好きな言葉はパルプンテ (熱帯地域予報者)
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原作突入前
プロローグ


何も考えずに書き直しました。
誠に勝手ながら申し訳ありません。


〇月□日

 

今日は私に起こったことを忘れないために日記を記すことにした。

 

本日、私は死んだ。私が住んでいた集落がドラゴンに襲われたからだ。私の目の前で両親が蒸発したように消えたのをこの目で見た。

 

もちろん、私も例外ではなかったが、そこで奇妙なことが起きた。肉体は村ごと消滅された私は魂だけの存在となり、そこで『声』を聞いた。

 

私は選ばれてしまった。神の呪いを受ける器として。その時の私は魂だけの存在、それがどういうことなのか、そもそも何の神なのかも聞くことはおろか考えることもできなかった。

ただ、聞いたことのあるアンセクラム神ではないようだ。聞いた話ではあれは死を与える存在だったとか。

 

全てが灰となった集落の真ん中で私は謎の神によってもたらされた呪いについて思い返している。

 

 

私は生き返った見返りに不死身に近い身体と寿命をもらってしまった。仮に死んだとしてもすぐに生き返るとのこと。

 

 

そして、私は生涯でたった一つの魔法しか使えなくなった。

 

 

 

その魔法は“パルプンテ”

 

自らを“パルプンテ神”と名乗る存在から与えられた唯一の魔法だ。

 

 

 

 

υ月∬日

 

私が住んでいた集落跡を旅立ってから数か月が経った。

その間はあてもなく旅を続けてきたが、特にこれといったこともなく平和にやれた。

ただ、この数か月で私はパルプンテの魔法に心が折れそうになった。

この魔法は一言で言えば“何が起こるか分からない”

普通に火を出して攻撃できることもあれば、回復で傷を癒すこともできた。また、敵に呪いをかけたり自分に補助魔法をかけることもあった。

だが、そんないいものばかりではなく、パルプンテは術者にも牙を剥く時があった。絶体絶命時には山びことなって不発に終わり、一度殺された時もあった。

またある時は私と敵の魔力を全て空にされて物量差で押しつぶされて殺された時もあった。

 

 

この魔法は味方に恩恵を与える訳でも、敵を倒すためのものじゃない。

本当に何が起こるか分からないものだった。

 

 

〇月△日

 

 

パルプンテを使ったらどこからともなく魔物が現れたと思ったら急に爆散して死んでいった。

一体、何だったのだろうか。

 

△月☆日

 

今日は久しぶりに何もなかったからとりあえずパルプンテを唱えた。死んでいた虫が光を帯びて生き返った。今日使わずに次の戦いに取っておけばよかった。運がいいと思ったらすこぶる運が悪い日になった。

 

△月□日

 

死んでも生き返る回数もパルプンテに対する抵抗もマヒしてきた今日この頃、黒い青年と知り合った。ファーストコンタクトでは妙な雰囲気をまとっていると思って近寄ってみると大袈裟に拒絶された。そのことに少しショックを感じていると彼から言い知れぬ嫌な余波を感じた。反射的にパルプンテを唱えると私と彼の魔力が一瞬で空になった。

ただ、嫌な余波も消せたということで今日のパルプンテは当たりだったと一息ついていると、彼は魔力欠乏症になって地面に倒れながらも驚いていた。

 

 

その後、彼はゼレフと名乗った。

 

 

Ψ月η日

 

ゼレフと知り合ってからというもの、彼は私の旅に同行している。

彼はとある理由からアンセクラム神という神から呪いを受けており、不死特性を持ってしまったそうな。

彼が受けたのは矛盾の呪い。命を尊いと思えば無差別に呪いが発動して周りの生命を殺してしまうのだという。正直言って私の呪いよりもはるかにエグいことだけは確かだ。

私は自分の意思で魔法を使えるし、彼と違って不死に近い寿命を与えられているというだけなので、その時が来れば天寿を全うしたとして死ぬことができるのだ。今まで死んでは生き返るのも、その天寿が定められているが故のことなのだ。

思わず瞑目していると、彼は穏やかに笑った。

いわく、自分と似た境遇の者に出会えただけでなく、こうして他愛ない話をするのは久しぶりだと。

 

彼自身も穏やかな人柄なのでしばらくは同行することとなるだろう。

 

 

 

и月※日

 

ゼレフは元々から頭がよく、かつて通っていた学院でも天才と呼ばれていただけあって、私のパルプンテについて色んな発見をしてくれた。彼が言うにはランダムに見えて、ある法則に則っているらしい。

今まで使ってきて現れた効果だが、多岐にわたる。あまりに多いため、ここでは割愛することとなる。

 

まず、基本的にパルプンテは相手の命を奪わないとのことだ。これまでに多く使ってきたことを思い出すと、確かにそうだった。この呪文は敵味方関係なく様々な効果を発揮する。その中には普通に攻撃系も含まれる。そして、ここで重要なのは自分たちと相手の敵意の有無によって被害にも差が出るという。

まず、相手が普通の人間相手だとすると、私自身恨みもない時には普通の人間が巻き込まれても気絶、もしくは軽症で済むとのこと。

ただ、モンスターとか山賊とか確実に命を奪おうという明確な敵意を抱かれると、死ぬほどではないにしろ『生きているとも死んでいるとも言えない瀕死状態』に追い込むとのこと。どちらの場合にせよ、大災害級の迷惑は無差別に降り注ぐことになるが。つまり、使う相手によってこの魔法は姿を変えるのだ。普通に恐ろしい。

 

次に、この魔法を使う代償なのか、私の常識がかなり偏っているとのこと。

こればかりは彼の印象というだけで確証はしていないが、最近では他の人に引かれたり、自分が死ぬことに慣れてしまった感じはある。

これは自分の感情さえも矛盾させるゼレフからなのだが、彼が言うからには間違いではないのだろう。これから気を付けよう。

 

 

 

х月¶日

 

ゼレフの言うように、パルプンテで魔力が切れた時のために素手や武器で戦える準備を始めた。

魔法は一つしか使えないが、武器とかは自由に選んだりできるから凄く魅力的である。

これから特訓をする。

 

 

☣月Λ日

 

この日は久方ぶりの絶望を味わった。私たちの旅の最中に黒いドラゴンが現れ、問答無用にブレスを吐かれて全滅させられた。ゼレフはあれを『アクノロギア』と言っていた。

無論、ゼレフは死なず、私は生き返ったのだが。ただ、ゼレフはアクノロギアにすっかり怯えてしまっていた。対する私は久方ぶりに怒りを覚えていた。最近では体を鍛えたり武器を使っていたこともあって武具や魔具、呪われた武器の収集にハマっていた。そのため、これまでに数多くの武器を集めることが趣味となっていた。

 

そのコレクションが全て焼かれた。

 

その瞬間、私は頭に血が昇ってアクノロギアに思い知らせることを決意した。ただ、ゼレフはアクノロギアの討伐には行けないとのこと。痛いのやいたぶられるのが怖いらしい。

この時、私は自分が壊れてしまったことを認識した。普通は痛いのだとかを嫌がるはずなのに、私はそれを恐れないどころか、何回死ねば奴に届きうるかと自分の命を金勘定の如くに考えていた。

 

ここで私たちは道を違えた。ゼレフは最後まで謝っていたが、私は彼を恨んでいない。

同じような境遇ということもあるが、短い間でも気心の知れた友との旅は有意義であり、楽しかったことを伝えると、彼は涙を流して泣きじゃくった。

ひとしきり泣いた後、別れる直前に記念のパルプンテを唱えたら一度聞いたことがあるパルプンテ神のお告げが聞こえた。

 

“二人は再会するであろう。お供え物としてハチミツをくれたらな!!”

 

あまりに唐突で俗的なお告げにしばらく唖然とした後、二人で大いに笑って腹筋を痛めた。

その後、二人で森からハチミツをかき集めてお供えとして拝んだ直後に綺麗に消え去っていた。

隠れるとか秘匿する気は0のようだ。

 

憎き相手を倒す復讐者と探究者の旅はここで終わりを迎えた。

私はそれでも、アクノロギアの去った方向へと歩を進める。

 

 

Ш月Ⅰ日

 

考えたが、このままアクノロギアと相対するのは芸がないように思える。そこで、私はゼレフの助言を基に対アクノロギア用の対策を講じることにした。

 

まず、アクノロギアだが、奴は魔法自体を喰らい、その魔力を自分のものにするという反則じみた能力がある。この時点で魔導士では分が悪く、ゼレフでは倒せないとのことだ。

ただ、私のパルプンテはある程度効いていたこともあり、神の力が宿った魔法が弱点だと結論付けた。いわく、私は曲がりなりにも神の化身とされているのかもしれないらしい。全ては机上の空論だ。

 

だが、それなら手はある。奴の好きな魔法に不純物を加えればいいのだ。

 

そもそも魔法というものは己の体内を巡っている“気”の流れと自然界に流れる“気”の波長が合わさることで初めて力が形を成し、“魔法”となる。

言うなれば、その“気”は奴にとっては調味料であり、“魔法”という料理の原料となる。

そこで私は、“気”を単体で使えるようになろうと決意した。

 

人の“気”だけでは魔法にならないと同じように、材料に調理を施さなければ料理など作れない。

そして、その調理に奴にとっての“毒”を混ぜれば効果も覿面となるだろう。

ゼレフも私の魔力には何か未知なものが混ざっていると言っていたため、その正体も知って、自在に扱えるようにしたい。

 

 

これからはパルプンテだけでなく剣術や武術、気の習得と神の力改め、神力の習得をしよう。

 

 

これ以上にない鍛錬になるため、日記はしばらく書くのを控えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

д月З日

 

 

ようやくアクノロギアを見つけた。

奴は眠っているようなので、私は早朝に奇襲をかける。

気や神力もある程度は様になってきたことも含めて今が絶好のタイミングだろう。

 

これ以上の言葉はいらない。明日は修羅に入る。

 

 

κ月Ю日

 

数日にわたる死闘は私の敗北に終わった。

まず、初めに開幕直後のパルプンテを使い、私の魔力や攻撃力が倍加した。

幸先のいいスタートだったが、それでも奴の薄皮一枚に傷をつけるだけだった。

 

しかし、ゼレフの予想は正しかったことが証明された。

案の定、神力や気は奴に届いた。どんなに軽いダメージでも奴の鱗を突破したのは事実。

少し希望が湧いた矢先のこと、奴の巨体が消えたと思った瞬間、私の首は胴から離れた。

質量に反した超スピードで私を斬り裂いた。

 

だが、私は復活する。粒子と化した身体が集まって再び人の形を成し、アクノロギアへ向かう。

前回の襲撃で奴はそのことを知っていたから普通に戦いは続行された。

 

 

そこからはガムシャラだった。少なくとも私は5回死んだが、全てが犬死ではない。

気による物理攻撃もそうだが、何よりもパルプンテは驚くほど効果的だった。

たまに笑顔の魔神が現れては私を巻き込んで極大攻撃を加えたり、アクノロギアともども私ごと魔力が空になったり、急に現れた落とし穴に一緒に落ちたりもした。

 

ほとんど自爆もあったが、アクノロギアにとっても効果的だったようで、最後はパルプンテのルのとこまで口にした所でブレスを吐かれて、逃げられた。

 

だが、まだ終わらんよ

 

 

Ч月л日

 

再びアクノロギアと対峙した。

今度は両者とも出会った瞬間にブレスを吐き、パルプンテの呪文が世界を轟かせた。

 

 

この日は計24回は殺された。

 

 

ξ月Ф日

 

もう数えるのが面倒になった。どうせ私は生き返る。

アクノロギアの横っ腹を大きく斬り裂いてやったが、このまま終わるつもりはない。

再び見つけたアクノロギアにこれから勝負を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山は崩れ、森は燃え散り、大地が割れる地獄絵図の光景の中で一人の人間と黒いドラゴンが舞う。

 

ドラゴンが人間を爪で斬り裂き、強靭な咢で体を食いつぶし、素手で掴んで地面が割れるほどに叩きつけても戦いは終わらない。

 

対する人間もドラゴンの攻勢から蘇っては呪文を唱え、武器を振るってはドラゴンに傷を負わせていく。ドラゴンの巨体にも恐れを知らず、ただ死へ向かうように突貫を続けていく。

 

 

人間とドラゴンの終わりなき死闘、それはその場にいた全ての生命を死滅するのに十分すぎるほどだった。

 

 

幾ら壊されても、潰されても、燃やされても私は蘇ってはアクノロギアへ剣を、拳を振るう。

幾千、幾万とも殺されてもアクノロギアへ挑み続け、力も技術も魔力も限界を超えた回数は数知れない。力の差は見た目だけでも一目瞭然、しかし、どんなに殺されようとも摩耗されない闘志は確実に牙となり、アクノロギアの命に迫っている。

 

 

対するアクノロギアは目の前の不死の人間に心をすり減らしていた。

これまでにドラゴンを憎み、自らがドラゴンとなって全ての頂点に君臨したはずだった。

故に、一つの敗北も許されない……その矢先にその人間は現れた。

食すことができない謎の魔力、全てが未知の魔法、どんなに惨たらしく、苦痛を与えて殺しても死なない心。

もはや、人間だと思うほうが無理だった。

 

「いい加減にしろ壊れし者よ!! そんな一撃が我に届くとでも!?」

 

分かりやすいやせ我慢だ。今まで口を利かなかったアクノロギアが怒りと僅かな怯えを含んで挑発する。

だが、それも当然のことと言える。

 

ただの弱い人間が何度も狂気の光を宿して挑んでくる。

 

どこにいても存在をかぎつけて挑み続ける。その度に殺しても挑み続ける。

惨たらしく、一方的に虐め殺してもそいつは強くなって挑んでくる。

度重なるしつこさと休む暇も与えられない心労に、先にアクノロギアの心が悲鳴を上げたのだ。

 

それに伴う大きな恐怖と屈辱

 

 

アクノロギアは認めたくないと言わんばかりに豆粒程度の人間に向けて突貫する。

飛行の余波だけで全てが破壊されるのを尻目に、彼は再び唱えた。

 

 

―――パルプンテ

 

 

その瞬間、全ての星々が大地に降り注いだ。

 

まるで大雨のように止めどなく降ってくる流星は敵味方の区別もなく、大地に残る全てを破壊し尽くす。

まるでこの世の終わりを再現した神話的光景の中でドラゴンが血は吐き散らす。

 

 

「がああああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

翼に穴をあけられ、流星によって体全てを叩き伏せられたドラゴンは地に墜ちる。

黒い身体が血で赤く染まり、ひたすらに酸素を求めて荒く呼吸するしかない。

 

ただ、その余波は術者にまで及ぶ。

 

アクノロギアと同じく流星によって瀕死状態に追い込まれ、手足はひしゃげ、まるで打ち捨てられたボロボロの人形のようである。

だが、それでも人間は痛みなど感じていないように折れた足で無理矢理立ち上がろうとする。

痛みなどとうの昔に忘れ去った体でも、ダメージの許容量に悲鳴を上げている。

 

その悲鳴を黙らせるように男は立ち上がって魔力を込める。

 

 

パルプンテに敵を殺す効果はない。

ならば、止めは魔法でなく私自らが付けないとならない。

 

剣を携えて倒れ伏すアクノロギアへと近づいていく。

 

 

 

しかし、これで終わるドラゴンの頂点ではなかった。

 

全ての強者となった誇りだけがドラゴンの闘志を蘇らせ、今まで羽虫と蔑んでいた人間に屈辱を与えられた怒りがアクノロギアを蘇らせた。

目を見開くと同時に穴の開いた翼を必死で羽ばたかせる。フラフラに飛びながら未だに死んでいない狂気の目を地上の人間に向ける。

 

 

「貴様をここで、滅してくれようぞ!! 壊れし者よ!!」

 

 

口に膨大な魔力が集まる。

それだけで大地が、空気が悲鳴を上げるようにうねり、震える。

 

 

しかし、こちらもそのまま終わる訳にはいかない。

私は残りわずかとなった魔力をかき集め、足りない分を生命力で補う。

吐血し、考えることさえ億劫になるほどの微睡みにも耐え、この生涯を誇る量の魔力を一つの魔法に託した。

 

 

 

―――パルプンテ

 

 

 

何が起こるか分からない魔法。もしかしたらそれはパルプンテ神の気まぐれが具現化したものかもしれない。

 

降り注ぐ極大のブレスは着弾すればこの辺りの全てを蒸発し尽くすだろう。私の体も含めて。

そう思いながら、パルプンテによって生じた光に包まれながら私はすっきりとした頭でアクノロギアのブレスから目を離さない。

 

 

 

パルプンテはあらゆる流れをいい意味でも、悪い意味でもかき乱す。

ドラゴンと呪いにかかった人間の決着の瞬間を気まぐれ一つで臨まぬ形へ収束させる。

 

 

 

この日、ドラゴンが勝者として歴史に残される形となったが、本来の結末を知る者はいない。

 

 

 

 

呪いにかかった人間は時を渡り、舞台は新たな時代へと移る。




次回から原作の過去編辺りになります。
かなり原作改変がありますが、ご了承ください。


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レベル上げて魔力と物理でゴリ押し

早速だが、私は現在進行形で遭難している。だだっ広い海のど真ん中に浮かんでいる孤島に取り残されてから既に数週間が経つ。

なぜ、そんなことになっているのかと言うと、アクノロギアとの決着の際に唱えたパルプンテが原因だとしか言えない。

 

最後に覚えているのは特大のブレスに対抗するためにパルプンテを唱えたこと。

 

そして気が付けばこの孤島で重症のまま倒れていた。怪我自体は呪いのこともあって数日で完治した。ブレスで流動体となった腕とか折れた全身が完治するところを見ると恩恵なのか分からなくなってきた。

 

そんなわけで私は久しぶりにのんびりと過ごしている。

 

長年、アクノロギアに報いを受けさせようと思っていたが、最後の最後に情けない声で挑発する姿は実に愉悦だった。こっちも重傷を負ったが、結果オーライ。

あの様子ならしばらくは近寄ってこないだろうと思う。

 

 

 

 

だが、いつまでもこのままという訳にも行かない。

ここでパルプンテで運試しついでにあわよくば陸地に転移できればいいけど、失敗した時に島が破壊されることは避けたい。このまま溺死しても生き返るから問題ないが、私とてできるだけ死にたくはない。

 

このまま泳いでいこうかと本気で考えていた時、沖の方で船が通るのを見た。

渡りに綱とはこういうことか。この機を逃すわけがない。

私は声を張り上げて船を呼んだが、気付いていないのか進路を変える様子はない。

 

元から小さかった船の形がどんどん遠ざかっていき、最後には豆粒程度にしか見えない。

普通であればこのまま諦めるだろうが、私は違う。

あちらから来ないのであれば泳いで追いかければいいだけなのだ。パルプンテを使おうものなら船を壊す可能性が高い故に使えない。

このまま船に乗れなくても確実に陸はあるだろう。私は船を追いかけるべく海へ飛び込んだ。

 

 

 

長い旅路だったと私は海に濡れた体に纏わりつく砂浜の砂を落としながら思った。

船を追いかけた結果は正解だった。二日間かけて泳ぎ続けた結果、ちゃんと陸地に着くことができたのだから。岸にたどり着く直前に少し離れた場所へ行って服を乾かしたりしていた。

 

 

ただ、個人的な礼がしたいと思い、離れた場所に停留している船へと向かった。

丁度5人の子供と色黒のオールバックの男性一人が出てきていた。

大きい船にしては乗組員の数が少ないと思いながらも観察していると色黒の男にばれた。

元から気配も消していなかったし、姿を現すと男は舌打ちをした。

 

すると、有無を言わさずに男は私に魔力を放って攻撃してきた。

ただ、アクノロギアのブレスと比べると撫でる程度の威力だったために片手で弾くことができた。すると、男は驚き、本気で私を始末しようとしているのか魔力を高めた。

その時に男はブレインと名乗る。

 

 

もちろん、ブレインの魔力などアクノロギアのブレスをモロに浴びた私にとっては水鉄砲でしかない。次々と闇魔法っぽい攻撃を受けても痛みも無ければダメージもない。

ただ、本当に撫でられたようにむず痒くなる程度だった。

豆鉄砲程度な攻撃が効かないと知るや否や頭を押さえて発狂したように転げまわる姿は流石の私も引いた。

 

傍から見ていた子供たちも引いている。

 

 

そこで変化が起きた。発狂していたブレインは急に落ち着いたかのように静かになり、ゆったりと立ち上がった。

服も魔法で変わり、ギラついた目で私を見据える。

 

話を聞くには、ブレインは二重人格の持ち主で普段からは知識を好む性格であるが、一定の感情が振り切った時は破壊を好むゼロという名の性格が出てくるとのこと。

話す最中も正気とは言えないほどの支離滅裂っぷりから事実なのだろうと分かる。

 

そしてこのゼロはブレインの人格とは上手く折り合いも付いていないのだろう。連れてきている子供たちを“生体リンク素材”やら“使い捨ての駒”とかあざ笑っている。

子供たちはゼロを信じていたようで、その独白に泣き出して崩れ落ちた。

私が言うのもあれだが、大人の風上にも置けない。

 

 

元から子供は好きな方だし、余程のことさえなければ傷つけようとは思わない。私はそこまで人間やめていないのだ。

少しお仕置きを兼ねてゼロの攻撃を全て素手で防ぎ、直接ぶん殴るスタイルを貫く。ゼレフからの特訓とアクノロギアでのレベリングで鍛えた私の腕力と魔力のゴリ押しは着実にゼロを追い詰めた。

 

実力で敵わないと悟ったゼロは子供に向けて全力の魔法をしかけた。

咄嗟に子供の前に出てそれを防ぐ。決闘において他者を巻き込むのは私の本意ではないのだ。

だが、ゼロにはそんな矜持がないようで子供の前に立ちふさがる私に魔法を連発する。

いい加減、うんざりしてきた私は奴の攻撃の最中にパルプンテを使った。

 

 

 

 

 

ゼロは姿を消した。

 

 

 

 

さっきまで爆弾みたいな攻勢がピタっと止んだ。そしてその場には子供たちと私だけが残された。

恐らくだが、ゼロは死んでいないのだろう。パルプンテ自体に人を殺す効果は無いからである。ただどこか遠くへ飛ばされただけか、相当に厄介な場所に飛ばされたのは間違いない。瀕死寸前にまで追いつめられるような所だろうと予想できる。

 

 

貴重な情報源が消えたことで途方に暮れた私に子供たちが弟子入りを懇願してきた。

急にそんなことを言われても困る私はとりあえず理由を聞いた。

 

何でも彼らは急に邪教集団に両親を殺され、攫われた挙句に奴隷として労働を強制されていた。そんな時、ジェラールと名乗る少年が一揆を起こして邪教集団をねじ伏せて新たな指導者になったという。労働は消えなかったものの、待遇はマシになったということで納得はしていたようだった。

 

そんな時、ブレインがやって来て子供たちを引き受けたという。ジェラールと何らかの契約を結んだのか知らないが、自分たちが選ばれて楽園の塔という場所から船に乗り、魔法を教わりながら自由を得るための旅を続けた。それで今日に至る。

 

しかし、ブレインは善意からではなく自身の欲望のためだけに魔力の高い子供を選定して引き取ったと知った彼らは奴隷から解放された意義を失いかけた。

そんな時、私とゼロの戦いを見て奮起したらしい。強くならなければ楽園の塔に残された家族も取り戻せないとのことだ。

 

 

ここまで聞いてしまったら断ろうにも断れなくなり、旅の同行を認めた。

この知らない土地のことは子供たちの方が詳しいだろうと判断した、という理由もある。

子供たちはそれぞれエリック、ソーヤー、リチャード、ソラノ、マクベスと自己紹介を受けた。

 

互いに紹介をした後、ゼロのいた場所に取り残されていた髑髏の杖が気になって手に持ってみた。何の反応も示さないが、確実に生きていることが何故か分かった私は近くにあった木にむけてフルスイングするとアッサリと正体を明かした。それに怯えたソラノの背中を擦ってやる。

 

生きたアイテムという珍しいものに興味があった私はこの世界におけるナビゲートを頼んでみた。

 

渋る杖に断れば殺すと言ったら地面に額をこすり付けて承諾してくれた。

 

 

 

 

旅の準備は完了した私は杖を片手に知らない土地の地面を踏みしめた。




パルプンテの法則

①人を殺す力はないが、生と死の間に追い込む程度の力はある

②お供え物を献上すると1日限定で10分の1の確率で状況に適した効果が発現するようになる。連発するとありがたみが薄れる

③子供には優しいが、異端者には容赦なし(ロリ疑惑あり)

④成長と共にバリーションが増える

⑤全てはパルプンテ神の気まぐれ


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毒竜の情景

両親は殺され、クソみたいな野郎共にコキ使われても今日まで耐え抜いてきた。

生まれた場所も年もバラバラだったけど、同じ独房で出会った仲間たちと協力してきたから今日があると思いたい。

 

今ではジェラールが塔を奪ってからはマシになったものの、いまだに自由は掴めていない。

まるで猛獣を閉じ込めるような檻の中にオレたちはいる。

 

そんなオレたちに転機が訪れた。

 

「素晴らしい魔力だ。その力、有効に使いたいと思うだろ?」

 

突如としてブレインと名乗る奴が現れてオレを含めた4人を引き取りたいと言ってきた。

こんな塔に来る時点で怪しいやつには違いないが、これは一種のチャンスだ。

キュベリアスと共に塔の外へ出られる機会を易々と捨てるなんてバカのすることだ。

 

オレはこの話に乗り、他の奴らも同様だった。

 

手錠を外されて檻から出て行くオレたちを見ていた周りの奴らのことは意識的に無視した。

 

 

 

 

船に乗せられ、船内の本が密集した場所に集められたオレたちにブレインが問う。

 

「魔法の力の源は強い意志によるもの。まずは己の願望を話してみよ」

 

 

これから魔法を教える代わりにブレインの手伝いをすることが今後の活動指標となる。そのためには明確な強さを身につけなければならないとのことだ。

そのために自分の目的を言葉にできるようにするということで考えていると、初めに決まったのはソラノだった。

 

「私は……妹に会いたいゾ」

「会うだけか? それなら評議員にでもなんでも依頼すればいい。何なら私が探してやるが、どうする?」

「ユキノは、私が護るんだゾ!! 評議員なんて私たちを助けてくれなかった奴らの手なんかいらない!! そんな奴らに頼ることない強さが欲しいんだゾ!」

「よかろう。私が叶えてやろう」

 

こんな感じでソラノに続いてソーヤーは速く走る、マクベスは静かに眠るため、リチャードは弟を取り戻すとブレインに宣言した。

そして、オレの番が来た時には願いも決まっていた。

 

「オレは……自由になる! あんなクソ共のような奴らにオレたちの幸せを二度と邪魔させないために……もう下なんか見ないためにオレは前を向いて強くなる!! もう誰にも負けない!!」

 

オレの宣言にブレインは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

それから地獄の特訓が始まった。

 

ブレインの監修の下でオレたちは魔法を習い、ブレインに挑んでは何度も倒された。

かつては魔法の研究を行っていたブレインの知識は広く、オレは滅竜魔法のラクリマをいただいた。

 

ブレインは子供相手でも手加減することなくオレたちを叩きのめし、血反吐を吐くハメになった。

それでも温かい食事や寝床をくれたブレインには感謝した。今のオレたちは薄汚い猛獣なんかじゃないって言ってくれたような気がした。

 

 

 

 

船の旅も終わり、久しぶりの大地を踏みしめた。

これからブレインの根城へ付いて行く予定だったが、ブレインはオレたちを制して彼方の茂みを睨んでいた。

 

「そこにいるのは分かっている。姿を見せよ」

 

その言葉の後に出てきたのは一人の男だった。

見た目はどこにでもいそうな風貌の男が手を上げて礼を言った。

 

何の礼だか見当もつかない。まだ声を聞く魔法は習得できていないから考えも読めない。

 

 

そう思っているとブレインは口端を吊り上げた。

 

「姿を見せたのが最大の不運であったな。一瞬で楽にしてやる」

 

クロドアの杖からブレインのダークロンドが放たれる。

あれの威力はオレたちは身をもって味わっているため、あの男の死は決定した。

迫りくるブレインの魔法を前に男は手を差し出した。

 

 

瞬間、払いのけるようにブレインの魔法を空へはじき返した。

 

「は?」

「な!?」

 

あり得ないことだった。ブレインの強さを知るオレたちにとっては驚愕するには十分すぎた。

ブレイン本人はもちろん、マクベスたちも男の所業に目を丸くし、唖然とした。もちろん、オレもだ。

 

だが、男は払った手をポリポリと掻いていた。まるで虫刺されの痒みを掻くような仕草で。

その行動にブレインは再び笑みを取り繕い、不敵に宣言した。

 

「なるほど、このタイミングで出てきたのは偶然とは思っていなかったが、やはりどこかの回し者だな?」

 

その瞬間、ブレインから今まで感じたことの無いような魔力が放出した。

まさに、オレたちに血反吐を吐かせた今までがお遊びだったと言わんばかりに。

オレたちはその魔力に気圧されて立っていられなかったが、男はそれでも平然と見つめて頭をかいている。

 

この魔力を前に何の反応も示さないのは単なるバカか、それともそれさえも超える強者か。

 

 

そんなはずはねえ、ブレインが強いに決まっている。そう言い聞かせているとブレインは対して可笑しそうに笑う。

 

「これでも微動にしないとはな!! 出会った場所さえ間違えていなければうぬを味方にしていた!! だが、今はそのようにはいかん!! この場面を見てしまったうぬをここで始末する!! 光栄に思うがいい、このブレインに倒される栄誉をな!!」

 

クロドアの杖から出た魔法を皮切りに一方的な殺戮が始まる。

魔力開放で威力も速度も上がったダークロンドが男の懐に突き刺さる。

 

爆発を起こす先にブレインは休むことなく魔法を叩きつける。

まるで男の肉片すらも残さないと言わんばかりも猛攻だ。

浜辺が魔法の爆発で抉れ、オレたちは爆発の余波に飛ばされないように固まって踏ん張る。

 

見ようにも激しすぎて直視すらできない。

 

 

永遠の時間と思えるほどに時間が通過し、ブレインがついに魔法を止めた。

 

「惜しい……実に惜しい人材だった。だが、奴の悪運もここまで……なんだと!?」

 

勝利を確信していたブレインの顔が歪んだ。

爆炎の中にたたずむ人影は時間が経過するたびに鮮明なものとなる。

 

結論から言って男は生きていた。

 

しかも服は消し飛んだにもかかわらず、無傷の状態で。

オレたちもブレインもそんな光景にただ震えるしかなかった。

 

「バカな!! なぜ生きている!? 何の魔法を使った!?」

 

今まで知的な表情しか見せなかったブレインが仮面を取り外したように狼狽し、恐れていた。

ブレインとて魔法を直撃させた手ごたえはあったのだから心的ダメージは計り知れない。

 

オレたちの前で酷く取り乱すブレインに男は言った。

 

 

―――私は神の導きに従うこと、それだけさ

 

 

男が何を言ったのかも意味も分からなかった。

 

ただ、ブレインの怒りを盛大に踏み抜かれたことにただ怒り狂った。

 

「ふざけるなあああぁぁ!! 言うに事欠いて神だと!? そんなもんに縋るしかない弱者が偉そうにほざくなああぁぁぁぁ!!」

 

男はブレインの怒りを前に肩を竦めてヤレヤレとため息を吐く。

 

もはや意識を保つのがやっとの威圧感の中で男は自分のペースを崩さない。

 

それはまさに、オレにとっては王者の余裕にしか見えなかった。

 

 

 

しかし、ここで事態が予想もしない方向へ転んだ。

 

「ぐああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

突如としてブレインが頭を押さえて苦しみだした。

男は首をひねって観察しているが、オレたちにそんな余裕はない。

ただ、目の前の現実に震えるしかなかった。

 

 

しばらく苦しんだと思ったら、急にブレインは悲鳴を止めてゆったりと立ち上がる。

魔法で服が変わることはともかく、さっきまで苦しんでいたのに対して機嫌がよさそうに笑いながらゆったりと立ち上がるブレインの姿に背筋が凍った。

 

 

違う。魔力が違うということもあるが、これはブレインじゃない。

もっと別の存在だと強制的に意識させられる威圧感に襲われていると、ブレインだった者が口を開いた。

 

「ブレインも情けねえなぁ……こんな奴にビビるなんてよぉ」

 

その喋りにブレインの片鱗は見られなかった。わずかな口調だけで感じ取れた知性は失われ、代わりに有無を言わせない凶暴さが感じられた。

 

敵はオレたちじゃないのに、たまらなく怖い。

オレは、オレたちはなんて奴に付いてきてしまったんだ。

 

そんな後悔も空しく、そいつは何が面白いのか、愉快そうに話す。

 

「オレはゼロってんだ。ブレインとは二重人格で共に存在してたんだが、普段はブレインの方が色々と都合がいいってんでこいつの方が活動時間の多くを占めてる」

 

二重人格なんて話は初めて聞いた。

仮にそれが本当だとしても、人はここまで変わってしまうものだとは思わなかった。

 

「今回はブレインが心の底でお前に敵わないと悟っちまったからな。オレが代わりに出てきてやったんだよ」

 

種明かしするように愉快そうな面持ちで説明していたゼロはオレたちの方を向いた。

その瞬間、塔で見てきたような汚い笑みを浮かべて。

 

「ブレインはオレを抑えるためにこのガキどもを生体リンクの鍵として利用しようとしていたそうだが、その計画もここまでだ。それを潰してくれた点だけは礼を送ってやるよ」

 

乾いた音で拍手をするゼロの言葉にオレは、オレたちの中で何かが崩れた。

 

「何だよ……それ……」

「あん?」

 

ゼロの言うことが信じられなくなって、自然と喉から声を絞り出した。

 

「オレたちは……自由になりたくてブレインに付いてきた……強くなれば欲しいものだって手に入るって……っ!」

「……」

「利用だとか、道具だとか奴隷なんざ……んなもんはもうウンザリなんだよ!!」

「エリック!!」

 

我慢できなかった。何でオレたちが自分の人生を他人に弄ばれなければならない。

今までただ必死に生きてきただけなのに、どうしてこんなにも蔑まされなければならない。

今日まで誤魔化してきた抑圧が爆発し、覚えたての魔法を発動させて余裕ぶっているクソ野郎に突っ込む。

 

敵わなくても一発だけ全力を叩きこみたい。それだけしか考えていなかった。

 

「がぁ!!」

「エリック!!」

 

だけど、そんな祈りもゼロには届かない。

体躯の大きいゼロが突っ込んできたエリック背中を踏み潰す。

 

背中から腹にかけて衝撃が奔ったと思った瞬間、こみあげた粘つく熱い液体を口から吐き出した。

起き上がろうとするも、血と吐瀉物が混ざった物に押し付けられるように頭を踏みつけられ、なじられる。

 

「お前みたいな奴が敵う訳ねえだろうがよぉ!! 使い捨ての駒の分際で!!」

「ぶ、ぐぎぎ……」

「いつの時代も弱者は強者に奪われる運命なんだよ!! それをガキごときが夢見やがって、ここまでおめでたいと笑えてくるなぁ!!」

 

顔を汚されるよりも屈辱的に、それでいて容赦のない現実と正論を叩きつけられた。

そんなことは既に分かり切っている。だから強くなりたいと願った。

その結果が今の状況だ。

 

 

叩きのめされ、人生全てを否定されて

 

 

これでは奴隷の時と変わらないではないか?

こうして外にまで出てきたのに、自分たちは踏み潰される運命なのか?

 

 

悔しさに涙が止まらない。

仲間たちも使い捨てられる未来に悲観し、その場を動けずに泣いている。

 

「くそおおおおぉぉぉ!!」

 

 

嫌だ。このまま利用されるだけの人生なんて。

痛む体の悲鳴を無視して抗う。自分の運命を自分で決めるために。

 

エリックの人生をかけた抵抗もゼロにとってはその場しのぎでしかない。

醜悪な笑みを浮かべてゼロは魔力を高める。

 

「もういらねえよ。死ね」

 

全てを飲み込む邪悪な一撃。迫りくる“死”を前にエリックは目をそらさない。

ささやかな抵抗、エリックにとって人生最後で最大の抵抗を今まさに、魔法を打ち込もうとするゼロに向ける。

 

 

その時、エリックに魔力を叩きこもうとしたゼロの手は横から弾かれた。

 

 

「あ?」

 

感知できなかった横やりにゼロが何事かと顔を横に向けた瞬間

 

 

ゼロの顔に固く握られた拳が突き刺さった。

その瞬間、重く、鋭い衝撃が顔を突き抜けて脳へと響き、首がちぎれると錯覚するほどの速度で殴り飛ばされた。

 

「へぶっ!!」

 

最期の時まで目を開け続けたエリックはその流れをしっかりと目に、心に焼き付けていた。

先ほどまでブレインを相手に遊んでいた男が突き出した拳を引いていた。

 

 

「あんた……なんで……」

 

エリックが聞くと男が困ったように呟く。

 

大人が子供を助けるのは普通だろう、と。

 

 

何でもないかのように言い切った男にエリックはただ茫然とした。

 

今まで欲にまみれた大人を見てきたことで大人に対して一種の絶望を抱いていたのだから当然の反応だと言える。

今日まで頼れるのは自分だけと認識していたエリックたちは尚更だった。故に、初めて向けられる優しさに近い感情に困惑していた。

 

そんな時、ゼロが飛ばされた方向で魔力の爆発が起こる。

全員の視線がそちらへ向けられると、鼻からおびただしい血を噴き出し、顔の一部が歪に変形しているゼロがこちらを見据えている。

 

「ふざけんじゃねえぞ……ざけんじゃねええええぇぇぇ!!」

 

先ほどまでの醜悪な笑みが完全に崩れ、憤怒に塗れた形相で男を睨む。

怒りによって解放された魔力でさえも暴力となって辺りに吹き荒れる。

 

「てめえみてえなのがオレに傷をつけやがって!! 遊びはもう終わりだ! 人の形が残らねえくれえに破壊してやるよぉ!!」

 

ゼロが魔力を使って急接近してくる。

常人では見切れないほどのスピードとともに渾身の魔力を込めた拳を意趣返しに叩きこみ、魔法で嬲り殺す。

そのつもりで殺気のこもった一撃を繰り出した。

 

 

だが、男はその拳さえも掴んで止めた。

 

「ぐは!!」

 

お返しと言わんばかりに蹴り返した足からはあばら骨が砕ける音がした。

ゼロの口から血が噴き出し、その場に膝をついた。

 

「が、はぁ……」

 

男はそんなゼロを憐れみ、投降を促す。

自首すれば命は助けてやる、と。

 

 

しかし、それがゼロの怒りを踏み抜いた。

破壊を生き甲斐としているゼロは自身が破壊されたことに深い屈辱と怒りを高める。

やがて、それはダメージによる痛みと僅かに芽生え始めた恐怖を容易く上回った。

 

 

 

「このバケモノがああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

全ての力を振り絞るような怒号と共にゼロは一切の油断を捨てた。

 

体術と魔法を組み合わせた変幻自在な戦法は自身のアイデンティティーである“破壊”を捨て、一人の人間に対する“殲滅”に切り替えた。

全てを破壊することで万人を平伏させてきたゼロが一人の人間を相手に全力を出すことは自分に対する侮辱であり、矛盾であり、拒絶そのものだった。

 

自分をただの人間にした男が心底憎かった。

 

 

 

だが、そんな意思も関係なくゼロは尽く打ちのめされた。

 

 

体術を仕掛ければそれを上回る技術と腕力でねじ伏せられる。

魔法を使えば異常ともいえるくらいの魔力によって押しつぶされる。

魔法と体術を組み合わせれば、下手な小細工ごと力技で押しつぶされる。

 

 

ゼロの攻撃は全て、目の前のふざけた男に届くことはなかった。

 

 

「なんだ……なんなんだよテメエはよぉ!!」

 

 

破壊を好む残忍なゼロが怯えを隠しきれず、追撃の構えを見せる男から後ずさる。

 

「お前みたいなバケモノが、オレは知らない!! お前は、人間じゃねえ!!」

 

恐怖から発狂し始めたゼロの頭には、ただ目の前にたたずむ人間の形をした底知れないバケモノから逃げることだった。

そんな様子に男は心外そうに言いのけた。

 

 

―――お前より強い奴はこの世にいくらでもいる。私もその中の一人にすぎない。

 

 

まるで常識を問うような姿勢にゼロの支えは消えた。

破壊の化身と称してきた自分を真っ向から否定された。

 

二重人格としての存在意義を奪われたゼロがとった行動は、我を忘れた暴走だった。

 

 

「ワタ、オレはコソがゼロ(破壊)なんダよぉぉぉ!!」

 

 

そこにはブレインのような知性もゼロの残忍さも存在しない。

ただ、己の存在を刻み付けるかのように周囲に魔法を放ちながら破壊の限りを尽くす。

 

唾液をまき散らせ、焦点の合っていない目を見ても正気でないことが分かる。

 

 

「これはやばいゾ!! エリック、早く立つんだゾ!!」

 

 

逃れようのない破壊の中でソラノを始めとした仲間たちがエリックの元へ集まっていた。

必死にエリックの手足を掴んで逃げようとするも、それが無駄なことなど分かり切っていた。

 

魔力の暴風雨の中を手負いの自分を背負って逃げられるわけがない。

そう悟ったエリックは自嘲気味にソラノたちを突き放した。

 

「オレは放っておけ。どうせいつ消えるか分からなかった命だ……お前らだけでも達者にな」

「ふざけるな!! そんな言うこと聞くつもりはないゾ!」

「ここまで来て恰好付けんな! これがお前の言う自由か!?」

 

制止の声にも心は揺るがない。

エリックはこの時、既に魅せられたのだから。

 

 

圧倒的な邪悪を打ち砕き、自分の拳だけでゼロを打ち破った強者に。

 

 

自由のために強さを求めた自分だけど、その心の底には生物の持つ根源的な強さを求める本能があった。

巨大な力を前にしても自分を見失わず、立ち向かって打ち勝つ。まるで子供のヒーローショーみたいな展開ではないか。

 

他力本願を嫌っていた自分にとっては腹の足しにもならないおとぎ話としか思っていなかった。

 

 

今、その認識が変わった。

 

 

自分が求める強さのその先、強者の最果てをこの目で見た瞬間に胸がざわついた。

目の前の男が何者であろうと、エリックはその男に魅せられ、後戻りができなくなった。

 

ここで生き残ったとして、自分はあの男のことを忘れることなんてできるだろうか?

あの強さに対する憧れを抑えて一生を終えることに満足するだろうか?

 

 

無理に決まっている。

 

 

 

知ってしまったから、もう戻れなかった。

 

もっと見たい、そう思ったエリックはたとえ死んでもその場から離れないだろう。

本当の“強さ”が如何なるものかを見たくなったから。

 

 

「シねええええぇぇェェぇぇ!!」

 

的確にオレたちを狙った魔力弾が向かってくる。直撃なら即死、免れたとしても爆発に焼かれ死ぬのは確実。

絶対絶命の状況下で仲間たちは咄嗟に集まって体を固め合う。

 

だが、オレは何の恐怖も心配もなかった。

 

 

 

オレたちの前に、大きい背中があったから

 

 

 

手を突き出して嵐のような魔力を片っ端から弾き返し、それでもオレたちの前から動かずとも強者としての姿勢は崩れない。

ゼロはその強さに恐れを抱いたはずなのに、少なくともオレは安心してしまったことがおかしかった。

 

 

その背中を見ていたい。きっと、そこにはオレの望む以上の世界があるはずだと思ってしまった。

 

 

攻撃が効かないのを認めたくないゼロはみっともなく取り乱して魔力を放ち続ける。

そして、男は静かに、それでいて力強く唱えた。

 

 

―――パルプンテ

 

 

 

その瞬間、ゼロが音もなくこの場から消えた。

まるで、最初からこの世にいなかったように。

 

 

 

「終わった……のか?」

「あの人、何をしたんでしょうか……」

 

ソーヤーとリチャードが静かになった海岸を見渡して呟く。

まるで夢から覚めたことに気が付いていないような様子だった。

 

無理もない。自分だって何が起こったのか本当に分からないのだ。

最期まで見届けようとしていたにも拘らず、音もなく戦いは終わったことが信じられなかった。

 

魔力の嵐で穴だらけになった戦場痕さえなければ、これを夢だと思っていただろう。

目の前には構えを解いた男だっている。

 

 

つまり、自分たちの想像が及ばない力で以て戦闘を終わらせたのだ。

 

 

 

何という強さ、どれほどの特訓をすればそこまでの高みに到達できるのか。

最後に唱えた魔法は何なのか。

 

 

知りたいことが源泉のように溢れる。

 

 

 

男が自分たちを一瞥して去ろうとしている。

 

 

嫌だ。このまま見ているだけはもうしたくない。

痛む体で無理に男の後を追いかけ、頭を下げた。

 

 

「頼む。オレを……オレたちを一緒に連れて行ってくれ!!」

 

この日、エリックという少年の運命が変わった。




ゼロ……死亡確認!!

コブラ以外のメンバー視点はまた後程の話で書いていく予定です。


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クロドアの杖の憂鬱

クロドアの杖は恐怖していた。物言わぬただの杖のように微動だにしないで様子を窺いながら、たしかに恐怖していた。

人間であれば歯を鳴らしてバレていただろう。ブレインとともにそういった弱者を見てきたが、まさか自分がそうなるなどつい先ほどまで夢にも思っていなかった。

 

少なくとも今朝までは。

 

ブレインは決して弱くない。それどころかその戦闘力は普通よりも秀でている。それに加えて魔法研究に関わっていた関係で魔法に対する知識もあった。冷静な知性で戦闘をボードゲームのように変える強さがあった。

 

そして暴力の化身であるゼロこそが最強であり、最恐だった。異質な魔力に加えてブレインにはない凶暴さに身を任せた猛攻に太刀打ちできたものは少なくともクロドアの杖の記憶にはない。

 

 

二人で一人である持ち主が何もできず、一方的にやられた。

 

 

相手はただの男だと思っていたが、蓋を開けてみると途方もない化物だった。

 

(こ、ここを離れなければ……)

 

ゼロを凌ぐ戦闘技術に加えて魔力の質も量もけた違い……仇討ちなど冗談にすらならない。

むしろゼロが赤子の手をひねるようにあしらわれた時点で敵対どころかすぐに逃亡するのが普通だ。

 

そして何より、最後の最後にゼロを消した魔法が一番得体が知れない。

ブレインとともに魔法の知識を蓄えてきた自分でもわからない未知の魔法。

それでいてゼロのような異質なものではなく、まるで正体の分からない謎の魔力を感じた。もっと言えば、魔力の中に今まで感じたことの無い力さえも感じたため、本当に魔法なのか疑わしい。

 

 

戦力は未知数、情報もなし……この男と敵対するのはこの世で最も愚かなことだとクロドアの杖は思った。彼の中のヒエラルキーの頂点からゼロが落ちた瞬間である。

 

ただ、幸運があると言えば、問答無用でゼロを消した魔法から逃れられたことと破壊されずに無傷で済んだことであろう。

魔法自体は人間のみが対象だったのか、条件は分からないが自分だけ免れたことは最大の幸運だった。

 

そして、男は何を思ったのか子供に道案内をする代わりに旅の同行を許し、ブレインが引き取った子供たちはエリックの説得もあって旅に同行できることを喜んでいた。

 

誰一人、自分のことを気にかけている者はいない。

 

(しめしめ、このままやりすごすか……)

 

元の持ち主に対する忠義はあったものの、それは自分の命を捨ててまで殉じるほどではない。杖はブレインの仇討ちをする気は毛頭もなく、ただわが身が可愛かった。

 

このまま最後までやり過ごし、姿を消したらこの場から逃げようと決めていた。

 

 

だが、その目論見は早速躓いた。

 

 

突然、自分の体が掴まれた。一体何だと思って意識だけ向けると、そこにはブレインを圧倒した男の顔があった。

 

(ぎゃあああぁぁぁぁぁ!!)

 

例えるなら海に飛び込んだ瞬間、サメの頭の上に着地した心地だった。

途方もない化物が自分を掴み、値踏みするように顔を近づけて回したり髑髏の頭を触ったりとしていたのだから。

 

思わず心の中で叫んだだけに留めたのはクロドアの杖の精神力の賜物と言える。

 

 

「それってブレインの杖だよな……」

「いつ見ても気味悪いゾ」

「正直、趣味が悪いとは思ってた」

(こいつら……ブレインがいないと思って好き勝手ほざきおって……!)

