機動戦士ガンダムSeeD~Another SeeD Story~ (Pledge)
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開戦~原作前
プロローグ


初めまして、Pledgeと申します。

にじファンが封鎖されたので、こちらに投稿させて頂きます。

まだまだ未熟ですので、ツッコミどころ満載の作品ではありますが、少しでも楽しんで頂けたらと思います。

今回はプロローグですので、短めです。


ハルフォード・ヒュバーノ博士の日誌より抜粋

 

C.E46年―月―日

 主任は研究費を得るため、クローン作製の依頼を了承した。

 私は非難しようとした。だが、この研究に関わっている私が非難できるはずもない。

 主任は新たな方法を提唱した。それが【人工子宮】だった。

 

 

C.E49年―月9日

 あれから幾度もの実験を繰り返し、その度にサンプルの廃棄を行ってきた。

 主任の納得できるレベルにはまだ到達していないらしい。

 主任は、廃棄を行っていることに何とも思わないのだろうか。

 

 

C.E49年4月17日

 ようやく完成体レベルのものが完成した。

 これで研究も終わりだ。

 

 

C.E49年5月―日

 検査の結果、先日のサンプルには欠陥があることが分かった。

 主任の指示で、廃棄となった。

 いつまで続くのだ、この研究は……。

 

 

C.E50年―月20日

 ついに完成だ!今までにない程の能力を秘めている!

 これで主任も納得するだろう。

 今度こそ、この研究も終わりだ。

 

 

C.E50年6月―日

 何故だ!何故、失敗なのだ!

 最高を求める主任は、今回の成功体にある唯一の欠点を許さなかった。

 

 

C.E50年7月―日

 主任は廃棄を命令しなかった。正直、驚いた。

 恐らく、万が一の時の保険として使うつもりなのだろう。

 彼は、私が引き取る。自己満足だと言うことは承知している。

 それでも、私は……。

 

 

 途中、ページが血で張り付き読むのが不可能。

 

 なので、途中を省略。

 

 

C.E54年―月―日

 何故、そんなことが出来る。

 主任は自らの子どもである双子の内、男児を実験に使ったのだ。

 昔の彼は、すでにいない。

 今の彼は、我欲の功名心に囚われてしまっている。

 

 

C.E55年1月―日

 ついに、主任の求めるものが完成した。

 主任の求める、最高のコーディネイター。

 

 

C.E55年4月20日

 主任の求めた【最高のコーディネーター】が生まれた。元気だ。

 いつかこの子も、自らの出生を知るのだろうか。

 願わくば、知らずに生涯を終えることを。

 

 

C.E55年5月3日

 私は、一つの決断をした。

 私はこの研究を放棄する。ヒトがヒトを創り出すなど、あってはならぬことだ。

 双子の母親である彼女が主任を糾弾したが、主任に届くことは無い。

 

 

C.E55年5月10日

 双子は私の庇護下には無い。普通の生活が出来るのだろうか。

 せめてこの子だけでも、普通の生活を。

 あの双子やこの子には、普通の生活を送る権利がある。

 罪深い私を許してくれ。

 

 

C.E55年5月20日

 明日、妻とこの子を連れ私は研究所を離れる。

 私の残りの生涯は、この子のためにある。

 主任。いや、我が友ユーレンよ。もう会うこともないだろう。

 結局、私も君同様、功名心に取りつかれた愚か者だったのだろう。

 この日誌を書くのも、これで最後だ。

 



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Mission - 1 紅髪のパイロット

私の小説は、一話の長さはそれほどでもないと思います。

最低でも4000文字は超えたいと思いますが、たまに長い時もあるかも知れません。
戦闘描写がヘタで申し訳ないです。

どんな感想が来るかと恐怖しています。


この世界には2つの勢力が存在している。

 

主に地球を拠点とする、遺伝子操作を受けていないナチュラル。

 

対して、宇宙コロニー【プラント】を拠点とする遺伝子操作を受けたコーディネイター。

 

この両者は互いに憎み合う存在。

 

 ナチュラルは妬みや恐怖からかコーディネイターを恐れるようになり、コーディネイターは遺伝子操作を受けてより強い肉体になった優越心からナチュラルを見下すようになった。

 

そして、C.E70年2月11日。地球連合軍は、プラントに宣戦布告。

 

戦乱の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 どこまでも続く漆黒の海。だが、漆黒の海の至る所で光が灯る。あれは戦いの光。人が人を撃つ、兵器を使った戦争の光。

 

 戦場から遠く離れた後方には、今回の戦闘の旗艦であるナスカ級高速戦闘艦デュッフェルがいる。

 

 旗艦デュッフェルの格納庫には、二機のMSが待機していた。通常、ナスカ級の搭載可能数は六機。だが、今は二機しかいない。

 

 他の四機はすでに出撃し、残った二機は状況を見て投入されるのだ。つまり、この二機は切り札ともいえる存在。

 

2機の機種は同じで、ZGMF-1017ジンと呼ばれるものである。

 

 C.E65年に開発されたYMF-01Bプロトジンを改良して正式量産化したのが、ジンである。急ピッチで増産されたため、今回の戦闘から主力機として正式配備されている。

 

 だが、この2機は一般的なジンとは違い、所々にカスタマイズされている。シルバーにカラーリングされたジンカスタムと、ダークグレーに装飾されたジンカスタム。

 

 二機のジンのコックピットには、赤いヘルメットとパイロットスーツに身を包んだ人影が見える。

 

 ダークグレーのジンのコックピットにいる人影は俯いた状態で、動くことは無い。

 

 これは、彼――暫定的に彼と表現――が出撃の前に必ず行う、精神集中のための儀式のようなものである。

 

「待機中の両名へ。状況変化。連合、右翼の第二次防衛ラインを間もなく突破。中央も第三次防衛ラインが危険域。両名に発進願う」

 

 精神集中していた時に聞こえる、艦橋にいるオペレータからの状況が伝えられる。

 

 中央戦線はまだいいが、右翼は突破される危険が高い。一点でも突破されれば、残りの戦線が危険にさらされる。一刻も早い救援が必要だろう。

 

「了解」

「了解」

 

2人のパイロットは同時に答えると、慣れた手つきでMSを起動させていく。

 

「クルーゼ機、カタパルトへ」

 

 オペレータの言葉で、シルバーのジンC(カスタム)が発進位置へと移動。発進体制に移る。

 

「私は右翼に行こう。中央は任せたぞ、レオ」

「わかった」

「ふっ…。ラウ・ル・クルーゼ、出るぞ!」

 

 状況が切迫している右翼への派遣を任されたと言うのに、返ってきた答えは非常に落ち着いたものだった。

 

 シルバーのジンC(カスタム)のパイロット、ラウ・ル・クルーゼは友人のいつもと変わらない様子に思わず笑みが零れる。

 

 クルーゼに引き続き、クルーゼと短い会話を交わしたレオハルト・リベラントがカタパルトへと移動、発進体制に入る。

 

「レオハルト・リベラント、出る」

 

 クルーゼが出撃したのに続き、レオハルトも戦場へとその身を投げる。すでにクルーゼは中央戦線の救援に向かっており、小さく後ろ姿が見えるくらいだった。

 

 レオハルトは右翼の戦線へと視線をやると、フットペダルを強く踏み込み右翼の救援に向かった。

 

 レオハルトは右手に持つ[MMI-M8A3 76mm重突撃機銃]を動き回る敵MA、TS-MA2 メビウスの移動先を狙い引き金を引く。

 

 呆気なく撃破されたメビウスなど歯牙にもかけず、レオハルトは次なる敵へと向かう。

 

 続いて[MA-M3 重斬刀]を左手に持つと、正面から向かって来るメビウスに接近する。

 

 だが、メビウスから有線誘導式のミサイルが発射され、距離を取るレオハルトを執拗に追い続ける。

 

 レオハルトはミサイルを右手の重突撃機銃で撃ち落とす。ミサイルを撃ち落としたことで、周囲を煙が覆う。

 

 レオハルトの操るジンは煙から突然飛び出すと、油断していたメビウスを重斬刀で両断。

 

「レオ!」

 

 そう言ってサブモニターに映ったのは、同じ部隊に所属する仲間だった。彼はレオハルトと違い、着ているパイロットスーツは緑だった。

 

近くに寄って来たのは一機だけではなく、同じ部隊の二人が集まる。

 

「俺が突っ込む。周りは頼む」

「きっちり援護してやる!」

 

 レオハルトは仲間の言葉を聞くと、フットペダルを踏み込み敵のど真ん中に突っ込んで行く。同時に、二機のジンもその後に追従する。

 

正面からは、現在の連合軍主力MAMAW-01ミストラル四機が編隊を組んで接近してくる。

 

 まずはレオハルトが敵の編隊を崩すため、重突撃機銃を掃射する。予想通り、レオハルトの精確な射撃で敵は編隊を崩す。

 

 それを待っていたと言わんばかりに、仲間のジンが左右へと逃れたミストラルを難なく撃墜。

 

 残った二機のミストラルも、レオハルトの振り下ろした重斬刀に貫かれ、重突撃機銃によって蜂の巣と化した。

 

「艦を墜とす。援護を」

「おう!」

「任せろ!」

 

 仲間のジンが艦の攻撃を引き付けるためにドレイク級宇宙護衛艦へと距離を詰める。当然、敵艦は迎撃行動に入る。

 

 75mmのバルカン砲塔システムとミサイルが二機を追うが、二人は巧みにジンを操縦し攻撃から逃れる。

 

「ナチュラルにやられるかよ!」

「やっちまえ、レオ!」

 

 レオハルトはフットペダルを限界ギリギリまで踏み込む。Gがレオハルトを襲うが、顔色一つ変えずにレオハルトはドレイク級に迫る。

 

 ドレイク級の艦橋の目の前まで来たところで、レオハルトは重突撃機銃の引き金を引いた。

 

 すぐに機体を反転させて離脱すると、レオハルトはドレイク級の撃沈を意味する爆発を横目で確認すると、さらに前線へと突っ込んで行く。

 

 先程までの劣勢から、今では完全な優位に立っている。この状況を見て、司令官は一気に攻勢に出ることを命令。

 

 レオハルトと同じように、中央戦線ではクルーゼが先頭を切り敵部隊を次々と撃破していく。

 

 それから約二時間後。戦力の大部分を失った敵軍は、撤退という道を選択せざるを得ない状況になった。

 

 撤退していく敵を、レオハルトは静かな瞳で見送る。1人で追撃するのは愚の骨頂。そもそも、上からも追撃の命令は出ていないので、する理由も無い。

 

 というのも、あれは完全撤退ではない。再度の攻撃のための、一時的な撤退だ。レオハルトは機体を反転させると、旗艦へと帰投するのだった。

 

 レオハルトはデュッフェルの格納庫に機体を固定しコックピットから出ると、整備兵に後は任せ艦内へと戻っていく。

 

 レオハルトは酸素のある艦内へと足を踏み入れると、ヘルメットを脱いだ。ヘルメットを脱いで露わになったのは、肩ほどまである紅髪、ルビーの瞳をした青年だった。

 

青年はパイロットスーツを脱ぐと、手早く赤の軍服へと着替える。

 

 彼はレオハルト・リベラント。上から下まで紅の外見とその他の理由によって、ある意味有名な存在である。

 

床を蹴り無重力状態の更衣室を出てすぐ、レオハルトは声を掛けられた。

 

 声の聞こえた方へと視線を向けると、金髪に顔の上半分を仮面で隠しレオハルト同様に赤の軍服に身を包んだ男が立っていた。

 

「ラウか。どうした」

「さすがだと思ってね」

 

 この男の名はラウ・ル・クルーゼ。先程のシルバーのジンC(カスタム)のパイロットである。

 

2人は【ZAFT】建軍時からの付き合いで、互いに数少ない友人と言える。

 

 レオハルトはクルーゼから視線を外すと、食堂へと向かう。クルーゼは小さく笑みを浮かべると、その後を追った。

 

「崩壊寸前だった中央戦線を救うとはな。恐れ入るよ」

 

 レオハルトは自身にある権限内で兵の指揮を執り、連携して敵を駆逐していった。レオハルトのお陰で助かった命も少なくは無いだろう。

 

「これは、【ネビュラ勲章】も近いのではないか?」

「仲間の援護があったからだ」

 

 艦内食堂に着くと、レオハルトはプラスチックのトレイに載せられた食事を受け取り、席に着くと食べ始めた。

 

 クルーゼは苦笑を浮かべると、同様に食事を受け取りレオハルトの隣で食事に手を付ける。

 

「相変わらずだな、レオ。出世や勲章に興味は無いのか?」

「無いな。人に上に立つ器でも無いし、勲章にも興味は無い」

「君はそうだろうな。私は勲章なら欲しいのだがね」

 

クルーゼの言葉に、レオハルトの食事の手が止まる。

 

 クルーゼは内心では驚きながらも、その感情を表には出さない友人を見て、再び苦笑を浮かべた。

 

「意外かね?出世は気苦労が多そうだが、勲章ならマシだろう。むしろ、プラスかもしれん」

「……」

 

 レオハルトは止めていた手を動かし最後の一口を胃におさめると、ミネラルウォーターの入った紙コップを手にする。

 

「勲章を貰えば、箔が付くだろう?多少のゴリ押しは出来そうだとは思わないか?」

「なるほど」

 

レオハルトは紙コップに入っていたミネラルウォーターを飲み干すと、小さく呟く。

 

「そういうことなら、俺も勲章が欲しいな」

「……」

 

 先程までとはまったく逆のレオハルトの言葉に、クルーゼは思わず目を丸くしてレオハルトを凝視してしまう。

 

だが、次の瞬間にはクルーゼは小さく笑うと胸中で呟く。

 

「(…君は、本当に面白い)」

 

それから数時間後。

 

 デュッフェルに新たな命令が届き、乗艦しているレオハルトとクルーゼも移動することになるのだった。

 

デュッフェルの代わりに、新たな部隊が到着し指揮を執るとのことだった。

 

 後にこの戦闘は、ヤキン・ドゥーエ戦役と呼ばれる長い戦争の中で、最も多い激戦が行われた場所となる。

 

C.E70年2月11日のことだった。

 



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Mission - 2 戦乱の予兆

今回も4000文字とちょっとです。

ある程度のことはご都合主義で理解して頂きたいのですが、さすがにおかしいという点はご指摘をお願いします。


 ヤキン・ドゥーエでの戦闘を終えたデュッフェルは本国からの命令を受け、プラント本国へと帰還した。

 

 デュッフェルを旗艦としたハークス・ハルングを隊長とする隊に下された命令は、休息。

 

 ハルング隊は先週から哨戒任務や敵の襲撃の警戒などをこなしていた。それに引き続き、先日の戦闘である。疲労は溜まっていると言っていいだろう。そのための措置である。

 

ちなみにハルング隊は艦を三隻有しており、ナスカ級で旗艦のデュッフェル。僚艦にはローラシア級のグラツィエ、コッカルダが同任務に就いていた。

 

 休暇2日目のある日、レオハルトはクルーゼと共にプラント首都アプリリウスにて食事のために一軒のレストランに入った。

 

レオハルト、クルーゼ共に当然ながら軍服ではなく、私服を着ていた。

 

 二人の着ている服は似ており、どちらもシックな感じの服装だった。クルーゼも仮面はしておらず、サングラスをかけているだけだった。

 

 この店はよく二人が利用する店であり、入口近くにいた店員が目立つレオに気が付くと、黙って奥の個室へと通してくれた。

 

椅子に座ると、二人はメニューを見ながら他愛のない話を始める。

 

「昨日は休めたか、レオ」

「ああ。お前はどうだ、ラウ」

「私か?私は友人と飲み明かしたよ。お陰で少々、二日酔いだ」

 

 クルーゼはそう言うと、やってきたウェイターに二日酔いに良い食べ物とコーヒーを注文する。

 

レオハルトはペペロンチーノとシーフードピザ、コーヒーを注文する。

 

「よく食べるものだな、レオ」

「午前は訓練をしていたからな。腹が減っている」

「休暇だというのに訓練か?真面目なことだ。私には真似できんな」

 

 クルーゼは笑みを浮かべると、サングラスの両端を親指と薬指で押し上げズレを直す。

 

「コーヒー、お待たせしました」

「ああ、ありがとう」

 

 クルーゼはウェイターに礼を言うと、コーヒーにミルクを入れると口をつけた。

 

「ミルクを入れるのか?お前、ブラック派じゃなかったか?」

「コーヒーは二日酔いに良いらしい。胃腸に負担を掛けないため、ミルクを入れるのが良いとのことだ」

「なるほど。俺も覚えておこう」

 

 レオハルトはそう言うと、ブラックのコーヒーを口にする。レオハルトは、昔はブラックがダメだったらしいが、今では問題無いらしい。

 

 彼曰く、慣れたとのこと。今では、1日1回飲まなくては体調が悪くなるらしい。

 

「ふふっ。君は酒を飲まないではないか」

「可能性の話だ」

「では、飲む時が来たら声を掛けてくれ。私の行きつけのバーに案内しよう」

「そうしよう」

 

二人は互いに運ばれてきた料理を食べながら、会話に花を咲かせる。

 

 レオはペペロンチーノを食べ終え、ピザへと手を伸ばす。ピザから漂う匂いに釣られたのか、クルーゼもピザへと手を伸ばした。

 

「美味いな。もっと早く食べるべきだったな」

「二日酔いはいいのか?」

「細かいことを気にするな、レオ」

 

 クルーゼは笑みを浮かべると、2枚目のピザに手を伸ばした。どうやら、二日酔いはもういいらしい。

 

 レオハルトは小さく溜め息をつくと、自身も二枚目のピザを手にする。

 

「レオ。明日は何の日か知っているか?」

「バレンタインだろう?それがどうした」

「君のことだ。明日は大忙しではないかと思ってね」

 

2月14日、バレンタイン。

 

 女性が男性にチョコを与えると共に、自らの想いを打ち明けるビッグイベントである。

 

 レオハルトはその容姿から、女性軍人からは絶大ともいえるほどの人気があった。それはクルーゼも同様なのだが、仮面を付けている異様さからか話しかける者は居なかった。

 

 だからと言って、レオハルトが話しかけ易いというわけではない。むしろ、全身から出ている雰囲気に気後れしている者が多い。

 

 その独特のオーラを乗り越えた者のみに、チョコを渡すという偉業が成し遂げることが出来るのだ。

 

だが、レオハルトにはチョコレートを食べることが出来ない理由がある。

 

「知ってて言っているだろう。俺は甘い物が苦手だ」

「安心したまえ。その情報は、私が事前に流布しておいた。恐らく、甘さ控えめの君好みのチョコレートが贈られることだろう」

 

 おかしくてたまらない、という表情を見せるクルーゼの言葉に、コーヒーを飲んでいたレオハルトの手が止まる。

 

 苦々しい手でカップを置くと、レオハルトはクルーゼを睨む。だが、レオハルトの睨みも付き合いの長いクルーゼに通用するはずもなく、笑みを浮かべて受け流されるだけだった。

 

「お前、俺に何か恨みでもあるのか?」

「そんなことはないさ。友人に幸せになって欲しいという、私の小さな願いだよ」

「……」

「良いではないか。甘いチョコを貰って捨てるより、好みのチョコを貰って食べる方が良いだろう?」

 

 レオハルトの額の青筋が浮かび上がる。結構、イラッと来ていることだろう。

 

「余計なことをしてくれたな、ラウ……」

 

 レオハルトの恨み事にもクルーゼは涼しい顔で受け流すと、素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいる。

 

レオハルトは小さく溜め息を吐くと、最後の一切れのピザへと手を伸ばす。

 

「そういえば、レオ。シアには会ったかね?」

「ああ。午前中に会ったぞ。午後と明日は休暇らしい。これからの本格的な戦闘の前に、【ユニウスセブン】の両親に会いに行くそうだ」

 

フィシア・クリアーナ、愛称はシア。年齢はレオと同じで二十歳。

 

 金髪に端正な顔立ちをしており、誰が見ても美人、あるいは美少女と答えることだろう。スタイルは非常に整っており、グラビアアイドルのようなスタイルをしている。

 

 そんな外見をしていることもあり、多くの男性からアプローチを受けているが、すべて断っているらしい。

 

 レオハルトやクルーゼとは建軍当時からの付き合いで、二人とはウマが合い非常に仲が良い。

 

「彼女からもチョコを貰うのではないか?」

「…会った時に貰ったよ。シアとは付き合いが長いから、甘いのが苦手なのも知ってるし料理も上手いからな。見ず知らずの相手より、安心して食べられるよ」

「ふむ。おめでとう、と言っておこうか?」

「どういう意味だ」

 

 二人は注文した料理をすべて食べ終え席を立つと、クルーゼを先頭にして個室を出る。

 

クルーゼは黒の財布を取り出すと、レジへと歩いて行く。

 

「私が払おう」

「すまない」

「構わんさ」

 

 レオハルトは先に店の外に出ると、プラントの作り物の空を眺めた。空が薄暗いことに気付くと、レオハルトは午後から雨だと言うことを思い出した。

 

 プラントは気温・室温・天気をすべてコンピュータで管理し、可能な限り地球と同じような環境にしている。

 

「そういえば、雨だったな。急いで帰るとしよう」

「そうだな」

 

 会計を済ませたクルーゼが出て来ると、同様に空を見上げた。離れた場所から積乱雲のような雲が迫っていた。

 

「さて。では、私はこれで失礼する」

「ああ」

「楽しい食事だったよ」

「ああ。また時間があったら行こう」

 

レオハルトはクルーゼと別れ、自宅に向かって歩き出した。

 

 レオハルトは両親をすでに亡くしており、今は一人暮らしをしている状況である。親と住んでいた家でそのまま暮らしているのだが、一人で暮らすにはかなり広い間取りの家である。

 

 自宅の近くまで来たところで雨に降られ、濡れてしまったレオハルトは急いで帰りシャワーを浴びることにした。

 

シャワーから出ると、シアに貰った丁寧にラッピングされたチョコを手にする。

 

 包装を解きケースを開けると、中には王道ともいえるハート型のチョコが入っていた。しかも、チョコにはキレイな字で、『大・本・命』と書かれていた。

 

 レオハルトは文字が書かれていない端の方をわずかに割ると、口へと運んだ。その味は、ほのかに甘みのあるチョコ。レオハルト好みのチョコだった。

 

「美味いな……」

 

 レオハルトは普段からは想像できないほどの柔らかい笑みを浮かべた。その笑顔は、クルーゼが見たら目を丸くして驚き、フィシアが見たら泣いて喜ぶであろう程だった。

 

 レオハルトはチョコを可能な限りキレイに包装し直すと、冷蔵庫に入れて就寝するのだった。

 

 

 

 

 レオハルトが目を覚めると、時計の針は午前10時を指していた。今までの任務や午前の訓練の疲れが残っていたということだろう。

 

「寝過ぎたか…」

 

今日レオハルトは、議事堂でハルングと会うことになっている。

 

 レオハルト自身は否定しているが、戦闘の際には前線のMS部隊の指揮を執ることが多い。そういう立場にあるため、隊長であるハルング以上にパイロットのことを分かっている部分もある。

 

 ハルングも隊長と言う地位にいるため忙しく休暇でないとゆっくり話も出来ないので、一時間程休暇を返上してもらい、話をすることになっている。

 

 クリーニングしたばかりの、いつも袖を通している赤の軍服に袖を通し、自宅を出た。自分でエレカを運転し、十分ほどで議事堂に到着すると中に入っていく。

 

 中に入って気が付いたのは、人が忙しなく走り回っているということ。何かあったのかと思いつつも、約束の場所へと歩いて行く。

 

「レオハルト!」

 

名前を呼ばれ振り返ると、そこには白い軍服を着たハルングが立っていた。

 

 その顔には今まで見たことも無いほどの焦りが浮かんでおり、レオハルトにわずかに緊張が走る。

 

「隊長、何かあり…「レオハルト、大変だ!」……?」

「ユニウスセブンに…核が撃ち込まれた…!」

「!?」

 

 【ユニウスセブン】は、何の変哲もない農業用プラントである。そんなところに核を撃ち込む理由があるだろうか。

 

 確かに、食料の供給源を立つことは有効だ。だが、それよりも兵器開発している場所を潰す方が効果的だろう。

 

レオハルトの心にあるのはただ一つの疑問だけ。

 

何故……!

 

それだけだった。

 

 

 C.E.70年2月14日。農業用プラント【ユニウスセブン】に、地球軍の放った核ミサイルが命中。たった一発のミサイルにより、24万3724名もの命が失われた。

 

 この事件により、コーディネイターのナチュラルに対する敵意と憎悪は頂点に達し、戦乱はさらに混迷を極めることになる。

 




本来なら、ユニウスセブンの死者数は24万3721名ですが、オリジナルのキャラとその両親がいるので、3人プラスしています。


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Mission - 3 送る者、逝く者

 ハルングの言葉にレオハルトは言葉を失うも、すぐに我に返るとハルングに詰め寄り矢継ぎ早に質問を投げかけていく。

 

「何故、ユニウスセブンに…!一体誰が!?住民は!?」

「…早朝、連合軍が侵攻を開始。撃ち込んだ理由は、分かるだろう?【ブルーコスモス】だ」

 

 【ブルーコスモス】とは、反プラント・反コーディネイター思想を持つ主義者の総称であり、その考えに賛同する者は民間人だけでなく、地球連合軍上層部にも存在している。

 

 彼らは【青き清浄なる世界のために】をスローガンとし、コーディネイター排斥のためには武力行使をもいとわない連中で、各地では【ブルーコスモス】によるテロが頻発している状況だ。

 

「【ブルーコスモス】……!ですが、あそこは軍とは何の関係も…!!」

「奴らにそんなことは関係無い。肝心なのは、我々コーディネーターを殺せるかどうかだ。だが、そのために核まで使って来るとはな……!評議会もさすがに予想外だったようだ!」

 

核。人類が開発した、大量破壊兵器。

 

 そんなものを使ってまで、コーディネーターを滅ぼしたいと思っているのだ、【ブルーコスモス】は。自身らの唱える【青き清浄なる世界】のために。

 

「ハルング、ザラ国防委員長がお呼びだ」

「わかった。すぐ行く」

 

 名前を呼ばれたハルングが振り返ると、そこには黒服を着た黒髪の男性が立っていた。

 

 彼はレイ・ユウキ。非常に優秀な人間で、【プラント】を護る人材を育成している士官アカデミーの教官も務めている。

 

「恐らく、これから我々は攻勢に出る。そのための話だろう。後日、改めて部隊を召集する。それまでは、待機だ」

「…はっ」

 

 ハルングはユウキと共に背を向けて歩き出すと、レオハルトも踵を返して帰宅するのだった。

 

 レオハルトの頭の中には【ユニウスセブン】に赴いていたはずの友人、フィシア・クリアーナのことを考えていた。

 

「(俺たちは軍人だ。死ぬ覚悟は出来ている。それは、あいつも同じだろう。だが……。こんな形で、逝くことになるとは……!シア……)」

 

 大切な友人の無事を願いながらも、生きている可能性が低いと言うことも理解しているレオハルト。

 

その日は結局、眠ることが出来なかった。

 

 

 

 

アプリリウス市 議事堂 評議会室

 

「皆さん。すでにご存知のことと思いますが、地球連合軍の手により【ユニウスセブン】に核が撃ち込まれました。核の砲火によって、24万3724名もの命が失われました」

「断じて許せん行為だ!!」

「このままにはしておけん!!報復だ!!こちらも核を撃ち込むべきだ!!」

 

【ユニウスセブン】崩壊の報を受け、プラントは緊急で会議を開かれた。

 

 椅子から立ち上がりまず口を開いたのは、【プラント最高評議会議長】シーゲル・クラインである。

 

 議会では穏健派として通っており温厚な性格をしているが、今回ばかりはその表情には厳しいものが浮かんでいる。

 

 シーゲルの言葉に続き、他の評議会の議員たちが口々に強硬姿勢を貫くべきだという発言をする。

 

「我々まで核を撃ち込んでは、核の撃ち合いになってしまう。それでは、我々の未来は滅びだけだ!」

「ならばどうするのだ! 我々は24万余りもの人名を一瞬で失なったのだぞ!報復することは絶対だ!!奴らにも同等の、いや。それ以上の痛みを強いるべきだ!」

「ですから!そんなことをすれば、彼らはまた核を撃ってきます!報復と同時に、相手の行動を封じる必要があります!」

 

 会議はどんどんヒートアップしていき、議員たちの怒号が飛び交う。だが、その中で腕を組み目を閉じた状態で口を開かない男がいた。

 

 男の名はパトリック・ザラ。【プラント国防委員長】にして、シーゲルの穏健派とは逆の強硬派として通っている。

 

 パトリックの表情は非常に厳しいものであり、ナチュラル殲滅を主目的として掲げるパトリックが口を開かないことに、シーゲルは疑問を覚えた。

 

「静粛に!…パトリック、君はどう思う」

「…私は、三つの柱からなる【オペレーション・ウロボロス】の実行を提案します」

「具体的には?」

「我々は宇宙ではプラントが拠点として存在しているが、地球には存在していません。先のことを考えれば、地球にも軍事拠点を持つことは必要不可欠。そのため、地球での橋頭保の確保」

 

 パトリックの言葉に、議員たちは黙って頷く。この点に関しては、全員が思っていた共通認識であると言える。

 

地球軍が宇宙に来るのを待っているだけでは、戦争に勝てるはずも無い。勝つためには、侵攻することも重要となってくる。

 

だが、【ZAFT】には地球での拠点が存在しない。侵攻の度に部隊を降下していると、次第に対策も取られ時間も掛かる。

 

そのため、地球に拠点を確保するのはこれからの戦争において最重要課題と言えるだろう。

 

「二つ目。奴らを地球に封じ込めておくため、宇宙港やマスドライバーの制圧。これが実現すれば、我々にとって大きな優位性(アドバンテージ)を持つことが可能となります」

「なるほどな。それで、三つ目は何だ」

「これが最大の目的となります。三つ目、ニュートロンジャマーの地球への散布」

「!!」

 

 セクスティリス市代表のオーソン・ホワイトが開発した、ニュートロンジャマー。通称、Nジャマー。

 

 Nジャマーの影響下では、自由中性子の運動を阻害することにより全ての核分裂を抑制する。このため、核ミサイルをはじめとする核分裂兵器、核分裂エンジン、原子力発電などは使用不可能に陥る。

 

 さらにその副作用として電波の伝達が阻害されるため、それを利用した長距離通信や携帯電話は使用不可能となり、レーダーも撹乱される。

 

 これにより精密誘導兵器が使用不可能となり、戦場は再び有視界接近戦闘の時代を迎えることになる。そして、その環境下で最も有効な兵器となるのが、【ZAFT】のMSである。

 

「そんなことをしたら、地球のエネルギーが!」

 

 他の議員たちが言葉を失う中、驚愕の表情をしていたシーゲルは立ち上がり声を荒げる。

 

 現在、地球上に存在する各国家では原子力発電がエネルギーの大半を占めている。Nジャマーによって核分裂が封じられ原子力発電が停止すれば、地球を深刻なエネルギー不足が襲うことになる。

 

「パトリック!そんなことをすれば、民間人にも死者が出る……!」

「すでに出ているではありませんか!我々は!!戦争とは何の関係もない【ユニウスセブン】で、24万余りの人命が!!一瞬で!」

「だが…!!」

「二度と撃たせてはならんのだ!!失わないために!!友を、仲間を、家族を!そして、愛した者を!!」

 

 反論しようと立ち上がったシーゲルだったが、反論しなかった。反論出来なかったのだ。

 

 【ユニウスセブン】にはパトリックの妻である、レノア・ザラが在住し農業を営んでいた。だが、彼女はすでにこの世に存在しない。核によって、帰らぬ人となってしまった。

 

それを分かっているからこそ、シーゲルは何も言うことが出来なかった。

 

「シーゲル。いや、クライン議長。決を」

「…ザラ国防委員長の意見に賛成の者、起立を」

 

 シーゲルの言葉により決議が行われ、結果は賛成多数で可決。パトリック・ザラの提唱する【オペレーション・ウロボロス】の実行のための、莫大な費用の投入が決定。

 

 その後の会議で、【オペレーション・ウロボロス】の実行を最後に、シーゲルの提案により【プラント】は核攻撃を受けた者として、核の永久放棄が決定されたのだった。

 

 

 

 

C.E70年2月18日

 

 この日、【ユニウスセブン】で失われた24万3724名のための国葬が行われた。国葬の様子は市街の大型テレビなどでリアルタイムで中継されている。

 

 国葬の会場は非常に広く一番の奥の祭壇には花が手向けられ、その前には【ZAFT】の軍人が整列。祭壇の左右には評議会の人間の姿があった。

 

「民間人を核で焼き払ったナチュラル共を、許すことなど出来るはずがない!!このような悲劇を二度と起こさないためにも、我らは闘わねばならない!! 我らの自由を勝ち取るために!!我らの未来のために!!彼らの犠牲を無駄にしないためにも、我らに勝利を!!」

 

 シーゲルの後に行われたパトリックの演説は、【ユニウスセブン】で頂点に達したナチュラルへの敵対心をさらに煽る形なった。

 

 祭壇近くの列にはレオハルトとクルーゼの姿があり、二人の視線は壇上に立つパトリックへと向けられ静かに演説を聞いていた。

 

 パトリックの演説が終わると、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。会場に居る者だけでなく、全コーディネイターの気持ちはただ一つ。

 

憎しみと怒り。核を撃つという暴挙を行った、ナチュラルへの憎悪である。

 

 【ユニウスセブン】に友や家族、愛した者がいたかもしれない。それら大切な人間を一瞬にして失い、奪われてしまった彼らの気持ちを計り知ることは出来ない。

 

「【プラント】の勇敢なる【ZAFT】の諸君!諸君の力を、【プラント】を護るために貸して欲しい!」

「はっ!!【ZAFT】のために!!」

 

会場に集まった【ZAFT】の声が揃い、誓いを新たにするのだった。

 

 

 

 

 国葬終了後、レオハルトとクルーゼは今にも雨が降りそうな天気のなか墓地にいた。二人の目の前にある墓石には、一つの名が刻まれている。Fishia・Klianaと。

 

 レオハルトの予想通り、フィシアは当時【ユニウスセブン】内にいたことがわかっている。

 

 【ユニウスセブン】を出た記録も無く、当然別の【プラント】コロニーに入った記録も無い。そのため、彼女は死亡と認定。こうして墓石が作られている。

 

「これほど早く、友を見送ることになるとはな」

 

 クルーゼの呟きに対して、墓石を見つめるレオハルトからの答えは無い。何も言わないレオハルトに違和感を覚え、クルーゼはレオハルトへと視線をやる。

 

「何を考えている、レオ」

「何も」

「そうは見えないな。私には、君から憎しみと怒りが溢れているように見えるよ」

「…無意味だ、憎しみや怒りなど。俺たちはただ、敵に銃口を向け引き金を引くだけだ」

 

 感情の無い、無機質の口調。だが、クルーゼには分かった。付き合いの長い彼だからこそ分かる、レオハルトのわずかな変化。

 

 機戒のようなその口調、表情。溢れ出る感情をひた隠しにしている。クルーゼは直感的にそう感じ取った。

 

「無意味と思うかね?私はそうは思わない。憎しみと怒りは、大きな力となる」

 

その言葉に、レオハルトは横に立つクルーゼへと視線を移す。

 

 だが、クルーゼの表情は仮面に隠され読み取ることは出来ない。付き合いの長いレオハルトでも、クルーゼの感情を読み取ることは難しい。

 

 だが、クルーゼの言葉からは確信が現れていた。まるで、自分がそうであるかのように。

 

「ラウ。お前は、憎しみと怒りで生きているのか?」

「…フッ、私の持論だよ」

「その割には、やけに確信に満ちた言葉だったな」

「おや、そうかね?」

 

 クルーゼは口元に小さな笑みを浮かべるも、レオハルトの言葉を受け止めることはしない。ただ、受け流すだけだ。

 

 レオハルトとしても、クルーゼが話すとは思っていない。親友とも呼べる距離感ながらも、二人の間には決して消えない壁がある。

 

「…どうやら、心の内を明かさないのはお互い様か」

「私もかね?君だけだろう」

 

 二人のその言葉を合図に、再び訪れる沈黙。その時、クルーゼの肩に雨粒が落ちると、クルーゼは作り物の空を見上げる。

 

クルーゼは今日が雨となっていたことを思い出し、小雨が降る空からレオハルトへと視線を移し、ゆっくり声を掛ける。

 

「…そろそろ帰るかね?」

「……ああ。……なあ、ラウ…」

 

踵を返し歩き出したクルーゼは呼び止められ振り返った。その時、小雨だった雨が徐々に勢いを増していき、ついにどしゃ降りの雨が降り始めた。

 

レオハルトは徐々に雨足が強くなる空を見上げる、静かに口を開いた。

 

「…雨が…降って来たな……」

「……そうだな。早く帰るとしよう……」

 

 クルーゼは仮面を静かに持ち上げると、レオハルトに背を向け同じように空を見上げた。クルーゼは見逃していなかった。

 

レオハルトの頬に流れる、一筋の涙を―――――。

 

「さよならだ、シア……」

 

 レオハルトはフィシアの墓石に敬礼をすると、同じようにクルーゼも敬礼をする。レオハルトは挙げていた手を下ろし墓から視線を外すと、前に向かって歩き始めた。

 

 

 

同日、地球ではシーゲルの発した声明によって情勢が動いていた。

 

 【プラント最高評議会議長】シーゲル・クラインにより、地球連合非参加国には優先的に物資を提供する【積極的中立勧告】の声明を非プラント理事国である、大洋州連合――オセアニア地域で構成――と、南アメリカ合衆国――ラテンアメリカで構成――が受諾した。

 

 これに危機感を覚えた地球連合は、翌2月19日。南アメリカ合衆国に武力侵攻を開始。パナマ宇宙港を軍事制圧し、南アメリカ合衆国を大西洋連邦に武力併合した。

 

 これは、マスドライバーによる宇宙からの補給が滞ることを恐れた大西洋連邦――北アメリカ・イギリス・アイスランド・アイルランドで構成――が、武力をもって阻止するための侵攻であった。

 

 なお、このさらに翌20日。大洋州連合は地球連合軍の中南米侵攻を批判すると共にプラント支援を表明し「親プラント国家」になった。同日、地球連合軍は大洋州連合に対し宣戦布告を行った。

 

地球の情勢は、大きく動いていた。

 




ストックが切れたので、更新速度は遅くなります。


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オリキャラ・オリMS紹介 10/14改

物語が進み次第、更新していく予定です。


名前

レオハルト・リベラント

 

人種

ネオ・コーディネーター(一世代目)

 

誕生日

C.E51年6月19日

 

星座

双子座

 

血液型

B型

 

年齢

20歳(原作年)

 

身長

177cm

 

体重

67kg

 

ルビー

 

髪型

紅の髪、肩まである髪は普段はまとめている。

(後、肩上程度まで切った)

 

好きな食べ物

イタリアン

 

趣味

MS設計(本人曰く、ヘタの横好き)

 

特技

ハッキング

 

軍服色

赤服

 

出身

メンデル

 

所属

ハルング隊→特務隊【FAITH】

 

ウェーガー・リベラント

エリシア・リベラント

 

備考

【ZAFT】が建軍されるとすぐ入隊し、パイロット養成課程を首席で卒業。その時出会った、ラウ・ル・クルーゼやフィシア・クリアーナと友人となる。ちなみに、クルーゼとは同率の首席卒業である。

 

 エリートの証である赤服を着て、配属先はクルーゼと共にハルング隊に配属。フィシアは本国防衛の部隊に配属された。

 

 性格は理知的で冷静。感情を露わにすることはほとんど無く、他人に自分のことを話したり笑顔を見せることは滅多にない。

 

 開戦当初はただ【プラント】を護るために闘っていたが、【血のバレンタイン】で失ったフィシアを契機に、【ブルーコスモス】に少なからず憎悪を抱くようになる。

 

 フィシアを失って初めて、彼女に対して少なからず好意を抱いていたことに気付いたレオハルト。

 

 

 

 

 

 

 

名前

フィシア・クリアーナ

 

誕生日

C.E50年5月13日

 

星座

おうし座

 

血液型

A型

 

年齢

20歳(没年齢)

C.E70年2月14日(没年月日)

 

身長

171cm

 

体重

52kg

 

スリーサイズ

B:89 W:61 H90

 

翡翠

 

髪型

金髪、ポニーテール

 

好きな食べ物

激辛料理

 

趣味

激辛食べ歩き

 

階級

赤服

 

出身地

アプリリウス市

 

所属

リバーニョ隊

 

備考

 レオハルトやクルーゼと同じ時期に【ZAFT】に入隊。パイロット養成課程を優秀な成績で卒業。その後、本国防衛部隊のリバーニョ隊に配属。

 

 パイロット養成課程の時代にレオハルトに一目惚れし、それ以来レオハルトにアタックをかけ続ける。

 

 周囲の人間にしてみたらすでに付き合っているレベルなのだが、二人にその自覚は無かった。夢はレオハルトのお嫁さんと豪語していた。

 

 だが、【ユニウスセブン】に放たれた核攻撃によって死亡。夢が叶う前に亡くなり、遺体の無い状態でのレオハルトとの再会となってしまった。

 

 

 

 

名前

レイン・エルミーラ

 

誕生日

C.E52年11月19日

 

星座

さそり座

 

血液型

O型

 

年齢

19歳(原作時)

 

身長

165cm

 

体重

46kg

 

スリーサイズ

B:81 W:60 H87

 

 

髪型

背中でまとめている

 

好きな食べ物

和食

 

趣味

ジョギング

 

階級

赤服

 

出身地

ディセンベル市

 

所属

ハルング隊

 

備考

クルーゼが隊を持ったことにより、ハルング隊へ異動してきた。

赤服だけの事はあり実力は高いのだが、生真面目すぎるのが難点。

 

レオハルトが【FAITH】に昇格してからも、ハルング隊として活動している。

 

 

 

 

 

名前

バルドリッヒ・ゲヴェール

 

誕生日

C.E41年8月9日

 

星座

しし座

 

血液型

AB型

 

年齢

30歳

 

身長

187cm

 

体重

72kg

 

漆黒

 

髪型

黒髪、短髪

 

好きな食べ物

 

趣味

肉体改造

 

階級

白服

 

出身地

ユニウス市

 

所属

ゲヴェール隊

【プラント】諜報部隊長

 

備考

 

 

 

 

名称

JUPPITER(ユピテル)

 

型式番号

ZGMF‐212X

 

全高

17.46m

 

重量

71.28t

 

武装

MA-M212 天鳥船(アメノトリフネ)×2

40mmビームライフル

JDP8-MSY0540 ゲイ・ボー

MA-M0 ビームクロー

 

搭乗者

レオハルト・リベラント

 

開発者

レオハルト・リベラント

ハインライン設計局

 

備考

特務隊レオハルト・リベラントが構想・設計したもので、当初は武装面で苦労していたが連合の【G兵器】のデータを元に開発に成功。

 

同機体は近接戦闘を主眼に置いて開発されたもので、射撃武装は一つだが近接武装は四つ装備されている。

 

射撃武装である40mmビームライフルは、【G兵器】の武装である57mm高ビームライフルを元に開発している。だが、エネルギー面の問題があるため、出力を落とした40mmビームライフルを開発、装備している。

 

次に近接武装となるMA-M212 天鳥船(アメノトリフネ)。これはジンHM(ハイマニューバ)が装備していた実剣をベースに、JUPPITER(ユピテル)専用の武装として開発。

 

PS(フェイズシフト)装甲にも対応出来るように、エネルギーを供給することで刃をビーム化させることが可能。後述するビームクローよりエネルギー消費が少ないのが長所だが、当然ながらビームクローより威力は低下する。

近接戦闘を主眼に置いているため、両腰に二本装備。

 

最後の武装も近接武装である。

最後の武装は、ビームクロー。両手の五本の指先から真紅のビームが伸び、五本を収束することで巨大なビームサーベルにすることも可能。その切れ味は凄まじく、理論上では【G兵器】のPS(フェイズシフト)装甲も貫くことも可能。が、エネルギー消費がやや高めということが欠点。

 

この機体は戦争後半までレオハルト・リベラントの乗機として活躍し、レオハルト・リベラントが???に乗り換えてからは設計局に保管されることになる。

 

 

 

 

 

名称

FINIS(フィニス)

 

型式番号

ZGMF‐X99A

 

全高

18.08m

 

重量

84.52t

 

装甲材質

PS(フェイズシフト)装甲

 

武装

MMI-GAU2ピッキオ 80mm近接防御機関砲

MA-M01Eテュルフィング ビームサーベル×2

MA-M202レシェフ ビームライフル

MA-M00モラルタ ビームクロー×2

MA-M002 エッケザックス 肘部ビームブレイド

MA-M003 脚部ビームブレイド コルタナ

M150 500mm複列位相胸部エネルギー砲 ラグナロク

高収束プラズマビーム砲 アスカロン

超高収束プラズマビーム砲 ブリューナク

ドラグーンシステム(ビーム砲×37)

ラミネートアンチビームシールド

 

搭乗者

レオハルト・リベラント

 

建造

レオハルト・リベラント

統合三局

 

分類

ZAFTガンダム目

ドラグーンシステム搭載型単機殲滅対応型大火力MS

 

備考

パトリック・ザラの指示のもと、国力・物量に劣る【ZAFT】が奪取したG兵器のデータを注ぎ込み、統合三局によって開発された試作型MS。

 

OSの不具合からロールアウトが大幅に遅れ、ボアズ陥落直後に正式にロールアウト。

 

核を使うという暴挙を行なった地球軍に、Finis(フィニス)。つまりは『終焉』を与えるという意味を込めパトリックによって命名された。

 

味方からは畏敬の念を、敵からは恐怖の念をということで機体カラーは漆黒に決定。

 

他の核動力機体より豊富な武装を有し、特徴的ともいえる【ドラグーン・システム】を搭載。マルチロックオンシステム搭載型全周囲モニター式コックピットを採用、パイロット次第では単機で基地を制圧することも十分に可能。

 

だがその反面、エネルギー消費が凄まじく核動力でなければ数分と保たない。核あってこその機体であることは間違いない。

 

多数の武装とドラグーンを搭載しているため重量が増加してしまい、極限まで機体の軽量を図ったため防御力は脆弱と言わざるを得ない。同時に多数のスラスターを増設したため、高い機動力の確保に成功している。

 

型式番号の99は、100%のものは出来なくても99%の物を作ることは出来るはず。99%のものを作り上げ、残りの1%は自らの力で補うという意思によってレオハルト自ら名付けられた。

 

額には、X99Aと99を表すnovantanove(ノヴァンタノーヴェ)の文字が刻印されている。

 

 



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Mission - 4 世界樹攻防戦

C.E70年2月21日。

 

【プラント最高評議会】が先日、研究費の投入を決定した【オペレーション・ウロボロス】の中核を担うNジャマー。現時点では、この作戦には邪魔が入ることは間違いない。

 

【ZAFT】は宇宙にしか存在しないため、軌道上からの降下しか地球への移動方法は存在しない。降下位置がわずかでもズレたら、降下させた人員の危険、最悪の場合作戦に影響が出る場合も考えられる。よって、作戦時に余計な横槍を入れられるのは好ましくない。

 

 そのため【プラント】は現時点で攻略可能であり、かつ邪魔な拠点であるL1のスペースコロニー、【世界樹】攻略を決定。

 

 攻略決定の数時間後には、【プラント】はハルング隊などを含めたナスカ級五隻、ローラシア級十隻。ジン九十機を派遣した。

 

 目的地へと向かう途中、レオハルトとクルーゼは格納庫を見渡せる一室に居た。二人は何をするわけでもなく、整備士たちが動き回る格納庫を眺めていた。

 

 レオハルトには大きな変化があった。肩まであった髪をバッサリ切っていたのだ。今は首よりやや上程度までになっている。

 

「レオ。何故、いきなり髪を?」

「……“誓い”だ。連合に勝利するというな」

「……シアのためかね?」

 

 いつもの皮肉染みた口調とは違う、真剣さのこもったクルーゼからの問い。その問いに、レオハルトは沈黙する。沈黙、それが何よりの答え。

 

「…シアのためだけじゃない。【ユニウスセブン】で散った者たちのためでもある。そして何より、俺の選んだ道だ」

 

 クルーゼ同様、レオハルトのその言葉は真剣であり、そして重みがあるものだった。

 

 レオハルト本人は気付いていなかったが、レオハルトはフィシアへ好意を抱いていた。知らぬは本人と、好意を向けられているフィシアだった。

 

フィシアもレオハルトには好意を持っていたが、自分に向けられる好意には無頓着で、気付いている気配は無かった。

 

 というより、周囲から見たら二人は付き合っているものと認知されていたのだが、レオハルトは否定。フィシアは喜んでいたが、まだアタックの途中と周囲には漏らしていた。それほどまでに二人は仲が良かったのだ。

 

 失ってから初めて気付いた、自らの秘めたる想い。それこそが、レオハルトが墓地で流した一筋の涙の答え。

 

「……そうか。…さて、私は部屋で休ませて貰うぞ」

「ああ」

 

 クルーゼは身体を翻すと、わずかに顔を顰めながらドアへと向かって行く。だが、その背をレオハルトが呼びとめた。

 

「ラウ」

「何だね」

「……ちゃんと飲めよ」

「……わかっているさ」

 

 クルーゼは部屋を出ると、レオハルトと相部屋となっている部屋へと急ぐ。その間も、クルーゼの表情はどんどん険しいものとなり、何かに耐えるように胸を掴む。

 

「ぐぅっ……ぐっ……」

 

 部屋に入ると、自らのベッドの頭側にある小物置きのフタを開け、置いてあった透明で長方形のケースを手にすると、中に入っていた錠剤数粒を口の中に押し込み、ミネラルウォーターで流し込む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

 大きく肩を上下させ、呼吸の安定化を図る。その様子は、長距離を走った後のようで、額からは脂汗が滲んでいた。

 

「ククッ……。ままならん身体だよ、まったく。…付き合いの長さは伊達ではないな、レオ。おかしな奴だよ……」

 

 クルーゼはケースを元の場所に戻すと、部屋に備え付けられているシャワールームへと歩いて行く。軍服にシャツ、短パンに続いて仮面も籠へ放り込むと、ドアを開ける。

 

 わずかに見えたクルーゼの顔には深い皺が刻まれており、歳に似合わない顔と言える。クルーゼは鏡に映る自身の顔を見て、憎々しげに顔を歪める。

 

「忌々しい顔だ……!この顔を見ると、嫌でも“ヤツ”を思い出す……!」

 

 クルーゼはそう吐き捨て鏡から視線を外すと、シャワーのお湯を頭から被り、苛立ちを流すのだった。

 

 

 

 

翌C.E70年2月22日

 

 間もなくL1・【世界樹】到着間近になった時、レーダーが【世界樹】から出てくる部隊を捉えた。

 

 【世界樹】には第一・二・三艦隊が配備されているという、諜報部からの事前の情報があった。その情報通り、確かにそれだけの数が確認出来る。

 

「敵艦より、MAの発進を確認。MAW-01ミストラル、TS-MA2メビウス!」

「MS隊、発進急げ!」

 

MAW-01ミストラル。

 

 連合の主力機として活躍しているMAで、徐々にメビウスが増産されつつあるが、未だに主力機としての座を守っているMAである。

 

敵のMA発進の報告を受け、ハルングもMSの発進を命じた。

 

 MS発進の艦内放送が流れると、一気に格納庫は騒がしくなっていく。次々と艦からジンが出撃していき、【世界樹】が近付くにつれてコンディション・イエロー――警戒態勢を指し、いつでも出撃出来るように待機すること――で待機していたレオハルトとクルーゼも、自分のジンへと移動していく。

 

 ジンのコックピット近くには整備員が待っており、近くまで来た二人の手を引き、通り過ぎるのを防ぐ。コックピットに身体を滑り込ませ手早くジンを起動させると、先にクルーゼが出撃する。

 

「クルーゼ機、発進位置へ」

「ラウ・ル・クルーゼ、出るぞ!」

 

 シルバーにカラーリングされたジンが、カタパルトによってナスカ級から勢いよく射出される。

 

 レオハルトも順調にジンを起動させつつ、各部のチェックを急ぐ。レオハルトの両手が素早く動き、キーボードを叩いて行く。

 

「各部チェック、異常無し。全システム、オールグリーン」

「レオハルト機、発進位置へ」

「レオハルト・リベラント、出る」

 

 クルーゼに引き続き、レオハルトのダークグレーのジンが宇宙へと出撃する。先に出撃していたクルーゼらと速度を合わせると、大部隊の連合に向かっていく。

 

「レオハルト、我々はクレイソン隊と共に左翼を受け持つ。敵は多い。手早く敵を殲滅してくれ」

「了解」

 

 中央と右翼は、素早く展開した別の部隊が対応する。いくらMSとMAの戦力比が三:一とはいえ、連合の物量を考えれば不安要素が大きい。

 

 現に、今【世界樹】に配置されていた部隊数は、【プラント】に最低限の防衛部隊を残すことを考えると、ギリギリ派遣出来る数なのだ。

 

 コーディネイターはナチュラルに比べると少なく、さらに【ZAFT】である数はさらに少なくなってしまう。ギリギリ、あるいは少々無理した数と言える。

 

「各機、連携して動け。敵は多い。後ろを取られるなよ!」

 

 いつも通り、ハルング隊のMS部隊の指揮を執ることになったレオハルト。レオハルトは回線を開くと、同じ部隊の仲間に檄を飛ばす。

 

「そういう君もな、レオ」

 

 レオハルトの檄の言葉に返って来たのは、クルーゼの皮肉だった。だが、レオハルトはそんな皮肉にも笑みで答えると、機体の速度を上げ戦場にその身を落とすのだった。

 

 

 

 

クルーゼ side

 

私は数機のジンを引き連れ、左翼の外側から攻撃を仕掛けていく。

 

 私は一人突っ込んで行くと、正面からメビウスが二門ある[40mmバルカン砲]を乱射しながら突っ込んでくる。

 

 私は機体を反転させて銃撃をかわすと、すれ違いざまに引き抜いた重斬刀で斬り捨てた。その程度の攻撃、当たらんさ。

 

瞬間、コックピット内にアラームが鳴り響く。後ろか!

 

 私は機体を上昇させ回避。数秒前にいた場所をメビウスの武装である、[対装甲リニアガン]が通過する。機体を反転させ振り向いた瞬間、再びアラームが鳴り始める。

 

ちいっ!

 

 私はフットペダルを踏みこみ、素早くその場を離れる。だが、後ろからは有線誘導式のミサイルが追いかけて来る。

 

その後ろからは、さらに二機のメビウスとミストラルが追いかけて来る。

 

やれやれ、人気者は辛いものだ!

 

 私が機体を急停止させると、ミサイルは私の急な動きに付いてくることは出来なかった。ミサイルは運悪く、連合のドレイク級に着弾。そこを友軍のジンが攻撃して撃沈させた。

 

 私は、背後から迫る二機の撃墜に向かう。二機から集中砲火を浴びせられるが、私は恐れることなく立ち向かっていく。

 

 二機とすれ違うと、私は機体を上下反転させた状態で重突撃機銃を構えると、旋回して再び攻撃しようとするメビウスを撃墜。ミストラルは素早く距離を詰め、重斬刀で両断した。

 

 周囲を見ると、友軍も敵の物量に苦戦しながらも敵の数を減らしているようだ。

 

 個々の力ならともかく、我々は数で圧倒的に負けている。時間が経てば経つほど、我々の不利と言えよう。

 

さて、レオも頑張っていることだろう。私もギリギリまでやるとするか。

 

クルーゼ side

 

 

 

レオハルト side

 

 俺たちが到着してから、すでに一時間以上は経過している。結構撃墜したはずだが、一向に減っているようには見えない。戦況は刻一刻と変化している。…悪い方向に。

 

 友軍の被害も小さくはない。すでにジン三十一機、ローラシア級四隻、ナスカ級一隻を失っている。やはり当初の予想通り、連合の物量は脅威だ。

 

 俺たち【ZAFT】に物量作戦は真似できない。俺たちコーディネイターは、ナチュラルの五百万分の一しか存在しないのだから。

 

その時、この状況を一変させる通信が入る。

 

「【ZAFT】全軍に告ぐ。これより、試作兵器の効果実験を行う」

 

 試作兵器!?ブリーフィングではそんなこと…。だが、実戦で試作兵器を使うなんて…。

 

 その時、敵陣に“何か”が向かって行く。その“何か”から、何かが発せられた、ように感じた。

 

 その瞬間、今まで動きまわっていたメビウスの動きが止まった。メビウスだけではない。連合全体に、大きな混乱が見られる。

 

「敵…【Nジャマー】に……混乱…いる!今…好機…!せん……ろ」

 

 【Nジャマー】?聞いたことがある。確か、核分裂を抑制させる兵器。研究に莫大な費用が投じられたと聞いたが、すでに試作品が完成していたのか。理論だけはすでにあって、それを形にするだけだったのか。

 

 だが何故、通信が阻害されている。【Nジャマー】は通信まで阻害する効果があるのか?いや、考えるのは後にしよう。今は動くべきだ。

 俺が先頭を切って動き出すと、動かなくなった敵を易々と撃墜していく。メビウスだけでなく、ミストラルも撃墜していく。

 

 最近はメビウスが増産されつつあるようだが、未だに配備数はミストラルが大部分を占めている。攻略戦などの時には、新型のメビウスを使うようだ。

 

 今は動けなくなった敵を撃破し、後々の戦闘を少しでも有利にするため、数を減らさなければ。

 

 

【Nジャマー】使用から三十分後。

 

 【ZAFT】は【世界樹】へとミサイル攻撃を仕掛け、徹底的に破壊。【世界樹】はデブリベルトの仲間入りを果たした。生き残った連合も、【Nジャマー】の効力が切れたことで撤退していった。

 

 今回の戦い、互いに無視できない損害を被った。俺たちは全部隊の三分の二近くを失い、連合も半数以上の戦力を失った。

 

 物量が主体の連合ならとにかく、数で劣る俺たちにしてみたら今回の損害は大きい。連合はすぐに戦力を整え、攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

 戦争は始まったばかりだ。気は抜けない。撤退していく連合を見送りながら、俺はそう考えていた。

 

 デュッフェルからの帰還信号が宇宙へと放たれる。それを見ると、周囲の友軍を見渡した後、デュッフェルへと帰還した。

 

レオハルト side

 

 

 

 

「【世界樹】での功績を加味し、両名に【ネビュラ勲章】を授与するものとする」

 

【世界樹】での戦闘を終え、本国に帰還した二日後。

 

 レオハルトとクルーゼは国防委員会に呼び出された。そこで待っていたのは、評議会の人間の他に、議長のシーゲル、国防委員長のパトリックだった。

 

 ここに来るまでの間に、ハルングから勲章を授与することを説明されたレオハルトとクルーゼ。

 

 レオハルトはMA四十五機、戦艦四隻を撃破。クルーゼはMA三十七機、戦艦六隻を撃破したのだ。

 

 この大きな功績により、二人には在来他国軍の2階級特進に相当する、【ネビュラ勲章】が授与された。

 

 丁寧な装飾が施されながらも、豪華さは失っていない勲章がシーゲルの手によって二人の左胸に付けられる。

 

「これからも期待しているよ」

「ありがとうございます、クライン議長」

「光栄であります、クライン議長」

 

 シーゲルの賛辞に、二人は敬礼をしながら礼を述べる。シーゲルに続き前に出てきたのは、パトリックだった。【プラント】国防のすべてを担っている男だ。

 

「貴様らには期待しているぞ。【プラント】のために」

「「はっ!」」

 

 パトリックの言葉に二人は直立すると、シーゲル同様に敬礼を返した。同時に、会場には拍手の音が鳴り響くのだった。

 




次は番外編にしようかな。

それとも、本編を進めようかな。
本編なら、次はグリマルディですね。

今週中には更新したいです。


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Mission - 5 重なる面影

久しぶりの更新です。

活動報告で申し上げた通り、PCが不調なのでVitaで仕上げました。
大体は出来ていたのでなんとかなりましたが、一からやるとなると骨が折れそうです。
非常にやりにくいです。当然ですね。

今回はグリマルディの予定でしたが、予想以上に説明が長くなってしまいました。中途半端になりそうだったので、一旦切ります。

次はちゃんとグリマルディだと思います。
そろそろ主人公以外の視点も必要だと思うので、番外編的なものが先になるかもしれません。

申し上げた通り、後半部分はVitaでやりましたので、気付かなかったミスがあるかもしれませんが、ご理解をお願いします。


C.E70年3月15日。

 

 この日、【Nジャマー】散布を主目的とする、【オペレーション・ウロボロス】の最終的な採決が行われた。結果は無論、賛成多数で可決。

 

 未だに【ユニウスセブン】での悲劇、【血のバレンタイン】を彼らは忘れてなどいない。いや、忘れ去ることなど出来るはもない。あれほどの悲劇、惨劇を。

 

 採決と同時に、【プラント】はプロパガンダの意味合いも込めて、各MS設計局がこの日のために開発していた新型MSを発表した。

 

発表した新型は五種類。

 

 UMF-4Aグーン。【ZAFT】が開発した、初の水中専用MSである。海洋補給線の寸断や沿岸拠点への揚陸作戦を目的に設計され、巡航形態に変形することも可能となっている。

 海だけでなく、地上専用MSも開発している。TFA-2ザウート、TMF/A-802バクゥの二種類である。どちらも地上戦を想定して開発されたMSで、ザウートは高い火力を有しており、バクゥはその四足歩行式から繰り出される高い機動性に期待されている。

 

 宇宙ではジンの後継機として、ZGMF-515シグーがロールアウト。ジンの特徴である高い汎用性を受け継ぎつつ、スラスターの増設、高出力化により宇宙空間での機動性、運動性の大幅な向上に成功した。

 

 大気圏内では、単独での飛行能力を持つAMF-101ディンが開発された。基本設計はシグーをベースにしており、前述の通り大気圏内での単独飛行が可能。だがその半面、飛行能力を高めるため軽量化を追求したため、耐弾性は脆弱と言わざるを得ない。

 

 

 そしてC.E70年4月1日。【オペレーション・ウロボロス】――別名、【エイプリル・フール・クライシス】が――実行された。

 

 対戦国中立国に関らず、無差別に散布され地中深くに埋め込まれた【Nジャマー】の影響から、以後ザフト、地球連合軍の双方のみならず全地球上で核分裂装置の使用不可能となった。

 

 この影響で核分裂炉の原子力発電をエネルギー供給の主としていた地球上の各国家は、それが使用不可能となり、地球全土で深刻なエネルギー不足が問題になった。

 

 後にこの【Nジャマー】の影響で陥ったエネルギー不足解消までの被害は、二次被害・三時被害を合わせると地球の総人口の一割近くに達した。

 

そして翌C.E70年4月2日。

 

 前日のエイプリル・フール・クライシス】の混乱に乗じ、【ZAFT】はオーストラリアのカーペンタリア湾に軌道上から基地施設を分割降下させ、48時間でカーペンタリア基地の基礎を建設。

 

 作戦上は制圧戦だが、実際には大洋州連合側から無償で土地が提供されていた。この時、地球連合軍の太平洋艦隊が迎撃に出たが【ZAFT】の新型機の前に大敗、基地は翌月の20日に完成した。

 

 

 

C.E.70年4月17日。

 

 地球連合軍第5、第6艦隊がプラント本国を目指し月面プトレマイオス基地より侵攻する。プラント管理下の資源衛星ヤキン・ドゥーエ付近にて、迎え撃つ【ZAFT】と交戦を行った。

 

 この戦闘においても、【世界樹】での戦闘でその有用性を認識させた【Nジャマー】を使用。【ZAFT】は大きな損害を被ることもなく、勝利を得ることとなった。

 

 今回の戦闘を機に、【プラント最高評議会】は本国防衛の点から、ヤキン・ドゥーエを防衛要塞に改装する事を決定。以後、防衛要塞【ヤキン・ドゥーエ】と改名された。

 

この戦闘ではハルング隊は出撃しておらず、本国防衛部隊として【プラント】に駐留していた。

 

 

 

 

C.E70年5月29日

 

 【ネビュラ勲章】を授与されたことによって晴れて名実共にエースパイロットなった、レオハルトとクルーゼ。

 

二人はこの日、上層部からの命令を受け【ハインライン設計局】へと向かっていた。

 

 案内人が運転する車に乗り込むと、二人は事前に渡された小型端末のデータを確認していた。小型端末には一機のMSが表示されており、読み進めていくとさらに詳細なデータが表示されていく。

 

「ZGMF-1017MジンHM(ハイマニューバ)か…。上も太っ腹なことだ。完成したばかりの新型を回してくれるとは」

「【ネビュラ勲章】のお陰だろう」

 

二人はデータを見ながら短く言葉を交わす。クルーゼを見ると、明らかに変化があった。

 

 先日までは赤服だった軍服が、今は白服。隊長クラスである。クルーゼは【世界樹】での功績により、勲章と同時に昇進したのだ。

 

「そういえば、まだ言ってなかったな。ラウ、昇進おめでとう」

「ああ。君のお陰でな」

「……」

 

 クルーゼの切り返しの言葉に、レオハルトは外へと視線を外した。そんなレオハルトを、クルーゼは視線で追いかける。

 

 実は先日、レオハルトはハルングに呼び出されていた。その時の話しが、レオハルトかクルーゼのどちらかへの白服への昇進の話だった。

 

 正直、レオハルトはまだ昇進したいとは思っていなかった。以前からレオハルトは、自身が指揮官の器ではないと思っていた。自分は後ろにいるよりも、前線にいる人間だと思っている。そう考えレオハルトは辞退。レオハルトが辞退したことで、自動的にクルーゼが昇進対象になったのだ。

 

 その時、レオハルトは先日のチョコの好み流布事件の意趣返しとして、ハルングにクルーゼが昇進したがっているということを話した。ハルングがこのことを素直に受け取った瞬間、レオハルトは内心、してやったりの笑みを浮かべた。

 

「昇進したがってなかったか?」

「…分かっているのに、よく言う。何かの意趣返しのつもりかね?」

「…この前の、俺のチョコ好み流布事件のお返しだ」

「根に持っていたのかね?」

「自分でも驚いている」

「ほう…」

 

レオハルトは再び小型端末のデータへと目を移すと、クルーゼはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「それはつまり、シアのチョコだけで良かった、ということかね?」

「…今となってはな」

「おや、素直に認めるのかね?からかい甲斐の無いことだ」

「言ってろ」

 

 互いに軽口を叩きながらも、二人の口元には笑みが浮かんでいる。クルーゼもデータへと視線を落としたその時、目的地へと到着した。

 

 

 

 

 二人は目的地へと到着すると、目的の物が置かれている場所へと案内される。案内人が格納庫の明かりを点けると、格納庫に置かれていた二機のMSがその姿を見せる。

 

「これがZGMF-1017MジンHM(ハイマニューバ)です。次世代機就役までの繋ぎとして、ジンに近代化改修を施した機体です。ですが、その性能はジンを上回ります」

「データを見る限りでは、そうみたいだな」

 

 二人は自分たちの何十倍も大きなMSを見上げる。向かって右には、シルバーグレーにカラーリングされたジンHM(ハイマニューバ)。左には漆黒のジンHM(ハイマニューバ)が鎮座している。

 

 二人の後ろでは、案内人としてついてきている【ハインライン設計局】の技術者がデータの情報に捕捉を付け加える。

 

「クルーゼ隊長は、右の量産型一号機を。リベラントさんは、左の量産型試作機を。今日はお二人に合わせるため、最終調整のためにお越し頂きました」

「では、始めるとしよう」

「そうだな」

 

 二人はキャットウォークを渡りコックピットに飛び乗ると、キーボードを引っ張りキーを叩いて行く。素早く手が動き、次々と既存のOSを書き換えていく。

 

「なるほど。加速性能、航続距離、旋回性能がジンより大幅に強化されている」

「ええ。お二人の機体はこれから量産される機体に比べ、高機動化のために各部のスラスターの増設、各部関節強度も一般型に比べ約30パーセントほど強化しています」

「これなら、ジン以上の働きが出来そうだ」

「ええ。国防委員会は、お二人の働きに非常に期待しているようです。では、最終調整を始めます」

 

それから数時間後。

 

最終調整が何事もなく完了すると、二人は設計局を後にした。出撃の時が迫っていた。

 

 

 

 

 

C.E70年6月

 

 ハルング隊、及び新設されたクルーゼ隊はお互いに隊を率い、グリマルディ・クレーターに向かっていた。

 

 【ZAFT】は地球連合軍の月面プトレマイオス基地を目標に侵攻を開始し、月の裏側にあるローレンツ・クレーターに橋頭堡となる基地の建設、部隊を展開した。その結果、反対側に居る連合とはグリマルディ・クレーターを境界に月を二分し、幾度となく小競り合いを繰り返しているのだ。

 

そんな時、いよいよ【ZAFT】はエンデュミオン・クレーターに展開する連合軍への攻撃を決定。そこで【プラント】上層部は、エースパイロットを擁するハルング隊・クルーゼ隊に命令を下したのだった。

 

ちなみに、クルーゼ隊はローラシア級三隻で構成されており、旗艦はクルーゼ自らが艦長を務めるガルバーニである。

 

クルーゼが昇進で隊を離れ親友がいなくなったレオハルトは一人、先日搬入されたばかりのジンHM(ハイマニューバ)量産型試作機のコックピットに居た。

 

最終調整は先日完了させたが、あの時は気付かなかった点があるかもしれない。そう考えたレオハルトは念には念をいれているのだ。

 

「リベラントさん!」

 

名前を呼ばれレオハルトがコックピットから顔を出すと、赤服の女性が見えた。

 

彼女はクルーゼが抜けた代わりに配属された新人で、名はレイン・エルミーラ。背中でまとめた艶やかな黒髪のスレンダーな女性である。

 

歳は18なのだが大人っぽい雰囲気と外見から年齢より上に見られることが多く、自分は老けているのか、というのが今一番の悩みらしい。

 

「(確か…)」

「本日から配属されました、レイン・エルミーラであります」

 

レオハルトが名前を捻り出すより早く、レインは改めて名乗った。レオハルトは瞬間的にとはいえ名前を忘れてしまったことを詫びると、レインは勢いよく首を左右に振った。

 

「そんな!謝られることは!リベラントさんは、我々【ZAFT】のエース。私とは全然!」

 

レインはそう自分を卑下するが、彼女の実力はその身にまとう赤服が証明している。これまでのことからも分かるように、ハルング隊は前線に派遣されることが多い。

 

そんな部隊に実力の無い人間を派遣しないだろう。【ZAFT】は数が少ないため、そのような人員の無駄をするとは考えにくい。

 

「エルミーラ、レオでいい。みんなそう呼ぶ」

「で、ですが…」

「俺たちに上下関係は無い。気にするな」

 

【ZAFT】には数種類の軍服の色が存在するが、基本的に赤服と緑服には上下関係は存在しない。これはあくまでも、養成過程卒業時の成績を示したものでしかない。

 

無論、これら以外の黒や白は例外である。

 

「で、では、ハルと呼んでいいでしょうか?」

「!?」

 

レインの予想もしていなかった言葉に、レオハルトは動揺し心臓が激しく鼓動を始める。レオハルトをそう呼んだのは、一人だけである。

 

「他の方々と違う呼び方をすれば、私のことも覚えて頂けると思いますので…」

 

レオハルトの脳裏に、かつて同じことを言って自分のことを『ハル』と呼んでいた彼女のことが浮かび上がる。誰にでも好かれそうなヒマワリのような笑顔を浮かべていた、彼女のことを。

 

「どうかしましたか?」

「! いや、何でもない…。それで構わない」

「はい!これからよろしくお願いします、ハル!私も自分のMS、見てきます」

 

レオハルトは片手で顔を押さえながらコックピットシートに背を預けると、消え入りそうな声で呟いた。

 

「全然似てないのにな……。情けないな、俺は……」

 

レオハルトは息を吐き深呼吸をすると、MSの調整作業に戻るのだった。

 




ジンHMを開発した設計局ですが、イマイチ分からなかったのでシグーやディンを開発した、ハインラインにしました。

違う場合は、ご指摘をお願いします。


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Mission - 6 グリマルディ戦線 前編

お久し振りです、Pledgeです。
依然としてPCはぶっ壊れたままですので、あのPCは諦めました。そのうち、新しいのを買うことにします。
なので、デスクトップPCでチマチマと書いていたものを更新します。

久し振りに読む、という方もいらっしゃる思いますので、ちょっと変更点を述べておきます。
前話で登場したオリキャラの主人公への呼び方を修正しました。
名前がレオハルトなのに、レオンっておかしくね?ということに気付きました。

ご指摘がないだけでそう思った方もいらっしゃると思います。まぁいっか、と流すことは出来ませんでしたので修正しました。

それと、今回はラウsideです。口調が変かもしれませんがご勘弁を。

残りは後書きで。


C.E70年6月2日。ハルング隊・クルーゼ隊を始めとした増援部隊は、ローレンツ・クレーターに完成した基地に到着。

 

エンデュミオン・クレーター攻略のための攻撃部隊と合流し、正午と同時に進攻を開始。対する地球連合軍も、徹底抗戦の構えを見せていた。連合軍は主戦力となる第3艦隊を始め、第4・7艦隊が防衛戦力として結集していた。

 

これに対して【ZAFT】もジンやジンHMなどの新型機を投入。ジンHMはレオハルトやクルーゼ以外にも、一部のパイロットにロールアウトしている。

 

そしてハルング隊旗艦デュッフェルの待機室では、レオハルトとレインがパイロットスーツを着て待機していた。

 

レオハルトの視線の先には新たに受領した漆黒のジンHMが鎮座している。【ハインライン設計局】が量産を目的に開発した試作機で、機体カラーの漆黒は宇宙空間でのステルス性を追求したものだった。

 

同時に、一般的なジンやジンHMよりエンジンやスラスター等に静音性を持たせたため、予想以上のステルス性を発揮。友軍機との連携が難しいことや、そのステルス性から単機での作戦行動が望ましいとされていたが、パイロットが居なかったため倉庫に収納されていた。

 

だが、レオハルトの実力に目を付けた【ハインライン設計局】が、レオハルトの戦闘データを元に再調整。その後、本人立ち会いの下、調整を行い完成。レオハルト専用機としてロールアウトした。

 

「いよいよ実戦ですね」

「そうだな」

「やっぱり、緊張しますね」

 

レオハルトがレインへと視線を向けると、微かに手が震えていた。初めて戦場に出ることへの恐怖、死への恐怖、人の命を奪うことへの恐怖。様々な恐怖が入り混じった感情が、震えという形で表れている。

 

レオハルトは自機へと視線を戻すと、自分の初実戦を思い出す。レオハルトの時は、まだ今のようにナチュラルとの緊張状態はそれほど無く、レオハルトが初出撃したのも今回のように大きな戦闘ではない。

 

周辺に出没する海賊の鎮圧が初だった。大規模な戦闘では無かったとはいえ、命のやり取りをする場所というのは同じ。だが、レオハルトには不思議と恐怖心は無かった。あるのは、戦闘への高揚感。むしろ、そんな感情を覚えた自分に恐怖を覚えたほどだった。

 

「すぐに慣れる。……嫌でもな」

「はい……」

 

【ヤキン・ドゥーエ戦】や【世界樹攻防戦】に出撃したレオハルトの言葉は、レインの心に深く突き刺さった。

 

その時、艦内中に響き渡る警報。

 

「エンデュミオン・クレーター宙域に、連合軍艦隊を確認!各MSパイロットに発進命令!」

「行くぞ」

 

レオハルトは真横で浮いていたヘルメットを掴むと、格納庫へと続くエレベーターに乗り込む。続いてレインも乗り込んだ。

 

「……一つ聞いてもいいですか?」

「何だ」

「ハルには、恐怖心は無いのですか?」

「……言っただろ。慣れると」

 

レオハルトは到着と同時に床を蹴ると、自機へと向かって行く。レオハルトの背を見送り、レインも自分のMSへと向かって行く。

 

整備員に手を借りMSのコックピットに滑り込むと、レインはカタパルトへと移動していく漆黒のジンHMを見つめる。

 

「慣れる、か……。慣れたくないな、私は。それでも、慣れていくんだろうな、私も。人間は、慣れる生き物だから……」

「レオハルト・リベラント、出る」

「エルミーラ機、カタパルトへ」

 

レオハルトの出撃に引き続き、レインにカタパルトへの移動命令が来る。レインはカタパルトへ移動すると、脚部をカタパルトに固定。レインは静かに深呼吸すると、操縦桿を強く握り締める。

 

「エルミーラ機、発進良し」

「レイン・エルミーラ、出撃します」

 

レイン専用にカスタムされたジンが宇宙へと発進すると、すでに最前線では戦闘の砲火が見えた。レインはペダルを強く踏み込むと、最前線へと向かって行くのだった。命をやり取りをする、戦場へと。

 

 

 

クルーゼ side

 

受領したばかりのジンHMを駆り、私は戦場をひた走る。この機体は良い。ジンとは違い、私の要求に応える性能を持っている。

 

部下からの報告によると、レオは左翼で戦っているらしい。彼も私同様、その力を遺憾なく発揮していることだろう。

 

「!?」

 

突然の砲撃に機体を操作して回避すると、砲撃してきたのは正面に布陣している艦隊。情報によると、彼らは第3艦隊のようだな。

 

「丁度良い。この機体の限界を知るための、実験台になってもらおう」

 

部隊指揮はマルピーギの副長に任せてきている。心置きなく戦えるというものだ!

