一輪の花 (餅味)
しおりを挟む

プロローグ1

お気楽にどうぞお読みください。


D M M O R P G<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』。

体感型のMMOとした絶大な人気を誇った超人気作である。

 

制約が少なく基本的に自由度のある人間種。外見は醜悪だが性能は人間種よりも優遇される亜人種。モンスター能力を持つがかなり色々な面でペナルティを受ける異形種が存在する。

その数は420種類。

職業の数は基本や上級職業等を合わせて880とかなりの数をほこる。

職業は最大で15レベルまでしかなく、限界レベルの100まで成長した場合7つ以上取得することになる。

 

これだけでもかなりの作りこみ要素のある『ユグドラシル』であるが、別販売のクリエイターツールを使えば武器や防具、自身の外見等々の詳細な設定を変化させることができる。

 

この世界で俺は異形種の植物系の最上位種の『妖艶なる呪花(トキシック・アマリリス)』である。

ニックネームは【あろまボットン】

毒々しい紫色の棘の生えた蔓がいくつも絡まり人型を形成している。目の部分には小さな青い炎が灯っている。

背丈は2メーターを超え、手の甲に枯れた緋色の花が特徴的である。

ギルメンには「ミイラっぽい」と言われているが、自分自身は不細工なこの分身を結構気に入っている。

束縛系スキルからデバフ系の職業を主体とし、その他はロールプレイ重視で植物関連のものを手あたり次第習得している。

 

所属しているギルド『妖精の庭(フェアリー・サークル)』では最も新参だった自分も今では最後の1人になってしまった。

 

盛者必衰

 

大作であった『ユグドラシル』にもついに終わりが来たのだ。

 

 

・・・・・・・

 

 

『ユグドラシル』のサービス終了間際

常に日の光が入る小さな庭園。頭上には妖精が飛び回るエフェクト。

ギルド内の個室でユグドラシル最後の時間を過ごしていた。

 

こうしていてもしょうがないと重い腰を上げ、ふとあることに気付く。

 

「.....ギルメン以外のフレっていたっけ?」

 

数少ないフレンド欄を開くとピタリとある名前で止まった。

異形種狩りの際に助けてもらった人物だ。

【モモンガ】

 

「いるかな?」

 

正直あまり連絡とったことがない。

昔、異形種狩りという異形種を標的としたリンチが横行していた頃。

PKされかかった所を助けてくれた恩人がモモンガさんだ。

これ以上迷惑はかけたくなく、一度お礼したっきり連絡を取っていなかった。

それになんだか恥ずかしいし.....

 

「えーい最後くらいビビるな俺!」

 

思い切ってメッセージを飛ばす。

冷や汗が垂れるのではないかと思うほど緊張するが、心の準備ができるよりも早く繋がる。

 

「あっもしもしお久しぶりですねあろまボットンさん」

「あ、あのそのすいません!え、えっとそのえーと・・・今から会いませんか!」

 

何を言ってるんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

テンパりすぎて唐突に気持ち悪いことを言ってしまった。

死にたいと床に頭を激しく叩きつける。

ダメージ0の表記が無駄になり続ける。

 

「・・・こっちは全然大丈夫ですよ。丁度私も話し相手が欲しかったところです。」

「一分で行きます。」

 

メッセージを切り、そそくさと部屋から出る。

すると入り口で待機していたNPCの女エルフがこちらを向き頭を下げている。

ピタリと動きを止めそちらに向き直る。

NPCの設定はほとんどがモレナベさんが行っているはずだ。

確かこの娘は俺の嫁なんだっけ?

名前は『アンゼリカ』でそれからふむh・・・・・

俺の知らない俺とアンゼリカの馴れ初め等や結ばれるまでの恋物語がつらつら書き連ねてある。

読むほどが恥ずかしいなこれ。

そっと画面を閉じ、改めてアンゼリカを見る。

ブロンドのショートヘアに切れ長な淡い藍色瞳、鼻筋が通っており桜色の薄い唇。

引き締まった顔立ちで気の強そうな美人エルフに感じ取れる。

 

「しばらく出かける。自由にしなさい」

 

最後くらいいつもと違った痛いプレイングをするのも悪くないだろう。

それにここにいるNPC達は皆自分のかわいい息子と娘なのだから。

 

 

・・・・・・・

 

 

アンゼリカに背を向けギルドの外へ一気に転移する。

幸いアインズ・ウール・ゴウンは遠くない。

通常であったら10分以上はかかるが惜しげもなく課金アイテムを使い転移し、そのインターバルも課金アイテムで消しグングン進んでいく。

 

「着いたぁ」

「早いですね」

 

モモンガさんが入り口まで迎えに来ており、歓迎してくれた。

 

「立ち話もあれですし中で話しましょう」

 

モモンガさんはそう言うとアイテムボックスから指輪を取り出す。

 

「もう最後ですし入っても問題ないかと」

「あ、ありがとうございます!」

 

アインズ・ウール・ゴウンの中を基本的に自由に転移できるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンをまさか貸していただけるとは思っても見ず、内心あたふたしてまう。

 

案内されたのは広く高い。

白を基調とした壁には金の細工が施され、天井には幻想的なシャンデリア。

それぞれの紋様が描かれた41枚の大きな旗。

 

どれも目を奪われるが特に心動かされるのは、低い階段の頂にある背もたれが異様に高い玉座と背後のギルドサインの施された深紅の巨大な布である。

 

「凄いですね」

 

そんなありきたりなことしか言えなかった。

 

「気に入って貰えて嬉しいです。」

「せっかくなんでささっ玉座に」

「そうですね」

 

モモンガさんが玉座に腰かける姿はかなり様になっている。

 

「んじゃ俺はこうですかね?」

 

膝をつき猿真似で平伏し首を垂れる。

 

「よしてくださいよ。背中がむず痒いですって」

「ですよねー」

 

笑いながら残りの時間を2人で謳歌する。

NPCのアルベドのビッチ設定をモモンガを愛しているに変えたりなんかして恥ずかしがりながらも最後の時を楽しんでいた。

 

23:59:41

 

「今日はありがとうございました」

「こっちこそ感謝してますよ」

 

23:59:48

 

「もっと早く会いに来れば良かったです。」

「そうですね」

 

23:59:53

 

「ではさよならですあろまボットンさん」

「ありがとうございましたモモンガさん!」

 

00:00:00

 

00:00:01

 

00:00:02

 

「あれ?」

 

頬を吹き抜ける風と宝石が散りばめられたかのような美しい星空。

 

「ここは・・・どこだ?」

 

先ほどまで隣にいたモモンガやナザリックのNPC達の姿はない。

眼前に広がるのは見たこともない緑豊かな自然の光景。

 

「腕が...ログイン延期?でもゲーム内で風なんて感じないよな?触覚もしっかりしている・・・」

 

ゴスッ

 

「うっ」

 

自分で自分の顔を殴打する。

痛みが夢ではないと確信する。

 

「だとしたらモモンガさんもどこかに?」

 

この世界に来ていると信じ探そう。

 

俺は最初の一歩を踏み出した。

 

 





作者はソシャゲ大好き課金厨のダメ人間ですが、これからよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ2 ~ナザリック側~

この話だけ読むと主人公俺TUEEE系オリ主になってる気がするw
安心してください、ちゃんと適切なタグを付けております。


『ユグドラシル』

長きにわたり続いたこのゲームもついに終わりを迎えようとしていた。

ヘロヘロさんも帰ってしまいどうしたものかと思案していたとき、通知音が鳴り顔を上げる。

一件のメッセージが送られてきた。

 

【あろまボットン】

 

この名前には憶えがある。

確か異形種狩りと呼ばれる理不尽なPKから助けた人物だ。

その時はレベルが50にも満たない初心者であったが、約1年後にはユグドラシルではほとんどの者が認知するほどの有名人になった。

単身で世界級(ワールド)アイテムを3つも入手したと思われる化け物。

『平和の象徴』と『夢想天輪』を所持していたはず、残念ながら残りの1つは知りえていない。

 

なぜ世界級(ワールド)アイテムの情報がユグドラシル内で認知されているのには、とある事件が原因でもある。

発端は異形種狩りと呼ばれるPKであろまボットンさんが狙われたときである。

一対六という不利な状況、助かるには援軍が来るか上手く敵の穴を見つけて逃げ切る位だろうか。

しかしここでチートだなんだと電子掲示板が炎上する事件が発生する。

 

世界級(ワールド)アイテムである『平和の象徴』は真っ白なトーチである。使用者を中心に一定の範囲に入るプレイヤーの戦闘行動の制限をするものである。ただし使用者と世界級(ワールド)アイテム所持者には適応されない。

名前にそぐわないえぐい能力を持つが範囲はそこまで広くないという話らしい。

 

飛行(フライ)すら使えないため、走って逃げるしかないのだが・・・・・

スキルも魔法も攻撃すらできない状態で逃げることもできないとは想像するにかなり絶望的だろう。

だがその後およそ100名による超集団リンチでは当然対策を練られたが、ここでもう一つの世界級(ワールド)である『夢想天輪』が露見する。

光輪が空高く展開され、対象の表示を一定時間操作することができるものである。

範囲300メートル内にいる者をランダムに選択する。

最大捕捉人数は100を超えているとされ、野次馬連中にも被害があったとか。

隣にいる者があろまボットンに見えたり、自身のステータスの誤表示に極めつけはログアウト画面の消失まで。

そんなもの対策を立てていなければどうしようもない、それに加え集まった集団は異形種狩りを娯楽としている雑多な寄せ集めである。

当然パニックに陥り、疑心暗鬼の醜い争いで自滅したという。

 

この話も尾ひれがついたとされ信憑性はかなり薄いとされているとか。

 

しかしこれが本当だとすればいかに情報の大事さが分かる事件でもあったが、何よりこの事件によ世界級(ワールド)アイテムの危険意識と価値は確実に上がったのは間違いない。

 

ただギルドに入った際に2つはギルドに寄付するという変人としても知られていたりする。

その後世界級(ワールド)アイテムの攻撃を受けるが無効化されたことで第三の存在が噂された。

おそらく最もPKに襲われた回数の多いプレイヤーである。

 

 

そんな彼がこんな時に何の用だろうか?

とりあえず待たせるのも失礼だと思い、すぐにメッセージに答える。

話だけ聞くと緊張しているのが手に取るのが分かる。

 

どうやら最後にもう一度会いたいとの事で、こちらも人恋しかったところだったので快く了承した。

 

(来るの早いな)

 

あろまボットンが所属するギルドからナザリックまでは遠くはないが近くもないだろうに。

一体ここまでの距離でいくつ課金アイテムがすっ飛んだろうか。

まあこれも最後と思えば別に気にすることではないのだろう。

 

 

・・・・・・・

 

 

話してみればあろまボットンさんとは気が合うようだ。

こんなにも気が合うならもっと早く話せばよかったのかもしれない。

 

ナザリックに部外者を入れたなんてしたら皆怒るかな?

誰もが到達できなかった第十階層に足を踏み入れたあろまボットンさんは子供のようにはしゃいでいる。

もしかしたら彼は42番目のメンバーだったかもしれないな。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。

気づいたらもうあまり時間は残ってないとは...俺もはしゃいでたのかな?

彼に感謝しよう最後の時を共に過ごし寂しさを埋めてくれたことに。

 

さぁ明日は四時起きだ。

ログアウトしたなら早く寝ないとな。

 

 

目を閉じ強制ログアウトの時を待つが何の変化もない。

ゆっくりと目を開けると景色は変わっていない。

だが明確に変わったことが・・・・・

 

「!?」

「どうかなさいましたかモモンガ様?」

 

玉座の脇に控えていたNPCのアルベドや階段下の端に並ぶセバスにプレアデス達が不安顔でこちらを見上げている。

サーバーの延期?ならNPC達が口を動かし表情を変える説明は?新しいユグドラシル?これでも説明がつかない。

そして何より重要なのは・・・・・

 

「あろまボットンさんはどこだ!!」

「申し訳ありませんモモンガ様。私共の浅知恵ではあろまボットンが一瞬で消えてしまった原因は全く分かりません。無知な私共をお許しください」

 

この場にいたはずのあろまボットンさんは消えた?ログアウトできたのか?

ここで考えていても埒が明かない。

とにかく今はNPC達が意思を持ち、この世界で何らかの異常事態が起きていることは間違いない。

ならばアインズ・ウール・ゴウンのギルド長として振る舞わなければなるまい。

 

「あろまボットンさんは私の友人だ。もっと敬え」

「も、申し訳ありませんモモンガ様」

「よい許す」

 

まずは状況の整理だ。

アルベド達以外のNPC達も友好的か調べ、周辺地理を確認し変化の有無も調査する必要が・・・・・

自分でも驚くほど迅速に指示を出し行動を開始している。

この体の影響か?

骨だけと化した手のひらを見つめ一度大きく開いたり閉じてみる。

実感は本物だ。アルベドからいい匂いも・・・おほん

嗅覚もあるしこれは本当に異世界に来てしまったのかもしれない。

 

 

・・・・・・・

 

 

第六階層・闘技場に第四と第八を除く階層守護者を集め各階層の状況報告を済ませ、セバスに周辺地理の探索をさせあたり一帯が毒の沼地から草原へと変わっていたとのこと。

正直頭を抱えて俯きたいところだが、ぐっと腹に力を込め胸を張る。

アルベドとデミウルゴスに連携しより強固な情報共有システムの構築やマーレにナザリックの隠蔽、各階層の警戒レベルを上げさせる。

この他にも細かく問題が散りばめられているのだが、これはおいおい解決するとしてだ。

目先の目標はどうする?

 

「ふむ...」

「いかがなさいましたかモモンガ様?」

 

デミウルゴスは即座に対応できるといった面持ちで跪いたまま顔を上げている。

 

「すまない杞憂であった。これからも信頼しているぞお前たち、今後とも忠義に励め」

「「「「「「「はっ」」」」」」」

 

大きく頭を下げ拝謁の姿勢をとるアルベド達の前から転移する。

周囲に気配がないのを確かめため息をこぼす。

 

「あいつら・・・何あの高評価・・・」

 

絶対全力(マジ)だ・・・

どうしよう・・・あろまボットンさんの事もあるけどタブラさんに顔向けできない。

 

 

・・・・・・・

 

 

モモンガが消えてしばらく誰も立ち上がろうとしなかったが、アルベトがゆっくりと立ち上がる。

白いドレスについた土を気にしているようには見えない。

アルベドに続くように守護者たちが立ち上がり始める。

 

「す、凄かったねお姉ちゃん」

「押しつぶされるかと思ったよ流石はモモンガ様だね」

「絶対ナル支配者デアル至高ノ御身ノ力、コレホドトハ・・・」

「このナザリックを収める至高の41人の頂点に立つお方でいらっしゃいます。」

 

守護者たちが口々にモモンガを称賛する中、ただ一人立ち上がらないシャルティア。

デミウルゴスがどうかしましたか?と尋ねと、その表情は高揚しており何やら息も荒い。

アルベドがいち早く感づき目を細める。

 

「このビッチが」

「んなっ!?あれほどのご褒美を頂いて濡れん方が頭おかしいわ!!」

 

先ほどまでの空気が一変し、酷く冒涜的な女の闘いが勃発している。

そんな二人をわき目にデミウルゴスが話を切り出す。

 

「それにしても最後のモモンガ様が杞憂とおっしゃたことは一体なんだったのか」

「ソレハ私モ気ニナッテイタ」

「これからのことで何か思惑があるのかな?」

「うーんなんだろう?」

 

頭を捻るがこれだという答えが出ない中、先ほどまで口論していたアルベドが口を挟む。

 

「それはおそらくあろまボットン様のことね」

「あろまボットン様?誰だいそれは?」

「モモンガ様のご友人よ。ナザリックに異常が出るまで第十階層でモモンガ様と談笑していらしたわ」

「なんと!?第十階層にお招きする程のお方がいらしていたとは...」

 

けれどもとアルベドが言葉を続ける。

 

「消えてしまったの。アイテムやスキルを使ったようには見えなかったから、モモンガ様はおそらくあろまボットン様のことでご心配だったと思われるわ。」

「なるほど。だがそのあろまボットン様は怪しくないかね?消息を絶つタイミングができすぎている。」

「至高ノ御身ノゴ友人デアルゾ、ソレハ不敬ナ考エデハナイカ?」

 

横から失礼します。と今まで口を開かず端に控えていたセバスが口を開く。

 

