アーサー王の息子に生まれたが救いが無い件について (蕎麦饂飩)
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Q 救いはないんですか!?

A 救いはないんです


あー突然なんだけど、今死にそうなんだ。

話せば長くなるけれど、もうすぐ死ぬと思うので所々簡略化して話す事にするよ。

 

僕の名前はロールト。ロホルトと発音しても良い。

僕がどのような境遇と立場であるかは『アーサー王の嫡男』という言葉で大凡わかってもらえると思う。

 

僕は西暦6世紀付近でアーサー王と王妃ギネヴィアの元に生まれた。

それもこの時代には無い知識を引っ提げてね。

どうやらマーリンと言う気持ちが悪い男が僕に先を見通す祝福を与えようとしたが、

元々それに近い作用を持つ『眼』を持っていたせいで化学融合して遥か未来で生きてきたような知識と死生観を与えたようだ。

 

厳密には未来ですらない様で、

僕はどうやらこの世界の外という視界を持つようで、まるでこの世界がゲームの中の様に感じられた。

おかげで周りの人々が特徴づけられた登場人物(キャラクター)にしか思えない所はマーリンを呪うしかなかった。

 

生まれて直ぐに零歳児としては異常な知識を持っていたこともあって、

その視点を制御して受け入れた(諦めた)

 

 

そしてその視点の上で思った。

父親がアーサー王。……父親? どう見ても女性じゃないか。

もはや両親がなのはママとフェイトママのヴィヴィオちゃんと同じだ。

というか、これFATEだ。

 

正直な所、僕が息子として両親の愛に応えられたかには自信が無い。

少なくとも応えようと僕なりに必死で頑張った。

どこか相手をアイコン化してその属性に一致し得る行動を、

この世界を外から俯瞰した時に知った『原作知識』と『現代知識』を重ねて必死に頑張ってきたつもりだ。

理想的な完全で完璧な王子を目指してきたつもりだった。

 

それ故に、細目の変態にはアルトリア・ペンドラゴン共々「貴方達には人の心が解らない」と言われたりもしたし、

『原作』と違って経産婦になった母上にヒトヅマニアが本来以上に欲情したりした。

経産婦ならエレインがいただろうに、自分の妻は人妻と呼ばないのだろうか?

その辺の感情は遂にわからなかった。

 

本来ブリテンの正当な後継者であったが故にアーサー王の物となったブリテンを恨むモルガン。

その子であり、ある意味正当なブリテンの支配者を名乗るべき血筋のモードレッド。

 

政治感覚に疎い彼女がブリテンを支配すればあっさり滅びそうだが、

その背後にはモルガンもいるから安心できると思いたいところだが、

復讐に狂ったモルガンではブリテンの存続に有効な施策を打てそうにも無いと思った。

 

そもそもジャガイモ以外が殆ど育たないという不毛の土地へと変わっていくブリテンでは、

僕でさえまともに楽しめる料理のレパートリーは広げにくかった。

それでも僕なりに農業改革と料理技術発展には寄与したつもりだ。

 

まあそれは兎も角、僕は『モードレッド』というキャラクターを気に入っていた。

それは今、剣で貫かれて殺されかけてても変わっていない筈だ。

それも、今では大したことだとも思えないので取り敢えず置いておく。

 

 

 

 

 

僕は彼女が気に入っていたので彼女に積極的に接触した。

それにエクスカリバーとクラレントを託される事を約束され、

現在の王権を継ぐ僕と、旧き王権の残り香である彼女の婚姻はブリテンの為にも良いものだと思った。

ガレスもその点では及第点だったが、彼女は『原作』に出番と言う物が無い。

それ故にキャラクター像が深く定まらなかったので向こうに望まれたところで執着は出来なかった。

 

だからこそ、彼女とだったらこの世界で『人間』として生きる路があったのかも知れないが、

僕は『アーサー王の息子』だ。キーキャラクターであるアルトリア・ペンドラゴンの為にも最善を尽くす必要があった。

 

 

だから、僕は反逆する事が元々解っていたモードレッドに接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

∮∮

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、テメエか。騎士にも任命されなかった野郎の分際でオレの前に顔を出すな。

この際だ、はっきり言ってやる。オレはお前が大嫌いだ」

 

彼女(モードレッド)は何時もこの調子だ。

僕を視界に入れる時にはいつも憤怒の炎を眼差しに灯している。

全く恨まれる訳が解からなかったけどね。

 

 

 

「僕は産まれた時から王を継ぐことが決まっているから騎士である必要も無いのさ。

だから王を継ぐ者としてこの国にそれなりの実りを齎してきたつもりだ。

まあ、そんな事はどうでもいい。

この際はっきり言っておこう。僕は貴女が大好きなんだ」

 

 

なるべく素敵な笑顔を作ってみたつもりだったが、上手くできていたかどうかは解らない。

モードレッドは何も反応してくれなかったからだ。

外の世界の知識をあてにするならここでニコポだとかいう現象が発生する筈だった。

イケメンに限るという事だったけど、間違いなく僕の容姿は美しいので問題は無かったはずだ。

 

「…確かにテメエは完璧な王の器だ。

他国から奪ってきた農作物をこの国の土地で栽培する技術や、その調理法、

財政政策や、軍事戦略、

戦闘を除いてオレが勝るものは騎士である事でしかない。

民には優しく汚職に手を染めず、それでいて目的の為には一つの村ごと敵を壊滅する冷酷な戦術を提案する事もできる。

素晴らしいよ。本当にな。

だが、テメエだけは絶対に認めねぇ」

 

 

実に残念な答えだった。一世一代の告白の返しがこれだったのだから、

傷ついた僕を慰めてくれるラッキーイベントが起きても良いぐらいだった。

…普段のガレスからの控え目なアプローチがラッキーイベントで、

これがその反動のアンラッキーイベントという考え方もできるが、

それではあまりにも僕が報われない。

 

 

「…どのみちアーサー王の元でも裏切る心算でしょう。

それで、いつ頃なのですか? 裏切りの予定は」

 

「―――はっ、何から何までお見通しってか?

気に食わねえよ。そういう所がなっ」

 

彼女は完璧な騎士であり王であるアーサー王に複雑な感情を抱いている。

それを極めてシンプルに言えば子供として認められたいという当たり前の感情だった。

だから僕はそれを救済してあげようと思った。

 

「ええ、知っていましたよ。

ですから貴女が父上に認めて貰えるように僕が取り成してあげましょう。

僕が父上にお願いすれば父上も貴女に優しくしてくれると思いま――――――」

 

 

その言葉の何処かが彼女の逆鱗に触れたのだろうか?

それとも、今までずっと彼女へのアプローチを間違えてきたのか、

そもそも彼女を攻略する事自体が不可能だったのか、

今尚僕にはわからない。

 

 

わかるのは彼女が奪い取って僕を貫いている王権の証明(クラレント)から伝わる明白な殺意だけ。

 

 

どこで間違ったのだろう?

何を間違ったのだろうか?

 

 

 

 

わからない。

わからない。

わからない―――――――

 

これでは何の救いも無い。

僕の望みもアーサー王の望みもモードレッドの望みも満たされない。

 

ああ、考え事をしていたら父上(アルトリア・ペンドラゴン)がやって来た。

 

「これは…。ロホルトッ!! しっかりしろっ!! 愛しいロホルトッ!!」

 

「父…上、モー…レッドが認めてほし…ったようですよ…?」

 

 

見た事も無いように取り乱すアルトリア・ペンドラゴンに取り敢えずモードレッドの望みを伝えて置く。

最早死ぬ僕にできる事はせいぜいその程度だった。

 

だが、

僕がその直後見たのは、僕に明日譲り渡すはずだった騎士王の証明書(エクスカリバー)でモードレッドを貫く彼女の姿だった。

 

ああ、これでは余りにも救われない―――――――




理想を目指す人間は情熱的だ。
だが、理想そのものになった存在に情熱は存在しない。


アーサー王の息子に生まれたが救いが無いのはモードレッドというオチでした。


















感想欄で書いた嘘予告

その1
アヴェンジャー・騎士王「私の願いは愛する息子を害したモルガンの娘を抹殺する事だ」

セイバー・王子様「私に願いはありません。そうですね、敢えて言うのなら可哀想なモードレッドを僕に免じて愛してあげてください」

アサシン・モーさん「もう一度お前を殺して今度こそオレがブリテンの王になるっ!!」

ランサー・ガレスちゃん「消えるのは貴女よ我が愚弟モードレッド」

キャスター・モルガン「我が娘たちよ、我が夫よ、潰えたブリテンと共に闇に沈め」

アーチャー・英雄王「此度の宴は道化しかおらぬ。精々我を愉しませてみよ」

ライダー・征服王「なあ、英雄王。正直コレ、当時のブリテンで解決して貰ってて良かった話じゃないか? それより飲まんか?」



その2
王様「私の願い? 全ては愛する息子の事だけだ。ブリテンを導く愛しき私の後継者」

モードレッド「其れならオレがっ!! オレにだって!!」

王様「私の息子は正妃ギネヴィアが生んだロホルトただ一人。
完全で完璧な息子だった。只一つお前の為に情けをかけた事以外はな。
私の願いは――――息子が生存する手段として、あの時代のお前の存在自体を抹消する事だ」

モードレッド「父上ぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!」




その3
王子様「父上、モードレッド、剣をお引きください。
父上、此処にいるモードレッドもまた貴方の息子です。私に免じて認めてあげても良いのではないでしょうか?」

王様「それはお前の頼みでも聞けない。ブリテンにも私にもお前にもその者は必要ない。
何故だ、ガレスでは駄目だったのか?」

王子様「私が愛しているのはモードレッドです。私の妻として義理の子としてなら認めてあげてくださいますか?
大丈夫です。私ならモルガンがどう動いてもそれを初動で封じ込める事も可能でしょう」

王様「それはできない。お前ならモルガンを封じてブリテンを救えると理解して尚、
私はお前を殺したモードレッドを認める事は無い。許せる事は無い」

王子様「どうしても無理であれば私の我儘は退くしかないのでしょうね。
其れよりも父上、父上の願いは何でしょうか?
私は父上の為にこの度の聖杯戦争から退く覚悟があります。
聡明な父上の願いに勝る望みもありませんし、身内同士で殺し合い無駄に戦火を広げて無辜の民に犠牲を生む訳には行きません。私のマスターも説得できます」

王様「そう言えるお前だからこそ王位を継がせたかった。
もし、お前があの時代への復活を願うなら、私がこの戦争を辞退したいと思う。
それならばどのみち願いは変わらない。
もし、その上でお前がブリテンを救えなくとも、
ならば私ではどうあがいてもブリテンを救えなかったという事なのだから」

王子様「愛する父上の寛大なお気持ちに感謝いたします」


ここまで2人にガン無視されていたモードレッド「ローホルトォォォッッッッッ!!!!!」




その4
王子様「モードレッド。貴方が独力で父上に愛されることは絶対的に不可能なので、それを可能にする聖杯を私が持って来てあげましょうか? 大好きな貴女の為に」

モードレッド「テメェが最初の脱落者になりやがれぇっっ!」




その5?



