IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) (神羅の霊廟)
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第1話に入る前に、ちょっとこの小説のメインキャラクターとアーマードライダーの設定を紹介します!





紫野牙也(ゆかりの きばや) 18歳

 

 

 オリ主兼主人公。本名は雷牙也(いかづちきばや)。元々は4人暮らしで、父はIS製造において量産機の武器製造を主に行っていた中堅会社の社長で、母はその武器開発に関わっていた。4歳年下の妹がおり、溺愛していた。

 しかし5年前、会社が謎のIS集団に襲撃され、開発中の武器を奪われたばかりか、両親も殺されてしまった。牙也は妹と共に脱出したが、逃走中に妹は牙也を庇って追ってきた襲撃者の一人に撃たれ死亡。残された牙也は家族を失ったことで放心状態となり、死を待つだけとなっていたが、気がつくとヘルヘイムの森に迷いこんでいた。そこで落ちていた2つの戦極ドライバーと4つのロックシードを手にいれ、初めて戦闘で使用。ヘルヘイムの森を脱出した後は、己の存在を隠すため世捨て人となって各地を回っていた。

 基本無口だが、言いたいことはずけずけと言う性格で、何気に言った言葉で無意識に他人の心を折ってしまうこともしばしば。襲撃事件の影響もあって他者との関わりを避けていたが、唯一箒・束・一夏・鈴・クロエにだけは心を開いており、箒達と話す時は普通によくしゃべる。

 普段は『BLEACH』の死神が着ている『死覇装』と同じような服を着ている(原作と同じ防護機能はない)。顔は『戦国BASARA』の伊達政宗。『Let's Party!』とは叫びません。

 

 

 

アーマードライダー蝕(むしばみ)

 

 

 牙也がヘルヘイムの森で拾った戦極ドライバーとブルーベリーロックシードで変身した姿。鎧武のアーマー部分を紫に、スーツを赤に塗り替えた感じ。全体が刺々しくなり、鬼を思わせるフェイスをしている。

 使えるロックシードは他に、ライムロックシード・オリーブロックシード・マスカットロックシードの3つ。原作の鎧武で登場したロックシードも使用可能。後にマスカットロックシードはもう一つの戦極ドライバーと共に箒に手渡された。

 

 

 

紫炎(しえん)

 

 アーマードライダー蝕の使う薙刀。刃の部分は原作鎧武の「大橙丸」を紫にしたもの。長さは2メートル近くあり、振り回したり突きの要領で使ったりする。無双セイバーとのセットで使ったりもする。必殺技を使う事で、クラックを破壊出来る唯一の武器。

 

 

 

 

 

篠ノ之箒

 

 

 今作のヒロインで、牙也が初めて接触した少女。性格は原作よりかは柔和になり、牙也に対しても優しく接した事でその心を開く事に成功している。かつては幼馴染みの一夏に恋をしていて、告白したが見事に玉砕。その事を牙也に慰めてもらったことで牙也に恋心を抱く。他は原作準拠。ただし、束との関係は崩れておらず、寧ろ仲は良い。

 

 

 

 

アーマードライダーレオン

 

 篠ノ之箒が牙也より手渡されたマスカットロックシードと戦極ドライバーを使って変身した姿。アーマードライダー龍玄をアーマードライダー斬月の薄緑色に塗り替えた感じ。蝕と同じく、原作のロックシードも使える。

 

 

 

マスガンド

 

 アーマードライダーレオンが使うガンブレード。FF8のスコールが使うガンブレードとアーマードライダー龍玄のブドウ龍砲を合わせた感じ。グリップについているレバーを引く事で、エネルギーを刀身にチャージできる。

 

 

 

 

 

織斑春輝(おりむらはるき)

 

 オリ主二人目で一夏の双子の弟。世間から「天災に次ぐ天才」「神童」と呼ばれるほど優秀で常に笑顔を絶やさないが、内心は常にゲスな事ばかり考えている。他人を自身の踏み台程度にしか思っておらず、過去に裏で起こっていた一夏に対する罵詈雑言やいじめに、自らが先導する形で入っていた。箒に恋心があるが、箒自身は一夏関連の事や過去のある一件の影響で彼から距離をとっている。

 

 

 

織斑一夏

 

 箒の幼馴染み。努力家で一度決めた信念をとことん貫く性格。しかし、優秀な姉と弟の影響でいじめられたり、罵詈雑言を投げ掛けられたりなどその努力を世間に見てもらえなかった。第2回モンド・グロッソで春輝に間違われて誘拐され、任務失敗の腹いせとして両足の膝から下を敵ISによって切断されてしまう。後に救出に来た篠ノ之束に保護され、姉である織斑千冬との相談の結果、束の元で匿う事になった。現在は束の元でIS開発の手伝いをしている。牙也とは、箒と束を通じて友人となった。凰鈴音と遠距離恋愛している。

 

 

 

ヘルヘイムの森

 

 「白騎士事件」の2年後に、突如日本に現れた「クラック」というジッパー型の歪みの中にある森。「インベス」という怪物の住み処となっている。最上位インベス『オーバーロード』が支配している。

 

 

 

 

 

 

 




 箒を除いた原作ヒロインは、ほぼ原作準拠です。使用ISも原作準拠です。
 また、オリロックシードは今後もこっそり追加予定です。
 さあ、次回から本格的に物語が動き出しますよ!
 文才はありませんが、お楽しみに!


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設定2

 学年別タッグトーナメントの前に、少し設定を挟ませてもらいます。今回はオーバーロード・シュラとオリジナルロックシードの紹介です!
 トーナメントは、次回から!



 オーバーロード・シュラ

 

 牙也がヘルヘイムの森に迷い込んだ時に、牙也の前に現れた、この世界唯一のオーバーロード。

 イメージは、『仮面ライダー555』より「ドルフィンオルフェノク」。色を紫に塗り替え、脇から腰にかけて白のラインが通っている。また、背中にはグレーのマントを羽織り、腰にはヘルヘイムの果実をぶら下げている。人間体は不明。

 専用武器は、撃剣『ラヴァアーク』。いつもは粒子状にしてしまっている。

 IS世界とヘルヘイムの森が繋がってしまったことに疑問と危機感を持ち、まだアーマードライダーになって間もなかった牙也の協力者となって、共にその原因を調べている。

 無用な戦いを好まず、本人曰く「普通の平和」を望んでいるらしい。

 

 特殊能力

 

 ・クラック開閉を自在に行う

 ・戦極ドライバーが無くても、ヘルヘイムの果実をロックシードに変化させられる

 ・植物の蔦を操る

 

 

 撃剣『ラヴァアーク』

 

 シュラが戦闘時に使う撃剣。柄の部分に蔦が絡まっており、そこからエネルギーを刀身に伝わせる事が可能。ただ、シュラ本人が戦い好きというわけではない為、基本ほとんど使わない。

 

 

 

 

 戦極ドライバー

 

 原作では戦極凌馬が作った物であるが、今作ではシュラが別世界に向かう際に自衛用として二つ作り上げた。だが、作ってすぐに専用のロックシード共々無くしてしまうというミスを犯し、最終的にそれらは全て牙也に拾われ、そのまま成り行きで牙也達が使うことになった。

 第14話現在、調査と並行して戦極ドライバーに代わる新たなドライバーを作っているとか。

 

 

 オリジナルロックシード紹介

 

 

 ブルーベリーロックシード

 

 牙也が蝕に変身する為に使う専用ロックシード。オレンジロックシードを紫に塗り替えたような物で、表面には「L.S.-零式」と書かれている。

 

 マスカットロックシード

 

 箒がレオンに変身する為に使う専用ロックシード。ブドウロックシードを薄緑に塗り替えたような物で、表面には「L.S.-壱式」と書かれている。

 

 オリーブロックシード

 

 蝕の派生変身用のロックシード。焦げ茶色をしており、表面には「L.S.-参式」と書かれている。

 

 オリジン

 

 オリーブアームズの専用武器。焦げ茶色をしたコンバットナイフ。

 

 ライムロックシード

 

 レオンの派生変身用のロックシード。黄緑色をしており、表面には「L.S.-弐式」と書かれている。

 

 ライムラッシュ

 

 ライムアームズ専用の武器。細身の双剣で、合体させて一本の剣にも出来る。

 

 チェリーロックシード

 

 原作のチェリーエナジーロックシードのプロトタイプ。表面には「L.S.-12」と書かれている。

 

 サクラン棒

 

 チェリーアームズの専用武器。ピンクと白にペイントされたトンファー。形がもろにサクランボ。

 

 アーモンドロックシード

 

 蝕の派生変身用のロックシード。原作のヒマワリロックシードを茶色に塗り替えた物。表面には「L.S.-肆式」と書かれている。

 

 アーモンドリル

 

 アーモンドアームズの専用武器。アーモンドの形をしたドリルランス。先端を射出出来る。

 

 

 

 




 オーバーロードとオリジナルロックシードの紹介でした!
 オリジナルロックシードは今後も増えるかも。また、オリジナルフォームも出したいなと考えています。今後をお楽しみに!


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プロローグ 世捨テ人ハ思イ出ス
第0話 壊レタ世界



 初投稿。ということで、まずはプロローグから。作者は原作知識は3巻までです。この小説はとりあえずそこまで書いた後は、オリジナルストーリーを書こうかと考えています。
 それではどうぞ。


 

 IS(インフィニット・ストラトス)―――「無限の成層圏」を目指して一人の天才―いや天災と言うべきかーが造り出したパワードスーツ。しかしISは、とある事件によって人々に「兵器」として認識されてしまった。その事件は、日本を射程距離内としたミサイルを配備した全ての軍事基地がハッキングされ、日本に向けて2341発以上のミサイルが発射された。しかし、突如現れたIS―名を「白騎士」という―がそれを迎撃し、さらに「白騎士」の捕獲を試みた各国の戦闘機や戦闘艦をも無力化した。

俗に言う「白騎士事件」である。この事件を期に、ISという脅威を戦争に使わせない為、また日本が所持しているISの情報について開示及び共有等を定めた「アラスカ条約」が締結された。

 世間においてISの影響が大きかったのは、思想面だ。ISが「女性にしか使えない」という致命的欠陥によって、ISを使える女性が優遇されるようになり、男性は逆に蔑まれるようになったことで世界は女尊男卑の世となった。町を歩けば女性はふんぞり返りながら歩き、男性は縮こまりながら歩いているのが普通となった。法律においても女性が優遇されるよう改正され、その影響あってか、「女性権利団体」なる組織まで立ち上がる始末。はっきり言ってみれば、ISという「兵器」によって世界は悪い意味で変わってしまった。

 世界各国は、天災から渡された一定数のISのコアを使い、それぞれの国の技術を総結集したISを造りだし、他国を出し抜こうと躍起になっている有り様で、今の女尊男卑の世をどうにかしようと考えている国など少数に満たないほどだ。

 とにかくこの世界は、荒れに荒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 20××年7月、

日本の某県某市。とある町中を一人の少年が歩いていた。その格好は周りを歩く人々の目を引いていた。全身をところどころ穴の空いたグレーのローブでまとい、右目は紫の眼帯で覆われ、左目はまるで死んだ魚のように濁っていた。しかしその足取りはおぼつかず、右へ左へふらふらしている。

 やがて、その少年は力なく地面に倒れてしまった。少年は再び立ち上がろうとするが、近くを歩いていた人にぶつかりまた倒れてしまった。しかし周りの人々はそれに何の興味も示さず、ただ他の誰かが彼を助けるのを待っているか、そのさまをスマホで撮影したりするだけであった。

 ??「おい、大丈夫か!?」

 すると、通りかかった一人の少女が倒れている彼に声を掛けた。その少女は、長い髪をポニーテールにまとめ、普通の女性よりも鋭い眼をし、肩には竹刀を入れた袋を背負っていた。

 ??「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!」

 少女はもう一度少年に呼び掛けた。すると、少年はその問いかけに答えるかのように少女の手を握った。

 ??「意識はあるんだな!大丈夫か!?どうしたんだ!?」

 少女はまた問いかけた。すると少年は、唇を震わせながら弱々しく答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「お腹が………………へった……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通に見れば、何気ない出会いにも見える。が、この二人の出会いが後に大いなる戦いを呼ぶとは、まだこの時点では誰も予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ということで、今回はここまで。感想等募集中です。ジャンジャンお願いします!


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第1話 世捨テ人ノ過去ト温モリ




始まります!


 

 

 牙也side

 

 

 僕は寝ているとき、いつも同じ夢を見る。

 

 久しぶりに家族みんな揃って、会社の一室で談笑していた。そこに届いた一報は、「ISの集団が襲って来た」というものだった。父さんは僕と妹に「逃げろ」と言い、慌てて部屋を出ていった。「僕も手伝う」と言うと、母さんは僕に「  を守れるのは、貴方だけよ。絶対に守りなさい」と諭して、父さんを追いかけていった。

 妹は心配そうに僕を見つめている。そんな妹の頭をそっとなで「大丈夫」と言うと、妹の手を引いて急いで会社から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕と妹は、森の中を必死になって走っていた。その後ろからは、一機のISが追い掛けてきていた。

 女「待ちなさいっ!」

 牙也「待てと言われて待つ奴なんかいないよ!」

 森の中を右へ左へ方向を変えながら逃げていく。しかしISを使う女も、周りの木々を避けながらこちらに迫ってくる。僕達と女との距離はほとんどない。

 女「ああ、もうっ!面倒臭いわねっ!いい加減諦めなさいっ!」

 そう叫ぶと、女はアサルトライフルを取りだしこちらに向けて撃ってきた。しかしそのほとんどは木々に阻まれ、こちらには跳んでこない。

 牙也「よし、このまま逃げ切って――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「お兄ちゃん、危ないっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その叫びが聞こえて振り向いたとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、目の前は真っ赤な鮮血に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「  !しっかりしろ!  !」

 

 

 僕は必死になって  に呼び掛けた。そして、知ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹は、僕を庇って撃たれて、死んでしまったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はそのとたんに、目の前が真っ暗になった。母さんから「貴方が守りなさい」と頼まれておきながら守れなかったこと、大切な妹を死なせてしまったこと。頭の中は、絶望に染まっていた。

 そこに、先程のISを纏った女が近づいてきた。

 女「ふんっ、やっと諦めたようね。それじゃあ、死になさい」

 そう言って女は僕の頭にアサルトライフルを突き付けた。僕は、自分の死を悟った。

 牙也「ああ、僕は死ぬのか、母さんとの約束を守れなかった愚か者のまま、死ぬのか」

 と思いながら。

 

 牙也「ごめんなさい、父さん、母さん。約束を守れない息子でごめんなさい。そして、さようなら―――」

 

 

 

 そう心の中で謝りながら。

 

 

 

 

 

 そして、女がアサルトライフルの引き金を―――――

 

 

 

 

 

 

 引こうとした途端、僕の体は後ろに引っ張られた。振り向いて一瞬見えたのは、ジッパーの形をした裂け目であった。そして僕は、その中に飲み込まれた。

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 ???side

 

 

 

 

 私は今、実家の台所にて卵粥を作っている。それは自分が食べるものではない。また、家族が食べるものでもない。これは、今和室の布団で寝息をたてている少年に食べさせるものだ。

 

 

 彼に会ったのは、ほんの偶然だった。剣道の大会に出場して優勝し、その結果を姉さん達家族に報告したところ、久しぶりにみんな揃って家にいる事を聞き、久々に家族に会える事を喜びながら家に帰っていた。すると、道の真ん中に何やら人だかりが見えた。覗いて見ると、なんと一人の少年が倒れており、周りの人はただ何をするわけでもなく、その様子を写真に撮っていたり、無視を決め込んだりしていた。私は慌てて駆け寄りその少年に呼び掛けた。

 

 

 

 

 

 

 すると、空腹だったのかその少年のお腹から

 

 

 

 「グキュルルル~」

 

 

 

 という音が盛大に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに放置するわけにもいかず、家族に連絡してひとまずその少年を家に連れて帰って和室の布団に寝かせ、何か作っておこうかと考えて今に至る。

 

 

 ??「フム、これでいいかな」

 

 

 私は作っていた卵粥を味見した後、様子を見るために彼が眠っている和室の方向を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ??「やっほ~~~い、ほ~~きちゃ~~ん!」

 

 

 

 

 

 目の前に世間から「天災」と呼ばれる姉、篠ノ之束が立っていた。

 

 

 

 

 

 ???side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束side

 

 

 

 はろはろ~~~、みんなのアイドル束さんだよ~~!

 え?今どういう状況かって?しょうがないな~~、わからない人のために今の状況を教えてあげるよ。今私は――――

 

 

 

 

 

 

 妹の箒ちゃんに包丁を突きつけられているのよ~~~

 ガクブルガクブル

 

 

 

 箒「一応病人がいるんですから、騒がないでください、姉さん」

 束「わ、わかった、わかったからその包丁仕舞って~~~!」ガクブルガクブル

 

 

 

 そう懇願すると、箒ちゃんはようやく包丁を片付けた。まったく、冗談が通じないねえ。

 

 箒「本当に○りますよ?」

 束「か、勘弁して~~!後ナチュラルに心読まないで!?」

 

 

 そんな他愛ない会話をしていると、

 

 

 

 ??「ううん………」

 

 

 

 

 かすかにうめき声が聞こえた。

 

 私は箒ちゃんと頷きあい、卵粥の入った土鍋と器とレンゲを持って和室に向かった。

 

 

 

 

 束side end

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 目が覚めると、見知らぬ天井が広がっていた。寝転んだ状態で周りを見渡すと、どうやら和室のようであった。

 

 束「やほやほ~~~!目が覚めたかな~~?」

 箒「姉さん、もっと静かに入ってくれないか?はあ………すまないな、五月蝿くして」

 

 突然向かって左側の襖が開き、二人の少女が入ってきた。最初のやけにテンションの高い少女は、白衣を纏い頭に機械でできているであろうウサミミをつけていた。彼女が動く度に、ウサミミはピコピコと動いている。その手には器とレンゲが握られている。

 もう一人の少女は、長い髪をポニーテールにまとめ、鋭くとも柔和な目をしており、どこかの学校の学生服を着ていた。その手は土鍋を掴んでいる。

 

 牙也「ここは…………」

 箒「私達の家だ。お前は道端に倒れていたのだ。覚えているか?」

 

 僕はただコクりとうなずいて答えた。

 

 

 箒「そう畏まるな、気楽にしていればいい。食欲があるなら、卵粥を作ったから食べるといい。温まるぞ」

 

 

 ポニーテールの少女はそう言って、土鍋を僕の近くにそっと置いた。そしてウサミミの少女が卵粥を器につぎ、レンゲと共に僕に差し出した。僕は震える手でそれを受け取り、レンゲですくって一口食べた。口にいれた途端、温かさが体をおおった。それは、世捨て人としての生活が長かったためか、久しく感じていなかった温かさであった。思わず二口、三口と次々口に運んだ。僕はいつの間にか涙を流していた。それでもその手は止まらなかった。泣きながら僕は卵粥をかきこんだ。そして僕の口からは、彼女達に対して思わずこの一言がでていた。

 

 

 

 

 

 

―――――ありがとう―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

牙也side end

 

 

 




 
 ひとまずこんなところで。
 オリジナルロックシードなどは次回辺り出そうかな………
 感想募集中です。


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第2話 向キ合ウ罪ト、ヤルベキ事


 オリジナルロックシード、出せませんでした。本当にごめんなさいっ!(土下座

 次回こそ出せるよう頑張ります。
 では、どうぞ!


 

 牙也side

 

 「すみません、お見苦しいところを見せてしまって」

 卵粥を食べ終わった僕は、二人に礼を言った。

 箒「気にするな、久しくご飯を食べていなかったのだろう?」

 束「そうそう、気にするようなことじゃないよ、いいもん見させてもらったし」

 そう言われて僕は嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にした。そんな僕を見て、ポニーテールの少女は苦笑いし、ウサミミの少女はケラケラ笑っていた。

 「本当にありがとうございました、えっと…………」

 束「あっ、名前名乗ってなかったね~、私は天才・篠ノ之束様なのだ~」

 箒「天災の間違いでしょう…………私はこの天災の妹の箒だ。よろしくな」

 束「箒ちゃんひどい!」( ̄□ ̄;)!!ガビーン

 「あ、あはは………よろしくお願いします、箒さん、束さん………ん?束………まさか、ISを作ったっていうあの篠ノ之束さんですか!?」

 束「ん?そだよ~束さんだよ~。どうかしたの?」

 「いえ、父さんからよく貴女の話を聞いていたので………」

 束「父さん?ねえ君、その父さんとやら、何て名前?」

 そう聞かれて、僕は躊躇いがちに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「雷…………雷隼也と言います。ファクトリー雷の社長でした」

 

 

 

 

 

 

 束「……………え?」

 あれ?束さんがきょとんとしている。どうしたのかな?

 束「…………ねえ君。まさか、君の名前、『牙也』じゃないの?」

 え?何でこの人、僕の名前を知ってるの?

 「はい、そうですが」

 そう言って束さんを見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「ね、姉さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束さんは、大粒の涙を流していた。そして、泣き顔のまま突然僕に抱き付いてきた。

 「た、束さん!?」

 僕は訳が分からなかった。突然泣き出して、突然抱き付いてきたのだから尚更だ。

 

 束「…………ごめんなさい…………ごめんなさい…………ヒグッ…………ごめんなさい…………ヒグッ…………」

 

 束さんは、しばらくの間泣きながら僕に謝り続けていた。

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 しばらく泣き続けていた束は、泣き止んだ頃に泣いてしまったその訳を牙也と箒に話し始めた。

 それによると、牙也の両親は束とは「白騎士事件」以前から交流があり、IS設計の費用や設計するための施設を貸し出すなど、束のIS開発に大きく貢献していた。束はこれに報いるために、牙也の両親の会社である『ファクトリー雷』にIS用武装の技術提供をしていたのだ。しかし、これをよしとしないIS委員会のタカ派の幹部達が、そのデータを盗むために会社を襲撃。異変に気付いた束が現地に向かったが、時すでに遅く、会社は崩壊。データはすべて盗まれた後だった。その後、4人の中で唯一遺体が見つからなかった牙也を長年探し続けていたが、情報の一つも挙がらず捜索を打ち切っていた、ということだった。

 束「会社襲撃を企てた委員会の幹部達は、私がそいつらの悪事を世界にばらしたことで全員罷免されたよ。でも、私はこれによって大事な理解者を、恩人を失った。あの日から、私はこれ以上ISを作ることが怖くてしかたがなかった。同時にまだ生きているであろう君に会うのが怖かった。早くに気付かなかったとはいえ、君の両親は私が殺したようなものだからね」

 

 牙也も箒も、束の話を黙って聞いていた。最後に束はこう付け加えた。

 束「牙君、私は貴方に許してもらおうなんて考えてない。寧ろ、どんな罰でさえも受け入れるつもりでいる。ただ謝りたかった。たとえそれによって私が貴方に殺されることになったとしても。だから…………ごめんなさい。貴方の『家族』を永遠に奪ってしまって」

 そう言って、束はまた頭を下げた。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 牙也side

 

 束さんの話を、僕はただ黙って聞いていた。箒もまた、姉の話を黙って聞いていた。束さんが話し終わって、しばらくは静寂が部屋を包み込んでいた。僕は束さんに問いかけた。

 「束さん。貴女今、『どんな罰でも受け入れる』って言いましたよね?」

 箒は驚いて顔を挙げ、束さんは黙って頷いた。

 「なら、僕からの罰を、甘んじて受けてください」

 そう言うと、束さんの体はビクッと震え、箒は自分の手を固く握りしめた。

 「僕が貴女に科す罰。それは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「生きてください。生きて、この世の中を変える努力をしてください」

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒side

 

 牙也から姉さんへの罰の内容を聞いて、私も姉さんもきょとんとしていた。そんな私達を気にも止めず、牙也は話を続けた。

 牙也「貴女は自分が犯した罪に向き合おうとしている。そんな人を僕は罰することなんて出来ませんよ。それに、貴女が作ったISによって、世界は女尊男卑の世に変わってしまいました。それをどうにかしないまま貴女が死ぬというのはおかしいでしょう。もし貴女がその罪を背負い続けるというのならば、その罪の現況となったこの世界を変える為に行動を起こすなんて容易いでしょう?もしこれができないというのなら、貴女は一生『負け犬』ですよ?それでもいいんですか?」

 

 姉さんは、黙って牙也の話に耳を傾けていた。その手は震えていた。が、その震えもすぐに止まり、姉さんは立ち上がって叫んだ。

 束「やってやるよ……………やってやるよ!私は天才、出来ないことなんてない!それが私の罪なら……………私は一生背負い続ける!もう私は逃げない。私の罪と向き合い続けて、この世の中を変えて見せる!」

 私には、姉さんのその目には闘志の炎が燃え盛っているように見えた。すると姉さんは、おもむろに私の方を向いて、頭を下げて言った。

 束「お願い、箒ちゃん。お姉ちゃんに力を貸して。この世の中を変える為には、私一人じゃ無理がある。箒ちゃんにも罪を背負わせるようで申し訳ないけど、箒ちゃんの力も必要なの。だから――――」

 「心配しないで、姉さん」

 私は姉さんの言葉を遮って言った。

 「姉さんの気持ちはよく分かった。だから、私も一緒に背負うよ、姉さんの罪を。変わってしまったこの世界を、元に戻す為に。一人じゃ無理でも、私達が一緒なら、絶対大丈夫、だよ」

 そう言って笑顔を返した。すると、姉さんはまた泣き出した。でも今度は、

 束「ありがとう…………ありがとう…………!」

 と、感謝の意を込めながら。

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 今回はここまで。次回は、原作に欠かせないあの少年の登場です!
 お楽しみに!


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第3話 新タナ友人ト武者ノベルト

 ようやく主人公が変身します!


 三人称side

 

 篠ノ之家との相談の結果、牙也は篠ノ之家に居候することになった。しかし、ただ居候させてもらうだけなのは失礼だと、牙也は篠ノ之神社の手伝いを申し出た。最初は「娘の恩人にそんなことさせる訳にはいかない」と言っていた束達の両親も、牙也の説得の前に遂に折れ、週3日という条件を付けてこれに応じた。牙也は昼は神社の手伝いをし、夜は篠ノ之家の地下にある束専用ラボで束達とIS開発に力を注ぐ生活をしていた。

 

 

 

 

 

 そんなある日、この日は神社の手伝いが休みなので牙也は朝から束達とIS開発に勤しんでいた。すると、

 

 

 ♪~~~♪~~~♪~~~

 

 

 ラボに音楽が流れ始めた。

 

 束「あっ、いっくんからの通信だ」

 

 束はそう言うとラボのモニターの電源を入れ、どこかと通信を始めた。しばらくすると、

 

 

 ??『もしもし束さん、聞こえる?』

 ??『束様、聞こえますでしょうか?』

 

 モニターに、二人の少年少女が映った。

 

 束「もすもすひねもす、みんなのアイドル束さんだよ~~!いっくん、クロちゃん、元気~~~?」

 

 いつも通りのテンションで、二人に接する束。

 

 箒「一夏、クロエ、元気にしているか?」

 

 こちらもまたいつも通りに話す箒。おそらく知り合いだろうと牙也は予想した。

 

 クロエ『はい、私は元気です。束様も箒様もお変わりないようで何よりです』

 一夏『おう、こっちも元気でやってるぜ!って、束さん。隣にいるのは誰なんだ?』

 

 一夏は束の隣の少年について束に問いかけた。

 

 束「ん~、この子は牙君って言って、今こっちのラボでの開発を手伝ってもらってるの」

 牙也「はじめまして、雷牙也と言います。世間では僕は死んだ存在なので、今は紫野牙也と名乗ってます」

 一夏『牙也って言うのか。俺は織斑一夏。気軽に一夏って呼んでくれ』

 クロエ『私は束様の従者で、クロエ・クロニクルと言います。束様がお世話になっております』

 牙也「よろしくお願いいたします。一夏さん、クロエさん」

 箒「ところで一夏、わざわざここに通信を入れてくるとは、何かあったのか?」

 箒は一夏に問いかけた。

 

 

 一夏『ああ、実はそっちのラボの近くで妙な反応を見つけたんだ』

 箒「妙な反応?なんなんだ?」

 クロエ『調べてみたところ、どうやら歪みのようなものが発生しているようです。その歪みの形がとっても奇妙で……』

 束「奇妙?クロちゃん、それどんな形なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロエ『その見た目ですが…………何故かジッパーが開いたような形をしているのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「その場所、どこですか?」

 牙也は思わずクロエに問いかけた。

 クロエ『え?』

 牙也「その歪みが発生している場所は、どこですか?」

 クロエ『え、えっと、篠ノ之神社の鳥居の近く――――』

 

 

 

 それを聞くが早いか、牙也はラボを飛び出していた。

 

 

 箒「牙也!?」

 その後を箒が慌てて追い掛けていった。

 

 束「ち、ちょっと二人とも!?~ああ、もうっ!いっくん、私二人を追い掛けるから、一端通信切るね!また連絡するから!」

 一夏『え!?ちょっと束さ――――』

 

 そうして束もまた、試作無人IS『ゴーレム』を一機連れて二人を追い掛けていった。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 僕は急いでそのジッパー形の歪みがあると言う鳥居に向かった。するとそこには――

 

 

 

 この世のどこにも生息していないであろう怪物が出現していた。

 

 

 

 「下級インベスのみか。数は5~6匹。これくらいなら!」

 

 

 僕は懐から『戦極ドライバー』と『ブルーベリーロックシード』を取り出した。そしてドライバーを腰に装着し、ロックシードを解錠した。

 

 

 

 《ブルーベリー》

 

 

 すると、僕の頭上に丸い形の歪み――クラックという――が現れ、そこから巨大なブルーベリーがゆっくりと降ってきた。僕は慌てずにロックシードをドライバーに装着した。

 

 

 

 《ロック・オン!》

 

 

 すると、ドライバーから法螺貝の音が流れてきた。そして、ドライバーの右側についている小刀『カッティングブレード』を下から上に上げるようにして動かし、ロックシードを切りながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 「…………変身!」

 

 

 

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 

 

 

 

 

 その音声と同時に、僕の体は血のように赤いスーツで覆われ、頭には巨大ブルーベリーがはまり、鎧となって展開された。そして完全に展開された時、その手には薙刀『紫炎』が握られていた。

 

 

 

 

 「……………………………フッ!」

 

 

 

 

 僕は小さく呼吸すると、怪物に向かって駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回は戦闘とアーマードライダーの説明を牙也がします。
 お楽しみに!


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第4話 戦ウ決意ト託ス意志

 戦闘描写って、本当に難しいですね。他の作者さん達が苦労しているのを、身をもって知りました。


 箒side

 

 私は今、信じられない光景を目にしている。クロエが報告してきたあのジッパー形の歪みから、謎の生物が現れたのだ。更に私を混乱させたのは、牙也が懐から出したベルトのようなものと錠前のようなものだ。牙也はベルトを腰に装着し、錠前を解錠してベルトに装着した。すると、その頭上から巨大な紫色の丸い物体が牙也に向かってゆっくりと降りていった。そして次の瞬間、それは鎧のようになって展開された。

 私の目の前に、今―――――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――『紫の武者』が現れた。

 

 

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 牙也――――アーマードライダー蝕は紫炎を構えて怪物に斬りかかった。突然背後から斬られた怪物は、その場に倒れてそのまま爆散した。それに気付いた他の怪物達が蝕に向かって来たが、蝕は慌てる様子もなく怪物の攻撃を次々といなしていくと同時に、怪物達を切り裂いていく。何度も攻撃を受けた怪物は、すでに満身創痍であった。

 

 

 牙也「さて、さっさと片付けるか」

 そう言って蝕は、『カッティングブレード』でロックシードを3回切った。

 

 

 

 

 《ブルーベリースパーキング!》

 

 

 

 

 すると、紫炎に紫色のエネルギーが迸った。蝕が袈裟斬りの要領で紫炎を2回振るうと、エネルギーが斬撃となって飛んでいき、歪みごと怪物達を切り裂いた。

 

 

 

 『フシャアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

 

 怪物達は断末魔の叫びをあげて爆散した。と同時に、怪物が出てきた歪みも壊れて爆発した。

 他に怪物がいないことを確認した蝕は、ドライバーからロックシードを外して変身を解除した。

 牙也「…………………………ふう」

 

 箒・束「――――――――牙也!」「牙君!」

 

 そこに、近くでその戦いを見ていた箒と束が駆け寄ってきた。

 束「牙君、大丈夫?怪我してない?」

 

 牙也「大丈夫です。束さん達は?」

 

 箒「私達は大丈夫だ。しかし何なのだ、あの怪物は?それにあのジッパー形の歪み……………牙也、お前は知っているのか?」

 

 牙也「ええ、知ってます。ひとまずラボに戻りましょう。説明はそこで」

 

 三人はラボに戻っていった。

 

 

 

 

 

 ラボに戻ると、束は再び一夏達と通信して、無事を伝えた。そして、『ゴーレム』を使って録画した蝕の戦闘風景を二人に見せた。この映像の内容には、二人とも驚きを隠せず、牙也に説明を求めた。

 

 

 牙也「じゃあまずは―――――」

 

 

 そうして牙也は話を始めた。その話は、驚きの連続だった。襲撃事件で敵から逃走中、気づかぬうちにあのジッパー形の歪みに入ってしまったこと、ジッパー形の歪みの中は、『ヘルヘイムの森』と言い、襲ってきた怪物『インベス』の住みかであること、森の中で『戦極ドライバー』を二つと『ロックシード』を四つ拾ったこと、そこでインベスとの戦闘になり、それらを使って変身したこと、戦闘後に最上位インベス『オーバーロード』が現れ、自分達の世界と『ヘルヘイムの森』が意図せずに繋がってしまったと教えてくれたこと。

 四人は、牙也の話をじっと聞いていた。

 

 牙也「そして、オーバーロードの計らいでこの世界に帰ってきた。その後は皆が知っての通りです」

 

 全て話し終えた牙也は、箒が用意したお茶を一すすりした。モニターに映っている一夏やクロエは、未だに信じられないというような顔をしている。

 

 一夏『ヘルヘイムの森にインベス、オーバーロード。なかなか信じられないな。でもなんでこの世界とヘルヘイムの森が繋がったんだ?』

 

 牙也「さっきも言いましたがオーバーロード曰く、今回の事は向こうからしても予想外だったらしいんです。本来なら、絶対繋がるはずのないもの同士が繋がってしまったんですから」

 

 クロエ『あのクラックと言う歪みが開くのは、未然に防げないのでしょうか?』

 

 牙也「無理ですね。クラックは、何時、どこで開くかが分からないんです。被害を抑えたいのなら、開いたクラックを閉じるか破壊するしかないですよ」

 

 箒「…………だったらISを使ってそいつらを倒せば――――」

 

 牙也「それも無理ですね」

 

 牙也は箒の話を遮って言った。

 

 牙也「ヘルヘイムの森に迷い込んだとき、僕を殺そうとしたIS搭乗者も一緒に迷い込んでいたんです。最初はそいつがインベスの相手をしましたが……………………あれはもう、一方的な蹂躙に見えましたね。ISの武器の一つもインベスには効果がありませんでした」

 

 そう言うと、牙也は懐から『戦極ドライバー』と四つの『ロックシード』を取り出して机の上に置いた。

 

 牙也「今、インベスに対抗できるのはこれを――――アーマードライダーの力を持つ僕だけです。今の世界は、ISを過信している人が多い。そんな人達が大勢いる場所にインベスが現れる、何てことになったら………………………」

 

 箒「最悪、多くの死人がでる…か」

 

 箒が牙也の言葉を繋ぐように言った。すると、

 

 束「困ったなあ、箒ちゃん四月からIS学園に通うんでしょ?」

 

 今まで黙っていた束が箒に聞いた。

 

 箒「ええ、『要人保護』の名目で」

 

 束「あそこは只でさえ女尊男卑の傾向が強い上に、IS過信者が多くいる場所。そこにインベスってのが現れたらと思うと……………束さん、心配だよ~~~」

 

 

 その言葉に、全員が身震いした。最もだ。ISの攻撃が効かないインベス。ISを過信する女達。戦えばどちらが勝つかなど、目に見えて分かるだろう。

 

 

 牙也「そうならないためにも、クラックは絶対に塞がないといけない。皆さん、お願いします。クラックを閉じるために、僕に力を貸して下さい!」

 そう言って牙也は頭を下げた。

 

 

 束「…………ここで断れば、私は一生『負け犬』…………私はこれ以上、大切な人を失いたくない………………!分かった!束さんは、牙君に協力するよ!」

 

 箒「私も戦う。牙也ばかりに重荷を背負わせるわけにはいかないからな。出来る事があるなら、どんどん頼ってくれ!」

 

 一夏『俺もだ!一緒には戦えないが、サポートくらいなら出来るぜ!』

 

 クロエ『私も、微量ながら力をお貸しします。私のような人が出るのは、もういやですから………………』

 

 

 牙也「皆さん………………ありがとうございます!」

 

 

 

 

 すると、牙也は何か思い出したかのように懐からもう一つの『戦極ドライバー』を取り出し、『マスカットロックシード』と共に箒に差し出した。

 

 牙也「箒さん、貴女にこれを渡しておきます。インベスを呼ぶクラックはいつも一つしか出ないとは限りません。もし僕が戦っている時や近くにいない時に他のクラックが開いた時は、これを使って下さい。持っているだけで、十分な盾になるでしょう」

 

 箒はそれらをじっと見つめていたが、すぐに決意のこもった顔を見せ、それらを受け取った。その目や背後に、炎が燃え盛っているように皆は見えていた。

 そして牙也は、さらに付け加えるようにこう言った。

 

 牙也「あ、それともう一つ。それはISとは形は違えど『兵器』となる、ということを絶対に忘れないで下さい。やろうと思えば人を簡単に殺せるものという点で、それとISは同じですから」

 

 

 この言葉に、ここにいる全員が大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日から数ヵ月後の、20××年、四月。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、大きく動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 




 次回からいよいよ原作!


 戦闘描写、今度こそうまく描けるといいな…………………


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侵食者、出陣
第5話 IS学園ノ箒



 今回は箒視点のみです。


 結構早歩きですが、楽しく読んでいただけると幸いです!


 

 

 

 箒side

 

 私は今、高等学校の教室の中にいる。ただし、ここは普通の高等学校とは違い、IS操縦者を育成する『IS学園』というところだ。東京湾の人工島に建てられた学園で、ここにはIS操縦者、もしくは整備士の資格を取ろうとするために世界中から多くの少女達が集まる。最も、彼女達にはそれ以外にもここへ来るための目的があるがな。今年は特にそれが顕著に表れている。ん?目的とは何かって?

 それは――――――

 

 

 

 

 

 ??「織斑春輝です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 こいつだ。今自己紹介した織斑春輝という人物がいるからだ。なぜどこにでもいそうな者がここまで注目を集めるのか。その理由は二つある。

 まず一つは、その名字。「織斑」という名字、分かる人なら分かるだろうが、織斑春輝は世界最強(ブリュンヒルデ)の称号を持つ織斑千冬さんの家族なのだ。ただ、それに気づいている人がこのクラスに一体何人いるかは分からない。

 しかし、一番大事なのはもう一つの理由だ。ここまで注目される理由、それは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは、『世界唯一の男性操縦者』である事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「以上です!」

 ドガシャーーーーーーーーーン!!

 

 あ、クラスの女子の大半がズッこけた。

 

 

 ??「お前は自己紹介もまともに出来んのか!?」

 バキャッ!!

 おかしいな、今出席簿から鳴らないはずの音が聞こえたような………………

 

 春輝「げえっ、張遼!?」

 千冬「誰が泣く子も黙る張遼だ!?」

 バキャッ!!

 本日二回目。もう慣れてきている私がいる。

 

 千冬「すまないな、山田先生。HRを任せてしまって」

 真耶「いえ、大丈夫です。会議は終わったみたいですね」

 千冬「ああ、ここからは私が引き継ごう」

 そう言って千冬さ―――――織斑先生は教壇に立った。

 

 千冬「諸君、私がこのクラスの担任となった織斑千冬だ。私の仕事は、お前達15歳を16歳にすることだ。分からない事や苦しい事があるだろう。道に迷ってしまう事もあるだろう。そんなときは、何時でも私のところに聞きに来い。そして、つまらない事でつまづきたくなければ、私の言うことははいかyesで答えろ、いいな?」

 

 理に叶っているな、と思う自分がいた。

 

 

 春輝「ち、千冬姉が担任!?」

 千冬「ここでは織斑先生だ!」

 バキャッ!!

 三回目。春輝よ、お前「学習」という文字を忘れたのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、織斑先生の自己紹介に対してクラスの大半が凄まじい大歓声をあげて、お祭り騒ぎになった。ああ、耳がまだキンキンする。こんなところに私は三年間も通わなければならんのか………………はあ。

 

 

 

 

 ??「ほーちゃん、大丈夫?」

 すると、クラスメイトの布仏本音が話しかけてきた。

 「ああ、大丈夫だ。すまないな、気にさせて」

 本音「もーまんたーい。友達でしょー」

 友達…………か。私は姉の影響もあって、あちこちを転々としていたから、友達なんてなかなかできなかった。友達と言える人と言えば、一夏や鈴、牙也くらいだ。彼女に会ってそう時間が立っているわけではないが、「友達」と言われるのはとても嬉しかった。

 本音「あ、それとかいちょーから伝言だよ。『放課後に生徒会室まで』だって」

 「会長が?そうか、分かった」

 

 キーンコーンカーンコーン…………………

 

 本音「あ、チャイムだ。ほーちゃん、また後でね」

 「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからひと悶着あった。織斑先生の授業の時にクラス対抗戦に出場するクラス代表を決めたのだが、クラスの大半が春輝を推薦した事に、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが反発。春輝と言い合いになり、織斑先生の提案で一週間後模擬戦で代表を決めることになった。片や長年ISを動かしており、実力は十分あるであろう代表候補生。片やほとんどISを動かした事が無いが、今世界から注目を集めている世界唯一の男性操縦者。まさに注目のカードだ。

 そんなこともあって、疲れに疲れたまま、気付けば放課後になっていた。

 

 

 

 私は今、本音の伝言を受けて生徒会室に向かっていた。IS学園の生徒会長には一度会った事がある。牙也と共にクラックを探していたとき、クラックが開いたという報告を受けて向かった場所がたまたま会長の実家だったのだ。そこに出現したインベスを会長や会長の妹、従者達と協力して撃破し、なんとか事なきを得たが、アーマードライダーやクラックについて説明を求められた。そこで、会長の実家が対暗部用暗部の家系であることを知った。

 そして会長の提案で、アーマードライダーである牙也と私、会長の実家、IS学園の理事長、織斑先生、そして姉さんは会長の家を通じて対インベスに関して協力関係となった。形としては、姉さんがクラックの出現を察知し、それを会長に伝える。そしてアーマードライダーの私達が動く、というのが基本的な流れになった。

 理事長や織斑先生とも関係を結んだのには訳がある。実は、ここ最近IS学園でもクラックらしき歪みが確認されるようになったのだ。インベスの出現情報は確認されなかったが、裏情報でこの事を知り危険性を考えた学園の理事長が織斑先生と共に協力を申し出たのだ。

 今回の会長からの呼び出しも、インベスの一件の事だろう。そう考えていると、いつの間にか生徒会室の前であった。私は、意を決してそのドアをノックした。

 

 

 

 

 コンコンコン――――――

 

 

 ??『入って、どうぞ』

 

 

 キィ―――――――

 

 

 「失礼します。篠ノ之箒、参上しました」

 

 

 すると、そこには―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「久しぶりだな。箒」

 

 牙也「来たか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前の想い人の一夏と、今の想い人の牙也が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 次は、やっとあの人達が登場です!


 お楽しみに!


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第6話 守護者ノ集結


 連続投稿です。いつもより短いですが、楽しんでいって下さい!


 

 三人称side

 

 箒「一夏!牙也!どうしてここに?」

 

 箒は不思議そうに聞いた。

 

 千冬「今回の集まりは、関係者が全員いないと話にならないからな。ちなみに一夏は束の代理だ」

 

 すでに椅子に座っていた千冬が説明した。

 

 ??「そういう事。さあ、全員そろった事だし、対インベスの会議を始めましょう」

 

 そう言って『対策協議』と書かれた扇子を開いたのは、IS学園の生徒会長、更識楯無。

 

 楯無「では、まずは自己紹介から。私は第17代更識家当主兼この学園の生徒会長、更識楯無よ。よろしくね」

 

 虚「楯無様の従者をしております、生徒会会計の布仏虚と申します」

 

 轡木「学園の理事長の、轡木十蔵です。いつもは用務員として学園に勤務しています」

 

 千冬「織斑千冬だ。この学園の教師で、非常事態への対処に関しての指揮権をもっている。よろしく頼む」

 

 一夏「織斑一夏です。今日は束さんの代理として来ました。よろしくお願いします」

 

 箒「アーマードライダーレオンこと、篠ノ之箒です。よろしくお願いします」

 

 牙也「同じくアーマードライダー蝕こと、雷牙也です。よろしく」

 

 全員の自己紹介が終わり、いよいよ会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 楯無「ではまずは、現在のクラックの出現箇所等について、織斑君から」

 

 一夏「はい、現在はクラックの出現はほとんどありません。しかし、クラックとおぼしき気配がこの学園に集中するようになっています。これについては引き続き調査を続ける方針です」

 

 楯無「ありがとう。続いてインベス出現時の対応についてですが……………」

 

 轡木「それについては私から。各教員は複数で常に行動し、インベス出現時は生徒の安全を優先させます。また、やむを得ず迎撃する際は遠距離武装を使って対処させます。教員への指示については、先程も言ったように織斑先生に一任します。牙也君、これでいいかな?」

 

 牙也「大丈夫です。遠距離武装なら、牽制くらいにはなるでしょうから。織斑先生、生徒の避難場所についてはどうですか?」

 

 千冬「一応はグラウンドを避難場所にする。そこが駄目なら一番広い第一アリーナだ。状況によって、そこは私が判断する」

 

 牙也「了解しました」

 

 「では他に何か伝えておくべき事はありますか?」

 

 すると、箒が手を挙げた。

 

 箒「牙也はどこで待機する予定なのだ?まさか私一人で撃破しろという訳ではあるまい」

 

 牙也「それについては問題ない。明日からここに用務員として雇ってもらえる事になった。何かあればすぐに合流する」

 

 箒「そうか、分かった」

 

 楯無「他に何かありますか?」

 

 全員が首を横に振った。

 

 楯無「では、本日はこれまで。また詳しい話は、実際に事が起きた後にしましょう」

 

 会長がそう締めくくって、会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「ひとまず、今は目立った動きはなし、か」

 

 学生寮に向かう道を牙也と共に歩きながら、箒は呟いた。

 

 牙也「まあ、何が起こるか分からんから常に警戒しておくに越したことはないだろう。クラックの出現は予想出来ないんだからな」

 

 牙也はそう言って、手に持ったロックシードを指に通してクルクルと回した。

 

 箒「そうだな。それに、現状インベスと対等に戦えるのは私達しかいない。気を引き締めねばな」

 

 牙也「そういうこった。おっと、じゃあ俺はこっちだから」

 

 箒「ああ、またな」

 

 そう言って、二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、牙也は部屋の空きがないということで千冬と同室になったが、千冬の部屋の汚さに怒りを通り越して呆れ果て、

 牙也「すぐに片付けなさい」

 と笑顔+殺気全開で脅は―――――もとい命令し、千冬が涙目になって片付ける事になった。

 また、部屋の惨状を一夏に報告され

 一夏「次に来たときに部屋が片付けられてなかったら、家への立ち入り禁止するから」

 と言われ、白く燃え尽きていたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時は流れて五月。学園の生徒が待っていたクラス対抗戦がいよいよ始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 





 5話のクラス代表決定戦の結果は、次回簡潔に説明する予定です。ご了承下さい。


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第7話 災厄ノ襲来


 クラス代表戦及びインベスの襲撃を、主に鈴の視点から。ただし結構手を抜いてるように見えるかも…………


 

 三人称side

 

 あの会議の後に特に何かあったわけでもないまま、クラス対抗戦の日を迎えた。

 牙也は第4ピットの一室にて待機していた。万一の時に備えて何時でも動けるようにと、楯無が指示したのだ。

 1年生クラス対抗戦の対戦カードは、

 

 

 第1試合

 1年1組vs1年2組

 

 第2試合

 1年3組vs1年4組

 

 

 となった。

 ちなみに各クラスの代表は、

 

 1年1組 織斑春輝

 

 1年2組 鳳鈴音

 

 1年3組 ロミー・ベンサム

 

 1年4組 更識簪

 

 といった感じだ。

 ちなみに1組の代表だが、代表決定戦を行った結果、織斑春輝がイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを終始圧倒して勝利し、代表になったとか。

 誰が優勝するのかと考えている牙也の元に、箒から通信が入った。

 

 箒「聞こえるか、牙也」

 牙也「ああ。アリーナの様子はどうだ?」

 箒「今第1試合が始まったところだ。今のところ問題はない。引き続き様子を見る」

 牙也「了解。何かあれば、すぐに連絡しろよ」

 

 牙也はそう言って通信を切った。

 

 牙也のいる部屋は、テレビ等が無いためアリーナの様子を知ることができない。そのため、定期的に箒や千冬と通信して状況を把握しなければならないのだ。

 

 牙也(通信が出来なくなった時のことも、考えておかなきゃならんかな)

 

 そんな事を考えていたその時。

 

 

 

 

 『キャアアアアアアアッ!!!!!!』

 牙也「!!」

 

 

 叫び声が聞こえたと同時に、牙也はアリーナに向かって走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴side

 

 私は今、信じられない光景を目にしていた。

 ちょうど私は2組のクラス代表として、1組のクラス代表の織斑春輝と戦っていた。イギリス代表候補生に完勝したという話を聞いた時はまさかと思ったけど、彼の実力を間近で感じて納得する私がいた。私のISの『甲龍』は、中国が開発した『龍砲』という武装を積んだ第3世代機。『龍砲』とは、砲身に空気を圧縮してそれを弾にして撃ち出す武装。弾が「空気」なので視認しづらく、しかも360度全方位に向けられるので対応が難しいのだが、彼はその弾道を一回で見抜き、簡単に避けてしまった。その後も、龍砲の砲撃は簡単に避けられてしまったので、私は拡張領域から青竜刀を取りだして接近戦に入ろうとした。

 しかしその時――――

 

 

 

 

 

 

 目の前に急にジッパーが出てきて、その中から沢山の丸っこい怪物が溢れ出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとたん、アリーナに響いた警報。

 

 『緊急事態発生!緊急事態発生!アリーナにいる生徒は、直ちに避難して下さい!』

 

 そして、アリーナは叫び声や泣き声に包まれ、大混乱に陥っていた。

 千冬『織斑、鳳、大丈夫か!?』

 「織斑先生!私は大丈夫です!」

 春輝「こっちも無事だよ、千冬姉!」

 千冬『今教員部隊が救援に向かう!お前達は早くそこから離脱しろ!』

 春輝「でも、こいつらはどうすんのさ!?」

 千冬『その怪物達にISの攻撃は効かない!お前達が戦っても、逆に危険なだけだ!』

 春輝「そんな事、やってみないと分からないだろ!?」

 そう言って、春輝は彼のIS『白式』の単一能力・『零落白夜』を発動して怪物の群れに突撃した。

 「春輝!?」

 千冬『春輝、よせ!』

 私達が止めるのも聞かず、春輝は怪物の中の一匹を近接ブレード『雪片弐型』で切り裂いた。

 春輝「どうだ、怪物め!見たか千冬姉、やれば出来―――」

 その言葉は続かなかった。

 春輝が攻撃した怪物は、『何かやったか?』と言いたげなようにピンピンとしており、その体には傷一つついていなかった。これには春輝も驚きを隠せなかった。

 春輝「な、何で!?何で零落白夜が効いてないんだ!?」

 春輝は分かってないが、零落白夜は刀身にエネルギーを集約してシールド無効の斬撃を繰り出す技。ただし、これが効果的なのはあくまでISであり、何かも知らない生物にこれを当てて効果があるのか?

 

 

 

 

 答えは否である。

 

 春輝は必殺技が怪物に効かなかった事に呆然としている。そこに、先程の怪物が攻撃を仕掛けてきた。

 「春輝、危ないっ!」

 

 私はとっさに龍砲を怪物に向かって撃ち出した。しかし、弾は当たったが怪物にはまるで効いていない。それどころか、怪物達が私に狙いを定め、攻撃を仕掛けてきた。私は青竜刀で応戦するが、渾身の一撃も怪物には効いておらず、逆に青竜刀を弾かれてしまった。私は慌てて空に逃げようと、背中のスラスターを噴いて飛び立とうとした。しかし、

 

 『シャアッ!!!!!!』

ガッ!!!!!!

 「キャアッ!」

 突然何かが飛んできて背中のスラスターに攻撃してきた。それによってスラスターと龍砲は壊れてしまい、私は地面に叩きつけられた。顔を上げると、そこにはあの丸っこい怪物とは異なり、蝙蝠を模したような異形が空に浮いていた。絶体絶命であった。青竜刀は手元になく、龍砲もスラスターも壊されてしまった。しかも、さっき墜落した際に足を捻ってしまったようで、足首に痛みがある。

 千冬『鳳!』

 織斑先生が叫ぶが、もうどうにも出来ない。

 もう、私に出来る事は何もない。ただ死を待つばかりだった。そして、ついにあの怪物がその爪を私に向かって振り下ろしてきた。私は恐怖で目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつになっても攻撃がこない。恐る恐る目を開けると、そこには――――

 

 

 

 

 

 『シャ、シャアアアアア……………………』

 

 

 

 

 

 牙也「やれやれ、ギリギリ間に合ったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身を黒の着物で包んだ少年が、怪物の腕を掴んで立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 死亡フラグは、へし折るもの。

 次回、二人のアーマードライダーがIS学園にて出陣。


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第8話 アーマードライダー、出陣

 戦闘描写が、無駄に長いような気が………………

 文才無いからね、仕方ないね!





 牙也side

 

 「やれやれ、ギリギリ間に合ったか」

 

 そう呟きながら、俺は掴んでいたインベスに回し蹴りを当てて近くにいたインベスごと吹き飛ばした。他のインベスが次々と向かって来るが、こんな数どうということはない。襲ってくるインベスを殴って蹴って、動けなくなっている少女からインベスを離れさせた。そこに、千冬さんが指示したのか教員部隊が合流。彼女を回収していった。彼女が無事であったことに安堵の表情を浮かべていると、教員部隊を率いていた童顔眼鏡の女性教員が話しかけてきた。

 

 真耶「鳳さんを助けてくれて、ありがとうございました。さあ、あなたも早く――――」

 「悪いが、まだやることがあるんでな」

 

 俺はその言葉を遮るように言って、襲ってきたインベスの一匹に蹴りを入れた。

 

 「こいつらは俺に…………いや、『俺達』に任せろ」

 箒「牙也!」

 

 そこに、避難誘導が終わったのか、箒が合流した。

 

 箒「鳳が負傷したと聞いた。大丈夫なのか?」

 「ああ、さっき教員部隊が回収したから、もう大丈夫だ。それよりも―――――」

 箒「こいつらを何とかせねば、な」

 真耶「だ、駄目ですよ!?早くあなた達も――――」

 千冬『教員部隊、聞こえるか?その怪物達はその二人に任せろ。教員部隊は、遠距離武装を使って彼らを後方支援せよ』

 真耶「織斑先生!?」

 千冬『大丈夫だ、彼らに任せておけば問題ない。それよりも、そこで未だに放心してる馬鹿を誰か回収しておけ。戦いの邪魔になる』

 真耶「しかし……………………!」

 

 眼鏡の教員は言葉に詰まる。

 

 箒「大丈夫ですよ、山田先生。私達は絶対に死にません。必ず戻ってきます。だから、私達を信じてください!」

 

 箒は山田先生に頭を下げた。

 

 

 真耶「………………分かりました。ここはあなた達に任せます。ですが、約束して下さい。必ず戻ってくると」

 箒「…………はい!」

 

 そう言って、山田先生はその場を離れた。

 

 「よし、行くぞ、箒」

 箒「ああ!」

 

 そして俺達は、懐から『戦極ドライバー』を取り出して腰につけ、俺は『ブルーベリーロックシード』を、箒は『マスカットロックシード』をそれぞれ解錠した。

 

 《ブルーベリー》

 《マスカット》

 

 俺達の頭上に円形のクラックが現れ、其処から巨大ブルーベリーと巨大マスカットが出現した。ドライバーからは、法螺貝と銅鑼の音が響く。

 

 《ロック・オン!》

 

 そして俺達は、ドライバーにロックシードを施錠し『カッティングブレード』でロックシードを切りながら叫んだ。

 

 

 

 牙・箒「「………………………………変身!」」

 

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 《ハイ―!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!》

 

 

 俺は『アーマードライダー蝕 ブルーベリーアームズ』に。

 箒は『アーマードライダーレオン マスカットアームズ』に、それぞれ変身した。

 

 

 「心まで、侵食してやろう……!」

 箒「行こう、任務開始だ!」

 

 

 ここ、IS学園に、

 

 

 

 

 

 二人の『アーマードライダー』が、見参した。

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 アリーナにいる誰もが、その目を疑った。アリーナに突然開いたジッパーのような裂け目、其処から突如現れた、ISの攻撃が効かない怪物達。更にそこに現れた一人の少年と学園の生徒の一人が、謎のベルトと錠前を使って纏った、全身装甲のISのようなもの。彼らの周囲にいた教員部隊は、突然の事に思考が追い付いておらず、織斑春輝に至っては口をあんぐりと開けてまたもや放心状態になっている。

 そんな事は露知らず、蝕とレオンはインベスに向かって武器を構えて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 牙也「ハアッ!ダアッ!ソラッ!」

 

 蝕は薙刀・紫炎を振り回して下級インベスを次々切り裂き、

 

 箒「フッ!ハッ!タアッ!」

 

 レオンはガンブレード・マスガンドを振るって下級インベスを攻撃する。

 その一つ一つの動作に隙はなく、教員部隊に

 (これ、私達の援護要らないんじゃないかな)

 と思わせるほどであった。

 

 やがて、そのダメージに耐えきれなくなった下級インベスは全て、次々と爆散した。すると、

 

 教員達「キャアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 後ろから叫び声が聞こえ、二人が振り向くと、先程鈴に攻撃したコウモリインベスと、後から出現したヤギインベスの二体に教員部隊が攻撃を受けていた。攻撃を受けた教員のISは大きく損傷しており、すでにピンチの状態だった。

 

 牙也「ちっ!」

 

 蝕はコウモリインベスに紫炎を投げつけ、レオンはヤギインベスに向かってマスガンドで射撃した。背後から攻撃を受けた二体は、蝕達に対象を変えて攻撃したが、二人は難なくこれを避け、一度二体を蹴り飛ばして距離をとった。

 

 牙也「よし、こいつを試すか」

 箒「私はこれだ!」

 

 そう言って二人は、別のロックシードを取り出して解錠した。

 

 《オリーブ》

 《ライム》

 

 そして二人は、さっきまで使っていたロックシードをドライバーから取り外し、新たに解錠したロックシードをドライバーに施錠して、カッティングブレードで切った。

 

 《ロック・オン!》

 

 《ソイヤッ!オリーブアームズ!lash of knife!》

 《ハイー!ライムアームズ!双剣!ハイ!ハイ!ハイ!》

 

 教員A「姿が変わった!?」

 教員部隊は、またも驚いていた。

 蝕は『アーマードライダー蝕 オリーブアームズ』に。

 レオンは『アーマードライダーレオン ライムアームズ』に新たに変身した。

 そして、蝕はコウモリインベスに、レオンはヤギインベスに向かっていった。

 

 

 

 

 

 蝕vsコウモリインベス

 

 

 

 

 蝕はコウモリインベスの飛行能力に苦戦していた。攻撃しては離脱し、また攻撃しては離脱を繰り返していたからだ。

 

 牙也「面倒な………………とっとと落ちろ!」

 

 蝕はコンバットナイフ・オリジンをコウモリインベスの翼に向かって投げつけた。オリジンはコウモリインベスの翼に突き刺さり、コウモリインベスはバランスを崩して地面に叩きつけられた。そのまま蝕はインベスに近づき、インベスを無理やり起き上がらせ、その腹に蹴りを連続で加えると同時に翼からオリジンを引き抜いてインベスを何度も切り裂いた。

 

 『ガ、ガアアアアア………………!』

 

 牙也「終わらせる」

 

 そう言って蝕は、カッティングブレードでロックシードを二回切った。

 

 《オリーブオーレ!》

 

 すると、蝕の周囲に緑色のエネルギーで出来た大量のオリジンが現れ、コウモリインベスに向かって飛んでいき、コウモリインベスを包囲した。

 

 牙也「これにて、終い」

 

 そう言って後ろを向きながら指を鳴らすと、オリジンが次々とコウモリインベスに突き刺さり、終に爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオンvsヤギインベス

 

 

 

 レオンが双剣・ライムラッシュを構えると、ヤギインベスがその豪腕を振るってきた。レオンはそれをかわし、振り向き様にライムラッシュで何度も切りつけた。ヤギインベスは尚も攻撃を続けるが、全てかわされ逆にライムラッシュで何度も切りつけられた。すでにヤギインベスは満身創痍であった。

 

 箒「終わりだ!」

 

 《ライムオーレ!》

 

 レオンはカッティングブレードでロックシードを二回切り、再びライムラッシュを構えた。すると、その二本の刀身に淡い光が集まり、輝き出した。ヤギインベスは再び豪腕で攻撃してきた。レオンはそれをかわし、すれ違い様にライムラッシュでその体を切り裂いた。

 

 

 箒「来世に人として生まれる事を願いつつ………………今はゆっくりと、眠れ」

 

 

 そう言った途端、ヤギインベスは爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 二人は変身を解除し、管制室にいる千冬と通信を繋げた。

 

 箒「織斑先生。インベス鎮圧、完了しました」

 千冬『ご苦労。二人の素早い行動で、怪我人は出たが死人は出なかった。感謝する』

 牙也「そりゃどうも。ま、全員無事で良かったってことで。報告書はまた後程」

 千冬『ああ、頼む。後日会議を開くから、二人ともそのつもりで』

 箒「分かりました」

 

 二人は通信を切り、いざ帰―――――

 

 

 

 

 春輝「待てよ」

 

 

 

 

 

 ろうとしたところで、呼び止められた。声の主は、

 

 

 

 

 

 

 

 雪片弐型を構えた、織斑春輝であった。

 

 

 

 




 やれやれ、疲れたよ(安堵


 次回、牙也と春輝の場外戦を予定。


 お楽しみに!


 感想等、引き続き募集中ですよ!



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第9話 騒ギノ幕引キト、元凶トノ再会(前編)

 長くなりそうなので、前・後編に分けて投稿します。


 牙也の世捨て人要素がどんどん抜けていく………………大丈夫かな?





 牙也side

 

 一仕事終えて、さあ帰ろうかと思った矢先に、そいつは俺達を呼び止めた。それだけならまだ良しとしよう。あろうことかそいつは、俺達に剣を向けてきていた。いや、そいつだけじゃない、周りを見ると近くにいた教員部隊の一部も俺達にアサルトライフルやミサイルを向けてきていた。

 

 

 教員A「なんなのよ、あんた!突然出てきて!」

 教員B「男が何でこのIS学園にいるのよ!説明しなさい!」

 

 

 あ、この人達女尊男卑の思想持ってるみたいだ。

 てか、そこにも男がいるだろうが。そっちは注意しないのかよ。

 

 春輝「お前誰なんだよ!それに何だ、今の全身装甲のISは!?」

 

 最初に俺達を呼び止めた男も、そう言って噛みついてきた。嫉妬かなにか知らないけど、あんまり声を荒げるな、うるさいったらありゃしない。

 面倒だったので、そいつらは無視してさっさと帰ろうとした。すると、

 

 

 

 

 春輝「無視してんじゃねええええええ!!!!!!!」

 

 

 男が俺に向かって斬りかかってきた。

 はあ、短気だな。

 

 

 

 春輝「くらええええええ!!!!!!!!」

 だが、だからこそ、

 

 

 スカッ!

 

 春輝「なッ!?」

 

 

 

 太刀筋を見抜くのは容易い。

 俺はカウンターでそいつの腹に蹴りを加えて地面に転がした。

 普通に蹴れば結構吹っ飛んでいくんだがな、何せ向こうはISを纏ってるんだからそれなりに重さがある。というか装甲の部分蹴ったから、凄まじく足が痛い。おーいて。

 

 春輝「くっ、ふざけるなああああああ!」

 

 

 男は懲りずに剣を振り回して来たが、俺はそれを難なく受け止めた。

 

 

 「箒、先に戻っといてくれ。俺は少しこいつと話がしたい」

 箒「分かった、だがこれ以上怪我人は増やさないでくれよ」

 

 やんわりと俺に釘を指しつつ、箒は部屋に戻っていった。

 

 「へいへいっと。さて、織斑先生、こいつどうし―――」

 千冬『織斑、そこまでだ!ISをしまえ!』

 春輝「千冬姉、こんな如何にも怪しさ満点な奴をほっとけって言うのか!?」

 千冬『いいからしまえ!お前は生身の人間に攻撃しているのだぞ!?』

 春輝「こいつが人間なわけないだろ!?こいつはあの怪物と繋がってるに違いない!だったら倒すのは当然だ!」

 

 はあ、聞く耳持たず、か。(┐(´д`)┌ヤレヤレ

 

 

 「織斑先生、これ使ってもいいですか?」

 

 そう言って俺は、ロックシードを取り出して管制室に向けるように見せた。

 

 千冬『はあ、多少強引だが、仕方あるまい。ただし、ISを壊さぬようにな。今のうちに『それ』とISの性能の違いを見せておいた方がいいだろうからな』

 「えー、壊さぬようにってなると、操縦者の顔面を殴る蹴るしか出来ないんですが」

 千冬『撲殺出来るなら充分だろう?』

 「あ、そっか」

 真耶「いやお二人とも、何殴る蹴るとか撲殺とか物騒なこと言ってんですか!?」

 牙・千「『ん?そんなに物騒か?』」

 真耶「あ、駄目だこの二人……早く何とかしないと……」

 

 山田先生はそう言って頭を抱えていた。解せぬ。

 

 「ま、許可も出たし、使わせてもらうかな」

 俺は織斑(千冬さんと被るので、呼び捨てで)とやらを蹴飛ばして一旦距離をとり、

 

 《ブルーベリー》

 

 ロックシードを解錠した。

 

 

 《ロック・オン!》

 

 「変身」

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 「さて、どれを使うかな~…………ん?」

 

 ロックシードホルダーを漁っていると、今まで持ってなかったはずのロックシードが二つかかっていた。

 

 (いつの間に…………いったい誰が…………?)

 

 まあ、考えるのは後でいいか。

 

 「ぶっつけ本番、といくか!」

 

 俺はそのうち一つを取って解錠した。

 

 《チェリー》

 

 頭上のクラックから現れたのは、巨大サクランボ。

 

 《ロック・オン!》

 

 「こいっ!」

 

 《ソイヤッ!チェリーアームズ!破・撃・棒・術!》

 

 俺は『アーマードライダー蝕 チェリーアームズ』に変身し、その両手にはトンファー・サクラン棒が装備された。

 そしてそれを織斑の方に向けて、静かに言った。

 「かかってこいよ…………返り討ちにしてやる…………!」

 

 こうして、織斑との喧k――――戦いが始まった。

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 結果から先に言うと、牙也の完勝であった。まあ何せ、織斑はクラス対抗戦のダメージが残った状態で戦っていたし、そもそも初期スペックが大幅に違うISとアーマードライダーの戦いなので、牙也が負ける方がおかしかった。

 ついでに言うと、完勝はしたが、牙也はこれでも手を抜いて戦っていたのだ。牙也の攻撃は全て、織斑の攻撃に対してのカウンター攻撃のみで、それも怪我させないために力を抜いた上に急所をわざと外して攻撃していたのだから、相当気力を使っただろう。

 織斑は、完膚なきまでに叩きのめされたことに地面に転がった状態で呆然としていた。もちろんISは解除されている。

 

 牙也「織斑の鎮圧完了。こいつどうしましょう?」

 千冬『医務室に運んでおいてくれ。教員部隊も撤収せよ』

 牙也「了解」

 真耶「分かりました」

 

 これが、今回の一件の幕引きであった。

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 




 はい、春輝は牙也に瞬殺(手抜き)されました。

 さて、これからどう話を展開させていくか………………

 アドバイスお願いします(土下座



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第10話 騒ギノ幕引キト、元凶トノ再会(後編)


 オリジナルオーバーロード、登場っ!

 IS学園は、さらに混乱に巻き込まれる…………




 

 三人称side

 

 驚愕・憤怒・好奇。そんな感情が、IS学園の会議室を支配していた。

 インベスの襲撃を受けて結局中止となったクラス対抗戦から二日たった。結局のところ、他の会場にはインベスは現れず、被害が出たのは一年生のクラス対抗戦を行っていた第1アリーナのみであった。

 理事長の轡木はその日、会議室に千冬を始めとした教員部隊・楯無を始めとした各国代表や代表候補生(+箒)を集め、会議を開いた。教員や代表候補生の目は、現在報告を行っている一人の男に向けられていた。

 アーマードライダー蝕――――紫野(旧姓雷)牙也である。

 

 牙也「―――――と言うことで、俺からの報告は以上。詳しくは各々に配った報告資料を読むなり、スクリーンに流していた映像を見るなりしておいて欲しい」

 轡木「牙也君、ありがとう。それでは、報告を元に今後の怪物対策を話し合っていこうと思いますが、その前に何か質問はありますか?」

 

 すると、真っ先に手を挙げた者がいた。織斑春輝だ。

 

 春輝「理事長、こいつは一体誰なんですか?いつからここにいるんですか?こいつはあの怪物と繋がりがあるんじゃないですか?」

 轡木「まあまあ落ち着きなさい、織斑君。牙也君、皆に自己紹介を」

 

 牙也は面倒臭そうに立ち上がって、自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「先月からこの学園に用務員として雇われた、紫野牙也――――――またの名を、『アーマードライダー蝕』という。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 室内がざわめき出した。無理もないだろう。『アーマードライダー』という見たことも聞いたこともない単語がでてきたのだから。

 

 「アーマード…………ライダー…………?」

 「あれISじゃないの………………?」

 「一体何がどうなって………………」

 

 会議室は、困惑の声が目立つ。一方で、

 

 「ISを越える力ですって………………!?」

 「認めない…………認めないわ…………!」

 

 ISを最強の力と考えていた一部の女尊男卑の教員や生徒は、これに憤りを覚えていた。

 しかし、牙也はそんなことは気にもとめずさっさと着席した。

 

 春輝「おい!まだ最後の質問に答えてないぞ!お前、あの怪物を知ってるだろ!あの怪物をここにけしかけたのもお前だな!?」

 

 春輝はさらに牙也に噛みついてきた。対して牙也は、無表情で答えた。

 

 

 

 

 

 

 牙也「ああ。確かに俺は、あの怪物を知ってる。だが、怪物をけしかけたのは俺じゃあない」

 

 

 

 

 

 

 会議室にどよめきが起こった。

 

 春輝「嘘つくな!お前以外に誰がこんな事するっていうんだ!?」

 轡木「織斑君、気持ちは分かるが落ち着きなさい」

 

 轡木がこれを止めにはいった。

 

 春輝「理事長!?でも―――――」

 轡木「牙也君、皆に説明してあげなさい。貴方が知っている全てを」

 牙也「はい」

 

 牙也はスクリーンの横に立って近くにあったパソコンを操作し、一つの写真をスクリーンに映した。そこに映っていたのは、アリーナに現れた丸っこい怪物だった。

 

 牙也「皆が見たであろうこの怪物。これは名を『インベス』と言う。こいつらはアリーナにも開いたジッパー型の裂け目『クラック』の中に住む怪物だ。クラックの中に入ると、『ヘルヘイムの森』と言う森林が広がっている」

 

 そう言って、牙也はパソコンを操作して新たにクラックの写真とヘルヘイムの森の写真をスクリーンに映した。

 

 牙也「『ヘルヘイムの森』は、いわばインベスの住みかだ。いつもはインベスはここで暮らし、森の木に実っている実を食べているが、たまに今回みたいにクラックを開いて別の世界に現れて人を襲うんだ。そして、この丸っこいインベス―――俺らは下級インベスと呼ぶが、こいつらが大量のヘルヘイムの果実やロックシードを食べると、異形に進化する」

 

 再びパソコンを操作してスクリーンに映し出されたのは、下級インベスと共に襲ってきたコウモリインベスだった。これを見た鈴はガタガタと体を震わせ、近くにいたセシリアに介抱されていた。

 牙也は次に、懐から『戦極ドライバー』と『ブルーベリーロックシード』を取り出して、皆に見えるように高く掲げた。

 

 牙也「これは、『戦極ドライバー』。アーマードライダーに変身するためのベルトだ。これに、この『ロックシード』を施錠して変身する。原理に関しては知らん。束さんでも解析出来なかったからな」

 

 そう言って牙也は箒を見た。

 

 箒「以前姉さんが私が使っている『戦極ドライバー』の解析を試みたことがあった。だが、あまりにもオーバーテクノロジーの塊であったために解析不可能となった。これには姉さんも匙を投げていたよ」

 

 箒は自身の『戦極ドライバー』を見せながらそう言った。

 

 箒「ちなみに『ロックシード』だが、『戦極ドライバー』を装着した状態でヘルヘイムの果実を手に取ることで変化する。これも原理は分からないがな」

 

 そう付け加え、箒は戦極ドライバーをしまった。

 

 セシリア「私からも、質問よろしいでしょうか?」

 

 続いて、セシリアが手を挙げた。

 

 セシリア「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと申します。以後お見知りおきを」

 牙也「丁寧な自己紹介痛み入る。して、質問は?」

 

 

 

 

 

 

 セシリア「はい、その『インベス』と言う怪物が一体何なのか、ということです」

 

 

 

 

 

 それを聞いた牙也は、困ったような顔をして頭を抱えた。

 

 牙也「それを聞いてくるか………………」

 

 そう言った牙也の顔はどこか悲しげで、なおかつ苦しげであった。

 

 セシリア「失礼しました、あまり話したくない事でしたか?」

 

 そうセシリアが聞くが、

 

 牙也「いや、知るべきだとは思うが、聞いていい気分になるようなものじゃないんだ」

 

 牙也はそう言って顔を背けた。

 

 轡木「私達にも教えてくれないか、牙也君」

 

 そう言ったのは、轡木だった。

 

 轡木「知っておくべき事なら、話したほうがいい。何も知らずに戦って、後で正体を知って後悔するのは………………」

 

 そこまで言って、轡木は口を閉ざした。

 

 牙也「分かりました、お教えします。ただし、この事は他言無用でお願いします」

 

 そう言って、牙也は話し始めた。

 

 

 牙也「『インベス』の正体、それは―――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 俺は一人部屋に戻って来ていた。入室初日に千冬さんが涙目で片付けた部屋は、一人だったためか広く感じた。千冬さんは、理事長とまだ話をしていて帰ってくるのはもう少し遅くなるだろう。俺はベッドに腰掛け、ブルーベリーロックシードを握り締めた。

 

 

 

 ??「………………来たか」

 「!?」

 

 その声に正面を向くと、そこには――――

 

 

 

 

 ??「………………久しぶりだな、少年よ」

 

 

 

 

 俺を変えた存在――――『オーバーロード・シュラ』が、向かいのベッドに腰掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 





 次回、牙也に新たな力が託される―――――



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第11話 深キ傷、渡サレタ黒ト赤


 今回は、この小説の根底の一部に触れることになります。
 低い文才で何とかまとめたので、最後まで読んで頂けると嬉しいです。
 それではどうぞ!



 

 牙也side

 

 「…………あんたか。8年ぶり、だったか」

 シュラ「うむ、あの日からもうそんなに経つか…………」

 

 目の前にいる怪物――――『オーバーロード・シュラ』と話している間、俺は会っていなかった8年を思い出していた。世捨て人として生きていたその日々は、あまりにも大きな傷をその身に刻んでいた。女とすれ違うだけで呼び止められ、「目の前を歩いた」と言う理由だけで殴られたりした。

 とても払えないような値段の物を奢らされたりもしたし、酷いときには犯罪者に間違えられたりもした。とにかく沢山の屈辱を味わい、苦虫を噛み潰してきた。

 そしてそんな日々の中に、あまりにも多くの虐げられてきた人を見てきた。中には、力を求めてヘルヘイムの森に入り、怪物となって帰ってきた人もいた。その度に俺は思った。

 「この世界は、壊れてしまった」と。

 

 もちろん、その8年の間もアーマードライダーとして戦ってきた。しかし当時の俺は、家族を失った事もあってただ漠然とした意思で戦っていたから、時にはインベスに殺されそうになったりもした。女尊男卑の世による屈辱も重なりに重なって、篠ノ之神社に流れ着いた時には、体も心もボロ雑巾同然であった。

 しかし、そこで俺は長く味わっていなかった「温もり」を思い出した。そして初めて箒達の前で変身した日、俺は決心した。

 「俺は、あの日味わった温もりを守るために戦おう」と。

 

 

 

 

 

 

 シュラ「――――ねん、少年よ。どうかしたか?」

 

 我に帰ると、シュラがその鋭い目で俺の顔を覗き込んでいた。

 

 「ああ、悪い。あんたに会っていなかったこの8年を思い出していたんだ」

 そう言って、俺はベッドに寝転んだ。

 

 シュラ「そうか…………」

 シュラはそう言ったきり、黙り込んでしまった。

 

 「ところで、何の用で来たんだ?」

 シュラ「ああ、少し知らせたい情報があってな。それと、渡したい物がある」

 「知らせたい情報?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「最近この世界とヘルヘイムの森が繋がっている部分を調べてみたのだが、この世界側から無理やり繋げられた痕跡が見つかった。恐らく今回の一件は、此方側の人間が仕組んだ事だと思われる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………………………何?」

 その情報を聞いて、俺は思わず体を起こしていた。

 シュラ「その痕跡は、普通に見れば判別できないように巧妙に隠してあった。まあ私からすれば無駄な事だったがな」

 そう言って、シュラはベッドに座り直した。

 シュラ「まあ、此方側の世で有名なかの『天災』とやらの仕業ではあるまい。戦極ドライバーの解析が出来なかった者が、あそこまで巧妙に証拠を隠せる訳がない」

 「そうか……」

 俺は少し安堵の息を洩らした。だが、それだと疑問が残る。

 「…………とすると、誰なんだ?誰が、何のためにこの世界とヘルヘイムの森を繋げたんだ?」

 シュラ「それはまだ分からぬ。此方も引き続き調査を続けるが、万一の時も想像しておかなければなるまい」

 「………だな」

 

 黒幕が誰か分からない以上、安易には動けない。今後は水面下で調査するのが一番安全だ。

 

 「あ、話は変わるが、俺に何か渡したいものがあるって言ってなかったか?」

 シュラ「ああ、これを渡すのも、今回ここに来た目的だからな」

 そう言って、シュラは懐から黒くて四角いロックシードと赤いロックシードを取り出して、俺に差し出した。

 「これは……?」

 シュラ「いずれはそれの力を必要とするときが来るだろう。だから今のうちに渡しておく。今は使えぬが、時が来ればそのロックシードが目覚めるようになっている」

 

 シュラから受け取った二つのロックシードをみると、それには何のマークもない。試しに解錠してみたが、何も起きなかった。

 

 「…………なるほどな。今はただ持っておけ、ってか」

 シュラ「そう言うことだ。では、私は戻るとしようか。あまり此方には長居出来ぬのでな」

 そう言ってシュラは立ち上がり、クラックを開いた。

 

「あ、そうだ。シュラ、このロックシードを持ってきたのは、あんたなのか?」

 俺はチェリーロックシードをシュラに見せた。

 シュラ「ああ、少年が寝ている間にこっそりと付けておいた。よく寝ていたから、作業は容易かったぞ」

 「不法侵入だろうが!」

 シュラ「今さらではないか」

 「ぐっ…………」

 シュラ「まあ、今後もこっそりと付けておくかもな。使える力は少しでも多い方がいい」

 「………………はあ、分かったよ。ただし、あんたはなるべく姿を見せないようにしろよ。此方の世界の女は、あんたらインベスやアーマードライダーを敵視している。見つかったり捕まったら何されるか分からんよ」

 シュラ「分かっている。それではな」

 そう言ってシュラは帰ろうとしたが、急に振り向いた。

 

 シュラ「そう言えば、少年の名を今まで聞いてこなかったな」

 「そう言やそうだな。牙也だ、雷牙也」

 シュラ「ふむ。良き名を持ったな、牙也よ。それでは、また会おう」

 そう言ってシュラは今度こそクラックをくぐって帰っていった。

 

 

 

 

 

 シュラが帰っていくと、俺は急に脱力感に襲われた。

 (はあ、今日は色々ありすぎて疲れたよ。時間も遅いし、今日はもう寝るとしよう)

 そう思いつつ、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 





 シュラより渡された二つのロックシードの意味は………?

 次回、あの二人がIS学園に編入、そして牙也の周りには不穏な空気が……………………



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欲セル物、欲セヌ物
第12話 黒兎ト侵食者、邂逅ス



 早いもんで、もう原作2巻に入りました。
 フランスとドイツからの転校生。IS学園に、また新たな風が吹く……………………





 

 

 箒side

 

 久しぶりだな、篠ノ之箒だ。会議が終わった後、一晩の間私は改めて「戦う」事について考えさせられた。牙也が暴露したインベスの「正体」についての一言が、私の心に今も突き刺さっている。神社での一件の時は、恐らく私達を気にしてあえて言わなかったのかも知れない。だが、あの一言ほど胸に突き刺さった言葉は今までなかった。

 まさかインベスの「正体」が、  だったなどと――――

 

 

 千冬「――――――の、篠ノ之っ!」

 

 その言葉で、私は我に帰った。顔をあげると、千冬さんが出席簿を持って仁王立ちしていた。

 

 千冬「私が話している時にボケッと考え事か?人の話はちゃんと聞いておけ!」

 バシッ!

 

 「っ!…………すみません、ちふ――――織斑先生」

 千冬「…………はあ、気持ちは察するが、あまり気に止め過ぎるなよ。確かにあいつの暴露は衝撃的過ぎた。私もまだ整理がついていないからな。だが大事なときに、ショックで戦えません、何てことにはなってほしくないのだ。プレッシャーをかけるようで悪いが、あれを相手に対等に戦えるのは、お前達しかいないのだからな」

 

 そう言って、織斑先生は教壇に戻っていった。

 

 千冬「では山田先生、HRを」

 真耶「はい。皆さん、今日は転校生が来ています!それも二人です!」

 「え………………」

 『えええええええええ!!!!!!!!』

 

 ああもう、いつものごとく叫び声がうるさい。

 

 千冬「静かにしろ!」

 織斑先生の一喝で瞬時に鎮まった。

 

 真耶「それでは入ってきてください!」

 ??「失礼します」

 ??「………………」

 

 入ってきた二人の転校生は――――

 

 

 

 

 

 

 

 「金」と「銀」という表現がよく似合っていた。

 

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 ??「シャルロット・デュノアと言います。フランスの代表候補生をしています。日本での生活は初めてなので、迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

 シャルロットはそう挨拶して頭を下げた。クラスの女子からは、「よろしくね!」「何か手伝えることがあったら手伝うよ!」などの言葉が飛び交った。

 

 千冬「静かにしろ!まだもう一人いるのだぞ」

 真耶「み、皆さんお静かに~!」

 

 またも一喝で鎮まった。

 

 千冬「挨拶をしろ、ラウラ」

 ラウラ「はい、教官」

 千冬「そう呼ぶな、私はもうお前の教官ではない。ここでは先生と呼べ」

 ラウラ「はっ!」

 

 ラウラと呼ばれた少女は、

 ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 名前だけ名乗った。

 ラウラ「………………」

 真耶「え、えと、それだけですか?」

 ラウラ「それだけだ」

 

 淡白にそう言って、ラウラは春輝の席に近づいた。

 

 春輝「やあ、初めまして。これからよろ――――」

 ラウラ「っ!」

 バシッ!

 

 ラウラの右手が、春輝の左の頬を叩いた。春輝は突然の事に反応出来ず、ラウラの平手打ちの勢いで椅子から落ちた。

 春輝「いたた………………いきなり何しやがる!!」

 ラウラ「認めない。私はお前のような人間を、教官の弟とは認めない………………!」

 春輝「何だと!?」

 千冬「ラウラ、織斑、やめろ!」

 ここで千冬が仲裁に入った。

 

 千冬「ラウラ、お前の気持ちはよく分かるが、転校初日から問題を起こすのは頂けんな。織斑も、今はその怒りを抑えろ。あまり事は大きくなってほしくはないからな」

 春輝「……っ、千冬姉がそう言うなら……」

 ラウラ「申し訳ありません、教官」

 二人はそれぞれそう言って席に座った。次いでシャルロットも、指定された席に座った。

 

 そして、いつも通り授業が行われたが、ラウラはその間ずっと春輝を睨み付けていた。

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 「なるほど、そんな事が………………」

 千冬「ああ、私もこの事を危惧していたのだがな…………」

 

 夕方になり、俺は今日一組で起こったことについて千冬さんと話していた。

 

 「…………にしても、転校初日からそんな事出来るラウラって子に俺はびっくりしているよ」

 千冬「ラウラは私がドイツで教官をしていた時の教え子だ。初めて会ったときのラウラは、『出来損ない』やら『失敗作』やら言われていたようで、ボロボロだったんだ。それを、私が二年で一隊の隊長に昇格するまでに育て上げたのだ。それ故に、ラウラは私を心酔している。心からな」

 「だから、ラウラからすれば一夏達は千冬さんにすがり付く邪魔者でしかない、か………………」

 千冬「いや、どうやら邪魔に思っているのは春輝だけのようらしい。理由までは分からないがな」

 「へえ?」

 それっきり千冬さんは黙ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 俺は掃除のために、第3アリーナを訪れていた。表向きは用務員として雇われたのだから、ちゃんとそっちの仕事もしなけりゃならない。やれやれ、学園勤めも楽じゃないや。

 それに、ここ最近は生徒達の俺をみる目が変わってきたように思える。悪い方向で。事あるごとに睨んでくるし、酷いときは足を踏まれたり、平手打ちされたりする。予想はしていたが、ここまで酷いとはね。

 そんな事を思いつつアリーナのトイレの掃除をしていると、

 

 

 ドォォォォォォォォンッ!!!!!!!

 「あ?なんだ?ISが爆発でもしたか?」

 トイレから出たところで、

 

 箒「牙也!」

 

 振り向くと、箒が此方に走ってきた。

 「何かあったのか?」

 箒「ラウラが鈴とセシリアに喧嘩を売ったようだ!二人が応戦したが、大きく押されている!このままでは二人が危ない!」

 「何だと!?織斑先生にこの事は伝えたのか?」

 箒「シャルロットに呼んでくるように頼んでおいた。すぐに駆けつけるだろう」

 「そうか、それなら良い。俺達はラウラを止めにいくぞ!」

 箒「変身するか?」

 「そうでもしなきゃ、ラウラは止められまい!何せ代表候補生二人を圧倒してんだぜ!?」

 箒「違いない!そうと決まれば!」

 「おう!行くぞ!」

 俺達はアリーナに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 牙・箒「「変身!!」」

 

 

 

 

 

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 『ハイー!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!』

 

 

 

 

 二人の鎧武者が、再びアリーナに降り立つ。

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラside

 

 私は今、二人のIS使いにレールカノンを向けている。イギリスと中国の代表候補生だったか、その目はまだ死んではいない。だが、彼女らの使うISはすでにあちこちが損傷し、機械部分が所々露出している。

 鈴「くっ、ここまで強いだなんて………………」

 セシリア「まだ、倒れる訳には………………!」

 「ふっ、貴様等は所詮その程度の実力なのだ。安い挑発に乗ってしまった自分達の愚かさを呪うがいい!」

 私は二人に向かってレールカノンを―――――

 

 

 

 

 

 

 牙也「――――――させねえよ」

 

 

 

 

 

 

 撃とうとしたところで、レールカノンの正面に誰かが立ち塞がった。

 その人物は、全身を赤のスーツと紫の鎧で覆い、その手には薙刀といったか?刀身が湾曲した槍にも似た武器を持っていた。

 

 「来たか……………………」

 

 私は確信した。こいつが、そうだ。この学園に転校する前に、ドイツ軍を、私達を助けた紫の鎧武者。ドイツ軍のとある施設に突然現れた怪物を、一瞬にして倒した戦士。そして、今の声。間違える訳がない。忘れる訳がない。今、目の前に立っているこの鎧武者の、その名を、その姿を――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アーマードライダー、蝕……………………!」

 

 

 

 

 ラウラside end

 

 

 

 

 

 





 はい、ラウラと牙也が対峙しました。

 次回、ラウラと牙也のバトル。
 そして、あの大会が目前に迫る――――――


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第13話 力ヲ持ツ意味、欲スル意味



 牙也vsラウラ、開始。

 新たなロックシードがお目見えします。

 では、どうぞ。


 

 

 牙也side

 

 アリーナに出た時には、そいつは両肩に装備されたレールカノンと言う武器を鈴達に向けていた。俺達は急いでそいつの前に立ち塞がった。そいつは俺を見るなり、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

 ラウラ「久しぶりだな、アーマードライダー蝕よ」

 「!?お前なぜその名を…………ってお前、いつかのドイツ軍の黒兎の長じゃねえか!なら知ってて当然か…………」

 箒「牙也、ラウラを知っているのか?」

 「一年前にな。ドイツを旅してた時に、軍の研究施設にクラックが開いた事があってな。その時に知り合った」

 その時、クラックが大量に開いた事で、ドイツ軍は大混乱を起こしていたが、唯一ラウラが率いていた部隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」だけはクラックから出現したインベスに果敢に立ち向かった。しかし、IS武装の効かないインベスの前に、部隊は壊滅寸前まで追い込まれた。

 そこに、クラックの出現を察知した俺が乱入してインベスを掃討した、と言うわけだ。

 

 

 箒「だが、ラウラは随分お前を敵視しているようだが………………」

 「さあ、何でだろうな」

 箒「インベスを掃討した後に、何かあったのではないのか?」

 「何かあったかと言われてもな…………ああ、ラウラが喧嘩を吹っ掛けてきたから返り討ちにしたな」

 箒「……………………絶対それだ」ガクー

 箒は頭を抱えていた。なぜだ。

 

 ラウラ「あの時の屈辱、ここで晴らす!私と戦え!」

 (………………いやだと言っても、聞く耳は持ってそうにないな)

 内心で俺も頭を抱えていた。やれやれ。

 

 「取り敢えずは、鈴達を避難させなきゃな」

 箒「では、それは私に任せろ。お前はラウラの相手をしてやれ」

 「あ、もう決定事項なのね……………………」

 

 箒は変身を解除すると、近くにいた人に救援を頼み、鈴達をそれぞれタンカに乗せてアリーナを出ていった。

 

 「はあ、やれやれ。分かったよ、お望みなら相手してやる。来いよ」

 ラウラ「…………今度こそ、貴様に勝つ!」

 

 かくして、喧k――――もとい戦いが始まった。

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 蝕とラウラの戦いを、アリーナにいる生徒はじっと見据えていた。

 ラウラがレールカノンからビームを撃つと、蝕はそれを紫炎で切り裂いた。そしてそのまま、ラウラに向かって紫炎を突き出した。ラウラはそれを右手のプラズマ手刀で弾き、怯んだ蝕の体に蹴りを加えたが、これはギリギリ避けられた。蝕は一旦距離を取り、再び紫炎を構えて突進した。しかし、ラウラが右手を蝕に向かって突きだすと、突然蝕の動きが止まった。

 牙也「これは……………………前は使わなかった能力だな」

 ラウラ「これは我がドイツが誇るAIC(アクティブ・イナ―シャル・キャンセラー)!貴様は、AICの前に屈伏する運命なのだ!」

 そのままラウラは、蝕に向かってビームを放った。身動きが取れない蝕にはこれは避けられず、これをもろに食らって吹き飛ばされた。

 牙也「いてて…………そのAICとやらは、中々厄介だな。さて、どうするか………………」

 ロックシードを漁っていた蝕は、一つのロックシードに目をつけた。

 

 牙也「そう言えば、まだ使ったことのないロックシードがあったな。じゃ、使ってみるか!」

 そう言いつつ、蝕はそのロックシードを解錠した。

 

 

 

 『アーモンド』

 

 

 

 頭上のクラックから現れたのは、巨大アーモンド。

 

 

 

 『ロック・オン!』

 

 牙也「使える力はどんどん使えってな!」

 

 

 

 『ソイヤッ!アーモンドアームズ!Breaker of Drill!』

 

 

 

 蝕は『アーマードライダー蝕 アーモンドアームズ』に変身。

 ドリルランス『アーモンドリル』をラウラに向け、不敵な笑みを浮かべた。

 

 牙也「さあ、破壊の宴の始まりだ………………!」

 ラウラ「ふん、姿が変わっただけで!」

 

 ラウラは両肩からワイヤーブレードを射出してきた。蝕はドリル部分を回転させることでこれを弾き、ランスを正面に向けて再びラウラに突進した。しかしラウラは、またもAICでその動きを止めた。

 

 ラウラ「ふん、学習能力のない奴だな!食らえ!」

 ラウラは嘲笑して、レールカノンを――――――

 

 

 

 

 

 

 牙也「――――――誘いに乗ってくれて、ありがとうよ」

 ドゴオオオオオオオオン!!!!!

 

 

 

 

 撃とうとしたとたん、レールカノンが突然爆発した。

 ラウラ「何!?一体何が―――――」

 実は、アーモンドリルは先端を射出する事が出来、蝕はこれでレールカノンを貫いたのだ。しかも、AIC発動の為に前に突き出していた腕が邪魔してラウラには射出の瞬間が見えなかったため、ラウラにはレールカノンが突然爆発したらように見えたのだ。これは、ラウラの気を反らせるには充分だった。

 牙也「――――軍人が隙を見せるって、どうよ?」

 

 ラウラが気付いた時には、その首筋にはランスの先端が突き付けられていた。

 

 ラウラ「ぐっ!」

 牙也「お前の、負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「何故だ、何故ドイツが誇るこの力を持ってしてもお前に勝てない!?」

 膝をついてそう叫ぶラウラの目は、涙で濡れていた。

 牙也「お前は…………」

 ラウラ「?」

 牙也「お前は、何故力を欲する?俺には分からない、それだけの力を持っていながら、何故さらに力を欲するのだ?」

 蝕のその問いかけに、ラウラは涙を拭って言った。

 ラウラ「簡単なこと、この世においては力こそ絶対!だからこそ、私は力を欲するのだ!それが何故貴様には分からぬ!?」

 牙也「分からねえな」

 蝕はラウラの言葉をバッサリ切り捨てた。

 

 

 牙也「力ってのはな、どれだけの量があっても、どれだけの重みがあっても、それ以上の力があれば簡単に押し潰される物だ、あまりにも脆い物なんだ。どれだけの強さを持っていたとしても、いずれはそれ以上の物にあっさりと負けてしまう。今のお前のようにな」

 

 

 そう言って蝕は変身を解除し、牙也に戻った。そして、ラウラを一瞥してアリーナの出口へ歩き出した。

 ラウラ「待てッ!まだ勝負は――――――」

 牙也「今のお前じゃあ、俺には『一生』勝てんよ。お前が俺に勝ちたいって言うのなら―――――」

 そこで一旦言葉を切り、牙也はラウラに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「『力が欲しけりゃ、力を欲するな』この言葉の意味を、よく考える事だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「…………………………何?」

 そう言って、牙也はアリーナを出ていった。残されたラウラは、牙也の言葉を心の中で反芻していた。

 ラウラ(『力が欲しければ、力を欲するな』?どういう意味だ……………………?)

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 千冬「ラウラを止めるためとは言え、あれはやり過ぎだ、馬鹿者」

 「ぐっ…………すいません」

 時刻は既に21時を過ぎ、外はすっかり真っ暗。現在俺は、部屋で千冬さんに説教されてます。あの騒ぎの後で千冬さんがやって来て、生徒全員に学年別トーナメントまで「私闘禁止」を通告したそうだ。まあさすがにこれ以上は怪我人は増えてほしくないからねえ。

 鈴とセシリアは、ISのおかげで怪我こそ軽かったものの、ISの損傷が激しく、学年別トーナメントの出場を辞退する事になった。さっきお見舞いに行ったが、とても悔しそうだった。

 千冬「まあ、今回は大目に見てやるが、次はないと思えよ」

 「申し訳ないです」

 そう言って、千冬さんは部屋の冷蔵庫に向かい、中からお茶のペットボトルを取り出して飲んだ。

 

 千冬「そう言えば、ラウラから聞いてみたのだがな、春輝を恨み、一夏を恨まぬ理由を」

 「へえ、何だったんです、その理由ってのは?」

 千冬「……調べたらしいんだ、一夏の経歴を」

 「!」

 千冬「一夏の経歴を見て、あいつも思うところがあったらしい」

 「ラウラは一夏と自身を繋げてみたんですかね?」

 千冬「恐らくそうだろうな。ラウラも一夏も、『出来損ない』の烙印を押されていたから、共感したのだろう」

 そう言って、千冬さんはペットボトルを持ったままベッドに腰かけた。

 「一度付けられたレッテルは、そう簡単には剥がせない。ラウラが力を欲するのも、頷けるな」

 千冬「うむ、だが私は教官時代に、ラウラに大事なことを教え忘れていたよ…………それだけは、未だに後悔している……」

 「大事なこと?」

 

 

 

 

 

 

 千冬「人として生きることの、喜びと言うものを、私は教えていなかったのだ………………」

 

 

 

 

 

 そう呟く千冬さんの顔は、どこか悲しげで、自責の念がその顔に映っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 






 牙也がラウラに言い放った言葉の真意は――――ー?


 次回、学年別トーナメント、開幕――――――。



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第14話 重ナル思イト、近ヅク戦



 タッグトーナメントまでの幕間を軽く執筆。

 本気の戦いの前とは、こんな風な空気なのかな………………という想像を交えて書きました。

 では、どうぞ。



 

 三人称side

 

 あの騒ぎが起こった日の夜、騒ぎの当事者であるラウラは、部屋のベッドに腰かけて考え事をしていた。

 ラウラ(『力が欲しいなら、力を欲するな』だと?あまりにも矛盾している……一体奴は何を思ってそんなことを私に……)

 シャルロット「ラウラ、何か考え事?」

 すると、ルームメイトのシャルロットが話しかけてきた。ラウラは、今日自分が起こした騒ぎの事、その中で蝕―――牙也から言い放たれた言葉について話した。

 

 シャルロット「『力が欲しいなら、力を欲するな』か……彼は何をラウラに教えようとしてるんだろうね……」

 ラウラ「奴の言いたい事は、到底私には理解出来ない。無視するのが一番だろうが……何故だろうか、どうも胸に引っ掛かるのだ、その言葉が」

 シャルロット「うん、実は僕もその言葉がどうも引っ掛かって……(何処かで聞いたことがあるような…………うーん、思い出せないな)」

 シャルロットはシャルロットで、その言葉が過去の記憶にあるようだが、詳しくは思い出せていなかった。

 ラウラ「シャルロットは、何か覚えがあるのか?」

 シャルロット「え?あ、うん。だけど思い出せないんだ。聞き覚えはあるんだけど……」

 ラウラ「そうか……」

 それっきり二人は黙りこんでしまった。

 

 

 

 

 

 次の日。

 牙也は楯無に呼び出されて、生徒会室に向かっていた。

 (楯無直々の呼び出しとはな、何かあったか?)

 そう考えつつ、気が付けば生徒会室に来ていた。

 

 

 コンコンコン――――――

 

 楯無『入って、どうぞ』

 

 ガチャッ、キイ―――――――

 

 牙也「邪魔するぞ」

 楯無「邪魔するならお帰りください」

 牙也「はいよ~~って、お前が呼んだんだろうが!?」

 楯無「あら、冗談よ、怒らない怒らない」

 楯無が手に持つ扇子には、達筆で『お上手♪』と書かれていた。

 牙也「まったく。悪ふざけは妹さんか虚さんの前だけでやってくれよな」

 楯無「それ私に死亡フラグ立つんですけど!?」

 牙也「別に問題なくね?」

 楯無「辛辣!何?さっきのお返し?」

 虚「…………お嬢様、そろそろ本題に…………」

 いつの間にやら、虚が楯無の横に立っていた。

 

 楯無「そ、そうね。さて牙也君、貴方を呼んだのは他でもないわ、これについてよ」

 そう言って、楯無は一枚のプリントを牙也に手渡した。

 牙也「『学年別タッグトーナメント』?」

 楯無「そう、各学年それぞれで行われる毎年恒例の個人トーナメント戦。ただし今年はインベスの一件もあって、複数人での連携を見るという目的のもと、タッグトーナメントに変更されたのよ」

 牙也「へえ。で、これと俺に何の関係が?」

 楯無「大有りなのよ、牙也君。実は最近、IS委員会から通告があって、『アーマードライダーのベルトとロックシードのデータをこちらに送って欲しい』だって」

 牙也「はあ?何でまた………………」

 楯無「大方、委員会で解析する気なのよ。解析出来れば、対インベスの武具が作れるかもしれないって考えたんでしょう」

 牙也「やれやれ、束さんでも解析出来なかった物が、他のやつらに解析出来る訳ないってのに………………それで?あんたは俺にこれに出場しろと言いたいのか?」

 楯無「いえ、出場というよりは、ゲスト登場してもらいたいのよ」

 牙也「ゲスト登場?」

 楯無「そう、つまり――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 鈴「何なのよ、それ――――っ!」

 セシリア「ああ、私も出場したかったですわ――――っ!」

 

 生徒会室での話を、現在医務室に入院中の鈴とセシリアに伝えると、二人揃って廊下まで響く程の大音量で叫んだ。

 

 「俺に文句を言われてもな…………俺もさっき聞いたばっかだし」

 鈴「それでもよ!ああ、こうなるんだったらあの挑発に乗るんじゃなかった~~!」

 セシリア「残念ですわ、折角貴方と戦える数少ないチャンスだったというのに…………」

 「まあ、今回はタイミングが悪かったと思え。後、そのタイミングをみすみす逃したのは自分等だってことも忘れるなよ」

 鈴・セ「「うう…………」」(涙)

 「それに、今回のタッグトーナメントは対インベスも考慮しなけりゃならんって言うのは粗方予想がついただろうに」

 鈴・セ「「それは言ってほしくなかったわ(ですわ)……………」」ショボーン

 「ま、ともかくお前ら二人はさっさとその怪我治すことに専念しろよ。んで、トーナメント見に来い。学ぶことは沢山あるはずだ」

 鈴「分かってるわよ!」ノシ

 セシリア「トーナメント、頑張って下さいまし!」ノシ

 「いや頑張れって………………俺が出る訳じゃないんだがな……………………」

 苦笑を返しつつ、俺は医務室を出ていった。

 

 

 箒「なるほど、お前が………………ならば私も出ることになるのか?」

 自分の部屋に帰る途中、箒と会ったので鈴達と同じく生徒会室での話を伝えた。箒はやはりそれほど驚いていなかった。

 「いや、出るのは俺一人だ。箒はクラス対抗戦と同じく警備に回る予定らしい」

 箒「そうか。だが、いつでも動けるようにしておかねばな」

 「ああ」

 箒「しかし、まさかこんな形で私達アーマードライダーとISが戦う事になるとはな」

 「全くだ。だが、いずれはこんな日が来てもおかしくはなかった」

 箒「いつかは戦わなければならないだろうとは思っていたが………………」

 そう言って、箒は俺が渡したタッグトーナメントのプリントに目を落とした。そこには、

 

 

 

 

 

 『なお、各学年の優勝タッグは、アーマードライダーとの模擬戦を行うものとする』

 と書かれていた。

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 三人称side

 

 タッグトーナメントまでの間、学園はピリピリとした雰囲気に包まれていた。それもそのはず、トーナメント出場者は、様々な思いをその胸に秘めていた。

 

 シャルロット「アーマードライダー…………彼らと戦えば、何か思い出せるかも………………」

 ある者は、自身の欠けた記憶を求め、

 

 ラウラ「次だ…………次こそ、奴を倒す…………私のこの絶対的な力で…………!」

 ある者は、アーマードライダーとの再戦を目指し、

 

 簪「彼は、何故戦うの…………?何故そんなに強いの…………?知りたい、彼の強さの秘訣が…………」

 ある者は、その強さを知り得るため、

 

 春輝「僕のハーレムを邪魔しやがって…………僕の栄光を否定しやがって…………絶対に許さない、あいつはこの手で叩き潰してやる…………!」

 ある者は、己の欲望のため。

 

 

 

 様々な思いが交差し、そして――――――

 

 

 

 

 

 

 

 『学年別タッグトーナメント』が、ついに開幕した。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 






 次回、ISの実力者達が無双開始。

 そして、シュラの調査にも進展が――――――



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第15話 戦ノ開幕ト、血眼ノ武者

 タッグトーナメント、開幕ッ!!!!

 ゲネシスドライバー、完成ッ!!!!

 いやはや、やっと出せるよ。ジンバーが。

 では、どうぞ!



 三人称side

 

 IS学園の生徒には待ちに待った『学年別タッグトーナメント』がやって来た。しかし、今回は今までとは訳が違う。前回の『クラス対抗戦』において起こった、『インベス』という怪物の襲撃。現行のISでは歯が立たず、その後現れた二人の『アーマードライダー』によって全て撃破されたものの、その無力さを痛感(まだ現実を見ていない者もいるが)。自分達でも何とか彼らの力になろう、ということでまずは各人の連携面に焦点を当て、いかに弱点をカバーするかという点を考えることになった。各国から招待されたVIPや研究者達も、あの騒動が耳に入ってからは如何にして自分達のみでインベスに対処するか模索するために来ているようなものである。

 出場生徒は、それぞれでタッグを組む人を決めるか、当日の抽選に委ねるかを選び、トーナメントに出場する。そしてその中で優勝タッグを決め、彼らは後に『アーマードライダー』と戦う事になる。

 出場者が待機しているピットは、どこもピリピリとした雰囲気に包まれていた。まあそうだろう。このトーナメントで優勝すれば、現状IS学園において最大の戦力とも言える『アーマードライダー』と戦えるのだ。各ピットの選手達の心は、緊張と興奮で満たされていた。

 

 そんな中、とあるピットの一室では、ピリピリという表現が似合わないほどの殺気を出している選手がいた。長い銀髪に右目の眼帯がよく目立つ少女は、ご存知ラウラ・ボーデヴィッヒである。

 ラウラ(ようやくこの日が来た…………このトーナメントをさっさと制して、奴を今度こそ倒してくれる!)

 そしてこの部屋の外では、ラウラが出している殺気が怖くて中に入れない選手がいた。生徒会長・更識楯無の妹、更識簪である。抽選の結果、ラウラと簪がタッグを組む事になったが、ラウラは簪とはほぼ一言も喋らなかった。簪が作戦について聞くと、

 ラウラ「貴様は後ろに下がっていろ。私一人でやる。助力など必要ない」

 とあっさり切り捨てられ、最早タッグとしての形など無いも同然だった。

 簪(うう……あの人殺気出してばっかりで、何か怖いよ……話しかけづらい……)

 

 牙也「どうかしたか?」

 簪「ひゃんっ!?」

 簪の後ろに、いつの間にか牙也が立っていた。

 簪「あ、牙也、さん……お久しぶりです……」

 牙也「おお、久しぶり。こんなとこでなにしてんだ……って、この殺気はまさか…………」

 簪「は、はい。ラウラさんが、中に…………」

 牙也「簪はラウラとタッグなのか?」

 簪「はい、ですがちょっとこの殺気が、怖くて……何とかなりませんか?」

 牙也「勘弁してくれ、多分俺が入るとあいつ余計に殺気が強くなるぞ」

 簪「そ、そうですか…………」

 ラウラ「部屋の前で、何をこそこそと話してるんだ?」

 簪「キャッ!?」

 突然部屋からラウラが出てきた。

 牙也「よお、ドイツの黒兎。簪がお前の殺気が怖いってさ」

 ラウラ「ふん、これくらいで怖じ気づくとは、随分と弱そうな奴だな。全く」

 牙也「お前基準で物を言うなよ。とにかく、連携の一つは取れよ」

 ラウラ「そんなもの必要ない。私一人で充分だ。まあ貴様は、やられたくなければせいぜい後ろで縮こまっている事だな」

 そう言って、ラウラは行ってしまった。

 牙也(あの調子じゃ、俺の言葉は届いてないな。何か起きなければいいが…………)

 簪「どうか、しましたか?」

 牙也「ん?ああいや、ちょっと考え方をな。簪、ちょっと頼めるか?」

 簪「?」

 牙也「試合中、ラウラの事を気にかけてほしいんだ。あの調子じゃ、あいつはいつかは痛い目を見る。難題を突きつけてるようで悪いが、こんなこと頼めるのは、ラウラとタッグの簪、お前だけなんだ」

 簪「……分かりました。出来る限りの事はします。その代わり、一つ約束してくれませんか?」

 牙也「約束?なんだい?」

 意を決して簪は言った。

 簪「私達のタッグが、もし、優勝したら…………貴方のその強さについて、教えてくれませんか…………?」

 

 

 

 

 

 

 箒「(試合前、異常なし、か)姉さん、一夏、様子はどうだ?」

 一夏『こっちは今のところクラックの反応は無しだ。束さんの方は?』

 束『ハイハイ、こっちも異常なしだよ、いっくん、ほーきちゃん』

 箒は警備担当としてアリーナをまわりつつ、時々一夏や束と連絡を取り合い、報告を行っていた。

 箒「そうか。では引き続き頼んだぞ、一夏、姉さん」

 一夏『了解』

 束『束さんにおまかせ♪』

 そう言って、箒は連絡用スマホの電源を切った。

 箒(出来ることなら、このまま何も起こらなければいいのだが)

 そんな事を考えながら第1アリーナに入ると、ちょうど一年生のトーナメント表が発表されるところだった。

 箒「さて、トーナメントはどうなったかな?」

 箒が電光掲示板を見ると、

 

 

 

 一回戦第3試合

 

 織斑春輝&シャルロット・デュノアペア

           vs

        一般生徒ペア

 

 一回戦第6試合

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ&更識簪ペア

           vs

        一般生徒ペア

 

 

 だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一回戦第3試合

 織斑春輝&シャルロット・デュノアペアvs一般生徒ペア

 

 春輝「シャル!」

 シャルロット「任せて!」

 

 ガガガガガアン!!!!

 

 シャルロット「春!今だよ!」

 春輝「よし!」

 

 ザシュッ!!!!

 

 このペアはいつの間に其処まで仲良くなったのか、お互い愛称で呼び会いつつ、見事な連携を見せていた。具体的に言うと、春輝が前線で戦い、シャルロットが彼女の得意技「高速切替(ラピッド・スイッチ)」を活用して中~遠距離をカバーするという、オーソドックスな方法だ。

 春輝のIS『白式』は、武装が近接ブレード『雪片弐型』のみというピーキーな機体なので、飛び道具の豊富なシャルロットのIS『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』とのペアは見事に大当たりした。

 二人の見事な連携の前に、あっという間に一般生徒ペアはISのシールドエネルギーが0になった。

 

 

 

 

 

 一回戦第6試合

 ラウラ・ボーデヴィッヒ&更識簪ペアvs一般生徒ペア

 

 ラウラ「はあっ!」

 

 ドオオオオンッ!!!!

 

 ラウラ「ダアッ!」

 

 ガガガガガガガガッ!!!!

 

 こちらは、先ほどのペアとは対照的に、連携の「れ」の字もない有り様だった。何故なら、IS『シュヴァルツェア・レーゲン』――――ラウラが単独で無双していたからだ。

 ワイヤーブレードを振り回して牽制しつつ、AICで掻い潜ってきた敵を足止めしてレールカノンで撃ち抜く。ただそれを繰り返すだけの単純作業であった。

 しかも、対戦相手の一般生徒ペアは二人揃ってラウラにのみ攻撃しているため、IS『打鉄弐式』――――簪の方には全く攻撃が来なければ、そもそも敵の一人も来ない。ラウラが一般生徒のISのシールドエネルギーを0にする最後の時まで、簪は涙目だった。

 

 

 

 二回戦、準々決勝もこの二つのペアは同じように勝ち進み、その日のトーナメントは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、こちらはヘルヘイムの森。その中にポツンと建っていた一軒家。

 シュラ「ふう、やっと完成したか」

 そう言って安堵のため息をついたのは、オーバーロード・シュラだ。彼が先程まで何か作業をしていた机には、戦極ドライバーとは違うベルトが置いてあった。その名を、『ゲネシスドライバー』と言った。

 シュラ「よし、試しに使ってみるかな」

 そう言ってシュラはベルトを腰に付け、懐から普通のロックシードとは違う、透明感のあるロックシードを取り出して解錠した。

 

 

 『イーヴィルエナジー』

 

 

 くぐもった音声が流れ、シュラの頭上には血のように赤黒い巨大リンゴが現れた。シュラは解錠したロックシードをベルトに施錠し、『シーボルコンプレッサー』を押し込んだ。

 

 

 『ロック・オン!』

 

 シュラ「…………変身」

 

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood eyes!Blood eyes!D-D-D-Deadly souls!』

 

 

 音声と共に、リンゴはシュラの頭に被さり、鎧となって展開された。そこに立っていたのは、血のように赤黒いスーツと、同じく血のように赤黒い着物のような鎧をその身に纏った、まさしく「死神」の名が相応しい鎧武者だった。

 

 シュラ「…………ふむ、エネルギーの全身供給等、性能面は問題ないな」

 

 そう言いつつ、鎧武者――――――『アーマードライダー赤零(せきれい)』は外に出て、その手に持った弓形の武器、ソニックアローを構えると、一本の木に向かって矢を射った。

 

 シュラ「そこに隠れている者達よ、大人しく出てこい。さもなくば……」

 

 そう言ってもう一度ソニックアローを構えると、一本の木の陰から三人の女が出てきた。

 

 ??「やれやれ、まさか尾行がバレているなんてね」

 女の内、大きな胸と細くくびれた腰、そして艶やかなヒップラインをした長身長髪の女が自嘲するように言った。

 もう一人、最初の女と同じくらいの背丈の女は、オレンジ色の長髪にタンクトップとジーパンを着ており、さらにもう一人の小柄で黒髪の女――――いや、少女と言うべきか――――は、露出度の高い青色のISスーツを着て、その上から黒のローブを羽織っていた。

 

 

 

 ?「初めまして、ヘルヘイムの森を支配する『オーバーロード』」

 

 

 

 

 

 亡国企業(ファントム・タスク)の戦闘部隊の三人―――――スコール、オータム、M(織斑マドカ)とオーバーロード・シュラが、今、初めて邂逅した。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 オーバーロード・シュラと亡国企業(ファントム・タスク)が、遂に接触。スコール達の思惑は――――?

 次回、タッグトーナメント一年生の部、決勝戦。
 そして会場には、何やら不穏な空気が………………。



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第16話 決勝戦、開始ノ鐘



 いよいよ決勝戦!

 アーマードライダーとの戦いの場に立てるのは、果たしてどちらのペアなのか!?

 まあ今回では決まりませんがね。



 

 

 三人称side

 

 タッグトーナメント一日目が終わり、今はすっかり日が暮れて夜になっている。勝ち残った選手達や警備担当の生徒・教員はつかの間の休息をしていた。トーナメントは準々決勝まで終わり、明日は準決勝からだ。各人は体を休めたり、自身の専用ISを整備したりと、それぞれのやるべき事を行っていた。

 そんな中、牙也は校舎の屋上でオーバーロード・シュラと話をしていた。

 

 

 牙也「亡国企業(ファントム・タスク)が?」

 シュラ「うむ、私に接触してきた」

 

 シュラの報告に、牙也は怪訝な表情を見せた。

 

 牙也「奴ら、何のためにあんたと接触を図ったんだ?」

 シュラ「私に接触してきたのは、亡国企業の戦闘部隊を率いている女達だった。彼女らによると、どうやら亡国企業もインベスについて調べ始めたらしい。つい最近までは世界各国でクラックが確認されていて、その度に奴らはその調査に行っていたようだ」

 牙也「それがここ最近、クラックの出現がIS学園に集中し始めたから、何かあると考えてあんたと接触を図ったってか?亡国の人らも暇人だねえ」

 そう言いながらも、牙也には少しの不安が頭をよぎった。

 シュラ「まあ、これでこの一件の黒幕の候補が一つ消えたな。今になってインベスについて調べ始めた所が、こことヘルヘイムの森を繋げられる訳がない」

 牙也「だな。こっちも今のところ大きな被害とかは出てないし…………向こうさんもここにアプローチして来ないからな」

 シュラ「ああ。しかしこれで調査は振り出しか…………面倒だから亡国にも手伝ってもらおうか?」

 牙也「おい馬鹿やめろ。それはそれで不味いやつだ。各国でテロを起こしてるようなとこにこれの技術が流れたら、大変な事になるぞ」

 そう言って、牙也は懐から戦極ドライバーを取り出した。

 シュラ「あ、そうそう、それを見て思い出した。新しいドライバーが完成したんだ、見るか?」

 牙也「新しいドライバー?」

 シュラは懐から戦極ドライバーとは違う別のドライバーを取り出した。

 牙也「これは…………?」

 シュラ「これは『ゲネシスドライバー』。この『エナジーロックシード』を使う為のベルトだ」

 シュラはさらに懐から『イーヴィルエナジーロックシード』を取り出した。

 牙也「新たなアーマードライダーの登場か…………また混乱が起こるなぁ………………」トオイメ

 シュラ「そう言うな。私もこれから参戦する。それまでは何とか頼むぞ」

 牙也「ああ、分かってる」

 シュラ「それと、お前にこれを渡しておこう」

 シュラはさらに、何かを取り出した。それは、ゲネシスドライバーのコアの予備であった。

 牙也「これ、ゲネシスドライバーの…………?」

 シュラ「コアの予備だ。新しいフォームに必要なものでな、これをここのプレートの部分に付けるんだ」

 そう言ってシュラはおもむろに牙也の戦極ドライバーを取り上げ、鎧武者の横顔が描かれたプレートを取り外し、新たにゲネシスコアを取り付けた。

 牙也「は~~~。それで?」

 シュラ「新フォームには、通常のロックシードと共にエナジーロックシードを使う。このゲネシスコアに付けるんだ。いくつか持っていけ」

 シュラは牙也に、別のエナジーロックシードを合わせて四つ手渡した。

 シュラ「オレンジ、バナナ、ブドウ、マツボックリのエナジーロックシードだ。それとコアをもう一つ付けておく。彼女に渡しておいてほしい」

 牙也「了解……って、あんた人前に出るときどうすんだよ?それで出るわけにはいくまい?」

 シュラ「心配するな。この姿でいく」

 そう言ってシュラが人間態に変化した―――――。

 

 

 牙也「お前…………」アタマカカエ

 

 

 その姿に牙也は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 タッグトーナメント二日目を迎え、第1アリーナで行っていた一年生の部は、早くも決勝戦を迎えようとしていた。

 決勝戦のカードは、

 

 

 

 織斑春輝&シャルロット・デュノアペア

          vs

      ラウラ・ボーデヴィッヒ&更識簪ペア

 

 

 となった。ある意味予想通りである。

 各ペアはすでにアリーナに出てきており、軽口を叩きあっていた。

 ラウラ「フッ、貴様らなど恐れるに足らん。私一人で叩き潰してくれよう!」

 春輝「そんな事言ってていいのかい?これで負けたら恥だよ?」

 シャルロット「春、ちょっと落ち着いて………………」

 簪「ラ、ラウラも………………」

 既に春輝とラウラの間で火花が散っており、それをシャルロットと簪が必死に抑えている状態だが、

 

 

 ラ・春「「シャルロット(貴様)は黙っていて(ろ)」」ギロリ

 シャ・簪「「は、はい………………」」(涙)

 

 

 効果なし。逆に二人を煽ってしまっている。

 

 

 そうこうしている間に、試合開始のカウントダウンが始まった。

 

 Three―――――

 

 ラウラ「フッ、まずは貴様から叩き潰してくれよう!」

 

 Two―――――

 

 春輝「それは僕の台詞だよ!君こそ僕に叩き潰されろっ!」

 

 One―――――

 

 簪「…………お互い…………苦労してるね…………」

 シャルロット「あ、あはは…………そうだね…………」

 

 Go!!!!

 

 タッグトーナメント一年生の部、決勝戦が遂に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 試合は、最早タッグ戦ではなく個人戦そのものだった。春輝とラウラが単独でぶつかり合い、シャルロットと簪は遠くから傍観している。

 ラウラはレールカノンで春輝を狙い撃ち、春輝はそれを次々避けている。そして隙が出来れば、春輝は突撃する『ふり』をしてフェイントを誘うが、ラウラには効果はない。

 ラウラ「ふん、そんな幼稚な策に乗るとでも思ったか!?」

 ラウラは春輝に向かってレールカノンを数発撃ち込んだ。

 春輝はギリギリ避けるが、避けきれなかったのか1~2発被弾した。

 春輝「ちいっ!」

 ラウラ「ふん、早く私の懐に入ってこい!このままではつまらないままだぞ!?」

 すると春輝は何か策があるのか、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、雪片弐型を片手に持ってラウラに突撃した。

 ラウラ「愚かな!」

 案の定ラウラは右手を突き出してAICを発動し、春輝の動きを止めた。

 ラウラ「さあ、捕らえたぞ!今度こs―――――《ガガガガガガアンッ!!!!》ぐあっ!?」

 突如銃撃音が鳴り響き、ラウラが一瞬怯んだ。その隙を春輝は見逃さず、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気にラウラとの距離を縮め、連続で切り裂いた。

 

 ザシュッ!

 ラウラ「があっ!」

 

 ザンッ!

 ラウラ「ぐあっ!」

 

 ズバッ!

 ラウラ「グウッ!く、くそッ!」

 

 春輝はそのまま、息もつかせぬ連続攻撃をラウラに加えた。戦況は、徐々に春輝有利に傾いていた。

 

 

 

 

 

 

 簪「今、一体何が…………?」

 遠くから傍観していた簪は、突然の銃撃音でラウラが怯んだことに驚きを隠せないでいた。

 シャルロット「隠し銃だよ」

 すると、隣で同じように傍観していたシャルロットが、説明を始めた。

 

 シャルロット「僕は試合前に、春輝にこっそりハンドガンを一丁手渡しておいたんだ。もちろん、彼のISでも使えるように設定してね。そして、春輝の突撃をラウラがAICで止めたとき、春輝はラウラの死角から銃を撃ったんだ。ラウラのAICは、対象に集中を向けておかないとすぐに効果が切れる。だから、他の遠距離攻撃で集中出来なくすれば、ラウラに簡単に近づけるって考えたんだ。結果は見ての通りだよ」

 シャルロットは春輝達の戦いに目を向けた。その戦況は、やはり春輝が有利である。

 

 簪「くっ、早くこの事をラウラに―――――」

 シャルロット「そうはさせないよ」

 シャルロットは逃すまいと簪に向けてアサルトライフルを撃った。簪は突然の事に反応できず、銃撃をもろに食らった。

 シャルロット「今の話をラウラに伝えさせるわけにはいかない。そのためには、君をここで抑えておかなくちゃいけないんだ!」

 簪「…………っ、それなら、貴女を倒して無理矢理でも押しとおる!」

 

 決勝戦は、大きく動き出していた。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 春輝め、以外とやるな…………(自分で書いといて何言ってんだろ?

 次回、トーナメントが決着、かと思いきや――――?


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第17話 結束スル心、離散スル心



 ヤバい表現が多々あることを、先にばらしておきます。

 原作より酷いんじゃないかな………………と書きながら思ってしまいました。

 お読みになる際は、ご注意下さい!

 「問題ない」という方だけ、どうぞ!



 

 

 三人称side

 

 タッグトーナメント一年生の部、決勝戦は佳境を迎えていた。春輝とラウラの戦いを傍観していたシャルロットと簪も戦闘を開始し、いよいよアリーナは熱狂に包まれた。しかし、戦況は依然として春輝&シャルロットペアが優勢である。

 春輝「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたのさ!?早く対処しないと負けちゃうよ?」

 ラウラ「ほざけ!」

 そう叫んでラウラはAICを発動させようとするが、春輝がまたもや銃撃してきたので、なかなか集中出来ない。

 簪「くっ、こんなところで足止めされる訳には…………」

 シャルロット「絶対に行かせないよ!」

 簪も、シャルロットの得意技『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で絶え間なく攻められ、反撃の隙さえ与えられない。荷電粒子砲・春雷での応戦も、焼け石に水だ。

 (このままじゃ、こちらはジリ貧…………そうだ!)

 すると簪は、超振動薙刀・夢現を展開。おもむろにシャルロットに向かって―――――

 

 簪「ええええええいっ!」

 シャルロット「へっ!?」

 

 思い切り投げつけた。

 突然の簪の行動に、シャルロットは驚いて対応出来ず、夢現が右肩の装甲に当たり、そのまま簪の手元に戻ってきた。この時出来た隙を簪は見逃さず、更に素早く『打鉄弐式』最大の武装・山嵐を展開。

 簪「ラウラ、一旦離れて!」

 そう叫んで、春輝とシャルロットをまとめてロックオン。合計48発のミサイルが、二人を襲った。

 春輝「うわああああああああっ!!!!!」

 シャルロット「きゃああああああああっ!!!!!」

 数発外れはしたものの、そのほとんどが二人に当たり、大きな爆発がアリーナを包んだ。ラウラは簪の叫びが聞こえたようで、何とかミサイルを回避した。

 辺りが煙に覆われている間に、ラウラと簪は合流。

 簪「あ、あの……」

 ラウラ「……フッ。貴様、中々やるではないか」

 バシンッ!

 ラウラは簪の背中を強めに叩いた。

 簪「キャッ!?あ、ありがとう……」

 ラウラ「しかし、先程の織斑春輝の銃撃はどこから……?」

 簪「そ、それは……」

 簪は、先程のシャルロットの説明をそのままラウラに話した。

 ラウラ「なるほど、私の死角から、か。分からなくて当然だな。しかし、今のミサイルは……?」

 簪「私のISの最大の武装・山嵐。マルチロックオン・システムを積んでる……」

 ラウラ「そうか。感謝するぞ、これで心置き無く奴を叩き潰せる」

 ラウラは再びレールカノンを構えた。

 ラウラ「奴らもこのままでは終わるまい。簪だったな、そのISに遠距離武装は他に積んであるか?」

 簪「あ、うん。荷電粒子砲を二門積んでる……」

 ラウラ「そうか。ならば、それで私を援護してくれ。シャルロットにも気を付けろよ」

 簪「……うん!」

 ようやく、タッグとして形を成してきたラウラ&簪ペアであった。

 

 春輝「くそッ!なんだ、今のは!?」

 春輝とシャルロットは、先程簪の放ったミサイルに撃ち落とされ、地面に転がっていた。

 シャルロット「ラウラとペアの簪って子が撃ったミサイルだよ。僕と春をまとめてロックオンしたんだ」

 春輝「何!?くそッ、面倒な。よし、その簪って奴から片付けるぞ!」

 そう言って、春輝はスラスターを吹かせて未だ広がる煙に突っ込んでいった。

 シャルロット「あ、ちょっと待ってよ、危険だっt――――ああ、もう!」

 シャルロットも仕方なく春輝を追いかけて、煙の中に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 牙也「勝負あったな」

 観客席の出入口付近で試合を観戦していた一人の男が言った。ご存知の通り、牙也である。牙也はこの決勝戦の後に行われるIS対アーマードライダーの模擬戦に出るため、ピットのテレビ付の部屋で待機していたのだが、その目で決勝戦を見る方が良いと考えたのか、観客席まで上がってきたのだ。牙也は、試合状況を冷静に分析していた。

 牙也(簪とラウラのペアは、ようやくタッグらしさが出てきた。あのままなら十分勝ち目はあるだろう。だが、シャルロットのペアは、どうやらタッグがタッグでなくなり始めたな。やはり簪のあの一手がよく効いたのだろう。ま、これ以上見る理由もないか)

 牙也はその顔に少し笑顔を見せつつ、踵を返してピットに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「来るぞ、構えろ」

 簪「うん!」

 ラウラは煙の中に殺気を感じ、簪に注意した。

 ラウラ「(殺気は正面から突っ込んで来ているな……これが「猪突猛進」というやつか)簪!正面に向かって荷電粒子砲を撃て!」

 簪「分かった!」

 簪は未だ晴れない煙に向かって春雷を撃った。すると、

 

 春輝「ぐあっ!」

 シャルロット「キャアッ!」

 

 二人の叫び声が聞こえた。どうやら当たったようだ。

 

 ラウラ「次は………………其処か!」

 次いでラウラが自身の右側の煙にレールカノンを撃ち込んだ。すると、

 

 春輝「ぐうっ!?」

 シャルロット「うわっ!?」

 

 また二人の叫び声。これも当たったようだ。

 簪「すごい、ラウラ!どうやって二人がいる場所を見つけたの?」

 ラウラ「織斑春輝が出している殺気を感じ、そこに撃っているだけ、つまりは『賭け』だ。しかし、ここまで上手くいくとはな」

 そう言いながらも、ラウラはレールカノンを撃つ手を止めない。簪もそれに続けて春雷を撃ち込む。

 そして、煙が晴れる頃には――――

 

 春輝「ぐうっ、くそッ………………!」

 シャルロット「うう、イタタ………………」

 

 春輝もシャルロットも、ボロボロで地面に転がっていた。ISのシールドエネルギーは春輝は半分以上、シャルロットは70%以上削られており、損傷も激しかった。

 ラウラ「さて、覚悟は出来ているな、貴様ら」

 春輝「ぐうっ、まだだ、まだ戦え――――《ドガッ!》ぐあっ!?」

 ラウラは未だ抵抗を続けようとする春輝を蹴飛ばした。

 ラウラ「喋るな。だが、せめてもの情けだ。二人共、私が一思いに止めを指してやる」

 ラウラは二人に向けてレールカノンを構え、

 

 

 

 

 ラウラ「さらばだ」

 ドドドドドオオオオオオオオンッ!!!!!!!

 

 

 

 弾が尽きるまで撃ち込んだ。

 

 

 

 そして、煙が晴れると、そこには―――――

 

 

 

 

 

 

 シャルロット「………な…………なん…………で…………?」

 

 春輝「…………僕の目の前にいた君が悪いんだよ」

 

 

 シャルロットを盾にして、攻撃を防いだ春輝がいた。

 

 

 ラウラ「な…………貴様まさか…………味方を盾に……!?」

 春輝「ふん、使えるものは使えって、アイツが言ってたから……ねッ!」

 ラウラ「!?ぐはっ!」

 春輝はさらに、盾にされてボロボロのシャルロットを、ラウラに向けて放り投げた。急なことにラウラは反応できず、シャルロットを受け止めきれずにふらついてしまった。

 そして、春輝はあろうことか―――――

 

 

 春輝「零落白夜ぁぁぁッ!!!!」

 

 

 シャルロットごとラウラを零落白夜を発動した雪片弐型で切り捨てた。

 

 

 ラウラ「ぐああああああああああッ!!!!」

 

 

 ラウラはシャルロットと共に吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突。シャルロットはそのまま意識を失った。

 

 

 春輝「ふう、さてこれであの面倒な奴が脱落した。後は君を倒せば僕の優勝だ…………大人しくやられるのが身のためだよ?」

 

 春輝は狂気とも見える笑みを浮かべて簪に近寄っていく。簪は逃げようとするが、あまりの恐怖に腰が抜けて、動けない。

 

 春輝「それじゃあ、さよならだよ」

 

 そして、春輝が雪片弐型を振り上げ―――――

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「ああアア嗚呼ああアア嗚呼ッ!!!!!!!」

 

 た途端、ラウラの狂ったような叫び声がアリーナに響いた。ラウラの大きく損傷したISからは紫電が走り、その目は血走っていた。

 その時、ラウラのISから黒いスライム状の何かが溢れだし、ラウラの体をISごと包み込んだ。

 そして、スライム状の何かは、だんだん形を成していった。その姿は―――――

 

 

 

 春輝「千冬…………姉…………?」

 簪「織斑…………先生…………?」

 

 

 現役時代の織斑千冬そっくりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 






 あ~あ、春輝め、やらかした。(だから、自分で書いたんだろ!?←自問自答中

 この話以降、更新が遅くなります。作者もこれから忙しくなってくるので、早めに示しておこうかと。

 次回、ラウラが暴走。
 さらに、最悪の事態が――――――――


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第18話 強者ヲ縛ルハ、災厄ノ蔦



 牙也の口調ですが、第5話の時点でタメ口に変わっています。これは、『4話と5話の間で束さんに「そんな丁寧口調は似合わないよ~」と言われて、それ以降タメ口になった』という設定です。不思議に思っていた方、伝え忘れててごめんなさい!

 では、気を取り直して最新話、どうぞ!



 

 

 三人称side

 

 ラウラ?「オオオオオオオオオオッ!!!!」

 元ラウラであった異形は、アリーナに大きな咆哮を響かせた。

 

 『緊急事態発生!緊急事態発生!アリーナにいる生徒は、直ちに避難して下さい!』

 

 アリーナには緊急放送が鳴り響き、以前と同じく大混乱に陥っている。

 管制室から試合を観戦していた千冬と真耶は、ラウラの変わり果てたその姿を見て、驚愕を隠せなかった。

 

 真耶「織斑先生、あれはまさか……!?」

 千冬「VTシステム……!」

 

 千冬は唇を強く噛んだ。そして、アリーナにいる春輝と簪に通信を入れた。

 

 千冬「織斑、更識、デュノアを回収して撤退しろ!」

 春輝『そうしたいんだけど、こいつ僕を集中的に狙ってきてる!これじゃあ逃げられないよ!』

 春輝は、現在異形に追いかけられている。異形は簪やシャルロットには目もくれず、春輝にのみ攻撃を仕掛けている。

 千冬「くっ、やむを得んか…………更識、デュノアを回収してお前だけでも撤退しろ!織斑、教員部隊をすぐに向かわせる!それまで持ちこたえろ!」

 簪『分かりました!』

 千冬「山田先生、教員部隊を――――」

 真耶「すでに出撃命令を出しました!」

 千冬「よし!織斑、教員部隊が着き次第、撤退しろ!」

 春輝『分かったよ、千冬姉!』

 千冬は、春輝を助けに行けるだけの力を持たない自身を呪った。

 千冬(こんなときに、ただ見ていることしか出来ないとは………………!)

 そう考えている間に、教員部隊は次々とアリーナに突入していた。

 

 

 

 

 楯無「皆大丈夫!?さあ、早くここから逃げて!」

 女生徒「は、はい!」

 観客席の出入口では、楯無や鈴等の専用機持ちが必死に他の生徒や招待客を避難させていた。

 楯無「よし、こっちは避難完了!他はどう!?」

 鈴「こちら鈴、全員の避難完了しました!」

 セシリア「同じくセシリア、全員の避難完了ですわ!」

 千冬『楯無、聞こえるか!?』

 楯無「織斑先生!はい、聞こえます!」

 千冬『今教員部隊がアリーナに突入した!お前達も避難しろ!』

 楯無「了k――――――ッ!?」

 突然、アリーナが光に包まれた。

 楯無「あの光…………まさか!簪ちゃんが危ない!」

 楯無はアリーナに向かって走り出した。

 鈴「ちょ、会長!?」

 セシリア「お、お待ちください!」

 それを追って、鈴達他の専用機持ちもアリーナに向かった。

 

 

 楯無達が光を見る数刻前。

 アリーナでは、教員部隊が異形に攻撃を仕掛けていた。

 教員A「撃てッ!」

 ガガガガアアアアアアアンッ!!!!

 異形は教員部隊に斬りかかるが、そこは実力者揃いの教員部隊、上手く散開して攻撃を回避した。そして離れた場所から、部隊長の号令のもと、遠距離武装で異形を撃ち抜いていく。その度に、異形の体からスライム状の何かが飛び散っていく。やがて、その異形の体の中央に、ラウラの姿が見えた。

 教員B「救助目標発見!これより救出s『なぜだ………?』!?」

 突然、中にいたラウラが呟いた。

 

 

 

 

 ラウラ?『なぜだ…………?私は、最強の力を手に入れた。なのに、なゼこの私ガ負けてイる…………?まダだ、マだ足りなイ。寄越セ、力ヲ!コノ私二、力ヲ寄越セエエエエエエエエッ!!!』

 その叫びがアリーナに響いた時、教員部隊は見た。

 

 

 

 異形の体の中央、丁度ラウラの体がある場所から、無数の蔦が伸び始め、異形を包んでいく光景を。

 

 

 

 

 

 

 

 簪(な、何!?何が起きてるの!?)

 教員部隊に保護された簪は、その光景を見て、驚きを隠せなかった。すると、さっきまで気を失っていたシャルロットが突然起き上がった。

 簪「デュノアさん!?起きて大丈b――《ドンッ!》キャッ!?」

 簪はシャルロットに突き飛ばされた。驚いた簪がシャルロットを見ると、その目は何故か金色に光っていた。そして次の瞬間―――――

 

 

 

 

 

 

 シャルロットの胸の辺りから、無数の蔦が溢れだし、その体を包んでいった。

 簪「デュ、デュノアさん!?」

 簪が手を伸ばすが、シャルロットの体は蔦に飲み込まれてしまった。

 そしてラウラの体もまた、蔦に飲み込まれてしまった。

 

 そして、蔦がガサリと音をたてて落ちると、そこに立っていたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 『ゴアアアアアアアアアアアアアッ!』

 『キシャアアアアアアアアアアアッ!』

 

 

 

 

 

 

 その体に、ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』の武装を付けたインベスと、シャルロットの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』の武装を付けたインベスであった。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 俺は、ラウラから蔦が溢れだした瞬間を見た途端、アリーナに向かって走り出した。すると、

 箒「牙也!」

 箒が丁度走ってきた。

 箒「見たか?」

 「ああ、ありゃヤバいぞ。今までのとは訳が違う。俺達でも対処出来るかどうか―――『牙也』うおっ!?」

 突然目の前にクラックが現れ、中からシュラが出てきた。

 「シュラ!丁度良かった!」

 シュラ「状況はすでに確認した。私も参戦する!」

 「助かるぜ!」

 箒「牙也、こいつは?」

 「あの日話した『オーバーロード』ってやつだ。名前はシュラ。俺の協力者だ」

 箒「お前が…………『オーバーロード』…………」

 「話は後だ!とにかくアリーナに向かうぞ!」

 箒・シュ「「ああ(うむ)!」」

 「あ、そうだ。箒、ドライバーを貸せ!」

 箒「こんなときに何だ!?」

 「新しいフォームでいく!仕様を変えるんだ!」

 そう言って俺は、箒からドライバーを引ったくり、ゲネシスコアを取り付けた。

 「マスカットとこれを一緒に使え!」

 さらに懐からバナナエナジーとブドウエナジーを出して、箒に渡した。

 箒「分かった。いくぞ!」

 

 

 『ブルーベリー』

 『オレンジエナジー』

 『マスカット』

 『ブドウエナジー』

 『イーヴィルエナジー』

 

 

 『『『ロック・オン!!!』』』

 

 

 

 牙・箒・シュ「「「変身!!!」」」

 

 

 

 

 『ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーオレンジ!ハハァ―ッ!』

 『ミックス!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!ジンバーブドウ!ハハァ―ッ!』

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood eyes!Blood eyes!D-D-D-Deadly Souls!』

 

 

 俺と箒の頭上で二つのアームズが混ざり合い、甲冑のようなアームズとなって二人に被さり、鎧となって展開された。

 シュラの頭上には赤黒いリンゴが現れてシュラに被さり、鎧となって展開された。

 

 それぞれ、

 『アーマードライダー蝕 ジンバーオレンジアームズ』

 『アーマードライダーレオン ジンバーブドウアームズ』

 『アーマードライダー赤零 イーヴィルエナジーアームズ』

 だ。

 

 俺達三人は、急いでアリーナに走った。

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 簪side

 

 アリーナは、死屍累々と表現出来るほど酷い光景になっていました。突然ボーデヴィッヒさんのISから黒いスライムが出てきて体を包み、現役時代の織斑先生そっくりの姿になりました。そこまでなら良かったでしょう、教員部隊が対処していると、突如その化け物の体から蔦が生えてきて、化け物を包み込みました。それと同時に、私の近くにいたデュノアさんも、同じように体から蔦が生えてきて、彼女を包み込みました。

 そして、その中から出てきたのは―――――

 

 

 

 二人のISを纏った、二匹の『インベス』という怪物でした。

 

 

 

 

 その後は、最早蹂躙と言って良いでしょう。教員部隊はその怪物の前に次々と倒され、アリーナに転がっています。残っているのは、私と私の危機を察して駆け付けてくれた、お姉ちゃん達他の専用機持ち。でも皆の攻撃は、インベスの前には効きもしませんでした。しかも、ラウラさんとデュノアさんと同じ攻撃を絶え間無く行ってくるので、余計に押されています。

 楯無「くっ、あの絶え間無い攻撃が厄介ね!」

 セシリア「不味いですわ、そろそろエネルギーが…………!」

 鈴「あの二人はまだ来ないの!?」

 鈴の言う『あの二人』は、アーマードライダーのことでしょう。私達は、あの二人が早く助けに来るのをただ待つばかりでした。

 しかし、皆のISのシールドエネルギーは、残りが殆どありません。しかも、攻撃が効かない事もあって段々と私達は壁際に追い詰められてしまっています。最早絶体絶命という状況でした。

 

 

 『ゴアアアアアアアアアアアアッ!』

 『キシャアアアアアアアアアアッ!』

 二匹が、同時に攻撃を――――

 

 

 ガアンッ!!!!

 ガアンッ!!!!

 ガアンッ!!!!

 『ゴアッ!?』

 『キシャッ!?』

 

 

 仕掛けようとした途端、怪物の背中から火花が上がりました。私達が怪物の後方を見ると――――

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「てめえらの相手は、俺達だ………………!」

 

 

 

 

 

 二人―――いえ、『三人のアーマードライダー』が、そこに立っていました。

 

 

 簪side end

 

 






 次回、ジンバーアームズの力、新たなアーマードライダー・赤零の力が解放される――――

 そして、ラウラとシャルロットの暴走の原因が明かされる――――



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第19話 混ザル果実ト血ヲ欲ス果実

 戦闘描写は、相変わらず下手です。
 もっと精進しなければ…………

 数々のリクエスト、感謝です!
 これからも、よろしくお願いします!

 では、最新話、どうぞ!




 牙也side

 

 「いやはや、便利だなあ、この弓。近距離も遠距離も対処出来るなんてね」

 俺は、手に持った弓『ソニックアロー』を両手でお手玉しながら呟いた。

 「それで、あれをどう見る、シュラ?」

 シュラ『不味いな、あのままだと』

 箒「不味い、だと?どういうことだ?」

 箒が聞いた。するとシュラは、信じられない言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 シュラ『あの二人は、恐らく何らかの手段で体に入れられたロックシードに飲み込まれている。早くあれを倒さないと―――――体がロックシードに侵食され、消滅する』

 

 

 

 

 牙・箒「「何!?」」

 ラウラとシャルロットにロックシードが埋め込まれている事にも驚いたが、最悪消滅だと!?冗談じゃない!

 「それなら、尚急がなきゃな。早いとこ奴等を倒して、二人を助けねえと!」

 シュラ『うむ。では、私は黒いISを付けたインベスを相手しよう』

 そう言って、シュラは一方の巨大インベス――――レーゲンインベスと名付けるか――――に向かった。

 「俺達はシャルロットを助けるぞ」

 箒「了解だ」

 俺と箒は、もう一方の巨大インベス――――ラファールインベスと名付けるか――――に向かった。

 ラウラ、シャルロット、耐えてくれよ。すぐに助けるからな!

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 楯無「新しい、フォーム…………?」

 楯無は今までとは違う姿をした二人に、驚いていた。今まで彼らが纏っていたのは、果物や木の実の要素が濃く表れた鎧だった。しかし、今彼らが纏っていたのは、戦国時代の武将が着ていたかのような甲冑だった。しかもベルトを見ると、二つのロックシードが使われており、一つは彼らが使っていた物とは明らかに違う、透明感のあるロックシードだった。

 しかしそれ以上に驚いたのは、もう一人別のベルトを腰に付け、例の透明感のあるロックシードをベルトに施錠したアーマードライダーが戦っていることだ。

 鈴「何なの、あの赤いの…………」

 セシリア「仲間、なのでしょうか?一緒に戦っていますし…………」

 簪「でも、牙也さん達とは違うベルトを付けてる。あれも、アーマードライダー…………?」

 鈴、セシリア、簪がそれぞれ言葉を発するが、それに答えられる者は、誰もいなかった。

 

 

 蝕とレオンは、ラファールインベスをソニックアローで切り裂くが、ISの防御力もあってなかなか決定打を与えられずにいた。すると、チャンスと考えたのか、ラファールインベスは空に飛び、蝕達に向かってハンドガンやアサルトライフル等の銃火器を次々持ち変えて撃ち込んできた。

 牙也「高速切替(ラピッド・スイッチ)か!厄介な……!」

 箒「シャルロットと同じ技だと!?」

 シャルロットと同じ高速切替(ラピッド・スイッチ)を使ってくるラファールインベスに対し、二人はソニックアローから矢を放って応戦した。しかし、インベスが空中で作る弾幕により近づけない状態だった。だがそれでも、蝕は勝ち目があると考えていた。

 牙也(このままじゃジリ貧…………だが、敵にも必ず隙が出来る。ラファールは織斑の馬鹿のお陰でダメージを蓄積しているからな。いずれすぐに不調を引き起こす。そこを狙う!)

 実際、インベスが使っているラファールからは、時々バチバチと火花が上がっていた。そして――――

 

 ボンッ!

 『キシャッ!?』

 

 案の定ラファールが爆発し、ISが解除された。インベスはISが解除されたことで、空中で動く術を失い、地面に叩きつけられた。その瞬間を二人は見逃さず、

 

 

 牙・箒「「ハアッ!!」」

 

 

 一気に距離を詰めてインベスをソニックアローで切り裂いた。

 『キシャッ!』

 すると、インベスの腹が大きく割け、中からシャルロットが倒れるように出てきた。

 牙也「箒!」

 箒「任せろ!」

 掛け声と共に、レオンがシャルロットの腕を掴み、蝕がインベスを蹴飛ばしてインベスとシャルロットを完全に引き剥がした。

 牙也「箒、シャルロットは無事か!?」

 箒「気を失っているだけだ。問題あるまい」

 牙也「そうか、良かった!んじゃ、決めるぞ、箒!」

 箒「ああ!」

 二人はゲネシスコアからそれぞれオレンジエナジーロックシードとブドウエナジーロックシードを取り外し、ソニックアローの窪みに施錠した。

 

 

 『『ロック・オン!!』』

 

 

 そしてそれをインベスに向けて構え、弓の弦を引いた。

 『キシャァ、キシャァァァァァ………………!』

 インベスは飛び上がって逃げようとするが、

 

 牙・箒「「逃がすかよ(ものか)…………!吹き飛べ!」」

 

 

 『オレンジエナジー!』

 『ブドウエナジー!』

 

 

 ソニックアローに橙色と紫色のエネルギーがそれぞれ溜まったと同時に、弦を離して矢を放つと、矢は高速で撃ち放たれ、インベスの体の中央を的確に貫いた。

 

 『キシャアアアアアアアアアアアッ!』

 インベスは断末魔の叫びをあげて爆散した。爆風が晴れると、

 

 カシャンッ!

 

 地面に何かが落ちた。それはシャルロットのISの待機状態であるペンダントと――――

 

 

 

 

 金色のリンゴが描かれたロックシードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ――――アーマードライダー赤零がソニックアローを振るい、レーゲンインベスが放ったワイヤーブレードを弾くと、それを待っていたかのようにレーゲンインベスは右手を突き出してAICを発動した。それにより、赤零の動きは無理やり止められた。

 シュラ「ふん、この程度か」

 『ゴアッ!?』

 だが赤零はこれをものともせず、AICを振り払って強制解除した。さらにソニックアローでISの右手と両肩を撃ち抜いた。それにより、AICは使用不能となり、レールカノンは破壊された。

 シュラ「その力、これで使えまい。大人しく私にやられろ」

 だが、レーゲンインベスはそんなこと聞こえないかのように右手からプラズマ手刀を展開し、スラスターを吹かせて赤零に向かって突っ込んできた。

 『ゴアアアアアアアアアアッ!』

 シュラ「愚かな」

 そう一言呟いた赤零は、やれやれと首を振りながらシーボルコンプレッサーを一回押し込んだ。

 

 『イーヴィルエナジースカッシュ!』

 

 赤零の右足に赤黒いエネルギーが溜まり、ギラギラと光を発した。そして赤零は、

 

 シュラ「ハアッ!」

 ドガッッッッッッッ!!!!

 『ゴアアアアアアアアアアッ!?』

 突っ込んできたレーゲンインベスにカウンターで延髄蹴りを叩き込んだ。

 これを食らったレーゲンインベスは、その場に倒れてそのまま爆散した。

 

 爆発が収まると、そこには気を失って倒れたラウラと――――

 

 

 

 

 銀色のリンゴが描かれたロックシードが落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 気を失ったラウラとシャルロットを、無事だった教員に預け、蝕とレオンは金色のリンゴのロックシードを拾い上げて赤零に見せた。

 牙也「これが、今回の暴走の原因らしいな……」

 シュラ「十中八九間違いない。しかしこれは……」

 赤零はその金のリンゴのロックシードと、自らが持つ銀のリンゴのロックシードを見比べた。それを見たレオンは、不思議そうに聞いた。

 箒「どうした、何かあるのか?」

 シュラ「ああ。このロックシードは、《黄金の果実》と呼ばれるゴールデンロックシードと、《白銀の果実》と呼ばれるシルバーロックシードだ。だが、この二つはすでにこの世にはない筈だったのだが……一体何故……?」

 牙也「ある筈のない物が、完璧な状態でここにある?……しかも、ラウラ達の体に埋め込まれていただと?……どうなってやがる!?誰がこんな事を!?」

 蝕は、やり場のない怒りに拳を握りしめ、肩を震わせていた。

 シュラ「牙也、その怒りはごもっともだが、今は抑えろ。とにかく、これは私が預かる。こちらで解析してみよう、何か良い情報が掴めるかもしれ――」

 楯無「動かないで」

 

 いつの間にか赤零の首筋に、楯無のIS『ミステリアス・レイディ』の武装・蒼流旋の先端が突き付けられていた。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 





 次回、IS学園の面々とオーバーロード、初めての顔合わせ。
 しかし、そう易々とは受け入れられないようで――――?



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第20話 『君主』ノ降臨ト、反発ノ嵐(前編)


 ライダーと怪物の協力関係って、意外と多いよね。
 アマゾンとモグラ獣人とか、龍騎とドラグレッダーとか、ウィザードとウィザードラゴンとか。

 何か………………すごいわ。





 

 三人称side

 

 楯無「貴方、何者?牙也君とは違うベルトを腰に付けてるけど、それは何?後貴方のそのロックシード、それと同じ物を何故牙也君達が使ってるの?」

 楯無は、赤零に続けざまに質問をぶつけた。

 赤零はそれに対し、ゆっくりとした口調で答えた。

 シュラ「我が名、『アーマードライダー赤零』。あの者達を支援する者だ。そして、我が腰に付けたベルトの名は、『ゲネシスドライバー』。この『エナジーロックシード』の力を制御する為のベルトだ」

 赤零は自身のベルトとエナジーロックシードを指差し、次いで蝕とレオンのベルトを指差した。

 シュラ「あの者達のベルトには、『ゲネシスコア』を付けている。ゲネシスドライバーに付けてあるこれだ。これを使うことで、戦極ドライバーで同時に二つのロックシードを使えるようになる」

 赤零は懐から予備のゲネシスコアを出してここにいる全員に見せた。楯無はそれを手に取り、蝕達を見ながら聞い

た。

 楯無「それじゃあ牙也君達のあの姿は、これを使うことで変身出来る新しいフォーム?」

 シュラ「そう考えれば良い。分かりやすく言えば、エナジーロックシードで通常のロックシードを強化しているのだ。それが反映されたのが、あの鎧だ」

 楯無「成る程ね」

 鈴「ところでさあ」

 するとそれを聞いていた鈴が、おもむろに質問してきた。

 鈴「変身解除して、あんたの顔、見せてくれない?ずっとその姿だと、怪しさ満点だから」

 シュラ「……確かにな。突然現れて、『私は味方だ』と言っても、誰も信じはしまい」

 そう言って、赤零は変身を解除した。

 

 

 

 『……………………へ?』

 蝕以外のそこにいる全員が、間抜けな声を挙げた。何故なら、そこに立っていたのは―――――

 

 

 

 シュラ「……ふう。これでいいか?」

 

 

 

 

 姿形も服装も、牙也そっくりの人間であったからだ。

 

 

 

 

 セシリア「…………双子…………ですの?」

 セシリアは驚愕を隠せず、

 鈴「牙也?え、じゃああっち(蝕)は誰?というかどっちが本物?」

 鈴は突然の事実に頭が混乱しており、

 簪「……そっくり」

 簪は、ただ純粋にそれしか言えず、

 楯無「(゚д゚)」ポカーン

 楯無に至っては現在放心状態である。

 

 一方、蝕とレオンも変身を解除して、こそこそと話していた。

 箒(牙也、どういう事だ!?あいつ、お前と瓜二つの姿をしているではないか!)

 牙也(シュラの奴が、人としての姿はあれにするって聞かなかったんだよ……)

 箒はシュラの姿を見て怒りを覚えており、牙也は頭を抱えていた。

 箒(しかし、理事長や千冬さん等にどう説明する?さすがに奴が『オーバーロード』であることを言う訳には……)

 牙也(確かにな。シュラの正体が知れたら、世界大戦物だぞ……)

 箒(しかし、私からは強く言えぬ。牙也、どうにか隠せるか?)

 牙也(俺も無理があるな……シュラの事だから、あっさりと白状しそうで怖い……あいつ、秘密を隠すの下手くそだから……)

 箒(……もしばれたら、どうする?)