「あろまボットン様は確かにナザリックの者ではありませんが、それは無いと思われます」

「どうしてそう言い切れるんだいセバス」

「モモンガ様と談笑するお姿は至高の御方々によく似ていらっしゃった。そしてご友人でありながらモモンガ様に深い敬意と崇拝を感じられました。」

「それは君がそう感じただけではないかね?」

「いえ、あろまボットン様はプレアデスの更に後ろへと並び、玉座のモモンガ様に跪いてらっしゃいました。」

「私も見ていたわ。確かに私たちと同等かそれ以上の敬意と崇拝を感じられたわ。」

 

アルベドの言葉にデミウルゴスはふむと一度頷くと

 

「2人を信じよう。それにこちらにあろまボットン様も転移させられてしまっている可能性があるならお一人のはず、モモンガ様がご心配になるのも分かる。」

「ぼ、僕たちに余計な心配事を増やさないように気配りしてくださったのかな」

「でも捜索に私たちをお使いにならないってことはそこまで心配してないんじゃない?」

「それはおそらく未知の世界でのリスクとあろまボットン様への信頼でしょうね」

 

その場にいる者が一心に羨ましいと思ってしまう。

自分たちもモモンガ様の信頼を獲得しよりナザリックに貢献したいと強く心が高鳴っている。

 

「さあ行動を開始しましょう!」

 

アルベドがパチンと手を叩くと、その場にいる者たちが一斉に行動を開始し始めた。

 




速筆じゃなくて申し訳ありません。
心配性で書いたり消したり繰り返してるせいで、粗末なプロットまでいじりだして前に進めません。orz
ソシャゲのイベント周回に逃げないよう精進します。

そして!初のお気に入り登録誠にありがとうございます!テンション上がりすぎて変な声が出てしまいましたw

これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初コンタクト

ふとユグドラシル全盛期での出来事を思い出す。

 

ネットですら上手く人と接することが出来ず、ソロで敵モンスタープレイなるある一部のフィールドに居座り効率の悪いレベリング等をしていた迷走の時期があった。

 

そこはレア度が低い花が咲くだけの一本の木を取り囲むようび広がる小さな花畑。

 

一部の店で低位安価で購入すらできるその花の為に、無駄に長い森を抜けてまで来るプレイヤーはごくまれであった。

 

自分は植物というものに非常に憧れがある。

データとして見たことはあるが実際に咲く花など見たことがないのだ。

まだユグドラシルを始めて間もないころ、モモンガさんやたっち・みーさんに助けられた森を抜けた先にあったこの小さな花畑に心惹かれてしまった。

決して美しくはない、探せばユグドラシルには美しい花畑はごまんと存在する。

 

だがやることもない人付き合いも出来ない、俺はある奇行をおよそ半年近く続けることになる。

 

花畑の近くにポップするモンスターを狩り、近づくプレイヤーを徹底的に遠ざけた。

幸い高レベルのプレイヤーは見向きもしない場所の為に特段苦労することはなかった。

 

そしてその奇行を運営が哀れんだのか世界級(ワールド)アイテム『平和の象徴』を入手することになったのだ。

 

当時価値を知らない俺はラッキー程度の感想しかもっていなかった。

 

折角だからと使用すると・・・・・

いつの間にか接近していたプレイヤーが非常に焦っている。

どこからか変な異形種プレイヤーがいると噂を聞きつけたPKプレイヤー6人が困惑し何かGMへと文句を垂らしていた。

 

明らかに自分より格上だと瞬時に判断し、隙だらけの為にありったけのデバフをかけてからの全力逃走。

あれだけ装備が良ければ花畑に手は出さないだろうと言い訳し、即ログアウトしたんだっけかな。

いやーあの時は焦った焦った。

 

 

他にも『夢想天輪』なんてアイテムがいつの間にかアイテムボックスに入っており、何やら大勢の人間種が集まってお祭り状態だったのでなんだかムカついてそのアイテムを使用。

更なる阿鼻叫喚のお祭りになったのは驚いたものだ。

 

 

それからどこで恨みを買ったのかよくPKに襲われる頻度が増えていた為、思い切ってギルド『妖精の庭(フェアリー・サークル)』に加入したのだ。

なぜか皆に名前を知られていたのは謎でしかない。

結果は言わずと知れた逆効果の様に増えていったが、ギルメンに対PK用の戦闘・戦略を教わり死亡回数はかなり減少した。

 

 

後にギルメンであるモレナベさんからは説明文はちゃんと読めと滅茶苦茶説教されたりしたのも懐かしい思い出だ。

 

 

とまあ思い出話に現実逃避をしている場合ではないのだが・・・・・

 

 

眩く照りつける太陽の日差しに目を細める。

空は青く晴れ渡り雲一つのない快晴である。

 

「どうしてこなった・・・・・」

 

昼間だというのに木々に覆われた大きな森の中で木の根にポツリともたれ掛かっている。

あろまボットンこと田中学(たなかまなぶ)の心は真っ暗な曇天である。

街に入ろうとすればモンスターだと攻撃され、森に逃げ込むも度々通りかかる行商や冒険者には怖がられる。

寄ってくるので一応話せるのがトロールやナーガだが、敵意むき出しで話し合いの余地はなさそうだ。

 

「モモンガさんを探すにも情報がない.....幸いこの体は水と太陽の光さえあれば十分生きていける。フルフェイスの鎧でも着るかな?でも幻術使えないから兜と取ったら即バレるしなー」

 

仰向けで大の字で寝ころび、思考を止め青空を黙って見つめる。

このままではめちゃくちゃ強い冒険者に討伐されてしまうかもしれない。

 

「あぁ日光浴最高」

 

折角の異世界転移もこれでは泣くしかない。

 

「明日から頑張ろ」

 

頭の中は既にふて寝することしかなった。

 

 

・・・・・・・

 

 

「なぁ本当に居ると思うか?」

 

皮鎧を纏った金髪の痩せ気味の男が気だるげに言葉を漏らす。

 

「まあまあモンスター狩りのついでみたいなものですし」

「ニニャの言う通り、やばかったら逃げればいい」

「そうであるな」

 

この中では幼い中性的な少年の魔法詠唱者(マジック・キャスター)にリーダーである金髪碧眼の戦士、ぼさぼさに生えた髭を蓄えた体格のガッチリとした森祭司(ドルイド)が街を出た道中、今回の依頼についてやくだらない雑談を交えながら歩いている。

 

 

彼らはエ・ランテルを拠点とする冒険者ギルド『漆黒の剣』。

今回の依頼は近隣の森で度々目撃情報の上がっている新種のモンスター調査であった。

出くわした商人はその恐ろしさに一目散に逃げだしたらしい。

 

「人型の全身植物のモンスターなんて、聞いたことも見たことも無いですよね?」

「案外蔓に絡まったオーガだったりしてな」

「あまり軽視しすぎると痛い目を見るぞルクルット」

「へいへい」

 

一向が目的地周辺に近づく頃には、会話は続けているものの警戒態勢を常にとっている。

いつどこで襲われるか分からない状況下で、チームの目であり耳である野伏(レンジャー)のルクルットが違和感に気付く。

 

「おいみんな止まれ」

 

静かに手で制止し注意深く辺り一帯を確認し始める。

 

「敵か?」

「違う、その逆だモンスターどころか生き物の気配が遠ざかってる」

「森が騒めき始めたのである」

 

四人の警戒心は一気に跳ね上がる。

本当にこれは自分たちが思ったよりも凶悪な存在かも知れない。

 

ニニャを囲むように陣を組む。

気配は感じ取れないというのに、本能が警報を鳴らし続けている。

ルクルットだけではなく、リーダーのぺテルや森祭司(ドルイド)のダインに魔法詠唱者(マジック・キャスター)のニニャも同様であった。

 

高まる緊張感の中静寂が支配する空間の中。

額には汗が滲み、武器を握りなおす。

 

 

「あっえーとどうもー」

 

 

静寂を打ち破ったのは呑気な一声。

四人が一斉に声の方へと顔を向けると、目を見開き息をのむ。

全身を茨に覆われ人型ではあるが二メートルを超える巨体、目の部分には小さな蒼炎が揺れている。

左の手の甲に枯れた緋色の花が生えている。

四人からしたら恐怖の化け物である。

ゴブリンやオーガなど比ではないと直感する。

 

ペテルが逃げるぞと声をかけるよりも早く化け物は声を上げる。

 

「待って!お願い逃げないで!」

 

どこからか取り出した白旗を右手に持ち両手を上げている。

それは誰が見ても降参のポーズであった。

表情の変化が無い為に4人からしたら態度と要石のギャップで頭が混乱する。

 

(あれ?ピクリとも動かないぞ、パッシブスキル切ったよな?毒にも麻痺にも呪われたりしてないよね?やっぱ外国の人と話すと緊張するなぁ。・・・・・どうしようこの空気)

 

転移して間もないころ周りの魔物やら何やらバタバタと倒れていったときは、何事かとテンパってしまったものだ。スキルを最低レベルにしてもほんの一部を除いて立つことすらできなかったのには驚いてしまったものだ。

一応奇襲対策はしてあるけどそれ以外のパッシブスキルや装備は変更していたりする。

 

あろまボットンの心中は漆黒の剣の面々に負けず劣らずの大荒れ具合であった。

 

「の、望みはなんだ?」

 

ペテルの声は震え上ずっているがチームのリーダーとして勇気を振り絞っていた。

少なくとも人と会話ができる知性を感じ、それに望みを託すしかないのだ。

 

「実は人を・・・」

 

(待てよ?俺の姿はユグドラシルのアバターだ、だとするならモモンガさんもオーバーロードの可能性が高いんじゃないか?危ない危ないようやく来たチャンスを逃すところだったぜ)

 

「じゃなかったモモンガさんというオーバーロードを探してるんだが、知り合いに心当たりはないだろうか?」

「オーバーロード?それは種族なのか?」

「え?あーこっちにはいないのかな?まぁアンデッドの一種だ」

 

ペテルが3人へと顔を向けると3人とも首を横に振る。

 

「悪いがアンデッドにもモモンガサンという名前にも憶えがない。」

「そうかそう簡単にはいかないよな。これは気持ちだ受け取ってくれ。」

 

あろまボットンがアイテムボックスから4つのアイテムを取り出す。

当然ペテルたちは何もなかったはずの空間からアイテムが出てくることに衝撃が走る。

 

「こ、これはどこから...!?」

 

ニニャが思わず疑問を口にしてしまい、数舜おいてハッとし口を手で覆う。

ここはあまり話を長引かせず、いち早くギルドに報告し対策を取るのが先決のはずだ。

 

「ん?アイテムボックスの事?ならごめん説明できないな」

「そ、そうですか」

 

ニニャはそんな大事な事教えてくれるわけないでしょうが!と内心で自分を叱咤する。

 

「んじゃリーダー君?にはこの盾をどうぞ。そこの金髪チャラ男君にはこの首飾りを、小さな君にはこのローブがいいかな。最後に森祭司(ドルイド)のあなたにはこの木彫り人形をどうぞ。」

「「「「これは!?」」」」

 

漆黒の剣の面々は呪いのアイテムだろうが受け取りを拒否すれば怒りを買い、皆殺しに会う危険性を下げる為渋々受け取るしかなかった。

しかし渡されて初めて気づく。

これらは一流と呼ばれる冒険者たちでもごく一部が装備しているような凄まじいマジックアイテムだ。

 

「本当に頂いても?」

「ああ構わないよ。ここに来て初めてちゃんと話せた人達ですからね。」

 

笑っているのか口角の部分の蔦が持ち上がっている様にも見える。

 

「お名前を窺っても?」

「んー・・・・・妖精さんで」

「「「「・・・・・・」」」」

 

空気が凍りつくとは正にこのことである。

 

 

「わ、我々は漆黒の剣というチームで私がリーダーのペテルで、右からルクルット、ニニャ、ダインです。では我々は用があるのでこの辺で。」

「そ、そうですよね!引き留めてしまって申し訳ない!」

 

漆黒の剣は微妙な空気の中警戒を怠ることなくその場を後にした。

 

「ふぅ行ってしまったか・・・・・日光浴でもしよ」

 

恥ずかしさを誤魔化す、ただのふて寝である。

 

「明日頑張ろう.....」

 

今日も同じセリフで幕を下ろすのであったとさ。

 

 

 

 




私の倍以上書いてる作者様方はホント凄いと思います。
精進します。ではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大きな友達

お気に入り登録数が40名を超えててビックリしました!
圧倒的感謝!嬉しすぎて泣きそうです。


太陽の眩しさに薄らと目を開く、起き上がり腕を伸ばし欠伸を一つ。

見た目も相まって完全にミイラの目覚めである。

つい先日漸くこの世界の住人とコンタクトに成功した。

結果はアレだったが、あろまボットンは名乗った偽名を後悔している位であった。

他のプレイヤーが存在した場合、なぜか自分の名を聞いた大体の人間種のプレイヤーは気が狂ったように襲い掛かってくる傾向があるのだ。けしからん。

だからと言ってギルド名の頭からポンっと取っただけの『妖精』は流石にアホだった。

でもでもこれならモモンガさんも気づくんじゃね?結果オーライ結果オーライと自分を納得させ重い腰を上げる。

 

「それにしても冒険者かぁ」

 

冒険は良い。

未知の探求の末に誰も見たことがない美しい自然を発見出来たら。

男の子として心惹かれる職業である。

 

「あの四人組どれも遺産級(レガシー)の装備ですら無いように見えたし、聖遺物級(レリック)のものをお礼として上げたけど大丈夫だろうか?その辺に捨てられてないよね?やっぱこの世界で自分がどのくらいの強さなのか確かめるのは大切だよなぁ。あぁ街行きたくねぇ。」

 

漆黒の剣の面々に渡した『拒絶の聖華盾』は白を基調とした茨の様に刺々しい針が表面に無数に生えた小盾で、一定範囲の敵を押しのけ強制的に後ろへ下げる事が出来る。インターバルはそこそこ短い。あまりにもレベル差が開くと距離が短く変化してしまうのがネック。

『千里の瞳』は探知領域の拡大と一定周囲の気配遮断の看破する。ちなみに看破の方は専門職のプレイヤーには意味をなさない模様。金色の首飾りで形はロケットの様な形をしており、装備すると血走った目がぎょろぎょろ動く。

『霧隠れのローブ』は見た目はボロイ穴だらけの色褪せた淡い青一色のローブだが、認識阻害とMP増加の特性を持っていて聖遺物級(レリック)アイテムの中では優秀な方である。ただし見た目がダサい。

『木彫りの霊獣』はグリフォンをデザインとした手の平サイズのもので、使用すると長時間レベル30~50のグリフォンやベヒーモス等を呼び出すことが出来る。このアイテムは使用しても消費されず、一応装備しているとHPを僅かにだが断続的に回復する特性も持つ。ただしインターバルは長くゲームでは丸三日以上はかかるとされている。

 

正直レベル上がったら使わないようなしょうもないアイテムだし、逆に迷惑だったのかもしれないと溜め息1つ。

 

 

「嫌々言っててもしゃーない!俺は街に行くぞ!」

 

 

鉄製突撃騎士甲冑(アイアンポーン)という西洋風のシンプルな甲冑の上にこげ茶色のマントを羽織りフードを深くかぶる。

これは通称見掛け倒しドッキリ装備で頑丈そうに見えて防御率は紙である。

ガチャのネタ枠装備の為に、よくわからないギミックがある。

変声機能に暗闇で光ったりするなどネタとしても微妙で、こんなのあったんだ程度の認知度の糞アイテムだ。

ちなみに初ガチャがこれである。ある意味思い出の品である。

物を捨てられない系の自分はとりあえず残してそのまま忘れる人間である。

幸い滅茶苦茶軽いのでアイテムボックスは圧迫していない。

 

「貧弱すぎて後ろからグサリなんてされたらヤバいな」

 

一応緊急用の対策を取っておこう。

一撃だけ完全に無効化してくれる使い捨ての指輪とインターバルなしで装備を変更できるアイスバーの木の棒的なもの等。

 

「さーて街へー・・・・・あっ街はどっちに行けばいいんだっけ?」

 

まぁまっすぐ進めば森は抜けれるだろう。うんきっと大丈夫。

 

 

 

 

うんとね迷いましたねこれは間違いなく。

 

「なんかやけに薄暗い森に来てしまったな」

 

