Fate/SnowScene Einzbern (アテン)
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序夜 A young hero who died once

※H30 12/18 タイトル及び本文中の旧題を訂正しました。


俺は、人間が嫌いだ。

 

人間は当たり前のように人を裏切る。

 

他人を平気で傷つける。

 

まるで自分が悪くないように正当化する。

 

 

 

俺は――――――…絶望したんだ。

 

 

 

ここで一つ言えるなら、俺は裏切られた。

 

直接、裏切られた訳じゃない……ただ、信頼していた心を裏切られた。

 

俺には心から大切だと言える友人三人がいた。

 

彼/彼女達と過ごした日々は眩しくて大事だと言えるものだった。

 

このまま、ずっと続いていくものなんだと…どこかで勘違いをしていたくらいだ。

 

 

だが、結局は幻想だ。

 

 

彼が俺ら四人の絆を壊した。

 

恋心なんてあやふやなモノに現を抜かしたからである。

 

好きなんて言っておきながら結局は、嘘ついて楽な方へ逃げたあいつを俺は許せない。

 

同時にあいつに傷つけられたあの子が…泣きそうに無理な笑顔を見せた言葉が今でも忘れらない。

 

 

 

“気にすることないよ。私が哀れなだけだもん”

 

 

 

その言葉が俺の中にあった何かを壊した。

 

 

哀れってなんだよ…。

 

なんでそんなこと言うんだよ…。

 

なんで笑っていられるんだよ…。

 

 

俺には理解できなかった。

 

女の子が悲しんでいるのに笑っているのが分からなかった。

 

自分自身を罵る姿が見たくなかった。

 

 

それを機に、俺は誰とも深く接することをやめた。

 

 

人間が嫌いになった。

 

もう、自分が傷つくのは嫌だから。

 

もう、誰も傷つく姿が見たくないから。

 

 

 

俺は、人間が嫌いになった。

 

 

そして、その一部である自分も大嫌いになった。

 

 

 

 

 

そう思っていたのに……。

 

 

◆◆◆◆

 

 

運命ってのは残酷だ。

 

 

――――――――――――――。

 

 

町を絶望しながら歩いていると、俺の目の前には常識が逸脱したモノがあった。

 

 

白銀の鎧に身を包み…。

 

矛と盾を持った…。

 

鎧と同じように白銀の長い髪を腰まで伸ばした…。

 

 

 

神々しく光を放つ聖女が……そこにいた。

 

 

 

柄にもなく。その美しい姿に見惚れていると、あることに気付いた。

 

この聖女は肩がまるで切られたように傷を負っており、傷口からは鮮血が流れており。

 

また鎧も所々が傷だらけだった。

 

 

「はぁ…はぁ…っ。貴方は!?」

 

 

俺の存在に気が付いたのか、大変驚いた顔でこちらを見てきた。

 

なぜ、こんなところに…と言わんばかりの表情だ―――――――――――――…何をそんなに焦っているのだろう?

 

 

 

 

そんな風に思っていると、彼女の前にいる”モノ”を見つけてしまった。

 

 

 

暗闇に身を包み姿形が判別しない異形―――――――

 

見えないのにこの世の物とは思えない程、恐怖を感じてしまう―――――――――――――

 

姿こそ見せないが暗闇から、うっすらとこちらを捉え――――――――――

 

 

 

 

異形は口を悪魔のように釣り上げて嗤った。

 

 

 

 

逃げろ。

 

 

逃げろ。

 

 

逃げろ。

 

 

 

鼓動が早くなる分、脳内は逃避の一択を選択する。

 

だが、何故か体は動かない…!!

 

動け動け動けと体に命令するが、体が電池が切れたかのように動いてくれない。

 

俺が四苦八苦している内に、異形は俺に手を翳す。

 

 

「!?、いけないッ…逃げてください!!」

 

 

白銀の聖女が俺に叫ぶが。

 

 

 

 

 

反応する前に、俺の肩から鮮血が吹いた。

 

 

 

 

あ…れ…?

 

斬られた…?

 

 

見えなかったぞ…。

 

 

身体が地面に崩れ落ちる。

 

血は肩から、なおも流れ続ける。

 

意識が遠のいていく。

 

視界が暗く闇に堕ちていく…。

 

 

 

ああ、死ぬのか。

 

 

 

あっけないな。

 

 

でも、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

“こんな世界”で生きていくより、死んだ方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

「死なないでッ!!」

 

 

…?

 

誰だ…?

 

霞む視界の前に、白銀が現れる。

 

 

その正体は…さきほどの聖女。

 

 

彼女は傷の痛みを耐えながら、庇うように俺の目の前に立つ。

 

何で…。

 

 

「貴方は…死んではいけませんッ。生きて…!!」

 

 

俺は…死にたいのに。

 

何で、助けようとするんだ…!

 

俺はもう…他人も自分も信じれない…。

 

 

人間なんか嫌いなんだ…。

 

 

こんな世界で生きようなんて――――――…もう…。

 

 

「…人間に絶望しているのですね。貴方の心からは深い悲しみと…激しい怒り。

 そして――――…それらをぶつける場所がない虚無感を感じます。」

 

 

まるで、心を呼んだかのように語る聖女。

 

俺は、見事心内を全て見透かされたが…そんな事は気にも留めなかった。

 

 

 

 

 

 

それよりも…彼女が何故、こんなにも悲しそうな顔をするのかが気になった。

 

 

 

 

 

「貴方の心の、痛みが、苦しみが、怒りが、私に伝わってきます。

 辛かったでしょう。貴方は信じていた者に裏切られ…守りたかった者からは蔑まれた。

 貴方がこの世界に絶望するのも…無理はありません。」

 

 

ですが…と彼女は言葉を紡ぐ。

 

 

「それでも…貴方は生きてください。

 例え、どんなに世界に絶望しようと、どれだけ人間が憎くても、自分を嫌おうとも――――…

 

 

 私は………貴方に生きていて欲しいんです!」

 

 

―――――――ああ…。

 

 

なんなんだよ。

 

何でそんな風に…

 

 

ギラギラして、真っ直ぐな想い。

 

 

眩しいくらい輝かしい“ソレ”に…俺は――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

聖女を目の前で吹っ飛ばされるのを目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

その声は、聖女のものなのか。

 

はたまた、俺のものなのか。

 

 

そんなことさえ分からないまま……

 

 

銀色の聖女は地に伏した。

 

 

 

 

聖女は地に伏せ、沈黙をする。

 

 

彼女を傷つけた異形は、この上ないほどに歓喜した。

 

 

その光景を見た俺は――――――――…

 

 

 

 

俺は……

 

 

おれ……は…ッ!!

 

 

 

 

 

【良いのですか?】

 

 

頭に響く、見知らぬ男の声。

 

その澄んだ声に不思議と嫌悪感などを感じない。

 

聖人のように心が洗われるような気がした。

 

 

【このままで良いのですか?、貴方は何もしないまま…ただ、聖女が消えてしまうのを見ているだけですか?】

 

 

頭に響く声…その声音はどこか呆れているように感じた。

 

 

【また、何も出来ないままで良いのですか?】

 

 

そして、俺を試しているかのような。

 

 

【黙って指をくわえているだけでいいのですか?】

 

 

それが、無性にイライラする。

 

全てがいい当てられて、否定できない自分が。

 

 

 

……とっっっっても、ムカつく!!

 

 

 

【最後まで足掻こうとはしないのですか?】

 

 

「うるせええええッ!!」

 

 

叫びと共に俺は立ち上がる。

 

怒りのままに、軋む体を気にせずに動かす。

 

燻っていた心に火が灯る…止まっていた心臓に血が回るようだった。

 

 

 

 

案外、まだ自分が人間らしい事を再認識した。

 

 

 

嫌いなモノと同じな事に、正直。吐き気が出そうだが―――――――…今は感謝しているくらいだ。

 

 

 

俺は…まだ、諦めたくないんだと気付けたからな。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

『…バカナ。アレダケノキズヲオッテイルノニ、シンデナイトハ。』

 

 

立ちあがった俺に異形が、驚いたように初めて言葉を発した。

俺は、一瞬その濁ったような化け物の声に驚くが、怯むことはなかった。

そのまま、異形を睨んだまま急いで聖女の前へ立つ。

…彼女の肩が上下ヘ小刻みだが動いている。良かった、生きている。

 

 

息を吐いて安堵する。

しかし、すぐに意識を目の前に切り替える。

…異形は妖しい笑みを受かべて、不気味に微笑んでいる。

 

 

『ニンゲンゴトキガ、ワレニタチフサガルカ…オロカナ。』

 

 

異形はカカカ…とバカにしたように嗤う。

 

 

『タダノニンゲンガ…イキガルナヨ…アノママ、シンデオケバイイモノノ。』

 

 

…あー。

 

…なんつーか、こいつ。

 

 

『ナゼアキラメイ?、ナゼソノキズデタチアガル?、ナゼ――――――――…』

 

「ああ、ごちゃごちゃうるせえな!!

 いい加減、お喋りやめろよ!?傷に響くだろうが!」

 

 

イライラが限界が来て、叫ぶ…シリアスムードだったが、気にはしない。

だって、こいつ喋り過ぎなんだもん!!

異形は、姿こそ見えないが青筋を立てているように見える。

その証拠にピクピク…と体が震えているように感じた。

 

 

『…イイダロウ。オノゾミドオリコロシテヤル…!!』

 

 

周りの雰囲気が変わった。

 

空気が重く感じる…まるで押しつぶされるかのようだ。

 

これが…あの異形の本気――――――――!!

 

 

「う、うーん……わ、わたし…は――――――ッ!?」

 

 

後ろから声が聞こえた。

どうやら、聖女が起きたようだ……まぁ、あれだけ騒げば、そりゃ目覚めるわ。

心の中で軽口を叩く―――――…割りと冷静だな俺。

 

 

「に、逃げてください!!人間では“アレ”に絶対に勝てません!!」

 

 

聖女が焦りながら言ってくる。

だが、俺は引く気は無い。

逃げも、隠れも、諦める事も絶対にしない。

 

 

「お願い…逃げて!!」

 

「嫌だね。」

 

 

必死の願いを一蹴する。

 

 

「どうして…!!、わたしは貴方に死んでほしくない…!!」

 

 

聖女の声が悲しみに変わる。

嗚咽の様なものも微かに聞こえる。

 

 

――――――…あー。そんなつもりじゃなかったんだけどな…。

 

 

「悪い…悲しませるつもりはなかった。だけど、ここは譲れねぇよ。

 こんな俺に、生きて欲しいって言ったアンタが――…

 

 俺は生きて欲しいから…守るんだ、俺が!今度こそ!!」

 

 

 

もう、無くさないように。

 

もう、見失わないように。

 

今度こそ、俺は守ると誓った。

 

 

 

聖女からは声が聞こえなくなった。

驚いているのだろうか?…視線の様なものは感じるが…少しこそばゆいな。

ああもう、こんな綺麗な女の子に見られてちゃ緊張しちゃうぞ。

それにさっきまで、あんなに無様な姿さらしといてカッコつけてるなんてダッセェよ…うわ、やっぱり死にたくなってきたかも。

 

 

『グオオオ…!!』

 

 

なんて、ふざけた思考をしている間にも命の危機は現在進行形で迫っていた。

さーて、遊びはここまでだ……どうするかな。

威勢良く啖呵切ったのはいいけど、この後の事までは考えていなかった。

 

 

聖女いわく、人間じゃアレに絶対に勝てないという。

 

 

じゃあどうすればいい…。

何か手はないのか―――――――…。

 

 

【しかたありませんね……私が力を貸してあげましょう。】

 

 

また、声が響く。

それと同時にどくんと胸が高鳴り、体に熱が籠る。

力が溢れてくる…まるで自分じゃなくなったような。

 

 

そんな事を考えていると、肩から手首まで三本光の線が浮かび上がった!

 

 

なんじゃこりゃあ!?

 

 

「あ、貴方は……そ、それは…一体…!?」

 

 

聖女が驚いたように声を上げる。

一番驚いているのは俺だよ!!なにがどうなってんだよ!?

 

 

【落ち着いてください…今から私の力を送ります…!

 それを、どうかこの世界に“具現化”してください…!!】

 

 

声がそう言うと同時に、頭の中にイメージが流れ込む。

 

 

それは剣――――――――…。

 

太古の昔…多くの凶悪な竜種を屠ってきた聖剣。

 

ああ、これがあれば…アイツを倒せる。

 

俺はそう確信した。

 

その為には、あと一歩足りない。

 

 

それを埋める為に、俺は自分の中にあるスイッチを入れる為。

 

 

ある言葉を紡ぐ。

 

 

俺が大好きだった架空の物語のあの力を使う為の言葉を。

 

 

投影、開始(トレース、オン)!!」

 

 

ブアアアアアッ!!と風が腕から舞い上がる。

手に剣の様なモノが形成されていく。

 

 

『ナ、ナンダコレハ!?』

 

「こ、これは…!!」

 

 

驚く二つの言葉。

 

かくいう俺も驚きの連続だ。

 

けど、これで異形を倒せる。

 

 

この聖剣の名は――――――――――。

 

 

 

 

 

力屠る祝福の剣(アスカロン)!!」

 

 

 

 

叫びと共に聖剣が出現する。

これが、数多の竜を屠ってきた祝福の聖剣。

 

 

一見すれば、ただの西洋の剣。

 

しかし、一度持てば分かる…ただならぬ、神秘の力の様なモノを感じる。

 

ただの人間が持つには、余り余る。

 

 

『バカナ!!“アスカロン”ダト!?』

 

 

驚く異形に向かって、俺は聖剣の切っ先を向ける。

すると、そこから神秘の力が溢れだし。異形の真の姿を曝け出す。

 

 

 

それは、歪な姿をした蛇竜だった。

 

 

 

『ナ、ナニ…!!ワガ“礼装”ガ…!?』

 

「その姿…もしや「サマエル」!?{バルクの黙示録}に出てくるあの堕天使の…」

 

 

両者とも驚いたように事を進めているが、俺はてんでわからん。

名前くらいは聞いたことがある、「サマエル」―――――…邪竜、死を司る天使とも聞く。

ゲームやファンタジー系のラノベ小説で、割りとよく出てくるキャラだった。

 

 

それが、今俺の目の前にいる。

 

 

そして、俺はこの聖剣であいつを倒す。

 

 

そこまで思考を戻したら、その場から一気に駆けだす。

 

 

『コシャクナッ!!』

 

 

サマエルは近付けんとばかりに、口から毒々しい煙を吐く。

もう見る限り人体に悪影響を及ぼす煙だと分かる。

犬○又の瘴気みたいな感じか―――――――…っと!?思っている間に目の前に瘴気が!?

 

 

「やっべ――――――――!?」

 

 

それをモロに喰らった。

 

 

「そ、そんな…!!」

 

『フハハハ!!ショセンハ、カトウナニンゲンヨ…コノ「サマエル」にカテルハズガナイノダ!!』

 

 

高笑いをして高圧な言葉を出すサマエル。

ヤツの言う通り、人間がこんな化け物に勝てるはずがない―――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“なんて思う訳ねぇだろ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおりゃあああああああッ!!!」

 

 

 

 

聖剣を持って、瘴気の中を切り抜けてきた俺をサマエルと聖女は驚いたように見る。

安心しろ、俺もビックリしている。

まさか、瘴気が俺から離れるように霧散していったなんて思いもしなかったしネ!

どうやら、この『アスカロン』のおかげらしい……加護みたいなの働いてんのかね。

 

 

『ソ、ソンナバカナ!!ニンゲンゴトキガ!?』

 

「くらええええええええええええッ!!」

 

 

そのまま、アスカロンを驚愕しているサマエルの太い喉元に突き刺した!!

ザシュッ!!という嫌な音と、刃が肉に入り込む感触を剣の柄から伝わってくる。

一生、手に残りそうな…そして永遠に慣れる事の無い感触を我慢しながら…俺は――――――…

 

 

「うおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

 

剣を引きぬき――――――――。

 

 

 

 

『ガ…ッ!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…!!』

 

 

 

 

 

 

サマエルにとどめを刺すように…真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

邪竜の姿が光の粒子となって消えていく。

今の一撃には手応えの様なモノを感じた…あいつにとって致命傷だったらしい。

どうやら、今ので終わったらしい。

その証拠に持っていたアスカロンも、パキン…ッ!とガラスが割れるように消え失せてしまった。

 

 

まるで夢から覚めたかのように跡形もなく消え失せた。

 

 

腕の光の線もいつのまにか、光を失って見えなくなっていた。

 

 

 

「やった…のか……?」

 

 

本来ならフラグだが、終わったとしか思えないので呟いても大丈夫だろう。

身体にとてつもない倦怠感が襲ってくる…傷の痛みも今さらながら感じてきた。

そういえば、肩を切り裂かれたのを思い出した…痛え~。

同時に、久しぶりの達成感を覚えた。

 

 

「あ、あの…!」

 

 

声が聞こえ、聖女の方へ体と視線を向ける。

…彼女もボロボロだが、無事そうだ。

 

 

 

 

良かった…。

 

 

俺、今度こそ守る事が出来たんだ。

 

 

 

 

大切なものを守る事が出来た事に歓喜した。

 

守りたいものを守る事が出来た。

 

なりたかった自分に、少し近づけた気がした。

 

 

 

それが今……たまらなく、嬉しい。

 

 

 

嬉しさを噛みしめ、俺は彼女に頬笑みかける。

それを見た聖女は、初めは呆気に取られていたがやがて美しい笑顔を向けた。

聞きたい事は山ほどある、さぁこのまま彼女のもとへ―――――歩み寄った瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“俺の体が弾け飛んだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起きたのか分からなかった。

これで終わったと思った途端、体の中から何かが爆発したようだった。

 

 

 

血が吹き出す。

 

 

鮮血の飛沫が球となって散弾する。

 

 

何故……俺は勝ったはずなのに。

 

 

 

ふと、聖剣を握っていた手を見る。

既に人としての原型を成していない手だったが、それを見た思考にある事が思い浮かんだ。

 

 

 

『投影魔術』…先ほど俺が成し遂げた架空の物語の力。

 

 

本来なら現実で使う事などあり得ない力。

 

 

声の主の力を借りて、起こした奇跡。

 

 

 

不意に、いつの日か映画で見た時の言葉を思い出した。

 

 

 

“奇跡には、常に大きな代償が付きまとう”

 

 

 

そんな…ありふれた――――。

それでいて、とても胸に響く言葉……今の俺の姿にピッタリだ。

 

 

 

――――ああ、死ぬのか…。

 

 

 

実感が湧かないのか、不思議と恐怖心はなかった。

 

あるのは…満足感と達成感―――――…。

 

 

ただ、一つだけ後悔があるとすれば。

 

 

視線を向けた先にこちらに悲痛な表情を浮かべている聖女。

俺に向かって何かを叫んでいる彼女。

あの子に……死を見せてしまったこと――――何か背負わせるような事をしてしまった事が…。

 

 

 

唯一の、心残りだ。

 

 

 

急激に視界が暗くなっていく。

…ああ、こんなクソッタレな世界だったけど。

 

 

 

(まぁ、こんな最後だったら…いいか。)

 

 

 

 

人生最後の瞬間に―――――

 

俺はとびっきりの笑みを浮かべて―――――

 

静かに目を閉じた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、俺……「    」は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

嫌…嫌―――ッ!!

 

 

死んでは駄目―――…!!

 

 

こんなにも優しい貴方が…!!

 

 

人間を嫌いだと言って、こんなにも誰かの為に一生懸命な貴方が―――…。

 

 

死んでしまうなんて絶対にダメ!!

 

 

 

駄目…ダメ!!

 

 

死なせない!!

 

 

このまま、貴方を死なせるなんて絶対に嫌!!

 

 

 

 

あなたを死なせはしません!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

人間の死とは非常にあっけないものである。

そして、意識の切れる瞬間はどこか就寝した時と似ている。

実際に、死体を見たときに人は「まるで、眠っているみたいだ」とか言うのをよく聞くがその通りだと思う。

死を実際に体験した俺が言うんだ。間違いない。

 

 

 

まぁ…そんなことより―――――。

 

 

要するに俺が何を言いたいかと言えばだな…

 

 

 

 

「俺って本当に死んだのか?」

 

 

改めて声に出してみるとすごくバカっぽい。

みなさんご覧のとおり、今の声は“俺”こと先ほど死んだばかりの男です。

 

 

 

皆に言いたい事がある……俺は今、死から目覚めた。

 

そして―――…現在、俺は戦争の真っ只中にいる!!

 

 

 

……。

 

………。

 

 

何言ってんだコイツ?と言いたいだろう。

わかる。何故なら俺が一番そう思っているからなっ!

まぁ、要するにだな?ジョ○ョ風に言うとだな―――…

 

 

 

 

 

あ…ありのまま起こった事を話すぜ!

 

 

“俺はさっき…聖女の前で突然、体が弾け飛んで死んだと思ったら、急に目が覚めてこの戦争区域にいた…”。

 

 

な…何を言っているのか、わからねーと思うが。

 

俺も何が起こったのかわからなかった…。

 

頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか夢オチだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ。

 

 

もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ…。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけなんだ。」

 

 

なんだコレ。

自分で言ってて分かんなくなってきた…。

だって、俺も混乱してんだもん!仕方ないだろ!?

さっきまで死んだと自覚したのに、目ぇ開けたら第何次なんちゃら戦争勃発中ってなんじゃそらだぞ!?

 

 

分かったことはただ一つ。

 

 

 

人は死後、輪廻転生するとか天国やら地獄やらに行くと聞くが、否であったと!!

 

 

 

人は―――――――――――死んだら戦争へ行くんだ!!(意味不明)

 

 

 

「…それよりも、言いたい事がある。」

 

 

 

 

思考を区切り、後ろを振り向いて叫ぶ―――――。

 

 

 

 

「何で…俺は、こんな…化け物に追われてんだああああああああッ!!!」

 

 

絶叫が大空へ木霊するように、後ろからの圧も半端じゃない。

俺の後ろにいるのは、顔面蒼白で体の至る所が腐り果てているにも関わらず。

眼を赤く輝かせるゾンビみたいに「ウオオオ…」とか「アアアアア…ッ!!」とか唸りながら、迫って来やがるおっそろしい化け物だった。

 

事の経緯はこうだ。

目が覚めて、突然の出来事に呆然としている俺を見るなりこいつら集団で襲いかかって来やがった。

その時の様子は、美味そうな餌を見つけた野獣のようだった。

唸り声を上げながらゆっくりと迫ってくるコレに当然、俺もじっとしてるわけがない。

 

すぐさま立ち上がり逃げ出す。

火事場の馬鹿力っていうのかね…その時の俺の動きはまさに疾風のようだったと言わざるを得ないだろう…いやマジで怖かった。

そして、今に至るまで走りまわっていたという訳だ…さっきの流れは現実逃避によるものだ。許せ。

 

 

「だけど…今までの事の後に、この状況はあまりにも理不尽過ぎるだろぉ…。」

 

 

思いっきり泣き叫びたいが、今は弱音を吐きながら逃げるのが精一杯だ。

何とか捲く事が出来るまで逃げなければ……!

 

 

 

こつん☆

 

 

 

「あっ…」

 

 

そう思っていたら、落ちてた瓦礫に躓いてしまった。

 

 

やっちまったぜ☆テヘペロ☆

 

 

「どわああああああああッ!!」

 

 

盛大に転げ回る俺。

ゴロゴロと行き、やがてどんがらがっしゃーん!と瓦礫の山に突っ込む。

ゾンビ達はそれ見て好機といわんばかりに迫る!

 

 

あっ、これ死んだわー…

 

 

ハハハ…と乾いた笑みを浮かべてしまう。

どうやら、案外早く二回目の死が来たようだ。

 

 

「ここまでか…」

 

 

目を閉じる。

 

 

すると―――――――…

 

こんな声が聞こえた――――――――…

 

 

 

 

“いいえ、あなたを死なせたりしません…”

 

 

 

 

――――――ザシュ!!

 

 

…あれ?

 

 

――――――――ザシュ!!ボウ!!

 

 

…痛みが襲ってこない?

 

 

不自然に思い。

恐る恐る目を開けると…。

 

 

 

 

 

俺の目の前にコートを着込み、剣を持った老戦士がゾンビ共を薙ぎ払っていた。

 

 

 

 

 

「無事か?」

 

 

とても威厳のある声で俺に語りかけてくる老戦士。

彼の眼は孤高の狼のように鋭く、そして弱きものを守らんとする戦士の眼のようだった。

手には、ゾンビ共を切ったと思われる赤黒い血の付いた剣が握られていた。

 

 

「あんたは…一体―――――?」

 

 

 

何者なんだ…?と声を出す前に老戦士は笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「私の名前は「ジェラル」―――…“魔法使い”さ、。」

 

「“魔法使い”……?」

 

 

彼の言葉に俺は首を傾げるも、「そして…」と老戦士は言葉をつなげた。

 

 

 

「君を“英雄”にさせるためにやって来た者だ。」

 

「……ヘ?」

 

 

 

真剣な顔で俺は彼にそう言われた。

 

 

 

ジェラルとの出会いを経たこの瞬間―――――…。

 

 

 

 

この俺……後に「黒帝の破壊者」と呼ばれる男の物語が―――――――…今、始まった。

 

 

 

 

 

Fate/SnowScene Einzbern

 

 

 

 

序章、end

 




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第一夜 黒き英雄、参る

※H30 6/30 「時計塔」→「魔術協会」に訂正しました。


死から目覚めて、四年くらいの月日が経った。

あれから、俺は「ジェラル」という老戦士に弟子入りする事になって、彼のもとで修業する事になった。

初めは、自分を“魔法使い”と称する胡散臭くて、痛い設定を設けたおっさんだと思って、とても不安だったんだが…。

 

だけど、いざ接してみると意外と面倒見がよくて、何も知らない俺を親身に世話してくれた。

この世界の今の情勢を教えてくれたりしてくれた。

その中で分かったことなんだが…どうやら、この世界は「Fate」の世界らしい。

 

「Fate」っていやあ、現代に残った『魔術師』が願いを叶えるために英雄を召喚してバトルロワイヤルするってアニメの話だ。

何でも願いを叶えてくれる万能機「聖杯」――――…それを景品にして殺し合いをするイカレたゲーム。

魔術師は歴史に名を残した英雄…『サーヴァント(従者)』を召喚して聖杯を求めて戦い。

最後に残った魔術師とサーヴァントを願いをかなえる事が出来る。

 

 

…んで、この世界は、「Fate」では第五次聖杯戦争から十数年経っている事が判明した。

 

 

その頃には、第五次の舞台となった『冬木市』の聖杯は解体されてしまっていた模様。

生前、型月作品が大好きだった俺にとって…「Fate」の世界に来られたことは、気持ち悪いくらいテンションあがってたが…。

アニメや物語の醍醐味が当の昔に終わっていて、かなりショックを受けていたのは今でも新しい記憶だ。

…まぁ、それでも来てしまったからには、二度目の人生を必死に生きていこうと頑張る事にした。

 

とりあえず、俺はジェラルに“生き抜くために必要なモノ”は全て教えてもらった。

「武術」や「剣術」…あと「様々な武器の扱い方」や「知識」、「生きる為に他者を殺す覚悟」など。

あっ、あと「魔術」も教えてもらった!どうやら、俺にはそっちの才能もあったらしい。

 

 

生前から物覚えが悪い俺だが、ジェラルの教え方が上手かった為かスポンジの様にすぐ覚えていった。

 

 

あのゾンビ…ここでは死徒っていう、吸血鬼モドキも倒せるようになるまで、時間はあまり掛からなかった。

…最初は、死徒がもともと人間だったと知って、倒すのを躊躇していたけど…生きる為には殺るしかないんだと実感した。

死徒だけじゃない…戦争をする奴らや盗賊共も、俺は、生きるためにたくさん殺した。

初めの内は、戦闘後に殺した瞬間をフラッシュバックで思い出して陰で吐いたり…。

殺した死体から家族写真を出てきた日の夜には、ジェラルから隠れて罪悪感の中で泣いたりしてた。

 

ジェラルは、そんな俺を見てとても悲しそうな顔をしてたのも覚えてる。

けど、それでも――――…生きる為には他者を傷つける覚悟がいるってのを受け止めるしかなかった。

その分、盗賊や戦争に巻き込まれていた人を救えた事も何度かあった。

助けた人たちから感謝されたり、ありがとうと礼を言われた事もあったっけ…それが、すげぇ嬉しかったんだよなぁ。

 

 

俺でも、また誰かの力になる事が出来たんだと思えてさ。

 

同時にもっと力になれたらなって、願望も抱いちまった。

 

 

その時からだった…俺は“戦争を終わらせて、誰も殺し合う事の無い世界を作りたい”という願いが出来た。

ジェラルに願いが出来たことを教えると、凄く嬉しそうに「応援する」と言ってくれたのは感激したし…。

本気でその願いを叶えたくて、必死になって今までよりも頑張った。

結果、貧弱だった身体も、戦う為に鍛え抜かれた肉体に変わり…ジェラルから学んだことを全てマスターする事ができた。

その頃になると、スペック的にもう人間じゃなくなっていた。

魔術師が何人束になって、襲ってこよーが一人で片付けるまでの化け物になっていたのは、自分でもドン引きだけど…な。

 

 

 

 

 

そして…ジェラルから「教えることは、もう何もなくなった。」と言われた時―――…

 

 

 

 

 

俺は…彼のもとから離れることを決意した。

 

 

 

 

 

“戦争を根絶する”その願いをかなえるために…一人立ちをする事にした。

そう進言するとジェラルは「そうか…」と少し悲しそうに…それでいて嬉しそうに、認めてくれた。

彼と別れるのは、俺も辛かったけど夢を叶えるためには仕方無かった。

別れの際、ジェラルは“黒い礼装”――――…『黒帝礼装』を俺にプレゼントしてくれた。

 

「大事な弟子の一人立ち」という事でくれると言っていた。

俺は、その礼装を大事にしようと思い…肌身離さず着ていることにした。

 

 

 

ジェラルとの大事な思い出として――――…彼の弟子である誇りとして。

 

 

 

彼のもとから離れて以来、俺は様々な戦争に介入しては潰していった。

 

 

 

ジェラルに弟子入りした時に貰った、非対種の銃器を両手に――――…

 

黒き礼装を身に纏って、戦争の中を暴れまわるその姿を――…

 

 

 

他の人間は、俺のことを「黒帝の破壊者」と呼んで畏怖していたらしい。

 

 

 

自分じゃ実感沸かないんだけど…他の人から見て俺は“とってもヤバい奴”らしい。

…あ、いや、人格的や情緒的の意味でのヤバい奴じゃあ無くてだな…「魔術協会」の魔術師達が焦るほどの危険人物らしい。

様々な魔術使ったり、謎の作りをした魔的な銃を使って戦争を潰しているのが、奴らにとってやんばいらしくって俺はすぐに目を付けられた。

何度も追われ続けて、その度に返り討ちにするんだけど…正直言っていい迷惑だ。

しかも、こっちは殺さないように仏心を構えているのに、奴らは血眼になって捕獲しようとしたり殺そうとしてくるんだぜ?

 

 

抵抗するなら抹殺も厭わない!って感じで吐き気がするぜ。

 

ま、それでも負ける事はないんだけどね。

 

 

その後も俺は色んな人や仲間と出会ったり、そいつらと一緒に凶悪な戦争屋どもの陰謀をぶち壊したり。

人間に害がある化け物を討伐しまくったり、戦争根絶の組織の頭領になったり…。

厄介事に首を突っ込んでは敵と戦ったりして…

何度も死にかけては、強くなって“特別な力”にも目覚めたりした。

今、思えば…よく生き残れてたよなぁ~と自分に呆れながらも感服してる。言っておくがナルシストじゃないぞ?

 

 

 

 

 

あ、そういえば…戦いの中で“アイツ”とも出会った。

 

 

アイツとは何度も戦ったな……時に“たった一回の短い期間”だけど、共闘関係も結ぶなんてこともあったな。

 

 

何度も何度も戦って……もはや因縁と言わざるを得ないだろうな。アレは…。

 

 

 

 

 

 

まぁ、なんやてんやあって俺は英雄時代を生き抜いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――…アイツと最後に…殺し合いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「…ぐ…ふ…ごほっ…」

 

 

 

あまりに突発的で、非常に申し訳なく思うのだが…。

 

現在、俺…「黒帝の破壊者」は二度目の死を迎えようとしている。

 

 

 

身体のあちこちからは重症とも言える切り傷が多々刻まれており。

胸には剣が突き刺さってたと認識できる斬り口と…

そこから、なおも血が溢れ出ており。この上ないほど形容しがたい激痛が襲ってくる。

痛いのは慣れているので、絶叫する事はないが…これだけは分かる…“俺はここで死ぬ”。

 

 

これを見ている人は、何でこうなった?と混乱するだろうな。

 

 

まぁ、経緯を話すと長くなっちまうから短く答える。

長く因縁を持っていたあいつと殺し合いをしたからである。

あいつ強ぇーよやっぱり……うぬぼれじゃないが、俺が全力を出さなきゃ倒せなかった相手だった。

それでもまぁ…結果的にこうなっちまったんだが…。

 

 

 

あ、言っておくが負けた訳じゃないぞ?

勝ったわけでもないが。

 

 

端的に言えば、最後の一撃で互いに致命傷を受けて相討ちしたってことだ。

 

 

アイツの剣は俺の心臓を突き刺し、俺はアイツの“点”を確かに突いた。

 

 

 

どちらとも言えない終わり方だが…俺には悔いはない。これでもいいかって感じ。

もう立つことさえできない俺は、その場に大の字に倒れて死ぬのを待っていた。

…そういえば、アイツどうしたかな?、最後の力を振り絞って視線を移す――――。

 

 

「…いねぇー、し…。」

 

 

姿がない。

確かに手ごたえを感じていたのだが…。

仕留め切れてないって事はないのは確実だが……確かに、俺は“存在を完全に殺した”という手応えを感じた。

なら、アイツが最後の力を使って移動したという事だろう。

 

 

「“点”、突いて…まだ、動ける、とか……やっぱ…あいつ、すげーわ。」

 

 

ハハハ…と乾いた笑みを浮かべざるを得ない。

さすがに常識外れにも程がある…あれ喰らっといてそりゃねぇですわ。

フツーなら、突かれた時点で死ぬハズなんだけど…。

まぁ、それも時間の問題だ…遅かれ早かれあいつも死ぬことは確定してるからな。

 

 

ぼすっ…と脱力するように上げていた首を下して倒れる。

 

 

視界が霞んでいく…もう時間のようだ。

心臓突き刺されて、ここまで意識があったなんて俺も大概化けモンだな…。

 

 

瞼を閉じる。

 

すると、この世界に来てからの記憶が蘇ってくる。

 

 

コレが“走馬灯”ってやつなんだろうな。

大半が戦いしかないのは悲しい気もするが、まぁ仕方ないよな。

“奪っちまった”もんもあったけど…“守れた”もんもたくさんあったんだ。

 

 

「…満足だ。」

 

 

最初の死ぬ時よりも一生満足している。

やりたい事をやれて死ねる…完全燃焼って言う奴だ。

“戦争根絶”っていう夢は―――…果たせなかったのは残念だが、やれるだけの事はやったし、それなりに規模は小さくなったと思う。

後は、誰かが継いでくれる事を祈るだけである。

 

 

 

 

 

ああ、意識が遠のいで行く――――――…

 

 

次、目ぇ覚める時は――――――…

 

 

あの時の…聖女さんに会いてぇな―――――…

 

 

 

 

 

そんな淡い期待を抱きながら。

 

 

 

俺は――――…二度目の死を迎えた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

―――――――……さい。

 

――――――――…ください。

 

 

声…が…聞こえる?

それも、優しくて温かい…。

 

 

―――――――きてください。

 

 

でも、どこかで聞いた様な…?

 

 

――――――もしもーし。

 

 

はて、何処だっけ…?

こんな美声で中身も外見も美人そうな声の主は…。

どっかで会った気もする…。

 

 

「もしもーし。目を開けてくださーい。」

 

 

今度は声がハッキリ聞こえた。

ゆっくり目を開けると――――…眩しい光が。

 

 

「あっ…起きた。」

 

 

そして…眩しい光よりも輝いて見える。

銀色の鎧を着たあの時の……聖女が目の前にいた。

 

 

「……」

 

 

絶句。

あ、いや、さっき死ぬ時…「聖女さんに会いてぇなぁ~。」とは確かに思ったけど!

実際に会えてうれしいけどよ!まさか、願いが叶うとは思わんだろーよ!?

 

 

「あっ、えっと…その…」

 

 

こちらを見下ろす形で見ている聖女さん。

何コレ?どういう状況…?そして、この後頭部にあるふにふにの感触は―――――?

 

 

 

 

ま、まさか…こ、これは…!?

 

 

せ、聖女さんの膝枕ッスか!?

 

 

 

 

「俺のアヴァロン(理想郷)はここにあったか!!!」

 

「きゃ!?」

 

 

くわっ!と叫ぶ俺に聖女さんは驚いたように声を上げた。

あ、つい、やっべやっちまった…。

 

 

「あっ、ええええっと!!悪い!!驚かすつもりはなかった!」

 

 

一先ず聖女さんの膝から頭を(大変名残惜しいが!)離して立ち上がる。

 

 

「もう…大丈夫なのですか?、疲れていたらまだ横になったままでも―――――…」

 

 

優しく気遣ってくれる聖女さん。

めっちゃ優しいなこの人…けど、これ以上好意に甘える訳にゃいかん。

 

 

「ああ、大丈夫だ……また、世話になったな。」

 

 

そう言って、言葉を紡ぐ。

 

 

「えっと…その…――――久しぶり?に、なるのかな?俺のこと覚えてる?」

 

 

かれこれ彼女とは体感時間的に四年半ぶりの再開である。

大分時間が空いていたけど……覚えているかな?、結構、俺変わっちまったと思うし。

もしかしたら、すっかり俺の事を忘れているのかもしれない。

それはそれで凄い悲しいが――――…。

 

 

「はい。覚えていますよ。」

 

 

にっこりと笑顔を向けて答えてくれた。

覚えていてもらった!めちゃくちゃうれしい!!

嬉しさの余り飛び上がりそうになったが、心を落ち着かせて冷静になる。

 

 

「そ、そうか…よかった……」

 

「貴方も、私の事を覚えていてくれてよかったです……忘れていたら、どうしようかと思っていました。」

 

 

そう、小さく舌を出して言う聖女さん。

俺は慌てて、返答を返した。

 

 

「わ、忘れたりしねーよ!―――…君には、ずっと言いたかったことがあったんだ。」

 

「えっ…?」

 

 

きょとんとした顔になる聖女さん。

二度目の人生――――――――…英雄時代を生きていた頃から、ずっと告げたい想いがあった。

それを今、彼女に伝えよう…声にして、ハッキリと。

 

 

「あの時――――…俺を、守ってくれてありがとう。

 

 命の大切さを…………教えてくれて――――…ありがとう。」

 

 

「っ。」

 

 

ずっと…彼女に言いたかった感謝の言葉を彼女へ向ける。

俺は、彼女と出会ったあの日から…生きているまでの間、ずっと胸に抱き続けていた。

彼女に一言、いや……一言だけじゃ埋まらない感謝の想いを伝えたかった。

 

 

「君のおかげで……俺は、なりたい自分になる事が出来た。

 あの時…あの言葉があったから……俺は、叶えたい願いが出来た。

 君のおかげで、俺は英雄に――――!!」

 

 

ぽすっ…と、胸のあたりに小さな重みを感じた。

視線を向けてみると……銀色の兜と、そこから伸びる銀色の髪が…って!?

 

 

「えっ!?お、おいおいおい…?!」

 

 

聖女さんに抱き付かれました。

な、何だこの展開!何がどうすればこうなるんだ!?

待て待て待て待て!ど、どどどどうすりゃあいいんだよこの場合!!

生前、女性と“そういう関係”で付き合いをした事が無い俺が!こんな美人な女の子に抱き付かれるなんて!!

 

 

胸がバクバクバク…と高鳴る。

 

 

うわー…すっげえ良い匂いする。

女子って何であんな甘い匂いすんだろ……おい、今、変態って言ったやつ前に出ろ。

…って、そんな事より!

この状況、どうしたらええんや!?誰かタシテケクレー!!

 

 

「…ごめん…なさい。」

 

 

……あ?

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

聖女さんは俺の胸に顔を埋めたまま、謝っている。

なんで―――――…この人、謝ってんだろ。

あと、心なしか嗚咽みたいなのが小さく聞こえる……泣いて、る?

 

 

「ど、どうした…んだ?、何か、俺…マズイ事でも…言った?」

 

「違うの!…違うの…貴方は……私のせいで…死んでしまった。」

 

 

“私のせい”?

もしかして、最初の死か…?

 

 

「いや!あれは君のせいじゃ――――――…」

 

「いえ、あの時のあれは…私のせいです。私の浅はかさによる行動であなたを死なせてしまった…。

 それだけじゃない――――――――…私の自分勝手な願いで、また貴方に…悲しい思いや人殺しなんてさせてしまった。」

 

 

もしかしたら、彼女は英雄時代の事を言っているのか?

だとしたら…俺の二度目の人生で英雄になるきっかけを作ったのは…あの世界へ俺を連れて来たのは―――…

 

 

「私、なんです…貴方を、あの世界へ連れて来たのは……」

 

 

ぽつり、ぽつりと彼女は自らの罪を告白していく。

 

 

「あの時…目の前で死んでしまった貴方を、私は死なせたくなかった…。

 何としてでも生きていて欲しかった…だけど、肉体は目の前で崩壊してしまい。

 既に修復不可能まで陥っていた。残ったのは魂だけ…そしてその魂も、間もなく消滅しようとしていました。」

 

 

 

 

 

 

“だから、私は…せめて魂だけでも――…転生させたのです。”

 

 

 

 

 

 

 

魂を……転生…?

 

 

 

それは一体どういう事だ?

“魂だけ”という事は、“肉体”は一体どうしたのだろうか?

英雄時代から、今まで至る自分のこの姿は生前から何一つ変わっていない。

声も顔も姿形全て同じだというのに魂だけとはいったい――――…

 

 

「今の貴方の体は、私が“貴方の記憶から作った複製の体”…本物の貴方の体は…。」

 

「……」

 

 

どうやら、この体は複製で…偽物だったらしい。

あの世界で目覚めた時に傷が、何一つ無くなっていたのは…それが理由か。

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる彼女。

 

彼女の、胸の内にあるのは…押しつぶすほどの罪悪感。

 

罪の意識があまりにも大きくて、自分自身が憎くてたまらないと言った方が正しいだろうか。

 

彼女の悲痛な声が、悲しみを含んだその姿が……俺の胸に突き刺さる。

 

彼女の言う通り、聖女さんのせいで俺は死を迎え、英雄として過酷な戦いをしなければならなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

でも…それでも――――。

 

 

 

 

 

 

「君は……間違っていないよ。」

 

「え…?」

 

 

驚く彼女の声が聞こえる。

俺は、そっと手を彼女の背に回して優しく抱きしめて言った。

 

 

「俺がここに立っているのは、俺自身で選んだからだ。

 

 誰がどうこうじゃない…俺の意思で戦ってきた。

 

 自分で望んで―――――英雄になったんだ。

 

 だから……俺は後悔もしないし、悩んだりもしない…君を恨んだりもしないんだ。」

 

 

 

 

だから…と言い続ける。

 

 

 

「もう、自分を責めたりしないでくれ。

 俺は、君に救われたんだ…人間が嫌いで、自分が嫌いで、世界そのものを嫌いになった俺に――――…

 君は…命の大切さを教えてくれたんだ。君がいたから……俺は、頑張れたんだよ。」

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

その言葉で胸がいっぱいになる。

彼女には感謝の気持ちがあれど、憎む気持ちは何一つ無い。

例え、彼女が原因で俺が死ぬ事になってしまったとしても。

俺の心には、そういう負の感情が何一つ無かった。

 

 

「俺は気にしてねーんだ!だから、もう謝んなくていい。

 自分を……傷つけなくても、いいんだ。」

 

「…っ。」

 

 

聖女さんは声を枯らしたように胸に顔を埋めてくる。

体が小刻みに揺れて、泣いている事が見てとれる。

俺は、彼女が落ち着くまで、その華奢な体に手を回して優しく…抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

くぅ…めっちゃ、恥ずかしいけど耐えねば。

 

頑張れ、俺の理性……!!

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「すいません…みっともない姿をお見せしました。」

 

 

しばらくして、泣きやんだ聖女さんは俺の胸から頭を離した。

目尻が赤くなっているけど、様子を見る限り大丈夫そうだ。

少し名残惜しい気もするが、落ち着いてくれたようで良かった。

彼女に「大丈夫なのか?」と言いたげに視線を向けると、聖女さんは笑みを浮かべる。

 

 

「貴方には何度も迷惑をかけていますね…。」

 

「気にすんな。俺は全然そんな風に感じないし。」

 

 

 

 

というか、もっと俺を頼ってくれ!

 

 

 

 

…なんて事を実際に目の前で言えたらなぁ。

戦う事に慣れた俺だったが、女性を口説いたりカッコイイ事を言える度胸は無い…というか、出来ないと思う。

英雄時代じゃ、仲間に女の子が結構いたと思うけどそんな間柄じゃなかったし、関係を持とうとも考えなかった。

生前は…まぁ、それなりに接する機会は多かったと思うけど…そんな甘い話は無かったな。

 

待て?俺、二度目の人生貰えたのに甘い話が一個もないぞ…

あっちへ行ってから修行ばっかでジェラルとしかいなかったし。

一人立ちしてからは紛争潰しで戦いに明け暮れ……。

組織で頭領になってからは、部下を引っ張り異能力者達との激戦の毎日―――――…

 

 

 

 

 

 

あれ…俺、あんまり人生エンジョイ出来てない?

 

 

 

 

 

 

「あの…お話したい事があるのですが…」

 

 

そんな事を考えていたら、聖女さんが声をかけてきた。

おっと…考えに耽っていたか…いけない、いけない。

 

 

「話って?」

 

「貴方の今の状態についてです。」

 

 

俺の今の状態…?

首を傾げるが、真剣な面立ちで答える聖女さん。

とても重要な話っぽい…話について行けるようにちゃんと聞いていよう!!

 

 

「今の貴方は複製された体から切り放たれ…魂の状態としてここに限界しています。」

 

 

どーん!と衝撃事実という名の爆弾を投下された。

…既に話について行けなくなったが、とりあえず黙って聞いていよう。

 

 

「先ほどいた世界で貴方は二度目の死を迎えました。

 複製された体は個としての機能を果たされなくなり、消滅しました。

 しかし、魂だけは消滅せずに残ったままここへやってきたのです。」

 

「魂だけ?何でだ?」

 

 

彼女が転生を施したのは最初の死だけ。

なら、俺は今度こそ消えてなくなるだけじゃないのだろうか?

不可解な考えが浮かぶ中、アテナは重々しく口を開く。

 

 

「えっと…その…大変申し訳ないのですが…私が…その…。」

 

 

もじもじとした風に聖女さんは言葉を紡ぐ。

…くっそー!かわいいじゃねぇか…じゃなくて!

 

 

「あー。うん。そう言う事ね。」

 

 

察してあげた。

多分、俺の魂を彼女がここに呼びだしたんだろう。

その様子が分かったようで、「ごめんなさいぃ…」と、消えそうな声で言ってきたかわいい。

 

 

「でも、何で俺を呼びだしたんだ?俺の役目は終わったハズだと思うんだけど…」

 

「……貴方をここに呼びだしたのは他にあるのです。」

 

 

俺の言葉を聞くと、真剣な顔に変えた。

その姿に俺も身を引き締まるように姿勢を正した。

これから、何が告げられるのだろうか…?

 

 

「黒帝の破壊者…貴方にお願いがあります。」

 

 

ごくり。と唾が喉を通る。

緊張が走る…彼女が口をゆっくりと開く。

 

 

「私…戦女神「アテナ」の“神剣”(みつるぎ)になってくれませんか?」

 

 

………。

どこから、言ったらいいんだろう。

まぁ、とりあえず……俺が言いたい事が一つある。

 

 

 

 

速報:かわいい聖女さんは女神だった!!

 

 

 

 

「えっと…どういうことかな…?」

 

 

“ごめんなさい…こんな時、どんな顔をすればいいのか分からないの…。”

 

 

と、言いたげな顔で俺は女神…もとい、アテナに言う。

その悲痛(嘘)な姿を見てアテナは、「笑えばいいと思うよ。」……とは言わず、真剣な顔をした。

 

 

「“神剣”とは、我々…神々に仕え、仕えた神を守り。

 時には崩壊する世界の変革となる可能性として存在する――――――…」

 

「すんません。良く分かりません。」

 

 

彼女なりに細かく教えてくれたのだろう。

しかし、俺の脳筋じゃ理解できないっす!もっとバカにも分かりやすい言葉で説明してください。

 

 

「つまり、私の…騎士というか…ボディガードになってほしいのです。」

 

「ああ、そういうことね!」

 

 

なるほど!分かりやすいぜ!!と言わんばかりの表情で手を打つ。

しかし、そこで俺はふと言葉を遮る。

 

 

「…でも、俺なんかでいいのか?もっと他にいい奴が――――――…」

 

「そんな事っ…!私は貴方がいいんです!!」

 

 

いるんじゃないか?と言う前に彼女に距離を詰められて言われる。

距離が近い近い近い役得だけど!俺の心臓が張り裂けて死にそうだから離れてくれええええ!

これだから耐性のない童貞野郎は……自分で言ってて、泣けてきたちくしょう。

あー、そうだよ!俺は童貞だよ!悪いか!!

 

 

「っ!?ご、ごめんなさい…!つい…」

 

 

ハッと正気に戻ったアテナは頬を赤らめて離れる。

なんだこの可愛い生き物はよ!!

やばい、血吐くはこれは…戦っていないのに大ダメージ受けるとはッ……アテナ、なんて恐ろしい子…いや、女神か。

しかし、おまいらこの可愛さを実際に目の前で見てみろよ――――――――…

持って帰りたくなるぜ!!……持って帰ってもいいのかな?!

 

 

 

…すいません。調子乗りました。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

今ので少し気まずくなって二人とも黙り込んでしまう。

…沈黙が痛いよぉ~!誰か助けてよぉ。

甘酸っぱい空気感も少なからず感じるが、あいにく俺にこのラブコメめいた空気をいなすほど主人公力はない!

 

 

「え、えっと…じゃ、じゃあ、その“神剣”は何をすればいいのかな?」

 

 

“神剣”をやってくれと言われたが、どんな事をすればいいのか全く聞かされていなかった。

いや、話の路線がズレたのは俺のせいなんだけどね…。

俺が聞くと、アテナはハッと気付いた様に「そうでした…」と呟いた。

表情がどこか嬉しそうなのは、さっきの沈黙の空気が同じく気まずさを感じていたからだろう。

俺の方から声をかけたのが効いたのかな…。

 

 

「こほん。“神剣”は使える神々を守る他に重要な使命を持っています。」

 

 

重要な使命。

その言葉を言った途端、アテナの発する空気が変わるのを感じた。

ごくりと思わず喉を震わす。

 

 

「世界を崩壊させる悪しき存在―――――――…“邪神”を討伐すること。

 それが、“神剣”に課せられた重要な使命です。」

 

 

「“邪神”――――…?」

 

 

聞き慣れない言葉に俺は首を傾げた。

それを見て、アテナは目元を少しばかりか細めて言った。

 

 

「覚えていませんか?、私と貴方が初めて出会ったあの日―――…。

 私が追っていた邪神…『堕天竜サマエル』を。」

 

 

「サマ…エル…」

 

 

その名前を聞いた途端―――――――…

頭の中を抉るように様々な記憶が呼び起こされていく。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

あれは、確か……。

 

 

まだ、夏の残暑が残る秋の夜……。

 

 

俺は、全てに絶望して…アテもなく、放浪していたら…。

 

 

 

 

『死なないでッ!!』

 

 

 

 

『…イイダロウ。オノゾミドオリコロシテヤル…!!』

 

 

 

 

【しかたありませんね……私が力を貸してあげましょう。】

 

 

 

 

『力屠る祝福の剣(アスカロン)!!』

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

思い出した。

 

あの時、俺の運命を大きく歪ませた存在。

 

アテナを傷つけ、俺が死ぬ原因を作った怪物。

 

 

「あいつ…か。」

 

 

「思い出しましたか?…そう…邪神の一角である「堕天竜サマエル」。

 私を…戦いの神を退け、貴方を英雄にするキッカケを作った存在。」

 

 

アテナの言葉で全てが思い出した。

今思えば、とても痛烈な印象が残っている。

俺のターニングポイント――――――――…といってもいいんじゃないかな。

まぁ、悪い意味でもあり良い意味でもな。

それでも、死ぬ原因を作ったあいつを思い出すのは、あまり良い気分ではない。

 

 

「邪神はサマエルだけではないのです…数々な異世界に邪神が潜み。

 理を破壊し、その世界での歴史を崩壊させて支配せんと目論んでいるのです……。

 邪神を倒す為に“神剣”は異世界に行き、その世界を正しい方向へ導かなければならないのです。」

 

 

「……。」

 

 

…おいおい。

話がどんどん、深くなってきたぞぉ~。

手がつけられなくなってきたぞぉ。

 

 

 

思考が現実逃避しつつあったので、ふと気になったことを告げた。

 

 

 

「…あのさ、君たち神様が倒しに行くってのはないの?」

 

「私たちは様々な世界の観測したり、崩壊しないように調律したりと使命がありまして…」

 

 

 

……なるほどねぇ。

 

 

 

「“邪神”を野放しにしたら…世界が崩壊してしまいます。

 たくさんの人が犠牲になり、悲しみに包まれてしまいます。」

 

 

きゅっと、手を握り。

アテナは悲しみに満ちた表情を浮かべた。

…前から思っていたけど、やっぱりこの人は他人の事をとっても気遣っているんだよな。

何で、そんなに他人なんかにそこまで思えるんだろう。

俺が出会ってきた中で、こんなに優しい人みたことないよ。

 

 

「…貴方には、たくさん私のわがままを押しつけてしまいました。

 たくさん、苦しい思いをさせてしまいました…危険に戦いに巻き込んでしまいました。

 何度…お詫びしていいか分かりません…ですが…貴方にしか、救えないたくさんの命があるんです…!

