Zeroで戦うセイギのミカタ (優雅な平衡感覚)
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Prologue 

 ※ 注意 本編を読む前に必ず確認しておいて下さい。

 わざと設定を無視しているのが三つ程度あります。
 出来る限り避けたいけど、逆行モノなので、無双が発生する可能性あり。
 介入するのは〈イレギュラーは〉四人。
 オリジナル設定が核心の部分にある。
 本編で説明すべきどうしてこうなったかとかを、テンポの都合で前書きとか後書きで説明するかもしれません。
 伏線とか意味はあったりして前書きとか後書きで変な考察をするかもしれません。
 色々あって設定資料が手元にはほぼゼロ、記憶と原作を片手状態で書いてます。
 批判感想は大歓迎。でも誹謗中傷は止めておいて下さい。
 書き方に妙な拘りがあって、拙いように見える方もいるかもしれません。ですが直せません。これはどうか……というキャラ崩壊的な場面の指摘があったらそれは出来る範囲で直すつもりですが。
 あとコレ駄文。

 ――以上を呑み込んで頂けなかったなら、即座にブラウザバックをする事を推奨します。 



 

 ―――緑の流星が奔る。

 

 若草色の装束に身を包むランサーのサーヴァントは、主の救援のため、屋上から屋上へと跳び移り急いでいた。最速のクラスの名に相応しき疾走を、多くの乙女を虜にしたという逸話を持つ『輝く貌』の英霊ディルムッド・オディナが行うのなら、まさに空で迸る星そのものだろう。

 

 それだけではない。この速度をだすために消耗を度外視しているようである。主に忠誠を尽くしているのだろう。”聖杯”という賞品に釣られたというだけでは説明のつけようもない鬼気迫る様子だ。火を上げながら地上に向かい墜落している、と、そう見える。

 本来、霊体であるサーヴァントは実体化を解けばより高速に動ける上、このように脚を酷使することもない。

 だがそれをしない。なぜならば――

 

 ランサーと比べ、あまりにも無骨な銀光に背後から狙われているためである。

 

 音を切り裂いて迫る刃。死角から放たれたソレを、だがランサーは振り向きもせず、呪符らしき布を巻きつかせた長槍で風車の如く円を描いて防いだ。

 槍兵の宝具の真名は、柄から刃先までびっしりと張られた布によって知ることは出来ないが、この英霊の正体を知っている以上、推量する必要もまた、ない。 

 破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)。刃の触れた魔力の流れを遮断する真紅の槍。宝具の多くは強力なマジックアイテムだ。つまりはそれを無効化する力を持つ魔槍なのである。

 

 さて、何故ランサーは反転して迎撃をしないのか?

 槍兵のサーヴァントに選ばれた彼は、その名の通り白兵戦を得意とする。真っ向斬って争えるのは、同じ三騎士の一角であるセイバーか、強力な騎乗宝具を持つライダーだけである。ランサーに先ほどから向かってくる凶器はすべて飛び道具。三騎士の一角であるアーチャーの攻撃だ。だが、その性質はランサーやセイバーとは真逆。既にランサーは、背後より狙うこの弓兵に騎士道を期待してはいないだろう。

 

 主を救うためには足を止めるわけにはいかない。

 時間を惜しむのならば、相手の土俵に踏み込んではならない。

 ランサーは己にそう徹しているのだ。

 

 仮にランサーがアーチャーを窮地に追い込んだとしよう。だが相手も同じ英霊。一矢も報えぬはずはなく、そうとなれば宝具という切り札を持ち出すに決まっている。真名を隠すのは聖杯戦争のセオリーだ。それはつまり、決闘の契約書にサインをするのと同意。

 ランサーはそのリスクと、自身の信頼する速さを天秤に架けた。結果、アーチャーに背を向けるという暴挙を行ったのである。

  だがそれを驕りと侮るには、ランサーの戦闘能力はあまりにも高すぎる。

 愚直すぎる疾走を阻む銀色の凶弾。己が忠義の道を妨げるそれをランサーは、火悉く弾き、あるいは真っ二つに両断した。アーチャーの矢は、はからずも空を翔ける星を眩く飾る光といえるだろう。

 

「…………!」

 