どうしたものか困り果てていると

 

「ん?」

 

何か巨体が近づく気配に身構える。

 

「この森をざわつかせるものはそなただな?大人しく巣に戻るか拙者に無残にも破れ苦汁を舐めながら息絶えるか選ぶがいい!」

「パラライズ・バインド」

「あふぅ!う、動け、な、い、で、ご、ざ、るぅ」

 

声のする方へと無数の黄色く淀んだ大量の茨が対象に向けて一気に伸びていく。

見事捕まえられたのか先ほどの威勢もない。

追加効果で麻痺状態と確率でだが一定時間の認識阻害が付くスキルで、大体のユグドラシルプレイヤーには耐性や対策付きであまり効果を発揮しなかったものだ。

耐性持ちでなかったのは助かったとホッと胸をなでおろし、ゆっくりと近づいていく。

 

「ま、負け、たで、ご、ざ、るぅ」

 

自分はいけないことをしてしまった気分だ。

巨大なジャンガリアンハムスターの生け捕りがシュールすぎて思考停止してしまう。

 

 

だんだんとかわいそうに思えてきた為、スキルを解除して麻痺状態を癒してあげる。

スリップダメージ入るやつ使わなくて良かった。

 

「恐れ入ったでござる!へんてこな見てくれに騙されてしまいましたぞ!」

「見た目のインパクトはどう見ても負けてるんだけどね」

「そうでござるか?それにしてもあなたのようなお強い御仁がいかようでこの森へ?」

 

頭をコテンコテンと首をかしげる姿は愛くるしさ全開である。

 

「実は近くのえらんてるとかいう街に行こうとしたら道に迷ってね」

「それはそれは方向音痴でござるなぁ」

 

カワイイは正義。

お前がトロールやゴブリンだったら、首を絞めてそのまま空中ブランコの刑だぞ♪

おっと謎の人格が目覚めかけた危ない危ない。

 

「街への方向を知ってるのか?」

「知らないでござる」

「パラライズ・バインド」

「ひぎぃ!お、お助、けええ」

 

涙目カワイイ、よし免罪。

 

「うう酷いでござる」

「おかしい実力差を見せつけてるはずが、逆に舐められてる?それともこのハムスターマゾか?」

「マゾ?それは拙者の種族でござるか!?それがし番がおらず子孫を残せず生物として失格なのでござる。」

「ぐふぁっ!」

「何事でござるか!?」

 

強烈な精神攻撃に打ちのめされ、膝が折れ倒れかける体を腕を伸ばし何とか支える。

こいつなんてこと言いやがるんだ......

 

「いやなんでもない・・・・・なんでもないんだ。マゾはたぶん違うかな・・・・・」

「ええ?本当でござるかぁ?」

「ホントしばき倒してやろうか」

 

このままでは埒が明かない上に、心をズタボロにされかねない。

土を払いよいしょと立ち上がる。

 

「まあなんだ知らないなら仕方ない。邪魔したな。」

「拙者も連れてって言って欲しいでござる!殿の強さに惚れたでござる!」

「絶対嫌だ」

「そんなぁぁ」

 

涙目で縋り付いてくる巨大なジャンガリアンハムスターを引っぺがす。

 

「もっといい主を探せ」

「御仁よりも?そんな方が本当にいるでござるかぁ?」

「あぁ。自分一人の物差しで計ったものなんて所詮井の中の蛙だよ、ということで探せばきっとゴロゴロいるってたぶん」

 

今だ碌にこの世界を見て回っていないが、そんなもんだろうと適当に納得できそうな言葉を選ぶ。

当のハムスターはうむうむと相槌を打っている。

 

「分かったでござる!だがここで会ったのも何かの縁、何か繋がりが欲しいでござるな」

「それもそうだな。ならこれやるよ」

「む?これは?」

「もし死にそうなったら助けてくれる便利アイテム」

 

黄金と漆黒の連なった腕輪サイズのリングを投げ渡した。

 

「ありがたいでござる!友の証として大事にするでござる!」

 

器用に尻尾にリングを嵌め、愛くるしい顔は実に嬉しそうである。

勝手に友達認定されているが、悪い気はしない。

この世界に来て初めてフランクに話せた奴だし、ちょっと奮発してしまった。

 

「達者でな」

「いずれまたでござる!」

 

手を大きく振り見送ってくれる大きな友達に手を振り、ゆっくりとまた歩き出す。

 

気づけば日が暮れ始め森の中は暗くなり始めていた。

 

「さーて街はどこかなー」

 

呑気な足取りで明後日の方向へ進み始める。

 

ちなみにエ・ランテルは逆方向であるのは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回モモンガさん側の視点で話を進めるか、今作のヒロイン()出す話をやるか悩み中。

前書きでも書きましたが、お気に入り登録並びに評価して下さった方々にお礼申し上げます。

これからも精進します!!

追記:誤字報告ありがとうございます。見落とし等がまだありましたらご指摘して頂けらばありがたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モモンガ冒険の始まりと

お気に入り登録70を超え、評価のバーに色もつき読者の皆様にこんなに評価していただける事に深く感謝します。


異世界にギルドごと転移してしまう異常事態に対し、ナザリックの主としてNPC達の厚すぎる期待に応える為日夜知恵を絞り出すモモンガ。

 

こちらに来ている可能性があるアインズ・ウール・ゴウンのメンバー達、そして玉座の間から忽然と消えてしまったあろまボットンをいち早く見つけることが現在の第一目標である。

 

この間捕らえた陽光聖典とかいうスレイン法国の特殊部隊からは情報が得られず、流石にことはそう簡単にいかないものだと肩を落とした。

 

冒険者となってこの世界の情報を得る方が得策だとアルベドを説得をするのに苦労した。

確かにアルベドが反対するのも分かる。ナザリックを犯す未知の脅威の可能性が例え0.1%であろうと仲間が残した愛すべきギルドとNPC達の為、細心の注意を払うのは当然である。

だがデミウルゴスがアルベドに何か耳打ちするとすぐに納得し首を縦に振ったのだ

デミウルゴスになんと言ったか聞けばすぐに答えは分かるが、アンデットであるはずが寒気を感じそっとしておくことに決めたのだ。

このナザリックに居続けるとどこでボロが出るか分からないのも大きな理由の1つである。

 

私室のいい匂いのするベットに横になりゴロゴロ。

思えばあろまボットンのことを正直よく知らない。

かなりロールプレイに偏ったステータス構成で、基本戦闘スタイルは確かサポート担当だったはず。

ギルドではアタッカーとしても役目を果たしていたと聞いたこともある。

その際にはタンクばりのタゲ集中を受けたとか。

その程度のことだけだ。

 

絶対に見つけてまだ語り合いたいことを語り合って、友人としてこの世界を共に冒険したいものだ。

例え遠い地にいようが必ず見つけ出す!と心の中で再び決意する。

 

 

 

・・・・・・

 

 

プレアデスのナーベラル・ガンマを連れ、『モモン』と『ナーベ』としてエ・ランテルの冒険者組合に登録し、昨夜宿でひと悶着あったりもしたが今のところ特に問題なく進んでいる。

ナーベラル・ガンマの言葉遣いは自然と治るだろう。

 

今は冒険者組合に足を運び、依頼の紙が張り出された掲示板の前に立っている。

やはり読めない。

文字もいずれ覚えなければならないな。

 

 

「今日もやっぱ見つからなかったな」

「もうこの辺りにいないんじゃね?」

 

背後から会話の声が近づいてくる。

 

「どこに行ったのであろうな」

()()さんもうこの近くにいないのかな?」

「それは俺も何となく思っていたことだ」

 

なにやら四人組のチームが気になることを言っていたな。

()()か。

ほう、レアモンスター的な奴もちゃんといるんだな。

アウラ辺りに捕まえさせてみるかな。

 

盗み聞きをやめ、適当な依頼の紙を取る。

ええいままよ!

今はそんな事より金だ金。

 

 

・・・・・・

 

 

ンフィーレア・バレアレという少年からの名指しの依頼でトブの大森林に薬草採取の護衛として足を運んでいた。

名の知れた薬師の孫で、生まれながらの異能(タレント)というこの世界の能力でありとあらゆるマジックアイテムの使用が可能というもので、ギルド武器なども扱える可能性が高い為かなり危険性が高い。

 

道中の話を聞いているとこの辺りに森の賢王と呼ばれる魔物が存在するらしい。

それは大変興味があるとアウラにこちらに誘導するようにメッセージを飛ばし、ンフィーレアにナーベを付け避難させる。

 

さあ掛かって来い!

 

上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)で作り出した二振りの大剣を抜き構えを取る。

近づく足音に期待を膨らませ、剣をぎゅっと握りこむ。

 

金属に匹敵する高度の尻尾の一撃が飛び込んでくる。

難なく剣でその一撃を防いで見せる。

 

「ほう!それがしの一撃を見事防ぐとはやるでござるな!」

 

森の賢王は未だ姿が見えず、声だけが森に響いている。

あの尻尾面倒だな。

 

「姿を見せたらどうだ?恥ずかしがり屋さんかな?」

「ならばこの姿に恐怖し、後悔するがよい!」

 

勢い良く表れた巨体の姿を見て、体が硬直してしまう。

 

「ふふふ、恐怖で声も出まい!」

「これは・・・・・」

 

その巨体は元いた世界に存在したジャンガリアンハムスターにサイズ以外の容姿が酷似していた。

当然やる気もなくなるわけで、とっとと終わらせようとスキルを開放する。

 

「絶望のオーラレベル1」

「む?何かしたでござるか?」

「!?」

 

レベルで言えば30かそこらの相手に見えるが、特殊な耐性で持っているのか?

まさか効かないとは・・・・・ん?

 

森の賢王の尻尾の付け根の部分に目が入る。

 

「お前!それをどこで手に入れた!」

「生死をかけた戦いの真っ最中に何でござるか?この装飾はそれがしの友から貰った友の証でござる!まさか!?これを盗もうだという考えならば、ここから生きて帰すわけにはいかないでござるよ!」

 

そのアイテムは期間限定のガチャであまりの確率の低さに数多くのプレイヤーが大爆死を起こして、ネットでかなり炎上したものだ。

こいつが付けている『天理と冥刻』はカルマ値が極善・極悪の敵からの状態異常を完全無効とし、インターバルはあるが自動蘇生能力が付いたぶっ壊れアイテムだ。

興奮した頭をアンデッドの特性で沈静化されていく。

 

「今戦いはどうでもいい、そいつは紫色の棘が生えた蔓がいくつも絡まった人型の異形種ではなかったか?」

「いや変てこな鎧を着たただの方向音痴でござるが?」

「そいつの名は?」

「そういえば知らないでござるな」

「はぁ!?・・・・・ふぅ、まあ仕方ない。この辺りの人員をもう少し増やしてみるか」

 

他のプレイヤーの可能性もあるから、慎重に事を進めなくてはならないな。

 

「話は終わったでござるか?ならばいざ尋常に!」

 

ああそういえばこいつをとっと倒してしまうか、まだ聞き出したい情報もあるしな。

練習台にはちょうどいい手頃でもあるしな。

 

 

激闘というほどではないが何とか勝利を収めると、「殿ー殿ー」と縋り付くこの名前負けしているハムスターが必死に仕えたいと懇願してきた。

森の賢王を下したというのは、早く名を上げるのには役立つはずだと渋々許す。

 

ただこいつにまたがって凱旋とか恥ずかしすぎて、何度沈静化したことか。

 

と、とにかく成果を上げられたので良しとするか。

 

 

・・・・・・

 

とある満月の夜のこと。

 

闇にまぎれ疾走する一つの影。

目的地はエ・ランテルという三重の城壁に取り囲まれた城塞都市と呼ばれるリ・エスティーゼ王国の都市である。

 

彼女の名はクレマンティーヌ。

スレイン法国の最強の特殊部隊である漆黒聖典で元・第九席次という経歴を持つ。

そんな彼女の形相は酷く焦燥し、何度も後ろを振り返る。

 

「なんだあいつ!なんだあいつ!なんだあいつ!」

 

背後から近づいてくる化け物に激しい恐怖を覚えてしまっている。

得物も持っていかれまともに戦うすべはなく。

今はただ逃げることしかできない事に苛立ちを覚える。

 

「糞が!なんでこんな目に!」

 

原因はただ一つ。

 

夜更けに森の中を歩く人影を見つけ、ご無沙汰であった殺人衝動にかられ背後から一刺し。

刺した瞬間の違和感と抜けない得物。

月が雲から顔をのぞかせ、月明りに照らされた全身植物の化け物。

悲鳴を上げそうになるが、直感で後ろへ大きく飛びのく。

 

何か発しているがモンスターだ、真面目に聞く必要なない。

 

そこから武技を使い殴る蹴るの激しい猛攻を仕掛けるが、植物の様に見えて硬度が滅茶苦茶に高い。

こちらの装備と体が見る見る破損し、一方は無抵抗にこちらへ何もしてこない。

 

完全に舐められていたのだ。

 

 

そこからは長い夜の逃走劇の始まりである。

 

自身はこの世界では強い方だという自信がある。

それがこの有様だ、屈辱と恐怖の感情が混ざり合い自分が今どんな顔をしているか見当もつかない。

 

「このクレマンティーヌ様が舐められてるだと!?畜生が!」

 

今すぐ殺してやりたいという殺意の念を浮かべる反面、体は動いてくれない。

間違いなく人生最速の走度を出ている自信がある。

 

心なしか奴の気配も薄くなっている気がする。

しばらくして気配は消え、漸く諦めたと足を止めてホッと安堵の域を漏らす。

 

散々な目に遭ったとふてくされながら歩き始めると・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「やーっと見つけた」

 

その時確かにクレマンティーヌの心の臓は止まってしまった。

 

 




残業終わりに書いているので意味不明な部分がありましたら、申し訳ないです。
次話もよろしくお願いします。
おやすみなさい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

君の名前は?

お気に入り登録100名以上の方にして頂き感謝の極み。


一日歩き通してもエ・ランテルへは到達できず、すっかり日も暮れ辺りは真っ暗な森の中をトボトボと歩くあろまボットン。

幸いこの体になってからは疲労はない。

 

「せめて森は抜けると思ったのになぁ.....」

 

歩いても歩いても木・木・魔物・木・魔物の無限ループにげんなりしていた。

 

「空でも飛べたら良かったんだけど、飛行(フライ)使えないしな」

 

空飛ぶ植物とかキモ過ぎワロリンチョと習得せず、アイテムも所持していない。

ロールプレイ重視し過ぎたせいで、ギルド内で見事に最弱だったしなぁ。

どうしても気持ちが暗くなると、ギルドの仲間たちの事を思い出してしまう。

 

妖精の庭(フェアリー・サークル)

俺が入ったときにギルド長をしていた獅子架華(シシカカ)さんが引退してからだろうか、歯が抜けるように一人また一人と抜けていった。

俺がギルド長になるころには全盛期の五分の一以下まで数を減らしていた。

仲の良かったモレナベさんやパンプ・ザ・ヘッドが引退すると聞いた時は、よく泣いていた事しか覚えてない。

 

「あぁ、モモンガさんに会いたいなぁ」

 

空に浮かぶまん丸の月を仰ぎ見る。

こんな世界を皆で見て回って、お宝見つけて朝までバカ騒ぎしたいものだ。

 

一人でいる事なんてとっくに慣れ切ってるもんだと思ってたんだけどなぁ。

 

寂しげな背中に寄りかかる様にして、誰かが抱き着いてくる。

女性の甘い香りとチクリとする感触に心臓が跳ね上がる。・・・・・俺って心臓あるんだっけ?

 

「え!?」「なっ!?」

 

振り返れば全く身に覚えがない女性がこちらの顔を見ると、同時に後ろへ大きく跳躍する。

もしかして恋人か誰かと勘違いしたの?

あぁぁ!どうしよう涙目でポカポカ殴ってくるし、何言っても泣き止まないしでお手上げである。

美しい花には棘がある(シャープネス・ガード)OFFにしといて良かったぁ。

こんな美人さんがオーガみたいにミンチになる事はないのだ、マジでここで生きていくのにパッシブスキル系が邪魔でしかないな。

どうしよう馬鹿みたいに覚えてるんだけど......

 

「あぁ!逃げないで!」

 

走り出した女性を呼びかけるがわき目も振らずに走り去ってしまう。

こんな夜更けに女性一人で出歩いては危ない。

ん?