 

普段ならキレそうなものだがここは我慢、今はこの場を乗り切ることが先決だと考え、ただの棒切れになり切る。

 

(趣味が悪い……か)

 

ただ、人知れずダメージを受けていたのはご愛嬌である。

エリックたちが早く行こうと催促し、心の中でそれに同意していると男はさも当然かのように杖に向けて口を開いた。

 

 

―――という訳だ、狸寝入りはそこまでにして話でもしようか

 

 

 

(え?)

 

 

神経は通っていないはずなのに悪寒を感じた。

瞳が無いはずの自分に男の視線がねじ込まれた気がした。

 

気付くわけがない、何かを感じてカマをかけた程度だろう……そう思っていると男は自分を観察した後、おもむろに無事だった海岸のヤシの木に近づく。

諦めたにしろ、妙な行動に疑問を持っていると、男は自分の体を両手持ちで強く握った。

 

そして、野球のように大きく振りかぶる。その先には極太のヤシの木が。

ここまで来てようやく男の行動に気が付いた杖は慌て、遂に声を出してしまった。

 

「え、あ、ちょっと待ぶへぇ!!」

 

野球のフルスイングのように杖をヤシの木にフルイングした瞬間、杖の柄の部分からミシっと嫌な音が聞こえた。

髑髏の部分を的確に叩きつけるようにした的確なスイングから確信した。

 

(こ、この男……もう確定だ! 私のことに気付いて……)

 

思考する暇も与えないと言わんばかりに再びスイングの構えを見せた男に杖は男の手から逃れようともがきながら声を出して助けを懇願する。

もう隠すことを諦めた。

 

「待ってくださいお願いします!! 何でもしますからそれだけは止めてください!!」

「ひっ!」

「喋った!?」

「この杖生きてたのか!?」

 

子供たちも驚いている様子から杖のことを知らなかったようだが、それを無視して全意識を男に向ける。

 

(ここで対応を間違えれば……死ぬ! この男には私に対する慈悲が一切ない! まるで路傍の石を見るかのような目だ!)

 

この男ならば自分にこの状況をどうこうする力などないことくらい知っているだろう。無視すればいいものを自分に話しかけてきたのは、何らかの理由があるはず。

そして、自分の扱いからして断られれば仕方なく諦める程度にしか思っていない。

 

どちらにせよ、交渉だとか拒否などと言える状況ではない。

 

 

男としては自分にナビゲートを頼みたいようだ。まだ子供であることと今まで奴隷だったことから現在の世界情勢を含めた色々を深く知っているとは思えなかった。

それに比べて、自分であればブレインと共にいたということでそれなりに社会とかにも詳しいだろうと考えたらしい。その上、魔法研究に関わったということで最近の魔法のことも知りたがっている。

 

(これはもしや……ひょっとすると……!)

 

男の思惑に人知れずほくそ笑んだ。これはまさか、チャンスだと思った。

 

 

男の様子からして世俗から離れていたのだろう。世間知らずだと自覚しているようだった。

それに、最近の魔法を気にしているのは子供のためだろうと推測する。

 

最近の魔法でこの男をどうこうする力はないだろうが、変な所で情に弱い性格だと分かる。

子供と言う足枷があるなら付け入る隙があるかもしれない……そう思った杖はニヤっと笑う。

 

 

そんな中、エリックが不安そうに男に聞く。

 

「おい、これ本当に大丈夫か? 何か企んでそうだけどよ」

(余計なこと言うなクソガキ!)

 

ブレインに裏切られたことを思ったのだろうかクロドアの杖の加入に難色を示すエリックを台頭に子供たちは疑わしき目を向けている。

そんな子供たちの反応に杖はぶちまけたい文句を我慢して男の方を見る。

期待するような杖の眼差しを受けて男は言った。

 

 

 

 

 

 

 

今ここで、先ほど言った宣言が事実無根の嘘偽りであり、私たちに少しの害をもたらそうというのなら私は容赦しないし、そもそも害となる前に見切りをつけて責任もってこれを処分する心である。

まず手始めに杖の魔力と言う魔力を奪い、呪符を使って一切の行動と反抗を禁ずる。その上でもたらされた不利益の度合いによっては最悪、この杖を決して殺さずに生き地獄を見せる。まず、杖に定着されている魂を引きはがし、これを改造する。どんな性格になるかは分からないが、希望としては突撃と言えば突撃、玉砕と言えば玉砕を行ってくれるように強い自我さえなければ問題はない。とにかく反抗心さえ消せればよいのだ。

魂の改造が困難であれば原始的だが、洗脳で済ませればいい。多少の感情の綻びによる発狂はたまに起こるが、些細な問題である。そこは宿命として受け入れよう。

もっとも、叛逆の恐れがある不穏分子の処分は古来より処刑が至高だ。人にしろ動物にしろ、生きとし生けるものを洗脳するということはそれまでに生きてきた人生を否定し、一から自分で作り上げることである。そんな手間を子供たちの世話だとかの合間にするのは些か非効率的なのだ。

生きる魔道具というレアなアイテムに魅力を感じないわけではない。だが、命の安全とどちらが大事かと問われれば言うまでもない。今の社会情勢や魔法に関しては今ここにいる子供に聞けばいいし、分からなければその時は自分で調べればいいのだ。はっきり言って、無理に杖を連れていく利点と言うのはそれほどではない。言うなれば私のコレクション候補として確保するだけなのだ。

 

話が長くなってしまったが、私たちの旅に同行する気はあるか、とにっこり笑った。

 

 

 

微塵の逃げ道を断たれたクロドアの杖は器用に体を折りたたんで震えながら平伏した。

 

人の体であれば目の前の狂人に対して泣きながら漏らすところだが、恨めしいことに杖は泣くことも漏らすこともない。

ただ、悲惨な未来を回避するためには取るべき手は一つ、男に魂を売るつもりで降伏するしかなかった。

 

 

 

絶望感に打ちひしがれる杖と顔を真っ青にした子供たちの様子に首を傾げるが、それは些細な問題である。

 

 

私たちの冒険はこれからなのだから。



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厄介事は待つのではなく、自分から向かっていくもの

まさかの畜生主人公でランキングに載るとは思ってませんでした……

多きいプレッシャーはありますが、嬉しい気持ちが上回っています。
仕事が忙しくて更新頻度はあんまりですが、これからも気長にやっていこうと思います。


エリックたちが旅に同行するようになってからというもの、私は様々なことを学んだ。

 

まず、この世界は私がいた時代よりもおよそ400年も経過した未来だった。最初は街の話だとか聞いてみたけど、色んな所の地名が変わっていたことから互いの話がかみ合わなくなり、突き詰めて聞いてみたらようやく判明した。その証拠にこの大陸もイシュガルと呼ばれていたのは昔だという。

 

まさかパルプンテで400年もの時を越えたなどと言えるはずもなく、エリックたちには真実を伏せている。

 

そして話していくうちに判明したのが私の友だったゼレフがこの時代において歴史に名を残していたことだった。

ただ、黒魔法だとか死者蘇生だとか明らかに人理に反していた研究ばっかしていたため一種の邪神のようになっている。

何してんだお前、と思いながらこの時代における彼の扱いに少し同情した。思えば会話の節々に危うい面があったことも一種の前兆だったかもしれない。

 

その結果、ゼレフ教なるものが好き勝手暴れて子供を攫って奴隷にしたりと各地で暴れまわっているという。

 

あのお人よしが知ったら問答無用で信者を打ち首獄門レベルの所業である。私としては生まれた時代は現代よりも命の価値が低かったため、宗教絡みの殺生については好きにやってくれと思うだけだ。

 

ただ、想像の中で作り上げた神ではなく、ゼレフは実際に存在した人間だ。

そんな人物を勝手に祀り上げ、好き勝手に解釈して「ゼレフのため」だとほざく狂信者だけは気に入らないとさえ思う。

暴走信者がゼレフの名を免罪符にしているように思う。ただでさえ、イメージの押し付けといった類のものが嫌いな私はその話題だけで機嫌が悪くなるのを感じる。

 

とはいえ、400年も経っており、ゼレフとて考えも変えている可能性だってある。

呪いが解かれていなければ今もこの世のどこかで潜んでいるのだろう、そんな人物のことであれこれ言う必要はない。

道を違えていれば倒す、それくらいでいいのだ。

 

 

それはそうと、杖から聞いた話ではラクリマというものがあり、それによって魔法の進歩は著しいものとなった。

聞いた話に限るが、私の時代にあった魔法の一部がロストマジックになっていたり、昔では考えられないようなユニークな魔法もある。柄ではないが、そういった新しいものに惹かれるのは人間の性である。

 

 

そして、子供同伴とはいえ今の世の中を実際に旅して見て回るのは悪くないと思いながら私は各地を渡り歩く。

 

 

 

もちろん、その合間にエリックたちへの稽古もしている。

子供たちを集め、今後の稽古について彼らと話し合っている。ただしソラノは夕食の準備をしているためここにはいない。

 

何か聞きたいことはあるかと尋ねると真っ先にエリックが手を上げた。

 

「先生はどうやってそんなに強くなれたんだよ?」

「秘訣ってあるのか?」

 

あれ以来、エリックたちは私のことを先生と呼んでいる。私としても別に問題はないため、以降はそのように統一しているのだ。

 

それはさておき、エリックからの質問は至極当然のものである。私としてはそのまま強くなった経緯を教えてもエリックたちのためにはならないと思っている。

私は神の呪い、もしくは祝福によって死んでもすぐに生き返るのだから強くなる方法は至極単純だった。自分よりも強い相手に勝つまで挑み続ければよかっただけである。

 

もちろん、そんな話をそのまましても信じられないという以前に私以外ではゼレフしかできなさそうだから却下。

 

そのため、一部の真実を誤魔化して伝えることにした。

 

①実戦

 

②鍛錬

 

③ドーピング

 

一通り伝えた時、エリックたちは引きつった顔で私に視線を向ける。

 

「「「えぇ……」」」

 

全員がシンクロして嫌な声を上げた。遠くで聞いていたであろうソラノは声は出さないもののエリックたちと同じ表情だった。

ここまで息があっているのであればチームで戦う方法も期待大だ。私は子供たちの思いがけない強さの秘訣を発見できたことで少し自分のことのようにうれしくなった。拍手と花丸を送ろう。

 

「先生は自分の話をおかしいとは思わないのかよ……」

「今更だと思うけどね」

 

ソーヤーとマクベスがお喋りしている。後で気にかけてみよう。

 

そう思っていると、リチャードが質問をぶつける。

 

「あの、①と②は分かるんですが、最後のドーピングとは一体……」

 

簡単に言えば私の魔法で偶然手に入れた産物だが、私の魔法にしては有用なものだった。

これを初めて手に入れた時はワイバーンに苦戦した時にイチかバチかで唱えたら種が出てきたのだ。もちろん、その後にワイバーンの尻尾をモロに喰らって折れたアバラが肺に刺さって呼吸困難になったことも今にして思えば笑える話になったものだ。

 

「おい、なんかエグい話を笑い話にしようとしてるんだが……」

「時々思うんだけどね、僕たちは師事する人を間違えたんじゃないかって不安になるよ……」

「知ってた」

 

子供たちの反応を見るとイマイチだったようだ。子供のツボというものは私には難しい話だ。

私も彼らの頃であれば子供心も分かってやれたのではないか?

そんなことを思っているとエリックがざわつき出した周りを咳払いで黙らせ、話を続ける。

 

「つまり、薬を使って無理矢理強くするってことか?」

 

少し違う。

簡単に言えば潜在能力を解放させやすくなる物だ。

 

「潜在能力……急に強くなるって訳じゃねえのか」

 

薬で寿命を縮めて得た筋肉で腕力が強くなったとしても、それはハリボテに過ぎない。そんな一時的な力ではなく、元々から存在する、一生のうちで目覚めるか分からない力を叩き起こすようなものだ。

言い方は物騒だが、違法薬物よりかは確実で安全である。

 

「そんな物があったなんて知らなかった……」

 

反応からしてあまり信じられていないようなので実物を出してみる。

荷物の中にあった4つ袋を取り出し、それぞれの袋から種を取り出す。色が付いているから見わけも付けやすい。

 

「これは、種か?」

 

子供たちが興味深そうに覗く姿は子犬を連想させ、微笑ましくなる。

 

「こんなもので強くなれるのか? ただの種みてえだし」

 

効果の程は保証しよう。

これらは力の種、守りの種、魔力の種、不思議な種だ。

文字通り、食べれば腕力、耐久力、魔法の攻撃力と魔力量を上げてくれるものだ。

 

ただ、少量だけ食べても効果はない。

種を死ぬ気で食いまくることが大事だ。それこそ一日だけでもいい、この中のどれか一種類に集中して食べ続ければ一日だけで別人のように変わる。

 

「なんか話が美味しすぎる気もしないではない……」

「実際にしてみないと分からないよね」

 

もちろん、エリックたちには今日からこれを食べてもらうつもりだ。この種はとにかく土と水さえあれば1時間で増える。何もなくてもそこら辺からモンスターを捕まえて捕食するから飼育も結構楽なのである。

よって、種は腐るほどあるから気にしなくてもいいと伝える。

 

「じゃあ、実食といきましょうか」

「あぁ、まずはオレからいくぜ。万が一毒があってもオレなら耐えられる」

「ねえ待って。普通に流したけど凄いこと言ったよね? え? これってモンスター食べるの? それって大丈夫なの?」

 

些細な疑問は後で答えるとして、最初はエリックから食べてもらおう。ソラノも来た所だからちょうどいい。

 

まずは力の種を手の平一杯に注ぐ。並々に注がれた種を前にエリックは唾を飲み込んだ。

エリックも臭いから無毒なのは分かっているが、効果が効果だけに気後れしてしまう。だが、強くなりたいと願う彼は少しの恐怖を抑え込み、手の平一杯の種を一気に口の中に放る。

 

緊張したまま咀嚼すると、予想通り無味無臭の種に拍子抜けした。

 

(毒も中毒成分もなし……か。本当にこんなもので強くなれるのか?)

 

身構えていたことが馬鹿らしく思いながら十分に噛み砕いた種を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

瞬間、エリックは言い知れぬ嘔吐感に襲われた。

 

「……っ!? おえええぇぇぇぇ!!」

「エリック!?」

 

突然の異変にエリックは抵抗する間もなく食道を通過していた咀嚼後の種を一気に吐き出した。その様子にマクベスたちは集まった。

 

心配されて介抱を受けるエリックは訳が分かっていない様子だった。

さっきまでエリックが食べていた種には味について何の問題もなかった。

無味無臭、毒物の味も臭いもしなかった無害な穀物に対して自分の体が勝手に拒否反応を起こしたのだから当然である。

 

魔法を覚えて以来、食中毒にすらかかっていなかっただけに久しぶりの嘔吐は深いダメージを負った印象がある。

 

エリックは得体のしれない種を巡視しているところで私は文字通りの種明かしをする。

 

 

事実、エリックは分かっているようにそれらの種には毒物や中毒作用などを啓発する物は一切ない。味も無く、強烈な悪臭を放っているわけではない。その種自体は本当に安全なものだ。

 

「じゃ、じゃあ何で……?」

 

信じるか信じないかは彼らに任せる。

 

 

それは、エリックの体が拒否しているのではない。拒否しているのは“本能”そのものだ。

 

「え? 何それ?」

 

簡単に言えば、毒は無いけど私たち本能がその種を毒物だと“勘違い”しているということだ。

その種のもたらす恩恵は凄まじく、食べるだけで生命力を上げ、強くなると知られれば乱獲されて絶滅するかもしれない。

だから、その種は他生物からの捕食から逃れるために“本能”に作用する何かを分泌しているのだ。言い換えれば、肉体を蝕むのではない精神を蝕む毒みたいなものだ。

 

「そ、そんなものどうやって食べろと……」

 

これは数をこなして慣れるしかない。本能レベルで拒絶する種を受け入れられるようになるのはちょっとやそこらの月日ではまるで足りない。

もしかすれば、死に直面した瞬間、「どんな手を使ってでも生き残る」という強い覚悟さえあればその種を克服できるかもしれない。

 

最後の経験談だけは心の中に仕舞っておく。

 

全ての説明を受けた子供たちは種を微妙そうな表情で見ながら遠ざかっていく。

エリックの見事なぶちまけっぷりを目の当たりにした故に食べたいと思わないのだろう。

 

「ドーピングは分かった……実戦はどういったレベルを求められるんだ?」

 

そこは本人たちの実力や才能を見極めてから判断する。

私のやっている実戦や鍛錬では間違いなく2日経たないうちに破裂するのは確実だからオススメはしない。

 

「オレたちの先生が人外すぎてまた吐き気が湧いてきた」

 

それはいかん。あまりに吐き過ぎると癖になって吐きダコができる。

どこかの村に着いたら処方箋を処方してもらおう。

 

本日の授業を切り上げ、食糧を探しに行っていた杖が帰って来たところで私たちは昼食を食べ、村を探して再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は運よく村に辿り着いた。

山の峠近くに位置する集落というわけで都市のような人の賑わいもなく、品ぞろえも期待できない。

 

とはいえ、旅立ってから数日は野宿だったため人里というのはありがたい。

エリックたちも久しぶりにベッドに寝れると期待しているのか目を輝かせている。

この時代の金はブレインが使っていた船から徴収済みだ。

 

「いや~、ようやくオレたち以外の人間を見た気分だな」

「今日は夜の見張りも必要なさそう、デスネ!」

「シャワーは浴びたいゾー!」

「寝たい……」

「お前、そればっかだな」

 

期待に沸き立つところ申し訳ないが、あまり期待しない方がいい。

最悪、買い物だけ済ませてこの村は出た方がいいと私は思う。

 

「何でだよ? 金なら少しくらい使ってもいいだろ?」

 

エリックに続いて皆が文句を垂れるが、問題は金ではない。

 

先ほどから入り口付近からでも漂ってくるが、この村からは負の感情というものがヒシヒシと伝わってくる。

突き刺すような空気の鋭さはさながら、一触即発というところだ。近いうちに暴動か戦争が起こるかもしれない。

 

「きっと気のせいだゾ! あったとしても今日じゃないなら問題ないゾ!」

 

ソラノも言うことも一理ある。なにもこの村を出ると決まったわけではない。

この嫌な予感も私の経験則からでた結論なのだから確定ではない。

 

「じゃあ探ってみるか? 分かれて村の中を散策とか」

 

散策には賛成だが、ここは固まって動いた方がいいだろう。

見た所、この村は潤っているわけではないから金持ってるのがバレたら襲われる可能性が大きい。そもそも、こういう村の人はよそ者を嫌うのが常だ。少なくとも信用はしない方がいいだろう。

 

「めんどくせえな……オレの聞く魔法があれば楽なんだがな」

 

今はないものねだりしても仕方ない。ここは一種の社会勉強だと思って行動しよう。

杖やキュベリアスは荷物の中に隠した方がいいだろう。

 

今にも朽ち果てそうな村の中へ意を決して入ると、同時に多くの視線が集まるのを感じた。

予想通りの内容はもはや様式美と言ってもいいだろう。あまりいい感情は感じられない。

 

だが、私たちはそう言う所も分かり切っていたことなので全員で視線を無視する。

 

視線を向けていた住民は睨んでも無駄だと知り、吐き捨てるように視線を外して仕事に戻っている。

 

「なんか感じ悪いゾ」

「この村に愛はありませんね」

 

案の定、ソラノとリチャードが村の現状に気付いて顔を顰めていた。他の面子も口には出さないが、同様のことを考えていることは明らかだった。

 

そして村の陰気さを表すように露店の品ぞろえは予想を超えて酷かった。

スカスカの商品棚の前で酔いつぶれる店主や齧りかけの果物を平気で売っている店もチラホラ目立つ。どこもかしこも店と店主の質が最悪だった。

 

「なんかもう、気分悪くなってきた」

「こんな所じゃ寝れそうにないよ」

「それよりも……こいつらの目が気に入らねえ」

 

さっきまで村での宿泊に乗り気だったソーヤーたちも意気消沈どころか機嫌が悪くなってさえいた。

 

どこまで行っても変わり映えしない陰湿な雰囲気に流石の私も音を上げたくなる。

露店が並んでいた大通りを抜けて皆の表情を見ると、少しやつれているように見えた。

完全に意気消沈しきっていた。こんな状態でこの村に泊まったら逆にもっと疲れそうだ。

 

皆には申し訳ないし、私も残念だが今日にでもこの村を出ることを伝えると皆は打って変わって賛成した。

 

 

このような何もない街に留まる理由がなくなった私たちはこの村を出ようとしたその時だった。

 

 

「いたぞストラウスの悪魔だ!!」

「消えろ! ここはお前みたいなのが来るところじゃねえ!!」

「今日こそ退治してやる!!」

 

穏やかではない声が村の中から響いた。今しがた出て行くことを決めたためにあまり関わりたくなかったが、そうはいきそうにもなかった。

私がパルプンテ神に憑りつかれてからというもの、こういったハプニングの遭遇率は100%

どんなに逃れようとしてもそれを許さないがごとくハプニングは形を変えて私に降り注ぐ。

 

こういう時に限ってパルプンテを使うと面白いほどハプニングをより一層大きいものと変えていく。逃れるどころか火に油もとい、ダイナマイトにロケットランチャーを放つくらいには事態が大きくなる。

 

ちなみにダイナマイトとロケットランチャーは過去に一度、草むしりの仕事の最中に楽しようとしてパルプンテを使ったときに出てきた武器だ。

使い方誤って芝生どころか依頼主の屋敷すらも木っ端みじんになったのをよく覚えている。

 

 

その話は置いておき、このようにイベントに触れてしまったら私に逃れる手はない。

それならば取る手は一つ、私から厄介ごとに首を突っ込めばよいのだ。

 

「おい、先生がアップを開始したぞ」

「もう嫌な予感しかしない……なにこの人外」

「やべえよ、やべえよ……」

 

 

そうと決まれば覚悟完了、いつでも事態に対処できるように構えると面白いくらいに都合のいいタイミングで私のすぐ傍の通路から厄介事が舞い込んできた。

 

「うっ!」

 

ボロボロの外套で全身をすっぽり羽織った人物が私にぶつかってきた。声からして女に間違いない。

全力でぶつかった女性は尻もちをつき、その拍子に外套で隠していた長い銀髪をさらけ出した。それは薄汚い外套とは正反対に綺麗な銀髪とよく整った端正な顔立ちの美少女だった。

 

間違いなく原因の騒動はこの少女だ。私たちを見て明らかに狼狽している。

 

 

ここでこの少女をひっ捕らえればこのイベントを最短且つ、効率的に収めることが可能だ。

だが、目先の結果に囚われるのは愚策である。

見た限りだと彼女は後ろを気にしているから追われているのだろう、ならもう少しで来る追う者を見て処遇を決める。

 

 

少女が逃げないように牽制しながら待ち構えると、鍬や斧を持った村人らしきものたちの武装集団が現れた。

 

「くそっ!!」

 

少女の反応からして間違いないだろう。彼らがもう一つの騒動の原因だ。

そうなれば私へ降り注ぐイベントの解決法はいずれかに属し、敵を排除することである。

となれば、私は迷わず少女の味方をしよう。

 

 

このような少女を大人数で追い回す人種にいい印象は抱かない。

村人とはいえ、多勢に無勢で少女を追い回す愚行を目の前で見て現実的な打算をするほど人間性は捨てていない。

それに、武器を持って私たちの元へ向かってきているのだ。もはや大義名分は我にあり

 

私は全ての方針を決め、村人の元へ走る。

 

 

踏み込んだ瞬間に足場が崩れて少女を含めたエリックたちが急にできたクレーターの中へ悲鳴を上げて落ちるのを気にせず、私の突進に驚く村人へ意識を向ける。

呆けている村人たちに私はため息を漏らす。

 

そんな心構えでよく他者の命を奪おうと思ったものだ。

 

 

 

明らかに戦いを嘗めている村人への落胆からわずかに残っていた私の罪悪感は消えた。

それと同時に遠慮が消えた私は村人の集団へと飛び掛かり、“少しの”魔力を拳に込めた。

 

 

「へ?」

 

 

誰かがマヌケな声を漏らした。魔力の余波で民家が倒壊したのは些細なことだ。

これでも手加減しているのだから勘弁してほしい。

 

 

まるで自分だけが止まったかのような世界の中で私は脅しの意味合いで村人の足元に魔力のこもった拳を叩きこんだ。

 

 

その瞬間、村の一角は民家や商店をいくつか巻き込んで陥没した。




クレーターを作るまでが挨拶であり、チュートリアル

今回ではフェアリーテイルでは欠かすことの無いあのキャラが出ました。ネタバレするならミラです。

今回からドラクエでお馴染みのドーピング枠である「たね」も出しました。

パルプンテ神の加護により主人公は絶対に厄介事からは逃げられません。

主人公はイベントを受動的ではなく、能動的に関わりました。


どちらにせよこの村に碌なことは起こりません。


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当たりとは一体何だったのか

やってしまった。

私は街の真ん中にポッカリと空いたクレーターの中でそう思った。

一緒にクレーターの中に入った村人たちは私を悪魔か何かを見るかのような目をしている。だが、私は至って普通の人間だ。そんな目を向けられるのは甚だ遺憾とだけ言っておこう。

 

クレーターからジャンプで抜け出し、私がいた場所へ視線を向ける。

エリックたちの声が穴の中から聞こえるということは運悪く落ちてしまったんだろう。

それにしてもやはりこの街はお世辞にもいい街とは言えない。店の品ぞろえも街の雰囲気も悪く、道路の整備も充実していない。私が踏み込んだだけで陥没するのは如何なものか。

 

「な、な、な、何なんだよお前は!?」

 

穴を覗き、いの一番に叫んだのは追われていた少女だった。見た感じ、怪我はなさそうだ。無事で何より。

 

「無事じゃねーよ!! 怪我どころか大惨事じゃねーか!! 周りをよく見ろ!!」

 

怪我の他に何かあったらしい。もしかすればこの時代の常識というものに触れた恐れがある。色々と聞きたいが、先に穴から出してやることにした。このまま穴の中に置くのは不憫だ。

 

「とりあえず、助けてくれないか? こうなったのは先生が原因だしよ」

 

エリックの言葉ももっともなので、念のために持っていたロープを下ろすと、エリックたちはそのまま登ってきたが、少女だけは訝しげな表情を向けてくる。

だが、この状態は望むものではないのだろう、しばらくしてから最後にロープで登ってきた。

 

全員を引き上げた時、村人たちは私たちを取り囲んで武器を向けていた。

 

「な、なんだよお前らは!? お前も悪魔の仲間か!?」

 

何やらひどく怯えているように見えるが、私が何かしてしまったのだろうか?

まだ威嚇ぐらいしか身に覚えがないのだが、それだけでそこまで怯えるものなのだろうか。

 

だが、私が疑問に思ったのはそこじゃない。村人が言った『お前も悪魔の仲間』というのが引っかかる。

まるでこの場に悪魔がいるような口ぶりではないか。その意味について尋ねても村人たちは落ち着きを失って私に武器を構えて威嚇する始末。それどころか狂気すら感じ取れる始末だ。

 

かなりまずい流れだ。私はともかく子供たちにも被害が及ぶ可能性が高い。

 

雰囲気が険悪なものになる。なればこそ、こういった雰囲気をぶっ壊すにふさわしい魔法を私は持っている。今ここで使うのは不安ではあるが、死人は出ないので問題はないと結論付けた。

私は少しの魔力を解放させるとクレーターから砂ぼこりが舞い上がり、突風となって村人たちに噴きかかる。

 

そして、後方の少女は固まっていた。

 

「な、なんだよ……あのバカでかいモンは……」

 

少女が畏れと驚愕を含んだように呟き、エリックたちはこれから起こるであろうパルプンテに備えて身構えている。

 

「気持ちはわかるが、早く逃げるぞ。先生の魔法はマジでヤバいからな」

「おい待てよ! そんなヤバいものを村の人たちに使うのか!? 死んだらどうすんだよ!?」

「オレもそう思うが、先生ならそこらへんは考えてるだろ。魔法自体には人を殺す効果は無いが、生死の境に追いやるくらいだって言ってた」

「聞くだけでヤバいシロモノじゃねーか!!」

「言っとくけど素手でやらせたら手加減の具合分からないから本気で殺しかねないぞ」

「どっちにしても最悪じゃねーか!」

 

エリックたちと言い合っているが、そういうのは後にしてもらいたい。

私は彼らが少女を立たせて逃げる準備をしたと確認し、パルプンテを唱えた。

 

 

呪文はやまびことなって消えた。

 

 

 

 

無駄になったパルプンテを頭から追いやり、私は拳を握って構えた。

こうなれば塵殺覚悟のステゴロ戦法でいくしかあるまい。

 

「おい! 魔法失敗したぞ、どうすんだ!? 素手で戦おうと言わんばかりに構えてるぞ!」

「失敗じゃねえ! 先生が失敗したら他人を巻き込んだ自爆を起こすんだよ!! だから山びこは当たりなんだよ!!」

「んなもん知るかあぁぁ!!」

 

少女の気持ちいいくらいに響いたツッコミを聞き届け、私は魔力を無駄にした分を素手で補うことにした。

相手は村人とはいえ、こちらの主張も聞かずに武器を構えたのだ、多少は痛い目を見せても問題はあるまい。ただ、普通に戦えば間違いなく村人は死ぬため、狙うなら足か腕だろう。

 

四肢を砕いてやれば不殺の状態で制圧は完了する。もちろん、私に一般人をいたぶって悦に浸る趣味は無いが、できないわけじゃない。

たとえ相手が子供だろうが幼女だろうが老人だろうが、悪意を以て害をなすなら私は差別せず相応の対応で当たらせてもらう。

 

武器を持った村人全員の手足を砕くことに決めた私が一歩を踏み出す前に背後から私の腕を掴んで静止させた少女がいた。

 

「早まるな!! 今はとにかく逃げるぞ!!」

 

私としては逃げる理由は無いが、ここでエリックたちのことを失念していたことに気付いた。

彼らは確かに魔法を習い、そこらの同年代とは比べ物にならないほど強くなっている。この少女もまた、力強い力を感じさせる。今のエリックたちと同等、もしくはそれ以上かもしれない。

 

ただ、彼らはまだまだ子供だ。旅の最中にモンスターや私を相手に鍛えてきたが、同じ人間相手、しかもあまり傷つけずに戦うのは心情的にも技術的にも無理だろう。

万が一、私が取り逃がしたりする可能性も無いとは言えない。

 

 

少女の静止で落ち着けた私は彼女の頭を撫でて構えを解く。

 

「な、なんだよ! 馴れ馴れしくすんな! そんなのはいいから逃げるぞ! こっちだ!」

 

本人は力強く否定したため撫でるのを止めてすぐに行動へ移す。

逃げる場所は知らないが、彼女には心当たりがあるのだろう。少女は私たちに先行して付いてくるよう促した。

 

私が彼女に付いて行くと、エリックたちも芋づるみたいに一列に並んで付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

しばらく村から離れた場所の小山に家があった。

家は朽ち果てたようにボロボロではあるが、中から二人いる気配がする。そうなると、あの家は間違いなくこの少女の家でもあるのだろう。

 

「普通に走ってきたけど、誰も追いかけてこなかったな」

「あんな複雑な裏道を縫うように逃げ回ったんだから振り切ったと思うけど」

「単純に先生にビビっただけかもしれないゾ」

 

マクベスたちの談笑を聞きながら少女を先頭に家へ目指していく。

ここまで村と隔絶された場所に住むのは色々と不便そうだ、と思っていると少女は歩きながら私たちに顔だけ向けた。

 

「悪かったよ。あんたら巻き込んで」

 

申し訳なさそうに謝罪してきた。どうやら彼女は私たちのことを気にしているようだ。

偶々出会っただけで一緒に村から逃げる羽目になったことを悔やんでいるようではあるが、それは間違いである。

 

あれは私たちが勝手に手を出した結果だ。それを他人に心配される覚えはない。

あの状態であれば彼女を見捨てることもできたし、勢いに乗って彼女と敵対することもできた。

 

だが、私たちはあえて彼女と逃げる選択を選んだ。ただそれだけのことだ。

 

「『たち』って、先生が勝手に首突っ込んだだけなんだが」

「てか、ノリノリだったな」

「反対する暇もなかった、デスネ!」

 

ソーヤーを含めた全員のジト目に反省を示すと、少女はさっきまでの表情とは裏腹にプっと噴き出して笑った。

 

「何だよ、変な奴らだな」

 

そこに侮蔑や嫌味のような感情はなく、嬉しさに似た気分の高鳴りを感じた。

元気になったのは何よりだ。さらに言うなら、このまま一夜だけでいいから家屋でもなんでも使わせて泊めて欲しいと交渉してみるが、如何なものか。

 

「馬鹿正直すぎだろ……それは別にいいよ。何だかんだで助けられたのは事実だし」

 

やはり言ってみるものだ。私たちは本日の雨風凌げる宿にありつけることとなった。

日頃の行いが帰って来たのだとパルプンテ神に祈りを捧げる。

エリックたちも皆喜ぶ姿に少女は苦笑する。

 

 

「そういえば助けられたし、一晩過ごすなら名前くらい知っておいた方がいいよな? 私はミラジェーン・ストラウスだ。兄弟いるからストラウスじゃなくてミラでいいからな」

 

少女が名前を明かした時には既に家のドアに手をかけていた。

このままこちらも自己紹介するのが筋だが、それはまた家に上げてもらってからにしよう。

 

最初に追われていたころとは別人のように笑いかけ、私たちはその家に招かれた。




今までのパルプンテによって出た技など

・メラ系
・ヒャド系
・バイキルト等の補助魔法
・マヌーサ等の妨害魔法
・いてつくはどう、くろいきり等のステータス初期化
・ベホマ、ベホマズン、ザオリク等の回復魔法
・ドラゴラム
・メガンテ
・マダンテ
・etc……

別作品枠
・メテオ
・アルテマ
・はかいこうせん
・だいばくはつ
・じばく
・ゆびをふる
・召喚(次話にて追記)

特殊
・呪われた装備の出現(後話に追記)


その他色々、多岐に渡るため、全ての追記は不可能
未だ確認されていない効果、技などは未知数、これからも増える可能性は極大


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悪魔にはなり得ない

窓ガラスは割れ、雨漏りのせいか床にはいくつものシミができている。

木でできた机くらいしかなく、裕福とは言えない家に招かれて私、いや、私たちはある想いを抱いた。

 

感動

 

雨風をしのげる壁と屋根、砂利でゴツゴツしていない床は野宿を続けてきた私たちにとってまさに天国と言うべき場所である。

別にそこまで貧乏だったわけではないが、こうして旅を続けているとどうしても懐かしくなり、求めてしまうものだ。

 

本日も野宿を覚悟していただけに感動もひとしおである。

 

「やべえ、温かい!」

「夜なのに明るいな!」

「シャワーもあれば言うことないゾ!」

「お前ら、苦労してんだな」

 

久しぶりの文化的な生活を一夜おくれるだけでエリックたちのテンションは天を衝く勢いで上がる。そんな面子にミラは苦笑した。

 

そんな感じでゾロゾロと大人数で家に入ると、仄暗い暗闇から小さい影が二つ出てきた。

その正体は小さな子供であり、気の弱そうな男の子とおさげの女の子である。

髪の色がミラと同じことから姉弟であることは間違いない。

 

「ミラ姉……その人たち、誰……?」

「こら、それよりも言うことがあるだろ?」

「……おかえり」

「姉ちゃん、おかえり」

「あぁ、ただいま」

 

そう言って二人を抱きしめるミラの表情は今まで見せたのよりも優しく、慈愛に満ちていた。

弟と妹だろうか、二人もミラの抱擁に安心したようににっこり笑って受け入れている。

 

「うおおおぉぉん!! やはり兄弟とはいいものデスネ!!」

「ユキノ……」

 

リチャードとソラノは反応こそ違えど、胸に秘める想いは同じなのだろう。

二人の生い立ちは軽く聞いたから知っている。二人はともに弟、妹がおり、仲睦まじく暮らしていた。

 

しかし、そこへゼレフ教と名乗るイカれ信者が親を殺し、弟と妹とは別々に引き離されたという。

 

今までそんな素振りは見せなかったものの、ミラたちの姿に思い出してしまったのだろう。

ここはそっとしておこうと思い、私たちはしばらくその場に立ち尽くす。

しばらくその様子を眺めて日々荒んだ心を癒していると、私たちの存在に気付いたようで顔を紅くして妹たちを離した。

 

ここは貴女の家なのだから私たちに構わず続けてください。

 

「い、いつもの恒例行事だよ! 習慣って奴だ!」

「その割にはノリノリだったじゃねえか」

「うるせえシバくぞ!」

 

どうやら既にエリックとも打ち解けているようで何よりだ。

 

ただ、ミラの妹たちにとって私たちは初対面の赤の他人だ。姉が見知らぬ人物を家に連れ込んで来たとなれば戸惑いもするだろう。

私たちのことを思い出してオロオロする幼子たちの視線に合わさるよう屈んで挨拶をする。

 

挨拶は人間の大事な文化である。

 

だが、その挨拶に反して返って来たのは無言の圧力だった。

妹と弟が一糸乱れぬ動きで私たちとミラの間に入り込む。まるでミラから私たちを遠ざけるように。

 

「おいリサーナ、エルフマン!」

 

突然の行動にミラ自身も予想外だったのか妹たちを咎めるが、二人は涙に濡れる目の中に強い光を宿している。生半可な気持ちでないことは明らかだ。

震える小さな体に反して、声として響いた意志は大きく感じた。

 

「ミラ姉に手を出したら許さないから!」

「お、男として姉ちゃんを護るんだ!」

「お前ら……」

 

もちろん、これが誤解ということは私たちは知っているが、ミラだけは怒るに怒れないといった感じだ。

彼女の中では妹たちを護ろうとする気持ちが大きかったのだろう、いざ逆の立場になるとどうしていいか分からない反面、嬉しさの方が大きくなるに決まっている。

 

かと言ってこのままではいけないと分かっているからこそ悩んでいるのだろう。

 

この状況をどう乗り切ろうか悩んでいた時、ソラノが急に声を上げた。

 

 

「大丈夫だゾ! 私たちはお前たちの姉ちゃんの友達だから苛めたりしないゾ」

 

健気にミラを庇うリサーナとエルフマンとやらの頭を撫でると撫でられた本人は目を丸くした。

そんな様子にソラノは笑って二人の視線に合わさるよう屈んだ。

 

「えっと、そっちがエルフマンで、リサーナでよかったっけ?」

「う、うん……」

「えと……」

 

私たちでさえも見たことがないくらいにフランクなソラノに対して私たちの方が驚かされた。

初対面であるはずのリサーナたちでさえも少し圧されているが、ソラノはスキンシップを続けた。

 

「あぁもう小さくて可愛いゾ! 素直な所もポイント高いゾ!」

「あうううぅぅ……」

「え、え?」

 

遂には抱きしめ始めたのに対し、そろそろ止めるべきだろうかとソラノに声をかけようとした時、彼女は振り向きざまに私に視線を送ってきた。

 

(合わせるんだゾ)

 

まるでそう言ったように感じたが、ここでようやくソラノの意図に気付いた。

彼女には妹がいたこともあり、小さい子の扱い方を心得ているのだろう。彼女は私たちのためにこの場を温めてくれたということだ。

 

ならば、私たちとてその心遣いを無碍にするわけにはいかない。

 

先に私が頭を下げて自己紹介し、ミラを追ってきた敵でないことを懇切丁寧に説明する。

その流れにようやくエリックたちも気づいたのか同じように自己紹介をしていく。こういう時、エリックの『声』を聞く魔法があればいいのだが、まだ未完成なため使えない。

 

無いものねだりをしながらも全員の自己紹介が終わったころには既に二人も完全とは言わないが、緊張は解けていた。

 

「ミラ姉、この人たちはお友達ってホント?」

「あ、あぁ……そうだよ。この人たちは私たちを襲ったりしねえからな」

 

ソラノが解放し、ミラが妹たちを撫でる。

その横を通り過ぎて私たちの元へ戻るとき、ミラの耳元で小さく言った。

 

 

「あまり妹を不安にさせるんじゃないゾ」

「……分かってるよ」

 

短く言っただけだが、ミラに届き、私も意図的でないにしろ聞こえた。

やはり自分の妹と重ね合わせているのだろう……後で何か言ってみよう。

 

 

少し妙なことが起こったが、その後は普通に挨拶したり家の中をあらかた案内してもらったりと比較的平和に過ごすうちに徐々にではあるが、リサーナたちも警戒を解いていった。

 

 

 

 

 

「へー! エリックたちは魔導士なんだ!」

「つっても、まだまだ見習い中の見習いだけどな」

「じゃ、じゃあ何か魔法使える!?」

「簡単にはね。ただ、人に見せられるようなものじゃないけど」

 

それほど時間もかからないうちにリサーナとエルフマンはリビングでエリックたちと和気あいあいとしていた。

平和な光景を背に私はミラと共に夕食の準備をしている。

 

普段はソラノに任せているけど、これでも一人旅の時は自炊もしたものだ。

 

「ほい、これはこの皿で、これはそこな。終わったらテーブルを拭いて置いてってくれ」

 

というもの、本格的なミラの調理技術には敵わず、盛り付け係になってしまった。

邪魔なのではないかと思ったが、あまりそういうのはないらしい。

 

「いや~、一人でも手が多いと楽なもんだな」

 

あまり手伝えたような覚えはないが、本人が嬉しそうなので何も言わないでおく。

 

 

ただ、気になるのは調理中でも絶対に腕を見せないことだ。

そこから溢れている特殊な魔力と関係があるのだろう。

 

私がミラの腕を見ていると、その視線に気づいて咄嗟に腕を隠すようにした。

 

「あ~、これ、やっぱり気になるのか?」

 

気にはなったが、気に障ったということはないので別に問題はない。

 

ただ、悪魔の力を取り込む接収(テイクオーバー)はレアだなと思っていただけだ。

何気なく言うとミラはギョっとした様子で私を見る目を丸くした。

 

「おま、気付いてたのか……」

 

わりと最初から気付いていたが、本人がコンプレックスに思えたから黙っていた。

おおよそ、その腕だけが悪魔の者となったから村人から追われていたのだろう。

あまり魔法の知識がない者は理解が足りず、時に暴走するものだ。

 

そう伝えると、ミラは観念したような乾いた笑みを浮かべる。

 

「レア……か。私は、こんな力なんかいらねえってのにな……」

 

腕を包んでいた布を床に落とすと、そこには禍々しい悪魔の腕があった。

黒い鱗と鋭い爪が特徴的な腕を自嘲気味に見つめる。そこからは彼女の苦労が何となく感じられた。

 

なんでも、村の教会に悪魔が現れ、村人たちが困っているのを見かねて悪魔を退治したらしい。

しかし、ミラの体質が幸か不幸か悪魔に反応し、その魂を取り込んでしまった。

もちろん、魔法が暴走するということはないらしいが、ミラに魔法を教えられるものがいるわけがなく、魔法を制御できず悪魔の腕のまま元に戻らなかった。

 

結果、変わり果てた腕によって村人たちから迫害を受け、今に至るという。

 

 

「あんたはこの腕をどう思う? 同じ魔導士からしてこの腕って普通か?」

 

正直に言えば普通ではない。悪魔は普通のモンスターと違って種族的に強く、賢い。

そんな種族をテイクできること自体はとても貴重だ。

 

ただ、一般人はそう思わないだろう。いつどこで爆発するか分からない爆弾とみているのかもしれない。

 

「……あんたはどう思う? やっぱ、気持ち悪いか?」

 

不意に漏らしたであろう言葉に私は首を傾げる。

 

何故私がミラに怯える必要があるのかと

 

「え、いや、でもこんな腕……」

 

それは魔法の知識や経験が足りていない故の疾患なのだ。それは致し方ないという訳だ。

それだけで人を遠ざけるようなら魔法に関わっていないと私は思う。

 

「でも、悪魔だぞ? 普通のモンスターはともかく、邪悪な悪魔を私が……っ!!」

 

私はそうは思わない。

 

ミラは今まで見てきた人間の中で情に厚く、慈しみが深い方だと言える。

本当の悪魔なら私たちを暖かい家に招き入れたり、こんなに苦悩しているはずはないと思う。

 

魔法は所詮、人それぞれが持っている特殊能力に過ぎない。

その能力を使う人間如何によって本当に悪魔となるのか、人間でいられるかが決まるのだ。

その人の魔法だけが全てだとは私は思わない。

 

「そんな、そんなの呪われたことが無いから言えるんだ!! こんな惨めな気持ちが、あんたに分かるのかよ!?」

 

呪いでそんなに苦しんだことの無い私ではミラの気持ちを完全には理解してあげられない。

でも、ミラを人間だと思うのは私の自由だ。私の気持ちを勝手に代弁するのは私の尊厳を踏みにじることと同義。これだけは譲れない。

 

私の言葉に言葉を失ったミラに畳かける。

 

 

 

―――そんな魔法では君という存在を貶める理由にはなり得ない

 

 

そうとだけ言うと、ミラは呆然とした状態で目から大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。

本人は頬を伝う温かい涙に気付き、動揺していた。

 

「あれ? なんで……今更こんなことで……」

 

拭っても拭っても止まることない涙を流す彼女の背中を擦る。

無骨な私ではこういう時の対処法が思いつかないのだ。こんな時の不器用さが憎らしい。

 

でも、出るものは仕方ない。私はそれを笑わないし、それが普通だ。

 

 

 

悪魔は涙を流さない、君は私が見てきた中でどうしようもないほど、人間らしい人間だ。

 

 

 

そうとだけ言うと、彼女は私の腕を掴んで顔に押し付けた。

ジワっと腕が濡れる感触を感じたが、それを指摘するのは野暮というものだろう。

 

「なんだよ……なんなんだよぉ……」

 

こればかりはどうしようもない。

小刻みに震えるミラが元に戻るまで、エリックたちには悪いが食事はお預けになるだろう

 

それでも、エリックたちなら何となく許してくれる気がした。




ここでは『エンジェルちゃんマジエンジェル』を目指してキャラを変えています。


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地獄の沙汰は君次第

長女だったということもあり、今まで腹にため込んでいたのだろう。

一通り吐き出したのか、私の腕から離れ、涙を拭った。

 

「あーあ……人前で泣いたのなんていつぶりだろうなぁ……」

 

恥ずかしそうに頬を紅く染めながらも、どこか吹っ切れた印象を覚えた。

口では自虐しているが、間違いなくいい影響だったと言えるだろう。

 

エリックたちにはバレない程度のわずかな時間だけど、彼女の中の何かが解決したのだろう。

意図したわけではないが、結果は良好だと言えよう。

 

「あんたって、色々と変な奴だな……今日会ったばかりだってのに人の事情にズケズケと入り込んで、挙句に泣かされるなんてよ……でも、何かスッキリした」

 

あまりため込みすぎるのもよくないということだ。

ミラとてここでは長女には変わりないが、私からしたらまだまだお子様だ。

 

やはり、そういう顔が似合うな。

 

そうとだけ言うとミラは頬を赤く染めたまま口を尖らせる。

 

「何でそんな恥ずかしいことをポンポン言えるんだよ……でも、あんたがそんなんだから私も少しはこの魔法とも向き合っていこうって思えた……ような気がする」

 

今はそんなものでいいだろう。最初から肩ひじ張り過ぎて燃え尽きるよりはましだ。

明確な目標云々はまた後で探せばいいだろう。

幸いにもこちらには知識だけ豊富なのがいるから、それに師事を受けたり勉強してもらったりしてもらえばいい。

 

そう言いながらカバンを持ってきて、その中から今まで隠していたクロドアの杖を取り出す。

 

「うわっ、なんだよその悪趣味なものは」

 

もはや様式美となっている杖への芳しくない感想を聞いたところで早速ミラのことについて聞いてみる。

 

だが、杖は物言わぬ置物のようにうんともすんとも言わない。

再度呼び掛けても反応は同じだった。

 

「おいおい、そんな杖になに話しかけてんだ?」

 

ミラが私を可哀そうなものを見る目を向けてくる。

 