 

私は各部スラスターを噴かせ敵部隊に向かうと、レーダーが敵機を捉える。向かって来るのはメビウスで編成された部隊。正面と左右から。3機編成の9機か。

 

私は操縦桿を手前に引き戻しスラスターを停止させると、〔JDP‐MMX22 試製27mm機甲突撃銃〕を構え左の部隊へと向かって行く。

 

私が向かって来るのを見て、左から接近してくる部隊が一斉にリニアガンを発射してくる。機体を回転させながら左に回避しつつ、突撃銃の引き金を絞る。

 

3機のメビウスは散開して回避すると、先程右から近付いてきていたメビウス部隊が背後から接近。バルカンやリニアガンを撃ちながら接近してくる。それに引き続き、正面から来ていた敵部隊も合流。9対1の状況、普通に考えれば不利と言えるだろう。

 

だが、私は違う。私は、私の目的を果たすまでは死ねんのだ!!

 

私は操縦桿を奥に押し出すと同時にペダルを踏み込み、全スラスターを全開。猛スピードで移動しながら、私は〔MA-M3 重斬刀〕を左手で引き抜く。

 

四方から放たれる砲火をすり抜け、メビウスを下から斬り上げ返す刀でさらに1機を撃墜。素早くその場から離れると同時に、メビウスは爆散。

 

次なる敵に狙いを定め、仮面の下で自然と目が細くなる。再び浴びせられる集中砲火。だがこの機体、ジンHMは私の指示に応えてくれる。負けはしないだろうが、ジンだったら腕の一本は失うだろう。だが、この機体ならばそんな心配は無用だ。

 

私は逸る高揚感を抑えるように操縦桿を握り直すと、残る敵の掃討に向かう。

 

「死ねぇーっ!!宇宙(そら)の化け物めーっ!!」

 

通信機越しに聞こえてくる連合軍パイロットの叫び。【ブルーコスモス】ということか。しかし、皮肉なものだな。私に討たれるというのも!

 

私は一瞬だけスピードを上げ敵との距離を詰めると、零距離で突撃銃を突き付けると人差し指に力を込める。瞬間、吐き出される鉛の弾。メビウスに風穴を開けると、突撃銃の銃口を背後に向け発砲。

 

見るまでもない。撃墜を確認するまでもない。機体が爆発する音。それだけで充分だ。あっという間に4機の友軍を撃墜され、耳をすませば奴らの恐怖の声が聞こえてくるようだ。

 

残りは5機。動きで分かる。4機を撃墜されたことで、残った5機の士気が落ちたのが分かる。愚かな。戦う意思を失くした者に、戦場で命は無いぞ。

 

残った5機をすぐに撃墜すると、艦の撃沈に取り掛かる。近くにいたドレイク級に攻撃を仕掛けるが、相手は鈍重な獲物。私の攻撃に為す術があるはずもない。だが、私は手を抜くようなことはしない。

 

「獅子は兎を狩るためにも、全力を尽くすものなのだから」

 

友軍は私についてくることは出来ないようだ。まあ、致し方あるまい。この程度の敵、一人で墜とせなくてはレオに笑われてしまうだろう。

 

第3艦隊から間断なく向けられる砲撃の嵐。嵐のような攻撃を潜り抜け、私はドレイク級に取りついた。ドレイク級の横を移動しながら、突撃銃の引き金を引き続ける。艦後部に銃撃が着弾した際、一際大きく爆発。どうやら、弾薬庫だったようだな。まあ、運が無かったということだ。

 

続いて、私の瞳が新たな獲物を捉える。第3艦隊の旗艦であろう、アガメムノン級戦艦。現在、連合の最大級の戦艦だろう。だが、私の獲物であることには変わりない。獲物は逃さんよ!

 

右足でフットペダルを踏み込むと、アガメムノン級に向かって行く。すると、アガメムノン級から一斉射が放たれる。

 

さすがにビームの数が多く、私は機体を急停止させると右へと移動する。回避した先で、コックピット内で鳴り響くアラート音。レーダーを確認すると、メビウスが接近中だった。

 

「ええい!邪魔をするな!」

 

私は突撃銃を向け発砲。発射された弾はメビウスを蜂の巣にして撃墜すると、再びアガメムノン級撃沈に集中する。

 

とはいえ、さてどうしたものかな。蝿のように周囲を飛び回るメビウスを撃墜しつつ、アガメムノン級戦艦撃沈の策を考える。考えたところで、やることは同じか。艦底部から攻める。

 

「さて、メインディッシュだ。宇宙の藻屑と化してもらおう」

 

今日一番の獲物を前に、自然と笑みが零れる。フットペダルを今までよりも強めに踏み込むと、当然今までよりも強いGが私を襲う。だが、それすらも今の私には高揚感を増すためのものでしかない。

 

「クックック!ハーハッハッハッハッ!!」

 

私の高揚感に比例するかのように、ジンHMがスピードを増したように感じる。無論、それは私の気のせいだろう。だが、不思議とそう思えてならんのだ。

 

そういえば、以前レオが言っていたな。戦闘中、気分が高揚することがあると。それが恐ろしいと。だが、麻薬のように甘美なものだと。なるほど、レオの言うとおりだ。この気分は、何物にも変えがたいものだ!

 

アガメムノン級戦艦から次々と浴びせられるビームの嵐を、バレルロールなどのアクロバティックな軌道で回避しながら進んで行く。今の私は、誰にも止められんよ!!

 

「敵MS、艦底部に移動!」

「底部バルカン起動させろ!迎撃!」

 

艦底部に回り込むと同時に、バルカンが旋回して私を捉えると迎撃してきた。無駄なことをするものではないな!

 

艦底部の数ヶ所に配置されていたバルカンを突撃銃で破壊すると、重斬刀を突き刺し艦後部へと移動。艦底部に巨大な裂け目を作ると、爆発音を背中に聞きながら艦正面へと回り込む。

 

「し、正面に敵MS!」

「何っ!?」

「沈みたまえ」

 

ブリッジに向けていた突撃銃を向けつつ、笑みを浮かべながら引き金を引いた。

 

「ククッ……」

 

機体を翻し移動していると、笑いが止まるのを抑えることが出来ない。最高の気分だよ、レオ!次なる敵を見つけるべく、私は周囲を見渡す。

 

「さて、次の獲物は……っ!」

 

瞬間、私の頭に何かが奔った。何だ、今のは…?初めての感覚だ。何かが来るのか?謎の感覚の正体について考えていると、アラートが鳴り響きレーダーが敵機を捉えた。

 

「……TS-MA2mod.00メビウス・ゼロ。ほぉ、連合の精鋭部隊所属のMAではないか。面白い」

 

私を次の獲物を決めると、メビウス以上の速度で近付いてくるメビウス・ゼロに立ち向かう。

 

「次の獲物は貴様だ。楽しませてもらおうか!」

「余裕じゃないの!【ZAFT】のパイロットさん!あんたのお陰で、第3艦隊は壊滅状態だよ!」

「(男か。年齢は20代後半と言ったところだな)案ずるな。すぐにそんな心配をする必要もなくなる!」

「言ってくれるじゃないの!!」

 

メビウス・ゼロの周囲に装備された4基の物体が分離すると、本体と同時に攻撃を仕掛けてくる。ほぉ!あれが噂の【ガンバレル】という奴か!前言を撤回しなければな。今日一番の獲物は、こいつのようだ!

 

間断なく浴びせられる銃撃を移動しながら避けつつ、隙を見ては突撃銃で【ガンバレル】を攻撃。だが、巧く回避すると、再び攻撃を仕掛けてくる。

 

あれだけの攻撃、一撃でも喰らって動きを止めれば終わりだな。だが、喰らわなければいいだけのこと!

 

私は大きく回り込むと、敵に向かって行く。メビウスと同じ装備であるリニアガンを最小限の動きで回避。さらに加速し、敵に突っ込んで行く。

 

「くそったれが!」

 

敵は分離していた【ガンバレル】を一度戻すと、バーニアを噴射し私から距離を取ろうとする。逃がしはせんよ!!

 

私も後を追いかけると、奴は私が先程沈めたアガメムノン級を盾にして回り込んだ。同様に私もアガメムノン級を回り込んで目に入ったのは、リニアガンを構えた敵の姿だった。

 

「ちいっ!!」

 

私は素早く操縦桿を引き戻し機体を急停止させると、上へと進路を取る。だがその瞬間、リニアガンが重突撃銃を貫いた。

 

「ちっ!まさか直撃を避けるとはね!良い反応じゃないの!!」

「貴様こそやるではないか!私に攻撃を喰らわせたのは、貴様で2人目だ!」

「それは光栄だね!!」

 

奴は再び【ガンバレル】を分離すると、遠距離の武器を失った私に猛追をかけて来る。私は撃墜されたMSやMAの残骸の間をすり抜け、奴の攻撃を回避していく。

 

「ちっ!ちょこまかと!!さっさと墜ちろって!」

「その言葉、そのままそっくり返そう!」

 

私は途中、戦艦の死角になっているところにジンの残骸を発見。フッ、神はまだ私を見捨ててはいないようだ。ジンが標準装備している重突撃銃を掴むと、わざと奴の視界に入る。

 

「そこか!!」

 

私に気付いた奴が、リニアガンで私を狙い撃ちしてくる。周囲には残骸が多いため、【ガンバレル】の展開は難しいはず。ならば、ここで沈めるとしよう!

 

瞬間、私は機体を急停止させると、後ろから追っていた奴の真上に取りつく。

 

「何っ!?」

「さらばだ!」

「くそったれ!!」

 

私は重斬刀を振り下ろすが、奴も私同様に機体に急制動をかけることで回避。だが、それは読んでいたさ!

 

私は機体を上下反転させた状態で重突撃銃を向け発砲。だが、奴は方向転換用の補助バーニアを使って直撃を避けた。私が放った銃撃は、【ガンバレル】の1基だけを破壊しただけ。この男……。

 

「貴様、やるな」

「あんたもな」

 

MSと互角に渡り合うほどの腕を持ったパイロットがいるとはな。思わず、互いに動きを止めてしまい、言葉を交わしてしまう。

 

「名を聞かせてもらいたい」

「ムウ・ラ・フラガだ。あんたは?」

「!? 貴様、フラガ家の者か!」

「【ZAFT】に知り合いはいないはずだが」

 

ということは、奴の!あの男の息子か!!そうか、あの時の子どもか!!

 

「ククッ……。ハハハハハハハッ!!」

「何だよ急に」

「そうか!貴様、あの男の息子か!!」

「親父を知っているのか!?」

 

ククッ……。面白い、実に面白い!あの時以来会っていなかった我々が、こうして戦場で対峙するとは。

 

「私はラウ・ル・クルーゼ!!フラガ家とは因縁がある男だ!!」

 

私は中断していた戦闘を再開するため、重突撃銃を向けて発砲する。奴もすぐに銃撃を回避すると、残骸の間をすり抜け私から距離を取る。

 

「お前、親父と何の関係がある!!」

「さてな!!ただ1つ言えることは、貴様とも浅からぬ因縁があるということだけだ!!」

「何を言っている!!」

「我々のこの出会いは、運命だということだ!!」

「男との運命なんてお断りだ!!」

「同感だな!!ならば、宿縁と言わせてもらおう!!」

 

奴は私の背後からの銃撃を避けつつ、奴は急反転するとリニアガンで反撃。【ガンバレル】を分離し、さらなる追撃をかけてくる。

 

「答えろ!!何でお前が!!」

「不毛だな!!答えを知りたければ、私を屈服させてみろ!!」

「上等だ、このヤロウ!!」

 

周囲では依然として【ZAFT】と連合の激しい戦闘が続く中、私たちだけが別の世界で戦っているかのような感覚に陥る。

 

ここは、私たちだけの戦いの世界!!

 

クルーゼ side end

 




前書きの続きです。

執筆は一応再開しますが、今までも早かったわけではありませんが更新速度は落ちます。
ですが、今回の話は前・後編にしましたので、後編も今月中には更新したいと思っています。

更新も遅く拙い文章ではありますが、多少なりとも楽しんで頂ければと思います。
これからもよろしくお願いします。


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Mission - 7 グリマルディ戦線 後編

お待たせしました。後編です。
ちょっと短いかもしれません。

スラスターとバーニアの使い方について疑問なのですが。
調べたら、スラスターは主推進用、バーニアは副推進/姿勢制御用と書いてあったのですが、これでいいのでしょうか。

以前から、自分の使い方に疑問を持っていました。
ご存知の方が居ましたら、教えてください。


時間は開戦直後に遡る

 

レオハルト side

 

ラウの部隊に先んじて出撃して戦場に飛び出すと、俺は戦場を大きく迂回して敵部隊へと向かって行く。正面は他部隊に任せ、俺は単身でこの機体に備わっている能力を活かして敵を強襲する。

 

最大全速を出せばさすがにエンジン音が出るので察知されるが、半分程度のスピードであれば備わっている静音性と機体カラーである漆黒の宇宙との迷彩効果により、ステルス性を発揮する。

 

だが、一番のステルス性を発揮する機能は別にある。

 

そもそもレーダーとは、レーダーによって飛ばした電波によって発生した反射波を拾うことで位置の特定を可能としている。ならば、その反射波を出す原因の電波を何とかすればいいのだ。

 

そのため、ジンHM量産型試作機には電波を発生しにくい物質が使用されている。つまりこの機体には、エンジンの静音性・機体カラー・物質の三点により高いステルス性を発揮している。

 

とはいえ、この機能はあくまで実験的に導入されたもので、未完成の部分も多く存在している。

 

ある程度距離を詰めたところで、友軍が敵部隊と接敵。敵の注意は友軍に注がれている。頃合いだな。行くか。

 

俺は操縦桿を最大まで奥に押し込みフットペダルを踏み込む。瞬間、ラウの量産型1号機よりも増設されているスラスターやバーニアが勢いよく噴射し、猛スピードで敵部隊へと向かう。

 

「方位02、マーク80チャーリーに敵MS!!距離70!!」

「何だと!?何故、今まで気付かなかった!!」

「ステルス性能を有していると思われます!」

「とにかく迎撃だ!!CIWS起動!照準、敵MS!!」

 

敵の慌てふためく声が聞こえてくるようだ。その証拠に、今まで起動すらしていなかったCIWSが起動して、俺に銃口を向けている。その努力が、無駄だということも知らずに。

 

俺は五〇%程度に抑えていたスピードを七〇%にまで上げ、敵艦との距離を一気に詰めていく。量産型よりも増設されている各部のバーニアにより、俺の身体はシートに押し付けられる。

 

だが、この程度のGに耐えられないヤワな身体はしていない。敵艦のブリッジに近付いたところで機体を横に向け、突撃銃を構え引き金を引く。

 

発射された弾丸は悲鳴を上げるブリッジに着弾。ブリッジの爆発によって艦の至る所で爆発が起こり、本日最初の敵艦を沈めた。

 

敵艦撃沈の余韻に浸ることもなく、俺は次なる敵へと向かって行く。敵の主力であるMAを叩くことも重要だが、指示を出しているのは艦に居る士官だ。指揮系統を分断させ、数的不利を覆す。

 

次の艦に狙いを定めるが、さすがに奴らもそこまでバカではない。隊列を組んだメビウス3機が向かってくる。

 

「【青き清浄なる世界のために】!!」

 

……通信機から【ブルーコスモス】の謳い文句を聞き、自然と両手に力が入り目つきが険しくなる。俺たちコーディネイターを宇宙の化け物と呼び、憎悪する一派。

 

貴様らのことなど眼中になく、今まではただの敵と思い討ってきた。だが、そういうわけにはいかなくなった。今となっては、貴様らを討てることに感謝する。

 

「【ブルーコスモス】に、死を」

 

ペダルを踏み込む力を強めると、それに比例してさらに速度が加速する。さらに強いGが俺を襲うが、今の俺には気にならない。貴様らと同様、目の前に憎悪の対象がいるのだから。

 

いきなり速度が上がったことに驚いたのか、敵の反応がワンテンポ遅れる。素早く抜いた重斬刀で縦に斬り捨てると、離脱していく敵を追いかける。

 

メビウスがジンHMの機動性に勝てるはずもなく、難なく追い付くと上から突撃銃で撃ち抜き撃墜。最後の1機が大きく旋回して正面を向いた瞬間、誘導ミサイルを放った。

 

俺は後方へと距離を取りつつ突撃銃でミサイルを撃ち落とすと、爆煙で姿を隠す。無論、こちらからも敵の姿は見えない。

 

だが、不思議と分かる。そこにいるということを。俺は突撃銃を左八〇度に向けると、七〇度の方角に向けて斉射。放った銃弾は命中し、残ったメビウスも撃墜。

 

連合の得意とするのは、その数を利用しての人海戦術。倒しても倒しても途切れることは無く、俺は機体を操り敵を撃墜していく。戦っていると、次第に俺の中から思考というものが欠如していく。

 

ただ目の前に現れ、自分を攻撃してくる敵を倒すことだけに集中する。あらかじめプログラムされた機械のように、ただ敵を倒す。

 

その時、俺がいる宙域とは逆の戦場で一際大きな爆発が起こる。ここからは何が起きたのかを窺い知ることは出来ないが、連合のMAやドレイク級が撃沈されたようではない。恐らく、連合のアガメムノン級だろう。

 

あそこの宙域で戦っているのは、ラウとホーキンス隊長の部隊か。ホーキンス隊長は前で戦うより、指揮が得意と聞いている。そう考えると、やはりラウか。

 

「レオハルト」

「はい」

「クルーゼが単独で第3艦隊を壊滅状態に追い込んだ」

 

サブモニターにハルング隊長が映し出されると、ラウの戦況を教えてくれる。やはりな。他にいないというのも事実だが。

 

「やはり、ラウですか」

「クルーゼは現在、敵の精鋭部隊のMAと交戦中だ。敵も中々のやり手だな。クルーゼも手こずっているようだ」

「手こずっている?興味深い敵ですね」

 

ラウが手こずるほどの敵。手を抜くような奴じゃない。敵の技量か。連合にもそれほどのパイロットがいるということか。

 

「戦況はわずかにこちらが有利だ。このまま頼むぞ」

「了解」

 

ハルング隊長がモニターから消えると、俺はこの戦闘のさらに先の未来を考える。このまま終わってくれるといいんだが、嫌な予感がするな。……余計なことか。俺に出来るのは、敵を撃つだけ。

 

その時、機体のアラームが煩いほどに鳴り始める。レーダーを確認すると、再びメビウスの編隊が近付きつつあった。まったく、しつこい奴らだ。

 

俺は操縦桿を握り直すと、敵に狙いを定める。その俺の意思に反応してか、ジンHMのモノアイが鈍く光を放つ。

 

「ひっ……!!」

 

鈍く光るモノアイに恐怖を覚えたのか、連合のパイロットが小さく息を飲む。戦場では、無用な感情だ。敵への恐怖。その一瞬の気の迷いが、機体の操作を鈍らせる。

 

俺は瞬時に敵との距離を縮めると、コックピット部分を蹴り上げて撃破。メビウスのリニアガンをわずかに機体を引いて回避すると、突撃銃で穴だらけに。

 

重斬刀を構えると、距離を取ろうとする敵にあっという間に追い付くと、上から重斬刀を突き刺す。

 

「うわぁああああ!!」

 

敵の断末魔が響く。すでに聞き慣れたものだ。最初こそ違ったが、今では何の感情も感じない。まさに機械。だからこそ、俺を色々な言葉で揶揄する奴がいるのだろう。だが、俺は思う。ただ敵を屠る。己の敵を。これが戦場に立つ戦士の姿。

 

再び鳴り響くアラート。レーダーには接近中の二機の熱源反応。拡大すると、メビウスとは違う。照合すると、あのMAはTS-MA2mod.00メビウス・ゼロ。連合の、虎の子の部隊。それが二機か。

 

……面白い。俺はメビウス・ゼロ二機を撃破のために向かって行く。

 

瞬間、ゼロ本体に取り付けられている【ガンバレル】が一斉に分離される。二機いるから、全部で八基。俺を襲う【ガンバレル】の雨のような銃撃。俺はスラスターの急発進、急制動で銃撃を掻い潜っていく。

 

「バカな!この弾幕を掻い潜るだと!?」

「くそっ!化け物め!!」

 

どれだけの弾幕であろうと、単調な攻撃ならば恐れることなど無い。すべての射撃が精確に俺を向けられている。腕はあるのだろう。だが、それ故に避けやすい。来ると分かっている攻撃を避けることなど、造作もない。

 

情報によると、【ガンバレル】は一定時間しか分離出来ない。それを過ぎると、一度本体に戻さなければいけない。しかも、分離した時も同じ。弾幕を張るのは出来ないはず。そこを狙う!

 

そう考えていた直後、一機が【ガンバレル】を戻した。ならば、残りの一機も限界のはず!その時、もう一機のゼロが減速した。その瞬間を俺は見逃さない。俺は即座にペダルを踏み込み加速する。

 

「! こいつ!!」

 

もう一機のゼロが近付かせないためにリニアガンを撃ってくるが、その程度では障害にもならない。減速することで回避すると、再び加速。

 

そして、ついに【ガンバレル】が本体に戻った瞬間には、俺は奴の目の前にいた。

 

「!?」

 

重斬刀を突き出し、ゼロの機体を串刺しにする。引き抜くと、すぐに離脱。レーダーから消えたのを確認すると、怒りに燃える残りのゼロに向かう。

 

「死ねぇーっ!!宇宙(そら)の化け物!!」

 

化け物か。くだらない。俺に言わせれば、民間人に核を使った貴様らの方が化け物だ。狂っているとしか思えない。だが、貴様らはそれを正義だと考えている。正義の形は人それぞれ。だが、そんな正義が認められるものか!

 

怒りに身を任せた行動ほど愚かなものはない。狙いはめちゃくちゃ。今の奴に俺は見えていないだろう。見えているのは、コーディネイターという存在だけだ。

 

【ガンバレル】も使って攻撃してこようと、意味を為していない。奴に恐怖や無力感を煽るように、邪魔な【ガンバレル】を一つ残らず破壊していく。あえて、本体は攻撃しない。

 

「うわぁあああああああ!!」

 

重斬刀を突き刺すと、敵の鼓膜を痛めそうなほどの絶叫に眉を顰める。ゼロが爆発すると、俺は小さく舌打ちをする。

 

「……最低なのは、俺も同じか」

 

敵を痛め付けるような戦い方。敵をいたぶり、恐怖させる。自然と浮かぶ、自嘲の笑み。我ながら、吐き気がする。

 

気を取り直して前を向いたその時だった。状況が一変したのは。

 

レオハルト side out

 

 

 

攻撃部隊旗艦デュッフェル艦橋

 

「隊長!敵施設の地下から高エネルギー反応!!」

「何だと!?」

 

その瞬間、連合が守り続け【ZAFT】が攻め続けた場所が大爆発。爆発範囲はどんどん拡大していき、敵味方問わず巻き込んで行く。

 

「被害範囲、さらに拡大!」

「いかん!!全軍に後退命令!!」

「は、はっ!こちら旗艦デュッフェル。敵基地で謎の爆発が発生!至急、後退せよ!!」

 

オペレータの命令により、【ZAFT】の部隊は次々と交代を始める。だが、爆発が迫っているにも関わらず、一部の連合軍は後退する【ZAFT】に攻撃を仕掛けていく。

 

「こんな時に!」

 

同様に後退をしていたレインは、自身も後退しつつ友軍に攻撃を仕掛ける敵MAを撃破していた。

 

「早く逃げなさい!死にたいの!!」

「愚問だ!コーディネイターを滅ぼす。それこそ、我らが使命なり!!」

「【ブルーコスモス】……!!」

 

最初はわずかだった【ブルーコスモス】の思想も、今では地球軍全体に凄まじい速度で浸透。軍上層部だけでなく、この思想は連合の末端にまで浸透している。

 

レインは唇を強く噛みしめると、引き金を引いた。余計なことに時間を取られるわけにはいかないが、【ブルーコスモス】には何を言っても無駄だというのはレインも承知している。

 

レインが目の前に敵に気を取られていた瞬間、横からリニアガンを構えたメビウスが接近。その照準は、確実にレインを捉えていた。

 

「くっ……!!」

 

回避を試みるが、敵の方が早い。今にも発射される瞬間、メビウスが爆発した。爆煙から現れたのは、漆黒のジンHM。レオハルトの乗機だった。

 

「ハル!?」

「急げ!」

「は、はい!!」

 

二人は全速力で安全宙域まで向かうが、後ろからは逃げ遅れた連合の艦やMAが次々と爆発していく。その中には、【ZAFT】のジンも含まれていた。

 

その時、横を走っていたジンの右腕が吹き飛ぶ。

 

「!」

「ちっ!」

 

レオハルトは急速反転すると、友軍に攻撃を加えた敵を見据える。

 

「【青き清浄なる世界のために】!!同志のために、一人でも多く!!」

 

【ブルーコスモス】の叫びが、レオハルトとレインに届く。だが、どれだけ叫ぼうとそれを受け入れるつもりなど毛頭ない。

 

レオハルトは重斬刀で斬り捨てると、友軍の左腕を掴み離脱を開始する。だが、いくら最新鋭機のジンHMのスラスターといえど、2機分となると思うようにスピードが出ない。徐々に迫りくる爆発に追い付かれ、ジンの両脚がさらに吹き飛ぶ。

 

「お前まで巻き込まれる!離れろ!!」

「仲間を見捨てるつもりはない!」

 

友軍パイロットにそう返すと、レオハルトはさらに強くフットペダルを踏み込む。レオハルトのジンHMが悲鳴を上げ始めるが、レオハルトが足を緩めることは無い。

 

そしてついに、【ZAFT】の安全宙域までの離脱が完了。レオハルトは助けた友軍を同じ部隊の人間に引き渡すと、デュッフェルに帰還。無事に着艦した。

 

【プラント】本国と連絡を取った結果、現在の戦力で月を保有するのは不可能と判断。【ZAFT】は月を放棄。生き残った部隊は、本国への帰還を余儀なくされた。

 

それから二日後。部隊からの報告を受けた【プラント】は、敵である【ZAFT】を討つために友軍を犠牲にするという作戦を取った連合を痛烈に批判。だが、連合は報道規制を掛けると同時に今回の件は偶発的な事故だと釈明。

 

結果、【ZAFT】は今回の戦闘では何も得ることは出来なかった。件の爆発と戦闘での被害も合わせると、作戦に参加した半分超という犠牲を出すという散々な結果になった。

 

後にこの戦闘は、【グリマルディ戦線】と呼ばれるようになった。

 




今、続きに迷っています。

このまま原作に突入させるべきか、さすがに原作まで時間が空きすぎているのでもう1~2話挟むべきか。

正直、皆さんも早く原作に入って欲しいと思っている方もいらっしゃると思うんですよ。
ですが、今回の話の時点で6月。原作は1月25日に始まりますから、5ヶ月以上の空白が出来ることになる。

主人公をアカデミーに放り込むという話も考えたのですが、微妙に思えてきました。
前話で出てきたムウの話にでもするか?

どうしましょ。
何かご意見等がありましたら仰ってください。


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Mission - 8 それぞれの時間

閑話のような話です。

そして今回、原作キャラが二名登場。
一人の出番は、随分先ですけどね。

こんな感じ?って気持ちで書きました。
口調が違っていたら申し訳ないです。



エンデュミオン・クレーターへの攻撃部隊は、無事グリマルディから帰還した。だが、行きよりも数が減ってしまったというのが現実だった。宇宙で散った同胞に遺体があるはずもなく、遺体が無い状態での帰国となってしまうのだった。

 

作戦に参加した部隊には等しく休暇が与えられ、それぞれの時間を過ごしていた。

 

 

 

レオハルト・リベラントの場合

休暇一日目 夕 アプリリウス市内

 

レオハルトは休暇の時でも、数時間のMSシミュレータ訓練とトレーニングは欠かすことは無い。この習慣が、今のレオハルトの強さを作っていると言っても過言ではない。

 

レオハルトは備え付けのシャワールームで汗を流すと、建物の外へと向かう。その時、レオハルトは前から歩いてくる人物を見て歩みを止めた。

 

「おや、君は」

「初めてお目にかかります、バルトフェルド隊長。レオハルト・リベラントです」

「君が、レオハルト・リベラント君か。噂は聞いているよ。【グリマルディ戦線】では活躍したそうじゃない」

 

五月三〇日に【ZAFT】は、地中海沿岸から侵攻。当初は【スエズ攻防戦】と呼ばれていたが、戦場となったエル・アラメインから【エル・アラメイン会戦】と呼ばれるようになった。この男、アンドリュー・バルトフェルドはこの戦闘を勝利に導いた人物である。

 

この戦闘でバルトフェルドはバクゥの機動性で勝利。以後、アフリカ南部への侵攻も計画されている。

 

「【エル・アラメイン会戦】で勝利を勝ち取った、バルトフェルド隊長ほどではありません」

「褒めてくれるのは嬉しいけどねぇ……。あちらさんにも中々の人間がいたみたいで、バクゥが無かったら負けてたよ」

 

【エル・アラメイン】にてバルトフェルドと対峙したのは、地球連合軍ユーラシア連邦所属モーガン・シュバリエ。通称、【月下の狂犬】。その名の由来は、月下は夜間戦闘を得意とすることから、狂犬は立案する作戦が周囲から見たら無茶なものばかりだったからである。

 

それでもその実力は確かなものであり、彼は圧倒的物量とリニアガン・タンク部隊の機動性で当初はマーチン・ダコスタ率いるザウート部隊を翻弄していた。

 

だが、その状況もバルトフェルド率いるバクゥ部隊の出現によって一変する。バルトフェルドの奇策とバクゥの活躍によりモーガンの部隊を粉砕。見事に勝利を勝ち取っている。

 

ちなみに、この戦闘をきっかけに付けられたバルトフェルドの異名である【砂漠の虎】。これは戦意高揚のために付けられて流布されており、一般の間でも多く知れ渡っている。

 

「だから、機体のお陰で勝った僕としては、君の方が上だと思うんだけどね」

「光栄です。ですが、私よりクルーゼ隊長の方が上かと」

「うーん、クルーゼねぇ……。嫌いなんだよねぇ、僕」

 

今まで陽気な雰囲気で話していたバルトフェルドの表情が真剣なものに変わると、顎に手をやりながらバルトフェルドは苦笑する。

 

「実力は確かだと思うよ、僕も。でも、あの仮面がねぇ。何かしらの理由があるとは思うんだけど、僕にはポリシーがあってね。目を見せない奴は信用できないんだよ」

「なるほど。知り合ったばかりの方はそうかもしれませんね」

「おっと、ごめんね。君は、クルーゼとは親しいんだったね」

「いえ、お気になさらないで下さい。仰ることもわかりますので」

「いやー、君は真面目でイイねぇ。皮肉屋のクルーゼとは大違い」

 

真面目な表情はあっという間に消えると、バルトフェルドは再び陽気な笑顔を見せながらレオハルトの肩を叩いた。

 

「さて、それじゃあ僕は失礼するよ。また会えるといいね」

「平和な時にお会いしたいですね」

「同感だね。その時は、僕特製のコーヒーをご馳走するよ」

「楽しみにしています」

 

バルトフェルドと別れると、レオハルトはエレカを走らせる。向かった先は花屋。花束を購入すると、再びエレカを走らせる。

 

着いた先は墓地。レオハルトは花束を抱え、一つの墓地の前に立つ。以前訪れたのは国葬の後、クルーゼと来た時だった。

 

墓地には、フィシアの名が刻まれている。レオハルトは膝を曲げ花を手向けると、墓地に向かって敬礼をする。

 

「……」

 

言葉をかけるわけでも無く、墓石から視線を外さず不動の状態で敬礼をするレオハルト。一〇秒ほど敬礼をすると、レオハルトは踵を返した。

 

途中、買い物を済ませてレオハルトは自宅へと帰った。

 

その夜、レオハルトは一人グラスを傾けていた。普段、酒を飲まないレオハルトが晩酌をしているのは、先日の戦闘で散った同胞のためである。

 

あの大きな爆発に巻き込まれ、同じハルング隊の仲間が二人戦死した。二人とはクルーゼ同様、パイロット養成課程時代からの知り合いである。そして彼らは、よく酒を好んで飲んでいた。

 

二日酔いで訓練に参加して、教官によく怒鳴られていたこともある。だが、そんな彼らもついに命を落とした。友を悼むため、レオハルトは普段は飲まない酒を購入し、一人酒を飲み続ける。

 

「……」

 

レオハルトの視線の先には、卒業の時に撮った写真が飾られている。写真にはまだ仮面を付ける前のクルーゼ、フィシア。そして戦死した、レーンとウェードの二人。他にも、数人の仲間たちが映っている。

 

すでに、写真に映る者の三分の一ほどが命を落としている。レオハルトとて分かっている。理解もしている。だが、納得はしていない。感情と理屈は別なのだ。

 

「割り切れないな、やはり……」

 

レオハルトが普段は見せることのない脆さ。どれだけ大きな戦果を挙げようと、どれだけ多くの敵を討とうと、決して晴れることのない感情。

 

グリマルディで垣間見えた、【ブルーコスモス】への憎悪。奥底に封じていた感情が、奴らと対峙したことで溢れ出てしまった。そしてその感情のまま、MSを操り敵を討った。

 

どんなに考えたところで気分が晴れることは無く、レオハルトはウイスキーを呷った。レオハルトは電気スタンドの明かりを頼りに、静脈認証型のPCを起動させる。

 

画面に映し出されたのは、レオハルトが独自に設計した新型MS。シグーやジンHMの技術を取り込んだものである。

 

だが、レオハルトはMS設計の専門家というわけではない。これを専門の人間が見れば、無理だと言う箇所も多いだろう。だが、データ上ではシグー以上の性能を秘めていると思われる。レオハルトはもう少し内容を詰めた後、これを上に提出しようと考えている。

 

技術は停滞してはいけない。連合が、破損したジンなどを持ち帰って調べていることは周知の事実。いずれ、連合もMSを開発して実戦投入してくることは目に見えている。

 

戦争の敗北は、【プラント】の死を意味する。【ブルーコスモス】が、コーディネイターを生かしておくはずが無い。それを防ぐためにも、さらに上を目指さなければいけない。

 

MSの名はユピテル。スラスター等の推進機関はジンHMの強化版を搭載し、武装については実現できるかは別として新型を装備。レオハルトはこのMS開発が進めば、次世代の主力機になる性能を持っていると確信していた。

 

レオハルトはグラスを傾けながら、ユピテルの最後の詰めの作業に入るのだった。

 

 

 

ラウ・ル・クルーゼの場合

休暇三日目夜 某所

 

夜、クルーゼはエレカを走らせある場所に向かっていた。到着したのは、一軒の家。クルーゼはエレカを停車すると、家のインターフォンを押した。

 

「やあ、久し振りだね。さあ、入ってくれ」

 

中から現れたのは、三〇代ほどの男だった。黒い長髪にオレンジの瞳。微笑を浮かべながらクルーゼを出迎えると、男はクルーゼを自宅の中へと招き入れた。

 

「こんな時間にすまない。立場上、休暇でもやることが多くてな」

「構わないよ。隊長である君のことだからね」

 

クルーゼはソファーに腰を下ろすと、男はクルーゼの前にバーボンの入ったグラスを置いた。同様に自分もグラスを手にして、クルーゼの対面に座った。

 

「チェスでもどうだい?」

「フッ、いいだろう」

 

男は準備しておいたチェス台を置くと、二人は駒を台に並べていく。準備が終わると、勝負はクルーゼから始まる。

 

「レイは元気かね?」

「ああ、元気だとも。もっとも、君に会えなくて寂しがっていたのを除けばだがね。起こすかね?」

「ふむ……。これでいこう。構わんよ。明日、改めてまた来るさ。サプライズというやつだな」

 

勝負は進んで行きクルーゼはわずかに思案した後、ナイトを動かし男のクイーンをチェス台から退場させる。

 

「おっと、それは少々痛いね」

「顔はそう言ってないようだが?」

「そうかい?」

 

男はクルーゼの言葉にそう返すと、グラスを呷った。男はクルーゼの空になったグラスを見ると、立ち上がりボトルを手にして戻って来た。ボトルに入ったバーボンを自分とクルーゼのグラスに注ぐと、再びチェスに集中する。

 

「そういえば、先日の戦闘では大きな戦果を挙げたようだね」

「そうでもないさ。上には上がいるさ」

「君の友人の、レオハルト・リベラント君かね?」

 

男のその言葉に、クルーゼの駒へと伸ばした手が止まる。だが、それは一瞬。すぐに止めていた手を動かし、ビショップを右斜め上に前進させる。

 

クルーゼの手が一瞬止めたのを理解しているのか否か。それは分からないが、男は笑みを浮かべる。そんな男にクルーゼは一瞥をくれた後、グラスへと手を伸ばした。

 

「彼は有名人じゃないか。その容姿は言うまでもなく、何より実力の面で」

「では、彼に会ったら伝えておこう」

「ぜひ、会いたいね」

 

依然として笑みを浮かべながらの男の言葉に、クルーゼは口を開かない。クルーゼはグラスに残ったバーボンを一気に呷ると、クィーンを手にして前進させた。

 

「チェックメイト」

「……」

「……私の勝ちだな」

「そのようだね。やれやれ、初めて負けたよ」

 

男はやれやれとかぶりを振るのを見て、クルーゼは立ち上がった。

 

「さて、そろそろ私は失礼しよう」

「おや、そうかね?」

「ああ。……それで、“例のモノ”は?」

 

クルーゼのその言葉に男はポケットへと手を伸ばすと、取り出した物をクルーゼへと渡した。クルーゼが受け取ったのは、透明の四角いケース。中には白と青の錠剤が入っていた。

 

「いつもすまない」

「構わないよ。君に何かあったら、レイが悲しむ。無論、私もね」

「レイを預かってくれていることも感謝しているさ。私が戦場にいる時は、レイ一人では心配だからな」

 

クルーゼは受け取ったケースをポケットへと仕舞うと、帰宅するため玄関へと歩いて行く。クルーゼを見送るため、男もその後ろを歩く。

 

「心配性だね。血、ということかな?」

「……」

「おっと、失言だったね」

「……では、失礼する」

 

クルーゼは来た時と同様、エレカを走らせる。その表情は仮面で見ることは出来ないが、露出している口元部分には怒りが滲んでいた。

 

「……タヌキめ。油断ならん男だ」

 

エレカの中でクルーゼは、先程まで会っていた男に向けて悪態を吐く。クルーゼは以前から思っていた。腹に一物ある、油断ならない男だと。クルーゼは改めて、あの男は信用できない男だと言うことを再認識した。

 

「……だが、“コレ”もある。ふん、奴とは長い付き合いになりそうだ。……ギルバート・デュランダル」

 

 

 

パトリック・ザラの場合

【最高評議会】議事堂 国防委員長執務室

 

「では、そういうことでお願いします」

「ああ」

 

青緑服(文官)と紫服(武官)を着た二人の男は最後にそう言い残すと踵を返した。ドア付近で頭を下げると、部屋を退出した。二人が退出すると、パトリックは小さく溜め息を吐いた。

 

「……くだらん」

 

パトリックがそう呟いた時、再び部屋の扉が開いた。入って来たのは、シーゲル・クライン。現最高評議会議長を務める人物であり、温厚な性格として議会では穏健派として知られている。

 

「……シーゲル」

「パトリック、誰か来ていたようだな」

「ああ。意見の陳情書を持ってきた。丁度いい。見せに行こうと思っていたところだ」

「陳情書?」

 

パトリックは近付いてきたシーゲルに男たちが置いていった陳情書を手渡すと、それを見たシーゲルは顔を顰めた。

 

「……理由は何だ」

「これだ」

「これは?」

 

シーゲルは持っていた資料をデスクに置くと、パトリックが取り出した資料を受け取った。資料は見る者への配慮がなされており、非常に見やすいものだった。

 

「【ZAFT】の次世代主力機開発計画書だ。それを持ってきたのは、リベラントだ」

「なるほど。パイロットである彼が、これほどの物を……。稀有な才能だな」

「しかも、その設計図と資料を見た設計局の連中が絶賛したのだ。だから、それが来たのだ」

 

そう言ってパトリックは、シーゲルが置いた資料を指差した。

 

パイロットとしてもこれまでの戦闘で大きな戦果を挙げながら、MS設計にも今回大きく貢献したレオハルト。その事実に、シーゲルは感嘆の声を上げる。

 

「……なるほど、そういうことか」

「【世界樹】での戦闘の後、奴を昇進させなかったことについて一部の議員から不満が出ている。奴ではなく、何故クルーゼなのだと。そこに来て、今回の計画書が設計局に絶賛されたことが拍車をかけている」

 

クルーゼが味方の前でも仮面を付けていると言う不信感、さらには皮肉屋の性格。これらのことから、クルーゼのことをよく思っていない人間は多い。一つ一つは小さくても、積もり重なれば大きなものとなる。この考えは、文官の中にも多数見られる。

 

「なるほどな。本人が辞退したが故の、クルーゼの昇進なのだがな」

「そんなこと、奴らには関係あるまい。クルーゼが昇進したこと自体、気に入らんのだから」

「仲間だというのに、情けないことだ」

 

シーゲルは長々とつづられている陳情書を見ながら、溜め息を吐いた。シーゲルの言葉通り、仲間内でそんなことを言っているとは情けないことである。

 

コーディネイターはその数が少ない。だからこそ、有能な人間が昇進していくのは自明の理。これが数の多い連合ならば、埋もれてしまう可能性もあるかもしれない。だが、数が少ないからこそ人材の発掘が容易というのは利点だろう。

 

「そこで私は、新たに部隊を新設することにした」

「部隊を?だが、新たに部隊を新設するほどの人員はいないはずだ」

「そのとおりだ。人員が少ないのならば、単独で行動すればいいだけのこと。単独で行動できるだけの実力と、緊急時には指揮も出来る人間のみで構成する」

「緊急時には指揮をということは、権限も持たせるということか?」

「ああ。いざという時には、現地の司令官・隊長への命令も可能にするだけの権限を持たせる」

 

司令官は一つの基地を指揮する人間、隊長は一つの部隊を指揮する人間。これら二つの役職への命令権限を持つということは現場レベルでは最高権力者ということになり、非常に高い権限を有していると言える。

 

「これは以前から考えていた案だ。創設が早まっただけのこと。丁度良いだろう」

「なるほど。それならば、不満に思っている奴も満足するだろう。部隊名は?」

「特務隊【FAITH】。所属は、国防委員会直属にする。実質的に命令可能なのは、私かシーゲル。どちらかだ」

「やれやれ、また仕事が増えるな。手続きに議会の承認。やることは多いな」

 

最高評議会議長と国防委員長という重責を担う二人。その仕事量たるや、相当なものだろう。それでも、【プラント】が生き残るためには必要なことであり重要な責務である。

 

「それで、シーゲル。何の用だ」

「そうだったな。今夜の約束、忘れていないだろうな」

「……そんなことを言いに来たのか?ちゃんと覚えている」

「ならば構わんさ。私は先に行っているぞ」

「ああ」

 

今夜の約束とは、単純に食事である。クライン一家とザラ一家の。パトリックの息子は現在、未来の【ZAFT】を支える人間を育成する士官学校(アカデミー)に通っている。

 

だが、士官学校(アカデミー)には月一で休みがある。それが偶然、今日なのだ。両者の息子と娘は婚約者の関係にあり、せっかくだから一緒に食事でも、という話になったのだ。

 

シーゲルが部屋を後にすると、パトリックは革製の椅子に大きくもたれる。自然と視線は、写真立てへと向けられる。写真にはまだ幼い日の息子と、【血のバレンタイン】で命を落とした妻が映っている。

 

パトリックは身体を起こすと、残った仕事へと手を伸ばすのだった。彼もまた、久し振りの息子との再会を楽しみにしていた。何故なら、その口元にはわずかに笑みが浮かんでいたのだから。

 




お待たせしましたと言うべきなのでしょうか。
ようやく、次回から本編に突入します。

本編も多少は見ながら進めるつもりなのですが、DVDを借りなければいけないのが面倒。
Vitaだと、まともに動画も見れないし。それとも私だけか?
YouTubeにも無かったから、やっぱり借りるしか無いですね。

購入も考えましたけど、高かった……。
マジです。

それでは、次回の更新をお楽しみに。


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原作開始
Mission - 9 偽られた平和


お待たせしました。
ついに原作突入です。

そして原作に入るということで、皆さんに先に申し上げておきます。

原作と変更点が無いところは省略します。同じところをグダグダと書いても意味ないので。
変更した箇所の関係上、書かないとマズイという時は例外です。

なので、読んでいると「原作と違くね?」というところがあるかもしれませんが、失敗ではない。……はずです。

私が変更したのかなということで納得できない場合は、感想でもメッセでも構いませんので、質問してください。
……まあ、ノリで書いてる部分もあるので、ちゃんとした回答が出来るかは不明です。

では、本編をどうぞ。


1月25日 L3宙域 【ZAFT】所属艦ヴェサリウス艦橋

 

「さて、諸君。我々がこんなところにいるのは他でもない。信じ難い情報を得たからだ」

 

【ZAFT】でもトップクラスの実力を誇る男、ラウ・ル・クルーゼ。この男が率いる部隊はエリート部隊として知られ、構成される人員も優秀なもので構成されている。

 

クルーゼは無重力状態の艦内で艦橋を浮遊しながら、正面に居る少年たちに声をかける。彼らは一ヶ月ほど前、士官学校(アカデミー)を優秀な成績で修了した少年たちである。

 

士官学校(アカデミー)を一〇位以内という優秀な成績で卒業した者にはエリートである赤服の着用が許され、それ未満の者には緑服が贈られている。クルーゼの部隊には、赤服が五人。実に半分が同部隊に集中している。

 

「ここから先にある中立国オーブの資源衛星【ヘリオポリス】にて、連合の新型機動兵器が開発されているとのことだ」

「まさか、ナチュラルにそんな技術が……」

「クルーゼ隊長。その情報の信用性と出所はどこでしょうか」

 

クルーゼの言葉に一番に反応したのは、オレンジの髪が印象的なラスティ・マッケンジー。士官学校(アカデミー)を五位で修了した優秀な人間である。

 

続いて、クルーゼに質問を投げかけたのはキッチリと切り揃えられた銀色の髪が特徴的なイザーク・ジュール。士官学校(アカデミー)は次席で卒業しており非常に優秀なのだが、激昂しやすい性格が難点と言える。

 

「もっともな疑問だな、イザーク。情報提供者は二人だ。一人は【ヘリオポリス】に居住している、情報屋のケナフ・ルキーニというナチュラルの男だ」

「ナチュラル!?」

「隊長!ナチュラルからの情報を信用されるのですか!!」

「落ち着いてください、イザーク。最後まで隊長の話を聞きましょう」

 

クルーゼのナチュラルという言葉に反応したのは、ディアッカ・エルスマン。彫りの深い顔と褐色の肌をした少年である。士官学校(アカデミー)修了時は四位だった。

 

そしてクルーゼに噛み付いたのは、やはり激昂しやすい傾向にあるイザークだった。だが、一人の少年がイザークを諌めた。

 

癖っ毛のような緑色の髪と幼いを顔立ちをした少年、ニコル・アマルフィである。士官学校(アカデミー)修了時の成績は優秀でイザークに次ぐ三位だった。ちなみに、この部隊の中では最年少の十五歳である。

 

「ニコルの言うとおりだ。最後まで話は聞きたまえ、イザーク」

「……申し訳ありません」

 

不満げな表情をしながらも、クルーゼにそう言われては何も言い返すことは出来ずイザークはおとなしく引き下がった。口元に笑みを浮かべると、クルーゼはもう一人の情報提供者の名前を口にした。

 

「もう一人は、レオハルト・リベラントだ」

「なっ!?」

「マジかよ……」

「!?」

 

イザークの驚愕の声と、ディアッカの信じられないと言うような声、そしてニコルの息を吞む姿だった。そんな彼らの反応に気を良くしたのか、クルーゼの笑みは一層深くなった。

 

「そう。ザラ国防委員長が直々に創設を宣言した特務隊【FAITH】に、創設と同時に同部隊への昇進が決定したエリートパイロットだ」

「何故、リベラント隊長が……」

「知る者は少ないが、彼はハッキングが得意でね。連合のメインコンピュータにハッキングを掛けたそうだ。全容を知ることは出来なかったが、開発が【ヘリオポリス】で進められていることだけは掴んだらしい」

 

クルーゼは艦橋の天井を押して床に足を付けて立つと、仮面のズレを修正する。対して、彼らは驚きから絶句している様子だった。

 

だが、その中でただ一人、それほど驚いていない様子の少年が居た。その様子を見たクルーゼは、少年へと視線を向ける。

 

「アスラン。君はあまり驚いていないようだね」

「はい。私はリベラント隊長とは少々縁があり、いろいろと話をさせて頂きましたので」

 

クルーゼの問いに答えたのは、アスラン・ザラ。士官学校(アカデミー)を首席で卒業するほどの優等生であり、そのせいか次席のイザークからは一方的にライバル視されている。

 

だが、驚くべきは彼の出自である。彼は【プラント】国防委員長パトリック・ザラの実子なのである。そのせいか周囲からいろいろと言われることもあったが、努力によって首席という結果を勝ち取った。

 

「ほぉ……」

「? 何か?」

「彼は自分のことをあまり話さないのだよ。彼がハッキングを得意としていることを知っているのは、数える程度だ。彼が自分のことを話したと言うことは、君のことを気に入ったということだろう」

「そう、ですか……」

 

レオハルト・リベラントという人物は、アスランたちのような若い者たちにとっては雲の上の存在と言っても過言ではない。それほどまでに彼の残した功績と、【FAITH】への加入というのは非常に大きい意味を持っているのだ。

 

クルーゼから初めて知る事実を言われ、アスランの頬がわずかに緩む。その顔を見咎めたイザークの顔は、アスランとは対照的に歪んだ。

 

「話を戻そう。私が最も信頼する友からそんな話を聞けば、信じないわけにはいくまい。彼からそんな話を聞けば、この写真の信憑性も増すというものだ」

 

そう言うと、クルーゼは胸ポケットから写真を取り出すと、宙域図が表示されている台に置いた。

 

「これは……!」

「おいおい……」

 

写真には灰色の機体がハッキリと写っていた。写真に写っているのは、まぎれもなく【ZAFT】が主力とするMSだった。

 

クルーゼとて、この写真を入手した時は疑っていた。だが、そこにレオハルトからの情報を聞いたことで写真に映る存在を信じることにした。

 

「しかも、奴らはMSだけでなく艦まで製造しているとのことだ。これほどの兵器、見逃すわけにはいかん。MSは奪取し、艦は爆破する」

「はっ!」

「作戦の説明に入る。諸君、まずはこれを見てくれ」

 

先程まで宙域図の映し出されていた台に、何かの内部構造らしきものが映し出された。

 

「隊長、これは……」

「これは、【ヘリオポリス】工廠の構造図だ」

「どうやってこんなものを……」

「我が友に不可能は無いということだ。諸君らはここから侵入。センサーがあるが、時間になると解除される。その先には恐らく、新造艦があると思われる。艦に爆薬を設置後、奥に進め。新型は五機ある。うち二機の場所は分かっている。ここだ。だが、残り三機の居場所が分からない」

 

クルーゼは不敵な笑みを浮かべると、図を指でなぞりながら説明をしていく。クルーゼの説明を、全員が真剣な面持ちで聞き入る。

 

「では、どうしますか」

「新型の奪取は赤服の諸君に任せる。二人は、場所が分かっている二機の奪取に向かえ。残りの三人は高台で移動する新型を探せ。それに先んじて、ジンに突入させる。すると、奴らの取る行動は自ずと見えてくる」

「誘き出すということですね」

「そのとおりだ、イザーク」

 

ニヤリという笑みを浮かべるイザークに、クルーゼも同様の笑みで返す。だが、クルーゼの作戦にニコルは不安そうな顔をしていた。

 

「作戦通りに行くでしょうか」

「行くさ。ナチュラルなんて、単純なものだからな」

 

ニコルの言葉に、隣に立っていたディアッカが陽気な口調で答える。新型の詳しい場所が分からない以上、誘き出させるしか手は無い。手当たり次第に行く時間は無いのだ。

 

「二機の奪取には……そうだな。アスラン、ラスティ。君たちに任せる。残りの三機は、イザーク、ディアッカ、ニコル。任せたぞ」

「はっ!」

「他の者はサポートに回れ。では、作戦に移る。作戦開始時刻は、二時間後だ」

 

クルーゼのその言葉を最後に、一斉に少年たちは艦橋を後にする。

 

それから間もなくして、赤服の少年たちを乗せた二隻の小型艇がナスカ級から吐き出された。小型艇はゆっくりとした速度で、モニターに映る中立とは名ばかりのコロニーへ。

 

クルーゼはモニターに映る【ヘリオポリス】から視線を外すと、床を蹴り自らの席へと戻っていく。その途中に見えたのは、難しい顔をする黒服の男の姿だった。

 

「そう難しい顔をするな、アデス」

「はぁ……。いえ、しかし……」

 

クルーゼが話しかけたのは、フレデリック・アデス。黒服を着ていることからも分かるように、ヴェサリウスの艦長を務めている。さらに、【グリマルディ戦線】にも出撃するなど経験豊富な人間である。

 

「評議会からの返答を待ってからでも遅くは「遅いな」……」

「私の勘がそう告げている。ここで潰さねばその代償、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」

 

クルーゼはアデスの言葉を遮ってそう言うと、クルーゼらがここに来るきっかけとなった写真をアデスへと投げた。

 

アデスの言葉通り、今回の作戦への正式な許可は下りていない。この作戦に賛成しているのは、パトリックを始めとした強硬派の人間。そして、一部の議員からは条件付きで賛成。だが、残りの人間は断固反対を主張しているため、評議会からの返答待ちという状況である。

 

だが、クルーゼは評議会からの返答を待つことなく作戦を決行しようとしている。それは長年前線に立ち続けた者に生まれた勘ということなのか。アデスの表情は晴れることは無い。

 

「……」

「だが、私とてギリギリまでは待つつもりだ。それまでに返事が来なければ、私の判断でやらせてもらうさ」

 

クルーゼはアデスに最後にそう言うと、脚を組み頬杖をつく。漆黒の宇宙を眺めながら、クルーゼは笑みを浮かべた。

 

「……さて、我が友は上手くやってくれるかな」

 

 

 

一週間前

アプリリウス市議事堂 議長執務室

 

レオハルトは早朝から議事堂にやって来ると、急ぎ足で議長執務室に向かっていた。レオハルトの左胸には、羽根を模った徽章が光を放っていた。

 

これは、ある部隊に所属していることを示している。それは去年の年の終わりにパトリック・ザラによって発表された、部隊の新設宣言。

 

部隊名、特務隊【FAITH】。通称、【FAITH】。戦績・人格共に著しく高く、議長や国防委員長の指名のみで選抜される超エリート部隊。

 

彼、レオハルト・リベラントは部隊が創設されたと同時に、議長であるシーゲル・国防委員長であるパトリック両者の承認を以って【FAITH】への昇進が決定。【ZAFT】でも随一のエリートパイロットである。

 

現在では【ZAFT】でその名を知らない者はゼロと言っても過言ではない。つい最近までは設計局の人間と一緒にMS開発に力を注いでいたのだが、現在は行き詰まっている状況である。

 

そんなレオハルトは今日、久し振りに議事堂を訪れている。その理由は、レオハルトが脇に抱えている資料にある。

 

すでにレオハルトが訪れることは知らせてあるため、レオハルトは議長執務室の扉を数度ノックする。

 

「入りたまえ」

 

中からシーゲルの声が聞こえて来ると、レオハルトは扉を開けて入室する。すると、驚いたことに中にはパトリックの姿と、見覚えのある金髪で白服の後ろ姿があった。

 

「失礼します。特務隊、レオハルト・リベラントです」

 

レオハルトの入室の挨拶に反応して、背を向けていたパトリックと白服姿の人物が振り返る。予想通り、白服はレオハルトの友であるラウ・ル・クルーゼだった。

 

パトリックはレオハルトが突然来たことに不思議そうに顔を歪め、クルーゼは仮面の下で笑みを浮かべた。

 

「来たか。どうかしたのかね?急用ということだったが」

「はい。至急、見て頂きたい物が。ザラ委員長も是非ご覧になってください」

 

レオハルトの固い表情を見て、付き合いの長いクルーゼだけでなくシーゲルやパトリックの表情も固くなる。

 

「リベラント君、この資料は?」

「私が連合のメインコンピュータにハッキングを仕掛けた際、驚くべき計画が進んでいることが分かりました」

 

レオハルトは持参した資料をシーゲルに渡すと、シーゲルの表情が見る見るうちに変化していく。読み終わると、シーゲルは資料をパトリックへと手渡した。パトリックもシーゲル同様、表情が険しいものに変わる。

 

「連合の新型機動兵器……。厄介なことだ……」

「バカな!奴らにそんな技術があるはずが!」

「確かに、連合にはありません。ですが、あの国なら。オーブなら別です」

 

レオハルトの発した【オーブ】という単語に、三人の表情がより一層険しくなる。

 

正式名称は【オーブ連合首長国】。南太平洋のソロモン諸島に位置し、大小様々な島から構成される島国である。この国はC.E.七〇年二月八日に国のトップである代表首長ウズミ・ナラ・アスハによって中立宣言がされたことにより、中立国家となっている。

 

その中立国家の国が、連合の新型兵器の開発に手を貸しているとなれば大問題である。

 

「そんなバカな……。【オーブ】は中立国家だ。まさか、連合の新型を【オーブ】所属の資源衛星で開発されているなど……」

「【オーブ】も一枚岩ではないということでしょう。レオの話が本当だとすれば、私が得た情報にも信憑性が増すのでは?」

「何の話だ、ラウ」

「これだよ」

 

そう言うと、クルーゼはデスクに置かれていた写真を指差した。レオハルトはシーゲルやパトリックに一声掛けた後、写真を手にした。

 

「……情報が早いな、ラウ」

「私にも多少の情報網はあるのでね。その筋からの情報だよ」

「なるほど。クライン議長、ザラ委員長。どうなさいますか」

 

レオハルトはクルーゼから視線を外し、シーゲルとパトリックへと視線を移す。だが、レオハルトの問いに対する反応は鈍いものだった。

 

だが、その反応も当然と言える。相手は中立国。連合に新型兵器の開発協力をしているとはいえ、表向きには中立。そんな国の資源衛星に突然攻撃を仕掛ければ、非難を浴びることは目に見えている。

 

かといって、今回の一件を指摘したところで【オーブ】政府はシラを切ることだろう。レオハルトが調べた情報はハッキングという違法行為。クルーゼの写真にしても、合成だと言われてしまえばそれまでである。

 

「どうする、シーゲル」

「圧力しか無いだろうな。だが、それもどこまで通用するか……」

 

シーゲルは眉間を押さえながら答えると、同様にパトリックの眉間にも皺が寄っていた。これは政治的に非常に難しいと言わざるを得ない。

 

そんな中、レオハルトが静かに口を開いた。

 

「では、万が一の場合はどうしますか?」

「!」

「どういう意味だ、リベラント」

「私が調べた限りでは、奴らはOSに手こずっているようです。ですが、それも時間が解決するでしょう。我々のアドバンテージは、MSを利用しているという点です。それが崩れるとあれば、戦況にも大きく関係します」

 

現在、連合と【プラント】が互角に戦っているのは、MSのお陰と行っても過言ではない。だが、それも連合がMSを実戦に投入したとなれば、戦況は変化するだろう。

 

数で勝る連合に広くMSが普及すれば最悪の場合数で押し切られ、【プラント】が敗北する可能性も考えられる。それは、コーディネイターの全滅を意味する。

 

「……貴様の言うとおりだ。万が一の場合は、強硬手段に出る」

「パトリック!?」

「中立であるはずの国が連合に協力しているのだ。コロニーや民間人に被害を出さなければ、大きな問題にはなるまい」

「評議会が認めるとは思えん」

「フン!そんな呑気な連中には、状況を分からせてやる他あるまい」

 

パトリックは鼻息荒くシーゲルの言葉にそう返すと、シーゲルは小さく溜め息を吐いた。

 

「……わかった。二人の言うことも一理ある。議会を納得させるしかあるまい」

「クルーゼ。強硬手段に出る場合は、貴様の部隊を使う。いつでも出撃出来るようにしておけ」

「はっ!」

「リベラント君、君も来たまえ。前線に立つ人間の意見が、一番分かり易いだろう」

「了解しました」

 

去り際に二人にそう言い残すと、シーゲルとパトリックは急ぎ足で部屋を出ていった。二人を見送ると、レオハルトとクルーゼも部屋を後にした。

 

「さて、私はこれで失礼する。部隊を召集しなければいけない。何とか作戦を承認させてくれ」

「最善は尽くす」

「期待しているよ」

 

二人は別れると、クルーゼは万が一の時のために。レオハルトは議会の承認を得るため、シーゲルたちの後を追うのだった。

 

 

 

 

そして、現在。

 

アプリリウス市議事堂 最高評議会議会室

 

一週間前から毎日続けられている最高評議会議員による会議。会議の議題は勿論、ヘリオポリスで開発中の新型機動兵器、及び建造中の新型艦への対応。

 

先日、レオハルトやクルーゼ、シーゲルにパトリックの四人が話しあった通り、【オーブ】に対して圧力を掛けてはいるのだが、当初の予測通り【オーブ】政府からの返答は知らぬ存ぜぬの繰り返し。

 

中身の無い押し問答を繰り返すだけで、まったく意味の無いものだった。そのため、パトリックを始めとした一部議員からは強硬論が飛び出していた。

 

「強硬手段に出るしかない!ヘリオポリスに極秘裏に侵入し、艦は爆破し機動兵器は奪取するべきだ!」

「賛成だ!最悪の事態があってからでは遅いのだ!」

「反対だ!情報が事実だとしても、仮にも相手は中立国!そんなことをすれば、宣戦布告と受け取られかねん!連合と【オーブ】を相手にする余裕は、我々には無いのだぞ!」

「そうだ!そもそも、その情報が事実かどうかも疑わしい!」

 

議会は依然として紛糾し、結論がまとまる気配は無い。パトリックは目を閉じて黙したままで、シーゲルも難しい表情をしている。

 

「……不毛だな」

 

怒声が飛び交う議場に響く、低音の声。だが、そのたった一言で議場は水を打ったように静まり返った。

 

必然的に、議場の視線は声を発した人間へと向けられる。彼らの視線の先に居るのはは、他の者たちに比べて一際目立つ存在。

 

血のように紅い髪、赤い軍服。そして、左胸に光る【FAITH】の徽章。今では【ZAFT】に知らぬ者無しと言われるほどの人物、レオハルト・リベラント。

 

そんな無機質で呟かれた言葉に反応し、一斉に視線を浴びるレオハルト。

 

「どういう意味かね、リベラント隊長」

「言葉通りの意味です。これ以上続けても、是か否かの押し問答。無意味です」

「……」

 

歯に衣も着せぬその言葉に、議員たちから一斉に睨まれることになったレオハルト。だが、そんな睨みもレオハルトは、どこ吹く風といった様子だった。

 

「ふん。前線に居る君には分からんだろうな。そう簡単に決断できるものではないのだよ」

「後ろにいるばかりのあなたには分からないでしょうね。戦場で命を落とす者たちの無念が」

 

一人の議員がレオハルトに嘲笑混じりの皮肉を言えば、レオハルトは視線も向けずに辛辣な皮肉を口にする。

 

これが、戦場に身を置く者とそうじゃない者の違い。どちらも間違っておらず、どちらも正しい。だからこそ、他の議員たちは口を閉ざす。

 

「やめんか、二人とも。言い争いをしている暇など無いのだぞ」

「……失礼しました」

「申し訳ありません」

 

シーゲルの諌める言葉に、議員はレオハルトを一睨みしてから謝罪すると、レオハルトは無表情のまま頭を下げた。

 

「リベラント隊長。君の意見はどうかね?」

「作戦の承認を求めます。【オーブ】は連合に技術協力、さらには開発場所まで提供しています。中立国家のすることではありません。目的さえ誤らなければ、【オーブ】も強くは非難できないでしょう」

 

今の連合にMSを開発する技術は無い。それは、連合の施設では無く【オーブ】管理下のコロニーで行っていることが何よりの証拠。無論、理由はそれだけではないだろう。中立国のコロニーということで、万が一の時のため保険。つまり、攻撃を躊躇させる手段ということだろう。

 

だが、【オーブ】は代表首長であるウズミ・ナラ・アスハによって中立宣言がされている。その中立国家が連合の新型機動兵器に技術協力をしていたとなれば、大問題となることは確実。この事実を巧く使えば、【オーブ】も【プラント】を一方的に非難することは出来ないはず。

 

「作戦指揮を執るクルーゼ隊長も、【ヘリオポリス】や民間人へ危害を加えようとは思っていないはずです」

「だが、万が一ということもある。間違えましたじゃ済まない」

「……」

 

レオハルトに反論する形で口を開いたのは、シーゲルと同じく穏健派議員として知られるユーリ・アマルフィ。クルーゼ隊に所属するニコル・アマルフィの実の父親である。

普段は温和なその表情は、議題が議題だけに今日は険しい。

 

「そうだ!その際、【オーブ】が連合側で参戦を表明したらどうするのだ!」

「【オーブ】には三大理念があるだろう!その理念に従うあの国に、戦争参加は有り得ん!!」

「それが絶対だと言いきれる保証など無いだろう!詭弁を重ねて、例外措置だと言ってきたらどうする!!」

 

【オーブ】の三大理念とは、『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、また他国同士の争いに介入しない』のこと。つまり、ただの中立ではなく永世中立国を貫くと言うことを宣言したのである。

 

レオハルトの介入により一度は落ち着いたが、再び紛糾する様相を呈してきた。強硬派の中でも一際声を張り上げるのは、エザリア・ジュール。

 

イザーク・ジュールの実の母であり、パトリックを除けば女性ながら強硬派の中でも筆頭格であり、パトリックの補佐的立場にある。

 

「……」

「……」

 