いつ魔物に襲われてしまうか分からないのに、危険を冒してまで何でこんな森に?

・・・・・はっ!?

この間の漆黒の剣の容姿は如何にもな中世西洋風だった。

つまり駆け落ちだな!

あんなに綺麗な人だったんだ、きっとどこかの令嬢様なのだろう。

危険を冒し漸く会えたと思って飛び込んだのに、人違いだったら恥ずかしいよな。

あのポコポコもきっとちょっとわがままな令嬢の一面なのかもしれないな。人型でも異形種に飛び込むなんて、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのによっぽど会いたかったんだな。

 

「そうと決まれば保護しないと!」

 

うお!あのご令嬢思ったより足早いな。きっとおてんば娘なんだろうな。

近づく魔物どもを丁寧に一掃しながら、徐々に距離を詰めていく。

 

「やーっと見つけた、ぞ?ってえぇ!?」

 

声をかけた途端に女性は白目をむいて倒れてしまった。

鉄製突撃騎士甲冑(アイアンポーン)は付けてから話かけたのだが・・・・・・

言い訳してる場合じゃない、幸い気絶してるだけだし目が覚めて明るくなるまでは守らないとな。

 

いくつかのアイテムを使って魔法や遠距離武器を通さない防壁や生命体を遠ざける膜を張り、アンデッド除けの聖花を周りに生やす。

 

目の届く範囲で距離を保ち、木の根元に腰かける。

起きたときまた驚かせては申し訳ないからな。

それにしてもこの森広いのにどこで約束してるんだろうな?

 

ん?

 

何名かの足音が聞こえる。

 

約束の人ではなさそうだな。

大方令嬢を連れ戻すために派遣された兵士とかその辺だろう。

 

「見つけたぞ!ん?貴様何者だ?」

「ただの通りすがりだけど、この女性に何か用か?」

「貴様には関係ない!おい連れてけ!」

 

リーダー格の男が俺を見て鼻で笑い見下している。

俺はこの手の人種を腐る程見てきた。

あぁ今は立場もしがらみもない。

 

「隊長!謎の魔法で近づけません!」

「そんな薄っぺらい障壁どうにかしないか!それでも風花聖典のはしくれか!」

「おい」

「なんだまだ消えていなかったのか、神の慈悲だこの場を潔く去りすべて忘れれば何もしないとも」

 

ゆっくりと立ち上がり、自分より背の低いリーダー格の男を見下ろす。

 

「10秒待つ。出来れば人は相手にしたくないんだ、そっちが諦めて消えてくれ」

「は?どうやら命が惜しくないようだな!」

 

男は鞘から剣を引き抜き、余裕綽々の表情には自分が一切負けることを想定していない。

 

「なんだ?構えないのか?腰の剣は飾りか?」

「あぁ飾りだよ。」

「くくくっ世界の広さを教えてやる!」

 

男は遊んでいるのか、令嬢よりも遅いとは滑稽でしかないな。

 

「時間だな。ふぅ狂騒の誘い(パニックガーデン)

 

ピンク色の甘い香風が吹き抜けると、男どもはピタリと動きを止める。

数舜置いて男たちは下着1枚になり、完全に目がラリった状態になってしまう。

 

「うぇうぇ!熱い厚い暑い!ヒャッホー!!」「「「「「ヒーーャッホー!!」」」」」

 

狂騒の誘い(パニックガーデン)は混乱と狂化に加えて幻覚効果も付与されるスキル。

ユグドラシルのときは一定時間の経過で治るものだが、この世界での効果時間は知らない。

それに加えて意外にも効くことが多い為、結構愛用していたものでかなり強化しているのでそんじょそこらの神官じゃ失敗する確率は高い。

 

「蝶々だぁ!!アハハハハハh!」「「「「「アヒャヒャヒャッヒャッ!!」」」」」

 

森の中へと散り散りに走り出す男たちを見届け、再び腰を下ろす。

 

「まさかパンツ1枚になって走り出すとは、まっいいか」

 

見上げた月夜は今日も今日とて美しい。

パンイチ男共の雄たけびが聞こえなければ、なお美しいだろうなぁ。

 

 

・・・・・

 

 

鳥のさえずりと差し込む朝日に薄らと目を開け、体をゆっくりと起き上がらせる。

私が寝ていた場所には柔らかな草が敷き詰めてあり、身体もいつも以上に軽く感じる。

確か昨日化け物のに追っかけられて・・・・・・

 

「!?」

 

周囲を見渡すが、あの化け物の姿は見えない。

見逃がされたのか?

なぜ自分が生きているか分からず、混乱した頭の中を整理していると茂みが揺れる。

 

音のする方へと向き臨戦態勢に入る。

 

「あっ起きた!今朝ご飯作るからねー」

 

変てこな甲冑を付けた長身の男の手には、いくつかの木の実や山菜に大きな葉を器用に桶にして水まで持って来ていた。

 

「お前みたいな変な野郎に知り合いはいないと思うんだけどなー?」

「えーとそうだね、昨日初めて会ったね」

「昨日?」

 

こんな変てこな奴なら覚えてると思うんだけどなー

 

「昨日は迷惑もかけたし、それにその、あれがこうでですね」

「は?」

「その、あの、あなたみたいな、その、ですね」

「話進まないから早く喋ってくんない?」

「は、はい」

 

男はごくりと喉を鳴らし、大きく深呼吸している。

見た感じ弱そうだし殺そうかなーなんて考え始めていると

 

「あなたみたいなき、綺麗な人見たことないものですみません緊張してます。」

「!?」

 

おいおいとんだ変態君かなこいつは

 

「昨日驚かせてしまったみたいでごめんなさい!」

「ん?」

 

驚かせた?

 

「罪滅ぼしというわけではないですけど、あなたの追手は全員追い払いました。」

 

風花聖典を?

 

「反応を見るに人から見る俺の姿は凄く恐ろしいようで、怖がらせて泣かせてごめんなさい。」

 

ちょっと待てちょっと待てちょっと待て!

嫌な予感が的中しそうな気がしてならない。

 

「出来れば逃げないでください、取って食ったりしませんから」

 

男が兜を取ると見覚えのある顔をのぞかせる。

棘の生えた蔦が何重にも連なり、目の部分は小さくだが力強く揺れる青い炎が灯っている。

昨夜の化け物がそこにいた。

 

「俺は『妖艶なる呪花(トキシック・アマリリス)』という植物の異形種で、水と日光があれば大体生きていけるので人は食べません。というか人間好きですし」

 

冷静に考えればこのトブの大森林で無防備に寝っ転がって生きて入れるわけがない。

こいつが私を守っただと?

 

「目的は?」

「目的?経緯はさっき話したよね?」

 

こいつ実はガチで無害なのか?

ってことは私のミスかー。

 

「風花聖典追っ払ってくれたって本当?」

「ええ、その辺でダンスしてますよ」

「ダンス?なにそれどういうこと?」

「あまり女性が見るものじゃないよ。ほらそこに風花聖典の皆が置いてった鎧や衣服やらがあるでしょ」

 

指さす方向には、鎧とやら衣服やらの装備一式が無造作に置かれていた。

 

「確かにあいつらが着てたものっぽいね」

 

ふむ、こいつ使えそうだな。

化け物だけど妙に義理堅い所あるっぽいし。

 

「私がどれだけ怖くてムカついたか分かるかなー?」

「も、もしかしてまだ収まってないとか?」

「当たり前じゃーん、正直今すぐ、おっとっと何でもなーい」

 

こいつ右往左往して本当に人間みたい。ま、ありえないけど。

 

「私のお仕事手伝ってくれるよね?」

「え?逃避行をともにするお相手は?」

「ん?今のところあんたでしょ」

 

微妙にかみ合ってない気がするけど・・・・・まっいいや。

 

「あっそうだ!名前は?」

「名前?」

「無いの?自分の名前?」

「ああ、田中・・・・じゃなくて!あろまボットンです!」

「ふーん、私クレマンティーヌよろしくねー」

 

あろまボットンはこちらに手を伸ばしてくる。

ここまで来て殺されることはないはずと思いながらも少しビビってる。

ムカつくから伸ばしてきた手を捻り潰そうとするが、ビクともしない為早急に諦める。

 

「ところで」

「な、なに?」

 

まさか潰そうとしたのバレた?

冷や汗が止まらない。

 

「朝ごはん食べようか?」

「あっはい」

 

平和な朝食のひと時は異様に長く感じたのは気のせいではない。

 

 

 

 

 




あろまボットン仲間()が増えたぞ!ドンドンパフパフ
漸くエ・ランテルへ行けるぞぉ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真夜中訪問

投稿遅くなって申し訳ありません。
10月になれば仕事も落ち着くはずなので、どうかお待ちいただければ幸いです。


太陽は沈み、人々が寝静まった静かな夜。

 

「つ、着いた!」

 

「やっと着いた......」

 

喜びで万歳する者と片や表情は疲れ切っている。

 

「どうしたのクレマンティーヌちゃん?そんなに疲れて?」

 

「私これ怒って怒っていいよね?ねえ!?」

 

道中に勝手にあっち行ったこっち行ったする相方を呼び止めては連れ戻し、道に出たはずなのに一緒に巻き込まれて道に迷うはで散々な目にあっていた。

 

「なんで三日もあれば余裕の距離を一週間以上もかかったのは誰のせいだと思ってるの!?」

 

「?」

 

「ぶっ飛ばせるならぶっ飛ばしたいな!もう!こんなキャラ私のキャラじゃないっつーの!」

 

鎧をゲシゲシと何度も蹴りを入れると、見てくれだけの鎧は徐々にへこんでいく。

 

「ご、ごめんってば!」

 

「ふん!」

 

この迷い道中である程度は打ち解けあえていた。

 

「拗ねないでくれよ、クレマンティーヌちゃん」

 

「拗ねてない!」

 

思いっきりそっぽ向くクレマンティーヌにお手上げ状態。

 

「これで機嫌直してください」

 

「・・・・・」

 

鎧のどこから出したか分からないが一輪の薄桃色の綺麗な花を出す。

 

「はぁ.....やっぱあろまと話してると気が抜けるわ」

 

溜め息を吐きながらも花を受け取る。

二人の力量は天と地の差がある。

服従されるのではなく、対等な関係を築けているのは主にこの男のおかげである。

この世界で間違いなく絶対的な強者であるはずのこいつはとにかく緩い。

強者のオーラはあるが、それは外面であって内面は真逆と言っていいだろう。

行動を共にし会話を続けるうちに、ただの人間と話している気分になる。

 

「ほらあろま行くよ!」

 

「はいはい今行きますよー」

 

何本目か分からないすぐに枯れてしまう花で許してしまう自分はちょろいのだろうか?とうんざり顔で花をしまう。

いや、あまり駄々をこねてキレられて何されるか分からないからだと、納得させ足早に歩きだした。

 

しばらく並んで歩く二人の影は、近寄ることも離れることもない。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

念願の街へ漸く到着できたのもクレマンティーヌちゃんのおかげあってだ。

 

クレマンティーヌちゃんは自称大悪人だと供述している。

俺のことは殺そうとしたし、国宝クラスのお宝を盗んだとか。

 

何を馬鹿な!

 

こんなにひ弱な女性がそんなこと出来るものか。

ユグドラシルのレベルで言ったら50にも達していないように思える。

 

自分は英雄の領域に踏み込んだめちゃつよの戦士だと胸を張って言う姿は愛くるしさを感じる。

 

ただ、クレマンティーヌちゃんも使えるこの世界の武技という技術には舌を巻いた。

スキルでもなければ魔法でもない。つまりユグドラシルにはない力だ。

 

教えてと言ったら絶対に嫌と拒否られてしまったが、まさか一子相伝のとかそういうのじゃないよね?

 

そんな彼女とのここまでの旅はかなり充実していた。

あまり自分について話せる内容は無かったから、仲間の活躍を吟遊詩人の如く語りまくった。

その内クレマンティーヌちゃんも自分の事を話し始めた。

ならば自分も隠さずに自分は元々は人間だと言おうとするが、いつもタイミング悪く寝てしまったりするのだ。

結局伝えられず街まで来てしまったが、言う機会ならまだあるだろう。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

そんでもって今現在

 

 

「人に会いに来たのになぜに墓地?もしかして墓参り?なんか涙出てきたよ俺」

 

「私がそんな良い子ちゃんに見える?」

 

「うん」

 

「即答すんなアホ!」

 

これまでの経歴はほとんど話したのに、何の疑いもなく首を縦に振りやがる。

 

「クレマンティーヌちゃんが生粋の人殺しで国宝盗む大罪人って話?」

 

「なんでそこまで知ってて、さっきの答えに行きつくんだよ!」

 

「根は優しい子だもんね」

 

「馬鹿にしてんのかなぁ」

 

「んー?」

 

これである。

そんな清い心など私には微塵もないというのに、根拠のない事ばかり追いかけている。

やっぱりきっとこいつは人間に近い何かなのだろう。

 

「やっぱめんどくさくなってきたなー」

 

「どうしたの急に?」

 

「誰かさんのせいで毒気抜かれまくってんだよ」

 

二人は既に目的地である霊廟の前に立っていた。

 

「とりあえず玄関前で立ってるのも迷惑だし、中に入っちゃおうか。」

 

「ご近所さんの家に来たんじゃないっつーの」

 

お邪魔しまーすと呑気に入っていくあろまボットンを見て、いちいち気にしてたら体がもたんと黙って後に続く。

そこそこと石の台座の下にある彫刻の1つを指さす。

 

「了解了解」

 

彫刻を押し込むと台座は動き出し、地下へと続く階段が現れる。

プルプルと震えだすあろまボットンに何事かと、二歩距離を置く。

 

「(なんか凄いダンジョン感あるな)これは興奮する」

 

「こういうとこは気が合うよねぇ」

 

死臭漂う地下の階段を見て興奮するとか、変態かよと笑ってしまう。

 

薄暗い階段を下りていくと毛根が死滅し顔は死人のように青ざめた男が待っていた。

 

「ん?隣の男は誰だクレマンティーヌ」

 

「こんちはーカジッちゃん。紹介するねー、こいつはあたしの相棒やってるあろまだよ」

 

「は?」

 

カジッちゃんと呼ばれる男の本名はカジット・デイル・バダンテールは信じられないものを見る目で、あろまボットンを上から下までみる。

裏の住人とは思えない変てこな装備を付け、強者特有の覇気は微塵も感じない。

何より信じられないのは、この女が他の誰かつるんで行動していることだ。

 

「えーとあろまボットンです。もしかしてクレマンティーヌちゃんの叔父さん?まさかお父さん!?」

 

「ふざけたことを抜かすでない!こんなイカれた女と血縁者なものか!それに私はまだ三十代だ!」

 

「えー!?・・・・・ご愁傷さまです。」

 

「貴様どこを見て言っているのだ!」

 

あろまボットンがカジッちゃんの不毛地帯に手を合わせる。

カジッちゃんは視線で気づき、今すぐにでも殺してしまおう殺気が漏れるとクレマンティーヌが遮る。

 

「まあ、こんなんでも私よりも強いからね。手は出さないでね。」

 

飛び火して自分まで飛び火してはかなわないという行動だったが、カジッちゃんはまるでクレマンティーヌがあろまボットンを守っているように見えてしまう。

もう一度あろまボットンへと視線を戻す。

鎧で表情は見えないが動揺などは全く感じ取れない。

 

「それは真か?」

 

「え?そりゃそうでしょ」

 

「ほう」

 

言葉に虚偽の色は見えない。

興味本位であろまボットンの背後の地中からアンデッドをけしかける。

 

「ば、馬鹿!」

 

珍しくクレマンティーヌの表情が焦燥している。

アンデットは地上に出た瞬間、どこからともなく生えた茨に締め上げられ木っ端微塵に崩れる。

 

「んな!?」

 

「はぁ」

 

あろまボットンは後ろを振り返ることなく対処し、カジッちゃんから視線を外すことはない。

瞬き程の一瞬の出来事に、迎撃されたことすら反応する事が出来ず固まってしまう。

 

「お主、魔法詠唱者(マジックキャスター)か!?それもかなりの使い手と見た。その鎧は相手を油断させるフェイクか!」

 

「いや違うけど」

 

「なんだと!?」

 

魔法でなければ地中に何か飼いならしているとでもいうのか!?ならば生者に反応するアンデットたちが気づかないわけがない!など頭の中で堂々巡りしてしまう。

 

「カジッちゃん、あろまには常識通じないんだって。考えるだけ疲れるだけだと思うよ?」

 

「酷いなー。これでも常識ある方だと思うよ俺は。」

 

「常識ある奴は、あそこまで道迷わないからね?」

 

カジッちゃんは冷や汗を流し、抜けそうな腰を気合で保つ。

力が分からないのはなんらかのマジックアイテムによるもんかもしれんと勝手に納得する。

 

「そ、それで何の用だ?」

 

「最初は色々手伝おうと思ったんだけどね、ここに来るまでに飽きたしね」

 

「何を言っているのだ?」

 

「もう勝手にするって言ってるの、こっちと組んだ方が楽しそうだしねぇ」

 

クレマンティーヌの顔は悪魔の様に歪んだ笑顔が張り付いている。

 

「この場所を知っていて、生かして返すと思ったか?」

 

「アホなの?自分が生かされてる側ってことが分かんないのかなぁ?」

 

くっと歯を食いしばる。

だが地の利はこちらにあるから有利は揺るがないと思い込む。

 

「たかが一撃防いで見せただけで調子に乗りよって!」

 

「全くクレマンティーヌちゃんはすぐ喧嘩するんだから。」

 

「覚悟!!」

 

棒立ちのあろまボットンたちにそこら中から溢れ出たアンデットの波が襲い掛かる。

結構短い戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 




頑張ってカジッちゃん!!まだ毛根がが復活する可能性はあるわ!諦めないで!そこで諦めたら試合終了よ!