 こんな事は本来ならば言えた事ではないのは分かっています…それでも…どうか、また力を貸してもらえないでしょうか…」

 

 

「……」

 

 

ふと、俺は自分の手を見つめる。

 

 

俺は…この手でたくさんに人を傷つけてきた。

 

 

同時に、多くの人を救えたかもしれない。

 

 

俺が戦った事で幸せになった人がいたかもしれない。

 

 

俺が戦ったせいで不幸になった人がいたかもしれない。

 

 

俺について来たせいで、死んでいった仲間たちがいた。

 

 

それでも、俺の事を心配してくれた“あいつら”がいた。

 

 

 

 

『たとえ、全世界の人間が君の敵になっても…僕は絶対に君の味方でいる!!』

 

 

 

 

『この命は…あんたに奪われたんだ……だから、妹共々最後まで使ってくれよ。

 

 それが、俺の――――――――…俺達の望みなんだよ…頭領!』

 

 

 

 

『貴方のおかげで私たちは束の間の夢を見れました。

 

 楽しい楽しい…少し辛いこともあったけど……かけがえのない。人間らしい夢を―――…』

 

 

 

 

『頭領…あんたは、俺が生きていた中で一番の手にかかる人間だと思う。

 

 でも…そんなあんただから、皆は着いて行くんだと思う…最後までお供させてくれ。』

 

 

 

 

『貴方は本当に成長した…私の手が届かないところまで……でも、その力……誰かの為に使いなさい。

 

 貴方の事を本当に愛してるわ――――――――…いつしか、貴方の事を息子のように思っていたのね。私は…。」

 

 

 

 

 

『私のもとにいる間…お前は、たくさんの事を学んだだろう。

 

 戦い方、生きる力、魔術、情勢…戦争の虚しさ、人を殺める怖さ、命を奪った悲しみ…。

 

 様々な事を学び…時に苦しく、悲しく、辛かっただろう。

 

 だが、それでお前は強くなれただろう…何が大切か分かっただろう。

 

 迷わずに行け。そして―――…お前を必要としている人の為に、この歪み狂った世界を壊せ…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お願い…必ず帰って来て。

 

 貴方が帰ってこれるように…ここで待っているから――――!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄時代」に出会ってきた仲間達の姿が脳内にリフレインしていく。

それぞれ、皆…俺にとって大切でかけがえのない存在だ。

彼らとの過ごしたあの日々は―――…絶対に忘れられない。

あいつらがいたからこそ――――…今の俺がある。

 

 

 

 

 

だからこそ――――――――――…あいつらが欲していた俺のままでありたい。

 

 

 

 

 

「…はっ、俺も変わったもんだな……生きてた頃はこんな風に考えたりしなかったんだがな。」

 

 

一人でに呟く。

本当に自分は変わったと。

だが、どこかこんな自分も悪くないとも思っている。

ふと顔を上げると、そんな俺の姿を見てアテナは首を傾げていた。(かわいい)

 

 

「アテナ。」

 

「は、はい。何でしょう…」

 

 

びくりと体を震わすアテナ。

…距離感を考えずに呼び捨てにしたのは、やはりまずかったか。

くっそー…これでも、割と恋愛要素のあったゲームはしてたはずなんだけどなぁ。

途中からどうでもいい事を考えつつ、俺はこほんと咳払いをして言葉を紡ぐ。

 

 

「俺を貴女の“神剣”にしてほしい。

 貴女の為に…世界の為に、多くの人の為に…。

 この身はかけがえのない命を守るために戦い続けよう。」

 

 

すっ…と彼女の前で片膝を着いて頭を下げて言った。

なんか、この部分だけ見ていると兵士が女王に忠誠を誓っているようにも見えるけど。

だ、大丈夫…だよね?

 

 

…………。

 

 

…えっ。俺、間違ってないよね?

アテナからの反応が全然返ってこないんだけど…まて、俺はもしかしてやらかしたか…!?

『は?』みたいな感じに取られてんのかな!?『なにそれ?』みたいに思われてんのかな!?

被害妄想が進んでいき、思わずパッと顔を上げると……。

 

予想を斜め上を行く結果だった。

アテナはきょとんとしていた…え、なにその表情(かお)は?

そんな変な事言ったかな…?

 

 

「くすっ。」

 

 

わ、笑われた!?

人の人生における最大の誓いのシーンを「くすっ」て!

おいおい、流石の俺もこれは心が折れるって……もう、あかん。立ち上がれへんわ~。

 

 

「すいませんっ。ですが、少しおかしくって。」

 

 

はいはいどもども、笑ってもらえてうれしゅうございますー。

もはや、俺は完全に拗ねたからな!なに言っても無駄だかんなぁー!!

 

 

「でも…嬉しかったです。また、貴方にそんな風に思って頂いて。」

 

 

………お?

 

 

「貴方とまた一緒に戦える…こんなに嬉しい事はありません。

 これから、よろしくおねがいします!」

 

 

とびっきりの笑顔で彼女はそう言った。

…参ったなぁ。そんな笑顔で言われるとなぁ。

自惚れではないが、割りと自分はオールマイティな方だと思っていたが…やはり勘違いだった。

どうやら、『黒帝の破壊者』の弱点は女神様の笑顔であった模様。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

その後、俺はアテナと“神剣”になる儀式みたいなのをした。

まぁ、儀式っつーても彼女の手を握って片膝着いて―――――…

「我、戦女神アテナの“神剣”になる事を誓う」的な事を言っただけなんだけど。

そしたら、周りに青白い光が溢れてとっても幻想的だったなぁ…。

全部が終わった時には、どこかアテナとパスを通しているような感じがした。

 

これもたぶん、“神剣”になったからなのだろうか。

考えに耽っていると、彼女と目があって微笑まれた。

笑っている顔、超かわええこの女神…。

 

 

まぁ、そんなこともしつつ、そろそろ本題に入りたいと思っていた時。

 

アテナの方から「こほん」と咳払いが聞こえた。

 

 

「では、これで貴方は“神剣”になった訳ですが……先ほど言った役目に関しては大丈夫ですか?」

 

「ああ、異世界に潜む邪神の調査、及びそいつを倒すこと――――…んでもって、世界を正しい方向へ導くことだったな。」

 

 

先ほど聞いた事だからバッチリ覚えている。

 

 

「あ、あと、俺が介入する時点で、オリジナルを模った全く違う“平行世界線”になるから…

 “本来の歴史”とは違った結末を作っても問題ないだったよな?」

 

「正確には少し違うのですが、そのような認識で構いません。」

 

 

よし、目的確認終了。

じゃあ、次はお待ちかねの!

 

 

「なぁ、俺はどこの異世界へ行くんだ?」

 

 

一番気になっていた事を口にした。

いや、だってさ!異世界だぜ異世界!!

自分の世界じゃ見られない物をたくさん見れるかもしれないじゃんか!

なんだか、ワクワクするんだよな~!

 

 

「ふふっ、気になりますか?」

 

「そりゃ、もちろん!で、どこどこ!?」

 

 

たぶん、今の俺は傍から見たら目を輝かせているように見えるのだろう。

子どもっぽいと思うかもしれんが、あの「英雄時代」で生き抜いて昨今まで至る俺のスタンスはこれだ。

 

 

“自分に置かれた現在の状況を一つの過程として全力で楽しむこと”

 

 

これが、俺の信条だ。

これナシで考えるのは流石に無理だね!

やるなら、全力で楽しまないと!!

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、アテナから最初の行き先を告げられる。

 

 

 

 

 

 

「これから、行く世界は貴方が数年間戦いぬいた…いわゆる英雄になった時代から十数年前。

 

 魔術が現代に織り成す舞台の物語……『Fate/stay night』です!」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 

 祖には我が大師シュバインオーグ。

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、

 

 王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」

 

 

薄暗く、そこらかしらにある柱からろうそくの灯りがある城の一室。

周りには誰もおらず、あるのは広く虚な空間と地面に刻まれた魔術の陣…。

そして、その陣の端を囲むように設置してある媒体。

その前に立っているのが――――…

 

 

 

私…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、そこにいた。

 

 

 

今、私が行おうとしているのは“聖杯戦争”を共に戦う『英雄』を召喚だ。

聖杯戦争とは、文字通りその聖杯をかけて争う大規模な儀式のことだ。

 

 

『あらゆる願いを叶える事が出来る、万能の願望機』

 

 

それを巡って七人の魔術師がそれぞれ召喚した『英霊』…サーヴァントと共に戦う。

サーヴァントには7つのクラスがある。

 

 

 

剣士のクラス「セイバー」

 

 

弓兵のクラス「アーチャー」

 

 

槍兵のクラス「ランサー」

 

 

騎兵のクラス「ライダー」

 

 

狂戦士のクラス「バーサーカー」

 

 

暗殺者のクラス「アサシン」

 

 

魔術師のクラス「キャスター」

 

 

 

魔術師(マスター)は、その中でクラスを一つ選んで召喚する。

サーヴァントを召喚した魔術師は聖杯戦争へ参加する事ができる。

万能の願望機『聖杯』を手に入れる為に七人の魔術師は殺し合うデスゲーム…それが聖杯戦争。

無論、私もそれに参加するつもりだ。

 

 

陣の傍にある大きな剣に視界に入れる。

 

 

これが今回の召喚する英霊の媒体となる。

聖杯戦争の英霊召喚システムは基本的にランダムであるのだが、特別な例もある。

 

 

それは、召喚したい英雄に関係がある物を儀式の際に媒体として使う事。

それが召喚したい英雄になじみ深いものなら確率が上がる。

 

 

だが、英雄にも強さの強弱がある。

 

 

強さの基準は英雄そのものの強さと知名度となる。

召喚できたサーヴァントで聖杯戦争の勝敗が決まると言っても過言ではない。

故に、サーヴァントの召喚には慎重に行わなければらない。

 

 

 

その中で私が召喚しようとしているクラスは「バーサーカー」である。

 

 

 

サーヴァントには、自分のスキルの他にクラス特有の専用のスキルがある。

バーサーカークラスの専用のスキルの名は……「狂化」。

理性と知性を捨て去ることで、他の能力を向上させる事が出来る最凶の能力。

ただ、その反面、扱いが難しいという欠点がある。

 

理性がないために命令を聞かず、敵味方関係なく暴れまわるという危険性もある。

さらに、バーサーカーは魔力の燃費が悪い。

並半跏なマスターだと、召喚した瞬間に全ての魔力を奪われ聖杯戦争が始まる前に脱落する、何て事もある。

 

 

 

そして、私が召喚する英雄の名前は「ヘラクレス」。

 

 

 

この大剣の持ち主であり、かの有名なギリシャ神話の大英雄。

伝記上では半神半人の英雄…“十二の試練”はあまりにも有名だ。

私は、そのヘラクレスをバーサーカーとして召喚する。

彼の“十二の試練”…加えてバーサーカークラスの「狂化」を合わせれば間違いなく最凶の使い魔となるだろう。

 

バーサーカーの扱いづらさは、もちろん熟知している。

けど、そんな事に振り回されるほど自分は弱くない。

完全に扱いきってみせる自信がある。

 

 

 

私はバーサーカーを召喚して、この聖杯戦争を絶対に勝ち抜く。

 

 

絶対に…!

 

 

お母様の無念を晴らすためにも――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイリスフィールは失敗だった。』

 

 

 

『お前の父である衛宮切嗣が裏切った。』

 

 

 

『聖杯をもってこず、行方をくらませたのが何よりの証拠だろう…』

 

 

 

『お前は奴に捨てられたんだ。』

 

 

 

『お前を捨て、奴は日本に養子を作ってのうのうと暮らしておるんだ。』

 

 

 

『イリヤスフィールよ、アインツベルンの本懐を遂げよ…。』

 

 

 

『今度こそ聖杯を…聖杯を…聖杯を―――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘だ!

 

キリツグが私を裏切っただなんて…!

 

信じられない…!

 

 

 

…どうして?

 

 

どうしてなのキリツグ…?

 

 

なんで、私の前から消えたの?

 

 

どうして、迎えに来てくれないの…?

 

 

 

私は…負けない。

 

貴方みたいに逃げたりしない。

 

 

 

お母様の死を無駄にはしない!!

 

 

邪魔する奴は許さない!!

 

 

全部―――――…!!

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

そこで、私は自分の失態に気付いた。

 

 

今、“何を考えた”?

 

 

間違いでは無かったら、私は今…「全部、壊すモノ」を想像してしまった。

 

 

 

パキン――――ッ!!

 

 

 

私の感情と思考が反映してしまったのか、媒体であるヘラクレスの大剣が壊れた。

まるでガラスが割れたように吹き飛んでしまった。

さらに不幸が続くように魔方陣から光が部屋を包むように溢れだした。

 

 

「いけない…ッ!、魔力の暴走が―――!?」

 

 

私らしくない失敗だった。

ここまで完璧に運んでいたのに、最後の大事なとこで失敗した…!

維持していた魔力の形が歪んでいくイメージが刻まれる。

そこまでいってしまったら、もはや私でもどうしようもなかった。

 

 

 

バゴオンッ!!

 

 

 

“何かが落ちてくる”ような凄まじい音と突風が一斉に襲ってくる。

 

 

思わず腕を交差し、目を瞑ってしまう。

間もなくして突風は止んだが、失敗してしまったという事実が頭から離れない。

が、それでもサーヴァントは召喚できたような感じはした。

だが、失敗は失敗だ…何かイレギュラーを引き起こしてしまったかもしれない。

自分の間抜けさに嫌気がさしてしまう。

 

 

恐る恐る目を開けると、魔法陣の中央に人影が。

 

 

サーヴァントは…上手く召喚できたみたい。

 

 

だが、どうも想像していたイメージと違うような…?

 

私は上手くヘラクレスを召喚できたのかな…?

 

 

色々と考えに耽ってしまうが、近寄ってみた。

ちゃんとヘラクレスを引き当てたのだろうか―――…?

 

 

 

「俺、参上!!」

 

 

 

……なぁにこれぇ。

 

 

 

 

 




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第二夜 我が主様

今回は短めです。


「俺、参上!!」

 

 

『Fate/stay night』の世界へ到着してからの俺の第一声はソレだった。

場を和ませるのを考えて言ってみたんだが……駄目だったかな?

なんで台詞が仮面ライダーなのかというと、完全に俺の趣味だ!いいだろう別に?ww

あれ?でも、この世界で仮面ライダーなんてやってんのかな?

 

 

「あなたが…私のサーヴァント?」

 

 

そんなどうでもいい事を考えていたら声が聞こえた。

思わず視線を向けてみると、なんか残念そうに俺を見ている少女が。

 

 

綺麗な銀髪。

 

ルビーのように赤い瞳。

 

人形のように整った顔。

 

 

ああ…俺は彼女を知っている。

俺が原作の中で一番好きだったキャラクター。

そして、一番救いたいと思っていた存在。

 

 

 

彼女の名前は――――――――――…イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 

 

『Fate』の物語の中では最も不遇なキャラクターであり。

唯一、どのルート(セイバールートはまだマシなほうだったけど)でも彼女が救われることはない運命にあった子だった。

そんでもって実は主人公の「衛宮士郎」とは義理の兄妹……いや、“義姉弟”の間柄だ。

 

 

 

 

そのイリヤが今目の前にいる。

 

 

 

 

そして、イリヤを間近でリアルで見た俺の心境は―――

 

 

 

(やっべぇ!!イリヤだ!本物だすげぇ!小さい!ほんとに幼女だ!!)

 

 

まぁ、こうなるわな!!

当然だろ!目の前に大好きな作品の、それも一番好きだったキャラがいるんだぜ!?

こうならない方がすげぇわ。いやー、それにしても本物のイリヤスフィールだぁ……なんか、変態みたいだな俺。

はい自重します。すんませんでした。

 

 

 

まぁ、悪ふざけはここまでにしておいて…

 

 

 

なんでイリヤがここにいるんだ?

というかここはどこだ?……見る限り城っぽいところからアインツベルン城だと思うが…。

ん?待て…?、さっきイリヤ…俺に何か言ってなかったか…?

確か聞き間違いでなければ、俺をサーヴァントだと――――――――――……

 

 

「ねぇ、聞いてるの!?

 貴方が私のサーヴァントなの!?、貴方があのギリシャの大英雄のヘラクレスなの!?」

 

 

あぁ、聞き間違いじゃなかったみたい。

しかも、俺のことをヘラクレスだと思ってるみたいだ。

 

 

「ねぇ!どうなの――――――――――…」

 

「だぁーッ!うるせぇな!?ヘラクレスな訳ないだろ!!ギリシャの大英雄がこんな服着てるかぁ!!」

 

 

いかん、ついツッコミを入れてしまった!

イリヤも俺が急に言葉を発してビクッと驚いたように体を震わせた。

なんだか、悪いことしたなぁ……。

 

 

「な、なによ…喋れるなら早く言いなさいよ。」

 

「…すまん。つい。」

 

 

いや、まじですいませんでした。

 

 

「…まぁ、いいわ。これから聖杯戦争を一緒に戦っていくんですもの。余計な事で支障をきたすのも嫌だし。」

 

 

イリヤはそういうと、なんか勝手に一人で納得し出した。

数回ほどコクコクと頷いてから、俺へと視線を向き直してその小さな口を開いた。

 

 

「初めまして。私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 今回の第五次 聖杯戦争に参加する魔術師の一人にして、貴方のマスターよ。」

 

 

礼儀正しく。それでいて堂々とした威厳でイリヤはこちらへと言葉を紡ぐ。

…やはり、俺が彼女のサーヴァントだというのは間違いないようだ。

まぁ、アテナからは事前に「サーヴァントとして召喚される」とは言われていたが…。

まさかイリヤのサーヴァントだとは……。

 

 

 

 

 

つーことは、ヘラクレスは今回、不参加っていう…?

 

 

 

 

 

「貴方は誰?見たところ、ヘラクレスではないみたいだけど…?

 貴方は何を成し遂げた英雄?できれば貴方の真名を教えてほしいのだけども。」

 

「ああ、俺は―――――――――――…」

 

 

そこで、俺は言葉を再び紡いだ。

ここで、俺はなんて伝えればいい?

素直に答えるのは簡単だが、俺自身の真名はハッキリ言って特殊だ。

ソレは本来の俺の名をではなく、周りから付けられた異名が元となっている。

 

 

 

『黒帝の破壊者』

 

 

 

それが、人間達が俺を呼んでいた名前だ。

 

 

ストレートに告げても、イリヤは不可解に思うだろう。

それだけ俺は特殊なサーヴァントだというのが分かるが、理解するのは少し難しいハズ。

…俺の異常性を知って、イリヤが不信感を抱かないという確証もない。

これは、まだ秘匿していた方が良いだろう。

 

 

「…答えられないの?もしかして、貴方…“反英雄”?」

 

「いや…そうじゃないんだけど―――――…現時点では答えられない。」

 

 

俺がそう言うと、イリヤは機嫌を損ねたように眉間に皺を寄せる。

 

 

「それは、私がマスターとして信用がないという事かしら?」

 

 

なんでそうなるかなぁ~?

勝手な解釈に俺は冷や汗をかいちまう。

とりあえず、あることないことでこの場を収めてもらおう。

 

 

「そう言う訳じゃないけど…どうやら記憶の混濁みたいなのがあって、うまく思い出せないんだよ。」

 

 

うわぁ…よくこんな真っ赤な嘘をつけるもんだねぇ。

自分で自分を引いちまうよ…まぁ、これは“アイツ”の嘘を真似ただけなんだけどな。

俺がそう言うと、イリヤはハッと何かを思い出したように顔を青ざめた。

 

 

「…もしかして、召喚の時の失敗が…?

 あれのせいで、真名が思い出せないのかしら…。

 どうしよう…真名を忘れただなんて宝具使えないじゃない…ポンコツじゃないの…」

 

 

なにやら、またブツブツと言ってる……つかまて、誰がポンコツだゴラァ。

俺は真名を忘れていないし、自分の宝具もちゃんと使えるし!

すぐさま異議を唱えたくもなるが、ここは抑えておくか…いろいろ言って後から面倒になるのも嫌だし。

 

 

「まぁ、そのうち思い出したら教えるよ。気長に待っててくれ。」

 

「…能天気ね。本当に貴方、大丈夫なの?」

 

 

胡散臭そうに俺を見つめてくる。

俺、ここに来てから自分の主様からの不信感抱かれるの多くない…?

急に泣きたくなったけど、ここで折れるのは俺の性に合わない。

この幼女にはきちんと言ってやらんとな。

 

 

「ああ、真名は言えないけど、俺は自分が誰よりも強いと断言できる。

 

 それに…“俺は生きているなら悪魔だろうが、神様だろうが殺してみせるぞ”。」

 

 

はっきりと答える。

今度の言葉には嘘偽りなど無い。

俺は誰よりも強い。たぶん、この聖杯戦争の誰よりも強いと断言できる。

根拠を持って言えるほどの力を自分は持っている。

 

 

「…そう。それを聞いて安心したわ。」

 

 

それだけいうと、イリヤは少しだけ笑みを浮かべて俺の方へ体を向き直す。

 

 

「じゃあ改めて…これからもよろしくねバーサーカー。

 共にこの聖杯戦争を勝ち抜き、聖杯を手に入れましょう。」

 

 

そう…美しい笑みで言うイリヤ。

そんな彼女に対して、俺は不敵な笑みをし。

彼女の前で膝を着いて自信たっぷりに宣言する。

 

 

「ああ、望むところだマスター。

 サーヴァントバーサーカー、今この時より…汝を守護する清き影となり、聖杯に向かう勝利へと導こう。」

 

 

普段なら言わなそうな事を言ってみたりする。

言った後で少し恥ずかしくなったがな…。

だが、それでも俺の胸の内には、彼女を必ず勝利へと導こうとする固い決意があった。

 

 

 

 

 

「ちょっと待って!?貴方なんでバーサーカーなのに話せるのおおおおッ!?」

 

 

 

 

 

えぇ……今更かいな。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

ところ変わって、イリヤの部屋へとやって来た。

これからの事を話す為に落ち着ける場所という事で移動する事にした。

イリヤの部屋に入った際の感想を言えば…うん。実に女の子らしい部屋だ。

なんつーか、たくさんのぬいぐるみが鎮座していて、ベットの上などに置いてあった。

それに、どこか甘い香りがするし…うわぁ…自分が変態みたいで嫌だな。

 

 

無粋な思考は、これくらいにしておこう。

 

 

とにかく、今の俺は初めての人生(三度目)にして初めての女の子の部屋にきて緊張している。

 

 

「あんまり、じろじろ見ないでほしいんだけど…恥ずかしいし。」

 

「わりい…なにぶん、女の部屋なんて入ったことねぇもんでな。」

 

「そうなの?……英雄なのに“そういう”のは慣れてないとかあるのかしら。」

 

 

お前の思考内での英雄のイメージはどうなってんだよ…。

他の英雄はどうかはしらんが、あいにく俺は人生を二度も謳歌出来なかったんだよ!

生前はクソみたいな出来事の後でポックリ死んじまったし、英雄時代では戦いの日々に明け暮れてたし!

あーそうですよ!俺の人生にそんな甘いイベントなんてありませんでしたよちくせう!!

 

 

「残念だが、そんなものを楽しむ事が出来なかったんでな。」

 

「…そうよね。英雄と呼ばれるくらいだもんね。

 そんな平和な日々を迎える事が出来なかったハズよね…。」

 

 

なんか、勝手に解釈してもらってるが…おおむね間違いじゃないからいいか。

とりあえず、イリヤさん…その慈悲深い視線をやめてください…なんだか悲しくなってくるんで。

 

 

「そんなコトより、これからの事を話すんじゃなかったのかよ?」

 

「ああ、そうだったわね。」

 

 

知らないうちに話が脱線し始めてたので、本題に入る事にする。

イリヤもこほんと咳払いをして、口を開いた。

 

 

「それじゃあ、バーサーカー。

 貴方という英雄について、話せる範囲で教えて欲しいのだけど。いいかしら?」

 

 

「ああ、かまわないよ。真名以外なら教えられると思う。」

 

 

たぶんな。

 

 

「まず、貴方が生前、何を成し遂げたかを教えてちょうだい。」

 

 

何を成し遂げた…か。

そういったら、数え切れないほどしてきたと思うが…そうだな、強いて言うなら―――――――。

 

 

「数々の戦争を潰してきた…かな。

 

 あと、世界の危機を何度か救ったよ。」

 

 

「…は?」

 

 

あれっ?超まじめに答えたつもりなんだけど…。

 

 

「そんな不思議な顔をされてもね…世界を救ったって…それも何度もって…」

 

「いやー…気持ちは分かるけどさ―――――――――…確かに、この身は世界の危機を救ったんだよ。」

 

 

具体的には、狂った人間とか世界を自分達の都合の良いように作り替えようとした異能力者や凶悪な化けモンから。

首がいっぱいある大蛇とか、人間の言葉を話すでっかい蜘蛛とか…。

邪神も一回ほど倒した事もカウントすれば、かなりの死線を潜って来たなぁ~。

 

 

「…まぁいいわ。次に貴方の戦い方について教えて欲しいのだけど。」

 

「それについては、後日改めてお見せしよう。

 これでもバーサーカーなんでな、ここで見せて暴れても迷惑だろ?」

 

 

迷惑どころか、イリヤはブチ切れると思う。

それだけ、俺の力は制御が難しいという事だ。

 

 

「それもそうね…じゃあ、次は―――――…」

 

「待ったマスター。」

 

 

次の質問を言いかけたのに対して俺は言葉を紡いだ。

イリヤは途中で止めた事に怪訝そうに見るが、これには理由がある。

これ以上、話し込むとキリがないと思うし、多くを述べるにはまだ早い。

 

 

それに“そろそろ”限界だと思うしな。

 

 

「あ…れ――――――…?」

 

「…おっと。」

 

 

ふらっ…とイリヤの小さな体が突然崩れた。

あぶないあぶない、あのまま倒れたら前のめりに地面とキスするところだったぞ。

地面に落ちる前に俺は抱きとめたんで、大丈夫だったがな!

自分の主が地面に倒れるとこなんざ見たくないしな。

 

 

「やっぱりな。お前、大分無理してただろ?

 召喚の時からそうだったけど、魔力供給のペースが乱れまくってて限界寸前じゃないか。」

 

「こ、これくらい大丈夫よ……余計な心配しないで。」

 

「駄目だ。今は休めマスター。使う魔力をなるべく抑えておくようにするし。

 マスターが目覚めるまで“霊体化”して待機してるわ。」

 

「で、でも…これから聖杯戦争が始まるって言うのに…」

 

 

うだうだ抜かすマスターの言葉に耳を貸さずに俺は両腕で抱えこんだ。

処遇、お姫様抱っこというヤツだな。

 

 

「な、なにしているのバーサーカー!?下ろしなさい!」

 

「きけねぇなぁ。今ばっかりは大人しく言う事を聞きな主様よ。」

 

 

腕の中であたふたしているが聴き耳持たずに連れていく。

何故か声音が明るいのは気のせいだろう。

それにしても軽いなイリヤって。

ちゃんと食ってんのか?少し心配なんだが…。

まったく、育ち盛りなんだから…もっと食わなきゃ永久的にぺったんこのまま―――――…

 

 

「バーサーカー…?」

 

 

冷たい声が聞こえる。

背筋が凍りそうになったので、そこで考えるのをやめましたハイ。

こえぇよウチのマスター…何考えてんのか分かるのかよ…。

ガクブル震えながら、俺はマスターをベットに寝かせた。

姿勢を低くして、彼女の顔を覗き込む。

 

 

「ゆっくり休めマスター。じゃないと、俺が困るんでな。」

 

 

自分でもびっくりな優しい声音で語りかける。

つい、イリヤの頭を撫でてしまったが…不可抗力だと思う!

 

 

「子ども扱いしないで欲しいんだけど…」

 

「それは悪かったな。以後控える事にしよう。」

 

 

気が向いたらだけどな。

撫でるのをやめて、霊体化しようと立ち上がる。

 

 

「ねぇ…バーサーカーはどこにもいかないでね…?」

 

 

朦朧とする意識の中で、イリヤはそう問いかけてきた。

わずかながらだが、その声音にはどこか恐れや悲しみなどが見えていた。

彼女の過去を知る者なら…無理もないと感じるだろう。

何故なら今現在、俺自身がイリヤに対して抱いている感情がそうであるからだ。

 

 

「イリヤが望むなら俺は傍にいるさ。たとえ離れていても…必要とあらばすぐ駆け付けよう。

 俺とお前は一蓮托生だからな。お前が居ないと俺は困る。」

 

「……」

 

 

あれ?

なんか間違ったこと言ったかな?

というか、マスター…どことなく顔とか赤い気がするんだけど?

まさか、体調が悪化したとかじゃないよな?

 

 

「どうかしたか?」

 

「も、もう!わかったから出ていって!」

 

 

心配になって顔を覗き込むとイリヤに突き飛ばされました。

んでもって、部屋から叩きだされました。

訳が分からないよ……女性ってほんとにわかんない生き物だよぉ。

 

 

とりあえず、俺は部屋の外に出て廊下で一人ぽつんと立っていた。

 

 

「まさか、俺のマスターがイリヤになるなんてな。」

 

 

この世界に送り込まれる前に、アテナからサーヴァントして召喚されるだろうとは聞いていたが…

まさか、マスターがイリヤだとは思いもしなかった。

俺はてっきり、主要人物以外の人間に召喚されるかと思っていたからな。

できるなら、この世界の主人公である「衛宮士郎」と繋がりを持てる人間と出会いたいと思っていた。

俺の計画の一つを成功させる為には、士郎とのコンタクトはどうしても必要だからな。

 

最悪のケースで考えていたのは、キャスターである「メディア」に召喚されたらどうしようと焦っていたけど。

そこら辺は、アテナが上手いこと気を使ってくれたのかもな。

いやぁ、まじであいつにだけは召喚されたくないわ~…

ハサンに狙われて、胸骨をむき出しされて抉られるのはマジ勘弁。

アニメで見てたけど、あれはホントに痛そうだった…アサシンカワイソス。

 

話が脱線したけど、イリヤに召喚されたのはラッキーだった。

イリヤは主要人物の一人だし、人間関係では衛宮士郎と繋がりが一番濃い。

それはそのはず、イリヤは士郎の養父である「衛宮切嗣」の娘なんだからな。

母親の「アイリスフィール」との間に出来た娘…ホムンクルス…『聖杯の器』――――――

 

 

「…酷な話だよな。」

 

 

イリヤの過酷な人生が頭の中でリフレインする。

彼女が歩んで来た道は、生半可な人間じゃ耐えられるものじゃない。

その小さな体には大きすぎる多くのくだらない老人共の業と一緒にのしかかっている。

同時に…奴らに植えつけられた父親への憎しみが根強く広がっている。

血の繋がりこそないが…兄妹――…いや、姉弟の関係柄がある士郎に対する評価も同じだろう。

 

サーヴァントとして、これから一緒にやっていく仲として何とかしてやりたいとは思っている。

というか、何とかするつもりでこの世界へやって来たと言っても過言ではない。

 

 

「彼女を――――…イリヤスフィールを俺は救う」

 

 

それが俺のこの世界でやらなければいけない事の一つだ。

付け加えるなら、俺の最高の計画を滞りなく進めながら聖杯戦争で勝者となる事が最終目標だ。

…欲張りだなぁ。自分で言っておいて何だけどな。

 

 

「が、それが俺だから仕方がない。うん。」

 

 

命のやり取りがキャッチボールのように行われてるこの世界で、取捨選別なんてモンは絶対にしない。

救いたいモノや救えるモノは全部拾っていくつもりだ。

その中には、この聖杯戦争にいる魔術師やサーヴァント達…そして、俺に二度目の死を与えた“あいつ”もいる。

 

 

もちろん、我が主様もな。

 

 

常識?運命?んな細けぇもんは纏めてぶっ壊してやんよ!破壊者らしく!

障害となる奴は撥ね退けていく。ぶち当たる壁は正面からぶっ飛ばす。

俺らしくていい。分かりやすくてさ。

 

 

「さぁて、派手にやるか。」

 

 

何はともあれ、イリヤと俺の聖杯戦争はここから始まる。

やるなら徹底的に確実に決め込む…よっしゃ、やぁぁぁぁってやるぜぇ!!

 

 

 

 

…とりあえず、今日は寝て明日からがんばろう。

 

 

 

 




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第三夜 お見せしよう

今回も短めです。


あれから、イリヤとは一旦話を切り上げてお互い休むことにした。

イリヤに関しては、昨日の姿を御覧になったようにフラフラだったため俺が部屋を出てからすぐに寝付いたようだ。

眠ったことを知らせるようにパスを通して、召喚されてから乱れまくってた魔力の流れが穏やかになってたのが証拠だ。

ただでさえ、サーヴァントの召喚に膨大な魔力を使うのに、あれからも魔力供給をしながら話し合いをしようとしてたんだ。

 

俺的にはもう少し、自分を労わって欲しいんだけどなぁ。

その頃、俺はというとイリヤが眠りについている間、城の中の見回りをする事にした。

今後からお世話になると思うので、道に迷ったりしない為にも把握しておくべきだ。

眠っているイリヤに負担をかけないように魔力供給をできるだけ抑える為に霊体化して行動をした。

まぁ。その後はすぐに飽きて用意してもらった空き部屋で寝ちまったけどな!

 

 

 

…閑話休題。

 

 

 

次の日の朝……俺は、目の前の出来事に感動する事になる。

何故なら―――――…

 

 

「こっ、これは…!!」

 

 

 

目の前には、豪勢な朝食が並んでるんだからな!

 

 

 

「す、すげぇ…ッ!!これ、食ってもいいのか!?」

 

「ええ、もちろんよ。もともと、その為に用意したんだもの。」

 

 

 

やばい、俺の目の前に天使がいる。

 

 

 

にっこりとイリヤは慈愛の満ちた目で笑みを浮かべて言う。

思わず胸の内が暖かくなる感覚を覚える……こんなに優しい笑顔が出来る人は見た事ない。

猛烈に感動しつつ、俺は両手を合わせて「いただきまーす」と食事の挨拶をする。

スプーンですくった料理を口へ運ぶと…俺の口内で再び感動が湧き起こる。

 

 

「うまっ!めちゃくちゃうまい!」

 

「ふふっ。ありがとう。どんどん食べてね。」

 

 

予想通りで、なおかつ想像以上に美味かった。

こんなにうまい飯を生まれて初めて食ったんじゃないかと思うほど感動した。

同時に「やはり生きているという事は素晴らしい。」と切に思った。

 

 

 

俺はマスターの優しさに甘え、豪勢な朝食を堪能した。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ふぅ、ごちそうさん!すげぇうまかったぜ!」

 

 

朝食を食べ終えた俺は、手を合わせて挨拶した。

俺の生きる糧となってくれた食材と様々な命に感謝を込めるのは当たり前だからな。

イリヤは俺が食べ終わる前に既に済ませており、今は優雅に紅茶を飲んでいた。

 

 

「とても良い食べっぷりね。まるで初めて食べたかのようなテンションで食事してたけど。

 貴方の生きていた時代では、あまり食文化は栄えていなかったのかしら。」

 

 

紅茶を飲みながら、イリヤは聞いてきた。

うーん…この質問は何て返そうか。

あまり、下手に口を開くと昨夜のような失態を犯しそうだし。

 

 

(まぁ、少し思い出した的な感じにごまかせばいいか。)

 

 

うまい飯の恩義は返すべきだ。

いずれはマスターに全部話すんだし、これぐらい大丈夫だろ。

 

 

「いや、美味い飯はたくさんあったよ。

 だが、俺が戦っていた国では紛争や内戦が多い国だったのでね…こんな美味い飯はありつけなかった。」

 

 

英雄時代の日々の食事風景を思い出す。

森での戦闘が多かったときは果実など川で魚をとったり、野生動物を捕獲して食ってたなぁ。

専ら蛇とかカエルが主だったけど、たまに肉食動物が襲い掛かってきたときにはそれを倒して焼いて食ってた。

うさぎとかキツネとかは流石に可哀想だったんで食わなかった。

ジェラルはそんな俺を見て「甘い」と言って呆れていたけど、気の持ちようだと言って説き伏せてたな。

 

一番きつかったのは砂漠での活動だ。

生物があまり生息しないから食料が極端に不足してしまう上、水分も著しく消費する。

その上、砂漠で遭難するとそのまま死んじまうからジェラルからみっちり叩き込まれた。

干し肉とか水とか砂漠の砂の風から身を守る防護服とか調達して、へこたれない精神とか作って――――…

 

 

 

修行の一環で砂漠の横断は本当にキツかった、マジでアレは過酷だった。

 

 

 

「そうなの…私にはよく分からないけど、その表情を見れば想像を絶する程に過酷だったのね…」

 

 

あれ…なんだろう顔に出てたかなぁ。

おかしいなぁ、辛い日々を思い出して感傷に浸ってたのがバレたかなぁ…。

イリヤの憐れむ表情に思わず泣きそうになるが、アレはアレでいい経験だったと思う。

師匠であるジェラルには感謝しきれないな…今の俺があるのは彼のおかげであるからな。

 

 

「それより、食後の紅茶でもいかがかしら?」

 

「いただくよ。」

 

 

そう言うと、イリヤが後ろに仕えていたメイドに指示を出す。

メイドはコクリと頭を下げると、紅茶を注いで俺のテーブルに差し出した。

カップの中の透明感のある茶色液体から香ばしい匂いが沸き立つ。

俺はそっとカップを持って一口飲んでみた。

 

 

「どうかしら?」

 

「…うまい。食後のティータイムというのは初めて体験したが、これなら毎日したくなるな。」

 

 

率直な感想を告げると、イリヤは満足そうに「ありがとう」と答えた。

言葉に嘘などない。これは普段飲んでいるインスタントなヤツと全然違うのは飲んでみてわかる。

味もそうだが、喉に心地よく通る感覚と鼻孔にスッと入ってくる匂い…これらが全て違う。

 

そういえば、修行していた頃はジェラルが紅茶を入れてくれたことを思い出す。

…いや、あれは紅茶と呼ぶにはあまりにもかけ離れていたがな。

ダージリンとかアッサムとかアールグレイなどの葉ではない―――…

何かの食草を鍋に突っ込んで煮た汁を紅茶などと言っていた時には、「こいつは正気か?」と本気で思ったのは無理もないハズだ。

 

 

 

紅茶の味と香りで十分にリラックスできた。

 

途中の回想を除けばだが……。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

場面が変わり、俺とイリヤは朝食を終えて外へやってきた。

城の外は辺り一面の雪景色で今もなお白い雪が降り続けている。

その白銀の世界に俺は「おぉ…」と声を漏らし、イリヤは寒そうに白い息を吐いている。

 

 

「貴方は雪を見るのは初めてかしら。」

 

「いや、そーでもないみたいだ。なんとなくだが初めて見た感じはしない。」

 

 

生前でも英雄時代でも雪は見たことはある。

特に前者のほうでは、俺は日本でも雪が盛んに降り積もる場所で生まれ育ったからな。

雪を見て感動したというよりかは、久しぶりに見た景色で懐かしく感じたというほうが正しい。

 

 

「それより、マスターは寒くないか?」

 

「ええ大丈夫よ。私よりもあなたの方が寒そうに見えるわよ?」

 

 

俺の言葉にイリヤは答えて指摘してきた。

そうかな?改めて自分の姿を見てみると、黒いブーツにジーンズを履き。

上は自分のアイデンティティである半袖パーカーの形をした黒い礼装。

…確かに。こんなに極端に冷え込む外気の中で過ごしている人間とは思えない格好をしている。

 

不思議と全然寒くないのはサーヴァントになったからだろう。

もともとは幽霊みたいな存在なのだから気温など関係ないんだろう。

でもまぁ、我が主様が見ていて寒気を感じてはいけないなと思い。

俺は礼装の形を半袖から厚めの外套に変えた。

 

 

「えっ…い、今何をしたの!?」

 

「うん?マスターが俺を見て寒気を感じないように礼装の形を変えたんだけど。」

 

 

いらぬ気遣いだっただろうか?

 

 

「そ、そう…あなたにはそんな能力があるのね。」

 

 

俺の行動を見て、一つ把握したイリヤはそう言った。

それに対して「まぁな。」とだけ返しておく。

 

 

 

この俺の礼装…『黒帝礼装』には他にも様々な能力があるんだけど、それはまた次の機会にでも教えよう。

 

 

 

「…さて、随分と話が長くなったが。俺の力を見せてほしいってことだったな?」

 

「ええ。この先、一緒に聖杯戦争を戦っていくんですもの。

 自分のサーヴァントがどんな事が出来るのか、ちゃんと知っておいたほうがいいわ。」

 

 

 

続けざまにイリヤは「それに」と言葉を発する。

 

 

 

「この私、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの使い魔が最弱なんてありえないもの。

 聖杯戦争に参加するサーヴァントの中で最強であることを見せてほしいわ。」

 

 

そういって不敵な笑みを俺に向ける。

スッ……と彼女の言葉が胸の内に入ってくる。

同時に心の中にあった熱いナニかが滾るような……言葉では言い表せない何かを感じた。

 

 

(ああ――――…そうか。)

 

 

俺は高揚しているんだ…戦っている時とは違う、ナニカに。

自分の心が、本能が昂りを感じているんだ。

 

 

 

この無垢なる少女に―――――。

 

 

自分の主様であるこの女の子に―――――。

 

 

仕えることの喜びと、期待されているという事実に―――。

 

 

俺の本能が“この子を守れ”と告げているんだ――――。

 

 

 

参ったな。

そういわれちゃあ、やるしかないじゃないか。

 

 

「いいぜ…見せてやるよマスター。お前が手に入れたピースは間違いなく―――…最強の駒だ。」

 

 

強く…それでいて優しく語りかけるように告げ。

俺は自分の力をこれから見せる為に彼女の前に立った。

イリヤは、それを見て俺の後ろへと下がって指をパチンと鳴らした。

 

 

 

 

 

すると、地鳴りのような音と共に雪の積もった地面から巨大な人形がたくさん這い出てきた。

 

 

 

 

 

「アイツベルンが作った演習用の魔術ゴーレムよ。

 最大出力で設定しているから魔術師はもちろんのこと、並のサーヴァントでも簡単には倒せないと思うわ。」

 

 

ふぅん。

“並のサーヴァント”ならねぇ…

 

 

「甘く見ないほうがいいわよ?」

 

「甘くは見ねぇよ。我が主様が作ったんだ、その言葉に嘘なんてないんだろうよ。」

 

 

 

ただ…と俺は言葉を続ける。

 

 

 

「あんたのサーヴァントは“並の”なんていうレベルじゃねぇっていうことをお見せしよう。」

 

 

それだけ言って、俺はゴーレム共の前に立つ。

見てなイリヤ……あんたのサーヴァントが一番最強だということを分からせてやるよ。

 

 

 

「さぁ…派手にやるぜ!!」

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

この城の城主にして、今回の第五次 聖杯戦争に参加する魔術師の一人で。

聖杯を手に入れるために、アインツベルンが作り出した最強のマスター。

そして、この黒いバーサーカーが私のサーヴァントよ。

 

急に話が変わるけど、このサーヴァントは少し変わっている。

いつも飄々としてるし、こちらの問いかけに対して上手くかわして流すし、サーヴァントなのに食事をとる。

さらにどこか俗世的っていうか、偉業を成した英雄って感じが全然しない。

服もどちらかというと近代的だし……なんだか、サーヴァントっぽくない。

 

 

 

だから、最初はハズレのサーヴァントを引いたと思った。

 

 

 

召喚の時の失敗もせいもあるけど、なによりヘラクレスじゃない英雄を引いた。

真名も忘れてしまっている。『宝具』も使えるかわからない。

辛うじて覚えているのは自分がどんな英雄だったのか程度くらい。

こんな状態で聖杯戦争が勝ち抜けるとは到底、思えない。

私がなんとかすればいいだけかもしれないけど……自分らしくないほど、自信がなかった。

 

 

 

 

でも、その認識も改めなきゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

たくさんのゴーレムの亡骸の散らばる中。

 

 

 

一体のゴーレムの上に立つバーサーカーが私を見下ろして言う。

 

 

 

 

 

「どうだマスター?、これでも足りないか?」

 

 

不敵に笑みを向けてくる彼。

 

ああ……私は今、ようやく確信した。

 

 

「いいえ、上出来よ。貴方こそ―――…唯一、私に相応しいサーヴァントよ。」

 

 

私のその言葉にバーサーカーは嬉しそうに、それでいて当たり前だと言わんばかりに嗤った。

 

 

 

 

 

このサーヴァントこそ、聖杯戦争を勝ち抜くための最強のピースだ。

 

 

 

 

 




次回「バーサーカー、冬木へ立つ」


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第四夜 冬木へ

twitterを始めました。
投稿日や活動報告などを呟いていきたいので、よろしければお気軽にご覧ください。

@atenfate333です。


それでは、どうぞ。




イリヤに俺の力を見せて納得してもらってから早一週間。

ようやく俺たちは聖杯戦争の舞台でもある、日本の冬木へ行くために本腰をいれ始めた。

他の魔術師たちに負けないようにイリヤは、色々な準備や策を練り。

アインツベルン城の使用人たちは旅立つためにせっせと毎日、冬を越す準備をするアリのように働いている。

 

イリヤ様が旅立つぞー!と言わんばかりに冬木へ行くための用意をしているようだ。

城中をあちこち右往左往、止まる足など一つもない。

俺はそんな彼らの邪魔にならん程度に城の中を徘徊したり、筋トレしたりして時間を潰して日々を過ごしていた。

基本的に俺…つーか、サーヴァント自体。戦闘以外ではそんなに役に立つことなんてねぇしな。

 

 

 

……中には釣りしたり、料理や家事出来る奴もいるみたいだけど!

 

 

 

まぁ、俺が今できるのは黙って冬木へ行く時間を待つくらいだな。

 

 

 

働けって?冬木に行ったらな!

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

そして、日本の冬木に向かう前日。

俺は、イリヤと共にアインツベルンの本部である神殿へやって来た。

なんでも、一番偉い人が呼んでいるとか何とか…。

アインツベルンの一番偉い人っていえば、ただ一人――――――…

 

 

 

それが、俺達の目の前にいる…「アハト翁」だ。

 

 

 

 

 

ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン。

 

 

 

 

 

アインツベルンの八代目当主。通称「アハト翁」。

二半世紀近く生きる大魔術師にして、第二次 聖杯戦争から現在まで全ての聖杯戦争に関わっている爺さん。

確か、もともと自分達が持っていた“第三魔法”を取り戻す為に聖杯戦争を利用しているんだったな。

 

 

しかし、このアハト翁…信じらんないくらいの阿呆なんだ。

 

 

第三次 聖杯戦争でルール破ってエクストラクラスの「復讐者」(アヴェンジャー)召喚し。

それが思いの外、使えなくてあっさり敗北しちゃうんだが―――――――――…

そのせいで聖杯の『願いを叶える機能』がイカれて呪いのアイテムへ変身させてしまう阿呆。

今度こそは…と、第四次では「魔術師殺し」の異名を持つ衛宮切嗣―――――…

イリヤの親父さんを助っ人として雇い。最強のセイバーと“聖杯の器”であるアイリスフィールと共に聖杯戦争へ参加させる。

 

戦闘が苦手なアイツベルンには、最強の戦力だったが……。

聖杯が汚染されて、本来の機能が使えないと知った切嗣はアインツベルンを裏切り。

汚染された聖杯をセイバーに破壊させられてしまい、願い叶わず。

もう、これで最後や!と言わんばかりに究極のホムンクルスのイリヤを投入。

そして最強の英雄を「狂戦士」(バーサーカー)で召喚して三度目の挑戦って話だったな。

 

 

 

 

 

んで…なんで俺らがここに呼ばれたかというと――――――…

 

 

 

 

 

「今度こそ…我らアインツベルンの悲願を…」

 

 

お説教みたいな話を聞かされていた。

冬木に行く前日ってのに何なんだ一体よ…かれこれ30分以上、口開きっぱなしだぞ?

それにさっきから、この爺さん悲願、悲願、しか言ってねぇ…ボケてんのかな?長いこと生きてんだし。あり得そう。

つーか、周りに佇んでこっち見てくるホムンクルス達が少し怖いです……。

凄い美人な女の子しかいねぇんだけど、イリヤと違って常に無表情なので少し…ね。

 

話に飽きてきたんで、ちらりと我が主様の様子を見る。

イリヤは黙って俯きながら、アハト翁の話を聞いている…両手で自分の洋服を握り締めながら。

何かを耐えるように、まるで自分に何かを言い聞かせているかのように。

 

 

 

そこで、俺は思い出した。

 

 

 

イリヤに―――――――…マスターに切嗣を裏切っただなんて言った奴は誰だ?

 

 

マスターに…切嗣を今まで合わせなかったのは誰だ?

 

 

アイリスフィールを死んだことを…都合の良いように書き換えたのは誰だ?

 

 

この子から、自由を奪ったのは……誰だ?

 

 

 

 

こいつ(アハト翁)じゃないか。

 

 

 

 

すると、どんどん生前の時の記憶が蘇る。

 

アニメで映し出されたのイリヤの凄惨な過去の姿を思い出していく。

 

そう、あれは確か……ヘラクレスを召喚したが、起動しなかった時の話。

 

ヘラクレスがサーヴァントとして使えないと考えたアハト翁は―――――――――…

 

 

 

 

イリヤを極寒の雪山に置き去り、野生の狼達に襲わせたのを…俺は覚えている。

 

 

 

 

ギリリと、歯を噛みしめる。

思い出すたび、このジジィをぶん殴りたい情動に駆られる。

だが、俺の行動がイリヤの首を絞める事になるかもしれない…。

今は耐えろ、耐えてこの聖杯戦争を終わらせてからでも―――――――…

 

 

 

「お前の母、アイリスフィールは失敗だった。あの裏切り者同様、欠陥であった。」

 

 

 

―――――――――――――バンッ!!

 

 

気付けば、俺はどこからともなく自分の武器である銃を取り出して、引き金を引いていた。

あっちゃー…やっちまったかぁ~。我慢する気だったんだけどなぁ。

でも、しゃあねぇよな!このジジィがあまりに阿呆な事ぬかすんだからさ。反省も後悔もしてねぇよ。

 

突然、銃を打ち出した事に流石に驚いたのかアハト翁は目を見開いている。

周りのホムンクルス達は、俺の行動を反逆かと悟ったのか瞬時に斧やら槍やらで臨戦態勢を取っている。

イリヤも俺の方を見て驚愕している――――…そりゃそうか、自分の使い魔が奇行に走れば誰だってそうだろうな。

 

 

 

でも、俺は銃をアハト翁に向けてまま、引き金から指を離さない。

 

 

 

「…何の真似だ…このような愚行、許されるものではないぞ。」

 

「別に許さなくてもいいぜ?俺は、ただその“耳触りな声”を消そうとしただけだ。」

 

 

ニヒルに笑みを浮かべてアハト翁に言う。

そんな俺の態度が気に入らないのか、アハト翁は皺の入った厚顔がより一層濃くなる。

刃物のように刺さってくる鋭い眼光で睨んでくる。

 

 

「使い魔風情が…己が属する主に逆らうというのか…!!」

 

 

ギリリ…と怒りに滲んだしゃがれ声で言う。

あー、なんだろう…こいつ、何て言うか――――――…

呆れてモノが言えなくなって、そいつから視線を話して溜め息を吐く。

この爺さんが勘違いしまくってて、アホ臭くなってきた…話している事時間さえ無駄に感じてきた。

 

 

とりあえず、言いたい事だけ言って去りましょう。

 

 

それが一番、良い。

これ以上は、俺とイリヤの精神衛生上良くないし!!