王子様「ああ、愛しいガレス。どうか僕の愛を受け入れておくれ」
ガレスちゃん「…っ!!」
王子様「どうしたんだいガレス。無理にとは言わない。
せめて返事だけでも聞かせて欲しい」
ガレスちゃん「…王子様。すみません感動の余り、私…」
王子様「じゃあ、ガレス…」
ガレスちゃん「はい。王子様貴方の申し入れをお受けいたします―――――」


ガヘリス「――――的な絵日記が見つかったんだが、兄貴的に妹の妄想をどう思う?」
ガウェイン「そうだね。絵が上手い」

アグラヴェイン「私は見ないでおこう。仕事が忙しいのでな。
では10秒数えて後ろを振り向くが良い」



     ~そして10秒後~


ガヘリス「9、10…っと。で後ろを振り――――ガレ…ス?」
ガウェイン「いやあ良く描けていたね。特に最後のページなどは―――」

ガレスちゃん「にいさんたちのばかーーっ!!」





その6???


???「王子様を助ける為なら私は何度でもやり直す。
記憶がすり減ろうと、魂がすり減ろうと、何度だって何度だってやり直すっ!!
もう一度、あのお方のお声が聞こえるのなら、何度だって。
不可能なんてない。私だって魔女の娘だもの」



その7?????

王子様「何処かであった事があるかな?
君とは初めて会った気がしないんだ。ああ、君が麗しいからと言って口説いているわけじゃない」

???「いえ、王子様にご拝謁を承けるのはこの度が初めてです」

王子様「そうか。ガウェイン卿に似ていたからその関係筋なのかと思ったよ。
きっと、彼の妹が成長したら君の様に…いや、関係ない女性の話を持ち出すのは失礼だったね」

???「いえ、構いませんわ。王子様。それよりも―――――」


モードレッド「ガレ…似てるようだが違ったか。まあいい。
それにしてもいい身分だな王子様。
市井には他の騎士たちと違って女性に優しくとも弱くないと御評判の王子様が、会議の前に女と密会してるなんて――――何だ、随分睨んでくるじゃねえか。
只者じゃねえ殺気だ。テメェ何者だ」

???「何者でもいいでしょう。
父親が誰であるかも主張できない何処かの誰かよりは」

モードレッド「テメェ…ッ!!」


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Q 王子様を救いたいと魔女の娘が願うのは間違っているのだろうか?

間違って―――――――




尚、今回は特に捏造と矛盾の塊な上に一発ネタなのをご理解ください。


この国には理想的で女の子の夢と希望を詰め込んだ王子様がいる。

名前はロホルト様。発音的にはロールトに近いロホルトとのこと。

 

私の兄たちがお城で勤めている関係で、お会いしたことがそもそもの運命の始まり。

一目お会いした時に私は恋に落ちた。

そのお姿が、そのお声が、その全てが愛おしい。

 

王子様に近づくために兄たちに無理を言って厨房で働かせて貰う事に。

アグラヴェイン兄さんは溜息をついていたが、何だかんだで上手く滑りこめた。

 

ある時王子様が、厨房にやって来た。

お忙しいにも関わらず城の裏方働きにまでお声を掛けにきて下さる。

もしかして、私に逢う為?

 

「痛っ」

 

そんな想像を働かせて油断していたのが悪かった。

包丁が私の指を掠めた。薄く切れた傷跡から真紅が滲む。

 

「…怪我をしているじゃないか」

 

 

私の指を持って水場に連れてこられ、血を洗い流した後、ご自身のハンカチで傷口を巻いて下さった。

 

「あのっ…」

 

「ハンカチを返す必要はない。それと料理長に言っておくから今日は安静にしておくんだ。

君の白く美しい指に傷痕を残したくないからね」

 

 

これである。もうオチるしかない。

贅沢を言う積りはないが、傷口を口に含まれたら気絶していた。きっとその後指を洗い流す事も無かっただろう。

 

 

 

 

それが私達が距離を縮めた要因の一つで、

その後も、王子様が王妃様の為に育てられている花畑に連れて行って頂いたこともあった。

 

王子様曰く此処には土壌改良の実験施設としての目的もあるそうだ。

荒廃していくブリテンの農業を改良する手段を開発する事で国民達を救うのだと。

王子様は何時も私達には理解もできない難しい事を知っておられる。何時だって完璧な王子様だった。

 

 

 

 

その花畑で私は大切な思い出を…いえ、王子様と過ごした時間は何時だって大切なのですが、

その中でも取り分けて大切な思い出が其処にできました。

 

王子様は私に花のティアラを作って授けて下さったのです。

私は跪いてそれを戴冠させて頂きました。

それはもう結婚式のようで、天にも昇る思いでした。

 

 

 

其れからも王子様が近くを通られるたびにその姿を少しでも視界に入れようと、

少しでもそのお声を耳に入れようと、その、恋する乙女として頑張っていたのですが…

 

その度に私の心は少しずつ離解のできない苦しみに覆われていきました。

 

 

 

王子様は何時だって同じ微笑を掲げて、何時だって同じ温度で、何時だって最善の方法を選ぶ。

そこには何処か理想そのものの王子様が容を持ったようにも思える時がありました。

それでも私の想いには陰りはありません。

 

ですが、私の大切な弟にして親友モードレッドと話す時だけは、

どんなに邪険にされても王子様は他の方に向けるのとは違う空回る不器用にすら見える行動と、

どこか完璧でない、でもとても魅力的な笑顔で話されます。

 

そこで気付いてしまいました。

王子様はモードレッドに恋しているのだと。

 

 

 

 

その後、私が部屋で投げ出した王子様との想像の日々をつづった絵日記帳を、ガヘリス兄さんが持ち出し、

ガウェイン兄さんと読んでいる所に出くわしてお説教をすることになりました。

ガウェイン兄さんは「最後のページは特に絵が上手いな。」とデリカシーの無い事を言ったのでお説教は2倍でした。

 

 

 

 

でも、王子様が幸せなら、モードレッドに譲る事も仕方ない。

そう決意を固めたころでした。

 

 

 

「ローホルトォォォォ!!!!!」

 

 

 

陛下の絶叫が城中に響き渡りました。

王子様の名前を絶叫する陛下に私も兄程でなくとも健脚な走力をいかして全力で階段を駆け上がりました。

 

 

そこで目にしたものは血が付いたクラレントを落とすモードレッドと、それを刺し抜く陛下。

そして赤い水溜りに横たわる王子様。

 

「ローホルト様ッ!!

起きて下さい。嘘ですよねっ!!

貴方なら何でも出来る筈です。例えっ、例えっ―――――」

 

 

例え死の淵からでも…。

完璧な王子様でも死の終焉から舞い戻る事は出来ませんでした。

 

 

 

そして、数日の後

 

「モードレッドを唆して暴走させた正体はお袋だ」

 

「もはや看過は出来ないようだね」

 

「ブリテン存続の為に母上には消えて貰う」

 

兄さんたちがそう話しているのを聞きました。

 

 

 

 

 

ああ、母さんが。母さんがいけないんだ。

 

それが解った私は兄さんたちが来る前に魔女モルガンの所に行きました。

 

「母さん、魔術の勉強をしたいの。だから帰ってきちゃった」

 

「お城はもういいのか。まあいいさ。

…それならそこに本がある。自由に読むが良い」

 

 

「ありがとう。母さん」

 

私は1冊目を読み始めた。

それは運命だったのかも知れない。

 

そこには不老になり時間を逆行する術と、魔術師から全ての魔術を奪う術が描いてあった。

血が繋がった魔術・魔法を使う者を犠牲にしてその全てを奪う術が描いて(・・・)あった。

 

 

 

「全く、他の子達は誰も皆アーサー王とその息子にばかり尻尾を振ったが、お前だけは別だった。

お前だけ、お前だけは特別だよガレ…ス…?」

 

それが包丁を刺されて倒れたモルガンの最期の言葉となった。

後はその血を全身に浴びるだけだ。

 

 

 

そして儀式が終わった時だった。

 

「ガレス…?」

「これはっ?」

「…っ」

 

「ああ、兄さんたち。遅かったのね。

何をしているかわからないって顔をしているから教えてあげるね?

――この女の全てを啜っているの」

 

この時、私は自分の声を何処かで他人のように聴いていた。

 

その数日後、私はもはや何の価値も無いこの時代を棄てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処かであった事があるかな?