別に今はそんなに杖を出す必要性は無かったと言えるが、このまま私が変人に見られるのは望むことではない。

 

 

 

話は変わるが、今日はよく冷えると思う。

 

「え? まぁ、季節が季節だけにそうだけど……なぜ急に話を変えた?」

 

ただ私がこの寒さを何とかしたいと思ったからに過ぎない。

キッチンからでも見える暖炉を目にして閃いたのだ。

 

あの暖炉に火をつけたいと言うとミラは困惑しながらこれを了承した。

 

「でも、今はそんなに薪もないから燃やすものなんてないぞ?」

 

それは問題ない。なにせ、よく燃える薪は今まさに私の手の中にあるのだから。

 

「ひっ」

「? 今何か声がしたか?」

 

ここにいるのは私とミラだけだ。その他に声を発する者はいないのだから気のせいに決まっている。

 

私はこう見えても潔癖な性格でね、ゴミをため込まないように使えなくなったものは即座に供養することとしている。

ましてや持ち主の意にそぐわないことを引き起こす物品など不良品ですらない。

そのような物を手元に残すのは無駄であり、時として命を脅かす脅威にもなり得るのだ。

 

「お、おう……なんか、目が怖いぞ」

 

ミラの言葉に同意するように手に握っている杖も心なしか震えているが、気のせいだろう。この杖は何もしゃべらないのだから。

このままでは大きすぎるから小さくしたほうがいい。

 

私は杖をまな板の上に乗せて包丁を研いだ。

 

「ひいいいぃぃぃすいませんでしたぁ! もうこのようなことしないのでお慈悲をぉぉ!」

「は、喋った!?」

 

遂に観念したであろう杖がまな板から飛びのいて懇願し。杖が喋ったことに驚きを隠せないミラ。

そうやって謝るくらいなら最初からやらなければいいのだ。

 

ほんの少し脅かし過ぎたかと反省する。ナイスジョーク。

 

「嘘だ!? あれは、あの目は完全に殺る気だった! 混じりけの無い、殺人を犯す目だった……っ!!」

 

私は理由もなしにそんな愚行を犯す人間ではない。

こちらが挑まれたりでもしたら話は別だが。

 

「もうやだこのご主人……これでも由緒正しき魔道具なのに只のパーティーグッズぐらいにしか見ていない……これでも人間に恐怖と絶望を与えてきたはずなのに……」

「……なんかよく分からねえけど、苦労してんだな」

「……うん」

 

そうは言われても、私からすればクロドアの使い道など限られているのだ。杖に魔力を込めれば闇属性の魔法を放てるのだが、如何せん出力があまりにも弱い。

私としては魔力を込めて砲撃を撃つか爆発させるような物が私に向いている。

 

一度だけ一気に魔力をクロドアに注入したら注入過多とかで髑髏部分がパーンってなるところだった。使い道としては私の希望通りだったが、一度限りの使い道しかないため泣く泣くこの案を放棄した。

 

エリックたちも誰も使わないのと魔法に関する知識が豊富なため、今ではただの解説役になっている。

 

「っと、話し込んでたら料理もできたし、そろそろ食べるか」

 

ミラの言葉に頷き、いまだに打ちひしがれているクロドアを握って私たちはリビングへ料理を運んでいく。

 

 

 

 

 

 

エリックたちを含めた大所帯でリビングのテーブルに座り、皆で料理を突き合う。

私たちが元々持っていた食料も全て調理してもらったため、量をカバーすることはできた。

皆も不満を見せていないことに少し安心し、料理に舌鼓を打つ。

 

クロドアは食事不要のため、一人寂しく別の場所で待機している。まるでペットのような扱いだ。

 

「なんか、こんなに客が来たのって初めてだよな」

「楽しいねミラ姉!!」

「あぁ、そうだな」

 

人見知りなエルフマンは頷くだけではあったが、リサーナと同意という意味らしい。

 

リサーナに同意して微笑むミラに変わったことが一つあった。

それは、今まで隠していた悪魔の腕を見せていること。

ストラウス家の迫害の元凶とも言えるものを隠すことなく見せたことだ。

 

 

ミラが初めて弱音を吐き、彼女の中で何かが変わったことに深く関わっている。

彼女は思いの丈を全てとは言えないが、それでも腹にたまったものを吐き出したことで自分の魔法と向き合った。

 

まだ折り合いを付けたとは言わないが、それでも一歩前進したことには違いない。

同じ魔導士ということでエリックたちに思い切って打ち明けた所、反応は身構えていたミラの思惑とは全く違った。

 

 

「オレも似たようなもんだから気にはしねえよ」

「エリックの腕もそんな感じになるから見慣れているゾ」

「それよりも凄い魔法を知っているから問題ありません!」

「そんなのより悪魔じみた人は知ってる。例えばそこで飯食ってる先生とか」

「人の皮被ったナニかだと思う。流石に比較すると悪魔に失礼だから」

 

 

後半は好き勝手言ってくれたため、ソーヤーとマクベスには後で『たね』をふんだんに使ったスムージーを飽きるまで飲ませてやろうと決意する。

 

 

そんな一幕があったため、ミラも隠す必要なしと悪魔の腕を皆に見せている。

その時の本人はもちろん、リサーナとエルフマンの方が本人以上に嬉しそうだった。姉の苦悩を一番近くで見てきたのだから喜びもひとしおなのだろう。

 

そんなこんなで私たちはまるで幾年の友人のようにストラウス姉弟に馴染み、夕食を共にした。

料理を全て平らげた時を見計らってかリサーナが私たちに魔法について聞いてきた。

 

「エリックたちってどんな魔法が使えるの!?」

 

純粋無垢な眼差しがリサーナとエルフマンから突き刺さる。

それを受けてエリックたちも満更ではないといった感じで魔法についての質問に答えていく。

 

まだ魔法についての知識が浅いエリックたちは身構えていたものの、その大半は魔法についての知識というよりも魔法を使ったときはどんななのか、何故魔法を使うことになったのかなどの感想を求められた。

 

魔法についての興味が尽きないのかマシンガンのように質問の嵐をぶつけていき、エリックたちを困惑させた。

その様子を微笑ましく見ていたのだが、自分にのみ質問が来ないということはありえなかった。

 

エリックに続いて解説役のクロドアも含めて自身の魔法を教える番が私に回ってきた。

 

「皆から聞いたんだけど、不思議な魔法を使うんだって!?」

「見てみたいな!」

 

年少組の期待の眼差しを受けているところ悪いが、私の魔法はリスクが非常に高いのでおいそれと唱えない方がいいだろう。

下手したら私たちだけでなく麓の村にまで被害が及ぶのだから。

 

そう伝えるとリサーナたちは残念そうにしながらも納得し、エリックたちはなぜか安堵の息を漏らしていた。

だが、ミラだけは怪訝そうな視線を向けてくる。

 

「大層なこと言ってるけど、本当に魔法なんて使えるのか? たしか、パルプンテ、だっけ?」

 

一度だけパルプンテを唱え、山びことなった結果を思っているのだろう。初見ではまともな魔法ではない、もしくは魔法の失敗だと見ているらしい。

結果だけ言えばどちらとも正解ではあるが、パルプンテとしては被害が出ないだけ当たりなのだから答えに困る。

 

自分でも望んだ効果になるようコントロールもできず、その場の運任せで使う魔法というものはやはり異質なものだと実感できた。

 

「異質って言うか、もうマトモじゃねえじゃん。ほぼギャンブルで決まるって使い勝手悪すぎるだろ」

「どんなことができるの?」

 

本当に色々だ。長い間、この魔法と過ごしてきた私でもこの魔法の上限というものは把握しきれていない。

相手の魔力を空にしたり自分と相手の体力を完全回復させたり、時にはどこかで何かが壊れたり山びことなったり……大体は自爆する。

 

「聞けば聞くほど碌でもないな!?」

「本当に何を考えてこの魔法を作ったのか……消費魔力もバカにならないわ、特定の属性を持たせないわ任意のコントロールもできない魔法なんて手の込んだ自殺にしか思えんというのに」

「それでもその魔法と折り合いをつけている先生の方がおかしいって思うのはオレだけか?」

「安心しろ。オレもだ」

 

リサーナへの返しに何故か私への攻撃が始まった。

 

正直に私が“パルプンテ神”という謎の存在に憑りつかれてパルプンテしか使えなくなった、などと言っても誰も信用しないだろう。

 

それでも言われっぱなしは腑に落ちないため、私は自然に口ずさむようにパルプンテを唱えた。

 

 

「「「うおおおおぉぉぉぉ!?」」」

 

その瞬間、ストラウス姉弟を除くエリックたちは奇声を上げて各々散り散りに私から離れた。

一糸乱れぬ行動で息の合った様子は美しいと言っても過言ではなかった。

 

「え!? 何だ、何かあったか!?」

 

突然の行動にミラたちは困惑し、家具の陰に隠れたエリックたちに動揺する。

 

しかし、それに反して当の私は静かだ。パルプンテには基本的に不発ということはなく、どんな結果にせよその通りの結果と納得するしかないのだ。

現に、何も起こらなくても私の魔力が持っていかれたのだから魔法の発現という点では成功したと言うべきだ。

 

「おい! だから言ってるだろ!! そんなお手軽感覚で魔法使うなって!」

「前にもそうやって食事中にも関わらず唱えてオレたちもろとも自爆したこともあっただろ!?」

「この前も寝言で唱えてモンスターを呼び寄せたのも知ってるんだゾ!」

 

不発と分かったエリックたちはまるで今までの鬱憤を吐き出すように怒りを露にする。

その反応にミラは苦笑を浮かべるも、まだ衝動的に命の危険に晒されたことを理解していないのだろう。

 

「というより、そんな魔法がまともに使えたことなんてあったのか? 聞く限りだとほとんど被害があんたに向かっているようだけど」

 

こういうのは気の持ちようだ。使っていれば分かるが、何もデメリットだけでなく思わぬ恩恵も得られるのだから、そう悪いものではない。

完全に信用できるかは分からないが、それでも私にとっては唯一無二の魔法なのだから愛着の一つも湧くのだ。

 

それに、何も毎回毎回自爆したりしているわけではない。

 

 

明確な敵であればパルプンテの真価はいかんなく発揮され、ステータスがとんでもないことになる。

というよりも追い詰めるという点では今よりもえげつなくなるのだ。

 

「明確な敵って、どんなだよ?」

 

 

言うなれば

 

 

 

 

 

自分を差し置いて他の神を信じる邪教集団とか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラの家から離れた場所にある村。

村の特産や名産といったものはなく、半ば王国から忘れられたような小さな村は間もなく地図から姿を消すだろう。

 

収入の見込めない村からは税の取り立てがままならず、衰退して国によって別の村に併合されることはもはや目に見えているといった所まで困窮している。

この村の住民の多くが生まれた時から村に住み、この地を追い出されることに恐怖を抱いている。

 

彼らはこの地以外の場所での生き方を知らない。

 

金だ。莫大な金がいる。

 

 

彼らは夜な夜な集まっては金の工面について話し合ってきた。

来る日も来る日も話し合っては試行錯誤し、試しては結果を残せなかった。

 

 

実のならない現実に村人たちの心は擦り切れ、荒んでいくのにそう時間はかからなかった。

 

 

村人は国を憎んだ。

 

なぜこんな目に合うのか、なぜこんな仕打ちをするのかと。

 

 

しかし、この村は以前に国からの補助を断った経歴がある。

この村も今では廃村寸前となっているが、以前はその土地特有の豊かな土壌を活かした農作物が有名であった。

村人たちはその豊かな自然を利用して農作物を量産し、その富を荒稼ぎしてきた。

 

しかし、大地の恵みの正体はその土地に渦巻く特殊な魔力であることを突き止めていた王国は魔力の枯渇を見越し、あえて村人たちにその土地の買取を申し出ていた。

有限の利益に憑りつかれないようにしながらも、その魔力の保持を図ろうとした王国なりの善意だった。

 

 

 

しかし、目先の利益に目が眩んだ村人たちは王国からの申し出を拒否。正当性の伴なった理由をいくら話しても王国が嘘をついているの一点張りだった。

欲望に囚われた村人たちの説得が困難だと判断した王国は数多の交渉の結果、村人の定住を認めた。

 

 

それから村が衰退するのに時間はかからなかった。

 

後先考えずに作物を作り続け、魔力を枯渇させた村の収入は消え、富は一瞬にして消えた。

そんな過去がありながら、村人は国を恨む。これらの悲劇は自分たちの決断で引き起こした自業自得だということを認めずに。

 

 

そして、村人は全盛期の羽振りを忘れられず、外法に手を出した。

 

 

 

「お待ちしておりました」

 

男性が黒いローブに身を包んだ人物を朽ちた村に招き入れる。

ローブの人物は全村人が集まった屋敷の中で上座に座ると、そのフードを脱ぐ。

 

下の顔は眼鏡をかけた優男であっただけに、私怨に顔を歪ませた村人たちとは違う不気味さを漂わせていた。

その男は丁寧な口調で歓迎してくれた村人たちに一礼

 

「そう固くなさらずに、楽にしてください」

 

透き通るような声であるが、第一印象は鼻に付くと言った感じだ。

丁寧に装いながら、心の中では他人を下に見ているといった感情が少なからず表れている。

 

それに気付かない村人は期待の眼差しを男に向け続けている。

 

「用件は既に聞き及んでいますので、この場は挨拶だけでいいでしょう」

「おぉ! それでは!?」

「はい。ターゲットである悪魔に憑りつかれた少女の捕獲は私にお任せを」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼレフ教司祭、スー・シードの華麗な悪魔退治をご覧あれ」




やめて! 彼らは力のないか弱い一般人なのよ!
お願い、罪のない人を殺さないで!
え? 彼らはミラちゃんを追い詰めて売ろうとした? それに魔法だから殺しはしないし、そもそも殺さない? 生きてても、惨めだと思うような傷だけですむ?
あ、はい
次回、「全員死す(嘘)」。デュエルスタンバイ!


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真夜中の悪夢

今朝は私の確認不足なことがあり、急遽として削除したこと大変申し訳ありませんでした。
この度は作品についてご指摘下さり、ありがとうございました。

またこのようなことが無いようにしますが、今後ともこのような指摘があればこれからもよろしくお願いいたします。

内容の方はあまり変わっておりません。


「エリック、家事の時は腕を元に戻す! 皿に傷がつくゾ!」

「わ、わりぃ……」

「ソーヤーは不完全な魔法を使うな! 埃が舞って煙ったいゾ!」

「いや、でも早く終わらそうと……」

「リチャードは寝ているマクベスを起こすんだゾ!! 先生のたね入りスムージーを食道に突っ込めば一発だゾ!」

「分かりました!」

「先生は余計な事せずにそのまま続けてて! 余計なことはせず!」

 

賑やかな晩餐も終え、エリックたちを交えて後片付けをしている。一宿一飯の礼ということでエリックたちも乗っかったものの、今まで家事をソラノに一任してきた弊害か、真面目で堅実なリチャード以外は全く戦力になっていなかった。

 

家事に関してのソラノは無敵であり、エリックたちも豹変したソラノには一切逆らえない。

大方、ストラウス家の方が家事が手慣れており、兄弟特有の阿吽の呼吸で順調に家の荷造りが進んでいく。それに対して夕食の片づけだけに手こずっていることにソラノの家事を任されている使命感が対抗意識を燃やし、熱が入っているのだ。

 

巻き込まれている私たちに被害が及んでいるが、偶にはこういうのもいいだろう。色んな経験をさせるのはエリックたちにとってもいい刺激である。

地獄の深淵から蜘蛛の糸を求めるような亡者と間違えるくらいの絶叫を上げて暴れるマクベスとそれを押さえつけてスムージーを喉奥に突っ込んでいるリチャードの攻防を目にしながらしみじみ思う。

 

ストラウス組は若干引いているが、今後は一緒に旅をするのだからこの光景には直に慣れるだろう。

 

 

ここまで言えば分かるが、ストラウスは私たちと共に旅をすることとなった。

明日の早朝から出て行くため、立つ鳥跡を濁さず……家の掃除もしている。

 

 

きっかけとなったのは言うまでもなく、私達との邂逅だ。

元々から魔法に興味があったらしく、私たちの話を聞いたことで尻込みしていた決意に火が点いたのだとか。

もちろん、私たちにはそれを拒む理由がなかったため、それを承諾。ついでに言えば目的地も定まったことも大きな要因と言える。

 

 

なんでも、比較的近い場所に大きい規模の魔導士ギルドなるものがあるのだとか。

一般人からの依頼を引き受け、それで収入を得るこの仕事は魔法に関わるミラたちにとっても立ち寄って損はないということだ。

かくいう私も元の時代にはなかったギルドに興味が湧いたため、即決で決まった。

ここから比較的近いのは『FAIRY TAIL』というギルドだとか。

 

クロドア曰く、過酷な任務が多く、死人も珍しくない使い潰しや摩耗の激しいギルドの魔導士は重宝され、戸籍まで与えてくれるとのこと。

ギルドといっても魔法だけでなくトレジャーハンターや武闘家などのカテゴリーも存在するが、魔法が重要視される世の中では魔導士の方が地位的にも安定するのだという。

 

心情的には複雑だが、ミラたちにとって力を思いっきり発揮できるには違いない。

子供を死地に追いやる気もするが、そこはギルドに着いてから考えようと思っている。

何だかんだで先生と慕う教え子に危険を課すのは抵抗があるのだ。

 

 

私は慌ただしい子供たちの目を盗み、外に出て願掛けの意味も込めて一言

 

 

パルプンテ

どこかで何かが壊れる音がした。

 

 

 

どうにも今日は不発が非常に多い。運勢的には普通な所だ。

 

「先生サボってないで家の掃除をするんだゾ! ミラたちに目にもの見せてやるんだゾ!」

 

外に出たことをソラノにばっちり見られた私は投げつけられた箒を掴んで家の中へと戻る。

今日は久々に充実した一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

麓の村は殺気立っていた。

鍬や斧を構えて村人たちは数本しかない松明に灯った火に照らされる。

その険しい表情から夜中の農作業に出かける訳ではないことは一目瞭然である。

 

各々の武器を握る手に汗が滲み、気持ち悪ささえ感じている。

そんな村人の前に設置された高台の上に立つのはゼレフ教の司祭と名乗る男……スー・シードは声高々に宣言する。村はずれに住む悪魔に憑りつかれた少女を退治すると。

まるで自分が正義だと言わんばかりに大手を振って。

 

(くくく……やはり無知な農民は御しやすい)

 

スーは人の好い笑顔の裏に想像を絶するほどの傲慢を隠していた。

自分の一挙一動で農民は活気を起こし、一言一句で己の思考を自ら塗りつぶしていくのだ。

国からの圧政、貧困による困窮によって弱った村人の心理状態を手玉に取り、己の駒へ仕立て上げる手際はプロなどという範疇に収まらない。

 

「流石は魔導士ですな! あなたさまがいれば百人力です!」

「悪魔め、目にものを見せてくれる!」

「今日が貴様らの最期だ!」

 

最初は相手が子供だと中途半端に躊躇っていた村人も今では正気を失ったかのようにミラジェーンに憎悪を掻き立てている。

中身のない、虚空の憎悪を吐き散らす村人とは対照にスーは心底面白そうといった表情を浮かべる。

 

自分の魔法は悪魔を対象に真価を発揮する魔法のため、本来なら人々を精神誘導させることはできない。

ただ、自分の魔法ではなく持ち味を活かしたまで。

 

先ほどまでミラジェーンに対する恐怖と罪悪感で心を占めていた村人たちは仮初の安寧として自分の甘言に飛びついた。

 

 

奴は悪魔だ、人間のふりして騙すのは悪魔の常套手段だ、ここで奴らを討ち取れば我らは英雄だ、などと思っても無い言葉に騙される馬鹿共

そんな滑稽な道化を見ることでスーの自尊心は満たされるのだから。

 

 

(悪魔憑きはゼレフ教の生贄として高く売れるだろう。後の兄妹は奴隷として売ってしまえば足も付かねえ。これだから小銭稼ぎは止められない)

 

スーはゼレフ教の司祭を名乗っているが、実際はゼレフ教に入っていない。もっといえば仲介役なのだ。

ゼレフ教の人間に生贄となる人間をゼレフ教に送るという条件で金をもらっている。

 

そのついでに生贄となる人間、もしくはその周囲の人間から今の仕事にありつくまで世話になった詐欺の腕前を存分に発揮して更に利益を得る。

 

 

 

崇高な使命感も人としての良心は持ち合わせていない。

 

彼は自分よりも弱い存在を食い物にしているだけの小悪党である。

 

 

「念のためですが、作戦の確認をいたしましょう。私がもう一度説明いたしましょうか?」

 

士気が上がっている狂気の武装集団に優しく問いかけると、村長が代表して作戦内容を口にする。

 

「まず、小屋が見えたら火を放って悪魔どもを外へおびき寄せる。その後、悪魔は魔導士さまが相手をして、我らは残った兄妹を……」

「はい。人質にしてください」

 

正気の沙汰とは言えない、人理に反した内容を満面の笑みで復唱する彼らは既に人間ではない。

種族的には人間ではあるが、既に良心はを捨てた彼らこそ本物の悪魔というべき存在だろう。

 

「最終確認も終わりましたので、そろそろ向かうとしましょう」

 

スーの進軍号令に村人が武器を掲げ、足並みそろえて歩き出す。

 

 

 

その瞬間、先頭にいたスーは見た。

 

 

「あれは?」

 

 

遠目で見た“それ”は二本足で立っていた。

 

だが、それ以上は遠すぎるせいかボヤけて見える。

 

「あそこにカカシか何かはおいてあるのですか?」

「いえ、昔はともかく今は全て撤去したと思いますが……」

 

その回答にスーは余計に気になってしまうが、警戒はしていなかった。

こうして見ていても生物らしい挙動はおろか関節一つも動いていない。

 

ただ、得体のしれない相手に戦いを挑むことへの愚かさは理解しているため、ここは回り道することを決める。

方針を決めて伝えようとした時、頭に冷たい何かが当たったのを感じた。

 

 

村人全員も気づいたようでスーの行動を辿るように上を見上げると、空からゴロゴロと音が鳴り響く。

 

「雨ですか……」

 

天気の悪さに舌打ちをし、夜道へ視線を戻した時だった。

 

 

 

―――ポリンッ

 

マヌケな音が響いたと思った瞬間、自分の視界がグリンと反転した。

 

 

「は……ひ……?」

 

何だ、そう言おうとしても上手く喋れない。それどころか反転した視界に引きずられるように足が地面から離れ、叩きつけられる。

この時、初めてスーは自分に何かしらの異変が起こったのだと自覚した。

 

 

(こ……れは……)

 

土が目の前にあるのを考えて、自分は倒れたのだろう。

スーの思考はそこまでが限界だった。

 

意識が薄れ、視界が暗くなっていく中で彼は気づいた。

 

 

 

さっきまで遠くに立っていた“何か”が遠くで自分を見つめていることに。

 

魔導士スー・シードは一切の魔法を使うことなく

 

 

後悔もなく

 

 

ただひっそりと首を歪な方向に曲げたまま意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

この時、村人は知らなかった。

 

 

今、この瞬間に彼らが向かった先で一人の男が魔法を使用していた。

本人は食事中に軽い気持ちで唱えただけであり、この世に恐るべきものを召喚してしまったことに気付いていない。

 

その姿を見た者を誰一人として逃さない。

 

 

人にして人ならざる悪魔たちに無慈悲の地獄を召喚せしめた。

 

 

 

 

「な、なんだよこれはああぁぁぁぁ!!」

「ひいいいぃぃぃ!!」

 

頼りにしていた魔導士の男が何の抵抗も許されずに倒れた。

 

最初は一瞬の出来事に上空を見上げていた村人は魔導士の凄惨な姿に悲鳴を上げた。

何が起こったかは分からない、ただ、魔導士が見えない“何か”にやられたという結果しか残らなかった。

 

パニックに陥った村人が警戒を強め、震える手で武器をがっちりと握る。

 

その中の一人が恐怖に耐えながら集中し、視界の中に“その姿”を収めた。

 

「人……?」

 

暗闇にある程度離れたとはいえ、遠く離れた木の陰からはみ出る人影をはっきり見ることはできなかった。かろうじて人間が仁王立ちしているかのような姿であると認識できるくらいだ。

 

 

目を凝らして人影を探っていたその男は

 

 

次の瞬間、首を歪な方向へ曲げてひとりでに倒れた。

 

「は?」

 

何が起こったか視認する間も与えられず、また一人犠牲者が出た。

 

訳が分からない、だが、その訳が分からない“何か”に現在進行形で襲われているという事実は村人たちに深い絶望を与えた。

 

「た、祟りだ……悪魔の祟りだあぁぁぁ!!」

「た、たしゅけ……死にたくな……」

 

姿の見えぬ敵に打つ手の無い村人たちはただその場に立ち尽くすことしかできない。

できるとすれば、次に自分が襲われるその時まで震えて待つことだけだった。

 

「はや、早く明かりを点けんか!」

 

村長は恐怖から恐怖に満ちた怒鳴り声をまき散らすが、それに耳を貸す村人は一人もいなかった。

誰もが目に見えぬ敵、いつ来るか分からない断罪の時に怯えて震えているだけなのだから。

 

「ゆ、許してくれええぇぇぇ! 俺は最初から子供たちを傷つけるのは反対だったんだ!!」

「ふざけんな! お前、俺よりも先に捕まえてやるとか息巻いてやがっただろ!」

「うるせえぇぇ! こんなところで死んでたまるか! 死ぬならてめえらだけにしろ!!」

「んだとこの野郎!!」

 

そして、恐怖は見えない敵を形あるものだと錯覚させ、仲間のはずである村人同士で仲間割れを起こさせる。

何かに怒りをまき散らさないと恐怖に心が負けてしまうことへの防衛手段なのだろう。

もっとも、心は踏みとどまっても現実では自分たちで足を引っ張り合っているだけだった。

 

元から自己中心的な村人が多かったのだから、仲間割れの影響は大きかった。

 

「この馬鹿者共!! 仲間割れを起こしている場合か!?」

「黙れ! あんたがこんなことしなければこんな目に遭うことはなかったんだよ!」

「もうやってらんねえ、こんな所にいられるか! 俺は先に村に帰らせてグギャアアアアアア!!」

「なっ!?」

 

一人が恐怖に耐えかねてきた道を戻ろうとした時、その体が斬り裂かれた。

紅い血をまき散らせて倒れる村人の前には暗闇の中から二つの目が妖しく光っていた。

 

「な、なぁ!?」

「あれは、モンスター!?」

雷のわずかな光の中から姿を現したのは狼のモンスターだった。

しかも、それは群れで行動するタイプであり、注意深く見れば狼の後方の闇の中から幾十もの目が照り輝いている。

 

ここで、初めて村人たちはモンスターの強襲を察知した。

 

「バカな!? モンスター除けの堤防はどうしたんだ!?」

「壁も突破されたのか!?」

 

人気の少ない山中に構えた村はモンスターの襲撃に備えていた。

モンスターの嫌う臭い、高い壁と堤防……様々な罠は今日まで破られることはなかった。

だからこそ、村人だけでなく、今度は村長までもがひどく狼狽した。

 

 

 

この時、彼らが向かっていた小屋の近くで気まぐれにパルプンテを唱えたものがいたことなど誰も知りようがない。

しかし、自覚も敵意も無い魔法が村の防衛ラインを破壊したことは揺ぎ無い事実だった。

 

進めば姿も見えぬ敵、戻ればモンスターの群れ

 

彼らは既に詰んでいた。

 

事実上の挟み撃ちにされ、モンスターの群れと謎の化物の餌食にされていく光景に村長の心は既に限界を迎えていた。

 

「ひ、ひやあああああああぁぁぁぁっぁ!」

 

村を束ねる長の威厳など投げ捨て、哀れと思わせる醜態を晒して地獄から逃げる。

 

何かが斬り裂かれる音、砕ける音、悲鳴と獣の唸り声

 

 

それら全てから逃げるように村長は走った。灯も付けず、雨に濡れて泥に塗れながら走った。

 

(いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだああぁぁぁぁぁ!!)

 

声にならぬ絶叫を発しながら走って、走って、走り抜いた。

永遠の闇と言える暗い夜道をただひたすらに。

 

 

走っている最中に露出した木の根に足を引っかけて転んだ。この時に足を怪我したのだが、先ほどの凄惨な地獄が頭の中で根を張り、何も考えられない。

だが、頭から余計な雑念は消えたことと、生きたいという本能が最大限に発揮した時、その異常に気が付いた。

 

 

 

後ろに何か  いる。

 

 

 

震えて歯を鳴らす。寒気も冷や汗も止まらない。

 

 

 

吐く息が白くなって口から出て行く。まるで自分の魂を少しずつ削られているのだと錯覚させられるような。

 

 

首が勝手に動く。

 

 

 

身体全体を震わせながら、村長は長い時間をかけて

 

 

 

 

 

振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けた

 

昨夜は雨が降ったようだが、朝になる前に上がっていたのは運がよかった。

雨が降った後は空気が澄んでいて、とても綺麗だった。

 

アクノロギアしか意識になかった頃はこんな感動も感じていなかったのだろう。

 

そう思うと、この時代に流れ着いたのは悪いことではなかったかもしれない。

 

 

肩に担げるだけの荷物を抱えて朝日を見ていると、家の中からミラたちを含めた子供たちが出てきた。

 

 

「こっちの準備は大丈夫だ。いつでもいけるぜ」

 

その言葉に頷きながら、私はミラたちを見た。

 

 

彼女たちはこれから未知の世界に足を踏み出す。

生まれた地を、家を離れて

 

 

もしかしたらこの村にいた時よりも辛く、険しい道になるかもしれない。

あらゆる困難に直面し、挫折するかもしれない。

 

 

 

それでも、私たちに着いてくるのか

 

「行くよ。もう決めたから」

 

強い目だ。リサーナたちも幼いながら強い目を持っている。

なればこそ、これ以上の確認は無粋であろう。

 

 

 

 

この日、私たちは新たな同行人を得て旅立った。

 

その同行人は生まれた地に何を想っているかは分からない。

 

 

それでも彼女たちは大丈夫だろう。

私にはない、強い光をその眼の中に持っているのだから。

 

 

 

 

私たちは朝焼けに照らされてできた虹を目指すかのように、小山を下りていった。

 

 

 

 

 

 

「アルカディオス隊長、もうすぐで目的の村に辿り着きます」

「分かった。このまま進軍を続行する」

「了解」

 

 

とある騎士の一団が山の中を行軍している。統率の取れた動きを一切乱すことなく、険しい山道を進む姿は軍隊そのものだった。

 

その一団の先頭を歩く人物……アルカディオスの考えることはたった一つ。

 

 

 

『困惑』だった。

 

 

(まさか私があのような声に耳を貸し、あまつさえ兵を動かそうとは……)

 

そこには後悔もあったが、それよりも自分らしからぬ行動をしたのだと自分で自分の行動に困惑していた。

その原因は、唐突に聞こえた『声』だった。

 

 

 

その声はまさしく、“天啓”のように舞い降りてきた。

アルカディオスはフィオーレ王国屈指の剣を目指し、常日頃から剣を鍛え、正義を貫いてきた。

腹芸も貴族相手に必要なのだと四苦八苦しながら身に付け、部下を鍛える毎日を送っていた。

 

 

そんな毎日に、突然、彼にしか聞こえなかった声が入り込んだ。

 

 

 

その内容は、ゼレフ教の悪事とそれに加担する村の情報だった。

 

 

 

どこからともなく聞こえた声に最初は警戒し、剣を抜いた。

だが、周りの人間は聞こえなかったらしく、アルカディオスが変人だと言わんばかりの視線を向けられたのはまだ記憶に新しい。

 

きのせいか、そう思っていたにもかかわらず自分だけにしか聞こえない声が止むことはなかった。

一日の間に何度か反芻して伝わる声に恐怖さえ感じていたが、聞いていくたびにそんなことはなくなっていった。

 

(それどころかあの声は私の心の中に染み込んでいった……それでいて鮮明に記憶に刻み付けるように強く、悪しき感情など感じさせないくらいに透き通った声で……)

 

今思えば、怪しいことこの上ない。

自分にしか聞こえず、しかも警戒心を無くす声など怪しいという以外に言葉が見つからなかった。

 

だが、その声に動いてしまったのは事実だ。

狂ったように荷造りを済ませ、渋る国王と身勝手な行動に激怒する大臣を精一杯説得して行軍の権利を勝ち取った。

 

部下の困惑も無視し、早く気持ちを抑えずにアルカディオスは天の声に従って目的地へ向かった。

時間が経つにつれて自分のしでかしたことに後悔し、心が折れそうになったのを今でも覚えている。後方に部下さえいなかったら苦悩のあまり雄たけびの一つも上げていたに違いない。

 

 

 

 

だが、そんな疑念は確信に変わった。

 

 

“声”に従って辿り着いた最初の目的地から大量の拉致された者が見つかったのだ。老若男女問わずに。

思いもしない発見に驚きながらも部下と共に衰弱した者たちを介抱し、保護した。

中には空腹、もしくは怪我の対処がされずに死んでいた者たちもいた。

 

 

信じられない気持ち、助けられなかった歯がゆい気持ち、そして助けられた気持ちに悩まされながらもアルカディオスは決心した。

 

 

 

この行軍を最後までやり遂げよう、と。

 

 

 

一部の部下に保護を任せ、残った人員で疑いの村へと向かう。

 

(蛇が出るか、鬼が出るか……)

 

 

もう間もなく村が見える、腰に掲げていた剣に手をかけて神経を研ぎ澄ませる。

部下たちも合図がなくともすでに戦う構えは完了していたことを気配で察知する。

 

未熟ながらも、頼りがいのある部下に背中を任せ、村へ続く道をしばらく歩いたとき、彼らは見た。

 

 

 

「なっ、んだと……っ!?」

 

 

 

そこには、死体のように倒れる村人が大量に転がっていた。

その中には村人と一緒に狼型のモンスターも地面に転がり、瀕死状態に陥っていた。

 

 

状況だけ見ても訳が分からない、だが、こんな奇妙で異様な光景に恐怖を感じ、胃の中から逆流する吐瀉物を堪えるので精いっぱいだった。

部下も同じくあまりの惨劇に気絶するものも出てきたが、アルカディオスはさらに不自然な部分に恐怖を覚えていた。

 

(なぜ、こいつらは首を折られているのに……誰も死んでいない!?)

 

 

最初に見て思ったのはそういう不自然さだった。

 

モンスターも村人も皆例外なく、首を歪な方向へ曲げて倒れているというのに、手足をばたつかせて苦しんでいる。

中には気管を塞がれて呼吸すらできない者もいたはずなのに、誰一人として命を落とさずに生き永らえているのだ。

 

あまりにも不自然な光景にしばらく呆然としていたが、自分の立ち尽くす醜態に気付いて自分の頬を叩く。

ヒリヒリと熱くなった頬とは対照的に精神は落ち着いていくのを感じた。

 

 

「すぐにこの者どもの素性を調べよ! 生きている者たちには応急手当を施し、後日に情報を聞き出す準備をせよ! モンスターはこのまま始末するのだ!」

「「「はっ!!」」」

 

隊長の一喝に正気を取り戻した部下たちはすぐに行動に移す。

 

テキパキと倒れたものを介抱し、モンスターに止めを刺していく。

アルカディオスはその間に心を整理しながら事の沙汰を待つ。

 

 

しばらく経ってから衝撃的な事実が判明した。

 

村人はまだ話せる状態ではないが、ゼレフ教との繋がりを証明する証拠を見つけた。

村人の中に魔導士が倒れていたのだが、その体の各所にゼレフ教信者を名乗る一派が彫ったとされる刺青が見つかった。

 

どういう経緯でゼレフ教信者と村人がつながっていたかはこれからの取り調べで明らかにする方針となった。

 

 

 

「そうなると、村の連中も怪しいものですね。如何なさいましょう」

「……すぐに村を包囲し、村人を連行しろ。逃げだす者がいたら力づくでも構わん」

「はっ!!」

 

まだまだ多くの謎は残っている。

 

この村で何が起こったのか、この村人たちは村から離れた理由、そして、モンスターを含めた全てを謎の状況まで追いつめた存在は何であるか。

 

 

 

 

(これから何かが起こるかという……予言なのか)

 

 

多く残されている不気味な謎も解けないでいるアルカディオスは天に向かって疑問を投げかける。まるで答えを知りたがる子供のように。

 

 

 

 

彼は祈る。

 

 

再び自分に届いてきた“山びこ”が返ってきてくれることを




モデルは某有名な都市伝説のスレンダーなお人です。

次回はようやくフェアリーテイルに到着します。


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妖精の尻尾と雷竜とのぶつかり稽古 前編

長らくお待たせして申し訳ございませんでした!

今まで仕事の多忙さと新しい家族(犬)の世話に奔走しておりました。
犬は可愛いのですが、パソコンをかじってバックスペースキーをオシャカにされ、怒り狂おうとしてもつぶらな瞳についつい許してしまった結果、投稿が遅れてしまいました!!

かなりやりにくいですが、引き続き頑張ろうと思います!
今年中に2、3話は更新したいと思いますが、難しいだろうなぁ……


ミラたちが同行してから数日が経った。

最初の頃と比べて大所帯となってしまったため、当然ながら賑やかだった。

 

そして一番大きかったのはミラが来たことでエリックたちの修行にも火が点いたということだ。

元々から負けん気が強く、生身で悪魔を倒した実力を持っていたということもあり、エリックたちに肉薄するほどの実力を持っていた。

それに加えて悪魔の力を宿しているため、ミラの実力はエリックたちと比べて抜きんでていると言ってもいい。

 

偶に悪魔の力が暴走することもあるのだが、その度に私が物理的に治めているため大事には至っていない。

 

そういうこともあり、ミラも私がいるときには悪魔の力を使っても安全だと安堵していたが、それと同時に遠い目になっていたのはなぜだろうか。

 

なんだかんだでミラも悪魔の力に否定的な考えが薄れてきたため、ある程度のコントロールが利くようになっていた。

既に悪魔の腕は自由に人間のものへ戻すことができる。

 

そして、魔法の上達はミラだけでなくエリックたちも同様だ。

 

最近ではエリックも“声”を聴く魔法も覚えてきたこともあり、戦闘力は皆と比べて頭一つ抜きんでてくるようになった。戦闘において攻撃の先読み、思考を盗み聞く魔法を羨ましいと思ったのはここだけの話である。

毒の滅竜魔法と聴く魔法の同時使用は魔力と集中力を膨大に消費するため長期戦は不利となる。

 

そんなデメリットを抱えていてもミラと引き分けることが多くなったのは大きい成果だ。

 

 

一度だけミラとエリックがタッグを組んで私に勝負を挑んできたことがあった。

もちろん、経験で言えば私の方が圧倒的に上なので負けることはなかった。

 

ただ、二人がユニゾン・レイドを使ったのは素直に驚いた。

悪魔の力と毒の魔力は私の想像を超えた威力を纏っていた。そのため、私もパルプンテを唱えると私を含めた術者と残存する魔力の尽くを消し去り、全てを有耶無耶にした。

渾身の一発を呆気なく打ち消されて呆然としたミラとエリックを吹っ飛ばして勝負は幕を下ろした。これを機に油断大敵を学んでもらいたい。

 

 

エリック曰く、私の心の声を正確に聞くことができなかったそうだ。

パルプンテ神は盗撮や盗聴を許さないのだ。

 

 

このように魔法の特訓と皆が地獄と称する『たね』を貪っては吐き続ける毎日を繰り返しながら旅を続け、辿り着いた。

 

 

 

目的地の『マグノリア』へ

 

 

 

 

 

 

旅を続けてから数か月が経つが、マグノリアはこれまでに見てきた集落や街と比べて人の数や文化レベルは別物だった。

石が敷き詰められた足場の踏み心地でさえも違うのだから、マグノリアの発展レベルは上位に存在しているのかもしれない。

 

「うおおぉぉ!?」

「でっけえ……」

 

エリックたちは初めて見る都市の賑わいにテンションを上げている。いつも眠そうなマクベスですらも目を輝かせている。

 

「おっきーー!!」

「何かいい匂いするね」

「はいはい。分かったから落ち着けよ」

 

ストラウス一行は主にリサーナとエルフマンが圧倒され、ミラが苦笑して宥めているほどだ。

 

かくいう私も気分は昂っている。

まだ深く散策していないが、見渡す限り魔法に関連した商品が所狭しと売られている。

今までの農村では鍬や斧といった生活必需品しか売ってなかったイメージしかない。

 

魔導士ギルドがあるという理由なのか、魔法の需要が高いことがすぐにわかる。

需要を考えると珍しい魔法もあるのではないかと期待してしまう。

パルプンテ以外の魔法は使えなくとも、今後の戦法や体術の参考になるかもしれないのだから見逃さない手はない。

 

だが、街の散策はやることをやってからだ。

浮足立つエリックたちに声をかけると名残惜しそうにするも、文句言わずに付いてくる。

目指すフェアリーテイルへの場所を街の住民に聞けたので場所は問題ではない。

 

ただ、その過程で聞いた噂の方が気になったほどだ。

 

 

街の人曰く『問題児の集まり』『建造物破壊集団』『変態集団』などなど。

他にも芳しくない噂を聞くも、キリがないため挙げることはない。

フェアリーテイルの評判を聞くついでに判明した実態の一部にエリックたちは徐々に顔を引きつらせていった。

 

「なんか少し行きたくなくなってきた……」

「言うなよ……」

 

見るからに意気消沈しているエリックたちの足取りは重くなっていた。

 

目指していた場所が街の評判だけとはいえ、変人の集まりということがネックなのだろうか。

その辺りは最早どうしようもないから諦めてもらうしかない。

 

ただ、被害は出すものの、明確な悪意を持っていないことも噂の中では感じられるため、それだけが唯一の救いだろう。

 

元より悪徳ギルドだとして、エリックたちに悪意を向けるような所であれば私は一切の躊躇いもなく排除し、二度とギルドを名乗れないくらいには叩き潰す意向は変わりない。

そうなれば国と敵対することになるかもしれないが、それもまた止む無し。

 

ただ、エリックたちに真っ当な人生を送らせるなら国と敵対はなるべく避けたい。

 

 

護るものさえなければどんな結果でも問題なかったが、仮定の話などここでは無意味だ。

 

できればフェアリーテイルが人道を外していないことを願う。

そう思っていた所で、目的地へ辿り着いた。

 

 

 

「ここか」

「おっきい!」

「あぁ、ここまでとは思ってなかった……」

 

まるで巨大な屋敷だ。そう思わせるほどのスケールでギルド『フェアリーテイル』が私たちの前にそびえ立つ。

巨大な様相に圧倒されること数分、さっきまで億劫にしていたエリックたちが今度は臆したようだ。

 

無理もないのかもしれない。

 

色んな『初めて』に圧倒されっぱなしの彼らに特大級の衝撃は受け止めきれなかったのだろう。私も圧倒されたから気持ちはわかる。

でも、ここでいつまでも立ち止まっている訳にはいかないため、皆の背を押す。

 

ここまで来たら覚悟を決めるしかあるまい。踏ん切りが付けられないでいる面々を置いていくように私が扉を開けようとした時だった。

 

 

「このバカ者共があぁぁ!!」

 

扉の中から怒鳴り声が聞こえた瞬間、中から気配を感じて私は即座に後ろへ跳ぶ。

 

 

それと同時に扉が勢いよく中からこじ開けられた。そこから飛んでくる二人の人影が私に迫ってくる。

 

「「うわあぁぁぁぁ!!」」

 

一人は桜色の髪でマフラーを着けた少年、もう一人は文字通り全裸の、恥部丸出しの少年だった。

本来であるならここで受け止めるのが正解だったのだろう。

 

しかし戦いが身に染み付いた私は受け止める、といった行動をとらなかった。

 

 

考えるより体が動く、“反射”という奴だ。

おイタが過ぎるエリックたちによくやっていたお仕置き

既に体に染み付いた仕置きを私は実行した。

 

飛んできた二人の首根っこを掴み、膝を曲げてイメージする。

 

 

 

私は強固なバネ

 

 

 

足の、腰の、腕の力を全て収束して―――解き放った

 

 

 

これが私の『マジ高い高い』だ。

 

 

 

 

 

 

今日まで俺は退屈だった。

 

 

フェアリーテイルギルドマスター

 

 

 

聖十魔導士

 

 

 

数知れない名誉を我が物としたジジイ……その名が俺にもたらしたものは『ジジイの孫』という呪いだった。

 

 

 

何をするにもジジイの孫という色眼鏡で見られてきた俺を真っ当に評価する奴なんていなかった。

 

ギルドマスターの孫なら……聖十魔導士の血を引くなら……俺へのおべっか、やっかみも最初にその言葉から始まった。

 

 

くだらねえ……どいつもこいつも俺という本質見もしねえバカしかいないことが何よりも耐えがたい苦痛だ。

マグノリアの魔法も使えねえ一般人なら百歩譲ってもまだ笑ってやる。

 

だが、同じ穴の狢であるはずの他の魔導士から言われることだけは我慢ならねえ。

 

 

ジジイは言う、『魔法の本質は心にある』と。

 

 

ガキだったころは素直にそう思っていた―――そう思えていた。

 

だが、それは他の魔導士を見てから考えは変わった。

 

 

 

いざ魔法の世界に出てみたと思えば、外にいたのは物事の本質を捉えることさえしていないバカしかいなかった。

その事実に気付いた俺は怒りを覚えたが、それ以上に上回った感情があった。

 

 

失望

 

 

俺の期待は裏切られ、周りの連中がどうでもいい奴にしか思えなくなった。

 

結局、俺の周りの世界は変わり映えしない、味気の無いものとなった。

 

ギルドの連中はまだ俺を俺として見る奴はいるが、それでも俺の気持ちなど分からないだろう。

俺の身に付けた力を『ギルドマスターの孫だから』の一言で片づけられる苦悩と俺の努力を分かってもらえない空しさは。

 

俺と同じ力を持つ者でしか分かるまい。

 

 

 

 

 

そう思っていた俺は死んだのだ。

 

 

 

 

いつも通りエルザたちのガキみてえにくだらねえ喧嘩でギルドの入り口をぶっ壊してナツとグレイが吹き飛んでいた。

毎度のことだから放っておこうとした時、俺は感じ取った。

 

 

 

肌を刺すような鋭い殺気

 

 

体の全身から噴き出る汗

 

 

研ぎ澄まされた感覚が俺に警鐘を鳴らした。

 

 

 

 

 

それはまさしく、『死』そのものだった。

 

 

 

 

その『死』は人の形をしていて、壊れた入り口の先でナツとグレイを両手でつまんでいた。

体力がなかったころに感じた息苦しさとは別の感覚に俺は動けなくなった。

 

 

それは恐怖ではなく、今までに遭ったことの無いような『狂喜』

 

 

外では地響きと共に『死』……もとい見慣れない男がナツたちを抱えて消えた。

消えた、は正確ではない。奴の姿が消えた瞬間に地面がクレータのように陥没し、ギルドが少し傾いてパニックになっていた。

 

 

雷と同化するために鍛えられた俺の動体視力を以てしても微かにしか確認できなかったが、状況だけは正確に見極めた。

 

 

奴は魔力無しに地面を蹴り、空の彼方へと消えたのだ。遠ざかっていくナツたちの悲鳴が消えゆく山びこのように遠ざかっていく様子から如何に高く跳んだかは明らかだった。

 

 

 

 

まさに圧倒的な力そのものだった。

 

 

退屈で死んでいた心が……体にようやく血が流れ始めたのだ。

S級でもお目にかかれないほどの人外級がまさに、目の前に現れた。

 

突然の昂りに俺は拳を握り、ありったけの魔力を練り込んだ。

 

 

 

 

早く戻ってこい、早く打ち合おう……もう頭の中はそれしかなかった。

 

 

 

奴が誰なのか、何故ここに来たのか、今の力は一体なんなのか、その強さをどうやって身に付けた……

 

 

 

頭の片隅に色々と聴きたいことが浮かび上がるが、今の俺にとってそんな疑問はゴミみたいに思えた。

 

 

 

俺の渇きを癒すのなら、なんだっていい。

ただ全力でぶん殴りたい。

 

 

 

騒然となるギルドの連中が外へ出て行き、俺一人となったギルドは静かだった。

今はそんな静かさが心地いい。

 

 

 

 

後、もう少し……まるで悠久の時が過ぎたかのように永く感じられたような一時だった。

 

 

 

そして、“そいつ”は空から降りて来た。

ジジイとエルザを筆頭に何やら騒いでいるが、俺にはそんなのどうでもいい!