 

 

「俺はアインツベルンがどうなろうかどうでもいい。

 悲願がなんだろうが、第三魔法がどうだろうか知ったことか。

 俺はただ、聖杯戦争に参加して勝つことしか考えていねぇ、お前らがどうなろうが関係ねぇ。

 そんなに願いが叶えたいなら、どうぞご自分でご勝手にしてくださいまし。」

 

 

それと…と、俺は言葉を紡ぎながら隣にいるイリヤへと視線を移す。

我が主様の眼は俺を映しており、どこか不思議そうに見ている。

…よし、今こそ俺が思っている本音をぶつける時だな。

ある意味、この言葉はイリヤと共に聖杯戦争を戦っていく俺の覚悟でもある。

 

 

ここにいる全員が、俺の方を集中して注意を向けている。

 

 

よーし、それなら耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ!

 

 

イリヤも聞いてな!!

 

 

 

「俺のマスターはイリヤスフィールだ。あんたじゃない。

 

 だから、俺はイリヤの言葉しか聞かないし、イリヤの命令じゃなきゃ動かない。

 

 例えお前がどれだけすげぇ大魔術師だろうと関係ない…マスターじゃないお前が、俺に指図するな!!」

 

 

 

分かったか!!と、最後に吐き捨てるように言ったあと、イリヤを連れてその場を後にした。

後ろでアハト翁が呆然としていたが、知ったことか!

あー、言いたいこと言ったらスッキリしたわぁ~…やっぱね、言いたい事は口で言わなきゃな!

それにしても…帰り際、周りのホムンクルス達は妨害など一度もしてこなかったな。

むしろ、どうぞお通りください。と言わんばかりに道を開けていたな。

 

 

 

アハト翁って、あんまり好かれてなさそうだしな…。

 

 

実はホムンクルス達からも嫌われてんじゃないかなぁ~…まぁ、乙wwwとしか言えんなwww

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

次の日、俺達アインツベルン陣営は用意した飛行機を使って日本へ旅立った。

高速ジェット機みたいな感じのウン億円くらいはフツーにしそうな豪華な設備をしていた。

内装も高級品ばかりで、室内は快適で広々として空の旅も快適に過ごす事が出来る機内だった。

ベットはふかふかの高級だし、機内で映画は見れるし、風呂には入れるし、飯時にはシェフがやって来て目の前で調理してくれるし。

エコノミークラスどころか、VIP御用達の別世界で生きているような奴らが乗るヤツだった…。

 

 

 

実はこれ、事前にチャーターしたんじゃなくてアインツベルンの所有物なんだぜ?

 

 

 

は?と思った奴、正直に手を上げなさい。

君はおかしくなんて無い。至って正常です。

俺もおんなじ事思ったよ……ジェット機が所有物って何なんだ!?

 

 

 

アインツベルンは化け物すぎる…一体、どこにそんな財力があるんだ…?

 

 

公式でも明らかにされなかったし…訳が分からないよ。

 

 

 

 

まぁ、そんな事をしている間にも、日本の冬木市に着きました!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

日本に着いてから、すぐさまここでの活動拠点へと移動した。

冬木市は、未だ冬だというものの、雪は降ってはおらず冷たい風だけが気候を支配していた。

まぁ、アインツベルンの本部があったところと比べれば、こちらは全然寒くないけどな。

イリヤも特に寒そうにしてないし、体調面では注意を払う所は無さそうだ。

とりあえず、拠点の方へ俺達は向かった。

 

拠点の方は相も変わらず巨大な城だったけどな…。

まぁ、あっちでも一週間くらい過ごしてたから城での暮らしは慣れたから問題は無い。

さて、これからどうしようかな…。

特にこれといって、冬木市に着いてからもやる事なんてなかったし。

聖杯戦争は、まだサーヴァント達が七体揃っていないから始まってないからなぁ…。

 

街でも散策すっかな。

地形を早く覚えておいた方が良いし…それに第五次 聖杯戦争の舞台を観光したいし!!

そうだよ、型月作品好きの俺が聖地巡礼(今は少し違うけど)をしないなんて損だろ!!

というわけで、さっそくイリヤの所へ行って外出許可を貰いに行った。

主様に断らずに突っ込むなんて事したくないしな。

 

 

「冬木の探索?」

 

「ああ、早めに覚えておくことに越した事はないだろ?、今の内に見ておいた方が良いと思ってな。」

 

 

イリヤは「んー…」と1分ほど考えてから、こちらを見て口を開いた。

 

 

「いいわよ。探索して来ても。」

 

 

いよっしッ!!主様からお許しをもらえたぜ!!

 

 

「だけど、まだ聖杯戦争が始まっていないのだから、あまり目立つような行動はしないようにね。

 下手に動けば他のマスターにも悟られるから…注意して。」

 

「分かっている。聖杯戦争は情報戦が基本だからな。その辺は常々肝に銘じているよ。」

 

 

まぁ、俺の真名がバレるなんてことは無いだろうけど…警戒と注意は厳密に行うとしよう。

今の時期なら――――――…“あいつ”が召喚されててもおかしくないからな。

どこかでばったり目撃されたら、そこで俺の計画に大きく支障が出る…それだけは避けなければ。

 

 

「それと――――――――…はいこれ。」

 

 

意志を固めていると、イリヤが金札を数枚ほど渡してきた。

 

 

「ん?なんだこれ?」

 

「お金よ。日本円だから安心して使えるわよ。」

 

 

 

しれっとと答える我が主様。いや、そうじゃなくてだな――――――……

 

 

 

「なんで俺にくれるんだ?」

 

「出かけるのでしょう。手持無沙汰なのは良くないわ。だから受け取りなさい。」

 

「いや、でも俺は――――――――…」

 

 

サーヴァントだぞ?と言おうとしたところで、イリヤの顔が少しだけ不機嫌になり、口を閉じた。

なんで怒るんだよぉ…俺、変な事言ったかなぁ…?

 

 

「これから私の為に働いてもらうのですもの。

 ご褒美の一つや二つ与えていてもおかしくないわ。いいから、お小遣いとして受け取りなさい。」

 

 

…と、言われて半ば強引に金札を押し付けれた。

むぅ…まさか、サーヴァントになってマスターから小遣いをもらうとは…。

しかも、相手は見た目は幼女……対して、俺は見た目20代のいい大人。

これはあきまへんなぁ…いろんな意味でヤバいよなぁ。

 

 

「それに……この間…あんな事言ってもらって……お礼したいし…」

 

 

 

なんか、一人でゴニョゴニョ言っているけど…。

 

 

 

「なんか言ったか?」

 

「な、なんでもないわよ!!とにかく受け取りなさい!命令よ!!」

 

 

遂には金を受け取れという命令を出されてしまった。

そうなってしまうと、俺も受け取らざるを得ないな…とほほ。

まぁ、これもイリヤの優しさとしてありがたく受け取っておこう。

 

 

「サンキュ、マスター。何かお土産買ってくるよ!」

 

 

我が主様の優しさを噛みしめながら、アインツベルン城(日本)を後にした。

去り際、「あっ、ちょっと…!!」という声が後ろから聞こえたけど…まぁいいか。

 

 

 

さぁ、金札片手に冬木市へGO!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

ってなわけでやってきました冬木市に!

今回、私、バーサーカーが探索するのはここ、日本の冬木にある「新都」です!

見てくださいこの景色!あちらこちらとビルが色々立ってます!!

行き交う人たち、上空を自由に飛び交う鳩達――――…

 

…うん。テンションが上がり過ぎて変なキャラになってるな。

「Fate/stay night」の舞台である冬木へ来たんだからこうなるのも無理ねぇけど我ながらに酷いレポートだ…。

景色をリポートするのに何でビルをチョイスしたんだよ…もっと違うのがあっただろうに。

しかも極めつけは、何故か鳩が空飛んでる情報とか誰得だよって感じだけど…。

 

 

まぁ、そんな感じで新都までやって来たぜ。

 

 

街並は、俺の生前の記憶にあるアニメや漫画で見たものと全く同じだった。

比較的に都会で近代的な建物が並ぶのが、ここ新都で人が一番集まりやすいところだ。

新都で最も高いビルのセンタービルや、近辺にある大きなホテルや病院、言峰教会など様々な施設がある。

奥に行けば、第四次 聖杯戦争の聖杯召喚地となった中央公園もある。

確か、聖杯召喚の際に辺り一面火の海になったハズだが、修復されて今は自然公園になっているハズだ。

 

さらに行けば物語の主人公達が住む「深山町」があり、俺が来た道を戻っていけば城のある「中央」へ行ける。

深山町の方も行ってはみたい気もするが、あまり遠くへ行って他のマスターに勘付かれても面白くない。

とりあえず、今日はこの新都で色々見て回るとするか。

 

 

「…っていっても、これといって出店している店などに興味はないんだけどな。」

 

 

あくまでも俺の目的は、3割の地形把握と7割の観光で構成されている為に買い物などには、特に興味はない。

新都の方ではここへ来るまでも十分、たくさんのものを観光する事が出来た。

同時に街の地形も観光と同時進行形であらかた覚えてしまった。

というわけで、ここへきて自分の目的がまた消えてしまった。

 

 

「うぅん…これからどうしたもんかなぁ…」

 

 

 

――――プアアアアアンッ!!

 

 

 

そんな事を考えていると、後方の方から大きな音が聞こえた。

ビクッて振り返ってみるとそこには――――…

 

 

 

 

道路に飛び出している、子どもと――――…

 

 

 

それに向かって走ってくるトラックがいた。

 

 

 

 

目の前の光景に、その場にいた誰もが凍り付く。

誰一人として動けなかったし、誰もが最悪の事態を想定していただろう。

その中でただ一人だけ、俺はその光景も見た瞬間。

 

 

 

 

 

自分がいた場所から瞬時に姿を消した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

目の前の光景に俺、衛宮士郎は絶望的な気分になった。

今夜は桜と藤ねぇが来て、夜食を一緒に食う約束をしていたから、それの食材を買おうとスーパーへ行った。

良いものがたくさん買えたから、今夜の食卓ではご馳走が並ぶ様に上機嫌になる虎の姿が連想しながら帰路についていた時。

目の前に子どもが走ってきて、そのまま車道に飛び出してしまうのを目撃する。

すると、遠くから一台のトラックが子どもに目がけて走ってきた。

 

周りからは女の人の叫ぶ声が聞こえたが、誰一人として動ける人はいなかった。

飛び出した子どもはトラックの方を見て呆然としていて、対してトラックはクラクションを鳴らしながらブレーキを踏んでいるようだが…。

勢いは止まらずにそのまま子どもを目がけて一直線。

俺は助けなければと思ったが、俺の今いる場所からだとどう考えても間に合わない。

脳裏には最悪の光景が思い浮かぶ…なすすべがない、誰もがそう思った瞬間――――…

 

 

 

 

 

トラックの前から子どもの姿が消えた。

 

 

 

 

 

トラックが子どもがいた場所を通過すると、反対の歩道に黒いパーカーを着た男とさっきの子どもがいた。

あれ…!?さっきまで車道にいたはずなのに…。

それに、あの男が車道へ飛び出した姿も見ていない…一体どうやって――――?

そんなことを考えていると、男から子どもが離れていき男のほうも反対側に背を向けていた。

 

 

「あ、ちょっと待ってくれ!!」

 

 

 

その光景を見た途端、追いかけなければと思い俺は男に向かって叫びながら後を追った。

 

 

 

 

 

何故かはわからない。

 

 

 

 

 

ただ、不意にあの男とじいさんの姿が重なって見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

全速力で車道に乗り出して、トラックの前から子どもを掻っ攫って反対の歩道へ着地した俺は小さく息をついた。

あっぶねぇ~…偶然ここを通れて良かったわ。もし、俺がここにいなかったらあのままこの子どもはdead endを迎えていたに違いない。

もともとの体力とか身体機能が化け物レベルまであったのもあるが、サーヴァントになった事でさらに拍車がかかったみたいだな。

マジでよかった。と安堵しつつ、俺はしゃがんで子どもと同じ目線で目くじらを立てて言う。

 

 

「少年。道路の近くで遊んじゃだめだ。今度からは気をつけな。」

 

「うん、ありがとうお兄さん!!」

 

 

それだけ言うと、子どもは自分が来た道を走って戻っていった。

俺は一息ついて、「走ったらあぶねぇぞ~!」と一声だけかけ、反対側に背を向ける。

 

 

「さて、なんか買って帰るかな――――」

 

 

「ちょっと待ってくれ!!」

 

 

 

帰ろうと踵を返すと、遠くから声が聞こえてもう一度振り向く。

そこには、赤銅色の髪をした穂村原学園の制服を着た青年が肩で息をしながら俺の前へやって来た。

俺は、その青年のことを知っている。彼の名前は衛宮士郎……「Fate」における主要人物であり、主に物語では彼の主観で行われる。

というか、主人公である。あ、これ、前にも言ったような気がするな……。

 

 

突然の衛宮士郎のエンカウントに俺は驚きを隠せない。

 

 

いやまぁ、いつかは必ず会うとは思ってたよ?

でも、まさかこのタイミングで会うとは思わなかったよ!

 

 

「はぁ、はぁ、なぁ……あんた――――」

 

 

息を整えた士郎が口を開く。

いかんいかん、考えに耽っている時ではない。他人のふりをしなくては…。

士郎もいずれは、聖杯戦争に参加するんだから色々と注意しなくては――――…俺はサーヴァントでもあるから、その辺も含めて注意しないとな。

下手な芝居打って、イリヤに迷惑かけたくないし!

 

 

「あんた、さっきトラックに轢かれる寸前の子どもを助けたよな。あれは一体どうやったんだ…!?」

 

 

まずーい!

サーヴァントの能力を行使する姿を見られてたぁ!!

しかも物語の主要人物ってか主人公に見られているとは!!致命的なミスだぁ!!

計画に大きな支障が出たことに、俺は冷や汗を流さずにいられない。

どうする…このまま逃げるってのもありだが、それだと後から面倒なことに…。

 

 

「……」

 

 

士郎の疑惑の視線が俺を貫く。

おいおい、そんな見つめるなよ……俺は男に見つめられる趣味はないんだ…意外と冷静だな俺。

…おふざけはここまでにして、どうしたもんかねこの状況……。

 

 

「なあ、話してくれないか――――」

 

 

ぎゅるるる~…。

 

 

士郎が口を開いた途端に俺の腹から音が鳴る。

…そういえば、日本に来てからも何も口にしていなかったなぁ。

時刻を見ると現在、午後3:00を回っていた。もうこんな時間かぁ。

俺の空腹を知らせるタイマー音にはさすがの士郎も張りつめていた緊張も緩んだようで、表情が少し和らいでいる…。

 

 

なんだろうか…なんか、生暖かい目だなぁ…。

 

 

生きている証拠なんでしょうがないでしょうに。

誰だって腹が減ったら腹が鳴るだろ……!!俺だけじゃないだろ!

あ…そういえば、俺、幽霊みたいなもんだから生きているって言えるんかな?

 

 

「腹が減っているなら、俺のおすすめのたい焼き屋さんを紹介しようか?」

 

 

またまた考えに耽っていると士郎が提案を持ち掛けてきた……今日、いろいろと耽りすぎだなぁ。

それよりも士郎の言っている、たい焼きやとは原作にも出てきたあれだろう。

確か、セイバーがうまそうに食っていたのを思い出した。まぁ、あいつは食い物ならなんでもうまそうに食うんだけどさ。

 

 

「いいのか?」

 

「ああ、困ってそうだったからな。俺に何かできるなら力になりたい。」

 

 

初対面に対してこの対応。

外国人が聞いたら感動して泣くぞ。今の日本人の若者も捨てたもんじゃない。

日本の未来の明るさに心の中で浸りながらも、俺は了承して士郎とともにたい焼きやを目指した。

 

 

 

 

 

 

「あ、でもさっきの事も聞くけどな?」

 

 

 

 

 

 

この子、意外としつこいよぉ…。




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第五夜 計画実行

投稿がだいぶ遅れてしまってすみません。
いろいろな都合が舞い込んでしまって大幅に遅れてしまいました。
なにぶん、不定期投稿なものですがどうかお付き合いいただけると助かります。


それではどうぞ!


トラックでの一件で、物語の主人公である衛宮士郎に出会った俺ことバーサーカー。

子どもを救った時に、不幸にも士郎にサーヴァントとしての人間離れした力を目撃されてしまった。

目の前の摩訶不思議な光景を目の当たりにした士郎は当然、俺に何があったのかと問いただしてきたが…。

ちょうど空腹を覚えていた俺の腹が音を鳴らしてエネルギー摂取を要求してきた。間が悪いにも程がある…助かったけどっ!

それに対して士郎は緊張が解れたのか、腹ごしらえの出来る場所を提供してくれると言い、俺たち二人はそこを目指した。

 

 

 

 

 

 

そして今、たい焼き屋の目の前で何にしようかと選んでいるわけだが…。

 

 

 

 

 

「うーん、これいいなぁ。でも、イリヤがこれ好きとは限らんしなぁ…。」

 

「なぁ、そろそろ決まったか?メニュー見てから結構時間経っているぞ?」

 

 

着いてから数十分。たくさんのたい焼きの写真が並ぶ目の前で唸っていた。

そんな俺に横で、少しだけうんざりしたように士郎が問いかけてくる。

だって仕方がないじゃない!このたい焼き屋、レパートリーが多いんだもの!

 

小豆餡、白餡だけでなく、チョコレートやストロベリー、抹茶やカスタード。

中にはチーズとベーコンと…――――リゾット?なんかやたらと変なのがたくさんあるけど…美味いのかそれ…?

うーん、悩むなぁ…こうもたくさんのたい焼きが並んでいると、その中で厳選されたものを買わなきゃならんという悔しさ!

 

 

「くそ…俺に店ごと買える財力があれば…!!」

 

「店ごと買っても、たいやき作れなきゃ意味ないだろ……」

 

 

 

ぐぬぬ…拳を握り締めて悔しがりながら言う。それに対して、はぁ…とため息を吐きながら呆れる士郎。

 

 

 

「うーん、選べそうにないな…若いの、君のおすすめはあるかいな?」

 

「若いのって……あんたも俺とそう歳が変わんないと思うけど…」

 

「そないなことどうでもええねん。早くおすすめ教えてくれハーリーハーリー。」

 

「なんで急に中途半端な関西弁になったんだよ…」

 

 

ぶつぶつと喋る彼を俺は急かすように促す。

やれやれ、と手を広げながらメニュー欄を眺める彼に少しだけ“アイツ”の姿と被ってしまったが。

頭を横に振って意識を戻す……いかんいかん、これから本格的に聖杯戦争が始まるっつーのに。

 

 

英雄時代で鋼の精神力を培ってきたと思ってきたんだが…。

 

 

まだまだ未熟だな…ジェラルに今の姿を見られたら笑われるだろうな。

気を引き締めていこう。

 

 

「そうだなぁ…たくさんあるけど、俺はやっぱり小豆餡のほうが良いかな。

 定番かもしれないけど、餡の甘さが程よくて飽きない美味さがあるからさ。」

 

「へぇ…じゃあ、それにするわ。おやじさん、小豆餡5つ頼む!」

 

 

 

たい焼き屋の主人に頼むと、すぐに「あいよ!」という気前の良い声を発すると奥に引っ込んでいった。

 

 

 

「いいのか?俺の勝手な主観だぞ?」

 

「いいんだよいいんだよ。お前が決めたやつが美味そうに聞こえたからな。」

 

 

そんなやり取りをしているうちに、奥のほうから店の主人が戻ってきた。

たい焼きが入っているだろう紙袋を手に持っていた。どうやら、焼きあがったらしい。

俺は、イリヤから貰った金を主人に手渡して、釣銭と共に紙袋を受け取った。

うぅーん、たい焼きの温度が温かいな。それと香ばしい匂いが鼻孔を刺激して、より一層食べたい気持ちを促進させてくるなぁ。

 

 

「そんなに買って、全部食べるつもりなのか?」

 

「まさか。んなわけあるか、これは世話になっている奴への土産なんだよ。」

 

 

 

ま、一つくらいは俺が食うけどな。

 

 

 

「そういえば、あっちに公園があったな…そこで食うかな。」

 

 

原作でも、よく士郎が行っていた遊具のある公園があったのを思い出した。

聖地巡りの一環と魔力補給の為にそこで食うことにしよう!

そこまで思いついたら、目的地へ向けて足を進ませていた。

 

 

「あっ、ちょ――――…どこへいくんだよ。」

 

「たい焼き食いに。お前もこいよ!」

 

 

なんか話したいこともあるみたいだし。

士郎と話してみるのも悪い気もしないし、というかしてみたかったし!

計画の範疇にはなかったけど、まぁ大丈夫だろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず。俺は、士郎と共に公園を目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

俺の名前は衛宮士郎。

冬木市の穂村原学園に通う、ごく普通の高校二年生だ。

今日は学校の授業が終わってから、夜の食材を買いに行っていたんだが…。

その帰り道で、道路に飛び出た子どもとトラックの衝突事故が起きる寸前の光景を目の当たりにする。

俺は、その子どもを助けようと駆け出すが、どう見ても間に合わない。

 

 

 

このまま、何も出来ずに目の前で子どもがトラックに跳ね飛ばされる姿を思い浮かべることしかできなかった。

 

 

 

その時、俺はもう一つの衝撃と出会う。

 

 

 

今にもトラックに轢かれそうになっていた子どもが、その場から姿を消した。

忽然と、痕跡も残さずに煙のように消え失せた。

俺は、驚きのあまり呆然と立ち尽くした…それは、周りの人間も同じようだった。

トラックが視界を通り過ぎると、そこにいたのは――――――――…

 

 

 

 

 

 

消えた子どもを地面に降ろしている、この黒いパーカーの男だった。

 

 

 

 

 

 

瞬時に、この男が子どもを救ったのだと理解した。

同時にどうやったのかと疑問も生まれた。誰もが動けなかった間に合わなかった状況で何故あいつだけが…?

そして、誰もが彼の動きを黙視することができなかったことも…それら全て含めておかしい。

だから、俺はあいつのこと知りたいと思った。

 

 

 

突然だが、俺は正義の味方を志している。

 

 

 

じいさん……10年前に起きた冬木の大火災で孤児となった俺を養子にしてくれた男がいてな。

名前は「衛宮切嗣」。ボサボサな髪に不健康そうにやつれた顔、曇った瞳をした…おおよそ常人とは思えない外見をしてた男だった。

だけど、純粋で優しくて―――…きれいな心を持っていた人だった。

いっつも家にいなくて留守にしがちだったけど、俺は誰よりも親父の事を慕っていた。

 

 

 

俺は親父のようになりたかった。

 

だから、魔術も無理言って何度も頼み込んで少しだけ教えてもらった。

 

 

 

けど、その五年後に親父は病気で死んじまった。

 

 

 

もともと、不健康そうだったけど…死ぬような人には思えなかった。

でも、日に日に衰弱していっているようには感じてはいた。

親父が死ぬ寸前の間際、俺たち二人は家の縁側で夜の闇を明るく照らす綺麗な月の下で最後の話をした。

 

 

 

 

その時、俺は親父から「正義の味方になりたかったんだ」と告げられた。

 

 

 

 

初めて、親父が告げたなりたかったもの…願い。

 

その時の親父の眼はいつものように曇ってはおらず、まるで少年のような…それでいて遠い、遠い、澄んだ眼をしていたように思った。

 

今まで、見たこともなかった姿…その親父の姿が、願いが…俺は、なによりも綺麗だと思った。

 

 

 

だから―――…じいさんの代わりに正義の味方になると言った。

 

 

 

気付けば、子どもの頃の俺はそんな事を言っていた。

…なんでそんなことを言ったのかは分からない。でも、俺が代わりに叶えなきゃと思ったんだ。

あんな風に願っていた、じいさんの夢を終わらせたくなかったのかもしれないな。

俺がそういうと、じいさんは驚いたような表情をした後…。

 

 

 

 

 

“ああ……安心した。”

 

 

 

 

 

それが親父の……衛宮切嗣の最後の言葉だった。

 

それだけ言うと、親父は力尽きたように、それでいて安らかに死んでいった。

 

眠るように。もう一度だけ、淡い夢を見るように…。

 

 

 

 

この黒い男と出会った時…俺は、不意にじいさんの姿を思い浮かべた。

 

顔も性格も、なに一つ似てはいない。全くの別人。

 

でも、トラックから子どもを救った、あの背中が……ひどく、親父の姿を思わせた。

 

 

 

 

だから、知りたいと思った。

どうやって子どもを助けたのかも含めて――…この男のことを。

 

 

 

 

「――――…い。おーい。聞いてんのかぁ?少年。」

 

「っ!?あ、ああ、悪い…少しぼーっとしてた。」

 

 

視界に男の顔が入ってきて驚いた。

少しだけ怪訝そうに、そして何かを見透かしているように俺の顔を覗き込んでいた。

…なんだろうこの、考えている事を分かっているかのような表情は。

全部、理解した上でそれ以上の追及はしないといった感じ…何か釈然としないな。

男は公園のベンチに座って、さっき買ってきた紙袋から一つ取り出し―――…

 

 

「ほれ。お前も食え。」

 

「わわっ!?」

 

 

ポイッとこっちへ投げてきた。

うわ危なっ!?食べ物を投げたりすんなよ…。

 

 

「いいのか?俺が貰ってさ。お土産で勝ったんだろ?」

 

「ああ、渡す人数分買ったから気にするな。それはお前にやるつもりで買ったんだ。」

 

 

いいから気にしないで貰っとけ。と男は自分の分も紙袋から取り出し始めた。

そうか、じゃあ有り難く貰っておくかな。

 

 

「じゃあ、貰っとくよ。ありがとう。」

 

 

おう。と軽い返事が返ってくる。

俺はそれを耳に入れつつ、たい焼きを頭から一口頬張る。

…うん、いつもと変わらない予想通りの美味しさだ。

 

 

「うめー!これ、すげぇ美味いな。」

 

「だろ。結構、おすすめだぞ。あそこのたい焼き屋。俺もちょくちょく行ってるからな。」

 

 

ほぉふ。と食いながら返事を返してくる。

食べながら話すなよ…口にあんこ付いてるし。

 

 

「っんく。へぇ、若いのはグルメだねぇ。」

 

「そんなんじゃないけどな。というか、お前も若いだろ…って、これさっき言ったな。」

 

 

 

ほおはっへ?と、また口にたい焼きを詰め込んで返答してきた。

 

 

 

「それで…早速、本題に入るけどさっきのやつどうやったんだ?

 誰にも気付かれないで、それもトラックに轢かれる寸前の子どもを―――」

 

 

俺が質問すると、たい焼きを口に運んでいた手を止めて黙り込んだ。

…やはり重大な秘密でもあるのか?あの人間離れした動きには何かが――――…

 

 

「お…お…」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

「俺に質問するなぁッ!!」

 

 

 

 

 

……。

 

いや……なんて言うか。

 

 

 

「なんでさ…」

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

キターッ!!伝家の宝刀の「なんでさ」!!

いやぁ、やっぱ士郎はコレだよね!Fate の世界へ来たって実感やっとしたわ。

英雄時代じゃ、“あいつ”言ってくれなかったからなぁ。ずっと期待してたのに…。

問いかけの返事を咄嗟に仮面ライダーにしたのは悪かったと思ってる。反省はしてないけどなッ!!

…すいません。言いたかっただけですハイ。

 

 

まぁ、話を戻して。

 

 

俺の予期せぬ返答に士郎は怪訝そう……いや、腫れモノでも見るかのような目をしていた。

やめろ…そんな目で俺を見るなぁ…!!まぁ、俺のせいなんですけどね。

さて、どうする?本当の事なんざ当たり前に言えないし。

 

 

「あー、アレだ。火事場の馬鹿力っつー?体が勝手に動いたんだよ。」

 

「勝手に動いたって…」

 

 

 

納得のいかないと言った顔の士郎。

 

 

 

「ホントだって。咄嗟に動いただけだから詳しくとか言えないんだよ。」

 

「……うーん。」

 

 

納得しろよこいつ…。

原作の士郎って疑い深い性格だったっけ?

 

 

「まぁ…いいか。」

 

 

あれ?

納得してくれた…?、いや。というより諦めたと言うべきか。

顔を見たらわかる。あれは諦めたな…助かったけどさ!

まぁ、いいか。これ以上触れないでおこう…自分で墓穴掘る前にやめておきましょう。

 

 

「…てか、なんでそんな事を聞くんだよ?お前に何か関係でもあるのか?」

 

「…関係って言うか。なんていうか――――…」

 

 

 

おや…士郎の顔が曇ったぞ。なんかマズイ事でも言ったかな。

 

 

 

「どーした?、なんか触れちゃいけない事だったか?」

 

「いや、そうじゃないんだ…ただ…」

 

 

 

ただ?

 

 

 

「あんたの姿を見て、なんか、その――――…俺のなりたいものに近い気がしたんだよ。」

 

 

…士郎のなりたいもの?

それって、あれだよな……“正義の味方”だよな。

養父である衛宮切嗣の夢であり、息を引き取る寸前に切嗣から継いだ夢で――――――…。

 

 

「それと…なんだか、あんたを見てたら懐かしい人思い出しちゃってさ。

 その人も、黒いコートとか着ててさ…なんか被っちゃって。」

 

「……」

 

「いや……悪い、そんなこといっても困るよな…忘れてくれ!」

 

 

ああ、困るよ。

まさか、お前の養父に似ているなんて言われてもな。

しかも共通点が黒色って事しかねぇし!!

つか、士郎がそう言うって事は…“あいつ”も同じ事思ってたんかな?

…さすがにそれは無いか、何かわかんねーけどそう思う。

 

 

「お前、名前は?」

 

「えっ?…衛宮士郎だ。」

 

 

最初から知ってたけど、「ああ、士郎ね。」と、あたかも初めて知ったかのように振舞う。

俺の特別あたりさわりのない返事に士郎も特に気した様子はない。

 

 

「士郎。お前が一体、俺を誰の姿と重ねてんのかわかんねーし、余計な御世話だと思うがこれだけは言わせてもらう。」

 

 

きっと…俺と士郎は、まだ話すべきではなかった。

聖杯戦争が始まってない、運命の夜をまだ迎えていない士郎に―――…

 

 

話す事など何一つ無い。

 

 

ただ、一つだけ言えるとすれば――――…

 

 

 

 

 

 

「過去に浸るのは夢の中だけにしな。他人に誰かの姿を重ねても何の意味もない…いなくなった人間が返ってくるわけでもねぇ。」

 

 

 

 

 

そう言い放つと、士郎は目を見開いて驚いていた。

表情から察するに…「どうして、知っている」と言いたいのだろうな。

 

 

「大事なのは今の自分。自分だけを大事にしていきな。」

 

 

きっと、今俺が告げた言葉は士郎には理解できないだろう。

多くの命の犠牲の上で生き残った彼が、いつしか自分を捨ててまで他人を助けようとしてるんだから。

俺の言葉一つで止まったりはしない。自分の願いを曲げることはないだろう。

衛宮士郎とはそう言う男だという事はとっくの昔から知っていた…それでも、俺はどうしても言わなきゃと思ったんだ。

 

 

「そんなこと…できるかよ。そんな自己中心的な考え方なんて。」

 

「ま。“お前”ならそうだろうよ。お前の人生は、まだまだこれからなんだから悩んで悩みぬいて生きな。若いの。」

 

 

 

 

願わくば、お前は“あいつ”のようにならないでくれ。

 

 

 

 

 

「さぁて…俺、今日はもう帰るわ。またな士郎。」

 

 

 

それだけ言って、俺はベンチから立ち上がって士郎から背を向けて歩く。

 

聖杯戦争が始まれば、嫌でも一度は士郎と戦う事になる。

 

そのときは、本気で戦おう。

 

 

 

 

彼が、本当の意味で答えを得るために。

 

 

 

 

結局、俺が立ち去るまで、士郎は最後まで言葉を発する事は無かった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

物語の主人公である衛宮士郎との遭逢から、はや数日が経ち。

日付は2月2日。物語で言うなら士郎が運命の夜を迎える日となっている。

夕刻はとっくに越している為に辺りは既に暗く、空には満月がうっすらと周りを照らしている。

 

 

 

そんな中、俺ことバーサーカーは何をしているかというと―――――…

 

 

 

「おっ、予定通りだ。遠坂凛が学校の屋上へいるな!」

 

 

 

密かに穂村原学園に設置した監視カメラで学園内を偵察していたのさ!

 

 

 

原作知識を持っている俺としては、これから先どんな出来事が起こるか、ある程度知っている。

2月2日の今日は、士郎が学校で弓道部の道場を清掃をワカメ……もとい、間桐慎二に押しつけられて夜まで学校へ残り。

後片付けをしていた時、サーヴァントの戦いを目撃して物語はさらに加速する。

…と、まで完璧に覚えている俺が、何もせずに黙って戦うまで待つなんて事はしない。

逐一、主要人物の動きを把握するために、まず学園にカメラを仕掛けた。

 

設置場所は分からないように絶妙な位置で、なおかつ広く見渡せるような場所を選んでいる。

サーヴァントにも気付かれないように、探知妨害の魔術を施しているので問題はない。

今見ているモニターには、設置した全てのカメラの映像が映し出されている。

その中でも、屋上部に設置したカメラからは物語のヒロインの一人である「遠坂凛」が移っている。

 

 

「ふむふむ。やっぱりここへ来たか…まぁ、分かってたけどドキドキするもんだな。」

 

 

原作知識を持っているといっても、俺というイレギュラーのせいで物語の進行にどんな影響をもたらすかは分からない。

ほんの些細の出来事でも、本来の歴史と異なる行動のせいで大きく歪むことがある。

処遇、『バタフライ・エフェクト』ってヤツだ。例え小さな蝶の羽ばたきでも嵐が起こる原因となりうるのさ。

そんな事もあってか、今いるこの世界が本当に原作知識通りに動くか心配になってな…それがカメラ設置の理由さ。

 

 

 

あらかじめ言っておくが、これは盗撮ではない。あくまでも“偵察”である。

 

 

 

冬木の聖杯戦争では、神秘の秘匿として夜か人目の付かないところで戦闘を行うことを義務付けられているが…。

全員が絶対に従うとは思えない。中には好き勝手にやって乱す奴は必ず一人は存在するはずだ。

例えばワカメとか―――――…考えられるならワカメとか……まぁ、ワカメとかな。

そういう事もあってか、どんなイレギュラーにも迅速に対応できるように学園内にカメラを仕掛けた。

少なくとも俺が知りうる限り、穂村原学園には聖杯戦争参加者が二人に関係者が一人……後に参加者が一人増えるけど。

 

そんな状況下で学園で何も起きないなんて事は無いだろう……少しだけ罪悪感みたいなのは感じるけど。

プライバシーの侵害になるような場所には設置していないし。必要最小限のカメラだけしか用意していないぞ!

…まぁ、監視カメラを設置している時点でプライバシーもへったくれもないんだけどな。

 

 

「さてさて、予定ならもうすぐでランサーが来るんだが…どうなるかな…」

 

「どう?学園内の様子は。」

 

 

 

まじまじとモニターを眺めていると、イリヤが部屋の中へ入ってきた。

 

 

 

「今、遠坂凛が屋上へやってきたところだ。ここへ来たってことは学園に魔術の痕跡があることを察知したな。」

 

 

確か、ライダーのマスターである間桐慎二が仕掛けた結界のマーキングだったハズだ。

それをいち早く気付くとは、流石に冬木の管理者を名乗るだけある。

今回の聖杯戦争では少なくとも、アインツベルンの次に有力者として数えられるほどの実力者だろう。

下手な行動をとっているといつ足元をすくわれるか分からない。十分に注意すべき対象だろう。

 

 

 

…といったものの、それは遠坂家の呪いである“うっかり”さえなければの話だがな。

 

 

 

「まぁ、リンならこれくらいすぐに気付くでしょうね。古臭くなっても一応、それなりに名のある家柄だもの。」

 

「我が主様にしては割と正直な賞賛だな。遠坂は脅威だと思うか?」

 

 

 

俺の問いかけにイリヤは鼻で笑うように答える。

 

 

 

「まさか。誰が出てこようと勝つのは私たちよ。どんなサーヴァントが相手だろうが私の最強のバーサーカーが負けるわけないでしょ。」

 

 

お、おおう…。

こうも真っ直ぐに面と向かって言われると何だか照れるな…。

うちのマスターは時折、こんな風に不意打ちしてくるから卑怯だ…。

背中に少々のむず痒さを覚えていると、イリヤは急に表情を変えてため息交じりに口を開く。

 

 

「…でも、偵察というにはかなり犯罪めいた手法を取っているけどね…自分の使い魔の趣味の悪さは少しだけ否めないわ。」

 

 

 

 

 

あんさんもそう言いつつ、隣でモニタリングしとるやんけ!!

 

 

 

 

 

と、ツッコみたくなるものの、話がめんどくさくなりそうだから自重した。

くそう…見てろよ。そのうちとんでもないこと仕出かしてやる。

具体的にどういうことをするのかと聞かれたら、それはそれで困るんだが。

 

 

そんなことを考えていたら、映像に動きが見られた。

 

 

突如、遠坂の後方にどこからともなく青い衣装に身を包んだ男が現れた。

手には血のように赤い槍を携えて、不敵な笑みを見せながら遠坂の方を見ている。

間違いない…聖杯戦争のサーヴァントの一体。槍兵のクラスのランサーだ。

原作通り、屋上に現れたようだな…ここまでは予定通りだ。

 

 

 

しかし、実際にランサーを映像越しに見てみると威圧感がすさまじい。

 

 

 

ランサーの真名は既に知っている。

『クー・フーリン』、ケルト神話における半神半人の英雄。

アイルランドの光の御身、「クランの猛犬」と謳われた赤枝の騎士にして……。

彼の師匠から譲渡された魔槍『刺し穿つ死棘の槍』(ゲイボルグ)はあまりにも有名だ。

 

因果逆転、呪いの朱槍――――――…言い方はたくさんある。

その中でも言われているのが、必殺必中の魔槍という名前。

放たれたら最後、必ず相手の心臓に命中し。例えランサーが死んでも槍が勝手に動いて飛んでくるとか…なにそれこわい。

しかも、槍には回復不可の呪いも付いてて、仮に通常の攻撃でも当たったら相手にかなりの痛手となる。

 

クー・フーリン自体もかなりの強力な英霊で、あの神速の槍捌きは誰にも真似できないだろう。

『刺し穿つ死棘の槍』を自在に操れるに見合った実力を兼ね備えている。

彼の動きを完全にコピーしたいのなら、写○眼でも持ってきなさいって感じだな。

 

 

 

 

 

 

…とまぁ、ここまで聞いたらFateを知らない人でもランサーさんマジすげぇ!!と思うだろうが。

 

 

 

 

 

 

必中の槍と呼ばれている割には、劇中であの手この手と回避されているのだ。

そう言う事もあってか、「全く命中しない必中(笑)の槍」とも言われ不名誉な称号を持つ。

必殺でしかも必中なので、物語の都合上致し方ないのだが……。

この事もあってか、ランサーはマスターでもある外道麻婆神父からも「何故こうも、お前の槍は当たらんのだ(笑)」とバカにされていた。

サーヴァントとしても宝具としても、かなり強い部類なんだけどなぁ…。

 

 

「あ、リンが屋上から飛び降りたわよ?」

 

 

原作知識と生前の記憶から理不尽なランサーに同情してると、モニターしていたイリヤが声を上げる。

視線を向けてみると、遠坂がランサーを学園の屋上に残して鉄柵から飛び降りていた。

遠坂が空中に身を投げ出した途端…彼女の間横からどこからともなく赤い男が姿を現した。

 

 

 

赤い外套―――――――…

 

褐色の肌――――――…

 

逆立った白髪――――――…

 

鷹の様な鋭い瞳―――――――…

 

 

 

どくりと心臓が動く。冷や汗が一つ、頬から滴り落ちる。

この世界にサーヴァントとして召喚しているということは最初から知っていたが、実際に目の前にすると…こう、何か複雑だよなあ。

 

 

 

もう既に理解していたと思うが…俺が前から言っていた“アイツ”とは、この男の事である。

 

 

 

弓兵のサーヴァント、『アーチャー』。

赤き守護者…煉鉄の英雄…それが奴が人々に謳われた名前。

英雄時代に俺とヤツは何度も戦い、そして最後には殺し合った。

あの時―――…最期の光景が脳裏に浮かび上がる…。

 

 

 

俺が断った点―――――――――…

 

ヤツの体から溢れ出る血―――――…

 

全身から走る激痛―――――――…

 

 

 

 

そして――――――――――…

 

 

 

 

 

 

 

俺の心臓に突き刺さる夫婦剣の片割れと溢れ出る血。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カー!バーサーカー!聞いてるの!?」

 

「っ!?イリヤ?どうした?」

 

 

突然、名を呼ばれてハッと意識が戻ってくる。

声が飛んできた隣に視線を向けると、イリヤが怪訝そうな視線を俺に向けていた。

 

 

「どうしたの?リンのサーヴァントを見た途端に一言も話さなくなったし…何か険しい顔してたし。」

 

 

ああ、どうやら呆けていたようだ…。

アーチャーを見たら何だか走馬灯のように英雄時代の事を思い出しちまったぜ。

あいつとは英雄時代に何度も戦いあったからな…つい考え耽っちまうぜ。

 

 

「悪い。なんか考え込んじまった。」

 

「…もしかして、リンのサーヴァントを知っているの?生前に共に戦ったとか…」

 

 

 

うお…かなり確信的なところまで突いてきやがった!

 

 

 

我が主様ながらにかなり良いセンをついてくるなぁ。

びっくりして思わず飛び上がりそうになったが、なんとか堪えたわ。

どちらかっていうと、ドンパチすることが多かったんで半分不正解っていったところでもある。

どこか確信に近いところまで来たイリヤに少しだけ苦笑する。こわいこわい、まだ聖杯戦争始まってねーぞ…。

怪訝そうな視線を緩めない我が主様に向けて口を開く。

 

 

「悪いがマスター。まだ正確に思い出せんから何とも言えないわ。」

 

 

下手に否定せずに自然の流れでかわそう。

あの眼は言い訳の通じない目だ。俺には分かるぞ、うん。

 

 

「あ、そういえばそうだったわね……何だか、普段ふざけている感じだから忘れてたわ。」

 

 

やかましいわ!!

思わず、物議を醸し出そうとしているとモニターに動きがあった。

ランサーとアーチャーが戦い始めたのだった。

 

 

 

ランサーが凄まじい速さで朱槍を繰り出す。

 

アーチャーは、それを紙一重のところでかわし、呼び出した黒い剣でいなしていく。

 

攻撃をしてはいなしての攻防戦はまさに言葉が失うものだ。

 

 

 

赤と青の交差(※パーフェクトなノックアウトじゃないよ?)を眺めていると、アーチャーの黒剣が砕けて折れた。

 

 

 

完全に生じた隙をランサーが見逃すハズがない。

ニヤリと不敵な笑みを溢して、朱槍を叩き込む――――ッ!!

 

 

 

 

しかし、朱槍はアーチャーを切り裂くことはなかった。

 

 

 

なぜなら、アーチャーの両手に黒と白の夫婦剣が握られていたのだから。

 

 

 

 

(『干将・莫耶』…か。)

 

 

俺は心の中でアーチャーの握る剣の名を呟く。

中国の夫婦が作ったといわれる双剣。刀工である“干将”とその妻“莫耶”に由来しており。

互いを呼び合うと言われており、例えどれだけ遠くに離れても必ず片割れの処へ戻ってくる。

Fateを知る人なら当たり前の知識だろう、アーチャーの代名詞でもある黒と白の夫婦剣。

俺は、それを再び目の当たりにした。英雄時代で何度も見たアレをもう一度見ることになるとは…。

 

 

「なんなの、あのサーヴァント…?アーチャーのくせに剣を使うなんて…。」

 

「ん?マスター。よくあのサーヴァントがアーチャーだと気付いたな?」

 

 

もしかしたらセイバーかもしれないのに。

アーチャーが弓兵らしくない戦い方をしているのにも関わらず、イリヤは一発で見抜いたことに驚く。

 

 

「それぐらい分かるわよ。セイバーは“最優のクラス”と言われているのよ?あんなお粗末な剣捌きでセイバーだと思うわけないでしょ。」

 

 

鼻で笑うように言うイリヤ。

おいおい…随分な言われようだなアーチャー…。あれほど剣に関連した宝具を持った英霊は、この聖杯戦争にいないと思うが…。

まぁ、アーチャーの戦い方はもっと違うのがあるんだけど、ランサー相手に一対一のタイマンじゃ意味を成さないからな。無理もない。

 

 

『誰だッ!!』

 

 

そんなことを思っていると、ランサーが急に槍を止めて叫んだ。

遠坂が思わずランサーの視線の先に顔を向け、アーチャーも剣の柄を持つ手を止める。

ランサーの叫ぶ方向には、原作通り弓道場の清掃終わりの士郎がいた。

士郎は驚愕した表情を浮かべた後、身の危険を感じたのか…本能のままに背を向けて校内へと走りだした。

 

 

 

 

生前から思ってたんだけどよ…校内に戻ったら、それこそ詰みじゃね?

 

 

 

 

逃げ道がない上に夜のため、人気がない。

暗いから視界も悪いし、不意を突かれて奇襲かけられたらひとたまりもないだろう。

俺から言わせてみれば、わざわざ死にに行くようなものだ。

目の前で非現実的な光景を見たんだから、気が動転してんだろうな……。

 

 

 

横にいるイリヤに視線を向けると、何とも言えない表情を浮かべていた。

 

 

 

父親である切嗣の事を考えているのか…それとも、義理の弟であり、憎しみの対象でもある士郎の事なのか。

どちらにしても複雑な心境だろうな。俺には計り知れない気持ちでいっぱいなんだきっと。

校内へ入っていった士郎をモニターするために、俺は監視カメラの映像を切り替えた。

士郎は血相を変えて学園内を爆走していた…なるべく遠くに逃げようとしているのがわかる。

しかし、一般市民の人間がどれだけ頑張ってもサーヴァントから逃げ切れるわけがない。

 

 

 

 

それが、最速のクラスでもあるランサーなら尚のことだ。

 

 

 

 

立ち止まって、追手の存在を確認しようと後ろを見た士郎…

 

 

彼の後ろからランサーは、ゆらりと現れて次の瞬間……その槍で士郎の心臓を突き刺した。

 

 

士郎は血を吐いて、何が起きたのか分からないと言った様子で地面に倒れ伏せた。

 

 

 

「ッ!!」

 

 

ぎりりッと自分の拳を思わず握りしめる。隣にいるイリヤからは息を飲むような声が聞こえた。

分かっていた…分かっていたんだ…士郎がこうなる運命だと。

物語開始時…士郎は一度、ランサーの手によって命を絶たれる事になる。その後、遠坂凛の手によって蘇生される。

その後、生き返った士郎をもう一度殺すために衛宮邸にランサーが奇襲をかけに来る。

そこで士郎は、最後のサーヴァントであるセイバーを召還してランサーを退けて物語がスタートする。

 

 

だから、仕方がない…俺の計画を実行させるには一度、士郎には死んでもらう必要があった。

 

 

聖杯戦争に引き込むために、セイバーを召還してもらうために必要だった。

 

 

 

(いや…これは全て俺の勝手な独りよがりな言い訳だ。)

 

 

 

俺は自分の計画の為に士郎の死を体よく利用しただけに過ぎない。

口ではどれだけ大義名分や言い訳を吐けるかもしれない。

でも、俺は…士郎が遠坂によって生き返ることを知ってたこともあって、無意識に命に対して軽視していたんだ。

 

 

(最悪だな。)

 

 

はぁ、と自分自身に対して暴言を吐きたくなる衝動に駆られる。

あの時、アテナに助けられて…英雄時代にたくさんの仲間たちに出会ったことで命の重みや大切さを知ったハズなんだけどな。

 

 

(よし…俺は命に対して、もう目を逸らさないぞ。)

 

 

士郎の死体から目を向けたまま、俺は心の中で深く誓う。

この聖杯戦争に勝ってイリヤを救い、士郎たちも死なせない!!

自分の胸中で、そう目標を立てつつイリヤの方へ視線を向ける―――…すごいショック受けてた。

イリヤは目を見開いて手を口に当てて、モニターに釘付けになっていた。

まぁ、そりゃショック受けるだろうよ…仮にも自分の弟だ。憎んでたとしても自分の目の前で殺されたんだぜ?

 

 

 

俺はイリヤの小さな肩に手を乗せて呼んだ。

 

 

 

「イリヤ。」

 

「バーサーカー…シロウが…シロウが……!!」

 

「大丈夫だ。まだあいつは“終わって”ない。」

 

 

なるべく安心させるような声色でイリヤを落ち着かせる。

予定では、もう間もなく遠坂凛とアーチャーがやってきて――――――…ほうら来た。

遠坂は士郎の死体を確認すると、驚いたように息を飲んだ。

 

 

『嘘――――――…どうして、貴方が…!?』

 

 

あぁ、そういえば凛はここで目撃者が士郎だって気付いたんだっけ?

目撃者がいて、やばい見られたと思ったら…それは同級生だった!!なんて酷い話だよな…。

遠坂は少し悩んだように黙り込んだ後、吹っ切れたように赤いペンダントを出して士郎に魔術を施し始めた。

白い幻想的な光が、士郎の体を包み込んでいる。

 

 

「何ッ!?凛は何をしているのッ!?」

 

「大丈夫大丈夫。ありゃあ、蘇生魔術だ。士郎を生き返らせようとしてんだよあいつは。」

 

 

思わず、立ち上がって食い入るように見ているイリヤを諭すように説明する。

士郎に対しての気持ちは分かるが、我が主様よ…落ち着きなはれ、どうどうどう。

動揺し過ぎで何をしているのか理解できなかったようだ。蘇生と聞いたら急に静かになった。

 

 

 

間もなくして光が消えると、士郎の心臓に空いていた傷口が消えていた。

 

血痕は残っているものの、士郎自体は息を吹き返した模様で呼吸もしていた。

 

今は穏やかに眠っているように目を閉じている。

 

 

 

どうやら、魔術は成功したようだ。

失敗されていたら困るんだけどな…いやー、それにしても良かった。

心臓に悪い(いろんな意味で)光景を見て冷や汗が溢れ出る。それと同時に士郎が生きてて良かったと安心した。

本当に俺というイレギュラーのせいで何が起こるかわかんねーからな。

このまま、魔術が何らかの原因で失敗して士郎が生き返んなかったなんてなったら洒落にならん。

ホッと胸を撫で下ろす。それと同時に、イリヤも安心したように息を吐いていた。

 

 

「まったく…心臓に悪いものだったわ。」

 

 

同じこと思ってたみたい。

よく見たら、額に冷や汗をかいていた。これは、イリヤには見せるべきじゃ無かったな。

俺自身が冷や冷やしてたからな…原作知識持ってても不安になるもんだよこれは。

まぁ…何はともあれ、士郎が生きててよかったわ。

 

 

「さあて、そろそろ行くか我が主様。」

 

「ええ、そうね。そろそろ準備しましょうか。」

 

 

 

 

アーチャーとランサーの初陣。

 

 

衛宮士郎の死と遠坂凛による蘇生。

 

 

この後、起きる士郎のセイバー召還。

 

 

 

条件は揃った。

そろそろ計画実行へと移行しようじゃないか。

 

 

(まずは…次も原作通りに士郎と遠坂に奇襲をかける。)

 

 

このまま調子でいけば、士郎はセイバーを召還してランサーを退けた後。

遠坂とアーチャーと合流して聖杯戦争について聞くために言峰教会へ行くはずだ。

そこで俺たちは待ち伏せをし、戦闘をしかける……簡単なことだ。

よぉぉしッ!!やぁぁぁってやるぜ!!気合は十分、まずセイバーとアーチャーと戦うことだな!!

アーチャーと対峙すんのは少しだけ気が引けるけど、まぁこれも一つの過程として楽しむことが大事だな!

 

 

 

 

 

 

言わずもがな、今回も派手にやるぜ!ド派手にな!