君とは初めて会った気がしないんだ。ああ、君が麗しいからと言って口説いているわけじゃない」

 

「いえ、王子様にご拝謁を承けるのはこの度が初めてです」

 

 

そして私はやり直す。

何度でも、何度だってやり直す。王子様を救う為に。必ず救う為に。

記憶がすり減っても魂がすり減っても、この想いだけはすり減る事は無い。

 

自身の記憶がすり減りきってしまう前に、私はこの記憶を絵日記に描いた(・・・)

その絵日記は何時の間にか無くなってしまったけど、それでも構わない。

王子様にはまた会えるのだから。

 

でも、なるべく早く王子様を助けないと。

王子様に痛い思いをさせたくはない。

 

 

 

 

 

王子様の近くで専属の魔術師として雇って貰う事にしている私は、この世界で2つ嫌なものを見る事になる。

 

一つは愚かな私だ。あの女を自分の親友だと思っている。

王子様がまさにあの女に殺されるなんて思っても見ないのだろう。

 

そしてもう一つは、私が親友だと呼んでいた女。

忌々しいが魔術の副作用であの女だけは殺せない。

そして今回もまた、コレが王子様を殺してしまった。

そしてアレが求めた『父親』に憎しみを受けて殺される。良いザマだ。

 

でも、何度見ても王子様の死は苦しくて悲しいものだ。

また、『今回の私』が絶叫している。

彼女の為に一番近くに見える所に魔導書が転移する隙間を作っておかなければならない。

 

だが、毎回『私』の悲鳴を聞くたびに摩耗して薄れかけた感情が再び鮮明に痛みを訴える。

ふと、その痛みとに共鳴するように痛む人差し指を見ると何時の間にか傷口が開いていた。

 

この痛みは王子様との絆を思い出させてくれる良い痛みだ。

そう思うと少しだけ幸せになれる気がする。

 

苦しくて切なくて、でも温かい思い出を。

 

 

 

王子様を助ける為なら私は何度でもやり直す。

記憶がすり減ろうと、魂がすり減ろうと、何度だって何度だってやり直すっ!!

もう一度、あのお方のお声が聞こえるのなら、何度だって。

不可能なんてない。

 

だって―――――――――――――――――私は魔女の娘だもの。




逆行関連で矛盾アリアリなのはすみません。
それとガレスちゃんはいつだって天使派のお兄様方やお姉さま方はすみませんでした。

こんな作者にでも感想を頂けるとありがたいです。
矛盾点が多い所は柔らかめに。







次回予告。8月28日の夜9時付近までには間に合わせます。多分これまでよりも鬱です。

Dr.ロマン「この特異点の最大の歪みはブリテンに生存していないハズの『理想王』が存在する事だ。」



プロローグ

???「やった。遂にやった。ああ、愛しい愛しい王子様。
忌まわしい修正の輪が壊れ、ようやく私の為に生き残って下さった。
私の、私の愛しい王子様。
壊れた世界で佇まれる欠けるものの無い完全な王子様。
もう二度と貴方を失わせない。誰にも、誰にも渡さない。」


私は絶えられるのだろうか? 貴方がいない世界の流転に。


―――――――世界が救いを求めて絶叫する。


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この救われない世界に祝福を…下さるのですか? ねえ答えて下さい。今度こそ、今度こそ王子様は救えるのですか? ねえ、誰か教えて。誰も教えてくれないのならもう私が答えを決めるしか無いんだから。後書追加

お待たせしました。皆様の大好きな絶望のお時間です。
Welcome to the saveless world



鬱展開注意

此処までの話と比較して尚鬱展開です。
耐性の無い方は気を付けて下さい。(読んでは欲しい)


「この特異点の最大の歪みは『理想王』が存在する事だ」

 

ドクターが次の特異点の説明をしてくれる。

理想王? 聞いたことが無い。

 

「本来の歴史には『理想王』という人物は存在しなかったんだ。

その人物は理想の王になる前に死んでしまったからね。

その人物とは、ブリテンの悲劇の王子。

ロホルト・ペンドラゴン。

以前の特異点で出遭ったモードレッドが殺めた、生きていればブリテンが存続したとさえ言われる、なり得なかった希望さ」

 

 

その特異点を解決(・・)するということは――――――――――

 

 

「うん、そうだ。…君達の手でブリテンの希望を絶やすしかない」

 

 

 

ドクターからの説明は終わり、その後にダ・ヴィンチちゃんからの地理特性的な説明があったけど、頭に入ってこない。

先程のドクターの言葉だけが頭の中でグルグルと巡る。

 

 

私達が、折角うまく行ったはずのブリテンを破滅させるために生き延びた王を殺さなければならない。

 

だが、それでも行くしかないのだろう。

それが私達の肩に背負った責任なのだから。

 

 

 

 

かくして私達はレイシフトを実行した。

行先は―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

    『夢幻理想領域キャメロット』

 

 

 

 

 

 

 

 

レイシフトの最中、女性の若いとも老いたとも思えない声を聞いた。

 

「やった。遂にやった。ああ、愛しい愛しい王子様。

忌まわしい修正の輪が壊れ、ようやく私の為に生き残って下さった。

私の、私の愛しい王子様。

壊れた世界で佇まれる欠けるものの無い完全な王子様。

もう二度と貴方を失わせない。誰にも、誰にも渡さない」

 

 

それは悲しい祈りだった。

その祈りは、何処か絶望に似ていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はブリテンと呼ばれて存続する国の近くに到着した。

 

そこは理想の国だった。

とても特異点とは思えないほどに完全で完璧な国家に思わずここが特異点であることを忘れそうになった。

この国の国民の誰もが言う。

 

「この国はやっと救われました」

「陛下が救ってくださいました」

「この国は救われるのです。救われたのです」

「ロホルト王がいればこの国は幸福です。私達も幸福です」

 

…だが、違う。全くこんな完璧な理想何て人間が求める世界じゃなかった。

だれもが機械の様に救われると連呼する国は、人間として歪だった。

 

「オレ以外にも気が付いたヤツがいたようだな」

 

その聞き覚えのある声に振り向くと、そこには以前であったことのあるモードレッドが被っていたフードを持ち上げていた。

 

「モードレッド!?」

 

「しっ、静かにしろ。何でオレの事を知ってるかはわかんねーが、オレはこの国のお尋ね者なんだ」

 

 

「それは、どうして?

この国ではロホルトが生きているのに」

 

私がそう問うと、モードレッドは理由を話してくれた。

ロホルト王子お抱えの女魔術師が駆けつけたガレスを犠牲にして、その血で王子を蘇らせたという話だった。

その時にアーサー王もその女魔術師も誰もが生き返った王子に夢中で、

誰もモードレッドに目を向けなかったので逃げられたという事だった。

 

 

「あの野郎は確かにこの手で殺したはずだったがな」

 

恐らくは聖杯の力だろう。

私達は彼(女性扱いすると怒るので)とその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その先で「この世界は理想的に救われた世界じゃない、目を覚ませ!!」と言う人々を襲う使い魔達を斃す中でハサン達の協力を得たり、

彼らも畏れる死するべきものを殺す山の翁に出会ったりした。

 

 

そして今―――――――――、私達は騎士王とギャラハッド、そしてモードレッドを除く円卓の騎士たちと戦っている。

ガウェイン

ベディヴィエール

トリスタン

アグラヴェイン

パーシヴァル

ケイ

ガヘリス

パロミデス

そしてランスロット

 

彼らはいずれも伝説に語られる天地無双の英雄たち。

けれど、私にも共にやってきてくれた英雄(仲間)達がいる。

力無き私の願いを叶えてくれる英雄たちが。

 

「みんなっ、お願いっ!!」

 

 

「今度こそロホルトを殺してやるぜ」

「心得た」

「任せな」

「理想王…理想を抱いて溺死しろ」

 

それぞれの英雄たちがそれぞれの言葉で応えてくれた。

ならば私はこう言うだけだ。

 

「薄っぺらい完璧なんて壊してあげてっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――

綱渡りに綱渡りを重ねる戦闘を行い、遂に私達は勝った。

後は…騎士王に匿われるだろうロホルト王を殺す…だけだ。

 

 

 

 

騎士王が一人で私達に立ち向かい、

フードを被った魔術師と王子は手を繋ぎ屋上へと逃げていった。

 

「あの子は良く頑張った。私の知らぬところで。

私も今度こそ息子を守ってみせる。

それは世界に反する行為かも知れないが、それでもあの息子ならブリテンを、世界を存続させる方法を見つけられると信じている。

何せ私の息子は『理想の王』なのだから」

 

 

この時、私達は『あの子』というのが良く解からなかった。

それでもその疑問を振り切って戦う事にした。――――――『理想の王』を殺すために。

 

「アンタは放棄したんだ。父上。いや、アーサー王。

自分でブリテンを救う手段を探す事を」

 

「お前が、よりによってお前がそれを言うかモードレッドォォォォッッ!!」

 

 

捻じれて狂った親子は雌雄を決し―――――

 

「ロ…ホ…ル……ト」

 

「最期の言葉がそれかよ。まあ、最後に憎まれただけでも良かったぜ。

漸く見てくれた。最後に見てくれたざまあみろロホルト。

これでも、尊敬していたんだぜ……ち…ち…う……え。」

 

 

――――――そして互いに倒れた。

 

 

 

 

 

 

そして、私達は塔の上に理想王たちを追い詰めた。

 

「どうして、どうして邪魔をするの?

そうして王子様を殺すの?

ねえ、そんなにも王子様が憎い?