 

 

練りに練った魔力を全て開放した俺は

 

 

 

 

電光石火の如く、雷を纏ってそいつの元へ近づき

 

 

 

 

全力の一撃をそいつに放った。




かなり内容も薄くなってしまいましたが、次回はネタ魔法炸裂させます!

それでは、また次回までお楽しみを!


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妖精の尻尾と雷竜とのぶつかり稽古 後編

フェアリーテイルの面々は言葉を失い、エリックたちは遠い目ではるか上空に跳び上がった保護者を見て悟った。

二人の巻き込まれた憐れな見知らぬ少年に黙祷を捧げた。自分たちも首根っこを掴まれてはるか上空、昼なのに星が見える場所まで『高い高い』されたこともあり、名も知らぬ少年たちに同情を感じずにはいられなかった。

 

 

全員が空を見上げていると、ギルドの中から鎧を着込んだ少女が慌てた様子で詰め寄ってきた。

 

「お前たち! 何者だ!」

 

急に出てきて臨戦態勢気味に威圧してくる少女に訝しげな視線を向ける。恐らくは上空に消えた二人の少年のことだろう。

 

地盤が沈むほどの跳躍と共に二人を連れ去ったと見ればその反応も分からなくはないが、先に切っ掛けを作ったのはあちらなのだ。

殺気を向けられて黙っている道理はない。

 

「あぁ? そっちが先に仕掛けてきたんだろ。こっちにはまだ小さい奴がいんだぞ」

「そうだとしてもこの惨状を起こしたお前たちをそのままにはできない。話くらいは聞かせてもらうぞ」

「んだとこら……」

 

エリックたち、とりわけミラがいの一番に少女に噛みつき、少女は厳かな口調で構える。

喧嘩っ早い性格を抑えようにも目の前の少女を前にするとどういうことか熱くなってしまう。

 

お互いに一触即発の空気が流れ、微量に魔力を流し始める。

 

 

 

「双方とも拳を収めい」

 

瞬間、緊迫していた空気が重みの含んだ声で魔力が霧散した。

 

「マスター」

「そう殺気だつ必要もなかろうて。すまぬの、うちのガキ共は少々気が短くての」

 

鎧の少女がマスターと呼ぶ小さな老人はいつの間にかエリックたちの間に立っていた。

神経を研ぎ澄ませていたのにも関わらず、老人の接近を察知できなかったことへの動揺もあるが、それと同時に好々爺の雰囲気を見せる老人の実力にミラたちは冷や汗を禁じえなかった。

 

(このじいさん、明らかにやべえな)

 

僅かな間に強者としての威厳を見せつけた老人は身構え始めたエリックたちに体を向け、歯を見せて笑った。

 

「見た所、遠い所から来たんじゃろう? ここで羽を休めていくとええ」

「ぅ……」

 

纏う魔力、気配からして目の前の老人が一流の魔導士であることは明らかだ。もし、敵対しようものなら自分たちだけでやるには勝ち目など皆無。

それほどの実力者でありながら敵意の無い、隙だらけの姿に肩透かしを食らった気分だった。

 

長らく村人から迫害を受けてきたストラウス姉妹は悪意や敵意に鋭く、エリックは完全とは言えないものの感情の機微を読むことができてきた。

その彼らを以てしても目の前の老人からは敵意を感じることがなかったのだ。

相手の言動に嘘がないことを確認し、エリックたちも矛を収めた。

 

 

「うちのガキ共にはわしも手を焼いていての、たまにこういうことが起こってしまうんじゃよ。わしからもよう言うとくから勘弁してくれぬかの?」

「ん……まあ、こっちはその気はなかったから別に……」

「思い返したら先生も半ば拉致したようなものだし、何とも言えないしな」

 

冷静になったことでこちらにも非があることを自覚し、ため息を吐く。

傍から見れば急に現れた第三者が少年を拉致して空へ飛び立ったようなものだ。実に難易度の高い誘拐だと思う。

 

自分たちは彼の異常性に慣れ始めたこともあり、そこらへんの常識がいつの間にか消えてしまったのだと人知れず戦慄した。

 

「その先生……じゃったか? 彼はどのような思惑があってナツたちにあのようなことを……」

「おおかたノリと反射的に」

「そんなアバウトな理由で!?」

「先生のことだから殺すようなことはしねえよ。多分、そろそろ高度が落ちて雲の中に突入したんじゃねえか?」

「もっと言えば、二人は気絶して漏らしているかも」

「お、おう……」

 

今まで『彼』を見てきたエリックたちだからこそ確信している。

ナツと呼ばれる少年たちの首根っこを捕まえて空高く跳びあがったのは反射的なのだろう、と。その軽いノリに付き合わされた自分たちが確信しているのだから間違いない。

 

実体験を話しているとき、老人が自分たちのことを生きる屍をみたような返しをしたのはなぜだろうか。

老人の目に鏡のように映る自分たちの目が死んでいるのは気のせいなのだ。

 

「あ、やっと落ちてきた」

「いつもこんなもんだろ」

 

いつの間にか世間話に興じていると、強い力の波動を空から近づいてくるのが分かった。

正確には落ちてきているのだろうと思いながらも老人は周りの惨状を生み出し、エリックたちから『先生』と仰がれている人物に内心の懸念を抱いていた。

 

(さっきもそうじゃが……この妙な魔力は何じゃ? 邪とも聖とも取れぬこの気配は……)

 

 

魔導士の魔力はその個人によって魔力の質というものがある。

身体で言う所の指紋、声、顔の輪郭とそれぞれがそれぞれの特徴を持っているものである。

長年、様々な魔導士と出会い、魔力を感じてきたフェアリーテイルのギルドマスターであるマカロフ・ドレアーもそのことは承知済みなのは言うまでもない。

 

 

ただ、彼は本来であれば地上に存在し得ない『神気』を感じたことがなく、僅かにでも神の気に触れた彼は言い知れない感覚を覚えた。

大抵、魔力の性質はその人の性格に大きく反映されるものであり、善人か悪人かを感覚で掴むことができるはずであったが、マカロフはこの時において区別がつかなかった。

 

 

否、善と悪とはまた別の気配を感じ取ってしまった。

それはまるで……

 

(いや、そんなことは問題ではない。この子たちが好いているのであれば悪人という訳ではなかろう)

 

 

自分の考えを否定するかのように結論付け、まずは話を聞こうとギルドに招こうとしたとき

 

 

 

 

「こっち向けやああぁぁぁ!」

 

雷鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

 

反射的に二人の子供を掴んで雲の上にまで達し、さらに空高く放り投げたからもういくらか後に二人も落ちてくるだろう。

私が先に地上に降りてきたと同時にミラたちから説教を食らって反省する。自分で投げておいて言うのもあれだが、二人の子供を回収せねばと思っていた時だった。

 

金髪のイヤホンをかけた青年が雷を纏ってこっちに向かいながら雷の魔力を放つ。

私たちの手前で爆散して土煙を巻き上げる。

 

 

煙が晴れると、そこに好戦的な雰囲気を纏った青年がこちらを見据えて構えていた。

 

「あんた、随分と強そうじゃねえか。ここに来た記念でオレとやり合おうぜ。な?」

 

そんな記念などこちらは求めてないため、却下である。これは適当にやり過ごすか身内にでも丸投げしたほうがよさそうだ。

 

「ラクサス!! 貴様なんということを!」

「このバカタレ! 客人に向かって魔法など何を考えておる!?」

「折角の客人なんだろ? だったらフェアリーテイル流の歓迎してやるってんだよ」

 

あっち側の少女と老人も諌めるが、青年は右から左へ受け流す。

というより青年のギラついた目は明らかに異常である。遠目でも瞳孔が開いているのと異常なまでの興奮状態に陥っている。

 

 

多分、神気に充てられたのだろう。

たまにパルプンテ神の気に充てられて暴走する者がいるのだ。この世界の人間にとっては未知の魔力だからだろうか?

これがきっかけで戦いに発展した事態など数えきれない。

 

なんとも迷惑な話だ。

 

 

ただ、こういう時の対処法は至ってシンプルだ。

 

 

「さあ来いよ。オレを楽しませーーー」

 

 

 

こういう時に有効なのはいつだって

 

 

誰にだって

 

 

 

有無を言わさず先手必勝さ。

 

 

力強く踏み込んで瞬時にラクサスと呼ばれた青年の懐へ潜り込んで

 

掌底を体にねじ込んだ。

 

 

「ごはっ!!」

 

青年の口から吐き出された唾液を置いてけぼりにして体はギルドの壁に激突した。

 

「「「んなーーーーー!!」」」

 

ラクサスの方向を見てフェアリーテイルの面々が驚愕の声を上げる。

 

だが、これで終わるような相手ではなかったようだ。衝撃の瞬間に後ろへ跳んで勢いを殺していた。

興奮しているわりには意外と冷静だ。

 

 

なら、手っ取り早く決めようか。

 

 

パルプンテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーーーッ!!

 

 

 

どこかで悲痛な叫び声が聞こえた。失敗だ。

 

幸先の良くない結果に辟易していると、ある程度は回復したであろうかラクサスのいた場所から雷が飛び出し、私の背後に回り込んだ。

 

「随分とやる気じゃねえか!?」

 

後頭部に迫る拳をしゃがんで避けて振り返る頃には既に雷が私に向かってきていた。

自然の雷ほどじゃないにしろ速度が思いの外速いため避けるのは無理だ。

 

腕でガードするとピリっときた。嫌な感覚に腕を振るっているとラクサスは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ほぉ、今のを難なく防ぐか。今のはウチのギルドでも耐え切る奴はそうそういねえと思ったんだがね」

「ラクサス! それ以上はやりすぎだって!」

「あんたも意地はってないで! ラクサスはやるっつったらやる奴なんだよ!」

 

壊れた扉からギルドの面々がヤジを飛ばす。反応からしてラクサスはかなりの実力者なのだろう。

魔力からしてもエリックたちよりも上なのだろう。

 

 

まあ今回の件は私の責任であるには違いない。この騒動は私が抑えよう。

 

「だ、だがラクサスはそこらの魔道士と違う! そう簡単に収まるとは思えん!」

 

そんなに案ずるな鎧の少女よ。私とて腕に覚えくらいはある。

負け戦をするつもりなど毛頭にないのだ。

 

それに、奴の弱点は既に把握済みだ。負ける要素は今の所皆無だ。

 

その言葉にラクサスの笑みは消え、雷の魔力が高まる。

辺りを巻き込む膨大な魔力にエリックを含めて全員が戦慄した。既に喧嘩で済まされる領域ではないと荒れ狂う魔力を見て思った故に。

 

「いつまでも余裕こいてんじゃねえぞっっっ!!」

 

怒号とともに雷と同化し、私の元へと迫ってくる。

直線的でなく不規則に動いているのは撹乱のためだろうか。

 

 

捉えられない速度ではないが、タイミングを合わせるのは神経を使う。

なので、ここは普通に弱点を突かせてもらおう。

 

体に纏う魔力と気配を任意的にコントロールして隙があるように見せる。普通なら露骨な魔力の動きに不審に思われるが、興奮した相手とあれば引っかかるだろう。

 

 

「レイジングボルト!!」

 

案の定乗ってきた。どんなに不規則に動いても狙う場所は一つ。私は懐から持っていたペットボトルから水を口に含む。

 

吸い込まれるように特定の隙に向かってきた雷を殴り消し、攻撃のために一瞬だけ静止したラクサスの顔面に口の中の水をぶつけた。

プシャっと顔にかかって動きを止める。

 

その一瞬の隙にラクサスへ肉薄して柔道の要領で地面に倒す。

 

「ぐっ!!」

 

もちろん、これだけではダメージとしても弱いし、こんな正気を失った状態も本人としても不本意だろう。

 

 

 

 

私はラクサスの首に足を絡ませ、窒息させる。

 

「く、は ……」

 

急に息ができなくなったラクサスは必死に空気を求めながらも私の足に手をかけて外そうともがく。

しかし、それだけでほどくほど私は甘くない。

 

過去にはアクノロギアの首に絡みつき、血流を止めて壊死させようと努力したこともあるくらいだ。

一度だけ尻尾を締め上げたら激痛のあまり三日三晩暴れまわり、尻尾の先っぽだけだが変色させたこともあった。もちろん、その間は岸壁に叩きつけられようが私は意地だけで締め上げ続けた。

最後には尻尾ごとブレスでコンガリ燃やし尽くされ、逃げられてしまったのだ。

 

 

「は、な“……せ……」

 

話を戻すが、ラクサスの顔は既に酸素不足で真っ青になっている。

苦し紛れに電撃を浴びせてきたが、私にとっては静電気くらいにしか感じられなかった。

一瞬だけ骨が透けて見えたが、ダメージはない。

 

気にせず締め上げる。

 

 

 

「ごぼ……ぐ、が……」

 

ついに言葉も発しなくなり

 

 

 

ラクサスの手足が落ちた。

 

 

 

彼の魔法には少し興味があったが、今回は事情もあったため手短に片付けた。

騒然とするギャラリーを尻目に、雷との勝負は静かに幕を下ろした。




ネタ魔法が出るといったが、ラクサスにではない。
なので、ほとんどステゴロでボコしました。
あまり見せ場なかったですけど。
ラクサスの弱点についてはおいおい説明します。

パルプンテに無意味など存在しない。
遠くの地でパルプンテは物語を動かす。

それが真理


感想返信は今日明日の時間あるときに行います。


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閑話:雷竜との戦いの合間に

明けましておめでとうございます。
この作品が立ち上がって初の年越しとなりました。

最初は悪ふざけで作ったこの作品がまさかのランキングに載ったところから色々とありました。
作品自体も悪ふざけですが、皆さんの悪ノリが私の励みになります。

ただ、今年に新社会人となったというのもあり、中々仕事との折り合いを付けるのに苦労し、更新がまばらになってしまいました。

今年はプライベートも仕事も両立できるような社会人になることを目標とします。


それでは、今年初のパルプンテのやらかし劇場をご覧ください。


ジェラール・フェルナンデス

 

エルザとともにゼレフを信奉する邪教集団に拉致され、奴隷として酷使された過去を持つ。

 

爆発する首輪によって自由を奪われ、人間としての尊厳を奪われてもなお光を失わず、強い心を持っていた。

過酷な状況でも仲間を集い、来るべき自由の日を待って耐え続けた。

しかし、その作戦は失敗に終わり、全ての責を背負おうとするも、代わりにエルザがその犠牲となった。

 

仲間を助けられなかった無力感とエルザを見捨てたという罪悪感に正義漢の彼の心は限界を迎えた。

 

それでも最後の力を振り絞ってエルザの救出に向かった彼はーーーこれ以上にない理不尽を見せつけられた。

 

片目を失った彼女の姿にジェラールは壊れた。

 

 

彼女を胸に抱きしめて慟哭を上げた時、『それ』は現れた。

 

 

禍々しい力を魅せつけられ、甘言を吹き込まれた彼はその言葉をすんなりと受け入れた。

謎の存在によって目覚めさせられた力に溺れ、彼は闇に堕ちた。

 

 

自分の無力を呪ったその日から、この力を与えてくれた『ゼレフ』こそが呪われた人生を覆してくれる神だと信望した。

 

 

 

その日から彼は変わった。

エルザを島から追い出し、残った奴隷仲間たちを騙して楽園の塔の建設を続けた。

 

 

歪んだ彼はそれが正しい道だと信じ込み、ただ妄信した。

あの頃の優しい彼の心は謎の力に魅入られたまま囚われている。

 

それすらも自覚せず、ジェラールはゼレフ教の所有する情報から天体魔法のことを知り、力をつける。

 

 

これでいい、全てがうまくいっている。

そうほくそ笑んでいた彼に人生の転機が訪れていた。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

顔に入れ墨を施した少年、ジェラールは体力の限り奔走していた。

他の奴隷が見ていたのなら、今のジェラールは普通ではないと分かるだろう。

 

力を手に入れ、何事にも揺るがなくなったジェラールがまさか、汗を流して息を切らしているなど。

 

 

魔に魅入られたジェラールが恐怖の色を浮かべているなど、誰も想像していないのだろう。

 

「何なんだ奴らは……あんな存在がどうやって、何故こんなところに!!」

 

疲労でもたれかかった壁を殴りつけ、彼を追い詰めている『理不尽』に怨嗟の声を上げる。

必死に恐怖を抑えようとしているようにも見える彼は明らかに疲弊していた。

 

奇妙なことに労働中の奴隷が誰一人としていない。全員が寝静まるような時間帯ではない。

場所は楽園の塔で間違いないはずなのに、どこか異質な雰囲気を感じる。まるで楽園の塔の形をした別の空間に飛ばされたような……

 

「どこかで見ているんだろう!? 隠れてないで姿を現したらどうだ!?」

 

馬鹿馬鹿しい、そういい捨てるように姿なき襲撃者に向けて敵意を向ける。魔力を滾らせて臨戦態勢に入る。

まだ日が浅いとはいえ、希少な天体魔法を会得できるジェラールの力量は並の魔道士などはるかに凌駕する。

 

そして何より、ゼレフの啓示を受けたという自負が彼の闘争心を動かす。

 

どんな襲撃にも備えられるよう構えていると、背後から気配を感じた。

 

 

 

 

 

 

「やらないか?」

「っ!?」

 

耳に入るだけで寒気を感じる声だった。無駄にいい声はジェラールの背後から聞こえ、はぁはぁ、と息を吹きかけられているのがわかる。

何か、別の意味で危険な侵入者がすぐそこにいるというのに体が固まって動けないのだ。

今日まで戦う覚悟も準備もしていたのに、この声を聞くと竦み上がってしまうのだ。命の危険とはまた別の危険性を孕んだ感じだ。

 

さっきからカチャカチャと布の擦れ合う音が聞こえてくる。何をしているかわからないが、嫌な予感だけがビンビンと感じる。

 

 

怖い、恐ろしい……得体の知れない何かがすぐ近くにいるのに動けない。

 

 

呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が感じられるほどに緊迫したジェラールの耳に再び響いた。

 

 

 

 

「ウホッ、いい男だ」

「うわあああああああぁぁぁぁ! 流星!」

 

まるで爆弾が弾けたように高速で声の主から離れた。何かおぞましいナニかから逃げるために。

現に今でも声を間近で聞いた瞬間、ヒュンとしたのだ。どこかは言わないが。

 

戦うとか以前に面と向き合うだけでも耐えられない気がした。そうすれば何か大切なものを失う気がして。

 

ひたすらに出せるだけのスピードを出して逃げた。

 

 

本能の底から感じる悍ましい予感を置き去りにするように駆け抜けた。

 

駆けて

 

 

 

駆けて

 

 

 

 

「あらやだ、逃げるなんてツレないじゃない」

「はっ!?」

 

筋骨隆々の肉ダルマ二人に先回りされた現実に絶望の色を浮かべた。

流星を止め、ジェラールはクネクネと吐き気を催す腰付きの男二人に戦慄する。

 

「わはは! 元気のいいおのこじゃ! 子供はそうでなければいかん!!」

「元気があっていいわぁ、ジュルリ」

「ひっ!?」

 

自分を見て舌なめずりをした男にかつてない悍ましさを感じる。

 

そもそも今まで出会ったことのない人種、いや、珍獣の見た目からして危険だとわかるのだ。

 

 

まるで服を着ずに全裸といってもおかしくないほどに際どい水着はまるで筋骨隆々の体を見せつけるかのような自信を感じさせる。

恥部だけを巧妙に、ピンポイントで隠すが故にその部分が強調され、嫌でも目がいってしまうのだ。主にモッコリ部分なのだが。

 

この時点で生理的に拒否反応を起こし、動悸と吐き気が起こっている。胃からせり上げてくる酸っぱいものを無理矢理我慢する。

 

それはジェラールの意地に他ならない。

本能的に逃げ出したい衝動を押さえつけ、ジェラールは思い出す。

 

 

奴隷として苦汁を舐めさせられた日々を。

ずっと自由のために歯を食いしばり、屈辱にまみれながら耐えてきたのだ。

そんな経緯で得た力があるはずなのに、今の自分はどうだ?

 

目の前の試練(?)に怖気付いているのではないか?

また弱い自分に戻るのか?

 

 

自己批判

 

 

弱い自分を否定し、恐怖を押さえ込んだ彼は魔力をためる。

まだ、本格的な攻撃魔法はマスターしていない。だが、その未熟さを補うほどの魔力ならある。

 

先天的に秘めた膨大な魔力を全力でぶつけさえすればいい。

事実、ジェラールはその方法で楽園の塔に巣食っていた醜いゼレフ教団を葬ってきたのだから。

 

 

「おお!? これが青春を謳歌する少年の底力っ!!」

「あぁん! こんなのを私たちにぶつけて〜〜〜っ!! どうなっちゃうのかしらあぁぁぁん!!!」

「ぬふふうううううぅぅぅん!!」

 

不気味な筋肉お化けが身を悶えさせているが、気にしない。いや、むしろ殺意が湧いて自分の全力以上の魔力をひねり出せていることに気づく。大方、怒りで潜在能力以上の魔力を捻り出せたのだろう。

魔力も、殺意も最高潮に達した時、ジェラールは獣のような声と共に魔力を解放した。

 

「死ね化け物どもがあああああぁぁぁぁ1!」

 

 

瞬間、閃光と爆発が世界を覆った。

極大の魔力は筋肉の体にぶつかり、爆発を起こした。

 

 

凄まじい爆風にジェラールの身体は投げ出され、壁にぶつかるまで転がり続けた。

だが、壁にぶつかった激痛も、全ての魔力を消耗させた疲労も感じていないかのように爆発の先を見据えていた。

 

 

「は、はは……まさか、ここまで力を振り絞ったとはな」

 

疲労困憊で自分の秘められた力に驚嘆した。

相手が相手だっただけに純粋には喜べないが、それでも成長には違いない。

 

あの侵入者は何だったのか、なぜ自分以外の者が騒ぎに気づかないのかと気になることは尽きない。

 

ただ今だけは一つ、高みに至ったことへの余韻に浸って地面に倒れた。

あるのは満足感、長らく感じていなかった清々しさを懐かしむように堪能する。

 

(ふっ、余計な力を発散させるのも悪くないか……)

 

まるで何かの憑き物が取れたように、彼の目には光が宿っていた。

それだけではない、今まで心に渦巻いていた野望や執着、自由へ望郷さえも何だか空しさを感じ始めた。

まるで、今まで何者かに操られていたのに、今更になって解放されたような気分だった。

 

それと同時に自然と一人の少女の姿が脳裏に浮かんだ。

 

(何を今更……)

 

眩しい光に目がくらみ、瞼を閉じて頭の中の幻想を振り払おうとした時だった。

 

 

 

 

 

「いい身体だ。唆られるな」

「…………ん?」

 

動けない自分の真上っからダンディな声が響き、目を開けるとそこには『いい男』がいた。

現在進行形で青いツナギのジッパーを下ろしている男の姿にジェラールは頭の中が真っ白になった。

 

「いきなりでこんなことを言うのもあれだが、オレの尻にぶっかけろ」

「はひ?」

 

真顔で意味不明なことを言ってくる。何を言ってるのか分からないし、分かりたくもない。

ぞぞっと鳥肌が立つのがわかる。

 

だが、悲劇はそれだけでは終わらない。

 

「君の手でこの爪切りを握って私の爪を切ってくれないか?」

「ひっ!?」

「その両足の太ももで私の顔を圧迫してくれないか? 圧迫祭りだ」

「な、なんだお前たちは!?」

 

倒れ伏したジェラールを囲むように逞しい身体の男たちが群がっている。

それぞれが何を言ってるか分からないが、絶対に碌なことでないことは確かだ。

 

一難去ってまた一難

 

 

手足の一本も動かせないジェラールは抵抗もできずに持ち上げられた。

 

「おい! 何をする気だ! 貴様らなど木っ端微塵にいいいぃぃ! 誰だオレの尻に指を突っ込んだのは!?」

 

流れるように運ばれながらも身体を弄ばれるジェラールは運ばれる先を見て

 

絶望した。

 

 

 

彼の行く先には数多の手が待ち構えていた。

まるで地獄へ同類を引き込もうとする地獄からの亡者のような。

 

ただ、その手全てが筋肉質であり、どこか艶やかな動きをしているのは気のせいだろう、気のせいであって欲しい。

 

 

「ひあ、止め……エルザっ!」

 

その場にいない少女に助けを求めるくらいに彼は必死だった。

この先に行けば、きっと自分は大切な物を失ってしまうだろう。

 

彼は必死に抵抗し、視界が筋肉質な手で覆われるその瞬間までその少女へ詫び、求めた。

 

 

 

 

 

 

 

アッーーーーーーーーーー!!

 

 

 

どこかの誰かの魔法が歪んだ彼の洗脳を解き、罪悪感とともにその全てをリセットする効果が発動した。

 

 

 

後に闇へ身を堕とす彼の運命は今、この瞬間に変わった。

それが幸か不幸かは今後の彼次第




新年早々になんちゅーもんを書いたのか自分でも思いました。

とりあえずガキつか見ながら書いたのでこう言うものになりましたが、最初の構図通りなのでご心配なく。

ジェラールは同性愛者にはならないのでご安心を


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旅立ち準備と別れ

明けましておめでとう御座います!
今回は説明というか、ただの前振りなので短く、話も進みません。

次回からはこんな感じでさっくりやっていき、すぐに原作に入りたいと思います。


「まさかあのラクサスがやられるなんて思いもしなかったぜ」

「あいつがあそこまで追い詰められたところなんて見たの初めてかもしれねえ」

 

謎の訪問者がラクサスとの勝負に挑んで余裕勝ち

 

既にSランク魔道士、それに近い実力を有しているラクサスとの勝負に勝つことはフェアリーテイル内では十二分に異常である。

ましてや、それを破ったのが名前も聞いたことのない人物ときた。これ以上の衝撃は最近までなかった。

 

中には密かに勝敗を賭けていた者までおり、ラクサスに賭けていた大多数が盛大に負けて大穴の『私』に賭けていた少数派が大勝ちしたというお祭り騒ぎにまで発展していた。オッズの関係で大勝ちの懸賞金は計り知れない額となった。

そこで大負けした連中はせめてもの腹いせに大勝ちした連中を囃し立てて盛大に宴会を開かせた。対する大勝ち組も思わぬ収入に気を良くして結局は宴会に興じるのであった。

 

すっかり騒がしくなった乾杯の音頭をBGMにカウンターに乗っかるマスターマカロフと話している。

なんでも、ラクサスがやらかしたことへの謝罪の意があるとのことで奢ってもらっている。

私の方にも用があったためちょうど良かったと言える。

 

「親バカという訳ではないが、ラクサスを負かすとは流石じゃのう。あんなんでも実力は確かなんじゃよ」

 

それは分かる。うちのエリックたちを育てているが、彼は明らかにエリックたちよりも格上だ。

それだけでラクサスが特別だということが分かる。

 

そう言うとマカロフは酒を片手に高笑いする。

 

「はっはっは! お前さんの方がよっぽど親バカではないか!」

 

自分でもそこは驚いている。私は自分で思っている以上に甘い性格らしい。今日に至るまでそう言った自覚はなかった。

でも、甘いからと言って悲観する理由はない。

 

親バカといえばラクサスはどうなっているだろうか。

あの後、意識のないラクサスをフェアリーテイルの仲間がどこかへ運んで行ったから大事には至っていないだろう。

 

「あやつとて魔道士の端くれ、これくらいは乗り越えてしかるべきじゃ。お主も手加減してくれたしの」

 

今回はラクサスが半狂乱状態だったから隙を付けたということと、彼自身の弱点を付けたと言うのが大きい要因だ。

彼がドラゴンスレイヤーということだったので弱点もすぐに分かった。

 

そう伝えるとマカロフは飲んでいた酒を吐き出して咳き込んだ後、私の口を塞いだ。

さっきまでの機嫌が一変して、焦りに染まっていた。

 

「お、お主、なんでそのことを!?」

 

それは魔力の質としかいいようがない。エリックは毒のドラゴンスレイヤーだから僅かな魔力の質というものは酷似するもの。

それに、ドラゴンスレイヤーの性質が似通っていたから、それも特定の手がかりになった。

 

「あの僅かな時間でその真実に達したのか!? 何という洞察力じゃ……」

 

魔力を使えるのに魔法を使えなかったから磨いた技術だ。人間に限らず、あらゆる生物の隙を見つけるための観察眼だ。

それによって他人の一挙一動を見据え、戦闘においてはその人の意識の先を把握し、筋肉の動き、魔力の流れから精度の高い先読みができる。

ある意味では私の魔法と言えよう。その気になれば誰にでも会得できるという点を除けば。

 

「できれば、ラクサスの魔法のことはあまり口外しないようにして欲しいんじゃ」

 

それも当然だろう。この時代に来てからというもの、一度もドラゴンの噂すら聞いたことも見たこともない。

それどころかとうの昔に絶滅したと聞く。

 

それなら何故、ラクサスがドラゴンスレイヤーになっているかというと、ラクリマしか考えられない。

ラクリマの原理は知らないが、過去のドラゴンスレイヤーに必要な要素が発掘なり復活なりしたのなら不可能ではないはずだ。

 

ゼレフ曰く、生物の死体や物体にエンチャントされた魔法を取り出す、もしくは開発や復元は可能らしい。

 

それがラクサスの正体の秘匿に繋がるのだろう。

 

ロストマジックを聞きつけた輩はラクサスを狙い、ドラゴンの魔法を取り出そうとするのだろう。

金儲けにしろドラゴンの強大な力を手に入れるにしろ。

 

私とて最初からこのことを言いふらすつもりはない。それをするメリットもないのだから。

ただ、私だけが条件を突きつけられると、後で不平等が生まれるかもしれないため、私も交換条件でマカロフに提案する。

 

エリックたちの居住の世話と仕事の紹介

 

できればミラたちには魔法の指導をお願いしたい旨を伝えると、意外にも即決で呑んでくれた。

 

「それは構わんが、お前さんはどうする気じゃ? まさかとは言わんが、このまま放っておく訳じゃあるまいな。あの子たちには酷すぎる話じゃ」

 

もちろん、私にその気はない。既に彼らに情が移ってしまったのを自覚しているほどだ。

だから、ここで一旦預かってもらいたいのだ。私はまだまだ学ばなければならないことが山ほどある。

特に、金の問題もできれば解決させたいのだ。

 

「それくらいならここの本さえあれば事足りると思うんじゃが。なんならここに入ってもらっても構わんぞ」

 

それは考えさせてもらう。まだ本格的な魔道士ギルドを見た訳じゃないのだ。

まだ他に私たちの肌に合うようなギルドがあるかもしれないのだから。

 

それとは別に少々、興味のある技術や知識を身に付けたいというのが本音だが。

魔法が使えない分、どんなものでも使えるものは身につけるに限る。

 

「むぅ……そこまで言うなら引き止める理由はないのう……」

 

ここでしつこい様なら私の持てる全てを駆使して排除する。ミラやリサーナ、ソラノに売春まがいなことをさせるとしれば殺さず、この世に生まれて来たことを後悔させる。相手が老人だろうが女だろうが一般人だろうがか弱い幼女だろうが。

 

「んなことせんわ! 子どものことになると熱くなりすぎじゃろ!」

 

私としたことが失敬失敬、私とて感情はあるのだから子供を心配してしまったのだ。

 

「急に真顔に戻られると怖いんじゃよ……お主の事情は分かった。あの子達は責任持って預かろう。ただ、旅立ちの件はお主から直接伝えてやれ」

 

それは当然だ。彼女たちを連れて来た自分の責務くらい弁えている。

 

「それが分かっているならワシから言うことはない。お主の旅の成功を祈っておるよ」

 

話はここで終わった。あとは旅立つだけだが、どこに行くか。



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金策

ただの金稼ぎ回です。原作キャラは出ず主人公の隠された力の説明会でもあります。


現在、私は一人で旅をしている。マグノリアの都市を離れて一人旅の最中である。

エリックたちをフェアリーテイルに預け、数年で戻って来ると確約し、私の道具の一部も一緒に預けた。

 

当初はエリックたちにそのことを伝えると、予想に反して私について行こうと食らいついて来た。

全員が私について行こうと抗議する中、フェアリーテイル組も何故か参戦してきた。意識を取り戻したラクサスが私とのリベンジに燃え、何故か興奮して私に向かってきたナツも私を引き止めようとしてきた。ナツはともかく一緒に回収していたグレイは私を見て震えていた。雲の上まで投げただけで特別に何かしただろうか?

 

この一人旅は最初から決めていたということもあるので、心苦しかったけど彼らの言い分を全て却下した。

 

まだまだ未熟なミラたちを連れて行くことができないと伝えると、自身の実力不足悔やみながら納得してくれた。

 

『今はまだ、それでいいよ……でも、次に会うときはあんたに相応しくなってやる!』

 

この発言の後、ミラは全員から茶化されてキレた。あの年頃だと色恋沙汰に興味が湧くのだろう。

 

 

そして、残ったフェアリーテイル側は面倒だったので肉体言語で解決した。

特に猪突猛進の気を見せていたナツはあまりにしつこかったので、頭を抑えて『かしこさのたね』を300個すり潰してバナナ風味にしたスムージーを管でナツの食道に直接流し込んだ。

嗚咽を響かせながら涙と鼻水流し終える頃にはスムージーはナツの胃袋に全て流し込んでいた。

 

全ては少し言いすぎた。一部は逆流して鼻から出てたから鼻栓も突っ込んだ。

これで彼に落ち着きというものが身につけばいいのだが。

 

それ以来、ラクサスも面白半分で盛り上がっていた道楽者たちも統率のとれた動きで私を見送ってくれた。

 

 

 

そんな経緯で私は晴れて再び一人旅続行中だ。

 

 

ただ、その目的は昔と違う。

 

 

ひたすらに己を鍛えてアクノロギアを追いかけ続けていた。

ただ、それは昔の時代での話だ。

 

 

今の私は一人じゃない。

それと同時に、この時代に根付いた一個の生命でもある。

 

たとえ、神の悪戯の結果であろうとも、だ。

 

 

 

ここで生きるには、学ばなければならない。

生活に不可欠な要素を知識として

 

 

 

この世界の常識はもちろん、役に立つ知識は全てだ。

 

 

マカロフから聞いた魔法工学、魔法機械学というのも面白そうだ。

 

 

 

私は魔力があるのに自由に魔法を使えない。

なら、私は知識と技術を魔法に変える。

 

私にしか使えないオリジナルの魔法を会得する。

 

 

この旅はその第一歩だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、それには何にしても金だ。

文化を学ぶには文化的価値のあるものを使わなければならない。

 

 

手っ取り早く稼ぐにはどうするか。

 

 

 

それは私の《スキル》が役に立つ。

 

 

 

《スキル》

たまにパルプンテを唱えると特典で会得できる。魔法とは違い、私個人の特技として定着する。

この世界にはない概念だ。

 

 

100年以上も戦ってきても五つしか会得できなかった。

 

 

《豪運》何かのイベントが近くで起きれば必ず巻き込まれる。被害も利益も一手に引き受けることとなる。

 

《勝者の特権》倒した相手を肉片、もしくはその世界の財へと変える。肉片は食すことができる。どちらも望まないときは別の形で返ってくる。

 

《食事は万能薬》裂傷、火傷など傷の種類問わず食事でダメージの回復が可能。生命力がある限り、このスキルは適用される。

 

《風邪の予防》マスク装備で毒性物質を無効化。十字架装備で呪いの類を無効化。両者とも装備の材質は問わない。

 

《峰打ち》武器、素手、魔法に限らず過分ダメージを与えても死に至らしめることはない。元から瀕死の相手にも有効である。

 

私はその中の《勝者の特権》でしばらくの費用を稼ぐ。

そのためにひたすらにモンスターか無法者を狩り尽くすつもりで、散策している。

 

ただ、弱いモンスターだと効率が悪いので、無法者がオススメだ。

奴らの肉など興味はないが、奴らの所持金があるし、ゴミ掃除も兼ねている。

 

 

とりあえず《豪運》を駆使しよう。

イベントを自分で起こせばいいのだ。

 

 

 

うわー、急に熱が出て魔法も使えなくなったー

こんな所を襲われたら大変だー(棒)

 

 

「へへ、兄ちゃんよ。病院に連れて行ってやろうか?」

「その代わり、俺たちに金くれないか? その財布でいいよ」

「嫌ならこわーい獣のいるところに捨てちゃうよーん。俺たち幽鬼の支配者(ファントム・ロード)よりかはましだけどねー」

 

はいビンゴ。あまりに簡単に話が進みすぎて拍子抜けだ。

しかも、最近聞いたギルド名所属だと自白もした。

 

明らかに質の悪い魔道士だ。こんなのを容認するギルドも知れて一石二鳥というやつだ。

今後のギルド判定にも役立つ。

 

 

これ以上に得るものはないと判断した私は仮病を止めて男の一人の胸に隠し持っていたナイフを突き刺した。

 

「……は? え?」

 

男は状況に対応できず、根元まで刺さったナイフを凝視しながら血を吹き出して倒れた。

本来なら心臓に達しているだろうその怪我も《峰打ち》のスキルで死に至っていない。

これはパルプンテを取得した同じ時期に付いていた特典だ。

 

パルプンテ神曰く、無用な殺生はしないとのことだ。

 

 

そのまま崩れ落ちる男からナイフを回収し、他の取り巻きに向き合う。

すると、さっきまでの威勢が嘘のように尻すぼみになっていた。

あの目は追いつめられた者の目か、状況を分かっていない目だ。

 

どちらにせよ構わん。奴らはただの物盗りだ。

ここはありがたく徴収させてもらおう。

 

 

「て、てめぇ、なんてことゴバァ!」

「や、やめ……ひぎいいいいいいぃぃ!!」

 

この調子でしばらくは金策に集中しよう。

 

 

 

ぐわーー、モンスターに襲われるー

ダレカタスケテー

 

「おいおい、こんな所に死にかけぐええええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

悲しいけど、これって天罰なのよね。

私の小遣い稼ぎはしばらく続きそうだ。

 

身ぐるみ剥いで、盗品っぽいのは警備隊に引き渡そう。




エリック「旅に同行させてもらえるよう心の声を聞いて弱みを握ってやる」

ーーーちくわ大明神

エリック「なんだ今の!?」


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黒魔道士と逸脱者の黄昏

今回で過去編は終了です。
この話ではゼレフのターンというだけです。

ぶった切った感が凄いですが、やはり原作に入りたかったんです。許してください。


この場所に留まり、どれほどの時間が経ったのだろう。もはや自分のことさえも忘れてしまうくらいの刻を生きてきた。

死にたくても死ねない、そんな人生は嫌だった。

 

全ての始まりは、当時を考えれば普通のことだった。

 

まだドラゴンが地上を統べ、闊歩しいていた時の人間は小さいものだった。

奴らからすれば人間など取るに足らず、ただのエサか玩具くらいにしか思われていなかった。だから、僕の家族は皆死んだ。

 

運良く、いや、運悪く生き残ったのは僕一人。本来ならここで天涯孤独となり、ただ残された寿命を過ごすか、家族の後を追うかのどちらかだ。

 

 

 

ここで最大の不幸は僕が可能性を見出したことだ。

 

自慢ではないが、僕は他の人よりも早く魔法に関しての 理解が早く、知識を多く生み出すことができた。

だから僕は諦めきれなかった。

 

 

希望を生みだせたからこそ、絶望を受け続けた。

 

 

 

僕の頭の中には夢物語を現実にできる理論が組み立てられ、それを実現させようとした。

 

 

死者を蘇らせる禁術

 

 

時を遡る秘術

 

 

その全てを僕は形にし、世に説き続けた。

いつの日か、僕の意思を汲み取ってくれる者が現れると信じて。

 

 

人の生死を追求し続けた果てに得たのは、人々からの畏れだった。

 

 

周りは僕の研究を命に対する冒涜だと思っていたのだろう。その認識は間違ってない。異常だったのは僕だって自覚もある。

 

ただ、当時の僕は納得できず、心の底から憎んだ。

僕の研究を否定する奴らへ心の中で憎しみを募らせた。

 

そして、僕はアンクセラムの呪いを受けた。

 

それからというもの、学園の人間を始めとした人々の命を奪ってきた。いや、人間だけではなく、種族問わずの無差別的なものだった。

 

 

受けた呪いを一言で言えば、“矛盾”

 

 

今まで命に関する研究を行ってきた僕だからわかる生命の尊さ

この呪いは僕が人の命を尊いと思うと、この呪いは僕の意思に関係なく死を撒き散らす。

 

 

僕は独りだ。

 

 

 

神を怒らせた人間に救いなどない。この永い刻の中で一番身に染みたことだ。

僕の歩いた跡は全て屍に埋もれていった。

 

 

幾度も自殺を図り、全てが失敗した。

神からの呪いを学問では太刀打ちできず、その尽くが失敗した。

 

不老不死となった身体で、僕の心は死んでしまった。

 

 

これは矛盾の呪い

 

 

生命で言えば僕は生きている、だけどその過程で全てがどうでもよくなったのだ。

 

かろうじて僕の大切な人を生き返らせるという野望だけが原動力に生きてきた。

それすらも死にたいという僕の矛盾でもあるというのに。

 

 

 

家族の他にも友はいたが、既に魂を抜かれてしまった。

 

 

 

 

本当に僕は独りだった。

 

 

代わり映えしない毎日、孤独に慣れてしまった。

ただただ頭の中で真理をお追い求めるだけ。飲まず食わずの日が続いた。

 

雨の日も風の日も、ただ彷徨って探し続けた。

 

 

 

僕の求めていた何かを

 

 

 

 

そんな時、僕は彼に出会った。

 

僕はいつものように他人と関わらず、ただ自分の理論を追い求めていた時だった。

誰も踏み入れないような山奥の秘境の中で瞑想をしていた時、なんの前触れもなく彼がやって来た。

また、命を奪ってしまうと思い、僕は拒んだ。

 

だが、呪いは僕の思いなど知らないと言わんばかりに“死”を叩きつけた。

もうダメかと思い、目を背けようとした時だった。

 

今まで誰にも防げず、僕でも止めることができなかった死の波動を彼は、全身で受け止めても死ぬことがなかった。

初めての出来事に反応も思考も止まってしまった僕に近付き、急に言った。

 

 

ーーー今から君をぶん殴る。

 

 

それを最後に僕の頭は鈍痛と共に僕の意識は闇の中に落ちたのを覚えている。

 

その後、起きたら目の前には料理を作っている君がいた。

 

 

それがきっかけで僕たちはお互いのことを話し尽くした。

僕の呪いがなぜ効かなかったかをきっかけに、僕は君に親近感を覚えた。

 

彼も僕と同じく神に取り憑かれた存在であり、不老不死に近いほどの寿命と不死性を身につけていた。

ただ、僕と違うのは無闇に死を撒き散らすことはない。ただし、彼は生涯でたった一つの魔法しか使えなくなった。

 

もっと細かく言えば、色々と違いはあるかもしれないけど僕は嬉しかった。

 

 

ずっと死ぬことができない苦痛を共有している、僕と同じ境遇の者がいたことに。

最初は同情心と同族意識があった。そして何より、彼の魔法に僕は心を惹かれた。

 

 

 

彼の言うパルプンテには無限の可能性があった。

 

 

時を止め、戻し、加速させるだけには飽き足らず、生命さえも無差別に生き返らす理不尽さ

『魔法』などとはもっと別の概念を備え付けた道具や武器などのアイテム、財宝を作り出す。

この世界とは別の次元に存在するような生き物、もしかしたらドラゴンよりも高次元で、強大かもしれない超生物の召喚

 

話を聞く限り、実際に見た限りではそんな理不尽などと言う範疇には留まらない。

それらはこの世界の理論では覆すことはできない概念すら捻じ曲げる。

 

それは僕が求めた答え、いや、僕の求める以上の可能性が確かにあった。

人類が必死に追い求めても到達できないであろう神の領域

 

 

それさえあれば僕の求める物、失った物を全て叶えてくれる

 

 

 

そう思って僕は彼との旅を始めた。

 

 

 

彼から無限の可能性を少しでも手に入れるために。

 

 

 

 

 

 

結果、その可能性を手に入れることはできなかった。

その代わり、僕は人生で初の友を手に入れた。

 

 

 

彼は破天荒で、行動力のある努力家だった。

突飛もなく魔法を使って僕たちもろとも自爆したこともあった。魔法から作り出された兵器の暴発で吹っ飛ばされたこともあった。世界を滅ぼしかねない存在を召喚して二人で共に戦い、死にかけたこともあった。

 

彼は魔法に憧れていて僕の話を目を輝かせていた。僕が学問を教えているときは自分が先生になったような気がした。未開の地に踏み込んで冒険したこともあった。僕さえも知り得なかった発見をしてきた。

 

その間に僕はどれくらい怒って、呆れて、騒いで、笑ったのだろう。

 

一生分の感情を爆発させ、矛盾の感情など全速力で振り切っていた僕はその時だけ普通の少年でいられた。

 

 

 

そう、楽しかった。矛盾も何もない素直な気持ちだ。

 

 

彼には神の呪いに対して何らかの作用があるのだろうか。

多分、そうじゃない。

 

 

 

彼は僕とは違い、いろんなことに興味を抱き、それに一直線に挑む努力家だった。

僕は物覚えが良かったけど、彼は数をこなして身につける努力型人間だった。

 

彼は自分の中にやりたいことを見出し、それに対して愚直に目指すことができた。

 

自分の中に個性をしっかりと持っていた。

呪いで感情が揺れ動く僕にはない強さを持った彼が羨ましくて、そんな彼といる時間がどうしようもなく楽しかった。

 

 

今日まで生きてきた僕はその思い出だけが強く残っている。メイビスも僕の愛した人だ。忘れるわけがない。

 

でも、僕の心を支えてきた彼の姿だけが鮮明に映る。

 

 

 

今すぐにでも会いたい、会って、何でもいいから何か話したい。

またそばにいてほしい、冒険がしたい。

 

 

 

また、一緒に笑い合いたい。

 

 

 

そんなことだけを思い、僕は色んな旅をしてきた。王国も作った。

 

 

 

彼が望むなら僕の知識も、王国も全て捧げる。

 

 

 

だから僕は今日まで願ってきた。また君に必ず会えるようにと。

そして、君は約束を決して違えない人だと言うことも知っている。

 

 

 

 

「また、会いたいな」

 

 

 

僕の願いは呆れるほどに青い青空の向こうへと静かに溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ある程度の金が手に入ったので私は足を運ぶ。目指すはフィオーレの首都であるクロッカス。

そこに私の求めるものがあるかは不明だが、首都ということだけあってそこに集まる情報は莫大なはずだ。

人の集まるところに文化が集まり、学問が生まれ、情報も集まる。

 

今はこの時代で学べることは片っ端から学ぶしかない。

手元にある資本金を将来的には増やさなければならない。

 

 

とりえず数年くらいはフェアリーテイルのギルドマスターを信じ、よりよい所があったらそこへ移してもらうことも考える。

そのためにもたまに連絡を取り合うのも必要だろう。もしかしたらやるべきことも見つかるかもしれない。

 

 

 

 

私は初めての首都に少し気分が高揚しながらも空を見上げる。

 

 

 

 

 

漠然と思い浮かべた未来は青空の中へと消えていった。




繰り返しますが、今回で過去編は終わりです。過去編についてはすでにミラ編からネタ切れだったというのが本音ですが。

とりあえず、今話から次回の原作突入編では文章にはしないけど色々と状況が変わり、一部は原作乖離しますのでご注意を。
ようやくここまで来れました。これも応援してくださった皆様の励ましのお陰です。

ようやっとパルプンテも本領発揮です。

それでは、また次回にお会いしましょう!