 

 

 

 

 

 

「今は逃しておくけどあのランサーは、いつか殺すわ!」

 

 

 

 

ランサーェ……これ、語呂が悪いな。

 

 

 

 

 




次回、バーサーカーVSセイバー&アーチャー


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第六夜 初戦開幕

投稿時刻を大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
次回からは、このようなことがないようになるべく時刻に合わせるようにします。


それではどうぞ。


穂村原学園でのイベントをモニタリングしていた俺は、現在…新都にある言峰教会ならぬ『冬木教会』へ来ている。

あの後、マスターであるイリヤと共に学園内での出来事を確認しつつ、聖杯戦争の参加者でもある「遠坂凛」の動向を観測する事に成功。

遠坂のサーヴァントが、あのアーチャーであることも分かりランサーも原作通りに学園内に出現した。

屋上から飛び降りた遠坂は校舎内にランサーを誘き出し、アーチャーの技量を確認していたが…。

 

そこに、我らが主人公である「衛宮士郎」が偶然にも通りかかりサーヴァントの戦闘を目撃してしまい…ランサーに目を付けられてしまう。

士郎は学園内に逃げ込むが、たかが一人の高校生がサーヴァントから逃げられるわけがなく、あっけなく殺されてしまう。

その後、あとを追いかけてきた遠坂によって士郎は蘇生されて助かる…何事もなく家に帰った士郎はランサーにまた襲撃されてなんやかんやでセイバー召喚。

家にやってきた遠坂凛と合流して聖杯戦争について聞かされる。もっと詳しく聞くために遠坂の兄弟子?がいる教会へ行く。

 

 

 

というのが、原作の序盤だったな。

 

 

 

まぁ、それでも懸念材料は多々ある。

 

士郎が、“誰のルート”へ行くのかも現時点では判断付かないからな。

 

本音を言えばHFルート以外で行ってほしいけどな…あれ、色々とめんどくさいし…ラスボス系ヒロインがいるし…。

 

 

 

間桐桜には悪いが、HFだけは避けたいところだ。

 

原作では、製作者がこれでもかというくらいに熱を入れてたけど…“アレら”は色々と相性が悪い。

 

特に、間桐桜が扱う魔術の属性自体が俺にとってはかなり厄介だ。

 

“見えない”上に概念すらあるのかも分かんないからな。出来るなら、戦いたくはないな。

 

士郎には何としてでもHFルート以外のルートで進んで欲しい。

 

 

 

 

最も、俺という存在のせいで全く知らない未来が待っている可能性もあるんだがな…。

 

 

 

 

ま、詳しい話はまた追々していこう。

それよりも、モニタリングの後にイリヤを宥めるのが大変だったわ。

どうやら、ランサーに士郎を殺されたのを相当根に持っているようだ…。

ここへ来る間にも隣で「ランサー殺すランサー殺すブツブツ…」と言っていた姿はあまりにも恐怖…!!

 

怖ぇぇよウチのマスター…。

弟をやられたっていう弟思いの姉として傍から見れば微笑ましいんだろうけど…決してそんな純粋なものじゃない…。

日常的で言うなら弟をいじめた近所のいじめっ子に怒りを燃やす、お姉ちゃんのようにも見えるが…。

きっと、そんな微笑ましいものじゃないだろう…きっと。

 

 

 

 

とまぁ、そんな感じで俺達は冬木教会へやってきた訳だが…。

 

 

 

 

現在、俺とイリヤは教会の前にある門の陰に身を潜めて様子を見ていた。

理由は無論、原作通りに士郎と遠坂に奇襲を仕掛けるためだ。

物語の序盤を完成させるために、これはどうしても仕方がないからな…どうあっても、このタイミングで二人と戦う必要があった。

ある意味、士郎が俺と戦う事は魔術師としての初めての戦闘みたいなもんだからな。

あいつのためにも手加減一切しないし、本気で戦うつもりだ…まぁ、倒すつもりはないんだが。

 

それと…一応、俺は士郎と会っちまったんで礼装の形を変えることにした。

形は裾が膝元まである黒いロングパーカーのようにし、素性がバレないようにフードを深めに被っている。

これならまぁ、バレようなことは無いだろう―――――…たぶん。

ま、これで準備は整ったな。後は、教会の中にいる士郎と遠坂が来たらドンパチ仕掛けるまでだ。

 

 

 

チラッと門の陰から顔を出して様子を見てみる。

 

 

 

門の前に黄色いカッパを被った奴が居るな…たぶん、士郎が召喚したセイバーだろう。

…ちゃんと召喚できたみたいだな。ということは、士郎の中には原作通り『アヴァロン』が入っているんだな。

もしかしたら、アルトリア以外のセイバーが来るかもしれないと少しビビってたが。

今のところ、バタフライエフェクトによる改変は見られないから良かった…まだ安心はできないがな。

 

屋根の方にも視線を移すと、アーチャーが辺りを警戒していた。

あの鷹の眼に見つからんように慎重に行動しなきゃな…。

バレないように魔術でジャミングして、コソコソしてんだから、これでバレたら色々とめんどくさい…。

下手な行動をして、アーチャーが俺の考えに気付く危険性がある…あれ?超厄介じゃないかあいつ…?

まぁ、それでも負ける気がしないし、諦めるつもりもないから関係ないんだけどな!

 

 

「あっ―――――…」

 

 

隣でイリヤの声が聴こえた。

教会の扉から士郎と遠坂が出てきた…ふーむ、話が終わったみたいだな。

 

 

「出てきたな。どうやら、話は終わったみたいだぜ。マスター?」

 

「……」

 

 

マスター?

返事がないから、二人から視線を外して主の方に視線を向ける。

ぎゅっと門の壁にかけてある手に力を込めて、複雑な表情で士郎を見ていた。

アインツベルンでモニタリングしていたときと同じ顔だ。やっぱり、どこか憎みきれないところもあるのか?

原作ではイリヤ視点がほぼないから、切嗣への憎しみと士郎への愛憎しか分かんなかったんだけど…。

 

 

(さっきのアインツベルン城での態度を見る限り、完全に士郎を憎み切れてない様にも見えるんだよな…。)

 

 

この世界のイリヤは原作よりも殺意みたいなのをあんまり感じない。

ゲームだと、別名“士郎キラー”と呼ばれるくらいイリヤのdead end が多い。

それくらい、士郎に対しての負の感情があった描写が多々あったのだが――――…

少なからず、ヘラクレスから俺に変わったことで何らかの改変が起きたということか。

 

 

(しかしまぁ、こんな状態で戦えんのかな…?)

 

 

意気消沈しているところ悪いんだが、我が主様には戦ってもらわなきゃならん。

これから始まる戦いはとても重要なモノだ。俺にとっても…イリヤにとってもな。

それに相手はセイバーとアーチャー…三騎士クラスの二体を相手にしなきゃいけないんだぞ。

絶対に負けないと思いますけど、油断してるとやられかねんほどの実力をもつ二体だからな。

戦闘に身が入らないで魔力供給が十分に行き渡ってこないで負けるなんて勘弁してほしい。

 

 

「…ねぇ、バーサーカー。」

 

「は、はいっ?」

 

 

急に呼ばれたから変な声でちまった…。

真剣に考え事をした為か、周りに対して気が回ってなかったようだ。

我ながらに恥ずかしい失敗だな…。ここんとこ、らしくない行動ばかり目立つ。

浮かれ過ぎだな…もう少し自重した行動を心がけなければ。

 

 

「ど、どうした?我が主様よ…?」

 

「…もし、もしね、私が…シロウと戦いたくないって言ったらどうする?」

 

 

 

おうふ。すっげぇカミングアウトやな!!

 

 

 

思わず二度見しちまったぜ。すんごいびっくりした。

まさか、イリヤから戦いを放棄するような言葉を聞くとは思わなかった。

ゲームで見せたような、無垢で残酷な面が嘘だったかのようだ。

今のイリヤの姿は、生前の記憶にあるイメージの欠片すら見せない。そう…なんていうか。

 

 

(あぁ…そうだな。イリヤだって、普通の女の子なんだ。)

 

 

例え、ホムンクルスだったとしても。

今回の聖杯戦争では、最強のマスターと謳われても。

イリヤは普通の女の子なんだ…本当なら、戦いとは無縁の所にいるべきなんだ。

アハト翁が吹き込んだせいで、切嗣に対しての誤解もあって士郎の事を憎んでいたとしても…心の底では、やっぱり戦いたくないハズだ。

 

イリヤの目に視線を合わせる。

不安そうな、悲しそうな、それでいて自分の在り方が正しいのかと―――――…答えを求めている、縋っているようにも感じ取れる。

俺は…なんて答えてあげたらいいんだろうか。

 

 

「…なにも言ってくれないのね。」

 

「言わないんじゃなくて、言えないんだよ。自分のやりたい事なんて人に求めるもんじゃないだろ。

 他人に答えなんか聞くな、そんなもの何の価値もねぇよ。言葉だけで手に入れた答えなんて嘘っぱちだよ。」

 

「…じゃあ、どうしたらいいの?どうすれば、“答え”が手に入るの?」

 

「さぁな。ただ、一つだけ言える事がある。」

 

「なに?」

 

「自分の目で見て、心で感じたモノだけが“真実”だ。それを見て、自分がどうしたいのか…何をしなければならないのか。

 それが分かった時、“答え”が見つかるって事だ。それまでは戦え。戦って……戦いの中で探していけ。

 お前が答えが見つかるまで、俺がずっと守ってやる。最強のマスターを守る最強のサーヴァントとしてな。」

 

 

 

だから立ち止まるなマスター。

 

歩みを止めるな、あんたは止まっちゃいけない――――…その先にある“真実”を手に入れるまで。

 

俺が導いてやる。最後まで…聖杯までな。

 

 

 

胸の内で想いを綴ってから、我が主様へ笑みを浮かべる。

それに対し、イリヤは何も答えずぼうっと呆けた顔で、それでいて頬を少しだけ赤くして俺を見つめていた。

…な、なんすか、その表情は?何か変な事でも言いましたかね。私めは…?

 

 

「い、イリヤ?」

 

 

視線に耐えきれなくなって、思わず声をかけると我が主様はハッと現実へ戻って来たようだ。

そして、次の瞬間…ボッと爆発したように顔を真っ赤にして、俺に連続パンチを繰り出してきたいたた。

 

 

「か、顔が近いのよ!!離れなさい!!ばかばか!バーカーカー!!」

 

「待て!今、たいへん不名誉な名前を呼ばれた気がするんですけどッ!?」

 

 

知らないわよ!!といって、俺から背を向けてそっぽを向く主様。

どうやら、知らないうちに墓穴を掘っていたようだ…一体何が失敗だったのか分かんないけど。

なんだか、何が正しかったのか分からんくなって来た…俺も答えを見つけ切れてないようだ…はぁ。

 

 

「…そうよね。真実を見るまで、答えを見つけるまで、探さなきゃね。」

 

「ん?何か言ったか、我が主様よ?」

 

「…なんでもないわ。」

 

 

あれ?なんか、すっきりしてる?

少しだけ、安らいだ顔になっているのは気のせいだろうか?

 

 

「行くわよ。バーサーカー。セイバーとアーチャーと戦うわよ。」

 

「“答え”の話は、もういいのか?」

 

 

わざとらしく笑みを浮かべて言ってみる。

それに対し、イリヤも不敵に笑みを浮かべて答えた。

 

 

「ええ。“探し”に行くんでしょ?――――…これから!」

 

 

…っ!!

いいねいいね!!そうこなくっちゃ!!

我が主様の言葉を聞き、自分の胸の内の昂ぶりを感じた。

今のイリヤこそ、俺のずっと抱き続けているスタンスと同じだ。

 

 

 

“自分の置かれた状況を一つの過程として全力で楽しむ”

 

 

 

イリヤの姿がその言葉を体現したかのように俺には思えた。

そして、俺は彼女の横に立ち。肩を並べ守っていこうと心から誓った。

 

 

「よし、じゃあ行くか!!」

 

「ええ!!」

 

 

 

 

 

 

例え誰が相手でも―――――…

 

 

俺はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを守り通し、勝利する!

 

 

『黒帝の破壊者』の初陣だ!

 

 

 

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ――――…派手にやるぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

家でランサーからの襲撃に合い、そこで遠坂と合流した俺、衛宮士郎は冬木教会で聖杯戦争について話を聞き。

この馬鹿げた人殺しのゲームを終わらせるために、セイバーと共に参加することを決める。

そこで、遠坂からここで一度、別れることを切り出される。今まで、遠坂には色々と助けられたな…感謝しないと。

それに遠坂はとっても良い奴だ。何も知らない俺にここまで親身になってくれたからな。

俺は素直に、遠坂に礼を言うと何故か顔を赤くして顔を逸らされてしまった……おかしいな、俺なんかしたかな?

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

 

そのとき―――――…門の方から声が聞こえて視線をそちらへ向けた。

 

 

 

 

そこには、白い髪の赤い目の女の子が俺たちの前に立っていた。

その女の子の隣には黒い恰好をして、フードを目元まで深く被っている男が立っていた。

 

 

「こうして会うのはこれで二度目だね。」

 

 

紫色のコートを着て、白銀の髪を揺らしているその姿に目を奪われてしまう。

瞳は真っ赤なルビー色で、綺麗な宝石の表面のように俺たちを映し出している。

そして、女の子の表情はどこか冷たく、しかして楽しげにこちらに笑みを浮かべている。

 

対して、その横にいる男の印象は“黒”しか感じさせないくらいに漆黒で夜空よりも濃い。

まるで全てを包み込む蠢く影のように膝まである裾を風に揺らし、無言でこちらを見ているようにも感じた。

その不気味さと、どことなく身の危険性を感じさせる…威圧感のようなものを放っているため、俺は思わず固唾を飲み込んだ。

 

 

 

こいつらは一体――――――?

 

 

 

それに、あの子は俺に“お兄ちゃん”って…?

 

 

 

 

「衛宮くんの知り合いかしら?」

 

 

「いやえっと…女の子のほうは昨日知り合ったけど……男のほうは―――――――…知らない…ハズだ?」

 

 

 

あれ、何かあったことあるような気もする…?

今、初めて見るハズなのに…なんだろう、これ…モヤがかかったような気分だ。

 

 

「ハッキリしないわね。」

 

「そう言われてもな…。」

 

 

確かに見たこともないハズなんだ。

なのに、なんだこの感じ……気持ちが悪いな。

 

 

「まぁ、あの黒いのは置いておくとして――…あの子は一体。」

 

「初めましてリン。私はイリヤ…イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えば分かるわよね?」

 

 

 

白銀の女の子…イリヤの名を聞くと遠坂は急に血相を変え始めた。

 

 

 

「アインツベルン…ですって。」

 

 

どうやら、遠坂はあの子について何か知っているようだ。

“アインツベルン”というのが相当、重要な名前らしい…気のせいかもしれないが、セイバーもどこか驚いているようにも見える。

一体、何なんだ…?その“アインツベルン”ってのが、俺たちに何の用なんだよ。

 

 

「まさか、その“黒いの”は…っ!?」

 

 

遠坂が急にイリヤの隣にいる黒いヤツに視線を向けた。

セイバーも、ハッとしたのち…一瞬に表情を険しいものに変えて、敵意を剥き出しにしている。

何がどうなっているのか、話の流れについていけない俺は黙ってその場を見守るしかない。

 

 

 

 

 

 

 

だが…そんな俺でも、心のどこか分かっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「挨拶はもういいよね?どうせ、みんなここで―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

聖杯戦争は既に始まっていて…。

 

 

 

 

 

 

 

「死んじゃうんだから。」

 

 

 

 

 

 

 

そして、遠坂や俺以外にも参加者がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら、こいつらは―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちゃえ…『バーサーカー』!!」

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちの“敵”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ッ!!シロウ!!」

 

 

セイバーの俺の叫ぶ声で、ハッと我に返った。まずい、少しの間呆けていたみたいだ…!!

遠坂の表情が強張るのと、セイバーが急いでこちらへ向かってくるのが分かる。

そして何より、イリヤの隣にいた黒い男が今までいた場所から姿を消して、こちらへと猛スピードで向かって来ている!

 

 

「シロウ、下がってください!!」

 

 

急いでやってきたセイバーが、俺たちの目の前に立って迎え撃つ。

レインコートを脱ぎ捨て、青いドレスの上に鎧を着こんだ姿に戻り。あのとき、ランサーと戦ったときに見せた“透明な剣”を持って。

その様子を見た男は、どこか“楽しげにニヤリと口元を釣り上げて嗤う”と虚空から何かを取り出した。

 

 

 

 

「来い――――…『アスラ(悪魔)』。」

 

 

 

 

それは銀色の少しだけ長い銃身の拳銃……リボルバーのようなモノだった。

 

 

どこか近代的だが、何故かそれは俺にとって神聖的なモノに感じた。

人間が触れちゃいけないような…そう、神様の武器みたいなものと例えたらいいのだろうか。

そんなモノのように感じた。そして、それに容易く触れて振りかざすあいつに畏怖を覚えた。

あんなに軽々しく扱うあいつが、少しだけ俺は恐ろしい。

 

 

ガキンッ!!と男の銃の銃身とセイバーの剣がぶつかり合う。

 

 

「貴様…!!」

 

「やっぱり、こいつもサーヴァント――――!?」

 

 

サーヴァント!?この黒い奴が!?

確かにさっき、イリヤがバーサーカーと呼んでいた…ッ!

バーサーカーは「ふん」と鼻を鳴らして、銃身でセイバーの剣を払って腹をめがけて蹴りを入れてきた。

セイバーは何とか蹴りを避けて距離を一気に詰めて切りかかるが、バーサーカーは何ともなさそうに容易にかわし、そのままバク転でイリヤの方へ戻った。

 

 

「セイバー!大丈夫か。」

 

「…ええ。なんともありません…ですが――――…」

 

「相手の力量が未知数―――…加えて、使っている宝具が能力さえ謎めいている…と言ったところかしらセイバー?」

 

 

 

不満げに言葉を募らせるセイバーの代弁をするように遠坂が口を開く。

 

 

 

「ええその通りです。あのサーヴァントの詳細は今のところ掴みかねます。サーヴァントとはいえ、異常なまでの身のこなし方。

 状況を判断し、勝負するところを分かっているかのような立ち振る舞い。」

 

「厄介なほど強敵ね。ここはもう少し様子見をすべきか……。

 …アーチャー。分かっているわね?ここは貴方の“本来の戦い方”で―――…って、アーチャー?」

 

 

遠坂が自分のサーヴァントであるアーチャーに声をかけるも、アーチャーから返答が返ってこない。

怪訝そうに遠坂が声をかけ続けていると、何もない場所から霊体化を解いたアーチャーの姿が現れた。

 

 

「アーチャーどうしたのよ。声をかけたら一回で返事をしなさい。今の状況を分かって――――…」

 

「凛。ここは、アーチャーのクラス本来の戦い方でやらせてもらうぞ。」

 

 

愚痴を言う遠坂の言葉を遮るようにアーチャーは言葉を発した。

突然の自分のサーヴァントの発言に遠坂は驚いた顔をした。かくいう俺も、今のアーチャーの態度が少し変な感じがした。

何だろう、あのバーサーカーを睨んでいる目が何だか気になる…まるで、有り得ないものでも見たかのような、なんだか動揺しているようにも見える。

 

 

「それでいいな。凛。あのバーサーカーの詳細を知りたいのだろう?」

 

「え、ええ…それでいいわ。」

 

「では。」

 

 

それだけ言うと、アーチャーはどこかへ飛び去ってしまった。

“本来の戦い方”って言ってたけど、何のことを言ってたんだろうな…?

 

 

「マスター!相手が来ます!下がってください!!」

 

 

気になることがいっぱいあるけど…!

今は、この状況を何とかするほうが先か――――!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

何故だ―――――!?

 

 

何故、あいつがここにいる―――――!?

 

 

 

こんなバカげたことがあるものか!!

 

 

 

あいつは確かに“オレ”がこの手で殺したハズだ!!

 

 

 

それなのに何故―――――…!!

 

 

 

 

お前は“そこ”にいる!?

 

何故、バーサーカーとしてこの聖杯戦争にいるんだ!?

 

 

 

ヤツだけは―――――…

 

 

ヤツだけは――――――…

 

 

 

この手でもう一度―――――…殺さねばならない!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

遠坂と何かを話していたアーチャーは、そこからどっかへ飛んでいった。

俺は、飛んでいくその姿を目で追いながらもどこかやるせない気持ちになっていた。

あいつ…驚いただろうな。見てわかるほど血相を変えてやがったし。

まぁ、マスターから離れてどっかにいった意味は既に分かっている。あいつのクラスであるアーチャー本来の戦いをするためだろう。

簡単に言うと、遠くから離れて矢を撃ち込んでくるってこと。つまり、俺はあいつの矢をかわしつつセイバーと戦わなきゃならん。

 

 

(まぁ、別に大したことないんだけどね。)

 

「アーチャーが離れたわね。矢を撃ってくる気よ。」

 

 

 

胸の内でそんなことを考えていたら、我が主様からの戦術予報が届いた。

 

 

 

「そのようだな。まぁ、どうってことないから安心しな。」

 

「ええ。別に心配なんてしてないわ――――…でも、気を付けてね。」

 

 

主様の気遣いに「あいよ。」と返答し、俺は思いっきり地面を蹴ってセイバーに向かっていく。

俺を迎え撃たんと、透明な剣が振るわれるが俺もアスラの銃身で剣をいなす。

セイバーの鮮やかな剣撃が猛威を振るうが、アスラで一つ一ついなしていく…やっぱり、凄いなセイバーの剣捌きは。

決して一つの無駄もない、全ての一撃一撃が致命傷を狙った攻撃だ。

うっかりしていると、一瞬にして斬り刻まれちまうだろう…まぁ、うっかりしてるとだけど。

 

 

「ふっ!!」

 

「ぐっ…!」

 

 

こっちもボチボチ攻撃でも仕掛けますかね。

アスラを振り回しながら、トリッキーな動きでセイバーに蹴りを繰り出していく。

女だろうが、手加減はしないつもりだ。顔や鳩尾、腹といった急所を狙うが、セイバーはそれをひょいひょいとかわしていく。

…よくかわすなぁ。結構、一発のスピードが速いはずなんだけどな。

これが『直感』(A)の実力なのか!!って思わず言いたくなっちまうぜ。

 

 

 

でも―――――――!!

 

 

 

(足元がお留守だぜ?)

 

「なっ!?」

 

 

アスラで殴るフリをして、俺はガードが空いていたセイバーの足を払った。

さすがにこれは対処しきれなかったのか、払われて両足が中に浮いた。

貰った!!これは確実にいける!このまま、セイバーの腹に向かって蹴りを―――――…

 

 

 

「…ぐっ!!なんの!」

 

 

繰り出そうとした瞬間、セイバーは自身の剣を地面に突き刺して、そのまま半球を描くように体を態勢を腕の力だけで空中で整えて着地しやがった。

ウゾダドンドコドーン!!あいつマジかよ!!変態みてぇな挙動しやがったぞ!!

あいつ、きっと剣さえあれば色んな曲芸できると思うぞ。いや、まじでびっくりした。

 

 

「貰った!!」

 

 

驚きのあまり動きの止まった俺の隙を、セイバーが見逃すはずもなく剣を振るってきた。

あ、やべ。完全にやられた―――――…これはかわせないわ。

呆然とする俺に勝利を確信したのか、セイバーの顔に笑みが浮かぶ。

遠坂がよし!とガッツポーズを取っている。士郎も安心したような顔だ…誰もが、俺の敗北する姿を想像しているようだ。

なすすべがない……そう思った俺は、諦めたように目を閉じた―――――。

 

 

 

 

 

 

 

なんてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?馬鹿な!?」

 

 

「嘘…ッ!?」

 

 

「なっ―――――!?」

 

 

 

俺はセイバーに斬られることは無かった。

 

何故ならば、セイバーの剣を防いでいる俺の左手には。

 

 

 

 

 

 

 

もう一つの“銀色の銃”が握られているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「よく来たな―――――――『ディーヴァ(歌姫)』。」

 

 

この銃の名前は『ディーヴァ』。右手にある『アスラ』とは双子の片割れとも言える存在だ。

これが俺の武器であり、宝具でもある『非対種の双子銃(アスラ&ディーヴァ)』である。

この二つの銃は、俺がジェラルのもとへ初めて弟子入りした時に彼から手渡されたものだ。

何でも、アスラとディーヴァは“俺にしか”扱えないらしく、ジェラルでさえも使えなかったほどだ。

師匠のジェラル曰く、「これは常にお前が持っておくべき。」だとか。よくわかんないけど、英雄時代から今に至るまでずっと使ってきたから、宝具として扱えるのは嬉しいな。

 

 

(また、一緒に戦おうぜ。“相棒達”。)

 

 

心の中で、再び逢えたことを嬉しく思いながら告げると。

それに答えるかのように、二つの銃が一筋の光を帯びたように見えた。

 

 

「ふッ―――――…ラアアアアアッ!!」

 

 

驚いているセイバーの不意を突いて、俺はディーヴァで剣を跳ね返す。

そして、地面に着地したセイバーを休ませることなく距離を詰めてアスラを振るう。

『直感』のスキルで対処してくるセイバー。いいぜ。もっと食らわせてやるよ!バーサーカーらしく暴れてな!

俺は地面を蹴って、側宙しながらアスラとディーヴァをセイバーに叩き込んでいく。

セイバーは一瞬驚いたようだが、防御の姿勢を崩すことなく俺の猛攻を防いだ。

 

 

いいぜセイバー!

 

 

なら、これはどうだ!!

 

 

 

「はぁぁぁぁぉぁッ!!」

 

 

側宙からの切り替えしでサマーソルトを繰り出す。

狙いは剣の柄を持っている手―――…蹴りを使ってセイバーの防御を抉じ開けてやる!

見事、俺のサマーソルトは狙い通りにセイバーの手に直撃して剣を持っている手が上に弾かれた。

その隙を見逃さない、俺はガラ空きになったボディーをフロントキック…処遇、ヤクザ蹴り繰り出してセイバーの体をふっ飛ばした。

 

 

「ぐわあああああッ…!!」

 

 

 

体をくの字に曲げてセイバーは地面に転げ落ちた。

 

 

 

「セイバー!!」

 

「駄目よ衛宮くん!!」

 

 

セイバーに駆け寄ろうとした士郎だったが、すぐさま遠坂に止められた。

あいつ、自分が来ても何もならないのに……というか、来たらセイバーの足を引っ張ることを考えてないのか?

やれやれと、内心呆れてしまうも、それが衛宮士郎という人間だということを思い出してフッと笑ってしまう。

そうだ、こいつは“こういう男”だ。なら、俺がしてやれることは―――――――…

 

 

 

そんなことを考えながら、俺は剣を杖にしながら苦悶に満ちた顔で立ち上がるセイバーに向かって走り出す!

 

 

 

 

なッ!?と息を飲む声が、士郎たちの方から聞こえた。

 

 

さぁ、どうする主人公よ!?

 

 

こんなとき、お前なら―――――――!

 

 

 

「セイバァァァァァ!!!」

 

 

士郎の悲痛の声が聞こえる。

それが、少しばかりか俺の胸に突き刺さるも…俺はアスラをセイバーに振るおうと手を挙げ――――…

 

 

(あっ…)

 

 

…る、ところで嫌な気配がしたからすぐにその場から離れた。

すると、俺の居たところに無数の矢が地面を抉るように降り注いできた!!

考えるまでもない、遠方からのアーチャーの攻撃だろう。

 

 

忘れてたぁ……そういえば、あいついたやん。

 

 

セイバーと戦うことで、士郎がこの先どうすれば良いのかを、考えさせるための行動を見事に邪魔された。

あんにゃろー!覚えとけよ!今から目に物を見せてやるからな!

具体的に、どんなものを見せるのか?と聞かれたらそれはそれで、困るんだがな!

…とか考えつつ、アーチャーの矢を避け続けてやっと矢が止まった。

ふぃー…一息つくとしよう――――…なんて、してらんねぇな。

 

 

(早いとこ、アーチャー何とかしないとな。『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』飛んでくる前に。)

 

 

それだけ考えて、俺はアスラの銃口をある一つビルの屋上へと向ける。

アーチャーの居るところなんて既に分かっている。あそこに“すんげぇ”のぶち込んでやる。

だから、いいよな?と言いたげに俺はイリヤの方を向く。

イリヤは微笑んだまま、コクリと頷いた。

よし、主様から許可が出たんだし、派手にやるぜぇ!

 

 

 

 

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は暴れ狂う)

 

 

 

 

 

詠唱と共にアスラの銃口に魔力が集まっていく。

これが、俺の切り札の一つ――――――…。

アーチャーの螺旋剣に匹敵する、神々の最強の槍の一つ。

 

 

 

 

 

 

「『穿たれる死翔の槍(ブリューナク)』」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

遠くの方から、セイバーに追撃しようとしていたバーサーカーを矢で射殺そうと放つが、この程度ではヤツを殺せないみたいだ。

私ことアーチャーは、相変わらずのヤツの厄介さに改めて呆れたようにため息をついてしまう。

ヤツは、いつも厄介なことしかしでかさないヤツだ。いつも私の前に現れては邪魔ばかりしてくるからな。

サーヴァントになる前の私が唯一、何度も取り逃した存在でもあるあいつ……バーサーカーはサーヴァントになっても私の手を焼かせるようだ。

全くと…思いつつ。ふと、あいつとの戦った記憶を無意識に思い出して、懐かしんでいることにハッと気づいて頭を振った。

 

 

自分の馬鹿な思考を止めよう。

 

 

 

とにかく、ヤツは確実にここで殺さねばなるまい。

 

 

 

 

“オレ”はそれだけ考え、螺旋剣を投影しようとする。

 

 

 

 

 

そのとき―――――…遠くの方から魔力の高まりと共に“何か”が飛んでこようとしているのが分かった。

 

 

 

 

 

 

「なっ!?あれは―――――――!!」

 

 

 

私の記憶と解析が正しければ、あれは確か『穿たれる死翔の槍(ブリューナク)』。

奴め!!あんなものを軽々しく撃ってくるとはな!!

 

 

「チィッ!!」

 

 

これは防ぎようがない。

螺旋剣の投影を諦めて、その場から退避することにした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

やりすぎた!

アーチャーがいたビルの屋上が崩壊していく光景を見ながら、俺は反省した。(もう遅い)

いやー、だって“久しぶり”に撃ったからさぁ!!仕方ないでしょ!?

加減の仕方とか、忘れちゃったよ!

 

 

「なにしてんのよ!!さすがにあれはやりすぎよ!!」

 

 

我が主様も怒っていらっしゃる!

いや、ほんとにマジで悪い――――…反省してます。もう遅いけど!

そういえば、英雄時代にブリューナクを撃とうとしたとき、仲間たちから「それは使うな!!」と止められてたなぁ。

そんなことを思いだして、ふと士郎たちの方を見ると、顔が真っ青になって壊れたビルの方を眺めていた。

 

 

「こ、こほん!きょ、今日のところは見逃してあげるわ!お兄ちゃん!

 これで分かったわね!私のバーサーカーは強いんだから、いつでも貴方たちを殺せるんだから!」

 

 

なんか、小物臭漂うぞその台詞。

そう言おうとしたとき、イリヤが踵を返して帰り道を歩き出した―――――――…え、ほんとに帰るの?

と、とりあえず、呆然として言葉を失っている士郎たちに心の中で謝りながらイリヤの後を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

次から、ブリューナク使うことはやめようかな…。

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告をしてくれた方、ありがとうございます。
これからは、なるべく誤字がないように投稿したいと思っています。
もし、また誤字等がありましたら、すぐに修正するのでご連絡くださると助かります。


それでは、次回もまたよろしくお願いします。


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第七夜 rest

次回の仮面ライダービルドで、遂に万丈がクローズに変身することにテンション上がりまくりの私こと、アテンです。
最近、アイディアが浮かばなくて思うように話が進められていませんが、どうかお付き合いいただけると嬉しいです。


それでは、どうぞ!





「ん…ここは…」

 

 

重い瞼をゆっくり開くと…そこには見慣れた自分の部屋の天井があった。

まだ寝ぼけているのか、少しだけボーっとして思考がままならない状態で、俺こと衛宮士郎は目覚めた。

周りには誰もおらず、布団の上で横になっている状態で俺一人だけ部屋にいた。

あれからどうしたんだっけ…?確か、冬木教会で聖杯戦争に参加する事を決めて、そして――――――――…

 

 

「ッ!そうだ!あのとき、バーサーカーと戦って――ッ!?」

 

 

フラッシュバックで脳裏に昨夜の記憶がよみがえってくる。

バッと、掛け布団を振り払って上体を起こすと、目の前の視界が歪んだ。

 

 

「うっ…なんだ…これ…」

 

 

ズキリ…と頭痛がすると共に全身に気だるさを感じる。

体の細胞が不調を告げているのが分かる…これは一体どういうことだ?

 

 

「…あら、起きたのね。衛宮くん。」

 

「っ…遠坂。」

 

 

声のする方へ視線を向けると、奥の廊下から遠坂がやって来た。

サーヴァントであるアーチャーの姿がない…まぁ、今は朝だし。いないのは当たり前か。

それにしても、何で遠坂が俺の家に?

 

 

「その様子じゃ、自分があの後どうなったのか分からないみたいね。」

 

 

やれやれ、といったように遠坂が俺を見て呆れたように溜め息を吐いた。

あの後―――――…イリヤとバーサーカーが奇襲をかけに来て、俺達のセイバーとアーチャーが迎え撃った。

けど、バーサーカーが規格外に強くて、銃みたいなの出して終始、セイバーを圧倒してた。

最後には、新都のビルの屋上から遠距離狙撃してたアーチャーに向かって“何か”を撃って…

ビルの屋上を跡形もなく、吹っ飛ばしてそれから――――――…どうなったんだ?

 

 

「貴方、アインツベルンのマスターが帰った途端、急に気を失ったのよ。

たぶん、いろいろな事が立て続きで起きたし、聖杯戦争の凄惨さを間近で見たんだし、疲れてたんでしょう。」

 

 

 

それだけ言って、遠坂は踵を返すように俺から背を向けた。

 

 

 

「今日はそのまま、休んでいなさい。学園の方には私から適当にでっちあげて欠席ということにしてあるから。」

 

「いや、そんなのしなくても大丈夫だ。学園にはちゃんといくさ。」

 

 

そう言って、俺は布団から出ようと立ち上がった。

だが、やはり体の倦怠感に勝てずにフラっと体勢を崩して、片膝をついてしまう。

 

 

「ほら見なさい。そんな見るからに絶不調な姿で学園に来てどうするの?また倒れるだけよ。」

 

 

くっ…何も言い返せない…。

情けない…さっきから、動かそうとしてはいるものの思うように体が言うことを聞かない。

俺の今の姿を見て、遠坂の方からまた溜め息声が聞こえてきた。

 

 

「悪いことは言わないから、今日は大人しく安静にしなさい。夜になれば、嫌でも聖杯戦争と向き合うことになるわ。

昼の明るいうちに安静にして体の疲れを癒し、体勢を整えておきなさい。いいわね?」

 

 

諭すような声音で、それでいて凛とした堂々と遠坂は俺に言う。

なんだか、昨夜から遠坂に迷惑かけっぱなしだよな俺―――――…遠坂様様だな。

何か、俺にできることはないかな…まぁ、今の状態じゃ何にもしてやれないか…早く治さないとな。

 

 

「ああ、それと…衛宮くん。休んだらセイバーにも会いに行きなさいよ?たぶん、道場の方にいると思うから。」

 

「あっ…!遠坂、セイバーは大丈夫なのか?バーサーカーと戦って何か怪我とか―――――…」

 

 

遠坂の言葉でさっきから姿が見えないセイバーの事を思い出した。

バーサーカーと戦って、傷を負っていたりしていなかっただろうか……!?

俺の顔を見て、何を思ったのか遠坂が微笑して口を開いた。

 

 

「大丈夫よ。幸い、致命傷になるような傷は負ってはいないわ。」

 

「そうか、良かった…。」

 

 

セイバーは無事のようだ。

そのことを聞いて、少しだけホッとした。女の子が傷つく姿は…見たくないからな。

 

 

「けど―――――…」

 

「?、どうかしたのか?」

 

 

安心するのも束の間、今度は遠坂がどこか困ったような表情をした。

どうかしたのか?、セイバーが無事だというのに何かあるのか?

 

 

「いや、なんていうか―――――…落ち込んでいるみたいなの。」

 

「え?落ち込んでいるって、誰が…?」

 

「セイバーよ。バーサーカーに負けたことがよっぽど、悔しいんでしょうね…道場の方に行ったまま、帰ってこないのよ。」

 

 

な、なんだって!?

あのセイバーが―――――…落ち込んでいる!?

 

 

「そう…だから、マスターである貴方から話してみたらどう?、あんな調子じゃ真っ先に殺されるわよ貴方たち。」

 

「わ、分かった…少し休んで歩けるようになったら、すぐセイバーのところへ向かうよ。」

 

 

まさか、セイバーが落ち込んでいるとは思いもしなかった。

昨日の夜に出会ったばかりだけど、俺から見たセイバーは常に自信に満ちた女の子のように思えた。

あのランサーさえも退けた力量を持っていながらも、バーサーカーへの敗北で何か自信を喪失させるようなことがあったのか。

 

 

「ま、とにかく伝えることは全部伝えたから。私は帰るわね。」

 

 

 

じゃ。と言って、遠坂は玄関の方へと体を向ける。

 

 

 

「なぁ、遠坂。なんで俺にそんな風に親切にしてくれるんだ?遠坂にとって、俺は敵なんだろ?」

 

 

なぜ、遠坂は俺なんかのために親身になって助けてくれるのか。

それが、とても気になった……彼女にとって俺は敵なハズだ。助けることをせず、見捨ててしまえば自分が有利になるはずなのに…。

俺の質問に対し、遠坂は鼻で笑うように後ろ髪を掻き上げるように答えた。

 

 

「何も知らない一般人を相手にそんな事はしないわよ。私は対等に立てる魔術師なら完膚無きまでに叩きのめすけど。

 衛宮くんのような素人に本気を出してもフェアじゃないしね。」

 

 

 

だけど…と、遠坂は今度は真剣な眼差しに変えて言い続けた。

 

 

 

「これで貴方に対する貸し借りは無しよ。次からはお互い敵同士…心おきなく倒しちゃうから悪く思わないでね衛宮くん。」

 

 

それだけ言って、遠坂は玄関の方へ向かって廊下の向こうへ歩き去って行った。

…なんだか、ほんの少しだけど。遠坂という人物について少し知れたような気がする。

俺の中では学園のマドンナで、品行方正で誰も彼もが憧れる存在っていう認識だった。

でも、本当はいつも人前で見せているような感じじゃなく、さっきまでの態度が本当の遠坂なのかもしれないな。

 

 

「…それにしても、セイバーが落ち込んでいるとは―――…」

 

 

本音を言えば、想像もつかない。

あのセイバーが落ち込むなんて―――…というより、セイバーをヘコませたバーサーカーって、やっぱりヤバい奴だな…。

昨夜の戦いを思い出す…ランサーを退けたセイバーの剣戟が通じないどころか、一方的な展開だった。

しかも、相手は銃を武器としながらも接近戦を仕掛けてきたのだ。それでいてセイバーを終始、劣勢に追い込んだ。

 

 

(俺も―――――…強くならなくちゃな。)

 

 

自分の掌を見ながら思う。

あの時は、セイバーだけを戦わせてしまった。それじゃ、ダメなんだ…。

バーサーカーの攻撃を受けて、地面に崩れ落ちたセイバーの姿が脳裏に浮かんだ。

…思わず、握った拳がより一層に力が入る。

 

 

「次からは、俺も一緒に戦おう…もう、セイバーを一人っきりで戦わせたりしないぞっ。」

 

 

握り拳を作ったまま、自分の中で決意表明をする。

セイバーを一人で戦わせない。彼女の隣で一緒に戦う!

その為には、もっと鍛錬や修行をして、他の魔術師やサーヴァントから身を守れるくらいに強くならなきゃ!

 

 

「よーし、やってやるぞ―――――…!!」

 

 

 

 

やる気満々に意気込む――――…しかし、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

この聖杯戦争の裏にある―――――…数々の陰謀と。

 

 

 

 

未だ隠されたまま―――――――…俺に計り知れない多くの謎が。

 

 

 

 

 

 

そして、俺自身の未来の姿―――――…その生涯…俺はそれを知ることになる。

 

 

 

 

この戦いで――――――…

 

 

 

 

 

 

 

そんなことも知らず。この時の俺は意気込んだことで、まだ抜け切れていない倦怠感に再び襲われる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

冬木教会で士郎一行達との戦いを終えた俺ことバーサーカーは、我が主様と共にアインツベルン城へ帰ってきた。

昨夜のアインツベルン陣営での初戦闘は結構いい感じに戦うことができたと思う。

マスターからの魔力供給も安定していて、実戦での活用にも問題ない。

加えて、敵方の陣営における戦力と実力を知ることができたし、俺が今のところあいつらに負け劣ることもないということをイリヤにも知ってもらえたと思う。

さらに――――…これは単なる私情なんだが、士郎がこれから自分が何をすべきなのかを考える良い経験になったんじゃないかと思う。

 

今頃、自分も強くなろうという結論に至って、たぶんセイバーにでも頼んで剣の修行しようとしてんじゃないかな?

原作でも同じようにセイバーに頼んで自己防衛交えての特訓をしていたな。何度も何度も打ちのめされていた姿が印象的だった。

 

 

まぁ、そういう苦労を重ねて強くなっていくのが衛宮士郎の異常さでもあり、魅力でもあるんだがな。

 

 

けど、何故か原作じゃ最優にして強者であるセイバーを引かせて、自分が戦おうとしてたのには流石にドン引きだったわ。

バカにするわけじゃないけど、人間がサーヴァントと戦おうとするなんて猛獣の口に頭を突っ込むようなモノだ。

しかも、士郎は魔術師ではあるものの、半人前に毛の一本すら生えていない半人前以下の実力しかない。

それには、色々な事情があるんだけど――――…それを抜きにしても、生身の人間がサーヴァントと戦おうすること自体、信じられない。

 

 

 

あのハイスペック人外主人公の「両儀式」でさえも、本来の獲物である日本刀と自分の能力をフルで使って“防戦”に徹するなら…とまで言われるほどなのだ。

 

 

 

もともと、両儀式という常識外れと比べるのも間違いでもある気がするが…それでも人間がサーヴァントと戦うなんて“普通”は考えないものだ。

――――…まぁ、士郎も両儀式に匹敵こそしないが負け劣らずの異常な能力を持っているんだけどな。

 

 

 

話が脱線したな。

 

 

 

まぁ、つまるところ…士郎にとって何かしらの良い影響を与えることが出来たんじゃないかってこと。

とりあえず、もう一人で戦おうとは考えなくなった―――――…と、願いたい。

少なくとも、セイバーと一緒に戦うって答えになっていて欲しいけど。

 

 

 

そんなことよりも!

 

 

 

そんなことは置いといてだ!

 

 

 

 

 

 

「なんで俺は正座されているんですかねぇ。」

 

 

 

 

そう――――…城の一室にて、俺は現在進行中で正座をさせられている。

何故、このような経緯になったのかは分からん。ただ、帰って来るなりイリヤに正座をすることを命じられた。

無論、訳が分からないといったように説明をすることを頼んだのだが聞く耳持たず。

マスターの阿修羅のようなオーラと気迫に圧倒されてしまい。今に至るという訳ですハイ。

 

 

 

怖ぇぇよウチのマスター!

 

 

 

謎の圧迫感と言うべきか、反抗してはならない空気といいますか威圧感のようなものがあった。

あんなんされたら、どんなサーヴァントだって命令聞いちまうわ!!

原作でヘラクレス先輩がバーサーカーだというのに、イリヤには従順だった理由が少しわかった気がする…。

 

 

「…いや、まぁ…なんとなくだけど、正座させられた理由みたいなのは薄々感づいているけど…。」

 

 

 

ため息交じりに呟いていると、後ろからガチャリとドアノブが捻られた。

ぎぃ。と古臭い木の扉の向こうからやってきた影を見て思わずびくりと体を震わす。

腰まで伸ばしている白銀の髪がゆらゆらと揺らしながら部屋の中に入ってきた少女は我が主様である。

 

 

「……」

 

 

 

入ってくるなり、何も言わずに表情だけを不機嫌なものに変える。

 

 

 

わぁ。やっぱりなんか怒ってますねぇ。

その赤い瞳を釣り上げて、如何にも私怒ってますみたいな顔をしている。

普段、俺のほうが身長が高いのに正座しているせいでイリヤに見下ろされる形となる。

それが無駄に威圧的で、見下ろされているこっちは胃がキリキリと痛むぞ。

 

 

 

うわぁ…この空気なんか嫌だなぁ。

 

 

 

冷や汗をかきながら、俺は正座を維持したまま主様の冷たい視線に耐え抜く。

く、くそう…なんかやりづれぇな。見下ろしているイリヤもなんも言わねぇし。

やっぱり、ブリューナク使ったの不味かったかなぁ…でも、ああしないとアーチャーの螺旋剣が飛んできそうだったしなぁ。

螺旋剣を見逃したら、色々と被害が出るし――――…まぁ、それは俺もなんだけどぉ。

 

 

 

万が一、螺旋剣の余波で士郎が死ぬなんてことが起きたらダメだしさ。

 

 

 

士郎の命と比べりゃあビルの一角なんて大したことねぇだろ!

崩壊した瓦礫もブリューナクの余波で木端微塵に吹っ飛ばして、下を歩いている人にも落ちることはなかったしな!

 

 

 

つーわけで――――…

 

 

 

 

俺は誰も殺してねぇ!!

 

 

 

 

 

「…ねぇ。バーサーカー?」

 

「は、はいいっ!?」

 

 

急に呼ばれて飛び上がりそうになった。というか、飛び上がった。

俺の情けないその姿を見て、イリヤはため息交じりに言い続ける。

 

 

「…もういいわ。正座を解いても。」

 

「え?あ?そ、そうか…?」

 

 

正座を解いても良いという赦しを得たので、崩して俺は胡坐をかく。あー、いてて、やっぱり痺れるなぁ…。

サーヴァントになっても足が痺れたりするのか…痛覚とかそういった感覚は人間と同じなんだな。

これは一つ、豆知識を覚えた覚えた――――…どこで披露すんのかわかんねーけど。

 

 

「ちょっといいかしらバーサーカー。」

 

 

 

一人で勝手に頷いていると、イリヤが近くにあった椅子に腰かけて呼び止めてきた。

 

 

 

「なんだいマスター?」

 

「聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 

 

ほう、なんだろう。

改まって、聞く事となればやっぱり先の件であるブリューナクかな?

まぁ、アレの威力のデカさに問題ありと思うのも無理はないが、あんなのは俺の中では氷山の一角に過ぎ―――――…

 

 

「別に昨夜の宝具について聞く事なんてないわ。自分のサーヴァントが最強であるという証拠だもの。

咎める理由なんて、何一つ無いわ。」

 

 

おうふ。遂にうちのマスターは相手の心を読むすべを手に入れてしまったのか。

はたまた、俺の顔に出ていたのだろうか…そんな下らないことを考える事よりも、さり気無く恥ずかしい台詞を言われて絶句しましたハイ。

 

 

「…まぁ、やり過ぎだとは思うけどね。“あんなもの”を不用心に何度も撃たれまくられたら流石にドン引きだけど…」

 

 

 

 

 

あ ん な も の!?

 

 

 

 

 

 

まだ、日本語が慣れていないのかな。

俺の耳では、結構な罵倒モノな言葉が入って来たのだが聞き違いかなぁ。

 

 

「ま、そんなくだらない事はどうでもいいのだけれど。」

 

 

おやおや、言うだけ言っておいてどうでもいいときましたか。

最近の若いのは無気力でいかんねぇ…もう少し、未来について真剣に話しましょうや(意味不明)

 

 

「私が聞きたいのは、それとは別な事よ。」

 

「我が主様よ。聞きたい事があるなら、早く言ったらどうだ…」

 

 

この後も、やらなきゃいけない事や確かめなきゃいけない事が山積みなんでね…。

と、言ったものの本心では、これ以上マスターに自分の評価を下げられるのが嫌なだけなんだがな。

そんな情けないことを思っていると、我が主様がこちらに視線を向けているのに気が付く。

なんだろう…どことなく、慈愛に満ちていると言うべきか…。

いや、この場合は悪い所を指摘されて不貞腐れた息子を微笑ましく見守る母親のようだと表現すべきか…?

 

 

「そうね。悪かったわ。じゃあ、単刀直入に聞くけど――――…バーサーカー、貴方の目的は何?」

 

「…目的?」

 

 

はて、我が主様は何を言っているのだろうか?

今さら、何を聞いているのだろうと俺は怪訝そうな表情を隠す事なく顔に表す。

 

 

「目的なんて、聞くまでもないだろ?聖杯を手に入れることは、どこの陣営も同じこと――――――…」

 

 

 

 

 

 

「言い方が悪かったわ、言い変えましょう―――――――…貴方の聖杯に対する願いは何かしら?」

 

「……」

 

 

聖杯戦争に参加しているマスターとサーヴァントなら、必ず聞かれるだろう質問に俺は言葉を詰まらせた。

この手の質問は、俺にとってあまり触れられたくない部類の話だ。

サーヴァントの情報開示もさることながら、こういった質問は悪く転べばパートナー間で亀裂が生まれるからだ。

主にヒビ割れの原因となるのが互いの方針の違いとか、過去の行いとかで懐疑的な方へ縺れちまうとか。

 

そう考えると…Fate/Zeroでの切嗣とセイバーのパートナー間は最悪だったな。

なんつーか、マスターである切嗣が一方的にセイバーとの関わりを断っている所もそうなんだが…

主と従者のスタンスが真逆だったし、価値観も論理的思考も含め全てにおいてソリが合ってなかった。

 

 

 

セイバーが太陽とするなら、切嗣は月。

 

 

 

セイバーが人々を照らす陽光だとするなら、切嗣は全てを塗りつぶす影。

 

 

 

セイバーが清廉な水であるなら、切嗣はそれを掻き乱す油である。

 

 

 

 

…うんまぁ。こう言った具合に例えても、あの二人は相性が悪かったな。

よくまぁ、あんなんで最後まで戦い抜いたと思う…理由は、ひとえに二人とも頑固で負けず嫌いだったというべきか。

俺には上手く説明できない――――――…信念のようなモノがあったに違いない。

仲はクソ悪かったけどな。

 

 

 

まぁ、そういったことを対処する(強制的に)為の令呪なんだけどな…。

 

 

 

話がまた脱線したな。

とりあえず、言える事は非常に今現在ピンチである。

ただでさえ、素性不明な従者なのに目的さえ分からんとなると、イリヤにとってかーなーり不安だろうな。

 

 

(まずいな…。)

 

 

もう、何度目か分からないほどピンチに陥っている。

こういった、やり取りは俺にとって非常に好ましくないな…。

さて、どう返答したものか――――――…

 

 

「…なんてね。言ってみただけよ。答えなくてもいいわ。」

 

「は…?」

 

 

あ、れ?

なんか、答えなくてもよくなったみたいだぞ?急にどうしてだ?

我が主様の急な態度の変化に首をかしげていると、当の本人はクスリと笑みを浮かべてから口を開いた。

 

 

「なんで?っていう顔をしているわね。別に理由なんてないわ…ただ、言ってみただけだもの。特に理由なんて無いわ。」

 

 

それは果たして本当だろうか?

どこか、釈然としない気持ちになり俺は再び首を傾げる。

本当に理由なしに聞いてみただけだろうか…さっきの表情を思い出すにイリヤは知りたかったんじゃないだろうか。

俺の真名を、俺という英雄が一体どんなことを成し遂げたのか…知りたかったのではないだろうか…気のせいかな。

 

 

「マスターは俺の正体とか、目的とか知りたくはないのか?

仮にも、サーヴァントとマスターだし―――――…こう、やっぱ聞きたくなるもんじゃないか?」

 

 

「あら。じゃあ、教えてくれるのかしら?貴方が一体何者なのか。」

 

 

いらん墓穴掘った気がする!!

いい感じに流れる話だったのに、わざわざまた掘り返しちまった!