収拾のつかない会議を見て、パトリックはレオハルトへと視線を向けると小さく頷いた。レオハルトはその頷きを見ると、静かに席を立ち会議室を退室する。

 

レオハルトは空き部屋に入ると、小型端末を取り出しクルーゼ隊の旗艦であるヴェサリウスへと通信をつなげた。

 

「ラウ」

「ようやくか。もう始めてしまおうかと思っていたよ。それで、結果は?」

「残念ながらな。収拾がつかない状況だ」

「やはりな。さすがに、こればっかりは簡単には行かんか」

 

小型端末から伸びるホログラムに映るクルーゼは、レオハルトから会議の様子を聞き皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

この結果は事前に予想していたことだった。公にGoサインを出すことは出来ない。だが、パトリックは秘密裏にクルーゼへとGoサインを出す。

 

「ということは、予想通りということか」

「ああ。ザラ委員長のGoサインが出た。クライン議長も黙認と言ったところだろう。だが、【ヘリオポリス】は破壊するなよ」

「無論だ、レオ。あくまでも目的は、新型機動兵器の奪取・及び新造艦の破壊。【ヘリオポリス】の破壊は任務外だ」

「ならいい。健闘を祈る」

「フッ……。君の期待は裏切れんな。頑張らせてもらおう」

 

クルーゼの笑みを最後に、レオハルトは通信を切った。

 

小型端末をしまうと、レオハルトはその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【ヘリオポリス】への極秘作戦開始から数時間後。

 

議事堂内の個室を借り煮詰まっていたユピテルの開発を進めるため、コーヒー片手にPCのキーを黙々と叩き続けていた。だが、不意にその手が止まるとレオハルトは小さく溜め息を吐いた。

 

「(やはり足りない。現在の【ZAFT】では、ユピテルの開発まで辿りつけない。あと一手が足りない……)」

 

現在、ユピテルの開発は煮詰まってしまっている。その理由は、ユピテルの武装にある。ユピテルに装備する予定の武装は、ほとんどがビーム兵器。現存するMSにはまだ本格的な実装は現実化していない。

 

ジンは装備する武装によっては使用することも可能だが、それもエネルギーの関係上、そう何回も使うことは出来ない。

 

これらからも分かるように、これらの武装を造るほどの技術力はある。だが、その過程が見えない現状にある。設計局の人間も尽力してくれているが、難しいものは難しいのが現実なのだ。

 

「リベラント隊長」

 

レオハルトがどうしたものかと考えていると、不意に部屋の扉がノックされる。レオハルトが返事をすると、緑服を着た女性が部屋に入って来た。

 

「クライン議長とザラ委員長が、議長執務室でお待ちです」

「わかった」

 

レオハルトは手早く荷物を片付けると、席を立ち二人の待つ議長執務室に向かった。議長執務室に入ると、シーゲルとパトリックが険しい表情でレオハルトを待っていた。

 

「お待たせしました」

「来たか、リベラント」

「すまんな。緊急事態が起きたのだよ」

「【ヘリオポリス】の件ですか?」

 

レオハルトがそう聞くと、シーゲルは険しい表情のまま小さく頷いた。次の瞬間、シーゲルの口から発せられたのは予想を遙かに超えるものだった。

 

「【ヘリオポリス】が崩壊した……」

「!? 崩壊、ですか……?」

「ああ、戦闘に耐えきれなかったようだ。幸い、民間人は脱出したようだが……」

 

今回の作戦、評議会からの正式なGoサインは出ていない。そのため、表向きにはクルーゼの独断行動になってしまう。レオハルトは勿論、パトリックとしても【ヘリオポリス】の破壊はまったくの計算外と言っていい。

 

だが、結果はこの通り。【ヘリオポリス】の崩壊という結末になってしまった。いくら【ヘリオポリス】で連合の新型機動兵器が開発されていたとはいえ、仮にも中立である【オーブ】管理下にあるコロニーの破壊。

 

【ヘリオポリス】の背後関係は別として、中立国のコロニーを破壊したとなれば非難は免れない。すると必然的に、非難の声は作戦を指揮したクルーゼに向けられることになる。

 

「クルーゼ隊については?」

「五機の新型のうち、四機の奪取に成功。だが、残りの一機と新造艦の破壊は失敗。現在、敵新造艦を追跡中とのことだ。部隊からも四人の戦死者が出ており、ジンも四機失っている」

「……なるほど。クルーゼ隊長は、新型を実戦投入するつもりですか」

「恐らくな。奴の部隊には、奪取したMS以外に余剰戦力はジン数機のみ。奪取した機体を投入するしか無いだろう」

「今はまだ、この話はどこにも漏れていない。が、いつまでも隠しておくわけにはいかない。直に他の議員にも知れ、クルーゼ隊長を召喚して査問会を開いて責任を問うことになる」

 

そう言うと、シーゲルは額に手を当て溜め息を吐いた。同様に、パトリックも眉間に皺を寄せたまま黙したままである。

 

二人の悩みの種は、クルーゼを快く思わない連中による口撃。最悪の場合、クルーゼを現在の立場から引き摺り下ろす可能性もある。というか、その可能性大である。

 

こういう現状があるということは、レオハルトも承知している。肌で感じているほどだ。だからと言って、むざむざクルーゼを解任させるわけにはいかないということは三人の共通認識だった。

 

「どうされるおつもりですか?」

「無罪放免、というわけにはいかないだろう。何らかの責を負ってもらうことになる」

「……」

 

シーゲルは厳しい表情でそう答えるが、パトリックはシーゲルに険しい視線を送っている。このことから、二人の意見が一致しているわけではないということをレオハルトは理解した。

 

「……では、失礼します」

 

必要なことを聞き終えたレオハルトは、敬礼をすると二人に背を向けると足早に部屋を後にした。

 

レオハルトは、クルーゼに対して事前に忠告した言葉も意味は無かったかと考えながら、すれ違う人間に敬礼されながら通路を歩く。

 

「さて、どうなることか……」

 

レオハルトは通路を歩きながら、これからの情勢に思い浮かべる。未来のことは分からない。ただ、一つだけはっきりしていることがある。

 

それは、コーディネイターとナチュラル。【プラント】と連合。両者の戦争は、新たな局面を迎える。それだけである。

 

 

 

 

同時刻 ヴェサリウス艦内 隊長執務室

 

【ヘリオポリス】崩壊後、クルーゼは奪った新型四機を実戦投入し、敵の新造艦を追跡することを決定。だが、状況が状況だけにまともに位置を掴むことが出来ないため、現在は策敵を密にして航行している。

 

戦闘後、クルーゼはアスラン・ザラを自身の部屋に来るように言っていた。その理由は、【ヘリオポリス】崩壊のきっかけとなった最後の戦闘で、アスランが待機命令を無視して奪取した新型MS、X303-AEGIS(イージス)で出撃したのである。

 

その理由を聞くためクルーゼはアスランを呼び出し、話をした。そしてアスランの話す理由を聞き、クルーゼは納得した。同時に、驚きもした。アスランの口から飛び出した、予想外の人物の名に。

 

アスランから満足いく言葉を聞いたクルーゼは、アスランとの話を終わらせた。アスランが出て行った部屋で、クルーゼは自らの口元に浮かぶ笑みを止めることが出来なかった。

 

「……まさか、生きていたとはな。とうに死んだと思っていたが……。……いや、これも宿縁か。面白いとは思わないか?なあ、レオ」

 

クルーゼはゆっくり仮面へと手を伸ばすと、仮面を外し宙で手を放した。クルーゼは不敵な笑みを浮かべながら、右手で仮面を弄ぶのだった。

 




SEEDのDVDの一巻が安かったので買って、観ながら書きました。

だけど、思ったより使わなかった……。
ちょっとショックです。

今回は一話部分でしたが、第二話から第六話からは原作どおりに進めますのでカットします。
次はクルーゼの査問会、そしてラクス・クラインなどが中心になると思いますので、第七話・八話になるかと。

DVD買わなきゃ書けそうにないな。特にクルーゼの査問会のシーン。
まあ正直、そんなのあったか?って感じなんですけど、SEEDの各話のあらすじが書かれているサイトを見ると、あるみたいなんですよね。

はぁ……。
私のPCが元気なら、こんなことは無かったんですけどね……。

久し振りのせいで喋りすぎました。
では、また次回。


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Mission - 10 命の値段

大分お待たせしてしまいましたが、話は進んでません。

閑話みたいな感じの回です。

ちょっと時間軸がおかしいかもしれませんが、多少のことはスルーでお願いします。
酷いときはツッコミをお願いします。




【ヘリオポリス】崩壊の報を聞いた、レオハルトやシーゲル、パトリック三人の話し合いの数時間後には、【ヘリオポリス】が崩壊したことを知った議員からクルーゼを召喚して査問会を開くよう強く迫る者がすでに現れていた。

 

連合の新型機動兵器、通称【G兵器】を四機奪ったことは大きい。だが、中立国のコロニーを破壊したことはそれ以上だ。

 

作戦の目的は連合の新型機動兵器の奪取、及び新造艦の破壊。新型機動兵器五機のうち、四機の奪取には成功。だが、残りの一機の新造艦破壊は失敗。それに続けて、【ヘリオポリス】を破壊させるほどの甚大なダメージを与えてしまった。

 

新型機動兵器を奪った功績が霞んでしまうほどの失態である。

 

この一件で、シーゲルは【ヘリオポリス】を管理していた【オーブ】政府と電話会談が続いている。本来なら会うべきなのだろうが、【プラント】内部からは『中立と謳いながら、連合に与した国家』として、シーゲル暗殺を危惧する声が噴出した。

 

対して、【オーブ】も【プラント】への反感が高まったことにより、【プラント】側との直接会談を拒否している状況である。

 

そしてパトリックは、変化する連合と【プラント】情勢を踏まえ、軍備増強の指揮に追われている。

 

現在、クルーゼは帰還中なのだが、帰還するまで四日ほどある。だが、クルーゼ隊であるゼルマンを艦長するガモフは引き続き敵新造艦を追跡し、撃破に向かうことになっている。

 

そしてレオハルトはというと、設計局にこもっていた。クルーゼから本国に暗号文で送られてきた、奪取した連合の新型機動兵器のデータ。これにより、レオハルトが進めていたユピテルの開発が一気に進んだ。

 

クルーゼの帰還を翌日に控えたある日、ついにユピテルが完成した。

 

光の無い宇宙の中、宇宙に溶け込むような一機のMS。漆黒の機体に銀と赤のラインが入った、新型MS。レオハルトが設計・構想し、開発に踏み切ったMSである。

 

一時は開発に行き詰っていたが、連合の機動兵器のデータを元にようやく完成までこぎつけた。そのため、設計局の人間たちはすでに三日は寝ていない状況だ。

 

今日はようやく完成したユピテルを実際に動かしてみようというわけだ。実際に動かしてみないと分からないこともある。そのため、レオハルトは【FAITH】としての権限を行使しナスカ級を一隻借りると、一番近くにあるデブリベルトへとやって来ていた。

 

「これより、ZGMF‐212X ユピテルの性能評価実験を行います。リベラント隊長、よろしいですか?」

「ああ」

「了解。性能評価実験、開始」

 

技術者のその言葉を合図に、ユピテルのモノアイが紅い光を放つ。レオハルトがフットペダルを踏み込んだ瞬間、技術者たちはその姿を見失った。

 

「なっ!?」

 

機械が自動でユピテルを捜索すると、ユピテルはデブリ群の間をぬうように高速で移動していく。過去の戦闘で撃沈した艦やMS・MAなどの残骸が多数浮遊している宙域にも、レオハルトは恐れることはない。

 

「リベラント隊長!危険です!」

「限界を出さなければ、意味が無いだろ」

「ですが……!」

 

技術者の制止の声も聞かず、レオハルトはさらにスピードを上げるべく動いた。フットペダルをさらに強く踏み込み操縦桿を倒すと、ユピテルはレオハルトの命令に従いさらにスピードを上げる。

 

「何て速さだ……!シグーの三倍は軽く出ている……!」

「リベラント隊長!スピードを落として下さい!身体が壊れてしまいます!」

 

凄まじいスピードによって起きた強烈なGによって、レオハルトはシートへと強く押し付けられる。レオハルトが操縦桿を手前に引き戻し機体に急制動を掛けて反転させると、さらなるGがレオハルトを襲う。

 

「ぐうぅ……!!」

「リベラント隊長!!」

 

技術者の言葉に、レオハルトは咄嗟に操縦桿を引き戻しフットペダルから足を離した。今までレオハルトを襲っていたGが嘘のように消えると、機体が停止する。

 

「リベラント隊長、お身体に異常は?」

「……特に無いが、何か問題が出たか?」

「いえ、無いなら結構です」

 

レオハルトはスピードの実験を終えると、今度は武装の実験に移る。レオハルトが装備されている武装の一つ一つを確認しているのを見ながら、技術者たちは驚きを隠せないでいた。

 

「リベラント隊長の身体はどうなっているんだ……」

「これほどのスピードを出せば、Gも相当なはず。コーディネイターとはいえ、吐血してもおかしくないぞ」

「だが、そんなリベラント隊長だからこそ、ユピテルの性能を最大限に引き出すことが出来ている」

 

そう言いながら、技術者たちはモニターの向こうで縦横無尽に動くユピテルを見る。事前に設置された的に向けて、レオハルトは銃口を向けると精確に的を射抜いていく。

 

「確かにな。だが、あれほどの性能だ。緑どころか、赤でも扱えんかもしれん」

「性能を落としても、難しいかもしれない。性能を落とせば、確実に採算が合わないだろう」

「それは仕方ないだろう。リベラント隊長もそれは承知されている。ユピテルは、リベラント隊長の専用機としてロールアウトになるな」

 

レオハルトやユピテルについての話をしている間に、レオハルトのユピテルへの性能評価実験は終了を迎えていた。

 

「お疲れ様です、リベラント隊長。良いデータが取れました」

「どうだ、ユピテルは」

「予想以上の出来と言えます。ですが、やはりリベラント隊長の専用機となりそうです」

「この性能を考えると、それも仕方ないか。資料をまとめておいてくれ。本国に戻り次第、上に報告する」

「了解です」

 

ユピテルがナスカ級に着艦し格納庫に固定されると、ナスカ級は本国へと進路を取った。本国に戻れば、技術者たちは今回のデータを元にユピテルをレオハルト専用機としてロールアウトするため、詰めの最終調整に移る。

 

そしてレオハルトの頭の中にあるのは、明日に迫ったクルーゼの査問会である。最悪の場合、隊長の任を解かれることにもなりかねない。だが、正直なところレオハルトはそこまで心配をしているというわけでもない。

 

「(査問会、どうなることか。だが、どう転んだとしても、恐らくはあの人が……)」

 

最悪の場合になっても、いざとなれば『あの人』が何か手を打つだろうと。そして何より、クルーゼお得意のよく回る口で何とか切り抜けるのではないかと思っている。

 

なので、レオハルトの頭の中からすぐにクルーゼのことは無くなり、ユピテルのことに切り替わるのだった。

 

 

 

 

 

本国に帰還すると、レオハルトは技術者たちによる報告書と、実際に乗ったレオハルトによって作成された報告書を手に、軍事の総責任者でもあるパトリックの元に向かっていた。

 

「特務隊、レオハルト・リベラントです」

「入れ」

「失礼します」

 

中では相変わらず忙しそうにしているパトリックが座っていた。レオハルトは部屋に入って敬礼をすると、パトリックの正面まで歩いて行く。

 

「どうした」

「ユピテルの性能評価実験を行いましたので、報告書をお持ちしました」

「そういえば、申請が出ていたな。……うむ。性能が幾分か高過ぎるようだな」

「申し訳ありません」

「構わん。貴様のことだ。今のジンHM(ハイマニューバ)やシグーでは物足りんだろう」

「お見通しですか」

 

レオハルトがユピテル開発に踏み切ったのは、【ZAFT】の次世代主力機の開発という理由も含まれている。他にも、現在使用しているジンHM(ハイマニューバ)、データ上ではシグーでも物足りないと考えていた。

 

それをパトリックは、レオハルトの実力を理解しているからこそ見透かしていた。

 

「……いいだろう。報告書の通り、ユピテルは現在の一機のみ。貴様の専用機としてロールアウトしろ。【FAITH】が、カスタム機というのも格好が付かんからな」

「ありがとうございます」

「どれくらいでロールアウト出来る?」

「設計局によれば、二~三日もあれば充分だと」

「ユピテルのロールアウトが完了次第、任務を命じるかもしれん。そのつもりでいろ」

「はっ!」

 

レオハルトはパトリックの執務室を後にすると、これからどうするかと考える。今日の仕事はユピテルの性能評価実験のみ。つまりオフなのだが、特にすることもない。

 

これが昼間だったらまだ何か思いついたのだろうが、時間はすでに夕方。直に日も沈む時間である。

 

「(こういう時、つくづく俺は仕事人間ということを実感するな)」

「おや、リベラント君」

 

通路に立って思案していると、不意に名前を呼ばれレオハルトは振り返った。そこには、議員服から私服を来ているシーゲルが立っていた。

 

「クライン議長」

「どうかしたのかね?」

「いえ、これから何をしようかと思いまして」

「暇なのかね?……では、一緒に食事でもどうだね」

「食事、ですか?」

「……話したいこともある」

 

温和な笑みから一転。シーゲルの表情が真剣なものに変わる。シーゲルの『話したいこと』。その内容にレオハルトはすぐに思い至り、シーゲルの誘いに応じるのだった。

 

レオハルトはシーゲルの専用車に乗り込むと、車はシーゲル行きつけの高級レストランへと走り出した。

 

「今日は娘のラクスと食事なのだが。少々遅れると連絡があってな。一人でどうしようかと考えていたんだ」

「以前と同じですね」

「まったくだね。どうやら私は、待たされることが多いらしい」

 

レストランへは十分ほどで到着すると、レオハルトもシーゲルの護衛と同じように周囲に気を配りながらレストランの中に入る。

 

エレベーターで最上階の五十階に到着すると、シーゲルは慣れた様子で奥の個室へと入って行く。このレストランは有名な三ツ星レストランで、下の階ではリーズナブルな値段でフルコースを堪能できるが、上の階は完全予約制の完全に仕切られた個室で料理を楽しむことが出来る。

そのため、秘密の会話などで利用する人間も多い。

 

「お前たちは下がれ。エレベーター周りにいろ」

「了解しました」

 

シーゲルは護衛を部屋の近くから追い出すと、個室の扉を閉めた。

 

「ここなら、何を話しても問題無いだろう。以前と同じだ」

「……そうですね」

 

二人の間に流れる、何とも表現しがたい空気。険悪とまではいかないが、友好的とは言い難い。そんな微妙な空気が流れる中、料理が運ばれてくる。

 

「リベラント君、何を飲むかね?」

「ノンアルコールを」

「酒は嫌いかね?」

「いつ何があるか分からないので」

「ふふっ、そうだったな。私は赤を、彼にはノンアルコールの物を頼む」

 

ウェイターは頭を下げて退室すると、シーゲルはレオハルトへと視線を移す。

 

「何か?」

「……いや、思い出していただけだよ」

「……」

 

そう言われて、レオハルトもシーゲル同様、あの時のことを思い出していた。

 

 

 

 

一ヶ月前

 

一ヶ月前のあの日も、まったく同じ理由でシーゲルはレオハルトと同じレストランに居た。

 

「すまないね、リベラント君。MS開発で忙しいというのに」

「いえ、現在は開発に行き詰ってしまっている状況です。むしろ、誘って頂いて良かったかもしれません」

「そうだな。食事は良い息抜きになるだろう」

「はい」

 

この日、シーゲルはパトリックや両者の娘息子の四人で食事の約束をしていた。理由は、パトリックの息子であるアスランが士官学校(アカデミー)を首席で卒業することが決まったため、そのお祝いということである。

 

だが生憎、他の三人は事情により遅れてしまうことになり、そこで急きょシーゲルはレオハルトを誘ったのだ。

 

「そうだ。改めて、【FAITH】昇進、おめでとう」

「ありがとうございます」

「これから徐々に増やしていく予定だが、一番の適任者は君と言って差し支えないだろう。誰もが認める、【ZAFT】のエースだからな」

「光栄です、議長」

 

料理が運ばれてくると同時に、二人のグラスに飲み物が注がれる。シーゲルは赤、レオハルトはノンアルコール飲料水が注がれる。

 

「では、乾杯と行こうか」

「何に乾杯しますか?」

「そうだな……。【プラント】の勝利を願って」

「そうですね」

 

笑みを浮かべながらのシーゲルの言葉に、レオハルトも非常に分かりにくい笑みを浮かべた。二人はグラスを手にすると、軽くグラスをぶつけて同じ言葉を口にした。

 

「乾杯」

「乾杯」

 

二人はそれぞれグラスに注がれたものをわずかに飲むと、料理に手を付ける。その料理は高級レストランに恥じぬ物で、レオハルトの食も進んでいた。

 

最初は他愛も無い話だったが、徐々に話は【プラント】と連合の戦争の話に変わって行く。

 

「これから戦争はさらに激しくなっていくだろう……。連合はその物量で攻めてくるはずだ。だが、コーディネイターをひいては【プラント】を護るためにも負けられんな」

「【プラント】を護る剣が、我々【ZAFT】です」

「犠牲を少なくするためにも、早期終戦を目指さなければな。【血のバレンタイン】の犠牲は、大き過ぎた……」

「……」

 

暗い表情でそう呟くと、シーゲルはグラスに残ったワインを口にした。レオハルトの表情は暗いものでは無く、むしろ険しいものだった。

 

レオハルトはグラスをテーブルに置くと、シーゲルへと視線を向ける。

 

「どうした?」

「議長、一つお聞きしたいことがあります」

「……聞こうか」

「【エイプリル・フール・クライシス】について、どうお考えですか」

 

レオハルトの真剣な表情にシーゲルはワインを注ぐ手を止め、居住まいを正す。そして向けられる、レオハルトの問い。

 

昨年、【プラント】は地球に対して核分裂を抑止する【ニュートロンジャマー】を投下した。当時、地球の主要エネルギー源は原子力発電。そのため、【ニュートロンジャマー】によって核分裂を抑止された原子力は処理が面倒な厄介物に成り下がった。

 

地球規模で巻き起こった、重大なエネルギー不足。これによって、地球各地で餓死者・凍死者が続出。エネルギー問題が解消されるまでの死者は、数億人とも言われている。

 

「どういう意味かな」

「言葉通りの意味です。対戦国・中立国問わず投下されたNジャマーによって、エネルギー不足解消までに地球では数億人規模の死者が出ました」

「……君も承知しているだろう。あれは……」

「【血のバレンタイン】の報復。無論、承知しています。核を撃ち込まれた【プラント】に、国民感情を沈めるためにも報復をするしかなかった。ですが、あの作戦によって【血のバレンタイン】の数倍の死者が出ました」

「……」

 

【ユニウスセブン】に撃ち込まれた核攻撃によって、民間人数十万の死者が出た。だが、【プラント】の敢行した【エイプリル・フール・クライシス】では、その何倍の死者が出ている。

 

正直、この件での死者数はあやふやなのだ。そもそも、そんなものに興味の無い【プラント】が調査などするはずも無かった。そのため、レオハルトは各国のメインコンピュータにハッキングを仕掛けて調べたが、正確な数字は分からなかった。

 

ヘタをすれば、桁が一つ違うかもしれない。各国はすぐに新エネルギーを開発しエネルギー不足を解消したが、【エイプリル・フール・クライシス】の被害は大きい。

 

「では、あの決断は間違いだったと言うのかね?」

「中立国に撃ち込む必要は無かったと考えます。対戦国のみに限定するべきだった。戦争とは関係の無い、民間人にも多数の死者を出してしまった。……これでは、核を撃ち込んだ奴らと同じですよ」

「……」

「議長の一言が、数億もの人間を死なせてしまった。……重いですよ。私たち前線に立つ者よりも」

「……君は、私にどうしろと言うんだね」

 

シーゲルは肺にあるすべての酸素を吐き出したような、深い溜め息を吐く。シーゲル自身、このことは感じていた。今でも、あの決断は間違いだったのでは?と考えてしまうこともある。

 

だが、自分は【プラント】の議長。【プラント】のためだと割り切ることにし、その考えを頭の中から排除した。

 

「……逃げることを止めて頂きたいだけです。命を奪った罪からは逃げられませんよ、議長。あなたの決断によって失われた命を背負って、【プラント】のために尽力して頂きたい」

「そうだな……。逃げることは、私が命を奪った者たちへの非礼だな……。ナチュラルもコーディネイターも、同じ人間。尊い命。君の言うとおりだな」

 

シーゲルはテーブルに肘を付くと、両手で顔を覆う。その様子を、レオハルトも黙って見つめる。その時、個室の扉が小さくノックされる。

 

「議長。ザラ委員長ら三人が到着されました」

「わかった……」

 

本来の約束相手であるパトリック、アスラン、ラクスの三人が到着したことを護衛から伝えられ、シーゲルは短く答えを返した。

 

レオハルトは布で口を拭いテーブル脇に置くと、静かに立ち上がった。

 

「では、私は失礼します」

「わざわざすまなかった……」

「……謝罪しなければいけないのは私です。申し訳ありません。処分は甘んじて受けます」

「聞いたのは私だけだ。……それに、間違ってはいない」

「……失礼します」

 

レオハルトが退室した後も、シーゲルは顔を覆ったままだった。レオハルトの言葉の一つ一つが、シーゲルの頭の中を堂々巡りしていた。

 

「罪、か……」

 

シーゲルが小さく呟いた瞬間、個室の扉が開きパトリックが入って来た。続いて、アスラン・ザラ。最後に、【プラント】の歌姫として絶大な人気と影響力を誇るラクス・クライン。

 

「どうした、シーゲル」

「どうかなさいましたか、お父様」

 

レオハルトはパトリックらが乗ったエレベーターとは別で下に降りたため、レオハルトがここにいたことは知らない。だが、テーブルに並んでいる物から、誰かが居たことは理解している。

 

「誰かいたようだな。誰だ?」

「……ちょっとな。痛いところを突かれてしまったよ」

「……」

 

シーゲルの様子からこれ以上聞くのはダメだと判断すると、パトリックらはウェイターが皿などを下げるのを横目に席に着いた。

 

「パトリック……」

「……」

「上に立つ人間というのは、辛いな……。人の命というものは、重いな……」

「……急にどうした、シーゲル」

「いや、何でも無い……」

 

 

 

 

 

二人が一ヶ月前のことを思い出していると、すでに二人の前には料理が出されグラスにも飲み物が注がれていた。

 

「改めて、礼を言いたい。ありがとう。君が言ってくれたお陰で、私は自らの責任を改めて自覚することが出来た」

「顔を上げてください。【FAITH】とはいえ、私が口を出すことではありませんでした。申し訳ありませんでした」

 

ウェイターが退室するのを見計らい、シーゲルはそう前置きすると頭を下げた。あれ以来、シーゲルはレオハルトに言われたことをずっと考えていた。自分は【プラント】を護らなければいけない。だからといって、すべての行為が正当化されるわけではない。

 

命を奪うことは、本来なら悪だ。戦争だからといって、悪が善に変わるわけではない。悪と自覚しての行動と、善と勘違いしての行動には大きな隔たりがある。

 

「……私が何かを知るのは、大抵は報告書に書かれている文字だ。時間が経つにつれ私自身、命の重さを忘れかけていたようだ。一人だろうが百人だろうが、尊い命が失われたことには変わりない」

「……」

「私が発した命令によって、多くの命が失われる。その命が失われたことによって、悲しむ者も生まれただろう。家族、友人、恋人。その者たちにとって、私は悪魔に見えるのだろうな」

「憎み憎まれる。それが戦争。ですが私は、護りたい者のためならば悪魔になります」

 

レオハルトの言葉にシーゲルは一瞬言葉を失うが、すぐに苦笑を浮かべた。

 

「……立派だな、君は。私もまだまだということだな」

「……私も、迷う時はあります。ですが、立ち止まるわけにはいきません。散った仲間のためにも」

「これからは私も、それだけの覚悟を持って動こう。いざという時には、誰かに恨まれるのも覚悟して、私は命令しよう」

 

そこからは終始穏やかに食事は進んだ。ラクスが到着するとレオハルトは帰ろうとしたのだが、シーゲルは恨まれるのを覚悟してレオハルトを強引に引き止めるのだった。

 

シーゲルはこの時、心のモヤモヤが一気に晴れるのを感じていた。

 




今回の話、正直言うと後半部分だけでよかったんですよね。

そろそろ完成させたいなって思って前半部分も書いちゃったんですよね。

しかも、最初書いてたらいつの間にか、初めてトールギスに乗ったゼクスみたいになっちゃいましたし。
W好きが出てしまったようです。

すぐに修正して、今になりました。

次こそ、原作を進めるはずです。


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Mission - 11 心の棘

今回は、以前よりは早く更新することが出来ました。

今回は7話で、次は8話です。
PSNでレンタルして書きました。8話もレンタルしてます。

なので、来週中には更新できると思います。多分。
本編と並行して、オリMSの更新もする予定です。

では、本編をどうぞ。


レオハルトは昨日行われたユピテルの性能評価実験の後、設計局と一緒にユピテルのロールアウトの最終調整を行っていた。

 

レオハルトは一人で三つのキーボードを巧みに叩き、画面に表示されている事柄を一つずつ確実に解決していく。ユピテルほどの高性能機になるとデータも膨大になるため、それらを整理していく。

 

「リベラント隊長、どうですか?」

「順調だ。この分なら早めに終わりそうだな」

「いえ、リベラント隊長のご協力のお陰です。もしかしたら、明日にも完成するかもしれません」

「それは吉報だな。……すまないが、後は任せる」

「はい」

 

レオハルトは現在の時間を確かめると、開いていた画面を閉じ立ち上がった。時計の針は、間もなくクルーゼの査問会が始まる時間を指していた。

 

レオハルトはシーゲルから、査問会の見学を許されている。無論、レオハルトが【FAITH】とはいえ特例である。見学が許された代わりに、発言は一切許可しないという制限付きである。

 

 

 

 

 

レオハルトは急ぎ足で評議会議事堂に入るとエレベーターへと乗りこんだ。上階へのボタンを押そうとした時、視界の端にある人物を捉えた。

 

「久しいな、レオ」

 

現れたのは、今日の査問会の主役であるクルーゼだった。その傍にはアスランの姿もあり、レオハルトに気付くと背筋を伸ばし敬礼をした。

 

「大活躍だな、ラウ」

「手厳しいな、レオ」

 

レオハルトは礼を制すと、アスランは戸惑いながらも右手を下ろした。二人がエレベーターに乗ったことを確認すると、レオハルトは査問会が行われる最上階のボタンを押した。

 

半円形のソファに座るクルーゼに向けて、レオハルトは何とも辛辣な皮肉を口にした。だが、クルーゼはわずかに笑みを浮かべ受け流すだけだった。

 

「久し振りだな、アスラン」

「はっ。リベラント隊長もお元気そうで」

「どうだった。初めての任務は」

「……」

 

レオハルトの言葉に、アスランは苦い顔を浮かべるだけ。その理由を知るクルーゼは、二人には見られないように唇の端を釣り上げる。

 

「……初めての実戦だ。思うこともあっただろう。誰もが通る道だ」

「はい……」

 

だが、アスランが抱える想いを知らないレオハルトは、単に初任務にして重要。そしてコロニー崩壊という結果になってしまったことを悔いていると考えたレオハルトは、それ以上は何も言うことは無かった。

 

そしてついに、査問会が始まった。

 

「ではこれより、オーブ連合首長国領ヘリオポリス崩壊についての、臨時査問会を始める。まずはラウ・ル・クルーゼ。君の報告から聞こう」

 

レオハルトは評議会議員の座る円卓上のテーブルから離れた場所に立つと、壁に背を預け評議会の矢面に立つクルーゼに視線を向ける。

 

「はい。報告をするにあたり、ご覧頂きたいものがあります」

 

クルーゼの言葉と共に、各議員の正面にあるモニターに映像が表示される。その映像は、クルーゼが指示して撮った戦闘映像である。

 

その中には、連合軍新造艦【アークエンジェル】の出現や最後の一機、【ストライク】が巨大な砲を放った瞬間がおさめられていた。

 

「これは……!」

「バカな……。コロニーに穴を開けるとは……」

「それほどの火力をMSに……」

 

予想通りの議員の反応を前に、クルーゼは胸中で笑みを見せる。

 

「ご覧のように、奪取しきれなかった最後の一機はこれほどの火力を有しております。コロニーに穴を開けるほどの攻撃。直接的な原因ではありませんが、まったく影響が無いとも言い切れません。では、次の映像をご覧ください」

 

映像が切り替わると、映し出されたのは最終攻撃の際の映像。ストライクがジンをサーベルで両断し、アークエンジェルの発射したミサイルが地表やシャフトに直撃する映像。

 

「(……)」

 

レオハルトの眉間に皺が寄るが、そのことに誰も気付くこと無くクルーゼの話は進んで行く。映像の最後に映し出されたのは、アークエンジェルの発射した主砲と思われるビームがシャフトに命中し【ヘリオポリス】は崩壊。

 

「これは……」

「どういうことだ。この映像を見る限り、【ヘリオポリス】が崩壊したのは奴ら、連合のせいではないか!」

「奴らの攻撃がシャフトを貫いたことが原因ではないか!」

「……以上の経過でご理解頂けたと思いますが、我々の行動は決して【ヘリオポリス】自体を攻撃した者では無く、あの崩壊の最大原因はむしろ地球軍にあるものとご報告致します」

 

クルーゼは自身の報告をそう締めくくると、最後に敬礼をすると共に出席したアスランの隣に腰を下ろした。

 

「やはり、【オーブ】は地球軍に与していたのか。リベラント隊長の読み通り……」

「条約を無視したのは、あちらの方ですぞ」

「だが、アスハ代表は」

「地球に住む者の言葉など、アテになるものか」

 

議員たちはそう口々に話し始める。議員の頭からは徐々にクルーゼの査問会という意識は無くなりつつあり、ただ連合の開発した新型MSに怒りを抱くだけとなりつつあった。

 

「しかし、クルーゼ隊長。その地球軍のMS、果たしてそこまでの犠牲を払ってでも手に入れる価値のあった物なのかね?」

「その驚異的な性能については、実際のその一機に乗り、さらには取り逃がした最後の一機と交戦経験もある、アスラン・ザラより報告させた頂きたく思います」

 

不意に問われる、パトリックからの問い。その問いに、クルーゼは立ち上がるとそう返答した。パトリックはシーゲルへと確認の視線を向ける。

 

「アスラン・ザラよりの報告を許可する」

 

シーゲルの許可が出たことにより、アスランは立ち上がると先程のクルーゼと同じ立ち位置まで歩いて行く。短く敬礼をすると、再び各議員のモニターに映像が映し出される。

 

映し出されたのは、奪取後のヴェサリウスの格納庫の映像。映し出されたのは、現在の【ZAFT】主力機であるジン。だが、その隣にそびえるのはジンとは似ても似つかないMS。

 

奪取に成功した四機のうちの一機、GAT-X303 AEGIS(イージス)である。

 

「まず、AEGIS(イージス)という名称のこの機体ですが。大きな特徴は、MAへの可変が可能であることが挙げられます。さらに、MA形態時は単一方向の速力は一般的なMSを大きく上回ります。同機体は展開に応じた形態を取ることで、単体での高い攻撃力と汎用性を実現していると言えます」

 

映像ではAEGIS(イージス)の機体データが次々と表示されていき、戦闘の様子も流される。

 

「そして特徴的な武装といえるのが、≪580mm複列位相エネルギー砲 スキュラ≫と呼ばれる武装です。先程の映像でご覧頂いたように、この武装も最後の一機同様、今まで無かった強力な火力を持つ武装と断言出来ます」

 

事前に台本が用意されたわけでもないのに、アスランはAEGIS(イージス)の特徴をスラスラと答えていく。さすがは、士官学校(アカデミー)を首席で卒業した実力の持ち主だろう。

 

「さらに、同様に奪取した他の三機も、それぞれ驚異的な性能を有した強力なMSであると考えます。以上です」

 

報告を終え、アスランは敬礼をすると後ろに下がり、先程と同じ場所に腰を下ろした。

 

アスランの報告と同時に、議員たちからはナチュラルへの怒りの声が上がる。だが、一部の穏健派からは冷静な発言が出た。だが、それもエザリアの言葉によって一蹴。穏健派は口をつぐんだ。

 

次第に議員たちの言葉によって議会場は騒がしくなり、シーゲルが仕方なく諌める言葉を掛ける。だが、騒ぎは中々収まらず、その様子をクルーゼは不敵な笑みを浮かべて眺めていた。

 

すでに彼らの頭に、今回自分たちが集まったのはクルーゼの査問会ということは頭から無く、意識はこれほどの機体を開発したナチュラルに向けられていた。

 

「……戦いたがる者などおらん。我らの誰が、好んで戦場に出たがる。平和に、穏やかに、幸せに暮らしたい。我らの願いはそれだけだったのです」

 

シーゲルによってようやく静まりかえった議会場。その議会場に、パトリックの低く訴えるような声が響く。

 

「だが、その願いを無残にも打ち砕いたのは誰です!自分たちだけの欲望と都合のためだけに、我々コーディネイターを縛り、利用し続けてきたのは。我らは忘れない。【血のバレンタイン】、【ユニウスセブン】の悲劇を!!」

 

その場に立ち上がり、両手を大きく広げて演説を始める。パトリックが訴えるは、ただナチュラルへの怒りと憎しみを。我らの敵はナチュラル、悪いのはナチュラルだと。

 

「戦わなければ護れないなら、戦うしかないのです!」

 

パトリックはその言葉を口にすると、黙って議員たちを見渡す。強硬派の議員たちは厳しい表情で頷く。考えが一致した瞬間だった。

 

その様子を見たシーゲルは、静かに肩を落とす。仕方ないこととはいえ、シーゲルはこのまま戦争状態が続くことは望んでいない。出来るならば、今すぐにでも終わらしたいとさえ思っている。

 

だが、それは現在の状況を見るとシーゲルのみと言っても過言ではない。表向きには肯定しないまでも、ただ黙って口を閉ざす穏健派の人間たち。その沈黙が肯定を示す、何よりの証拠だった。

 

現在はお互いに銃を向け合っている状況。その状況で、自ら銃を下ろし握手を求めるなど有り得ない。パトリックは、相手が銃を下ろすまで戦おうというつもりなのだ。

 

「(やはりこうなったか……。……俺も同類か)」

 

結果は分かったので、レオハルトは静かに立ち上がると議会場を立ち去る。

 

 

 

 

 

共同墓地

 

陽も落ち始めた夕方。アスランは一人、墓地にいた。

 

アスランは持ってきた花束を墓石に手向ける。墓石にはレノア・ザラと記されている。アスランの実の母であり、【ユニウスセブン】で亡くなった一人である。

 

「……」

 

『戦わなければ護れないなら、戦うしかない』。

 

アスランの脳裏によぎるのは、父であるパトリックの言葉。アスランも分かっている。アスランが【ZAFT】に志願したのも、【ユニウスセブン】がキッカケだ。

 

彼自身、【プラント】を護りたいと願った。だが、その気持ちに矛盾し、アスランも戦争などしたくない。参加もしたくない。

 

だが、パトリックの言葉が真理であるのもまた事実。この二つの相反する気持ちがアスランを苦しめるが、アスランは迷いを振り切り戦うことを決意した。

 

だが、そんなアスランに迷いが生まれた。それは、敵として現れた親友の存在。同じコーディネイターである親友が、連合の新型MSに乗って自分たちの前に立ちはだかったのだ。

 

迷いを振り切ったアスランの心に、親友の存在が棘として奥深くに突き刺さる。

 

墓石から視線を上げ周りを見ると、遠くからでも分かる紅い髪に赤服の人物の姿が目に入る。見間違えるはずなど無かった。【ZAFT】に知らぬ者無しと言われ、アスランの憧れと言っても過言ではない存在。

 

「リベラント隊長」

「……アスランか」

 

アスランは憧れの存在であるレオハルトに近付き、静かに声をかける。レオハルトは墓石から視線を外すことはない。

 

「そうか。アスランの母親も、亡くなっているんだったな」

「はい……。リベラント隊長も、どなたかを?」

「お前の母と同じ、【ユニウスセブン】でな。……好きだった女性だ。……居なくなってから気付くなんて、ひどい話だ」

「……」

 

アスランは墓石へと視線を向けると、同様に花が供えられていた。供えられている花は、一種類のみ。名はアヤメ。

 

「アスラン。この花はアヤメ。花言葉を知っているか?」

「いえ……」

「『信じる者の幸福』だそうだ。あいつは、ナチュラルとの共存を本気で信じていた。信じていたら、きっと叶うと。だから、あいつはこの花が好きだったらしい」

「……」

「信じていた相手に殺されるとは、とんだ皮肉だ」

 

レオハルトはそう言って色々な感情が入り混じった笑みを浮かべると、サングラスを掛けアスランに背を向けた。

 

「しばらくは休暇なのだろう?ゆっくり休め。……迷いを抱えていてもな」

「……っ!……はい」

 

去っていくレオハルトの背を見送りながら、アスランの心は分厚い雲が覆われていた。だが、それでもアスランは前に進むことだろう。

 

立ち止まる暇などなく、振り返る時間も無い。前に進むしかない。たとえ、どんな迷いを持っていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、ザラ国防委員長閣下」

「……貴様が流したあの映像、巧く出来ていたな」

「頼れる友がおりますので」

「……シーゲルはわずかに疑っていたようだがな。どれほど手を加えた?」

「ほう、さすがは議長ですな。ですが、それも確信では無いでしょう。しかし、手を加えたとは心外です。余計な情報を消したまでです。必要ではありませんか?政治の世界には」

「確かにな。貴様の映像と、アスランの流した映像。あの二つで、穏健派の連中は口を閉ざした。その点では、大きな役割を果たしたと言えるだろう」

「光栄です」

「『奴』は、『こちら』の人間か?」

「どちらとも言えませんな。彼はあくまでも【プラント】、【ZAFT】の人間として行動するでしょう」

「なるほどな。【プラント】に利する場合は、敵対は無いか」

「恐らくは。……では、私は失礼します」

「ああ」

 




今回はちょっと短めだったと思います。

ちょっと雑になってしまったかもしれません。

それでも、楽しんで頂ければ嬉しいです。


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Mission - 12 歪む正義

8話だけだと何か微妙だったので、9話も一緒に書きました。

今回も主人公が敵と会話していますが、アスランとキラもしていましたので大丈夫でしょう。
そして、主人公機も戦闘です。

戦闘描写が稚拙な部分もあると思いますが、楽しんで頂けたらと思います。

では、本文をどうぞ。


査問会の翌日。【プラント】中をあるニュースにより激震が走った。

 

【ユニウスセブン】追悼記念式典のために【プラント】を出たラクス・クラインが、消息を絶ったのだ。

 

ラクス・クラインは歌手という立場でありながら、その圧倒的な歌唱力と容姿で【プラント】市民から絶大な人気と影響力を持っている。

 

その彼女の影響力は、実の父である最高評議会議長であるシーゲル・クラインと良い勝負である。そんな彼女が消息を絶ったとあれば、【ZAFT】が動く。

 

捜索隊に指名されたのは、ラクス・クラインの婚約者でもあるアスラン・ザラも所属するクルーゼ隊。婚約者でもあるアスランが、本国でゆっくりと休暇を楽しんでいるのも体裁が悪い。

 

そのため、クルーゼ隊にラクス・クライン捜索任務の白羽の矢が立ったということだ。そのため、ヴェサリウスは当初の出港時間より大幅に早まることになった。

 

アスランがヴェサリウスへと続く十二番ゲートに到着すると、ゲートの入口にはクルーゼとパトリックの姿があった。

 

アスランは敬礼をしたまま通り過ぎようとするが、パトリックに呼び止められ縁を掴んで身体を止めるとクルーゼの隣に着地した。

 

「ラクス嬢のことは聞いておろうな?」

「はい。しかし、隊長。まさか、ヴェサリウスが?」

「おいおい、冷たい男だな君は。無論、我々は彼女の捜索に向かうのさ」

「でも、まだ何かあったと決まったわけでは。民間船ですし」

「公表はされてないが、すでに捜索に向かったユン・ロー隊の偵察型ジンも戻らんのだ」

 

パトリックのその言葉に、アスランの表情が変わる。MSが捜索に行ったまま戻らないとなると、当然だが話は変わってくる。

 

偵察型という名称が示す通り、この機体の用途は偵察が主である。だが、最低限の武装は装備しており、部隊に攻撃を受けたという報告も入って無いことから、それらの行動を取る暇も無く撃墜されたということになる。

 

この宇宙で【プラント】に敵対するのは、やはり連合が真っ先に思い浮かぶだろう。単純に海賊という線も考えられるが、どちらにしろ良いことにはなっていないだろう。

 

「【ユニウスセブン】は地球の引力に引かれ、今はデブリ帯の中にある。嫌な位置なのだよ。ガモフは【アルテミス】で足つきをロストしたままだしな」

「まさか……!」

「ラクス嬢とお前が定められた者同士であることは、【プラント】中が知っている。なのに、お前がいるクルーゼ隊が、ここで休暇というわけにもいくまい。彼女はアイドルなのだ。頼むぞ、クルーゼ、アスラン」

「はっ」

 

【アルテミス】、通称【傘のアルテミス】。【光波防御帯】と呼ばれるビームも実体弾も通さない無敵のシールドを持つ要塞で、ユーラシア連邦の管轄下に置かれていた。

 

だが、無敵のシールドも味方が開発したG兵器の前には無力。シールドは何の意味も為さず、【アルテミス】は陥落した。

 

パトリックはそう言い残すと、踵を返し戻って行く。その背を見送りながら、アスランはパトリックの言葉の意味を考えていた。

 

「彼女を助けて、ヒーローのように戻れと言うことですか?」

「もしくは、その亡骸を号泣しながら抱いて戻れ、かな」

「!」

 

クルーゼの冷徹な言葉に、アスランはハッとしてクルーゼを見上げた。

 

「どちらにしろ、君が行かなくては話にならないとお考えなのさ。ザラ委員長は。それに、保険もある。安心したまえ」

 

そう言うと、クルーゼはアスランを残し先にヴェサリウスへと入って行ってしまった。クルーゼの背中を、アスランは険しい目付きで見送りながら最後の言葉が気になっていた。

 

「保険……?」

 

 

 

 

 

 

定刻通り、ヴェサリウスは一八〇〇に出港。ラクス・クライン捜索に向けて発進した。

 

命令があるまでは特にすることも無く、暇になったアスランはAEGIS(イージス)を見に行くことにした。格納庫に着くと、そこには見慣れない機体があった。

 

「あのMSは……」

 

漆黒の姿をしながらも、所々に銀と紅のラインが入った見慣れぬ機体。ジンのカスタム機とは程遠く、シグーとも同様に程遠い。

 

アスランは近くの整備員を捕まえ、あのMSについて話を聞くことにした。

 

「すまない。あのMSは……」

「ああ、あの機体ですか?あれは、リベラント隊長の専用機です。リベラント隊長が設計したもので、ロールアウトしたばかりだそうです」

「リベラント隊長の!?」

「ええ。聞くところによると、同行出来るよう申し出たとか」

「(何故、リベラント隊長が……)ありがとう、助かった」

「いえ、では」

 

整備員に礼を言うと、アスランは再びレオハルトのものだというMSを見上げた。何故、ラクス捜索のために出撃したヴェサリウスにレオハルトが乗っているのか。

 

「(隊長の言っていた保険とは、リベラント隊長のことなのか?)」

 

疑問を抱えながら、アスランはレオハルトに話を聞くためその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

その時、レオハルトはクルーゼの部屋で話をしていた。

 

「しかし、まさか君が同行を申し出るとはな」

JUPPITER(ユピテル)を実戦で動かしてみたくてな」

「おや?我々の任務はラクス・クライン捜索のはずだが」

「とぼけるな。分かっているだろう」

 

今回、レオハルトがヴェサリウスに乗艦した理由はただ一つ。ロールアウトしたユピテルの実戦投入である。

 

「聞くところによると、お前たちが【足つき】と呼んでいる連合の新造艦。奴らは、【ヘリオポリス】でお前たちの襲撃によって、万全の態勢で出港したとは考えにくい。さらに、【アルテミス】ではガモフの攻撃により補給もままならなかった可能性が高い」

「ふむ、なるほど」

「水や弾薬はこれまでの戦闘や時間の経過で限界が近いだろう。となると、補給をするため奴らの取る行動は一つ。デブリ帯にある戦艦から弾薬を補給。そして、水は【ユニウスセブン】から調達するしかない」

 

レオハルトが自身の推測を述べると、クルーゼは笑みを浮かべる。これは、クルーゼも予測していたこと。クルーゼは友が同じ考えでいると言うことに満足していた。

 

「さすがは【FAITH】だな、レオ」

「よく言う。……戦闘になれば、俺は好きにやらせてもらう」

「無論だ。私に、【FAITH】である君への命令権限は無いからな。むしろ、命令される側だ」

「するつもりはない。隊長はお前だ。指揮はお前がしろ」

「そう言うと思ったよ。好きにしたまえ。それに、君について行ける者などおらんよ」

「そうさせてもらう」

 

レオハルトはクルーゼの部屋を後にすると、格納庫に向かった。

 

理由は勿論、出撃に備えてである。レオハルトは確信している。必ず戦闘になり、出撃することになると。

 

「リベラント隊長!」

 

格納庫に向かっていると突然声を掛けられ、レオハルトは声のした方へと視線を向けた。そこにはアスランがおり、アスランはレオハルトの前で床に立つと疑問をぶつけた。

 

「アスラン」

「リベラント隊長。何故、ヴェサリウスに?」

「それか。格納庫に用がある。移動しながらでいいか?」

「はっ、お供します!」

 

生真面目なアスランの答えにレオハルトは内心苦笑しながら、アスランと共に格納庫へと向かう。

 

「さて、俺が一緒に来た理由だったな。簡単なことだ。ロールアウトしたばかりの俺の専用機を、実戦で試すためだ」

「戦闘が起きると?ですが、我々は」

「考えが浅いな、アスラン。これまでの報告によると、【足つき】は一度もまともな補給を受けていない。さらに、【足つき】と最後の一機は連合にとって大事な存在だ。俺たちは軍人だ、アスラン。ラクス・クライン捜索の任を受けているとはいえな」

「……連合が、【足つき】のために補給部隊を派遣すると?」

「十中八九な。補給、出迎えと言ったところか」

「(……確かに、リベラント隊長の言うとおりだ。そう考えると、戦闘に発展する可能性が高い。もしかしたら、また“あいつ”と……)」

 

アスランが思考の海に沈んでいる間に、二人は格納庫に到着。レオハルトはJUPPITER(ユピテル)の最終確認をする。アスランも我に返ると、同じように自身の乗機となったAEGIS(イージス)へと向かうのだった。

 

JUPPITER(ユピテル)のコックピットでOSの設定をいじっていると、クルーゼから通信が入る。

 

「レオ、地球軍の艦隊を発見した。現在、追尾中だ」

「来たか。仕掛けるんだろ?」

「無論だ、レオ。我々は、軍人なのだからな。どうする?君も出撃()るかね?」

 

クルーゼの問いに、レオハルトはわずかに口角を上げることで応える。その笑みに、クルーゼも同様に笑みを浮かべる。

 

「ブリーフィングを行う。艦橋に来てくれ」

「わかった」

 

レオハルトはアスランにも声をかけると、共に艦橋に向かう。艦橋には、ヴェサリウスに乗艦している二人のパイロットがすでに来ており、クルーゼやアデスと一緒に大型モニターを囲むようにして立っていた。

 

「さて、では始めるか。アデス」

「はっ。これは、地球軍艦艇の予想航路です」

「ラコー二とポルトの隊の合流が、予定より遅れている。もしあれが、【足つき】に補給を運ぶ艦ならば、このまま見逃すわけにはいかん。もっとも、【FAITH】の彼は確信しているようだがな」

 

そう言うと、クルーゼは宙域図へと視線を落としているレオハルトへと視線を向ける。クルーゼは普段と何ら変わらないレオハルトの様子に笑みを零すと、複雑そうな顔をしているアスランへと視線を向けた。

 

「不服かね、アスラン?」

「いえ……。我々は、軍人。そういうことですね?」

「レオに言われたのかね?まぁ、そういうことだ。だが無論、ラクス・クライン嬢の捜索を放棄したわけではないということは明言しておこう」

「了解しました」

 

その後、ブリーフィングは滞りなく進み、敵艦艇への攻撃が決定。ヴェサリウスは、戦闘態勢へと移行した。

 

それからもヴェサリウスは敵に気取られないように追跡を続け、ついに攻撃を行うタイミングに入る。

 

「イエロー90マーク6に【足つき】を捕捉しました」

「さて、頃合いだな」

「仕掛けますか?」

「ああ。MS、発進させろ」

「はっ!MS、各機発進せよ!」

 

アデスの声と同時に、格納庫が一気に慌ただしくなる。まずはジン二機が出撃し、続いてアスランのAEGIS(イージス)が出撃。

 

そして最後に出撃するのは、レオハルトのJUPPITER(ユピテル)がカタパルトに移動する。

 

「レオ。暴れるのはいいが、部下の分も残しておいてくれ」

「善処しよう。レオハルト・リベラント、出るぞ」

 

戦場へと解き放たれた漆黒のMS。レオハルトは先に出撃した三機の前に位置取りする。

 

「リベラント隊長、どうしますか?」

「各機、連携しつつ敵を撃破。命を無駄にするな!」

「はっ!」

 

レオハルトはアスランたちに簡潔な指示を出すと、フットペダルを踏み込む。瞬間、抑えていたスピードが爆発すると敵艦へと距離を詰める。

 

一瞬そのスピードに驚くが、アスランは気を取り直しその後を追いかける。

 

その頃、【足つき】こと【アークエンジェル】でも【ZAFT】の存在は察知していた。

 

「イエロー257マーク40にナスカ級!数四!熱紋照合。ジン二、それと、待ってください。AEGIS(イージス)!X303 AEGIS(イージス)です!」

「では、あのナスカ級だと言うの!?」

 

“あの”ナスカ級。【ヘリオポリス】襲撃後から、追撃してきた艦ということに気付く連合側。だが、ここで疑問が浮かぶ。ジン二機とAEGIS(イージス)、では残りの一機は?ということだ。

 

「最後の一機は!?」

「該当機無し!UNKNOWN(アンノウン)です!!」

「新型だというの……!?」

 

【アークエンジェル】にデータが無いのも当然。最後の一機は、ロールアウトしたばかりの新型MSなのだから。だが、普通の新型MSではない。

 

MSも一級であり、パイロットは超一流だと言うことである。

 

敵艦から次々と吐き出されるMAメビウス。間断なく放たれる砲火。だが、JUPPITER(ユピテル)に死角は無い。

 

レオハルトはさらに一段階スピードを上げると、それだけでJUPPITER(ユピテル)の速度にメビウスの照準はまったく定まらない。

 

「くそっ!速すぎる!!」

「鈍いな」

 

レオハルトは小さくそう呟くと、腰から実剣を抜くと両手に構える。MA-M212 天鳥船(アメノトリフネ)。元々はジンHM(ハイマニューバ)に装備されていたものを、JUPPITER(ユピテル)専用に開発した実剣である。

 

レオハルトは天鳥船(アメノトリフネ)を手に、狼狽するメビウスを両断する。すぐさま次の敵との距離を0にすると、剣を突き刺し撃墜。

 

コックピットに鳴り響くアラート音。レオハルトは背後から迫って来るミサイルから距離を取るが、しつこく追いかけて来るミサイル。

 

レオハルトは敵艦を迂回しながら回避すると、ミサイルは敵艦の横っ腹に命中。レオハルトは機体を急反転すると、敵艦の艦橋に迫る。

 

「敵UNKNOWN(アンノウン)、接近!」

「迎撃!」

「間に合いません!!」

 

レオハルトは実剣で艦橋を薙ぎ払うと、撃沈を見届けることも無く離脱。背後から響く巨大な爆発音などすでにレオハルトの頭には無い。

 

「脆すぎる……。これでは、JUPPITER(ユピテル)の肩慣らしには程遠い。……!」

 

レオハルトが連合のあまりの弱さに嘆いていると、突然ジン一機の反応がロスト。レーダーを確認すると、艦影一、敵機二を捕捉していた。

 

「レオ」

 

敵の存在を確認した瞬間、クルーゼから通信が入る。

 

「本命のご登場だ。沈めてくれ」

「了解した」

 

レオハルトがクルーゼと話している間に、すでにアスランは敵MSと戦闘に入っていた。レオハルトは周囲を飛び回るメビウスに右手の天鳥船(アメノトリフネ)を投擲することで撃墜すると、友軍のジンが相手をしているMAメビウス・ゼロへと向かう。

 

メビウス・ゼロはガンバレルを分離させてジンを沈めようとした瞬間、レオハルトが援護に入る。空いた右手に40mmビームライフルを手にすると、メビウス・ゼロに向けて射撃。

 

「ちいっ!」

 

現在の連合では、メビウス・ゼロを扱える者はたった一人。【グリマルディ戦線】の生き残りにして、MAでジンを撃墜するという偉業を成し遂げた男。

 

【エンデュミオンの鷹】ことムウ・ラ・フラガはレオハルトの銃撃を、ガンバレルを素早く回収し離脱。だが、レオハルトは攻撃を緩めることなくビームを精確に撃って行く。

 

「リベラント隊長!」

「こいつは俺が引き受ける」

「申し訳ありません……」

 

ムウの攻撃によって左腕を破損したジンは、重突撃銃で敵機を牽制しながらヴェサリウスへと帰還していく。その様子を尻目に、レオハルトはムウへと攻勢を仕掛ける。

 

「(何だ、この奇妙な違和感は……)」

 

ムウ操るメビウス・ゼロへと攻撃を仕掛けながら、レオハルトは奇妙な感覚に襲われていた。今まで感じたことのない、何とも表現しがたい感覚である。あえて表現すると、それが奇妙なのだ。

 

「お前、ラウ・ル・クルーゼか!」

「連合にラウの知り合いがいたとはな。驚きだ」

 

突然聞こえてくる声に、レオハルトは驚くことも無く対応する。だが、対照的に声を掛けたムウは驚いていた。

 

「クルーゼじゃない?」

「一応名乗っておこうか。俺はレオハルト・リベラント」

「あらら、意外と律儀だこと。俺も名乗らないわけにはいかないね、こりゃ。俺はムウ・ラ・フラガ」

「……高名な【エンデュミオンの鷹】が相手とは。本気でやらなければいけないな」

「それはこっちのセリフでしょう。【ZAFT】のトップエースに本気でやられたら、すぐ終わっちゃうって。気楽に行こうよ」

「何となく嫌な予感するんでな。早めに終わらせよう」

 

そう言うと、レオハルトはフットペダルを踏み込むと同時に操縦桿を手前に引き戻す。ムウのガンバレルやリニアガンの猛攻から距離を取っていたレオハルトは、真正面からムウに立ち向かっていく。

 

ムウは目を見開いて驚きつつもすぐにガンバレルで対処するが、レオハルトは機体をわずかにずらすことで回避。レオハルトは左手に持っていた天鳥船(アメノトリフネ)をガンバレルに向け投擲。

 

「……っ!!」

 

突然のことにムウは回避行動を取ることが間に合わず、ガンバレルが一基大破。レオハルトは右手にビームライフルを手にしながら、左手の指先から真紅のビームクローを顕現させる。

 

「ビームサーベル!?」

「驚いている暇があるのか?」

「無いよ!クソッタレが!!」

 

ガンバレルを回収して距離を取ろうと試みるムウ。だが、レオハルトはすでに【グリマルディ戦線】でメビウス・ゼロとの戦い方は心得ている。

 

「悪手だな」

 

レオハルトは五本の指のビームクローをガンバレルに突き刺し一基破壊すると、構えたビームライフルの引き金を二度引く。発射されたビームは、吸い込まれるように残りのガンバレル二基を貫く。

 

「マジかよ、このヤロウ!」

「……」

 

最後の悪あがきとばかりに、ムウは機体を反転させるとリニアガンの銃口をレオハルトへと向け引き金を引く。だが、放たれた攻撃はJUPPITER(ユピテル)にはカスリもしない。

 

「速すぎでしょーが!!」

 

レオハルトは素早くサイドに回り込むと、ビームライフルでリニアガンを貫き破壊。ムウは仕方なく戦線を離れていくが、レオハルトは追撃に向かわず本命である【足つき】へと機体を向ける。

 

その時、艦への攻撃を行っていたナスカ級の主砲が、連合の最後の艦を貫いた。レオハルトはそちらにわずかに視線を向け、次にアスランと戦闘を繰り広げる敵機へと向ける。

 

「(あの動きは……)」

 

若干の疑問を覚えながらも今は戦闘中だと頭を切り替えると、【足つき】へと視線を移すと撃沈へと動き出す。

 

「こちらは地球連合軍所属艦【アークエンジェル】。当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している」

「(なに!?)」

「……」

 

突然聞こえてきた敵艦からの全周波放送。その中で告げられた一言に、アスランは驚きのあまり動きを止めてしまい、レオハルトも同様に機体を停止させた。

 

保護していると言う証拠のためか、ヴェサリウスのメインモニターにはラクスが背後に写り込んでいる映像が映し出される。その事実に、アデスは思わず声を上げた。

 

「偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが。以降、当艦へ攻撃が加えられ場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意思でこの件を処理することをお伝えする」

 

それはつまり、攻撃を加えればラクス・クラインを殺害するということ。ラクス・クラインが死亡すれば、心置きなく攻撃を加えることは可能だ。

 

だが、彼女が死なせてしまった場合のデメリットを考えれば、プラスよりマイナスの方が大きいと言わざるを得ない。

 

彼女は【プラント】の象徴とも言うべき存在であり、議長であるシーゲルの実の娘でもある。万が一のことがあれば、責任を取るでは済まされない。軍事法廷に掛けられ、死刑となるだろう。

 

「卑怯な!!」

 

伝えられた通告にアスランは拳を振り上げると、モニターを思いっ切り殴り付ける。自身の婚約者を人質に取られてしまったのだから、当然ともいえる反応である。

 

「格好の悪いことだな。援護に来て不利になると、これか」

「ラウ」

「分かっているさ、レオ。攻撃中止。総員、帰投しろ」

 

クルーゼはそう指示を出すと、レオハルトは機体を反転させヴェサリウスへと向かう。アスランは強く唇を噛み締めながら、相対する【ストライク】を睨み付けるのだった。

 




ちなみに、今回のユピテルの武装ですが。
天鳥船(アメノトリフネ)、自分でも結構気に入っています。

次回も週末には更新する予定です。
では。


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Mission - 13 歌姫の帰還

お待たせしました。

最近、やけに順調に進んでいるので怖くなってきた作者です。
まあ、調子がいいんでしょう。

では、本文をどうぞ。


「救助した民間人を人質に取る。そんな卑怯者と共に戦うのが、お前の正義か!キラ!!」

「アスラン……」

「彼女は助けだす!必ずな!!」

 

同じコーディネイターでありながら連合の新型機動兵器、最後の一機のパイロットであるキラ・ヤマト。その彼は、アスランの月の幼年学校に通っていた頃の親友。互いのことを知り尽くした親友である。

 

戦場で再会という残酷な事実の前にも、その関係は変わらない。だからこそ、アスランは分からない。そんな親友が何故、民間人を人質に取るという暴挙を犯す者達に味方するのか。

 

「どうした、アスラン。帰投するぞ」

「……はい」

 

なかなか動かないアスランに気付き、レオハルトが声をかける。アスランは絞り出すようにして答えると、レオハルトの後を追い帰投した。

 

ヴェサリウスに帰投すると、レオハルトとアスランはMSを整備員に任せ、そのまま艦橋に向かう。アデスも含めた四人で会議が始まる。

 

「このまま後を追ったところで、ラクス嬢が向こうに居られてはどうにもならんな」

「連中も月艦隊との合流を目指すだろうしな」

「しかし、このままみすみすラクス様を艦隊には」

 

アデスの言うとおり、ラクスが敵の手に落ちている以上、レオハルトたちに手を出すことは出来ない。手を出せばラクスの身に危険が及んでしまう。

 

かといって、このまま彼女が月艦隊、あるいは月基地に到着すれば連合軍は歓喜するだろう。現最高評議会議長の娘である彼女の利用価値は計り知れない。

 

「ガモフの位置は?どのくらいでこちらに合流できる」

「現在、6マーク509イプション0コンマ3です。合流には、七時間はかかるかと」

「それでは手を打つ前に合流されてしまうか。……難しいな」

 

何とも歯がゆく手をこまねいているしかない現状に、アスランは苛立ちを抑えることが出来ない。

 

「レオ、何か手はないかね?」

「無茶を言うな、ラウ。俺にだって出来ないことはある」

「さすがに、この状況では君でも無理か。現状維持しか無いということか」

「ヘタに手を出すわけにもいかない」

「そうだな。MSは万全にしておけ。いつでも出れるようにな」

 

まともな方策も無いまま、会議は終了。解散となった。

 

クルーゼは艦橋を離れると、一時的な休息のため部屋に戻った。

 

クルーゼがシャワーを浴びてシャワー室から出ると、部屋にはレオハルトが待っていた。

 

「邪魔しているぞ」

「レオ。……っ!」

 

レオハルトはクルーゼに背を向けた状態でソファに座っていた。クルーゼは足を踏み出した瞬間、あることに気付く。ついさっきまでシャワーを浴びていたため、仮面を付けていない。

 

クルーゼにとって、素顔は多くある秘密の一つ。クルーゼは思わず顔を背けるが、レオハルトはいつも通りの声で話しかける。

 

「心配するな。……素顔を見る気はない」

「……それは助かる。……それで、何の用かね?ロックを破ってまでの用ということか?」

 

【ZAFT】に所属している艦の個室には、それぞれ扉を外部から開けさせないためのロックがかかっている。だが、レオハルトはハッキングなどの情報工学のプロ。あの程度のロック、数秒もあれば破れてしまう。

 

「聞きたいことがあってな」

「何かな?」

「最後の一機、【ストライク】と言ったか。あれに乗っているのは、本当にナチュラルか?」

「……何故、そう思うのかね?」

「アスランとの戦闘を見てそう思った。あれは、ナチュラルの動きでは無い」

 

戦闘中、わずかな時間とはいえレオハルトは【ストライク】の動きを見た。互いの機体が互角ならば、最後はパイロットの腕が勝利を左右する。

 

ここで問題なのは、【G兵器】の当初のOSはヒドイものだった。そのOSを、この短い期間で連合が完成させた可能性は皆無と言っていい。

 

そのOSをコーディネイターと互角に戦える程度に構築し、操縦できる者。考えられるのは、コーディネイターだけ。

 

「……」

 

推測とはいえ、ほぼ確信に近いレオハルトの考えを聞き、クルーゼは口を閉ざす。頭に掛けたタオルで濡れた髪を拭きながら、何かを思いついたようにクルーゼは笑みを浮かべた。

 

「そういえば、君には言っていなかったな。君の言うとおり、あれに乗っているのはコーディネイターだ。しかも、まだ子どもだ。アスランと同い年の」

「……その情報を削除したのは、誰の指示だ?ザラ委員長か?」

「鋭いな、君は。隠し事は出来んようだ。その少年はアスランの昔の友人らしくてな。名は……キラ・ヤマトという」

「……戦争によって再会するとはな。皮肉なことだ」

 

レオハルトは立ち上がると、そのままドアへと歩いて行く。

 

「もういいのかね?」

「聞きたいことは聞いた。充分だ」

 

そう言い残しレオハルトは部屋を後にすると、一時的に割り当てられている部屋に入る。部屋にロックが掛かったのを確認し、服を脱ぎ捨てシャワー室へと入った。

 

「何故…………」

 

熱いシャワーを頭の上から浴びながら、レオハルトは下を向いたまま動かない。振り上げた拳で壁を殴ると、レオハルトはゆっくりと顔を上げた。その顔に感情は無く、能面のように無表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

時計の針が夜中を指した頃、突如【アークエンジェル】から【ストライク】が発進。それを確認したヴェサリウスでは、すぐに戦闘態勢へ移行。パイロットは発進準備に入る。

 

それはレオハルトやアスランも例外ではなく、シートに身体を預けると機体を起動させていく。

 

「こちら地球連合軍【アークエンジェル】所属のMS、【ストライク】。ラクス・クラインを同行。引き渡す。ただし、ナスカ級は艦を停止。AEGIS(イージス)のパイロットが単独で来ることが条件だ。この条件が破られた場合、彼女の命は保証しない」

 

全周波放送で聞こえてくる、【ストライク】パイロットからの声。切り札ともいえる存在、ラクスを返還するという。予想もしていなかった行動に、アデスは混乱する。

 

「どういうつもりだ、【足つき】め」

「隊長、行かせてください」

 

アデスが裏に隠された真意を考えていると、モニターにアスランが映り込む。

 

「敵の真意はまだ分からん。本当にラクス様が乗っているかどうかも」

「行かせてやれ」

 

アデスがアスランの言葉に反論した時、アスランとモニターを分割する形でレオハルトが割り込んでくる。

 

「もしラクス嬢が乗っていなかったとして、こんなことをするメリットは何だ。不意打ちか?無理だな。【足つき】とはかなり離れている。有効射撃は難しい。AEGIS(イージス)の撃破か?違うな。ラクス嬢の身柄とMS一機。どちらにメリットがあるかは分かるだろう」

「ですが、リベラント隊長!」

「……わかった。許可する」

「ありがとうございます!」

 

アスランはクルーゼの許可に笑顔を見せながら礼を言うと、モニターから消える。アデスは許可を出したクルーゼへと顔を向ける。

 

「よろしいのですか?」

「チャンスであることも確かさ。レオの言うことにも一理ある。……フッ、向こうのパイロットもまだ幼いようだな」

 

後半部分は小声で呟くと、クルーゼはモニターに映るレオハルトへと視線を向ける。

 

「レオ、行けるか?」

「ああ」

「では、任せよう。アデス、艦を停止させろ。あとは、レオに任せよう」

 

アスランが出撃した後、レオハルトはカタパルトへと移動。いつでも出撃出来る状態になると、ヴェサリウスはエンジンを停止した。

 

ヴェサリウスやレオハルトから映像を見ることは出来ないが、管制官がレーダーで監視している。

 

「敵MS、離れます!」

「エンジン始動だ、アデス!レオ!」

「レオハルト・リベラント、出撃()るぞ!」

 

瞬間、ヴェサリウスは停止させていたエンジンを点火。それによって、カタパルトにもエネルギーが供給されると、レオハルトのJUPPITER(ユピテル)がヴェサリウスから出撃する。

 

「ナスカ級より、UNKNOWN(アンノウン)出撃!」

「(UNKNOWN?ってことは、あいつか!死んじゃうんじゃないの、俺!)」

 

JUPPITER(ユピテル)が出撃したことはすぐに【アークエンジェル】にも察知され、すぐにムウのメビウス・ゼロが出撃する。

 

だが、先の戦闘でガンバレルをすべて潰されたゼロ。当然ガンバレルの修理は終わっておらず、万全の状態に仕上げるには時間が少なすぎる。そのため、武装は応急処置程度しか終わっていないリニアガンのみでの出撃である。

 

「リベラント隊長!?」

「アスラン、すぐに帰投しろ。奴らは俺が討つ」

「ですが……!!」

 

シグーを軽く上回る速度でAEGIS(イージス)を通り過ぎると、レオハルトは【ストライク】へと向かって行く。

 

「……」

 

レオハルトは操縦桿を強く握り締めつつ、【ストライク】をその瞳で見据える。

 

「レオハルト・リベラント隊長」

「?」

「追悼慰霊団代表のいる私の居る場所を、戦場にするおつもりですか?」

「(ちっ!こんな時に何を!)」

 

