもん。

 

 いい加減にしないと本当に襲われますアンタ!!

 

「あのですね。部長はイッセーに告白されてから付き合いたいんですよね?」

 

「ええ、女の子としてはそっちの方が夢があるもの」

 

「だったら先にエッチなことしたらロマンもくそもないと思います」

 

 うん、それが問題。

 

 エッチしてから告白だと、なんか間違ってると思います。

 

「………た、確かにそれは、順序が逆なの……かしら?」

 

「逆です。間違いなく逆です」

 

 なんでそんな見事な逆っぷりを見せてるのかな?

 

 さて、これで誘導できそうだけどどうしたもんか―

 

「「―っ!?」」

 

 そのとたん、ものすごい寒気が出てきて思わず震える。

 

 な、ナニコレ!?

 

「姉ちゃん、部長!! 今のは!?」

 

 イッセーも飛び起きる中、私たちは外を見る。

 

 そこには、黒い翼を広げた一人の男が立っていた。

 

 その姿から見て、間違いなく堕天使。それも翼の数が多いからすごい高レベルだ。

 

 っていうことはまさか!

 

「貴方がコカビエル?」

 

「いかにも。俺がコカビエルだ」

 

 まじか、こいつがコカビエルか。

 

 っていうか、逃げ込んだはずなのになんで堂々と姿を現してるの?

 

「ごきげんよう、コカビエル。でも、私は魔王ルシファー様に最も近いけれど、最も遠い存在でもあるわ」

 

「魔王と交渉なんてばかなことはしないさ。そんなことをするぐらいなら、お前を犯して殺してサーゼクスを挑発する方がはるかにいい」

 

 うわぁ、ものすごい性格悪い。

 

 しかも敵意満々だ。この人何考えてるの?

 

「それで、だったらあなたは何をしに来たのかしら?」

 

「知れたこと。戦争再開のため、お前の支配するこの駒王町を滅ぼすのさ」

 

 せ、戦争再開?

 

 ちょ、ちょちょちょちょっと待って。戦争ってつまり三大勢力の戦争のことなのは間違いない。

 

 それを再開って、何考えてんのこいつ!?

 

「……あなた、正気?」

 

「さてな。少なくとも、このままなあなあですます気はない」

 

 お、おかしいとは思ってた。

 

 だって堕天使の幹部なら、人間界にも土地の一つぐらい持ってておかしくないもん。普通ならそこに逃げ込む。

 

 わざわざ教会の至宝を盗んで、しかも魔王の妹の管轄地に逃げ込むなんて、ややこしくなることは間違いなかったけどそれが理由なら納得だ。

 

 って言ってる場合じゃない。

 

 ってことはつまり、私たちはここでコカビエルと戦うってことになる。

 

「エクスカリバーを盗めばミカエルあたりが戦争を仕掛けてくるかと思ったんだが、送り込んだのは人間だけ。本当に退屈でつまらなかった」

 

「狂ってるわ。この状況下で戦争を起こすなんて!! 神の子を見張るものは世界を滅ぼすつもり!?」

 

 部長が絶句してもおかしくない表情でドンビキしている。

 

 こ、コカビエルの奴、気が狂ってるんじゃないの?

 

「あいつらは何も知らないさ。戦争を起こすどころか神器だなんて下らんものを研究するばかり。そこの小娘の赤龍帝の籠手ぐらいでもなければ役に立たないだろうに」

 

 そういうと、コカビエルは唾を吐き捨てていら立ちをあらわにする。

 

 あ、あれはすっごくストレスが溜まってる顔だ。

 

「うんざりなんだよ!! 決着もつけずにのんのんと過ごす毎日が!! だから戦争を起こすのさ!!」

 

 そういうと、コカビエルは駒王学園の方向に飛び始める。

 

「魔王の妹が二人もいる所なら、決戦の血にはうってつけだろう? 俺はそこで儀式を始めるから、待っているといい」

 

 よ、寄りにもよって駒王学園で戦争おっぱじめる気だ。

 

 ちょ、そこ私たちの学校なんですけど!?

 

「逃げてもいいぞ? そうなれば、この街は更地になるがな」

 

 しかも町中巻き込む気!?

 

「ちょ、ちょちょちょちょちょちょいいいいいいいいいい」

 

「ちょっといい加減にしろよ、てめえ!!」

 

 い、イッセー有難う。あのレベルだともうしゃべるのも大変で。

 

 だけど、コカビエルは動じない。

 

 それどころはすごく笑ってる、むちゃくちゃ愉しそうに笑ってる。

 

「嫌なら止めてみろ。まだ儀式の発動までには時間もあるからな」

 

 そういうと、コカビエルは勢いよく飛んでいく。

 

 う、うわマジヤバイ!!

 

 だけど、このままじゃいられない。

 

 この駒王町には何万人も住んでいる。しかも悪魔の実在を知らない人たちだって何万人もいるんだ。

 

 私達三大勢力の勝手な都合で、死なせるわけにはいかないよ!!

 

「い、いくよイッセー、部長!!」

 

「ああ、あの野郎許さねえ!!」

 

 速攻でイッセーは着替えはじめ、部長もみんなに連絡を取る。

 

 絶対させないからね、コカビエル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園についた時、すでに駒王学園はすごい結界でおおわれていた。

 

 そしてそこには、生徒会長たちが勢ぞろいしていた。

 

「待っていましたよ、リアス」

 

「ソーナ。来てくれたのね?」

 

 生徒会長たちまで来てくれた。これは結構心強いよ。

 

「今、学園全体を強固な結界で覆っています。中で戦闘をするだけならば、外への被害は出させません」

 

 会長はそう断言するけど、すぐに表情をゆがめる。

 

「ですが、コカビエルをとどめるにはあまりにも脆い結界です。私は眷属全員で結界を強化しますが、おそらく脱出を狙われれば一分とかからずに出られるでしょう」

 

 うわぁ、やっぱりコカビエルってすごいんだ。

 

 それにしても、むちゃくちゃやばいよね子の状況。

 

 エクスカリバーを使って魔王の妹を堕天使幹部が殺す。

 

 こんな大騒ぎが起きたら、本当に戦争が起きかねない。

 

 そんなこと、絶対させるわけにはいかないよね。

 

「兵藤、俺たちは何とかして結界を持たせるから、任せていいか?」

 

「ああ! コカビエルは俺たちに任せてくれ」

 

 匙くんとイッセーがそういって拳を握り合う中、生徒会長はリアス部長と話している。

 

「リアス。今からでも遅くありません。ルシファー様を呼ぶべきです」

 

「何言ってるの。あなただって読んでないでしょう?」

 

「私のところは無理です。でも、貴方のお兄様はあなたを愛していますよ」

 

 あれ? 生徒会長とレヴィアタンさまって中悪いのかな?

 

 でもさすがのこの状況だと読んでくれないと不安なんだけど、部長の意志も固そうだなぁ。

 

「とにかく。戦争を起こすことが目的な以上、お兄様とコカビエルをぶつけるわけには―」

 

「サーゼクス様には、わたしから打診しましたわ」

 

 朱乃さんが、部長の言葉を遮った。

 

「朱乃!? 何を勝手に!!」

 

「リアス。あなたがサーゼクス様に迷惑をかけたくない気持ちはわかるけど、これは私達で解決できるレベルじゃないわ」

 

 朱乃さんが、久しぶりに普通の友達モードでリアス部長を説得する。

 

 それを聞いて、部長も渋々だけど納得したようだ。

 

「わかったわよ。それで、どれぐらいかかるのかしら?」

 

「一時間後のようですわ」

 

 いつもの調子に戻って朱乃さんはそう告げる。

 

 だけど、一時間かぁ。

 

 長いなぁ。間に合うのかな?

 

「……死戦ですね」

 

 小猫っちが、覚悟を決めたかのように目を閉じていう。

 

 うん、これってマジでまずいよね。普通に死ねるよね。

 

 でも、町を守るためにはやらなきゃいけないんだよね。

 

「………部長、行きましょう」

 

 祐斗っちが、静かにリアス部長にそう言った。

 

「祐斗。期せずしてあなたにとっては好都合になったわね」

 

「ええ。ですが、貴女の剣であることを忘れるつもりはありません」

 

 うん、少しは冷静さが残ってるようで安心したよ。

 

「みんな! この戦いは今までのような生ぬるい者とは違うわ!! 十中八九死ぬ戦いだけど、それでも死ぬわけにはいかないわ!!」

 

 部長は、そういってから皆を見渡す。

 

「生きて、明日の朝日を見るのよ!!」

 

「「「「「はい、部長!!」」」」」

 

 よっし! 死ぬほど怖いけど譲渡でサポートぐらいはできるから頑張るぞ!!

 

 まってなよコカビエル!! 絶対駒王町を吹き飛ばさせたりなんてしないんだから!!

 



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悍ましい真実と至る心と

今回ちょっと長いです


 

 結界の中では、一人の見慣れない男の人がなんか魔方陣の内側で儀式っぽいのを行っていた。

 

 そんでもって、その魔方陣の中には五本の聖剣らしきものが浮かんでいる。

 

 ってあれ、ゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバーディストラクション)!?

 

 そういえば、盗まれたエクスカリバーは合計三本。そんでもってこっちに持ち込まれたのはイリナっちとゼノヴィアの二本。

 

 つまり、イリナっちとゼノヴィアはやられちゃったの?

 

「……ほう? 貴様らがグレモリーとその眷属悪魔かね?」

 

 そういって振り返る男は、なんていうか明らかに悪そうな顔だった。

 

 うん、考えるまでもなく悪役だね。それも、容赦なく倒しちゃっても問題がない外道みたいなタイプだ。

 

「貴方が、バルパー・ガリレイね?」

 

「いかにも」

 

 リアス部長がにらみつける中、その男は振り返りもせずに平然と答える。

 

 そのとたん、祐斗っちが一気に駆け出した。

 

「お前が、バルパー!!」

 

 いきなりすぎるよ祐斗っち! 落ち着いて!!

 

「すすすすすすすすすすすすすすすすっすす」

 

「姉ちゃんの代わりに言うけどストップ木場!!」

 

 有難うイッセー! 二重の意味で愛してる!!

 

 そして、その祐斗っちの前に割って入る人影が!!

 

「おぉっとそうはさせませんぜお兄さん!!」

 

「お前は、フリード・セルゼン!!」

 

 なんか明らかに行かれてるっぽい白髪のお兄さんが祐斗っちを妨害する。

 

 っていうかできる! 祐斗っちとまともに渡り合うなんて何て実力者!!

 

「ひゃはははは!! この程度かいお兄さぁん? 出ないと俺が殺しちゃうよん?」

 

「どけぇ!! バルパーが、エクスカリバーが目の前に―」

 

「落ち着いてください、祐斗先輩」

 

 と、そこで小猫っちが援護攻撃をして白髪を引き離す。

 

 あっぶな! 祐斗っちすごい頭に血が上ってるよ!!

 

「ふっ。どうやらバルパーの奴と因縁がある小僧がいるようだな」

 

 と、上からそんな声が聞こえてくる。

 

 見上げれば、そこにはコカビエルが宙に椅子を浮かべて悠然としていた。

 

 うっわぁ余裕オーラ満々! マジでむかつく!!

 

「ふん。どうやらサーゼクスもセラフォルーもまだ来ないみたいだな」

 

 そんな風につまらなさそうに言うと、コカビエルは槍を構えて投げつけた。

 

 その一撃は、特に本気っぽさは感じられない。なんていうか明らかに手抜きの感覚でぶっ放された。

 

 なのに、観れば体育館が吹き飛んでる!

 

 うそでしょ!? ライザーのところの女王並みの火力を平然と!?

 

 で、でも所詮単発の攻撃だもん。

 

「あ、あ、あたたたたたた当たらなければい、いいんだもんね!!」

 

「声が震えているぞ? 今代の赤龍帝はヘタレなようだな」

 

 うるさいよそこ!! ヘタレでもヘタレなりに一生懸命頑張ってるんだい!!

 

 いや、それはともかくこれどうしよう。

 

 間違いなく、相手が違いすぎるよぉ!!

 

「……コカビエルは俺が何とかします!! みんなは木場の援護を!!」

 

 イッセーがテンテキドライバーにドラッグシリングを挿入しながら叫んだ。

 

 あ、うん。あれに勝てるのは赤龍帝の鎧かアズライグだけだもんね。

 

 ごめんね、役に立たなくて!!

 

「変身!!」

 

『ブッスーン! チューニュー、ドライグ!!』

 

 オーラがプロテクターとなって、イッセーはアズライグに変身する。

 

 そしてそのままジャンプすると、コカビエルに拳を叩き込んだ!