そんなにも王子様の存在がいけない事なの?」

 

 

魔術師がそのローブから顔が露出する位髪を振り乱して此処ではない何処かへ叫ぶ。

 

その声は声質は違うが私がレイシフトの中で聞いた時の声の持ち主だと解った。

彼女は理想王の頬を愛おしくその白い指で撫でながら言う。

 

「…ガレスッ!? まさか…。でも、間違いありません」

 

私の横でマシュが驚愕する。

モードレッドの話では確かに魔術師に殺されたはずのガレスがそこにいた。

魔術師がガレスだった。

 

 

「そう。私がガレス。

今回の黒幕よ」

 

 

彼女がそう言うと急に私達は眠気に襲われた。

 

そして夢を見た。

 

 

少女の手当てをする王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女の料理を褒める王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女と語り合う王子様。

 

そして殺される王子様。

 

 

少女に花のティアラをかぶせる王子様。

そして――――殺される王子様。

 

 

 

偶然に必然に、モードレッドに世界に殺される王子様。

 

それらが延々と繰り返されていた。

そして意識が浮上する。

 

 

「もう…、もういいでしょう?

王子様を何度殺せばいいの。世界の手先(あなた)たちはっ!!」

 

それは悲壮な祈りだった。

それは悲観な懇願だった。

その感情は、絶望に似ていた。

 

 

それでも、私達は特異点を解決(王子様を殺さ)しなければならない。

私達の責任は決して軽くない。

 

それでも、それでもその少女の絶叫は胸に刺さった。

もう、ロホルト王(王子様)あなたは理想王なのだから理想の終わり(ハッピーエンド)位掴んで欲しかった。

 

 

そう思ったのが悪かったのだろうか?

私のささやかな願いと理想王が口を開いたのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「君に命を与えられたから君の理想に従おうと思っていたのだけれど。

結果、騎士達も死んだ。モードレッドも。そして世界も死ぬだろう。頃合いだ。

…もう、終わりにしよう。

それがきっと理想的な結末だから。

君にとっても、世界にとっても―――」

 

理想の王(王子様)はそう言って塔の上から身を投げた。

 

 

そして皆の視線の先で地面へとぶつかり、ハジケタ。

後味の悪い理想的な結末が静寂を産み、

その静寂を狂気が呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「―――――あははっ、解かっちゃった。解っちゃった。

王子様をどうやっても世界が幸せにしてくれないなら、私が王子様の幸せな世界になればいいんだ。

成り果てればいいんだ。あはははっ―――――――」

 

 

魔に堕ちた女が嗤う。魔に堕ちる少女が叫ぶ。

それは同一線上に存在していた。

 

何処までも哀しい、何処までも救いの無い救われない救えない物語。

 

 

 

少女は聖杯を掲げ呼び出した悪魔を喰らい高次の存在へと成り果てた。

先程まで来ていたローブの下に隠れていた可愛らしい魔法少女と呼んでも似合わない事も無い、

何処か花嫁衣装のようだった衣服は、彼女の指先から止まることなく流れる血で真紅に染まった悍ましい喪服に変わった。

その姿はまさしく―――――魔女だった。

 

 

 

恐ろしい獣と化した少女を突如顕れたハサン達のハサンたる山の翁を先陣としたサーヴァントが激戦の末に倒した。

そして間際に人に戻った彼女の、救われない世界で恋した少女の絶叫がこの世界に、ブリテンに幕を引いた。

 

 

 

 

あの王子様は彼女を救おうとしなかったのだろうか?

救いたいと思わなかったのだろうか?

それともその結果がああだったのだろうか?

 

ただの人である私には理想と言う思考は届かない。それで良い。それが人間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、私達は決して忘れないだろう。

何時までも耳に残る、何処までも救いを求め――――――そして何処までも救われないこの世界の絶叫を。




僕達は異空の魔術師たちに倒された。

それでも、救われた。
たち(・・)は救われた。


だって、今まで僕を支え続けてきてくれた、救い続けてきてくれた、愛し続けてきてくれた彼女が隣にいるのだから。

「ありがとう、ガレス」

僕はそれに報いたいと思う。

「今まで君にうけてきた恩義を返したいんだ」



「いえ、王子様に尽くすのは騎士として当然の事ですから」


「自惚れで無く、僕を王子としてでなくロホルトと言う男として見てくれるのなら、
僕は僕自身の感情を以って君を支えたい――――――――――――











――――――これが現実ならどれだけ二人は救われたのだろう。
血に染まった絵日記帳に描かれた理想は、何処までも救いの無い幸せな夢が笑っていた。




ガレス・オルタ 幕間の物語より引用








因みに途中で出てきたサブタイトルの『夢幻』はいずれ覚める夢と、無限に続く誰かさんの悪夢というダブルミーニングです。



さて、夢幻の泡沫であれ、砂上の楼閣であれ、人々は確かにそこで生きているのです。
ある意味『カルデアと言う理想』によって人々の感情を理解できなかったFGO主人公たち。
何処までも残酷な物語。

さて、皆様も人の気持ちが理解できているでしょうか?
もしかしたらそう思っているだけなのかもしれませんよ?

感想お待ちしております。


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とある父親の独白と契約

ついでと言っては何ですが、ガレスちゃんのバッドエンドな第3話にあとがきでおまけを追加しました。
良ければどうぞ。


私は何時から理想の王であることを辞めたのだろうか?

私は何時から理想の王であろうとすることを辞めたくなったのだろうか?

 

ロホルトが成長していく中?

ロホルトが生まれた時?

それとも最初から私は何処かでこの苦しみを誰かに押し付けたかったのだろうか?

 

 

何処までも救いの無いこの世界の中心でブリテンを救う為に生まれてきた私の愛しい王子。

息子はすれ違いかけた妻との間さえ取り持ってくれた。

息子は民に愛されこの国に愛され、神にさえ愛されていた…ハズだった。

 

 

何処までも聡明で、何処までも慈悲深く、何処までも冷静で、何処までも理想的な私の望みの体現者。

いや、私だけでなくあらゆる者にとっての万能の理想の体現者。

 

私が彼に教える事が無くなったのは何時からだろう?

彼が私を支える様になったのは何時からだっただろう?

 

もしかすると、最初から私が彼を導いた事は無かったのかも知れない。

 

 

それでも、それでも彼がいるだけでブリテンは全て上手く回っていた。

彼が上手く回していた。

 

私は父親としてでなく、王として彼に嫉妬すらない。

彼に全てを委ねて任せて溺れたくなる。

 

 

それが私の息子。

完全で完璧なる理想の王子ロホルト。

 

 

 

 

 

 

 

喪ってわかる。

ブリテンは、私は、ブリテンは、こんなにもロホルト・ペンドラゴンと言う存在に依存していた。

もう何もうまくいくように思えない。

 

 

ロホルトでさえ駄目だった。

その言葉で誰もが納得してしまう。

納得出来てしまう。

 

 

妻は離れていき、騎士は離反し、蛮族は息を吹き返し、大地は荒れ始めた。

モルガンの娘一人いなければこうはなっていなかったはずだ。

あの存在を許した私の責任だ。

 

私が犠牲になればよかった。

あのモルガンの娘に刺されたのが私であったのなら、きっと生き残った王子は滞りなくブリテンを維持していただろう。

 

私では為し得なかった事を成し遂げ、それでいて私を立ててその為に自らを致命的な犠牲にする事さえある優しい息子。

妻も子供が出来ないときはこの国である私に嫁いできた役目を果たさない外様の様な扱いを受け、苦しい思いをしてきた。

それがロホルトの存在で国民に感謝される理想の国母として安らぎと平穏を手に入れた。

私達のすれ違いも何時の間にか解消されていた。

 

 

ロホルトは完全で完璧な理想の体現者であり、私よりもはるかにブリテンの王に相応しい。

私にできない事も彼にはできて、彼にできない事は誰にも為し得ない。

 

 

それでも、それでも私はブリテンの王であり、民を導き救わなければならない。

その中でさえ思う。ああ、息子がいてくれたのなら、

私の王子が生きていてくれていれば私もブリテンも誰もが救われた。

 

救われない存在など要る筈も無かった。

そんな存在など要る訳が無い。

 

 

ブリテンの守護者ロホルトの存在を厭う者などブリテンにいるわけがない。

いや、存在させてはならなかったのだ。

 

 

 

神よ、もし私の願いを聞き届けてくれるなら、

私は貴方に全てを奉げよう。

 

それがブリテンの理想の王に王権を渡し損ねた先王の責任であり、

愛する息子を純粋に愛する息子としてだけでは想えなかった私の罪なのだから。




ブリテンの守護者に生まれた息子を持った父親の物語


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とある騎士の独白と懺悔

ギャグ…? テイストなお話でお口直しです。
感想欄であった返信のリサイクルです。すみません。



悲劇には喜劇を挟んだ方が色が出るんですよぉ…。


私は恐ろしくてたまらない。

私の国の理想的で完全で完璧な王子様が。

 

ああ、私はこう見えてこの国の騎士をやっています。

ただのカッコいい素敵なイケメンではありませんよ。

名前ですか? 今夜と言う素敵な時に免じて答えざる事を許して頂きたい。

 

ああ、どうしてその騎士たる私が王子様を恐ろしいと言うかですか?

 

ええ、お答えしましょう。

ですが、私の忠義と王子様の名誉にかけて最初に言っておくことがあります。

トリスタン卿を筆頭として素敵な殿方で構成されていたブリテンの騎士団にも、その忠義を奉げるべき王族にも何の落ち度も無いのです。

 

 

私は美しい女性が大好きです。ええ、勿論女性は皆美しいので、女性が大好きとシンプルに言っても良いでしょうね。

王子様の周りには美しい女性が集まるので素晴らしい空間が出来上がります。何時まで眺めても飽きません。

 

その中でもやはり国一番の美女と言えば、王妃様ではないでしょうか?