アスランと共にAEGIS(イージス)に乗っていたラクスは、全周波放送のボタンを押しレオハルトに呼びかける。ヴェサリウスの艦橋で、ラクスの言葉にクルーゼは舌打ちをする。

 

「そんなことは許しません。すぐに戦闘行動を中止してください」

「お断りします。敵が目の前にいれば、戦うのが軍人です。それに、民間人であるあなたの命令を聞く必要も無い。私は【FAITH】。クライン議長閣下、ザラ国防委員長以外の人間の命令を聞く必要はありません」

「それは……」

「アスラン、早く帰投しろ。まともに戦えないだろう」

 

レオハルトはラクスの言葉に真っ向から反論して論破すると、アスランに早く帰投するように促す。レオハルトは両手を左右の腰へと伸ばすと、JUPPITER(ユピテル)の主武装、天鳥船(アメノトリフネ)を引き抜く。

 

現在の天鳥船(アメノトリフネ)ではPS(フェイズシフト)装甲を斬ることは出来ないため、機体を操作し天鳥船(アメノトリフネ)へとエネルギーを供給。天鳥船(アメノトリフネ)の刃の部分が、ビームと変化する。

 

「(ここで潰しておきたいところだが……。後々、この件が厄介なことになりかねんか。仕方ない)……レオ」

「……」

「ここは私に免じて、退いてくれないか?」

「命令か?」

「いや、友としての願いだ」

「……」

 

レオハルトは操縦桿を手前に戻しJUPPITER(ユピテル)を反転させると、先に離脱していたアスランと並行して帰投していく。

 

「貸しだぞ、ラウ」

「やれやれ、大きな借りを作ってしまったよ」

 

サブモニターに映るクルーゼにそう声をかけると、通信を切ったクルーゼの姿が消える。レオハルトがふと視線を落とすと、右手が震えていることに気付く。

 

「…………」

 

レオハルトは右手を強く握り締めると、離れていくモニター上の【ストライク】へと拳を振るった。レオハルトは操縦桿を握り直すと、小さく呟いた。

 

「……次は、討つ」

 

手の震えは、いつの間にか治まっていた。

 




今回の話で、新たな謎を皆さんの中に投下出来たのではないかと思います。

……まあ、なんとなく分かっちゃった、って人もいるかもしれないですけど。
出来れば、その予想を覆したいところですね。

次の更新ですが、分かりません。
あまり遅くならないように更新したいと思います。


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Mission - 14 決意の先に

お待たせしました。

今回は短めです。話もほとんど進んでないです。

次回は、初っ端から戦闘で行きます。


ヴェサリウスへと帰投後、アスランはラクスを部屋に案内し、レオハルトは軍服に着替えると艦橋に向かった。

 

「ラウ」

 

艦橋に入ると、レオハルトは椅子に腰を下ろしているクルーゼに声をかける。

 

「すまないな、レオ。せっかくのチャンスを」

「俺は【FAITH】という立場上何とでもなるが、お前はそういうわけにはいかないからな。貸しだ」

「大きい貸しになりそうだ。いずれ返そう」

「期待しないで待っている」

 

レオハルトは小さく笑みを見せると、クルーゼは話題を変える。

 

「我々はこれから、ラコーニの部隊と合流予定だ。ラクス嬢を引き渡した後は、再び【足つき】攻撃のためにガモフ、ツイーグラーと合流する。君はどうする?」

「ザラ委員長から命じられたラクス・クライン捜索はすでに果たしている。ここからは、俺の好きにさせてもらう」

「そう言うと思ったよ。了解した」

 

レオハルトはこれからの自分の方針をクルーゼに伝え了承すると、レオハルトは艦橋を後にする。

 

レオハルトは艦橋を出て仮部屋へと向かっていると、正面からアスランが現れた。その表情は険しく、婚約者と語らった後とは思えなかった。

 

「……リベラント隊長」

「ラクス嬢はいいのか?」

「はい……。リベラント隊長、少しお時間いいですか?」

「……入れ」

 

レオハルトはアスランを部屋へと招き入れると、冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったボトルをアスランに一本手渡す。

 

「それで、何の用だ」

「…………」

 

レオハルトの問いにも、アスランは俯いてしまい口を開かない。それほど言いにくいのか、口にするのも憚られることなのか。だが、レオハルトはアスランの言いたいことに察しがついていた。

 

「……先程の出撃のことか?」

「……はい」

 

アスランと【ストライク】との間に行われた、ラクス・クラインの引き渡し。その際、レオハルトは引き渡しが完了してすぐに出撃。敵撃墜へと動いた。

 

これはアスランにしてみたら予想外であり、自身たちの信頼を汚された気分になっていた。

 

「あれは、【ストライク】のパイロットとの取引でした。裏は無いと確信していました。なのに……」

「【ストライク】のパイロットが、お前の友人だからか?」

「!」

「アスラン。俺たちは何だ」

「……軍人です」

 

レオハルトの問いに、アスランは困惑しながらも答える。レオハルトから厳しい視線を向けられ、アスランはわずかにたじろぐ。

 

「敵は討つ。それが俺たちの仕事だ。戦争に信頼と優しさを求めるな。その優しさは、お前の欠点だ。その優しさは、いずれ誰かを殺すぞ」

「っ!!」

「それがお前なのか他の人間なのかは知らないがな。覚悟を決めろ。それが出来ないなら、【ZAFT】を辞めろ。それが、お前のためだ」

「……」

 

戦争は汚いものだ。戦争に綺麗事など吐いていられない。言えるとしたら、戦争を知らない人間だけだ。

 

自分を、友を、家族を、愛する者を。そして、故郷を。それらを護るため、レオハルトは自らの手を血で汚す。すでにレオハルトの手は、真っ赤だ。いや、手どころか全身だ。

 

頭の先から足のつま先まで、これまで討ってきた者達の返り血で穢れている。いまさら、この罪から逃れようとは思っていない。それならば、後の世のために手を汚す者が一人でも少なくなるようにと、それだけを願いレオハルトはMSに乗る。

 

レオハルトはベッドサイドに置かれていたケースからカプセルを手にすると、ミネラルウォーターで流し込む。

 

「……それは?」

「ただのビタミン剤だ。それより、よく考えろ」

「はい……」

 

アスランは肩を落とし部屋を出て行くと、レオハルトは小さく溜め息を吐いた。

 

アスランが優しい人間だということは、レオハルトも理解している。仮にアスランが一般人だったら、長所と言えるだろう。だが、その情けが、自身の命を。もしかしたら、仲間の命を危険にさらす可能性もある。戦争と戦場には、優しさは不要な感情なのだ。

 

「……ゴホッ、ゴホッ!!……後味の悪いビタミン剤だ」

 

 

 

 

 

それから数時間程で、ラクスの出迎えのために待機していたラコーニ隊との合流地点(ランデブー・ポイント)に到着。

 

小型艇の周辺にはラクスの見送りのために大勢の兵が集まっており、アスランと共にやって来るラクスへと敬礼をしていた。

 

小型艇の入口にはクルーゼとレオハルトが立っており、敬礼をしてラクスを出迎える。

 

「クルーゼ隊長、リベラント隊長。色々とお世話を掛けました」

「お身柄は、ラコーニが責任を持ってお送りするとのことです」

「ヴェサリウスは、追悼式典には戻られますの?」

「さあ。それは分かりませんが」

「リベラント隊長はどうです?」

「……難しいかと思います」

 

ラクスの問いに、レオハルトの脳裏に【ユニウスセブン】で散ったフィアナのことがよぎる。だが、レオハルトはそれを払うと否定の言葉を返す。

 

「戦果も重要なことでしょうが、犠牲になる者のこともどうかお忘れなきように」

「肝に銘じましょう」

「クルーゼ隊長に同じく、肝に銘じます」

「何と戦わねばならないのか。戦争は難しいですわね」

 

ラクスの言葉に二人は同じ言葉を返すと、ラクスは横に立つアスランへと顔を向ける。その言葉に、アスランの表情が曇る。

 

【プラント】の敵は連合。では、連合に味方する自らの親友も敵なのか?その答えが出ることはなく、アスランの思考は堂々巡りとなる。

 

「では、またお会い出来る時を楽しみにしておりますわ」

 

ラクスが小型艇に入って行くのを見届けると、レオハルトらは艦内へと戻る。艦底部から吐き出され、ラコーニのローラシア級へと向かって行く小型艇を見送る三人。

 

「何と戦わねば、か。……イザークのことは聞いたな」

「……はい」

「【ストライク】。討たねば、次に討たれるのは君かもしれんぞ」

 

アスランにそう言い残し、クルーゼは艦橋へと戻って行く。その後を追うように、レオハルトもその場を離れる。離れて行くその背を見送りながら、アスランは迷いを断ち切れないでいた。

 

そして、クルーゼの口にしたイザークのこと。それは、【足つき】が艦隊と合流を目前にした時、ガモフはDUEL(デュエル)BUSTER(バスター)BLITZ(ブリッツ)で攻撃。

 

だが、【ストライク】の攻撃によりDUEL(デュエル)のコックピット部分にダメージを受けてしまった。その際の衝撃で、ヘルメットのバイザーが割れ右目周辺に深い傷を負ってしまった。

 

「意地の悪いことを言うな」

 

クルーゼに追いつくと、レオハルトはそう声をかける。だが、クルーゼは深い笑みを浮かべるだけ。これがラウ・ル・クルーゼという男なのだ。そのせいで、昔から色々とあったものである。

 

「だから皮肉屋と言われるんだ、お前は。悪い癖だぞ」

「生憎と、これが私でね。もう治らんさ」

「だろうな。俺もそう思う」

「ふふっ。君も私と同じではないか」

「お前と長く一緒にいたせいで、感染(うつ)ったようだ」

「謝った方が良いかな?」

「いや、必要無い。お前に謝られると、何か裏があると勘繰ってしまう」

 

レオハルトの笑みを浮かべながらの言葉に、クルーゼも同様に笑みを浮かべる。互いに顔を見合わせると、自然と笑い声が漏れる二人。

 

今の二人は【ZAFT】のエースではなく、以前からの友人。親友に戻っている。戦艦の中だというのに、そこに張り詰めた雰囲気など微塵も無く感じられなかった。

 

その後も、ヴェサリウスはガモフやツィーグラーとの合流を目指し航行。

 

そして、ようやく両艦と合流。クルーゼは動き出す。

 

「ツイーグラーとガモフ、合流しました」

「発見されてはいないな?」

「艦隊は大分降りていますからね」

 

クルーゼが捉えた獲物。それは、艦隊と合流した【足つき】。獲物は大きい。

 

クルーゼはアデスの座る椅子を軽く押し身体を反転させると、艦長席の後ろにある設置型モニターへと視線を向ける。

 

「月本部へと向かうと思っていたが。奴ら、そのまま【足つき】を地球へ降ろすつもりだな」

「降下先はアラスカだな」

 

不意に聞こえる第三者の声。二人が視線を声のした方へと向けると、レオハルトが艦橋に入って来たところだった。

 

「【ストライク】の実動データを元に、MS量産に向けて動き出すつもりだろう」

「ふむ……。出来れば、こちらの庭にいるうちに沈めたいものだが。どうかな?」

「ツイーグラーにジンが六機。こちらに、AEGIS(イージス)JUPPITER(ユピテル)を含めて六機。ガモフも、ブリッツとバスターは出られますから」

「智将ハルバートン。そろそろ退場してもらおうか」

 

ヴェサリウスはラコーニと合流した際、ジンとパイロットを補給要員として迎え入れいてる。三隻合計して、戦力は十四機。そのうち、四機が最新鋭と言って問題ないMS。パイロットも優秀。

 

連合側は、相当な数のMAが無ければ厳しい状況と言えるだろう。

 

「レオ。MS部隊の指揮は任せていいかな?」

「いざとなればやろう。だが、それまでは各々の判断でやらせろ。命令が無ければ何も出来ない有象無象はいないだろ、【ZAFT】には」

「ふっ、確かに。では、万が一の時は任せる。出撃は十分後だ」

「了解した」

 

レオハルトは艦橋を出ると、そのままいつでも行けるようにパイロット更衣室に向かう。その途中、艦内放送で戦闘があることが告げられる。

 

基本、レオハルトはクルーゼと同様、パイロットスーツを着ることはない。というより、着たのは数える程度、片手で足りるほどだ。

 

そのレオハルトが、今回は久し振りにパイロットスーツへと袖を通す。今度の敵は艦隊である。今までの戦闘と比べて、艦の数も多くMAの数も違う。

 

今回の戦闘、レオハルトはスピードが重要だと考えている。敵は現在、通常より低い位置にある。作戦の際にも話していたように、本命である【アークエンジェル】は地球へと降下するのが目的だろう。

 

普通のMSでは大気圏を単体で降下出来ることも無い。深追いし過ぎると、地球の引力で引っ張られてしまう。

 

素早く敵艦隊を沈め、【アークエンジェル】を撃沈させる。もたもたしていると、敵は地球へと逃げてしまう。だからこそ、必要なのはスピード。それが鍵を握っている。

 

そのため、レオハルトは今回の戦闘ではJUPPITER(ユピテル)のスピードを最大限に活かす必要性があることを見越し、久し振りにパイロットスーツへと袖を通した。久し振りに着てみると、思った通りレオハルトは違和感を覚えた。

 

「違和感だな……。まあ、仕方ないか」

 

自動ドアが開く甲高い音に視線を向けると、そこにはアスランが立っていた。アスランはレオハルトに気付くと、複雑そうな顔を浮かべる。

 

レオハルトの三つ隣のロッカーを開けると、取り出したパイロットスーツへと着替え始める。レオハルトは何も声をかけず、部屋を後にした。

 

レオハルトは更衣室の隣にある、格納庫へとすぐ行けるパイロット待機室のソファへと腰を下ろした。待機室に設置されているモニターには、小さく敵の姿が映っていた。そこには、【アークエンジェル】の姿も小さく映し出されていた。

 

「…………」

「……リベラント隊長」

 

振り返ると、そこにはパイロットスーツへと着替え終わったアスラン。その表情には暗いものがありつつも、その瞳には確かな決意が宿っていた。

 

「リベラント隊長。俺は決めました。前に進むと」

「……そうか。なら、進め」

「はい」

 

今のこの状況で、彼らにゆっくり悩んでいる時間は無い。迷いを抱えつつも、アスランは前を向いて進むと決めた。

 

人間は神では無い。人間に未来を知る術は無い。いつかはこの時の決断を後悔するかもしれない。それでも、アスランは前に進むと決めたのだ。

 

「MS、発進は三分後。パイロットは搭乗機へ。各機、システムチェック」

 

艦内に流れる放送で出撃が近いことを知る。二人は格納庫へと向かうと、それぞれのMSのコックピットへと入る。MSを起動させると、各々がシステムに異常が無いかを入念に調べる。

 

「さて、作戦開始だ」

 

クルーゼの呟きと共にヴェサリウス、ガモフ、ツイーグラーからジンが次々と出撃。その時、レオハルトの耳にアデスの叫び声が届く。

 

「どうした、ラウ」

「イザークが出撃すると言って聞かないらしい。強引にMSに搭乗したようだ」

「どうするんだ?」

「ふむ。レオ、任せる」

 

先の戦闘の怪我でイザークは右目を包帯で覆っており、見えるのは左目だけ。戦闘では明らかに不利。だが、イザークは周囲の制止を振り切り出撃しようとしている。

 

イザークにとって問題なのは、【ストライク】の攻撃によって負傷した怪我ではない。イザークのプライドが許さないのである。今のイザークの最優先事項は、【ストライク】の撃破。それだけである。

 

レオハルトが丸投げの言葉に反論しようとするも、ラウはいち早く通信を切断してシャットアウトしてしまった。

 

「……イザーク」

「リベラント隊長!俺は大丈夫です!!出撃させてください!!」

 

サブモニターに映るイザークは、包帯を巻いた姿ながらもその瞳からは闘争心が溢れんばかりに噴き出していた。

 

「行けるんだな?」

「この程度の傷、問題ありません!!」

「言葉はいい。戦場で示せ」

「はい!!」

 

通信を切ると丁度アスランが出撃したため、最後となったレオハルトがカタパルトへと移動。

 

「レオハルト・リベラント、出撃()るぞ!」

 




次回の更新は、また来週。
もしかしたら、さらに来週かもしれないです。

問題は、本編の舞台が地球に移ってからですよね。
どうしましょうね。

あまり飛びすぎるのもどうかと思いますし。
じっくり考えます。


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Mission - 15 低軌道会戦

15話、タイトルそのままの回です。

一応完成しましたが、ちょっとスッキリしない感じです。
特に最後。

まあ、大丈夫でしょう。





艦から出撃し、敵へと向かって行くレオハルトたち。目の前には艦隊、そして【アークエンジェル】が見えている。

 

「目標はあくまで【足つき】だ。他に時間をかけるなよ」

 

聞こえてくるクルーゼの声を聞きつつ、全員が敵との距離を0にしていく。

 

「目標を見誤るなよ。散開!」

 

レオハルトがそう声を張り上げた瞬間、敵艦から一斉に放たれるビームの嵐。それに続けて、次々と出撃してくるメビウスが攻撃を仕掛けてくる。

 

レオハルトは正面からのバルカンを回避すると、ビームを二連射しメビウスを撃墜。左手に天鳥船(アメノトリフネ)を手にすると、バルカンを撃ちながら迫って来るメビウスを斬り捨てた。

 

その瞬間、レオハルトを九発のミサイルが襲う。レオハルトは後方へと距離を取りながら、追尾してくるミサイルを冷静に見据える。

 

「……」

 

レオハルトは上へと距離を取った瞬間、ミサイルを赤黒いビームが撃墜する。アスランが操縦するAEGIS(イージス)のスキュラである。

 

スキュラはミサイルを撃墜した後も勢いは衰えず、その先に居たメビウス数機も撃墜していく。

 

アスランはすぐにMA形態を解除してMS形態へと戻ると、さらに迫って来るメビウスをビームライフルで撃墜する。

 

レオハルトはサブモニターに映るアスランに向けて小さく笑みを浮かべると、二人はすぐに別の敵へと向かって行く。

 

離れた場所では、BLITZ(ブリッツ)が【ミラージュコロイド】を使用して敵艦橋の正面に移動すると、クレイプニールで艦橋を潰し撃沈させる。さらに別の場所では、BUSTER(バスター)が二つのライフルを連結させた射撃が敵艦を貫く。

 

アスランも敵艦の撃沈へと動く。再びMAへと変形すると、敵艦に取り付きスキュラを零距離で発射した。敵艦にスキュラに抗えるわけも無く、あえなく撃沈。

 

イザークのDUEL(デュエル)は今回、新たな装甲を取りつけている。【アサルトシュラウド】と呼ばれる装甲で、攻撃力向上につながっている。その向上した攻撃力を活かし、イザークも敵艦を撃沈させている。

 

そして、レオハルトも敵艦の撃沈へと向かう。フットペダルを踏み操縦桿を倒すと、JUPPITER(ユピテル)の脚部にある二つのスラスターと、背部の四つのスラスターが一斉に火を噴く。

 

スピードだけならば【G兵器】と同等、あるいはそれ以上のものを持つJUPPITER(ユピテル)

。そのJUPPITER(ユピテル)のスピードに翻弄され、メビウスはおろか敵艦の迎撃も追い付かない。

 

レオハルトは天鳥船(アメノトリフネ)で艦橋を薙ぎ払うと、距離を取ると駄目押しとばかりに艦体にビームを放つ。

 

レオハルトは機体を反転させると、再びJUPPITER(ユピテル)をトップスピードに持って行く。JUPPITER(ユピテル)に初めて搭乗した性能評価実験の際は、そのスピードに度肝を抜かれ焦ってしまっていた。

 

だが今では、JUPPITER(ユピテル)のスピードに完全に順応し、完璧に乗りこなしていると言っても過言では無かった。

 

レオハルトは横から迫って来るミサイルをビームで撃ち落とすと、その後ろからやって来るメビウスを上下に分断。斬り捨てた勢いを殺すことなく、レオハルトは返す刀でさらに続けて迫るメビウスを斬り上げる。

 

レオハルトは自分の口角が自然と上がり、笑みを浮かべていることも自覚していた。戦場に蔓延する緊張感が、レオハルトを言い様のない高揚感で満たしていく。

 

「次だ!!」

 

レオハルトは次なる敵に狙いを付けると、放たれるビームを凄まじいスピードで回避。機体をバレルロールさせつつレオハルトはビームライフルの狙いを付け、引き金を引いた。

 

放たれたビームは寸分違わず敵艦の主砲を沈黙させる。レオハルトはビームライフルを腰にマウントすると、右手にも天鳥船(アメノトリフネ)を抜くと主要な攻撃能力を失った敵艦へと距離を詰める。

 

レオハルトは両手の天鳥船(アメノトリフネ)を上から思いっ切り振り下ろすと、艦橋に天鳥船(アメノトリフネ)が喰い込む。天鳥船(アメノトリフネ)を引き抜き後方へと距離を取り、撃沈を見届けることも無く次なる敵を探し始める。

 

次々と墜ちて行く戦艦とMA。ひっきりなしに来る報告の嵐に、地球軍旗艦である【メネラウス】の艦橋では副官のホフマン大佐が驚愕で顔を染める。

 

「戦闘開始たった七分で、六隻もか!?」

「敵UNKNOWN(アンノウン)だけでニ隻……!スワンレイク、UNKNOWN(アンノウン)により撃沈!!三隻目です!!」

「化け物めっ!」

 

ホフマンは吐き捨てるようにそう呟くと、モニターに映し出されている漆黒のMSを睨み付ける。

 

今三隻目の敵艦を沈めたレオハルトはというと、高まっていた高揚感はMAXに達していた。だが、レオハルトの操作は鈍ることも無く、それどころか一層鋭さを増し全感覚が鋭敏になって行く。

 

「ラウ!マーク85イエロー50チャーリーに離脱艦だ!沈めろ!!」

「ふっ、了解した。アデス、主砲照準!」

「はっ!」

 

レオハルトは離脱していく艦を見咎めると、後方から主砲支援を進めるクルーゼに指示を出す。クルーゼは不敵な笑みを浮かべると、すぐにアデスへと指示を出した。

 

クルーゼのレオハルトに対する印象は、クールな人間ながらも情の深い人間であるということである。だが、クルーゼが気に入っているのはそこではない。戦場では、敵に対して情け容赦ないその非情さである。

 

「(レオ。私は、君のそういうところが好きなのだよ)」

 

クルーゼに指示を飛ばすと、レオハルトは次々と押し寄せて来るMAを相手にする。

 

「次から次へと!」

 

迫って来る数発のミサイル。レオハルトは迫るミサイルを天鳥船(アメノトリフネ)で両断すると、近くにいるメビウスを手当たり次第に撃墜していく。

 

それぞれが敵の数を着実に減らしつつある中、連合が動く。

 

「【足つき】が動く?ちいっ、ハルバートンめ!第八艦隊を盾にしてでも、【足つき】を降ろすつもりか!追いこめ!何としても、降下する前に仕留めるんだ!」

「はっ!」

 

何と、【アークエンジェル】が降下準備に入ったのだ。第八艦隊を犠牲にしてでも【アークエンジェル】を降下させるという荒技。第八艦隊が退けば【アークエンジェル】への攻撃が容易となり、目的を達成することが出来る。

 

だが、第八艦隊が自分たちを盾にしてでも奮戦すれば、【アークエンジェル】撃沈の可能性は格段に下がる。

 

クルーゼは舌打ちをすると、一斉に攻勢をかける指示を出す。

 

この事実は、クルーゼを通して全パイロットに伝えられた。皆がその事実に焦りを覚える中、顕著に表れたのは【ストライク】撃墜を誓うイザークだった。

 

イザークを先頭に、レオハルトらはさらに敵艦隊の奥深くへと斬り込んで行く。

 

だが、【アークエンジェル】を攻撃しようにも未だ残る敵が邪魔をし、【アークエンジェル】もどんどん降下していってしまう。

 

各々が焦りを覚えながら、それぞれ残存する敵に攻撃を仕掛ける。

 

レオハルトは再び右手にビームライフルを構えると、敵艦へと機体を向け横移動しながらビームを放つ。現在の連合の主力艦であるドレイク級はビームに耐えられるはずもなく、あっさり爆発して撃沈した。

 

敵艦から一斉に発射された主砲を軽やかに回避し、レオハルトは敵艦の艦橋に天鳥船(アメノトリフネ)を投擲する。敵兵の断末魔と共に艦は大爆発を起こして撃沈すると、レオハルトはさらに敵陣へと進んで行く。

 

「続け!時間は無いぞ!」

 

レオハルトが突っ込んで行く動きに呼応し、他の四人もその後に続き敵旗艦【メネラウス】を狙う。

 

その時、JUPPITER(ユピテル)のレーダーが新たな敵機を告げる。

 

「この状況で出撃()るだと!?」

 

降下準備に入ったこの状況で、【アークエンジェル】から【ストライク】とメビウス・ゼロが出撃したのだ。この状況で出撃するなど通常では考えられない。

 

レオハルトが驚きを口にすると同様、クルーゼも驚愕の声を上げる。だが、レオハルトはすぐに頭を切り替えると、通信をつなげる。

 

「イザーク、ディアッカ。討て」

「はい!」

「了解!」

 

二機の相手を二人に任せると、レオハルトは残っている敵に牙をむく。空いた左手にビームクローを顕現させると、五本の指それぞれから伸びるビームを収束させドレイク級に向けて振るった。

 

他の【G兵器】が使うビームサーベルよりも太いサーベルとなり、ドレイク級の艦体に突き刺し横へと大きく薙ぎ払う。そんな損傷に耐えられるはずもなく、ドレイク級は轟沈する。

 

「ちっ!機体が……!!」

 

かなり地球に近付いていることで、地球から発せられる引力により機体が重くなっていた。だが、この機体は【G兵器】と同様、そんな柔なスラスターは装備していない。

 

レオハルトはフットペダルを強く踏み込むことでスラスターを噴かし移動する。

 

その時、大きく突出したガモフがレオハルトの目に入る。

 

「ガモフ!?何を……!……ちっ!!」

 

すぐにガモフ艦長ゼルマンの意図を察したレオハルト。だがレオハルト同様、その狙いに気付いたムウがガンバレルを分離させガモフへと接近する。

 

「くそっ……!!」

 

レオハルトは間に割り込み、ムウにビームを撃ち寄せ付けない。ムウはすぐに機体本体とガンバレルを動かしビームを回避すると、レオハルトは全スラスターを噴かせムウとの距離を詰める。だが、それもムウのガンバレル攻撃により防がれ、後方へと距離を取る。

 

「またお前さんか!運が無いねぇ、俺も!」

「ゼルマンの最後の意地だ。邪魔をさせるわけにはいかない!」」

 

ゼルマンは責任を感じていた。今まで【アークエンジェル】を沈めることが出来なかったことに。だが、すでに【アークエンジェル】は降下体制に完全に入り、直に大気圏へ突入する。

 

それならばとゼルマンは、第八艦隊の旗艦である【メネラウス】をその身を犠牲にしてでも沈める覚悟なのだ。

 

ガモフはすでに、引き返せない位置まで行ってしまっている。だからこそ、レオハルトはその意志を汲み、邪魔をさせないために動く。

 

「リ……ント……ちょう。おこころ……かん……ます」

「……」

 

サブモニターに映るゼルマンからの途切れ途切れの声に、レオハルトは無言で敬礼をする。ゼルマンも敬礼すると、サブモニターからゼルマンの姿が消える。

 

レオハルトがゼルマンと会話している一瞬の隙を付き、ムウはガモフにリニアガンを発射した。

 

「邪魔はさせないと言った!!」

 

レオハルトはすかさずリニアガンの射線に入ると、集束したビームクローでリニアガンを斬り払う。

 

「くそったれが!!……ちいっ、限界か!!」

 

限界高度に気付きムウは仕方なく離脱していき、ガモフはビームを乱射しながら【メネラウス】へと突っ込んで行く。

 

離れた場所では、イザークと【ストライク】が死闘を繰り広げていた。

 

「イザーク、戻れ。イザーク!」

 

レオハルトの言葉もイザークの耳には届かず、イザークは【ストライク】にビームサーベルを振るう。レオハルトは小さく舌打ちすると、再びガモフへと視線を移す。

 

「……あれは」

 

【メネラウス】にガモフが迫っていると、【メネラウス】から脱出陽シャトルのようなものが射出されるのを目撃したレオハルト。もし連合の兵だった場合は撃墜することも考え、レオハルトはビームライフルの照準を合わせる。

 

だが予想に反し、ズームしてみると窓から見えたのは男性に女性。子どもの姿まで見て取ることが出来た。

 

「(民間人の脱出用シャトル?……取り越し苦労だったか)」

 

レオハルトがビームライフルを下げた瞬間、ついにガモフが【メネラウス】の横っ面に激突した。ガモフと激突した【メネラウス】はガモフを巻き込んで大爆発を起こして撃沈した。

 

さすがに危険だというのに、まだイザークは退くことなく【ストライク】と対峙していた。レオハルトの眉間に皺が寄り、焦りが浮かぶ。

 

「イザーク!頭を冷やせ!!戻れ!!」

 

レオハルトの声はやはり届かず、【ストライク】の体当たりと蹴りがDUEL(デュエル)に命中。すかさず離脱していく【ストライク】に向けて、イザークはビームライフルを向けた。

 

照準が定まろうとしたその瞬間、両者の間を先程のシャトルが横切る。そのせいで照準はズレ、発射したビームは【ストライク】に命中することは無かった。

 

それに怒りを覚えたイザークは、シャトルへとビームライフルを向けた。

 

「!! イザーク、止めろ!!乗っているのは民間人だ!!」

「よくも邪魔を……!!」

「イザーク!!……くそっ!!」

 

レオハルトは咄嗟に持っていたビームライフルを、イザークがシャトルに向けられているビームライフルに向ける。だが、地球の引力によって機体が激しく揺れ狙いが中々定まらない。

 

「ちっ……!!」

 

レオハルトはコンピュータによるオート照準を解除すると、マニュアルで狙いを定める。だが、高度なコンピュータでも出来ないことを、人間が行うというのも無理な話。当然、レオハルトがマニュアルで行っている照準は激しくブレる。

 

「逃げ出した腰抜け兵がぁーっ!!」

「!! イザーク!!止めろ!!」

 

レオハルトの叫びも、とうとうイザークに届くことは無かった。イザークの咆哮と共に引き金を引くと、ビームが発射された。【ストライク】がそれを止めようと動くが、後僅かで間に合うことは無かった。

 

シャトルの爆発の余波で、【ストライク】は大気圏へと突入していく。

 

その時、ついにDUEL(デュエル)に限界が訪れる。同様に、かなり下まで降りていたディアッカも限界だった。さすがに戻ることは出来ず、二機は単体で降下するしかない。

 

レオハルトはギリギリの位置に居たため、難は逃れることは出来た。降下していく仲間と敵を見送るしかない状況に歯噛みしつつ、ニコルは仲間の名を叫びアスランは友を想っていた。

 

レオハルトは強く握り締めた拳でモニターを殴り付ける。一度だけではなく、二度・三度と拳を振るう。大気圏に突入するシャトルの残骸。大気圏の熱に耐えられず、燃え尽きていく残骸。

 

レオハルトは血が出るほど強く唇を噛み締めると、視線を逸らし何かを振り切るようにヴェサリウスへと帰投するのだった。

 




問題はこれからですね。
舞台が地上に移ったことにより、介入するのが難しくなりました。

しばらくはオリジナルか、番外編的なものが主になるかもしれません。
アラスカまでそんな感じかも。

作者、悩んでます。


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Mission - 16 行うは戦争

大変お待たせしました。

本来ならもう少し早く更新できるはずだったんですが、昨日になって半分ほど消して書き直したことで遅くなりました。

ストーリー的には、ほとんど進んでないです。
恐らく、次は閑話になると思います。


低軌道で勃発した戦闘は、地球連合軍第八艦隊の全滅、ガモフの撃沈。そして、主要目標である【アークエンジェル】の逃亡により終了した。

 

ヴェサリウスには本国から帰還命令が出されたことにより、ツイーグラーと共に本国へと進路を取った。

 

そして、地球に単独降下したイザークとディアッカは、無事にジブラルタル基地に到着したことが通信で伝えられた。仲間の無事にニコルは喜び、それをアスランにも伝えた。

 

だが、帰って来たのは生返事のみ。ニコルはあまり突っ込んで聞くことはせず、アスランの様子が気になりながらもBLITZ(ブリッツ)の元に向かって行った。

 

アスランの頭にあるのはイザークのことでもディアッカのことでも無い。アスランの心配の種。それは仲間と同様、地球へと落下していった親友キラのことだった。

 

ラクス・クライン引き渡しの際、アスランとキラは次に対峙する時は本気で討つと宣言した。アスランに至っては、レオハルトにも宣言している。だが、そう簡単に割り切れるような関係では無い。

 

そしてレオハルトは、クルーゼの私室にいた。

 

「それは事実かね?」

「ああ。イザーク・ジュールが撃墜したあのシャトルには、民間人が乗っていた」

「だが、証拠は無い」

 

レオハルトはイザークが撃墜したシャトルには、民間人が乗っていたことを告げる。だが、クルーゼの言うとおり確かな証拠は無い。あるのは、レオハルトの言葉のみ。

 

「……俺たちは戦争をしているんだ。虐殺をしているんじゃない」

「理解は出来るが、議員連中はどうかな?強硬派は頷かんだろうな。特にジュール議員は」

「信賞必罰だ。軍紀違反を犯せば、罰を受けるのは当然だろう」

「真面目なことだ。イザークとディアッカはしばらく地球に残ることになるだろう。どうやらイザークは、【足つき】を。というより、【ストライク】を討ちたいようだからな」

「それは結構なことだ。だが、先の戦闘のように周りが見えなくならなければいいがな」

 

レオハルトはそう言い残し、クルーゼの部屋を後にする。部屋に戻ると、レオハルトは軍服の首の襟を緩める。小さく溜め息を吐くと、レオハルトは専用PCのロックを解除し電源を入れる。

 

レオハルトはPCを立ち上げると、立ち上がりコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぐ。レオハルトは水も飲むが、基本的にはコーヒー愛飲者だ。このコーヒーメーカーも、実はレオハルトの私物である。

 

その時、起動したPCから機械の合成音が聞こえる。

 

〔メールが届きました。メールが届きました〕

「メール?……誰からだ」

 

送られてきたメールを開くと、レオハルトはメールの送信者の名前で目を止めた。送信者はロバート・A・ハインライン。【ZAFT】所属【ハインライン設計局】局長を務める男である。

 

「(……ハインライン局長からか。一体何の用だ。…………なるほど)」

 

レオハルトは内容をすべて読み終わると、コーヒーを一口飲み椅子の背もたれにもたれかかる。

 

ハインラインから送られてきたメールの内容には、現在新型MSを開発しておりその機体のOS開発に協力して欲しいというものだった。

 

レオハルト自身、OS開発に協力するのはやぶさかではない。気になるのは、開発を行っているという場所だ。マイウス市【特別開発区】。

 

通常のMS開発とは別に場所を設けるほどの技術を使用しているということか。レオハルトの疑問は尽きないが、レオハルトは了承する旨をハインラインに返信する。

 

メールを返信し、レオハルトは再びコーヒーを口にすると例の件について話し合うため本国に通信をつなげるのだった。

 

「特務隊、レオハルト・リベラントだ。クライン議長につなげてくれ」

 

 

 

 

 

永い航行の後、【プラント】本国に帰還したクルーゼ隊。レオハルトはJUPPITER(ユピテル)をアプリリウスの特別格納庫に移すと、シーゲルの元に向かった。

 

シーゲルには事前に用件を伝えていたため、レオハルトはすんなりとシーゲルの待つ議長執務室へと向かった。

 

「特務隊、レオハルト・リベラントです」

「入りたまえ」

「失礼します」

 

シーゲルの声でレオハルトは一声掛け中に入ると、部屋にはシーゲルだけでは無かった。パトリックに、イザークの母親のエザリアの姿もあった。

 

予想通りの人物ということでレオハルトは顔色一つ変えず、シーゲルの正面に立つと敬礼をする。

 

「さて、早速で悪いが」

「事前にお伝えした通りです。イザーク・ジュールは、民間人の乗るシャトルを撃墜しました。明らかな軍紀違反です」

「それが事実なら、看過出来んな」

「事実なら、です」

 

神妙な顔付きで頷くシーゲルに、エザリアは険しい顔でレオハルトを睨み付ける。だが、そんな睨みもレオハルトには全く通じていない。レオハルトはエザリアなど意に介さず、シーゲルを静かに見つめる。

 

「敵艦から射出されたシャトルに民間人が乗っているのを、私が確認しました。大人だけでなく、子どもの姿も確認しました」

「貴官の見間違いではないのか。そもそも、何故連合の艦に民間人がいるのだ」

「あくまで推測ですが、恐らく【ヘリオポリス】の民間人でしょう。【ヘリオポリス】が崩壊したことで、多数の救命ポッドが射出されたはずです。その救命ポッドを、【足つき】が保護していたとしてもおかしくありません」

「なるほど。確かに、その可能性はある」

「所詮は推測だ。確実ではない」

「救命ポッドを拾ったからこそ、ラクス・クライン嬢が人質になるということが起きたのです。このことを考えれば、別の救命ポッドを拾っていたことにも信憑性が増します」

 

レオハルトは反論を続けるエザリアに、純然たる事実を突き付けて行く。反論できないことに歯噛みし、エザリアは再びレオハルトを強く睨み付けた。

 

「さらに、イザーク・ジュールは私の命令を無視し、敵MSとの戦闘を強行しました。民間人の殺害に加え、命令無視。状況を冷静に判断出来ず、自身の思うままに行動した責任は重大かと」

「パトリック、どう思う」

「事実ならば罰則は致し方あるまい」

「私も同感だ。民間人の殺害など、以ての外だ」

「何を仰っているんですか!」

 

シーゲルとパトリックが頷くのを見るや、エザリアが二人に吼えた。

 

「戦闘中に射出した奴らが悪いのだ!もっと早く行動していれば、そんなことも無かったはずだ!そもそも、ナチュラルなど「ジュール議員!」……っ!」

 

感情のままに言葉を口にするエザリアが禁断の一言を口にしようとした瞬間、レオハルトがわずかに声を張り上げ割って入った。

 

「ナチュラルなら、民間人だろうと殺しても良いと仰るおつもりですか」

「それの何がいけないのだ!!我々を苦しめてきたナチュラルなど!」

「子が子なら、親も親ですか。【ブルーコスモス】は、コーディネイターだからと言って【ユニウスセブン】に核を撃ち込んだ。核を使ったかMSかの違いだけだ!それとも、核でなければ【ユニウスセブン】が崩壊したのを認めるとでも仰るつもりか!!」

「そ、それは……」

「我々がしているのは戦争だ!虐殺じゃない!!我々の敵は武器を持ち、戦う意思を持った人間だけだ!敵を間違えるな!」

 

普段は感情を表に出さないレオハルトが、烈火の如く怒り声を荒げる。初めて見るレオハルトに、シーゲルとパトリックは目を丸くして驚いていた。

 

だが、いち早く復活したシーゲルが口を開く。

 

「言い分は理解した。イザーク・ジュールには、罰を与える。君の言うとおり、敵はナチュラル全員では無い。連合、あるいは連合に与して【プラント】に害を与える者たちだ」

「この件は、明日の【最高評議会】で話し合うことにする。異存は無いな、エザリア」

「……」

 

パトリックの問いかけに、エザリアは顔をそらす。沈黙こそが答えだった。パトリックはレオハルトに視線を戻す。

 

「ご苦労だった、リベラント。下がって良いぞ」

「いえ。最後に一つよろしいでしょうか」

「何かね」

「イザーク・ジュールへの懲罰は、私の口から伝えさせて頂きたいのです。それが、ご報告した私の義務かと」

「……わかった。追って連絡する」

「ありがとうございます。では」

 

レオハルトは最後に敬礼をすると、速やかに部屋を退出。その後に続いて、エザリアも部屋を後にした。

 

「……意外だったな」

「リベラント君かね?」

 

二人が出て行った後、パトリックは扉を見つめながら小さく呟く。その呟きに、シーゲルは反応した。

 

シーゲルの問いにパトリックは小さく頷くと、普段のレオハルトと先程の様子を思い浮かべながら口を開いた。

 

「ああ。あれほど感情を露わにしたのは初めて見た。クルーゼからは、あまり感情を出さないタイプだと聞いていたのでな」

「私もだ。彼とは何度か会ったし話したこともあるが、あんな姿は初めてだよ」

「新たな一面だな」

「そうだな」

 

普段から冷静で、感情を表に出すことの無かったレオハルト。機械のようだと言われたこともあったし、思われている節もある。実際、二人もそう思っていた。

 

だが、今回の件でレオハルトも感情のある人間だと言うことが分かり、二人はどこか安堵感のような気持ちを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

議事堂を後にしたレオハルトは、マイウス市にあるハインラインに教えられた地区へと車を走らせる。

 

【特別開発区】というだけあり、入り口には侵入者を警戒する完全武装した保安要員が四名立ち、詰所にも二人ほどいるようだった。

 

「この先、関係者以外は立ち入り禁止です。身分証と許可証の提示をお願いします」

「認識番号041275。特務隊、レオハルト・リベラントだ。これが許可証だ」

「確認させて頂きます」

 

レオハルトが詰所の横に車を着けると、詰所から一人の男が顔を出し身分証と許可証の提示を求めてくる。

 

レオハルトは普段から使用している身分証と、議事堂で受け取った許可証を保安兵に提示する。保安兵は二つを機械で読み取り、データが登録されていることと許可が下りていることを確認すると、二つをレオハルトに返却する。

 

「失礼しました、リベラント隊長。中へどうぞ」

「構わない。それが諸君の仕事だ」

「ありがとうございます。ゲート開けろ!」

 

男がそう言うと、詰所にいたもう一人の男がゲートを開ける。ゲートが完全に開いたのを見計らい、レオハルトはアクセルを踏み込んだ。

 

レオハルトは適当な場所に車を停車させると、再び立っている完全武装した保安要員の横を通り過ぎさらに奥へと進んでいく。

 

「(徹底しているな。やはり、それほどのものを開発しているのか)」

 

レオハルトがそんなことを考えながら歩き続けると、先で立っている男に気付いた。

 

「ようこそ、リベラント隊長」

 

レオハルトに声をかけたのは、【ハインライン設計局】局長ロバート・A・ハインライン。レオハルトが乗機としているJUPPITER(ユピテル)の開発を主導したのもこの男である。

 

技術者らしからぬ鋭い眼光と、切り揃えられた顎鬚が印象的な男である。

 

「こっちだ。ついてきたまえ」

 

ハインラインはそう言うと、踵を返し奥へと歩いていく。レオハルトはハインラインの横に並ぶと、思っていた疑問をぶつける。

 

「警備に中々手が込んでいるな。何を開発しているんだ?」

「新型MS、としか言えんな。【ZAFT】のトップエースである君とはいえな」

「……それほどの機密を持つ機体か」

「ノーコメントだ。私にそれを言う権利は無い。知りたければ、ザラ委員長に直接聞きたまえ」

「時間があったらそうしよう」

「そうしてくれ。……ここだ」

 

ハインラインはそう言うと、横にある指紋・静脈・網膜認証。最後に専用のカードキーと暗証番号を入力することで、ようやく扉が開く。

 

「詳細なことを教えるなとは言われているが、機体を見せるなとは言われていない。見ろ。これが、クラーク・アジモフ・ハインラインが合同で開発している機体だ」

「名は?」

ドレッドノート(勇敢なる者)

 

ドレッドノート(勇敢なる者)という名を冠すこの機体。この機体は奪取した五機のデータを取り込み、【ZAFT】に所属するクラーク、アジモフ、ハインライン。これら三つの設計局が合同で開発している機体である。

 

二人の視線の先にあるのは、まだ頭部が無い灰色のMS。その周囲には多くの人間が走り回り、現在も開発中だということがハッキリと分かる。

 

ドレッドノート(勇敢なる者)か」

「フン、皮肉な名前だよ」

「どういう意味だ」

「言えん。だが、一つ言えるとしたら……。この機体は、諸刃の剣だということだ」

 

ハインラインは顔をしかめながらレオハルトの問いに答えると、ハインラインは再び歩き始める。

 

「リベラント隊長、君の仕事場はこっちだ」

「言い忘れていたが、恐らく私は数日中に任務が入ることになる」

 

ハインラインはレオハルトをドレッドノート(勇敢なる者)がある隣の部屋に案内すると、部屋から出て行こうとしていたハインラインにそう言葉を投げかける。

 

「構わんよ。別に、今日明日中に造れと言うつもりも無い。まあ、早いに越したことはないがな」

「なら結構」

「だが、君なら二日か三日で可能だろう。期待しているよ」

 

振り返ったハインラインの言葉にレオハルトは安堵し腰を下ろして始めようとした瞬間、去り際に呟いたハインラインの言葉にレオハルトは溜め息を吐くのだった。

 




今回の話に、SEED本編ではなく番外編に出てきた機体を出しました。

と言っても、あとは話の中で少し出てくる程度だと思います。
なかなか複雑なところですね。

では、また次回の更新で。


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Mission - 17 深まる謎と憎悪

前回申した通り、閑話です。
そして、短めです。

次は本編を進めます。


ムウ・ラ・フラガ side

 

完膚なきまでに叩きのめされ、仕方なく俺は【アークエンジェル】へと帰投した。

 

ジンと交戦していると突然乱入してきた、【ZAFT】の新型MS。当然、こちら側にデータなど無く、油断も過信も無かったつもりだった。

 

だが、結果は散々なものだった。ゼロのコックピットから降りた俺は、傷だらけの愛機へと視線を移す。

 

「大尉、無事ですかい?」

 

ちょっとした感傷に浸っていた俺に話しかけてきたのは、整備員をまとめるコジロー・マードック軍曹だ。

 

俺は軍曹を一瞥した後、再びゼロに視線を戻す。

 

「ああ、何とかな。まったく、とんでもない奴だったよ」

「大尉を瞬殺するとは、確かにとんでもないですな」

 

軍曹の発した瞬殺の言葉にショックを受けつつも、俺は先ほどの戦闘を反芻する。

 

ゼロの象徴とも言うべきガンバレルをあっという間に破壊され、残った最後のリニアガンも破壊された。俺に止めを刺さなかったのは、その必要が無かったからだろう。

 

武装も無い状態で戦場をうろつけば直にジンに墜とされる。【アークエンジェル】に帰還しても同じこと。奴らの目的は【アークエンジェル】の撃沈だ。つまり、艦が撃沈すれば、必然的に俺もお終いだ。

 

だが、その心配は無さそうだ。

 

「偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが。以降、当艦へ攻撃が加えられ場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意思でこの件を処理することをお伝えする」

 

俺たちが保護している、ラクス・クライン。プラント最高評議会現議長シーゲル・クラインの娘。……こんなことを言われちゃあ、【ZAFT】は手を引くしかないでしょう。

 

【ZAFT】のトップエースがいるこの状況だ。まあ、艦長や副長は知らないだろうけど。その判断は間違ってはいないんだけどねぇ。

 

「やれやれ、やっちいまいましたな」

「……まあ、仕方ないことではあるな」

「坊主は納得しないでしょうな」

「むしろ、納得しない方がいい。あいつは軍人じゃないんだ、こんな汚いやり方に反感を覚えて当たり前だ」

「……ですな」

 

軍曹とたった今聞こえてきた放送について考える。俺も軍曹も、納得はしていない。だが、これしか方法が無かったということは理解できる。

 

「【ストライク】、帰投します」

「坊主のお帰りだ」

「やれやれ、怒られるな」

「大尉の仕事ですな。いい兄貴分として」

「勘弁して欲しいよ」

 

その後、予想通り坊主からさっきの放送について問い詰められるが、俺たちの無力のせいだと言って黙らせる。

 

まったく、坊主には酷だなこりゃ。

 

 

 

 

 

俺は奴のことを一応耳に入れておこうかと思い、艦長の下に向かった。あとは、あの件についてもな。

 

もしかしたら居ないかとも思ったが、無駄足にならずに済んだようだ。

 

「あら、大尉?どうかしましたか」

「大丈夫かと思ってな」

「……キラ君は、何か言っていましたか?」

「……こんな卑怯なことをするのが、地球軍っていう軍隊なんですか、って言われたよ」

「そう言われても、仕方ないことをしました。キラ君の言うことも当然だわ」

 

聞いた話だと副長の独断だって聞いたが、彼女を一方的に非難するわけにもいかない。あの選択が最良だったかはわからないが、最善の手だったことは間違いだろう。

 

俺たちの感情は別にしてな……。

 

「しかし、俺も大人げねぇな。坊主に、俺たちの力が無いからだって言っちまったよ。あいつは、俺たちに協力してくれているだけなのにな」

「……」

「坊主には重荷ばっか背負わせちまってるからな。正規の軍人の俺が、あんな簡単に退いてちゃあな」

「大尉が完全に封殺された敵。相当な腕ですね」

「相当な腕も何も、【ZAFT】のトップエースさんだったよ」

「? 話されたんですか?」

「えっ?いや、まあ、ちょっとな……。あの機体のパイロットはレオハルト・リベラントだよ。名前くらいは聞いたことがあるだろ?」

 

レオハルト・リベラント。

 

奴のことは俺たち連合内部でも有名だ。【世界樹】、【ヤキン・ドゥーエ】、【グリマルディ】。これら三つの大戦場を渡り歩き、多大な戦果を挙げた【ZAFT】を代表するエースパイロット、と聞いている。

 

すべては軍の諜報部が調べた情報だが、戦ってみたところあながち間違いではないようだ。

 

「レオハルト・リベラント。我が軍では、【黒鷹(コクヨウ)】と呼ばれている青年ですね」

「ああ。確か、年齢は21だったな。まだ若いのにあれほどの実力とは、恐れ入るよ。まるで相手にならなかった」

「そんな人物がいるなんて……。Xナンバーだけでも厄介なのに。どうしたらいいのかしら……」

「……まぁ、そう思い詰めない。疲れてるでしょ?疲れてる時に悩んでも、いい考えは出てこないぜ。休むことも大事ってね」

「ええ、ありがとうございます」

 

艦長の笑顔を見届けると、俺は艦長室を後にした。

 

しかし……。

俺には一つ気になっていることがある。

 

俺は何故か、クルーゼのヤロウの居場所が判る。理由は分からん。だが、問題はそこじゃない。いや、いいわけではないんだが、それはもう諦めている。

 

問題なのは、今回の戦闘でもクルーゼの気配を感じたが、結果はヤツではなくレオハルト・リベラントだったという点だ。

 

どういうことだ?俺とクルーゼ、俺とあいつにどんな関係があるって言うんだ。

 

今になって考えてみると、クルーゼの時とはどこか違かったようにも思える。何ていうかこう、ノイズが混じっているというか、不純物が混じり合っているような……。

 

「……あ~っ!!くそっ!止めだ、止めだ!考えたってしょうがねぇや。……飯でも食うか」

 

俺は考えることを放棄すると、丁度見えてきた食堂へと足を向けるのだった。

 

ムウ・ラ・フラガ side end

 

??? side

 

某年某月某日

 

「気を付けてね」

「お母さんたちもね。今はまだ大丈夫だけど、コーディネイターとナチュラルの関係は日に日に悪化しているわ」

 

母の心配の言葉に、私は逆に母と父に心配の言葉を掛ける。

 

私はこれから【ZAFT】に入隊するため【プラント】に向かうが、両親は各地の紛争地帯や貧困地域を回り医師として活動する。

 

離れ離れになってしまうが、医師としての活動が両親にとってかけがえのないことなのだ。私自身、医師としてコーディネイターやナチュラルということは関係なく、医師として活動する姿は私にとっても誇りである。

 

「お母さんたちは大丈夫よ。あなたの方が心配だわ」

「大丈夫。お父さんも気を付けてね?」

「……ああ」

 

私の言葉に、昔から不器用で無口な父はそっぽを向いて短く返事をするだけだ。でも、私の父親はこういう人なのだ。

 

だからと言って、優しくないと思ったことは無い。厳しく、そして優しく私を育ててくれた、自慢の父である。

 

「そろそろ時間。それじゃあね、お父さん、お母さん」

「ええ。頑張ってきなさい」

「うん」

「……気を付けてな」

「えっ?」

 

そろそろ宇宙に上がるシャトルの時間に気付き踵を返すと、背中から父の優しげな声が聞こえる。自然と、私の両目から涙が流れる。

 

でも、私は振り返らない。涙を拭い、私は搭乗ゲートをくぐる。

 

 

 

 

それから一年。

 

予定通り、私は【ZAFT】への入隊を果たした。エリートの証である赤服を着て。

 

配属されたのは、【ZAFT】でも有数のエリート部隊。異動した人物の代わりとして、私が配属されることになった。その人の代わりとなるだけの仕事が出来るかどうかは不安だが、やるしかない。

 

そして同時期に、【プラント】は【オペレーション・ウロボロス】を発動。核を撃ち込まれ壊滅した【ユニウスセブン】の報復として、核分裂を抑制する【Nジャマー】を地球各地に投下した。

 

正直、この作戦には疑問を感じている。対戦国のみでいいのではないだろうかと感じてしまう。だが、将来の芽を摘むこともあるのだろうと考え、私は口をつぐんだ。

 

だが、それが間違いだったと知ることになる。

 

核分裂を抑制されたことで、地球では暖を取るためのあらゆる物資の奪い合いが始まった。その被害に、地球で医師活動をしていた両親も巻き込まれた。

 

両親をやったのは、懸命に助けたナチュラル。コーディネイターという理由で、真っ先に狙われたそうだ。一緒に活動していた医師の人たちから聞いた。

 

その人たちも、命からがら逃げ出したという。その人たちを責めるつもりはない。まずは自分の命なのだから。

 

でも!!

 

両親に大恩がありながら、奴らは!!

 

発端は、【ユニウスセブン】に核を撃ち込んだ連合!きっかけを作ったのは、【Nジャマー】を無差別に地球に撃ち込んだ【プラント】!!

 

ナチュラルもコーディネイターも関係ない!!コーディネイターを化け物と罵る【ブルーコスモス】、【Nジャマー】によって死んでいった命に興味を示さないコーディネイター!!

 

これほどまでに憎んだのは初めてだ!許せない!許せない!!許せない!!!

 

狂っている!腐っている!この世界に住む人間は!!今の人類に、何の価値がある!!

 

そんなものは無い。裁きを下すものがいないなら、私が!

 

そんな時、私の前に悪魔が舞い降りた。

 

「猛々しく燃え盛る憎しみの炎。人類を恨む者の瞳だ。そうだろう?……どうだろう?共に、人類に復讐しようではないか」

 

差し出される手。悪魔のささやき。

 

私は、その手を取った。人類への復讐のために。

 

??? side

 



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Mission - 18 紅金の瞳

大変お待たせ致しました。
本編です。

今回、一万五千近くという長めになりました。
区切ると、中途半端になりそうなので止めました。

イザークの処罰も盛り込んでいます。
もしかしたら、軽くね?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

それ以外にも、変なところがあったら申し訳ないです。


レオハルトがイザークの件のことを報告してから二日後。早朝、レオハルトはシーゲルに呼び出され議事堂に来ていた。

 

ちなみに、ハインラインから依頼されたOSは、現在も開発中である。一般的なOSならば一日で終わったのだが、ドレッドノート(勇敢なる者)には特別な武装が装備されているため、その武装関連のOS開発に時間を取られている状況である。

 

だが、それも後一日もあればある程度は形にすることは出来るのだが、シーゲルの呼び出しが来たことでレオハルトはOS開発を一旦中止している。

 

「特務隊レオハルト・リベラント、出頭しました」

「来たか。さて、今日わざわざ来てもらった理由だが」

「例の件ですね?」

「うむ。イザーク・ジュールに下される処罰が決定した」

 

レオハルトはわずかに居住まいを正し、シーゲルの言葉を待つ。

 

「民間人の殺害、及び【FAITH】からの命令無視。状況を冷静に判断出来なかった事実は、周囲に危険を及ぼすものである。評議会は同人物に二週間の監視付きの謹慎、さらに一週間のMSへの搭乗禁止を言い渡す」

「はっ」

「そこで、君にはイザーク・ジュールにこの決定を伝えるため、地球に降りてもらいたい」

「地球へ?……何か、任務ですか?」

 

地球には地中深くに打ち込まれた【Nジャマー】によって、通信状況が悪くなっている。だが、まったく出来ないわけではない。

 

処罰を伝えるだけなら、地球に降りる必要は無い。ましてや、レオハルトは【FAITH】だ。レオハルトが自らの口から伝えることを望んだとはいえ、いささか疑問が残る。

 

となると、残る可能性は国防委員会直属部隊【FAITH】として下される特務である。

 

「そのとおりだ。君が【FAITH】に昇進してから、初の特務だ」

「何をすればよろしいのですか?」

「ユーラシア連邦領にあるリスボン基地攻略だ」

「リスボン基地……。確か、ポルトガルの大西洋沿岸にある基地ですね。聞くところによると、巨大な軍港があるとか」

 

地球連合軍ユーラシア連邦所属リスボン基地。

ポルトガルの西に位置し、大西洋沿岸にあるポルトガルの首都でもある。同時に、巨大な軍港を有していることから、ユーラシア連邦でも有力基地の一つである。

 

リスボン基地の名を聞き、レオハルトは自身が知っている情報を口にする。シーゲルは小さく頷くと、両手を組みレオハルトに語り掛ける。

 

「そのとおりだ。先日、諜報部によってリスボン基地がジブラルタル基地へ大規模な爆撃攻撃を画策しているとの情報がもたらされた。ジブラルタル基地は、【プラント】にとって数少ない地球での重要拠点だ。失うわけにはいかん」

「先手必勝、というわけですか?」

「そうだ。とはいえ、リスボン基地とて容易く墜ちるわけでもない。現在、ジブラルタル基地では準備が急ピッチで進められている。君には、この作戦の指揮を執ってもらう」

「初任務にしては、責任重大ですね」

 

まさか指揮を執るようにと命令されるとは思っていなかったレオハルトは内心驚きつつも、それを表には出さず小さく笑みを浮かべる。

 

「君を信頼してのことだよ。君はイザーク・ジュールに評議会の決定を伝えた後、ジブラルタル基地にてリスボン基地攻略作戦に参加、指揮を執ってくれ。〇七〇〇時にジブラルタル基地へ降下してくれ。吉報を待つ」

「はっ!」

 

レオハルトはシーゲルから、イザークに下される処罰が記載された書類をアタッシュケースに収めると、議事堂を後にする。レオハルトはJUPPITER(ユピテル)と一緒に、哨戒任務に出るというホーキンス隊に同行することになった。

 

JUPPITER(ユピテル)を大気圏突入カプセルに入れ、ナスカ級の底部に収納。そして、レオハルトを乗せたホーキンス隊が出港した。

 

レオハルトがリフレッシュルームでコーヒー片手に読書をしていると、人の気配を感じ顔を上げた。そこに立っていたのは、レオハルトと同じ赤服を着たオレンジ髪の青年だった。

 

「お初にお目にかかります、ホーキンス隊所属ハイネ・ヴェステンフルスと申します」

「特務隊レオハルト・リベラントだ」

 

ハイネと名乗る青年の敬礼に応え、レオハルトは立ち上がると敬礼し所属と名前を名乗る。

 

レオハルトは再び腰を下ろし本へと視線を下ろすが、ハイネからの視線を感じレオハルトは視線を上げた。

 

「まだ何か用か?」

「申し訳ありません。【ZAFT】のトップエースにお会い出来たものですから、つい……」

「トップエースね……。ヴェステンフルスは」

「ハイネで結構です」

「ハイネは、前線に出て長いのか?」

 

レオハルトはハイネに座るように促すと、ハイネは礼を言いレオハルトの体面に腰を下ろした。レオハルトも本にしおりを挟んでテーブルに置くと、ハイネと向き合う。

 

「いえ、私はそれほど長くはありません。士官学校(アカデミー)を卒業してホーキンス隊に配属され、【グリマルディ戦線】が初陣でした。とはいえ、まともな活躍は出来ませんでしたが」

「そうか。このまま戦争が拡大すれば、お前もさらに前線に出ることになるだろう」

「リベラント隊長の初陣というのは?」

「【プラント】周辺に出没する海賊の鎮圧が初任務で、初戦闘だった。今でこそトップエースなんて言われているが、俺も初めての戦闘ではたいしたことなかったさ」

 

レオハルトの言葉が予想外だったのか、ハイネは目を丸くして驚いている。レオハルトはコーヒーを飲もうと手にするが、空だということに気付きコーヒーメーカーで注ぎ直す。

 

「無理な話かもしれないが、あまり固くならずにやるといい。緊張感を持ちすぎても、逆に良くない」

「アドバイス、ありがとうございます」

「アドバイスになったか?それならいいが」

 

その後、ハイネと他愛も会話をして時間を潰していると、ついに降下地点に到着した。

 

レオハルトは着慣れないパイロットスーツを着込み、大気圏突入用カプセルに収納されたJUPPITER(ユピテル)のコックピットシートに座る。

 

「現地の気候、晴れ。西北西の風、微風。気温一五℃、湿度五十九%。視界、良好。突入角、誤差修正。左三〇℃に0コンマ7修正。降下まで六〇秒」

 

管制官が口にする言葉を聞きながら、レオハルトは降下まで考え事をしながら静かに待つ。

 

「(【足つき】は【ZAFT】勢力圏の、バルトフェルド隊長の管轄区域に降下したはず。恐らく、すでに奴らの戦力調査のために攻撃を仕掛けただろう。しばらくは、散発的な戦闘が続くか)」

「降下まで四〇秒」

 

普段は陽気な性格をしながらも、バルトフェルドは頭のキレる男。クルーゼのことを嫌っているからと言って、実力を認めていないわけではない。敵のことを舐めてかかるような真似をする男ではない。

 

そのため、バクゥを使った戦力調査のために軽く攻撃を仕掛けたことは確実。その上で、作戦を練っていることだろう。

 

レオハルトは、そう確信している。

 

「降下まで二〇秒」

 

レオハルトが次に考えるのは、シーゲルから命じられたリスボン基地攻略についてだ。

 

MSの実戦配備が進んでない連合とはいえ、他の兵器が多数配備されていることだろう。数を売りにしている連合である。その数は相当なものだろう。

 

それに、MSとて無敵ではない。実弾兵器を無効化するPS装甲(フェイズシフト)を備えていないMSにとって、実弾兵器とはいえ脅威となる。その数が多いならなおさらである。

 

「降下まで、一〇秒。カウントダウン開始。十、九……」

「(どれだけ考えても、推測の域を出ないか。実際の報告を聞くまでは分からないな)」

「三、二……。カプセル射出。降下」

 

その言葉と同時に、ナスカ級の底部ハッチが開きレオハルトを乗せたカプセルが地球へと落下していく。

 

カプセルのスピードはどんどん速くなっていき、あっという間にマッハに達してしまう。

 

大気圏に突入し降下していく衝撃で、コックピット内が激しく揺れる。大気圏の高熱によってカプセルが融かされないよう、自動で強制冷却システムが作動する。

 

「第一外装、パージ。減速4マッハ。突入角、異常無し。強制冷却システム、オールグリーン。第二外装、パージ。大気圏内に突入。減速、0コンマ9マッハ。強制冷却システム、停止。姿勢良好。降下点、座標追尾固定」

 

JUPPITER(ユピテル)のモニターには、小さくではあるがすでに目標であるジブラルタル基地を捉えていた。

 

徐々に近付く地上を前に、レオハルトは最後となるカプセルの第三外装をパージ。JUPPITER(ユピテル)がその姿を見せる。

 

レオハルトは手を伸ばすと、自分が来たことをジブラルタル基地へと通信をつなげる。

 

「こちら、特務隊レオハルト・リベラント。ジブラルタル基地、応答願う」

「こちら、ジブラルタル基地管制塔。連絡は受けています。ようこそ、ジブラルタル基地へ。歓迎します、リベラント隊長」

 

レオハルトは操縦桿を手前に引き戻し、背部スラスターを噴射するとジブラルタル基地にゆっくりと着地する。

 

「こちら、ジブラルタル基地管制塔。リベラント隊長、MSは三十三番ハンガーにお願いします」

「了解した。三十三番ハンガーに向かう」

 

レオハルトは管制塔からの指示通り、三十三番ハンガーにJUPPITER(ユピテル)を格納すると左手にアタッシュケースを持ち右手でワイヤーを掴んで地上へと降りる。

 

「本国からお疲れ様です、リベラント隊長」

 

地上に降りてレオハルトを待っていたのは、黒服を着た男だった。

 

切れ長の瞳に眼鏡、知的という言葉がこれほどまでに似合うかといった感じの男だった。見た限り、年齢はそれほど上ではない。二〇代半ばといったところだろう。それだけに、その実力の高さがうかがえる。

 

「ジブラルタル基地総司令補佐官ハーヴィッツ・レーベルと申します。よろしくお願いします、リベラント隊長」

「特務隊レオハルト・リベラントだ。よろしく頼む」

「総司令のウォンがお待ちです。こちらへどうぞ」

「ああ」

 

ハーヴィッツに連れられ、レオハルトはジブラルタル基地総司令ハディール・ウォンの待つ部屋に向かった。

 

すれ違う人間一人一人に驚いた表情で敬礼をされ、レオハルトは廊下を歩き続ける。その様子を見ていたハーヴィッツは、レオハルトへと視線を移す。

 

「さすがに有名人ですね、リベラント隊長」

「居心地が悪いだけだ」

「エースの宿命でしょう」

「(……どいつもこいつも)」

 

レオハルトとしては、他人からエースと呼ばれるのが好きではない。むしろ、嫌いな部類に入る。エースと呼ばれると、他人から依存されている気がするのだ。

 

エースだから何とかしてくれる、エースだから助けてくれる。これは依存だ。頼られるだけならまだしも、依存されるというのはマズい状況である。

 

レオハルトへの依存心が強くなり増していけば、それが【ZAFT】全体の弱体化につながる気がしてならないからだ。【ZAFT】の弱体化イコール、【プラント】の敗北。

 

だからこそ、レオハルトはエースという言葉を嫌う。

 

「この部屋です。ウォン総司令、リベラント隊長をご案内しました」

「入ってくれ」

「失礼します。どうぞ、リベラント隊長」

 

ハーヴィッツが扉を開け先に入ると、扉を開けたままの状態でレオハルトを部屋の中へと迎え入れる。

 

部屋の中で待っていたのは、クルーゼと同じ白服の男。短く刈り上げられた髪に日焼けした肌。いかにも現場からの叩き上げといった感じの男だった。

 

この男が、ジブラルタル基地総司令ハディール・ウォンである。

 

「遠いところをようこそ、リベラント隊長」

「クライン議長の命令とはいえ、割り込む形で指揮を執ることになり申し訳ない」

「いやいや、とんでもない。優秀な者に指揮されれば、死亡率も下がるでしょう。それに、リベラント隊長が指揮するとなれば、兵の士気も上がることでしょう」

「善処する。早速だが、状況について聞きたいのだが」

「もちろんです」

 

そう言うと、ウォンは部屋の電気を消した。同時に窓からの光を遮る遮光カーテンも下り、部屋は完全に暗闇に包まれる。すると、部屋の右側の壁に映像が映し出される。

 

レオハルトはウォンに促され椅子に座ると、それに続いて二人も椅子に座った。

 

「これが、今回の作戦の目標となるリスボン基地です。配備されているのは、既存の兵器である戦闘機に戦闘ヘリ、対MSミサイルなどが多数配備されています。戦闘機・戦闘ヘリだけでも、その数は有に二〇〇を超えるかと」

 

映像には、事前に無人偵察機などを飛ばして収集したであろう画像が次々と映し出されていく。だが、近付きすぎると撃墜される恐れがあるため比較的遠目から撮られているが、画質の良さが遠目というハンデをカバーしている。

 

「二〇〇か。他の兵器と併せて考えれば、面倒な数になるな」

「出撃する前に、可能な限り潰すことが大事。スピードが重要ですな」

「こちらの戦力はどれくらいだったか、ハーヴィッツ?」

「ボズゴロフ級五、ディン六、ジン六、グーン八。総数、二〇です」

 

ウォンの問いにハーヴィッツは手元の資料に目を落とすと、今回の作戦に参加する総数を答える。

 

「どうですかな、リベラント隊長」

「充分です」

 

レオハルトはウォンの問いに不敵な笑みを浮かべながら答えると、立ち上がり映し出される映像に近づいていく。

 

「まずは、グーンを先行させ沿岸部の迎撃システムを攻撃。さらに、単独飛行が可能なディンでハンガーを破壊。その後、ジンを上陸させ攻撃。出撃してきた部隊は、ディンで対応。ジンとグーンについても、出来る限り対応」

「大筋は問題無いでしょう。あとは、細かい調整だけですな」

 

レオハルトは映し出された映像に指を差しながら説明し、ウォンとハーヴィッツはその説明に頷きながら説明を聞く。

 

説明を終えレオハルトは椅子に座り直すと、ウォンはその説明に大きく頷き肯定した。

 

「準備の方は?」

「残念ながら、今しばらく時間が。明日中には完了するかと」

「では、2400に出発。翌0500に攻撃開始とする。以上」

 

レオハルトがハーヴィッツから聞いた準備完了の予定時刻を聞くと、即座に新たな指示を出す。二人は敬礼をして了解の意を示すと、レオハルトは次の目的に取り掛かる。

 

「レーベル補佐官。クルーゼ隊所属のイザーク・ジュールを呼んでもらえるか?」

「了解しました。少々お待ち下さい」

 

レオハルトはアタッシュケースに収められているイザークへの処罰が記された書類を渡すため、ハーヴィッツにイザークを呼んでくるよう頼む。

 

ハーヴィッツは部屋の電気を点けると、すぐに部屋を退室していった。

 

「突然宇宙(そら)から降ってきた来訪者に、何か急用かね?」

「ええ。評議会からの命令を伝える必要があります」

「評議会から?……どうやら、良いことじゃなさそうだ。私は準備の指揮に向かう。部屋はここを使うといい。それじゃ」

「ありがとうございます」

 

ウォンが部屋を後にしてから間もなく、部屋がノックされる。

 

「リベラント隊長。イザーク・ジュールをお連れしました」

「入ってくれ」

 

ドアが開けられると、銀髪をきれいに切り揃えたイザークが立っていた。だが、目立つは眉間から右目の下に向かって伸びる傷跡。

 

【ストライク】の攻撃によって出来た傷。だが、【プラント】の技術ならば傷跡を消すことは容易い。だが、それをしていないということは、イザークなりに何か理由があるということなのだろう。

 

「イザーク・ジュール、出頭致しました」

「来たか」

「お久し振りです、リベラント隊長。何故、リベラント隊長が地球に?」

「クライン議長から特務を受けて、地球に降りてきた。それと、お前にこれを渡すためにな」

 

レオハルトはアタッシュケースを開くと、中に入っていた命令書をイザークに手渡す。それを受け取り読み進めていくうち、イザークの表情が一変していく。

 

「バカな!!罪状は民間人殺害、及び命令無視!二週間の監視付きの謹慎に、一週間のMSへの搭乗禁止!?」

「そうだ。その命令は、【最高評議会】から正式に下された命令だ。【FAITH】として、イザーク・ジュールに通知する。イザーク・ジュール、本日よりその命を執行するものとする」

「リベラント隊長!!何故、私が!!民間人殺害とは何のことですか!?」

 

評議から下された命令を理解し、イザークは予想通り激しく激高しレオハルトに詰め寄った。レオハルトは片手でイザークを制すと、静かに話し始める。

 

「先の低軌道での戦闘の際、お前が降下直前に撃墜したシャトル。あれに乗っていたのは、ナチュラルの民間人だった。民間人の殺害など、認められるはずがないだろ。さらに、俺の制止の命令を無視し、【ストライク】との戦闘を強行した」