 

 あ、コカビエル腕でガードしてる、惜しい!!

 

「ほう? どうやら少しは面白いのがいるようだな」

 

 コカビエルはそういうと、翼を広げて一斉に動かした。

 

 う、うぉおおおおおおお!!! 早くて動きが見えないぃいいいいい!!!

 

 でも、イッセーはズバットマグナムを使ってそれを何とか防いでる。

 

 あれ? 前よりも動きがよくなってない?

 

『戦闘経験がなかったのは、兵藤一誠も同じだからな。きょつ的との戦いで体の動かし方を学んだのだろう』

 

 なるほど、すごいねイッセー。

 

 と、思っていたらこっちはこっちでなんかでっかい犬が何体も現れた。

 

 しかも頭が三つもある!? え、なにこれ!?

 

「冥府の番人ケルベロス! コカビエル、そんなものまで連れてきたというの!?」

 

 部長が驚く中、そのケルベロスは一斉に襲い掛かる。

 

 それを、部長と朱乃さんの攻撃が迎え撃った。

 

 そして動きが止まったところを小猫ちゃんが殴りつける。

 

 いよっし! やっぱり三人とも強い!!

 

 でもケルベロスもタフなのか、なかなか倒れてくれないよぅ。

 

 そして、そんな中イッセーはイッセーで激戦を繰り広げている。

 

 コカビエルが地面に降り立って光の剣を両手に持って攻撃を何度も叩き込む。

 

 それを、イッセーはズバットマグナム一つで何とか抑え込んでいた。

 

 あ、これコカビエルの奴遊んでる。

 

 そうだ! その遊んでいるうちに何とかケルベロスを倒して数で攻めればあるいは?

 

「ちょいやっさ!!」

 

 っていうか祐斗っちも苦戦してる!!

 

 あの白髪の人、思った以上に強い!!

 

「あらぁん? 今の僕ちん、エクスカリバーを使ってないのにまともに戦えちゃってるよん? やだ、この敵弱すぎ……っ」

 

「ほざくなぁ!! そこを……どけぇ!!」

 

 だめだ、祐斗っちかなり頭に血が上ってるよ!!

 

 どうにかしないといけないと思ったその時、赤龍帝の籠手が光り輝く。

 

 え、えええ? なにこれぇ!?

 

『今の倍化を譲渡すれば、ケルベロスを一撃で倒せると教えてくれているのさ』

 

 そんな機能付いてたの?

 

『神器も進化するというわけだ。ほら、今すぐやってみろ』

 

「うんわかった!」

 

 確かに、譲渡するだけなら私がビビリでも問題ない!!

 

「部長! 朱乃さぁん! こっち来て譲渡されてくださぁあああいい!!」

 

 来てもらえばいいんだもんね!!

 

「小猫、一瞬だけ抑えてなさい!!」

 

「はい」

 

 小猫ちゃんがケルベロスを押させている間に、部長と朱乃さんが急いでこっちに来る。

 

 そして、わたしにタッチ!!

 

「「喰らいなさい!!」」

 

 そのまま全力で砲撃が叩き込まれて、ケルベロスは跡形もなく吹き飛んだ!!

 

「……ほぅ? 今のは上級悪魔でもそうは出せない威力だな」

 

「余裕だなこの野郎!!」

 

 イッセーとつばぜり合いをしながら、コカビエルが感心する。

 

 だけど、それで倒せたケルベロスはまだ二体。

 

 確かまだほかにもいたはず―

 

「……ふん!!」

 

 その瞬間、残りのケルベロスが両断された。

 

 う、うぉおおおおおお!? なに、なになに!?

 

 突然ケルベロスがぶった切られて、私は何が何だか分からなくなった。

 

 見れば、そこには光の剣を持ったジョージの姿が。

 

 しかも十人以上も悪魔祓いがいるよ!?

 

 イリナっちはともかく、ゼノヴィアも一緒にいるし!!

 

「堕天使コカビエル!! ここであったが百年目だ、その首、もらい受ける!!」

 

「ついに教会の連中まで来たか! 戦争前のいい余興じゃないか!!」

 

 ものすごいうれしそうにするコカビエルに、ジョージはゴミでも見るかのような目で答える。

 

 そして、そのまま剣を突き付けた。

 

「ちょうどいい。貴様の首をここで採り、その勢いに乗じて堕天使どもを根絶やしにしてくれる!! 物のついでにこの地を悪魔から解放するのもいいかもな」

 

 うわぁ、この人全面戦争する気満々だよ。

 

 すいませーん。あなた上から言明されてなかったっけー?

 

 心の底でツッコミを入れていると、とたんに魔方陣がすごい光を放った。

 

「……完成だ」

 

 高校とした表情で、バルパーが声を上げる。

 

 見れば、エクスカリバーは一本の剣になっていた。

 

「儀式は完成したぞコカビエル。あと三十分もすれば、その影響でこの街は吹き飛ぶだろう」

 

 さ、三十分! 私たちが入ってから、まだ十分もたってないのに!!

 

 増援が来るまでに十分足りない!! このままだと、駒王町が吹き飛んじゃう!!

 

「なるほど、では余興だバルパー。―例の奴を」

 

「……ああ。そうさせてもらおう」

 

 そういうと、バルパーは懐から何かを取り出した。

 

 機械でできた注射器のような小さな物体。それを見て、私たちは目を見開いた。

 

 あれ、ドラッグシリング!?

 

「悪いなフリード。私はエクスカリバー使いになりたかったのだよ」

 

 そういうと、バルパーはドラッグシリングを躊躇なく首筋に突き立てた。

 

『ブッスーン! チューニュー、ケンゴウ!!』

 

 そのとたん、バルパーの姿が変化する。

 

 全身にいくつもの剣の鞘を取り付けた、騎士だが武者だかよくわからない怪人。

 

 あれが、ドラピング……っ!

 

『さあ、それでは合一化されたエクスカリバーの試し切りといこう』

 

 そういうなり、バルパーの姿が一瞬で掻き消える。

 

「っ!?」

 

 次の瞬間、慌ててジョージが剣を構えて、そして検温が大量に走った。

 

「ぐぁあああ!!!」

 

「ぎゃぁ!?」

 

 鮮血がまい、悪魔祓いたちが全身を切り裂かれて倒れ伏す。

 

 な、なんだとぅ!?

 

『……素晴らしい、これが合一化されたエクスカリバーの力!!』

 

 恍惚とした声で、バルパーが喜んでる。

 

 や、や、ややややばい!!

 

 エクスカリバーとドラピングのコンボなんて最悪なんてもんじゃない!!

 

 これ、間違いなくやばいよ!?

 

「バルパー……っ!!」

 

 祐斗っちがにらみつける中、コカビエルは突然イッセーから距離をとると空に飛びあがる。

 

「バルパー。合一化されたエクスカリバーのお披露目も兼ねた余興として、そいつらを殺して見せろ」

 

「ああ、わかっているともコカビエル」

 

 コカビエルにうなづくと、バルパーはすごい速度でイッセーに迫ると切りかかった。

 

 イッセーはズバットマグナムで防ごうとするけど、一撃で弾き飛ばされる。

 

 そして一瞬で無理になったエクスカリバーがイッセーに絡みつくとそのまま振り回した。

 

「う、うぉおおおお!?」

 

『ふはははは!! どうした仮面ライダー? エクスカリバーの力の前には手も足も出ないようだな!!』

 

 そういうと、バルパーはイッセーを豪快に投げ飛ばす。

 

「い、いいいイッセー!」

 

 私はつい叫ぶけど、イッセーもすぐに立ち上がった。

 

「そっちこそ、俺みたいな下級悪魔を一撃で滅せないだなんてちゃちな聖剣だな?」

 

『言ってくれるな、だが、どれだけ吠えようと貴様に勝ち目はない』

 

「こちらを無視するなよ、背教者!」

 

 後ろからジョージが切りかかるけど、バルパーはそれをあっさり交わすとエクスカリバーを高速で振るう。

 

 それをジョージは受け止めるけど、そのまま弾き飛ばされた。

 

『これが、エクスカリバーの力!! むろんどんな剣も素人が使えばただのナマクラだが、それもドラッグシリングの力があればいくらでもできるのだよ!!』

 

 そのままバルパーは哄笑を上げながら戦闘を開始する。

 

 イッセーとジョージは最大の目的が一致しているからかろうじて共闘になってるけど、バルパーはそれでも二人を相手にしていた。

 

 ドラッグシリングを使っているうえに、エクスカリバーまで使ってるからシャレにならない!! ちょっとちょっと、それ反則!!

 

『私は聖剣が大好きだった。幼いころから本を読み、彼らのような使い手になりたいと心から思っていた』

 

 うっそぉ! 二人を同時に相手して、さらに語り始めたよ!?

 

『だが、残念なことに私には適性がなかった。あの絶望は誰にもわからないだろう。だからこそ、せめて使い手を生み出したいと心から願った!!』

 

 擬態の力を使ったのか、エクスカリバーがひもでつながった二本になり、イッセーとジョージを同時に攻撃する。

 

『捨てられたごみどもを使い、聖剣使いとはどういう存在なのかを調べ上げた。そして私は気づいたのだ、人には聖剣を使う因子があり、それが非常に高い者こそが聖剣使いとなりうるのだと!!』

 

『そんな余迷いごとを!!』

 

 二人が弾き飛ばされた瞬間に部長が魔力を放つ。

 

 それを真正面からはじきながら、バルパーはしゃべるのをやめなかった。

 

『否。これは正しく事実。だからこそ私は人工聖剣使いを完成させることができたのだよ!!』

 

「余迷いごとを!! 僕たちを失敗作といって殺したじゃないか!!」

 

 祐斗っちが激昂して切りかかるけど、バルパーはそれをオーラを増大させて防ぐ。

 

「ほほう。君は用済みで殺したはずの被験者か? なら冥途の土産に教えてやろう。用済みになったのは因子を抜いたからだ」

 

 そういって、バルパーは一つの結晶を取り出した。

 

 あれ、なに?

 

 それを見て、バルパーは目を見開く。

 

「それは! 人工聖剣使いが祝福を受けるときに移植される結晶か!」

 

『その通り。これは被験者から摘出した聖剣因子でできている。……簡単な発想の転換だ、足りないのならよそから持ってくればいい』

 

 ああ、確かにその通りだ。

 

 必要なものが足りないなら、ある所からもらってくればいい。盲点だけどそれができるなら、聖剣使いもたくさん作ることができる。

 

 でも、だけど!

 

「なら、殺す必要はなかったはずだ!! なぜ彼らを殺した!!」

 

『あんな野良犬ども、必要なものをもらったら生かしておく必要はないだろう? まあ、ミカエルのような偽善者どもなら殺しはしないだろうがな』

 

 ……ひどい。

 

 仮にも聖職者が、神を信じている人たち相手にそんなことするなんて。

 

「そん、な……」

 

 祐斗っちは、ショックのあまり崩れ落ちる。

 

 そんな祐斗っちに、バルパーは結晶を放り投げた。

 

『量産体制が確立した以上、もはやこれも必要ない。欲しければくれてやろう』

 

 投げ捨てられて転がるそれを、祐斗っちはゆっくりとした動きで手に取った。

 

「皆、こんな姿になって……っ」

 

 悔しさのあまり、祐斗っちは涙を流す。

 

 そんな時だった。

 

『……なかないで』

 

 え、何この声?

 

 聖剣因子の結晶が輝いて、人影が何人も出てきている。

 

『ありがとう、イザイヤ』

 

『生きててくれて、ありがとう』

 

 だれ、あの子たち?

 

 っていうか、いったい何?

 

「この洗浄に漂う様々な力が、因子の結晶から魂を解き放ったのですわ」

 

 朱乃さんが言っていることってマジ?

 

 それって、つまり幽霊!?

 

 なんだけど、全然怖くない。むしろほっとする。

 

『イザイヤ、いこう?』

 

 そういって、少女の影が祐斗っちの手を取る。

 

『僕たちが、一緒だよ?』

 

 ……涙、出てきた。

 

「ああ。僕たちは一緒だ」

 

 その言葉とともに、何か強大な力が放たれる。

 

 え、あれはいったい何?