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時は流れて

汚れたマントを羽織って荷物も肩掛け袋に収めた男が電車に乗る。人気のない駅からの乗車だったからか車両の中は静かだった。

普通なら忌避される風貌も気にする必要もなく、堂々と席に座ることができた。

 

誰もいない向かい合わせの席を陣取り、腰を下ろすと長い時間歩いてきた疲れを癒すようにため息を吐く。

 

電車に乗る前に買った水を一口、そして顔までもを覆っていたマントを外す。

 

 

 

体から重みが抜けると疲れがどっと押し寄せてくる。

男はその眠気に意識を傾け、瞼を閉じた。

 

男は帰るべき終着駅まで寝息を立てるように、全身から力を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリア

 

久しぶりに帰ってきても特に目立った変化はない。一部倒壊している建物はあるが、それも日常茶飯事だ。世間の非常識もマグノリアでは常識の範疇に収まる。

列車での旅路を経て帰ってきた私はマグノリアの空気を堪能しながら我が家を目指す。一週間を依頼と旅行に費やしただけではあるが、懐かしさを感じる時点で既に私は染まっているのだろう。

 

 

そう思いながらも街中を歩いていると、何やら人だかりができている。何か催し物かと思っていると見知った顔がちらほらと窺える。

 

それと同時に何やら爆音やら金属がぶつかり合う音を始めとした戦闘音が聞こえる。チラチラと見える炎と鋭い剣の音からナツとエルザなのだろう。最初はトラブルかと思ったけどすぐにその可能性を否定した。昔からナツはエルザに頭が上がらず、ナツがトラブルを起こしてエルザがねじ伏せてもナツはそれに対して強く反抗はしない。いつもは猪突猛進でも心の底ではちゃんと善悪の区別がついているのだろう、いつもやられるのも無意識からなる彼なりの反省の意でもあると私は思う。対するエルザも折檻と戦闘の区別は付いている。

 

だけど、今の戦闘音ではお互いへの遠慮がそれほど感じられない。

 

鋭い風切り音や炎の火力からしても伊達や酔狂で喧嘩しているわけではない。かと言ってお互いにドス黒い感情も感じられないことから仲違いからの喧嘩ではない。

 

そうなると、両人の了承を得た決闘なのだろう。ギャラリーの歓声とカナの賭博からその事実を裏付けている。

 

 

このまま彼らに挨拶してもいいのだが、私は色んな意味で目立ってしまうために決闘の邪魔をしてしまうかもしれない。ナツはいつものように私へ飛びかかってくるかもしれない。毎度のことながら叩きのめしているのに諦めない執念は私としても好感が持てる。

 

ここは少しタイミングを見た方がいいのだろう。

 

 

そう思いながら適当な店で時間を潰そうと踵を返した時、子供同士が喧嘩している騒ぎを聞いた。

 

「また魔導士が暴れてんだってよ!」

「ほんと野蛮な奴らだよな!」

「あんな大人にはなりたくねえよな!」

「そんなんじゃねえよ! 魔導士はすげえんだぞ!」

 

普通なら子供同士の喧嘩だと微笑ましささえ覚えるところだが、3対1の喧嘩で魔導士擁護派の少年には見覚えがあった。

彼はフェアリーテイルのマカオの息子であるロメオだ。魔導士の侮辱を自分の父親であるマカオに対する侮辱と感じているのだろう。

ロメオ自身には魔導士への強い想いがあるのだろう、3人を相手に全く引かない。彼は将来、いい魔導士になるだろうといずれ来る未来に思い耽ると、そこへロメオが私を見つけた。

 

「先生だ! 久しぶり!」

 

元気よく挨拶するロメオの頭を一撫でして今、帰ってきたことを伝える。そう言うと彼は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせた。

 

「また冒険の話を聞かせてくれよ!! 今度もすげえお宝見つけたんだろ!?」

 

いつものように彼は私の話を楽しみにしている。一度だけ暇つぶしに旅先で起こったことと過去話をボカして物語風にアレンジした話をナツたちにしたことがある。すると、それが予想以上に大ウケしたために偶にこうして私の話を催促して来ることがある。

 

だが、私とていつも話題の種があるわけではない。今回は評議会からの依頼で凶悪魔獣の討伐に行っただけなのだが、空き瓶を片手にノー装備の全裸状態で挑んだのだが、たったの一撃だけで片付いてしまったのだ。面白みが全くないほどに。

後で評議会に難易度規定の見直しを申立てよう、今回のは10年クエストと聞いていたのに肩透かしもいいところだった。

今度から100年クエストだけ受け付けるように本気で考えてみようか。一度だけ進言したらお偉いさんが泣いた。私とて老人を泣かせて悦に浸るような異常性癖など持ち合わせていないため、その時は冗談ということにしておいた。

 

そう思っていると、魔導士否定派の子供達が笑い声をあげる。

 

「そいつも魔導士なのかよ! てことは酒臭いんだぜ!」

「きったねー!」

「こんなのより騎士にでもなったほうがいいよなー!!」

「なんだと!?」

 

なるほど、彼らは騎士に憧れているようだ。その原因となっているのはフェアリーテイルの魔導士なのだろう。

彼らのほとんどは魔導士としてはいいものを持っているが、悲しいかなモラルはほとんどない。

 

魔法による町の破壊は当たり前、昼間から酒盛りとくれば大人でも第一印象は『ダメ人間』ということになっても無理はない。

 

 

ただ、彼らは魔導士と騎士の表面しか見えておらず、もっと目を向けるべきことが見えていない。悲しいことだ。

 

 

たしかに、騎士は子供の憧れであり、輝かしい職業と思われているが、その実で倍率が高い上に激務の連続だ。

もちろん、誉ある職業だけあって給料もあり、不正さえしなければ滅多に解雇されることはない、安定して家族を養える職業だ。

だが、それ以上に騎士は魔導士と比べて死亡率が高い。この世界の8割が魔力を持たず、魔法を使うことができないということもあって魔法のような奇襲もできないことはもちろん、魔法に対する耐性も低い。

 

 

見えないところから砲撃魔法食らったり、知らぬ間に呪いにかけられることもある。故に、闇ギルドとの抗争では魔導士より騎士への被害が大きいのだ。そして、騎士は魔導士と違って替えが補充できるので一つでも後遺症ができればすぐに追い出される。リストラはないけれど切られる時はアッサリと切り捨てられるのが騎士の悲しいところだ。

 

その点、魔導士は貴重であるため、重宝のされ方は騎士とは比べ物にならない。

 

 

私はその場で紙芝居を作り、子供達に向き合う。

 

 

 

とりあえず、最初は騎士の仕事内容から始め、後に雇用率と死亡リスク、優遇措置等を魔導士のそれと比べながら教えるとしよう。

 

 

 

 

 

 

名も知らぬ子供達が大人になったのを見届けた私は晴れやかな気分でフェアリーテイルへと向かう。子が一つ学ぶというのは喜ばしいことだ。

 

「なんか妙に上機嫌じゃないか?」

「さっき子供たちに騎士と魔導士のことについて教えたんだと。死亡リスクだとか雇用率だとかディープな話も含めて」

「かわいそうに、騎士に憧れていた子供達の反論も全て正論で完全論破してたな。なんか、子供の遊び場に乱入して笑顔で砂のお城やブランコを破壊する光景を思い浮かべちゃったよ……」

「最後には子供たちの目から光消えてたな……まるでこの世の闇を纏ったように」

 

周りの喧騒を耳にしながら歩いていると、そう時間をかけることなくギルドにたどり着いた。

辿り着いたのだが、様子がおかしいことに気づいた。いつもなら活気にあふれているギルドがいつにも増して静かである。人の気配はあるから無人というわけではない。

 

そのことが気になりながらも任務完了の報告のためにギルドの扉を開けた。

 

瞬間、全員の目が集まり、その後に驚愕の声が響いた。

 

「か、帰ってきたのか!?」

「マジかよ!? とんでもねえクエストに行ったって聞いたけど早すぎじゃねえのか!?」

「相変わらずとんでもねえ!!」

 

もはや通過儀礼となっている馬鹿騒ぎに湧くギルドの中を通ってマスター・マカロフの前に来る。

 

「今回の仕事もご苦労じゃったな。して、どうじゃった?」

 

とりあえず依頼は完了したことを伝えると、マカロフは安堵しながらも当然と言わんばかりに頷いた。

ただ、今回の依頼についての難易度に関しては評議員の怠慢と言わざる得ない。

 

ここで愚痴を言っても仕方のないことだが。

 

既に用事も終わったため、何があったのか聞こうと思った時、見知らぬ少女と目が合った。

右手の甲にギルドマークがあるのだから新人だろう。挨拶をすると少女も律儀に頭を下げた。綺麗な姿勢だ。

 

「あの、はじめまして! 私、ここに最近入ったルーシィと言います!」

 

あまりかしこまらないように言ってから腰に下げた鍵を見つけた。しかも金の。

かなりレアな星霊魔導士なのだろう。ソラノであれば鍛えてくれそうだ。

そう思っていると、ルーシィが私を見つめているためどうしたのかお聞いてみると手をワタワタ振った。

 

「いえ、あの、皆が強いっていうからどんな人なのかなぁって!」

 

全員を見渡すとあからさまに目をそらす。私のことでどんな噂が流れているのか気になるところだ。そう思っているとカウンターの奥から見知った銀髪の女性が出てきた。

 

「あら、おかえりなさい。あなた」

 

ミラが私に帰宅時の挨拶をしてくれたことに嬉しく思うが、同時に悲しく思う。昔は『先生』と言ってくれたのに、最近では二人称で呼ぶようになってしまった。もう子供ではないからということなのだろう。

同時に彼女が独り立ちしたことと思うと、今までのことを思い出してしまう。

 

「あの、なんかミラさんを優しい目で見てるんですが」

「気にしないで、よくあるから……もう子供じゃないのに、『あなた』の意味にも気づかないなんて……」

「えと、ミラさん?」

 

 

 

 

「ミラちゃん、やっぱあいつのことが……」

「やっぱり強くないとダメなのか……」

「どぅえきてぇるぅ〜?」

 

何やら周りが騒がしくなった。このままだと色々とうやむやになるため聞きたいことを早めに聞く。

なぜ、ギルドがこんなに静まり返っているのか。聞いてみると代表のようにマカロフが答えてくれた。

 

「あ〜、実はのう……」

 

そこから話した内容に私は合点がいった。

 

最初は私の予想通りナツとエルザが決闘していた。だが、そこで評議員が割り込んでエルザを連行したとのことだ。罪状はギルドマスター暗殺の阻止のために行った破壊と盗難らしい。

仲間の抵抗も虚しく、エルザは連れていかれた、と。

 

 

なるほど、これは茶番だ。恐らくだが、評議員の面子のために形だけの裁判と拘置で自分たちが上だということを示したいのだろう。

私の時もあったからすぐにわかった。

 

あの時は私の経営する孤児院に急にカエルの軍勢が来て評議員の名の下に拘束するなどと声高々に言ったのだ。すると、子供たちは私が拘束されると思って泣き出した。エリックたちもいなかったということもあったが、私は子供たちを泣かせたことへの怒りを爆発させて評議員部隊を文字通り殲滅した。殺しはしなかったが、パルプンテまで使って責め苛めたら尻尾巻いて逃げていった。魔法の内容はゴキブリ、ムカデ、ネズミ、ハチ、ナメクジといった人々に嫌われている動物たち総勢一万匹による総攻撃を行なった。ただ群がって齧ったり刺したりしただけだったが。

 

その翌日、再び襲撃があった時には本気で殲滅してやろうと思って殲滅用装備を着込んで出向いたら出会って1秒後に謝罪、2秒後に土下座ををされて驚いた。そして、事情を聞いてみると何ともバカらしいものだった。それならそうと言えば良かったのだ。そう思いながらエリックたちに連絡を取って孤児院を任せて私は裁判に出向いたのだ。その間、初日に会ったでかい口のカエルもなぜか震えていたのは些細なことだった。

 

そうだとすれば、エルザも即日で帰って来るだろう。

 

 

 

だが、評議員の真意がわからない皆は沈んでいる。このままでもいいが、一応安心させるために伝える。

 

もし、何かあれば私の方で何とかする、と。

そう言うと皆はどこか安堵した。

 

私の立ち位置を把握しているから安心したのだろう。それを見届けた私は席から立って出口へ向かう。

 

「色々と気を回してもらって感謝するぞい」

「それじゃあまた後でね。ご飯は私が作るから」

 

背中越しでマカロフとミラに手を挙げて返事する。

 

「ちくしょう、ミラちゃんからの料理だなんて……」

「なんかもう通い妻じゃないか。あれで気づかないって……」

 

後から聞こえてくる声に返事するのも今は億劫なため、、改まった挨拶は後日に回そうと帰路につく。

 

 

我が家となっている孤児院『休憩所』の子供達用に土産を見繕うのも忘れない。エリックたちが別件で出払っている今、代わりに子供の世話をしながらフェアリーテイルの給仕係として働いてくれているミラへの土産を何にするか考えながら夜の帳に包まれつつある夜道を歩いて帰っていった。




変更点

ミラの正式な所属はフェアリーテイルではない。
オラシオンセイスは全員、孤児院で子供の保護と世話をしている。
ミラのチンピラ風味が完全には消えていない。


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復讐は計画的に

長らくお待たせして申し訳ありません。
こっちの用事もひと段落したため、書きました。
ここまで待たせておいて話はあまり進んでいないことが悔やまれますが、今後ともよろしくお願いします。


マグノリアから少し離れた場所にその『屋敷』があった。久しぶりに帰ってきたその屋敷は元からいた時代から放り出され、この場に定住することを決めた時に建てたものだ。フェアリーテイル以外のギルドを見ることを兼ねて色んな知識を蓄え、貯蓄を貯めた私は宣言通りに一年後に帰ってきた。結局、フェアリーテイルの方が色々と都合が良かったことに気づいて元の鞘に収まったということだ。

 

帰ってきた時にはエリックたちは仮ではあるがフェアリーテイルに随分と馴染んでいた。私がいなかった一年の間にエリックたちはどことなく逞しくなっていたのは印象に残っている。

 

皆、フェアリーテイルの一員として籍を置くことを勧めたが、全員が私の元に来ることを迷わずに決めてくれた。あの日ほど感激したことなど早々にないほどに。

 

そもそも、この時にエリックたちには既に目標があった。

 

自分たちと同じように不幸な目にあった子供たちを救いだすのだと。

 

 

子供ゆえに抗えない理不尽を力ある自分たちが打ち倒すと。

 

 

もう自分たちの様な被害者を出さないと。

 

 

ここまで言われて野暮なことを言う輩などどこにもいなかった。マカロフもそれを認め、エリックたちやミラ兄妹を含めた私たちはとある施設を建てた。

 

 

被害に遭った子供たちを護り、育てる憩いの場

 

 

 

人生における「大切なもの」学ぶための学び舎、子供たちの「休憩所」という孤児院を建てて。

 

 

 

 

 

「あ、せんせぇだぁ!」

「わーい! 帰ってきたぁ!」

 

疲れて休みを欲しているにも関わらず、子供たちの声を聴くと不思議と疲れを忘れられる。少年少女が私の周りを囲み、抱きついてきたり私の荷物をひったくってお土産を催促して来るなど反応は様々、それでも私は笑みを隠すことができなかった。保護した時にはこの世の終わりのように絶望し、人形のように感情が欠落したりしていた子が大半だったと言うのに。

 

子を育てる、慣れないことの連続に疲れ果てていた過去も報われた気がした。

 

「ミラおねーさんがホットケーキ作ってくれた!」

「ソラノねーちゃんが夕食作って仕事行っちゃったの」

「エリックたちと遠足行ってきた!」

 

喋るのを楽しむかのようにリビングへ腕を引っ張る子供達の姿に目尻が下がるのを感じながら薄汚れた服や荷物を途中で片付ける。身軽になった状態でリビングに入ると、そこで箒が一人でに床をはいていた。

 

「おぉ、ご主人。帰ってきてたのか」

 

箒の先に装飾されたドクロが口を動かしながら床の埃を集め、それを掃除当番の子供がちりとりで集める。見事な役割分担を務める箒こそ、かつては魔導具としてブレインに使役されていたクロドアの杖である。

当初の怪しげな雰囲気を纏った杖が、今では立派な箒としてその役割を全うしている。そのことに私は満足して頷く。

 

「いや、由緒正しき杖の姿をこんなにしたのはご主人だからね? 好きでこんなんになったわけじゃないから」

 

口では文句を言いながらもその役割を全うしている姿に由緒も何もあったものじゃない。完全に便利グッズへジョブチェンジしたクロはため息を漏らして作業を終える。クロとは子供達から与えられた名前であり、エリックたちを含めた全員が呼んでいるため本人もそれに甘んじている。

 

「魔導具として畏れられ、崇め奉られたあの頃が懐かしい……あの頃の信者がワシを見たら間違いなく発狂する。狂ってご主人に挑んで全員もれなく死よりも生ぬるい苦痛にもがき苦しむんだろうなぁ」

 

この杖も長い間、私たちと暮らして言うようになったものだ。私とて慈悲ぐらいはある。その証拠に今の今まで誰も殺していないだろう。

 

「真顔で犯罪者を半殺しにしたり呪術や呪いの魔道具を集めるご主人が慈悲深いとか正気を疑うから普段から口にしない方がいいと思うんだがねぇ」

 

クロが失礼なことを言っているが、そろそろ私も本題に入ろう。

 

明日には生徒が来るし、そのためにも任務も早めに切り上げてきたのだ。おもてなしのためにクロには少し働いてもらうぞ

 

「それだけのために最上級クエストを切り上げるとか本格的に人間を辞めてるなぁ……」

 

クロのつぶやきを無視してドクロの頭部を掴み、箒に取り付けられた部分から取り外す。

 

「ぐえっ! 急にやるのはやめてほしいんだが……ちょっと待て、お玉に付けるのは勘弁して! 今日はシチューですごくあっつうううぅぅぅ!!」

 

往生際の悪いクロの体をお玉に取り付けてドクロ部分をシチューに突っ込んでかき混ぜる。唾液も汗もかかないから衛生的に問題はない。見た目的にも気に入っているから料理の手もよく進む。

ミラが用意したであろう作りかけの料理を作りながらミラの帰りを待つのだった。

 

シチューやサラダを作っていると玄関から扉の開く音が聞こえた。

パタパタと急ぐような足音が聞こえてきた。その音はこちらへ近づいた頃にはその主も現れた。

 

「ただいま。もう作ってくれたのね」

 

言わずもがな、ミラだった。彼女はフェアリーテイルのウェイターをこなす他にも孤児院の職員としても働いてくれている。何より、彼女はこの孤児院創設時からいた古参でもあるので給料も色をつけている。

ただ、今日はエルフマンがいないのが気になっていると、私の考えを読むかのようにミラが答えた。

 

「エルフマンは明日の仕事が早朝にあるって街を出たわ。帰りは明日になるかも」

 

それなら問題あるまい。私はすでに出来上がった料理を出そうとするとミラがその前に話があると言った。

何かと思うも、ミラの後ろの扉から知らない気配を感じる。

 

「実はね、今日はお客様がいるのよ。新人さんだからここのことを知ってもらおうと思って連れてきたの」

 

前置いた後にミラが件の来客を呼ぶと、少し縮こまって姿を現した。

 

「こ、こんにちは……ルーシィと言います」

 

おずおずと頭を下げて挨拶してきたルーシィにこちらも挨拶を交わす。急にミラが連れてきたというのにも彼女が新人だと言うことを考えるとすぐにわかる。

ここの孤児院の職員はエリック、ソラノ、ソーヤー、リチャード、マクベスが正職員でミラやエルフマンは嘱託扱いとなっている。一見すれば数が多いと言えるが、実際はかなり厳しい。

 

この孤児院はフェアリーテイルとの提携によって経営が成り立っている状態である。基本的に孤児院は慈善事業であり、行き場のない子供たちを独り立ちできるまでに育てることを目的としている。そのため、子供達から収入を得る訳にはいかない。そのための提携なのだ。

エリックたちはフェアリーテイルから困難とされた依頼を代わりに引き受け、達成した時の報酬の10%をフェアリーテイルへ紹介料などを含めた還元に充てている。また、任務中でも闇ギルドや邪教信徒の襲撃、奴隷商の被害に遭った子供の保護もするために遠出しているという理由もあるため、いつもエリックたちが孤児院にいるわけではない。そのため、子供達の面倒を見るシフトも計画的に立てなければならない。

 

そのシフトを充実させるにも人手を増やさなければならない、そのため常時職員を募集している。

そのための職員への特典というのがある。

 

「フェアリーテイルに入ってから日も浅くて住む場所も待ってもらってるの。今はギルドの仮宿舎で寝泊まりしているわ」

「本当は7万Jの家を借りようと思ったんですけど、ここの話を聞いてからは考えちゃって……」

 

二人の口ぶりからすると私の考えは当たっているようだ。

ルーシィに嘱託職員として働くことと孤児院での居住を聴くと、案の定だった。

 

「はい! 家賃3万で最低限な家具もすでに設置済み、職員として子供達の世話も月に最低4回で日給2万、食事も出ると聞けば飛びつきますよ!」

 

自分で決めたことだが、改めて聴くと待遇としてはいいと思う。それだけ人手が欲しいという欲求の顕われともいえる。

それに主要メンバーが全員出払っているタイミングとしてもルーシィの加入は助かるのも事実。

 

万年スタッフ不足に悩む孤児院として彼女の雇用に問題はないため、ここでの住み込みを認める。

契約書のサインを出しながらOKサインを出すと彼女は緊張した表情が一変して喜び一色に変わった。

 

「あ、ありがとうございます! これから頑張ります!!」

「よかったわねルーシィ。今日は歓迎会で決まりね」

 

そう言いながら今日は豪勢にしようと言いながら料理の買い出しに出て行った。後に残ったのは私と向かい合うルーシィ、そして奥の部屋で遊ぶ子供達の声がBGMとなっている。

先ほどと違って彼女の雰囲気も少し軽くなっている。

 

まさしく今日はめでたい日であることは間違いないだろう。

 

 

 

外から不穏な殺気を飛ばす輩もいるけど放っておいて問題なかろう。

私はルーシィを連れてその部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

鉄の森がフェアリーテイルに壊滅させられてから数日しか経っていないが、俺は行動を開始していた。

エリゴール共々幹部たち全員が投獄され、評議員から逃れた残党もいるにはいるが、そいつらとはバラバラに逃げてきたためここには俺一人しかいない。

 

ほとんどの奴らはフェアリーテイルを恐れたため、今日の作戦は俺だけで行う。

 

 

あの一件以来、元・鉄の森のメンバーだったというだけで闇ギルドの間では敗残兵と揶揄され続け、碌にギルドにも入れず路頭に迷っていた。鉄の森の構成員にすぎなかったために強力な魔法を持っているわけでもなく、ただ毎日をなんとか生きていくだけで精一杯である。

正規のギルドマスターの集団暗殺という作戦を失敗させたということもあり、鉄の森メンバーは信用されなくなっている。

 

たかが数日だけとはいえ、俺に起死回生の大逆転がなければ現状打破は叶わないと悟った。

 

フェアリーテイルに付けられた汚名は奴らの血によって洗い流す。

いくら奴らが強くても不意打ちに急所を叩けばいけるはずだ。奴らとて同じ人間、倒せない道理はない。

そうなれば鉄の森以前に俺の名誉はうなぎ上り、鉄の森にいた時よりも待遇もよくなるかもしれない。

 

そして、俺は奴らの仲間である金髪の女を最初のターゲットとした。

偶然見つけたから追いかけてきたというのもあるが、あの女だけはどうにも場になれていた様子ではなかった。まだ実戦経験が少ないかもしれない。

 

憶測の域を出ないが、少なくとも他の三人と組するよりは格段に楽だろう。あの女がもう一人の銀髪の女に連れられて豪邸に入ったのを確認し、見つからないように遠くから望遠鏡で中の様子を伺う。

 

くくく、俺は付いている。中にいるのはこの家の家主だろう男と標的がが楽しげに話している。机に星霊の鍵を置いたのを見て動くのはここだと確信した。鍵がなければただの小娘、不意をついた後は家主であろう優男も倒して金品を奪おうと考えた。これだけの豪邸だ、蓄えも相当なはずだ。

 

隠れるのをやめて家の塀をよじ登って侵入できそうな窓を目指し、小綺麗な庭に足を踏み入れた。

 

その瞬間、俺は見渡す限り、何もない草原のど真ん中に立っていた。

 

 

 

 

 

 

今日で10日は経っただろうか。

訳がわからない。最初は気が狂ったか、幻を見せられているのだろうと思った。

色々と魔法で草原を燃やそうとしたり、走れる限り走り続けたこともあった。

 

だが、この異常事態は全く収まる気配もない。それどころか走り続けても魔力を使い続けても力が抜けないどころか、今日まで飲まず食わずにいても生きていること自体おかしいのだ。動けない訳じゃないため、俺は今日も出口を探す。

 

 

 

 

 

今日で何日経っただろうか……いつからか俺は日数を数えるのをやめていた。現状は変わらず、魔力も体力も尽きることなく、食料なしでも生きていける。

今日まで生きてきたけど、青い空は一度として暗くなったことがなく、夜空になったことがない。

 

風も吹かない、雨も降らない

 

寒くも暑くもない

 

 

俺はいつになったらーーー

 

 

 

 

 

何年、いや、何十年経っただろう

代わり映えしない風景、体力も尽きることもなく、ただ長い時間だけが経っていく。

これまで飲み食いせず、病気にもなったことがなければ歳も取った様子がない。髭も生えなければ空腹も訪れない。

 

でも、最近では新しい生きがいを見つけた。

今日も魔力を練り、俺は自分の体に魔法を放つ。

 

 

あぁ、痛い……肉が焦げて引き裂かれる感覚が、俺が生きていることを証明してくれる。

 

 

俺は生きている。この何もない世界の中で

 

 

 

 

この 争いも後悔もないこの世界で

 

 

 

俺は今日も▪️▪️▪️いく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーシィの歓迎会を終えた翌朝、私は日が昇り始めた早朝に私は庭の手入れを始める。

この家の手入れは絶対に欠かせない必要条件だ。

 

この家はもともと普通の家ではなく、パルプンテ神がうっかりで地上にばらまいたアーティファクトなのだ。

細かい事情は今は省くが、たまにパルプンテを通して集めてほしいと神託が入ることがある。この家もその回収物であり、報酬なのだ。

基本的に回収したものは自由に使ってもいいが、中には使うだけで眼に映る限りの土地を焼き尽くす物さえある。そんな物を地上にばら撒くパルプンテ神は間違いなく邪神。異論は認めない。

 

パルプンテ神がばら撒いたのは何もアーティファクトだけでなく、他の神を地上に落として封印したりとかなりやんちゃしているようだ。

 

アーティファクトに関しては私の物にしていいということは非常に魅力的だったので基本的に文句はない。

 

 

 

エーテリオンでさえも貫けない瓦を持つ神の家の維持管理を怠れば、家はヘソを曲げてとんでもない大災害に見舞われる。

回収する前にこの家が存在した土地は呪いの土地と地元住民に恐れられ、200年クエストの対象となっていたくらいなのだ。そのヤバさは計り知れない。

 

そんな家をパルプンテでこの土地に移し、今では立派な豪邸として機能しているのだ。

 

 

 

この家は住民を快く迎え入れるが、不当な侵入者に対しては容赦しない。

 

 

そのことを庭の真ん中で倒れる男の姿を通して再認識するのだった。




『招かれざる家』

パルプンテ神が神樹で作って地上に落とした家。その家に住んだ者は富に恵まれ、一生の栄華を約束される。
しかし、この家を解体しようとしたその年に家の住民が全員姿を消した。人の生活の痕跡を残し、床にこびり付く人の形のような痣が一年に一度だけ浮かび上がる。侵入者に対して起こる事象は家の侵入場所によって変化する。

『庭は住民の憩いの場所。森羅万象から断絶された空間は住民に安らぎを与え、侵入者には丁重な警告を与える。毎週には雑草の草をむしり、生き物の殺生を禁じ、祠を建てて供物を捧げよ。忘れることなかれ、庭は神の玄関口。
永遠の安寧を約束する者より』


私「体感時間で300年とかヌルゲーwww 魔物無限増殖セットは基本だろJK」
侵入者「自首して植物のように生きていきます」


侵入者は憲兵に引き取られました。


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ガルナ島にて

久しぶりで勘が戻ってないけど、とりあえず続けてみました。


普段は『休憩所』の運営をしているのだが、それ以外にも副業も数多く抱えている。

 

魔法工学の論文発表も期日が迫っており、貴族の社交場にも招かれている上に今回のクエストの報酬の一部もパルプンテ神の御神体に献上しなければならない。

休憩所の庭に建てた御神体にはお供え物の他にも金や宝石などの価値の高いものもお供え物としてカウントされる。我が神の感性は意外と俗にまみれているため、相手が外道であるなら如何なる処遇を下しても笑って許してくれるのだ。

 

この前は孤児に売春を強要させていた悪党をゲル状にしたのが記憶として比較的新しい。

 

実際には頻繁にお供えもしなくていいのだが、ほったらかし過ぎるとへそを曲げて余計な被害を出しかねない。

数年も前だが、ほったらかし過ぎて御神体から不可視の拳が飛び出して腹パンを食らったことがあった。

幸いにも警告だったのか腹に風穴が空いて血反吐を吐くだけで済んだのだから御の字だろう。幸いにも穴が開いた時には誰もいなかったことと庭に飛び散った血肉は庭の芝生に吸収されたために穏便に済んだ。

 

そんなことにならないように石製の御神体に金を置いて合掌、瞑目して目を開けると金が無くなったのを確認して一日が始まる。

既にギルドに行ったルーシィもいないため、子供たちに家の戸締りを頼んで家を後にする。留守番のときの教育は徹底させたのでそこは心配していない。

 

『休憩所』は孤児院として成立しているため、クエストなどの高額の仕事はフェアリーテイルに行くしかない。あまり期待していないが、高難易度のクエストもあるかもしれない。

 

そう思ってフェアリーテイルの入り口前に着くと、何やら騒がしい。

 

 

いつもと違う騒ぎように何かあったと思いながら戸を開けるとギルド全員の目が集まる。そして、焦った様子のマカロフが慌てた様子を見ると明らかにただ事ではない。

 

 

「おお、丁度いいところに来てくれた! お主に頼みたいことがあるんじゃ!」

 

私を見つけたと思ったら切羽詰まったように駆け寄ってくる。何やら面倒事が起こったのは火を見るよりも明らかである。

 

「ナツたちがS級クエストに行ってしまったんじゃあ! 何としても連れ戻さねばならん!」

 

聞けば昨晩、ハッピーが夜に忍び込んでS級しか扱わない依頼書を持って行ったとのことだ。

しかし、S級ですらないナツは依頼を受ける権利はもちろん、実力的にも無謀でしかない。いくら考えるのが苦手とはいえ、仮にもギルドに所属しているのだから、その辺の事情も重々承知のはず。

 

しかもルーシィまで関与しているという話ではないか。昨晩、帰りが遅かったのも関係しているのだろう。

 

事の顛末を聞いた私にはたった一つ、ナツを連れ戻すように頼まれた返事を返す。

 

 

 

なぜ私が奴らの尻拭いをしなければならない。自分で蒔いた種は自分で刈らせろ。

 

 

この答えは至極まっとうな部類だと思う。なのに、その一言にギルドが騒然とした。

 

「そんなっ!」

「お主、ナツたちを見捨てるというのか!?」

 

マカロフだけでなくミラまでもが絶句したのを確認しながら私は断固拒否する。

 

 

そもそも私はフェアリーテイルのメンバーではないのだから普通しないだろう。そういう身内同士の問題で第三者の関係者が一番損をするのだ。見え見えの泥船に好き好んで乗る趣味はない。時と場合によるが。

もっと言えば今回の件はナツの命令違反もあるが、ギルド側の不手際でもある。

 

そこまで言うとマカロフも心当たりがあるのか言葉を詰まらせた。普段の彼であればこんなミスはしないが、身内が絡むと脇が甘くなる。美点といえるが、裏を返せば弱点ともいえる。

 

今後、それが元で死んでしまわないかが不安である。

 

そんなことを思っていると、二階から顔を出して嘲笑を上げる輩がいる。

 

「だから言っただろ。そいつはぜってえに行くわけがねえってな」

 

イヤホンをつけてタバコを吹かせながら私を見下ろすのはマカロフの孫であるラクサスだった。見た目も相まって完全なDQNそのものである。

 

そういえばグレイも前までは喫煙していたが、最近は見てないな。タバコ咥えてポーズもとってたこともあったのに。今度聞いてみよう。

 

「決まりだな。奴らが戻り次第破門確定だ……つっても、生きて帰れるかも分からねえがなぁ」

「ラクサス……! あなたって人は!」

「なんだよ。言いてえことがあんなら力で示せよ。なぁ?」

 

確かにラクサスの言うとおり、このままでナツたちは物言わぬ骸として戻ってくる可能性も否めない。

ナツの土壇場に出す爆発力はギルド随一、ピンチを乗り越える力はあるが、現実はそんなに甘くない。

 

それに便乗したルーシィもルーシィだ。ここ最近の彼女は真面目なことと時折見せるたたずまいから『いいとこのお嬢様』だと思っていた手前、とんだじゃじゃ馬だった。

行動力があるのはいいことだが、今回はルーシィに非がある。

 

もっとも、今回で一番責任が重いのはナツとハッピーなのは言うまでもない。長年、ギルドに属していながらギルドの基本的な掟に反したのだから何も言えない。自分の尻は自分で拭くべきなのだ。

 

 

ただ、行き先のガルナ島が気になる。

 

ここ最近で怪しげな集団が出入りしているとのことだ。何か巨大なものを運び込んでいるという目撃情報まであるのだから。元々からガルナ島の遺跡にも興味あったからある意味ではいい機会かもしれない。

 

「ていうか、なぜナツの行き先が分かったんじゃ!? まさか知っておったのか!」

 

そんな訳ないだろう。もし見ていたら不可避の腹パンをくらわせている。一応、このギルドで仕事をもらっているのだから全ての仕事くらい頭に入れているのは当然のことだ。

昨日まであった仕事と既に受理されていた仕事を照らし合わせた上で、今ここにない依頼書を探せば自ずとわかる。

 

「全部覚えてるって、ここにあるだけでも100はあるぞ。レビィは分かるか?」

「無理だよ。そもそも足りなくなった依頼書を別の件で埋めてるし、消去法も通用しない」

「どんな記憶力だよ……」

 

そんなことよりも、一先ずは今日の予定は決まった。私はガルナ島に行き、自分の用事を済ませる。ナツたちの件には関わらない。ただし、クエストが成功したのを確認したら私が制裁を下す。失敗したら事の成り行きを見守る。

 

 

これが最大限の譲歩だが、それでいいかと聞くとマカロフはため息を吐いた。

 

 

「仕方あるまい……わし等の問題に巻き込んですまなかったの」

 

了承と捉えた私はすぐに唱えた。

 

 

 

パルプンテ

 

 

 

その瞬間、眩い光と爆発音とともに私はマグノリアから姿を消した。

 

 

 

 

「相変わらずよくわからん魔法じゃのう……」

 

すさまじい爆発の後、ギルドの天井に空いた穴から見える晴天の空に、マカロフの呟きはギルドの中に響いた。

 

 

 

 

 

 

ガルナ島で一つの事件が終息しつつあった。ナツたちが手違いで受けたクエストの依頼主は悪魔だった。

悪魔は元々人であり、遺跡で怪しげな儀式を行っている何者かのせいで悪魔の姿へ変えられたと言った。

その言葉に従ってナツたちが遺跡で見たものは氷づけにされた悪魔、過去にグレイの故郷を焼き払った『デリオラ』

 

その悪魔の復活を目論んでいたのがグレイと同じ門下で励んでいたリオンだった。

彼は師匠のウルを超えるために自らの力でデリオラを倒すことを目的に動いていた。

 

そんなリオンの思惑を止めるためにナツたちは途中で合流したエルザと共に立ち向かい、決着を迎えた。

 

 

かつての師匠、ウルが命と我が身をかけた魔法はデリオラの命を削り、その身を砂のように崩している。

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を遠目で見ていたザルチム……老人に変装したウルティアが遠くから見ていた。

 

「あ~あ、結局こうなったのね」

 

どこか残念そうに、それでいて面白いのか笑みを浮かべていた。

 

「ま、私にはもう関係な―――」

 

何かを思っていたのも束の間、その背後から色濃い気配を感じて振り向いた。

 

 

 

 

目と鼻の先で巨大な斧を自分の首めがけて振りぬこうとする△の被り物をした異常者がそこにいた。

 

 

 

「うわああああぁぁぁぁぁ!!」

 

女性とは思えない奇声を発しながら持っていた水晶球でサイズに見合わない、恐るべき速度で振るわれた斧を受け止めた。拮抗すらせず水晶球は真っ二つに斬られたが、一瞬のタイムラグで何とか身をかがめてよけきった。

刃が通り過ぎた後の空間が歪んでいる、そんな一撃をためらいなく振るう人物に心当たりがあったウルティアは変装を止めた。

 

「何すんのよ! 殺す気!?」

 

持つだけでも脱臼するであろう巨大な斧を片手の指先で弄びながら急に現れた精神異常者はさも当然のように答えた。

 

 

 

でえじょうぶだ。どうせ死なないから

 

 

その答えにウルティアは、言葉のキャッチボールくらいしろ、と毒づいた。

大方、今回の騒動を嗅ぎ付け、自分がその騒動の元凶だと思ったのだろう。

 

(ただでさえジェラールもめんどくさくなってきているのに、こんなのを相手にしてたら命がいくつあっても足りないわ)

 

聖十魔導師などと呼ばれているが、それでも目の前の男にとってはただの称号でしかないのだろう。

事実、聖十魔導師の第一位を苦も無く下した光景を見た後であるならなおさらだ。

グリモアハートの総力を挙げたとしてもこの男は怯まない、それどころか嬉々として向かってきそうだ。

 

かといって手さえ出さなければこの男も襲ってはこない。

男の情報網であれば自分の正体も既に割れているだろう、それでも男は仕掛けてこない。

 

 

毒にも薬にもならない厄介な男、それがウルティアの印象である。

 

 

 

 

そんなことを思われているとは知らず、男は△の帽子を被ったままウルティアに今の状況を問う。

それだけなら問題ないとウルティアも今までのことを洗いざらい吐いた。

 

悪魔の村、ムーンドリップ、デリオラの全てを

 

そこまで聞いて大変に興味がわいた。ムーンドリップはどんな魔法でも、強固であっても魔力構成を崩壊させる貴重な魔法だ。

原料は月の光であり、それに魔力を注ぎ込んでできる自然魔法<ネイチャー・マジック>。

万能な魔法解除魔法でありながら夜にしか使えず、効率よく月光が当たる場所、満月であることなど運だよりの要素が最適な条件でなければできないことから、ムーンドリップのレア度は推し量れるだろう。

 

まさかとは思っていたが、ムーンドリップを回収できる場面に出くわせたのは今年最大の幸運といえる。

ゼレフ書の悪魔であるデリオラもできれば従属させたいが、グレイとかの因縁を考えると今回は見送った方がよさそうだ。もとより、理性がないという時点で望みは薄かったが。

 

 

「もういいでしょ? 帰らせてくれない? 今日は疲れたのよ」

 

ウルティアがウンザリした様子で帰ろうとするのを私は了承する。

かなり上位の闇ギルドに籍を置く彼女は常に警戒すべきだが、今回は非常に有用な情報をくれたということで見逃していいだろう。

 

それよか、今回はジェラールも関わっているのかと聞いてみる。

私の予想ではこんなまどろっこしいことをするとは思えない。

 

「今回は私だけよ。数週間前からわいせつ罪で地下牢に入ってるわ……評議員のジジイどもは全部私に押し付けるし、マスターも私に任せるの一点張りだし、皆死ねばいいのに」

 

いつも通りで安心する。ブレずに我が道をゆくジェラールには一種の尊敬すら抱く。

今は姿なき勇者に敬礼を送っているとウルティアは小さい声で物騒な破滅願望を唱えているようだが、今はそっとしておこう。

 

くたびれた社会人のように背を向けて帰っていくウルティアに最後だけ気になったことを聞いてみた。

 

 

 

また太った?

 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”ちくしょうがああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

この手の話題は彼女にとって地雷だったようだ。ジェラールの付き人という設定である以上、彼に巻き込まれて筋トレとプロテインのバルク食いをしているのだろう。そう思いながら私は足に力を入れて跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴らは何かを隠している」

 

グレイとリオン、因縁の戦いはグレイの勝利で幕を下ろし、デリオラも師匠・ウルの魔法によって朽ち果てた。

長年のわだかまりは不完全とはいえ、和らいだこともあり、フェアリーテイル違反組とグレイとエルザを含めたメンツが和やかなムードで終わろうとしていた。

 

「早く依頼を終わらせてギルドに帰るぞ。処罰についてはそこで決める」

「えぇ~、せっかくS級をクリアしたっつーのによ」

「あい、今回はルーシィに無理やり……」

「罪をなすりつけるな! でも、報酬の鍵だけは欲しいかなー、なんて……」

 

エルザはナツ、ハッピーとルーシィを睨めつけると三人は目をそらす。

 

そもそもエルザは勝手にS級を受けたナツたちを連れ戻しに来たのだが、クエストを途中で放り出すのはギルドの信条に反すると共にクエストを受けたのだ。

 

そして、残すは依頼主である悪魔に変えられた人たちからの依頼を果たすだけとなった。

 

いい意味でも悪い意味でもマイペースな彼らにエルザはため息をつく。

 

「折檻は先生にしてもらうとのことだ。その態度がいつまで続くか見物だな」

 

 

その瞬間、ナツとハッピーは顔を真っ青にして固まった。ルーシィは申し訳なさそうに顔を顰めたが、ナツの尋常ではない恐怖の意味が分からない。

これまでに生活してきたが、優しく気の回る先生だという印象がルーシィの中で強く残っていた。

 

だが、ルーシィは知らなかった。

 

 

彼が問題ばかり起こすフェアリーテイルの面子とは、また更に格が違うということを

 

 

 

 

仕置き

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、エルザとナツ、グレイは言い知れぬ恐怖に身を起こした。

空気さえも震える寒気に疲れた体も本能的な警報に突き動かされた。

 

「伏せろおおおおぉぉぉぉ!!」

 

ナツはハッピーとルーシィを、グレイはリオンの頭を押さえて伏せた。

突然の奇行に疑問を感じた瞬間、ルーシィたちは自分たちの首があった場所が一瞬だけ歪んだ気がした。

刹那に遅れることしばらく、辺りに暴風が巻き起こった。

 

「うぐぐ……」

「きゃあああぁぁぁ!」

「何が……」

 

まともに呼吸ができない暴風も1分弱で収まった。とはいえ、暴風の脅威にさらされたルーシィたちにとっては長い時間に思えた。

 

「いたた……何なの急に……え?」

「やべえ……大魔王が来ちまった」

「間違いないな……これは少なからず怒っていると見れるだろう」

 

ルーシィはナツに文句を言おうとして起き上がり、言葉を失った。起き上がって視線を向けた先の風景がきれいさっぱり消えていた。

 

島の木々が綺麗に抉れ、半円状の跡が海にまで続いていた。時間が止まったように海までもが抉れていたが、やがて波音と共に海が元の平らな海原へ戻った。

あまりに現実からかけ離れた光景にルーシィは唖然としていたが、背後から色濃い気配を感じた。

 

背後を見ると、遠くでピラミッドのような仮面をかぶり、人の身長よりも倍以上あるサイズの斧を片手で持ち、肩にかけている人物を見た。

抉れた跡がその人物から始まっているため、今の惨状を引き起こした張本人だと言うまでもない。

 

「な、なんだあいつは……あんな奴、知らないぞ……」

 

リオンは圧倒的な実力と異様な姿に臆し、震えている。

それはルーシィも同じだった。

 

とんでもない実力に顔を隠した得体のしれない人物。いくら頼もしい仲間がいるとしても未知なる脅威への恐怖は簡単には拭えない。

それでも鍵に手を伸ばして臨戦態勢に入ろうと緊張で乾いた目を瞬きさせた時だった。

 

「え?」

 

斧を持った人物が消えた。遠くの小さい影が忽然と消えたのだ。

 

「なんだったの……」

 

訳が分からないと首をかしげながら緊張を解いたのがいけなかった。

 

 

 

 

 

濃い気配と呼吸音がすぐ後ろから聞こえた。

 

 

 

 

ルーシィは自分の心臓が止まったと錯覚した。

ついさっきまで遠くにいた影が一瞬のうちに自分の背後に回っていたのだ。

 

 

超重量級の武器を持って瞬間移動なんてできるわけがない、そう思い聞かせて現実を否定しようとする。

それでも恐怖を拭うことはできない。

 

そう思っていた時、最初に動いたのはナツだった。

 

「火龍の鉄拳!!」

 

炎を纏わせた拳をルーシィの背後の人影に向けて突き出した。

 

 

だが、相手は三角の兜を投げてナツの顔面にぶつけた。

 

「ぶへぇ!」

「ナツ!」

 

ハッピーが倒れたナツに駆け寄る中、ルーシィは突然の来訪者の顔を見て驚愕した。

 

「先生!? なんでこんなところに!?」

 

自分がお世話になっている人の登場にさらに混乱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

今回、ナツたちが起こした不祥事はハッキリ言ってギルドと依頼主に対する多大な背信行為だ。

 

ナツたちはS級クエストの受注を許可されていないのは、未だに高難易度のクエストに対応できる実力と心構えが未熟だというところが大きい。

それなのに、ナツはその掟を破り、周りの人間さえも巻き込んだ。

 

 

ギルドの上の組織は依頼主からクエストを受け、その難易度を厳正に設定したうえでギルドに依頼を提供している。それは貴重な魔導師の犬死を最大限に減らす配慮である。上の人間はその他にもきな臭いことを思っているだろうが、今は置いておこう。

 

また、依頼主は普通の力では解決できない事件を大金をはたき、藁にもすがる思いで依頼を出し、金まで払っているのだ。確実に解決できそうな人物が行くのが当然であり、依頼主への手向けとなるのだ。

 

 

ナツたちはその二つの信用を裏切り、私欲へ走った。現状に不満があり、自分でもできると自信があったならまだ情状酌量の余地はあった。

だが、聞くところによれば、ナツたちは確たる情報収集を怠り、道楽気分でクエストを受けた。

 

 

あらゆるギルド、依頼主、そしてギルドメンバーの信用を裏切ったナツたちに私は久しぶりにパルプンテを使った。その結果、起こったのはフォームチェンジ、エルザの言う換装だった。

 

 

モデル・ピラミッドシング

 

奇抜な三角の兜は個人的にも気に入っているので大当たりでもあり、今まさに相応しい恰好だろうと思った。

このモデルの『処刑人』『罪を裁く存在』を象徴している。

 

装備を一新した私は武器である斧を振りかぶってナツたちに振るった。今回は威嚇だが、本格的な仕置きはまた後日に行うこととしよう。

私は縮地でルーシィの背後に回り、襲いかかってきたナツを抑えた。

 

 

「まさか師匠が直々に来るなんて思ってませんでした。見事な一撃です」

 

エルザは私に賞賛を送り、一歩引く。エルザも私がこれからいうことを理解しているのだろう。

驚愕するルーシィとナツに縋り付くハッピーに聞こえるように口を開く。

 

 

 

初のS級はどうだったかと聞くと、ルーシィとハッピーは目に見えて震えている。だが、ナツだけは炎を纏った拳を振り上げてきた。

 

「S級をクリアした俺に不可能は―――」

 

 

反射的に反撃してナツの腹部にニーキックを繰り出した。膝が突き刺さり、内臓が圧迫される感覚を感じた後、ナツは言葉を発することができずにその場に崩れ落ちた。

ゴロゴロと転げまわるナツに顔を真っ青に染めたルーシィはナツと私の間に視線を彷徨わせてうろたえていた。

 

グレイとエルザは静かに黙とうを捧げ、見知らぬ白髪頭の少年は目を全開に見開かせていた。

この場で切り捨てようと思ったが、様子からして既に疲労困憊で動けないのだろう。

 

あともう少し、右の位置にいたらさっきの一撃で体がパッカーンしたであろう。大地の切れ目は少年の寸前に迫っていた。

 

それはともかく、私はルーシィに視線を向けていった。

 

ギルドの信頼を裏切り、依頼者の必死の助けに対して「実力が足りなかったので無理でした」と言い訳してギルドの評判を地に落とす危険を考えずに行ったクエストはどうだったかと。

 

「あの、言い方……いえ、すいません。調子に乗りました。反省してるのでその斧を下ろしてくださいお願いします何でもしますから」

 