「民間人!?違う!!俺は敵を、ナチュラルを討ったまでです!それを!!」

「イザーク・ジュール!!」

 

再び口にされてしまった禁断の言葉。その言葉を口にしたことにより、レオハルトの顔に怒りが浮かぶ。

 

「貴様もそれを言うのか。何もわかっていない奴が、よくもそんなことを言える」

「リベラント隊長……」

「貴様のその言葉が、【ユニウスセブン】に核を撃ち込んだ奴らと同じというのが分からないのか!」

「違う!俺は、あんな奴らと!!」

「同じだ!ナチュラルだろうと、貴様は民間人を討った!奴らは、コーディネイターだから民間人だろうと殺した!何が違う!違わないだろう!何一つ!」

「俺は……!」

 

二人しかいない総司令室に、普段は冷静なレオハルトの怒声が響き渡る。その普段は冷静なレオハルトのその迫力に、イザークはどんどん圧倒され言葉を失っていく。

 

レオハルトの怒りと迫力が増していくにつれ、少しずつ崩れていくレオハルトの口調。

 

「敵が誰なのかも判らず、ナチュラルだからと闇雲に討つ!そんな奴は、ただの殺人者だ!知らなかったでは済まされないぞ!貴様の思っている以上に、命は重いんだよ!!」

 

その言葉を最後に、部屋には沈黙の時間が訪れる。それがどれだけの時間だったのかは分からないが、イザークには何十分にも感じられた。

 

「道を誤るな、イザーク。後悔した時には、もう遅いぞ」

「…………」

「評議会からの通告は以上だ。本日より罰を執行する。戻れ」

「……はっ」

 

 

意気消沈した様子で立ち去るイザーク。その暗い雰囲気を漂わせるイザークを見送り、レオハルトは溜め息を吐いた。

 

溜め息を吐いた自分に気づき、レオハルトは苦笑を浮かべた。

 

「溜め息が多くなったな、俺は」

 

レオハルトは気を取り直し部屋を後にして外に出ると、ハーヴィッツと話しているウォンを見つけ近付いていく。その近くでは【ZAFT】輸送機へのMSの搬入作業が行われていた。

 

「おおっ、リベラント隊長。お話は終わりましたかな?」

「ええ。何をされているのですか?」

「バルトフェルド隊長から、MSを融通して欲しいと要請がありまして」

「(バルトフェルド隊長からか。MSの増員を要請したということは、【アークエンジェル】の戦力を危険視したということか?あるいは、念には念をということか)」

 

バルトフェルドは現在、ザフト軍北アフリカ駐留部隊隊長という地位にある。そして、【アークエンジェル】が降下したのも、バルトフェルドの管轄下。

 

MSの増員要請があったということは、幾度かの戦闘で失ったのか。あるいは、念の為ということなのか。

 

それは分からないが、バルトフェルドがMSを必要としていることは疑いようのない事実だった。

 

「送るMSは?」

「ザウート一五です。それと、クルーゼ隊の二人も」

「あの二人を送ったところで無駄だ。機体が良くても、あいつらは砂漠戦を知らない。砂漠を知り尽くしたバルトフェルド隊長の部隊にしたら、邪魔でしかない。少しでいいから、バクゥを送ってやってくれ」

「ううむ……。確かに、リスボン基地攻略ではバクゥは使えない。五機送るとしよう。ハーヴィッツ」

「了解しました」

 

ハーヴィッツは小走りでどこかへと走っていくと、搬入するMSの変更を知らせに走った。輸送機は二機あり、それぞれにバクゥとザウートを送るということになる。

 

「ウォン総司令。作戦開始の準備で、私に何か手伝えることはあるか?」

「そうですな……。特にありませんな。時間までゆっくりしてください」

「そうですか。……バルトフェルド隊長には、今日?」

「第一陣は今日の予定です。時間になったらすぐ飛び立てるようにと思って、第二陣も今日中に積んでしまおうと思いましてな」

 

ハーヴィッツともう一人の男が話しているのを見ながら、レオハルトとウォンが言葉を交わす。

 

「良ければ、バルトフェルド隊長への輸送に同行させてもらえませんか?」

「構いませんが、バルトフェルド隊長に何か御用でも?」

「ここに居ても作戦時間まですることが無いようですから、バルトフェルド隊長にご挨拶でもと思いまして」

「では、お気を付けて。あの辺りは、【ブルーコスモス】が騒がしいですから」

 

その後、バルトフェルドに送られるMS増員の第一陣が出発。それに同行する形で、レオハルトもバルトフェルドの元へと向かった。

 

午後にはバルトフェルドが居を構えるバナディーヤに到着。レオハルトは共にやってきた男に輸送機の補給・整備、さらに休憩として一時間の時間を与える。

 

男は輸送してきたMSの受領手続きに向かう中、レオハルトは近くにいた男にバルトフェルドの居場所を問う。

 

「バルトフェルド隊長は現在、外出中です」

「外出?どこにだ」

「恐らく、いつものように街にいらっしゃるかと」

 

レオハルトは礼を言うと、バルトフェルドを探しに街へと足を向けた。だが、ここはレオハルトにとって右も左もわからない場所。

 

レオハルトはすぐに探しにいくことを考え直し、待つことに決め建物へと足を向けた。

 

すれ違う兵士にたまに驚いた表情で敬礼をされもしたが、ここではレオハルトの名前は知られていても顔までは浸透していないらしい。

 

そんなことをレオハルトは欠片も気にすることなく、途中で捕まえた男に案内してもらうことにする。

 

「こちらでお待ちください。バルトフェルド隊長も、じきに戻られると思います」

「ありがとう」

 

レオハルトが通されたのは、広い客室だった。部屋の中央にテーブルと横長のソファーが二つあり、左側にはかつて大発見となった物のレプリカの石版が置かれていた。

 

「これは……」

 

【エヴィデンス01】。その姿はクジラ。だが、その背には羽が生えており、どう考えても地球には存在しない生物である。

 

ファーストコーディネイター、ジョージ・グレンが木星探査中に発見した明らかに地球のものでは無い生物の化石であり、地球外生命体の証拠とされている。

 

レオハルトは部屋にあったコーヒーを勝手に飲みつつ、部屋に置いてあった本を読んでバルトフェルドを待つのだった。

 

 

 

 

街の中で【ブルーコスモス】の突然の襲撃を難なく退け、バルトフェルドは偶然遭遇した客人二人と基地に帰還する。

 

その客人とは、地球連合軍【アークエンジェル】所属のMS【ストライク】パイロット、キラ・ヤマト少尉。

 

本来は民間人でありながら、【ヘリオポリス】の友人たちと共に軍に志願。正式に軍人となった。

 

そしてもう一人は、現在【アークエンジェル】と協力関係にあるレジスタンス組織、【明けの砂漠】に所属するカガリと呼ばれる少女である。

 

そんな二人が何故、バルトフェルドと共に【ZAFT】のど真ん中に向かっているかというと、【ブルーコスモス】襲撃の際、バルトフェルドが盾にしようとして蹴り上げたテーブルにあった、ケバブにかける二種類のソースを頭から被ってしまったのだ。

 

オマケに、お茶付きである。

 

カガリの恰好がソースでぐちゃぐちゃ。さらに、キラはバルトフェルドを狙っていた【ブルーコスモス】に銃を投げつけて窮地を救っている。

 

この二つの理由により、バルトフェルドはお礼の意味も込めて二人を基地へと招待したのだ。

 

「バルトフェルド隊長、お耳に入れておきたいことが」

「ん?何かね、ダコスタ君。今、新しいコーヒーの配合のシミュレーションで忙しいんだけど」

 

隣で車を運転していた赤い髪に短髪、緑服を着た男に話しかけられバルトフェルドは気の抜けた返事を返す。

 

だが、話しかけた本人、マーチン・ダコスタはそんなことは一切気にすることなく言葉を続ける。

 

「リベラント隊長がお待ちだそうです」

「……彼が?何で地球に居るんだろうね~。僕に会いに来たわけでもないだろうに」

「それは知りませんけど」

「まぁ、何はともあれ、急ぐとしますか。【ZAFT】のトップエースを待たせるのも悪いからね」

「はっ」

 

バルトフェルドはいつもと変わらぬ口調でそう呟くと、ダコスタはアクセルを踏む足に力を込めた。

 

そして、この会話を後部座席で聞いていたキラは、ある考えで頭がいっぱいだった。

 

「(【ZAFT】のトップエース?そういえば、フラガ少佐が前にそんなことを……。確か名前は……“レオハルト・リベラント”)」

 

基地に到着すると、バルトフェルドはぐっちゃぐっちゃのカガリを恋人であるアイシャに任せ、バルトフェルドはある部屋のドアを開けた。

 

「部下から聞いてはいたが、実際に見ると驚くね。何故、君がここに?」

 

バルトフェルドはソファーに腰掛けてコーヒー片手に本を読みふけるレオハルトを見て、分かってはいても驚いてしまうバルトフェルド。

 

「【FAITH】の特務で地球に来ましてね。時間が出来たので、バルトフェルド隊長にご挨拶をと思いまして」

「おやおや、忙しいだろうに」

「バルトフェルド隊長ほどではありませんよ。それで、どちらに行かれてたんですか?」

「ちょっと街に散歩にね。面白い発見があったよ。ああ、早く君も入りたまえ」

「どなたかいらっしゃる……っ!?」

 

バルトフェルドはレオハルトににこやかな笑みを浮かべながら部屋に中に入ってくると、一直線にコーヒーメーカーへと歩いていく。

 

バルトフェルドはコーヒーをカップに注ぎつつ、部屋の外にいる誰かへと話しかけた。誰がいるのかと気になり視線を向けると、レオハルトはそこに居る人物を見て言葉を失った。

 

「(……!?)……バルトフェルド隊長、彼は?」

「彼かい?……ふむ、僕の命の恩人かな」

 

内心の動揺をひた隠しにし、レオハルトは入ってきた少年の素性をバルトフェルドに問いかける。バルトフェルドはコーヒーを淹れ終えると、レオハルトの隣に腰を下ろしながら答えた。

 

対照的に、レオハルトは立ち上がり窓へと近付いていく。そんなレオハルトを見て、バルトフェルドは肩をすくめて見せた。

 

「【ブルーコスモス】の襲撃が?」

「ほぉ、察しがいいね。その通り。その時、彼に助けられてね」

「…………」

 

思いもがけない人物、立っていたのはキラ・ヤマト。軍人の性か、レオハルトは自らが持っている銃を確認した。

 

そんな様子を横目で確認したバルトフェルドは、小さく笑みを浮かべる。

 

「立っていないで、君も座りたまえ。コーヒーでもどうぞ。僕はコーヒーには少々うるさくてね。これは、僕の自信作だよ。リベラント君、どうかな?」

「ええ、非常に美味しいです」

「おっ、分かってるねぇ~」

 

キラはバルトフェルドとレオハルトの二人に露骨な警戒心を抱きつつ、二人の対面に座りコーヒーを口にした。

 

だが、すぐに苦い顔をするとカップをテーブルへと置いた。

 

「おや、口に合わなかったかね?ふーむ、君はまだ早いか」

「いえ、そんなことは……」

 

そう答えるキラだが、その言葉とは対照的に顔はそうは言っていない。

 

その時、女性の声がすると部屋に一人の少女が入ってくる。ショートカットの金髪に、ドレスを包んだ少女だった。

 

バルトフェルドの賞賛の言葉も、レジスタンスに所属しバルトフェルドを敵視しているカガリには嫌味にしか聞こえず、乱暴な口調で言い返した。

 

「喋らなきゃ完璧」

「(この少女、どこかで……)」

 

言い合いをして軽口を言うバルトフェルドとは対照的に、レオハルトの表情は険しい。その厳しい視線はドレスに身を包んだ少女、カガリに向けられていた。

 

「で、誰なんだそいつは。お前の部下か?」

「そいつ?ああ、彼かね?う~ん、誰と言われても……。少なくとも、僕の部下ではないね」

 

カガリは自分たちには見向きもせずコーヒーを飲むレオハルトに気に障ったのか、イラついた口調でバルトフェルドに問いかける。

 

だが、バルトフェルドは相も変わらず普段通りの陽気な口調で返すと、カガリの目付きはさらに険しくなる。

 

「おぉ、怖い怖い。喋らなきゃ完璧だったけど、怒らなくて喋らなかったらもっと完璧だ」

「……いいだろう。名ぐらいは名乗っておこう。特務隊所属、レオハルト・リベラントだ」

「特務隊……?」

「(レオハルト・リベラント……?)」

 

レオハルトは飲み終えたコーヒーを台の上に置くと、二人に向かって名乗った。カガリは特務隊という聞き慣れない言葉に思わず聞き返し、キラは覚えのある名前に引っ掛かりを覚えた。

 

「特務隊のことが知りたければ、上官に聞いてみるんだな」

「……!お前、どうして……!!」

「カガリ!!」

「あっ……!」

 

レオハルトの上官という言葉から、二人は自分たちがレオハルトの敵だということに気付かれたことに即座に気付いた。

 

カガリは立ち上がって問い返すが、キラに名前を呼ばれ自分の失態に気付く。だが、レオハルトは慌てた二人に何かをするでもなく、壁にもたれ二人に視線を向ける。

 

「よく分かったね。何故かな?」

「ただの一般人が、軍人を助けられるとでも?武装した【ブルーコスモス】から?」

「ははははっ!!これは一本取られたな!確かにその通りだ!」

 

レオハルトの指摘に、バルトフェルドは豪快に笑い声を上げる。それとは対照的に、キラとカガリの中でレオハルトへの警戒心が一気に高まる。

さらに、キラの中にあった引っ掛かりが解けたことも、その警戒心を高める要因となった。

 

「(レオハルト・リベラント……!フラガ少佐が言っていた、【ZAFT】のトップエース!どうしてここに!)」

 

だが、不意にカガリはレオハルトから視線をそらし、バルトフェルドへと厳しい視線を向ける。

 

「おや、何か言いたげな目だね」

「お前は、いつもあんなお遊びをしているのか?私にドレスを着せたのも、お遊びの一つか?」

「ドレスを着せたのは僕じゃないんだけど……。お遊びとは?」

「住民だけ逃がして街を焼き払ったり、ふざけた格好で街を歩き回ったりってことさ」

 

カガリは薄ら笑いを浮かべるバルトフェルドから視線を外さず、バルトフェルドを真正面から見据える。そんな二人を、レオハルトは静かに見つめる。

 

「良い瞳だね、真っ直ぐで。実に良い瞳だ」

「ふざけるな!!」

「君も死んだ方がマシなクチかね?」

 

依然として崩さないバルトフェルドの軽い態度に、カガリの怒りが頂点に達し怒声を発する。だが、それも目付きが鋭くなったバルトフェルドに睨まれ口を閉ざした。

 

「そっちの彼、君はどう思う?どうしたら戦争は終わると思う?MSのパイロットしては」

「お前、どうしてそれを!!」

 

バルトフェルドの問いにカガリは再び正直な反応をしてしまい、キラが連合の軍人でさらにはMSのパイロットということがバレてしまう。

 

キラは悲痛気な表情でバルトフェルドから顔をそらすが、レオハルトはその表情を見逃すことはなかった。

 

「はははははっ!!真っ直ぐ過ぎるのも考え物だぞ。戦争にはスポーツのような明確なルールも、競技時間も存在しない。なら、どうやって勝ち負けを決める?」

 

バルトフェルドは立ち上がると、レオハルトの横を過ぎサイドチェストへと歩いていく。その間も投げかけられる、戦争に対する疑問。

 

戦争はスポーツではない。明確なルールが存在しているわけでもない。審判がいるわけでもない。あえて審判する者がいるとすれば、自分たちだ。要は、セルフジャッジである。

 

軍資金、軍事力、クーデター。諸々の理由によって、戦争をしている当事者たちは限界だと審判を下すだろう。

 

だが、それらに問題が無ければ、戦争は止まることを知らない。そもそも、【プラント】と連合にあるのは相手への憎しみと怒りである。戦争が続くほど、それらの感情はさらに膨れ上がっていくことだろう。

 

キラは突然動き出したバルトフェルドに警戒心を露わにすると、カガリの手を引き部屋の隅へと歩いていく。

 

投げかけられる疑問。つい最近まで普通の民間人と暮らしていたキラ。さらに、今のキラにそんな先のことを考える余裕などなく、その日を生き抜くだけで精一杯の状況。

 

だからこそ、バルトフェルドが問いかけたどこで終わるのか、どうやって終わらせるのか。今まで考えたことなどなかった問題に、キラは言葉を詰まらせる。

 

「どう……やって……?」

「敵である者を滅ぼして、かね?」

 

ならば、戦争が止まる理由はただ一つ。バルトフェルドの言葉通り、敵である者を滅ぼすしかなくなる。その先に待つのは、絶望だけである。

 

バルトフェルドはサイドチェストに入れていた銃を取り出し、カガリを背にしてかばうキラに銃口を向けた。

 

突然の状況の悪化に、キラの額から流れ落ちる冷や汗。視線が忙しなく動き回り、脱出の糸口を探す。

 

「諦めた方が賢明だな。いくら君がバーサーカー(狂戦士)でも、無事で脱出できるものか」

バーサーカー(狂戦士)……?」

「ここにいるのは皆、君と同じコーディネイターなんだからね」

「えっ!?お前……」

 

バルトフェルドの口から飛び出した衝撃の言葉に、驚いたカガリはキラへと視線を向ける。だが、キラの視線はバルトフェルド向けられているが、横目でレオハルトにも向けられる。

 

だが、レオハルトは壁に背を預けた状態から動こうとはしない。とりあえずは安心し、キラはバルトフェルドに視線を戻す。

 

「君の戦闘は二回見た。砂漠の接地圧、熱対流のパラメータ。君は同胞の中でも、かなり優秀な部類らしい。何故君がそちら側にいるのかは知らんが、君があのMSのパイロットである以上、私と君は敵同士ということだな」

 

向けられる銃口、張りつめた空気、蔓延する緊張感。これらがキラを焦らせ、冷や汗がキラの頬を伝っていく。

 

「バルトフェルド隊長。お遊びはもういいですか?」

 

不意に響く低く、それでいて不思議と響く声。それに反応し一斉に視線が、声の主へと向けられる。

 

そこには、銃を構えたレオハルトの姿があった。

 

「どういうつもりかな、リベラント隊長」

「敵を討つのに、理由が必要ですか?」

 

キラに銃口を向けるレオハルトに、バルトフェルドは厳しい視線を向ける。だが、レオハルトはキラたちから視線を外すことなく逆に聞き返して見せた。

 

「ここで彼らを討つつもりはない。ここは戦場ではない。それに彼は、今日に限って言えば僕の命の恩人でもある。銃を下ろしたまえ」

「あなたの個人的感情に何の意味が?今ここで討てるのならば、討つべきだ。彼によって、どれだけの同胞が命を落としたお思いですか」

「いくら【FAITH】とはいえ、この地域は僕の管轄下にある。緊急時でもないのに、君の命令に従えというのかね?【FAITH】ならば、何をしてもいいと?」

「…………」

 

バルトフェルドの言葉にレオハルトは沈黙すると、静かに銃を下ろしホルスターへと戻した。その行動にキラとカガリは胸を撫で下ろすと、バルトフェルドは改めて二人に顔を向ける。

 

「さて。少々問題は起きたが、帰りたまえ。言った通り、君たちをここで討つつもりはない。話せて楽しかったよ」

 

バルトフェルドは二人に背を向けると、銃を片付けながらそう告げる。キラはまだ警戒しつつも、部屋を出て仲間の元に帰るのだった。

 

二人がいなくなった後、レオハルトは部屋にある掛け時計に目を向ける。間もなく、一時間が経とうとしていた。

 

「……それでは、私もジブラルタル基地に戻ります」

「おや、もう戻るのかね?それは残念。……ところで、一つ聞いてもいいかね?」

「何でしょう」

 

レオハルトはそう言うと、扉に近づいていた足を止め振り返った。

 

「あの少年と君。どこか雰囲気が似ている。何か関係が……っ!!」

 

バルトフェルドがそこまで言い掛けた時、響き渡る一発の銃声。バルトフェルドの頬から、一筋の血が流れ落ちる。

 

収納していた銃を一瞬で抜き、バルトフェルドの頬を掠めるギリギリに撃ち、能面のような顔で銃を構えるレオハルトの姿。

 

「アンドリュー・バルトフェルド、一つ忠告しておこう。詮索が過ぎると、早死にするということをな」

「…………っ」

「知る必要の無いことだ。余計なことに首を突っ込むものじゃない。……彼を生かしたこと、後悔するぞ。貴様は負ける」

 

レオハルトは一方的にそう告げると、踵を返し足早に部屋を出て行ってしまった。すると、部屋の電話が鳴りバルトフェルドが応答する。

 

「バルトフェルド隊長!今の銃声は!?」

「ああ、何でもない。警戒解除だ」

「しかし……!」

「何でもないよ。解除だ」

「……了解しました」

 

不審がる副官のダコスタを強引に言いくるめると、バルトフェルドは流れ落ちる血を拭う。すると、血を拭った右手が震えていることに気付き、バルトフェルドは苦笑する。

 

「久しく感じる恐怖だよ……。…………何なんだ、“アレ”は。あの瞳は……」

 

バルトフェルドは見た。銃口の先に見てしまったのだ。

普段は美しいルビーの瞳が、金色と紅が混ざり合い不気味に光り輝く様を。

 




どうでしたでしょうか?

レオハルトの瞳に関しては、OOの刹那っぽくね?と自分でも思ってしまいました。
が、妖しさを出すならやっぱり金かなってことで、金にしました。

ちょっと時間軸がおかしいところがあるかもしれませんが、そこは私の原作改変ということでお願いします。

若干、最後はやりすぎたような気もしますが、強調したかった部分なので問題無いでしょう。

次は、本編で言っている攻略作戦になります。
前後編になるかもしれません。

とにかく、頑張って書きます。


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Mission - 19 リスボン基地攻略戦

今回は、思ったより早く更新できました。
良かったです。

前話のあとがきで前後編にするかもしれないと言いましたが、よく考えたらする必要が無いことに気付きました。

この回にそこまで盛り上がる山場も無いので、軽く行きます。
それと、作戦に参加するMSの数を変更しました。



レオハルトがジブラルタル基地に戻った翌日。

 

ハーヴィッツの言葉通り、リスボン基地攻略作戦の準備が完了。その後、作戦に参加する人員の休憩を取り、その時がやってきた。

 

今回の作戦のために編成されたのはボズゴロフ級五、ディン六、ジン六、グーン八。総数、二〇。そして、レオハルトのJUPPITER(ユピテル)とディアッカのBUSTER(バスター)を含めた、総数二十二機である。

 

ちなみに、ハーヴィッツはウォンの代わりに指揮を執る副指令の補佐としてジブラルタルで留守番をしている。

 

すべての機体は潜水母艦ボズゴロフ級五隻に格納され出港した。全艦は潜航可能深度ギリギリまで一気に潜ると、リスボン基地に進路を取った。

 

念には念を入れ、全艦は目的地まで静かに航行するためゆっくりと移動。ユーラシアの警戒範囲ギリギリまで四時間ほどで到着すると、レオハルトは全艦に停止を命じた。

 

「さて、着いたな。作戦開始予定時刻まで、あと一時間か」

「ふむ。さて、まずは情報収集ですかな」

「ええ。無人偵察機を飛ばしましょう」

「情報は命ですからな。旗艦リエンツィより、僚艦アイーダへ。作戦開始時刻までに、情報収集を行う。無人偵察機を飛ばせ」

「僚艦アイーダより、旗艦リエンツィへ。命令、了解。無人偵察機を飛ばす」

 

ウォンは通信で僚艦の一隻である“アイーダ”に命令を出すと、“アイーダ”は海面まで浮上し無人偵察機を三機、垂直射出した。

 

この無人偵察機、通称【ヌル】には自立思考のAIが搭載されており、その思考は同時に射出された他の【ヌル】と常にリンクしている。さらに、収集したデータはリアルタイムで旗艦に送られてくる。

 

そのため、射出された三機は同じ場所を撮影することなく、効率良く情報収集することが可能になっている。このAIは各設計局が合同で開発しており、C.E.71に入ってから【ZAFT】地上軍で実用化が始まっている。

 

ちなみに、【ヌル】は地球の大気中にある微粒子などで異常を起こさないよう特別に改良されており、宇宙では【ゼーロ】と名付けられた無人偵察機が存在している。

 

「映像はクリアですね」

「目立った動きは無いようですな。今のところは」

 

それから、レオハルトらは【ヌル】を十五分ほど飛ばして情報収集を行った。結果、敵に動きは無く、こちらの動きにも気付いていない可能性が高いということが判明した。

 

そのため、レオハルトは次に行動に移る。

 

「各艦につなげてくれ」

 

レオハルトがそう言うと、オペレータがすぐに他の五隻のボズゴロフ級との通信を開く。

 

「こちら旗艦リエンツィ。今回の作戦の指揮を執る、特務隊レオハルト・リベラントだ。作戦を確認する。作戦開始と同時に、僚艦“シャールカ”“ファルスタッフ”よりグーン発進。グーンの攻撃と同時に、全艦で敵基地に魚雷を発射」

 

レオハルトの言葉は各艦に流され、それを通して艦内放送として流されている。レオハルトは視線の先に見える、データ化されたリスボン基地映像を見据える。

 

「間髪入れず、“アイーダ”“マノン”よりディン発進。ディンは敵機体が格納されていると思われる施設の破壊を行え。続けて、ジン出撃。敵基地に上陸し、基地を攻撃。何か質問は?」

「敵基地はどうするかね?」

「【ZAFT】にカーペンタリア、ジブラルタル以外に基地を持つ余力は無い。故に、完全破壊だ。奴らが再建する気も起きないほどにな」

「了解です」

「他には無いな?以上だ」

 

レオハルトはモニターに映る各艦の艦長からの質問が無いことを確認すると、話を終わらせ最後の準備に取り掛かるよう指示を出す。

 

「では、ウォン総司令。後方の指揮は任せます」

「了解しました」

 

レオハルトは踵を返しその場を後にすると、JUPPITER(ユピテル)の元に向かった。

 

すると、その先には今回の作戦にレオハルトが参加させたディアッカが立っていた。レオハルトはディアッカを一瞥すると、何も言わずにそのまま横を通り過ぎる。

 

だが、ディアッカは何も言わずにレオハルトの後を追いかける。

 

「何か用か、ディアッカ」

「いえ、その……」

「イザークのことが聞きたいのか?」

「…………はい」

 

レオハルトに図星を突かれ、ディアッカは言葉を失い顔をそらす。だが、意を決しレオハルトの背に顔を向けると、レオハルトの問いに肯定した。

 

「ディアッカ。お前は、ナチュラルの民間人を殺せと言われたらどうする?」

「えっ?」

「嬉々として殺すか?躊躇いながらも殺すか?それとも、拒否するか?」

「…………」

 

レオハルトから問われた言葉に、ディアッカは本当に言葉を失った。今まで考えたことも無かったことに、ディアッカは言葉を失う。

 

レオハルトは立ち止まり振り返ると、同じく立ち止ったディアッカを正面から見据える。

 

「もし嬉々として殺すなら、お前は軍人ではない。ただの人殺しだ。拒否しても、お前は軍人ではない。命令違反として、処罰されるだろう。最悪、銃殺刑だ」

「……」

「ナチュラルだろうと民間人は民間人だ。俺たちまで民間人を手に掛けていては、【ユニウスセブン】を核攻撃した奴らと同じだ。俺は、そんな屑共とは違う。お前はどうだ?」

「……俺も、そんな奴らと同じにはなりたくないです」

「ならいい」

 

レオハルトは小さく笑みを浮かべると、踵を返し再び歩き始めた。だが、ディアッカは立ち去るレオハルトを呼び止め、その背に問いかける。

 

「……民間人を殺せと言われたとき、リベラント隊長はどうされるのですか?」

「…………俺にも分からん。その時に考えるさ。後悔しない選択をな。それと、イザークのことなら心配するな。謹慎が解けたら、以前の通りだ」

 

レオハルトは背中越しにディアッカの問いに答えると、そのままJUPPITER(ユピテル)の元に向かう。

 

赤いランプが照らす通路を歩きながら、レオハルトは自問自答する。

 

「(俺は、どうするんだろうな……。だが、恐らく俺は……)」

 

 

 

 

 

「作戦開始五分前。各員、搭乗機へ。最終チェックに移行せよ」

 

ついに作戦開始時間が迫り、MSで発進するパイロットたちは各々の搭乗機へ走る。

 

それはレオハルトやディアッカも例外ではなく、自分の機体のコックピットに体を滑り込ませる。

 

レオハルトの両手が素早く動き、キーボードのキーを高速で叩いていく。JUPPITER(ユピテル)のシステムを隅々までチェックし、異常が無いか確認していく。

 

「システムチェック終了。全システム、オールグリーン。ディアッカ、どうだ?」

「問題ありません。いつでも行けます」

 

発進準備は整い、後は作戦開始を待つだけ。それぞれがパイロットスーツに身を包んでコックピットで時を待つ中、レオハルトは苦手なパイロットスーツは着ていない。

 

軍服でコックピットに座っている状況である。この方が、レオハルトとしてはやり易いのである。

 

「リベラント隊長、時間です」

「了解。“シャールカ”“ファルスタッフ”、グーン発進させろ!“アイーダ”“マノン”“リエンツィ”、対空ミサイルポッド用意!グーンの沿岸部への攻撃と同時に、全艦魚雷発射!」

 

時間が午前五時を指すと同時に、レオハルトの号令で【ZAFT】は動いた。

 

次々とグーンが出撃していき、リスボン基地へと向かっていく。

 

「全艦、魚雷装填。目標、敵基地!……発射!!」

 

ウォンは全艦に魚雷装填を命じると、グーンの攻撃と同時に発射を命じた。発射された魚雷は寸分違わず、リスボン基地の港に直撃。停泊していた艦船や、沿岸部を蹂躙していく。

 

「続けて、対空ミサイルポッド発射準備。目標、敵基地!敵の上空にばら撒いてやれ!発射!!」

 

ウォンの号令で、すべてのボズゴロフ級から同時に対空ミサイルポッドが発射。ボズゴロフ級一隻につき十二発発射するので、総数六〇発のミサイルが敵基地に降り注ぐ。

 

「“アイーダ”“マノン”、ディン出撃!“シャールカ”“ファルスタッフ”、浮上!ジン出撃!」

 

奇襲攻撃に成功した余韻にも浸るはずもなく、レオハルト次の指示を出す。

 

浮上した“アイーダ”“マノン”よりディン六機が垂直出撃すると、グーンを発進させたばかりの“シャールカ”“ファルスタッフ”も浮上。ジンを垂直出撃させる。

 

だが、ジンはディンのように大気圏航行は出来ない。それを助ける形で開発されたのが、“グゥル”。正式名称、【モビルスーツ支援空中機動飛翔体】。

 

大気圏内で飛行できないMSを補助する、SFS(サブフライトシステム)として運用される。搭乗MSからの無線コントロールにより、強力な推力を生かして飛行することが出来る。

 

ジンの出撃に続いて発射されたグゥルに乗り、ジンも敵基地へと飛んでいく。

 

「リベラント隊長、奇襲攻撃は成功。だが、敵もそこまでバカではないようだ。態勢を立て直し、反撃を始めてきた。まだ損害は出ていないが、攻めあぐねているようだ。さて、どうする?リベラント隊長」

「私とディアッカが出撃()ましょう。そして、他のMSは二機編成を組み、相互援護をしながら攻撃を続行。損害を受けたMSは、後方支援に徹するように」

「了解。総員に通達!」

 

ハーヴィッツの報告を聞くと、ウォンから次なる一手を聞かれるレオハルト。レオハルトは即座に頭の中で答えを導き出すと、ウォンの問いに答える。

 

ウォンも同じ考えだったのか、わずかに笑みを零しオペレータに全員に通達するように指示を出す。

 

「ディアッカ。敵は殲滅、基地も焼け野原にして構わない」

「了解!」

「リベラント隊長、いつでもどうぞ!」

「レオハルト・リベラント、出撃()る!」

 

レオハルトにとっては、初の大気圏での戦闘。JUPPITER(ユピテル)の出撃に続いて、飛び出してきた“グゥル”に飛び乗る。

 

すぐ後ろでは、同様にディアッカも“グゥル”に飛び乗ったところだった。推力によってリスボン基地に飛び立つレオハルトに続き、ディアッカもその後を追う。

 

リスボン基地はディンやジン、グーンの攻撃によって大分破壊されていた。だが、連合も各所に設置された対MSミサイルや、対MSミサイルを搭載したトラックなどがミサイルで反撃を開始。

 

当初の予測通り、ミサイルの配置数が非常に多く、少しずつではあるが【ZAFT】側にも損害が出始めていた。

 

「ディアッカ、敵機は他に任せろ。俺たちは敵のミサイル発射システムや砲塔を狙え」

「了解!」

 

徐々に近づくリスボン基地を前に、新たな敵が現れたとばかりにリスボン基地に設置されている“地対空75mmバルカン砲塔システム”がレオハルトに照準を向けられる。

 

だが、レオハルトは敵が撃つよりも先に引き金を引き、逆に破壊する。そしてディアッカは、地上の一角に対MSミサイル搭載トラックが固まっているところを見つけると、そこに両肩に装備されているミサイルを発射する。

 

レオハルトは“グゥル”に装備されているミサイルを発射し、トーチカを破壊。さらに、ビームライフルの照準を向け、“ヘルダートタイプ・ミサイルランチャー”を破壊。さらに、山の斜面に築かれた“50mmガトリング砲台”を撃破。

 

ディアッカも同様に次々と敵砲台を潰しているが、本当に減っているのかと思うほどである。依然として迫ってくるミサイルは多く、【ZAFT】のMSに襲い掛かる。

 

レオハルトは友軍のディンに迫る40mmミサイルをビームライフルで撃ち落とすと、ミサイルの発射元へと視線を移す。

 

「武装が足りないのは問題だな!」

 

レオハルトはそう不満を漏らすと、砲台を破壊。続けて、右に銃口を向けミサイルランチャーを破壊する。

 

射撃武装の少ないJUPPITER(ユピテル)とは対照的に、砲戦仕様のBUSTER(バスター)は“350mmガンランチャー”や、“94mm高エネルギー収束火線ライフル”で次々と破壊していく。

 

さらには、上の二つを連結させた“対装甲散弾砲”―—ガンランチャーを前に、収束火線ライフルを後に連結した広域制圧モード――で、損害が軽微である場所を面制圧していく。

 

「ウォン総司令、こちらの被害は!」

「ジン二、中波。ディン一、小破です。グーンに損害は無し」

 

戦闘開始からすでに一時間以上経過しており、パイロットの疲弊も始まっている。さらに、敵の攻撃の手数も多い。

 

如何にコーディネイターといえど、すべての攻撃を避けることが出来るわけではない。少しずつではあるが、【ZAFT】にも被害が出始めていた。

 

「(まだ許容範囲か。だが、時間を掛けすぎると押し切られるか可能性があるか)敵司令部が見つからない。傍受の状況は?」

「間もなくです。……敵司令部の場所が判明しました」

「データをディアッカに送ってください。ディアッカ」

「了解!……位置データ、受信しました!」

 

ディアッカに敵の通信によって発生する電波から発信源を特定し、その結果判明した敵司令部の位置情報が大火力を有するディアッカに送られる。

 

ディアッカは二つの武装を連結させると、“超高インパルス長射程狙撃ライフル”――収束火線ライフルを前に、ガンランチャーを後に連結した高威力・精密狙撃モード――を構える。

 

射撃体勢に移ったディアッカにミサイルが襲い掛かる。だが、それも直前でレオハルトがシャットアウト。ディアッカにミサイルを一発も通さない。

 

四方から飛んでくるミサイルを確実に迎撃していくレオハルト。だが、背後から飛んできたミサイルを見逃してしまい、ディアッカへと向かっていく。

 

だが、レオハルトの行動は早かった。レオハルトは飛び上がると、“グゥル”をミサイル目掛けて飛ばしミサイルに当たる瞬間、“グゥル”をビームライフルで貫いた。

 

“グゥル”が爆発したことで、残りのミサイルも誘爆。レオハルトは機体のすべてのスラスターを噴射し地上へと無事に着陸する。

 

「撃て、ディアッカ!」

「了解!」

 

そして、スコープを除くディアッカは、照準が定まるとその引き金を引いた。BUSTER(バスター)は“グゥル”の上でわずかに揺れると、“超高インパルス長射程狙撃ライフル”が発射された。発射されたビームは正確に指定ポイントを撃ち抜いた。

 

「グゥレイト!やったぜ!」

 

そう言うとディアッカは、両肩部のミサイルを指定ポイントに撃ち込む。さらにダメ押しとして、ポイント付近にビームライフルを撃ち込んでいく。

 

ディアッカの過剰とも言える攻撃に、山は至る所で崖崩れが起き崩壊。崖崩れによって出来た大量の土砂が基地を飲み込んでいく。

 

「……こちらレオハルト・リベラント。これより、殲滅戦に移行する。損害が激しいものは後退。軽微な機体は残敵の掃討に動け」

 

レオハルトは静かにそう告げると、禍根の芽を潰すために動き始めるのだった。

 

 

 

 

 

三〇分ほどで殲滅作戦は終了し、見つけた範囲での掃討は終了した。最後にレオハルトは残った部隊で基地全域を攻撃して、基地の再建する可能性を潰すという徹底振りだった。

 

“グゥル”を失ったことで飛行能力を失ったレオハルトは、生き残ったディン二機に支えられつつ“リエンツィ”に帰投。同様に、他の残存部隊も所属艦に帰投した。

 

今回の戦闘の結果、失ったのはジン三、ディン二である。グーンについては、地上には上がらず時々海面に姿を見せつつ攻撃を続けたため、損害は無しとなった。

 

“リエンツィ”に帰投したレオハルトは、ウォンと共に今回の作戦について総合的な判断を下していた。

 

「損害は五機か。少ないと見るか、多いと見るか。どう見る、ウォン総司令」

「充分、許容範囲でしょう。初撃の奇襲が効いたことで、敵の数が少なかったことが幸いでしたな。もっとも、他の兵器の数が想定外に多かったですが」

「その点に関しては、私の責任です。評議会への報告書には、書き漏らしの無いようお願いします」

「真面目ですな。そこが、リベラント隊長の長所ですかな」

 

真面目なその言葉にウォンは少し驚いた顔をした後、苦笑混じりにそう言葉をつづけた。レオハルトは頭を下げて礼を言うと、レオハルトは報告書の製作に戻る。

 

だが、そんなレオハルトをウォンは険しい視線で見ていた。

 

「(だが、それ故に危険な部分もある。真面目な性格が裏目に出ないと良いが……)」

「何か?」

「ああ、いや、申し訳ない。すぐに本国に戻るのかね?」

「その予定です」

「そうか。今回の作戦では、世話になりましたな」

「いえ、こちらこそお世話になりました」

 

それを最後に二人は言葉を交わさず、黙々と報告書の作成に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

その後、レオハルトはすぐに【プラント】本国へと帰還すると、その足で報告のためシーゲルの元に向かった。

 

「……うむ。よく分かった。損害については、許容範囲と言えるだろう。よくやってくれた、リベラント隊長」

「ありがとうございます」

 

レオハルトから渡された報告書を読み終わると、シーゲルは報告書を置き満足そうな笑みを浮かべる。報告書はウォンとレオハルトの二人で作成されたもので、枚数は五枚ほどである。

 

「それで、イザーク・ジュールはどうだった?ショックを受けていたかな?」

「ショックというより、戸惑っていると言った方が正しいでしょう。意図せずとも摘み取ってしまった、民間人の命。決して軽いものではありません」

「そうだな。ナチュラルもコーディネイターも変わらない、一つの命だ。彼に答えは出せそうかな?立ち直れそうかね?」

「さて、どうでしょうか。誰かが教える答えに意味はありません。それが出せなければ、潰れるでしょうね。ですが、イザークなら大丈夫でしょう。私が言うのも何ですが」

 

シーゲルの問いにレオハルトはそう答えると、シーゲルはなるほどと言った表情で頷く。

 

誰かに答えを教えてもらったとしても、それは他人の考えである。最終的には自分の考えで納得しなければ、それがいつか自分を苦しめる足枷となるかもしれない。

 

「信じるしかないな」

「ええ」

「何はともあれ、任務ご苦労だった。三日の休暇を与える。充分に休息をとってくれ」

「ありがとうございます」

「……そうだ。一応、君の耳にも入れておこう。バルトフェルド隊長が、【足つき】に敗れたそうだ。片手片足を失う重傷らしい。彼の副官から連絡があった。しばらくは、戦線復帰は無理とのことだ」

「……そうですか。では、失礼します」

 

レオハルトは敬礼をすると、足早に部屋を後にした。通路を歩きながら、レオハルトはシーゲルの最後の言葉を反芻する。

 

「(……だから言ったのだ。勝てないと。だが、バルトフェルド隊長を凌ぐまでになったか。さすがは、【カケラ】の持ち主といったところか。いや、それだけでは無いか。だが、所詮は【カケラ】だ。【源】を持つ者には……勝てない)」

 

人がまばらな通路を歩きながら、レオハルトは思考する。レオハルトの頭にあるのは、“彼”のこと。

 

レオハルトの口角が上がり不敵な笑みを浮かべながら、その瞳は紅金に妖しく輝いていた。

 




オリ話はどうでしたでしょうか。

戦闘描写がちょっと雑っぽくなってしまったかもしれません。
申し訳ないです。

そして、最後で再び謎を投下。
【カケラ】とは!【源】とは!

その意味は、小説の後半で明らかに!って感じですね。


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Mission - 20 そびえ立つ壁

閑話になります。

あと二話ぐらい閑話になるかもしれません。
そのあと、本編を進めようかなと思っています。

少しでも楽しんで頂けると嬉しいです。


シーゲルへの報告を終えたレオハルトは、そのままマイウス市に向かうことにした。開発の途中だった、ドレッドノート(勇敢なる者)のOS開発を続けるためである。

 

【特別開発区】では入る人間を厳しく制限しているため、レオハルトが以前使った許可証はすでにただのゴミになっている。そのため、レオハルトは新しい許可証を受け取りマイウス市【特別開発区】に向かった。

 

事前にハインラインに連絡し【特別開発区】に到着すると、ハインラインが入り口で待っていた。ハインラインはレオハルトに気付くと、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「噂は聞いているよ。地球で連合の基地を壊滅させたそうじゃないか」

「耳聡いな」

 

ハインラインとそう会話しながら二人は通路を進んでいき、ハインラインがいくつもの認証を済ませ中へと足を踏み入れる。

 

中には、前回よりも完成しているドレッドノート(勇敢なる者)の姿があった。

 

「間もなくか」

「一週間以内にはな。後はリベラント隊長の開発したOSを搭載して、データを収集すればこの機体は用済みだ」

「用済み?ロールアウトするんじゃないのか?」

「ああ、しない。この機体は、データ収集のためだけに開発された機体だ。充分なデータを得た後は、解体して廃棄処分するそうだ」

「つまり、この機体と同じ。あるいは同等の機密を持った機体を開発する予定があるということか?……あるいは、すでに?」

 

レオハルトが横に立つハインラインにそう問いかけると、ハインラインの眼光鋭い瞳にレオハルトが映る。しばしの沈黙。だが、ハインラインはレオハルトから目をそらす。

 

「……噂通り、嫌になるほど鋭い男だな」

 

ハインラインは小さくそう呟きドレッドノート(勇敢なる者)を一瞬見上げると、他の技術者の元に歩いて行ってしまう。

 

だが、ハインラインのあの呟きこそ答え。レオハルトの問いを、肯定したことになる。

 

「……どんな機密を持っているんだか、こいつは」

 

レオハルトはドレッドノート(勇敢なる者)を見上げて一言ぼやくと、OSを完成させるため依然と同じ部屋に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

それから二日後。ついにドレッドノート(勇敢なる者)のOSが完成。完成したOSはすぐにドレッドノート(勇敢なる者)に搭載された。

 

それからさらに六日後の2月28日。ついにドレッドノート(勇敢なる者)が完成。レオハルトの開発したOSを搭載し、データ収集機として動き出すことになった。

 

テストパイロットとして搭乗するのは、コートニー・ヒエロニムス。あくまでも所属は民間人だが、【ZAFT】では何度かテストパイロットとして働いた経験を持つ。

 

完成後、初の稼働実験を明日に控え、レオハルトはハインラインと共にドレッドノート(勇敢なる者)を見上げていた。

 

「ついに明日か」

「そうだな。明日の稼働実験、リベラント隊長は立ち会えないからな」

「機密を持った機体だからな。その機密のテストもするのだろう」

「すまんな。だが、君も近いうちに知ることになる。……失言だった。忘れてくれ」

「残念なことに、一度聞いたことでも簡単に忘れるような頭はしていないのでな」

「……やれやれ。そこは嘘でも、忘れると言うところだろう」

 

レオハルトのチクリと刺さる皮肉に、ハインラインは笑顔交じりに答える。その笑みに、レオハルトもわずかな笑みを浮かべた。

 

「さて、私はそろそろ失礼する」

「何だ、完成祝いに一杯飲もうではないか」

「遠慮する。酒は飲まないんだ。いつ何時、何があるか分からないからな」

「私は根っからの技術屋だが、君は根っからの軍人というわけか」

 

歩き去っていくレオハルトの背にハインラインはそう言葉を投げかけると、レオハルトは何も言わずにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

レオハルトがハインラインらと共にドレッドノート(勇敢なる者)の詰めの作業を行っていた時、評議会ではある議題で揺れていた。

 

それは、戦争の継続か停戦か。

 

この議題で議員たちは二分されていた。戦争継続を訴えるパトリック・ザラを筆頭とした強硬派。停戦を訴えるシーゲル・クラインを筆頭とした穏健派。

 

二つの派閥が、評議会の場で真っ向からぶつかっていた。

 

だが、最終的には強硬派が穏健派を上回り、パトリック・ザラの提唱する【オペレーション・スピットブレイク】が可決された。

 

【オペレーション・スピットブレイク】。この作戦は、戦争に終止符を打つべく立案された。概要としては、宇宙から大部隊を地球の連合軍基地に降下させるという強襲作戦。目標は、連合軍最後のマスドライバー施設を持つ、パナマ基地。

 

連合の最後のマスドライバーを奪うことで、連合の地上と宇宙の戦力を分断させ、連合地上軍を地球に封じ込めるという目的に、パナマ基地に照準が定められた。

 

【オペレーション・スピットブレイク】は当然、レオハルトの耳にも入っていた。とはいえ、だからといってレオハルトに何かすることがあるわけでもなく、与えられた休息を取っていた。

 

そのはずだったが、染みついた習慣は変えることは出来ない。休暇であっても、レオハルトは日々の訓練を欠かすことは無かった。

 

早朝に起きるとアプリリウス市内を一周するジョギングに始まり、腕立て・腹筋・スクワットに一〇〇回。さらには体幹トレーニングを一時間行う。そして汗を流して、ようやく朝食である。

 

果たしてこれで休暇と言えるのかは疑問ではあるが、前述したように染みついた習慣を変えることは難しい。むしろ、やらないと体調が悪くなるほどである。

 

適当な物をパンに挟んだサンドイッチとコーヒーを朝食にしながら、レオハルトは考える。どうやって休暇を過ごすかと。

 

クルーゼは最近まで【プラント】にいたのだが、先日ジブラルタル基地に降りてしまった。クルーゼ隊のアスランとニコルも一緒にである。

 

そのため、現在【プラント】にはレオハルトの友人と呼べる存在がいない状況である。そのため、レオハルトにとって休暇というのはある意味苦痛である。

 

「さて、どうしたものか……」

 

悩みに悩んだ結果、レオハルトはいつもの軍服に袖を通し、議事堂内の一角に設置されているMSシミュレータへと足を向けた。

 

「(やれやれ。休暇をこれほど苦痛に感じるようになるとはな……)」

 

使用している人間は誰も居らず、レオハルトは適当なシミュレータ台に入ると早速開始する。

 

二時間ほど経ちシミュレータコックピットを出ると、レオハルトは昼食を取るため歩き出した。すると、背後から声を掛けられるレオハルトが振り向くと、そこには銀髪でショートボブの少女が立っていた。

 

驚くべきは、彼女の服装である。まだ幼い外見の彼女が、隊長である白服を身に纏っていたのだ。だが、レオハルトにそんなことは眼中になかった。

 

「初めまして、レオハルト・リベラント隊長。オリンベル隊隊長ラミリア・オリンベルと申します」

「特務隊レオハルト・リベラントだ」

 

レオハルトは簡潔に名乗ると、背を向け歩き出す。空腹である今レオハルトに、彼女に対して微塵も興味が湧かなかったのである。

 

だが、歩き出したレオハルトの行く手をラミリア・オリンベルと名乗った少女が遮る。

 

「まだ何か用なのか」

「はい。シミュレータで結構ですので、私と勝負してください」

「断る」

「えっ!?」

 

予想外のレオハルトの返答に、ラミリアは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。ラミリアが驚きで固まっている間に、レオハルトは昼食のためにスタスタと議事堂を後にする。

 

適当なオープンカフェに入ると、空いている席に座り店員が持ってきたメニューに目を通す。メニューから目を上げ、わずかに正面へと目を向ける。

 

「…………」

 

そこには、レオハルトをじっと睨むラミリアの姿が。レオハルトは小さく溜め息を吐くと、メニューをラミリアに渡す。

 

「何か食べないのか?」

「結構です」

 

ラミリアはレオハルトを睨みながらそう答えるが、絶妙なタイミングでラミリアの腹が鳴る。沈黙が流れ、レオハルトはどう声を掛けたものかと思案する。

 

対して、ラミリアは恥ずかしさから顔どころか耳まで真っ赤に染める。

 

「……頂きます」

 

ラミリアは渋々メニューを手にすると、レオハルトはラミリアの注文が決まったのを見計らい店員を呼んだ。レオハルトは海鮮のリゾットを、ラミリアはサンドイッチセットを注文する。

 

先に運ばれてきたコーヒーを飲みながら、レオハルトはラミリアへと視線を移す。同様に運ばれてきたオレンジジュースを飲みながら、ラミリアは笑顔を浮かべていた。

 

だが、レオハルトの視線に気付くと、再びレオハルトをじっと睨み付ける。睨み付けると言っても、まったく怖いものではなく小動物に見られているようにしか見えない。

 

「俺に勝負を挑む理由は?」

「私の実力が知りたいのです。前線で戦うために」

「何故だ」

「ナチュラルを滅ぼすために」

「…………」

 

ナチュラルを滅ぼす。はっきりとそう告げるラミリアの瞳には、確かな憎しみがあった。レオハルトの奥底にもある、憎しみが。

 

「……なるほど」

「ナチュラルに家族を殺されました。だから、奴らに!」

「(何を言っても無駄か)そうか。まぁ、頑張れ」

「ですから、私と勝負してください」

「……いいだろう」

 

ラミリアの固い決意を受け、レオハルトは承諾した。何より、ここで断ればしつこく付きまといそうというのも理由の一つだが。

 

二人は無言で食事を取り休憩した後、二人は先ほどのシミュレータルームにいた。

 

「使用機体は公平にジン。時間は無制限。何か質問は?」

「ありません。やりましょう」

 

ラミリアは先にシミュレータ台に座ると、レオハルトも無言で隣のシミュレータ台に座る。

 

ランダムで選択された戦場はデブリ帯。使用機体は両者共に標準装備のジン。モニターにカウントダウンが表示され、0になった瞬間にラミリアは動くのだった。

 

 

 

 

 

 

時は遡り数日前。パトリックは新たな案件で動いていた。

 

【プラント】に存在する主な設計局である、【ハインライン設計局】【クラーク設計局】【アジモフ設計局】。これら三つの設計局を統合し、統合三局として新たに設立。

 

三つの局の知識と技術を集結させることで、さらなるMSの開発に尽力させることが目的である。

 

そして、奪取した五機のMS。さらには【ZAFT】の技術をも導入した新型MSの開発を統合三局に指示。それらのMSには、現在データ収集機として稼働中のドレッドノート(勇敢なる者)に搭載されている“機密”の改良型が盛り込まれることも決定している。

 

すべては、【プラント】とコーディネイターの勝利のために。

 

「開発するMSは四機だ。多数殲滅型、近接戦闘型、近遠戦闘型。残り一機のコンセプトは任せるが、ただ強いMSを造れ」

 

そう指示するパトリックの目の前には、旧設計局の局長たち三人がいる。

ロバート・A・ハインライン、アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークの三人である。

 

統合される前は、それぞれ以前は設計局の局長を務めていた腕利きである。

 

「わかりました。すぐに取り掛かります」

「……待て」

 

急いで開発に取り掛かろうと立ち去ろうとする三人を、パトリックが呼び止める。三人は立ち止まり振り返ると、パトリックの言葉を待つ。

 

「奴も開発メンバーに加えろ。レオハルト・リベラントを。奴も自らの機体を設計したのだ。役に立つかもしれん」

「よろしいのですか?“アレ”を知ることになってしまいますが」

「構わん。いずれ知ることだ。本人には私から通達しておく」

「わかりました。では」

 

ハインラインはドレッドノート(勇敢なる者)が抱える機密が知れることを危惧するが、パトリックは事も無げにそう言い放つ。

 

ハインラインは了承の言葉を返すと、足早にパトリックの元を後にする。これからしばらくは、研究室に缶詰になることだろう。

 

三人が出て行ったのを確認すると、パトリックは両手を組み険しい顔つきへと変わっていく。

 

「貴様は甘いのだ、シーゲル。今更停戦など、出来るはずも無い。敵が銃を向けているというのに、銃を下ろすことなど出来んのだ。戦争は、勝って終わらねば意味が無いのだ」

 

パトリックは自分に言い聞かせるかのようにそう呟くと、次の仕事に取り掛かるのだった。

 

パトリックの部屋を後にした三人は開発場所のマイウス市に向かう道中、パトリックが口にした言葉を考えていた。

 

「いずれ知ることになる、か。どう思う、ハインライン」

「開発に関わらなくても、知ることに変わりは無いということだろう。……ふむ、これは意外だ」

「つまり、これから開発する四機のうちのどれかのパイロットに、彼が内定しているということだろう。……まぁ、実力は申し分無いから文句は無いがね」

 

クラークから問いかけられ、ハインラインは推理小説へと視線を落としながら答える。ストーリーに進展があったのか、ハインラインは小さく驚きの声を上げる。

 

ハインラインに続き言葉を発したのは、腕を組みながら目を閉じているアジモフだった。リアクションがイマイチ薄い二人に、一番真面目な人物と言えるクラークは密かに溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

「そんな……」

 

シミュレータコックピットで、ラミリアは呆然と呟く。

 

モニターには大破の文字が表示され、彼女がシミュレータで操っていたジンが大破判定を受けたことが理解出来る。

 

だが、ラミリアが驚愕しているのはそこではない。彼女とて、最終的には勝てないということは承知していた。だが、こんな結果は彼女としても予想外だった。

 

最初はラミリアが優勢だった。だからこそ、ラミリアは自分が押していると思い込んでしまった。ラミリアが苛烈な攻撃を加えながらも、決定打を与えることは出来なかった。すべての攻撃を、レオハルトは紙一重で回避していった。

 

目の前の敵に集中しすぎて、ラミリアは自らが追いつめられていることに気付いていなかった。わずかな隙を狙ってカウンターを仕掛けるだけレオハルト。だが、それも厳しい攻撃ではなく、ラミリアは余裕だった。

レオハルトが動いたのは突然だった。それまでの戦闘でレオハルトが攻撃していたのは、ラミリアではなかった。その後ろにあるデブリだったのである。

 

大きなデブリを攻撃して小さくするとこで移動範囲を狭めたのだ。レオハルトがラミリアの隙を見てデブリの陰に隠れると、周囲を見渡してラミリアは初めて気づいた。

 

自分の周囲がデブリで埋め尽くされていることに。

 

デブリには熱を持つものも多いため、レーダーは頼りにならない。完全な目視。あとは、経験と勘である。

 

ここで失敗だったのは、ラミリアは冷静さをわずかでも失ってしまったことにある。

 

ラミリアは一瞬とはいえ冷静さを失い、慌ててしまった。そのせいで、レオハルトの攻撃への反応が一秒、あるいはコンマ何秒遅れてしまった。

ジンの重突撃銃で右腕を失い、逃げようと試みてもデブリが邪魔をする。レオハルトは即座に距離を詰め、重斬刀でラミリアのジンを両断した。

 

これが、二人の戦いの一連の流れである。

 

シミュレータコックピットで、ラミリアは血が出るほどに唇を噛み締める。何たる醜態だと。

 

ラミリアの敗因はデブリ帯での戦闘に不慣れだったということも挙げられる。だが、そんな言い訳は通用しない。

 

これから先、ラミリアがデブリ帯で戦闘をしない保証など無い。戦争で、戦場を指定出来るわけが無いのだから。

 

だが、一番の原因は油断だろう。自らが有利に進めていると勘違いしてしまったことにある。それに気付かせなかったレオハルトも巧みではあったが、それも言い訳にしかならない。

 

不慣れな場所だったから負けましたで済まされる話ではないのだ。いついかなる時でも、どんな戦場でもあっても冷静さは失わず、周囲の状況確認も怠らず、自らの置かれた状況を冷静に理解する。

 

それが、戦場に身を置く者に必要なこと。戦場で冷静さを失うことと油断は、そのまま自らの死に直結する。

 

レオハルトに遅れてラミリアもシミュレータコックピットを出ると、待っていたレオハルトと向き合う。

 

「ありがとうございました、リベラント隊長。勉強になりました」

「いや、良い訓練になった。……すごい汗だな。これを使え」

「あっ、はい。ありがとうございます」

 

シミュレータコックピットは決して広いとはいえず、熱気もこもりやすい。そのため、備え付けのシャワールームがあったり、自由に使えるタオルが置いてあったりするのだ。

 

そのタオルを一枚掴むと、レオハルトはラミリアに投げて渡した。

 

「リベラント隊長も……」

「何だ?」

「……いえ、何でもありません」

「俺はそろそろ行く。じゃあな」

「はい」

 

受け取ったタオルで流れ出る汗を拭きながら何かを言い掛けるラミリア。だが、すぐに言葉を引っ込める。

 

レオハルトはやや疑問に感じつつも、それほど重要ではないと考えそのまま立ち去った。

 

遠ざかっていくレオハルトの背中を見送りながら、ラミリアはあまりの悔しさから叫びたい衝動に駆られていた。

 

「(私がこれほど汗をかいているのに、あの人は……!リベラント隊長は、汗一つかいていない!これが、私との差!!目的を果たすためにも、いつかは!)」

 



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Mission - 21 暗躍の影

お待たせしました。

最近はいつもこれで始まっている気がします。
申し訳ないです。

そして、待たせてしまった割にはほとんど進んでないです。

次の更新がいつになるのかも不明です。
気長に待って頂けると嬉しいです。


近々迫る【オペレーション・スピットブレイク】のため、クルーゼは部下のアスランやニコルと共に地球のジブラルタル基地へと降下した。

 

クルーゼは二人よりも早く地上に降り立つと、ディアッカの待つ部屋に向かった。イザークはまだ謹慎中ではあるが、後二日で謹慎も解ける。だが、さらにあと一週間はMSに登場することは禁じられている。

 

「久し振りだな、ディアッカ。無事で何よりだ」

「はっ、お久し振りです」

 

部屋に入って早々、敬礼して待っていたディアッカにクルーゼはそう声を掛ける。クルーゼは軽く手を挙げて合図すると、ディアッカは敬礼を止め腰を下ろした。

 

「失礼します」

「お久し」

 

その時、遅れてアスランとニコルが部屋に到着。ディアッカは久し振りに再会した仲間にいつも通りの口調で、軽く手を挙げて挨拶をする。

 

「? ディアッカ、イザークは?」

「あいつは謹慎中だ。まぁ、もうじき解けるけどな」

「謹慎!?」

「イザークが!?」

 

ディアッカの何でもないような口調に一瞬流してしまいそうになるが、アスランとニコルは驚きの声を上げる。二人の視線は、自分たちの隊長であるクルーゼへと向けられる。

 

「謹慎理由は、先の【低軌道会戦】でのことが理由だ。イザークが撃墜したシャトルには、民間人が乗っていたそうだ。さらには、【FAITH】であるレオの制止命令を無視しての戦闘の強行。その結果、評議会はイザークに二週間の謹慎と一週間のMS搭乗禁止命令を下した」

 

クルーゼは二人に視線を移しそう言うと、部屋に沈黙が流れる。クルーゼは小さく笑みを浮かべると、沈黙を打ち破るために口を開いた。

 

「そう心配することは無い。後二日で謹慎も解ける。だが、MSにはまだ乗れないがな。緊急時を除けば、だが」

 

クルーゼは仮面のズレを右手で直すと、話題を変えるべく表情を引き締めた。

 

「さて、本題に入るとしよう。ディアッカ、君は【足つき】の追撃をしたいのかな?」

「そのとおりです、隊長」

「ふむ。だが、すでにカーペンタリア基地の任務に移行している」

「違います、隊長。奴らを討つのは、我々の任務です!宇宙で討ちきれなかった、我々の!」

 

今までにないディアッカに、アスランとニコルは目を丸くして驚いている。ディアッカの言葉に、クルーゼは顎に手を当て思案する。

 

そんなクルーゼにダメ押しするかのように、ディアッカは友の意思も伝える。

 

「この意見には、イザークも同感と言っていました。ですから、隊長!」

「君たちはどうかな?」

「異存はありません」

「アスラン。君はどうかな?」

 

ニコルはすぐにディアッカの考えに同意するが、アスランは口を真一文字に結び口をつぐんだままである。クルーゼは内心笑みを浮かべながら、アスランに答えを求める。

 

「……異存ありません」

「ふっ、いいだろう。そこまで言うなら、君たちだけでやってみるか。アスラン、ニコル、ディアッカ。そして、謹慎明けのイザークを加えた四人で隊を結成。指揮はそうだな……アスラン。君に任せよう」

「えっ?」

「カーペンタリアで母艦を受領出来るよう手配しよう。ただちに移動準備に入れ」

「隊長、私が?」

「いろいろと因縁のある相手だ。難しいとは思うが君に期待しているよ、アスラン」

 

クルーゼはアスランの肩に手を置きそう言い残すと、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 

アスランはクルーゼの言葉を心で噛み締めながら、表情を歪める。宇宙の時と同様、アスランは再び親友と激突することが決定してしまった。

 

だが、アスランは心に決めたのだ。自分の一番の友を、その手で討つと。

アスランは迷いに蓋をすると、移動準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

それから二日経ち、ついにイザークの謹慎が解けた。

 

この二週間、イザークは五畳ほどの部屋で生活を送っていた。トイレやシャワールームなども備え付けられた部屋である。この部屋には、計七つの監視カメラが設置されており、部屋全体をカバー出来るようになっている。

 

そんな部屋で四六時中監視される生活を過ごしたイザーク。

 

この二週間、イザークには考える時間が十分すぎるほどあった。だが逆に、時間があるからこそいろいろな方向に考えがいってしまったとも言える。

だが、とうとうイザークは明確な答えを導き出すことは出来なかった。

 

イザークを待っていたのは、ジブラルタル基地総司令補佐のハーヴィッツだった。通路を歩きながら、イザークは自分が謹慎中の情報をハーヴィッツから聞かされる。

 

「では、先にカーペンタリアに?」

「そうです。あなたのMSもすでにカーペンタリアです。あなたはまだ、MSには乗れませんから。移動もお仲間がやってくれることでしょう」

「…………」

「あなたも、すぐにカーペンタリアに向かってもらいます。あちらで準備と敵の追跡をしているうちに、一週間は掛かるでしょう。晴れて、元通りです」

 

ハーヴィッツに横目でそう言われ、イザークは心の中で否定する。

元通りなどではない、と。

 

今までは、ただナチュラルを敵と見定めて来た。だが、それもレオハルトの言葉で亀裂が生まれ、疑問を持ってしまった。

イザークの心は、晴れないままである。

 

「ところで、どこに向かっているのですか?」

「リベラント隊長から通信が入っているのです」

 

そう言われ、イザークは驚きで目を見開いた。レオハルトが自分に何の用なのか、と。それとも、まだ残っている一週間のMS搭乗禁止の念押しのためだろうか。

 

イザークは疑問に感じつつもハーヴィッツの後を追い、ある一室に通された。

 

「私は仕事があるのでこれで。案内は、別の者にさせます」

 

ハーヴィッツはそう言い残しイザークの返事も聞かずに歩き去っていくと、イザークはモニターの正面に腰を下ろした。

 

空間に映し出されているホログラムにはレオハルトが映し出されており、その左胸にはきらりと光る【FAITH】の徽章が光っていた。

 

イザークの瞳に映るレオハルトの表情は、お世辞にも良いとは言えないものだった。だが、

レオハルトとしてはそんなつもりは毛頭ない。真面目な表情をしているだけである。

 

「謹慎が解けたな、イザーク」

「……はい」

「謹慎中、何を考えていた」

 

そう問われ、イザークは口を閉ざす。当然、何も考えていなかったわけではない。むしろ、考え過ぎていたほどだ。

 

だが、謹慎中に考えていたことは到底一言で言い表せるものではなかった。

 

「一言では言えません」

「……そうか。恐らく、俺もそう答えるだろう。だが、その様子では“答え”は導き出せなかったか」

「……今まで私は、ナチュラルすべてを敵と見定めて来ました。軍人・民間人、関係無くです」

 

イザークはそう信じていたし、実際そう考えているコーディネイターが大半を占めるだろう。だが、それを一概に責めることは出来ない。

 

【プラント】の理事国である大西洋連邦などからの不当な要求に続き、【ユニウスセブン】での核攻撃が決定打となってしまった。家族や友人など、親しい人間を失った人間も多い。

 

そのため、ナチュラルを敵視し憎悪することは仕方ないことではある。それはレオハルトも肯定しているし、そんな彼らを否定するつもりも無い。

 

だが、ナチュラルすべてが【ユニウスセブン】の核攻撃に協力したのかと問われると、それは否だとレオハルトは考える。

 

正しくは、民間人が核攻撃したなどという事実を知っているはずがない。さすがに、そんな杜撰な情報体制はしていないだろう。

 

その一方で、ナチュラルがコーディネイターに敵対意識を持っていることは隠しようのない事実。ナチュラルに対して寛容なレオハルトとはいえ、自分や友軍に害を加えるなら民間人とはいえ容赦するつもりはない。

 

「教えてください、リベラント隊長。私は、どうすればいいのですか」

「他人に答えを求めるなよ、イザーク。自分で答えを探せ」

「…………」

「すぐに答えを出す必要は無い。今、お前に出来ることは何だ」

「……MS搭乗禁止令が解く一週間を待ち、【足つき】を追撃し討つことです」

「ならば、今は出来ることに尽力しろ。……お前なら出来るはずだ。答えも、【足つき】撃沈も。焦ることは無い。以上だ」

 

レオハルトは最後に一瞬だけ笑みを浮かべイザークに励ましの言葉を掛けると、そのまま通信を切ってしまう。

 

イザークは何を言われたのか分からず通信を切られた後も、レオハルトの最後の言葉を理解するのに時間が掛かってしまった。

 

「……やってやりますよ、リベラント隊長。やってみせようじゃないですか。【足つき】は俺がこの手で討ちますよ」

 

イザークはニヤリと笑みを浮かべそう呟くと、部屋を出て待っていた案内人に準備していた中型輸送機ヴァルファスに乗りカーペンタリア基地に飛び立つのだった。

 

 

 

 

某日某所

 

男にとって、あの日はいつも通りだった。男は毎月の定例会議を終え執務室に戻り一息吐き、誰かの悪態を口にする。

 

「あのジジイ共め……。目的を忘れて、すっかり調子に乗ってますね。僕たちの目的はコーディネイターの抹殺だというのに。一度、手綱を握り直す必要がありますね」

 

男は小声でそう呟き、先ほどまであっていた者達への文句を口にする。

 

男が言う“ジジイ共”が考えるのは自分たちの利益ばかり。男を含めた彼らがすべきなのは、コーディネイターの抹殺。

 

普通の人間にしてみたら、危険な考えの言葉である。だが、一部の者たちにしてみたら普通の考え方なのだ。彼ら、【ブルーコスモス】にとっては。

 

「MSの量産体制の確立に、その後は施設の拡充。やることは山ほどありますね」

 

男は冷蔵庫からペットボトルに入ったミネラルウォーターを取り出し、キャップを外すと喋り疲れた喉を潤す。

 

男は椅子に腰を下ろし仕事用のPCの電源を入れると、キツく締めていたネクタイを緩めながらまた息を吐く。

 

男はPCの脇に置いていたミネラルウォーターを手にすると、再び一口飲む。だが、そこで男はある異変に気が付いた。

 

普段ならすぐに起動するはずなのに、今日に限って画面は暗いまま。男がPCの不調を疑い始めた時、男は驚愕に顔を染める。

 

「さて、初めましてと言うべきかな?」

「!?」

 

突然、どこからともなく声が聞こえてくる。男はすぐに周囲を見渡すが、特に異常は見られない。いや、自分が気付かないだけなのかと男が考え直した時、再び謎の声が聞こえる。

 

「フフッ。驚かしてしまったかな?まあ、当然か。少々ハッキングさせてもらったよ」

 

PCの画面は依然として何も映さないが、男は声がPCからだということに気付く。男は“声の主”の皮肉った口調に眉をしかめつつも、深呼吸すると椅子に深く座り直す。

 

「少々、ですか。そんな柔なセキュリティはしていないはずなんですが。見直す必要がありそうですね。注意喚起のためにこんなことを?」

「そうだ、と言ったら信じるほど、愚かな人間なのかな?ムルタ・アズラエル理事」

「…………」

 

ムルタ・アズラエル。連合軍上層部にも浸透しつつある【ブルーコスモス】盟主を務める男で、徹底した反コーディネイター思想の持ち主である。

 

そう問われれば、アズラエルは否定の言葉を口にするだろう。だが、“声の主”もそう答えることを確信している。

 

強固に築いたセキュリティを突破するほどのハッキング技術を持つ謎の人物。アズラエルは見えない相手の評価を奇妙な人物から、厄介な人物へと修正する。

 

「ただの酔狂な人間、というわけでは無さそうですね。用件を聞きましょうか」

「たいしたことではありませんよ。ただ、理事のお手伝いが出来ればと思いまして」

「僕の願い、ですか」

「ええ。コーディネイター抹殺のご協力がしたい。そのために、【プラント】に勝ってもらいたいのです」

 

先程まで若干の腹芸を見せたかと思えば、今度はあまりにも直接的な言葉。アズラエルは少し驚きつつも、それを表には出さず冷静を装う。

 

「……なるほど。しかし、どんな協力をして頂けるのですか?」

「【プラント】の機密情報をお教えしますよ」

「!!……あなた、何者ですか?【プラント】の機密情報を知るなど、並大抵のことじゃありませんよ。【プラント】上層部の人間か、あるいはそれに近しい人間ということですか?」

「さすがはアズラエル理事。見事なご推察で」

 

アズラエルは“声の主”と話してみて、相手の人間についてある程度の予想を固める。“声の主”は【プラント】上層部、つまりは【最高評議会】のメンバー。あるいは、それに近しい人間。

 

だが、近しいとはいえ階級の低い人間が評議会の人間に近付くことなど不可能も同然。どちらにしろ、“声の主”自身も高い地位に就いていることが予想できる。

 

「(隊長は確実ですかねぇ。創設されたばかりの特務隊という線も考えられますね。その線ならまだ人数が絞れるので容易ですが、隊長だと難しいですか……)」

 