 牙也(その時はその時だ。それに、楯無は暗部の家系だ。秘密を意地でも発見しようとするだろうし)

 箒(言えてるな)

 シュラ「何をこそこそと話してる?」

 そこに、向こうで色々話をしている鈴達を放っといて、シュラが話しかけた。

 牙也「おう、シュラか。何ってお前の事だよ、ここの人等に正体ばれたらどうするかって話」

 シュラ「どうせ私が口を割らずとも、あの者達が嗅ぎ回るだろう。それなら、先に言ってしまった方が良い。隠し通そうとして、後でばれて大騒ぎになる方が面倒だ」

 箒「では、正体を言うのか?」

 シュラ「そのつもりだ。かの『天災』も、私の正体を知ろうとしているだろう。そのためなら、奴は何でもするだろうからな。奴の引き起こす面倒に巻き込まれるのは、こちらとしても御免だ」

 箒「……確かに。姉さんなら色々やりかねないな……」トオイメ

 牙也「逃避すんな。お前の姉だろうが」ペシッ

 シュラ「姉さん?すると、お前は『天災』の妹……?」

 箒「ああ、姉さん――篠ノ之束は私の姉だ。それが?」

 するとシュラは、意を決して箒に尋ねた。

 シュラ「――後悔は、していないか?アーマードライダーとなり、只の人間ではなくなってしまった事に、後悔していないか?」

 すると、箒は決心した顔で答えた。

 

 

 

 箒「姉さんは今、あまりにも大きな自らの『罪』と戦っている。私は、姉さんと一緒にその『罪』を背負うと決めた。だから、姉さんが戦っているのに、私は何もしないのは嫌なんだ。それに、アーマードライダーになる事は、私自身が考えて決めたこと。後悔など、微塵もない!」

 

 

 

 それを聞いたシュラの顔は、

 シュラ「……ふむ。『天災』は、良き妹を持ったな」

 どこか嬉しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが織斑春輝は、ラファールインベスが倒されたときの爆発に何故か巻き込まれ、アリーナの隅で気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 三日後。

 教員部隊、国家代表・代表候補生がまたも理事長の召集で会議室に集まった(ラウラとシャルロットは未だ目覚めておらず、医務室で眠っている)。ただ、前回のクラス対抗戦と違う事があった。

 

 

 牙也(……視線が痛いな)

 

 

 皆と同じように椅子に座っている牙也―――

 

 

 シュラ(……鬱陶しい……!)

 

 

 ―――の隣で濃密な殺気と苛立ちを出しながら座っているシュラに、会議室にいるほぼ全員の視線が向けられていた。だが、IS学園の面々からすれば『余所者』と捉えられる存在。

 

 ((((((………………そっくり………………))))))

 

 その姿が牙也そっくりである事を除けば。

 

 

 

 

 轡木「では、始めましょう。牙也君、報告を」

 牙也「了解、まずは――――」

 

 

 

 

 

 

 牙也「――と言ったところだ。詳しくは、全員に配った資料を各人読んでおいてほしい」

 轡木「ありがとう。所で牙也君、彼について話してくれるか?」

 轡木理事長は、そう言って牙也の隣に座るシュラを見た。

 轡木「更識君の報告によると、彼は新しいアーマードライダーらしいじゃないか。何故、今まで私達の前に現れなかったんだい?」

 牙也「それは「私が答えよう」っ、シュラ……」

 シュラが立ち上がって答えた。

 シュラ「まず私が今まで出てこなかったのは、この『ゲネシスドライバー』が完成していなかったからだ」

 シュラはゲネシスドライバーとエナジーロックシードを取り出して、机の上に置いた。

 シュラ「このゲネシスドライバーを使って変身するアーマードライダーは、ISに例えると第3世代にあたる。牙也達が使うのは、第2世代と第3世代の間くらいだろう。つまりは、私が変身するアーマードライダーは『最新型』とも言える」

 シュラはゲネシスドライバーとエナジーロックシードをしまった。

 シュラ「そして、もう一つ今まで出てこなかった理由がある。それが一番大事な部分だ」

 千冬「もう一つの理由?何だ?」

 千冬が聞くと、シュラはこう答えた。

 

 

 

 シュラ「私は、本当は人間ではない。インベスの最上位『オーバーロード』と言う、化け物だ」

 

 

 

 「「「「「「!?」」」」」」

 その暴露に、牙也と箒以外の全員が驚いた。無理もない。今まで自分達が戦ってきたインベスの最上位が、今目の前にいるのだから。

 教員A「な、なんであの化け物が!?」

 教員B「どういう事!?説明しなさい!」

 その場にいた教員や生徒達はその事実を聞いた途端、大混乱に陥っていた。中には、慌ててその場でISを展開しようとした教員・生徒もいた。そんな状況を軽く無視して、シュラは話を続けた。

 シュラ「『オーバーロード・シュラ』。それが、私の名前。本当ならこの事は隠し通すつもりでいたが、今回の一件でそうも言えなくなった。それ故に、今こうして皆の目の前に現れた次第だ」

 轡木「では君のその牙也君そっくりの姿は………………」

 シュラ「僭越ながら、牙也をコピーさせてもらった。本人は嫌がっていたがな」

 牙也「当たり前だコラ。勝手にコピーしやがって」ベシッ

 全員が驚きを隠せない中、千冬は牙也とシュラ以外で何故か箒が驚いていない事に気付いた。

 千冬「篠ノ之、お前は知っていたのか?」

 千冬が箒にそう聞いた。

 箒「私がこの事を知ったのは、ラウラ達の暴走の件の時、つい先程です。ただ『オーバーロード』の存在に関しては既に牙也から聞かされていました」

 千冬「そうか。牙也、『オーバーロード』の存在を今までに知っていたのは、他に誰だ?」

 牙也「俺と箒、束さんとクロエ、後一夏にも話したな。把握していたのは、それだけだ」

 牙也が答えると、

 楯無「何故今まで隠していたの?」

 今度は楯無が聞いてきた。

 楯無「どうして貴方は今まで、彼と――『オーバーロード』と繋がりがある事を隠していたの?」

 牙也「けっ、知れたことだ」

 対し、牙也は椅子に座っている状態で軽く伸びをしながら答えた。

 牙也「もし『オーバーロード』の存在が世間に知れたらどうなる?世界は意地でも、どんな手段を使ってでもシュラを殺そうとするだろう。まあ、易々とシュラが倒されるなんて事はないだろうが、俺はそれだけは避けたかった。シュラは俺とはある一件で協力関係にある。もしシュラが倒されると、その一件が解決出来なくなるからな」

 楯無「ある一件?」

 

 

 

 牙也「『ヘルヘイムの森』とこの世界が、この世界の何者かによって無理やり繋げられた事が分かってな。シュラは、それが誰の仕業か調べているんだ」

 

 

 

 

 

 「「「「「「!?」」」」」」

 これには箒も一緒になって驚いた。

 

 轡木「どういう事ですか!?『ヘルヘイムの森』とこの世界が無理やり繋げられたとは!?」

 轡木もこれには驚きを隠せず、シュラに問いかけた。

 牙也「俺も最近になってシュラの行動の真意を聞かされたからな。シュラ、話してくれるか?」

 シュラ「うむ、じゃあ話すとしようか。これまでの私の調査で、私が把握した内容を」

 

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 次回、後編。
 インベス騒ぎの原因を知ったIS学園の面々。
 彼らは、彼女らは、どんな答えを導きだすのか――――。


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第21話 『君主』ノ降臨ト、反発ノ嵐(後編)


 何とか最新話の投稿が早めに出来ました(白目
 文才とネタがもっと欲しい…………
 オリロックシード引き続き募集中です!ご協力お願いします!


 では、後編始まります!











 

 三人称side

 

 ここは、ある国にひっそりと建つ亡国企業(ファントム・タスク)の本拠地。そこのとある一室で、一人の女が手に持った一枚の紙に目を落としていた。

 

 ??「…………この事を、果たして上に報告して良いのかしら…………?」

 そう言いつつ、女――――スコールは自らが書いた報告書を机の上に置いた。スコールは、先日に邂逅したオーバーロード・シュラとの接触に関する報告書を書いていたのだが、いざ書き終わるとこれをトップに報告する勇気が無くなってしまった。ふう、とその口から溜め息がこぼれた。

 スコール(さて、本当にどうしたものかしら…………私としては、この事はいい気分になるような物じゃない…………かと言って、報告しないというのも組織に反することだし…………はあ、困ったわねぇ…………)

 自身の過去も関係してか、スコールはこれを提出する事に躊躇いを感じていた。

 オータム「迷ってるのか、スコール?」

 スコールが顔を上げると、そこにはいつの間に部屋に入ってきたのか、オータムとMが立っていた。

 スコール「ええ。これは、正直に言うと閉ざしておくべき内容よ。私達亡国企業の根底さえも揺らぎかねない。それほどに危険なもの」

 オータム「だから知らせない方が良い、と?スコールはそう考えているのか?」

 スコール「ええ、オータム。でも、だからと言って隠し続けられるような物じゃない事も事実。だから、どうすれば良いか迷ってるのよ」

 M「……」

 Mは相変わらず黙っている。だが、その顔には明らかにスコールを心配している様がよく分かった。

 スコール「はあ、困ったわね、本当。でも、どうすれば良いのかしら……?」

 スコールの問いかけに、オータムもMも答えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「以上が、私がこれまでの調査において把握した内容だ」

 一方こちらは、IS学園の会議室。シュラが自身の行っている調査の報告をしていた。

 「「「「「「…………」」」」」」

 シュラの報告を聞いて、会議室は静寂に包まれていた。まあ、当然だろう。インベスの出現が、この世界の誰とも知れぬ者によって人為的に起こされたのだから。

 鈴「シュラ、だったわね。それの黒幕に、見当はついてるの?」

 おもむろに口を開いたのは、鈴だった。

 シュラ「いや、見当をつけていた組織や人物はいたのだが、全て外れだった。いずれも、インベスはおろかヘルヘイムの森さえ知らなかった者ばかりだったからな。また一から調べ直しだ」

 シュラは頭をポリポリとかきながら答えた。

 千冬「人為的、作為的な結合、か……そいつは一体、何を企んでいる……?」

 千冬は、シュラの報告をもとに、思考を巡らせていた。

 牙也「まだ決定的な何かを掴めていないから、どうこうと結論を出すのは早計だ。一先ず今は、シュラに引き続き調査してもらうことにしよう。それで良いよな、理事長?」

 轡木「そうですね、まだ結論を出すのは早すぎます。有益な情報が入ってくるまでは、この一件は保留としましょう。ところで牙也君、ラウラさんとシャルロットさんの暴走の原因については何か分かりましたか?」

 牙也「そこら辺も、シュラに話してもらおうか。ロックシードの情報は、俺よりシュラの方が豊富だ」

 箒「丸投げか、牙也……」

 牙也「あれについては俺も知らないんだよ、察しろ箒」 

 箒「……はあ、全く。それでシュラ、あのロックシードは何なのだ?」

 箒の問いかけに、シュラは一呼吸おいて答えた。

 

 

 シュラ「まず金髪の少女から見つかったのは、ゴールデンロックシード。別名『黄金の果実』。これを手に入れたものは、世界を制する事ができると言われるほど、危険なロックシードだ。そして銀髪の少女から見つかったのは、シルバーロックシード。別名『白銀の果実』。ゴールデンロックシードと対をなすロックシードだ」

 「「「「「「世界を制する!?」」」」」」

 シュラ「私が解析したところ、どうやら二人はほぼ同じ時期にこのロックシードを体に埋め込まれたものと思われる。私達が対処していなかったら、あれはいずれ、二人の体を飲み込んでいただろう。それほどに危険なものだ」

 轡木「ほぼ同じ時期、とはいつの事ですか?」

 轡木が聞くと、シュラは、

 シュラ「そこまで詳しくは分からん。だが、これを埋め込まれたのがつい最近である、ということは分かった。私は引き続き、調査と並行してこれの解析を行う」

 と答えた。

 轡木「ロックシードを埋め込まれていた二人の容態はどうですか?」

 シュラ「一先ず、二人の体からロックシードの毒素を全て取り除いた。もう命に関しては心配はないが、暴走の影響もあるから暫くは寝たきりだろう」

 轡木「分かりました。では『理事長!』何でしょうか、織斑君?」

 すると、春輝が立ち上がって言った。

 春輝「こいつらの言っている事を、易々と信じるつもりですか!?もしかしたらこいつらがその黒幕かもしれないのに!?」

 春輝のこの言葉を皮切りに、

 教員A「そうよ、こんな化け物の言うことなんか信じないわ!」

 教員B「それより、こいつらのベルトをこちらで管理、いや、私達が使う方が良いわよ!」

 教員C「私達の神聖なISの前に男や化け物が立つなんて許さないわ!」

 一部の教員・生徒から、反発の声が上がった。

 牙也「現行のISで、勝てると言いたいのか?」

 教員A「ええ、そうよ!アーマードライダーなんて力、この世にあって良いはずがない!」

 しかしこれに対して、牙也達アーマードライダーは呆れて溜め息が漏れた。

 牙也「あんたらさあ、自分が何言ってるか分かってんの?」

 代表して、牙也が殺気丸出しで問いかけた。

 教員B「ど、どういう意味よ?」

 牙也「簡単なこと。そう言うってことは、『別にインベスに滅ぼされても問題ない』って言ってるのと同じだぞ?前にも言ったが、アーマードライダーにならない限り、インベスは倒せない。クラス対抗戦でのISの無力さを、あんたらはまだ分かってないのか?」

 牙也は「それに」と言って続けた。

 牙也「あんたらみたいに未だにISを過信してる人らに、この力は託せない。いや、あんたらにこれは、『絶対に使えない』と言っておこう」

 教員C「そんなはずないわ!神聖なISが使える私達が、アーマードライダーを使えない訳がない!」

 「「「「そうよそうよ!」」」」

 春輝「ふん、天才と呼ばれた僕に、不可能なんて無いんだよ!」

 牙也は「はあ…………」と溜め息を吐いて、懐から戦極ドライバーとブルーベリーロックシードを取り出した。

 

 牙也「だったら使ってみなよ、これを。本当に使えるなら、思い通りにこれを動かせるはずだ」

 

 箒「牙也!?」

 箒は驚いてそれを止めようとしたが、シュラに制された。

 シュラ「篠ノ之箒、お前もよく見ておけ。あれを他人が使おうとすれば、どうなるかを。お前が使っているものは、それだけ危険なものだということを、よく理解した方が良い」

 そう言って、シュラは自らの使うゲネシスドライバーとイーヴィルエナジーロックシードを取り出した。

 シュラ「これも使ってみろ。もし使えたなら、これをその者に渡してやっても良い」

 教員C「ふん、漸く渡す気になったのね!」

 教員B「最初からそうしておけば良かったものを…………」

 そう言って、春輝が戦極ドライバーとブルーベリーロックシードを、教員の一人がゲネシスドライバーとイーヴィルエナジーロックシードを二人から奪い取り、腰に付けた。

 春輝「凡人達はせいぜいそこで見ているが良い!僕がこれをあいつ以上に使いこなす様を!」

 教員B「やっと…………やっとだわ。やっと、この力を私が使う時が!」

 二人はそれぞれ、ロックシードを解錠した。

 

 『ブルーベリー』

 『イーヴィルエナジー』

 

 教・春「「………………変身!!」」

 

 『『ロック・オン!!』』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood eyes! Blood eyes!D-D-D-Deadly Souls!』

 

 

 春輝「ハハハハハ!!!見ろ、見事に変身したぞ!どうだ!」

 教員B「これが、アーマードライダーの力…………!これさえあれば…………!」

 

 バチィッ!!!!

 

 教・春「「グゥッ!?」」

 

 しかし突然、二人が苦しみ出して倒れた。

 

 春輝「な、何だ………………!?いきなり体が…………ぐ、ああッ!?」

 教員B「な、何よこれ………………ッ!?い、痛い痛い痛い!あ、頭がァァァァ!!!」

 さらに蝕と赤零からはそれぞれ、紫と赤黒いオーラが次々わき出てきた。

 教員A「な、何よこれ!?あんた達、何とかしなさい!」

 側で見ていた教員が牙也達に命令するが、

 牙也「断る。こいつらは『自分達なら使いこなせる』という絶対の自信を持っていた。これくらいなら、普通に耐えきれるだろう?」

 シュラ「牙也の言う通りだ。本当に使いこなせるなら、この程度、克服して見せろ!」

 二人はそう言うが、変身している春輝達は、すでに意識がないようだ。

 牙也「……この程度、か」

 シュラ「……つまらぬ。いらぬ自信を持っているから、そうなるのだ」

 牙也とシュラは倒れている二人に近づき、ロックシードをベルトから外して変身を強制解除させた。すると、体から吹き出していたオーラが一瞬にして消えた。

 それを見ていた他の教員・生徒は、青い顔をしてガタガタと震えていた。その後光景を軽く無視して、牙也は倒れている二人の首を掴み、

 牙也「誰か、この二人を医務室に連れていってくれ」

 と、その二人を近くにいた教員に預けた。

 倒れた二人は担架に乗せられ、何人かの教員と共に会議室を出ていった。

 

 

 轡木「牙也君、一体彼らに何が起こったのかね!?」

 轡木は牙也に説明を求めた。

 牙也「ブルーベリーロックシードは、他のロックシードと違って『使用者を選ぶ』んだ。選ばれなかった者は、さっきみたいな事になる」

 シュラ「イーヴィルエナジーロックシードは、それ自体に強い毒素を含んでいる。あの者は、それに犯されたのだ」

 轡木「では、あの二人は……」

 シュラ「いや、死にはしない。だが、しばらくの間体が不自由になるだけだ」

 シュラはそう言って、ベルトとロックシードを懐にしまった。牙也も、ベルトとロックシードを拾い上げ、同じく懐にしまった。

 箒「……私のベルトでも、他者が使うとああなるのか?」

 すると、さっきまであの光景を見て呆然としていた箒がシュラに問いかけた。対してシュラは、

 シュラ「いや、お前の使うベルトは、最初に付けた者にしか反応しないように私が設定している。つまり、お前にしか使えない、ということだ」

 と返した。

 牙也「これで、俺達が言いたかった事がよく分かったろ?俺達が使っているものは、それだけ危険なものだ。分かったなら、今後二度とあの二人みたいな事を言うんじゃないぞ」

 牙也のこの一言に、その場にいる全員が頷いた。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 





 次回、牙也はラウラとシャルロットの元へ。
 牙也がラウラに言い放った言葉は、ラウラに届いたのか――――――?


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第22話 届イタ言葉ト映ッタ記憶


 最新話です!

 VTシステムの話はひとまずここまで。福音の話は現在構成中の為、投稿が遅くなります。その代わり、番外編をいくつか先に投稿しますので、楽しみにお待ちください!

 それでは、どうぞ!





 

 

 三人称side

 

 ラウラ(…………っ、ここは、何処だ?)

 あの会議が終わって数時間は経たない頃、ラウラは目を覚ました。最初に見えたのは、何処かの部屋の天井。そして右隣にあるベッドを見ると、シャルロットが眠っていた。

 ラウラ(……確か私は、タッグトーナメントでシャルロットごと織斑春輝に攻撃され、その後………………)

 千冬「目が覚めたか、ラウラ」

 その声に反対を見ると、千冬が心配そうに椅子に座っていた。

 ラウラ「…………き、教官…………」

 千冬「ここでは………………まあ良い。何があったか思い出せるか?」

 ラウラはコクリと頷いた。

 千冬「お前のISには、VTシステムが積まれていた。それが、今回の騒ぎを引き起こした。VTシステムについては、分かるな?」

 ラウラ「はい、通称『ヴァルキリー・トレース・システム』…………私が、強さを望んだから……」

 千冬「うむ。だが、問題はその後だ」

 ラウラ「その後、ですか?」

 千冬「……お前の体には、何故かロックシードが埋め込まれていた。それが、お前が強さを望んだことに反応し、VTシステムを更に暴走させた」

 ラウラ「!?」

 ラウラは愕然とした。自分の体にロックシードが埋め込まれていた事にも驚いたが、自分が強さを望んだことでそれが反応し、状況を悪化させてしまったのだから尚更だ。

 千冬「心配するな。お前に埋め込まれていたロックシードは、既に取り出してある。VTシステムも然りだ。ただ暫くは上手く動けないから、ここで寝泊まりになるがな」

 ラウラ「そうですか……シャルロットは、大丈夫なのですか?」

 千冬「……実はな、シャルロットにもロックシードが埋め込まれていた。それがお前の暴走に反応し、同じように暴走したのだ」

 ラウラ「な!?」

 ラウラには、にわかに信じられなかった。まさかシャルロットにもロックシードが埋め込まれていたとは、思いもしなかった。

 千冬「牙也達が素早く動いていなければ、お前達はロックシードに飲み込まれ、消滅するところだったらしい……」

 ラウラ「奴等が……」

 千冬「私は、何故何も守れないのだろうな……モンド・グロッソで優勝して、世界最強(ブリュンヒルデ)の称号を得た私が、こんなにも弱い存在だったとは……」

 ラウラ「教官……」

 千冬のその目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 千冬「……すまない、ラウラ。守ってやれなくて」

 千冬はおもむろにラウラに頭を下げた。

 ラウラ「そ、そんな!教官が謝るような事では…………!」

 千冬「それでもだ。私の役目は、教え子達をその体を張ってでも守ることだ。そんなことも出来ぬ私など…………!」

 千冬は知らぬ間に、両手の拳を握りしめていた。

 千冬「……ともかく、すまなかった、ラウラ。今日は、ゆっくり休め」

 千冬はそう言って、医務室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 牙也「……なんだ、強いじゃないか、あんたは」

 医務室を出た千冬が、その声に横を向くと、ドアの近くに牙也が腕を組んで寄りかかっていた。

 千冬「気休め等必要ない。私は――――」

 牙也「ある人が言っていた。『本当に強い者とは、己の弱さから目を背けない者。弱さを知らぬ限り、人が強くなるなどあり得ない』と。あんたは、己の弱さに気づいた。あんたはまだ強くなれる」

 千冬「牙也……」

 牙也「あんたは以前、一夏を守れなかった。それは、あんたが『心の弱さ』に気づいていなかったからだ。ただただ強さを求めていたからだ。だが、今のあんたは違う。己の弱さと向き合い、そして変わろうとしている。そんな人が、逆に弱くなるなんてあり得ないさ」ナデナデ

 そう言うと、牙也は千冬の頭を軽く撫でた。

 千冬「な、な、な、なっ!?」ボフンッ

 突然の牙也の行動に、千冬は顔を真っ赤にして狼狽えた。

 牙也「ククッ、やっぱあんた、面白い人だな。これからが楽しみだ」

 千冬「~~~~~~~~~ッ!」

 千冬は猛ダッシュでその場を後にした。

 牙也「……意外と脳内ピンク色なのかな?」

 牙也は不思議そうにそう言って、医務室のドアをノックした。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラside

 

 私は、さっきまでの教官の悲しそうな顔を思い出していた。やはり、まだ織斑一夏の事を引き摺っているようだった。

 今まで私が見てきた教官は、あんな悲しい顔など絶対に見せなかった。私達の教官として、尊大に振る舞ってきた。それが、己が抱える悲しみを隠すための仮面だと気づいたのは、教官の家族について何となく調べてみたときだ。教官の弟の一人――織斑一夏――が、第2回モンド・グロッソの時に誘拐され、両足を切断された事は、私も捜索に加わっていたから知っていた。だが、調べてみて分かったのは、それ以前の織斑一夏を世間がどう見ていたかだ。

 織斑一夏は、優秀であった教官や下の弟と常に比べられ、常に低く評価されていた。曰く「織斑家の恥」、曰く「出来損ない」、曰く「不良品」など。追い付くために行ってきた努力も、ろくに見てもらえなかったようだった。私は、彼に――織斑一夏に共感を覚えた。私も、『同じ』だったからだ。

 私は『遺伝子強化試験体(試験管ベビー)』だ。生体兵器としてあらゆる兵器の使用法や戦略、体術などを習得し、いずれも良い成績を修めた。しかし、私への風向きが変わったのは、ISが世に普及した時。IS適合性向上の為に行われた『ヴォーダン・オージェ』の失敗の影響で、私は今まで良かった成績を大きく下げ、周囲から『出来損ない』の烙印を押された。

 私と織斑一夏は、そっくりなのだ。形は違えど、周りからのバッシングをずっとその身に受けていた。だから、私は織斑一夏に共感を覚え、織斑春輝には怒りとも言える感情を持った。生まれつき素晴らしい能力を持った人間が優遇され、逆に必死になって努力を重ねてきた人間が不遇な扱いを受けることに、憤っていた。

 今思えば、その怒りが、私が力を欲する要因だったのかもしれない。何時からだろうか、私が力を欲する理由を忘れてしまったのは――――――。

 

 シャルロット「う、ううん……」

 「!」

 隣のベッドを見ると、シャルロット・デュノアが目を覚ましたようだった。

 「シャルロット、大丈夫か?」

 シャルロット「……ラ、……ラウラ…………?」

 意識はまだおぼろげだが、私が誰かは分かるようだ。

 シャルロット「………………ここは?」

 「医務室だ。あの後、私達はここに運ばれた」

 シャルロット「そう……」

 

 コンコンコン――――――

 

 「…………誰だ?」

 

 牙也『紫野だ。入って良いか?』

 

 「……ああ」

 

 ガチャッ、キイ――――――

 

 

 牙也「よう、黒兎と金髪貴公子殿」

 

 

 

 ラウラside end

 

 

 

 

 三人称side

 

 牙也は医務室に入り、ラウラのベッドの近くにあった椅子に座った。

 牙也「シャルロットも、目が覚めたみたいだな」

 シャルロット「うん。ありがとう、僕達を助けてくれて」

 牙也「礼はいらねえよ、当然の事をしたまでだ」 

 そう言って、牙也は何処からかスポーツドリンクを二本取り出して机に置いた。

 牙也「……何があったかは、聞いたか?」

 ラウラ「ああ、教官が話してくれた。シャルロットはまだ起きてなかったから、話していない」

 シャルロット「アリーナで気絶してからの記憶がないんだよね……何があったの?」

 牙也「ああ、実はな――ー―」

 牙也はアリーナで起こった事の全てを話した。

 牙也「――――と、言うことがあった」

 シャルロット「……僕達の体に、ロックシードが……」

 シャルロットは自分の胸の辺りで、ギュッと拳を握った。

 牙也「ロックシード自体は既に二人から取り除いたから、もうあんなことは起きない。けど、二人ともしばらくロックシードの副作用で上手く動けないから、覚悟しとけよ」

 ラウラ「そのようだな、今も上手く体を動かせない。いくら体を鍛えていても、こればかりはどうしようもないな」

 ラウラはそう言いつつ、手でグーやパーを示していたが、その動きはぎこちなかった。

 

 牙也「突然だがラウラ。俺がお前に言った言葉、覚えてるか?」

 ラウラ「……ああ。『力が欲しければ、力を欲するな』だったな。今回の騒ぎで、どれだけ私が愚かだったかよく分かったよ……」

 牙也「はっきりと理解してくれたようだな」

 牙也は更に続けた。

 

 

 

 牙也「力を持つってのは、確かに生きるためには必要なことだ。でも、人一人が持てる力にはどうしても限界がある。人は、その限界を超えることで更に強くなる。だが、更に多くの力を一気に身に付けようとすると、やがて体がその力を抑えきれなくなる。例を挙げるなら、鍋だ。鍋に入れられる水の量は限界がある。限界以上に水を入れると、溢れてしまう。それと同じだ。欲張って多くの物を入れようとすると、入りきらずに溢れたり、落ちたりしてしまう。今回は、必要以上に求めた為に溢れた力に、ラウラ自身が押し潰されてしまったから起きたことだ」

 

 

 

 シャ・ラ「「…………………………………………………………」」

 二人は牙也の話を黙って聞いていた。

 牙也「日本の言葉に、『過ぎたるはなお及ばざるが如し』ってのがある。これは、物事を行う時は、その量が多すぎてはいけない、逆に少なすぎてもいけない、何事もちょうど良い量で行うのが良いって意味だ。ラウラの場合は、量が多すぎた。その結果は、言うまでもあるまい」

 牙也はそこまで言って、懐からブルーベリーロックシードを出して机に置いた。

 牙也「このアーマードライダーの力は、俺にとって―――いや、今生きている全ての人間にとってあまりにも大きすぎる力だ。しかし、俺はこれを難なく使いこなしている。何故だと思う?」

 シャルロット「……自分で調整しているから?それを充分に使いこなすために自分の力をコントロールしているから?」

 牙也「正解だ、シャルロット。使う力が大きいなら自分の力を抑え、反対に小さいなら自分の力を存分に引き出す。人間なら、誰でも普通に出来て当然で、しかし無意識に行っている動作。強大な力を使う奴ってのは、大抵そうして実力を100%発揮するんだ。それは、ISもアーマードライダーも同じこと。『兵器』とも見てとれる物を使う時は、どれだけ全力を出したとしても、どうしても人は無意識にストッパーをかけたり外したりする。出来ない奴は、まだその力、もしくは自分自身を信じきれていないか、ただの馬鹿かのどちらかだ」

 牙也はブルーベリーロックシードをしまって立ち上がり、医務室のドアへと歩いていった。

 牙也「ラウラ、軍人のお前には分かるだろう、ISやアーマードライダーという『兵器』を使う意味が」

 ドアに手をかけた時、牙也は思い出したように言った。

 

 

 

 牙也「『兵器』を使うということは、『人殺し』にもなるって事だ。例え口では殺さないと言っても、一つ間違えればその瞬間犯罪者だ。二人とも、早く力のコントロールを上手に出来るようになっとけよ」

 

 

 牙也はそう言って、医務室を出ていった。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 シャルロットside

 

 牙也さんが医務室から出ていき、暫くの間医務室は静寂に包まれた。僕は彼が言っていた言葉を思い返していた。

 (『力が欲しければ、力を欲するな』………………あの言葉、やっぱり何処かで―――――あ、あの時だ………………)

 僕の実家であるデュノア社は、IS産業では世界シェア第3位の会社だ。その分、下請けの会社もたくさんあった。その中でも、たった2年だったけど会社の下請けとして会社に貢献してくれた会社があった。僕が当時まだ幼かったこともあって会社の名前は覚えてないけど、そこの社長さんが実家を訪れたことがあった。その時に、僕はその社長さんと話をした。そこで社長さんが言っていた言葉に、彼の言葉はよく似ていた。

 

 

 

 『力は一つ間違えれば暴力になる。力は、例えどれだけ欲しくても、欲してはいけないんだ』

 

 

 

 ずっと引っ掛かっていたけど、あの時の言葉だったんだ。あの時の言葉にそっくりだったんだ。

 (…………………………ありがとう…………………………)

僕は、無意識に牙也さんとその社長さんに、心の中でお礼の言葉を言った。

 

 

 

 

 シャルロットside end

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 その日の夜。千冬は屋上で月を見ていた。

 千冬(……また、手放してしまったか……手を伸ばせば、ちゃんと届く距離だったにも関わらず……)

 千冬は、己の未熟さを嘆いていた。どれだけ力を持っても、きちんと発揮出来なければただの宝の持ち腐れ。無意味なものになる。

 千冬(……もう、手放したくない……もう、同じ過ちを繰り返すのは、嫌だ。だが、私には……)

 シュラ『苦しんでいるようだな、織斑千冬』

 千冬「!?」

 千冬が後ろを向くと、そこにはクラックが開いており、中からシュラが出てきた。

 千冬「オーバーロード・シュラ…………何の用だ?」

 シュラ「……お前の覚悟を問いに来た……お前は何故、力を欲するのか……?」

 対して千冬は、少し考えて答えた。

 

 

 

 千冬「……守りたい友がいる……守りたい仲間がいる……守りたい家族がいる……私は、私の手が届く範囲の人々を守りたい……。だが、私には――」

 

 

 シュラ「力がない、か?確かにな。今までずっと、無意味な力しかお前は持たなかったからな……」

 シュラはそう言って、懐から何かを取り出した。

 シュラ「お前の覚悟、よく分かった。己の弱さを知ったお前なら、これを渡しても良いかもしれん……」

 シュラは、手に持った何かを千冬に差し出した。

 それは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ゲネシスドライバーと、表面に黄緑色が塗られたエナジーロックシードだった。

 

 

 

 

 

 

 『シークヮーサーエナジー』

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 






 言い忘れてましたが、番外編は牙也を始めとした登場キャラのとある一日を書きたいな…………と考えています。とは言え、上手く書けるかは心配なところ…………拙い文章になったら、ごめんなさい!
 では、また次回!


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番外編 トアル一日
番外:episode牙也 墓参リ



 番外編の投稿を始めます!
 第1段は牙也のある一日。

 少し短くなりましたが、頑張ってまとめました。

それでは、どうぞ!




 

 牙也side

 

 某県某市にある山の中。俺は、景色の綺麗な丘の上にひっそりと作られた立派なお墓の前に立っていた。墓石には、

 『雷準也 享年34  茜 享年30  瑞穂 享年6』

 と彫られていた。

 ちょうどこの日は、あの会社襲撃事件があった日、そして、俺が家族という光を失った日。

 「ありがとう、束さん。こんな立派な墓を作ってくれて」

 束「お礼はいいよ、牙君。これぐらいしか、束さんに出来ることはないんだから」

 束さんはそう言って、墓石に水をかけた。

 元々俺の家族の墓は、こことは別の場所に作られていたのだが、親族がおらず、更に唯一生き残っていた俺は世捨て人としてひっそりと生きていたので、墓には束さん以外誰も来ず、段々廃れてきていたのを束さんが遺骨を引き取って新たに墓をたてたとのこと。俺は今日初めて、新しく作られた家族の墓を訪れた。

 「……見てくれてるかな、父さん達。俺達を、俺達が変えようとしてる世界を」

 束「……見てるよ、絶対。準也さんはいつも、牙君の事を気にかけていたからね。仕事中も、私と話しているときも」

 束さんはそう言って、弱々しい笑みを見せた。

 束「毎回何かにつけては、牙也はどうたら、牙也はこうたらと牙君の話になってたんだよね。懐かしいなぁ……」

 「へぇ……父さんが、そんなことを……」

 そう言いながら、俺は線香に火を付け、お墓の前に立てた。

 束「でも、失われた命はもう二度と戻っては来ない。準也さんの豪快な笑い声を聞くことも、茜さんの穏やかな笑みを見ることも、瑞穂ちゃんを抱っこすることも、出来ない。私が見捨ててしまったから、私が――」

 「言わないで下さい」

 俺は、束さんの言葉を手で制した。

 「もう、今さらなんですよ。今さら嘆いたところで、死んだ人間を助けることなんて出来はしない。助けられるのは、今を生きている人だけです。後悔なんて、あまり役には立ちません。なら、俺達には何が出来るでしょうか?」

 そこまで言って、俺は墓に手を合わせた。束さんもそれに続いて手を合わせた。そして俺は、顔をあげて言った。

 「答えは既に見えているはずです。『生きる』ただそれだけ。死んでしまった人の分まで、最後まで生きる事。俺達がすべきは、それだけなんです。何をすべきかじゃない、これからどうすべきかが一番大事なんです」

 俺は懐からブルーベリーロックシードを取り出した。

 「『呪われたロックシード』と呼ばれるこいつは、それを俺に教えてくれました。吹いてくる風に流されるんじゃなく、抗って生きろ、と。追い風じゃなく、向かい風の中を進め、と」

 俺は、そこから見える景色に目を細めた。

 束「……牙君は強いね。とても」

 「強い?そんなことないですよ、俺はまだ弱い。体も、精神(こころ)も。俺自身が変えるべき事は、どれだけの時間が経っても尽きはしません。強さってのは、あくまで人の表面上の物。強さの本質は、人それぞれです。俺は、その本質がない空っぽの状態。こいつによってやっと立っていられる状態。いつこの器が壊れてもおかしくないんです」

 束「……」

 「こいつが壊れるか、器が壊れれば、俺はもう二度と立ち上がれないでしょうね。そんな中で俺は生きてる。貴女はどうですか?」

 束「私は……」

 束さんからは、次の言葉が出てこなかった。

 「……まあ、すぐには見つからないでしょうね。ゆっくり探しましょう、俺達の強さってのを。それが見えれば、まだ強くなれるんですから」

 束「……そうだね。ありがとう、牙君。少し、元気がでたよ」

 束さんはそう言って、勢い良く立ち上がった。

 束「また来年も来よう、ここに。そして、今度こそ伝えるんだ。『私の夢が、やっと叶いました』ってね」

 「そうですね。そのためには、一層俺達が奮起しなきゃいけませんよ」

 束「うん。それじゃ、束さんはもう行くね。クロちゃんといっくんを待たせてるから」

 「お出かけですか?」

 束「うん。久しぶりに三人で買い物に行くんだ!あー、楽しみ~!それじゃ牙君、ばいばいび~!」

 束さんはそう言って、近くに停めてあったニンジン型ロケットに乗り込み、飛んでいってしまった。

 束さんを見送った後、俺は墓に近づいてもう一度手を合わせた。

 (父さん、母さん、瑞穂。今はゆっくり休んでいてくれ。俺は、この命が尽きる時まで生き抜く。父さん達の遺志を、これからの世界に繋げるために。そして、俺の生き様を、貫くために)

 心の中でそう呟いて、俺はその場を後にした。

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 三人称side

 

 その日の夜。牙也の家族の墓に、一つの小さな光が灯った。暫くの間その光は輝き続けたが、やがてその光は徐々に輝きを失っていった。そして、その光があった場所には――-ーー

 

 

 

 

 

 

 

 虹色に輝きを放つ、鍵のような物が墓石に置かれていた。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 





 というわけで、番外編第1段でした。

 ここでやっと牙也の家族の名前を全員出せました!あー、良かった。

 オリロックビークルとかも考えてみようかな…………と思っています。何かリクエストがあるなら、オリロックシードと同様に活動報告欄へどんどんお願いします!

 では、次回の番外編でお会いしましょう!



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番外:episode箒 自覚セシ恋心

 番外編第2段は、箒のある一日。

 少し時間を巻き戻します。



 箒side

 

 「牙也、いるか?」ドアコンコン

 私は今、牙也の部屋の前にいる。アーマードライダーになったはいいが、まだ私は牙也に勝てるほど強くはない。放課後等の空いた時間を使ってアーマードライダーとしての特訓を日夜行っているが、それでも足りない位だ(もちろん、ISの特訓もちゃんと行っている)。

 今日も今日とて特訓を行ったが、やはり牙也の強さは段違いだった。何十合と打ち合ったが、牙也に一太刀も与えられなかった。まだ私は未熟だと良く分かる。インベスの襲撃はまばらにはなっているものの、今の強さではいずれ起こるであろう最悪の事態に対処出来ないだろう。しかし、焦って力を欲せばラウラの二の舞だ。ゆっくり、だが確実に力を付けなければなるまい。

 そうして今日も特訓が終わって牙也が先に帰った後で、私はロッカールームで着替えていた。すると、一つのロッカーに牙也の上着を見つけた。恐らく牙也が忘れてしまったのだろう。

 ということで、私は牙也の部屋にやって来た。そしてドアをノックしたのだがーーーー

 (…………反応がない……いないのか?)

 確認の為ドアノブをひねると、扉が開いた。ゆっくりと中に入ってみると、電気は点いていた。

 「牙也?いないのか?」

 そう声をかけながら奥に進むと、

 牙也「Zzzzz」

 いた。どうやら牙也は、帰って来てすぐに寝落ちしたようだ。ベッドでスヤスヤと穏やかな寝息をたてている。

 「今まで色々あったからな。大分疲れていたんだな……」

 クラス対抗戦の一件があり、ラウラの暴走の一件があり、この二ヶ月の間は休む暇さえないほどだった。特に牙也は、資料作成やら映像解析やらで忙しい毎日だった。

 「お疲れ様、牙也」ファサッ

 そう言って、私は手に持った牙也の上着を毛布のように牙也にかけた。そして私は、牙也が眠っているベッドに腰掛けた。

 牙也「Zzzzz」

 「……フフッ」

 (……良い寝顔だな)

 牙也の寝顔には、まだ少年としてのあどけなさが残っており、少し可愛く思った。

 「…………誰も見てないな?」キョロキョロ

 私は少し冒険する事にした。牙也に近付き、その頭をそっと持ち上げ、私の膝に乗せた。膝枕というやつだ。

 「ほう、これはなかなか良いな」ナデナデ

 そう言いながら、私は牙也の頭を軽く撫でた。

 牙也「……んぅ」コロン

 「おっと……フフ」

 すると牙也は寝返りをうって、顔を私のお腹に向けてきた。

 「…………恥ずかしいものだな////」ナデナデ

 そう言いながらも、頭を撫でる手は止めない。だって楽しいから。

 (…………思えば、あの時からだな…………牙也の事が『好き』だと自覚したのは…………)

 

 

 ーー回想ーー

 

 『………………………………』グスグス

 

 牙也『どうかしましたか?』

 

 『っ!?…………ああ、牙也か…………実はな…………』

 

 

 

 牙也『…………成る程。一夏さんに…………』

 

 『ああ、告白した。が、見事に玉砕したよ。一夏には、すでに付き合っている子がいた。その子とのツーショット写真をみせてくれてな。とても良い笑顔だったよ、写真の一夏も、写真をみせてる一夏も。その時悟ったよ、私はその子に負けたんだと』

 

 牙也『負け、ですか…………』

 

 『ああ、一夏をどれだけ大事に思っていたか。その大きさに、私は負けたんだ。我ながら不甲斐ないな。ファースト幼馴染みと言っておきながら…………』

 

 牙也『……勝ちたくありませんか?その子に』

 

 『…………え?』

 

 牙也『…………大切な人を思う気持ちの大きさで負けたのなら、まだ勝てるチャンスはありますよ』

 

 『…………あるのか?そんな方法が?』

 

 牙也『ええ、あります。…………一夏さん以上の良い男性を見つけて、その人を一夏さん以上に大事に思う。それだけですよ』

 

 『…………それだけ、か?』

 

 牙也『はい、それだけですよ。見返すんです、その二人を。自分だって、こんなにも彼を思うことが出来るんだって、アピールする。それなら勝てるでしょう?』

 

 『…………見つけられるかな、私に』

 

 牙也『大丈夫です。見つかりますよ、必ず。箒さん程綺麗な人はいません。『篠ノ之束の妹』という宣伝文句を抜きにしても、必ず箒さんを心から思ってくれる人が見つかりますよ』

 

 『ッ!?綺麗、か?私が?』

 

 牙也『はい、綺麗ですよ』

 

 『…………そうか……綺麗か…………ありがとう、牙也。少し気持ちが軽くなった』

 

 牙也『どういたしまして』

 

 

 ーー回想 終了ーー

 

 

 (今となっては懐かしい思い出だ。牙也のあの一言がなければ、私は自暴自棄になっていたかもしれない)

 牙也は相変わらず、穏やかな寝息をたてている。その頬に私は手を添え、耳に顔を近付けた。

 

 「ありがとう、牙也。お前のあの言葉のおかげで、私は今、こうやって生きることが出来る。お前に会えて、本当によかった」

 そして私は、さらに言葉を繋いだ。

 

 

 

 

 「ありがとう、牙也。私は、お前の事がーーーー『大好き』だ」

 

 

 

 

 千冬『…………ほう、これはいい情報を手に入れた』

 「ファッ!?」ビクーン

 

 突然声が聞こえた。顔を上げるとーーーー

 

 

 千冬「私の部屋で、しかも相手が寝ている状態で告白とはな。ムードも何もあったものではないな」

 「お、おおお織斑先生!?いつから!?いつからいたんですか!?」

 千冬「ん?お前が牙也に膝枕をした辺りからだな。良い絵面だったぞ、写真に撮ったら」つスマホ

 「しゃ、写真も撮ったんですか!?そのデータ渡して下さい!姉さんに送られたら…………!」

 千冬「ほう、束の元に写真を送るか。それは考え付かなかったな。よし、早速送るとしよう!」トウソウ

 「お、織斑先生!それだけは、それだけは止めて下さいーーーー!」オイカケ

 

 

 

 

 後日、送られてきた写真を見た姉さんや一夏に盛大にからかわれたのは、また別の話です////

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 




 第2段は箒でした!

 さて、早く読者さんのリクエストに答えねば…………

 では、次回もお楽しみに!


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番外:episode鈴 砂糖爆弾(シュガーボム)

 セカン党の皆さん、お待たせしました!

 一夏×鈴のラブラブまったり日常と行きましょう!




 三人称side

 

 ある日の朝、牙也が朝食の為に食堂を訪れると、箒とセシリアが誰かを慰めていた。

 牙也「二人共、どうかしたか?」

 セシリア「あ、紫野さん。実は鈴さんが……」

 

 

 

 鈴「……一夏ぁ……会いたいよぉ……」グスグス

 

 

 

 

 鈴が一夏と一緒に撮った写真を見ながら泣いていた。

 箒「この有り様でな」

 牙也「成る程な。しかし一夏を呼ぼうにも、俺等皆電話番号知らないしな……向こうから掛けてk『ピリリリリ』あ、俺のスマホだ。ちょっと外すぞ」

 牙也は一旦食堂を出てから電話に出た。

 牙也「もしもsh「やっほ~い、皆のアイドルの束さんだよ~!」声は抑えてくださいよ……」

 電話の主は、束だった。

 束「あはは、ごめんごめん。久しぶりだったからついね~」

 牙也「それで何の用ですか?」

 束「ん?あー、今度学園の専用機持ちのISを束さんがチェックして差し上げようって事で、そっちに向かうよ。ちーちゃんと学園長さんにはすでに伝えてあるからね」

 牙也「はいよ。で、いつ来るんですか?」

 

 

 束「えーっとね、今日これから」

 牙也「急過ぎにも程があるぞ!?」

 

 

 束「ごめんごめん、牙君に伝えるの忘れてて……」アハハ

 牙也「打ち首獄門と磔獄門とどっちがいいですか?」

 束「ごめんなさい!謝るから許して!」ガクブル

 牙也「……はあ、分かりましたよ。その代わり、一つお願い聞いてもらってもいいですか?」

 束「い、いいけど……」ガクブル

 牙也「んじゃあーー」

 

 

 

 

 

 

 牙也「ただいまー」

 箒「何か大きな声で叫んでいたが、どうかしたか?」

 牙也「電話の相手が『天災』でした、と言えば分かるな?」

 箒「……」ハァ

 セシリア「し、篠ノ之束博士からの電話だったのですか!?」

 牙也「ああ、束さんもインベス関連の協力者だからな。連絡先を俺が教えたんだ」

 箒「それで、姉さんは何と?」

 牙也「ああ、鈴からすれば結構朗報と言えるな」

 鈴「」ピクッ

 セシリア「朗報、ですか?」

 牙也「ああ、実はなーー」

 

 

 侵食者説明中ーー

 

 

 鈴「」プルプル

 牙也「ーーという訳であっt「牙也!」っ、何だ?」

 鈴は牙也の手を握って大きく握手した。

 鈴「ありがとう!ありがとう!」ブンブン

 牙也「お、おう……お礼は束さんに言いな。俺はちょっと口添えしたに過ぎん」

 鈴「それでもよ!って、こんな事やってる時間もないわ!急いでおめかししなきゃ!じゃ三人共、また後でね!」ダダダダ

 鈴は猛スピードで食堂を出ていった。周りの生徒も何事かと、牙也達や猛スピードで出ていった鈴を見て不思議そうにしている。

 牙也「……嵐が去ったな」

 セシリア「……強風でしたわね」

 箒「いや、あれは暴風と言えるのでは……?」

 三人が三人共、乾いた笑みしか作れなかった。

 

 

 

 同時刻、束のラボ。

 束「いっくん、ちょっといい?」

 一夏「?どうかしましたか?」

 束「実はさっき牙君と電話で話してね。それで牙君からいっくんに伝言頼まれたのよ」

 一夏「牙也から?」

 束「うん。その内容がねーー」

 

 一夏「……IS学園に、ですか?」

 束「うん、牙君も言ってたよ、『鈴ちゃんがそろそろ限界っぽい』って」

 一夏「行きます。俺も鈴に会いたいですから」ソクトウ

 束「それじゃあ急いで準備して!すぐに出るよ!」

 

 

 

 一時間後、学園の校門前。

 鈴「一夏~♡」ヒシッ

 一夏「鈴~!会いたかったぞ~!」ギュッ

 鈴「一夏大好き!」ギューッ

 一夏「俺も鈴が大好きだぞー!」ナデナデ

 鈴「~♡」ゴロニャーン

 

 

 箒「……凄まじく甘ったるい空気になったな……」ウップ

 セシリア「箒さん、紅茶をお飲みになりますか?」

 千冬「いや、紅茶より無糖のブラックコーヒーだろう……」サトウダバー

 真耶「……買って来ましょうか?」アワアワ

 束「束さんにもお願い……」サトウダバー

 

 

 

 束、クロエ、一夏が到着して早々、この有り様となった。

 ちなみに一夏は車椅子に座った状態で鈴と抱き合っている。

 

 

 牙也「ラウラ、よく見ておけ。あの二人の事を世間では『バカップル』と言うんだぞ?」

 ラウラ「そうなのか?成る程な、勉強になる」カキカキ

 シャルロット「何で二人はそんな余裕でいられるの……?」ウップ

 クロエ「私もこれには耐えきれません……」サトウツーッ

 

 

 鈴「一夏~♡好き好き~♡」ゴロゴロ

 一夏「俺も鈴が大好きだぞー!何度でも言ってやる、大好きだと!」ギューッ

 鈴「~♡」ハニャーン

 

 

 

 

 

 箒・千・セシ・シャ・真・束・クロ『ちょっと自販機でブラックコーヒーをーー』

 

 

 自販機《売り切れデース》

 

 

 箒・千・セシ・シャ・真・束・クロ『畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 ラウラ「……教官達も大変だな」

 牙也「いや、たぶんあれが普通の反応だ。俺等がおかしいんだよ……」ハァ

 恋愛に疎いのが幸いして、影響を受けなかった牙也とラウラであった。

 

 

 

 所変わって、昼時の食堂ーー

 

 鈴「一夏、アーン♡」つハンバーグ

 一夏「あむっ、ムグムグ……うん、旨い!それじゃ、鈴も」つハンバーグ

 鈴「アーン♡はむっ、モグモグ……美味しいね、一夏!」

 一夏「そうだな。次はどれを食べるかな……」

 鈴「じゃあ、これ!」つフライドポテト

 一夏「はいはい、鈴、口開けて」

 鈴「うん!」アーン

 一夏「ほい」スッ

 鈴「」カプッ

 一夏「」ニコニコ

 鈴「」ジー

 一夏「?」キョトン

 鈴「ははふひへほ、はへひゃふほ?(早くしてよ、食べちゃうよ?)」

 一夏「成る程……じゃ、失礼して」スッ

 

 パクッ

 

 モグモグ……モグモグ……

 

 チュッ♡

 

 鈴「ん……ぁん………ちゅる……ん……チュッ、ぷはあ♡」ギューッ

 一夏「ぷはあ……凄い熱烈だったな////」

 鈴「だって、ずっと会えなかったんだもの……これくらいやらなきゃ満足出来ないのよ……一夏だってそうでしょ?♡」ゴロゴロ

 一夏「そうだな、ずっと会ってなかったからな。俺、鈴と離れ離れになってる間、ずっと鈴と一緒に撮った写真で何とか保ってたからな……」ナデナデ

 鈴「一夏もそうだったの?嬉しい♡私もそうだったの♡ずっと一夏とのツーショット写真で気をまぎらわせてたんだけど……」ゴロゴロ

 一夏「我慢出来なくなった、か?」ナデナデ

 鈴「うん……やっぱり一夏が近くにいないと、元気が出なくて……」ショボン

 一夏「俺もだよ、鈴」ギューッ

 鈴「一夏……♡」キュン

 一夏「俺も、鈴が近くにいないと、元気が出ないんだよ……でも、今こうやって一緒にいられて、凄く元気が出たよ。ありがとうな、鈴」ナデナデギューッ

 鈴「えへへ、一夏もありがとうね!♡」ゴロゴロ

 一夏「おう」ナデナデナデナデ

 鈴「~♡」ゴロニャーン

 

 

 /一夏~、もっと撫でて~♡\

 

 /これくらいか?\ナデナデナデナデ

 

 /もっと~♡\

 

 

 

 本音「かんちゃん、助けて……私、舌が壊れたみたい……甘さしか感じないの……アハハ」バタリ

 簪「本音!?しっかりして!」

 楯無「虚ちゃん……ブラックコーヒーをーー」ウップ

 虚「申し訳ありません、お嬢様……すでにどこも売り切れておりまして……」ウップ

 楯無「む、無常………ね……ガクッ」サトウブシャッ

 

 

 

 『あ、甘過ぎる……』サトウダバー

 

 『ちょっと外出許可取って、ス○バでブラックコーヒー飲んでくる!』ダッソウ

 

 『おばちゃん!麻婆豆腐頂戴!一番辛いので!』ハリーアップ!

 

 食堂も砂糖爆弾(シュガーボム)の被害を受けていた。

 

 

 

 

 

 さらに場所を変えて、ISの整備室。

 鈴「あ、ここよ。ここが動かしづらいのよ」

 一夏「ここか?ありゃ、駆動用の関節がひび割れかかってる」

 鈴「本当だ。上手く動かせなかったのも、これが理由みたいね」

 一夏「恐らくそうだな。代わりの関節に付け替えておかなきゃ。鈴にもしもの事があったら……」

 鈴「一夏……私の事、心配してくれてるの?」

 一夏「もちろんだよ。鈴にはISを使ってる時にこういうので怪我して欲しくないから……」

 鈴「( ♡∀♡)」キュン

 

 ぎゅむっ♡

 

 一夏「り、鈴!?」

 鈴「えへへ、ありがとうね、一夏。私、嬉しいの。こんなに一夏に心配してもらって。それだけ一夏が私の事を思ってくれてるんだなって実感するの♡」

 一夏「そりゃそうさ。だって鈴は、俺の大事な『彼女』なんだからな!」

 鈴「!?」ズキューン

 

 クイクイッ←鈴、一夏の服の裾を引っ張る

 

 一夏「ん?どうした、りーー」

 鈴「」チュッ

 一夏「!?」

 鈴「ん、ちゅっ……はむっ……んっ……んむっ……っ、ぷはあ♡」

 一夏「り、鈴、いきなりキスはーー」

 鈴「嬉しくないの?」ウワメヅカイ

 一夏「」

 鈴「」ジーッ

 一夏「……嬉しいです////」カンネン

 鈴「ん、よろしい♡」ギュッ

 

 

 

 

 /という訳で一夏、もう一回キス♡\

 

 /分かった分かった。おいで\

 

 /えへへ~♡\

 

 

 

 

 束「……も、もう束さん、我慢……出来な……い……ガクッ」バタリ

 セシリア「整備どころではないですわ……」サトウダバー

 シャルロット『さとぅ~』←血文字の如く書かれてる

 牙也「はあ……全員整備を中断だ。これから、ぶっ倒れた奴等を医務室に搬送する」アタマカカエ

 

 

 砂糖爆弾(シュガーボム)の雨にさらされて、整備どころではなかった。

 その後も二人(バカップル)は周りに砂糖を振り撒いて回った。束達が帰った後も、その余波によって砂糖を吐く人が続出した。

 

 

 

 

 

 

 余談だが、彼女等が吐いた大量の砂糖は束によって世界各地に出荷され、その甘さに買い求める人が続出したとかーーーー。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 ラブコメ風になってしまった…………どうしてこうなった…………

 という訳で、一夏と鈴のイチャラブな一日でした。
 作者にはこれが限界でした。
 これ以上書くと、本気で砂糖吐いてぶっ倒れそうなので…………


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番外:episodeラウラ 邂逅スルハ、隻眼ノ勇士

 コラボも無事終わりましたので、番外編を一つ。

 第4段はラウラのエピソード。

 少し時間を巻き戻して、原作の一年前に話を持っていきます。
 では、どうぞ!




 三人称side

 

 ある日の第1アリーナ。二機のISが銃撃戦を繰り広げていた。青い機体を操るはセシリア・オルコット、黄色の機体を操るは、シャルロット・デュノアである。そして、その二機の銃撃の間を掻い潜るように動く別の二機のISがあった。黒い機体を操るは、ラウラ・ボーデヴィッヒ、量産型の機体を操るは、篠ノ之箒である。ラウラと箒は、遠距離武装を如何に掻い潜って敵に接近するかを模索する為、セシリアとシャルロットに協力を依頼。一方のセシリアとシャルロットも、近距離武装対策の為にラウラと箒に協力を依頼。お互いの目的が上手く合致した四人は、早速第1アリーナで特訓を行っていた。因みに鈴はこの日、別の用事があった牙也と共に束のラボに行っている。

 ラウラ「くっ、やはり易々と隙は見せないか!」

 セシリア「なかなか当てられませんわね…………まだまだ努力あるのみ、ですわね」

 シャルロット「お互い量産型とは言え、高速切替(ラピッド・スイッチ)を掻い潜るのは難しいよ、篠ノ之さん!?」

 箒「まだまだ!どんどん撃ってこい!」

 軽口を叩き合いながらも、四人共集中が切れる様子はない。四人の特訓は、アリーナ使用時間ギリギリまで続いていた。

 

 

 

 夜。特訓を終えた四人と束のラボから戻ってきた鈴はラウラとシャルロットの部屋に集まり、ガールズトークに花を咲かせていた(主に鈴の惚気話だが)。

 鈴「それでね~、一夏ったらね~♡」ニヨニヨ

 セシリア「ふふ、御馳走様、ですわね」クスクス

 箒「相変わらず甘ったるいな……」ニガワライ

 シャルロット「まあ、喧嘩してるよりかは良いんじゃない?」アハハ

 ラウラ「そうだな。鈴が幸せそうなら、問題あるまい」ウンウン

 そんな感じでトークは進んでいった。

 シャルロット「あ、そうだ。ラウラに聞きたい事があったんだ」

 ラウラ「私にか?何だ?」

 シャルロット「うん。牙也と初めて会った時の事だよ」

 箒・鈴・セ『』ピクッ

 ラウラ「奴と?ううむ、あまり良い思い出とは言えんがな……」

 箒「牙也に喧嘩を売ったと聞いているが…………」

 ラウラ「ああ。当時はまだ、アーマードライダーの存在は表に出ていなかったからな」

 セシリア「普通に見れば、不審者と言われてもおかしくありませんわね」

 シャルロット「ましてや軍の施設だからね」

 鈴「そんな所に堂々と入れる訳がないわよね」

 箒「入ったら入ったで即逮捕だな」

 ラウラ「ああ。私の隊がインベスを相手した時は、ものの数分で壊滅まで追い込まれた。奴が乱入していなければ、どうなっていた事か……」

 シャルロット「仕方がないよ。何とか生き残ったとは言え、インベスの事を皆知らずに戦っていたんだから」

 箒「初見の敵は、基本攻略に苦労するものだからな」

 鈴「RPGじゃないんだから…………」

 セシリア「ですが、一理ありますわね」

 ラウラ「フフッ…………」

 ラウラ(……懐かしいな……今考えてみれば、あの頃の私は未熟だったな……)

 

 

 ーー回想ーー

 

 隊員A「隊長!防衛線、突破されました!これ以上支えきれません!」

 隊員B「隊長!ご命令を!」

 ラウラ「くそっ!一体何なのだ、奴等は!?ISの攻撃も銃火器の類いも効かぬとは……!?」

 クラリッサ「隊長!ここはお退き下さい!ここは私達が!」

 ラウラ「馬鹿者!隊長たる私が戦列を放棄するなど出来るものか!」

 クラリッサ「ですが、他に手はありません!隊長、ご決断を!」

 ラウラ(くっ、どうすればいい!?他に手段はないのか!?)

 

 下級インベス『フシャアアアアア!』

 クラリッサ「隊長、危ない!」

 ラウラ「しまっーー」

 

 

 

 

 ??「どけコラァァァァァァ!!」ブオオオオンッ

 下級インベス『シャッ!?』ドゲッ

 ラウラ「!?」

 クラリッサ「!?」

 

 

 

 

 ??「おらァァァァァァ!!」ゼンリンブンッ

 下級インベス『フシャアアアアア!』ドタッドタッ

 ラウラ「バ、バイク!?」

 クラリッサ「ち、ちょっと貴方!ここは危険よ!早く逃げなさい!」

 

 

 

 

 ??「そおおおおおおおいっ!!」ゼンリンブンッ

 下級インベス『フシャアアアアア!』ドサドサッ

 ラウラ「おい、貴様!聞こえているのか!?早く逃げろと言っている!」

 ??「ああん!?五月蝿えんだよ!そんな傷だらけで戦ってるあんた等こそ逃げろよ!」

 クラリッサ「そうはいきません!私達には、ここを守り抜く使命があります!簡単に逃げるなどと…………!」

 ??「馬鹿か!死んだらその使命が果たせなくなるぞ!それでも良いってのか!?」

 ラウラ「貴様にそんな事を言われる筋合いはない!」

 クラリッサ「貴方こそ、命を大切にしなさい!武器も何も持ってないのに、戦える訳ないでしょう!?」

 

 

 

 ??「武器、か…………それなら、ここにある!」つ戦極ドライバー

 ラ・ク『!?』

 ??「変身!」

 『ブルーベリー』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 ラウラ「な…………!?」

 クラリッサ「貴方、それ…………!?」

 

 

 

 ??「さあ…………破壊の宴が始まるぞ…………!」ダッ

 ラウラ「あ!お、おい、待て!」

 

 

 

 

 

 

 ??「そらっ!」ブンッ

 

 ??「やあっ!」ブンッ

 

 ??「ほいさっ!」ブンッ

 

 下級インベス『シャッ!?シャアッ!』

 

 隊員A「おお…………怪物が…………!」

 隊員B「すげえ、押し返してる!」

 クラリッサ「隊長、あれは一体…………?」

 ラウラ「分からん。私も見た事がない」

 

 

 

 ??「ああ、くそっ!数ばっか出てきやがって!面倒だ!」

 

 『ブルーベリースパーキング!』

 

 ??「まとめて…………ぶった斬る!」ザンッ←横一閃

 

 下級インベス『フシャアアアアア!』バクサン

 

 隊員C「倒した…………あの数を……簡単に…………」

 隊員A「すげえ…………」

 ラウラ「……………………」ザッザッ

 クラリッサ「た、隊長!?」

 

 

 ??「ふう…………これで全部か……「おい」?何だ?」

 ラウラ「あの怪物を倒してくれた事、隊の隊長として例を言う。ありがとう」

 ??「別に。礼はいらねえよ」

 ラウラ「だが、お前が侵入者である事は覆せない。悪いが、大人しく拘束されろ」

 クラリッサ「た、隊長!?」

 ラウラ「クラリッサ、これは紛れもない事実だ。こいつは軍の施設に侵入したばかりか、私達の命令を無視した。軍属ではないとは言え、処罰されて当然だ」

 ??「ふむ、確かにな」

 ラウラ「それに、あの怪物について、こいつは何か知っているはずだ。それについても話してもらう」

 ??「まあ当然だな。あれを知ってんのは、現状俺しかいないからな」

 ラウラ「話が早いな。ならばーー」

 ??「だが断る」

 ラウラ「何?」

 ??「あれの事を知って、お前等で何とかしようと考えてんだろうが、それは無理な話だ。現状俺以外に、あれを倒せる奴はいないからな」

 クラリッサ「そんな事はーー」

 ??「ないと言い切れるのか?今のお前等を見てみろ。怪我してない奴がいるか?」

 クラリッサ「くっ…………!」

 ??「現実を見ろ。ISでは、あれには勝てん。あれを倒すのは、俺の仕事だ。お前等にやらせる訳にはいかない」

 ラウラ「ふざけるな!今回はただ油断しただけだ!私が本気になればあの怪物などーー」

 ??「止めとけ、無駄死にするだけだ。用がそれだけなら、俺は帰らせてーー」クルッ

 ラウラ「ーーっ、貴様ァァァァァァ!!」ゴオッ

 クラリッサ「隊長!?」

 ??「…………聞き分けのないガキめ…………!」

 

 『ブルーベリースカッシュ!』

 

 ??「…………ハアッ!」ドガッ←カブトのカウンターキック

 ラウラ「ぐっ!?」ドサアッ

 クラリッサ「隊長!」

 隊員達『隊長!』

 

 ??「……我が名、『アーマードライダー蝕』……いずれ、我を超えてみせよ」ブオオンッ

 

 ラウラ「……アーマードライダー……蝕……!」

 

 

 

 ーー回想終了ーー

 

 箒「?ラウラ、どうした?」

 ラウラ「いや、あの時の事を思い出していてな。今思えば、奴との出会いは『運命(さだめ)』だったのかもしれん」

 鈴「運命、ねえ……」

 シャルロット「それにしても、当時から牙也さんは強かったんだね」

 箒「牙也は既に、重たい荷物を背負って戦っていたからだろうな。強き決意は、人を奮い立たせる。決意が弱ければ、牙也はあそこまで強くはなれなかっただろうな。私の今の目標は、牙也を越える事だ」

 セシリア「高き壁、ですわね……ですが、篠ノ之さんなら越えられますわ、必ず」

 シャルロット「篠ノ之さんも強い決意を持ってるんだから、大丈夫だよ」

 鈴「でも、あたし達も負けてられないわよ。牙也や箒ばかりに重荷を背負わせる訳にはいかないわ!」

 ラウラ「ああ。私達も、まだまだ努力あるのみだな」

 箒「よし、これからも皆で頑張るぞ!」

 全員『おーっ!』

 

 

 

 

 

 三人称side  end

 

 

 




 牙也とラウラの出会いでした。結構呆気なかったよ……自分で書いたのに。

 次回もお楽しみに!



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コラボNo.1 旅人ハ忠告スル
コラボ 旅人ライダーノ置キ土産(前編)




 SOURさんとのコラボです!さらに、千冬さんもちゃっかり変身しています!

 では、どうぞ!




 

 

 三人称side

 

 IS学園の敷地内の外れにある、鬱蒼とした林の中。そこでは、二人のアーマードライダーがソニックアローを振るって戦っていた。

 千冬「これでどうだっ!」ヒュン!

 シュラ「ほう、やるな!」ガギン!

 戦っているのは、アーマードライダー赤零ーーシュラとアーマードライダー白夜(びゃくや)ーー千冬であった。

 千冬はタッグトーナメント後にシュラから渡されたゲネシスドライバーとシークヮーサーエナジーロックシードに早く慣れるため、シュラに師事。生徒達が寝静まった夜中に毎日、こうやってアーマードライダーとして鍛えてもらっている。もちろん、この時点では牙也と箒は千冬がアーマードライダーの力を得た事は知らない。

 それぞれのソニックアローのアークリム同士が火花を散らし、矢が次々放たれ、時に鍔迫り合いとなる。両者共に一歩も退かず、拮抗状態が続いていた。

 シュラ「しかし、最初の頃はエナジーロックシードに振り回されてばかりだったが、大分制御出来るようになったな」

 千冬「まだ制御出来るようになっただけだ。確実に使いこなせるようにならねば…………!」

 そんな軽口を叩きながらも、お互いに攻撃の手を緩めない。林の中に斬撃の音が、矢がぶつかる音が鳴り響く。戦いは、終わる気配を見せぬまま暫く続いていた。

 

 

 

 

 千冬「ふう…………やはり、まだ力不足だな」

 特訓を終え、変身を解除した千冬は近くの木に寄りかかった。

 シュラ「しかし、実力はしっかりついている。そこは誇っても良いのではないか?」

 シュラはそんな千冬に賞賛を送った。が、千冬はそれに対して首を振った。

 千冬「いや、これぐらいで誇れるものではない。まだ、私には足りないものがある。それを得るために、慢心などしていられない」

 そう言ってシークヮーサーエナジーロックシードを握りしめる千冬の顔には、『もう誰の手も離さない』という決意が篭っていた。

 シュラ「……その決意が強いのは別に構わんが、焦りすぎるなよ。あの銀髪の少女の二の舞にはなってほしくないからな」

 千冬「分かっている。あれを見て、力の使い方をまだ考えないなどふざけている。力とは、間違えれば破壊の力ーー暴力になるものだからな」

 シュラ「うむ。ISもアーマードライダーも、今の世では『兵器』足り得る力。それが分からぬ輩には、使い方の説明書でも作って読ませる事から始める方が良いと思うがな」

 千冬「それでどうにかなるのなら、束はすぐに動いているだろう?それに女尊男卑の世が、それを許しはしまい。ただでさえISを過信する者が多いのだ。説明書を読ませるだけでどうにかなるならこんな苦労はしないだろうに」

 二人はそんな軽口を叩きあっていたが、突然一本の木に殺気を向けた。

 千冬「……そこに隠れているのは、誰だ……?」

 シュラ「大人しく出てこい。さもなくば……」

 すると、木の陰から出てきたのはーー

 

 

 

 春輝「ち、千冬姉……?何で千冬姉が、その力を……?」

 織斑春輝であった。

 

 

 

 千冬「春輝……?何故、お前がここに……?」

 春輝「寝付けなかったんで外を見てたら、千冬姉がここに向かうのが見えたんで、追いかけてきたんだ…………」

 千冬「そうか…………春輝、私h『どうしてだよ』!」

 春輝「どうして千冬姉が、そんな奴から教えを請いているんだよ!千冬姉は世界最強(ブリュンヒルデ)なんだろう!?今のままでも充分強いじゃないか!それなのに何でーー」

 千冬「……私には、世界最強(ブリュンヒルデ)という称号など、無意味なのだ。私は今まで、この称号にしがみついて生きてきた。力の意味をちゃんと理解していなかった。だから、一番力を使うべき場面で力を発揮出来ず、一夏という大事な家族を失ってしまった。私が欲しいのは、称号という薄っぺらい物ではない。『守る力』大事な時に確実に大切な人を守る事の出来る力が欲しかったんだ………………」

 そう言う千冬の手は拳が握られ、少し血が滲み出ていた。

 春輝「でも、だからってこいつに力を求めるなんてーー」

 千冬「牙也は言っていた、『使える物はどんどん使え』と。私が力を得る為には、今の私にはこいつのーーシュラの力が必要なのだ。今まで通りに自らを鍛えたところで、力の意味を分かってない私にはまるで意味がない。だから、変化が必要なんだ」

 そう言って、千冬はシュラを見た。

 千冬「確かに、私はシュラを完全に信じている訳ではない。いずれ、私達を裏切ったりするかもしれない。だが、私自身が求める力の為、今はそんなことは言っていられない。もしシュラが裏切ったのなら、教わった力をもって、全力で倒すのみだ」

 シュラに向けられた千冬の目は、鋭かった。

 シュラ「どうする、まだ続けるか?」

 千冬「うむ、もう一戦頼む」

 シュラ「分かった。では行くぞ」

 『イーヴィルエナジー』

 『シークヮーサーエナジー』

 

 

 『『ロック・オン!!』』

 

 千・シュ「「変身」」

 

 

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood eyes!Blood eyes!D-D-D-Deadly Souls!』

 『リキッド!シークヮーサーエナジーアームズ!イヨォーッ!ソイヤッサァ!ハイヤッサァ!』

 

 千冬「今回の件は不問にする。春輝、お前はすぐに部屋に戻れ。後、分かっているとは思うがこの件は他言無用だ。さあ、行け」

 千冬ーーアーマードライダー白夜はそう言って、シュラーーアーマードライダー赤零と共に林の奥へ消えていった。残された春輝は、白式の待機形態のガントレットを強く握りしめた。

 春輝「千冬姉、千冬姉は間違ってる。敵から戦いを教わるなんて…………何でだよ…………何でそんな事が出来るんだよ!?」

 

 

 

 

 ??「…………本当に強さを望む者なら、どんな恥でも忍ぶ物なんだよ」

 春輝「?誰だ!?」

 春輝が振り向くと、そこに立っていたのはーー

 

 

 

 ??「君は、果たして強さのなんたるかを分かっているかな?」

 

 

 

 どことも知れぬ制服を着て、首回りにマフラーを巻いている青年であった。

 春輝「お前、誰だ!?ここは俺以外の男子は禁制だぞ!まさか、侵入者か!?」

 ??「侵入者とは、人聞きの悪い…………私は、『旅人』だ」

 春輝「旅人だと!?そんな見え透いた嘘が通じると思ってんのか!?」

 ??「本当だって…………人の話は聞いtーー」

 春輝「何が目的だ!?言え!言わないとーー」

 春輝は白式を展開して、謎の青年に突っ込んだ。

 春輝「こうなるぜぇぇぇぇ!!」

 装備した雪片弐型が、青年に振るわれーー

 

 

 

 

 ??「どうなるんだ?」

 

 

 

 ーーる前に、青年が手に持った銃で撃ち落とされた。

 春輝「ガッ!?何がーー」

 それによって春輝は一瞬青年への注目が逸れた。青年はそれを見逃さず、

 ??「そこだ!」ドンッ

 春輝「グワッ!」

 春輝の胸の辺りに銃弾を撃ち込んだ。春輝は大きく吹き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直して雪片弐型を構えた。

 春輝「くそっ!お前、飛び道具なんて卑怯だぞ!」

 ??「卑怯?戦い方は人それぞれだ。君はそれを否定するのかい?つまりそれは、君が私のような銃火器を使う人に『近接武器なんて卑怯だ』と言われるのと同じだ」

 春輝「うるさい!お前は僕が倒してやる!お前なんかに、天才の僕が倒せる訳がないんだ!」

 ??「…………あ?」

 春輝「!?」ビクッ

 その言葉を聞いた青年は、春輝に向かって強い殺気を当てた。春輝は一瞬たじろぐが、すぐに元に戻った。

 ??「天才だから、何だよ?天才は最強だって、言いたいのか?そんなんだから、アーマードライダーに負けるばかりか、アーマードライダー自体が使えないんだよ」

 春輝「な!?なんでお前がそんな事を知ってるんだよ!?まさか、お前もアーマードライダーなのか!?」

 ??「いや、『アーマードライダー』ではない。俺はーー」

 そう言って青年は、懐から一枚のカードを取り出した。そのカードには、アーマードライダーとは違う別のライダーの姿が写っていた。

 

 

 ??「ーー旅人であり、通りすがりの仮面ライダーだ…………変身」

 

 

 『KAMEN RIDE』

 

 青年はそのカードを銃に差し込んで、それを暗き空に向け、

 

 『CLIMB』

 

 銃を撃った。銃からは機械的な音声が響き、銃口から灰色のプレートが飛び出し、さらに彼の周囲を灰色の影がいくつも行き交った。そして、その影が彼に合わさり、黒の全身を包むスーツを形成。そして、空を浮いていたプレートがスーツの頭の部分に突き刺さった。スーツの一部が灰色になり、鈍く光った。フェイスマスクの目の部分は赤く光った。その姿は、昔のモノクロ写真を思わせた。

 

 

 

 

 ??「仮面ライダークライム、神崎朧ーー参る」

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 長くなったので、一旦切ります。

 後編もお楽しみに!


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コラボ 旅人ライダーノ置キ土産(後編)


 後編です。

 さて、上手く戦闘描写を書けただろうか…………



 

 三人称side

 

 朧「ほらほらどうした!?天才は負けないんじゃないのかい?」

 春輝「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

 春輝と仮面ライダークライムーー神崎朧の戦いは、クライムが優勢であった。雪片弐型を構えて突撃する春輝に対して、クライムは銃をわざと弾丸が外れるように撃ち、弾幕を張って春輝が近づけないようにしていた。少しでも春輝が接近すると、的確に弾を当てて懐に潜らせない。その繰り返しで、白式のSEはほとんどなくなっていた。

 春輝「くっ、やっぱり卑怯だぞ!銃火器を使うなんて!正々堂々と剣d『ドンッ!』グアッ!」

 朧「剣で戦え、とでも言いたいの?断る。銃で戦うのも、正々堂々とした手段だからね」

 春輝「くっ、認めない…………!こんな奴に天才の僕が負けるなんて…………!」

 朧「はあ…………そんなんだから、この程度の弾幕を潜り抜けられないんだろうが!」ドンドンッ

 春輝「グウッ!」

 クライムは銃を撃つ手を止めない。

 春輝「わ、分かった!僕の負けだ!だかr『ドンッ!』ぐはっ!」

 朧「」ドンドンッ

 春輝「ガッ!?グウッ!?ギャッ!?こ、降参だと僕はさっきk「知るかよ」っ!?」

 クライムは春輝の言葉を遮り、銃を構えて言った。

 

 

 

 

 

 

 朧「おい、知ってるか?戦場ではな、『敵に慈悲を与えちゃいけない』んだぜ?」

 

 

 

 

 

 春輝「な、何!?」

 朧「敵を生かしておくと、いつそいつに寝首をかかれるか分からない。だから、敵は完膚なきまでに叩き潰す。それが俺の戦い方だ」

 そう言って、クライムは腰のカードホルダーから一枚のカードを引き抜いた。そこには、見たこともない姿のアーマードライダーが写っていた。

 朧「じゃ、止めはこいつにやらせるか」

 

 『SUMMON RIDE』

 

 そのカードを銃に装填し、春輝に向けた。

 

 『ORIGIN』

 

 そしてそれが撃ち放たれ、灰色の影が交差する場所にやがて立ったのはーー

 

 

 

 

 ??「………………私の出番か?」

 

 

 

 無色透明のゲネシスドライバーと、様々な果実が描かれたエナジーロックシードをベルトに付けたアーマードライダーであった。

 春輝「なっ、アーマードライダー!?ど、どうしてーー」

 オリジン「…………アーマードライダーオリジン、貴様との一騎討ちを所望する…………」

 春輝「一騎討ち…………だと?…………ふん、良いだろう!誰も僕には及ばない事を思い知らせてやる!」

 春輝は雪片弐型をオリジンに向けて構えた。対してオリジンは、手に持った刀『雷亜』を居合い斬りのように腰に構え、更にシーボルコンプレッサーを一回押し込んだ。

 

 『オリジンエナジースカッシュ!』

 

 雷亜にオレンジ色のエネルギーが集まり、刀身をコーティングした。

 春輝「うおおおおおおおおお!!!!!」

 春輝がオリジンに向かって突撃し、雪片弐型を降り下ろしーー

 

 

 

 オリジン「…………はあっ!」ザンッ

 春輝「!?…………が、はっ…………」

 てきたタイミングで、オリジンは居合いを白式の装甲に叩き込んだ。白式は強制解除され、春輝も地面に叩き出され、そのまま気を失った。

 オリジン「…………強きは威勢だけか。つまらん」

 オリジンはそう言ってカードに戻った。

 

 クライムは変身を解除し、気を失った春輝に近寄った。

 朧「今のようなままでは、いずれお前は黒き悪に飲み込まれるだろう。それが嫌なら、お前自身が変われ。さもなくば、死からは逃れられん」

 朧は気を失った春輝にそう声を掛け、その場から立ち去った。

 

 

 

 

 その様子を、木の陰から見つめる四人の人影があった。牙也、箒、シュラ、千冬の四人だ。銃撃音を聞きつけたシュラと千冬が急いで現場に向かい、その途中で同じく銃撃音を聞きつけた牙也、箒と合流したのだ。

 牙也「…………強いな、あいつ。織斑を簡単にいなして見せた」

 箒「ああ…………しかし、奴は何者なのだ?」

 シュラ「さあな。だが恐らく、あやつはこの世界の人間ではない。そして、今回の一件にも関与はしていまい」

 千冬「何故そう断言出来る、シュラ?」

 シュラ「………………………………勘だ」

 牙・箒・千「「「おい!」」」ベシッ×3

 シュラに三人のツッコミが入った。

 千冬「ともかく、私は春輝を部屋に連れていく。篠ノ之、手伝え」

 箒「あ…………はい!」

 千冬は気絶した春輝を背負い、箒と共にその場を離れた。

 牙也「さて、俺達はどうする?」

 シュラ「うむ……あの者から話を聞ければ良いのだが……」

 朧『俺に何か用か?』

 牙・シュ「「!?」」

 二人が後ろを向くと、いつの間にか朧がそこに立っていた。

 牙也(な、いつの間に!?気配の一つもしなかった!一体どうやって!?)

 朧「あんた等が俺を観察していたのは分かってた。だから、立ち去るふりをしてあんた等の後ろにこっそり回ったのさ」

 牙也「……ナチュラルに心読むの止めてくんね?」

 牙也の悲しいツッコミが夜空に響く。

 シュラ「しかし、お前は一体誰なのだ?それに、さっきまでいたあの鎧武者は……」

 朧「俺は神崎朧、またの名を『仮面ライダークライム』という。あちこちの世界を気ままに旅する旅人だよ」

 シュラ「旅人、か。では、あの鎧武者は?」

 朧「『アーマードライダーオリジン』。禁断の果実と同等の力を持つ『オリジンエナジーロックシード』で変身するアーマードライダーだ」

 シュラ「あのようなアーマードライダーがいるのか…………」

 シュラは朧からの返答を聞いて、ブツブツと何か考え事を始めた。

 牙也「おい、何か良からぬ事考えてないだろうな?」

 シュラ「ん?いや、あれほどの能力を見て、少し思うことがあってな」

 シュラはそう返して、また思考に入った。

 朧「ところで、お前は誰だ?」

 牙也「俺か?紫野牙也だ。こいつはオーバーロード・シュラ。俺達も、アーマードライダーだ」

 朧「そうか……紫野だったな、第三者として少し忠告をしておこう」

 牙也「忠告を?」

 朧は「そうだ」と言ってさらに続けた。

 

 

 

 

 朧「恐らく近々、面倒な事態が起こると俺は見ている。長きに渡って多くの世界を回ったが、ここほど強い悪意を感じたことはない」

 

 

 

 

 牙也「……面倒な事態が起こると?」

 オ朧「あくまで俺の予想だがな。ま、よそ者の戯れ言と聞き流してくれても構わん」

 牙也「そうか……」

 朧「じゃ、俺はそろそろ行くかな」

 そう言った朧の背後に、オーロラが現れた。

 シュラ「これは…………?」

 朧「俺が普段旅をするために開く門のような物だ。こいつは、異世界同士を繋ぐ役目がある」

 すると朧は、おもむろに懐から何かを取り出して牙也にパスした。牙也がキャッチしたのは、『L-S-15』と書かれた赤いロックシードだった。

 朧「それを渡しておく。オリジンから受け取った物だ。いずれはそれがお前を助けるだろう」

 牙也「ん、ありがとうな」

 朧「ああ。それじゃ、またな。次会ったら、一戦交えようぜ」

 そう言って、朧はオーロラと共に消えていった。

 

 

 

 

 牙也「シュラ、どうだ?」

 シュラ「いや、あのオーロラは今回とは何の関係もない。私が感じたのとは違う物だ」

 牙也「てことは、あいつもこの一件とは繋がりはない、か……」

 シュラ「そう見て間違いないだろう」

 シュラはそう言って、先程まで朧が立っていた場所を見た。

 牙也「『仮面ライダークライム』か…………いずれまた会うかもな」

 そう呟く牙也は、手に持った赤いロックシードを強く握りしめた。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 






 SOURさん、コラボさせていただき、ありがとうございました!
 今後も、この小説をよろしくお願いします!

 番外編はまだまだ続きます。書いておきたい話があるので…………次回もお楽しみに!


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コラボNo.2 志ハ同ジ、ナレド背反スルハ運命カ
コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(1)



 早くもコラボ第二段!

 第二段のコラボ相手は、レイブラストさん。コラボに応じてくださり、感謝です!
 同じ鎧武のネタだと何かと書きやすいのか、結構な量になりそう…………福音の話に入れるかな…………?

 とりあえず、始めます!




 

 牙也side

 

 どうも、牙也だ。現在俺、シュラ、箒、千冬さんは、大変ピンチに陥ってる。何故かって?では、分からない人のために教えるとしよう。現在俺達はーー

 

 「お前等、何者だ!?」

 「何故お前達が、アーマードライダーの力を持っている!?」

 

 大量のアーマードライダーに槍を突き付けられてる状況。しかも回りにいるアーマードライダー、全員同じ格好に同じ槍を持ってるし。ロックシードを見たところ、どうやら全てマツボックリロックシードのようだな。マツボックリで変身するアーマードライダーと言えば、確か黒影と言ったか。それにこいつらの戦極ドライバー、プレートの部分に変身する武者のイラストがないときた。さしずめこいつらは、量産された戦極ドライバーで変身した『黒影トルーパー』とでも呼ぶか。まあとにかく、面倒な状況である。ちなみに箒と千冬さんは、素顔がばれないようにフード付のローブを纏ってもらってる。これ、結構大事。

 え?何故そんなことしてるかって?これには深い訳があるんだよ。実はここーー

 

 

 

 鈴「こいつらが侵入者?」

 セシリア「そのようですわね。いかにも得たいの知れない人達ですわ」

 簪「この人達…………戦極ドライバーとゲネシスドライバーを持ってた…………」

 シャルロット「え!?簪さん、それ本当なの!?」

 箒A「こいつら…………何処かから盗んできたんじゃないか?」

 千冬A「可能性はあるな。とにかくこいつらから話を聞こう」

 

 

 

 俺達がいた世界とは別の世界なんだよなぁ…………どうやら、この世界はアーマードライダーが普及したISの世界っぽいし。え?何故俺達が別世界にいるのかって?話せば少し長くなるが、聞くかい?

 実はなーー

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 三人称side

 

 牙也「ぜやあぁぁぁぁぁっ!」ザシュッ

 『フシャアァァァァァァァァァッ!』バクサン

 

 数刻前。牙也達は『クラックが開いた』と束から連絡を受けてその現場に急行。クラックからうようよ出てくるインベスを討伐していた。

 牙也「ふう…………これで全部か」

 シュラ「うむ。新たなクラックが開いた様子もない」

 箒「久々だな、クラックが開いたのは」

 千冬「クラス対抗戦以来か?暫く見ていなかったな」

 四人は変身を解除して、そんな軽口を叩き合っていた。

 牙也「しかし、シュラも人が悪い。千冬さんにゲネシスドライバー渡したのなら、教えてくれれば良かったのにさ」

 千冬「すまんな、牙也。これは私の我が儘なのだ。こいつをしっかり使いこなせるよう、シュラに戦闘の手解きを受けていたのだが、二人には内緒にするようにシュラに話してたんだ」

 箒「そうでしたか…………でも、あそこまで使いこなせてるとは、私も驚きました」

 シュラ「飲み込みが早いから、こちらも大助かりだ。今度、四人で手合わせするか?」

 牙也「いいな、それ。多人数戦闘の訓練はなかなか出来ないからな」

 箒「うむ、私もやってみたい。今の私の実力を見てみたいk『………………て』ん?」

 牙也「どうした、ほうk『…………けて』あ?」

 千冬「何か声が聞こえるn『……助けて』む?」

 シュラ「『助けて』だと?一体誰gーーっ!?篠ノ之!其処から離れろ!」

 箒「え?どういうk『グイッ』うわっ!?」

 牙也「箒!?」

 千冬「クラックだと!?何故いmーーうわっ!?」

 突如現れたクラックに、箒と千冬が吸い込まれてしまった。

 牙也「千冬さん!?くそっ!」

 シュラ「くっ、やむを得んか…………牙也、追い掛けるぞ!」

 牙也「ああ!行くぜ!」

 吸い込まれた二人を追って、牙也とシュラもクラックの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 一方こちらは、別のIS世界。IS学園の中庭のベンチでのんびりと昼食のサンドイッチを食べている二人の女子生徒の姿があった。

 一夏「…………うん、美味しい!セシリア、大分料理が上手くなったね!」モグモグ

 セシリア「一夏さんにそう言われると、本当に嬉しいですわ。では、こちらもどうぞ」つハムサンド

 その少女ーー織斑一夏とセシリア・オルコットは、仲良く寄り添っていた。実はこの二人、学園では有名な同性愛カップルだ。この二人が仲良くご飯を食べる光景も、学園の生徒からすれば最早日常と化している。

 一夏「…………うん、これも美味しい!セシリアも食べよ?」

 セシリア「はい、私も頂きm『一夏、セシリア!』?あら、鈴さん。どうかなさいましたか?」

 そこへ、凰鈴音が息を切らせて走ってきた。

 鈴「侵入者よ!さっき防犯システムに反応があったって!」

 一夏「侵入者?何処かのISテロ集団の生き残りかな?」

 セシリア「だとすると面倒ですわね。ここにはまだ多くの量産型ISや量産型戦極ドライバーがあります。それを盗みに来たのならーー」

 鈴「すでに学園長からアーマードライダーの出撃許可が降りてるわ!抵抗するなら捕縛せよ、だって!」

 一夏「分かった!セシリア、行こう!」

 セシリア「ええ、昼食はまた後ですわ」

 三人は、鈴の案内で侵入者が現れたポイントに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「…………やれやれ、どうしたもんかな」

 箒B「うむ。どうやらここは、IS学園で間違いないようだが…………」

 千冬B「至る所にアーマードライダーがいるな」

 シュラ「…………恐らくここは、我等がいた世界とは別の世界だな。予想だが、この世界のお前達二人と鉢合わせするかもしれんな」

 こちらは、別世界に飛ばされた牙也達。敷地内の草むらに隠れ、様子を伺っていた。

 牙也「どうする?箒と千冬さんは、易々と顔をさらけ出す訳にもいかないだろうし…………」

 シュラ「…………篠ノ之。これを被っておけ」

 シュラは自らのマントを箒に渡した。

 シュラ「顔さえ隠しておけば、とりあえずは何とかなるだろう。牙也、お前のローブも織斑に渡しておけ」

 牙也「そうだな。フード付のだから顔を隠すには最適だ」つローブ

 千冬B「すまんな、牙也」

 箒B「迷惑をかけたな」

 牙也「今さらだろ?とりあえず、安全な場所を探さなky『其所にいるのは誰だ!』ちっ、ばれたか!」

 シュラ「逃げるぞ、三人共!」

 四人は一斉に駆け出した。

 『こちらD班!侵入者発見!第一アリーナ方面に逃走!引き続き追跡する!』

 牙也「ちっ、援軍を呼んだか!アーマードライダーの援軍となると、厄介だな」

 シュラ「だが、易々と捕まるわけにもいかぬ。何とか振り切るぞ!」

 箒B「牙也!正面から援軍だ!」

 牙也「ちっ、どうする!?」

 シュラ「三人共、こっちだ!」

 三人が見ると、シュラがクラックを開いていた。

 牙也「ナイスだシュラ!」

 四人は急いでクラックの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 簪「侵入者?」

 楯無「ええ、簪ちゃん。どうやらこの近くにいるみたい。捜索に行くわよ」

 簪「分かった」

 第一アリーナ。ここでは、楯無と簪がアーマードライダーの特訓をしていた。

 簪「でも、何で今になって侵入者?」

 楯無「さあ、それは分からないわ。でも、何か目的があっtーーあら?何かしら、このジッパー?」

 楯無は、突如目の前に現れたジッパーに触れた。すると、ジッパーがゆっくりと開きーー

 

 

 

 ??「「「「のわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 楯無「キャアッ!?」

 簪「!?お姉ちゃん!?」

 中から突然現れた四人の人物に押し潰されてしまった。

 

 

 

 

 牙也「イテテ…………あれ、ここどこだ?」

 シュラ「見たところ、第一アリーナのようだが…………」

 簪「あなた達、誰!?」

 牙也「ん?この声…………ありゃ、更識簪、か」

 簪「!?どうして私の名前を!?」

 牙也「何でってそりゃあ…………ん?」

 牙也が見た先の地面には、牙也の戦極ドライバーとシュラのゲネシスドライバーが落ちていた。

 シュラ「っ!?しまった!」

 牙也「やっべ!?」

 二人が慌てて回収するが、時すでに遅し。

 楯無「それ、戦極ドライバーとゲネシスドライバー…………まさか、あなた達もアーマードライダー!?」

 箒B(ばれてしまったではないか…………どうする?)

 シュラ(…………はあ、仕方あるまい。ここは大人しく捕まっておこう)

 千冬B(身の安全のためには、やむを得んか)

 牙也(…………申し訳ない)

 

 で、最初の牙也の場面に至る。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 牙也side

 

 「これにて説明終わり」

 箒B「牙也、誰に向かって話しているのだ?」

 「こっちの事だ、気にするな」

 で、現状。何か増えた。主に黒影トルーパーが。そして、学園の生徒らしき人も次々とやって来た。というか、見知った顔ばかりだが。一人分からんのもいる。誰だ、この超絶美少女は。

 ??「あなた達、何者なの?何が目的?何で戦極ドライバーとゲネシスドライバーを持っているの?」

 誰か分からん美少女が立て続けに聞いてきた。

 「いや、こっちからすれば『そっちこそ誰だよ』って話になるんだが…………」

 ラウラ「大人しく質問に答えろ。さもなくば、貴様等の首が飛ぶぞ」つコンバットナイフ

 「うっさい黙れ、チビ」

 ラウラ「誰がチビだ!?」

 千冬A「ラウラ、安い挑発に乗るな。まったく、捕まっていると言うのに、随分余裕そうだな」

 「まあな。やろうと思えば、この場を切り抜けることは不可能じゃない」

 千冬A「ほう…………ならば、やってみろ!」

 そう言って向こうの千冬さんは黒影トルーパーを全員下がらせた上で、ゲネシスドライバーを腰に付け、エナジーロックシードを解錠した。

 

 『メロンエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 「変身」

 

 『ソーダァ!メロンエナジーアームズ!』

 

 千冬A「一夏!箒!楯無!行くぞ!」

 三人「「「はい!!!」」」

 

 あの美少女、一夏だったのか…………なんかびっくり。ふとこっちの箒を見ると、すごく打ちのめされてた。まあ、そうだよな。

 そう考えている間に、

 『オレンジ』

 『シルバー』

 『マツボックリエナジー』

 

 三人が戦極ドライバーとゲネシスドライバーを腰に付け、ロックシードを解錠した。

 

 『『『ロック・オン!!!』』』

 

 

 「「「変身!!!」」」

 

 『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道・オン・ステージ!』

 『ソイヤッ!シルバーアームズ!白銀・ニューステージ!』

 『リキッド!マツボックリエナジーアームズ!ソイヤッ!ヨイショッ!ワッショイ!!』

 

 

 見たところ、メロンエナジーが向こうの千冬さん、オレンジが一夏、シルバーが向こうの箒、マツボックリエナジーが楯無か。至れり尽くせりだな。

 千冬A「どうした?その威勢は飾り物か?」

 「まあ待ちな」

 そう言って俺はシュラ達と円陣を組んだ。

 (さて、誰が誰の相手をする?)

 シュラ(では私は楯無を相手にしよう)

 箒B(私は…………私自身を相手にするかな)

 千冬B(私もそうしよう。自分と戦うのは中々ない経験だ。しかも、違うエナジーアームズときた。これほど楽しめそうなものはないな)

 (じゃあ、残った一夏を相手するぜ。ところでだが、箒も千冬さんもフード取ったらどうだ?)

 シュラ(確かにな、それだと戦いにくかろう。それに二人の正体をばらせば、精神的にダメージを与えられる)

 箒B(うむ、私もそうしたいと思っていたところだ。どうせ隠しきれんだろうしな)

 千冬B(賛成だ。こちらの土俵に上げることが出来れば、こちらが有利に戦える)

 (決まりだな。じゃ、俺が合図出すから、合図と共にフードを取るって事で)

 (((了解)))

 千冬A「おい、まだか?」

 「ああ、今終わった。お望み通り相手してやるよ。それはそうと、この二人の正体を知りたくないか?」

 俺はフードを被った箒と千冬さんを見た。

 ラウラ「その二人の正体を教えると言うのか?こうも簡単に?」

 「ああ。まあ、そちらとしては絶対に驚きを隠せないだろうが…………」

 箒A「ほう、それほどに驚くのか?」

 「そうだな。これは断言できる」

 簪「あなたとその後ろの人がそっくりなのは驚いたけど…………これ以上驚く事があるの?」

 「ああ。んじゃ二人共、フードを取ってくれ」

 そう言うと、二人は揃ってフードを取った。

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 一夏side

 

 『……………………………………………………え?』

 私達は皆、彼の言った通り驚きを隠せずにいた。だって、フードを取った二人はーー

 

 

 

 

 千冬B「ふう、フードをずっと被るのは意外ときついな」

 箒B「そうですね。やっぱり此方の方が動きやすいです」

 

 

 

 

 姉さんと箒ちゃんだったのだから。

 千冬A「な…………私、だと?」

 箒A「私もいる…………一体何がどうなって…………」

 セシリア「クローン…………ですの?」

 鈴「千冬さんと箒が二人…………!?」

 ラウラ「な…………これは…………!?」

 姉さんを始めとした皆も、混乱している。

 そんなことは露知らず、

 牙也「さあ、始めようぜ。『宴』の幕開けだ!!」

 そう言ったところで、彼らは戦極ドライバーとゲネシスドライバーを腰に付け、懐から見たことのないロックシードを取り出して解錠した。

 

 

 

 『ブルーベリー』

 『マスカット』

 『イーヴィルエナジー』

 『シークヮーサーエナジー』

 

 

 

 シャルロット「な、何!?あのロックシード!?」

 簪「ブルーベリー…………?」

 楯無「彼ら、何者なの…………!?」

 

 

 『『『『ロック・オン!!!!』』』』

 

 

 「さあ、行くぜ……………………「「「変身!!!」」」」

 

 

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 『ハイー!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!』

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood eyes!Blood eyes!D-D-D-Deadly Souls!』

 『リキッド!シークヮーサーエナジーアームズ!イヨォーッ!ソイヤッサァ!ハイヤッサァ!』

 ライドウェア、ゲネティックライドウェアが四人の全身を包み、それぞれにアームズが被さって展開された。

 そこに立っていたのはーー

 

 

 

 牙也「…………さあ、掛かってこいよ…………」

 

 

 

 私達が今まで見たこともないアーマードライダー達だった。

 

 

 

 

 一夏side end

 

 

 





 千冬と箒ですが、区別をつけるためにAとBに分けて表現してます。Aがコラボ相手のレイブラストさん側の千冬と箒で、Bがこの小説の千冬と箒です。

 コラボはまだまだ続きます!お楽しみに!



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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(2)


 レイブラストさんとのコラボ、第2話です。

 アーマードライダー同士の戦闘を、お楽しみ下さい!




 

 三人称side

 

 第1アリーナに、斬撃音が鳴り響く。数々のアーマードライダーが得物を交えて戦っている。その様子を、それぞれの戦いに分けてお伝えしよう。

 

 

 

 鎧武・バロン・龍玄vs蝕

 

 一夏「あなた達、何が目的でここに侵入したの!?IS!?それとも戦極ドライバー!?」キィンッ

 セシリア「まあどんな目的であったとしても、絶対に逃がしはしませんわ!」ヒュンヒュンッ

 鈴「大人しく負けなさい!」バババババンッ

 鎧武とバロンが前線で戦い、龍玄がブドウ龍砲で援護する。

 牙也「悪いが、そんなものに興味はない。俺達の目的は別にある」ガッガッ

 しかし、蝕は龍玄の銃撃を華麗にいなし、鎧武とバロンを相手に有利に動いている。

 セシリア「では、一体何なのですか!?ここにはその二つ以外には何もありませんのよ!?」

 牙也「…………易々と話すとでも思ってんのか?」

 一夏「くっ…………それなら、貴方を倒して喋らせる!」

 鈴「そうね、それが一番手っ取り早いわ!」

 牙也「…………脳筋三名ここに極まれり」ボソッ

 一・セシ・鈴『何ですって!?』ウガー

 牙也「おや、聞こえてたか。まあそうだよな、聞こえるように言ったからな!」アッハッハ

 一夏「くっ、馬鹿にして!」

 

 『パイン』

 

 セシリア「その余裕が腹立たしいですわ!」

 

 『マンゴー』

 

 鈴「あんた、一発殴らせなさい!」

 

 『キウイ』

 

 

 『『『ロック・オン!!!』』』

 

 『ソイヤッ!パインアームズ!粉砕・デストロイ!』

 

 『カモン!マンゴーアームズ!Fight of Hammar!』

 

 『ハイー!キウイアームズ!撃輪・セイヤッハッ!』

 

 牙也「おー、怖い怖い。嬢ちゃん達は笑顔の方が似合うぞ?」

 一夏「貴方にそんなこと言われても、からかいにしか聞こえないよ!」

 セシリア「お仕置きが必要ですわね!」

 鈴「微塵切りにして、ミンチにしてあげる!」

 鎧武達はそれぞれ、『パインアイアン』『マンゴパニッシャー』『キウイ撃輪』を振り回して攻撃した。

 蝕「ぐっ!くそ、軌道が不規則だn「ゴンッ!」あでっ!」

 蝕の頭にパインアイアンが当たった。それを皮切りに、マンゴパニッシャーとキウイ撃輪の連撃が蝕を襲う。

 一・セシ・鈴『それっ!』ガアンッ

 牙也「ぐあっ!」ドサッゴロゴロ

 蝕は大きく吹き飛ばされ、アリーナの地面を転がった。

 牙也「ちぃっ、面倒だな。よし、俺も武器を変えるかな!」

 

 『チェリー』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!チェリーアームズ!破・撃・棒・術!』

 

 一夏「チェリー!?それって!」

 牙也「チェリーエナジーのプロトタイプさ!この一撃、受け止めてみな!」

 蝕が『サクラン棒』を振り回す。鎧武やバロンと同じくパワー型の武器なので一撃が重く、さらにトンファーの特性とも言える攻防両立が大当たりして、蝕の攻撃は確実に鎧武達を捉えていく。

 牙也「おらあっ!」ブウン

 鈴「くぅっ!受け止め切れない!」

 セシリア「手数で此方が不利ですわ!」

 一夏「それなら!」

 

 『イチゴ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!イチゴアームズ!シュシュッと、スパーク!』

 

 一夏「はあっ!」

 鎧武は『イチゴクナイ』を蝕に向けて投げ付けた。

 牙也「こんなもの!」ガキンッ

 鈴「そこよっ!」ズバッ!

 龍玄の攻撃が蝕を捉えた。

 牙也「がっ!?くそ、フェイクだったのか!」

 セシリア「今さら気付いても、もう遅いですわ!」ゴガンッ!

 バロンも続けて攻撃を当てる。

 牙也「ぐああああっ!」

 蝕はまたも吹き飛ばされた。

 一夏「どう、私達のコンビネーション!これでもまだ抵抗する!?」

 牙也「…………いてて、まいったなぁ…………次は…………っと」

 セシリア「…………まだやる気のようですわね!」

 鈴「何度でもかかってきなさい!」

 牙也「はあ…………言われずとも!」

 

 『アーモンド』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!アーモンドアームズ!Breaker of Drill!』

 

 牙也「そらっ!」ヒュンヒュンッ

 蝕は『アーモンドリル』の先端を射出し、そのまま振り回した。

 セシリア・鈴『きゃあっ!』

 不規則な軌道に対応できず、バロンと龍玄は吹き飛ばされた。

 一夏「セシリア、鈴!くっ、それなら!」

 

 『オレンジ』

 

 セシリア「一夏さん、私達も参りますわ!」

 

 『バナナ』

 

 鈴「ええ、行くわよ!」

 

 『ブドウ』

 

 『『『ロック・オン!!!』』』

 

 『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道・オン・ステージ!』

 『カモン!バナナアームズ!Knight of Spear!』

 『ハイー!ブドウアームズ!龍砲・ハッハッハッ!』

 

 そのまま一夏達はカッティングブレードを一回下ろしてロックシードをもう一回切った。

 

 『オレンジスカッシュ!』

 

 『バナナスカッシュ!』

 

 『ブドウスカッシュ!』

 

 すると、三人の右足にそれぞれ橙色、黄色、紫色のエネルギーが集約する。それを見た蝕は、ニヤリと笑みを見せた。

 牙也「へへっ、大技で決めに来るか!面白え!」

 

 『ブルーベリー』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 対して牙也も、カッティングブレードを一回下ろしてロックシードをもう一回切った。

 

 『ブルーベリースカッシュ!』

 

 蝕の右足に、龍玄より濃い紫色のエネルギーが集約する。

 

 

 四人『はあああああ…………はあっ!!!!』

 

 四人が一斉にジャンプし、相手に向かって右足を突き出した。

 

 

 四人『はああああああああああ!!!!』

 

 

 四人のキックがぶつかり合い、大爆発を起こした。そして爆発が晴れるとーー

 

 

 牙也「くそっ…………失敗した…………か……………………」バタリ

 

 蝕の変身が解除され、地面に倒れ伏した。

 

 一夏「ハア…………ハア…………この人、とても強かった」

 セシリア「そう、ですわね…………最後のキック対決でもし押し負けていたら…………」

 鈴「私達が、こうなってたわね…………ハア……ハア……」

 

 しかし一夏達も、戦闘後の疲労に襲われ、地面に大の字で倒れ伏しそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 ブラーボ・ナックル・冠vsレオン

 

 ラウラ「貴様、篠ノ之のクローンか?」

 箒B「…………だとしたらどうする?」

 ラウラ「殺す。それだけだ」

 箒A「ラウラめ、さらっと怖い事を言ってくれる…………」

 シャルロット「ラウラらしいけどね…………」

 ラウラ「貴様等の目的は何だ。言え、言わねば貴様の顔をズタズタに切り裂いてくれる!」

 箒A「私そっくりとはいえ、さすがにそれは…………」

 シャルロット「ラウラ、もう少しオブラートに包んで…………」

 箒B「…………言ったところで、そちらが信じまい。ならば言わぬ方が賢明だ」

 ラウラ「そうか……なら、無理矢理でもその目的を吐かせる!」ダッ

 箒A「おい、ラウラ!はあ、行くぞシャルロット」アタマカカエ

 シャルロット「うん!任せて!」

 三人がレオンに向かって走り出す。しかし、

 

 箒B「…………フッ!」タマランシャ

 

 ラウラ「ぐうっ!」

 箒A「がはっ!」

 シャルロット「きゃっ!」

 レオンが『マスガンド』の射撃で近づかせない。

 箒B「そういうのを、『猪突猛進』と言うのではないか?」ハア

 ラウラ「くっ、なめるな!」

 ブラーボは『ドリノコ』から棘状の光弾を撃ち出す。レオンがマスガンドの射撃で応戦するが、

 シャルロット「もらった!」ボカッ

 箒B「うわっ!?」

 その隙に近付いたナックルの『クルミボンバー』の打撃がレオンを襲った。ナックルはパンチを連続でレオンに叩き込み、

 シャルロット「それっ!」ボカッ

 箒B「ぐあああっ!」

 そのまま吹き飛ばした。レオンが吹き飛んだ先には、

 箒A「…………そこだ!」

 箒B「しまっーー」

 冠が杖型武器『蒼銀杖』を構えて待っていた。レオンは空中でマスガンドを冠に向けるが、

 ラウラ「させるか!」

 ブラーボのドリノコの光弾でマスガンドを手放してしまった。

 箒A「はあああああっ!」

 箒B「があああっ!」

 冠は蒼銀杖を突きだして攻撃。防御する術のないレオンはこれを胸アーマーに叩き込まれ、アリーナの壁に叩き付けられた。

 箒B「ぐ…………うう…………」

 ラウラ「ふん、所詮クローンなどその程度の実力なのだ。どうだ、話す気になったか?」

 ブラーボはドリノコをレオンの首に突き付けた。

 箒A「お前が誰なのかは私も知らない。だが、アーマードライダーの力を悪用するのなら、生かしてはおけない!」

 シャルロット「大人しく降参して。私達は、出来ることなら、貴女を殺したくないから」

 冠とナックルも、それぞれの武器をレオンに向けた。

 箒B「………………ふふ…………ふはははは…………」

 だが、そんな状況にも関わらずレオンは高笑いを上げた。

 ラウラ「…………っ、何がおかしい!?」

 箒B「…………『出来ることなら、殺したくない』だと?ははは、甘いな。そして、弱いな。お前達の心は」

 箒A「何!?」

 シャルロット「何が言いたいの?」

 レオンはフラフラと立ち上がり、三人を見て言った。

 

 

 

 

 

 箒B「そんな弱い心だからーー最後の最後で凡ミスを犯すのだ」

 『ハイー!イチジクアームズ!爆撃・ヤッハッハ!』

 

 

 

 

 

 ラウ・箒A・シャ『!?』

 イチジクアームズに変身したレオンは、三人に爆弾『イチジグレネード』を投げ付けた。

 イチジグレネードは三人に当たる瞬間に爆発し、周囲は爆風による煙に覆われた。

 ラウラ「くっ、目眩ましか!無駄な足掻きを…………!」

 箒A「しかし、これでは奴が何処から襲ってくるか分からん!」

 シャルロット「落ち着いて、篠ノ之さん。それは向こうも同じだし、ダメージも向こうの方が多い。此方が依然有r「甘い!」きゃっ!」

 

 『ハイー!ライムアームズ!双剣!ハイ・ハイ・ハイ!』

 

 ライムアームズに変身したレオンが煙の中から現れ、ナックルを切り裂いた。そして、そのまま煙の中に潜り込んだ。

 箒A「奴め、どうして私達がいる場所が分かった!?」

 ラウラ「さしずめ、私達の声を頼りに攻撃したのだろう。ならば!」

 三人は一斉に口を閉じた。

 ラウラ「」ゼッタイニシャベルナヨ

 箒A・シャ『』リョウカイ

 ラウラ「」ブキヲカマエテオケ

 箒A「」ワカッテル

 シャルロット「」マワリニシュウチュウシテ!

 代わりにジェスチャーで話す三人。煙で視界が悪い中、武器を構えて奇襲に備えていた。

 一方レオンはと言うとーー

 

 

 

 箒B(そういえば、インベスを倒したときにこれらを拾ったな。どんなロックシードだ?)

 

 

 

 煙から出て、腰のロックシードホルダーを漁っていた。そこには、クラックに吸い込まれる前に行っていたインベス討伐後に、レオンがこっそり拾ったロックシードが二つ掛かっていた。

 箒B(よし、物は試しだ。使ってみよう)

 レオンはホルダーからロックシードを一つ外して解錠した。

 

 

 『ホオズキ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ハイー!ホオズキアームズ!爆炎!ボー・ボー・ボー!』

 

 

 箒B(成る程、これはいい。よし、先ずはこの煙を払うとしよう)

 

 『ホオズキオーレ!』

 

 ホオズキアームズとなったレオンはカッティングブレードを二回下ろし、『炎刀鬼灯丸』と『無双セイバー』を構えた。二本の刀から炎が上がり、パチパチと火の粉が舞う音が響く。

 

 箒B「はあああああ…………ダアッ!」

 

 そして、二本の刀を煙に向かって横一文字に振った。

 

 

 

 

 

 ラウラ「…………妙だな。いつになっても攻撃が来ない…………」

 箒A「どういう事だ?まさか、この隙に逃げたのではーー」

 シャルロット「それは無理だよ。アリーナには黒影トルーパーがいる。逃げようとしても逃げられないさ」

 煙の中にいるラウラ達は、攻撃が来ない事に疑問を覚えていた。

 ラウラ「だが何が起こるか分からん。警戒するに越した事h」

 突然ブラーボがナックルと冠の前から消えた。

 シャルロット「ラウラ!?」

 箒A「っ!?煙が…………!」

 すると、さっきまで周囲を覆っていた煙が一瞬にして晴れた。そしてアリーナの壁には、吹き飛ばされたブラーボが変身解除してラウラに戻った状態で倒れていた。

 箒A「ラウラ!」

 シャルロット「一体何がーー」

 箒B「そこか!」

 シャルロット「!?」

 箒A「しまっーー」

 二人はレオンの存在に気付いたが、時すでに遅し。

 箒B「ダアッ!」ザンッ

 箒A「うわあああああっ!?」

 シャルロット「きゃあああああっ!?」

 

 二人は大きく吹き飛んで壁に激突し、変身が解除された。

 

 箒A「ぐっ…………くそっ…………!」

 シャルロット「これほどに強いなんて…………!」

 地面を叩いて悔しがる二人を通り過ぎて、レオンは気を失ったラウラに近付いた。

 箒A「…………っ、貴様!ラウラに何をする気だ!?」

 するとレオンは突如変身を解除し、気を失ったラウラに自らが羽織っていたマントをかけた。そしてラウラを抱き上げて二人の側に寝かせた。

 シャルロット「え………………?」

 箒A「貴様…………何の真似だ…………?」

 箒B「何って、ただラウラを楽な姿勢にさせただけだが?」

 シャ・箒A『………………え?』

 そう言って箒Bはその場を離れていった。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 





 戦闘描写が凄まじく面倒臭い…………!←自分で書いてて思ったこと

 ということで牙也、負けちゃいました。一応ネタバレしておくと、ここで牙也が負けたのはこの後の話の布石とするためです。

 さて、次回はエナジーアームズ組の戦いをお送りします。お楽しみに!


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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(3)


 レイブラストさんとのコラボ、第三話。

 アーマードライダー同士の戦いは佳境に!

 エナジーアームズ組は、どんな戦いを見せてくれるのか!?



 

 三人称side

 

 黒影・真andグリドンvs赤零

 

 楯無「貴方、何なのそのエナジーロックシード!?今まで見たことがないわ!」

 シュラ「『イーヴィルエナジーロックシード』…………血塗られたリンゴ、または毒リンゴとでも表現しようか…………」

 簪「毒……リンゴ……?」

 シュラ「……まあ知らなくて当然だろう…………私のオリジナルだからな」

 ??『ほほう、それは興味深いね』

 シュラ「?……誰だ?」

 シュラが後ろを向くと、白衣を着た一人の男が立っていた。

 楯・簪『凌馬さん!』

 シュラ「貴様…………何者だ…………?」

 凌馬「戦極凌馬。彼女達が使うアーマードライダーを作ったのは、この私だ」

 シュラ「ほう……貴様がこの世界でアーマードライダーを広めたのか…………」

 凌馬「この世界……?成る程、分かったよ。君達は、異世界の住人だね?」

 楯・簪『異世界!?』

 シュラ「…………なかなか頭が回るようだな。そうだ、我ら四人は、別の異世界からここに飛ばされてきた。この世界と同じように、ISが存在した世界だ」

 楯無「つまり、ここと同じだけど違う世界から来たって事?」

 シュラ「そう言う事だ、更識楯無」

 簪「っ!?お姉ちゃんの名前も…………!」

 凌馬「ほう、興味深くなってきた。君には聞きたいことがたくさんある。大人しく捕まって欲しいな」

 シュラ「断る。我らの目的は元の世界に戻る事。貴様等と戦う事ではない」

 凌馬「…………それなら、こうするしかないね。変身」

 

 『レモンエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 『ソーダァ!レモンエナジーアームズ!Fight Power!Fight Power!Fi-Fi-Fi-Fi-F-F-F-F-Fight!』

 

 凌馬「はあっ!」

 凌馬ーーアーマードライダーデュークがソニックアローから矢を射る。

 

 シュラ「……ふんっ!」

 しかし、シュラーーアーマードライダー赤零もソニックアローから矢を射て、これを相殺した。

 楯無「私達もいるのよ!」

 簪「貴方は、私達が倒す!」

 そこへ黒影・真とグリドンがそれぞれ『影松・真』と『ドンカチ』を振るってきた。

 シュラ「……知っている」

 しかし赤零は慌てる様子もなく、二人の得物をソニックアローで受け止めた。そこへデュークのソニックアローから矢が飛んでくるが、赤零は影松・真とドンカチを振り払い、さらにその勢いのまま、飛んできた矢をソニックアローを振るって叩き落とした。

 凌馬「ふむ。易々とこの攻撃は通してくれないか」

 シュラ「…………」

 赤零はソニックアローを黒影・真とグリドンに向け、その目はデュークを見ていた。

 凌馬「二人共、下がっていなさい。ここからは、僕が相手しよう」

 デュークはそう言って、『E-L-S-HEX』と書かれたエナジーロックシードを出した。

 

 『ドラゴンフルーツエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 『ソーダァ!ドラゴンエナジーアームズ!』

 

 デュークはドラゴンエナジーアームズにフォームチェンジした。

 シュラ「ドラゴンフルーツ…………?」

 凌馬「完成した物だ。そのアーマードライダーの力、僕が推し量ろう」

 シュラ「…………ならば我も、これを使おうか」

 対して赤零も、『E-L-S-NEXT』と書かれたエナジーロックシードを出した。

 

 『マンゴスチンエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 『ソーダァ!マンゴスチンエナジーアームズ!』

 

 赤零は新フォーム、マンゴスチンエナジーアームズとなった。

 デュークと赤零は、互いにソニックアローを構えて走り出した。

 凌馬「はあっ!」

 シュラ「ふんっ!」

 互いのソニックアローのアークリムがぶつかり合い、その度に火花を散らす。互いの鎧からも、斬撃を受ける事によって火花が上がり、それが何度も繰り返される。戦いの凄惨さを物語っていた。黒影・真とグリドンはその光景をじっと見つめていた。いや、見つめる事しか出来なかった。

 凌馬「くっ!なかなかやるね…………」

 シュラ「ちっ!決定打が出せぬか…………厄介な相手だな…………」

 しかし、共に決定打を欠いており、戦局は二転三転するばかり。

 シュラ「…………ならば!」

 

 『マンゴスチンエナジースパーキング!』

 

 赤零はシーボルコンプレッサーを二回押し込んで、ソニックアローを構えた。アークリムに、赤紫のエネルギーが集約する。

 凌馬「おっと、大技で来るかい?それなら、答えてあげなきゃね!」

 

 『ドラゴンエナジースパーキング!』

 

 デュークもシーボルコンプレッサーを二回押し込んで、ソニックアローを構えた。アークリムに、赤色のエネルギーが集約する。

 

 赤・デュ『ハアアアアアア…………!ハアッ!』

 デュークと赤零が、ほぼ同時に走り出す。

 

 

 赤・デュ『ハアアアアアア!!』

 二人がそれぞれ持つソニックアローが振るわれ、交差した。それは一瞬の出来事だった。数秒の間、静寂が場を包んだ。そしてーー

 

 シュラ「ぐ、ううう…………」

 凌馬「ぐっ…………」

 

 二人同時に変身が解除され、地面に倒れ込んだ。

 楯・簪『凌馬さん!』

 黒影・真とグリドンも変身を解除して、凌馬に駆け寄った。

 楯無「凌馬さん、大丈夫ですか?」

 凌馬「ああ、僕は大丈夫だ。それより彼をーー」

 そこまで言ったところで、凌馬はシュラを見て言葉を失った。

 簪「凌馬さん、何kーーっ!?」

 楯無と簪もそれにならってシュラの方を向く。そこにはーー

 

 シュラ「」キゼツ

 凌馬「馬鹿な…………オーバー……ロード……だって…………!?」

 

 シュラがオーバーロードの姿で気を失って倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 斬月・真vs白夜

 

 こちらは千冬同士の戦い。しかし、敵の動きを観察する為か、どちらも動こうとはせず、にらみ合いが続く状態であった。

 千冬A「……どうした?かかってこないのか?その力は飾りなのか?」

 千冬B「……………………」ジッ

 斬月・真が挑発をかけるが、白夜はそれに応じず、ただじっと斬月・真を見つめていた。その時、白夜の後ろで爆発が起こった。爆発が晴れると、そこには変身が解除された牙也が倒れていた。

 千冬A「ほう、お前のお仲間が一人やられたな。やはりその程度の実力だったというわけだな」フンッ

 千冬B(……珍しいな、牙也がやられるとは。相手もそれだけ強かった、ということか。しかし、成長したな、私も。こんな時でもこれ程にまで冷静でいられる。シュラとの特訓の賜物だな。後で礼を言わねばーー)チラッ

 一瞬、白夜は斬月・真への注目が逸れた。そのチャンスを彼女が見逃すはずもなく、

 千冬A「そこだ!」ヒュンッ

 一気に近付いてソニックアローを振るって来た。だが、白夜とてそう易々とは攻撃を受ける気はない。

 千冬B「見えているぞ……」ガキンッ

 同じくソニックアローで、斬月・真の攻撃を受け止めた。しかし、斬月・真はそれだけで終わらず、連続で白夜に攻撃を仕掛けた。

 千冬A「ほう、なかなかやるな!この攻撃を受け止めるとは!やはり私にそっくりなだけはある!」

 千冬B「……………………」

 斬月・真はそう言うが、白夜は気にも止めない。

 千冬A(…………妙だな。不気味なほどに静かで、落ち着いている。こいつ、一体どれだけの修羅場を潜り抜けてきたのだ?)

 斬月・真は攻撃を続けながらも、白夜のそのあまりにも静か過ぎる落ち着きぶりを内心気味悪がっていた。

 千冬B(成る程、太刀筋が常に鋭い。私も、シュラに会わなかったらこうなったかもな…………だが……)

 一方白夜は、斬月・真の攻撃を受け止めつつ、その動きを観察していた。

 千冬A「はあっ!」ガキンッ

 やがて鍔迫り合いの状態となり、互いの動きは一旦止まった。

 千冬A「しかし、自分から攻撃して来ないとはな。私の体力切れでも狙っているのか?」

 千冬B「……………………」

 千冬A「また黙秘か。ならば、このまま押し切る!」

 斬月・真はソニックアローに力を込めた。それにより、鍔迫り合いは段々と斬月・真が押し始めた。

 千冬A「ふん、お前の力はその程度なのか!?あまりにも手応えがないぞ!」

 千冬B「…………勝手に言ってろ。すぐにそれが間違いと分かる」

 千冬A「何?どういうk《ガアンッ!》ぐあっ!?」

 突如、斬月・真の鎧から火花が上がり、弾き飛ばされた。白夜が鍔迫り合いの状態から、ソニックアローの矢を射たのだ。予想だにしなかった不意打ちで斬月・真は大きく怯んだ。そこへ、

 千冬B「…………形勢逆転、だ」ザンッ

 千冬A「ぐあっ!?」

 今度は白夜が攻勢に回った。だが斬月・真の戦い方と違い、ソニックアローの斬撃・弓撃に蹴り技を合わせ、効果的にダメージに与えていく。容赦ない攻勢に、斬月・真は段々と押されてきた。

 千冬B「フッ!ハッ!ダアッ!」

 千冬A「ぐっ、くそっ!貴様、力を隠していたのか!」

 そう気付くも、すでに遅し。無慈悲な攻撃を次々受け、ついには

 千冬A「ぐああああっ!」

 斬月・真は大きく吹き飛ばされ、アリーナの地面を転がった。

 千冬B「…………まだ終わりではあるまい?」

 千冬A「まだだ!」

 斬月・真はゲネシスドライバーからメロンエナジーロックシードを外し、ソニックアローの窪みに取り付けた。

 

 『ロック・オン』

 

 そして白夜に狙いを定め、弓の弦を引いた。

 

 千冬B「…………受けて立とう!」

 白夜もゲネシスドライバーからシークヮーサーエナジーロックシードを外し、ソニックアローの窪みに取り付けた。

 

 『ロック・オン』

 

 そして、斬月・真に狙いを定め、弓の弦を引いた。

 

 

 『メロンエナジー』

 『シークヮーサーエナジー』

 

 

 そしてソニックアローからほぼ同時に、エネルギーが溜まった矢を射た。二つの矢は直線上でぶつかり合い、大きな爆発を起こした。そして爆発が晴れるとーー

 

 

 千冬A「ぐ、うう…………くそっ!」

 斬月・真は変身解除されていた。二人が放った矢は、直線上でぶつかり合ったが、僅かに白夜の矢が勝ち、そのまま斬月・真に当たったのだ。千冬Aは大の字になって地面に倒れ込んでいた。

 一方の白夜も、変身解除して歩み寄り、手を差し出した。

 千冬B「…………また、手合わせ願いたい」

 千冬A「…………ふん、次は勝って見せる!」

 お互いに手を取り合い、再戦を約束した。

 

 

 

 

 

 

 

 凌馬「黒影トルーパーの諸君は、負傷者を順次医務室へ!周辺の警戒も怠らないように!」

 アーマードライダー同士の戦いが終わり、凌馬は楯無に肩を借りながら黒影トルーパーに指示を出していた。

 箒Bは、戦闘に敗れて倒れた牙也に駆け寄った。

 箒B「牙也!大丈夫か!?」

 牙也「……ああ…………箒、か………………悪い、油断…………した、みたいだ…………」

 箒B「すぐに手当てする、立てるか?」

 牙也「…………悪い…………立てそうに、ねえや…………肩、貸して…………くれ…………」

 箒B「ああ。少し休め、牙也。後は私達に任せろ」

 牙也「……すまねえ、な…………それじゃ、少し…………寝させて、もらうぞ…………」

 絶え絶えに喋って、牙也は気を失った。

 千冬B「牙也は大丈夫か?」

 箒B「気を失っただけです。牙也の怪我の手当ては私が。織斑先生はシュラの方を」

 千冬B「分かった、と言いたいところだが…………どうやらシュラはーー」

 千冬Bは言葉をそこで一旦切り、ある一ヶ所を指差した。箒Bが見るとーー

 楯無「凌馬さん、この怪物はどうしましょうか?」

 凌馬「うーん、色々聞きたいことがあるからなぁ…………彼女達と共に医務室へ運んでほしい。ベッドとベッドは離して、監視も付けてね」

 楯無「分かりました」

 シュラは担架に乗せられ、黒影トルーパー達に運ばれていった。凌馬は楯無の肩を借りながら、千冬Bと箒Bに近寄った。

 凌馬「これより、君達を拘束する。とは言え、色々聞きたいからね。牢屋に入れるなんて事はしないから、安心したまえ」

 箒B「そうか、済まないな。それだったら、彼をーー牙也を手当てしてくれないか?」

 凌馬「任せたまえ」

 

 

 

 こうして、アーマードライダー同士の戦いは一応終わりを告げた。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 とりあえず、戦闘は一旦ここで終わり。

 次回は互いの自己紹介の回を予定。

 お楽しみに!



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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(4)


 レイブラストさんとのコラボ、第四話。

 ひとまず自己紹介ということで。

 始まります!




 

 三人称side

 

 『IS学園に突如現れた謎のアーマードライダー!?』

 

 あの騒ぎが起こった次の日。楯無の同級生で新聞部部長の黛薫子によって、騒ぎの全貌はこの見出しにてデカデカと報じられた。そこにはこのように書いてあった。

 

 『突如学園の第1アリーナに現れた三人の男女と一匹の怪物。彼らは何処で入手したのか、戦極ドライバーとゲネシスドライバーを所持し、更に私達も把握していなかった謎のロックシードを使ってアーマードライダーに変身。学園のアーマードライダー達と交戦した。現在その四人は、怪我の治療ということで医務室で寝泊まりしており、取材を試みたが接触出来ず。交戦したアーマードライダー達にも話を聞いたが、同じく怪我の治療ということで話を聞けなかったり「箝口令の為に話せない」ということだった。我々新聞部は、引き続き彼らについて調査する事とする。』

 

 新聞では他にそのアーマードライダーの特徴についても書かれ、上記の文章で締め括られていた。

 掲示板に張られたこの新聞を読んだ生徒の反応は様々であった。

 

 『突然現れて、襲いかかって来るなんて…………なんて人達なの!』

 

 『謎のロックシード……どんなのだろう?』

 

 『……彼らは一体、何のためにここに侵入したのかしら?』

 『さあ、でも絶対ろくな事じゃないわよ』

 

 

 さて、こちらはその渦中にある医務室。医務室のベッドやソファをフル活用し、怪我人の治療が行われている。

 

 凌馬「……さて、聞かせてもらうよ。君達が何者なのか、何故彼とーーオーバーロードと共に行動していたのか、等々。聞きたいことが山ほどあるんだよ」

 戦極凌馬は、目の前の椅子に座る二人の女性ーー千冬Bと箒Bに話を聞いていた。本人も戦いで怪我を負った為、ベッドに寝ている状態だが、その声には彼女達への興味が見てとれた。

 箒B「……ああ。まずは私達が誰かについて話そうか」

 箒Bが話を始めた。

 

 箒B「まず私達は、この世界の人間ではない。こことは別の世界ーー異世界の人間とでも言おうか。私達四人は、ある事情によってこの世界に飛ばされてきた」

 楯無「ある事情?」

 千冬B「私達はその時、インベスという怪物と戦っていた。そしてそいつらを全て倒し、変身を解除して少し話をしていたんだ。そしたら、急に篠ノ之の背後に新たにクラックーー楯無、お前が見たあのジッパーの事だーーあれが現れ、私達を吸い込んだのだ」

 凌馬「それで、気付いたらこの世界にいた、という事かい?」

 箒B「そうだ。私達は四人共、クラックに吸い込まれる前に、声を聞いた。その声は少女の声で、『助けて』と言った。そして、その声を聞いた瞬間ーー」

 楯無「クラックに吸い込まれた、という事ね」

 二人は大きく頷いた。

 凌馬「成る程。それじゃあ、君達が使ったあのロックシードは何だい?彼曰く、『オリジナル』と言っていたが」

 そう言って、凌馬は自分の隣のベッドにいてまだ意識の戻らないシュラを見た。

 千冬B「私達が使うロックシードは全て、シュラの作った物だ。勿論、このベルトも奴の作った物だ。私達は皆、奴からこのベルトを渡された。私達が元いた世界の危機を救う為に……」

 千冬A「危機?お前達の世界では、何が起こっている?」

 凌馬「千冬さん、それは彼女達の問題であって、僕達が介入する事じゃない。それに、あまり話したくない事でもあるようだからね」

 箒B「ああ、こればかりは話せない事だ」

 そう言って、箒Bは近くのベッドにいてシュラと同様に未だ意識の戻らない牙也の手を握った。

 箒B「……元々は彼がーー牙也がシュラと共に背負い続けた秘密。そしてある事件を境に、私達もその秘密を知り、シュラは私達の協力者となった」

 凌馬「成る程……そちらの世界も色々あったんだね…………」

 凌馬は腕組みをして唸った。すると、

 シュラ「…………む…………ここは…………?」

 シュラが目を覚ました。まだ自分がどんな状況かが分かっていないようで、部屋のあちこちを見回している。

 箒B「シュラ、大丈夫か?ここは、学園の医務室だ」

 シュラ「……そうか…………我は、負けたのだったな……」

 凌馬「シュラ、だったね。具合はどうだい?」

 シュラ「……貴様か…………悪くはない。だが貴様の顔だけは、起き抜けに見たくなかったよ」

 凌馬「おっと、手厳しい。ま、そんな事が口から吐けるのなら、大丈夫なんだろうね」

 すると凌馬は、近くにいた黒影トルーパーに牙也達のベルトを持ってこさせた。

 凌馬「ちょっと解析させてもらったよ。どうやら君達のベルトは、ISとの戦闘ではなく、インベスとの戦闘を念頭に置いて作られた物だね。構造など何から何まで、僕が作った物と同じだ。ISの要素があるかないかだね、違うところと言えば」

 楯無「あの、凌馬さん。その『インベス』と言うのは…………?」

 凌馬「ああ、君達には話してなかったね。簡単には、セシリアちゃんを思い浮かべてくれ」

 楯無「オルコットさんを……?……まさか、オルコットさんのあの姿こそが……!?」

 凌馬「そう、オーバーロードはインベスの最上位を指すんだよ」

 箒B「ちょっと待て!?この世界では、セシリアはオーバーロードになっているのか!?」ガタッ

 凌馬の話を聞いていた箒Bは、セシリアがシュラと同様にオーバーロードになっている事に驚愕していた。

 セシリア「……そう、ですわ……。最後の戦いで、私はオーバーロードの力を、得ました」

 するとセシリアが目を覚まし、言葉を紡いだ。

 楯無「オルコットさん!起きて大丈夫なんですか?」

 セシリア「はい、問題ありませんわ。それにしても……」

 セシリアは未だ眠っている牙也を見た。

 セシリア「牙也さん、でしたわね……彼は強かったですわ。軽口を叩きながらも、その刃には大きな決意が込められていました。一夏さんにも似たお人ですわね……」

 そう言ってセシリアは、自分の隣で眠っている一夏を見た。その寝顔は、清々しい程に穏やかであった。

 シュラ「……しかしセシリアよ。まさかお前が我と同じ力を持っているとは……」

 セシリア「同じ……?っ、貴方、その姿は!?もしや、貴方もオーバーロードなのですか!?」

 シュラ「ああ。奴との戦いで化けの皮が剥がれてしまったがね」チラッ

 凌馬「私も驚いたよ。まさか、今まで戦っていたのがオーバーロードだったなんてね」フゥ

 千冬B「私達もこれを知ったのはつい最近だ。それまでは、私達の前に姿を現さなかったからな」

 セシリア「そうでしたか…………ところで凌馬さん、他の皆さんは大丈夫なのでしょうか?」

 凌馬「ああ、そうだったね。皆命に別状はないよ。数日で良くなるさ」

 セシリア「」ホッ

 箒B「そうか…………感謝する」

 千冬B「済まないな、怪我の手当てまでやってもらって」

 凌馬「お礼はいらないさ、当然の事をやっただけだ」

 シュラ「フッ…………む?どうやら、仲間達が目覚めたようだぞ、セシリア・オルコット」

 全員がシュラのその一言にベッドを見ると、

 一夏「…………うう…………ん…………?ここは…………?」

 一夏を始めとした学園の面々が次々目を覚ました。

 セシリア「ここは医務室ですわ、一夏さん」

 一夏「…………セシリア…………?大丈夫……なの……?」

 セシリア「はい、私は大丈夫ですわ。一夏さんは、どこか痛む箇所はありませんか?」

 一夏「ううん、今のところは特にどこも。皆も無事みたいだね…………良かった」

 鈴「……ところでさ、何でこいつらが一緒にいるnーーって、オ、オーバーロード!?」

 凌馬「ああ、彼は襲ったりしないよ。僕が保障する」

 ラウラ「…………プロフェッサーがそう言うのなら…………」

 シャルロット「……君達は一体……?篠ノ之さんと織斑先生にすごく似てるけど…………」

 シュラ達は、凌馬に話したことを同じように全員に話した。

 箒A「……別世界の私達、か……」

 ラウラ「そして、お前達の世界では、インベスという怪物が出現しているのか」

 簪「……向こうの私達も……苦労してるんだね……」

 シュラ「我等の世界では、アーマードライダーの数が少ない上に、この世界のように大量生産も出来ないからな。それに、女尊男卑の思想を持つ者達がアーマードライダーの存在を認めようとしないおかげで、肩身の狭い思いをしてる」

 シャルロット「……大変だね」

 箒A「こちらの世界でも、そのようにアーマードライダーを認めようとしない奴が未だにいるが……数に限りがあるとなるとそちらの世界はこの世界よりも面倒だな…………」

 千冬A「だが、実力はそれに見あった物で、皆本物だ。私達をここまで追い詰めたのだからな」

 凌馬「結局のところ、君達の目的は『元の世界に戻る術を探す』で間違いないかな?」

 シュラ「そうだ。だが、牙也の意識が戻らない以上、ここを動くことは出来ぬ。どうしたものか……」

 

 

 

 凌馬「それなら、ここに寝泊まりするといい」

 

 

 

 シュラ「…………いいのか?」

 凌馬「構わないさ。敵でないと分かったのなら、ぞんざいに扱う理由もない。ここを拠点にして、目的の物を探すといい」

 一夏「そうだね、怪我人がまだいる以上、動いてて敵に襲われたらひとたまりもないよ。ここにいる方が断然安心だし」

 鈴「私達も協力するわよ。何が出来るかは分からないけどね……ま、いつでも頼ってよ!」

 箒B「…………皆、感謝する。ありがとう」ペコリ

 凌馬「ところで、君達二人はここにいる間、別の名前を名のってもらうよ。名前はそちらで決めてくれたまえ」

 箒B・千冬B『え?』

 シュラ「同じようなのが二人もいるから、区別をつけたいのだろう」

 箒B「成る程な…………では、私は『東雲茜』と名乗ろうか」

 千冬B「では私も、少し変えて『織原千尋』と名乗ろうか」

 凌馬「うん、いい名前だね。それじゃ、暫くの間宜しくね、茜さん、千尋さん」

 茜・千尋『宜しく頼む』

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、某国にあるホテルの一室。

 ??「…………ようやく、我らが神の悲願を達成する時が来たわ…………」

 ある女性が部屋から見える景色を見ながらそう呟いた。。

 ??「この力さえあれば、私は絶対に負けない!IS学園も、亡国企業も、全てこの世から消え去る!そして私、いや、我らが神の時代がやってくるのよ………………!」

 女性は、その手に持った物を強く握り締めた。それは、醜いほどに黒くなったリンゴのロックシードであった。

 

 

 

 『ダークネス』

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 ダークネスロックシード、再登場しました。

 どうやら原作のあのライダーが出てくるかな…………?

 次回、茜の思いが一夏達の心を突き動かすーー
 お楽しみに!


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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(5)


 書き終わって気付いた…………めっさシリアスになってたよ。

 牙也は出ません。まだ目が覚めてないので。




 

 三人称side

 

 牙也達が別世界に飛ばされてから数日がたった。牙也は一夏達三人との戦闘の傷が大きかったのか、未だに目覚める気配がない。その為シュラ達三人は動くに動けず、IS学園の医務室に泊まり込んでいる。騒ぎを大きくしない為に医務室には一部の生徒・教員等の関係者以外は入室が禁じられ、ドアの前には黒影トルーパーが常に立っている(主に新聞部対策だが)。

 シュラ達は混乱を起こさないようにする為に医務室を出ることを一部の行為等(トイレやご飯といった、日常的な行為)を除いて禁止され、最早軟禁一歩手前である。やろうと思えばシュラにクラックを開いてもらって逃げることも出来るが、それだとまだ意識が戻らない牙也がお荷物になり逃げるのに手間がかかる事になるため、諦めた。三人は、たまに様子を見に来る一夏達と話をしながら、牙也の目覚めを待っていた。

 一夏「そっちの世界の束さんは、どんな人なの?」

 茜「姉さんか?どうかな…………多分こちらとあまり変わらないんじゃないかな。お調子者で、悪戯好きで、でも心の奥底に強い心を持ってる。そんな感じだ」

 鈴「私達の知ってる束さんと同じね……まあ同じだけど違う世界だから、そんなものかな」

 セシリア「という事は、私達も同じようなものなのでしょうか?」

 千尋「そう考えて間違いない。何が違うかと言えば、アーマードライダーとして戦っているか否か、だな」

 ラウラ「戦極ドライバーとゲネシスドライバーの数が少ないのだったな。量産出来ないというのは、大きな痛手とも言えるかもな」

 シュラ「我一人で組み上げたからな…………戦極ドライバーひとつ作るのに2~3週間は費やしたぞ」

 簪「だとすると、ゲネシスドライバーはもっと時間が掛かってそうだね」

 シュラ「戦極ドライバーよりもさらに複雑だからな……苦労したぞ、完成まで半年を要した」

 シャルロット「ISもそうだけど、アーマードライダーもブラックボックスだからね……余計に手間が掛かるんだろうね、一つ作るのに」

 楯無「そう言えば、三人のベルトはどうしたの?」

 千尋「戦極凌馬が解析中だ。彼曰く、『インベスとの戦闘データが欲しい!』との事だ」

 一夏「本当に良かったんですか、シュラさん。ベルトを簡単に凌馬さんに渡しちゃって」

 シュラ「別に構わん、何も細工をしないのならな。それに、インベスとの戦闘データはそちらにも有益だ。アーマードライダーは本来、インベスとの戦闘を想定して作られた物だからな。それよりも気になるのはーー」

 茜「私達がこの世界に来る直前に聞こえた少女の声、だな」

 千尋「あれの正体もまだ分かっていない。一体何故私達に助けを求めたのか…………」

 凌馬「ドライバーの解析、終わったよ」

 そこへ、凌馬が三人のベルトを持ってやって来た。

 シュラ「……変な細工をしていないだろうな?」

 凌馬「しないさ。君達の大事なベルト、勝手に弄って後々の戦闘に影響を与える訳にはいかないよ」

 凌馬はそう言って、三人のベルトを机に置いた。

 凌馬「ただその代わりと言ってはなんだが、少し劣化が見つかったから、それを直す序でにベルトを強化させてもらったよ。これで少しは体への負担が小さくなるはずだ」

 千尋「そうか。感謝するぞ、戦極凌馬」

 凌馬「お礼はいらないさ、科学者の気まぐれだよ。それじゃ、僕は一旦戻るよ。ゆっくりしていきたまえ」

 凌馬は医務室を出ていった。

 茜「あの戦極凌馬という奴は、随分飄々としてるな。雲のようだ」

 一夏「いつもあんな感じだよ、凌馬さんは。私の恩人でもあるから…………」

 千尋「恩人?何かあったのか?」

 千冬「一夏の過去については聞かないでくれるか?一夏にとってはトラウマだからな」

 千尋「む……そうか、要らぬ詮索をしたな、済まない」

 一夏「いえ……知らなかった訳ですし、気にしてませんよ。それに、何時までも過去に縛られるままにはいかないですから」

 シュラ「…………強いな、織斑一夏。牙也の本質にもよく似た強さだ…………」

 鈴「そう言えば、牙也っていつもはどんな感じなの?」

 シュラ「牙也か?……あいつは、一言で言うなら、『糸の切れかかった操り人形』とでも言おうか……」

 シャルロット「操り人形…………?」

 茜「牙也はまだ、あれを引き摺っている。だが心の支えがまだ残ってるおかげで、何とか立っていられる状態なんだ…………」

 茜はそう言って、ベッドで未だ眠っている牙也を見た。

 一夏「あれ?」

 セシリア「一体何があったのですか?」

 シュ・茜『…………』グッ

 鈴「や、やっぱりいいわ、話さなくて。牙也にとっても辛い過去なんでしょう?」

 茜「いや、話させて欲しい。こんな事を話しても牙也のためにはならないが、知って欲しいんだ、牙也の事を」

 そう言って、茜は自身が知る限りの範囲で牙也の過去を皆に話した。

 シュラ・茜以外『…………………………………………』

 一夏達はそれを黙って聞いていた。いや、そうする事しか出来なかった。一夏と千冬(千尋)は両親が蒸発し、セシリアは事故で両親を失った。鈴は両親が離婚し、シャルロットは義理の母に良いようにこき使われ、ラウラはそもそも親と言える存在がない。親・両親と言う言葉に対していい思い出のない彼女達からすれば、共感できる事ばかりであった。

 一方、楯無と簪は両親がまだ生きているから思い出の一つや二つ、無いこともない。しかし、対暗部用暗部の家系で育ったが故に、いつ両親を失ってもおかしくなかった。それ故に、自分達が彼だったらと考え身震いしていた。

 茜「牙也は、あの日からずっと自分を許せていない。牙也は世捨て人として生きている間、ずっと嘆いていた。自分が何かを、誰かを『守る』力を持っていなかった事を。そんな時に手に入れたのがーー」

 千尋「アーマードライダーの力、か…………」

 シュラ「……だが、手に入れるのがあまりにも遅すぎた。その時はすでに大切な物を奪われた後だったからな。だから、牙也は今もたまにだが、ぼそりと呟くんだ。『この力を早くに手に入れていたら……俺は壊れる事はなかっただろうな……』とな」

 全員が何も言えずにいたが、唐突にラウラが口を開いた。

 ラウラ「…………私は親・家族という存在がなかったから、牙也の言う家族のありがたさはよく分からない。だが、大切な人を奪われるという苦しみだけは、私も痛いほどに分かる。軍人として生きている以上、仕方のない事だがな」

 セシリア「大切な人を奪われる……それも突然に……私も彼と同じようになっていたかもしれませんわね……」

 一夏「セシリア…………」

 一夏は無意識に、その手をセシリアの手に優しく重ねていた。

 鈴「でもさ、茜は何でアーマードライダーになるって決意したのよ?」

 簪「……今までの話を聞いていても、茜ちゃんが戦う理由がない……どうしてなの?」

 茜「それは…………」

 そう言って茜は一瞬目を背けてから、今度は自分の事、束の事について話した。これには皆驚きを隠せず、箒に至っては「……そんな事が……」と呟いて、別世界の姉が犯した罪に困惑した。だがそれも一瞬の事で、箒は茜に聞いた。

 箒「……そっちの世界の姉さんは、大丈夫なのか?自殺とかしてないだろうな?」

 茜「落ち着け、そんな事はしてないから。ただ牙也に会うまでは、罪への意識からISが作れなくなったり、強引に全世界のISを機能停止させようとしたり、情緒不安定だったんだ。牙也の両親は、姉さんからすれば大恩人。それを知らなかったとはいえ、見殺しにしたんだから尚更な」

 茜は凌馬が机に置いていった自分の戦極ドライバーとマスカットロックシードを手に取り、じっと見つめた。

 茜「姉さんはずっと罪を数え続けてた。そして自分の愚かさをずっと嘆いてた。毎日のように泣き続けてた。でも、牙也の一言で救われた。ただただ一言、『生きていて欲しい』とな」

 茜は次いで牙也を見る。牙也は相変わらず意思は戻らないままだ。

 茜「私は牙也に初めて会うまで、姉さんがどれだけ苦しんでいるかを知らなかった。いや、知ろうとしなかった。思えば、私が姉さんとはIS関連ではそれほど話をしなかったからかもしれない。だから、私は姉さんの苦しみに気づけなかった。姉さんを長年の間ずっと苦しめてしまった。それが、私が背負った罪だ。だから、私も戦うと決意した。姉さんがこれ以上罪の意識に押し潰されないようにする為に、そして私も一緒にその罪を背負う為に…………」

 茜はマスカットロックシードを握り締めた。その目はいつの間にか涙で濡れていた。

 千尋「」カタトントン

 シュラ「」セナカポンポン

 茜「…………っ」ギュッ

 一・セ・鈴・シャ・ラ・楯・簪『……………………………』

 一夏達は、それを黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 人の苦しみは、他人にはなかなか分からないし気付けないから、どうしても溜め込んでしまう。常に気にする事も出来ないから、この小説の束さんのようになる人も少なくないですよね。

 次回、あのライダーの登場で、IS学園が再び大混乱にーー


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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(6)

 原作より、あのライダーを引っ張ってきました。
 あとBGM付けました。
 さあ、牙也達は勝てるのか!?

 では、どうぞ!




 三人称side

 

 ある日、一夏とセシリアはアーマードライダーの特訓の為に第1アリーナを訪れていた。

 一夏「少しの間だったけど医務室で寝たきりだったから、体が鈍ってそうだね」

 セシリア「今日の特訓は軽いものにして、少しずつ感覚を取り戻していきましょう」

 一夏「鈴達とも一緒にやりたかったけどね…………」

 セシリア「仕方ないですわ。鈴さん達もやるべき事があるのですから」

 一夏「うん。でも久しぶりだなぁ、セシリアと戦うのは。クラス代表決定戦の時以来だったよね?」

 セシリア「そうですわね。あの時の一夏さんは、とても凛々しかったですわ、今でも思い出します」

 一夏「えへへ、そんなに凛々しかった?」

 セシリア「ええ、惚れ惚れいたしましたわ。あの時改めて一夏さんが好きになりましたから」

 一夏「////」カァ

 セシリア「」クスッ

 ??『反吐が出るわねぇ、貴女達を見てると』

 一・セ『!?』

 その声に二人が振り向くと、

 

 

 

 

 

 

 ??「全く、貴女達みたいな人に我らが神が負けただなんて、信じられないわ」

 

 

 

 

 

 上下を黒のライダースーツで包んだ女性が立っていた。

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 「………………ん…………ここは……………………?」

 俺は目が覚めると、何処かの屋敷にありそうな西洋の庭園に寝転んでいた。

 ??「…………あ、起きた」

 ん?この声…………クラックに吸い込まれる直前に聞いた声だ…………。

 俺は体を起こし、声のした方を見た。そこには、

 ??「…………大丈夫?」

 白いワンピースを着た一人の少女が、心配そうに俺を見ていた。

 「お前は…………?」

 ??「…………カンナ。それが、私の名前。そして、貴方達を呼んだのも私」

 カンナと言う少女はそう言って、近くにあった椅子に座るよう促した。俺は未だ重たい体を起こし、椅子に座った。

 カンナ「…………どうぞ」つ紅茶

 カンナは俺が座るなり、机に置いてあったティーポットから紅茶をカップに注ぎ、俺に差し出した。

 カンナ「…………大丈夫、何も入ってないから」

 俺はカップを手に取り、口に当てて少し飲んだ。が、すぐにむせてしまった。

 「ゴホッ、ケホッ、ケホッ」

 カンナ「だ、大丈夫?」アワアワ

 「ケホッ…………大丈夫だよ。実を言うと、紅茶飲めないんだよな…………」

 カンナ「……ご、ご免なさい…………」

 「いいよ、謝らなくても。知らなかったんだし」ナデナデ

 カンナ「…………はぅ////」カァ

 あら可愛い。って、そんな事してる場合じゃないや。

 「ところで、カンナだったな。何で俺達を呼んだんだ?」

 するとカンナは、ティーポットの後ろに隠すように置いてあった物を手に取り、俺に差し出した。

 「…………ロック、シード…………!?」

 カンナ「」コクリ

 それは、白く輝くロックシードであった。

 カンナ「…………これを、貴方に」

 カンナはそう言って、俺の手にそのロックシードを握らせた。

 カンナ「…………それを使って、助けて欲しい人がいるの」

 「助けて欲しい人?」

 カンナ「……そう。それは私と話がしたいときに解錠して」

 「ああ…………だが、その助けて欲しい人ってのは、一体誰なんだ?」

 カンナ「…………それは、まだ言えない。でも、それは貴方を助けてくれる。だから、持っていて」テギュッ

 すると、俺の周りの景色が段々光に包まれていった。

 カンナ「…………時間切れ、みたい…………目を覚まして。皆に、危険がーー」

 そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 「………………ん………………ここは…………?」

 次に俺が目を覚ましたのは、学園の医務室のようだった。

 「…………戻ってきたんだな…………ん?」

 すると、右手に何かの感触かあった。俺に掛けられた布団から右手を出すと、

 「…………これ、夢の中で受け取った…………」

 カンナから受け取ったあのロックシードが握られていた。そしてその近くの机には、俺が使っている戦極ドライバーとロックシードが置かれていた。

 俺はベッドから出て机に近づき、ロックシードの内の一つを手に取った。それは、仮面ライダークライムーー神崎朧から受け取った『L-S-15』のロックシードだった。

 「……いずれは必要になる、か」

 そう呟いたその時、何処かから爆発音が聞こえた。

 「この方向…………第1アリーナだな……」

 俺はベルトとロックシードを腰に付け、いつでも変身出来るようにしてから医務室を飛び出した。

 

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 三人称side

 

 牙也が目覚める数十分前。第1アリーナでは、一夏とセシリアが謎の女と対峙していた。

 一夏「貴女、誰?ここに許可を得て入ってきたの?」

 セシリア「場合によっては、捕縛いたしますわ」

 ??「フン、私を捕縛だと?笑わせるな!貴様らでは、私を捕らえることなど出来はしない。何故なら…………」

 女はそこまで言って、懐から何かを取り出した。

 一夏「戦極ドライバー!?」

 セシリア「貴女、まさか…………!?」

 ??「変身」

 

 『ダークネス』

 

 一夏「黒い…………リンゴ…………!?」

 セシリア「そんな……まさか…………!?」

 

 

 『ロック・オン!』

 

 『黒!ダークネスアームズ!黄金の果実!』

 

 女の頭上から真っ黒いリンゴアームズが現れて女に被さり、黒いライドウェアが全身を包む。そしてアームズが展開され、鎧となった。

 ??「アーマードライダー邪武…………今日この日が、貴様らの命日だ…………!」

 一夏「くっ!行こう、セシリア!」

 セシリア「はい、一夏さん!」

 

 「「変身!!」」

 

 『オレンジ』

 『バナナ』

 

 『『ロック・オン!!』』

 

 『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道・オン・ステージ!』

 『カモン!バナナアームズ!Knight of Spear!』

 

 一・セ『はあっ!』

 鎧武とバロンは大橙丸とバナスピアーを構えて邪武に攻撃した。が、

 邪武「甘い!」ザンッ

 一・セ『きゃあっ!?』

 邪武は左腰の無双セイバーを居合いの要領で引き抜いて二人を迎撃。さらに何処から取り出したのか、黒い大橙丸を無双セイバーと連結させてナギナタモードで攻撃してきた。

 邪武「はあっ!」ザンッ

 一夏「くっ!こいつ、強い!」

 セシリア「このままでは…………!」

 しかし邪武は二人に反撃の暇を与えない。ダーク大橙丸・ナギナタモードを振るい、鎧武とバロンに連続攻撃をかける。鎧武とバロンも、大橙丸とバナスピアーを振るって応戦するが、攻撃はいなされ、カウンターを何度もくらう。そして、

 邪武「ふんっ!」ザシュッ

 一夏「きゃあっ!」

 セシリア「一夏さん!?きゃあっ!」

 遂に鎧武とバロンの変身は解除されてしまった。

 一夏「ぐっ…………」

 セシリア「勝てる……訳がありませんわ…………!」

 邪武「…………やっと気付いたか、自分達の弱さに。その弱さを嘆きながら、二人仲良く死ぬが良い!」

 邪武はそう言って二人に近付き、ダーク大橙丸を振り上げた。

 

 

 

 

 ??「よせ!」

 邪武「?」

 邪武が声のした方を向くと、そこにはーー

 

 

 《推奨BGM eyes glazing over(仮面ライダー555挿入歌)》

 

 

 ゲネシスコア付きの戦極ドライバーを腰に付けた牙也が立っていた。

 一夏「牙也さん!」

 セシリア「目を覚まされたのですね!」

 

 

 

 牙也「変身!」

 

 『ブルーベリー』

 『ラズベリー』

 

 牙也はブルーベリーともう一つ、『L-S-15』のロックシードを解錠した。

 

 『ロック・オン!!』

 

 『ハッ!ラズベリーアームズ!破壊者・Dead・Stage!

ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 牙也の周囲に展開済みのラズベリーアームズとブルーベリーアームズが出現し、牙也が纏った赤のライドウェアの上に装着された(原作のセイヴァーのアームズがそれぞれラズベリーとブルーベリーに置き換わってる感じ。勿論フェイスは蝕)。装着が終わると同時に、蝕の周囲に血のように赤い花びらが舞い散り、背中にあるこれまた血のように赤いマントがゆらりとはためく。

 新たな蝕のフォーム、『アーマードライダー蝕 ディープラズベリーアームズ』だ。一夏達も邪武も、これには動揺を隠せなかった。

 一・セ『!?』

 邪武「な…………!?貴様、何者だ!?」

 牙也「…………テメエなんぞに名乗るほど、俺は馬鹿じゃない」

 蝕は紫炎を構えて邪武に攻撃した。動揺の大きかった邪武は、これを避けることが出来ない。

 牙也「ダアッ!」ザンッ

 邪武「ぐあっ!?」

 斬撃を受けた邪武は大きく怯む。牙也はさらに薙刀『緋炎』を振るって邪武に追撃した。そして紫炎も同時に振るい、邪武に反撃の暇を与えない。

 邪武「ぐっ、があっ!?くそっ!こんなはずdーー《ガシッ》ぐっ!?」

 さらに牙也は邪武の首を掴んでアリーナの壁に叩き付け、投げ飛ばした。そして満身創痍の邪武に、止めと言わんばかりに蹴りを加えた。

 邪武「ぐあああああっ!くそっ!」

 邪武はフラフラと立ち上がった。そして自身の背後になんとクラックを開いた。

 邪武「ぐっ、今回は見逃してやる!だが、いつか貴様らを殺す!覚えていろ!」

 そう吐き捨てて、邪武はクラックに飛び込んだ。するとクラックは閉じ、消えてしまった。

 牙也「…………ちっ、逃がしたかよ…………」

 牙也はそう悪態をついて変身を解除した。ちょうどそこに、他のメンバーが駆け付けた。

 シュラ「牙也!起きていたのか!」

 牙也「ああ、なんとかな。ちょっと敵と交戦してたが、逃げられた。野郎、クラックを開いて逃げやがったんだ」

 シュラ「クラックを…………!?」

 凌馬「インベスかい?」

 一夏「いえ、アーマードライダーでした。黒いリンゴのロックシードを使って…………」

 凌馬「黒いリンゴ!?まずいな…………」

 千冬「凌馬、お前はそれを知っているのか?」

 凌馬「多分それは『ダークネスロックシード』。黄金の果実の成れの果てだ。ゴールデンと同等かそれ以上のスペックを持っている、危険なロックシードだよ」

 セシリア「あのアーマードライダーは、私達を殺す気でした。牙也さんが来てくれなかったら、今頃は…………」

 シュラ「戦極凌馬よ。どうする?」

 凌馬「取り敢えず、三人から話を聞こう。対策を立てなければ」

 

 IS学園に、また闇が訪れようとしていた…………。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 次回、対邪武の対策会議。そして、カンナの真意が明らかにーー



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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(7)


 邪武の変身者の名前は敢えて出しません。これには少し考えていることがありますので。ご了承下さい。

 では、本編をどうぞ。



 

 三人称side

 

 邪武「ハア…………ハア…………ハア…………くそっ!」ガンッ

 ここはとある町の路地裏。邪武はここで変身を解除し、壁を殴り付けていた。

 ??「馬鹿な……!私が以前見た時は、あんなアーマードライダーはいなかったはず……!奴は一体…………!?」

 女は予想外のイレギュラーーー牙也の存在に焦りを感じていた。しかし、すぐに落ち着きを取り戻した。

 ??「…………だが、どんなアーマードライダーであったとしても、この力には勝てない!今回は油断したが、次こそは…………!」

 女は拳を強く握り締め、壁をもう一度殴り付けた。

 

 

 

 鈴「アーマードライダー…………邪武?」

 こちらはご存知IS学園。牙也達が泊まり込んでいる医務室には、全てのアーマードライダーが揃っていた。そこで自分達と交戦したアーマードライダーの名を聞いた一夏達は、凌馬から語られたその名を聞いて首を傾げていた。何せ、そんな名前など聞いたこともないのだから。

 凌馬「さっきも言ったように、奴が変身に使う『ダークネスロックシード』は、黄金の果実の成れの果て。つまりは『ゴールデンロックシード』が絶望・憤怒・復讐といった負の感情に晒されて、変質した物なんだ。スペックだけで言うなら、黄金の果実を越えている。ただ、時に使用者を暴走させ、最悪死に追いやる。それだけ危険なロックシードだよ」

 凌馬は一旦そこで言葉を切り、アリーナのカメラに写された映像を見た。

 凌馬「しかし、こうやって見てみても、奴のスペックは半端ないね。一夏ちゃんとセシリアちゃんをこうも手玉に取るなんて」

 セシリア「はい、これ程強いアーマードライダーはなかなかいませんわ。オーバーロードの力を以てしても、勝てるかどうか…………」

 シャルロット「でも牙也さんが戦った時は、圧倒してたみたいだけど」

 牙也「たまたまだ。奴は俺が出てきた事に明らかに動揺を見せていた。まあ余程の事がない限り予測出来ないから当然だが、次にここを襲撃する時はそうはなるまい。何かしらの対策は立てて来るだろう」

 スコール「それはそうよね。だとすると、こちらも何か策を立てなければ…………」

 マドカ「だが、奴に小細工が通用すると思うか?」

 シュラ「そこだな。黄金の果実以上のスペックを持つというのなら、小細工など押し退けて来るだろう。そうなると我等では抑えきれまい。織斑一夏とセシリア・オルコットが苦戦した相手だ、我等で抑えるのも限度がある」

 千冬「だとするとどうすれば良い?奴への対策がない限り、挑んだところで返り討ちに遭うのが目に見えてるぞ」

 オータム「だよな~。何かしらの弱点でもあれば…………」

 すると、牙也の腰のホルダーから光が出てきた。皆はそれに驚くが、牙也はそうはならず、光の正体を手に掴んだ。それは、牙也が夢の中で受け取ったあの白いロックシードだった。

 シュラ「それは?」

 牙也「俺が眠っている間に、ある少女から受け取った物だ。恐らく……」

 牙也がそのロックシードを解錠すると、さらに光が強くなり、やがて光が晴れるとーー

 

 

 カンナ「…………皆さん、揃いましたね」

 

 

 牙也の夢の中にいた少女・カンナがそこにいた。しかし、牙也が初めて会った時よりか彼女は大人びていた。

 一夏「貴女は……?」

 カンナ「カンナ、と言います。彼ら四人を呼び寄せた者です」

 茜「お前が私達を……?」

 カンナ「はい。あのような強引な方法で呼び寄せる事になってしまい、申し訳ありません」ペコリ

 シュラ「それは別に構わん。だが、我等をこの世界に呼んだ理由は何だ?」

 カンナ「はい、皆さんの前に現れたあのアーマードライダーについてです」

 千尋「邪武の事か?」

 カンナ「そうです。実を言うと、あのアーマードライダーは本来この世界に生まれるはずのない存在だったんです。ですが、別の世界のダークネスロックシードがこの世界の悪意に引き寄せられてーー」

 凌馬「この世界に流れ着いたって事だね?」

 カンナ「はい。ダークネスロックシードを拾った女性は、ロックシードの闇に取り込まれています。ロックシードを破壊すれば彼女を助けられるのですがーー」

 『??』

 カンナ「異世界から来たダークネスを破壊し、彼女を救出出来るのは、異世界にいるアーマードライダーのみ。そこで白羽の矢を立てたのがーー」

 牙也「俺達だった、と」

 カンナ「そうです。そして私は貴方達を呼び寄せ、戦闘で気を失った貴方の夢の中に入り、それを託したのです…………」

 カンナはそう言って、牙也が持つ白いロックシードを指差した。

 カンナ「それを使う事で、ダークネスロックシードを破壊出来ます。もしあれを早くに破壊出来なければ、この世界そのものに影響を及ぼします。不躾で申し訳ありませんが、どうか私に力をお貸し下さい。お願いします!」

 牙也「…………ここまで事態が深刻なら、もう退けはしないな……分かった。お前さんの為に、力を貸そう。皆もそれで良いよな?」

 牙也以外『』Σd

 カンナ「ありがとう、ございます…………!」ナミダポロポロ

 牙也「あー、泣くな泣くな。困った時はお互い様、だろ?」ヨシヨシ

 凌馬「兎も角、ダークネス攻略の目処は立ち始めてる。後は、邪武がどう出てくるか、それだけだね」

 カンナ「ありがとうございます……ありがとうございます……!」ポロポロ

 牙也「」ヨシヨシ

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「さて、奴がどう動いてくるか…………」ゴクゴク

 会議(もどき)が終わって夜になり、牙也は自動販売機でお茶を買ってその場で飲んでいた。協力を申し出たは良いが、対象である邪武が動かない限り、牙也達も動く事が出来ない。向こうから出向いてくるのを待つしかなかった。だが、どう動いてくるかまでは予測出来ない。それ故、牙也は一抹の不安を抱いていた。

 一夏「あ、牙也さん。まだ起きてたんですか?」

 牙也「ん?おう、一夏か。邪武の奴がどう動いてくるか、気になってな。それに、少し喉が乾いたんだよ」

 一夏「邪武は黄金の果実と同等の力を持ってますからね…………それに、私達を殺す気で掛かってくる。勝てるかな…………」

 牙也「バカ、勝てるか勝てないかじゃない、勝つんだよ、俺達は。それしか道はないんだから」

 一夏「……そうですね。私がこんな弱気になってちゃダメだよね……」

 

 ぽふっ←牙也、一夏の頭を叩くように軽く撫でる

 

 一夏「ふぇっ!?」

 牙也「重く考えんなよ。いつも通り、いつも通りでいけば、出来ない事はねえさ。それとーー」ナデナデ

 牙也はそこまで言って、手を止めた。そして、

 

 ピシッ←牙也、一夏の額を軽くデコピン

 

 一夏「痛っ!?」

 牙也「気を楽にしろ。そして、まずは生きて帰ってくる事を考えろ。もし死にでもしたら、大好きな娘が悲しむぞ」

 一夏「牙也さん…………」オデコサスサス

 牙也「折角掴んだ幸せなんだ。こんな事で手放すのは嫌だろ?」

 一夏「…………はい!」グッ

 牙也「フッ。さて、部屋に戻ーー」ピクッ

 一夏「牙也さん?」

 牙也「ーーりたいが、どうやらいるな。出てこいよ、邪武!」

 ??『おや、気付かれてしまったか』

 すると、自販機近くの角から邪武が顔を出した。

 一夏「邪武!貴女の目的は何!?」ギロッ

 邪武「おやおや、怖いねえ。まあそう殺気なんて出さないでくれよ。さあ二人とも、私は第1アリーナで待ってるよ…………ハハハハハハハ!!」

 邪武はそう言うと、クラックを開いて消えてしまった。

 一夏「邪武!」ダッ

 牙也「追うな、一夏」ウデガシッ

 一夏「牙也さん!?ですが…………!」

 牙也「まあ落ち着け。戦いってのは、常に準備をした上で始める物だからな」ピッピッ

 すると牙也はスマホを出して何処かに電話を掛けた。

 牙也「もしもし、聞こえるか?邪武が動いた。予定通り行くぞ」

 ??『了解』

 牙也はそれだけ言って電話を切った。

 一夏「今の電話のお相手は…………」

 牙也「ああ、ちょっとした野暮用さ。さて、奴の作戦に乗っかってあげますか」テクテク

 一夏「あ、ちょっと、牙也さん!?」タタッ

 一夏と牙也はその足で、第1アリーナに向かった。

 

 

 

 

 二人が第1アリーナに着いたのは、それから凡そ十五分後の事であった。アリーナの入り口は開け放たれ、その奥は黒き闇が広がっていた。

 牙也「…………入ってこい、とでも言いたいのかねぇ」

 一夏「…………行くんですか?」

 牙也「勿論。というか、それしかないだろ?」

 一夏「…………そうですね。行きましょう!」

 牙也が懐中電灯を持って先を進み、その後ろから一夏がついてくる。が、少し怖いのか、一夏は牙也の着物の裾を握り締めていた。夜のアリーナの通路に、二人の足音が響く。やがて、巨大な空間が広がる場所に着いた。

 牙也「……訓練場か」

 一夏「普段はISの授業で使うけど……って、釈迦に説法だったね」

 牙也「ははは…………っ!」

 突如アリーナの全ての電源が入り、アリーナは急に明るくなった。そして二人の目の前にはーー

 

 

 邪武「ようこそ、私の領域へ」リョウテヒロゲ

 

 

 邪武が立っていた。

 

 

 牙也「お前の領域じゃねえよ、馬鹿」

 一夏「早く答えて。貴女の目的は何!?」

 邪武「んー、目的?そうだなぁ、一言で言うなら…………我が神の悲願の達成、かな?」

 牙也「我が神?」

 邪武「そう。我が神、織斑春也様の悲願をね!」

 一夏「!?」

 牙也「織斑春也…………?」

 一夏「私の弟。かつてアーマードライダーの力を使って世界征服を企んだの。でも、風の噂で獄中で死んだって聞いた」

 邪武「そうさ、神は死んでしまわれた。だが、神の心までは死ななかった!この力が、私を導いてくれる。まずはーー」

 邪武はダーク大橙丸を二人に向けた。

 邪武「その悲願の為に、織斑一夏!貴様をこの手で葬ってくれる!そして、この世界から、全ての自由を奪ってくれる!」バッ

 牙也「!」

 邪武がダーク大橙丸を空に掲げるとーー

 

 

 

 『フシャアアアアアアア………………』

 

 

 

 クラックがアリーナに大量に開き、中からインベスが溢れ出てきた。

 一夏「あれは!?」

 邪武「ふん、このインベスの群れを見事倒して見せろ。そうすれば、貴様等の相手になってやる!」

 邪武はそう言って大きく後方に下がった。二人の周りを大量のインベスが囲む。

 一夏「こんなに沢山…………!牙也さん!どうし「…………と言った?」え?」

 邪武「…………?」

 牙也「…………今、お前は何と言った?」

 邪武「何?」

 牙也「何と言ったと聞いている…………答えろ」

 牙也のその言葉には、明らかに怒気が含まれていた。

 邪武「ふん、よく聞こえていなかったようだな。ならばもう一度言おう。織斑一夏をこの手で倒し、この世界から全ての自由を奪ってくれる!」

 邪武はダーク大橙丸を二人に向けて叫んだ。

 牙也「……………………」スッ

 一夏「き、牙也さん?」

 

 『ブルーベリー』

 

 『ロック・オン』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 牙也「……………………」スッ

 

 『ブルーベリースパーキング!』

 

 蝕は何も喋らず、カッティングブレードを三回倒した。右手に持った紫炎に、紫色の禍々しいエネルギーが集まる。

 牙也「…………一夏…………伏せろ」

 一夏「え?」

 牙也「伏せろ」ギロッ

 一夏「」ゾワッ

 蝕の禍々しい殺気に一夏は寒気を覚え、言われた通りに伏せた。するとーー

 

 

 ブンッ

 

 

 邪武「…………………………………………は?」

 

 

 

 邪武もこれには開いた口が塞がらなかった。何故ならーー

 

 

 

 

 蝕の一振りが、アリーナにいた全てのインベスどころか、開いていたクラックまで切り裂いたから。

 

 『フシャアアアアアアアッ!!!』

 

 断末魔の叫びと共にインベスもクラックも爆発して、後には三人を除いて何も残らなかった。

 牙也「」ヒュンヒュン トッ

 蝕は紫炎を右の手中で鮮やかにクルクルと回し、切っ先を地面に突き刺した。一夏も邪武も、何も言えなかった。あれだけ大量に沸いていたインベスが、たった一振りで全て薙ぎ倒されたのだから。

 牙也「…………さあ、次は、お前だ…………掛かってこいよ。こいつを、一夏を殺したいんだろ?早く、早く来いよ……」

 邪武「」ゾワッ

 一夏「」ゾワッ

 牙也のその呟きは、明らかに邪武への殺意が籠められていた。邪武はその殺意に寒気を覚えるが、

 邪武「くっ…………良いだろう。貴様の相手になってやろう!」

 すぐに持ち直してダーク大橙丸と無双セイバーを合体してナギナタモードにした。

 

 

 

 

 今、最悪の戦いが幕を開けようとしていたーー。

 

 

 

三人称side end

 

 

 





 牙也がブチ切れました。俺もう知ーらね。

 次回、蝕vs邪武。だが、最悪の事態にーー。



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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(8)


 コラボはこれを含めて後二話を予定しています。
 どうか最後までお楽しみ下さい!

 それでは、始まります!




 

 三人称side

 

 第1アリーナに、刃同士がぶつかり合う音が響く。一夏はその様子を離れた場所から見守るしか出来なかった。何故ならーー

 

 邪武「くっ!貴様、一体何者だ!?何故私の邪魔をする!?」ビュッ

 牙也「クカカカカ…………言ったろ、テメエなんぞに名乗るほど馬鹿じゃねぇってな!」ガキンッ

 

 アリーナの中央では、蝕と邪武が己の得物で打ち合っている。邪武がダーク大橙丸・ナギナタモードを振るうと、蝕はそれを紫炎でいなし、邪武に蹴りを入れた。邪武は一瞬怯むがすぐに立て直し、またダーク大橙丸を振るう。蝕もまた紫炎を振るって攻撃を仕掛けるが、邪武はそれを避けて蝕の胸に一撃加えた。しかし、蝕は怯む気配すら見せない。

 一夏(どうしてだろう…………今の牙也さん、とても怖く感じる。……あの事と関係あるのかな…………?)

 一夏が心の中でそう思っている通り、牙也に対して邪武が言い放った『奪う』という言葉は、禁句中の禁句であった。かつてIS委員会によって理不尽にも全てを奪われた牙也からすれば、『奪う』という事がどれだけ愚かな事か、良く分かっている。

 今、牙也は邪武のその発言に完全にキレており、その目は光が灯っておらず、ただ目の前の愚かな敵を消す事しか頭にない。

 邪武(な、なんだ!?この強さは!?こんな奴の何処からそんな力が…………!?)

 邪武は蝕の圧倒的な能力に対処できず、次第に押され始めた。だが、

 邪武(…………ううむ、これ程の闇、放っておくには勿体ない。くくく、そろそろこの人間にも飽きてきた所だ。せいぜい足掻くが良い。こ奴に我が倒された時が、貴様等の絶望となる!)

 戦いに敗れた際の手段として、何か考えているようだった。そんな事は露知らず、蝕は邪武への攻撃をさらに強めた。

 牙也「クカカカカ…………どうした!?その程度な訳ねえだろ!?もっと本気を出せよ!俺を殺してみろよ!?」ヒュンヒュン

 蝕は、最早狂気とも言える叫びをあげて邪武を追い詰めていく。一方一夏は、壊れたような叫びをあげて邪武に攻撃する蝕に恐怖を覚えていた。

 一夏(あんな牙也さん、見た事ない…………邪武は押されてる状態。でも、何だろう?今一瞬だったけど、邪武が笑ってたような…………)

 そして同時に、邪武が一瞬見せた笑みのようなものに何かを感じ取っていた。

 一夏がそうこう考えている間に、蝕は邪武を切り裂き、大きく怯ませた。そしてその腹に蹴りを叩き込んだ。

 邪武「ぐふっ!」

 牙也「クカカカカ…………これで終わりだ!」

 

 『ラズベリー』

 

 牙也はゲネシスコアを取り付け、ラズベリーロックシードを解錠した。

 

 『ロック・オン』

 

 『ハッ!ラズベリーアームズ!破壊者・Dead・Stage!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 『ハッ!ラズベリースカッシュ!ブルーベリースカッシュ!』

 

 蝕はカッティングブレードを一回倒して、紫炎と緋炎を構えた。そして邪武に向かって突撃し、その体を切り裂いた。

 牙也「どらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ザシュッ

 邪武「ぐぁぁぁぁぁっ!……く……くく…………くくくくく…………その力、その心、そして貴様の中に潜む闇!貴様が持つには勿体ない。その体、我に寄越せぇぇぇぇぇ!」

 邪武がそう叫びながら倒れ、変身が解除された。蝕は狂ったような笑みを浮かべつつ、邪武に変身していた人物に近寄った。が、その顔を見た途端、驚きにも似た表情をした。

 

 

 

 牙也「か…………母…………さん…………?」

 

 

 

 変身していた女のその顔は、牙也の母・茜にそっくりだったのだ。蝕が思わずそう呟いたその時ーー

 

 

 

 

 ダークネスロックシードが黒い輝きを放ちながら、女のベルトから外れ、そのまま宙を舞った。そしてそれは未だ呆然としている蝕のベルト目掛けて突進した。

 一夏「牙也さん!危ない!」

 一夏が叫ぶがーー

 

 『ロック・オン』

 

 ダークネスロックシードはゲネシスコアに装着されたブルーベリーロックシードを弾き飛ばし、ゲネシスコアに装着された。そしてゆっくりとカッティングブレードが降りた。

 

 『ハッ!ラズベリーアームズ!破壊者・Dead・Stage!黒!ダークネスアームズ!黄金の果実!』

 

 牙也?「ハハハハハハハハ!!!やった、やったぞ!遂に、遂に私に馴染む体を手に入れた!これだ、これこそが、我が求めていた絶望の如く黒き闇よ!この体さえあれば、この世界は我の物となるぞぉぉぉぉ!!」

 

 牙也の体は、ダークネスロックシードに潜んでいた悪意に奪われてしまった。蝕の姿は、『ダークラズベリーアームズ』となった。

 

 一夏「牙也さん!?くっ、変身!」

 

 『オレンジ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道・オン・ステージ!』

 

 一夏は大橙丸を無双セイバーと合体してナギナタモードにし、蝕に攻撃を仕掛けるがーー

 

 

 

 

 牙也?「甘いぞ、小娘!」ブンッ

 一夏「きゃっ!」

 蝕は緋炎を振るって攻撃を弾く。さらに切っ先を鎧武に向け、そこから赤紫のエネルギー弾を放った。

 一夏「っ、ああああああっ!」

 牙也?「ハハハハハハハハ!!!そらそら、どうした!?我を、このダークネスを倒す気なのではなかったか!?」

 一夏「くうっ……牙也さんの体を返して!」

 

 『カチドキ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!カチドキアームズ!いざ出陣!エイエイオー!』

 

 一夏「はあっ!」

 鎧武は火縄大橙DJ銃を取り出して大砲モードにし、蝕に向けて数発撃ち込んだ。しかし、蝕はそれを緋炎で全て切り裂き、鎧武に向かって突撃した。

 一夏「くっ!」

 鎧武は火縄大橙DJ銃をマシンガンモードにして蝕に撃ち込んだ。これには蝕も対処しきれず、一旦距離を取った。これを好機と見た鎧武は、火縄大橙DJ銃と無双セイバーを合体して大剣モードにし、蝕に斬りかかった。

 一夏「それっ!」ブンッ

 ダークネス「くっ!貴様、まだ抵抗するか!?貴様は我には勝てぬ!それが何故分からぬ!?」ガキンッ

 一夏「牙也さんが言ってた、『勝てる勝てないじゃない、勝つんだ』って!私は、いえ、私達は貴方なんかには負けない!絶対に勝つ!そして、牙也さんを貴方から解放する!」ブンッ

 ダークネス「私達、だと!?貴様の周りには誰もいまい!頼みの牙也とやらは今、我が体となった!貴様に勝ち目など、万に一つもない!」ギインッ

 一夏「たとえ今ここに誰もいないとしても、私達には決して誰にも切れない絆がある!貴方のような奴には一生分からないでしょうけどね!」ブンッ

 ダークネス「絆だと!?笑わせるな!絆など、いとも簡単に壊れるもので、さらには足枷となるもの!そのようなくだらないものを信じて我に挑んでいると言うのか!?ふざけるな!」ガキンッ

 一夏「ふざけてる!?貴方のその考えこそふざけてる!世界は誰の物でもない!この世界に生きる皆が平等に所持する物!貴方なんかに、絶対に奪わせはしない!」

 

 『フルーツバスケット!』

 

 鎧武は極ロックシードを取り出して解錠した。

 

 『ロック・オープン!極アームズ!大・大・大・大・大将軍!』

 

 『大橙丸!』

 『無双セイバー!』

 

 鎧武は『極アームズ』となり、大橙丸と無双セイバーの二刀流でダークネスに挑みかかった。ダークネスも緋炎と無双セイバーを抜いてこれに応戦する。

 

 一夏「貴方は、異世界からここに来たって聞いた。しかも、この世界に蔓延する悪意に引き寄せられて来たって」

 ダークネス「ちっ、あのガキめ、いらん事をペラペラ喋りやがって…………ああそうさ、我はこ奴と同じで、異世界から来た!元いた世界での世界征服に失敗したからな、征服するにちょうど良い世界を探していたのだよ!」

 一夏「それで目をつけたのが私達の世界!?」

 ダークネス「ああそうだ。織斑春也と言う悪意がいてくれたお陰で、我はこの世界に易々と入り込めた。だがここまでが長かった。織斑春也は好き勝手に暴れるし、奴は結局貴様等によって倒され、我の計画は大きく狂わせられてしまった。だが、新たな悪意に出会えたのは幸運だった!しかも、その女の顔がこの体の者の母親そっくりとは!我は何という幸運を掴んだのだ!この好機を、我は決して逃しはしない!貴様等アーマードライダーを全て殺し、この世界を我が手で掴む為に!」

 一夏「ふざけないで!貴方の都合の良いようにはこの世界は動かない、動かさせはしない!私達は貴方を倒す!そして、この世界を守ってみせる!」

 鎧武はダークネスに向けて二刀を振るおうとした。

 

 

 

 

 牙也「…………助けて……くれ……一夏…………」

 一夏「!?」ピタッ

 一瞬ダークネスに牙也の面影が写り、鎧武は攻撃を躊躇った。その隙をダークネスは見逃さなかった。

 ダークネス「はあっ!」ザシュッ

 一夏「!?ぐうううっ!?」ドタッ

 鎧武の脇腹に、緋炎の切っ先が突き刺さった。その痛みに鎧武は悶え苦しみ、地面に倒れた。

 ダークネス「ハハハハハハ!愚か者め!」ドカッ

 一夏「ぐはっ!?」

 ダークネスは高笑いして鎧武に蹴りを入れた。

 ダークネス「ハハハハハハハハ!!!それみろ、絆など所詮は足枷に過ぎんのだよ!哀れなるはこの体の者だな」

 ダークネスはそう言って、緋炎の切っ先を鎧武の喉元に突き立てた。

 一夏「ぐっ…………!」

 ダークネス「この世で勝つに必要なのは、仲間さえも切り捨てる非情さ!絆などでは、決して勝てんのだよ!それを知ろうともしなかった貴様は、英雄などではない、ただの愚か者に過ぎんのだよ!己の愚かさを嘆きつつーー」

 ダークネスは緋炎を振り上げた。

 ダークネス「ーー消えろッ!」ブンッ

 そして鎧武の首に緋炎がーー

 

 

 

 

 

 ??「消えるのは貴様だ!」

 『ハイー!白騎士アームズ!守護神・ファースト・ステージ!』

 ダークネス「!?」

 

 

 

 

 ーー振り下ろされようとした途端、ダークネスの正面にクラックが開き、中からアーマードライダーが剣をダークネスロックシードに向けて振り下ろした。

 ダークネス「ぐあっ!?」

 ダークネスは少し怯むが、振り下ろされた剣はダークネスロックシードに傷を付けた程度であった。

 茜「ちっ、かすっただけか…………!またとないチャンスだったというのに…………!」

 剣を振るったのは、レオンーー茜であった。

 シュラ「織斑一夏、無事か!?」

 一夏「皆!」

 クラックからは、さらにセシリア等も出てきた。シュラが一夏の脇腹に手をかざすと、小さな光が灯り、キラキラと輝いた。少し経つと、脇腹の傷はすっかり治っていた。

 セシリア「一夏さん、大丈夫ですか!?」

 一夏「セシリア!私は大丈夫。だけど……牙也さんが…………ダークネスに…………」

 シュラ「何!?くそっ、もう少し早くクラックを此処に繋ぐ事が出来ていれば…………!」

 ダークネス「ふん、やっとお仲間の到着か。だが、遅すぎたな!この体は我の物だ!最早誰にも渡さぬ!誰にもーー」

 

 

 カシャンーー

 

 

 その言葉は続かなかった。ゲネシスコアからダークネスロックシードが外れ、地面に転がったからだ。

 ダークネス「な…………!?くそッ、もう一度ーー」

 シュラ「させぬ」

 ダークネスはロックシードを拾おうとしたが、シュラの伸ばした蔦によって奪われ、ダークネスの後方に放り投げられた。

 ダークネス「くっ!貴様ァ!嘗めた真似w『バチィッ!』がっ!?」

 突如ダークネスの体からスパークが迸り、変身が解除され、ダークネスは牙也の体から弾き出された。それを見たシュラは、蔦を伸ばして牙也を回収した。弾き出されたダークネスのその姿は、織斑春也にそっくりであった。

 一夏「春也!?」

 シュラ「成る程、それが貴様の愚かなる姿か…………牙也、大丈夫か?私達が分かるか?」

 茜「牙也、しっかりしろ!」

 茜も変身を解除して、牙也に走り寄った。

 牙也「…………ああ、分かるさ…………易々と忘れるもんかよ……あと茜、騒ぐなよ……頭に響くんだ…………」

 ダークネス「ぐっ、貴様等ァ…………嘗めた真似を!変身!」

 

 『黒!ダークネスアームズ!黄金の果実!』

 

 ダークネスはロックシードを回収し、直接邪武に変身した。

 牙也「……ご苦労だったな、茜。後は、俺に任せろ」

 シュラ「牙也、本当に大丈夫か?」

 牙也「何度も言わせんなよ、シュラ。俺は絶対に死なない。俺にはまだやる事がある。易々と死ねないね」

 そう言って牙也は戦極ドライバーを再び腰に付けた。

 茜「牙也!」

 そこへ茜が再び近寄り、あの白いロックシードを手渡した。

 茜「…………約束しろ。必ず、必ず生きて帰ってくると」

 牙也「…………ふん、言わずもがな、だ!行くぞ、一夏!」

 一夏「はい!」

 

 『カチドキ』

 『フルーツバスケット』

 『白騎士』

 

 『ロック・オン!!』

 

 

 「「変身!!」」

 

 『ロック・オープン!極アームズ!大・大・大・大・大将軍!』

 『ソイヤッ!白騎士アームズ!守護神・ファースト・ステージ!』

 

 

 

 

 牙也「さあ…………天が、お前の到着を待ってるぜ……!」

 

 

 最後の戦いが、始まるーー。

 

 

 三人称side end

 

 





 次回、異世界編最終話ーー最終決戦の鐘が、鳴り響くーー。



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コラボ2 異世界ニ立ツ侵食者(9)

 今回でコラボ2は最終話。最後の戦いを、その目でーー

 まあ拙い文章になるでしょうが…………

 では、どうぞ!


 三人称side

 

 第1アリーナに、またも刃同士がぶつかり合う音が響く。そこで邪武と相対するのは、

 一夏「そこっ!」ヒュンヒュン

 無双セイバーを振るう鎧武・極アームズと、

 牙也「ウラァッ!」ブンッ

 雪片・零式を振るう蝕・白騎士アームズだ。二人は息の合ったコンビネーションで邪武に攻撃を仕掛ける。が、邪武も負けておらず、ダーク大橙丸と無双セイバーで二人の攻撃を迎え撃つ。

 邪武「ふん、この程度か!?全く手応えがない!つまらんぞ!もっと我を楽しませよ!」

 牙也「テメエなんぞに命令されるいわれはないね!」

 一夏「今度こそ、貴方を倒す!」

 斬撃がぶつかり、無双セイバーの銃撃がぶつかり、共に相殺される。それにつれて、戦いは一層激しさを増していく。

 

 

 

 セシリア達は、一夏達の戦いをそこから少し離れた場所から見つめていた。

 セシリア「一夏さん達、大丈夫でしょうか…………?」

 ラウラ「敵は黄金の果実以上の実力。だが、奴は今追い詰められている。二人を倒さない限り、悲願は達成出来ないからな。それに、牙也の力は奴からすれば危険なもの。完全に排除しようとするだろう」

 シャルロット「二人共…………どうか無事で…………!」

 簪「負けないで…………!」

 シュ・茜・千尋『……………………』

 茜達三人は、その戦いをじっと見ていた。

 千冬「お前達は心配ではないのか?何も言わぬようだが…………」

 シュラ「心配、か。していない訳ではないさ」

 楯無「だったらなんでーー」

 茜「『信じている』からだ。私達は皆、二人の勝利を信じている。だから、私達はここで待ち続ける。あの二人が、無事に私達の元へ帰ってくる事を…………」

 鈴「『信じている』か…………そうよね、あたし達があの二人の勝利を信じないでどうするって話よね」

 千尋「信じろ、あの二人を。今の私達には、それしか出来んのだからな…………」

 二人の勝利を信じる事。皆にはそれしか出来ない。が、それしか出来ないからこそ、二人の勝利をこれほどに強く信じる事が出来る。

 シュラ(……勝て、牙也……勝って、必ず戻ってこい……!)

 皆はただじっと、二人の戦いを見続けていた。

 

 

 

 

 一・牙『はあっ!』ザシュッ

 邪武「ぐああっ!」

 鎧武と蝕の斬撃が、遂に邪武の鎧を捉えた。二人はここぞと言わんばかりに、連続攻撃を仕掛ける。

 一夏「そこっ!」ヒュンヒュン

 邪武「ぐあっ!?」

 牙也「隙あり!」ザシュッ

 邪武「ぐふっ!」

 攻撃は止まらず、邪武は成す術もなく攻撃を受けている。

 一・牙『セヤアアアアッ!』ザンッ

 邪武「うわあっ!?」

 遂に邪武は斬撃を二人分同時にくらい、吹き飛ばされた。アリーナの地面を豪快に転がっていく。

 邪武「ぐ、ううう…………ふざけた真似をォォォォォ!」

 

 『ダークネススカッシュ!』

 

 邪武はカッティングブレードを一回倒して、ダーク大橙丸を構えた。すると、邪武の周囲に黒いリンゴ型のエネルギー体が現れた。周囲を浮遊するエネルギーを、邪武はダーク大橙丸を振るう事で二人に向けて飛ばした。

 

 一夏「させない!」

 『メロンディフェンダー!』

 『バナスピアー!』

 

 『メロンオーレ!バナナオーレ!』

 

 鎧武は極ロックシードを操作して『メロンディフェンダー』と『バナスピアー』を召還。さらにカッティングブレードを二回倒してメロンディフェンダーを投げ付けた。メロンディフェンダーは弧を描くように飛び、リンゴのエネルギーを全て切り裂いた。

 邪武「何!?」

 一夏「まだだよ!」

 驚く邪武にそう叫んで、鎧武はバナスピアーを地面に突き刺した。バナスピアーから黄色のエネルギーが邪武に向かって伸び、そのまま邪武を拘束した。

 邪武「これは!?っ、くそ!離せ!」

 一夏「牙也さん、今です!」

 牙也「ああ!」

 

 『白騎士オーレ!』

 

 蝕はカッティングブレードを二回倒して雪片零式を構え、動けない邪武に向かって走り出した。

 

 牙也「ハアッ!」ザンッ

 邪武「ぐふっ!」

 

 牙也「ウラァッ!」ザシュッ

 邪武「ぐおっ!?」

 

 牙也「ハアアアアッ!」ズバアアアッ

 邪武「ぐわああああっ!」

 

 雪片零式による袈裟斬り、斬り上げ、上段からの振り下ろしで邪武を斬り裂いた。

 

 邪武「ハア、ハア、ハア…………馬鹿な…………我が…………この我が、負けるなど…………!」

 

 いずれの攻撃も、ダークネスロックシードを的確に斬り裂いたが、邪武は未だ健在であった。

 牙也「ちいっ、仕留められなかったか……」

 一夏「それなら次こそ…………!」

 邪武「我が負けるなど…………あってなるものかァァァァァァァァァ!」

 

 『ダークネスオーレ!』

 

 邪武がカッティングブレードを二回倒すと、邪武の正面に巨大な黒いリンゴのエネルギー体が出現。

 

 邪武「これで終わりよ…………消え去れェェェェェェェ!!!!!」

 

 ダーク大橙丸を振るって、二人に飛ばしてきた。

 

 牙也「一夏!合わせろ!」

 一夏「はい!」 

 

 『白騎士オーレ!』

 『極オーレ!』

 

 牙・一『はああああああああ…………!はあっ!』

 

 二人の右足にエネルギーが集約し、白く輝く。そして二人は息を合わせて、同時にジャンプした。

 

 牙・一『セイハアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 そして、リンゴのエネルギーに強烈なキックを加えた。強力なエネルギー同士がぶつかり合い、火花を散らす。が、

 牙也「くそっ、押される!」

 一夏「力が足りない!このままじゃ…………!」

 

 

 シュラ「諦めるな!」

 セシリア「私達も共に!」

 

 シュラとセシリアが、共にオーバーロードの姿となり、揃って右足にエネルギーを溜める。そして、同じようにジャンプして、

 

 シュ・セ『セヤアアアアアアアアッ!!!!』

 

 強烈なキックをぶつけた。これにより、黒いエネルギーは押し戻される。が、

 

 牙也「くそっ、まだ足りねえか!」

 一夏「また押し返されてる!」

 シュラ「ぐっ、想像以上だな、この力は!」

 セシリア「皆さん、諦めてはなりませんわ!ここで私達が負けたらーー!」

 牙也「分かっちゃいるが…………!」

 鈴「ちょっと、あたし達を忘れないでよね!」

 その声と共に、鈴達他のアーマードライダーも加わった。

 一夏「鈴!それに皆も!」

 シャルロット「一夏達ばかりにこんな事させられないよ!」

 ラウラ「こんな奴の好き勝手にさせるのは私としても御免だからな!」

 楯無「後輩ばかりに辛い仕事はさせたくないのよね!」

 簪「……私達にも…………出来る事がある。たとえ一人の力が弱いとしても、私達が力を合わせれば…………!」

 千冬「……もう、誰も失わせはしない!」

 千尋「もう、誰も奪わせはしない!」

 スコール「私達も同じ。無力だったあの頃とは違う!」

 オータム「そうだ!あたし達をなめるなよ!」

 マドカ「姉さん達は、私達が守って見せる!」

 箒・茜『私達の絆、侮るな!』

 次々とアーマードライダーが加わり、キックをぶつけたり、己の得物でエネルギーを受け止めるなどして、黒いエネルギーを押し返していく。

 邪武「…………ふざけるな…………ふざけるなアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 『ダークネススパーキング!』

 

 しかし邪武はさらにカッティングブレードを三回倒して、エネルギーをさらに打ち出した。

 

 牙也「ーーーーっ!まだだ…………まだだァァァァァァァァッ!」

 

 その途端、蝕の腰のホルダーに付いたラズベリーロックシードがゲネシスコアと共に浮遊し、戦極ドライバーに装着された。そしてゆっくりとカッティングブレードが倒された。

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!白騎士アームズ!守護神・ファースト・ステージ!ハッ!ラズベリーアームズ!破壊者・Dead・Stage!』

 

 牙也「!こういう事かよ…………朧!お前の力を、俺達に貸してくれ!」

 

 『白騎士スパーキング!ラズベリースパーキング!』

 カッティングブレードが三回倒され、全員の足や得物にエネルギーが集約した。

 

 『いっけええええええええええ!!!!!!』

 

 そして遂に、黒いエネルギーはその強大な力に耐えきれなくなり、消滅した。

 邪武「ば、ば、馬鹿なァッ!こ、こんな事がーー!」

 

 

 『セイハアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

 そして牙也達はそのまま邪武に向かって突っ込んだ。

 

 邪武「ぐ、ぐわあああああああっ!!!!」

 邪武の全身に、キックと武器による一撃がヒットした。それらの攻撃は勢い余って、そのまま邪武を突き抜けるほどであった。

 

 

 邪武「……ば、ば、馬鹿な…………何故だ、何故我はーー」

 牙也「誰も信じず、たった一人で戦ってる奴と、皆を、仲間を信じて全員で戦ってる奴と、どっちが強いかって話だよ。お前は自ら仲間からの信頼を投げ捨てた。その時点で、お前には勝つ要因など無くなってたんだよ」

 全員揃って変身を解除し、牙也はそう呟いた。

 

 

 

 

 牙也「……さあ……天へと堕ちていけ…………そして、相応の裁きを受けな…………!」

 

 

 

 邪武「い、嫌だ!我は、我にはまだ、成すべき事がーーっ、ぐわあああああああっ!!!!」

 

 

 

 

 遂に邪武は倒れ、大爆発が起こった。爆発が終わると、邪武がいた場所には、砕け散ったダークネスロックシードの欠片が残されるだけであった。

 

 一夏「やった…………やったよ、皆!」

 セシリア「これで、やっと……全て終わりましたわね」

 牙也「ははは…………やっと……終わり……か…………」ドサッ

 茜「牙也!?しっかりしろ!牙yーー牙也?」

 牙也「zzz……」バクスイ

 シュラ「なんだ、疲れで眠っただけか…………驚かせてくれる」ハア

 茜「」ホッ

 

 そして、朝日が第1アリーナを包んでいったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後ーー。

 

 牙也「世話になったな、皆。感謝するぜ」

 茜「牙也の怪我が治るまで泊まらせてもらって、本当に悪いな」

 一夏「いいよ、気にしないで。牙也さんやあなた達の協力がなかったら、どうにもならなかったし」

 セシリア「そうですわ、今回の一件の解決は、牙也さんのお陰とも言えますわ」

 鈴「また何時でも遊びに来なさいよ!その時は、思いっきり相手になってあげるからね!」

 シュラ「うむ、強くなったらまた相手しよう」

 千尋「…………お前は凌馬に負けたのではなかったか?」ジトーッ

 シュラ「はて、何の事やら」メソラシ

 牙也「誤魔化すなコラ」ボカッ

 シャルロット「僕達は何時でも歓迎するからね!」

 ラウラ「ううむ、牙也に弟子入りしたかったのだがな…………」

 簪「仕方ないよ、ラウラ。牙也さん達も長くは此処に居られないんだから」

 楯無「次会ったら、生徒最強の立場として、正々堂々相手するわよ!覚悟しなさい!」

 千冬「また来い。次こそは貴様に勝つ」アクシュ

 千尋「世話になったな、次も容赦しないぞ」アクシュ

 カンナ「皆さん、そろそろ…………」

 牙也「なんだ、もうお別れか…………なんか、寂しいな」

 一夏「それならまたカンナちゃんに頼めば?それならまた会えるじゃない」

 牙也「それもそうだな。こちらの方が決着が付いたらそうしようかね」

 茜「また会おう。お互い、さらに強くなってな」

 箒「ああ。次は負けないぞ」

 凌馬「おーい、牙也君達!」

 束「ちょっと待って~!」

 箒「姉さん!」

 一夏「凌馬さんも!」

 シュラ「む、どうかしたか?」

 凌馬「いやね、君達にお土産を渡そうと思ってね」スッ

 凌馬が四人に差し出したのは、

 

 茜「こ、これ、戦極ドライバー!しかも量産型の…………!」

 千尋「ゲネシスドライバーも…………!」

 

 凌馬「君達の世界はインベスが多い。少しでも戦力になる人を確保しなきゃ不味いだろうからね、合わせて四つしか渡せないが、対インベス用に改造したから少しは戦力になるだろう」

 シュラ「これは…………!感謝するぞ、戦極凌馬。これで戦いの幅も広がるというものだ」

 束「束さんも協力したからね!大切に使ってよね!」

 茜「ありがとう、姉さん」

 束「ほうkーーいえ、茜ちゃん。向こうの私の話は聞いたよ。だから、こう伝えてくれないかな。『一人で抱え込まないで。皆がいるんだから、何時でも頼らなきゃ』ってね」

 茜「……分かりました」

 カンナ「では皆さん、準備は良いですか?」

 牙也「ああ。名残惜しいが、次また会う時まで続きはお預けだ」

 カンナ「では、クラックを開きます」

 カンナの合図で、クラックが開いた。

 

 

 

 

 牙也「そんじゃあ、またな!」

 茜「また会おう!」

 千尋「次会う時は、もっと強くなっておけよ!」

 シュラ「それはお互い様だろう……またな。世話になった」

 

 

 

 

 一夏達『またどこかで!!』

 

 

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 コラボ、無事完結しました!

 本編はまだ続きます。今後も是非お読み下さい!


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コラボNo.3 煉獄ノ炎、果汁ノ雨
コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(1)


 なんとコラボ第3段!まさか連続コラボになるとは……本編が進まねえ……まあいいや、推敲期間と考えれば。

 コラボ第3段は、悪維持さん。ありがとうございます!

 では、始まります!




 三人称side

 

 『煉獄の園』(パーガトリー・エデン)。そこは異世界との干渉が阻まれ、神さえも足を踏み入れる事の無い、地獄とも言える世界。そこには『転生者ハンター』と呼ばれる者達がおり、彼らによって日夜様々な悪行を犯した転生者の魂が数多く運ばれてくる。今日もまた、屑転生者達の憐れなる叫び声が響く。

 

 

 

 そんな世界にある巨大な白き城『断罪の地獄城』(ジャッジメント・ヘルキャッスル)では、三人の男女が一人の女性と通信を行っていた。

 ??「……ロックシード、ですか?」

 ??「そう。どうやら別世界の何処かに、『仮面ライダー鎧武』に出てくるロックシードとは別のロックシードがあるらしいの。把握しているのだけだと、ブルーベリーとかマスカットとか。陽君、薫ちゃん、夏煉ちゃん、あなた達にはそれを見つけて採取して来て欲しいのよ」

 薫「ロックシードの採取ですか。……と言うか、『ロックシード』って何ですか、ヴラドさん?」

 ヴ・鬼・夏『』ガクッ

 夏煉「薫義姉さん、そこからですか……まあ私も分かりませんが……」

 話した順に、『鬼崎陽太郎』、『ヴラド・スカーレット』、『兵鬼薫』、『鬼町夏煉』の四人だ。陽太郎、薫、夏煉の三人は、この煉獄の園は勿論、神界でも名の知れた転生者ハンターで、ヴラドはこの三人の上司にあたる。現在、ヴラドは三人にある仕事の依頼をしていた。

 ヴラド「ロックシードとはね、果実の力を宿した錠前の事。これを専用ベルト『戦極ドライバー』に装着する事で、『アーマードライダー』に変身出来るのよ」

 薫「ふーん……錠前を使って変身するライダーねえ……」

 ヴラド「ロックシードは基本的に『ヘルヘイムの森』という場所にあるわ。だけどここは、私達でも侵入の難しい場所。だから、直接そこに採取に行くのは無理ね」

 鬼崎「ではどのように?」

 ヴラド「実はね、その『ヘルヘイムの森』が何処かの世界と繋がってしまったらしいのよ。その繋がった部分から侵入出来ればーー」

 薫「『ヘルヘイムの森』に入れるって訳ね!意外と簡単そうだわ!」

 夏煉「問題は、その繋がってしまった世界が何処なのか、ですね。そこさえ分かれば……」

 鬼崎「そこは、眼魔眼魂を使おう。情報収集はお手の物だからね」

 ヴラド「それじゃ三人共、お願いね。出来れば沢山採取して来て欲しいわ」

 鬼・薫・夏『分かりました!』ケイレイ

 

 

 

 鬼崎「よし、それじゃあ早速、っと」カチッ

 ヴラドとの通信を切った後すぐに、鬼崎は大量の眼魔眼魂を起動して、眼魔を召喚した。

 鬼崎「眼魔の諸君、これより『ヘルヘイムの森と繋がってしまった世界』を探してきて欲しい。恐らくその世界には、『アーマードライダー』がいるはずだ。出来れば、ヘルヘイムの森に入れるような隙間も見つけて欲しい。では、頼んだぞ」

 鬼崎の号令の下、眼魔達は次々と捜索に出ていく。

 薫「後は、眼魔達の報告を待つだけね。あー、早く行ってみたいわ~」ゴローン

 鬼崎「焦らなくてもすぐに報告が来るさ、義姉さん。僕達もすぐに出発出来るよう、今の内に準備しておこう」

 薫「そうね、アーマードライダーと鉢合わせするかもしれないし」

 夏煉「どんな世界なんでしょう…………」キラキラ

 薫「おー、珍しく夏煉の目が輝いてる…………」

 鬼崎「ここ最近、他の世界に行く事がなかったからね…………」ニガワライ

 

 

 

 

 

 一方、こちらはご存知IS学園。今日も二人のアーマードライダーが、クラックから現れるインベスを討伐していた。

 牙也「そらっ!」ブンッ

 箒「はあっ!」ドンドンッ

 アーマードライダー蝕ーー紫野牙也と、アーマードライダーレオンーー篠ノ之箒である。二人は次々沸いてくるインベスに容赦なく攻撃を当てていく。

 牙也「とっとと片付けるぞ!」

 箒「ああ!」

 

 『ブルーベリースカッシュ!』

 『マスカットスカッシュ!』

 

 牙・箒『はあああああああ!!』

 

 結局、物の数分で片付いた。二人は変身を解除し、いざ戻ーー

 牙也「っ!?」ビクッ

 ーーろうとすると、牙也は何を思ったのか突然後ろを振り向いた。が、後ろには何も、誰もいなかった。

 箒「牙也、どうした?」

 牙也「…………いや、今誰かに見られてたような…………」

 箒「?」

 牙也「……気のせいか」

 誰もいない事を確認して、二人は寮に戻っていった。

 

 

 そんな二人を見つめる影が一つ、学園の上空にあった。それは、二人の姿を確認すると、何処かへ飛んでいった。

 

 

 

 そして再び『煉獄の園』。こちらの時間帯では、既に一週間は経過していた。

 鬼崎「!そうか、見つけたか。ご苦労様」

 夏煉「陽太義兄さん、どうかしたの?」

 鬼崎「夏煉か。やっと見つかったよ、目的の世界が」

 夏煉「本当!?」キラキラ

 鬼崎「ああ。ほら義姉さん、起きて。見つかったよ、目的の世界が。すぐに出発するから準備して」ツンツン

 薫「……んあ……ふぁぁ……何、見つかったの……?」カラダノバシ

 鬼崎「見つかったよ。すぐに幽霊列車に乗って。出発するから」

 夏煉「陽太義兄さん、場所は何処なんですか?」

 鬼崎「えっと、『IS学園』だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「……くそっ……くそっ!」カベナグル

 そのIS学園では、学園唯一の男子生徒・織斑春輝が忌々しそうに壁を何度も殴り付けていた。

 ここ最近の春輝の評判は散々であった。まあ、ISの実技ではミスを連発して千冬に怒られるわ、いつも尊大な態度で接するわ、挙げ句の果てにはタッグトーナメントで味方を盾にした事が学園新聞で掲載されるわ、下手すれば学園そのものを敵に回しかねない程の愚かっぷりであった。しかし春輝は、それを全て牙也のせいにして自分を正当化していた。

 春輝「……あいつが……紫野って奴が出てきたお陰で、僕の人気はがた落ちだ……しかも箒はいつもあいつと一緒にいるし……あいつさえ、あいつさえいなければ僕は……!」

 春輝は忌々しそうに壁に八つ当たりしていた。そこへ、

 

 

 ーピイイイイーーーーーーーー……ー

 

 

 春輝「?何だ、今の汽笛?ここには電車は通らないはずじゃ……」

 そう言って春輝が振り向くと、突然春輝の足元の地面にレールが敷かれた。そして、そのレールの向こう側からは、何やら不気味な列車が走ってきた。それは蒸気機関車のようだが、正面に人間の頭蓋骨があしらわれていた。

 春輝「な……!?何だよあれ!?くそっ!」

 春輝は慌てて建物の影に隠れた。幽霊列車はさっきまで春輝のいた辺りに停車した。そして、客車のドアが開きーー

 

 薫「おー、着いたー!」ウデノバシ

 夏煉「ここが、IS学園……」

 鬼崎「まずは、ヘルヘイムの森の入り口を探さなきゃね」

 中から煉獄義姉弟ーー鬼崎、薫、夏煉の三人が出てきた。

 春輝(な、何だよあいつら!?それに、あの列車は一体……!?あまりにも怪しすぎる。よし、僕の手で捕まえてやるよ!)

 夏煉「でも陽太義兄さん、この学園とても広いよ?手分けして探しても時間が掛かるんじゃ……」

 鬼崎「何、心配は無用だよ、夏煉。先に何体か眼魔をここに向かわせて調べてもらってる。まだ報告は来ないようだけど……」

 薫「えー!?つまんなーい!陽、何か暇潰しになるような物は無いのー?」ブー

 鬼崎「と言われてもねえ。そう易々と暇潰しになるような物が出てくるわk「うおおおおおお!!!」?」

 三人が声のした方を向くと、

 春輝「てめえら、何者だぁぁぁぁ!?」ゴオオオッ

 春輝が白式を纏って突進して来ていた。

 鬼崎「……来たよ、義姉さん。暇潰しになりそうなのが」

 薫「おー、面白そう!てなわけで……」

 

 鬼・薫『そおおおおおおおおいっ!!』ケトバシ

 春輝「ぶほぉっ!?」

 

 鬼崎と薫は、突っ込んできた春輝の顔面にカウンターで蹴りを入れた。春輝は変な叫び声を上げて吹っ飛んでいく。

 薫「おー、結構吹っ飛んだねー!て言うか、今陽も一緒になって蹴り入れなかった?」

 鬼崎「入れたよ。僕だって退屈なんだから」

 夏煉「陽太義兄さん、あの人が纏ってたのは……?」

 鬼崎「ああ、夏煉は知らないんだったね。あれがISだよ。正式名称『インフィニット・ストラトス』。この世界の天災科学者・篠ノ之束が作った一種のスーツさ」

 薫「確か本来は、宇宙空間での作業なんかを目的に作られたんだっけ?」

 鬼崎「そうだよ、でも『白騎士事件』が起こった後は、ISは兵器として見られるようになったんだ」

 夏煉「あれが……IS……!」キラキラ

 薫「また夏煉の目が輝いてる……」ウワォ

 鬼崎「……使ってみたいの?」

 夏煉「はい!」キラキラ

 

 春輝「てめえらァ、何しやがる!?」

 そこへやっと春輝が戻ってきた。

 薫「いや、何しやがるってこっちの台詞よ。そっちから攻撃して来たんでしょう?あたし達はそれに対して反撃しただけ。何の落ち度も無いわよ」

 春輝「落ち度ならあるさ!君達はこの学園に不法に侵入した!それだけで充分理由になる!」

 夏煉「……そう言われればそうでした……」

 薫「校門から入ってないからね」

 鬼崎「そもそも幽霊列車で来たからね」

 春輝「ふん、理解が早くて助かるよ!と言う訳で、お前ら三人、大人しくこの天才の僕に捕らえられろ!」

 

 薫「は?天才?お前が?」

 鬼崎「……随分下手くそな冗談ですね……」

 夏煉「……馬鹿なんでしょうか?」

 薫「天才と言うか、愚才の方が正しいだろ」

 鬼崎「真の天才とは、自画自賛をしないものですよ」

 夏煉「天才と言う言葉の意味をよく調べてきて下さい」

 

 春輝「」ワナワナ

 鬼崎「最後に、貴方に一言申しておきましょう」

 

 

 鬼・薫・夏『一昨日来やがれ!』

 春輝「」ブチッ

 

 春輝「……言わせておけば、調子に乗りやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」ゴオオオッ

 春輝は完全にキレて、鬼崎に斬りかかった。鬼崎はそれを簡単に避けて見せる。が、

 鬼崎「っ!」

 避けきれなかったのか、鬼崎の頬が少し切れ、血が流れた。

 夏煉「陽太義兄さん!」

 鬼崎「大丈夫だよ、夏煉。これくらい何ともないさ」

 春輝「ちっ、外したか。だが、次はお前を斬る!天才であるこの僕には誰も及ばない事を、お前達に教えてやる!」

 薫「へぇ、嘗めた口聞くとーー」

 夏煉「…………陽太義兄さんを、斬る?」ズオッ

 春輝「」ビクッ

 夏煉「…………ふざけないで!」スッ

 夏煉が腰に手を翳すと、炎が腰回りを覆い、それが消えるとそこには、戦極ドライバーとは違うベルトが巻かれていた。そのベルトは、見た目が目玉のようであった。

 春輝「な……!?」

 夏煉「……陽太義兄さんを……よくも傷付けたな!」

 そして夏煉は、懐から目玉のような物を取り出して横のスイッチを押し、ベルトのバックルを開いてセットした。

 

 《アーイ!》

 

 すると、ベルトからパーカーが飛び出してきた。

 春輝「……パーカー?」

 

 《バッチリミトケー!バッチリミトケー!》

 

 周囲にベルトの待機音が響き、パーカーは夏煉の周囲を飛び回る。

 

 夏煉「私は、陽太義兄さんを傷付けた貴方を、絶対に許さない!変身!」

 

 《カイガン!ヘレナ!!デッドゴー!覚悟!キ・ラ・メ・キ!ゴースト!》

 

 夏煉がベルトのレバーを引いてすぐに押し込むと、夏煉の周囲に黒い霧が発生し、その体は紫のラインが入った黒いスーツに覆われた。そしてその上からパーカーが被さり、何もなかった顔の部分には紫と黒で顔が描かれ、額には炎のような紫の角が二本伸びた。最後に夏煉は、被っていたパーカーのフードを取る。

 夏煉「仮面ライダーヘレナ……鬼町夏煉。渾沌の定めに、舞い殉じます!」

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 第1話はここまで。さて、これからの展開、どうしましょうかねぇ……

 次回、遂に邂逅、六人のライダー達ーー。



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(2)

 第2話です。悪維持さんのキャラの口調って、これで合ってたかな……?

 取り敢えず、始めます!




 三人称side

 

 夏煉「仮面ライダーヘレナ、鬼町夏煉。渾沌の定めに、舞い殉じます!」ザッ

 

 夏煉は目玉型のベルトーーゴーストドライバーから二つの武器を取り出した。一つは白と黒を基調とした両刃の剣。一つは先が右手を模したような形の銃。名をそれぞれ【ガンガンセイバー】【ガンガンハンド】と言った。

 

 春輝「な……アーマードライダーじゃない!?お前達は一体……!?」

 夏煉「あんたなんかに、誰が教えるか!」ドンドンッ

 夏煉はガンガンセイバーとガンガンハンドを銃モードにして、春輝に弾丸を撃ち込んだ。

 春輝「ぐあっ!くそっ、お前!銃を使うなんて卑怯だぞ!」

 夏煉「戦いに卑怯も何もありません。最終的に、勝てばいいんです!」ドンドンッ

 春輝「ちいっ!」ゴッ

 春輝はスラスターを吹かして空へ飛び、弾丸を避けた。夏煉は春輝に向けてさらに弾丸を撃ち込んだ。が、空中を縦横無尽に動く春輝に、弾丸は中々当たらない。

 

 ??『夏煉、私が出よう。私なら奴を叩き落とせるぞ』

 そんな夏煉に、懐から誰かが話しかけた。それは、夏煉が変身に使った眼魂とは違い、黒と赤の眼魂であった。

 夏煉「焔……いえ、今回は私にやらせて」

 焔『いいのか?』

 夏煉「うん。あいつは陽太義兄さんや薫義姉さんを馬鹿にしたばかりか、陽太義兄さんを傷付けた。あいつだけは、私の手で……!」

 焔『……止めろと言っても、止まりはしないな。分かったよ、だけど油断はするなよ』

 夏煉「分かってる!」

 焔と呼ばれた眼魂は懐に戻った。それを確認した夏煉は、ガンガンセイバーを一旦仕舞い、ガンガンハンドをロッドモードにした。

 夏煉「かかって来なさい!」ザッ

 春輝「ふん、なめるな!」ゴッ

 夏煉のガンガンハンドと春輝の雪片弐型がぶつかり合う。春輝は連続で斬撃を繰り出すが、それを夏煉はガンガンハンドでいなしていく。

 春輝「ほらほら、どうした!?さっきのは只の威勢に過ぎないのかい?」ビュッ

 夏煉「……いずれ分かりますよ」サッ

 春輝「何?」

 夏煉「はあっ!」

 ここで夏煉も攻勢に出た。ガンガンハンドを盾に、蹴りを織り混ぜて春輝を攪乱する。春輝も雪片弐型を振るって応戦するが、これをいとも簡単に避け、逆にガンガンハンドを春輝の腹部にぶつける。

 春輝「ぶほぉっ!」

 夏煉「まだまだ!」

 さらに夏煉はガンガンハンドをその状態から素早く銃モードにして、至近距離から春輝に撃ち込んだ。

 春輝「ごばばばばばば!」

 夏煉「さらに!」

 夏煉はガンガンハンドをまたロッドモードにして、春輝の頭をぶん殴った。一回に留まらず、二回、三回、四回と殴り付ける。その攻撃も頭に留まらず、顔、腕、足、さらには白式のスラスターも殴り付ける。春輝の顔も体もISも、気づけばボコボコのボロボロであった。

 春輝「ごほっ……ぐふっ……カフッ……ゲホッ……て、てめぇ……!」

 夏煉「分かりましたか?貴方の弱さが。貴方は戦う者に足り得る器じゃない。まして、天才とも言えない。貴方のような人に使われているそのISが、本当に可哀想に思えますよ」

 春輝「てめぇ!ふざけたkーー《ズキッ!》っ、ぐうっ!」

 薫「これ以上無理して戦わない方が良いわよ。夏煉がキレると、私達でも止められるかどうかってとこだから。あんた、下手すりゃ死ぬよ?」

 鬼崎「貴方のような弱い存在の人が、僕達を相手にする事自体間違ってるんです。命が惜しいなら、私達を捕らえるなんて馬鹿な考えは起こさない事ですね」

 春輝「てめぇ……!ふざけやがって……!」

 夏煉「ふざけてるのはそっちでしょう?貴方はもうボロボロ。なのに、まだ抵抗しようとしてる。まだ戦おうとしてる。それって只の威勢にしか見えないよ?」

 薫「つまんないや、お前。くだらないプライドにしがみついてるだけの奴にしか見えないし」

 鬼崎「そんなのでよく天才とか言えましたね?貴方は天才でも何でもありません。貴方は只の『愚か者』です」

 春輝「っ!」

 夏煉「私達は貴方のような人に付き合う程暇な訳じゃないんです。用がそれだけなら、私達はもう行きますね」

 薫「はー、つまんなーい。ISを使う人達って、こんなのばかりなの?」

 鬼崎「そうでない事を祈りましょう」

 三人は踵を返してその場を去ろうとした。が、

 

 春輝「……っ、ふざけるなァァァァァァ!!」ゴオオオッ

 

 春輝は性懲りもなく突っ込んできた。

 夏煉「…………はあ、鬱陶しいんですよ!」ブンッ

 ボキッ!

 春輝「!?」

 夏煉は振り向き様にガンガンハンドを振るって、雪片弐型をへし折った。

 春輝「あ……ああ……雪片が……簡単に……」ヘタリ

 夏煉「貴方の相手はもう疲れました。本当ならこのまま放っておこうかと思いましたがーー」

 そこまで言って、夏煉はガンガンハンドの目玉模様をゴーストドライバーに翳した。

 

 『ダイカイガン!ガンガンミトケー!ガンガンミトケー!』

 

 すると、ガンガンハンドの銃身に黒いエネルギーが溜まっていく。夏煉はそれを春輝に向けた。

 春輝「ヒッ!?お、お前、何を……!?」

 夏煉「……貴方には……『この世から』消えてもらいますよ。貴方のような人がいては、この世界に迷惑が掛かりそうなので」ジャキッ

 春輝「ま、待ってくれ!俺はもう戦えないんだぞ!怪我人なんだぞ!そんな俺を撃つってのか!?」

 夏煉「何を馬鹿な事を言ってるんですか?あれだけ動けるなら、怪我なんて問題ないでしょう?」

 春輝「!?」

 夏煉「それに、後ろから奇襲してくる人の事は信じられないので」

 春輝「あ……ああ……あああ……」アトズサリ

 夏煉「……さようなら。貴方程の人を見たのは、これが最初で最後でしたよ」

 ガンガンハンドからエネルギー弾がーー

 

 

 

 

 『ブルーベリースパーキング!』

 

 

 

 

 撃たれようとした時、幽霊列車の影から紫のエネルギーの塊が飛んできた。

 夏煉「っ!」

 夏煉はガンガンハンドの照準をそのエネルギーの塊に向け、

 

 夏煉「はあっ!」ドウンッ

 

 『オメガスパーク!』

 

 ガンガンハンドのエネルギーを撃ち込んだ。二つのエネルギーはぶつかり合い、共に相殺されて爆発した。

 

 鬼崎「また新手かな?」

 夏煉「誰?私達の邪魔をするのは?」

 

 牙也「邪魔、ねぇ……学園の敷地内で大暴れされるのは、こちらとしても邪魔で迷惑極まりないんだが」

 

 幽霊列車の影から現れたのは、牙也だった。

 薫「それは失礼したわね。だけと私達は、こいつが奇襲して来たのを迎撃しただけだよ?」ビッ

 薫はそう言って、気絶している春輝を指差した。

 牙也「殺そうとしたのにか?明らかにオーバーキルだぞ……」

 鬼崎「彼も僕達を殺そうとしてましたよ?」

 牙也「ありゃ、どっちもどっちか。ならおあいこだな」

 夏煉「そう言う事です。ではこいつは私達gーーあれ?」

 夏煉が見た方向には、何故か春輝がいなかった。

 夏煉「な、何で?さっきまでここに倒れてたのに……?」

 シュラ「人一人殺されるのを黙って見ている訳にはいかないのでな」

 鬼・薫・夏『っ!?』フリムキ

 三人が後ろを向くと、

 

 シュラ「牙也、こいつはどうすれば良い?」

 牙也「おー、そいつは医務室に放り込んどいてくれ、シュラ」

 

 シュラが気絶した春輝を肩に抱えて立っていた。

 薫「同じ人間が、二人……!?」

 夏煉「双子なの?」

 鬼崎「それより、いつの間に彼を回収したんだい?」

 シュラ「悪いが、部外者に教える気はないのでな」バッ

 そう言ってシュラは背後にクラックを開き、中に入っていった。シュラが入ると、クラックは閉じた。

 鬼崎「今のジッパー……中に森が広がってたね……」

 夏煉「じゃあ、今見えたのが『ヘルヘイムの森』……?」

 牙也「へぇ、ヘルヘイムの森を知ってるのか。アーマードライダーか、それともーー」

 箒・千冬『牙也!』

 

 とそこへ、空から一台のバイクのような物が降りてきた。バイクと違うのは、前輪が無くてその部分が錠前の形である事だ。それには箒と千冬が乗っていた。

 牙也「箒、千冬さん。ってか、そのバイク何なんだ?」

 千冬「シュラから貰った新たな力だ。【ロックビークル】と言う機械で、これはその一つ、【ヒガンバライナー】だ」

 箒「シュラが新しく作り上げた物で、さっきまで試運転していたのだが……この騒ぎは一体?」

 牙也「織斑があの三人に喧嘩売って返り討ちに遭った。以上説明終わり」

 箒「端的で助かる。それで、奴等は一体何者だ?」

 牙也「さあな。だが、ヘルヘイムの森の存在を知ってた。それにこの頭蓋骨を正面にあしらった列車、只者じゃない事は確かだ」

 箒「何?確かヘルヘイムの森は、学園の一部の人間しか知らないはず……」

 千冬「にも拘らず、こいつ等は知っている。貴様等、何者だ?」

 鬼崎「何者だ?と聞かれましても……」

 薫「どう答えれば良いのやら……」

 牙也「じゃあ質問を変えよう。お前等の目的は何だ?」

 

 

 鬼崎「ロックシードですよ。ブルーベリーとか、マスカットとかの」

 

 

 牙・箒・千『っ!』

 鬼崎「おや?今の反応、何か知ってますね?」

 牙也「……お前等の探し物は、これか?」つブルーベリーロックシード

 薫「そうそう、それそれ!って、何で貴方達が持ってるの!?」

 箒「決まっている、私達が使っているからだ」

 夏煉「使っている……?まさか、貴方達……!」

 牙也「ああ、俺達は……アーマードライダーだ」つ戦極ドライバー

 箒「やるのか?」つ戦極ドライバー

 千冬「明らかにアーマードライダーではない力を使っている者がいるからな」つゲネシスドライバー

 牙也「そう言うこった。それじゃ、行くぞ」

 箒・千『』コクリ

 

 

 牙・箒・千『変身』

 

 『ブルーベリー』

 『マスカット』

 『シークヮーサーエナジー』

 

 『『『ロック・オン!!!』』』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 『ハイー!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!』

 『リキッド!シークヮーサーエナジーアームズ!イヨォーッ!ソイヤッサア!ハイヤッサア!』

 

 三人はアーマードライダーに変身し、それぞれの得物を構えた。

 

 鬼崎「成る程。そちらがその気なら、こちらも……」

 薫「そうね!退屈しなさそうだし!」

 鬼崎と薫は、懐からそれぞれ【隷汽ベルト】と【煉王ベルト】を取り出して腰に付けた。ベルトの一番上のボタンを押すと、隷汽ベルトからはおどろおどろしい音楽が、煉王ベルトからは陽気な音楽が流れる。そして鬼崎はライダーパスを右手に持って掲げた後横に伸ばして手首を返し、薫はライダーパスを上空に投げ、その場で一回転してパスを左手でキャッチし、

 

 鬼崎「変、身……」

 薫「変身!」

 

 ベルトにパスを翳した。

 

 『PHANTOM Form』

 『DRAGON Form』

 

 ベルトから電子音声が流れると、二人の体は電王の素体【プラットフォーム】が纏われ、鬼崎はさらに青黒い炎がオーラアーマーを形成し、プラットフォームに装着。左手は連結機や海賊の鉤爪を模した籠手【隷汽ガントレット】が、首には白いマフラーが、頭部には骸骨がデンレールに沿って頭の後ろから現れて正面で展開し、隷仮面となって装着された。鬼崎の姿は、ディープブルーのカラーリングの【仮面ライダー隷汽】となった。

 薫には黒いオーラアーマーがプラットフォームに装着され、それが展開。裏側には緑色の宝玉【ウェルシュドラゴンジェム】を掴んだ龍の前足を模したデザインが現れる。頭部には赤い龍を模した物がデンレールに沿って頭の後ろから現れて正面で展開し、煉仮面となって装着された。薫の姿は、ワインレッドのカラーリングの【仮面ライダー煉王】となった。

 

 鬼崎「仮面ライダー隷汽、鬼崎陽太郎……渾沌の夢に沈もう……」

 薫「仮面ライダー煉王、兵鬼薫!渾沌の誇りを舞い掲げるよ!!」

 夏煉「仮面ライダーヘレナ、鬼町夏煉!再び、渾沌の定めに舞い殉じます!」

 

 

 牙也「アーマードライダー蝕、紫野牙也。貴様の心まで侵食してやるよ……」

 箒「アーマードライダーレオン、篠ノ之箒!これより謎のライダー撃破任務を開始する!」

 千冬「アーマードライダー白夜、織斑千冬。貴様等の相手は、私が努めよう!」

 

 

 三人称side end

 

 




 邂逅はしました。夏煉のキャラ、間違えたような……ここまでアレな事になるとは……間違ってたらご免なさい!

 次回、煉獄の使徒と果実の勇士がぶつかり合うーー。



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(3)

 まずは戦闘員達との戦いから。

 特撮の戦隊ものやライダーものの王道の流れって、飽きないですよね。何ででしょうか……?




 三人称side

 

 鬼崎「さて、まずは君達の実力を見ようかな。頼んだよ、皆!」

 鬼崎と薫は大量の眼魔眼魂を取り出してスイッチを押し、牙也達に向かって放り投げた。すると眼魂から黒い霧が発生し、大量の眼魔コマンドが現れた。

 牙也「何じゃこりゃ?」

 薫「あたし達の優秀な部下で、戦闘員だよ!」

 鬼崎「まずは小手調べだ。行けっ!」

 鬼崎の合図と共に、眼魔コマンドは一斉に襲いかかった。

 箒「ますます分からないな、こいつ等が何者なのか」

 千冬「とにかく、こいつ等を片付けるぞ!」

 アーマードライダー達も眼魔コマンドの群れに突っ込み、戦いを始めた。各々の得物を振るい、眼魔コマンドに攻撃していく。

 牙也「そらっ!」ブンッ

 紫炎の斬撃で眼魔コマンドが倒れていく。

 千冬「はあっ!」ビシュッ

 ソニックアローで射抜かれていく。

 箒「ふっ!」ドンドンッ

 マスガンドの銃撃で撃ち抜かれていく。が、数が数なので、眼魔コマンドは一向に減る気配がない。

 牙也「同じのばっかワラワラと……頭が痛い……気分が悪い……目がチカチカする……」イライラ

 箒「抑えろ、牙也。同じのばかり出てくるのは仕方があるまい」

 鬼崎「おや、これだけでは足りないと?」

 薫「えー!?それじゃ、更に追加っと!」

 薫が号令すると、薫達の影や幽霊列車から、ギャングのような姿をした何かが出てきた。

 薫「【クローズ】の皆!頼んだよ!」

 新たな戦闘員【クローズ】が牙也達に襲いかかった。

 千冬「馬鹿者!敵が更に増えたではないか!」

 牙也「俺のせいにしないでくれません?」イライラ

 

 『アーモンド』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!アーモンドアームズ!Breaker Of Drill!』

 

 牙也「」ブンッ

 牙也は【アーモンドリル】の先端を振り回して戦闘員を蹴散らしていく。

 箒「千冬さん、牙也の奴相当イライラを募らせてますよ……」

 千冬「戦闘員達が鬱陶しいのか、あの三人が後ろでふんぞり返っているのが気に入らないのか……」

 そう話している二人にも、次々と戦闘員が襲いかかる。

 箒「全く、本当に数だけはあるな」

 

 『イチジク』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ハイー!イチジクアームズ!爆撃・ヤッハッハッ!』

 

 箒「吹き飛べ!」

 箒は【イチジグレネード】を周囲の戦闘員達に投げ付け、爆発させた。爆風で戦闘員は次々吹き飛んでいく。それらの戦闘員は全て、牙也が振り回すアーモンドリルに貫かれ、次々爆散していった。

 箒「……千冬さん。これ、私達が牙也の方に敵を吹き飛ばしていけば……」

 千冬「すぐに終わるかもな……」

 箒と千冬は苦笑いしつつ、それぞれの得物で牙也をサポートする事にした。

 

 

 鬼崎「あれ、もうこれだけか。それなら!」

 戦闘員の数が早くも残り少ないのを見た鬼崎は、体から青紫のモヤを放出した。これは鬼崎の魔力でできている。その中から新たに別の戦闘員が現れた。その姿は、戦国時代の足軽を思わせた。

 鬼崎「【ヒトカラゲ】、頼むよ!」

 ヒトカラゲと呼ばれた戦闘員は、鬼崎の出すモヤから次々と出てきて、牙也に襲いかかる。

 牙也「また新手か……忌々しい……!」イライライラ

 

 『ヘビイチゴ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!ヘビイチゴアームズ!可憐・The・猛毒!』

 

 【スネークサリガマ】のイチゴ分銅を振り回して戦闘員を蹴散らしていく牙也。その仮面の下の表情は、イライラを募らせて無表情になりかけていた。まあ当然だろう。戦闘員の殆どが自分に向かって襲いかかってくるし、箒と千冬の方に向かった戦闘員は二人に吹き飛ばされてこっちに飛んでくるし、鬼崎達三人に至っては楽しそうにそれを眺めてるのだから。

 薫「ほらほら、頑張れー♪モテモテのお兄さん♪」ヤンヤヤンヤ

 鬼崎「彼、相当気に入られたようだねぇ」

 夏煉「が、頑張って下さい……」

 そんな三人の言葉も、牙也には馬鹿にしているようにしか聞こえていない。得物を振り回しながらも、内心イライラを募らせていた。

 箒「おーい、そこの三人よ。あまり牙也を怒らせない方が良いぞ」

 千冬「そうだな。これ以上イライラを募らせていくと、確実に手が付けられなくなるな」

 鬼崎「おや、そうですか。ですが、これ見るのとても楽しくて……」

 夏煉「すごい……!あの数を一人で捌いてる……!」キラキラ

 薫「あはは、面白ーい!退屈しないね、君!陽、もっとヒトカラゲ出して!まだ見ていたい!」

 鬼崎「えー、だけど義姉さん、さすがにこれ以上は僕の方がきついよ」

 薫「だってあいつ、見てて飽きないもん!もう三時間程このままで!」

 夏煉「か、薫義姉さん、さすがにそれはやり過ぎなんじゃ……」

 薫「何言ってんのよ、夏煉!あれほど飽きない戦いを見せてくれてるんだよ!?見なきゃ損じゃない!と言う訳で君、もう三時間このmーー」

 

 

 

 

 

 牙也「い い 加 減 に し ろ よ」

 

 『ブルーベリー』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!』

 

 『ブルーベリースパーキング!』

 

 牙也がいつの間にやら、大量のエネルギーを携えた紫炎を構えていた。その顔と声には、最早生気が無いようだった。

 箒・千『あっ(察し)』シャガム

 鬼・薫・夏『?』

 

 

 ブンッ!!」

 牙也のその一振りでーー

 

 

 鬼・薫・夏『え?』キョトン

 

 

 ーー気がつけば、あれだけ大量にいた戦闘員が全て消し飛び、近くに停めてあった幽霊列車もとばっちりで脱線してしまっていた。さらに、周辺の建物にも多少だが皹が入り、一部は破壊寸前までひび割れており、木々も何本か斬り倒されていた。

 鬼崎「( ; ゚Д゚)」アングリ

 薫「(  Д ) ゚ ゚」ウソ!?

 夏煉「( ゚д゚)」ポカーン

 これには三人も驚きを隠せない。

 箒「( ´゚д゚`)」アチャー

 千冬「ヽ(´д`)ノ」オワタ

 箒と千冬もこの表情である。当の牙也は、

 

 牙也「あいつをぶっ飛ばすあいつをぶっ飛ばすあいつをぶっ飛ばすあいつをぶっ飛ばすあいつをぶっ飛ばすあいつを……」ブツブツ

 

 壊れていた。

 薫「ちょ、貴女達二人共、あの人どうにかならないの!?」アワアワ

 夏煉「やり過ぎた事は謝りますから、あの人を止めてください!」

 箒「諦めろ。そうとしか言えん」∑d

 千冬「恨むなら、ここまで牙也の精神を追い詰めた自分達を恨めよ」∑d

 薫「薄情者!」

 箒「元はと言えば、お前等の出した戦闘員が牙也にばかり襲いかかったのが原因だろう?」ハア

 千冬「自業自得としか言えないな」アキレ

 夏煉「か、薫義姉さん、どうしましょう!?」アワアワ

 薫「え?えーっと、こういう時は……」ウーン

 

 

 

 

 薫「陽、頼んだ!」カタポンッ

 鬼崎「ちょ、義姉さん!?」ガビーン

 夏煉「陽太義兄さん、お願いします!」ペコリ

 鬼崎「夏煉まで!?」ガビビーン

 

 

 

 

 箒「まあ妥当な判断だろうな」ウンウン

 千冬「全体的にお前が出した戦闘員のせいだからな」ウンウン

 鬼崎「いや、そんな助け船要りません!義姉さんも夏煉も何か言ってーー」

 薫「あ、あたしはこっちの弓持ってる人相手するから!」ノシ

 夏煉「わ、私はこちらの変わった銃を持った人を相手します……」アウアウ

 鬼崎「\(^o^)/」オワタ

 牙也「」カタポンッ

 鬼崎「」ビクッ

 鬼崎は恐る恐る後ろを向いた。

 

 

 鬼崎「あ、あのーー」ガクブルガクブル

 牙也「こ っ ち に 来 い」ガシッ←満面の笑み+濃厚な殺気

 鬼崎「ちょ、待っーー」ズルズル

 鬼崎は牙也に首根っこを掴まれ、何処かへ引き摺られていった。

 薫「陽……御愁傷様……」人

 夏煉「陽太義兄さん……どうか、ご無事で……」人

 箒「お前等も充分薄情だぞ……」

 

 千冬「まあ牙也に関しては、あいつに任せておけば大丈夫だろう。私達は私達で……」

 薫「そうね!改めて、【仮面ライダー煉王】兵鬼薫よ!」

 夏煉「【仮面ライダーヘレナ】鬼町夏煉、です……」

 箒「私は【アーマードライダーレオン】篠ノ之箒だ」

 千冬「同じく【アーマードライダー白夜】織斑千冬だ」

 

 

 互いに自己紹介し、いよいよバトルが始まるーー。

 

 

 三人称side end

 

 




 取り敢えずここまで。

 次回、煉獄三姉弟と牙也達が今度こそぶつかり合うーー。



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(4)


 はあ……はあ……や、やっと書けた……。ネタが出てこないって、本当に大変ですよ。取り敢えず思い付いたネタで何とか書きました。
 コラボ第3段、第4話、始まります!




 

 三人称side

 

 レオンvsヘレナ

 

 箒も夏煉も、マスガンドとガンガンセイバーを構えて互いの動きを注視していた。初めて戦う相手故、戦法や能力といった情報が全く無く、下手に動けば敵の思うつぼである。そこら辺が分かっているあたり、二人とも相当な手練れと言えるだろう。

 夏煉「あの……」

 先に口を開いたのは、夏煉だった。

 箒「何だ?」

 夏煉「牙也さんでしたよね、さっき陽太義兄さんを引き摺っていったの」

 箒「ああ。それが?」

 夏煉「牙也さんって、いつもあんな感じなんですか?」

 箒「いや、今回が特殊なんだ。流石にいつもはあそこまでなる事はない」

 夏煉「良かった……いつもあんな感じなんじゃないかって思うと、ちょっと怖くて……」

 箒「まあそうだろうな。私も初めてキレた牙也を見た時は、身震いが止まらなかったからな……」

 夏煉「あ、あはは……」

 箒「だが、あれでも長年アーマードライダーとして戦ってきた猛者だ。お前の義兄でも、苦労するんじゃないか?」

 夏煉「いえ、負けませんよ。陽太義兄さんは」

 箒「……信じているから、か?」

 夏煉「そうです。そう簡単には陽太義兄さんは負けないって、信じてますから」

 箒「……義姉弟の仲が良いのは、良い事だな」

 夏煉「?」

 箒「ああ、こちらの話だ。だが、私とてそう簡単には負けるつもりはないぞ」

 夏煉「ええ、私も目的の為、負けられません!」

 箒「ならば……」

 

 

 箒「大切な力を守る為、」

 夏煉「私達の目的の為、」

 

 

 

 箒・夏『参る(ります)!』ダッ

 

 ガキインッ!

 

 互いの得物がぶつかり合う。実力は拮抗しているのか、どちらも押し負ける素振りは見せない。互いの得物を打ち合い、斬り合い、鍔迫り合い、互角の戦いを見せる。

 箒「成る程、只者ではないとは感づいていたが……これは少しも気を抜けないな!」

 夏煉「そちらこそ、相当な手練れですね!ですが、負けません!」

 焔『夏煉、早く私達も戦わせてくれないか?皆戦いたくてウズウズしてるんだ』

 夏煉「焔……うん、分かった。それじゃ、早速いくよ!」

 箒「?」

 夏煉は懐から別の赤と黒の眼魂を取り出し、横のスイッチを押した。そしてゴーストドライバーのバックルを開き、ヘレナ眼魂と交換した。バックルを閉じると、ドライバーから別のパーカーが現れた。それは赤いラインの入ったセーラー服で、フードには白い髪止めとポニーテールのようなモノが付き、肩と背中に合わせて七本の刀があった。

 

 『アーイ!バッチリミトケー!バッチリミトケー!』

 

 待機音が流れ、夏煉は再びレバーを引いて押し込む。

 

 『カイガン!ホムラ!目指せ最強!迸る六爪!』

 

 パーカーが被さると、何も書かれていない顔には、六本の刀を模した顔が描かれた。夏煉は肩の刀を抜いて片手に三本ずつ持ち、箒に向けた。

 夏煉「私達の結束、そう簡単には破れません!」

 焔『いざ!紅蓮の如く舞い散れ!』

 箒「面白い……ならば、それに答えねばな!」

 

 『ホオズキ』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ハイー!ホオズキアームズ!爆炎・ボーボーボー!』

 

 箒はホオズキアームズにフォームチェンジして、炎刀鬼灯丸と無双セイバーを構えた。

 

 箒「その熱き心に、私も全力で答えさせてもらう!」

 夏煉「私も、貴女の心、全力で受け止めます!」

 

 熱き炎が、ぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 白夜vs煉王

 

 千冬「しかし、見た事のないベルトだな。アーマードライダーとはまた違う異質の力を感じる……」

 薫「そう?あたしはそっちのベルトの方が珍しいと思うけどね。それ、戦極ドライバーとは違うの?」

 千冬「これは【ゲネシスドライバー】だ。ロックシードには二種類あってな、これはエナジーロックシードを使う為のベルトだ」

 薫「じゃああの二人は戦極ドライバー使ってるから、普通のロックシードしか使えないんだね」

 千冬「いや、そうでもない」

 薫「?」

 千冬「エナジーロックシードを戦極ドライバーで使う方法がある。まあ教えんがな」

 薫「えー!?教えてくれたって良いじゃないの、おばさん!」

 千冬「おばっ……!?」イラッ

 薫「えー?だって見た目からして30から40くらいに見えるよ?どう考えてもおばさんじゃない」

 千冬「……私はこれでも<ピー>歳なのだが……」イライラ

 薫「うっそー!?信じらんない!明らかにサバ読んでるでしょ!どう見てもおばさんにしか見えないって!」

 千冬「」ピクピク

 薫「嘘はつける範囲でつく物だよ!?素直に認めなよ、サバ読んだって!」

 千冬「(#゚Д゚)」ブチッ

 

 その瞬間、薫の周囲ギリギリにソニックアローの矢の雨が降ってきた。

 薫「」ヘ?

 千冬「ほほう……それ程に私を馬鹿にしたいか、小娘よ……ならば、存分に私を馬鹿にするが良い……その分、貴様の命が危うくなるだけだがな……」ゴゴゴゴゴ

 薫(し、しまったぁぁぁぁ!この人も怒らせちゃ駄目な人だったぁぁぁぁぁ!)ガクブル

 だが、時既に遅し。千冬は薫に向けてソニックアローから矢を連射した。

 薫「ちょおおおおおおお!?」

 薫は慌ててベルトに付けた武装【レンガッシャー】をソードモードにして矢を切り裂く。

 薫「ちょ、おbーーじゃなかった、お姉さん!容赦無さすぎじゃない!?」

 千冬「……貴様が馬鹿にしなければもう少し抑えていたのだがな……あれだけ散々に馬鹿にされたら、黙ってはおれんのでな……」ゴゴゴゴゴ

 薫(ヒ、ヒイイイイイイ!?怒ってらっしゃる!怒髪天になって怒ってらっしゃる!ついついからかいすぎちゃった!誰か助けてー!?)

 そんな薫の心の叫びなど、届くはずもなくーー

 千冬「ほら、どうした?その程度か?」ゴゴゴゴゴ

 千冬は矢を次々射て、薫に攻撃の隙を与えない。

 薫(ええい、こうなったら自力でどうにかするしかない!)

 

 こっちの方がカオスであった。

 

 

 

 

 

 蝕vs隷汽

 

 牙也「……さて、何か申し開きはあるか?」ゴゴゴゴゴ

 鬼崎「」ガクブルガクブル

 牙也は学園近くの海岸に鬼崎を引き摺って来た。そしてその場に鬼崎を正座させ、殺気のこもった目で睨み付ける。

 牙也「まあ別にお前があの戦闘員達を呼び出したのは特に何も言わない事にしよう。だがーー」

 鬼崎「」ビクッ

 牙也「……俺にばかり戦闘員が集まってきたのはどういうわけだ?流石にあればかりは、お前らの作為を感じたぞ……」ゴゴゴゴゴ

 鬼崎「あ、はい……すみませんその通りです。作為的に集中させました。召喚した戦闘員を次々倒してたので、ついつい……」

 牙也「……はあ。もういいよ」ガクー

 鬼崎「え?」

 牙也「なんつーか、もう面倒臭いから。さっさとお前の用件とやらを確認したいからな。それで?お前らは何でこれを必要としてるんだ?」

 鬼崎「え、あ、はい。僕達は仕えている主に頼まれて、ブルーベリーをはじめとしたロックシードを採りに来たんです。それでここに目的のロックシードがある事を突き止めて、ここに来たんです。そしてーー」

 牙也「俺らがそれを使ってたから、貰っちゃおうと考えた、と」

 鬼崎「はい。ちなみにロックシードですが、主がそれを元にして何か作ろうとしてるんじゃないか、と僕は見てます」

 牙也「……一つ聞くが、お前の主とやらは、世界征服とか企んでる訳じゃねえだろうな?」

 鬼崎「そ、そんな事はありません!主はそのような馬鹿な事を考えるお方ではありません!」

 牙也「……ふむ。その必死な弁明から察するに、間違いは無さそうだな……」

 牙也は少し考えを巡らせ、鬼崎に聞いた。

 牙也「……もしこれを手に入れたとして、これを絶対に悪事に利用しないと約束出来るか?」

 鬼崎「……はい。主は少しでも世界の為に貢献しようと考えていらっしゃるお方です。それだけは信じて頂きたい」

 牙也「……」

 返答を聞いた牙也は、暫し思考していたが、

 牙也「……分かった。シュラに頼んで、ヘルヘイムの森への道を開いてもらうようにしてもらおう」

 鬼崎「あ、ありがとうございます!これで役目を果たせます!」

 牙也「ただし!その際には、俺達も一緒についていくからな」ビシッ

 鬼崎「何故ですか?」

 牙也「理由は三つある。まず第一に、ヘルヘイムの森に入る為の入り口だ。これを俺らはクラックと呼んでいるが、これは時間が経つと勝手に閉じてしまう。すると、ヘルヘイムの森から出られなくなるからな。他のクラックを見つけたとしても、同じ場所に繋がっているとは限らない。下手すれば、潜り抜けた先が海の上でした、なんて事もある」

 鬼崎「……あったんですか?」

 牙也「……あったんだよ」

 実際、牙也がシュラと初めて会った時はシュラに脱出の為のクラックを開いてもらったが、脱出した先が何故か海の上だった。そのまま漂流して、たまたま通りかかった漁船に助けられたのは、牙也にとって忌々しいながらも懐かしい記憶である。

 牙也「んで第二に、ただヘルヘイムの果実を手に取ったところで、ロックシードに変化する訳じゃない。戦極ドライバーかゲネシスドライバーを装着した状態でヘルヘイムの果実に触れなきゃならない。つまり、ロックシードを手に入れる為には、俺らが不可欠なんだ」

 鬼崎「成る程……」

 牙也「それと後もう一つ。目的のロックシードをピンポイントで手に入れたいからだ」

 鬼崎「?」

 牙也「ヘルヘイムの森は凄まじく広い。その中から目的のロックシードを探し出すのは骨が折れるんだ。単に果実を手に取ったとしても、目的の物になるとは限らないからな」

 鬼崎「そうですか……そこまでは知りませんでした。是非ともお願いします」

 牙也「ああ。さて、話はこれくらいにしてーー」スッ

 牙也は紫炎を構えた。

 鬼崎「?」

 牙也「おいおい、俺の実力が見たいと言ってたのはお前だろ?」

 鬼崎「おっと、そうでした。ではーー」

 鬼崎も隷汽ガントレットを構えた。

 

 

 鬼崎「参ります!」

 牙也「行くぞ!」

 

 意外となんとかなった。

 

 

 

 

 

 学園の医務室。ここのベッドには、夏煉に散々に叩きのめされた春輝が寝転んでいた。

 春輝(くそっ!あんなガキにこの天才の僕が負けるだなんて……屈辱だよ!僕にもあの力が……アーマードライダーの力があれば……!)

 そう考えつつ外を見ていると、春輝はあるものを見つけた。

 春輝(あれは……!)

 それを見た春輝は、狂ったような笑みを見せた。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 

 





 さて、春輝は一体何を見つけたのかーー?

 牙也達の戦いは、まだまだ続きます!



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(5)

 戦闘回は佳境に。フォームチェンジがなかなか沢山出せない……ストーリー早足進行的にはこれが丁度良いんだけどねぇ。




 三人称side

 

 レオンvsヘレナ

 

 夏煉は手に持った六本の刀【ゴーストシックスブレイド】を振るって箒を攻撃する。箒も、これに負けじと【炎刀鬼灯丸】と【無双セイバー】の二刀流で応戦。得物の数では不利にも関わらず、箒はそれらを確実にいなしていく。

 

 焔『ハハハハハ、面白い!私の力をこうも易々といなすか!久し振りだ、これ程楽しめる相手に会ったのは!』

 箒「それは誉め言葉として受け取って良いのか?」

 夏煉「そう受け取って良いと思います……よっ!」ヒュッ

 箒「おっと!」ガキンッ

 

 お互い話をしながらも、攻撃の手は緩めない。互いに譲らず、一進一退の攻防が続く。

 

 焔『しかし夏煉よ。このままこの調子が続くのも少しつまらないぞ』

 夏煉「それなら、此方から仕掛けるよ、焔!」

 焔『そう来なければな!』

 

 『ダイカイガン!ホムラ!オメガドライブ!』

 

 夏煉はゴーストドライバーのレバーを引いて押し込んだ。そしてゴーストシックスブレイドを構え、その場で回転し始める。

 

 箒「む、大技が来るな……。ならば!」

 

 対して箒は、炎刀鬼灯丸を無双セイバーと合体し、ナギナタモードにした。さらに、戦極ドライバーからホオズキロックシードを外し、

 

 『ロック・オン!イチ!ジュウ!ヒャク!セン!マン!』

 

 無双セイバーに装着。頭上でそれを回転させた。

 

 夏煉「行きます!」

 焔『これを受け止められるか!?』

 夏煉は回転した状態から箒に向かって突進した。

 

 箒「受け止めてみせる!おおおおおっ!」ブンッ

 『ホオズキチャージ!』

 箒も頭上で回転させていた炎刀鬼灯丸から、鬼灯の形を模した炎の竜巻を飛ばした。

 

 夏・箒・焔『いっけぇぇぇぇぇぇ!!!』

 

 二つの竜巻がぶつかり合い、巨大な爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 夏煉「きゃっ!」ゴロゴロ

 箒「うわっ!」ゴロゴロ

 しかし、同等の威力だったようでこの勝負は引き分け。互いに吹き飛び、地面を豪快に転がった。

 焔『ハハハハハ、楽しいな!貴様を相手にするのは楽しいぞ!』

 箒「フッ、それも誉め言葉として受けとるぞ!」サッ

 

 『ライム』

 

 『ロック・オン!』

 

 『ハイー!ライムアームズ!双剣・ハイッハイッハイッ!』

 

 箒はライムアームズを展開して、【ライムラッシュ】を構える。

 箒「まだまだ行くぞ!」

 夏煉「はい!受けてたちます!」

 ??『夏煉さんや、次はわしが出ても良いかの?』

 夏煉「日影?うん、良いよ!一緒に戦おう!」

 夏煉は新たに別の眼魂を取り出してスイッチを押し、焔の眼魂と交換した。

 

 『アーイ!バッチリミトケー!バッチリミトケー!』

 

 ゴーストドライバーから、黄と黒が基調で所々破れたパーカーが現れ宙を舞う。そして夏煉はゴーストドライバーのレバーをもう一度引いて押し込んだ。

 

 『カイガン!ヒカゲ!皆無な感情!容赦は無用!』

 

 パーカーが被さると、二本のナイフがクロスしたような顔が描かれた。『ヒカゲ魂』にゴーストチェンジした夏煉は、ゴーストドライバーからガンガンセイバーを出して二刀流モードにした。セイバーは順手に、小太刀は逆手に持ち、セイバーを箒に向ける。

 夏煉「同じ二刀流で、勝負です!」

 日影『のう、わしに感情とやらを教えてくれんかのう?』

 箒「いくらでも教えてやる!行くぞ!」

 再び二人の得物がぶつかり合う。箒がライムラッシュの斬撃を繰り出せば、夏煉もガンガンセイバーを振るってそれを防いでいく。

 

 箒「フッ!」ガッ

 夏煉「ハッ!」ガッ

 

 箒「そらっ!」ヒュッ

 夏煉「はいっ!」ガキンッ

 

 夏煉「それっ!」ビュッ

 箒「おっと!」ヒョイッ

 

 やはり一進一退の攻防で、勝負はなかなか付きそうにない。

 

 日影『のう、夏煉さんや。あれは使わんのか?』

 夏煉「ちょっと隙が無くて……やっぱりこの人、強い!」

 日影『それなら、わしが時を示そう。夏煉さんや、存分に戦うが良い』

 夏煉「ありがとう、日影!」

 夏煉と少し話して、日影は眼魂から箒の攻撃を注視した。

 

 日影(ふむ、太刀筋が鋭いのう。だが、少し大振りになりつつあるの。これなら必ず隙が出来るわい。さて、後はそれがいつか……)

 

 箒「はあっ!」ガキンッ

 夏煉「くっ!」ガクッ

 箒(よろけた……!今だ!)ビュッ

 

 日影『むっ、今じゃ!』

 夏煉「はいっ!」ビュッ

 箒「?」

 

 箒の一瞬の隙を見て、日影が合図を発し、夏煉がパーカーの左手の袖に付いたケースからナイフを取って投げた。投げたナイフは、箒の頬をかすって飛んでいった。

 

 箒「くっ!今のは……!?」

 日影『よそ見はする物ではないぞ?』

 箒「はっ!?」

 

 それに気を取られた隙を付き、

 夏煉「そこです!」ザンッ

 箒「ぐっ!?」

 夏煉がガンガンセイバーで斬撃を加えた。さらに、

 

 夏煉「ハッ!」ビュッ

 箒「うっ!」

 

 夏煉「それっ!」ガッ

 箒「くっ!」

 

 夏煉「はあっ!」ドゲッ

 箒「ぐああっ!」

 

 二撃、三撃と絶え間なく箒を斬り裂き、そして追撃とばかりに蹴り飛ばす。吹き飛ばされた箒は、受け身を取って立ち上がり、再びライムラッシュを構える。

 

 箒(……今のは……?一瞬見えた限りでは、奴の左手のケースからナイフが出てきたが……だとすると、厄介だな)

 

 今までのインベス等との戦いという経験からすぐにそれを察した箒は、ライムラッシュを合わせて一本の剣にし、腰の無双セイバーを抜いた。

 

 箒「……フッ!」

 再び夏煉に攻撃を仕掛けるが、夏煉も負けじとガンガンセイバーを振るう。

 日影『まだやる気なんかいな?』

 箒「……無論だ!」

 箒はライムラッシュと無双セイバーの二刀流で応戦。夏煉もガンガンセイバーで応戦するが、徐々に押されてきた。

 夏煉(くっ、さっきより太刀筋が鋭い!でも、次も逃さない!)スッ

 夏煉は箒の攻撃を防ぎつつ、ケースに手を伸ばした。

 

 箒「そこだ!」バンッ

 夏煉「きゃっ!」

 

 しかし箒はそれを見逃さず、無双セイバーをガンモードにして撃った。ムソウマズルから放たれた弾丸は夏煉の右手に当たり、さらに跳弾してケースを袖から弾き飛ばした。

 

 箒「同じ手は二度も食らわんさ!」

 日影『ほう、なかなかやるのう。なら、全力で答えねばな!』

 夏煉「行くよ、日影!」

 

 『ダイカイガン!ガンガンミイヤー!ガンガンミイヤー!』

 

 夏煉はガンガンセイバーをゴーストドライバーに翳して構えた。

 箒「来い!」

 

 『ライムスカッシュ!』

 

 『ロック・オン!イチ!ジュウ!ヒャク!セン!』

 

 対して箒はカッティングブレードを一回倒し、さらにライムロックシードを無双セイバーに装着した。

 

 夏煉「はあああああっ!」

 箒「だあああああっ!」

 

 そして、ほぼ同時に得物を振るう。

 

 『オメガスラッシュ!』

 『ライムチャージ!』

 

 互いの得物から無数の衝撃波が迸り、ぶつかり合い、爆発する。しかしそれだけに留まらず、

 

 夏・箒『はあああああっ!』

 

 爆風が周囲を覆う中、互いに突っ込んでいき、

 

 夏・箒『だあああああっ!』ズバアッ

 

 互いの得物が交差する。時間をおいてまた、爆発する。

 

 

 

 

 箒「が…………はっ…………!」

 夏煉「こほっ…………けほっ…………」

 

 『ロック・オフ』

 『オヤスミー』

 

 爆風が晴れた時、同時に変身が解除されたが、最後まで立っていられたのは夏煉だった。

 箒「…………見事……だ…………な…………」ドサッ

 箒は地面に倒れ伏し、そのまま気を失った。

 焔『……お前も見事だったよ。私もまだまだだな』

 日影『全くじゃの。わしも久しく血気に逸ったのう……』

 夏煉「そうだね……二人共、手伝って。この人を運んで手当てしなきゃ」

 焔『分かった』

 日影『うむ』

 

 夏煉は焔・日影と共に箒を背負い、幽霊列車へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 白夜vs煉王

 

 千冬「はあっ!」ビシュッ

 ソニックアローから矢が次々と放たれる。煉王ーー薫は矢の雨にさらされていた。

 薫「ああ、もう!斬っても斬っても次々飛んでくる!容赦ないわね!」

 千冬「ほほう……この矢の雨をものともしないか……面白い!」

 千冬はソニックアローの連射を止めない。薫は【レンガッシャー ソードモード】で矢を次々斬り裂くが、焼け石に水の状態であった。

 薫「……それなら!」

 

 『Full Charge』

 

 薫はライダーパスをベルトに翳し、レンガッシャーを強く握り締めた。レンガッシャーの刀身は赤くどす黒く輝き、レンガッシャーの本体から分離して宙を舞う。

 

 薫「アタシの必殺技……その1」

 

 薫がレンガッシャーを振るうと、飛んできた矢を次々と斬り裂いていく。やがて矢は全て消滅した。

 

 千冬「む、矢が……!」

 薫「ふう。さて、これでイーブンだね、おbーーお姉さん」

 千冬「…………まあギリギリセーフとしよう」

 薫「どうも。それじゃ、行くよ!」ダッ

 薫はダッシュで千冬との距離を詰め、レンガッシャーを振るう。千冬もソニックアローを振るって防ぐ。刃がぶつかり合う音が響き、火花が散る。

 千冬「……一つ聞きたい。春輝の相手をしたのは、お前の義妹で合っているな?」

 薫「そうだけど、それが?」

 千冬「……端から見て、春輝をどう思った?」

 薫「そうねぇ……一言で言うなら、『愚か者』としか言えないわね。力を力としか見てないんだから」

 千冬「そうか……」

 薫「お姉さん、あの愚か者の知り合い?」

 千冬「……末の弟だ」

 薫「え、あれが弟!?うわー、最悪だね……あんなのが弟だったらと思うと寒気がするよ……って、末の?て事は、もう一人弟がいるの?」

 千冬「ああ。私が愚か者であったが故に、守れなかった弟だ」

 薫「?」

 千冬「なに、こちらの事だ。さあ、続けるぞ!」ビュッ

 そう言って千冬は再びソニックアローを振るう。

 薫「うひゃっ!いきなりはないでしょ!」ガキンッ

 千冬「戦法には『奇襲』と言う物があるのだぞ?」

 薫「知ってるけど!つまりなに!?あの話も奇襲の為の布石だったわけ!?」

 千冬「いや、あれは単純に私が聞きたかっただけだ」

 薫「あ、そう。それなら良いんだけど……」

 納得しないような表情を見せながらも、薫はレンガッシャーを振るって応戦する。いつの間にやら、空には夕日が差し始めていた。

 千冬「む、もうこんな時間か。これ以上時間をかける訳にはいかんな。決着(ケリ)をつける!」

 

 『シークヮーサーエナジースパーキング!』

 

 千冬は【シーボルコンプレッサー】を二回押し込んで、蹴りの姿勢を取った。

 薫「あれ、もう終わりにするの?それじゃ、あたしも!」

 

 『Full Charge』

 

 薫はライダーパスをベルトに翳し、同じ様に蹴りの姿勢を取った。両者の右足にエネルギーが収束する。

 

 千冬「これで……終わりだ!」

 薫「行くぜ……あたしの超必殺技!」

 

 そして二人同時にジャンプし、右足を突き出した。

 

 

 

 千・薫『はあああああっ!』

 

 

 必殺のライダーキックがぶつかり合い、大爆発が起こった。爆風が晴れるとーー

 

 

 千冬「むう……仕留められなかったか」

 薫「ありゃりゃ……勝ったと思ったんだけどね……」

 

 互いにピンピンとして立っていた。どうやら威力が同じだったらしく、キックが相殺されたようだ。とは言え相当の威力だったようで、互いにアーマーが少し焦げていた。

 千冬「仕方がない、今日はここまでだ」

 千冬はそう言って変身を解除した。

 薫「もう良いの?」

 千冬「ああ。それに、どうやら向こうも終わったようだからな」ビッ

 千冬が指差した方向を薫が見ると、

 夏煉「あ、薫義姉さん!大丈夫ですか?」

 夏煉が気を失った箒を背負って歩いてくるところだった。

 薫「あ、夏煉。その様子から察するに、何とか勝てたみたいだね」

 夏煉「はい、でもこの人も強かったです……薫義姉さんは勝てたんですか?」

 薫「いいや、引き分けよ。勝負が付かなかったからね」

 夏煉「そうですか……あ、この人の手当てを手伝ってくれませんか?」

 千冬「無論だ。一先ず医務室に運ぼう」

 そう言って今度は千冬が箒を背負い、薫と夏煉と共に医務室に向かった。

 

 

 三人称side end

 

 

 

 




 蝕vs隷汽は次回。お楽しみに!



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(6)


 蝕vs隷汽、始まります!




 

 三人称side

 

 蝕vs隷汽

 

 牙也と鬼崎の戦いも白熱していた。牙也が紫炎を振るうと、鬼崎は隷汽ガントレットでそれを防ぎ、蒼鋼狼の牙剣(ウルフファング・エッジ)で攻撃した。牙也も負けじと無双セイバーを抜いて逆手に持ち、これを受け止めた。

 

 鬼崎「やはり強いですね……貴方が戦闘員を相手していた時も思いましたが、あれだけの数を一人で相手にするのは僕でも骨が折れるのですが……」ガッ

 牙也「まあ普段からあれよりちょっと少ない位の数のインベスを相手していたからな……対複数戦は意外と慣れてんだよな」ガキンッ

 鬼崎「そうでしたか、それならあの強さも納得がいきますね……」

 牙也「……俺は強くなんかねえよ」ビュッ

 鬼崎「え?」ギャリィッ

 牙也「俺は、いつまで経っても弱いまんまだ。ずっと守られ続けてきた。そしてその度に大事な物を失ってきた。これからも多分、それが続いていくかもしれない。そんな恐怖とも戦ってるんだよ、俺は」ガッ

 鬼崎「恐怖、ですか……」ガキンッ

 牙也「そして同時に、俺はこのアーマードライダーの力にも恐怖を抱いている」

 鬼崎「え?」

 牙也「こういう力ってのは、大抵人一人簡単に殺せる物だ。もしこれを使って人を殺めたとなれば、そいつはもう『ライダー』だなんて名乗れないさ。俺はそれが怖い。いずれは、これを使って人を殺してしまうかもしれない。そんな恐怖が俺にまとわりついてんだよ」ヒュンッ

 鬼崎「人を殺める恐怖、ですか」ガッ

 牙也「そう、そしてそれは、力の使い方を間違える事への恐怖でもある」

 鬼崎「成る程……」

 牙也「この世には様々な力がある。物を作る力、人を守る力、そしてーー」

 鬼崎「ISを動かす力、ですか」

 牙也「ご名答。だがそれらは全て、一歩踏み違えれば国一つ滅ぼすだろう。そういう物を、俺達は使ってんだ。それに気付いてる奴が、果たしてどれだけいるか……」ヒュンヒュンッ

 鬼崎「……」ガッガッ

 牙也「ま、俺の持論だけどな。あ、そうそう。話は変わるが、ブルーベリーロックシードの使い方、決して間違えんなよ」

 鬼崎「?何か不都合でも?」

 

 

 

 

 牙也「俺が使ってるブルーベリーロックシードはな、『呪われたロックシード』とも言う。使う度に体力を、精神を、果ては使用者の命さえ奪い去っていく危険物なんだよ」

 

 

 

 鬼崎「命、ですか……!?というか、そんな危険な物を貴方は使って……」

 牙也「ああ。他にも沢山のロックシードがあるが、これとヨモツヘグリはロックシードの中でも随一の危険物だ。取り扱い注意だぞ」

 鬼崎「は、はあ……分かりました」

 こんな会話をしている間も、二人はちゃんと戦いを続けている。

 鬼崎「では、僕もそろそろ本気で行きましょうか!来い、チュラ!」

 

 ピィィィィィーーーー

 

 鬼崎は懐から白いホイッスルを出して吹いた。すると、

 

 カサカサカサーーーー

 

 何処からか機械的な風貌をした蜘蛛が現れた。

 牙也「蜘蛛?」

 鬼崎「僕が開発した使い魔ですよ。名前は巨毒蜘蛛槌(タランチュラ・ハンマー)」

 その蜘蛛は鬼崎の手に乗っかり、瞬時に大槌に変形した。

 牙也「ハァーー。こりゃまた……」

 鬼崎「さあ、行きますよ!蜘蛛の毒糸(スパイダー・ショック)!」ビシュッ

 大槌の柄から蜘蛛の糸が伸び、紫炎の刀身に巻き付いた。あっという間に紫炎の刀身は糸に覆われてしまった。

 牙也「ありゃ。蜘蛛の糸って頑強だから、取るの面倒なんだよな……」ベリベリ

 鬼崎「あ、その糸、人体を衰弱させる毒があるんですが……」

 牙也「え、そうなの?何ともないんだが……」ベリベリ

 鬼崎「あ、あれ?おかしいな……」ハテ…

 鬼崎は毒が効かない事に首を傾げていた。その間に、牙也は紫炎に絡まった糸を全て取り払った。

 牙也「あーくそ、手が蜘蛛の糸でネバネバするー。気持ち悪ぃ」

 鬼崎「むう、ならこっちはどうでしょうねぇ。巨毒の爆弾(アシッド・ボム)!」

 今度は大槌から毒の玉が形成された。鬼崎は大槌を振るってそれを牙也に向けて打った。

 牙也「ぶへっ!?」

 毒の玉は牙也に着弾して弾けた。すると、牙也の周囲を毒の霧が覆う。

 牙也「くっ、これも毒か……!ぐ……がはっ!」

 毒に犯されたのか、牙也が苦しみ出して、膝をついた。

 牙也「ぐ……が、あっ……!まだだ……まだ、この程度で……ゴホッゴホッ!」

 鬼崎「こっちは効くみたいですね……さて、どうしましょうか」

 鬼崎は大槌を構えてゆっくりと牙也に歩み寄る。

 牙也(……やれやれ、絶体絶命ってか……っくそ、力が入らねぇなぁ……)

 牙也は紫炎を杖代わりにしてやっと体を支えていられる状態。毒の廻りが早く、大分弱っていた。

 牙也(……だが、こんなところでくたばる気はないね…………まだ、終わっちゃ……いない…………!)

 すると、牙也のベルトのホルダーから淡い輝きが溢れだした。

 鬼崎「っ!?これは……!?」

 牙也「?」

 牙也がホルダーを見ると、輝きを放っていたのはーー

 

 

 牙也「ラズベリーが……!」

 

 

 ラズベリーロックシードだった。やがて輝きが失われると、それは見た目がエナジーロックシードに変わっていた。

 牙也「朧の奴め……余計なお節介をしてくれる……だが、今はそのお節介がありがたいな……!」

 牙也は震える手でゲネシスコアをベルトに付け、エナジーロックシードを解錠した。

 

 『ラズベリーエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 『ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーラズベリー!ハハァーッ!』

 

 新フォーム【ジンバーラズベリーアームズ】のお目見えだ。すると、牙也の体を水色の輝きが覆った。キラキラと輝くそれは、やがて牙也の周囲を包み、毒の霧をかき消した。

 鬼崎「な……霧が…………!」

 牙也「……体の毒が消えた……って事は《状態異常の無力化》が、ジンバーラズベリーの能力か……あいつには、助けられてばっかだな」フゥ

 牙也は呼吸を整えると、ソニックアローを構えた。

 牙也「さあ、続けるぞ!」

 鬼崎「……良いでしょう。来い、コドル!」

 

 ピィィィィィーーーー

 

 鬼崎は今度は緑のホイッスルを出して吹いた。すると、何処からか機械的な風貌のコンドルが飛んできた。コンドルは鬼崎の手に降り立ち、瞬時に弓銃の形状に変化した。

 鬼崎「森狩鳥の弓銃(クロスボウ・コンドル)……そちらが弓で来るなら、こちらも弓で行きますよ。蒼鳥の追撃(ブルーバード・ホーミング)!」

 鬼崎は青い鳥を模した矢を牙也に向けて放った。牙也もソニックアローから矢を放って応戦する。が、鬼崎の放った矢は追尾式の矢で、ソニックアローの矢とぶつかりはしたものの、一部が相殺されずにそのまま牙也に向けて突っ込んで来た。

 牙也「たちが悪いな!」ブンッ

 それらはソニックアローを振るう事で全て叩き落とした。牙也はソニックアローを振るって飛んできた矢を叩き落としながら、少しずつ鬼崎との距離を詰めていく。

 鬼崎「これ以上は……!はあああああ……!」

 鬼崎は弓銃に魔力を籠めた。

 牙也「……あれ、ヤバイのが来そうだわ……させるか!」

 牙也は一気に距離を詰めーー

 

 

 

 鬼崎「狩人の一矢(ハウンド・ショット)!」

 

 

 

 ようとしたが一足遅く、弓銃から魔力を溜め込んだ矢が放たれた。矢は牙也目掛けて突っ込んでくる。

 牙也「やっべ!?」バッ

 牙也はその場に立ち止まってソニックアローを構えーー

 

 

 ズルッ!!

 牙也「は?」

 

 

 ようとしたが、運が良かったのか悪かったのか、立ち止まった場所で足が滑り、

 

 

 ズデッ!

 牙也「んがっ!?」ゴッ

 

 

 豪快にスッ転んだ。んで頭を打った。鬼崎が放った矢は、スッ転んだ牙也の上を通ってそのまま海に落ち、その地点に爆発が起こった。

 鬼崎「( ; ゚Д゚)」エー…

 これには鬼崎も驚きを隠せない。牙也はと言うと、

 牙也「~~~~~~~っ!?」ゴロゴロ

 頭を打った痛みでのたうち回っていた。

 

 鬼崎(……なんか…………残念過ぎる……)アタマカカエ

   「あ、あの~。大丈夫ですか……?」

 牙也「くぁwせdrftgyふじこlp~~!?」ゴロゴロ

 鬼崎「」(あ、駄目な奴ですね)ガクー

 

 鬼崎は仕方なく変身を解除し、牙也の肩を持って立ち上がらせた。ついでに牙也の変身も解除した。

 鬼崎「ほら、大丈夫ですか?行きますよ?」

 牙也「あがががが…………す、すまん…………」ピクピク

 

 

 何とも締まらない結末であった。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 





 牙也君ェ…………



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(7)


 コラボ第3段、順調(?)に進んでます。

 早く本編に戻らねば……←(謎の使命感

 んんっ、では始まります!




 

 三人称side

 

 箒・千『馬鹿かお前は…………』ハァ

 牙也「分かってるよ…………」ワシワシ

 医務室。牙也達は戦闘で負った傷を治療していた。箒と千冬は、そこで牙也と鬼崎の戦いの結末を聞いて呆れ返っていた。

 箒「まさかそんな負け方をするとは……」

 鬼崎「僕も予想外でしたよ……でも楽しめましたよ、牙也さんとの戦闘は」

 薫「あたしは物足りなかったなぁ~。お姉さん、途中で終わらせちゃったんだもん」

 千冬「すまないな。こちらとしてももう少し楽しみたかったのだが……」

 夏煉「だ、大丈夫ですか?」

 牙也「軽い脳震盪で済んだだけまだましだ。地面が砂地で助かったよ」ワシワシ

 牙也はそう言って頭を掻いた。

 箒「全く、大事な部分で抜けているのだから……」ベシッ

 牙也「~~~~~~~っ!?」モンゼツ

 千冬「篠ノ之、怒りたい気持ちは分かるが、今は抑えろ。一応怪我人だ」

 箒「脳震盪程度なら大丈夫でしょう?」

 千冬「それもそうか」

 夏煉「いや、大丈夫じゃないですよ!?」

 牙也「ああ、大丈夫大丈夫。怪我ってな、血が出てなけりゃ怪我とは言わんのだよ」

 夏煉「え、え~……?」

 鬼崎「夏煉、本気にしたら駄目だよ。この人達限定だから」

 薫「そうよ、この人達が普通じゃないのよ」

 牙也「お前等がそれを言うか…………」

 箒「全くだ」ウンウン

 薫「え、あたし達普通じゃーー」

 千冬「ないな」

 箒「ないぞ」

 牙也「ないだろ」

 薫「(゜ロ゜)」ウソーン…

 鬼崎「義姉さん、分かってたはずでしょ…………」ジーッ

 夏煉「薫義姉さん、私達の力が普通だと思ってたんですか……?」ジトーッ

 薫「ちょ、あたしをそんな目で見ないでよ!冗談だって!分かってたって!」

 鬼崎「本当に?」ジーッ

 夏煉「本当ですか?」ジトーッ

 薫「本当だって!」

 牙也「はぁ、それくらいにしとけ、二人とも。端から見ててアホらしく思えてくる」

 箒「砂浜で盛大にずっこけたお前には言われたくあるまい」

 牙也「(´・ω・)」ショボン

 

 シュラ「相変わらず何処か抜けてるな、牙也」ガチャ

 そこへシュラが医務室のドアから入ってきた。

 牙也「……ほっといてくれ」ムカッ

 千冬「まあそう怒るな。ところでシュラ、春輝はどうだ?」

 シュラ「一応の怪我の治療はしておいた。あれくらいなら我の治癒能力でなんとかなるレベルだったからな。すでに部屋に帰したぞ」

 千冬「そうか、迷惑をかけたな」

 シュラ「構わん。元はと言えば、この三人に喧嘩を売ったあ奴の自業自得だ」

 箒「……厳しいな」

 シュラ「当たり前だ。あの者は力の何たるかを分かっていない。いや、分かろうとしていない。あれにアーマードライダーの力を渡してみろ、大惨事になるのは目に見えている。奴には厳しく接する方が良い薬になろう」

 牙也「その薬をちゃんと飲んでる感じはしないがな……」

 千冬「」ヤレヤレ

 シュラ「ところで、貴様等は何者だ?ロックシードを欲する理由は何だ?」キッ

 鬼崎「そうですね、まずは僕達の事について説明しましょうか」

 そう言って鬼崎は、自分達の秘密を一通り話した。

 箒「《転生者ハンター》か……にわかには信じられないが……」

 薫「あたし達は神様が間違って転生させた人の魂や、転生先の世界で好き勝手に世界を荒らし回ってる屑転生者の魂を回収する役目を持ってるんだ。それぞれの世界を本来の形に保つ為にね」

 千冬「そしてお前達は今回、主である《ヴラド・スカーレット》の命でロックシードを採りに来た、と」

 鬼崎「まとめれば、そういう事になります」

 シュラ「…………」

 牙也「シュラとしてはどう見る?こいつらの事を信じられるか?」

 シュラ「……こちらとしては、あまり他者にロックシードを使わせたくないのだがな。鬼崎、お前の主と話がしたい。そいつの真意を問わねばならん」

 鬼崎「……分かりました。では幽霊列車の方に。そこに通信機器があるので」

 鬼崎はシュラと共に医務室を出ていった。

 牙也「……まあ、妥当な判断だろうな。初めて会った者同士、打ち解けるのは簡単だが頼みを聞くのは難しい」

 薫「だからこそのあの行動ね。まあヴラドさんはロックシードを危険な事に使わないってあたし達は信じてるから、心配はないだろうけど」

 千冬「随分信頼しているな。恩人か何かか?」

 薫「あたしと陽は、ヴラドさんに拾われたんだ。いわゆる《育て親》ってやつね。だから、ヴラドさんには感謝してもしきれないよ」

 夏煉「私は陽太義兄さんに拾われて、義姉弟の契りを結びました。陽太義兄さんや薫義姉さんには、沢山助けられてます」

 箒「……なんか、羨ましいな」

 夏煉「え?」

 箒「いや、私にも姉がいるんだが、なかなか接する機会が無くてな。姉さんが忙しいっていう理由もあるんだが……だから、羨ましく感じたんだ。お前達三人の仲の良さをな」

 千冬「束は自由奔放だからな……たまに私達の前に顔を出すんだが、その時くらいしか話す機会が無いんだ。後はごく稀に向こうから電話を掛けてくるくらいだな」

 薫「へぇ、束さんって言うんだ、貴女のお姉さんの名前……ん?束……って、まさか貴女、篠ノ之束さんの妹さん!?」ガタッ

 箒「うお!?あ、ああ」

 薫「うわ~、そんな有名人の妹さんがアーマードライダーの力を持ってるなんて……お姉さんに何か言われなかった?」

 箒「私が良く考えて決めた事だ。後悔はないし、姉さんもそれを後押ししてくれた。それに報いたいんだ」

 夏煉「格好良い……!」キラキラ

 箒「そ、そうか?////」テレテレ

 牙也「」ニガワライ

 千冬「」クスクス

 

 鬼崎「戻りました」

 シュラ「終わったぞ」

 そこへ鬼崎とシュラが戻ってきた。

 牙也「随分早かったな」

 シュラ「主とやらがなかなか面白い上に話の良く通じる者でな。少なくとも悪事に使う事は無いと判断した」

 夏煉「つまりそれは……!」

 シュラ「……明日、ヘルヘイムの森に案内する。必要なロックシードがあれば言ってくれ。出来る範囲で要望に答えよう」

 薫「よっしゃーー!!ありがとね!」ガッツポーズ

 夏煉「ありがとうございます!」

 シュラ「礼は必要ない。だが、今から言う事を必ず守れ。さもなくば、ロックシードは渡せない」

 鬼崎「何でしょう?」

 

 

 シュラ「一つ、ヘルヘイムの森の中では勝手な行動を取らない。二つ、ヘルヘイムの果実を絶対に食べてはならない。三つ、ロックシードを絶対に悪事に使うな。これらの内どれか一つでも破れば、我は貴様等に渡すロックシードを全て破棄し、今後一切貴様等には協力しない。良いな?」

 

 

 鬼崎「……分かりました。その条件を飲みましょう」

 薫「随分厳しい制約ね……」

 夏煉「それだけ危険な物なんでしょうね……」

 牙也「まあブルーベリーに限らずロックシードは全部危険物だからな……」

 シュラ「ヘルヘイムの果実だってそうだろう?兎も角、全体的な動きは明日だ。今日は一先ず帰って休め。戦いの疲労が抜けてないだろう?」

 鬼崎「分かりました。義姉さん、夏煉、今日は幽霊列車に泊まり込みだ。夜も遅いし、もう休もう」

 薫「はいは~い。それじゃあ、また明日ね~」

 夏煉「失礼しました」ペコリ

 三人は医務室を出ていった。

 

 牙也「よし、俺等も撤収するかね」

 シュラ「明日はどう動く?」

 箒「私はこっちに残る。誰かが残っておかないと、急時に対応出来ないだろう」

 千冬「では私も残ろう。教師としての仕事もあるからな」

 牙也「じゃあ俺とシュラが三人を案内するって事で。決まりだな」

 四人はそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 牙也「よし、そんじゃ行くか」

 シュラ「ああ。三人共、準備は良いな?」

 鬼崎「はい、いつでも」

 薫「早く早く~!」

 夏煉「薫義姉さん、落ち着いて……」

 シュラ「ヘルヘイムの森に入ったら、まずは拠点に案内する。それから、ロックシード探索に入るぞ」

 そう言ってシュラはクラックを開いた。

 シュラ「さあ、早く入れ。すぐにクラックは閉じるぞ」

 五人は次々とクラックに入っていった。

 そして全員がクラックに入って数秒もしない時ーー

 

 

 ??「……よし、今だ」ササササッ

 誰かが五人を追うようにクラックに近付いた。その人物は、全身を長めのコートで隠していた。

 ??「……やっとチャンスが巡ってきた……これで僕も……!」グッ

 その人物はそう呟いてクラックに入っていった。

 

 

 千冬「ん?あれは……誰だ?」

 それに気付いたのは、校内の見回りをしていた千冬であった。

 千冬「……全く、誰かは知らんがいらぬ仕事を増やしてくれる」ハァ

 そう言って千冬はスマホを取り出して誰かに電話を掛けた。

 千冬「私だ。実はなーー」

 

 

 

 

 シュラ「牙也、あの果実をもげ」

 牙也「へいへい」ヒョイッ

 シュラ「次はあれだ」

 牙也「これだな」ヒョイッ

 シュラが示した先にあるヘルヘイムの果実を、戦極ドライバーを腰に付けた牙也が次々収穫していく。ヘルヘイムの果実は、牙也が手に取る毎に次々ロックシードに変わっていく。鬼崎達三人の手には、大量のロックシードがあった。

 薫「お~、豊作豊作!沢山採れたね!」キラキラ

 夏煉「色んな種類のロックシードがあるんですね……」

 鬼崎「ありがとうございます。これだけあれば大丈夫でしょう」

 シュラ「そうか。おい牙也、もう良いぞ」

 牙也「ん?もう良いのか。んじゃこれは、俺が使わせてもらうか」

 牙也は余分に採ったロックシードをお手玉した。

 シュラ「さて、戻るぞ。クラックを開くから少し離rーーん?」

 牙也「どうした?」

 シュラ「…………近いな。誰かいる」

 牙也「何?」

 鬼崎「誰か迷い込んだのでしょうか?」

 薫「それとも、意図的に侵入したかよね」

 ??『待て待て、私だ』

 木の影から現れたのはーー

 

 

 牙也「なんだ、千冬さんか」

 千冬であった。

 シュラ「どうした?向こうに残っていたのではないのか?」

 千冬「いや、あのクラックを通って此処に侵入した馬鹿を見つけてな。篠ノ之に連絡した後、その馬鹿を追って来たんだが、撒かれてしまったのだ」

 シュラ「……ううむ、面倒な事だな」ハァ

 鬼崎「アーマードライダーの力を持ってない人が迷い込むとなると、危険ですね……」

 牙也「仕方ない、探すか」

 シュラ「三人は先に戻っておいてくれ」

 夏煉「それ、私達にも手伝わせてくれませんか?」

 牙也「え?」

 シュラ「いやしかし、客とも言えるお前達にこんな事をさせる訳には……」

 薫「あたし達としては、無力な人達を危険な目に合わせる訳にはいかないのよ」

 鬼崎「ロックシードをくれたお礼と思って、お願いします」

 シュラ「……はぁ、分かった。だが、ここは二人一組で捜索しよう。我は鬼崎と、織斑は兵鬼と、牙也は鬼町とだ」

 牙也「……その振り分けに何故か悪意を感じんだが……」

 鬼・薫『同感』

 シュラ「そうか?」ハテ…

 千冬「馬鹿な事やってる場合か!さっさと捜索するぞ!」

 千冬はヒガンバライナーを展開して飛び乗った。

 薫「え、何これ!?」

 千冬「ロックビークル【ヒガンバライナー】だ。兵鬼、私達はこれを使って捜索する。早く乗れ」

 薫「あ、はい!」ピョイッ

 薫がヒガンバライナーに乗ると、

 千冬「では先に行くぞ。また後でな」ブウウウウンッ

 二人はあっという間に行ってしまった。

 牙也「俺達も行くか」

 夏煉「あ、はい!」

 シュラ「鬼崎、我等も行くぞ」

 鬼崎「はい。あ、そうだ。牙也さん」

 牙也「なんだ?」

 

 

 

 鬼崎「……夏煉を襲わないで下さいね」ジトーッ

 牙也「今言う事じゃねえだろ!?」ゲシッ

 

 

 

 シュラ「誰がコントをやれと言った?」ハァ

 夏煉「ま、まあまあ……」アワアワ

 鬼崎「はあ……まあとにかく、夏煉をよろしくお願いします」

 牙也「ああ」ノシ

 こうして、捜索が始まった。

 

 

 三人称side end

 

 





 さて、迷い込んだ馬鹿は一体?(まあ読者には既に察してる人もいるでしょうが…………)

 コラボはこの調子だとあと一話か二話ですかね……最後までお楽しみ下さい!



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(8)


 コラボ第8話です。

 後二話入れるかな……話の量的に。



 

 三人称side

 

 千冬・薫ペア

 

 千冬「…………ふむ、ヒガンバライナーのセンサーにも引っ掛からないな」

 千冬はヒガンバライナーを右へ左へ操縦する。木々が入り交じった森の中を、縦横無尽に走り抜けていく。

 薫「ち、ちょっとお姉さん、もう少しスピード落とせませんか…………?」ウップ

 一方の薫は、千冬の荒っぽい操縦に振り回されて乗り物酔いを起こしていた。

 千冬「なんだ、情けない。この程度で弱音を吐くとは情けないぞ」

 薫「お姉さんと一緒にしないで下さいよ……」ウップ

 千冬「はぁ……仕方がない。一旦休むとしよう」ヤレヤレ

 千冬は一旦ヒガンバライナーをその場に止めた。

 薫「はぁぁぁぁ…………やっと解放されたぁぁぁぁ…………」グデーン

 薫はふらふらとヒガンバライナーから降りて、近くの木に寄りかかった。魂が抜けかけている状態だ。

 千冬は一旦ヒガンバライナーを元のロックシードの状態に戻し、同じように木に寄りかかった。

 薫「ところでさぁ、お姉さん。お姉さんの弟さんって、どんな人なの?」

 千冬「ん?それはどっちの事だ?」

 薫「えーっとね、あの愚か者じゃない方の弟さん」

 千冬「一夏の事か……そうだな、一言で言うなら《努力家》とか《優男》とかだな。私や春輝が優秀であった一方で、一夏は人並みの能力であったからな、周りからの期待を一心に受けていたんだ。だから、一夏は必死になって努力を重ねていた。私に、春輝に追い付く為に」

 そこまで言って、千冬は空を見上げた。

 千冬「だが、周りはそれを認めなかった。私や春輝という光が強すぎたのだろう、世間は一夏の本質に目を向けなかった。それどころか、一層一夏に期待を寄せるようになった。『ブリュンヒルデの弟なのだから、これくらい出来て当然』とか、『神童の弟に出来たのだから、その兄であるお前に出来ないはずはない』とかな。だが、その期待は徐々に歪んでいき、一夏を罵倒する物に変わっていった」

 千冬はおもむろに自分の右の手首を見た。そこには、手首を斬ろうとして止めた幾つもの躊躇い傷があった。

 千冬「だが、私にはほぼ何も出来なかった。ただただ一夏の努力を誉めてあげる事しか出来なかった。私も自分の事でいっぱいいっぱいだったのでな、一夏を気にする事さえほとんど出来なかった。それが、あの悲劇を呼んだ……」

 薫「あの悲劇……?」

 

 

 

 千冬「……時が過ぎてISがスポーツとして完全に認知された頃、私はISの日本代表として出場した。決勝まで進んだ時、私の元に一本の電話が掛かってきた。それはあるテロ集団からで、『春輝を誘拐した』という旨の内容だった。私は試合を棄権してすぐに救出に向かった。途中、ドイツ軍の協力を得て場所を特定し、そこへ向かった私を待っていたのはーー」

 

 

 一旦言葉を切って、千冬は言った。

 

 

 千冬「春輝に間違われて誘拐され、腹いせに両足を切断された一夏だった……」

 薫「……!」

 千冬「その後、束が来て急いで治療を施した。だが、ISによって焼き斬られた足は、束でも治せなかった。一夏は義足を付ける事も出来ず、車椅子での生活を余儀なくされる事になったのだ……」

 薫「そんな……」

 千冬「私は嘆いたよ。大事な家族一人救えない私を。何もしてあげられなかった私を。一夏の未来を奪ってしまった私を。それなのに、一夏はーー」

 

 また一旦言葉を切って、千冬は話した。

 

 千冬「それなのに一夏は、笑って私を許した。そしてこう言った。『千冬姉は悪くない。悪いのは、周りの期待に答えられなかった俺だよ。だから、悲しまないでくれよ、千冬姉』と。その時になって、ようやく私は気付いた。一夏は、たった一人で周囲の期待を抱え込んでいたんだと。私に迷惑をかけない為に、影で必死に努力してたんだと」

 千冬は手首の躊躇い傷を見た。

 千冬「私が一夏の手を取っていたら……私が一夏をしっかり守ってあげられたなら……その後悔ばかりが私を苦しめた。何度泣き叫んだか……何度自分を殴ったか……何度死のうとしたか……だが死ねなかった。いざ手首を斬ろうとしても、斬れなかった。その度に、躊躇い傷が増えていった」スッ

 千冬は右の手首に左手を重ねた。

 千冬「そしてまた私が手首を斬ろうとした時、一夏が必死になって私を止めた。その目は涙で濡れていた。一夏は泣きながら私に言ったよ。『俺の為に何で千冬姉が苦しまなきゃなんないんだよ!?何で千冬姉が死ななきゃなんないんだよ!?止めてくれよ……!俺を置いて行かないでくれよ……!』とな」

 薫「…………ずっと苦しんでたんですね。お姉さんも、弟さんも」

 千冬「ああ、ずっと苦しんでた。一夏の友人達にも殴られたよ。『あんたが死んだら、他に誰が一夏の支えになるんだ!?』って言われてな」

 薫「愛されてたんですね、弟さんに。そしてその友人達に」

 千冬「ああ。そして今、一夏は束の元にいる。私がIS学園の教師をする事になった時、束が申し出たんだ。『いっくんの事は束さんに任せて!ちーちゃんは安心して務めを果たしてきて。これ以上、私の作ったISが愚行を犯さない為にも』とな。一夏もそれを後押しした。『千冬姉だからこそ出来る事なんだろ?俺の事は心配しないで、行ってきてくれよ。もうこれ以上、俺のような被害者は出てほしくないからな……』と言ってな」

 千冬は懐からシークヮーサーエナジーロックシードを取り出した。

 千冬「だが、やはり私は弱かった。私はまた、手をとれなかった。私の教え子を、私の手で救えなかった。結局、私は弱いままだったんだ。そんな時、私はシュラからアーマードライダーの力を受け取った。だが最初、私は躊躇ったよ、これを使う事を」

 薫「なんで?」

 千冬「……今まで弱い存在だった私が、いきなりこれ程強い力を手に入れたのだぞ?しかも下手すれば自分自身に影響が出かねない物だ。……怖かったんだよ、私は。手に入れた力に溺れてしまう事が。今までいた多くのIS操縦者がまさにそれだったんだ。ISという力に溺れ、それの本質に目を向けなくなった。私はそれが怖かったんだ」

 薫「本質、か……」

 千冬「だが、この時に私を後押ししたのも一夏だったんだ。『学園には、牙也とか箒がいるんだろ?もし力に溺れそうになったのなら、二人に止めてもらえばいいだろ。同じアーマードライダーになるって事は、二人にとっては大事な仲間になるって事なんだから、大丈夫さ』と言って、私の背中を押してくれた。嬉しかったよ、とても。そして実感したよ。家族という物が、どれだけ大事な存在なのか」

 薫「……良い弟さんじゃない。良かった、あの愚か者と同じなんじゃないかと思ってたけど、安心したよ」

 千冬「ふっ……さ、話はここまでだ。そろそろ再開するぞ」

 薫「はいはーい。でもさっきみたいな運転は勘弁してよ」

 千冬「……はぁ、分かった分かった。早く行くぞ」

 こうして二人は、捜索を再開した。

 

 

 

 シュラ・鬼崎ペア

 

 シュラと鬼崎は、ヘルヘイムの森に流れる小川のほとりを歩いていた。

 鬼崎「こんな森にも小川が……」

 シュラ「世界観が向こうとは違うとは言え、ここはインベス達を育む場所だ。川の一つや二つあってもおかしくはあるまい」

 捜索をしている途中何匹かインベスが襲ってきたが、そこは戦い慣れしている二人。蹴りだけでインベスを追い払った。

 鬼崎「そう言えばシュラさん。インベスは元はーーであったと聞いたのですが、事実ですか?」

 シュラ「ああ……ここに迷い込んで、ヘルヘイムの果実を食した結果が、このインベス達だ」

 鬼崎「そうですか……何か、悲しいですね」

 シュラ「同情した所で、戻ってくる訳ではない。それは分かっている事だろう?」

 鬼崎「まあ僕も、仕事をする中で色々見てきましたが……ここの事情には中々慣れませんよ」

 シュラ「まあそうだろう。こんなのに慣れる奴と言えば、同類か、余程の狂人だろう」

 鬼崎「……手厳しい」

 二人は引き続き小川のほとりを歩く。すると、小川の一角にインベスが大量に集まっていた。

 シュラ「……どうやらあそこはエサが大量にあるようだな」

 鬼崎「あれだけインベスが集まってる訳ですからね。どうしますか?」

 シュラ「……襲ってこぬのなら、戦う必要はあるまい」

 しかし、一匹のインベスがシュラ達に気付き、それを皮切りに他のインベスが次々とシュラ達を見た。

 鬼崎「……気付かれちゃいましたね」

 インベス達は少しずつ二人に近付いてくる。

 シュラ「……鬼崎。少し下がっていろ」スッ

 鬼崎「どうする気ですか?」

 するとシュラは、

 

 シュラ「」ズオッ

 鬼崎「っ!?その姿……!」

 

 オーバーロードとしての姿を現し、腰にぶら下げたヘルヘイムの果実をインベス達に向かって次々と放り投げた。

 

 インベス達『フシャアッ!!!』

 

 インベス達は飛んできたヘルヘイムの果実に飛び付き、次々とそれを貪り食う。

 シュラ「今だ。ここを離れるぞ」

 鬼崎「あ、はい!」

 その隙に、二人はその場を離れた。

 

 

 

 

 シュラ「ふむ……ここまで離れれば大丈夫だろう」

 鬼崎「そうですね……ですが、貴方のその姿は……?」

 小川から大分離れ、拠点である一軒家の近くまで戻り、二人は木陰で休んでいた。

 シュラ「言ったろう。あれに慣れるのは、同類か、余程の狂人だと」

 鬼崎「同類、ですか……」

 シュラ「そういう事だ。我はあれと同類。そして、あれの頂点たる者よ……」

 そう言ってシュラは人間体に戻った。

 鬼崎「初めて会ったあの時から牙也さんにそっくりとは思ってましたが……そういう事でしたか」

 シュラ「この姿にするにあたっては、牙也に呆れられたよ」

 鬼崎「それはそうでしょう……本人なんですから」

 

 

 

 『ぐああああああああっっっっ!!!!』

 シ・鬼『っ!?』

 

 

 

 突然、ヘルヘイムの森に叫び声が響いた。

 シュラ「今の声は…………牙也か!」

 鬼崎「何かあったのでしょうか……?」

 シュラ「恐らくな。急いで合流するぞ!」

 鬼崎「はい!」

 二人は声のした方へ急いだ。

 

 

 

 一方その叫び声は、千冬と薫のいる場所まで届いた。

 千冬「っ!牙也の声が……!敵襲か!?」

 薫「分かんない!でもヤバい感じがする!」

 千冬「くっ!急いで牙也の元に行くぞ!しっかり掴まれ!」

 薫「は、はいーー!!」

 千冬達もヒガンバライナーを飛ばして牙也の元へ急いだ。

 

 

 三人称side end

 

 





 さて、牙也に何があったのか……!?

 次回をお楽しみに!


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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(9)

 牙也の身に危機がーー。




 三人称side

 

 牙也・夏煉ペア

 

 遡る事数分前。

 牙也「……さて、何処に行ったら良いのやら」

 夏煉「……どうしましょうか?」

 完全に迷っていた。

 夏煉「牙也さんはここに入った事があるんですよね?」

 牙也「ああ。だが入っただけで森の探索とかはしてない。だから俺らからすれば未開の地同然だな」

 夏煉「当てがないってなかなか難しいですね……まして、迷い込んだのが誰なのかも分かりませんしね……」

 牙也「何か手掛かりになるような物があればな……」

 夏煉「そうですね……あれ?」

 牙也「どうした?」

 夏煉「あそこの木、何か引っ掛かってません?」

 夏煉が言う通り、その木には服のような物が引っ掛かっていた。二人は木に近付き、それを手に取った。

 牙也「コートだな。それもまだ新しい。買ったばかりのやつだな」

 夏煉「手掛かりになるでしょうか……?」

 牙也「さあな。だが、ついさっきまでここに誰かがいた事は間違いないな」

 夏煉「という事は……」

 牙也「よし、この辺りを探索だ」

 コートは木に引っ掛け直しておき、二人は探索を開始した。

 

 

 

 が。

 牙也「誰もいねぇ……」

 夏煉「駄目でしたね……」

 数分後、また同じ場所に戻ってきた。周辺をくまなく探索したが、誰一人として見つからず、結局不発であった。

 牙也「既にここから遠くに行ったんだろうな。恐らくこのコートは、戻ってくる時の目印ってところか。……待ち伏せしてみるか?」

 夏煉「それが良いかもしれませんね。またここに現れるかもしれませんし」

 牙也「よし、隠れて様子を見てmーー」

 

 ピキュンッ!!

 

 その途端、牙也の胸をレーザーが撃ち抜いた。

 

 牙也「が…………はっ…………!?」

 夏煉「牙也さん!?」

 牙也はうつ伏せに倒れ、夏煉は慌てて牙也に駆け寄る。

 夏煉「牙也さん!しっかりして下さい!」

 牙也「ぐ……がっ……!くそっ、何処から……!?」

 

 

 ???『おやおや、しぶとく生きてたか。仕留めたと思ったんだけど』

 

 

 夏煉「っ!誰!?何処にいるの!?」

 ??『怒らない怒らない。君に用は無いんだよ。そこに倒れてる奴に用があったんだけど……』

 牙也「何……!?」

 ??『仕留め損ねたとなれば仕方がない。今日は大人しく退かせてもらうよ。また会おう』

 そのままその声は聞こえなくなった。

 

 

 牙也「や、野郎……!ごほっ、ごほっ!」ガクッ

 夏煉「動いちゃ駄目です!ただでさえ怪我がひどいんですから!皆、出てきて!」

 すると、次々とD眼魂が出てきてパーカー姿に実体化した。

 夏煉「皆は陽太義兄さんと薫義姉さんに救援を頼んできて!別れてそう時間が経ってないから、まだ近くにいるはずだから!急いで!」

 眼魂達は無言で頷き、鬼崎と薫の元へ飛んでいった。

 夏煉「牙也さん、大丈夫ですか!?私が分かりますか!?」

 牙也「馬鹿……頭打った訳じゃねんだからよ……それにあの野郎、わざと心臓や肺を外しやがった……相当の手練れだ……ごほっ!」

 それでも撃ち抜かれた傷がひどいのか、咳をする毎に血を吐く牙也。

 夏煉「陽太義兄さん……薫義姉さん……早く来て……!」

 牙也「くそっ……こんな日に……限って、厄日だな……っ!?危ねぇっ!!」バッ

 夏煉「え!?」

 

 

 ザシュッ!!

 

 

 牙也「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 春輝「ちぇっ!邪魔者が入ったか。ま、いいや。これで心置きなくお前を叩き潰せるよ」

 白式を纏った春輝がそこにいた。

 夏煉「貴方……あの時の……!」

 牙也「ぐ……がっ……!てめぇ……!」

 春輝「邪魔だよっ!」ドカッ

 牙也「ごはっ!」

 春輝に蹴飛ばされ、牙也は地面を転がる。そのまま気を失ったのか、牙也はピクリとも動かない。

 夏煉「牙也さん!」

 春輝「フン、前回はよくもまあ天才の僕を散々馬鹿にしてくれたねぇ……お前の仲間がいないのは残念だけど、お前を倒せば自ずと向こうからやって来るか。さて、あの時のお返しをするとしようか……!」

 夏煉「くっ……ふざけないで!」

 夏煉は腰に手を翳し、ゴーストドライバーを具現させた。ヘレナ眼魂を取りだし、スイッチを押す。

 

 《アーイ!バッチリミトケー!バッチリミトケー!》

 

 ドライバーのバックルを開いて眼魂を入れて閉じる。そしてドライバーのレバーを引いて押し込んだ。

 

 夏煉「変身!」

 

 《カイガン!ヘレナ!!デッドゴー!覚悟!キ・ラ・メ・キ!ゴースト!!》

 

 仮面ライダーヘレナに変身した夏煉は、ドライバーからガンガンセイバーを出して構えた。

 夏煉「もう一度、叩き潰してあげる……!」

 春輝「やってみろ!僕は前回とは違うぞ!」

 

 

 

 

 

 一方、千冬と薫は叫び声を聞き付けて急ぎ牙也達の元へ向かっていた。

 千冬「くそっ、胸騒ぎがする……!何も無ければ良いのだが……!」

 薫「夏煉、牙也、大丈夫かな……ん?あれは!」

 そこへ、夏煉が使う眼魂の焔・澪・チンク・詠・未来・日影・カズラ・春花の八人が来た。

 焔『大変だ!あの少年が誰かに銃撃された!』

 千冬「牙也が!?」

 薫「そんな……!夏煉は!?」

 澪『夏煉は大丈夫よ、今あの少年と一緒にいるから』

 千冬「案内してくれ!」

 千冬と薫は焔達の案内の元、牙也達の元へ向かった。

 

 

 

 同じ頃、シュラと鬼崎も羽衣狐・イカ娘・パティ・ノーヴェ・ディエチ・ウェンディ・狂骨の七人と合流し、報告を受けていた。

 シュラ「織斑と兵鬼には伝わっているのか?」

 羽衣狐『二手に別れたからの。今丁度伝えておる頃であろう』

 狂骨『兎に角急ぎましょう、羽衣狐様。夏煉お姉さまやあの少年が心配です』

 鬼崎「そうだね。皆、急ぐよ!」

 シュラ達も、牙也の元へ向かった。

 

 

 

 春輝は前回の失敗を考えてか、アサルトライフルとハンドガンを数丁持ってきていた。夏煉がガンガンセイバーとガンガンハンドの銃モードで攻撃して来るのに対し、春輝はそれを避けながら、アサルトライフルの銃弾を夏煉の周囲にばら蒔くように撃った。銃弾をところ狭しとあちこちに撃ち込んで来るので、夏煉は行動範囲を狭められ、身動きが取れない状態だ。

 春輝「ハハハハハ、どうしたんだい!?君の実力はそんな物なのかい?」

 夏煉「くっ、動けない……!四方八方に撃ってくるから余計に……!」

 春輝「無様だねぇ……!僕に良いようにされるがまま……!そうだよ……これだよ!これを僕は望んでたんだ……!」

 狂ったような笑みを浮かべながら、春輝はアサルトライフルをハンドガンに持ち替えて、さらに夏煉に向けて撃つ。夏煉もガンガンセイバーとガンガンハンドで応戦するのだが、近くで気を失った牙也が倒れている為にそちらにも気がいってしまい、なかなか決定打を出せない。ゴーストチェンジしようにも、全員救援を呼びに行かせたのでやりようがない。

 春輝「考え事をしている暇があるのかい?」ドンドンッ

 夏煉「くうっ!!」

 春輝の銃撃が夏煉をとらえ始めた。銃撃の範囲を少しずつ狭めていき、逃げ場を無くしたのだ。

 夏煉「貴方なんかに負ける訳にはいかない……!人を斬る事に何の躊躇いもない貴方には……!」

 春輝「フン、僕を下に見たお前達が悪いんだよ……所詮凡才は天才に絶対に勝てはしないんだからね!」

 夏煉「そう言って他の人の努力を否定し続けて来たの!?」

 春輝「それの何が悪い?所詮君達が僕を否定するのは、生まれつき僕みたいな素晴らしい能力を持たなかった君達の嫉妬だろう?それを僕にぶつけられても、迷惑なんだよ!」

 春輝はハンドガンの銃口を夏煉に向けた。

 春輝「それじゃ、フィニッシュと行こうか……さようなら、愚かな凡才さん」ジャキッ

 

 

 焔『愚かなのは、貴様だ!』

 

 

 春輝「な!?ぐあっ!」

 そこへ夏煉の所持する眼魂達が次々とパーカー姿で春輝にタックルをかました。そこへシュラ達四人が走ってきた。

 千冬「牙也!夏煉!大丈夫か!?」

 夏煉「私は大丈夫です!でも牙也さんが……私を庇って……!」

 シュラ「牙也!しっかりしろ!」

 牙也「こほっ……うる…………せえよ……後……救援……に、来るのが…………遅ぇん……だよ…………馬鹿……」

 シュラ「くそっ、傷が大きい!向こうで手当てしないと不味いぞ!織斑!お前は先に戻って牙也の手当てを!篠ノ之にも連絡だ!」

 千冬「分かった!あの大馬鹿の捕獲は任せるぞ!」

 シュラがクラックを開くと、千冬は牙也を背負って元の世界へと戻っていった。

 

 

 シュラ「さて、織斑春輝よ。我らの仲間に大怪我させた罪は重いぞ……!」

 鬼崎「夏煉を殺そうとした貴方を、許す訳にはいきませんね……!」

 薫「お前、ブッ潰すけど良いよね?答えは聞かないけどさ!」

 三人はそれぞれゲネシスドライバー、隷汽ベルト、煉王ベルトを腰に付けた。

 

 『イーヴィルエナジー』

 

 『ロック・オン』

 

 シ・鬼・薫「「「変身」」」

 

 『血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood Eyes!Blood Eyes!D-D-D-Deadly Souls!』

 

 『Phantom Form』

 

 『Dragon Form』

 

 三人は赤零、隷汽、煉王に変身した。さらにここにヘレナも加わる。

 

 シュラ「血の海に溺れるがいい……!」

 鬼崎「さあ、饗宴の幕開けと行こうじゃないか……!」

 薫「細かい事はどうでもいい。今だけは……怒りのままに刃を振るう!」

 夏煉「貴方の命……焼き尽くす!」

 

 

 一方千冬は、牙也を背負って学園に戻ってきた。そしてすぐに医務室に駆け込み、治療を行った。その結果、手術が必要となり、牙也はある程度の治療を行った後、すぐに大病院へ搬送された。連絡を受けた箒達も、慌てて病院に駆け込んだ。

 箒「千冬さん!牙也は!?」

 千冬「今手術が行われてる。医者曰く、出血が酷かったから予断を許さない状況らしい……」

 セシリア「そ、そんな……!」

 ラウラ「教官、牙也を斬った奴は何処に?」

 千冬「シュラが捕獲に向かっている。私は牙也の治療の為に一旦戻ってきたのだ」

 鈴「牙也は……大丈夫よね……?死なないよね……?」

 シャルロット「だ、駄目だよ、そんな事考えちゃ!僕達が牙也さんの無事を祈らないでどうするのさ!?」

 千冬「そうだ、だが私達には待つ事しか出来ん。願うんだ、牙也が無事に戻ってくる事を」

 千冬達は無言で手術室を見つめていたーー。

 

 

 三人称side end

 

 




 多分次回が最終回ですね。最後までお楽しみ下さい!



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コラボ3 果実ノ勇士ト煉獄ノ使徒(10)

 や、やっと最終話だ……

 お待たせしました、では、どうぞ。




 三人称side

 

 《カイガン!キョウコツ!!骸の畏れ!貰うは眼球!!》

 

 夏煉「行くよ、狂骨!」

 狂骨『はい、夏煉お姉さま』

 

 キョウコツ魂にフォームチェンジした夏煉が、ガンガンハンド・銃モードで春輝を撃つ。

 

 薫「とっとと落ちてくれない?早くお前をブッ潰したいんだ!」

 薫もレンガッシャーを銃モードに変形して同じく春輝を撃つ。

 

 鬼崎「さあ、激しく舞い狂え……!」

 シュラ「貴様の鼓動を、刈り取ってやろう……!」

 鬼崎とシュラはそれぞれ吸血蝙蝠の双銃(ヴァンバット・ツインガン)とソニックアローからレーザーと赤黒い矢を放って春輝の退路を塞ぐ。春輝は逃走しようにも弾幕の雨に曝されて身動きがとれない。

 

 春輝「くそっ!この僕をここまで痛め付けるなんて……!神に選ばれたこの僕が……!」

 シュラ「神、か……貴様はまだそのようなちっぽけな物にしがみついているのか?」

 春輝「何!?」

 鬼崎「貴方がその生まれつきの能力に胡座をかいていなければ、もっとマシだったのでしょうが……こればかりはどうにもなりませんね……!」

 薫「お前の顔を見るだけで、何か腹立たしく思えてならないね……!」

 夏煉「貴方を選んだのは神じゃない……!貴方を選んだのは、悪魔です!」

 

 

 春輝「言わせておけば、調子に乗りやがってぇぇぇぇぇぇぇ!!!まずはてめぇから叩き斬ってやらぁぁぁぁぁぁ!!!」ゴォッ

 

 

 春輝は完全にキレて、夏煉に突進した。

 

 《ダイカイガン!ガンガンミトケー!ガンガンミトケー!》

 

 夏煉はそれを見て、ガンガンハンドをベルトに翳し、突っ込んで来る春輝に向けて構えた。すると、夏煉の横に一直線に火縄銃を持った骸骨兵が現れ、同じように火縄銃を構えた。

 

 

 春輝「死にさらせぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 夏煉「……くらえっ!」

 

 《オメガスパーク!!》

 

 夏煉が引き金を引くと、一斉に全ての銃が火を噴いた。ガンガンハンドと火縄銃から撃ち出された弾は突っ込んで来る春輝に全弾命中し、春輝を撃ち落とした。

 

 春輝「ぐはっ!」ドサッ

 

 春輝はすぐに立ち上がるが、目を向けた先にはーー

 

 

 『ロック・オン』

 

 『Full Charge』

 

 ソニックアローを構えたシュラとレンガッシャー・ガンモードを構えた薫がいた。

 

 薫「食らえ……あたしの必殺技、その2!」

 シュラ「己が愚かさを嘆きつつ……散れ!」

 

 『イーヴィルエナジー』

 

 ソニックアローには赤黒いエネルギーが、レンガッシャーには滅びの魔力が集約する。そして、エネルギーと魔力が満タンになった時、

 

 

 シ・薫「「ハアアアアアアアアッ!!!」」

 春輝「ぐあああああああっ!」

 

 

 双方からそれぞれ、赤黒い矢と魔力を帯びたエネルギー弾が放たれた。二つが合わさったその威力は凄まじく、白式の装甲にヒビを入れる程であった。春輝は盛大に吹き飛び、大木に叩き付けられた。だが白式は未だ健在で、春輝は雪片弐型を杖代わりにしてフラフラと立ち上がった。

 

 春輝「ぐ、あっ……!ごほっ……!お、お前等ァァァァ…………!!」

 鬼崎「ふう……では終わりは僕が」

 

 『Full Charge』

 

 ライダーパスをベルトに翳し、双銃を構えて弾を撃った。満身創痍の春輝にはこれは避けられず、銃撃を受けて倒れた。

 

 春輝「ぐっ、この程度……!」

 鬼崎「まだ終わりじゃありませんよ?」

 春輝「な!?」

 

 春輝の頭上に巨大な雷雲が発生し、段々と大きくなっていった。そして先程弾が当たった白式の装甲には呪詛のマーカーが浮かび上がる。

 

 春輝「な、何だよこれ!?」

 鬼崎「さっきの弾が当たった時点で、貴方は既に詰んでいたんですよ……?あの弾はマーキング弾で、貴方に確実に止めを指す為の下準備だったんですよ……」

 

 雷雲からはゴロゴロと雷の音が響き、春輝の頭上を覆っていく。

 

 

 春輝「あ……ああ…………!」

 鬼崎「自分の罪をよく噛み締めた上で、出直して来なさい!《吸血竜姫の鎮魂歌(レクイエム・ドラキュリア)》!!」

 

 その叫びを合図として、雷雲から巨大な雷が春輝に向かって落ちてくる。

 

 春輝「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」バリバリバリィッ

 

 マーカー効果で避ける事も出来ず、雷をもろに受けた春輝は、プスプスと煙を立てて倒れた(勿論ISは強制解除)。

 四人は変身を解除し、シュラは蔦を伸ばして春輝を拘束した。

 

 シュラ「よし、我等も急いで戻るぞ。牙也の容態が心配だ」

 夏煉「牙也さん、大丈夫でしょうか……?」

 鬼崎「今は、無事を祈るしかないね……」

 蔦で拘束した春輝を引き摺りながら、四人は学園へと戻っていった。

 

 

 

 

 一方、こちらは牙也が運び込まれた病院の一室。ベッドでは手術を終えた牙也が寝息をたてており、その回りを箒達が囲み、じっとその様子を見ていた。

 

 箒「良かった……無事に手術が済んで」

 セシリア「お医者様も、命に別状はないとおっしゃってましたし、もう安心ですわ」

 鈴「全く、気持ち良さそうに眠っちゃって……あたし達がどんだけ心配したか……」

 ラウラ「その通りだ。後で教官にきつく叱ってもらわねばな」

 シャルロット「まあまあ、無事だったんだからそれで充分でしょ」

 真耶「一時はどうなるかと思いましたが……本当に良かったです!」

 簪「うん……良かった……!」

 

 コンコンコンーー

 

 箒「どうぞ」

 

 キィーー

 

 シュラ「来たぞ。容態はどうだ?」

 箒「手術して傷は塞いだ。もう心配ないぞ」

 鬼崎「そうですか……申し訳ないです、僕達の我が儘で、牙也さんに大怪我を負わせてしまって……」

 鈴「謝らなくても良いわよ。牙也はこういう奴だって、あたし達も知ってるし」

 夏煉「ですが……!」

 セシリア「事情は全て聞いておりますわ。貴方を庇って牙也さんが大怪我を負われたと」

 シャルロット「牙也さんはこういう人なんだよ。自分の事じゃなくて、他の皆の事を優先する人なんだ」

 簪「良い意味なら仲間思い……でも悪い意味なら命知らず……」

 千冬「だが、そんな風でないと牙也ではないからな。あの行動は牙也らしいと言えば牙也らしい物だ」

 ラウラ「それに、こいつの事だからその程度笑って許すだろう」

 薫「自分が死にかけたって言うのに?」

 シュラ「問題あるまい。どうせ牙也の事だ、『『俺が守らなきゃ、そいつが大怪我してたからな』』って言うだろうーーって、牙也お前、起きてたのか」

 牙也「たった今な。皆、迷惑かけてすまないな」

 鬼崎「いえ、僕達の方こそ、ご迷惑をおかけしました」

 牙也「良いって良いって。今こうやって生きてんだから、別に何も問題ないだろ?」ハハハ

 簪「牙也さん……少しは自分の事も考えてよ……」

 薫「そうよ。今回は何とかなったけど、次はそうはいかないかもしれないのよ?」

 牙也「悪い悪い。次は気を付けるよ」

 箒「全く……心配かけた罰だ。退院したら、全員にご飯を奢れよ」

 牙也「うっへ、それだけはご勘弁!それ以外なら何でもするからさ!」

 千冬「ほほう、何でも、と言ったな……?」ニヤリ

 牙也「ちょ、千冬さん。何さ今の?」

 千冬「ちょっと耳を貸せ」ゴニョゴニョ

 牙也「えー……俺、その辺は疎いですよ?大丈夫かねぇ……?」

 千冬「お前の直感で良い。では頼むぞ、牙也。お前達も、何かしら願いを言っておけ」

 『はーい』

 箒達は願い事を何にするか考え始めた(何故か麻耶も混じっていたが)。

 牙也「はぁ……これを期に、少しは自重しなきゃな」

 シュラ「全くだ。お前に死なれたら、こっちは大迷惑なんだ、本当に頼むぞ?」

 牙也「ああ……」

 牙也は自身に出来た刀傷と銃痕を軽く撫でた。

 牙也(一つ分からねぇのは、俺を銃撃した奴だ……奴は一体、何を企んでやがる……?例の一件と何か関係があるのか……?)