 

『相棒、お前も知ってるだろう?』

 

 ドライグ? 知ってるって何が―

 

「………あ」

 

 私は気づいた。

 

 そうだ、これは私が赤龍帝の鎧を覚醒させた時と同じ―。

 

『アイツは、至ったぞ』

 




ついに登場新たなドラピング。対象者はバルパーです。

原作においてエクスカリバーを自分で使わなかった理由を、研究者であって剣士でないからと判断しました。なので、その技量をカバーすることができたら真っ先に自分から使うだろうなぁと思いまして


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禁断の真実と鋼の信仰と

その力は、禁じ手。

 

 それは、新規の究極系。

 

 その存在は、世界の均衡(バランス)すら崩すもの。

 

「……いって、祐斗っち」

 

 そう、それは。

 

「今の祐斗っちなら、行ける!!」

 

 禁手(バランス・ブレイカー)

 

「……行こう、皆」

 

 その言葉とともに、祐斗っちはバルパーに切りかかる。

 

 そして、その莫大な力はエクスカリバーを真正面から受け止める!!

 

『……なんだ、それは』

 

 バルパーが唖然とする中、つばぜり合いの中で祐斗っちは静かに口を開く。

 

魔剣創造(ソード・バース)禁手(バランス・ブレイカー)、双覇の聖魔剣《ソード・オブ・ビトレイヤー》。聖と魔を融合させた聖魔剣を生み出す能力だ!!」

 

 そして、真正面から打ち勝った!!

 

『バカな! そんな剣がエクスカリバーと同等以上だと!?』

 

「そのエクスカリバーが本来の物ならさすがに無理さ。だが、寄せ集めのがらくたなどに僕らの想いは倒せない!!」

 

『ほざくなぁああああ!!!』

 

 いうが早いか、バルパーはエクスカリバーを分裂させて一斉に攻撃する。そしてさらに透明化と幻覚まで追加!?

 

 あ、あんなもん交わせるわけが―

 

「甘い」

 

 と思ったら一振りで弾き飛ばしたぁああああ!?

 

「……いかに達人の技量を手にしようと、殺気の消し方やごまかし方までは手に入らないようだね。それでは幻覚と透明化は意味がない」

 

『お、おのれぇえ!! なら破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を最大出力で―』

 

「おっと。そうはいかない」

 

 と、そこでゼノヴィアが前に出る。

 

「主に代わり、貴様の悪行はここで断罪する」

 

『ふざけるなよ小娘が!! 誰のおかげで聖剣使いになれたと―』

 

「勘違いするな、私は天然ものだし、()()()()()()()の使い手ではない」

 

『……は?』

 

 意味が分からないといわんばかりのバルパーの前で、ゼノヴィアは宙に手を伸ばす。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ! 我が声に耳を傾けてくれ!!」

 

 空間が歪み、そこに現れるのは一振りのバスターソード。

 

「この刃に宿りしセイントの聖名において、我は汝を開放する―デュランダル!!」

 

 デュランダル!? デュランダルって攻撃力だけならエクスカリバーより上のあのデュランダルぅ!?

 

 な、ななななんでこんなところにぃ!?

 

『ば、バカな! 私ですら、デュランダルの人工聖剣使いの生成は不可能―』

 

「だから言っただろう。私は天然ものだと」

 

 そして、ゼノヴィアはデュランダルを振りかぶる。

 

「なにせ、じゃじゃ馬すぎてまだ使いこなせなくてね。普段はエクスカリバーを使うように言われているのさ」

 

 ええ~? エクスカリバーを前座扱い? どんな豪勢な前座だよ。

 

「まさか、デュランダル使いを投入してくるとは。ミカエルも意外と本気だったということか」

 

 さすがのコカビエルも、これは驚いている。

 

「さあ、エクスカリバーとデュランダルの頂上決戦と移行。……そんなおもちゃを使っているんだ、さぞ楽しませてくれるのだろうな」

 

『な、なめるなぁああああああ!!!』

 

 激高したバルパーはエクスカリバーで切りかかり―

 

「ぬるい!!」

 

 一撃で、真正面からゼノヴィアは軽々とエクスカリバーを弾き飛ばした。

 

「所詮は折れた聖剣か。この程度とは笑わせる」

 

『バカな! エクスカリバーが、エクスカリバーが負けるなど!!』

 

 バルパーは明らかに狼狽している。

 

 っていうか、ドラピングになってるんだから身体能力で翻弄すればいいのに、何で剣の力の勝負なってるの?

 

 ああ、エクスカリバーを神聖視してるから、意固地にそれに頼ってるんだ。

 

「ってことはこれで隙だらけ!! イッセー!!」

 

「ああ、わかってるぜ」

 

 そして、いつの間にかイッセーはバルパーの肩に手を置いた 。

 

「年貢の納め時だぜ、オッサン」

 

「……はっ! しま―」

 

『ヒィイイイイッサツ!!』

 

 その致命的な隙は、完璧にアウト!!

 

「ライダーキック!!」

 

 そして最大出力のケリが、バルパーを吹っ飛ばした。

 

 返信が解除されて、三十回転ぐらいしてバルパーはようやく止まる。

 

 っていうかコレ、死んだんじゃないの?

 

 いや、それでもこれで第一関門クリア!! この調子なら―

 

 パチパチパチパチ

 

 コカビエルが、拍手と一緒に下に降りてくる。

 

 うそ、こいつまだ余裕しゃくしゃく!?

 

「褒めてやろう。あの状態のバルパーは俺ですら手こずるレベルなのだがな。なるほど、リアス・グレモリーは面白いものを集めている」

 

 そういうと、コカビエルは私達を眺める。

 

「赤龍帝に聖剣計画の生き残り。そしてバラキエルの娘か」

 

「……私を、あのようなものの娘などというな!!」

 

 激昂した朱乃さんが雷撃を放つけど、バルパーは意にも介さず弾き飛ばす。

 

「そして聖銅騎士団の若き団長にデュランダル使い。ミカエルも少しは本気を出していたようだ。特に団長殿には驚いたぞ?」

 

「貴様に褒められても全くうれしくないな」

 

「まったくだ。主の名のもとに断罪してくれる」

 

 そういって剣を突き付けるジョージとゼノヴィア。

 

 それにこっちもまだまだみんないけるよ! 私の譲渡マシーンと考えればそこそこ行けるしね!!

 

 そんなやる気に満ち溢れた私たちを見て、コカビエルはあきれているとしか思えない顔になった。

 

「使えるべき主をなくしてまで、よくもまあそこまで頑張れるものだな、悪魔も信徒も」

 

 ………へ?

 

 主って、魔王様は生きてるよ?

 

 あ、先代魔王様は確かに死んでたね。でも私が生まれたときにはもう死んでたし、今更な感じはするかな。

 

 あれ? でもなんでジョージやゼノヴィアまで?

 

「……どういう意味だ?」

 

「ん? ああ、そうか下の者たちまで知っているわけがないか。どうせ戦争も起こすのだし黙っている必要もないか?」

 

 な、なになに? なんなの?

 

 なんかすっごい重大情報な予感がする。

 

「先の大戦でな、神と魔王は相打ちになったんだよ」

 

 ああ、神様も死んでたんだ。それは知らなかったよ。

 

 ってなんだとぅ!?

 

 聖書の神ってキリスト教の神様でしょ!? 二十億人が進行している世界最大宗教の!!

 

 その神様が、死んでるってやばくない!?

 

「う、嘘だ! でたらめを言うな!!」

 

「真実だよ。その聖魔剣が証拠だ」

 

 狼狽するゼノヴィアに、コカビエルは祐斗っちを指さして見せる。

 

「本来聖と魔はまじりあわない。聖書の神の奴が死んで、そのバランスが崩れているからこそのイレギュラーだよ」

 

 あ、た、確かに水と油がまじりあうよりむずかしそう。

 

 ってまって。それはつまり、マジってことじゃん。

 

 や、やばすぎる。

 

「そ、そんなことがあり得るというの……っ」

 

「ああ。信じられないようだが事実だよ」

 

 さすがに動揺している部長に、コカビエルはそう告げる。

 

「こんなことが信徒の間に知れ渡れば、どんなことが起きるかなど目に見えている。だから教会のトップ共は神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠ぺいしたのさ」

 

 その言葉に、ゼノヴィアはショックを受けたのか崩れ落ちる。

 

 だ、だろうね。ガチ信徒がこんなこと知ったらショックで倒れるよ。

 

「う、うそだ・・・うそだ…‥嘘だ……」

 

 よっぽどショックだったのか、そう呆然とつぶやき続けることしかできてなかった。

 

「なんということだ」

 

 ジョージも天を仰いで瞑目してる。

 

 あれ? なんか衝撃は受けてるけど余裕っぽくない?

 

 そんな中、コカビエルはものすごくむかついてそうな表情を浮かべる。

 

「そのせいで、三大勢力はどこも戦争に乗り気じゃない。挙句の果てに、アザゼルにいたっては二度目の践祚はないなどといいやがった!!」

 

 そして、コカビエルは怒りのあまり光力を全身から漏らし始める。

 

「振り上げた拳を振り下ろさずにするなどふざけるな!! 勝利者もないまま戦争を終わらせるなど寝ぼけたことを!!」

 

 コカビエルがにらみつけるのは、ここではない三大勢力の首脳陣だ、これ。

 

「だから俺が戦争を起こしてやるのさ! 同じことを考えている奴はほかにもいるだろう、そいつらに代わって俺が口火を切ってやる!!」

 

 お、おおおお。なんかやばいよコレ!

 

 っていうかドラピングとか気にしなきゃいけないことが多すぎるのに、なんで戦争まで起こされなきゃ―

 

「―なるほど、好都合だ」

 

 ……へ?

 

 その言葉に振り返ってみれば、ジョージが何ならすごい真剣な表情を浮かべていた。

 

「20億の信徒の力を結集すれば、悪魔と堕天使など遅るるに足らずと思いながらも、主の意志がそうならば仕方がないと抑えていたが、そうでないならばもはや耐える必要はない」

 

 もう、その表情に動揺の色は一切ない。っていうか、明らかに覚悟完了しちゃってる人のそれだったよ、この表情。

 

「たとえ主がお亡くなりになられていようと、主の遺した教えは残っている。ならば何の問題もないだろう」

 

 そのまま、一本の剣を引き抜くと、ジョージはゼノヴィアに振り返った。

 

「立て、ゼノヴィア」

 

「じょ、ジョージ」

 

 ゼノヴィアは、かなり動揺しているのかまだふらついている。

 

 だけど、そんなゼノヴィアにジョージは笑みすら浮かべた。

 

「主がいなくなられようと、我らがすることに変わりはない。すなわち邪悪を排して教えを広め迷い子を導くこと。……そうだろう、皆の者よ!!」

 

 そう大きく声を張りげると、教会の生き残りは少しずつだけど立ち上がる。

 

 みんな、ショックは受けているけどそれよりも目が真剣だった。

 

 な、なんで自分の信じる人が死んだっていうのに、そんな気合に満ちた目をしてるの!!

 

「コカビエル!! 戦争を起こすというならば好都合。我ら20憶の信徒は、必ず最後に勝利する!!」

 

 そして、剣を突き付けてコカビエルをにらみつけた。

 

「まずは貴様の首をもらう!! そして堕天使滅亡の口火を切るがいい!!」

 

「……フハハハハ!!! いいぞ、いいぞいいぞいいぞ!!」

 

 コカビエルは、なんかものすごいうれしそうだ!!

 

 うん、ここいかれた人が多すぎるよ!?

 

「素晴らしい! それでこそ俺の敵だ!!」

 

 そして、コカビエルは心底喜んで翼を広げ―

 

「いや、そこまでだ」

 

 次の瞬間、それが引きちぎれた。

 



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白い龍と赤い龍と

 

 その瞬間を、理解できた人はほとんどいない。

 

 イッセーとジョージはなんか目で追えたっぽいけど、だけどそれが限界っぽかった。

 

 そして、コカビエルも一瞬何が起こったのかわかってなかったっぽい。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 自分の翼が引きちぎられて、コカビエルはパニックを起こしかけてる。

 

 うん、わたしなんて何が起こったのかさっぱりだもんね!!

 

「……薄汚い翼だ。少しはアザゼルを見習ったらだろうだ?」

 

 そして、そんなことをしてのけた人は、空を飛んであきれていた。

 

 うわ、なんかすごい綺麗な鎧をつけてる。

 

 背中からは光り輝く翼が生えていてなんかすごくかっこいい。

 

 そして多分むちゃくちゃ強い。だってコカビエルは一瞬で叩きのめされたんだもん。

 

「貴様、白い龍!! 何をする!!」

 

「見ればわかるだろう? お前を止めに来たんだ」

 

 平然とそんなことを言われて、コカビエルは激おこ状態で光の槍を生み出した。

 

 っていうかでか!! 十メートルは越えてるんだけど!?