アズラエルがそう頭の中で結論付けていると、“声の主”は含み笑いをする。アズラエルは“声の主”のその態度に顔をしかめるが、“声の主”はそれを理解しているのか含み笑いが止まる様子は無い。

 

「私の正体をお考えですか?私だけが理事のことを知っているというのも、フェアではないようだ。私は――――――。以後、お見知りおきを」

「……フフッ。ハッハッハッハッ!これはこれは、まさかあなたとは。確かに、あなたなら機密情報を知ることも可能ですね。【プラント】の重要人物に近い、あなたなら」

「私を信用して頂くために、手始めに情報をご提供しましょう」

「ほぉ。ですが、何故あなたが?」

「理由、ですか。理事に必要なのは、【プラント】の確かな情報では?」

 

その言葉にアズラエルは口を閉ざす。確かに、理由を知れば信憑性は高まる。だが、それが真実だという証拠も無く、その裏を取る時間も無い。

 

つまり、どちらにしても理由を聞く意味が無い。何より、深く聞いてへそを曲げられても面倒である。アズラエルは素早くそう考え、肯定の言葉を口にする。

 

「ご理解頂けて何よりです」

「それで、情報とは?」

「【最高評議会】は先日、ある作戦を可決しました。目標はパナマ。ですが、それは表向きの理由。本命はJOSH-A(ジョシュア)。地上部隊と軌道上からの降下部隊によって、攻撃を行います。作戦名、【オペレーション・スピットブレイク】」

「(……これが本当なら、大問題ですね。地上だけでなく、宇宙からも部隊が降下してくるとは。それほどの規模の部隊から奇襲を受ければ、JOSH-A(ジョシュア)といえど楽観は出来ませんね)」

 

“声の主”から予想以上の機密情報に、アズラエルは一瞬言葉を失う。だが、すぐに頭を切り替えると、アズラエルは今後の方針を考え始める。

 

「私に妙案があります」

「妙案?」

「ええ。もちろん、それを実行するかは理事のお気持ち次第ですが」

 

そう言って、“声の主”はニヤリと口角を吊り上げ笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「思ったより簡単だったよ。もっとも、彼は彼で私を使い潰した後で消すつもりだろうがな」

「愚問ですね。反コーディネイターを掲げる【ブルーコスモス】なのですから。所詮は一時的な利害の一致」

 

某日、【プラント】内のある場所で彼らはいた。

 

たった今通信を終えた男は椅子に背を預けながら呟くと、その後ろから聞こえてくる声に男は椅子を回転させて向かい合う。

 

新たな声は小さいながらもよく通る、高い声だった。そのことから女性なのではと判断出来るが、この両者の間に甘い雰囲気は微塵も感じられなかった。

 

「利用しているのはお互い様だからな。まあいい、種は蒔いた」

「アズラエルに話した妙案。使う保証は無いのではありませんか?」

 

声に違わず、やはり女性だった。だが、姿は部屋がない光によって見ることは出来ない。女性がそう問うと、男は否定の言葉を口にした。

 

「使うさ。必ずな。大西洋連邦にとって、友軍とはいえユーラシア連邦と友好とは言い難い。利権に群がるハイエナ共は、すでに戦争が終わった後のことを考えているのだよ」

「理解出来ませんね。先のことを蔑ろにするわけにはいかないけど、目の前を疎かにするのも愚かだわ」

「保身に長けているからこそ、奴らは生き残ってきたのさ。所詮、人間は自分が一番なのだよ。それが人間というものだよ。君がよく知っているのではないかな?」

 

男のその言葉に、女性は唇を強く噛み締め怒りを露わにする。だが、男は焦る様子も無く、笑みを浮かべて眺めたままである。

その皮肉った様子が、女性の怒りを増すことになる。

 

「口を慎みなさい。協力しているとはいえ、私たちも利害だけのつながりよ。私の目的を果たす前に、あなたを先に殺してもいいのよ」

「それは怖い。ヘタなことは言えないな」

「……あなたは私が殺すわ」

 

女性は最後に吐き捨てるように言い残すと、足早に立ち去ってしまった。その背を男は小さく笑い声を挙げながら見送ると、額に手を当てながら虚空を見上げる。

 

「破滅に進む世界を前に、君はどうするのかな。非常に興味深いよ。……レオ」

 



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Mission - 22 約束

お待たせしました。
更新です。

そして、活動報告でさせて頂いた質問に答えて頂いた方、ありがとうございます。

内容は同じく、定期的に更新して欲しいとのことでした。
他にお言葉も無かったので、それが当小説をご覧頂いている皆様の総意だと考えさせて頂きます。

定期的に更新できるよう、努力させて頂きます。



わずかながらも休暇を終えたレオハルトは、パトリックに呼び出された。何の用かと思い向かうと、統合三局と共に新型機開発に関われと言うものだった。

 

パトリックから最重要機密だと聞かされ、そんな気体を開発する計画に自分が関わっていいものかと考えてしまう。だが、命令は命令である。

 

レオハルトは気を取り直すと、許可証を受け取りマイウス市に向かった。レオハルトが向かうのは、ドレッドノート(勇敢なる者)が開発された場所ではない。

 

ドレッドノート(勇敢なる者)が開発された【特別開発区】は【旧特別開発区】と命名され、新たに【新特別開発区】が設けられた。

 

この【新特別開発区】は旧と違い、非常に大きい。旧の四倍はある広さだ。この中で、統合三局はパトリックから直々に命じられた四機の開発が進められている。

 

【新特別開発区】につながるゲートには旧より多い保安兵が警戒していた。レオハルトは途中にも大勢配置されている人間を横目に入り口前までやってくると、ハインラインが立っていた。

 

「ハインライン局長」

「来たかね、リベラント隊長。待ちくたびれたよ。仕事に取り掛かる前に、君のパーソナルデータを登録しなければいかん。毎回、誰かに案内させるのも面倒だからな」

「確かに」

 

レオハルトはハインラインの言葉に従い指紋・静脈・網膜をデータバンクに登録を終えると、ハインラインに連れられ第四区に案内された。

 

「聞いたと思うが、我々は四機の新型機の開発を命じられている。そのうち三機のコンセプトはすでにある。が、四機目のコンセプトがまだ無くてな。リベラント隊長に任せたい」

「そんな重要なことを俺に任せていいのか?」

「ザラ委員長から命じられたのは、ただ強い機体だ。それさえ達成すれば、ザラ委員長も何も言わんだろう。人員は貸すから、好きに使え」

「責任重大だ。だがまあ、専門じゃない俺が開発メンバーに加えられたんだ。それも期待されてのことだろう。やるしかないか」

「そういうことだ。では、私は失礼するよ」

 

レオハルトは近くにあった椅子を掴み引き寄せると、腰を下ろし思案する。

 

「ただ強い機体か。さて、どうしたものか」

 

 

 

 

 

 

レオハルトがメンバーに加わってから三週間。

 

レオハルトはどんな機体を造るか考えた時、レオハルトはまずあらゆる機体の情報を取り寄せた。【ZAFT】の機体はもちろん、奪取した連合の機体データ。

 

さらには、ドレッドノート(勇敢なる者)によって収集されたデータ。最後に、他の三機の機体データである。レオハルトが先頭に立って開発している機体とは違い、開発されている四機のうち二機は完成間近である。

 

レオハルトがハインラインから聞いた話によると、その二機は四月のロールアウトを目指しているらしい。トリコロールの機体と、真紅の機体の二機である。

 

残りの一機については、四本のビームサーベルを装備した格闘戦仕様の機体にする予定だったが、急きょパイロットがクルーゼに決定。クルーゼの能力を考えた結果、ドレッドノート(勇敢なる者)に装備されていた、新装備の改良版が多数搭載されることになり大幅な軌道修正をすることになった。

 

それらの情報を踏まえ、レオハルトは派遣された統合三局の人間と共に機体の設計に取り掛かった。機体の設計までに時間が掛かりすぎてしまったため、他の三機よりロールアウトはかなり遅れそうだった。

 

だが、それで欠陥のある機体になっては本末転倒なため、レオハルトはじっくりと開発を進めていく。

 

「それで、情報は?」

「ああ。ザラ委員長のお坊ちゃんは、【足つき】とやらを逃がしちまったみてぇだ。で、あるところに逃げ込んだらしい。どこだと思う?」

 

開発の合間の時間、レオハルトはある人物と通信していた。男の名はバルドリッヒ・ゲヴェール。クルーゼと同じ、白服をまとう隊長である。

 

ホログラムに映し出されるバルドリッヒは、子どもが見たら泣いて逃げ出すであろう凶悪な笑みを浮かべた。本人に自覚は無いのだろうが、どう見ても凶悪犯の顔である。

 

「オーブか?」

「……かーっ!何だよ、ダンナには何でもお見通しだな!」

「奴らがアフリカ大陸から太平洋に行ったことは聞いていた。太平洋で奴らを匿う国など、オーブしかない」

 

バルドリッヒは【グリマルディ戦線】の際、謎の大爆発によって撤退する際に敵の追撃を受け、逃げ遅れてしまった男である。

 

それからしばらくはお互いに任務などで会わなかったのだが、レオハルトが【FAITH】になってすぐに偶然会ったのだ。レオハルトより一〇歳は上だが、その時からバルドリッヒは恩からレオハルトをダンナと呼んでいる。

 

当初は止めるように言っていたが、すぐに無駄だと悟りレオハルトは諦めた。

 

「なるほどな。しかし、そこまで分かってるなら教える必要あったのか?」

「あくまで推測だ。確証が欲しかったから頼んだんだ。【オペレーション・スピットブレイク】の準備の方は?」

「順調だ。いつ命令が下されるのかは知らんが、着々と準備は進んでるよ」

 

【プラント】では現在、【オペレーション・スピットブレイク】に向けた準備が着々と進められている。

 

訓練の他にもMSの増産も進められており、普段通りの哨戒任務に偽装し作戦当日の降下ポイントの予定候補地の下見なども行っている。他にも、予定降下ポイント周辺の海賊の掃討などを行っている。

 

「その準備のために、クルーゼが地球に降りたんだろ?で、クルーゼの野郎が忙しいから、クルーゼのクソ野郎の部下共が隊を結成して、【足つき】の追撃に行ったんだろ?まぁ、初戦は良いとは言えないみたいだったが」

「そういえば、バルはラウが嫌いだったな」

「ああ、嫌いだ!何だってダンナは、あいつと付き合いがあるんだか」

「養成課程の時からだからな。もう腐れ縁だ」

「腐れ縁ねぇ……。まあいいさ。さて、こんなもんでいいか?そろそろ出港でな」

「ああ、すまない。十分だ」

 

バルドリッヒは最後に二カッと笑みを浮かべると、レオハルトとの通信が切れる。

 

バルドリッヒとの通信を終え、レオハルトは椅子に背を深く預けながら頬杖をつき思案する。その表情から何を考えているのかは読み取ることが出来ない。

 

「どうかしたかね?」

「ハインライン局長。いや、何でもない」

「ならいいが。それより、ようやく開発が始まったようだな」

「ああ」

 

そう言うと、二人は特殊ガラスの向こう側にあるまだ機体の下半身が完成しただけのMSが鎮座している。

 

あれこそ、レオハルトが設計し開発を主導している、【ZAFT】新型MS四機目である。

 

「開発計画書を読ませてもらったよ。まあ正直、正気かと思ってしまうスペックだよ。完成間近の二機より上ではないか?」

「あくまで計画ではな。計画した通りの物が必ず出来るわけではない。それに、戦闘はMSの性能だけで決まるものではないだろう」

「よく言う。噂で聞いたぞ。あの機体のパイロットに決まったそうじゃないか。君が乗れば、敵などおらんだろう」

「……それはどうかな」

 

ハインラインのニヤリとした笑みを浮かべながらの言葉に、一瞬レオハルトから表情が消えると小さくそう呟く。

 

それはハインラインの耳に聞こえることは無かったが、その真剣な表情からレオハルトには確かな敵が見えていたということだろう。

 

「名は決まったのかね?」

「ああ。まだ言わないがな」

「勿体付けることだ。完成予定はいつ頃かね?」

「五月を予定している。だが、今後次第では遅くなることもあるだろう」

「それは仕方あるまいな。何はともあれ、頑張ってくれ。ではな」

 

ハインラインが踵を返し立ち去っていった後も、レオハルトは進められる開発状況の観察を続ける。レオハルトが出来るのは設計やOS開発などである。実際の開発は専門外のため、そこは専門の人間に任せている。

 

レオハルトはおもむろに机の上に置いていた開発計画書を手にする。そこには想定されるスペック表が詳細に記されていた。

 

ハインラインが言っていたように、この機体のスペックは非常に強力と言わざるを得ない。並のコーディネイターが乗る機体でもない。

 

だが、レオハルトは“知っている”。自分なら、この機体を乗りこなすことが出来ると。

 

完成予定は五月。その時、この機体にレオハルトが乗り戦場を蹂躙する。圧倒的な力を手に、敵は屈服するしかないのだ。

 

計画書の先頭にはZGMF-99Aと、短く記されていた。

 

 

 

 

 

 

レオハルトが新型機の開発に着手してから、早一ヶ月が経っていた。

 

四月も半ばを過ぎ、四機の新型機のうち二機は完成。だが、パイロットがまだ決まっていないため、両機とも格納庫で主を待っている状況である。

 

だが、クルーゼの専用機に決まった機体とレオハルトの機体は、まだ開発途中である。クルーゼの機体の主武装、分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システム。

 

通称、ドラグーン・システム(Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network・system)。

 

個々にビーム砲と多数の推進・姿勢制御用スラスターを備え、高い攻撃力と機動力を持つ強力な武装である。

 

だが、この武装を操作するには特別な適性が必要とされており、それがクルーゼに見つかったため【ドラグーン・システム】が搭載されることになった。

 

少しずつ出来上がる機体を前に、レオハルトはOS開発に励んでいた。

 

現時点では、レオハルトが書き上げた開発計画書通りに事は進んでいる。だが、楽観は出来ない。完成してから、さらに実際に動かしてみなけれ分からないこともあるだろう。すると、その時初めてわかることもあるかもしれない。

 

ロールアウトされるまでは、完成したとは言えない。

 

他の誰かが見たら驚くであろうスピードでキーを叩いていると、レオハルトの元に通信が来る。通信をつなげると、画面に映ったのはバルドリッヒだった。

 

「よう、ダンナ!元気そうだな!」

「バルか。どうした?」

「ザラのお坊ちゃんの続報だ。いろいろと頑張ったみたいだが、一番年下の坊主が戦死。お坊ちゃんは、自分の機体を自爆させて【ストライク】とやらを撃破。痛み分けってところだな」

 

アスラン率いるザラ隊は、オーブから出国してすぐの【アークエンジェル】を強襲。だが、これまでの戦闘でキラの技量も上がり、スカイグラスパーを使ってのストライカーパックの空中での換装。

 

これまでにない戦闘でキラはアスランたちを圧倒。アスランのAEGIS(イージス)をエネルギー切れに追い込み追撃を掛けようとした瞬間、特殊兵装【ミラージュコロイド】によって隠れていたBLITZ(ブリッツ)が突如として現れたが、BLITZ(ブリッツ)を返り討ちにした。

 

イザークも戦闘不能に陥り、ディアッカは【アークエンジェル】に投降。激闘の末、アスランはAEGIS(イージス)を自爆させて【ストライク】を撃破。その際にアスランも負傷したが、救助に訪れたオーブによって救助されている。

 

「【足つき】は?」

「追撃のディンが向かったそうだが、すでに逃走していたそうだ。坊ちゃんは、駆け付けたオーブ軍に救助された。右腕骨折だそうだ」

「(オーブに救助?……なるほど。オーブに匿われていた際に、縁が出来たか。その縁で救助要請をしたか。だが、それだけでは理由が弱いか?他に何かあるのか?)」

 

オーブに居た際、縁が出来た。それは容易に想像できる。だが、果たしてそれだけだろうか?何か秘密の交渉があったとも考えられるが、命からがら逃げる【アークエンジェル】に交渉材料になるものが出せるのだろうか。

 

レオハルトがそう思案していると、あることに思い至る。

 

「(……オーブ。そうか、オーブには……)」

「どうした、ダンナ?」

「いや、何でもない。【足つき】はアラスカか?」

「だろうな。重要のはずだったMSを失ったとはいえ、奴らはアラスカに行くしかねぇ」

「わかった。十分だ。助かった」

「気にすんな!たいしたことじゃねぇよ!じゃあな!」

 

レオハルトの感謝の言葉にバルドリッヒはややテンション高めに画面から消えると、レオハルトは深い溜め息を吐いた。

 

「(皮肉なものだな。別れたというのに、再び巡り会うとは。これも、運命か)俺たちが敵対することも運命だとでも言うのか、ヒビキ博士。……だが、俺は生きます。あなたの分も。それが、約束ですから。……ヒュバーノ博士」

 

レオハルトは内ポケットから一枚の写真を取り出す。そこにはアッシュブロンドの髪の男性と、プラチナブロンドの髪の女性。その間には、にこやかに笑う金髪の少年が映っていた。

 



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Mission - 23 立ちはだかる自由

私、ちょっと。いや、かなり頑張ってみました。
自分でも、これほど短期間で更新できるとは予想外でした。

急ぎ足で仕上げたので誤字・脱字があるかもしれませんが、明日またチェックします。

今日はもう寝ます。すみません、眠いんです。
では。


月も変わり五月に入ると、レオハルト開発のMSも完成に近付いていた。それと並行して、レオハルトはすでに完成した新型二機、Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)のOSに改良を加えていた。

 

すでに完成して搭載されていたOSがあったのだが、改良点を見つけてレオハルトがハインラインに話を通して改良を加えた。自分が乗る予定の機体のOSも、あとは細かい調整を残すのみである。

 

そんなある日、レオハルトは新たに【プラント最高評議会議長】に就任したパトリック・ザラに呼び出された。パトリックが就任してからすでに一ヶ月以上経過しているが、それ以来【プラント】は急速に軍備拡大を進めていた。

 

それに対し、前議長だったシーゲル・クラインは議長だけでなく評議会議員の職も辞してしまった。

 

レオハルトがパトリックの元に到着すると、パトリックの険しい視線がレオハルトに向けられる。だが、それで怯むレオハルトではないため、平然とその視線を受け止める。

 

「リベラント。四日後の五日に、【オペレーション・スピットブレイク】を実行する。貴様も作戦に参加しろ」

「ついに、ですか」

 

【プラント】にとって非常に重要な作戦を前に、パトリックも神経を尖らせているようだった。それが、険しい視線に表れていた。

 

「ああ。それと、貴様には事前に教えておく。スピットブレイクの目標はパナマではない。直前でアラスカに変更する命令を出す」

「……評議会はご存知なので?」

「いや、知らん。事前に諜報部がパナマに攻撃するという情報を流したことで、アラスカの主戦力はパナマに集中している。予定通りだ」

「……了解しました。作戦の準備に移ります」

 

評議会が知らないということに眉をひそめるも、レオハルトは敬礼をし踵を返す。だが、パトリックは背を向けて歩き去るレオハルトを呼び止める。

 

「リベラント。機体の方はどうだ」

「事前に報告した通り、性能評価実験も問題ありません。近日中にロールアウト可能です」

 

レオハルトは先日、統合三局の人間と共に完成した新型機の性能評価実験を行った。その際に発揮されたスペックは申し分なく、むしろ高性能と言えるほどだった。

 

「報告書は読んだ。統合三局と同様、強力な機体を生み出してくれたようだな。他の三機同様、我ら【プラント】勝利のための大きな剣となるだろう」

「はい。では、失礼します」

 

その後、レオハルトは【新特別開発区】に向かい、途中だった自身の新型のOSを完成させると、命令に従い【オペレーション・スピットブレイク】に参加するため動き出した。

 

JUPPITER(ユピテル)を降下ポイントまで乗せてくれる部隊の艦に移動させると、作戦開始日の前日に到着した。

 

もっとも、他の人間は本来の目標がアラスカだということを知らないため、向かう先はパナマに降下する地点である。

 

レオハルトが部屋で待機していると、再びバルドリッヒから通信が入る。

 

「どうした、バル」

「作戦前の激励をと思ってな」

「暇なのか、バル?」

「そりゃヒデェな。まぁ、激励っていうのも本当だが、本題は別だ」

「……頼んでおいた件か?」

「ああ。……大丈夫だとは思うが、盗聴は無いよな?」

「事前に調べてある。大丈夫だ」

 

ここ最近、レオハルトは開発に従事していたため内部事情に疎くなってしまっている。だが、それもバルドリッヒを始めとした、レオハルト個人の情報ネットワークにより解決されている。

 

その中でも、バルドリッヒは特別である。バルドリッヒは表向き、隊長として隊を率いているが、それとは別に裏の顔も併せ持っている。

 

【プラント】情報部の人間でもあるのだ。そのため、彼独自の情報網を駆使して表裏問わず、情報収集を頼んでいるのだ。

 

そして、レオハルトは先日、そんなバルドリッヒに密かに頼んでおいたことがあったのだ。

 

「ダンナの言う通りだ。クライン前議長が、裏でちょくちょく動いていたようだ。“何か”をジャンク屋を使って輸送したようだ」

「それは?」

「苦労したんだぜ、突き止めるの。……輸送したのは、解体されたMSだ」

「(解体されたMS?……まさか)」

「クライン前議長はそれで、地球のエネルギー問題を何とか言ってたらしいぜ」

 

バルドリッヒのその言葉を聞き、レオハルトは直感する。あの機体だと。同時に、レオハルトに怒りが湧きあがってくる。

 

その行動を、命じた本人がするのかと。シーゲルにすれば、だからだったのかもしれない。だが、その行動は【プラント】にとって大きな危険も孕んでいる。

 

「わかった。もう一つは?」

「ああ、そっちか。そっちの方も、ダンナの予測通りだ。まったく、ダンナは超能力者か何かなのか?」

「だったら楽だよ」

「そりゃそうだ。ダンナの言っていた通り、ラクス・クラインを中心とするクライン派と呼ばれる人間が増え続けている。上から下までな。宗教みてぇだよ」

 

父であるシーゲルを凌ぎ、現議長であるパトリックをも上回るカリスマ性を持つラクス・クライン。そんな彼女を中心とした一派が、クライン派と呼ばれる手段である。

 

無論、そのようなものが以前からあったわけではない。パトリックが議長に就任したことで【プラント】は軍備を増強し、連合との戦争に決着が付くまで続けるつもりでいる。

 

だが、ラクス・クラインを始めとしたクライン派は戦争反対派である。どこかで折り合いをつけ、戦争の早期停戦、早期終戦を求めている。

 

長く続く戦争に、【プラント】にも戦争に疲れている人間が存在するということだ。誰もが、パトリックに賛同しているわけではない。

 

「俺の勘ではそのうち、何かやらかしそうだな」

「その可能性が高いだろうな。それほど彼女に同調する人間がいれば、決起する気が起きても不思議はない」

「力を持てば、人間は変わるってことかねぇ。まぁ、それはザラ議長も同じな気もするがな。それで、ダンナはザラ派とクライン派。どっちにつくんだ?」

「……俺は【プラント】を護る。それだけだ。派閥に興味は無い」

「ダンナならそう言うと思ったぜ。だが、周りはそうもいかないぜ。それじゃ、報告は以上だ。作戦の成功を祈ってるぜ」

 

真面目な顔から一転。バルドリッヒは最後に野生的な笑みを浮かべると、画面から消える。レオハルトは天井を仰ぎながら、バルドリッヒの言葉を反芻する。

 

「バルの言う通りだな。……面倒なことだ」

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

「すべてにおいて、高い数値を叩き出している。成功だな」

「最大の欠点を除けばな。それさえ無ければ、最強のコーディネイターと言えるだろう」

「……本人の前だ。そのような物言いは止めてくれ、ユーレン。では、失礼する」

「……その優しさは、罪滅ぼしのつもりか?私とお前は、同じ穴のムジナだ。貴様に批判する権利があると思うなよ、フォード」

「……十分承知しているさ」

 

その瞬間、レオハルトの意識が覚醒する。レオハルトが周囲を見渡すと、JUPPITER(ユピテル)のコックピットだった。

 

「(眠ってしまったか……。作戦前だというのに。だが、懐かしい夢だな……)」

 

事前に通達された【オペレーション・スピットブレイク】の開始時間を前に、レオハルトはJUPPITER(ユピテル)のコックピットで目を閉じ精神統一をしているところだった。

 

その際、眠ってしまっていたようだった。パトリックの作戦開始の号令が下る前に目が覚めたのは、不幸中の幸いと言える。

 

そして、ついにその時は来た。

 

遠く離れた作戦司令室で、パトリックはついに全軍に作戦開始の号令を出す。

 

「この作戦によって、戦争の早期終結が叶うことを願う。真の自由と、正義が示されんことを。【オペレーション・スピットブレイク】、開始!!攻撃目標、JOSH-A!!」

「【オペレーション・スピットブレイク】、開始。攻撃目標、JOSH-A。アラスカ!」

 

パトリックの号令を受け、多くの管制官が作戦に参加する全部隊に作戦開始と、目標の変更が伝えられる。

 

それはレオハルトが乗る艦にも同様に、作戦開始と目標変更の命令が下された。だが、目標が突然パナマからJOSH-A(ジョシュア)に変更されたことで、レオハルトを除く人間は大混乱である。

 

その後、降下部隊は急いで移動を開始。パナマへの降下ポイントから、JOSH-Aの降下ポイントに移動。

 

作戦開始の号令が下されたのは五月五日。だが、移動に時間が掛かり作戦が実行されたのは五月八日。

 

連合軍の最重要拠点、JOSH-Aに対して【ZAFT】の猛攻撃が始まるのだった。

 

 

 

 

地球へと降下したレオハルトは、地上部隊から射出された“グゥル”に乗りJOSH-A攻撃に合流。

 

だが、JUPPITER(ユピテル)の欠点は遠距離の武装が少ないこと。そのため、レオハルトはエネルギーを無駄にしないよう敵を精確に一発で仕留めていく。

 

敵艦に関しては、水中部隊のグーンやゾノによって着実にその数を減らしている。機械のように引き金を引き敵を撃破していると、レオハルトはある違和感に気付く。

 

「(やけに歯応えが無い。主力が不在とはいえ、この程度なのか?敵がユーラシア連邦所属ばかりというのも気になる。何か裏があるのか?)」

 

レオハルトが拭えきれない不安に襲われつつも、確実な証拠があるわけでもない。これはレオハルトの勘に過ぎないのだ。

 

「リベラント隊長」

 

不安を抱えつつも敵の掃討に動いていると、サブモニターに銀髪の少女が映る。その少女は以前、レオハルトに勝負を挑んできたラミリア・オリンベルだった。

 

「ラミリア、だったか?参加していたのか」

「ええ。リベラント隊長も参加されていたのですね」

「ザラ議長の命令だからな。断ることは出来ない」

「ザラ議長も慎重ですね。主力を欠いた連合相手に、リベラント隊長を投入するとは」

「それほど重要と言うことだろう。ザラ議長の覚悟を表している」

 

会話しつつも、お互いに戦場から目を離すことはしない。ラミリアは紫に塗装された指揮官用ディンを操り、敵艦を撃沈していく。

 

「確かにそうですね。ですが、この戦力差だと何事もなく終わりそうですね。……計画通りに」

 

その時、水中部隊がJOSH-A中枢部の入り口を発見。滝の裏側に造られた入り口を破壊すると、ジンやディンが続々と中に入り込んでいく。

 

「どうやら、入り口を発見したようですね」

「そのようだな。……パナマの主力部隊も間に合わないだろうな」

「間に合ったとしても、やることには変わりありませんが」

「ああ。残るは……“アレ”の撃沈か」

 

そう言うと、レオハルトは海面ギリギリを航行する【アークエンジェル】に視線を向ける。

 

攻撃が直撃したのか、右舷のカタパルトがむき出しになってしまっていた。艦体は所々が黒く焦げ、大分攻撃を受けたことが想像出来る。

 

そんな時、敵基地から一機の戦闘機が飛び立つと、むき出しになっているカタパルトに突っ込んでいった。

 

「(無茶をするものだ。だが、そうまでしてあの艦に乗りたいということは、余程の理由か)」

「連合の新造艦ですね。私が墜としてきましょうか?」

「いや……。あの艦は因縁のある、あいつに討たせてやってくれ」

 

レオハルトが横へと視線を向けると、“グゥル”に乗って猛スピードで【アークエンジェル】に迫る機体を見る。

 

「クルーゼ隊のイザーク・ジュールですか。なるほど。確かに、因縁があるようですね。では、彼に譲りましょう。私は別に行きます」

「ああ」

 

サブモニターからラミリアが消えると、レオハルトは【アークエンジェル】に攻撃を仕掛けるイザークを見る。

 

だが、そこで不思議なことに気付く。【アークエンジェル】が、布陣の薄いところを狙って離脱をするような動きを始めたのだ。

 

イザークはそれを追い、背後から攻撃を仕掛け追いつめていく。

 

「(離脱する?何を考えている……)」

「今日こそ墜とす!奴らの分までな!!」

 

イザークは鬼気迫る表情でそう叫ぶと、右手に握るビームライフルの引き金を引く。同時に、右肩にある武装、“シヴァ”も同時に発射。続けてミサイルも発射。

 

“シヴァ”は外れ、ビームは【アークエンジェル】の特殊装甲【ラミネート装甲】に阻まれるも、撃墜し損ねたミサイルが直撃する。

 

【アークエンジェル】に攻撃を仕掛けるのは、イザークだけではない。正面からも、ジンやシグーの混成部隊が攻撃を仕掛ける。

 

これまでの攻撃で、【アークエンジェル】は瀕死。撃沈する寸前である。さらに、イザークや何十機ものMSが狙っているのだ。

 

「(……終わりだな。今まで生き延びたあの艦も。……っ!何か来る……!)」

 

一機のジンが【アークエンジェル】の迎撃攻撃を突破し、【アークエンジェル】の艦橋に銃口を突きつけた。

 

【アークエンジェル】の終わりを確信したその時、レオハルトの頭に何かが奔る。その瞬間、レオハルトは何かが来ると直感し空を見上げた。

 

レオハルトが空を見上げた瞬間、ジンが手にしていた重突撃銃が爆発する。そして次の瞬間には、そのジンも撃墜されてしまった。

 

「(何!?)」

 

一瞬の出来事に、レオハルトは驚愕する。先ほどまでいたジンはすでに居なくなり、代わりにトリコロールの機体が【アークエンジェル】を護るように立ちはだかっていた。

 

「バカな……!」

 

その機体を見て、レオハルトは思わず驚きを口にする。

 

本来なら居るはずの無い機体。ここに居てはならない機体。レオハルトはモニターに映る機体を見ながら、拳を振り上げた。

 

「何故、ここに居る……!!」

 

本来ならば、【プラント】本国で眠っているはずの機体。先月、【プラント】によって開発され完成した新型機ZGMF-X10A Freedom(フリーダム)

 

その時、レオハルトの元に暗号電文が届く。

 

Freedom(フリーダム)、強奪』

 

「(強奪だと……?外部の人間が入り込めるセキュリティじゃない。……内部に裏切り者がいる)」

 

情報提供者は、本国に居るバルドリッヒ。彼がいち早くこの情報を手に入れ、レオハルトへと伝えたのだ。だが、彼とて強奪された機体がまさかJOSH-Aに居るとは夢にも思わなかっただろう。

 

レオハルトを断続的に襲う頭痛。チクチクと痛む頭痛をわずらわしく思いながらも、レオハルトの視線はFreedom(フリーダム)から動かない。

 

「(その機体に乗っているのは、お前なのか……!)」

 

Freedom(フリーダム)を睨み付けるレオハルトの脳裏には、一つの予想があった。

 



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Mission - 24 偽りのユダ

はい、更新です。

今回も、私の予想以上に更新することが出来ました。
この調子を、出来るだけ長く維持したいものです。

そして今回、『ASTRAY R』のキャラが出ているのですが、『ASTRAY R』を知らないのでそのキャラは完全なオリジナルです。

本物と違う、というコメントは控えて頂けると嬉しいです。

どんなキャラかなと考えてみたところ、書いてあるようなキャラが一番に思い浮かびました。
我ながら、若干引くキャラです。

でも、不思議と嫌いじゃないです。

次回の更新は、出来れば今週中。
遅くても、来週には更新したいです。



「何故、ここに居る!パイロットは……!!」

 

有り得ない現実に驚きつつも、あるはずの無い機体が目の前にいるのもまた事実。

 

レオハルトが驚きで固まっていると、Freedom(フリーダム)は大きく背部のウイングを広げる。続けて、両肩・両腰から装備が向けられる。

 

「!! マズい!!」

 

レオハルトがFreedom(フリーダム)のその行動から、何をするのかを悟る。だが、すでに時遅く、Freedom(フリーダム)のマルチロックオンシステムが働き、一度に多数のMSを撃墜する。

 

正しくは撃墜ではない。正確に言うと、戦闘不能である。機体を爆散させずに、MSが戦闘不可能に陥る箇所を精確に射抜いているのだ。恐るべき技量。並の技量ではないことは確実だった。

 

「(撃墜ではなく、戦闘不能に追い込む。それが、お前の出した答えか)」

 

レオハルトが苛立たしげに胸中で呟く間も、Freedom(フリーダム)は【ZAFT】の攻撃はすべてシャットアウトし、逆に敵を撃破していく。

 

だがその時、レオハルトは耳を疑った。

 

「【ZAFT】・連合、両軍に伝えます。アラスカ基地は間もなく【サイクロプス】を作動させ、自爆します」

「なっ!?」

 

レオハルトはFreedom(フリーダム)のパイロットからのその言葉を聞き、反射的にアラスカ基地へと視線を移す。外にいる友軍もいるが、大部分は内部に侵攻している。

 

「(くそっ、そういうことか!基地を囮にして俺たちを誘い込み、さらには戦争終結後を見据えて、ユーラシアの戦力をそぎ落とすつもりか!確かに、それならユーラシア連邦の部隊しかいないのも頷ける)」

 

たった一人、連合の状況に不信感を抱いていたレオハルトを除き、他の人間はそうもいかない。謎のMSに乗っているとはいえ、Freedom(フリーダム)は【アークエンジェル】を援護している。

 

敵を援護しているなら、援護しているMSもまた敵。今回の作戦の指揮を執るボズゴロフ級の艦長は警告を一蹴する。

 

【ZAFT】兵が次々と攻撃を仕掛けていく中、ラミリアは傍観に徹し【アークエンジェル】から発進した敵戦闘機と戦闘していたイザークは、レオハルトの脇に機体を寄せる。

 

「リベラント隊長。どうしますか?」

「(冷静になることを覚えたか。良い傾向だ)イザークか。……あいつは強いぞ?」

「やらせてください、俺に」

「……冷静にな。いざとなれば、俺も援護に入る」

「了解!」

 

イザークは今まで、互角の敵としか戦闘をしてこなかった。無論、演習では各上とやることがあったかもしれない。だが、命のやり取りをする戦場という場所では無いはずである。

 

もしそんな相手がいれば、イザークはここにはいないだろう。今までの戦闘を考えるに、Freedom(フリーダム)は敵を撃墜するようなことはしない。戦闘不能に追い込むだけである。

 

だからこそ、レオハルトはイザークの経験のためにも戦うことを許可した。

 

レオハルトの許可を得るや否や、イザークの動きは早かった。

 

「はぁああああ!!」

 

イザークは牽制でビームを撃つと、Freedom(フリーダム)はシールドで防御。イザークはビームライフルをマウントすると、右手にビームサーベルを手にする。

 

DUEL(デュエル)!!」

「墜ちろぉーっ!!」

 

イザークがビームサーベルを振るうが、Freedom(フリーダム)はわずかに後退し回避。Freedom(フリーダム)は両腰に装備されている“MMI-M15クスィフィアス レール砲”を発射。

 

弾丸を高速射出することが可能なレール砲が、イザークを襲う。だが、イザークも素早く反応しシールドで防ぐが、大きな衝撃がイザークを襲う。

 

「ぐあっ!!」

 

Freedom(フリーダム)は左腰から“MA-M01ラケルタ ビームサーベル”を抜くと、イザークへと斬りかかる。

 

イザークはすぐに体勢を立て直すと、Freedom(フリーダム)とビームサーベルと切り結ぶ。

 

「すぐに撤退しろ。死にたいのか!」

「貴様を討った後でな!」

 

イザークはFreedom(フリーダム)のパイロットの言葉にそう反論すると、“シヴァ”の銃口をFreedom(フリーダム)の頭部に向けて発射した。

 

だが、Freedom(フリーダム)は頭を傾けて避けると、Freedom(フリーダム)DUEL(デュエル)の腹部を蹴り上げ、距離を取る。

 

Freedom(フリーダム)は宙返りをすると、イザークへと襲い掛かる。

 

だが、寸前のところでレオハルトがビームを放ち、Freedom(フリーダム)を攻撃。イザークへの攻撃を止めさせると、続けてビームを撃ち込んでいく。

 

「このMS……!!」

「(ちっ!当たる気配がしない。強奪された機体がここにあり、俺の不信感も奴の言葉で納得出来た。ウソを言っているとは考えにくい。……潮時か)」

 

レオハルトはFreedom(フリーダム)へ攻撃を仕掛けるも、Freedom(フリーダム)はすべての攻撃を軽々と回避している。他にも、多数のMSを相手取っているのだ。

 

レオハルトは現状の戦力ではFreedom(フリーダム)を討ち取ることは不可能と判断すると、レオハルトはすぐに行動に移った。

 

「特務隊【FAITH】、レオハルト・リベラントだ。【FAITH】権限を行使し、現時刻を以て私が指揮を執る。全部隊に通達。現戦闘宙域より離脱せよ。異論は認めない。即座に撤退を開始せよ」

 

レオハルトがオープンチャンネルでそう呼びかけると、【ZAFT】は即座に反転。撤退を開始した。

 

だが、撤退を開始して数分後にそれは起きた。

 

ついに【サイクロプス】が起動。【サイクロプス】とは、簡単に言えば巨大な電子レンジである。電子レンジと同じマイクロ波を放射し、さらにマイクロ波の強度を増加。周囲一帯にマイクロ波加熱を発生させることが出来る。

 

大抵の生物は半分以上が水分で構成されているため、起動した【サイクロプス】の有効範囲内にいる生物は、体内にある水分が急激に加熱・沸騰させられ、更に水蒸気が全身の皮膚を突き破って爆発し、最終的には破裂死に至ってしまう。

 

レオハルトが早期に撤退命令を出したとはいえ、すべてのMSが有効範囲内から逃げられたわけではない。逃げ遅れたMSのパイロットは、マイクロ波によって体内の水分が加熱・沸騰させられ、コックピットで破裂死してしまった。

 

「急げ!急げ!!」

 

レオハルトが声を張り上げるが、それでも急速に迫るマイクロ波から逃げることが出来ず機体が大破する機体も現れた。

 

だが、直前でFreedom(フリーダム)が手を掴むと、手を引っ張って離脱していく。

 

「……」

 

レオハルトはその様子を横目で確認しつつも、レオハルトも可能な限り友軍を救助しつつ離脱していく。

 

ようやくマイクロ波が収束し爆発が収まると、レオハルトは“グゥル”から地上を見下ろす。

 

そこには着陸した【アークエンジェル】やFreedom(フリーダム)が居り、傍にはFreedom(フリーダム)が救助したジン。そしてパイロットと思われる男が横たわっていた。

 

そして、男を心配そうに見る【ZAFT】の赤のパイロットスーツを着た少年。レオハルトは“グゥル”から飛び降り、スラスターを操りながら静かに着地する。膝をつき、手を差し出した状態で停止する。

 

「【ZAFT】!?」

「おいおい、あの機体はまさか……!」

 

突然の【ZAFT】の登場に【アークエンジェル】艦長マリュー・ラミアスを始めとしたクルーは慌て、ムウは見覚えのある機体に表情を歪ませる。

 

「……戦闘の意思は無い。そこの【ZAFT】兵を返還してもらいたい。本国で葬らせてもらう」

「そう言われても……」

「それじゃあ、降りて来てもらえるかい?【ZAFT】のエースさん」

「いいだろう」

 

レオハルトはコックピットを出ると、ラダーを使って地上に降り立つ。クルーたちは目の前に現れたレオハルトに警戒心を露わにするも、ムウはそこまででは無かった。

 

ムウはレオハルトへと歩み寄ると、数mの距離を開け二人は立ち止まった。

 

「ヘルメットは取ってもらえないのかな?」

「……」

 

ムウが軽い口調で尋ねると、レオハルトは両手をヘルメットへと掛ける。ヘルメットを取ると、紅の髪とレオハルトの素顔が太陽の下にさらされる。

 

「あらら。思ったより若いな、【黒鷹(コクヨウ)】さんは」

「連合では、俺のことをそう呼んでいるらしいな。興味は無いが」

「クールだこと」

「【エンデュミオンの鷹】と話すために来たわけではない。彼を返還してもらおう」

「俺たちが葬るより、故郷で葬られた方がいいだろうな」

 

ムウがそう言うと、レオハルトはFreedom(フリーダム)パイロット、キラ・ヤマトの隣で息を引き取った男性パイロットへと歩いていく。

 

「…………」

「……前に、一度お会いしましたよね。アフリカで」

「…………」

 

キラが恐る恐ると言った感じで話しかけてくるが、レオハルトは何も答えない。男を抱え上げると、レオハルトは踵を返し機体に歩いていく。

 

レオハルトは男をJUPPITER(ユピテル)の差し出した両手に乗せると、ラダーに捕まりコックピットへと戻っていく。

 

「……死んだと思っていたが、生きていたとはな」

 

コックピットに入る寸前、レオハルトはキラを見ながら呟くとヘルメットを被りコックピットへと身体を滑り込ませた。

 

レオハルトはフットペダルを強く踏み込み飛び上ると、空中で制止していた“グゥル”に飛び乗り友軍と合流。

 

レオハルト指揮の下、レオハルトは残存部隊を素早くまとめるとカーペンタリア基地に帰還。カーペンタリア基地にて、レオハルトは本国と連絡を取ることにした。

 

「レオ」

「ラウか」

「さすがだな、レオ。冷静に状況を判断して撤退し、残存部隊を即座にまとめ上げるとは」

「……お前は、何をしていたんだ」

 

パトリックとの連絡を取ろうとする道中、レオハルトはクルーゼに呼び止められた。笑みを浮かべながらレオハルトを称賛すると、クルーゼは踵を返して歩き去ろうとする。

 

その背中に、レオハルトは静かに問いかけた。

 

「どういう意味かな、レオ」

「言葉通りの意味だ。戦闘でも見かけなかったからな」

「戦闘は君に任して、私は楽をさせてもらったよ。敵情視察を行った後は、艦にいたよ」

「……そうか」

 

レオハルトは厳しい表情で歩き去ると、クルーゼがその背を見送る。だが、クルーゼもすぐに背を向けると、お互い逆の方向に歩き始めた。

 

「やれやれ、さすがは我が友だ。すぐに異常を察知し、撤退を命じるとは。計画では、もう少し数を減らせると思ったのだがな。まぁいい。ハプニングがあった方が、楽しめるというものだ。結果は同じなのだから」

 

レオハルトは本国のパトリックに一通りの報告を行うと、すぐに本国帰還の命令を受けJUPPITER(ユピテル)と共に本国へ帰還するのだった。

 

 

 

 

 

レオハルトが【プラント】本国のアプリリウス市に到着した時、議事堂内はいつもとそれほど変わらない様子だった。

 

だが、それは時間が経ったからである。【オペレーション・スピットブレイク】が失敗したという情報が流れた直後は、大混乱に陥っていた。

 

だが、それもカーペンタリアに帰還したレオハルトの報告により混乱も沈静化し、次の作戦に向けて準備を進めている。

 

レオハルトの足は一目散にパトリックへと向けられる。エレベーターで一気に最上階まで上がり通路を歩いていると、正面から歩いて来る人物を見て表情に嫌悪感が浮かぶ。

 

「これはこれは、リベラント隊長。地球では大変でしたな。ですが、それも仕方ありません。作戦内容が漏洩していたのですから、あなたのせいなどではありませんよ」

「……気安く俺に話しかけるな」

「これは手厳しい。あなたは私を嫌いなようですが、私はあなたのことが好きなのですがね」

 

人を小馬鹿にしたような態度と口調。本人に自覚があるのかどうかは不明だが、無くてこれならある意味才能である。

 

この男はアッシュ・グレイ。【プラント特殊防衛部隊】隊長で、実力だけなら【FAITH】に任命されるほどの実力の持ち主である。

 

「貴様が何故ここに居る。貴様の興味は戦場だけだろう」

「仰る通り。ですが、ザラ議長から特命を受けまして。シーゲル・クライン、及びクライン派の抹殺という命令を受けました。ラクス・クラインに関しては、どうやら逃げられたようで」

「……貴様がそんな命令を引き受けるとはな」

「これは心外です。私も軍の人間です。命令されたら拒めませんよ。……もっとも、元議長という人物を殺せる機会に魅力を感じたのも事実ですがね。クフフフッ」

「(クズが……)」

 

不気味な笑い声を上げるアッシュに、レオハルトは侮蔑の視線を向ける。この男が軍に居る理由はたった一つ。

 

『合法的に人を殺せるから』。これだけである。【プラント】を護りたいやパトリックへの忠誠心など、そんな気持ちは微塵も無い。

 

「おや?クフフッ、そんな眼で見ないで下さいよ。……興奮しちゃうじゃないですか」

「…………」

「では、私はそろそろ失礼します。獲物の捜索をしなければいけませんので」

 

オマケにドMの変態である。

アッシュはシーゲルのことを獲物と表現すると、不気味な笑い声を上げながら立ち去っていく。

 

レオハルトはアッシュと会ったことで嫌悪感を覚えながら急ぎ足で歩き始めると、パトリックの待つ部屋へと向かった。

 

「失礼します。特務隊、レオハルト・リベラントです」

「来たか。地球ではご苦労だった。貴様の撤退の判断が早かったお陰で、被害は最小限だ」

「ありがとうございます。ですが、最小限とはいえ無視できない被害でした」

「その通りだ。忌々しいことにな。地上部隊の戦力が低下したことは否めん」

 

アラスカ基地で爆発した【サイクロプス】の被害は、無視できない結果に終わってしまった。レオハルトが早期に撤退を命じたとはいえ、残っていた部隊すべてが撤退出来たわけではない。

 

さらには、突然戦闘に乱入したFreedom(フリーダム)によって大破に追い込まれた者も多い。撃墜されたわけではないとはいえ、あの状況で救助することが出来るわけも無かった。大半は【サイクロプス】に巻き込まれて死亡してしまった。

 

「クラインのことは聞いているな」

「ラクス・クラインが、Freedom(フリーダム)強奪の手引きをしたと」

「その通りだ。監視カメラにも映像が残っている。シーゲルについても行方不明で、現在捜索中だ。ラクス・クラインについては、一度は発見したが逃亡を許してしまった」

「……ザラ議長。【司法局】を動かしたと聞きました」

 

【司法局】。

 

レオハルトの所属する【FAITH】と同様、一般的な【プラント】の命令系統の外側に存在する組織である。

 

命令権限は【最高評議会議長】のみに許されており、【プラント】の法律を無視し【最高評議会議長】の命令という、ある種の“法律”で行動する。

 

評議会議員などの【プラント】要人の拘束に動くことが主な任務。彼らには特別権限が許可されており、拘束を無視した場合は武力行使も許されている超法規的部隊なのである。

 

「そうだ。クライン共がスピットブレイクの情報を漏洩させたことは確実。だというのに、カナーバらは私を批判する始末だ。この状況で私を批判するなど、愚の骨頂だ!

「……」

「司法局を動かして拘束し、クラインらとのつながりを調査する。貴様には、シーゲル・クラインの捜索を命じる」

「拘束ですか?」

「必要無い。発見次第、射殺しろ」

「……っ!射殺、ですか……」

「そうだ。生かして拘束したところで無意味だ。膿は取り出さなければいかんのだ。【プラント】の勝利のために!いいな、リベラント」

「……了解しました」

 

パトリックからの予想にもしなかった命令。前議長を射殺しろという命令に、レオハルトは一瞬驚愕に表情が歪む。

 

だが、すぐに平静を取り戻しパトリックに聞き返すと、パトリックは険しい表情で肯定した。レオハルトは左手で握り拳を作りながら、右手で敬礼をすると踵を返す。

 

「ザラ議長。一つ、質問してよろしいでしょうか」

「何だ」

「アッシュ・グレイを任務に投入した理由を教えて頂きたいのですが」

「……貴様の言いたいことは分かる。確かに、大きな難のある人間だ。だが、同時に実力は高い。あんな性格でなければ、【FAITH】に任命するほどにな。貴様なら理解してくれると思うが」

「……任務に向かいます。では」

 

それ以上は何も言わず、レオハルトは足早にその場を立ち去る。パトリックの部屋を出ると、白服の男が立っていた。

 

「バル」

「ん?おおっ、話は終わったみたいだな」

「何か用か」

「急いでるみてぇだな。任務か?」

「クライン前議長の抹殺命令を受けた」

「おおっ、そりゃ怖ぇ。……本気だな、ザラ議長は」

 

バルドリッヒは冗談っぽく両手で身体を抱きながらそう言うと、すぐに真面目な顔でそう呟いた。その言葉にはレオハルトは何も言わずエレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押した。

 

「うぉーい!」

 

エレベーターのドアが閉まる寸前、バルドリッヒはギリギリで身体を滑り込ませて入ると、何事も無かったように半円形のソファーに腰を下ろすレオハルトに視線を向ける。

 

「あまり気乗りしてないみてぇだな」

「……ああ。クライン前議長が【プラント】を裏切って何の得がある。【プラント】が不利になるだけだ」

「確かにな。だが、今のザラ議長には言っても無駄だろうな。【司法局】まで動かしちまったんだ」

「……それで、お前は何しに来たんだ。その話をしに来たのか」

「おかしいか?久し振りに、ダンナに会おうと思ってな」

 

そう笑顔で話すバルドリッヒだが、腕組みをして右腕の下からわずかに覗く左手に一枚の紙を握らせる。

 

「……じゃ、幸運を祈ってるぜ」

 

レオハルトも何も言わずにそれを受け取り握り締めると、一階に到着したエレベーターを降り別々の方向に歩いていく。

 

議事堂を出てレオハルトはエレカに乗り込むと、バルドリッヒから渡された紙を開く。

 

「…………」

 

紙には、アプリリウス市内の三つの住所が書かれていた。そして、それぞれの住所の末尾にはS・Cと書かれていた。

 

「(S・C……。……シーゲル・クライン。仕事が早い。バルに感謝だな)」

 

エレベーター内には監視カメラが仕掛けられているため、大っぴらにこんな手紙を渡すことは出来ない。そのため、バルドリッヒはカメラの死角を利用してこの紙を渡してきた。

 

レオハルトがシーゲルと個人的に親しかったことは、バルドリッヒなら容易に調べることが出来るし知ることが可能。だからこそ、レオハルトに一番に知らせて話す機会をくれたのだ。

 

「……」

 

レオハルトはエレカの灰皿に紙を押し込むと、ライターで火を点け証拠隠滅を図る。エンジンを入れ、レオハルトはエレカを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

深夜、レオハルトは拳銃を二丁装備して武装すると、バルドリッヒから知らされた一つの住所にエレカを走らせる。

 

昼間のうちに三つの場所を回り、レオハルトはある程度の目星をつけていた。出口が多く、侵入者を見つけやすい場所。

 

出口が多いということは敵の侵入口が多いことも表すが、同時に逃走経路が多いということだ。侵入者を察知しやすいということは、待ち伏せをしやすいということ。

 

レオハルトは離れた場所でエレカを止めると、闇に紛れながら近づいていく。

 

レオハルトが目星をつけたのは、アプリリウス中心部から離れた一件のレストラン。すでにレストランは放棄されており、内装も手付かずの状態だった。

 

「(クライン前議長の性格からして、付近に配慮して爆発物などを仕掛けることはしていないはず。つまり、居るのは人間と侵入を察知するトラップのみ)」

 

レオハルトは両手に黒手袋をはめると、消音器(サイレンサー)を付けた銃を取り出し静かに接近する。

 

まずレオハルトは建物の周囲を捜索し、万が一のため自身の逃走経路・逃走方法を確保するために動き出した。

 

準備が終わると、レオハルトは裏口に回り込む。壁に背を預けつつ静かにドアを開け、ゆっくりと身体を下げていき屈む。砂を適当に掴むと入り口に向けて砂を投げる。

 

「(……赤外線は仕掛けられていないか。誘われている?……行くしかないか)」

 

レオハルトは立ち上がると、慎重に奥へと進んでいく。一つ一つ部屋を調べていくが、人影は無い。むしろ、人の気配さえ感じられない。

 

最後の広い部屋に入ると、レオハルトは陰に隠れながら進み調べていく。誰も居ない現状に、レオハルトは自らのミスを想像する。

 

瞬間、部屋の照明が灯される。

 

「!?」

 

すぐにレオハルトは陰に潜み屈み、姿を隠す。

 

「よく来たね、リベラント君」

 

聞き覚えのある声に、レオハルトは驚く。同時に、周囲から一斉に人の気配が現れる。レオハルトは自分の存在がバレている以上、隠れていることに意味は無いと判断し姿を現す。

 

「来ると思ったよ。パトリックも本気ということか」

「そういうことです。ザラ議長は、あなたやラクス・クライン、クライン派の抹殺を命令しました」

 

レオハルトの視線の先には、今や追われる身となったシーゲル・クラインの姿があった。レオハルトは数mの間を空け、立ち止まった。

 

「君も、私が裏切ったと思うかね?」

「重要なのは、周囲の認識。ラクス・クラインはFreedom(フリーダム)強奪の手引きをしました。あの機体には、【Nジャマーキャンセラー】を搭載しているというのに」

「……」

「それと時を同じくして、あなたも姿を消した。スピットブレイクの失敗に続き、今回の強奪事件。関連付けするのも仕方ないことと言えるでしょう」

「だが、私は【プラント】を裏切ってなどいない」

「言ったでしょう。周囲の認識が重要だと。本人が何を言おうと、周囲が黒だと言えば黒になってしまうこともある。それが、人間でしょう」

 

本人がある事柄についてどれだけ否定しようと、周囲の人間が一度でも受け入れてしまえばそれを覆すことは難しい。火のない所に煙は立たぬということわざもあるように、一概に否定することも出来ないということもある。

 

だからこそ、レオハルトはシーゲル個人の認識を重要視していない。問題なのは、【プラント】のトップであるパトリックがそう断言し、各部署にそういう通達をしているということだ。

 

まだ未公表だが、いずれクライン親子の国家反逆罪が公表され、情報操作が行われることだろう。

 

「それに、一概に違うとは思えない」

「どういう意味かな」

「……ジャンク屋を使って、解体されて廃棄されるはずだったドレッドノート(勇敢なる者)を地球に向けて輸送した」

「……」

「どういうおつもりですか。あの機体には、未完成とはいえ【Nジャマーキャンセラー】が搭載されていました。万が一、連合の手に渡れば奴らはまた核を手にすることになる」

 

バルドリッヒから提供された情報。解体されたMSとはすなわち、数ヶ月前にデータ収集機として開発されたドレッドノート(勇敢なる者)

 

あの機体には【Nジャマーキャンセラー】が搭載されていた。これは名称の通り、【Nジャマー】の効果を打ち消すことが出来る。

 

これを解析すれば、【Nジャマー】の効果を受けない核を開発することが出来る。コーディネイター抹殺を目指す【ブルーコスモス】にしてみたら、最高の兵器だと歓喜し嬉々として使うことは容易に想像出来る。

 

すなわち、シーゲルの取った行動は【プラント】に大きな脅威を与えることになった。

 

「アレがあれば、【Nジャマー】によって発生したエネルギー問題を解決することが出来る。そしたら!」

「そのためなら、自国を危険にさらしてもいいのか!!」

 

レオハルトはそう怒声を上げ、シーゲルに問い詰める。わずかに怯むも、シーゲルは表情を引き締め反論する。

 

「私のしたことで多くの民間人が犠牲になったのだ!君も承知しているだろう!」

「何度も言わせるな!貴様のそれは自己満足だ!自らの偽善のために、自国を危険にさらすな!国のトップを務めた人間が、そんなことをして許されるものか!!」

「私を諌めてくれたのは君だろう!」

「俺を言い訳に使うつもりか!自らの偽善に言葉を上塗りするな!答えは一つだ!貴様の行動は、【プラント】を危険にさらした!それだけだ!!」

 

室内に反響する両者の声。レオハルトは銃を引き抜き、シーゲルに照準を合わせる。瞬間、周囲にあった気配が殺気立ち、一斉にレオハルトに銃口を向けられる。

 

レオハルトは軽く周囲を見渡し敵の位置を確認すると、シーゲルに視線を戻す。

 

「(八人か)……貴様は大きな罪を犯した。許されることではない」

「私を撃つ気かね?私を殺したところで、何も変わらんぞ。私は作戦の漏洩などしていないのだから」

「泥を被ってもらう。この時期にスパイ探しなどやっている暇は無い。貴様らに泥を被せれば、とりあえず混乱は沈静化するだろう。……一時的であったとしてもな」

「自らの意思ではなく、パトリックの意思で動くつもりかね。リベラント君」

「俺の意思だ」

 

レオハルトは目を閉じると、左手に持っていたスイッチを押し建物の照明を落とす。レオハルトは事前に目を閉じてはいたが、不思議なくらいによく見えていた。

 

レオハルトは持っていたスイッチを放り投げると、左手にも銃を手にする。両側に銃口を向け、同時に引き金を引く。

 

一発で額を射抜くと、次なる敵に狙いを定める。引き金を二度引き絶命させると、次々と敵を打ち殺していく。

 

数秒足らずでシーゲルの護衛を始末し終えると、部屋の照明が再び灯る。明かりが点くと、シーゲルは周囲を見渡し驚愕の表情をする。

 

レオハルトは左手の銃をホルスターに収めると、右手の銃のマガジンを交換しスライドを引く。

 

「……今の停電も、君の仕業かね?」

「当然だ。敵の渦中へ飛び込むのに、無策で行くわけが無い」

「私の優秀な護衛が、この有り様とはな……。ここまでやるとは、予想外だったよ」

「後悔したところで遅い。貴様の運命は、決まっている」

 

観念したように立つシーゲルの頭に照準を合わせると、レオハルトはゆっくりと引き金を引く。銃口から吐き出された鉛の弾は、精確にシーゲルの頭を貫く。頭を貫かれたシーゲルは、力無く後ろに倒れ込んだ。

 

 

 

 

建物の外に出ると、闇に溶け込む黒い戦闘服に身を包んだ諜報部特殊部隊の姿があった。その中にバルドリッヒの姿を見つけ、レオハルトは歩み寄っていく。

 

「バル、来てたのか」

「周囲の掃討だよ。ダンナも終わったみたいだな。……殺ったのか?」

「ああ。中にシーゲル・クライン、護衛の死体が転がってる。回収を頼む」

「了解」

 

バルドリッヒは部下に指示を出すと、数人が中へと走っていく。それを見届けると、レオハルトは背を向け歩き出した。

 

「……大丈夫か、ダンナ」

「任務をこなしただけだ。心配される必要は無い」

 

バルドリッヒにそう言い残し、レオハルトは深夜のアプリリウスに消えていった。

 



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Mission - 25 力を持つ者

更新です。

今度もそれなりに早く更新できたかなと思います。

そして、今回はレオハルトにとって大きな変化のある回ではないかと思います。

では、次の更新をお楽しみに。


【オペレーション・スピットブレイク】後、【プラント】は大幅な【ZAFT】地上戦力の縮小を迫られた。レオハルトの判断により被害は軽減させることが出来たものの、その被害は【プラント】にとって小さくは無いものだった。

 

パトリックにとっても苦渋の決断ではあったが、【プラント】本国が墜ちることは負けを意味する。地上基地を失ったとしても、本国さえ無事ならまだ戦うことは出来る。

 

パトリックは戦力を喪失し立て直しの最中の本国への攻撃を恐れ、新たな作戦を立案・提案する。提案された作戦は満場一致で可決。

 

作戦内容は連合軍が所有する最後のマスドライバー、【ボルタ・パナマ】の攻略。さらに、ジブラルタル基地から四割の兵力をパナマ攻略作戦に投入。そのため、今作戦のためにアフリカ戦線の戦力をジブラルタル基地へと異動させた。

 

主戦力はジブラルタル基地の戦力で補い、カーペンタリア基地からは母艦が提供されることになった。作戦にはイザークやクルーゼも参加し、指揮権はスピットブレイクでも指揮を執った男に任されている。

 

そして、五月二十五日。

パナマ攻略作戦が発動された。

 

パナマ攻略作戦が行われている中、レオハルトは特命を受けて出撃していた。

 

ここ最近、ある宙域で哨戒任務中の部隊が謎の敵から襲撃を受け全滅した。それを受け、調査隊を派遣したが、再び全滅。

 

事態を重く見た評議会は、トップエースであるレオハルトを派遣。一時的に部隊を預け、原因究明のため向かわせた。

 

レオハルトは艦長席の隣に腰掛け、攻撃を加えてきた敵について考えていた。

 

「(ただの海賊とは考えにくいな。ただの海賊に簡単に全滅させられる部隊ではない。付近に連合の基地は無いから、連合の線も薄い。さて、どこの誰だろうか)」

 

「レーダーに反応!マーク39アルファ、チャーリー90に熱源!」

「現れたか!MS隊、発進せよ!!」

「……」

 

レーダーが一時の方向に熱源を捉えると、一気に艦内は慌ただしくなる。艦長の命令で、格納されているジンが出撃。謎の敵の排除に向かった。

 

「我が部隊は、他の部隊とは違うのです。リベラント隊長の出番はありませんよ」

「……だといいのだが」

 

【ZAFT】にいる人間すべてが、レオハルトを快く思っているわけではない。まだ若いレオハルトに嫉妬心から、敵対心を抱く者も多い。

この艦長も、その一人である。

 

レオハルトは小さく呟くと、敵へと向かっていくジンを見送る。そんなレオハルトに気分を良くしたのか、艦長はフフンと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

だが、それから数分後。艦橋には、出撃したMS全機撃墜の報が入る。

 

「ぜ、全滅だと……?我が隊が……」

「私が出る。準備させろ」

「は、はっ!」

 

愕然とする艦長を横目に、レオハルトはオペレータにそう指示し格納庫へと通じるエレベーターへと歩いていく。

 

念の為にレオハルトはパイロットスーツに着替え、JUPPITER(ユピテル)に向かう。いつも通りJUPPITER(ユピテル)を起動させ、カタパルトへと移動。

 

「レオハルト・リベラント、出撃()る」

 

宇宙へと出撃し、レオハルトは敵機へと接近していく。モニターに敵機が映し出され、レオハルトは拡大し敵機を観察する。白にカラーリングされた機体で、注目すべきは背部にある大型の物体。

 

CAT1-X1/3 Hyperion(ハイペリオン)

 

この機体はユーラシア連邦がMSを開発するため計画した、【X計画】に基づき【アクタイオン・インダストリー社】と共同開発した機体。

 

【X計画】は初めてMSの独自開発に成功した大西洋連邦への対抗手段として実行され、【ZAFT】戦後の地球連合内での発言力を維持するための国家プロジェクトである。

 

この計画で開発されたHyperion(ハイペリオン)は全部で三機。今目の前にいるのは、その一号機である。

 

「該当機は無しか。一応、所属を聞くか」

 

レオハルトはオープンチャンネルを開くと、友軍を撃墜した敵機に呼びかける。

 

「こちら【ZAFT】軍特務隊レオハルト・リベラントだ。貴官の所属と、我々に攻撃を加える理由を問う」

「……レオハルト・リベラント?待っていたぞ!」

 

敵のパイロットはそう叫ぶと、右手に持つ〔RFW-99 ビームサブマシンガン ザスタバ・スティグマト〕を向け発射してきた。

 

レオハルトは機体に急制動を掛けると、横へと回避する。だが、それを追って敵も攻撃を続けてくる。

 

「俺を待っていた?どういう意味だ」

「俺はカナード・パルス!貴様と同じ存在だ!!」

「(……カナード・パルス?……なるほど)俺に何の用だ」

「俺と同じ存在に興味を持った。お前は、何を糧に生きている!」

 

カナード・パルスと名乗った青年は、機体の背部に背負っていた大きな二門ある〔ビームキャノン フォルファントリー〕を発射する。

 

「ちっ!」

 

迫ってくる巨大なビームにレオハルトは舌打ちをすると、上へと進路を取る。上を取り攻撃を仕掛けようとビームライフルを向けた瞬間、発射された“ザスタバ・スティグマト”が迫ってくる。

 

レオハルトは攻撃を中止し回避行動をとると、激しい攻撃を続ける敵を見て思わず笑みを浮かべる。

 

「中々やる。だが!」

 

レオハルトは大きく回り込み、敵機に迫る。正面から撃たれる“ザスタバ・スティグマト”にも臆せず、レオハルトは〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を左手に携え、正面から迫っていく。

 

「さあ、答えろ!お前は何を糧に生きている!」

「そういうお前の糧は何だ」

「俺自身の存在意義のためだ!キラ・ヤマトなどより、俺の方が勝っている!優れている!俺こそ、真のスーパーコーディネイターだ!そのために、キラ・ヤマトを殺す!」

「なるほど。どうやら、俺たちは分かり合えることは出来ないようだな」

「何故だ!お前は俺と同じだろう!」

「言っている意味が分からないな。俺は、お前と同じではない!」

 

カナードはレオハルトの振り下ろされた〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を避けると、後方へと距離を取りつつ“ザスタバ・スティグマト”を撃つ。

 

対するレオハルトも、間断なく放たれるビームを難なく回避しつつ、逆にビームを撃ち攻撃を加えていく。

 

「同じだ!高い能力を持ちながら、評価されなかった!何より、俺たちは同じ場所で生まれた!」

「意味の分からないことを……。貴様は俺の敵。それだけだ!」

 

そう叫ぶと、レオハルトはリスボン基地での戦闘を教訓に開発していた、JUPPITER(ユピテル)の新武装を展開。背部のスラスターの邪魔にならないよう、二つ折りして収納可能の小型ビーム砲〔JDP8-MSY0540 ゲイ・ボー〕を二門の照準を向ける。

 

この武装は以前からビーム兵器技術検証機として稼働しているシグーディープアームズの武装、〔JDP8-MSY0270 試製指向性熱エネルギー砲〕の改良型になっている。シグーディープアームズでは一〇mある巨大な砲だったが改良の末、半分以下の三mまで縮小された。

 

シグーディープアームズでは冷却剤タンクを装備して砲身を冷却する必要性があったが、統合三局の奮闘とこれまでに蓄積されたデータと技術により解消されている。

 

だが、JUPPITER(ユピテル)のエネルギー的には厳しい部分があるため、専用のエネルギーパックを“ゲイ・ボー”に連結している。重量が増えたため機動性は若干低下してしまったが、元々が高かったためそれほど問題にはならず、レオハルト自身も自らの腕でカバーすると断言している。

 

レオハルトはカナードに向けた“ゲイ・ボー”を撃つと、すぐに“ゲイ・ボー”を二つ折りにして背部に収納。フットペダルを強く踏み込み、カナードとの距離を詰める。

 

距離を詰めつつ、レオハルトはビームライフルでカナードを追いつめていく。あっという間にカナードとの距離を0にすると、レオハルトはエネルギーを供給しビーム化した〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を振るう。

 

だが、カナードは軽やかに〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を避けると、〔ビームナイフ ロムテクニカRBWタイプ7001〕でコックピット部分を狙い突き出してくる。

 

「!」

 

だが、レオハルトの反応は早かった。レオハルトは右手にしていたビームライフルを放すと、右手で〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を引き抜き、〔天鳥船(アメノトリフネ)〕の腹で “ビームナイフ”を受け止める。

 

「お前の実力はこの程度か!」

「余計なお世話だ」

「それなら、お前の調子が上がるまで昔話でもするか!?懐かしい研究所での話を!」

「研究所……」

 

カナードのその言葉を合図に、レオハルトの心臓が激しく脈動する。早鐘のように脈打ち、呼吸も荒くなり脈も速くなる。

 

そして、フラッシュバックするかつての記憶。

 

『成功?失敗だよ。私の求めたものではない』

『お前は私たちの息子だ。誰が何と言おうとも』

『お前は戦うための存在だ。そう創った。それを忘れるな』

『私の分まで生きてくれ。わずかでもお前の父になれて、幸せだった』

 

瞬間、レオハルトの中で“何か”が割れる。それに呼応するかのように、JUPPITER(ユピテル)のモノアイが鈍く光を放つ。同時に、レオハルトの瞳が紅金に妖しく輝く。

 

レオハルトは目の前にあるカナードに“ゲイ・ボー”を向け射撃。カナードはすぐに後方へと距離を取るが、レオハルトは右手の〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を投擲する。

 

息つく間もなく、レオハルトは動く。レオハルトは手を放して浮遊していたビームライフルを手にすると、操縦桿を倒しフットペダルを踏み込みすかさず距離を詰める。

 

「(速い!?)」

 

カナードは一瞬呆気にとられるが、距離を詰めてくるレオハルト。さらには、投擲された〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を見て、カナードはすかさず“ファルファントリー”を撃つ。

 

発射された“ファルファントリー”は投擲された〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を飲み込み、レオハルトに迫る。

 

「(いない!?どこに!)」

 

いつの間にか消えていたレオハルトに、カナードは周囲を見渡す。その時、カナードは本能的に後方へと下がった瞬間、すぐ目の前をビームが通り過ぎる。

 

「左か!」

 

カナードは“ザスタバ・スティグマト”を左に向けるが、そこにレオハルトの姿は無かった。カナードが再びレオハルトを探そうとした瞬間、“ザスタバ・スティグマト”が縦に切断される。

 

「(何っ!?)」

 

カナードはスラスターを噴射し距離を取ろうと試みるが、目の前にレオハルトのJUPPITER(ユピテル)が現れる。

 

レオハルトは〔天鳥船(アメノトリフネ)〕を振るい、Hyperion(ハイペリオン)の右腕を斬り落とし腹部に蹴りを喰らわせる。

 

「ぐあーっ!!」

 

カナードは蹴られた衝撃でコックピットシートに押さえつけられる。だが、レオハルトの攻撃は止まらない。再び“ゲイ・ボー”を展開し発射。

 

素早い攻撃にカナードは反応出来ず、放たれたビームはハイペリオンの左脚を貫く。

 

「ぐうぅ……!くそがぁーっ!!撤退する!!」

 

カナードは最後に“ファルファントリー”を撃つと、機体を反転させ撤退を始める。レオハルトは撤退を許さず、追撃を試みる。

 

だがその時、機体のアラーム音が鳴り響く。レオハルトが下部のモニターに視線を下ろすと、機体の関節部分の異常を示していた。

 

「……逃がしたか」

 

レオハルトはどんどん離れていくHyperion(ハイペリオン)を見送りつつ、レオハルトは機体を反転させ帰投するのだった。レオハルトの瞳はいつの間にか普段のルビーに戻っていた。

 

帰投してレオハルトは整備員に機体を見てもらうと、関節部分がイカれてしまっているためオーバーホールする必要があるとのことだった。

 

だが、ナスカ級の中で行うのは難しいため、本国に帰投することになった。カナードがレオハルトに会うことが目的だったような口振りだったことから、もう現れることは無いと考えた。

 

レオハルトは機体をアプリリウス特別ドックに預けて修理を頼み、パトリックへの報告を終え自宅に足を踏み入れた。

 

レオハルトは中に入ると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し棚から白と青のカプセルを取り出す。カプセルを一粒口に含むと、ミネラルウォーターで一気に流し込む。

 

レオハルトは自室に向かうと、自身の特製PCの電源を入れる。

 

起動させると、高速でキーを叩きレオハルトが得意とするハッキングを仕掛ける。まずは大西洋連邦。大西洋連邦の首都ワシントンD.Cにある、メインコンピュータへ。

 

所属する兵士の中から、カナードの名前を検索する。

 

「(……違うか。所属は大西洋連邦ではない。なら、ユーラシアか)」

 

だが、答えは外れ。引き続きレオハルトはハッキングに動く。今度はユーラシア連邦首都ブリュッセルのメインコンピュータへ。

 

片っ端から検索を掛けていくと、ついにカナードの名前がヒットする。

 

「(見つけた。カナード・パルス、所属は【特務部隊X】か)……なるほど、似ているな」

 

画面にはカナードの情報が表示されると共に、顔の画像も表示される。それを見て、レオハルトは思わず呟いてしまった。

 

似ている、と。

 

レオハルトは欲しかった情報は手に入れたので、痕跡を消し回線を切断。ハッキングを止める。

 

「……」

 

PCの電源を切り、レオハルトは天井を仰ぐ。

 

「……全員が、戦争に身を投じることになったか。俺も、カナードも。そして、キラも……。俺たちの持つ力が、戦争と引き合うということか」

 

レオハルトは一人、自分たちがこうして戦争に身を投じ、戦うということに運命を感じてしまった。

 

それは、皮肉な運命だった。

 



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Mission - 26 己の道

短いです。今までで一番短いです。

途中で、ん?と思う箇所があるかもしれませんがご容赦ください。




アスラン side

 

地球から帰還した俺を待っていたのは、驚愕の事実だった。

 

ラクスの手引きによってFreedom(フリーダム)が強奪され、ラクスとシーゲル前議長は反逆として極秘裏に指名手配中。保安部や諜報部、軍までもが彼女たちを追っている。

 

俺は彼女の自宅にいたハロと共に、一つの目星をつけある場所に向かった。そこで俺は、そこにいたラクスから驚愕の事実を知らされる。

 

キラが生きている。

 

俺は言葉を失った。そして、すぐに否定する。生きているはずがない。あいつは、俺が……。

 

ラクスの言葉の一つ一つが、俺の心に突き刺さった。俺は、俺を尾行()けていた連中からラクスを護り、彼女はクライン派と呼ばれる人間たちと一緒に行ってしまった。

 

彼女はこれからどうする気だ。彼女たちは厳しい状況にある。だが、彼女は己の意思に従って行動している。

 

俺はどうだろうか。俺はどうなんだ。俺も見極めなければいけない。己の道を。

 

気になるのは、シーゲル前議長だ。父はシーゲル前議長の捜索に、直に帰国してくるリベラント隊長を当てると言っていた。

 

リベラント隊長は、甘くはない。あの人が俺の立場だったら、間違いなくラクスを撃っていただろう。あの人は、【プラント】のために動く。【プラント】の害悪を討つためなら、あの人は手段を選ばない。

 

もし見つけたら、躊躇いなく引き金を引く。そういう人だ。

 

だが、俺にそれを止める術はない。今は、“道”を探すために行動しよう。

 

 

 

 

俺は地球に降り、自分の目で確かめた。大爆発が起きたアラスカは、爆心地がクレーターとなり水が溜まっていた。

 

そして、俺とキラが死闘を繰り広げた場所。あの時、俺は心の底からキラを憎んだ。そして、心から殺したいと思った。ラクスからキラが生きていると知り、驚きつつも安心している俺がいた。

 

お前は敵なのか、キラ。お前は何を思い行動している。Freedom(フリーダム)で、何をしようとしているんだ。

 

何気なくオーブに向かうと、オーブ近海で戦闘が行われていた。侵攻しているのは地球軍だ。恐らく、パナマが墜ちたことで奴らはマスドライバーを失った。その代わりとして、オーブのマスドライバーを接収しようと考えたか。

 

その中に、俺は見つけてしまった。あいつを。

 

「……Freedom(フリーダム)。お前なのか、キラ……」

 

どうやら地球軍も新型MSを投入しているらしく、敵は三機。さすがに手こずっているようだった。

 

どうしたらいい。援護?だが、俺は【ZAFT】だ。このまま見殺しにする?駄目だ。俺はあいつと話さなければいけない。

 

ならば、やはり援護か?だが、ヘタをすると面倒なことに……。

 

見殺しにしてしまえば、俺は自分自身を一生許すことが出来ないだろう。援護に入って、万が一にも俺の素性が割れても良いことにはならないだろう。

 

そんな時、リベラント隊長と交わした言葉が脳裏を横切る。

 

『リベラント隊長は、今まで迷われたことは無いのですか?』

『それは、命令にということか?』

『……そうです』

『そうだな……。有難いことに、今のところは無いな』

『では、迷ったときはどうされるのですか?』

『……正直、その時になってみないと分からない。だが、俺なら恐らく……』

 

迷いを振り切り、俺は戦闘に介入する決意を固める。

 

キラと敵機の間に割り込み、敵のビームをシールドで防ぎ〔MA-M20ルプス ビームライフル〕で攻撃を加える。

 

『最後は、自分の意思で決める。どうしたいか、どうなって欲しいかだ』

 

俺は、キラには死んで欲しくない!