経産婦としてますます美しく魅惑的になられたとランス…コホン、とある騎士が言っていました。

 

まあ、それは置いておきましょう。

王子様は何故恐ろしいかという事なのですが、あの方は理想的すぎるのです。

どこか薄ら寒くなる程に。

 

 

かつて、円卓にカッコ良くて美しいトリスタン卿が存在したころの話です。

 

迫りくる蛮族を払う為に、一つの村を犠牲にするという悍ましい案が出されました。

それもあの王子様からです。

信じられないのも無理はありません。あの通り、王子様はお優しい方で有名ですからね。

他国にさえ賢君になられるであろう王子様の慈愛は知られているほどですから。

 

 

その発端は、王が会議で騎士たちに意見を求めた事でした。

 

「如何すれば敵に対処できるか皆の意見が欲しい」

 

王はそう言われました。

 

 

そこにアグラヴェイン卿が、

 

「策が無い訳ではないのですが…そのどれも犠牲を伴い、王の名誉を汚す事になります」

 

と意見されました。もう、この意見の出し方が厭らしいですね。

ねえ、聞きたくなるでしょうという様な誘いの意見の出し方です。

そこであの王子様が言うのです。

 

 

「…仕方ありません。村には犠牲になって頂く他ありません」と。

 

誰もが思ったはずです。

あの善良で完璧な王子様が人を犠牲にするのか? と。

 

ですが、これにも理由がありました。

先ずそれが軍事的に最良で、その村を犠牲にすることで多くの他の村を救えること。

ひいてはブリテンを救えること。

そして、王様自身もその案を浮かべかけていたのを先回って王子様が述べたという所です。

全ては王様に汚名を着せたくないという王子様の思いがそこに在ったのでしょう。

 

 

王子様は言われました。

 

「これは騎士の道どころか人の道にも外れた選択である事は承知です。

ですが我等は選ばなくてはなりません。この村かブリテンかを。

それがどちらも救える程には強く賢くなかった人である我らの罪であり、限界です。

その罪は私が背負いましょう。私の名前で村を犠牲にする案を発布します」

 

その言葉は善意からなる言葉であった事は誰も否定できません。

まさに理想的な王子様です。

 

そして、それに誰も何も言えない中、

その理想的な王子様を救う為に陛下がその汚名を自分の物としようと考えました。

 

「…いや、待て息子よ。その悪行は私が背負おう。私のブリテンの王としての最後の責務だ。

そして、お前は私の後を継いで王になれ。

――お前が犠牲になるより私が犠牲になる方がブリテンには良い選択だ」

 

 

それが、この度の王位継承に至る裏話です。

王子は完全で絶対の正義故に、

王子に逆らう者は須らく『悪者』にされてしまう。

 

これは余りにも残酷なことです。

これは余りにも恐ろしい、そう思いませんか?

 

王子…様に逆らう事が出来ない形の特殊な独裁です。

 

 

 

 

実はこの村にはあのトリスタン卿の恋人がいたのですが、あの場でそれが通る訳がありません。

王があの案を言ったのなら、王にわた…トリスタン卿がせめて批難程度はしたかもしれません。

ですが王子様には誰も何も言えない。できない。

少なくともその場では。

結局、トリスタン卿は円卓を去るときに彼らに苦言を告げたそうです。

 

 

何故ならばあのお方がなさることは何時だって常に最善の策。それを変えてしまう事は最善から離れた結果に至ります。

誰も公の存在としては王子様には敵いません。

とはいえ、最善の結果が各々の心における望みと同じとは限らない、そういうことです。

 

 

もしかしたら、あの王子様は『理想』でしか無いものなのかもしれません。

…いえ、不敬でしたね。

そろそろ夜風も冷えてきましたし、お話はここまでにしましょう。では――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、私は知った。

王子様が、モードレッド卿に刺されて亡くなった事を。

 

私が、円卓から離れなければ、彼を救う事が出来ただろうか?

解らない。私に、いえ、誰にだってできない事が出来る理想の存在を、理想で無い人間でしかない私が救えるだろうか?

 

 

だが、それでも、それでも私が王子様の死を後悔する事を忘れる日が来るとは思えない。




眠っている様で糸目は実は見ているんだというお話。
まあ、王子様の周りには美しい蝶たちが集まってくるから仕方ないね。


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とある騎士の誓いと後悔

世界が己の守護の為にブリテンを切り捨てた様に、
王子様はブリテンの守護の為に寒村を切り捨てたという話


此度は私が如何にしてあの御方に忠誠を誓ったのかをお話しましょう。

 

 

私はかつてある女性と恋に落ちましたが、それは叶わぬ恋でした。

打ちひしがれた私でしたが表面的には明るく朗らかにいたと思います。

私が人生で最も多くの女性と触れ合った時期はこの時であったでしょう。

何処か自棄になっていた部分もあったと思います。

 

失礼ながらこの時の多くの女性は私を根っからの社交的な美青年だと思われていたと思います。

ですが、私はある時運命に出会いました。

 

何処までも勇敢に物怖じせず女性達に振る舞う私を見て臆病者と言った女性がいました。

彼女の名前は伏せますが、私がある農村に任務で向かった時に出逢いました。

 

彼女は直ぐに私の笑顔の仮面を見抜き、その仮面を被らなければ再び恋が出来なくなった私を臆病者だと叱ったのです。

 

 

私はその失礼な女性に衝撃を受けました。

ですが、その衝撃が私の眠っていた、いえ、眠らせていた感情を呼び戻したのです。

 

 

任務が終わり、帰らなければならなくなった時に彼女と初めて一夜を明かしました。

その時の彼女の約束は今でも覚えています。

 

「もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様」

 

その約束を私は必ず守ろうと誓いました。

 

 

 

 

 

 

ある時、蛮族の総攻撃がありました。

その為にある村を犠牲にして敵の側面と背後に回り込み、敵を前方に敗走させて疲弊したところを隠蔽している拠点の部隊で破壊する計

 

画が立案されました。

 

お察しの通りあの(・・)農村です。

 

 

私は気を失いそうになりましたが、それを堪えて必死にそれ以外の選択肢があるはずだと、

その選択肢は選んではいけないものだと主張しました。

しかしそれは通りませんでした。

 

 

 

 

 

もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様

 

 

彼女の言葉が脳裏に反復しました。

この時、直ぐに動いていれば結末は変わったかもしれません。

ですが、私は2日悩んでしまいました。

そして悩みに悩んだ末、私は騎士であることを棄てる決意をしました。

 

切っ掛けは同僚の一言でした。

「トリスタン、卿はいい。許される恋をしているのだから。」

許されぬ恋慕に苦しむ友人の言葉でした。

 

 

その言葉に恋に全てを賭ける覚悟が出来ました。

騎士では無く、ただのトリスタンとして彼女を救いに行くことを決意しました。

 

それは命令に違反し、忠義を損なう行為。

故に王に騎士を辞めさせていただく不恩を願い出に行こうとしたところ、そこに王と王子が見計らったようにいました。

 

 

「貴方の決意を汚しはしません。貴方を騎士のまま行かせましょう。

ですが、作戦に変更はありません。今からでは村は間に合わないでしょう。そのはずです。

貴方の席は円卓に空けていますから何時でも帰ってきてください。

ですよね、父上」

 

王子は全てを悟っているようでした。

逆に言えばその上でこの非道を決意したという事です。

全てを知られており、全てが計算された行動でした。その上で、その上で村を、彼女を犠牲にすることを決意したのです。

全ては理想的な結末の為に。

 

 

私は感情的に彼らに嘆きました。

 

 

「貴方達には人の心が解らない」

 

 

そう、言ってしまったのです。

 

 

 

 

そして彼らに背を向けて私は奔走しました。

 

もし、わたしがピンチの時は必ず来てくれるって約束してくださいね?

私の騎士様

 

 

そう言った彼女を救う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…結果として間に合いませんでした。

村は蹂躙され、破壊され、凌辱されていました。

 

 

絶望に嘆く私に気が付いた蛮族の1人が私に襲い掛かりましたが、それを見る事も無く切り伏せました。

そしてそれに気が付いた他の蛮族たちが次々と私に襲い掛かりました。

私も腕には自信があります。

蛮族たちを切り裂き、突き殺し、射抜きました。

 

ですが、僅か一人で何が出来ましょう。

忽ちの末に劣勢に追い込まれ手傷さえ負いました。

それでも、それでも敵を討たなければならぬ。そうしないと彼女を救えなかった自分が壊れてしまう。

そう思いましたが、それでも事体は好転しませんでした。

 

 

 

もはやこれまで、そう思った時に聞き覚えのある怒声と蛮族たちの悲鳴と共に軍勢が押し寄せました。

ブリテン王国軍の軍勢でした。

 

余りにも早い編成からの出兵。敵兵が完全に不注意な中に恐慌を齎す奇襲。

此処までの速度でこれを為せるのは、私は1人しか知りません。

 

殿下…貴方は何処まで理想の人なのでしょうか。

 

 

 

 

 

「生存者を捜索しろっ!!」

 

 

僅かにこの村に残った其れなりの騎士が部下達に命令していました。

そこで僅かな希望が芽生えました。そう、もしかしたら彼女が生きているかもしれない。

そんな希望が。

 

 

「誰かいないのかっ…

おいっ、一人生きてるぞっ、手を貸せっ、この瓦礫の下だ。」

 

私はその声に向かって駆け出しすぐに救助活動に当たりました。

助け出されたのは女性。彼女に似た肌の色と髪の色。

ですが、良く似ただけのその女性は彼女とは別人の老女でした。

 

真に失礼ながら私の心の中には落胆がありました。

貴女の騎士は貴女の窮地に助けに来れなかったという絶望が。

 

 

 

…その老女は目が見えないようでした。

 

「ねえ、騎士様。トリスタンという騎士を知っているかい…?」

 

私はその声に硬直しました。

そう、他でもないこの私こそが―――

 

 

「知らないかい。有名なお人だそうだけどねぇ。」

 

私の無言を否定と受け取ったのでしょう。

彼女は言葉を続けていました。見えなくなった目で涙を流しながら。

 

 

「あの子は言っていたよ…。

逃げずに此処で立ち向かおう。きっと騎士様が助けに来てくださる。私の騎士様が来てくれる。

風のように軽やかに、私と新たな命を助けに来てくださると…。

 

 

私は娘も孫も一変に喪った。

もしトリスタンという騎士にあったら伝えておくれ。

私は絶対にあなたを許さないと」

 

 

 

その声は憎悪に濡れていました。

 

「高名な騎士様の悪口なんて打ち首ものかもしれないがねえ、もう生きる気力も無いのさ。判るだろう?