 銃痕をチラッと見た牙也は、そんな不安にかられていた。

 

 

 

 

 一週間後。牙也の傷も無事に完治し、この日は鬼崎達とお別れする事になっていた。しかし、この日は平日で箒達は見送りに行けず、シュラは調査でヘルヘイムの森に戻っていた為、牙也一人が見送りに来た。

 牙也「また遊びに来いよ?その時は負けないからな」

 鬼崎「次こそは決着をつけましょう。それまで鍛練を怠らないで下さいね?」

 薫「他の皆がいないのが寂しいねぇ……」

 牙也「仕方ねぇさ。皆本業で忙しいんだ」

 夏煉「お世話になりました。皆さんによろしくお伝え下さい」ペコリ

 牙也「おう。ロックシード、上手く使ってくれよ?一歩間違えたら、シュラの奴が容赦なく叩き潰しに行くからな」

 鬼崎「承知してます、ご心配なく」

 薫「約束はキチンと守るわよ!」

 牙也「それなら別に良いさ。お前らの主とやらにも、よろしく伝えてくれよな」

 鬼崎「はい。では、そろそろ……」

 

 すると、鬼崎達の後ろに幽霊列車が止まった。客車のドアが開き、鬼崎達が乗り込んでいく。

 

 鬼崎「それじゃ、僕達はこれで失礼します。お体にお気をつけて」

 薫「また会おうね!」

 夏煉「お世話になりました!」

 

 ドアが閉まると、幽霊列車は走り出し、あっという間に空へ消えていった。

 それを見ながら、牙也はある事を思い出していた。それは、退院の数日前の事だった。

 

 

 

 

 ーー回想ーー

 

 

 医者「うん、傷もほとんど塞がってるね。これなら、後二、三日すれば退院出来るよ」

 牙也「そうですか……ありがとうございます」

 医者「ただね、僕が危惧してる事が一つあるんだ。よく聞いて」

 牙也「何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 医者「君のその刀傷、次に同じように傷口が開いたら、もう助けようがない。エネルギーを纏った剣で斬られた、と言っていたね?その剣のエネルギーが、ごく微量だが体に残ってしまっている。次にその傷が開いたら、その微量のエネルギーによって君の体を破壊しかねない。今後も戦うと言うのなら、あまり無茶しないようにしたまえ」

 

 

 

 

 

 

 牙也「そう、ですか……分かりました」

 

 

 

 ーー回想 了ーー

 

 

 牙也(……怖いな。戦えなくなるのは。誰も守れなくなるのは。と、なると……まずは俺自身、だな)

 

 そんな事を決意しつつ、牙也は青い空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かのビル。その一室で、二人の男女が話していた。

 女「……仕留め損ねた?珍しいわね、貴方が獲物に逃げられるなんて」

 男「ええ。思わぬ邪魔が入りましてね、処分しようかと考えたんですが……その邪魔者が獲物を横取りしてしまいまして……まあその獲物は生き延びましたが」

 女「あら、残念ね。まあ良いわ。次こそは頼んだわよ」

 男「仰せのままに」

 女は部屋を出ていった。一人残された男は、手に持った銃をある方向に向けた。

 男「貴方を撃ち抜きましょう……この世界の平和の為に」

 男が銃を向けた先には、

 

 

 

 

 

 牙也の写真が沢山貼ってあった。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 




 悪維持さん、コラボして下さり、ありがとうございました!

 次回から本編に戻ります。コラボの連打で大変お待たせしてしまいました。読者の皆さんが楽しんで頂けるよう、これからも精進していきますので、よろしくお願いします!



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福音嘆ク時、勇将ハ消失ス
第23話 夏ノ準備モ楽ジャナイ(前編)


 本編再開です。まずは福音編の前のお買い物から。内容詰め詰めなので、前後編に分けて投稿します。
 では、どうぞ!




 三人称side

 

 千冬「牙也、付き合え。約束を果たしてもらうぞ」

 牙也「へいへい。さっさ行きましょ」

 

 というわけで、以前の約束を果たす為、牙也は千冬と共に大型デパート『レゾナンス』を訪れていた。ここは服屋・雑貨屋・レストランなど様々な店が入っている商業施設。ここに来れば大抵の物は揃う程、店が充実している場所だ。で、千冬の約束はと言うとーー

 

 

 

 

 千冬「牙也、これとこれはどちらが良い?」

 千冬は白のビキニと黒のビキニを手に取って牙也に見せた。

 牙也「黒っすね」ソクトウ

 千冬「やはりか。私もそう思っていたところだ」

 牙也「千冬さんの場合は赤とか白じゃなくて、黒とか青の濃い色のが似合ってると思いますけどね」

 

 

 『水着選びを手伝う事』。IS学園では、新入生はこの時期臨海学校があり、その前に水着を新調する子が多い。一年一組担任の千冬もまた例外ではなく、今回は牙也を連れて服屋を訪れていた。千冬の水着を買い終え、二人はレゾナンス内を見て回っていた。

 

 牙也「あ~、眩しい……目がチカチカする……」メヲゴシゴシ

 千冬「牙也は普段こういう所に来ないのか?」

 牙也「日用品は殆ど売店で揃いますからね……それに、余程の事が無い限りは学園を離れませんし」

 千冬「最早学園が家と化しているな……」

 牙也「家が無いから仕方ない仕方ない」

 千冬「ははは、そうだったな。ん、そうだ。ここに来たんだから、牙也の水着も選んでやろう」

 牙也「良いんですか?今日は千冬さんの水着を選びに来たのに……」

 千冬「構わん構わん。どうせ臨海学校にお前も付いて来るのだろう?」

 牙也「そうですけど……」

 

 

 

 ーー回想ーー

 

 

 

 理事長室ーー

 

 轡木「いつもすまないね、牙也君。私達が何も出来ないばかりに任せっきりになってしまって……」

 牙也「気にしないで下さい。俺にしか出来ない事なんですから」

 轡木「いや、牙也君には沢山助けられてるよ。お礼を言うだけじゃ足りないね」

 楯無「理事長の言う通りよ。インベス討伐だけじゃなく、資料作成や戦後処理まで一手に担ってるんだから当然でしょ?働き者ねぇ……」

 牙也「お前はもっと働け。虚さんから苦情が来てるんだよ、サボってばかりで仕事が進まないって」

 楯無「(*ゝω・*)」テヘ

 牙也「簪に報告すんぞてめぇ……」

 楯無「ご免なさい!簪ちゃんに報告するのは止めて!」ドゲザ

 轡木「まあまあ、落ち着きたまえ。そこでだ、今回までの牙也君の働きに感謝して、君に有休をプレゼントしようと思ってる」

 牙也「有休ですか……」

 轡木「この時期は普段より仕事の量が少なくなるからね。今の内に君には思い切り羽を伸ばしてもらおうと思ってるんだ」

 牙也「ですが、大丈夫でしょうか?俺がここを離れてしまって……」

 シュラ「心配するな。何かあれば我が対応する。お前は少しは休め。怪我が治ったばかりでまだ本調子ではあるまい」

 牙也「いや、だが……」

 楯無「休むの!あれだけ働いて、体を壊したらどうするのよ?只でさえ休む間もなく動いてたんだから、殆ど寝てないんでしょ?」

 牙也「」ギクッ

 シュラ「図星か。なら尚更休め。大事な時にブッ倒れられたら、こっちはたまったもんじゃない」

 牙也「ぐぬぬ……分かったよ」

 轡木「それじゃ、ゆっくり休みなさい。なんなら、一年生の臨海学校にでも付いて行きますか?」

 牙也「え~、あれ立派な行事でしょ?流石に俺がお邪魔する訳には……」

 轡木「既に先生方には話を通してあるよ?」

 牙也「有無を言わさず、か……」ハァ

 シュラ「諦めろ。そしてしっかり休んで鋭気を養え」カタポンッ

 楯無「そして、女子高生達の水着を目一杯見てきなさい!」カタポンッ

 牙也「裸エプロンで校門に磔にしてやろうか?」

 楯無「じょ、冗談よ!」アワアワ

 轡木「ははは、まあゆっくり休んで来なさい」

 

 

 

 ーー回想 了ーー

 

 

 

 千冬「ははは、災難だな」

 牙也「笑い事じゃないですよ……ま、気遣ってくれてるのは嬉しいですけどね」

 千冬「フッ……さて、牙也の水着を選びに行くか」

 牙也「どうも……って、あれ?千冬さん、あれって……」

 千冬「む?」

 

 

 近くのオープンカフェーー

 

 鈴「い~ちか!あ~ん!♡」つパフェ

 一夏「あ~ん……うん、旨い!」ムグムグ

 鈴「えへへ……♡久しぶりのデートね!」

 一夏「だな~。ここんとこ俺も鈴も忙しかったから、こんな風に会う暇なんて無かったしな」

 鈴「一夏からデートの誘いが来た時、あたし凄い嬉しかった!久しぶりに一夏に会えるって思って、凄い舞い上がってたんだから!♡」

 一夏「ははは、鈴は可愛いな」ナデナデ

 鈴「にゃう~♡」ゴロゴロ

 

 

 

 /そんじゃ、鈴もあ~ん\

 

 /あ~ん♡……ん、美味しい!\

 

 /もっと食べるか?\

 

 /食べさせて~♡\

 

 

 周りの人『オロロロロ!』サトウダバダー

 

 

 牙也「……無意識に砂糖爆弾(シュガーボム)投下してるよ、あの二人」ニガワライ

 千冬「は、早くこの場を離れるぞ……」ウップ

 牙也「はいはい……」

 

 

 

 

 

 千冬「というわけで、水着売り場に戻って来たが……」

 牙也「……なんすか、この状況」

 

 

 シャルロット「ラウラ、次はこれ着て!」つウサミミ付メイド服

 ラウラ「こ、これか!?わ、私には似合うまい!」

 セシリア「いえいえ、絶対に似合いますわ!それが終わったら、今度はこちらを!」つバニーガールの服

 真耶「その次はこれなんかどうでしょう!?」つ布地少ない黒の水着

 女性店員「こちらなんかどうでしょうか!?凄くお似合いかと!」つお姫様の黒のドレス

 ラウラ「だ、誰か助けてくれ―!!」バタバタ

 

 着せ替え人形にされているラウラの姿があった。

 

 

 

 千冬「……牙也よ。私達は何も見ていない。そうだな?」

 牙也「はい、何も見ていません。どうせ幻聴が聞こえてるせいで、変な景色が見えてんでしょう」

 千冬「そうだな。では、お前の水着をさっさと決めてここを離れるぞ」

 牙也「了解」

 二人は水着を購入して、その店を出ていった。

 

 

 

 

 

 二人はレゾナンスを出て、食べ歩きをしながら街をぶらついていた。

 牙也「旨いっすね、このソフトクリーム」ムグムグ

 千冬「そうだな。噂には聞いていたが、これ程とはな」ムグムグ

 ??「よいしょ……はぁ、重てぇなぁ……って、あれ?」

 ??「あれ?千冬さんじゃないですか!」

 ??「え?あ、本当だ、千冬さんだ!」

 千冬「む?おお、五反田兄妹に御手洗か」

 そこへ、買い物袋を沢山持った一夏と同い年位の少年が二人と中学生位の少女が近寄ってきた。

 牙也「千冬さん、この二人は?」

 千冬「ああ、お前には紹介してなかったな。この二人は一夏の親友で、五反田弾と御手洗数馬だ。で、こっちは弾の妹で五反田蘭だ。三人共、こいつは紫野牙也。IS学園で用務員をしている」

 弾「五反田弾だ!よろしくな!」

 蘭「このバカ兄の妹で、五反田蘭と言います。よろしくお願いします」ペコリ

 弾「バカは余計だ!」

 蘭「バカじゃないの!」

 数馬「はぁ……御手洗数馬だ。よろしく頼む」

 牙也「紫野牙也だ。呼び方は牙也で良い」

 弾「よろしくな、牙也!」

 数馬「よろしく」

 蘭「バカ兄共々、よろしくお願いします」ペコリ

 弾「蘭てめぇ……!」

 蘭「何よ?やるっての、お兄?」

 数馬「止めろ、二人共。公衆の面前だぞ」

 千冬「はぁ……いつも通りだな、お前達は」

 蘭「所で千冬さんは牙也さんと何してたんですか?もしかしてデートとか?」ニヤニヤ

 千冬「なっ!?////そ、そんな訳ないだろう!////」

 牙也「俺は千冬さんの買い物に付き合ってるだけだ。恋人とかそういう関係じゃない」

 蘭「なーんだ、ようやく千冬さんに春が来たのかって期待してたのに……」

 牙也(生活態度直さなけりゃ、男も寄ってこないと思うが……)

 千冬「」ビュッ←手刀

 牙也「おっと」ヒョイッ

 千冬「今何かいらん事を考えたか?」

 牙也「いえ、何も」

 弾「所で一夏は元気にしてるんですか?」

 千冬「ああ、さっきレゾナンスの喫茶店で凰とデートしていたな」

 蘭「鈴さんとですか。それじゃ、邪魔する訳にはいきませんね」

 数馬「良いのか?一夏の所に挨拶に行かなくて」

 蘭「せっかく鈴さんとデートしてるんですから、邪魔するのは失礼ですよ。こういう時くらいは二人っきりにさせた方が良いと思います」

 弾「我が妹も成長したな……」ホロリ

 数馬「お前は成長してないがな」ボソッ

 弾「数馬てめぇ!」

 牙也「まぁまぁ……」

 蘭「お兄、数馬さん、早く行こう?まだ買い物終わってないんだから」

 弾「むう、何か釈然としねぇが……またな、牙也!」

 数馬「一夏によろしく伝えておいてくれ」

 牙也「おう」ノシ

 三人は沢山の買い物袋を持って行ってしまった。

 

 

 牙也「千冬さん、これからどうしますか?」

 千冬「そうだな……何処かで昼飯でも食べるか?そろそろお昼だからな」

 牙也「良いですね。それじゃ、行きm『キャアアアアアッ!!!』っ、何だ?」

 千冬「近いな……行くぞ!」

 牙也「はいはい」

 二人は叫び声のした方へ走っていった。

 

 

 

 

 

 男A「おらおらぁ!どけぇ!怪我したくなかったら、そこを通せぇ!」

 男B「邪魔なんだよぉ!俺達を通しやがれぇ!」

 警官「待てーっ!」

 牙也達二人がいた場所からそう離れていない場所では、人混みの中を刃物を持った男二人が後ろから追ってくる警官や警備員から逃げていた。その手には大きめのバッグが握られていた。

 牙也「……銀行強盗ですかね?」

 千冬「恐らくそうだな。というか……こっちに来てないか?」

 牙也「ですね」

 強盗達は千冬の言う通り、二人の方へ走ってきていた。

 男A「お前ら、どけ!刺されたくなけりゃどけ!」

 そう言いながら、男は刃物を振り回す。牙也と千冬はさりげなく道を開けーー

 

 

 

 男A「おらおら!どけdーーのわっ!?」ズデッ

 男B「あ、兄貴ーーのわっ!?」ズデッ

 

 

 

 足を引っ掛けて転ばせた。

 

 男A「イテテ……何しやがる!?」

 牙也「お前こそ何してやがる?」

 男B「てめぇ……これが分からねぇか!?」つナイフ

 牙也「はいはい」ガシッ←手を掴む

 男B「は?」グイッ←引っ張られる

 

 

 

 牙也「そい」ベシッ

 男B「ぶっ!?」

 

 

 

 牙也は男の顔に張り手を食らわせて吹き飛ばした。ブサイクな声を上げた男は地面に頭を打ち付け、そのまま気絶。

 男A「て、てめぇ!ふざけやがって!」ビュッ

 もう一人の男がナイフを振り回す。が、牙也はそれを難なく避け、

 牙也「ここで問題。男ってな、足のある指とある指の間を攻撃すれば、一撃でダウンするんだと。それはどこだと思う?」

 そう男に問いた。

 男A「はあ!?知るかよそんなの!」ビュッ

 相変わらず男はナイフを振り回す。

 牙也「じゃ、教えてやるよ。それはなーー」

 

 

 ドゲシッ!

 男A「う……うう…………」ドサッ

 

 

 牙也は男に金的を食らわせた。

 牙也「右足の親指と左足の親指の間、だよ」

 金的を受けた男は、股間を抑えてプルプル震えながら倒れた。そこに、警官が駆け寄ってくる。

 警官「ご協力ありがとうございました!」

 牙也「お気になさらず。当然の事をしたまでですから。あ、これこいつらが振り回してたナイフです」つナイフ二本

 警官「あ、どうも。よし、こいつらを連行しろ!」

 男達は無事に連行されていった。

 

 

 三人称side end

 

 




 金的は痛い。それだけは言える。



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第24話 夏ノ準備モ楽ジャナイ(後編)

 後編です。




 三人称side

 

 食事も終わり、牙也と千冬はまたレゾナンスの近くに戻ってきていた。

 千冬「牙也よ。私はこれから用事があるから、一旦学園に戻るが、お前はこれからどうする?」

 牙也「そっすね、俺はしばらくこの辺りをうろついてます。何か欲しい物があるかもしれないんで」

 千冬「そうか。ではまた学園でな」

 千冬は足早に去っていった。

 牙也「さーて、これからどうするか……ん?あれは……」

 

 

 

 簪「えっと……ここ、どこ……?」

 道に迷ったのか、簪が辺りを見回していた。

 牙也「おーい、簪!」

 簪「ひゃっ!?あ、牙也さん……!」

 牙也「どうかしたか?何か迷ってるように見えたが」

 簪「あの……この店、何処か分かりますか?」スッ

 簪が牙也に見せたのは、

 牙也「……新しく開店した、アニメ・漫画専門店か」

 最近オープンした店の広告だった。どうやらこの日は、コスプレイベントがあるらしい。

 牙也「ああ、あそこの店じゃないか?」

 牙也が指差した先には、多くの人が並ぶ店があった。

 簪「あ、本当だ……!ありがとう、ございます……!」

 牙也「良いって良いって。そんじゃ、楽しんでこいよ?」

 簪「あ、あの……牙也さんも、一緒に行きませんか?」

 牙也「へ?」

 簪「ち、ちょっと一人じゃ、心細くて……駄目、ですか?」アウアウ

 牙也「ふむ……分かった、行ってみよう。俺も少しだが興味がある」

 簪「!……はい!行きましょう!」キラキラ

 牙也(目が凄く輝いてる……可愛いわ~)ナデナデ

 簪「ひゃっ!?き、牙也さん!?」

 牙也「ん?ああ、すまんすまん。簪のさっきの顔が可愛かったもんで、ついついやってしまった」

 簪「かわっ……!?////」ボンッ

 牙也「凄く輝いてたからな」

 簪「あ、あうあう……みゅ~////」カオマッカ

 牙也「おーい、簪?行かないのか?」

 簪「は、はい~////」トテテ

 

 

 

 

 楯無「簪ちゃんが心配で様子を見に来たら……」ハァ

 箒「牙也の奴め……」イラッ

 

 ↑建物の陰から様子を見ていた

 

 

 楯無「あれ絶対無意識よね?」

 箒「でしょうね。それもかつての一夏よりも質が悪いから余計に……」

 楯無「大変ね……学園でも牙也君のファンクラブが出来てるって噂がある程だから……」

 箒「会長……その話、もっと詳しく……」ゴゴゴゴゴ

 楯無「ま、まあまあ。その話は後で……ほら、牙也君と簪ちゃんが店に入るわよ」

 箒「追いかけましょう!」

 楯無「はいはい」

 

 

 

 

 簪「牙也さん、まだですか!?」←E.艦○れの○淀のコスプレ

 牙也「もうちょい……よし、出来た!」

 簪「それじゃ、カーテン開けますね!」シャッ

 

 

 牙也「どうだ?」←E.BLE○CHの黒○一護のコスプレ

 

 

 簪「おお~!」キラキラ

 牙也「元々着てた服自体がそっくりだからな……味が出るわ出るわ」

 簪「でも、その眼帯を外したら……もっと完璧……」

 牙也「あ、そっか……そっちの方がもっと味が出るな(あんまり見せたくはないんだがな)」

 

 客A「うおっ!黒崎○護のコスプレだ!」

 客B「すみません、写真に撮らせて下さい!」

 客C「こっちも後でお願いします!」

 

 牙也「へ?」

 簪「人気……ですね。牙也さん、次はこれをお願いします♪」つ戦国BA○ARAの○達政宗のコスプレ服

 牙也「眼帯付けてるなら、最初からこっちにすれば良かったような……」

 簪「気にしたら……駄目ですよ」

 牙也「それもそうか。取り敢えず写真写真!」

 

 

 

 

 楯無「めっちゃ楽しんでるわね」←E.プリ○ュアのコスプレ

 箒「会長も楽しんでるじゃないですか」←E.るろうに○心の○谷薫のコスプレ

 楯無「そう言う箒ちゃんこそ……満更でもないんじゃない?」

 箒「まあそうですが……こんなのがあったとは」

 楯無「まあアニメや漫画と言っても、色んな時代や世界観があるからねぇ。簪ちゃんにそこら辺語らせたら一日じゃ終わらないわよ」

 箒「簪……かなりのオタクだな……」

 楯無「ま、大好きな事を思い切り楽しめてるって意味では、私は喜ばしく思うわ」フフフ

 

 客A「すみません!写真撮って良いですか!?」

 楯無「あら、こっちにも来たわね」

 客B「そちらの方も!ご一緒に!」

 箒「わ、私もか!?」

 

 /ホラホラ-ハヤク!\

 

 /チョ、マッテクダサイ-!\

 

 

 

 簪「お姉ちゃん達……来てたんだね……」←E.SA○の朝田○乃のコスプレ

 牙也「大方、簪の監視だろうけどな。シスコンも大概にしてもらいたいもんだ」←E.戦国○ASARAの伊達○宗のコスプレ

 簪「でも、何か……お姉ちゃんも楽しそう……」

 牙也「今度時間が空いたら、誘ってみたらどうだ?簪の頼みなら、あいつも絶対断らないだろ」

 簪「……!うん、今度誘ってみる!」

 牙也「よーし、もうちょい楽しみましょうかね!」

 その後も、様々なコスプレをして楽しんだ。

 

 

 

 時間はあっという間に過ぎ、夕方ーー。

 

 簪「楽しかった……!」ホクホク

 楯無「いやー、良かったわ~!あんなに楽しめるなら、コスプレも悪くないわね~!」

 牙也「楯無は一番人気だったな。しかも一番ノリノリだったという……」ニガワライ

 箒「……」ムスゥ

 

 

 イベントが終わり、牙也達四人は学園行きの電車に乗る為に駅に向かっていた。

 

 

 牙也「ん?どうかしたか、箒?」

 箒「……何も」プイッ

 楯無「あらあら、私達が牙也君と仲良さそうだから、嫉妬しちゃった?」クスクス

 箒「なっ!?私が嫉妬などと……!」

 簪「……顔に、羨ましいって出てる……」ジー

 箒「うっ!?」

 牙也「思った事が顔に出やすいからな、箒は」ハハハ

 箒「~~~~っ!?牙也貴様!分かっててわざとそうしたのか!?」

 牙也「Yes!」∑d

 箒「……ちょっと一発殴って良いか?」ゴゴゴゴゴ

 牙也「まあまあ。それにしても、箒がやったコスプレも可愛かったな。凄い似合ってたぞ」

 箒「っ!?そうか……似合ってたか……!」ホクホク

 楯無(ちょろいわね~。満更でもない顔しちゃって)

 簪(楽しそう……)

 

 牙也「あ、そうだ。ちょっと飲み物買ってくるわ。何かいるのあるか?」

 箒「私はいい」

 楯無「私もいいわ」

 簪「私も……」

 牙也「ん、分かった」

 牙也は近くのコンビニに入っていった。

 

 楯無「それじゃ簪ちゃん。私達はお先に帰りましょ?」

 簪「え?あ、うん」

 箒「先に帰るんですか?」

 楯無「ええ。ちょっとやる事があってね」

 簪「私も本音が待ってるから……」

 箒「そうですか。じゃあ牙也には伝えておきます」

 楯無「お願いね~」

 簪「それじゃ、また学園で……」ペコリ

 箒「またな。今度また誘ってくれ」

 

 

 

 牙也「お待たせ……ってあれ?楯無と簪は?」

 箒「先に帰ったぞ。何かやる事があるとかで」

 牙也「ふーん……ま、良いか。俺達も帰るか?」

 箒「そうだな。門限もあるしな」

 二人はさっさと電車に乗り込んだ。

 

 

 牙也「いや~、楽しかった!久しぶりにあんなにはしゃいだぞ」ノビー

 箒「お前も会長も簪も、楽しそうだったからな」

 牙也「箒はどうだったんだ?」

 箒「わ、私か?……まあ、楽しかった」

 牙也「そりゃ良かった。ま、あんな満更でもない顔してりゃ、誰でもそう思うか」

 箒「牙也貴様!」

 牙也「ははは、悪い悪い。でも楽しかったんだろ?」

 箒「ま、まあ、な////」テレテレ

 牙也「ははは……ふぁぁぁ~、眠い……」

 箒「む、疲れたのか?」

 牙也「多分な……久しぶりにあんなに騒いだから、当然か……悪い、少し寝るわ。駅に着いたら起こしてくれよ……zzz……」コテン

 遊び疲れたのか、牙也はすぐに眠ってしまった。

 

 箒「全く……調子の良い奴め……」ハァ

 そうぼやきながら、箒は牙也の寝顔を見た。穏やかに眠る牙也のその顔は、少し幼さが感じられた。

 箒「ふっ……まあ、ゆっくり休めよ」

 すると、

 

 

 コテンッ

 箒「っ!?」

 

 眠っている牙也の体がバランスを崩して、箒に倒れかかってきた。ちょうど箒の膝に牙也の頭が乗っかる形になった。

 

 箒「……////」カァ

 顔を赤くしてチラチラと牙也を見る箒。

 箒(や、休めとは言ったが、ここまでしろとは言っておらんぞ!////)←でも満更でもない

 しばらく悶々としていた箒だが、やがて諦めたかのようにため息をついた。

 箒「ふぅ……まあ、今日くらいは良いか」ナデナデ

 そう言って、軽く牙也の頭を撫でた。

 牙也「…………うみゅ」

 箒「」クスクス

 牙也「……zzz」

 箒「……いつも悪いな。お前にばかり無茶をさせて」

 牙也「……zzz」

 箒「私はまだ、お前のように強くはない。こないだの一件だってそうだ。私の実力では、あの者達には敵わなかった。まだ、お前のいる領域には届きそうにない。だが……」

 牙也「……zzz」

 箒「だからこそ……だからこそ、強くなりたい。いつか、お前を追い抜かし、お前を守りたいと思う。私が守られた分、今度はお前を守るんだ。だから……見ていてくれ」

 

 

 

 箒「例え届かぬ目標だとしても、例えどんどん先に行ってしまおうとも……それでも、私はお前を追いかけ続ける。いつか、お前と並んで戦いたいから」

 

 

 

 牙也(…………ありがとうな、箒。だが、そう易々とは抜かさせないさ。だから、必死になって追いかけて来い。いつでも手合わせしてやるよ)

 ちゃっかり起きていて、箒の言葉を聞いていた牙也であった。

 

 

 

 

 

 

 シャルロット「……あの二人、いずれ鈴と同類になりそうな予感がするのは僕だけかな?」

 セシリア「奇遇ですわね。私も同じ事を考えていましたわ」

 ラウラ「ふむ……あの二人も『バカップル』になる可能性あり、か……」メモメモ

 麻耶「あのー、ボーデヴィッヒさん?そのメモ帳は一体……?」

 

 

 

 隣の車両にたまたま乗っていて、この光景を見てしまったセシリア達であった。

 

 

 

 

 三人称side end

 

 




 次回から、ようやく福音編になります。

 できる限り、楽しんでいただけるような小説を書いていこうと思ってますので、よろしくお願いします!

 それでは、また次回!


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第25話 ツカノ間ノ楽シミ

 先に言っておきます。作者はファッションセンス皆無です。故に「明らかに違うだろ」と思う所もあると思いますが、ご了承下さい。問題ないという方は、どうぞ。




 三人称side

 

 トンネルを抜けると、そこはーー

 

 

 

 女生徒達『海だーーーーーー!!!』ヒャッハー!

 牙也「落ち着け」

 

 

 

 一面の水平線。今日は、学園の一年生達にとっては待ちに待った臨海学校の日。というわけで、一年生達はバスに揺られて宿泊する旅館へ向かっている最中。海が目の前に見えた途端にこの喜びよう、それだけ楽しみだったのだろう。

 

 牙也「うるさいな……何で海見ただけでこんなに騒げるんだよ……?」

 千冬「まあそう言うな。今日は一日自由時間だから、ここまで騒ぎたくなるのも当然だろう」

 牙也「ああ、そういう事……」ハァ

 セシリア「牙也さんは楽しみではなかったのですか?」

 牙也「いや、そういう訳では……」

 鈴「だったら思い切り楽しみなさいよ!こういう時を大事にしなくちゃ!」

 牙也「まあそうだが……そういやぁ鈴、こないだ一夏とデートしてたな、新しい水着でも買ったのか?」

 鈴「え!?う、うん、まぁ……////て言うか、何で知ってんのよ!?」

 牙也「いや、たまたま近くを通りかかったんだよ、千冬さんと」

 千冬「端から見ても良く分かったぞ、甘い光景だったな。逆に周りは砂糖爆弾(シュガーボム)に見舞われていたが……」

 シャルロット「相変わらず仲が良いね、一夏さんと鈴は」クスクス

 ラウラ「仲睦まじいのは良い事だ」ウンウン

 セシリア「ご馳走さま、ですわ」フフフ

 鈴「あぅぁぅぁ~~////」カオマッカ

 

 真耶「織斑先生、そろそろ到着ですよ」

 千冬「そうか。各自、下車の準備をしておけ。バスに忘れ物するなよ」

 女生徒達『はーい!』

 

 

 

 

 千冬「ここが今回宿泊する旅館だ。女将に挨拶を」

 女生徒達『よろしくお願いします!』

 女将「はい、よろしくお願いしますね。所で、例の二人は?」

 千冬「春輝、牙也。こっちだ」

 牙也「はいはい」

 春輝「分かったよ、千冬姉」

 千冬「織斑先生だ」ベシッ

 春輝「いてっ!……織斑春輝です」

 牙也「紫野牙也です。お世話になります」

 女将「こちらこそ。えっと、どう区別したら良いかしら?」

 牙也「そうですね……織斑はISを動かしたイレギュラー、俺はそもそも学園の生徒でも教員でもないイレギュラー、って感じで」

 女将「あら、では貴方が直前に入った……」

 牙也「そうなります。すみませんね、突然入ってきちゃって」

 女将「いえいえ。では、ごゆっくりどうぞ」

 女将は奥へ消えていった。

 千冬「よし、各自それぞれの部屋に荷物を置き次第、自由時間とする!部屋の鍵をもらった者からどんどん中に入れ!」

 千冬のその言葉と同時に、次々と生徒は中に入っていく。

 牙也「千冬さん、俺達の部屋はどうなってんだ?」

 千冬「春輝は私とで、牙也はーー」

 箒「私だ」

 いつの間にか箒が牙也の横に立っていた。

 牙也「箒と同室か。よろしくな」

 箒「あ、ああ、よろしく頼むぞ」

 千冬「よし、春輝はこっちだ」ガシッ

 春輝「ちょ、千冬姉、何で頭を掴んで……ちょ、痛い痛い!引き摺らないで!」

 

 

 ァァァァァァーー

 

 

 牙也「……俺達も部屋に行くか」

 箒「……ああ」

 

 

 

 牙也「おお~。良い部屋だな、落ち着きがあって」

 箒「そうだな……」

 牙也「ん?どうかしたか?」

 箒「あ、いや……こうやってお前と一緒の部屋で寝るというのは初めてだな、と思ってな」

 牙也「そういやぁそうだな。……ヤバい、今頃になって意識し出してきた」

 箒「ちょ、落ち着け!ここはゆっくりと息を吸って吐いて……」

 牙也「す~は~す~は~」

 箒「そこで止める」

 牙也「うっ!」

 箒「」

 牙也「」

 箒「」

 牙也「……ブハアッ!まだか!?」

 箒「あ、すまんすまん。まあ少しは落ち着いたろ?」

 牙也「あ、本当だ。すまんな」

 箒「気にするな。それじゃ私は先に向かうぞ」

 牙也「おう」ノシ

 

 

 侵食者着替え中ーー

 

 

 牙也「よし、行こうか」

 

 牙也E.黒に蒼のラインの入った水着+黒のパーカー

 

 牙也「さーてと、皆は何処に……ん?」

 

 何故か地面にウサミミが刺さっていた。

 

 牙也「はあ……」ピッピッピッ

 

 prrrrー prrrrー

 

 束『もすもすひねm牙也「束さん、近くにいるでしょ?」何故バレた!?』

 牙也「地面にウサミミ突き刺すような人は、俺が知る辺り束さんしかいないんで」

 束『むう、さすが牙君だね!束さんはうr牙也「さっさと用件を言って下さい」スルー!?後牙君から掛けてきたんでしょ!?』

 牙也「そうですが何か?」

 束『悪びれもせず返すかな普通!?束さんおこだよ!?激おこだよ!?プンプン丸だよ!?』

 牙也「ハイハイソーデスカソレハコワイデスネー」

 束『……さすがの束さんも泣くよ?』

 牙也「良いじゃないですか、泣けば」

 束『辛辣!もー牙君なんか知らないもんね!』

 牙也「ハイハイ、早く用件を言って下さい」

 束『全くしょうがないなぁ。明日、そっちに行くよ!以上!』

 牙也「じゃ一夏も連れて来て下s束『もう既にクロちゃんと一緒に来てると思うよ?』じゃ後で適当に写真送りますんで」

 束『はいはい、じゃよろしくね~!』

 

 

 

 牙也「……行くか」

 

 

 

 

 シャルロット「あ、やっと来た!」

 セシリア「遅いですわよ、牙也さん」

 

 シャルロットE.黄色のビキニ(同色パレオ付き)

 

 セシリアE.青色のビキニ

 

 牙也「悪い、少し野暮用でな。箒達は?」

 セシリア「あちらに」

 牙也がその方向を見るとーー

 

 

 

 箒「ラウラ、牙也にその姿を見てもらいたいと言ってなかったか?」

 ラウラ「ちょ、ちょっと待て!まだ心の準備が……!」

 鈴「はいはい、早くする!もう既に牙也がそこにいるんだから!」

 

 箒E.赤色のビキニ

 

 鈴E.橙色のビキニ(花柄パレオ付き)

 

 ラウラE.黒ウサギの着ぐるみ

 

 牙也「……何故ラウラだけ着ぐるみ?」ハテ…

 セシリア「あれの下に水着を着ていらっしゃるのですが……」ニガワライ

 シャルロット「ずっとあの調子なんだよね……」ニガワライ

 牙也「おーい、三人共」

 ラウラ「っ!?牙也!?ちょっと待て、もう少し待ってーー」

 箒「このままじゃ埒が明かん。鈴、やるぞ」

 鈴「はいはい、それじゃオープン!」バサッ

 ラウラ「待っーー!」

 

 ラウラE.黒色のフリフリ水着

 

 牙也「( ゚д゚)」ポカーン

 ラウラ「……な、何か言ってくれ////」

 牙也「……ヤバい、凄い愛でたくなってくる程に可愛い」

 ラウラ「////」ボフンッ

 セシリア「やはりそうですか。私達が選びに選んだ甲斐がありましたわね」フフン

 シャルロット「色々吟味した結果これになったけど、正解だったね」ウンウン

 牙也「まああんだけ着せ替え人形にしたんだからそうだよな」ハァ

 シ・セ「「なんで(なぜ)知ってる(います)の!?」」

 牙也「え?さっきの鈴のデートと同じ理由だが」

 ラウラ「近くにいたのなら止めてほしかったぞ……」

 千冬「危機回避は当然だろう?」

 

 千冬E.黒色のビキニ

 

 ラウラ「き、教官……何故止めに来なかったのですか……?」

 千冬「一言で言うならラウラ、お前は一般人の日常を知るべき、という事だ。まあその辺りの話はまた後にしろ。お前達、今のうちに思い切り楽しめよ、明日は忙しいのだからな」スタスタ

 千冬はさっさと行ってしまった。

 牙也「……取り敢えず遊ぼうや」

 『はーい』

 鷹月「あ、牙也さん!ビーチバレーしませんか?」

 相川「人数が足りなくて困ってたの。大丈夫ですか?」

 牙也「俺は構わんが……皆はどうする?」

 箒「私も参加しよう」

 ラウラ「私もだ」

 鈴「あたしは……どうしようかな」

 牙也「そう言えば、どっかに一夏がいたh一夏「おーい!」あ、いたいた。鈴はやっpーーもういないし」

 

 /イチカ-!リーン!\

 

 シャルロット「一夏さんの事になると本当に早いよね、鈴って」アハハ

 箒「誰でも分かっているぞ、それは」ウンウン

 ラウラ「二人はどうする?」

 セシリア「私は向こうで休んでおりますわ」

 シャルロット「僕は少し泳いでくるよ。後で合流するね」

 牙也「分かった」

 千冬「ほう、ビーチバレーか。私も参加しよう」

 牙也「あれ、千冬さんもやるんですか?」

 千冬「うむ、負けないぞ」

 牙也「よし、チーム分けといこうか。俺と千冬さんは別々な」

 という訳で、ビーチバレーが始まった。

 

 

 

 

 十分後ーー。

 シャルロット「お待たせ……ってあれ?皆休憩中?」

 鷹月「あ、いや、そうじゃなくて……」

 相川「ほら、あれ……」

 シャルロット「?」チラッ

 

 

 千冬「そらっ!」バシッ

 牙也「甘い!」バシッ

 ラウラ「まだだ!」ビシッ

 箒「はあっ!」ビシッ

 

 

 シャルロット「( ゚д゚)」ポカーン

 鷹月「あの四人が無双してて……」

 相川「私達、出番がないのよね……」ニガワライ

 

 四人の独断場となったビーチバレーだった(ちなみに結局勝負はつかず、明日以降に持ち越しに)。

 

 

 

 

 

 夜。夕食の時間になり、大広間に集まった生徒・教員達は、楽しく夕食を食べていた。

 

 牙也「ちょ、セシリア、シャルロット!そんなに山葵を食べたら!」

 シ・セ「「~~~~~~っ!?」」モンゼツ

 牙也「遅かったか……ほれ、水だ」つ水inコップ

 シ・セ「「」」ゴクゴク

 牙也「山葵はな、こうやって刺身にほんのちょびっと付けて食べるんだぞ」

 セシリア「も、申し訳ありません……」

 シャルロット「ま、まだ舌がヒリヒリする……」

 

 一夏「はい鈴、あ~ん」つ刺身

 鈴「あ~ん♡ん~おいひ~♡」パクッ

 一夏「本当に美味しそうに食べるな、鈴は」ナデナデ

 鈴「だって一夏が食べさせてくれるんだもん!♡美味しくない訳ないでしょ!♡」

 一夏「ハハハ、そりゃ良かった」ナデナデ

 鈴「~♡」ゴロニャーン

 

 ラウラ「篠ノ之、箸が上手く使えん!食べさせてくれ!」

 箒「わ、私がか!?牙也に頼めば良いだろう!?」

 ラウラ「さ、さすがにそれは恥ずかしい……!」

 箒「ああもう、分かった!私が食べさせてやる!ほら、口を開けろ!」

 仲居「お客様、フォークをお持ちしましょうか?」

 ラウラ「是非とも頼む」

 箒「最初からそうすれば良かったのか……」ハァ

 

 

 真耶「楽しそうですね」

 千冬「ただ喧しいだけだ。お前達、もう少し静かに食べろ!後、一夏と凰はこの場で食べさせ合いをするな!周りが砂糖まみれになっているぞ!」

 

 

 楽しく…………なのか?

 

 

 

 

 

 何処かのビル。そこでは、数人の男女が話していた。

 ??「……奴の力を手に入れれば、この世界は俺達の物になるんだよな?」

 ??「ええ、その通りよ。だから、精々キチンと仕事をこなしてね?」

 ??「仰せのままに」

 

 

 絶望は、すぐそこに迫りつつあったーー。

 

 

 三人称side end

 

 




 取り敢えずここまで。次回ようやく福音騒動です。



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第26話 幸運ト不運ハ紙一重

 原作の臨海学校って色々大混乱だったような……束さん来たし。今回はまだ福音戦には入りませんのであしからず。
 紅椿?ちゃんと出すよ!




 三人称side

 

 シュラ「この辺りだな……まさかブルーベリーロックシードがこれ程に反応するとは……。一体何が……?」

 

 ヘルヘイムの森を歩くシュラ。手に持っているのは、青く輝きを放つブルーベリーロックシード。さらにロックシードからは、真っ直ぐに青い光が伸びて道を示している。シュラはそれを頼りに森の中を進んでいく。

 

 シュラ「む?あの辺り、なにやら騒がしいな……こんな時間にインベス達が騒ぐとは、一体……?」

 

 ロックシードが指し示す方向から、なにやら大きな音が聞こえる。その音の中には、どうやら爆発音が混じっているようだった。シュラはその方向へ足を進めたーー。

 

 

 

 

 

 

 牙也「…………」ムクリ

 牙也「…………」ボケッ

 牙也(夢か……)

 

 夢だった。牙也が窓を見ると、まだ夜明けには早かったようで、空はまだ暗い。

 

 牙也(あの夢……シュラの記憶?しかもあいつが手に持ってたのは、ブルーベリーロックシード…………一体何を意味してるんだ……?)ウーム

 

 箒「……んむ……?牙也……?」ムクリ

 牙也「ああ悪い、起こしちまったか。もう少し寝てな。まだ夜明けには早い」ナデナデ

 箒「そう……か…………zzz」バタッ

 

 時計を見ると、時刻はまだ午前三時半過ぎ。どうやら早く目覚め過ぎたようだ。喉の渇きを覚えたのか、牙也は荷物の中からお茶のペットボトルを取り出して飲んだ。

 

 牙也「」フゥ

 

 ペットボトルの蓋を閉めて一息。そして牙也は、先程の夢をもう一度思い出していた。

 

 牙也(……戻ったら、シュラの奴に聞いてみるか。ま、どうせ適当に流されるだろうが……)

 

 そう考えて、牙也は再び布団に潜り込み、眠りについた。

 

 

 

 

 

 朝ーー。

 

 牙也「」モグモグ←頭に包帯巻いてる状態

 箒「」ショボン

 牙也「……何時まで悄気てんだよ、俺はもう良いって言ったろ?」

 箒「……お前が許しても、私は許せんのだ……」ドヨーン

 箒は机に突っ伏していた。

 

 鈴「おはよ」

 セシリア「おはようございます」

 シャルロット「おはよう」

 ラウラ「おはよう……って、篠ノ之は何故朝からそんなに悄気ているのだ?」

 そこへ鈴達が朝食を乗せたお盆を持って近付いてきた。

 牙也「……聞かないであげてくれ」

 箒「私からも頼む……主に私が原因なのだ……」ドヨヨーン

 鈴「……大方察したわ」

 セシリア「その頭の包帯が何があったか物語ってますわ」

 シャルロット「あ、あはは……」

 ラウラ「?」

 ラウラだけはこれを理解出来ず、小首を傾げていた。

 牙也「それよりお前等も早くご飯食べろよ?この後に実習か何かあるんだろ?」

 鈴「そうだった、急がなきゃ!」

 鈴達も慌てて朝ご飯を食べ始めた。

 

 

 ちなみに牙也と箒に何があったかを簡潔に纏めるとーー

 

 

 

 

 

 箒が寝ぼけて牙也の布団に潜り込む

 →箒が牙也を抱き締めて抱き枕状態(牙也の顔が箒の胸に埋まっている状態)になり、そのまま寝る

 →夜が明けて箒が起きる

 →寝ている牙也の顔が自身の胸に埋まっている事に気付く

 →恥ずかしさと怒りで大混乱

 →思わず近くにあったジュースの空き瓶で牙也をぶん殴る

 →殴られた衝撃で牙也が起きる

 →箒、牙也との言い合いで自分が寝ぼけて牙也の布団に潜り込んでいた事に気付く

 →牙也をふと見ると、頭から出血

 →また大混乱

 →千冬が起こしに来る

 →状況を見て千冬も大混乱

 →牙也の説明で事情を知り、取り敢えず治療

 →治療後、箒が土下座で謝罪、牙也はこれを許す

 

 という事があった。

 

 

 

 

 千冬「……相部屋のコンビを間違えたな。すまん」

 牙也「今さらですよ。こればかりは俺もどうしようもないですから。不可抗力ですよ、不可抗力」イテテ

 牙也は包帯を巻いた頭を擦りながら自嘲気味に話した。現在、牙也は朝食を終えて千冬と話している所だ。

 千冬「怪我自体は傷が浅かったから大した事はないが、今日一日は包帯巻いて様子見だ」

 牙也「へいへい。今日は海岸で座禅でもしてますよ」

 牙也はそう言って部屋に戻っていった。

 千冬「牙也が座禅か…………束に頼んでイタズラしてみようか」

 良からぬ事を考えてた千冬であった。

 

 

 

 

 少し時間が経って旅館近くの海岸。一年生達と教員が集まり、授業が始まろうとしていた。

 千冬「ではこれより、専用機組とその他に分かれて実習を行う。専用機組は私に、それ以外は山田先生に付いて行け」

 『はいっ!』

 二グループに分かれてそれぞれの作業が始まる。箒達専用機を持たない生徒は、真耶の指導の下量産機を乗り回している。専用機組は、春輝を除いた全員が新たな武装を試したり、新しく追加されたパッケージをダウンロードしたりしている(春輝は千冬が戦闘指導中)。とそこへ、

 

 束「ち~~ちゃ~~~~~ん!!!」ヒューン

 

 突然束が降ってきた。そして地上ギリギリでパラシュートを開いて華麗に着地した。

 

 束「ほいっと!やあやあ諸君、こんにちは!」

 セシリア「あら、篠ノ之博士。お久しぶりですわ」

 鈴「あ、束さん!お久しぶりです!」

 束「やっほーい鈴ちゃん!皆も久しぶり♪新パッケージのダウンロードは進んでる?」

 シャルロット「皆今ダウンロードしてる所です」

 束「うんうん、それは良かった!後でダウンロード手伝ってあげるよ!ところでちーちゃんは?」

 ラウラ「教官ならあそこに」

 

 春輝「うおおおおおおおおおおおっ!」ゴォッ

 千冬「甘い!」ガキンッ

 春輝「ぐあっ!」ドサッ

 千冬「その程度か!?」

 春輝「くそっ、まだだぁぁぁぁぁぁ!!」ゴォッ

 

 束「なんだ、あいつの指導中か。ほっとけば良いのに」

 鈴「そりゃ一応弟ですからね。しかも初の男性操縦者という肩書きを持ってる」

 セシリア「その肩書きを悪用する未来が見えるのは私だけでしょうか?」

 一夏「……それ多分皆も考えてると思うぜ」

 鈴「あ、一kーーって何それ!?」

 そこに合流した一夏は空中を浮遊する機械的な椅子に座っていた。

 一夏「これか?束さんがこういう時の為に作った車椅子の代わりだ。名前は…………何だったっけ?」

 束「【浮遊椅子フワちゃん三号】だよ!」

 『……ネーミングセンスが……』

 束「言わないで!文句は作者にーー」

 牙也「束さんメタいメタい!」

 一夏「おお、久しぶりだな、牙也!って、その頭どうした?」

 牙也「久しぶりだな、一夏。後、頭については聞かないでくれ」

 一夏「お、おう……」

 束「そう言えば箒ちゃんは?」

 簪「篠ノ之さんは別行動です。専用機持ってないから」

 束「あ、そっか。アーマードライダーだからついつい……」アハハ

 

 千冬「来てたのか、束」

 そこに指導を終えた千冬が来た。

 束「ちーちゃんお久!というわけで再会のハグをーー」ガバッ

 千冬「後にしろ」ガシッ←アイアンクロー

 束「いだだだだだ!ちょ、ちーちゃんギブギブギブ!」パンパンパン

 一夏「千冬姉、それくらいに……」

 千冬「ふん、今回は一夏に免じてこれくらいにしてやる」ペイッ

 束「あふんっ!」ベシャッ

 千冬「久しぶりだな、一夏。足の方は大丈夫か?」

 一夏「大丈夫だって!これくらい何て事ないよ」

 千冬「そうか……すまないな、本当に」

 一夏「何度も言ってるだろ、千冬姉は悪くないってさ。今こうやってちゃんと生きてるんだから、別に何も問題ないさ」

 千冬「一夏…………ありがとう」ギュッ

 一夏「おっと……良いって良いって」ギュッ

 

 

 牙也「家族愛、姉弟愛ってのは、良い物だな」

 鈴「そうね……本当に良い物ね」ウンウン

 ラウラ「ドイツにいた頃は、教官はあんな顔は決して見せなかったな。私の知らない教官の顔、か……」

 シャルロット「家族の前だからこそ出せる顔だね」フフフ

 セシリア「微笑ましいですわ」ニコニコ

 簪「仲良しなのは良い事……」ウンウン

 

 

 春輝「ふん、どこが微笑ましいんだか」

 

 

 そこに春輝も入ってきた。

 鈴「ちょっと、今良い所なんだから入ってこないでよ」

 春輝「辛辣だなぁ。ちょっとくらい話に入ったってーー」

 セシリア「生憎、余計な茶々を入れるような人の言う事を聞く耳なんて私達皆持ち合わせておりませんの」

 春輝「なんだと!?」

 ラウラ「ふん、これくらいの挑発に反応する辺り、一つも成長していないようだな」

 シャルロット「白式が可哀想だね。こんな人に使われてるなんて」

 春輝「てめぇら……!」グッ

 簪「私も……あんまり貴方とは関わりたく、ない……」

 春輝「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!」バッ

 春輝が簪に殴りかかった。が、

 

 牙也「止めろ、馬鹿」スッ

 春輝「んな!?」ズデッ

 

 牙也が足を引っ掛けて転ばせた。春輝の顔が海岸の砂にめり込む。

 春輝「いてて……お前、何しやがる!?」←顔砂まみれ

 牙也「お前こそ何しようとしてやがる。都合が悪けりゃ暴力か?」

 春輝「黙れ!好き勝手言われて黙ってられるかってんだ!」

 牙也「お前……取り敢えず顔を洗えよ。砂まみれじゃ説得力無いぞ」

 春輝「誰のせいでこうなったと思ってやがる!?」

 牙也「俺だ」ソクトウ

 牙也・春輝以外『』クスクス

 

 牙也「そんなに暴れたいなら、相手してやろうか?」

 春輝「はっ、天才の僕に勝てるとでも!?」

 鈴(初めて戦った時にボコボコにされておいてよく言うわね……)ゴニョゴニョ

 セシリア(後で聞いたのですが、あの時はISを壊さない為に手を抜いてらしたのだとか)ゴニョゴニョ

 簪(屈辱で発狂しそうだよね……この事聞いたら)

 春輝「そこ、何か言ったか?」

 鈴・セ・簪『いえ、何も』

 

 春輝「凡才は天才の足元にも及ばない事ーーお前に教えてやるよ!」

 シャルロット(むしろ牙也さんが教える側な気が……)ゴニョゴニョ

 ラウラ(それは皆重々承知している事だろう……)ゴニョゴニョ

 一夏(あいつまだ自分の弱さを認めようとしないのかよ……兄として端から見てて、凄まじく情けなく見えるよ……)ゴニョゴニョ

 春輝「そこ、何か言ったか?」

 シ・ラ・一『いや、何も』

 

 牙也「そんじゃやるか。ルールは簡単、一本勝負で先に相手に一撃入れた方の勝ちだ」

 春輝「受けて立つぞ!」

 春輝は白式を展開した。

 牙也「俺はちょっと新しいロックシードを試すかな」

 

 《マロン》

 

 戦極ドライバーを腰に付け、新しく手に入れたロックシード『マロンロックシード』を解錠する。

 

 《ロック・オン》

 

 牙也「変身」

 

 《ソイヤッ!マロンアームズ!Mr.Destroy!》

 

 アーマードライダー蝕・マロンアームズに変身した牙也は、両腕についた棘付きグローブ『マロンストライカー』を構えた。

 

 春輝「オラァァァァァァ!!!」ゴォッ

 春輝はスラスターを全開に噴射して牙也に突撃。その際単一能力『零落白夜』を発動した。

 

 牙也「だから、敵をよく見ろっての」

 《マロンオーレ!》

 カッティングブレードを二回降ろしてグローブにオーラを集中させ、突撃して来る春輝の動きを見る。そして、

 

 春輝「だあぁぁぁぁぁぁ!!!」ブンッ

 春輝が雪片弐型を振り下ろすーー

 

 牙也「アホ」ヒョイッ

 のをあっさり避けて、

 

 牙也「……フッ!」ドゴッ!

 春輝「ガハッ!?」

 春輝の鳩尾に左フックを叩き込んだ。牙也の重い一撃で、春輝は盛大に吹き飛び、また砂に頭がめり込んだ。

 

 牙也「うーん、マロンは近距離戦特化だな……ま、使えなくはないし、持ってて損は無いか」

 千冬「ご苦労。後で篠ノ之と共に一戦交えないか?」

 牙也「是非とも」

 

 

 

 真耶「お、織斑先生~~!」

 

 

 

 そこへ、真耶が慌てた様子で走ってきた。

 真耶「大変です大変です大変dーーきゃっ!?」ズデッ

 砂に足をとられてコケた。顔が砂まみれだ。

 千冬「山田先生、取り敢えず顔を洗いなさい。砂まみれは流石に……」

 真耶「ふえ?あ、すみませんっ!」パタパタパンパン

 セシリア「どうかなさったのですか?」

 真耶「あ、はい!織斑先生、これが先程学園長から!」

 そう言って真耶は一枚の紙を千冬に見せた。

 

 

 千冬「成る程……一年生諸君に告ぐ!実習は中止!生徒は直ちに各部屋に戻りそこで待機せよ!なお、勝手に部屋を出たりした者は厳しい処罰が待っている物と思え!専用機組は私に付いてこい!」

 

 

 悪夢が、始まるーー。

 

 

 

 三人称side end

 

 




 『マロンストライカー』はナックルの武装『クルミボンバー』に棘が付いた感じですかね。裏拳とか食らえば本当に痛いですよ。



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第27話 下準備ハ念入リニ

 詰め込みました。結果長くなりました。そして話が大して進んでないという……早足進行と言っておきながらこの始末、大丈夫かな……?
 ともかく、楽しんで読んで頂けると嬉しいです。




 三人称side

 

 旅館の大広間に、専用機持ちと教員達が集まった。

 千冬「では、現状を説明する」

 牙也「その前に一つ良いっすか?」

 千冬「何だ?時間がないから手短にな」

 牙也「じゃあ一言。なんでーー」

 

 

 

 牙也「なんで俺と箒がここにいるんでしょうか?」

 箒「牙也の言う通りです。ここには専用機持ち以外はいてはならないはずですが、織斑先生」

 

 

 

 千冬「うむ、それはなーー」

 ??「私が呼んだのだよ」

 千冬の後ろにある二つの巨大スクリーンの内の一つから声がする。すると、スクリーンに映ったのは、

 

 セシリア「学園長!」

 シャルロット「シュラさんも!」

 学園長の轡木とシュラであった。

 シュラ「前回のタッグトーナメントの件もあるからな。まだそうと決まった訳ではないが、念には念を入れてお前達二人も呼んだのだ」

 牙也「そうだったのか……」

 轡木「すまないね、折角の休みなのに」

 牙也「お気になさらず。それよりも千冬さん、現状はどうなってんですか?」

 千冬「ああ、これから説明する」

 そう言って千冬はもう一つのスクリーンにある映像を映した。

 

 

 千冬「今から二時間前、アメリカ・ハワイ沖で試験運用中だったアメリカとイスラエル共同開発の第3世代軍用型IS【銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)】が、突如アメリカ軍の制御下を離れて暴走した。現在福音は太平洋を日本に向けて超高速で進んでいる。今日本空軍が出動しているが、福音のそのスピードに追い付けず、取り逃がす可能性もある。そこで福音が通るであろう予想ルートに一番近い場所にいる我々に、福音を鎮圧・搭乗者を救出せよと学園上層部から指令が届いたのだ」

 牙也「軍用ISか……!」

 セシリア「織斑先生、鎮圧対象の基本スペック情報の開示を求めます」スッ

 千冬「ああ、だがこれは決して他者に口外するな。もしこの情報を漏らした者は、厳罰に加えて二年間の監視付きとなる。よく覚えておけ」

 そう言って千冬は福音の基本情報の書かれたプリントを全員に配った。

 

 セシリア「私の【ブルー・ティアーズ】と同じ特殊射撃タイプのIS……」

 鈴「厄介なのは、この【銀の鐘(シルバー・ベル)】って武装ね。36の砲口を持つ新型ウイングスラスター、しかも全方位を広域射撃出来るから余計にね……」

 シャルロット「機動力も侮れないね。常時瞬間加速(イグニッションブースト)状態とも言える性能だよ」

 ラウラ「私のレーゲンのAICでこれを捕らえるのは難しいな……隙を見て発動するのが懸命か……」

 専用機持ちは、各々の意見を並べていく。

 牙也「千冬さん、福音との戦闘って時間制限とかあるのか?」

 千冬「うむ。福音の性能の高さ故、接触可能時間が余りにも短すぎる。もって一時間と言ったところか……」

 簪「短い……となると、出し惜しみは出来ない……」

 箒「そもそも軍用ISだから出し惜しみも何もないだろう。どう見る、牙也?」

 牙也「うーん、まず持久戦はダメだな。福音のスペックの高さを考慮すると、勝てる要素がない。しかも接触可能時間も短すぎる。となると……一撃必殺、か?」

 鈴「一撃必殺?」

 牙也「短期決戦だ。時間が無いなら、そうするしかないだろう。短時間で一気にダメージを福音に叩き込む。俺が考える限りでは、それしか手立ては無いな」

 箒「短時間で、大ダメージ……」

 牙也「問題はそれが可能な機体だ。今この中で、『短時間で大ダメージが可能』という条件を満たした機体、もしくは武装を持ってるのは……」チラッ

 牙也のその言葉と共にーー

 

 

 

 春輝以外『』ジー

 春輝「ぼ、僕かい?」

 

 

 

 春輝の方を見た。

 牙也「逆に聞くが、お前以外に誰かいるか?」

 春輝「他にって……僕じゃなくてもお前が行けば良いんじゃないか?アーマードライダーの力を持ってすれば、すぐに片が付くと思うけど」

 

 

 

 

 牙也「……悪いが、今回俺は……いや、俺達は力を貸せない」

 

 

 

 セシリア「ど、どうしてですの!?」

 鈴「そうよ、なんで力を貸せないの!?」

 轡木「彼らアーマードライダーと学園との間で結んだ協定に、理由があるんだ」

 口を開いたのは、轡木だった。

 轡木「彼らと協力関係になった時、いくつかの約定を取り決めたんだよ。その内の一つに、『アーマードライダーが出撃するのは、あくまでインベス関連の事案のみ。IS関連の事案に関しては、これを認めない』というのがあるんだよ」

 シャルロット「そんな……!」

 牙也「仕方ないさ。ISの問題はISに関わりのある者に任せる方が一番安全だからな。『餅は餅屋』って事だ」

 牙也は「それに、」と言って続けた。

 牙也「IS関連の問題を俺達アーマードライダーが解決しちまったらどうなる?学園が女利権や委員会、果ては大衆からバッシングを受けるのは目に見えてるんだよ。面目丸潰れってやつだ。俺はなるべくそれを避けたい。今の世はISあってこそ成り立ってるんだ。そこにアーマードライダーが入り込んでISをあっさりと倒す。もしそうなったとしたら、『ISを越える兵器が現れた!』って事で世界は大混乱だ。アーマードライダーの力は本来、あってはならない物。隠しておくべき物なんだよ」

 ラウラ「牙也……」

 牙也「ま、その代わりと言ってはなんだが、何か困り事があったら尋ねてこい。出来る限りそれに答えよう」

 

 

 

 千冬「皆、理解したな?では、作戦を急いで建t束「ちょーっと待ったーーーー!」束、どうした?」

 束「実はね、最近完成した機体があるんだけど、それが多分今回の作戦に役に立ちそうなんだよね。今日ここで発表しようと思って持ってきてたんだよ。準備するからちょっと待っててね!」ビューンッ

 そう言って、束は窓から飛び出していった。

 轡木「新たな機体ですか……」

 牙也「今回の作戦に役に立ちそうって言ってたな……とすると、白式の補佐がメインの機体か……?」

 シュラ「恐らくそうだな。白式の『零落白夜』は大量のエネルギーを消費する。だが攻撃が外れればエネルギーは無駄骨だ。本来ならそれは避けたい所だが、篠ノ之束はどうするつもりだ……?」

 千冬「束の事だから、その辺りが分からない訳はあるまい。一夏、束はその機体について何か言ってなかったか?」

 一夏「ああ、確か『白式の弱点を補う存在のIS』って言ってたな。俺も詳しくは分からないけど、エネルギーがどうのこうのって言ってたよ」

 束「お待たせ~~!」ゴオッ

 

 そこへ、束が紅いISを纏って中庭に降り立った。

 束「これがその新機体!名前は『紅椿』だよ!」

 簪「綺麗……!」

 千冬「束、その紅椿はどんな機体なのだ?」

 束「これはね、エネルギー供給が可能な機体だよ。使いこなせれば無限にエネルギーを生成出来て、それを他の機体に分け与える事が出来るんだ!」

 シュラ「エネルギー供給か……!考えたな」

 束「後特徴なのと言えば、展開装甲かな。展開して攻撃を自動でサポートしてくれたり、防御シールドになってくれたり、スラスターになってくれたりするんだ。ただ紅椿は白式と同じく装甲面に問題があってね、エネルギー供給能力に特化させ過ぎてピーキー機体になっちゃったんだ」

 牙也「それ、大丈夫なのか?」

 束「大丈夫!だからこその展開装甲だよ!その辺りは束さんも抜かりないよ!」

 轡木「しかし篠ノ之博士。その機体は一体誰が使うのですか?」

 束「あ……しまった、そこまでは考えてなかった……」アワワ

 牙也「現状を考慮すると、『戦闘経験が豊富』『ISの実技で充分な成績を出している』の二つが条件だな。それを満たす奴は……」チラッ

 

 

 

 箒以外『』ジー

 箒「……え?」キョトン

 今度は全員が箒の方を向いた。

 

 

 

 箒「わ、私か?確かに実戦経験はあるが……」

 真耶「ですが、実技面で篠ノ之さんが充分な成績を出しているのは確かですね。それに他に動かせる人がいない事も考えると……」

 シュラ「選択肢はおのずと限られるな」

 轡木「さて、どうする?君自身が決めたまえ」

 箒「……」

 暫し箒は考えていたが、

 箒「……分かりました。力になれるかは分かりませんが、精一杯の力で皆を補佐します。姉さん、一時的だけどこの力を借りるね?」

 束「うん。じゃあ箒ちゃんはこっちに来て。急いでフィッティングするから」

 箒と束は一旦その場を離れた。

 

 

 牙也「よし、今の内に作戦を立てよう。今回重要なのは、織斑の白式。これが落とされると、福音の鎮圧は不可能になる。となると……」

 轡木「如何に被弾を抑えるか、だね」

 牙也「ええ。それに、福音の所まで向かうのに使うエネルギーも、なるべく最小限に抑えたいところ。となれば、白式は紅椿とセットで向かわせるのが妥当かな?」

 千冬「それしかあるまい。紅椿のスペックを見た限りでは、今ある機体の中で機動力が一番高い。エネルギー消費を抑えるなら、それが妥当だ」

 牙也「皆の新しいパッケージはなんだ?」

 セシリア「私は『ストライク・ガンナー』ですわ。ビットをスラスターとして使用し、機動力を上げるパッケージですが、ビットでの射撃は一切出来なくなります」

 鈴「あたしは『崩山』。龍砲の増設と威力強化って所かな」

 シャルロット「僕は『ガーデン・カーテン』だよ。実体とエネルギーの二種類のシールドを二つずつ張るんだ。高速切替があるから、シールドを張っている間も攻撃出来るよ」

 ラウラ「私は『パンツァー・カノニーア』。レールカノン二門と物理シールドの増設だ」

 簪「私は『不動岩山』……広範囲防壁を張る事が出来ます……」

 牙也「うーん……今回はセシリアのパッケージは封印だな。無理に機動力上げるより射撃に集中させた方が良いだろ。むしろ攻撃力と防御力を上げておくべきだ」

 真耶「だとすると、織斑君達二人の後ろは凰さんとボーデヴィッヒさんが良いかと。近距離と中距離をカバー出来る機体ですから」

 牙也「念を押すなら簪もだな。山嵐と新型パッケージが役立つだろう」

 千冬「ではオルコットとデュノアは後陣だな。遠距離武装による援護が中心になる」

 シュラ「決まりだな。後は篠ノ之姉妹を待つだけだが……」

 

 

 束「お待たせ~~!」

 箒「フィッティング、終わりました」

 そこへ束と箒が戻ってきた。

 牙也「どうだ、やれるか?」

 箒「まだ少し不安だがな。武装や展開装甲については頭に入った。後は、これをどこまで実戦で役立てる事が出来るか……」

 そう言って箒は心配そうに、紅椿の待機状態である、手首に巻いた金と銀の鈴がついた赤い紐を撫でた。

 牙也「てい」ビシッ←チョップ

 箒「痛っ!牙也お前ーー」

 牙也「気を楽にしろ。いつも通りでやれ。始める前から失敗に恐怖してたら、出来る事も出来なくなる」

 箒「!」

 牙也「今まではアーマードライダーとして戦ってきたから、勝手が違って不安なのは分かるさ。だが、アーマードライダーもISも同じ物だ、人を守る事が出来るって事ではな」

 箒「……そうだな。やるしかない、か」

 牙也「おう、その意気だ」

 千冬「よし、今から30分後に作戦を開始する!各自海岸にて準備せよ!」

 『はいっ!』

 

 

 

 

 M「……福音が暴走?」

 スコール「ええ。IS学園の面々が鎮圧に向かったわ」

 一方亡国企業でも、ある作戦が始まろうとしていた。亡国の戦闘部隊が各自のISを起動し、出撃の準備を進めている。

 M「そこに私達が乱入すれば良いのか?」

 スコール「いえ、私達の目的はただ一つ。乱入する必要は無いわ。無闇に突っ込んでこちらに被害が出ないとも限らないし」

 スコールはそう言って、自身のIS『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』を展開した。それに次いでMが『サイレント・ゼフィルス』を展開する。

 スコール「さあ……始めるわよ。謎解きの旅を」

 

 

 

 三人称side end

 

 

 



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第28話 願イヲ胸二、決意ヲ心二

 どうもです、無事に次が投稿出来ました。是非ともお読み下さい!




 三人称side

 

 宿泊している旅館の近くにある海岸には、福音鎮圧作戦に参加する専用機持ちーー箒は借り物だがーーが集まっていた。

 千冬「よし、全員集まったな。これより、福音鎮圧作戦を開始する!」

 『はい!』

 千冬「もう一度状況と作戦内容を確認する。目標が予想地点に到着するのは、ここからおよそ40㎞の海上だ。織斑と篠ノ之を先に向かわせ、その後ろを凰、ボーデヴィッヒ、更識の三人、一番後ろをオルコット、デュノアが固める。予想地点に到達するまでは一定の距離を保ち、また周囲にも気を配れ。良いな?」

 『はい!』

 千冬「よし、私からは以上だ。牙也、何か声をかけてやれ」

 牙也「へ?俺ですか?」

 千冬「お前以外に誰がいる。時間がないからさっさとやれ」

 牙也「へいへい。んじゃ、俺から一言」

 一旦口を閉じて、牙也は全員に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「全員、なんとしてでも生きて帰ってこい。たとえ一人でも欠ける事は、俺が許さない。全員揃って生存して作戦を終える事が出来るよう、各人頑張ってくれ。俺は都合上ここから皆の無事を祈る事しか出来ねぇが、これだけは忘れるな。俺達は、どんだけ離れていようと心で繋がってる。もし折れそうになったら、思い付く限り仲間や友人、家族の顔を思い浮かべろ。そして、最後まで諦めずに戦い抜くんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 『はい!』

 千冬「よし、全員出撃準備せよ!」

 千冬の合図と共に、全員がISを展開した。

 牙也「箒、ちょっと耳を」

 箒「……?何だ?」ズイッ

 牙也(織斑をよく見張っておけ。天才を語るあいつの事だから、単独行動をして一人で倒そうとするかもしれない。今回の作戦は、全員が協力しない限り成し遂げられない。出来る事なら、あいつが暴走しないよう手綱を握っておいてくれ)

 箒(分かった。出来る限りの事はしよう)

 牙也(頼むぞ。そんじゃ、思い切りやってこい)バシッ←背中を叩く

 箒「痛っ!」

 牙也「おっと、悪い悪い。だが、気合いは入ったろ?」

 箒「いつつ……すまないな」

 春輝「何やってんだ、箒?さっさと行くぞ!」

 箒「ああ、分かってる。それじゃ、行ってくるぞ」

 牙也「気を付けてな」

 束「箒ちゃん……気をつけてね」

 箒「はい、姉さん。必ず帰ります」

 

 

 

 

 春輝「織斑春輝、白式」

 箒「篠ノ之箒、紅椿」

 

 

 春・箒『出撃する!』ゴオッ

 

 

 

 

 二人はスラスターを吹かして一気に飛翔、あっという間に予想地点に向けて飛んでいった。

 

 鈴「よし、あたし達も追いかけるわよ!」

 ラウラ「ああ。この作戦、なんとしても完遂する!」

 簪「が、頑張る……!」グッ

 一夏「鈴、気を付けてな。決して無茶しないでくれよ」

 鈴「大丈夫よ、一夏!私達は死なない。絶対に、生きて帰ってくるから!」

 牙也「ラウラと簪も気を付けてな。作戦完遂は当たり前としても、生きて帰ってくる事は絶対に忘れるなよ」

 ラウラ「分かっている。もう私は、あの頃の惨めな私には戻らない!私自身を、この手で掴む!」

 簪「私だって……!」

 束「箒ちゃん達をお願いね、皆」

 鈴「勿論です!さ、行きましょ!」ゴオッ

 ラ・簪『ああ(はい)!』ゴオッ

 鈴達も二人を追いかけて飛び立った。

 

 セシリア「それでは、私達も」

 シャルロット「うん。僕達の全力を福音にぶつけてこよう」

 千冬「心意気は結構だが、空回りしないようにな」

 真耶「どうか……お気をつけて」

 セシリア「ありがとうございます。必ず……!」

 シャルロット「必ず生きて帰ります……!」

 最後にセシリア達も飛び立った。

 

 

 

 

 真耶「大丈夫でしょうか……?」

 千冬「私達は安全地帯から見る事しか出来んからな……だが心配なのはよく分かるが、あ奴らを信じないでどうする?」

 牙也「そうですよ、俺達が信じなきゃ、誰があいつらを信じるんですか?」

 真耶「そう……ですね。ありがとうございます、少し楽になりました」

 千冬「フフフ……『フシャアアアア……』ん?」クルッ

 千冬が後ろを向くと、

 

 

 

 『フシャアアアア…………!』

 

 

 

 大量の下級インベスが現れた。

 一夏「インベス……!」

 真耶「まさか、こんな所にまで!?」

 千冬「私達の邪魔をしに来たか?」

 牙也「十中八九そうでしょうね……ここは俺達が。皆は旅館に戻って福音の方を見ていて下さい」

 真耶「はい!皆さんは旅館へ!」

 真耶と一夏を筆頭に、次々とその場にいた教員達がその場を離れていく。

 

 牙也「さて……やりますか」

 千冬「ああ」

 

 牙・千『変身』

 

 《ブルーベリー》

 

 《シークヮーサーエナジー》

 

 《ロック・オン!》

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 《リキッド!シークヮーサーエナジーアームズ!イヨォーッ!ソイヤッサァ!ハイヤッサァ!》

 

 千冬「貴様等の相手は……」

 牙也「俺達だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「箒、後どれくらいで予想地点に着くんだ?」

 箒「これくらいのスピードなら、後5分程で着くだろう」

 こちらは予想地点に向かう春輝と箒。

 春輝「それで今回は、僕が零落白夜を当てれば良いんだよな?」

 箒「ああ、私達が上手く福音に隙を作るから、お前は合図と共に零落白夜で福音を斬り裂いてくれ」

 春輝「ふん、福音なんか僕一人で充分だよ!天才の僕に勝てる相手なんかいないんだ!」ゴオッ

 箒「あ、おい待て、春輝!全く……」ピッピッ

 鈴『はいはい、こちら鈴よ。どうしたの?』

 セシリア『こちらセシリアですわ。どうかなさいましたか?』

 箒「すまない、春輝が勝手に先行してしまった。私は春輝を追いかけるから、鈴達もスピードを上げてくれ。なるべく早く合流出来るようにな」

 鈴『はあ、あの愚才はまた……分かった、あたし達も急いで向かうわ』

 セシリア『委細了解しましたわ。旅館の方には私が連絡を入れておきます』

 箒「すまないな。ではまた後で合流しよう」ピッ

 通信を終えた箒は、先行した春輝を急いで追いかけた。

 

 

 

 鈴「全く、馬鹿やってばかりねあいつ」ピッ

 ラウラ「急ぐのか?」

 鈴「ええ、あいつがスピードを上げたのなら、あたし達も急がないとね。あいつが撃破されたら作戦は失敗したようなものよ」

 簪「失敗だけは、したくない。急ごう」

 鈴「ええ。簪、不動岩山すぐに使えるように準備しておいて」

 簪「分かった」

 ラウラ「私達も戦闘準備をしておくか」

 

 

 

 

 セシリア「ーーと言う訳で、少し速度を上げます。なので、目標との接触が少し早くなるかと」

 真耶『分かりました、気をつけて下さいね』ピッ

 セシリア「これで良いですわ。後は鈴さん達が篠ノ之さん達に追い付けるか、ですわね。私達も急ぎましょう」

 シャルロット「うん。あ、そうだ。オルコットさんのパッケージ、早く合流する為に使ってみる?」

 セシリア「そうですわね。移動手段としてのみ使うなら、何ら問題はないでしょうし」

 連絡を受けた鈴達も、慌ただしく動き始めた。

 

 

 

 

 轡木「……どうかな?この作戦、君は上手くいくと思うかい?」

 学園の理事長室。轡木とシュラが今回の作戦について話していた。

 シュラ「どうだかな。そもそも実戦経験の少ない学園の生徒を鎮圧に向かわせる事自体間違っていると我は思うがな」

 轡木「やはりそう思うか……。私としてもこれには反対したかった。だが、他にすぐに動ける人がいないと言われれば何も返せない。この椅子は息苦しいものだね……」

 シュラ「息苦しい椅子に座るか、権力も何も持たない地面に寝転ぶか、どちらが良いかという話だ。どちらも利点があり、難点がある。結局はどう転んでも同じようなものなのだ」

 轡木「有無を言わさず、かい?それはまた……」

 シュラ「だが、我は成功を信じている。あの者達ならやってくれるであろう。途中でいらぬ妨害が無ければな」

 轡木「妨害、か……もしそれがあったとしたら?」

 シュラ「あまり考えたくはないが……」

 シュラは一旦言葉を切り、少し間を開けて言った。

 

 

 

 

 

 シュラ「もし邪魔者による妨害があったとしたら……その時は、牙也を含めたあ奴等の中から最低でも一人は死人が出る事になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒(間もなくだな……春輝は何処だ?)

 箒は一旦その場に滞空して辺りを見回した。すると、

 

 

 ピュンッ!!

 箒「っ!?」サッ

 

 

 咄嗟にその場から退避すると、さっきまで箒がいた場所に極太のビームが通った。

 箒「今のビーム……まさか!?」ピッピッ

 鈴『はいはい、こちら鈴よ。箒、春輝と合流出来た?』

 箒「鈴、今どの辺りにいる!?」

 鈴『な、何よ、いきなり……』

 箒「恐らくだが、春輝が既に戦闘を始めている!鈴達も急いで来てくれ!」

 鈴『嘘、もう!?分かったわ、急いで向かうから、それまで何とかもたせて!セシリア達にはあたしが連絡するから!』

 箒「すまない、頼む!」ピッ

 

 箒(くそっ、撃ち落とされていなければ良いが……!間に合ってくれよ……!)ゴオッ

 箒はスラスターを全開に吹かせて、ビームが飛んできた方に向かって飛んでいった。

 

 

 

 

 鈴「ラウラ、簪!急ぐわよ!」

 ラウラ「ああ、もう一刻の猶予もない!」

 簪「急がなきゃ!……あれ?この反応……まさか!?」

 簪が後ろを向くと、

 

 

 シャルロット「セシリアァァァァ、もう少しスピード落とせないのぉぉぉぉ!?」

 セシリア「無理ですわぁぁぁぁ!!」

 

 後方からセシリアとセシリアのISにしがみついたシャルロットが飛んできた。

 

 鈴「セシリア!?」

 ラウラ「シャルロットも!?」

 簪「っ、二人とも、離れて!」

 鈴達は慌てて回避。セシリア達は急ブレーキをかけたが、止まりきれずに勢い余ってオーバーランした。

 シャルロット「セ、セシリアのパッケージって、こんな高性能だったの……?」

 セシリア「わ、私も初めて使いましたわ……」

 鈴「ちょっと二人とも!危ないじゃない!?」

 ラウラ「下手したら福音にたどり着く前に退場だったぞ!?」

 シャルロット「ご、ごめん……」

 セシリア「申し訳ありませんわ……」

 簪「鈴、ラウラ、怒るのは後で……急がなきゃ……!」

 鈴「ああ、そうだったわね!セシリア、シャルロット、お疲れの所悪いんだけど、それにあたし達も乗せなさい!」

 セシリア「ど、どうしてですの?」

 ラウラ「さっき篠ノ之から通信が来てな。織斑春輝が既に福音と戦闘を始めているとの事だ」

 シャルロット「嘘!?」

 簪「すぐにサポートに入らなきゃ……!」

 セシリア「分かりましたわ!ではお掴まり下さい!」

 セシリアは再度ビットをスラスターモードにし、セシリアのISの装甲に四人が掴まった。

 

 

 セシリア「では行きます!舌をお噛みにならないよう、お気をつけ下さい!」ドオッ

 

 

 セシリアは『ストライク・ガンナー』を全開にして、四人を乗せた状態で福音の元へ飛んでいった。

 

 

 三人称side end

 

 

 




 春輝に死亡フラグ一つ。

 さて、箒達は間に合うのか……!?


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第29話 轟ク福音ノ嘆キ

 福音との戦いは佳境へーー。




 三人称side

 

 《ブルーベリーオーレ!》

 

 《シークヮーサーエナジースカッシュ!》

 

 下級インベスを紫と黄緑の斬撃波が斬り裂いていく。が、下級インベスの数は減る様子を見せない。

 牙也「ちっ、数が多すぎる!千冬さん、大丈夫か!?」

 千冬「こっちも苦しくなってきたぞ!」

 牙也「仕方がない、こいつで行くか!」

 

 《マツボックリエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーマツボックリ!ハハァーッ!》

 

 牙也「久々のジンバーアームズだな」

 

 《ジンバーマツボックリスカッシュ!》

 

 牙也「オラオラオラオラオラオラオラァ!!」

 

 牙也は紫炎と影松・真を構え、連続で突き攻撃を繰り出した。それぞれの武器を模したオーラがインベスに向かって飛んでいき、次々と突き刺さって爆散させていった。

 牙也「もういっちょ!」

 

 《ジンバーマツボックリスパーキング!》

 

 牙也「ハァァァァァ……ダッ!」

 牙也は紫炎と影松・真を振り回しながらインベスの群れに突入した。

 

 牙也「ソラソラソラソラソラソラァ!!」

 

 インベスの群れの中を進み、乱舞するように武器を振り回す牙也。その攻撃は次々とインベスの体をとらえていく。斬り裂き、突き刺し、薙ぎ払い、止まる事なくインベスを攻撃する。やがて牙也の周囲にいたインベスは全て爆散した。

 

 千冬「ふっ、私も負けてられないな」

 その様子を自身も戦いながら見ていた千冬は、ホルダーにぶら下げた別のエナジーロックシードを手にした。

 

 《ミラベルエナジー》

 

 千冬「これを使う時が来たか」

 

 《ロック・オン》

 

 《ソーダァ!ミラベルエナジーアームズ!Light Load!Light Load!Li-Li-Li-Li-L-L-L-L-Light!》

 

 新たなフォーム【ミラベルエナジーアームズ】を顕現させた千冬は、ソニックアローを構えて矢を放った。矢は一匹のインベスに突き刺さったかと思うと、その勢いのまま後ろにいた他のインベスをも巻き込んで吹き飛ばしていった。

 千冬「ふむ、悪くないな。だが体への負担が大きいのはな……」グッ

 そう言って千冬は少し震える拳を握っていたが、そうしている間にもさらにインベスが千冬に襲い掛かってきた。

 千冬「邪魔をするな!」

 

 《ミラベルエナジースカッシュ!》

 

 千冬「はあっ!」

 シーボルコンプレッサーを押し込んで黄色のエネルギーをソニックアローにチャージし、回転斬りの要領で斬撃波を飛ばす。襲い掛かってきたインベスは、斬撃波に一刀両断されて爆散した。

 千冬「これで終わりか」

 

 《ロック・オン》

 

 《ミラベルエナジー》

 

 間髪入れず、ミラベルエナジーロックシードをソニックアローの窪みにセットし、弓を引く。

 

 千冬「吹き飛べ!」

 

 ソニックアローから放たれた矢が、残りのインベスを全て呑み込んだ。そして、海岸に起こる大爆発。爆発の煙が晴れると、インベスは全ていなくなっていた。

 

 牙也「取り敢えず片付いたが……」

 千冬「牙也、これをどう見る?」

 牙也「多分今のインベスは、誰かが意図的にここに出現させたんでしょうね。恐らく……」

 千冬「福音を暴走させた者、か」

 牙也「ええ。とにかく引き続き、警戒をしておきましょう。千冬さんは一旦戻って、福音の方を見ていて下さい」

 千冬「分かった、牙也も気を付けろよ」

 千冬は変身を解除して旅館に戻っていった。牙也も変身を解除し、福音がいるであろう方向を見た。

 牙也(杞憂だとは思うが……なんか嫌な予感がするぜ……)

 牙也は険しい顔をして、その方向を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 『La~♪』

 春輝「ちいっ!」

 その福音は現在、一人先行した春輝と戦っていた。福音は『銀の鐘(シルバー・ベル)』からビームを放って攻撃して来るが、春輝は白式のスラスターを全開に吹かせて縦横無尽に空を飛び回り、ビームを回避していく。そして隙有らば斬り掛かって福音にダメージを与えていく。

 と、そこへーー

 

 箒「春輝!」

 箒が合流した。

 春輝「箒!ちょうど良かった、あいつの気を反らしてくれ。僕が一撃加えてやる!」

 箒「待て、春輝!まだ鈴達が来てないぞ!私達だけでは無理だ!」

 春輝「そんな事言ってる暇があるなら、こいつをどうにかしてくれよ!」

 

 『La~♪』

 春輝「っ、攻撃が来るぞ!」

 箒「させるか!」

 箒は専用武装『雨月』と『空裂』を取り出し、それぞれからレーザーと斬撃波を福音に向かって撃ち出した。レーザーは右腕に、斬撃波は頭部に当たり、一瞬だが福音は怯んで攻撃の手を止めた。

 箒「一旦離れるぞ!」

 春輝「お、おい!……くそ、良い時なのに……」

 二人は一旦福音から離れた。

 春輝「なんで攻撃の手を止めたんだよ!?さっきのタイミングなら一撃入れられてただろ!?」

 箒「馬鹿者、あんな一瞬の隙を狙っては反撃されて落とされるのがオチだ!反撃されない状態で零落白夜を使うのだ!」

 春輝「あの程度の奴に僕が落とされるかよ!その証拠に、さっきまで一発も被弾してないんだからな!」

 箒「全くお前は……む、来たな」

 鈴「お待たせ!」

 そこへ鈴達五人が合流した。

 

 セシリア「大丈夫でしたか?」

 箒「ああ。少なくとも春輝は被弾無しのようだからな」

 春輝「ふん、あの程度なら避けるのは容易いさ」

 箒「はあ……ところで、随分早かったな」

 簪「オルコットさんの新型パッケージに乗せてもらって……」

 シャルロット「すごい性能だったよ、ビックリした」

 箒「そうか、ともかくこれほどに早く合流出来たのは良かった」

 鈴「とにかくこれからよ、問題は。まずは福音に確実な隙を作らなきゃ」

 ラウラ「貴様はすぐに福音に近付ける場所で待機しろ。後は私達がやる」

 春輝「分かったよ……」

 ラウラ「ここからの指揮は私が取る!皆は私の言う通りに動いてくれ!」

 箒・セ・鈴・シ・簪『了解!』

 

 いよいよ本格的な作戦が始まる。

 

 

 

 

 

 千冬「状況は?」

 真耶「少し予定外がありましたが、先程無事に全員が福音に接触した、と報告がありました。後は、皆さんを信じるほかありません……」

 千冬「そうか。福音のスペックを見るあたり、あいつらでは撃破はなかなか難しいだろうが……何故だろうな、あいつらならやってくれると考えている自分がいるのだ」

 真耶「私もです。何故か良く分かりませんが、皆さんなら大丈夫、と思えるんです」

 シュラ『さて、ここからだ……何も起こらなければ万々歳だが……』

 轡木『そうですね……無事を祈る事くらいですね、私達に出来るのは』

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「撃てっ!」

 ラウラの号令と共に、弾丸やビーム、レーザーが福音を襲う。福音も負けじとレーザーを撃ち返して応戦する。

 ラウラ「散れっ!」

 その合図で全員があちこちに散らばり、福音の攻撃を避けていく。そして引き続き中距離・遠距離からビーム等を撃ち放つ。

 鈴「さすがね……やっぱ軍用と言うだけはあるわ!」

 セシリア「なかなか隙を見せてはくれませんわね……分かってはおりましたが」

 しかしさすがは軍用IS。耐久力も攻撃性能も箒達の持つ専用機の比ではなく、銃火器の攻撃もほとんど効いている様子を見せない。

 箒「じり貧だな……高火力の弾を当ててみるか?」

 鈴「それならあたしに任せて!龍砲の新しいパッケージがあるから!」

 ラウラ「よし、まずは福音の気を凰から反らすんだ。オルコット、デュノアは引き続き後方援護を頼む」

 セ・シ『分かりましたわ(分かったよ)』

 ラウラ「篠ノ之達は私と共に福音を、更識はそれに加えて凰の護衛を頼む。織斑はいつでも動けるようにな!行くぞ!」

 箒「分かった!」

 簪「任せて……!」

 鈴「なんとか頼むわよ!」

 春輝「早くしてくれよ!」

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 鈴side

 

 (……今のところ、まだ隙はないわね……)

 あたしは自身に飛んでくるレーザーを避けつつ、龍砲を撃つ機会を窺っていた。箒、セシリア、シャルロット、ラウラ、簪が次々とビームやレーザーを撃ち込んでいくが、まだ福音は怯まない。やっぱ硬いわね、軍用ISって。

 

 ピーピーピー

 

 「あら?レーダーに別の反応が……って!あれは……!?」

 レーダーが反応した方を見ると、なんと一隻の船が沖合いを航行していた。なんで!?この海域は封鎖された筈よ!あたしは慌ててラウラと通信する。

 

 

 「ラウラ、大変!海上封鎖した筈なのに、船が通ってる!」

 ラウラ「なんだと!?まさか、密漁船か!?」

 「多分そうよ!急いであの船を避難させなきゃ!」

 春輝「そんなの放っておけば良いだろ!?今は福音の方だ!」

 ラウラ「馬鹿か貴様は!?私達が生き残っても、他に死人が出ては意味がないのだぞ!?」

 

 『La~♪』

 

 すると、突然福音が船に狙いを定め、レーザーを放った。いけない、船が!

 箒「不味い、福音が船に狙いを……!」

 シャルロット「僕達じゃ間に合わない!」

 簪「任せて……!新型パッケージ、『不動岩山』発動!」

 

 一番船に近かった簪が、船を覆うように広範囲防壁を張った。福音から放たれたレーザーは防壁に阻まれる。あー、良かった……。

 

 セシリア「簪さん、大丈夫ですの!?」

 簪「私は、大丈夫……!皆はこのまま続けて……!私は船を避難させるから……!」

 簪はそう言って、船を避難させに行った。

 ラウラ「すまない、更識!皆は攻撃の手を緩めるな!凰、行くぞ!」

 「任せなさい!」

 ラウラ「AIC、発動!」バッ

 

 ラウラが右手を福音に突き出して動きを止めた。けど、

 ラウラ「くっ、くそ……!凰、長くは保てない!早く龍砲を撃て!」グググ

 福音は必死になってAICを振りほどこうとして暴れてる。ラウラは抑え込むのに精一杯みたいね。となれば……!

 「了解!お熱いの、食らわせてやるわ!」ジャキッ

 ここは、確実に龍砲を当てなくちゃ!あたしは福音に狙いを定める。今までの龍砲と違い、弾が火炎弾のようになってるから、攻撃力が格段に違うのよね。

 「食らいなさい!」ドンッ

 

 ドガアアアンッ!!

 

 火炎弾は見事福音に着弾。でも、果たして効いてるのかしら……?煙が辺りを覆ってるから、どうなったか分からないのよね……。

 ラウラ「福音の動きが止まった!織斑、今だ!」

 春輝「やっと僕の出番か!行くぞ、白式!」

 

 どうやら上手くいったみたいね。後はあいつの攻撃が当たれば……!

 

 

 

 春輝「『零落白夜』!」ザンッ

 

 

 

 煙が晴れた時、あいつは福音を見事に斬り裂いていた。よし、福音も反撃してこないし、動く気配もない。まずは大丈夫ね!あら?福音の胸あたりの装甲から、何か出てるわね……。

 

 「ちょっと、福音の装甲から何か見えてるわよ?」

 箒「何?春輝、福音から出ている物を引っ張ってみてくれ」

 春輝「これか?……ってこれ、人の手だ!」

 セシリア「まさか、搭乗者の……!?」

 ラウラ「織斑、福音から彼女を引っ張り出せ!搭乗者がいなくなれば、ISは勝手に停止する!」

 春輝「言われなくても!」グイッ

 あいつが思い切りその手を引っ張るとーー

 

 

 春輝「おっと!」ドサッ

 女の人が中から出てきた。

 シャルロット「その人……間違いない、福音搭乗者のナターシャ・ファイルスさんだ!」

 セシリア「良かった……ご無事のようですわね」

 ラウラ「ふう……これで作戦は完了だ。後は福音を回収して戻るだけだな」

 春輝「へへん、僕達を相手するにはまだ100年早かったね!」ゲシッ

 箒「春輝、それくらいにーーっ!?春輝、どけ!」ドンッ

 春輝「わっ!?箒お前、何をーー」

 

 バシッ!

 箒「ぐあっ!?」

 

 え、何!?箒があいつを突き飛ばしたと思ったら、箒も誰かに突き飛ばされた!?一体何がーーって、あれは!?

 

 「蔦……!?まさか!?」

 セシリア「あれは、タッグトーナメントの時と同じ……!」

 福音の胸部装甲から蔦が伸び始め、全身を覆っていく。そしてーー

 

 

 

 

 

 

 『グアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 

 

 

 

 福音は、巨大な龍となった。

 

 

 鈴side end

 

 

 




 


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第30話 飛龍ノ咆哮

 この話で現れたインベスは、モンハン4登場の『ゴア・マガラ』を思い浮かべて下さい。




 三人称side

 

 箒「くっ、不味いな……皆は先に戻れ!ここは私が殿を努める!」

 鈴「ちょっと、一人じゃ無茶よ!」

 セシリア「そうですわ!ここは私達がーー」

 箒「馬鹿言うな!インベスとISの融合体がどれだけ危険かは、皆も分かっているだろう!?」

 ラウラ「篠ノ之の言う通りだ。とにかく、私達はこの海域から離脱するぞ」

 シャルロット「そうだね。私達じゃ足手まといだよ」

 ラウラの言葉に、シャルロットも賛成する。

 鈴「……っ、箒!」

 箒「なんだ?」

 鈴「……死ぬんじゃないわよ!」

 箒「無論、承知の上だ!変身!」

 

 《マスカット》

 

 《ロック・オン!》

 

 《ハイー!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!》

 

 箒「行け、皆!牙也達にもこの事を知らせてくれ!」

 

 ヒガンバライナーに飛び乗った箒は、内蔵された対インベス用マシンガンで巨大な龍のインベスーー福音インベスと名付けるかーーを攻撃する。

 

 ラウラ「全員撤退!」

 鈴「あんた、ナターシャさんをセシリアに渡しなさい!」

 春輝「はいはい、分かったよ!」

 鈴「セシリア、『ストライク・ガンナー』で先に戻って!」

 セシリア「分かりましたわ!皆さんもお気をつけて!」

 春輝「頼んだよ!」

 セシリアはナターシャを背負い、超高速で海域から離脱した。

 シャルロット「私達も撤退しよう!」

 千冬『ボーデヴィッヒ、どうした!?何があった!?』

 ラウラ「教官、聞こえますか!?こちらラウラ!非常事態です、福音がインベス化しました!」

 千冬『何!?全員無事なのか!?』

 ラウラ「今は全員無事で、撤退の為に篠ノ之が殿を担当しています!急いで救援を!」

 千冬『分かった、すぐに牙也と私が向かう!お前達はその海域から急いで離脱しろ!』

 ラウラ「了解!皆、撤退だ!」

 

 

 

 

 

 千冬「くそっ、最悪の事態だな……!牙也は何処だ!?」

 牙也「はいはい、ちゃんとここにいますよ」ヒョコッ

 大広間の窓から牙也が顔を出した。

 牙也「通信の内容は把握してますから、急いで向かいましょう。ヒガンバライナーは既に準備してます」

 千冬「よし、山田先生!ここの指揮権を一旦預けるぞ!」

 真耶「分かりました。お気をつけて……!」

 千冬は牙也と共にそれぞれの持つヒガンバライナーに飛び乗った。

 

 牙・千『変身!』

 

 《ブルーベリー》

 

 《オレンジエナジー》

 

 《ミラベルエナジー》

 

 《ロック・オン!》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーオレンジ!ハハァーッ!》

 

 《ソーダァ!ミラベルエナジーアームズ!Light Load!Light Load!Li-Li-Li-Li-L-L-L-L-Light!》

 

 そしてブースターを全開に吹かせて箒の元へ急いだ。

 

 シュラ「最悪だな」

 轡木「そうだね。こればかりはそうとしか言えないよ」

 シュラ「すまないが、ちょっとヘルヘイムの森に戻る。こうなった以上、我が不干渉と言う訳にはいかん」

 轡木「分かったよ、気をつけて」

 

 シュラはクラックを開き、ヘルヘイムの森へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 箒「ハアッ!」

 ヒガンバライナーを操り、海上を縦横無尽に駆け巡る箒。福音インベスに隙を見つけてはマスガンドやヒガンバライナーから銃弾を放って攻撃する。福音インベスも負けじと火炎球を放って箒を撃ち落とそうとする。が、決定打はまだお互いに出ていない。

 箒「ええい、らちが明かん!それなら……!」

 

 《ブドウエナジー》

 

 《ロック・オン!》

 

 《ミックス!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!ジンバーブドウ!ハハァーッ!》

 

 箒「食らえ!」バババババンッ

 

 ジンバーブドウアームズにフォームチェンジして射撃能力を強化し、さらに福音インベスに攻撃する。今度は先程よりも効いているのか、福音インベスが攻撃する毎にのけ反り怯み始めた。

 

 牙也『箒、聞こえるか!?牙也だ!今千冬さんと共にそっちに向かってる!』

 すると、牙也から通信が入った。

 箒「こっちは大丈夫だ!どれくらいで合流出来る!?」

 千冬『急いで10分だ!それまで持ちこたえろ!』

 箒「了解!」ピッ

  (一先ず牙也と千冬さんが合流するまでは、インベスの牽制に全力を尽くそうか。私がなんとしても、こいつを足止めしなければ……!)

 箒はマスガンドの乱射で福音インベスを牽制し続けるーー。

 

 

 

 

 

 一方牙也と千冬はーー

 牙也「一先ずセシリアと福音搭乗者の無事は確認出来ましたね」

 千冬「うむ。凰達は大丈夫か……?」

 鈴・シ・ラ・簪『織斑先生(教官)!』ゴオッ

 千冬「皆無事か?」

 鈴「私達はなんとか」

 先に離脱したセシリアとナターシャの無事を確認した後、今度は鈴達と合流して無事を確認した所であった。

 ラウラ「今篠ノ之がインベスを抑えてくれています。教官、後の事はよろしくお願いします」

 シャルロット「篠ノ之さん一人じゃあれはきついよ……牙也さん、急いで下さい!」

 牙也「任せろ、皆はこのまま旅館に戻って待機していてくれ」

 千冬「む?お前達、織斑の姿が見えんが……」

 鈴・シ・ラ・簪『え?』キョロキョロ

 全員が辺りを見回すが、確かに春輝の姿が見えない。

 

 鈴「え!?あいつ何処に消えたの!?」

 簪「でも、離脱する時は一緒だった……」

 シャルロット「撤退中に誰かが攻撃を受けた訳でもないですし……」

 ラウラ「まさか奴め、途中でこっそり抜け出してUターンしたのか……!?」

 牙也「あの馬鹿……!先に向かいます!」ゴオッ

 牙也は慌ててヒガンバライナーを操り、福音の元へ急いだ。

 千冬「すまない、家の愚弟が迷惑をかける……とにかく、ボーデヴィッヒ達は戻れ!春輝は私達が連れ戻す!」ゴオッ

 千冬もヒガンバライナーを操り、牙也を追いかけた。

 ラウラ「教官、お気をつけて……!」

 四人は牙也達の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 箒「ハァ……ハァ……ハァ……タフだな、こいつ……!」

 福音インベス『グルルルルル…………!ガアッ!!』

 箒「っ!」ゴオッ

 箒は追い詰められていた。マスガンドの射撃に耐性がついたのか、福音インベスは怯まなくなり、逆にその巨大な翼脚を振り回して箒に襲い掛かる。

 箒「くそっ、ここで倒れる訳には……!」

 

 《バナナエナジー》

 

 《ロック・オン!》

 

 《ミックス!マスカットアームズ!銃剣!ザン・ガン・バン!ジンバーバナナ!ハハァーッ!》

 

 《ジンバーバナナスパーキング!》

 

 ジンバーバナナアームズにフォームチェンジして、ロックシードを三回切り、マスガンドを上段に構える。マスガンドの銃口からエネルギーが噴出してマスガンド全体をコーティング。さらに、それがエネルギーの刃を形成して長刀のようになる。

 

 『グアアアアアアアア!!!』

 

 福音インベスがスラスターを吹き、翼脚を振り回して箒に襲い掛かる。限界までエネルギーを噴出させる事でその長さが4倍にも5倍にもなったマスガンドを構え、

 箒(まだだ……ギリギリまで引き付けろ…………ここだ!)

  「だああああああっ!!」ザンッ

 

 『グガアアアアアア!!!?』

 

 攻撃を外さないギリギリのタイミングでマスガンドを振り下ろし、福音インベスを叩き斬った。斬られた箇所から火花が散り、福音インベスは大きく吹き飛んで海に落ちていった。海から大きな水飛沫が上がり、やがて何も見えなくなった。

 箒「ハァ……ハァ……ハァ……やった……のか……?」フラッ

 箒は力が抜けて、ヒガンバライナーの座席にへたり込んだ。

 箒「ハァ……ハァ……ふう……。後は、福音を回収してーーっ!?なんだ!?」

 突然海から眩い光が発され、

 

 

 

 ザッパアアアン!!

 

 

 

 箒「っ!あれは……!?」

 先程福音インベスが落ちたのと同じ場所から巨大な水飛沫が上がり、先程の福音インベスが現れた。しかし良く見ると、福音の形状が異なっている。全身からエネルギーの翼のような物が生え、それが翼脚を覆っている。

 箒「さっきの福音と違う……?まさか、インベスの状態から第二形態移行したのか!?」

 

 『グアアアアアアアア!!!』

 

 福音インベスは、翼を覆うエネルギーの翼を弾丸のようにして箒に放った。

 箒「くそっ、なんとかーーっ!?」ガクンッ

 しかし、先程の戦いの疲れが一気にやって来たのか、体が動かせない。

 箒「しまっーーぐあああああっ!!」

 エネルギー弾は箒とヒガンバライナーに全てヒットし、ヒガンバライナーは完全に破壊され、箒も爆風に吹き飛ばされて変身が解除された。

 箒「が…………はっ……!」

 飛行手段を失った箒は海に向かって落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 牙也「間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」ゴオッ

 

 

 

 

 

 

 が、なんとかそこへヒガンバライナーに乗った牙也が突っ込んで、箒を回収した。そのまま牙也は福音インベスから離れていく。

 牙也「箒、しっかりしろ!」

 箒「ゴホッゴホッ……!すまない、牙也……やられて、しまった……」

 牙也「今は喋るな、箒。本当にすまん、救援が遅れちまって……」

 千冬「牙也!篠ノ之は無事か!?」ゴオッ

 牙也「さっき福音に撃墜されて、この有り様です。相当強いですよ、あのインベス」

 箒「千冬、さん……すみません……」

 千冬「くっ……やむを得ん。一旦戻るぞ、怪我人を乗せたまま戦えはしない」

 牙也「それが妥当ですね。急いd春輝『うおおおおおお!!』この声……!?」

 

 

 

 

 春輝「こいつを倒すのは、僕だぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 何処からか春輝が現れ、福音インベスに攻撃を仕掛けた。が、インベスは難なくそれをかわす。

 牙也「あの脳筋め……!」

 千冬「春輝は私が責任持って回収する!牙也は先に戻れ!」

 牙也「了解!インベスの攻撃に気をつけて!」

 牙也は箒を乗せて、旅館へと急いだ。

 千冬「インベスよ、貴様の相手は後日だ……意地でも帰らせてもらうぞ!」ゴオッ

 千冬はブースターを吹かせてインベスに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 真耶「皆さん、無事でしたか!」

 海岸では、無事に帰還した鈴達が真耶に出迎えられていた。

 鈴「ただいま戻りました!」

 シャルロット「山田先生、ナターシャさんは!?」

 真耶「今仮設の医務室で寝ています。体に異常はありませんでしたから、もう大丈夫ですよ」

 簪「良かった……」

 真耶「あれ?ところで、織斑君は?」

 ラウラ「撤退の途中ではぐれてしまいました。恐らく、単独行動を起こして福音の元へ戻ったのかと」

 真耶「えぇ!?だ、大丈夫なんですか!?」

 セシリア「織斑先生と紫野さんがおられますし、大丈夫だとは思いますが……」

 

 牙也「おーい!!」

 

 そこへ、牙也が降り立った。

 真耶「紫野さん!」

 鈴「もう戻ってーーって、箒!?」

 牙也「救援が間に合わず、福音に撃墜されたんだ……すまない。とにかく、箒の治療を頼むぞ!俺はまた向こうに戻る。千冬さんでもあのインベスは苦戦してるだろうからな」

 真耶「分かりました!」

 真耶が箒を背負って旅館に戻っていく。すると、牙也のヒガンバライナーに通信が入った。

 

 千冬『牙也、聞こえるか?千冬だ。織斑を無事に回収した。だが、インベスの攻撃でヒガンバライナーのメインエンジンがやられてしまった。今予備のエンジンで帰還中だが、一応の為途中まで迎えに来てくれるか?』

 牙也「了解。千冬さんは大丈夫ですか?」

 千冬『私は大丈夫だ。インベスはなんとか撃退したが、いつまた動き出すか分からん状態だ』

 牙也「了解。これから迎えに行きます。皆は一先ず戻ってくれ」

 そう言って牙也はまた飛んでいった。

 

 

 

 三人称side end

 

 

 




 


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第31話 託サレタ意志

 受け継がれる力ーー新たな力ーー走れ、未来にーー。






 三人称side

 

 牙也「千冬さん!」ゴオッ

 さっきまで牙也達がいた海岸からおよそ10㎞の地点。牙也は春輝を回収(物理)した千冬と合流していた。

 千冬「出迎えご苦労。皆は大丈夫か?」

 牙也「全員大丈夫ですよ。それよりも、ヒガンバライナーの方ですね」

 千冬「ああ。シュラに後で修理してもらわなくてはな」

 牙也「ですね。急いで戻りましょう」

 

 

 

 真耶「お帰りなさい!ご無事で本当に良かったです!」

 千冬「無事に戻ったぞ。山田先生、この大馬鹿の治療を頼む。それと、治療が終わったらこいつには監視を付けろ。また単独行動されたらたまったものじゃないからな」

 真耶「分かりました。織斑先生も治療を」

 千冬「ああ。牙也、ヒガンバライナーの修理をシュラに頼んでおいてくれ」

 牙也「了解」

 千冬はロックシード状態のヒガンバライナーを牙也に投げ渡し、旅館に入っていった。

 牙也「山田先生、箒の容態は?」

 真耶「怪我が酷かったので、今も治療中です。ただ、命に別状はないですから大丈夫でしょう」

 牙也「そっか……良かった……」

 鈴「それで?これからどうするのよ?」

 牙也「一先ず状況整理が必要だ。箒に後で状況を話してもらうとして、俺達は一旦この事を学園長に報告しよう」

 牙也達も旅館に入っていった。

 

 

 

 

 

 ??「予定通り、福音はインベス化しました」

 ??「ご苦労様。後は、福音という餌に飛び掛かる魚を待つだけね」

 ??「ハッハッハァ!ようやくあの力が俺の物になるのか!」

 ??「ええ。ま、魚を捌く事が出来れば、の話ですが……」

 

 

 

 

 

 

 轡木「つまり、福音から搭乗者のナターシャさんを救出した途端に、福音がインベス化したと」

 旅館では、帰還した鈴達が轡木に報告を行っていた。

 鈴「そうです。それで、メンバーの中で唯一のアーマードライダーの篠ノ之さんがインベスを抑えていたのですが……」

 牙也「俺の救援が間に合わず、箒は撃墜されたって事だ……」

 轡木「そうか……篠ノ之さんはその時の怪我が酷かったので今治療中、と」

 真耶「はい。ところで、シュラさんは?」

 シュラ「呼んだか?」

 大広間の窓から、シュラが顔を出した。

 牙也「おう、来てたのか。今回は予想外であり、予想内だったな」

 シュラ「確かにな。あれは今までのインベスとは訳が違う」

 牙也「ああ。そうだ、忘れる所だった。シュラ、千冬さんのヒガンバライナー、すぐに修理してくれないか?」スッ

 シュラ「ちょっと貸してみろ」

 シュラはヒガンバライナーの具合を調べている。

 牙也「メインエンジンがやられたって言ってたからな、すぐに直せそうか?」

 シュラ「いや、メインエンジンがここまでブッ壊れてると、直すのに時間がかかるぞ。流石に一日で直すのは無理だ」

 牙也「そうか……箒のヒガンバライナーもインベスにブッ壊されたし、残ってるのは俺の物だけか」

 シュラ「すまないな、時間がかかるから三人分しか作ってないもんでな」

 轡木「つまりそれは……」

 

 

 

 

 牙也「俺一人であのインベスを倒さなきゃならない、って事だ」

 

 

 

 

 真耶「む、無茶ですよ!篠ノ之さんでさえも倒されたんですよ!?」

 簪「シュラさんが付いて行くのは無理なの?」

 シュラ「牙也のヒガンバライナーは一人乗り専用でな。織斑や篠ノ之のヒガンバライナーは二人乗りが出来るんだが……我のゲネシスドライバーも劣化が見つかって修理中だ。それに、これらとは別に一つ困った事がある」

 セシリア「困った事ですの?」

 シュラ「ああ。さっきここに来る際にヘルヘイムの森を通ったんだが、そこに建てた拠点に誰かが忍び込んだ形跡があってな」

 牙也「何?つまりそれは……」

 シュラ「戦極ドライバーかゲネシスドライバーが目的で忍び込んだ奴がいるという事だ」

 轡木「何か盗まれなかったかい?」

 シュラ「特には盗まれなかった。基本ベルトなどの重要な物は、拠点とは別の場所に隠しているからな」

 牙也「それなら良いが……」

 シュラ「とにかく、我は今回は参戦出来ん。牙也一人であのインベスを相手する事になる。力を貸せなくてすまない」

 シャルロット「あの化け物を、たった一人で……」

 ラウラ「勝てるのか……?」

 牙也「勝てる勝てないじゃない、勝つんだよ。それも、一人も死人を出さずにな」

 シュラ「その通りだ。ま、こちらとしてもヒガンバライナーの修理は出来る限り急ぐが、あまり当てにはしないでくれ」

 

 

 

 真耶「皆さん、篠ノ之さんが目を覚ましました!」ガラッ

 

 

 

 そこへ、真耶が飛び込んできた。

 鈴「箒が!?」

 セシリア「良かったですわ……一時はどうなるかと」

 轡木「今すぐに話を聞きたいんだけど、大丈夫かな?」

 箒「私は、大丈夫です……」フラフラ

 そこに教員の肩を借りて箒が歩いてきた。体のあちこちに包帯を巻いている。

 鈴「ちょ、箒!あんた怪我人なんだから無理しちゃ駄目よ!」

 箒「すまない……すぐに終わらせるから、暫し見逃してくれ」

 箒は申し訳なさそうに言って、用意された椅子に座り込んだ。

 轡木「無理はさせたくないから、簡潔に状況を説明してくれるかな、篠ノ之さん」

 箒「はい」

 箒は撃墜時に何が起こったのかを簡潔に説明した。

 

 牙也「一度は撃破したが、福音がインベスの状態から第二形態移行した……こりゃまた面倒な事になったな」

 シャルロット「エネルギーの翼を生やして、それ自体を飛ばしてくる攻撃なんて、厄介だね」

 箒「恐らくだが、あのエネルギー弾は追尾性能もあるんじゃないかと私は見てる。的確に私を攻撃して来たからな……痛た……」

 箒は怪我した箇所を押さえながら、自嘲気味に言った。

 轡木「協力ありがとう。篠ノ之さんは今日はもう戻って休みなさい。後は我々に任せたまえ」

 箒「はい」

 箒は教員の肩を借りて大広間を後にした。

 

 轡木「という事だけど、何か策はあるかい?」

 牙也「うーん……まずはインベスから福音を斬り離さなきゃな。搭乗者が中にいないから、幾分前よりはましだとは思うが……最悪福音をブッ壊す事になるな」

 ラウラ「さらっと言うが、奴に近付く事が出来るか?奴の攻撃は全方位をカバーする。たった一人では難しいだろう」

 牙也「ああ……忍者みたいに分身が作れれば良いんだが」

 千冬「絵空事だろうに」

 シュラ「出来なくはないぞ」

 シュラのその一言に、大広間にいる全員の目がシュラに向いた。

 牙也「どうやってだ?」

 シュラ「これを使うと良い」

 シュラは腰にぶら下げたヘルヘイムの果実を二つ取ってエナジーロックシードに変化させ、牙也に投げ渡した。

 牙也「マスカットと……何だこれ?」

 牙也が受け取ったエナジーロックシードは、一つは箒のマスカットロックシードに酷似しており、もう一つは黄色だがレモンとは別のエナジーロックシードであった。

 

 シュラ「一つはグレープフルーツエナジーロックシードだ。ジンバーアームズでは飛行能力が付与される。ヒガンバライナーが使えなくなった時に使え。もう一つはマスカットエナジーロックシードだ。ジンバーアームズでは分身を作れる。武器やロックビークルも分身させられるから、今回は重宝するだろう」

 

 牙也「なるほどな。ありがとよ、シュラ」

 鈴「というか、いつの間にそんなの調べてたのよ?」

 シュラ「空いた時間は、ロックシードの研究にも使ってるからな。それと牙也、礼はインベスを撃破して無事に戻ってきてからにしろ」

 轡木「取り敢えず撃破の目処はたったね。福音は今どの辺りにいるかな?」

 真耶「ここからおよそ70㎞の海上ですね。最初戦った場所から動いてないようです」

 轡木「よし、一先ず山田先生達は福音の動きを注視するように。牙也君はすぐ動けるように待機しておいてくれたまえ」

 牙也「了解」

 真耶「分かりました」

 

 

 

 

 

 牙也「よし、ちょっと試してみるか」

 牙也は海岸に行き、シュラから受け取ったエナジーロックシードを試していた。

 

 《ブルーベリー》

 

 《グレープフルーツエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 牙也「変身」

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーグレープフルーツ!ハハァーッ!》

 

 牙也「……フッ!」ゴオッ

 背中に付いたブースターを吹かして空を飛ぶ。少しの間、空を飛ぶ感覚を確かめた。

 牙也「……ISを動かす時も、こんな感じなのかねぇ……」

 シュラ「どうだ?」

 そこへシュラが歩み寄った。

 牙也「良い感じだ。次はマスカットを試してみるか」

 

 《マスカットエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーマスカット!ハハァーッ!》

 

 牙也「はあっ!」

 マスカットエナジーロックシードが光ると、次々と分身が現れ、それぞれ別の構えをとった。そして分身を相手に少し模擬戦をして動きを確認した。

 牙也「よし、大体掴めたな。後は実戦で確実に使いこなさなきゃな」

 牙也は分身を消して変身を解除した。

 シュラ「動きは問題ないようだな。少しは安心したぞ」

 牙也「そうかよ。さてと、福音はどうしてるか……」

 シュラ「まあ何があったら、山田という眼鏡の教員が知らせに来るだろう。それまではお前も休んでおけ。我は一旦ヘルヘイムの森に戻る。ヒガンバライナーを修理せねばならんからな」

 そう言ってシュラはクラックを開いてヘルヘイムの森に戻っていった。

 牙也「……あ、しまった。あの夢の事聞くの忘れてた……ま、戻ってきてから聞けば良いか」

 牙也も旅館に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「すまないな、心配させて」

 鈴「まったくよ……ま、無事だっただけ良かったけどさ」

 仮設の医務室では、箒達が話をしていた。

 ラウラ「しかしあれがISとインベスの融合体とは……私やデュノアの時もあんな感じだったのだろうな」

 セシリア「ボーデヴィッヒさんの場合はさらにVTシステムもありましたからね」

 シャルロット「僕達の時は牙也さん、篠ノ之さん、シュラさんの三人で助けてくれたんだっけ?」

 箒「ああ。初めてジンバーアームズで戦ったな」

 簪「あの時は別の意味でもびっくりしたよね……」

 セシリア「シュラさんが牙也さんそっくりでしたからね」

 箒「私もあれは知らなかったからな」

 

 

 トントンーー

 

 

 箒「どうぞ」

 牙也「邪魔するぞ」

 牙也が入ってきた。

 鈴「あら。これはあたし達、邪魔者かしら?」

 セシリア「ふふ、そうですわね。それでは私達はお暇しましょう」

 シャルロット「それじゃ、ゆっくり休んでね」

 ラウラ「牙也、後は頼むぞ」

 簪「ごゆっくり……」

 鈴が医務室を去ったのを皮切りに、セシリア達も医務室を出ていった。

 

 牙也「あいつら、なんで気を使ったんだ?」

 箒「さ、さあ……なぜだろうな……」

 

 突然の行動に、牙也も箒もキョトンとするしかなかった。

 

 

 

 三人称side end

 

 




 突然ながら、今作はここで一旦休載とさせていただきます。理由としては活動報告に記載しておりますので、そちらをお読み下さい。楽しみにしていただいてる読者の皆様、申し訳ありません。今後は他作品にて主に活動しようと思います。では、また次の時にーー。



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第32話 約束


 ちょっと遅いですが、新年明けましておめでとうございます!
 長らくお待たせしました。俺、再び参上!!って事で、早くも再開します。いつもより短いのはご了承下さい。
 では、どうぞ!



 


 

 牙也と箒、二人だけとなった仮設医務室。牙也は椅子に座って、置いてあったリンゴを剥いていた。

 

 牙也「ごめんな、救援が間に合わなくて」

 箒「気にするな。命があっただけ良かっただろう」

 牙也「それはそうだがよ……」ハァ

 

 牙也はそう言ってため息をはいた。

 

 箒「結局、あれは牙也が一人で相手する事になったと聞いたぞ」

 牙也「ああ、二人のヒガンバライナーがお釈迦になったからな。一人乗り持ってる俺が行く事になったんだ」

 箒「そうか……」

 

 箒はそう言って、置いてあったロックシードの内のライムロックシードを怪我した手で持って、牙也に差し出した。

 

 箒「お守りと言ってはなんだが、持っていってくれ。役に立つかは分からんがな」プルプル

 牙也「おう、ありがとな」ウケトリ

 

 牙也はロックシードをポケットにしまい、八等分に切ったリンゴをフォークに刺して箒に差し出した。

 

 牙也「ほれ、剥けたぞ。食べさせてやるから口開けろ」

 箒「な!?////じ、自分で食べられるぞ!////」

 牙也「無茶すんな。さっきだってロックシード渡す時、めっちゃ手が震えてたろ」

 箒「うぐっ……」

 牙也「ほら、口開けなって。あーん」つリンゴ

 箒「あ、あーん……////」シャクッ

 

 フォークに刺したリンゴを牙也が差し出すと、箒は顔を赤くしながら一口食べた。シャクシャクと瑞々しい音が響く。

 

 箒「……////」ゴクッ

 牙也「箒?」キョトン

 箒「……す、すまないな。大事な時にこんな事……」

 牙也「気にするなって。ほら、もう少し食べとけ」

 箒「う、うむ……////」

 

 その後箒は顔を真っ赤にしながら、リンゴを全て牙也に食べさせてもらった。

 

 

 

 

 

 箒「ご、ご馳走様」

 牙也「お粗末様。完食出来るなら、心配ないか」

 

 牙也はリンゴをのせていた皿をしまうと、今度はポケットからラズベリーロックシードと白騎士ロックシードを取り出した。

 

 牙也「これを持っとけ。必要になった時、それがお前を助けてくれるだろうからな」

 箒「い、良いのか?今はお前の方が必要だろう?」

 牙也「お守りとでも思っとけ。それにシュラから別のロックシードもらってるから大丈夫さ」

 箒「う、うむ……」ウケトリ

 

 箒はロックシードを受け取って、枕の横に置いた。

 

 牙也「さてと、俺は出撃の準備でもしに行くかね。それじゃ、ゆっくり休めよ」

 

 牙也は立ち上がってドアに向かって歩き出した。

 

 箒「」グイッ←牙也の服の袖を掴む

 牙也「うおい。いきなり袖を持たないでくれよ」オット

 箒「す、すまない。こんな時に言うのもなんだが、お、お前に伝えたい事が、あ、あってだな……////」

 牙也「なんだ?」

 

 

 

 ~仮設医務室 ドアの前~

 

 鈴「おお……いよいよ箒が意を決して……!」

 セシリア「こ……告白致しますの!?」

 シャルロット「どうか成功しますように……!」イノリ

 ラウラ「楽しみだな」

 簪「篠ノ之さん……頑張って……!」イノリ

 

 

 

 箒「あ、あの……じ、実はだな……////」

 牙也「?」

 箒「わ、私は……////」

 牙也「」フムフム

 箒「お、お前の……こ、事が……!////」

 牙也「」ホウホウ

 

 

 

 鈴「ああもう、焦れったいわね……!」

 セシリア「早く愛の告白を聞きたいですわ」

 シャルロット「ちょっとラウラ、押さないでよ!」

 ラウラ「私にも見せろ!」

 簪「ラウラ、そんなに押したら二人にバレちゃう……!」

 

 千冬「貴様等、何をしている?」

 『』ギクッ

 

 恐る恐る振り返ると、出席簿を持った千冬が仁王立ちしていた。

 

 鈴「あ、い、いえ……じ、実は……」

 セシリア「い、今お二人が良い感じの雰囲気のようでして……」

 千冬「ほほう……つまりお前達はそれを邪魔してやろうとーー」

 シャルロット「そ、そんな事しません!折角良い雰囲気なのに……!」

 ラウラ「私はただ単純に興味があってここにいます、教官」

 簪「わ、私も同じく……」

 千冬「ほほう、そうかそうか。つまりそれだけ貴様等は暇であるという事だな?」

 『え?』

 千冬「ちょっと貴様等にはこっちに来てもらおうか……!」ガシッ

 『いやあああああああ!!!』ズルズル

 

 五人は千冬に纏めて引き摺られて連行された。

 

 

 

 

 

 

 牙也「外がうるさいな……誰か覗き見してたな」

 箒「////」ポッポッ

 牙也「?おーい、箒?」

 箒「////」カオマッカ

 牙也「箒!」

 箒「はっ!?////」

 

 牙也の声に、ようやく箒は我に返った。

 

 箒「……今は顔を見ないでくれ////」カオカクシ

 牙也「お、おう……それで、伝えたい事って?」

 箒「……や、やっぱり後で言う事にする……////や、やはり今言うのはちょっとな……それにわ、私個人としての事だからな……////」

 牙也「ああ、そうか……それじゃまたーー」

 真耶「た、大変です大変です大変です~!!」バタンッ

 

 すると突然、真耶が慌てて医務室に入ってきた。

 

 牙也「ノックくらいはして下さいよ、敵襲かと思ってビビったじゃないですか……」

 真耶「す、すみません……って、それどころじゃないんですよ!」

 箒「何か動きがあったんですか?」

 

 

 

 

 真耶「織斑君が、怪我が治ってないのに勝手に出撃しちゃいました!」

 

 

 

 

 牙也「はあ!?見張りを付けてたんじゃないんですか!?」

 真耶「巧く撒かれたみたいで……」

 箒「こんな時にあいつは……!まだ自分の愚かさが分からんのか……!」

 牙也「はあ、仕方ない。予定を早めて、すぐに出撃します!学園長にも伝えて下さい!山田先生は引き続き福音を見張ってて下さい!」

 真耶「わ、分かりました!」

 

 真耶は急いで大広間に戻っていった。

 

 牙也「それじゃ箒、行ってくる」

 箒「ああ、気をつけてな」ギュッ

 

 箒は震える手を伸ばして、牙也の手を握り締めた。

 

 

 

 

 牙也「必ず帰って来る。俺が無事に帰って来た時は、今度こそ聞かせてもらうぜ」

 

 

 

 

 箒「ああ、必ず帰って来い!」

 

 牙也はサムズアップして医務室を飛び出した。

 

 箒「どうか……どうか、無事で帰って来ますように」

 

 箒はそう呟いて、牙也の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「シュラ!状況は!?」バアンッ

 

 牙也が大広間に来ると、大広間は大騒ぎになっていた。

 

 シュラ「ノックくらいしろ……織斑の姿はまだ確認出来ん。まだ福音の元には着いていないようだ」

 千冬「すまないな、牙也。要らぬ仕事を増やしてしまって」

 牙也「全くですよ。はあ、あのどカスが……きつい罰をよろしく頼みますよ、学園長?」

 轡木『勿論。それよりも、すぐに出撃出来るかい?』

 牙也「いつでも。とにかく、まずは福音の撃破が最優先ですね……」

 千冬「一応教員部隊も出撃させ、周辺の捜査にあたる。牙也は福音撃破を急いでくれ」

 牙也「任されました。じゃあ俺は浜辺に行きますんで」タタッ

 

 牙也は窓から飛び出して、浜辺に走っていった。

 

 千冬「申し訳ありません、学園長。私の監視の目が到らなかったばかりに、こんな事に……」

 轡木『まさかこんな事になるとはね……とにかく、彼の捜索を進めて欲しい。一刻も早く、安全を確保しなければ』

 千冬「分かりました!」

 

 

 真耶「織斑先生!福音に動きが!」

 千冬「何!?」

 

 千冬がモニターを見ると、少しずつだが福音を示す点が動いていた。

 

 真耶「元いた場所から少しずつですが、日本列島に向けて動いてます!スピードは通常時よりかは遅いようですが……」

 千冬「私はこの事を牙也に伝えに行く!山田先生は引き続き福音を監視せよ!」

 真耶「はい!」

 

 千冬も窓から飛び出して浜辺に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「牙也、絶対に帰って来なさいよ!」

 セシリア「そうですわ!でないと、悲しむ方がおりますのよ!?」

 牙也「分かってるって……」

 

 浜辺では、鈴達がこれから出撃する牙也を激励していた。

 

 一夏「弟が迷惑をかけるな……本当に申し訳ない。とにかく、気をつけてな」

 シャルロット「無事に帰って来てね!」

 ラウラ「牙也。お前が私達に言った事、忘れてはおるまいな?」

 牙也「忘れるもんか。自分で言った事だぜ?」

 簪「どうか、ご無事で……!」

 牙也「大丈夫だって!約束は絶対に破らねぇさ!」

 千冬「牙也、福音が動き始めた!」タタッ

 

 そこに、千冬が走って来た。

 

 牙也「そうですか……俺も行こうか。変身」

 

 《ブルーベリー》

 

 《マスカットエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーマスカット!ハハァーッ!!》

 

 牙也はジンバーマスカットアームズに変身し、ヒガンバライナーを起動した。それに飛び乗り、最終チェックを行う。

 

 牙也「……よし。エンジン含む駆動面、問題なし。いつでも大丈夫だ。それじゃ……」

 

 牙也は皆の方を向き、サムズアップして答えた。

 

 

 

 

 牙也「行ってくるぜ!!」

 

 

 

 

 『行ってらっしゃい!!』

 

 

 

 

 

 牙也はヒガンバライナーのエンジンを全開に吹かせ、福音の元に飛んでいった。

 

 

 

 





 次回、福音インベスと戦闘開始ーー。



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第33話 侵食者ノ武勇

 さあ、始めよう。生死を賭けた戦いをーー




 牙也はヒガンバライナーを駆って、福音の元へ急いでいた。

 

 牙也「ったくあの大馬鹿野郎が、余計な仕事増やしやがって……救出したら捻り潰してやろうか……」イライラ

 千冬『怒りたい気持ちは分かるが、今は抑えておけ。こっちはまだ見つけられていないが、牙也はどうだ?』

 牙也「反応なし。このままだと、あの馬鹿見つける前に福音に接触するけど」

 千冬『その時は福音撃破に集中しろ。あ、ちなみに接触まであと数分といった所だ』

 牙也「了解。一先ず通信切りますんで」

 千冬『ああ、気を付けてな』

 

 牙也は通信を切り、その場で滞空して辺りを見回した。

 

 牙也「あの馬鹿らしき姿はなし……妙だな、俺より先に福音の元に行ったなら、既に交戦しててもおかしくはないんだが……」

 

 牙也は暫し考えていたが、

 

 牙也「……考えてたって仕方がない。とにかく今は、福音の撃破に全力を尽くそうか」

 

 そう割り切って、牙也は福音の元に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして数分後。

 

 牙也「……いた。が、あの馬鹿はいないな……おこぼれでもくすねようとしてんのか?」

 

 日本のある方角に向けて飛んでいる福音インベスの姿をようやく見つけた。ちょうどまだ牙也には気づいていないようで、のんびりと空を飛んでいる。

 

 牙也「よし……<ピッピッ>こちら牙也、福音と接触しました。これより戦闘に入ります」

 千冬『了解、敵の攻撃にはくれぐれも注意しておけよ』

 牙也「分かってます。それでは<ピッ>ふう……さて、まずは奴の目をこっちに向かせないとな」

 

 牙也はソニックアローを構えて一気に福音インベスに突進した。

 

 牙也「食らえコラァァァァァァァァァ!!」

 

 その大声に福音インベスがようやく牙也の存在に気づくが、既に遅し。ソニックアローの斬撃は、インベスの腹部を的確に捉えた。

 

 『ガアアアアアア!!』

 

 インベスは攻撃を受けて苦しそうに悶え、エネルギー体の翼脚を振り回す。それを回避して、牙也は一旦距離を取ってからソニックアローを再び構えた。

 

 牙也「これでも食らっとけ!」

 

 ソニックアローから紅い矢を放ちインベスを牽制しながら、攻撃の機会を伺う牙也。ソニックアローから放たれる多数の矢は、インベスに突き刺さったり、インベスには突き刺さらずにそのまま海に落ちていったりであった。

 

 牙也(矢の練習しようかな……)

 

 そんな事を考えている間にも、インベスは翼脚を振り回して牙也に襲い掛かってきた。

 

 牙也「あ、やっべ」

 

 翼脚の一撃が、遂に牙也が乗るヒガンバライナーを捉えた。翼脚が振るわれ、牙也の姿が消える。

 

 

 『グアアアアアア!!』

 

 

 勝ち誇ったような咆哮をあげるインベス。が、

 

 ヒュンッ

 

 『ガアッ!?』

 

 インベスのすぐ横を、紅い矢が掠めた。矢が飛んできた方向をインベスが見ると、

 

 

 

 牙也「そいつは影武者だよ、残念だったな」

 

 

 

 先程と同じくヒガンバライナーに乗った牙也がいた。先程インベスが攻撃したのは、マスカットエナジーの能力で作った分身であり、本物はそれより前にインベスの後ろに回避していたのだ。

 

 牙也「さーて、お仕事開始だ」

 

 牙也がそう言ったと同時に、

 

 

 『ガアッ!?』

 

 

 マスカットエナジーの能力で、牙也の分身が次々と現れた。その数は最終的に十人となり、それぞれがソニックアローをインベスに向けて、攻撃の構えをとる。

 

 牙也「撃破対象、福音インベス……Mission Start!」

 

 

 そう言うと、牙也はヒガンバライナーのエンジンを吹かして分身と共にインベスに突撃した。

 

 『ガアッ!』

 

 対してインベスは翼脚を牙也に向けて振り下ろして攻撃してきた。が、大振りな攻撃はヒガンバライナーの前にはスローモーションでしかなく、あっさりと回避される。

 

 牙也「軽い軽い。それ、食らいな!」

 

 そのまま分身の内の半分は海にスレスレで低空飛行する等インベスより下に展開し、残りと本体はインベスより上から攻撃を仕掛け始めた。上下から挟み撃ちにする作戦だ。上下から絶え間なく矢が飛んできて、インベスはなかなか攻撃が出来ない。

 

 『グルル……ガアッ!!』

 

 するとインベスは完全に怒ったのか、翼脚からエネルギー弾を全方位に向けてがむしゃらに放った。

 

 牙也「うおっ!?」

 

 牙也と分身はあちこちから飛んでくるエネルギー弾を全力で回避していく。

 

 牙也「これが箒達が言ってた全方位攻撃か……やれやれ、近づくのは骨が折れるな」

 

 ぶつぶつと呟きながら、牙也はエネルギー弾を鮮やかに回避し、被弾しそうな弾だけをソニックアローで叩き落としていく。が、数が数なだけに全てをさばくのには一苦労している。実際、分身の一部が攻撃を受け止め切れずに消滅してしまっていた。

 

 牙也「くそっ、無尽蔵にブッ放してくるから厄介なんだよな……まずはインベスと福音を切り離さなきゃな」

 

 牙也は面倒臭そうに呟くと、新たに分身を呼び出して何か合図を送った。分身達は頷いて、それぞれの戦極ドライバーからマスカットエナジーロックシードを外してソニックアローの窪みに装着する。

 

 《ロック・オン》

 

 そして、一斉に福音インベスに向けてソニックアローの弦を引き絞った。

 

 《マスカットエナジー》

 

 音声と共にそれぞれのソニックアローから緑色の矢が放たれ、一定距離を進んだ後に無数に分裂してインベスに襲いかかった。インベスもエネルギー弾を無数に放って迎撃する。矢とエネルギー弾がぶつかり合い、次々と爆発が起こり、視界を遮っていく。やがて視界が晴れていくとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 『グルルルル…………!』

 

 

 

 そこに残っていたのは、福音インベスのみであった。

 

 『ガアアアアアア!!!』

 

 再び勝ち誇ったような雄叫びを上げるインベス。周囲に誰もいない事を確認したのか、再び日本に向かう為にエネルギーの翼脚を羽ばたかせーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「やっと……やっと隙を見せてくれたな」

 

 『ガアッ!?』

 

 ようとした時、突然牙也が現れてインベスを斬り裂いた。突然の奇襲に対応出来ず、福音はあっさりと強制解除されてしまった。解除された事で、福音は待機状態のペンダントに戻り、海に向かって落ちていく。

 

 牙也「頼むぜ!」

 

 牙也がそう言うと、分身の一体が急降下してペンダントを空中でキャッチし、それを牙也本体に投げ渡した。

 

 牙也「投げ渡すなよ……まあ回収出来たから良かったようなものの……」パシッ

 『ガアッ!!』

 牙也「やばっ!」

 

 しかし福音が解除されても、インベスは牙也に攻撃を仕掛けてきた。一瞬の隙を突かれ、ヒガンバライナーはエンジン部に一撃を受けて損傷する。エンジン部からは火花が上がり、煙も出始めた。

 

 牙也「不味いな……こういう時こそ、か」

 

 《グレープフルーツエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーグレープフルーツ!ハハァーッ!》

 

 牙也はジンバーグレープフルーツアームズにフォームチェンジして、ヒガンバライナーをロックシードに戻して飛翔し、再びソニックアローから矢を放つ。福音に頼って戦っていたインベスなど、福音が使えなくなれば牙也程の実力なら余裕で倒せる。

 

 『ガアアアアア!?』

 

 今までは余裕で避けられていた矢も、福音解除によって機動力が減り、被弾が多くなった。

 

 牙也「さてと……難所は抜けた。後片付けだ」

 

 《ジンバーグレープフルーツオーレ!》

 

 カッティングブレードで二回切り、正面にサッカーボールぐらいの大きさのブルーベリーが現れる。

 

 牙也「必殺シュート、食らえっ!」シュート!

 

 そして牙也は、現れたブルーベリーをインベスに向けて蹴飛ばした。勢い良く飛んでいったブルーベリーはインベスの腹にめり込み、反動で牙也の元に戻ってきた。

 

 牙也「まだまだ続くぜ!」

 

 牙也は戻ってきたブルーベリーを再びインベスに向けて蹴飛ばした。今度はそれが腕に当たって跳ね返ってくる。それを牙也がまたインベスに向けて蹴飛ばす。手に、肩に、膝に、足にブルーベリーが当たり、その度に牙也の元に戻ってくる。そして、

 

 

 牙也「これで……止めッ!」

 

 

 その場でフィギュアスケートのジャンプのように高速回転して、インベスの頭に向かってシュートーー

 

 

 

 

 

 

 春輝「もらったァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 ーーしたちょうどその時、何処からか春輝が現れてインベスを斬り裂いた。顔を斬り裂かれ、インベスが大きく仰け反る。

 

 春輝「ハハハハハ!!これで僕の実力が証明されたぞ!これで僕の事を誰もが尊敬するdーーぐはっ!?」

 

 一撃与えた春輝が高笑いを上げていたところに、先程牙也がシュートしたブルーベリーが背中に直撃して、春輝はインベスに向けて勢い良く吹き飛ばされていく。

 

 春輝「うわああああああ!!」

 

 そのまま春輝はブルーベリーごとインベスの頭に激突しーー

 

 

 

 ドオオオオオオオオンッ

 

 

 

 大爆発を起こした。爆発によって上がった限りなく黒に近い黒煙が辺りを覆っていく。牙也は一旦煙から距離をとり、引き続きソニックアローを構えて警戒する。必殺技が当たったとは言え、確実に仕留めたとは言い難い。その為、完全に撃破した事を確かめねばならなかった。するとーー

 

 

 

 『ガアアアアアーー…………』

 

 

 

 辺りを覆っていた煙からインベスが現れ、鳴き声を上げながら力なく海へと落ちていくのが見えた。そして大きな水飛沫を立てて海に落ちると、

 

 

 

 

 ドオオオオオオオオンッ

 

 

 

 

 二度目の大爆発が起こった。やがて爆発に煙は収まり、辺りは静寂が包んだーー

 

 

 春輝「て、てめぇ!この僕にまで攻撃するなんて、どういう了見だ!?」

 

 

 と思ったら煙の中から春輝が現れて、インベス共々攻撃した事について牙也に噛みついた。

 

 牙也「はぁ…………突然俺とインベスの間に現れたお前が悪い」

 春輝「ふざけんな!僕が奴を倒そうとしていたんだぞ!それを勝手にお前が横取りしたんじゃないか!」

 牙也「」ヤレヤレ

 

 牙也は呆れたように首を振ると、春輝に近づいてその顔にアイアンクローをかけた。

 

 春輝「あだだだだだだ!!痛い痛い痛い痛い!!」ミシミシミシ

 牙也「お前はインベス討伐の命を受けていない。そしてお前はそれにも関わらず学園長の命を無視し、勝手に出撃した。お前が犯した罪は重いぜ。とっとと旅館に戻って、相応の裁きを受けるこったな」メキメキメキ

 

 牙也は引き続きアイアンクローを春輝にかけ、その力を徐々に上げていく。すると、

 

 牙也「っ!」バッ

 春輝「うわっ!?」

 

 突然何かを感じたのか、牙也がアイアンクローをかけていた春輝をぶん投げて、自分は軽くバックステップした。するとーー

 

 

 

 

 

 

 ピュンッ!!

 

 

 

 

 

 牙也達がいた場所に、レーザーが通る。それは以前、牙也を撃ち抜いたあのレーザーであった。

 

 ??「おや、また仕損じてしまいました」

 ??「ハッハッハァ!だったらこれから叩き潰せば良いだけだろ!?」

 

 その声が聞こえた方に牙也が顔を向けると、

 

 

 

 ??「確かにそうですね、では、後は頼みますよ」

 ??「ハッハッハァ、任せな!数撃で終わらせてやるよ!」

 

 

 

 

 

 空母にある滑走路のようなフィールドが浮遊し、その上に二人の男が立っていた。一人はプロレスラーのようにガッチリ鍛えられた体を上半身裸にして見せつけており、もう一人は細身ながらしっかりと鍛えられた体で、左手にはレーザーライフルを持っていた。

 

 

 どうやら戦いは、まだ終わらないようでーー。

 

 

 




 次回、謎の男達とのバトルーー。



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第34話 待チ受ケル悪夢

 戦いに正も悪もなしーー。




 牙也「……何者だ、お前等」

 ??「初めまして、でしょうか。こうやって顔を合わせるのは」

 牙也「そうだな……おい織斑。お前はさっさと旅館に帰れ。そんで処罰を受けてこい」

 春輝「はあ?僕に命令しないでくれるかな?こんな奴等、僕一人で充分さ!」

 牙也「止めておけ、お前ごときじゃ勝てない相手だ」

 春輝「なっ……!?お、お前……ふざけーー」

 

 

 その瞬間、ソニックアローから放たれた矢が春輝の頬を掠めた。頬が少し切れて、血が流れる。

 

 

 牙也「とっとと帰れ……次は当てるぞ……」

 春輝「ひっ!?……わ、分かったよ!」

 牙也の強烈な殺気に当てられた春輝は、青い顔をしながらその場を離脱した。それを確認した牙也は、ふぅ、とため息をついて二人を再び見据えた。

 牙也「待たせたな、あいつが邪魔だったもんで手間取ってた」

 ??「いえいえ、お気になさらず。別に待ってませんので」

 牙也「そうかい。で、お前等は何なんだ?」

 ??「そうですね、まずは自己紹介しておきましょうか」

 細身の男は、手に持ったライフルを背中に背負ってから自己紹介を始めた。

 

 

 ギリア「僕はギリア・フレイアと言います。それでこっちのマッチョが……」

 ザック「ザック・ヴァルフレアだ!よろしくな、ハァッハッハァ!」

 牙也「…………そいつの無駄に暑苦しいテンション、なんとかしてほしいんだが」

 ギリア「えっと…………諦めて下さい。まあ立ち話もなんなので、こちらに来て下さいよ」

 ギリアが自分達が乗っているフィールドに牙也を手招きする。が、

 牙也「……罠仕掛けてんじゃねぇだろうな……?」

 ギリア「ああ、やっぱり疑いますよね……大丈夫ですよ、別に罠で倒すとか捕獲するとか考えてませんから」

 牙也「嘘ついたらみじん切りにするからな」

 そう言いながら、牙也はゆっくりとフィールドに近づいていく。勿論常にソニックアローを構えて迎撃が出来る状態でだが。やがて牙也はゆっくりとフィールドに降りた。

 牙也「……嘘ではなかったようだな」

 ギリア「そりゃまあ……罠なんかで貴方を倒すなんて、あまりにもつまらないですし」

 ザック「ハッハッハァ!男なら黙って肉弾戦だぜぇ!」

 ギリア「ザック、貴方は少し黙っていて下さい」

 ギリアはザックを黙らせると、牙也に向き直った。

 ギリア「コホン、失礼……では、本題に入りましょうか」

 牙也「ああ……この間、ヘルヘイムの森で俺を撃ったのはお前で間違いないな?」

 ギリア「ええ、僕です。主より貴方を殺せとの命を受けまして」

 牙也「何故?」

 ギリア「貴方という存在が危険と主から聞いているからです」

 牙也「へぇ……お前は俺の事を何か知っているのか?」

 ギリア「まあある程度は」

 ギリアはライフルを撫でながら言った。

 ギリア「とは言っても、何故主が貴方を狙うのかまでは詳しく知りませんがね。仕事の性質上、依頼主の秘密には深く入らないようにしてまして」

 牙也「つまり、その主の事はお前もよく知らないって事だな」

 ギリア「そう考えていただければ結構です。さて、それではーー」

 ギリアとザックはおもむろに、懐から何かを取り出した。それはーー

 

 

 

 

 牙也「戦極ドライバー……!予想はしていたが、やはりお前等も……!」

 

 

 

 

 牙也達と同じ戦極ドライバーだった。ドライバーを腰に付け、ロックシードを取り出して解錠する。

 

 

 《グァバ》

 

 《アンズ》

 

 《ロック・オン》

 

 

 二人がそれぞれのロックシードをドライバーにロックすると、二人の頭上にクラックが現れ、中から巨大なグァバとアンズが出現。さらに周囲にはファンファーレが鳴り響く。

 

 

 ギ・ザ『変身!』

 

 

 《カモン!グァバアームズ!Hunt of Bogan!》

 

 《カモン!アンズアームズ!Power of Fighter!》

 

 カッティングブレードでロックシードを切ると、ギリアにグァバが被さり、緑のライドウェアが出現した後にグァバが鎧のように展開。一方ザックにはアンズが被さり、黒いライドウェアが出現した後にアンズが鎧のように展開した。

 牙也「グァバにアンズか……やれやれ、生きて帰れる保障をことごとく潰して来やがる……」

 ギリア「貴方を潰す事が私達の任務なので」

 ザック「ハッハッハァ!俺の筋肉に押し潰されろぉ!」

 牙也「やだよ暑苦しい」

 ギリアが変身した『アーマードライダーギルド』はボウガン・グァバライナーを、ザックが変身した『アーマードライダーバルカン』は両腕のグローブ・アンズクラッシャーを構えた。牙也は一旦ブルーベリーアームズに戻り、薙刀・紫炎を構える。

 ギリア「なるほど、それが蝕……」

    (ですが妙ですね……『あれ』の気配が無い……何故でしょう?)

 ザック「ハッハッハァ!楽しみだぜぇ!!」

 牙也「こっちは楽しみじゃねぇよ……」

 ザック「それじゃギリア、俺から行かせてもらうぜ!」

 ギリアが返答するよりも早く、ザックがアンズクラッシャーで右ストレートを繰り出してきた。牙也はそれを紫炎で受け流し、空いた脇腹に蹴りを入れた。しかし、

 

 ザック「効かねぇなあ!!」ガッ

 牙也「ぐっ!?ちぃっ、筋肉野郎が……!」

 ザックはその右手で裏拳を繰り出して牙也を吹き飛ばし、蹴られた脇腹を軽く撫でる。そして異常が無い事を確認して、再び牙也に殴り掛かる。

 裏拳を受けた牙也は吹き飛ばされた勢いを使って一旦距離を取り、

 牙也「殴り合いなら、こっちにもピッタリなのがあるぜ」

 

 《マロン》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!マロンアームズ!Mr.Destroy!》

 

 マロンロックシードを解錠。マロンアームズにチェンジした牙也は、マロンストライカーでザックを迎撃。拳と拳がぶつかり合う。

 

 ザック「ハッハッハァ!俺に肉弾戦を挑むか!面白ぇ!!」

 牙也「けっ、うるさい奴だな」

 ザックの馬鹿みたいに高いテンションにイライラしながらも、牙也は攻撃を続ける。

 

 ザック「おらあっ!!」ブンッ

 

 ザックは大振りな攻撃で力押しの戦法をとり、

 

 牙也「フッ!フッ!」ヒュッ

 

 牙也は軽快なフットワークでそれを回避しつつ一撃を当てていく。

 

 ザック「ハッ、ちょこまかと動きやがる!随分とショボい攻撃だな!」

 牙也「ほざけ、てめえの大振りな攻撃だってほとんど当たってねぇだろうが。それこそショボいだろうに」

 ザック「んだとコラ!?」

 互いを罵り合いながら殴り合いを続ける二人。それをギリアは羨ましそうに見ていた。

 ギリア「うーん、ザックばかり楽しむのは狡くないですか?」

 ザック「ハッハッハァ、良いじゃねぇか!今ぐらい俺にやらせろよ!」

 牙也「ご所望なら、相手してやろうか?」

 

 《ブルーベリー》

 

 《マスカットエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーマスカット!ハハァーッ!》

 

 牙也「ほれ、分身。これを使え」

 牙也(分身)「ああ」

 牙也はジンバーマスカットアームズにチェンジして分身を形成。その分身にオレンジエナジーロックシードを投げ渡した。分身はマスカットエナジーロックシードを外し、

 

 《オレンジエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーオレンジ!ハハァーッ!》

 

 オレンジエナジーロックシードを解錠して装着、ジンバーオレンジアームズにチェンジした。

 

 牙也「お前はそっち、俺はこっち。良いな?」

 牙也(分身)「了解。気を抜くなよ?」

 牙也「お前こそ」

 本体の牙也は再びマロンアームズにチェンジしてザックに向き直りステップを踏む。分身はソニックアローをギリアに向けて構える。

 ギリア「分身を作るとは……面白いですね」

 ザック「ハッハッハァ!そうでなきゃ面白くないな!」

 牙也「お前等には色々聞きたい事があってな……」

 牙也(分身)「ちょっと大人しくしてもらおうか……!」

 ギリア「面白い冗談を……では、こうしましょうか」バッ

 ギリアが左手を上げると、

 

 

 

 

 

 牙也「っ!フィールドが……!」

 

 

 

 

 突然フィールドが二つに割れ、それぞれに牙也(本体)とザック、牙也(分身)とギリアに分かれてしまった。ある程度の距離まで二つのフィールドが離れたところで、ギリアとザックはそれぞれの得物を構える。

 

 ギリア「これなら心置きなく戦えます」

 ザック「ハッハッハァ!やっとタイマンだぜ!」

 牙也(本体)「やれやれ……面倒臭いが、心が滾るぜ……!」

 牙也(分身)「同じく……久し振りに感じるこの高揚感、最高だぜ……!」

 

 ノリノリでファイティングポーズをとる二人の牙也。それを見て、ギリアとザックもニンマリとした。

 

 

 




 次回、二人の牙也が新たなアーマードライダーとバトルーー。



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第35話 滅殺ノ凶刃

 振リ返ルナ……絶望ガソコニアルーー。




 ザック「ドラアアアアアアア!!」

 牙也「おらあああああああ!!」

 

 

 ゴッ!!

 

 

 ザック「ぜやあああああああ!!」

 牙也「っしゃあああああああ!!」

 

 

 ガッ!!

 

 

 海上で浮遊するフィールドの上で、牙也のマロンストライカーの拳とザックのアンズクラッシャーの拳がぶつかり合い、火花を上げる。すると二人は一旦距離を取ってすぐに殴り掛かる。今度はお互いの鎧から火花が上がり、二人は大きく仰け反った。しかしこの程度で止まる筈もなく、またも殴り掛かって大きく仰け反る。

 

 ザック「ハッハッハァ!楽しいなぁ、おい!俺のパワーに正面からぶつかってくる奴なんざお前くらいだぜ!」

 牙也「そいつはどうも。さて、まだやれるよな?」

 ザック「ハッハッハァ、愚問だぜ!」

 

 二人の壮絶な殴り合いは、まだまだ続いていくーー。

 

 

 

 

 

 

 

 ギリア「なるほど……分身と聞いて少し残念に思っていましたが……考えを改める必要がありますね」

 牙也とザックが戦っているフィールドと分かれたもう一つのフィールドでは、牙也(分身)をギリアが相手していた。当初ギリアは牙也本人が相手でない事に不満を漏らしていたが、

 牙也(分身)「そうかよ……ま、俺としてはそっちの方がありがたいね」

 分身の攻撃を直に受けた事でその考えを改めるに至った。グァバライナーから矢を連射して分身を牽制し、対して分身もソニックアローからオレンジ色の矢を放ってこれを迎え撃つ。

 ギリア「ジンバーアームズ……是非とも試してみたいものですね。私達はゲネシスドライバーを持っていないので……」

 牙也(分身)「へぇ……だが、今のままでも充分強いと思うがな」

 ギリア「褒め言葉として受け取っておきましょう。さて、貴方を倒して本体に接触するとしましょうか」

 牙也(分身)「させねぇよ。俺がいる限り、それは不可能だ」

 ギリア「では、可能にしてみせましょう」

 再び矢の撃ち合いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅館の大広間では、学園の面々が牙也の様子を注視していた。

 千冬「福音は撃破に成功したようだが……牙也は誰と戦っているのだ……?」

 真耶「分かりません。ですが、アーマードライダーの力を持つ紫野君と対等に戦っています。という事は……」

 束「こ、これ……皆、ちょっと見て!」

 すると、先程まで自分のパソコンに向かっていた束がスクリーンにある映像を映した。そこに映っていたのはーー

 

 

 

 

 千冬「……やはり、アーマードライダー……!」

 ラウラ「しかも二人……!」

 

 

 

 ギルド・バルカンという二人のアーマードライダーと戦う牙也が映っていた。

 シュラ「ジンバーマスカットで分身を作って戦っているな。相手はグァバとアンズ、今のところ互角だが……」

 千冬「むう……シュラ、ヒガンバライナーの修理を急いでくれ。今は大丈夫だが、牙也がこのまま優勢に戦いを進められるとは思えん。だからーー」

 シュラ「無論だ。ひとまず修理自体はあと少しで終わる。すぐに動けるようにしておけ」

 千冬「分かった」

   (もう少し……もう少しだけ絶えてくれ、牙也……!)