 

 しんだぁああああ! あんなの喰らったら余波で私達も巻き込んで駒王学園が消滅するぅううううう!!

 

「小童が! 不意打ちを入れた程度で俺を倒せると思ってるのか!?」

 

 うん怒ってるよね! さすがにこれはむちゃくちゃ腹立つよね!?

 

 っていうかやっぱりまだ本気じゃなかったんだ! あ、これ死んだ。

 

 思わず辞世の句を詠みかけるけど、それも白い鎧の人が手をかざしただけで終わった。

 

『Dvidi』

 

 その音が鳴りひびいた瞬間、光の槍はごっそり小さくなった。

 

 え、なに? なんなのあれ?

 

『厄介なのが出てきたな』

 

 え? 知ってるのドライグ?

 

『覚えておけ、あれこそが俺と対をなす二天龍だ』

 

 に、二天龍?

 

 ってことは、あれがアルビオン!?

 

「まさか、こんなところに白龍皇まで出てくるなんて……っ」

 

 リアス部長も戦慄してるし、あ、これ間違いなさそう。

 

 ジョージもいつの間にか後ろに下がって警戒してる。うん、だよね!

 

 そして、そんな風に周りを見ていたらいつの間にか決着はほぼついていた。

 

「……すでに下級堕天使と同等レベルにまで半減されたか。これではもはや楽しめないな」

 

「まさか、この俺がぁ!!」

 

 コカビエルはそれでも抵抗をつづけるけど、白龍皇はもう気にせず一気に接近した。

 

「気は済んだだろう? もう面倒だから寝ているといい」

 

 そして白龍皇の拳がめり込んで、決着はついた。

 

 つ、つよい。

 

 イッセーでも一人じゃ遊ばれていた位の強さを持っているコカビエルを、いとも簡単に倒しちゃった。

 

 どれぐらい強いのアイツ? っていうか、私死んだよコレ。

 

「一美さんをやらせはしない!!」

 

「下がってください、先輩」

 

 祐斗っちと小猫っちが前に出るけど、たぶんグレモリー眷属が総力をあ下手も勝ち目ないよねコレ!

 

 うぉおおおい! 魔王様の援軍、まだぁああああああ!?

 

 再び辞世の句を考え始めた私の前で、しかし白龍皇はため息をつくとそのままコカビエルを抱え上げて空に浮かぶ。

 

「そう身構えなくていい。俺はアザゼルに頼まれてコカビエルを止めに来ただけだ。……俺の宿敵もまだまだのようだしな」

 

 あ、ここで戦ったりはしないんだ。

 

 っていうかアザゼルって人は本当に戦する気がないんだね。

 

 戦争をしてもいいって思ってるなら、コカビエルを放っておくなんてばかなまねはしない。止めに来たってことはつまり戦争をする気がないってことだから、これなら白龍皇も止めてくれるかな?

 

「……待てよ」

 

 と、イッセーが白龍皇を呼び止める。

 

「なんだ? 俺はもう帰りたいんだが―」

 

「ありがとうな」

 

 その言葉に、白龍皇はぽかんとした。

 

「いや、俺は言われたとおりにしただけなんだが」

 

「それでもだよ。このままだったら俺の仲間も主もただじゃすまなかっただろうし、お礼は言った方がいいかと思って」

 

 イッセー。うう、いい子に育ったね。

 

 お姉ちゃんは涙が止まらないよ。もう抱いて!!

 

 と思ったら、そのあとイッセーはなんか怒りのオーラを出すと指を突き付けた。

 

「でも、いいところ見せれなかったのは残念だけどな!! そうすれば部長もご褒美の一つぐらいはくれたと思うのにこの野郎!!」

 

「……これだから悪魔は汚らわしい」

 

「……先輩最低です」

 

 ジョージと小猫ちゃんから辛辣なツッコミが飛んだ。

 

 うん、気持ちは痛いぐらいよくわかるよ。なんていうか上げて落とされてる。

 

「イッセー!! お姉ちゃんは泣きたくなったよ!!」

 

「うわ! ご、ごめん姉ちゃん!!」

 

 イッセーは思わず変身を解いて謝るけど、本当にいろいろと残念な子だよねこの子は!

 

「あらあら、イッセー君はいつも通りでわね」

 

「ええ。……悪いけど、ご褒美はまた次の機会ね?」

 

「うおおおおおおお!!! 畜生ぅうううううう!!!」

 

 ああもう、なんかいろいろとツッコミどころだらけだよ。

 

 でも、なんていうかそれでやる気がそがれたのか、白龍皇はなんか調子を崩していた。

 

「不思議な男だな、君は」

 

「なんか、ごめん」

 

 私はつい本気で謝ったよ。

 

 あ、なんか緊張がなくなった。

 

 つまり殺気がないってことだね。うん、これは安心だね!

 

「まあいいさ。また縁があれば会おう」

 

 そういうと、白龍皇はコカビエルを抱えたまま飛んでいった。

 

 よく見ると、フリードとバルパーの姿はどこにも見えず、エクスカリバーが地面に落ちていた。

 

 あいつら逃げたんだ。ま、当然っていえば当然だよね。

 

「……チッ! まさか奴に助けられるとはな」

 

 そんな中、心底いやそうにジョージは吐き捨てた。

 

 うん、どうもいろいろと思うところがあるみたいだね。

 

「………とはいえ、エクスカリバーが合一化されたのは僥倖か。まずはこの至宝を持ち帰るのが先決だな」

 

 そういうと、ジョージはエクスカリバーを拾うとそのままゼノヴィアに手を貸す。

 

「帰るぞゼノヴィア」

 

「だが、主はもう死んでいるのだぞ?」

 

 ゼノヴィアはいろいろと焦燥してるけど、ジョージはそれにため息をついた。

 

「確かに衝撃的な事実だが、主の教えはどちらにせよ残っているだろう? ならば何の問題もない」

 

 迷いなく、ジョージははっきりとそう言った。

 

「主の教えを守り人々を正すことこそわれら信徒の指名。何よりまずはバチカンへと戻り、このことについて問いたださねばなるまいて」

 

「そうか。……うん、そうだな」

 

 ゼノヴィアはそういうと、ゆっくりと立ち上がる。

 

 そして騎士団たちが去っていく中、ジョージはこちらをにらみつけた。

 

「……本来なら切っておくべきだが、しかしこちらも無意味な敗戦は望まん。その首は預けておくぞ」

 

 あ、これ本気で言ってる。

 

 本気でこっちを殺せないのが腹立たしいみたいだ。

 

「いずれ、この地を浄化するために来させてもらう。覚えておくがいい」

 

 そういうと、ジョージはそのまま立ち去って行った。

 

「た、倒さなくていいんですか?」

 

 ぶっちゃけあれ、勝手にやってきそうな感じがするんだけど。

 

 だけど、部長も割と疲れた感じで肩をすくめる。

 

「仕方がないわ。このまま彼らを返さなければ、それこそ戦争の火ぶたが切られてしまうもの」

 

 うーん。そういうもんなのかな?

 

 あ、でも戦争を私たちが起こしたら、戦争反対派の人たちから徹底的に叩きのめされるし、平和な生活とかできないよね。

 

 うん、戦闘駄目絶対!

 

「でも、このままだと大変です」

 

 小猫ちゃんが心配するけど、確かにその通りだ。

 

 なんせ、ジョージはノリノリで戦争仕掛ける気満々だもんね。あれはほっといたら本当に戦争起こしそうだよ。

 

 聖書の神の死もばらまかれる可能性があるからなぁ。世界が大混乱にならなきゃいいんだけど……。

 

「そうだね。まだ、聖剣計画も終わったわけじゃない」

 

 そう、祐斗っちがつぶやいた。

 

 あ、そっか。聖剣計画は教会でもまだ続けられてるんだ。

 

 死んでる人はいないみたいだけど、それでも敵が強くなるのは不安だよなぁ。

 

 バルパーの技術が堕天使側にもわたってたら、堕天使側の人も聖剣使いになってるわけだからなおさら大変だよ。

 

 う~ん。これはいろいろと不安なことが多すぎるぞぉ?

 

「……おいおい、あんまり今から悩みすぎるなって」

 

 いや、イッセー? さすがにこれは考えないといけないと思うんだけど?

 

 だけど、イッセーは明るく言った。

 

「今はさ? 決着がついたってことでいいじゃねえか」

 

 そういって、イッセーは祐斗っちの肩をたたく。

 

「素直に喜んどこうぜ? な?」

 

 イッセー……。

 

 うん、確かにそうだ。

 

 祐斗っちの過去に決着がつけられた。それは良いことだよね。

 

「そうね。それにいいことはほかにもあるわ」

 

 リアス部長も、表情を明るくして祐斗っちを抱き寄せる。

 

「ぶ、部長?」

 

「私の祐斗が禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めたんだもの。流石に後始末があるけれど、明日はいっぱいお祝いしないとね」

 

「あらあら。でしたらごちそうを用意しないとけませんわね」

 

「ゴチになります」

 

 朱乃さんも小猫っちもノリノリだ。

 

 うん、確かにいろいろと不安はあるけど、いいことはきちんと喜ばないとね!

 

「うん! だったらうちでパーティーしよっか。掃除して待ってるからね!」

 

 うん、一杯大変なことが起こりそうだけど―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、今は乗り越えたことを喜ばないとね!

 




今回、ゼノヴィアは悪魔化しませんでした。

事情を知ったうえで信仰心を全く捨てていないジョージがいるので、それに引っ張られた形になります。

それと、ジョージは今後も登場します。一発で終わるようなキャラじゃないです。


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悪戯好きと魔王様と

長らくお待たせいたしました!!

とりあえず、一話投稿します。


 

 エクスカリバー騒動を乗り越えた私達オカルト研究部は、今日も夜から仕事を再開していた。

 

 でもまあ、必ずみんなが仕事が入るってわけじゃないから、暇な時もあるんだよねぇ。

 

「それで部長? 教会の方はなんていってるんです?」

 

 私は腕立て伏せをしながら、部長にそれを聞く。

 

 ジョージは戦争にノリノリだったけど、冷静に考えると教会や天界の上層部は戦争に乗り気なのかどうかのかがすごい気になったんだ。

 

 だって、ジョージは所詮使いっパシリなんだから、上がダメって言ったら動けないはず。

 

 そうだといいなぁ。

 

 ちょっと不安だったけど、すぐに部長もお茶を飲みながら笑みを浮かべた。

 

「その辺については安心していいわ。……堕天使の動向が不明瞭だから、遺憾ながら連絡を取り合いたいって言ってるの」

 

「つまり、戦争を今すぐに起こす気はないということですわ」

 

 朱乃さんも含めた二人の言葉に、私は結構安心した。

 

 よかったよかった。これならとりあえず、覚悟を決める時間ぐらいはありそうだね。

 

「でも、コカビエルみたいな暴走をする可能性はありそうです」

 

 小猫ちゃん、怖いこと言わないで。

 

 あ、でも実際コカビエルも勝手に暴走したもんなぁ。そういうこととかは普通にあり得るから怖いけど、でも大丈夫だと思いたいよ。

 

「そういえば、イリナっちはどうなったんです?」

 

 そういえばすごく気になるよ。

 

 やっぱり昔のお友達だし、死なれたら寝覚めが悪いしなぁ。

 

「さすがにそこまでは教えてくれなかったわ。……まあ、ゼノヴィアもエクスカリバーを奪われて生き残ってたんだし、生きてるんじゃないかしら?」

 

 う~ん。だといいんだけどなぁ。

 

 だけど、このまま戦争が起きないなんて保証はないんだよなぁ。

 

 三大勢力は会談をするとか言ってるけど、それが平穏に終わる保証は全くない。

 

 アザゼルって人はコカビエルを止めるために白龍皇を差し向けたけど、本当に戦争をしないだなんて言えるんだろうか。

 

 っていうか、むしろ悪魔の側からノリノリな人が出てきそうで私は怖いよ。

 

 コカビエルみたいな戦争マンセーとか、絶対一人ぐらい入るだろうしなぁ。

 

 堕天使側も、コカビエルで打ち止めってことはないだろうしなぁ。うんついてない。

 

 ああ、生きてる間に戦争とか経験したくないなぁ。私役に立たない自信あるし。

 

 あ、一万年も生きるからいくらなんでも一度は経験するか! そんなに長く生きてたら絶対経験するよ!!