やっぱり、会話の駆け引きとか交渉みたいなのは俺に向いてないかもしれんな…ボロが出まくる…。

また、言葉に詰まって俺を見てイリヤは悪戯が成功した子どもみたいに答えた。

 

 

「冗談よ。知りたいのは山々だけど、まだ答えられないのでしょう?なら、無理に聞こうとは思わないわ。」

 

「でも……」

 

 

 

それに―――――…と、浮かない顔の俺にイリヤは言葉を続けた。

 

 

 

 

「貴方はセイバーとアーチャー…三騎士のサーヴァントを二体相手にしながらも、それらを退け。

 

 私に答えてくれた―――――…だから、今はそれでいいの。貴方が私が話してくれるのを待つわ。」

 

 

 

 

うちのマスターが凄く良い女に見えた。

その可憐で優しい笑顔に思わず俺は見惚れてしまった。

同時に何かすげぇ申し訳ない気持ちになった…この人は、素性が一切明かしていない不信感の塊みたいな俺を信じて待っているのに。

今の俺は、何一つ答えてやることができない…それが、もどかしくて嫌な気分になる。

 

 

 

自分を想ってくれる主に答えてやれない。

 

 

 

すごい悔しいな…これ。

 

 

 

 

「…悪いな。いつか、話せるときが来たら必ず話す。」

 

 

 

今、俺が出来るのは我が主様に頭を下げるしかできない。

もどかしいが、今は我慢するしかない……イリヤを救うためには、計画をここでやめるわけにはいかないからな。

ここはぐっと堪えろ、そして…代わりに俺が言ってやれる言葉は―――――…

 

 

 

 

「だけど…これだけは信じてほしい。俺は絶対に君を裏切ったりしない。

 

 召喚されたあの日に誓ったことは嘘じゃない。この身は君を守るための影であり、君の敵を倒す剣だ。」

 

 

 

 

 

じっと、イリヤの赤い瞳を見つめて答える。

この言葉に嘘はない。どんな敵がやってきても彼女だけは絶対に守って見せる。

 

 

 

 

例え、世界中が敵になっても。

 

 

どんなサーヴァントが襲い掛かってきても。

 

 

あの英雄王が慢心を捨てて殺しにかかってこようと、外道神父がどれだけ悪行を重ねようとしても。

 

 

 

 

 

 

俺は絶対にこの子だけは守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

んでもって、俺が絶対に―――!!

 

 

 

 

 

 

「この聖杯戦争を勝ち抜いて、イリヤは絶対に俺が幸せにしてみせるぜ!!」

 

 

 

グッと握り拳を作って高らかに宣言する。

おおとも!イリヤは今までたくさん苦しい思いをしたんだ、彼女は必ず幸せになるべきだ。

そのためなら、俺はどんなサーヴァントが相手になろうが絶対に負けないぞ!!

槍でも鉄砲でも持ってこいってんだ!!

 

 

 

そんなことを一人で勝手に思っていると、ふとイリヤから何の反応も帰ってこないことに気が付いた。

 

 

 

はて?と視線を向けてみると、そこにあったのは口を開いたまま放心状態の我が主様がいた…なんですか、その表情(かお)は…?

 

 

 

やがて、しばらくすると顔を茹ダコみたいに真っ赤に変えたのち、ボン!と蒸気のようなものが出た―――…って、おいおいおい!

 

 

 

「どうしたイリヤ!大丈夫か!?」

 

 

 

我が主様の奇怪な様子を見て、俺は思わず駆け寄ろうとした―――…その瞬間!

 

 

白いウサギがデフォルメされたぬいぐるみが、顔面に飛んできた!!…いてっ。

 

 

「…なんですかねこれは。」

 

 

突然の攻撃に対処できなかった俺はジト目で睨みながら言う。

おかしい。なぜ、俺は守るべき対象から攻撃を受けるのだろう…。

投擲武器として使われ、今や役目を終えて床に落ちたウサギさんに視線を移す―――…ごめんよウサギさん。キャッチできなかったわ…。

 

 

どことなく悲しげな顔をしているようなぬいぐるみに合掌しつつ、ウサギをぶん投げた原因を見る。

 

 

…顔を真っ赤にして、肩で息をしていますねぇ。

なんだろう、生前に見たラブコメに同じような場面があった気がする。

タイトルは忘れたけど、確かこの後…第二波が飛んできたような―――…いてっ。

 

 

 

今度はクマが飛んできて、次にライオンを飛び、その次にトラとペンギンのぬいぐるみが―――…って、まてまてまて!!

 

 

 

「ちょっ、まてっ、おいっ!何だよマスター!?何がしてぇんだよ!?」

 

「うるさいうるさい!!あ、貴方が変なことを言うからでしょ!?」

 

「本音を言っただけだろ!!変なとか言うなよ!こっちは、本気で言ってんだからさ!!」

 

「ほ、ほほほ、本気って貴方ねぇ!?」

 

 

 

ぽんぽんと、こちらをめがけて飛んでくる無数のぬいぐるみたち…。

なんだろう、うちのマスターは王の財宝(ぬいぐるみ限定)でも使えるのだろうか。

 

 

 

つーか、この部屋にどんだけぬいぐるみがあんだよ!?

 

 

 

「もう知らない!ばかばかばか、バーカーカー!!」

 

「おい、またその名前で呼んだな!?それはやめろって言ってんだろ!?」

 

「うるさいうるさい!どっかいっちゃえ!!」

 

 

やれやれ…と心の中で溜め息を溢す。

話を聞いてもらえそうな空気じゃないな…とりあえず、部屋から出よう。

ぬいぐるみの弾幕を上手く避けながら、俺は部屋から上手く抜け出た。

 

 

 

良いこと言ったつもりなのに、彼女にはお気に召さなかったようだ。

 

 

おかしいなぁ…なんか変なこと言ったかなぁ。

 

 

自分なりに主様を想っての言葉であったのだが……解せぬ。

 

 

 

「…女心と秋の空ってやつか…?」

 

 

一人でに呟くが、その場に誰もいないため返答は帰ってこなかった。

なんだか、余計に切ない気持ちになった……。

 

 

「まぁ、そのうち機嫌を直すだろ……とりあえず、計画を“次の段階”へ移すかな。」

 

 

七人のサーヴァントが揃い、聖杯戦争は始まったばかりだ。

改めて気を引き締めていこう。今のところ大丈夫だが、この後に必ずしも俺の知っている事が起きるとは限らんからな。

いつ、予測不明な事態が起きてもおかしくない。その時、自分一人だけで解決できるとは断言できない。

だからこそ、そんな状態にいつなっても対処できるように協力し合える仲間が必要だ。

 

 

 

…よし。では本題に入ろう。次に俺が行うことは――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の作戦はキャスター―――…『コルキスの王女メディア』を味方につけることだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の投稿は11/22に予定しています。
詳しい詳細は近いうちにTwitterなどで掲載するので、よろしければご覧ください。


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第八夜 決意

そういえば、特に言ってなかったのですが。
バーサーカーの真名は
『黒帝の破壊者』(こくていのはかいしゃ)と読みます。

”くろみかど”ではないのでお気を付けくださいww


※H30 2/21 宝具発動台詞をオリジナル要素を入れて『曲死』にしていましたが、度々のご指摘があったために『直死』に直します。誤字報告ありがとうございました。



それでは、どうぞ!


遠坂が帰ってから、しばらく安静にしたことでやっと動けるようになった俺こと衛宮士郎。

体の疲れは完全には癒えてはないものの、動かす分には支障がないところまで回復した。

布団をたたみ、部屋から出て腹ごしらえをするために台所へ向かうと作り置きのお粥の鍋が置いてあった。

今日は桜が来る日ではないと分かっていたため、遠坂が作ってくれたのだろう。

 

 

…遠坂には、昨夜から助けられっぱなしだな。

 

 

今度、会ったら礼を言わなきゃな。

そう思いながら器に粥をよそい、いただきます。と挨拶してから一口食べる。

…丁度いい塩加減と卵の味が出ていて美味い。

疲労の体を癒すにはピッタリな味付けと、喉越しのいい食感だ。

 

 

「遠坂って、料理できるんだなぁ。」

 

 

 

粥をすくったレンゲを口に運びながら、脳裏に勝ち誇った顔の赤い少女の姿が思い浮かんで苦笑してしまう。

とりあえず、言いたいのはお粥は凄く美味かった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

粥を食べ終え。食器を片付けた後、俺は離れにある屋敷の道場へやってきた。

遠坂の話に聞くところによると、セイバーはこの中にいるらしい。

目が覚めてから、今現在に至るまで一度もセイバーの姿を見ていない…。

居間で粥を食べている間もセイバーが顔を出すことは終ぞなかったわけで…。

 

 

「心配になってここへ来たわけで…」

 

 

 

と、言いながら道場の扉を開けて中へ入ると――…

 

 

 

室内の中央で正座をしたまま精神統一をしているセイバーがいた。

 

 

昨夜に着ていた鎧はなく、青いドレスを着たまま…窓から差し込む陽光に照らされるセイバー。

 

 

どこか神々しい姿に俺は言葉を失ったまま見惚れてしまっていた。

 

 

 

少しの間、黙ったままの時間が続いているとセイバーの方がこちらに気が付いた。

 

 

「シロウ。目が覚めたのですか。」

 

 

昨夜の出会ったときと変わらず、凛々しい表情で言う。

だが、声音がどこか嬉しげなものを感じるのは俺が目を覚ましたからかな?

そう考えると、どれだけ寝てたんだよ俺は…と、思わず溜め息を吐いてしまう。

遠坂だけでなく、セイバーにも色々と迷惑を掛けたみたいだし…情けないなぁ。

 

 

「シロウ?」

 

 

でも見た限りセイバーは無事そうだし…まぁ、いいか。

首を傾げてこちらの様子を伺っているセイバーに「なんでもない」と言いながら、彼女の許へ向かう。

姿勢をセイバーの方へ向けて、対面する形をとって道場の床へ座った…あ、そういえば今日は、まだ道場の中を掃除してないや。

 

 

「体の具合は如何ですか?どこか、不調だとかございませんか?」

 

「ああ、まだ疲労が完全には抜けきってないけど問題ないよ。逆に鈍りきった感じで気持ち悪いくらいだ。」

 

 

今すぐにでも体を動かしたいよ。と右腕の力こぶを見せる仕草をする。

俺のその姿に、セイバーは笑みを浮かべながら安堵している様子だ。

 

 

「セイバーは大丈夫か?昨夜の戦いでどこか怪我をしたとかはないか?」

 

 

「ええ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます…。

ですが、私たちサーヴァントは魔力のパスさえあれば自己修復するので、そういった配慮は必要ありませんよ。」

 

「いや、何言っているんだよ。サーヴァントだからそうかもしれないけど…セイバーだって女の子だろ?

女の子が傷ついて黙ってみてるなんて、男がすることじゃない。」

 

 

彼女の言動に俺は少しばかりか反感を覚えた。

いくら英霊とかサーヴァントと言っても、セイバーが女の子ということに変わりない。

そう言うと、セイバーはムッと目を吊り上げて口を開いた。

 

 

「シロウ。私を女として扱うのはやめてほしい。

この身はサーヴァントであると同時に騎士であるのだから、そういった甘い価値観に付き合わせないでほしい。」

 

「甘いって……なんだよそれ、セイバーのことを考えて何が悪いんだよ。」

 

「ですから、そのような対応が必要ないと言っているんです。今の私は戦うだけの存在なのですから。」

 

 

ああいえば、こう言う!

初めて知ったよ。セイバーってとても頑固者だったなんてさ。

俺たち二人は、そのまま互いの主張を譲らないまま……気付けば、口論になっていた。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

こうしたやり取りが数分間続いて、やがて睨み合いへと発展した。

 

 

 

 

本当に頑固者だなセイバーは…!!

このままだと、一生続きそうだ…セイバーが折れてくれるような様子は見られないし。

けど、俺の方も妥協するわけにはいかないしな……セイバーは戦うことが目的なんだろうけど。

セイバーが傷つく姿は、できれば見たくないし――――…ううん…俺はただ、彼女の力になりたいだけなんだけどな…。

 

 

「…いいえ。マスターがそう考えるのも無理もないですよね。」

 

「え。」

 

「昨夜のバーサーカーとの戦いを見れば…どんなマスターだって不安になるでしょう。

あのような無様な醜態を晒しておいて、シロウに女として扱うななど言える立場ではありませんよね。」

 

 

申し訳なさそうにセイバーは視線を逸らしながら言う。

そういえば…遠坂がセイバーが落ち込んでいるって聞いて、話を聞きに来たんだった。

すっかり、忘れていた……同時に悪いタイミングで思い出しちゃったみたいだ…。

 

 

「あの時の敗北は、私の力が及ばずの結果です……。

狂戦士に遅れを取るどころか、満足にマスターさえ守れないなど…最優のクラス「セイバー」失格です私は…。」

 

「そんなことないって!あれは、バーサーカーの強さがおかしいだけで、セイバーは何も悪くない!」

 

 

 

だから、気負う必要はないと伝えるも、セイバーは首を振って答える。

 

 

 

「違うのですマスター…力や技術で遠く及ばないのなら、私も精進致します。

ですが…私は、あのバーサーカーに手加減された上に、手も足も出せず負けてしまった。」

 

 

手加減をした…?

あれだけ強大な猛威を振るっていたバーサーカーが、あれで手加減していたっていうのか…!?

 

 

 

 

 

「…シロウ、貴方は気付かなかったのですか…?

バーサーカーは、銃を武器として使っていながらも…戦闘中、“一発も銃弾を放っていない”のです。」

 

 

 

 

 

 

「あっ――――…!!」

 

 

 

 

セイバーの言葉を聞いて、ハッと脳裏に昨夜の戦闘の映像がリプレイされる。

 

 

…確かにあのとき、バーサーカーは一度たりとも引き金を引いていたなかった。

 

 

それどころか、銃で接近戦に持ち込み…セイバーを圧倒した。

 

 

 

 

「私は剣士のサーヴァントです…接近戦なら誰にも劣ることはない。むしろ、接近戦では負けることはないでしょう。

例え、それが最凶の戦士であっても――――…ですが、あのサーヴァントはそれすらも凌駕してきます。

あのようなサーヴァントは、私も初めてです…狂戦士でありながら、まるで理性があるかのような戦い方をするなんて。」

 

 

 

セイバーは自分の腕に自信を持っていた。

その自信を…力や技術を捻じ伏せた上、全てにおいてこちらを上回ってくるバーサーカーに俺は改めて戦慄を覚えた。

圧倒的な力の前に、セイバーは自分の腕に自信を無くしてしまった。

最優と呼ばれたサーヴァントをここまで追い込むなんて――――…いや。

 

 

(そうじゃない…あのとき、セイバーの傍にいた俺は一体、何をしていた?)

 

 

セイバーがバーサーカーと戦い…アーチャーが援護に回り、遠坂が戦況を打破するために必死で動いていたのに。

俺だけは、何一つ役に立つことが出来なかった…遠坂と一緒に考えることも出来ず――――。

アーチャーのように弓の真似事をしてバーサーカーの注意を反らすこともなければ――――。

 

 

 

セイバーに何もしてあげることができなかった。

 

 

 

 

くそ…!これじゃあ、正義の味方になんか到底なれっこないじゃないか!!

 

 

女の子が戦ってたのに何一つしてあげられずに…。

 

 

そればかりか、俺はバーサーカーの力のせいにして逃げているだけだ。

 

 

 

このままじゃダメだ――――…セイバーに守られるだけじゃ…!!

 

 

 

 

「セイバー!」

 

 

そう考え、顔をがばっと上げて俺はセイバーを呼ぶ。

呼ばれたセイバーは、突然の俺の行動に驚いたのかびくりと体を震わせた。

 

 

「は、はいっ!なんでしょうシロウ…?」

 

「悪い!俺、あのとき…セイバーに何にもしてやれなかった!

たった一人でバーサーカーと戦わせて、遠坂やセイバーに守られてばっかで…何もできなかった!」

 

 

ごめん!と地面に顔面をつける勢いでセイバーに頭を下げる。

俺のその行動を見て、セイバーは驚いた様子で慌てて口を開いた。

 

 

「そんな…頭を上げてくださいマスター!貴方は、昨夜まで聖杯戦争を知らなかった身。

ですが、貴方はサーヴァント同士の戦いから逃げようしなかった…通常なら、逃げ出すほど恐ろしかったでしょうに。」

 

「そんなの、実際に戦っているセイバーに比べたら大したことないよ。

実際、俺は何もしていない…このままじゃ、きっとセイバーのお荷物になる…いや、実際になっている!」

 

 

 

だから――――…と俺は、顔を上げてセイバーを向き合って言う。

 

 

 

「今度はセイバーと一緒に戦う!だから、俺に稽古をつけてくれセイバー!!

俺、もっと強くなりたいんだ……これからは、君の力になれるように…だから、頼む!」

 

 

 

 

彼女の翡翠色の瞳を見ながら、俺は頼み込んだ。

 

 

もう、彼女を一人では戦わせない。

 

 

その思いで俺はセイバーに懇願する。

 

 

君の剣を自分に教えてくれ。と――――…

 

 

 

 

俺のその姿に、セイバーはきょとんとした表情をして…すぐに笑みを浮かべた。

 

 

…え、なんだ…俺、なんか変なこと言ったかな?

 

 

 

 

「いえ…そうですね。今のシロウのままだと、この先にある戦いを勝ち進むのは不可能ですね。」

 

 

ぐっ…と胸にセイバーの言葉が胸に突き刺さってくる。

だが、仕方がない…事実なんだからな。

 

 

「わかりました…剣の鍛錬、お引き受けします。」

 

「ほ、本当か!いやー、よかった…」

 

「ですが、一つ条件があります。」

 

 

 

喜んでいる俺に横やりを入れるようにセイバーが進言する。

 

 

 

「私が剣術を教えるのは、マスターが自身の身を守れるようにするためです。

決して、サーヴァントと戦うために教えるのでありません…その事を踏まえての頼みであるなら聞きます。」

 

「…わかった。それでいい。」

 

 

本当は横に立って戦いたいのだけれど。

今のままじゃ、かえってセイバーの邪魔をするだけだ。

なら、彼女が安心して戦いに臨めるように最低限、自分の身を守る術を手に入れる為の努力をしよう。

 

 

「それと――――…強くなるのはマスターだけではありません。

私も、今よりもっと強くなります…次こそは、あのバーサーカーにも遅れは取りません。」

 

 

 

なので…と彼女は言葉を紡いだ。

 

 

 

「これから一緒に……強くなっていきましょうシロウ。

貴方の隣で、貴方を守る剣として、私はこの聖杯戦争を勝ち抜き…聖杯を手に入れます。」

 

 

 

そういって、彼女は俺に手を差し伸べた。

 

 

俺は、彼女のその姿に再び見惚れてしまった。

 

 

同時に胸の内がかあっと熱くなるのが分かった。

 

 

 

 

差し伸ばされたその華奢な手を数秒を見つめた後、俺はゆっくりとセイバーの手を取って言う。

 

 

 

 

「もちろんだセイバー。これから一緒に強くなろう。」

 

 

 

 

願わくば、君がこうして笑っていられるように。

 

 

俺はもっと、今よりずっと強くなる。

 

 

 

 

 

 

俺の言葉に満足したのか、セイバーは今までよりも安らかな笑顔を見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

アインツベルン城を飛び出した俺ことバーサーカーは現在、柳洞寺の前までやって来た。

あの後、イリヤに部屋から追い出されてから次の計画のために移動を開始。

城を出て柳洞寺に向かうことにした…が、何も言わずに出ていくのは流石に忍びないということで念話で一応、主様に外出許可を貰う連絡をした。

すると、帰ってきた言葉は――――…

 

 

 

 

“勝手にしなさいよ!!今は話しかけないでちょうだい!!”

 

 

 

 

えぇ……。

頭の中で鳴り響く怒声に思わず俺は涙が出そうになった。

いやいや、なんでさ…俺、ただ伝えるべきことを言ったまでなんだが…。

 

 

 

 

ホウレンソウを守ろうとしたら、主様に叱られたでござる。

 

 

 

 

理不尽!!

 

 

 

 

まぁ、その後なんだかんだで念話を閉じる瞬間に消えそうな小さな声で。

 

 

 

“…気を付けてね。”

 

 

 

…って言われて、爆死しそうになったんだがな!

いやいや、うちのマスターあぶねぇモン持ってやがるぜ…!

まさか、ツンデレという技をこうも自在に操るとは…おそれ知ったぜ!

 

珍しく、いつものツンツンが3倍増しでデレに変わって帰ってきたことに数秒固まっちまったが。

何とか「…おう」と不愛想ながらに答えられた。

いやぁ…うちのマスターはいつも理不尽な怒りをぶつけてくるけど、なんだかんだいって俺の事を気遣ってくれるよな。

 

 

 

パスから通じてくる魔力は全力をいつでも引き出せるほどの部類だし。

 

 

でっかい城に住まわせてくれるわ、食事は与えてくれるわ。

 

 

なんも情報を提示しない怪しいサーヴァントのことを今でも信頼してくれるし…。

 

 

 

やっぱり、我が主様は最高である。

彼女が俺のマスターでよかったなぁ…と切に思っているし。

これからも、あの小さな主様を守っていこうと胸に固く決意している。

 

 

 

なんだ、ただのノロケじゃないか。

 

 

 

自分で自分の主人愛に少しばかり引いてしまう……訂正する気はこれぽっちもないけど!

 

 

 

 

 

「さて…では、本題に戻るとしよう。」

 

 

計画の第一段階「衛宮士郎、並びに遠坂凛たちと戦うこと」は達成し。

確認されているサーヴァント…今は三体のみだが、誰が召喚されているのかを知ることが出来た。

幸い確認された三騎士の英霊全て、俺の知っているものだった。

同時に今進んでいる流れも、原作通りで今のところ変わった様子はない。

 

 

序盤は終わり、物語はこれからさらに加速していく。

 

 

原作では、士郎とセイバーはこれから騎乗兵のサーヴァント『ライダー』とそのマスターの間桐慎二と戦うことになるだろう。

 

 

確か、ワカメが学園を乗っ取って鮮血魔城――――…は、違うやつだ。

 

 

学園全体を鮮血神殿にして、生徒や教師たち全員から生命力を巻き上げていたんだったな。

 

 

 

 

赤く染まっていく学園に次々と倒れていく生徒と教師たち…。

 

 

 

その中には士郎の大切な友人たちや後輩、姉もいて――――…

 

 

 

 

「っ、くそッ。」

 

 

生前に見た映像の景色を思い浮かべて、俺は気持ち悪さと歯痒さに悪態をつく。

やっぱり、あのワカメは許しちゃあおけねぇわ。

昔に何があったかは正直、うろ覚えで分かんなくなったけどさ…。

辛い思いとかいっぱいしてきたんだと思うけどさ…。

 

 

 

 

「人を――――…命を、あんな風に弄ぶ奴を俺は許さない。」

 

 

 

 

鮮血神殿は何としてでも俺がぶっ壊してやる…聖杯戦争に犠牲者なんて、出してはいけないんだ。

俺たちの自分勝手な戦いに巻き込むなんて間違っている…もう、第四次みたいな被害を出すわけにはいかない。

…ふぅ、少し熱くなっちまったな。

 

 

話を元に戻すか…とりあえず、俺が柳洞寺に来た理由は一つ。

 

 

魔術師のサーヴァント「キャスター」を味方にするためである。

 

 

 

なぜ、そうする必要があるのか…理由を話す前に俺がいつも言っている計画が何なのか伝えるとしよう。

 

 

 

まず、俺がこの第五次聖杯戦争で掲げている最終目標は「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを救うこと」である。

知っているやつもいると思うが、この聖杯戦争の最大の優勝景品である聖杯っつーのは、ぶっちゃけイリヤのことを指している。

イリヤはいわゆる、願いをため込むための器……つまり、水を注ぐための空のコップのような役割を持っており。

その水というのが“願い”…勝利者の望みを叶えるための力の源だ。

 

 

水をすべて満タンにしたとき願いは叶うってわけだ。

 

 

そして、その水を器に入れる方法がサーヴァントの消滅ってことだな。

 

 

だからこそ、七体の英霊…そしてマスターたちは殺し合いをするのだ。

 

 

 

最後の一人(一体)になるその日まで。

 

 

 

 

…上手くできたシステムだよなぁ。

みんなが叶えれるわけでなく、たった一人しか叶えられないなんてな。

結局、みんな殺し合いをするしかないんだからさ。

 

 

「でもそのシステムも狂ってんだけどな。」

 

 

第三次聖杯戦争でアインツベルンはルール違反をして、エクストラクラスのアヴェンジャーを召喚したってことは前に言ったよな。

そのアヴェンジャーが思いの外、使えなくてすぐに脱落したってことも知っているはずだ。

話の本番はここからだ…アヴェンジャーが器に注がれたことで聖杯は汚染されてしまったんだ。

聖杯は真っ黒に歪んでしまって、勝利者の願いを叶えるというシステムが間違った方向へ進んでしまった。

 

 

 

要するに…願った内容が極端なモノに変わっちまうってことだ。

 

 

 

例えば、恒久的な平和をその聖杯に願ったとしよう。

 

すると、システムはその願いを「その願った人間以外全ての生物を滅ぼす」という風に叶えてしまうのだ。

 

どんな願いでさえも汚染された聖杯には、歪んだ形で叶えられてしまう。

 

あれだけ頑張った末に勝ち取った勝利が…こんなに歪められしまうなんて常人なら耐えられないだろうな。

 

 

 

「機械のように徹していた切嗣でさえ、壊れちまったんだからな。」

 

 

生前の記憶を思い出しては、すぐに俺は頭を振って思考を元に戻す。

今は切嗣に同情している場合じゃない。

聖杯が完成されると、イリヤも本懐を遂げて死んでしまう……そんなの、俺は見たくない。

 

 

 

 

俺の目的はイリヤを救うことだ…聖杯の器になんかさせてたまるか。

 

 

 

そうさせないために、器の中に願いを貯めることだけは避けなくちゃならない。

 

 

 

だからこそ――――…

 

 

 

 

「七騎のサーヴァント…並びに全てのマスターたちの生存。」

 

 

 

目的の一つ。もう一つは――――…

 

 

 

「汚染された聖杯の破壊、並びに浄化することだな。」

 

 

聖杯の事も放ってはおけない。

イカれた願望機になった聖杯も何とかしなくてはいけないだろう。

 

 

 

 

そして、もう一つ――――…

 

 

 

 

「あいつのことも何とかしてやんないとな。たぶん、放っておいたら間違いなく士郎を殺すだろうし。」

 

 

頭の中に過ったのは、赤い弓兵の姿。

あいつは……アーチャーは今も、自分自身を許せていない。

今んところは大丈夫だけど、いつ後ろからバッサリやっちゃうか分かんないからな。

…放置するわけにはいけないよな。まぁ、追々何とかしていくとするか。

 

 

「ま、そんな諸々のことを俺一人でやるなんて流石に無理なんで、な。」

 

 

そういうこともあってか、魔術などで色々なサポートができるキャスターの存在が非常に欲しいところだ。

なんとしてでも味方にしなければならない…!!

 

 

「ここが正念場だなぁ…よぉぉし。」

 

 

気合を入れなおすか。

柳洞寺の階段の前で準備体操をする俺。

膝の屈伸!いっちにーさんしー…ゴーロクシチハチ!

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

「おけい!いくぜぇ!!」

 

 

一通りのウォーミングアップを終えてすっきりとした気持ちになる。

そして、再び柳洞寺の長い階段の頂上へ視線を移す………かなりなげぇなこの階段。

しかも、よく見ると周りの空気ってか流れっていうか…力の流れみたいなのが感じる。

 

 

ああ、そういえば、柳洞寺には龍脈が通っているんだっけか…。

 

 

そういうこともあってか、キャスターは柳洞寺を拠点に選んだのだろう。

流石はキャスターといったところか、魔術工房の拠点選びはお手の物だな。

 

 

 

まぁ、それはさておき―――――そろそろいくとするか。

 

 

 

俺はスッ…と両手を地面に付けて前屈みに状態を倒して、腰を上げる…。

処遇、クラウチングスタートのポーズである。

 

 

「さぁ、派手にやるぞキャスター!!うおおおおおおッ!!」

 

 

ダン!と地面を蹴り上げ、俺は階段を凄まじい速さで駆け上がっていく。

サーヴァントゆえの身体能力の向上のおかげで、どんどん頂上へと近づいていく。

このままいけば、キャスターのところへ殴り込みをゲフンゲf…もとい、到着するのも時間の問題だろう。

 

 

 

 

さぁ…このまま、頂上へたどり着いて――――…ん?

 

 

 

 

「はて?」

 

 

ぴたりと足を止めて、首をかしげる。

おかしい…確かに俺は階段を駆け上がっていたはずだ…。

なのに何故―――――…

 

 

「なんでさっきからおんなじ場所から動かないんだ?」

 

 

地面のいる場所から、登り階段の中央まで辿り着いた俺だったが……

その先から、何度も駆け上がっているのにも関わらず景色が全然変わらない。

なんですかねぇこの怪奇現象は…うわーこわいなぁーこわいなぁー。

 

 

「なんてな―――――…これは何なのかはなんとなくだが分かる。」

 

 

恐らくこれは、魔術だろうな。

人除けの魔術の強化版といったところか…ある対象を永遠に迷わらせるみたいなもんだろうか。

十中八九、キャスターの仕業だろうな…俺のことを警戒しているということか。

…まぁ、そりゃあそうだろうな。当たり前か。

 

 

「さて、無駄話はここまでだ…まずはこの―――…結界をなんとかしないとなッ!」

 

 

そう呟いて、俺は右手にアスラを呼び出して近くの木に向かって引き金を引く。

銃弾が放たれる音が鳴り響き、弾丸はどこにも直撃せずにどこかの次元飛び去って行った。

なるほどー、そういうことか。

 

 

「空間を歪めている系の類か。」

 

 

一発撃ってすぐに理解した。

こういった結界は、どっかに魔力の源みたいなのがあるんだ…それを見っけて“殺さないと”な。

じゃあ、やることは一つだな…そんなことを考えながら、近くの木々へ近寄って落ちている枝一本を拾う。

 

 

「うん、これでいいか。」

 

 

ちょうどいい大きさだし。“変える”分には問題ないだろう。

時間もないし…さっさと始めるとしよう。

 

 

 

変換、開始(トランス、オン)――…。」

 

 

持っている枝に魔力を通す。

俺が今から行う魔術は、アーチャーが使う“投影”とは逆の発展した魔術。

 

 

 

イメージするのは一本のナイフ。

 

誰かが使っていたわけでもない、ただの無銘の小刀。

 

それを、今から現実へ“すり替える”だけだ。

 

 

 

魔力を流した枝から、パキキ…と赤い水晶が覆われてパキン!!と音を立てて割れる。

すると、その中から持っていただろう、枝が一本のナイフへと文字通り“変わって”いた。

 

 

 

これこそ、俺が扱う魔術の一つ……『変換魔術』だ。

 

 

 

持っている物体を、自分が思い描かくモノに変える魔術だ。

これは、英雄時代にジェラルから最初に教えてもらった魔術であり、今までも多くに渡って多用してきた。

ジェラル曰く、これは本物を複製する投影魔術とは違い…変換魔術は“偽物を本物”に変える魔術だとか。

持っているモノの形状によるが、実際さっきのように武器じゃないものもその気になれば武器に変える事が可能だ。

 

 

「で…次は、と。結界の源か…。」

 

 

それを探すには骨が折れるだろう。

簡単な位置にキャスターを隠すわけないし…しょうがない。

 

 

「『宝具』使うか。」

 

 

 

その方が簡単そうだし。

 

むしろ、それしかないんじゃないだろうか。

 

 

 

それだけ考え、俺は瞳を閉じて精神を集中する――――。

 

 

 

「――――――――…“直死”。」

 

 

 

 

 

 

言葉とともに瞳を開けると、世界の景色が変わる。

 

 

 

 

先ほどまでなかった――――…“線”と“点”が辺りに一面に存在していた。

 

 

 

 

線と点が交差する景色は、ぐにゃりと歪んでおり…それを見るだけで吐き気を催してしまう。

 

 

 

 

だが…あいにく、俺はこれに“慣れて”しまったから何の問題もない。

 

 

 

とにかく、このまま俺は結界の源を探す……そして。

 

 

 

 

「――――…あった。」

 

 

 

 

 

この空間の中で一際、大きな青黒の点。

 

 

 

それを束ねるように無数に絡み合う青黒い線。

 

 

 

俺は――――…それに近づき…持っているナイフで――――…

 

 

 

 

 

 

線を“なぞり”。点に“突き刺した”

 

 

 

 

 

 

すると、その場の空気が震えているかのように空間が歪み…。

 

 

 

最後にはガラスのようにバリン!!と音を立てて“無くなって”しまった。

 

 

 

 

これが俺の宝具――――…英雄としての証でもある力。

 

 

 

 

 

『直死の魔眼』である。

 

 

 

 

 

万物にはあらゆる綻びがある。

 

俺の眼はそういった、モノの死を見ることができる。

 

 

 

さっきのように線をなぞり、点を突き刺すことで“殺す”ことが出来る。

 

 

 

まぁ、詳しいことはまた追々話すとして。

無事に結界をぶっ殺すことが出来たようだな…あとはキャスターに会うだけか。

それだけ考え、俺はふとナイフへと視線を向ける。

 

 

 

結界破壊のために用いられたナイフは刃こぼれをしており、刀身もひび割れて使い物にならなくなっていた。

 

 

 

これが変換魔術の欠点だ。

変換魔術は物体を自分の好きなものに変えられるが、その形状と同じ…あるいは近しいものにしか変えられない。

それと、物体と同じランクのものにしか変えられないのも欠点だ。

まぁ、要するに…おいそれと好き勝手にできるなんてことはないっつーわけだ。

 

 

 

「さて…随分と時間がかかったな。さっさと上へいくか…」

 

 

 

 

 

 

もはや用済みになったナイフをその辺に投げ捨てて、俺は階段を再び登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 




なんか軽い感じで宝具がでてきましたが、こういったところじゃないと活躍する場がない気がする。
そして、セイバーを落ち込ませるバーサーカー…なんて恐ろしい子。


次回もよろしくお願いします。


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第九夜 キャスターと交渉

短めです。すいません…


キャスターを仲間にするために柳洞寺へとやって来た俺ことバーサーカー。

英雄時代に培ってきた魔術と宝具を駆使して、何とかキャスターの仕掛けた悪趣味な結界を突破。

今思えば、悪質にも程があるよな…全力で階段登っているのにずっと同じ景色しか見れないんだぜ?

これが、俺じゃなくて普通の人間が引っ掛かったらどうするつもりだってんだ。

 

宅配の人とか来てみろ。

わざわざ遠くから物を運んできたのに目的地に着かないって酷だろ!

一生懸命に仕事してんのに!!

 

 

 

キャスターには、こっぴどく言ってやらんといけんな!と関係の無いことを考えていると頂上へ辿り着いた。

 

 

鳥居のように大きな塀の門の向こうには、広々とした敷地が広がっていた。

 

 

 

おおう…ゲームでもスゲェ広いなとは思っていたが、実際に目の前にしてみたら想像以上に広いな…。

その向こうにある寺がキャスターの拠点である柳洞寺だろう――――…

 

 

そんな事より…。

 

 

そんな事よりだ……ッ!!

 

 

 

 

「りゅ…柳洞寺キタァァッ!!(°∀ °)」

 

 

 

 

俺は再びオタクモードへと入ってしまう。

型月ファン故の反射条件みたいなモンだ…すまん、「またかよ」って感じで見守っててほしい…。

気が済むまで、はしゃいでいるとふと、俺の脳裏に何故か境内を観光しようという提案が生まれた。

遊びに来たわけではないというのは分かっているが…。

せっかく柳洞寺に来たんだし生前、映像で見られなかった所も見てみたいと思ったんだ。

 

 

 

英雄時代は観光とか、娯楽とか全然できなかったし!

 

 

少しくらい、境内を見て回っても問題ないっしょ!

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで、考える頃には頭の中からキャスターの存在は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

結論から言おう――――…観光は最高である!!

いやー、やっぱ聖地観光(?)はいいね!年甲斐もなく、はしゃいで色んなところ見てきたぜ!

具体的には中にある建造物を見たり、お賽銭して願掛け(何を願ったかは内緒)したり、おみくじ引いたり(なお、末吉だった)。

様々なことをした後に、生前にアニメでみたシーンを思い出しながら改めて見回りをした。

 

 

あっ、ここでアーチャーとキャスターが戦ったんだ!やら…

 

 

この辺でランサーの『突き穿つ死翔の槍』(ゲイ・ボルグ)を喰らったんだ!やら…

 

 

わざわざ、階段のところまで戻ってセイバーとアサシンの戦闘があったところへ行ったりと…

 

 

 

 

そんなこんなしているうちに辺りは既に暗くなっていって……現在は完全な夜となってしまった。

 

 

 

 

まぁ、なんだ。

記憶の中にあるアニメのルーツに思い耽っていました!

…はい、すいません。ハメを外しすぎました。

いや、ほんとにすまん――――…完全に忘れていましたわ。

境内の中央にある広い空間にて、俺は項垂れて反省する。

 

 

 

我ながらに自分の集中力と熱意が恐ろしく思う…最初に来た頃は、昼過ぎくらいだったのに…。

 

 

 

今や完全なる夜である。

一体何が俺を突き動かしたというのだ…!!

 

 

 

 

まぁ、そんな悪ふざけもここまでにして…。

 

 

 

 

「いるなら、隠れてないでさっさと出て来いよ――――…“キャスター”。」

 

 

 

俺はそう呟いて、後ろを振り向きながら空中を見上げる。

すると、そこにいたのは――――…

 

 

 

 

黒と紫のローブで目元を隠した女が一人。

 

 

 

蝶の羽のようにマントを展開し、その近くで魔法陣を発生させて宙に浮いている。

 

 

 

それだけじゃない、彼女から発せられるモノはこちらを今にも襲い掛かってきそうな殺気。

 

 

 

 

あれこそ、『魔術師』のクラスののサーヴァント…今回の聖杯戦争のキャスターだ。

ゆらゆらとローブを風で靡かせながら、こちらを不敵な笑みを浮かべながら見下ろしている。

そんな彼女に対して、俺も口元を釣り上げながら口を開く。

 

 

「上から人のこと見下ろすなんて、あまり良い趣味をしていないなぁ?キャスター。」

 

「あら、それはお互いさまではなくて?

貴方こそ、結界を破って上、私の陣地に土足で上がり込んでいるのよ。“バーサーカー”?」

 

 

 

俺のクラス名を知っているのか、こいつ?

サーヴァントであることは、すぐに気づかれると思っていたが……まさか、クラス名を当ててくるとは。

つーことは、昨夜のセイバーとアーチャーの戦闘を見られていたかもしれないな。

まぁ、俺はアーチャーと同じく通常のサーヴァントのように伝記や伝説上の存在じゃないからな。

絶対に真名が露見されることはないだろう、俺が直接話そうとしない限りな。

 

 

 

ただまぁ、それも一人だけ除いてなんだけどな――――…ん?、それは誰の事だって?

 

 

アーチャーに決まってんだろ。あいつはある意味で俺の天敵みたいなもんだからな。

 

 

 

「へぇ、俺がバーサーカーだとよく当たったな。絶対にばれないと思ったんだがなぁ。」

 

 

今の言葉には嘘偽りのない本音だ。

何故か、俺は『狂化』のスキルが機能していない…バーサーカーのクラススキルなんだけど、どうしてか理性を保っている。

理由として考えられるなら、アテナが気を利かしてくれたか。あるいは元から狂っているとか…。

まぁ、個人的には後者が一番、それっぽいんだけどな。

 

 

 

 

とにかく、俺のクラス名を当てるとは……やっぱり、こいつただもんじゃ――――…

 

 

 

 

「…何言っているの?、貴方のあの可愛いお子様マスターが思いっきり叫んでたじゃない。」

 

 

 

 

 

 

“やっちゃえ…『バーサーカー』!!”

 

 

 

 

 

 

「…ほんまや。」

 

 

ああ、確かに言ってたぁ…考えてみれば、簡単だったじゃないか…。

数秒前までの俺の申し訳程度の緊張感は何だったんだと思わざるを得ない。

俺が考えすぎだったのもそうだが――――…なんだろう…この、精神的に来るダメージは。

例えるなら、自信満々で答えたものが違って周りから「何言ってんだこいつ」みたいな目で見られている気分だ。

 

 

 

穴があったら埋まりたい気持ちとはこういうものか…。

 

 

 

「な、なんでそんなに落ち込んでいるのかは知らないけど――――…ここへ何の用で訪れたのですか?バーサーカー。」

 

 

あ、そうだった!

落ち込んでいる場合じゃねぇ!

 

 

「そうだった。俺はキャスターに用があって来たんだよ!」

 

「…私に?何かしら?もしかして、私の僕になりたくて来たのかしら?」

 

 

クスリと不気味な笑みを浮かべて言うキャスター。

なにがどうすれば、そんな考えになったのか疑問に思うが、正直に話しているほど時間はない。

 

 

「なに、大したことじゃねぇよ――――…ただ、俺と『同盟』を結んでほしいだけさ。」

 

「『同盟』…?貴方とですか?」

 

 

 

そうそう、と首を縦に振ってみせ――――…

 

 

 

「お断りよ。」

 

 

…早いよ奥さん。

せめて、同盟にしようとする理由くらいは聞いてくれても良いんじゃないかなぁ。

 

 

「じゃあ、聞くけれど。私と手を結ぼうとする理由は何かしら?」

 

 

口に出ていたのか、考えていることを言い当てられた。

露骨に心を読まれたのは気に食わないが、そんなことはどうでもいいか。

 

 

 

 

「理由は、そうだなあ――――…この“聖杯戦争をぶっ壊したい”から、じゃダメかな?」

 

 

 

 

俺がそう言った瞬間――――…キャスターの雰囲気が変わった。

先ほどまでよりも、見る限り先ほどよりも殺意というか敵意というか、そういった類のモノが肌を突き刺すように感じる。

だが、俺はそんなものも気にせず、笑みを浮かべたまま表情を崩さずにキャスターを見据えた。

 

 

「今回の聖杯戦争を壊す――――…一体どういう意味かしら?」

 

 

詳細を聞いてこようとするあたり、どうやらファーストタッチは失敗ではなかったようだ。

さっきの返答はサーヴァントに同盟を結ぶのであれば、最悪な返答だったんだが……相手が、キャスターなら話は別だ。

あいつの望みが原作と変わらないなら、必ず乗ってきてくれるハズ…!!

 

 

 

まぁ、不信感が募りすぎてフツーに切られる気がするけど…。

 

 

 

「どういう意味だって聞かれても、言葉通りの意味だよ。

俺は、この聖杯戦争をぶっ壊したいんだよ。もっと詳しく言うなら“聖杯そのもの”を俺は破壊したい。」

 

「聖杯を破壊するですって?」

 

 

 

キャスターの表情が――――…口元しか見えないけど、たぶんきっと顔を強張らせているに違いない。

 

 

 

「にわかにサーヴァントが考えることではないわね。

私たちサーヴァントの目的はマスターとともに聖杯を手に入れ、自らの願望を叶えることでしょう?」

 

「それは、あくまでも一般的な考え方だろ?、誰も彼もそうとは限らないさ……それは、お前もそうじゃないのかキャスター?」

 

「ッ。貴方……」

 

 

キャスターが何やら苦虫を噛んだような顔をしているような気もしたが、知ったことではない。

彼女の言うことは最もであるが…少なくとも、あの穢れきった聖杯に対して掛ける望みはない。

俺の大本の目的は、この聖杯戦争を生き抜き……我が主様を救うことなんだからな。

 

 

「んで、どうする?俺に協力するのかキャスター?それとも――――…」

 

 

 

 

俺が言葉を紡ぐが否、キャスターの魔力の弾丸が俺の居た場所に直撃した。

 

 

 

 

 

「ええ、決めたわ――――…貴方に死んでもらうことに!」

 

 

 

 

口元を釣り上げて、冷酷な笑みを見せるキャスター。

 

 

 

 

ああ、交渉決裂かな――――…いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ、こうなるようねぇ。」

 

 

自分がいた所から後ろに下がって、魔力弾を回避していた俺は改めて上空を見上げる。

…まぁ、なんとなくこうなるんじゃないかとは思ってたけどな。

口で言っても、納得してくれないんじゃないかと。

 

 

「同盟には乗らないわ。貴方はここで脱落しなさいバーサーカー。」

 

「やっぱり、仲間にはなれねーか。俺たち。」

 

「ええ、そうね――――…貴方が私に忠誠を誓う下僕として仕えるなら、話は別なのだけどねぇ。」

 

「あ、わかった。やっぱ無理っぽいわ。」

 

 

 

 

話すだけで、お友達になれるのは人間くらいだもんな。

 

 

 

 

 

俺たち、サーヴァントだし。

 

 

なら、サーヴァントらしい方法でいきましょうか。

 

 

 

「構えな『魔術師』。口で言ってもわかんないなら、後は力づくってね。」

 

「…いいわ。来なさい!『狂戦士』風情が!!」

 

 

 

キャスターの周りの魔方陣から、たくさんの魔力弾がこちらへ向かって発射される。

俺は、今いる場所の地面を蹴り上げて、その弾幕へと突っ込んでいく。

バーサーカーらしく、強行突破と行きましょうか。

 

 

「来い!『アスラ』!『ディーヴァ』!」

 

 

両手に“非対種の双子銃”を召喚させて、俺は弾幕を上手く避けながら突き進む。

途中、当たりそうなヤツはアスラとディーヴァを放って相殺しつつ適度に距離を詰めていく。

相手が空を飛んでいる以上、地上でしか戦えないこちらは圧倒的に不利だ。

何とかして、上にいるキャスターのところまである程度接近しないと、攻撃が当たりそうにない。

 

 

 

どうしたもんかなぁ…

 

 

 

「ふふっ、どうしたのかしら?威勢よく飛び出した割には、手詰まりのようね?」

 

 

 

くそ、上から調子に乗った声が聞こえてきやがる!

なんとかして、あいつを引きずり降ろさねぇと――――…って!?

 

 

 

「あぶねっ!?」

 

 

撃ち降ろされていたハズの弾幕の一つが急に軌道を変えて、こちらへ突っ込んできた。

突然の攻撃パターンが変わって驚いたが、側宙の要領でなんとか避ける。

あぶねぇ…!!あいつあんな芸当もできんのかよ!?

まじで、ビビった…さすがはキャスターと言ったところか…。

 

 

「ふん、しぶといわね。さっさとやられればいいものを。」

 

「てんめぇ!!上から一方的にやっといて調子乗ってんじゃねぇぞ!おりてこーい!!」

 

「誰が降りるもんですか。悔しかったらこちらまで来るか、黙ってやられなさい。

――――…私としては、後者のほうが望ましいのだけれど。」

 

 

 

おい、聞こえてんぞこらぁ!

 

 

 

 

「誰がやられるか!!そこで待ってろよ!今すぐ引きずりおろしてやんからな“田舎魔術師”!!」

 

「なんですって!!今すぐその醜い口を閉じさせるわよ、この全身“石炭男”!!」

 

 

 

醜い言い争いをしつつ、キャスターは弾幕を放ち、俺はそれを掻い潜っていく。

 

 

 

「だいたい、貴方、私の自信作だった結界を壊しておきながら呑気に境内の観光するとか何なの!?

侵入を許して焦って、すぐ飛んできた私がバカみたいじゃない!気が済むまで待ってた時間が無駄だったじゃない!!」

 

「お前見てたのかよ!?いや、それに関しては素直に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、そんなに嫌だったなら声かけてくれてもいいだろ!!」

 

 

どうやら、観光している最中も俺の動向を監視していたようだ。

結界をぶち抜いてやってきたやつが来て、切羽詰まって飛んできたが侵入者が呑気に観光していたとなると、確かに彼女が気の毒にも思うな…。

こればっかりは、素直に俺が悪いとしか言えないが…これと同盟になることは話は別だ!!

 

 

「もう怒ったわよ!!これで終わりよ!!」

 

 

そういうと、キャスターは徐にこちらに手を翳し、魔方陣を展開。

すると、そこから巨大な魔力の塊――――…いわゆる、ビームみたいなのが飛ばしてきやがった!!

 

 

 

こいつ…どこからそんなパワーが!?

 

 

 

これをかわそうにも規模がデカすぎて、かわせそうにない。

 

 

 

 

 

 

 

なら――――…魔術には魔術をってね!!

 

 

 

 

 

 

 

「上等だ!見ていろキャスター!俺の魔術を!!」

 

 

 

上空にいる彼女に高らかに宣言し、俺は体に魔力を流す。

 

 

魔力の脈動を感じる…よし、いけるな。

 

 

俺は、キャスターに向かって右手の人差し指を掲げて――――…詠唱する。

 

 

 

 

 

 

trick,burst(魔力、解放)――――…the,『accelerate』(加速)!!」

 

 

 

 

 

パチン!!と指を鳴らすと、”俺の中の時が緩やかなものに変わった”。

 

 

 

 

これが、俺が使う魔術…身体強化魔術(スタイルマジック)の一つ『加速』である。

 

 

 

俺は魔力を体に流し、専用の詠唱を唱えることで身体機能を向上させることができる。

今使ったのが、加速……俊敏な動きを可能とし、素早いスピードを手に入れることが出来る魔術だ。

似たようなものを衛宮切嗣が持っていたが、あれとは似て非になるものだから注意な。

あくまでもあれは、固有時制御で自分の中に世界を作っておくとかなんたらだが、こっちはただ魔力を体に流して強化しているだけだ。

世界の修正力でいろいろとリスク抱えている切嗣に対し、こっちはそういったリスクはない。

 

 

 

ただまぁ、世界の修正力を受けることは変わりないんだけどね。

 

 

 

これは最低でも“ほんの10秒”くらいしか持たない。

 

 

 

 

 

(まぁ、10秒さえあれば十分だけどな――――…!)

 

 

 

すぐさま強化した体で俺は、その場から消え失せる。

ビームをかわして、キャスターの真後ろへ回り込んだ。ここならば、有利に事を運べる。

能力消滅まであと、5秒くらいか…なら、このまま寺の屋根上まで行きますか!

ぴょんぴょん飛びながら、屋根上まで到着…ふむ、キャスターの後方を完璧にとったぜ!!

 

 

くく…キャスターの奴、きっとびっくりするぞ。

 

 

 

その顔が目に浮かぶぜ。

 

 

 

あと3秒くらいかな?…3…2…1!!

 

 

 

 

 

 

時が正常に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

ビームが直撃して、俺がいた場所が吹っ飛んだ。

 

 

うわぁ…あれ喰らったらと考えるとぞっとすんなぁ…

 

 

 

「あはははッ!無様に消し飛んだわねぇバーサーカー!

あなたの最後の断末魔が聞けなかったのは残念だけど、私を馬鹿にした報いよ!素直に座に帰るといいわ!」

 

 

 

すいません、後ろにいるんですけど…。

 

 

 

 

 

「まぁ、せめてもの慰めで貴方の最後くらいは見ていてあげようかし…ら…?」

 

 

 

 

ああ、たぶん。

 

 

 

今、彼女の顔は驚愕で面白い表情になってんだろうなぁ…。

 

 

 

 

 

 

「ッ!?姿がない!?…一体どこへ――――…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーキィィィィィック!!」

 

 

 

 

 

 

 

ドッキリ大成功と言わんばかりに、後ろから地上へ向かって飛び蹴りをキャスターにをかました。

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああああッ!?」

 

 

 

 

 

それを背中に諸に食らったキャスターは驚きのあまり、そのまま地面へと落下した。

手加減したつもりだったが、不意打ちだったために対処できなかったようだ。

バーン!と落ちていったキャスターは土煙を巻き散らして盛大に地面に叩きつけられた。

 

 

俺?俺は屋根上に安全に着地したよ。

 

 

 

「ありゃりゃ…手加減したつもりだったんだが…やりすぎたかな?

おーい!キャスター!大丈夫かー?どうだー?俺の強さを見ただろー?考えを改めてみないかー?」

 

 

 

……。

あれ?返答がない?

 

 

 

「キャスター?おーい。」

 

 

 

声をかけながら、下をのぞき込むと……。

キャスターが仰向けになったまま、大の字で伸びていた。

 

 

 

「…完璧にやりすぎたな。」

 

 

 

やれやれ、キャスターを完璧に仲間にするのは、もう少し先のようだ…。

 

 

 

俺は、すぐさま地面に降りてキャスターの手当てすることにした。

 

 

 

 

 

 




投稿期間が長くなってすみません。
なにぶん、不定期なものですがお付き合いいただけると嬉しいです。


次回もお楽しみに。


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第十夜 連なる問題、繋がる運命

お、お気に入り件数188件だと…!?
長いこと投稿期間が開いていたのにも関わらず、以前よりも倍に増えていることに驚きを隠せないのと、嬉しい気持ちでいっぱいです。


これからも、休止することなく続ける予定なので見守っていただけると幸いです。


それでは、第十夜どうぞ!


キャスターとの戦闘をひと先ず終えた俺ことバーサーカー。

『加速』の魔術を駆使したスピードで、奴を翻弄し裏を掻くことに成功。

後方からの不意打ちの一夫多妻去勢拳―――――…ならぬ、伝家の宝刀ことライダーキックでヤツを無力化したんだが…。

 

 

 

どうやら、当たり所が悪かったようだ。

 

 

 

キャスターは大の字のまま、一向に目を覚ますことはなかった。

こちらが何度、呼びかけてもウンともスンとも返事を返すことのない状況。

もしかすると、やっちまったかなと思ったが基本、サーヴァントは『死』という概念があやふやだ。

聖杯戦争から脱落する場合は、姿を粒子のようにボロボロと崩れて文字通り消滅する。

つまり、基本的に俺たちサーヴァントの死ってのは、世界から消えてしまうってわけだ。

 

 

 

見たところ、キャスターにはそんな状態は見られない。

 

 

 

つーことは、キャスターはまだ生きている。

霊基も、損傷しているわけでもなさそうだし…まぁ、そのうち目が覚めるだろ。

そんな風に考えつつ、俺はキャスターの体を抱えた。

 

 

 

 

…えっ?何をするつもりかって?