次回!カジット死す!デュエルスタンバイ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探し求めたはずの者たち

カジット達を表に引きずり出すと奇妙な縛り方をし、放置したまま街へと戻る道中。

 

「ねぇ、私が言うのもなんだけど悪趣味だよ?」

 

クレマンティーヌは顔を引きつったままである。

 

「これはかなり昔、パンプ・ザ・ヘッドさんが教えてくれたやり方なんだよ」

 

「わーお.....良い趣味してるわホント」

 

自信満々そうなあろまボットンに、何を言っても無駄だろうと脱力する。

 

股縄・亀甲縛り等々の様々な羞恥プレイを巡回の兵士に目撃される。

 

当然この二人が真実を知ることはない。

 

カジットの叫びはエ・ランテルの静かな夜に溶けて消えていく。

半泣きながらもなぜかわずかに赤面するカジットには、あまり人に迷惑をかけないようにと忠告しておいた。

置き土産にある花の種とたんまりと海藻類を渡すのも忘れずに。

 

なお数年後カジットの頭皮は蘇り、無事更生し墓守として一生を全うしたらしい。

カジットが墓守を務めると同時に、墓地にはアンデッドが沸かなくなったり、変態的な趣味の持ち主として、一部に何名かの同志を抱える仲間を見つけたとか。

 

 

・・・・・

 

 

その日はいつもの様に依頼をこなし、資金と情報収集に勤しむ為冒険者ギルドへと足を運んだモモンガ。

何か一気に冒険者として上へ行けないものかと日々思案するが中々良案が浮かばずにいた。

ナーベの人間に対する暴言の数々やナザリックの運営、あろまボットンの探索と他にも細々としたものことで頭を悩ませている為だ。

 

「どうかなさいましたかモモンさーーん」

 

ナーベに睨みを利かせる。

ここの様に人の目が多い所での失言は勘弁してもらいたいと内心で溜め息する。

 

現在(シルバー)プレートまでトントン拍子に進み、期待の新人として冒険者の間ではちょっとした有名人にもなっていた。

 

「何でもない、依頼を受けに行くぞ」

 

「はい」

 

最も金額が高いものを選ぶ。

実はこの世界の文字を少しは覚え、どのプレートの色から受けられるか位は読み取れるようになっていた。

 

「これにするか」

 

ガチャリとギルドの入り口が開くと、ギルド内がざわつき出す。

有名人でも来たのかなと振り返る。

そこには妙な既視感を覚える変てこな甲冑を全身に纏う大柄な奴と短いブロンドの髪を持つ20代位の女性の二人組。

なぜこんなにギルドがざわつかせる原因は一目瞭然だ。

女の方が来ている装備には冒険者プレートで埋め尽くされており、喧嘩を売りに着たも同然の格好であるからだ。

 

「ほう」

 

馬鹿なのかと思うが、少し興味がわいてきていた。

両方ともこの街では見かけたことはない事や、他の冒険者の反応からしても他所からから来たのだろう。

 

「おいあんた達!何しに来やがった!」

 

冒険者たちは既に臨戦態勢に入っている。

 

「いかがしましょう?」

 

「少し様子を見る」

 

ナーベは頭を下げ後ろへと下がる。

 

「何しに?そんなの決まってるでしょ?」

 

「「「「「!!」」」」」

 

声からして鎧の中身は男と推察できる。

 

(声は思ったより若いな)

 

冒険者たちが武器を持つ手に力を込める。

 

「やっぱこの格好はアレだったかなー?」

 

「そうだね、ちょっとアウトだね」

 

ちょっとじゃないだろうとナーベを除いたその場にいる者が内心で突っ込みを入れる。

 

「表出てるからちゃっちゃと終わらせて来てねー」

 

ひらひらと手を振り、踵を返し出ていこうとする女を呼び止めようと近くの男が声を上げる。

 

「おい!何帰ろうとしてんだ!てめぇそのプレーあぎゃ!?」

 

男の鼻はへし折れ痛みで床を転がる。

殴り飛ばしたのは甲冑男の方だ。ここにいる者で今の攻撃が見えたのはナーベと自分、そして金髪の女位だろう。

女はまたかといった表情だ。

 

「はひぃはひぃ」

 

殴られた男は痛みで言葉が届いていない様だ。

 

今の状態の自分と戦って五分か、それ以上の戦士位だろうと予想を立てる。

ここに来てガゼフ以上の実力者を見つけられたことに笑みを浮かべる。

後は武技でも使えればナザリックに連行してもいいな、など算段を始める。

 

 

何が起こったか分からない面々は困惑し、一部の者はモモンに顔を向けどうにかしてくれと言った表情である。

 

仕方ないと男の前に立つ。

 

「ん?」

 

「私はここで冒険者をやってる『漆黒』のモモンという。そこの男が粗相したのは謝罪しよう。だがそちらにも非があった、ここは矛を収めてくれないか?」

 

「すみません、頭に血が上りやすいもので」

 

意外にも簡単に頭を下げる男に、僅かに驚く。

礼節もある。ただ鎧が絶望的にダサい。

 

周りの冒険者達にはモモンの威圧に負け、恐縮しているように映るため更にモモンの評価は高くなっていた。

 

「名前を伺っても?」

 

「あー訳有って、すみません。」

 

まぁあんな女を連れているのだ、当然と言えば当然か。

 

「ギルドへは冒険者登録へ?」

 

「そのつもりでしたけど、今すぐ必要なものでもないですから。それにクレマンティーヌちゃんは短気だから待たせると、拗ねてフラフラどこか行っちゃうんでまたの機会にしますよ。」

 

「そうですか、冒険者になるならいつか共に仕事でもこなしましょう。」

 

右手を差し出し握手を求める。

男はすんなり握手に応じる。

 

握った瞬間に伝わる禍々しい気配に眉を顰める。

これは呪いだろうか?

もしかしたらこの呪いを解く為に旅をしているのか?

答えの出ない疑問に悶々とする。

 

「最後に一つだけいいでしょうか?それは呪いの類でしょうか?」

 

周りに聞こえないように注意を払い質問する。

男はギョッとしてから首を縦に振る。

 

他言無用でと言うとまた頭を下げ、踵を返してギルドから出ていく。

 

まるで嵐が通り過ぎたかのようである。

 

冒険者はあの鎧男にくぎを刺したようにしか見えていない為、更に評価が上がっていた。

なんだったんだあいつらと疲れた表情で席に戻る冒険者たち。

内心ビビっていたことなどお互い分かっていたが、あえて口に出す者はいなかった。

 

モモンガはすぐさまメッセージを飛ばし、シャドウデーモンたちに追跡させる。

 

これから数日後チーム『漆黒』は(ゴールド)プレートへとなり、前代未聞の超高速昇格に更なる期待と嫉妬が増していく。

 

ちなみに鎧男の追跡には失敗、原因は追跡途中でシャドウデーモンたちが迷子になるという理解できない

当の鎧男はエ・ランテルでは度々目撃されている。

ひょっとしたら呪いの力が起因している可能性もある、現状は放置し街の外周には常に見張りを付けておくだけに留めておく処置をなされた。

 

 

・・・・・・

 

 

「そんでそのモモンとかいう男はあろまの正体に感づいたの?」

 

「いやあれは中二病こじらせたまま大人になっちゃっただけだと思うけど?」

 

「チュウニビョウ?何それ?」

 

「心の病だよ、男の子はだいたい経験あるんじゃないかな?」

 

「ふーん変なの」

 

宿の一室を取り、これからの目的を適当にだべる二人。

 

「にしてもやっぱあんな露出高い格好はダメだよ?男共の野獣の様な眼光だけじゃなくて、手まで出そうとする変態とかもいたし」

 

「あれは違うと思うけどね.....」

 

出会ってからもう何度目かも分からない溜め息を吐く。

 

「後さ、モモンさんの後ろにいた・・・・・似てるな」

 

「アンデッドのお友達だっけ?」

 

「でも戦士職ではないしなぁ」

 

「第一にモモンって奴人間でしょ?」

 

「それもそうだね。」

 

兜の下を見たわけでもないが、あんな中二病の人がモモンガさんなわけがないと一蹴する。

 

「それでね、そのモモンさん後ろにいた人がものすごい美人さんで!」

 

「・・・・・もう眠いから。廊下行って」

 

「あ、そう?・・・もしかして何か怒ってます?」

 

ケラケラとにこやかな表情が一気に急転直下の絶対零度へと変わる。

あろまボットンからしたら何が原因か見当もつかないでいた。

クレマンティーヌ自身も何故という原因が分からないでいたりする。

 

「怒ってないよー?ぶち殺してやりたいけどねー、全然怒ってないよー」

 

あろまボットンに発汗機能があれば、今頃部屋は水没していたかもしれない。

 

 

とある夜から鎧姿の幽霊が「どうすれば」「誰か教えてくれ」など何かを求めながら街を徘徊するという怪談話が、エ・ランテルの街に地味に広がっていったとかなんとか。

 




遅くなって申し訳ありません。
ドンドン遅くなっているので最低一週間以内には、なんとか上げたいと思います。

たくさんのお気に入り登録ありがとうございます!
完走目指して頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僅かな変化

エ・ランテルとある宿にて

 

外は日が落ち部屋を照らす小さなランタンの火が、室内をぼんやり照らしている。

あろまボットンとクレマンティーヌがベットを椅子にして向かい合って座っている。

あろまボットンは背中を丸め、頭を抱え旅の仲間であるクレマンティーヌに相談していた。

 

「俺って何かしたのかな」

 

「割とね」

 

街の大通りを歩けば四方八方からの視線とそこら中から聞こえるヒソヒソ声、顔を向けると皆慌てて逃げたり知らんぷりをする。

 

「原因分かるの?」

 

「冒険者に喧嘩吹っ掛けたけど、やっぱり怖くなって尻尾巻いて逃げたヘタレとか。脅して無理矢理女を侍らしている最低男とか。触られると人生が迷走するとか・・・・・他の噂も聞きたい?」

 

「???心当たりがないなー」

 

「へーソウデスカー」

 

クレマンティーヌの顔はダメだこりゃといつもの様に呆れ返っていた。

 

「まぁ確かにこの街に居づらいっての分かるねー」

 

「モモンガさんみたいなアンデットは基本的に人の街にはいないし、このままでは情報も碌に手に入らないかぁ。行くとしたらアンデットが多発するカッツェ平野か、王都リ・エスティーゼで更なる情報を集めるか。どっちがいいと思う?」

 

「んー私は法国じゃなければ別にいいかなー。あっそうだ!ここでの情報なら私が集めようか?」

 

クレマンティーヌは貸しを作れるチャンスという思惑がある。

 

「大丈夫だよ、ありがとう。モモンガさん見つけるのも大事だけど、クレマンティーヌちゃんに無理させたくないしね」

 

「・・・・・・」

 

残念なことにこの男に思惑の類は全く効かなかった。

おまけにまたもやただの女扱いするあろまボットンに、戦士としての苛立ちの感情と名前の分からない感情が混ざり合う複雑な心境にクレマンティーヌは自分が今どんな顔をしているか分からなかった

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「私嘘ついたことないよ」

 

「うん」

 

あろまボットンにまっすぐ目を向ける。

珍しく空気を読んだのか、あろまボットンは兜を外し同じ様にこちらへまっすぐ向けられる青く燃える炎の瞳。

 

「一々守られるほど弱くないの、まぁあろまと比べたら塵カス見たいなもんだけどさ。」

 

「・・・・・」

 

「だ、だから何が言いたいかって言うと、私も少しはその・・・・・頼ってもいい」

 

恥ずかしいのか耳が赤くなっており、顔を明後日の方向へ勢いよく曲げる。

 

「ごめんねクレマンティーヌちゃん。変に気を使っちゃて、昔から過保護過ぎとはよく言われてたんだけど、中々治らないもんだね癖って」

 

「それからちゃん付やめてくんない?ガキ扱いされてるみたいでムカつく。呼び捨てでいいから」

 

「分かったよクレマンティーヌ。改めてよろしく」

 

あろまボットンから差し出された右手をまじまじと見る。

接触という接触を許さなかったあろまボットンが、こうもあっさりと握手をしてくれるとは思わなかった。

これも少しは気を許してくれたおかげなのだろう。

 

「よ、よろしく」

 

恐る恐る伸ばした手から感じる温かさは、目の前の異形の存在がまるで人間の様で思わず顔がほころぶ。

 

「やっぱ人間みたい」

 

「そうだよ?」

 

「・・・・・は!?」

 

「正確には元人間かな?」

 

「はああああああああ!!??」

 

最後の最後に爆弾をぶち込まれ、二人の長い夜が続く。

 

 

・・・・・

 

 

「油断した.....」

 

「こんなとこに人が住むんだねー」

 

「はぁ若干慣れ始めている私も成長したよね。」

 

今現在進行形で二人が立つ周囲360度を盗賊に囲まれてしまっている。

王都リ・エスティーゼに向かおうと出発したはずが、なぜだか盗賊のアジトにいる。

 

「お前ら生きて帰れると思うなよ!」

 

「あー死にたいなら掛かってきてもいいよ」

 

クレマンティーヌはどうでもよさそうに一瞥することもなく、あろまに説教を始めていた。

 

「だいたいいつもいつも先を歩くなって言ってるよね?」

 

「ご、ごめんなさい」

 

自分たちの家に勝手に転がり込んできて、挙句無視しているのだ盗賊たちはますますイラつく。

 

「舐めやがって!!おら!お前らやっちまえ!」

 

「おい、待ておめーさんら」

 

奥から現れた男を見て男たちは勝利を確信する。

細身だが引き締まった鋼鉄の体に適当に切られたボサボサな髪と顎には無精髭を生やしている。

 

「ブレイン!」

 

「冒険者って感じじゃねーな、まっなんでもいい。丁度暇を持て余していてな、相手してやるよ」

 

二人を頭の天辺からつま先まで見てふむと頷く。

 

「そっちのお嬢ちゃんの方が楽しめそうだ。」

 

「ふーんアホだねー別に相手してもいいよー。あろまは手出しちゃダメだからね」

 

はいはいと答えあろまは一歩下がる。

腰に携えた一振りのレイピアを抜き構えを取る。

素材は純銀製で余計な装飾もないが確かな業物だろうとブレインは推測する。

 

「私も久々で少し興奮してるから、手加減できないかもしれないけどごめんねー」

 

目にもとまらぬ高速の突撃。

瞬きする程の一瞬で間合いを詰め、勢いよく突き出される一撃にかろうじて反応し体を反らす。

わき腹をえぐられたが致命傷を避けることに成功し、反撃の一閃を振りぬく。

しかしブレインの刀は標的に届くことなく空を切る。

 

「へー今の反応できるんだー」

 

「こりゃたまげたぜ、強いなあんた」

 

「あれ?降参しちゃうの?」

 

「馬鹿言うなよ、次はその首頂く」

 

「とっと死んじまいな!」

 

クレマンティーヌとブレインの両者とも顔には笑顔を浮かべ、相手から目を離さず睨みあう。

達人同士の対決に男たちは息をのみ、戦いの行く末を見守っている。

そんな中あろまボットンはというと。

 

(この人たちこんなとこで男だけのキャンプとか虚しくないのかな?)