 

「うわ~ん部長! 戦争なんてしたくないです!!」

 

「そうね。教会や堕天使とはいずれ決着をつける必要があるかもしれないけど、大きな戦は人間すら巻き込むわ。……それは避けたいわね」

 

 部長! 人間のこともきちんと考えてくれてるんですね!

 

 やっぱり部長はいい人だ! 一生ついていきます!!

 

「そういえば、イッセーくん遅いですね」

 

 と、祐斗っちが時計を見ながらつぶやいた。

 

 そういえばイッセー、今日も遅いなぁ。

 

 最近、イッセーには新しいお得意様が付いたんだ。

 

 なんかちょい悪系のおじさんっぽい人らしい。イケメンらしいし、一度会ってみたいとかいう面食い思想が出てきちゃうんだなぁ。

 

 それにしても、その人すっごい金払いがいい人なんだよ。すごく高そうな芸術品とか、宝石とかをパン狩って来いとかいうすごく簡単すぎる以来で払ってくれる。

 

 ぶっちゃけこっちがぼったくりな気もするけど、だけどおかげで最近のイッセーはぼろもうけだよ。

 

 うん、私も負けてられないなぁ。

 

 ちなみに、私は赤龍帝の能力を最大限に生かせる力仕事がメイン。

 

 鎧を身に着ければ重機なんか目じゃないぐらい怪力になるし、空も飛べるから作業がスムーズに進むんだよね。うん、この能力すごく便利。

 

『相棒? 一応これは戦闘用なんだぞ?』

 

 いいじゃんいいじゃん。技術が軍事転用されたり、民間転用されたりするのはお相子だって。

 

 戦争なんかするより、平和的に使った方がみんなうれしくてハッピーだよ。

 

 昔はいっぱい迷惑かけたんだから、少しぐらいは罪滅ぼしした方がいいよ?

 

『そういうものか。まあ、たまにはそういうのも悪くないか』

 

 うんうん。ドライグも平和ってものの良さがわかってきたようだねぇ。お姉ちゃんはうれしいよ。

 

『お前の方が年下だろうが』

 

 あ、そうでした。

 

 でもまあ、イッセーはなかなか依頼が達成できなかったから、平和的に仕事ができるのは良いことだよねー

 

「うわぁあああああん!! 部長ぅううううううう!!!」

 

 と思ったら、なんかすごい勢いでイッセーが駆け込んできたよぉおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お得意様が堕天使総督だったぁ!?」

 

 何それ!? いいの!?

 

 なんか、イッセーのお得意様の正体が堕天使総督のアザゼル総督だったんだって!

 

 そりゃ金払いいいはずだよ。リアス部長に匹敵するレベルの金持ちのはずだもん。

 

 いや、もしかしたら偽物かもしれない。あとで調べてもらった方がいいかな?

 

「うう、部長、これってもしかして仕事の成果にならないですか?」

 

「そうねぇ。どちらかといえば、アザゼルの方が営業妨害してるようなものだわ」

 

 あ、報酬払っても堕天使総督はやっぱりだめなのか。

 

「でもどういうつもりなんです? 確か、会談をするとか言ってたんですよね?」

 

 私はその辺が本当に疑問。

 

 だってさ、考えても見てよ。ずっと敵対していた三大勢力の会談って前代未聞。今までにないすっごいことなんだってことは当然わかる。

 

 そういうわけだから、結構どの勢力もピリピリしてると思うんだ。そりゃもう突っつけば大爆発しそうなぐらい。

 

 そんなときに、なんでそんな人をおちょくるような真似をしてるんだろう。

 

「三大勢力のトップ自ら、先日のコカビエル強襲の当事者である私のイッセーに接触してくるなんて協定違反だわ。もし会談が決裂で終わるようなことになれば……」

 

 ぶ、部長落ち着いて!!

 

「大丈夫です、部長」

 

 おお、祐斗っちが大物オーラを出してる。

 

 これはすごい安心できるよ。さすが聖魔剣は格が違うね。

 

「イッセーくんは、僕が必ず守ります」

 

 ……ん? なんか顔が赤いんだけど?

 

「木場、ちょっときもいぞ」

 

「ひどいよイッセー君!」

 

 うん、ちょっと落ち着こうか。

 

「とにかく気を付けるべきはアザゼルの動向ね。この緊張時にわざわざイッセーに接触してくるなんて、何が目的かしら……?」

 

 そうだよね。おかしいよね。

 

 部長が悩むのも当然だよ。どう考えてもこんな時にすることじゃないもん。

 

 コカビエルはアザゼルは戦争する気がないって言ってたけど、こんな時にイッセーに手を出すなんていろいろツッコミどころが多すぎるよ。

 

 こんな時に、一体なんで接触してきたのかわからない。

 

 私たちは、一緒になって頭をひねった。

 

「アザゼルは昔から、そういう男だよ」

 

 ん? だれ?

 

 振り向いたそこには、グレイフィアさんと一緒に赤い髪をした男性が立っていた。

 

 ってあの人はぁああああ!?

 

 私たちは慌てて跪き、私はイッセーを急いで引っ張る。

 

「い、イッセーかしこまって! その人魔王ルシファーさま!!」

 

「え、ええ!?」

 

 イッセーはその姿に慌ててしまってる。

 

 うん、そういえばイッセーはあったことなかったよね!!

 

「いやいや頭を上げてくれ。今日はプライベートで来てるからね、そんなかしこまらなくてもいいしくつろいでくれて構わないさ」

 

 そ、そう? ならいいんですけど……。

 

 そんな風にみんなが体から力を抜く中、サーゼクス様は一枚のプリントを取り出した。

 

「……な!?」

 

 部長が明らかに狼狽する。

 

 あれは、授業参観のプリントだ。

 

「グレイフィア! あなた、私が黙っていたのに伝えたわね!!」

 

「もちろんです。私はサーゼクス様の女王ですので、当然ご報告させていただきました」

 

「予定を開けるために仕事を片付けるのには苦労したよ!!」

 

 サーゼクス様がVサインまで立てている。

 

 あ、この人シスコンだ。

 

 だけど多分うまい酒は飲めない。私とはたぶん方向性が決定的に違うタイプだから。

 

「もちろん、父上も授業参観には参加するよ」

 

「いえ、少なくともお兄様は魔王なのですから一悪魔を特別視しないでいただきたいのですが……」

 

 うん、それ建前だね。

 

 たぶん、親族がテンション上げて授業を参観するのが恥ずかしいんだ。

 

 私としては親が死んでるからちょっとうらやましい。だけど部長からしてみれば親が授業参観に来ないことがうらやましいんだろう。いい年してるしね。

 

 とはいえ確かに、魔王様が無理に仕事を片付けてまで授業参観に来るのはちょっとテンション上げすぎな気がするんだけど。

 

「いやいや、実はこれも仕事の内なんだ。三大勢力の会談をこの地で行う予定でね。その視察に来たんだよ」

 

 へ?

 

 三大勢力の会談って、ここでやるの!?

 

「そもそも会談が行われることになったのは、この地でコカビエルが戦争再開の狼煙を上げようとしたためです。その場所をあえて会談の場所に選ぶのはそこまで不思議なことではありません。設備も十分なものがそろってますし」

 

 と、グレイフィアさんが補足説明する。

 

 あ、確かに駒王学園はリアス部長が影の支配者だからか設備がむちゃくちゃ整ってる。

 

 それに、確かにそういう意味でなら特別な場所だしね。

 

 でも、だからってこんな時に来るかなぁ、普通。

 

「そういうわけで前の利してきたわけなんだが、さて、この時間帯で宿はとれるのだろうか?」

 

 そういえば、もうかなり遅い時間帯だよ。

 

 さすがにこの辺で採れる宿はないような気がする。

 

「あ、だったら俺んちとかどうですか? なあ、姉ちゃん」

 

 ……うわぁ、すごく緊張感のある来客だよ!!

 




シスコンブラコンにもいろんな種類があります。

サーゼクスはまともなシスコンで、一美はダメな方のブラコン。いろんな認めない。


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魔王様と二天龍と

 

「と、とりあえず夜食持ってきました!!」

 

 うわぁあい緊張する。

 

 とりあえず、夜食ということでそば作って持ってきました。

 

 うん、ラーメンとか定番だけど太るもんね。こういう時は同じ麺類でさらりといけるそばにしよう。

 

 だけど麺はあくまで乾麺だし、これいけるんだろうか。

 

「そばかい? 日本食は美味しいから好きだよ」

 

「ふ、普通に乾麺使ってるからあまり期待しないでくださいね?」

 

 一応予防線張ったけど、大丈夫だろうか?

 

「大丈夫よ、一美」

 

 と、リアス部長が言ってくれる。

 

「貴方の料理はおいしいもの。お兄様もきっと気に入るわ」

 

 部長。気休めありがとうございます。

 

 あ、でも部長も普通に食べてて文句を言ったりはしていないし、もしかしたらいける?

 

「ふむ。これが人間界の庶民が食べる麺類か。冥界でもこういったものが普及してくれると嬉しいね」

 

 おお、以外にも好感触。

 

「冥界の者は人間を下に見る者が多いが、人間の普及技術は目を見張るものがある。それが広まってくれればいいのだが」

 

「サーゼクス様。難しい話は今日のところはやめにしましょう」

 

 なんか難しい話に発展してきてるなぁ。

 

 たしか、冥界って下級と上級の生活のさがかなり激しいんだっけ?

 

 今の話とかを考えると、インスタント食品とかフリーズドライとかはあまりないのかもしれない。大変だな冥界の庶民。

 

 ってことはファーストフードとかもないのかも。それは不便だなぁ。

 

 そんなことをかんがえていると、サーゼクス様はいつの間にかそばを食べ終えていた。

 

「……ご馳走様。ちょうど小腹がすいていたんでね、おかげで助かったよ」

 

「い、いえいえお粗末様です!!」

 

 お、お礼言われたよ。まさかここまで下の人にも優しいとは。

 

 そんなサーゼクスさまだけど、なんか表情が真剣なものになると、真剣な表情をイッセーに向けた。

 

「さて、兵藤一誠くん……いや、仮面ライダーアズライグくん」

 

 ん?

 

 なんで、あえて仮面ライダーとしての名前の方を言うのかな?

 

「は、はい! なんでしょうか?」

 

「一応確認しておきたいことがある。先日リアスが送ってきたドラッグシリングとドラピングの情報のことだ」

 

 ああ、あれのことか。

 

 確かにただの人間が上級悪魔クラスの戦闘能力になるとか、将来的に脅威だよね。

 

 それにイッセーも下級悪魔とかいう次元の戦闘能力じゃないもん。

 

 命がけの実戦でろくに動けないことを差し引いても、赤龍帝の鎧よりも強力だ。そんなものを出せるのがドラッグシリングなら、当然気になることも多いだろう。

 

 だけど、イッセーが嘘をついていると思われるのは心外だぁ。

 

「はい。俺が知ってるのお父さんが残した手紙に書かれていた内容だけです。……良ければコピーしてお渡ししましょうか?」

 

 イッセーはそうちょっと緊張しながら答えるけど、サーゼクスさまは笑顔になると片手を振った。

 

「いや、ご両親の形見を汚すような真似は避けたい。私個人としては一応確認を取っておきたかっただけだから、安心してくれ」

 

 ほっ。なんか心配したけどそれならよかった。

 

 うん、イッセーが怪しまれて冥界から狙われるだなんて、いやだもん。

 

 ちょっとビビったけど安心したよ。

 

「……とはいえ、ライザーくんを圧倒したその能力を危険視している悪魔も多い。できれば、ドラッグシリングのサンプルがほしいところだね」

 

「あ、それなら何本か確保したんで一本差し上げます」

 

 イッセーは、前回使ったフンヌシリングを取り出した。

 

 それをグレイフィアさんが受け取ると、サーゼクス様は満足げにうなづいた。

 

「うん。これがあれば上役も何とかできるだろう。手間をかけさせてしまってすまないね」

 

「……あの、良くわからないんですけど、もしかして俺、警戒されてます?」

 

 イッセーはやっぱり少しは考えられるよね。

 

 昔っから自分なりに推測するときは多い。それに、なんだかんだで名門校の駒王学園に入学だってできてるからね、勉強は高校生平均値よりできるほうなんだよね。

 

 そんなイッセーが考えている通りなら、ちょっとこれ大変かも?