言い訳を続けるようであれば一発決めておこうと思っていたが、反省しているので今は不問にしよう。今だけは

 

大事なことを二回言うとルーシィは高速で首を縦に振った。それを機に一区切りつくと、静観していたエルザがようやく口を開いた。

 

「それはそうと、早くこの依頼をクリアしてしまいましょう。この馬鹿どもの折檻はその後で」

「だが、どうすんだよ。リオンが何も知らねえって言うんじゃどうしようも……」

 

話からすると、この島の異変を解決することになったようだ。久々に魔法を使ってやらねば腕もなまってしまう。

魔法に必要な魔力を集めるとエルザたちはその意図に気づいた。

 

「な、なに……この魔力……」

「あ、ありえん。これほどの力、ジュラさんでも感じたことは……」

 

毎回思うが、そこまでのものだろうか。間違っても自爆など起こさないために必要最低限の魔力しか使っていないのに。

そして、私が呪文を唱える時と唱え終えたときに視線に入れている対象物だけが魔法の影響を受ける確率も高くなる。

 

隠されたパルプンテのルールを適応させるため空の赤い月を見上げて唱えた。

 

 

パルプンテ

 

 

 

 

 

空に巨大な亀裂が入り、空が割れた。

 

現実を破壊する空の割れ目から巨大な右手だけが顕現した。

 

鋭い爪と赤い皮膚、手首に巻かれた鎖が空の亀裂の中へ続いている。

 

超常の存在は紅い月を鷲掴みにし、まるでグラスを割るように月を紅く見せていた結界を跡形もなく消し去った。

 

 

 

 

 

 

全てが夢幻のように非現実的で、あまりに強大な出来事に皆は汗が噴き出る感覚を味わっていた。

 

見ただけで底冷えし、敵意がなくても平伏してしまいそうな本能を鎮めていた。

 

 

そんな周りのこともお構いなしに私は召喚獣を引っ込めた。

 

 

 

 

固まる皆を置いて遺跡の中へ入り、ムーンドリップの採集に思いをはせた。




今回のパルプンテ

ルーラ:元ネタはドラクエ、お馴染みの転移魔法

レッドピラミッド:元ネタはサイレントヒルの△様。無駄に恐怖を与える存在

封印されしエクゾディア(右腕)のような存在の召喚


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毒を以て鉄を制す(前篇)

今頃は島の異変も消えたことで任務も達成されたことを確認し、マグノリアへ帰ったころだろう。

私は私で遺跡に降り注ぐ月の光を液体に変えて瓶の中に集めている。

科学と同じ要領で特殊な機器を用いてムーンドリップのつまった瓶を鞄に放り込んでいく。

 

その数が9本になったところでムーンドリップを集める最適な条件が変わり、これ以上の収集は無理となった。

 

今回はただデリオラとムーンドリップのために来ただけなので住人への挨拶は別にいいだろう。距離からしても泳ぐには問題ない。そう思って準備運動しながら暗い海を見ると、奇妙な気配を感じた。

 

海のあちこちに漂う油膜のように少し別の何かを感じる。

海と完全に一体化しているわけではなく、散りばめられたようになっているのも気になる。

何より、力強い生命力に似たものを感じる。

 

興味を抱いた私は余った空瓶を取り出して生命力のエネルギーが溶け出した海水だけを集めていく。

海の中に溶けた部分は素潜りで集めた。

 

一通り集められるところまで集めた後、今度こそ私は帰ることにした。

 

 

今日は珍しく目的の意に沿った効果が表れた。これ以上の運は続きそうにないので魔法は止めておこう。

防水性の鞄なので泳いでも問題ない。鍛錬ついでにバタフライでマグノリアへと帰る。

 

ドルフィンキックの一蹴りごとに軽い津波が起こり、彼の泳いだ後に渦潮を作っていったのを本人は気付いていなかった。

 

 

 

 

舞台は戻ってマグノリア

 

そこでは未だかつてない衝撃が襲っていた。

フェアリーテイルのギルドが襲撃された。幸いにも無人のギルドを深夜に襲撃されただけで怪我人は皆無だった。

そのため犯人の目星をつけているにもかかわらず、マカロフは不動の意を示す態度に一部の好戦的なメンバーは不満を募らせる。

 

だが、相手がどう出るかわからないため、しばらくの間は単独行動を禁じられるようになった。

見えない悪意にギルドは異様な空気に包まれる。

 

 

 

「なんだか大変なことになっちゃったね」

「プゥ~」

「この先どうなっちゃうんだろ……」

 

ルーシィは自身の契約精霊であるニコラことプルーと帰路についている。

ギルドが襲撃された、自分の身近に悪意を持った敵がいることに不安を抱くメンバーの一人である。

 

今までは闇ギルドやガルナ島のようにクエストでの戦いに出くわしたが、それはあくまで仕事と区切りをつけることができていた。

ただ、今回は事情が違う。

 

この街で暮らし、買い物をし、帰る場所となっているマグノリアに見えぬ悪意が潜んでいる。如何に魔導師といってもその恐怖は拭えない。

 

「まあでも夜に出歩かなければいいだけだし、大丈夫よね」

「プゥ~」

 

気の抜けるような声に不安も和らいだのか笑みを浮かべ、街はずれの山に建つ『休憩所』が見えたとき、安堵感が生まれた。

 

プルーをしまって家に入る前に掟ともいえる帰りの挨拶をしてから戸を開けた。

 

「ただいま~」

「お邪魔してるぞ」

「ふほーしんにゅー!!」

 

そう言って家に入った時、リビングでくつろいでいるエルザやなぜかぐったりしているナツとグレイ、ハッピーの姿に叫んだ。

 

「はしたないぞ。無暗に大声あげるのは子供の教育としてはよろしくない」

「それならちゃんと不法侵入しないでほしいんだけど……」

「ちゃんと今日に伺うことは先生に言ってあったぞ。こら、また爪を噛んでいるな。癖になったら大変だ」

 

膝の上で指をしゃぶっていた幼児を優しい笑顔で注意する姿にルーシィは意外そうに目を丸くした。

エルザの意外な一面を目に焼き付けながらも問題の男どもに目を向けた。

 

「で、ナツたちはなんでこんなことに?」

「気にするな。この家に入るときにドアを蹴破ろうとした結果、『あの世とこの世の狭間の空間』に強制転移させられて体感時間で言うところの1ヶ月を空腹なし、景色なしの空間を彷徨ったらしい」

「突っ込みどころがありすぎて意味不明なんですけど!?」

「聞いてなかったのか? この家で礼儀を欠くと超常現象に巻き込まれ、最悪では精神を壊すほどの攻撃を受ける。ナツたちは本当に運が良かったと言えよう」

「ひええぇぇぇ……」

 

初めて聞かされた住まいの裏事情にルーシィは震えあがる。今まではよかったが、普段から危険と隣り合わせのギリギリの状況に置かれたかを知ったからだ。

 

 

しばらくして復活し始めたナツたちを交えて今回の騒動のことを話し合う。

 

今回、フェアリーテイルに宣戦布告紛いなことを仕掛けたのは『幽鬼の支配者≪ファントムロード≫』とみて間違いないらしい。さらに言えばギルドに鉄の棒を打ち込んだのは鉄のドラゴンスレイヤーであるガジル・レッドフォックスという者らしい。

 

マカロフもまた、それに気づきながらも手を出さないのはギルド間の争いで息子と称するギルドメンバーが傷つくのを避けているからだ。

 

決して臆病風に吹かれているわけではないと知りながらも、ナツのような好戦的な者としては納得いかない話である。

 

「どちらにせよ。マスターが仰られるのであれば我々はそれに従うしかないのだ」

「先にやってきたのはファントムだろうが! じっちゃんもビビってねえでやり返せばいいんだよ!」

「ジーさんだってビビってるわけじゃねえよ。今は攻め時じゃねえってことだよ」

「んなもん関係ねえ! 戦争だ! 戦争!」

 

ナツが興奮して火を噴き散らすと、一部の家具に火が移り、焦げた。

その瞬間、ナツが座っていたソファーから屈強な両腕が生えてきてナツの首根っこをつかんだ。

 

「ぐえ!」

「ナツ―!!」

「なにこれー!?」

 

ハッピーが救出する間もなく、部屋に置かれていたタンス、食器棚、絵画から鍛え抜かれた手足だけが生えてきてはナツに殺到し、全員で袋叩きにする。

 

「この野郎! 燃やしてガボォ!」

 

ナツが魔法を使おうとするとキッチンの蛇口から器用に水が飛び出てナツの炎を鎮火する。

チームワークがいいのか家具たちは水に巻き込まれないように離れたためにナツだけが水に押し流されて部屋の中央に転がされた。

 

なお、家具たちは無関係なエルザたちや子供たちを丁寧に応対して安全地帯に誘導している。

 

一人暴れたナツはビショビショの姿で腕を組んだシャンデリアに潰された。

 

「ぐえー!!」

 

最後の仕上げとばかりに家具たちはナツを取り囲み、再度袋叩きにする。

 

 

その光景を見て、関わらないように努めるエルザたちは何事もなかったかのように話を進めようとする。

 

「『夜には一人にならないように』とのことで、師匠の家を提案してここに来たのだ」

「ここに住んでるのならもう安全じゃないのか? 持ち主もそうだけどナツレベルならここの家具だけでなんとかなるだろ」

「そもそも、この家って本当になんなの? 明らかに普通じゃないよね!?」

「だが、油断はできん。この家にまで手を出そうものなら師匠も黙ってはいない。そうなればただの戦争じゃすまされん。一方的な虐殺になる。それを防ぐためにも今日はここで晩を取るぞ」

「でも、ここって一晩過ごすと今まで住んでいた住人の形をした血の跡が辺り一面に浮かぶって言ってたけど、大丈夫なのかよ……」

「エルザ聞いて!! この家普通じゃない!」

「私たちは客として認められているはずだ。だから大丈夫……なはずだ」

「断言しろよ!!」

 

もはや並みの要塞よりも屈強で魔境である家で泊まることとなる。

だが、とエルザは一つ思い出したと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「今回の件、もしかしたらすぐに解決するかもしれん」

「なんで?」

 

 

 

「エリックたちが帰ってくる」

 

 

 

 

 

フェアリーテイルにはチームが複数あり、それぞれのチームで特に仲がいい者同士が集まっている。そんなチームの一つである『シャドウ・ギア』はレビィ、ジェット、ドロイがある。

 

主戦力はレビィであり、優れた頭脳と文字から作られる魔法は貴重な戦力たる所以だ。

 

そのチームが現在、窮地に立たされていた。

 

「ギヒ、妖精のケツも大したことねえな。一撃でこのザマかよ」

「ジェット、ドロイ……」

 

夜のマグノリアの市街地の裏道でジェットとドロイが倒れ、残るレビィは倒れはしていないが、流血する腕を抑えて苦しげな表情を浮かべる。

対する相手は幽鬼の支配者であるガジル本人だった。

 

鉄の棍棒に変えた腕を見せびらかしてレビィに続ける。

 

「歯ごたえがなさ過ぎて達成感ねえな。こんな雑魚なら他の奴に任せてもよかったじゃねえか」

「バカにして……っ! こんなことしてどうなるか分かってるの!?」

「妖精のケツと戦争だろ? 安いエサででかい獲物が釣れるぜ」

 

ギルド協定も頭に入っていない、まともじゃない相手を前にレビィは必死に策を巡らせる。

既に手遅れもかしれないが、このままでは完全に戦争になってしまう。相手の兵力はフェアリーテイルの倍近くあるのだ。それで戦争になれば自軍にも多大な犠牲を払うかもしれない。

 

最悪な状況を間違っても自分たちの手で引き起こしてはいけない。

そう思っていた時だった。

 

 

「そう言えば、てめえらと丘にある養護施設、随分と仲がいいらしいな」

「……それが?」

 

養護施設、それだけでレビィは底知れない不安に陥った。

目の前のまともじゃない男が何を考えているのか、想像もしたくない。

 

それはこの街における禁忌だ。それを破れば戦争なんてものでは済まなくなる。

この街の住人なら子供でも知っている暗黙の掟を目の前のまともではない男が守るだろうか。

どうか夢であってほしい、そう思ったレビィの期待は見事に裏切られた。

 

 

 

 

「狼煙は幾つあっても損じゃねえよなぁ。ギヒっ!」

「な、なんてことを……!?」

 

邪悪な笑みを浮かべたガジルの一言にレビィは頭が真っ白になった。

決定的な一言に言い逃れはもうできない。

これ以上、状況が悪くならないために動こうとした時だった。

 

 

 

 

「おもしれえ話、してんじゃねえか? 聞こえたぜ」

 

路地裏に別の声が響いた。ガジルとレビィがその声の方向へ向くと、巨大な翼を生やした蛇を引き連れた男が立っていた。

口角を吊り上げながらも、発せられる雰囲気はただ事ではない。殺気と怒気がないまぜになった心中を察することはできない。それなりに付き合いの長いレビィは確かに感じ取った。

 

「エリック……」

「退けレビィ。こいつは俺が片づける」

 

短く言った一言にレビィは顔を伏せて従った。倒れたドロイたちを回収したのを確認したところでガジルが笑みを浮かべてエリックに好戦的な笑みを向ける。

 

「てめえも妖精のケツか? 一人でおれに挑むとはイカれてんのか?」

 

どこまでも自分の有利が続いているような物言いにエリックは見下したような笑みを浮かべた。

 

「ドラゴンの力に溺れて振り回されるバカを相手に先生の手を煩わせる必要はねえってことさ」

「あ”?」

「鉄のドラゴンスレイヤーなんだってな? 粋がって弱い奴しか相手にしてこなかった小物が同じドラゴンの力を宿すなんて名折れもいいところだ。今後は鉄のトカゲとでも名乗っとけよ。ドラゴンスレイヤーの面汚しが」

 

余裕の笑みを浮かべていたガジルの顔が憤怒に代わる。

 

「言ってくれるじゃねえか。それはつまり、俺にぶっ殺されてえって言ってんだよなぁ!!」

「粋がったガキの調教だ。お前にいつまでもドラゴンスレイヤーを名乗られるとこっちが恥ずかしいんだよ」

 

それを最後にガジルはキレた。額に浮かんだ青筋が破裂しそうなくらいに浮かび上がり、足に力を入れた。

 

「上等だコラァ! 妖精のケツの前にてめえらの首を晒してやるよクソがぁ!」

 

 

ガジルは腕を鉄に変え、エリックへ飛びかかる。

その様子にエリックは一言つぶやいた。

 

 

「ここでやられてろ。それが一番の慈悲だ」

 

 

粋がったドラゴンが魔神の怒りを買う前に、さっさと始末することを決めたのだった。




私>>>次元の壁>>>>スプリガン>家具>聖十魔導師

家具は作中でも屈指の強さです。
ポッと出のサブが最強なのはこの作品あるある


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毒を以て鉄を制す(後篇)

感想にありましたが、コブラとガジルは番外編で共闘したりと一応は関わりを持っています。
また、コブラも後編では乗り物酔いしてたのでドラゴンスレイヤーとしては成熟しています。


「鉄竜棍!」

 

腕を鉄の棍棒に変えたガジルの攻撃をエリックは難なく避ける。

それを読んでいたとばかりに鉄の棍棒から枝を生やすかのように棍棒を繰り出す。

 

だが、エリックはさらにそれを読んでいたかのように最小限の動きで避けながらガジルに迫り、毒の魔力を拳に乗せてガジルにぶつけた。

 

「ぐっ!」

 

顔面に入った一撃を踏ん張って耐え、エリックへ鉄の剣を振るう。

それに対してもエリックは冷静に対処する。

 

「聞こえてるんだよ」

「あ?」

「毒剣(ポイズンブレード)」

 

ドロっと手から溢れた毒を剣の形に変え、鉄の剣とぶつかり合う。

一瞬だけ拮抗するも、鉄と毒の剣では鉄に軍配が上がり、毒の剣が粉々に砕け散ってエリックの手から剣が消える。

 

「はっ! なんだそのナマクラは!」

「そりゃそうだろ。毒ってのは剣にして使うんじゃねえからな」

「負け惜しみかぁ!? クズがぁ!」

「ちげえよ。これが毒の正しい使い方だ」

 

減らず口を、そう続けて剣を振るおうとしたガジルは突然、眩暈に見舞われて膝をついた。

 

「な、んだ、これは……ごほっげほっ!」

「粉々にして宙に舞った毒を吸い込んだだけだ。お前がわざわざばらまいて宙に舞った毒をな」

「毒だぁ? 俺がいつそんなもんを……あの剣か!?」

 

喉からこみ上げるチクチクする痛みにせき込みながら、エリックからのヒントに自分のしたことを思い出した。

自分が砕いた剣が毒の粉末として体内に入ったことを理解したガジルは表情を歪める。

 

自分が相手の策略に乗せられたことを知り、青筋を浮かべる。

対照的にエリックは不敵な笑みを崩さず、ガジルにしてやったりと口角を上げる。

 

「それで勝ったつもりか!? 潰してやるよ!」

「ブレス対決か? おもしれえ」

 

ガジルの頬が膨らむのに対し、エリックは歯をむき出しにして笑みを浮かべる。その時、歯が鋭利な牙へと変わり、その後に頬を膨らませたのを見た。

自分と同じように魔力を高めるエリックの様子にガジルは目を見開かせた。

 

(この野郎……まさか!!)

 

自身と同じシンパシーを感じたガジルだが、既に最大火力を放つ準備はできている。元より、途中で止まるほど腑抜けてはいない。

 

「鉄竜の……」

「毒竜の……」

 

 

「「咆哮!!」」

 

ドラゴンのブレスがぶつかり合い、マグノリアの街に爆音が響き渡った。

ぶつかり合った衝撃で周囲の建物の窓ガラスや植木鉢が壊れる。

 

眠っていた住人も騒ぎで起きたのか建物の照明が徐々に明るくなっていく。

 

その原因となったエリックたちの戦いの均衡は既に崩れつつあった。

互いのブレスのぶつかり合いにも拘らず、エリックは衣服が汚れただけで健在だが、ガジルは膝をついて息を切らせている。

 

エリックは腕を組んで余力を見せているがガジルは鉄の鱗まで出しており、その様子だけで二人の力関係が見て取れた。

 

 

「てめえ……ドラゴンスレイヤーかよ!」

「毒のドラゴンスレイヤーのラクリマを体内に埋めただけだがな。鍛え方が違うんだよ」

「さっきからてめえ、上から目線でほざいて何様のつもりだ!! あぁ!?」

 

エリックの物言いにガジルは我慢の限界が来た。鬼の形相を浮かべながら現在進行形で毒に体力を奪われている体を動かしてエリックに襲いかかるが、エリックは難なく避けて手に毒を集める。

 

「毒蜘蛛≪どくぐも≫」

 

霧状に散布した毒が意志を持っているかのように一か所に集まり、蜘蛛の形を浮かばせる。

霧を吸い込んだガジルは眩暈と共に咳が強くなったのを感じた。

 

「知ってるか? ドラゴンスレイヤーは食べる物の性質を取り組むことができる」

「何が言いてえ!?」

 

知識自慢をしていると思ったのかガジルの薄まっていく意識とは裏腹に怒気が強くなっていく。

対するエリックはさらに追撃をかける。

 

 

「硫酸の爪」

「ぎっ! ぐああああぁぁぁぁ!!」

 

爪を立てた手から体内で生成した鉄をも溶かす化学薬品である硫酸で鉄の鱗を溶かす。

焼けるような痛みに堪らず悲鳴を上げて膝をつく。

 

「今までは毒蛇やクラゲの毒といった毒生物の毒が好みだったんだがな。先生の意向で化学薬品も食い続けてたら、いつしか科学毒も出せるようになったんだよ」

「な、んだと……」

「毒竜というだけあって有害物質に強い体だったんだが、調子に乗って色んな毒を食いまくったら色んな性質をもった毒を作り、独自に配合して全く新しい毒も作れるようになった」

 

手札の多さをアピールするように体中からカラフルな毒を滲ませる。

電気を発する毒や燃える毒、冷気を発する毒など様々な属性を含む毒にガジルは戦慄する。

 

ドラゴンスレイヤーは食える物質も攻撃に出せる属性も一つだけと決めつけていた。

電気や炎も魔力であれば食えないことはないが、体が受け付けずに不調を訴えるため、苦なく食べられるものだけに落ち着く。

しかし、そのルールを捻じ曲げ、体に馴染ませたら……そんな仮説を証明させたのがエリックである。

 

「異なる物質を食う……だと!? そんなことできるわけねえ!」

「できねえんじゃねえ。やってこなかっただけだろ? 炎とか雷のドラゴンスレイヤーのように物質じゃねえのはどうか分からんが、鉄のお前なら鉄だけじゃない金属も食えるんじゃねえのか? 食えるには食えるんだろうが」

 

痛いところ突かれたように表情を歪める。話が本当ならもっと強くなれたかもしれない、なぜ俺はそうしなかった、その悔やみをエリックへの睨みとして表しているとエリックは追撃する。

 

「毒の巨人≪ベノム・ギガンテ≫」

「なっ!?」

 

エリックの体から放出された毒が巨大な人型を象る。

ガジルがその光景に驚くのはもっともだ。同じドラゴンスレイヤーとしてエリックがしたことはありえないことだった。

 

 

話が変わるが、魔力というものは指紋と同じように人によって性質が異なり、個性として現れる。

その魔力と使用する魔法の相性が合致するほど使用する魔法の威力も精密さも変わる。

 

しかし、過酷な特訓次第では魔力も如何様にも形を変える。

 

力強く、『剛』の魔力を必要とする代わりに火力調整が難しく、燃費が悪い滅竜魔法

 

しなやかで『柔』の魔力で形を変えるが、威力に乏しく、コントロールが難しい造形魔法

 

 

 

 

『剛』と『柔』相反する二つを使いこなす魔法の可能性は、術者の実力とアイディアによって無限に広がる。

 

 

 

「お前の間違いは幾つもある。自分の力量も図らなかったこと」

「や、やめ……」

 

 

巨人は拳を握りしめ

 

 

 

「敵に回す相手を間違えたことだ」

 

 

 

巨大な拳が落ちてくるのを最後にガジルの意識はそこで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オークの町

 

ギルド・幽鬼の支配者

 

 

大陸では名が通ったギルドであり、総本山といえる心臓部

 

ギルド団員は優秀にも拘らず、ギルド方針によって金や名誉に執着している。

そのため、一部では闇ギルドよりもたちが悪いと有名だった。

 

その名の通り、悪名高いギルドが爆発を起こした。

 

 

ギルド内部では団員たちは倒れ伏し、内装もすさまじい破壊によって崩れている。

 

死屍累々と化したギルドの中には倒れた人の山の傍で三つの影が立っており、周りはその陰に恐れおののいていた。

 

その陰の一つはラクリマに映るエリックと通信を行っている。

 

「こっちは既に終わったゾ。そっちは?」

『何の問題もなく完了だ。同じドラゴンスレイヤーとしては及第点以下で拍子抜けだったがな。そっちはどうよ?』

「エレメンタル4を含めて主力は潰したゾ」

「ただ、水のエレメンタル4には逃げられました。トイレの排水溝から逃げるなんて相当慌ててたデスネ!」

「麗しいレディだったから心配だよ。ソラノ、今すぐに探しに行っても―――」

「アリエスによろしく伝えとくんだゾ。ロキ」

「つれないね。そんな君も素敵だよ」

 

ロキと呼ばれた青年は光と共に消えた。ファントムの殲滅を担当したソラノとリチャードは談笑しながらも周りを警戒する。

 

「もうそろそろジョゼのお出ましだからもう切るゾ。その前に、子供たちの様子は?」

『既にソーヤーがガジルを連行して拘束した。マクベスがガキ共に夢を見せて寝かせたから騒ぎは起こしてねえ。万事問題なし』

「完璧デスネ。ところで先生にはそのことを?」

『知られてねえ。今のところは』

「なら、夜明けまでにケリ付けますよ」

『あいよ』

 

会話が終わり、ラクリマでの通信が終わった直後にギルド団員が左右に分かれて道ができた。

その道から息を切らせて走ってきたのはファントムのギルド長であり、マカロフと同じ聖十魔導師の称号を冠するジョゼ・ポーラ、その人だった。

 

「ギルド長のジョゼ様デスネ? お初にお目にかかります、養護施設『休憩所』のリチャードです」

「同じく、職員を務めるソラノと申します。急な訪問、誠に申し訳ありません」

 

談笑していた表情を瞬時に変え、非礼を見せない『休憩所』の職員としてあいさつを交わす。

笑顔で応対するが、その目は笑っておらず、剣呑な光を見せる。

 

それに対し、ジョゼは体を震わせて唾を飲み込む。

 

「そ、そちらが謝ることはございません! こちらの不備でそちらに多大なご迷惑を……!」

 

荒れたギルドからして訪問など冗談にもならない法螺に対し、ジョゼは腰を低くして丁寧に対応する。その姿にギルド団員は衝撃を受けた。

 

ファントムこそが至高、逆らう者には無慈悲を与えると豪語していた本人が明らかに怯えて応対している。ギルドを荒らされたにも拘らず、だ。

ジョゼの実力を身を以て痛感している彼らは目の前の光景が信じられない。

 

聖十のジョゼの弱みを握っているのか

 

 

 

それとも、ジョゼですら足元にも及ばない強者がいるのか

 

 

下っ端は真実を知る余地などなかった。

 

 

「本日、こちらへ窺ったのは他でもありません」

 

 

 

 

 

「此度の件の落としどころを検討しに参りました次第ですが、

 

 

 

お時間はあ り ま す よ ね ?」

 

 

 

ソラノとリチャードとの対談が決定した瞬間、ジョゼは人知れずしめやかに失禁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントムと一悶着が起こっていることを知らない『私』は近年まれにみる事態に困惑していた。

 

 

 

 

 

ガルナ島から泳いで帰っている最中に私は一冊の本が漂っているのを見つけて回収した。

普通の本ならいざ知らず、妙な魔力を感じた私は興味を持って回収し、目的の海岸に着いた時に確認した。

 

本を開くと同時に魔力反応による光を発し、やがて人の形を象っていくのを見た。

 

しばらくして落ち着いた時、私の目の前にいたのは

 

 

 

 

「あなたが僕のお父さんですか?」

 

 

 

年端もいかない、一糸纏わぬ姿の少年が私を父と言って離れない。

急なことで何が何だか分からず、現在思考中だ。

 

とりあえず、原因となった本を探ってみようとするも、本からは少年と強いつながりを感じた。

本の中の文字をいじると危険だと判断し、本を探るのを断念した。

 

 

ただ、本のタイトルと少年の存在と照らし合わせて名前だけは分かった。

 

 

少年の名前は「ラーケイド」

 

 

 

とんでもない爆弾を私に落とした親友に久方ぶりの悪態を吐いた。

 

 

 

次に会ったらその綺麗な顔を吹っ飛ばしてやる




原作との相違点

・コブラ=エリックはワンピースのマゼランの技を使用。他にも毒キャラの技も取得済み

・ソラノはロキ、アリエス、ジェミニ、スコーピオンと契約(カレン生存)

・ジョゼ、フェアリーテイルの前に心が折れる

後は色々と相違点がありますが、今後もこれくらいの原作ブレイクは続きますのでご了承ください。


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終わりよければ全てよし

今回はアッサリと終わったファントムロード編の簡単なダイジェスト回


鉄道業界においてハートフィリアの名を知らない者はいない。

一世代のうちに何もない所から急成長を遂げ、一大企業にのし上がった豪傑こそがジュード・ハートフィリアだ。

 

自他に厳しく妥協を許さない執念で商業ギルドから成り上がり、貴族へ格上げした彼はやり手の経営者であることは間違いない。

 

しかし、名誉と権力、財力を得るにつれてジュードは変わった。

増えた財をさらに増やそうと邁進し、執念は執着へと変わった。

 

その兆候は日々強くなり、それは幼い娘のルーシィにまで及ぶようになった。

 

父親の顔を隠して貴族の体面を守り、ルーシィを貴族として育ててきた。

 

それがルーシィの反抗心を助長させ、魔導師としての道を選ばせた。

 

徹底しすぎた教育の果てに家出した娘を3年間放置し、政略結婚のために娘を連れ戻す。

そのためにファントムへルーシィの保護を依頼した。

 

 

 

「今、なんと仰いました?」

 

ハートフィリア邸の応接間の中央のテーブルに腰かけるジュードは対面する人物に向かい合い、元から強張っていた表情をより一層歪めた。会社を最盛期まで導いた者に相応しい気迫を叩き付ける。

 

それに対し、ジュードの対面に座る人物は臆さない。それどころか口角を上げてお客様対応を崩さない。

 

その人物こそファントムのギルド長であるジョゼはにこやかに用件を伝えた。

 

「もう一度言いましょう。あなたのご息女であられるルーシィ・ハートフィリア様捜索の依頼、お断りさせていただきます」

「何をいまさら……あなたはプロではなかったのですか?」

「それは誤解というもの、我々は魔導師であり、あくまで国の管理の元に身を置く団体ですよ。人さらいみたいな真似して睨まれるのは嫌なんですよ」

「誘拐ではない。家出娘を探しているだけだ」

「それだけでギルド同士を敵対させるのはこちらも困ります。何でもやると言っていますが、あくまで法の範囲内での話です」

 

ニコニコと姿勢を崩さないジョゼにジュードは苛立ちを募らせる。つい最近まで自分の依頼を快諾したどころかルーシィを迎え入れたフェアリーテイルへの恨みや醜聞を自慢げに聞かせていたというのに。今では意地でも依頼を受けない、ルーシィと関わりたくないと言わんばかりのジョゼに不信感を抱き始めた。

 

だが、そんなジュードの思惑も関係なく、ジョゼは話が終わったと言わんばかりに腰を上げた。

 

 

「それでは、私もやることがあるので失礼しますよ」

「おい待て! 話は終わっていない!」

「終わったんですよ。ルーシィ様は少々面倒なところに身を置いている……それで十分でしょ? 3年間も放っていた程度の認識なら無理して連れてくる必要も」

「ふざけるな!!」

 

意地でも帰ろうとするジョゼにジュードは声を荒げてゆく手を阻む。どうせ金に目がくらみ、依頼料を吊り上げようと画策しているのだと踏んだ。だからこそ、この相手を逃がすまいとジョゼを本気で籠絡しようと試みる。

 

金に目がなく、大手ギルドのファントムは今後として利用価値があると踏んだのだ。金額にがめついということは、金額次第で仕事に対する本気度を変える連中だ。金を積めば積むほど全力で取り組み、気に入られようとする魂胆が丸見えだ。

 

そう思っていた。

 

「今回の婚約が決まれば私の地位も確固たるものとして確立するそうなったときは君のギルドを私のお抱えにしてやることもできる! 名誉も金も思うがままだ!」

「いや、ですからね……」

「我々に逆らうものは君の武力と私の財力で叩き潰せばよい! フェアリーテイルも、娘を垂らしこんだ奴も!!」

 

 

 

「黙れえええええええええええぇぇぇぇぇ!!」

 

遂に、ジョゼの感情が爆発した。

迸る魔力を爆発させ、魔導師ではないジュードでさえも本能的な危機を覚えさせた。

魔力でシャンデリアが砕かれ、応接間にとどまらない屋敷の全てに亀裂が走る。

 

聖十の中では実力は劣るものの、短期間でギルドを急成長させた手腕を魔法の発展に繋がると買われたジョゼだが、それでも実力は一般の魔導師とは一線を画す。

そのジョゼの魔力に充てられて怯んだジュードの胸ぐらを力任せに掴む。

 

「何も知らねえ貴様がベラベラ勝手なこと言ってんじゃねえぞ!! フェアリーテイルの背後にいる奴がいなければ、そいつがあの街に留まっていることさえ知っていれば手を打つこともできたんだ!! もう手遅れだ、ルーシィ・ハートフィリアが奴の養護施設に入居した時点でな!」

 

先ほどまでの笑みが消え、憤怒に染まった表情で威圧していると思うが、ジュードは違った。

 

絶対に触れたくない恐怖に怯えてるとしか思えなかった。

人を見て商売する目を鍛えてきたジュードだからこそ抱いた感想だ。

 

「そ、それなら施設の誰かを人質にでも……」

「それが一番の悪手なんだよ! 奴は身内には深い愛情を注ぐが、敵と認識したものにはどこまでも残忍になる! 人質など奴が最も許さねえ所業の一つだ!」

「では、施設の買収とか権力で法的に……」

「奴の身柄は既に確固たるものとなっている! 奴が何をしようが、評議員も王国も傍観を決めている!! 法に訴えることとなれば真っ先に我々が国に潰される!!」

 

聞けば聞くほど訳が分からない。

聖十のジョゼが恐れ、評議員でさえも手が出せない存在

 

そんなのが世の中に名も知らされずに潜んでいるものなのか?

そもそも、その話が本当なら、どうして放置されているのだろうか、そんな疑問が絶えずに沸いてきた。

 

 

強い憤りを吐きだして落ち着いたのか、魔力の暴走は止み、ジョゼの怒りが消えて疲弊した表情に戻った。

 

「奴は高い戦闘力に加えてずば抜けた技術力を有している。それ故に国は奴に称号を与えてコントロールしたいと望んでいたが、奴は権力に縛られることを強く嫌った。財力も奴の手腕でいくらでも増やすことができていたために金による買収も叶わなかった……そこで終わればよかった。折り合いをつけるべきだったんだ」

「……何が、起こった」

 

ジョゼの体が震える。掴んでいた胸ぐらが解放された。

 

「一部強硬派の評議員が奴の事業を妨害し、犯罪者として検挙及び養護施設の子供の保護という名目で奴の捕縛作戦が決行された。戦力として一部の兵と聖十魔導師が駆り出された」

 

マカロフやジュラのような穏健派を除いていたが、序列一位も作戦に参加していた、と続けた。

 

「場合によっては子供を人質にしても構わないとして作戦が決行された結果……地獄だ。この世にして文字通りの生き地獄を味わった」

 

ジュードの喉がゴクリと鳴った。

 

「怒れる奴にとって聖十魔導師などただの木偶に等しい。聖十最強のゴッド・セレナも瞬殺だった。聖十は崩壊、軍も全滅……我々が敗北するのに一時間もかからず、奴を一歩も移動させることすら叶わなかった」

 

当時を思い出し、冷や汗を流すジョゼ。既に唇が渇ききっている。

 

「もっとひどいのは計画を実行した評議員だった。人の形を奪われ、声を奪われ、自由を奪われて自ら死ぬ権利すらも奪われた光景は生き地獄そのものだ。聖十は命令に逆らえなかったと懇願して見逃してもらったがな」

 

力なく笑い、遂には力なくソファーに座った。

 

「奴の魔法は一瞬で、解析不可能な謎の魔力で構成されているために元評議員は今でも悪夢にうなされて自傷行為に走っている……どういうわけだか知らんが、決して死ぬことができない呪いもかけられて」

「そんな……ことが……」

「それ以来、評議員は作戦を強行した廃人に全ての責任を押し付けて見逃してもらった……決断が遅すぎたと、過去の自分を殴ってやりたい気分だ。あれは、人の敵う相手じゃない」

 

妙に達観したような物言いが話に真実味を満たせている。

ジョゼの話が終わり、事の重大さにジュードは少しずつ恐怖感を抱きつつあった。

そして、さらなる衝撃がジョゼの口から出てくるとは予想もしていなかった。

 

「畳みましたよ。ファントムの旗を」

「な!?」

 

本日最大の驚きだったのは言うまでもなかった。まさか、ジョゼがギルドを解体するなど夢にも思っていなかったから。

 

ジョゼは野心家だった。己の旗を誇り、ギルドを大きくするために犯罪紛いなことをすることもあった。

そんな貪欲さから過去の自分を連想させたジョゼだからこそ彼を信用したのだ。

 

最初に出会った頃の印象は今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

紳士の皮を被りながらも、その目は野心に燃えていた。だからこそその熱意を買った。

 

 

それがどうした、今ではまるで枯れ木のようではないか。

覇気を失い、僅かな力だけで折れてしまいそうな危うさの他に、どこか吹っ切れたように楽そうでもある姿は何なのか。

これが、野心に燃えていた男の姿なのか!?

 

「……理由をお聞きしても?」

「モンスターのいる檻の中で小動物との覇権争いに勝って、喜ぶ気は起きませんよ」

「モンスター……ですか」

「とびっきりの化物ですよ。台風や地震が起きたときは、伏して災害が過ぎ去るのを待つほかありません。そう思うとここらで潮時だと思いましたよ」

「その後は?」

「人気のない場所に別荘でも立てて余生を過ごそうかと。いい所知ってるんですよ」

「それは是非、教えてもらいたいですな」

 

これ以上、ジョゼとの話はむりだと悟ったのだろう、しばらく沈黙の時間が過ぎた。

そして、ジョゼは重い腰を上げるようにソファーから立ち上がり、出口へ向かいながらジュードに背を向けたまま告げる。

 

「あなたは最後の依頼主にして我がギルドを懇意にしてくださった恩がありますので、老婆心ながら一つ……ルーシィ様は人の世には戻れませんよ。奴が手放さない限り」

 

まるで助言のように告げてジョゼは応接間を出て行った。

一人残されたジュードはゆったりとネクタイを解いた。

 

「私は……」

 

問いのない独り言に答えを返せるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

紆余曲折あったものの、私はマグノリアへ帰ってきた。

私がガルナ島から帰ってきてからフェアリーテイルで一悶着あったことを知った。

 

まず、ギルドが鉄の棒で串刺しになっている姿に驚いたが、ファントムの仕業だと聞くと少し納得した。

ただ、その後にレビィたちが鉄のドラゴンスレイヤーのガジルに襲われたところ、遠征から帰ってきたエリックたちに助けられ、ガジルを捕虜にしたこと。

 

そして、反撃の準備をしていた矢先にジョゼが全面降伏したことだ。

当初はやられた分をやり返すと息巻いていたメンバーも毒漬けにされた惨い姿に怒りもそれなりに萎えたそうだった。後は両者の間で今回の件で話をつければいいということで私はノータッチだ。

 

 

 

その後、ジョゼの狙いがルーシィだったことと、ジョゼが自主的に聖十の称号を返還したなどと色々あった。

 

 

当のルーシィは真実を知って責任を感じ、正体を偽っていたことに負い目を感じていたようだが、私は気にしていなかった。なぜなら。

 

「知っていたんですか!? 私のことを!?」

「えぇ、ルーシィがここに入った時から当たりをつけて、その数日後に素性も含めて確信したんですって」

「な、なんで……」

「えっと……ルーシィって魔導師であるなら知っているはずの聖十魔導師を知らなかったことから、十分な情報が入ってこないような場所で、それでも十分すぎる程度の教養を身に着けていたことに疑問を持ったことが一つ。試しにテーブルマナーを試したところ、完璧にこなしてたって言ってたわね」

「うわ……ほとんど初日じゃないですか……」

「後は、歩き方に貴族特有の上品な名残があることから貴族の親族だと目をつけて、すべての条件が当てはまり、家出しているような貴族娘を調べたらハートフィリアにたどり着いたって」

「ひええぇぇぇ……当たりすぎて怖いですけど……」

「そういうことで、彼は最初からすべて承知済みであなたを置いてたんだからそんなに気にしなくてもいいと思うわ」

「は、はぁ……」

「それと、知識をひけらかして世間知らずのお嬢様の身分を隠すのは逆に不自然だから次は気をつけろ……だそうよ」

「ガ、ガンバリマス……」

 

ルーシィが私を見て表情をこわばらせる頻度が増えたのは気のせいだろうか。

ガジルにも興味があったが、今はエリックたちで教育中とのことで顔合わせは叶わなかった。

 

 

残る問題とすれば

 

 

 

 

 

「あなた、これはどういうことかしら?」

「父上、この女は何なのですか?」

 

現在進行形でミラの前で宙づりにされている。吊るされた私にラーケイドが聞いてくるが、今はこっちに集中させてほしい。

 

私はギルダーツのように不貞を働いた覚えはないし、責任から逃れた記憶などない。

ただ、いろいろと事情が重なって真実を言っても信じてもらえないのだから

ひとまず一部はぼかして真実を6、虚偽を4といった内容を伝える。要は捨て子が私を父と勘違いしているとのことと。

 

 

 

そこから更に畳みかけるようにして説得し、最後には許してもらうということで私はミラの言うことを3つ聞くこととなった。

 

 

特に悪いことした覚えはないのだが、掘り返すと面倒になることと、要求自体は優しかったので良しとした。




主人公は善でも悪でもなく、敵対者には無自覚の悪意と悪辣さを存分にまき散らす。

スキル

悪意の報い:郷が深く、罪深いものには苦痛のみを与える。自死は不可能


今後は滅多に出てこない効果がダイジェストで出ました。
あまり話も進まないですが、長い目で見てもらえると嬉しいです。

次回にはミラを含めて話を進め、ひっそりとあの人気キャラを出します。
それでは、また次回にお会いしましょう!


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許されざる者

主人公、ちょこっとキレる。

ようやく出てきた人気のキャラが崩壊っぷりをお披露目

タグも一部変更


ファントムの件が過ぎてから数ヵ月が経った。

あれからギルド情勢も大分変わった。

 

まず、フェアリーテイルがギルドを新調することとなった。

発端はガジルの襲撃によって半ば倒壊させられたことにある。ガジルが破壊せずとも度重なるメンバー同士の激突(主にナツたち)のせいでガタが来ていたことを知り、この際に全て新調しようという意向となった。

現在は総出で工事中である。

 

そしてもう一点、私を議長としたエリックたちを交えてルーシィを魔女裁判にかけた。罪状は勝手にS級を受けたことへの罰である。

フェアリーテイルでは既にマカロフが罰したというが、余所は余所、ウチはウチの精神で然るべき罰則を与えることとなった。

というよりも、今のままだと彼女が将来的に色々とヤバいということで仲間として彼女の力になろうということだ。家の敷地内に祭られている祭壇……パルプンテ神を祭る祭壇に触れた状態でパルプンテを唱えれば希望通りの魔法が100%発動する。それを利用してルーシィの運勢を占ってみた。

 

「このままだと将来ボコボコにされる。鍛えろ」

「え」

「これからの課題は魔力量のアップだゾ。黄道十二門を三つ持っててもいざという時に使えなきゃ意味がない……ぶっちゃけえげつないほど弱いゾ」

「えげつない!?」

 

彼らの説得でルーシィの強化合宿を開始した。フェアリーテイルの討伐系クエストマラソンを毎回こなしている。たまにギルド内でルーシィが気合の雄たけびを上げている、やる気に満ちた姿を見るとこちらも勇気づけられる。付き人のソラノも上手くやっているようで安心した。

 

 

そして、もう一つがガジルだ。

彼はしばらく家の屋根裏部屋に閉じ込め、自力で出てこれるまで放置した。

私たちに初めて姿を現したのが半月後だった。ほぼ半死半生だったため、食事を与えてその日は寝かしつけた。

だが、かなりヤンチャなのか起きた瞬間に暴れ始めた。錯乱しただけならともかく、子供たちにまで魔法をぶっ放そうとしたため、久しぶりに私も憤った。

フェアリーテイルへのケジメとドラゴンスレイヤーとして飛躍的に成長させてみたいという想いから、とある儀式を行った。

 

 

『プチ斬首刑』

 

 

説明しよう、刃物でガジルの首を刎ねた。ポーンと空高く首が跳ばすだけの罰である。

だが、目的は殺すことではないので、跳んだ首を即座に首に縫い付けて縫合した。出血多量で頭に酸素が届かずに脳死するまでに血管や切断面組織を縫い付けるだけなのだ。

コツとしては切断面の組織を潰さずに鋭い斬撃で斬らなければならない。気の迷いとかで力加減を間違えたら即お陀仏だが、失敗しなければいいのだ。

 

とりあえずやってみたら、その日以降、ガジルが大人しくなった。

一度死を体感した後で復活したものは強大な力を手に入れたという事例がある。それだけでなく擬似的にも死を体験したことは一生に何度もないだろう。この貴重な体験をガジルには活かしてほしい。

ただ、斬首を街中でやったのは少し失念だった。普通に大騒ぎだった。

 

傷跡も残らないくらいに縫合して問題なかったのに。解せぬ。

ガジルはフェアリーテイルに加入すると決めていたので、後にわだかまりがないようにギルドの前でやった。

 

 

 

 

阿鼻叫喚から始まる大騒動が勃発した。

そんなこんなで鎮めた後、ガジルは特にモメることなくフェアリーテイルの一員となった。

 

 

ガルナ島付近で回収した謎の水を家の地下にある研究室に保管することにした。

ビンの中に入っている物を眺めてもただの水にしか見えないので、子供たちやエリックには触らないように厳重に注意しておいた。

 

気になると言えば、水に含まれているエネルギーが異常に高いということだ。

扱い方を考えてから調べようと思っているので今のところは保留となった。

 

 

 

 

 

 

気が重い。俺は重くなる足を引きずって郊外の山に建っている屋敷へと向かっている。

屋敷に近づくにつれて帰りたくなるが、鋼の精神で己の体に鞭を打つ。

 

屋敷を前にすると、家そのものから説明しがたい“何か”を感じる。明らかに普通の家ではないことは分かるが、並みの感性さえあったら購入する気もなくなるはずだが。

そう思いながらも扉をノックしようとしたとき、作業着と麦わら帽子を身に着けた“彼”が姿を現した。

 

「ようやく帰ってきたのか」

 

庭の手入れをしていたであろう姿で声をかけると、私にリンゴを投げて挨拶を返した。

リンゴを受け取り、懐へしまうと彼は収穫したリンゴの入った籠を置いて私をジェラールと呼ぶ。

これも彼なりの挨拶だ。

 

「ミストガンだ。私は“あっち”から来た方のミストガンだ」

 

どこに目があるかもわからない所で自分の秘密を軽くバラすのは止めてほしいが、彼の勘は凄まじく魔法なしでも特定の個人を特定する術を身に着けている。

おそらく大丈夫だろう。

 

俺も彼もダベってから本題に入るような性格じゃない。

簡潔に本題へ移る。

 

「各地に点在するアニマはあらかた塞いだ。その場所はもう問題はない」

 

 

彼はアニマのことを知っている。一時期、顔を晒さずに眠りの魔法を使う俺のことを怪しみ、尾行したことで俺の秘密や故郷であるエドラスの存在、そしてアニマのことを知った。

 

別の世界から魔力を回収する魔法でアースランドの魔力を奪っている。

俺はそれを防ぐためにこの地に移り、アニマの破壊のためにギルドに入った。

 

 

彼は情報網としても戦力としてもかなりの戦力だと期待して彼に協力してもらっている。

だが、それがこのクエストの最大の問題だった。俺は肝心の結果を伝える。

 

 

「巨大なアニマ……この場所に関してはまだ方法を探している……もう少し待って―――」

 

その先の言葉が出なかった。目の前の農夫の恰好をした“彼”から発せられる気配に俺はその場に跪いた。

呼吸するだけで精一杯で、闇に落ちかける意識をつなぎとめる。

 

(あぁ、分かってはいたが……これはつらい)

 

 

 

 

 

彼は『エドラス』が嫌いである。いや、嫌いどころか消したいほど憎んでいる。

その世界に住まう人たちのことなど考えず、このアニマ計画を立てた王国と賛同する民衆を既に見限っている。

 

 

彼は味方には情に厚く、敵には慈悲はおろか最大級の力を以て生きていることを後悔させるほどの力を振り下ろす。

まさに怒れる神のようだ。

 

(彼を怒らせれば……王の行く末は破滅だ)

 

ただ、その怒りを収めてくれとは言わない。言えるはずがない。

 

アースランドは確かに魔力に溢れ、それこそ空気のように漂っている。

しかし、アニマはそれよりも質のいい媒体を魔力に変換させ、結晶化する。

 

アニマの狙いは『人間』だった。

 

魔力の多い人間を周囲の物質ごと巻き込んで取り込む。取り込まれた人間は事実上、死ぬこととなる。

 

 

それを“彼”が許すかと言えば、答えはNOだ。

 

“彼”は民衆に、そして子供たちに深い慈愛を持っている。そんな子供たちに命の危機が迫っていると言って納得するはずがない。

一度だけアニマの残滓を見たことがある彼は既にエドラスへの行き方に心当たりをつけた。

後はアニマさえ見つければ彼はあっちの世界に渡り、暴虐の限りを尽くす。

フェアリーテイルの面々が止めても決してやめる気がないのは今までの反応から見て明らかだった。

 