 ランサーの脚を止めるように、影から黒と白、二つの閃光がその眼前に飛び出る。ちょうど月が雲に隠れた瞬間だ。

 しかも左右同時。まるでこのタイミングを予知していたかのような挟撃――それは雲流に注意していれば不可能な芸当ではない。だがランサーを狙いながら空を仰ぐ余裕。はたしてどれだけの者が持ちえるであろうか。そして仕掛けられたとあれば、かつ頑なに前を注視し続けていた者に、これを防ぐ術などない。

 

「ふん―――侮るなよ、アーチャー」

 

 だがディルムッド・オディナはかつて、そして今も英雄であり、英霊の座に召し上げられた者だ。この程度で与えられた二度目の生を散らす道理なぞ有りえない。

 同時に見舞った筈の刃は――片や地に沈むように、片や空に昇るように――ランサーの胴を断ち割らんと交差の時を間近に控え、それを二つの槍に防がれた。

 

 右手の長槍。

 左手の短槍。

 

 ――そう。今代のランサーは、二槍使い。

 必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)。言うまでもないが、ディルムッドの右に控えていたニメートル余りもある破魔の赤薔薇(ゲイ・ジャルグ)よりも、三割ほど短いこしらえの槍の真名である。

 それによって付けられた傷は癒えることがないという。

 黄槍の呪いを解く方法がないわけでないし、単体で決め手となる武器もない。だが運用方法さえ間違えなければ、強力なサーヴァントに違いはないだろう。

 

 敵としてこの男を前にすれば、まずその槍術に幻惑され、ランサー本人が意図しなければ正体のヒントすら掴ませずに敗北をもたらされるであろう。さらにそのパラメーターも優秀である。サーヴァントは召喚された地における自身の知名度と、召喚した魔術師(マスター)のポテンシャルによって能力が上下するのだ。

 あるいはこの奮闘も、勝利する確率が現在のマスターのままである方が高いと判断したからなのかもしれない。

 

 だが、それは叶わない。

 月も人工灯も……あらゆる光が闇に堕ちたその中で、二刀を防いだその時――頭上に無数の(やじり)が雨霧のように広がる――絶望の影がランサーにのしかかっていた。

 

 

 

 

 / 一日目

 

 

 衛宮切嗣はランサーとアーチャーの戦いの映像を全て確かめたあと、数時間かけて白無垢だった地図を変貌させた。

 この冬木市にはあらゆる願望をかなえるという聖杯がある。キリストの血を受けた本物ではないが、その力は真作にヒケをとらない力を持つ。その一端が英霊召喚というデタラメだ。輪廻の外にある英霊の座から意思を持ったまま引っ張ってくるのだ、これを奇蹟の力と言わずして何と言うか。

 ……だが切嗣は、『根源』を目指す事を至上目的とする魔術師ではなく、魔術を道具の一つとしてしか見ない魔術使い。彼にとっては、聖杯に世界を変革する可能性があるというだけで充分だ。 

 その目の前にある図面には――

 

 使い魔からの情報、霊脈の変動という魔術師ならではの情報だけでなく、

 連日の巡回ルートと時間、警察無線から傍受した聖杯戦争絡みの事件、検問の位置……などが委細もらさず記入されているのである。

 

 尋常なる魔術師にとって、魔術とは研究対象に他ならない。どのような可能性を持つかに終始して、やはり情報の無駄な多さが邪魔となる。

 効率を追求することに長けた切嗣は、聖杯戦争の動向を把握することにかけては他の参加者よりも一歩抜きん出ていた。

 

「残り二人のマスターは不明なままか……」

 

 現在、脱落している参加者。

 

 ランサーのマスター・ケイネス。魔術協会の総本山である時計塔の魔術師でエリートコースを進んできた男だ。こいつには切嗣が直接手を下した。敵というカテゴリーから既に外れている。

 アサシンと言峰綺礼。遠坂時臣の魔術工房に襲撃を行い、迎撃を受けてサーヴァントを失い敗退。中立地帯である冬木教会にいる監督役の保護を受けている。だがそれは狂言という可能性が高い。時臣と綺礼は魔術の師弟関係にあった。しかも前の聖杯戦争から綺礼の父・言峰璃正と遠坂の当主は友好な交流があったと聞く。真実、消滅したのはアサシンではなく、その影武者ではないのかと切嗣は疑っているのだ。

 ――どちらも昨日起きた出来事である。

 