 

 だってイッセーに非があるわけじゃないし、どうしたらいいんだろう。

 

「お兄様。イッセーはいい子ですから、ぜひ寛大な処置をお願いします」

 

 リアス部長も心配してそういう。

 

 だけど、サーゼクス様は朗らかに笑った。

 

「それは安心してくれ。短い間だが兵藤一誠くんの人となりはよくわかった。彼なら強大な力を持っていてもそれを悪用することはないだろう」

 

 お、ってことは大丈夫なのか。

 

 あー、安心した。

 

 だけど、サーゼクス様はすぐに表情を厳しくする。

 

「問題はドラッグシリングそのものだ。もしこれが人間世界で流通するようになれば、間違いなく世界は今より悪い方向に進んでしまう。そして悪魔に渡ったとしても同じことが冥界で起こるだろう」

 

 あ、そっか。そっちか!

 

 そういえば、フンヌドラピングに変身した人も明らかに暴走してた。

 

 バルパーはもとからアレっぽいけど、それでも聖剣を使いこなせたせいでハイになってる。

 

 そんな人が何人も何万人も増えてきたら……っ

 

 もしかして、これってものすごくやばいことなのかも?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな不安なことを言われたせいで、ぶっちゃけ最近あまりいい感じがしない。

 

 もう数日たってサーゼクス様もホテルに泊まって行動してるけど、ちょっと心にしこりが残ってる感じかな。

 

 いや、サーゼクス様がフリーダムすぎるのも心労の元なのかもしれない。

 

 なにせ、ファーストフード店をご満悦するはカラオケショップで熱唱するわと遊びに来てるとしか思えない。しまいには魔王パワーで無理やり突破して神社にお参りする始末。怒ってないよね神様。

 

 そんな毎日を過ごしていると、いつの間にかプール清掃まですることになった。

 

 うん、掃除したてのプールを泳ぐのは楽しかったけど、それでもいろいろと大変だった。

 

 具体的には、小猫ちゃんの泳ぎの特訓に付き合ったり、部長がサンオイルイッセーに塗らせようとしたり。

 

 とどめにリアス部長と朱乃さんがイッセーの取り合いで喧嘩するし、マジ大変。

 

 そこのお二人さん? イッセーは私の弟なんだからサンオイル塗るなら私が一番だよっての!!

 

「んもう! 割とフリーダムなのは受け継いでるよ部長も!!」

 

「ま、まあまあ。確かに命がいくつあっても足りないけど、女の子にべったりされるのは俺としてはぐふふだしさぁ……」

 

 だから向かってくるの!

 

 でも、それはさすがにイッセーにばれるわけにはいかないし、どうしたもんか。

 

 それに、争奪戦何てマジでするってことは、朱乃さんもイッセーに好意を持ってるってことだよ。

 

 うわぁ、いくら悪魔がハーレムOKだからって、君たちすごいことしてるよね。

 

 うう、私も実の姉じゃなかったらなぁ!!

 

 そんなことを考えながら歩いていたら、目の前に私服姿の人がいた。

 

 あれ? ここ一応関係者以外立ち入り禁止のはずなんだけど?

 

 うん、ちょっと聞いてみた方がいいかも。

 

「あの、転校する予定の人とか何かですか?」

 

「……いや、そういうわけじゃない。それはそれおつぃていい学校だけどね」

 

 そんなことを言う男の人だけど、すっごいイケメンだ!!

 

 でもちょっとフランクすぎるなぁ。うん、ここはもうちょっと丁寧なあいさつをしてくれた方がうれしいかな。

 

 でも、転校するわけじゃないんだったら入っちゃだめだから言っとかないと。

 

 そう思って口を開こうとするけど、それより早くイケメンが笑顔を浮かべた。

 

「俺はヴァーリ。白龍皇だよ、赤龍帝」

 

 へ? 白龍皇?

 

 白龍皇って、あの時の!?

 

「……え、あの時の白い奴かよ!!」

 

 イッセーもびっくりするけど、ヴァーリは全然かまってない。

 

 あ、赤龍帝の籠手が勝手に出てきた。ドライグが反応してる?

 

 でもヴァーリは白龍皇の光翼を出してない。つまりそれは制御ができてるってこと。逆に言えば私は全然使いこなせてないってことだ。

 

 なんか、ちょっと悔しい。

 

 っていうか何しに来たんだよもう。まさか決着をつけようとか考えてないよね!?

 

 無理無理無理無理! 実戦だと下級が相手でも全然動けないのに、二天龍対決何て絶対無理!!

 

「そうだな……。例えばここで君に魔術的なものをかけるというのは―」

 

「おい」

 

 ヴァーリが動くより先に、イッセーが即座にドラッグシリングを構える。

 

 そして、それと同時にヴァーリの首に剣の切っ先が突き付けられた。

 

「冗談が過ぎるよ、白龍皇」

 

 うぉおおおおおおおお! 祐斗っちぃいいいいいいいい!!!

 

 今日は別件で一緒にいなかったはずなのに、すごいいいタイミングで来てくれたね!

 

 すごく心強いよ、ありがとう!!

 

 だけど、ヴァーリは全然気にせず余裕の表情だった。

 

「やめておけ、手が震えているじゃないか」

 

「……っ!」

 

 へ? そんなにヤバイ?

 

「実力差がわかるのは優秀な証拠だ、誇るといい。それほどまでに、俺と君たちの間には差があるのさ」

 

 うぅ。確かにコカビエルを倒せなかった私達じゃあそれを一蹴したヴァーリには勝てないけど。

 

 っていうか私は実戦じゃ絶対勝てない、間違いなく動けない間に殺される。

 

 そんな風に自己嫌悪に陥っていると、ヴァーリはこっちを見てきた。

 

「兵藤一美。君は自分が世界で何番目に強いと思う?」

 

 はい? そんなこと考えたこともないけど。

 

「完成した禁手にいたっている君は、上から数えれば三桁に到達するかしないかだ。まあ、実戦で動けないのは致命的だけどね」

 

 そして、さらにその視線はイッセーに向く。

 

「そしてコカビエルとまともに戦えた君もそれぐらいだろう。なかなか興味深いよ」

 

「それがどうしたってんだ」

 

 イッセーがヴァーリをにらみつけるけど、ヴァーリは全然そんなことを気にしない。

 

「君たちはこれからもどんどん強くなる。……いい眷属を持ったね、リアス・グレモリー」

 

 その言葉に振り返ると、そこには朱乃さんと小猫っちを連れてリアス部長が!

 

 おお、少し気が楽になったよ。

 

「白龍皇、何のつもりかしら? あなたが堕天使とつながりを持っている以上、不必要に悪魔と接触するのは―」

 

「二天龍とかかわりを持った者たちは、みなロクな生き方をしてない」

 

 リアス部長の言葉を遮って、ヴァーリはそういった。

 

「君たちは、いったいどうなるのかな?」

 

 そんな言葉に、リアス部長たちは何も言えない。

 

 だけど、だけど!

 

「……見くびらないで、白龍皇」

 

 そんなこと言われて黙っていられれない。

 

「ほう?」

 

「そんなことになるぐらいなら、私は喜んで死んでやる。私のせいでイッセー達を不幸な目になんて、絶対に合わせない」

 

 さっきから黙って聞いてればこの野郎。

 

 マジむかつくんですけど。

 

 しかも、私の言葉を聞いた途端になんか嬉しそうに笑いやがって。ホントに腹立つ。

 

「見事なまでに本気の目だ。これは、少しは面白いかもね」

 

 そういうと、ヴァーリは振り返って歩き去っていく。

 

 むぅ。私、あいつ嫌い!

 



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公開授業と魔王少女と

 

 公開授業がやってきた。

 

 いや、父さんも母さんも死んでる私達には何の意味もないことなんだけどね? それでもやっぱり少し緊張するよ。

 

 だってほかの生徒の家族だけじゃなくて、中東部の生徒まで見に来るんだもん。失敗したら本気で恥ずかしいよ!! マジ緊張する。

 

 まあ、今回は英語だから特に問題ないかな?

 

 予習復習はきちんとしてるし、授業だって真面目に聞いてる。そのうえ悪魔になってるから、ヒアリングと発音に関してはネイティブに近い。まさに完璧な布陣。

 

 それにこれでも成績は良い方なのさ!

 

 イッセーもエロ本餌に勉強させてるし、まあ致命的な失敗はしないよね。

 

 ……そんな風に思ってた時期が、わたしにもありました。

 

 今、私の前には一つの物体が置かれてる。

 

 もちろん、イッセーにも、松田っちにも元浜っちにも、そして数少ないイッセーの女友達である桐生っちにも配られている。

 

 それは、紙粘土だった。

 

 ん? 紙粘土って英語と何か関係あったっけ?

 

 先生、授業が間違ってる気がしまーす。

 

「それでは皆さん。今配った紙粘土で、なにか作ってください。そういう英語もあります」

 

 ないよ!!

 

 あれ? 英語って図画工作と表裏一体の勉強だったっけ?

 

 思わず赤龍帝の鎧を展開しそうなぐらい驚いたよ!!。

 

「……どうしてこうなった」

 

 思わず口に出たよ。

 

 先生、私はこれはやっぱり英語と関係ないと思います。

 

 何をトチ狂って変化球を入れてるんですか? 落ち着いてください先生。

 

 などと思っていたら、いつの間にかイッセー以外はみんな真面目に粘土に取り組んでる。

 

 あれ? おかしいのは私のほう?

 

 し、仕方ないからとりあえず粘土で何か作ろう。

 

 うん、英語の授業なんだし、アルファベットを作るのが一番だよね。

 

 と、いうわけで英語の数だけ分割して、そのうえで文字を作ろう。

 

 お、意外と難しいなこれ。

 

 ……なんて集中していていいのか、私。

 

「おお!」

 

 ん? イッセーのほうでなんか歓声が上がってる。

 

 なんか気になったから、ちょっとのぞき見してみようか。

 

 えっと、いったい何を作って―

 

「……おお!」

 

 なんか作ったイッセーが驚いた。

 

 それぐらいすごく精密に作られた、部長の裸婦像がつくられていた。

 

「なにやってんの? 部長の裸がみんなに見られてるようなもんだよ?」

 

「あ、しまった!!」

 

 イッセー考えなしだね。うかつすぎるよ。

 

 大方なんとなく妄想しながら作ったんだろうね。それでここまでの艦精度なあたり、エロが絡むと本気ですごいことになるよなぁ、イッセー。

 

「私は、生徒の素晴らしい才能を発掘してしまった。やはり、この授業は間違っていなかった!」

 

 先生。確かに裸婦像は芸術ですけど、先輩の裸を人に見せるのは犯罪だと思います。

 

 あとそれ、もう英語じゃなくて芸術。やっぱりこの授業は間違いまくりだと思います。

 

「っていうかなんでイッセーの奴がリアス部長の裸を作れるんだ!?」

 

「おまえ! まさか覗いたのか!! ふざけるな!!」

 

「なるほどぉ。つまり手に取るようにわかるということだから……」

 

 松田っちと元浜っちがなんか変な妄想をし、それを桐生っちが加速させようとしてる。

 

 うん、これはイッセーが殺されるから阻止しないとね。

 

「違う違う。リアス部長が一緒のお風呂に連れ込んではソープまがいなことしてるから、いやでもわかってるだけだって。イッセーはむしろ無理やりされてるぐらいだって」

 

 決してイッセーが無理やり連れ込んでるんじゃないからね。逆逆。

 

「最近は監視もかねて私が一緒に入ってるから、リアス部長もそんなに勝手なことできないから安心してよ」

 

「姉ちゃん! それ全く安心できないから!!」

 

 イッセーが大声で叫ぶけど、なんで?

 

 監視役であるお姉ちゃんがいるから、イッセーは変なことされないってちゃんと言ってるけど?

 

「………うそでしょ? リアス部長、まさか本当に兵藤弟狙い?」

 

「ひょ、兵藤姉も一緒のお風呂? しかも強引に?」

 

「うわぁ、リアス部長って変態が趣味なんだ……」

 

 あれ? なんか空気が変なことに?

 

「姉ちゃん。そんなこと言ったら俺別の意味で殺される」

 

 え、なんでイッセー!

 

「り、リアス先輩と一緒のお風呂だと?」

 

「う、羨まけしからん!」

 

 あれ? 松田っちも元浜っちもマジギレ?

 

「そりゃアンタ、リアス部長やあんたみたいな美少女をお風呂入ってるて知られたら、こいつら嫉妬で切れるでしょう」

 

 桐生っち、そこまで言わなくてもいいじゃない。

 

 っていうか、私姉だよ残念なことに。

 

「姉弟がお風呂に入るなんて当然じゃん」

 

「いや、高校生の常識じゃないから」

 

 あれマジツッコミぃいいいいいい!?