 千冬は出撃の準備をしながら、牙也の無事を祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「フッ!」ゴッ

 ザック「ぐうっ!」

 ザックの腹に牙也の右フックが入り、ようやくザックが仰け反った。腹を抑えながら数歩後ろにふらつき、なんとか膝を付かずに耐える。

 ザック「グゥ……ハッハッハァ……!面白ぇな……心が滾るぜ……!」

 牙也「そうかい……んじゃ、大人しくやられてくれよ」

 ザック「へっ、そうは問屋が降ろさないぜ……!」

 

 《アンズスパーキング!》

 

 カッティングブレードでロックシードを三回切り、ザックは右手のアンズクラッシャーでフィールドを殴り付けた。すると上空に、オーラで出来た巨大なアンズクラッシャーが複数現れて、牙也に向かって襲い掛かってきた。

 牙也「嘘だろ!?」

 

 《マロンスカッシュ!》

 

 対して牙也はカッティングブレードでロックシードを一回切り、マロンストライカーにエネルギーを溜める。そして、

 牙也「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 連続でパンチを繰り出してオーラと相殺していく。エネルギーを纏ったマロンストライカーの前に次々と消滅していくアンズクラッシャーのオーラ。

 

 ザック「まだあるぜ!」

 

 しかしこれで終わらず、今度は左手でフィールドを殴り付けて、再びオーラを出現させた。またも襲い掛かってきたオーラを、牙也は再びパンチを繰り出して相殺していく。が、

 

 ザック「隙有り!」ゴッ

 牙也「ぐうっ!」

 

 オーラの対処に気をとられ、ザックの接近に気づけなかった牙也は、アンズクラッシャーの一撃を食らう。その一撃は重く入り、

 

 牙也「あれ?」

 

 場外に飛び出てしまう程に牙也を吹き飛ばした。

 牙也「海にドボンは勘弁!」

 

 《アーモンド》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!アーモンドアームズ!Breaker Of Drill!》

 

 牙也「届けっ!て言うか届いてくれ!」

 アーモンドアームズにチェンジしてアーモンドリルの先端を射出し、フィールドの端に突き刺す。そして先端を元に戻す要領でフィールドへと戻ってきた。

 ザック「ハッハッハァ!そう簡単には落ちねぇか!」

 牙也「危ない危ない。今のは効いたな……さて、仕切り直しだ!」

 

 《チェリー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!チェリーアームズ!破・撃・棒・術!》

 

 今度はチェリーアームズにチェンジしてサクラン棒を構えた。

 牙也「さあ……行こうぜ!」

 ザック「ハッ!楽しみだぜ!」

 二人は再びぶつかり合いを始める。

 

 

 

 

 

 ギリア「それっ!」

 牙也(分身)「おっと……連射出来るってのは厳しいな」

 ギリアがグァバライナーから矢を連射するのを、分身体牙也は最小限の動きで回避しつつ、ソニックアローから矢を放って応戦する。

 ギリア「とか言いながら、随分と余裕そうに私の矢を避けていますよね……」

 牙也(分身)「これでも余裕なんて無いんだよ。早くお前を片付けて本体に合流したいもんでな」

 ギリア「お互い様ですか……では、さっさと終わらせましょう」

 

 《グァバスカッシュ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを一回切り、グァバライナーを空に向けて矢を放つギリア。すると、矢が無数に分裂して分身に狙いを定めた。

 牙也(分身)「っ!不味い……!」

 ギリア「矢の雨に降られて、消えて下さい」バッ

 ギリアが左手を分身に向けると大量の矢が分身目掛けて降り頻り、矢が降る度に爆発が起こる。

 牙也(分身)「うわあああああ!!」

 次々と起こる爆発に分身は飲み込まれていく。やがて爆発が収まり、辺りは爆風や爆発による煙に覆われた。

 ギリア「こんなものでしょうか……さて、ザックの加勢に行くとしましょうか」

 そう言ってギリアは背を向け、ザックがいるフィールドに目を向けた。

 ギリア「やはり分身はこの程度だったようですね……まったく、これでは戦い足りませんよ。ま、終わったから良しとしましょう」

 

 

 

 

 

 牙也(分身)「勝手にThe Endにするなよ」

 《ミックス!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!ジンバーマツボックリ!ハハァーッ!》

 《ジンバーマツボックリスカッシュ!》

 ギリア「!?」

 

 

 

 

 その音声にギリアが振り向くが、

 牙也(分身)「これでも食らえっ!」

 爆風の中からジンバーマツボックリアームズに変身した分身牙也が現れて、紫炎と影松・真を突き出す。薙刀と槍はギリアの鎧に深く突き刺さった。

 ギリア「ぐう……っ!何故……何故あの攻撃を回避出来たのですか……!?」

 牙也(分身)「悪いな……ジンバーマツボックリの能力で、防御力を大幅にアップしたのさ。スカッシュレベルの必殺技なら耐えきれるんだぜ」

 ギリア「くっ……まったく羨ましいものですね……エナジーロックシードの恩恵を受けられるとは……っ!」

 牙也(分身)「おっと、させねぇよ!」

 ギリア「ぐうっ!」

 分身は武器をギリアに突き刺した状態から膝蹴りを入れて怯ませた。その拍子にギリアはグァバライナーを手から落としてしまった。

 ギリア「しまった……!」

 牙也(分身)「もう遅ぇよ!」

 

 《ジンバーマツボックリオーレ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを二回切り、影松・真でギリアを動けないように固定し、紫炎を構えた。そして紫炎を思い切り振り下ろしたーー

 

 牙也(分身)「これで……終わりだ!」

 

 ギリア「まだ負けませんよ……!」

 

 《グァバオーレ!》

 

 牙也(分身)「っ!」

 

 とその時、ギリアが最後の力を振り絞ってカッティングブレードでロックシードを二回切り、右足にエネルギーを溜めて蹴り上げた。その蹴りは分身の左脇腹を完全に捉え、紫炎を分身の手から離れさせた。分身は一旦距離を取って紫炎と影松・真を回収し、ギリアもグァバライナーを回収した。

 

 牙也(分身)「ちいっ!易々とは止め指させてくれねぇか……!」

 ギリア「僕も意地という物がありましてね……まだ負ける訳にはいかないんですよ……!」

 牙也(分身)「そりゃこっちだって同じさ。さぁて、まだやれるよな?」

 ギリア「無論です。さあ、行きますよ!」

 

 《グァバオーレ!》

 

 ギリアはグァバライナーを剣モードに変形して、エネルギーを刀身に集約する。

 牙也(分身)「良いぜ……受けて立つ!」

 

 《ジンバーマツボックリオーレ!》

 

 対する分身も、紫炎と影松・真にエネルギーを集約して構えた。

 

 分・ギ『はあああああ…………!』

 

 お互いの武器を構え、敵を見据えてーー

 

 

 

 

 分・ギ『だあああああああ!!』

 

 

 

 

 同時に走り出し、互いの武器を振るうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガキイイイイイイインッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリア「!?」

 牙也(分身)「踏み込みが甘かったな……終わりだぁっ!」

 互いの武器のぶつかり合いは、分身に軍配が上がった。そのまま分身は紫炎と影松・真でギリアを斬り裂いた。

 ギリア「ぐああああああっ!!」

 ギリアは大きく吹き飛ばされてフィールドを転がり、そのまま変身解除された。起き上がろうとするが、傷と疲労でまったく動けない。そんなギリアに、分身はゆっくりと近づいていく。そして影松・真の先端をギリアに向けた。

 牙也(分身)「後で色々話してもらうぜ……」

 ギリア「……はあ、仕方有りませんね。負けは負けです、正直に話しますよ」

 牙也(分身)「話が早くて助kーーぐほっ!?」

 ギリア「!?」

 突然分身が吐血して、その場に膝をついた。口を抑えるが、なおも吐血は止まらない。

 牙也(分身)「馬鹿……な……!?まさか、本体が……!?」ザザッ

 分身はそう言ってそのまま消滅してしまった。

 

 ギリア「なんとか、助かったようですが……一体何が、起きたのでしょうか……?」

 ボロボロになった体を必死に動かし、ギリアはもう一つのフィールドに注目する。

 

 ギリア「っ!?あ、あれは……!」

 

 その光景を見て、ギリアは驚愕の表情を隠せなかった。ギリアが見た先にはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「こほっ…………カフッ……お、前…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 春輝の持つ雪片弐型に体を貫かれた上、さらに一撃を食らう牙也が映っていた。

 

 

 

 




 次回、最悪の結末。さらにあのロックシードが覚醒ーー。



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第36話 血ニ溺レ、消エル希望(前編)

 希望を奪われた者、希望を自らの手で消し去った者。それぞれの結末はーー。




 牙也「ウラッ!」ゴッ

 ザック「ハッハッハァ!まだまだぁ!」ゴッ

 牙也とザックの戦闘は続いていた。ザックはアンズクラッシャーでそれをガードしつつ隙有らば強烈なストレートをお見舞いする。対して牙也はサクラン棒でザックに応戦しつつ、ザックの動きを観察していた。

 ザック「おいなんだ!?随分動きが鈍くなってきたじゃねぇか!もしかして疲れてきたか!?なんなら手加減するぜ!」

 牙也「いらねぇよ。別に疲れて無いし、手加減も必要ない。全力で来いよ」

 ザック「ハッハッハァ!だったら望み通りにしてやるよ!」

 

 《アンズスカッシュ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを一回切り、ザックは両手を前ならえのように前に突き出し、アンズクラッシャーを牙也に向けた。

 ザック「発射ぁ!」ドンッ

 そしてなんと、アンズクラッシャーを射出した。どこぞのロボットのロケットパンチよろしく、牙也に向かって勢い良く飛んでくるアンズクラッシャー。が、一直線に飛んでくる為に牙也には簡単に避けられた。

 ザック「ハッハッハァ!どうだ、カッコいいだろう!」

 牙也「何処のマジン○ーZだよ……確かに一部ファンにとってはロマンだろうがよ……」

 ザック「ハッハッハァ!これだけでは終わらんぞ!」

 呆れたように言う牙也にザックはそう叫ぶ。それを聞いた牙也が後ろを見ると、

 

 

 牙也「っ!?戻って来やがった!」

 

 

 なんとアンズクラッシャーがUターンして再び牙也に向かって飛んできた。またも回避した牙也だが、段々とロケットパンチの軌道が不規則になり始め、さすがの牙也も回避に徹し始めた。

 ザック「ハッハッハァ!回避ばかりに徹してねぇで、俺の相手もしなよ!」

 さらにそれを好機と見たのか、ザックが素手で殴り掛かってきた。二つのロケットパンチに加えてザックの攻撃も混じり、牙也は必死になって回避を続ける。が、

 牙也「くそ、さすがにこれは……がっ!?」

 疲れてしまったのか、遂にロケットパンチが牙也の腹を捉えた。そこにさらに、

 ザック「おらあっ!」ゴッ

 牙也「ぐふっ!」

 ザックの重い一撃が入る。さらにもう一撃、もう一撃と次々ザックのフックパンチが入っていく。一撃が入る度に牙也はふらつき、ふらふらと後退していく。

 ザック「ハッハッハァ……!どうやらそこまでのようだな……!それじゃ、俺の手で止めを指してやるよ、覚悟しな!」

 ザックは少し距離を取ってから、再び牙也に殴り掛かってきた。そして牙也の後ろからはロケットパンチが飛んできた。しかし牙也は満身創痍なのかそれに気づかない。いや、気づけないのだろう。

 ザック「もらったぁ!」

 ザックの拳が牙也を捉えたーー

 

 

 

 

 

 

 牙也「うう……っ」ガクン

 ザック「な!?」スカッ

 

 

 

 

 

 と思ったら、牙也が突然膝をついた。それによりザックの拳は牙也の頭の上を空しく空振った。そしてそこに、ザックが飛ばしたロケットパンチが襲い掛かってきた。

 ザック「しまっーーぐほっ!?」

 二つのロケットパンチが直撃し、ザックはフィールドの端まで吹き飛ばされた。豪快にフィールドを転がるザックだが、すぐに起き上がった。

 ザック「ちいっ!たまたまとは言え、悪運の強い奴だな……!」

 牙也「そりゃどうも……互いにボロボロだな。そろそろ決着つけるか?」

 ザック「ハッハッハァ……!良いぜ、やってやるよ!」

 

 《アンズオーレ!》

 

 牙也「絶対に負けねぇ!」

 

 《チェリーオーレ!》

 

 互いにカッティングブレードでロックシードを二回切り、互いの武器にエネルギーを溜める。そして、

 

 

 牙・ザ『はあああああ……っ!』ダッ

 

 

 武器を構えて駆け出した。

 

 

 

 

 

 牙・ザ『勝つのは…………俺だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 二人の武器がぶつかり合い、大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「あー!通信が途切れちゃった!」ガビーン

 千冬「馬鹿者!だから近寄り過ぎだと言ったのだ!」ゴッ

 束「きゃいん!」

 束が作った小型ドローンを使って旅館から牙也の様子を見ていた束達だったが、束がドローンを近寄らせ過ぎたせいで爆発に巻き込まれてしまい、ドローンは壊れてしまったようだ。

 千冬「くっ、これでは牙也の様子が分からんではないか!」

 真耶「ど、どうしましょう……!?」

 シュラ「織斑千冬、簡易的だがヒガンバライナーの修理が終わったぞ!」

 千冬「よし、私とシュラはこれから牙也の救援に向かう!山田先生は教員部隊を率いて後から付いて来てくれ!織斑の捜索も怠るな!」

 真耶「わ、分かりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザック「ぐ、ぐああ……!」

 牙也「へへっ……どうやら俺の勝ちみたいだな……!」

 二人の戦いは決着がついた。牙也が振るったサクラン棒がザックの戦極ドライバーに一撃を加えた事でロックシードがドライバーから外れ、変身を解除させたのだ。ザックはよろめいて後ろに倒れ込んだ。

 ザック「ぐはぁ……!くっそ、あと一歩踏み込みが深ければ……!」

 牙也は変身を解除して、ザックに歩み寄る。

 牙也「アーマードライダーの力に慣れてないのが仇になったな……さて、話してもらうぜ、お前達を雇った主とやらの事をな」

 ザック「ハハッ……俺も主についてはほとんど知らねぇぜ……話せる事は何も無えよ」

 牙也「そうかい……まあ良いさ、じきに俺の仲間が来る。大人しく捕まってもらうぜ」

 ザック「ああ……任務失敗した時点で、俺達はお払い箱だ……捕まえるなりなんなりしろよ……」

 牙也「話が早くて助かるぜ。さて、俺はどうするーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドスッ

 

 牙也「あ?」

 ザック「な!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 突然背中に鋭い痛みか走り、俺は血を吐いた。痛みか走った箇所を見ると、背中から胸にかけてを剣で貫かれているようだった。やがてその剣は俺の体から思い切り抜かれ、胸からは血が吹き出た。

 (こ……この、剣……!まさか……!?)

 俺は震える体を無理やり動かして後ろを向く。そこに立っていたのはーー

 

 

 春輝「ハハハハハ……!やっぱり僕はついてるみたいだね……アーマードライダーの力を、ようやく手に入れられるんだからさ……!」

 

 

 織斑春輝だった。や、野郎……!

 「こほっ……カフッ……お、お前……!?」

 春輝「潰し合いをしてくれてありがとうな。これで心置き無くーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前を殺せるよ」

 

 ザシュッ

 

 奴は狂ったような笑みを見せながら零落白夜を発動させて、俺をもう一度斬った。この時奴が斬ったのは、鬼崎達の頼みを聞いたあの日、奴に斬られた箇所と全く同じ箇所だった。手術によってなんとか塞ぐ事が出来た箇所が再び開き、勢い良く血が吹き出た。今度はあの日の比ではない量だ……

 「ごはっ!?」トケツ

 同時に血を吐くが、なんとか膝をつかずに耐えた。

 「ふん……さて、これは戴くぜ」

 奴はそう言って、俺のドライバーのホルダーからブルーベリーロックシードを外した。

 「それ、は……俺のだ……!返せ……!」

 「ちっ、さっさと死んじまえよ!」

 重傷で動けない俺に向かって、奴は再び雪片弐型を振り下ろしーー

 

 ギリア「そこまでです!」

 春輝「っ!?ちいっ!」バッ

 てくるタイミングで、どうやらギリアがグァバライナーから矢を連射して妨害したようだ……

 ギリア「また貴方ですか……何度僕達の邪魔をすれば気が済むんでしょうかねぇ……」

 春輝「ハハッ!なんでそいつを庇う!?そいつはお前にとって、倒すべき存在なんだろう!?手伝ってあげた僕に感謝してほしいね!」

 ザック「感謝だぁ……!?そいつは無理だな!てめぇに手伝いなんか頼んで無ぇからな!」

 お……ザックが素手で奴をぶん殴った……けどIS纏ってるせいで、大して効いてないな……くそっ、意識が……!

 (目が、ぼやけてきやがった……!まだだ、まだ俺は……!)

 必死に意識を保とうとするが、傷が深いんだろうな……意識が朦朧とし始めてきた……駄目だ……俺は、箒と約束、したんだ……生きて、帰るってよ……!

 

 

 『まだ生きたいか?』

 

 

 誰だ……?ぼやけていく意識の中、誰かが俺の脳内に直接話しかけてくる……誰だ、誰なんだ、お前は……?

 

 

 『お前は、まだこの世界で生きたいか?』

 

 

 生きてぇよ……生きて帰りてぇよ……けど、声が……声が、出ねぇ……

 

 

 『最早言葉を返すだけの力も無いか……仕方あるまい、しばしお前の体を借りるぞ?』

 

 

 その言葉を聞いた途端に、俺の意識は完全にブラックアウトしたーー。

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 ギリアとザックは再び変身して春輝を相手するが、牙也との戦いの疲れなのか動きにキレがない。

 春輝「ハハハハハ!お前が持つアーマードライダーの力ってのはそんなものなのか!?確信が持てたよ、やっぱり僕には誰も勝てないのさ!」

 ギリア「ふざけないで下さい……!一対一の真剣勝負に水を差してまで、貴方はこの力が欲しかったのですか!?」

 春輝「僕は前々からあいつが気に入らなかったのさ!偉そうに天才の僕に口を利きやがって……!こんな奴にアーマードライダーの力は勿体無いんだよ!だから僕が代わりに、完璧に使いこなしてやろうって事さ!」

 ザック「だからと言ってそれで人の命を奪って良い理由にはならねぇぜ!てめぇのその腐った根性叩き直してやる!」

 ギリア「というか、寧ろ貴方にアーマードライダーの力を使わせる方が勿体無いですよ!」

 春輝「その余裕がいつまで続くかな!?」

 ザック「何?」

 

 ドオンッ!!

 

 ザック「がっ!?」

 ギリア「手榴弾!?」

 春輝「違うね、白式の新たな武装『雪羅』の荷電粒子砲さ!隙有りだあっ!!」

 突然の荷電粒子砲に意識が向き、二人は春輝の攻撃に対する反応が遅れてしまい、

 

 春輝「食らえっ!!」

 ザシュッ!!

 ザック「が……はっ……!」

 ギリア「あ……が……っ!」

 

 二人共零落白夜を発動した雪片弐型の一撃を受け、戦極ドライバーは破壊されて変身解除された。血を吐きながら倒れ込む二人。特にギリアはザックよりも至近距離で攻撃を受けた為に出血が酷く、牙也と同じくらいの血が吹き出ている。

 ギリア「ぐ……ま、さか……ここで、終わりとは……」

 ザック「ぐうっ……まだだ……まだ俺は……!」

 春輝「ハハッ、そんなボロボロの状態で、よくそんな事が言えるね?ま、君達は所詮僕が変身するアーマードライダーには敵わないさ……」

 ザック「どういう……意味だ……!?」

 春輝「こういう意味だよ」

 すると、なんと春輝は白式の拡張領域から戦極ドライバーを取り出し、白式を解除してから腰に付けた。そしてさっき牙也から奪い取ったブルーベリーロックシードを解錠する。

 

 《ブルーベリー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 ザック「ば、馬鹿な……!お前が、蝕に……!?」

 春輝「さて、悪あがきは止めにして、さっさと死ねよ。お前等二人には、あいつ殺しの罪を被ってもらわなきゃならないからね……それじゃーー」

 春輝は二人に向けて紫炎を振り上げた。

 

 春輝「永遠に、さよならだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 ザ・ギ・春『!?』

 

 突然の叫び声にその方向を三人が向くと、牙也の体からは紫電が迸り、血の如く紅いオーラと周囲を塗り潰す程にドス黒いオーラが漂っていた。牙也の目は紅く鈍い輝きに加えて紫電が迸り、腰に付けた戦極ドライバーからも紫電が上がる。やがて、一つのロックシードが同じように紫電を発しながら左腰のホルダーから外れ、ドライバーにロックされた。

 

 《ロック・オン》

 

 それは、初めて学園の面々と顔合わせした日の夜にシュラから渡されたロックシードだった。それがロックされると、自動的にカッティングブレードが下ろされロックシードを切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ハッ!ブラッドザクロアームズ!狂い咲き・Sacrifice!》

 

 

 

 

 今、血の如く紅いザクロが咲いたーー。

 

 

 

 




 長いので今日はここまで。



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第37話 血ニ溺レ、消エル希望(中編)

 絶望ノ花束ヲ、誰ガ受ケ取ルノカーー。




 千冬「くっ、どうしてだ……こんなにも牙也の事が心配でならない……!」

 シュラ「落ち着け、織斑千冬。牙也がそう易々と負ける事はあるまい。我が直々に鍛えたのだからな」

 

 千冬はシュラの運転の下、ヒガンバライナーで牙也の救援に急いでいた。シュラが急ピッチでヒガンバライナーを修理した為に性能は通常よりも劣ってしまうが、なんとか動かせる物であった。

 その後ろからは、真耶が率いる教員部隊があちこちにセンサーを向けて春輝の捜索をしていた。

 シュラ「それ以上の不安要素は織斑春輝だ。奴が何をしでかすか、分かったものではないからな」

 千冬「何も無ければ良いのだが……!山田先生、織斑の白式の反応はあるか?」

 真耶「いえ、まったくありません。引き続き捜索を続けます」

 千冬「頼むぞ」

 シュラ「さて、少しスピードを上げる。なるべく早く牙也に合流せねば……急gーーッッ!?」

 

 

 突然正面から衝撃波が飛んできて、ヒガンバライナーやISを揺らした。

 

 

 千冬「今の衝撃波……この方角は、牙也がいる方か!?シュラ、急いで向かっtーーどうした?」

 シュラ「不味いな……さっきの衝撃波で異常が出たようだ。くそっ、こんな時に……!」ガンッ

 シュラは忌々しそうにヒガンバライナーを殴り付ける。

 千冬「くっ、仕方あるまい……山田先生達は織斑捜索を続けてくれ。私達は一旦何処かの島に着陸して修理をする」

 真耶「分かりました」

 

 真耶達教員部隊はあちこちに散らばっていく。

 

 シュラ(今の衝撃波の感覚……まさか、あのロックシードが目覚めたのか……!?馬鹿な、だとしたらあまりにも早すぎる……!牙也、お前に何があったのだ……!?)

 

 シュラはヒガンバライナーを確認しながら、心配そうに牙也がいるであろう方角に目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ガアアアアアアア!!」

 春輝「な、なんだよこいつ!?もう動けない筈じゃ……うわっ!?」

 完全に自我を失っているのか、『ブラッドザクロアームズ』に強制変身した牙也はがむしゃらに専用武器・セイヴァーアローを振るう。春輝は紫炎でこれをなんとか防いでいるが、アーマードライダーとして戦い慣れしていない春輝ではダメージを受けないようにするのが精一杯のようで、攻撃の余地も無い。しかも暴走している為か、最早今の牙也には目の前にいる春輝しか見えておらず、重傷を負っているザック達には見向きもしない。

 ザック「す、凄ぇ……あんなアームズあったのか……」

 ギリア「あれ、が……ザクロロックシード……」

 ザック「ギリア!?しっかりしろ!気をしっかり持て!」

 ギリア「もう、良いんです……僕はもう、助かりません、から……それよりも、彼の事を……」

 ザック「だが、どうすりゃ良いんだよ?」俺達のドライバーは破壊されちまったし……」

 ギリア「彼は、先程重傷を負っています……恐らくいずれは、それによる肉体への負担超過で、変身が解除されます……そこを、狙って下さい……後は……よろしく……お願い…………しま……す……」ガクッ

 ザック「ギリア!?ギリア!!」

 ザックは何度も呼び掛けるが、ギリアが返事をする事は二度と無かった。

 ザック「ギリア……すまねぇ……!」

 ギリアの遺体をその場に寝かせ、ザックは未だに暴走している牙也を見つめる。

 ザック(絶対に成功させなきゃな……ギリアの為にも!)

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「くそっ、なんなんだよこいつ!なんで倒れねぇんだよ!?」ガキンッ

 依然として暴走する牙也の攻撃を必死に防いでいる春輝。しかし牙也の攻撃は強烈で、一撃を防ぐ度に腕が痺れる程であった。セイヴァーアローのアークリムが紫炎とぶつかる度に火花が上がり、その度に春輝は大きく後ろに後退していく。やがて春輝はフィールドの端まで追い詰められた。

 春輝「くっ、天才であるこの僕が、ここまで追い詰められるなんて……」

 牙也「ガアアアアアアア!!!」

 牙也がセイヴァーアローを振り上げたその時、

 

 春輝「ここは逃げるが勝ちだ!」

 

 なんと春輝はフィールドから飛び出した。そのまま落下していくがその際に変身解除して素早く白式を展開し、そのままその海域を離脱していった。

 牙也「逃ガスモノカ……!」

 

 《ロック・オフ  ロック・オン》

 

 それを見た牙也はザクロロックシードをセイヴァーアローの窪みに装着。それを離脱していく春輝に向けて構えた。

 牙也「……落チロ!」

 

 《ザクロチャージ!》

 

 セイヴァーアローから放たれた無数の赤黒い矢が、全て春輝に向かって襲い掛かる。

 春輝「な!?う、嘘だrーーぎゃああああああ!!」

 矢は次々と春輝に向かって突っ込み、大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 牙也「仕留メタカ……?イヤ、外シタヨウダナ……」

 未だに起こる爆煙からなんとかほぼ無傷で出てきて、再び離脱する春輝が見えた。

 牙也「チイ……ダガ、次ハ逃ガサン」

 すると変身が解除され、牙也は再び吐血した。先程以上に出血も酷く、足もおぼつかない。

 ザック「くっ、今なら……今なら行ける……っ!」ズキッ

 ザックは行動を起こそうと立ち上がるが、春輝にやられた傷が開き、その痛みで倒れ込んでしまった。その間にも、牙也はふらふらとしており、やがてフィールドの端まで来た。

 ザック「お、おい待て……!そっちに行ったら駄目だ……!そっちはーー」

 ザックが必死になって叫ぶが、それも空しくーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也は遂にバランスを崩し、フィールドから海に転落した。大きな水飛沫が上がり、やがて静かになる。フィールドには、何か金属製の物が落ちる音が響いた。それは牙也の懐から落ちたのであろう、福音の待機状態であるネックレスだった。

 

 

 

 

 

 

 ザック「任務失敗……か、よ……すまねぇ…………すまねぇ……ギリア……」

 ここでザックの意識も途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「ふむ、どうやら一時的なシステム異常だったようだな。よし、今度こそ牙也の救援に向かうぞ」

 千冬「急げ、シュラ!胸騒ぎがしてならない……!」

 近くの小島に不時着したシュラと千冬は、ヒガンバライナーが正常に動いた事を確認すると、急いでそれを起動し、牙也の下に向かおうとした。すると、

 

 真耶『織斑先生!織斑君を発見しました!織斑先生がいる小島からあまり離れていない場所にある別の小島です!』

 千冬「そうか。織斑を拘束して数人で旅館に運べ。残りは牙也の救援だ!」

 真耶『はい!』

 

 シュラ「織斑が見つかったか」

 千冬「ああ。私達も急いで向かうぞ」

 

 二人は一部の教員部隊を率いて牙也の救援に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが最早手遅れである事を知らぬままーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也side

 

 (体が、冷たい……)

 

 少しだけ戻った意識を全身に向けると、水の中のようだった。どうやら俺は、海に落ちたらしい……水が胸と背中の傷にしみて、凄まじい痛みが走る……。

 

 (ああ……約束、破っちまったなぁ……)

 

 出撃前に箒達と交わした約束を思い出し、そして後悔する。約束を破ってしまった事を。

 

 (ごめんな、箒。約束、破っちまって……ごめんな、シュラ。お前との約定、果たさないまま死ぬ事になっちまって……ごめんな、皆。皆の元に、無事に帰って来れねぇで……ごめんな……)

 

 また段々と意識が遠のいていく。俺は、ここで終わりか……ま、良いよな……一応、役には立てたんだからさ……それだけで、満足だよ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「ーー!まだーはーー!お前はーーがーーる!」

 

 なんだ……?誰かいるのか……?こんな俺を、救おうとしてるのか……?もう、間に合わないのに……

 

 

 また意識が途切れる瞬間、最後に俺の目にはっきりと見えたのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (千冬…………さん……?)

 千冬さんにそっくりっぽい少女が、俺の手を掴もうとしてくる光景だった。

 

 

 牙也side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「こ……これは……!?」

 シュラ達は牙也が先程まで戦っていたフィールドを見て愕然とした。フィールドにはガッチリとした筋肉が特徴の大男と細身で長身の男が血を流して倒れていた。シュラ達は辺りを見回すが、牙也の姿は見えない。

 千冬「牙也!何処だ!?」

 千冬は牙也の名前を呼びながら辺りを見回すが、返事は返ってこない。

 千冬「くっ……シュラ、私は周辺を捜索して牙也を探す!その二人から話を聞いておけ!」

 シュラ「……」

 千冬「どうした?」

 シュラ「……こっちの細身の男は、もう既に手遅れだ。もう一人の大男を治療して、話を聞く事にしよう」

 倒れていた二人を調べたシュラは、首を振りながら答えた。

 千冬「そうか……頼むぞ。教員部隊!牙也が行方不明だ!すぐに周辺を捜索開始せよ!なんとしても、牙也を見つけ出せ!!」

 『了解!!』

 千冬は予備として持ってきていた打鉄を展開すると、スラスターを全開にして捜索に向かった。

 

 

 

 シュラは自身の持つ回復能力を大男ーーザックに分け与え、治療を施した。少しの間ザックの体を淡い光が覆い、やがてそれはゆっくりと消えていく。光が消えると、ザックの傷はそのほとんどが癒えていた。

 ザック「う……うう……」

 少しして、ザックが意識を取り戻した。

 シュラ「目が覚めたか」

 ザック「お、お前は……」

 シュラ「オーバーロード・シュラ。牙也の仲間だ」

 ザック「そうか……お前が、あいつの……」

 シュラ「貴様、牙也は何処だ。今何処にいる!?」

 シュラは本来の姿となり、撃剣『ラヴァアーク』をザックの首筋に突きつけた。

 ザック「まあ待て。今から全部話す、俺達が何者か、ここで何があったかを、全てな」

 そしてザックは全てを話し始めた。ザック自身が見た、最悪の結末をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「くっ、牙也……!何処にいるのだ……!?」

 千冬は打鉄で飛行しながら牙也を探していた。しかし、どこを探しても牙也は見つからない。

 千冬「くっ、何処まで行ってしまったのだ……!?」

 <pppppーー>

 千冬「もしもし」

 シュラ『織斑千冬か?我は一旦旅館に戻る。この大男から重要な情報を手に入れたのでな……』

 千冬「……?分かった。私は引き続き捜索を続ける」

 通信を切った後、千冬は首を傾げていた。

 千冬「今のシュラ……凄まじい殺気が乗っていた……何かあったのか?」

 そう考えながら千冬は捜索を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 束「牙君、大丈夫かな……?」

 束達は牙也の安否を心配していた。先程真耶率いる教員部隊の一部が帰還してきた。真耶から事情を聞いた束達は拘束された春輝を叩く蹴るなどして暇潰しをするが、不安は拭えない。

 一夏「春輝が戻ってきても、牙也がちゃんと戻ってきてくれないと意味が無いんだよ……」

 鈴「今はもう祈る事しか出来ないわね……」

 

 <pppppーー>

 

 束「あれ、シュラ君からだ。もしもし?」

 シュラ『篠ノ之束、聞こえるか?』

 束「聞こえるけど……どうしたの、口調から察するに随分お怒りのようーー」

 シュラ『無駄話は後にしろ。それよりそこに織斑春輝はいるか?』

 束「え?さっき帰ってきたところだけどーー」

 

 

 

 

 

 

 シュラ『その屑のISをすぐに調べろ!!予想が正しければ、拡張領域から【あれ】が出てくる筈だ!!』

 

 

 

 

 

 束「え!?ちょ、何の事だかさっぱりーー」

 シュラ『そっちに戻ってから全部話す!!良いから早くやれ!!それと、絶対に屑を逃がすなと山田真耶に伝えろ!!』

 束「わ、分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時束達旅館にいたメンバーや、シュラを除く千冬達牙也捜索組は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也はもう、何処にもいないという事をーー。

 

 

 

 

 




 また一旦切ります。次回で福音編は完結。



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第38話 血二溺レ、消エル希望(後編)


 福音編はこれで完結。シリアス感大丈夫だよな……?




 

 旅館の大広間。外はすっかり暗くなりいくつか星が煌めく中、大広間の中央に置かれた椅子に、春輝が手足を縛られた状態で座らされている。その周りには、専用機持ちや教員達も集められた。

 春輝「おいおい、僕をこんな風に拘束して何をしようって言うのさ?」

 シュラ「それは……貴様自身が一番理解している事ではないのか?」

 ザックをヒガンバライナーに乗せ、千冬達より先に帰還したシュラが春輝に鋭い眼差しを向けて言った。ちなみにザックは現在、別室で治療を受けている。

 春輝「僕が?何を馬鹿な事を……僕はあいつが戦っていた場所から離れた小島で保護されたんだぜ?何が出来るって言うんだよ?」

 シュラ「ふん、今さら惚けても無駄だ……その場に居合わせた者が別室にいる。我は其奴の証言が正しい事を既に確認済みだ」

 束「終わったよ」

 そこへ束が待機状態の白式を抱えて大広間に入ってきた。その顔は誰から見ても分かるぐらいに悲しい目をしていた。

 シュラ「ご苦労。結果は……その顔から察するに、「当たり」だったようだな」

 束「うん……」

 束は今にも泣きそうな顔であった。

 

 千冬「今戻った……」

 そこへさらに、千冬達も戻ってきた。千冬の顔もまた、束と同じくらい悲しい目をしていた。

 シュラ「……聞くだけ野暮かもしれんが、一応聞かせてもらおう。牙也は、見つかったか……?」

 

 

 

 

 

 千冬「……皆、すまない……牙也を見つけ出す事は、出来なかった……」

 

 

 

 

 千冬は目に涙を浮かべながら頭を下げて答えた。

 千冬「それと、捜索メンバーに養護教諭がいたから、あのフィールドに残っていた血を簡単に調べてもらった結果ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー出血量から鑑みるに、牙也の生存確率は限りなく0に近い事が分かった……こんな事は言いたくないが……牙也は、既にーー」

 

 

 

 シュラ「それ以上は言うな、織斑千冬。皆察したのだろう……」

 そこでシュラが手で千冬の言葉を制す。

 見ると、ほとんどの人が涙を流して悲しんでいた。特に交流のあった専用機持ちの内、鈴は崩れ落ちるように膝をついて涙して一夏に抱き締められ、セシリアとシャルロット、簪も同じく崩れ落ちるように膝をついて涙していた。ラウラは報告を聞いて自身の涙を隠すように顔を背けた。この報告を聞いて涙を流さない者は、春輝を除いては他にいなかった。

 千冬「シュラは、何か情報を見つけたのか……?」

 シュラ「ああ……それと福音も回収した。今その情報源は治療中だから後で問い詰めよう、それよりもーー」

 シュラは福音の待機状態であるネックレスを千冬に渡すと、春輝に目を向けた。

 シュラ「貴様は分かっているか……?貴様の愚行が原因で、牙也という大きな戦力、そして仲間を失った事を……」

 春輝「ふん、戦力が減ったのならその都度投入すれば良いだけの話だろうに」

 シュラはそれを聞いて頭を抱えた。いや、抱えずにはいられなかった。

 シュラ「やはり貴様は大馬鹿者のようだな……我は以前こう言った事を忘れたか?『戦極ドライバーは我一人で作っている』と」

 春輝「それがどうかしたのかい?」

 千冬「大馬鹿者め……つまり『量産が出来ないから、戦力逐次投入は不可能』という事だろう?」

 シュラ「そうだ。故に、アーマードライダー一人の喪失はIS使い数百人にも匹敵するほどに大きな損失だという事だ。易々と投入などとは出来んのだよ、自称天才」

 春輝「ぐっ……」

 シュラの威圧に押され、口ごもる春輝。

 一夏「ところで束さんは、白式取り上げて何調べてたのさ?中身見て随分七面相してたけど……」

 束「ああ、シュラ君に頼まれてね……シュラ君の予想通り、とんでもない物が出てきたよ……」

 そう言って束は再び悲しい顔を見せた。

 鈴「何が出てきたんですか?」

 束は口を噛みしめながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「戦極ドライバーとブルーベリーロックシード……しかも、ドライバーはこいつ専用に作られた物で、ロックシードは牙君が使ってた物だった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「な……!?何故春輝が戦極ドライバーを持っているのだ!?」

 ラウラ「そう言えば、牙也の出撃前にシュラが言っていたな、拠点に誰かが侵入した、と」

 シャルロット「まさかその犯人が彼で、シュラさんでも気づかないようにドライバーを……!?」

 シュラ「いや、違う」

 シャルロットの意見をシュラは否定した。

 シュラ「拠点からは何も盗まれなかった。いや、盗まなかったと言うべきか……」

 簪「どういう、事なんですか……?」

 シュラ「こいつはドライバーを盗む為に侵入したのではない……ドライバーの設計図が目的で侵入したのだ」

 束「設計図……?まさかこいつは……!?」

 シュラ「ああ……我等に隠れて、自分専用の戦極ドライバーを作っていたのだ……!」

 千冬「そして、完成した物をこっそり白式に入れていた、という事か……」

 春輝「ぐ、偶然だ!そんなの、証拠も何もーー」

 シュラ「少し前に拠点に戻って設計図を調べたら、貴様の指紋が見つかった。言い逃れは不可能だ」

 春輝「で、でもだからって僕がそれを使ったのを見た奴がいるってのか!?」

 シュラ「いるさ、一人だけな。入ってこい」

 シュラが襖に向かって声を掛けると、

 

 

 

 

 

 

 

 ガラッ

 

 ザック「治療してくれてありがとな。お陰でだいぶ楽になったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな音を立てながら、ザックが入ってきた。

 春輝「!?」

 鈴「シュラ、こいつ誰よ?」

 シュラ「実際にその場にいて、牙也と戦っていた者だ。重要な証拠を握っていたから、治療も兼ねてここに連れてきた」

 ザック「ザック・ヴァルフレアだ。そいつの所業を、俺はこの目で全部見たぜ。おいシュラ、なんならここで全部話そうか?」

 シュラ「いや、今話す必要は無い。明日学園に貴様を連行する、それまでちゃんと生きていてくれればそれで良い」

 ザック「そうかよ……」

 シュラ「さて……織斑春輝。貴様さっきこいつを見て顔色が変わったな。こいつに覚えがあると見えるが」

 春輝「し、知らない!こんな奴知らない!」

 ザック「ったく、今さら否定しても遅いんだよ。ギリアの奴が、あの時の会話を全部録音してたからな」

 そう言ってザックはズボンのポケットからボイスレコーダーを取り出して全員に見せた。

 春輝「そ、そんなの見せかけの証拠だろう!皆はこんな奴の事を信用する気なのかい!?紫野の奴に負けて、自暴自棄になるような奴に!」

 

 

 

 

 

 ザック「おっと、皆。今のこいつの言葉、聞こえたよな?」

 

 

 

 

 すると、ザックが春輝を指差して全員に問いかけた。突然の問いかけに戸惑いつつも、全員がぎこちなくだが頷いた。

 ザック「お前、墓穴掘りやがったな。馬鹿な奴だ……」

 春輝「どういう意味だ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザック「俺はあいつとのーー牙也との戦いの結果を、『誰にも』話してないんだぜ?にも関わらず、なんでお前は……お前だけは、俺が牙也に負けた事を知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「っ!?」ギクッ

 春輝は「しまった」というような顔をしたが、既に遅し。

 シュラ「どうやら決まりだな……出来る事なら貴様の首をこの手ではねたいと思っていたが……轡木、どうする?」

 すると、スクリーンに轡木とその妻と思われる女性の姿が映った。

 轡木『シュラ君の気持ちは分からないでもないよ。でも、今回の事は我々に一任してくれないか?勿論、君達の証言をしっかり聞いた上でね』

 轡木は静かな口調でそう言うが、その目には明らかに怒りの炎が灯っていた。

 千冬「申し訳ありません、学園長……私の指導が行き届かなかったばかりに……」ペコリ

 轡木『顔を上げて下さい、織斑先生。今回の件で、私は皆さんを責めるつもりはありません。ただしかるべき対応をして、彼には相応の罰を受けてもらおうと考えています。シュラ君はそれで良いかな?』

 シュラ「無論だ。むしろ我としては轡木の言う『相応』以上の罰を与えてほしいとは思っているがな……」

 轡木『善処するよ』

 

 

 

 

 ガラッ

 

 すると突然襖が開いた。全員が襖に注目するとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「シュラ…………今の話は、全て本当なのか……?」

 

 箒がふらつきながら入ってきた。

 鈴「ちょ、箒!?あんた寝てなきゃ駄目よ!」

 セシリア「そうですわ!でないと傷が……!」

 箒「シュラ、答えてくれ……!今の話は全部、事実なのか……!?」

 箒はシュラに掴み掛かって聞く。

 シュラ「…………っ」

 が、シュラは辛そうな表情をして顔を背けた。それで察したのか、箒は膝から崩れ落ちる。絶望したような表情であった箒は、やがてゆっくりとその目線を春輝に向けた。そしてゆっくりと立ち上がって春輝に一歩一歩近寄る。春輝は逃げようとするが、縛られている為に身動きが取れない。やがて箒は春輝の正面に立ち、春輝を睨み付けた。

 箒「…………」

 春輝「な、なんだよその目は……!?僕じゃない、あいつがーー紫野の奴が悪いんだ!」

 箒「……えせ」

 春輝「え?」

 箒「……返せ」

 箒が春輝を睨みながらボソリと呟く。そしてゆっくりと近付きーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「……返せ。牙也を…………牙也を返せっ!!」ゴッ

 

 春輝「ふがっ!?」

 

 唐突に怪我した右手で春輝をブン殴った。それも一発に留まらず何発も何発もーー。その目からは、絶えず涙が流れていた。

 千冬「全員で篠ノ之を止めろ!二人を引き剥がせ!」

 慌てて千冬がそう命令して教員や専用機持ちが二人を引き剥がしにかかり、十分間の格闘の末、漸く二人を引き剥がす事ができた。引き剥がしにかかっている間も、箒は「牙也を返せっ!!」と叫びながら春輝を殴ろうとしていたため、束がやむなく筋弛緩剤を箒に注射した上で抱き締め落ち着かせようとするほどの騒ぎとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 箒side

 

 私には信じられなかった。牙也が……牙也が、死んだなどと……。牙也が出撃した後私は少しの間仮眠をとっていたので、その間何があったかは分からない。次に起きた時、なにやら大広間の様子がおかしかったので、襖からこっそり聞き耳を立てていたが、千冬さんの言葉を聞いて一瞬頭の中が空っぽになった。そして大広間に入り、シュラに真意を聞いた。それが本当である事を知った時、私は思わず春輝に殴り掛かっていた。その後の事は覚えていない。ただがむしゃらに春輝に殴り掛かっていたのを教員達が必死になって止めようとしていた事、私と春輝が引き剥がされた後そのまま泣き疲れて短時間だが眠ってしまった事を、あとで一夏から聞いた。学園長の一言でーー何を言っていたかは覚えていないがーー解散となり、私は山田先生の肩を借りてやっと仮設医務室に着いたのだが、牙也の事を思うと眠れず、私はこっそり窓から外に出て、怪我の痛みを堪えながら歩き、気づけば海岸に出てきていた。

 

 「…………」

 

 海岸に座り込み、空を見上げる。空はすっかり夜になり、そこには星がいくつも輝いており、満月ではないが珍しくはっきりと月が見えた。それを見た時、私の脳裏には牙也との会話の数々が思い出された。

 

 牙也『どうか……どうか、俺に力を貸してほしい。お前の力が俺には必要なんだ……!』

 

 牙也『アッハッハ、やっぱり箒はからかいがいがあるな!』

 

 牙也『まだそんなもんじゃねぇだろ!?お前の力ってのはそんなもんなのか!?』

 

 牙也『大丈夫だって。俺はちゃんと帰ってくるさ。約束だ』

 

 その言葉一つ一つを噛みしめるように思い出すと、本当に懐かしく思えた。そして同時に、一つの後悔が生まれた。

 

 (結局、言えなかった……私の、牙也への思いを)

 

 あの時先延ばしにしてしまったせいで、言い損ねてしまった。私の、牙也への、純粋な思いを、私自身の本心を。なんであの時、言えなかったんだろう……?なんで先延ばしにしてしまったんだろう……?そんな後悔だけが、頭の中をよぎる。

 

 

 「…………ああ」

 

 気づけば、私はまた涙を流していた。

 

 「……あああ」

 

 お願いだ、牙也……帰ってきてくれ……!

 

 「……ああああ」

 

 私を、私を…………置いて、行かないでくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 「あああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、臨海学校は終わりを告げた。無事の終了と引き換えにーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紫野牙也の死亡という、あまりにも大きすぎる犠牲と、最早治らないであろう心への爪痕を全員に残してーー。

 

 

 

 

 

 





 次回からは、学園祭編。いよいよ物語は佳境にーー。



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幕間 夏休ミノ奇跡
第39話 残サレタ手紙


 すいません、ひとまずは夏休みの出来事を数本挟んでから学園祭編に入ります。まずはこちらから。




 臨海学校が終わり、IS学園は夏休みを迎えた。本来なら学園の生徒達は夏休みを楽しみにしている筈なのだがーー

 

 轡木「えー……生徒の皆さんには、この夏休みを有意義に過ごしていただきたいとーー」

 生徒達『』

 

 学園はお通夜のような雰囲気だった。原因は勿論、アーマードライダー蝕ーー紫野牙也の死である。

 

 轡木「では最後になりましたが、今回の臨海学校にて亡くなった清掃員、紫野牙也君を偲びまして、生徒及び教員の皆さんで彼に黙祷を捧げましょう。黙祷ーー」

 

 

 

 

 

 

 鈴「はあ……結局箒は終業式に来なかったわね……」

 セシリア「やはり紫野さんを亡くした事が相当ショックだったのでしょう……なんと言うか、掛ける言葉が見つかりませんわ……」

 終業式も終わり、生徒達はそれぞれの教室へと戻っていく。しかし、教室に戻る生徒達の足取りは重かった。特に一番牙也との交流が多かった一年一組や、鈴、簪などの一部の生徒に至っては、周囲の空気がお通夜を通り越してお葬式であった。

 簪「篠ノ之さんの様子はどうなの……?」

 ラウラ「臨海学校から帰ってきた日からずっと、部屋に閉じ籠ったままだ。私達も何回か部屋を訪ねたが……なんと言うか……見ていられなかった……」

 シャルロット「心が完全にボロボロみたいで、私達の言葉にもほとんど反応出来てなかった。壊れたように紫野さんの名前を呟いてたよ……」

 シャルロットとラウラは辛そうな顔をして言った。

 本音「そう言えば私、牙っちとほとんど話せてないや……ずっとアーマードライダーのお仕事してたから、なかなか会う機会も無かったし……それに会長やお姉ちゃんも凄い悲しそうだったよ。いつもの元気が嘘みたいに静かだし……」

 清香「私達皆そうだよね……紫野さん、色々忙しく動いてたから、なんか話し掛けづらくて……」

 静寐「そうそう、話し掛けたらいけない雰囲気だったから……」

 クラスのメンバーから次々と声が上がる。

 清香「はあ……今になって、もっと沢山お話すれば良かったって思ってるよ……」

 生徒達『』コクコク

 清香の言葉にクラスの生徒全員が頷く。教室に戻るまでの間、生徒達は皆牙也の事を話しては悲しそうに溜め息を吐いたり涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 教室に戻ってきても、その空気は晴れなかった。千冬が夏休みに関する説明などを話していたが、ほとんどの生徒はそれが全く耳に入らず、話している千冬も千冬でいつもの威厳が無くなり、気の抜けたような感じで話している為、真耶が心配そうに千冬を見ていた。

 千冬「では私からは以上だ……皆、夏休みを有意義に過ごせよ。オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒは後で学園長室に来てくれ。凰と更識妹にも同じように伝えてある」

 そう言って千冬は真耶と共に教室を出ていった。途端に教室は騒がしくなる。

 静寐「学園長室に呼ばれるって……余程の事じゃなきゃ呼ばれないよ」

 ラウラ「なぜ私達が呼ばれたかは大体予想がつくがな」

 鈴「おーいセシリア、シャル、ラウラ。早く行きましょ」

 そこへ鈴が教室の窓から声を掛けてきた。隣には簪もいる。

 セシリア「分かりましたわ。デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、行きましょう」

 シ・ラ『うん(ああ)』

 

 

 

 

 

 

 

 五人が学園長室に到着すると、ちょうど楯無と虚が来たところだった。

 楯無「あら……やっぱり皆も呼ばれたのね」

 鈴「はい。会長もですか?」

 楯無「ええ……現場にいなかったとは言え、私は一応生徒達を取り仕切る存在だから……ま、話は中でしましょ」

 そう言って楯無は学園長室の扉をノックした。

 楯無「学園長、更識です」

 轡木『入って来て下さい』

 楯無達が中に入ると、来客用のソファにクロエが、その後ろにはオーバーロードとしての姿をしたシュラがいた。轡木はその反対側のソファに座り、その後ろに千冬と真耶が控えている。

 鈴「あら、クロエ?今日はどうしたの?」

 クロエ「はい、束様の代行として来ました。束様も、箒様と同様に閉じ籠った状態ゆえに……一夏様に束様をお任せして私が来たのです」

 セシリア「そうでしたか、束博士も……」

 簪「牙也さんと交流が多かったから、もしかしてと思ってたけど……」

 全員が残念そうな顔をして肩を落とす。

 轡木「まあとりあえず皆さんはこちらに。今回皆さんを呼んだのは、織斑春輝君の処分内容が決定した事をお伝えする為です」

 ラウラ「どのような処分になったのですか?」

 

 

 轡木「はい、まず彼の専用機の白式は没収、機体は製造した倉持技研が、コアは篠ノ之博士が預かる事になりました。白式の今後はまだ明らかになっていませんが、恐らく解体されるか、もしくは新しくコアを付けて他の誰かに渡されるかでしょう……そして織斑君ですが、遺体が見つからないとは言え牙也君とギリア君を殺害、ザック君を殺害未遂、そしてロックシードの強奪という二つの罪がありますので、臨海学校から戻ってきたその日に警察に連行されました。IS委員会や女利権は、織斑先生の弟であるという事を理由に彼の釈放を望んでいますが……」チラッ

 そこまで言って、轡木は千冬を見た。

 千冬「私は一夏と相談した結果、春輝と絶縁する事に決めた。相応の罰を春輝には受けてもらわねばならんからな」

 轡木「という事で委員会や女利権には、私の妻が話をつけておきました。彼を擁護する人は、最早誰もいません。恐らく懲役20年、多くて30年、最悪終身刑でしょう」

 シュラ「そうか……ところで轡木、ザック・ヴァルフレアはどうなった?」

 轡木「彼は重要参考人として、今も警察で聴取を受けています。牙也君を殺害しようとしていた人が、参考人として聴取を受けるとは、皮肉ですね……」

 シュラ「まあザックは結果論として、牙也と戦って負けた。しかし殺害までには至っていないから重い刑にはなるまい」

 轡木「私からも彼の保釈を求める文書を送りました。恐らく数日あれば無事に出てこれるでしょうね」

 虚「それと、彼と共に牙也さんと戦ったギリア・フレイアですが、遺体は更識家と布仏家で引き取り埋葬する事が決定しました。調べたところ、彼には肉親や親戚が既におらず、引き取り手もいないと分かりましたので」

 シュラ「二人が使っていた戦極ドライバーとロックシード、それに織斑春輝が設計した戦極ドライバーは、我が回収して調査する。出来れば修理・初期化してまた使えるようにしておきたい」

 轡木「と言ったところですね。何か質問はありますか?」

 轡木が尋ねたが、全員首を振った。

 轡木「では、私からは以上です。戻って良いですよ」

 轡木が話を締めた事で、楯無達は轡木に一礼して次々と部屋を出ていく。

 千冬「私も部屋に戻ります。牙也の遺品を整理しなければならないので……」

 シュラ「我は暫くここを留守にする。牙也の為にも、この一件を早く解決せねばならん。それに、奴によって使えなくなったこれを埋葬せねば」

 千冬も部屋を出ていき、シュラはブルーベリーロックシードを腰に提げると、クラックを開いてヘルヘイムの森に戻っていった。残された轡木と真耶は、日が沈むまでただじっと窓の外を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「牙也の私物は少ないな……まあ自分の事よりも、他人の事を優先するような奴だったからな……」

 自室に戻った千冬は、牙也の遺品を整理していた。しかし千冬が思っていたよりもその数は少なく、服やパソコンくらいしかなかった。元々牙也は本業のアーマードライダーとしての仕事が忙しく、副業の清掃員としての仕事もあって自分の趣味のようなものをする機会はなかなかなかった。それゆえに、たまに箒達が無理やり外出させるなどして充分な休みを取らせていた。

 千冬「ここまで物が少ないと、私達がどれだけ牙也を頼ってきたかが良く分かる……」

 そう呟きながら、千冬は牙也の机の引き出しを開けた。すると、

 

 千冬「これは……手紙か?」

 

 なにやら白い封筒を見つけた。手にとって見ると、中に手紙に加えて何か入っているようだった。封筒を裏返すと、『箒へ』とだけ書いてあった。

 

 千冬「…………牙也の最後の頼み事のようだ。篠ノ之に渡さねばな」

 

 整理もそこそこに、千冬はその封筒を持って箒の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 箒は窓際に椅子を置いて腰掛け、沈んでいく夕日を見ていた。

 箒(牙也……)

 その頭の中は牙也の事しか考えていなかった。臨海学校が終わってからは箒は授業に全く参加せず、布団にくるまっていたずらに一日を過ごす事が多くなった。たまにクラスの仲間達が心配して部屋を訪れる事はあったが、牙也を失った事で心がボロボロになっていた箒には、彼女らの話は全く耳に入ってこず、曖昧な反応しか出来なかった。

 箒(私があの時撃墜されていなかったら……)

 そんな後悔ばかりが箒を苦しめる。

 

 

 コンコンーー

 

 箒「……?」

 ドアをノックする音に反応し、ふらふらよろめきながらドアに向かい、ドアを開けると、

 

 千冬「篠ノ之……」

 

 ドアの前には千冬が立っていた。

 箒「織斑先生……」

 千冬「篠ノ之……本当にすまなかった、牙也を助ける事が出来なくて」

 千冬は箒の顔を見るなり頭を下げて謝った。

 箒「謝らないで下さい……私だって……私だって……!」

 箒は強く両手を握り締める。すると千冬が、何か封筒のようなものを箒に差し出した。

 箒「これは……?」

 千冬「お前宛の手紙だ。読んでおけ」

 封筒を箒に渡すと、千冬は部屋を後にした。

 

 

 箒「手紙……誰からだろうか……?」

 箒はベッドに座って封筒から手紙を取り出した。すると手紙と一緒に何かが封筒から出てきた。箒が拾い上げると、

 

 箒「……リボンと、ヘアピンか?」

 

 それは赤色のリボンと、同じ赤色で桜の飾りを付けたヘアピンだった。ひとまずこの二つは置いておき、箒は手紙を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『箒へ

 

  初めて他人に出す手紙ゆえに、拙い文章になる事をまずは許してほしい。

 

 さて、ちょっと遅くなったが、誕生日おめでとう。臨海学校直前になって束さんから箒の誕生日の事を聞いて、慌ててプレゼントを用意したんだが、気に入ってくれただろうか……?俺はファッションとかアクセサリーとかのセンスが無いから、いまいち何が箒に似合うのか分かんなかったけど、気に入ってくれたのならとても嬉しいよ。

 

 俺と箒がアーマードライダーとして学園で活動を始めてから、もう既に3~4ヶ月になるだろうか……色々迷惑や心配かけただろうけど、一緒に付いてきてくれて本当にありがとう。箒が一緒に戦ってくれたお陰で、今までなんとか大きな騒ぎを鎮静化する事が出来たよ、感謝してもしきれない。勿論それだけじゃなくて、普段の生活においても俺は箒に沢山助けられたな。今更ながらここでお礼を言う、ありがとう。

 

 さて、ここからが本題なんだが……どうにも俺はこの手の話は苦手でな、なかなか言い出せずにいたんだが、思い切ってここで言ってしまおうと思う。

 さっきもズラズラと言葉を並べていたけど、今まで俺は箒と共にインベスと戦ってきた。時には別世界に行って戦ったり、別次元の奴等と戦ったりーー本当にいろんな奴等と戦ってきたな。いろんな敵と戦って、いろんな仲間と助け合って……そんな事を繰り返してる内に、俺は箒の事をよく気に掛けるようになってる事に気づいた。しかもそれは時間が経つにつれて、戦い以外でも箒を気に掛けるという風に変わっていった。俺自身なんでこうなっていってるのか分かんなかったけど、こないだ俺と箒と更識姉妹でコスプレして楽しんだ帰り道、箒と話してる時に、俺ははっきりと理解したんだーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、箒の事が大好きになってたんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 最初は自分でも良く分かんなかった。でもあの時はっきりと理解したよ、箒への純粋な気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 あー……他に言葉が出てこないや。なんて言うか、他の表現が出来ないんだよ。やれやれ、他に言いたい事があるって言うのに……自分でももどかしいぜ……』

 

 

 

 

 手紙は書いている途中だったのか、ここで文章が途切れていた。

 

 

 箒「馬鹿者……」グスッ

 

 手紙を読み終えた箒の目には、涙が浮かんでいた。側に置いていたリボンとヘアピンを手に取り、胸の内で優しく握り締める。

 

 箒「馬鹿者だ……!お前も、私も……!お互いの心が一致していながら、なぜ何も言わなかったのだ……!」グスグス

 

 箒の目からは絶えず涙が溢れてくる。

 

 箒「牙也……!」

 

 箒は泣きながら、手紙とリボンとヘアピンを握り締めていた。

 

 

 

 

 

 




 次回、束のラボでーー。




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第40話 新タナル勇士


 大分短いですが、始まります。




 

 移動式ラボ『我輩は猫である』。どことも知れぬ場所に鎮座するこのラボは、世界各国に複数あるラボの中で束が普段の研究や新型IS製作の為に一番多く使っているラボである。

 しかしーー

 

 

 束「牙君……」グスッ

 束はいつもの元気がなかった。束は今回の一件で、自分の作ったISが春輝によって殺人に使われた事にショックを受けていた。しかも殺害されたのが牙也であった事も災いして、ショックの大きさは計り知れないものであった。

 クロエ「束様……」

 一夏「束さん……」

 その後ろから、一夏とクロエが心配そうに話し掛ける。

 束「あ……どうしたの、二人共?」ゴシゴシ

 先程までモニターに向かっていた束が二人がいる事に気づいて、白衣の袖で涙を吹いて尋ねた。

 クロエ「あ、いえ……白式から外したコアはどこにしまっておけば良いでしょうか?」

 束「えっとね……あ、そこに置いておいて。二人はもう休んで良いよ、後は束さんがやるからさ」

 一夏「いや、でも……束さんあの日からずっと寝てないでしょう?ショックなのは良く分かりますけど、少しは休んでくれないと……」

 クロエ「一夏様の言う通りです。どうかお休み下さい、束様。束様が倒れられたら……」

 束「うん、分かってる。分かってるよ……これが終わったら休むからさ……」

 そう言って束は再びモニターに向かう。その様子を二人は悲しそうに見つめていた。

 クロエ「束様……牙也様がお亡くなりになった事がとても響いておいでですね……」

 一夏「自分で作ったISが殺人に使われたからな……しかも牙也の殺害に……ショックなんて生易しいもんじゃないだろ。とにかく俺達はもう部屋に戻ろう」

 クロエ「そうですね」

 クロエは一夏の言葉に頷いて、手に持ったコアを束に言われた場所に置こうとする。が、

 

 クロエ「……」プルプル

 

 ↑指定場所に手が届かない

 

 一夏「……代わりに置こうか?」

 クロエ「……お願いします」

 クロエがコアを差し出し、一夏がそれを受け取ったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロエ「ーーっ!?」

 束「な、何!?どうしたの!?」

 一夏「コ、コアが突然光りだしてーーっ!」

 

 光は、コアを持っていた一夏を飲み込んでいったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏side

 

 「はっ!?」

 

 気がつくと、俺は芝生に寝転んでいた。まだ重い体をゆっくりと起こして辺りを見回すと、そこは西洋の館なんかでよく見るような庭園だった。

 

 ??「あ、気がついた」

 

 女の子の声が後ろから聞こえたので後ろを振り向くと、白いワンピースを着た10歳くらいの女の子が俺をじっと見つめていた。

 

 一夏「君は一体……それに、ここは……?」

 ??「私は、カンナ。ここは、貴方の精神世界を具現化したもの」

 カンナと言う女の子はそう自己紹介して、手を差し出した。

 カンナ「こっちに来て、座って。手伝うから」

 言われた通りに手を差し出すと、突然ゆっくりと体が浮いて、近くにあった椅子の上に導かれてゆっくりと着地した。突然の事に理解が追い付かずにいると、カンナはテーブルの上にティーセットを置き、ティーポットから紅茶をカップに注ぎ、俺の前に出した。少し熱めの紅茶を一口飲んでみる。紅茶を飲んだ事は無かったけど、この紅茶は飲みやすい。

 一夏「……美味しい」

 カンナ「そう、良かった……」

 カンナは嬉しそうな顔をした。にしても……

 一夏「カンナ、だったな。なんで俺はこんな所にいるんだ?」

 カンナ「それは……私がここに貴方を呼んだから」

 一夏「カンナが?なんで?」

 カンナ「私から貴方に、プレゼントがあるの……それも、二つ」

 一夏「プレゼント?」

 

 するとカンナは、ワンピースのポケットから何かを取り出して俺に差し出してきた。あれ?これって……

 

 一夏「ロックシード……!?なんで君が……!?」

 星の形の果物が描かれたロックシード……なんでこの子が……!?

 カンナ「それは、貴方の力……貴方のこれからを決める、大事な力……忘れないで。貴方には沢山の仲間がいる事を……」

 カンナがそう言うと、周囲の景色が少しずつ光の中に消えていく。そして同時に、俺の体もーー。

 一夏「な、なあ!二つ目は何なんだ!?」

 消える間際、俺はカンナにそう問いかけた。するとカンナはこう返した。

 

 

 

 

 カンナ「目が覚めた時に気づいた変化……それが、二つ目のプレゼント……今度は、大切にーー」

 

 

 そこで、カンナの声は聞こえなくなった。

 

 

 

 一夏side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「ーーくん……いっくん!!」

 一夏「はっ!?」

 一夏が次に気づいた時、束とクロエが驚いた表情を見せながら顔を覗き込んでいた。

 一夏「ああ、束さんにクロエ……俺、どんだけ気を失ってましたか?」

 クロエ「かれこれ20分程です。それよりもーー」

 束「いっくん!足見て、自分の足!!」

 一夏「足?」

 一夏が自分の足を見ると、

 

 

 

 

 一夏「こ、これ……!」

 一夏の足は、純白に彩られた義足となっていた。

 束「一体気を失ってる間に何があったの……!?」

 一夏「実はーー」

 一夏は自分の精神世界に行ってカンナに会った事、カンナから二つのプレゼントを受け取った事を話した。

 束「二つのプレゼント……その一つが義足なら、もう一つは……?」

 一夏「それは……」ゴソゴソ

 一夏はポケットの中を探すが、

 一夏「あれ?確かに受け取ったのに……見当たらない……?」

 クロエ「どのような物だったのですか?」

 一夏「ロックシードだった……しかも、牙也達が持ってない物だったよ」

 束「ロックシード……!でも、何処にいっちゃったんだろう……?ちゃんと受け取ったのなら、なくすなんて事はないだろうけど……」

 一夏「ええ……それ以上に気になるのは、あのカンナって言う女の子です。白いワンピースを着た、10歳くらいの女の子でした」

 クロエ「一体誰なんでしょうか……?」

 束「束さんにもさっぱり……とにかく、この事を皆に伝えなきゃ!」

 束はすぐに学園にテレビ電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らせを受けた学園の面々の内、部屋に閉じ籠ったままの箒と私用で学園にいなかった千冬、調査中のシュラを除いた全員はすぐに会議室に集まってきた。そして束から先程一夏に起こった出来事を聞いていた。

 セシリア「一夏さんがロックシードを……?」

 簪「それにそのカンナって子は一体誰なの……?」

 一夏「それは分かんない。でも俺の事を前々から知っている風だった」

 楯無「織斑先生なら知っているでしょうか……?」

 束「今ちーちゃん達はいないみたいだし、後で聞いてみようか」

 鈴「それが良いですね。でも良かった……一夏に義足がついて」

 一夏「ああ、そうだな。牙也にも見せたかったぜ……」

 ラウラ「牙也に見せられなかったのは残念だが、悲しんでいる暇もあるまい。今後は私達もインベス討伐に駆り出されるかもしれんのだからな」

 シャルロット「そうだね、僕達も今以上に強くならなきゃ……牙也さんの分まで」

 一夏「俺達も協力するぜ。何ができるかは分かんないけど」

 改めて決意を露にする一夏達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「そう、ギリアとザックは……分かったわ、詳しい事はまた報告書に纏めて頂戴」

 何処かのビルの一室。黒髪の女性が部下の報告を電話で受けていた。受話器を置き、溜め息を吐く女性。

 ??「ギリアは戦死、ザックは連行され、目標だった紫野牙也もまた死亡……全く、あのガキのせいで計画は台無しよ……でも紫野牙也が死んでくれたのは良かったわ、『失敗作の処分』ってなかなか難しいのよね……そう言えば、あのガキは何かに使えそうね……さて、どう操って利用しようかしら……?」

 含み笑いを浮かべながら、女性はこれからの動きを考えていた。

 

 





 幕間はここまで。次回から今度こそ学園祭編に入ります。



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黄金ノ狂戦士ト血二濡レタ狂戦士
第41話 弔イノ学園祭



 心の傷は、易く戻る事はない……治す術は、ただ一つーー。




 

 IS学園の夏休みは、本当に一瞬だった。普通の高校と同じくらいの日にちの夏休みではあったが、ほとんどの生徒はそう長くは感じなかっただろう。理由は勿論、牙也の死である。アーマードライダーや用務員としての仕事の傍ら、生徒の悩みなどを聞くなどして生徒達のより良い学園生活を陰からサポートしていた牙也の存在は、一年生に止まらず二年生や三年生にとっても大きな存在であった。その牙也を亡くす事が、どれだけ生徒達にショックを与えたかは計り知れるものではない。

 

 そしてここ、一年一組もまたそのショックの大きいクラスであった。久々の仲間との再会ではあったが、その表情はとても暗いものであった。

 

 セシリア「はあ……これほどにも陰鬱な時間が今まであったでしょうか……?」

 シャルロット「陰鬱どころじゃすまないよ、皆そう思ってる」

 鈴「牙也の存在って、こんなに大きかったのね……今初めて知ったわ」

 セシリア達は周りを見回しながら思った事を口にする。

 ラウラ「ところで皆は、この夏休みはそれぞれの国に戻っていたのだったな。何か収穫はあったのか?」

 セシリア「そうですわね……私はこの夏休み、偏向射撃(フレキシブル)の練習をしましたが、雑念が多かった為になかなか形にならず……」

 鈴「あたしは親戚の子や他の代表候補生と練習してたんだけどね……凡ミス連発で練習どころじゃなかったわ」

 シャルロット「僕も他の代表候補生と練習したり、実家で作った新しい武装のテストをしてたけど……精神的にきてたのかな、ミスばかりしてその人達に怒られたよ」

 ラウラ「やはり皆同じか……私も祖国に戻っていたが、なかなか練習に身が入らなくてな。クラリッサにほとんど指導を丸投げしていたぞ」

 セシリア「やはり私達にも、牙也さんと言う存在は大きかったのですね……」

 簪「おはよう」

 本音「おはよ~……」

 そこへ、珍しくいつもより遅い時間に簪と本音が来た。

 鈴「おはよう、簪」

 セシリア「布仏さんもおはようございます」

 簪「何の話、してたの……?」

 シャルロット「夏休み何してたかって話だよ。僕達皆散々だったみたいだけど」

 簪「そう……私と本音も、お姉ちゃん達と一緒に実家で練習してたけど……いつもは出来る事が、出来なくなってたりしたの……」

 本音「かんちゃんや会長だけじゃなくて、私やお姉ちゃんも同じような感じだったよ~……はあ」

 簪と本音は揃って溜め息を吐いた。

 ラウラ「私達は皆、牙也にすがっていたのだな……なんとも嘆かわしい」

 セシリア「仕方ありませんわ。私達では、下級インベスでさえ倒せる訳がありませんし……」

 鈴「はあ……強く、ならなきゃね……」

 

 

 

 キーンコーンカーンコーンーー

 

 

 

 鈴「あ、予鈴だわ。それじゃまた後でね」

 簪「私ももう行くね……」

 そう言って鈴と簪は自分のクラスに戻っていった。そしてそれと同じタイミングで、千冬と真耶が入ってくる。教壇に立った千冬は、全員の顔を見てから話し始めた。

 千冬「諸君、久し振りだな。この夏休みはどうだっただろうか。何か自分の欠点を見つけたり、何か収穫があっただろうか。二学期はそれらを踏まえて、じっくりとIS操縦の練習を重ね、充分な能力が身に付くよう、皆頑張ってもらいたい」

 『はい』

 千冬「うむ。ではSHRだが……今日は学園長の提案により、SHRと一限が自習となる。そこで一組はこの時間、来月始めに行われる学園祭で何をするか決めていこうと思う」

 ラウラ「教kーーいえ、織斑先生。一つ質問があります」

 千冬「ボーデヴィッヒか、許可する」

 千冬の言葉に、ラウラが疑問を持ったのか挙手して質問した。

 

 ラウラ「今学園は、紫野牙也という大きな存在を亡くした事で非常に陰鬱な雰囲気にあります。そのような時に学園祭の事を決める、そもそも学園祭を行うというのは……」

 

 千冬「うむ、ボーデヴィッヒの言う事も最もだ。が、これもまた学園長の提案であるのだ」

 ラウラ「学園長の、ですか?」

 千冬「そうだ。実は先程の職員会議でーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教員A「学園長、本気ですか!?紫野さんが亡くなって、未だに学園は悲しみに包まれているというのに!」

 轡木「私はいつも本気ですよ。学園祭は、予定通りの日程で行います」

 真耶「で、ですが……!」

 轡木「皆さんがこれに納得いかないのは重々承知しております。ですが、今回の学園祭は大きな意味を持っていると私は考えています」

 千冬「意味、ですか……それは牙也の……」

 轡木「はい。彼の弔いという意味を込めたのが今年の学園祭だと私は考えています」

 教員B「弔い……」

 轡木「牙也君が亡くなって皆さんが悲しんでいるという事は勿論理解しています、私だってそうですから。ですが、いつまでも悲しんでいる訳にはいかないのも事実です。故に今回の学園祭では、亡くなった彼の弔いの意味を込めて、大々的に学園祭を開催したいのです」

 教員A「なるほど……織斑先生はどう思われますか?」

 千冬「……少なくとも、私個人としては開催すべきではないと考えていた。が、先程の学園長の話を聞いてみて考えが変わった。学園長も言ったが、このままずっと悲しんでいる訳にはいかない。私達に出来るのは、空元気でも良いから牙也に私達の笑顔を見せる事だと思う。ならばーー」

 千冬は感極まったのかそこで言葉を切り、静かに涙した。

 轡木「皆さん納得していただけましたでしょうか……?生徒の皆さんには各クラスの担任から、私の言葉をよく伝えて下さい」

 『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「という事があってな」

 ラウラ「そうでしたか……牙也の弔いという意味を持っての開催……」

 セシリア「だとすると、とても大きな意味を持ちますわね」

 シャルロット「牙也さんの為にも、素晴らしい学園祭にしなきゃ!」

 

 

 /ワイワイガヤガヤ\

 

 

 千冬「皆、納得してくれたか?それならば良い。では一組の出し物を決めていく事にしよう」

 

 

 

 ガラッ

 

 すると教室の扉が開き、

 

 

 

 

 箒「おはよう、ございます……遅くなりました」

 

 箒が入ってきた。

 

 千冬「篠ノ之……!大丈夫なのか?」

 箒「まだ本調子ではありませんが……まあ、なんとか」

 クラス全員が立ち上がって、箒を心配して駆け寄っていく。

 

 清香「篠ノ之さん、大丈夫なの?」

 静寐「あまり無茶しないで、私達も頼ってね?」

 さゆか「そうだよ、皆心配してたんだから……」

 箒「すまないな、心配かけてしまって……これから何かするのか?」

 セシリア「実はこれから、学園祭の出し物を決めようとしていたのです」

 ラウラ「学園長の提案で、予定通り開催する事が決まってな」

 箒「そうか……ありがとう、皆」

 シャルロット「お礼なんて良いから……さ、座って座って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア「と、言う事で色々意見を出していただきましたが……」

 春輝が逮捕された事で急遽クラス代表となったセシリアの司会で、学園祭の出し物を決める話し合いが行われているが、なかなかこれと言えるものが出てこない。飲食店やら演劇やら他のクラスと被りそうなベタなものばかりが出てくるようで、セシリアも困っていた。すると、

 

 ラウラ「個人的にやりたい事が一つあるのだが……」

 そう言ってラウラが手を上げた。

 セシリア「なんでしょうか?」

 ラウラ「うむ……メイド喫茶というものだ」

 シャルロット「メイド喫茶?」

 ラウラ「私の部下のクラリッサから聞いた事があってな……興味があったのだ」

 セシリア「なるほど……メイド服ならお古を私の実家から取り寄せ出来ますわ」

 シャルロット「喫茶の飾り付けは僕が出来るよ、一つあてがあるからね」

 ラウラ「皆はどう思う?」

 ラウラがクラス全員に聞くと、

 清香「良いんじゃないかな!ここは女子校みたいなもんだし、ピッタリでしょ!」

 静寐「うん、良いかもしれない。皆でメイドやるってなんか新鮮だね」

 セシリア「でしたら私達一組はメイド喫茶をするという事で、皆さんよろしいでしょうか?」

 『さんせーい!!』

 

 かくして、一組はメイド喫茶に決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「これは……!洞窟の中の研究施設とくれば、とんでもないものが隠されていると思っていたが、これほどとはな……!」

 一方こちらはヘルヘイムの森。ヘルヘイムの森を探索中、その一角で今までは無かった筈の洞窟を見つけ、さらにその中に作られた研究施設を捜索していたシュラは、とある一室である事が書かれた報告書を見つけた。シュラはそれを手に取り、まじまじと見つめる。

 シュラ「これが本当だと言うのなら……我は、そして牙也は……!」

 シュラは辺りに散らばる報告書の内重要な事か書かれている数枚を回収し、一旦その研究施設を出た。持ち帰ってきた報告書に一枚一枚目を通し、それを強く握り締める。

 シュラ「我の命も、残り少ないという事か……出来る限りの事をして、アーマードライダーの力を学園に少しでも多く残しておかねば」

 シュラはドライバーの製造を急ぐ為に拠点に戻っていった。

 

 

 

 

 

 





 次回、学園祭準備スタート。しかしその裏で、また一つの命が消えようとしていたーー。



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第42話 積ミ上ゲル心、消エル心


 人が得る物は、人が失う物よりも小さい物であるーー。




 

 トントンーー。

 カンカンーー。

 

 IS学園の敷地内のあちこちから、ハンマーで釘を打つ音が響いている。生徒達は看板やプラカードなどの小道具や大道具の製作の為にハンマーを振るっている。

 学園祭まで残りあと数日というこの日は、本格的に出店や飾り付けなどの製作をはじめとした準備が最終段階を迎えようとしていた。学園の校門には巨大なアーチ型の門が建てられ、校舎外の壁や校舎内の各教室も色鮮やかな飾りが目を引くほどに付けられている。体育館では、演劇や合唱を行うクラスが最後の練習に取り組んでいる。

 

 

 そしてここ一年一組の教室では、メイド喫茶を開く為に準備が行われているのだが、

 

 『お帰りなさいませ、ご主人様!』

 ??「もっとハキハキとした可愛らしい声で!もう一度!」

 『はい!』

 

 何やら発声練習が行われていた。一組の生徒達の半分は、セシリアが実家から持ってきたお古のメイド服を着て、お古とは違いピシッとして綺麗なメイド服を着た女性から作法やらしゃべり方やらの指導を受けている。この生徒達は主に接客を行う事になっているのだ。

 

 本音「買い出しから戻ったのだ~♪」

 セシリア「ただいま戻りましたわ。チェルシー、どうですの?」ガラッ

 そこへ買い出しを終えてセシリア達数人が戻ってきた。

 チェルシー「お帰りなさいませ、お嬢様。最初よりかは皆さん良く出来ておりますわ。あともう少しといったところでしょうか」

 セシリア「そう。ではここからは私達も練習に参加いたしますわ。チェルシー、お願いね」

 チェルシー「畏まりました」

 静寐「チェルシーさん、ちょっと質問が……」

 チェルシー「はいはい、なんでしょうか?」

 チェルシーと呼ばれた女性は優雅な口調でセシリアに挨拶をして、再び練習を再開した。

 チェルシー「はい、ではもう一度。お帰りなさいませ、ご主人様」

 『お帰りなさいませ、ご主人様!』

 

 

 一方教室の後ろでは、美味しそうな匂いが漂っていた。

 シャルロット「よし、試作品できたよ。皆で味見してみて」

 こちらは料理担当の生徒達で、喫茶で提供する料理を試作していた。シャルロットがフライパンを華麗に操って次々と料理を綺麗にお皿に盛り付けていく。皿の上には、見事な焼き目がついたパンケーキが盛られている。

 ラウラ「ほう、見た目は問題ないな」

 清香「あとは味だよ、そこを見なきゃ」

 シャルロット「僕ってそんなに期待されてないの?」ショボン

 さゆか「いやいや、そういう事じゃなくて!」

 ラウラ「昨日オルコットが作った料理が思い出されてな……シャルロットは大丈夫だと思いたい」

 前日にセシリアが作った試作品を食べて悲惨な目に遭ったラウラは青い顔をして言う。

 シャルロット「むう……まあとにかく食べてみてよ」

 シャルロットに促され、ラウラ達はパンケーキを一口食べた。

 ラウラ「ムグムグ……うむ、旨いぞ」

 清香「美味しいねー!これなら大丈夫でしょ!」

 シャルロット「どれどれ、ちょっと僕も……うん、美味しいね。自分でも良く出来てると思うよ」

 さゆか「これならお客さんにも喜んでもらえるね」

 シャルロット「うん、そうだね……ってちょっとラウラ!他の人にも食べさせるんだから、そんなに食べないで!」

 勢い余って次々と試作品を食べていくラウラを、慌ててシャルロット達が止めにかかる。

 ラウラ「また作れば良いだろうに」モグモグ

 清香「試作品も予算の中に入ってるんだから、そんなに作れないわよ」

 ラウラ「む、そうか……名残惜しいが、ここまでにしよう」ゴクン

 

 鈴「おーい、こっちは進んでる?」ヒョコッ

 簪「様子を見に来ました……」ヒョコッ

 とそこへ、鈴と簪がやって来た。

 シャルロット「あ、鈴に簪さん。試作品あるけど食べてみる?」

 鈴「え、良いの?それじゃお言葉に甘えて……いただきまーす!」パクッ

 簪「え、えと……それじゃあ私も……」パクッ

 シャルロット「ど、どうかな?」

 簪「美味しい……」モグモグ

 鈴「うん、美味しいわよ。結構本格的なのができそうね。でもあたしのクラスだって負けてないわよ~!」

 ラウラ「凰のクラスは確か……」

 鈴「あたし達も喫茶だけど、出す料理は中華の軽食が中心ね。こことは方向性が違うから、良い勝負になるかもね。って事で、お返しにこれ!うちのクラスで出す肉まんよ、後で感想聞かせてね!それじゃ!」

 鈴はラウラに大量の熱々肉まんを渡すと、さっさと自分の教室に戻っていった。

 

 ラウラ「全く、嵐のような奴だな」フウ

 簪「でも一夏さんがいると、性格が変わる……」ウンウン

 シャルロット「あれは性格が変わるんじゃなくて、人間から猫になるんだよ」アハハ

 セシリア「デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、貴女達もメイドの練習をしますよー?」

 シャルロット「あ、はーい。それじゃまた後でね、簪さん」

 ラウラ「メイドを極めなければ!」グッ

 二人はセシリアの元に駆けていった。

 本音「ラウにゃんやる気満々~」

 簪「ボーデヴィッヒさんのメイド服姿……見てみたいな」

 本音「当日までのお楽しみなのだ~♪」

 

 学園祭の準備は、着々と進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「本当に大丈夫なのか?」

 会議室では、学園祭の間の警備についての話し合いが行われ、生徒からは楯無達生徒会メンバーに加えて箒も参加していた。その中で千冬は、まだ心の傷が治っていないであろう箒を心配していた。

 箒「大丈夫です、ですから私にも警備を手伝わせて下さい。今の私に出来るのは、それくらいですから」

 轡木「私としては、篠ノ之さんには学園祭を楽しむ方に回ってほしいんだけどねぇ……あまり無理はしないように、それだけ言っておくよ」

 箒「ありがとうございます。この学園祭を何事もなく無事に終わらせる事が出来るように頑張ります」

 轡木「よし、では各員の配置を決めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「……よし、これだけあれば大丈夫だろう……多分」

 ヘルヘイムの森の拠点。研究施設内でなにかを見つけたシュラは、それを厳重な場所に保管した後に戦極ドライバーやゲネシスドライバーの製造を急いでいた。そして今そのほとんどが完成し、シュラはとある場所に隠していた。

 シュラ「ここならそう易々とは見つけられん。黒幕にこれらが渡る事だけは避けなくては……む?」

 するとシュラは突如その目を外に向けた。

 シュラ「……来たか。望み通り、相手してやろう」

 シュラは外に出て、ゲネシスドライバーとイーヴィルエナジーロックシードを取り出した。

 シュラ「変身」

 

 《イーヴィルエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood Eyes!Blood Eyes!D-D-D-Deadly Souls!》

 

 シュラはソニックアローを一本の木に向け、赤黒い矢を放った。矢は木を貫通し、その近くにいたインベスを巻き込んで爆発させた。

 

 ??「あらあら、随分と派手にやってくれるわね」

 

 すると煙が立つ中から、一人の女が現れた。その女は、あの黒髪長髪の女だった。

 

 シュラ「貴様か……ザックとギリアに、牙也の殺害を命じたのは」

 ??「ええ、そうよ。紫野牙也は、私にとって障害になる存在……だから殺すように命じた。でも残念ね、あのガキのせいで私達の手で紫野牙也を殺し損ねたのが悔やまれるわ……」

 シュラ「貴様……!」

 ??「あらあら、怒らない怒らない。さて、自己紹介させてもらうわね。私の事はとりあえず、『ゼロ』と呼んでちょうだい」

 シュラ「ゼロ、か……一つ聞こう、このヘルヘイムの森とあの世界を繋げたのは、貴様か?」

 ゼロ「ええ、そうよ。ある目的の為に、ヘルヘイムの森にある果実が必要だった。ただそれだけよ」

 シュラ「ならば、なぜ牙也を殺す必要があった……!?」

 ゼロ「なぜ、ですって?どうやら貴方は、まだ知らないみたいね……紫野牙也の真実を」

 シュラ「牙也の真実……?そうか、あの研究施設は貴様が使っていたのか……!」

 ゼロ「っ!?研究施設を見つけたの!?」

 シュラ「ああ。洞窟にカムフラージュしたようだが、中身が露になっていて簡単に見つかったぞ。それに、中に残されていた報告書もな」

 ゼロ「くっ……それなら!」

 ゼロはおもむろに懐から何かを取り出した。

 

 シュラ「ゲネシスドライバー!?なぜ貴様が……!?」

 ゼロ「詰めが甘いわね、貴方がヘルヘイムの森にいない間に設計図をコピーさせてもらったわ。そして……」

 ゼロはさらに懐から、金色に輝くエナジーロックシードを取り出した。

 ゼロ「貴方が保管していた金のリンゴ……返してもらったわ」

 

 《ゴールデンエナジー》

 

 エナジーロックシードを解錠すると、ゼロの頭上に金のリンゴが現れた。

 

 《ロック・オン》

 

 ゼロ「ふふ、貴方に絶望をプレゼントするわ……変身」

 

 

 

 

 

 《ソーダァ!ゴールデンエナジーアームズ!黄金の果実!》

 

 

 

 

 

 金のリンゴが回転して果汁を飛ばしながらゼロの頭に被さり、ゲネティックライドウェアの上に鎧として展開された。

 シュラ「黄金の果実だと……!?しかもエナジーロックシード……!あれは我が厳重に保管していた筈……まさか!?」

 ゼロ「ふふ、気づかなかったようね……拠点に隠しカメラがあったのに。さて、始めましょうか」

 ゼロが変身した『アーマードライダーマルス ゴールデンエナジーアームズ』は、巨大な盾『アップルリフレクター』から『ソードブリンガー』を抜いて、シュラに斬り掛かった。シュラはソニックアローで斬撃を防ぐが、そこにアップルリフレクターの打撃が襲い掛かり、シュラは大きく仰け反る。そしてゼロは追撃でソードブリンガーの斬撃を数回食らわせた。

 

 シュラ「ぐはっ!く、貴様……!」

 

 《イーヴィルエナジースカッシュ!》

 

 シュラはシーボルコンプレッサーを一回押し込んで、ソニックアローのアークリムにエネルギーを溜める。

 

 ゼロ「無駄よ、無駄無駄」

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 対してゼロもシーボルコンプレッサーを一回押し込んで、ソードブリンガーにエネルギーを溜める。そしてーー

 

 

 

 シ・ゼ『食らええええええええええ!!』

 

 

 

 連続で斬撃波を飛ばした。周囲に斬撃波の激突による爆発が起こる。やがて爆発の煙が晴れると、

 

 シュラ「が……はっ……!」

 

 地面には変身解除されたシュラが倒れていた。

 ゼロ「ふふっ。さて、重大な秘密を知ってしまった貴方にはーー」スッ

 ゼロがソードブリンガーを掲げると、どこからともなく蔦が延びてきて、シュラを拘束した。

 シュラ「ぐ、があっ……!は、離せ……っ!」

 シュラは蔦から脱出しようともがくが、暴れるほどに余計に蔦がシュラを締め付ける。そんなシュラにゼロはゆっくりと歩み寄りーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「死の花束を、プレゼントするわ」

 

 

 ドスッ

 

 

 

 ソードブリンガーをシュラの左胸に突き刺した。

 

 シュラ「が…………っ!」

 

 ゼロがソードブリンガーを引き抜くと、途端に蔦が緩んでシュラは地面に叩き付けられた。

 ゼロ「ふふ、永遠にお休み……」

 倒れて動かないシュラにそう声を掛け、ゼロは落ちていたシュラのゲネシスドライバーとイーヴィルエナジーロックシードを拾い上げ、さらに拠点に火を付けてその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 シュラ「我、は……ここ、までか……」

 ゼロが去った後、重い体を動かして体を仰向けにしたシュラは、空をじっと見上げていた。

 シュラ(まだ、死ねぬと言うのに……すまぬ、牙也……)

 

 

 

 

 

 

 タッタッタッタッーー

 

 シュラ「……?」ググッ

 

 森に聞こえる足音に気付き、シュラがその方向に顔を向けると、誰かが走り寄って来た。

 

 シュラ「お、お前は……!?」

 

 その人物をみてシュラは驚愕していた。その人物がシュラに何か耳打ちすると、

 シュラ「そう、か……分かった、後事は、全てお前に託そう……頼む……あの世界を、救って、くれ……」

 笑顔を見せたシュラの体は、やがて光の粒子に変換されてその人物に吸収されていく。その粒子が全て吸収されると、その人物は悲しい顔を見せながらヘルヘイムの森を後にした。

 

 

 

 

 

 





 次回、学園祭開幕。そして、ゼロが学園に牙を向くーー。



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第43話 急襲


 活路を見いだす為に、人は前に進むーー。そして、掴んだ先にーー




 

 ドンドンーー

 

 パンパンーー

 

 IS学園の空に、花火の音が鳴り響く。雲一つなくよく晴れたこの日、遂に学園祭が開幕した。多くの家族連れやIS関連の企業関係者などが早くから訪れており、まだ始まったばかりであるにも関わらず賑やかである。

 

 そしてここ一年一組主宰のメイド喫茶では、

 

 「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 「何をお食べになりますか?本日はこちらの『純愛パンケーキセット』がお薦めとなっております」

 「えへへ~、もっと撫でて~♡」

 

 隣の二組の中華喫茶とバトルしているかのごとく、客の取り合いとなっている。

 

 「いらっしゃいませ~!」

 「本日は胡麻団子がお薦めですよ~!」

 「肉まん二つですね、畏まりました~!」

 

 どちらも盛況のようで、接客の生徒も調理の生徒も狭い中を縦横無尽に動き回っている。朝からフル稼働とでも言おうかーー。

 

 

 

 

 セシリア「メイド喫茶、大成功ですわね!こんなにもお客様が来てくださるとは……!」

 ラウラ「自分で言うのもなんだが、発案して良かったと思うぞ」

 シャルロット「セシリア~、ラウラ~!料理出来たから持っていって~!」

 セシリア「分かりました!」

 ラウラ「どんどん運ぶぞ!」

 

 清香「行ってらっしゃいませ、ご主人様♡」

 静寐「はい、『萌え萌えメイドのご奉仕セット』ですね、畏まりました~♡」

 さゆか「お待たせしました~、『ロマンの星☆あ~んセット』です♡」

 

 

 

 

 

 一方の二組はーー

 

 「鈴ちゃん、注文入ったからここに伝票置いとくね!」

 鈴「分かったわ!はい、胡麻団子と肉まん完成したよ、誰か烏龍茶と一緒に持ってって!」

 「はーい!」

 鈴「ところでお客さんの入りはどう!?」

 「一組と接戦みたい!向こうもこっちも同じくらい入ってきてる!」

 鈴「オッケー、どんどんお客さんをさばくわよ!」

 

 鈴が中心となって軽食の調理が進められ、その腕を存分に発揮して多くの料理を次々と作っている。最早プロ顔負けの能力発揮だ。

 

 「お待たせしましたー、肉まん二つと烏龍茶になりまーす!」

 「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 「誰かレジおねがーい!今手が離せないから!」

 

 一組も二組も、襲いかかってくるかのように次々と来る客を次々とさばいていくーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「っはー!取り敢えず一段落したわ……」グデー

 セシリア「こちらもですわ。本当に大盛況でしたね」

 シャルロット「飲み物買ってきたよ、全部スポドリだけど」つスポドリ数本

 ラウラ「ありがたい、朝から動き回ってクタクタだ……」ウケトリ

 本音「お疲れ様~」

 時間はあっという間に過ぎて、お昼もだいぶ過ぎた頃。それぞれのお店のお客の数がようやく数人でなんとかなる程になったので、朝から働き詰めだったセシリア達はようやく休憩に入った。

 鈴「よく考えたら、明日もこんな感じになるかもしれないわね」

 シャルロット「大盛況だったからね、一組も二組も」

 ラウラ「明日もか……一層奮起せねばな」

 本音「頑張ろ~!」

 セシリア「ところで、皆さんはこれからどうなさいますか?私はお昼ご飯を食べた後は、更識さんの四組の演劇を見に行こうかと思っておりますが」

 ラウラ「私は他の店を色々回るぞ」

 シャルロット「僕も演劇見に行こうかな」

 本音「私も~。かんちゃん見てみたいから~」

 鈴「あたしもラウラと同じかな」

 セシリア「ではここで一旦お別れですわね。ではまた後程」

 セシリアはシャルロットと本音と共に体育館に向かった。

 ラウラ「さて、私も行こうか」

 鈴「気を付けなさいよ。迷子になったら洒落にならないわよ」

 ラウラ「私はそこまで馬鹿ではないぞ、凰よ……」

 ラウラはブツブツ文句を言いながら行ってしまった。

 鈴「さ、あたしも行こうかな……って、あれは……!」

 

 

 

 

 

 

 一夏「いやー、久々に地面を踏み締めたよ。ずっと車椅子だったから新鮮だなぁ、この感覚」

 弾「ははは……でも良かったな一夏、義足が付けられて」

 数馬「鈴が見たらどんな反応するかな」

 蘭「まず一夏さんに飛び付いてくると思いますよ。あんだけ甘い空間を無意識に作れるんですから」

 一夏「あはは、鈴だったらやりかねnーー」

 鈴「一夏~♡」ガバッ

 一夏「うおっ!?っと、やっぱり鈴か!」ウケトメ

 鈴「にゃ~♡」カオグリグリ

 突然飛び付いてきた鈴を、一夏は優しく受け止め抱き寄せた。

 蘭「ほら、やっぱりこうなりました」ニガワライ

 一夏「あはは、蘭の言う通りだったな」

 鈴「あら、弾に数馬に蘭!久しぶり!」ギューッ

 弾「久しぶりだな!元気そうでなによりだぜ!」

 蘭「お久しぶりです、鈴さん。この度は学園祭に誘ってくれてありがとうございます」

 鈴「良いのよ別に。楽しんでる?」

 数馬「ああ、面白いものばかりで飽きないな」

 鈴「そう、良かったわ。早くあんたらも良い人見つけなさいよ」

 弾「畜生、鈴に言われるとなんでか腹立つ!」

 数馬「諦めろ」

 蘭「私は諦めました」

 そんな談笑をしていると、

 

 

 

 

 箒「一夏……!」

 

 

 

 箒が駆けてきた。

 一夏「箒……!大丈夫なのか、部屋から出てきて」

 箒「まだ本調子ではないがな……姉さんの様子は?」

 一夏「ああ……まだなんとも。後でクロエが連れてくる予定だけど……」

 箒「そうか……だが良かった、一夏が歩けるようになって……」

 一夏「ありがとな。けど……」

 鈴「一夏」フルフル

 一夏が何か言おうとしたが、鈴がそれを制す。

 一夏「……そうだな。今言うのは駄目だよな」

 弾・数・蘭『?』

 話に着いていけていない三人は揃って首を傾げた。

 箒「まあとにかく、学園祭を楽しんで行ってくれ」

 弾「ああ、そっちも頑張ってな」

 箒「ありがとう」

 箒は一礼して去っていった。

 弾「なあ、何の話をしてたんだ?」

 鈴「え?ああ、こっちの事よ、気にしないで。さ、色々見て回りましょ!」

 一夏「そうだな、折角なんだし楽しまなきゃな」

 五人はそろって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 箒「今のところ異常なし……」

 箒は学園祭を楽しみつつ、学園警備の任を全うしていた。二組の店を見に行った時にもらった肉まんを食べながら、裏通りなどを見て歩く。

 箒「さて、ここはもう大丈夫だな。次に行こう」

 ??「あの、もし」

 箒「?」

 箒が後ろを向くと、黒髪長髪の女がそこにいた。

 ??「篠ノ之箒さん、で間違いないですよね?」

 箒「そうですが……貴方は?」

 ??「あ、申し遅れました。私、こういう者です」

 女はそう言って懐から名刺を出して箒に差し出した。

 箒「『株式会社メシア・ロード』代表取締役、狗道茜さん……メシア・ロードと言うと、最近あちこちの会社と吸収合併して大きくなりつつある企業ですね」

 茜「ご存知のようでなによりです。さて、突然ながら本日は、篠ノ之さんに良い話を持って来ました」

 箒「はあ……それはどのような話でしょうか?」

 茜「ここではなんなので、広い場所で話しましょう。さ、こちらに」

 茜は箒に移動するよう促すが、

 箒「そちらは確か校舎の裏手に出る筈ですが。広い場所でなら、こちらに行かないと」

 箒は警戒してか、別方向に向かうよう促す。すると女は「ふふっ……」と笑みを見せて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 茜「さすがはアーマードライダーね。そう簡単にはいかないようね」

 

 

 

 

 

 箒「!アーマードライダーを知っているのか……貴様は……!」

 茜「ふふっ、でもそれだけでは……私は倒せないわ!」

 箒はそれを聞いて、一旦バックステップで茜と距離を取った。すると、茜の背後から蔦が伸びて箒に襲い掛かってきた。しかし箒はそれを辛うじて回避したあと広い場所に出て、胸ポケットに隠したボタンを押してすぐにポケットに戻した。そこに狂ったような顔をして茜が出てきた。

 茜「うふふ……そう簡単には捕まらないわよね、そうでなきゃ楽しめないわ」

 すると茜は、懐からゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードを取り出した。

 箒「ゲネシスドライバー……!?なぜ貴様が!?」

 茜「うふふ、私を倒せたら教えてあげる。変身」

 

 《ゴールデンエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソーダァ!ゴールデンエナジーアームズ!黄金の果実!》

 

 箒「っ!アーマードライダー……!変身!」

 

 《マスカット》

 

 《バナナエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!ジンバーバナナ!ハハァーッ!》

 

 箒「貴様が何者なのか……意地でも聞かせてもらうぞ!」

 茜「ふふ……私の真の名は『ゼロ』……篠ノ之箒、貴女の命をもらうわ」

 

 箒はマスガンドを、茜ーーいや、ゼロはソードブリンガーをアップルリフレクターから抜いて構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「っ!篠ノ之から侵入者ありのアラートだ!全教員はすぐに戦闘態勢に入れ!来場者の避難を最優先にし、全員の避難が完了するまでとにかく耐えろ!」

 箒からの連絡が休憩室にいた千冬に届くと、千冬はすぐに教員達に連絡を入れ、戦闘態勢を取らせた。

 真耶「織斑先生、大変です!」バンッ

 とそこへ真耶が飛び込んできた。

 千冬「山田先生、何かあったのか?」

 真耶「そ、それがーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 正体不明のISが、次々と学園に向かってきています!」

 

 千冬「なんだと!?くっ、まずいな……!専用機持ちにも連絡を入れ、そのISを抑えてもらうしかないか……!山田先生、専用機持ち全員に出撃の連絡を入れろ、大至急だ!」

 真耶「わ、分かりました!」

 真耶が慌てて出ていくのを見送った千冬は、

 千冬「今度は誰も死なせない……絶対に!」

 真耶が向かった方向とは逆の方向に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 スコール「さて、行きましょうか」

 

 亡国企業本部。スコール率いる戦闘部隊『モノクローム・アバター』にも動きがあった。全員がISを纏い、今にもどこかを襲わんとしている。

 スコール「今回は貴方の一存で出撃するだけよ、それだけは忘れないでね」

 ??「ああ……別にそれで良い。だが忘れるな、もし約定を違えれば……」

 スコール「勿論承知の上よ。オータムもMも、準備は良い?」

 オータム「アタシは大丈夫だぜ」

 M「……いつでも」

 スコール「そう。それじゃ行くわよ、IS学園へ」

 

 黄金のISが、仲間を引き連れて飛び立った。

 

 

 





 次回、レオンとマルスが激突。しかし、ゼロの凶刃は学園を、箒を嘲笑うーー。



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第44話 金リンゴ、毒リンゴ

 幸運をもたらす林檎に死を呼ぶ林檎……活路はどこにあるーー?




 千冬は廊下を走っていた。箒からのSOSを知り、急いでその場所に向かっていた。

 

 <pppppーー>

 

 千冬「誰だ、こんな時に……もしもし?」

 轡木『織斑先生、聞こえるかな?』

 千冬「学園長、どうかしましたか?」

 轡木『いやね、先ほど警察から連絡があって……織斑君が留置場から脱獄したみたいなんだ』

 千冬「春輝が……!?」

 轡木『しかも誰かの助けを受けて、だ。今起こっている騒ぎの黒幕が関係しているかもしれないと思って、こうして電話したんだ』

 千冬「そうですか……分かりました、ひとまずはこの騒ぎの鎮圧を最優先事項とし、春輝を見つけ次第確保します!」

 轡木『頼んだよ』

 

 

 千冬「春輝の馬鹿者め……!まだ自分の愚かさが分かっておらんのか……!」

 千冬は元弟の再びの愚行を嘆きながら、侵入者を探しに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「おおおおっ!」

 箒がマスガンドとソニックアローの二刀流でゼロに攻撃していく。マスガンドから弾が放たれ、ソニックアローから矢が放たれ、二つの斬撃が振るわれる。しかし、

 

 ゼロ「あらあら、その程度なのかしら?つまんないわよ」

 

 ゼロはそれらを全てアップルリフレクターで防いでいた。マスガンドとソニックアローの斬撃を受け止め、押し退けるようにして二つの武器を払いのけ、隙ができた脇腹にソードブリンガーで一撃加える。さらにその一撃でのけ反った体に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 箒「くっ!」

 箒は再びマスガンドとソニックアローで射撃するが、ゼロはアップルリフレクターを正面に構え、箒に向かって走り出した。放たれた弾は空しくアップルリフレクターに弾かれていく。そして箒に接近すると、襲ってきた斬撃を今度はソードブリンガーで受け止め、空いた体にアップルリフレクターでタックルしてまた仰け反らせ、ソードブリンガーで斬り裂いた。

 箒「ぐあっ!」

 大きく吹き飛ばされた箒は地面を転がるが、再び立ち上がる。

 ゼロ「あらあら、根性だけは一人前のようね。でもそれだけでは私は倒せない」

 千冬「それはどうかな!?」

 ゼロ「!?」バッ

 

 

 ゼロが回避行動をとると、さっきまでゼロがいた場所に銃弾の雨が降る。そしてその雨が降ってきた先には、

 

 箒「千冬さん!」

 

 ヒガンバライナーに乗った千冬がいた。急いでヒガンバライナーから降りて箒に駆け寄る。

 千冬「篠ノ之、大丈夫か!?」

 箒「ええ、なんとか……ですが、なぜここが……?」

 千冬「お前が持っていたアラートのボタンに、束が発信器を仕込んでいたんだ、それを辿ってここに着いたんだ。それにしても、奴は一体……?」

 箒「客に紛れ込んで、私に接触してきたんです……奴の正体は、株式会社メシア・ロードの代表取締役です」

 千冬「あの会社の……!?なぜメシア・ロードがアーマードライダーの力を……!?」

 ゼロ「ふふ……知りたければ、掛かって来なさいな。ブリュンヒルデ」

 千冬「……私の事を、その名で呼ぶな。変身」

 

 《シークヮーサーエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《リキッド!シークヮーサーエナジーアームズ!イヨォーッ!ソイヤッサァ!ハイヤッサァ!》

 

 千冬「行くぞ、篠ノ之」

 箒「はい!」

 二人はソニックアローを構えてゼロに立ち向かった。千冬が積極的にゼロに攻め掛かり、箒がその後ろから矢を放って援護する。が、ソニックアローの斬撃は空を切り、放たれた矢はアップルリフレクターが弾かれるばかり。

 ゼロ「ふふ、天下に轟くブリュンヒルデも結局はその程度なのね……つまんないわ」

 ゼロは不機嫌な顔になり、二人に反撃する。アップルリフレクターで二人の攻撃を防ぎ、時にはそれを打撃武器として怯ませるのに使い、隙ができたと思えばソードブリンガーで斬りつける。その隙のない動きは、二人が師事していた牙也やシュラと同等かそれ以上だ。

 千冬「くっ、こいつは強い……!篠ノ之、大技でこの場を切り抜けるぞ!」

 箒「はい!」

 

 《シークヮーサーエナジースカッシュ!》

 

 《ジンバーバナナスカッシュ!》

 

 ドライバーを操作する事でソニックアローのアークリムにエネルギーを充填し、

 

 箒・千『行けっ!!』

 

 ソニックアローを振るって斬撃波を繰り出す二人。薄い緑のエネルギー波と濃い緑のエネルギー波が地面を這うようにしてゼロに向かっていく。そしてそれはゼロにぶつかり、爆発を起こした。

 

 千冬「やったか!?」

 箒「……いえ、どうやらーー」

 ゼロ「悪くないわね。でも……私には効かない」

 千冬「な!?」

 

 煙の中からゼロが悠々と現れた。しかも先程の斬撃波が効いていないのか、余裕そうな素振りを見せた。

 千冬「くっ、効いていないのか……このままでは……!」

 箒(確かに千冬さんの言う通り、このままでは負ける……どうすれば……そうだ!)

  「千冬さん、ちょっと耳を……」

 千冬「なんだ?」

 

 すると何を思い付いたのか、箒が千冬に何か耳打ちした。

 千冬「……できるのか?」

 箒「もし牙也がこの場にいたならこう言うでしょうね。『できるできないじゃない。やるんだ』って」

 千冬「……そうだな。やるぞ!」

 二人は再びソニックアローを構えた。

 ゼロ「あらあら、何を思い付いたのかは知らないけど、この黄金の果実には貴女達の攻撃は一切通らないのよ?」

 千冬「そんな事、やってみなければ分かるまい!」

 

 《ミラベルエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソーダァ!ミラベルエナジーアームズ!Light Load!Light Load!Li-Li-Li-Li-L-L-L-L-Light!》

 

 千冬はミラベルエナジーアームズとなり、

 

 《ミラベルエナジースカッシュ!》

 

 《ジンバーバナナスカッシュ!》

 

 箒と共に再びドライバーを操作してエネルギーを充填した。そして、

 

 

 箒・千『もう一度だあっ!!』

 

 

 再度斬撃波をゼロに向かって飛ばした。しかしその斬撃波はまたもアップルリフレクターに阻まれ、ゼロの周囲に大爆発が起こる。辺りを爆発による煙が覆い、ゼロの視界を遮っていく。

 ゼロ「何度やれば気が済むのかしら?言ったでしょう、攻撃は一切通らないって。貴女達の攻撃が届く事は、絶対にないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「どうかな?」バッ

 ゼロ「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 煙の中から突如箒が現れ、

 箒「これでも食らえ!!」

 

 

 ガガガガガアンッ!!!

 

 

 

 零距離からマスガンドの射撃を食らわせた。突然の事に対応出来ず、ゼロは射撃を全弾食らって後ろに大きく飛ばされた。なんとか着地して反撃しようとするが、既に箒はゼロから距離を取っており、反撃は不可能だった。

 千冬「全く、無茶をするなと言っただろう……」

 箒「とか言いながら、止めなかったじゃないですか」

 千冬「止めようとしても止まらないだろう、お前は……」

 箒「そうですね……ですがこれで活路は見えましたね」

 千冬「ああ、奴にもちゃんと攻撃は通る!絶対に奴を倒すぞ!」

 箒「はい!」

 ゼロ「ふふ……さっきのはとても驚いたけど、そう簡単に私を倒せるかしら……?」

 千冬「どういう意味だ?」

 ゼロ「こういう事よ」バッ

 ゼロがソードブリンガーを高く掲げると、

 

 

 千冬「ぐあっ!!」

 箒「ぐうっ!!」

 

 

 突然二人の背後から矢が飛んできて二人に直撃した。突然の攻撃に驚きながらも後ろを振り返ると、

 

 

 

 

 

 

 千冬「な……!?お前は……!?」

 箒「シュラ……なぜお前が……!?」

 

 

 

 

 

 そこに立っていたのは、アーマードライダー赤零であった。赤零は二人の叫びに耳を貸さず、ソニックアローを構えて二人に襲い掛かった。

 千冬「くうっ!シュラ、目を覚ませ!私達が分からないのか!?」

 箒「シュラ、なぜ奴に味方するのだ!?」

 二人が攻撃を防ぎながら必死に呼び掛けるが、赤零は何も言わず、何も聞かない。ただひたすらにソニックアローを振るう。二人もソニックアローで応戦するが、仲間を攻撃するのにまだ抵抗のある二人はなかなか決定打を与えられない。

 

 千冬「がっ!」

 箒「ぐふっ!」

 

 それどころか二人は赤零に押され始めた。必死に攻撃を防ぐ二人。だが、

 

 ゼロ「あらあら、私を忘れてない?」

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 千冬「しまっーーぐああああ!!」

 箒「千冬さん!?」

 

 そこにゼロが乱入して千冬をソードブリンガーで斬り裂いて吹き飛ばしてしまった。千冬は地面を転がり、変身も解除された。

 

 箒「千冬さん!」

 ゼロ「余所見は厳禁よ?」

 箒「!?」

 

 《イーヴィルエナジースカッシュ!》

 

 箒「まずい、回避がーー」

 余所見したせいで回避が間に合わず、

 

 ドゴッ

 

 箒「が……はっ……!」

 渾身の蹴りが箒の鳩尾に入り、箒も変身が解除されてその場に崩れ落ちた。

 ゼロ「ふふ、ご苦労様。さて、最初も言ったけど……貴女の命、もらうわ」

 ゼロがソードブリンガーを箒に向かって振り上げたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「千冬姉!箒!」

 

 

 その時、赤零の後ろから一夏と鈴が走ってきた。

 鈴「あいつ、シュラ……!?まさか裏切ったの!?」

 一夏「千冬姉、箒!大丈夫か!?すぐに助けるk千冬「来るな、一夏!」っ!?」

 一夏が二人を助けようとするが、千冬が叫んでそれを制した。

 千冬「お前は、すぐにここから逃げろ……!奴等は、危険だ……!」

 一夏「で、でも……!それじゃ千冬姉達が……!」

 箒「私達の事は良いから、早く……早く逃げろ……一夏……!」

 が、これをゼロが見逃す筈もなく、

 

 ゼロ「ふふ……先にあの子達を始末しなさい。絶対に逃がさないで」

 ゼロが赤零にそう命令すると、赤零はソニックアローを構えてゆっくりと一夏達に歩み寄っていく。

 鈴「一夏に近づくな!」ドンッ

 鈴が甲龍を部分展開して龍砲を放ったが、アーマードライダーにそんなものが効く筈もなく、赤零はそのまま一夏達に近づいていく。

 鈴「くっ、このぉ!!」

 効いていないと分かると、今度は青龍刀を出して斬りかかるが、

 鈴「きゃあっ!!」

 青龍刀を掴まれて放り投げられる。遠くまで投げ飛ばされ、鈴は地面に叩きつけられた。

 一夏「鈴!大丈夫kーーぐうっ!!」

 一夏が鈴に駆け寄ろうとすると、赤零はソニックアローから矢を放って、一夏の脇腹を射抜いた。脇腹から出血し、痛みで一夏はその場に倒れ込む。

 箒・千・鈴『一夏!!』

 三人が叫ぶが、一夏は怪我が大きいのか脇腹を押さえており、また三人もボロボロで動けない。

 

 ゼロ「ふふ、楽しみね。どんな絶望に満ちた顔をするのか……殺りなさい」

 

 その命令と共に、赤零はソニックアローを振り上げたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 と、突然赤零に向かってどこからともなく蔦が伸びてきた。気づいた赤零は回避行動を取るが、蔦はしつこく赤零を追いかけ、次々と赤零を攻撃した。吹き飛ばされた赤零は空中で体勢を整えて着地する。その光景は一夏達だけでなくゼロさえも唖然とさせた。

 

 ゼロ「ば、馬鹿な……!あの蔦、一体どこからーーっっ!?」

 あちこちを見回す一夏達やゼロが見たのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 箒「アアアアアアアアア…………!!!」

 

 

 

 

 

 

 箒の背中から伸びる蔦であった。さらに箒の体は紫電を放っており、目は血走ると同時になぜか濃い緑の光を発していた。そして、全身から放たれている紫電がドライバーにロックされたマスカットロックシードに到達すると、なんとロックシードが変質して、別のロックシードに変化した。

 

 《ロック・オン》

 

 自動的にロックされ、カッティングブレードが降ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ハイー!ヨモツヘグリアームズ!冥界・黄泉・黄泉・黄泉……》

 

 

 

 

 箒「うあああああああああ!!!」

 

 

 

 全身から紫電を発しながら、箒は叫び声を上げた。

 

 

 




 次回、箒が暴走。ゼロを倒す術は果たしてーー。



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第45話 黄泉ノ果実ト冥界カラノ帰還者


 黄泉の食物は食べるにあらずーー二度とこの世に戻れなくなると言い伝えられているーー。




 

 箒「ガアアアアアアアアアアア!!!」

 

 『ヨモツヘグリアームズ』によって自我を失っているのか、箒はマスガンドを構えて赤零に飛び掛かった。そして赤零と取っ組み合い、互いの得物をぶつけ合う。しかし、

 

 箒「ガアッ!!」

 赤零「!?」

 

 箒は唐突にどこからか『ブドウ龍砲』を出してマスガンドを持つ手とは反対の手に持ち、零距離から連射した。アーマーから大量の火花を上げて仰け反る赤零。怯んだのを見逃さず、

 

 箒「ガアッ!!」

 

 今度は『キウイ撃輪』を出して振り回し、連続で赤零を斬り裂いていく。そしてキウイ撃輪を赤零に向かって投げつけた。撃輪は空中を自在に飛び回り、赤零に何度も攻撃するそれを見た箒はマスガンドを取り出すと、不規則な軌道である撃輪の対処に気を取られていた赤零をマスガンドで斬り裂いた。

 赤零「!?」

 またも攻撃を受けて仰け反る赤零。しかし負けじとソニックアローから紅い矢を次々放って応戦する。が、次々と放たれていく矢を、箒はなんと背中から伸びた蔦を操り全て叩き壊してしまった。さらに蔦を赤零へと向けて伸ばし、連続で鞭のように打ち据える。そして大量に伸びるその蔦の一部は、ゼロに向かっても伸びていく。

 ゼロ「私も他人事じゃないって!?」

 ゼロは驚きながらも、自分に向かって伸びてきた蔦をソードブリンガーで斬り裂いていく。が蔦の数が多く、ゼロでさえもこれには苦労しているようであった。

 

 

 

 

 

 千冬「篠ノ之……一体何がどうなっているのだ……!?」

 一夏「千冬、姉……!」

 鈴「千冬さん……!」

 箒の変わり果てた姿に千冬が驚愕を隠せないでいると、怪我した箇所を押さえながら、一夏と鈴が近づいてきた。

 千冬「二人共、大丈夫か……?」

 一夏「いてて……思い切り撃ち抜かれたから、結構痛いな……」

 鈴「誰か助けに来てくれれば良いんだけど……」

 千冬「恐らくそれは無理だ……奴の出現と並行して、正体不明のISの軍団がここに接近していると報告があった……恐らく奴の配下のIS乗りだろうな……教員や専用機持ちのほとんどをそちらの鎮圧に向けているから、私達に気づく者がどれだけいるか……」

 鈴「そんな……それじゃこっちへの援軍は……!」

 一夏「期待出来ないって事かよ……くそっ!」

 一夏は悔しそうな表情を見せ、今目の前で自我を失った状態で戦っている箒を見た。

 一夏「それにしても、箒は一体どうしちまったんだよ……なんで箒の体から蔦が……!?」

 千冬「それは分からん……が、何かしらの要因があったのだろう。私達で止めたいが、この怪我では……」

 鈴「止めるのは絶対に無理ね……こうなったら、私達に危害が来ない事を祈るしかないわ……」

 三人は、依然として暴走する箒を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「グルル……ガアッ!!」

 

 《ヨモツヘグリスカッシュ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを一回切り、キウイ撃輪を再び投げつけると、撃輪は片方が赤零に、もう片方がゼロに向かって飛んでいく。それをゼロと赤零は各々の武器で防ぐ。が、

 

 ゼロ「この程度ーーがっ!?」

 赤零「!?」

 

 そこにマスガンドとブドウ龍砲の銃撃が襲った。思わぬ不意討ちに大きく仰け反る二人を、箒はさらに銃撃で追い込んでいく。ゼロはなんとかアップルリフレクターで残りの銃撃を防いだが、盾など持っていない赤零は残りの銃撃を全てその身に食らう事となった。赤零は大きく吹き飛ばされ、校舎の壁に叩きつけられる。

 

 箒「ガアア……!ガッ!?グガッ!!」バチイッ

 

 すると突然、箒が紫電を発しながら苦しみ始めた。アーマーから火花が立ち、フラフラと後ずさる。そして、

 

 

 

 

 

 

 箒「あ…………がはっ…………」

 

 

 

 

 

 変身が解除された。ボロボロになった箒が、膝から崩れ落ちる。

 ゼロ「あはははは……!どうやらヨモツヘグリの力に、貴女の体が耐えきれなかったみたいね。残念だわ、楽しめると思ったのに」

 ヨモツヘグリの力に多少は驚いていたゼロであったが、箒の変身が解除された事でその驚きも無くなり、クスクスと笑う。そしてソードブリンガーを構えて、動けない箒に向かってゆっくりと歩み寄っていく。

 千冬「篠ノ之……!逃げろ……!」

 一・鈴『箒……!!』

 一夏達が箒に向かって叫ぶが、箒はヨモツヘグリの力の副作用なのか動こうとしても動けずにいる。やがてゼロは箒の目の前まで近づいた。

 

 ゼロ「貴女との戦い、少しは楽しめたわ。でも、これで終わり。貴女の命、私が頂くわ……それじゃ、永遠に…………さようなら」

 

 ゼロはソードブリンガーを高く掲げて、箒に向かって勢い良く振り下ろしたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ザクロチャージ》

 

 

 と、そこへ電子音声が響いたと思うと、ゼロの右手から火花が上がり、ソードブリンガーが手から離れて吹き飛ばされた。ソードブリンガーは吹き飛ばされた勢いそのままに空中で回転し、ゼロの後方の地面に突き刺さる。

 ゼロ「っ!?誰だ!?」

 ゼロがその方向を見るとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「な……赤零が、二人……!?」

 

 

 

 

 赤零に酷似しているが、ベルトが戦極ドライバーのアーマードライダーが、黒いソニックアローを構えて立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア「お行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!」

 一方こちらは襲撃してきた謎のISを相手しているセシリア達。学園祭に来ていた客の避難はなんとか無事に終わり、そのままグラウンドにて戦闘している。が、数が圧倒的に敵の方が多く、

 楯無「それにしても、随分と統率の取れた集団ね……!こっちの被害が大きくなっていってるわ」

 簪「お姉ちゃん、早くこいつらを倒さなきゃ!ここも危なくなるよ!」

 ラウラ「くそっ、切りがないな!デュノア、弾は大丈夫なのか!?」

 シャルロット「正直まずいね、このままじゃ……弾切れ起こしかけてるんだ」

 実力のある代表や代表候補生達を押していた。

 セシリア「しかしここで倒れれば防衛線が崩壊します!ここはなんとか耐えなくては!」

 シャルロット「そんな事分かってるよ、一層頑張らなきゃ……!」

 簪「っ!デュノアさん、危ない!」

 シャルロット「え?うわっ!!」

 

 突然敵ISの後方からロケットランチャーが飛んできて、シャルロットに着弾。シャルロットは撃ち落とされて地面に激突し、ISが解除された。

 ラウラ「デュノア!くそっ、まずい、このままでは……オルコット、避けろ!」

 セシリア「きゃあっ!!」

 今度はセシリアが撃ち落とされた。なんとか奮戦するも、その後も教員達が次々と落とされていく。段々と追い詰められ、セシリア達は怪我人を囲むように円陣を組んで応戦する。が、敵ISの攻撃はさらに激しさを増してきた。ほとんどの武装が損壊するなどして使えなくなっている今、この場を切り抜けるのは絶望的だった。

 楯無「くっ、活路が……!」

 ラウラ「怪我人も多い……これではおちおち移動も出来ん……!」

 簪「このままじゃ本当にーーっ!?お姉ちゃん、危ない!」バッ

 楯無「っ!?」

 楯無が見た先には、先程のISが今度は楯無に向けてロケットランチャーを撃ち出したところだった。そこへ簪が楯無を守るように立ち塞がる。

 楯無「ダメ、簪ちゃん!!」

 楯無が叫ぶが、簪はボロボロの打鉄弐式でなおも立ち塞がる。

 簪(ごめんね、お姉ちゃん。これが、私の最後の我が儘。皆には、お姉ちゃんから謝ってほしいの……ごめんねって)

 

 飛んできたロケットランチャーがーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオンッ

 

 

 

 

 

 

 

 簪に着弾する数m前で突如爆発した。すると、回りにいた敵ISもそれに連鎖して次々と爆発していった。

 真耶「い、一体何が起きたんですか……?」

 全員が辺りを見回すと、

 ラウラ「あそこだ!」

 ラウラが校舎の屋上を指差す。全員が屋上を見ると、そこには、

 

 

 

 M「全く、なんで私がこいつらを纏めて駆除せねばならんのだ……」

 オータム「文句言うなって。あいつの頼み事なんだし、我慢しろよ」

 

 

 

 

 亡国企業所属の二人ーーオータムとMが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「貴方、何者?私の邪魔するって言うなら、容赦しないよ」

 ゼロはソードブリンガーを謎のアーマードライダーに向ける。

 ??「……」スッ

 しかしそのアーマードライダーは何も話さず、手に持った黒いソニックアローを構え、ゼロに向かってゆっくりと歩き出す。

 

 赤零「!!」バッ

 

 と、そこへ赤零がソニックアローを振るって飛び掛かった。しかしそれをアーマードライダーは黒いソニックアローで受け止め、鍔迫り合いを仕掛けてくる赤零を振り払うと黒いソニックアローで赤零のアーマーを斬り裂いた。攻撃を受けた赤零は反撃しようとするが、そのアーマードライダーから蹴りを入れられて吹き飛んだ。

 

 赤零「!!」バッ

 

 《ロック・オン》

 

 《イーヴィルエナジー》

 

 赤零は体勢を立て直すと、ドライバーからイーヴィルエナジーロックシードを外してソニックアローの窪みに装着し、弓をそのアーマードライダーに向けた。

 

 ??「……」スッ

 

 《ロック・オン》

 

 《ザクロチャージ》

 

 対して謎のアーマードライダーも、ドライバーからロックシードを外して黒いソニックアローに装着し、弓を赤零に向けた。双方の武器にエネルギーが充填されーー

 

 

 赤零「!!」

 ??「……!」

 

 

 赤零は紅い矢を、謎のアーマードライダーは黒い矢を互いに向けて撃ち放った。矢は一直線に飛んでいき、やがて二本の矢がぶつかり合う。が、

 

 

 

 

 

 ガシャアンッ!!

 赤零「!?」

 

 

 

 

 赤零が放った矢は謎のアーマードライダーが放った矢によって粉々に砕かれ消滅した。黒い矢はそのまま勢いが止まる事なく、

 

 赤零「!!?」

 

 赤零を撃ち抜いた。赤零はまたも吹き飛ばされ、遂に変身が解除された。

 

 

 

 千冬「な……春輝!?」

 一夏「嘘だろ……なんで春輝が赤零に変身してるんだ……!?」

 

 

 

 なんと赤零に変身していたのは、少し前に脱獄したと報告があった春輝だった。

 春輝「ぐあっ……!なんでだ……なんで僕がこんな奴に……!」

 春輝は苦しそうに呻く。

 ゼロ「あらあら、まさか彼を簡単に倒すなんてね……でも、私は倒せないわ!」

 ゼロは笑みを浮かべ、ソードブリンガーを構えて走り出す。そしてその剣を思い切りーー

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「っ!?」グイッ

 

 

 

 

 

 振り下ろす事は出来なかった。なぜなら、

 

 ゼロ「な……蔦が……!」

 

 小型のクラックが開いてその中から蔦が伸び、ソードブリンガーの刀身を完全に縛り上げてしまったからだ。そしてその蔦は全て、謎のアーマードライダーの左手から伸びていた。

 ゼロ「くっ、生意気な真似をーーがっ!?」

 力で振り払おうとすると、さらに蔦が現れてゼロを鞭のように打ち据えた。ゼロの手からソードブリンガーが無理矢理引き剥がされ、ゼロは蔦によって放り投げられた。しかしなんとか体勢を立て直し、

 

 ゼロ「くそっ!なんなんだ、お前は!?お前は一体、何者だ!?」

 

 ゼロがそう叫んだ時ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……おいおい、お前が殺そうとしてた奴の事、もう忘れちまったのか?薄情だねぇ……」

 

 

 

 

 ゼロ「っ!?」

 箒・千・一・鈴『!?』

 

 その声を聞いてその場にいた全員は驚きを隠せなかった。なぜなら、その者は既に死んでいる筈だったから。既にこの世にいない筈だったから。

 そして遂に、謎のアーマードライダーは変身を解除して、その顔をさらけ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「き、ば…………や…………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に、死んだと思われていた牙也の姿があった。

 

 

 

 





 次回、早くも復帰した牙也が新たな力をーー。



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第46話 真ノ名ハ……

 牙也の帰還ーーそれは、己の真の姿を受け入れた事を意味するーー。




 ゼロ「ば、馬鹿な……!貴様はあの日死んだ筈……なぜ生きている!?」

 

 ゼロは目の前に立っている牙也を見て驚きを隠せなかった。部下からの報告では、死体は見つからなかったものの確かに死亡を確認したとの事だった。しかし今現在、その本人が目の前に立っている。これは一体どういう事なのか。すると牙也は「ふん」と鼻を鳴らしながら答えた。

 牙也「海に転落した後でとある奴等に助けられてな、そいつらのアジトで傷を癒してたのさ」

 ゼロ「とある奴等、だと……?」

 牙也「すぐに分かるさ、すぐにな」バッ

 牙也が背中に羽織った黒いマントをはためかせると、牙也と一夏達を覆うように蔦が伸び、巨大なドームを形成した。

 ゼロ「っ!?しまった……!」

 

 

 

 

 

 

 

 ドームの完成を確認した牙也は、ゆっくりと一夏達に歩み寄っていく。そして千冬と箒の前にしゃがみこみ、

 

 

 

 牙也「約束通り、ちゃんと帰って来ました」

 

 

 

 そう言って頭を下げた。一夏達は何も言わなかったが、

 千冬「…………馬鹿者が」

 最初に千冬が口を開いた。

 千冬「馬鹿者が……!無事に生きていたのなら、なぜ連絡の一つも寄越さなかった……!」

 牙也「すみません……言い訳すると、つい最近まで意識が戻ってなかったもので……」

 千冬「馬鹿者……本当にお前は、馬鹿者だ……!」グスッ

 一夏「千冬姉の言う通りだぜ……声一言ぐらい聞かせてくれりゃ、箒があんなに苦しむ事なんかなかったのによ……」

 鈴「そうよ!あんたが死んだって聞いて、箒はずっと泣きじゃくってたのよ!?」

 牙也「……申し訳ない」

 牙也は三人に頭を下げ、今度は箒を見た。制服がボロボロになり、怪我があちこちにできている箒は、ずっと俯いたままだった。そんな箒の頬に、牙也はそっと手を伸ばして撫でた。軽く、そして優しく。ただそれだけをした後、そっと箒を抱き締めて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「だいぶ遅くなっちまったけど…………ただいま、箒」

 

 

 

 

 

 

 やがて箒がゆっくりと顔を上げた。その目にようやく光が灯ったかのようになり、そこから一筋の涙が流れていく。

 

 

 

 

 箒「あ……ああ…………!」

 

 

 言葉にならない声を上げ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「あああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 箒は牙也の胸の中で泣きじゃくった。牙也をその手でしっかりと握り締め、我慢する事もなく大声を上げて泣きじゃくる。牙也もそんな箒の頭を優しく撫でてあげており、牙也のその目からも一筋の涙が溢れていた。

 箒「牙也ぁ…………牙也ぁ…………!」

 牙也「心配かけて本当にごめんな……ずっと心配してくれてたんだな……ごめんな」

 そうして牙也は箒が泣き止むまでの間ずっと頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 牙也「ご心配おかけしました、千冬さん」

 千冬「全くだ。また人にいらん心配をさせて……」

 牙也「申し訳ないです。一夏と鈴も、すまなかったな」

 一夏「はぁ……もう良いさ。とにかくお前が無事で良かったよ。束さんがこれ知ったら、どんな反応するかな……」

 鈴「いつもいつもあんたは……もう心配かけさせないでよね、特に箒に!」

 牙也「……返す言葉も無いや」

 ひとまず全員が落ち着きを取り戻し、なんとか仲直りした。その間も、箒はずっと牙也にしがみついていた。

 牙也「……まだしがみついてるか?」

 箒「……嫌だと言いたいのか?」ムッ

 牙也「いや、皆今の状況忘れてる?」ニガワライ

 一夏「今の……そっか、そうだったな」

 鈴「でも大丈夫なの?あんた傷は?」

 牙也「完治してる、大丈夫だ。それよりも皆が大丈夫かって事だろうに。ちょっと失礼するぞ」

 牙也が左手を四人に向けて翳すと、左手から淡い緑色の光が出てきて四人を包み込んでいく。やがて光が晴れると、

 

 一夏「脇腹の怪我が、すっかり治ってる……!」

 鈴「傷が……塞がっていってる……!」

 千冬「これは、シュラの治癒能力……!?なぜ牙也が……!?」

 一夏達の怪我があっという間に完治した。

 牙也「話はまた後で。今はーー」

 

 そこまで言ったところで、蔦のドームが半分に斬られた。ドーム状の蔦はあっという間に消滅し、やがて牙也達の目の前にゼロと春輝が現れる。

 

 春輝「お、お前は……!なんでだ……なんでお前が生きてる!?お前は、僕がこの手で殺した筈だ!!」

 牙也「さぁ、なんでだろうな……本来なら、お前の刃によってあそこで死ぬ筈だった俺が、今はこうやってお前らの目の前に立っている。あの傷は、完治しない筈だった。がしかし傷は完治し、俺は生きてる。何の運命の悪戯かな……」

 ゼロ「ふざけるな!貴様が生きている筈はない……!貴様はあの日、死んだだろう!」

 

 

 

 

 

 

 牙也「そうだな。あの日、『アーマードライダー蝕』は死んだ」

 

 

 

 

 

 ゼロ「なに?」

 牙也「あの日、そこにいる馬鹿が勝手に戦極ドライバーを製作して、俺のブルーベリーロックシードを勝手に使用した事で、蝕の力は全て無くなった。それは同時に、俺がアーマードライダーとしての力を失う事を意味した」

 そこまで言って、牙也は腰に提げたあるロックシードを手に取った。それは、『L-S-MESSIAH』と表面に書かれていた。

 牙也「が……どうやらシュラは、俺をなんとしてもこの世界に残そうとしていたみたいだ。あいつは薄々気づいていたのかも知れないな……俺の真実に」

 千冬「牙也……まさか、シュラは……」

 牙也「ええ、お察しの通り……俺がその最期を看取って来ました」

 それを聞いて、箒と千冬は目を背ける。

 牙也「一つお前に聞こう。シュラを倒したのは、お前だな?」

 ゼロ「ええ、そうよ。貴方の言う通り、確かに奴は貴方の真実を知っていたわ。でも私にとっては、それを知られる事は不味いのよ……という訳でーー」

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 ゼロ「今度こそ、死んでもらうわ。はあっ!」

 ゼロはソードブリンガーから斬撃波を飛ばし、さらにそれを追いかけるように牙也に襲い掛かった。

 箒「牙也!」

 箒が叫ぶのと同時に、ソードブリンガーが振り下ろされーー

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「ば、馬鹿な……こんな、事が……!?」

 牙也の目の前で止まった。いや、正しくは「これ以上振り下ろせなかった」だろう。ゼロが金縛りに遭ったかのように動けなくなっている。そして飛ばした筈の斬撃波もいつの間にか消えてしまっていた。

 牙也「……フッ!」

 ゼロ「ぐあっ!」

 牙也はがら空きとなったゼロに蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 春輝「てめぇ……もう一度殺してやる!」

 その声に牙也が見ると、いつの間にか再び赤零に変身した春輝がソニックアローを構えて突進してくるところだった。

 

 ??「あら、させないわよ?」

 ??「食らいやがれ!」

 

 がそこに、春輝に向かって上空から銃弾の雨が降り注ぐ。

 春輝「ぎゃああああああ!!」

 銃弾の雨がもろに被弾した春輝は苦しそうに呻いてその場に膝をついた。銃弾が飛んできた方向を一夏達が見ると、

 

 

 

 

 

 スコール「ふふ、間に合ったみたいね。良かったわ」

 ザック「ハッハッハァ!あいつらも度肝抜かれてるみたいだぜ!」

 

 ヒガンバライナーにスコールとザックが乗車していた。

 千冬「ザック・ヴァルフレア……!それにお前は、スコール・ミューゼル……!?」

 一夏「千冬姉、あの女の人を知ってるのか?」

 千冬「スコール・ミューゼル……奴はISテロ集団『亡国企業(ファントムタスク)』の幹部だ。委員会や我々と敵対している奴等が、なぜここに……?」

 ヒガンバライナーが地面に降り立つと、スコールとザックは一夏達に歩み寄ってきた。そしてスコールは千冬に手を差し出して挨拶した。

 スコール「久し振りね、ブリュンヒルデ」

 千冬「私をその名で呼ぶなと言っただろう……しかし、貴様らがなぜここにいる?」

 千冬がスコールの手を借りて立ち上がり、ここにいる理由を聞くと、スコールは答えた。

 

 

 

 

 スコール「ふふ……あの坊やと、オーバーロード・シュラとの約定よ。さて、これより私達亡国企業は、IS学園に加勢して敵の鎮圧を進めるわ。ISはオータムやMがなんとかしてくれるから、私達は彼女を撃退しましょうか」

 

 

 

 

 そう言って、スコールは懐から戦極ドライバーを取り出した。

 千冬「な……貴様、なぜ戦極ドライバーを……!?」

 牙也「俺が渡しました。ここに俺を運ぶ事への交換条件として要求されたので……スコール、ザック、これを使え」

 牙也はそう言って腰に提げたチェリーロックシードをスコールに、別の戦極ドライバーとアンズロックシードをザックに投げ渡した。

 スコール「ありがと、坊や」

 ザック「恩に着るぜ、牙也」

 牙也「礼は後で良い。それと箒。お前、ヨモツヘグリ持ってるな?」

 箒「っ、なぜそれを……!?」

 牙也「お前の戦極ドライバーに付いてるロックシードが、明らかにマスカットじゃねぇのはすぐに分かったさ。箒、前にラズベリー渡したよな?あれを一緒に使うんだ。多少は制御出来るようになるぞ」

 箒「……分かった」

 箒は頷いて、腰に提げたラズベリーロックシードを取り出した。すると、

 箒「っ!ラズベリーが……!」

 ラズベリーロックシードが紫電を発しながらその姿を変えていく。やがて紫電が消えると、ラズベリーロックシードはヨモツヘグリエナジーロックシードに変化していた。

 牙也「それで良い。さて、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 ??「ーー力を」

 

 

 

 

 

 箒「む?今誰か喋ったか?」

 スコール「いいえ、私達は何もーー」

 ??「彼に、力を」

 牙也「この声……カンナか!」

 その時、

 

 

 

 パァァァァァーー

 

 

 

 一夏「っ!なんだ……!?」

 鈴「一夏の胸から、光が……!」

 突如一夏から光が放たれ、周囲を覆っていく。がすぐに光は晴れ、視界は良好になった。

 一夏「こ、これは……カンナって子から貰ったロックシード……!」

 いつの間にか、一夏の手にはロックシードが握られていた。

 牙也「へぇ、カンナからのプレゼントか……一夏、パス!」ポイッ

 牙也は笑みを見せると、小型のクラックを開いて、中から別の戦極ドライバーを引っ張り出して一夏に投げ渡した。

 一夏「牙也、これ……!」

 牙也「せっかく手に入れたお前の力なんだ。使わなきゃ持ち腐れだろう?さあ、やるか」

 ゼロ「ふん、数が増えてもどうって事ないわよ!」バッ

 ゼロがソードブリンガーを掲げると、大量にクラックが開き、インベスが溢れるように出てきた。

 

 千冬「ちっ、やはりインベスは奴が呼び出していたのか……!」

 スコール「あのインベスは私達が相手するわ。坊やとお嬢ちゃんはあのゼロって奴をお願いね」

 牙也「ああ。箒、あの屑の相手を頼む」

 箒「分かった」

 

 牙也達は横一列に並ぶ。

 

 《ザクロ》

 

 《ヨモツヘグリ》

 

 《ヨモツヘグリエナジー》

 

 《ミラベルエナジー》

 

 《チェリー》

 

 《アンズ》

 

 《スターフルーツ》

 

 《ロック・オン》

 

 

 

 

 

 

 『変身!!』

 

 

 

 

 

 

 

 《ハッ!ザクロアームズ!乱れ咲き・Sacrifice!》

 

 《ミックス!ヨモツヘグリアームズ!冥界・黄泉・黄泉・黄泉……ジンバーヨモツヘグリ!ハハァーッ!》

 

 《ソーダァ!ミラベルエナジーアームズ!Light Load!Light Load!Li-Li-Li-Li-L-L-L-L-Light!》

 

 《ソイヤッ!チェリーアームズ!破・撃・棒・術!》

 

 《カモン!アンズアームズ!Power of Fighter!》

 

 《カモン!スターフルーツアームズ!Shine of SuperStar!》

 

 

 

 それぞれのアームズを被ってアーマードライダーに変身した六人。

 ゼロ「ふふ……かかってきなさい、アーマードライダー蝕!」

 牙也「その名はあの日に捨てた。今の俺の……こいつの真の名はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーマードライダー……零だ!」

 

 

 

 

 

 牙也は黒いソニックアロー『セイヴァーアロー』を構え、一番にゼロに向かって駆け出した。

 

 

 

 




 牙也のザクロロックシードは、原作とは別のオリジナルです。原作と音声が違うのはご了承下さい。

 次回、牙也のもう一つの力が明かされるーー。



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第47話 悪鬼ノ鼓動


 敵の敵は味方、味方の敵は敵とはよく言うが、味方の敵が味方になるとはこれ如何にーー。




 

 M「よし、これで全部だな」

 オータム「みたいだな。けどあれくらいなら、あたし達だけでもなんとかなる数だったな」

 

 グラウンドの隅の方では、学園の面々が亡国企業の面々によって治療を受けていた。怪我が軽かった人も念のため治療を受け、引き続き警戒にあたっている。オータムとMは先程まで、治療を部下に任せて残っていた敵ISを全て掃討していた。

 

 隊員A「お疲れ様です。治療は先程全員終わりました」

 オータム「おう、お疲れ。引き続き警戒にあたってくれ」

 隊員A「はっ!」

 

 隊員が警戒任務に戻っていくのを確認したオータムとMは、一旦ISを解除してセシリア達に歩み寄った。

 楯無「亡国企業……どうしてあなた達が学園に加勢したの?」

 すると楯無がオータム達の前に立ち塞がり、オータムを睨み付けながら聞いた。

 オータム「いや、なんでって……あいつとの約定さ。『もし自分に何かあったら、学園の事を頼む』ってな」

 M「奴め、頭を下げてまで頼んでくるから、スコールも断れなかったではないか……」

 オータム「まあまあ、スコールにも考えがあるんだろ」

 楯無「あいつって誰?」

 オータム「あれ?そっちには話してなかったのか……あー、そうだよな。あたし達と繋がりがあるって公表すると逆に怪しまれるもんな」

 楯無「質問に答えて。あいつって誰なの?」

 オータムは頭をポリポリ掻きながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 オータム「オーバーロード・シュラだ」

 

 

 

 

 

 楯無「っ!?シュラが……!?」

 オータム「まあ詳しい事は後回しだ。ここはあたし達に任せて、お前達は早く校舎の裏手にいる仲間の加勢に行きな。今多分苦戦してるだろうからな」

 ラウラ「ふざけるな!テロリストの貴様等の言う事など、誰が信じるか!」

 楯無「ラウラちゃん、落ち着いて。その情報は、本当に確かなのよね?」

 M「ああ……スコールとあともう一人向かっているから、多少は押し返しているだろうがな」

 楯無「そう……」

 楯無は少し考えていたが、

 

 

 楯無「皆は校舎の裏手に向かって。私はここに残って、こいつらを見張っておくわ」

 

 

 簪「お、お姉ちゃん!?危険だよ……!?」

 楯無「大丈夫。簪ちゃん達は早く皆の加勢に行って。山田先生、皆の事をお願いします」

 真耶「……分かりました。皆さん、一旦ここを離れましょう」

 シャルロット「え!?で、ですが山田先生……!」

 真耶「今私達がすべきなのは、一人でも多く仲間を救う事です。今だけは、この人達の言う事を信じましょう」

 オータム「ここはあたし達に全部任せな。絶対に防ぎきってやるよ」

 真耶「お願いします……行きましょう。織斑先生達が心配です」

 セシリア「くっ……ここは仕方ありませんわね……!」

 ラウラ「チッ……今回だけだぞ!」

 シャルロット「皆は大丈夫かな……?」

 簪「行こう……早く皆を、助けなきゃ……!」

 

 こうして学園の面々は、真耶を先頭にして千冬達の救援に向かった。残った楯無はそれを見送り、今度はオータムを見る。

 楯無「じっくり見張らせてもらうわよ」

 オータム「好きにしな」

 

 

 

 

 

 

 

 牙也はゼロと相対していた。互いに武器を構えて動かず、敵の様子を探っている。

 ゼロ「『アーマードライダー零』……私と同じ、ゼロ」

 牙也「ああ、不本意だがな」

 ゼロ「……なぜだ。なぜ貴様は私の邪魔をする?なぜ亡国企業を味方につける事ができた?そして……なぜ貴様が、オーバーロードの力を持っている!?」

 牙也「……シュラが残したあの報告書さ。あれが、俺の全てを物語っていた」

 ゼロ「何!?馬鹿な、あの報告書は拠点と共に灰となった筈だ!」

 牙也「馬鹿だな、お前も。確かに拠点は灰になった。けど、シュラの奴がその可能性を考えてないとでも思ってたのか?」

 ゼロ「……まさか!?」

 牙也「察しの通り。隠していたのさ、拠点の地下に。シュラが最後に作り上げた、戦極ドライバーとゲネシスドライバーと共にな」

 ゼロ「くっ、奴め……最期まで私を邪魔するのか……!」

 牙也「シュラの最期を看取った後、拠点の地下から報告書を引っ張り出して、全部目を通した。やっと分かったぜ、俺が何者で、なぜこうなったのか」

 ゼロ「くっ……報告書の中身を知られたのなら、仕方ない……貴様には死んでもらう!」バッ

 

 ゼロがソードブリンガーを掲げると、さらに大量にクラックが開き、インベスが現れた。

 

 ゼロ「押し潰されろっ!」

 ゼロの命令で次々とインベスが牙也に襲い掛かっていく。が、牙也は左手から蔦を出して鞭のようにしならせて襲ってくるインベスを払いのけていく。

 牙也「物量で押し潰すのは、物量だけだぜ。さてとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっさん、出番だぞ」

 

 途端にザクロロックシードが鈍い輝きを放ち始めた。そしてその鈍い光は、牙也の隣に集まりはじめて人の形を形成する。そして光が晴れるとーー

 

 

 

 

 

 

 ??「漸く私の出番か。随分長かったな」

 

 黒いスーツに身を纏った中年の男が現れた。

 牙也「悪いな、狗道のおっさん。待たせちまって」

 狗道「気にするな。シュラからの頼みだ、お前のサポートをしっかりやらせてもらうぞ」

 

 狗道という男はそう言って、ゲネシスコアが装着された戦極ドライバーを腰に付け、二つの赤いロックシードを出した。

 

 狗道「変身」

 

 《ブラッドオレンジ》

 

 《ザクロ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハッ!ブラッドザクロアームズ!狂い咲き・Sacrifice!ハッ!ブラッドオレンジアームズ!邪ノ道・On・Stage!》

 

 狗道の正面と右側に展開済みのザクロアームズが、後ろと左側に展開済みのブラッドオレンジアームズが現れ、ライドウェアを纏った上から装着された。

 

 ゼロ「アーマードライダーセイヴァー……!?」

 牙也「そういう事。さて、俺も本気出そうかな」

 

 狗道が変身し終えたのを見て、牙也は懐からブルーベリーロックシードを出した。それは今まで牙也が使っていた物ではなく、新しく牙也がヘルヘイムの森で採取してきた物であった。さらにそれと追加でゲネシスコアを取り出し、フェイスプレートと交換した。

 

 

 牙也「さて、ゼロ。お前に、本当の零を見せてやるよ」

 

 《ブルーベリー》

 

 そう言って牙也はブルーベリーロックシードを解錠し、

 

 《ロック・オン》

 

 ゲネシスコアにロックした。そしてカッティングブレードで二つのロックシードを切る。

 

 

 

 

 

 

 

 《ハッ!ディープザクロアームズ!狂・乱・舞・踏!ハッ!ディープブルーベリーアームズ!冥土道・Dark・Stage!》

 

 

 

 

 

 牙也が纏っていたザクロアームズの後ろと左側のアームズが消え、代わりにその部分にブルーベリーアームズが装着された。背中から腰回りにかけてを黒いマントが覆い尽くし、風に揺られてはためく。

 

 ゼロ「何ですって……!?なぜお前もそのシステムが使える!?」

 牙也「俺は最初からこのシステムは使えてたよ。お前が知らなかっただけだ」

 そう言い捨てて、牙也は紫炎を、狗道はブラッド大橙丸をそれぞれ構えた。

 

 狗道「さあ……かかってこいよ……」

 牙也「一思いに消してやるからさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「はあっ!!」

 春輝「おらっ!」

 

 ソニックアローとマスガンドがぶつかる音が響く。インベスが大量に発生している状態ではさすがに戦いづらく、箒が上手く誰もいないアリーナまで春輝を誘導して戦闘している。

 春輝「箒ィ!お前も僕の邪魔をするのか!?こんなに君の事を思っていたのに!」

 箒「貴様の思いなど知るか!貴様が一夏や牙也にやった事を私は忘れた事はない!己の名声の為に他者を切り捨てるような貴様など、私は好きにもならないし顔も見たくない!」

 春輝「そうかよ……だったらお前を倒して、お前の目の前であいつを殺してやる!」

 箒「やってみろ!貴様が私を倒せたらな!」

 春輝がソニックアローから矢を放ってくるのに対し、箒は背中から蔦を伸ばして迎撃。放たれた矢を次々と叩き落としていく。さらにそれと並行して、隙のできた春輝にマスガンドとブドウ龍砲で銃撃していく。

 春輝「くそっ!こんな欠陥品でよくもまあ今まで戦えたもんだな……!」

 被弾した春輝は体勢を立て直しながらブツブツ文句を垂れるが、箒はそれを鼻で笑った。

 箒「フン、何を馬鹿な事を……ゲネシスドライバーではなく、貴様こそが欠陥品だろうに」

 春輝「何だと!?」

 箒「そうだろう、名声の為に他者を切り捨て、勝利の為に他者の命をなんとも思わない貴様の事を、欠陥品と呼ばないでなんと呼ぶ?まあ私としては、貴様の事を呼ぶとすれば……せいぜい『屑』か?」

 

 

 

 

 

 

 春輝「てめぇ……粋がってんじゃねぇぞ!!」

 

 

 《ロック・オン》

 

 《イーヴィルエナジー》

 

 イーヴィルエナジーロックシードをソニックアローに装着して弓を引く春輝。しかし箒は驚きもしない。

 

 《ジンバーヨモツヘグリスパーキング!》

 

 カッティングブレードでロックシードを三回切り、マスガンドを高く掲げると、マスガンドの刀身からエネルギーが溢れ出てきて、マスガンド全体を覆っていく。それはやがて、5mはあろう巨大な刃となった。箒はそれを正面に向けて構え、

 

 

 箒「私の魂が……貴様を倒す!」

 春輝「黙れェェェェェェェ!!」

 

 

 春輝がエネルギーを充填した矢を放ったのとほぼ同時に、マスガンドを袈裟斬りの要領で振るった。春輝が放った矢は、マスガンドの刃の前にあっさりと粉々に砕かれた。

 春輝「ば、馬鹿な……!?ぐあっ!!」

 矢を砕かれた事に呆然としていた春輝にマスガンドの刃の一撃が入る。そして、

 

 

 

 

 箒「人の命を軽々しく扱う貴様が、アーマードライダーを名乗る資格はない……これで終わりだ」

 

 

 

 箒は上段にマスガンドを構え、思い切り振り下ろした。エネルギーの刃はアーマーを豪快に斬り裂き、ソニックアローさえも破壊した。

 春輝「い、嫌だ嫌だ嫌だ……!僕は……僕は、まだ……!」

 アーマーから火花が飛び、アーマーを押さえながらなんとか立とうとするが、立つ事は出来ず、変身は解除され、春輝は意識を失った。箒は春輝に近寄ってイーヴィルエナジーロックシードとゲネシスドライバーを回収し、

 

 箒「最後に止めを指しておこうか……私は、貴様が大嫌いだった」

 

 止めの一言を投げ掛け、箒は春輝の体をこれでもかとがんじがらめに縛り、引き摺るようにしてアリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「うおおおおっ!」

 一夏が変身した『アーマードライダー閃星(きらぼし)』は星型の盾『スターシールド』でインベスの攻撃を防ぎつつ、星型の鍔の付いた剣『スターカリバー』でインベスを次々と斬り裂いていく。

 スコール「ハッ!ハッ!」

 スコールが変身した『アーマードライダーシグルド』は専用武器『サクラン棒』でインベスを殴打しながら、徒手空拳を用い、大量のインベス相手に有利に戦闘を進めていく。

 ザック「ハッハッハァ!この感覚、久しぶりだぜ!」

 ザックが変身した『アーマードライダーバルカン』は『アンズクラッシャー』でインベスをぶん殴り、投げ飛ばし、引き摺り回す。豪快に腕を振り回してインベスを蹴散らしていく。

 

 千冬「しかし数だけは多いな……纏めて片付けるぞ!」

 

 《ミラベルエナジースパーキング!》

 

 一夏「行くよ、千冬姉!」

 

 《スターフルーツスパーキング!》

 

 スコール「うふふ……終わりにしましょうか」

 

 《チェリーオーレ!》

 

 ザック「ぶっ飛ばしてやるぜぇ!」

 

 《アンズスカッシュ!》

 

 ドライバーを操作し、千冬と一夏が右足にエネルギーを溜めて跳躍したのと同時に、スコールとザックがそれぞれサクランボ型エネルギーの塊とアンズクラッシャーをインベスに向けて撃ち出した。エネルギーがインベスを包み込み、それを千冬と一夏のライダーキックとアンズクラッシャーが纏めて葬り去った。

 

 

 

 インベスを掃討し終え、四人は一息つく。そこへ、

 

 真耶「織斑先生~!」

 

 真耶が専用機持ちや他の教員を引き連れて合流した。

 千冬「ああ、山田先生か。皆無事か?」

 真耶「はい、亡国企業の皆さんに助けられて……」

 一夏「とにかく皆無事で良かったよ……あとはーー」

 

 そう言って一夏達はある方向を見つめる。その方向では、牙也と狗道がゼロと刃を交えていた。

 

 

 





 次回、ゼロとの戦いに決着。そして、牙也の出生の秘密が明らかにーー。



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第48話 真実ノ先ニ


 嘘をつく事は悪と言えよう。だが、真実を知る事は善と言えるのかーー?