 切嗣は煙草をくわえて益もない思考を止めると、つい、と視線を地図の一角に送った。

 深山町にある円蔵山。霊的存在である聖杯を降ろすにもっとも相応しい祭壇。冬木の霊脈でここに勝る場所はない。

 そこからつい数時間前に、中級魔術に相当するだけの魔力が引き出されたらしい。

 

「まぁ……管理者(セカンドオーナー)には筒抜けだろうな」

 

 わざわざ自分が対策を立てる必要はない。プロファイリングどおりの性格なら、万全を期すために(コレ)を摘んでくれるだろう。

 

 

 

 

 /

 

 

 斯くして、第四次聖杯戦争に波乱を巻き起こす種はこの時、見過ごされた。

 あるいは勝利の運命が、ある主従の手の中に定まることを決定された瞬間だったのか。

 ――しかし、この運命は暴れ馬の如く。

 戦いの終局の後、ある選択を迫るものだった。

 

 

 

   ――Prologue Fin――

 




 
 タイころの某団欒って、揃いもそろって一度助けると決めたら命惜しまない人間ばっかりですよねー(目を逸らしながら

 それは兎も角として、次回の投稿は一週間先になるか、二週間先になるかも分かりません。いや、それじゃあダメダメだって自覚しているんですけど、推敲する気力がいまいちで……だから一話だけ投稿して様子を見てみようと……ほんとうに推敲するだけなんです、ええ本当に……

 


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1.未熟な手に

※ 注意 〈追加〉

 いつかオリキャラが出てくる?
 あらすじを読んでいればわかると思うけど主人公はFateルートの衛宮士郎。ゴーマイウェイ。
 書き方はかなり一人称に近い三人称〈とりあえず今回は〉


 

 ――夢を見ている。

 

 鉄を含んだ風が、空を暗い濁った灰色にしていた。

 その下に広がるのは――果てのない荒野と無数の(てつ)。見渡すかぎり、ただ虚しさしか感じられない。

 目を潰し耳を覆う砂塵は、死に絶えようとする大地が喘いでいるようだ。

 ここは炎に囲まれた孤独な世界。灼けて錆びて磨耗し朽ち果てる――避けえない破滅を迎え入れたある男の墓標だった。

 世界に存在する数多の剣はすべて幻であるが故に誰の物でもなく。 

 つまり存在する意味がない。いつか、在り得ずとも打ち捨てられる日を男は待つ。

     

 そうして、

 

   I am th(体は)e bo(剣で)ne of my s(出来ている)word.

 

 眠りから覚めようとする心は、硬い鉄に―― 

 

 

 

 

 /

 

 

 新都と深山町の間に流れる未遠川から吹き込む風を受けながら、頑丈な作りをしていないのか、ともすれば、いきなり崩れはしないだろうかと不安を煽る冬木大橋を渡り、そして川縁の公園を抜け、寄宿する深山の郊外にある老夫婦の家へと向かう。

 この町の冬はわりと暖かいと聞いたが、深夜の三時を越えていればさすがに堪えるほどの寒さになる。

 そうでなくとも、一日を探索に費やし、ウェイバー・ベルベットは憔悴していた。聖杯戦争が開幕したと勇んで市街を廻り――結果、日頃の運動不足が祟ったのだ。それなのに何の成果も上げれずに終ったというのも大きい。

 バスや電車は止まっている。それに今は修羅に身を置く立場だ。いつ襲撃されてもおかしくはないから、めったな事でもないかぎりタクシーも使えない。

 

「――――ん?」

 

 我知らず前のめりで歩いていたウェイバーの視界の端に何か――目を惹くほどに美しい銀の髪が映りこんだ。思わず顔を向けるが、夜の闇に沈む道にその主の姿を捉えることを阻まれる。

 特に理由のある行いではなかった。敵と出くわしたのかと思う気持ちがなかった訳でもないのだが……ただ何となくというのがやっぱり正しい。

 そんな自分に溜息をつきそうになり――マスターである我が身を顧みてすんでのところで抑え込む。

 

「――――おい、坊主」

 

 と、いきなりライダーが声をかけてきた。――実を言うとタクシーを使えないのは、もっぱらこの大男が原因である。召喚して一週間近くが経つが、これまで何度霊体化をしろと命じても、『身体がある方が心地よい』と言って、聞き入れたためしがない。

 まぁ、それはいい。マスターの身からすれば全然よくはないが、今はともかく。

 