騎士様、あなた様では何もできなかったかもしれないが、

王子様なら、他でもなくあらゆる事に完全な王子様なら先程死の淵に沈んだ娘を救い希望を示してくれたやも知れぬ。

此処に来たのがトリスタンで無く王子様だったらね、そう思わずにはいられないよ」

 

 

その王子様がこの村を切り捨てたのだとは言えなかった。

それにあの王子様なら、もし仮に彼女の死の間際に間に合っていれば救えたでしょうが、きっと私にはその手を握って謝ることぐらいしか出来ませんでした。

 

 

「トリスタンに、許さないと確かに伝えておくれ。」

 

そう言って、老女は他の騎士が用意が出来たと言った救護所に連れて行かれました。

 

 

その後、私の背後に良く知った騎士が来ました。

 

「トリスタン卿、此処にいたのか。

殿下からの伝言だ。

此度のことは卿に責任はない。

心優しい卿には堪えるだろうがそれらは全て殿下の罪である。と」

 

 

あの方なら、あの方が村を救うつもりなら救えたのだろうか。

いや、救えたに違いない。

もし、この世界をやり直せるならこの御方に全てを委ねるしかない。

なのに、なのに何故!?

 

 

 

「それともう一つ。

これは伝言で無く遺言になってしまった。

僕には人の心が理解できないのかも知れない。それでも人の心を理解しようとはしてきたつもりだった。

殿下はそう言っていた」

 

 

殿下、貴方もまたこの救われない世界で懸命に生きていただけだったのですね。

漸く解った真実が私に深く深く突き刺さりました。

この傷はきっとイゾルデも治せないでしょう。

 

 

 

もし…、もし次があるのなら、私は王子を絶対に護ってみせましょう。

次こそは曇りなき忠誠を貴方に。




尚、次があった世界でもカルデア組に蹂躙された模様。


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とある王妃の惜愛と決別

この国に、私の居場所はありませんでした。

 

私はアーサーに後ろ盾を作るために用意された『高貴な妻』という役割を果たす道具として存在していました。

子が一向に生まれない私を人々は影で蔑み嘲笑い見下して軽蔑していました。

アーサー王自体が権威を手に入れた以上もはや無用の長物だと、そんな噂話が聞こえた事もあります。

勿論、正面から言われたことは一度もありませんでしたが。

 

それにそんな言葉を聞かなくとも私自身が一番その事実を理解していました。

美しく壮健な王に子を産む事も無い王妃は無用。

それは誰よりも理解していました。

 

 

そんな中、まさかの懐妊でした。

何処か諦めていた王もそうでしたが、私自身が一番驚きました。

まさか女性同士(・・・・)で本当に子がなせるとは信じていなかったものですから。

 

 

 

 

私と王はこの愛しい奇跡の子にロホルトと名付けました。

ブリテンを救い得る理想的な時代の王になるという半ば諦めの気持ちで期待しながら。

 

しかし、王子は本当に理想の王子でした。

読み書きは元より武術も優れ、あらゆることにおいて息子に敵う者はこの国にはいませんでした。

 

息子はその年代の子供が憧れる騎士には興味を示しませんでした。

息子は騎士ではこのブリテンは救えない。僕は僕にしかできない王道を行かなければならない。

それ以外を進む余裕はこの国には無いと。

 

 

そして息子はあらゆる面において理想の王子として存在しました。

息子はそれでいて優しい子でした。農業改革の一環と言う理由はあるのですが、私の為に花の園を作ってくれました。

そこにはこの国では珍しい様々な花や薬草が育てられていました。

 

民にも優しく、既に外国でさえも息子の高名は広まっているようでした。

私は以前とは一転して国母として持て囃されました。

此処に私の場所が出来ました。ロホルトが作ってくれました。ようやく安らぎが私に生まれました。

 

 

ある時、侍女の1人が私に教えてくれました。

忠義に篤い円卓の騎士のガウェイン卿の妹ガレスをその花畑に連れて行き花の王冠を被せたと。

 

 

 

何処にも浮いた話の無い息子は、

まさか妊婦や経産婦は素敵ですねという変わった騎士のような特殊嗜好があるのではと思っていましたが、

そんな事はありませんでした。

 

私は歓喜して未来の義娘と息子を結ばせるべく侍女に命じて様々な策を取りましたが、息子は恋愛に鈍感なのか効果はありませんでした。

 

 

 

 

そしてある時、遂にロホルトへの王位継承が決まりました。

息子の見送る日にして私の集大成たる日です。

 

その日は約束された祝日になる筈でした。

 

 

 

 

 

あのモルガンの娘に、いえ、―――――――――――アーサー王の娘に刺されるまでは。

此処に私と息子は永久の別れを告げる事になり、私とアーサー王には決して越えられない溝が出来たのです。

 

 

…完全でなくともよかったのです。完璧でなくともよかったのです。

私は、あなたが生きてさえいてくれれば。

私の全てが失われました。私の価値が、私の想いが、私の希望が、私の愛が。

もう、この国に私の居場所はありません。

 

 

 

だから、もう…

 

此処では無い何処かへ連れて行ってくれませんか、お願いしますランスロット。



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とある息子の救いと勝利

オレはアイツが気に食わねえ。

アイツの全てが気に食わねえ。

 

 

 

オレはあの騎士の王たるアーサー王に憧れて血の滲むような鍛錬の末に定数の決められた円卓の騎士の座に辿り着いた。

そしてオレは知った。

オレは、オレこそはアーサー王の後継者なのだと。

 

天に昇るような気持だった。夢なのかとさえ疑った。

オレが、オレがアーサー王の息子なんだって。

 

 

だが、それはオレが次の王になれる事とは結びつかない。

アイツの存在だ。

 

アイツは何時だってあらゆる面で俺より王に相応しい。

騎士を理解し、民を慮り、王国を救う視点で全てを俯瞰する。

 

それは最早人間にできる在り方では無かった。

『理想の王子様』というのが本当の名前だとしても笑い話にもならない。

寧ろロホルトと言う名前は理想の体現としてこの国に充満している。

 

詩にも踊りにも建築にも農業にも軍隊にもあらゆるところで王子様の影響を受けない物はこの国には存在しない。

受けない者は存在しない。

 

 

最早冗談だと言われた方が理解できる。

それが現実として存在するのがあのロホルトだ。

 

 

 

 

 

 

オレはある時にアーサー王に貴方の息子だと素性を明かした。

モルガンの元に生まれた貴方の後継者だと。

 

 

だが、言いやがった。あの王は言いやがった。

 

「私の息子はロホルトただ一人だ。私の後継者はロホルトただ一人だ。」

 

 

そう言いやがった。

アイツの方が王に向いている。

 

そんな事は解っている。アイツは誰にも真似できない完璧な王子様だ。

 

 

 

だが、アイツは俺から全てを奪いやがった。

オレが憧れた王は不抜けた。最早自分がブリテンの理想になろうとはしていない。

簡単だ。自分より理想的なロホルトがいるからだ。

そしてオレからあの人の息子であるという誇りも奪いやがった。

 

許せねぇ。アイツは何時だって全てを奪っていく。

ブリテンに全てを与える王子は、噂とは真逆に全てをオレから奪っていく。

 

アイツに勝っていると思っていた武術だって、アイツが見せる演武を見ただけでその距離が解る。アレは何でもできるとかそういう領域にない。

そして騎士として円卓にはいれるぐらいの実力があったとしても、

オレが死ぬ気で目指した騎士の頂きに何一つ興味を示す事も無い。

一貫して王の後継者を名乗り続ける。

これではオレが余りにも惨めに見える。

 

 

 

それでいていつもオレの目の前に現れて、オレがアーサー王には認められない。

オレはこのままでは後継者にはなれない。

そういう事を解りやすく説明してくれやがる。

解ってる。そんなのは解ってるんだよ。

 

 

だがな? 王子様、テメエが知らないオレが後継者になる方法があるんだぜ?

テメエは想像もしてないのかも知れないけどよ。そういう方法(・・・・・・)があるんだ。

父上には憎まれるだろうが知った事か、今では息子としてのオレはあの人の中では存在しない。それよりはマシだ。

 

いや、不抜けた王も理想の王子も要らねえ。

オレが、オレが王になる。あんな連中なんか要るものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不満を抱えながら生きていた時、遂にオレは王子を殺した。

父上はただアイツだけを見つめていた。此処にオレがいるのに全然見てくれない。

 

いや、そうでも無かった。

父上がオレを恨んでいる。父上がオレを憎んでいる。父上がオレを殺そうとしている。

父上が――――――――――――オレを見てくれている。

ああ、願いが一つ叶った。

 

見たか、ロホルト。

今、父上はお前で無くオレを見ている。オレを想っている。オレで埋め尽くされている。

初めてお前に勝ったよ完璧で完全な常勝の王子様。

 

勝てない、お前には勝てない。何処かでそう思っていたんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、だけど本当の所は、

本当は――――――――父上、ただ貴方に息子だと認めて貰えれば、それで…それで良かったのかも、知れないな。



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(仮サブタイトル)騎士メン☆パラダイス~ライバル令嬢ガレスちゃんが語る素敵で無敵な学園生活♪~

こんなのじゃ、ガレスちゃんが、皆が救われない。
悲しいだけの世界じゃ、それ以外の何もない世界じゃ幸せも楽しみも無い。
さあ、誰もが笑って救われる、そんな誰もが喜ぶハッピーエンドを迎えようじゃないか。
行こう。彼女が、誰もが美しい結末を掴める夢の様な未来へ。