 

 

 

手当てするつもりなんですけど!

 

 

 

百歩譲っても拉致するなんていう考えなんてしてませんからね?

 

 

 

 

 

本当だかんな!!

 

 

 

 

 

キャスターの女性らしい華奢な体を抱えて、柳洞寺の住職さんのいる場所を目指す。

このまま、放置するなんてマネできないし…そもそも、俺はキャスターと同盟を結ぶために来たんだし!

とりあえず、ここじゃ休めるもんも休めないだろうと柳洞寺の一室を借りることを考えた。

あそこなら、布団とかあるだろうし…そもそも、こいつの拠点だし。ゆっくりできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったんだが―――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、姐さん!?キャスターの姐さん!!どうしたんですかい!?」

 

「姐さん!!姐さん!!どうか、目を覚ましてください!!」

 

「だ、だめだ…ッ!完全に気を失ってやがる!!」

 

「お、おい!!おめぇら!姐さんが、姐さんが!!」

 

 

 

 

『『『姐さん姐さん姐さん!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

なんだこれは…。

これが原作で、日常場面がそこまで表記されなかった柳洞寺の実態なのか…?

それとも、俺がいるこの世界が“そういう世界線”なのか…。

 

 

 

 

いずれにしても、どうして柳洞寺の坊さん達はこんな風に丁稚みたいな感じになっているんだ?

 

 

 

 

しかもうるせぇし!

お坊さんってのは、物静かで達観しているようなイメージが強いんだが、俺の偏見だったのか…?

俺が思い描いていた光景とは、まったく違うものだと分かった。

 

 

「そこの若い兄さん!姐さんは一体どうしてこうなったんですかい!?」

 

「まさか、何か良からぬ事件に巻き込まれたとか!?」

 

「だ、だめだ…ッ!!体に傷は無ぇのに一向に目が覚めねぇ!!」

 

「お、おいッ!!おめぇら!姐さんが、姐さんが!」

 

 

 

 

『『『姐さん姐さん姐さん!!』』』

 

 

 

 

 

 

「うるっせえええええええええッ!!」

 

 

 

蒸し暑い、うるさい、話が進まない…。

こいつらとは初対面だけど、流石にこうも迫られると不快かつ、イライラしてしまう。

これでは、お坊さんというより丁稚と呼んだ方が正しいのではないだろうか…。

 

 

 

 

――――…まぁ、どのみち。このままじゃ何もできねぇな…。

 

 

 

 

苦い顔をしながら、困惑していると坊主たちの集団をかき分けるように真ん中から誰かがやってくるのが分かった。。

おいおい、今度は誰だ…?これ以上、話が分からない奴のせいで話が進まないのは勘弁してほし――――…

 

 

「むっ?騒がしいな…お前たち、何をしているんだ。」

 

 

 

 

話の分かる奴が来た。

 

 

 

 

少なくとも、ここにいる誰よりも理解してくれるだろう人物が。

現れたのは眼鏡をかけ、衛宮士郎と同じ穂群原学園の制服を着た、見るからにクラスの学級委員長みたいな青年。

この青年のことは知っている。士郎の友人にして、ここ柳洞寺の住職の息子の「柳洞一成」だ。

柳洞一成が現れると、さっきまで騒がしかった丁稚坊主たちは一斉に黙り、端っこによって二列に並び。

 

 

 

 

『おかえりなさいです、一成殿。』

 

 

 

声を揃えて一斉に頭を下げだした!

なんだ、こいつら!さっきまでと打って変わって礼儀正しい坊さんになったぞ!?

 

 

「うむ。今、帰った。」

 

 

それに対し、柳洞一成は何でもないように手を挙げて丁稚坊主たちへ声をかける。

…おかしいな。俺が変なのか…なんとなくこの光景が変だとしか思えない。

丁稚坊主たちの華麗な変わり身に呆けていると、俺に気付いたのか視線をこちらへ向け……すぐにギョッとした表情をした。

 

 

「むっ!?キャスター殿!?いかがなされた!?」

 

 

俺が担いでるキャスターに気付いた一成は血相を変えて動揺し始めた。

まぁ、そうなるわな普通……というか、気付くのが少々遅いんじゃないですかねぇ…。

そんな邪推をしていると、一成の疑心に満ちた視線が俺の方へと向けられてきた……おいおい。

なんだか、俺が悪い空気になっているんだが…ここいらで、説明したほうが良いみたいだ。

 

 

「ああ、君がここの住職の息子さん?たまたま、下を通りかかったら、この女性が倒れていてね…。

もしかしたら、この寺の人かなと考えたら放っておけなくて…悪かっただろうか。」

 

 

ああ、なんて流暢に流れていくカバーストーリーなんだ。

なんだか、サーヴァントになってからっつーか――――…英雄時代を生き抜いてから、色々と達観したって思うなぁ。

自分で言うのもなんだが…生前とか、ジェラルのところで修行してた時とか、独立してからの俺って、こんな感じじゃなかった気がする。

今みたいな「俺、アクティブ!」みたいなテンションじゃなくて、「あ、俺…インドアっす…。」みたいな感じだったぞ。

知らなかったと思うけど…もっと、大人しいやつだったんだよ俺って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、鼻で笑った人がいるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、それは……今、モニターの前に君だぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと…そうだったのですか…!それは、大変お世話になりました。すぐに寝室へご案内します!!」

 

 

そんなくだらないことを考えていたら、一成がハッと表情を変えて後ろにいる丁稚坊主達に指示をし始めた。

すると、丁稚坊主は先ほどのようなグダグダ具合が嘘だったかのように行動し始めた。

 

 

 

――――…一成マジ有能。つか、丁稚共…そんな風に動けんなら最初からそうしろよ…。

 

 

 

さっきまでの茶番は何だったんだよ…。

あー、なんだか、すごい時間を無駄にしてたような気がする……。

軽くショックを受けていたら、準備が終わったようで一成が再び俺のところまで戻ってきた。

 

 

 

「お待たせしました。では、こちらへどうぞ。」

 

「え?あっ、わ、わかった…。」

 

 

 

君たちがキャスターを持ってくれないのか。そのまま、俺が抱えていくのね……。

お客人&恩人(嘘)の俺を行使するスタイルに驚きを隠せないが…まぁ、一応信用されている……うん。ということにしとくか。

 

 

 

 

なんだか、微妙な気分になったが…。

 

 

今は、キャスターを休ませるのが先か…とりあえず、一成についていこう。

 

 

 

 

 

「おめぇら!キャスターの姐さんが通るぞッ!」

 

「邪魔だ邪魔だ!どきなおめぇら!」

 

「あぁ…姐さん!なんでこんなことに…!!」

 

「悲しいことに…姐さんは未だ目覚める様子がねぇ…姐さん、どうか目を覚ましてくれぇ!!」

 

 

 

 

『『姐さん姐さん姐さんッ!!』』

 

 

 

 

もういいよ、お前らは…。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「ふぅ、ざっと必要なものは買い終えたか。」

 

 

買い物を終えてスーパーから出てきた俺こと衛宮士郎は、小さく息を吐きながら買い物袋の中にある戦利品を眺める。

中には新鮮な野菜や精肉といった食材たちが顔を覗かせている……うん、まぁ、これだけあれば“一週間くらい”大丈夫かな?

 

 

「セイバーは何を作ったら喜ぶかな…そういえば、あいつの好きなもの知らなかったな。」

 

 

あの後、屋敷の道場で俺はセイバーと共に自分の在り方に誓いを立てた後に早速、剣の稽古をつけてもらうことにした。

稽古の内容は至ってシンプルだ。竹刀を持って俺がセイバーに突撃する…これだけである。

…いや、もっと詳しく言うと竹刀でセイバーに向かって打ち込んでいくっていうべきか。

 

 

 

どっちも同じか……とりあえず、セイバーから一本取れるように何度も突撃しに行くって感じの内容だ。

 

 

 

セイバーが言うには、俺は戦い云々よりも最初に自分の力量を知ることらしい。

どうも、セイバーから見た俺は自分の限界を知らない、どんな強敵にもとりあえず突っ込んでいくような自殺願望者に見えたらしい。

いや…自分がまだまだ未熟だっていうのは、常々痛感してたけど……まさか、そんな風な評価をされるとは思わなかったよ…。

 

 

 

だから、まず敵との立ち回りから始めるというわけだ。

 

 

 

相手との距離、動き、強さ……それらすべての事柄を予測し、素早く行動に移せるようにしなければならない。

そういった、考えで生まれたのがこの方法である。まぁ、何戦も行っているが今のところ一度もセイバーに攻撃を当てられていない。

というより、掠りさえもしていない…このままで大丈夫かな俺…。

さっきいった、立ち回り方とかはなんとなくだが、だいたい掴めてきたけど肝心の攻撃がさっぱりだと流石に不安になってくる。

 

 

 

一方、セイバーはというと…やっぱりというべきか、当然というべきか涼しい顔で俺の攻撃を避ける。

 

 

 

俺がいくら必死に振り回しても避け続け、最後には一本取ってくる――――…それが何度も続くから、こっちの戦意も削られるんだが…。

この程度で音を上げるのも何だか嫌なんで、俺は何度も何度も打たれては立ち上がって切りかかっていくことにした。

まぁ、それでもやられてしまうんだけどな。でも、この程度で諦めたくない…まだ、始まったばかりだし。

とりあえず、これからも続けてみようと思う。そのうち、何か見えてくるかもしれない。

 

 

 

んで、打ち込み始めて数時間経ち。流石の俺も疲れ果てて、道場の床に倒れこんだ。

 

 

 

気が付くと、窓から指していた陽光はすっかりと失せていて、外は既に夜になる兆しを見せていた。

そこでやっと、身体が疲労を自覚したのか、腹からエネルギー不足を訴える音が聞こえた。

腹の虫を鳴らしたのは俺だったらしい。それを聞いたセイバーは微笑したところで今日の稽古は終了となった。

そろそろ、飯にしようかと疲れた体に鞭を打って立ち上がり、今夜のおかずの買出しにいくことをセイバーに伝える。

彼女は頷き、了承したかのようにスッと立ち上がって、道場を後にした――――…たぶん、屋敷の方へ向かったのだろう。

 

 

 

 

しかし、俺は気付いてしまった。

 

 

 

 

食材を買ってくる……そういった途端、セイバーの目がキラキラと輝いていたことを。

道場を去る姿が、どことなく楽し気で軽い足通りだったことに…!

 

 

 

 

そんな彼女の姿を見たら、気張らない訳にいかないじゃないか…。

 

 

 

 

彼女がどんな英雄だったのかは分からないけど、きっと彼女が過ごした時代は食文化はよろしくなかったのだと思う。

じゃなきゃ、あんな顔をしないはずだ――――…よっぽど酷かったんだろうな。

玄関から出る直前に「お待ちしていますシロウ。どうかご健闘を。」と力強い言葉をかけてもらったほどだ……一体、スーパーで何と戦うんだ俺は。

 

 

というわけで、今はその帰りだ。

 

 

買い物は済ませたし、さっさと帰路へ着くとしよう。

あそこまで楽しみにしているセイバーをいつまでも待たせるのも嫌だしな。

 

 

 

その途中で、俺はあるものが目に映った。

 

 

 

「ん?あれは……」

 

 

帰り際、俺が目にしたのは行きつけであるたい焼き屋。

そこから漂ってくる良い香りは腹の虫をさらに刺激してくる。

 

 

「そういえば――――…あいつ、どうしたかな?」

 

 

たい焼きの香りで脳裏に浮かんだのは、あの黒い服に身を包んだ男。

飄々とした雰囲気を出し、かつ人を惹きつけるような…あの男のことを思い出した。

あれ以来、会ってないけど……一体、今何をしているのだろうか…。

 

 

「…俺、あいつの名前も知らないんだよなぁ。」

 

 

黒い男は自分自身について何も言わなかった。

それどころか、名前すら教えなかった……俺からは名前を聞いたのに少し不公平な気がする。

…なんて言っても、仕方ないか。今、俺ができるのは、ただひたすらに信じた道を進むしかないからな。

 

 

 

「…たい焼き。買ってくかな。」

 

 

 

 

食後のデザートとしてセイバーと一緒に食べるのも良いかもしれない。

 

 

そう思い、俺はポケットから財布を取り出した―――――……

 

 

 

 

「こんばんわ。お兄ちゃん。」

 

 

 

――――…その時、後ろから聞いたことがある声に体をぞくりと震わせた。

 

 

声の主には覚えがある。最近……それも、昨夜に会ったはずだ。

 

 

俺は、この後に起こる最悪の状況を想像しつつ…冷や汗を掻きながら振り向く。

 

 

 

 

 

そこにいたのは…

 

 

 

 

 

「イリヤスフィール…。」

 

 

「こんばんわ。また、会ったねお兄ちゃん。」

 

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが俺の後ろに立っていた。

 

昨夜、見たあの無邪気な笑みを浮かべながら…。

 

綺麗な銀髪の長い髪を風に靡かせながら…。

 

 

 

 

 

 

赤い瞳が……俺を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

一成に案内されて柳洞宅に足を運んだ俺ことバーサーカーは一室へとやってきた。

寺ということもあってか、部屋は和室かな?と思っていたが想像通りだったな。

…ここで、あえて洋室が出てきたらどんな気持ちだろうか。まぁ、それもそれで見てみたい気もするが…。

 

 

「この部屋を自由に使ってください。ここならば、ゆっくり休めることができるでしょう。」

 

「ああ、分かった――――…ところで、この部屋は普段、誰かが使っているのか?」

 

「?…いえ、ここはただの客室です。たまに他の住職殿がご宿泊になられるときに貸しているのですよ。」

 

 

 

なるほど…となると、ここはキャスターの部屋じゃないんだな。

 

 

 

まぁ、それもそうか…。

いくら、キャスターを休ませるといっても、見知らぬ男を女の部屋に上がりこませる訳ないよな…。

…べ、別にキャスターの部屋を見たかったわけじゃないぞ!?ただ、彼女がゆっくり休める場所と考えたら自動的に連想しただけだ。

よ、欲を一つ言えば…神代の魔術師の工房をちょーっとだけ見てみたかったなぁと思ったりはしたけど…。

 

 

 

そんな不埒な事を考えている俺を外に、一成は用意した布団にキャスターを寝かせていた。

 

 

 

うーむ…全然、目覚める様子がないな。

本格的に当たり所が悪かったようだ……一切合切、目覚める様子がない。

これは、ちっとばかりかまずいな…キャスターが目覚めてくれないと話が進まないどころか、話にすらならない。

当初の計画通りに進まないのは仕方のないことだが、万が一にでもキャスターが脱落するような事があれば、そこでアウトだ。

そこからの進行はかなり難しいだろうな……一刻も早く、彼女が現実へと復帰してくれるのを待つしかない。

 

 

「今、お茶をお持ちするのでここで少し待っていてください。」

 

「え、ああ、お構いなく――――…」

 

 

今思ったんだけど、ここで言う「お構いなく」ってお茶貰う前提のやり取りだよな…。

大抵、人様の家に上がり込んでからこう言っても頑なに貰わない姿勢を見せない限りは、お茶出すぜ日本人って…。

一成が部屋を出て行ってから、俺と寝ているキャスターだけ取り残された。

 

 

「……」

 

 

…暇だな。

キャスターは目を覚まさないし……日を改めて今日は帰ったほうがいいかなぁ。

――――…いや、まて。今ここで帰ったらキャスターと同盟を結ぶ事できなくなるんじゃないか?

 

 

 

今日の俺って、結界をぶち破って土足で陣地に上がり込み…。

 

 

交渉決裂したら、魔術を使って後方から不意打ちキックして気絶させただけじゃん。

 

 

 

 

ここで帰ったら完全に宣戦布告しに来たと思われる!!

 

 

 

 

だ、だめだ…帰れない。

ただでさえ、イリヤにはたくさん迷惑かけてんのに…。

 

 

 

 

勝手にキャスターと会ってきてドンパチしてきたぜ!!

 

 

 

 

なんて結果だけを残して帰ってきたらどんな顔するだろう。

きっと、いや確実に良い顔はしないだろう……うん、絶対に怒られるな。

半目でじっとこちらを睨みつけるイリヤの表情が容易に目に浮かび上がり、少しばかりか体を震わせる。

 

 

 

 

よし、なんとしてでもキャスターを味方にしよう。

 

 

 

 

粘るぞ。起きるまで待つぞ…。

例え台風が来ようと、嵐が吹き荒れようとも、ゴ〇ラやモ〇ラといった大怪獣が襲来しても俺は待ち続けるぞ!!

 

 

「んん……こ、ここは――――?」

 

 

 

そんなことをしていると、布団で寝ていたキャスターがゆっくりと瞼を開けた。

 

 

 

「ここは……家の中…?、確か私は境内でバーサーカーと――――…ッ!!そうよ、バーサーカーは!?」

 

 

ギョッとした顔で、ガバッと跳ねるように起き上がったキャスター。

それから、周りをキョロキョロとしたあとにすぐさま俺の姿を発見し、さらに目を見開いた状態の顔になる。

 

 

 

やーーーーっと起きましたか、キャスターさんよ!こちとら、あんさんが起きるまで色々あって――――…

 

 

 

 

「い、いやあああああああああッ!?」

 

 

 

えぇ……。

 

 

いや――――…流石にそれはないでしょう…。

 

 

 

キャスターが目覚めて束の間の俺に贈られたのは、まさかの女性の悲鳴ときた。

 

男性として、これ以上のメンタルを削られるようなことはありますかね!いや、ないね!

 

 

 

 

倒れている(原因は自分)女性を助けたら、悲鳴を上げられました。

 

 

 

 

 

理不尽!!

 

 

 

 

 

そんな下らない心の叫びは置いといて、困ったことが起きた。

今の彼女の悲鳴で部屋の外が騒がしくなった気がする…。

ドタドタドタッって物凄い数の走ってくる音が聞こえる――――…ああ、これはまずい。

 

 

 

「姐さん大丈夫ですか!!」

 

「何かあったんですか!?」

 

「あっ、この小僧ですか!!この小僧が姐さんに良からぬ事をしたんですね!!」

 

「小僧!!てめぇは俺たちを怒らせたぁぁぁぁ!!」

 

 

 

『姐さん!姐さん!姐さん!!』

 

 

 

 

お前らかよ!!

 

 

 

いや、お前らも来そうだなとは薄々考えていたが、最初に来るのはてっきり一成かと思ったわ!

 

それに、この部屋は丁稚坊主達がいるところから結構離れている場所に位置する。

 

あの距離から、こいつらは10秒未満で走ってきたぞ?

 

 

 

 

柳洞寺の坊主どもは化け物かッ!!

 

 

 

 

…それよりも、この坊主どもの今にも襲って来そうな殺気はどうしたらいいものか。

 

 

 

 

『ぐるるるるっ!!』

 

 

 

獣のような唸り声をあげ、血走った眼光をこちらに突き付けてくる。

おまけに、その手には何処から出したのか角材くらいの長さの棍棒が握られている…おいまて、ホントに何処から出した。

その物騒なものでいったい何をする気なんでしょうねぇ~?

 

 

 

 

…まぁ、なんだ。

 

 

 

 

今の状況を一言で言い表すなら――――…

 

 

 

 

「最悪だ……」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

振り向いた先にあった衝撃的な光景に俺は身体を硬直させる。

そこにいたのは、昨夜俺たちに襲い掛かってきた輝かしい銀髪が特徴的な女の子。

ルビーのような赤い無垢な瞳は俺の姿を映しており、それだけでも俺は蛇に睨まれた蛙のような気分になる。

 

 

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

 

 

なぜここにいるんだ…!?

 

 

 

「こんばんわお兄ちゃん。こんなところで会えるなんて奇遇ね。」

 

 

 

今夜はセイバーを連れてきてないのかしら?と陽気に話しかけてくるイリヤ。

 

 

 

 

…まずい。これは非常にまずい状況だ。

 

 

 

 

今はセイバーを連れてきてはいない……。

加えて、今いる場所は商店街のド真ん中。遅い時間帯とは言え、まだ小規模ながら人通りがある。

…ここで戦えば確実に大勢の人間を巻き込むことになる――――…そんなマネはできない。

一体、どうする…!?せめて、ここから離れられるように出来ればいいが――――…!!

 

 

 

さまざまな思考を巡り漁っていると、ふとイリヤは俺のことを見ながら思案顔になる。

 

 

 

どこか不思議そうに首を傾げ始めた――――…なんだ?一体、どうしたのだろうか?

 

 

 

 

「…ああ、なるほどね。」

 

 

 

すると、今度は納得したように笑みを浮かべた。

 

 

んん?どういうことだ?こっちは全然納得できてないんだが…。

 

 

困惑している俺をそっちのけで、イリヤは笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

 

 

 

「大丈夫よお兄ちゃん。今日は戦いに来たわけじゃないから、そんなに強張った顔しないで。」

 

「えっ?はっ?」

 

 

 

 

戦いに来たわけじゃない?、じゃあ、一体何の用で――――…?

 

 

 

 

「一度、じっくりお兄ちゃんとお話してみたかったの。だからバーサーカーも今日は連れてきていないわ。ねぇ、お話しましょ!」

 

「えーっと…。」

 

 

警戒した様子も殺気とかもなく、イリヤは無邪気な笑顔で俺に近づいてくる。

…見た感じ、どうやら本当に戦う気は無いようだ。

けど、それでもどうして俺と話したいと思ったのだろうか?

そして、俺は彼女の願いを聞き入れるべきだろうか…戦いはしないといっているものの、気を許しても良いものか…。

 

 

 

くぅ~。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

今の音は?

俺の腹からじゃないな…ということは自動的に――――…。

 

 

「えへへ。お腹すいちゃった。」

 

 

自分の腹部を抑えながら、「ここはいい匂いするから」と照れくさそうに言うイリヤ。

彼女の視線の先に目を移してみると、たい焼き屋の屋台があった。

確かにここは、いい匂いがする……空腹時には辛いな。腹の虫が鳴くのも無理はない。

 

 

 

そこまで考えが至ると、なんだか気を張っていた自分がバカバカしくなった。

 

 

 

無意識に苦笑した俺は屋台へと赴いて、いつものあんこのたい焼きを三つ買ってイリヤの方へ戻る。

 

 

 

「話があるなら、落ち着ける場所にでも行こうぜ。」

 

「お話してくれるの!?」

 

 

ぱぁっと顔を明るくする彼女に俺は頷いた。

すると、嬉しそうにイリヤは「やったぁ!」と喜んだように両腕を上げて、その後、俺の隣まで来て腕を組むようにくっついた。

 

 

「じゃあ、公園に行こ!、近くに公園があるからそこでお話しましょ!」

 

「わかった。わかった。だから、あまり引っ張らないでくれよ。」

 

 

 

 

俺の腕を引きながら、はしゃいだ様子のイリや。

 

 

この姿を見る限り、普通の女の子にしか見えない…あの時のような殺意を感じられない。

 

 

そう思ったからこそ、俺は疑問に思った――――…どうして、イリヤは聖杯戦争に参加しようと思ったのか。

 

 

 

 

 

どうして――――…あの時、俺達を殺そうとしたのか…。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、早く行こーよー!」

 

 

 

物思いに耽っているとイリヤの催促する声が耳に入り、俺は「悪い悪い。」と笑みをこぼす。

 

 

彼女のその姿を見ながら、俺は少しの間だけ聖杯戦争のことや敵対関係のこと忘れることができそうだった。

 

 

 

 




近いうちに続けて次話を投稿します。
どうか、お楽しみに!


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第十一夜 同盟

近いうちに出すと言ったな?


アレは嘘だ。


…本当にすいませんでした。



イリヤと会った俺こと衛宮士郎は、ひょんな出来事とその場の流れで彼女と話をするために商店街近くの公園へと足を運んだ。

公園内は人気はなく、街頭にうっすら照らされた遊具達が今日の仕事を終えたように存在しているだけだ。

その光景がどこか寂し気に感じるが、日が昇れば再び子ども達で溢れかえるだろう。

そんな光景を思い浮かべたら、静止している遊具は子ども達をやって来る明日を楽しみにしているようにも見えた。

 

 

「お兄ちゃん!ここに座りましょ!」

 

 

ここに来るまで、俺の手を引いていたイリヤはパッと離れて近くのベンチを指さした。

俺は「はいはい。」と微笑しながらベンチへと近づき、掛かっていた木の葉を払って綺麗にする。

…うん。これでいいか。木の葉を十分に払い落とし、イリヤへと視線を向ける。

彼女は嬉しそうに笑顔を見せ、すとんとベンチへと座り。俺もその横へ座った。

 

 

(ああ、そういえば――――…)

 

 

イリヤが腹を空かせていたことを思い出した。

俺はさっき買った、たい焼きの袋を取り出して手が油で汚れないように紙で包んだものを一つイリヤに手渡した。

 

 

「お腹減ってただろう?ほら、暖かいうちに食べな。」

 

 

 

手渡されたイリヤはきょとんと不思議そうな顔をして言葉を発した。

 

 

 

「貰ってもいいの?」

 

「もちろん。そのために買ったんだから。」

 

 

一つはイリヤ、もう二つは俺と家にいるセイバーにだ。

セイバーの分は家に帰るころには冷めていると思うけど……まぁ、暖かくすればいいか。

 

 

「ありがとう。いただくわ!」

 

 

 

受け取ったイリヤは包み紙の方をもって、行儀良く小さな口を開けて食べ始めた。

 

 

 

「どうだ?」

 

「美味しいわ。どこかで食べたことがある味だと思ったら、あの屋台だったのね。」

 

「なんだ。知っていたのか…結構、おすすめなんだよあの店。」

 

「うん。確かに“あの子”もそんなこと言ってたわ。」

 

 

あの子…?

誰のことを言っているんだ?イリヤの知り合いだろうか?

 

 

「バーサーカーよ。あの子、ここのたい焼きを買いに行ったみたいなの。」

 

「えっ!?ば、バーサーカーが!?」

 

 

思い出すのは、あの謎に包まれた黒いサーヴァント。

目の前の物を全て破壊しそうな威圧感を持ち、あのセイバーを圧倒した上に気落ちさせた存在。

それが、あの屋台に赴いて、たい焼きを買っているなんて――――…

 

 

 

(駄目だ。全く想像がつかない。)

 

 

 

わざわざ、屋台まで行って注文している姿を思い浮かべてみたが…あまりにもシュール過ぎて逆に実感が沸かない。

バーサーカーは甘党なのだろうか――――…?

 

 

「なんでも、“親切な少年がいて教えてもらった”とか言ってたわ。あと付け足し口に“日本の未来は明るい”とか意味わからないことを言ってたわね。」

 

「そ、そうなのか……というか、バーサーカーって喋るのか!?」

 

 

 

稽古時にセイバーから聞いた話だと、『狂戦士』のクラスは能力値を上げる代わりに理性を失うとか言っていたが…?

 

 

 

「喋れるわよ。昨夜は何故か黙ってたけど、普段は割とお喋りよ。」

 

 

衝撃の事実だった。

これを遠坂が知ったら、どんな顔をするだろうか――――…きっと、クラス枠を超えた規格外の事実に驚くだろうな。

 

 

(それにしても……なんだろう、この違和感。)

 

 

バーサーカーの成り行きを聞いてから、俺はどこか引っ掛かりを感じていた。

…おかしい。これは、最初会った時から感じていた違和感だった――――…どうも、バーサーカーと初めて会った気がしないんだよな。

 

 

 

どこかで会ったよな気がするんだよなぁ…それが思い出せなくて困ってるんだけど。

 

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。」

 

「そのお兄ちゃんっていうのやめてくれるか?」

 

「どうして。」

 

 

俺の言葉にイリヤは悲しそうな表情をした。

それを見てまずいと思い、すぐさま言葉を紡ぐ。

 

 

「いや!なんていうか…名前で呼んでほしいんだ!俺には衛宮士郎って名前があるからさ!」

 

「じゃあ、シロウって呼べばいいの?」

 

 

そうそう!と強く頷く。

すると、イリヤは少しだけ考える素振りを見せたのち、いつものような無邪気な顔で言う。

 

 

「わかったわシロウ!じゃあ、私のこともイリヤって呼んでね!」

 

「ああ、わかったよ。イリヤ。」

 

 

良かった。どうやら、分かってくれたみたいだ。

あのまま、機嫌を損ねて悲しい思いとかさせたくないしな。

 

 

 

二人とも、たい焼きを全て食べ終わるとイリヤは一間を空けてから話しかけてきた。

 

 

 

「ねぇ、シロウに聞きたいことがあるんだけどいい?」

 

「おお、なんだ?」

 

 

イリヤの聞きたいことって何かな?

俺と話がしたかったって言ってたし…一体、何を――――…

 

 

 

「シロウはさ、どうして聖杯戦争に参加しようと思ったの?」

 

 

 

イリヤの口から飛び出た問いに、俺は少しだけ驚いた――――…まさか、そんなことを聞かれるとは思わなかった。

 

 

 

 

「もしかして、聖杯を使って叶えたい願いとかあるの?」

 

「んー…いや、聖杯を使ってまで叶えたい夢はないよ、ただ――――…」

 

「ただ?」

 

 

 

 

そこで、俺は言葉に詰まった。

さて、なんと答えようか――――…イリヤに話してもいいものか。

 

 

(まぁ、大丈夫だよな…。)

 

 

隠すようなことでもないし。

ここで、黙り込んでイリヤに不審がられるのも嫌だし。

 

 

「イリヤは……前の聖杯戦争のせいでここが大火災になったの知っているか?」

 

「…ええ。前回の優勝者が聖杯に触れたことで原因不明の災害が起きたって聞いてるわ。」

 

「俺は…その火災の生き残りなんだ。俺はあの地獄をもう見たくない…もう、あんなものを起こしちゃいけないんだ。」

 

 

 

だから――――…と俺は言葉を続ける。

 

 

 

「俺は聖杯戦争を参加する。あの悲劇をもう起こさないようにするために…誰も悲しまないようにするために。」

 

「ふーん。そうなんだ…」

 

 

俺の話を聞いていたイリヤは再び沈黙して考えるような仕草をし始めた。

…なんだろう、この“まぁ、知っていたけど”みたいな表情は――――…どこかこちらを見透かしたような目だ。

そういえば、あの男もここでたい焼き食いながらこんな顔をしていたっけ。

うーん、モヤモヤするなぁ……あまり気持ちが良くない。

 

 

「…そっか。じゃあ、シロウはみんなの為に戦っているんだ。」

 

「そんな大それたことをするつもりはないよ。俺は自分がしたいことをしているだけさ。」

 

「なんか、あれだね。正義の味方ってやつみたいだね。」

 

「まぁ、そうなれたらいいなっては思うよ。正義の味方は俺の夢っていうか…目標みたいなものだからさ。」

 

 

気が付けば、俺はそんなことまでイリヤに話していた。

何故だか分からない……だけど、なんだか口が勝手に話していたというか…。

イリヤには、本心を話しておきたいみたいな気持ちに突然なってさ。

 

 

 

 

…何言ってるんだろ俺。昨夜、殺されそうになった上にイリヤとは敵同士だというのに。

 

 

 

 

不可解な回答に思わず頭を悩める。今日の自分はなんだかおかしい…。

そんなことをしていると、ふとイリヤの表情に変化があったことに気が付いた。

先ほどの見た目相応な天真爛漫な女の子の顔をではなく、どこか遠くを見ているかのような……。

ここにはいない“誰か”を思い出しているような――――…。

 

 

 

 

それが、儚げでどこか悲しそうに見えた俺は慌てて話題を切り替えた。

 

 

 

 

「そ、そういえば…イリヤこそどうして聖杯戦争なんか参加しようと思ったんだ?叶えたい夢でもあったりするのか?」

 

「私に叶えたい夢なんかないわ。私にはそんなこと思うこと自体不要だもの。」

 

「じゃあ、どうして――――…?」

 

 

 

 

“聖杯戦争に参加しようと思ったんだ?”

 

 

 

 

叶えたい夢はない。だったら、何故…?

 

 

 

 

俺の問いに対して、イリヤは考える素振りを長めにしてから、やっと口を開いた。

 

 

 

「…最初は、アインツベルンの目的の為と私自身の目的の為に聖杯戦争に参加したわ――――…。

私には、どうしてもやらなければいけないことがあった。そのために、この聖杯戦争のマスターとなって、日本の冬木へやってきた。」

 

 

 

イリヤの目的…。

とても気になることだが、今は彼女の話の続きを聞くことが先だな…。

 

 

 

「――――…でも、最近になって“分からなくなったの”。」

 

「分からなくなった?」

 

「うん…私のしたいこと…それは本当にしても良いことなのかなって、本当にそれをやって――――…“私は幸せになれるのかな”って。」

 

 

 

分かんなくなっちゃった。とイリヤは少しだけバツが悪そうに苦笑する。

 

 

 

「でもね。今シロウに言ったことをバーサーカーにも前に言ったの。私は在り方は本当に今のままでいいのか、正しいのかって…。」

 

「…それで、バーサーカーは何て言ったんだ?」

 

 

すると、イリヤはどこか楽し気で嬉しそうに明るい笑みを浮かべて口を開いた。

こんな顔もするんだな…バーサーカーは一体なんて言ったんだろう。

 

 

「そしたらね。バーサーカーはこう言ったの――――…“自分のやりたいことを他人なんかに聞くな”って!」

 

「…えぇ……。」

 

 

それはまた、随分と辛辣な返答である。

あまりの厳しいバーサーカーの対応に思わず言葉を失ってしまった。

だが、俺のそんな思いとは裏腹にイリヤは嬉しそうに眩しい笑顔をしながら言う。

 

 

「その後にね、こうも言ったの――――…“自分の目で見て、心で感じたモノだけが『真実』だ。

それを見て、自分がどうしたいのか…何をしなければならないのか。それが分かった時、『答え』が見つかる。”って…。」

 

 

 

 

自分の目で見て、心で感じたモノだけが――――…『真実』。

 

 

 

 

 

「それまで…私が答えを見つけるまで側にいてずっと守ってくれるって約束してくれた。

だから、その答えが見つかるまで私は戦い続けるの…聖杯戦争を、バーサーカーと共にね。」

 

 

 

 

「それが、私の聖杯戦争に参加する理由かな。」と最後にイリヤは付け足した。

答えを探すためにサーヴァントと一緒に戦う……か、何だか凄い話だな。

 

 

 

 

 

「だから――――…次、戦うときも本気でいくからねシロウ。」

 

 

 

 

 

 

「っ。」

 

 

先ほどまでの笑顔とは打って変わって、イリヤは真剣な表情に変えて俺に告げた。

赤い瞳が突き刺すように俺に向けられてくる……その瞳はまるでこう言っているようにも思えた。

 

 

 

“自分と自分の従者は絶対に負けない”…と。

 

 

 

 

そこには昨夜のような、殺意などなく――――…決して負けないという強い意志だけだった。

その声無き言葉に俺は何一つ返すことができず、圧倒された。

 

 

 

「たい焼きごちそうさま。じゃ、そろそろ帰るわ。」

 

 

 

 

スッ…とベンチから立ち上がり、銀色の髪を揺らしながら彼女は数歩前に進み――――…

 

 

 

 

「またね。“お兄ちゃん”。」

 

 

 

こちらを振り返り、いつものように笑うのであった。

 

 

 

 

俺は終始、何も言えないまま去っていく彼女の姿を眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

一人残された俺は自らの手の甲に視線を落とす。

 

 

 

そこにあるのは、聖杯戦争の参加者の証である刻印。

 

 

それを眺め、俺は――――…

 

 

 

 

「でも……俺は…ここで止まるわけにはいかない。」

 

 

 

 

セイバーと共に戦う。そう、彼女に誓ったのだ。

一緒に強くなって聖杯戦争を勝ち抜くと、心に決めたのだ。

…イリヤと戦うのは嫌だけど――――…それ以上に…あの決意を、約束を、なかったことにはしたくない。

 

 

「俺も負けない…本気で“止めてやる”…。」

 

 

誰もいない公園で独り言葉を漏らす。

しかし、その一言は俺の生涯の中でも一番力強く感じた。

 

 

 

間もなくして、重い腰を上げた俺は帰路に着くことにした。

 

 

 

 

 

 

余談だが、セイバーを家に待たせてことを思い出した俺は現在に時刻を確認し顔を青ざめ、死ぬ気で家まで疾走するハメとなった。

そこで待っていたのは、腹を空かせて悲し気に俯いていた彼女と何故かいた冬木の虎。

今晩の夜食が衛宮家の食費に大ダメージを与えることになんてことは言うまでもないだろう…。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

目が覚めたキャスターを迎えた俺に待っていたのは、想像をしていたモノとは違って手痛い未来であった。

目覚めた彼女は俺を見るなり、突然悲鳴を上げたのだ…それを聞いて駆け付けた丁稚坊主たちは何を思ったのか殺意剥き出しの眼を俺へと向けたのだ。

 

 

まてまて、俺は何もしていない!

 

 

…と、言いたかったが今にも襲い掛かってきそうな彼らを見た俺は「あっ、これ無理だ。」と瞬時に悟った。

そこにいたのは、少し前までにいた陽気な性格をした坊主達ではなく、血走った目をした猛獣だった。

これはまずい……ここは、何とかして坊主たちを止めねば――――…!!

 

 

 

「みなさん、誤解です。彼は私に何もしていません。ここはどうか治めてください。」

 

 

 

俺VS丁稚坊主軍団が始まろうとしていたその時…なんと、事の発端でもあるキャスターが諫めたのであった。

彼女の行動には、その場にいた誰もが驚いた。無論、それは俺も同じだ。

キャスターのことを敬愛しているのか、はたまた女という存在に甘いだけなのかは分からないが、彼女の言葉を聞いた坊主たちは一斉に引っ込んだ。

野獣のような眼光をしていたのに、美女の声で簡単にいとも簡単に主張を変えやがったよあいつら…。

 

 

 

 

軽い掌返しを食らった気分だ…。

 

 

 

だがまぁ、キャスターのおかげで余計な時間を割くことも無くなった訳だし、良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

で、だ――――…今、俺ことバーサーカーは何をしているかというと…

 

 

 

 

 

 

「ずずッ……美味いな。このお茶。」

 

「そう。」

 

「…聖杯戦争始まっちゃったけどさ。どうよ。良いスタートできた?」

 

「開始直後は最悪だったけど、今は問題ないわ。」

 

「そっか…。(つーことは…やっぱり、本来のマスター脱落しちゃったんだな…。)」

 

 

 

 

先ほど、一成が持ってきた緑茶を飲みながらキャスターと世間話していた!!

 

 

 

 

 

…もう一度言おう、世間話しているのである。白昼――――…いや、この場合は夜中と表記するべきか…?

どちらでもいいが、敵対関係であるハズの二騎のサーヴァントが堂々と顔を合わせて茶を啜っているなど普通ならあり得ないだろう。

今の俺らの姿を他の参加者が見たら、確実に驚くだろうな。遠坂辺りは「なに仲良くお茶飲んでんのよッ!?」と面白いリアクションを見せてくれそうだ。

なぜ、このような非常にシュールな形になってしまったかをまず説明させてほしい。

 

それこそ最初はね、丁稚坊主を下がらせた後、俺らはしばし睨み合いになりましたよ?

サーヴァントとしての闘争本能を抑えつつ、二人とも相手の出方を伺ってましたよ。

途中でお茶を持ってきた一成がやって来て、目覚めたキャスターの分も作りに行った間も腹の探り合いをしてた訳よ?

でね?目の前のテーブルに置かれた茶を見ているうちに「せっかく持ってきた茶が冷えちゃうな。」と思ったわけですよ。

 

 

 

せっかく、一成が持ってきたのにも関わらず飲まずに冷ましてしまうのは流石に失礼だと俺は考えたんだ。

 

 

 

だから、俺は現在進行形で警戒しているキャスターに申し出たわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶を飲んでいいか?」と――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが思っただろうこれから起こる戦闘――――…。

固唾を飲まずには居られない一触即発な雰囲気だというのにも関わらず、まったくの見当外れの申し出をした俺にキャスターは遂に呆れ果ててしまったのだ。

それもそうだろう…狂戦士のクラスのくせに流暢に会話する上、自慢の結界をぶち破り、得体の知れない魔術を行使した正体不明のサーヴァントが「茶を飲ませてくれ」と言ったんだ。

キャスターでなくても、誰でも呆れてしまうだろうな…自分でも何であんなことを言ってしまったのか今になって思い返しても理解できない。

一番呆れているのは、他の誰でもない俺自身なんだ……。

 

 

 

 

まぁ、つまり…こうなったのは誰のせいかと言うと――――…

 

 

 

 

 

キャスターを気絶する原因となったのは“俺”が不意打ちで飛び蹴りを食らわせた為であり。

 

 

 

睨み合いになったのにも関わらず、一成が持ってきた緑茶に“俺”が気をとられてしまった為に。

 

 

 

まったくの見当違いで期待を裏切る発言をした“俺”にキャスターが呆れ果ててしまったということで――――…

 

 

 

 

 

 

うん。確かにすべて俺が原因だな。

 

 

 

 

 

 

 

だが、私は謝らないッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「…そろそろ本題に入ったらどうなの?いつまで、この茶番を続ける気よ。」

 

 

ショッチョーの真似をしていたら、いつまでも本題に入らない俺に業を煮やしたのか。

はたまた、この生ぬるい風にあたっているかのような雰囲気に耐えられなくなったのかキャスターの方から口を開いた。

まさか、彼女のほうから話しかけてくれるとは思いもしなかったため、びっくりして飛び上がりそうになったが何とか堪えた。

 

 

「同盟の話でしょ?」

 

「お、おぉ…そうそう!同盟…を結びたいんだが…」

 

「ふーん…」

 

 

い、いかん…なんだか話の主導権を握られているような気がする。

なんとか、こちらの方に持ってこれるようにしなくてはッ。

 

 

「どうして、私と同盟を結びたいのかしら?、アインツベルンという最強のマスターを持ち。

あなた自身、あのセイバーとアーチャー二騎を相手に引けを取らないほどの実力があるのにも関わらず、最弱のキャスタークラスの私と同盟を結びたいなんてどういうつもり?」

 

「いや、どういうつもりと聞かれてもな…」

 

「組むべき陣営なら他にもいるでしょう?、それこそ、確実な勝利をもぎ取るのであればセイバーやアーチャーの陣営と手を組むべきだと思うけど。」

 

「その選択は無いね。あいつらは確かに強いけど、組む気は無いぞ。」

 

 

 

正確には“今のところは”だけどな。

 

 

 

確かに優勝したいのであれば、キャスター以外の陣営を組むべきなのだろうな。

セイバーとアーチャーに合流すれば、確実な勝利は得ることができるのは誰が見てもわかる。

士郎がへっぽこな為に、今のセイバーは満足な力を発揮できないけど俺とあいつが居れば、まず負けることは無いだろう。

脅威として考えられるのはランサーとギルガメッシュかな?、あいつらは今期のサーヴァントで群を抜いているレアサーヴァントだ。

 

 

 

 

特にギルガメッシュ。こいつは、レアどころかチートレベルだ。

 

 

 

 

全ての英雄たちの頂点に立ち、あらゆる宝具の原点を持つアイツはかなりの強敵だ。

他のサーヴァントなら俺は確実に負けることは無いと自負できるが、相手が英雄王となると、さしもの俺でも微妙である。

今後の出方にもよるが、真正面から戦えば勝てる可能性はかなり低いだろうな…。

引き出しの多さなら俺も負け劣らずだけど、英雄王の宝物庫には流石に敵わんしな。

 

 

 

常々ヤバい奴だとは思っていたけど、思い返してみると改めてチートっぷりが分かるな。

 

 

 

あの金メッキを倒すには生半可な方法では絶対に不可能だ。

というか、俺一人では確実に無理だ。やっぱり、協力者が必要だろう。

最大の難関であるギルガメッシュの脅威性を改めて認識し直した俺の心情など露知らず、キャスターは怪訝そうに沈黙している。

きっと、あのフードの下の顔の美貌は納得していない表情をしているに違いない。

 

 

「解せないわね。では、貴方は目的は一体何?なにをしたいのかしら。」

 

「さっきも言っただろ。俺は“この聖杯戦争をぶっ壊すこと”これが俺の目的だ。」

 

「だったら尚のこと理解できないわ。聖杯を手に入れることが、それを手にするために殺し合うことが私たちの存在理由ではなくて?」

 

「だろうな。でも――――…」

 

「?」

 

 

 

キャスターの言っていることは“通常のサーヴァントとマスター”にとっては至極当然な意見だろう。

 

 

 

たぶん、この場合、使い魔であるはずの俺の方がどうかしているだろう。

 

 

 

しかし、それでも――――…

 

 

 

 

 

(あの“聖杯”は駄目だ。アレは誰も使っちゃいけない…絶対に。)

 

 

 

 

 

脳裏に思い浮かぶのは、真っ赤に染まった冬木。燃え広がる業火とそれに包まれて、悶え苦しむ人たち。

 

辺り一面から呪詛のように助けを乞う声が場を支配するその光景はまさに“地獄”としか言いようがないだろう。

 

 

 

その地獄の中から、“あいつ”だけが生き残ったんだ。

 

 

 

命だったものが、ただの炭と化している間でもあいつは歩き続けてたんだ。

 

 

 

憎しみ、逆恨み、悲しみ……そういったモノを全て飲み込んで、泣きながら歩いてきたんだ。

 

 

 

多くの憎悪が一斉に降りかかってくる、なんてとてもじゃないが正気を保っていられる自信がない。

 

 

 

あいつはそんな想像を絶する体験をしてきたんだ。

 

 

 

あんな想いをする人を二度と増やしてはいけないのだ。

 

 

 

 

「ふぅん。事情はよく分からないけど、貴方がただのサーヴァントじゃないということは理解したわ。」

 

 

思案顔をしていた俺を見ていたキャスターは、やれやれといったように言葉を漏らした。

…なんか、だいたい分かったような感じで言っているが、今ので何が分かったんだよキャスター。

ほぼ、YESかNOに近い会話だったぞ。アレで何が理解できるというのだろうか。

見た目は子ども、頭脳は大人なバーローでも何も分からないと思う。

 

 

 

心中でそんな風に思いながら見ていると、少しだけ間をあけて彼女はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「いいわ。貴方と手を組みましょうバーサーカー。」

 

 

 

!?

 

マジで!?

 

 

 

「マジで!?」

 

 

突然のキャスターの同盟受諾に心の声が思わず二度出てしまった。

全然大事でも何でもないけど、二度言いました。意味は全くないです。

しかし、いったいどういう心境の変わりようだ?さっきまで、拒否していたのに。

 

 

「別に大した意味はないわ。ただ、貴方と組んだほうが聖杯を勝ち取れそうと思っただけよ。」

 

 

 

 

フン。と鼻を鳴らしてつんけんとした態度で彼女は言い続ける。

 

 

 

 

「ただし条件があるわ。」

 

「条件?」

 

「ええ。私が出す条件は三つ。一つは戦闘は極力そちらでしてもらうこと、あくまでもこちらが行うのは後方支援だけよ。」

 

「ああ、それなら承知している。戦闘は俺が担当するよ。」

 

 

という以前に、前衛をキャスタークラスに任せようとするアホな奴はいるのか?

魔術師のサーヴァントは根っからの後方支援担当だ。よっぽどのことがない限り、まず前衛に立たせることはないだろう。

魔術(物理)の脳筋キャスターなんて見たことがない。というか、誰得なんだよそんなキャスター…。

 

 

「次に二つ目だけど、聖杯を手に入れた際の所有権は私に回すこと。」

 

「んー…俺的には色々な事情があるから誰にも使ってほしくないんだけど…まぁ、そこのところは我が主様に話してみるわ。」

 

 

俺が懸念しているのは、あくまでも穢れた状態での聖杯の使用である。

たぶん、イリヤも聖杯なんて欲しくないと思うけど。

そもそも、イリヤ自身が聖杯そのものみたいなもんだからな。器にするのを阻止するという面においては協力的な解釈をしてくれると思う。

二つ目の条件は帰ってから同盟を持ち込んだことも含めて報告するとしよう。

 

 

さて、次が最後の条件だな。

 

 

一体今度は何を提示してくるんだ?まぁ、この調子だと全部問題ないと思うが――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の条件は貴方の“真名”を教えることよ。並びにどんな宝具を持っているか、全て嘘偽り無く答えてもらうこと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とんでもない爆弾を投下してきた。

気のせいか、キャスターの顔がどこか得意げに微笑んでいる…それにしても貴女、よく笑いますね。

いや、まぁ、フードの中は美人だから笑ってた方が華やかで良いとは思いますけどな。

話を戻すとしよう…“真名を教えろ”だったな――――…んー。そうきたかぁ。

 

 

 

 

前にも少し話したと思うけど。サーヴァントにとって、真名の露見はかなりの死活問題だ。

 

 

 

 

サーヴァントの真名とは、いわばそいつの正体だ。

基本的にそれは秘匿されるものだ、なぜなら相手に正体を知られるということは同時に英霊の残した伝説や伝承が知られるということである。

それが何を意味するかは、言わずとも分かると思うがあえて言わせてもらうなら――――“弱点もバレる”。

 

 

 

例えば、かのギリシャ神話屈指の大英雄「アキレウス」の場合はアキレス腱が弱点である。

 

 

 

…といったように、サーヴァントの真名を知ることは同時に弱みを知ることにも繋がる。

故に俺たちは、露見を防ぐために互いをクラス名で呼び合う…いわゆる、コードネームみたいなものだ。

まぁ、いろいろ述べたが要するに真名は相手にバレたら駄目だっつーことだな。

 

 

「…どうやら、言えないようね。それもそうでしょう、軽々しく真名を喋るサーヴァントなど居るわけが――――「いや、答えるよ?」――――え…?」

 

 

キャスターの目が点になったように思えた。

それもそうだろう。今の俺の発言は「お前に俺の弱点を教える」と言っているようなものだ――――…なんだろう、改めて文字にしてみるとそこはかとなく変態に見えるのは…。

何となく腑に落ちないことに首を傾げていると、キャスターが信じられないモノでも見るように口を開いた。

 

 

「わ、私の聞き間違いかしら――――…貴方今、真名を教えるといったかしら?」

 

「ああ。」

 

「なんで…」

 

「えっ?だって知りたいんだろ?俺の真名。別にそのくらい教えても…。」

 

 

減るもんじゃない。と言おうとしたとき、キャスターが急に疲れたように頭に手を当てた。

笑ったり、疲れたりと大変だなぁ君は――――…

 

 

「貴方のせいよッ!!」

 

 

 

また、露骨に心読まれたんですけどぉ…

 

 

 

「貴方――――…分かっているの?」

 

「なにが?」

 

「真名のことよ!露見されるという事がどうなることなのかわかっているの!?」

 

「なんでキレ気味なんだよ……」

 

 

若干、身を乗り出してるし…。

何故、聞く側の人間が感情的になっているのか皆目見当もつかない…言うの俺だよね?