「……どうした、ライダー?」

「余はアレを飲んでみたいんだが……」

 

 ライダーの示す先には自動販売機があった。

 あるていど予想していたので、ウェイバーの傷は浅い。

 霊体であるサーヴァントは、空腹になることも喉が渇くこともない。また、むやみやたらと高い好奇心が、あの光る箱(・・・)に興味を惹かれたのだろう。 

 そんな無駄な事に使う金などないと、そう開こうとした口を、すぐに思い直して閉じた。自分は疲労が溜まっている。糖分が欲しいところだ。が、それならばウェイバーは自分一人分だけを買えばいいだけの話である――

 

「いいけど。……だけどボクは日本語が分からない。言いだしっぺがオマエで、金を出すのはボクだ。なら、あったかくて、甘そうなのをオマエが選べ」

 

 ――あくまで、ウェイバーの精神衛生上の問題を度外視した場合に限るが。

 いくらライダーが使い魔とはいえ、ヒトの姿をしたものをおいて、自分だけで飲み食いするのは流石に気が引ける。

 こうした経験が少ないのか、しどろもどろに言い捨てたウェイバーはポケットから財布を取り出し、二人分の小銭を掴んだ。

 

「おう、ありがたい。―――ふむ。ではこのお汁粉なるモノを選ぶとするか」

 

 微笑を浮かべながら、二回とも同じ缶ジュースのボタンをライダーは押す。

 

 ウェイバーのとって本当にどうでもいい事だが、ライダーの身長は二メートル以上もある。勿論、その手も、指もそれに合った大きさだ。

 狭い取り出し口に難儀する大男の姿に、内心でしてやったりと思っていると、冷え切った手に、痺れるような熱を宿したお汁粉が渡された。

 さすがにお釣りはウェイバー自身が取り、それからプルタブを引く。

 すると、まだ開けていないジュースを握ったままで、「坊主」とひどく真剣な顔で呼びかけてきたライダーは、

 

「開けるのはよく振ってからにしろと書いてあるぞ」

 

 と告げた。ウェイバーは投げやりな調子で、早く言えよと返してジュースの中身を喉に流し込む。

 パッケージからして悪い予感がしていたのだが、その通り、湿った豆の感触に、うぇと咽そうになった。後味も好きにはなれない。

 気紛れなんか起こしたからだ、それもライダー相手に……などと益体のない感慨を抱きつつ、寝静まった街に歩を進めた。

 

「そっちはもう手遅れだが、こっちの無事な方は余の分だからな」

「黙ればか! ってかそんな惨めな姿に見えてたのかボクは……ッ」

  

 マスターの威厳というやつを思い知らせてやる、と幼稚なことを思っていたわけではないが、ライダーの発言はウェイバーのプライドを僅かばかりだが傷つけた。

 自棄を起こし、一気にお汁粉缶を飲み下す。その横では、これでもかと言わんばかりに缶を振りまくるライダー。見せ付けているわけではなく、ただ単純にその行為を愉しんでいるのだ。ひげを生やしているいい歳した大男が。

 

 ウェイバーはその光景をヤケ酒ならぬヤケお汁粉で紛らわす。夜の街に、ごきゅごきゅ、とやたらと大きい音が響いていた。

 ちなみに、開ける前に振っていようが振っていまいが必ず一粒以上は底に残る湿った豆、もとい小豆がある事を、初見である彼らは知らない。

 

 

 

 

 / stay night  

 

 (ひと)り、遠い空を仰ぐ。月と星の明かりを懐く夜天はいつのまにか、藍色の空へと変わっていた。

 この世界との接点であるイリヤを下ろした事が関係しているのか、聖杯から滲み出ていた赤い光は消えている。だが、まとわりつくような重い空気と、大気を唸らせる中空に穿たれた黒い『孔』は未だ健在だ。

 それでも――ここに、戦いは終わっていた。

 あの時に見えた光……おそらくはセイバーはギルガメッシュを倒したという事だろう。ならば勝ち残ったマスター――衛宮士郎は最後に、その責務(のぞみ)を果たさなければ。

 

”―――貴方が、私の”

 

 だがそれは、彼女を失うという事。一番大事な者に触れるに事も、言葉を交わす事さえ出来なくなる。

 空を見上げたまま、眼を閉じた。

 ……誰よりもそれを分かっていながら、おまえは長い石の階段を登り、背を向かい合わせて、最後の戦いに赴いた。それぞれが倒すべき敵を倒し、この戦いを終らせるために。 

 