俺の意思で、俺は動く!

 

アスラン side end

 

 

 

 

 

レオハルトはハインラインと共に、ようやく完成した機体を見上げていた。

 

レオハルトがカナードとの戦闘から帰還した翌日。レオハルトはハインラインからの連絡を受け、レオハルトの専用機である新型機Xの元に向かっていた。

 

その用事とはロールアウトを間近に控え、現在のOSでは武装とのリンクに突然エラーが出てしまったのだ。その結果、レオハルトはOSを見直すことになってしまったのだ。

 

結局、OSは一から作り直すことになり約一ヶ月も掛かってしまうことになってしまった。無論、その間には作り直したOSでテストを行い、また修正。それの繰り返しだった。

 

そして、ロールアウトを明日に控え、二人は感慨深げに機体を眺めていた。

 

「やれやれ。もっと早く完成するかと思ったが、予想以上にかかったな」

「ハインライン局長の助力があったから、この程度で済んだ。感謝している」

「構わんさ。強力な機体の開発に関われることは、技術者として喜びでもある」

 

レオハルトの感謝の言葉に、ハインラインは若干照れつつ答える。

 

その時、突然アラートが鳴り響く。突然のことに驚きつつも、ハインラインは受話器を手に取りアラートの意味を聞き始める。

 

そしてレオハルトは、バルドリッヒとの連絡用にも使用しているPCから、通信の呼び出し音が鳴る。通信を開くと、そこには焦った様子のバルドリッヒが映し出される。

 

「バル、このアラートは……」

「ダンナ!ザラのお坊ちゃんがやりやがったぞ!ザラ議長に逆らって、保安部に拘束された!」

「拘束!?」

「お坊ちゃんは保安部を蹴り倒して強引に突破。誰か知らねぇが、逃走を援護する奴らまで現れる始末だ!」

「クライン派か?」

「ああ、多分な!」

 

いつもよりも早口でやや捲し立てるように話すバルドリッヒ。

 

アスランはレオハルトが地球から帰還する以前に、パトリックからFreedom(フリーダム)の破壊、及び関わった施設・人物の抹殺を命じられた。

 

その任務に従事するため、アスランはFreedom(フリーダム)と同時期にロールアウトされたJustice(ジャスティス)を受領し出撃した。

 

だが、アスランが防衛要塞【ヤキン・ドゥーエ】に帰還した際、アスランはJustice(ジャスティス)ではなくシャトルで帰還した。

 

さらに、パトリックに反抗し銃撃されアスランは右腕を負傷。Justice(ジャスティス)の居場所やFreedom(フリーダム)についての情報を吐かせるため拘束された。

 

「ザラ議長は各関係部署に通達を出して、軍にスクランブルまで出した」

「……」

 

だが、アスランは保安部を蹴り倒すとクライン派の助力を得て逃亡。大勢の人間がアスランを追っている状況である。

 

「それじゃ、一応知らせたぜ」

「ああ」

 

バルドリッヒとの通信を終えてすぐ、再びレオハルトの元に通信が入る。

 

「リベラント!」

「ザラ議長閣下」

 

画面に映し出されたのはパトリック。眉間には皺が寄り、怒りのせいか表情はいつも以上に険しい。

 

「アスランが反逆した!追撃する!貴様の機体は出せるか!?」

「……申し訳ありませんが、まだ不可能です。総出で作業をしておりますが、今しばらく時間を必要とします!」

「ちいっ!連合も月に部隊を集結させて来ている!時間は無いのだ!完成を急げ!いいな、リベラント!?」

「はっ」

 

鼻息荒くパトリックは怒鳴る様にそう言い残し、画面から消える。レオハルトがふと視線を動かすと、ハインラインと目が合う。

 

「報告するか?」

「……さて、何のことかね。私は何も聞いとらんさ。では、私は失礼する」

「……すまない」

 

立ち去るハインラインにレオハルトは一言詫びると、ハインラインは何も言わずに出て行ってしまった。

 

「……」

 

正直な話、ロールアウトを明日に控えているとはいえ完成はしている。本来ならば出撃することも可能だった。

 

だが、あえてレオハルトは嘘を吐き出撃を拒んだ。その真意は、静かに機体を見上げるレオハルトの瞳に表れていた。

 

「(道を決めたということか。尊重はする。否定もしない。だが……)お前は俺の敵だ、アスラン」

 

レオハルトがそう呟いた時、機体の瞳が光ったような気がした。レオハルトは自嘲気味に笑みを浮かべると、睡眠をとるためその場を後にするのだった。

 



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Mission - 27 疑惑の眼差し

少々遅くなりましたが、更新します。
今回もちょっと短めです。

小説も終盤に近付き、いろいろなことが分かっていくと思います。
どんでん返しを狙っているので、読者の皆様を驚かしたいものです。

狙ったら上手くいきませんかね……。


L4宙域 コロニー【メンデル】

 

かつて起きたバイオハザード事故によって、廃棄されたコロニー。それが、L4宙域に存在する【メンデル】である。

 

【メンデル】にある一棟の研究施設の入り口に、MSがあった。一機はZGMF-600 GuAIZ(ゲイツ)

 

本来ならばもっと早く実戦に配備されるはずだったのだが、奪取したGAT – Xシリーズの技術を導入することになり配備が遅れた。今は正式配備に向け少数が生産され、隊長やエース級に配備し実戦データ収集の目的も兼ねている。

 

【メンデル】の入り口には、頭部と両足を失くした新型のGuAIZ(ゲイツ)。他にもStrike(ストライク)Freedom(フリーダム)の姿があった。

 

バイオハザード事故以来、人の手など入っていなかった研究所の一角に、彼らの姿はあった。

 

GuAIZ(ゲイツ)のパイロット、ラウ・ル・クルーゼ。Strike(ストライク)のパイロット、ムウ・ラ・フラガ。そして、Freedom(フリーダム)のパイロット、キラ・ヤマト。

 

クルーゼからの銃撃を避けるためムウとキラは台の陰に隠れているが、キラの様子はおかしくその目はどこにも向けられていなかった。

 

「私は貴様の出来損ないの父、アル・ダ・フラガのクローンなのだからな!!」

「なっ!?」

「違法と知りつつ、ヒビキ博士は私を造ることを了承した!当然だな!!奴らは同時に進めていた別の研究によって、資金難に陥っていた!その研究の結果、“彼”が生まれた!!」

「戯言を!!」

 

ムウは物陰から飛び出すと、傷の痛みに耐えつつ銃の引き金を引く。だが、クルーゼも素早く物陰に身を隠し銃撃を回避する。

 

ムウは再び銃撃されることを避け、自らもすぐに身を隠す。

 

「だが!ヒビキ博士は“彼”にさほど興味は無かった!何故か!?欠点が見つかったからだよ!身勝手な理由で造りながら、無情にも切り捨てる!理不尽だとは思わないか、ムウ!」

「何の話をしてんだ、お前は!!」

「ようやく完成した“彼”も完璧では無かった!そこでヒビキ博士は、予てより考えていた【人工子宮】の研究に力を注ぐようになった!!数多の犠牲の上に君は生まれたのだよ!【最高のコーディネイター】、キラ・ヤマト君!!」

 

普通の人間には訳の分からない話。だが、キラの様子は変わらずおかしかった。何も映らさない虚ろな瞳。

 

ムウがキラの肩をゆすり呼びかけるが、キラの反応は無い。

 

意味が分からないというのに、クルーゼの言葉の一つ一つがキラの心をかき乱す。

 

「人類の進歩のためにその身を捧げたヒビキ博士も、次第に我欲に囚われていった!それを責めるつもりはない!目の前の目的のために、どこまでも非情になれる!それがヒトなのだから!だからこそ、私たちのような存在が生まれた!!」

 

クルーゼはそう叫ぶと、天井からぶら下がる照明を吊っている部分を撃ち抜く。落下した照明は、下にあった診察台を押し潰す。

 

熱弁するクルーゼ。その額には汗が浮かぶ。クルーゼの叫びは本当にキラとムウに向けられているのか。クルーゼはただ、自身の内にある負の感情をまき散らしているようにも感じられる。

 

「私たちにはあるのだよ!この世界で唯一の存在として、すべての人類を裁く権利がな!!」

「ふざけるな!この野郎!!」

「間もなく最後の扉が開く!私が変える!この手で!!そしてこの世界は終わる!狂気を胸に秘めた者たちの思いのままにな!」

 

物陰に隠れるムウに向けられるクルーゼの意識。その瞬間、同じく陰に潜んでいたキラが飛び出すと、落ちていた破片を拾い部屋を駆ける。

 

「そんなこと!!」

「キラ!!」

 

駆けるキラを追いクルーゼも引き金を引くが、銃弾はことごとく外れ後ろの機材に命中する。だが、最後の一発が腕を掠めキラが持っていた破片がクルーゼへと飛んでいく。

 

同時に、キラを助けようとムウが撃った銃弾もクルーゼの服を掠める。その瞬間、破片がクルーゼの仮面に当たり、レオハルトも知らない素顔が晒される。

 

その素顔を見て、驚愕の表情を浮かべるムウとキラ。顔の至る所に不自然なほどに多い皺。そして何より、ムウは驚いた。自分の父親にそっくりではないかと。

 

「ふん!!何をしたところでもう遅い!貴様らがどう足掻こうと、滅びの未来は変えられんさ!」

 

クルーゼは最後に吐き捨てるように言い残すと、踵を返し走り去る。

 

別の場所にいたイザークに帰投する旨を告げ、自らの機体は使えない状態になってしまったため迎えを要請する。クルーゼは入り口に放置してきたGuAIZ(ゲイツ)へと走る。

 

「(そうだ。もう止まらんさ。あの“データ”が連合の手に渡り使用すれば、パトリック・ザラも“例の兵器”の使用を躊躇すまい。最後の時は近い!)」

 

クルーゼは胸中でそう呟くと、最後の扉を開くため一手を行うためヴェサリウスへと急ぐのだった。

 

 

 

 

数日後

 

機体の完成を終えたレオハルトは、パトリックの命令を受け【ヤキン・ドゥーエ】の防衛部隊の配備状況の確認や、【プラント】の最終兵器の最終チェックを行っていた。

 

「【ミラージュ・コロイド】散布状況、異常無し。PS(フェイズシフト)、異常無し。第二、第三、第四ミラーブロック、準備完了。命令があれば、いつでも撃てます」

「守備隊の配備はどうだ」

「完了済みです」

 

【ヤキン・ドゥーエ】司令官とオペレータの会話を聞き流しながら、レオハルトの視線は巨大モニターにくぎ付けになっていた。

 

「【ボアズ】の戦闘状況は?」

「敵は完成したばかりのMS部隊を投入し、さらにクルーゼ隊より報告のあった新型三機に押され気味とのことです」

「数では我らが不利か」

 

巨大モニターに表示されている、【ボアズ】と侵攻する連合の分布図。

 

現在、【プラント】所属の宇宙要塞【ボアズ】が地球軍と交戦状態に入ったという情報が入ったのは三〇分前だった。

 

【ボアズ】は元々、東アジア共和国がL4宙域に所有する資源採掘用小惑星【新星】だった。だが、かつて起きた【新星攻防戦】において【ZAFT】の侵攻を受け降伏・放棄された。

 

その後、施設は【ZAFT】が接収、自軍の防衛用軍事衛星として改装。その後、【ボアズ】と改名されL5に移送された。

 

「どう見るかね、リベラント隊長」

「そうですね……。正直、不気味です」

「不気味?」

「【ボアズ】の戦力が並大抵のものではないことは、連合も承知しているはずです。だが、連合は攻撃に踏み切った。何か理由があるのではないかと」

「なるほど。確かに、君の言うことも尤もだ。だが、我らにそれを確かめる術はない。【ボアズ】守備隊の力を信じて待つしかないさ」

「……そうですね」

 

だが、現実は無情なものだった。

 

【ボアズ】は連合の核攻撃を受け、完全に消滅。【ヤキン・ドゥーエ】に向け、侵攻を開始したとのことだった。

 

「……核。それが、侵攻した理由か……」

「ナチュラル共め!まさか、再び核を撃つとは……!!」

 

司令官の怒りの声を聞きながら、レオハルトは不思議でしょうがなかった。【ZAFT】の【Nジャマー】によって核運動を封じられ、核は使えないはず。

 

だが、実際に核が撃たれ、【ボアズ】は消滅してしまった。これの示す意味を理解し、レオハルトの眉間に皺が寄る。

 

「(【Nジャマーキャンセラー】の技術が連合に流出した……。クライン派か?それとも、真のスパイか?【ボアズ】が墜ちたということは、次はここ【ヤキン・ドゥーエ】。正念場だな)」

「ザラ議長より入電!!」

 

レオハルトが脳内で思案していると、オペレータの一言で現実へと引き戻される。司令官がすぐにメインモニターに出すように言うと、メインモニターに怒り心頭と言った感じのパトリックが映し出される。

 

「リベラント!【ジェネシス】を使う!準備は出来ているな!?」

「はっ、問題ありません」

「すぐにナチュラル共が来るぞ!戦闘準備を急げ!私もヤキンに向かう!」

「はっ!」

 

【ジェネシス】。

 

パトリックの指示の下、最悪の状況を想定して建造を開始した【プラント】の最終兵器。その威力は非常に強力で、核と同等の威力を持つ強力な兵器である。

 

手に入れた経緯はとにかく、連合が核を持ち出して以上、対抗手段として【ジェネシス】使用に踏み切るしか道は無い。

 

「リベラント隊長。戦闘が始まれば、君の出番が来ることだろう。それまでは、休んでいたまえ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

レオハルトは司令官に敬礼をすると、踵を返し司令室を後にする。

 

そのまま仮部屋に向かうと、椅子に腰を下ろし深く息を吐く。

 

「(これが最後の戦闘になる。すべてが、終わる)」

 

迫りくる戦闘に思いをはせるレオハルト。ヤキンが墜ちれば【プラント】の敗北。【ジェネシス】の発射まで護りきり、連合の戦力を削れば【プラント】の勝利。

 

どちらが勝つにせよ、戦争は終わる。だが、戦争の終わりが意味するのは、生か死。存続か滅亡の二択。

 

レオハルトはただ、【プラント】の勝利のために戦うだけである。

 

その時、レオハルトが持ち込んだ専用PCの通信回線がつなげられる。通信回線を開くと、予想通りバルドリッヒからだった。

 

「ダンナ、久し振りだな!」

「バル、どうした」

「【ボアズ】が核攻撃されたって聞いてな。ついにヤキンまで来る。ダンナの出番も近いと思ってな」

「そうだな。戦争終結も近いだろう」

「大丈夫だとは思うが、討たれないようにな。宇宙だからまだいいが、討たれて爆発したらエライことになる。じゃあな」

 

バルドリッヒとの通信を終え、レオハルトは椅子の背にもたれかかる。その時、レオハルトは突然身体を起こす。

 

「(どういうことだ?何故知っている。パイロットであるキラ、アスラン。そして俺。それ以外は統合三局とザラ議長、極一部の人間しか知らないはず。一体どこから……)」

 

レオハルトの中に、一つの疑念が生まれた瞬間だった。

 



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Mission - 28 出撃の時

当小説の終わりが近付いています。
恐らく、あと一話か二話。長くて三話で終わると思います。

やっぱり終盤の見せ場は戦闘シーン、レオハルトの謎という部分になりますね。

では、簡潔まで気を抜かず張り切っていきます。
温かい目で見守ってください。


パトリックの言葉通り、連絡があってすぐにパトリックは【ヤキン・ドゥーエ】に現れた。レオハルトはパトリックを出迎えるため港に向かうと、一緒にやってきたクルーゼを一瞥する。

 

「お待ちしておりました、ザラ議長閣下」

「準備は完了しているな?」

「もちろんです」

「貴様の準備はどうなのだ?」

「問題ありません。今回の戦闘では、完成した新型で出撃致します」

「うむ」

 

レオハルトの返答にパトリックは満足気に頷くと、レオハルトの横を通り過ぎていく。その後ろを、レオハルトとクルーゼが追いかける。

 

「君の新型、完成したのだな」

「ああ」

「一騎当千の活躍を期待出来そうだな」

「全力を尽くすだけだ。お前も、いつの間にか【FAITH】に昇進したみたいだな。おめでとう」

「君と同じ立ち位置ということになるな」

 

レオハルトは口元に笑みを浮かべるクルーゼにそう言うと、クルーゼの左胸に光る【FAITH】の証である徽章を一瞥し、徐々に早足になるパトリックを追いかける。

 

レオハルトの言葉通りクルーゼは先日、レオハルトと同じ【FAITH】へ昇進。クルーゼ隊はイザークに引き継がれ、ジュール隊として残っている。

 

「(ブレない男だな、君は。だが、この世界は終わるのだよ。欲に塗れた者たちと共にな)」

 

歩き去っていくレオハルトの背を見ながら、クルーゼは狂気の笑みを浮かべる。クルーゼの視線を背中に受けながら、対照的にレオハルトは厳しい表情を浮かべていた。

 

「(…………)」

 

その厳しい表情の内で、レオハルトは何を思うのか。

 

 

 

 

パトリックが指令室に到着してすぐ、両軍の間で戦闘の火蓋が切って落とされた。敵は新型の三機を筆頭に、Strike(ストライク)のデータを元に開発したストライクダガーを大量に投入。

 

【ZAFT】に正式配備され始めたGuAIZ(ゲイツ)を主戦力としたジンやシグーの混成部隊と互角に渡り合い、一進一退の攻防を続けていた。

 

戦闘を見守りながら、レオハルトはクルーゼと共にパトリックの後ろに控えていた。

 

「【ジェネシス】のパワーチャージは?」

「現在、40%です!」

「守り切れよ、必ず!守り切れば、我らの勝ちだ!」

 

【プラント】の最終兵器【ジェネシス】。前線の兵が踏ん張っている間も、着々と進む【ジェネシス】のパワーチャージ。チャージが完了し発射されれば、核と同等の死を生み出す光となる。

 

「マーク91チャーリー、アルファ10に別働隊を確認!!核を所持していると思われます!」

「部隊を向かわせろ!すべて撃ち落とせ!!」

 

オペレータの核攻撃部隊の発見の報が告げられると、パトリックはすべて撃ち落とすように指示を出す。

 

核を発見したのは、前線で奮闘するイザークも同じだった。イザークも核を確認すると、核を撃たせまいと撃墜するよう声を張り上げる。

 

「あのミサイルを落とせ!【プラント】をやらせるなぁーっ!!」

 

イザークの呼びかけで他の兵も核に気付き撃墜に動くが、連合の新型三機。Calamity(カラミティ)Forbidden(フォビドゥン)に阻まれる。イザーク自身も、Raider(レイダー)との交戦で動けない状況だった。

 

そしてついに、【プラント】に向けて数十発の核が放たれた。だが、核が【プラント】に命中することは無かった。

 

【プラント】と核の間に割り込んだ二機のMSによって、すべての核が撃ち落とされた。

 

「(……来たか。キラ、アスラン)」

 

現れたのは、Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)、アークエンジェル。そして、先日逃亡したアスランを援護したクライン派の旗艦エターナル。

艦長には歴戦の戦士アンドリュー・バルトフェルドを擁する艦である。

 

そして現れたFreedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)は、巨大な兵装を装備していた。

 

あれはM.E.T.E.O.R(ミーティア)。Mobilesuit Embedded Tactical EnfORcerの略称で、モビルスーツ埋め込み式戦術強襲機と命名されている。

 

現在はFreedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)に装備されているが、理論上はクルーゼやレオハルトの機体が使用することも可能である。

 

M.E.T.E.O.R(ミーティア)は、MSに戦艦並みの推力と火力を付加する事を目的としており大口径ビーム砲、大量のミサイル、長大な艦船破壊用ビームソードなどを備え、MSでありながら強力な戦略兵器として活躍することが見込まれている。

 

そして、ラクス・クラインによる全周波放送による地球軍の攻撃停止要請。だが、核まで放った地球軍。核を再び放たれた【プラント】。

 

止めろと言われて、はいそうですかと止めるわけが無い。突然の乱入者に驚くも、前線では戦闘が激化していく。

 

「ザラ議長閣下!アルファ90マーク85デルタに艦影!【足つき】、及びエターナルです!さらに、Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)です!!」

「何だと?……放っておけ。【ジェネシス】のチャージは?」

「【ジェネシス】パワーチャージ、60%です!」

「よし。【ジェネシス】、最終段階に移行しろ。全部隊に入電。射線上から退避させろ」

「【ジェネシス】、照準用ミラー展開。起動電圧確保。【ミラージュ・コロイド】解除」

 

パトリックの指示で【ZAFT】全軍に【ジェネシス】発射の旨が通達。同時に【ジェネシス】の射線が表示され、その周囲から退避するよう通告する。

 

そして、【ヤキン・ドゥーエ】後方にて【ミラージュ・コロイド】で隠していた【プラント】最終兵器、【ジェネシス】。核エネルギーを利用した巨大なガンマ線レーザー砲である。

 

【ミラージュ・コロイド】を解除したことで、ついにその姿が大勢の前にさらされる。

 

「この一発が我らコーディネイターの勝利の光となり、ナチュラルに正義の鉄槌が下されんことを。発射ぁーっ!!」

 

パトリックの発射の合図で、ついに【ジェネシス】が火を噴いた。発射されたガンマ線のレーザーは、地球軍の主力艦隊を貫きその戦力を根こそぎ奪っていく。

 

「(これほどの威力とは……)」

 

【ジェネシス】の光が消えた時、その光が向けられた地球軍の惨状たるや悲惨なものだった。大艦隊を送り込んできた地球軍だが、その半数近くが消滅したのだ。

 

予想以上の【ジェネシス】の威力を目の当たりにし、レオハルトは苦い表情を浮かべる。対照的に、クルーゼは薄く浮かべていた笑みがより一層深くなっていた。

 

「さすがですな。【ジェネシス】の威力は」

「ふん。戦争は、勝って終わらねば意味が無かろう」

「確かに。やはり、地球を撃つので?」

「二射目で月基地を叩く。それでも抗うならば、撃つとも。どちらにしろ、次の二射目が重要だ」

「なるほど。では、私も出撃()ましょう」

 

クルーゼはそう言うと踵を返すが、パトリックが呼び止める。

 

「失敗は許されんぞ、クルーゼ。障害はすべて排除しろ」

「承知しております。ところで、障害とはアスランも含まれるので?討っても?」

「っ……!……構わん!」

「了解しました」

 

【プラント】を離れ、反逆者となったラクス・クラインと行動を共にするアスラン。クルーゼの意地の悪い笑みを浮かべた問いに、言葉に詰まりながらも討つ許可を出す。

 

隣で苦い顔をするレオハルトを横目に、クルーゼは指令室を後にすると出撃準備に向かうのだった。

 

「ザラ議長閣下。では、私も出撃します」

「頼んだぞ、リベラント」

「はっ」

 

クルーゼからやや遅れて、レオハルトも出撃するため指令室を出て格納庫に向かう。だがその途中で、レオハルトはバルドリッヒに呼び止められる。

 

「ダンナ、ちょっと話がある」

「……急ぎか?」

「ああ、緊急だ」

「……わかった」

 

いつもとは違うバルドリッヒの様子に、急ぐ足を止めバルドリッヒはレオハルトが休憩の際に使っている部屋へと連れ出す。部屋に入ると、バルドリッヒはその重い口を開いた。

 

「ダンナも疑問に思っているんじゃないか?連合が核を使ったということに」

「ああ。【Nジャマーキャンセラー】の技術が流出した」

「そうだ。俺は独断で、さらに極秘裏に流出元を調べたんだ」

「分かったのか?」

「ああ。……驚くなよ?犯人は、ラウ・ル・クルーゼだ」

「!?」

 

自らの親友の名が出たことで、普段は冷静なレオハルトの表情が一変する。【ボアズ】を消滅させ、今まさに【プラント】を脅威にしている核。その原因が、自分の親友にあるというのだから。

 

レオハルトは驚きながらも多少は冷静さを取り戻すと、バルドリッヒにその考えに至った根拠を問う。

 

「奴には以前から不審な点があった。奴の通信履歴を洗ったが、特に異常は無かった。だが、それに反して通信回線の使用状況が合わない。明らかに、秘密にしたい人間と通信し、意図的に隠蔽している」

「……」

「それに、【オペレーション・スピットブレイク】の作戦も漏洩させた疑いがある。諜報部が調べた限り、作戦目標がJOSH – A(ジョシュア)ということは議員はもちろん、クライン前議長も知らなかった。知っていたのは、ザラ議長とクルーゼだけだ」

「俺が知ったのも、作戦の寸前だったからな」

 

内容が内容だけに、堂々と口にするわけにもいかないためだろう。周囲を気にしながら、早口で話すバルドリッヒ。

 

「とはいえ、これだけでは根拠としては弱い。だが、俺たち諜報部は極秘でクルーゼをマークしていた。そして俺たちは、奴が【Nジャマーキャンセラー】を受け取る密会現場を確認した。変装してたが、間違いない」

「渡したのは誰だ」

「……悪いな、ウチのやつだ」

 

クルーゼと謎の人物との密会現場。それは、クルーゼが行きつけにしているバーで公然と行われた。堂々とした方がバレない時もあるという、良い例である。

 

レオハルトの謎の人物が誰かという問いに、バルドリッヒは言葉を濁すもハッキリと答える。

 

「諜報部の人間か?」

「ああ。だが、そいつは【ブルーコスモス】に心酔しちまってる。理由は分からん」

「そいつはどうしたんだ?」

「生かしておいても得は無ぇからな。秘密裏に処分したさ。公的には、クライン派に殺されたことになってる。元の同僚だ。名誉の戦死って扱いにしたよ」

「なるほど」

「クルーゼの奴がこんなことをした理由は分からんが、このままじゃ泥沼だ。あいつは【プラント】にとって害悪だ。討つしかない。今のザラ議長には言っても仕方ねぇ。今のザラ議長は、ナチュラルを討つことしか見えてないみてぇだしな」

 

だから、バルドリッヒはこのことを誰にも言わず、レオハルトにだけ話した。他にも、どこにクライン派の目や耳があるかも分からない。クライン派は、予想以上に浸透しているのだ。

 

それは、【砂漠の虎】ことアンドリュー・バルトフェルドがクライン派に鞍替えしたことから容易に想像出来る。ヘタな人間は信用できないのだ。

 

「そのことが分かったのはいつだ?」

「疑いを持ったのはスピットブレイクの後だ。確信に変わったのは、地球軍が核を使った時だな」

「…………」

 

真剣な面持ちで語るバルドリッヒ。その表情を真剣に見るレオハルト。レオハルトはわかったと言うと、バルドリッヒの肩に手を置く。

 

「クルーゼのことは俺が何とかする。討つときは、俺が討つ」

「悪ぃな。嫌な役回りで。俺が行っても、死ぬのがオチだからな」

「気にするな」

「じゃあ、頼んだぜ」

 

二人は最後に握手を交わすと、バルドリッヒは部屋を後にする。通路をしばらく歩くと、バルドリッヒは振り向き今出て来た部屋を一瞥すると、再び前を向いて歩き出した。

 

「よろしく頼むぜ、【ZAFT】のエースさん」

 

バルドリッヒを見送り、レオハルトは考えを整理するため椅子に座っていた。今この時も戦闘は激しさを増しているが、レオハルトは動かない。

 

「…………疑念は尽きないな。あいつにも奴にも。何故、俺の部屋を知っていたのか……」

 

レオハルトがそう呟いた時、こんな時だというのに通信回線がつなげられる。レオハルトはわずかに迷ったが、回線を開く。

 

「誰だ」

 

レオハルトのその問いに返ってきた声に、レオハルトは純粋に驚く。レオハルトは警戒心を露わにし、用件を問いかける。

 

「…………」

「こちらも忙しい。下らない昔話をしている暇は無い。したいなら、壁にでも話してくれ」

「…………」

 

予想外の人物の声に驚きつつも、レオハルトは頭を切り替える。レオハルトの強烈な皮肉も、謎の相手は小さく笑い声を上げ本題を切り出した。

 

「……!見返りは?」

「…………」

「……なるほど。この回線も、その筋からですか?」

 

謎の人物から取引を持ち掛けられ、レオハルトは相手への警戒心がさらに深まる。だが同時に、そんなことを言ってきた理由も気になる。

 

相手が欲しい情報と引き換えに提供される情報を聞き、レオハルトは驚く。その情報は、レオハルトの以前からの懸案事項でもあった。その情報を知ることが出来れば、レオハルトの不安の種が減ることは確かだ。

 

「…………」

「……私に、【プラント】を裏切れと?」

 

だが、問題はそこにある。その情報を得るには、【プラント】の極秘情報を渡さなければいけない。だが、情報は必要である。その情報は、確実に【プラント】のメリットになる。

 

「…………」

「……わかりました、取引成立です。一応言っておきますが、偽情報だった場合は徹底的に追い詰めます。その上で、殺します」

 

迷った末、レオハルトは取引を受け入れることにした。レオハルトの宣戦布告も、声は軽口を最後に通信は終了した。

 

レオハルトは両手を上げ身体を伸ばすと、PCのキーボードへと両手を伸ばすのだった。

 

そして、見返りに得た情報にレオハルトは驚きを隠すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

最後の戦闘を前にレオハルトは、新型機開発の際に渡された専用の漆黒のパイロットスーツに袖を通す。宙に浮いていた漆黒のヘルメットを掴み、レオハルトは機体へと急いだ。

 

「リベラント隊長、出撃ですか?」

「ああ」

「理論は大丈夫ですね?」

「問題無い」

「了解です。ご武運を」

 

レオハルトは整備員と短い会話を交わすと、灰色の機体のコックピットへと飛び込む。シートに座りベルトを締めると、レオハルトは手際よく機体を起動させていく。

 

「パワーフロー、正常。各部チェック、異常無し。全システム、オールグリーン!」

 

レオハルトは正面にある小さなスイッチを押すと、灰色だった機体が全身漆黒のカラーに染まっていく。

 

レオハルトが設計し統合三局の協力の下、完成した新型機。Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)同様、核を動力にしている機体。この機体で、レオハルトは【ヤキン・ドゥーエ】の戦場を駆ける。

 

「(ラウ、待っていろ。そしてキラ。【SEED】を持つお前は、【Origin】を持つ俺が!)」

 

機体の上部にある天井が左右にスライドして開くと、その先に宇宙が。レオハルトはフットペダルを踏み込むと、機体はわずかに屈み出撃体制を取る。

 

「ZGMF - X99A Finis(フィニス)。レオハルト・リベラント、出撃する!」

 

レオハルトが操縦桿を倒した瞬間、フィニスはスラスターが勢いよく噴射すると宇宙へと飛び出す。



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Mission - 29 安らかな死を

今回、レオハルトが新型に乗り換えてから初の戦闘です。

そして、今回の話でショックを受ける方が、もしかしたら居るかもしれません。
ごめんなさい。最初の方から考えてました。

感想を書いて頂く方は、後書きもお読みください。


宇宙へと飛び出し、久々の戦場の空気を肌で感じるレオハルト。

 

レオハルトが今いる場所から離れた前線では、【ZAFT】と連合による激しい戦闘の様子がうかがえる。激しいビームの砲火、次々と散っていく命。

 

散る命に、コーディネイターやナチュラルなど関係ない。死んでしまえば何も変わらない、ただ一つの命である。

 

前線へと移動しながら、レオハルトは右手に持つ“MA-M202レシェフ ビームライフル”を構える。

 

Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)が装備している“ルプス ビームライフル”より、少々大きい。だが、それに見合うだけの威力が向上している。

 

レオハルトはレシェフを正面に向け構えると、正面のストライクダガー二機のコックピット部分を撃ち抜く。

 

ストライクダガー二機を撃墜した瞬間、レオハルトを多数のミサイルが襲う。レオハルトは後方へと距離を取りつつ、頭部に装備されている“MMI-GAU4 ピッキオ 80mm近接防御機関砲”でその名の通り、速射された機関砲によりミサイルすべてを撃ち落とす。

 

レオハルトはミサイルを撃ってきたドレイク級戦艦に狙いを付けると、正面へと素早く移動。“M150複列位相胸部ビーム砲 ラグナロク” の発射態勢に入る。

 

Finis(フィニス)の胸部から赤黒いビームが発射されると、ドレイク級戦艦を一直線に貫通。ドレイク級戦艦は大爆発を起こし轟沈すると、レオハルトはレシェフをマウントすると次なる武装を手にする。

 

“MA-M02テュルフィング ビームサーベル”を手に、目につく敵に斬りかかる。ストライクダガーの撃つビームを高速で回避し、素早く接近して両断。

 

レオハルトが生み出すFinis(フィニス)の機動に、誰も追いつけないのだ。自在に変化し、同じ機動をしないレオハルト。

 

前線でその武を遺憾なく発揮するレオハルト。その時、レオハルトの元に指令部からの入電が届く。

 

「【ジェネシス】、第二射発射。射線上から退避、か」

 

レオハルトは小声で指令部からの入電を読み上げると、斬りかかってきたストライクダガーを逆に斬り捨て、離脱していく。

 

そして、再び【ジェネシス】が発射される。第二射の目標は地球軍のプトレマイオス月面基地を完全に撃破。さらに、第一射によって大損害を被り、進軍中だった地球軍の増援部隊の半数を消滅。

 

補給元である月基地を撃破され、増援部隊も大半を消失。さらに、現在の部隊も満足な状態ではない。この状況、選ぶ道は撤退しかない。

 

だが、撤退する様子を見せない地球軍にレオハルトは歯噛みする。

 

「(まだやるつもりなのか……。撤退以外に奴らの取る道。【プラント】への核攻撃ということか)」

 

レオハルトは核部隊の迎撃に向かうため、核部隊を捜索しつつフットペダルを踏み込みさらに奥深くの前線へと向かう。

 

再び右手にしたレシェフで、ストライクダガーを一撃必中で仕留めていく。敵に撤退も反撃も許さず、瞬時に敵の命を刈り取っていく。

 

そして、アガメムノン級から核を搭載したMA部隊が出撃していくのを、レオハルトは遠い場所から捉えていた。

 

「(ちっ、核か!間に合うか!?……っ!?)」

 

レオハルトは機体を急停止させると反転し、核撃墜に向かう。だが、その行動は阻まれた。レオハルトは左手にしているビームシールドで防ぐと、攻撃が飛んできた方角に視線を向ける。

 

「(YFX-600R 火器運用試験型ゲイツ改。何故ここに……)どういうつもりだ、IFFを確認しろ」

「間違えてなどいませんよ、ハル。いえ、リベラント隊長とお呼びした方がよろしいでしょうか」

 

攻撃を仕掛けてきたのは以前同じ隊に所属し短いながらも同僚だった、レイン・エルミーラだった。そして、彼女が乗っている機体はYFX-600R 火器運用試験型ゲイツ改。

 

Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)用の各種火器の評価試験を目的に開発された機体。レオハルト自身は開発に関わってわけではないが、データ上では知っている。

 

ゲイツ改のカラーはエース機のシルバーや量産型の緑とは違い、その二つの色にカラーリングされていた。この機体はエース機というわけではなく、PS(フェイズシフト)装甲を持っている。それを展開しているための、カラーリングである。

 

「レインか。……理由はどうあれ、お前に付き合っている暇は無い。今は……っ!」

 

レオハルトは突然攻撃を仕掛けて来たレインに警戒感を露わにする。しかし、今は核の迎撃を考え向かおうとレオハルトは動く。

 

だが、ゲイツ改の背部にはJustice(ジャスティス)の背部に装備されている“ファトゥム-00”の原型ともなった、リフターが装備されている。リフターに内蔵されている“MA-4Bフォルティス ビーム砲×2”がビームを放つ。

 

レオハルトは左手に持つ“ラミネートアンチビームシールド”で易々と防いでみせる。だが、レオハルトの顔に安堵の表情は無い。レオハルト自身、今の攻撃はただ撃っただけ。当てるために引き金を引いたわけではないというとこは承知している。

 

レオハルトはレーダーで核部隊がイザークやキラ、アスランによって撃墜されたのを確認してようやく安堵の表情を見せるが、すぐに表情を引き締めレインの乗るゲイツ改に向き直る。

 

「まったく、あなたを止めても彼らが邪魔ですね。厄介な存在です。ラウ・ル・クルーゼが手を抜くから」

「……どういう意味だ。何を知っている」

 

M.E.T.E.O.R(ミーティア)を装備し大火力を手にしたFreedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)を睨み付け、レインはそうぼやく。そして、次にレインが呟く言葉にレオハルトは驚愕することになる。

 

「アズラエルも存外不甲斐ないですね。せっかく核の情報を与えたというのに……」

「…………」

 

レオハルトの瞳がスッと鋭くなると、レシェフを放つ。だが、レインはすかさず回避すると、Freedom(フリーダム)Justice(ジャスティス)と同系統の“MA-M20ルプス ビームライフル”を構え反撃。

 

レオハルトはビームを回避しレシェフをマウントすると、テュルフィングを抜き放ち斬りかかる。

 

「貴様を敵対勢力として認識。排除する、レイン・エルミーラ」

「いきなりですね。少し乱暴ではありませんか?」

「…………」

「つれないですね、ハル」

「……貴様がその名で呼ぶな」

 

レインは振りかぶられたテュルフィングを避けると、至近距離で“MMI-M15クスィフィアス レール砲×2”を発射。だが、レオハルトは超反応で回避すると上方からラグナロクを発射。

 

レインは後方へと下がりラグナロクを避けると、フォルティスを放つ。

 

「さっきの言葉、どういう意味だ。答えろ」

「さて、どういう意味でしょうね」

「…………」

「目的は何だ」

 

レインはルプスを三連射すると、レオハルトは横に移動しながら回避。攻撃が止まった瞬間、レシェフで反撃する。レインはシールドで防ぐと、“MA-M01ラケルタ ビームサーベル”を抜く。

 

それと同時にレオハルトもテュルフィングを構え、同時に斬りかかる。幾度もの交錯の際、両者のビームサーベルがぶつかり合う。

 

「私はすべてを無に帰します」

「すべてだと?」

「ええ、すべてです。回帰ですよ。傲慢と欲望に染まった人間は、一度リセットする必要がります。私たちの手によって!」

 

戦闘を行いつつ、レオハルトは手元の時計を確認する。

 

ゲイツ改が実戦投入されなかった理由。それは、エネルギー問題だった。

 

この機体が開発されたのは【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】を実用化する前だったため、既存のエネルギーで動いている。さらにPS(フェイズシフト)装甲を展開した場合、稼働時間は五分。

 

苦肉の策としてリフター内に補助パワーパックが増設されたが、それでも稼働時間は一〇分程度。レオハルトはエネルギー切れを狙い、敵の武装を使わせてエネルギーを消費させるつもりなのだ。

 

「(だが、それは承知のはず。エネルギー問題を解決したのか?まさか、【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】を……?)」

「もしかして、エネルギー切れを狙っていますか?それなら無駄ですよ。この機体にもあなた方の機体同様、【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】を搭載しています。エネルギー切れを気にする必要はありません」

 

レオハルトの狙いを察してか、レインは笑みを浮かべながらそう述べる。レオハルトは舌打ちをすると同時に、新たな疑問に頭を悩ませる。

 

「(【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】は最低限しか開発されていないはず。どういうことだ。一体どこで手に入れた)」

 

NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】は核動力で動く機体、そして初期に開発されたドレッドノート(勇敢なる者)の分しか開発されていない。

 

だが、目の前にいるゲイツ改はエネルギー問題により実戦配備から外れた機体。だが、実際にゲイツ改はPS(フェイズシフト)装甲を展開し、豊富な火器を使用して攻撃を続けてきている。

 

レオハルトは頭を切り替えると、今は戦闘に集中することにした。

 

「何故、人類が滅ぶ必要がある。そんな権利、貴様には無い!」

「ある!!私の両親は地球で医師活動をしていました。ですが、【エイプリル・フール・クライシス】によって地球はエネルギー不足に陥り、地球の人々は命を護るために暴走した。真っ先に狙われたのは、コーディネイターの両親だった!恩人である両親から奪い、コーディネイターだからと殺した!!」

「……」

「コーディネイター全てを悪と考えるナチュラル!地球でのことには無関心な【プラント】!そんな人間に意味は無い!価値も無い!だからこそ、私はすべてを無に帰します!すべてを、無に!」

 

レインのバイザー越しに見える瞳には、確かな憎しみと深い哀しみが彩られる。聞こえてくるレインの慟哭に、レオハルトは何も言わない。

 

レオハルトは両目を閉じると、自分の心に石を投げ入れる。石投げ入れられた心に波紋が出来る。それは一瞬のことだった。レオハルトが両目を開くと、その瞳は紅金に妖しく輝く。

 

レオハルトは後方へと下がりつつ、レシェフで牽制して近付かせない。

 

「貴様には同情する。だが、俺のやることは変わらない」

「聞いていた通りですね。何を言っても、あなたの芯は揺るがないと。ですが、あなたに私が討てますか?」

「何だと」

「あなたの想い人と、私は似ていると聞きました。そんな私を、討てますか?」

 

レオハルトがレインと初めて会った時、【ユニウスセブン】で亡くしたフィシアに似ているのだ。顔とかそういうことではない。雰囲気が、である。

 

レインの言葉をレオハルトは鼻で笑うと、モニターに映る“敵”を見据える。

 

「何を言うかと思えば。くだらない。ただ似ている“だけ” の貴様を討つのに、微塵の躊躇いもない!」

 

レオハルトはそう叫ぶと、背部で折りたたまれていたバインダーを展開。すると、バインダーが分離。分離したそれぞれが、ビームを撃つ。

 

「これは!?」

 

レオハルトが分離したもの。それは、ドラグーン・システム。

 

正式名称、Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network・system(分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システム)。

 

クルーゼの機体にも装備されている、新武装。クルーゼの新機体、Providence(プロヴィデンス)より搭載数は少ないが、それでも総ビーム数は三十七門。普通の機体にしたら、驚異的な数である。

 

円錐型のドラグーンは九門、スクエア型のドラグーンは二門のビーム砲を備えている。【Nジャマー】では阻害されない量子通信によって、レオハルトは八基のドラグーンを自在に操り四方にドラグーンを分散させ攻撃を加えていく。

 

「私は、まだ死ねない!無に帰すまでは!絶対に!!」

 

周囲から浴びせられるドラグーンによる攻撃を時に防ぎ時に避けながら、ビームの嵐を掻い潜りレオハルトとの距離を詰めていく。

 

レオハルトは量子通信によってドラグーンを操り、離れていたドラグーンを自機の周囲に展開。再びビームの嵐を作り出す。

 

ドラグーン・システムは、【空間認識能力】と呼ばれる稀有な適性を持つ者しか扱うことが出来ない。

 

【空間認識能力】とは、物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が三次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する能力のことを指す。

 

この能力が無ければ、まともに操ることが出来ずドラグーン同士がぶつかりあってしまうことだろう。

 

だが、レオハルトはProvidence(プロヴィデンス)の搭載数より少ないものの、ドラグーン見事に操りレインを追いつめていく。

 

レオハルトはドラグーンでレインの回避先を限定すると、そのポイントに向けてレシェフを向け引き金を引く。発射されたビームは、ゲイツ改が手にしているルプスを貫き爆発。レインは爆風をシールドで防ぐと、ラケルタを抜き斬りかかってくる。

 

「無理だな。貴様は今日、ここで俺が討つ」

 

レオハルトはレシェフで牽制して距離を詰めさせない。その間にドラグーンを回収し、ラグナロクを発射。大火力のラグナロクは易々と防げる攻撃ではない。

 

それを瞬時に理解してか、レインは回避。攻撃しようとした瞬間、目の前にレオハルトが現れる。

 

「っ!?」

「遅い!」

 

レオハルトはゲイツ改に蹴りを喰らわせ吹き飛ばすと、レシェフを三連射。シールドで何とか防いでみせるが、レオハルトは追撃の手を緩めない。

 

レオハルトは再びドラグーンを分離させると、レインに向けて間断なく浴びせられるビーム。そのビームの間には、テュルフィングを構えたレオハルトも攻撃に加わる。

 

八基のドラグーン、計三十七門から発射されるビームを避けつつ、レオハルトの攻撃も加わりレインは徐々に精彩を欠いていく。

 

振りかぶったテュルフィングがゲイツ改の左腕をバターでも切るかのように滑らかに斬りおとすと、レインの動きが止まった瞬間、ドラグーンのビームが左脚を破壊する。

 

「ぐぅうっ!まだよ!」

 

レインはクスィフィアスで攻撃するが、すでにレオハルトは距離を取っていた。クスィフィアスは誰にも当たらず飛んでいく。その瞬間、レオハルトの眼前にリフターが迫る。

 

「……」

 

だが、レオハルトは冷静だった。レオハルトは機体を後ろに思いっきり倒すと、飛んでいくリフターをレシェフで撃ち抜く。まるで来るのが分かっていたかのようにレオハルトは対処すると、迫ってくるレインに意識を向ける。

 

力強く振り下ろされたラケルタを機体の細かな体捌きで避けると、素早く反転しレシェフを発射。しかし、レインも同様にすぐに機体を反転させるとシールドでビームを防ぐ。

 

「終わりにしよう」

 

レオハルトは小声で呟くと、ドラグーンを分離。三十七門のビームが四方八方からレインに襲い掛かる。降り注ぐビームの猛攻に、レオハルトはレシェフとラグナロクをプラス。

 

「きゃあああああ!!」

 

徐々に回避が出来なくなり、一発のビームが右脚を貫いたのを皮切りに一斉にゲイツ改に襲い掛かる。コックピットでは機器類がショートし、小さな爆発も起きる。

 

バイザーも割れ、爆発で飛んだ破片がレインの右脇腹に突き刺さり血が流れる。頭から流れる血で右目がふさがるが、レインは痛みで顔をしかめつつもその瞳には強固な意志が宿っていた。

 

誰が見ても、戦闘を続行できる状態ではないことは明らか。だが、レインに撤退の二文字は無い。同様に、レオハルトにも見逃すという考えなど毛頭ない。

 

「さらばだ」

 

レオハルトは回収したドラグーンを、再び分離。再度射出されたドラグーンによりビームの嵐が起こる。

 

スラスターも破壊されバーニアも無い状態のゲイツ改に、避ける術は無い。ドラグーンを放ったレオハルトは、回避できないレインに情け容赦なくビームを浴びせる。

 

右脇腹の傷口と頭から絶えることなく流れ出す血液。急速に失われていく血液によって、レインの意識が徐々に遠のく。

 

唐突にレインは笑みを浮かべると、虚空へと右手を伸ばした。

 

「……やっと、会えた……。会いたかった……ずっと……。お父さん……お母さん……」

 

虚空に向けて右手を伸ばすレインには、彼女の愛した両親の姿が見えていた。レインの瞳から一筋の涙が流れると、レインは安堵の表情を浮かべる。

 

その瞬間、ドラグーンのビームがコックピットを貫かれゲイツ改は爆散。憎しみに心を囚われ復讐にその身を堕とした彼女は、不運にも死によって負の感情から救われた。

 

爆発したゲイツ改の残骸を見ながら、レオハルトは静止する。

 

「本当にお前なのか……。お前が背負うその運命が、こんなことをさせるのか」

 

レオハルトの想い人であるフィシアの存在を知っている人間は、これまでの戦闘でその命を散らしていった。今となっては、その存在を知るのは唯一人。

 

戦闘中にレインが口にしたその言葉から、レオハルトは誰が黒幕かを確信する。半信半疑だったはずの疑念が、確実になってしまった。

 

「何故だ……。俺は前を向いているぞ。お前も向けるはずだ、ラウ!」

 

レオハルトは機体を反転させると、親友にすべてを問いただすため動くのだった。

 




今回、レオハルトがドラグーンを使用しました。
恐らく、何で?と思った方もいると思います。

ですが、その答えは次話で明らかにする予定です。

なので、感想で質問されてもスルーします。
それ以外の質問は別です。

では、次の更新までもう少々お待ちください。


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Mission - 30 暴かれた秘密

ついに物語も佳境に入って参りました。

そして前話で申し上げた通り、レオハルト出生の秘密が明かされます。
以前から考えていた案です。

先に申し上げておきますが、ご都合主義に感じる方もいらっしゃると思います。
後悔はしていません。ですが、感想が怖いです!

でも、このまま最終回まで突っ走ります。


友にすべての真相を問いただすべく、レオハルトはFinis(フィニス)で戦場を駆け抜ける。

 

「何だ、あの機体は!【ZAFT】か!」

 

だが、ここは戦場。Finis(フィニス)の姿を見た地球軍のストライクダガーが立ちはだかる。しかし、ストライクダガーでFinis(フィニス)を止めるなど愚の骨頂。その行動は、自らの死を招くだけである。

 

「邪魔だ!」

 

レオハルトは立ちはだかる敵を見て視線が険しくなると、ドラグーンを即座に分離。レオハルトを見咎めて集まってきたストライクダガーの部隊を、ドラグーンの全方位攻撃で反撃をする暇も与えず一瞬にして撃墜。

 

ドラグーンを回収し、再び戦場を駆け抜けていく。

 

その途中、Finis(フィニス)のレーダーが捉えた機体名を見て、自然と目が細くなる。レーダーには、Justice(ジャスティス)の文字が表示される。Justice(ジャスティス)の進行方向にはヤキンがあり、レオハルトは目的を何となく察し機体を割り込ませる。

 

「!?」

 

突然現れた謎の機体に、Justice(ジャスティス)のパイロットであるアスランは息を飲む。目の前に現れた機体は、どう見ても新型。これほどの機体を任されるエースは限られてくる。

 

「リベラント隊長、ですか……?」

「そうだ」

 

アスランの静かな問いに、レオハルトはハッキリと答える。レオハルトはアスランの後ろからやってくるStrike(ストライク)と同系統の機体に視線を向けるが、すぐにアスランに視線を戻す。

 

「どこに行く気だ、アスラン」

「……父を止めに行きます」

「止められるのか、お前に。ザラ議長を止められなかったから、お前はそこにいるんじゃないのか?」

「……っ!」

 

レオハルトの静かな問いに、図星を突かれたアスランは言葉を失う。アスランの説得の言葉も、パトリックには届かなかった。返ってきたのは、一発の銃弾。アスランの希望も容易く潰えた。

 

その結果、アスランは【ZAFT】を抜けラクス・クラインらと行動を共にしている。

 

「……今のような時代でなければ、彼女は優秀なトップだっただろう。だが、今の時代にラクス・クラインは必要ない。理想を語るだけでは、国は護れない」

「では、父が正しいと仰るのですか!【ジェネシス】のような兵器を造り、地球を脅威にしている父が!」

「国を護る為政者として、ザラ議長は正しい。いや、正しかったと言うべきか」

「どういう……なっ!?」

 

レオハルトの呟きにアスランが問いかけようとした瞬間、レオハルトがその鋭い牙をむいた。レオハルトはレシェフを構えると、コックピット目がけて引き金を引いた。だが、アスランは何とか反応しシールで防ぎ、レオハルトに視線を向ける。

 

「敵と会った以上、見逃すわけにはいかない。通りたければ、力を示せ」

「俺に、あなたと戦うつもりは……!!」

 

そこまで言い掛け、アスランは言葉を飲み込むしかなかった。テュルフィングを構えたレオハルトが、アスランに襲い掛かったからだ。

 

アスランは振り下ろされるテュルフィングを避けつつ、レオハルトに言葉を投げかける。

 

「リベラント隊長!止めてください!俺は!!」

「くどいぞ、アスラン。俺は【ZAFT】だ。そしてお前は、俺の敵だ!」

 

瞬間、ドラグーンが一斉にFinis(フィニス)の背部から放たれる。レオハルトの指示に従い、ドラグーンはあらゆる角度からアスランを攻撃していく。

 

「ちいっ!!」

「アスラン!!」

 

Strike(ストライク)に酷似しつつも、機体カラーがピンクに近い赤色のこの機体。機体名、MBF-02 Strike(ストライク) Rrouge(ルージュ)

 

モルゲンレーテ社が、イージスとの戦闘で中破したストライクを修復した際に製作した予備パーツを組み上げて完成させた機体。

 

基本構造はノーマルのストライクのコピー。だが、新開発の大容量バッテリーパック【パワーエクステンダー】を搭載し、活動時間が大幅に延長されている。

 

その際のエネルギー変換効率の向上に伴ってPS装甲への供給電力も増加し、装甲強度も向上。副次効果として装甲起動色が赤主体に変化している。

 

また、操縦に不慣れなカガリをサポートするため、ヘリオポリスにて開発が進められていたナチュラル用OSの技術が試験的に追加導入。制御系にはオーブが独自開発した操縦支援AIシステムを搭載し、追従反射性能の向上と操縦の補正機能を獲得した。

 

パイロットは今は亡きオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの義娘カガリ・ユラ・アスハ。幼い頃に何らかの理由でアスハ家に引き取られたが、実はキラとは双子である。

 

激しい攻撃を受けるアスランを案じ戦闘に加わろうとするが、即座にレオハルトが反応。スクエア型のドラグーン三基を差し向け、カガリに攻撃を加える。

 

操縦支援システムを搭載しているとはいえ、何事にも限界はある。レオハルトが操るドラグーンによる高速攻撃の前に、カガリは手も足も出ない。ギリギリ避けるのが精一杯である。

 

「カガリ!!」

 

そんなアスランも、残りのドラグーンとレオハルトの追加攻撃で下手に動くことが出来ない。

 

レオハルトはアスランとカガリの二人に気を配り、隙を見つけては両者にレシェフで攻撃を加える。これだけのことをするレオハルトではあるが、カガリとはともかくアスランに決定打を与えるには至らない。

 

「くそっ!!」

 

レオハルトはドラグーンをすべて回収しようと呼び戻した瞬間、イラついていたアスランが動く。その隙を逃さず、アスランにはラグナロクを、カガリにレシェフを撃つ。

 

どちらも命中はしなかったが、カガリは戦ったことのない強敵に恐怖し、アスランは尊敬する人間の実力に畏敬の念を覚える。

 

だが、だからこそ。だからこそ、アスランは叫ぶ。

 

「どうしてですか、リベラント隊長!あなたならわかっているはずだ!このままではいけないことを!」

「……」

「ただ憎み憎まれるだけではダメなんだ!分かっているはずです、リベラント隊長!!」

「アスラン……」

「…………」

 

アスランの必死の叫びに何も答えないレオハルトは、正面に立つJustice(ジャスティス)を見やる。レオハルトは左右の操縦桿を指の一本ずつを確かめるように再度握り直すと、止めていた時間を動かす。

 

レシェフをアスランに向け、一度だけ引き金を引く。放たれたビームはアスランがシールドで難なく防ぐが、その表情は苦いものだった。

 

「リベラント隊長!!」

「アスラン、俺は軍人なんだ。良くも悪くもな」

「あなたなら、力以外で解決出来る方法を見つけることが出来るはずだ!!」

「お前は俺を買い被りすぎだ。俺は、戦うことしか知らない。俺には、これしか出来ない!」

 

レオハルトは、Finis(フィニス)の右背部から三つ折りされた砲“高収束プラズマビーム砲 アスカロン”を展開し引き金を引く。アスランとカガリは左右に動いて避けると、レオハルトはドラグーンでカガリを攻撃。

 

アスランにはアスカロンとレシェフをドッキングさせた、“超高収束プラズマビーム砲 ブリューナク”を発射。Finis(フィニス)のカラーと同様、漆黒のビームがレシェフ以上の速さでアスランを襲う。

 

ラグナロクと比べると巨大ではないが、その名称通り発射されたビームには強大なエネルギーが凝縮されておりラグナロク以上の威力を秘めている。

 

「くそっ!!リベラント隊長がその気なら、俺は!!」

 

アスランは予想以上の速度で迫ってくるビームに悪態を吐くと、大きく距離を取り回避する。ブリューナクはアスランの後ろにいたストライクダガーを貫き、近くにいた機体も余波で爆発していく。

 

アスランは凄まじい威力に驚きつつ、レオハルトへと視線を戻した。その時、アスランの中で何かが弾けると距離を詰めるレオハルトにファトゥムを飛ばす。

 

ただ飛ばすだけではなく、“MA-4Bフォルティス ビーム砲”を撃ちながらである。レオハルトは接近を中断し後方へと下がりながらフォルティスを避け、すぐ後にやってくる“ファトゥム-00”も回避。

 

アスランは二本のラケルタの柄を合わせ“アンビデクストラス・ハルバード”と名付けられた双刃にすると、猛スピードでレオハルトに斬りかかる。

 

「それでいい、アスラン!力無き人間に正義を語る資格は無い!何をするにも、まずは力だ!」

「それは暴力で抑えつけているだけです!それでは反発を生んでしまう!」

「では、どうする!一人一人説得して回るか!?その間に人は死ぬぞ!何より、お前たちは力を揮い、俺たちを抑えつけようとしているだろう!」

「違う!俺たちは、戦争を止めたいだけです!」

「今この時だけの戦いを止めてどうする!?【プラント】は再び核を撃たれ、多くの仲間を失った!彼らの憎しみはどうすればいい!!どこに向ければいい、アスラン!!」

「それは……!!」

 

主張を聞いた人間全員が、納得してくれるわけではない。それぞれの主義、立場によって主張は異なり、受け入れることの出来る範囲も変わってくる。

 

両者の対立は、【ZAFT】に属し【プラント】を護るために戦うレオハルト。【ZAFT】を抜け、個人の主張を押し通したアスラン。それぞれの立場の違いから生まれるものである。

 

レオハルトの力のこもった言葉に、アスランは返す言葉を失う。それは、アスラン自身も理解している。

 

核によって【ユニウスセブン】は崩壊し、民間人から多数の犠牲者が出た。そして再び核が放たれ、【ボアズ】が消滅。またも多くの命が失われた。

 

【ボアズ】に知り合いがいた者も多く、彼らの怒りと憎しみは計り知れない。

 

「答えを持たない人間が!戦争をしたいわけではない!護るために必要なことをしているだけだ!!」

「それは……!!でも、だからと言って【ジェネシス】なんて!」

「言ったはずだ!必要なことをしているだけだと!核に対抗するためには、【ジェネシス】が必要だった!」

「そんなものを使わざるを得ない状況にまで、戦争が泥沼化してしまったということです!もっと早く手を打つべきだった!そうすれば、犠牲を減らすことだって!」

「“もし”を言うことに何の意味がある!時間を巻き戻すことは出来ない!ならば、今出来ることをするだけだ!違うか、アスラン!!」

 

レオハルトが横に振られたテュルフィングをアスランは機体を後ろに傾けて避けると、アスランは機体を素早く左回転。同時に脚部のビームブレイドを展開し、Finis(フィニス)の右腕の破壊を狙う。

 

だが、それは叶わなかった。レオハルトはその寸前に右腕の肘部に仕込まれていた、“MA-M002 エッケザックス ビームブレイド”で受け止める。

 

「なっ!?」

「甘いぞ、アスラン!」

 

驚きで固まるアスランを蹴り飛ばすと、カガリの攻撃に向けていたドラグーンを呼び戻す。ドラグーンの攻撃が止んだことで、カガリはすぐにアスランの元へと向かう。

 

「アスラン、大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ……。(とはいえ、どうすればいい。ギリギリ避けるのが精一杯だ。……待て。ギリギリ?リベラント隊長が本気で来て、損傷も無くいられるのか?)」

 

アスランはカガリの心配する声に疲労した声で答えると、目の前で静止するレオハルトを見やる。攻撃してくる様子は無く、不気味な印象をカガリは抱く。

 

だが、カガリとは逆にアスランは別の考えを抱き始める。レオハルトは、自分を試しているのではないかと。

 

「リベラント隊長。確かに俺は、父を止めることが出来ませんでした。その結果、俺は【ZAFT】を脱走して、今こうしてリベラント隊長と敵対しています。ですが、俺はこの悲劇を止めたいだけなんです」

「……」

「確かにリベラント隊長の仰る通り、この戦争を止めても一時的なものかもしれない。それでも俺は、この戦いを止めたい。【プラント】も地球軍も関係ない」

「…………」

 

周囲では戦いが激化する中、この周辺だけは時間が止まっているようだった。どちらも動かず、ただ相手に視線を向けるだけ。

 

「(……この感じは)」

 

すると突然、レオハルトは目の前のアスランから視線を外し別場所へと視線を向けた。意識が自分に向けられていないことを何となく察したアスラン。怪訝な表情を浮かべるアスランに対して、カガリが不用意な行動に出る。

 

「墜ちろ!」

「カガリ!?止めろ!!」

 

ビームライフルを撃ち、続けてビームサーベルで斬りかかったのだ。だが、注意を一瞬そらしたとはいえ、レオハルトとカガリとの実力の差は天と地。いや、地球と冥王星ほどの差がある。

 

「うわっ!?」

 

レオハルトはビームを簡単に避けると、ビームサーベルを振りかぶるカガリとの距離を詰める。予想以上の速さに驚愕の表情を浮かべるカガリ。

 

だが、その一瞬の遅滞が命取りとなる。レオハルトはビームサーベルが振り下ろされる前に懐に入ると、コックピット部分に強烈な蹴りを叩き込む。

 

激しい揺れで激しく振動するコックピット。カガリは悲鳴を上げながら吹き飛んでいくと、アスランはすぐに二人の間に機体を割り込ませ援護に入る。

 

「愚かな。その程度でオーブの獅子の娘か。血縁関係が無いとはいえ、滑稽なものだな」

「何だと!?」

「何故、そのことを……。俺たちも、そのことを知ったのは最近なのに」

「……。アスラン、出来るならやってみろ。俺たちに敵対してまで貫いたその意思、見せてみろ。時間は無いぞ」

 

レオハルトはアスランの質問には答えることなく、それだけ言い残すと猛スピードでその場から離脱していく。

 

アスランとカガリは、レオハルトに大きな疑問を抱きつつも目的を果たすためにヤキンに向かうのだった。

 

 

 

 

 

レオハルトが向かう先では、二人の人間によって死闘が繰り広げられていた。

 

一方は【ZAFT】のエース、ラウ・ル・クルーゼ。一方は【スーパーコーディネイター】、キラ・ヤマト。

 

【メンデル】で初めて対面しつつも、クルーゼは以前からキラの存在を認識していた。この世にあってはならぬ存在として。

 

だが、キラにはそんなことはどうでもいい。自分の大切な人間を殺され、クルーゼだけは自分が討つと心に決めて。

 

飛び交う無数のビーム。そのどれもが決定打にはならない互角の戦い。その戦いに、新たな乱入者が現れる。

 

「! 何だ、この感じは……」

「! 来たか、友よ」

 

二人が奇妙な感覚に襲われた瞬間、二人は同時に後方へと下がる。それと同時に、二機の間を漆黒のビームが通り過ぎていく。

 

二人はビームが飛んできた方角に視線を向けると、そこには非常に長い砲を構えた一機の漆黒のMSがいた。

 

Finis(フィニス)の武装の一つ、アスカロン。これは本来なら三つ折りにして背部に畳まれているが、最大に伸ばすことで長距離攻撃をも可能にしている。

 

キラはその特殊な外見の機体に警戒心を抱き、クルーゼは待ちに待った人物の到来に笑みを深める。

 

「クックックッ。これでキャストは全員揃ったというわけだ」

「キャスト?」

「どういう意味だ、ラウ」

「今、キラ君と君の話をしていたところだよ」

「!?」

 

クルーゼの言葉にレオハルトは目を見開いて驚くと、すぐに表情が険しくなりクルーゼへとレシェフを向ける。レオハルトの突然の敵対行動にも、クルーゼは驚くことも無く冷静に対処する。

 

「クククッ、冗談だよ。君のことが知られたら、何か不都合でもあるのかな?」

「ラウ……!……お前が、すべてを仕組んだのか?お前が【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】の情報を流したのか?」

「すでに確信があるようではないか」

「そして、レインを唆したのか」

「唆すとは人聞きが悪いな。選択肢を与えたまでだ。そして、選んだのは彼女だ。しかし、君がここに居るということは死んだということかな?愚かなことだ」

「ラウ!!」

 

瞬間、レオハルトの瞳が紅金に光り輝く。

 

レオハルトはすでに向けていたレシェフの引き金を引くと、すぐにドラグーンを分離。分離されたドラグーンはラウだけでなく、キラも同時に攻撃にしていく。

 

「……クククッ。ハーハッハッハッハッ!!やはり使えるのか、君も!私や、ムウと同じく!クククッ!笑いが止まらんよ、まったく。ヒビキ博士の実験は、その点では成功したというわけだ!」

「……知っているのか、ラウ」

「知っているとも!君の出生も、キラ君との関係もな!!」

「……僕との関係?」

 

クルーゼより速く、クルーゼより精密で精確に配置されたドラグーンから発射されたビームを、クルーゼは避けつつレオハルトの問いに答える。

 

そして、突然自分の名前が出たことでキラは困惑する。レオハルトとはアフリカとアラスカで会っただけで、何の接点も無い存在。そんなレオハルトに、自分と何の関係があるのか。

 

そんな当然の疑問から、キラの口から自然とその言葉が漏れ出る。

 

「どういう、ことですか……。僕との関係って……」

「知らぬのも無理は無い。君に会った記憶は無いだろう。だが、君は違うだろうレオ!」

「…………」

 

クルーゼの問いに、レオハルトは沈黙する。その沈黙こそ肯定の証。クルーゼの笑みがますます深くなるのに比例し、キラの頭の中は疑問でいっぱいになっていく。

 

「いいかね、キラ君!君と彼は、同じ場所で生まれたのだよ!あの場所、【メンデル】で!」

「ラウ!止めろ!!……ちいっ!」

 

クルーゼが口にしようとしていることを察し、レオハルトはクルーゼを止めるために動こうと試みる。だが、直前でクルーゼもドラグーンを分離。

 

Finis(フィニス)より数が多いドラグーンが、レオハルトの迎撃に動く。同時に、クルーゼはキラの牽制にも動く。

 

レオハルトはクルーゼのドラグーン攻撃で攻撃を断念すると、すぐに頭を切り替えこの時を好機と考える。クルーゼとキラの攻撃に向けていたドラグーンを回収し、再分離できるチャンスだと踏んだのだ。

 

レオハルトはドラグーンを回収し、次々と向かってくるビームの回避に追われる。とはいえ、相手もレオハルトと同様にエース。しかも、機体も核を動力にして動く新型。

 

機体は互角。ならば、勝敗を決めるのはパイロットの実力で決まる。レオハルトはクルーゼの攻撃に動きたいが、ドラグーンによってなかなか動くことが出来ない。

 

キラはクルーゼの言葉によって混乱し、普段通りの動きが出来ない状況にある。だからこそ、クルーゼはレオハルトに大部分の意識を割くことが出来ているのだ。

 

「彼、レオハルト・リベラントは君と同じくヒビキ博士によって生み出された存在!アル・ダ・フラガとユーレン・ヒビキ、二人の遺伝子を掛け合わせて一つとし、ヴィア・ヒビキによってこの世に生を受けた!!彼は、君の兄であり私と似た存在ということだ!」