 

 牙也と狗道はゼロを挟み撃ちにして、それぞれの武器に加えて牙也の出す蔦で攻撃する。そして隙有らばその蔦でゼロを拘束しにかかる。が、ゼロは華麗なステップを踏んで二人の攻撃を回避し、逆にソードブリンガーで斬りつける。三人の武器がぶつかり合う毎に火花が散る。

 狗道「ほう……なかなか骨のある奴ではないか」

 牙也「しかし、なかなか手応えがない……このままって訳にはいかないぜ」

 牙也は狗道とそんな事を話しながら、ゼロの攻撃をいなしていく。さらに二人は、互いのセイヴァーアローから矢を放ってゼロを牽制した。

 ゼロ「くっ、ちょこまかと……!手間取らせてくれるわね……!」

 牙也「お前を相手するなら、手間取らせておく方が何かとやりやすいもんでな。お前……顔に焦りが見えるぜ?」

 狗道「こいつの顔に焦りが見えるのは今に始まった事ではあるまい。そもそもこいつにとって、牙也が生きていた事自体予想外だったのだからな」

 牙也「それもそうか。ま、俺達には関係ないがな」

 ゼロ「ふん、その余裕がいつまで続くかしら!?」

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 ゼロ「はあっ!」

 再びソードブリンガーから斬撃波が放たれた。

 狗道「ここは私がなんとかしよう」

 

 《ザクロスカッシュ!ブラッドオレンジスカッシュ!》

 

 対して狗道もセイヴァーアローとブラッド大橙丸から斬撃波を放った。三つの斬撃波がぶつかり合い、爆発を引き起こした。

 ゼロ「馬鹿な!なぜ黄金の果実の力が、何とも知れぬロックシードの力と同士討ちに……!?」

 狗道「私達が使うロックシードは普通のそこいらにあるロックシードとは違う。しかし、何やらこれも予想外だったと見えるが……」

 牙也「何だって良いだろ、何だってさ。今はあいつをぶっ飛ばす事を考えようぜ」

 ゼロ「ふん、やってみなさい!」

 

 《ゴールデンエナジースパーキング!》

 

 ゼロ「はああああ……!」

 

 牙也「野郎、これで決めるみたいだな」

 狗道「それなら、返り討ちにするまでだ」

 牙也「怪我じゃすまない一撃、くれてやる!」

 

 《ザクロスパーキング!ブラッドオレンジスパーキング!》

 《ザクロスパーキング!ブルーベリースパーキング!》

 

 牙・狗『はああああ……!』

 

 互いに右足にエネルギーを溜めて、

 ゼロ「これでも食らいなさい!」

 牙也「てめぇが食らえ!」

 狗道「地獄を見せてやろう……!」

 高く跳躍し、

 

 

 

 

 

 牙・狗・ゼ『はあああああああああ!!!』

 

 

 

 

 

 お互いのライダーキックがぶつかり合い、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 ゼロ「ぐあっ!!ば、馬鹿な……!?」ドサッ

 

 軍配は牙也と狗道に上がり、ゼロは地面に激突。が変身は解除されず、

 ゼロ「くそっ!いつか貴様を殺してやる……覚えていろ!」

 自身の背後にクラックを開くと、その中に飛び込んだ。ゼロがクラックに入ると、クラックはすぐに閉じた。

 

 牙也「あっ、野郎!……っ、くそが、逃げやがった」

 狗道「あと一撃食らわせれば倒せただろうが、詰めが甘かったか……我ながら甘いな」

 牙也「とにかく、脅威は去った。今はそれを祝うとするか」

 牙也と狗道は変身を解除し、一夏達の方に向きーー

 

 

 

 

 『牙也(さん)!!』

 牙也「うおっ!?」

 

 

 

 

 直った途端に、学園のメンバーが全員飛びかかってきた。牙也は抱き締められたり頬擦りされたりバシバシ叩かれたりされており、それを狗道と千冬が苦笑いしながら見ていた。

 セシリア「牙也さんよくご無事で!」

 シャルロット「生きてたのなら連絡くらい出来たでしょ!?」

 簪「心配、かけ過ぎです……!」

 ラウラ「貴様のような奴はこうしてやる!」

 牙也「痛ぇ痛ぇ!悪かった、悪かったから止めてくれ!」

 

 

 /チョ、マッ……ンギャー!\

 

 

 狗道「感動の再会、というものか……」

 千冬「そうだな。ところで貴様は何者だ?」

 狗道「すぐに分かる。すぐにな」

 それだけ言って、狗道は未だもみくちゃにされている牙也を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し進んで、ひとまず学園の全員で片付けが行われた。結局学園祭は中止になり、生徒達は残念そうであったが、逆に牙也の帰還という嬉しいニュースに沸いていた。その後、轡木が鎮圧作戦に参加した全員と、一夏から知らせを聞いて飛んできた束とクロエ、それに牙也、狗道を会議室に召集して、今回の件についての報告会議が行われた。

 

 轡木「全員集まったかな?さて、まずは牙也君、よく帰ってきてくれた。君が無事に帰ってきてくれた事、学園の生徒教員全員が喜ばしく思っているよ」

 轡木はそう言って、束に抱き着かれて頬擦りされている牙也を見た。

 牙也「ご心配おかけしました。重傷を負った俺を、密かにそこにいる亡国企業のMって子が助けてくれましてね。亡国企業本部で傷を癒してました」

 M「ふん……礼など必要ない。スコールの命令でお前を助けただけだ」

 牙也「そうであったとしても、お前には助けられた。本当にありがとう」ペコリ

 牙也が頭を下げると、Mは少し恥ずかしいのか顔を背け、スコールとオータムがそれを見て苦笑していた。

 轡木「亡国企業の皆さんも、私達に加勢してくださり、本当にありがとうございました。お陰で誰一人として死者を出す事なく、ここを守り切れました」

 スコール「お気になさらないで。約定を果たしたまでですので」

 楯無「亡国企業とオーバーロード・シュラとの間に約定があったなんてね……牙也君は知ってたの?」

 牙也「いや、これを知ったのは、ここに戻ってくる直前だ」

 スコール「坊やには秘密にしててって口止めされてたのよ。申し訳ないわね」

 千冬「しかし、残念でなりません……シュラという大きな仲間を失う事になりましたから」

 轡木「そうだね……シュラ君が進めていたヘルヘイムの森とこの世界の強制連結の件も、これで藪の中、か……」

 

 

 

 牙也「いえ、そうでもないです」

 

 

 

 千冬「どういう事だ?」

 牙也「ゼロによって灰になった拠点の地下室を調べたら、シュラの捜査結果を書き残した報告書と、ヘルヘイムの森にあった奴等の研究所の報告書を見つけました。これで全て分かりましたよ、強制連結の原因に加えて、俺が何者なのか」

 鈴「どういう意味よ?」

 

 

 牙也「今回の件に加えて、今まで起こったインベスの襲撃やISのインベス化。それら全ての出来事が起こる事となった本当の原因。それはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺自身だったんです」

 

 

 『!?』

 

 その報告に、その場にいた全員の目が真剣になって牙也を見た。

 束「ど、どういう事なの?牙君が、今までの出来事の原因って……」

 牙也「少し話が長くなりますので、心して聞いて下さい。あと束さんは一旦離れて下さい、真面目な話なんで」

 束「むー……分かったよ、後でね」

 束が離れて近くのパイプ椅子に座ると、牙也はその全てを話し始めた。

 

 

 牙也「実は、ここに戻ってくる少し前、俺の実家があった場所にオータムと共にこっそり向かって、色々探してたんですが……分かった事がいくつかあります。まず最初に、俺はまだ5歳にもならない頃に、不治の病に掛かっていた事が分かりました。本来なら俺は既に死んでいる筈だったんですが……」

 シャルロット「え?ちょ、ちょっと待って。それじゃあ牙也さんは……!」

 牙也「そう。俺は死人、言うなれば、人としての自我が残ったゾンビだ」

 ラウラ「馬鹿な……!そんな筈ーー」

 牙也「無い、と俺も言いたいんだが、これは紛れもない事実。覆せねぇ」

 セシリア「ですが、それならばなぜ紫野さんは今生きておられるのですか?既に死んでいるとなれば、どのようにして生き返ったのですか?」

 牙也「そこだ。俺がこうやって今生きている理由こそが、一連のインベス騒ぎに関連しているんだ」

 轡木「詳しく説明願います」

 牙也「勿論。学園長、ちょっとこれを見て下さい」

 

 そう言って牙也は数枚の紙を轡木に渡した。

 

 轡木「これは?何やら報告書みたいだけど」

 牙也「それは、シュラがヘルヘイムの森の研究所から見つけた報告書です。そこに書いてある事、読んでみて下さい」

 轡木「分かった。ええっと、なになに……」

 轡木はその報告書を読み上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『10月1日 本部より運び出された被験体が到着。まずは体全体を時間をかけて入念に消毒し、それと並行して実験の準備を進めていく』

 

 

 『10月11日 新たに所長の息子の体が被験体として到着。こちらも消毒し、実験の準備を進める』

 

 

 『11月24日 初めて被験体にヘルヘイムの森から採取した果実の成分を注射。被験体に過度の拒絶反応あり。拘束してなんとか事なきを得たが、今後も一定期間毎に果実の成分を注射し、様子を見る事にする』

 

 

 『12月19日 被験体より多量の蔦の発生を確認。隔離室に被験体を移し、蔦の成分及び被験体の様子などを調べる事にする』

 

 

 『1月8日 被験体Kより謎の生物の出現を確認。蔦は全て消え失せたが、被験体Kは未だ生存。謎の生物はそのままクラックを開いてヘルヘイムの森に逃走した。調査班をおいて行方を調べる事にする』

 

 

 『2月17日 一月経つにも拘らず、調査班から何の情報も来ない。新たに調査班を組織して捜索を進める事にする』

 

 

 『3月1日 生物及び調査班の行方は依然として知れず。所長の命により、本日付けでこの研究所を閉鎖し、被験体Kは所長預り、他の被験体は殺処分とする』

 

 

 

 

 

 

 報告書を読み終え、轡木は嘆息しながら牙也に聞く。

 轡木「牙也君、これは一体何なのだ?一体どんな実験をしていたのだ?」

 牙也「次の資料の表紙をご覧下さい」

 轡木は言われた通りに次の表紙を見た。

 

 

 轡木「な……!?『人工的なオーバーロード覚醒実験に関する資料』だって……!?」

 『!?』

 それを聞いた人々は皆驚きを隠せない。

 

 牙也「あの研究所では、オーバーロードを人工的、かつ大量に生み出す実験をしていました。がしかし実験は失敗に終わり、情報が漏れないように密かに閉鎖されたのです」

 千冬「しかし、それと牙也に何の関係があるのだ?聞いた限りでは、関係と言える情報は何も無かったが」

 牙也「まあそう焦らずに。楯無、お前俺の事密かに調べてたよな?」

 楯無「え?ま、まあ一応は……調べてるの分かってたの?」

 牙也「バレバレ」

 楯無「」orz

 

 牙也「それで学園長。その資料の上の方に、確か所長の名前があった筈ですが」

 轡木「ああ、あったね。えっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷茜(いかづちあかね)って人だね」

 

 

 楯・束『え!?』

 その名前を聞いた束と楯無はとても驚いていた。

 千冬「どうかしたのか、束、楯無?」

 束「う、嘘……そんな……!」ヘタッ

 信じられないような顔で、束はその場にへたり込んだ。

 牙也「束さんと楯無は分かったみたいだな……」

 楯無「信じられない……まさか、そんな……!」

 一夏「束さん、どういう事なんだ?教えてくれよ、俺達にも分かるように」

 一夏がそう聞くと、束は震える声で話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「雷茜は…………私の恩人でもあって…………牙君のお母さんなんだよ」

 

 

 

 

 千冬「な……なんだと!?」

 簪「じ、じゃあ牙也さんのお母さんは……!」

 鈴「まさか、自分の子供を実験材料にしたの!?」

 牙也「ああ……全ては被験体Kとなった俺の体にヘルヘイムの果実の力を流し込んで抗体を作り、俺を生かす為にやった事だ。だが、実験が失敗した事で、母さんは壊れてしまった……そして実験が失敗したにも関わらず、なんとか生き残った俺を処分しようとしていた矢先、あの事件が起きた……」

 楯無「『ファクトリー雷襲撃事件』ね」

 牙也「そう。知ってる人は少しはいるんじゃないかな」

 シャルロット「……あ!僕の実家と交流のあった会社だ!」

 牙也「その襲撃事件で俺はシュラに助けられて、アーマードライダーの力を得た。これが、一連の流れだ」

 

 牙也によるあまりにも残酷な説明に、全員が顔を背ける。

 

 牙也「それともう一つ、俺から生まれた謎の生物の事だ」

 ラウラ「そう言えばそうだったな。そいつは何なのだ?」

 牙也「実を言うと、臨海学校の頃から俺は夢の中で、シュラの記憶が見れるようになったんだ。亡国に助けられて眠っている間にも勿論その記憶が見えていた。だが、ここに戻ってくる直前、最後に見た夢で、俺は自分の目を疑ったよ。それは俺とシュラ、二人揃って知らなかったであろう事だった」

 轡木「一体何が……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「シュラは…………俺から生まれたオーバーロードだったんだ」

 

 

 

 

 

 

 





 次回、牙也がある決意をするーー。



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第49話 遺言、ソシテ結バレル紅イ糸


 恋愛関連の表現が難しいよ畜生!これが限界だよ!


 んんっ、失礼。それでも良いなら、引き続きお読み下さい。




 

 千冬「つ、つまりは……牙也とシュラは、元は同じ人間……!?」

 牙也「ええ。そして謎の生物の正体は、オーバーロードになる前、つまりまだインベスだった頃のシュラだったんです」

 

 牙也の口から語られた衝撃の真実に、一同は驚く事しか出来なかった。

 

 牙也「驚く事ばかり続いて申し訳ないのですが、話はまだ続きます。今までの話で薄々気づいている人もいるかもしれませんが……ゼロの正体はーー」

 簪「牙也さんの、お母さん……」

 牙也「ああ。そして、シャルロットやラウラ、果ては福音をインベス化させたのも母さんだ」

 ラウラ「牙也を倒す為には手段を選ばないほどに変わってしまったのか……たとえ、他人がどうなったとしても」

 牙也「今の母さんがそんな感じだ。もう今の母さんには人としての俺は見えてない。今見えてるのは、完全なる敵と認識した怪物ーーつまり怪物としての俺だけだ」

 鈴「で、どうすんのよ?まさか、あんたの命をあいつに差し出す訳じゃないでしょうね!?」ガタッ

 牙也「しねぇよ、そんな事。俺だって生きたいって思ってるさ、もう死ぬのはごめんだよ」

 鈴「それなら良いのよ」

 そう言って鈴はまた座り込む。

 

 

 真耶「ところで、一つ質問したいんですが……」

 牙也「何ですか?」

 真耶「あの……牙也君の隣にいる男の人は一体……?」

 牙也「ああ、これから紹介しますよ。狗道のおっさん」

 すると狗道が一歩前に進み出て言った。

 

 

 

 狗道「私の名は、狗道供界。この世界のISで言うと、ISコアの人格、とでも言おうか」

 

 

 

 その場にいたほとんどが供界の言う事を理解出来なかったが、

 束「なるほどね……お前、牙君が持ってるその紅いロックシードの中にいる存在って事なんだね」

 ISを作り出した束だけはそれを理解した。

 供界「まあ概ねその通りだ。正しくは、牙也のザクロロックシードを媒介として生きる元人間、もしくは幽霊とでも言おうか」

 セシリア「それでは貴方も既に死んでいるのですか?」

 供界「その通りだ。このザクロロックシードは、オーバーロード・シュラが牙也の為に残した『第二の心臓』であり、同時に私の心臓でもあるのだ」

 束「ちょっと待って、今『第二の心臓』って言ったね。どういう事?」

 牙也「それについては俺が説明します。今狗道のおっさんが言った『第二の心臓』は、おっさんが言ったように俺の三つ目の心臓とも言える物です。つまりこれが壊されたりすると、俺は死んでしまいます」

 千冬「待て、第二なのに三つ目とはどういう事だ?」

 牙也「俺の一つ目の心臓は、俺がまだ人間だった頃の心臓で、三つ目がさっき言ったザクロロックシード。では二つ目はなんなのか。実を言うと二つ目の心臓は、ブルーベリーロックシードです」

 千冬「む?つまりお前は今まで、その心臓の力を使って戦っていたという事か?」

 牙也「ええ。で す が、あの屑が勝手にブルーベリーロックシードを使用した事で、ブルーベリーロックシードは『第一の心臓』としての機能を失う事になりました」

 供界「そこで牙也をなんとか生かす為に、『第二の心臓』であるザクロロックシードーーつまり私が目覚めた、という事だ」

 轡木「なるほど……分かりました。他に誰か質問はありますか?」

 すると、一夏の手が上がった。

 

 一夏「牙也。箒の事なんだが、今回の戦闘でどうやらお前と同じように蔦を出せるようになったみたいなんだ。それに、箒が使ってるロックシードが変わってる事にも気づいた。どういう事か説明してくれ」

 牙也「ああ。箒が今まで使ってたマスカットロックシードは、元々はヨモツヘグリロックシードだったんだろうな。だけど、いきなりそれを箒に使わせたらさすがに体が持たない。そう考えて、シュラは一時的にヨモツヘグリの力をマスカットでカムフラージュしたんだろうな」

 一夏「だろうって……お前にも分からないのか?」

 牙也「こればかりはどうにもな。加えて蔦を出せるようになったのは、恐らくヨモツヘグリの自己及び他者に対する防衛本能みたいな物だと見てる」

 箒「自己防衛……」

 一夏「こんな事は思いたくないけど……箒もオーバーロードになった、なんて事は無いよな?」

 牙也「うーん……多分ヨモツヘグリの防衛本能がまだ残ってるだけだと思いたいが……如何せんその辺の話は俺もおっさんも分からんからな、暫く様子を見るしかないぜ」

 一夏「そっか……」

 

 轡木「他には何かありますか?」

 牙也「あ、すんません。俺から一つ個人的に報告……というか既に決めてた事があるんですが」

 轡木「何かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……異世界に向かいたいんだ。カンナの力を借りて」

 

 

 

 

 

 

 轡木「異世界……?一体どういう事ですか?」

 牙也「拠点の地下を調べてた時、シュラが俺に宛てた手紙を見つけました。そこにはこう書いてありました」

 

 

 

 

 

 シュラ『この手紙を手にした時は、恐らく我はもう消えてしまっているだろう。最後に我が牙也達の為にできる事と言えば、ドライバーを出来る限り多く作る事と、牙也に対してアドバイスをする事くらいだろう。

 

 さて、そのアドバイスだが、単刀直入に言う。

 

 

 

 

 カンナの力を借りて、異世界に向かえ。

 

 

 

 今のままでは、牙也達は恐らく黒幕には絶対に勝てん。お前達には、決定的に足りないものがあるからだ。それを見つける為に異世界に向かえ。その際一緒に連れていけるのは、篠ノ之だけだ。カンナには既に話を付けてある。牙也、篠ノ之、お前達二人の手で見つけ出せ。お前達に足りない何かを。なお、この手紙は読み終え次第焼き払え。誰にも触れられぬように』

 

 

 

 

 

 轡木「……シュラ君の遺言、か」

 牙也「そういう事です。俺も薄々は分かってました、このままではゼロに勝てないって。だから、探さなきゃならない。俺達に足りない何かを」

 轡木「なるほど……皆さんはどう思いますか?」

 全員が黙っていたが、

 

 

 

 

 鈴「牙也」

 

 最初に鈴が口を開いた。

 

 鈴「絶対に、無事に帰ってきなさい。それをちゃんと守ってくれるのなら、あたしは何も言わないわ」

 牙也「」コクリ

 千冬「私からも一言。必ず見つけてこい、その何かを」

 牙也「……はい!」

 束「箒ちゃん……」

 箒「……大丈夫だ、姉さん。私は死なない、必ず探しだしてくる。だから……」

 束「うん、待ってる。必ず帰ってきて」

 箒「はい!」

 轡木「皆、これで問題ないかな?」

 

 これには全員が頷いた。

 

 轡木「ところで牙也君達がいない間、ここの守備はどうするのかな?」

 牙也「全体的な指揮は千冬さんに一任したいと思ってますが……ザック、お前これからどうする気だ?」

 ザック「俺か?ここに残るぜ、俺にも何か手伝わせてくれよ」

 スコール「私達は一旦本部に戻って、この件を報告しなきゃいけないの。終わり次第またここの防衛任務に戻るわ」

 轡木「ではヴァルフレア君と亡国の皆さんにも守備任務に入ってもらうという事で宜しいですか?」

 牙也「はい、宜しくお願いします」

 轡木「では、今回の件につきましては箝口令を敷きますので、宜しくお願いします」

 

 こうして会議は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロット「まさか牙也さんがあの会社社長の息子だったなんて……」

 箒達は一旦牙也と別れ、寮に戻っていた。

 箒「牙也の実家は元々、姉さんのIS開発にも関わっていて、姉さんからすれば恩人同然だったんだ。あの事件で牙也以外の家族が全員亡くなったと聞いていたが……」

 鈴「妙ね……なんで母親だけ生きてるのかしら?遺体も見つかったんでしょ?」

 ラウラ「恐らく身代わりを使ったのだろうな。遺体を調べる者を買収するなどして、自分が死んだ事にした上で、牙也を狙い始めたんだろうな」

 セシリア「牙也さんは大丈夫なのでしょうか……敵とは言え元は家族、倒すなどと……」

 鈴「そうよね……牙也の決意が揺らがなければ良いんだけど……」

 

 <pppppーー>

 

 セシリア「あら、私のスマホですわ……もしもし?あら、相川さん。どうかなさいましたの?……あ、はい。今一緒におりますわ……え?今から食堂に?……なるほど、分かりましたわ、すぐに向かいます」

 

 

 鈴「どうかしたの?」

 セシリア「皆さん、ちょっとお耳を拝借……」ゴニョゴニョ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「うーん。すっかり片付けられたな」

 一方牙也は部屋に戻り、荷物整理をしていた。

 千冬「まあ仕方あるまい、お前は一度死んだ事になっているからな」

 牙也「それはそうですけど……」

 千冬「ああ、それと牙也。お前は今日から篠ノ之と同じ部屋になったからな。今すぐに荷物を全部持っていけ」

 牙也「はい?」

 千冬「なにやら楯無が裏で動いていたようだが」

 牙也「あいつ……後で処す」

 千冬「ほら、篠ノ之の部屋の鍵だ。ちゃんとノックして入れよ」

 牙也「分かってますよ」

 牙也は素早く荷物を纏めると、千冬にお礼を言って箒の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「えっと、確かこの辺り……あった」

 鍵に書かれている部屋番号をドアの部屋番号と照合し、間違いない事を確認した牙也は一旦その場に荷物を降ろし、ドアをノックーー

 

 

 

 

 箒「牙也?」

 

 

 

 

 しようとした時、箒がやって来た。

 箒「どうした?千冬さんに部屋を追い出されたか?」

 牙也「あながち間違っちゃいないが……今日からお前と同室だって千冬さんから聞いたぞ」

 箒「な、何!?まさか……!」

 箒は慌てて鍵を開けて部屋に入る。見ると、今まで箒と相部屋であった鷹月静寐の私物は全て運び出されたのかなくなっていた。

 箒「……本当のようだな」

 牙也「入って良い?」

 箒「……入れ」

 箒に許可を得て、牙也はゆっくりと部屋に入る。

 箒「私は窓際のベッドを使っているから、牙也は壁側のベッドを使え。シャワーは基本的に牙也が先に使ってほしい。その他の事は、後でゆっくり決めるとしよう」

 牙也「了解」

 牙也は持ってきた荷物を床に置くと、中に入れていた私物を整理し始めた。ふと箒を見ると、箒の髪には牙也にとって見覚えのある桜の飾りが付いたヘアピンがあった。

 

 牙也「あれ?そのヘアピン……あ!?」

 箒「ようやく気づいたか……全く」

 牙也「あちゃ~、あの手紙見つけられたのか……書き終わってなかったから、まだ隠してたのに……」

 箒「いや、あれだけでも私は良かったぞ。それよりも……」ジッ

 牙也「な、何さ?」

 

 箒「あの手紙に書いていた事……全部お前の本心か?」

 

 箒は牙也をじっと見つめながら聞いた。

 

 

 

 

 牙也「…………ああ。あの手紙に書いた事は全て、俺の本心だ」

 

 

 

 

 箒「天地神明に誓って、か?」

 牙也「勿論。あの手紙に嘘は書かない。俺の本心だけを書いてる」

 箒「そうか……」

 箒はそう言って黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 箒「…………っ、うう……っ!」グスッ

 

 

 

 が、箒は耐えきれなくなったのか、声を押し殺して泣き始めた。

 牙也「ほ、箒!?す、すまん、俺何か嫌な事でも言ったか!?」

 箒「グスッ……違うのだ……私は、嬉しいのだ……っ!」ガバッ

 泣きながらそう言って、箒は牙也に抱きついた。

 牙也「ちょ、箒!?////」

 箒「嬉しかった……!臨海学校の後であの手紙を読んで、牙也が私を思ってくれている事が、嬉しかった……!」

 牙也「箒……」

 箒「臨海学校でお前が死んだと聞いたとき、後悔した……早くに私の思いを伝えておけば良かったって……!でも、牙也が戻ってきてくれて、嬉しかった……!」

 箒は泣きながら牙也をしっかりと抱き締める。

 牙也「箒……俺で、良いのか?俺は人間じゃなかったんだぞ……?それでも良いってのか?」

 箒「そんなの関係ない……!私は、お前が良いのだ……っ!」

 箒はなおも牙也を抱き締める。すると、

 

 牙也「」ギュッ

 箒「牙也……?」

 

 牙也も箒を抱き締め返した。その目は、箒と同じように涙で濡れていた。

 

 牙也「ありがとう……そんで、ごめんな……!お前の本心に、早く気づけなくて……!」ギュッ

 箒「牙也……!」ギュッ

 

 感極まって、箒も負けじと牙を抱き締め返す。暫くの間、二人はずっと抱き締め合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 箒「そ、それで……お前はどうなのだ?」

 ようやく泣き止んだ箒は、思いきって牙也に聞いた。

 牙也「ふふっ……そんなの、決まってんだろ?」

 牙也は笑顔を見せながら、箒にその顔を近づけてーー

 

 

 

 牙也「」チュッ

 箒「んんっ!?」

 

 

 

 優しく抱き締めながらそっとキスをした。箒は驚いていたが、やがてそっと牙也を抱き締め返し、

 

 牙也「ん……ちゅっ……んん……っ」

 箒「ん……んん……きば、やっ……んちゅっ……」

 

 すこし濃厚なキスをした。そして、互いの唇が離れると、牙也は箒の髪を手で優しく梳いた。そして箒を見て一言、

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「こんな俺で良ければ……宜しく頼む////」

 

 

 

 ほんのり顔を赤くしながら言った。

 箒「牙也っ!」ガバッ

 牙也「うおっ!?////」

 それを聞いた箒は笑顔になり、思い切り牙也に抱き付いて必死に頬擦りする。

 箒「ふふっ……これから、宜しく頼むぞ♡」

 牙也「ああ、宜しくな」ナデナデ

 

 こうして暫くの間、二人は互いに抱き合ったままのんびりと過ごすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「あ、しまった。オルコット達に食堂に来るように言われていたのだった」

 牙也「そうなの!?」

 

 

 





 次回、食堂で大騒ぎ。




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第50話 学園ハ今日ハ平和ナリ


 相変わらず恋愛には疎い作者です。問題なければお読み下さい。




 

 箒「♪」ギューッ

 牙也「」ナデナデ

 

 現在牙也と箒は寄り添いながら、二人揃って食堂に向かっていた。その間箒はずっと牙也の左腕にしがみついており、牙也はそんな箒の頭をずっと撫で続けていた。

 牙也「そう言えばさ、セシリアは何の為に俺を食堂に呼んだんだ?」

 箒「ん~、秘密だ。食堂に着くまでのお楽しみだ♪」

 牙也「む、そうかよ……ところでなんだけどさ……」

 箒「なんだ?」

 牙也「ちょっと言うの恥ずかしいんだが……あんまり引っ付いてこないでくれるか?皆に見られるのはちょっと……////」ポリポリ

 箒「ふふっ……良いではないか、見られても。それとも、私がこうやって引っ付いてくるのは嫌いか?」ウワメヅカイ

 牙也「うぐっ……そう言われると言い返せない」

 箒「それとも、お前の理性が持たないか?」

 牙也「こら////」ペシッ

 箒「あうっ」

 

 

 

 

 

 

 セシリア「随分呼んでくるのが遅いと思っていましたら……」

 シャルロット「」サトウダバー

 

 その様子を、近くの曲がり角からセシリア達が覗いていた。箒に牙也を呼んでくるように頼んだのだが、あまりにも遅いので呼びに来たのだ。

 

 鈴「でも良かったじゃない。無事にあの二人が結ばれたみたいだし」

 ラウラ「そうだな、あの二人の仲睦まじさは、恋愛に疎い私でももどかしかったぞ」

 簪「篠ノ之さん……今までにない笑顔……輝いてる」

 本音「ほーきちゃんがハッピーで良かったのだ~♪」

 セシリア「そうですわね……さあ、私達は先に食堂に戻りましょう。あの空気を邪魔するのは失礼ですわ」

 鈴「そうね、これ以上はシャルが持たないだろうし」

 簪「デュノアさん、大丈夫?」セナカサスサス

 シャルロット「だいじょばないよ……」ダバー

 ラウラ「さあ、急いで戦略的撤退だ」

 本音「お幸せに、なのだ~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也(あいつら……)フフッ

 こそこそと逃げるように去っていくセシリアを見て、牙也は苦笑を漏らした。

 箒「む、どうかしたか?」

 牙也「いや、なんでもないさ。それにしても……一気に吹っ切れたみたいだな」

 箒「ふふっ、牙也のお陰だ。牙也が私への思いを打ち明けてくれなかったら、こんな風にはならないさ」

 牙也「そっかそっか……あ、そうだ。これ、箒に返すぜ」

 そう言って牙也は、ポケットからライムロックシードを取り出して箒に渡した。

 箒「お守り……役に立てたか?」

 牙也「勿論さ、ありがとな」ナデナデ

 箒「んっ……牙也、もう少し強めに……」

 牙也「こうか?」ワシャワシャ

 箒「うむ♡」ゴマンエツ

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている間に、二人は食堂の前までやって来た。しかし、

 牙也「あれ?妙だな……」

 牙也は食堂の中が真っ暗である事に疑問を覚えた。

 牙也「箒、ここで合ってんのか?」

 箒「ああ、間違いない。ここに来るように言われていたのだが……おかしいな。ちょっと先に入って様子を見てみるぞ」

 そう言って箒は牙也の返事も待たず、さっさと暗い食堂に入っていった。

 牙也「あ、おい!……ったく、元気な事で」

 苦笑いを浮かべ、牙也もまた箒を追いかけて食堂に入った。

 牙也「おーい、誰かいないnーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンパンパンッ!!

 

 牙也「!?」ビクッ

 

 と、突然食堂の明かりが点き、牙也は突然の眩しさに着物の裾で目を隠す。それを追うようにクラッカーの音がいくつも鳴った。突然の事に混乱したまま、牙也が目を向けると、

 

 

 

 

 

 『紫野牙也さん、お帰りなさい!!』

 

 

 

 

 

 食堂のカウンターの上には、でかでかとそう書かれた垂れ幕が掛けられており、食堂にはところ狭しと学園の生徒達が集合していた。その全員がクラッカーを鳴らして牙也を祝福する。食堂の長机には、あの短い時間の間に作ったのかと言えるほどに沢山の料理や飲み物が並べられ、美味しそうな香りや湯気を立てている。

 牙也「ハハハ……おいおい、祝福にしては派手過ぎやしないか?」

 セシリア「そんな事はありません。これくらい派手でなければ釣り合いませんわ」

 セシリア達が前に進み出て、牙也を祝福する。

 鈴「短時間で準備したから雑な部分もあるかもしれないけど、我慢してよね!」

 シャルロット「学園の皆でこれ全部用意したんだよ」

 ラウラ「今日はお前が主役だ、しっかり楽しんでいけ」

 本音「牙っち、早く早く~」グイグイ

 牙也「へいへい、分かったから引っ張るなって。ところで箒は?俺より先に中に入ったんだけど」

 簪「あ……今ちょっと、席を外してて……」

 牙也「ふーん……ま、深くは聞かないでおくか。それじゃ、楽しませてもらいますか!」

 

 

 

 

 

 

 その後、ここに千冬達教員や束達も入ってきて全員で乾杯し、宴が始まった。料理研究会や食堂の料理人達か総出で作った料理を飲み食いし、さらにブラスバンド部のパフォーマンス等が行われた。学園全員でワイワイ騒ぎ、無礼講ではっちゃけまくり、全員が宴を楽しんだ。

 その中で、楯無が炭酸飲料と間違えて教員用の酒の氷○を飲んでベロベロに酔っぱらい、一夏にキスしようとして鈴に背負い投げされたり、セシリアが特製ケーキを作って振る舞ったところ、学園の半分がぶっ倒れたり、束がなんたらホールドの状態で牙也に「あ~ん」をせがんだところ、牙也に梅干しを口に放り込まれて酸っぱさに悶えたり、色々カオスになっていたのは余談である。

 

 

 

 

 

 そんな楽しい宴もたけなわとなり、外はすっかり夜になっていた。全員で後片付けして食堂を元の状態まで綺麗にし、今食堂に残っているのは、完全に酔い潰れた千冬と、千冬を必死になって起こそうとしている真耶、そしてそれを笑いながら眺めている牙也であった。厨房はまだ誰かいるのか、煌々と明かりが点っている。

 真耶「もう、織斑先生ったら……全然起きませんね」

 牙也「なんならそのまま引き摺って部屋に投げ入れて来たらどうですか?ずっとこのままって訳にはいかないでしょう。難しいなら手伝います」

 真耶「あ、大丈夫ですよ。それよりも牙也君、もう遅い時間なんですから、真っ直ぐ寮に帰って下さいね。真っ直ぐですよ!」ビシッ

 二度注意して、真耶は千冬を肩に背負い食堂を出ていった。

 牙也「……こんな夜中に、しかも敷地内で寄り道するところなんか無いでしょうに……」ニガワライ

 箒「牙也」

 するとずっと厨房にいたのか、箒が何か持って出てきた。

 牙也「おう、箒。宴の間ずっと厨房に籠ってたみたいだけど、なんか作ってたのか?」

 箒「う、うむ……こ、これを……お前に」スッ

 そう言って箒は、手に持っていたお皿を牙也の前に置いた。

 

 牙也「これ……ショートケーキ?」

 

 皿に乗っていたのは、八等分にカットされた手作りのショートケーキだった。しかし切るのを失敗したのか、断面が多少崩れている。

 箒「うむ……牙也の好きな味とか、私はよく分からないのでな……初めて作ったこれを、お前に食べてもらいたくて……多少失敗したが」

 牙也「失敗なんか気にしないさ、せっかく作ってくれたんだから。それじゃ、いただきます」

 牙也はケーキを1カット取りそれを食べた。

 

 牙也「ムグムグ……うん、旨い!美味しく出来上がってるよ」

 箒「そうか……良かった。上手く作れたか心配だったのだ」

 牙也「初めてでこんな美味しく作れるって凄いよな……ありがとな、俺の為に」ナデナデ

 箒「う、うむ……////」

 牙也「箒も食べてみるか?」

 箒「う、うむ、いただこう」

 箒もケーキを1カット取って食べた。

 

 箒「……うん、旨い。自分でもよく出来たと思えるぞ」

 牙也「だろ?あ、そうだ。箒、ちょっと」

 箒「?」

 牙也「ほい、あ~ん」

 箒「っ!?////ま、またやるのか!?////」ボフンッ

 牙也「いや~、あれ結構楽しくてな~、恥ずかしがりながら食べてくれる箒がまたーー」

 箒「うう……////こ、今回だけだぞ?////」

 牙也「へいへい、それじゃあ~ん」

 箒「////」パクッ

 牙也「どうだ?」ニコニコ

 箒「……旨い////」モグモグ

 

 

 

 

 

 牙也『ほい、それじゃもう一回、あ~ん』

 箒『あ、あ~ん……////』

 

 

 /ラブラブオーラムンムン\

 

 

 ??「ふふ……明日の一面、これで決まり!」

 

 

 

 

 食堂の出入口から誰かが覗きながら写真を撮っている事にも気づかぬまま、牙也と箒は残りのショートケーキすべてを仲良く食べ終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「や~、楽しかった。それにしても疲れたな……」ゴキゴキ

 箒「……そうだな////」カオマッカ

 部屋に戻ってきてシャワーを浴び、牙也はベッドに座り込み肩をゴキゴキ鳴らす。箒は未だに赤面しており、倒れ込むようにベッドに座った。

 牙也「さて、寝るとしようかね。箒、電気ーー」

 箒「」ギュッ

 牙也が部屋の電気を消そうとすると、箒が後ろから牙也を抱き締めた。

 牙也「ほ、箒?////」

 箒「牙也……一つ、私の我が儘を聞いてくれるか?」

 牙也「なんだ?」

 

 

 箒「き……今日だけは、牙也と一緒のベッドで寝たい////」モジモジ

 

 

 牙也「!?////」ズキューン

   (何この可愛すぎる子!?)

 箒「だ、駄目か?」ウワメヅカイ

 牙也「……ったく、そんな言い方されたら断れねぇよ……////」

 牙也は「先にベッドに入っててくれ」と箒に言って、自分は電気を消しに行き、消し終わるとすぐにベッドに潜り込んだ。

 牙也「それにしても、なんでこんなお願いしたんだ?」

 牙也がそう聞くと、箒は牙也に寄り添いながら答えた。

 箒「……また、離れてしまいそうで……また、私を置いてきぼりにして、牙也が消えてしまいそうで……それが嫌で嫌で……」

 牙也「そっか……大丈夫だ、俺はここにいる。箒とずっと、一緒にいるさ」ナデナデ

 箒「……ありがとう……ありがとう……!牙也、大好きだ……!」ギューッ

 牙也「」ドキッ

 

 

 ピクンーー

 

 

 箒「き、牙也……////な、何か固いものが私に当たっているぞ……////」

 牙也「す、すまん……////箒にそんな嬉しい事言われた上に、箒に抱き着かれて、つい……////」

 箒「そうか……////な、なら私が責任を取らねばな////」ギュッ

 牙也「ちょ、箒!?////」ビクッ

 箒「私はこんな事するのは初めてだから……少し痛いかもしれんが……牙也をしっかり気持ちよくしてあげるぞ////」

 牙也「……お手柔らかにな////」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜の間二人は深く繋がり合い、互いの温度を感じながら睦み合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、牙也が箒にケーキを食べさせる写真が学園の新聞部が作った新聞にデカデカと載せられ、牙也と箒が朝から揃って顔を真っ赤にしたのは、これもまた余談であるーー。

 

 

 





 はい、という訳で学園祭編も完結しました。という事で一つ報告がありますので、活動報告の方をご覧下さい。それではまたーー。



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第51話 旅立チ


 今回の話は、牙也と箒が異世界へと旅立つ直前の話になります。短いですが、お楽しみ下さい。




 

 牙也「……これだな」ヒョイッ

 ヘルヘイムの森。ゼロによって今まで使っていた拠点が灰になってしまい、戦極ドライバーやゲネシスドライバーの製作は牙也が引き継ぎ、製作場所も学園の整備室に移った。束や一夏達に協力を仰ぎながら、少しずつではあるが使用可能なドライバーを着実に増やしていた。

 その牙也は現在、ヘルヘイムの森を探索しつつ、ロックシードの採取を行っていた。せっかくドライバーが完成しても、それを使うのに必要なロックシードが無いのでは宝の持ち腐れ。その為、たまにだが牙也が直々にヘルヘイムの森に赴き、ロックシード探しをしていた。

 

 牙也「ふうん……これは見た事ないやつだな。なんだろ?」カチャッ

 

 《カキ》

 

 ロックシードを解錠して頭上を見ると、巨大な柿が現れた。

 牙也「……これは持っていこう。当たりみたいだからな」

 まだ見ぬロックシードである事を確認した牙也はロックシードを施錠し、懐にしまった。既に長時間探索していたのか、牙也の懐には沢山のロックシードが入っていた。

 牙也「……よし、こんだけ集めれば大丈夫だろ。今日はここまでにして、帰るとsーー」ピクッ

 

 突然牙也が何かを感じとり、撃剣『ラヴァアーク』を構えて辺りを伺う。が、何処からも誰かが出てくる気配はない。

 牙也「気のせいか……?いや、今の感じ、確かにあの時の……」

 牙也はそう呟きながら辺りを見回す。

 牙也「今の感覚を感じた方向は……こっちか」

 牙也は周囲に警戒しつつ、その方向へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 やがて牙也は、ヘルヘイムの森に流れる川沿いに出た。が、その途中までの道のりには怪しい物や人間はおらず、牙也は溜め息をつきながらなんとなく川を見た。

 

 

 

 牙也「っ!あれは……!」

 

 牙也が見た先にあったのはーー

 

 

 

 

 

 

 牙也「このクラック……うん、これだ。これの気配を、俺はさっき感知したんだ」

 

 川のちょうど真上に開かれ、禍々しいほどに闇を吐き出すクラックであった。辺りに生える草花を見ても、その周囲にある植物だけが禍々しいほどの闇に覆われてしまっており、それを調べてみようにもこの闇が一体なんなのか分からない以上、触れるのは危険だと牙也は判断した。

 

 牙也「ひとまずロックシードを置いてくるか。これを調べるのはその後だ」

 

 牙也は一旦学園に戻る為、その場にクラックを開いて中に入った。クラックが一瞬にして閉じると、

 

 

 

 

 

 

 ??『……………………勇士よ、ここに来たれ。時は定まった。今こそ、勇士の魂を異なる輪廻に触れさせる時ぞ』

 

 

 

 

 

 そんな声が辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「あ、お帰り♡」ギュッ

 牙也「ん、ただいま」ナデナデ

 箒「ん~♡」ゴロゴロ

 クラックから学園の整備室に牙也が出ると、早速箒が抱き着いてきた。それを優しく受け止め、そのまま牙也は近くの椅子に座り込んだ。

 カンナ「お疲れ様でした。紅茶はいかがですか?」

 牙也「あれ、カンナ?いつここに?」

 箒「ついさっきからだ。牙也は何か見つけたか?」

 牙也「ああ、新しいロックシードを一つ見つけてきたぞ」

 そう言って牙也は手に入れたカキロックシードを箒に見せた。

 箒「確かにこれは私達も知らないロックシードだな。後で試してみようか」

 牙也「そうだな。それと、一つ報告だ」

 カンナ「何かあったのですか?」

 牙也は探索中に見つけた、闇を吐き出すクラックについて話した。

 

 カンナ「闇を吐き出すクラック……!」

 牙也「カンナは知ってるのか?」

 カンナ「はい……どうやら、時が来たようです」

 箒「時……?」

 カンナ「はい。お二人様、急いで出発の準備をして下さい。あのクラックは短時間しか開きません、あれを逃すと異世界に向かえなくなります」

 箒「何?」

 牙也「異世界……って事は、あれがその……?」

 カンナ「はい。お察しの通り、異世界への扉になります」

 牙也「そうか。よし、そうと分かれば!」

 箒「全く慌ただしいな……挨拶の一つも出来んとは」

 カンナ「仕方ありません、あれが開くのは最早気紛れと言っても過言ではありませんので」

 牙也「仕方ねぇや。書き置きの一つでもここに置いていこう」

 とそこへ、

 

 

 千冬「何をこそこそと旅立とうとしている?」

 

 

 

 千冬が整備室に入ってきた。

 牙也「千冬さん……」

 千冬「全く、お前達の事を私達がよく見ていないとでも思っていたのか?」

 箒「いえ、そういうわけでは……」

 千冬「ならばーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時の別れの挨拶くらいはちゃんとやれ」

 

 その言葉と共に、一夏達いつものメンバーが整備室になだれ込んで来た。

 牙也「皆……」

 一夏「ったく、何も言わずに出ていくなんて無責任だぞ。一言声をかけてから行けよな」

 鈴「一夏の言う通りよ、皆あんた達の事心配してるんだから」

 セシリア「もう行かれるのですね……再会したばかりだというのに、少し寂しく思えますわ」

 シャルロット「大丈夫だよ、永遠の別れって事じゃないんだし、また会えるよ」

 ラウラ「必ず生きて帰って来い。臨海学校の時の二の舞だけはするなよ」

 簪「道中、お気をつけて……!」

 楯無「お姉さんも、ちゃんと帰って来るのを待ってるからね」

 牙也「皆……ありがとな。あと楯無、俺はお前より一つ年上だからな?」

 楯無「嘘!?」

 牙也「ガチだよ。ま、ちゃんと帰って来る事は約束する。千冬さん、俺達が留守の間、ここの守備を宜しくお願いします」

 千冬「ああ、ここは私達に任せて、お前達は安心して行ってこい」

 牙也「はい。皆も楯無を中心に頼んだぜ」

 楯無「任せなさい、お姉さんがいるから大丈夫よ!」

 箒「物凄く不安に刈られているのは私だけか?」

 牙也「いや、俺もだ」

 楯無「酷っ!?」

 簪「お姉ちゃん……現実逃避はダメ、だよ?」

 楯無「」チーン

 

 カンナ「お二人様、そろそろ行かなければ……」

 牙也「ああ、分かった。スコール達にも宜しく伝えて下さいね」

 千冬「任されたぞ」

 牙也「宜しくお願いします。それじゃーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙・箒『行ってきます!!』

 

 

 『行ってらっしゃい!!』

 

 

 

 挨拶を交わし、三人は牙也が開いたクラックの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ほら、あれだ」

 箒「あれが、異世界への入り口……」

 

 三人が降り立った場所は、牙也があのクラックを見つけた場所から少し離れた場所だった。そこからゆっくりとクラックに近づいて様子を伺う。

 牙也「カンナ、どうだ?あれ大丈夫なやつか?」

 カンナ「はい、大丈夫です。ただ長くはあそこには立ち止まれません。一気に走り抜けて、クラックに飛び込まなければ……」

 牙也「了解了解。それじゃカンナは、一旦ロックシードに戻ってくれ」

 カンナ「はい」

 カンナが白騎士ロックシードになると、牙也はそれを腰に提げた。そして箒の方に向き直る。

 牙也「箒、ちょっと失礼するぜ」

 箒「え、何をーーうわっ!?」

 

 牙也は箒をお姫様抱っこすると、クラックに向けて走りだした。

 

 牙也「このままクラックに飛び込むぜ、しっかり捕まってろ!」

 箒「あ、ああ……////」

 ほんのり顔を赤らめながら、箒は牙也にしがみつく。そして箒を抱っこした牙也は、異世界への入り口であるクラックの中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 そして、ここから始まるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形のない『何か』を探す旅がーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 はい、異世界旅行編の導入でした。今後牙也達は、他の作者さんが描く何処かの世界に現れるかもしれません。いつ、何処に現れるかは、ご自分の目でお確かめ下さい。お楽しみにーー。



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異世界旅行 Avenger's World
コラボ4 Avenger's Girl(1)



 『異世界旅行編』、始まります。

 今回は数話に渡ってふぷっちょさん作『復讐を願った少女』とのコラボを実施します。コラボにご協力して下さったふぷっちょさんに、この場でお礼申し上げます。

 いつもより短いですが、お楽しみ下さい!




 

 牙也「よっと」

 箒「ほっ」

 ヘルヘイムの森に現れた闇を吐き出すクラックを抜け、牙也と箒は何処かの世界に降り立った。その場所はどうやら鬱蒼とした森の中のようで、太陽の光が木々によって遮られて薄暗い。

 牙也「カンナ、この世界の今の時間はいつだ?」

 カンナ「少しお待ちを。今調べております」

 箒「牙也、これからどう動く?」

 牙也「そうだな、とりあえずこの森を抜けて広い場所に出よう。動き出すのはそれからでも遅くないさ」

 そう言って牙也は左手から蔦を伸ばす。そして蔦の先端をセンサーのようにピコピコと動かして辺りを探る。

 牙也「うーん……こっちだな」

 牙也達は森の出口を探して歩き出す。

 

 

 

 

 数十分程森の中を歩くと、

 箒「?牙也、あそこだけ妙に明るいな」

 箒の言う通り、まだ森を抜けていないにも拘わらず、光が多く降り注いでいる場所を見つけた。牙也はその場所に向けて蔦を伸ばす。そして暫くの間その場所を蔦を使って調べていたが、

 牙也「どうやらあそこだけは、木々が伐り倒されてるみたいだ。たまたまだろう」

 箒「そうか……」

 カンナ「もう少しこの辺りを調べてみましょうか」

 牙也「ああ。それでカンナ、時間は?」

 カンナ「はい、どうやら午後5時過ぎのようです。時期としては恐らく4月か5月くらいでしょうか……」

 牙也「ふーん……にしては、ここは随分と暗いな」

 箒「確かに……何か空気も澱んできたように思えてきたぞ」

 カンナ「ここは危険かもしれません、早く出口を見つけましょう」

 牙也「そうだな。よし、手っ取り早く出口を見つけるならーー」

 そこまで言って、牙也は蔦を全開に伸ばして森の隅々まで行き渡らせた。

 牙也「少し待ってろ。今この森全体に俺の蔦を行き渡らせた。少しでも何かあったら反応するようにしてる、それまで辺りに警戒しててくれ。この状態だと一歩も動けないから」

 自身が伸ばす蔦に意識を集中させ、反応を探す牙也。箒も背中から蔦を伸ばして警戒を強める。そのまま十分が経過して、

 

 

 

 

 

 

 牙也「見つけた……森の出口だ。ここだけ風が吹き込んでる」

 いくつかの反応の中から、風の反応のあった箇所を調べると、ようやく出口を見つけた。

 箒「よし、早くここを出よう」

 牙也「そうだな。二人共、こっちだ」

 牙也の先導の下、二人は牙也の蔦を頼りに出口へと歩き出す。そしてまた数十分程歩いたところで、

 

 

 

 

 

 牙也「ここが出口だ」

 カンナ「なんとか森を抜けられましたね」

 箒「一先ず安心、か」

 無事に森を抜けた。が、

 

 牙也「うん?おかしいな……この時期ここまで空が暗いなんて」

 カンナ「そう言われれば……」

 季節は春真っ只中であるにも拘らず、空は何故かあまりにも暗かった。

 箒「取り敢えず、何処か泊めてもらう家を探さなければな」

 カンナ「そうですね……あれ?お二人様、あちらに……」

 カンナが見た方向を二人が見ると、何やら巨大なビルがそこにあった。

 牙也「こんな所にビル……相当デカイ企業なんだろうな」

 箒「そうだな……果たして泊めてくれる部屋を貸してくれるだろうか?」

 カンナ「どうでしょう……」

 牙也「とにかく行ってみようぜ」

 三人は巨大なビルに向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……」ムクッ

 ビルの一室。先程までベッドに寝転んでいた一人の少女が、何かを察知したのかゆっくりと起き上がる。

 ??「……この気配。……いや、そんな筈はない……だが、これは……」

 少女は顔に少しの焦りを見せながらも、冷静を保つ。そして壁に立て掛けていた刀を手に取り、机に置いた銃をホルスターに入れると、急ぎ部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「さて、中に入ったは良いが……」

 カンナ「人の姿が見えませんね。見事に、誰一人として」

 ビルの中に入った三人は、エントランスをウロウロしていた。現在いるエントランスには、カンナが言う通り誰一人として人がおらず、ましてや人がいる気配もない。

 牙也「最近になって潰れた会社なのかな……」

 箒「だがそれにしては、エントランスが綺麗過ぎやしないか?」

 カンナ「確かにそうですね……誰か住んでいるのでしょうか……?」

 牙也「そうである事を信じたいが……っ!二人共、ちょっとこっちに来い」

 カンナ「どうかなさいましたか?」

 

 

 牙也「……誰か来る。二人共、後ろに下がっとけ」

 箒「あ、ああ……」サッ

 

 

 二人が後方に下がったのを確認し、牙也はエントランスの階段に目を向けた。すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……」コツコツ

 

 

 

 黒いフード付きコートが全身を覆う誰かがエントランスからも確認できる二階に現れ、階段を降りてきた。思わず身構える牙也。それに見向きもせず、そのコートの人間はゆっくりと階段を降り、エントランスまで降りてきたところで立ち止まり、三人を見た。

 

 牙也(なんだこいつ……随分と濃密な殺気ぶつけてくるじゃないの)

 箒(黒コート……ここの人間か?)

 そう考えながら、二人が一瞬瞬きをした時ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「あれ?」

 黒コートの人間は消え失せ、

 

 

 

 

 

 

 

 箒「ごばっ!?」

 箒の首を掴んで地面に叩きつけていた。

 

 牙・カ『箒(様)!?』

 牙也とカンナが気づいて箒を見た時、黒コートの人間は箒の体を馬乗りの状態で動けないように固定し、どこから取り出したのか銃を箒の額に押し付けていた。

 ??「何故だ……何故お前が、ここにいる……!?」ググッ

 箒「なんの…………事だ……っ!」

 牙也「くそがっ!」バッ

 箒を助けようと、牙也は左手を黒コートに向ける。が、

 

 牙也「な……!?蔦が伸びねぇ、だと……!?」

 何故か蔦が左手から伸びてこない。

 カンナ「牙也様、ここは私が!」バッ

 カンナが何かを唱えると、箒と黒コートを覆うように光が発生した。

 ??「っ!」バッ

 危険と感じたのか、黒コートは一旦箒から離れて三人から距離をとり、再び銃を構えた。カンナが発生させた光は、何も起こる事なくそのまま消え失せていく。

 カンナ「目眩ましくらいにはなったでしょうか」

 牙也「箒、しっかりしろ!大丈夫か!?」

 箒「ゴホッゴホッゴホッ……!な、なんとか大丈夫だ……!」

 箒に駆け寄り無事を確認すると、

 牙也「良かった……カンナ、箒を頼む。ここは俺がなんとかするぜ」

 カンナ「はい!」

 牙也は黒コートに向き直り、左手に撃剣ラヴァアークを生成して構えた。

 牙也(ラヴァアークは出せるんだな。しかし、蔦が出せないのは痛いな。それにさっき確認したら、戦極ドライバーもロックシードも使えなかった。奴と刃を交えるのは、骨が折れそうだ……)ヤレヤレ

 ??「貴様……何故あいつと共にいる?あいつという存在は、既に消えた筈だ……」

 唐突に黒コートが牙也に問いかけた。

 牙也「消えただと?笑わせんな。現に今ああやって存在してんじゃねぇか。ま、お前にはその理由は分からんだろうが……」

 ??「貴様……ならば聞かせてもらおう。貴様を倒してな!」バッ

 黒コートが正面に右手を突き出すと、紅い紫電と靄が発生し、黒コートの右手を覆っていく。そして一瞬の間に、その手には血のように紅い刀身に加えてそれ自体からオーラを放つ異様な刀が握られた。

 ??「我が名、紅星椿……貴様の名は……?」

 牙也「雷牙也だ」

 椿「そうか……雷牙也、貴様との真剣勝負を所望する」

 牙也「……良いぜ、受けてやるよ。ここについて色々聞きたいし、何より一番の目的があるからな」

 椿「……その目的が何かは知らんが、私達の邪魔をするのなら容赦しない……!」

 二人はそれぞれの得物を構え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙・椿『……参る!!』

 

 

 

 今、信念がぶつかり合った。

 

 





 世界観にズレがあると、どうにも書きづらい……と感じている今日この頃、作者の神羅の霊廟です。活動報告において、引き続きコラボして下さる作者の方を募集しています。我こそは、という方は、是非とも宜しくお願いします。





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コラボ4 Avenger's Girl(2)


 さーて、どんなカオスな事態になるやら……




 

 箒「ゴホッ……ゴホッ……牙也……!」

 物陰に避難して呼吸を整えている箒は、牙也と黒コートの人間ーー椿との戦いを見守っていた。その近くにはカンナが控え、同じように戦いを見守っている。

 カンナ「牙也様、大丈夫でしょうか……何やら嫌な予感が致します……」

 箒「くそっ、こんな時にアーマードライダーの力が使えんとは……!」ガンッ

 牙也の戦極ドライバーが使えなくなっていたのと同じく、箒の戦極ドライバーもまた使えなくなっていた。物陰に避難した後でそれを知った箒は、忌々しそうに壁を殴り付ける。

 カンナ「どうやら牙也様は、蔦も出せなくなっている模様。これでは牙也様が圧倒的に不利でごさいます」

 箒「牙也……!」

 不安を拭えぬまま、二人は戦いを見守るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「はっ!」

 椿「フッ!」

 

 ガキインッ!!

 

 牙也の持つ『撃剣ラヴァアーク』と、椿の持つ『煉獄刀・紅蓮』がぶつかり合い、その度に火花が散る。時に一旦距離を取り、時に正面からぶつかり合う。

 牙也「おらっ!」

 椿「はっ!」

 

 が、牙也のその顔には、珍しく焦りの表情が浮かんでいた。

 椿「随分と余裕のない表情だな……」

 牙也「良く言うぜ……お前の力で俺の力を抑え込んでるくせに」

 椿「気づいていたか……」

 牙也「他に誰がいるってんだよ。ったく、応戦しづらいったらありゃしねぇ」

 椿「そのような軽口を叩ける辺り、まだ余裕そうに見えるが……」

 牙也「戦いで余裕を見せたらお釈迦だ、少なくとも俺はそう思ってる。それに、下らない大口叩いてやられるよりはまだましだ」

 椿「なるほど……そこらの偽善者とは違うようだな」

 互いに攻撃の手は緩めずにいるが、小話ができる程度の余裕は互いにあるようだ。

 牙也「……お前、何かに恨みを持ってるな?」

 椿「」ピクッ

 牙也の言葉に、一瞬椿の動きが止まる。それを見逃さず、牙也はラヴァアークを振るって椿を攻め立てる。

 椿「……何故分かる?」

 牙也「俺はあいつに……箒に会うまで、ずっと一人だった。あの日俺は、親を奪われ、さらに妹を奪われた。一人になってから、俺はあちこちの街に住む人々を見てきた。そのほとんどは……お前のように、内心に怒りや憎しみを携えていた。そしてーー」

 椿「死んだ、もしくは殺されたか?」

 椿が代わりに答える。が、それに対して牙也は首を振った。

 牙也「半分正解だ。確かにその人達は死んだ。ただし、人間としてはな」

 椿「……?」

 何の事か分からず、椿は首を傾げる。

 牙也「これ以上はこちらの世界の事だ、お前が知る理由はないさ」

 椿「介入して欲しくない、とでも言いたげだな……まあ確かに、私の知った事ではないか」

 牙也「理解が早くて助かる……ぜっ!」ブンッ

 ラヴァアークが振るわれると、椿も紅蓮を振るって押し返す。そして鍔迫り合いになったところで、

 

 

 椿「そろそろウォーミングアップも終わりだ……本気で貴様を倒しにいくぞ。『紅影ノ舞(こうようのまい)』」

 

 先に椿が仕掛けた。目に見えない程の早さで牙也の目の前から消え、牙也の周囲をアクロバティックに動いて斬撃と蹴撃を交互に仕掛けていく。そのスピードは凄まじく、残像を生む程であった。

 牙也「なんの!」

 しかし牙也は椿の動き一つ一つを読み、的確に攻撃をいなしていく。

 椿「ほう、この動きを易々と読むか……ならば、『紅ノ一閃(あかのいっせん)』」

 椿はまた一旦距離を取り、紅蓮にエネルギーを纏わせた。そのエネルギーはどんどん集約し、最終的には太刀を思わせる形状に変化した。

 椿「この一撃を、受けてみろ……!」

 紅蓮を構える椿。対して牙也は、

 牙也「だったらこっちも……『血染ノ一閃(ちぞめのいっせん)』」

 ラヴァアークに同じようにエネルギーを集約させる。椿と違うのは、ラヴァアークそのものにエネルギーが集まって刀身をコーティングするようになっている事と、エネルギーの色が赤黒い事だろうか。

 椿「この刃で、貴様を倒す!」ダッ

 牙也「受けてたつ!」ダッ

 互いの得物を構えて二人は走りだし、同時に刃を交えた。エネルギーの塊とも言えるその二つの刃がぶつかり合うと、二人を中心に凄まじいエネルギーの奔流が発生し、辺りのソファやテーブルなどがそれに巻き込まれて次々と壊れていく。

 箒「くうっ……!なんという強さの奔流だ……!」

 カンナ「これ程の力を、あの黒コートの人間は持っているのですか……!」

 先程までいた場所から受付のある場所にこっそりと移動して隠れた二人も、この膨大なエネルギーの前に立ち上がれずにいる。やがて、

 

 ガキインッ!!

 

 椿「ちっ!」

 牙也「くっ!」

 互いの得物は同時に弾かれる。そしてまた接近してぶつかり合い、エネルギーの奔流が発生して辺りを破壊していく。刀の打ち合いが実に数十合続いた。が、

 

 牙也「ぜえ……はあ……」

 椿「どうした、もう息切れか?」

 先に牙也が息切れを起こし始めた。見ると苦しそうに胸あたりを押さえている。その胸あたりには、何やらじんわりと赤い何かが滲んでいた。

 椿(こいつ……怪我した状態で私と戦っていたのか。その状態で私と対等に渡り合えるとは、随分頑丈な体をしているのだな)

 牙也(くそっ、こんな時に傷口が開きやがった……!こいつの事だ、易々と逃がしてはくれないだろうし……絶体絶命って奴だな……だけど!)バッ

 牙也は一旦距離を取る為に空中に退避した。しかしそれを見逃す椿ではない。

 椿「逃がさん!」バッ

 牙也を追いかけて椿も跳躍し、牙也に掴み掛かる。その時、牙也は自分の左手をチラッと見る。見ると少しだが蔦が生えているのが見えた。

 牙也「やっぱりか……お前から一定距離離れると、俺の力はちゃんと使えるみたいだ!」バッ

 牙也は瞬時にクラックを開いてその中に飛び込んだ。椿がそれを追いかけようとするが、それよりも早くクラックは閉じた。そして、

 牙也「わあっ!」ドサッ

 箒とカンナがいる受付の場所に投げ出される形で現れた。

 箒「牙也、大丈夫か!?」

 牙也「傷口が少し開いただけだ、なんて事ないさ。ともかく、ここは撤退するぜ。ここまで劣勢だと巻き返しは無理だ」

 牙也が再びクラックを開き箒を招き入れる。と、

 椿「逃がさん!」

 椿が銃撃しながら飛びかかってきた。

 

 カンナ「させません!」

 そこにカンナが立ち塞がり、右手に左手を翳した。するとまばゆい光がカンナの右手を包み込み、光が晴れるとその手には、ゲームパッドのようなものが付けられていた。

 カンナ「はっ!」ドンッ

 カンナはゲームパッドの銃口部から光弾を放って、椿が撃った銃弾と相殺させる。途端に小規模の爆発が起こり、辺りを煙が覆う。

 カンナ「今です!」

 牙也「すまんな、カンナ。来い、箒!」

 箒「ああ!」

 三人がクラックに飛び込むと、クラックはすぐに閉じた。椿がその場所に走り寄ったが、既にそこには誰もいなかった。

 牙也「お前との戦いは楽しかったぜ。だから次に会った時は、互いの全力を尽くせる状態で会おうぜ」

 牙也のそんな声が響く。

 椿「……逃げられたか。私も詰めが甘いな」

 椿は紅蓮をしまうと、辺りを見回した。エントランスは牙也との戦いで大惨事となっている。

 椿「……後でスコールに怒られるな、これは」

 頭を抱えながら、椿は報告の為にその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙・箒・カ『わあっ!』ドサッ

 クラックに飛び込んだ三人はやがてクラックの外に投げ出された。

 牙也「ってて……ここどこだ?」

 辺りを見回したが、既に夜で辺りは真っ暗だ。

 箒「恐らく何処かの建物だろうな。貯水タンクのようなものがあそこに見える」

 箒が指差した先には、暗くて見えづらいが確かに貯水タンクのようなものが見える。

 牙也「やれやれ、今日はここで野宿か?」

 カンナ「それしかありませんね。ここは私が」

 そう言ってカンナは両手を空に翳す。すると、三人の周囲を緑色のドームが覆った。透明感のあるそれは、まばゆい輝きを放っている。

 カンナ「一晩しか持ちませんが、傷や疲労を癒したり敵の攻撃を防いだり出来ます。これなら一先ずは安心でしょう」

 牙也「何から何まで悪いな、カンナ」ナデナデ

 カンナ「ん……いえ////」スリスリ

 箒「」ムゥ

 牙也「箒もありがとな、心配してくれて」ナデナデ

 箒「んぅ……わ、分かっていれば良いのだ////」ゴロゴロ

 そこで牙也はふと、カンナの右手に装着されたゲームパッドのようなものが気になった。

 

 牙也「カンナ、そのゲームパッドみたいなのは何なんだ?」

 カンナ「これですか?これは最近になって使えるようになった自衛用の武器『ガシャコンバグヴァイザー』というものです。使ってみますか?」

 牙也「え、でもカンナ用だろ?俺が使えるのか?」

 カンナ「元々牙也様にお渡しするものでしたので……それを使えば、オーバーロードの力を最大限に発揮できるようになりますし、先程みたいにアーマードライダーの力が使えない時に便利です」

 牙也「ふーん……じゃあ試しに使ってみるか」

 カンナ「では、どうぞ」

 カンナはガシャコンバグヴァイザーを牙也に手渡した。

 

 カンナ「Aボタンを押して、持ち手と合体させて下さい」

 牙也「こうか」

 牙也がバグヴァイザーのAボタンを押すと、低めの待機音声が鳴り響く。それを持ち手と合体させると、

 

 

 

 

 

 

 《Infection! Let's Game! Mad Game! Blood Game! What's Your Name!? The OverLoad!!》

 

 

 

 

 音声と共に、牙也の全身は蔦に包まれた。そして蔦が弾けると、

 

 

 箒「牙也、お前……その姿は……!」

 牙也「なるほどな……こういう事か」

 

 牙也の姿は、オーバーロード・シュラそのものになっていた。

 

 カンナ「ガシャコンバグヴァイザーはビームガンとチェーンソーの二つのモードがあります。今はビームガンですが、逆に取り付ければチェーンソーが使えますよ。勿論今までの武器も使えます。解除する際は、普通に取り外していただければ良いです」

 牙也「ああ、大体分かったぜ」ガチャッ

 牙也はガシャコンバグヴァイザーを外して、元の姿に戻った。

 牙也「よし、それじゃ今日はもう寝よう。ここらの詳しい探索は、夜が明けてからだ」

 箒「うむ」

 カンナ「はい」

 

 こうして三人は、ドームの中で寄り添うように眠りについた。

 

 

 

 

 





 ガシャコンバグヴァイザーの音声はあえてオーバーロード仕様に変えてます、牙也はバグスターではないので。



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コラボ4 Avenger's Girl(3)


 怒りは時に、優しささえも凌駕するーー。




 

 ??「ふああ……」

 IS学園の屋上に、一人の少年の姿があった。

 ??「今日は授業が休みなんだよな……珍しく早く目が覚めたから屋上に来てみたけど、気持ちいいな~」ノビー

 体を大きく伸ばしているのは、お馴染み織斑一夏だ。現在の時刻は午前7時半。まだ夜が明けたばかりの屋上で風を感じながら、一夏は手足をじっくりと曲げ伸ばししている。

 一夏「さて、今日はどうするかな……正昌達と一緒に訓練するのも良いし、何処か出掛けるのも良いし……」ノビー

 何をするか考えながら腕を伸ばすと、

 

 バチッ

 

 一夏「痛っ!」ビクッ

 突然その手に痛みが走り、思わず一夏は手を引っ込めた。何が起きたのか分からず、一夏は首を傾げる。そして腕を伸ばした方向に恐る恐る手を伸ばした。すると、

 

 バチッ

 

 一夏「っ!」バッ

 また痛みが走り、一夏はまた手を引っ込めた。

 一夏「ここ、なんかバリアみたいなのがあるな……なんだろ?」

 一夏は少し考えていたが、

 一夏「……千冬姉達を呼んでくるか。なんかあるかもしれないし」

 そう言って一夏は一旦屋上を離れて千冬達を呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 牙也「ん……朝か」

 一方バリアの中では、ちょうど牙也が起きてきたところだった。体を確認すると、椿との戦いで開いた傷口は完全に閉じていた。

 牙也「よし、傷は大丈夫だな。おい二人共、朝だぞ。そろそろ起きな」ユサユサ

 箒「んぅ……朝か……?」

 カンナ「ふみゅう……おはようございます」

 寝ぼけ眼を擦りながら、箒とカンナも起きてきた。

 牙也「おはようさん。取り敢えず二人の髪なんとかするから、ちょっと我慢しろよ」

 こうして牙也が二人の髪を手入れする事数分ーー

 

 牙也「よし、こんなもんだろ。どうだ?」

 箒「おお……良くできてるな」

 カンナ「わざわざありがとうございます」

 牙也「良いって良いって。さて、これからどう動くよ?」

 箒「まずは朝御飯ではないか?」グキュルル

 カンナ「そうですね。何か食べられるものをーーあら?」

 ここでカンナが何か違和感に気づいた。

 箒「カンナ?」

 カンナ「しっ、静かに。誰か来ます」

 三人がバリアの外に耳を澄ますと、

 

 

 

 ??「屋上ーーリアーー?なぜーーようなーーが屋ーー?」

 ??「分かりーー。怪しーーで、放っーーりますが……」

 

 

 何やら話し声が聞こえる。

 牙也「ちっ、気づかれたか。箒、カンナ、クラック開いて逃げるぞ」

 箒「逃げるのか?話せば相手も分かってくれると思うが……」

 牙也「それは無理だ。昨日の戦いで紅星椿は言ってただろ、『お前という存在は、消えた筈だ』って」

 カンナ「なるほど……この世界では、箒様は行方不明かもしくは死んでいるという事ですか」

 牙也「あいつの言葉から考えた推論に過ぎんがな。もしそうだとして、消えた筈のお前が目の前に現れたとしたら、それを見た奴等はどう考える?」

 箒「……まさか牙也とカンナが、私を拐った犯人と見られる可能性が……!?」

 牙也「そういう事だ。さ、早く逃げるぞ、もうバリアが持たないだろう」

 牙也の言う通り、バリアは皹が入り始めていた。牙也は急ぎクラックを開きいつでも逃げられるように準備する。

 牙也「早く入れ、箒」

 箒「ああ、分かってーー」

 

 

 

 

 

 ザクッ

 

 

 

 

 

 箒「ぐうっ!?」

 牙・カ『箒(様)!?』

 突然バリアを突き抜けて剣が現れ、箒の左肩に刺さった。刺さった剣は、そのままその肩を抉るように抜かれ、バリアを斬り裂いた。

 箒「ぐううううっ!!」

 剣を刺された肩を抑えながらその場に膝をつく箒。

 牙也「箒!くそっ、逃げるぞ!」バッ

 カンナ「は、はい!」

 牙也は箒をお姫様抱っこすると、カンナを伴ってクラックに飛び込んだ。その際牙也は、壊れたバリアの隙間からバリアの外にいた人物の顔を見た。

 

 牙也(一夏と千冬さんと……っ!あいつか……あいつが、箒を……!)ギリッ

 

 拳を強く握り締め、牙也はその人物を睨み付けながらクラックの中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その数分前、バリアの外ではーー

 

 千冬「屋上にバリアのようなものが張ってあるだと?なぜそのようなものが屋上に……?」

 一夏が千冬、正昌、鈴と共にバリアの前で話していた。

 一夏「分かりません。なんか怪しいので、最初見つけた時は放っておいたんですが……」

 正昌「千冬姉、どうすんだよ?」

 千冬「織斑先生だ。とにかく学園長に報告して指示を仰がねば……」

 正昌「でもさ、もしこの中に誰かがいて、報告に行ってる間に逃げられたらどうするのさ?それよりかはさっさとバリア壊して中を確認した方が良いだろ」

 そう言って正昌は自身のIS『白夜』を部分展開、さらに専用武器『羅刹』を取り出した。

 千冬「待て、正昌!」

 そして千冬が止めるのも聞かず、

 

 

 正昌「おりゃっ!」ドスッ

 

 

 羅刹をバリアに突き刺してそのまま一閃し、バリアを斬り裂いた。すると、

 

 

 ??「箒!くそっ、逃げるぞ!」

 ??「は、はい!」

 

 

 青年の声と少女の声が中から聞こえた。しかしバリアが消滅すると、

 鈴「ジ、ジッパー?」

 ちょうどジッパーのような隙間が閉じるところだった。

 一夏「千冬姉、今、箒って……!」

 千冬「ああ、私にも聞こえた……織斑兄弟と凰はすぐに周辺を捜索して、不審者がいたら即刻確保せよ!私は急ぎ教員部隊を召集する!」

 一・正・鈴『はい!』

 三人がそれぞれのISを展開して飛び立ったのを見届けると、千冬は急いで屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「しっかりしろ、箒!」

 カンナ「しっかりして下さい、箒様!」

 学園の敷地内にある森に逃げ込んだ牙也達は、箒をその場に寝かせて治療を施していた。牙也とカンナがそれぞれが持つ治癒能力を分け与えて、一刻も早く傷が治るように促す。が、

 

 箒「う……うう……っ!」

 牙也「まだか……!まだ治らないのか……!」

 カンナ「傷が大きすぎます……このままでは……!」

 

 受けた傷が予想以上に大きく、二人の治癒能力を合わせて治療してもなかなか治らない。

 牙也「くそっ、落ち着け……!落ち着くんだ……!熱くなりすぎるな……!」

 カンナ「一応治癒のバリアを張ってありますが、急がなくては追手が……!」

 牙也「重々承知してるがよ……!」

 とその時、

 

 

 

 

 一夏「ここはまだ捜索してないな……」

 鈴「そうね、行ってみましょう!」

 

 

 

 

 森の外から、一夏と鈴の話し声が聞こえた。

 箒「一夏と……鈴の、声が……!」

 牙也「ちっ、もう追い付いてきたのか……!」

 カンナ「ど、どうしましょう……!?」

 牙也は少し考えていたが、

 

 牙也「箒、走れるか?」

 箒「あ、ああ……肩の傷だから、我慢すれば……」

 牙也「俺があいつらを足止めしておく。カンナと一緒になるべく遠くに逃げろ」

 カンナ「牙也様、それは……!」

 牙也「大丈夫だ、ある程度足止めしたらクラック使ってすぐに追い付く。カンナ、なるべく遠くに逃げて、箒の傷を治療してやってくれ」

 箒「牙也……」

 牙也「心配すんな、すぐに終わらせてすぐに追い付くさ」ナデナデ

 

 カンナ「……分かりました。箒様、無理だけはなさらないで下さいね」

 箒「分かってる……牙也、後は頼むぞ」

 牙也「任せろ」

 箒とカンナは立ち上がって、森の奥へと走り出す。それを見届けた牙也は、

 牙也「さて、足止め開始だ」

 左手から蔦を伸ばし始めた。どんどん蔦は森の隅々まで伸びていき、少しして、

 

 

 

 一夏「な、何だよこれ!?くそっ、離せぇ!」

 鈴「ちょ、どこに絡まってるのよ!?いやっ、だ、誰か助けてぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 森の中に、一夏と鈴の叫び声が響き渡る。

 牙也「悪いな……暫く蔦に捕まっててもらうぜ」

   (箒、カンナ……なるべく遠くまで行ってくれよ……)

 

 牙也は先に逃がした二人を心配しながら、暫くその場に留まる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方箒とカンナは、ひたすら森の中を走っていた。

 箒「っつぅ……!」

 その間、箒は何度も肩の怪我に顔を歪めていた。

 カンナ「箒様、やはり痛みますか?」

 箒「ああ……取り敢えず暫くは、森の中にいた方が良いかもしれないな。あまり広い所にいると見つかりやすいだろうから」

 カンナ「今はそれが妥当でしょうね……箒様の怪我の事もありますし」

 すると、

 

 ??「きゃっ!」ドンッ

 箒「うわっ!?」ドンッ

 

 突然誰かが木の陰から飛び出してきて、箒とぶつかった。ぶつかった二人は勢い良くこける。

 箒「いたた……」

 ??「いたた、大丈夫~?……って、大怪我してるの!?」

 箒「え?あ、ああ……」

 ぶつかった人物を見て、箒は驚いた。箒とぶつかったのは、本音だったからだ。

 本音「早く治療しなきゃ~!こっち来て!」グイッ

 箒「わわっ!ひ、引っ張るな!一応怪我人なんだって!」

 カンナ「あ!ま、待って下さい~!」

 本音に引っ張られていく箒を、カンナは慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「よし、そろそろかな」

 箒達と分かれてから十五分以上経った頃、牙也はやっと蔦をしまった。森の中からドサッと何かが落ちる音がする。

 牙也「さて、足止めはこれくらいにして、さっさと箒達を追いかけなきゃな……」

 千冬「待て」

 その声に牙也が振り向くと、

 

 

 

 千冬「貴様か。あのバリアを張ったのは」

 

 

 

 打鉄を纏い、葵を牙也に向ける千冬がいた。その隣には白夜を纏い、羅刹を同じように牙也に向ける正昌もおり、さらにその後ろには打鉄やラファール・リヴァイブを纏う教員達もいた。

 牙也「織斑千冬と……お前は?」

 正昌「なっ!?僕の事を知らないのかい!?」

 牙也「知らん」

 正昌の言葉を容赦なくぶった斬り、牙也は千冬に顔を向ける。

 牙也「バリアを張ったのは、俺の仲間だ。今は別行動中だがな」

 千冬「その中に、篠ノ之箒がいるな?」

 牙也「」ピクッ

 千冬「やはりか……篠ノ之を拐ったのは、どうやら貴様で間違いないようだな。篠ノ之を大人しく返すならば、私達は手を出さん」

 牙也「断る。どうやらお前等は勘違いをしているようだが……」

 正昌「勘違い?今さらすっとぼけても無駄だよ。お前が連れてるのが箒なのは確認済みだ、観念して箒を渡しな!」バッ

 羅刹を構えた正晶が牙也に襲いかかった。が、

 

 牙也「」シュルシュル

 

 ガキインッ!!

 

 正昌「なっ!?」

 

 牙也は左手から蔦を伸ばして円形の盾を形成し、正昌の攻撃を防ぎ、そのまま押し返すように振り払った。

 正昌「うわっ!?お、お前……何m『ふざけんなよ』なんだと?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「俺の大切な箒に怪我させておいて……返せだと?ふざけてんじゃねぇ!!」

 

 

 

 牙也は懐からガシャコンバグヴァイザーを取り出した。そしてAボタンを押して持ち手と合体させる。

 

 牙也「覚醒……!」

 

 

 《Infection! Let's Game! Mad Game! Blood Game! What's Your Name!? The OverLoad!!》

 

 

 牙也の全身を蔦が覆い、蔦が弾けるとその姿はオーバーロードの姿となっていた。

 

 正昌「ひっ!?」

 千冬「な……!?」

 牙也「てめぇら全員覚悟しとけよ……怪我だけじゃすませやしねぇ……!」

 

 牙也のその目は、怒りに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 





 戦いは、まだまだ続くーー。



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コラボ4 Avenger's Girl(4)

 闇に覆われた世界の真実を見つけ出せーー。




 牙也「うらあっ!!」ドドドドンッ

 

 オーバーロードとなった牙也は、ガシャコンバグヴァイザー・ビームガンモードと撃剣ラヴァアークで教員部隊と戦っていた。束になって襲おうとする教員や遠距離から攻撃してくる教員には、バグヴァイザーの赤い銃口から光弾をばら蒔くように放って牽制し、それでも接近してきた教員には、左手に持った撃剣ラヴァアークで応戦して斬り裂いていく。怒り狂った牙也の斬撃はISの装甲を易々と叩き斬り、放たれた光弾は着弾する度に大きな火花を上げて装甲を焦がす。

 

 教員A「な、何なのよこいつ!?」

 教員B「こ、こんな奴に敵う訳がないわ……!」

 教員C「怯むな!まだ数ではこっちが有利なんだ!」

 

 教員部隊は第三者から見ても分かるほどに押されていた。さっき教員の一人が言っていたように、数では教員部隊の方が圧倒的に多い。が、牙也にはそれを補う要素が二つあった。

 

 牙也「どらああっ!!」ズバッ

 

 まず一つ目に、牙也自身が持つ化け物としての並外れた戦闘能力だ。襲いかかってくる教員一人一人の動きを少しも観察しないにも拘わらず、一発であっさりと攻撃パターンを見抜いて回避し、カウンターで斬撃を繰り出していく。そしてビームガンから光弾を放つ際にも、何人襲いかかってこようが関係ないかのように、一発も撃ち損じる事なく正確に光弾を当てていく。

 これらは全てオーバーロードとしての力があるが故に出来る事なのだが、それを引いたとしても牙也の戦闘能力は高いと言えるだろう。何せISを展開した状態の春輝を、生身の状態で蹴飛ばした事だってあるのだから。

 

 牙也「だぁらっしゃああああ!!」

 

 そして二つ目は、実戦経験だ。今はISを纏った人間と戦っているが、元々牙也はIS学園に入る前からずっとインベスと戦っている。それも時には百体を超える数だって相手にした事があるのだ。インベスをはじめとした怪物は、様々な攻撃をしてくる。だからその都度、その敵に対しての動き方などをその場で考えていかなくてはならないが、牙也の場合はそれが毎日と言っても過言ではないくらいに戦闘を繰り返していた。その度に研鑽し、修正し、そしてフル活用する。牙也には、ちょっとやそっとでは負けない程の経験を兼ね備えていた。

 一方教員部隊はどうか。今まで一般人同然だった人間に「すぐに戦え」と言って剣を渡し、目の前にいる実力者と戦うよう促す、果たしてそれで勝てるのか?

 

 

 

 答えは『否』である。

 

 

 

 牙也「手応えがない……あまりにも軽すぎるぜ」

 

 玄人vs素人の戦いは、ものの数分で教員部隊のほとんどが牙也に撃墜される形であっさり勝負がついた。

 千冬「あの人数の教員部隊をたった一人で、しかも無傷だと……!?なんなのだ、奴の常人離れした戦闘力は……!?何者なのだ、奴は……!?」

 教員部隊があっさり全滅させられた事に千冬は驚きを隠せず、正昌に至ってはビビっているのか尻餅をついて動けない。

 正昌「な、何なんだよ……!?こんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ……!?」

 牙也「ふぅ……」チラッ

 牙也は溜め息を一つつくと、今度は尻餅をついている正昌に目を向け、そして一歩ずつ歩き出した。

 

 牙也「さて、そこのお前……覚悟は出来てんだよな……?」

 

 《ギュ・イーン!》

 

 牙也はさらにガシャコンバグヴァイザーの向きを逆にして取り付け、ビームガンモードからチェーンソーモードに切り替えた。

 牙也「お前にも同じ目に遭ってもらおうかねぇ……」

 正昌「ひっ……や、止めろ!」

 千冬「正昌に手を出すな!」バッ

 動けない正昌を助ける為に千冬が牙也を攻撃しようとするが、

 

 

 シュルシュルシュルーー

 

 

 千冬「こ、これは……!?は、離せ……っ!」

 千冬の周囲から蔦が伸びてきて、千冬の両手足を拘束した。

 牙也「あんたは黙ってろ……」ギロッ

 千冬「っ!?」ビクッ

 左手から蔦を伸ばしながら、牙也は強い殺気を向けて一言告げる。そしてバグヴァイザーのチェーンソー部を正昌の左肩にゆっくりと近づけていく。

 

 

 

 一夏「止めろぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 と、木陰から一夏が飛び出してきて雪片弐型を牙也に向かって振るう。

 牙也「ふん」ビュッ

 

 バキッ!!

 

 一夏「な!?」

 

 が、雪片弐型はバグヴァイザーのチェーンソーで易々と叩き斬られた。チェーンソーはその特性上、剣等の武器と鍔迫り合いなど起こさず一方的に切断できる。それを知らない一夏は雪片弐型が一撃で折れた事に驚きを隠せない。

 一夏「っ、くそっ!」バッ

 一夏は一旦牙也と距離を取る。そこへ、

 

 鈴「一夏、千冬さん!大丈夫!?」

 

 鈴も合流した。手には双天牙月を握り締めている。

 千冬「凰、手を出すな!こいつの実力は、クラス対抗戦でお前達を倒した奴と同等だ……!」

 一夏「っ、あいつと同等……!?」

 鈴「まさかこいつ、仲間……!?」

 牙也「あいつ……?誰の事だ?」

 千冬「決まっているだろうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅星椿だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「くっ……!」

 本音「ちょっと我慢してね……はい、できた!」

 こちらは、この世界の本音と鉢合わせしてしまった箒とカンナ。現在二人は本音に連れられて医務室に担ぎ込まれ、本音に加えて途中で居合わせたシャルル・デュノアに治療されていた。

 シャルル「それにしても酷い傷だね……それも何かで抉られたような」

 箒「すまないな、ここまでやってもらって。感謝する」

 本音「い~よい~よ、ほっとけない程の怪我だったからつい、ね」

 シャルル「ところでなんだけど……君達は一体誰なんだい?学園じゃ見かけない顔だけど……」

 カンナ「あ、あの……私達の事については、あまり深く詮索しないでいただけると……」

 本音「?」クビカシゲ

 事情の飲み込めない本音は首を傾げていたが、シャルルはカンナのその顔を見て何かを察したようで、

 シャルル「そっか、ごめんね」

 と言うだけに留めた。すると、

 

 カンナ「!」ピクッ

 

 カンナが何かを感じ取ったのか、医務室の奥に目を向けた。箒達もそれを見て同じように奥に目を向けると、

 

 牙也「ふぅ……やっと追い付いたぜ」

 

 突如クラックが開いて、中から牙也が現れた。

 本音「ひっ……!」

 シャルル「お、男の人……!?」

 突如現れた牙也を見て、本音は怖いのか物陰に隠れてしまい、シャルルも無意識に身構えていた。

 箒「牙也。大丈夫だったのか?」

 牙也「なんとかな。ここの世界の千冬さん達と鉢合わせしちまってな、時間を食っちまったよ」

 カンナ「ともかくご無事で良かったです」

 牙也「ああ。それにしても……」チラッ

 牙也はそこで言葉を切って、本音とシャルルを見る。二人共牙也に敵対心があるのか、警戒する素振りを見せている。

 箒「大丈夫だ、彼は私の仲間だ。手出しはしない、安心してくれ」

 シャルル「……それなら良いんだけど」

 そう言ってシャルルは警戒を解くが、本音はまだ物陰に隠れたままだ。

 カンナ「牙也様、これからどうしましょうか?」

 牙也「ここに長居は無用だ、すぐにここを離れるぜ」

 箒「何か大事でも?」

 牙也「ちょっとな。それと……」チラッ

 そう言って牙也はシャルルに顔を向ける。シャルルが再び見構えると、

 

 

 牙也「一つ頼みがある。俺達がここにいた事、二人だけの秘密にしておいてはくれないか?」

 

 

 牙也はそう言って二人に頭を下げた。突然の事に二人は驚きを隠せないでいる。

 牙也「勿論無理にとは言わない。嫌なら断ってくれても構わないぜ」

 そう言うと、牙也は箒がいるベッドに近づく。

 牙也「とっととお暇するぞ。立てるか?」

 箒「大丈夫だ。ありがとう、デュノア、布仏」

 カンナ「ありがとうございました」

 二人に簡単なお礼を言うと、三人は揃ってクラックに飛び込んでいく。そしてクラックは完全に閉じて消えた。

 

 

 

 

 三人がいなくなった後で、やっと本音が物陰から出てきた。

 本音「怖かった~……怖かったね~、シャルルン」

 シャルル「…………」

 本音「……シャルルン?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルル「……ねぇ、布仏さん。なんであの黒髪の女の子は僕達の名字を知ってたのかな?見た感じここの生徒じゃない筈なのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「くそっ……」

 救援に来た別の教員に治療してもらいながら、千冬は悔しそうに木を殴り付ける。結局あの後牙也に瞬殺された千冬達であったが、牙也は止めを指さず、そのまま何処かに行ってしまった。敵に情けをかけられた事に苛つきを覚えていた千冬。がそれ以上に、

 千冬(奴め……あの言葉は何を意味している?何が言いたかったのだ?)

 千冬は牙也が去り際に残した言葉が気になっていた。

 

 

 

 

 牙也『運命ってのは残酷だな。時に、最悪の結末をお前らに見せるからな……ま、この世界の運命もそんなもんか。お前の身近にいる奴が、大きくねじ曲げちまったからなぁ……』

 

 

 

 

 千冬(何が言いたかったのかは知らんが、次は……次こそは、絶対に負けん!)

 拳を強く握りしめ、千冬はそう決心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也達三人は、ある場所に続く道を歩いていた。

 箒「ところで牙也。何か情報を手に入れたのか?」

 牙也「ああ。俺達がここに来る少し前、学園は亡国企業に襲撃されて訓練機を持ってかれてる。その時強奪組と別行動で動いていたのが……紅星椿だ」

 カンナ「あの黒コートが……!?」

 牙也「ああ。あいつがいたあのビルは、多分亡国企業の本部だったんだな」

 カンナ「そうでしたか……今考えると、生きて帰ってこれたのが奇跡に思えてきます」

 牙也「だな……それともう一つ。実はその際に、どさくさに紛れてオルコットが行方不明になったみたいなんだ」

 箒「セシリアが……!?」

 牙也「死体とかは出なかったから、恐らく誘拐されたんだろうな。今も捜索中だ」

 箒「そうか……この世界は、相当荒れているな」

 牙也「俺もそう思う。とにかく、この世界についてもう少し知らなきゃな」

 カンナ「はい。それで牙也様、私達は今何処に向かっているのですか?」

 牙也「そろそろ目的地に着く……おっと、ここだな」

 そう言って牙也はある一点を指差した。その方向を二人が見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「こ、ここは……!」

 

 

 カンナ「まさか……亡国企業の本部……!?」

 

 

 

 

 

 

 最初に椿と交戦したあのビルがそびえ立っていた。

 

 

 

 

 




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コラボ4 Avenger's Girl(5)


 関係ない一言を。

 鍋食べたい。

 牙也「一人鍋か?」
 そうだな。意外と自由が効くから楽しいぞ。
 牙也「早く彼女作れよ」
 ……リア充爆発しやがれ。
 牙也「お前が爆発しやがれ」

 ……始まります(T_T)
 牙也「泣くなそれくらいで!」




 

 牙也「さて、行くぜ」

 箒「ち、ちょっと待て。何故わざわざ危険を犯してまでここに戻ってきたのだ?」

 

 亡国企業本部と思われるビルに戻ってきた三人だが、牙也が先々入っていこうとするのを箒は慌てて止めた。何故わざわざここに戻ってきたのかが分からないからだ。

 牙也「ああ……この世界の真実を知る為には、あいつから話を聞くのが一番だと思ってな」

 カンナ「あいつ……まさか」

 牙也「そう言う事だ。この世界で何が起こっているのか、それを知る鍵はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅星椿だ」

 

 

 そう断言して、牙也はビルに向かっていく。

 箒「あ、ちょっと待て!危険だぞ!」

 カンナ「その通りです、牙也様。ここはあの黒コートの本拠地とも言える場所、下手に飛び込んでは……」

 牙也「だがあいつから話を聞かない限り、この世界の真実を知る事は出来ない。『虎穴に入らずんば虎児を得ず』ってな」

 カンナ「ですが……」

 牙也「心配か?大丈夫さ、あれがあるからな」

 牙也はそう言って「へへっ」と得意そうに笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 椿「……」

 椿はビルのエントランスにいた。早くに牙也達の気配を察知し、エントランスに出てきていたのだ。そして煉獄刀・紅蓮とコルトガバメントM1911を抜いてエントランスの中央に仁王立ちして待っている。

 椿「……奴等が来たという事は、どうやら傷は癒えたようだな。今度こそ奴等を叩きのめしてくれよう……」

 銃のリロードを済ませ、紅蓮には既に太刀の如きエネルギーを纏わせ、最初から全開で行こうとしている様子が窺える。

 椿「しかし妙だ……一つの世界に同一人物がいるなどとある訳がない……一体奴等は何者だ……?」

 牙也「俺達は、この世界出身だ。ただし、こことは違う未来を歩んだ世界だがな」

 椿「そうか……つまり別世界から来たという事か。にわかに信じがたい事だが……」

 箒「まあそう言う事だ。それにしても、お前に何があったかは知らんが……随分と暴れているようだな」

 椿「まあな……私には果たさなくてはならない事がある……それを達成する為には、この命など……」

 カンナ「命を賭けてまで果たしたい事なのですか……?」

 椿「その通りだ。あいつだけは……あいつだけは、私の手で……」グッ

 椿は固く拳を握り締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙・箒・カ『随分と決意が硬いな(のだな)(のですね)』ウンウン

 

 椿「貴様等いつから話を聞いていた!?というかいつの間に後ろにいた!?」ガビーン

 いつの間にか背後に突然現れた三人に、慌ててツッコミを入れる椿。だが三人はそんな事気にもせず、

 牙也「なるほど、お前の目的はつまり『復讐』か?」

 箒「それはまたとんでもない事を……」

 カンナ「それほどに憎いのですか?」

 椿「さらっと私の質問をスルーするな!!」ウガー

 さりげなくスルーして話を進めていく。

 

 牙也「まあ茶番はこれくらいにして……クラック開いてお前の背後に回ったのさ」

 そう言って牙也は、自分達の後ろに開いたクラックを指差す。

 椿「ちっ、私でも気づけないとは……」

 牙也「気配消すのは得意なんでね」

 椿「……まあ良い。貴様等には色々聞きたい事があったからな、そちらから出向いて来るとは大助かりだ」

 牙也「奇遇だな、俺達もお前に聞きたい事があるんだよ」

 椿「そうか。ならば……」ビッ

 椿が後方に何か合図を送ると、

 

 

 ビシッ

 

 

 箒「ぐっ!?」

 カンナ「うっ!」

 

 突然箒とカンナが気を失って倒れ込んだ。

 

 牙也「二人tーー」

 

 

 ビシッ

 

 

 牙也「がっ!?」

 

 そして立て続けに牙也も気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 椿「すまないな、スコール、オータム、マドカ、セシリア。手間をかけた」

 三人が気絶したのを確認して、椿は先ほど名前を挙げた四人に頭を下げた。

 スコール「良いのよ、これくらい。それで、この子達はどうするの?」

 オータム「あたしとしては、始末するのが一番だと思うけどな」

 マドカ「どうするんですか、師匠?」

 椿「……個人的に、少し聞きたい事があるからな。マドカ、私の部屋に運ぶのを手伝ってくれないか?」

 マドカ「あ、はい!」

 椿は牙也と箒を肩に背負い、マドカはカンナをおんぶして行ってしまった。

 セシリア「……」

 スコール「気になるの、オルコット嬢?」

 セシリア「え?あ、はい。私も気になる事が……」

 スコール「それなら貴女も行ってきなさい。走れば追い付くでしょう」

 セシリア「あ、ありがとうございます」

 スコールに諭されて、セシリアは椿達を追いかけていった。

 

 オータム「……どう思うよ、あの三人」

 エントランスに残ったオータムがスコールに聞く。

 スコール「どう思う、とは?」

 オータム「いや……あいつの話じゃ、ガキの方と互角に戦ったって聞いたからな。相当の手練れなのは分かったが……あのガキ、スコールは敵だと思うか?」

 スコール「どうかしらね……でも先に手を出したのは彼女だって言うじゃない。それで彼女と互角だなんて……にわかには信じられないけど、敵に回したら厄介なのは分かるわ」

 オータム「しかも異世界だぜ、異世界!信じられねぇよ!」

 スコール「そうねぇ……まあ私達の邪魔をしないならそれに越した事はないわね」

 ひとまず牙也達の事は椿に任せる事にしたスコール達であった。

 

 

 三人称side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒side

 

 

 ゆっくりと目を開けると、見覚えのある建物の天井が見えていた。檜で作られた屋根と天井、そして私が今寝転んでいるであろう床の木の感触。間違いなく篠ノ之神社に建てられた剣道場だ。だがいつもと違う光景である事に私はすぐに気づいた。何故か剣道場の中は異常に暑く、辺りからパチパチと音がする。体を起こそうとするが、何故か起き上がれない。不思議に思って自分の体を見た時に、私は恐怖に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 私の胸辺りに大きく穴が空いており、夥しい程の量の血が流れていた。

 「!?」

 辺りを見回すと、剣道場は火の手が上がっており、今にも倒壊しそうになっていた。剣道場の扉は破壊されており、そこには学園の制服を着てISを纏った女子生徒数人の姿が見える。女子生徒達は火の手が上がる剣道場を見て高笑いを上げていた。

 

 生徒『アハハハハ!!これは報いよ!あんたが正昌君の心を傷付けた報いなのよ!』

 

 (正、昌?誰だ、そいつは?私はそいつに、何か恨まれるような事をしたのか?)

 そんな私の疑問にその生徒達が答える筈もなく、生徒達は私をその場に残してさっさと行ってしまった。私は必死になって逃げようとするが、床に張り付いたかのように体が動かない。そうこうしていると、

 

 

 バキバキバキイッ!!!

 

 

 剣道場は遂に倒壊し、天井が私に向かって落ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、私の意識はまた途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はっ!?」ガバッ

 

 飛び起きると、私はどうやらベッドの上に寝かされていたようだった。ベッド周りを見回すと、私の隣にカンナが寝かされ、少し離れたソファには牙也が寝かされていた。

 (今の夢は……まさか、この世界の私の記憶……?まさか、この世界の私は既に……?)

 そんな事を考えながら、私はベッドから降りて部屋をうろつく。と、

 「これは……?」

 おもむろに机の上に置かれた写真立てが気になって、手に取ってみた。そこに写っていたのは、

 

 「私と一夏のツーショット写真……?何故ここに……?」

 

 一夏と私が写った写真だった。これに私は違和感を覚えた。

 (この世界の私は、恐らく既に死んでいる……なのに、何故これがここにあるのだ……?)

 気になってその写真をじっと見つめていると、

 

 

 

 

 

 キイイイイーー

 

 

 

 椿「ふう……やはりシャワーはさっぱりす、る……な…………」

 

 

 

 

 え?…………え?

 

 

 

 

 椿「…………やらかしたか」

 

 

 

 浴室から出てきた人物を見て、私は絶句しか出来なかった。髪は白髪で腰辺りまで伸びており、目は血の如く紅であったがーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「わ……私…………なのか……?」

 

 

 

 

 その姿は、紛れもなく私だった。

 

 

 

 

 箒side end

 

 

 

 

 

 

 椿「…………やらかしたか」

 

 浴室から出てきた為にタオル一枚という格好の椿は、そう言って頭を抱えた。そこに、

 

 ガチャッ

 

 セシリア「箒さん、三人のご様子……は…………」

 

 セシリアが部屋に飛び込んできた。が、その現状を見てセシリアも絶句した。箒が二人もいるのだから。

 箒「セ、セシリアまで……何故ここに……!?」

 

 

 牙也「う……ううん……」

 カンナ「うみゅう……?」

 

 と、さらに不味いタイミングで牙也とカンナも目を覚ました。

 箒「牙也!お前はそのまま目を閉じろ!」

 牙也「へ?」

 箒「目を閉じろ!そして絶対に後ろを向くな!」

 牙也「……何の事かは知らんけど、箒がそう言うなら……」

 渋々了承して、牙也は顔を伏せる。

 箒「早く服を着ろ。後で全て話してもらうぞ、お前達二人の事を」

 椿「……っ、分かった」

 セシリア「……承知しました」

 

 

 

 

 





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コラボ4 Avenger's Girl(6)

 

 牙也「はぁー……こりゃまたびっくりだわ」

 カンナ「はい。このような事が……」

 

 あの後色々あったが、取り敢えず全員が落ち着きを取り戻し、素っ裸同然の格好だった椿はちゃんと服を着た状態でセシリアと共にソファに腰掛けている。その向かい側には、牙也、箒、カンナの三人がその二人を見つめている。牙也とカンナが驚いている中、箒は冷静に二人を見ていた。

 箒「さて二人共、全て話してもらうぞ。お前達二人に、一体何があったのか」

 セシリア「箒さん……」

 椿「はぁ……仕方あるまい。お前達には話しておこう。私達に何があったのか」

 そう言って椿は、自分達が何者なのか、何故亡国企業に入っているのかを三人に説明した。

 

 

 牙也「逆行者……未来を変える為に、魂と記憶だけが過去の自分に憑依した存在、って事か……それにしてもよ……」

 箒「なんという事だ……その織斑正昌という奴は、どこまで腐った脳をしているのだ……」

 カンナ「ふざけています……身内や仲間に対して、そんな事が当たり前のように出来るなんて……!」

 椿の説明を聞いて、三人は怒りを抑えられずにいた。

 牙也「はぁ……俺達の世界にもそれくらい脳が腐った奴がいたが、織斑正昌も相当だな……今になって、もう数発殴りたくなってきた」

 椿「同情しろとは言わん。いや、して欲しくもない」

 牙也「と言われてもねぇ……」

 箒「牙也……」

 セシリア「何か事情でも?」

 三人の顔が曇る。気になったのか、セシリアが聞いてきた。

 カンナ「牙也様も、同じような目に遭われているのです。死亡には至りませんでしたが……」

 椿「お前の言う、『織斑正昌と同じくらい脳の腐った奴』によってか?」

 牙也「ああ……自分の名声の為なら何でもやるような奴でな」

 セシリア「どこの世界にも、同じような人間がいるのですわね……」

 箒「今考えるとゾッとするな……あの夢が、まさかお前の……この世界の私の記憶だったとは……」

 椿「お前……見たのか?私に何が起きたのかを、全て」

 箒「全てではないが、気絶している間に断片的にはな」

 椿「そうか……とにかく私とセシリアは逆行し、私は武神スサノオの力を手に入れ、亡国企業に入った、という事だ」

 セシリア「私はつい最近、亡国企業に入りました。箒さんと同じように逆行して、冥王イザナミの力を手に入れて……」

 牙也「大変、なんて言葉じゃ片付けられないな……あまりにも身勝手で、残酷で……」

 カンナ「許せません……!彼は一体、人の命を何だと思っているのでしょうか……!」

 箒「少なくとも、踏み台程度にしか見えていないという事だけは理解したぞ」

 頭の痛みを感じながら、三人は怒りを通り越して呆れ果てていた。

 椿「私達の事はこれで全て話した。次はお前達の番だ」

 牙也「ああ。まずは俺達の世界について話そうか……」

 今度は牙也が自分達や自分達の世界について説明した。

 

 椿「ヘルヘイムの森、そこから現れるインベスという怪物、そしてそれら全ての元凶たる自分自身……お前達の世界も大概だな」

 セシリア「さぞお辛かったでしょうね……」

 牙也「全部ガキの頃の事で記憶の中にこれっぽっちも無かった事だから、本当にな。知った時はガチで大泣きしたよ、本当に気が狂いそうだった」グッ

 箒「牙也……」ギュッ

 苦しそうに胸を抑える牙也を、箒が優しく抱き締める。

 牙也「ん、大丈夫だ。大丈夫……」

 

 

 ??「箒ちゃ~ん、束さんが遊びにkーー」ガチャッ

 

 

 するとそこに、束が入って来た。いつも通りのテンションで入って来た束だが、部屋にいるメンバーを見て顔色が変わった。そして、

 

 

 

 ガバッ

 

 椿「うわっ!?」

 箒「ひゃっ!?」

 

 牙也から箒を引き剥がして脇に抱え込んだ。

 束「お前、誰?箒ちゃんに気安く触って……ぶっ飛ばすよ?」ギロッ

 牙也「……うん、流石のシスコン。平常運転だな」

 カンナ「というより、箒様がお二人おられる事は疑問に思わないのでしょうか……」

 束「え、箒ちゃんが二人?いやいや、そんなわけないって~」

 カンナ「いえ、良くご覧になって下さい、ご自分の脇に抱えてらっしゃる箒様のお顔と、そちらにいらっしゃる椿様のお顔を」

 カンナにそう言われて、束が脇に抱えた箒と隣にいる椿の顔を見ると、

 

 

 

 

 束「え?ちょ、どういう事なの?箒ちゃんが二人なんて……ど、どっちが私の知ってる箒ちゃんなの?」

 

 箒が二人もいる事に混乱し始めた。

 

 椿「姉さん、本物は私の方だ……そっちも確かに私だが」

 束「え、どういう事なの?」

 箒「今から説明します」

 

 

 ~説明中~

 

 

 束「へえ~、別世界から……それでお前、箒ちゃんに迷惑かけてないよな?」

 椿「迷惑などかけられていないですよ。むしろ私達の方が迷惑かけてますから」

 箒「同じくです。牙也には迷惑かけてばかりなので……」

 束「それなら良いけど……」

 牙也「理解して下さって何よりです」

 

 

 

 

 

 うわああああああ!!

 

 

 椿「叫び声……外からだな」

 セシリア「何かあったのでしょうか?」

 牙也「とにかく行ってみよう」

 

 牙也達は叫び声の聞こえた場所へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也達がビルの外に出た時、そこはーー

 

 

 

 牙也「野郎……!異世界にまでけしかけて来やがったのか……!」

 

 

 応戦してきた亡国企業の兵士達を次々と襲う大量の下級インベスであった。スコール達も一緒に応戦しているが、形勢は圧倒的に不利であった。

 

 箒「牙也、これは……!」

 牙也「俺達の動きはあいつに筒抜けらしいな……やれやれ、今後も他の世界に迷惑をかけそうだ……」

 椿「……つまりあれが、お前達が言っていたインベスと言う怪物か」

 牙也「その通りだ。すまん、俺達の世界の問題にお前達まで巻き込んじまったみたいだ」

 セシリア「全く、良い迷惑ですわ……ところで、あのインベスとやらはどれくらいの強さですの?」

 箒「昆虫で言う幼虫のようなものだからな、大して強くはない。戦い方次第ではすぐに片付けられるだろう」

 牙也「問題は、インベスを呼び出すあの裂け目だ」

 牙也は空にいくつも開いたクラックを指差す。クラックからは次々とインベスが溢れだしていた。

 

 牙也「俺は全部のクラックを破壊する、箒達である程度インベスを片しておいてくれ」

 束「一人で大丈夫なの?」

 牙也「問題ありません。俺にはこれがありますから」

 そう言って牙也はガシャコンバグヴァイザーを取り出した。

 

 牙也「……覚醒」

 

 《Infection! Let's Game! Mad Game! Blood Game! What's Your Name!? The OverLoad!!》

 

 Aボタンを押して持ち手にセットし、オーバーロードに変身する。

 

 セシリア「っ!貴方、その姿……!」

 牙也「これが俺自身だ。さて……さっさと終わらせるぞ」

 椿「お前に命令されるまでもない……とっとと片付けるぞ」

 箒・セ『ああ(はい)』

 

 

 

 

 

 





 コラボは次で終わる予定です。



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コラボ4 Avenger's Girl(7)

 

 椿、箒、セシリアは協力してインベス達を蹴散らしていく。椿は右手の煉獄刀・紅蓮を振るいつつ左手のコルトガバメントM1911の弾丸でインベスを撃ち抜く。箒は戦極ドライバーが使えない為、背中から蔦を伸ばしてインベスを蹴散らしていく。セシリアは自身のIS《ブルー・ティアーズ》の主力武器、スターライトMk-Ⅲとビットで後方援護をしつつ、自身に寄ってきたインベスを短剣インターセプターで迎撃する。三人が救援に入った事により、数の差で押されていた亡国企業は段々持ち直していく。

 

 スコール「全く、まさかあの子達の世界の怪物がここに来るなんて……迷惑極まりないわよ」

 オータム「本当にな。けどあの二人がいて助かったぜ」

 M「多分残りは師匠達に任せておけば問題ないと思いますけど……」

 スコール「そうね……私達のISの損傷も激しいし、後は任せましょう。私達は怪我人の手当てを急ぎましょうか」

 

 

 

 セシリア「全く、次から次へと沸いて出てきますわね……」

 寄ってくるインベスを蹴散らしながら、セシリアはブツブツと文句を垂れた。

 セシリア「彼……牙也さんでしたかしら?彼があのクラックという隙間を早く埋めない限り、私達は不利のままですわ。彼には一層奮起していただかなくては……」

 空に大量に開いたクラックを次々と破壊している牙也に期待を寄せつつ、セシリアは近くにいたインベスを撃ち抜く。

 

 フシャアアアアーー

 

 が、倒せども倒せども、インベスは次々と沸いてくる。

 セシリア「しつこい御仁は嫌いですわ。これでも食らっておきなさいな……」

 その言葉と共に、セシリアの頭上に青い炎の球体が現れた。最初は小さな炎であったが、セシリアがそれに力を溜める事によって段々とそれは大きくなっていき、最終的には直径5mはあろう大きさになった。

 セシリア「泡沫の夢の中で……ゆっくりと眠りなさい」

 聖母の如き微笑みを見せながら、セシリアは頭上の炎の球体をインベスの群れに向かって投げつけた。球体はインベスの群れに向かってゆっくりと落ちていき、

 

 セシリア「では……ごきげんよう」

 

 着弾と共に、辺りのインベス全てを飲み込んだ。球体が着弾した地面は、炎が消えるまでの間ずっと青い炎で覆われていた。

 セシリア「ここはもうよろしいですわね。箒さん達の援護に向かいましょう」

 

 

 

 

 

 箒「ええい、ゼロの奴め……!煩わしい事をしてくれる……!」

 椿「全くだ。お前の言うゼロが誰かは知らんが」

 互いの背中を預け、溢れる程に出てくるインベスを相手する箒と椿ーーいや、二人の箒。蔦がインベスを打ち据えて弾き飛ばし、吹き飛んだインベスは煉獄刀・紅蓮の斬撃に斬り伏せられ、コルトガバメントM1911の銃撃に撃ち抜かれていく。

 椿「おい、蔦ばかり使ってないで、お前も奴みたいに武器の一つぐらい使ったらどうだ?」

 箒「悪いが、私は牙也のような武器は持っていないのでな。このように蔦で敵を払いのけたり捕まえたりするくらいしか出来ん」

 椿「そうか。ならば残りは全て私が請け負う、私に捕まれ」

 箒「捕まれば良いのか?」

 椿「早くしろ、お前の体が無事では済まん」

 差し出された手を握り締めると、椿は紅蓮の切っ先を下に向けて少し浮遊し始めた。

 

 椿「面倒だ、貴様ら纏めて消してやろう」

 

 その言葉と同時に、インベスがウヨウヨいる地面に巨大な亀裂が走った。椿が紅蓮を地面に突き刺すと、突如現れた亀裂はやがて大きく開いていき、裂け目の中はドロドロとした火焔が渦巻いていた。インベス達は逃げ出そうとするが、時既に遅し。次々と裂け目に落ちていき、憎悪の火焔に体を焼かれていく。

 

 箒「これは……確かに落ちたら体が無事では済まんな」

 椿「だから言っただろう……さて、そろそろ十秒だな」

 椿の言った通り十秒経過すると、火山の噴火の如く裂け目の中の火焔が吹き出して、インベス達を空中に吹き飛ばした。放り出されたインベスは、断末魔の叫び声を挙げながら爆発四散していく。地面の亀裂は、インベスが全て吹き飛ばされた後ゆっくりと閉じていった。それに合わせて椿と箒も地上に降りる。

 椿「あの裂け目も、どうやらほとんどが破壊されたようだな。奴の手際の良さには頭が下がる」

 箒「フフン、流石は牙也だな。牙也ならこれくらい易々と出来て当然だ」ドヤァ

 椿「何故お前が得意げなのだ……?」

 セシリア「あら、こちらは既に片付いていましたか」

 とそこへ、同じくインベスを片付けたセシリアと、治療を終えたスコール達三人、さらに三人の治療を手伝っていたカンナが合流した。

 カンナ「ご迷惑おかけしました、申し訳ありません」

 椿「気にするな、たまの運動くらいにはなったからな」

 オータム「ところで、もう一人の牙也って奴はどうしたんだ?」

 M「あれ、そう言われれば姿が見えませんね……」

 牙也「お~い」

 その声に全員が森がある方向を向くと、

 

 牙也「皆大丈夫か~……いてて」

 

 左肩を押さえながら、牙也が歩いてきた。

 箒「牙也!?その怪我は!?」

 カンナ「す、すぐに手当てを!」

 慌てて走り寄る二人を受け止め、牙也はその場に座り込んだ。怪我した左肩に、カンナが手を当てて治療を施す。

 

 牙也「ゼロの奴が中級のインベスを差し向けて来てな、下級しか出てこないと油断してたらこの様だ。ま、取り敢えずクラックは全部処分したから、もう大丈夫だろ」

 椿「驚いたな、お前の口から油断という言葉が出てくるとは」

 牙也「無縁に見えるのかい?だとしたら大きな間違いだぜ」

 スコール「まあ現にそうやって怪我している訳だからねぇ」

 牙也「まあな……っ!」ピクッ

 

 何かを感じ取ったのか、牙也は突然森の方向に目を向けた。

 牙也「本当突然来るよな、この感覚……もう開いたのか」

 箒「どうかしたのか?」

 牙也「この世界とはお別れって事だ。例のクラックがこの近くに開いた」

 カンナ「え、もうですか!?早く準備しなきゃ……!」

 椿「なんだ、もう行くのか?」

 牙也「ああ。やれやれ、慌ただしい出発だな……悪いな、散々引き摺り回しておいてこんな別れ方になっちまって」

 セシリア「お気になさらないで、時間があったらまたいらして下さいな」

 M「あんまり話せなかったのが残念ですけど、今度は私とも戦って下さいね!」

 箒「ああ、是非ともな。ところで私達の荷物は……」

 スコール「あら、ごめんなさい。私の部屋で預かってたわ、すぐに持ってくるから待っててね」

 そう言ってスコールは自分の部屋に向けて飛んでいく。

 牙也「早く持ってきてくれ、スコール。あれは時間になると消えちまうんだよ」

 オータム「それだったらここに暫く住み込んだらどうだ?」

 牙也「そうしたら毎日今日と同じくらいかそれ以上の数のインベスを相手する事になるかもな」

 オータム「やっぱ早く行け」

 

 スコール「持ってきたわよ」

 そこへスコールが三人の荷物を持って戻ってきた。

 牙也「ありがとさん。何か弄ってないよな?」

 スコール「別に何もやってないわよ。そんな事したら殺されるじゃ済まないでしょう」

 牙也「分かってるなら良い。それじゃ皆、世話になったな」

 箒「また来させてもらうぞ」

 カンナ「今後も頑張って下さいね」

 椿「次会った時は、容赦せん。全力でお前を倒してやる」

 牙也「やってみろよ。それよりも……」

 椿「なんだ?」

 

 

 

 牙也「……後悔してないよな?お前の選択に」

 

 椿「何を今さら。後悔など微塵もない、あるのは奴への殺意だけだ」

 牙也「……杞憂だったな。ま、しっかりやりな」

 束「箒ちゃんを宜しくね」

 牙也「俺達の世界の束さんからも、そう言われてますよ。それじゃ」

 

 そう言って牙也達は急ぎクラックへと走っていき、三人揃ってクラックに飛び込む。椿達はそれを微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 

 





 最後が急ぎ足になりましたが、ふぷっちょさんとのコラボはこれにておしまい。ふぷっちょさん、コラボして下さりありがとうございました。この場でお礼申し上げます。

 コラボはまだまだ続きます。さて、次は何処の世界に現れるのかーー。



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異世界旅行 Fleet Girl's World
コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (1)



 コラボ第5段、厳正なるくじ引きの結果、再び悪維持さんとのコラボです。

 コラボ作品は、『ナイトローグ提督とブラッドスターク副官が東都鎮守府に着任しました。』です。ビルドの力を得た艦娘達との出会いは、果たして何を三人の目に見せるのかーー。




 

 『スカイウォールの惨劇』ーーそれは、大帝国日本という国で起こった現象で、とある天才物理学者が名付けた。

 

 数年前、突如日本の中心にあたる場所に謎の黒いキューブ状の物体ーー通称『パンドラボックス』が現れ、その場に不時着。と同時に、ボックスの側面のパネル『パンドラパネル』が外れて日本各地に散らばって地面に突き刺さった。パネルはやがて巨大な壁『スカイウォール』を作り出し、日本という国をそれぞれ東都、北都、西都の三つに分断してしまった。

 それだけならまだ良い。さらにパンドラボックスは、不可思議なガス『ネビュラガス』なるものを放出し、そのガスによって『スマッシュ』という怪物まで誕生させてしまった。しかしネビュラガスの影響はこれだけに留まらず、ガスは海にまで侵食を開始。やがてガスによって、『深海棲艦』なる怪物さえも生み出してしまった。これら二種類の怪物はやがて、日本への侵攻を開始する。

 

 これらの事態に対処する為、東都、北都、西都の三勢力トップは第二次世界大戦にて活躍した駆逐艦・軽巡洋艦・重巡洋艦・航空母艦・戦艦と言った軍艦の力を宿した少女達『艦娘』を集め、各地の沿岸に拠点となる鎮守府を置き、艦娘達を統率する提督を着任させてこれらの未曾有の脅威に立ち向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今語ったのは、いくつも存在する世界の中に存在する、とある世界の物語。そして今、この未曾有の出来事に直面しようとしている三人の少年少女がいたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「おーい石動ー、何処だー?」

 ??「ん、エイトか。こっちだ、工廠だ」

 ??「ああ、いたいた。何してたんだ?」

 

 ここは、東都に置かれた鎮守府の内の一つ、東都第六鎮守府。鎮守府の敷地内にある工廠と呼ばれた場所に、二人の青年の姿があった。

 ??「ああ、追加でシースライドシューズを作ってたんだ。今後俺達みたいな奴が出てこないとも限らないからな、念押しで作ってたんだ」

 ??「へえ……お前らしくもない」

 ??「どういう意味だコラ!?」

 ??「そのまんまの意味だ」

 ??「この野郎!」

 

 黒髪の青年はこの東都第六鎮守府提督の氷室影徳、赤髪ロングに眼鏡をかけた青年は影徳の副官で技術開発局主任の石動惣輔である。一通り惣輔をからかい終えた影徳は、自身が使っているシースライドシューズの点検を始めた。

 

 影徳「あの日以来、奴等の襲撃は無くなってるな」

 惣輔「そうだな。これが嵐の前の静けさじゃなければ良いんだが……」

 影徳「そういうのを『フラグ』と言うんだぞ」

 

 

 

 

 

 

 ドオオオオオオンッ!!!

 

 

 影・惣『ッ!?』

 

 突如何処からか爆発音が響いた。二人は工廠を飛び出して辺りを見回す。しかし、敵の姿は何処にもなかった。

 惣輔「敵はいないな……となると、何処かでガスか何かが爆発したのか……?」

 影徳「多分そうだろうな。石動、念の為電達にすぐに動けるように指示を出しといてくれ」

 惣輔「あいよ、エイトはどうするんだ?」

 影徳「少し辺りを見てくる。スマッシュがいそうな気がしてな」

 

 

 

 

 

 

 

 ??「ぽい~!てーとくさーん!」

 

 

 

 そこへ、一人の少女が走ってきた。その少女は亜麻色のストレートヘアで、黒を基調としたお嬢様風のセーラー服を着用している。

 影徳「夕立?何か見つけたのか?」

 夕立「ぽい」コクリ

 夕立と呼ばれた少女は変わった返事をして頷いた。

 夕立「近くの廃墟が、突然爆発したっぽい!てーとくさん呼んできてって、川内さんが!」

 影徳「近くの廃墟か……分かった、案内してくれ。石動、行くぞ」

 惣輔「へいへい分かりましたよ、氷室提督殿」

 

 そう言って二人はそれぞれ何やら変わった形をした銃とボトルのようなものをポケットに入れ、夕立の案内の下廃墟に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳達が爆発音を聞く数刻前の事、その廃墟ではーー

 

 

 牙也「ほいっ」

 箒「はっ」

 牙也達三人が、その廃墟の一室に降り立ったところであった。

 牙也「さて、お次の世界は……ここ廃墟か?」

 箒「そのようだな、随分とボロボロだ。長らく人が住んでいないのだろう」

 カンナ「ですが、当分の拠点としては使えませんね……ここまでボロボロになっていては危険です」

 牙也「だな。一旦ここを出て、他に良い所がないかーー」

 

 

 

 ズシンッ

 

 

 『ッ!?』バッ

 

 突然聞こえた大きな足音に三人が振り向くと、そこにいたのは鳥のような嘴に鋭い爪が特徴の怪物と、白黒で両腕がプレス機を思わせる怪物がいた。

 牙也「なんだこいつら!?」

 カンナ「明らかにインベスではありませんね……どうしましょうか?」

 箒「逃げ場がない以上、取る手段は一つだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 牙・箒『叩き潰す』

 

 

 二人は戦極ドライバーを腰に装着し、ロックシードを解錠した。

 

 《ブルーベリー》

 

 《マスカット》

 

 《ロック・オン》

 

 

 牙・箒『変身!!』

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 《ハイー!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!》

 

 零とレオンにそれぞれ変身した二人は、紫炎とマスガンドを構える。

 

 箒「私があの鳥みたいな怪物を相手する。牙也はそっちの白黒を頼むぞ」

 牙也「任されたぜ、カンナは隠れてろ」

 カンナ「お気を付けて」

 そしてそれぞれが相手する怪物に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒は廃墟の二階の一室で怪物を相手している。マスガンドの斬撃に加えて、タイミング良くトリガーを引いて追加攻撃する。斬撃を当てる毎に銃口から弾が放たれて怪物を仰け反らせる。しかし怪物も負けじと両腕の爪を振り回し、嘴のようなもので刺突攻撃してくる。

 箒「くっ……爪の攻撃はともかく、あの嘴が厄介だな」

 怪物の爪攻撃は避けたり防いだりするのは簡単だからさほど苦にはならない。だが、嘴の刺突攻撃は不意を突いて使ってくるので反応しづらく、箒は避けるだけで精一杯だった。

 箒「あの刺突攻撃さえ使えなく出来れば……そうだ!」

 箒は何を思い付いたのか、イチジクロックシードを解錠した。

 

 《イチジク》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!イチジクアームズ!爆撃・ヤッハッハアッ!》

 

 箒「これでも食らえ!」

 そしてイチジグレネードをあろうことかーー

 

 

 

 ブスッ

 

 『!?』

 

 ドオオオオオオンッ!!

 

 怪物の嘴にブッ刺した。嘴にブッ刺された事で、イチジグレネードは爆発し、怪物の顔が煙で覆われる。箒は一旦距離を取って、怪物の様子を観察していた。やがて煙が晴れると、

 

 プスプスプスーー

 

 怪物の嘴は派手に吹き飛んでおり、顔は煤だらけになっていた。しかも爆発を顔に零距離で受けた為なのか、足が覚束ないようでフラフラしている。

 箒「これほどに上手くいくとは……他の誰よりも、やった私が一番驚いたぞ」ニガワライ

 苦笑いしながら箒はアームズをマスカットに戻し、

 箒「さて……ここに長居は無用だ。片付けるぞ」

 

 《マスカットスカッシュ!》

 

 箒「ハアッ!!」

 怪物の顔に延髄蹴りを叩き込んだ。蹴飛ばされた怪物は廃墟の窓ガラスを粉々にしながら外に吹き飛んだ。地面に転がった怪物は暫く悶え苦しんでいたが、やがて大人しくなり、そして大爆発した。

 箒「はあ、危なかった……とにかく牙也を助k『バキィッ』へ?うわあああああ!!」

 

 

 

 

 

 牙也「ぜやあっ!!」

 一方牙也はもう一匹の怪物を一階の台所に惹き付けて戦っている。狭い空間の中紫炎を振り回し、牙也は怪物を攻撃する。が、怪物は両手で紫炎を挟み込み、

 

 バキィッ!!

 

 牙也「は!?嘘だろ!?」

 

 なんと紫炎の刃を粉々に砕いてしまった。それはさながらプレス機のようであった。

 牙也「あんなのに挟まれたくねぇよ……こっちもパワーで押し返すしかねぇか」

 

 《マロン》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!マロンアームズ!Mr.Destroy!》

 

 マロンアームズにフォームチェンジした牙也は、マロンストライカーのラッシュ攻撃で怪物を押し返していく。しかし怪物も負けじと両手をプレス機のように挟み込む攻撃で牙也に襲い掛かる。火花を上げる怪物の両手を掻い潜り、牙也は的確に一撃を与えていくが、

 

 『!!』ドッ

 牙也「がっ!?」

 

 渾身のタックルを受けて壁に叩きつけられた。それを見逃さず、怪物は両手で牙也を押し潰しにかかる。牙也その両手をマロンストライカーでガードしてなんとか踏み留まるが、疲れの為なのか段々と押されていく。

 牙也「くそっ、どうすれば……一か八かの賭けだ、やってみるか!」

 

 《マロンスカッシュ!》

 

 腕が塞がっているので左手から蔦を伸ばしてドライバーを操作し、その場に丸まる。すると牙也の体が毬栗のような形のエネルギーに覆われ、空中に浮かんで高速回転し出す。そのまま怪物に向けて突っ込み、火花を上げながら怪物の体を押し返していく。

 

 『!?』ドッ

 

 大きく押し返され、怪物は後ろに倒れ込んだ。が、再び立ち上がって攻撃をーー

 

 

 

 バキィッ!!

 

 箒「うわあああああ!!」

 

 グシャッ

 

 しようとしたところ突然天井が抜けて、二階で戦っていた箒が怪物に向かって落ちてきた。そのまま怪物はクッション代わりにされる。

 箒「いたた……牙也、大丈夫か?」

 牙也「箒こそ大丈夫かよ……あと箒、そこを退け。怪物がクッションになってる」

 箒「え?うわっ!?」バッ

 

 《マロンオーレ!》

 

 箒が怪物の上から退いたのを見計らい、牙也は再びドライバーを操作。マロンストライカーにエネルギーを溜め、怪物に向かって走り出す。そして怪物が起き上がったところに、

 

 牙也「終いだ」

 

 渾身の一撃を腹部に叩き込んだ。怪物は廃墟の壁を突き破って外に飛ばされ、大爆発して消滅した。

 牙也「はあ……なんでか知らんけど、物凄く疲れた」

 箒「全くだ。あんな怪物、見た事がない……この世界に存在する特殊な怪物だろうか?」

 牙也「多分な。さて、騒ぎになる前にお暇ーー」

 

 

 

 

 バキバキバキィッ……!!

 

 

 牙也「……おい。嫌な予感がするのは俺だけか?」

 箒「奇遇だな、私もやらかした感がある」

 牙也「しゃあないな……箒!」グイッ

 箒「わっ!」

 

 牙也は箒を強引に引き寄せて抱き締め、間髪入れずに蔦を伸ばして二人の周囲を覆うようにドームを作った。すると、

 

 

 

 

 バキバキバキバキバキバキバキィッ!!

 

 

 

 ドガジャアアアアアンッ!!

 

 

 

 廃墟が倒壊し、ドームを覆い隠してしまった。

 

 

 

 





 艦これはAC勢の作者です。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (2)

 初登場のキャラやライダーの外見の説明が下手くそなんだよな……と分かってるけど直せない作者です。




 影徳「……なんだこりゃ」

 惣輔「ああ……本当になんだこりゃだよ」

 

 影徳と惣輔が廃墟に到着した時、廃墟は完全に倒壊して原型を残しておらず、近くには口をあんぐりと開けて放心状態の川内がいた。

 影徳「おい川内。大丈夫か?」ツンツン

 川内「……はっ!?あ、提督。大丈夫大丈夫……でも廃墟は大丈夫じゃないね」

 影徳「何かあったのか?」

 川内「う、うん……あの爆発音の後少し経って、スマッシュが二体廃墟の中からぶっ飛んできて、爆発したんだ。でその後、廃墟が倒壊して……」

 惣輔「スマッシュが……!?いつの間にここに……」

 影徳「だがぶっ飛んできて爆発したって事は、誰かがスマッシュを倒したって事だろうな。川内、夕立、残骸を退かすのを手伝ってくれ。誰か埋まってるかもしれない」

 夕立「ぽい!」

 川内「後で夜戦させてくれるなら!」

 影徳「後でな」

 川内「約束だよ!」

 川内はそう言って元気良く廃墟の残骸を退かし始めた。影徳達三人もそれに混じって残骸を撤去していく。

 影徳「スマッシュが廃墟からぶっ飛んできてすぐに倒壊したって事は、恐らく倒壊前に逃げるのは出来てない筈だ。何処かに埋まってる筈だが」

 惣輔「可能性はあるな……けど、果たして生きてんのかな?ボロとは言え家だったものだ、これだけの量の瓦礫に押し潰されたら……」

 カンナ「そう簡単にはあのお二人は死には致しません。それくらいの事で死んでしまうほど脆い体は持っておりませんので」

 惣輔「そうか、それなら安心ーー」

 

 

 

 

 

 

 『いや、君(貴女)は誰(なの)(っぽい)!?』バッ

 カンナ「ふえ!?」

 いつの間にかそこにいたカンナに驚いて影徳達は思わず後退り、カンナは何故驚かれたのか分からずビクビクしている。

 カンナ「あ、あの……どうかなさいましたか?」

 『ええ……』

 いまいち理解出来てないカンナに影徳達があんぐりしていると、

 

 

 ガタッ

 

 

 瓦礫が少しだが動いた。

 カンナ「!あそこですね!」

 カンナは瓦礫が動いた場所に走り寄り、瓦礫を退かし始めた。

 影徳「あの子が誰かは分からないけど……取り敢えずあの子を手伝おう」

 影徳の言葉に三人は頷き、カンナを手伝う。瓦や木材、鉄筋コンクリートの残骸を次々と手際よく片付けていくと、

 

 惣輔「……なんだこりゃ?」

 

 何やらドーム状の何かが出てきた。その大きさは半径1mはあり、植物の蔦のようなものでできていた。

 カンナ「お二人様、聞こえますか?カンナです」コンコン

 カンナがそのドームをノックしながらそう言うと、

 

 シュルシュルシュルシュルーー

 

 『!!』

 

 蔦のようなものはシュルシュルと動いて、地面に潜っていく。その蔦が全て地面に隠れると、

 

 牙也「おお、カンナ。大丈夫だったか?」

 箒「良かった、無事だったか。怪我してないか?」

 

 牙也と箒が現れた。

 カンナ「お二人様、ご無事で良かったです……私は大丈夫ですので」

 牙也「そうか、しかしやり過ぎたな……廃墟をブッ壊しちまった」

 影徳「おいあんたら、本当に大丈夫なのか?」

 牙也「あんたは?」

 カンナ「瓦礫の撤去を手伝ってくれまして……」

 箒「そうだったのか……ありがとう、礼を言う」

 惣輔「いえいえ、礼には及びませんよ!」

 牙也「いや、礼の一つくらいは言わせてくれ。本当にありがとう。それじゃ、俺達はこれでーー」

 

 

 ジャキッ

 

 去ろうとする牙也に、影徳はあの変わった形の銃を突き付ける。

 カンナ「な、何を……!?」

 牙也「……何の真似だ?」

 影徳「悪いけど、このままみすみす君達を逃がす訳にはいかない。今から言う質問に答えてくれ。場合によっては捕らえるが、何も無ければ解放する」

 牙也「なんだ?」

 影徳「君達はここに何の目的でいた?」

 牙也「目的と言える目的じゃないが……住む場所を探してた。入ってみたら廃墟だったから出ようとしたんだが……」

 影徳「スマッシュが襲ってきた、と」

 箒「む?あの怪物達はスマッシュと言うのか?」

 惣輔「え、お嬢さん達知らなかったの?おかしいな、知らない人なんていない筈なのに……」

 夕立「どうやってスマッシュ倒したっぽい?」

 牙也「(ぽい?)うーん……どう表現したら良いのやら……」

 影徳「じゃあ質問を変えよう。君達は何処から来た?」

 箒「それは……」

 箒達は口をつぐんだが、

 

 

 

 牙也「……言っても信じそうにないから、黙秘って事で」

 

 

 

 代わりに牙也はそう答えた。だって答えたところで信じない事は分かっているから。「異世界から来た」などと言って、果たして誰が信じるだろうか。普通に考えたら誰も信じないだろう。

 

 影徳「なるほど……それじゃ、君達を拘束するよ」ジャキッ

 牙也「そうかい……ま、簡単には捕まらないさ」バッ

 牙也が左手を影徳達に向けると、あちこちから蔦が伸び始めて影徳達に襲い掛かってきた。

 惣輔「なんだこりゃ!?」

 影徳「知るか!」

 影徳と惣輔は懐から、バルブの付いた剣を取り出して蔦を斬り捨てる。

 影徳「お前達……まさかスマッシュか?」

 牙也「は?あんなのと一緒にしないで欲しいな。むしろ、お前達こそスマッシュとやらを率いてるんじゃないのか?」

 夕立「てーとくさんを悪く言うなっぽい!」

 川内「そうだよ、提督は私達と一緒にスマッシュと戦ってるんだから!夜戦はさせてくれないけど!」

 惣輔「川内ちゃん、最後のはいらないよ……」

 夕立と川内が進み出て反論し、惣輔が呆れたようにツッコミを入れる。

 牙也「ふん、どーだか……」

 箒「牙也、あまり煽り過ぎるな。後が面倒だ」

 惣輔「エイト、どうする?」

 影徳「危険……ではあるな。川内、夕立、下がれ。石動、俺達で相手しよう」

 惣輔「致し方ないか」

 

 影徳と惣輔は変わった形の銃を右手に持ち、ポケットから何やらボトルのようなものを取り出して数回振った。そしてボトルの蓋を捻って文字の書かれた方を正面に合わせる。そしてそれを、

 

 

 

 《BAT》

 

 《COBRA》

 

 

 銃の銃口とトリガーの間の装填スロットに差し込んだ。すると、不気味な音声が辺りに響き渡る。二人はボトルを装填した銃を顔の正面に持ってきて、

 

 

 

 

 影・惣『蒸血』

 

 《MIST MATCH……!》

 

 トリガーを引きながら横凪ぎに振るう。すると銃口から黒と灰色の混じった煙が二人の全身を覆い尽くした。紫電の光と赤銅の光が二人を覆う煙の中に見える。

 

 《BAT……BA・BAT……!》

 

 《CO・COBRA……COBRA……!》

 

 また音声が響き渡り、やがて煙が晴れていくと、影徳の全身は異様な姿となった。黒を基調としたアンダースーツの上から銀色のチェストアーマーが装着され、煙突のようなものが両端と両肩から伸びている。胸には山吹に輝く蝙蝠の装飾が施され、頭部は鬼の角のように伸びた煙突や本来の目を隠す蝙蝠の形のバイザーが特徴的な姿であった。

 一方惣輔の全身もまた異様な姿となった。ワインレッドを基調としたアンダースーツにその上から銀色のチェストアーマーが装着され、四本のパイプのようなものがそれぞれ二本はアーマーから垂れ下がり、もう二本は首を覆うように巻き付いている。胸には青緑に輝くコブラの装飾が施され、頭部は影徳と同じように伸びた煙突、両端にはアンテナのように伸びた耳がある。目はコブラの形のバイザーで本来の目を隠している。

 

 

 《FIRE!》

 

 

 完全に姿が変わったと同時にまた音声が響き渡り、それぞれのアーマーの煙突やパイプから白煙が吹き出し、金や銀、赤や緑の花火が二人の周囲に打ち上がる。そして影徳は右手に銃、左手に剣を構え、惣輔は剣を刀身と柄の二つに分離して、刀身の方を銃口に、柄の部分を銃のハンマー部分に合体させ、それを右肩に担いだ。

 

 影徳「東都第六鎮守府提督、氷室影徳ーーナイトローグ」

 惣輔「同じく提督補佐兼技術開発局主任、石動惣輔ーーブラッドスターク」

 

 影・惣『出撃する』

 

 

 

 

 

 牙也「ライダー……とは違うな。むしろ敵の幹部みたいな感じがある」

 箒「どうする?このまま易々と捕まる訳には……」

 牙也「決まってるさーー

 

 

 

 

 

 抗ってやる……!」

 

 箒「ふっ……だと思ったぞ」

 

 《ブルーベリー》

 

 《マスカット》

 

 《ロック・オン》

 

 戦極ドライバーにロックシードをロックし、牙也は左手て、箒は右手を斜め前に突き出し、大きく腕を回転させてから高く空に掲げ、牙也は左手を顔の正面に持ってきて、箒は右手でカッティングブレードを持つ。

 

 

 

 

 牙・箒『変身!』

 

 

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 《ハイー!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!》

 

 アームズを被ってアーマードライダーに変身した二人は、それぞれの武器を構える。

 

 

 

 

 

 牙・箒『行くぜ(ぞ)!』

 影・惣『掛かってこい!』

 

 

 

 

 川内と夕立が見守る中、四つの武器がぶつかり合った。

 

 

 

 

 




 激突ーー。


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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (3)


 ワタワタしてて執筆がままならず、投稿が遅れた作者でした。




 

 牙也「ぜやっ!」ガキンッ

 影徳「はあっ!」ガキンッ

 

 牙也の持つ紫炎と影徳の持つ剣ーースチームブレードがぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 影徳はスチームブレードで牙也の攻撃をいなしつつ、左手に持った銃ーートランスチームガンの銃撃を交えて牙也に応戦する。一方の牙也は紫炎を振るって影徳を攻撃。銃撃はオーバーロードの力を活用して弾丸の弾道を見切り、最小限の動きでかわす。

 

 影徳「おいおい、お前本当に人間か?あれだけのスピードの弾丸を至近距離で見切ってかわすなんざ簡単には出来ないぞ」

 牙也「銃火器を使う相手は結構な数いたからな、流石に慣れた」

 影徳「それでもだろっ!」ドンッ

 

 引き続きトランスチームガンの銃撃で攻撃を続ける影徳だが、牙也はそれを全て見切り、やはり最小限の動きでかわす。

 牙也「そこっ!」

 そしてがら空きになった影徳の懐に紫炎の突きによる一撃を当てに行く。

 影徳「させるか!」

 咄嗟にそれをかわした影徳は、紫炎を無理矢理牙也から奪い取り、零距離からトランスチームガンを撃ち放つ。

 牙也「ちいっ!」

 紫炎を奪われた牙也はトランスチームガンの銃撃を受けながらも、その銃撃の威力を利用して影徳から距離を取った。

 

 牙也「面白いな、お前……!じゃあ、こいつにはどう対応する!?」

 

 《ジャックフルーツ》

 

 牙也はドリアンロックシードに似た見た目で黄色のロックシードを解錠。すると牙也の後方の空に通常よりも巨大なクラックが開き、

 

 

 ドオオオオオオンッ!!

 

 

 影徳「なんだありゃ!?」

 

 なんとクラックから巨大なジャックフルーツが落ちてきて、そのまま影徳に向かって転がってきた。咄嗟に回避したところに、ブルーベリーアームズが外れた状態の牙也が無双セイバーの銃撃を撃ち込む。そして巨大なジャックフルーツがこちらに戻ってくるのを確認してからカッティングブレードでロックシードを切った。

 

 《ロック・オン》

 

 《ジャックフルーツアームズ!巨・影・剛・球!!》

 

 《ヨロイモード!》

 

 いつもとは違いエレキギターのような音声が鳴ると、牙也は転がってきたジャックフルーツに飛び乗り、その中にスッポリと入った。そしてまた別の音声が響くと、ジャックフルーツが変形して全身を覆う鎧となった。背中に提げたジャックフルーツの形をした武器『王子鎚(ジャックハンマー)』を肩に背負い、

 

 牙也「本気で来いよ……潰しちまうぜ……!」

 

 牙也は指をクイクイッと曲げて影徳を挑発する。

 

 影徳「ふん、でかくなったところで……ちゃんと動かせなけりゃ意味がないんだぜ!」

 

 影徳はスチームブレードを構え、牙也に飛び掛かったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惣輔「ほいっ」

 箒「くっ、逃げるな!」

 

 惣輔は廃墟の残骸の上を縦横無尽に飛び回り、それを箒がマスガンドで銃撃しながら追い掛ける。足場の悪い場所で戦うのに慣れていない為か、箒の動きはぎこちない。

 

 箒「おっと……くっ、地盤が悪い!これでは上手く動けん!」

 惣輔「随分と手間取ってるね~……手伝ってあげよっか、お嬢さん?」

 箒「結構だ!」

 

 《カキ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!カキアームズ!Judge Everything!》

 

 新たに取り出したそのロックシードは、学園出発前に牙也が見つけてきたカキロックシードであった。カキアームズを被ると、アームズが変形して天使のような羽が右側に、悪魔のような羽が左側に生えた姿になった(右半分が天使、左半分が悪魔を模している)。

 箒「はあっ!」

 《カキアロー》を惣輔に向けて構え、矢を連続で放つ。惣輔は負けじと、放たれた矢をトランスチームガン・ライフルモードで撃ち落としていく。

 惣輔「お嬢さんなかなかやるね!でもやっぱり女の子とは言え、思い切り殴り合わなきゃやってらんないなぁ!」

 そう言って惣輔はトランスチームガン・ライフルモードを肩に担ぎ、箒に向かって走り出す。そして走りながら、ライフルからエネルギー弾を連射して箒を攻撃した。

 箒「くうっ、弓では対応出来ん……ぐわっ!」

 エネルギー弾を連続で受けて後ろに吹き飛ばされる箒。が、すぐに立ち上がり、

 箒「殴り合いか……私としては、斬り合いの方が好みだ!」

 

 《ライム》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!ライムアームズ!双剣・ハイ・ハイ・ハイ!》

 

 ライムアームズにフォームチェンジし、ライムラッシュを一本の剣に束ね、腰に提げた無双セイバーを抜く。

 

 《ライムオーレ!》

 

 《ロック・オン》

 

 《一・十・百・千!ライムチャージ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを二回切り、さらにロックシードを無双セイバーにロック。ライムラッシュと無双セイバーに緑色の淡い輝きが現れてオーラのようになる。

 箒「せやあああああああっ!」

 ライフルを構えて走ってくる惣輔を待ち構え、二本の刀の斬撃を浴びせる。それを分かっていながらあえて回避をせず、惣輔はそれをライフルで受け止める。ただ完全には受け止め切れなかったのか、アーマーにいくらか細かい傷が入る。

 惣輔「2.5……か。まだまだだな」

 箒「なんだ?その2.5というのは」

 惣輔「お嬢さんの今の攻撃の威力さ。この程度じゃ、まだまだ俺には及ばないよ」

 箒「そうか……まだまだ、か」

 惣輔「あれ?随分余裕だね……怒り狂うかと思ってたけど……」

 箒「私の周りが強い人ばかりだったからな。これしきの事で流石に自惚れはせん」

 惣輔「そっか。どうやら、君達を甘く見てたみたいだ……それじゃ、ここから本気を出そうかな!」

 箒「本気か……やはり貴様は、手を抜いていたのだな!」

 今度は箒から惣輔に接近してライムラッシュと無双セイバーを振るう。惣輔はそれをライフルでいなすように一つ一つ防いでいく。が、突然惣輔のアーマーから火花が上がり、惣輔は大きく仰け反る。そこに箒が膝蹴りを入れ、さらに追加で斬撃を当てた。

 惣輔「いってて……その左手の刀、銃の機能も入ってるなんて厄介だね……ちょっといただくよ!」

 するとチェストアーマーのコブラの装飾が青緑に輝き、そこから水色のコブラが出現してきた。コブラは一気に箒に向かって突っ込んでいき、無双セイバーを持つ左手に噛み付いた。

 箒「ぐっ!?」

 突然の痛みに思わず箒は無双セイバーを放してしまう。そこにコブラが尻尾を伸ばして無双セイバーを盗み、惣輔の下に戻っていく。

 惣輔「よし、良くやったぞ」ナデナデ

 『シャアーー♪』

 役目を果たしたコブラの頭を惣輔は軽く撫で、コブラは気持ち良さそうに鳴き声を上げる。

 箒「くっ、貴様!それを返せ!」

 

 《ホオズキ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!ホオズキアームズ!爆炎・ボーボーボー!》

 

 《ホオズキスカッシュ!》

 

 ホオズキアームズにフォームチェンジしてすぐに一回カットし、炎刀鬼灯丸の切っ先から小型の火炎球を撃ち放ちながら惣輔に向かっていく。惣輔はそれをライフルで払い除け、コブラも尻尾の無双セイバーで払い除けていくが、それを見て箒は不敵な笑みを浮かべた。

 

 箒「払い除けるだけでは、鬼灯の炎は消せんぞ」

 惣輔「?どういう……熱っ!?」

 『シャアッ!?』

 

 突然の熱さに思わず一人と一匹は武器を手放してしまった。見ると、払い除けた筈の炎は消えておらず、むしろ武器全体に行き渡り完全に包み込んでしまった。

 惣輔「ああ、ライフルが……なんつー炎だよ……」

 箒「私も知らん。さてと……これは返してもらったぞ」

 箒の左手にはちゃっかり無双セイバーが握られている。

 箒「さあ、止めと行こうか!」

 炎刀鬼灯丸と無双セイバーを合体してナギナタモードにし、無双セイバーの窪みにホオズキロックシードをロック。

 

 《ロック・オン》

 

 《一・十・百・千・万!ホオズキチャージ!》

 

 自身は踊るように回転し、同時にナギナタも両手を使って頭上で回転させ、巨大なホオズキ型の竜巻を発生させた。

 箒「さあ、これは防げるか!?」

 箒はナギナタを振るって竜巻を惣輔に向けて飛ばす。辺りに炎を撒き散らしながら、竜巻は惣輔に向かって突っ込んでいく。

 惣輔「え、ちょ、待っーー」

 

 

 ドカアアアアアアアンッ!!!

 

 

 惣輔の言葉も聞こえず、竜巻は真っ直ぐに惣輔に突っ込んで大きな爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「おらっ!」ゴッ

 影徳「ぐうっ!?」

 

 牙也の正拳付きが、影徳を完全にとらえた。強力な一撃で大きく後方に飛ばされる影徳だが、なんとか耐え抜いて着地する。が、アーマーはボロボロでトランスチームガンやスチームブレードもあちこちがひび割れている。

 

 影徳「くそっ……こいつ、強い……!」

 牙也「ったく、そっちから仕掛けてきておいてやられてんじゃないよ……ま、良いや。取り敢えず、止め指しておくか」

 

 《ジャックフルーツスカッシュ!》

 

 ロックシードを一回カットして、王子鎚を大きく振り上げる。

 

 牙也「潰れろ」

 

 そして、王子鎚を影徳に向かって振り下ろしたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕立「させないっぽい!!」

 

 

 《たてがみサイクロン!ライオンクリーナー!Yeahhhhhhhhh!!》

 

 

 

 電子音声が響くと、振り下ろそうとした王子鎚は何故か途中で止まってしまった。見ると、影徳の前に謎の戦士が立ち塞がり、左手の掃除機のような武器から風を放出して王子鎚を押し返していた。

 

 夕立「てーとくさんをこれ以上傷付けるなっぽい!」

 影徳「夕立!?無茶するな!」

 夕立「でも、これ以上てーとくさんが傷付くのは見たくないっぽい!」

 

 そう言って、夕立は牙也を睨み付ける。牙也は続けて王子鎚に力を籠めるが、

 

 

 牙也「はあ……これ以上は無意味か。やっぱ、悪にはなりきれないな」

 

 《ロック・オフ》

 

 

 諦めたのか王子鎚をしまって変身を解除した。そして影徳と夕立に歩み寄った。夕立は引き続き警戒を強めるが、

 

 牙也「……ごめんな、こんなボロボロになるまで痛め付けちまって。謝罪の証としてはなんだが……ちょっと動くなよ」ペコッ

 影徳「え?」

 夕立「ぽい?」

 

 二人に謝罪の意を示した牙也は、続けて左手を影徳に向かって翳す。すると、影徳の体を淡い光が包み込む。やがて影徳の傷は瞬く間に治った。

 

 影徳「傷が……!」

 夕立「治ったっぽい!」

 牙也「これで良いだろ。念のため後で医者にでも診てもらえよ。そんじゃ」

 

 そう言って牙也は去ろうとするが、

 

 影徳「待ってくれ」

 

 それを影徳が呼び止める。

 

 牙也「なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 影徳「……一度、うちの鎮守府に来てくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惣輔「けほっ……こほっ……」

 箒「しまった、やり過ぎた」

 

 爆発が収まると、惣輔の体は炭のように真っ黒になってしまっていた。口からモクモクと黒い煙も上がっている。

 

 川内「ちょっとソウさん、大丈夫!?」

 惣輔「ああ、川内か……大丈夫だ」

 

 とそこへ、川内が駆け寄ってきた。炭のようになった惣輔に肩を貸して立ち上がらせ、箒とカンナを見る。

 

 川内「ここは逃げさせてもらうよ。あんた達の相手はまた後日だ!」

 

 そう言い残し、川内は惣輔を肩に担いで逃げていった。箒が変身を解除したところに、

 

 カンナ「箒様、ご無事で良かったです」

 

 カンナが駆け寄ってきた。

 

 箒「何とかな。さて、取り敢えず牙也に合流しようか……」

 カンナ「はい」

 

 二人は牙也との合流の為、牙也を探し始めた。

 

 

 

 





 和解は多分次回です。それではまた次回!



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (4)


 和解の場面をどうしようか悩んでて遅くなりました。

 次は同じ事が起こらないようにしなきゃ……




 

 牙也「しかし大丈夫なのか?」

 

 鎮守府に続く道を影徳と夕立と共に歩きながら、牙也はそう問い掛ける。

 

 影徳「何がだ?」

 牙也「いや、俺みたいな部外者をそう簡単にその、鎮守府だっけ?そこに入れて良いのかって話」

 影徳「気にするな、俺の友人だって言っておけば大丈夫だろ」

 牙也「そうもいくまい。俺はあんたに手を出したし、もう一人の男の方がなんて言うやら……」

 影徳「石動に関しては心配するな。俺が黙らせる(物理)から」

 牙也「……不穏な一言戴きました」

 カンナ「牙也様!」

 

 とそこへ、カンナが箒と共に走り寄ってきた。

 

 牙也「おう、二人共大丈夫だったか。怪我はしてないか?」

 箒「いくらかカンナに治してもらったから問題ないが……何故こいつらと一緒にいるのだ?」

 影徳「俺が鎮守府に彼を呼んだのさ。お嬢さん達も仲間なら、一緒に来てほしいんだけど」

 カンナ「はあ……」

 

 曖昧な返事をしてカンナは牙也を見る。その目線に気づいた牙也は、二人に向かって小さく頷いた。

 

 カンナ「分かりました。ではそうさせていただきます」

 箒「よく分からんが……それなら私も」

 影徳「ありがとう。夕立、先に鎮守府に戻ってお茶の準備をしていてくれないか?皆も呼んで良いから」

 夕立「ぽいっ!」タタッ

 

 夕立はそう返事して、ケモ耳のような癖っ毛をピョコピョコ動かしながら鎮守府に向けて走っていった。

 

 牙也「……ワンコ?」

 箒「いや、見えなくはないが……」

 影徳「あれは『艦娘』だ」

 牙也「艦……娘?」

 影徳「第二次世界大戦で活躍した艦の魂を持った少女、もしくは女性達。今走ってった子は白露型駆逐艦4番艦の夕立って言うんだ」

 箒「艦の魂、か……という事は、あの少女も……?」

 影徳「あの少女?」

 カンナ「年は箒様と同じくらいで、柿色のセーラー服d影徳「川内だな。川内型軽巡洋艦1番艦の川内」そうですか、あの人も艦娘……」

 牙也「一体この世界は何が起きてんだ……?確実に俺達が知ってる世界じゃないのは分かるが……」

 影徳「……その言葉を聞く辺り、君達も『転生者』なのかい?」

 牙也「転生者?なんでそんな事を……それに、君達『も』って……まさか」

 影徳「その『まさか』だ」

 牙也「やっぱりか……生憎だが、俺達は転生者じゃない。異世界の住人だ」

 影徳「異世界!?何処の?」

 牙也「ISn影徳「あ、もういい。察した」話が早くて助かる」

 影徳「だがよ、なんでその世界にアーマードライダーの力があるんだ?」

 牙也「実はな……」

 

 

 

 ~カクカクシカジカ~

 

 

 

 牙也「という事だ」

 影徳「……大変だな、としか言えねぇ」

 箒「それだけでも充分だ、分かってほしい、理解してほしいとは思っておらん」

 影徳「まあ、大体君達三人が何者なのかは分かった。後は、皆がどんな反応をするのか……」

 カンナ「そこですね。一度交戦しましたから、敵と見られるかも……」

 影徳「先に手を出したのこっちなんだけどな……ま、なんとか俺もやってみるさ」

 

 四人は鎮守府への道をのんびりと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 川内「おーい皆ー!誰か手伝って!」

 ??「川内さん、どうかsーーソ、ソウスケ!?」

 ??「はわわ……酷い怪我なのです!」

 

 こちらは鎮守府に戻った惣輔と川内。川内の声を聞き付けて鎮守府にいた艦娘達が次々と建物の中から現れた。艦娘達は川内に担がれたボロボロの状態の惣輔を見て驚きを隠せず、急いで二人に駆け寄る。

 

 ??「ど、どうしたんですか、その怪我は!?」

 ??「た、大変!急いで医務室に運ぶにゃしい!」

 惣輔「ああ、すまんな皆……」

 

 <pipipipipipiーー>

 

 惣輔「エイトからだ……もしもし?」

 影徳『石動、今何処だ?』

 惣輔「鎮守府に戻ってるよ……あいてて」

 影徳『そうか。これから例の三人を鎮守府に連れて行くから、治療が終わったら全員を執務室に集めてくれ。夕立がそろそろ帰ってくる筈だから、夕立に詳しい事を聞いてくれよ』

 惣輔「分かったぜ……ってか、連れて行くって事は、エイトは勝ったのか?」

 影徳『いや、負けた』

 惣輔「エイトも負けたのかよ……エイトこそ大丈夫なのかよ?」

 影徳『俺は三人の中の一人に治療してもらったから大丈夫だ。それじゃなるべく早く戻るからな』

 惣輔「分かった」

 

 

 

 

 惣輔「って事だ、俺の治療が終わったら全員、執務室で待機な」

 『了解(なのです)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳「ここが、俺達が拠点にしてる鎮守府だ」

 

 少し経って、牙也達を連れて影徳が鎮守府に戻ってきた。年期の入った木造の建物を目の前にして、牙也達は「おぉ……」と思わず口に出していた。

 

 影徳「ま、積もる話は中に入って皆と会ってからにしようか。さ、どうぞ」

 牙也「ああ……邪魔するぞ」

 箒「失礼する」

 カンナ「お邪魔します」

 

 影徳に連れられて建物の中に入った三人は、木の床がギシギシと音を立てるのを聞きながら影徳について行く。やがてドアの上に『執務室』と書かれた部屋の前にやって来た。

 

 影徳「俺が先に入るから、呼ばれたら入ってきてくれ」

 牙也「はいよ」

 

 影徳が執務室に入っていくと、執務室の中から「お帰りなさい!」とか「大丈夫でしたか!?」等という声が聞こえてきた。

 

 箒「聞こえてくる声的には、カンナと同じくらいの年の子が多いのか……?」

 牙也「多分そうだろうな。どんだけ幼い子達が戦いの渦に入り込んでるんだろうな、この世界は……」

 

 ガチャッ

 

 夕立「入ってきてほしいっぽい!」ピョコッ

 牙也「はいよ」

 

 執務室の扉から顔を出した夕立にそう言われて、

 

 

 

 

 牙也「邪魔するぞ」

 箒「失礼する」

 カンナ「お邪魔します」

 

 

 

 

 三人はそう言いながら、執務室に入った。入ってすぐ三人の目に飛び込んできたのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『』ジーッ

 

 

 

 

 さまざまな色合いに形状をした制服に身を包んだ、小学生~高校生くらいの少女達であった。入ってきた三人を、その少女達は怪しそうにじっと見つめている。

 

 ??「ソウスケ、この人達がソウスケを負かしたの?」

 惣輔「その通りだよ、雷。エイト、客ってのは彼らの事かい?」

 影徳「ああ。変わった力を持ってたから、頭下げて一緒に来てくれないかって頼んだ」

 牙也「頭は下げてないだろ……まあ良いけどさ」

 影徳「ま、とにかく座ってくれ。君達にはもう一度話してほしいんだ、君達が何者なのかを」

 カンナ「同じ事を話せば宜しいのでしょうか?」

 影徳「それで良いよ。まあこの子達が信じるかどうかは分からないけど……」

 カンナ「分かりました。ではお話し致します、私達が何者なのかを」

 

 

 

 

 ~カクカクシカジカ~

 

 

 

 カンナ「というのが、私達に関する全てとなります」

 

 カンナが全てを話し終えた時、艦娘達は黙ったまま項垂れていた。

 

 牙也「別に無理に俺達の言う事を信じろとは言わねぇ。でも、これは全て俺達にとっては本当の事なんだ、それだけは理解してほしい」

 

 牙也がそう言って頭を下げると、

 

 ??「ううん、信じるわよ!」

 

 茶色のボブヘアーに白と紺のセーラー服で八重歯が特徴的な少女が勢い良く立ち上がってそう言った。

 

 ??「え、ちょ!?雷、この人達の言う事を信じるの!?」

 

 その少女と同じセーラー服を着て紺色のロングストレートの髪の少女がそれを聞いて反発するが、

 

 雷「信じるわよ!だって雷達も、以前その異世界ってところに行った事あるもの!ねぇ、ソウスケ!」

 惣輔「ああ、そう言えばそうだな。というかつい最近だな」

 夕立「そう言えば忘れてたっぽい」

 ??「向こうでは色々あったし、戻ってきてからも色々あったからね」

 川内「そんな事より夜戦したい!」

 

 一人だけ関係ない事言ってるが無視し、惣輔の他にも数名が雷の言葉に賛同する。

 

 ??「ほ、本当に大丈夫なのですか……?」

 雷「大丈夫よ、電!心配ないわ、私がいるじゃない!」フンス

 

 根拠のない事を言って胸を張る雷。だが、数人はまだ怖がっているようだった。

 

 影徳「なんなら石動、彼にその怪我を治してもらったらどうだ?怪我を治せたら彼らの言う事を信じるってのはどうかな?」

 雷「え!?ソウスケの怪我すぐに治せるの!?」

 牙也「あー……完全とは言えないけど、ある程度なら治せるけど……」

 ??「本当にかい?そんな風には見えないけど……」

 夕立「あ、そー言えばてーとくさんも治してもらってたっぽい!」

 惣輔「本当に治せるのか?」

 牙也「まあな。ただ緊急治療的なもんだからな、一応医者に診てもらえよ。それじゃやるぜ」

 

 そう言って牙也は左手を惣輔に向ける。と、淡い光が惣輔を包み込み癒していく。そして十数秒すると、

 

 惣輔「嘘だろ……全身が軽い!それに、痛みも全くないぜ!すげぇ!」

 雷「大丈夫、ソウスケ?本当に大丈夫なの?」

 惣輔「ああ、本当に傷が治ってるぜ!」グルグル

 

 惣輔は両腕を大きく回しながら嬉しそうに言った。そして牙也を見ると、

 

 惣輔「あんたすげぇよ!あんた魔法使いか何かか!?こんな力持ってるなんてすげぇ便利じゃねぇか!」

 牙也「魔法使いとかそんな大層なもんじゃないさ、それに礼をされるいわれはないしな」

 惣輔「それでもさ、その力に関しては誇っても良いと思うぜ」

 箒「そうだぞ、褒め言葉くらいありがたく受け取っておけ」

 牙也「うーん……まあ、そうしようか」

 影徳「さて三人共、今日泊まる場所は決まってんのか?」

 箒「いや、決める決めないも何も……探してた時にお前達が襲ってきたのではないか」

 影・惣『あっ』イケネッ

 牙也「ったく、どうしてくれんだよ……もういつの間にか夜だし、このままじゃ野宿だぜ」

 影徳「あー……それならお詫びと言ってはなんだが、暫くここに泊まっていったらどうだ?」

 牙也「え、良いのかよ?一応この世界の軍属施設みたいなもんだろ、俺らみたいなのを泊めて……」

 惣輔「別に問題ねぇよ、なあ、皆?」

 

 惣輔の問い掛けに、艦娘達は大きく頷いた。

 

 影徳「ほら、皆OKだって」

 カンナ「いかが致しましょうか……?」

 牙也「うーん……折角の誘いを断るのもな……それに他に泊まる場所もないし……ありがたく泊まらせてもらおうか」

 箒「決まりだな。是非とも宜しく頼む」

 惣輔「おう、ゆっくりしていきなよ」

 

 こうして牙也達は暫くの間、影徳達の鎮守府に泊まる事になった。

 

 

 

 





 次回はほのぼの回かな……?