”―――貴方が、私の鞘だったのですね”

 

 そう、そのために”戦う”と決めたのだ。別れは、もうとっくに済んでいる。そこに悔いがないなんて言えない。それでもおまえは彼女の主として、彼女と同じように信じる道を貫き、幕を下ろさなければならない。

 

「―――俺は……」

 

 その道が。今までの自分が、間違ってなかったと信じている。

 衛宮士郎が切嗣のユメに守られているように。最期に、彼女の人生が、胸を張れるものだったと安心して眠れるように。

 だから士郎(おまえ)だけは、彼女の強さを知っていると、向けられた信頼に、全霊を以って応えなければ。

 

「ありがとうセイバー。俺はおまえに、何度も助けられた」

 

 

 万感の籠もった呟きは。

 向かい風にかき消えて。

 鞘は――やはり、独り――

    

 

 

 

 /

 

 

  ざっ、ざっ、ざっ……

 

 金砂のような髪が逆巻く風に揺れる。

 黒く焦げた大地を踏みしめる音は、それが遠く離れていく事だとでも言うかのように、物寂しい。

 青い衣を吹き付けられる風に靡かしながら、彼女の穏やかな聖緑の瞳はまっすぐに、空に浮かぶ聖杯を見据えた。 

 

 まるで――黒い太陽の如く禍々しい聖杯を。

 

 その向こう側に、何があるのかを彼らは知らない。ただ理解している。一目見た瞬間から、それが破滅をもたらすものだと。

 実際、十年前の冬のあの日にそれは一つの地獄を生み出した。  この世全ての悪(アンリ・マユ)。聖杯が溢れさせるモノを言峰綺礼はそう称した。そんな大それた名前も、聖杯を満たしている魔力の量を鑑みれば納得がいく。

 

 聖杯戦争に呼び出されたサーヴァントは、敗れると”器”にくべられ、その魂を魔力に変換される。英霊の座に召されるほどの、傑出した人間の魂だ。人の身で扱うには無尽蔵にすぎる膨大な魔力量となる。

 ひとたび開放するような事でもあれば、地獄の誕生は免れない。そのときは、それこそ世界に五つしかない魔法か、正真正銘の願望機に託すしか破滅を防ぐ方法はないだろう。だが、この場にそんな奇蹟は存在しない。ならばどうするべきか――

 

「マスター、命令を。貴方の命がなければ、アレは破壊できない」

 

「――――――」

 

 ある少女が夢見た理想郷。そこに向かって駆け抜けた王。傷つき、それでも、道を違えず戦い抜いたその強い在り方。

 それを――どうして失いたいと思えるのか。

 その先に何があるのか、どうなってしまうのか。失った後の事なんて思い描けもしない。セイバーの姿は遥か向こう。誇りを持って、誓いに懸けた望みを信じている。

 守れなかった多くのモノを背負って、そこをユメの果てにせず、なおその先の輝きへ。絶望の断崖を前にして、あの血に染まった丘で、まだ――

 

「―――シロウ。貴方の声で、聞かせてほしい」

 

 背中を向けたまま、セイバーはそんなコトを主に言った。

 

「――――――っ」

 

 その声を聞くたびに、胸が軋む。それが我が侭であると分かっていても、共にいたいと手を伸ばしそうになる。

 否、だからこそ衛宮士郎は決して()けるわけにはいかない。たとえいつか、(なみだ)し、後悔する日が来るとしても。

 ギリ、と歯を強くかみ締めて耐えた。

 ありとあらゆる誘惑を胸の奥に押し込める。それと一緒に、彼女と過ごした思い出も仕舞いこむ。あまりにも多いそれは、だが、がらんどうのような胸に全て収まりきる。そうしてやっと。

 

「―――セイバー。その責務を、果たしてくれ」

 

 まなじりを引き絞り、偽りのない心で、士郎は告げた。

 同時に、左手の甲にある刻印がその力を解放する。剣と鞘を象った令呪が、焼き消えていく。

 

 ――溢れる光。

 

 星が鍛えた聖剣が、光を紡ぎ束ね上げる。

 セイバーの手の中から奔出する黄金の輝きが、視界すべてを埋め尽くすその中で。

 

「そん、な―――」

 

 有り得てはならないものを見た。

 