 

「ゆ、許せねえ」

 

「やっぱりマジで洗脳でもしてるんじゃねえか?」

 

「け、警察……そろそろマジで警察を!」

 

 あ、これやばい?

 

 ど、どうしよう。このままだとマジでイッセーが逮捕されるかも。

 

 ……それはそれで当然といえば当然なのがひどい展開だなぁ、マジで。

 

「い、一万だす」

 

 と、そんな時声が響いた。

 

 そこには、一万円札を本当に出して震えているクラスメイトが。

 

「一万円出す。それを俺にくれ」

 

 その瞬間。ここはオークション会場と化した。

 

「大人の力を舐めるなよ! この大成功の記念に十万円!」

 

 先生、何してんですか?

 

 因みに、フィギュアはイッセーが死守しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んでもって昼休み。

 

「あら、良くできてるじゃない」

 

 リアス部長が、心から感心してフィギュアを突っつく。

 

 部長、自分の肌かなんだからもうちょっと恥ずかしがりましょう。

 

 にしてもイッセーも紙粘土で作ったものなんだから、売ればよかったのに。

 

 どうせエロが絡んでるんだから、いくらでも作れそうだけどなぁ。

 

「……いやだぞ。俺の部長だもん」

 

 視線だけで心読むのやめてくんない?

 

「一美先輩はわかりやすい方ですから」

 

 小猫っち。なんで小猫っちまで考えてることよ無のかなぁ。

 

 それはともかく、ホントにすごく良くできてるよなぁこれ。

 

「あらあら、これはちょっとうらやましですわね」

 

 と、朱乃さんも割と興味深そうだ。

 

「私のも作ってくれませんか? もちろん、おさわりありで」

 

 この人もイッセー狙いだよ。

 

 そしてこの人も裸像作られたがってるよ。だからそれやったら人に見られっての。

 

「駄目よ」

 

「嫌よ」

 

 そして部長とにらみ合わないでください。怖いです。

 

 まさか、こんなところで魔力だして戦闘とかしたりしなよね?

 

 いやいやさすがに損なことはないか……と思いたいけど、前科があるから全然安心できないです。

 

「あれ? 部長にイッセー君たちも」

 

 おお、祐斗っち。

 

 ありがとう来てくれて。おかげで空気が弛緩したよ。

 

「あら、どうしたの祐斗?」

 

 リアス部長が首をかしげるけど、祐斗っちは苦笑を浮かべて体育館を指さした。

 

「いえ、体育館で魔法少女がいるという話を聞きまして」

 

 ん? 魔法少女?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女さんじょうなのよん!」

 

 ホントにいたよ。

 

 ホントに魔法少女の格好してる人がいたよ。

 

 そして大きなお友達が、一斉にカメラを光らせてるよ。

 

「あれ、魔法少女ミルキーオルタナティブの格好だよな?」

 

「いや、知らないけど」

 

 なんでイッセーこそそんなの知ってるのさ。

 

「……俺、ミルたんの影響受けすぎかなぁ」

 

 ああ、契約者関係だったのか。

 

 確か筋骨隆々とした漢の娘だっけ? すごいねホント。

 

「はいはい! ここは神聖な学び舎ですので、撮影会にしないでください!」

 

 お、匙くんが止めに来たよ。

 

 さすがは生徒会。仕事が早いね。

 

 うん、ちょっと手伝った方がいいかな?

 

「そこの方も、そんな格好で学校に来ないでください」

 

「え~? だってこれが私の正装だもん」

 

 ………なるほど。

 

「110番っと。……あ、警察ですか? 公開授業にコスプレしてる人が乱入してるんですが、手伝ってくれませんか?」

 

 こういう変人は警察のお仕事だよね。

 

「あ! コスプレってひどい! これがレヴィアたんの本当のお仕事姿なんだからね?」

 

「いや、TPOわきまえてください変人。ちょっと家族の顔が見てみたいっていうか、家族がかわいそうっていうか」

 

 まったく。こんな変な人が親族とか生徒の人も大変だよね。

 

「何をしているのですか、サジ。問題は速やかに解決しなさ―」

 

 と、生徒会長が遂に登場したけどなんか途中で固まってる。

 

 え? なに? どういうこと?

 

「ソーナちゃん、見つけた♪」

 

 と、そこでコスプレ少女が抱き着いた。

 

 あ、よく見るとあのコスプレ少女、生徒会長にそっくりだ。

 

 ん? っていうことは、あの人会長の親族?

 

 と、そんなこと考えているうちに、生徒会長の後ろになぜ書いたサーゼクス様が笑顔を向ける。

 

「セラフォルーか。君も来ていたんだな」

 

「もちのろんなのよん!」

 

 ん? セラフォルー?

 

 セラフォルーって、確か……。

 

「部長? まさかあの人、生徒会長の姉で現レヴィアタンのセラフォルー・レヴィアタンさまだったりします?」

 

「……信じたくないのはわかるけど、そうよ」

 

 うっわぁ。うっわぁ。うわ~うわ~うわ~。

 

 人選間違ってない?

 

「ええええええええええ!?」

 

 うん、イッセーの大声も分かるよ。

 

 だってあれ、コスプレ少女じゃん。

 

 威厳とか威光とか全くないよ。

 

 四大魔王唯一の女性とかいうんだから、もっとこう大人のお姉さんとかイメージするよねぇ。アダルト方向だよねぇ。しいて言うならマダムとかって感じだよねぇ。

 

 だけど、真実なんだよねぇ。

 

「そういえば、セラフォルーさまって「魔法少女レヴィアたん」って番組で魔法少女やってましたよね。……数百歳超えるけど」

 

「一美! しっ!!」

 

 リアス部長に口をふさがれるけど、だけどさあ。

 

 いい年こいて魔法少女マジでやるとか、結構あれな人物だよね。

 

「セラフォルーさま。来るのでしたら一言言ってくれれば一緒に来るところでしたよ」

 

「そういうわけにもいきませんわおじさま♪ ほら、レヴィアたんもプライベートで来てるんですものっ」

 

「まあまあ。君も会談には参加するんだから、別にいいじゃないか」

 

 リアス部長のお父様とお兄様もノリノリだよ。

 

 っていうか妹自慢始めたんだけど落ち着こうか?

 

「姉ちゃん姉ちゃん。なんか、魔王様たちってノリ……軽くね?」

 

「うん。リアス部長からプライベートはたいてい軽いって言われてたけど、ここまでとは思わなかったよ」

 

 ま、まあ、悪魔だってプライベートはあるんだからめいわくかけない範囲で自由にするべきだと思うよ?

 

 思うけど、ひどいなこれ。

 

「コカビエルが会長に危害をくわえようとしていると知ったら即戦争が勃発する。そんなこと言ってたけどまさかこれが理由だとは」

 

 匙くん。そんな衝撃な真実は知りたくもなかったよ。

 

「うふふ、四大魔王様の共通点をご存知ですか?」

 

 朱乃さん、知りたくないです。

 

「四大魔王様はみなプライベートではフリーダム。そして、その反動かその後兄弟や家族はまじめな方が多いのですわ」

 

 それ完璧にとばっちりじゃん!!

 

「うう、もう我慢できません!」

 

「あ、ソーたん待ってぇええええ!!」

 

 あ、生徒会長が我慢できず逃げ出した!!

 

 そして黒歴史を暴露しながら魔王様が追いかけていった。

 

「うむ、シトリー家は今日も平和だ。そうは思わないかい、リーアたん」

 

「たんづけで呼ばないでください」

 

 サーゼクス様、グレモリー家も十分平和ですよ。

 

「イったん、止めた方がいいかなこれ」

 

「とりあえずたんづけやめてくれ。普段からそんな呼び方してないだろ」

 

 いや、のっかった方がいいかと思って。

 

「まあそれはともかく、放しておくべきことが一つあったよ」

 

「何ですか? 私に魔法少女コスプレをしろというのなら―」

 

 リアス部長が割と本気モードで魔力を込め始める。

 

 部長、ここ一前ですから自重してください。

 

「いやいや、真面目な話だよ。……リアスの持つもう一人の僧侶(ビショップ)についてだよ」

 

「っ!?」

 

 ん? これ、本当にまじめな話になってきたぞ?

 




なんだかんだでイッセーとにて感性が一般人よりな一美。


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女装と堕天使総督と

 

 授業参観の次の日。

 

 私たちは、部長に連れてかれて旧校舎の片隅に来てた。

 

 そこは、開かずの教室とも呼ばれている部屋。立ち入り禁止を示すテープがいくつも張られているうえに、呪術的な刻印も刻まれた厳重な封印状態だ。

 

 普通に考えて、こんな部屋を魔王の妹がいる場所に置いたりしないんだけど、それはある事情があるんだよね。

 

「部長、ここに俺と対をなす「僧侶」が?」

 

「ええそうよ。その子の能力が強すぎて、わたしには扱いきれないと判断されて封印されてるの」

 

 うん、ここにはグレモリー眷属最後の一人がいる。

 

 その子は実はものすごい強力な子で、部長でもやばいと判断された。

 

 だけど、最近のライザーとのレーティングゲームやコカビエルの戦いで部長の評価が上がったらしい。

 

 今の部長なら、その僧侶の制御も可能と思われたそうだよ。

 

 まあつまり―

 

「―イッセーが頑張ったから、その子も外に出られるってわけだね」

 

「お、俺のおかげなのか? ライザーの時もコカビエルの時も、姉ちゃんだって頑張ったじゃねえか」

 

「そうね。しいて言うなら二人のおかげかしら」

 

 いえいえ、私はビビリですよ部長。

 

 だから、これは全部イッセーのおかげだと思うんだけどなぁ。

 

「あ、でもその僧侶って閉じ込められてるようなもんですよね。……何して過ごしてるんですか?」

 

「一日中、ずっとここにいるわ。深夜には外にも出歩けるようになってるんだけど、本人がそれを拒否してるの」

 

「ひ、引きこもりですか?」

 

 思わずイッセーがそう漏らすけど、だけどそれも仕方がないといえば仕方がないんだよなぁ。

 

「一応、祐斗っちなみにひどい経験してるから仕方ないといえば仕方ないんだよ。ちょっとは遠慮してあげて」

 

 うん、みんながみんな強いわけじゃないんだよ。

 

 自殺してないだけでも頑張ってるといっていいから、もうちょっとオブラードに包んでくれると嬉しいかな?

 

「ですが、眷属の中では一番の稼ぎ頭なんですよ」

 

「マジですか!? 引きこもっていてどうやって!?」

 

 思わぬ展開に驚きの声が出てくるけど、まあ悪魔の業界も日々進歩してるからねぇ。

 

「最近はネット限定の契約もあるんだよ。彼はそれにおいては若手でも屈指の成果を上げているんだ」

 

 祐斗っちの言う通り、あの子の実力はちょっとシャレにならないからね。

 

 たぶん、潜在能力なら私にも匹敵するんじゃないかな。

 

「依頼主の中には、直接顔を合わせたくないって人もいるの。そういう人相手にとって、あの子はかなり重宝されているのよ」

 

 うん、本当に重宝されてるよね。

 

 部長もちょっぴり誇らしげだ。

 

 さて、そんなこんなでとりあえず扉を開きますよー。

 

 はい、耳ふさぐ。

 

「いやぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

 絹を裂くような悲鳴が一気に響き渡った。

 

 うん、想定してたけどやっぱりこうなったよ。

 

 イッセーは驚いて慌てて耳をふさいでいるけど、小猫っちは嘆息して祐斗っちは苦笑。そんでもってリアス部長と朱乃さんは気にせず部屋の中に入っていく。

 

「ごきげんよう、元気そうでよかったわ」

 

「こ、ここここんな時間に何事何ですか~!」

 

「あらあら、封印が解けたのですよ? もうお外に出られるのですから、私達と一緒に出ましょう?」

 

「い、いやです、いやですぅううううう! お外嫌、他人はいやぁあああああ!!!」

 

「……相変わらず重傷だねぇ」

 

 部長や朱乃さんの声にも嫌がるあの子の声を聴いて、私は後ろを向いて苦笑した。

 

「と、とりあえず部長の達のところまで行こう」

 

 イッセーがそういいながら部屋の中へと入っていき、私達もそれに続く。

 

 そこには、私たちの仲間のギャスパーくんが涙を流しながら震えていた。

 

「し、知らない人が増えてるぅうううううう!?」

 

「き、金髪美少女ぉおおおおお!!!」

 

 ギャスパーくんが悲鳴をあげて、イッセーが歓声をあげる。

 

 うん、初見ならだれもがそう思うよね。

 