 

いつも通りである。




次話も一週間以内には頑張ってあげます。
ブレインさんも頑張らせますよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

衝突

今回はギャグ薄目になっています。
たまにはいいですよね?


激しい剣戟の嵐が吹き荒れ、洞窟内に響き渡る。

 

「ほらほら私の首取るんじゃなかったのかなー」

 

「ちっ」

 

ブレインが王国のガゼフ・ストロノーフに勝つため編み出した《領域》と《神閃》を薄皮一枚で避けられており、顔には出てないが内心は今まで積み上げてきた自信が音を立てて崩れ始めていた。

それと同時にまだ俺は強くなれるという希望が沸々と腹の底から湧いてくるのを感じていた。

 

「ドンドン行くよー!」

 

「来い!」

 

お互いの表情には笑みがこぼれ、純粋にこの戦いを楽しんでいるのが分かる。

 

クレマンティーヌのフェイントを混ぜた鋭い突きの猛攻に必死に反応し、致命傷以外は無視しブレインも反撃の一撃を放つ。

それは《神閃》程の速度ではないが、《瞬閃》に匹敵するあり得ないほどの鋭い一閃である。

この戦いでブレインは確かに成長していた。

 

「《流水加速》」

 

水を切ったかのような手ごたえのなさに内心舌打ちし、返しの二閃目を許してくれるほどの甘い相手ではない。

すぐさま反撃の一撃が飛んでくるのを直感し、全力の回避運動を取ろうとする。

 

「!?」

 

眼前に迫る銀の刺剣がまるでスローモーションの様に感じ取れるが、身体は反応できない。

格上のクレマンティーヌも僅かだがブレインと同様に成長していた。

 

こんなとこで負けるのかと脳裏に走馬燈が走る。

まだガゼフに勝利していない。

こんなところで死ぬわけにいかない。

 

片目はくれてやる。

だが勝ちは譲れない。

 

身体は避ける事を止め、刀を持つ手に力を込める。

相打ち覚悟の一撃を放つ。

更に速く鋭く研ぎ澄まされた刃はクレマンティーヌの首筋に迫る。

 

ガキンッ

 

眼球が貫かれる音でも噴き出す血の音でもない、金属と金属がぶつかり合った衝撃音が洞窟内に響く

 

眼球の一寸手前で刺剣がピタリと止まる。

気づかないうちにあろまボットンはクレマンティーヌとブレインの間に割って入り、ブレインの刀を弾きクレマンティーヌの刺剣を握りしめている。

 

「邪魔しないでっていったよね?」

 

クレマンティーヌの額には青筋を浮かべ、怒りをあらわにしていた。

ブレインも死にたくないとは思ったが、情けをかけて欲しいとは微塵も思わなかった為あろまボットンを睨み付ける。

 

「ごめんねクレマンティーヌ。でも君がいなくなったら俺は悲しい。」

 

「ったくだからあろまは過保護過ぎるってーの」

 

クレマンティーヌはガシガシと頭をかき刺剣を引っ込める。

 

「なんで俺まで助けた?」

 

「あー・・・・・なんでだろう?」

 

「は?」

 

打算も無くただ助けたのか?そんな馬鹿なのかこいつはと呆れてしまう。

それと同時に一瞬で間合いを詰め、いともたやすく自慢の一撃を弾く技量に舌を巻く。

 

「それよりさ、お客さんが来てるよ」

 

「「えっ」」

 

あろまが顔を動かし、盗賊たちの背後を見据える。

 

「ごきげようでありんす。この中に武技を扱える者はおりんしょうか?」

 

唐突に表れたのは長い銀の髪と真紅の瞳を持った非常に端正な面立ちで白蝋染みた肌をした14歳ほどの少女。ボールガウンやフィンガーレスグローブで身を包み露出が少ない。

両隣に吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)を従えさせ、値踏みするかのような視線をこちらに向けている。

 

「吸血鬼!?」

 

「お前ら聖水をかき集めろ!」

 

盗賊たちは慌てて走り出し、迎撃の準備をしようとするが

 

「行きなんし」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)達は命令されると盗賊たちに容赦なく襲い掛かる。

 

茨の壁(ウォールオブガーデン)

 

分厚い茨の壁が現れ、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちが阻まれ立ち止まってしまう。

しかしは致命的で後退すべきであった。

 

立ち止まってしまった吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)たちを茨の壁(ウォールオブガーデン)から延びる茨に絡めとられてしまう。

必死にもがくが茨はビクともせず徐々に締め付けが強くなっていく。

 

「役立たず」

 

少女はこんなものも避けられないのかと心底使えない奴と言った表情をしている。

 

真祖(トゥルーヴァンパイア)は相性悪いんだよなぁ。二人とも俺より後ろにいて、でもあまり離れ過ぎないように気を付けてね」

 

「ヤバい?」

 

「うん」

 

クレマンティーヌはその言葉に顔を引きつらせ、大人しくあろまの影に隠れる。

 

「危ないよ?」

 

「男の背中に隠れるなんて情けない真似できるわけないだろ?」

 

ブレインは何を勘違いしているのか、自分とこいつなら勝機はあると思ってしまっている。

ここまで意気揚々としているのに、あろまボットンは正直に邪魔と言う訳にもいかずまぁ頑張ろうねと返す。

 

「お話は終わったでありんすか?」

 

「うん、大人しく引いてくれたら助かるんだけど」

 

「武技を使える者を頂けるなら、まぁ大人しく帰ってもいいでありんすよ」

 

「それは飲めないね、仕方ない頑張りますか」

 

一振りの大鎌を取り出す。

隣のブレインは一体どこから出したのだと目を丸くしている。

刃から持ち手にかけて絹のように白く、刃の付け根の部分には小さな漆色の蕾が付いている。

鎌自体が脈動しており、異様な不気味さを放っている。

 

「属性神聖、中位魔法効果、物理ダメージ40%向上および低確率即死付与、アンデット系ダメージボーナス20%効果、クリティカル率50%向上。評価.....危険」

 

「だいたいあってるのが凄いな」

 

基本的にデバフの通らないアンデット対策によく使っていた斬切舞(キリキリマイ)

 

目にもとまらぬ速さで突っ込んでくるシャルティアの手には大きな槍が携えてある。

クレマンティーヌの突きの連撃とは比較にならない速さだが、あろまボットンは上手く捌いている。

それでも鎧のあちこちはたった一度の衝突でボロボロになってしまう。

 

「ドレイン持ちでこの強さってガチすぎない?」

 

「そこそこ動けるようでありんすが、まぁスポイトランスを使うまでもなかったでありんすね」

 

ブレインは腰を抜かし、汗が止まらない。

勝てるわけがない。

《神閃》を軽々と超える速度で行われる攻防に震えが止まらない。

 

「やっぱこのままだとキツイし変えますか」

 

鎧を脱ぎ去り毒々しい紫色のローブに着替える。

 

「まあ!人間じゃなかったんでありんすね!」

 

「あまり人に見られるのは避けたいんだけど、今回ばかりは仕方ない」

 

ブレインは鎧の男が化け物だということに驚愕する。

どっちが勝っても自分たちの命はないのではないかと思い込む。

 

「いい加減下がれって、邪魔」

 

クレマンティーヌに襟を無理矢理引っ張られる。

 

「お、俺は逃げるぞ」

 

「死にたいならどうぞ」

 

「な、なんでお前はそんなに平気そうなんだよ」

 

「平気ねぇ。まあ超怖いよね」

 

クレマンティーヌはあろまボットンの背中を見つめ、苦笑いを溢す。

 

「何でだろうね」

 

こんな状況なのに何でお前は笑えるんだとブレインは茫然としてしまう。

クレマンティーヌが見つめる先に視線を動かす。

 

大きな背中だ。

俺はもしかして二度も命を救われたのか?

この背中を見ると気持ちが少しづつ冷静を取り戻していく。

 

 

 

「全力で追い返してやるからなヴァンパイアちゃん」

 

「目標とは違うでありんすが土産には丁度良いでありんすね。では行くでありんすよ」

 

 

激しい衝突音が洞窟音を抜け、静かな夜の森にまで響き渡る。

長い夜はまだ終わらない。

 




26から手術の為に次話の投稿が遅れてしまう可能性があります。
誠に申し訳ございません。

たくさんの感想・お気に入り登録・評価ありがとうございます!
ものすごい励みになっております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜明けはまだ遠い

大変お待たせしました。
手術も無事成功し、ただいま戻ってまいりました!



洞窟内には激しくぶつかり合う金属音が響き、至る所が崩れ今にも崩壊してもおかしくない中。

相対する者は気にも留めず、得物を振るい続ける。

 

「しぶといでありんすね!」

 

「さっきの可愛い服はもう着ないの?」

 

シャルティアは完全武装へと切り替わっていた。

あろまボットンが装備を変えてから、傷の治りが遅くなりスポイトランスによる攻撃から得られるHPも激減していた。

 

「《魔法最強化(マキシマイズマジック)朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)》!」

 

「くっ」

 

更にシャルティアが受けるダメージも徐々に増えているときた。

どこぞの雑草に負けたと主に知られれば失望され捨てられてしまう可能性があるのだ。

下手に負けるよりは全力で叩き潰した方が良案だと思い至った為だった。

 

既にシャルティアの頭には持ち帰ることは頭には無く、この雑草をどう引き抜き八つ裂きにするかしか考えていない。精々死体を持ち帰りアンデットとしてこき使えばいい位だろうか。

 

戦況は今だシャルティアが優勢にあり、あろまボットンは防戦一方の状況である。

スキルやMPにもまだ余裕がある。

スポイトランスのおかげでHPは6割を切った程度、蘇生アイテムもある。

半面あろまボットンはスポイトランスの直撃は避けているものの、回復をした形跡は無くシャルティアの手応えから後一割と言った具合だ。

 

勝利を確信し頬が緩む。

この敵は野放しにすればいずれ脅威となるかも知れないのだ、ここで見事排除できれば主であるアインズ様はきっとお喜びになられる。

勝った後の妄想を膨らませ、このまま第一夫人の座へ等々妄想を膨らませる。

 

「やけに楽しそうだけど良いことあったの?」

 

「今から死ぬ雑草には関係ないことでありんす!」

 

「《パラライズ・バインド》」

 

「ちょこざい!」

 

シャルティアは拘束を一瞬で振りほどき、距離を取ろうとするあろまボットンへ追撃する。

 

「いやー強いね、負けそうだわ《忌むべき種(ロストシード)》」

 

「ふん!悪あがきを止めれば楽になるでありんすよ?」

 

あろまボットンの手から蒔かれた墨色の種をあっさりと振り払う。

アンデットに状態異常は通じない。

ユグドラシルにおいてこれは常識の様なものだ。

それすらも知らない無知な奴だとシャルティアは心の中で嘲り笑う。

 

片や満身創痍に対してもう片方は元気バリバリ。

誰が見ても結果は火を見るより明らかである。

 

 

だが決めきれない。

 

 

シャルティアは再び距離を取らされる。

またもや後ろへと下げられたことに段々と苛立ちが積もっていく。

 

あと少しで殺せるのだと全力の突撃を仕掛ける。

 

「《茨の壁(ウォールオブガーデン)》《聖樹の施し》」

 

茨の壁(ウォールオブガーデン)》は先ほどと比較にならないほど大きく、隙間なく広がる壁を前にしてシャルティアの勢いを削がれ立ち止まらせる。

突っ込めば絡め取られ、不利になると瞬時に判断し一度止まってしまう。

洞窟という狭い空間において回り込むことは出来ず破壊する選択しかない。

視界を一時的に塞がれ、逃げられてはマズイとすぐさまスキルの《不浄衝撃盾》を使用する。

 

「もうイライラするでありんす!」

 

地面にバラまかれていた種は急速に成長し芽を出し蕾を作り花が咲く前に枯れる。

枯れた花は土へ帰り土を汚染し、黒く淀んだ毒沼を形成する。

 

「こんなもの飛べば何の問題も!?」

 

洞窟の天井を突き破り現れた巨大な透明なガラス細工の様な一本の大木が輝きだす。

神聖属性のダメージボーナスと範囲内のアンデットへの神聖抵抗ダウン。

 

「ちっ!狙い撃ちする気か!だが!上位転移(グレーター・テレポーテーション)!」

 

しかし時間が遡るようにして元の位置に戻される。

 

「は!?転移阻害!?そんないつの間に!?」

 

答えは飛び越えた毒沼である、頭上にいる者の転移阻害と暗闇の状態異常。

アンデットの為暗闇にはならない為気づくのに遅れてしまっていた。

 

巨木の一撃(ビックツリー・ブロウ)!」

 

巨大な大木が天井をぶち抜いて落ちてくる。

シャルティアの頭上から一撃をまともに受けてしまい問答無用に毒沼に叩き落とされる。

 

「こ、こんなもの!」

 

大したダメージはない、すぐさま巨木を破壊し立ち上がる。

シャルティアが立ち上がったときには待ってましたとばかりに次の手を打とうとしている。

手の甲の枯れたはずの花が命を吹き返し、鎌をしまい両手を前へと突き出している。

 

「このまま好きにさせるかぁ!《清浄投擲槍》!」

 

「!?」

 

「あろま!!」

 

3mもの長大な戦神槍が放たれ、あろまボットンのど真ん中に命中する。

 

「大丈夫」

 

振り返ることなく優しい声音クレマンティーヌに応える。

 

 

 

大丈夫なわけがない。

 

 

 

後ろに私がいるから避けなかったのだと直感した、身体を張って無理矢理軌道を変えたのだ。

そうでなければ今の一撃で確実に死んでいた。

この一撃だけではない、何度も何度も守られていた。

クレマンティーヌは悔しさで顔がくしゃくしゃになる。

 

「大人しくしてもらう隔絶冥園(ヘヴン・ガーデン)

 

シャルティアを中心に渦巻きながら白と黒が織り交ざった蔓状の大樹が絡みついていく。

 

「こんなもの!なっ!?剥がれない!?」

 

最終的に球体状へと変わり根を張る。

 

拘束無効すら問答無用に捕らえることのできるスキルで、一日に一度だけしか使えず使用条件とデメリットがかなり厳しい。

対象者とのHPが一定以上の差が必要でかなり離れていないと不発に終わり、使用済みとされその日は二度目を打つことが出来ない。MPの大量消費、一定時間のスキル使用不可というおまけつき。

 

だが効力は絶大で対象者の行動・スキル・魔法の一切を一定時間封印し、外部からの解除はそんじょそこらのアイテムでは解除できない。

 

「大丈夫?」

 

あろまボットンは貫かれた腹に手を当てながら振り返る。

 

「無茶し過ぎなんだよ!」

 

クレマンティーヌは今にも泣き崩れそうなほど悲痛な顔をしており、あろまボットンはごめんと謝り頭を下げる。

 

「早く逃げないと、運よく成功したけど次は無理だかr」

 

意識がぐらつき体が言うことを聞かない。

そのままあろまボットンは地面に倒れこむ。

 

「お、おい!」

 

身体を揺さぶるがピクリともしない。

 

「ごめん、もう動けない」

 

「ビビらせんな!」

 

「守るって約束だからね」

 

本気で死んでしまったのではないかと青ざめていた表情は真っ赤に変わり、横たわるあろまボットンに蹴りをお見舞いする。瞳には薄ら涙を浮かべており、クレマンティーヌの顔には笑みが少しずつ戻っていた。

 

「お、おい」

 

先ほどまで腰を抜かしていたブレインがようやく立ち上がると口を開いた。

 

「何?まだ続きやりたいの?」

 

クレマンティーヌは得物に手をかけ、鋭い眼光がブレインを貫く。

 

「ち、違う!流石に俺はそこまで恩知らずではないからな!あろまだったか?お前さんを運ぶのを手を貸したい」

 

ブレインは冷や汗を滝の様に流す。

 

「(なんで戦ってる時より殺気が段違いに強いんだよ!?)