俺はキャスターを宥めつつ、何とか彼女の腰を椅子に戻した。意外と、感情的なのねキャスターって。

原作で見たときは、表面上はミステリアスで大人な女性って感じだけど、中身は人間味が溢れる乙女チックな人っていうイメージがあった。

実際会ってみたら、思った以上に人間くさい……というより、ツッコミが激しい。心読むし。

 

 

「はぁ…。」

 

 

こちらの方を見ながら、キャスターがまたため息を吐く。

ため息を吐くと幸せが逃げるぞー?と言ってやりたかったが、また怒られても嫌なんで口を紡ぐことにした。

もはや何を言っても、失言になりそうだけど――――…敢えて言うなら…

 

 

「真名の知られることがどんな意味をしているかは俺も重々承知だよ。自分の情報を軽々しく開示するようなマネは俺だって不本意だし、出来るだけ隠しておきたいさ。」

 

「――――…じゃあ、何故。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「簡単だよ。俺はキャスターと仲間になりたいからさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、彼女と仲間になりたい。

 

 

望みはそれだけだ、それが叶えられるなら俺は今できることに全力を尽くす。

 

 

 

 

 

俺が放った答えが、あまりにも意外だったのか彼女は言葉を失っていた。

 

 

 

 

 

「“私と仲間になりたい”…?――――…それだけの為に貴方は自らを危険に晒すというの?勝てなくなるかもしれないのに?」

 

 

「それぐらいやらなきゃ、同盟なんてできっこないだろ?真名の一つ大事に握っておくほど大した奴じゃないしな。」

 

 

「貴方の行動で主も不利になるのよ?それでも良いというの?」

 

 

「ならねぇよ。不利なんて言葉丸ごと相手に倍返しで送り返してやる。」

 

 

「私は――――…ッ!!」

 

 

 

 

 

キャスターの声が僅かに強張るのが分かった。

 

今の彼女の姿は、さっきまでの強気な態度から思えないほどに弱弱しく見えた。

 

そしてどこか――――…何かを恐れているようにも感じた。

 

 

 

 

 

それもそうだろう。彼女は『コルキスの魔女』。

 

 

悲しき運命と呪いによって踊らされ、一人の男の為に何もかも捨てた先に待っていたのは。

 

 

愛した男からの罵倒、心もない辛辣な言葉だった。

 

 

 

 

その結果、彼女の心は壊れた。

 

 

 

 

“貴方の為に国を捨てたのに。貴方のために、何もかも捨てたのに――――…”

 

 

 

 

生前、物語で彼女が自分の過去を語る姿を思い出した。

キャスターは……メディアは、ただ愛したかった。ただ愛されたかった。

だから、捨てた。男の為に…弟を、国を、人生を――――…全てを捨て去った。

 

 

 

 

多くを捨て去った彼女に残ったのは“裏切りの魔女”という憎悪に満ちた名前だけ。

 

 

 

 

故に彼女は信用できない。

 

他人のことよりも……己の利益しか考えることができない。

 

 

傷つきたくないから。

 

 

 

 

多くを切り捨ててきた彼女だからこそ、誰よりも“裏切られることを恐れている”のだ。

 

 

 

 

 

 

「私は――――…貴方を裏切るかもしれないわよ!?不利と感じたら、すぐにでも貴方を切り捨てる…!!自分が生き残るためにね!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな苦し紛れに放った彼女の言葉。

 

 

 

 

 

 

 

「それでも貴方は私を仲間にしたいというの!?」

 

 

 

 

それに対し、俺は――――…

 

 

 

 

 

 

 

「別に構わない。お前が不利だと感じたらすぐに俺を切り捨てれば良い。」

 

 

至極、当たり前のように吐き捨てた。

自分と組んで利益がないと感じたならすぐに捨てればよいと。

もとより、こっちはそのつもりで来たんだからそのくらいの条件は普通だろう。

むしろ、こんなどこの時代の英雄かも分かんない奴はいつ捨てられてもおかしくない――――…自分で言っておいてなんだけど。

 

 

 

というか、いつ主様に見限られるか不安で仕方がないくらいだ。

 

もし、イリヤが俺を信用できなくなって捨てるようなことがあったら――――…え、まって。ちょっと泣きそうになるわ。

 

いかん、こういうこと考えないようにしよ……割としんどい。

 

 

 

自分で考えておいてナーバスになりかけつつ。

キャスターの様子を伺うと、やはり彼女は信じられないモノを見たかのような顔をしていた。

 

 

 

「貴方…馬鹿なの?私は裏切るかもしれないと言っているのに?」

 

「構わねぇよ。そうなったら、そうなったでしゃあねぇし…その時に考えるよ。ただ、これだけはいいか?」

 

「…なにかしら。」

 

 

真剣な眼差しをして、キャスターに語りかける…こいつには言っておかなきゃな。

 

 

 

この世には、気持ち悪いくらい真っすぐな善意もあるってことをな。

 

 

 

 

「“お前が俺を裏切る”のは構わない。だが“俺がお前を裏切る”のは俺が許さない。

 

だから、俺はお前を裏切らない!オーケー?」

 

 

 

 

 

「――――。」

 

 

 

 

 

口から出た言葉はあまりにも破綻している。

だが、それでも自分の言いたいことは言えた気がする――――…うん、言えてる!すっごくバカみたいな文脈だったけど!

要するに俺はキャスターを信用しているし、これからは何が何でもキャスターの仲間で居続けるってことだ!!……ちゃんと伝わったかな?

心配げに彼女の顔色を伺う俺に対し、彼女は――――…

 

 

「――――…くすっ。ふふふっ。あっははは!」

 

 

これまでにないほど、笑い出した。

え、なんすか…なにがそんなに面白いんですか…。

腹抱えて笑ってるんですけど、この神代の魔女さん――――…そんなにウケること言ったか俺。

 

 

 

「バカみたい!貴方のバカは命がけ!?そんな破綻した約束がありますか…ッ。ふふっ。」

 

「…変なこと言ったか?俺。」

 

「ええ!だいぶ!!くすっ。」

 

 

心底面白おかしそうに顔を破顔させるキャスター。

こんな風に彼女が笑うのは原作ではあまり見たことがない――――…というより、一度も無い。

彼女が笑みを見せるときは、先ほどまでのように相手を困らせたり、自分が優位に立っているときなどといった優越感に似たようなものを感じているときとか…。

あ、あとマスターの葛木宗一郎と話しているときか。まぁ、その時の彼女は歳不相応なくらい乙女で――――…いや、ここは控えておこう。

 

 

「…良いでしょう。貴方と同盟を組みましょう。」

 

 

「!、ほんとか!」

 

 

「ええ。貴方に興味が沸いたわ。これからどんな風にこの聖杯戦争を壊していくのか見させていただくわ――――…ただし、もし私の意にそぐわない事をしたら問答無用で切り捨てるから、覚えておきなさい。」

 

 

「おーけー。俺もそのつもりで同盟持ち掛けたんだ。こちらからは何も問題ない。」

 

 

「交渉、成立ね。」

 

 

 

彼女のその言葉をもって、俺とキャスターの陣営は今この時をもって同盟と結ぶこととなった。

 

 

 

 

よっしッ!!キャスターを味方にすることができた。

これは、かなり前進だ。彼女いれば計画を順調に進めることができる!

それだけじゃない!キャスターがいるということは、自動的にアサシンも――――…

 

 

 

 

 

 

…あれ?

 

 

 

 

 

そういえば、俺…“山門を通ったのにアサシンと会ってないぞ”…?

 

 

 

 

 

 

 

 

おかしい…。

アサシンである「佐々木小次郎」は、キャスターの令呪による命令によって柳洞寺の門番を任せられているハズだ。

彼は山門を召喚の触媒とされているために、そこから離れて活動することができないのだ。だから、彼女は彼を門番にした。

故に山門を通れば必ず対面する――――…なのに、俺は“彼に会っていない”。

 

 

 

 

何かがおかしい。

 

 

 

 

だんだんと心配になってきた俺は、すぐさま目の前にいるキャスターに問い掛けた。

 

 

 

 

「おい、そういえばアサシンはどうした?お前が召喚しているんだろ?」

 

 

 

質問された彼女は、かなり驚愕していた。

まぁ、誰もが予想できない事実を俺が知っていたんだ。そりゃ驚いて当然だ。

 

 

「ど、どうして…貴方がそんなことを知っているの…?一体、何者なのよ…!?」

 

「そんなことは後から全部じっくり教えるよ!今は俺の質問に答えてくれ!アサシンはどこにいるんだ!?」

 

 

 

もしかしたら、事態は俺が予想しない方向へ進んでいるのかもしれない。

 

もちろん、それは最悪の結果の方へ――――…

 

 

 

 

「…れた。」

 

「ん!?なんて!?よく聞こえな――――…」

 

 

 

 

 

 

 

「だから、アサシンはいないわよ!!この間、“気味の悪い蟲”と『ライダー』とマスターが一緒に襲撃してきて、そのときに連れ去られちゃったの!!」

 

 

 

「な…ん、だと。」

 

 

 

 

 

存外に俺は、この世界に嫌われているのかもしれない。

 

 

 

 

 




誘拐されたアサシン、果たして無事なのか…?


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第十二夜 対峙する運命

バーサーカー
「いくら、不定期とはいえ、三か月も投稿しないのってショウジキナイワー。」

作者
「誠に申し訳ございません。」(土下座




色々な遠回りをするハメとなったが、なんとかキャスターとの同盟を結ぶことができ、計画を次の段階へと進めることができるようになった俺ことバーサーカー。

彼女を味方にした事で、今後の動きが良くなったことは自分でも理解できたが同時に思い通りにいくほど、世の中は良くできていないことも改めて理解できた。

 

 

同盟を結べたことに喜びに浸っていたのも束の間、予想だにしない事態が発生したのだ。

 

 

 

なんと、キャスターが召喚していたハズのアサシンがライダー陣営に連れ去られてしまったのだ。

 

 

 

 

原作知識を持っている俺でも、これには驚いた。俺が知っている3つのルートどれにも当てはまらない状況に今陥っている───…要するに。なんだこれは、俺全く知らないよ?っていう状態だ。

 

stay nightではどのルートでも、キャスターがルール違反を犯してアサシンを召喚しているので彼女とアサシンは常にセットであり、彼女を味方にできたら自動的に彼も一緒に来ると無意識のうちに思い込んでいた…だってそうだろ?食玩買ったらメインである玩具と一緒にラムネがおまけでついてくるって思うじゃん。

 

食玩で話を例えるのは我ながらにどうかと思ったが、実際そんなところだ。サイコフレームじゃないνガンダムを手にいれてしまったような気分だ……まぁ、その時点で果たしてνガンダムと言って良いものなのかとも思うがな。きっと、アクシズを押し返せないだろう。

 

 

 

 

人の想いを集められないガンダムの話はその辺にしておこう。

 

 

 

 

 

あの後、俺はキャスターを目の前にしてショックのあまり言葉を失ってしまったどころか思考停止してしまい、一時間弱くらい黙りこんでしまった。

 

 

直立不動で明日のなんとかみたいに真っ白に燃え尽きている姿の俺にキャスターはずっと声をかけたり揺さぶってみたりと何かしらのアクションをしかけていたみたいだが…。

 

 

長い間、時間が経ち…意識が戻った俺の前にいたのは涙目で申し訳なさそうにしていたキャスターの姿だった。…俺としては、「このやろー!なんでアサシン誘拐されとるんじゃあああああ!!」と一度説教してから、段ボールに「私は駄目な魔術師です」と書いて首につけてやろうかとも考えたが、彼女の姿を見たら流石に酷かなと思ってやめた。

 

 

 

とりあえず、数分ほどキャスターを慰めることにした。

 

 

彼女が落ち着くのを確認してから、詳しい話は明日することにし、その日はお開きとなった。

 

 

 

 

色々と問題はあるが、今は一度戻ってから我が主様に今宵の成果を報告しなきゃならんな!なにせ、仲間が増えたからな!それもあの神代の魔女となれば、そこいらの魔術師よりもかなりやれることが増えるぞ!!

 

 

明日が楽しみだ。きっと、あの小さな主人が輝かしい笑顔をする姿が目に浮かぶ───…

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「と、思っていた時期が私にもありました。」

 

 

 

翌る日、俺の眼前にあったのは我が主様の笑顔ではなく、ローブを被った女と銀髪の幼女が睨み合う見ていて胸が違う意味で痛くなる光景だった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

一体、どうしてこうなった。

 

 

思わずそう呟いてはいられない状況に俺はため息を吐く。目の前にいるのは、虎と龍───…いや、猫と栗鼠だろうか?、どちらの表現も正しくないような気もしないでもないが、とにかくこの空間はあまりにも空気というか雰囲気というか、殺伐としているモノがある。

 

 

 

なぜ、このような事態に陥ったのだろうか…。

 

 

というのも、今後の出方を相談し合うためとマスターにキャスターと同盟を結んだことを伝えるために、彼女を城に連れてきたのがそもそもの原因と言えよう。もっと、付け加えるなら“イリヤに何も言わずに”連れてきたことが目下の問題点である。

 

 

俺としては、勝手な行動をしたことを謝罪しつつ、キャスターが戦力になること、俺が考えている“計画”を伝えようとしていたのだが…。

 

 

段取り良く進まなかったようだ…まぁ、それも俺らしいと言えば俺らしいんだけどな…。

 

 

 

ため息を吐いて、肩をがっくりと落としながら考えていると不意にイリヤのほうへ視線を移した────…。

 

 

 

「バーサーカー、これはどういうこと?……昨日は、帰ってくるのが遅いと思ったら、今日はキャスターなんかを連れてきて何のつもりよ?」

 

 

キャスターから視線を一度逸らした我が主様ことイリヤはジト目でこちらを見てきた。内容次第では、可愛らしいものかもしれないが、その奥にある冷めたモノを感じた俺は、まるで心臓を鷲掴みされたかのような衝撃を受けた。

 

 

怖ええよ!うちのマスター!

 

 

思わず震え上がってしまう自分自身が情けなく思ってしまうが、あの突き刺すような赤い目で睨まれてしまったらなんも言えないっすわ。蛇に睨まれた蛙よろしく、石化したように固まりそうになった俺だったが、何とかなけなしの勇気を振り絞って言葉を吐き出す。

 

 

「あっ、あのだな!我が主様よ!これには、深い事情と言いますか戦術の一つと言いますか────…」

 

 

 

「マスターの私に何の相談も無しに、一人勝手にキャスターのところに行っていたことが深い事情かしら。

それとも、私の意見も無しに勝手にキャスターと同盟関係を結んだことが貴方の言う戦術かしら。」

 

 

 

ぐ、ぐうの音も出ないとは、このことですかねぇ…。

 

 

 

 

「い、いや!それは悪いことをしたと自分でも自覚しているが、ここは話を聞いてほしい!」

 

「話なら、キャスターと会う前にしてほしかったわね。」

 

 

 

だぁぁぁぁぁッ!!めんどくせぇぇ!!

 

 

 

なんでこんなにツンケンしてんだよウチのマスターは!!いつも以上にワガママっぷりを発揮してませんかね?、いや単なるワガママなら、まだ可愛げのあるが…これは聞く耳すら持たんって感じだぞ。

すっかりご機嫌斜めなイリヤは、遂にはフンと顔を逸らしてしまい。完全に会話のキャッチボールを拒絶している。 …やれやれ。これはちょっと彼女の機嫌を直すことで手を焼きそうだぞ……話が全く進まないじゃないか。

 

 

「あら、アインツベルンのマスターというものだから、ただのお人形さんかと思ったのだけど、随分と可愛げのある子ね。」

 

 

「っ!」

 

 

おいおい、キャスター!?急に話し出したと思ったら、なんか煽ってるような口調で話しているんだけど!?

 

 

「なにか言ったかしらキャスター。言いたいことがあるなら直接、目を見て言ったらどう?」

 

「いえ別に?ただ、ちょっと聞き分けのないサーヴァントに手を焼いたくらいで、拗ねるマスター様が可愛らしいお子様だと思ったのよ。」

 

 

聞き分けのないサーヴァントとは、私のことですかなキャスターさんや。こう見えて、主人には逆らわずに基本的には従う性分なんだよ───…え、見えない?まじで?

そんなことを考えつつ、視線をイリヤに向けてみると口を一の字に引き、どこか怒りを我慢しているかのように震えている……まさか、マスター…俺がキャスターにバカにされたから怒ってくれているのか…?

 

 

「お子様ですって…?」

 

 

 

ああ、そっちですか…。

 

 

 

デスヨネーと反射的に想いの節を漏らす。どうやら、現在、我が主様の眼中には俺が見えていない模様。

 

 

 

「そうでしょう?この聖杯戦争最強とまで謳われているマスターが、たかだか使い魔が勝手に動いただけで、こうもヘソを曲げるなんて面白い話でしょう?」

 

 

 

やめて!煽らないで!

 

 

 

 

女性同士の戦いに割って入ることすら出来ない俺は、バチバチと火花散る間で切実な願いを念にして飛ばしてみる…が、ダメ。

俺の願いを聞いてくれるどころか、存在すら目に入ってないようだ────…。

 

 

「私はヘソなんか曲げてないわ!ただ、主人である私の許可なしに他のサーヴァントと接触したことが気に入らないのよ。」

 

「それが貴方のサーヴァントなのでしょう?使い魔の個性くらいは目を瞑ってあげても良くって?」

 

「自由勝手にやらされて、納得するなんてマスターとしてどうなのよ?私はそんなの嫌よ。マスターである私に何の相談もしないなんて…」

 

 

ああ、耳も胸も痛い会話だ……自分のことで、こんなにまで話をこじらせるとは思わなかった…やっぱり、ホウレンソウって大事だよね……反省しよう…。

がっくりと、項垂れていると、キャスターのほうから「なるほどね…」という声が聞こえ、思わず顔を上げた。

 

 

「不安なのね?自分のサーヴァントが、他の誰かに取られるかもしれないって思っているのでしょう?」

 

「はぁ!?」

 

「えっ?」

 

 

 

取られる?俺が?誰に?

 

 

 

「な、何言ってるのよ!!そんなわけないでしょ!私は、ただ、バーサーカーが相談も無しに勝手に行動したから───…!!」

 

「ただ、勝手行動を戒めるだけならば、ここまで話をややこしくしないでしょう?それに貴方は、バーサーカーが勝手な行動をした事より、私と行動を共にしていた事のほうが嫌だったのでしょう?」

 

「なっ────…」

 

 

え、ちょっとまって…?っていうことは、つまり、我が主様がこんなにも怒っているのは俺が勝手な真似をしたからではなく…。

俺がキャスターと一緒にいて、仲良くしていたと思ってムカついてたってことか────…?

 

 

 

なにそれ、めっちゃ可愛くね?

 

 

 

「だから、可愛いらしい子だと思ったのよ。良かったわねバーサーカー?貴方、自分の主人から大層愛されているわよ。」

 

「~~~~~~ッ!!???」

 

 

イリヤの顔がリンゴのように真っ赤に染まっていく、このままだと湯気でも吹くんじゃないかと思ってしまうくらい真っ赤になっていた。

そして、たぶん俺の表情もみっともないほど呆けた感じになっているんだろう……俺らの姿を見て、キャスターは面白おかしそうに笑っている。

キャスターって、こんなに舌戦に強い奴だったのか…まさか、イリヤを打ち倒すとは思わなかったぞ。

 

 

「も、もうわかったわよ!!今回のことは、不問にしとくわ!でも、バーサーカー!!二度と私に何も言わずに勝手なことしないでね!!わかった!?」

 

「じ、GIG。」

 

 

呆けていたところに、捲し立てるように言い放たれた為に、返答が特撮ネタになってしまった。

自分はいつから、GUYSの隊員になったというのだろうか。

 

 

「…それで、今後どうするつもりなのよ。キャスターを味方につけたってことは何か理由があるんでしょう?」

 

 

先ほどとは打って変わり、イリヤは真剣な表情で俺に問う。

それが引き金となったか、キャスターも笑みを浮かべるのをやめて表情をいつものような読み取れにくいものに戻した。

彼女たちの姿を見て、俺もふざけるのをやめて真剣に話すことにした…もう、イリヤにも話すべきだろう。

 

 

「ああ、キャスターを味方につけたのは他でもない、今後の戦いや行動…そして、俺の“計画”に必要だった。」

 

「計画?どういうこと、バーサーカー。」

 

「結論を言うのは後だ、まずは今回の聖杯戦争がどんなものかについて話し合いたい。」

 

 

我が主様の顔が怪訝なものに変わっていくのを、俺は見逃さなかった。

 

 

「今更、そんなこと話す意味なんてあるの?」

 

「あるんだな、これが──────…今回の聖杯戦争がどんなにイレギュラーなモノかマスターは知っているはずだ。」

 

 

そういうと、イリヤは面を喰らったような顔をしたのち、少しだけ考える素振りを見せてから、ゆっくりと椅子に腰かけた。

彼女の行動から見て、話を続けても良いってことと認識した俺は話を続けた。

 

 

「キャスター、お前は…ここ冬木の聖杯がどんな状況下にあるか分かっているか?」

 

「その口振りだと、聖杯に何か問題があるようね……いいえ、知らないわ。」

 

 

まぁ、そうだろうな。

 

 

「今、冬木の聖杯にエラーが起きてる───…穢れて、願いを呪いに変えちまうようになってしまっているんだ。」

 

「!?───…聖杯が、穢れてるですって…?」

 

 

表情こそ、見えないが明らかに動揺の色が見えた。

それもそうだろう、まさか最大の目標である聖杯がイカれてると知ってしまったんだからな。

この情報は、ある一部の陣営を除いて誰も知らないからな……キャスターが知らないのは当たり前だ。

 

 

「ああ、第三次の聖杯戦争で、ある陣営がルール違反を犯してな。

そのせいで、聖杯が汚れちまって願いを間違った方向で叶えてしまう呪われた願望機になっちまった。」

 

「ある陣営…?、とんだ傍迷惑な者がいたものね…どこの魔術師かしら。」

 

 

 

※ウチ(アインツベルン)です。

 

 

 

…なんて、これから一緒に行動を共にするのに信頼を損なう危険性があるから言えない。

それに、仮にもイリヤの実家みたいなもんだし……あんまり、悪く言いたくないってのもある。

ちらりと、当の本人に視線を向けてみると目を逸らしてた。やっぱり、思うところがあるんだろうな。

 

 

「まぁ、それは置いといて。つまるとこ、その聖杯に願いを込めてしまえば、たちまち呪いとなって周囲に多大のない悪影響を及ぼすってわけ───…最悪の場合、この冬木が吹っ飛ぶかもしれねぇ。」

 

「…なるほど、だから、貴方は聖杯を破壊したいわけね。」

 

 

納得がいった様子のキャスター。

ちなみに、聖杯を破壊する云々の話は既に我が主様に通してあるため、既に了承済みである。

開口一番に、俺は聖杯を破壊したいって言ったら「正気か、こいつ」みたいな顔をされたが、俺の計画や目的など隠していた事全て洗いざらい話したら、一応、了承してくれたみたいだ。

 

 

 

聖杯の器である自身を目の前にして、聖杯を破壊すると断言したのにも関わらず、それでも了承してくれたことには驚きを隠せずにはいられなかったが、同時に俺のことを信頼してくれているのだと分かった。

 

 

 

その信頼は絶対に裏切らないようにしないとな。

 

 

 

「それで?、これからどうするつもりなのよ?」

 

「決まってるだろ、聖杯を何とかするんだよ。

あれを機能させたら、それこそ何もかもおしまいだ────…だから、そもそも“発動しないよう”にする。」

 

「どうやって…」

 

 

ここで、やっと我が主様が声を上げたが、俺が何を言っているのか分かってないようだ。

対し、キャスターは心当たりがあるのか思案顔で何かを考えている。

 

 

「…ま、それらについては追々分かって来るさ。」

 

 

トラブルはあったものの、まだ致命的ではない。

アサシンは連れ去られたが、キャスター自体は五体満足な上、同盟を結ぶことができたのだ。

本来であれば、アサシンをライダー陣営に連れ去られた時点でHFルート行きが濃厚だが…キャスターが助かっているということ、そして、アサシンが奪取された時期が早すぎるのが、引っ掛かる。

 

 

 

既に俺の知らないルートになりつつあるが、だからといって臆するなんてことはしない。

 

 

 

今はやれることだけをするだけだ。

 

 

 

「…今度は、どこへ行くつもり?」

 

「穂群原学園。どうも、そこでライダー陣営が良からぬことをしているみたいなんでな───…ちょっくら行って、潰してくる。あと、アサシンについても何か分かるかもしれないしな。」

 

 

恐らく、ライダーの正体は『メドゥーサ』のはず。

ならば、原作通り学園には結界のマーキングが施しており、後日…ライダーは鮮血神殿を発動するはずだ。

…まぁ、実際に本当にメドゥーサが召喚されているかどうか分からんから、確たる根拠はないんだがな。

 

 

(それも、含めて穂群原学園に確認しに行こう。)

 

 

「ちょっと、私はどうすればいいの?」

 

 

自分を忘れるなとでも言いたげにキャスターが入って来る。

もちろん、忘れてたわけじゃない。彼女にも、やってもらいたいことがある。

 

 

「キャスターは、ここで我が主様と一緒にモニタリングしててくれ。通信機もあるから何かあったら指示を仰ぐかもしれん。あと、一応だが…ここが、襲撃される可能性も無いわけじゃないからな。我が主様の護衛も頼みたい。」

 

「あら?自分のマスターを他のサーヴァントに任せるっていうの。私が裏切ってマスターを殺すかもしれない危険性があるかもしれないわよ?」

 

「信頼してるから。任せる。」

 

 

口説き文句のようにそう言うと、キャスターはぐっ…と言葉を飲み込み。それ以上何も言わなくなった。

まぁ、キャスターに負けるほどウチのマスターは弱くないし、何より今の彼女の姿を見ていて裏切るような素振りが一切見られないし、そういった邪心は微塵も感じられないから大丈夫だ。

 

 

 

キャスターになら、任せられる。

 

 

 

「んじゃ、行ってくるわ。」

 

「バーサーカー…。」

 

「ん?」

 

「シロウのこと、守ってあげてね。」

 

「分かっている、俺に任せとけ。」

 

 

 

彼女が安心できるよう、優しい声音で語り掛ける。

大丈夫だ、士郎も遠坂も学園の奴らも誰一人死なせたりしない……絶対に俺が、ライダーを止めてみせる。

それだけ、告げて俺は城を後にした。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

昨夜は酷い目にあったと、俺こと衛宮士郎は生徒会長である一成から事前に頼まれていたストーブを直しを終えて、誰もいない放課後の廊下をただ一人っきりで歩いていた。

買い物終わりに、イリヤと公園で話をしていたら、つい遅い時間帯になってしまった為にセイバーの食欲に火をつけるばかりか、何故か居た藤ねえにまで、たかられる始末だし…。

 

それだけじゃなく、セイバーのことを説明する前に藤ねえに見つかってしまったのも悪かった。

我が家にいた彼女を発見した冬木の虎は、今晩も飯をたかろうと意気揚々と乗り込んだのの、知らない外国の少女が居間で正座をして待っていた姿を目撃して、大層仰天したそうだ。(そりゃそうだ。)

 

好きなだけ夜食を食べた後に、ぐわっと吼えるようにセイバーについて問いただしてきたときは流石に勘弁してくれと泣きたくなったが、しまいには「見ず知らずの女の子を家に連れ込むなんて、お姉ちゃんそんな風に育てた覚えはありません!!」などという始末……面倒は見てもらってはいたが、残念ながら育ててもらったような記憶が見当たらなかったのだが、そこは口にしないようにした。

 

 

 

感情のままに吼える虎を宥めるように、セイバーについては「親父の知人で、親父に会いに来た」というカバーストーリーを立てることにした。

 

 

 

そうすると、先ほどまでにギャーギャー言っていた藤ねえは納得したのか、急に黙り込むと「分かった。」と一言だけ呟き──────…。

 

 

「じゃあ、勝負しましょう!私に勝ったら、この家に住むことを認めます!!」

 

 

 

なんてことを、言いやがった。

 

 

全然、わかってないじゃないか……と言いたくなったが、こうなった藤ねえは誰も止められないのは分かっていた為、黙って見守ることに徹した。

離れにある、道場で竹刀を使った真剣勝負?を始めた二人だったが、そこはサーヴァントと一般人ということで終始、セイバーが藤ねえを圧倒し、途中で卑劣な妨害すらも容易くいなして勝利を収めたことにより、衛宮家にホームステイすることを認められたのだった。

 

 

「全く、藤ねえは相変わらず頑固なんだからなぁ。」

 

 

思わず、ため息を吐いてしまう。

あの強情で自分中心に動く虎には振り回されっぱなしで手を焼いているが、不思議と憎めない人だ。

それに、ここぞという時は凄い頼りになる人だ。切嗣が死んだときも、俺のことを気にかけて面倒を見てくれてたしな。

 

 

 

ああいう、憎めないところが藤ねえの良いところだ。

 

 

 

「衛宮くん。」

 

 

不意に後ろから声を掛けられて、振り向くと──────…そこにいたのは、階段の上でこちらを高圧的な眼で見降ろしている遠坂の姿があった。

 

 

「遠坂…?、まだ学校にいたのか…どうかしたのか?」

 

「どうかしたのか──────…じゃないわよ、貴方……私がこの間、言ったこと…もう、忘れたのかしら?」

 

 

この間──────…?

 

はて……何のことだったか。

 

 

 

思い出そうと首を傾げていると、遠坂から心底呆れた果てたような、ため息を漏らす声が聞こえてきた。

 

 

 

「…どうやら、貴方にはマスターとしての、魔術師としての覚悟もないみたいね。

サーヴァントを連れずに、出歩くなんて正気の沙汰とは思えないわ。」

 

 

そう言いながら、遠坂は左腕の制服の裾を捲ってみせた。

左腕には、青火色に輝く魔術刻印が刻まれており、魔術師たる象徴として存在していた。

魔術刻印を見せつけてどうするつもりだ…?、と考え込んでいると人差し指をこちらに向けて銃口を向けるように構えた──────…って!?

 

 

「お、おいッ!!何の真似だ遠坂!?」

 

「何の真似…?、変なことを聞くのね衛宮くん。

聖杯戦争に参加しているマスター同士が対面したら、することは一つでしょう…?」

 

 

 

まさか…ここで、戦うつもりなのか!?

 

 

 

「やめろ!!ここは、学校だぞ!?戦いは他の人気が無くなってからするんだろう!?」

 

「あら?じゃあ、周りを見て見なさいよ──────…“私たち以外に、人はいる”かしら?」

 

 

その言葉にハッと気づいて、辺りを見回す──────…彼女の言う通り、今この場所には俺たち以外の生徒は存在しなかった。

それが分かった瞬間、今、自分はとても危険な状態にあることに気付き、背筋に氷塊でも流し込まれたかのような感覚に襲われた。

 

 

「本気…なのか、遠坂──────…」

 

「ええ、残念だけど……貴方には、ここで終わってもらうわ衛宮くん…!!」

 

 

遠坂はそう告げると、突き出した左手から嫌な気配が集まる。

赤黒いエネルギー体──────…魔術的に言うならば…そう、まるで“呪い”のような──────…!!

 

 

「くらいなさい!!」

 

 

 

──────よせ!遠坂!!

 

 

 

そう言葉が出る前に、彼女の左手から魔弾は発射されて俺の右頬を掠り、後方の壁を破壊した。

窓ガラスは割れ、壁は土煙を上げながら、パラパラと石くずとなった破片が崩れていく……俺の乏しい魔術の知識によれば……あれは北欧に伝わる呪いの一つ『ガンド』だろう。

だが、彼女が放ったそれは…俺の知っている呪いとは全く、かけ離れていた。

 

 

(ただ、人を病気にさせたりするだけの呪術のハズなのに──────…なんだ、あのバカでかい威力は!?)

 

 

あれをモロに喰らったら、病気になって弱るどころじゃない。

触れたら最後…一瞬にして消し飛ばされる!!

 

 

「次は…外さないわよ。」

 

「ッ!?」

 

 

 

──────このままだと、やられる!!

 

 

 

それだけ、理解したら十分だった。

あまりの衝撃な出来事に微動だにしなかった足に鞭を打って、その場から駆け出した。

 

 

遠坂から、離れなければ……!!

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

後方から、遠坂がヒステリックに叫ぶ声が聞こえて、階段から飛び降りたのか着地したような音もやって来た。

 

 

何故だ…!、どうして遠坂と戦わなくちゃいけないんだ!?

 

 

頭の中に、そんな感情が過ったが止まったら消し飛ばされることは確実だ……!

 

 

 

なんとかして、遠坂を止める方法を考えなくては──────…!!

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

城から出た俺ことバーサーカーは、寄り道をすることなく穂群原学園の校門前までやって来て、そこから学園の今の状況を確認していたのだが……うーむ、これは遠目でも分かるぐらいに結界の存在が見え見えだ。

まだ、発動はしていないようだが、それでも時折…赤い景色が視界に過ってくるというか、踏み込んですらいないのに粘っこい嫌な気配が纏わりついてくるような、そんな気配だ。

 

士郎の奴は、甘ったるいとか言っていたけど、俺からしてみれば害虫の住処のような気色悪さを覚えた。

…正直、こんな蜘蛛の巣みたいなところに入りたくないが、帰る訳にもいかないので意を決して結界内へと足を踏み込んだ。

…顔面を蜘蛛の巣に叩きつけられたかのような気分だが、まぁ、そこはサーヴァントなんで普通の人間よりかは全然平気だ。

 

 

「さて…どうしようかな────…!?」

 

 

その時、頭上から殺気を感じて視線を素早く向けると……そこには、こちらへと数本の矢が迫って来ていた!

突然の不意打ちに思わず、舌打ちをこぼしてしまうが、バク転をして矢の軍勢を回避する。

俺がいた場所に、迫ってきたいた矢が全て突き刺さると、遅れてやってくるように“矢を放った犯人”もやって来た、その犯人とは────。

 

 

 

「貴様…こんなところで、何をしている…。」

 

 

「アーチャー……。」

 

 

 

遠坂 凛のサーヴァントであり───…俺の因縁の相手でもある、あの赤い弓兵だった。

 

 

 

 

 

 




この作品のバーサーカーは、英雄時代に多くの魔術師と渡り合ったことや直死の魔眼を何度も使った経験から、結界といった魔的なものに士郎よりも敏感です。
かなり研ぎ澄まされた感覚を持っている持ち主なのです。


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第十三夜 相見える四つの陣営

ハーメルンよ、私は帰って来たああああああッ!!




…はい、言ってみたかっただけです。

別に失踪してたわけではありません…。



鷹眼の鋭い眼光、灰を被ったかに見える白髪に浅黒い肌、その身に包んでいる血で染められたかのような赤い外套の名は『赤原礼装』───…それを持っている者は、どんな世界でもたった一人しかいない。

 

 

「貴様…こんなところで何をしている。」

 

「アーチャー…。」

 

 

学園へと足を運んだ、俺ことバーサーカーを待ち受けていた者の正体は、この第五次聖杯戦争に参加しているサーヴァントの一騎であり、この先の未来で因縁のある奴だった。

奴の姿を見た瞬間、心臓がばくりと跳ね上がる……こんなところで、こいつと会うなんて思いもしなかった。

 

アーチャーとは、近い先で戦うことになるのは重々承知していたが、まさかここでそんな機会が訪れるとは予想だにしなかった。

それは、あいつも同じだったらしいのか奇襲をかけてきた側だというのにも関わらず、どこか驚いているように見えた。

 

 

「何故、お前がこんなところにいる…!

何故、お前が─────…イリヤスフィールのサーヴァントとして、この聖杯戦争に参加しているんだッ!!」

 

 

「……。」

 

 

あり得ないモノでも見るかのような眼で、俺に問いただしてくる……奴の言動も無理はない、文字通り、俺が聖杯戦争に参加していることは、あり得ないことなのだからな。

第五次聖杯戦争に参加することが正史に刻まれているアーチャーにとって、俺はイレギュラー中のイレギュラーだろう。

 

 

「答えろ!イリヤスフィールのサーヴァントはギリシャの大英雄『ヘラクレス』のハズだ!

お前が、バーサーカーとして現界できるはずがないんだ!!一体、何が目的だ!!」

 

「アーチャー、俺は──────…」

 

 

 

 

────────────…pipi!!

 

 

 

言いかけたその時、右耳に掛けていた、特別製のインカム型通信機が鳴り響いた。

自分で用意したものだが、悪いタイミングで鳴りやがったそれに、若干の煩わしさを覚えたが通信相手のことを考えたら出ない訳にもいかないだろうが、果たして、呑気に通信に出ることを目の前にいるアイツは許可してくれるのか…。

 

 

…ちらりと、視線を前に向けるとアーチャーは少し不服そうな顔をしていたが、出ることを了承したのか腕を組みながら、視線を俺から外した。

 

 

 

そういうところは、相変わらず紳士だな…。

 

 

 

奴の気遣いに今は素直に感謝して通信を繋いだ。

 

 

 

 

「キャスターか?」

 

《ええ、私よ。何か不服かしら?》

 

「悪いが、今は茶を濁す余裕がすらねぇ。何か連絡があるなら、言ってくれ。」

 

 

俺の緊迫した状況を察したのか、面白くなさそうに通信越しに息を吐くキャスター……乗ってもらえなかったのが、そんなに気に入らなかったのかよ…。

 

 

《貴方の言っていた通り、あのセイバーのマスターとアーチャーのマスターが交戦を始めたわ。

そして、予告通り…あの坊やは逃走に徹していて、戦意がないみたい。》

 

 

やっぱり、遠坂が士郎に戦いを吹っ掛けたか。

原作通りの行動に一瞬、安堵しかけるが、これからどうなるかまだ分からないので安心するのは、まだ早い。

最悪、遠坂が士郎を殺してしまう可能性もあるのだからな…まぁ、遠坂 凛の人間性を考えれば、そんなことはあり得ないと思うが、よく死ぬ主人公で有名な士郎だから否めない。

 

それ以外にも不安材料はある、遠坂家に代々伝わる呪い────…もとい、遺伝である“うっかり”のせいで、何が起こるか分かったものじゃない……!!

 

 

 

…なんだか、すごい不安になってきたぞ。

 

 

 

遠坂が色んな所にガンド撃ちまくって、そのうちの一つが跳ね返ってきて士郎に直撃した何てことも…あり得なくはない。

 

 

 

 

《ねぇ、ちょっと聞いているのバーサーカー?》

 

「…ああ、うっかりって怖いな。」

 

《なんの話よ…それで、どうするのよ。あの坊や、あのままだと死んでしまうかもしれないわよ?》

 

 

キャスターは、まるで「早く助けに行かなくていいのか?」とでも言いたげだ。

彼女は、俺が士郎のことを気遣っていることを見抜いているんだろう、実のところ、今すぐにでもあいつのところへ行きたいところではある…。

 

 

だが─────。

 

 

「…こっちも問題発生だ。」

 

《アーチャーのことね。こっちでも確認してる。》

 

 

あっちのモニターでも、俺と奴が対面している姿が映っているようだ。

俺は、無線から流れてくるキャスターの声に耳を傾けつつ、アーチャーから視線を外さなかった。奴も警戒しているのか、律儀に通信が終わるのをじっと待っているものの、隙は一切見せてはいない。

…やっぱり、一筋縄では行かないよな、あいつのことだから、ここを簡単には通してくれないだろう…。

 

 

 

仕方ないか…。

 

 

 

「なんとか、こいつをかわして士郎のところへ向かう。

キャスターは、そのままモニターしていてくれ、何か起こったらすぐに連絡くれ。」

 

《…了解したわ。でも、いいの?》

 

「?」

 

《貴方、あのアーチャーに何か思うところがあるみたいだから。》

 

 

その声には少しだけ、こちらを気遣っている色が見られた。

これには流石の俺も驚いた、まさかキャスターに心配されるとは思ってもみなかったし、それに俺がアーチャーに対して特別な心境を抱いているということを、彼女にに気付かれるとは思ってもみなかった。

魔術的とはいえ、繋がりを持っているイリヤでさえ、少し引っ掛かりを感じる程度にしか思っていないのに。

 

 

 

意外も意外、だが、その気遣いは少しだけ胸のつっかえを消してくれた。

 

 

 

 

「なんだ、心配してくれてるのか?」

 

《馬鹿なこと言わないで、あれだけ大見得切って同盟を持ちかけたのに、使えなくなったら困るから言ってるだけよ。》

 

 

さっきよりも冷淡な声音で言い放つキャスター。

ツンデレを期待したわけではないが、ちょっと残念な気持ちになった自分が気持ち悪いな。

適当に会話を切り上げて、通信を切ってアイツに向き直る…褐色の仏頂面が腕を組んで通信が終わるのを待っていやがった、ほんとに律儀だなあいつ。

 

 

「お喋りは終わったか。」

 

「お喋り言うーな!俺は、ただホウレンソウを守ってるだけだっつーの!」

 

 

人の通信を子どもの内緒話かのように扱うアーチャーに俺は吼えるようにツッコミを入れる。

そんな俺に対し、この色黒白髪男は「やれやれ…」と呆れたように溜め息を吐きやがった…溜め息を吐きたいのはこっちだっつの…。

 

 

(けど、なんか…懐かしいな…今のやり取り。)

 

 

英雄時代で、ほんの少しだけの共闘期間中に行われたやり取りを思い出した。

確か、あの時も緊迫した状態だというのに、こんな風に馬鹿話をしてたなぁ…俺達だけじゃない、そこには多くの仲間達も居て、みんなで軽口を叩きながらも過酷な戦場を乗り越えてきた。

そこには、アーチャーも居て…まぁ、今のように捻くれた性格してたけど、仲間として共に戦ってたんだよな…。

 

 

そんな風に考えていると、あいつも同じだったのか懐かしんでいる表情をしていることに気が付いた。

 

 

あいつも、懐かしんだりするんだな…まぁ、原作でも何度かそんなシーンがあったような気もするけど。

俺の視線に気が付いたのか、アーチャーは間もなくしてハッと気が付くと、すぐに表情をいつものような鋭いものに変えて、こちらに向き直りやがった…くそ、もう少しあのままで居てくれたら『加速』使って、校舎へ乗り込めてたのに…!

 

 

一瞬とはいえ、行動に移すのが遅れたことが仇となったのか、ここから逃走するタイミングを見失っちまった。

 

 

 

「…貴様、ここから逃げようとしていたな。」

 

「何故バレたし…」

 

 

キャスター曰くの“表情に出ていた”ってやつなのか、俺の考えを見事に読み取ったアーチャーは蔑んだ眼で睨みつけていた……あっぶね、あのまま逃げてたら確実に後ろから、串刺しにされてたかもしんねぇな。

まぁ、こいつのことだし…最初っから『加速』を使うことを想定していたかもしれんな、なまじ因縁深い間柄なもんで互いの手の内も考え方もある程度読めるもんな。

 

 

さぁて、どうしたもんかねぇ…さっさと、士郎の様子を見に行きたいんだが。

 

 

物は試しか……。

 

 

 

 

「アーチャー、そこ通っていい?」

 

「この状況で、良いと言うと思っているのか?」

 

 

 

ですよねー。

 

 

 

「…そんなことより、さっきの質問に答えてもらいたいのだがね。」

 

「黙秘権を行使する」

 

「そんなものがあると思っているのか。」

 

 

 

うんまあ、知ってた(棒)

 

 

 

 

可能な限り詰め込んだユーモアセンスで乗り切ろうとするが、そうは問屋が卸さないとばかりにアーチャーは冷淡なツッコミを入れてくる。

もう少し、優しい対応をしてもらいたいものだが、こいつから優しくされてもあんまり嬉しくないどころか、想像したら居心地も悪くなりそうだから撤回しておこう。

 

 

 

さて…どうしたもんかな、ある程度何らかの障害は起きるとは予測していたが、こいつが来たのは完全に計算外だ。

 

 

 

「…やっぱり、素直には通してくれないか。」

 

 

やれやれ…普段は興味なさげに素通りするはずなのに、こういうことになるとムキになって頑ななのは相変わらずだな。

こうなった、アーチャーは誰が何を言おうとも変わることはない……であるならば、強硬手段しか残されていない。

 

 

「そこをどけ、今は付き合っている暇はないんでな。」

 

「…やはり、口割らないか───…ならば、この後の行動は容易に想像できるな。」

 

 

呆れたように述べた後、アーチャーは表情をより一層険しいものに変え、いつも使用している夫婦剣を投影して構えた。

 

 

 

「構えろ、バーサーカー。この身は既に英霊、ならば英霊同士が相見えたからには剣を取り戦うことが道理だろう。」

 

「…仕方ねぇ。」

 

 

それだけ呟くと、俺は夫婦剣に対抗するかのように己の宝具である非対種の双子銃を取り出して銃口を奴に向けた…こいつと戦うからには、生半可な戦い方じゃ通用しねぇ。

 

 

 

 

“本気で倒す気で行かなきゃな。”

 

 

 

 

「今は、お前に付き合ってる暇はねぇ────…さっさと、越えさせてもらうッ……!!」

 

「越えられるものなら、越えてみろ……!!」

 

 

 

対峙するは、黒と赤───…破壊者と守護者。

 

 

 

奇しくもそれは、状況こそ違うが最後に殺し合った時と全く同じだった。

 

 

 

その事実に、チクりと胸が痛んだ気がしたが…この時の俺は気に止めるほどの余裕はなかった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

日常的に見慣れた学校の廊下を激走している俺こと、衛宮士郎は、現在進行形で後方から追ってくる同級生にして先日大変世話になった赤鬼───…もとい、遠坂から逃げている。

 

 

「待ちなさい!!」

 

 

その怒声と共に飛び交うのは、彼女の指先から放たれる呪い(ガンド)。北欧で伝わる小さな呪いは、伝承とは違い、一発でも直撃したら確実に吹き飛ぶだろうシロモノだ。

 

 

 

弱小の呪いがどうすれば、あんな殺人兵器に変わるというのだろうか……。

 

 

 

───…って、今かすったぞ!?あぶなっ!!

 

 

 

「往生しなさい衛宮くん!!大人しくやられなさい!」

 

「誰が止まるかよ…ッ!!」

 

 

あんなものを食らったら、呪われるだけじゃ済まされないだろう、体が消し飛んでしまいそうな勢いだ。

 

 

「くそっ───…」

 

 

このままでは、やられると思い近くの教室に逃げ込んだ。

我武者羅に走り続けていたから、どこの組なのか分からないけど机が並んでいるところを見れば、普通の教室なんだろう。

 

 

 

教室に入った俺は、教室の扉の鍵を全て閉めて立て籠もった。

 

 

 

ドンドンと外から遠坂が扉が強く叩く音が教室内に鳴り響く。

扉越しから聞こえる怒声に冷や汗がたらりと滴るが、ひとまずは息を整えても大丈夫だろう。

 

 

「遠坂の奴────…一体どうして…」

 

 

先日まで、何だかんだ言って親切に教えてくれた遠坂。

右も左も分からず、セイバーを召喚し、聖杯戦争に巻き込まれてしまった俺を見捨てず、助けてくれた。

たった少しだけの時間、セイバーのマスターとして聖杯戦争に参加することを決めた瞬間から、いずれ戦うことは決まっていた…俺も覚悟していた、けど、やっぱり…。

 

 

 

───俺は、遠坂とは戦いたくない。

 

 

 

「なんとかして、遠坂を止めなきゃな…さて、どうしようか────」

 

 

 

そこで、俺はようやく気が付いた。

 

 

 

外にあった、怒声が無くなっていることに…。

 

 

おかしい、あれほどサイレンのように響いていた彼女の声が突然、ピタリと鳴り止んだぞ。

遠坂の性格から、大人しく諦めたとは思えない……一体、どうしたっていうんだ……ッ!?

 

 

 

その時、ぞわりと背筋が凍るような感覚が走った。

 

 

 

扉には鍵をかけ、窓からも入ることは不可能、俺以外誰もいない密室なのにこの感覚は何だ…?

 

 

 

 

まるで────そう、罠にかかったネズミのような。

 

 

 

 

────────ッ!!

 

 

 

扉の向こうで、遠坂の声が微かに聞こえてきた。

俺の勘違いでなければ、今のは魔術の詠唱に間違いない!!

 

 

「くそっ!!」

 

 

このままだと、やられる───!!

 

 

そう思った、俺は側にあった机を縦に寝かせて身を守るように体の前におき、詠唱を始める。

 

 

同調、開始(トレース、オン)…!!」

 

 

机を強化して、盾として使おう。

これで、ひとまず遠坂の攻撃に耐えることができそうだ…!

机の陰に身を隠して、攻撃に備えていたその時……。

 

 

 

 

Fixierung,Eilesalve(狙え、一斉射撃)───!」

 

 

 

 

 

扉の向こうから、彼女の叫ぶ声が聞こえた次の瞬間。

 

 

 

 

魔力の弾丸の雨が、俺を襲った。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

俺とアーチャーとの戦闘が開始してから数分が経過しようとしていたが、勝敗は未だに付いていなかった。

俺は、ジリジリと迫ってくる、白と黒の夫婦剣を避けながら適度の距離感を保ち、アーチャーへ向けて双子銃の弾丸を放つ。

対してアーチャーは、両手に持った夫婦剣で切り払いながら回避し、接近して夫婦剣を振り下ろしてくる。

 

 

 

両者の実力は互角…攻防戦は未だに続き、拮抗状態が続いていた。

 

 

 

「いい加減ッ、そこ退け!!」

 

「退くと思っているのかッ!」

 

 

 

白の剣戟が俺の右頬を掠る…!!あっぶねぇぇ、このやろ!!

 

 

 

「当たるかっ!!」

 

 

避ける動作をしつつ、右手に持っているディーヴァを放つが軽々とかわされた。

かなり、際どいタイミングと角度からの攻撃だったんだけどな…今のを避けるとは、やっぱり…こいつの厄介さは英雄時代から変わんねぇな!!

 

奴だけ…英雄時代から何度も対立してきたあいつだけは、俺の力の全てを知っている。

戦略、能力、魔───…全ての情報を開示されている為、あらゆる戦術に対応される。

それは、俺だけじゃなく…あいつもそうだ、俺もあいつの戦術や力を熟知しているため、どんな攻撃が繰り出されても切り返すことができる。

 

 

 

つまるところ、お互いの行動に対応できるから全然終わんねぇ!!って状態に陥っている。

 

 

 

これじゃあ、埒があかないっ!!

 

 

 

「らぁッ!!」

 

「フッ…!!」

 

 

やけ気味に回し蹴りを顔面に向けて、蹴りつけるが当たる訳もなくあっさりと避けられて距離を取られる。

あいつも、拮抗状態が続いて埒があかないと思ったのだろうか、ばつが悪そうな顔を浮かべていた…きっと、俺も同じような表情をしているんだろうな。

 

 

(それにしても、どうしたもんかなこれは。)

 

 

長い事、ここでの足止めでかなりの時間をロスしていることに焦りを感じ始めてきた。

このままだと、流石にまずい……士郎を見張りつつ、学園に現れるだろうワカメこと間桐慎二を懲らしめつつ、ライダーを無力化したのちにアサシンの行方を聞くつもりだったのにおじゃんになりそうだ…。

今頃、士郎も遠坂にガンドを打たれながら追いかけまわされていると思うし…何とかして、ここから離れなきゃな。

 

 

 

一瞬の隙を突いて『加速』で逃げられるか?

 

 

 

あいつに限ってみすみす見逃してくれるとは思えないが……やるだけやってみるか。

 

 

 

 

双子銃のグリップを握り締め、アーチャーへと向う。

 

 

 

 

…その時、突如として上の階にある教室が爆発した。

 

 

 

────って、はっ?爆発!?

 

 

 

突然の爆発に思わず唖然とした。

何だ今の…知らんぞ、劇中であんな爆発のシーンなんて見たことないし…。

 

 

「なんだ…今の爆発は?」

 

 

俺に心当たりがないなら無論、こいつにも身に覚えがないわけで険しい顔のまま上を見上げていた。

どうやら、アーチャーが行ったわけではなさそうだ…じゃあ、誰が────。

 

 

 

 

 

「…ぁああああああああああああッ!?」

 

 

 

 

 

 

やった?と思考を巡らせたところで、今度はそんな叫び声が聞こえた。

 

 

 

視線を戻すと、そこには二階の教室から“真っ逆さまに落下してきている士郎の姿があった”

 

 

 

 

 

「…って!?士郎さあああああああんッ!?」

 

 

 

 

 

とんでもない光景に目を疑ったというべきか、はたまた現実を疑ったと形容すべきか…とにかく、すごい驚いた。

そしてなにより、士郎お前何してんだよ!!このままだとdead endは確実だぞ!!タイガー道場まっしぐらだぞッ!?人生にセーブポイントなんか存在しないんだぞ!みんなノーセーブ、ノーコンテニューで生きてんだぞおおおおおおッ!!

 

『狂化』が働いてないのにも関わらず狂ったように言葉の波が脳内を駆け巡るが、それが原動力になったのか無意識に『加速』を発動し、その場から駆け出し─────…空中で士郎をキャッチすることに成功した。

 

 

 

 

あ、あっぶねぇぇ…!!完全に意識外の行動だったけど、俺ナイス!

 

 

あと少し遅れていたら、士郎が地面と合体するところだったぜ…。

 

 

 

 

《バーサーカー!!士郎はっ、士郎は大丈夫なの!?》

 

 

良く動けた俺、えらいえらいと自分自身を褒めているとインカムから焦燥感が滲み出ていることが丸分かりのイリヤの声が聞こえてきた、あちらのモニターにも士郎が二階から落ちてきたのを確認できたようだ…。

俺は返事を返すことなく、カメラの位置に視線を向けてコクりと頷いて士郎の安全を伝えると間もなくして、我が主様が胸を撫で下ろすように息を吐くのが分かった。

 

 

「ば、バーサーカー…!?な、なんでここに!?」

 

 

 

なんでここに?

 

 

こっちの台詞じゃい!

 

 

 

信じられないものでも見るような眼で見上げてくる士郎…そこで、俺は顔バレしたのではないかとハッとしたが幸いなことに着地した時に礼装のフードが被さったようだ、色んな意味で助かった…。

 

 

しかし…一体、何であんなところから落ちてきた?というか何があったんだ────?