エドラスを潰すことを責めるつもりはない。元々は世界の枠を超えて干渉するあちらの責任だ。そのことを擁護するつもりはない。

 

ただ、それでも自分の故郷だ。生まれ育った地であり、心許せる“エクシード”……友もいる。

そして何より、自分たちの都合で彼の手を血で汚すこととなる。少し常識がなくて過激ではあるが、根は優しい青年に違いはない。

そんな彼が修羅になる姿を見たくはなかった。それに、彼の標的となっている民衆たちにはあまりにも酷である。

 

「あともう少し待ってくれ……俺も手を尽くすから……任せてほしい」

 

だからこそ、彼に幾つか条件を付けた。

 

1.アニマ封印はミストガンに一任する

2.アニマの全封印が完了したらエドラスには手を出さない

3.クエストが失敗してマグノリアがアニマに飲まれたとき、ミストガンは彼への干渉はしない

 

 

これは賭けだ。俺がクエストを失敗すればエドラスは滅びる。

民衆の命さえ担保に入れる俺はきっと地獄に落ちるだろう。幸いにも俺やエクシードであるハッピーに敵意はない。最悪、リリーだけでも助命してもらえないかと考える。

 

(なおさら、早くエドラスに帰らないとな)

 

俺はフェアリーテイルに相応しくない。彼を説得してエドラスとアースランドの両方を救うことを放棄しかけている。

ナツたちなら彼を説得するだろうがな。

 

俺の答えに一応の納得をしたのか色濃い気配を抑えた。ようやくまともに呼吸ができるようになった。

体が欲していた酸素を思いっきり取り込み、噴き出た汗を拭う。

 

「エドラスの件は引き続き、俺に任せてくれ」

 

とりあえず、頷きはするも、異変さえあればすぐにでも動くつもりだ。

首の皮が一枚つながっただけ……状況は何も変わっていない。

 

俺もできる限りのことをしよう。

 

 

背中に身に覚えのない重みがのしかかる。その重みは文字通り、何万もの人の命そのものだ。

 

マグノリア上空に渦巻く魔力のうねりを見上げ、再び足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

評議員は荒れていた。

円卓を囲んでの協議はいつののように、フェアリーテイルのことだった。

 

「またフェアリーテイルがやらかしたか」

「フン! ハン! フン! ハン!」

「いや、今回はファントムが先に仕掛けたと聞く」

「フン! ハン! フン! ハン!」

「だが、奴等は戦いの準備をしていた。それだけでマグノリアをどれだけ不安に陥れたか」

「フン! ハン! フン! ハン!」

 

主題はファントムとフェアリーテイルとの戦争についてだったが、既に両者の間で解決しているうえにファントムは既に解体が完了し、ジョゼも聖十を自主退位してから行方を眩ませた。

そのため、今回の責任をフェアリーテイルになすりつけようという魂胆しか見られない会議にヤジマは頭を抱えた。

 

「今回の件はかの“超越者”が収めたとか」

「フン! ハン! フン! ハン!」

「それを功績として何らかの称号を与えるのはどうだろうか」

「フン! ハン! フン! ハン!」

「それは既に前任者が強行したが、失敗に終わった。その後から超越者は明らかに我々を警戒している―――おい、いい加減にジークを黙らせろ!! 腕立て伏せを止めないか!!」

 

そして、時折聞こえてくるガチムチ筋肉の喘ぎ声にたまらず声を出した。

指さした先には話し合いに参加せずに顔だけ端正なガチムチが狂ったように腕立て伏せに没頭している。

 

さっきから無視してもよかったのだが、既に無視できないほど鬱陶しくなっていた。

 

「ウルティア! ジークの目付け役だろう!! 何とかしろ!」

「っさいわね! 聞き分けがいいなら今更こんな筋肉ダルマになってないわよ! 何なのこいつ、どこで間違えた……ゼレフに興味持たないし、怪しげな研究しかしないし……死ねばいいのに」

 

全ての責任としてウルティアになすり付けるも、いつものようにキレた。最後は誰にも聞こえないようにブツブツと愚痴を漏らす姿にウルティアと未だ腕立てをするジーク以外は冷や汗を流す。

 

そもそもジーク、もといジェラールはウルティアが目をつけ、洗脳したはずだった。

闇に飲まれた心に付け込んでゼレフの幻影を見せたところまでは上手くいっていた。

 

 

だが、少し目を離した隙に彼は変わった。おかしな方向に

ゼレフしか頭になかった少年がいつしか脳みそまで筋肉にしたような脳筋へとなってしまった。

その時に噴き出してマスターハデスの顔面を牛乳まみれにしたときは本気で死を覚悟した。

 

 

そして幻影を飛ばして諭す度にジェラールは決まってこういう。

 

『魔法など軟弱なものに頼ってられるかーー!!』

 

 

ただの変態だった。

ウルティアはいい年して泣いた。

 

さらに厄介なのがジェラールを頂点とする怪しげな団体は思いのほか強大で強烈なためかのバラム同盟でさえも積極的に関わろうとしない。

死者を出しているわけではないが、彼らはゼレフ教に次ぐ迷惑な集団として認識されている。

 

その証拠にジークというウルティアが勝手に作り出した幻影は肉体美にこだわりを持つジェラールの性格を巧妙に再現したおかげでパンツ一丁で徘徊し、牢にぶちこまれたばかりなのだ。

一度だけストイックに筋トレし過ぎて餓死しかけたこともあった。

 

最近では地上のギルドに接触して怪しげなことに手を出しているが、もうウルティアの知ったことじゃなかった。

最初の刷り込みを失敗している時点で本来ならジェラールを見張るつもりはなかったが、マスターハデスがジェラールたちが変な横槍を入れてこないように見張れと言ってきた。

 

その命令を受けたときに死んだ目で睨め返したら「お、おう」とハデスが唸った。

 

(さっさと終わらせてメルディと遊びたい……)

 

評議会とマスターハデスの板挟み状態に陥ったウルティアは唯一の味方であり、癒しと言える少女を思い浮かべてため息を吐いた。

 

「うーん、今日の上腕二頭筋はいい仕上がりだ。三角筋はまだまだか」

「……もう放っておこうか」

「う、うむ……」

 

会議そっちのけで自分に酔うジークは最後まで筋トレをやりおおせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファントムの一件が既に過去のものとなってきた時、私は久方ぶりにミラと一緒に電車に乗っている。

座席で向かい合うように座っているため、ミラの顔がよく見える。

 

「ふふ、何だかこういうのも久しぶりね」

 

ご満悦で何より。真っ白のワンピースに隠した抜群のプロポーションは隠せていない。幸いにも列車の乗客はそんなに多くない。マグノリアのホームからも早朝に出たために大騒ぎになることもなかった。

 

「こうしてあなたが付いて来てくれるなんて久しぶり……ね」

 

こっちが本日のスケジュールを確認しているときに髪をかきあげる仕草をされるだけでも集中力が乱される。

普通の仕草でも扇情的に見えるのはある意味すごい。美人とは得である。

 

ただ、今回の目的は新しくできたリゾートのPRを兼ねたグラビア撮影である。

私はあくまでもマネージャーであり、付属品でしかないと伝えるとミラはムっと眉間にしわを寄せる。

 

「あなたはずっと私のマネージャーとして私を助けてくれたし、ファン第一号って言ったじゃない。他人でも付属人でもない……大切な人なのよ?」

 

ミラが芸能界に入った時、私は彼女のマネージャーとなった。

入った当初のミラは男勝りで芸能界で生きていくしたたかさがなかった。

 

また、当時はリサーナを失ったショックから何か気を紛らわせてやりたいという気持ちもあった。

だからこそ支えようと思った。リサーナを守ることができなかった私なりの罪滅ぼしだったかもしれない。

後は、そういった仕事にも興味があったというのもある。

 

それ以来、私はミラのマネージャー兼ボディガードの役を担っている。

 

そういう言葉は存外の喜びと言えよう。

 

 

「むぅ……そういう意味じゃないのに……ふわぁ」

 

何やら不服そうに口を尖らせたと思えば大きく欠伸をかいた。

今日は朝早くに出たから眠いのだろう、今日の主役が寝不足とあっては撮影も滞る。そのまま着くまで寝ることを薦めると眠気が強くなっていくのか目をこすらせてウトウトさせながら首を横に振った。

 

「だって……あなたはいつも忙しくて、一杯、話したいな」

 

それを聞いて頭を鈍器で殴られたような感覚を覚えた。

思い返せば心当たりがたくさんあった。最近は長いクエストに行ったりで自分のことばっかりだった。

 

私の代わりに子供たちの面倒を見ていたことも決して楽ではない。思えば私は子供たちにも帰ってきてからというもの、あまり構ってやれなかった。

 

思い出し、この仕事が終わったら皆でどこかに遊びに行こうと伝えるとミラは満足そうに笑う。

 

「うーん、今はそれで許してあげる……皆、口には出さないけど寂しいのは一緒だから。我儘かもしれないけど解ってあげて」

 

そう言ってようやくミラは穏やかに眠る。

改めて自分の脇の甘さにため息が出る。

 

今思えば、半ば無理矢理に『言うことを3つ聞く』という約束もこういった話をするためだけに取り付けたのかもしれない。

それは無理やりでなければ私とそういう話もできないという暗示も含まれているように思えた。

ミラたちも立派に成長したということもあって向き合うことを疎かにしてしまった。

 

帰ったら久々にエリックたちに修行つけるとしよう。その後で子供たちに何かサービスしなければ。

 

 

 

 

 

そういえば、エルザたちもリゾートに行くと言ってたし、鉢合わせるやもしれないな。




パル神「異世界の奴らが調子のってるエドラス死ね」
私「子供に手を出して来たら蹂躙も止む無しエドラス死ね」

パルプンテ神との精神的シンクロを確認
シンクロ率10から25%UP

スキル『原初にして唯一の禍』効果発動

エドラスでの戦闘に限り戦闘力500%UP

エドラスでの戦闘に限り魔力消費量90%削減

エドラスでの戦闘に限り状態異常態勢500%UP

エドラスへの敵対行為に限りパルプンテの完全コントロールが可

エドラス所属の相手に限りダメージ特攻200%

エドラスへの怒りが続く限り身体能力、全ステータス1000%UP




エドラス『来ないでくださいお願いします』


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閑話:年始の手合わせ

遅くなりましたが、新年初の投稿なので正月仕様の内容です。
正月休みを満喫した結果、一週間遅れてしまいました。
すみません。

また次回は本編になります。


フェアリーテイルギルド前は賑わっていた。

いつも賑わっているには違いないが、今回は事情が事情なだけにその騒めきは大きい。

 

ギルドメンバーの注目は広場にいる6つの影にある。

 

「久々に先生との手合わせとは腕がなるな」

「昔とは違うってとこ見せてやるぜ!」

 

エルザとエルフマンは久々の先生との手合わせに胸を躍らせながら戦う姿勢を見せる。

幼少より先生から手ほどきを受けている彼らにとって自分の成長を見てもらう機会は貴重であるため、その意気込みは人一倍強い。

 

二人の他にも3人、戦意を滾らせる者がいる。

 

「ギヒ! ぶっ飛ばしてやる!」

「俺が凍らせるんだ!」

「俺が勝ーつ!」

 

エルザたちと比べて本気で打倒を目指すガジル、グレイ、ナツは今にも飛びかかると思うくらいに魔力をこめている。

 

周りはクジとはいえ、先生と手合わせするメンツにもしや、と考えてしまう。

そもそも、今は新年会の最中であったが、流れとして戦うこととなった。

飛び入り参加していた先生も新年会で弛んだ生活に舞い込んだイベントにノリノリで参加した。

 

本当はマカロフが既に半壊し始めたイベントを守るために咄嗟に出た意見だったが、本人たちがノリノリだったために胸を撫で下ろしたていたのをナツたちは知らない。

 

「うわぁ……ありゃもはやイジメだね。当たらなくてよかったよ」

「先生と戦いたいなんてナツ達くらいだよね」

「それでもエルザたちを一気に相手するのはちょっとね……」

 

新人のルーシィはともかく、古参のカナとレビィは先生の実力をよく知っている。

二人だけでなく他のメンバーも結果が見えているという心待ちで余興を楽しむ腹づもりだった。

 

だが、その後の先生の発言に全員が度肝を抜かれる。

 

それは、手合わせで賞品を用意するとのことだった。

もしも自分に勝てれば50億Jを自腹で出そう、と。

 

「50億!?」

「マジかよ!! 何かの冗談か!?」

「いや、でもあの人に限ってそんな嘘はつかねえと思うが…」

 

額が額だけに周りはどよめき、現実ではお目にかかれないような大金にナツ達までもが動揺する。

その後の先生の話は続いた。

 

渡した50億は均等に分配するなり、新年会で使うなり好きに使ってもいい。

制限時間を設け、時間内に立っていた人数1人分につき10億を払う。

 

つまり、時間内に先生を倒せなくても1人さえ立っていれば10億Jは払われるという。

 

先生はどんな内容の話でもこういった冗談を言わないことは周知の事実だ。信じられないような内容であればあるほど信憑性は高くなるという謎の法則がある。

そういった信用もあり、達観していたギャラリーが湧きに湧いた。

 

「お前らああぁぁ! 絶対に勝てよおぉぉ!」

「今日は宴会だあぁぁぁ!」

 

余興程度のイベントが盛り上がり、誰もがテンションを上げる中でナツ達は険しい顔をして相手を見据える。

 

「あの野郎、オレたちを賭けに使いやがった」

「オレたちじゃあ相手にならねえってか」

「ナメやがって……ぜってーぶん殴ってやる」

 

血の気の多いナツたちは自分たちをイベントの盛り上げ役程度にしか見られていないと思って更に気合を入れる。

尊敬の念が強いエルフマンとエルザも同様だった。

 

「ここまで虚仮にされたんじゃあ漢が廃る。姉ちゃんの名にかけて勝つ!」

「そこまで力の差があるのは承知しているが、あまり気持ちのいい話ではないな」

 

明らかに見せる反骨精神とプライドに先生は満足そうに笑みを浮かべる。

これ以上の煽りは無用と判断したのか先生も手足をプラプラさせて準備運動をした後、ナツたちに向き直る。

これ以上の言葉は不要と感じたのか、最初に動いたのはナツとガジルだった。

 

「火竜の鉄拳!」

「鉄竜棍!」

 

炎と鉄の打撃は何にも阻まれることなく先生の腹部に直撃する。その後に続くようにグレイとエルフマンの追撃が襲う。

 

「アイスメイク……ランサー!」

「うおおお!!」

 

氷の槍が突き刺さった直後、全身ビーストソウルで繰り出された拳が槍を深く突き刺すように押し出す。

釘を打つハンマーのような一撃は先生の体ごと地面を叩き割った。

 

怒涛のような攻撃の直後、空高く跳んでいたエルザは換装していた。

 

投擲能力に富み、パワーも貯蔵する鎧の中でもピカイチの鎧に変わっていた。

 

「巨人の鎧」

 

巨大な鎧の手には換装で顕現した特大級の投擲槍が陽の光で光る。

投げることに特化した鎧を可動域ギリギリまで動かし、力を溜めた。

槍自体にも膨大な魔力がこもる。そして、最高のパフォーマンスを発揮できると感じた時、それを解き放った。

 

「はあああぁぁぁ!!」

 

全力の力を込めて地面に陥没したであろう先生にめがけて全力で投げた。

寸分違わず先生の倒れた場所に着弾した瞬間、魔力の大爆発が起こり、周りの建物を巻き込んだ大破壊が起こる。

 

あまりに容赦のかけらもない嵐のような攻撃に周りはもちろん、ルーシィは顔を真っ青にする。

 

「あれ、やりすぎでしょ! 止めなくていいの!?」

「先生ならあれくらい大丈夫と思うけど……」

「流石に不安だよね……」

 

カナとレビィも流石に心配したような声を出すが、その後の光景に心配は綺麗に消える。

陥没した地面から何事もなかったかのように這い出てくる先生にギャラリーは驚愕を隠せなかった。

 

「おいおい、嘘だろ!?」

「あれだけ喰らって全然効いてねえ!」

「ありえねえよ!」

 

全ての攻撃が外れた、そう言われてもおかしくない健在ぶりだったが、腹部に突き刺さる巨大な槍が全てを物語っていた。

あえて攻撃を受けることで成長、ガジルに至っては実力を確かめていた。言うなれば、ただの前準備でしかなかった。

どれだけの実力で挑むかを測った行為がナツたちに精神的なダメージを負わせることとなった。

 

「相変わらずふざけたタフさだ」

「とんでもねえ漢だ! 流石は俺たちの先生だ!!」

「言ってる場合か! てか、槍刺さってんのにノーダメージってどうなってんだ!」

「いや、正確には腹筋で止められただけだ。あの強靭で柔軟な筋肉は並の剣では斬ることすらできない」

「欠伸しやがった!! ナメんじゃねー!!」

 

ガジル以外の精神的ダメージは比較的浅い方だったが、それでも落胆はあった。

ここから、攻撃を全て受けてくれるほどサービスは出してくれないだろう。

 

落ち込んだ気持ちを再び奮い立たせ、構えると先生は空間を歪ませた場所へ手を突っ込む。

魔法ではない、『アビリティ』というこの世界でも特異な力で武器庫を呼び出し、そこから複数の武器を取り出した。

 

それは正月でよく見る道具一式だった。

 

餅つきセット

 

 

コマ

 

習字用の筆

 

あまりに武器らしくない一式に周りはポカーンと放心するも、先生は既に持参していたもち米を臼と杵で餅にしている。

柔らかくなった餅を見て呑気に満足げな笑みを浮かべる光景に沸点の低いナツとガジルはナメられたと思って盛大にキレた。

 

「呑気に餅食ってんじゃねえ!」

「本気でやれやコラぁ!!」

 

炎と鉄の鱗をまとった2人が襲いかかり、思い思いの魔法を繰り出していく。

 

「火竜の翼撃!」

「鉄竜剣!」

「火竜の鉤爪!」

 

怒涛の嵐を繰り出す2人の攻撃を先生はかいくぐり、飄々とした様子で餅を頬張る。

それどころかナツの炎を逆に奪い取って精密に操り、焼き餅へ調理していく。また、ガジルの再生する鉄の鱗をナツの炎で集めて接合、加工を繰り返して食器を作り上げたりしている。

 

ひどい時にはナツとガジルの避けた攻撃を使って別の料理へ調理していく。

 

磯辺焼き!

 

お雑煮!

 

ぜんざい!

 

おはぎ!

 

 

ナツの火力を相殺して適度な火加減にコントロールした甲斐もあって何一つ調理に失敗したものはない。

美味そうな餅料理がこれでもかという数まで増えたところで2人の息が上がる。同様におちょくられたことへの怒りも込み上げてくるのを感じる。

 

「あんにゃろー! バカにしやがって!!」

「ぜってー当ててやる!」

 

接近戦は勝ち目がないというのもあるが、怒りに身を任せたこともあり、2人は滅竜魔法共通の大技の準備に入った。

肺に空気を溜めるために息を吐いた瞬間、先生は動いた。

 

2人では反応どころか視認できないほどの速度、最低限の動作で餅を2人の口めがけて投擲した。

その結果、息を吸ったタイミングで餅を飲み込む羽目になった。

 

「火竜の」

「鉄竜の」

 

「「ほうこ……おぶ!?」」

 

呼吸したタイミングで意図せず餅を飲み込んだ2人は喉を詰まらせて2人は悶絶する。

地面を転げる2人を先生は持ち上げ、背中に気を込めた一撃を叩き込んだ。

 

「ぐえ!」

「ギッ!?」

 

餅が口の中から出てきたと同時に手痛い一撃に2人はダウンした。

 

「ナツとガジルがやられた!? 嘘でしょ!」

「それも完全に遊ばれたね」

「勝負にすらなってない。いや、する必要もないってとこだろうね」

 

あまりの終わり方にギャラリーは笑うどころか戦慄する。

それでも残ったエルザたちは一切怯まない。

 

「餅如きでやられるとは情けねえ! アイスメイク・プリズン!」

「漢なら拳で語り合わんか!」

「勝手に突っ込むな! 互いにフォローしながら攻めろ!」

 

言うと同時にグレイが先生を分厚い氷でできた檻、鉄壁で幾重にも重ねて閉じ込める。

それだけでなく、氷の手枷と足枷で拘束した上に首以外の箇所を凍らせた形となっている。

 

体を動かすことすらままならない状態にも関わらずエルザは魔法で複数の剣を操り、包囲する。

エルザの得意とする鎧、天輪の鎧を駆使して剣を操り、八方に拘束された先生に剣を放つ。

 

しかし、先生は気を操って体を活性化、体温を最高潮に上げて一気に氷を溶かす。

 

「んなのアリかよ、体温どんだけだ!?」

「熱い漢だ!」

 

エルフマンを無視してもう一度拘束しようとするが、そこでおかしい点に気づいた。

まず一つ、体を覆っていた氷は一瞬で水蒸気に変えてしまったのに手足の枷だけがそのままの形で残っている。

そのままでは移動もままならないし、攻撃も限られてくる。

ここまでナメられるとナツでなくても頭に血がのぼる、今にも沸騰しそうだったグレイが目にしたのはタコ糸だった。

 

「なんだ、これ?」

 

手の中から伸びている糸に目を奪われて怒りは収まり、代わりに疑問が湧く。

いつの間にあんな物を仕込んだのか、それよりもその糸が自分の後ろまで回り込むように続いているのに嫌な予感を感じて振り向いた時だった。

 

「うお、なんだこりゃ!?」

「それは、凧か!?」

 

突然、最初に出した凧から怪しげなアームが生えており、それがグレイを拘束した。

 

先生の華麗な凧捌きと過剰に改造した機能によって戦闘用凧と昇華したソレはロケット噴射でグレイを空に打ち出す。

 

「うおおおぉぉ離せええぇぇぇぇぇぇ!!」

 

魔力を封じる石を装着した無駄にゴージャスな凧とともにグレイは脱落

最後、空高くで花火と共に悲鳴がマグノリアに鳴り響いた。

 

「まだまだオレがああぁぁぁぁ!!」

 

全身ビーストモードのエルフマンが先生に渾身の拳を振りかぶって一歩、踏み出した時に異物を踏んだ気がした。

 

「ぬおおおおぉぉ!?」

 

指先で踏んだそれは非常に不安定だっったためその場で盛大に転がった。

巨体が倒れたところにコマが一緒に転がった。

 

先生は封じられた手で器用にコマを回していた。それも、エルフマンの歩幅や腕のリーチからこの場所に踏み込むだろう、そう計算した上で。

そして思惑通り転げたのだが、その実は少しだけ期待していた。

 

擬似的にト○ロみたいに乗ってくれるだろうと。だが、結果としてみればそれに及ばなかったのだから落胆は隠せない。

実現したらしたで面倒だな、と思いながら倒れたエルフマンに意識を断ち切るツボを足で押して昏倒させる。

 

エルフマン、リタイヤ

残るはエルザのみ

 

「相変わらず戦い方がデタラメだが、まだここまで差があるのか!」

 

残るエルザは先生が凧を揚げたりコマを回していた時も追撃を加え続けていた。並の魔導師であれば一気に押しつぶす物量での連撃だったのに。

 

それを避けながらも彼は遊びながらグレイとエルフマンを片手間で沈黙させた。つまり、自分の剣筋を完全に見切られていることに他ならなかった。

 

だが、エルザは落ち込みも怒りもしなかった。

味方がいなくなった今の状況に勝ち目を見出すのは絶望的だった。それでも、完全に負けたわけではない以上、降参する理由はない。

 

元より、こうして一対一で相手してもらうのは昔に戻ったみたいで懐かしささえ感じるほどだった。

自分の成長を見てもらう、いや、刻みつけてやろうと意気込みながらエルザは勝負に出た。

 

「換装、飛翔の鎧!」

 

豹柄の鎧に変えて先生の周りを縦横無尽に駆け回る。ギャラリーの殆どがエルザの姿を見失い、突風が舞い上がる。

突風のドームの中心にいる先生は手足を拘束されながらも焦ることなく、目を瞑ってリラックスしている。

そして、その手には習字用の筆が握られている。

 

(まだだ、まだ焦るな)

 

神速を保ちながらエルザは先生の隙を伺っていた。

普通に攻めたのであればいくらスピードを上げていても捕らえられる。

そんな相手にはわずかな隙を突くしかない。

 

いくら先生でも人間である以上、隙は必ず見せる。

それまで耐え忍ぶことを決意しながら時折、フェイントや軽めの斬撃を放つ。

その尽くを先生は塞ぎ続けていた時、その時はきた。

 

(ここ!)

 

少しよろけたのか左足を僅かに一歩退いた姿を見て判断した。

 

攻めるならここだ、ここしかない。

 

崩した姿勢を直す1秒以下の刹那の瞬間に全ての力を集結させた。

魔力を解放させて全身の筋肉を酷使し、神速の一撃を遠慮なく叩き込んだ。

 

はずだった。

 

次にギャラリーが見たのは不自由な手で筆を持っている先生と、高速で動き回っていたエルザが剣を振り下ろした姿で佇んでいるところだった。

 

その首筋に黒い線を描かれてエルザは目を見開いていた。

 

(ば、バカな!?)

 

エルザは信じられなかった。今の一撃は間違いなく、今の自分が出せる最高速の絶対不可避の一撃だった。

それを一瞬とはいえ隙を見せた相手では絶対に避けられるわけがない。だからこそこの異常性がより大きく感じた。

 

エルザが見たのは先生が姿勢を一瞬だけ崩す姿と、振り返って自分を静かに見つめる先生の顔だった。

 

(ハメられたっ!)

 

ここでエルザは自分が誘い込まれたことに気づいた。

 

恐らく、自分の思惑を看破しただろう先生は私を誘き寄せるために、あえて隙を見せたのだ。

今思えばあまりに出来すぎた。私が焦っている時に餌を見せつけるかのように望んでいたシチュエーションが実現したのだから。

先生があからさまに隙を見せた時点で疑問に思うべきだった。

 

首に書かれた一筋の線……これが筆でなく短剣だったら間違いなく死んでいた。

 

「うおおおおおぉぉ!!」

 

飛翔の鎧の速度を保ちながら両手剣を両手、そして両足で掴んで仕掛ける。

たゆまぬ努力の末に身に付けた常人離れした剣術はギルダーツであろうと完全に見切るのは難しい。

 

神速の四刀流が先生に襲いかかるが、それでも先生は怯むことなく冷静に対処する。

四刀流を最小限の動きで避けたり両手の枷で受け流す。

その隙をかいくぐってエルザの体に一線を描いていく。

 

首はもちろん、心臓部や鎧の僅かな隙間、体の中心線に線が描かれていく。

攻めているエルザが逆に追い詰められていく姿に今まで騒いでいたギャラリーを含め、復活したナツたちも絶句して目を離せずにいる。

 

鎧を変えて攻撃力を上げても容易くいなされ、防御特化した鎧で防ごうとしても僅かな隙間を縫って黒い墨汁を付けていく。

 

剣戟が終わる頃にはエルザの全身は殆ど墨汁で描かれ、これ以上書く場所がないというところまで真っ黒だった。

疲労がピークに達したことと、自分が出せる実力を出した満足感、先生から感じる圧倒的実力差に膝をついて動きを止めた。

滝のような汗と息切れを起こす一方で先生は息切れすら起こさず、整った呼吸とともに手足の枷を力づくで壊した。

 

「あ、ありがとう、ございました」

 

疲労がピークに達しているエルザは礼をしてその場を去っていった。

 

 

 

「あのエルザが、何も出来なかった?」

 

ルーシィは目の前で起こった光景が信じられなかった。

まだ日が浅いにしてもエルザとクエストを行い、ナツとグレイさえも畏怖させる実力を持ったエルザが何も出来ずに屈したことに少なくないショックを受けていた。

 

そして、今まで側に最強の魔導師がいたことに戦慄を覚えていた。

しかも、マカロフやカナたちから聞いた話では、先生は今回の戦いで魔力のような力を一切使っていない。

使えば広範囲に渡って破壊を引き起こす魔法さえも使わずにナツたちを圧倒したというのだから驚きを通り越して呆然とする。

 

「エルザの奴、最後に手合わせした時よりもかなり強くなったんだけどね」

「魔法も使わないなんて、もう無茶苦茶だよ」

 

カナもレビィも改めて先生の力を見せつけられたように目を見開いている。

小さい頃から破天荒なその人の本気を見ることはこのギルドの一種の悲願でもある。ガジルを含めた面子が本気を引き出させてくれると期待していた分、その落胆も大きかった。

 

「すごっ、先生ってどんだけ強いのよ。ナツたちも苦労してるのね」

「何いってんの、一番苦労するのはルーシィの方でしょ」

「え?」

 

他人事のように呟いたルーシィにカナが現実を叩きつける。

何が何だか分からないという顔をするとレビィが言葉を選ぶように続ける。

 

「基本的に先生は敵と味方に対する扱いの差が激しいんだ。味方にはすごく優しいけど敵には本当に容赦ない……もう人間扱いすらしてない」

「えぇ、それは想像できないけど……」

「その時になれば分かるけど、先生ってすごく感情的だから周りで止めるのも一苦労だよ。暴れ回った後に評議員に怒られるのはフェアリーテイルなんだから」

「なんで!? それって関係ないんじゃ……」

「評議員は基本的に先生と敵対したくないんだよ。それだけ怒らせると怖いってこと」

 

話を聞いたルーシィは身震いした。今後、先生と仕事した時の苦労を想像したのだろう。

ガルナ島でも既に片鱗を見せているのだから尚更、これから降りかかる不幸を想像したのだろう。

 

想像できるだけならまだ幸福であると、ルーシィはこの一年を通して思い知ることとなるのは、また別の話である。



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過去からの因縁

「見て見て! すっごくきれい!」

 

幸いにも晴天に恵まれた空の太陽できらめく海を前にミラが騒いでいる。

撮影用の衣装で動き回るのはいただけないが、主役であるため少し目をつぶろうと思った。

 

疲れもなく早朝に見せた眠そうな様子も見られない。

その代わり、電車の中で語り合うという予定が潰れたことにご立腹だったのはご愛嬌だ。

後は、撮影前にバテてしまわないかが心配であるというと、ミラは頬を膨らませる。

 

「今日はとことん遊ぶって決めたんだからいーの。あなたも仕事ばっかりじゃなくって楽しまなきゃ!」

 

私の手を引っ張って街の中を散策する様子は実に微笑ましい。マネージャーとして、子供のころから苦楽を共にした仲として、彼女の数少ない安らぎの時間を邪魔させはしない。

 

彼女の笑顔に充てられたのだろう、たとえ軍隊、国が相手できそうだ。

それほどまでにやる気に溢れていた彼はいつもよりも神経を研ぎ澄ませる。

 

彼はパルプンテによって別世界から呼び出した強者からその世界特有の力を学び、身につけている。

運に左右されない、人本来が眠っている力を身につけるのは魔力がないと嘆く彼らしいといえば彼らしいのだ。

 

気配を探る力を街全体に行き渡らせた時、背後からミラに向かって忍び寄る影を察知した。

ミラの笑顔に絆され、気を抜いた結果がこれか、そう思いながら忍ばせていた隠し銃を瞬時に取り出してミラににじり寄る人物の眉間に銃口を突きつけた。

 

「メエエエエエエン! 私だ、落ち着きたまメエエエエエエン!」

「「「師匠!!」」」

 

奇妙な風貌の中年は瞬時に引いた引き金に合わせるように髪をかすらせながら弾丸を見事に避けた。

その取り巻きであろう騒がしい3人に見覚えがあり、一旦落ち着いた。

 

「一夜さん!? それにトライメンズの皆も!?」

「やあミラさん。奇遇だね、この運命に乾杯、メン」

 

今さっき撃たれたというのに立ち直りが早く、早速ミラに言いよる鋼のメンタルを持った男に見覚えがあった。

それはブルーペガサスの一夜その人だった。

 

「先生、お久しぶりです。お元気そうで何より」

 

渋い声で挨拶をしてくる一夜に私は撃ったことへの謝罪する。すると、それに対して決めポーズしながら気にしなくていい、とだけ言う。

器が大きいのか甘いのかは人によって別れるだろうが、少なくとも私はそのさっぱりした性格を気に入っている。

 

過去の一悶着からと言うもの、個人的にも施設としてでもマスター・ボブを始めとした面子に親交がある。

彼らの飛空艇であるクリスティーナの製造に少し関わっていることもあり、たまに出張でメンテナンスしに行っているが、それは些細なことだろう。

 

取り巻きの1人であるヒビキが私たちに話しかけてくる。

 

「ご無沙汰です先生。ミラさんもお変わりなく」

「あら、そんなこと言ったらカレンが拗ねるわよ?」

「あはは、それは怖いな……その節でソラノにも会いたかったな。今のカレンがいるのは彼女と先生のお陰ですから」

 

ヒビキは頭を下げた。

 

今思ってもヒビキたちとのファーストコンタクトは色々と衝撃的だった。

きっかけはソラノがカレンに酷使されている黄道十二門の星霊の噂を聞いてからだ。

 

魔法と出会ってから彼女は星霊と共にいた。それ故に彼女の星霊に対する感情は人一倍強いものとなっている。

もし、進むべき道を違えていた時、その愛情はどのように変質してしまっているかと考えると末恐ろしいものがある。

今では正しく育ったから問題はないけれど。

 

話を戻すが、彼女は私と共にブルー・ペガサスに客として潜入し、カレンの動向を探った。

その結果、お世辞にもまともな人格者とは言えなかったとだけ言っておこう。

色んなところで男を漁り、飽きれば星霊に相手をさせる。

 

モラルも何もない様子に身内からも疎まれ、マスターからも半ば見放されている状況は既に詰みの状態だった。

星霊魔導師としての心構えも素質もない、いずれは星霊から見放されて破滅に向かうのが目に見えていた。

 

何日もソラノを宥めながら星霊人権保全委員会に提出するための証拠を集めていた時、転機が突然訪れた。

接客を生業とするブルーペガサスのマスターは私達に気づいていたのだろう、唐突にゴーサインを出してきた。

突然のサインに驚いたが、察してくれた彼女?に感謝した瞬間、ソラノの我慢が解けた。

 

横柄な態度を取っていたカレンの横っ面に渾身のビンタを食らわせた。気持ちいい乾いた音がキャットファイト開始の合図となったのは言うまでもない。

ソラノの上着を預かりながら互いに髪の毛を引っ張り会いながら罵る二人にギルドはマスターボブを除いて騒然とした。

 

私から体術を習っていたソラノと男漁りに精を出していたカレンとでは肉弾戦もすぐに実力差が表れ、カレンに馬乗りになってボコボコにしていた生徒の晴れ舞台を酒を飲みながら観戦していたのはよく覚えている。

そうしているうちにあるヒートアップしたカレンが星霊を呼び出して襲いかかってきたが、ソラノも星霊で応戦し、圧勝した。

 

徹底的に打ちのめされ、見かけの美貌さえも腫れた顔面で見る影もなくなったカレンに残されたのは圧倒的敗北感だった。

そこからソラノはカレンに星霊魔導師の面汚し等の罵倒を延々と続け、カレンは癇癪を起こして泣き喚いていた。

 

「あの時以来からヒビキとの仲も良好になったよね」

「うん。あの時はカレンのことを諦めかけていたけど、先生の叱咤で目が覚めてね。二人で色々と話し合ったんだ」

「あの頃はお前もウジウジしてまどろっこしかったんだよ……別に心配なんかしてなかったからな」

 

カレンが泣いていた時にヒビキがソラノから庇おうとした姿勢に私は思うところがあり、一通り叩き伏せて二人の関係から見える交際に対して大いに口を出した。日が暮れるまでの説教の果てにその件については水に流した。

 

その数日後くらいにカレンがこれまでのことを反省し、魔導師を止めることとなって黄道十二門のレオとアリエスをソラノに託した、ということがあった。それ以来、カレンはギルド経営に従事していると偶に飲みに付き合っているソラノから話を聞いていた。

 

「今度ギルドにお越しください。カレンもあの時のお礼がしたいとのことなので」

「道を違えていた仲間を私たちの代わりに正してくれた礼もできなかった。あなたは男だが、ご来店した日には精一杯のおもてなしを約束しましょう。その時にはミラさんもご一緒に」

「「「ブルーペガサスへのお越しをお待ちしております!!」」」

 

あの時はただの成り行きだったのだが、こうまで言われると行かなければ逆に失礼だろう。

なので、今度はソラノたちを連れて行くことを約束し、その場で別れる。

 

聞けばブルーペガサスも週刊ソーサラーに掲載される夏のビーチ特集の撮影に来ているとのことだ。すぐに再会するだろう。

 

「ブルーペガサスの人って面白いわね。それに優しかったわ」

 

ミラが笑いながら漏らした感想に同意した。確かに彼、特に一夜の魔法は面白い。

 

香水に魔法を付与してステータスの上昇、鎮痛などサポート系の魔法に長けている。

突発的な対応には向いていないが、匂いの開発によって魔法の質も変わるというのだから不思議である。

 

実は、近々、一夜との共同研究で魔法の香水を売りだそうかと思っているのはここだけの話だ。

少し話から脱線しているとミラが私の頭をパシッと軽く叩いてきた。

顔を見ると、少し拗ねたように頬を膨らませている。

 

「こんな時まで仕事のことなんか考えなくていいの。折角の自由時間なんだから」

 

フェアリーテイル、養護施設では見せないような顔だった。

最近ではすっかり大人びたと思っていたが、こうした子供っぽい姿を見るとどこか安心する。

 

気分はまだまだ幼い少女の従者、たまにはこういうのもいいだろう。

その後の雑誌撮影まで二人で並んで色んな場所を散策した。

 

 

 

その日の夜、ミラの撮影も終わったということで羽休めに歓楽街をエスコートしてやる。

一応は変装させているが、ミラの容姿はそこいらのモデルよりも優れているために目立つ。

前髪を下ろして目元を隠し、伊達眼鏡をさせても体のラインで民衆の注目を浴びる。

 

私という異性がいるのを確認して何人かが声をかけようと諦めていく姿があった。

それでも未だに諦めていないのか機会を窺い、付きまとってくる者もいる。

あまり気にしないように振る舞いながらミラの思うままに買い物や食事をしていく。

 

「妬ましいぃ……妬ましいのう……」

「あれってミラ・ジェーンじゃないのか? 今日、ここで撮影って言ってたし」

「てことは、あのマネージャーもいるのか? 噂ではしつこいファンを握手会で半殺しにして血祭りに上げたという……」

 

周りから聞こえてくる声に私は少し危機感を覚えた。もしかしたらミラ・ジェーンだとバレているかもしれない。

 

「あはは、そろそろ魔法で変装したほうがいいかしら」

 

確かにその方が今のような視線に悩まされずに済むかもしれない。

それでも、ただでさえ疲れている彼女にそんな負担を強いるのは憚られる。

自然体で羽を休めてもらうようにするのは私の仕事なのだ。

 

「そんなこと気にしなくてもいいのに……でも、うれしい」

 

顔を紅くさせてお礼を言ってくる彼女を一瞥し、再びエスコートを再開しようとした時だった。

 

 

 

敵意、おもむろに向けられた害意に私は無意識に唱えた

 

 

―――パルプンテ

 

 

 

笑顔の魔神が次元をこじ開け、何もない空間から出てきて標的へ拳を振るう。

 

 

 

「ギャホ?」

「え」

 

 

 

サルに類似した部下を引き連れた人物を中心に、歓楽街のど真ん中で大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

少し時間はさかのぼり、アカネビーチのカジノ店

夜でも賑わうカジノにエルザたちはギャンブルに興じていた。

 

とある事情で人間界に残された星霊が持っていたチケットを分けてもらったわけでなく、単純に福引で当てた旅行券をチームで組んでいるナツ、グレイ、ルーシィとエルザで来ただけである。

 

現在はバーのカウンターでルーシィとグレイが話をしている。

エルザとナツは別行動でカジノで遊んでいる。

 

「偶にはこういうのもいいな」

「最近はファントムとかガジルとか……」

「あぁ……あのリサイタルか」

「ミラさん拘束してリサイタルしようとした所を先生に見つかって、魔法を使ってフェアリーテイルが爆発したもんね、文字通り急に、何の前触れもなく」

「じいさん呆然としてたけど先生がポンと弁償してガジルを引きずって拉致して一旦は落着したけどな」

 

ガジルにグレイは笑いながらご愁傷様と軽く言うと、ルーシィは前々から気になっていた疑問を聞いてみた。

 

「先生って本当に何者? 強さとかお金持ちはもちろん、何でもできるし超人みたいで」

「認識は間違ってねえよ。あの人が魔法の才能がないのは間違いないけど、代わりに執念が凄まじい」

「執念?」

「魔法使いたくて魔法道具の開発したり、魔法を使える過去の遺産を求めて冒険したり……その過程で様々な学問身に着けるうちに、それが面白くなって今じゃあほとんど研究者みてえなもんだ。今じゃああの人がいねえと研究が進まねえんだと。その辺の事情はよく分かんねえけど、たまにウチに先生紹介しろって依頼も来るからな」

「やっぱりすごいんだ……それで魔法の才能がないって……」

「その代わりに先生は人が本来から持つ力を研究して自分のものにして今の実力を手に入れたんだ」

 

疑わしそうにルーシィが聞くと後ろから声が聞こえ、振り向く。

そこにはドレスアップしたエルザが佇んでいた。

 

「戻ってきたのか」

「遊ぼうとしたら気になる人物を見つけて、連れてきた。ほら、隠れてないで出てこい」

「あ、あの……私は……」

 

エルザがドレス姿の女性を引っ張り出してグレイたちの前に突き出す。

見覚えのない人物にルーシィが首を傾げていると、隣から驚きの声が上がる。

 

「ジュビア!? お前、なんでこんなとこに!?」

「すいませんグレイ様……来ちゃいました」

「知り合い?」

 

グレイの反応から只ならぬ関係だと思って尋ねると、それに答えたのは意外にもエルザだった。

 

「この者は元ファントムのメンバーだ」

「ファントム!? 私を誘拐しようとしたギルドでガジルがいたところの!?」

「未遂には終わったがな。既にマスター・ジョゼがファントムを解体したとはいえ、こちらで言うところのS級魔導師の実力を持ったジュビアが今朝から私たちを付けていたのだ……遊びの最中でも見張られるのは嫌だから捕まえてきた」

「お前、家で待ってろって言っただろ」

「すみません~」

 

半べそかいて謝るジュビアにグレイは苦笑して頭をかきむしる。その様子からしてグレイはジュビアと何かしらの関係があるようだった。

ルーシィとエルザがグレイに視線を向けて知っていることを話せ、と訴えているのに気付いて観念する。

 

「ファントムが解体する少し前にこいつがマグノリアで行き倒れてるのを見つけて、介抱してたら色々あって家に住みつくようになったんだよ」

「……ガジル君が任された直後、ジュビアは『休憩所』の怒りに触れて襲撃を受けました。私たちは成す術もなく無力化された所を逃げて来たんです」

「数人でギルド一つを襲撃……うん、なんか想像できちゃった」

「ルーシィもあっちに馴染んできたな」

 

グレイが冷や汗をかきながら呟く。

同じチームがエルザのように常識をなくしていくことを懸念しながら話を進める。

 

「で、こいつがフェアリーテイルに入りたいって言うから機会を待ってたんだけど……なぜか今日、ここで見つかったわけだ」

「できればグレイ様のところで永久就職」

「止めろ」

 

グレイの家にお世話になっている内に何気ない彼の優しさに惹かれ、ジュビアは人目もはばからずグレイへの好意を見せつける。

ルーシィは苦笑し、エルザは警戒を解き、生暖かい視線をグレイたちに向けていた。

 

 

しかし、背後から巨大な影が挿し、彼らを包み込んだ。

 

 

 

 

「久しぶりだね姉さん」

 

 

 

過去というものは思わぬ所で今に繋がってくる。

彼女は自らの過去と対面し、その心も闇に閉ざされた。

 

 

 

「ショウ……なのか?」

 

 

過去からの因縁が今になって立ちはだかる。

 

ただそれだけなのだ。




会社が忙しく、常に時間に追われます。
そのため、自分で作った作品なのに幾つかの設定を忘れてしまったので、現在は過去作を追憶中です。

基本的に主人公は唯我独尊で突き進むので物語も原作ストーリーはほぼスキップしていく予定です。

それでは、また次回お会いしましょう!


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大きい力を抑えるには更に大きい力でねじ伏せるとばっちゃが言ってた

アカネビーチ近くの街は騒然としていた。

突如として街の中心部が大規模破壊に見舞われ、歓楽街としては壊滅的なダメージを負った。

 

その原因は誰かの魔法が暴走したのだとか、そう広まっている。

住民は所詮は噂だと信じていないようだったが、彼らは知らない。

 

 

時に真実は噂以上に奇であることを

 

 

 

 

 

 

 

ミラに対する劣情、悪意といった下卑た感情を感じた瞬間に私は我慢できなくなって、つい魔法を使っちゃたぜ。

私は魔神に巻き込まれた形で潰されたが、致命傷とはならなかった。ただ、元凶となった類人猿たちは綺麗に潰されており、全身複雑骨折で運ばれていった。

 

かくいう私も守衛所に取り調べで連れ込まれたが、二、三の質問だけで終わり、今は釈放手続きを待っている。

外の騒がしさとは別世界と言える石でできた静寂の個室の中で取り調べ官と一対一で机を間ににらみ合うのは私といえど気まずいものがある。なので、目が合ったら笑いかけるも、尋常じゃない汗をかきながら愛想笑いした後、真っ青な顔になって再び沈黙する。

 

さっきからこの繰り返しだから気が滅入ってくる。仕方ないからそのまま沙汰が来るのを待ち続けた。

 

その後、勲章やら何かをつけた所長と名乗る中年男性が汗だくになって取調室に駆け込み、頭を下げて私の釈放の準備が整ったと言ってきた。

一応、容疑かけられたし街もわざとではないけれど破壊したのも事実である。そんな容疑かけられている私にする態度じゃないと苦笑しながらも最後の取り調べ段階に入る。

 

釈放の準備はできたものの、最後の取り調べ過程を終えなければならない。

 

というのも、嘘発見器の前で一般市民への害意がなかったことを宣言して引っかからなければいいだけだった。

もちろん、一般市民への害意はなかったため正直に答えて見事にこれをパス。

普通に釈放されて事なき得た。ただ、所長さんと取り調べ担当官が最後に汗ダラダラに流して顔を真っ青に震えていたのが気になった。

 

最近は風邪が流行っているだろうか、施設の子供たちにも注意喚起しなければ。

 

そんなことを考えながら守衛所を後にすると、外ではミラが待っていた。

心配そうに待っていたが、私を見て安堵に一息ついていた。

 

 

 

ただ、そこで事態が困ったことに転がっていることに気づいた。

ずっと補足していたエルザやナツたちの反応が街から消えている。この街に来てから気配と“覇気”、“円”でナツたちがいたのを知っていたが、その反応がカジノからパッと消えていた。

 

私とていつも気を張っているわけではなかったのだが、その息抜きの最中に事態が色々と動いてしまったようだ。

まだ発覚してないが、カジノの客の生体反応がおかしい。今までは普通に反応を感じられていたが、今ではその反応が布みたいな何かに覆われてうまく捕捉できない。

 

上手く認識できていないことから考えると、間違いなく魔法であろう。

 

 

こっちとしては休暇で来たのだが、これ以上邪魔されたくはない。

 

“見聞色の覇気”を全力で展開させてナツたちを発見した。以前に海軍の英雄と名乗る人から教えてもらった。

それ以来、この力は長い間からお世話になっており、見聞色と武装色、なぜか覇王色までも開眼した。

曰く、覇王色の人間は騒ぎを起こしまくる問題児の証と言っていた、解せぬ。

ついでに六式とかいう武術も習い、今でも鍛え続けている。

 

 

ちなみに“円”は相当昔に召喚した別の世界の住人に教えてもらった。

トランプを武器にしたトリッキー型の戦闘スタイルには何回も苦汁をなめさせられ、100回以上は死んだ。

相手も相手で戦いが好きだったから好きなだけ戦い、念能力を鍛えていった。

ちなみに、私は強化系だったので肉体操作と自然治癒力の強化を私の能力とした。

 

あの人たちは元気かな?