※大丈夫、此処はブリテンじゃないよ!!
尚、このお話はオールフィクションであり、本編の出来事、登場人物とは、一切関係がありません。


私立ヴリテン円卓学園

 

 

この学園には円卓の騎士(ナイツオブラウンズ)、通称『騎士メン』と呼ばれるイケメン達がいる。

そして、彼らを上回る更なるイケメンがこの学園には存在している。

その人はあまりの完璧具合に『王子様』と呼ばれているの。

 

 

あっ、いっけないいけない。自己紹介もしてなかった。

始めまして、私はガレス。ガレス・コーンウォール。

この学園の1年生。

趣味は料理とお花を眺める事。密かに自慢なのは白い肌。

体重とスタイルに関してはここではヒミツ。

 

 

私の事はこのくらいにして、今この学園はピンチに陥っているの。

いえ、正しくはピンチに陥っていたが正解ね。

 

 

近年の少子化問題に伴い年々在校生が減るという危機的状況の中、

遂に生徒会長であり、理事長の息子である王子様ことロホルトさんは学園アイドル部を立ち上げたの。

数々の学校のアイドルの頂点を決める大会にて優勝して生きた宣伝材料となる為に。

聞いたことがある話かも知れないけれど、この界隈では良くある話だからね。

 

 

じゃあ、アイドル部のメンバーの紹介をするね。

 

 

1人目は王子様ことロホルトさん。

他のメンバーはそのカッコ良さに『騎士』と呼ばれているけれど、ロホルトさんは別格だから『王子』って呼ばれているの。

実は私と家が近所で両親の仕事の関係で昔から交流がある幼馴染。

笑顔が君にはやっぱり似合ってるという言葉と共に彼がくれた赤いリボンは今でも私の大切な宝物。

父親のアルトリアさんは十数年前にできた同性婚認可法案に伴い、

マーリン博士が発明したSTAF細胞による同性間の子供を作った第一号。

そしてヴリテン学園の理事長をしているの。

ロホルトさんは文武両道容姿端麗品行方正で非の打ちどころの無い完璧超人。

そして、えと…うん私の好…憧れの人なの。

将来は美しい花を咲かせる仕事をしたいんだって。

私もその時は頑張りたいな…えへへ。

 

 

2人目はランスロットさん。

実はこの人は学園の先生。教職員がアイドルなんかやっていいのかって質問はしないでくれると嬉しいな。

学園の生徒に子供であるギャラハッドくんとマシュちゃんという双子の兄弟がいるんだけど、

少々父親がファンの女の子に手を出したりしないかとか、

保護者のお母さんに手を出したりしないかとか信用されて無いようで、毒舌気味に言われているみたい。

 

 

3人目も教職員。但し臨時の保険医。

トリスタン先生は基本的にエロいと評判。それは見た目の事なのか発言の事なのか、

それとも別の何かなのかは聞いてないから解らないし解りたい訳でもないかな。

いつも二言目には「悲しい悲しい」と言っている変な人だよ。

何時も女子生徒を口説いては、金髪の方のイゾルデ先生と色白の方のイゾルデ先生に怒られてる。

実はわざとやってるんじゃないかって思う。

大体学園内ではエロい方の保険医で通じるよ。

 

 

4人目はもう一人の保険のアグラヴェイン先生。

このメンバーは実は私の兄さんで、しかもこの後にも紹介するけれど、私の兄さんたちは全員メンバーに入ってるの。

そのおかげで役得があったんだけど、その事はメンバー紹介の後で話すね。

アグラヴェイン兄さんは、

「何で俺みたいなのがメンバーに入ってるんだ。

ああ、母さんの策略に違いない。

共同出資者としてアルトリア理事長と同等の立場から、影響力で上に立つために俺まで巻き込んだんだ。

そうに違いない」

 

って言ってるけれど、私はそんなことないと思うな。

アグラヴェイン兄さんが渋くて素敵だって言ってる女子、私の周りにも結構いるんだよ?

因みに、色気がある方の保険医で名前が通ってます。

 

 

5人目はガウェイン兄さん。

ガウェイン兄さんは、王子様を除く騎士メンの中でも凄い人気を誇っているけど、実際は喋ると残念な人。

妹の私には優しい素敵な兄さんだけれどね。

時折まともに見えて普通にアウトな発言をしているから、19時のニュースに使われるっていうテレビ局の取材の時には苦労したんだから。

リラックスしてインタビューには答えてねって言ったけど、ウルトラリラックスしても人としてのモラルは忘れないで欲しい。

あの発言は、紫の髪をしたインタビュアーのお姉さん達へのセクハラだからね?

 

 

6人目のガヘリス兄さんは…そう、もうデリカシーを無くした様な、そんな少年漫画の主人公みたいな人。

無論、悪い意味で。

まあ優しいし、素直に熱血ではあるんだけど、ロホルトさんに私の気持ちを勝手に伝えようとしたり…、

もう黙ってて兄さんとしか言えないかな。悪気はないんだろうけれど、はぁ。

 

 

気を取り直して7人目はさっき出てきたランスロット先生の息子、ギャラハッド君。

私と同じクラスなんだけど、いつも彼の周りには女の子が集まってる。

でも、彼曰くナンパな父親のようにはなりたくないと誠実にあろうとしている所がクールで魅力的だって評判だよ。

ナンパな父親と鉄壁の息子として有名なの。…シスコンなのが玉に傷だけど。

 

 

そして8人目はケイさん。

この人は全く謎の人で、どうしてこの学園にいるのか何をしているか全てが不透明。

取り敢えず何か困ったら頼るべき用務員的なポジションで、洗濯物を5m程の高さの物干しざおに干して、

しかも一時間もせずに取り込んでいる。

でも、そもそも此処は学園なので、洗濯するものは保健室のシーツ位しかないんだけれどね。

因みに生乾き臭はしないんだって、いったい何者なんだろう。

 

そして時間が無いからあと二人にするけれど9人目は私の親友モードレッド。

実は彼女は性同一性障害で男性として振る舞っているの。

だから女性扱いしたらダメなの。ユリテンエンド?何それ、わかんない。

イケメンならオレ様系が好きな女子に人気みたいだね。

 

最後はまさかの理事長アルトリアさん。

ロホルトさんのお父様で、アーサーと言う偽名を使ってアイドル部名誉顧問兼ねて部員の生徒として参加してます。

若く見えすぎて違和感がありません。昔から肉体が老化していないという噂がある位。

昔からの知り合いですが、ケイさん同様不思議な人です。

 

 

 

 

 

 

 

で、そんなアイドルメンバー達がいる以上、そのマネージャーとかも必要になってくるわけで、

それはもう激戦区だったんだけれど、結局、メンバーの半数を家族にもつ私が後腐れ無いだろうと選ばれました。いぇい!!

実家のアグリビジネスを売りに王子様に推薦を依頼してきたサジョー姉妹は強敵でしたが、結果は私の勝ちです。

 

 

これでロホルトさんといつも一緒。1000%の感情がドキドキで壊れそう。えへへ。

 

…だったのですが、何故かアルトリアさんの推薦でもう一人マネージャーが追加されました。

私一人だと大変という理由だそうです。

 

そのマネージャーの名前はリツカ・フジマルさん。

アルトリアさんのお世話になったお医者様と芸術家の御夫婦の娘さんだとか。

 

それで、彼女とは同じマネージャー同士話も色々するわけです。

――――例えばですね、

 

 

 

 

「ナイツオブラウンズカッコいいよね。ガレスちゃんもそう思うでしょ?

っていうか、そもそもそうじゃないならマネージャーしてないか」

 

「そうですね。リツカさんはこの学校に編入してくる前からご存じだったのですか?」

 

「そうだよ? 特に王子様なんて最高だよね~」

 

そう、ですね…? ええ、その通りなんですが。

 

む、むむ。

 

もしかして―――――――

 

 

「もしかして、王子様のこと…」

 

 

「うん…、一目惚れってやつかな、あはは」

 

そ、そんな。兄さん、ピンチです。

 

こんな、感じの会話です。

ガレスは負けません。

 

勿論ガヘリス兄さんのアシストだけはノーセンキューですが、

私、負けませんから。

 

 

 

私たちのヴリテン学園生活はまだまだ終わらない。




※この先を覗く者は、一切の希望を棄てよ。

真サブタイトル“終局特異点 永遠救済輪舞ガレス”










誰もが救われて、誰もが幸せで、誰も悲しまない。
救われない者の無い世界。

「なんて…、なんて夢想的で蠱惑的で甘ったるくて幸せで現実感の無い依存させる理想的な世界。
そうよね、――――――――――――夢世界の悪魔(マーリン)
この悍ましい程完璧な夢を終わらせなさい。
私は早く王子様を助けに行かないといけないの」

「…気が付かれるとはね。流石は僕に届き得る魔の輩になっただけはある。
で、どうだい? お気に召したかい?
気に入ったのならずっと其処に居ればいいんだ。
君がもう苦しむ必要はないし、僕も世界修復の締めの邪魔もさせられない」

ああ、あの外側から来た修復者(侵略者)の彼女ね。
全てを繋げるために全てを破壊する使徒たちの為ね。

「今すぐ此処を醒ましなさい。私から去りなさい。
世界の修正力を壊すあの存在が破壊されたら、王子様を救う可能性がまた遠のく。
世界が破壊されたとしても、ブリテンだけは、王子様だけは何時の日にか存続させてみせる。
…そこには貴方の居場所もあるのよ。
…ねぇ、どうして裏切ったの? 貴方もブリテンの仲間だと思っていたのに」