 

 

そう思い、ちらりと士郎が落ちてきた二階部分を見上げると。

 

 

 

すると、破壊された窓から遠坂の姿が現れた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

遠坂は俺を見て……というより、俺に抱えられている士郎の姿を見て驚いている表情を浮かべた。

 

 

 

「…なるほど、そういうことね──…!!」

 

 

遠坂は何かを呟いたかと思うと窓から飛び降り、下にいるアーチャーへと指示を飛ばす。

命令(オーダー)を聞き取ったアーチャーは、“人間”では目視できないスピードで自分の主のもとへ駆け出し、空中でしっかりと受け止めて地面へと着地した。

 

 

その様子を確認しつつ、俺は士郎を下ろして双子銃を握り直す。

 

 

同じくして地面に降り立った遠坂は従者よりも一歩前へと進み出た。

 

 

 

「遠坂…!!」

 

 

俺の横にいる士郎が張り詰めたような声を上げる…きっと、原作通りにあの赤い女と物騒な鬼ごっこをしたんだろう…同い年で見知ったとは言え、相手は生粋の魔術師。

他の奴らよりかは良識人とはいえ、怖い思いをしただろうに…少しだけ、隣にいる我が主様の大事な男の事を不憫に思った。

 

 

「やるじゃない衛宮くん、私としたことが完全に騙されたわ…まさか、最初からそういう算段だったのかしら?」

 

 

 

ナニイッテンダ!!フジャケルナ!!(0M0#)

 

 

いや、ホントに何言ってんだこいつ。

一人で勝手にスカした顔で喋ってる姿にはダディじゃなくても思うはず。

 

 

「…何言ってんだ?お前…?」

 

 

ほらぁ、士郎も同じこと思ってるー。

 

 

…などと、お茶らけてみたものの依然として、遠坂の表情が変わることはなかった。

ここまでくると流石の俺も反応に困る、マジで遠坂は何のこと言ってんだ?

 

 

「この期に及んで白を切る気?、それともそれも作戦の内かしら?」

 

「だから、何のことを言っているんだ遠坂!?算段とか作戦だとか言っている意味が分からないぞ!?」

 

 

 

 

「しらばっくれてんじゃないわよ!!アインツベルンと手を組んで私を貶めるつもりだったのでしょう!?」

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

ヴェッ!?(0w0;)

 

 

 

「おかしいと思ったのよ、いくら明るい内とは言えセイバーを連れて歩かないなんて自殺行為をする意味が分からないもの。」

 

 

それもこれも、全てこの為だったのかと言わんばかりにこちらを睨んでくる【あかいあくま】、もとい遠坂に俺も士郎も言葉を失った。

彼女が知らんのも無理はないが、セイバーはとある諸事情から霊体化できない身だから学園に連れて来れないのは仕方がない事なんだが、それを説明できるわけもなく。

 

 

「ご、誤解だ遠坂!!俺がイリヤたちと手を組むなんて────…」

 

 

そうだ!もっと言ってやれ!

 

 

「さっきの光景を見て、そんなことが通用すると思う?」

 

 

ですよねー。

 

 

どうやら、さっきの俺の士郎を助けたのが誤解に繋がったようだ…っていっても、あのまま士郎を見殺しには出来なかったし、我が主様に士郎が死ぬような光景を見せたくなかったしさぁ…。

 

 

「いいわ。一度は騙されたけど二度目はないわ…幸い、セイバーは居ないし、ここで迎え撃つわ!」

 

「遠坂!!」

 

 

迎え撃つわ!じゃ、ねーわ!!

 

 

おいおい、マジで俺ら手を組んでるって思われてんのか!?

このままだと、士郎が遠坂と手を組まないルートに入っちまう可能性が微レ存!?

またまた、俺の知らない改変に頭を悩ませていると突如としてその場の空気が変わり、そして───…

 

 

 

 

「あははははっ!ほら、だから言っただろう遠坂?衛宮なんかより、僕と組んだ方が良いってさぁ!」

 

 

 

 

そんな愛嬌が微塵も感じられない憎たらしい声が聞こえてきた、この声は…まさか…。

 

 

 

「慎二…!?」

 

 

ワカメの野郎がいやがった…。

ワカメこと、間桐慎二は下品な笑みを浮かべながらこちらを見下すように眺めていやがった。

 

 

「よぉ、衛宮。まだ、くたばってなかったんだねぇ。」

 

「慎二…お前、なんで…!?」

 

 

突然の親友(?)の登場に士郎は驚きのあまり言葉が出ないみたいだ。

そんな彼の姿を見て、慎二は愉快そうに口角を釣り上げながら言い放った。

 

 

「“なんで?”おいおい、随分とおかしなこと言うじゃないか。もしかして、わざと言ってんの?それとも…本当に分かんないの?」

 

 

 

慎二は笑みを浮かべたまま、右手に持っていた本を見せつけるように開いた。

それを目の当たりにした俺はすぐに察した…やれやれ…どうやら、面倒事がまた一つ増えたみたいだ。

俺が溜め息を吐くと同時に慎二は、自信たっぷりに“名”を呼んだ。

 

 

 

「来い『ライダー』。衛宮にお前の姿を見せてやれ。」

 

 

慎二がそう言うと、鎖の付いた短剣がこちらに向かって飛んできた!

士郎がギョッとした様子で後ろに下がると同時に俺は前に出て、短剣を回し蹴りで弾き返した。

弾かれた短剣は持ち主のところへ返り、それを目で追っていくと慎二の隣に誰かがいることが知れた。

 

 

 

そいつは、薄紫色の長い髪を膝下まで伸ばしたボンテージ姿にアイマスクをした長身の美女……“騎乗兵”のサーヴァント『ライダー』だった。

 

 

 

「サーヴァント!?じゃあ、まさか慎二…お前は!!」

 

「ようやく気付いたみたいだね…そう、僕こそがこのライダーのマスターさ!!」

 

 

 

心底、愉快そうに言い放つ間桐慎二…その横には獲物を見つけた蛇のように妖艶な笑みを浮かべるライダー。

 

それらを黙って静観しているアーチャーとそのマスターである遠坂 凛。

 

方や、蛇に睨まれた蛙の如く一歩も動けずにいる衛宮士郎と俺ことバーサーカー。

 

 

 

 

運命の悪戯か、それとも誰かが意図して起こしたのか──────…

 

 

今、この場に四つの陣営が相見えた。




まさか、この話を考えつくのに年越すまで時間が掛かるとは…。


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第十四夜 超越せし双子大剣 ーー オーバーエッジ ーー

みなさん、お久しぶりです。
そろそろ僕のことを忘れてるんじゃないかなぁと思いつつ次話投稿。
楽しみにしていてくれた方々、遅くなって大変申し訳ありません。


そして、お待たせしました。


第十四夜、どうぞ!



四面楚歌。

 

 

絶体絶命。

 

 

死中求活。

 

 

 

どれが、今この現状にふさわしいのだろうと、じゃらじゃらと音を立てて飛んでくる短剣を頬を横すれすれに避けながら考える俺ことバーサーカーは戦闘中にも関わらず思案する。

 

目の前にいるのは目元をバイザーで隠し、着ていて恥ずかしくないのかと思ってしまうほど露出度の高い格好している騎乗兵のサーヴァントこと『ライダー』…その後方には、彼女のマスターである「間桐 慎二」がにやにやと気味の悪い笑みを浮かべながら、こちらを眺めている。

 

 

一方、そのライダー陣営の横にいるのは赤と紅。

凛とした表情に堂々とした立ち振る舞いをしているのは今回の聖杯戦争の優勝候補者の一人の「遠坂 凛」と、その彼女の傍らにいる紅い弓兵の『アーチャー』だ。

 

 

そして、現在進行形で絶賛この二つの陣営に囲まれ、尚且つライダーの短剣をいなしているのは俺で、その後ろにいるのは、セイバーのマスターである「衛宮 士郎」だ。

 

 

 

全くどうしてこうなってしまったのか、今になっても皆目見当がつかない。

 

箇条書きで簡潔に述べるなら―――――…

 

 

 

(1)アーチャーと“遊んでたら”上の階の教室が爆発して、士郎が降ってきた。

 

(2)士郎が地面にぶつかる前に空中でキャッチしてdeadendを防いだ。

 

(3)そしてら、上から遠坂が降りてきた。

 

(4)俺らの姿を見た遠坂は俺たちがグルであると勘違いし、臨戦態勢を取り出す。

 

(5)すると、何故かライダーとワカメが乱入。

 

(6)現在に至る。

 

 

 

 

…なんだこれ。

字面にして状況を把握できたのは良いものの、原因がまったくもって見えてこないぞ。

それどころか、余計に混迷してきたような気もする…結果として今現在分かることは、士郎を助けたら二つの陣営に囲まれたということ。

そして、この二騎を相手に俺は士郎を守りつつ、一人で撃退しなければならないということだ。

 

 

こちらのハンデ、でか過ぎるだろ。

 

 

素人抱えてサーヴァント二騎相手とか、普通なら無理だぞ。速攻、お荷物になる士郎を切り捨てて逃げるのが定石だ……“普通”ならね。

 

 

 

「はッ…!!」

 

 

 

凝りもせずにライダーが再び短剣を俺の心臓目掛けて放つ…かれこれ、数分くらい反撃せずに防御に徹していたが流石にそろそろ“飽きてきた”。

 

 

遊びに付き合うのも、ここまでだ。

 

 

「いい加減、ふざけた攻撃するのやめろよ…ライダー。」

 

 

俺は、体を揺らすように飛んでくる短剣をかわし。

じゃらじゃらと不快な金属音を立てる鎖を、蛇の胴体にでも見立て掴み―――…

 

 

「っ!?」

 

 

驚くライダーを気にも留めずに暴力的な筋力をもって、鎖ごとライダーを引き寄せた。

彼女の身体は瞬く間に宙に浮き、態勢を立て直すことも出来ずに俺のもとへと引っ張られ、そして…

 

 

 

俺は、ライダーの脇腹に拳を叩き込んだ。

 

 

 

ばきりと、鈍くて嫌な音がしたが俺は気にせず拳を振り抜いた。

 

 

 

すると、ライダーの口から「ごふッ」と赤い血液が吐き出され、己のマスターである慎二の前まで吹っ飛ばされ転げ回る。

まだ終わらない…俺は立ち上がろうとするライダーとの距離を一気に詰めて、追撃を始める。

徒手空拳を用いて、ライダーの顔面を捕えようと岩のように握り締めた自分の拳を振るう……凄まじい速さで振るわれるその拳にライダーはさぞ驚いただろう。

さっきのダメージが残った体を抱えたまま、俺の全力の拳舞を必死に避けようとする。

 

 

「甘めぇ」

 

 

それでも、俺は手は抜かない…ライダーの動きを読んで避けた場所にも拳を繰り出しライダーの顔面を捉える。

殴られたライダーは血を吐きながら避ける間もなく、サンドバックのように殴られ続ける。

拳を振るい続ける中、視界の端に間桐 慎二の姿が映ったが最初と比べてその顔色はすこぶる悪い物へと変わっていた…表情は青く、目は見開き、絶望に打ちひしがれたような姿をしていた。

 

 

それもそうだろう、サーヴァントはマスターにとって剣―――――…それが折れるということはすなわち、自分の死に直結する。

 

今、間桐 慎二はとてつもない絶望と死への恐怖の板挟みになっているに違いない。

 

 

俺は、そこまで思考に至ると血だるまへと変わり果てたライダーの腹を蹴って、学園の壁へと吹っ飛ばした。

九の字に吹っ飛ばされた長身の身体は学園の壁をぶち破り、粉砕された瓦礫の中へと沈んでいった。

 

 

 

「ここまでだ…ライダー。」

 

 

 

もう、ここまでだライダー。

 

 

そう言いながら、俺は土煙に隠れたライダーへと近づいていく。

右手に『アスラ』を召喚して、今だ目視できてない敵に向かって銃口を向ける……すると────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライダーの形をした大量の蟲が、わらわらと分離して俺へと襲いかかり…

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ光ったと思った途端、大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

先ほどまでライダーの姿をしていたそれは、形を崩して蟲の大群となってバーサーカーへと襲いかかった。

今まで人の形をしていたものが突然、異形の姿へとわらわらと群がっていく姿に私こと遠坂 凛は少しばかりか目を張った。

あの凶悪な強さをもった狂戦士の不意を完全に突き、蟲で動きを完全に止めた後にそれらを全て爆破する……癪だけど間桐──…慎二にしては良い方法を取るじゃない。

 

 

「はははははははッ!!何が狂戦士だよ!?木偶の坊も良いところじゃないか!」

 

 

 

燃え上がる炎を眺めながら盛大に笑い出す慎二…さっきまで絶望しきっていた顔をしていたのは演技だったみたいね。

 

 

「バカだねぇ衛宮。所詮、お前なんかが出てきて勝てるわけがないんだ!」

 

 

ざまぁみろと衛宮くんを心底、見下したように慎二は嫌な笑みを浮かべながら言い放つ……やっぱり、慎二は慎二か小物感が半端ないわ。

 

 

(ま、これは完全に衛宮くんの負けね。バーサーカーを失った今、彼を守るものはいないし。)

 

 

最悪、令呪を使ってセイバーを呼ぶことはできるが半人前の彼はそこまでの思考に至っていない…その証拠にバーサーカーがいた場所を見つめたまま放心したまま動かないもの。

 

 

「終わったわね…ま、あとは適当に慎二をいなして衛宮くんを保護するとしますか。」

 

「凛。あの小僧を助ける気か?」

 

「助ける気はないわ。ただ、右も左も分からない半人前をいたぶる趣味はないだけよ。」

 

「だとしてもこちらが助ける通りもない。令呪もまだ残っている。セイバーを呼ばれる前に排除したほうがいい。」

 

 

頑なに彼を敵視するアーチャー…なんでこいつ、こんなにも嫌ってるのだか…。

 

 

「あのね、アーチャー…今の彼にそこまでの考えがあると思う?もしその気なら、とっくにセイバーはここにいるでしょ?“バーサーカーが脱落した”以上、衛宮くんに勝ち目はないわよ。」

 

 

私がそう言うと、アーチャーは少しだけ面を喰らったような顔をしたと思ったら溜め息を吐きながら心底、落胆したように「やれやれ…」と呟いた…なんかムカつくわね。一体なんなの。

 

 

「君に限ってそんなことはないと思っていたが────…凛、君は“今の爆発であのバーサーカーが倒れた”と本当に思っているのかね?」

 

「は?いやたった今、蟲に包み込まれて爆発したじゃない。間違いなく跡形もなく吹き飛んだはずよ?」

 

「あの程度の爆発でアレがやられるはずがないだろう。いいかね?炎から視線を離してあの小僧の横に向けろ。その後に、“バーサーカーは、あそこにいる”と思って瞬きを三回程してみると良い。」

 

 

 

「まさか───…!」

 

 

 

すぐさま視線を衛宮くんの横に向けて言われた通りにしてみる…すると────…

 

 

 

「嘘…」

 

 

衛宮くんの横にあの黒いバーサーカーがいた。

腕組みをしながら悠々と構えたまま、まるで呆れたように勝ち誇っている慎二の様子を眺めていたのだ。

 

 

「確かに今、爆発に巻き込まれて跡形もなく吹っ飛んだはずじゃ…」

 

「それは君がそう思い込んでいただけだ。奴は“他者の認知を妨害する”術を持っている。」

 

「“認知”を…妨害ですって?」

 

 

アーチャーの言葉を聞いて戦慄した。

まさか、あのバーサーカーはそんなことまで出来るというの…!?アサシン類のスキルを持っているとか、インチキ過ぎるでしょ!?

 

 

「かなり厄介ね。まさか、そんな宝具を持っているなんて…」

 

「いや、あれは奴の宝具じゃない…あれは単なるアレが習得している魔術の一端に過ぎない。」

 

「あれが魔術!?冗談じゃない、あんなインチキ臭いのがただの魔術だなんて…!」

 

「まぁ、聞いてる分にはそうかもしれんが…実際は、さほど脅威ではないさ。あれはかなり限定した発動で解除も容易い。君もさっき私の言う通りにしたら、すぐに解けただろう?初見殺しではあるものの、二度目は通用しない単発的なものだ。」

 

 

アーチャーは簡単に言ってくれるけど、それでもあのバーサーカーの脅威性は揺るぎなかった。

完全に初見殺しの業で二度も通用するものではないのは分かったけど、あの黒いバーサーカーが、わざわざ二度目を作ってくれるようには思えない。あれを使ったからには完全に殺しきるだろう。

それだけに恐ろしい。それまでの実力を持っているのにも関わらず、隙だらけの慎二を殺すことなく悠々と構えているだけで何も手出ししない。

 

 

完全に手を抜いている。

 

 

次元が違い過ぎる…。

 

 

なんなのあのバーサーカー!?

 

 

あまりにも脅威的よ…一体、何者なの…?

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

なんか、アーチャーの奴が得意げにこちらを見ながら喋っているけど…どうしたんだろうな?というか、なんか遠坂が俺のことをとんでもないものでも見るかのような…いや、むしろ恐ろしいものでも見るかのような眼で見てきているんですけど…?

俺なんかしたかな?ちょっと魔術使っただけやで?蟲に覆われる前に『妨害』の魔術を使ってちょいと他人の“目線をずらした”だけやで?すぐに解除されちゃうし。別に剣でビーム撃ったわけでも、高速移動したわけでもないんだぞ?

まぁ、完全に初見殺しではあるが───…けど、これで戦闘面ではほぼ使い物にならなくなったな。

 

戦術を一つ失ってしまったのも同義だが、いずれ看破されるものだったし、というか一番厄介な奴には効かない代物であることから、むしろここで使っておいた方が良かったのか。

そんな風に考えながら、ワカメの方に視線を戻す。めらめらと燃え盛る炎をバックにまだあのワカメ笑ってやがるよ…いつまでああしているつもりなんだろうか?

 

 

 

いい加減飽きてきたんで、ここでネタばらし…もとい、魔術を解除、と。

 

 

 

ぱん、と柏手一つ叩くと慎二と衛宮はハッと気付いたように俺の方を見て驚愕した表情へ変わる。

まさか俺がここにいるとは思っていなかっただろう…そればかりか、たった今、目の前で爆発したんだ。心底、驚いているに違いねぇ。

そして、慎二の顔はどんどん青ざめていき、わなわなと震えながら口を開く。

 

 

「な、なんでお前がそこにいるんだよ…!?だって今、そこで僕の蟲の爆発に巻き込まれたハズ…!?」

 

 

 

それは、お前がそう思い込んでいただけだ…とまで言ってやりたいが、その前にッ!

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

左手に『ディーヴァ』を召喚して、慎二の右頬を掠めるように弾丸を放つ。

放たれた弾は彼の後方にあった電灯に当たり…再びこちらへと“跳ね返って”くる。

それをすれ違うように俺が避ける…すると。

 

 

「うっ…!か…は…ッ」

 

 

真後ろから、どさりと倒れる音が聞こえてきた。

振り返るとライダーが左肩から真っ赤な鮮血を溢れ出しながら膝を付いていた…ようやく、本物を確認できたな。

 

 

「何故…分かったのですか…私が、後方にいると…ッ」

 

 

まるで、不可解と言いたげな口調でライダーは言葉を漏らす。んなもん、普通に分かるっつーの。

俺は単純に自分の後ろにあった“死を見た”だけだ。別に何かの小細工を使ったわけじゃない。

…などと答えられる訳はなく、俺は無言を貫いた。

 

 

「な…なにやってんだよライダー…僕の大事な計画を台無しにしやがって…本当にお前は使えない使い魔だ!早く立ち上がれよッ!?立ち上がって、バーサーカーを殺せッ!!」

 

 

本当に癇に障るワカメだな…。

生前、原作を見て何度も思ったがライダーが膝を付かせないように事を運ぶのがお前の仕事だろうが。

【EXTRA】のシンジを見習え。お前よりも何個も下なのに心持ちがまるで違う…【FOX TAIL】のシンジは特にかっこよかったなぁ…かっこよすぎて何度も、漫画読み直したわ。

…それに比べてこのワカメは!そんなんだから、小学生以下とか言われんだよバーカ!!

 

 

 

 

心の中で盛大に罵詈雑言をぶちかましていると…ふと、耳に音が入り込んだ。

 

 

 

 

なんだろうか、この音…まるで空気を振動させるような。そう、言うならば──…虫の羽音のような…?

それも一つじゃない、軍団のような振動音が耳の中に入り込んでくる…!?

 

 

「まさか…!?」

 

 

音が聞こえてくる方へ視線を向けると、そこには空しかなかったが微かに黒い塊のようなものが浮かんでいた。

雨雲にしては薄く、それでいてゆらゆらと揺らいでいるのは目の錯覚ではないだろう…あれは、もしかしてもしかしなくても…!?

 

 

「なにあれ…!?蟲!?」

 

「凛、下がれ!」

 

 

 

間桐 蔵硯の『翅刃虫』か…!!

 

 

そこまで思考が辿り着いたや否や、矢の雨の如く翅刃虫の大群が俺達に降り注ぐように襲い掛かってきた。

 

 

羽音によって音は支配され、視界には蟲が飛び回り…さながら暴風雨のようだ。

くそ!あのクソジジイ…本格的に水を差しに来やがったな!

 

 

「うわああッ!!」

 

 

ッ!やべ、士郎を守らなきゃ!

忘れていたわけではないが声を聞くまで行動に移せなかったな…!

蟲を双子銃の銃身と蹴りで蹴散らしながら、士郎の近くまで何とかやってこれた…士郎は何とか無事そうだ。

 

 

「掴まれ!離脱するぞ!」

 

「ッ!?お、おう…!」

 

 

士郎の身体を抱えるように手を回し、全速力でその場を撤退する。

途中で蟲を蹴散らしながらアーチャー達の様子も気になり目を向けた────…どうやら、あいつらも上手く逃げられたようだ。姿が見当たらないことに少し安堵し、俺達もその場を後にした。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

翅刃虫の群れから逃れた俺と士郎は何とか衛宮邸の門前までやって来た…途中までだが、蟲の追跡もあった。

あの蟲どもマジで許さん…おかまいなしに切り刻んで来ようとしやがって!!『黒帝礼装』じゃなかったら、今頃ミンチですわ!!

間桐 蔵硯め!今度会ったら人類史上最悪の悪口と鉛玉をド派手にぶちかましに行ってやるからな!!覚えておきやがれってんだ!!

 

 

「あの…もう降ろしてもらっていいかな…?」

 

 

あ、いかんいかん士郎抱えたままだった…。

逃走中に効率を良くするために脇に抱えるような態勢になってたのを思い出した。さぞ、乗り心地が悪かったろうに…ゆっくりと丁重にその場に下ろした。

 

 

「ありがとう…その、助かったよ。あんたがいなかったら、死んでたかも…というか、死んでたと思う。」

 

 

おどおどしくお礼を言われてしまった…完全に成り行きで助けるつもりは全然なかったけど無事でよかったわ。

そういった気持ちを込めてこくりと頷いて答えた。すると、意思疎通が出来たことに感動を覚えたのか士郎の奴は心なしかジーンとしてるみたいだ。

そんなに感動的だったか…?

 

 

「あ、あのさ!良ければちょっと話を聞かせてもらえないかな?」

 

 

え。

いや、良くねぇよ?

成り行きとは言え、俺とお前って敵同士だぞ?

 

 

「あんたと俺が敵同士ってことは重々承知だ。けど、どうしてもあんたと話がしたいんだ。」

 

 

う、ううむ…。

真っすぐな目で言われてもなぁ…。

断るべきなのは理解しているんだが…しかし、士郎が俺に聞きたいことというのも内心気になる。

悩んでいると、腹の虫がか細く鳴り響きやがった。おいおい、魔力供給はちゃんと出来てんのに何鳴いてやがんだ。自分の腹の虫にも悩まされるとはな…。

 

 

「…お茶も出すぞ?」

 

 

そして、しっかり士郎の耳にも聞こえていたようだ。

何とまぁ。情けない。こいつに気を遣われるとはな…。

どうしたもんかと、考えたがまぁ…ここまできたら、何しても同じだよな。

間もなくして、俺は小さくこくりと頷いた…別に恥ずかしかったわけじゃないからなッ!!

 

 

「はは、大したもの出せないけど上がってくれ。」

 

 

そう言って、士郎は先導するように俺の前に立つ門をくぐった。

彼の後を追うように俺も門をくぐり敷地内に入った瞬間────────…がららと、玄関と扉が開いた。

そこに立っていたのは、原作の通り遠坂のおさがりの服を着たセイバーの姿があった。

 

 

「シロウ。おかえりなさ────ッ!?」

 

 

セイバーは士郎の姿を見ると表情を綻ばせたと思いきや俺を見るなり血相を変え、そして…

 

 

「シロウ!下がってください!!」

 

 

 

いつもの白銀の鎧姿に変わり、不可視の剣を構えて斬りかかってきた。

 

 

 

一瞬の出来事だ。

本当に一瞬の出来事だった。色んな事があり過ぎて、彼女の存在を忘れていたということもあるが完全に油断していた…が、咄嗟に体が動いて双子銃を呼び出して防御。

思い切り振り切られた為に後方に下がってしまうが、難なく着地した。

 

 

 

が、俺の心境は甚だ最悪である。

 

 

 

 

「セイバー!?何を!?」

 

「それはこちらの台詞です…どういうつもりですかマスター!敵を陣地に呼び寄せるとは…!!」

 

「ち、違うんだセイバー!確かにバーサーカーは敵だけど今は────!!」

 

 

 

これはない。流石にない。

こちとら、原作とは全く違うルートに進んでいるために原作のルート知識が使えないから四苦八苦しながらやっているというのに…。

今日は全くと言っていいほど計画通りに進まず、それどころか色々な邪魔が入って悩んでいるのに…事情をセイバーが知らないのは重々分かっているけど、それでもイラつかずにはいられない。

 

 

「バーサーカー。この間は随分とやってくれたな……!礼はきっちりと返させてもらう。」

 

 

大胆不敵に宣戦布告するセイバー…それを皮切りに頭の中でぷつりと何かが切れた気がした。

…もうキレたぞ?こうなったら派手にやらせてもらう。

 

 

 

双子銃のグリップを握ったまま、俺は詠唱する。

 

 

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は暴れ狂う)

 

 

 

詠唱の一文を唱えると撃鉄を起こすかのように魔力が両手の銃に伝わっていく。

準備は終えた…俺は両手の双子銃を合わせるように接触させると眩い光を放ち形を成していく。

 

 

イメージするのは“純粋な力”──…何物にも怯まず、薙ぎ払い、捻り潰す力。

 

 

思い描いた力は見事、形となった。

それは銃と剣が一体となったモノ。

拳銃のグリップに分厚く長い刀身が付け足されたかのような武器。

俗に言う、ガンブレードというものだ。

巨大な銃剣であるそれはどちらかというと大剣に近い。

 

 

 

覚悟しろよセイバー。

 

俺は、派手にやらせてもらうからな…!

 

 

 

 

これが、俺の宝具の一つにして切り札の一枚。

 

 

 

 

超越せし双子大剣(オーバーエッジ)』だ。

 

 

 

俺はもう────────…知らないぞ。

 

 

 




遂にブチ切れた主人公(笑)

その矛先は何故かセイバーに。

果たして両者は和解できるのか…?




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第十五夜 新展開

前回までのあらすじ(数年前)

・学園へと偵察に来たバーサーカー。

・アーチャーに邪魔されて戦うはめに。

・親方ァ!空から士郎が!!

・凛「お前ら組んでたな!」←は?

・ライダー乱入&返り討ち

・虫の大群に襲われ、士郎と脱出

・お茶に誘われる

・セイバーにエンカウント喧嘩ふっかけられる



・バ ー サ ー カ ー ぶ ち ギ レ る



以上、あらすじ終わりいい!!(ヤケクソ)






 

 

 

双子大剣を振りかざし、セイバーへと突撃する俺ことバーサーカー。

白銀の刃で執拗に透明の剣を攻め続け、止むことなく攻撃を繰り出す。

横薙ぎ、切り上げ、唐竹割り…幾度なく繰り出される斬撃に流石のセイバーも防御の構えを解いて反撃する事が出来ないようだ。

 

 

セイバーの額から汗が滴り落ちるのが見えた。

 

それを見た、俺は思わず口角を上げそうになる。

 

 

 

「っるあッ!!」

 

「ッ!!」

 

 

地面ごと叩き割る勢いで、上から一閃。

自分でも分かる隙だらけの大振り、もちろん当たる訳がない。

しかし、サーヴァントの力で振るわれた斬撃は地面を抉り、勢いよく砂利がショットガンのように飛び散った。

飛び散った砂利程度が当たったところで、屁でも無いんだろうが意識は乱れたハズ。

 

 

大剣の柄を握り締めて、セイバーの喉元へと突きを繰り出す。

 

 

「くっ!」

 

 

…が、寸での所で透明の剣へ阻まれる。まぁそうなるよね…。

刃が弾かれ、今度は俺が無防備となる。

その隙を彼女が見逃さない、俺を真っ二つにしようと横薙ぎに一閃斬りつけてきた!

不意打ちをかわされ、完全にしてやられた状況だが…俺はこれを待っていた。

 

 

(喰らえ、セイバー。)

 

「ッ!?」

 

 

突き技による前屈みになった姿勢を利用して、そのままセイバーの攻撃をかわし。

双子大剣を解除して、銃形態へと瞬時に戻して『ディーヴァ』を連射した。

これはとっただろ!隙を誘っての攻撃だ、セイバーの意識を完璧に誘い込んだ!

自分でも手ごたえを感じた攻撃……だったが

 

 

「はっ!!」

 

 

だが、それも無駄だったようだ。

剣に纏った風が勢いを上げたかと思うと、弾丸が全て弾き落とされた。

 

 

 

 

おいおい、その風は防弾ガラスか何かか。

 

 

 

 

「…この間の戦闘で分かりきった事だが、やはり一筋縄ではいかないようだなバーサーカー。」

 

 

ため息めも吐くように戦慄した声音でセイバーは言う。

まるで、こちらが化け物じみていると言わんばかりだが、こちらの台詞である。

なにせ、英雄時代に死ぬほど修行した技を防いだ上、不意討ちさえも“感”で避けるとか。

 

 

(面白くて、にやけそうだ。)

 

 

やっぱりこいつは凄いと改めて実感する。

最優のサーヴァントと呼ばれているのも頷ける。

手数で勝ってる分、俺の方が優勢のようにも見えるが実のところセイバーに対して決定打というかこれといった対応策がない…負ける気はしないが。

 

 

trick,burst(魔力開放)――――…“the,『accelerate(加速)』”!!」

 

 

双子大剣のグリップを左手で握り締め、右手の指を鳴らして魔力を解放した。

10秒間の『加速』を得た俺は瞬く間に、セイバーの視界から消え失せる。並みのサーヴァントでさえ、その動きを捉える事は難しいはずだ、それがいくら勘の良い剣士でもな。

 

驚異的な速度で振るわれる銀色の刃で彼女の喉元を狙うが、初撃は咄嗟に防がれる。

まぁ、これで当たるとは思っていなかったのでスピードを利用して通り過ぎるように一気に離れる。

そして、踵を返すようにとんぼ返りして刃を切り付けるのを何度も繰り返すといったかまいたちのような戦法だ。

 

これには、セイバーの表情にも焦りの色が滲み出ていた。なにせ超スピードで動き回って斬りかかってくる上、すぐ消え去るので反撃が掠りもしないのだから厭らしいことこの上ないだろう。

 

 

 

が、それも終わりが近づいてきた。

 

 

 

『加速』の限界時間が来ようとしていた三秒前、俺はセイバーの真上に飛び上がり、水車のように回転して攻撃する。

あまりにも変則的過ぎたのか流石のセイバーも避けきれず俺の大剣が彼女の右肩を微かに切り裂く。

 

鮮血が少しばかりか飛び散ったのを確認し、俺は後方へと着地…“いつもの感覚に戻ってきた”。

時間が通常のモノに変わった俺は空中で体制を整えて難なく着地した。

 

 

「セイバー!!」

 

「問題ありませんマスター、大した傷ではない。」

 

 

右肩を押さえて告げるセイバー。

彼女の言う通り、サーヴァント一騎屠るには全然足りない傷だ、少しの間休めばすぐに癒えるだろう。

だが、『加速』による戦法で明らかにペースを崩されたのは目に見えて分かった。

次、また使用すれば間違いなく今以上にセイバーを追い詰めることが出来るだろう……やらないけど。

構えを解いて、肩に刀身の峰を乗せて次の手を考える、と。

 

 

 

その俺の行動を見たセイバーは驚いたように目を丸くしたが、すぐに険しい目つきに変えた。

 

 

 

「やはり…そうか。前の戦闘でもそうだったが……バーサーカー。貴様、なんのつもりだッ!!」

 

 

 

犬歯を剥き出しにしながらセイバーの怒号が俺の許へ届く。

え、なんで俺キレられてんの?逆じゃね?今キレるのお前じゃなくて俺じゃね?

目の前で激おこぷんぷん丸な女に今度は俺が目を丸くした、なんでなんで?

首を傾げそうになるが、その前に見えない聖剣構えて馬鹿みたいなスピードで斬りかかってきた…まてまて!?

 

 

 

「何故、本気で戦おうとしない!!貴様からは戦意は感じても殺意はまるで感じられない…!それだけ強い力を持っておきながら本気で私を倒そうとしない!!」

 

 

何故だ!!と叫ぶセイバー。対する俺は何故と言われても答えられないんだが…。

つまりあれか、セイバー的には俺がガチで戦おうとしないからご立腹ってヤツか…?

 

 

…なぁにそれぇ。

 

 

 

「貴様は、騎士を侮辱する気か!!本気で戦えバーサーカー!!」

 

 

 

見えない剣先を俺に向けて言い放つセイバー。

戦えって言われてもなぁ――――…とりあえず、剣の腹で見えない攻撃を払う。

そんな俺の倒すわけでも逃げるわけでもない、どっちつかずの俺の戦法に彼女はさらに苛立った。

いや、そんな顔されましてもね…。

 

 

 

俺が、セイバーに言えるとすれば一つだ。

 

 

 

本気で戦ったら、近くにいる士郎があぶねぇだろ!!

 

 

 

端にいる赤銅色を視界に収めながら、双子大剣を振るう。

セイバーは頭に血が上っているのか、自分の主の姿が見えていないようだ。

それでいいのかとも思うが、セイバーが負けず嫌いな性格だった事を思い出して諦めることにした。

現に何回か、士郎の事を気付かせようとしたが…うん、気付いてないね!

 

 

(一回本気で戦った方が良いのかな…いや、それだと最悪楽しくなっちゃってヒャッハーしそうなんだよな…。)

 

 

前にも言ったかもしれないが、俺には【狂化】のスキルは働いていない。

その理由は、元から狂っているからと思ったんだが、どうやら話はそんなに単純でもなさそうだ。

本来のバーサーカー達ほどではないが、少なからず俺自身もスキルの影響を受けているのが実感する。

具体的に言えば…「戦いが楽しい!」って感じで、長期戦になるほど楽しんでいく自分が分かる。

さっきの件が良い例だろう。紛うことなき、俺は狂戦士であると実感したわ。

 

 

 

 

さーて、どっすかなぁ~

 

 

 

 

(よし、逃げよう。)

 

 

セイバー倒す気ないし。

さっきまであったイライラは戦っていくうちに無くなって楽しさに変わったため、もう満足である。

ここまできたら、さっさと逃げることにしよう…我が主様も城で待っていることだし、これ以上待たせるのはいけないと思う。うん。

 

 

(そうと決まれば――――…!)

 

 

名誉がない逃亡を選択した俺は、セイバーへ向かって突進をかます。

作戦はこうだ、大剣で突っ込んで鍔迫り合いになった途端に蹴り飛ばして距離を置く。

その隙に『加速』使って速攻、戦闘離脱する!我ながらに中々に完璧だと思う。

ってなわけで、悪く思うなよセイバー!気が向いたら、今度また遊んでやるから逃げらせてもらうぞ!

 

 

 

 

そうして、俺は“力を溜めているような構え”をしているセイバーにひたすら向かった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まて、力を溜めている…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌な予感が頭の中に過る。

しかし、止まることはできずに俺はセイバーに向かっていきそして――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“風王…鉄槌ッ(ストライク…エア)”!!」

 

 

 

 

 

とんでもない規模の暴風が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

おい、それは反則だろ。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

風によって巻き上がった、砂埃に視界を遮られながら両腕で防ぐように耐える俺こと衛宮 士郎。

目に入るのを防ぐために、思わず閉じてしまったが最後に見たのは…。

セイバーの放った暴風が、バーサーカーを巻き込んで蔵の方へ直撃した光景だった…我が家の蔵が…。

…いや、まて蔵どころか隣の家まで巻き込んでいるな!?

悲鳴なのが聞こえないことから、留守なんだろうと思うがそれでも心配だ!!

 

 

 

(それより…バーサーカーは!?バーサーカーは無事なのか!?)

 

 

 

やがて、風が穏やかになり目をうっすらと開けると、セイバーの姿。

 

 

そして、彼女のその先に続く暴風で荒れ果てた地面と半壊した蔵。

 

 

その中に黒い狂戦士の姿はない。

 

 

 

(バーサーカー…!)

 

 

自分を助けてくれた恩人を手に掛けてしまったことが、胸の内にずしりと圧し掛かる。

俺は、セイバーを止めることが出来なかった…バーサーカーは俺を助けてくれたのに…!

膝を付いて、血が出るのではないかと思うほど、拳を握り締める。

 

 

「セイバー…どうして話を聞いてくれないんだ…!バーサーカーは…!!」

 

 

「…シロウ!まだです!、まだ“終わって”いない!!

 

 

 

セイバーがそう言うや否や、半壊した蔵の瓦礫の中から凄い音を立てて何かが飛び出してきた…つい先ほど、俺の目の前で暴風の波に飲み込まれたはずのバーサーカーだった。

 

 

「…確かに【風王鉄槌】はバーサーカーに直撃したのは確認した。だが、当たる直前に奴は、何らかの魔術を唱えて剣を盾にして防いだのです。」

 

 

悔しそうにしつつ、セイバーは自ら放った攻撃を凌いだバーサーカーに称賛を送っているようにも聞こえる声音で答える。

あの目すら開けていられないほどの暴風を、黒い狂戦士は凌いだ…腕や足など服のあちこちが、切れているものの外傷と呼べるものは何一つない。

その服の痕も、闇が蠢くように独りでに縫い合っていき…やがて、何もなかったかのように元に戻った。まじかよ…。

 

 

「シロウ、下がってください!」

 

 

 

セイバーが庇うように俺の前に立つ…って、おい!まだやる気かよ!?

 

 

 

「おい、いい加減にしろ!バーサーカーは…!!」

 

 

 

 

「…たぞ。」

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

今、俺ともセイバーのでもない声が聞こえた。

今の声は――――…?

 

 

つい、バーサーカーの方を見るとわなわなと肩を震わせて持っている剣をギリリ…と握り締めていた。

 

 

まさか、今のは――――…と考えていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺は、キレたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!セイバァァァァァァァァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どっかで聞いたことがある、地を這うような絶叫が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

キレました。

はい、キレましたよ私。

【悲報:バーサーカーは完璧にキレました】が脳内のメッセージログが流れまくっている状況下の俺ことバーサーカー。

全身の水分が沸騰するかの勢いだ…やかんが無くても、カップ麺でも作れそうだ。

いや、カップ麺どころじゃないぜ!心の火、心火だ!心火を燃やしてぶっ潰しちゃうほどの怒りが爆発したぜ!!

 

 

意識外も良いところのセイバーの反撃に、危うく木っ端微塵にされるかと思ったが、咄嗟に『反射(リフレクト)』の魔術を発動出来たため何とかなった。

 

 

俺が使用する魔術の一つである『反射』の魔術は物理的な攻撃(物体)や衝撃に対して、文字通り撥ね返す魔術だ。

発動すれば、切れ味の良い刀だろうが弾丸だろうが反射する。

攻撃は最大の防御を字でいく代物だ。

ただし、これにもデメリット――――…っていうか制限は存在している。

それは、武器や衣服等の無機物にしか、かけることができないという事だ。

過去に何度か自分自身にかけようとやってみたが、礼装や衣服等にしかかけられなかった。

 

 

最初こそ、これを自分に発動しっぱなしにすれば最強じゃね?とか考えていた時期があったが――――…うまいだけの話は無いってことだな。

 

 

しかも、対象の物体の形状や大きさ次第では攻撃の質量によっては押し負ける可能性もあるのだ。

さっきの俺がいい例だな……俺が魔術をかけた対象は持っていた武器だが、セイバーが繰り出した風の規模がデカ過ぎて返しきれなかったのだ。

 

 

重機にぶん殴られたかのような衝撃と共にぶっ飛ばされるはめになった訳だが…まぁ、礼装の強度をぶち破るほどではないので目に見えたダメージはない。ノックバックの衝撃はあったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てか、セイバーマジでゆるさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっちが手心を加えているというのに、お構いなしに吹っ飛ばしやがって!

キレたからな!もうこっから先は、派手にやらせてもらうからなあああ!!

 

 

双子大剣を解除して、銃形態へ戻しディーヴァの銃口をセイバーへと向けて詠唱を始める。

 

 

 

「“trick,burs(魔力開放)”――――…“the,『accelerate(加速)』”!!」

 

 

 

 

再び加速……からのぉ!!

 

 

 

 

「“set(接続)”――――…『形成変換(トランス・フラクタル)』“全弾丸(フルバレット)高速発射(ラピットファイア)”」

 

 

 

 

詠唱を終えると同時に準備は整った。

ディーヴァの引き金を引く、瞬間――――…その銃身がブレ、周囲に幾つもの残像が発生する。

そこから放たれる弾丸は、さながらマシンガンのように発射され、セイバーを蜂の巣にするが如く一斉に向かう。

 

 

 

見たか!『加速』はこんな風に使えるんだぜ!!

 

 

 

これは普段使っている俺の魔術の応用版だ。

特定の一部に限定し能力を発動する事で本来よりも強力な攻撃を放つことができる技だ。

普段、あまりやらない手だが強いことは確かだ…証拠としてセイバーは避ける事が出来ずに防御に徹した。

 

 

 

雨のように降り注ぐ弾丸は確実にセイバーを追い詰めている。

 

 

直観と剣術で防いではいるものの、逃した弾は彼女の肩や太腿を掠り、血肉を抉る。

 

 

そして――――…

 

 

 

 

 

崩れろ(壊れろ)セイバー」

 

 

 

 

 

セイバーの右の脇腹を一つの弾丸が突き抜けた事で、遂に最優のサーヴァントが膝を着いた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

暴雨のようなバーサーカーの銃撃は凄まじかった。

いつものように狙いを定めて放った訳ではないその攻撃は、ある意味今まであいつが見せてきた能力の中で一番恐ろしかった。

質より量(数撃ちゃ当たる)がいかに脅威であるかを思い知らされた。

規格外――――…前に遠坂はバーサーカーをそう言っていた…あの時は返答こそ返さなかったけど、俺も同感だった。

 

 

 

けれど、それは間違いだったかもしれない。

 

 

 

規格外ではない、このサーヴァントは――――…

 

 

 

底が知れない(勝てる気がしない)

 

 

 

 

崩れろ(壊れろ)セイバー」

 

 

 

セイバーが膝を着く。

命中した脇腹から鮮血が溢れ出している。

すぐに手当した方が良いのが分かるほど夥しい量だった。

彼女の額から玉のような汗が頬を流れる…痛みを堪え、そしてなにより悔しそうな表情で翡翠の瞳がバーサーカーを睨む。

 

 

 

目の前にいる狂戦士の表情が分からない。

 

そのフードの下にあるのは一体どんな顔をしているのか。

 

 

 

ただ、じっとセイバーを見下ろし…左手の銃を再び向けた。

 

 

 

「待ってくれバーサーカー!!」

 

 

 

咄嗟に体が動いた。

セイバーの前に立ち、バーサーカーと向かい合う。

自然と銃口が自分に突き付けられる事となり、自分から行ったとはいえ背筋が薄ら寒くなるが…これ以上、二人が戦うのは見たくない。

 

 

「せ、セイバーがやった事は謝る…悪かった!

 頼むからこれ以上はやめてくれ!俺はただ、お前と話してみたいだけなんだ!」

 

 

「……」

 

 

今、自分ができる精一杯の誠意でバーサーカーに頭を下げて言う。

すると、スッ…とバーサーカーは銃を下した。

驚いた…意外と話せば分かるやつなのかもしれない。

 

 

「シロウ…下がって下さい…!!」

 

 

見えない剣を杖代わりにしてセイバーは立ち上がった。

そして、たどたどしい歩みで俺の肩に手を乗せゆっくりと前からどかす。

負傷している為か、いつもよりも弱弱しい力だった。

 

 

「バーサーカーは敵です…倒すべき相手です…対話をしたいなどと…どういう、つもりですかっ」

 

「もうよせセイバー!今はバーサーカーと戦う必要なんてない!いいか、バーサーカーは――――…」

 

 

 

 

 

「よろしい。ならば、続行だセイバー。」

 

 

 

 

 

吐き捨てるようにバーサーカーが言う。

両手の銃を合わせて再び大剣へと変えてゆっくりとこちらへ…否、セイバーへと向かっていく。

バーサーカーの足がだんだんと速くなっていき…やがて、走り出す。

大剣を振り上げ、そのまま斬りかかろうと高く飛び上がった!!

 

 

 

 

くそ!!どうしてどっちも俺の話を聞いてくれないんだよ!!

 

 

 

 

さすがの俺もここまでくると、なんだか苛ついてきた。

こっちが何度もやめろと言っているのに何で二人ともやめないんだよ!!

自分の事ばかり――――…!!

 

 

 

「いい――――…そっちがその気なら!!」

 

 

 

俺だって勝手にやらせてもらう!!

心の中でそう叫んだ時には、俺は既にセイバーの前に立っていた。

 

 

「い”ッ!?ばッ、バカ!!何やってんだ!?」

 

「マスター何をッ!?」

 

 

 

二人の戦慄した声が耳に入った。

それからはまるで、時間が止まったかのように錯覚した。

同時に沸騰した頭がスッと冷えていくのが分かる…そして、今目の前に振り下ろさんと迫ってきている大剣を見て思う。

 

 

 

 

 

あっ――――…俺、死んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令呪を持って命ずるわ――――…!!そこから吹っ飛びなさい!バーサーカー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこからともなく声が聞こえると、目の前にいたバーサーカーが物理法則を無視した動きで真横に吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「あーもう、滅茶苦茶だよ…」

 

 

 

心底絶望した声音でぼつりと呟いた俺は本日、二度目の倉の方へ激突した。

身に起こったあまりの出来事に一瞬、何が起きたのか分からなかったが…おそらく、今のは令呪による強制力が働いたんだろうと推察する。

あの時、セイバーへと斬りかかり、シロウが彼女を庇うように立ちはだかった。

突然の行動に反応できなかった俺は…そのままシロウへと刃を振り落としそうになった途端、体が謎の力によって動かなくなった。

 

 

そこからは、あの通りだ。

何だこれはと思考を進める前に体が爆発したかのようにとんでもない動きで吹っ飛んだのだ。

…いや、俺自ら倉へ向かって飛んだと表現すべきなんだろうか。

とにかく、何が言いたいかといえば…。

 

 

 

 

 

令呪の力ってすげー(棒読み)

 

 

 

 

 

「バーサーカーなにやってるの、さっさとそこから出てきなさい。」

 

 

 

冷たい声が飛んできた。

声の主なんて言うまでもなく、我が主様であるイリヤだった。

俺はすぐさま、立ち上がり砂埃を払うことなく主のもとへ向かう。

 

 

 

…最悪だ。

 

 

 

胸中に思い浮かんだ言葉はそれだけだった。

 

 

 

「……」

 

 

突き刺すような赤い瞳がジト目で俺を写す。

ああ、見たら分かる…絶対、怒ってるやん…でもそれでも聞かなければ。

 

 

「イリヤ、何でここにいるんだ…」

 

「貴方が私の言う事を聞かずセイバーと戦い始めたから。」

 

 

どうやら、通信機から何度も呼び掛けていたようだ。

さっぱりわからなかった…かなり、頭に血が上っていたようだ…やっちまった。

 

 

「バーサーカー。貴方、シロウを斬りかけたわね?」

 

 

ぞわり、と背中が底冷えするような声…正直、めっちゃ怖い。

だが、事実は事実だ。あの時、俺の意思ではないにしても士郎に刃を振ってしまった。

イリヤが令呪を使用していなければ、確実に士郎の体を斬っていた…確実に殺してしまってたハズだ。

 

 

 

「私はセイバーと戦いなさいとは言ってないわよね?なんで、勝手に戦い始めたの?」

 

 

 

い、いや…それはセイバーの奴が――――…

 

 

 

「バーサーカー?」

 

 

ダメだ、言い訳として見なされる…!

いやいや、俺悪くなくない!?ちゃんと計画通りに動いてたら、士郎がピンチになっててそれを助けてライダーと戦ってetc…

俺が悪いところ何処ですかねぇ…強いて言うなら、お茶に誘われて承諾してしまったところですかね。

ちゃんと断らなかったことですかね…しかし、それはセイバーと戦闘になった理由にはなりませんよね。

我が主様が現在お怒りになっている原因というのはセイバーと戦闘した事で、決してお茶をしようとした事じゃあないと思うんですがこれ如何に。

 

 

 

つまるところ、自分に落ち度はない。

 

そう伝えよう…うん、大丈夫きっとわかってくれる。

 

 

 

「我が主様よ、俺のせいじゃない。セイバーの奴から先に――――…」

 

「言い訳は結構よ。」

 

 

 

一蹴された…なんだか悲しくなってきた。

 

 

 

だ、だってマスター!!あいつがぁ!あいつがぁぁ!!

 

 

 

もはや、俺が無実を訴えるには、このように何度も足搔くしかなかった。

必死な形相でセイバーの方を何度も見ていたら、流石の主様も気の毒に思ったのか少しバツが悪そうな表情をした。

 

 

「そんな小動物みたいな顔しないでよ…私が悪いみたいじゃない…」

 

 

決まりが悪そうな自分の主君を見て、ちょっと自分を顧みることにした。

うん…セイバーと戦った云々は別として士郎を危うく傷つけそうになったのは確かだ。

俺が冷静になって対処していれば少なくとも、令呪を使って止めてもらうような事は絶対になかったハズだ。

くそ…今まで思う通りに進まないから焦ってたのか?苛ついてたのもあるし…。

 

 

 

ひとまず、悪いのは俺だ。

 

 

主様にわざわざ来てもらって、令呪まで使わせちまった。

 

 

 

「すまん…俺が悪かった。同時に助かった。イリヤがいなければ確実に士郎を殺してた。」

 

 

頭を下げて謝罪と感謝の気持ちを伝える。

我が主様が令呪の使用を切り出してくれたおかげで助かった。

あと数秒遅かったら確実にdead endだった。

 

 

「分かれば良いのよ。いい?貴方の主は私なんだから、ちゃんと私の指示を聞く事!!」

 

「…そうだな。すまんかった。」

 

 

少し落ち着いていこう。

今のところ、致命的な結果には陥っていないのだから。

改めて自分のマスターがこの子で良かったわ…本来なら、この程度で済ませてはもらえないだろう。

これ以上、失態を犯す前に計画の軌道修正を行うべきだ。

 

 

「マスター、とりあえず撤退しないか?今後について話そう。」

 

 

今日は色々な事が起こりすぎた。

アーチャーとの突然の戦闘に加え遠坂と士郎が決別し、それを付け狙ったライダーの襲撃…。

おまけに何故か、アインツベルンと士郎が裏で手を組んでいると勘違いされた!

 

 

 

何なんだこれ、いったい俺は何処のルートに進んでるんだ!?

 

 

 

 

fateルートでもUBWルート、ましてやHFでもない。

 

 

 

 

全くの未知なる展開に俺は困惑せざるを得ない。

士郎には屋敷をめちゃくちゃにして悪いとは思うが、今は撤退すべきだろう…あちらもセイバーが負傷しているから傷を癒したいはずだし。

故に、ひとまず城に戻って対策を練りたい―――――…てか、帰りたい。

しかし、半ば出口の方に体を向きかけている俺とは裏腹にイリヤはその場から離れようとしない…はて?

 

 

 

「いいえ、バーサーカー。撤退の必要はないわ…シロウと話さなければいけないもの。」

 

 

 

!?

 

 

今、なんて言った!?

 

 

 

「は、話す…って何を…?」

 

 

 

 

 

「バーサーカー、私ね―――――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロウと同盟を結ぶわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(゚◇゚*)(゚◇:;.:… (゚:;….::;.:. :::;..サラサラ…

 

 

 

 






バーサーカーは砂になったんや…



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