 小柄できゃしゃな体格で、おまけに女子制服を着てるから、当然女の子と思うはず。

 

「だが男だ」

 

 私は残酷な真実をイッセーに告げた。

 

 もちろん、イッセーはそれを理解できず数秒ぐらい固まった。

 

「………マジ?」

 

「まじまじ。なんなら生徒名簿見る?」

 

 うん、信じられないのはわかるけど、それが真実なんだよね。

 

 あ、イッセーが崩れ落ちた。

 

「嘘だああああああああ!!!! 俺は、俺と双璧をなす僧侶が美少女だといううれしはずかし妄想をしていたところだったのにぃいいいいい!!!」

 

 そこまでしてたんかい。

 

 いや、イッセーならそれ位の妄想は速攻でできる。個とエロがかかわっているときのイッセーは規格外だからね。

 

「残念ですわねイッセー君。この子は女装趣味があるんですの」

 

 朱乃さん、ドSにならないで。

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

「座布団一枚」

 

 私は小猫ちゃんに座布団を持ってきたい衝動にかられた。

 

 マジでうまい。

 

 そして、リアス部長が震えるギャスパーを愛おしそうになでながら、イッセーに紹介する。

 

「この子の名前はギャスパー・ウラディ。私のもう一人の僧侶よ。もともとは、人間と吸血鬼のハーフなの」

 

 うん、部長の眷属ってレアキャラ多いよね。

 

「いや、そんなことはどうでもいいです。っていうかなんで引きこもりが女装してるんですか! 意味ないでしょ!!」

 

 イッセーが渾身のツッコミを入れる。

 

 うん、言いたいことはわかるけど、それは違うよイッセー。

 

「イッセー。人には二種類いるんだよ? 人に見せるためにおしゃれする人と、自分に見せるためにおしゃれする人」

 

「ぼ、僕は自分が可愛ければそれでいいんですぅ」

 

 うん、信じたくないかもしれないけど、それがおしゃれの本質の一つなんだよね。

 

「っていうか、そもそもこの人誰なんですかぁ?」

 

「紹介するわ、彼は私の新しい僧侶のイッセー。一美の双子の弟よ」

 

「ああ、よろしくな」

 

 幽鬼のような絶望した表情でイッセーがあいさつするけど、ギャスパー君は震えまくりだった。

 

「い、ひ、ひぃいいいいい!」

 

 うん、ギャスパー君は引きこもりというか対人恐怖症だから、初対面の人はかなりきついか。

 

「お願いだから外に出ましょう? もうあなたが閉じこもる必要なんてないのだから」

 

「い、いやですぅうううううう!!! 僕は外になんか出たくないですぅうううう!!! 僕は一生ここにいたいですぅううううう!!!」

 

 うう、わかってたけど重症だ。

 

 でもこれ、イッセーあたりは見ててちょっとイラついてくるかも―

 

「ああもう! 部長が言ってるんだから少しぐらい外に出ろって」

 

 あ、やっぱりちょっと強引に行ってきた。

 

 その瞬間、私以外の時間が硬直した。

 

「……ごめんね、イッセーちょっと強引だったよね」

 

 私は、ギャスパーっちがなにも行動しないうちに抱きしめた。

 

「う、うぅううううう!!! 一美先輩ぃいいいい!!!」

 

 そして数秒後、硬直が解除される。

 

「あ、あれ? 姉ちゃん?」

 

 イッセーが戸惑う中、私はそのでこにデコピンを入れた。

 

「もう! イッセーはもうちょっと冷静にね!」

 

 この子、ギャスパー・ウラディっちは神器を持ってる。

 

 視界に映したものの時間を停止する神器、停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)だ。

 

 問題は、ギャスパーっちは時間停止を全く制御できないってことなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャスパーっちは、はっきり言って私以上のチートといっていい。

 

 なにせ、吸血鬼の中でもハイデイライトウォーカーの名家であるウラディ家の血を引く優秀な吸血鬼。

 

 そこに加えて、人間の血が原因で神滅具に匹敵する能力を持っているといってもいい、停止世界の邪眼を持っている。

 

 間違いなく素人がバトル作品を書くときに主人公にしたくなるような設定だけど、だけど彼の人生は悲惨の一言。

 

 昔のヨーロッパの貴族もびっくりな精神性の吸血鬼の世界において、ハーフはその時点で迫害されるというか扱いが悪くなる。

 

 しかも、停止能力なんてその時点で怖くなる。

 

 制御できないのがさらにきつい。普通なら、怖くて近づけないだろう。

 

 だから、さらに迫害されて追い出された。

 

 そしてヴァンパイアハンターに殺されそうになったところを、リアス部長に助けられて眷属入りって展開らしい。

 

 何ていうか、祐斗っちもそうだけど結構悲惨な境遇が多いよね、グレモリー眷属。

 

 私やイッセーも親と死別してる。しかも冷静に考えるとそれでもましな方だっていうのが特にひどい。

 

 朱乃さんも小猫っちも、それよりも悲惨な目にあっているからなおさらだ。

 

 そんなこんなでギャスパーっちは、心がいろいろとぼろぼろだったりする。

 

 しかも、部長たちも仕事があって大変ということで、とりあえず私たちが面倒見ることに。

 

 うん、まあとりあえず外に連れ出したんだけど……。

 

「ギャーくん。ほら、ニンニク食べて元気出して」

 

「うわぁああああん! 小猫ちゃんがいじめるよぉおおおおお!!!」

 

 小猫っち、なんかキャラが違う……。

 

「お、同い年だからフランクなのか?」

 

「イッセー、止めてきてよ」

 

 吸血鬼にニンニクとか、もうその時点で致命傷でしょうに。

 

 ショック療法とか素人がやってもあれだろうし、とりあえず外の空気に慣らす程度で抑えるつもりだったんだけどなぁ。

 

「っていうか、なんでそんなチートが僧侶の駒一つで転生できたんだ?」

 

 うん、それは良い質問だね。

 

 僧侶の駒は兵士の駒三つ分。どう考えても匙くんより強力そうな神器の持ち主だし、そんな程度で済むわけがない。

 

 だけど、悪魔業界は割と自由というか融通が利くんだよねぇ。

 

変異の駒(ミューテーション・ピース)って言ってね? 時々チートな駒が出てくるんだよ。バグの一種らしいけど面白いから放置されてるんだって」

 

「へぇ」

 

 そんなことを話していると、なんか見知った人が来た。

 

「よお兵藤姉弟。引きこもり眷属が解禁されたっていうから見に来たぜ?」

 

 と、匙君はきょろきょろあたりを見渡して、小猫ちゃんに追いかけられてるギャスパーっちを発見して目を見開いた。

 

「匙、感動してるところ悪いけど、あいつ男だ」

 

「な、なんだそりゃぁああああ!!!」

 

 あ、やっぱり匙くんはイッセーの同類だ。絶叫上げて崩れ落ちたよ。

 

「引きこもりが女装ってなんだそりゃ。誰に見せるんだよ」

 

「あの子は自分を着飾るためにおしゃれするタイプだから」

 

 私がさらりとフォローを入れるけど、やっぱりショックみたいだね。

 

 うん、でもこの調子で慣れていけば、数年ぐらいかかれば落ち着くかも。

 

 そんなことを思ってると、枝が折れる音がした。

 

 振り向くと、そこには着流しとかいう和服をきた、三十路前後の男の人がいた。

 

 あれ? 公開授業はとっくの昔に終わってるって、普通なわかりそうなものなんだけどなぁ。

 

「……あのー、ここ部外者は一応立ち入り禁止なんですけど―」

 

「おお、お前が赤龍帝か」

 

 へ?

 

「姉ちゃん離れろ!! そいつがアザゼルだ!!」

 

 へ? この人がアザゼル?

 

「あ、弟がどうもお世話になりまして」

 

「姉ちゃん落ち着きすぎだって!!」

 

「あ、あ、アザゼルぅうううう!?」

 

 イッセーと匙くんが悲鳴を上げるけど、でも全問題ないよ?

 

「やる気はないから安心していいよ。戦闘する気なら私はすぐにヘタレてるし」

 

「心底腑に落ちました」

 

 うんうん。小猫ちゃんはわかってるねぇ。

 

「そいつの言う通りだって。俺だって下級悪魔をいじめる趣味はねえよ。いいから武器をしまえって」

 

 うん。それはわかってる。

 

 少しでも殺意や戦意があれば、私はビビるからね。

 

 何ていうか、全然敵意どころか脅威すら感じない。これが真の強者かぁ。

 

「っていうかよ、聖魔剣の奴いねえのか? 俺はそいつに会いたくてここに来たんだがな」

 

 祐斗っち?

 

 ああ、そういえばアザゼルは神器の研究をしてるとかだれか言ってたような。やっぱり禁手は興味あるのかな?

 

 でも、さすがにそれは見逃せないよ。

 

「いや、敵勢力になんでそんなの見せるんですか? せめて会談の時にしてくださいよ」

 

「いいじゃねえかよ。俺がヴァーリの奴を送ったおかげで助かったんだろ? 少しぐらい見せてくれよ」

 

「させるわけねえだろ!! 木場に何かするっていうなら、ここでお前を倒す!!」

 

 イッセー、ドラッグシリングとドライバーまで出して警戒しない。

 

「おいおい、コカビエルごときにてこずるような奴が、俺を倒せるとでも思ってんのか? 第一やる気はねえって言ってんだろうが」

 

 アザゼルはうんざりするけど、その視点がふと気のあたりを向いた。

 

 あ、ギャスパーっちが震えながらこっちを見てる。

 

「ひ、ひぃいいいいい! 見ないでぇえええええ!!!」

 

 ギャスパーっちの神器が発動するけど、私とアザゼルには全然聞いてない。

 

 うん、さすがは堕天使の総督……って近寄らないで!! メンタル弱いんだから!!

 

「停止世界の邪眼か? しかも全く制御できてねえな。……制御用の装置位取り付けとけよあぶねえだろ」

 

 そうアザゼルは文句を言うけど、逝ってる意味が分からない。

 

 私たちがきょとんとしてると、アザゼルは何かに気づいてめんどくさそうに頭を書いた。

 

「……ああ、まだそこまで開発出来てねえのかよ。悪魔の神器研究は遅れてんな」

 

 そんな感じに、やれやれとため息をついた。

 

 え? 堕天使は神器を制御できるところまで研究進んでるの?

 

 感心するべきが戦慄するべきかよくわからないけど、すぐにアザゼルは匙くんの方に視線を向ける。

 

 見れば、匙くんは神器を展開しているのか、右手の甲にトカゲみたいなのが展開されていた。

 

「な、なんだよこら、やんのか!?」

 

 匙君チンピラ?

 

「それ、黒い龍脈(アブソーション・ライン)だな? ちょうどいい、それを使って力を吸収すれば、少しはましになるだろ?」

 

「……へ?」

 

 なんか意味が分からない感じで、匙くんはぽかんとする。

 

 それを少しの間眺めてから、アザゼルはあきれ果てた表情を浮かべる。

 

「はあ。大方相手のパワーを吸収するだけとでも思ってたのか? これだから最近の神器保有者は自分の力を追求しようともしない。なあ、そいつは伝説の五大龍王の一角である、黒蛇の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を秘めている。そいつの本質はラインを経由する力の流動だ。やろうと思えば、ラインを切り離して別の者同士につなげることだってできるんだぜ?」

 

「お、俺にそんな力が?」

 

 自分の右手をまじまじと見つめる匙君だけど、それこそ素直に信用していいの?

 

 っていうか、そもそもすごい疑問がある。

 

「そんなのペラペラしゃべっていいの? 一応敵だよ、悪魔は」

 

「こんなもん機密でも何でもねえよ。どうせ、いつか知られることだしな」

 

 そういうと、アザゼルは身をひるがえしてその場から去っていく。

 

 あ、もう帰るんだ。

 

 だと思ったら、一瞬だけ止まってわたしに振り返った。

 

「そうだ赤龍帝。完全に制御したいならお前の血を飲ませろ。ヴァンパイアなら、それ番手っ取り早い。それと―」

 

「なに?」

 

「ヴァーリが迷惑かけたみたいで悪かったな。ま、いくらなんでもアイツもいきなり二天龍対決をしようとは思ってねえから安心しな」

 

「正体隠して俺に接触してきたお前は謝らなねえのかよ?」

 

 イッセーが警戒心を隠さずにそう聞くけど、アザゼルはにやりと笑うだけだった。

 

「そりゃ俺の趣味だ。謝らねえよ」

 



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