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (5)


 ほのぼの回ですね。というよりギャグ要素を入れました。どこか覚えのあるネタがあるのは苦笑いで押し通して下さい。




 

 ~起床~ 午前6時半

 

 牙也「ふああ……」

 

 牙也が起きて、現在の状況を思い出すのに数秒はかかった。辺りを見回して、やっと今の状況を理解する。

 

 牙也「そっか、昨日は鎮守府の子達に会って、数日ほどここに泊まらせてくれる事になったんだったな」

 

 ボサボサになった髪を掻きながら、牙也はベッドから這い出す。時計を見ると、午前6時半だった。

 

 牙也「ふああ……眠い」

 

 大欠伸をしながら寝室を出ると、

 

 箒「起きたか……ちょうど今から起こしに行こうかと思っていたが」

 

 先程まで朝の素振りをしていたのか、箒がソファに座り込んで汗を吹いていた。

 

 牙也「おはようさん。多分時間になったらあの子達が呼びに来るだろうし、早くシャワー浴びたらどうだ?」

 箒「そうだな、そうさせてもらおう。牙也も着替えて顔を洗ってこい」

 牙也「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 五分後。

 

 

 コンコンーー

 

 牙也「ふああ……どーぞ」

 

 ガチャッ

 

 ??「失礼します!」

 

 元気な声で部屋に入ってきたのは、黒のセミショートの髪に白と青のセーラー服を着た中学生くらいの年格好の少女。牙也を見て素早く敬礼した。

 

 ??「特型駆逐艦一番艦、吹雪です!朝食の準備が出来ましたので、呼びに来ました!」ビシッ

 牙也「ああ、ご苦労様。悪いけど今箒はシャワー中で、カンナはまだ起きてこないんだ。もうちょい待ってくれるか?」

 吹雪「はい!」ビシッ

 牙也「それとそんな固くならずとも、いつも通りで良いよ。堅苦しいのは苦手なんだ」

 吹雪「え?で、ですが……」

 牙也「俺達はお前さんの上司じゃない。敬意を払われる謂れはないんだよ。気楽にしていてくれ、そっちの方が俺達としてはありがたい」

 吹雪「は、はあ……そこまで言われるのなら」

 牙也「おう」

 カンナ「ふああ……おはようございます」テコテコ

 

 とそこへ、ようやくカンナが起きてきた。

 

 牙也「おはよう、カンナ。洗面所で身嗜みを整えてきな、寝癖が酷いぞ」

 カンナ「ふぁい……」

 

 カンナは気の抜けた返事を返してフラフラと洗面所に向かい、

 

 

 ガツンッ!!

 

 

 ドタッ!!

 

 

 ガラガラガッシャーンッ!!

 

 

 箒「お、おい!大丈夫か!?」バタバタ

 

 盛大にやらかした。

 

 吹雪「だ、大丈夫でしょうか……?」アワアワ

 牙也「どうだか……吹雪、俺の代わりに様子を見てきてくれないか?俺だと覗きになりかねん」アタマカカエ

 吹雪「は、はあ……分かりました」

 

 

 この後箒と吹雪で洗面所の掃除を、牙也はカンナの治療を行った。

 

 

 

 

 ~朝食~ 午前7時

 

 影徳「いただきます」

 『いただきます!』

 

 午前7時。全員が揃って朝食を食べ始める。全員と言っても、この鎮守府は両手の指だけで足りる数しか艦娘がいないので、食堂は広く感じる程にがらんとしていた。とは言え人数が少なかろうと、食堂はいつも騒がしい。

 

 

 響「暁、人参残しちゃ駄目だよ。レディなら好き嫌いなんかないようにしなくちゃ」

 暁「わ、分かってるわよ!レディたるもの、好き嫌いがあっちゃいけないのよ!」

 夕立「と言いながら残すのが暁ちゃんっぽい」

 雷「暁!食べられないなら、私が食べさせてあげるわ!ほら、口開けて!」

 暁「なっ!?じ、自分で食べられるし!」

 

 

 電「んっ……んっ……ぷはぁ……吹雪ちゃん、牛乳をもう一本お願いするのです!」

 吹雪「え、まだ飲むの!?」

 睦月「電ちゃん、それで八本目にゃしい!いつもより沢山牛乳飲んでるよ!?」

 電「牛乳を沢山飲んで、箒さんみたいに早くなりたいのです!だから電は今日から今までより沢山牛乳を飲むのです!」ゴクゴク

 吹雪「箒さんみたいに……」ジー

 睦月「にゃしい……」ジー

 箒「?」ボヨンッ

 吹・睦『』サスサスペターン

 

 

 吹・睦『牛乳を飲もう!』ゴクゴク

 電「なのです!」ゴクゴク

 

 

 箒「……牛乳を沢山飲んだからって、すぐに大きくなる訳では……」

 カンナ「それ以上は言わぬが花ですよ、箒様」ゴクゴク←四本目の牛乳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「うん、旨い。ありがとな、食事とかの世話までしてもらって」

 影徳「気にすんなよ。その代わり、色々手伝ってもらうからな」

 牙也「『働かざる者、食うべからず』だな、分かってるよ」モグモグ

 惣輔「へっへっへっ、工廠でこき使ってやるぜ……」グフフ

 影徳「あんまり余計な事させんなよ、一応客なんだからさ」

 惣輔「余計な事って何だよ」

 影徳「普通に考えて分かるだろうが鳥頭」

 惣輔「鳥頭の何が悪いってんだよ」

 影徳「いや別に悪いとか言ってねぇけど片栗粉全身に塗りたくるぞこの野郎」

 

 

 スパンッ×2

 

 

 牙也「飯の最中に唾吐き散らしながら喧嘩してんじゃないよ」

 影徳「……悪い」

 惣輔「お前のせいで客に怒られたし」

 影徳「なんで俺のせいなんだよ」

 惣輔「当たり前だろうがコラ、余計な事言いやがって」

 影徳「余計な事って何だよ」

 惣輔「何だとこのカキフライ頭が」

 影徳「カキフライの何が悪いってんだよ」

 惣輔「いや悪くねぇけどお前タルタルブッかけんぞこの野郎」

 

 

 ○龍拳!×2

 

 

 影・惣『』チーン

 牙也「黙って食え」ゴクゴク

 川内「むにゃむにゃ……夜戦……」ウツラウツラモグモグ←寝惚け状態でご飯食べてる

 牙也「……こいつはぶれないなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~仕事~ 午前10時過ぎ

 

 影徳「電、これお願い」

 電「なのです!」

 

 手際の良さを証明するかのごとく、執務室の机に山積みになった書類が影徳と電の見事なコンビネーションによって次々と片付いていく。

 

 箒「ほう……見事なコンビネーションだな、カンナ」

 カンナ「そうですね。深い信頼関係にあるのがよく分かります」

 

 箒とカンナはそれを微笑ましそうに見ながら、お茶菓子として出された煎餅を食べ、お茶を啜っていた。そして箒の膝の上には、

 

 

 夕立「ぽい……」zzz

 

 

 箒の豊満な胸に顔を埋めてお昼寝している夕立の姿があった。先程まで箒とカンナは、夕立と一緒に外で遊んでいたのだ。しっかりと箒を抱き締めて放さない姿は、まだ少し残っている幼さを感じとらせた。

 

 影徳「悪いな、夕立の世話してもらって。うちの艦娘の中で一、二を争う元気っ子で、たまにこうやって構ってもらいに来るんだよ」

 箒「こんなに幼い子が、前衛に立って戦っているのか……実感が沸かないな」

 影徳「まあそう思うのも仕方ないさ。様々ある世界で起きる出来事は、様々ある世界それぞれで違う。実感がないってのも当然だろ」

 カンナ「そうですね……色々な世界を私も見てきましたが、どこも違う形をした世界ばかりでした」

 影徳「そうだろうな。それで、どうだ?この世界に来ての感想は?」

 カンナ「……どこの世界も、必ず戦いが起きていました。勿論、この世界も。ですがどこの世界も、その世界特有の良さを持っています。ここもなかなか良い世界ではありますね」

 電「カンナちゃんはやっぱり、戦いは嫌いなのですか?」

 カンナ「はい……というよりも、戦って傷付く人達を見るのが嫌いですね」

 影徳「なるほど、ごもっともだ……」

 カンナ「ですが、牙也様達やあなた方には好感が持てますね。お互いを信頼し合って、平和の為に戦っておられるその姿……美しいです」

 影徳「あはは、なんか照れるな」

 夕立「うにゅ……ぽいぃ……」

 箒「おや、起こしてしまったか」

 夕立「ぽいぃ……もう少しだけっぽい……」モミッ

 箒「ふあうっ!?////ちょ夕立!どさくさに紛れて胸を揉むな!////」

 電「あ、夕立ちゃんずるいのです!電にもやらせるのです!」モミッ

 箒「電まで!?ちょ、二人共、助けてくれ!」

 

 

 

 

 影徳「そろそろ遠征に行った子達が帰ってくるな、埠頭まで迎えに行こう」

 カンナ「お手洗いに行ってきます」

 

 

 ↑という名目の逃走

 

 

 箒「薄情者共がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 この後二人が戻ってくると、散々胸を揉まれて轟沈した箒とやけにキラキラした電と夕立が戯れていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~工廠~ 午前11時前

 

 牙也「おーい石動、この部品どこに置いとけば良いんだ?」

 惣輔「ああ、それはそこの作業机に置いとけば良いぜ」

 

 機械やら部品やら製作途中の物やらが散乱する工廠内を、牙也は惣輔に頼まれたパーツ等を持って慎重に動き回る。床に散らばった部品等を踏んづけて怪我でもしたら一大事だが、惣輔も牙也もお構い無し。

 

 牙也「ここで艦娘の艤装、だっけ?とか作ってんのか」

 惣輔「ああ、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを必要な量使って艦娘の艤装を作るんだ。ほっといてたらいつの間にか完成してるんだ、不思議だろ?」

 牙也「確かにな~、何をどうやったら武器になるんだか……」

 惣輔「知らね」

 牙也「つーか、お前今何を作ってんだ?」

 惣輔「よくぞ聞いてくれた!これは俺が長年n「あ、やっぱ長くなりそうだから良いや」最後まで言わせろよそこは!これはな、俺が開発した新しい艦娘専用の艤装、その名も『ベストシップドライバー』!」

 牙也「『ベストシップドライバー』?」

 惣輔「ほら、俺とエイトが変身する時にさ、ボトルみたいなのを使って変身してたの覚えてるか?」

 牙也「ああ、そう言えばそうだな」

 惣輔「これは分かりやすく言えば、艦娘達にもこの『フルボトル』を使えないかって事で作ったんだ!」

 

 惣輔はそう言って、自身が使うコブラフルボトルを牙也に見せる。

 

 惣輔「フルボトルはな、様々な成分を含んだボトルなんだ。これはコブラの成分を含んだコブラフルボトル。エイトが変身に使ってたのは蝙蝠の成分を含んだバットフルボトルだ」

 牙也「成分か……これ使って大丈夫な物なのか?」

 惣輔「大丈夫にする為のベストシップドライバーだぜ。ドライバーがフィルターの役割を果たしてくれるんだ」

 牙也「へぇ……ちょっと俺にも手伝わせてくれないか?」

 惣輔「ええ?ダメダメ、流用されたらたまったもんじゃねぇ」

 牙也「大丈夫大丈夫、流用はしないから」

 惣輔「流用『は』しねぇんだろ!?それ以外でなんかされるのは勘弁だ!」

 牙也「それにさ、『これくらい』の物なら、俺だって簡単に作れるぜ」

 惣輔「ほほう……今『これくらい』って言ったなお前……?それならこのベストシップドライバー、お前が一から作れるってのか?設計図見ずに」

 牙也「作ってやろうか?」

 惣輔「作ってみろよ……」

 牙也「分かった、なんなら賭けようぜ。設計出来たらお前今日の晩飯のおかず一品寄越せよ」

 惣輔「乗った。じゃあ出来なかったらお前がおかず一品寄越せよ」

 牙也「良いぜ……やってやらあ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから昼を過ぎて夕方5時過ぎーー

 

 

 川内「いや~、今日も特に何もなかったね~。夜戦したかった~」

 睦月「川内さんそればっかりにゃしい……」

 響「でもそれが川内さんだからね」

 

 本日の近海哨戒メンバーが戻ってきた。

 

 川内「皆無傷だし、工廠に艤装置いてから補給に行こうか」

 響「そうだね、ここからなら工廠の方が近いしね」

 睦月「睦月ヘトヘト~……」

 

 すると、

 

 

 

 

 

 牙也「よっしゃああああああああ!!」

 惣輔「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 工廠から叫び声が。

 

 川内「ん?今の叫び声……ソウさん!?」

 睦月「な、何かあったの!?」

 響「とにかく行ってみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 その後川内達が工廠に着くと、何時間もかけてベストシップドライバーを完璧に完成させて狂喜乱舞してる牙也とそれを目の当たりにして崩れ落ちている惣輔の姿があった。

 その晩の夕食で、牙也は惣輔の煮物をごっそり頂いて満悦の表情をしており、惣輔は口から白い何かを出しながら真っ白に燃え尽きており、事情を知らない影徳達は首を傾げていたという。

 

 

 

 

 





 牙也「簡単に、とはいかなかったけど、ちゃんと完成させたぞコラァァァァァァァァァァァ!!」
 惣輔「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (6)

 久々に5000文字行っちゃったよ……短くしようとしたのに、どうしてこうなった……?




 牙也「……んぁ?」

 

 目を覚ますと、そこは以前にもカンナに導かれたあの白い背景の庭であった。体を起こして牙也は辺りを見回す。

 

 牙也「またカンナの仕業か……?それにしては妙だな……」

 

 状況を鑑みて、牙也は首を傾げた。今カンナは実体化しているから、こんな事をしなくても普通に声を掛けて来れば良いだけの話だ。

 

 牙也「今度は誰が俺をここに……ん?あれは……」

 

 牙也が見つけたのは、初めてカンナと話をした白い小型テーブルだった。その上に何かが複数置かれている。手に取ってみると、

 

 牙也「これ……確か、フルボトル……?」

 

 すると、突然目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……はっ!?」ガバッ

 

 牙也が飛び起きると、時刻は昨日より早い午前5時半だった。思ったより早く目覚めてしまったようだ。見回すとカンナはまだスヤスヤと眠っており、箒はいつもの素振りに行ったのか既にベッドにはいなかった。

 

 牙也「今の夢は一体……ん?」

 

 布団の中から這い出そうとした時、何か左手に硬い物が握り締められている事に気づいた。見てみると、

 

 牙也「これ……夢に出てきたフルボトル……!」

 

 それは夢で見つけたフルボトルだった。牙也の左手には二本のフルボトルが握り締められている。一本は黄土色でボトルに何やら踊る人のような意匠が施されており、もう一本は濃い紫色でボトルにナイフの意匠が施されている。

 

 牙也「はて……誰が何の為にこれを……?」

 

 暫し牙也は考える。が、

 

 牙也「……後で氷室達に聞いてみるか」

 

 答えは出ないので諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳「はぁ……まさかお前以外にベストシップドライバー完璧に作れる奴がいたとはな……」

 惣輔「そうなんだよ……しかも設計図見ずにだぜ、ショックなんてもんじゃねぇよ……」ズーン

 

 朝の工廠では、昨日牙也が製作したベストシップドライバーを見ながら影徳と惣輔が話していた。惣輔から話を聞いた影徳はとても驚き信じられずにいたが、牙也が実際に作ってみせた実物を見て納得の表情を見せた。

 

 影徳「驚いたよ、ここまで完璧に作り上げて見せるとはな。しかも石動よりも短時間で……今後のベストシップドライバーの増産、あいつに任せれば充分なんじゃ……」

 惣輔「エイトてめぇ!俺の傑作をあいつに売り渡す気か!?」

 影徳「売り渡しはしない、タダで渡すだけだ」

 惣輔「余計に質が悪いだろうが!?」

 箒「何を騒いでいる?」

 

 とそこへ、箒がやって来た。

 

 惣輔「あ、箒ちゃん聞いてよ!エイトの奴、俺が作ったこのベストシップドライバーを牙也にタダで渡そうとしてるんだぜ!?」

 箒「そうかそうか、ありがたくもらってやろう」

 惣輔「この子も薄情だったよ畜生!この危機に歯止めを掛けてくれる優しい子はいないのかぁ!?」

 カンナ「どうしましたか?」

 

 そこへカンナもやって来た。

 

 惣輔「カンナちゃん聞いてよ!エイトの奴がさぁ、このベストシップドライバーを牙也にタダで渡そうとしてるんだぜ!?酷いと思わないか!?」

 カンナ「駄目ですよ氷室様、人が作った物を勝手に渡したりしては」

 惣輔「そうだそうだ!カンナちゃんの言う通りだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナ「ちゃんと石動様から許可を得て、お安く売らなければなりませんよ」

 惣輔「この子の方が質が悪かっただと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 影徳「大丈夫、許可なら確実に(物理で)下りるから」

 カンナ「それなら大丈夫ですね」

 惣輔「大丈夫な訳あるかぁ!?」

 箒「諦めろ」カタポンッ

 惣輔「畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 散々弄られた惣輔は、泣きながら何処かへ走り去っていった。

 

 影徳「ところで二人はなんでここに?」

 カンナ「私は鎮守府を散歩していましたらいつの間にかここに」

 箒「私は……駆逐艦の子達から逃げてきたのだ」

 影徳「何故……と聞くのは野暮か」

 箒「察してくれ」

 

 

 

 

 夕立「あー!箒さん見つけたっぽい!」

 箒「!?」ギクッ

 

 

 

 

 三人が工廠の外を見ると、夕立を先頭に鎮守府の駆逐艦全員が立っていた。

 

 電「今日も箒さんのお胸を触りに来たのです!」

 夕立「同じくっぽい!」

 雷「電から聞いたわ、箒さんのおっぱいは柔らかいって!どうやってそんな風になったのか秘訣を教えて!」

 吹雪「私達にも教えて下さい!どうやったらそんなに胸が大きくなるのか!」

 睦月「知りたいにゃしい!」

 暁「一人前のレディとして聞くわ!どうしたら胸を大きく出来るのか!」

 響「私は単に箒さんの胸に興味を持って一緒に来ただけだよ」

 箒「やっぱりこうなるのか……氷室とカンナは……」

 

 

 

 

 ~影徳・カンナ、既に逃走~

 

 

 

 箒「やっぱりな……ではここは……逃げる!」ダッ

 夕立「あー!逃げたっぽい!」

 雷「皆で追い掛けるわよ!」

 『おー!!』ダッ

 

 逃走した箒を、駆逐艦達が追い掛けていく。

 

 川内「頑張って~……ふああ……」

 

 そしてそれを呑気に見守る川内。

 

 箒「暇そうにしてるなら止めてくれぇ!」

 川内「無理」

 箒「薄情者がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 牙也「……?誰か助けに行かないといけない感じが……行ってみるか」

 

 

 

 

 その後、箒は様子を見に来た牙也に匿われて、何とか駆逐艦達を振り切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳「それにしても凄いな、牙也ってさ。石動が長時間掛けて作り上げたベストシップドライバーをあっさりと設計図なしで作り上げるなんてさ」

 

 こちらは影徳とカンナ。面倒事から逃走に成功した後、すぐに工廠に戻ってきていた。

 

 カンナ「牙也様は、私達の世界にて戦極ドライバーの設計を引き継がれておりますので、その辺りに関しては石動様にもひけをとらないかと」

 影徳「へぇ、あのドライバーをね……ん?今引き継いだって……」

 カンナ「元々あるお方が作っていたのですが、戦死致しまして……その人と縁があり、製造能力を持ち合わせていた牙也様が引き継いだ次第です」

 影徳「そっか……聞いちゃいけない事聞いちゃったね、ごめんよ」

 カンナ「いえ……牙也様も、箒様も、そして私達の世界の皆様も、それを乗り越えて強くなろうとしてらっしゃいます。勿論、そのお方との別れは辛く悲しい事ではありましたが……」

 影徳「そうだよな、仲間が死んでしまって悲しまない奴はいないよな……」

 カンナ「氷室様はありますか?お仲間を亡くされた事は……」

 影徳「今は無いね。でもカンナちゃんの話を聞いていると、怖くなってくるね。誰かを、あの子達の誰か一人でも、そして家族、友人を亡くしてしまう事が」

 カンナ「牙也様達は、それを幾度も乗り越えて参りました。何故強いかと問われますと、それが理由かと」

 影徳「失った人・物の大きさ、か……」

 カンナ「私は信じております。氷室様達がいずれそれら全てを乗り越え、蔓延る悪を討滅なさるであろうと」

 影徳「……ありがとう」

 

 カンナ「ところでつかぬことをお聞きしますが……牙也様が作られたドライバーはどちらに……?」

 影徳「ああ、これだよ。見るかい?」

 カンナ「拝見させて頂きます」

 

 カンナがベストシップドライバーを手に取ったその時ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウ~ウ~ウ~!!

 

 

 

 影徳「っ!?」

 カンナ「ひゃっ!?」ガチャンッ

 

 突然けたたましくサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

 

 『非常事態発生!非常事態発生!東都第六鎮守府に敵深海棲艦及びスマッシュが接近中!東都第六鎮守府に敵深海棲艦及びスマッシュが接近中!鎮守府の行動可能な艦娘は直ちに出撃ポートに急行せよ!』

 

 

 

 影徳「敵襲か……!急いで出撃ポートにーーって、カンナちゃん、腰のそれ……!」

 カンナ「ふえ?」

 

 影徳に指摘されたカンナが腰を見てみると、

 

 カンナ「ふええっ!?なんでドライバーが巻かれてるんですか!?」

 

 いつの間にかベストシップドライバーがカンナの腰に巻かれていた。

 

 カンナ「サイレンにびっくりして、思わず腰に持ってきてしまったのでしょうか……?」

 影徳「多分そうだろうね。って、こんな事してる程暇じゃない!」ダッ

 カンナ「え!?ちょ、ちょっと待って下さい~!」

 

 影徳が工廠を飛び出すと、カンナは慌ててそれを追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳とカンナが出撃ポートに着くと、既に全員が集合していた。

 

 夕立「てーとくさん、遅いっぽい!」

 影徳「悪い悪い。皆、いつでも行けるな?」

 『はいっ(ぽいっ)!!』

 影徳「よし、ではこれより、鎮守府に接近中の敵深海棲艦及びスマッシュを迎撃に向かう。牙也達は残っていtーー」

 箒「牙也、何か見えるか?」

 牙也「ちょっと待て、もう少しで……見えた!」

 

 牙也が目を凝らして敵を見ていると、

 

 牙也「あれが深海棲艦とやらか……なんか魔法使いみたいだな」

 影徳「お前どんな風にーーちょっと待て、魔法使い?」

 牙也「ああ……なんか杖みたいなの持ってて、頭の上にでっかい口があって……」

 影徳「……おいおい、マジかよ……!空母が来てんのかよ……!」

 惣輔「マジか!?うちの鎮守府はまだ正規空母どころか軽空母さえもいないんだぜ!?」

 影徳「くそっ、不味いな……!」

 

 

 

 

 

 

 牙也「だったら、俺がその敵空母を抑えておいてやろうか?」

 

 

 

 

 

 影徳「な!?無茶言うな!相手は空母だぞ、一人で行くn「一人だと誰が言った?」っ!?」

 牙也「俺は一人じゃない。俺には、ちゃんとした仲間がいる。安心して背中を任せられる、仲間が。それだけで充分だ」

 惣輔「お前……」

 牙也「それに、これは数日泊めさせてもらった礼って奴さ、今借りを返さないでいつ返すんだい?」

 箒「全く……私達まで巻き込んでくれるな」

 牙也「なんならここに残るか?」

 箒「まさか。私も手伝わせてもらうぞ」

 カンナ「私にも手伝わせて下さい。何もせずに終わりなんて、私には出来ません」

 影徳「お前ら……」フゥ

 

 

 

 

 

 

 

 

 影徳「……分かった。石動、シースライドシューズを貸してやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 惣輔「あいよ!」

 

 惣輔はポートの隅に置いていたシースライドシューズの予備を持ってきて、三人に渡した。

 

 惣輔「それを履けば、海上を地上と同じように動けるぜ。活用してくれ」

 牙也「サンキュ。ところで……なんでカンナがベストシップドライバーを?」

 影徳「ああ、実はな……」

 

 

 

 ~カクカクシカジカ~

 

 

 箒「要するに事故、か」

 惣輔「装着出来たって事は、フルボトルが使えるって事だが……今ボトル持ってないんだよな」

 影徳「俺もだ」

 牙也「あ、そうだ。フルボトルって、これか?」

 

 牙也は思い出したかのようにポケットを探り、二本のフルボトルを出して見せた。

 

 影徳「な!?なんでお前が!?」

 牙也「その話は後だ。とにかく使ってみようぜ」

 箒「それなら、私が持っているフルボトルも使うと良い」スッ

 カンナ「あ、あの……実は、私も……」スッ

 惣輔「嘘だろ、三人共持ってたのか!?」

 牙也「話は後で!とっとと行くぞ!」

 

 牙也と箒は戦極ドライバーを装着。

 

 影徳「はあ……こうなったら、何だってやってやるよ!」

 惣輔「おーし皆、行くぜ!」

 『はいっ(ぽいっ)!!』

 

 影徳と惣輔はトランスチームガンを出し、艦娘達はベストシップドライバーを装着。

 

 《ザクロ》

 

 《ヨモツヘグリ》

 

 《Bat》

 

 《Cobra》

 

 《ラビット!タンク!》

 

 《ゴリラ!ダイヤモンド!》

 

 《タカ!ガトリング!》

 

 《ニンジャ!コミック!》

 

 《ライオン!掃除機!》

 

 《海賊!電車!》

 

 《フェニックス!ロボット!》

 

 《オクトパス!ライト!》

 

 《ホワイトラビット!ブラックタンク!》

 

 《ロック・オン!》

 

 《Best Match!!》×8

 

 《Chaos Match!!》

 

 牙也達はロックシードをドライバーにロックし、影徳達はフルボトルをそれぞれトランスチームガンとベストシップドライバーに装着。続けて艦娘達がドライバー右側のレバーを力一杯回し、カンナもそれを真似する。するとドライバーから二本のパイプが伸びて彼女達の前後に形成され、ドライバーからはさらに様々な色の液体が流れてきた。それはパイプを伝って彼女達の前後に回り、カーテンのように薄い水幕が現れる。

 

 

 そして、全員が叫んだ。

 

 

 

 

 

 牙・箒・カ『変身!!』

 

 影・惣『蒸血』

 

 艦娘達『抜錨!!』

 

 

 《Mist Match……!》

 

 

 

 牙也達二人にはアームズが被さって展開し、影徳達二人を黒い靄が覆い尽くす。艦娘達とカンナは薄い水幕に前後から挟まれたと思うと、白煙が噴出して周囲を覆う。

 

 

 

 

 《ザクロアームズ!乱れ咲き・Sacrifice!!》

 

 《ヨモツヘグリアームズ!冥界・黄泉・黄泉・黄泉……》

 

 《Bat……Ba、Bat……Fire!!》

 

 《CoCo、Cobra……Cobra……Fire!!》

 

 《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

 《輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!!》

 

 《天空の暴れん坊!ホークガトリング!!》

 

 《忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!!》

 

 《たてがみサイクロン!ライオンクリーナー!!》

 

 《定刻の反逆者!海賊レッシャー!!》

 

 《不死身の兵器!フェニックスロボ!!》

 

 《稲妻テクニシャン!オクトパスライト!!》

 

 《混沌のムーンサルト!ラビットタンクカオス!!》

 

 《Yeaaaaaaaaaaah!!》

 

 

 

 

 

 

 総勢13名のライダーが、ここに集結した。

 

 

 

 

 




 総勢13人は多すぎる……!欲張りすぎたかな……?



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (7)


 今回はまだ戦闘には入りません。




 

 ザァァァァーー

 

 

 穏やかな海の上を、総勢13人の戦士達が走る。

 

 牙也「っとと……ようやくバランスが分かってきたぞ」

 箒「この感覚を、彼女達はいつも味わっているのか……」

 カンナ「何でしょうか、アメンボの気分を味わっているみたいです」

 

 三人が思い思いに言葉を紡ぐ中、川内は牙也の姿をじっと見ていた。

 

 川内「なんか、ソウさん達と戦った時に最初に使ってたのとは違うね」

 牙也「フォームチェンジ出来るからな。そっちみたいに一人一人使える物が決まってる訳じゃないから、勝手が効くんだよ」

 響「それにしても、フルーツを被るなんて聞いた時はまさかと思ったけど、フルーツと侍か。意外と合ってるね」

 牙也「お褒めの言葉どうも。ところでカンナ、アーマーの感じはどうだ?」

 カンナ「まだ上手くは動けませんが、大体の使い方は分かりました。今回は皆様のサポートに回らせて頂きます」

 惣輔「困った時はいつでもwelcomeだぜ、俺が助けてあげるよ」

 影徳「お前は助けられる側じゃないのか?」

 惣輔「俺は助ける側だ!」

 牙也「助けたと思ったら、今度は自分が助けられるパターンですね分かります」

 惣輔「わーん!箒ちゃん、君のその豊満な胸で慰めて!」

 箒「眉間を撃ち抜かれたいなら構わんぞ」

 惣輔「調子に乗ってすいませんでした」

 影徳「セクハラだぞお前」

 牙也「後でどつかれてこい」

 カンナ「今の発言はさすがに……」

 惣輔「お願いですからそれ以上は~!!」

 

 ワイワイ騒いでいると、

 

 吹雪「司令官!敵艦載機です!」

 

 吹雪の言葉に空を見上げると、数十機もの艦載機が牙也達に攻撃せんと飛んできていた。

 

 牙也「氷室!」

 影徳「ああ、それじゃ迎撃を開始しようか。牙也、俺、石動、川内でヲ級及びその取り巻きを抑え込む。残りは対空を中心に他の深海棲艦及びスマッシュを迎撃せよ!」

 『了解!』

 影徳「よし。それじゃ皆、健闘を祈る!」

 

 その言葉と共に、全員が散らばった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナ「電様、本日は宜しくお願いします」ペコリ

 電「はわわ……よ、宜しくお願いします!」アワアワ

 睦月「電ちゃん、落ち着くにゃしい。電ちゃんとそっくりなのは睦月もびっくりしてるにゃ」

 

 

 

 迎撃部隊1ーーメンバー カンナ 電 睦月

 

 カンナがベストシップドライバーを使って変身したライダー『仮面ライダービルドカオス』を見て、電は大いに驚いていた。自身のラビットタンクにそっくりだからだ。

 

 電「ど、どうして艦娘じゃないカンナちゃんがベストシップドライバーを使えるのですか?」

 カンナ「それは私にもさっぱり……ですが私が使っているベストシップドライバーは、確か牙也様がお作りになった物の筈……だとしたら、無意識に私に合うように作られていた可能性があります」

 睦月「むー……よく分かんないにゃあ」

 カンナ「ですが、これで私も戦えます。今までの私は、いつも守られてばかりでしたから……今度は私が牙也様達を補佐しなければ……!」グッ

 電「頑張るのです!」

 睦月「睦月達も張り切って行きましょー!!」

 

 とそこへ、敵艦載機が飛んでくる。

 

 睦月「睦月、対空戦始めるよ!」

 電「なのです!」

 カンナ「微力ながら……私もお力添え致します!」

 

 カンナと電はドリル型の武器『ドリルクラッシャー』を、睦月はハンドガンにガトリングの要素を取り入れた武器『ホークガトリンガー』を敵艦載機に向けて構える。

 

 カンナ「ある程度落としたら、私と電様で海上の敵を相手します。睦月様は引き続き対空をお願い致します」

 睦月「睦月に任せるが良いぞ!」

 電「なのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「さあ、私達も始めようか」

 雷「いつでも頼ってね!」

 暁「暁の出番ね、見てなさい!」

 

 

 

 迎撃部隊2ーーメンバー 箒 雷 暁

 

 次々と飛んでくる敵艦載機。しかしどれだけの数が襲って来ようとも、箒達は怯みもしない。

 

 暁「一人前のレディとして、充分な活躍をして見せるわ!」

 雷「一人前のレディ(笑)でしょ?」

 暁「ちょっと!?」

 雷「ま、雷だって負けないわよ!ソウスケ達や私達の居場所の為に、ここは絶対に守りきって見せるわ!」

 暁「あ、暁だって負けてないし!」

 箒「ふふっ……元気なのは良い事だ」

 

 姉妹の言い合いを見て、箒は小さく微笑む。と同時に心苦しくもなる。何せこれほどに小さくて純粋な子達が前線に立って戦っている。普通なら彼女達は守られる存在だろう。勿論それは『普通なら』である。この世界は、こんな小さな子まで戦いに巻き込んでいるのか。そう考えると、箒はいたたまれない気持ちになる。

 

 雷「箒さん!」

 

 雷の声がして、箒は思考の波から引き戻される。見ると、三人がいる場所からすぐ近くの海上に、深海棲艦やスマッシュの群れが見えた。

 

 暁「来たわね……暁だってやれば出来るって所、見せちゃうんだから!」

 雷「私も頑張るわよ!行きましょう、箒さん!」

 箒「……ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響「皆持ち場に到着したみたいだね。私達も私達の仕事を始めようか」

 夕立「ぽい……」

 吹雪「はい!」

 

 

 

 迎撃部隊3ーーメンバー 吹雪 夕立 響

 

 何やら夕立に元気がない。吹雪も響も心配していた。

 

 夕立「ぽい~……夕立も箒さんと同じ部隊が良かった~……」

 吹雪「司令官が決めた事なんだから、仕方ないよ」

 夕立「でも~……」

 響「これが終わったら、好きなだけ甘えに行けば良いと私は思うよ。箒さんも拒みはしないだろうし」

 夕立「ぽい?」

 吹雪「そうですよね……箒さんだって、嫌なら嫌ってはっきり言うだろうし」

 響「そう。それに、きちんと私達の仕事を頑張ったって事を知れば、箒さんだって褒めてくれるよ。勿論司令官もね」

 夕立「ぽい……」

 

 

 

 

 夕立「分かったっぽい。箒さんのおっぱいをまた揉む為に、夕立頑張るっぽい!」

 吹雪「胸を揉むのが目的になってない!?」

 夕立「気にしたらダメっぽい!」

 響「気のせいだよ」

 吹雪「いや、そんな訳ないでしょ!?」

 夕立「そうと決まったら、早く終わらせて沢山褒めてもらうっぽい!」ザアッ

 

 元気になった夕立は、いち早く敵を倒さんと突っ込んでいく。

 

 吹雪「あ、ちょっと夕立ちゃん!?待ってよ~!!」

 響「……ふふっ。ちょっと煽り過ぎたかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川内「夜戦だ夜戦だ~!夜戦が私を待ってるぞ~!」

 牙也「ぶれないねぇ、川内は」

 影徳「それが川内の良さでもあるんだけどな」

 惣輔「皆余裕そうだねぇ。そろそろ目標の目と鼻の先に着くってのに」

 

 

 

 空母ヲ級迎撃部隊ーーメンバー 牙也 影徳 惣輔 川内

 

 テンション高く先頭を進む川内を見ながら、三人は苦笑いを浮かべる。分かっているとは思うが、ここは戦場のど真ん中。しかも、敵全体を指揮するトップがすぐ近くにいる場所。そんな場所にいて、彼らみたいに余裕そうにして話をする等と、普通なら言語道断である。

 

 

 

 

 

 

 普通なら、だが。

 

 

 

 

 

 牙也「さっきから小物ばっか飛んでくるんだけどさ、あいつは自分が先頭に立つって言う考えは無いの?」

 影徳「馬鹿野郎、空母でそんな事が出来る奴は相当の猛者だろうに。そもそも近距離戦闘の為に作られた訳じゃないのは、牙也だって分かってるだろ?」

 牙也「トップが前線に立ってこその軍団だろ?自分から進んで前に出ないで、何がトップだよ」

 影徳「それはトップに相応の力があってこその話だろうに」

 

 軽い話をしながらも、四人は次々と襲い掛かってくる敵艦載機を落としていく。しかも、艦載機が飛んできた方向を一つも見ずに。その方向から飛んでくるのが分かっているかのように、片っ端から鉄屑に変えていく(未知の生物故に鉄屑という表現で大丈夫なのかと考えたいところだが、ここはあえて触れないでおく)。

 

 惣輔「二人共、それくらいにしておけ。そろそろ大将が出てくるぞ」

 川内「や・せ・ん!や・せ・ん!」

 

 言い合いになっている二人を惣輔が仲裁し、川内はいつも通りのテンションで手に持つ刀型の武器『四コマ忍法刀』を振り上げる。と、

 

 

 

 

 ??「……自ラココニ来タノカ。命知ラズメ」

 

 

 

 不気味な片言声が響き渡る。四人が揃ってその方向を見ると、

 

 

 

 ??「……モウ一度、海ノ底二沈メテヤロウ……」

 

 

 

 牙也が言っていた、魔法使いのような見た目に頭部の大きな口が特徴の深海棲艦がそこにいた。

 

 川内「空母ヲ級……!」

 影徳「そら、トップのお出ましだ……!」

 牙也「ハハッ、そうでなきゃ面白くない……!」

 惣輔「皆忘れるなよ。俺達の役目は、ヲ級及びその取り巻きをここで抑え込み、他への援軍を阻止する事……俺達が踏ん張らなきゃ、俺達の負けだ」

 牙也「分かってるよ。さあ……幕開けだ!」

 

 

 

 

 

 

 牙也がセイヴァーアローから矢を放ち、戦いが始まった。

 

 

 

 





 次回からは、各部隊の大まかな動きをお送りします。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (8)


 はいはい、お待たせしました。ようやく書けました。作者はビルドを見ていない!!←これが遅れた原因

 いや本当申し訳ないです、下調べって大切ですね……今回は迎撃部隊1、カンナ達の戦いをお送りいたします。

 では、どうぞ。



 

 睦月「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!」

 電「なのです!」

 カンナ「撃ちます!」

 

 二つの『ドリルクラッシャー』と『ホークガトリンガー』が火を噴き、迫ってくる敵艦載機を次々と撃ち落としていく。勿論敵艦載機も負けじと機銃や爆撃で彼女達に応戦する。と同時に艦載機を援護するように深海棲艦の砲撃も降り、魚雷が突っ込んでくる。それらを回避しつつ、まずは頭上の安全をある程度確保しようと躍起になる三人。

 

 睦月「むう~……全然減らないにゃしい……」

 

 が、睦月がぼやくように、艦載機は一向に減らない。それだけ沢山の艦載機が敵の手元にあるのだろう。

 

 睦月「当てようとしても逃げていくから、全く減らせないにゃあ……」

 電「早くしないと、電達が圧倒的に不利なのです」

 カンナ「電様、睦月様、このような時こそ落ち着くのです。焦っては功を落としてしまいます。たとえどんな苦境であっても、落ち着きを保っていれば必ず時は来ます」

 睦月「それはいつなの?」

 カンナ「分かりません。ですが、諦めない限りは必ずチャンスが巡ってきます。その為に……」

 

 そこまで言って、カンナは懐から二本のフルボトルを取り出した。一本は黄色、もう一本は錆色のフルボトルだ。

 

 カンナ「私が、活路を開きます!」

 

 二本のフルボトルを軽く数回振る。シャカシャカと小刻みな音が海上に響く。そしてボトルの蓋を正面に合わせ、

 

 

 《蜂!バット!ベストマッチ!》

 

 

 二本のフルボトルをベストシップドライバーに装着し、思い切りレバーを回すと、変身した時と同じようにドライバーからパイプが伸びて、黄と錆の液体がパイプを流れてカンナの前後に水幕と共に鎧のように展開された。

 

 

 《Are You Ready!?》

 

 

 カンナ「合着(がっちゃく)!」

 

 

 

 

 《ぶっ叩きストライプ!ビーバット!Yeahhhhh!!》

 

 

 

 

 カンナの姿は、蜂の腹部を模した目とアンテナに、右腕に装備された目と同じように蜂の腹部を模した刺突武器『ビースティンガー』、そして黄と黒のストライプで覆った半身と、目の部分からバット型のアンテナを伸ばし、左腕がバットで錆色になっている半身のフォーム『仮面ライダービルドカオス ビーバットフォーム』にフォームチェンジした。

 

 カンナ「行きます!」

 

 カンナは右腕のビースティンガーを艦載機の群れに向かって突き出した。すると、ビースティンガーから大量の針が飛び出して艦載機を襲い、次々と針が突き刺さる。すると、艦載機は制御能力を失ったのか次々と墜落し始めた。さらに墜落した艦載機が他の無事な艦載機や敵深海棲艦を巻き込んで墜落していく。やがてあれだけたくさんいた艦載機の数は、最初の半分以下にまで減った。

 

 カンナ「ビースティンガーの針は、刺さった敵の能力を少しだけ麻痺させる効果があります。敵空母との通信による指示や制御能力を絶ってしまえば、後はただの無力な飛行機です」

 電「す、凄いのです……」

 睦月「睦月達があれだけ苦労してた艦載機が……そんな方法で簡単に……睦月達の頑張りって……」

 カンナ「ご、ごめんなさい……最初からこれを使っておけば良かったですね」

 睦月「ううん、謝らなくて良いよ。あんな沢山の艦載機を落とせたんだし、良かったにゃ」

 電「はいなのです。カンナちゃん、残りもお願いできますか?」

 カンナ「お任せ下さい!」

 

 カンナは元気良く頷くと、ドライバーのレバーをもう一度思い切り回した。

 

 

 《Ready Go!》

 

 

 そしてビースティンガーを再び突き出し、針をばらまく。更に左腕のバットを構えて、

 

 

 《Voltaic Finish!》

 

 

 針を思い切り打った。バットで打たれた針は先程よりも勢い良く飛んでいき、敵艦載機を貫通。残っていた艦載機は、針の貫通によってそのほとんどが墜落していった。

 

 カンナ「これくらいでいかがでしょうか?」

 電「はわわ……やっぱり凄いのです……!」

 睦月「睦月感激ぃ!カンナちゃん凄いにゃしい!」

 カンナ「あ、ありがとうございます……」

 

 しかし気を抜いてはいられない。カンナ達が撃破したのはあくまで敵艦載機。まだ深海棲艦の群れが残っている。

 

 睦月「睦月、砲雷撃戦始めるよ!」

 電「電も頑張るのです!カンナちゃんに負けてられないのです!」

 カンナ「はい、私も精一杯の援護を致します!次はこれです!」

 

 そう言ってカンナは別のフルボトルを二本取り出した。今度は黄土色と紫色のフルボトルだ。それを小刻みに振って、蓋を正面に合わせる。

 

 

 

 《踊り子!ナイフ!ベストマッチ!》

 

 

 

 《Are You Ready!?》

 

 

 

 カンナ「合着!!」

 

 

 

 《切り裂き舞踊術!ダンシングナイフ!Yeahhhhh!!》

 

 

 次にカンナが変化したその姿は、バレリーナの意匠の目に様々なダンサーの意匠を取り入れた半身黄土色のアーマーと、ナイフの意匠の目に加えて腕部分に巨大なナイフが装着されている半身紫色のアーマーが全身を覆うスタイル『仮面ライダービルドカオス ダンシングナイフフォーム』だ。

 

 カンナ「行きましょう!」

 電「カンナちゃんに続くのです!」

 睦月「カンナちゃんばかりに良い所取らせないよ!」

 

 三人は勢い良く飛び出して海面を走り、深海棲艦の群れに突っ込んでいく。三人が相手するのは、軽巡ホ級・ヘ級・ト級を旗艦とした複数の艦隊。たまたまスマッシュがその中にいない事が幸いだが、それでも数からすれば圧倒的に三人が不利である。が、そこは惣輔が作ったベストシップドライバーとフルボトルの性能、それにシースライドシューズの力。海面を流れるように走る三人に振り回され、深海棲艦達は砲撃を当てようにも狙いが定まらない。何とか砲撃を当てようとモタモタしているところに、三人が立て続けに攻撃を繰り出した。睦月はホークガトリンガーで攻撃しながら、隙あらばマガジンを回して弾を装填しながら立ち回り、電はドリルクラッシャーの斬撃と射撃を交互に行って敵を翻弄、カンナは踊るように敵の攻撃を回避しながら左腕の巨大ナイフを振り回す。

 

 睦月「電ちゃん、伏せて!」

 電「はいなのです!」

 

 カンナ「睦月様、敵の砲撃が来ます!」

 睦月「にゃ!?回避回避~!」

 

 電「カンナちゃん、魚雷の処理を!」

 カンナ「お任せ下さい!」

 

 さらに初めてとは思えない三人のコンビネーションの良さが幸いして深海棲艦達の誤射を誘い、段々と敵の陣形は崩れ始めた。

 

 カンナ「もう大丈夫でしょう。後は一気に倒してしまいましょう!」

 睦月「いっくよ~!」

 電「電の本気を見るのです!」

 

 

 《Ready Go!》

 

 

 電とカンナはレバーを思い切り回し、睦月はホークガトリンガーのマガジンを十回回して弾を百発フル装填。途端に深海棲艦達を特殊なフィールドが囲い出られなくした。さらにそのフィールド内にX軸とY軸が現れ、X軸で深海棲艦達を纏めて拘束。ジェットコースターのレールのように湾曲したグラフが後を追うように出現した。

 

 電「カンナちゃん、続いて下さい!」

 カンナ「はい!」

 

 電とカンナはグラフの最高点に向かって大きくジャンプし、睦月はフィールド外をぐるぐる回り始めた。

 

 

 電「轟沈させちゃいます!」

 カンナ「これで終わりです!」

 睦月「睦月にお任せにゃ~!」

 

 

 《Voltaic Finish!》

 

 

 《Voltaic Break!》

 

 

 二人のジャンプが最高点に達した時、電はキックの体勢でグラフの上を滑っていき、後を追ってカンナが左腕のナイフを構えて滑っていく。睦月はフィールド内に向けてホークガトリンガーの銃口を構えた。

 

 

 

 電「やあああっ!!」

 カンナ「たあああっ!!」

 睦月「にゃあああっ!!」

 

 

 

 必殺のキックと斬撃・射撃を全て食らい、深海棲艦達は断末魔の叫びを上げながら海底に没していく。海面に着水した三人はそれをじっと見つめていた。全ての深海棲艦が沈んだのを確認した時、カンナがぽつりと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナ「どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ……これが、戦い……」

 

 

 





 次回、迎撃部隊2、箒達が戦闘開始――。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (9)


 更なる強さを求めて、人は努力を重ねるーー彼女達もまた、努力を続ける。居場所の為、皆の笑顔の為、そしてーー







 大好きな人の為ーー。




 

 箒「さあ、私達も迎撃を始めよう」

 暁「一人前のレディは、あんな奴等に臆さないんだから!」

 雷「頑張るわよ~!」

 

 箒達の前には、重巡リ級や雷巡チ級が旗艦となって率いる複数の艦隊、さらにフライングスマッシュやアイススマッシュなどのスマッシュも複数体見える。深海棲艦達は箒達の姿を確認するや否や、早速砲撃や雷撃を仕掛けてきた。

 

 箒「そら、来たぞ!」

 雷「てーっ!」

 暁「や、やあーっ!」

 

 敵艦載機は箒が担当し、マスガンドとブドウ龍砲の二丁(?)銃で順次撃ち落としていく。その間の深海棲艦達の攪乱は雷と暁の役目。暁が使うライトフルボトルの能力で強い光を発生させて怯ませ、雷がダイヤモンドフルボトルの能力で砲弾などの着水による水飛沫をダイヤモンドに変え、それを右手の『サドンデストロイヤー』で殴り飛ばす。ダイヤモンドの礫が深海棲艦の装甲を抉り、砲身に詰まって誤爆を起こし、スマッシュを蹴散らしていく。暁も負けじと右肩のアーマー『フューリーオクトパス』を撓らせて攻撃を仕掛ける。

 

 暁「突撃するんだから!」

 雷「私がいるじゃない、どんどん頼りなさいよ、暁!」

 

 二人は滑るように海上を走り、深海棲艦の群れに突っ込んでいく。

 

 

 

 箒「くっ、飛ぶ鳥は撃ち落とすのが難しいと聞いた事はあったが、これ程とはな……!だが……」

 

 綺麗に整列し、時に不規則な動きで翻弄してくる艦載機の集団を、箒はじっと見つめる。そして精神を集中させるため、静かに目を閉じた。艦載機のエンジン音が耳に入っていく。そのエンジン音が段々と近くなって来るのが分かる。自身の周囲を艦載機が囲っていくのを感じる。ヒュウゥゥゥゥ――という音と共に、何かが落ちてくる気配がある。軽く体を動かし、落ちてくる何かを躱していく。箒の周囲には着水の後すぐに水柱が上がり、多少箒は水を被った。艦載機はどうやら爆撃を仕掛けてきたようだ。

 

 箒(……オルコットとのISの練習で、ビット対策がよく出来ていたのが当たったな。分かる……どこから敵が来て、どう攻撃してくるのか)

 

 アーマードライダーとしての使命がある故に隠れがちだが、箒の本職はIS学園の学生だ。だからIS練習は欠かさず行っており、特に前線に立って戦う近距離タイプの箒はセシリアの『ブルー・ティアーズ』のような遠距離系のISにはめっぽう弱い。なので遠距離武器対策の方法をセシリア達と協議した結果、「遠距離攻撃を防ぐ」のではなく「遠距離攻撃を避ける」という結論に至り、ひたすら練習を重ねてきた。

 

 

 

 ~回想~

 

 

 箒「ぐあっ!」

 

 セシリアの射撃を受けてアリーナの地面に墜落する箒。

 

 セシリア「まだ詰めが甘いですわよ!篠ノ之さんは周りがよく見えておりません、私が言うのもですが、その調子では苦手な敵と戦う際に勝ち目の一つもありませんわ!」

 

 レーザーライフルを箒に向けながら、セシリアが檄を入れる。その近くにはシャルロットがハンドガンを持って控えている。

 

 箒「ああ、分かっている……オルコット、もう一度だ!」

 セシリア「分かりましたわ。今度は同じミスを犯さないようにお願いしますわ!」

 シャルロット「途中から僕も入るからね、篠ノ之さん。容赦なくやるから、覚悟しておいてね」

 箒「ああ、どんと来い!」

 

 装備を何も持たず、アーマーのみでそこに立つ箒に向かって、再びレーザーや銃弾が放たれていった。箒は自らその銃弾の雨に突っ込み、次々と避けていく。銃弾やレーザーが降り注ぐ逃げ場の無いフィールドを目一杯使い、ひたすら避けるだけ。ただそれだけだが、実際にそれを完璧に実行するのは難しいというレベルでは済まない。

 

 箒「くっ……まだだっ!!」

 

 被弾しながらも、箒は一心になって回避を続ける。

 

 箒「っ!」バッ

 

 突然背後に何かを感じ取り、箒は思わず回避する。と、さっきまで自分がいた場所を四本のレーザーが通り過ぎた。

 

 箒(死角からの射撃か……っ、まだくるか!)

 

 箒を追い掛けてレーザーが飛んでくる。さらに回避を許さないかのように弾丸が降り注ぐ。

 

 箒(……何度でも失敗してやる。その度に、私は強くなるんだ!)

 

 拳を握り締め、箒は再び弾丸の雨に突っ込んだ。

 

 

 ~回想 了~

 

 

 

 

 箒「その程度の爆撃など――オルコットとデュノアの銃撃の雨と比べれば、私にはスローに見えるものだ」

 

 セシリアの精密射撃、シャルロットの高速切替(ラピッド・スイッチ)。二種類の射撃の早さ・精密さをその肌で感じてきた。故に、

 

 

 箒「間違いない……今ならはっきりと言える。今の私は、強いと!」

 

 

 ただ投げ捨てるように降ってくる爆弾など、今の箒に当たる訳がない。最小限の動きだけで爆撃を避けていく箒。そこへ痺れを切らしたのか、艦載機の一部が確実に爆撃を当てようと機銃を撃ちながら突進してきた。

 

 箒「我慢できなくなったか?残念だ……それがお前達の敗因だ」

 

 《ヨモツヘグリスカッシュ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを一回切り、緑と黒が混じったエネルギーを右足に溜める。そして先頭を飛んできた艦載機を蹴飛ばし、残りはスルーした。すると蹴られた艦載機が緑と黒のエネルギーを吹き出しながら風船のように膨らみ、爆発。その爆発によって小型のエネルギーの球体が散らばり、球体が接触する事によって他の艦載機を誘爆させていった。

 

 箒「よし、これで艦載機は大丈夫ーーっ!」ドクンッ

 

 突然の立ち眩みに箒は膝をつき、心臓の辺りを右手で強く抑える。心臓を中心に鋭い痛みが箒を襲う。右目からは緑のエネルギーが煙のように漏れ、瞳の色が黒から緑に変わっている。その目をまた右手で抑え、箒はマスガンドを杖代わりにしてようやく立ち上がった。

 

 箒「くそっ、自分一人で抑え込むのもこれが限界か……仕方ない」

 

 《ヨモツヘグリエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!ヨモツヘグリアームズ!冥界・黄泉・黄泉・黄泉……ジンバーヨモツヘグリ!ハハァーッ!》

 

 体がヨモツヘグリの力に耐えきれなくなったのか、箒はジンバーヨモツヘグリアームズにフォームチェンジした。多少気分が良くなったのか、ゆっくりと呼吸を整えてソニックアローを構える。

 

 箒「牙也にあまり迷惑はかけられない……ヨモツヘグリ、もう少しだけ私と戦ってくれ」

 

 深海棲艦やスマッシュの群れを引き付けていた暁と雷に加勢する為、箒も群れに突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷「ええいっ!」

 暁「や、やあーっ!」

 

 敵の砲撃・雷撃を必死にかわす二人。だが、

 

 雷「はあ……はあ……!」

 暁「ふう……ふう……」

 

 二人には明らかに疲れが見えている。それはそうだろう、何せ自分達よりも格上の艦を数十体の単位で相手しているのだから当然だろう。二人が頼まれたのは箒が艦載機を片付けるまでの敵の攪乱。が、駆逐艦である二人が限界まで粘ったとしても、攪乱可能な時間はあまりにも少ないし、駆逐艦の火力で重巡や雷巡をどうにか出来るのかと問われると、余程練度が高くなければ無理だろう。

 

 雷「ちょっと暁……!はあ……はあ……大丈夫なの……!?」

 暁「そういう雷こそ……!ふう……ふう……もう限界なんじゃないの……!?」

 雷「私はまだ大丈夫よ……!そういう暁こそ、お子様なんだから……きついならきついって言いなさいよ……!」

 暁「お子様言うな!」

 

 息を切らしながらもギャアギャア騒ぐ二人に深海棲艦達は砲口を向け、スマッシュ達は各々の武器を構えて突撃してきた。

 

 雷「来たわよ!」

 暁「ぴゃっ!?」

 

 突っ込んでくるスマッシュを見て思わず構える二人。と、

 

 

 

 

 《ヨモツヘグリエナジー》

 

 

 

 

 電子音声と共に二人の後方から、緑と黒のエネルギーを纏った矢が複数本飛んできて、スマッシュを次々と撃ち抜いていった。ろくに出番もないまま、スマッシュ達は爆散。

 

 箒「暁、雷!大丈夫か!?」

 暁・雷『箒さん!』

 

 そこに飛んできた矢を追い掛けて、箒が合流した。

 

 雷「私達は大丈夫よ。箒さんは?」

 箒「私も大丈夫だが……それよりもそろそろ終わらせるぞ。流石に私が限界だ」

 暁「あ、暁もちょっと……」

 雷「もう、しょうがないわね……やるわよ!」

 箒「ああ」

 暁「暁が一番になってあげるわ!」

 

 

 《Ready Go!》

 

 

 《Voltaic Finish!》

 

 

 《ジンバーヨモツヘグリオーレ!》

 

 

 雷と暁はドライバーのレバーを思い切り回し、箒はカッティングブレードでロックシードを二回切り、敵からエネルギーを小型の球体にしてドロー。暁がタコサイドから球体状の墨を出して深海棲艦達を包み込み、その上から箒が敵からドローしたエネルギーを集めてドーム状に。さらに雷は周囲の水滴をダイヤモンドに変換して集め、三人の正面に分厚い壁を作り出す。

 

 暁「ええいっ!」

 箒「これで終わりだ!」

 

 墨の球体に向けてライトを照射すると、光によって墨の球体が変質して大爆発を起こした。爆風に耐えた深海棲艦達は吹き飛ばされ、箒が出現させたドームに激突。装甲がボロボロの状態でフラフラと立ち上がったところに、箒がマスガンドのトリガーを引いて追撃の大爆発を起こした。ドームは深海棲艦ごと吹き飛び、残骸となって沈んでいく。

 

 箒「はあ、はあ……こ、これで全部か……?」

 雷「ちょっと待ってね、電探に何か……そこっ!」

 

 電探に何かを感じ取った雷がダイヤモンドの壁を殴り付けると、砕けたダイヤモンドが飛んでいって敵艦載機を粉々に砕いた。艦載機はバラバラになり、誘爆して落ちていった。

 

 暁「と、特攻仕掛けてきてたのね……」

 箒「まだ仕留めきれていなかったのか……ありがとう雷、助かったぞ」

 雷「ふふーん、もっと頼っても良いのよ!」ドヤァ

 箒「ありがとう。さあ、他の艦の救援に向かおうか」

 暁・雷『はーい!』

 

 

 

 

 





 次回は迎撃部隊3 吹雪・夕立・響。ブレない夕立にご注目下さい。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (10)


 早く書き終わったので、ちゃちゃっと投稿します。今回はなんかあっさりと片付いちゃいました。




 

 夕立「ぽいぽいぽ~い♪ぽいぽいぽ~い♪」

 

 飛んでくる砲弾を、左腕の『ロングレンジクリーナー』から空気を吐き出して押し返し、右腕の『ゴルドライオガントレット』からエネルギー弾を出して撃ち落とす。ただそれだけを繰り返し、夕立は砲弾や爆撃の雨を一種の流れ作業のように掃除していく。ついでに艦載機も落としていく。

 

 吹雪「わ、私達の出番が……」ショボン

 響「ごめん、夕立を元気にし過ぎたみたいだね」ニガワライ

 

 その後ろでは、仕事のほとんどを夕立に取られてしまった吹雪が肩を落とし、響が彼女を慰めていた。

 

 吹雪「うう……私も司令官さんに褒めてもらいたかったのに、夕立ちゃんが片っ端から全部片付けていくから……」

 響「でもただ倒すだけが私達の仕事じゃないよ。あんな風にどんどん進んでいく味方をサポートするのも、私達の仕事じゃないのかい?」

 吹雪「そう、だね。よーし、しっかり夕立ちゃんのサポートをしよう!」

 響「ふふ……私もサポートと行こうかな」

 吹雪「では早速!」

 

 《各駅停車~、急行列車~》

 

 吹雪は弓型の武器『カイゾクハッシャー』を構え、電車型攻撃ユニット『ビルドアロー号』を海賊船型攻撃ユニット『ビルドオーシャン号』から引っ張り、エネルギーをチャージする。二つ目の音声が鳴ったところで、

 

 吹雪「発車ぁぁぁぁぁ!」

 

 カイゾクハッシャーからエネルギーの矢を放った。放たれた矢は蛇行しながら飛んでいき、艦載機を次々と撃ち抜いていく。

 

 夕立「吹雪ちゃん、ありがとうっぽい!」

 吹雪「えへへ、どういたしまして!私達がサポートするから、夕立ちゃんは思い切りやっちゃって良いよ!」

 夕立「ありがとうっぽい!さあ、素敵なパーティーしましょ!」

 

 吹雪にお礼を言い、夕立は深海棲艦の群れに突っ込んでいった。

 

 響「私は夕立を追い掛けるよ、吹雪は艦載機や空を飛んでるスマッシュをお願い」

 吹雪「はい、任せて!」

 

 そこに夕立の下へ行かせまいとスマッシュが立ち塞がる。

 

 響「ここは通さないって?……何としてでも通してもらうよ」

 吹雪「私達の鎮守府も、この町も、そして私の大事な友達も……何も奪わせはしません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕立「ぽい?吹雪ちゃんと響ちゃん、ついて来てないっぽい……」

 

 元気良く先行し過ぎたのか、夕立が気づいた時には二人から完全に孤立してしまっていた。そこに夕立を囲むように深海棲艦やスマッシュが現れた。

 

 夕立「囲まれたみたい……まだ夜じゃないけど、ソロモンの悪夢、あなた達に見せてあげる!」

 

 そう叫んで、夕立は敵駆逐艦に飛びかかった。鯨を小さくしたような見た目の駆逐艦は口を大きく開けて、砲口から砲弾を放つ。

 

 夕立「そんなんじゃ、夕立楽しめないっぽい!」

 

 が、夕立はつまらなさそうに右手のゴルドライオガントレットからエネルギー弾を放って砲弾を砕き、エネルギー弾はそのまま駆逐艦をも砕いた。それを見て驚いた重巡や雷巡が夕立に向かって砲撃や雷撃を行う。しかし夕立は焦りもせず、さっき撃破した駆逐艦を踏み台にして大きく跳躍。狙いが外れた砲弾や魚雷は撃沈した駆逐艦の体にヒットして大爆発を起こした。爆風の勢いで囲みから脱した夕立はアイススマッシュの後方に着地し、

 

 夕立「悪夢を見せてあげるっぽい……!」

 

 《Ready Go!》

 

 ベストシップドライバーのレバーを思い切り回して、ロングレンジクリーナーをスマッシュに向けた。途端にロングレンジクリーナーの強烈な吸引によってスマッシュや深海棲艦達がどんどん夕立に引き寄せられていく。深海棲艦達やスマッシュは逃げようとするが、クリーナーの吸引力の方が強くて抜け出せない。その間に夕立はゴルドライオガントレットにエネルギーを溜めて、後方に引くように構えた。

 

 

 

 

 夕立「ぽいーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

 《Voltaic Finish!》

 

 

 

 

 そしてガントレットを正面に突き出して、ライオンの顔を模したエネルギーの塊を放った。咆哮を上げながら飛んでいくエネルギーの塊は、深海棲艦やスマッシュを飲み込み、大爆発した。後に残ったのは、深海棲艦の残骸のみ。

 

 夕立「むー……もう終わりっぽい?つまんなーい!」

 

 一瞬にしてけりがついてしまい、夕立はブー垂れながら残骸を蹴飛ばす。と、

 

 

 《各駅停車~、急行列車~、快速列車~》

 

 

 吹雪「当たってーっ!」

 

 

 蛇行しながらエネルギーの矢が飛んできて、上空を飛んでいた艦載機を撃ち抜いた。さらに追撃で炎の球が飛んできて、矢で撃ち抜けなかった残りの艦載機を焼き払った。

 

 吹雪「夕立ちゃーん!やっと追い付いた!」

 響「夕立、大丈夫ーーなんて聞くのは野暮だね」

 

 艦載機を落としたのは、吹雪と響だった。二人は呑気そうに「ぽい?」と首を傾げる夕立と、彼女の周囲に散らばる残骸を見て安堵の息を漏らした。

 

 夕立「もう終わっちゃったっぽい……つまんなーい!」

 吹雪「あはは、夕立ちゃんがほとんど倒しちゃったもんね……でも夕立ちゃん沢山頑張ってたし、司令官さんも箒さんも褒めてくれる筈だよ?」

 夕立「またおっぱい揉ませてくれるっぽい!?」キラキラ

 吹雪「そ、それはどうだろう……」ニガワライ

 響「多分箒さんが断らなければ大丈夫だろうね」

 夕立「沢山揉ませてもらうっぽい!」

 

 

 

 箒『おーい!三人共~!』

 

 

 

 響「この声は……」

 夕立「箒さんっぽい!」ダッ

 吹雪「ちょ、夕立ちゃん!?」

 

 箒の声に気づいた夕立が猛スピードで箒に向かって突進し、

 

 

 夕立「箒さーん!夕立、頑張ったっぽぐっ!?」ガンッ

 箒「ぐふっ!?」

 カンナ「箒様!?」

 

 

 鳩尾辺りに頭がストライク。

 

 夕立「ぽい~……」ピクピクピク

 箒「ぐおおお……不味い、今ので上からリバースしそうだ……」ウップ

 カンナ「箒様!?ここでは駄目です、あちらにて!」

 

 

 ~暫くお待ち下さい~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕立「ぽい~……痛かった……」グスン

 暁「馬鹿ね、鎧付けてるんだから痛いのは当たり前でしょ!?」カスンプ

 響「まあまあ、暁。夕立だって悪気は無かったんだから」

 雷「まあとにかく、皆無事で良かったわ!」

 電「後は司令官さん達だけなのですが……大丈夫でしょうか……?」

 箒「牙也や川内、それに石動もいるし、大丈夫だとは思うがな……うっぷ」

 カンナ「まだお気分は晴れませんか?」サスサス

 箒「だ、大丈夫だ……うっぷ」

 睦月「全然大丈夫に見えないにゃしい……」

 吹雪「一旦鎮守府に戻って休まれた方が……」

 

 

 

 

 

 ゴオッ!!

 

 『っ!?』グラッ

 

 

 

 

 

 突然衝撃波が彼女達を襲った。その強さに全員がよろめき、転んでしまった。

 

 雷「な、何!?」

 睦月「今もの凄い突風みたいなのが来たにゃしい!」

 カンナ「この方向……まさか、牙也様達がいる方向から!?」

 箒「何!?だとすると不味いな……!皆、急いで合流するぞ!」

 『はいっ!』

 

 

 

 

 





 コラボは後二~三話くらいでしょうか……そろそろ次のコラボ相手の方を決めなきゃな……厳正なくじ引きで決めてますので順番は完全にランダムです、ご了承下さい。


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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (11)


 『人と化物は同じ存在』

 そうだと言う証明は出来ないであろうが、そうだと言えない証明もまた出来ないであろうものだ。私達は一体何なのかーーいずれ分かる時は来る。




 

 牙也「ぜやあっ!」ブンッ

 ヲ級「フン!」ガキンッ

 

 牙也が飛び掛かって振るったセイヴァーアローがヲ級の持つ杖を捉える。その勢いで牙也は左足で膝蹴りを入れるが、ヲ級はそれを素手で掴んで防ぐ。やむを得ず右足でヲ級を踏み台にして後方に宙返りして距離を取る。

 

 影徳「そこっ!」

 惣輔「そらっ!」

 

 それを壁にして、影徳と惣輔がトランスチームガンで弾をばら蒔いて牽制する。無造作にばら蒔かれた弾が、他の深海棲艦やスマッシュの体を撃ち抜き、ダメージ超過で爆散・撃沈していく。

 

 ヲ級「邪魔ヲスルナッ!」

 川内「邪魔するよっ!」

 

 《分身の術!》

 

 ヲ級「ッ!?」

 

 いつの間に後ろに回り込んでいたのか、川内が『四コマ忍法刀』のトリガーを一回引いて分身の術を発動、五人に分身した。

 

 ヲ級「ナ!?同ジ艦娘ガ五人ダト!?」

 川内『さあ、どれが本物でしょうか!?』

 

 そう言って一斉に複数の川内がヲ級の回りをグルグルと回り始めた。

 

 ヲ級「クッ……調子二乗ルナ!」

 

 ヲ級が杖を振り回すと、川内の分身の内の一人がそれを四コマ忍法刀で受け止め、

 

 川内『せいっ!』

 ヲ級「グワッ!ク、クソッ!」

 

 残りの四人が一斉に攻撃を仕掛け、ヲ級を怯ませた。そこにヲ級を庇うように他の深海棲艦が立ち塞がる。

 

 影徳「お前達の出番は、無い」

 惣輔「早々にご退場願おうか!」

 

 《アイススチーム!》

 

 影徳と惣輔がスチームブレードのバルブを捻ると、ブレード部から冷気が吹き出てきて、深海棲艦達の足元を凍らせた。身動きが取れないところに、二人がスチームブレードを振るって斬り裂く。

 

 リ級「クソッ!何トシテモヲ級ヲカバースルンダ!」

 

 重巡リ級達が魚雷を至近距離から投げ付けるが、

 

 牙也「没収。ついでに沈め」ゴキッ

 リ級「ギャッ!?」

 

 着水する前に牙也が回収し、さらにその魚雷でリ級やその他の深海棲艦を殴打して沈めた。殴打に使用した魚雷は爆発する前にダーツの要領でぶん投げて、駆逐艦をまとめて沈めた。次々と沈んでいく仲間を見ながら、ヲ級は悔しそうな表情を見せる。

 

 ヲ級「クッ……ココハ駆逐艦ト軽巡シカイナイト偵察ノ飛行機カラ聞イテイタガ、マサカコレホドノ実力ヲ持ツ者ヲ有シテイルトハ……!」

 牙也「当てが外れたみたいだな。お前さん達が何の目的で動いているのかは知らねぇが、とっととご退場願おうかねぇ!」ダッ

 

 牙也が接近戦を仕掛けようとしたその時、

 

 

 

 

 ガシッ

 

 

 牙也「うおっ!?なんだ?何かが俺の足をーーっ!?」

 

 

 転けそうになった牙也が足元を見ると、海中からダイバーのような格好の深海棲艦が二体、牙也の足をがっしりと掴んでいた。潜水カ級だ。

 

 牙也「怖っ!?なんだこいつ怖っ!?」

 ヲ級「隙ヲ見セタナ……!暗イ海底ヘ沈メッ!」

 

 その隙を見逃さず、ヲ級は艦載機を向けて爆撃を行った。

 

 影徳「牙也逃げろっ!」

 牙也「無理だ、こいつが引きずり込もうとしてきやがるから動けねぇ!」

 惣輔「くそっ、間に合わない!」

 川内「危ないっ!」バッ

 

 咄嗟に一番近くにいた川内が牙也の前に立ち塞がり、

 

 川内「きゃああああああ!!」

 牙也「川内!?」

 

 牙也を庇って艦載機の一斉爆撃を受けた。爆撃によって川内の装甲はボロボロになり、所謂大破状態になった。

 

 川内「だ、大丈夫、牙也、さん……?」

 牙也「大馬鹿野郎が!お前こそ大丈夫じゃねぇだろうが!」

 ヲ級「余所見シテイル暇ガアルノカ?」

 

 ヲ級はさらに艦載機を向けてくる。

 

 牙也「ちっ、石動!川内を頼む!」

 惣輔「お、おい!お前はどうすんだよ!?」

 牙也「こうすんだよ!」

 

 川内を惣輔に預けた牙也は、自身の足から二体の潜水艦を引き剥がし、艦載機の爆撃の雨に向かって放り投げた。投げられた潜水艦は爆撃の雨に晒されて、あえなく撃沈。二体の潜水艦が盾となって牙也達は爆撃の雨を防ぐ事が出来た。

 

 影徳「くっ、一旦退くぞ!」

 惣輔「多分そろそろ他の皆が別動隊を片付け終わってる筈だぜ」

 牙也「なんとか合流しなきゃな!」

 ヲ級「ソンナ事ハサセン!」

 

 四人の撤退を止める為、ヲ級はさらに艦載機を差し向けてきた。

 

 牙也「意地でも押し通る!」

 

 《ロック・オフ ロック・オン》

 

 《ザクロチャージ!》

 

 セイヴァーアローにザクロロックシードをロックし、セイヴァーアローから矢を放つ。赤黒い矢は一直線に飛んでいき、やがて数百本単位に分裂して次々と艦載機を撃ち落としていく。

 

 牙也「氷室、石動!ここは俺が抑えるから、早くあいつらと合流するんだ!」

 影徳「いや、だが……!」

 牙也「早く行け!川内背負った状態で戦える訳がねぇだろ!」

 惣輔「くっ、最もか……!エイト、退くぞ!」

 影徳「仕方ない……なんとか頼んだぜ!」

 牙也「おうよ、また後でな!」

 

 影徳と惣輔は川内を背負い、急ぎ撤退していった。

 

 牙也「さてと……これでタイマンだ。お前をこれ以上進ませる訳にはいかない。ここで沈んでもらう」

 ヲ級「愚カナ……沈ムノハ貴様ダ!」

 

 ヲ級が杖を振ると、艦載機は牙也を囲うように陣形を整えた。

 

 牙也「はあ……甘いんだよ」

 

 《ブルーベリー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハッ!ディープザクロアームズ!狂・乱・舞・踏!ハッ!ディープブルーベリーアームズ!冥土道・Dark・Stage!》

 

 牙也はブルーベリーロックシードを使い、『仮面ライダー零 ディープザクロアームズ』にフォームチェンジした。

 

 ヲ級「フン、姿ガ少シ変ワッタダケデ!」

 

 それを鼻で笑い、ヲ級は艦載機を差し向ける。

 

 牙也「と、思うよな?」

 

 《ディープザクロスカッシュ!ディープブルーベリースカッシュ!》

 

 カッティングブレードでロックシードを一回切り、体を縮ませて力を溜める。そして、

 

 

 牙也「はあっ!!」

 

 

 自身を中心とした小爆発を引き起こした。爆風に飲まれて、牙也を囲っていた艦載機は炎が上がり、次々と墜落していく。

 

 牙也「……強さは、別格だ」

 ヲ級「ッ!少シハ骨ガアルノカ。シカシ哀レナ奴等ダナ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 化物ト共二戦ッテイルトモ知ラズ二……」

 

 

 

 

 牙也「あ?」

 

 ヲ級のその言葉に、牙也は顔をしかめた。牙也は自身がオーバーロードである事は話していない。何故このヲ級はそれが分かるのか。

 

 ヲ級「何故分カッタ、トイウヨウナ顔ヲシテイルナ。私ガオ前達人間ガ言ウ化物ナノダカラ、他ノ化物ノ気配クライナラ感知スルノハ容易イモノヨ」

 牙也「ふん……馬鹿ではない事はよく分かったぜ」

 ヲ級「フン、ヨクモマア愚カナ人間共二、貴様ノヨウナ化物ガ手ヲ貸ソウトシタナ」

 牙也「何?」

 

 怪訝そうな顔を見せた牙也に対し、ヲ級は「簡単ナ事ダ」と前置きして答えた。

 

 ヲ級「人間トハ、傲慢デ身勝手ナ生キ物ヨ。タダ己ノ利益ノ為二物ヲ作リ、ソシテ使エナクナッタトナレバスグサマ捨テル。ソシテソノママ放置。人間トハ、愚カナ生キ物ヨ。ソレガ、ソノ身勝手デスグニ新シキ物ニ目移リシ古キ物ヲ見ナクナルトイウ哀レナ心ガ、我等ヲ生ミ出シタトモ知ラズ二ナ……人間ノ世界二オイテハ、我等ハ人間ノ手二ヨッテ沈ンダ人間ヲ乗セタ舟ノ怨念ガ集マッテ生マレタト言ッテイルヨウダガ、アナガチ間違ッテハイナイナ、ククク……」

 牙也「積年の恨みって奴か……随分口がベラベラと回るもんだな」

 ヲ級「フン。デハ、貴様ハ何故人間二味方スル?貴様ノヨウナ化物ガ人間二手ヲ貸ス道理ハアルマイ」

 

 牙也「そうさな……可能性に賭けてみた、って所かな」

 ヲ級「可能性ダト?」

 牙也「ああ。確かにお前の言う通り、人ってのは身勝手で馬鹿みたいな生き物さ。けど人ってのはな、そうやって自分達の身勝手さに目を瞑ってばかりじゃない。いずれは今みたいに現実を……自分達の身勝手さを直視しなきゃいけない時が必ず来る。その度に、人は変わってきた。同じ身勝手さに呑まれないように……俺は、そうやって変わっていく人の可能性に賭けてみたんだよ」

 ヲ級「可能性、カ……クク……ククク……ハーッハッハッハッハッ!!」

 牙也「何がおかしい?」

 

 ヲ級「何ガオカシイダト?コレガ笑ワズニイラレルモノカ!ソウヤッテ幾年モ時ハ過ギテイッタ。ガ、果タシテ人間トイウ存在ガ変ワッタトイウノカ!?ドレダケ月日ガ経トウトモ、人間は変ワッテイナイ!イヤ、変ワル訳ガナイ!イツモイツモ、同ジ事ノ繰リ返シダ!一度酷イ目二遭ッタトシテモ、イズレハソノ恐怖ハ忘レ去ラレテシマウ。人間トハ忘レル生キ物ダ。ソレガ何故貴様ニハ分カラナイ!?」

 牙也「だから、自分達が人を痛い目に遭わせて、意地でも分からせてやる、ってか?」

 ヲ級「ソウダ。ソウスレバ人間ハハッキリト理解スルダロウ、己ガ目ヲ反ラシテキタ現実ヲ、己ガ犯シタ罪ヲ!ナントシテモ分カラセテヤル、人間トハドレダケ愚カナ生キ物カ、ソシテーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……なんだ、お前達こそ全く変わってないじゃないか。むしろお前達の言う人間そっくりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヲ級「……何?」

 

 ヲ級には訳が分からなかった。突然牙也が言い放った言葉の意味が。しかし構わず牙也は続ける。

 

 牙也「そうやって自分達に積もった恨みのままに行動してるところとか、武力によって世間に訴えかけるところとか。お前は知らねぇとは思うが、もろにお前達の言う人間がやってる事そのものだぜ?この事をそっくりだと言わないで何て言うんだよ?」

 ヲ級「フザケルナ!我等ヲアンナ下等生物ト一緒ニスルナ!ソンナ下ラナイ事デーー」

 牙也「舟ってのはな、事故とか敵の攻撃による撃沈が付き物だ。それに舟ってのは人が動かすもんだ、撃沈とかの時に一緒に沈んでいった人だって沢山いた筈だ。沈んだ舟の怨念だって言うのなら、人を乗せた経験のあるお前達に少しくらい人に似通った面があっても別におかしくはあるまい」

 

 

 

 

 

 

 ヲ級「違ウ……!我等ハ、人間等ト言ウ存在トハ違ウノダッ!!」

 

 

 

 

 

 ヲ級の指示によって艦載機の爆撃が牙也を襲う。爆弾が次々と牙也の真上から降り注ぎ、大爆発を起こした。

 

 ヲ級「フザケルナ……!我等ハ人間トハ違ウ……絶対二違ウノダ……!」

 

 それを見ながら、ヲ級は肩で息をしながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 《Infection!Let's Game!Mad Game!Blood Game!What's Your Name!? The OverLoad!》

 

 

 

 

 

 

 ヲ級「ッ!?」

 

 電子音声に気付き、未だ爆撃による煙が立つ場所を見ると、

 

 牙也「いってぇなぁ……その無駄にデカイ頭、粉々に砕いてやろうか」

 

 煙を掻き分け、オーバーロードとなった牙也が姿を現した。

 

 

 





 次回もお楽しみに。コラボを希望される作者の方、まだまだ募集してますので、宜しくお願いします。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (12)


 取り敢えず戦闘は今回で終了。予定では次回にコラボが終了します。最後までお付き合い下さい。




 

 牙也「アアアアアア……!」

 

 気味の悪い声を上げながら、牙也は爆撃を受けて多少焦げ付いた髪を左手でバリバリと掻く。そして右手に装着したガシャコンバグヴァイザーをビームガンモードにし、さらに撃剣ラヴァアークを出現させて左手に持つ。

 

 牙也「なあ、知ってるか……?生きてる奴を傷付けて良いのはさ……自分が傷付く覚悟を持った奴だけなんだぜ……?」ニヤリ

 ヲ級「ッ!?」ゾワッ

 

 全身に悪寒を覚え、ヲ級は思わず後ずさる。杖を握る掌に汗が溜まっていく。体の震えが止まらない。目の前にいる牙也を恐れている事が自分でも分かる。

 

 ヲ級(馬鹿ナ……!何故ダ……!?何故奴ガ恐ロシク感ジル……!?何故奴ヲ、我ハコレ程ニ恐レテイルノダ!?)

 

 自分でも分からない。自分が牙也を恐れている事は分かったが、それが何故なのか。何故自分がこれ程に目の前の化物ーー牙也を恐れてしまっているのか。ヲ級には全く分からなかった。

 

 ヲ級(ト、トニカク今ハ奴ヲ倒ス事ニ集中ーー)

 

 

 

 

 

 牙也「はいちょっと失礼」

 ヲ級「ッ!?」

 

 

 

 

 

 ヲ級が気が付いた時には既に遅い、目の前にいきなり牙也ーーいや、化物がいた。そして遅れてやって来た鈍痛。見ると化物が持っていた撃剣が腹部に根元まで深く突き刺さっている。これでヲ級はようやく意識がスパークして、現在の状況を理解した。

 

 牙也「おらっ!」

 ヲ級「グフッ!?」

 

 突き刺さった剣が抜かれ、そこに蹴りが入る。派手にぶっ飛んで海面に転ばされたところに、至近距離からガシャコンバグヴァイザー・ビームガンモードで滅多撃ちにされる。体のあちこちにビームによる穴が複数空き、激痛というものでは収まらない程の痛みが走る。

 

 牙也「ハハハハハ……全身穴だらけになって、随分風通しが良くなったな」

 ヲ級「ゴッ……ガバッ……!」

 

 血を吐きながら、ヲ級は杖を使って無理やり自分の体を立ち上がらせた。そして杖を振り残りの艦載機全てを牙也に差し向ける。が、それを見て牙也は、

 

 

 牙也「……ククッ」

 

 

 笑っていた。牙也の目に映っているのは、大量の艦載機が自分に向かって飛んでくる光景。普通なら絶望的状況だろう。しかしそれを見てなお、牙也は心の中で笑っていた。

 

 牙也「良いねぇ……その最後まで足掻こうとする姿勢、嫌いじゃないぜ……けどーー」

 

 

 

 

 

 

 途端に、艦載機は全て落とされた。それはほんの一瞬の出来事だった。艦載機のちょうど真後ろに複数の小型クラックが開き、そこから槍のように蔦が伸びてきて艦載機に突き刺さり、他を巻き込んで誘爆していく。落とされた艦載機は、ボチャンと音を立てて海に沈んでいく。

 

 ヲ級「ナ……馬鹿ナ……!」

 

 ヲ級は信じられないというような目で牙也を見る。牙也と目が合った時、牙也が一言。

 

 

 

 

 

 牙也「……相手を間違えたな」ニッ

 ヲ級「ッ!?」ゾワッ

 

 

 その言葉にまたも悪寒を覚えるヲ級。それを庇うように、リ級やホ級、ト級が現れて砲口を向ける。

 

 牙也「成る程……仲間意識ってのは、ちゃんとあるんだな。けど……」

 

 牙也が左手を伸ばして深海棲艦達に向けると、蔦が深海棲艦達の砲口や体に絡み付き、身動きを封じた。そしてそれを待っていたかのように、小型クラックから蔦が伸びてきて、深海棲艦達の体を貫いた。

 

 リ級「ガッ……ハッ……!」

 

 蔦の槍で止めを指され、深海棲艦達は次々と沈んでいく。それを見ながら、

 

 牙也「……彼女らと比べれば、あまりにも脆い仲間意識だな。ああ、空しいなぁ……」

 

 寂しそうに牙也は呟いた。そしてその冷徹な目を、今度はヲ級に向けた。

 

 ヲ級「ヒッ!?」ゾワッ

 

 またも向けられたその視線に恐怖し、ヲ級は思わずへたりこみ尻餅をついてしまった。そして完全に理解してしまった。こいつには絶対に勝てない、勝てる訳がないと。そして呪った。この化物に喧嘩を吹っ掛けた自分自身を。

 

 ヲ級(カ、勝テナイ……!コンナ……コンナ濃密ナ殺気ヲ向ケテクル奴ニ、勝テル訳ガナイ……!)

 

 逃げようにも腰が抜けているのか立ち上がる事すら出来ない。そうしている間にも、牙也はゆっくりと歩み寄ってくる。牙也は右手のガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードに変え、左手には撃剣ラヴァアークを構えている。

 

 牙也「よお……さて、懺悔の準備は出来たか?神様に祈り終えたか?……いや、化物が神様に祈ったところで無駄骨か。まあ良いさ、一思いに殺ってやるよ……」

 

 今の牙也の笑みは、ヲ級からすれば死への片道切符に他ならなかっただろう。それほどに、ヲ級にとっての今の牙也への恐怖は大きかった。

 

 牙也「さあ……Show Downだ」

 

 そして牙也はラヴァアークを振り上げたーー

 

 

 

 

 

 

 箒「牙也、それくらいにしておけ」

 

 

 

 

 

 その声と共に、牙也の左手は誰かに掴まれる。牙也が後ろを振り向くと、箒が左手を掴んでいた。それを見て、牙也は元の姿に戻った。

 

 牙也「箒……終わったのか?」

 箒「ああ、別動隊は全て片付けたし、皆無事だ。さっき氷室や石動、川内と合流してきた。川内はカンナと吹雪、睦月、夕立を付けて先に帰らせたぞ」

 牙也「そうかい。じゃあこいつを消す理由も無くなったな……良かったな、命拾いしてよ」ニッ

 ヲ級「……ッ!?」ビクッ

 

 牙也のその満面な笑みにビビったヲ級。箒はそれを見て頭に?を浮かべていたが、牙也が「ああ、ちょっと痛め付けてこうなっただけだ」と聞いて納得したのかそれ以上は何も言わなかった。すると牙也は武器を仕舞うと、ヲ級の頭を鷲掴み、その顔をじっと見ながら、

 

 牙也「ほれ、とっとと帰りな。んで、トップにこう伝えろーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『次来たら、海底に沈むだけじゃすまない』ってな」

 

 ヲ級「ピイッ!?」コクコク

 

 今度は悪魔のような顔を見てビビり、ヲ級は慌てて頷き、ボロボロの体を引き摺りながら逃げていった。

 

 牙也「……ま、あんだけ脅しておけば大丈夫だろ。さ、戻ろうぜ」

 箒「うむ……時に牙也よ、敵であれどもう少し優しく接する事は出来ないか?」

 牙也「敵には恐怖を与えてなんぼだ。ただ……今回は流石にやり過ぎたな、ってのはある」

 箒「これを機に自重してほしいぞ」

 牙也「へいへい。あそうだ、箒」チョイチョイ

 箒「?」

 

 

 チュッーー ←箒の額にキス

 

 

 箒「へ!?え!?な!?き、牙っ……!?////」

 牙也「んー?今回のお仕事のご褒美ってな。お疲れ様」ナデコナデコ

 箒「……////」プシュー

 

 

 

 その後二人は無事に鎮守府に帰投したが、帰投して早々に先に影徳や惣輔と共に帰投していた駆逐艦達に「褒めて褒めて」とばかりに胸を揉まれて、また顔を赤くしたのは余談である。

 

 

 





 次回、一応コラボ最終話。しかし、ハプニングがーー。



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コラボ5 抜錨!Build Up Fleet Girl's (13)


 悪維持さんとのコラボはこれにておしまい。最後までお付き合い宜しくお願いします。




 

 影徳「それじゃ、無事に俺達の鎮守府の防衛任務を完遂出来た事を祝って……乾杯!」

 『乾杯!!』カシャンッ

 

 東都第六鎮守府の食堂。鎮守府防衛作戦をなんとか完遂し、影徳達第六鎮守府の面々と牙也達三人はジュースで乾杯しながらワイワイ騒いでいた。テーブルの上には肉野菜炒めやつみれ汁、魚の塩焼きにサラダ、さらに隅の方にはお菓子やデザートが皿に盛り付けられ、所狭しと置かれている。

 

 牙也「おらー、どんどん食えよー!足りんかったらまた作ってやるからな!」

 

 厨房で料理を作りながら、つまみ食いで腹を満たしているのは牙也だ。皆がワイワイ騒ぐ中、一人で厨房を切り盛りしている。影徳達が手伝いを名乗り出たが、

 

 牙也「良いって良いって。今日の主役はお前さん等なんだからさ、泊めてもらった恩返しだと思ってこれくらいはやらせてくれよ」

 

 との事。とは言え流石に影徳達もお客にそんな事をさせる訳にもいかず、結局配膳は影徳達がやる、という事で話がついた。

 

 夕立「美味しいっぽい!おかわり!」パクパク

 吹雪「もー、夕立ちゃんばっかり食べないでよぉ!皆食べたいんだから!」

 響「最高に嫌いじゃない……!」モグモグ

 暁「響、一人前のレディはガツガツ食べないものよ。こんな風におしとやかに……熱いっ!?」

 電「はわわ、暁ちゃん大丈夫なのですか!?雷ちゃん、何か拭く物を持ってきてほしいのです!」

 雷「分かったわ!ちょっと待ってて!」

 睦月「甘いにゃしい……とろけちゃうにゃあ……」ハニャー

 川内「わー!?睦月ちゃん、戻ってきてー!!」

 

 艦娘達がワイワイ騒ぐ中、影徳と惣輔は窓際で箒と話していた。

 

 影徳「悪いな、防衛任務手伝ってもらったばかりか飯まで作ってくれて」

 箒「私は何もしていない、礼は全部牙也に言ってくれ。しかし、無事に守りきれて本当に良かったな」

 惣輔「箒ちゃんや牙也達の手助けあってこそだ、本当に助かったよ。ところでカンナちゃんは?」

 牙也「力の使い過ぎでダウンしてるよ。今は休んでる」

 

 そこへ、料理作りが一段落した事で厨房から牙也がエプロン姿で現れ話に入る。

 

 影徳「あー、あのフルボトルか。まあ初めてだったし、仕方ないのかな?」

 牙也「まあそう言う事だ。ところであのフルボトル調べてたみたいだが、何か出たか?」

 影徳「いや、さっぱりだ。あんなフルボトル見た事がない。恐らく特殊な方法で作られたフルボトルだな、現状ではそうとしか言えねぇ」

 牙也「そっか……何か出てくると踏んでたんだが……それなら仕方ないな」

 惣輔「悪いな、役に立てなくて」

 牙也「良いって、気にすんなよ。ああそうだ、あのベストシップドライバーだが……」

 影徳「ああ……やるよ、カンナちゃんに」

 箒「む、良いのか?お前達が作った物だろう?」

 惣輔「実際あれは牙也が作った物なんだけどな……まあ悪用しないのなら別に構わないぜ」

 牙也「へぇ……あんだけ嫌々言ってたお前が……」

 惣輔「な、何だよ?」

 牙也「いや……ようやく成長したなぁ……と思い」

 惣輔「てめぇこの野郎!今まで成長してないと思ってたのか!?」

 牙・箒『おう(ああ)』

 惣輔「」orz

 影徳「はっはっは、酷い言われようだな!」

 惣輔「てめぇ……他人事だと思って……!」

 牙也「まあまあ……それよりもさ、パーティー楽しもうぜ!」

 

 パーティーは結局、深夜になるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ん~……疲れた~」

 

 深夜一時過ぎ。食堂の片付けを終え、牙也は堤防に足を運んでいた。海風が心地よく吹いており、また海面に映る三日月も風流であった。体を大きく伸ばし、牙也は堤防に座り込んだ。

 

 牙也「取り敢えずここでの旅は終わりだと思うが……まだ反応が無いんだよな~」

 

 そうぶつぶつ言いながら、牙也はブルーベリーロックシードをお手玉する。

 

 牙也「この力を手に入れて、もう何年経っただろうな……もうかれこれ八年くらいか……?そんなになるのか」

 ??「ほう、それほどに貴様に馴染んだロックシードなのか」

 牙也「まあな、こいつは俺のーーん?」

 

 聞いた事のない声が聞こえた。

 

 牙也(今の声、確実に男だ。だが氷室や石動じゃない。じゃあ一体ーー)クルッ

 

 

 

 振り向いた瞬間、鳩尾に鈍痛と衝撃が襲った。その誰かによって重く入った一撃は、牙也の鳩尾をいくらか陥没させる程の威力だった。突然の不意討ちに、牙也は一瞬息が詰まる。が、なんとか持ち前のガッツで意識は飛ばさなかった。牙也がその人物を見ると、見た事もないドライバーを腰に巻き、何やら目の部分に瞳が入っているライダーであった。

 

 牙也「て、めぇ……!」

 ??「こいつはいただいていく。俺達の目的の為に必要だからな」

 

 謎のライダーは牙也からブルーベリーロックシードをひったくり、牙也を蹴飛ばしてからドライバーを操作した。

 

 《Travel》

 

 その音声と同時に、そのライダーの後ろにクラックとは別の穴が開いた。

 

 ??「俺の名は、『クロノエグゼイド』……こいつを返してほしければ、俺を追ってこい」

 

 クロノエグゼイドと名乗るライダーは、そう言い残してその穴に飛び込んだ。クロノエグゼイドが飛び込むと、その穴は一瞬にして閉じる。

 

 牙也「待……て……!」

 

 牙也は必死に手を伸ばすが、一足早くクロノエグゼイドを取り逃がしてしまった。鳩尾への一撃による痛みをこらえながら、なんとか鎮守府の建物の壁まで自力で歩いてたどり着き、ずり落ちるように座り込むと、

 

 牙也「っ、くそがっ……!」ガンッ

 

 牙也は忌々しそうに壁を殴り付ける。と、

 

 箒「牙也ー、どこだー?」

 カンナ「牙也様ー、どちらにー?」

 

 帰りが遅いのを心配してか、箒とカンナが探しに来た。

 

 箒「ああ、いたいtーーき、牙也!?」

 カンナ「ど、どうなさったのですか!?」

 

 牙也を見つけた二人はすぐに牙也の異変に気づき、牙也に駆け寄る。

 

 牙也「っつつ……クロノエグゼイドとか言う奴に襲われてな、ロックシードを奪われた……!」

 カンナ「ロックシードが……!?」

 牙也「だが、ブルーベリーだったからまだ良かった……あれはまだ予備含めて二つあるし、何より盗られたのは純化してない物だからな……悪用したら暴走するようになってる……いてて」

 箒「まだ痛むか?」

 牙也「ああ……野郎は相当の手練れだ……箒とカンナじゃ遠く及ばねぇ、俺でも同士討ちになるか否か……ってとこだ」

 カンナ「すぐに追い掛けなくては!」

 牙也「無理だ……奴の移動手段は、俺達の物とは違う、恐らく別世界の力を使ってんだ……その世界に接触出来ない限りは、ロックシードは取り返せない……いてて」

 箒「くっ……旅の道中で、その世界に辿り着く事を祈るしかないのか……!」ガンッ

 

 箒は悔しそうに壁を殴り付ける。

 

 牙也「ところで二人はなんでここに……?」

 カンナ「例のクラックが近くに開きました。私達は、すぐに次の世界に向かわなくてはなりません」

 牙也「そうか……氷室達は?」

 箒「もう既に眠ってしまったようだ。部屋の明かりが消えていた」

 カンナ「念のため書き置きを部屋に残しておきました、荷物は持ってきましたのでお早く……」

 牙也「ああ……悪い箒、肩貸してくれ」

 箒「分かった、さあ掴まれ」

 

 牙也は箒の肩を借りて立ち上がり、なんとかクラックまで辿り着いた。

 

 カンナ「ちゃんとしたお別れも言えず、残念でなりませんね……」

 牙也「仕方ないさ、俺達の旅はそう言うもんだからな」

 箒「そうだな……さあ行こう。クラックが閉じてしまう」

 牙・カ『ああ(はい)』

 

 カンナと箒が先にクラックに入る。そして牙也が入った時、牙也は一瞬鎮守府を見た。

 

 牙也「しっかりやりなよ。お前達ならやれるって、俺達は信じてるからよ……」

 

 そう言い残し、牙也達三人は次の世界へと旅立ったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

 電「司令官さ~ん!大変なのです!」

 影徳「どうした?」

 雷「牙也さん達が部屋にいなくって、それでこれがテーブルの上に……!」

 

 影徳は雷が差し出した手紙を受け取り、読み上げた。

 

 

 

 『まずはこのような手紙で事情を説明する事となった事をお許し下さい。

 私達がこの世界に居を構えられる時間のリミットが来てしまいましたので、突然ではありますが私達はこれにて失礼させていただきます。突然の別れとなってしまった事、残念でなりません。居を構えさせていただいたお礼の一つも出来ず、本当に申し訳ございません。もし今後機会がありましたら、そちらの世界にお邪魔させていただき、何か恩返しをさせていただく所存です。

 今後も苦しい時が何度も訪れるでしょうが、私達は常に皆様の事を応援しております。どうかご武運をーー。それでは失礼致します。

 

 

 

 

            カンナ 』

 

 

 

 

 影徳「そうか……時間切れか。それなら仕方ないな」

 

 影徳は手紙をポケットにしまうと、

 

 影徳「雷、電。食堂に皆を集めてくれ」

 雷「分かったわ!」

 電「はいなのです!」

 

 姉妹が食堂へ走っていくのを見届けると、影徳は近くの窓から空を見上げた。

 

 

 影徳「どうか、あの三人にこれからも武運長久を願ってーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヲ級「ハア……ハア……」

 

 ヲ級はボロボロの体を引き摺りながら海上を必死になって逃げる。

 

 ヲ級「ハア……ハア……コ、ココマデ逃ゲレバーー」

 

 

 

 

 ??「甘いですよ」

 

 

 

 

 突如聞こえた声と共に、ヲ級の体は機械で出来た触手に貫かれた。

 

 ヲ級「ガッ……!?オ、オ前ハーー」

 

 目の前にいた人物に目を見開いて言葉を発するも、言葉は最後まで続かず、ヲ級は爆散して沈んでいった。その人物ーーオールバックの髪型にゴーグルをした男『エンター』はそれを見届けると、

 

 エンター「これで大丈夫でしょうね。では、帰りましょうか」

 

 手に持ったノートパソコンを操作しながら去っていった。

 

 

 

 

 





 クロノエグゼイドは武神鎧武さんからお借りしたキャラクターです。武神鎧武さんの作品においてコラボを予定しておりますので、その伏線として登場させました。

 そして悪維持さん、二度目のコラボありがとうございました。この場にてお礼申し上げます。

 なお次回のコラボは厳正な抽選の結果……





 ZUNEZUNEさんの作品『トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話』に決定致しました。ZUNEZUNEさん、宜しくお願いします。

 それでは、次は二つのコラボにおいてお会いしましょうーー。



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異世界旅行 Gourmet World
コラボ6 飯テロ!(1)



 気づいたらいつの間にか100話まで行ってましたよ。この小説、よくここまで続いたな……ひとえに読んで下さる皆さんのお陰です、ありがとうございます。

 さて、今回からZUNEZUNEさんの作品『トリコ 一夏がトリコの世界に行って料理人になって帰ってきたお話』とのコラボが始まります。
 今回のコラボは、多分ひたすらトリコネタを前面に出す形になると思いますので、牙也達は余程の事が無い限りは変身しません。ご了承の上お読み下さい。


 では第100話、お楽しみ下さい!




 

 誰かが言ったーー

 

 

 

 地面がコーヒー豆で埋め尽くされ、その地面を踏み締める毎に常に焙煎されたような素晴らしい香りを醸し出す山『ブルーマウンテン』があるとーー。

 

 

 

 

 

 体の毛がブロッコリースプラウトで出来ており、毛が太陽によく当たって光合成した物ほど肉も美味しくなるという狐『フォックスプラウト』がいるとーー。

 

 

 

 

 複数の個体が扇子のように尻尾や胴体がくっついた状態で常に行動し、焼けばえびせんのようなカリッとした歯応え、生で食べても押し返すような歯応えの海老『海老扇子』がいるとーー。

 

 

 

 

 

 

 世はグルメ時代ーー未知なる味を求めて、探求する時代ーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『美味しーー!!』

 

 ISが世界を席巻する、牙也達の世界とは別の平行世界。その世界にあるIS学園の食堂。お昼時の食堂は学園の生徒教員で満席状態であり、定員オーバーで食堂に入りきらずに外で行列を作っている。それほど学園の食堂は人気があるのだ。

 

 「はい、バドミン豚の東坡肉定食とカツオーガの叩き定食お待たせしました!」

 「わ~、美味しそう!ありがとうございます!」

 「ねね、早く食べよっ!」

 「注文入りました!豚腐のキノコブラ餡掛け定食と砲丸ポテトサラダのサンドイッチが二つ、それに槍人参とヒモヤシの塩味炒め定食です!」

 「はい、すぐにお作りしまーす!」

 「注文でーす、キューブロッコリーとキャベツルの温製サラダ定食と吹き矢烏賊のイカスミパスタをお願いします!」

 「承りました!」

 

 こんな感じに立て続けに注文が入り、厨房は休む暇もない。そんな状態の厨房と所狭しと駆け巡り、次々と料理を作っている人物がいた。

 

 一夏「はい、砲丸ポテトサラダのサンドイッチ、キューブロッコリーとキャベツルの温製サラダ定食出来たよ!」

 

 この世界の織斑一夏だ。純白のエプロンを着て、厨房内を踊るように駆け巡り、包丁で食材を捌き、鍋やフライパン、グリル等をフルに動かして料理を次々と完成させていく。その姿は常人には視認さえ出来ず、瞬間移動をしているようにも見える。

 

 鈴「相変わらず凄いわね~、一夏」

 箒「そうだな。到底真似など出来ん」

 シャルロット「真似出来たら凄いと誰もが思うよ」

 

 その様子を昼食を食べながら見ているのは、最早お馴染みとなった面々ーー箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの五人とこの世界における一夏の兄、春十だ。

 

 春十「や~、一夏の料理はやっぱ旨いな~。いつ食べても飽きないぜ」モグモグ

 ラウラ「嫁よ」

 春十「なんだ、ラウラ?」

 ラウラ「なんなら、食べさせてやろうか?」

 『んな!?』ガタッ

 春十「え?いや良いよ、自分で食べられるからさ……」

 ラウラ「まあまあ、そんな事言わずに……」

 鈴「ちょっと、抜け駆けはずるいわよ!その役目あたしにやらせなさい!」

 箒「こら!それは私の役目だ、お前達には勿体ない!」

 セシリア「いえいえ、箒さんこそ勿体ないのではなくて?ここは淑女たるこの私が……」

 シャルロット「ここは譲れないよ。春十に『あーん』するのは僕さ……!」

 ラウラ「何を言うか。言い出した私がすべきだろう!」

 

 春十への『あーん』権を巡ってギャアギャア騒ぐ中、春十は不思議そうにそれを見守りながら昼食を食べ終え、

 

 春十「ご馳走さま。皆、次の授業に遅れないように早く食べなよ」

 『あ……』

 

 そう言って春十はさっさと食堂を出ていった。折角のチャンスを不意にしてしまい、五人は意気消沈していたが、その後千冬の一喝ですぐに復活したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼のピークも過ぎ、時刻は午後二時。一夏は遅めの昼食として、十黄卵とニンニク鶏の親子丼を食べていた。

 

 千冬「一夏」

 一夏「ん?あ、千冬姉。授業は?」

 千冬「この時間は受け持つ授業がないからな、何か小腹に入れておこうかと思ってここに」

 一夏「ちょうど良かった、さっきお茶菓子として海老扇子を焼いてたんだよ、食べる?」

 千冬「勿論だ」

 

 そう言って一夏は丼を片付けた後、厨房から海老扇子を切り分けたものを持ってきた。千冬はそれを一つつまむと口に放り込む。

 

 千冬「ほう、カリカリとした食感が心地良いな。それに口に広がるこの海老の風味……酒に良く合いそうだ」

 一夏「焼くとえびせんみたいになるからお茶菓子として食べても良いし、勿論生で食べても美味しいんだ。また焼こうか?」

 千冬「いや、これくらいで良い。また夜にでも頼むぞ」

 

 ラウラ「教官!」バタン

 

 そこへラウラが飛び込んできた。

 

 千冬「ボーデヴィッヒか、今は授業中だろう?」

 ラウラ「そ、それが……緊急事態が起きまして……と、とにかくすぐにグラウンドに!」

 千冬「分かった、すぐに行こう」

 一夏「念のため俺も行くよ」

 

 二人はラウラに連れられてグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「なんでこうなったんだよ……いてて」

 箒「私に聞くな。というより大丈夫なのか?」

 牙也「大丈夫な訳あるか……!エネルギー弾直撃だぞ、しかも生身に……」

 カンナ「ある程度治療は施しましたが……ど、どうしましょう、この状況……?」

 

 グラウンドでは、先程までIS実技授業をしていた一組の面々が三人を見て唖然としていた。それはそうだろうーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何せ、箒が二人いるのだから。

 

 

 箒A「わ、私……だと……?」

 セシリア「こちらは箒さん、ではそちらは一体……?」

 鈴「な、何がどうなってんのよ!?」

 ラウラ「教官を連れてきたぞ!」

 

 全員が今の状況を理解出来ず大混乱している時、ラウラ達が合流した。そして開口一番、

 

 

 

 

 

 

 一・千『……箒が二人!?』

 

 

 もう一人箒がいる事に驚いていた。

 

 千冬「山田先生、何があったのか説明してくれるか?」

 真耶「は、はい。いつものように授業を進めていたらーー」

 

 

 

 

 ~回想~

 

 真耶「はい、では今日はグループに分かれて、グループ対抗戦を行います!各グループに専用機持ちを一人いれてグループを作って下さい!」

 『はーい!』

 

 春十「クラスは大体三十人くらいだから、各グループ一人ずつだな」

 鈴「負けないわよ!」

 シャルロット「僕だって!」

 セシリア「圧倒して見せましょう……!」

 箒A「ところでだが……一つ提案が……」

 ラウラ「なんだ?」

 箒A「まあ取り敢えず四人とも耳を貸せ」ゴニョゴニョ

 

 

 『……乗った!!』

 

 

 春十「?」

 

 

 

 

 

 真耶「分かれましたか?ではまずは、どのグループからやりましょうか?」

 春・箒A『はい』

 真耶「はい、では織斑君と篠ノ之さんのグループですね。準備して下さい」

 箒A「春十、絶対に負けんからな!」

 春十「こっちこそ!」

 

 ~春十と箒、ISを展開して空中浮遊~

 

 真耶「それでは……3……2……1……スタート!!」

 春十「行くぜ!」ドドドンッ

 箒A「食らえっ!」ドドドンッ

 

 

 牙也「さ~てと、お次の世界はーーんぎゃあああああ!?」

 

 

 春十「へ?」

 箒A「え?」

 

 

 ~牙也、黒焦げになって墜落~

 

 

 箒B「む、何かあっtーー牙也ぁぁぁぁ!?」

 カンナ「どうかなさいmーー牙也様ぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 ~回想終了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真耶「という事がありまして……」

 千冬「そうか……おい、お前達は一体何者だ?」

 牙也「話せば長くなるぞ」

 千冬「短くしろ」

 牙也「んな理不尽な……」

 

 

 

 『ブオオオオオ!!』

 

 『っ!?』

 

 

 

 突如、グラウンドに巨大な牛が現れた。しかしその牛は誰がどう見ても普通ではなかった。何故ならーー

 

 

 『ブモオオオオ!』

 

 

 二足歩行していたからである。

 

 ラウラ「あの牛……見てくれが悪魔に見えなくもないな」

 一夏「あれは……牛ール!」

 鈴「牛ール?何それ?」

 一夏「下級悪魔の力を得た牛だ!こいつは捕獲レベルが高いぞ……!危ないから皆は避難してくれ!」

 『ブモォォォォ……』

 

 牛ールが辺りを見回すと、生徒達が次々と逃げていく中、牙也がこちらに近付いてくるのが見えた。

 

 一夏「お、おい!危ないぞ、戻ってこい!」

 

 一夏が止めるのも聞かず、牙也は牛ールに近寄って行く。それを見た牛ールは、チャンスとばかりに豪腕を振り翳して叩き付け攻撃を仕掛けた。

 

 箒B「牙也!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……頭が高ぇ」

 

 

 ズドオオオンッ!!

 

 

 牛ールの攻撃で、辺りに砂煙が舞う。

 

 一夏「馬鹿野郎……!だから止めろって言ったんだ……!」

 

 一夏がそう洩らし、他の面々もショックに近い表情を見せるが、唯一箒Bとカンナだけはその顔に余裕が見えていた。

 

 箒B「大丈夫だ、皆。牙也はあれくらいでは死にはしない」

 千冬「何故そうだと言い切れる?」

 箒「……あれを」

 

 箒が指差した方向を面々が見ると、

 

 

 

 

 

 

 牙也「……聞いてなかったか?俺は『頭が高ぇ』と言ったんだ」

 

 

 

 

 

 

 その声に牛ールが上空を見上げた時には、既に遅し。クラックを開いて上空に回避した牙也が急降下してきて、牛ールの眉間の辺りに踵落としを食らわせた。牛ールは『ブゴッ!?』と変な鳴き声を上げながら、地響きを起こすかのように地面に叩き付けられた。またも砂煙が舞い、辺り一面を覆い尽くす。そして砂煙が晴れるとそこには、昏倒した牛ールと、自分の鳩尾辺りを抑えながら立っている牙也の姿が。

 

 カンナ「牙也様!」

 箒B「牙也!」

 

 皆が唖然とする中箒Bとカンナが牙也に駆け寄り、今にも倒れそうなその体を支える。

 

 牙也「ああ、悪い……クロノエグゼイドから受けたダメージがまだ残ってるみたいだ……」

 箒B「馬鹿者、無理をするなと……!」

 カンナ「だ、誰か手をお貸し下さい!何処か寝かせられる場所を……!」

 一夏「千冬姉……!」

 千冬「ああ、取り敢えず奴の治療を優先だ。手の空いた生徒は彼を医務室に運ぶのを手伝え!ボーデヴィッヒ、医務室に向かって養護教諭に事情を説明してベッドを一つ空けてもらえ」

 ラウラ「分かりました!」

 

 一先ず牙也のお陰で危険を回避した一夏達は、箒Bとカンナと共に牙也を医務室に運んでいった。

 

 

 

 

 

 





 今回登場した食材の簡潔説明

 バドミン豚 捕獲レベル28

 バドミントンのシャトルのような形の豚。小型なので見つけにくく、その豚を使ってバドミントンをし、ラリーを長く続ければ続ける程熟成されて旨くなる。

 カツオーガ

 ZUNEZUNEさんの作品に登場してますので、そちらを。

 豚腐(とんふ) 捕獲レベル19

 体の肉が豆腐のように繊細で柔らかな豚。扱いが難しく、少し力を入れて触るだけで肉が崩れてしまう程。

 キノコブラ 捕獲レベル35

 頭部が様々な茸でできたコブラ。毒は無く、生で食べられる個体も。ごく稀に松茸のキノコブラが現れるが、こちらは捕獲レベル85。

 砲丸ポテト 捕獲レベル14

 見た目が砲丸そのもの。捕獲レベルは低いが特殊調理食材の一つで、正しい調理法をしなければ固くて食べられない。競技に使われたりする事も。勿論使い終わったらちゃんと加工して美味しくいただきます。

 槍人参 捕獲レベル17

 ヒモヤシ 捕獲レベル13

 キューブロッコリー 捕獲レベル16

 キャベツル 捕獲レベル16

 いずれもベジタブルスカイに生えている野菜。槍人参は収穫したときの形状が槍に見える事からその名がついた。ヒモヤシは大量のモヤシが紐のように束ねられたもの。キューブロッコリーはその名の通り、キューブ形のブロッコリー。キャベツルは『キャベツの木』という木の幹から伸びる蔦から生えるキャベツ。

 吹き矢烏賊 捕獲レベル48

 墨を飛ばす際、吹き矢のように墨を固く尖らせて発射する烏賊。肉も旨いが、硬化する前の墨は絶品。

 十黄卵 ニンニク鶏

 いずれも『トリコ』本編に登場する食材。

 牛ール(ギュール) 捕獲レベル74

 前述の通り、下級悪魔の力を得た牛。肉は食べられないが、角や爪、歯は武器に加工可能で、これらで作った武器は数千万円で取引される。



 長文失礼しました。ではまた次回!



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コラボ6 飯テロ!(2)


 武神鎧武さんの『IS絶唱エグゼイド』にてコラボ実施中です。是非ともどうぞ。



 

 牙也「いだだ……」

 カンナ「もう少し我慢して下さい。後少しですから」

 箒B「だからあれほど自重しろと言っただろう……」

 牙也「面目ねぇな」

 

 学園の医務室のベッドの上で、牙也は自身の治癒能力にカンナの治癒能力を加算して治療を受けていた。淡い光が牙也を覆い、傷を内側から癒していく。その様子を唖然としながら一夏達が見守っていた。

 

 シャルロット「ふえ~……魔法みたいだね」

 カンナ「魔法……確かに魔法に近いものでしょうね。生き物が生来持つ治癒能力を、私の力で底上げしておりますので」

 ラウラ「うーむ……益々貴様等が何者なのかが分からん。篠ノ之が二人いる事も驚きだが、何よりあの戦闘力……」

 一夏「ラウラの言う通りだ。牛ールは捕獲レベル74だぞ、それをあんな簡単に鎮めるなんて……並の人間じゃ出来ないぜ。向こうの人達なら簡単にあしらえるだろうけど」

 鈴「あんたまさか人間じゃないの?」

 牙也「うーん……強ち間違っちゃいないな」

 ラウラ「どういう事だ?」

 

 養護教諭「すみません、織斑先生。ちょっといいですか?お伝えしたい事が……」

 千冬「分かった」

 

 千冬が一旦医務室を出ていくのを見届けると、牙也は体を起こして一夏達を見た。

 

 牙也「そう言えばまだ自己紹介してなかったな。俺は雷牙也。名字だと呼びにくいだろうから『牙也』か『キバ』で良い」

 カンナ「私はカンナと申します。牙也様のサポートをさせていただいております」

 箒B「私は……別に必要ないな」

 箒A「もう一人ここにいるからな」

 一夏「俺達の紹介は……必要ないか」

 牙也「悪い、一人知らんのがいる。そこのお前だ」

 春十「え、俺?」

 

 牙也が春十を指差すと、春十はキョトンとして「知らないの?」みたいな顔をした。

 

 春十「俺は一夏の兄の春十だ!牙也、よろしくな!」

 牙也「ああ、よろしく」

 

 二人が握手を交わした時、千冬が戻ってきた。

 

 千冬「貴様、雷牙也と言ったな……お前に聞きたい事がある」

 牙也「……俺が答えられる範囲でなら」

 千冬「そうか。では単刀直入に聞こう。お前ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間ではないな?」

 

 

 『え?』

 

 千冬のその言葉に、一夏達はキョトンとして千冬を見、次いで牙也を見た。

 

 牙也「何故そうだと言い切れる?」

 千冬「お前の体を調べていたら、血液に異常な点が見つかった。本来人間の血液に流れている赤血球・白血球・血小板等の数が異常に少ないのだ。他にも骨格も明らかに人間のそれではなかった。これがその全ての検査の結果だ」

 

 千冬から渡された結果報告の書類を受け取り、牙也はそれら全てに目を通す。それを見て牙也は溜め息をつき、書類を箒達にも見せる。

 

 牙也「やれやれ……いつの間にかここまで怪物化が進んでたのか」

 カンナ「予想よりも早いですね……長らく気づかずに放置していたのもそうでしょうが……」

 箒B「牙也……」

 牙也「こればかりは俺も止められねぇ。経過を見守るしかーーっ!?ぐ、がが……っ!」ドクンッ

 カンナ「牙也様!?いかがなさいました!?」

 

 突如牙也が胸を抑え苦しみ始めた。さらに胸辺りから紫電が迸り、医務室の壁や棚を破壊していく。そして牙也の体にも変化が現れ始めた。両腕が怪物のそれになり、目は黒く濁り、全身から蔦が伸びていく。

 

 カンナ「いけません!皆さん、ここから逃げて下さい!」

 鈴「な、何が起きてんのよ!?」

 一夏「皆危ねぇ!伏せろ!」

 

 一夏の言葉に全員が伏せると、牙也から伸びた蔦が一気に伸び、医務室の天井や壁に突き刺さっていく。

 

 牙也「グ……グアア……!ガ、ググ……!」

 箒B「牙也、しっかりしろ!私達が分からないのか!?」

 カンナ「いけません、箒様!今近寄っては蔦が……!」

 

 尚も苦しむ牙也に近付こうとする箒Bをカンナが引き留めるが、箒Bは尚も抵抗し、牙也に近付こうとする。

 

 箒B「離してくれ!止めなくては、いけないんだ……!私が、今度は牙也を救わなくては……!」

 カンナ「ですが……っ、箒様、危ないです!」

 牙也「ガ……グアアッ!!」ガブッ

 箒B「ぐっ!」

 

 するとなんと、牙也が箒Bに飛び掛かり、首筋に噛み付いた。そして首筋を食い千切らんとさらに噛む力を強めていく。

 

 セシリア「箒さん!?」

 箒B「だ、大丈夫だ……!牙也は、私が助ける……!」ギュッ

 シャルロット「だ、だけど……!」

 箒B「は、早く皆は逃げろ……!ここは、私が……!」

 箒A「馬鹿を言うな!お前を置いてきぼりにして逃げられる訳がないだろう!」

 箒B「私の事は、良いから……!牙也、落ち着け……!私はここだ……!篠ノ之箒はここにいるぞ……!」ギュッ

 牙也「グルル……!」

 

 未だに首筋に噛み付いている牙也を必死に抱き締め、なんとか落ち着かせようとする箒B。その間にも、牙也は蔦をあちこちに伸ばして天井や壁を破壊したり、箒Bの腕の中でジタバタもがいたり、抵抗の意志を見せていた。

 

 牙也「フーッ、フーッ……!」

 箒B「大丈夫、大丈夫だ……!お前は一人じゃない、私が、皆がいる……!だから落ち着いてくれ……!」

 

 尚も噛み付く牙也を、首筋の痛みを堪えながら必死に抱き締め、落ち着かせようとする箒B。しかし、牙也は一向に落ち着く気配を見せない。噛む力はさらに強くなり、箒Bの首筋からの出血はさらに増えていく。

 

 カンナ「このままでは箒様が……箒様、そのまま抑えておいて下さい!」

 

 カンナは箒Bにそう言うと、何かを唱えて牙也にその右手を向けた。するとカンナの手から淡い光が溢れてきて、未だ箒Bに噛み付く牙也を包み込んでいく。やがて光が完全に牙也を包み込むと、牙也から伸びていた蔦は引っ込み、牙也本人は元の人間としての姿に戻り、魂が抜けたかのように箒Bからずり落ちた。そのままスウスウと穏やかな寝息を立て始める。

 

 カンナ「はあ、はあ……半分賭けでしたが、なんとか上手くいきました……良かった」

 箒B「落ち着いた、か……良かっ、た……」ドサッ

 

 緊張の糸が切れたのか、箒Bは膝から崩れ落ちるように倒れ、そのまま気を失った。

 

 春十「お、おい!しっかりしろ!」ユサユサ

 千冬「春十、体を揺するな!首からの出血が酷い、早く止血しなければ手遅れに……!」

 カンナ「お任せ下さい!」

 

 出血の酷い箒Bの首筋にカンナが手を当て、その傷を癒していく。やがて傷は完全に塞がった。

 

 カンナ「こ、これで大丈夫、です……すみません、治癒能力の使い過ぎで疲れました……」バタッ

 鈴「ちょ、ちょっと!?」

 

 倒れ込むカンナをなんとか鈴が受け止めた。そしてそのまま別のベッドに二人を寝かせた。

 

 春十「なんとか治まったけど……医務室が……」

 ラウラ「ボロボロではないか……」

 セシリア「一体このお方は何者なのでしょうか……?先ほどの暴れようと言い、この検査結果と言い……」

 千冬「聞きたい事は山ほどあるが、取り敢えず学園長に報告をせねば。山田先生、学園長にこの事を報告しに行ってくれ。お前達は一旦部屋に戻り待機だ」

 『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 結局この騒ぎもあってその後の授業は休みになり、生徒達は食事以外では各部屋で待機を命じられた。今回の騒ぎの報告を受けた学園長は、ひとまず牙也を地下独房に移して様子を見、先に目を覚ました箒Bとカンナから詳しい事情を別室で聞くように千冬に命令した。箒Bとカンナは自分達が話せる範囲で自分達の事情を千冬達に話した。

 

 束「平行世界の住人……なるほどね、それで箒ちゃんが二人もいるんだ」ギュムーッ

 箒A「姉さん、嬉しいのは分かるけど……苦しい」

 箒B「こっちの姉さんもこんな感じなのか」

 束「あー、箒ちゃんのおっぱいが~」ムニムニ

 

 ゴンッ!

 

 箒A・B『殴りますよ?』

 束「殴ってから言わないでよ!」

 セシリア「息ぴったり……」

 鈴「同一人物だから当たり前でしょ」

 カンナ「コホン……と、とにかく私達は、様々な世界を旅する旅人のようなものです」

 真耶「そうでしたか……ところで、お連れのあの男の子は一体……?」

 カンナ「それにつきましては伏せさせていただきます……私達の世界の問題ですので。ですが、牙也様が化物かと問われれば、それには半分yesとお答えしましょう」

 真耶「そうですか……織斑先生、この方達はどうしましょうか?」

 千冬「取り敢えず、学園長の指示を仰ごう。話はそれからだ」

 

 

 

 

 結局その後、箒Bとカンナは敵意なしと学園長に判断され、ひとまず寮の空き部屋でしばらく暮らす事になったが、牙也は今回の騒ぎもあって危険性ありと判断され、未だ眠った状態のまま地下独房で暮らす事になった。

 

 

 

 

 

 こうしてひとまず騒ぎは収束ーー

 

 

 

 

 

 

 

 したかに見えたのだがーー。

 

 

 

 





 目を覚まさない牙也、その理由とはーー?



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コラボ6 飯テロ!(3)


 武神鎧武さんの作品『IS絶唱エグゼイド』にてコラボ実施中です。是非ともお読み下さい!




 

 暗い地下独房の廊下に、コツコツという小刻みな足音が響く。やがてその足音はある独房の前で止まった。そしてその人物は独房の扉の前に立つ。

 

 箒B「牙也……」

 

 独房の出入口付近から独房の中を覗き込んでいるのは箒Bだ。牛ールの襲撃から既に数日経ち、牙也は危険性を指摘され眠った状態のまま独房に入れられたのだが、あれから数日経った今も目覚める気配を見せない。箒Bはあれから毎日独房へ牙也の様子を見に来るのだが、牙也は目を覚ます事もなく、ただ無機質な部屋のベッドに寝かされ、栄養摂取の為一応の点滴を受けている。箒Bはその様子を独房の外からじっと見守る事しか出来なかった。

 

 箒B「また、置いてきぼりにするのか……?私を、皆を残して、逝ってしまうのか?」

 

 目を覚まさない牙也にそう問い掛ける箒B。しかし返答など返ってくる筈もない。箒Bの声は、暗い地下に寂しく響き渡るだけだ。

 

 箒B「……もう約束は破らないと言っただろう……?お願いだから、早く起きてくれ……私はお前の……牙也の声が聞きたいんだ」

 

 そう呟く箒Bの目から思わず涙が流れた。しかし返答はない。

 

 カンナ「こちらでしたか」

 箒B「……?ああ、カンナか」

 カンナ「やはりまだ目を覚ましになりませんか?」

 箒B「ああ……日頃の疲れがここに来て一気に襲ってきたのか、はたまたそれ以外の要因か……」

 カンナ「それは私にも分かりません……今はただ、牙也様が早くお目覚めになられる事を祈るしかありません」

 箒B「そうだな……」

 カンナ「それよりも箒様、お願いですからご飯はちゃんとお食べになって下さい。あれからほとんど食べておられないのでしょう?」

 箒B「ああ、分かっている……」

 カンナ「牙也様だけでなく箒様も倒れられたら……私はそれが心配でなりません」

 箒B「……迷惑をかけるな」

 カンナ「自覚されていらっしゃるのなら、どうか……」

 箒B「承知している、いつもすまないな」ナデナデ

 カンナ「はふぅ……箒様のナデナデは、牙也様とは違った安心感がありますねぇ……牙也様には早くお目覚めになっていただいて、またナデナデしてもらいたいです」

 箒B「それは私だってそうだ……が、倒れた原因が分からん事にはな」

 カンナ「はい。あの暴走が一体何を意味していたのかーー」

 

 

 グキュルルル~

 

 

 箒B「……」

 カンナ「……」

 

 暫しの沈黙。

 

 箒B「……先にご飯か?」

 カンナ「……妥当ですね」

 

 クスッと笑みを溢し、二人は食堂に向かうのだった。地下独房を出る際、箒Bは一瞬振り向いて牙也のいる独房を見つめながら言った。

 

 箒B「目を覚ましたら……美味しい料理を沢山食べさせてやるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「あら、箒。あいつはまだ起きないの?」

 

 二人が食堂に向かうと、ちょうどお昼の混雑時とバッティングしたのか大勢の生徒が食堂を利用しており、今日も食堂の外まで並んでいた。列の一番後ろに並んでいた鈴が、二人の姿を見つけて声をかける。

 

 箒B「まだだ。ダメージが大きかったのか、もしくはそもそも疲れが溜まってたのか、はたまたそれ以外の要因か……私には見当もつかん」

 カンナ「暫くこちらでお世話になりますね、この調子では。牙也様がお目覚めにならない限り、私達は次の世界に向かえませんので」

 鈴「あんたらも大変ね、あいつに振り回されて……あ、列が進んだわ、行きましょ」

 

 色々話している間に、三人は注文するスペースまでやって来た。

 

 箒B「さて、何にするか……しかし、メニューが凄い充実しているな……」

 カンナ「そうですね、それに聞いた事もない食材の名前がいくつもあります。この世界は一体何処の世界と繋がっているのでしょうか……?」

 鈴「ま、そういう話は食べる時にしましょ。一夏、あたし酢豚定食ね!」

 一夏「はいよ!二人はどうする?」

 箒B「うーむ……ではこのバドミン豚しゃぶ定食を頼む」

 カンナ「それでは私は、剣サバの味噌煮定食を」

 一夏「はいよ!すぐに作るからちょっと待っててくれよ!」

 

 そう言って風のように消えた一夏。待つ事数分、

 

 一夏「お待たせしました!温かいうちに食べてくれよな!」

 

 三人がそれぞれ頼んだ物が運ばれてきた。三人は「ありがとう」と言ってその場を離れ、空いていた窓際の席に座り食べ始めた。

 

 箒B「……旨い!この豚しゃぶ、脂がサラリと溶けていくがくどさが微塵もなく……赤身の部分もしっかりとした味で……!そして付け合わせのキャベツ……シャキシャキした歯応えにこれまたしっかりした甘さがある……!」

 カンナ「サバ味噌も美味しいです!噛んだだけで身がホロリと柔らかくほどけて、そこにこの味噌のこってりとした旨味……たまりません!」

 鈴「でしょ?ここの食堂は外れが無いのよ、全くね」

 箒B「ここの生徒たちが羨ましいな……いつもこんな美味しい料理を食べているのだろう」

 カンナ「是非とも学びたいですね、これらの料理を」

 鈴「止めときなさい、確実に体がぶっ壊れるわよ」

 カンナ「ぶ、ぶっ壊れる?」

 鈴「一夏はね、これだけの料理を常に一人で作ってんのよ、普通の人間なら筋肉痛じゃすまないわ。それに、ここで使われる食材は全部異世界の物よ、取りに行くだけでも命懸けだって一夏が言ってたわ」

 箒B「そんな過酷な世界の食材を使っているのか……聞いただけで身震いがするな」

 鈴「普通の料理を学びたいなら他を当たりなさいよ。まああたしは中華くらいなら教えてあげるわよ」

 箒B「そうさせてもらう」

 カンナ「ふふ……牙也様に食べさせる手料理のレパートリーがまた増えますね、ほうk――むぐっ!?」

 箒B「ちょ、それを言うな!」

 鈴「あら、今聞き捨てならない言葉が聞こえたけど……」

 箒B「気のせいだ」

 鈴「いや確かに聞こえたわよ?」

 箒B「気のせいだ」

 鈴「いやでも」

 箒B「気 の せ い だ」ギロッ

 鈴「……まあそういう事にしておくわ」

 

 納得いかないながらも、鈴はそれ以上踏み込むのを止め、食事に集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「う……」パチッ

 

 牙也が目を覚ました時最初に見えたのは、見た事のある天井だった。天井が透明で丸っこく、周りには何やら客席のようなものも見える。鉛のように重たく感じる体を無理矢理動かして体を起こすと、

 

 牙也「ここ……学園のアリーナ?なんだってこんな所に……?」

 ??「私が呼んだのだよ」

 

 聞いた事のある声に振り向くと、黒の上下スーツを着た男が立っていた。

 

 牙也「狗道のおっさん……ここは何処なんだ?」

 狗道「久しぶりだな、牙也。ここは分かりやすく言うなら、私が作り出した特殊な空間に少し手を加えたものだ。学園のアリーナを模しているのは、あそこがちょうど良い具合に広かったからだ」

 牙也「ご説明どうも。それでここに俺を呼び込んで、何をしようってんだ?」

 狗道「何をする、か……それはお前が一番理解しているのではないか?」

 牙也「……?」

 狗道「先程、お前には何が起こった?どんな出来事があった?」

 

 そう聞かれて、牙也は自分に何が起こったのか思い返す。

 

 牙也「……そうか、俺は……」

 狗道「思い出したか。あれはお前の日頃の疲れが蓄積した事で、オーバーロードの力を抑えきれなくなった為に起こった事だ。全く、大事な事を全て自分一人で抱え込みおって……シュラの遺言を達成する前にお前が倒れては意味がないではないか」

 牙也「……すまん」

 狗道「謝るのはあの二人にしろ。とにかく、今回お前をここに呼んだのは、ちょっとした試練をお前に課そうかと思ってな」

 牙也「試練?」

 狗道「私ともう一人対お前。所謂模擬戦のようなものだ。どちらかが全滅すれば終了。簡単なルールだ」

 牙也「なるほどな……良いぜ、やってやる。で、そのもう一人ってのは誰なんだ?」

 狗道「まもなく来るだろう、気長に待つが良い」

 

 狗道がそう言った時、アリーナの出入口付近に音もなくクラックが開いた。それはあの、牙也達が異世界へと向かう為に使うクラックとほぼ同じものだが、そこから闇は出てきていない。しかし代わりに誰かがクラックの中からヌッと現れた。それを見た時、牙也は目を見開いて驚いた。

 

 

 

 

 

 

 牙也「……シュラ……!?」

 

 

 

 

 

 消滅した筈のシュラが、そこにいた。

 

 

 





 牙也の前に現れた、消滅した筈のシュラーー狗道の狙いは一体ーー?



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コラボ6 飯テロ!(4)


 始まり始まり~


 

 昼食を食べ終わった箒Bとカンナは、授業がある鈴と一旦別れ、校舎の屋上に足を踏み入れた。空は良く晴れ、心地よい風が屋上に吹く。

 

 箒B「気持ちいいな……ここは良い世界だな、あんな怪物が出てこなければ」

 カンナ「聞いたところによると、あの怪物はこの世界の一夏様が飛ばされた世界の怪物なのだとか。あのような怪物が沢山……怖いですね」

 箒B「料理には興味があるが、その為に毎回怪物を相手するのはな……普通って良いな」クスッ

 カンナ「そうですね」

 

 カンナはそう返事して箒Bの顔をじっと覗き込む。

 

 箒B「……なんだ?私の顔に何か付いているのか?」

 カンナ「いえ……笑っておられますね、箒様」

 箒B「……?」

 カンナ「牙也様が倒れられてから、箒様はあまり笑わなくなりました。それほどに牙也様の容態を心配なされていた箒様が、今は笑っておられます。私は、それが嬉しく感じます」

 箒B「そうか……笑っていたか、私は。心に余裕でも出来たのか、それとも……牙也を信じているからこそか」

 カンナ「私は両方だと思います。箒様の牙也様への熱き思いは、私も良く存じておりますから」ニコッ

 箒B「それを言うな、恥ずかしい////」カアァ

 カンナ「ふふ……からかいが過ぎましたね、申し訳ありません」クスクス

 箒B「と、とにかく牙也が目覚めるまでは、私達が頑張らねばな。カンナ、よろしく頼むぞ」

 カンナ「お任せ下さい!」エヘン

 

 

 

 

 箒A「異世界の私の様子が?」

 鈴「ええ。あいつの話が出てくると決まって変な反応をするのよ。何か怪しいと思わない?」

 

 授業の合間の休み時間、春十達いつものメンバーは春十の机の周りに集まって話をしていた。話の内容は箒Bの事であった。

 

 ラウラ「変な反応?」

 鈴「何かね、あいつの名前が出てくるとなんかアセアセしてるのよ。さっき昼食の時も話したけど、そんな感じだったわ」

 春十「ふ~ん……」

 鈴「いやふ~んって……春十は興味ないの?」

 春十「いや……なんとなくなんだけど、その事には触れちゃいけないような気がしてな」

 シャルロット「なんで?」

 春十「分からない。でも、なんとなくそんな感じがして」

 セシリア「私、なんとなくですが分かりますわ。それは恐らく、『恋』かと」

 箒A「こ、恋だと!?まさかあの化物に、異世界の私が恋を……!?」

 鈴「あ、そう言われれば……あいつの名前が出た時、少し顔を赤らめてたわね」

 ラウラ「益々怪しいな。本人に聞いてみるか?」

 箒A「聞くどころか、止めた方が良いのではないか!?」

 鈴「ま、まあまあ落ち着きなさいよ。まだそうと決まった訳じゃ……」

 箒B「何の話だ?」

 

 そこへ箒Bとカンナがやって来た。二人目の箒の登場に途端に教室は騒がしくなる。

 

 鈴「あ、いや……ちょっとね」

 セシリア「何かご用でしょうか?」

 箒B「いやな、さっき山田先生に『この後の実技授業にオブザーバーで参加してみませんか?』と言われてな。私も最近ISを動かしてないし、ちょうど良い機会だと思ってな」

 ラウラ「オブザーバー参加か」

 春十「紅椿が二つか、楽しみだな~」

 鈴「腕が鳴るわ!」

 箒B「あ、いや、あの……実は私、専用機は持っていなくて……」

 箒A「え?お、お前紅椿を持っていないのか?」

 箒B「ああ、専用機以上の物を今私は持っているからな……これ以上は過剰な力になる」

 鈴「どんな力よ?見てみたいわ」

 箒B「それは勘弁してくれ、これはあまり見せびらかす物じゃないんだ。それに……場合によっては、あれは最新型ーー第三世代ISを凌駕する……いや、凌駕するだけではすまんな」

 ラウラ「な……そんな力を所持しているのか!?」

 箒B「ああ、だからこそ『はい、分かりました』と簡単に見せびらかす物ではないんだ。分かってくれ」

 セシリア「た、確かに……そんなものが出てきたら大混乱は避けられませんわ」

 鈴「ごめんね、変な事聞いちゃって」

 箒B「知らなかった事だ、別に良いさ。あ、忘れるところだった。私と鈴に頼みたい事があってな……」

 

 そう言われた箒Aと鈴が首を傾げると、

 

 箒B「その……スーツを貸してくれないか?流石に制服でやるのはな」

 箒A「なんだ、そんな事か。構わんぞ」

 鈴「箒はともかくとして、なんで私なの?」

 箒B「カンナも参加するからだ。背格好が大体鈴とラウラが同じくらいなんだが、カンナの色の好みで鈴のスーツを借りる事に決めた」

 ラウラ「なあ……私嫌われているのか?」

 箒B「いや、ただ単純にカンナが黒系が嫌いなだけだ」

 シャルロット「皆、そろそろ行かなきゃ。織斑先生に怒られるよ」

 

 シャルロットのその言葉に、皆は慌てて準備をしてアリーナに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也は驚いていた。突如目の前に現れたのが、ゼロに敗れて消滅自身に吸収された筈のオーバーロード・シュラだったからである。

 

 牙也「な、なんでシュラが……!?あの時ゼロに負けて、消滅した筈じゃ……」

 狗道「確かに消滅したさ。今お前の目の前に立っているのは、お前の記憶の中に残ったシュラの記憶を具現化したものだ」

 シュラ「……」

 牙也(くっ、相変わらずの圧だな……ハハッ、そんだけ俺の記憶の中のシュラはデカイ存在だったんだな)

 

 シュラの記憶の塊を目の前にして、牙也は笑みを浮かべながらも冷や汗をかいていた。久し振りにシュラと相対し、この圧を全身で受け止めているのだから尚更だ。しかし同時に、牙也は違和感を覚えていた。

 

 牙也(しっかし妙だな……体がいつもより重く感じる。なんだろ、重いけど何かが俺の中から抜けてる感覚だな)

 狗道「ほら、さっさと始めるぞ。時間がない」

 

 そう言うと、狗道はゲネシスコアを付けた戦極ドライバーを腰に装着し、二つのロックシードを解錠した。

 

 狗道「変身」

 

 《ブラッドオレンジ》

 

 《ザクロ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハッ!ブラッドザクロアームズ!狂い咲き・Sacrifice!ハッ!ブラッドオレンジアームズ!邪ノ道・on・Stage!》

 

 仮面ライダーセイヴァーに変身した狗道を見て、記憶のシュラもゲネシスドライバーを腰に装着して、エナジーロックシードを解錠した。

 

 《イーヴィルエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《血眼!イーヴィルエナジーアームズ!Blood Eyes!Blood Eyes!D-D-D-Deadly Souls!》

 

 シュラは仮面ライダー赤零に変身して、ソニックアローを牙也に向ける。

 

 牙也「久々だな、シュラとの殺り合いは……気を抜いたら死。いつもそうだった」

 狗道「そのお陰で今はそれほどに強くなっているのだろう」

 牙也「まだまだだ。まだ俺は弱い。それに……俺は、一度もシュラに殺り合いで勝った試しがない」

 狗道「ほう?あの世界の命運を握らせる程だから、相当の実力かと思っていたが」

 牙也「周りに弱いって思われるくらいがちょうど良いんだよ。そうしたら、もっと強くなれるからな」

 狗道「ふっ……やはりお前は面白いな。それでこそシュラが残した力だ」

 牙也「そりゃどうも。さてと……始めるか」

 

 《ブルーベリー》

 

 《ロック・オン》

 

 牙也「変身」

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell・Stage!》

 

 牙也も仮面ライダー零に変身し、紫炎を構えた。

 

 牙也「たとえ幻であっても、絶対に気は抜かない。今の俺の全力で……あんたらを倒しに行く!」

 

 

 





 次回もお楽しみに。


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コラボ6 飯テロ!(5)


 一週間空いちゃいました、申し訳ないです……久々だから上手く書けてるか心配……とにかく頑張ります。




 

 千冬「よし、全員揃っtーーああビックリした、今篠ノ之は二人いたんだった」

 

 開口一番、千冬のそんな言葉から始まった実技授業。この日は一組のみの授業であった。

 

 春十「ちふーー織斑先生、今日は何するんですか?」

 千冬「ふむ、今日は軽い稼働トレーニングと行こうか。各自グループを作って、グループ毎に打鉄かラファールか選んでトレーニングを開始しろ。模擬戦をしたい者は私に申告した上で、なるべく他のグループの邪魔にならないように上空で行え。なおその際は接触の危険の為、訓練は中断するように」

 『はい!』

 

 鈴「ねぇ、箒。ちょっと私と模擬戦しない?」

 箒B「え、私とか?多分相手にもならんと思うぞ」

 鈴「それでもいいわよ。あんたの実力を見てみたいのよ」

 箒B「私の実力か……まあ別に構わんが、あまり過度な期待はしないでくれよ?」

 鈴「はいはい。織斑先生、箒と模擬戦したいんですけど」

 千冬「どっちの篠ノ之だ?」

 鈴「異世界出身の方です」

 千冬「分かった、時間は十五分で先に敵のSEを空にした方の勝ち、時間切れの場合はSEが多く残ってた方の勝ちで行くぞ」

 鈴「はい!よーし、頑張るわよ!」

 箒A「異世界の私よ、無理するなよ?」

 箒B「問題ない、今の全力をぶつけてくるさ」

 

 そう言って箒Bは打鉄を纏って上空に飛翔、それを追い掛けるように鈴が甲龍を纏って飛翔した。早速始まろうとしている模擬戦に、全員の目が向く。

 

 千冬「では、始め!」

 

 千冬の合図とともに、二人はそれぞれの得物を取り出して突進した。

 

 鈴「まずは小手調べよ!」

 

 鈴は青竜刀を二本持って、連続で振り回して攻撃する。それを箒Bは打鉄内蔵の刀・葵で防いでいく。叩き付けるような攻撃と、突き攻撃。二つの手法を駆使して箒Bに襲い掛かる鈴だったが、その猛攻を箒Bは涼しい顔で防ぐ。

 

 鈴「なかなかやるじゃない!楽しめそうだわ!」

 箒B「鈴こそだいぶ重たい一撃を食らわせてくるな、手が痺れるぞ」

 鈴「褒め言葉ありがと!それじゃ、一気に行くわよ!」

 

 一旦距離を置いた鈴は、青竜刀を繋ぎ合わせて一本にした後、また一気に接近した。その際青竜刀を体の左側で大きく回転させながら突っ込んでいく。

 

 鈴「せいやぁぁぁぁぁ!」チラッ

 箒B「!」

 

 そして青竜刀を箒Bに向かって勢い良く振り下ろしたーー

 

 

 

 

 

 

 

 と、箒Bの姿が鈴の前から消えた。当てる対象を失った青竜刀の攻撃はむなしく空を斬る。

 

 鈴「あ、あれ?箒は何処にーーきゃっ!?」

 

 箒Bを探して左右を見渡していた時、後ろに衝撃が走る。驚いて後ろを向くと、葵を構えた箒Bがそこにいた。

 

 鈴「いつの間に!?」

 

 驚く鈴はさて置き、箒Bはアサルトライフルを取り出して狙撃してきた。セシリアの射撃のように精密ではないが、狙い済ました射撃は鈴のISの肩部などを的確に撃ち抜く。大してSEは削れなかったものの、龍砲が一つ使えなくなった。

 

 鈴「くっ、箒の事だから剣使っての近距離戦で来るかと思ったら!」

 箒B「剣だけでは勝てない。そう気づいたからな」

 

 淡々と述べて、箒Bはアサルトライフルをしまうと今度は葵をもう一本取り出し、二刀流で鈴に攻撃を開始した。鈴は青竜刀を再び二本に分けてそれを迎撃する。暫くの間、それぞれの武器がぶつかり合う音だけが響き渡る程にアリーナは静かであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 春十「凄ぇ……」

 

 地上からその様子を見ていた春十達は、箒Bの実力に圧倒されていた。本人は自身の実力について「あまり期待するな」とは言っていたが、実際の実力は春十や箒A、それにセシリア達代表候補生が舌を巻く程であった。他の生徒も白熱する模擬戦に目を奪われている。

 

 ラウラ「いや凄いな……量産機だからスペック云々で大きく遅れをとると見ていたが、それを微塵も感じさせない動きだ。武器の活用に素早い取替、果ては高等テクニックまで……」

 セシリア「脱帽、としか言えませんわ。あれほどの実力なら、代表の座まで登り詰めてもおかしくありませんわね」

 シャルロット「それにあの思い切った動きはびっくりしたね。まさかスラスターを自分の意志で止めて攻撃を回避するなんてさ……一連の動きに無駄が無いよ」

 箒A「はじめ見た時は不調かと思ったぞ……ある意味賭けだな、あの回避方法は。あんな事、私には到底出来ん」

 春十「なあ皆……あの箒に勝てると思うか?俺は多分大丈夫だと思うけど」

 

 春十の問い掛けに、四人はこう答えた。

 

 セシリア「あれほどの実力を見て、勝てるなどとはっきり言える訳がありませんわ。ただ私の場合は、上手く距離を取って立ち回れば恐らくは……」

 シャルロット「僕は自信無いや。僕の高速切替も、彼女なら強引に突破してきそうだし」

 ラウラ「AICが決まれば恐らく、だな」

 箒A「私は無理だな、同じ私でもあれを見せられては流石に勝てるとは言い切れん」

 春十「だよなぁ……」

 

 春十が頷きながら空中を見上げると、ちょうど箒Bが龍砲を二本の葵で受け止めているところだった。しかし龍砲のその圧力には葵は耐えきれず、一本折れてしまった。やむなく箒Bはアサルトライフルを取り出して狙撃するが、それもすぐに弾切れを起こした。

 

 箒B「ちっ、もう弾切れか!」

 鈴「あら、もう終わり?それじゃ、一気に決めさせてもらうわよ!」

 

 それを見た鈴は青竜刀を構え、龍砲から放った圧力弾を盾にして突撃した。箒Bはそれを見て、左肩の盾で圧力弾をガードした。しかし完全にはガードしきれなかったようで、SEがやや多めに削られた。そこへ青竜刀を構えた鈴が突っ込んでくる。

 

 箒B「くっ……やはりブランクが堪えるな……!」

 

 その後もなんとか巻き返そうと奮闘した箒Bであったが、それもむなしく試合終了のブザーが鳴った。

 

 千冬「試合終了だ。双方SEが残ったが、残りSEの差で凰の勝ちだ」

 鈴「ふっふーん、私の勝ちね!」

 

 鈴が得意げな笑みを見せながら着地し、それを追うように箒Bも着地する。

 

 箒A「しかしよく善戦していたな、私なら武器が使えなくなった時点で降参していたかもな」

 シャルロット「そう言えばさ、さっきの突然目の前から消えるやつ、いつ覚えたの?」

 箒B「あれだ、私達の世界で模擬戦をしていた時になんとなくやってみたらできたんだ。フェイントとしても使えるから、あれ以来よく使ってる」

 春十「でもさ、あの時は普通に後方回避すれば良かったんじゃないのか?」

 箒B「いや、あの時鈴は恐らく攻撃後に間髪入れずに龍砲を放ってくると私は見たんだ。それなら後方回避よりもあの方法が都合が良いんだ、龍砲の死角に入り込めるからな」

 鈴「げ、なんで龍砲を撃ってくるって分かったの?」

 箒B「一瞬だが龍砲をチラ見しているのが分かったからな。ただもしあれを見切られていたら、私は集中砲火を受けていただろうな。上方向への攻撃は苦手だったから、助かったぞ」

 鈴「ぐぐぐ……なんか負けた気分だわ」

 春十「皆まだまだ強くなれるって事だな、色々学べたぜ」

 箒B「ありがとう、鈴。久し振りに動いたが楽しかったぞ」

 鈴「いつでも挑戦待ってるわよ!」

 箒B「さてと、私はカンナの様子でも見に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「せいっ!」ガキンッ

 狗道「フッ!」ガキンッ

 

 牙也が持つ紫炎の斬撃が繰り出されると、狗道はそれをセイヴァーアローで防ぎ、ブラッド大橙丸を振るう。それを牙也が回し蹴りで弾くと、その足を狙ってシュラがソニックアローの斬撃を繰り出した。狙われた足を素早く引っ込めて牙也は再び蹴りをシュラに繰り出すが、それはシュラに掴まれ防がれた。すると牙也は掴まれた足を軸にして飛び後ろ回し蹴りを繰り出し、それをシュラが足を離してバックステップで回避すると回し蹴りの勢いそのままに着地。そこへ狗道がブラッド大橙丸の斬撃を食らわせに掛かる。

 

 牙也「見えてるぜっ!」

 

 紫炎でそれを払い、

 

 《ヘビイチゴ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!ヘビイチゴアームズ!可憐・The・猛毒!》

 

 素早くアームズをヘビイチゴに交換した。イチゴ分銅を振り回して狗道を牽制し、シュラに対してはスネークサリガマで攻撃を弾く。

 

 狗道「なるほど、少しは強くなっているみたいだな。だが……忘れてはいないか?」

 牙也「あ?何をーーあ、やべ」

 

 牙也が気づいた時には既に遅く、シュラが蔦を伸ばして牙也をがんじがらめに拘束してしまった。ついでにスネークサリガマも蔦を操って取り上げる。

 

 牙也「しまった……詰めが甘かったな」

 狗道「さて、ここからどう巻き返す?」

 牙也「どうしたもんか……蔦は使えないし、バグヴァイザーもないしな……」

 狗道「なんだ、気づいていたのか」

 牙也「自分の状況に気づけない程馬鹿じゃないって……あでででで!!」ミシミシミシ

 

 呑気に話しているのが気に入らなかったのか、シュラは蔦で牙也を締め上げた。

 

 牙也「いってぇなぁ……!そっちが俺を締め上げるなら、シュラ達は押し潰されろ!」

 

 《ジャックフルーツ》

 

 蔦に締め上げられて体が動かせない中、蔦の中で手をうねらせるように動かしてなんとか腰に下げたロックシードを解錠すると、巨大なクラックが開いて巨大なジャックフルーツが落ちてきた。ジャックフルーツはそのままシュラと狗道に向かって転がり出す。

 

 狗道「ちっ!」バッ

 シュラ「……!」バッ

 

 二人が回避を始めた事で拘束から逃れた牙也は、

 

 《ロック・オン》

 

 《ジャックフルーツアームズ!巨・影・剛・球!》

 

 《ヨロイモード》

 

 戻ってきたアームズに入ってジャックフルーツアームズにフォームチェンジした。

 

 牙也「さあ……こっからが俺のステージだ!」

 

 

 

 





 次回もお楽しみに。



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コラボ6 飯テロ!(6)


 今回は早く書けました。




 

 牙也「うらあっ!!」

 

 ジャックフルーツアームズ・ヨロイモードとなった牙也は、王子鎚を振りかぶって叩き付けた。その一撃は大地を揺らし、アリーナの地面を砕く。それを狗道とシュラが回避したのを見ると、今度は王子鎚を横凪ぎに振るって攻撃した。しかしそれも回避され、攻撃はアリーナの壁に大きなヒビを入れる。

 

 狗道「大きければ良い訳ではないぞ!」

 

 狗道がセイヴァーアローから矢を数本放って攻撃するが、ジャックフルーツの装甲には無力で次々弾かれていく。ならばとシュラは蔦を目一杯伸ばして、牙也をアームズごと拘束に掛かる。牙也は王子鎚を振るって蔦を払い退けていくが、巨体故の動きの鈍さが災いして呆気なく蔦が両手足に絡まり、アリーナの壁に叩き付けられる形で拘束されてしまった。

 

 牙也「ぐふっ!」

 

 思い切り背中を打ち、牙也は一瞬息が詰まる。そんな牙也に息継ぎをさせる暇を与えないかのように、シュラと狗道がそれぞれソニックアローとセイヴァーアローから矢を連射する。アームズに次々と矢が突き刺さり、ヒビを入れていく。さらに追い討ちでソニックアローとセイヴァーアローを振るって攻撃した。蔦で拘束されている牙也はアームズのお陰でダメージこそ少ないものの、一方的な攻撃に対処出来ずにいる。

 

 狗道「行くぞ!」

 

 《ロック・オン》

 

 狗道はセイヴァーアローにザクロロックシードをロック、シュラはソニックアローにイーヴィルエナジーロックシードをロックして、牙也に向けて構えた。

 

 《ザクロチャージ》

 

 《イーヴィルエナジー》

 

 二本の赤黒い矢が放たれようとした時、

 

 牙也「……動け、俺の体……!動けってんだよッ!」

 

 なんと牙也は今三人がいる空間の壁ごと蔦を引きちぎり、蔦による拘束を解いてしまった。

 

 《ジャックフルーツスパーキング!》

 

 さらにカッティングブレードでロックシードを三回切り、王子鎚に膨大なエネルギーを収束させた。そして、

 

 牙也「だらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 思い切り地面に叩き付けた。それによって王子鎚のエネルギーが周囲に溢れだし、津波のように二人に襲い掛かった。

 

 狗道「また無茶苦茶な事を……!」

 

 《ザクロオーレ!ブラッドオレンジオーレ!》

 

 《イーヴィルエナジースパーキング!》

 

 ソニックアローとセイヴァーアローから矢を放った後、カッティングブレードでロックシードを二回切り、シーボルコンプレッサーでエナジーロックシードを二回搾り、それぞれの武器をエネルギーでコーティングする。そして迫ってきたエネルギーの津波をそれで受け止めるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 狗道「ぐおおおおっ!?」

 シュラ「……!?」

 

 が、それさえも押し退けるかのようにエネルギーの津波は放たれた矢ごと二人を呑み込んでいった。エネルギーの津波が消えると、そこには変身解除された狗道とシュラが倒れていた。牙也は「しまった」というような顔をして、慌てて変身解除して二人に走り寄った。

 

 牙也「悪い、やり過ぎた!すぐに治療するから……!」

 狗道「いや、構わん。これくらいならすぐに治るさ。粗削りとは言え私達を倒したその実力は認めるとしよう、合格だ」

 牙也「なんか釈然としないな……たまたまなのに」

 狗道「そう言うな。ところで話は変わるが……お前の右目を見せてくれ」

 牙也「右目?突然何だよ?」

 狗道「良いから見せろ」

 牙也「分かったよ」

 

 牙也は渋々右目の眼帯を外して狗道に見せた。牙也の右目は、左目は普通なのに対し全体的に黒くくすんだ目になっていた。瞳の部分はやや赤寄りの紫であり、明らかに人間のそれではなくなっていた。

 

 狗道「ふむ……もう良いぞ」

 

 ある程度目を確認した狗道がそう言うと、牙也は眼帯を戻す。

 

 牙也「何か分かるのか?」

 狗道「ああ。お前、怪物化が思ったより早く進んでいるみたいだな、多分一時的だろうが」

 牙也「そうなのか?最近妙に体の疲れが早く回復するなと思ってたら……」

 狗道「何か異変があったらまた私の所に来い、少しくらいなら何とかしてやる」

 牙也「分かった、ありがとう」

 狗道「さてと、そろそろ時間切れだ。そこの出入口から外に出ろ、意識を取り戻す」

 牙也「分かったよ。ああそうだおっさん、あの暴走ってさ、やっぱり怪物化が原因なのか?」

 狗道「そう考えておけ。恐らく今後も定期的に起こるだろう、体の不調に敏感になれ」

 牙也「了解」

 

 そう言うと牙也はアリーナの出入口から外に出た。それを見つめながら、狗道はシュラに話し掛けた。

 

 狗道「なあ、シュラよ。牙也の事もそうだが……あの者の事、何か知っているのではないか?」

 シュラ「……あの者とは?」

 

 すると今まで一言も喋らなかったシュラがようやく口を開いた。

 

 狗道「惚けるな、篠ノ之箒の事だ」

 シュラ「……ヨモツヘグリか。あれは我としても予想外だった」

 狗道「予想外?」

 シュラ「確かにお前の察しの通り、マスカットロックシードはヨモツヘグリロックシードを変質させて作った『擬似ロックシード』だ。しかしまさか、元のヨモツヘグリに戻ってしまうとは思ってもみなかった。しかも、篠ノ之の体を侵食し始めるなどと……」

 狗道「どうするつもりだ?このままでは……」

 シュラ「消滅した我では、最早どうにもならん。賭けるしかあるまい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也が生来持つ、『我ではない別の、牙也自身のオーバーロードの力』に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒B「本音、カンナの様子はどうだ?」

 

 模擬戦を終えた箒Bがカンナに指導している本音のグループに合流すると、

 

 本音「やほ~。カンナちゃんやっぱりまだ怖いみたい」

 箒B「そうか……ちょっと私に指導させてくれないか?私がいれば、カンナも多少は落ち着いてやれるだろう」

 本音「ほ~い」

 

 箒Bがカンナに近寄ると、

 

 カンナ「箒様~……」

 

 打鉄を纏ったカンナが涙目になりながらプルプルと震えていた。両手を静寐に握ってもらって前に倒れないように支えられている状態で、手を離せばそのまま倒れてしまいそうな感じだ。

 

 箒B「やっぱり怖いか」

 カンナ「目線が突然変わりましたし……それにコケそうでコケそうで……」

 箒B「大丈夫だ、私がいる。さ、私の手をギュッと握れ」

 カンナ「は、はい~……」

 

 カンナはプルプル震えながら、握ってもらう手を静寐から箒Bにシフトした。

 

 箒B「さあ、まずは一歩ずつ歩いてみよう。せーの、一、二、一、二」

 カンナ「一、二、一、二……」

 清香「カンナちゃん、頑張って!」

 

 ズリズリと多少摺り足になってはいるが、手を持ってもらっている状態なら普通に歩けるようだ。

 

 本音「お~、ちゃんと歩けてる~!それじゃどんどん行ってみよ~!」

 カンナ「え?ま、まさかもう手をーー」ズリズリ

 箒B「カンナ、私はもう手を離しているぞ」

 カンナ「ふえ?」

 

 見ると、箒Bに握られていた手はいつの間にか離されており、箒Bはカンナから少し離れた場所に立っていた。

 

 カンナ「ふええええ!?ほ、箒様~!手を、手を~!」

 静寐「お、落ち着いて落ち着いて!落ち着いて篠ノ之さんの所まで歩いてみて下さい!」

 カンナ「と、突然そんなーーキャッ!?」ズデッ

 

 突然の事でパニックになったカンナはバランスを崩し、打鉄を纏った状態で後ろに転んでしまった。その後千冬達の助けを得てなんとか立ち上がり、再び歩行練習をした結果、取り敢えず歩行は問題なくできるようになった。しかし、

 

 カンナ「うう……申し訳ありません……」ボロッ

 春十「大丈夫だって。俺も最初はカンナちゃんと同じような感じだったしさ」

 

 いざ飛行練習を始めてみると、これがなかなか難しい。必死になって飛ぼうとしたカンナであったが、スラスターの操作がうまく出来ずアリーナの壁に激突したり、上手く飛んでいてもその途中でスラスターが止まって墜落したりと散々であった。

 

 カンナ「うう……早く上手くなりたいです」

 箒A「そう焦るな。皆が皆すぐに乗りこなせた訳じゃない」

 鈴「そうよ、初心者なんだからそんなもんよ。落ち着いて気楽に行けば良いのよ」

 ラウラ「まともに教えられていないお前達が言うと何故しっくりくるのだろうか……?」

 セシリア「教え方が大雑把だからでは?」

 箒A・鈴『何だと(ですって)!?』ウガー

 箒B「と言って、セシリアとラウラは用語が多くて細かすぎだ。カンナの頭がショートしていたぞ」

 セ・ラ『ぐっ!?』

 カンナ「デュノア様~、また教えて下さい……」

 シャルロット「えっとね……」

 

 なかなか飛べないカンナに丁寧に教授するシャルロット。その姿がなかなか様になっているのは気のせいだろうか。

 

 春十「初心者への指導はやっぱりシャルが一番だな」

 四人『ぐぬぬ……!』

 

 四人が悔しそうにする間も、カンナはシャルロットを始めとした生徒達に指導を受けていた。そして指導を受け続けること数十分ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナ「と……飛べた……!飛べました!!」

 

 『やったーーーー!!』

 

 

 

 

 遂にカンナが上手く飛べるようになった。あれほどプルプル震えながら飛んでいたカンナは、全員からの指導によって今では宙返りまでできる程に上手くなった。教えていた生徒達も一緒になって大喜び。

 

 箒B「教え続けた甲斐があったな。ありがとう、皆」

 春十「これくらいどうって事ねぇよ!」

 セシリア「カンナちゃんは凄いですわね、要領が良いというか、物覚えが良いというか」

 シャルロット「僕も少しは力になれたかな?」

 ラウラ「今回はデュノアが一番力になれてたな」

 箒A「せっかく飛べるようになったのだ、私達も交代で一緒に飛んでみるか?」

 鈴「良いじゃない良いじゃない!始めての空中散歩、大いに楽しんでもらわなきゃ!」

 カンナ「皆さん……ありがとうございます!」

 箒B「これは楽しめそうだ。さあ、残り時間も少ないから早くーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如轟音が鳴り響き、低い唸り声が聞こえた。その方向を全員が見ると、何やらゲートのようなものがそこに開くのが見える。そしてゲートの中から何かがその巨体を揺らすように現れた。そこに現れたのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インベスではない、何やら緑色の龍、だった。

 

 

 

 

 

 





 さて、こいつは一体……?