「終わったはずだよ、全て終わったんだ。
どうあがいても無理だった。ブリテンには崩壊するしか先は無かったんだ。世界がそれを望んでいた。
だから、だからこれから生きる者達に任せようじゃないか。
ブリテンの亡骸が未来を修復する障害になる前に僕が封じる必要があった。
いずれゲーティアに匹敵しかねない獣が最後の最後にまた邪魔しに来るなんて悪夢だよ。
夢魔の僕が言うのも何だけれどね。
君の為にも、彼女達の為にも君は此処で眠り続けるんだ。それが僕にできる優しさであり、償いだから」


「こんな気持ち悪い程美しい世界は私が生きる世界じゃない。早く降参しないと貴方を潰すわ」

「恐いね。本当に君にはそれが出来るというのがまた一段と恐い。

…夢想的で甘ったるくて幸せで現実感の無い理想的で、
悍ましい程完璧で、
気持ち悪い程美しい。

――――――――まるで王子様の様じゃないか。君が気に入ると思ったんだけどなぁ。
それでも君がこの世界を否定するように彼をそう感じた人々も存在したはずだ。
君達があの世界で排除しようとした人々の様に」




「王子様を侮辱しないでっ!!」

あの人は実体の無い夢なんかじゃない。
血の通った、触れ合えて言葉を交わせる人間だ。
そう、あの人は人間だ。理想的な人間に理想を見た私達が神格化した、神に近しいだけの人間だ。
私が恋し、私が愛した王子様だ。

「言い過ぎた、かな。でも事実だ」


…貴方は何処か王子様に似た所がある。でも、私が貴方を愛する事は無い。
私の愛は只一人にだけ向けられている。何時だって、何処だって、何度だって。

「…マーリン。逆に貴方が見せた世界こそ、薄っぺらい完璧でしかなかった。
あの世界にはそれまであの人が紡いで為した、必死に維持したブリテンの苦しみは何処にも存在していなかった」

それに、彼は少し気になる事を言った。
償いとはどういう意味だろう? それは宮廷魔術師としてブリテンを救えなかった事を言っているのなら良い。
だが、もしそうでないのなら―――――

「ところでマーリン。貴方が先ほど言った償いは誰に向けての物なの」

「うん、それはね、理想の王子様に向けてであり、その周辺の人達に向けてであり、そしてブリテンと世界に向けてさ」

彼は随分とあっさりそう言う。
もはや有象無象には執着は無い。ブリテンと世界にも目を瞑ろう。
でも―――――



「貴方、一体王子様に何をしたの?
ロホルト・ペンドラゴンに何をしたの?」


「こうなるとは思わなかった。
僕は彼に祝福を与えたんだ。遥か先を見通せる『眼』という祝福をね。
でも彼は既に類似したものを持っていた。
どちらかが掻き消されればよかった。押さえあってていても良かった。
でも重ね合ってしまった、混じり合ってしまった。故に、このザマだよ。
きっと、それも世界のせいかもしれないけどね」



貴方のせいで…。
いえ、貴方のせいではないのかも知れない。
それでも、そうだとしても―――――――――――


「マーリン、明日の貴方が何処に居るのか占ってみなさい」
まあ、出来るはずは無いわ。絶対にない。
だって、もう何処にもいないのだから(・・・・・・・・・・・)


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A 救いは此処に。

制作中のイメージBGM~笑顔のゲンキ~


この世界の修正力を破壊した魔神を斃すためにあらゆる時代、国家の英雄・反英雄がこの場に集まっている。

世界を救うという一つの目的を掲げた少女を旗頭として。

 

壮観な眺めだと言えるかもしれない。

想いの集大成と言えるかもしれない。

それは勿論、向こう側(・・・・)に重きを置く者達の考えなのだろうけれど。

 

「久しぶりね。覚えてる?

逢いたかった? …遇いたいはずは無かったでしょうね。

安心して。私も貴女達に遇いたいとは思って無かったから」

 

「ガ…レス。如何して此処に…?」

 

貴女にはきっと解らないし、解る必要も無い。

私の全ての行動目的は只一つ。王子様を救う事だけ。それ以外なんて存在しない。

何度やり直しても王子様の生存を拒む世界の修正力が壊れた奇跡の世界。

この機会を逃せば、また王子様が死に続けて可哀想でしょう。

だから、私は此処にいるの。それを答える義務は無いのだけれど。

 

「…貴女達は今まで幾つの世界を殺してきたの? しっかり数えてきた?

その世界はきっと生きたかったんじゃない? 歪んで壊れていたとしても。

そこにまだ生きていた世界は、まだ生きていた国は、まだ生きていた人々は。

 

…私達の世界の事、まだ覚えてるかしら?

それとも薄っぺらい理想なんて覚えるにも値しない?」

 

 

自分で思ったよりも昏い声がした。

王子様に逢う時にこの声のままだったら嫌だな。

ふと私は独りで正対する英雄の軍勢の前で場違いな事が頭に浮かんだ。

 

「やめてっっ!!」

 

私の言葉に耳を塞いでそう叫んで座り込んだ少女を護る様に何人もの英雄たちが前に出ては武器を構えて此方を睨む。

その中には騎士であっただろう者達も居ただろうし、

王であった者達も居ただろうし、

もしかしたら王子であった者も居たのかもしれない。

 

 

そのどれもが、私を殺そうとするのだろう。

兄である騎士たちが、王夫妻が、私のロホルト様が優しくしてくれた姿が何故か思い浮かぶけれど、

その思い出の人達とあれらは対極に位置している。

 

 

「…ブリテンは優しい場所だった」

そこに救いは無いけれど、それでもそこには人々の優しさがあった。

最後には何時もどうしようもなく絡まってどうにもならなくなってしまったけれど、そこの始まりは優しさだった。愛だった。

 

 

今、あれらが私に齎すべきである未来とは違う。

救いたい気持ちに溢れた世界だった。

だからああなったのかも知れないけれど…。

 

 

「我等はゲーティアを倒し、世界を救わなければならない。そこをどけ」

 

英雄のひとつが私にそう言う。

 

「あはっ、あははっ、あはははははははははっ」

 

「…っ、何が可笑しい」

 

可笑しい? おかしい。おかしいおかしいおかしい。

とても、とてもとてもとてもとても――――可笑しい。

 

 

「ブリテン1つ救えなかった貴方達が、世界そのものを救うだなんて可笑しくないわけがないじゃないっ!!」

 

気が付けば頬に何かが伝っていた。

だって、苦しかった。悔しかった。

皆が救おうとしても救えなかったブリテンを壊した人たちが、実は世界を救える人たちだったなんて。

 

 

「…ねえ、どうしてなんだろうね?

どうして、こんなに噛み合わないことばっかりなんだろうね。

どうして、なんだろうね」

 

また―――、何時かのように服が赤く紅く朱く染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気が付けば、私の前に居た彼女の仲間は全て消え失せて、そこには倒れてもがき苦しむ彼女だけが独りであった。

 

私はそれを無視して彼女達が進もうとした先へと行く。

きっと、もう戻れないけれど、元より、戻る所も無いけれど…。

 

 

 

 

 

「随分と凄まじい力だったな。どうやってそこに至った?」

 

私が進んだ先に彼女が倒そうとした存在がいた。

 

「…愛と勇気と優しさですよ」

 

私は皮肉でも何でも無くそう言ったつもりだった。

だが、魔神は笑った。狂嗤(わら)った。

 

「愛か、勇気か、優しさか、事においてよりによってそれか。

我々(わたし)たちはその身に纏う力の正体に気が付いていないとでも?

それは『こころ』といった力無い物とは違う純然たる因果の力だ」

 

 

 

「否定するのね。

――なら、貴方では私には勝てない」

 

 

 

 

 

何度も世界(ブリテン)を巡って重ねてきた絶望と、それに負けない想いが私に力の容を示してくれる。

 

私の愛しい王子様(クラレント・オブ・ロホルト)ッッ!!」

 

 

何処までも昏く眩い光がこの空間を包み込む。

その光は理想そのものであり、未来であり、過去であり、今此処に在り此処に無いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

絶対の理想が魔の神を根底から崩壊させていく。

 

「…ここで、我々(わたし)たちを殺した所で、もはや全て遅い」

 

 

往生際の悪いそれが何かを言っている。

だけど、そんな事は関係ない。元より世界そのものを救う心算は無い。

私が生きてきた世界は何時だって小さな島の中でしかなかった。

それだけで十分。それだけで良かった。

僅かな箱庭(箱舟)に永久の祝福を。

 

 

 

繰り返す世界で今までに連れてきた全ての絶望を贄に、私は王子様に代わって『ブリテン』の救済を執行する。

理不尽な絶望を純粋な力として私を基軸にした因果を収束・同化させ、

その消滅を代償に『始まりの魔法』=『願われた理想』を約束する。

 

私がいなくなったとしても、元々いなかった事になったとしても、

あの人がいれば、理想の王子様がいれば、ロホルト・ペンドラゴンがいれば、

(ブリテン)は救われる。

 

そこに後悔なんてある訳ない。あの人に二度と逢えなくたって、抱きしめて貰う事も話しかけて貰えることも無くなったとして、

(ガレス)に後悔なんてある訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……此処は何処だろう? 決まっているブリテンだ。

何かが起こって何かが終わり、何かが壊れて何かが救われた。

早く行かなくちゃ、向こうから愛しい声が私を呼んでいる。

 

 

ほら、皆が、あの人が待ってる。あの花畑で。

だから私は走る。足元も周りも見ずに駆けて抜ける。

 

 

 

そして、そこには兄さんたちが、皆が、そして待ち望んだ人がいた。

だから私はずっと言いたかった想いを言葉に乗せた。

 

 

 

「ただいまっ、私の王子様」

 

~END~




矛盾も問題点もあるでしょうが、お楽しみいただけたでしょうか?
この結末の真実や解釈は皆様にお任せします。
この結末までお付き合いいただきありがとうございました。


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