 

 

 

 /

 

 

 刀身より噴き上がる膨大な魔力。世界の理から遮断する光の粒子。 

 

 ――黄金の輝きが、周囲へと押し拡げられる。

 

 それは、けっして一つの宝具によるものではなかった。

 

 ――極光の中に、二つの黒い孔が穿たれている。

 

 その一つは、剣を振りかぶるセイバーの体に現れていた。

 

 

 孔はいまだ不安定だと、言峰は口にしていた。聖杯が成就するには、接点が――つまりサーヴァント七体分の魂を受け止めた聖杯の器であるイリヤが必要なのだと。

 そのイリヤは、今は少し離れた木陰に休ませている。 

 あるいは、不安定な聖杯は求めたのではないか。聖杯へと捧げられる供物を。あの虚無の孔は、生き物のように()()()()()()のだ。

 すなわち、令呪によって最強の聖剣を放つだけの魔力を受けたセイバーは、極上の獲物だったのではないか。

 

 聖杯の孔は、セイバーをその内側に引きずり込もうとしている。抗えるはずはない。それは、自分自身に穿たれているのだから。

 だが、騎士の王がそう易々と呑み込まれる事も、また有り得ない。

 全て遠い理想郷(アヴァロン)。数百のパーツに分解した聖剣の鞘が展開した黄金の障壁は、所有者を妖精郷に置き、あらゆる干渉から遮断する究極の守りだ。

 

 それを以ってすれば、セイバーが取り込まれる事はない。……ただし、彼女が万全の状態であった場合の話であるが。

 セイバーはいま二つの宝具を同時に使用している。令呪によるサポートがあったところで、最高位の宝具の使用するだけの魔力を賄えはしまい。

 鞘を以て自分の身を守るか、聖剣を以て聖杯を完全に破壊するか。気高い彼女が、そのどちらを選ぶかといえばそれは――

 

 光の渦が視界を覆いつくす。

 ――悪寒と吐き気。

 その不快感は衛宮士郎の感じたものではなく、マスターとサーヴァントの間に繋がるラインから伝わってきたセイバーのものだ。だがそれも、いま彼女が感じている何十分の一にも満たないだろう。

 だからこの頭は白熱する。堪えなどきかず、不快感を怒りと共にぶつけるようにして地を蹴るが、すぐにつんのめって膝をついた。

 体力は聖杯の泥を相手に消耗しつくし、魔力は言峰綺礼との戦いで使い切っていた。彼には、もはや彼自身が期待するほど余力は残ってはいなかったのだ。

 

「こ、っの――――」

 

 なおも立ち上がろうとするが、孔から吐き出される向かい風に抗えない。たったあれだけの距離なのに……!

 ――ならば。魔術師である衛宮士郎は何を武器にすればいい?

 ――明瞭だ。足りないものを他で補え。それでも無理なら作れ。

 そうだ、まだ心臓は動いている。この鼓動があるかぎり戦える。意地を張れるとまだこの体は訴えているのだから、それに応えなくてどうする。 

 精神を束ねる。限界を超えて、生命を燃やし魔力を生成し、魔術回路を廻す。その、分不相応な駆動に、全身の神経がギチギチと軋みを上げた。

 

「ふざけるな、それが何だ………!」

 

 その痛みに、罵倒でフタをして、赤く染まった世界へと挑みかかるように走る。

 ただ、許せなかった。こんな終わり方も、飲み込まれようとしている彼女の姿も我慢ならなかった。

 サーヴァントである彼女にとって、聖杯に飲み込まれる事は『死』ではない。

 だがそんな事が、見逃す理由になるわけがないと士郎は思う。

 俺はただ普通に、穏やかに息をついてくれればそれで良かったのに、そんな当たり前な安心すら叶わないなんて、頭にくる。

 だからそれは――衛宮士郎が無茶をする理由には充分すぎるだろう。

 

「―――投影(トレース)開始(オン)

 

 吹き荒ぶ風に髪を逆立て、血を零しながら呪文を口にした。

 撃鉄の落ちた回路に、複製する宝具のイメージを乗せ、身体を奔る(まりょく)を通し具現させる。そして手を伸ばし――

 




 ここで終了。切っとかないと長すぎてしまうので。
 しかしなんというかこれまで遅くても仕方がないくらいには忙しかった……。しかも十日経ったらまた机に向かわなければ……。


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