「僕の、兄……?」

「君の【スーパーコーディネイター】と同じく、【ネオ・コーディネイター】と呼ばれる男。それが、レオハルト・リベラントなのだよ!」

 

クルーゼによって明かされた真実。レオハルト出生の秘密。

 

それは、アル・ダ・フラガとユーレン・ヒビキ。二人の遺伝子を掛け合わせ一つとし、ヴィア・ヒビキによってこの世に産み落とされた生命。

 

それが【ネオ・コーディネイター】、レオハルト・リベラント。

 

 



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Mission - 31 死の運命

お待たせしました。

あるご指摘により、主人公の機体名をFinis(フィニス)に変更しました。
混乱させてしまい申し訳ありません。

思ったより長くなっています。
続けて書くとかなり長くなるので、二つに分けることにします。

今回でも、レオハルトの隠された真実です。
これも、レオハルトの出生を思いついた時から考えていたものです。

ご都合主義感満載ですが、最後まで突っ走ります。
感想を書いて頂く方は、出来れば後書きもお願いします。


C.E.48年某月某日

 

「何故だ、ユーレン!!」

「愚問だ、フォード。欠陥品に用は無い」

「ユーレン!!勝手に創り出しておきながら、その言い草は何だ!!口が過ぎるぞ!!」

「もういいだろう。私は忙しいんだ」

「ユーレン!話は終わっていないぞ!!ユーレン!!」

 

ある一室で、一人の男の怒号が響き渡る。だが、怒りの矛先を向けられている男性はどこ吹く風といった様子で、まったく気にしていない。

 

怒りが向けられているのは、ユーレン・ヒビキ。【GARM R&D社】L4コロニー 【メンデル】内研究所ヒビキ研究室主任研究員の肩書を持つ研究者である。

 

対して、激怒の声を荒げたのはハルフォード・ヒュバーノ。同社同研究所同研究室の副主任を務める男で、特に遺伝子関係に特に造詣が深い男である。同時に、ユーレンの友人でもある。

 

【GARM R&D社】とはコーディネイター作成を一大産業とする遺伝子企業で、【メンデル】もそのための研究施設の一つである。

 

だが、この施設にはより先進的なコーディネイターを作成するという目的があり、そのための研究も多く行われている。

 

そして今回、ハルフォードが激怒している理由。それは、ユーレンのある態度にある。

 

すべては研究段階のためすべてが巧くいくわけではなく、失敗もある。むしろ、失敗する個体の方が多い。その失敗した個体を、ユーレンが何の感情も無く廃棄しているということに憤りを覚えているのだ。

 

こんな研究を行っていようと、命へと敬意を忘れるべきではないというのがハルフォードの持論である。だが、ユーレンはその持論とはズレた考えを持っている。

 

自分たちが行っている研究は、間違いなく人類の進歩に役立つ。そのために犠牲が出ることは仕方ないことであり、ある意味では必要な犠牲と割り切っているのだ。

 

真っ向からぶつかる両者の考え。だからこそ、このようにぶつかり合うことが度々あるのだ。

 

ユーレンは一方的に話を切り上げると、引き止めるハルフォードを無視して部屋を出て行く。ハルフォードも話をする相手が居なくなってしまった以上、ハルフォードも部屋を出る。

 

部屋から出ると、そこに立っていた人物はハルフォードの妻、リレイナ・ヒュバーノだった。

 

「リレイナ」

「声、廊下の先まで聞こえてたわよ。……駄目だったみたいね」

「……残念ながらな」

「そう……」

 

リレイナの問いに、ハルフォードはやや肩を落としながら答える。

 

ハルフォードは思う。以前は、あんな男ではなかったと。何が友を変えたのか。何故、友は変わってしまったのか。

 

何故という疑問ばかりがハルフォードの頭の中をぐるぐる回るが、いつまで経っても答えが出ることは無かった。

 

 

 

 

 

それから来る日も来る日も、研究を続いた。

 

だが、この研究は容易に達成出来るものではない。幾度もの失敗と、成功を繰り返した。成功したとしても、ユーレンの納得するレベルには程遠く、一般的なコーディネイターとは何ら遜色ない数値。

 

こんな研究成果を報告したところで、当然ながら上が納得するはずもない。

 

そんな時、ユーレンから呼び出され新しいコーディネイターの作成方法を提案された。

それを聞き、ハルフォードはすぐに反論の言葉を上げる。

 

「ユーレン!そんなこと!それに、成功するとは!」

「成功か失敗かでは無い」

「何?」

「実験だ。良いデータが取れる」

 

だが、返ってきた答えにハルフォードは耳を疑う。成功させるためではなく、実験のためだけに命を作り出す。

 

そんなことが許されるのかとハルフォードは言葉を失い、怒りで頭に血が昇っていく。

 

「ユーレン……!お前、人の命を何だと……」

「犠牲失くして進歩は無い。人類の進歩のためには、必要な犠牲だ」

 

冷徹な笑みを浮かべながら呟くユーレン。人を人と思わず、命に対して何の感情も抱いていない。ただ、“モノ”として見ているのだ。

 

そんなユーレンを、ハルフォードは恐怖の眼差しで見つめる。

 

「後戻りは許されんのだ。お前もだ、フォード」

 

ハルフォードは思う。今にして思えば、どんな手を使ってでもユーレンを止めるべきだったのだ。たとえ、ユーレンをこの手に掛けたとしても。

 

 

 

 

ユーレンがハルフォードに聞かせた、新たな方法。異なる遺伝子を配合して一つにし、後に一般出産させる方法。

 

野菜のように、より病気に強くより環境に強くなる。それらのことを、人間で実現させるというのだ。

 

二人の人間の遺伝子を組み合わせ一つにし、後は通常通り精子・卵子と組み合わせて受精させる。こんなことが可能なのだろうか。

 

ハルフォードは大きな疑問に襲われるが、ユーレンにしてみればそんなことは関係無いのだ。ユーレンの言葉を借りれば、研究結果のためなのだから。

 

研究を行うためには、やはり資金が必要になる。お金が湧き水のように湧き出てくるはずが無いので、資金の用意もユーレンに一任されることになった。

 

会社も他にやることがあるため、【メンデル】だけに資金を提供し続けるわけにはいかないのだ。

 

そんな時持ちかけられたのが、有力家であるフラガ家からの依頼。依頼内容は、自身のクローン作製。ハルフォードは反対した。研究のために必要だとはいえ、そんなことをするものではないと。

 

だが、ハルフォードの提言がユーレンに届くことは無かった。

 

ユーレンはクローン作製と引き換えに莫大な資金を手に入れ、遺伝子配合計画を進める。同時並行として、彼が以前から考えていた【人工子宮】も進め始めた。

 

そして、資金援助を受けてから二ヶ月経ったある日。ついに成功した。

 

ユーレンは自身の精子とアル・ダ・フラガの精子を遺伝子配合して一つにすると、妻であるヴィア・ヒビキの卵子と体外受精させた。その後、妻であるヴィア・ヒビキの子宮に戻した。そして、一人の男児が生まれた。

 

その“子ども”は研究が五十一番目だったこともあり、便宜的に【No.051(ゼロファイブワン)】と呼ばれるようになった。

 

子どもはややくすみがかったブロンドの髪だった。遺伝子配合を行ったのはヒュバート夫妻とリベラント夫妻の四人。

 

生まれてきた“子ども”は、ややくすみがかった金髪でアル・ダ・フラガの特徴が出ていることが分かる。

 

「何とかうまくいったな。成功かどうかは、経過観察を見て判断するとしよう」

 

ユーレンはヴィアが抱える“子ども”を見下ろしながらそう言い放つと、部屋を足早に出て行く。ヴィアは悲しそうな瞳でユーレンを見送ると、抱える“子ども”に視線を落とした。

 

それからはあっという間だった。

 

“子ども”はヴィアが忙しかったこともあり、ヒュバート夫妻が預かり育てることになった。“子ども”はすくすくと成長したが、同時に異常だった。

 

四歳、一般的に考えればまだまだ子どもの年齢。だが、あの“子ども”は違った。四歳だというのに、その知能は凄まじかった。

 

四歳にして有名工学系の大学問題を解き、我々が舌を巻くほどのことを考え非常に高い運動能力を発揮した。

 

“子ども”の予想以上の“結果”に、開発者のユーレンは狂喜したのだ。ハルフォードだけでなく、研究室の人間が恐怖するほどに。

 

ユーレンは“子ども”を、コーディネイターを超えるコーディネイター。【ネオ・コーディネイター】と命名した。

 

コーディネイターを超えるコーディネイター。それを聞き、ハルフォードは納得する。通常のコーディネイターを遥かに超える能力を秘めているのだから、そう考えるのも当然だった。

 

だが、運命は皮肉だった。才能と引き換えに、“子ども”は大事なものを失って生まれてきてしまったのだ。

 

「冗談ではない!これでは、あのクローンと同じではないか!!失敗だ!」

 

新たに発覚した“子ども”の欠点を知り、ユーレンは激怒した。机を拳で叩きつけ、激しく声を荒げる。

 

遺伝子配合を行ったヒュバート夫妻らもその事実を知り、激しく後悔した。まだ小さい“子ども”

に、何て残酷な運命を背負わせてしまったんだと。

 

だが、ユーレンのその言葉はハルフォードにとって。いや、彼を息子のように想う彼らにとって看過できない発言だった。

 

ハルフォードは机を両手で叩き立ち上がると、ユーレンに向けて声を荒げる。

 

「ユーレン!我々が身勝手な理由で創り出した命だぞ!!傲慢が過ぎるぞ!!」

「黙れ、フォード!!とんだ綺麗事を抜かすものだ!!遺伝子配合を行ったのは誰だ!!他の誰でもない、貴様だろう!!」

「その通りだ!!だが、指揮しているのは誰だ!!」

「人類の未来のためだ!!多少の犠牲は仕方なかろう!!」

 

その言葉で、ハルフォードは理解した。どれだけ言葉を紡ごうと、どれだけ言葉を投げかけても、ユーレンにはすでに届かないということを。

 

いつかは分かってくれるとわずかに抱いていた希望も、呆気なく砕けたしまった。ハルフォードは言葉に意味は無いと悟り、静かに椅子に座りなおした。

 

“子ども”にはこの研究所でユーレンの指示により、近接戦闘訓練に銃器やナイフの扱いなど、ありとあらゆる軍事訓練を叩き込まれた。

 

その情報量は凄まじかったが、“子ども”はその頭脳ですべてをマスターしてしまった。ハルフォードは才能に喜びを覚えつつも、心の奥底ではわずかな恐怖を覚えてしまった。

 

ハルフォードにとってそれは抱いてはならぬ感情であり、自分を殴り飛ばしたい感情に襲われていた。

 

“子ども”はほとんどの者からは依然としてナンバリングで呼ばれているが、ヒュバート夫妻はZEPHYR(ゼファー)と名付け、一部の人間たちもその名前で呼び始めた。

 

意味は、優しい風。誰にでも優しく、傷付いた人を優しい風で癒せる人間に。そういう意味が込められている。

 

ハルフォードたちが名前を呼ぶたび、ゼファーは嬉しそうに笑みを浮かべる。その純粋無垢な笑顔に、ハルフォードたちは癒されてきた。

 

だが同時に、チクリと痛む罪悪感を覚えるのだ。

 

「(我々のせいで、ゼファーには重く厳しい運命を背負わせてしまった。これが、どれだけ罪深いことか。ゼファーだけではなく、あのクローンの子どもにも)」

 

クローン技術は禁止されているため、技術などまだまだ未熟。そんな未熟な技術で、完璧なクローンなど不可能だ。それ故、テロメアが短いという短命な寿命を背負わせる結果になってしまった。

 

我々は、親になってはいけない。命ある限り、ゼファーのために。

それが、ヒュバート夫妻の共通の想いだった。

 

 

 

 

ユーレンは遺伝子配合計画のこれまでの失敗例と、ゼファーの結果を考慮して計画を廃止し、【人工子宮】に本腰を入れ始めた。

 

遺伝子研究の第一人者でもあった二つの夫妻は、【人工子宮】の研究からは外れることになった。自分たちだけで十分という理由だった。

 

だが、それはヒュバート夫妻にとって好都合だった。ゼファーの傍にいることが出来るという点では。

 

そして数か月後。日々行われるゼファーの訓練の合間、不意に自身の名前を呼ばれハルフォードは本から視線をゼファーに移す。

 

「ヒュバート博士。僕に兄弟が出来るって本当なの?」

 

部屋でくつろいでいると、唐突にそう問いかけられた。ハルフォードは、ゼファーにはのことは博士と呼ばせている。自らの罪を忘れないためだ。

 

最近、ついに【人工子宮】が成功したとハルフォードは人伝に聞いていた。ユーレンが絶対の自信を持っているようとも。

 

そして、ヴィアの胎内に戻され近いうちに出産するというのも聞いていた。だが、ゼファーに彼らと接触する機会は無いはずたった。

 

「誰に聞いたんだ、ゼファー」

「ヒビキ博士」

「!? ……何て言われたんだ?」

「ただ、兄弟が生まれるって」

 

ヒビキ博士。ゼファーがそう呼ぶのは、この世でただ一人だった。ユーレン・ヒビキだけである。ヴィアは、ヴィアおばさんと呼んでいることから、ハルフォードは直感的にユーレンだと理解する。

 

ハルフォードの問いに、幼いゼファーの顔が一瞬揺らぐ。その揺らぎを、ハルフォードは見逃さなかった。

 

長い時間接してきたハルフォード。高い頭脳を有しているとはいえ、まだまだ嘘は隠しきれなかった。

 

「(どうせ、ゼファーの欠点を指摘し今度は完璧の子どもが生まれるとか言ったのだろう。だが、やはりゼファーは聡い子だ。自分のことより、私のことを気遣っている)」

 

ハルフォードはゼファーをリレイナに任せると、足早に部屋を後にする。部屋を出てすぐに、ハルフォードはウェーガー・リベラントと遭遇した。

 

ウェーガーはハルフォードの弟子のような存在であり、遺伝子関連に詳しい。ハルフォードと同じくゼファーの遺伝子配合に関わり、ゼファーもよく懐いている優男である。

 

「鼻息が荒いですね。どちらへ?」

「ユーレンのところだ。どうやら、ゼファーにくだらないことを言ったようだ」

「なるほど。すでにご存知でしたか」

「何?知っているのか?」

 

ハルフォードがそう問いかけると、ウェーガーは周囲を軽く見渡しハルフォードの耳に口を寄せる。

 

「大体予想通りかと。どうやら、お前と違って完璧な子どもが生まれるとか言ったらしいです。私もその場所にいた研究員から聞いただけですが」

「ユーレンめ……!」

「怒るのは分かりますが、部屋に戻りましょう。ヒビキ主任に何を言っても、無駄ですよ。残念ですが……」

 

最後の部分は、表情を曇らせながらそう呟くウェーガー。

その言葉に、ハルフォードは何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

「この子たちが、僕の弟と妹?」

「ええ、そうよ」

 

ある日、ハルフォードやゼファーの元をヴィアが訪れていた。理由は血縁上はゼファーの弟妹となる、双子をゼファーと合わせるためだ。

 

とはいえ、このことはユーレンには秘密だった。このことを知れば、また面倒なことになることはヴィアも承知している。だからこそ、ヴィア自ら会いに行ったのだ。

 

ヴィアの腕に抱かれる双子の男女を、ゼファーは興味深そうに眺めている。恐る恐る手を伸ばすと、男児がその小さい手でゼファーの手を握る。

 

「名前は何て言うの?」

 

ゼファーがそう問うと、ヴィアは優しい笑みを浮かべながら答える。

 

「男の子がキラで、女の子がカガリ。ゼファーもお兄ちゃんね」

 

 

 

 

 

 

「っ……!?」

 

瞬間、レオハルトは意識を取り戻す。レオハルトの意識はほんの数十秒、あるいは数秒間だけ瞬時に切り替わっていく物語の世界に居たようだった。

 

レオハルトは意識を取り戻すと、眼前に迫るProvidence(プロヴィデンス)を見て息を飲む。

 

回避行動も迎撃も間に合わず、強烈な蹴りを入れられ激しい衝撃に襲われながらもレオハルトは必死にモニターに目を向ける。

 

「どうした、レオ!動きが鈍っているぞ!!それとも、研究所でのことでも思い出していたのかね!?」

「……その口を閉じろ、ラウ!」

 

クルーゼは回収していたドラグーンを再び解き放つと、レオハルトに無数に降り注ぐビームのを浴びせる。だが、レオハルトはその間を縫うようにして避けながら、レオハルトは意識をわずかにキラへと向ける。

 

「僕の……兄……?あの時の人が……?」

 

最低限の操作しか出来ず、キラは茫然とする。ムウからは【ZAFT】のトップエースとして聞かされ、アフリカでは銃を向けて来た人間が実の兄。そんな衝撃的な事実を聞かされれば、混乱するのも無理はない。

 

そんな状態にあっても、クルーゼはキラとレオを相手にドラグーンで攻撃を仕掛けていく。その攻撃に容赦は無く、撃墜するという意思で攻撃を加えている。

 

「ククッ。かなり混乱しているようだな。敵だと思っていた人間が、自分の兄なのだからな!」

「どういうつもりだ、ラウ!」

「教えた理由かね?決まっている!私も君も!彼を生み出す過程で生まれた存在だ!私たちのことを、彼は知る義務がある!自らの存在の罪深さと共にな!!」

 

クルーゼはドラグーンを回収すると、右手にしている大型ビームライフル“MA-M221 ユーディキウム ビームライフル”を構え引き金を引く。

 

レオハルトはビームをシールドで防ぐと、反撃とばかりにレシェフを放つ。同時にドラグーンを分離させ、量子通信で操り攻撃を仕掛けていく。

 

レオハルトはクルーゼがビームを避ける方向を予測し、その予測に従いドラグーン攻撃を仕掛けていく。長い付き合いだからこそ分かる、クルーゼの癖。

 

だが、それは逆もまた然り。クルーゼはレオハルトなら自分の動きを予測して攻撃してくるはずだと読み、そして見事それは当たった。

 

緻密に配置されたドラグーンの攻撃をクルーゼは躱していくが、不意に横から放たれたFreedom(フリーダム)の“M100バラエーナ プラズマ収束ビーム砲”を、スラスター噴射で動き回避する。

 

「何を……何を言っているんだあなたは!僕の罪って……。何を言っているんだ!!」

「君は人類の夢、最高のコーディネイターだ。君が生まれるまでの間に、一体どれだけの命が失われたと思う!君という存在を生み出すために、どれほどの重い運命を背負わされたと思う!!」

 

クルーゼはそう叫ぶと、回収していたドラグーンを一斉に解き放つ。

 

レオハルトとキラ。強者の二人に向けられたドラグーン。一人より二人よりになった方がドラグーンの攻撃が弱くなるのは当然だが、クルーゼはそんなことを感じさせることなく攻撃を加えていく。

 

「フン!言っても詮無きことか!!何も知らず、何も知ろうとせず、ただ己の見たいことだけを見てきた子どもに!!真実を知った私の、私たちの絶望の一片も分かるはずが無い!!」

「ラウ!!」

 

レオハルトはレシェフをマウントしテュルフィングを抜くと、Finis(フィニス)は他の三機体より増設されたスラスターによって実現した、高速機動によりビームを紙一重で躱す。

 

その機動は誰が見ても無茶なものであり、【ネオ・コーディネイター】と呼ばれるレオハルトの超反射神経と超人的な身体能力だからこそ可能となる動き。

 

クルーゼはレオハルトの動きに気付くとすべてのドラグーンをキラの攻撃に回し、レオハルトには自身がぶつかることに決める。

 

“MA-V05A 複合兵装防盾システム”の先端から巨大なビームサーベルが顕現すると、両者のビームサーベルが激しくぶつかり合う。

 

「余計なことを言うな、ラウ!!」

「何故だ、レオ!君も絶望しただろう!!望まぬ生を受けながら、残酷な運命を背負わされている事実に!!それもすべて、己の我欲のままに名誉を欲したユーレン・ヒビキのせいだろう!!」

「背負う運命が、回帰させようとする理由か!」

「回帰?……レイン・エルミーラが言っていたのかね?ハッ!おめでたいことだ!本当に信じていたはな!人類など必要ないのだよ!!傲慢にして無知、欲の塊であるヒトなど!!」

 

クルーゼはレインに目的は回帰だと告げていた。現在の人類を排し、新たな人類に未来を託す。すべてを破壊し、いつか生まれる新たな人類にコーディネイターやナチュラルも無い。

 

そうなれば、レインが味わった悲劇も無い。新たな人類にこそ、新たな可能性がありより良い未来が築かれることになると。

 

その目的の元に利害が一致し、協力し合っていたクルーゼとレイン。だが、実際はクルーゼにそんなつもりは欠片も無い。

 

クルーゼは単純に、自らに残酷な運命を背負わせた人類すべてを憎み、人類すべてに裁きを下すために動いたに過ぎない。そこに人類の未来のことなど、何の興味も無い。

 

「私たちは同じだ!たった一人の、同じ境遇と視点を持つ者だ!!私は、私を創ったアル・ダ・フラガとユーレン・ヒビキが憎い!その結果を招いたのは、世界に満ち溢れる人類の競争だ!!だから、私はすべてを滅ぼすのだよ!!」

 

ラウ・ル・クルーゼ。

 

レオハルトやキラと同じく【メンデル】で誕生したアル・ダ・フラガのクローン。だが、生まれてきたクルーゼは問題を抱えて産まれて来た。

 

しかし、ヒビキ博士は体細胞クローニングの宿命であるテロメア遺伝子の減少短縮問題を技術的に解決出来ていなかった。そのため、ラウは余命が短く早期に老いが訪れるという【失敗作】として誕生させられてしまった。

 

テロメア遺伝子の減少短縮による老化と短命。さらには、細胞分裂を抑制する薬品を服用し、老化した素顔を見せたくないがため仮面で被っていた。

 

アルがクルーゼを創らせた動機は、一人息子であるムウに納得できなかったため、代わりの後継者が欲したため。

 

だが、産まれてきたクルーゼは【失敗作】の烙印を押されフラガ家を追い出される。だが、クルーゼは屋敷に火を放ち、逃げ遅れたアル・ダ・フラガは死亡するという結果に終わった。

 

レオハルトとクルーゼは互いに機体を押し合ううちに、機体の場所が入れ替わり同時に後方へと距離を取る。距離を取ったその先で、キラがラケルタでクルーゼへと斬りかかる。

 

だが、クルーゼはキラの攻撃を避けるとキラに回し蹴りを喰らわせる。キラはシールドで防ぐが、伝わってくる衝撃で機体はバランスを崩してしまう。

 

“MA-V05A 複合兵装防盾システム”に内蔵されている二門のビーム砲でキラへと追撃を掛ける。だが、その寸前でレオハルトはラグナロクを撃ち邪魔をする。

 

「敵とはいえ、やはり弟ということか!優しいことだな、レオ!!」

「何のことだ!俺はお前を討つ!それだけだ!!」

 

クルーゼはドラグーンを一時回収すると、ユーディキウムでレオハルトを、ビーム砲でキラを同時に狙い攻撃を加える。連続で放たれる攻撃に二人は右に左に動き回り回避していく。

 

「何故だ、レオ!何故、君は憎しみを捨て去ることが出来た!!以前の君は、もっと鋭かった!誰も寄せ付けず、常に殺気を放ち、人類を憎む瞳をしていたはずだ!!」

「…………」

「私と同じ。いや、ある意味では私以上に残酷な運命を背負う君が!!」

「残酷な運命……?一体……」

 

キラの口から、思わず口から洩れた言葉。その言葉に、クルーゼの口角が自然と釣り上がる。

 

「君には知る義務がある!君の兄が、どんな残酷な運命を背負わされているのか!教えてあげたらどうだね、レオ!」

「言う必要も無ければ、知る必要も無い!」

 

攻撃の隙を狙い、レオハルトはドラグーンを分離させると二人を同時に攻撃していく。ドラグーンで攻撃しつつ、レシェフやアスカロンで追加の攻撃を加える。

 

だが、そのどれもが致命的どころか見事に防がれる。

 

「では、代わりに私が教えよう!彼はな、私と似ているのだよ!遺伝子配合も、所詮はユーレン・ヒビキが思い付きで行ったに過ぎない!そんな思い付きの研究だ!前例などあるはずもない!産まれた彼にも、間もなくテロメアに異常が発見された!!」

「異常……?」

「言うな、ラウ!!」

 

レオハルトを以てしても苛烈という他無いドラグーン攻撃。回避に精一杯で、クルーゼを制止する余裕などなかった。ただ、思いを口にするだけしかなかった。

 

「彼は私以上と言ってもいい!!ある年齢を過ぎると急速に老化が進行し、その後は一年ほどで死に至るのだよ!!」

「そんな……」

「“ある年齢”というのも推測できず、いつ“ある年齢”が来るのかも分からない!これほどの恐怖があるか!!それが、君の兄が背負う残酷な運命だ!!いや、その程度の言葉で語るのもおこがましい!!」

 

クルーゼによって明かされる、二つ目の真実。

 

だが、その真実はあまりにも残酷なものだった。その真実の衝撃さにキラは言葉を失い、レオハルトは視線が険しくなり唇を噛み締める。

 

レオハルトにとって、これだけは知られたくなかった真実。これは自分が背負うことであり、キラは当然ながら他人が背負うものではないと考えているからだ。

 

「長く生きられず、近い将来に必ず死ぬことが決定付けられた運命!この事実を知った時の絶望を理解できるのは、私だけだ!私だけが、レオを理解することが出来る!!レオ、私と共にこの腐った人類に終止符を打とうではないか!!」

 




今回、クルーゼがレオハルトを理解できるのは自分だけだと言っている描写があります。

レイもいますが彼はクルーゼとは年が離れているし、クルーゼとレオハルトとの関係性も違います。
クルーゼとレオハルトは長い間苦楽を共にして、いろいろなことを体験してきた仲です。

ある意味、レイ以上のつながりが生まれたと考えています。

だから、クルーゼは理解できるのは自分だけだという言葉を言わせてみました。


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最終話 未来をその手に

ついに最終回です。

紆余曲折もありご都合主義の小説ではありますが、ここまで来ることが出来ました。
読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます。

もうちょっと早く更新できるはずだったのですが、所々に手直しを入れていたら遅くなりました。

最終回ではありますが、小説としては最後にエピローグを入れて完結とさせて頂きます。
エピローグも恐らく、今月中には更新できるはずです。



「フォードさん」

「ウェーガー。準備はどうだ?」

「【プラント】に住居と新たな身分も用意しました」

 

ゼファーとレオハルトが出会ってから数ヶ月後。

ハルフォードとウェーガーは密かに会い、小声で話し合っていた。

 

「脱出の準備も今日の夜には完了します」

「よし。ならば、深夜に脱出しよう」

「はい」

 

二人が話し合っているのは、【GARM R&D社】から逃亡することである。

彼らはもう嫌になったのだ。こんな研究を続けることに。

 

キラが生まれたことにより、【人工子宮】は【GARM R&D社】から大きく評価されユーレンの功績は非常に大きなものとなった。

 

ユーレンは単純に喜んでいたが、ヒュバート夫妻やリベラント夫妻は喜ぶことなど出来るはずもなかった。自分たちの研究は、数え切れないほどの犠牲の上に成り立っている。

 

無論、彼らもこうなることは覚悟していた。していたのだ、ゼファーに出会うまでは。

 

ゼファーに出会って親の情を抱いてしまったこと。このことが、彼らの罪の意識をより増すスパイスになってしまった。

 

そして、ユーレンの口から聞かされた決定的な一言。

 

「キラは【最高のコーディネイター】となるだろう。ようやく完成した。だから、二人目の作製に取り掛かる。いや、二人目とはいわず、さらなるコーディネイターの作製に取り掛かるのだ」

 

たった一人のコーディネイターを生み出すために、彼らは数えきれないほどの命を犠牲にしてここまで来た。だというのに、ユーレンはさらなるコーディネイター作製に着手しようというのだ。

 

生まれてきた唯一の完成体キラ・ヤマト。彼以上のものを望むとなれば、これまで積み上げてきた以上の犠牲を生み出しかねない。

 

だから、ハルフォードはこの研究から逃げることに決めた。リベラント夫妻と共に逃げるのだ。

 

「ヒビキ主任は、どうされるのですか?」

「……あいつはもう、どうにもならん。だが、データだけでも消去する。完全にな。この研究を続けさせるわけにはいかん」

 

ウェーガーはその言葉に力強く頷くと、その場を後にする。

 

「もう少しだ。ここを離れることが出来れば、ゼファーにも普通の子どもの暮らしを」

 

だが、ハルフォードの願いが叶うことは無かった。

 

 

 

 

 

C.E.55年5月30日。

 

この日、【メンデル】をコーディネイター排斥を掲げる【ブルーコスモス】が襲撃した。襲撃したのは、その中でもさらに過激な人間たちだった。

 

逃亡の準備を終え最後の日誌をつけていたハルフォードは、遠くから聞こえてくる音に気付いた。

 

「何の音だ。こんな時間に」

 

時間はすでに二十二時を過ぎており、普段なら静かになっている時間だった。音は徐々に近付きハルフォードも危機感を抱き始めた時、ウェーガーとその妻が部屋に飛び込んできた。

 

「フォードさん!!」

「ウェーガー、何事だ。それに、この音は」

「【ブルーコスモス】です!【ブルーコスモス】が襲撃してきました!!」

「何だと!?クソッ!空気の読めん奴らだ!!」

 

ハルフォードはウェーガーたちの言葉に悪態を吐きリレイナとゼファーを起こそうと立ち上がった瞬間、部屋に乱入者が現れる。

 

「ここにも居たぞ!青き正常なる世界のために!!」

 

入ってきた男は、【ブルーコスモス】お決まりの謳い文句を口にしながら銃口をハルフォードに向ける。突然のことに反応できず、発射された弾丸はハルフォードの左肩に命中。

 

「ぐっ!!」

「フォードさん!!」

 

撃たれた衝撃ハルフォードは倒れ込むと、痛みに顔をしかめ傷口を右手で抑えながら男に視線を向けた。

 

「コーディネイターに死を!!」

 

男は笑みを浮かべながらそう叫ぶと銃口を向け引き金をしようとした瞬間、男は絶命。ハルフォードとウェーガーは、男の喉から血が噴水のように噴き出す男を呆然と見つめる。

 

男がゆっくりと倒れると、その後ろにはまだ小さいゼファーの姿があった。その右手にはハサミが握られていた。

 

持ち前の身体能力で後ろから男に飛びつき、ハサミで素早く男の喉をかき切ったのだ。飛び散った鮮血が、ハルフォードの日誌を血で濡らした。

 

「博士、おじさん。大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

今まで実感したことのなかった、ゼファーの能力。右手には血に濡れたハサミを携えながらも、二人の無事を知りいつも通りの純粋無垢な笑顔を見せるゼファー。

 

その姿に、ハルフォードとウェーガーは心の底から恐怖した。同時に、猛烈な罪悪感に襲われる。

 

自分たちを助けるためとはいえ躊躇いなく人間の命を奪い、恐らくはそのことに対して何の疑問も持っていないということに。

 

だが、それも当然だった。男を殺した技術も考え方も、すべてはユーレンの指示によって徹底的に叩き込まれている。自衛のためだと黙認していたが、ハルフォードとウェーガーは強い罪悪感と後悔に襲われていた。

 

「……は、早く逃げましょう!予定は狂いましたが、混乱に紛れて脱出しましょう」

「あ、ああ。そうだな」

 

一足先に我に返ったウェーガーがそう言葉を掛けると、ハルフォードは立ち上がりリレイナの元に向かった。ゼファーに言われたのか、物陰に隠れていたリレイナを連れ出し用意していた脱出艇へと走る。

 

ウェーガーは未だ呆然としている妻を強引に立ち上がらせると、その後を追った。

 

男が持っていた銃を密かに奪い武装したゼファーを、リレイナがその手を引っ張り走り続ける。

 

だが、そこまで誰とも会わずに行けることなど出来るはずも無く、前方の曲がり角から銃を構えた男が飛び出してくる。

 

「いた……!」

 

男は最後まで口にすることが出来ず、額を銃で撃ち抜かれゆっくり後ろ向きに倒れ込む。突然のことに驚く四人。だが、彼らの視線はすぐにゼファーへと向けられた。

 

ゼファーはリレイナの手を振りほどき、先ほど奪った銃で男を射殺したのだ。

 

「ゼファー、お前……」

 

ハルフォードが声を掛けようとした瞬間、ゼファーは床を蹴り駆けだした。ゼファーの聴覚が、新たな敵の接近を感じ取ったのである。

 

「おい、大丈夫か!お前ら……!」

 

ゼファーが曲がり角付近に到着したのと同じく、別の男が姿を現した。男は転がる男に声を掛けるが死んでいると確認すると、すぐにハルフォードらに気付く。

 

だが、その時にはすでに遅かった。男の懐に入ったゼファーが、銃口を男の顎下に押し当て引き金を引いたのだ。

 

至近距離から銃弾を撃ち込まれたことにより、銃弾は男の頭部を貫通し天井にめり込む。ゼファーは一つ前の男が持っていた拳銃を拾うと、両手の銃を左右に向ける。

 

ゼファーは連続で引き金を引き続け、左右の通路の先にある曲がり角から出てくる【ブルーコスモス】を次々と射殺していく。

 

拳銃から次々と排莢されていく空薬莢(やっきょう)が床に落ちていき、銃の弾薬が尽きたころには周辺は硝煙で白くなっていた。

 

ゼファーはそれが当然であるかのように右手の銃を投げ捨て、男の懐を探り持っていた弾倉を交換しスライドを引く。

 

「終わったよ。急ごう」

「……ああ」

 

ハルフォードは様々な感情で入り混じった表情を浮かべつつ、ゼファーの言葉に頷き再び走り出すのだった。

 

そこからは誰にも会うことなく、ゼファーたちは無事に港へと辿り着いた。港には強引に【ブルーコスモス】たちの小型艇が横付けされていた。

 

これほど簡単に侵入を許したのも、ただの会社だからと考え粗末な防犯システムしかなかったからに他ならない。コーディネイターを造っている会社なのだから、【ブルーコスモス】が来ることも予知できたかもしれないというのに。

 

そんなことを考えつつ、ハルフォードは管制室で脱出艇を発進させるためコンソールをいじっていた。その間にウェーガーたちもコンソールキーを叩き、港に続く防火扉を下ろしていく。

 

「時間稼ぎくらいにはなるだろう。フォードさん、どうです?」

「ちょっと待て。こういうのは専門外なんだ」

「私が手伝うわ。あなたたちは先に乗って」

 

専門分野以外はあまり得意ではないハルフォードに協力する形で、リレイナが共に残り他の三人は脱出艇へと乗り込む。

 

「システムが書き換えられてる?【ブルーコスモス】の仕業かしら」

「まったく、余計なことを!」

 

書き換えられたシステムを再構築しつつ、二人は脱出するための工程を進めていく。だが、その間も【ブルーコスモス】は迫っていた。

 

突然鳴り響く銃声に、二人は身をすくませる。

 

「気付かれたか!」

「急ぎましょう!」

 

防火扉を壊そうと【ブルーコスモス】は、しゃかりきになって銃弾を叩き込んでいた。だが、中々壊れないことに業を煮やし、ついには爆弾を持ち出してきた。

 

「フォードさん、リレイナさん!急いでください!!」

「急かすな、ウェーガー!」

 

近付いて来る【ブルーコスモス】に気付き、ウェーガーは二人に急ぐように呼びかける。だが、それは二人も承知している。焦りを必死に抑え込み、二人は作業を急ぐ。

 

「よし、これで!」

「急いで!」

 

だが、遅かった。

 

防火扉は爆弾で容易く吹き飛ばされると、武装し怒りをにじませた【ブルーコスモス】が押し寄せてきたのだ。

 

「フォードさん!」

「ちっ!」

 

ハルフォードはリレイナは管制室に引き返すと、中にあった机や椅子などで入り口をふさぐと脱出艇に通信をつなげる。

 

「ウェーガー、私たちのことはいい。行け」

「そんなこと、出来るはずが!」

「お前らまで死んではいかん!お前たちまでいなくなってしまえば、ゼファーはどうなる」

「フォードさん……」

 

唇を強く噛み締め、受け入れがたい現実に直面するウェーガー。だが、ハルフォードの言葉通りそうするしか無いということも理解できるのだ。

 

ゼファーはゆっくりと歩み寄り、モニター画面の前に出る。

 

「ヒュバート博士……」

「ゼファー、私たちは一緒に行くことは出来んようだ。私からの願いだ、ゼファー。これからは、銃を捨て平穏に生きてくれ。人類には、まだ希望と未来があるはずだ!人を信じろ、ゼファー!」

「博士……」

 

幼いとはいえ、高い頭脳を持つゼファー。だからこそ、今の現状が理解できる。だが、ゼファーにとって長年の親代わりだった二人を失うことに、抵抗が無いわけではない。

 

ゼファーの瞳には浮かぶ涙を見て、ハルフォードは微笑みを浮かべる。

 

「泣くな、ゼファー。私たちとはこれで最後だが、私たちはお前を見守っている」

「…………」

「行け、ウェーガー!ゼファーを頼むぞ!!」

「くそっ……!」

 

ウェーガーは脱出艇のスイッチを押していき、操縦桿を握ると流れる涙も拭わず正面を見据える。

 

その時、ついに扉が破られ【ブルーコスモス】たちのいくつもの銃口が二人に向けられる。無慈悲に引かれる引き金。その様子を、ゼファーは目撃してしまった。血に濡れ、血に倒れ伏す二人の姿を。

 

「お父さん!お母さん!」

 

ゼファーの叫びは、薄れ行く意識の二人の耳に確実に届いていた。血を吐きながら、ハルフォードは小さく笑みを浮かべる。

 

「(こんな私たちを、親と呼んでくれるのか……。さらばだ、息子よ……)」

 

 

 

 

 

クルーゼによって明かされた、レオハルト最大の秘密。

 

研究データのために行われた、ユーレン・ヒビキ主導による遺伝子配合計画。その唯一の傑作にして失敗作。まだ未熟な技術故に、生まれてきたレオハルトはテロメアに異常を持って産まれてきた。

 

その唯一の欠点を除けば、レオハルトの能力はあらゆる面で【最高のコーディネイター】キラ・ヤマトを上回っている。

 

だが、ユーレン・ヒビキにそれを見過ごすことは出来なかった。だからこそ、ユーレン・ヒビキはレオハルトに失敗作の烙印を押し、以降はデータのためだけに生かし続けた。

 

レオハルトはリベラント夫妻と共に【プラント】に着き、定住。念を入れ、ゼファーは名前を変え、リベラント姓を名乗ることになった。

 

その時、レオハルト・リベラントという男が生まれたのだ。

 

クルーゼはドラグーンを呼び戻し回収すると、沈黙を貫くレオハルトに再度言葉を投げかける。

 

「さあ、レオ!私と共に、この腐った世界に復讐しようではないか!!」

 

クルーゼがドラグーンを回収したことで猛攻は止み、レオハルトはクルーゼと向かい合う。レオハルトの返答が気になるのか、キラまでもが動きを止めてしまう。

 

親友からの誘いの言葉。レオハルトはその言葉に目を閉じて頭の中で反芻すると、目を開けはっきりと答える。

 

「断る」

「何?」

「断ると言ったんだ。俺は、そんなくだらないことに興味ない」

「……予想していたとはいえ、残念だよ。実に残念だよ、レオ!」

 

瞬間、二人は同時に動く。幾度も交差し、その度にぶつかり合う両者のサーベル。

 

その時、二人の戦闘にキラがバラエーナで横槍を入れる。二人は同時に後方へ下がると、レオハルトはドラグーンを解き放つ。

 

クルーゼは半数をキラに、レオハルトは三基のドラグーンをキラに差し向ける。無論、残りは目の前の相手に。

 

バイザーの奥で、紅金に妖しく光るレオハルトの瞳。だが、徐々にその瞳に変化が表れ始めた。二色が複雑に混じり絡み合っていた瞳が、次第に調和し始めたのである。

 

「これほど腐った人類に何の意味がある!どれほどの価値がある!そんなものは無い!!欲望と欺瞞に満ち溢れたこの世界で、何を信じる!何故、信じる!!」

「違う!人は、人はそんなものじゃない!!」

「何も分かっていないな、君は!いつかは、やがていつかはと愚かな幻想に踊らされ、どれだけの命を奪ってきた!!我々のような存在を生み出し、幾星霜も争いを続ける!救いようがないな、ヒトは!世界は!!」

 

この場に味方は居らず、敵しかいない三つ巴の状況。

 

クルーゼとキラがぶつかれば、その隙を狙いレオハルトは二人の撃墜に動く。クルーゼは【プラント】を裏切り危険にさらした人間として罰を。

 

キラが弟だろうと関係ない。所詮は遺伝子上の弟。レオハルトはキラに対して家族の情など無く、あるのは敵という認識だけである。それはキラも同じことではあるが、引き金に掛けられた指には多少の迷いがあった。

 

キラはレオハルトを討つことに理由が無いのだ。そのため、キラはレオハルトに対しては最低限の攻撃に徹しクルーゼを討つことに全力を注ぐ。

 

だが、そんな甘さが通用するほどレオハルトは容易くは無い。クルーゼからの攻撃が一瞬止んだ瞬間、レオハルトは猛然とキラへと斬りかかる。

 

キラは後方へと距離を取り振り下ろされたテュルフィングを避けるが、息つく間もなくレオハルトはアスカロンとレシェフをドッキングさせブリューナクで追撃する。

 

「(!? 押されてる!?)」

 

キラはシールドで防ごうと試みるが、ブリューナクは強力なエネルギーを圧縮して撃ちだされたビームである。ブリューナクの予想外の威力に驚きつつ、ビームは無効化したが衝撃を防ぐことは出来なかった。

 

ブリューナクの威力にキラは後ろへと吹っ飛び、さらなる追撃のためドラグーンを動かすレオハルト。その時、レオハルトの頭の中に閃きが駆け抜ける。

 

レオハルトは機体をバク転の要領で後方に回避した途端、その場所をProvidence(プロヴィデンス)のドラグーンから発射されたビームが左右から飛んでくる。

 

それだけで終わるはずもなく、続け様に飛んでくるビーム。だが、避けるのが精一杯だった先ほどとは違い、レオハルトは退路を塞ぐようなクルーゼの攻撃を難なく躱していく。

 

「(なっ!?レオとはいえ、この攻撃を……!まさか……!)」

 

全周囲モニターに向けて忙しなく動き回るレオハルトの瞳。三六〇度、全方向から迫るビームをレオハルトはその瞳ですべてを見通し回避する。

 

クルーゼとレオハルトのドラグーンによって防戦一方のキラと同様、クルーゼはレオハルトのドラグーンを避けながら驚愕に表情を歪める。

 

だが、その間もレオハルトの動きは異常と言う他無かった。厳しいクルーゼの攻撃を避けつつ、レオハルトはクルーゼとキラに向けているドラグーンを完璧に操っているのだ。

 

それも含めて、クルーゼは驚いているのだ。キラは、二人の攻撃の前にそんな余裕は無かった。驚愕するクルーゼは、レオハルトの異常ともいえる目の前に現実の理由に思い至る。

 

「……ついに覚醒したのか、レオ!!君の内に眠る【Origin(オリジン)】が!」

「そこまで知っているのか、ラウ」

「知っているとも!【Origin(オリジン)】とは、云わば【根源】!(レオハルト)から零れ落ちた雫が、【SEED()】となった!その種が君の兄弟に宿るとは、因果なものだな!!」

 

レオハルトの内に宿るのは【Origin(オリジン)】。レオハルトという器から溢れ出た雫が、【SEED()】となった。

 

それは運命の悪戯か。あるいは、すべては予定調和の範疇か。それは誰にもわからないが、何の因果か【SEED()】はキラの内に宿っている。

 

SEED()】は元々、レオハルトの【Origin(オリジン)】から生み出されたもの。そのせいだろうか、二人がこうして戦場で出会ったのは。

 

紅と金が複雑に混じり合い絡み合っていた瞳が、今ではオッドアイに変化していた。その瞳でレオハルトはあらゆる攻撃を見通し、戦闘を優位に進めていく。

 

「【プラント】は俺の第二の故郷でもある。故郷の脅威は排除するぞ、ラウ!」

 

レオハルトとクルーゼはまるで示し合わせたかのようにドラグーンを回収すると、猛攻を受けていたキラも含め三者三様に動く。

 

レオハルトは、クルーゼへと向かうキラに素早く接近し蹴りを喰らわせようと試みる。しかし、キラはすぐに反応すると、クスィフィアスで牽制する。

 

だが、牽制程度の攻撃で止まるほどレオハルトは柔ではない。クスィフィアスを容易く避けると、右手にテュルフィングを抜剣し斬りかかる。

 

「僕に、あなたと戦う気は!」

「いつまでそんな甘いことを言うつもりだ!討たなければ討たれる!そう考えたから、お前はここまで生き残ってきたんだろう!!命を奪ってきたから、お前はここにいる!!」

「僕は……!っ!!」

 

キラは大きく上方に動いて避けるが、クルーゼのユーディキウムから撃たれたビームが追い打ちをかける。キラはシールドで防ぐと、すかさずルプスで反撃。

 

「ちぃ!」

 

ルプスを避けたクルーゼに、今度はレオハルトがアスカロンを撃ち込む。クルーゼは舌打ちをすると、機体を反転させ避けると再びユーディキウムを発射。そのままドラグーンを分離する。

 

「何故だ、レオ!何故、そこまで人を信じる!希望を持てる!!私たちは、同じ絶望を味わった者だろう!!」

「……それは否定しない。真実を知り、俺も絶望した」

「では、何故だ!何故、復讐しない!ヒトに!世界に!!」

「人を信じろ。ヒュバート博士の遺言でもある。何より、お前を始めとした多くの仲間が信じさせてくれた」

「…………」

 

Providence(プロヴィデンス)から放たれたドラグーンが、レオハルトとキラに向けられる。レオハルトは撃たれるビームを避けながら、クルーゼからその心の内を問われる。

 

「レーン、ウェード、アイラ、リックス、アルド、クイラ、バークス。そして、フィシアにラウ。お前らがいたから、俺は心の底から憎しみを捨て前を向くことが出来た!お前にも出来たはずだ、ラウ!!」

「……そんなものは幻想だ!そんなものは一時の夢だ!!夢はいつか覚める!愚かな幻想に囚われているに過ぎん!!欲望と偽善に支配された生き物、それがヒトだ!!」

「憎しみに囚われ視野が狭いぞ、ラウ!その視野の狭さが、この状況を招いた!その結果、お前は死ぬ!俺に討たれてな!!」

 

レオハルトの訴えにクルーゼは表情をやや引きつらせながらそう叫ぶと、分散していたドラグーンをすべてレオハルトの攻撃に回す。

 

レオハルトはシールドを投げ捨てると、左手にもテュルフィングを抜剣し迫ってくるドラグーンに斬りかかる。素早く動き回るドラグーンの軌道をレオハルトは予測し、ビームを撃つ前にテュルフィングを振るう。

 

一つ、また一つとレオハルトによって破壊されていくドラグーン。それは、レオハルトのドラグーンも同様だった。キラに向けていたドラグーンが破壊されてしまったのだ。

 

「ちっ、さすがにやる!」

 

レオハルトはクルーゼだけに割り当てていたドラグーンを、二人に割り当てることにして対処する。だが、数と向かってくるビームが減ったことでクルーゼとキラは飛んでくるビームの隙間を縫い攻撃を加えていく。

 

「あなたの言っていることは間違っている!僕は認めない!!」

「君がどう言おうが考えようが、事実は変わらんさ!!醜く欲深い、それがヒトだということはな!!」

 

レオハルトはドラグーンを回収し近距離戦で二人の戦いに乱入しようと瞬間、レオハルトの元にバルドリッヒからの電文が届く。

 

「(【ジェネシス】が地球に!?ちっ、それだけは避けたいところだ。急げ!)っ!?」

 

通信内容に驚きつつ、レオハルトはヤキンに止めに向かった少年を思い浮かべた瞬間、ユーディキウムのビームが迫る。シールドを投げ捨てたレオハルトに、それは防ぐ術は無い。

 

防げないのならば、防がなければいいだけの話。レオハルトはテュルフィングでビームを切り払うと、二人の撃墜を急ぐ。

 

三人が三つ巴の戦いを繰り広げている中、一人の隊長が密かに動き出した。

 

後詰として待機していた、ラミリア・オリンベルが隊長を務めるオリンベル隊。隊長である彼女はチラッと時計を確認すると、戦闘開始からかなり時間が掛かったことを確認。

 

さらに、彼女の元に届いた連絡に笑みを浮かべる。

 

「オリンベル隊、行くわよ」

「了解!」

 

ラミリアの言葉に部下たちは笑みを携え答えると、ラミリアを先頭に六人の男たちがその後ろを歩き始めた。

 

「場所は?」

「調査済みです。第十三隔離エリアです」

「フフッ、VIP待遇みたいね」

「そのようで」

 

【プラント】には第一から一二までの隔離エリアがある。これらに収容されるのは政治犯やそれに近い犯罪を犯した者たち。

 

だが、それよりさらに上の反逆罪などの特別な人間を収容するのが、第十三隔離エリア。そしてここに収容されているのは、パトリックの指示で動いた司法局によって捕らわれた議員たちがいる。

 

部下に問いかけたその返答に、ラミリアは皮肉の笑みを浮かべる。

 

「邪魔をする人間は制圧しなさい。でも、殺傷は禁じるわ」

「了解」

 

目の前にある重厚なゲート。このゲートの向こうに、ラミリアの目的が存在する。

 

ラミリアの存在に気付いたのか、ゲートの両端に居た緑服兵たちは目配せをすると同時にカードキーを通しロックを解除する。

 

「無いとは思うが、誰か来ても通すな」

「はっ!」

 

ラミリアはゲートを解除した二人に短くそう告げると、そのままゲートの奥へと進んでいく。重厚なゲートが閉じると、部下たちは隠していたポンプアクション方式のショットガン手にする。

 

ラミリアから殺傷は禁じられているため、ワイヤーを必要としないワイヤレスタイプの電気ショックガンである。撃ちだされた特殊な弾頭が人間に命中すると、四十万ボルトの電流が流れる。

 

四十万ボルトになると厚手の服も意味が無いため、軍服程度の服などは問題無い。

 

その時、ラミリアたちの前に隔離エリアを護る兵が現れる。

 

「ここは立ち入り禁止だ!一体何の用件でここに!」

「クーデターの手伝い、かしら」

「何を言って……!」

 

瞬間、銃声と共に男は身体を痙攣させその場にうずくまる。四十万ボルトによって身体が言うことを聞かなくなったのだ。

 

「あ、が……」

「おとなしくしていなさい。すべてが終わるまで」

 

ラミリアは地面にうずくまる男を無視して、さらに奥へと歩いていく。その後ろで、部下の一人が男の首を絞め気絶させる。

 

ラミリアは邪魔する者を排除していき、ついに最奥の第十三隔離エリアに到着する。ラミリアは事前に侵入していた仲間にロックを解除させると、収容されていた議員たちを解放する。

 

「助けに参りました、カナーバ議員」

「待っていたぞ、オリンベル隊長。状況は?」

「すぐに説明致しますが、まずはここを出ましょう。部下が先導します」

 

ラミリアは救出した議員たちを部下に先導させて脱出させ、その後をラミリアも追いかける。

 

「……さて、終わりにしましょう」

 

 

 

 

その頃、因縁の三つ巴戦も終わりが近付いていた。

 

Freedom(フリーダム)は左腕を損傷し、Providence(プロヴィデンス)Finis(フィニス)に目立った損傷は無いもののドラグーンをほとんど失っている状況だった。

 

それぞれが極限状態での厳しい戦闘に肉体的・精神的にも限界が近く、決着の時は近い。

 

レオハルトは右手にレシェフ、左手にテュルフィングを手に、Freedom(フリーダム)に急速に接近しテュルフィングを振るう。振り下ろされたテュルフィングは避けられるが、すかさずレオハルトはレシェフを向け引き金を引く。

 

だが、すぐにレオハルトもその場を離れる。クルーゼがユーディキウムを発射したためである。キラはクルーゼにバラエーナを、レオハルトにはクスィフィアスを発射する。

 

「実に愚かだ!真実を知りながら、真実から目を背けるとは!!目を背けたところで変わらない!何一つな!!」

「背けたつもりはない!すべてを受け入れた上での答えだ!!」

「そんなあなたの理屈……!!」

「理屈ではなく、真理だよ!!君たちのそれは信頼ではなく、君たち自身の願望だ!自らが信じがたいがために真実から目を背け、幻想にその身を投じるか!確かに、それがヒトという生き物だ!だからこそ、ヒトは愚かなのだよ!!」

 

レオハルトはアスカロンを向けるが、クルーゼがいち早くその行動を察知しユーディキウムからビームが放たれる。

 

しかし、レオハルトは寸前にアスカロンとの連結を解除。アスカロンが後方で爆発するのも気にせず、クルーゼに突っ込んでいく。

 

だが、その前にレオハルトは後方から嫌な気配を察し横に動く。すると、その場所をバラエーナが通り過ぎていき、バラエーナはそのままクルーゼに向かっていく。

 

レオハルトをブラインド代わりにした、キラの攻撃である。直前までレオハルトがブラインドになっていたことでクルーゼの反応が遅れ、直撃は免れたものの右脚を損壊する。

 

「…………」

 

損傷を受けたというのに、クルーゼの視線がわずかに下に動くと顔に笑みが浮かぶ。レオハルトが振り下ろしたテュルフィングを躱すと、クルーゼはわずかに残った三基のドラグーンで迎撃する。

 

「ククッ……」

「何がおかしい、ラウ」

「笑わずにはおれんよ、レオ。君たちの努力も空しく、【ジェネシス】が止まることはない」

 

不敵な笑みを浮かべ小さく笑い声を上げるクルーゼに、レオハルトは怪訝な表情を浮かべその真意を問いかける。

 

クルーゼから返ってきた答えに、レオハルトの表情が晴れることは無い。それは、キラも同じ気持ちだった。

 

「間もなくヤキンは自爆する!それと同時に、【ジェネシス】は地球に向けて発射されるのだ!地上は地獄と化し、人々の怒りと悲しみは新たな戦いの狼煙となる!!憎み争い、その果てに滅ぶがいい!!」

「そんなこと……!!」

「ヒトの愚かさ故の結末だ!間もなくだ!間もなく、すべてが終わる!【ジェネシス】が地球に発射されることで、私の目的は完遂される!!終わることのない戦いの世界に、人々は堕ちる!!」

「ラウ・ル・クルーゼェーーーーっ!!」

 

瞬間、レオハルトの内に眠る【Origin(オリジン)】が完全に覚醒。瞳の輝きが一層増すと、Finis(フィニス)は瞬時にクルーゼとの距離を詰めると素早く振られたテュルフィングによって、Providence(プロヴィデンス)の左腕を付け根から斬りおとす。

 

さらに、レオハルトは視界の端で飛ばしていたドラグーンでキラに猛攻撃を与えていく。【Origin(オリジン)】が完全覚醒したレオハルトの攻撃はすさまじく、キラは防戦一方に陥る。

 

残ったドラグーンはわずかに四基。だが、ドラグーンの速度は異様という他無く、キラは頭部と右脚を破壊される。

 

「すべてを見届けるまで、私は死なん!死ねんのだよ、レオ!!」

「貴様は脅威だ!【プラント】にとっても、地球にとってもな!!」

 

左腕を斬りおとされすぐに距離を取るもレオハルトは即座に追撃。クルーゼはユーディキウムで牽制しレオハルトを近付かせまいとするが、レオハルトは止まらない。

 

連射される攻撃とドラグーンの攻撃を紙一重で躱しながら進んでいくが、そのうちの一発がFinis(フィニス)の右腕を貫く。右腕が吹き飛び機体は体勢を崩すが、レオハルトはそんなことはお構いなしにフットペダルを踏み込む。

 

クルーゼは複合兵装防盾システムの巨大なビームサーベルで、斬りかかるレオハルトと激しくぶつかり合う。互いに素早く動きながらもぶつかり合う両者。

 

幾度か斬りあった時、ついにその時が訪れる。

 

Finis(フィニス)のビームサーベルがProvidence(プロヴィデンス)のコックピットを貫き、、Providence(プロヴィデンス)の巨大なビームサーベルがFinis(フィニス)のコックピット部分の表面を切り裂いた。

 

機体を切り裂かれたことで露出するコックピット。さらに、互いのコックピットで巻き起こる機器類のショートと激しい衝撃。

 

クルーゼの腹部には飛び散った破片が突き刺さり、レオハルトは太腿に破片が頭部からも血が流れる。

 

「……ラウ。人間は、まだ捨てたものじゃない……」

「…………」

 

その時、ついに起こってしまった。。ヤキンの自爆と同時に、【ジェネシス】が大爆発を起こしたのである。長い戦闘によっていつの間にか、Finis(フィニス)は【ジェネシス】の発射口前に立っていた。

 

レオハルトが発射口に視線を移すと、【ジェネシス】が発射されるのがレオハルトの瞳に映る。すぐに離脱しようと試みるも、目に入ってしまった血と太腿の痛みで行動が遅れる。

 

「(マズい……!!)」

 

レオハルトがそう認識する間に、【ジェネシス】が発射。レオハルトが死を覚悟した瞬間、機体が激しく揺さぶられ吹き飛ぶ。

 

その時、レオハルトの耳に友の声が届く。

 

「さらばだ、親友(レオ)……」

「ラウーーーーーーっ!!」

 

いくら最新鋭の機体とはいえ、【ジェネシス】の攻撃に耐えられることもなくProvidence(プロヴィデンス)は瞬く間に損壊。そして、Providence(プロヴィデンス)の源でもある【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】が核爆発を起こし、視界が真っ白に染まる。

 

広範囲に及んだ核爆発はやや離れた距離に居たキラをも巻き込み、二人の機体は核爆発によって機体の至る所が大破。

 

スラスター・バーニア共に破損しまともに動くことが出来ずに行動宇宙を漂っていると、Finis(フィニス)の通信機から声が聞こえてくる。

 

「宙域の【ZAFT】全軍、並びに地球軍に告げます。現在、【プラント】は停戦協議に向けて準備を進めています。そのため、【プラント】臨時最高評議会は現宙域でのすべての戦闘行動の停止を要請します」

 

ひどい雑音が混じりながらも、前後の文章を予想して何となく意味を察したレオハルト。レオハルトはシートに身体を預けると、虚空に向けて右手を伸ばし力強く握り締めた。

 

「……ラウ。俺は手にしたぞ、俺の未来を。未来は俺たちのものだ。お前の未来は、お前のものだったのに」

 

レオハルトが掴んだもの。それは、未来。未来は他の誰でもない、本人のものである。未来をどうするかは、自分次第。

 

クルーゼは過去を憎しみ過去に生き、レオハルトは過去を受け入れ未来に生きた。

 

一歩間違えれば立場が逆だったかもしれない。大きく違うようで、些細なズレ。一つのボタンの掛け違いが、二人の未来を決定付けてしまった。

 

「俺は生きるぞ、ラウ。命ある限り。お前の分まで」

 

遠くから聞こえてくるMSの駆動音を聞きながら、レオハルトは静かに目を閉じる。その頬に、一筋の涙が流れる。

 

「(親友(ラウ)、先に逝って待っていろ。俺も……いつかは……)」

 




ちょっとキラが空気になってしまっていますね。特に最後。

もっと会話を挟みたかったんですけど、メインはレオハルトとラウです。
それを考えると、こんな感じになってしまいました。

ようやくこの小説も完結するということで、次回作のことも考えなければいけませんね。
まあ、気張らずに頑張っていきましょうか。


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エピローグ

長かったこの小説も、ついに完結となります。

UAも12万を超え、お気に入り登録も1000件を超え、総合評価も1万Ptも超えることが出来ました。

読者の皆様には、感謝の一言です。


長きに渡る戦争は、地球軍はタカ派の最有力者である【ブルーコスモス】盟主ムルタ・アズラエル、ウィリアム・サザーランド等の死亡。【プラント】も強硬派のトップ、パトリック・ザラが死亡したことが決定的となった。

 

【第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦】の最中、パトリックによって軟禁状態にあったクライン派であったアイリーン・カナーバらはラミリア・オリンベルの協力を得て脱走。

 

その後、エザリア・ジュールらザラ派を拘束し一掃。臨時で起ち上げた暫定最高評議会にアイリーン・カナーバを議長に据え、戦後処理に臨むことになった。

 

停戦中の【プラント】と地球軍、及び【プラント】理事国家。互いに長き渡った戦争によって失った資源や物資を回復することに専念し始めるのだった。

 

ヤキンでの戦闘が停戦後、機体から救難信号を出していたレオハルトは別の隊の人間によって救出された。

 

すぐに本国に運ばれると、思ったより傷が深く細かな破片が突き刺さっていたレオハルトはそのまま緊急手術を受けることになった。手術は無事に終わり、レオハルトはそのまま入院。

 

入院していたレオハルトは一ヶ月ほどでようやく退院。低下した運動能力は要リハビリ、自分のトレーニングが必要とのことだった。退院したレオハルトは、頭に包帯を巻いた状態で墓地に立っていた。

 

仲間たちの墓を回り、レオハルトは仲間の安らかな眠りを祈る。

 

「……やっと終わった、長い戦争も。お前たちの犠牲も、無駄では無かった」

 

ここは戦死や戦争被害を受けて命を落とした者たちの墓地。クルーゼのしたことを考えれば、ここに埋葬されることは無いだろう。戦犯者は、別の場所に戦犯者として名前を連ねることになるだろう。

 

レオハルトは墓地を後にすると、久し振りの自宅に足を踏み入れる。レオハルトの予想通り、部屋には至る所に埃が堆積しており、掃除が大変だということで溜め息を吐く。

 

だが、レオハルトは掃除を後回しにして家の奥へと歩いていく。

 

専用のPCが置いてある部屋に入ると、レオハルトは懐から携帯を取り出す。携帯を操作し特定の番号を押すと、本棚がゆっくり横に動いていく。

 

レオハルトの持つ携帯を使い特定の番号を押せば動く、秘密の場所。本棚が動いたそこには、一台のPCが。普段使っているPCよりさらに特別製なのだ。

 

レオハルトはPCを掴むと、机の上のものをどかしその場に置き起動。ある人物と通信をつなげる。

 

「待っていたよ」

「出来ればしたくなかったですよ。ですが、完全に膿を出し尽くすには必要な手であることも理解している。それだけです」

「それで構わないよ。僕としても、【プラント】が混乱することは本意ではない。……こうなった今でもね」

 

ホログラムで表示される男の言葉に、レオハルトは何も言わない。レオハルトは気を取り直し、本題に入る。

 

「あの日の言葉通り、限りなくクロだろう。だが、もっと確実な証拠が欲しい。その証拠集めの協力、してくれるんですね?」

「もちろんだよ。でも、確実な証拠ねぇ……。彼が何重もスパイしていたことは確実だ。僕たちクライン派、【プラント】のタカ派、死んだクルーゼ。そして、君だ。もしかしたら、まだあるかもしれない」

「……」

「カナーバ議員の監禁場所を調べて教えてくれたのも彼だ。それでも?」

「地球軍のスパイかとも思ったが、それなら地球軍はもっと優位に戦えていたはず。だが、そんな感じは無かった。なら、奴の目的は。本当の所属は」

 

レオハルトと謎の男による“彼”に対しての話し合い。内部の人間ではなく、外部の人間との話し合い。腕組みをする男に、レオハルトは最大の疑問をぶつける。

 

「うーん、さすがにそこまでは分からないよ。僕たちでもね。本人に聞くしかないんじゃないの?」

「素直に答えてくれるかどうか」

「そりゃそうだ。さて、まあそういうわけだよ。情報収集は僕たちでもやるから、また連絡するよ」

「次で最後になるのを祈っていますよ」

「手厳しいね」

 

レオハルトの皮肉に、男は肩をすくめて見せると通信回線が切断される。

 

レオハルトは頬杖をつき、思案にふける。

 

「(奥深くまで侵入しているクライン派も掴めないか。シロは有り得ない。クロのはず。当然だが、奴もプロだからな。……何はともあれ、出来れば早めに“処理”したいところだ)」

 

レオハルトはPCを元の場所に戻すと同じ手順で本棚を動かして隠すと、そのまま部屋を後にする。レオハルトの瞳には、正体の見えない敵が映っている。

 

 

 

 

 

それから二週間ほどで頭の包帯も取れ、持ち前の驚異的な回復力で身体の傷も完治したレオハルト。まず行ったのは、なまった身体を鍛え直すためトレーニングだった。

 

徐々にトレーニングメニューをキツくしていき、二ヶ月ほどでレオハルトは以前の身体を取り戻すに至った。

 

レオハルトがトレーニングに励んでいる間、【プラント】暫定評議会は敵対した国家群との条約締結に向けて動いていた。しばらくは外相会談が続いた後、ついにトップによる講和会議が開かれることになった。

 

場所は【南アフリカ統一機構】首都ナイロビ。南部アフリカ、東アフリカの国々による統一国家である。会議が行われた場所から、この会議は【ナイロビ講和会議】と呼ばれることになる。

 

だが、条約内容は一向にまとまらず、どちらも引かない状況。会議が長期化していたその間に、争いが起こってしまう。

 

C.E.71年11月。大西洋連邦に併合されていた、ブラジル・ラテンアメリカ諸国による連邦国家、【南アメリカ合衆国】が分離独立を宣言したことで大西洋連邦との間に、【南アメリカ独立戦争】が勃発した。

 

【南アメリカ合衆国】は前年の2月に大西洋連邦によって併合され、今回の大戦で大西洋連邦の戦力が削られた隙を狙い、行動を起こしたのだ。

 

だが、その間も会議は行われるが内容は遅々として進まない状況だった。会議がまったく進展しない状況の中、【スカンジナビア王国】外相リンデマンからある提案が出された。

 

それは、『お互いの国力に応じた軍事制限』を基本とする、通称【リンデマン・プラン】だった。国力、つまりは人口が多い方が有利となるのである。

 

人口では大きく劣る【プラント】には完全に不利な内容。だが、技術的な自信やその他の部分で相手側から譲歩を得られたこと、さらに悲劇の地である【ユニウスセブン】で条約締結が行われることになり、【プラント】暫定評議会は受け入れてしまったのだった。

 

条約の主な内容としては、【リンデマン・プラン】の遵守・及び【リンデマン・プラン】の査察に対して無制限・無条件での受け入れ。

 

MS・兵器等への【NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)】の搭載禁止、さらに【ミラージュコロイド】の軍事利用を全面禁止。

 

【プラント】が地球上に持つ占領地の無条件放棄。つまり、【プラント】はジブラルタル・カーペンタリア以外の基地を保有禁止。

 

戦犯は国家ごとに裁判を開き、処罰を下すこと。国際法廷は開かない。

 

地上の国境線および国家を戦前のC.E.70年2月10日の状態に復旧すること。

 

条約内容には他にもいくつか盛り込まれているが、主な内容としては上記のものだった。

 

そして、C.E.72年3月10日。ついにこの日が来たのである。

 

かつての悲劇の地、【ユニウスセブン】にてナイロビ講和会議にて決定した条約が締結された。条約締結の地から、この条約は【ユニウス条約】と呼ばれることになる。

 

条約が締結され、条約内容が効果を発揮されたことで【プラント】は依然として独立戦争の最中である南アメリカに目を向けた。

 

条約には地上の国境線および国家をC.E.70年2月10日の状態に復旧すると記載されている。その当時は【南アメリカ合衆国】は独立国として存在していたが、大西洋連邦によって併合されてしまった。

 

つまり、【南アメリカ合衆国】は独立して然るべき国家なのだ。そう理論を展開し、【プラント】は独立戦争への軍事介入を宣言。【南アメリカ合衆国】に加勢するため、【ZAFT】を派遣したのだった。

 

だが、当然ながらそんなことは建前である。その真意は、対立する両国家群の戦力調査、そして【南アメリカ合衆国】に“貸し”を作るためであった。役立つかどうかは不明だが、無いよりある方がいいことは間違いない。

 

それから二週間ほどで独立戦争は終結。晴れて、【南アメリカ合衆国】は独立国として復帰を果たしたのだった。

 

独立戦争終結と書かれ【ZAFT】のMSが一面を飾る新聞を読み終え、レオハルトはホログラムに映る男へと視線を移す。

 

「やれやれ、戦争が終わってようやく独立戦争も終結。忙しいねぇ、まったく」

「忙しいのは、そちらも同じでしょう?もっとも、忙しいの意味合いが多少違うようですが」

「いやぁ~、相変わらず手厳しいね。クルーゼの性格が感染(うつ)ったんじゃないの」

「これが元々の性格ですが」

 

数ヶ月ぶりに行われている、男との接触。画面越しではあるが、秘密の会話を二人は行う。

 

「本題に入ろうか。結論から言うと、今以上の情報は出てこなかった。確実な証拠に辿り着くものは、綺麗に消されていたよ」

「そうですか……」

「手詰まりだよ。さて、どうするかね?」

 

男の問いに、レオハルトは黙り込み目をやや伏せ気味に考え込む。だが、すぐに目を上げ男に視線を向ける。

 

「……協力、感謝します。私たちの関係もこれで終わりです」

「おや、つれないな。どうするか教えてくれてもいいじゃないか」

「ギブアンドテイクの関係は終わりました。私は【ジェネシス】の機密データを、そちらは【プラント】のスパイの情報を。これ以上、求める情報はありません」

「ドライだねぇ、君は」

「褒め言葉として受け取っておきますよ。それでは失礼します……バルトフェルド隊長」

「もう隊長じゃないよ。今はただの、コーヒー好きのおじさんってとこだね」

 

【ZAFT】北アフリカ駐留軍元司令官アンドリュー・バルトフェルド。

 

戦争終盤ではクライン派に属し、クライン派の旗艦【エターナル】艦長として【オーブ】や【アークエンジェル】と共に戦争終結に導いた立役者の一人。現在は【プラント】から離れ、【オーブ】に亡命している。

 

今では敵と言ってもいい人物との最後の取引を終え、レオハルトはこれからの方針を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

【ユニウス条約】締結から二週間後。

 

【ユニウス条約】の不平等さに激怒した市民やその他の人間から非難を浴びることになり、暫定評議会は解散。アイリーン・カナーバの推薦と投票により、新たにギルバート・デュランダルが新議長に就任。

 

そして、デュランダル新議長の下、アプリリウス市上級裁判所にて【ユニウス条約】にも含まれていた戦犯裁判が開かれることになった。

 

デュランダルが新議長となった初めての仕事。デュランダルは議長執務室の椅子に腰掛けながら、戦犯者名簿に目を通していた。

 

「問題無いね。このまま進めるとしよう」

「かしこまりました。ですが、よろしいのですか?」

「何がだね?」

「……レオハルト・リベラントです。そこに自分の名前が無いことに、彼は納得いかないと思いますが」

 

名簿に目を通し終わり、デュランダルはデスクを挟んだ反対側に立つ文官に名簿を返す。文官はその名簿を受け取りつつ、問いかける。

 

デュランダルは心底わからないといった表情で聞き返すと、文官はストレートな質問を投げかける。

 

「恐らくそうだろうね。いや、むしろそれが狙いなのだよ」

「お考えがあるようですね。申し訳ありません。私が口を挟むことでは無かったようです」

「いや、構わないよ。それが君たちの仕事なのだからね」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

文官は名簿を小脇に抱え、踵を返しそのまま部屋を後にする。その背を見送ると、デュランダルは引き出しに入れておいた資料を取り出す。

 

「久し振りじゃないか。君には、レイも会いたがっていたよ。再会が楽しみだよ……ゼファー」

 




では、よろしければ次回作もよろしくお願いします。


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