 

「下手な事したら・・・・・分かってる?」

 

「お、おう」

 

ブレインは躊躇することなくあろまボットンを担ぎ上げる。

クレマンティーヌは意外だと素直に感じる。

 

このブレインという男は思ったより芯があり、いくら助けてくれた相手でも見た目は完全に化け物のあろまに躊躇なく触れるのにはかなり勇気があるのではないかと。

 

「ふーん」

 

「な、なんだよ?一応助けてもらったんだ、こんくらいはするさ」

 

「ありがとう。えーとブレッド」

 

「ブレインだ!脱出経路は用意してある、おら行くぞ!」

 

あろまボットンはか細い声で礼を伝える。

神々の闘いに等しい光景を見て失禁し気絶する盗賊どもを尻目に走り出す。

 

「重くないかプレーン?」

 

「ブレインだ!ひょっとしてわざとなのか!?」

 

「ごめんね。お腹空いてるせいかな?」

 

「笑えないジョークはやめろ!」

 

洞窟がガラガラと音を立て崩れ始める。

あろまボットンたちが脱出して間もなくして、完全に盗賊のアジトであった洞窟は埋もれてしまう。

 

「ふぅ、危機一髪だったな」

 

「とりあえず回復するね」

 

スキルを使えない為ポーションを使用しようと手をアイテムボックスに手を伸ばす。

 

「「!!」」

 

クレマンティーヌとブレインは同時に同じ方向を向く。

何者かが近づいてくるのが分かる、ドンドン近づく気配にアイコンタクトし再びあろまボットンを担ぎ上げる。

先ほどの吸血鬼の様な奴が来たらお終いである。

 

「ちょ、まだ飲めてない」

 

「後からにして!」

 

「ダメだ追いつかれる!」

 

「ちっ」

 

クレマンティーヌは腰に携えてある銀の刺剣を引き抜き構えを取る。

 

「私から離れるな!囲まれてる!」

 

「早すぎる!?」

 

ブレインは今のうちに早くポーションを早く飲めと催促する。

 

木々の隙間から数人の人影が現れる。

 

「くそが、寄りによってこいつらかよ」

 

クレマンティーヌの顔は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

 

「お久しぶりですねクレマンティーヌ」

 

地面に届きそうなほど伸びた射干玉の髪の幼い容姿の男が立っていた。

 

「糞ババアまでいるし最悪」

 

「相変わらず口が悪いの、クレマンティーヌ」

 

スレイン法国の漆黒聖典の隊長とカイレの婆さんはどちらもかなりの実力者であり、一人では相手にするのはかなり厳しい。

お互い睨み合いが続く中、男は視線を後ろへと向ける。

 

「ふぅ、ようやく起きれる」

 

「もういいの?」

 

「うん、動かすだけなら」

 

あろまボットンの腹に空いた大穴は綺麗に塞がっていた。

 

「おいおいその魔物はお前のかクレマンティーヌ?随分変てこな奴連れてるじゃないか!」

 

「やっぱり居やがったよ、クソが」

 

クレマンティーヌの兄であるクアイエッセ・ハゼイア・クインティア。

漆黒聖典第5席次にして『一人師団』と呼ばれ、複数体のギガントバジリスクを操ることのできることができる実力を持つ。

 

隊長がいる時点で予想できたが、漆黒聖典の番外席次を除いた面々が勢揃いしている。

 

「大人しく投降しろ出来損ない」

 

「っ!!殺す!」

 

クアイエッセに怒りに任せて突撃する。

クアイエッセの表情はニヤリと笑みを浮かべ、クレマンティーヌはマズイと察するが間に合わない。

こんな簡単な挑発に乗ったことに苛立つ。

 

地中に潜んでいたギガントバジリスクの一撃が迫る。

 

「!?」

 

「ホントお前は出来損な「危ないなー」奴だ、ん!?」

 

ギガントバジリスクがなぜかクレマンティーヌはではなくクアイエッセに迫ってきている。

 

「まあスキル使えなくてもこん位なら」

 

先ほど馬鹿にした魔物が自慢のギガントバジリスクを地面ごと蹴り飛ばしていたのだ。

体長は10m以上の巨体が月夜に照らされながらクルクルと宙を舞っている。

ギガントバジリスクはクアイエッセの頭上を飛び越していく。

目玉が飛び出すかというほど見開き、顎が外れたように口を無様に開けたままになる。

 

「ごめん、助かった」

 

「無事ならそれでいいよ」

 

「やっぱ出鱈目だわ」

 

ブレインは飛び出したクレマンティーヌになんとか反応できるが、後から軽く追いつくあろまボットンを見てため息を吐く。

ブレインはグッと拳を作り、ある一つの事を決意する。

あろまボットンたちの元に素早く移動し、正面は任せ背中を預ける形で周囲を警戒する。

いらないよなと心の中でボヤキ苦笑してしまう。

 

「仕方ないですね、大人しくしてもらいます」

 

隊長が槍を構えると同時に戦いの火ぶたは切って落とされる。

先ほどの一撃でただ者ではないと認知され、一気に緊張感が跳ね上がる。

 

「(いやーこの辺って盗賊多いなー)」

 

約一名だけは緊張の欠片もない奴がいたりもする。

 

 

 

 

 

 




今回もあんまりギャグ書けてない気がします.....
申し訳ありません。

これからも週1~2程度の投稿ペースで頑張らせていただきます。
何卒よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日輪

スレイン法国に所属する漆黒聖典が駆り出された現場で耳にしたのは森に響く衝撃音、地鳴りを起こし魔物どもが怯える姿を確認し即座にアイコンタクトを取りあう。

 

すぐさま漆黒聖典の面々は行動を開始し、震源地へと向けて走り始める。

 

先日、土の巫女を襲った謎の爆発により死亡し、同時に陽光聖典が消息を絶った。

トブの大森林奥地に封印された《破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)》の復活を予言され準備段階で件のアクシデントがあった為、急ぎ漆黒聖典が派遣され調査を開始した矢先のことだ。

 

 

だがそこで出会ったのはかつて漆黒聖典に所属し、現在スレイン法国の秘宝である叡者の額冠を盗む罪人として風花聖典が行方を捜索中のクレマンティーヌであった。

そんな彼女に偶然かそれともこの件に関係があるのかは不明だが、見す見す逃がす訳にもいかない為包囲し速やかに無力化しようとするが・・・・・

 

「なんだその出鱈目な力は!?」

 

セドランの盾を簡単に弾き飛ばす怪力を持つ植物型の魔物にクアイエッセは意味もなく叫んでいた。

人と言葉を交わす知恵があり、動きに無駄はあるが英雄の領域に至る我々を凌ぐ俊敏性、おまけに馬鹿力といったギガントバジリスクなど比ではない魔物がそこにいたのだ。

 

「カイレ!使え!」

 

「!」

 

魔物の一撃を受け止め、背後に控えていたカイレに叫ぶ。

クレマンティーヌと剣士の男はクアイエッセ達が抑えている。

 

このままではあっという間に押し切られてしまう、既にエドガールは意識を狩られておりセドランも限界である。

舐めているのかまだまだ余力はある様に見える、ならば今のうちに早期決着を計るべきだと判断しカイレに《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》の発動させる。

カイレも頷くことなく《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》を発動する。

 

カイレのドレスは光輝き龍の光を放つ、光は天に上り魔物目掛けて降り注ぐ。

 

六大神が残した至宝の1つである《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》は例え神であれども洗脳することの出来るとされるスレイン法国の切り札の1つである。

本来は《破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)》への対策として用意したものだが、このままでは全滅もありえるのだから出し惜しみしている場合ではない。

それに加えこの魔物を使えば《破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)》の対策の一つとなるだろうと。

 

「うわぁぁ!?」

 

「あろま!!」

 

光は魔物に見事命中し、魔物は動きをピタリと止め力が抜けていくのが分かる。

見事成功し、ふぅと安堵し肺から息を吐き出す。

 

「てめぇら!あろまに何しやがった!」

 

クアイエッセを振り切り、クレマンティーヌがカイレに向かって放たれた矢の如く疾走する。

武技も使わずに加速したクレマンティーヌを捕まえることが出来ず、急ぎ追いかけようと踏みだすがブレインが正面に躍り出て刀を鞘から抜き放ち一閃する。

 

「どけ!」

 

「いやー人様の何たらを邪魔する野郎は馬に蹴られて死ぬぜお兄ちゃん」

 

不敵に笑ってみせるブレインに、クアイエッセの表情は激情で真っ赤に変わっている。

自慢のギガントバジリスクが瞬殺されており、怒りを覚えるなという方が無茶な話だった。

 

 

 

 

 

 

「いやービックリしたぁ」

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

その場の空気がガチリと固まる音がする。

ありえない事態に漆黒聖典の面々は驚愕し、ブレインやクレマンティーヌも足をすくわれたような感覚に陥っている。

 

「ば、馬鹿な!?《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》が効かないじゃと!?どういうことだ!?ま、まさか!?そんなまさか!?」

 

神をも超える存在だというのか!?

信じられない現実に頭が追い付かない。

確かに《傾城傾国(ケイ・セケ・コゥク)》は命中したはずなのだ。

 

額から冷や汗が滲む。

信じがたいことだが、ある一つの可能性が浮上している。

 

「ま、まさかぷれいやーなのですか?」

 

槍を下し震える声で質問する。

喉が渇く、額の脂汗が止まらない。

 

「ユグドラシルでのこと?だったら、うん。そうだよ」

 

再び更なる衝撃が走る。開いた口が塞がらず、上手く次の言葉が出てこない。

 

「(あれ?もう終わりなの?なら)早く帰りたいね」

 

自分たちが崇める神と同じ神の存在が再誕していたという事実に脳が痺れる。

帰りたいとはスレイン法国へ?

だが六大神の中にこの様なお方はいない。

 

思考の海に没入し考え続けるが一向に纏まらない。

そんな自分をよそにあろまと呼ばれる方はクレマンティーヌの元に向かってしまう。

 

「お、お待ちを!」

 

「ん?」

 

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか!」

 

膝を折り首を垂れる。今ここで行かせてはならないと本能が叫ぶのだ。

 

「?あろまボットンだよ、これからは悪さしちゃ駄目だからね」

 

振り返りそれだけ伝えると再び足を進めていく。

 

その言葉と背中にゾクりと背筋が全身に一気に鳥肌が立つ。

だが殺意等ではなく、これは慈愛に近い温かさを感じる。

『人間の全てを見ていると、人間の悪行を正せ』という啓示をして下さったのだろう。

 

先ほどは感じ取れなかった力がゆっくりと感じられるようになってくる。

これが本来の力なのだとしたら、この方にとってはただの茶番だったと思い知らされる。

カイレは膝を地につけ涙を流しており、他の漆黒聖典のメンバーは茫然とし得物を手から滑り落としていた。

我々はとんでもない過ちを犯してしまったのだと。

魔物と嘲り、剰え操り(しもべ)にしようなどという、決して神にしてはいけない不敬の数々。

特にクアイエッセの表情は死者のように青ざめ酷く歪んでしまっている。

 

「あろまボットン様!どうか我が法国へ!」

 

「いや、行かないよ」

 

絞り出した言葉を一蹴されてしまう。

今までの行動を顧みれば当然の結果であるのは明白なのだ。

この方はスレイン法国の新たなる神となりえる偉大な存在だ。

 

 

【絶望】という二文字が重くのしかかる。

 

 

あろまボットン様がピタリと足を止め、ゆっくりと振り返ると手を軽く持ち上げる。

 

 

「ま、いつかね」

 

「「「「「!!」」」」」

 

その言葉に思わず顔を上げ、あろまボットン様と目が合う。

夜の闇が薄らと白みがかった青に変わり始める。

 

 

「しっかり(更生して)ね」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

この方を例えるなら『太陽』であろうか。

暗闇を照らす日輪は、この心の絶望を確かに掻き消したのだ。

 

クレマンティーヌに後は託そう、彼女は気に入られているようだ。

ただの人格破綻者としか思えない、あのクレマンティーヌがだ。

我々では見通すことのできない本質を見る力があろまボットン様にはあるのだろう。

 

 

 

太陽が顔を出し、長い長い夜は静かに幕を閉じた。

 

 

【太陽神あろまボットン】様が初めて歴史に刻まれた瞬間である。

豊作と慈愛の神としてスレイン法国の新たなる神として、多くの信奉者たちにより後世に長く伝えられることになる。

野盗のアジトは後々聖地としてスレイン法国により協会が建てられたとか。

 




次は別視点から書いくつもりです。
プロットにはそんなものないのでどうなることやら。

500を超えるお気に入り登録に目玉飛び出す位感動しております!
まさかこんなにも色々な方に見ていただけるとは正直思ってもおりませんでした。

これからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不解の心象と友への手掛かり

遅くなって申し訳ありません。


五本爪の龍の光が夜を引き裂くようにして降り注いでいく。

 

『また』

 

近頃よく脳裏にこびりついた言葉である。

先ほどまで吸血鬼との激闘で身体はボロボロのはず、立つことすら辛いはずなのだ。

 

気づけば足はカイレへと駆け出していた。

 

結果的にはなんともなかったことにホッと安堵したが、それもつかの間であり聞こえてくる会話に呆然とする。

あろまが神?

これが神様だというのか?

 

急激にあろまが遠い存在に感じられる。

 

こちらに向かってまっすぐ歩みを進めるあろまの姿が見える。

棒立ちする私に話しかける声音は穏やかで一切変化は見られない。

 

 

怖くてたまらない。

 

 

出会った時よりずっとずっと恐怖してしまった。

 

 

―恐ろしい姿に

―圧倒的な力の暴力に

―神すら凌ぐ力に

 

 

どれも違う、しっくりこない。

 

 

私は一体何に怯えているんだ?

疑問は晴れることはなく霧がかかったように先は見えない。

ふと手にぬくもりを感じ、意識が戻っていく。

 

「大丈夫?」

 

「あっ」

 

私の手を壊れ物を扱うように優しく両手で握り、蒼炎の瞳は小さく揺れている。

恐怖がスッと抜けるように消えていくのが分かる。

 

「お前無茶し過ぎなんだよ.....」

 

「ご、ごめん!?」

 

力が抜け地べたに座り込み、目頭が熱くなる。

大粒の涙が頬を伝い、くしゃくしゃになった顔を隠すように下を向く。

 

「もうこんなの無しだから」

 

「うん」

 

「次やったら殺すからね」

 

「うん」

 

「本当に殺してやるからね」

 

「う、うん」

 

あろまはそっと頭に手を置こうとしたが、触れる前にピタリと止め伸ばして手を引っ込める。

何も言わずくるりと後ろを向きしゃがみ込む。

 

「なにそれ」

 

「いや、俺は慰めの言葉とか思いつかなくて。女の子の泣き顔を見るのも悪いかなって。」

 

「バーカ」

 

背中にこつんと頭だけもたれ掛かり、泣きながらも小さく笑うことが出来る。

こんな奴に慰められるなんて私も落ちたもんだなと心中でぼやく。

 

「いやーお熱い所悪いんだがよ...」

 

「ん?」

 

「は?」

 

ブレインは申し訳なさげに後頭部をかきながら話しかけてくる。

 

「頼みがあるんだが」

 

「あー俺もあるんだよブレイス!」

 

「ブレインな!なんだよ頼みって?命の恩人だ無償で何でも聞くぜ?」

 

「なら良かった!一緒に旅しよう!」

 

「「・・・・・は!?」

 

歯が全く立たなかったが一度は殺そうとした男と同行したいという提案に、ブレインは開いた口が塞がらない。

確かに実際戦ったのは私だけどさーとボヤいてしまうのは仕方がないだろう。

 

「それは願ってもない事だがいいのか?」

 

「いや、さっきクレマンティーヌを助けてくれたし、ブロックの武技かっこいいからね!」

 

「助けた?・・・だからブレインだっつーの!」

 

「囲まれた時もすぐに背後守ってくれたし、あそこのお兄さんからとかさ」

 

その言葉に疑いはなく全て本心だということも、初対面のこの男にですら分かる。

あろまは物事を楽観的に考えており、一度信じたら一切のブレがないのだ。

 

「俺の頼みはな、お前さんらに付いて行って強くなりたいって話だったんだがな。腕の一本位覚悟してたんだけどな、なんだかお前と話してると気が抜けるぜ」

 

「あんま褒めるなよー、照れるだろう」

 

「いや褒めてはないでしょ」

 

涙は止まり袖で頬を拭い立ち上がる。

 

「もういいの?」

 

「早くしないとあの吸血鬼が来ちゃうんでしょ?」

 

「あっ」

 

あろまから素っ頓狂な声が漏れる。

死にかけたくせに完全に忘れてたのかと2人の溜め息が漏れる。

 

「俺はあろまボットン!よろしく!」

 

「クレマンティーヌ」

 

「ブレイン・アングラウスだ、これから世話になるな」

 

「んじゃ行きましょうかね」

 

三人は意気揚々と走り出した。

残ったものは神を崇める信仰深いものとなぎ倒されたギガントバジリスク、それと乾き始めた小さく濡れた地面の跡だけである。

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

「それは本当なのか!?」

 

モモンガは思わず出た大声にハッとし口に手を当てる。

現在黄金の輝き亭程ではないがそこそこの宿に泊まっており、その一室で配下であるアルベトとメッセージ連絡を取り合っていた。

この部屋にはしっかりと盗聴の対策している為、誰かが入ってくる気配もない。

 

「大声を出してすまない、もう一度報告せよ」

 

「はっ、シャルティアがつい先刻負傷しナザリックに帰還しました。相対した敵の特徴があろまボットン様と酷似しており、現在捜索隊を急遽編成し全力で探索に向かわしております。シャルティアを負傷させる程の実力を持ち、植物型の異形種で形状が人型となればまず間違いないかと。」

 

「捜索隊の数は?」

 

「アウラが指揮の元、死霊(レイス)が50、影の悪魔(シャドウデーモン)が30、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の5体でございます。」

 

「ふーむ...死霊(レイス)影の悪魔(シャドウデーモン)は倍にし、ナザリックにいる八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は全て駆り出せ。戦闘の起きた位置を知らせよ、私も向かう。」

 

「なりません!あろまボットン様と100%の確証を得るまでは危険です!」

 

モモンガは顎に手を当て、アルベドの言葉に頷く。

あろまボットンさんではなかった場合、シャルティアを退ける実力者と接敵し戦闘するのは危険性が高い。

 

あろまボットンさんにガチビルドのシャルティアに勝てるのか?