いくら殺しても死ななそうな人ばっかだから大丈夫なんだろうけど。

 

 

過去に浸るのもここまでにして、今はナツたちを追うことにしよう。

私はパルプンテ神の呪いであるが、ナツたちのトラブル体質も大概である。私は彼らの行く末を少し心配しながらミラには用事があるから先にマグノリアへ帰っていくように言った。

 

 

その瞬間、ミラはホテルの備品の枕を私に投げつけてきた。

 

 

 

 

 

 

ミラにはまた日を改めて遊びに行こうと伝えると不承不承ながらも納得してくれた。

遊びに来たのに厄介ごとに突っ込んでれば、そりゃ怒るか。そう思いながら私は暗い海を泳いでいる。

舟でこぐよりこっちのほうが確実に速いのだが、やはり面倒は面倒なのだ。

 

そんなことを思いながらナツが向かった先を泳いでいくこと数十分、ついに目的地らしき所が見えてきた。

孤高の絶海に面した場所に巨大な塔が建っているのは壮観でもあり異様さが目立っていた。

異様な気配が立ち込めているのを見ると、悪い予感は当たってしまったようだ。スキルがある時点で諦めていたからダメージは少ない。

 

そんなことを思いながら泳いでいると海の上を浮かぶ一隻のボートを見つけた。そこにルーシィやグレイの姿の他にも初めて見る姿もあった。一緒に塔を傍観しているから敵ではないのだろう。

私が海から勢いよくボートに乗り込むと乗っていた全員が目を見開いてこっちに注目してきた。

 

「え、なんでここに!?」

「今海から出て来たってことは、まさか泳いできたのか!?」

 

ルーシィたちの疑問に答えてやりたいのは山々だが、見た限りだと事態は切迫しているようだ。

それに、ハッピーがナツと一緒にいないのが気になる。別行動を要するほどとなると事の重大さもかなりのものだろう。

 

「この人が最強の……こんな所で会うなんて思ってませんでした」

 

髪をカールにしている厚手のコートを纏った女性が私を見て呟いている。

 

「この人何なの? 急に出てきたけど、みゃあ……」

「知り合いって感じだけど……」

「それにしちゃあ状況が分かってないみたいだぜ」

 

この三人も見たことがない。猫っぽい少女と日焼けしたような少年とポリゴンっぽい何か。

見ないうちにエキセントリックな知り合いが増えたものだ。

 

私とて見た目を重視しろと言うわけではなく、基本的に善人であれば口出しするのも無用だろう。

 

「そんなことよりも大変なんだよ! ジェラールって奴があの塔にエーテリオンを落とすって言うんだ! 中にはまだエルザとナツとシモンって人もいるのに!」

 

ハッピーは思い出したように今の状況を端的に説明してくれた。そもそもなんでこんな状況になったかも知りたいが、今すべきことは分かった。

 

エーテリオン、現存する魔法の中でも破壊力があり、使用するにも評議員の生体リンクによる許可も必要だったはず。保守派の評議員が使用するからには相当な理由があるのだろう。

 

だが、こんな近くで放たれたら余波でボートが壊れてしまう。それだけは避けたい。

 

「いえ、そんな程度で済むとは思えないんですけど……」

「この人はいつもこんな感じだよ。常人とはズれてるからなぁ」

 

何やら外野が言っているようだが、時間は待ってくれない。

遥か上空から巨大な力のうねりを感じる。ハッピーの話は本当だったようだ。

 

「そんなっ!?」

「冗談だろ、まだエルザたちがいるんだぞ!」

 

空から太陽が出たように暗い海を照らす。

 

ふむ、話だけは聞いていたが実に興味深いな。一生に一度見れるか分からない魔法だ。それを今回目の当たりにしたのは“二度目”だ。

前回は私に直撃されたが、今回は客観的に見れそうだ。

 

「んな呑気なこと言ってる場合!? 状況解ってます!?」

「何でそんな冷静なんだよ!」

 

実際に見てみたいが、状況も状況だ。このまま海に投げ出されるのは遠慮願いたい。

 

 

ならどうするか。

 

 

 

より巨大な力でかき消すに限る。

 

 

 

私は虚空に手をかざしてスキルである『武器庫』から一振りの剣を取り出す。

その様子に周りは目を見開いて固まるが、私はそれに構わず力を込める。

 

 

この剣はパルプンテで当たった超レアな武器

 

 

 

呪剣『ホライズン』

 

 

 

かつては武器を造る神が自らの手で作り、星を削って今の球の形にし、水平線を創ったとされる創世の剣

故に、ホライズンと名付けられた。

 

世界を創ったとされる剣であったが、それをパルプンテ神が武器の神と取引をして奪い取った。

理由は定かではないが、パルプンテ神の横暴に怒る武器の神は怒りと恨みを武器に込めて贈ったという。

 

この武器は呪いを身にまとい、使い手の生命力と引き換えに極大の力を解き放つ。

 

 

その一撃は魔を切り裂き、無に還す。

 

 

 

普通の人間なら手にするだけで生命力を食い尽くされ、問答無用で死に至る。

 

 

生命力を奪われる虚脱感はあるが、死ぬほどではない。

安全だと確認した私はその剣に自分の持てる力を注ぎ込む。

 

 

「な、なに……これ……」

「こんな力知らない……い、嫌だ!」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!」

 

つぎ込んだ生命力に比例して膨れ上がる力の奔流にあたられたか、見知らぬ3人は正気を失う。

ルーシィたちは顔を真っ青にしているだけで正気を保っている、強くなっている証拠だ。

 

ルーシィたちの成長を感じながら、剣に力を込め続け、頃合いを図る。

 

 

 

 

―――ウバエ、コロセ……ハカイセヨ

 

 

 

 

剣から声が響いてくる。蟲に脳を食い散らされるような激痛と共に体から血が溢れていく。

由緒正しき聖剣をここまでの物に堕とすとか、パルプンテ神はマジ邪神。異論は認めん。

 

 

 

体からきしみ始めた音が聞こえ始めた頃、蓄えた力の総量を確認した。

 

 

頃合いだ。

 

 

私は体から流れる血飛沫をまき散らしながら天の光に向けて一振り、剣で凪いだ。

 

 

 

それは静止した世界

 

 

 

現実世界ではたった数秒といえる刹那の時が歩みを止め、世界を止めた。

 

直後に衝撃音が木霊する。

 

 

 

 

一筋の剣閃が遥か上空に飛翔し、天の光に向かう。

それはまるで、津波に飲まれゆく人を連想させるほどの物量差だった。

エーテリオンの光が剣の一振りとぶつかり合い、飲み込んだ。

 

瞬間、エーテリオンが裂けた。

 

 

 

光は空の割れ目の中に飲み込まれ、虚空に続く永遠の闇の中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある漁師がその時の状況を語った。

 

 

その日はたまたま、沖に出て漁をしてきた帰りだった。

いつもと違って波は荒れ、暴風が吹き荒れた。

 

 

何事かと思ったのも束の間、空から光が落ちてきた。

 

 

それは神々しく、何より恐ろしかった。その時、漁師として危機に直面する勘が告げていた。

騙されるな、あれは神々しい“死”だと。

 

 

なにが起こったかも分からぬまま、死を待つだけだった数十秒は走馬灯しか見えていなかった。

海に生き、海で死んでいくのは定めなのか、そう思った時だった。

 

 

光は一瞬にして漆黒に塗りつぶされ、その黒は世界を切り裂いた。

 

 

 

その時のことを幾ら思い出しても何が起こったかなんて分からない。

何もかもが超常で、自分が関わるなどおこがましいとさえ思えた。

 

 

 

何が起こったか分からなかったが、これだけは理解している。

 

 

 

あの日、神々しい『死』は禍々しい『魔』によって切り裂かれ、救われたのだと。

 

 

晩年に至るまで、漁師は自分を救ってくれた『魔』に祈りをささげ続けたという。




閑話休題~事情聴取での一コマ~



所長  「あなたは子供ですか?」

私   「YES」

嘘発見器「嘘です」

所長  「あなたはこの街を悪意を持って破壊しようとしましたか?」

私   「NO」

嘘発見器「本当です」

所長  「あの犯人をどうしようと思いましたか?」

私   「手始めに四肢を潰して逃走手段と犯行手段を奪った後、死も生ぬるい生き地獄を見せながら体内に蟲を放ち、酸の海に放り込んでやろうと思いました」

嘘発見器「本当です」

所長  「つまり、犯人グループに悪意を持って殺害しようとしたと?」

私   「殺すつもりはありませんでした。ただ、自分のやったことには責任を持ってほしいと思っていました。悪意はありません」

嘘発見器「本当です」

所長  「分かりました。事情聴取はこれで終わります。ですから早く帰ってくださいお願いします何でもしますから」


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エルザの決着と新スタッフ

長い間放置してすいません。
こちらの用事も一段落したので少しずつ書いていこうと思います。

久しぶりなので文もおかしいかもしれませんが、ご了承ください。


事の発端はジークの暴露から始まった。

 

過去に清算したとされていたゼレフ教団の凶行に遡る。

当時、教団は周辺の村を襲いながら子供や年寄など力が弱い者を労働力として誘拐していた。その労働力を使って『楽園の塔』と呼ばれる建設物を造っていた。一見すれば教団がゼレフを祀るための建築物としか見えるだろうが、真実はそんなものではなかった。

 

ゼレフが遺したとされる禁忌の魔術を発動させるものだった。

 

Rシステム―――死者の蘇生という自然の摂理に叛逆する冒涜そのものだった。

 

そして、教団はそれを使ってゼレフを蘇らせようとした―――だが、ここで大きな改変が起こった。

奴隷たちの反乱によって教団員は全滅し、邪悪な計画はそこで潰えたかのように思えた。

しかし、奴隷代表のジェラールが魔の力に魅入られ、教団に成り代わって楽園の塔の建設を続けていた。

正気だったころからリーダーシップを利用して奴隷仲間を誘導して建設させていた。

 

そして、それが完成し、発動させようとしている。

 

だからこそ、エーテリオンを使ってジークの弟であるジェラールを塔ごと葬ってしまおうと提案した。

 

 

ここまでがジークの話であるが、ここからは先があった。

 

 

Rシステムの起動には普通では集められないほどの魔力量……27億イデアが必要となる。

そして、聖十魔導師に匹敵する魔導師の肉体を捧げることによってゼレフを蘇らせることを目論んでいた。

 

「何が起こった……?」

「エーテリオンの反応が、消えただと?」

 

先ほどまで上空を照らしていた光と膨大な魔力が消え、遠くから塔を見ていたグレイたちが現実を受け止められずにいた。

 

破滅的な光が跡形もなく消え、雲の割れ目から月光が差し込む幻想的な光景に動けずにいた。

 

エーテリオンの投下、そして消滅

わずか数十秒の間に起きた出来事にその場の全員が唖然とする中、力を行使した張本人の姿が目に入った。

 

「せんせ、ヒッ!」

「なんだよ、全身血だらけじゃねえか!!」

「この出血量、まずいです!」

 

禍々しいオーラを纏った剣を手に持ちながら全身から血を噴き出す超越者の姿があった。

目をそらしたくなるような負傷を負った先生はその場にたたずんで倒れることなく、塔を見つめていた。

 

満身創痍と言える重症の体で佇む姿に戦慄する周囲のことも忘れて私は剣を眺めた。

実際に剣を使ってみた感想だが、使い心地は悪くない。大抵の魔剣と同様に生命力を削る点は同じだが、他のと比べて出せる威力も低く、ある程度のコントロールが利く。

強力な物であれば一瞬で生命力を喰らい、無差別な破壊をまき散らす物が多い。

 

それに対し、この『ホライズン』はそういったコントロールが可能であることが分かった。

久しぶりの大当たり武器に私は口角を上げた。

 

「剣を見て笑ってやがる……」

「怖いよぉ……」

「丸くねえ……」

 

「何で笑ってるのよ……」

「あの武器を気に入ったんだろう……よくある」

「普通じゃありませんよ……マスター・ジョゼが恐れる理由が分かった気がします」

 

少し昂ぶってしまったのを自覚して表情を戻す。

この辺りでホライズンを戻し、次にすべきことを決める。

 

今回、旅行を邪魔する者の排除を決めていたが、この塔の真実を知ってもう一つ、潰す理由ができた。

この塔は『ゼレフ教』なる不快な異教徒どもが建てたものだという。罪もない子供を攫い、無意味に命を散らすだけの生産性のない屑。

何より、私の友を愚弄する社会のゴミが遺した負の遺産だと、評議員のアーカイブをハッキングして知った。

 

こんな物の存在を認めたくない。

 

 

破壊し、二度と顕現できないようにし尽くす。

まずはあの塔を造ったとされるジェラールという男だ。

 

私があの塔に行き、塔を破壊するからルーシィたちは陸に戻るように言う。

 

「まだ姉さんがいるんだ!」

「シモンだっているんだぜ!? なのに置いていけるかよ!」

「ナツもエルザだって!」

 

そちらも回収するから心配しなくてもいい。

全員は私が責任もって連れて帰ると言うと、グレイたちは大人しくなる。

 

それでも初めて見る子たちは絶対にひかない。

気持ちはわかるが、これから放つパルプンテを考えるとこの場に居座られるのはハッキリ言って邪魔である。

なので、私は言った。

 

今の私は非常に不愉快だ、なので、この場にいるというなら巻き込まれても知らんぞ。

 

 

先ほどの世界の終りかと思えるような光景を作った本人の言が響いたのか、全員が顔を真っ青にした。

どうやら分かってくれたようだと思い、満足する。

 

後で評議員が嗅ぎ付けられるようだが、私の名を出して置いて欲しい。罪人を引き渡すが、尋問できるかは怪しいくらいに壊してしまうことも伝えてもらおう。久々の残虐ファイトは腕が鳴るし、加減が分からない。

 

「「「ア、アイ……」」」

 

全員がハッピーみたいな返事をしたことに首を傾げながら足に力を籠め、まあいっかと思って塔に向かって跳躍した。

血塗れになりながらも三日月のように口を吊り上げて愉悦を堪能する狂人を止めるすべなど彼らにはなかった。

 

 

 

 

ジェラールは心は荒れていた。長年に渡って用意していた計画を実現寸前にまで事を進め、打ち砕かれたのだから。

 

計画通りにエーテリオンは塔に当たって膨大な魔力を手に入れるはずだった。そのためにエルザに猿芝居までして時間を稼いだというのに。

 

「シモン! しっかりしろ!」

「エルザ! 何が起こったんだ!?」

 

 

異変を察知したエルザに加えて飛び出すように現れたナツとシモンが集まってくるが、ジェラールにとってはそれどころではない。激情に任せて放った渾身の魔法はナツに当たる直前でシモンがかばって直撃、瀕死の状態に追い込まれている。

 

だが、今のジェラールにとってシモンはどうでもよかった。

自らが温め続けてきた計画が最終段階の時点で霧散した事実は到底受け止めきれないものだった。

 

頭の中が沸騰しているような怒りにジェラールは先ほどまで見せていた余裕も跡形もなく消えていた。

 

「おのれええええええぇぇぇぇ!! どこのどいつがあああぁぁああぁぁあ”あぁぁあ”!! くそがああぁぁぁぁ!!」

 

これまで見たこともないジェラールの怒りにエルザは本能的に恐れ、シモンをかばうように覆いかぶさった。

その怒りがいつまで続くかと分からない、そう思っていた時だった。

 

「先生!?」

「いつの間にー!?」

 

エルザとナツは音もなく表れた超越者の姿に目を見開いた。私は軽く挨拶して瀕死の見知らぬ大男の様子に注目する。今にも死にそうな彼に覆いかぶさるエルザをどける。

 

「この人、シモンは私の仲間です……ナツを庇ってこんなことに……」

「そうだよ! 何とかなんねえのかよ!?」

 

どうやら事態は結構深刻だったようだ。その証拠にシモンという青年の生命反応も弱まっている。

もちろん、私の気を少しずつ送って馴染ませながら治療していけば助かるだろう。

ただ、こんな事態を引き起こしたであろう目の前で怒りに震える顔面刺青の青年に対してため息を吐いた。

 

 

 

ジェラールはずっと恐れていた。その恐怖は十年以上も前から続いている。

自分がゼレフから神託を受けた後、彼はおぞましい何かに襲われた。

 

その時の記憶がないにも関わらず、体が覚えている恐怖に体を震わせてきた。

それ以来から体を鍛えると不安が和らぎ、精神が安定することを知った。それでも内なる恐怖から逃げることなく魔法を極め、聖十魔導師にも食い込んだ。全てはゼレフ復活のために。

 

それ故に、その野望を台無しにされた怒りは計り知れない。人生を全て否定されたような虚脱感と激情にかられたジェラールは怒り故に冷静さを失っていた。

 

突然現れたのは聖十の時に『超越者』の通り名で知っている孤児院の創始者だった。

曰く、超越者の怒りは天変地異そのものだと。

 

ジェラールはそれを与太話だと鼻で笑った。

 

前任の聖十魔導師は彼に喧嘩を売って勝負に負けた後、精神を病んだという話も聞けば聞くほど噂で誇張されたような信じられない内容だった。

 

そんな冗談みたいな存在の登場にジェラールは結論を急いで滅ぼすべき敵を見定めた。

 

「貴様かあああぁぁぁ!!」

 

 

流星<ミーティア>で瞬時に近づき、背後に回り込むんで魔力をこめる。

憎悪の表情を浮かべ、ナツとエルザでさえも反応が遅れるほどの速度で近づいた一撃を防ぐ者は誰もいない。

呑気にシモンを治そうとしているマヌケの頭を撃ち抜いてやろう。

 

「消えろ。クズが」

「しまっ……!」

「ジェラール!!」

 

手加減だとか遊びとかの以前にこの男の存在が気に入らない。

こいつを消してから再び計画を練り直そうとしていたジェラールは憎き男の後ろから頭部に全力の一撃を叩き付けようとした。

 

 

しかし、流星のごとき光の速度の世界の中でジェラールは強い衝撃に体を地面に叩き付けられた。

 

「ぐ……がはぁ……!!」

 

巨大な岩が生身の体に落ちてきたような衝撃、視覚外から予期していなかった威力の一撃にジェラールの意識が一瞬だけとんだ。

だが、鋼の精神で意識をつなぎ留め、自分の現状を見定める。

 

自分を抑えつけた物を見て驚愕した。自分を地べたに抑えつけていたのは件の超越者の手だった。

それだけでは驚愕し得ないだろうが、問題は超越者の佇まいそのものだった。

 

「まあ、そうなるな」

「そいつは俺が倒すんだああぁぁ!!」

 

エルザとナツはある程度予想できていたようで、それほど動揺している様子は見れなかった。

 

彼は腰を下ろし、シモンを左手で触診しながらもう片方の右手でジェラールの頭を押さえつけていた。

それも、ジェラールに視線すら動かさず、純粋な腕力だけで押さえつけていた。

まるで、もののついでと言わんばかりにぞんざいな扱い。とても戦っているときの佇まいとは思えない。

まるで押さえつけられた獣のような格好にジェラールの額に青筋が浮かんだ。

 

「嘗めるなあああああああ!!」

 

魔力と長年鍛えてきた筋肉を総動員して不遜にも押さえつけている手を押しのけようと力むが、その力は片手とは思えないほど重い。欠かさずに行ってきた筋トレを通じてもここまで重いものは知らない。

とはいえ、このまま終わるわけにはいかないと言わんばかりに体を震わせながらゆっくりと手を押しのけた体を起こしていく。

 

「くうおおおおおおおおおぉぉぉ!!」

 

このまま完全に振り払い、今度こそ油断なく最大魔法で葬ってやろうと考えていた時だった。

自分の頭にのしかかる圧がけた違いに増し、上がっていた頭が勢いよく地面に叩き付けられた。

 

「が……は……っ!」

 

地面が陥没し、叩き付けられた頭を中心に床に亀裂が走った。

 

(なんだ、このバカげた力は……!)

 

命を削るかのように込めた力が呆気なく押さえつけられ、地べたに再び頭を垂れる。

その間にも片手間で行っていたシモンの手術も既に終わり、メスやら縫合道具が消えたり現れたりする光景にジェラールは彼をエルザと同じ系統の魔導師と当たりをつける。

 

そうしている内に、手が離れたと思いきや石ころのように投げ出された。

ぞんざいに投げられたジェラールが塔を破壊しながら壁に激突する傍らでシモンの治療が終わり、心臓が再び動いたのを感じた。

 

それでも呼吸が浅く、まだ危ういことには変わりない。帰って応急処置をした方がいいと思うが、恨めしそうに睨むジェラールを見て顎に手をやる。

睨んでけん制しているナツに向き合ってジェラールの相手をするように頼んでみる。

 

「おう! あんな奴余裕だぜ!」

「シモンを頼みます!」

 

二人は了承したため、シモンを肩に担いで塔から飛び降りる。

 

重力に従って急降下した行先は暗い海

 

シモンと自分の体を気でガードして海からの衝撃を緩和、ついでに体温ももっていかれないようにする。

水の感触を確かめて、蹴りだした。

 

瞬間、海で最も速い生き物と化し、一筋の泡だけを残してその場から消える。それを目で追える者はいない。

 

 

なるべく抵抗を受けない泳ぎ方で二時間泳ぎ続けた所で、陸地が見えた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設でシモンを治療し、見舞いに来てみると先客がいたので気配を消して窺ってみる。

 

「怪我の戻りも順調だな」

「あぁ、大分痛みも消えて歩けるようになった。予定では完治に一週間後らしい」

 

一週間の時が経ち、施設の救護室を訪ねたエルザとベッドに横たわるシモンは穏やかに話していた。

シモンが急患として運ばれた時の施設は多忙を極めた。エリックとソーヤーは白衣に身を包んで手術の手伝い、他の面子は入院準備に駆り出されていた。

 

医療の知識や手腕は『私』が持っていた。エリックは修行の甲斐あって雑菌のみを殺す毒を作ってもらい、ソーヤーは行動も迅速なため、こういったアシスタントとして重宝している。

 

 

「復帰したらここで働こうと思う。ここの主人には恩があるし、ここにいればカグラも見つけられるかもしれんしな」

「妹だったな……その方がいいかもしれん。どんなに離れても絆は消えないが、やはり別れは寂しいから少しほっとしてる」

「……ジェラールは?」

「見つかっていない。意識失った状態で塔もろとも海の中に消えたから探しようがない」

 

 

エルザもシモンもどこか寂しそうな表情を浮かべた。

ジェラールが変貌したと言っても昔の仲間だったのだ、思うところがあるのだろう。

 

結局、ジェラールはナツとエルザに倒され、破壊された塔と共に海に沈んだ。

思念体として評議員に潜み、エーテリオン投下へ誘導したこととウルティアの裏切りによって聖十魔導師の2角が落ち、面目丸つぶれだった。その責任をジェラールを捕まえることで払拭しようと必死なのが目に見えてわかる。

 

昔から評議員の茶々に嫌気がさしていた自分にとっては痛烈愉快な話だった。新聞片手に爆笑して酒を仰いだ姿で全員から白い目で見られたのを覚えている。

 

「ただ、ここにいる子供含めて主人たちはどうなってるんだ? 魔力だけでも明らかに聖十のジェラール以上のがウジャウジャといるんだが」

「特異体質とかで大きい魔力を内包し、暴走させて行き場を失った子供も引き取っているからな」

「夜の天井に手形や人型があったりするんだが……」

「この家の仕業らしい。色々とルールあるから絶対に聞いておけ。マクベスとリチャードがそれで一週間は遭難した」

「魔境かよぉ!!」

「ちなみに、この家で家具に負けたのが隣のベッドにいるガジルだ」

「余計なこと言うんじゃねえ!」

 

恩はあるし、待遇としてもかなり優良には違いない。しかし、職場と働く人間に色々と問題がありすぎる。

万年スタッフ不足ってそういうのが原因じゃないのか、問い詰めたいところだが、自分にえり好みできる立場ではないので心の中だけに秘める。

 

そして、目が覚めた時から何故か一緒の部屋で入院していたガジルとは少し交友関係ができていた。

 

「幽鬼の鬼No.1の魔導師を負かす家具ってなんなんだ……もうやっていける気がしないんだが」

「シモンは器用だから家具を壊したりしないだろう。なら問題はない。こいつは自業自得だ」

「わざとじゃねえつってんだろ! 皿洗いで間違って割っちまっただけだ! ていうか、あの家具はなんなんだよ、マスター・ジョゼよりもやばい気配してたぞ」

「えぇ……」

「考えたら負けということだ」

 

その時のことを思い出したのか戦慄した様子で冷や汗をかく。覚えがあるのかエルザも冷や汗を流していることから、かなりやばい話題と感じて何も言えなくなった。

 

少し空気が悪くなった医務室を出て再び研究へと戻る最中にエリックたちとすれ違う。

 

気配を消したままだと気付き、解除して地下の研究室へ向かう。

 

 

 

スタッフも増えて少し余裕もできた。また日記でも始めよう。



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暴走する反抗期

○月○日

 

こういった日記をつけるのもいつぶりだろう。軽く100年以上は経っているだろう。

思えば、アクノロギアを追っていた時は恨みを忘れないようにと書いていたのだが、昔のを見て再び熱が再燃した。

 

それに、最近では忙しくなってきたからこそ、過去を振り返って自分の行動を顧みようというのも目的だ。

具体的な内容はまた後日にでも書こう。

 

言い忘れたが、フェアリーテイルに新人として入ったジュビアという子に挨拶に行ったら予想以上に頭を下げられた。何だか怖がっているように見えたが、心当たりがない。とりあえず挨拶だけはしておいた。

 

 

○月×日

 

今日まで普通に穏やかな日が続いたため、間が空いた。このままでは日記の意味がなくなるのでとりあえず書いてみる。

特に興味の惹かれるクエストもなく、研究も急ぐ用事もないので久々にナツたちへドラゴンスレイヤー講座を開いた。昔は来ていたのにラクサスは来なかった。長期クエストに行っているというのもあるが、それだけではない気がする。あれからどれくらい強くなったか、楽しみだ。

 

 

ナツは明らかにサボっていたのが分かったので後日、念入りに指導することとなった。

 

 

○月△日

 

ギルド前でナツとハッピーを揉んでやった後で小休止といこうとした時、騒ぐギルドとは別の場所で雷が爆ぜた。爆発の地点に行ってみると、ガジルがラクサスの前に倒れ、何もできずに止めろ、と叫ぶレビィたちシャドウ・ギアの面々がいた。

 

明らかに穏やかではないことと、様子がおかしいラクサスと私たちの施設の仲間であるガジルを放っておくという選択肢はない。大技をぶつける気であろうラクサスへと向けて地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスは怒りと屈辱に溢れていた。

 

 

フェアリーテイルは自分の祖父が支配するギルドであり、今まさに勢いのあるギルドと言える。

そんなギルドマスターの孫であるが故に幼少から色眼鏡で見られ、『ギルドマスターの孫』というフィルターでしか見られなかった。

 

多感な時期の青年にとって自分を自分として見られないということは苦痛の極みである。特に自分の功績を素直にみられないという事実は心を荒ませるには十分すぎた。

 

そんな難しいときに実父のイワンがギルドから追放された。

自分の父親だとしてもギルドから追放されたことは問題ではない。元から言動的に問題があったため、そこは納得できていた。

 

しかし、追放したのが自分の祖父であり、イワンの父であるマカロフであることが問題だった。

自分の息子を追放したギルドマスター、それが祖父である以上、ラクサスに降りかかるのは根も葉もない噂という名の罵倒だった。

 

祖父やギルドを罵倒されて拳を振るい、それがラクサスの悪名を広めることとなった。どんなに嫌おうとしても祖父に対する愛情に無自覚なラクサスは自分を貶めようとしたことへの怒りだと『納得させて』きた。

 

 

そんな彼の前にフェアリーテイルに唾を吐こうとした旧敵のガジル、反撃しないガジルに対して痛めつけるギルドのメンバー

 

 

その姿にラクサスは怒りを爆発させた。

 

 

何もできない弱者をいたぶるしかできないギルドメンバー

 

 

何もせずに黙ってやられるガジル

 

 

 

同僚には情けなさを、ガジルには怒りを募らせた。

ギルドを襲おうとしたことに対してもだが、それよりも許しがたいことがある。

 

 

「人のギルドに手を出した挙句、無様に負けた奴が……あいつの下で何してやがる」

 

ガジルに落雷が降り注ぎ、ガジルの体を焼く。

シャドウ・ギアが唖然としているが、ラクサスにとっていないも同然の連中だった。

 

「てめえのせいでフェアリーテイルは舐められてんだぞ!? 雑魚のくせに粋がりやがって!!」

 

倒れたガジルへ執拗に蹴りを入れ、苛烈に責め立てる。親の仇とでもいうかの猛攻にシャドウ・ギアは恐れ戦きながらも違和感を覚える。

幾らガジルが強いからといっても手も足も出さない様子は異常だった。

 

考えれば先ほども自分たちの報復に対してほとんど無抵抗だった。

悔しいが、自分たちが格下なのは理解している。普通なら反撃一発で終わるほどだ。

それでも無抵抗な理由をレビィたちは悟った。

 

「私たちに仲間と認められたいから……!?」

 

外見から分からないが、あまりに一途な想いにレビィたちは唖然とする。

 

そんな想いも関係なしにラクサスはガジルへの暴行をやめない。鉄の鱗を持つガジルであろうとそれ以上は危険だと分かる。

 

ドロイたちが止めるように言うが、一切耳を貸さずに凶行を止めない。

 

フェアリーテイルは強くなければならない、無意識的に抱くギルドへの愛着が歪んだ形で顕現し、本心だと思い込んでいるからこそラクサスはドロイたちを仲間だと認めなかった。

彼らにラクサスを止めるのは不可能である。

 

唐突に手を止め、トドメと言わんばかりに膨大な魔力を込めた雷を込め始めた。

普通の魔導師であっても致命傷は免れないと分かる程だ。それが息絶え絶えのガジルにとっては即死は免れない。

 

「だめ、やめてえぇ!!」

 

レビィの制止も空しく特大の落雷が放たれた。

自分の力量では防ぐこともできず、庇おうにも間に合わない。

これから起こる凄惨な光景に目を逸らす、その直後だった。

 

 

 

「ぐへえ!?」

 

瞬間移動で現れた『先生』からとび蹴りを顔に喰らった。

白目を向いてバウンドしながら飛んでいき、塀の壁に激突して止まった。

 

「えぇ!? トドメ刺したぁ!?」

 

レビィの突っ込みを余所にどこかやり遂げたような『先生』はやり遂げたように一息ついた。

ラクサスでさえも顔をひきつらせていても一切気にすることなくのうのうとほざいた。

セーフだった、と。

 

「アウトですよ! 今日一番の重症じゃないですか!!」

「死ぬな! ガジル!!」

「おい、これ、変な方向に曲がってないか?」

 

普通に吹っ飛ばす程度で抑えたつもりだったが、それでも死にかけてるという。

 

そこまで痛めつけたのか、ギルド同士の喧嘩ならともかく仮ではあるが施設スタッフへの暴行を見逃すほど私はお人好しではない。許さんぞ。

 

「何食わぬ顔で冤罪押し付けるな! どう見てもお前のせいだろ!」

 

横槍入れられたことよりも、あまりの言い分にラクサスは焦っていた。

相変わらず常識を知らない奴だ。こんなことで勝負挑まれても勝敗は不本意ながら見えている。

ラクサスの言い分にレビィたちも納得する中、『先生』は冗談と言った。

 

曰く、一応は稽古を付けているからこれくらいどうということはない、とのことだった。

 

レビィたちが顔を引きつらせている間にガジルを回収して仕事のキャンセルと治療しようと考えていた。

 

「待てよ」

 

呼び止められて振り返り、ラクサスを見据える。

先程までの剣呑な気配はないが、その表情は不満に歪んでいた。

 

「そんな雑魚を鍛えてなんになる? どんなに手を尽くしたところで才能の前にはどうにもなんねえよ。見たところ、ナツにすら負けてるんじゃねえのかよ」

 

肩に担ぐガジルから舌打ちが聞こえた。

僅かな間にラクサスとの差を感じ取ったのだろう、本来であれば噛みつく所なのに何も言えずにいる。

 

だが、それは私から言わせれば早計と言える。

少なくともガジルは私とエリックたちからの修行に喰らいついている。誰もかれも逃げ出した程度の修行に喰らいついているのだから根性はあるに違いない。

 

そして、言わせてみればガジルはドラゴンスレイヤーとしての力を上手く引き出せていないだけだ。ここで矯正していけば絶対に化けると思っている。

 

「あんたの目は曇った。強者を求め、ひたすらに自分を磨き続けたあんたに憧れたときだってあった……それが今はどうだ。覇気も感じられねえ、宝探しにかまけてそこらで遊び回るだけで満足するような奴に成り下がった……!!」

 

それを言われると痛い。最近ではアクノロギアのことも頭から離れていたのは事実だった。

それに、従来のコレクター気質故に施設をエリックたちに任せっきりだったのはつい最近のことだ。

 

図星を突かれて何も言えずにいると、ラクサスはもう用がないと言わんばかりに背中を見せて離れていく。

 

 

 

 

 

 

あいつが腑抜けたんじゃなくて、周りがそうさせたってことを。

 

俺達と違ってあいつは強い。俺もギルダーツでさえもあいつを本気にさせることができないでいる。

強いからこそ張り合う相手がいなくて絶望しているのだろう。

 

かつて、マカロフの孫というフィルターで正当な評価をしてもらえなかった自分だからこそ感じるシンパシー

 

 

マカロフの孫でなく、ラクサスというありのままの人物を見てくれた恩師……もとい、憧れ

 

 

 

 

そんなに退屈なら俺があんたを倒してやる。

 

あんたが無視できねえくらいに強くなって、認めてもらう。

 

 

 

 

あんたと肩を並べるためには強くならなきゃならねえ。

 

 

俺自身も、今の腑抜けたギルドも

 

 

 

 

もう我慢の限界だ。

 

 

 

 

 

俺がギルドを取る。

何にも負けねえ、強いギルドをこの手で作る。

 

 

 

 

自分自身でいびつに歪めてしまった愛着と憧れが暴走を始める。




ゼレフ「自分の気持ちを押し付けて好意の押し売りなんて気がしれないね」
ラクサス「まったくだ」
私「こっちくんな」


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超越者は涙目の幼女に契約を迫って通報される

×月△日

 

ラクサスがガジルをボコボコにしてからというもの、特に事件も起こらずにいる。

ガジル本人は今回のことは触れないようにしてほしいと態度で示しているので特になにもしていない。

シャドウ・ギアも反省しているようで、謝罪も既に受けたため不問にしている。フェアリーテイルにも報告は必要ないとガジルが言ったためにそうしている。

 

ラクサス本人も現状に色々感じているようで、最近ではマグノリアを出ていることが多い。

それに、私と顔を合わせると怒りとも軽蔑とも違う微妙な表情を浮かべることが多くなった。

ギルドに対する愛着は誰よりも強いと言っていいだろう。

 

最近の風評で思うところがあるのだ、感情が何かの拍子で爆発しないように注意すべきだろう。

彼に戦い方を教えた身として、少し手を出すくらい問題ないだろう。

 

ラクサスのことはひとまず置いとくとして、今回は朗報があった。

 

 

 

ケットシー・シェルターというギルドに所属しているウェンディという少女から私に手紙が来た。

 

 

副業で行っているドラゴンの研究者として話を聞きたいとのことだ。

元々はアクノロギアの弱点を探すためにドラゴンについて色々と調べていただけだったのだが、調査している内にドラゴンの多彩な文化形態に興味を持ち、研究するまでになった。

 

そういう経緯で研究を始めたことだが、それで得た知識が色々とドラゴンスレイヤーの修行に役立っている。

 

話を戻すが、ウェンディはナツとガジルと同じようにドラゴンに育てられたという。

 

曰く、名前はグランディーネ、天空魔法を司る天竜という。

曰く、彼女から魔法を教わり、天空のドラゴンスレイヤーだとか

曰く、ドラゴンについて詳しい自分なら手がかりを知っているんじゃないかという。

 

 

文面だけだが、かなり期待しすぎていることが分かる。

ドラゴンの研究はハッキリ言って趣味の範囲でしかない上に、研究自体も色んな方面に手を出していることもあって広く、浅くでしかない。

 

会って話したいということなので最寄りの町で待ち合わせることとなった。

最初は断ろうと思ったが、彼女からの依頼料として天空魔法の魔力を拝借するのを考えた。

 

失われた魔法でしか存在しない治癒魔法を研究すれば即効性のある治療薬も作れるかもしれない。

付加魔法にも興味が尽きないため、彼女の依頼を受けることとなった。

 

 

未だ、全うな魔法を使えない私にとって魔法は夢そのものだ。

他人から魔力を拝借して培養し、独自のアイテムに加えて錬金術にも手を出したが、目標ははるか先にある。

 

いつか自分の魔力変換の問題を解決し、自分の魔力で魔法を使うのだ。

 

それまで私は探求を止めるつもりはない。

 

そう思った一日だった。

 

 

 

 

 

 

ウェンディ・マーベルという少女は今まで出会ったドラゴンスレイヤーとは印象が異なるタイプだった。

今まで出会ったのがナツとかラクサスとか好戦的なのが多かったからか、スケバンみたいな子をイメージしてた。

 

待ち合わせた喫茶店の中でお茶をする姿は妖精と言っても不思議でないくらいに可憐だった。しかも、隣で目が吊り上ったネコ……エクシードもいる。

 

そう思いながら少女に声をかけるとこっちに気づいて慌てた様子で椅子から立ち上がった。

 

「は、初めまして! ウェンディ・マーベルで、こっちがシャルルです! 本日は貴重なお時間を割いていただき……」

 

ナツたちにも見習わせたいほどに出来た子である。礼儀正しく、恐縮している姿に思わず笑みがこぼれる。

前置きも長くなりそうだから手で制して座らせる。

 

とりあえず落ち着かせるためにココアか、キャラメルマキアートでも頼もうか聞くとウェンディが遠慮して手を振る。

 

「そんな、私が呼び出しておいてごちそうになるなんて……!」

「あら、殊勝な心遣いじゃない。私はカフェラテで」

「シャルル!」

 

シャルルは遠慮なしに言うが、話を進める分にはこれくらいのふてぶてしさはありがたい。

ウェンディは半ば強引にいかなければ折れそうにないからこちらで甘いメニューを頼む。彼女が何か言おうとしているが、そこはスルーさせてもらおう。

 

今日、私にとって有意義な時間になりそうなのだから前置きは早く終わらせるに限る。

まず、ウェンディの方から用件を済ませよう。

 

「あ、はい。それではこちらから」

 

気を取り直して席に座り、口を開く。

 

「天空のドラゴン、グランディーネを探してます」

 

その言葉を皮切りに詳しい話を掘り下げながら彼女の希望をまとめた。

 

 

要するにこういうことだ。

 

 

ウェンディはナツと同じようにドラゴンに育てられ、滅竜魔法を教わったドラゴンスレイヤー

 

育ての親はグランディーネ、白い羽に似たような鱗の綺麗なドラゴンだという。

 

性別はメスで性格は温和、人間が好きである。

 

 

そこから詳しく好きな食べ物、癖など特徴的なことを聞いていった。

 

 

詳しい話をあらかた聞いたところで考察しているとウェンディがくい気味に尋ねた。

 

「なんだか、探偵みたいですね。性格とかまで聞かれるとは思ってませんでしたから」

「あんたがドラゴンの研究をしてるって聞いたから住んでる場所とか知ってるんじゃないかって思ったんだけど、面倒なことするのね」

 

確かに普通の生き物なら既存の知識でなんとかなるが、ドラゴンはそうもいかない。

 

ドラゴンというのは知能が高く、生物界でも最強の種族であるから群れる習性が備わっていない。

また、ドラゴンによって住む場所も異なる。

 

例えば炎竜は熱に高い耐性を持っていることから火山帯、砂漠などの熱帯地域に生息していたと予想される。

鉄竜は鉱山地帯、毒竜は硫黄など有毒ガスが溢れだす地域で生息したとされている。

 

「つまり、ただ闇雲に探してもだめってことですか?」

「ドラゴンも一筋縄じゃないってことね」

 

天竜とか炎竜のように環境に適応して独自の属性を持っているドラゴンの方が比較的分析もたやすいと個人的に思う。

属性を持たず、不特定な場所に巣を作ったり群れたりすることもある。

過去の記録ではドラゴンの群れに庇護を求める代わりに人間が集まり、文明を築いた形跡さえある。

 

ドラゴンという種は基本的に生息地をきまぐれに変える可能性もあるから、特定の場所を断定はハッキリ言って難しい。

 

「そ、そんな……」

 

悲壮感を漂わせて落ち込む少女の姿に罪悪感が湧くが、これ以上の情報提供は無理だった。

 

「いいじゃない。かなり眉唾物だったけど実際聞いてみると筋が通ってると思うわよ」

 

シャルルは今回の結果に以外にも反応はよさそうだった。

 

「今までにもいたのよ。ドラゴンに詳しいとかいうペテン師」

 

それを聞いて納得した。

 

ドラゴンは圧倒的強さを誇る最強の生物、その強さは太古の時代から人々を畏怖させ、惹きつける。

それを考えるとドラゴンの捜索はより一層困難となる。

 

何も、ドラゴンという名はそのままの意味でつかわれるとは限らない。

 

 

過去に世界を滅ぼしうる圧倒的な強さを誇る化物、もしくは自然災害に対してもドラゴンの名を付けたという。

 

ドラゴンはそのまま強い者、人では抗えぬほどの脅威として使っていた時代もあった。

文明を壊滅させた災害に『竜の怒り』などといった感じで。

 

「うわ、紛らわしいわね」

「うぅ、大変なんですね……」

 

機会があればドラゴン研究の資料を見せてあげよう。私はあくまで第三者、そのドラゴンのことをよく知っている君でしか答えに近づけないだろう。

 

「いいんですか? 凄く助かるのですが……」

 

もちろん、ただではない。私の手伝いで天空魔法の魔力が少し欲しいという下心がある。

彼女の天空魔法は私の研究にとても有用であるが故に、何としてでも恩を売って協力してほしいのだ。

 

「あんた、ウェンディを利用する気!?」

「シャルル!」

 

私の要望を聞くや否や、シャルルが鋭い目で睨んでくるが、否定はしない。

正直な話、そうなるだろう。

 

回復魔法は既に失われた魔法であるが故に研究することもできず、今日までに魔法による回復の研究を進めることができなかった。

既存の技術でも医療に使われることはあるが、鎮痛とか傷の手当などは人の手でやるしかないのが現状だ。

 

治癒の魔力が作れるとしたら、治療薬はもちろん、病気の薬を作るのだって夢じゃない。

 

それを聞くと、ウェンディは目を輝かせて身を乗り出してきた。

 

「私の魔法が人の役に立てるなら、その研究に協力させてください!」

「ウェンディ!! あんた、そんな簡単に……!」

「でも、それで色んな人が助かるなら……」

「だからって安請け合いするんじゃないわよ! あんたの魔法が目当ての輩なんて今までもいたじゃない!」

 

いつの間にか二人で口論になり、周りの客から視線を向けられる。

 

 

それを落ち着かせるために二人に呼びかけて口論を止めさせる。

相手が不安になるだろうと協力を渋ると予想していた私は契約書を二人に差し出した。

 

「これは……?」

 

契約書を手に取ってウェンディは首を傾げる。ただの紙だと思っているようだが、それは私が作った特別性である。

 

普通の契約書に生体リンク魔法を組み合わせた誓約<ゲッシュ>という物である。

 

契約を結ぶ際に両者の髪の毛などをその場で織り込み、契約書と契約者の間にパスを繋ぐ物である。

既に私とパスが繋がっているため、後はウェンディのサインが必要となる。

サインしたら契約書の魔法は発動し、私に制約が課される。

 

内容は『危害を加えない』という内容である。

それで私はウェンディに対して悪意を以て害を与えることができない。

 

「へ~、凄いですね」

「殊勝な心がけじゃない……でも、これが本当にそんなことができるかは疑問だけど」

 

ウェンディは信じているようだが、シャルルは未だに警戒する。

 

その様子を見て、このコンビはバランスが取れていると思った。

 

ウェンディは人が好すぎることがよく分かる。

それは美徳であり、少女でありながら心は一般の少女より成熟していると見える。

ただ、彼女は天空魔法の使い手であり、希少なドラゴンスレイヤーだ。その性格に目を付けられて騙され、利用されて最後に大勢の男に囲まれてアヘ顔ダブルピースする姿が幻視できるくらいに危なっかしい。

そんなゲロ甘チョロい幼女の代わりにシャルルという警戒心強い相棒を付けたのは幸運だったと言える。会って間もないのに、見てるだけでハラハラする少女にそんな内心を隠しながら説明を続ける。

 

「私に迷惑がかかったと判断したら契約書を破る……ですか?」

「何が起こるのよ」

 

ウェンディに変なものを渡すな、暗にそう言う視線を受け取る。それならばと実践するためにウェンディに契約書を破るように言う。

 

「え、でも……」

 

契約書を無駄にすることを躊躇っているのかこちらをチラチラと見てくる。小動物のような彼女に手で促し、それは一枚だけでないから一つくらい問題ないことを伝える。

 

「それなら、じゃあいきます!」

 

可愛らしく「えいっ」と勢いよく契約書を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

暖かい水の中で目を覚ました。

自分が何者か、何をしていたのか分からずに寝起き直後のように思い瞼を徐々に開けていく。薄れている視界が鮮明に光を取り戻していくと、周りの人々が絶叫を上げながら逃げまどい、少女とネコが目の前で震えていた。

 

 

その姿を見て私は思い出した。そういえば、誓約<ゲッシュ>を発動させたのだった。

そこまで思い出したとき、契約書は正常に作動したと確信して突っ伏した頭を上げた。

 

「ひっ!」

 

ウェンディとシャルルは身を震わせたのを無視し、状況を確認する。

縦に、真っ二つに引き裂いた契約書が私の血の海に染まっているのに対して私も額から股にかけて真っ二つに寸断され、血が出ているのを自覚した。

 

契約書のダメージが私に帰ってきたのに満足する。

失敗と言えば、紙をピりっと少しだけ破くだけでも契約書の性能を確認できるので、それを伝え損ねたぐらいだろう。

 

だが、それくらいは自力で治せるため、かすり傷の範疇である。

昔、パルプンテ神に与えられた試練でマイナーな神と戦い、眼球内の水分を沸騰させられたときに比べれば地味な方である。

 

「何で笑ってるんですか!?」

「それのどこがかすり傷よ! 頭おかしいんじゃないの!?」

 

二人が何やら騒いでいるようだが、あえて無視して新しい契約書を二人に差し出す。

顔色が一気に悪くなった彼女たちに契約書を渡す。

 

「しゃ、シャルル……」

「ちょ、あんたの熱意は分かったから! 少し落ち着いて……」

 

少し血の刺激が強かったのか契約書を視界に入れないように抵抗している。できれば早くサインしてほしい。

契約書を持つ手から血が染み込み、赤く染まっていく。

 

「誰か! 血塗れの男が少女に迫っているんだ! 早く警備隊を!」

 

外から何やら悲鳴とかが聞こえているようだが、別に関係ないと思って無視した。

 

 

 

 

この後、武装した警備隊に囲まれてから色々とごたごたがあり、最終的には何とかウェンディの協力を得られることとなった。例の如くパルプンテ神からの試練で一度、酸の海に放り出されて生きたまま全身が解かされた経験を知った私にとって頭から股にかけて切断されることなど軽傷に等しい、そう思っていたことが今回の事件に繋がってしまったらしい。反省した。

 

最後にシャルルから色々と言われた気がしたが気にする内容でもなかったので、一先ずは天空魔法の魔力を得られる機会を得られた充実感に酔いしれることにした。良い気分のまま愛する子供のいるマグノリアへと一日かけて帰った。

 

 

 

もうすぐでマグノリアは収穫祭、フェアリーテイルはファンタジア

 

 

 

ラーケイドは祭りは初めてだろうから、そこら辺の予定も考えなければならない。

 

 

 

これから来るであろう忙しさにため息を漏らしながら、少し楽しみに思う超越者の姿がそこにあった。




次回はバトルオブフェアリーテイルの幕に入ります。
本編は本編後になるのでよろしくお願いします。


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