正直この辺りは情報が少なすぎて答えは出ないだろう。

というかなんで戦闘してるんだ?

ナザリックのNPC達にはあろまボットンさんの特徴は伝えてある。

ユグドラシルのときは数えきれないPVPの嵐で有名であり、ヘイトボットとかあだ名ついてた人だったけど.....

自分から仕掛けることをする人には思えない、第一PVPの相手のほとんどは人間種である。

 

人ではない異形種であるシャルティアをわざわざ襲うことはないはずだ。

 

 

では何か恨みを買ってしまったか?

 

 

一度思考の海から抜け顔を上げる。

 

「アウラに伝えよ、見つけ次第決して手を出してはならぬと。見つけ次第速やかに報告せよ。私も一度ナザリックに戻る。」

 

「はっ!必ずや見つけて見せます!」

 

「うむ」

 

メッセージを切り、近くに控えていたナーベラルに視線を移す。

 

 

「ナーベラル、一度ナザリックに帰還する。留守を任せる」

 

「はっ!お任せください。」

 

ナーベラルが深く頭を下げ見送る姿を尻目に異界門(ゲート)を開く。

 

このままでは埒が明かないうえに、ナザリックにいた方が緊急時対応しやすい。

シャルティアにもいくつか聞きたいことがあるしなと異界門(ゲート)をくぐりながらもあらゆる状況を想定し続ける。

 

「待っていてくれあろまボットンさん」

 

 

 

 

 

 

一方そのころナザリック内にて

シャルティアの痛むはずの無い内臓が、グサグサと刺し貫かれるような腹痛に襲われていたりする。

 

なおアルベドとコキュートス、デミウルゴスによって完全包囲され逃走は不可能な模様。

 

 

 

 

 

 

「へくしょん!」

 

「何それ風邪?あんたって風邪ひくの?」

 

「それはないだろ」

 

とっくに森を抜けた三人組は日が昇り切る前に王都リ・エスティーゼへとたどり着いていた。

 

「そういえばあろまといると必ず道に迷うらしいが全く迷わなかったよな?」

 

「ある意味それが恐怖なんだよね....」

 

「いやいやクレマンティーヌ、俺も成長したんだよ!うん、きっとそうだよ」

 

「ここまで信用ならない言葉は聞いたことないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 




一度ランキングに載ったらしく、作者が確認したときは週間ランキングの61位におり深夜のテンションで見事ノートパソコンを派手に落としました。
こっちも反省します。

たくさんのお気に入り、感想、評価、誤字報告感謝いたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あなたを求めて

毎度遅くて申し訳ありません。
今回はあろまボットン関連なので、期待しないでください。


王都リ・エスティーゼ中央通り

 

中央通りからすぐの路地の入り口に小さな影。

大振りの宝石が嵌った仮面を付けており、漆黒のマントを纏った小柄な少女が壁を背にして立っている。

 

「遅い」

 

冒険者として最高位に君臨するアダマンタイト級冒険者チーム【蒼の薔薇】の一員イビルアイ、見た目に反して年齢は200を超えていたりする。

そんな彼女の待ち人は【蒼の薔薇】のリーダーであるラキュースや男女で童貞食いのガガーラン、女好きの変態ティア、ティアの姉妹であり少年好きの変態ティナの他のチームメンバー達である。

どこで油を売っているのだととため息が漏れる。

 

数少ない休日を削り、ここ最近起きている魔物の異変調査の打ち合わせに充ててるのだ。

どうせあのアホ忍者姉妹のせいだろうとあたりを付ける。

 

「ん?」

 

近づく足音の先に顔を向ける。

鉄製らしき鎧を着た長身の存在に僅かに目を細める。

 

兜の不細工さと鎧全体の歪なアンバランス差が目を引く。

胴回りの部分はやけに細く、腕と脚部は微妙に太くなっている。

色合いも塗装はされておらず寂れた銀色に関節部分には錆が見えている。

 

胸には銅のプレートをぶら下げており、どこぞの田舎からやってきた新米冒険者。

 

「(こいつ鎧の音が全くしないぞ?)」

 

ガシャガシャという鎧特融の金属の擦れる音がしないのだ。

見た目に反して魔法の鎧なのかもしれない。

 

「迷子かな?お父さんとお母さんはどうしたの?」

 

イビルアイの前まで来ると膝を曲げと視線の位置を一緒にし話しかけてきた。

はぁと再びため息が漏れる。

これだから世間知らずはと呆れてしまう。

 

「私はこう見えてもアダマンタイトの冒険者だ、心配は杞憂だ。さっさと行け」

 

「・・・・・は?」

 

「二度は言わん」

 

男に興味を無くし視線を切ってしまう。

 

 

だがそれは失敗であった。

 

 

ヒュッ

 

顔のすぐ脇を何かが掠めていったのだと分かるまで反応することすらできなかった。

 

「へぇー」

 

男は何を思ってか小さく拍手していた。

今のはこいつが投げたのかと理解し、すぐさま距離を取る。

 

「お前・・・・・何者だ?」

 

「ごめんねビックリしたよね、俺はあろまボットンだよ。クレマンティーヌやブレインじゃ反応も出来なかったし、やっぱ上には上がいるもんだね。それにしてもちっちゃいのに凄いなぁ。」

 

ずきりと頭の中の奥底が痛み、咄嗟に頭に手を当てる。

遠い過去の記憶がノイズ混じりに再生される。

 

「あろまボットン・・・・・」

 

「もしかして当たちゃった!?ど、どこ?今手当てするから」

 

男の動揺をよそに頭の中で何度も反響する記憶にある言葉。

かつて共に旅をし、共に戦い、共に笑いあったあの人の言葉。

 

 

 

 

気高きエルフの麗人、名を()()()()()

 

 

 

 

師であり、仲間であり・・・・・私が最も心許した()である。

 

記憶に残る彼女は気高く凛としたまっすぐな瞳の持ち主で、よく花や草木を愛でていた。

年老いて美しいブロンドの髪にはいくつもの白い線が出来、薄いほうれい線としわの出来た暖かな手。

右目には傷跡が残っており白の眼帯を付けていた。彼女曰く一種の呪いで治癒を全く受けつけず光は一切見えなかったとか。

長槍の名手で魔法も数多く取得しており、当時の仲間たちの中では最強の名を欲しいままにしていた。

 

そんな彼女はいつも一人のときは寂しげに空を見上げ、指を組んでは祈るようにしていたのを覚えている。

 

 

倒れそうになる身体を男が咄嗟に支えられる。

 

 

「(花の匂い?)」

 

 

この香りは・・・・・

 

 

古びれた記憶が徐々に蘇っていく。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「眠れないのか?」

 

「あぁ」

 

河原で星空を見上げるアンゼリカはヒビだらけのガラス細工のようで、今にもどこかへ風に乗り儚く消えてしまいそうであった。

 

「こっちに来てくれ」

 

アンゼリカはその場で腰を下ろすと隣に来いと手招きする。

素直に頷き、アンゼリカの隣に座りこむ。

 

「何かあったのか?」

 

「いいや」

 

「?」

 

「不思議そうだな、なんと言えばいいかな。これはそうだな、言うならば恋煩いだろうか」

 

目を丸くし開いた口が塞がらなかった。

どれほど愛を囁かれ様が、どれほどの情熱をぶつけられようがピクリともしなかったあのアンゼリカがだ。

 

「信じられないと顔に書いてあるぞ」

 

「い、一体いつから!?」

 

「いつからか....それは正直分からない。出会った時かもしれないし、何気ない所でかもな」

 

ふふと彼女は愛する人の顔を思い浮かべてなのか、今まで見たことないほど幸せそうに笑みを溢していた。

 

「あ、相手を聞いても良いだろうか?」

 

「ふーむ、特別に教えてやろう」

 

ゴクリと生唾を飲み込む。

アンゼリカ程の城塞を切り崩した男に興味を引かれていた。

 

「あろまボットン様。一応私の旦那様だ。」

 

「・・・・・誰だ!?というか旦那様!?」

 

自分もあまり顔は広くないが、そのような名前は聞いたことがない。

付け加えて婚約済みと来たもので更なる混乱が襲い掛かる。

 

「まあ知らなくても仕方ないさ、初めて話したからね」

 

「い、いつから?」

 

アンゼリカの笑みは苦笑いに変わり、あぁと小さく答えた。

 

「もう100年か500年かどれほど時が過ぎたか、正直もう時間のせいで記憶が霞掛かっていて分からないよ」

 

「っ!」

 

エルフの様に長命ではない種族の場合、それは長すぎる時間である。

しまったと聞いたことに後悔する。

好奇心だけで聞いてしまった自分に嫌気がさす。

 

「まぁ気にしないでくれ、それより少し恋バナでもしようではないか。」

 

聞いてしまった後ろめたさから、断ることなどできるはずもなく。

何も言わず首を縦に振る。

 

「私はな、どこよりも美しい庭園でモレナベ様という御方から生まれたんだ。生まれた瞬間から私にはいくつかそうアレと定められたことがある。その中で最も大事なことがあろまボットン様の妻となりお傍でお守りすること。」

 

「それは嫌だと思わなかったのか?」

 

生まれた瞬間から自分の道をすべて定められるのは苦痛ではないかと

 

「今も嫌だなんて思ってはいないよ。それであろまボットン様に仕えてから、ただひたすらに見守り続けたの。」

 

御方々が一人また一人と歯が抜ける様に消えていく中で、それでもたた一人で皆を繋ぎ止めるために奮闘する姿を見守っていた。

仲間に裏切られ秘宝が盗まれたというのに一人なぜか冷静で、周りを鎮める姿は庭園の主として輝いて見えた。

庭園の仲間が傷つけば誰よりも怒りを露わにし、誰よりも優しき御方であると実感した。

戦場では共に立ち向かい背中をお守りし続けた。

モレナベ様の様な特に仲の良かった方々消えた日、声を押し殺し泣いていた彼の背中を見つめることしか出来なかった。

 

彼女は多くを語り、眼尻に涙をため星空を仰ぎ見る。

 

「あろまボットン様はね、いつも周りから阿呆の扱いを受けていた。単純な能力だけ見たら私の方が強い。でもね、庭園の皆が自分たちの主はこの御方以外ありえないと感じていた。」

 

「なんとも変わった人だな」

 

「そうよね。妻になったとしても抱かれるどころか手すら繋げなかった、最後の言葉なんて『好きにしなさい』よ酷いわよね。」

 

彼女の隻眼にはきっとその情景は色褪せることなく鮮明に残っているのだろう。

 

「あろまボットン様が消え、こちらに来たときは大変だったのよ。最後に残された命令は好きにしなさいなものだから私たち配下はもうパニックよ。嘆き自決する者が大半を占めてね、残りはだいたいが主たちの帰りを待つために庭園に残るもの達。残りの僅かな者は私みたいに主を探す為外界へ飛び出したものね。」

 

「ほかに指揮する者はいなかったのか?」

 

「残念ながら私たちは平等で上も下もない、そういった役割を与えられれば話は違ったのかもしれないけど」

 

まるで子供でしょと呆れながら話すアンゼリカに何も言えず、黙って相槌を打つ。

 

「私ね、実はあろまボットン様を愛せとは定められていないのよ。なのに不思議なことに彼を思うと心が満たされていくのがハッキリ分かるのよ、心臓が高鳴って頬が熱くなるのを感じる。変よね、それまでただひたすらに定められたことに従っていたのにこんなこと。」

 

「私は恋を知らないが、恋は落ちるものらしい。決められてするものではないと思うぞ?」

 

今度はアンゼリカが目を丸くしている。

 

「なるほど、かなり前から落っこちてたのは分かったわ。」

 

「アンゼリカ、もしこの先旅を続けてその人に会えたらどうするんだ?」

 

「そりゃもちろん」

 

アンゼリカはニコリと笑うと

 

「思いっきり抱きしめてから()()()()()

 

「え゛っ!?」

 

予想外の回答に思わず汚い返答をしてしまう。

 

「いくら主様でも妻を置き去りなんて本来切腹ものよ」

 

「セップク?」

 

「モレナベ様が言うには腹を裂いて内臓を繋げたまま取り出し、それを縄代わりに馬につなげて引きずり回す刑罰らしいわ。」

 

「怖すぎる」

 

ぶるぶると全身が鳥肌が立ってしまう。

 

「せめて私も連れて行ってくださればいいのにね。」

 

アンゼリカはそうボヤくと懐から小さな紙を取り出す。

 

「それは?」

 

「これは唯一あろまボットン様から貰えたものでね、押し花というものでね。こうしておくと決して枯れず散ることもない、そんじょそこらの魔物では噛み千切るのだって無理なのよ。」

 

「それは凄いな、良かったら見せてくれないか?」

 

「あぁ」

 

受け取った紙の中には一輪の薄桃色の花が綺麗に咲き誇っていた。

僅かにだが甘く心地良い香りがする。

 

「綺麗だ」

 

「これは私の命よりも大事な宝物なんだ。」

 

「会えるといいな」

 

「あぁ、そうだな」

 

2人星空を見上げ物思いにふける。

チラリとアンゼリカの横顔を覗く、その顔は清々しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神の襲来

空に突如覆われた山の様な巨大さは太陽を隠し、死の瘴気をまき散らし現れた。

 

 

瘴気で立つことすらままならない中、彼女は立ち向かい。

 

 

そして激闘の末、魔神を打ち滅ぼした。

 

見事に長槍は魔神の心臓を刺し貫いた、しかし代償に命を持っていかれたのだ。

 

徐々に霧散していく瘴気の中でがくり力なく膝は折れ、糸の切れた人形の様に倒れる。

 

彼女は私に「すまない」と自分の宝物を差し出す。

 

「だ、ダメだ!?まだ会えてないじゃないか!!抱きしめてぶん殴るのだろう!!まだ!まだ死ぬな!」

 

徐々に冷たくなっていく手を握りしめ、涙を流し悲痛な叫び声をあげることしか出来ない。

 

「あろまボットン様......」

 

彼女の目には走馬灯の様に彼が過ぎていっているの、空に震えた手を必死に伸ばす。

愛した者の名を呼び、眠るように力尽きる。

 

 

空は晴れることなく、曇天から降り出す雨が降り出す。

 

叫びは雨にかき消され、彼女身体を強く抱きしめる。

 

もうしばらくは晴れそうにない。

 




これ以降出番はないと思うのですが、一応オリキャラのタグ付けときますね。
後シリアスもですよね。
最近暗い話だと異様に筆が乗るんですよねw

それでは次話まで気長にお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。