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コラボ6 飯テロ!(7)


 正直言って美食屋にはなりたくないわ。




 

 牙也「……んあ?」ムクッ

 

 牙也が目を覚ました時一番に見えたのは、暗い部屋に小さく灯りを灯している電球だった。体を起こして回りを見回すと、どうやら牢屋の中にいる事がすぐに分かった。ぼんやりとだが、鉄格子のようなものが見える。鉄パイプのベッドから這い出して、暗い牢屋の中を一先ず手探りする。そしてあらかた終えると、今度は自身が着ている服をゴソゴソし始めた。

 

 牙也「あれ、戦極ドライバーとロックシードがない。バグヴァイザーもだ。没収されたかな?」

 

 戦極ドライバーとロックシードが無くなっている事を確認し、牙也は辺りを見回す。自分以外誰もいないのか、他の牢屋は真っ暗であった。

 

 牙也「さーて、どうしたもんかな……?」

 ??「ありゃ、起きたんだね」

 

 その声に牢屋の外を見ると、白衣にウサミミ型のカチューシャを付けた女性がいた。

 

 牙也「この世界の束さんか」

 束「そのとーり!それにしても、本当に異世界の人間なんだね~君。この変なベルトとか錠前とか、束さんも見た事ないよ」

 

 そう言って束は懐から戦極ドライバーとロックシード、それにガシャコンバグヴァイザーを取り出した。

 

 牙也「あ、束さんが持ってたのか。解析でもしたの?」

 束「まぁね~。いや~、本当にオーバーテクノロジーの塊だね、これ。いっくんのいた異世界とはまた違うものなんだね」

 牙也「この世界の一夏が何処の世界に飛ばされたかは知りませんが、少なくとも束さんが思っている世界とは違うと思います」

 束「なるほどね~。てなわけで、これ頂d「駄目です」じゃあ技術だけd「駄目です」ケチ!」

 牙也「何とでも言って下さい。この技術を安易にばら蒔かれたら堪りませんよ」

 束「そんなに危険なの?」

 牙也「それ自体がとんでもないパワーを秘めてますから。それこそ、ISを凌駕する……いえ、最悪この世の兵器さえも凌駕するでしょうね」

 束「うそーん……なんか負けた気分……」

 牙也「だからこそ、これはこの世界に置いておく訳にはいかないんです」

 

 そう言う牙也の手には、いつの間に束から回収したのか戦極ドライバーとロックシード、それにガシャコンバグヴァイザーが握られていた。

 

 束「え?ちょ、いつの間に盗ったの!?」

 牙也「盗ったって人聞きの悪い……元々俺のなんですよ、分かってますか?」

 束「あ、あはは……べ、別にそれを盗ーーパクって研究して使おうなんて思ってないからね、あはは」

 牙也「……束さん、後で地獄万力の刑に処しますからそのつもりで」

 束「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 束が土下座で謝っている時、

 

 牙也「!」ピクッ

 

 牙也は何かを察知した。

 

 牙也「束さん。今箒達は何処にいますか?」

 束「え、箒ちゃん達?えっと、確かこの時間は第二アリーナにーー」

 

 そうして土下座状態の束が顔を上げた時、既に牢屋の中に牙也の姿はなかった。

 

 束「え、嘘!?ど、何処に行っちゃったの!?」

 

 束は何が起こったのか分からず、慌てて地下牢を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『グオオオオオオオ!!』

 

 

 咆哮を上げる緑色の龍。それを見た千冬達の動きは素早かった。

 

 千冬「春十と凰、ボーデヴィッヒはあの龍を惹き付けろ!一夏が来るまで何とか耐えるんだ!」

 『はい!』

 千冬「オルコット、デュノア、篠ノ之は他の生徒達をここから脱出させろ!終わり次第春十達を救援だ!」

 『はい!』

 

 今まで散々事件が起こったIS学園。さすがに緊急時の対応は最早ザルではなく、その対応の早さも充分過ぎるものであった。千冬の素早い指示を受けて専用機持ちが素早く行動に移り、他の生徒達を次々とアリーナから脱出させていく。

 

 一夏「千冬姉!」

 千冬「一夏か!ちょうど呼ぼうとしていた所だ、あれが何なのか分かるか?」

 

 そこへ千冬が連絡するよりも早く、一夏が到着した。一夏は目の前で暴れる龍を見て目を見開いた。

 

 一夏「あれは……!確か『ドラゴーヤ』!」

 千冬「ドラゴーヤ?」

 一夏「ああ。あいつは捕獲レベルが100近いから、春十兄達だけじゃあいつの相手はキツいかもしれない。俺も加勢するぜ!千冬姉は引き続き皆の避難を!」

 千冬「分かった!」

 

 千冬が残りの生徒を避難させに行ったのを確認して、一夏は自身のIS『食欲悪魔(ブラッドディアボロス)』を展開し、愛用する二本の包丁を取り出した。名をそれぞれ『黒星』『白海』という。

 

 一夏「誰がお前をここに寄越したのかは知らねぇが……ドラゴーヤ、お前を調理してやる!」

 

 ドラゴーヤに向けて駆け出した。

 

 一夏「春十兄達、離れて!無限の料理術・高山分け!」

 

 一夏の声に反応して三人が素早くドラゴーヤから離れると、一夏が持つ二本の包丁から巨大な斬撃が放たれた。しかし危険を察知したのか、ドラゴーヤはその巨体を大きく捻らせて斬撃を華麗に回避した。そして尻尾を振るって春十達を叩き落とそうとする。大振りな尻尾攻撃を掻い潜るようにして回避する三人。

 

 一夏「ドラゴーヤは確か、体の何処かに必ず一つ弱点がある。そこを狙えば簡単に倒せるけど……問題はそれが何処なのか、なんだよな」

 

 ドラゴーヤを捕獲及び生きた状態から調理する場合、ドラゴーヤの体の何処かにある弱点部位に攻撃を仕掛けてノッキングをしなければならない。そうしなければ大事な旨み成分が体から全て流れ出してしまうのだ。

 しかし実を言うとその弱点部位というのが厄介で、個体毎にその弱点部位が異なり、ドラゴーヤ一匹捕獲する毎に毎回弱点部位を探さなくてはならない。しかもその部位を目視だけで探すのは、ある地点から一㎞離れた場所にいる蟻一匹を見つけるくらい難しいのだ。ドラゴーヤの捕獲レベルが高いのは、元々の強さに加えてこの弱点部位を見つけるのがとても難しい為だ。

 

 一夏「……ああもう、悩んでても仕方ない。とにかく、他の皆に極力目を向けさせないようにしながら、弱点部位を見つけなきゃな!」

 

 とにかくドラゴーヤを止めなくては。そう自分に言い聞かせ、一夏は包丁を再び構える。

 

 一夏「無限の料理術・竜巻微塵切り!」

 

 一夏は二本の包丁を回転させ、竜巻の形をした斬撃を飛ばした。渦を巻く竜巻はドラゴーヤに真っ直ぐ突っ込んでいき、ドラゴーヤの特徴的なゴツゴツした緑色の甲殻を削り取っていく。しかし削られる甲殻は微々たるもので、ドラゴーヤには大したダメージにもならなかった。

 

 『グアアアアアアア!!』

 

 逆に一夏の攻撃を受けたドラゴーヤは怒り始め、口から火球を周囲に吐き散らし始めた。火球の雨をまたも掻い潜るように回避する春十達。一方の一夏も、

 

 一夏(まな板シールド!)

 

 まな板の形をしたエネルギーシールドを張って火球を防いでいく。すると春十達から通信が入った。

 

 春十『一夏!あの龍は何なんだ!?』

 一夏「春十兄か。あれはドラゴーヤっていう龍だ、捕獲レベルは100近いぞ」

 鈴『100近いって……じゃあどう倒すのよ!?』

 一夏「落ち着け、鈴。まずは奴の弱点部位を見つけるんだ、そこを重点的に攻撃すれば奴を倒せる」

 春十『どうやって見つけるんだよ?』

 一夏「そりゃあ勿論……目視で?」

 春十『無茶言うなよ!どうやって目視で見つけるんだよ!?』

 一夏「心配するな、弱点部位は俺が見つけ出す!春十兄達は取り敢えずこいつの動きを止めてくれ!一分でも長くだ!」

 春十『ああもう、分かったよ!!ラウラ、AICだ!』

 ラウラ『任せろ、嫁!』

 春十『俺と鈴はあのドラゴーヤって奴の動きを制限する!一夏とラウラに攻撃の手を向けさせないようにだ!いずれすぐに箒達も救援に来る!』

 鈴『任せなさい!』

 

 春十は雪片弐型を、鈴は双天牙月を構え、ドラゴーヤに突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「えーと確かこの辺り……あった、ここだ!」

 

 こちらはクラックを開いて脱獄してきた牙也。元の世界で用務員をしてきた牙也なので建物一つ一つの場所なら分かるのだが、地下牢屋の場所までは知らなかった為に現在地が分からず道に迷ってしまった。漸く辿り着いた時には既に騒ぎになっているのか次々と生徒が脱出してきていた。

 

 牙也「ちょっと遅かったか……!一夏達が何とかしてるだろうが、俺も加勢しないときついか……?」

 

 そう考え牙也が第二アリーナに入ろうとしたその時ーー

 

 

 

 

 

 

 

 『ガアアアアアアアア……!!』

 

 「っ!?」

 

 低い唸り声に牙也が後ろを振り向くと、

 

 

 

 

 「何じゃこりゃ!?」

 

 体が鰐で顔が鮫、前足の付け根から蟹の鋏が伸び、尻尾がウツボの怪物がそこにいた。まだアリーナから逃げている生徒達はこの怪物の存在に気づいていないようだ。

 

 「おいおい、何だよこいつ……属に言う『キマイラ』って奴か?」

 

 その怪物は牙也を見るなり、鋏を構えてファイティングポーズを取る。鮫の顔と尻尾のウツボの顔も鳴き声を上げて牙也を威嚇する。

 

 「やれ、こいつ倒さなきゃ箒達の救援には行けないな……しゃあない、本気出そうかね」

 

 牙也もファイティングポーズを取る。

 

 「起きたばっかだからさぁ、今腹減って仕方がないんだよ……お前、その蟹の鋏食わせろやぁ!!」

 

 

 

 

 





 ドラゴーヤ 捕獲レベル98

 ゴーヤのようにゴツゴツした甲殻が特徴の龍。しかしその甲殻の強度は高く、並みの刃物や銃弾では傷一つ付かない程。上記の通りに捕獲・調理すると甲殻はゴーヤそのものになる。強い苦味と甘味が特徴。肉も食べる事ができ、ほのかな苦味が癖になる味。

 最後に出てきたキマイラは次回解説します。ではまた次回!



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コラボ6 飯テロ!(8)


 描いてたら何故か牙也sideが早く決着がつきました。




 

 一夏「無限の料理術……二星微塵切り!!」

 

 二本の包丁を振るってドラゴーヤが吐いてくる火球を細切れにしていく一夏。一夏はさらにそれと平行して、ドラゴーヤの体のどこかにある弱点部位を目視で探している。しかしドラゴーヤが暴れに暴れるので、なかなか弱点部位を見つけられない。

 

 一夏「皆大丈夫か!?」

 春十「俺達は大丈夫だから、一夏は弱点を見つけるのに集中しろ!」

 

 一夏の声にサムズアップで答えて、春十は雪片弐型でドラゴーヤを攻撃する。ドラゴーヤが火球を放とうとすると、鈴がその顔に龍砲をクリーンヒットさせて邪魔をする。放とうとした火球が口の中で爆発し、ドラゴーヤの顔からプスプスと煙が上がる。怒り狂ったドラゴーヤは攻撃目標を鈴に変え、尻尾を振るって攻撃してきたが、その尻尾を春十が雪片弐型で受け流すようにして防御する。

 

 ラウラ「今だな、AIC発動!」バッ

 

 春十に尻尾の攻撃を受け流された事でバランスを崩したのを見逃さず、ラウラはAICを起動しドラゴーヤを拘束した。しかし、

 

 ラウラ「くっ、ぐぬぬ……!暴れるな!」

 

 ドラゴーヤは拘束から抜け出そうと必死に抵抗し出す。ラウラも必死になって抑え込みに掛かるが、その巨体をAICで拘束するには酷であるしましてラウラが小柄だから一瞬でも気を抜けば振りほどかれ、最悪AICに異常が出かねない。

 

 ラウラ「これでは長くは保たん……!義弟よ、早く弱点部位を見つけるのだ!」

 一夏「分かった!」

   (皆の働きを無駄にはしない……!何としても弱点を見抜かないと……!)

 

 一夏は弱点部位を見つけ出す為、ドラゴーヤに接近していく。とそこへ、

 

 箒A「生徒の避難が終わったぞ!」

 セシリア「これより加勢致しますわ!」

 シャルロット「皆大丈夫!?」

 

 避難誘導にあたっていた箒達三人が合流した。

 

 春十「ナイスタイミングだ!あいつを抑え付けるのを手伝ってくれ!」

 鈴「今一夏がこいつの弱点を探してる!一夏とラウラに攻撃を向けさせないようにして!」

 『了解!』

 

 箒B「おーい!私達にも何か出来ないか!?」

 

 そこへ箒Bとカンナも合流した。

 

 春十「二人もあいつを抑え付けるのを手伝ってくれ!カンナちゃんは本当に大丈夫なのか?」

 カンナ「ご心配なく、戦えない訳ではありません。後方援護くらいならなんとか」

 春十「じゃあ頼んだよ!」

 

 ドラゴーヤを倒すべく、一夏達は団結する。目の前の危機を乗り越える為にーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「フッ!!」

 

 謎のキマイラが鋏を振りかざして挟み込んでくるのを、牙也は鋏を蹴飛ばす事で回避。さらに次いで襲ってくるもう片方の鋏も後ろ回し蹴りで弾いた。鋏は尚も攻撃してくるが、牙也は大きく跳躍して二本の鋏を回避、しかしそこへウツボの尻尾が伸びて牙也の腰に噛み付いた。そして噛み付いたままキマイラの後方へと牙也を叩き付ける。地面をバウンドしていく牙也だが、先程の攻撃が効いている風には見えない。バウンド中に受け身を取って着地し、体の砂をはたき落とす。

 

 牙也「さすが異界の生物、顔一つ一つが独立しての行動とは恐れ入ったな……さて、こいつはどう倒せば良いやら……」

 

 するとキマイラが両足に力を入れ始めた。それと同時に、鰐の背中付近から何やら翼のようなものが生え始めた。しかしそれは、翼にしてはやや平べったかった。

 

 牙也「ん~?何か生えてきたな、ありゃ一体ーー」

 

 牙也がその様子を観察していたその時ーー

 

 

 

 

 『ガアッ!!』

 

 

 

 

 キマイラが勢い良く飛び掛かってきた。いや、飛び掛かってきたというより、背中に生えた翼を使って飛んできたという表現が正しいだろう。ミサイルの如く飛んできたその巨体は、大口を開けて突っ込んで牙也の体を飲み込み、そのまま直線上にあった木を次々と咬み砕きながら着地したが、勢いがありすぎて周囲の木を次々とへし折っていき、ようやくブレーキがかかった時には木々が生えていた場所は完全な更地になってしまっていた。

 

 『ガ?』

 

 が、キマイラは口を動かすと首を傾げるような仕草をきした。口の中はさっき咬み砕いた木の感触しかないのだ。

 

 牙也「あー、怖い怖い。コンマ数秒遅かったら喰われてたな」

 

 その声にキマイラが後ろを向くと、クラックから牙也が顔を出した。喰われる寸前に自分の真後ろにクラックを開いて逃げ込む事で、キマイラの捕食を回避したのだ。

 

 牙也「しかし、飛び魚の性質まで持ってたのか。随分と飛ぶには相応しくない翼だと思ったら……鰐、鮫、蟹、ウツボ、そして飛び魚……掛け合わせりゃ良いってもんじゃないんだがなぁ」

 

 ぶつぶつ言いながら、牙也は撃剣ラヴァアークを二本出すと、クラックから出てからそれをキマイラに向けて構えた。

 

 牙也「行くぜ!」

 

 牙也がラヴァアークを振るうと、斬撃がキマイラに向かって複数飛んでいく。が、キマイラは鋏を数回振るうだけで斬撃を粉々にした。そして鮫の顔が口を膨らませ、水の塊を放った。勢い良く放たれた水弾を牙也は二本のラヴァアークで斬り裂き、水弾は四方向に飛んでベシャッと音を立てて着弾した。

 

 牙也「やっぱこんなんじゃ駄目か……なら!」

 

 ならばと今度は左手を突き出して蔦を伸ばし始めた。蔦は次々と伸びていき、キマイラの体を縛り付けていく。しかし、

 

 『ガアッ!!』

 

 キマイラの尻尾のウツボが動いて蔦を次々と咬み千切ったり、鋏で蔦を切っていく。しかし無尽蔵に次々と伸びてくる蔦に処理が追い付かず、キマイラは体も鋏も尻尾もがんじがらめに縛り上げられてしまった。

 

 牙也「さーて、これで暫くやり放題だなぁ……」

 

 牙也が蔦を伸ばすのを止めてニンマリと笑みを浮かべた時、

 

 『グゥゥ……!』

 

 何を考えたのか、キマイラが突然大きく息を吸い込み始めた。一吸いで膨大な量の空気を吸い込み、それを数回繰り返す。やがて息を吸い込むのを止めた……かと思うとーー

 

 

 

 

 

 

 

 キマイラが少し体に力を入れた途端、一瞬にして体が風船のように大きく膨らんだ。それによって体を縛り付けていた蔦が耐え切れずに引きちぎれてしまった。

 

 牙也「嘘だろ!?」

 

 牙也の驚愕を余所に、キマイラは膨らんだ体を息を吐き出す事で元に戻した。吐き出す空気による風圧がその一帯を吹き飛ばしていく。そして体が元に戻るや否や、再び鋏や尻尾で攻撃を仕掛けてくる。連続で襲ってくる鋏や尻尾をジャンプやアクロバティックな動きで回避していく牙也だが、突如回避行動を止めてその場に立ちはだかった。

 

 『ガアア……!』

 

 これをチャンスと見たキマイラが、口に水を溜めていく。そしてその溜まった水を牙也に向けた。水は段々と巨大な水弾になっていき、ゴボゴボと音を立てている。

 

 『ガアッ!!』

 

 そして巨大な水弾を牙也に向かって放った。水弾は極太レーザーのように牙也に突っ込んでいき、やがて牙也を呑み込んだーー

 

 

 

 牙也「残念外れ」

 

 

 

 と思いきや、先程まで牙也が立っていた場所にはいつの間にか巨大なクラックが口を開けており、キマイラが吐き出した極太の水レーザーはそれに全て呑み込まれてしまった。そして巨大クラックはそれを全て呑み込み終えると一瞬で閉じた。

 

 『ガアアアア!!』

 

 攻撃が外れたのを悟ったキマイラは怒り狂い、巨体をドスドスと動かして突進してきた。しかし牙也はそれを見ても怯みもしない。それどころか右手をキマイラに向けて掲げ、キマイラが飛び掛かってきたところで指を鳴らした。

 

 

 『ガアッ!?』

 

 

 パチンーーと指を鳴らす音が響いたその時、突如激流がキマイラの後方から流れてきてキマイラを尻から押し流した。飛び掛かる為に空中にいたキマイラは激流に押されて吹き飛び、真っ逆さまに仰向けで墜落した。その巨体がズシンと落ちて大地を揺らす。

 

 牙也「おっと……ははっ、ここまで上手く行くとはね。あいつが放った水弾を利用して何とか動きを止められれば、と思ってた程度だったが……」

 

 実は先程の激流は、キマイラが放ったあの極太の水レーザーだったのだ。クラックを使って水レーザーを一旦ヘルヘイムの森に流し込み、合図と同時に再びクラックを開いて水レーザーをキマイラにいた吐き出したのだ。キマイラは背中から墜落してしまった為に起き上がれなくなり、一度ヘルヘイムの森を通した為か辺りにはヘルヘイムの果実やインベスが数匹転がっている。それらをものの数秒でさっさと処分し、牙也は再びキマイラの体を蔦で縛り上げた。

 

 牙也「さてと、こいつには寝ててもらおうか。飯も早く食いたいけど、果たしてこいつが食えるのか知らん。一夏辺りに聞けば分かるかもな」

 

 そう言って牙也は蔦を太く大きく束ねて巨大な右腕を作り上げた。そして高く跳躍し、

 

 牙也「作ったばかりの新必殺技だ……轟拳ーー『破戒』」

 

 上空からキマイラに向かってストレートパンチを繰り出した。蔦でできた拳はキマイラの腹にクリーンヒット、キマイラは『ギャブッ!?』と変な鳴き声を上げて完全に大人しくなった。

 

 牙也「はい、おしまい。さて、こいつはどうしたもんか……ここに放置するのは流石にな……」

 

 気絶したキマイラの腹に乗っかり、牙也はこれからどうするか考える事にした。

 

 

 

 





 次回こそ一夏達の方を決着させたいと思います。



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コラボ6 飯テロ!(9)


 この調子だと、多分あと一~二話だと思います。




 

 戦い始めておよそ三十分ーー

 

 春十「一夏、まだ見つからないのか!?」

 一夏「まだだ!なかなか弱点が見えないんだ!」

 

 しかし、一夏は未だドラゴーヤの弱点部位を見つけられずにいた。

 

 一夏「ラウラ、AICはあとどれくらい保つ!?」

 ラウラ「くっ、奴が抵抗するせいで負荷が掛かり過ぎている!このままでは直に使えなくなるぞ!」

 箒A「一夏、急げ!」

 一夏「分かってる、皆ももう少し耐えてくれ!」

 

 一夏がそう言うが、全員の体は既に限界に近づいていた。何せドラゴーヤがAICから逃れようとして火球を辺りに吐き散らす等の抵抗が激しく、それの対処によって体力を大きく消耗していたからだ。しかもドラゴーヤの巨体によって行動範囲が狭められ、回避の為に集中力も段々と切れていく。

 

 『ガアアアア!!』

 

 ドラゴーヤはそんな事を知る由もなく、相変わらず火球を続けざまに吐いてくる。

 

 ラウラ「ぐっ、負荷が強過ぎる……っ、まずい!」

 

 すると遂に耐え切れなくなったのか、ラウラのISがスパークを放ち始めた。

 

 春十「ラウラ、もういい!AICを止めろ!それ以上は危険だ!」

 ラウラ「だ、だが……!」

 

 その時、一瞬だけだがラウラの集中力が途切れた。それがラウラに油断を呼んだ。

 

 箒B「危ない、ラウラ!!」

 

 ラウラが気づいた時、その体は箒Bによって突き飛ばされ、突き飛ばした箒Bをドラゴーヤの尻尾が叩き落とした。箒Bは勢い良く吹き飛び、アリーナの壁に叩き付けられた。

 

 箒B「ぐはっ!!ぐ、くそっ……!」

 ラウラ「篠ノ之!」

 セシリア「大丈夫ですの!?」

 箒B「私の事は良い、皆はドラゴーヤの方に集中しろ!」

 

 箒Bにそう言われ全員がドラゴーヤに向き直った時、

 

 『ガアアアア!!』

 

 ドラゴーヤはなんとアリーナのバリアを突き破って外に逃走してしまった。

 

 一夏「まずい、外に逃げたか!追い掛けるぞ!」

 カンナ「私は箒様の治療を致しますので、皆様はお早く!」

 

 カンナと箒Bをアリーナに残し、一夏達はドラゴーヤを追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ん?」

 

 何かか割れる音を聞き付けた牙也は、バグヴァイザーを構えて空を見上げた。すると、ちょうどドラゴーヤがアリーナかろ飛び出してきたところであった。

 

 牙也「あれか……この第二アリーナの騒ぎの元凶は」

 

 《チュ・ドーン!》

 

 そう確信した牙也は、座布団代わりにしていたキマイラを隅の方に押しやり、バグヴァイザーをビームガンモードにした。そしてバグヴァイザーから光弾を放って、ドラゴーヤの目を自身に向けさせた。光弾を受けたドラゴーヤは低く唸り声を上げ、地上にいる牙也に向かって突っ込んできた。鉤爪を振り上げて牙也を引っ掻くが、牙也はコンマ数㎜でそれを避けた。しかし完全には避け切れず、

 

 牙也「……っ!」

 

 右目の眼帯が鉤爪で斬られて何処かへ飛んでいき、さらに瞼から出血する。

 

 牙也「計算が狂ったかな?まあ良いか、取り敢えず……」

 

 だが牙也はそんな事気にもせず、蔦を伸ばしてドラゴーヤを拘束しに掛かった。ドラゴーヤが火球を吐いて蔦を次々と燃やしていくが、蔦の出現速度がそれを簡単に上回り、あっという間にドラゴーヤの全身を包み込んだ。

 

 牙也「そーらっ!」

 

 そして蔦を引っ張って、がんじがらめにしたドラゴーヤを地面に叩き付ける、と同時にドラゴーヤを地面に縛り付けた。

 

 牙也「よし、こんなもんか。あとは一夏達が来れば……」

 

 手をはたきながら空を見ると、ちょうど一夏達がドラゴーヤを追い掛けてアリーナから出てきた。一夏達は牙也を見つけると、彼の近くに降り立った。

 

 一夏「牙也、お前目を覚ましたのか!」

 春十「て言うか、どうやって牢屋から出てきたんだ?」

 牙也「決まってんだろ、脱獄してきたんだ」

 鈴「普通そういう事さらっと言う!?」

 セシリア「悪びれもせず言い切りましたわ……」

 シャルロット「ってちょっと!右目に怪我してるよ!?」

 牙也「まあそれは後にしろ。ほれ、あそこに目的の奴は縛ってある」

 ラウラ「いや後にしろって……」

 

 牙也が指差した先には、先程縛り上げたドラゴーヤがいた。蔦の拘束から逃れようと必死に暴れている。

 

 一夏「ああ、ちょうど良い。縛ってくれたお陰で弱点部位を探すのが容易くなった……!」

 

 一夏は牙也に感謝しつつ、ドラゴーヤの弱点を探す。

 

 一夏「よし、見つけた!皆、ドラゴーヤの顔に集中攻撃を仕掛けるんだ!」

 箒A「顔だな、分かった!」

 

 箒Aのその言葉を皮切りに、その場にいる全員が次々とドラゴーヤの顔に攻撃し始めた。春十と牙也がそれぞれ雪片弐型とバグヴァイザーで近接攻撃をしかけ、それを箒達が遠距離攻撃で援護する。ドラゴーヤも火球を吐いて反攻してくるが、火球は一夏が包丁を振るって微塵切りにするので特に問題はない。それどころか反攻する度に蔦の締め付けが強くなっていき、ドラゴーヤの行動を抑止する。

 こうして攻撃を続けること数十分ーー

 

 

 『ガ……ガアアアア……』

 

 

 容赦ない連続攻撃にドラゴーヤはボロボロにされ、ゆっくりと倒れた。

 

 一夏「よし、ここまでやったら充分かな。牙也、もう蔦を解いてくれて良いぞ」

 牙也「はいよ」

 

 牙也が蔦を緩めると、一夏はゆっくりとドラゴーヤに歩み寄り、ドラゴーヤの目の前に立つと、ドラゴーヤに手を合わせた。

 

 一夏「お前の血肉……美味しくいただかせてもらうぞ」

 

 そう言って一夏はドラゴーヤの体を捌いていく。と、

 

 牙也「あ、そうだ。一夏、もう一体捌いてほしい奴がいるんだが」

 一夏「もう一体?何処にいるんだ?」

 牙也「ちょっと待てよ、すぐ連れて来る」

 

 そう言うと牙也は隅に放置していたキマイラを蔦に巻き付けて引き摺ってきた。

 

 牙也「こいつだ」

 一夏「!こいつ、『オーシャンキマイラ』……!お前が倒したのか?」

 牙也「ああ。俺がここに来た時に狙い澄ましたかのように現れたからな、返り討ちにしてやった」

 一夏「俺達が気づかない間にこいつが迫ってたのか。しかし凄いな、牙也。こいつも捕獲レベル100近い奴だぜ」

 牙也「そうなのか?確かに強かったが……」

 鈴「一夏も大概だけど、あんたもあんたよね」

 箒A「確かにな、私達が一丸となって倒した怪物をいとも簡単に……しかも疲れている素振りもない」

 ラウラ「化け物か貴様は……」

 牙也「自分で言うのもなんだが、化け物だぜ」

 一夏「まあとにかく、こいつらを捌いて手分けして食堂に持っていこう。今日の夕食は豪華になるぞ!」

 

 

 

 

 『グアアアア……ガアッ!!』

 

 一夏「ッ!?まずい、オーシャンキマイラが目を覚ました!」

 

 

 

 突如オーシャンキマイラが目を覚まし、二本の鋏を振り上げた。その目線の先には、

 

 春十「危ねぇ、牙也っ!」

 

 自らを倒した牙也がいた。オーシャンキマイラはチャンスとばかりに、巨大な鋏を振り下ろしたーー

 

 

 

 

 箒B「させるものかッ!」

 

 

 

 

 途端、二本の鋏が何処からともなく伸びてきた蔦に纏めて縛り上げられた。そして、

 

 

 

 

 カンナ「影の虚雷(シャドウ・ホロスパーク)!!」

 

 

 

 

 オーシャンキマイラの脳天に、白と黒の雷が二つ落とされた。雷で感電し、オーシャンキマイラは黒焦げになりながら倒れた。

 

 カンナ「牙也様、ご無事でいらっしゃいますか!?」

 

 そこに打鉄を纏った箒Bとカンナが急いで飛んできた。箒Bは背中から蔦を伸ばした状態で飛んでいる。

 

 牙也「おー、大丈夫大丈夫。アシストありがとな、助かったぜ」

 カンナ「いえ、牙也様がご無事で良かったです」

 箒B「これで全部倒したのか?」

 一夏「まあこれで全部だが……箒、お前それ……」

 箒B「ああ、これか。分かりやすく言うと、私も牙也に大きく近づいてるって事だ」

 牙也「ま、その辺りは後で話すよ。今はこいつらを解体して運ぼうぜ」

 一夏「あ、ああ……すまんな」

 牙也「礼は良い。礼をしたいって言うならーー」

 

 

 

 グキュルルル~♪

 

 

 

 牙也「……飯を食べさせてくれ。てか箒、俺どんだけ寝てた?」

 箒B「倒れてからもう三~四日は経つぞ。というか早く右目を治せ」

 一夏「腹減って当たり前だな。飯なら任せろ、速攻で作るから」

 

 こうしてドラゴーヤとオーシャンキマイラは一夏によって綺麗に解体され、牙也達の手で食堂まで運ばれた。

 

 

 

 

 





 オーシャンキマイラ 捕獲レベル97

 顔が鮫、体が鰐、尻尾が十数匹のウツボ、蟹の鋏に飛び魚の翼を持つキマイラ。その巨体とは裏腹に、背中の翼を使って俊敏な動きをして攻撃する。鮫の口からは激流のように大量の水を放ち、飛び魚の翼で滑空する。

 次回、飯!


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コラボ6 飯テロ!(10)


 空腹に耐えながら書いてたら、何故か早く書き終わった……何でだろうね……?




 

 時間は夜6時過ぎ。怪物騒ぎも何とか終息し、現在食堂の厨房にて一夏達が倒したドラゴーヤとオーシャンキマイラが調理されており、生徒や教員が食堂に集まって出来上がりを心待ちにしている。

 

 春十「あ~、早く飯食べてぇな~。まだかなまだかな~」

 牙也「焦らんでも飯は逃げんだろうに……俺だって腹減ってるんだからさぁ」

 箒A「すまんな、春十は訳ありで食欲が常人よりも高いんだ」

 箒B「牙也も牙也で、四日もご飯を食べてないからな……空腹も仕方ない事だ」

 鈴「あ~、既に良い香り~。待ちきれない~」

 ラウラ「義弟の飯……いつも楽しみにしているのだ、今日も楽しみだぞ」

 一夏「もう少し待っててくれよな、全員分できるまでまだ掛かるからな!」

 

 一夏が厨房からそう言うと、『は~い!!』と元気良く返事が戻ってくる。

 

 一夏(さーて、皆心待ちにしてるみたいだから、いつもよりギアを上げて行こうかな!)

 

 

 

 

 

 

 

 狭い厨房を常人では視認出来ない程高速で動く一夏。その厨房のコンロにフライパンと鍋が置かれ、フライパンではドラゴーヤの甲殻ゴーヤと豚腐が炒められており、鍋ではオーシャンキマイラの鮫肉が茹でられている。

 

 一夏(ドラゴーヤの甲殻ゴーヤと豚腐を炒めて、そこに槍人参を短冊切りにしたものとスズ卵の溶き卵を加えてゴーヤチャンプルーに……オーシャンキマイラの鮫肉は軽く湯引きした後素揚げして、鷹葱の玉葱や槍人参、それにハバネロバのハバネロと一緒に王酢に漬け込んで南蛮漬けに……!)

 

 さらに同時進行で、ドラゴーヤの肉やオーシャンキマイラの鰐肉、それにウツボ等が調理される。

 

 一夏(ドラゴーヤの肉は苦味が癖になる味……それならその苦味を前面に出す料理を……!塊肉をグリルでレアくらいまで焼いてやや厚めの薄切りにし、湧き醤湯とビリビリ味醂を合わせた調味液に数分漬け込んでおいて……これはまた直前に最終調理だ)

 

 一夏(鰐肉は細切りにして、ビターピーマンと炒めて青椒肉絲に……問題はウツボだ……一応生でも食べられるけど、どう調理したものか……?)

 

 ウツボの調理で悩んでいる一夏だったが、

 

 一夏(そう言えば、ウツボ料理の中にウツボのスープってのがあったな……よし、それを作ろう。ウツボはぶつ切りにして、鷹葱の白ネギ、槍人参、ヒモヤシと煮込んでおしり塩と焼け酒で味付け!これだけで簡単スープの出来上がり!)

 

 一夏(肉が今回多いから、蟹は春鮫と沢山の野菜を使った鍋に……!蟹と春鮫は食べやすい大きさに切っておいて、白サイの白菜、槍人参、キノコブラ……うん、鍋にすると野菜には困らないね)

 

 そして調理もあっという間にクライマックス。

 

 一夏(さっき漬け込んでおいたドラゴーヤの肉は、丼に盛ったご飯に数枚乗せて、氷山葵を中央に……よし、これで完成だ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「おーい、料理ができたぜ!皆運ぶのを手伝ってくれよな!」

 『待ってました!!』

 

 作り始めて約40分程ーー全ての料理が完成し、生徒がそれぞれのテーブルに運んでいく。

 

 

 

 今日の献立

 

 ・甲殻ゴーヤのゴーヤチャンプルー

 ・オーシャンキマイラの鮫肉の南蛮漬け

 ・ドラゴーヤの肉の漬け丼

 ・オーシャンキマイラの鰐肉の青椒肉絲

 ・オーシャンキマイラのウツボのスープ

 ・オーシャンキマイラの蟹と春鮫のあっさり鍋

 

 

 

 牙也「一夏~、全員に料理が行き渡ったぜ」

 一夏「はいよ!それじゃ皆様、お手を拝借」

 

 全員が着席したところで一夏のその言葉に生徒教員が手を合わせ、それにやや遅れて牙也達三人も手を合わせる。

 

 

 

 

 一夏「この世の全ての食材に感謝を込めてーーいただきます!!」

 『いただきます!!』

 『い、いただきます!!』

 

 

 

 食事の挨拶をすると、一斉に生徒達が料理に飛び付いて取り分け、食べ始めていく。

 

 春十「旨ぇ旨ぇ!!今日の献立も大当たりだぜ!!」バクバク

 

 早速料理を取っては勢い良く食べ進めていく春十。周りの生徒教員も、我先にと料理を取っては勢い良く食べ進めていく。それに圧倒されながらも、牙也達もそれぞれ料理を皿に取って食べた。

 

 

 

 

 『……旨いッ!!』

 

 

 

 

 牙也「ぐおお……苦い!苦いけど飯が進むぜ!!」バクバク

 

 牙也が食べているのは甲殻ゴーヤのゴーヤチャンプルー。ゴーヤと豚腐、それにその他の野菜を纏めて口に放り込み、ご飯を頬張る。

 

 牙也(ゴーヤが結構強い苦味だが、ふわとろの卵がそれを全部纏めてまろやかにしてやがる!そしてこの豆腐……噛めば肉肉しい食感だが、そこから広がる豆腐の旨味……それがゴーヤとピッタリ合ってる!凄ぇ!!)

 

 感動しながらも、箸を動かす手や指は止まらない。

 

 牙也(またチャンプルーの上にたっぷりかけられた鰹節もアクセントになってるな!いい香りだ……!)

 

 一夏「鰹武士を使って作った特製鰹節を削ったものだ。ゴーヤの苦味がさらに引き立つぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 箒B「ううむ……たまらん!」

 

 箒Bは鮫肉を使った南蛮漬けを食べている。漬け込んだ酢にしっかりと鮫肉と野菜を浸し、一口で食べる。

 

 箒B(鮫肉に全く臭みがない……いや、あるにはあるがこの酢がそれをすっきりさせる!一緒に漬け込んだ野菜も旨味をしっかり残している!何より酢が凄いな、これだけ我の強い沢山の食材を一纏めにするとは……)

 

 そしてそれを追い掛けるようにご飯を食べる。

 

 箒B(この酸っぱさがご飯を欲している……!そして飲み込むとまた食べたくなる……!くそっ、エンドレスだッ!!)

 

 一夏「ははは、すっかりエンドレスになってるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナ「モゴモゴ……美味しいです!」

 

 カンナはドラゴーヤの肉を使った丼を口一杯に頬張っている。雪崩の如く丼のご飯や肉がカンナの口に流れ込んでいく。

 

 カンナ(醤油と味醂の味がちょっと苦味のあるお肉にしっかりと染み込んでます……!さらにその味が染み込んだご飯をお肉と上にのった冷たい山葵と一緒に食べると……たまりません~!!)

 

 普段は大人しいカンナも、必死になって丼をどんどん食べ進めていく。

 

 カンナ「一夏様、おかわりをお願いします!」

 一夏「はいよ~。たくさんあるからどんどん食べてね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「酢豚も美味しかったけど、この青椒肉絲も美味しいわね」

 箒A「ああ。鰐肉は始めてだが、この独特の癖が良いな」

 

 鰐肉の青椒肉絲を食べているのは箒Aと鈴。始めて食べる鰐肉に舌鼓を打っていた。

 

 箒A「だが、この独特の癖がピーマンとよく合っているな」

 鈴「あら?このピーマン、酢豚でも使ってたわよね?」

 一夏「お、流石鈴だな。臨海学校で出した酢豚にも使ったビターピーマンだぜ」

 箒A「お互い癖の強い食材だが、意外と合うな」

 鈴「やっぱり料理じゃ一夏に負けるわね」

 一夏「へへっ、けど鈴の酢豚だって旨いぞ」

 鈴「……ありがとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア「ウツボ、ですか……私始めてですわ」

 シャルロット「僕もだよ。けど食べてみたら意外と美味しいね」

 

 セシリアとシャルロットがウツボのスープを飲んでいる。セシリアは少し遠慮がちだが、先に食べたシャルロットはどんどんウツボの身を食べていく。

 

 シャルロット「白身魚に近いのかな、そんな感じ。あの見た目からは想像できないけど、味が淡白だね」

 セシリア「まだ食べるのに抵抗がありますが……身は美味しいですわnーーきゃあ、頭!?」

 

 突然スープの中から現れたウツボの頭に驚き、セシリアはスープの椀を落としそうになった。

 

 一夏「頭も旨いんだぜ、特に首の辺りがな」

 シャルロット「ムグムグ……あ、確かに美味しいね」

 セシリア「ちょっとデュノアさん!?何勝手に私の椀からウツボの頭を取って食べてますの!?」

 シャルロット「食べないのかなー、と思って」

 セシリア「た、食べますわ!これくらいで臆してなるものですか!」

 シャルロット「それじゃもう二~三個くらい頭をーー」

 セシリア「お止め下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「教官、それは私の蟹です!」

 千冬「む、そうだったか?ではこっちを代わりに渡そう」

 真耶「織斑先生、それは私の蟹です~!」

 

 蟹鍋を囲むのはラウラと千冬、そして真耶だ。現在蟹の取り合いになっている。

 

 真耶「というかボーデヴィッヒさんは蟹を食べ過ぎですよ!ちゃんと野菜も食べて下さい!」ドサドサ

 ラウラ「ちゃんと野菜も食べてますよ?」

 千冬「量が少な過ぎると山田先生は言いたいのだ。しっかり野菜も食べろ、背が伸びんぞ」

 ラウラ「ぐぬ……はい」

 真耶「織斑先生も人の事言ってないで野菜を食べて下さい!」

 千冬「わ、私もか!?」

 

 真耶が千冬とラウラの皿に野菜をドカ盛りした事で、渋々ドカ盛り野菜を食べる二人。それを尻目に、真耶は一人蟹を食べるのであった。

 

 真耶「ん~!おいひぃ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「や~、牙也達の手伝いのお陰で今日も良い食材が手に入ったぜ、ありがとな」

 牙也「こっちこそ旨い飯をありがとな」

 

 食事もあっという間に終わり、一夏は牙也と共に山のような数の食器を洗っていた。次々と一夏が洗う食器を、牙也が自身の両手と蔦を駆使して丁寧に拭く。

 

 一夏「しかし何なんだお前……?さっきからウネウネ動いてるその蔦に、トリコさん並の実力……さっき自分の事を化け物って言ってたけど」

 牙也「そのトリコって人が誰なのかは知らんけど……まあ簡単に言うと、異世界の果実の力が練り込まれた化け物、だな」

 一夏「異世界の果実……食えるのか?」

 牙也「食えるけどなぁ……もし見つけても、それは絶対に食べてはいけない物だ」

 一夏「何でだ?毒でもあるのか?」

 牙也「いや、毒はないんだが……実を言うとな、その果実はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食った奴の体を根本から大きく変化させてしまうんだ。食った奴を、有無を言わさず意思を持たない化け物に変えてしまうんだ」

 

 

 

 

 

 一夏「マジか……!あれ?けどお前は意思がちゃんとあるよな?」

 牙也「超低確率で、俺みたいに果実の力が体に馴染んでしまう奴もいる。そういう奴は、今の俺のように自我がはっきりとしてるし、人とほぼ同じように生活が可能だ」

 一夏「そっか……ところで、箒の事なんだが……」

 牙也「箒か……箒の場合は果実を摂取してないにも拘わらずあの力が目覚めたんだ。今原因を探ってる」

 一夏「そりゃまた難儀だな」

 牙也「まあな。あ、この事はあいつらには秘密にしておけよ、事は大きくしたくない」

 一夏「分かってるよ」

 牙也「また後でお前の方の話も聞かせてくれよな」

 一夏「勿論だぜ、話したい事が山とあるんだ」

 

 そんな話をしながら、時はゆっくりと過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 





 まだコラボは続きます。



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コラボ6 飯テロ!(11)


 ZUNEZUNEさんとのコラボも今回でおしまいです。最後までお楽しみ下さい!




 

 夕食を終えて、箒Bとカンナは箒A達に連れられて大浴場へとやって来た。

 

 箒B「それにしても、皆はいつもあれほどに旨いご飯を食べているのだろう?羨ましいな」

 鈴「そうね。けど、今日みたいに捕獲レベルの高い奴なんかを捕獲する時は一夏ったらいつもハラハラさせるわよね」

 セシリア「一夏さん曰く、『食材を捕獲するのは難しいけど、捕まえた後に美味しく調理して美味しく食べてもらうのが自分の楽しみだから』だそうです」

 カンナ「一夏様らしいですね」

 

 そう話をしながら、皆は脱衣場で服を脱いでいく。すると箒Aが箒Bを見て何かに気づいた。

 

 箒A「なあ……お前、背中の肩甲骨辺りに何か付いてないか?」

 箒B「ん、背中か?」

 

 その一言に全員が箒Bの背中に注目すると、確かに箒Bの肩甲骨辺りから何かが小さく伸びていた。よく見ると、それは蔦であった。

 

 鈴「あら、ごみかしら?取ってあげるわ」

 

 そう言って鈴が箒Bの背中をはたいたが、蔦は取れない。試しに蔦を引っ張ってみたが、蔦は固く根を張っているのか、どんなに力を入れて引っ張っても取れなかった。

 

 鈴「ぐぬぬ……かったいわね!もう一度!」

 箒B「いや、良いんだ。このままにしておいてくれ」

 セシリア「え?ですが……」

 箒B「これはちょっと訳ありでな……セシリア達は見ただろう、あのオーシャンキマイラの鋏を縛ったあの蔦がどこから伸びていたのか」

 箒A「蔦がどこから伸びていたのか……?」

 ラウラ「そう言えば、あの蔦は篠ノ之の後方から伸びていたな……まさか!?」

 箒B「ああ、あの蔦は私の背中から伸びた蔦だ。普段は今みたいに短くなっているのだがな」

 

 箒のカミングアウトに、その場にいた全員が驚きを隠せない。

 

 箒B「まあ別に日常生活に支障がある訳でもないし、不自由はしていないぞ。寧ろこれには主に戦闘で助けられている」

 

 箒Bがそう言うが、あの事もあった為か箒A達は少し心配な表情を見せる。

 

 箒B「さ、辛気臭い話はもう終わりだ。お風呂でゆっくりと体を休めよう」

 

 そう言って話を無理矢理終わらせ、箒Bはカンナと共に先に脱衣場を出て体を洗い始めた。箒A達もそれに続いて脱衣場を出て体を洗い始める。

 

 鈴「……」ジーッ

 箒B「?どうかしたのか?」ボヨンッ

 鈴「ねぇ箒……あんた、こっちの箒よりも胸デカいように見えるんだけど……気のせい?」

 箒B「そうか?最近測ってないから、今どれくらいなのかは私も分からないが……そう言われれば、何か最近大きくなってきているような気はするな」

 

 箒Bの隣で体を洗っていた鈴のその一言に、全員が箒Bの周りに集まる。

 

 箒A「うーむ……私には同じくらいに見えるがな」

 ラウラ「そうか?私には明らかに大きさが違うように見えるが」

 シャルロット「……実際に測ってみる?」

 セシリア「そうですわね、それが手っ取り早いですわ。ですがメジャーが……」

 カンナ「ありますよ?」つメジャー

 箒B「カンナ……どこからそれを出した?」

 カンナ「企業秘密です」クスクス

 

 ともあれ、早速二人の箒の胸囲が測られた。その結果ーー

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「」シロメ

 ラウラ「」シロメ

 箒A「これはまた……」

 セシリア「信じられませんわ……」

 シャルロット「認めよう……これが現実だよ」

 鈴「いや、認められる訳ないでしょ!?そっちの世界の箒の胸囲がーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 100オーバーだなんて!!」ケツルイダバー

 箒B「……////」カオマッカ

 

 

 結果は以上の通り。予想外の結果に鈴の目から血涙が濁流の如く流れている。

 

 ラウラ「ただでさえ大きい胸がまさかバスト100超えとはな……何か秘訣でもあるのか?」

 鈴「揉んだのよ!ひたすら揉んだ!それ以外に有り得ないわ!」ダバー

 箒A「揉むだけでここまで私と大差がつくか……?」

 シャルロット「でも大きくなってるのは確かだよね……試してみようかな……」

 

 そんな事をワイのワイの言っている光景を、カンナはクスクス笑いながら見ていた。すると鈴がやけくそになったのか「半分寄越しなさい!」と叫びながら箒Bの胸を揉み始めたので全員で鈴を引き剥がし、ようやく全員揃って湯に浸かった。

 

 箒B「ふぅ……やはり風呂は落ち着くな」

 カンナ「暖まります~」

 

 牙也の事もあったので落ち着いて入れなかった風呂も、今では落ち着いてゆっくりと浸かれている状態。恨めしそうに見てくる鈴の視線が気になるところだが。とここで、

 

 セシリア「そう言えば、箒さんに聞きたい事かあったのでした」

 箒B「なんだ?」

 セシリア「箒さんは牙也さんとお付き合いなされているのですか?」

 『ちょ!?』

 

 突然のセシリアの質問に、箒A達が慌ててセシリアを風呂の隅まで連れて行き、

 

 シャルロット(ちょっと、いくらなんでも直球過ぎない!?)

 セシリア(ですが遠回しに聞くのもおかしくありませんか?)

 箒A(確かにそうかもしれないが……もう少しオブラートに包んで……)

 セシリア(恋話をオブラートで包む理由がありますか?それに、皆さんだって気になっておいででしょう?)

 ラウラ(いや、確かにそうだが……)

 鈴(箒と牙也が恋人同士ねぇ……はっ!?まさか箒の胸がデカくなった理由って……!)

 セシリア(はい、可能性は充分にありますわ)

 鈴(これが真実だったら、あいつ後でぶっ飛ばしてやるわ)グッ

 箒B・カ『?』

 

 

 

 

 牙也「へっくしょい!!」

 一夏「風邪か?」

 春十「いや、誰か噂してるんじゃないのか?」

 牙也「多分そうだな。鈴かセシリア辺りか……?」

 

 

 

 

 セシリア「えー、コホン。では改めてお聞きしますわ。箒さんは牙也さんとお付き合いなされているのですか?」

 箒B「ん、まあ……付き合ってるな」

 鈴「ほうほう……つまり、やる事はやってるのね?」

 箒A「鈴ももう少しオブラートに包め!」

 箒B「えっと……まあ、そうだな////」ポッ

 箒A「お前も正直に答えるな!////」

 ラウラ「ほほう……詳しく」

 シャルロット「詳しく教えて」

 箒A「聞くな!」

 カンナ「えっとですね……」

 箒B「何故カンナが答えようとする!?というか知っているなら教えるな!////」

 

 暫く騒ぎになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ははは、そりゃ災難だったな」

 箒B「わ、笑い事ではないぞ!まったくカンナの奴め、せっかくの私と牙也の秘密をあんな堂々と……////」

 

 箒Bが泊まっている学園寮の空き部屋。あの後牙也は騒ぎの収束を手伝った事が評価されて危険人物登録が解除され、箒Bの泊まる部屋に来ていた(ちなみにカンナは、顔が真っ赤になった箒Bによってセシリアの部屋に放り込まれた)。お風呂での出来事を箒Bから聞いて、牙也はケラケラと笑いをこぼす。

 

 牙也「ま、良いじゃねぇの。変な噂が立たなくてさ」

 箒B「そうかもしれんが……それじゃあ牙也は恥ずかしくないのか!?」

 牙也「俺か?俺は別に。だって大好きな箒との深い交わりだぜ、男なら話したくなるだろ。それに俺としては、箒の可愛さを皆に知ってほしかったからな」

 箒B「むぅ……そう言われたら言い返せぬ////」

 牙也「ははは……やっぱ箒は可愛いな」ナデナデ

 箒B「んぅ……////」ギューッ

 

 牙也が少し強めに箒の頭を撫でると、箒Bは恥ずかしいのか牙也の胸に顔を埋めるようにして抱き付いた。

 

 牙也「しかしバスト100オーバーって聞いた時は驚いたぞ」

 箒B「わ、私もだ……////牙也達のせいなのだぞ、こんなに大きくなってしまったのは////」

 牙也「俺達って……ああ、あの子らか」

 

 牙也の脳裏には、以前訪れた世界で戦う軍艦がモチーフの少女達の姿が見えた。

 

 牙也「めっちゃ揉んできてたからな……」

 箒B「しかも手つきがな……////まだ見た目子供だと言うのに凄かった////」

 牙也「ははは、今思い出すとあれも良い思い出だな」

 箒B「そんな思い出などいらぬ!////」ギューッ

 

 茶化された箒Bは余計に牙也に抱き付く。

 

 牙也「ははは、今日はいつになく甘えん坊だな」ナデナデ

 箒B「四日も離れ離れだったのだ、今日くらいはこうさせろ」ギューッ

 牙也「分かってるよ、本当に心配かけさせたな」

 箒B「全くだ……それで、結局今回の暴走の原因は何だったのだ?」

 牙也「狗道のおっさん曰く『普段からしっかり体を休めろ。お前が弱ると度々あれが出てくるだろうから気を付けろ』ってさ」

 箒B「そうか……オーバーロード化が進んでいるのだな」

 牙也「ああ……ま、倒れない程度にはちゃんと休むさ」

 箒B「うむ……」ギューッ

 牙也「どうした?」

 箒B「……その報告を聞くと、ちょっと『あれ』を頼むのが気が引けてな……」

 牙也「……ああ、そういう……大丈夫、箒が望むならいつでも言いなって」

 箒B「そ、そうか……////な、ならば牙也、早速なのだが……////」モジモジ

 牙也「皆まで言わずとも、だ……おいで」ニコッ

 箒B「……いただきます♡////」ガバッ

 

 

 

 ~朝まで睦み合いました~

 

 

 

 

 

 

 

 次の日ーー

 

 

 牙也「たった数日ですが、お世話になりました。またここに来たら、何かお礼でもさせていただきます」

 箒B「また機会があれば、ここに来させてもらうぞ。次はまた強くなってくるからな」

 カンナ「お世話になりました。また次に会いましたら沢山お話を聞かせて下さいね」

 

 例の闇を吐き出すクラックがこの日開いた事で、牙也達三人はこの世界を離れる事になった。クラックが開いた学園の屋上には、一夏や春十を始めとした学園の面々が集まっている。

 

 一夏「急な別れになっちまったけど、またいつでも来てくれよな!その時はまた、旨い飯を用意してるからよ!」

 春十「今度会ったら手合わせしようぜ!いつでも俺達は待ってるからな!」

 牙也「ああ、絶対だぜ」

 千冬「そちらの世界の私達にもよろしくな」

 束「長旅頑張ってね!」

 真耶「道中お気をつけて!」

 箒B「ありがとうございます」

 カンナ「それでは牙也様、箒様。参りましょうか」

 牙也「ああ」

 箒B「うむ」

 

 カンナ先導の下、牙也と箒Bはクラックに入る。そして後ろを振り返って牙也が一言、

 

 

 

 

 

 牙也「それじゃあ、次また会う日まで!!」

 

 

 

 『はい、またどこかで!!』

 

 

 

 

 

 





 はい、というわけでZUNEZUNEさんとのコラボが無事終了致しました。コラボしてくださったZUNEZUNEさんに、この場でお礼申し上げます、ありがとうございました。

 そして今後の予定ですが……いつものようにくじ引きした結果、次回のコラボは魔女っ子アルト姫さんの作品『IS 時を預かる者』に決定致しました。魔女っ子アルト姫さん、よろしくお願いいたします。そしてこのコラボが終わったその後、本編とリンクするコラボストーリーを執筆致します。牙也達の異世界旅行はまだまだ続きますよ、お楽しみに!!



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異世界旅行 思ワヌ帰還、時ノ氾濫
コラボ7 初恋ノ記憶(1)



 コラボ第7段は魔女っ子アルト姫さんの『IS 時を預かる者』です。ライダー以外の世界にばかり行ってたので、久し振りにライダー関連の描写を書くんだよな……まあ取り敢えず、生ぬるい目でご覧下さい。




 

 記憶ーー誰しもが持つ物。

 

 

 

 

 

 時間ーー止まる事なく進み続ける物。

 

 

 

 

 

 ブレーキもない列車の如く時間は進み、その中にいくつもの記憶の塊を荷物として乗せていく。勿論その列車は一人一両。膨大な量の記憶をお客として乗せ切れない程に乗せ、記憶の列車は走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、とある世界には存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その記憶に干渉出来る存在がーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それらを粛清する者もまたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……ふぅ。今日も時の流れは順調ですね」

 

 とある荒野。そこには数本の線路が敷かれ、その上を列車ーー列車と言うには奇抜過ぎる見た目だがーーが走る。その列車は先頭が牛を模した見た目で、二両目が黄色い鳥のような見た目であった。

 

 ??「デネブ、そちらの様子はどうですか?」

 デネブ「問題ないぞ、カルマ。今日の時間の動きも順調だ」

 カルマ「そうですか、それは良かった」

 

 その列車の先頭車両ーー牛を模した見た目の列車の運転席では、カルマと呼ばれた青年が何故かバイクに乗った状態でデネブと呼ばれた全身黒の服に身を包んだ巨体の男と会話している。

 

 ??「カルマ様~♪」ダキッ

 

 とそこへ、水色髪の少女がバイクに乗った状態のカルマに抱き付いた。

 

 カルマ「刀奈、危ないですよ。今は一応ゼロライナーを運転中なのですから」

 刀奈「ぶぅ~……良いじゃないですか、たまには。それにもうお仕事も終わったのでしょう?」

 カルマ「ええ。ですが甘えたいのでしたら、向こうに戻ってからの方がーー」

 刀奈「私は今が良いんです!今こうさせて下さい!」ギューッ

 カルマ「ふぅ……刀奈には叶いませんね」

 

 刀奈と呼ばれた少女にべったりくっつかれ、カルマは苦笑いを浮かべる。と、

 

 デネブ「ん?カルマ、ちょっと見てくれ」

 

 デネブが何かを発見した。

 

 カルマ「何か不審物でも見つけたのかい?」

 デネブ「いや、不審物と言うより……不審な線路だ」

 カルマ「線路?」

 

 デネブのその言葉にカルマがデネブが指差す方向を見ると、確かに線路があった。しかしその線路は、何故か沢山の蔦が巻き付いていた。

 

 カルマ「確かに不審だね……あんな線路、見た事がない」

 デネブ「どうする、カルマ?調べに行くか?」

 カルマ「そうですね……行ってみましょうか。時を預かる者として、少し気になります。何かがこの先にある筈でしょう」

 刀奈「えー!カルマ様~、私との約束は~?」

 カルマ「勿論ちゃんと果たしますよ。ですがその前に、一仕事やってからですね」

 刀奈「ぶぅ~……約束ですよ?」

 カルマ「ええ。デネブ、あの線路に進路変更しますよ」

 デネブ「分かった」

 

 三人を乗せた列車ーーゼロライナーは、本来の線路を外れて蔦が巻き付いた線路を通っていく。すると、

 

 

 ビーッビーッビーッ!!

 

 

 デネブ「っ!?カルマ、ゼロライナーに異常が!」

 カルマ「何!?くっ、引き返して下さい、これ以上進むのは危険だ!」

 デネブ「無理だ、完全にゼロライナーの機能が故障している!」

 カルマ「くっ、このまま進むしかないのですか……!刀奈、しっかり何かに掴まっておいて下さい!」

 刀奈「は、はい!」

 

 全機能を失ったゼロライナーは止まる事も出来ず、蔦が巻き付いた線路を突き進んでいく。そしてゼロライナーは、その先の目映い光の中に飲み込まれたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「うおおおおおおっ!!」

 

 《スターフルーツオーレ!》

 

 牙也達の世界。牙也達三人が異世界へと旅立って、既にこの世界の時間で二ヶ月は経過していた。その間の学園の守備は学園唯一のアーマードライダーである千冬と一夏、そして亡国企業から派遣されたザックが担っている。一夏はカッティングブレードでロックシードを二回切り、スターカリバーでビャッコインベスを叩き斬った。

 

 一夏「よし、討伐完了!千冬姉、こっちは終わったよ」

 千冬「こちらも討伐完了だ。ザック、お前は?」

 ザック「問題ねぇよ、これくらいなら余裕だぜ!」

 

 三人は揃って変身を解除し、千冬が学園長と束に討伐完了の報告をした。

 

 一夏「牙也達が旅立ってもう二ヶ月か。三人とも、今どんな世界にいるんだろうな?」

 千冬「さあな。だが牙也の事だ、篠ノ之に多大な迷惑を掛けているだろう」

 一夏「迷惑掛けてる事前提かよ……」

 ザック「ハッハッハァ!あいつなら大丈夫だろ!根拠ねぇけどな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな他愛ない話をしている時、突如轟音が響いた。その轟音のせいなのか、周囲の大地が大きく揺れる。

 

 一夏「千冬姉!」

 千冬「一夏とザックは先に轟音の響いた場所に向かえ!何か見つけた場合は、私達が合流するまでは迂闊に触るな!」

 ザック「あいよ!インベスだった場合は応戦すりゃ良いんだな!?」

 千冬「ああ。それと、出来る限りその周囲に生徒を近付けさせないようにしてくれ、何かあってからでは遅い」

 一夏「鈴達への連絡はどうする?」

 千冬「私からやっておく。それと念のためスコールに連絡をとる、近くにいる筈だ」

 ザック「了解、こっちは任せろ!」

 

 三人の連携プレーは早く、千冬は一旦校舎に戻り、一夏はザックが運転するヒガンバライナーで現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その現場ーー学園のグラウンドには、カルマ達三人が乗ったゼロライナーが二両目が脱線・横転した状態でそこにいた。一夏とザックが到着した時、既にその回りには大勢の生徒が野次馬のように集まっていた。

 

 一夏「はいはい、皆離れて離れて!危ないから!」

 ザック「爆発するかもしんねぇぞぉ!怪我したくねぇなら早く離れな!」

 

 一夏達は到着するなり、野次馬で集まった生徒をゼロライナーから離れさせた。一夏達にはそれが一体何なのか分からない以上、触ったりするのは危険だと判断したからだ。

 

 千冬「一夏、ザック、どうだ?」

 

 そこへ千冬が真耶を始めとした教員数人と楯無を連れてやって来た。

 

 一夏「さっきの轟音の原因はこれで間違いないと思うけど……これ何だろう?何か列車みたいだけど」

 千冬「うむ……しかしこんな所に列車などと……一体これは……?」

 楯無「織斑先生、どうしましょうか?」

 千冬「……取り敢えず調べてみよう。私とザックで中を調べる、皆はここで待機してくれ」

 

 そう言って千冬は一両目の車両に近づき、乗降用ドアをノックした。

 

 千冬「おい、誰かいないのか?いるなら返事してくれ」

 

 しかし返答は返ってこない。

 

 千冬「返答なしか……何処か入れそうな入り口があれば……」

 一夏「千冬姉!こっち側から中に入れるよ!」

 

 反対側から一夏の声がする。千冬とザックが向かうと、一夏の言う通り一両目の反対側の乗降用ドアが半開きになっていた。衝撃で開いてしまったのだろうか。

 

 ザック「ここからなら入れるな。じゃあまずは俺から入る、あんたが後に続いてくれ」

 千冬「分かった、くれぐれも気を付けろ」

 

 まずザックが列車に飛び乗って内部を見渡す。が、特にこれと言って危険そうな物はない。

 

 ザック「危険な気配はなし、か……入ってきて良いぞ」

 

 ザックにそう言われ、千冬も列車に飛び乗った。

 

 ザック「俺は二両目を見に行く、あんたはこの車両をくまなく探してくれ」

 千冬「ああ。楯無と山田先生はこのまま待機して周囲に警戒しておくように」

 真耶「お気をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬は一両目を探索していた。いつ何が出てきても良いように腰に警棒を忍ばせておき、ライトで列車内を照らしながら暗い車内を探索する。と、

 

 千冬「ん?あそこは開けてるな……運転席か何かか?」

 

 運転席らしき場所が目に入った。千冬は警棒を抜いて伸ばし、忍び足でその部屋に近づく。ゆっくりとそこを覗き込むと、

 

 千冬「!」

 

 誰かが倒れているのが見えた。周囲に危険物がない事を確認し、千冬は警棒をしまって倒れている人に近寄る。倒れていたのは三人。大柄で黒い服の男らしき人と顔立ちの整った青年、そして青髪の少女が一人だ。と、千冬はその内の少女に目を止めた。

 

 千冬「っ!?楯無……!?」

 

 倒れている少女の顔に、千冬は見覚えがあった。それは紛れもなく楯無だった。二人の青年は千冬には誰か分からない。脈に触れると、まだ三人とも生きている。

 

 千冬「救助者三名。何人か手伝ってもらおうか」

 

 一人では無理だと判断した千冬は一旦その場を離れ、乗降口まで戻ってきた。するとちょうどザックも探索を終えたのか慌てて戻ってきた。

 

 千冬「ザック、そっちは誰かいたか?」

 ザック「馬鹿野郎、誰かいたなんてもんじゃねぇよ!牙也達がいたぜ!」

 千冬「牙也だと!?この列車に乗っていたのか!」

 ザック「そっちは誰かいたか?」

 千冬「要救助者が三名だ、その内の一人が楯無にそっくりだ」

 ザック「更識の姉だと!?どうなってる……!?」

 千冬「とにかく六人を運び出す。事情は彼らが目を覚ましてから聞こう」

 ザック「あいよ!」

 

 こうしてゼロライナー内部にいた六人は千冬達教員によって救出され、即医務室に運ばれた。全員衝撃で頭を打っていたが、幸い全員が軽い怪我で済んだ。ゼロライナーは取り敢えず教員達がISと丈夫な紐を使って起こし、周辺を立ち入り禁止にしておく事にした。

 

 

 

 この偶然に偶然が重なった邂逅が、ある事件を起こす事になるとは、まだ誰も予想していなかったーー。

 

 

 

 





 牙也達三人が何故(というかいつの間に)ゼロライナーに乗車していたのかーーその理由はまた次回!



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コラボ7 初恋ノ記憶(2)


 今回はいつもよりちょっと短めです。




 

 カルマ「う……ううん……」

 

 ようやくカルマが目を覚ました時、時刻は既に夜7時になっていた。カルマが寝かされていたベッドの脇には先に目を覚ましたデネブと刀奈が心配そうにしていたが、カルマが目を覚ますと、

 

 刀奈「カルマ様!」

 デネブ「カルマ!」

 

 二人揃ってカルマに抱き付いた。

 

 カルマ「ちょ、刀奈、デネブ!痛い痛い!」

 牙也「ああもう、一旦離れろ!彼は一応怪我人なんだから!」

 

 カルマに抱き付く二人を、その後ろにいた牙也が首根っこを掴んで引き剥がす。刀奈はブー垂れていたが、牙也に「彼の怪我を酷くする気か?」と言われると渋々離れた。

 

 千冬「牙也、最後の一人は目を覚ましたか?」

 

 そこへ千冬が箒とカンナ、楯無を伴って医務室に入ってきた。

 

 刀奈「織斑先生!?それに……私!?」

 楯無「え、嘘!?なんで私が!?」

 千冬「やはりそうか……カンナの予想通りだったな」

 カンナ「一番可能性のある予想でしたから」

 

 千冬はため息を吐いて刀奈に向き直った。

 

 千冬「目が覚めたばかりで悪いのだが、まずはお前達三人が何者なのかを聞きたい。あの列車についても嘘偽りなく全て話してくれ」

 カルマ「……分かりました。私はカルマ・アガレスと言います。こっちが相棒のデネブ、そして皆さんもご存知でしょうが更識刀奈です」

 刀奈「よろしくね」

 デネブ「よろしく頼む。ところで、飴食べるか?」

 千冬「結構だ。それで、あの列車は?」

 カルマ「あれは『ゼロライナー』と言います。私達はあの列車に乗って時の流れに異常がないか見回りしていたんです。その時に蔦が巻き付いた線路を見つけて調べていたら……」

 デネブ「突然ゼロライナーが制御不能に陥って、気がついたらここで寝かされてたって事だ」

 千冬「時の流れ?」

 束「ほ~ほ~、成る程ね~。つまりあの列車はタイムマシンみたいなものなんだね~」

 

 突然医務室の窓から束が顔を出した。

 

 千冬「束」

 束「ちょーっと調べさせてもらったよ~。とは言っても、特に異常らしい異常は無かったけどね~」

 カルマ「異常なし?そんな筈は……」

 デネブ「確かにあの時、ゼロライナーに異常が起こったのだぞ?」

 束「う~ん、束さんにもさっぱり……牙君、何か分かるかな?」

 牙也「え、俺ですか?うーん……もしかすると、そのゼロライナーが通ってきた線路自体が原因じゃないかな。大量の蔦が絡まってたって話だし……多分その蔦、ヘルヘイムの植物かも」

 カルマ「ヘルヘイム……ですか?」

 牙也「ああ。この世界はな、ヘルヘイムの森っていう異世界と意図的に繋がってしまっているんだ。恐らくアガレス達三人が見た蔦はヘルヘイムの森に生える植物で、その蔦が絡まってた線路が、ゼロライナーを使って入れるこの世界への入り口だったんだろうな」

 カルマ「成る程……ではゼロライナーに異常が出たのは?」

 牙也「それは俺もさっぱりだ。あくまで推測だが、その線路を通る間だけ異常が起きてたのかもしれないな」

 カンナ「もしかすると、最初からアガレス様達をここに呼び寄せる事が目的で、その線路が敷かれていたのではないでしょうか」

 デネブ「上手く誘き寄せられたという事か……だがだとしたら、あの線路を敷いたのは誰なんだ?」

 牙也「それは俺達でも分からんよ。調べようがない」

 カルマ「そうですよね……ところで束さん、先程ゼロライナーを見たと言いましたが、ゼロライナーは今動きますか?」

 束「う~ん、束さんが点検した限りじゃあの列車は暫く動かせないよ、車輪が欠けてたりしてたし……動かしたら危険かも。それに線路が無いんじゃ、あの列車が動いたとしても帰れないんじゃないかな?」

 デネブ「そうか……どうする、カルマ?」

 カルマ「どうすると言われてもねぇ……動けないならどうしようもないよ。暫くはゼロライナーを修理しながらこの世界で生活するしか……」

 千冬「それなら、暫くここの寮の空き部屋でも使うか?」

 

 すると悩んでいたカルマに千冬がそう提案した。

 

 カルマ「え、良いんですか?」

 千冬「部屋は沢山余っているからな。泊まる人間が一人や二人増えたところで、別に何ら変わりはせん。ゼロライナーとやらが直るまでは、ここでゆっくりすると良い。学園長には私から話を通しておく」

 カルマ「千冬さん……ありがとうございます」

 千冬「ただすぐには部屋は用意できん、部屋の掃除等が必要だからな。それにお前達は一応怪我人だ、今日は念のため医務室で一夜を過ごせ」

 デネブ「何から何まですまない」

 刀奈「ありがとうございます」

 千冬「では私は一旦戻るが、何か用件があるなら篠ノ之かカンナに頼め。牙也と楯無はちょっと来い」

 

 そう言うと千冬と牙也、それに楯無は医務室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「ところで牙也、何故お前達があのゼロライナーに乗っていたのだ?」

 牙也「ああ、それなんですけどね……」

 

 職員室に戻る途中、千冬は牙也に何故ゼロライナーに乗車していたのか聞いた。

 

 牙也「クラック使って旅してる途中で、あのクラックがゼロライナーの二両目にたまたま繋がったんですよ。それでその後あの事故が起きて……」

 千冬「成る程、偶然乗ってしまったのか」

 牙也「まあ皆無事で良かったですよ、ほんと。下手すりゃ惨事だった」

 楯無「そうね、列車内にいた牙也君達もそうだけど、もしあの列車が現れた場所に誰かがいて下敷きになった……なんて事になったら……」

 

 楯無のその言葉に三人揃って身震いする。

 

 牙也「……今回はほんと運が良かったな」

 千冬「そうだな……話を変えるが牙也。明日寮三階の空き部屋を二つ程きっちり掃除してくれ、あの三人を泊めるからな」

 牙也「分かりました」

 千冬「楯無は明日も私とともに彼らの事情聴取だ」

 楯無「はい」

 千冬「では私からは以上だ。今日はしっかり休めよ」

 

 千冬はそう言うと職員室に入っていった。

 

 牙也「ところで楯無。さっきの彼女の名前、刀奈っつってたよな?もしかして、あれがお前の本名なのか?」

 楯無「ええ。楯無という名前は、更識家当主が代々受け継ぐ名前なのよ」

 牙也「成る程ね……一ついいか?」

 楯無「何よ?」

 牙也「……お前当主としての自覚あんの?」

 楯無「失礼ね!ちゃんとあるわよ!」

 牙也「仕事を虚に押し付けたりしておいてか?」

 楯無「うっ!」

 牙也「……まあ迷惑掛けない程度にしっかりやれや。じゃないと簪に愛想つかされるぞ」

 楯無「……分かってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「私達を助けていただき、ありがとうございました」

 カンナ「顔をお上げ下さい、アガレス様。実を言うと、私達も助けられた者なのですよ」

 デネブ「どういう事だ?」

 カンナ「それはですねーー」

 

 カンナはその経緯を逐一話した。

 

 カルマ「そうですか……巻き込んでしまって申し訳ありません」

 箒「謝らなくて良い、私達がたまたま乗り合わせた事にアガレス達は気づかなかったんだ。それにどう転んでも、あの事故は防げなかっただろう」

 カルマ「そう言っていただけると、多少気持ちが楽になります……」

 刀奈「二人ともありがとうね。カルマ様や私達を助けてくれて」

 カンナ「いえ、お気になさらず……ところで刀奈様、先程アガレス様の事をカルマ様とお呼びに……」

 刀奈「ええ。だってカルマ様は私がお仕えしているお方だからね」

 箒「更識家の事はうちの会長や簪から少し聞いていたが……アガレスはそんなに重要な人物なのか?」

 刀奈「勿論よ!だってカルマ様は皇族であり、私と結婚の約束もしているからね!」

 カルマ「ちょ、刀奈!?」

 

 カルマが慌てて止めたが、既に遅い。刀奈の思わぬカミングアウトに、

 

 箒「( ゚д゚)」ポカーン

 カンナ「( ゚□゚)」アングリ

 

 二人はこの表情のまま固まってしまった。

 

 カルマ(やれやれ、これから大変になりそうだな……)

 

 カルマはそう思いながら思わず頭を抱えてしまうのであった。

 

 

 

 





 現在ヒグマチキンさんの『IS×仮面ライダー 仮面ライダー炎龍』とコラボ中です、そちらもお読み下さい。

 コラボして下さる作者の方を引き続き募集中なので、よろしくお願いいたします。ではまた次回!



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コラボ7 初恋ノ記憶(3)


 いや~、そろそろ梅雨の時期ですね~。私は閉めきった部屋で毎晩蒸し暑さと戦っております。
 え?クーラー付けろって?いやいや、クーラー付けても暑い時は暑いんですよ。皆さんは熱中症に気をつけて下さいね。

 では、始まります!




 

 牙也「こ、皇族!?」

 

 次の日の朝。隣で朝食を食べている箒からカルマの事を聞いて、牙也は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

 

 牙也「マジか……俺昨日思い切りタメ口で話したぞ」

 箒「私だってそうだ。それを聞いた後謝り続けたぞ、本人は気にしてなかったようだが」

 牙也「はぁ……俺も後で謝らなきゃな」

 カルマ「何を謝るんですか?」

 

 その声に牙也達が振り向くと、カルマとデネブ、それに刀奈が朝食を乗せたお盆を持って立っていた。

 

 牙也「アガレス……いや、アガレスさんか。いえ、昨日の貴方への態度の事ですよ」

 カルマ「昨日の……ああ、そういう事ですか。それでしたら昨日篠ノ之さんにも言いましたが、別に気にしなくても構いませんよ、皆さん知らなかった事ですから。それに皇族と言っても、私達がいた世界での事。この世界ではその皇族という称号は通用しませんから」

 牙也「ですが……」

 カルマ「気負わなくて良いんです。あとあまり堅苦しい言葉遣いはちょっと苦手で……いつも通りの喋り方で構いませんよ」

 デネブ「カルマもそう言ってるんだ、普通にしたらどうだ?」

 牙也「……アガレスがそう言うのなら。やっぱり敬語は疲れるな、少し緊張する」

 カルマ「やはりその喋りの方が、貴方にはしっくりきますね、えっと……」

 牙也「あ、名乗ってなかったな。俺は雷牙也だ、よろしく頼む、アガレス」

 カルマ「改めまして、カルマ・アガレスです。こちらは相棒のデネブ、それとご存知でしょうが更識刀奈です。よろしくお願いします、雷さん」

 牙也「俺の事は牙也で良いよ。そっちの方が呼びやすいだろ?まあ取り敢えず座りなよ、あとは朝飯食べながら話そう」

 

 牙也がそう促すと、カルマ達は「失礼します」と言って牙也の隣に座った。

 

 カルマ「牙也さんは学園の生徒ではないようですが……何故こちらに?」

 牙也「俺はここに用務員として雇われたんだよ。普段は学園中を掃除して回ってる」

 刀奈「IS動かせないの?」

 牙也「ああ。ま、それは表向きだけどな」

 デネブ「どういう事だ?」

 牙也「昨日話したヘルヘイムに理由があるのさ。話すと時間掛かるが……」

 セシリア「牙也さん、向かい側よろしいですか?」

 

 そこへセシリア達もお盆を持ってやって来た。

 

 牙也「お早うさん、別に俺達は構わんぞ」

 鈴「それじゃ失礼するわね!」

 

 するとセシリアに続いて鈴達も座っていく。席順は食堂の出入口から見て右側にカンナ、箒、牙也、カルマ、刀奈、デネブ。その向かい側にラウラ、シャルロット、セシリア、鈴、一つ空けて簪、本音が座った。

 

 箒「一夏はどうした?」

 鈴「まだ料理が来てないから、先に席を取っといてって頼まれたのよ。多分そろそろ来る筈なんだけど……」

 

 一夏『鈴~、何処だ~?』

 

 鈴「あ、一夏!こっちこっち!」ブンブン

 

 朝ご飯を食べに来る生徒達で賑わう食堂を生徒達の間を縫うようにやって来た一夏に、鈴が立ち上がって手をブンブン振って場所を示す。

 

 一夏「悪い悪い、遅くなったよ。あれ、この人は?」

 牙也「昨日の騒ぎで俺達と一緒に救出された人達だ。カルマ・アガレスさんと彼の相棒のデネブ、そして更識刀奈だ」

 一夏「アガレスさんにデネブさん、刀奈さんか。織斑一夏です、よろしくお願いします」

 カルマ「カルマ・アガレスです。歳は19ですのでお間違いなく」

 一夏「え、アガレスさん19なんですか?牙也より一個年上ですね」

 デネブ「という事は牙也は18なのか!カルマと同い年かと思ったぞ、見た目大人びているからな!」

 牙也「そんなに大人びてるか?」

 一夏「背が高いからじゃね?」

 

 一夏のその言葉に牙也は「なるほどな」と言ってお茶を啜る。

 

 箒「そうだ、セシリア。久し振りに練習に付き合ってくれないか?旅の間ほとんどISを動かしてないから、腕が鈍っていそうでな」

 セシリア「分かりましたわ、私も今日は練習をするつもりでしたので。いつものように厳しく行かせてもらいますわよ」

 簪「私も、参加して良い……かな?」

 箒「勿論だとも。鈴達はどうする?」

 鈴「それじゃあたしも参加させてもらうわ。久し振りに箒の腕前を見せてもらうわよ」

 ラウラ「私は午前中デュノアと買い物に行くから、今日は午後からになる」

 本音「私も練習に参加する~」

 牙也「俺は部屋の掃除があるから終わったら見に行くよ。それじゃお先に」

 

 そう言うと牙也は食器を片して食堂を出ていき、それに続くように他のメンバーもご飯を食べ終えて食堂を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「さ~てと……ささっと終わらせようかな」E.エプロン・バンダナ・マスク

 

 いかにも家政婦のおばさんみたいな格好をした牙也はそう言って、埃を大量に被った部屋を見渡した。

 

 牙也「取り敢えずまずは全体の埃を落とさないとな。それから拭き掃除と、備品整理と、電気系統が作動するかの確認と……ふむ、二部屋で三時間あれば充分かな。よし、始めっか!」

 

 牙也はまずはたきを取り出すと部屋全体の埃を落とし、それらを全て掃除機に吸わせた。それが終わると今度は部屋の床から壁から机やベッド等の備品に至るまで全てを拭き掃除。そして破損している備品を交換し、エアコンやコンロ等の確認。少しの手抜きもなくあっという間に二部屋全て終わる頃には、既に日が高く上っていた。

 

 牙也「ありゃ、もう昼なのか。時間が進むのは早いなぁ……腹も減ったし、掃除機とかの片付けは後にして、飯に行こうか」

 

 コンコン

 

 牙也「ん、誰だ?」

 カルマ『アガレスです。牙也さんがここにいると聞いたもので』

 牙也「入ってきて良いぞ、ちょうど掃除が終わったからな」

 

 そう言うとカルマが部屋に入ってきた。

 

 カルマ「うわっ、凄い綺麗ですね。新築の家の部屋みたいだ」

 牙也「掃除のプロにはこれでも負けるよ。二部屋とも掃除終わったから、順次荷物を持ってきなよ」

 カルマ「はい、それもそうですが……牙也さん、良かったらご飯食べに食堂に行きませんか?」

 牙也「奇遇だな、俺もこれから食堂に行くところだったんだ」

 カルマ「では行きましょう」

 

 カルマに促され、牙也はエプロンやバンダナを掃除機の上に置いて食堂に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「そう言えば……この世界の織斑君、学園の服装ではありませんでしたが、何故でしょうか?」

 

 食堂に向かう途中、カルマは一夏の服装について牙也に聞いた。確かにカルマと一夏が初めて会った時の一夏の服装は、私服の上から白衣を纏った姿であった。

 

 牙也「ああ、こっちの世界の一夏はISを動かせなかったんだよ。ちょっと訳ありで今は束さんのサポートをしてるんだ。んで、代わりにISを動かしたのが、一夏の弟。今は刑務所に放り込まれてるけど」

 カルマ「刑務所?」

 牙也「訳ありでな。ま、詳しくは詮索しないでくれるとありがたい」

 カルマ「はあ……分かりました。それにしても、さっきの牙也さんの服装、様になってましたね。あの有名なドラマを思い出しましたよ」

 牙也「俺は家政婦の○タじゃないぞ。それに髪も長くないし、あの人眼帯もしてないだろ」

 カルマ「ですがそれくらいお似合いでしたよ。髪伸ばしたらまさに女の子に見えるでしょうね」

 牙也「眼帯に長髪ねぇ……そんな女の子、果たしてーー」

 ラウラ「おお、牙也ではないか」

 

 とそこへ、ラウラとシャルロットが現れた。買い物帰りだったのか、買い物袋を沢山提げている。

 

 牙也「……いたわ、ここに一人」

 ラウラ「……何の話だ?」

 牙也「こっちの話だよ、気にすんな。二人は買い物帰りか?」

 シャルロット「えへへ、二人で色々試着したりしてたらいつの間にかこんなに沢山買っちゃって……」

 ラウラ「また着せ替え人形にされたぞ……」グッタリ

 牙也「御愁傷様。俺達これから食堂に行くんだが、来るか?」

 シャルロット「えっと、誘ってくれるのはありがたいんだけど……」

 牙也「奢ってやろっか?どうせ買い物でお金使いすぎたんだろ」

 ラウラ「正解だ……すまんな、恩に着る」

 牙也「給料余ってるからな、気にすんなよ。取り敢えず袋全部置いてきな、席は取っとくからよ」

 

 

 

 

 prrrrーーprrrrーー

 

 

 

 

 すると牙也のスマホが鳴った。確認すると、束からの着信だった。

 

 牙也「もしもし?」

 束『あ、牙君?学園内にクラックが確認されたよ、場所は三年生の学生寮の近く。インベスはまだ出てきてないけど、念のためいっくんが先に向かってるから』

 牙也「三年の学生寮近くですね。了解、すぐに向かいます」ピッ

 ラウラ「インベスか?」

 牙也「まだクラックだけだ。念のためそこに向かうから、ラウラ達はアガレスと一緒に食堂に行っててくれ」

 

 そう言うと牙也は寮の窓から飛び降り、そしてクラックを地面ギリギリの位置に開いて飛び込んだ。

 

 ラウラ「相変わらず騒がしい奴だな、牙也は」

 シャルロット「それが牙也さんだもん、しょうがないよ。それじゃ僕達は食堂に行こっか」

 ラウラ「そうだな、アガレスさんも一緒にーーあれ?」

 

 ラウラが気づいた時には、既にカルマの姿はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルマは牙也を追いかけて三年生寮に向かった。そしてその場所に辿り着いたところでカルマは何かを見つけ、咄嗟に建物の陰に隠れてそのまま様子を伺う事にした。カルマの目線の先にはクラックが開いており、その前には赤いスーツの上に星型の鎧を装着したライダーが同じく星を模した剣と盾を構えて立っている。

 

 カルマ(恐らくあれが、牙也さんの言っていた『クラック』でしょうね。だとしたら、あのライダーは一体……?)

 

 すると、クラックの中からインベスが次々と現れた。丸っこい見た目のインベスが一番多く、その後ろからは様々な見た目でカラフルな色合いのインベスが出てくる。そのライダーは剣を振るってインベスを次々と斬り裂いていく。とそこへ、新たに赤いスーツに紫の鎧を装着したライダーと薄緑のスーツに同じく薄緑の鎧を装着したライダーが加勢してインベスを攻撃し始めた。

 

 カルマ「なるほど、私の予想が正しければ、あのライダーは牙也さん達。だとしたら、あの数を相手するのは難しいでしょう。加勢しなければ」

 

 そう言ってカルマは一本のベルトを取り出して腰に巻いた。そのベルトは自動改札機を象ったバックルが付けられ、色が濃いめの緑などやや暗い印象を受ける。そしてカルマはベルト左側のケースからやや大きめの切符のようなカードを取り出した。それはカードに走る溝が緑色の面と黄色の面があり、カルマは緑色の面が正面になるように持った。そしてバックル上部のレバーを右側へスライドさせると、和風の効果音が流れ始めた。そしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「変身」

 

 

 《Altair Form》

 

 

 

 

 

 

 バックルにカードを差し込むと、音声と共にカルマの体を緑色のスーツが覆い、その上からYの字形にレールが走ったアーマーが装着された。そして頭部のレールからは後頭部から牛の頭のようなものが鳴き声を上げながら走ってきて、顔の正面に来ると変形して複眼の形となった。

 

 カルマ「今日の私の気分は……そうですね、新しい出会いに気分が高揚しています」

 

 そう言いながら、カルマは腰に提げた二つのパーツを合体させてボウガンの形にした。それを正面に構えると、インベスの群れに向かって走り出した。その際ボウガンから次々と矢を放ってインベスを蹴散らす。そしてインベス達の前まで来ると、カルマはそのボウガンを今度はパーツを差し換えてサーベルの形にした。それを地面に突き刺し、インベスを指差してこう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「最初に言っておきます……私はかーなーり、強いですよ?」

 

 

 

 

 





 ゼロノスはあれですね、初変身の際に雷落として木を真っ二つにしたシーンが個人的に一番好きです。皆さんはどのシーンが好きですか?

 ヒグマチキンさんの作品『IS×仮面ライダー 仮面ライダー炎龍』でのコラボも是非お読み下さいね。

 次回、共闘!



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コラボ7 初恋ノ記憶(4)


 色々ゴチャゴチャしましたが、なんとか書き終わりました。




 

 牙也達は、突然現れた謎のライダーに驚いていた。そのライダーは牛の頭を象った複眼にYの字に敷かれたレールのようなアーマーを身に付けており、ベルトのバックルは自動改札機のようにも見える形をしていた。そしてそのライダーはインベスを指差すなり、

 

 カルマ「最初に言っておきます……私は、かーなーり、強いですよ?」

 

 そう言うと、サーベルを肩に背負ってインベスの群れに向かって走り出した。サーベルと言うには大き過ぎる見た目の武器を、そのライダーは軽々と振り回してインベスを斬り裂いていく。

 

 箒「牙也、今の声は……!」

 牙也「ああ、アガレスだな。どうやら味方である事は確かなようだぜ、こうやってインベス討伐に力を貸してくれてるみたいだし」

 一夏「そうだな、俺達の味方ならありがたい。取り敢えずまずは、インベスを片付ける事から始めるか!」

 牙也「そうだな、話を聞くのはその後だ!」

 

 三人はそれぞれの武器を構えてインベスの群れに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルマが変身したライダーはサーベル型の武器を軽々と振り回してインベスを斬り裂いていく。次々とクラックから溢れ出てくるインベス達に多少驚きはするものの、飛び掛かってくるインベスを斬り捨て、打ちのめし、叩き潰した。その後ろからは牙也達がそれぞれの武器を思うままに振るってカルマの戦闘をサポートする。とそこへ、今までより一回り大きいクラックが複数開いた。

 

 カルマ「何か来ますね……!」

 

 カルマがそう予想して武器を構えた通り、

 

 

 

 

 

 『ブモオオオオオオ!!』

 

 

 

 

 

 クラックの中からイノシシインベスが勢い良く飛び出してきた。それも一体だけに留まらずなんと三体。

 

 箒「な……!?まずいぞ牙也、どうする!?」

 牙也「決まってるだろ……叩き潰すだけだ!二人ともこれを使え!」

 

 牙也はそう言うと一夏と箒にそれぞれ別々のロックシードを投げ渡した。

 

 一夏「これ何のロックシードだ?」

 牙也「使えば分かる!暴れられる前にさっさと片付けるぞ!」

 箒「分かった!」

 

 《ジャックフルーツ》

 

 《スイカ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ジャックフルーツアームズ!巨・影・剛・球!》

 

 《カモン!スイカアームズ!大玉・ビッグバン!》

 

 《ヨロイモード!》

 

 牙也と箒はジャックフルーツアームズを、一夏はスイカアームズを纏った。そしてヨロイモードとなってそれぞれ武器を構える。牙也はハンマー、箒は大剣、一夏は双刃刀だ。

 

 カルマ「おお、大きくなりましたね」

 

 そこへイノシシインベスが鼻息を荒くしながら突進してきた。

 

 牙也「返り討ちだ!」

 

 《ジャックフルーツスカッシュ!》

 

 《スイカスカッシュ!》

 

 カッティングブレードでそれぞれのロックシードを一回切り、目の前に現れたジャックフルーツとスイカの形のエネルギーをイノシシインベスに飛ばす。飛ばされたエネルギーがイノシシインベスを動けないように固定し、

 

 

 牙・箒・一『ミンチ(真っ二つ)(微塵切り)にしてやる!!』

 

 

 三人は一気に接近して、ハンマーで叩き潰し、大剣で半分に斬り、双刃刀で滅多斬りにした。三体のイノシシインベスは鳴き声を上げながら爆発四散。

 

 カルマ「流石、とでも言いましょうか……私も負けていられませんね」

 

 武器を肩に背負ってそう言うカルマに下級インベスが襲い掛かる。しかし突然カルマの後方から銃撃音が響き、インベスが吹き飛ばされる。カルマが後ろを見ると、両手の銃口をインベスに向けながらデネブが走ってきた。

 

 デネブ「カルマ、大丈夫か!?」

 カルマ「ちょうど良いタイミングですね、デネブ!一気に片をつけます、力を貸して下さい!」

 デネブ「おう、任せろ!」

 

 デネブが後ろに立ったのを見てカルマはバックルからカードを引き抜くと、今度は黄色の面を正面に持ってバックルに再び差し込んだ。

 

 《Vega Form》

 

 変身時とは別の音声が流れ、アーマーはレールが敷かれたものから緑色の重厚なアーマーとなり、胸部にはデネブの顔が現れる。カルマの背中側に回ったデネブは両手をクロスさせてカルマの両肩に乗せる。と、デネブの体は一瞬にして漆黒のローブになって肩から踵までを覆い尽くす。頭部のレールからは半分こにされたドリルが走ってきて、顔の正面に来るとそれらが合体して回転、星型のフェイスを作り出す。そしてサーベルを一回転して地面に突き刺すと、周囲が陥没を起こした。牙也達がその様子を見ていると、静かにインベスの群れを指差しながら彼はこう言った。

 

 

 

 

 デネブ『最初に言っておく!この胸の顔は、ただの飾りだ!!』

 牙也「知るかボケ!!てかアガレスの筈なのにデネブの声がするんだが!?」

 カルマ「デネブ、この数を一度に相手するのは愚策です。一瞬で終わらせましょう」

 デネブ『あい分かった!』

 牙也「スルーすんな!!」

 

 

 

 

 牙也の鋭いツッコミをスルーし、デネブ(inカルマ)は武器のパーツを差し換えてボウガンにし、バックルの左上のスイッチを押す。

 

 《Full Charge》

 

 その音声と共にカードにエネルギーが充填され、それをバックルから引き抜き、デネブはボウガンのスロットに差し込んだ。ボウガンに先程カードに充填されたエネルギーが集まっていき、それをデネブはインベスの群れに向けた。下級インベスがそれを見て襲い掛かっていくが、それよりも早くデネブはボウガンのトリガーを引くと、ボウガンから何十本もの光矢が放たれてインベスの体を貫いていき、体を貫かれたインベスは体に黄色のVの字が浮かび上がって次々と爆発四散、後にはなにも残らなかった。

 

 デネブ『ふぅ……格好良く決まったな!』

 カルマ「ありがとうございました、デネブ」

 

 デネブがボウガンを下ろすとベルトが腰から外れて変身が解除され、元のカルマとデネブの姿となる。牙也達も変身を解除してカルマ達に走り寄った。

 

 牙也「アガレス、インベス討伐の手伝いしてくれてありがとう。お陰で助かったよ」

 カルマ「いえ、お気になさらず。私が自主的に参加しただけなので」

 箒「しかしアガレス。お前が使ったそのベルトは一体何なのだ?それにデネブ、お前は一体何者なのだ?」

 カルマ「それについてはまた後でお話します。それより今は……」

 一夏「今は?」

 

 

 グキュルルル~

 

 

 カルマ「……昼食を食べませんか?」

 箒「ごもっともだな。私達皆、まだ昼食を食べていないしな」

 牙也「俺は束さん達に報告してから行くよ。アガレス、そのベルトについて包み隠さず話してくれよ」

 カルマ「もちろん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「おお、ようやく終わったのか……って、アガレス!お前一体何処に行っていたのだ!?」

 

 牙也達が食堂に到着すると、ずっと待っていたのかラウラとシャルロットが駆け寄ってきた。ラウラに至ってはカルマを見るなりそう言って睨み付けた。

 

 カルマ「すみません、牙也さんが言っていたインベスというのがどんなものなのかついつい興味が沸きまして……」

 シャルロット「だからって勝手に動いちゃ駄目だよ!万が一何かあったら大変なんだから!」

 牙也「まあまあ二人とも、今回は俺に免じて許してあげてくれ。それに今回はアガレスに助けられたからな」

 ラウラ「助けられた?」

 一夏「ああ、アガレスさんも仮面ライダーに変身して、一緒に戦ってくれたんだ。でもアーマードライダーとは全然違ったなぁ」

 ラウラ「ほう、興味があるな。私達にも聞かせてくれ」

 

 その後牙也から報告を受けた千冬と束、さらにセシリアと鈴等いつものメンバーも食堂に来て、一同はカルマが変身した仮面ライダーについて話を聞く事にした。

 

 カルマ「あれはゼロノス。『仮面ライダーゼロノス』です」

 シャルロット「ゼロノス?」

 カルマ「初めてお会いした際に私は『時の流れを見回っていた』と言った事、牙也さん達は覚えていますか?」

 千冬「ああ、確かゼロライナーを使って時の流れを見回っているのだったな」

 カルマ「はい。そして時の流れを脅かす者ーー私達はそれを『イマジン』と呼びますが、そのイマジンが現れて時の流れに影響を及ぼし始めた時にイマジンと戦うのが、先程私が変身したゼロノスなんです」

 牙也「時の番人……って感じか?」

 デネブ「まあそう考えてくれれば良い。そしてカルマと俺は長年時の番人として共に戦うパートナーなんだ!」

 一夏「パートナーか……ところでアガレスさん、デネブさんって何者?」

 カルマ「デネブも先程言ったイマジンです。ですが時に影響を及ぼそうとするそこらのイマジンとは全く違いますよ、私と契約を交わしていますから」

 鈴「契約?」

 刀奈「カルマ様が変身するゼロノスは、カルマ様自身やデネブのオーラをフリーエネルギーに変換して変身するのよ。ゼロノスとして戦う為には、デネブの存在がある意味不可欠なのよね」

 楯無「時の番人として戦う為に時に干渉できるイマジンと契約……理に叶ってるわね」

 カルマ「はい。私から話せるのはここまでですが、何か他に聞きたい事があれば答えられる範囲で答えますよ」

 千冬「いや、充分だ。必要になったらまた聞く」

 

 そう言うと千冬は束と共に(半ば強引に)食堂を出ていった。

 

 牙也「しかし、ゼロライナーが通ってきたっていうレールがアガレス達をこの世界に導いたとしたら……その理由は何なんだ?」

 カルマ「大方イマジンがこの世界に入り込んだのかもしれませんが、今は断定出来ませんね。私もインベス討伐を手伝いますので、暫くの間ここにお世話にならせていただきます」

 一夏「よろしくお願いします!」

 

 その後は普通に遅い昼食を食べながら談笑した。なおその際、カルマと刀奈が結婚前提で付き合っている事をカンナのカミングアウトで知った楯無が血涙を大量に流してのたうち回り、牙也と簪のチョップで轟沈したのは余談だ。

 

 

 

 





 次回から本格的に動き出します(何がとは言わない)



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コラボ7 初恋ノ記憶(5)


 記憶は巡るーー時は回り出すーー。




 

 カルマ達三人が学園に住み込み始めて数日経ったが、肝心のゼロライナーの修理は一向に進まない。何せこの世界にはない金属やその他の素材を使用している為に、直したくても直せないのだ。まあ代用品で修理すれば何とかなるかもしれないが、カルマ達の世界に戻るまでにきちんと修理箇所が保つかが微妙なので、どうにかしようと色々試行錯誤している状況である。

 

 束「んぁ~!技術自体別次元の物だから、束さんでもうまくいくかが微妙だよ~……クロちゃん、そっちは大丈夫?」

 クロエ「まだ一向に進みません~……」

 カルマ「面倒かけます、束さん。デネブ、そっちはどうだい?」

 デネブ「コントロール系統及びその他諸々は大丈夫だ、今調べたが普通に作動する。あとは外面だな」

 束「未知の物使ってるって他所の人からすれば面倒だよね~完璧に直せないから……」

 カルマ「無茶に直さずとも、私達の世界にギリギリ戻れる程度に強度があればそれで構いませんよ。向こうに戻れたらすぐに修理に出しますから」

 束「中途半端に直すのは技術者として許せないのだよカルマ君!技術者として中途半端な物は作れないし、中途半端には直せないのよ、分かる!?」ビシッ

 カルマ「わ、分かりました……分かりましたから落ち着いて」ドオドオ

 クロエ「た、束様、落ち着いて下さい……」ドオドオ

 

 束の珍しく技術者らしい発言に押されながら、カルマはゼロライナーの修理を始める。ゼロライナーが動かせるようになるまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「~♡」ゴロゴロ

 牙也「うりうり~」ワシワシ

 

 牙也と箒の部屋。二人が住むこの部屋では、ベッドの上で牙也が箒を膝枕しながら頭を強めに撫でていた。整えられた髪が崩れる程の撫で具合に、箒はご満悦のようだ。すると、箒が思い出したかのように言った。

 

 箒「それにしても、色んな世界を見てきたな、私達」

 牙也「そうだな……そして様々な人々を見てきた」

 箒「シュラが言っていたな、『私達には決定的に足りないものがある』と」

 牙也「そうだな……けど、今回の旅ではいまいち掴めなかった。あいつらが戦う理由は数あれど、どれも今の俺達の疑問ーーシュラの遺言には当てはまらない。一体何が俺達には足りないんだ……?」

 箒「分からん。だが掴むしかあるまい、その空虚な物を。シュラが私達に伝えようとした何かを」

 牙也「ああ。掴まなければ、あいつらには勝てない。何としても掴むしかないんだ、俺達は」

 

 部屋の窓から差す日の光に手を伸ばしながら、牙也はそう言って目を細めた。箒もそれに倣って、寝転んだ状態から日の光に手を伸ばす。時刻は昼下がり、少しずつ西に沈んでいく太陽は、明るく、しかし鈍い光を二人に向けて放っていた。と、

 

 

 コンコン

 

 

 部屋のドアがノックされた。

 

 牙也「誰だ?」

 本音『やっほ~牙っち~、遊びに来たよ~』

 牙也「本音か。鍵は開いてるから入ってきて良いぞ」

 本音『ほ~い』

 

 気の抜ける返事が聞こえると、ドアが開いて本音が入ってきた。その後ろにはさらに数人の女子が続いて入ってくる。

 

 簪「お、お邪魔します……」オドオド

 清香「お邪魔しまーす!」

 静寐「失礼しまーす……って、あら」

 箒「更識に相川に鷹月か。今お茶を出すから、座って待っていてくれ。牙也、また後でな」

 

 箒は膝枕の状態から立ち上がると、大きく伸びをして髪を整えてから台所に消えた。

 

 清香「ふふっ、相変わらずラブラブだねぇ」

 静寐「羨ましいなぁ~。私も早く彼氏欲しいなぁ」

 牙也「大丈夫さ、すぐにできるよ。まあとにかく座りなよ」

 

 牙也に促されて簪達三人はベッドや床に座り、

 

 本音「お邪魔しま~す」ゴロン

 

 本音は牙也の膝枕を占拠した。

 

 牙也「こらこら、せめて箒の許可くらいは取りなよ」

 本音「お~、良い感じ~」

 簪「だ、駄目だよ本音、篠ノ之さんに怒られちゃうよ」

 本音「だいじょぶだいじょぶ~、ほーちゃんならこれくらいで怒らないって~。ほら、かんちゃんも一緒に!」グイッ

 簪「ひゃっ!?」

 牙也「うわっ!?」

 

 簪が立ち上がって本音に注意するが、本音に急に制服の袖を引っ張られてバランスを崩し、牙也を押し倒す形で倒れてしまった。

 

 牙也「いてて……」

 簪「いたた……はっ!?ご、ごめんなさい!////」バッ

 

 簪は慌てて牙也から離れるが、周りを見ると本音達三人がニヤニヤしながら簪を見てきていた。簪は顔を真っ赤にして目を反らすが、その目線の先の台所からは箒が同じくニヤニヤしながら見てきていた。四方八方からニヤニヤ見られ、簪は更に顔を真っ赤にして俯くしかなかった。そんな時に箒が全員分のお茶を持ってきた。

 

 箒「四人とも、ゆっくりしていくと良い」

 

 そう言うと箒は牙也の後ろに回って、後ろから牙也を抱き締めた。いわゆる『あすなろ抱き』だ。

 

 清香「おーおー、見せ付けてくれるねぇ~」

 静寐「お茶が甘く感じるねぇ~」

 本音「仲良し仲良し~♪」

 簪「……////」ポッポッ

 箒「牙也~、牙也~♡」ゴロゴロ

 牙也「ほいほい」ナデナデ

 

 清香「て言うかさ、本音が牙也さんの膝枕占拠してるのは突っ込まないの?」

 箒「別に?したければすれば良い、牙也だって拒みはしまい」

 清香「おー……正妻の余裕ってやつ?」

 箒「正妻って……ま、まだ私達はけ、結婚はしておらんぞ?////」

 静寐「結婚決まってるようなもんじゃないの?篠ノ之博士もお祝いする気満々だったし」

 箒(姉さん……////)

 

 箒が顔を真っ赤にする中、

 

 本音「牙っちの膝枕、気持ちいいのだ~♪」

 牙也「気に入ってもらえて何よりだよ」ワシワシ

 

 本音は牙也の膝枕を堪能していた(ついでにナデナデも)。

 

 本音「ほーちゃん羨ましいなぁ~、こんな気持ちいい事毎日してるんでしょ~?私に牙っちちょーだいよー」

 簪「ほ、本音!?////」

 清香「おっ、本音がまさかの略奪愛か!?」

 静寐「これに対して篠ノ之さんはどう返す!?」

 箒「ふむ……」

 

 箒は少し考えてからこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「正室は譲れんが、側室なら構わんぞ」

 

 

 

 牙也「!?////」ブハッ

 清香「ファッ!?////」

 静寐「ふえっ!?////」

 本音「へっ!?////」

 簪「!?////」ボフッ

 

 予想外の一言に牙也は窓の外にお茶を吹き出し、残りの四人は一瞬にして顔が真っ赤になった。

 

 清香「え、ちょ……ま、まさかこ、これも正妻の余裕ってやつ?////」

 静寐「よ、余裕持ち過ぎじゃないかな……////」

 箒「なんだ?何か問題でもあるのか?」

 牙也「いや大有りだよ!////箒お前、自分が言った事の意味分かってるのか!?////」

 本音「ほーちゃんが、ま、まさかハーレム許容するなんて~!////かんちゃん、これはチャンスだよ~!////」

 簪「ふえっ!?////な、なんで私!?////」

 清香「て言うかハーレムOKなの!?最悪牙也さんの愛が他所に向かうかもしれないんだよ!?」

 箒「牙也の愛が最後に他所に向かうのは許容できんが……私の事を最後までちゃんと愛してくれるのなら、私はそれだけで充分だ」

 静寐「な、なんと寛大な……堅物なイメージだった篠ノ之さんが、こんなに変わるなんて……」

 清香「愛って凄いね……」

 牙也「俺もびっくり……」

 

 信じられないくらいの箒の変わりように三人が驚いている中、簪と本音は何やらヒソヒソ話している。

 

 本音(かんちゃん、チャンスだよ!今ここで牙っちに告白したら?)

 簪(そ、そんな事出来ないよ!?////し、篠ノ之さんに申し訳ないよ!?////)

 本音(えー!?でも今しなかったらもうチャンスないかもよ?)

 簪(で、でも……////)

 

 牙也「二人は何の話をしてるんだ?」

 簪「ひゃっ!?////」

 本音「えーっとねぇーー」

 簪「な、なんでもないなんでもない!!////も、もうこの話は終わり!!////わ、私もう行くね!////」

 

 本音が何か言おうとしていたが、顔を真っ赤にした簪が無理矢理話を終わらせ、真っ赤な顔のまま部屋を飛び出していった。

 

 本音「あ、かんちゃん待ってよ~!」

 清香「わ、私達も戻るね!」

 静寐「お、お幸せに~!」

 

 それを追い掛けて本音達も部屋を出た。その顔はほんのりだが赤くなっていた。

 

 牙也「……なあ、箒」

 箒「なんだ?」

 牙也「……お前はもう少し慎みを持とうな」

 

 そう言って牙也は再び箒の頭を優しく撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「ふんふんふ~ん♪」

 

 その頃、学園の廊下を鈴がスキップしながら歩いていた。

 

 鈴「明後日は一夏とデート~♪どんな服装にしようかな~♪」

 セシリア「あら、鈴さんではありませんか」

 

 とそこへ、鈴とは反対方向からセシリアが歩いてきた。

 

 鈴「やっほ~セシリア!」

 セシリア「ご機嫌よう。随分嬉しそうですわね」

 鈴「えへへ、明後日一夏と久し振りにお買い物デートに行く事になったんだ!」

 セシリア「あら、それは良かったですね。最近は色々ありましたし、なかなかお二人だけの時間も取れなかったでしょう?」

 鈴「そうなのよ~。久し振りだから嬉しくて嬉しくて!あ、ねぇねぇセシリア。どんな服装が良いと思う?」

 セシリア「お買い物なのでしたら、少し軽い印象の服装がよろしいかと……とは思いますが、一夏さんならどんな服装でも喜んでいただけるかと」

 鈴「うーん、そうなんだけどねぇ……久し振りだからちょっと強気に行きたいのよ」

 セシリア「ふふ……相変わらずラブラブですわね」

 鈴「えへへ、でしょっ?」

 セシリア「ご馳走さま、と言いましょうか」

 鈴「ありがと!」

 セシリア「それではこれにて。明後日のデート、うまくいくと良いですわね」

 鈴「ええ!それじゃあまたね!」

 セシリア「ご機嫌よう」

 

 セシリアは軽く挨拶を交わして去っていった。

 

 鈴「えへへ、私なら何でも喜んでくれる、か……そうよね、変に凝るよりは良いわよね。よーし、じっくり考えて決めなきゃ!何も起こる事なく、一夏と二人っきりのデートをしたいなー!」

 

 

 

 

 

 『その願い、叶えて差し上げましょう』

 

 鈴「え?」

 

 

 

 その声に鈴が後ろを振り向くとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「……はっ!?あ、あれ?私……」

 

 鈴が次に気づいた時、外は日が沈み欠けていた。時計を見ると、午後七時過ぎだった。

 

 鈴「嘘、もうこんな時間!?は、早く戻らなきゃ!」

 

 鈴は慌てて寮へと走り出す。その様子を、

 

 

 

 

 

 

 ??「ふふ……契約完了、ですね」

 

 

 雪だるまが見ていた。

 

 





 分かる方は分かりますよね、最後に出てきた雪だるま。



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コラボ7 初恋ノ記憶(6)


 執筆頑張ってます。




 

 数日後ーー

 

 

 

 箒「牙也~」

 牙也「なんだ~?」

 箒「買い物行かないか?」

 牙也「買い物という名のデートだな」

 箒「なあなあ、良いだろ~?」

 牙也「そうだな、久し振りに外に行こうか!」

 箒「やった~!」

 

 

 

 束「よし、あと一息だね。あとは束さん達に任せて、二人は買い物にでも行ってきたら?」

 カルマ「よろしいのですか?」

 束「うん、あとは束さんとクロちゃんだけでもなんとかなるしね」

 クロエ「ごゆっくり羽を伸ばしてきて下さいね」

 カルマ「それではお言葉に甘えて、そうさせていただきます。デネブ、出掛けるよ」

 デネブ「おう!あ、今のうちに飴をストックしておかなくてはな……刀奈はどうする?」

 カルマ「私から聞いてみますよ」

 

 

 

 一夏「鈴はまだかな~♪」

 鈴「いっちか~♡お待たせ~♡」ギュムッ

 一夏「おー、今日はいつもよりラフな服装だな!やっぱり鈴は何を着ても似合うなぁ!」

 鈴「も~、褒めても何も出ないわよ~♡」

 一夏「いやいや、鈴の俺への愛が沢山出てきてるよ」

 鈴「えへへ、当然でしょ!さ、行きましょ!」

 

 

 

 という訳で、上記三組がそれぞれ買い物に出掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園のある人工島と日本本土を結ぶ電車。その一番後ろの車両ではーー

 

 

 

 

 箒「牙也牙也、何か欲しい物はあるか?今日は私が買い物のお金出してあげるから、欲しい物があったら何でも言ってくれよ?」

 牙也「良いのか?」

 箒「これくらいはさせてくれ。それにお前は物欲が無さ過ぎる、私達の部屋なんか、ほとんど牙也の私物が無いではないか。少しは何か欲しがれ、あと私をもっと頼れ」ズイッ

 牙也「分かった分かった、じゃあ今日だけはそうさせてもらうよ。ところで、今日買い物する場所はレゾナンスなのか?」

 箒「いや、レゾナンス以外に良い場所を簪が教えてくれてな。今日はそこに向かう」

 牙也「おっ、楽しみだな」

 箒「私も初めて行くから、どんな物が売っているのか楽しみだ」

 牙也「へへっ、何を買ってもらおうかな~♪」ワクワク

 箒(ふふっ、子供のように無邪気な顔をして……初めて見たな、こんな牙也の顔)ニコニコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一つ前の車両ではーー

 

 

 

 

 カルマ「取り敢えずゼロライナーの補修の目処がたって良かったです。とは申せ、束さん達に残りの作業を任せた事は気が引けますが……」

 デネブ「まあそう言うな、カルマ。せっかくああ言ってくれたんだ、今くらいは羽を伸ばそうじゃないか」

 カルマ「……そうですね」

 デネブ「ところで刀奈は?置いてきて良かったのか?」

 カルマ「この世界の刀奈達と色々話をしたいとの事でした。『帰ってきたら沢山甘えさせてね!』とも言われましたよ」

 デネブ「そうか。それじゃあ問題ないな」

 カルマ「私も刀奈達に何か買っていきましょうかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番先頭の車両ではーー

 

 

 

 鈴「いっちか~♡」ゴロゴロ

 一夏「鈴~♪」アスナロダキ-

 鈴「そう言えば、一夏とデートも久し振りだね~」

 一夏「束さんの研究を手伝う為にずっとラボに閉じ籠ってたからな~。ごめんな、寂しい思いさせて」

 鈴「ううん、良いの。束さんも今の世界を変えたいって考えてその研究をしてるんでしょ?その為に一夏の力が必要って言われたら、そりゃあたしからは何も言えないわよ」

 一夏「でも寂しかったろ?」

 鈴「本音ではね。でも離ればなれになってて良かったかもって思うの」

 一夏「なんで?」

 鈴「えっと……離ればなれになってると、毎日ずっと一夏の事ばかり考えてて……確かに寂しかったけど、こうやってまた久し振りに会えた時の高揚感って言うのかな、それが大きくて……そしたら『ああ、やっぱりあたしは一夏の事が大好きなんだな』って改めて思えるから♡」エヘヘ

 一夏「鈴……」ドキッ

 鈴「えへへ、やっぱり一夏と一緒にいる時が一番好き♡」

 一夏「」プルプル

 鈴「一夏?」

 一夏「ああもう鈴はやっぱり可愛いなぁ!」ギューッ

 鈴「きゃっ!?も~、くすぐったいよ~♡」ゴロニャーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして本土に到着ーー

 

 

 

 鈴「あら、牙也にアガレスじゃない。奇遇ね、あんた達も買い物?」

 牙也「おっ、鈴に一夏、それにアガレス達も。本当に奇遇だな、俺達も買い物だ」

 カルマ「まさか同じ電車に乗っていたとは驚きですね」

 一夏「ゼロライナーは大丈夫なのか?」

 デネブ「あと少しで修理完了するところまできたぞ」

 カルマ「それで束さんに『あとは任せてゆっくり休んで』と言われまして、それでこうやって買い物に」

 鈴「そうなんだ。あたしと一夏はレゾナンスで買い物デートよ!箒は?」

 箒「最近できた娯楽施設とかを回ってからレゾナンスに行く感じだな。簪がよい場所を教えてくれてな」

 鈴「へぇ~、良かったら後でその場所教えて!」

 箒「勿論だ。アガレスとデネブはどうするんだ?」

 カルマ「私達もレゾナンスに行こうかと。せっかくの二組のデートの邪魔は致しませんので、ご安心を」

 デネブ「飴を買い込まなくてはいけないからな」

 鈴「そっか、それなら途中までは一緒ね。行きましょ」

 デネブ「え、良いのか?」

 鈴「良いわよこれくらい。それとも、何か不服でも?」ズイッ

 カルマ「い、いえ、そのような……」

 鈴「だったら行くわよ。ほら、ついて来なさい」

 デネブ「ならばお言葉に甘えて……」

 一夏「牙也と箒は?」

 箒「私達は別ルートだ。ではお互い楽しく過ごす事にしよう」

 鈴「それじゃ、また学園でね!」

 牙也「おう」

 

 駅でバッタリ会った六人は、牙也と箒は商店街へ、一夏達はレゾナンスへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を、物陰から見つめている雪だるまがいた。

 

 ??「ふふ。まさか時の番人がここにいるとは計算外でしたが……契約の為です、消えていただきましょうか」

 

 雪だるまはボソッと呟いて、一瞬で消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「おおう……これは凄いな」

 

 牙也達が最初に訪れたのは、簪が箒に教えた店。

 

 なのだがーー

 

 

 

 

 

 箒「……まさかコスプレ服専門店とはな……」トオイメ

 

 

 

 

 店頭から店の奥に至るまで、店全体にコスプレ服が飾られている。簪に教えてもらった店は、簪行き付けのコスプレ服専門店だったのだ。

 

 牙也「おー、種類も色も豊富だな。よし、色々試着してみようかな。すいませーん、試着したいんですけど」

 店員「はいはい、どれの試着ですか?」

 牙也「えっと、あれとそれ、あとそれも。箒はどれにする?」

 箒「へ?え、えっと……じゃあ、取り敢えずこれを」

 店員「はいはい、サイズは?」

 牙也「Lでお願いします」

 箒「私もLを」

 

 二人がそう言うと、店員は「少々お待ち下さい」と言って店の奥に引っ込んだ。戻ってくるのを待つ間、牙也は混雑する店内をあちこち見て回っていたが、その中に見知った人物を見つけた。

 

 牙也「簪、本音!」

 簪「ふえっ!?あ、牙也さん……」

 本音「牙っちやっほ~♪牙っちも買い物?」

 牙也「箒が連れて来てくれたんだ、簪に教えられてさ」

 簪「そう、ですか……ここは私の行き付けで、コスプレ服が豊富なので、よく利用してます」

 本音「ところで牙っち、もう試着した~?」

 牙也「いや、これからだ」

 本音「じゃあじゃあ、かんちゃんの試着も見てあげてほしいな~」

 簪「本音っ!?」

 牙也「俺は構わんぞ。箒、お前は?」

 箒「私も見てみたいな」

 簪「うう……わ、分かりました……じゃあ、ちゃんと見てて下さいね?」

 

 

 こうして様々なコスプレ服を全員で試着する事三十分ーー

 

 

 簪「沢山買えた……!」ホクホク

 本音「楽しかった~♪」

 牙也「それにしてもついつい沢山買っちまったな」

 箒「私は疲れた……」グデー

 

 店を出る頃には、四人は両手にコスプレ服を入れた紙袋を沢山提げていた。

 

 牙也「三人ともどれも似合ってたな。思わず見惚れたぜ」

 箒「そ、そう言う牙也こそ、試着した服全て似合っていたぞ////」

 簪「楽しかった……!また、一緒に買い物してくれますか?」

 牙也「勿論。またいつでも誘ってくれよな」

 箒「簪、分かってるよな?牙也はーー」ギロッ

 簪「分かってる……けど前に篠ノ之さん言ってたよね、『正室は駄目だけど、側室ならOK』って」

 箒「そ、そんな事言ったか?」アセアセ

 本音「言ったよ。ていうかかんちゃん……それ遠回しに牙っちが好きって言ってるようなもんだよ?」

 簪「あ……////や、やっぱり忘れて下さい////」カァー

 牙也「え~……」

 本音「牙っち、忘れなくて良いからね!隙有らばかんちゃんは牙っちの正室狙ってるから!」

 簪「本音!////」

 箒「……更識、正室は譲らんと前に言ったろう?」

 簪「うう……た、確かに言いましけど……けど、それで諦める私じゃありません……!」

 箒「ほほう……だが、私は絶対にこの座は誰にも譲らんぞ……!」ゴゴゴ

 簪「そうですか……なら、意地でも取って見せます……!」ゴゴゴ

 

 

 /バチバチバチ\

 

 

 牙也「……なんか急展開になっちまったな。読者さんに申し訳ないや」

 本音「メタイよ牙っち!」

 牙也「てか本音はどうなんだ?」

 本音「ふぇ?」

 牙也「いや、ふぇ?じゃなくて……」

 箒「おい。まさか布仏も牙也の正室を狙ってる訳じゃないだろうな……?」ハイライトオフ

 簪「いくら本音でも、絶対に負けないよ……?」ハイライトオフ

 本音「ふぇっ!?////そ、そんな事ーー」

 箒「正直に話せ。今話すなら何もせん」

 簪「正直に話して、本音。ライバルははっきりさせておきたいから」

 本音「あ、あぅ……////ね、狙ってました////」

 

 本音が消え入りそうな声で喋ると、箒と簪は本音を建物と建物の隙間まで引っ張って行き、何やら話を始めた。

 

 箒(良いな、二人とも。私達三人が揃って牙也に好意を持っている事が分かった以上、今日から抜け駆けは禁止だぞ)

 簪(分かりましたが、篠ノ之さんは特に気を使って下さいね……同室なんですから)

 箒(わ、分かっている!本音も分かったな?)

 本音(了解なのだ!ところでほーちゃん、牙っちとはどこまで行ってるの?)

 箒(へ!?そ、それはだな……////えっと……////さ、最後まで、だ////)

 簪(……篠ノ之さん、今日は本音と一緒に寝てね。篠ノ之さんがそこまで行ったのならわ、私だって……////)

 本音(抜け駆けは無しだよかんちゃん!私も参加するからね!)

 箒(むぅ……ならば今日は三人揃って牙也を……)

 簪・本(賛成)

 

 そんな事を三人が話している間、牙也は現実逃避をするかの如く空を見上げていた。

 

 牙也(まさか簪と本音にも好かれてたとはな……しかもまだ諦めてないという……好意は嬉しいが、箒の事を考えるとな……でもそれだと簪と本音を傷付けかねないし……)ウーン

 

 めっちゃ百面相しながら。と、遠くから爆発音が響いた。牙也達がその方向を見ると、ビルとビルの隙間から何かが飛び出してきた。

 

 簪「……雪だるま?」

 

 飛び出してきた雪だるまを追って、ゼロノスに変身したカルマと閃星に変身した一夏が飛び出してきた。雪だるまは手に持った杖をフェンシングの要領で突くようにして攻撃している。

 

 牙也「なんだあいつ?」

 箒「さあな。だがここは加勢した方が良いかもな」

 牙也「そうだな。簪、本音、荷物を頼む」

 

 牙也と箒は荷物を簪と本音に預けると、零とレオンに変身して雪だるまに攻撃を仕掛け始めた。

 

 

 

 

 

 





 次回、ある人物に危機がーー。



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コラボ7 初恋ノ記憶(7)


 始まります。




 

 牙也と箒が雪だるまと交戦する三十分前ーー

 

 

 

 

 一夏「ほい、鈴。あーん」

 鈴「あ~♪」ムグムグ

 

 レゾナンスに到着した一夏と鈴は、デネブの飴の買い込みに付き合うカルマと別れて、二人仲良くショッピングを楽しんでいた。服・雑貨・日用品、様々な物を買い込み、二人の荷物は複数個の袋に分けられている。今はあらかたの買い物を終えて、レゾナンス内の喫茶店で休憩中だ。一夏がフォークに刺して差し出してきたチョコケーキを鈴は嬉しそうに食べている。

 

 鈴「ん~、おいひ~♪」

 一夏「最近新しくオープンした喫茶店だけど、来て良かったな。どれも美味しいものばかりだ」

 鈴「そうね、ここは私も最近になって知った所だからね~。気に入ってくれた?」

 一夏「勿論!鈴は俺の為にここを探してくれたんだろ?俺にはそれが堪らなく嬉しく感じるよ」

 鈴「えへへ、良かった、気に入ってくれて!」

 一夏「ところで、この後はどうするんだ?」

 鈴「うーん、もう少し色んなお店を見てまわりたいな。ついて来てくれるわよね?」

 一夏「断る理由なんて無いよ。鈴だったら尚更ね」

 鈴「ありがと!それじゃ今度はあそこに行きたいな!」

 一夏「どれどれ……ああ、あそこか。あそこも新しくオープンしたお店だったね」

 

 鈴が指定したのは、レゾナンスに新しくオープンした雑貨店だった。

 

 鈴「ねえねえ、早く行きましょ!」

 一夏「分かった分かった、それじゃお会計ついでにトイレ行ってくるから、ちょっと待ってて」

 

 一夏がそう言って立ち上がると、鈴は「早く戻ってきてね~」とその背中に声を掛けた。一夏がお会計をしている間、鈴はまだ残っていたチョコケーキを食べきってスマホをいじっていた。と、

 

 

 

 

 「ヘイ彼女~♪」

 

 

 

 

 その声に鈴が顔を上げると、いかにもDQNな格好の若者が数人立っていた。その中でも一番先頭に立って一番派手な格好の若者がニヤニヤしながら鈴を見る。

 

 「君可愛いね~、一人?」

 鈴「何よ?あたし今一夏が戻ってくるのを待ってるのよ、ナンパならお断りよ」

 「まあまあそう言わずにさ~、俺達と一緒に遊びに行こうぜ、その一夏って奴は放っといてさ~」

 鈴「はあ……はっきり言わせてもらうけど、あたしはあんた達にこれっぽっちも興味なんてないから。分かったらさっさとどっか行ってくれない?」

 「このアマ……!下手に出てりゃいい気になりやがって……!」

 「おい、このアマ無力感で良いから連れて行け!」ガシッ

 鈴「ちょ、何すんのよ!離しなさい!」

 

 鈴の態度に苛立った若者は、取り巻きに命じて鈴を連れて行こうとした。

 

 

 

 

 

 「ぐあっ!?」

 「な、何だよこいtーーぎゃっ!?」

 

 

 

 

 

 突然後方にいた若者が吹き飛ばされ、店内のテーブルや椅子をなぎ倒しながら倒れ伏す。何事かと他の若者も後ろを向くが、次々と他の若者もなぎ倒されていく。しかしその姿は見えない。

 

 鈴「な、何!?何が起きてるのよ!?」

 

 突然の出来事に鈴が混乱している間にも、若者達は全て倒されてしまった。訳も分からず慌ててその場を離れようとした時、

 

 

 

 

 ??「……おっと。契約ですから、逃げられては困るんですよ」

 

 

 

 

 鈴の後ろに、いつの間にかあの雪だるまが立っていた。

 

 鈴「ひーー」

 

 鈴が叫び声を上げるよりも早く、その雪だるまは何やらカードのようなものを出して鈴の頭に翳した。するとカードに年と日付の文字が浮かび上がった。雪だるまがカードを頭から離すと、鈴は力が抜けたかのように崩れ落ちた。気を失ったようだ。

 

 ??「これでよし。では参りm『待てこら!!』ガフッ!?」

 

 雪だるまがカードを見てニヤついているところに、飛び膝蹴りがその顔面に深く入り込み、大きく吹き飛んで店の壁に叩き付けられた。

 

 一夏「てめぇ……鈴に何しやがった!?」

 

 その人物ーー一夏は気を失った鈴に駆け寄り、怪我がない事を確認すると、雪だるまを睨み付けた。

 

 ??「何を、と申されましてもねぇ……私はその方と契約している身です、邪魔しないでいただきたい!」

 

 雪だるまは手に持ったステッキをフェンシングの要領で突くように攻撃してきた。咄嗟にそれを避けて掴み、一夏はその顔面に一発パンチし、更に追い討ちで膝蹴りとタックルを当てる。雪だるまは店から叩き出され、派手に柱に激突した。それによってレゾナンスはにわかに混乱が起こり、大騒ぎになる。それを追い掛けて一夏も店の外に出る。

 

 ??「くそっ、私の邪魔をするか……!ならば叩き潰しぐぎゃっ!?」

 

 雪だるまが立ち上がった時、一夏から見て右側前方から光矢が数本飛んできて雪だるまに刺さり、吹き飛ばした。光矢が飛んできた方向には、

 

 一夏「アガレスさん!デネブ!」

 

 ゼロノスに変身してゼロガッシャー・ボウガンモードを構えたカルマと、両手に大量の飴の袋を抱えたデネブがいた。

 

 カルマ「一夏さん、大丈夫ですか!?」

 一夏「俺は大丈夫です!けど、鈴が……!鈴があいつに……!」

 カルマ「何ですって!?デネブ!」

 デネブ「おう、鈴の護衛は任せろ!」

 

 デネブが急いで店内に入ったのを見て、一夏は戦極ドライバーとロックシードを取り出す。

 

 一夏「変身!」

 

 《スターフルーツ》

 

 《ロック・オン》

 

 《カモン!スターフルーツアームズ!Shine of SuperStar!》

 

 仮面ライダー閃星に変身した一夏は、スターシールドからスターカリバーを引き抜いて構えた。カルマもゼロガッシャーをサーベルモードにして構える。

 

 カルマ「ここで戦うのはさすがに駄目ですね、外のできるだけ開けた場所に誘導しましょう!騒ぎを聞き付けていずれ牙也さん達も来る筈です!」

 一夏「分かりました!」

 

 こうして一夏とカルマは雪だるまと交戦、その途中で牙也達と合流して今に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「はあっ!」

 

 四人の攻撃が次々と雪だるまを襲う。雪だるまはステッキで全ての攻撃をいなしていくが、四人同時攻撃は防げずダメージを受ける。牙也、一夏、カルマの三人が前線に立って雪だるまに攻撃を仕掛け、その後ろから箒がマスガンドの射撃でサポートしている。その連携っぷりはつい最近会ったばかりとは思えない程のものであった。怒涛の連続攻撃の末、雪だるまはまた吹き飛んで電柱に激突した。

 

 ??「くうっ、こうなったら……無敵の必殺技!」

 

 そう叫んで雪だるまはステッキを構える。四人が防御の体勢を取ると、

 

 ??「……嘘ですよ!」

 

 雪だるまは口から冷気を放った。放たれた冷気は四人を包み込み、四人の下半身や上半身の一部を凍らせてしまった。

 

 カルマ「しまった!」

 一夏「くそっ、これじゃ動けない!」

 ??「ふふ、これで少しは時間稼ぎにはなるでしょうね。それではご機嫌よう」

 

 不敵な笑みを見せると、雪だるまは消えてしまった。

 

 カルマ「くっ、逃げられましたか……!」

 牙也「箒、ホオズキで溶かしてくれ!」

 箒「分かった!」

 

 《ホオズキ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!ホオズキアームズ!爆炎・ボー・ボー・ボー!》

 

 箒は唯一凍らされていなかった左手を使ってホオズキアームズになり、その際発生する熱波で氷を全て溶かし尽くした。氷による拘束から解放された四人は変身を解除。そこへデネブが鈴と大量の袋を持って走ってきた。

 

 デネブ「カルマ、イマジンは!?」

 カルマ「逃げられました。契約者が鈴さんだとすれば、すぐにゼロライナーで追わなくては……!」

 牙也「あれがイマジンだったのか……て言うか、いつ鈴はイマジンと契約したんだ?」

 カルマ「それは分かりません、その本人は気を失っていますから、後で聞く事にしましょう。とにかく早く戻らなくては!」

 牙也「だったら俺に任せろ!」

 

 牙也はそう言うと、目の前にクラックを開いた。

 

 牙也「学園のゼロライナーがある場所に繋いだ。ここを通ればすぐに出発出来るぜ」

 カルマ「ありがとうございます!急ぎましょう、皆さん!」

 

 牙也達は次々とクラックに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「よーし、修理完了!クロちゃん、お疲れ様!」

 クロエ「お疲れ様でした、束様」

 

 その頃、ゼロライナーはちょうど束による修理が終わったところであった。

 

 束「多分これできちっと動く筈だね。いや~我ながら良くできたって胸張って言えるよこれは」

 クロエ「カルマ様もきっとお喜びになられる筈ですね」

 牙也「束さん!」ニョキッ

 束「うわお!?ああびっくりした、牙君か……驚かさないでよ、もう」

 

 突然現れたクラックから牙也達が次々と出てきた。

 

 束「な、何々?皆揃ってどうかしたの?」

 カルマ「束さん、ゼロライナーの修理は!?」

 束「え?ああ、もう終わったけど……何かあったの?」

 カルマ「よし、デネブ!すぐに出発する、準備を!」

 デネブ「任された!」

 

 デネブはゼロライナーに飛び乗り出発の準備を始め、カルマは鈴の頭にカードを翳すとカードに年と日付が刻まれた。それを確認し、カルマもゼロライナーに飛び乗った。

 

 束「牙君、何かあったの?」

 牙也「アガレスが言っていたイマジンって奴に、鈴が襲われました。このままではまずいんです」

 束「鈴ちゃんが!?」

 デネブ「よし、準備完了だ!カルマ、いつでも行けるぞ!」

 カルマ「よし、一夏さん、乗って下さい!今回は貴方の助けが必要です!」

 一夏「俺の?」

 カルマ「一番鈴さんの事を知っているのは貴方です。貴方の助力が無ければ……!」

 牙也「一夏」

 

 牙也が一夏の肩に手を置く。箒達も一夏を見る。

 

 牙也「……行ってこい。そして、必ず助け出してこい、鈴を」

 一夏「牙也、皆……分かりました!」

 箒「一夏、これを」

 

 ゼロライナーに乗ろうとした一夏に箒が声を掛ける。一夏が振り向くと、箒はホオズキロックシードを一夏にパスした。

 

 箒「敵は冷気による攻撃を使ってくる、それがあれば幾分戦いやすくはなるだろう」

 一夏「箒……」

 箒「絶対に鈴を救い出せ。お前の大事な彼女なのだからな」

 一夏「箒も……ありがとな」

 

 箒に頭を下げて、一夏はゼロライナーに乗り込む。

 

 牙也「それじゃアガレス、一夏と鈴の事、よろしく頼むぞ」

 カルマ「はい。ここからは私達がなんとかします、必ず……必ず助け出すと、ここで約束します」

 一夏「それじゃ……行ってくる」

 

 扉が閉まると、ゼロライナーの車輪の下に線路が敷かれた。それと同時にゼロライナーも動き出す。ゆっくりと動き出したゼロライナーは、やがて目の前に現れた時空間のゲートに入っていき、姿が見えなくなった。

 

 束「いっくん達、大丈夫だよね……?」

 箒「大丈夫ですよ、姉さん。一夏なら必ず……」

 牙也「ああ、その通りだ。いざとなったらアガレスもいるし、大丈夫大丈夫」

 

 牙也達はゼロライナーが入っていった時空間のゲートが閉じていくのをじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 





 コラボして下さる作者さん、まだまだ募集中です。



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コラボ7 初恋ノ記憶(8)


 ちょびっとだけ、一夏と鈴の過去に触れます。




 

 時空間を爆走するゼロライナー。その先頭車内に、一夏、カルマ、デネブの姿があった。デネブがゼロライナーを運転し、カルマはゼロノスベルトの点検、一夏はその間ずっとゼロライナーが進む線路の向こう側を見つめていた。

 

 一夏「この線路の先に、あの雪だるまが……」

 カルマ「スノーマンイマジンが向かった時間は特定出来ました、今から三年前の八月八日ですね。何か心当たりは?」

 一夏「三年前の八月八日……忘れる訳がありません。あの日は鈴から告白を受けて、正式に鈴と付き合う事になった忘れられない日……かつて虐められていた昔の俺を鈴が救い出してくれた日。懐かしいです」

 デネブ「この世界の一夏は、鈴と付き合っているんだったな。あそこまでラブラブとは思わなかったが」

 カルマ「私も正直に言いますと、一夏さん=朴念仁という感じでしたね。私の世界の貴方がそんな感じでしたので」

 一夏「あはは……まあそう思われても仕方ないような気がします。あの日までは、俺もそんな感じでしたから」

 

 一夏はそう言って自虐の笑みを浮かべると、自身の右足を軽く叩いた。カンッという音が運転席に鳴る。その音を聞いてカルマとデネブは疑問を覚えた。

 

 カルマ「うん、カン?一夏さん、今貴方の足から……」

 一夏「ああ、そう言えばアガレスさんは知らないんでしたね」

 

 一夏がそう言ってはいているズボンの左右の裾を上げると、以前カンナから受け取った白い義足が左右共に露になった。

 

 カルマ「義足……!?」

 

 露になった義足を見て、カルマはとても驚いていた。

 

 一夏「アガレスさんは知っていますか?第二回モンド・グロッソで俺に起こった出来事と、俺の弟の事を」

 カルマ「ええ、多少は聞いてます。モンド・グロッソの日に誘拐されて、ドイツ軍から知らせを受けた千冬さんに救出されたと。弟さんについては牙也さんが言ってましたね、多少はぐらかしていましたが」

 一夏「まあアガレスさんの世界の俺はそんな感じなんでしょうね。ですが、俺の場合はちょっと違います」

 

 そう言うと、一夏は少し悲しそうな顔をして言った。

 

 一夏「……間に合わなかったんですよ、千冬姉の救援が。千冬姉が到着した時には、既に俺の足はその場にいたISを纏った女によって切断されていました」

 カルマ「そんな……!?」

 一夏「アガレスさんには話しておきましょうか、鈴と付き合うに至るまでを」

 

 一夏は引き続き正面を見つめながら話し始めた。

 

 一夏「幼い頃ーー俺がまだ小学生だった頃、俺は虐められていました。原因は、俺が凡才であった事……ただそれだけ。俺と違って優秀だった弟に出来る事が、俺には出来なかった。それが原因で、俺は周りから白い目で見られるようになりました。『弟に出来て、お前に出来ない筈がない』とか、『織斑千冬の弟なんだから、これくらい出来て当然』とか散々に言われましたよ。無駄に期待されてたんでしょうね」

 

 一夏「そしてそれと平行して、弟が先導して俺を虐めに虐め抜いたんです。毎日嫌がらせやカツアゲは当たり前、犯罪紛いの行動もさせられた事もあります。そして俺の周りからの反応も、時間が進んでいく毎に段々酷くなっていき、千冬姉が第一回モンド・グロッソで優勝してからはそれが顕著になりました。誰一人として、俺の事をきちんと見ようとはしなかったんです」

 

 一夏「当時ブリュンヒルデの称号を得てから更に忙しくなって、家庭に関する事を見守る事が出来なかった千冬姉の代わりに、そんな俺をずっと見ていてくれたのが、箒と鈴だったんです。箒は所謂『ファースト幼馴染み』で、幼い頃から剣道を通して仲が良かったんです。『重要人物保護プログラム』によって小学四年の時に箒が転校するまでは、ずっと箒に助けられてきました。転校後も定期的に連絡してくれて、とても感謝してます」

 

 一夏「そして、箒と入れ違いに入ってきたのが鈴です。その頃は初めての日本だった事もあって、俺よりも鈴が虐められていました。鈴が悪口を言われていたのを助けたのが切っ掛けで、俺と鈴は虐められていた者同士仲良くなりました。虐めはその後も続きましたが、俺と鈴は何とか耐え抜いてきたんです……けど、あの事件が起こって……」

 

 カルマ「一夏さんの誘拐、ですか」

 

 一夏「はい。モンド・グロッソ決勝戦当日、弟に間違われて俺は誘拐され、任務失敗の腹いせに、俺の両足は切断されました。切断された時の事は覚えてません、激痛で気を失ってしまいましたから。その後千冬姉に助けられ、俺は束さんのラボで治療を受けましたが、切断面がグチャグチャで、義足を付けるのは無理だと束さんに言われた時は、なんというかこう……半ば絶望してましたね」

 

 カルマ「……」

 

 一夏「でも……でもそれでも、箒や鈴は俺の為に色々手伝ってくれたり励ましてくれたりしました。二人の俺への好意に気づいたのもその頃ですかね……」

 

 そこまで言うと、一夏は懐から一枚の写真を取り出した。そこには、夜空の下で満面の笑みでピースサインをする中学生くらいであろう一夏と鈴が写っていた。

 

 カルマ「これは?」

 一夏「俺達が今向かっている時間……三年前の八月八日の夜に撮った写真です。俺は千冬姉や束さんにアドバイスを受けながら悩みに悩んだ末、鈴の告白を受け入れました。鈴はとても喜んでくれましたが、裏腹に俺は心苦しかったです、箒の事もありましたから」

 カルマ「人を振る、という行動……とても勇気がいりますよね……自分を好きになってくれたのですから、尚更心苦しい事でしょう」

 一夏「はい。ですがいざそうした時、箒は爽やかな笑顔を見せていました。そしてこう言ってきました、『私がお前を好きになった分も含めて、鈴を幸せにしてやれ』と。その顔にはうっすらと涙が見えたのをよく覚えています」

 

 カルマとデネブは一夏の話をじっと聞いていた。

 

 一夏「アガレスさんは楯無……いえ、刀奈先輩とお付き合いされてるんですよね。告白された時、どうでしたか?」

 カルマ「そうですね……実を言うと、私もつい最近刀奈から告白されまして」

 一夏「そうだったんですか?」

 カルマ「刀奈と私も幼馴染みなのですが、刀奈には私の付き人という任務がありましたし、何より私が皇族ですから、刀奈もなかなか言い出せなかったのです。その障害を乗り越えての告白……嬉しかったですね」

 デネブ「俺も嬉しかったぞー、カルマー!!」ナミダダバー

 

 デネブが感涙状態だが、カルマは気にも留めない。

 

 カルマ「ところで一夏さん。貴方は何故戦うのですか?」

 一夏「え?」

 カルマ「牙也さんから聞いた話なのですが、貴方は少々特殊な事情からアーマードライダーとして戦うようになったと聞いています。それが一体なんなのか……教えてくれませんか?」

 一夏「あ、はい……俺が使っているロックシードーースターフルーツロックシードは、カンナちゃんから義足と一緒に受け取ったものなんです。カンナちゃんが何故俺にこのロックシードを預けたのか……カンナちゃん本人に聞いてみましたが、はぐらかされました。ただその時、カンナちゃんはこう言いました」

 

 

 カンナ『貴方はどんな世界においても常に、誰かと戦わなければならない存在……ですがこの世界の貴方は、戦う為の刀を無くしました。私は貴方に仮の刀を授けた、ただそれだけの事です』

 

 

 カルマ「戦う為の刀、ですか」

 一夏「意味は分からなかったけど、これが俺が戦う為の力になる、という事は理解出来ました。牙也もそれを理解したのか、俺に戦極ドライバーを渡して、『せっかく受け取った力だ。使わなきゃ持ち腐れだぜ?』って言ってましたね」

 カルマ「カンナちゃんは何かを知っていて、気取られぬように隠しているのでしょうか……」

 一夏「それは分かりません。牙也もカンナについては詳しく知らないみたいで……」

 

 すると、段々とゼロライナーの速度が落ちていくのが分かってきた。

 

 カルマ「さ、そろそろ到着する筈です。この話はまた帰ってからにしましょう。降りる準備をして下さい」

 一夏「はい!」

 

 三人を乗せたゼロライナーは、目的の時間へと爆走を続けるーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏(中)「綺麗だな~」

 鈴(中)「綺麗ね~」

 

 織斑家の近くにある山、そこには自由に走り回れるくらいに大きく開けた場所があり、そこは視界の邪魔になる木々がないために空が良く見える。その中央付近に、中学生時代の一夏と鈴が座って星空を見上げていた。

 

 

 

 

 スノーマンイマジン「ふふふ……見つけました。では早速……」

 

 その後方、木々が生い茂る場所から、スノーマンイマジンがその様子を伺っている。スノーマンイマジンは二人を見つけるなり、複数の氷柱を作り上げて、二人目掛けてーー

 

 

 

 

 一夏「させるかよ!」

 

 

 

 

 

 投擲した途端、横から飛んできた小型火球に氷柱は溶かされた。スノーマンイマジンがその方向を見ると、ホオズキアームズを纏った一夏とゼロノスに変身したカルマ、そしてデネブがいた。

 

 スノーマンイマジン「ぐっ……!ここまで追い掛けてくるとは……!」

 カルマ「貴方のような愚か者を倒すのが私の使命……さて、覚悟していただきましょうか」

 一夏「鈴を苦しめやがって……!これ以上、鈴の記憶を壊されてたまるか!」

 

 二人はそれぞれの武器をスノーマンイマジンに向け、デネブも戦闘態勢に入る。

 

 

 

 

 

 

 カルマ「では、最初に言っておきましょう」

 

 

 

 デネブ「俺達は!」

 

 

 

 一夏「かーなーり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カ・デ・一『強いッ!!』

 

 

 

 

 

 





 最終決戦へーー。



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コラボ7 初恋ノ記憶(9)


 ラストバトル!




 

 開けた大地に、怒りの業火が舞い踊るーー。熱く、高く、大きく燃え広がる鬼灯の炎は、目の前に立つスノーマンイマジンの体を焦がしていく。

 

 スノーマンイマジン「ぎゃああああ!!あちぃぃぃぃぃぃ!!熱い熱い熱い熱い熱い!!」

 一夏「熱くしてんだよ、わざと!」

 

 一夏が変身している『アーマードライダー閃星』の現在のアームズは、箒から借りたホオズキアームズ。専用武器・炎刀鬼灯丸を一振りすれば、炎を帯びた斬撃がスノーマンイマジンに向かって飛んでいき、一夏がスノーマンイマジンに近付くだけで熱波がスノーマンイマジンを襲う。雪だるまがモチーフのこのイマジンからすれば、炎等の熱をその身に受けてしまったらたまったものではない。そんな事は露知らず、一夏はひたすらに炎刀鬼灯丸を振るう。

 

 スノーマンイマジン「ええい、こんな筈では……!」

 

 スノーマンイマジンが低温ガスを吐いて凍らせようとするが、鬼灯から溢れ出す熱波がそれを許さない。吐き出された低温ガスは一瞬にして暖められ、当てられた熱波と共にスノーマンイマジンへと押し戻され、その度にスノーマンイマジンは熱さで悶絶する。

 

 一夏「お前なんかに、俺と鈴の思い出を滅茶苦茶にされてたまるかッ!!」

 

 そう叫んで一夏は無双セイバーを引き抜き、炎刀鬼灯丸との二刀流でスノーマンイマジンへと攻撃した。鬼灯丸から吹き出す熱波が大気を焦がし、無双セイバーから放たれる弾は炎を帯びて撃たれ、一度その刀を振るえば炎が燃え盛る。

 

 一夏「まだまだッ!!」

 

 一夏は更に怒涛の連続攻撃をスノーマンイマジンに浴びせる。炎刀鬼灯丸と無双セイバー、二本の刀が振るわれる度に火の粉が散り、熱風が吹き荒れる。

 

 スノーマンイマジン「熱いっつってんだろうがぁぁぁぁぁ!!」

 

 ブチキレたスノーマンイマジンは氷柱を大量に生成して一夏に向けて飛ばした。一夏はそれを鬼灯丸から炎を噴出させて盾のようにし、向かってくる氷柱を全て溶かしていく。しかし一部が一夏に向かって飛ばずに、自分達に気づいていない中学生時代の一夏達の方向へと飛んでいく。

 

 一夏「不味いッ!」

 カルマ「任せて下さい!」

 

 一夏が処理に向かおうとした時、カルマがゼロガッシャーから放った複数の光矢が残りの氷柱を破壊した。飛ばされた氷柱は一つ残らず粉々に砕かれたり溶かされたりした。

 

 一夏「ありがとうございます!」

 カルマ「後ろは私達に任せて、一夏さんは気にせず思い切りやって下さい!」

 デネブ「絶対に守ってみせるぞ!」

 一夏「アガレスさん、デネブさん……はい、よろしくお願いします!」

 

 一夏はスノーマンイマジンに向き直り、カッティングブレードでロックシードを一回切った。

 

 《ホオズキスカッシュ!》

 

 炎刀鬼灯丸の剣先から火球が大量に放たれ、スノーマンイマジンにまとわりついていく。

 

 スノーマンイマジン「ぎゃああああ!!あっちいいいいい!!」

 

 スノーマンイマジンは熱さでのたうち回り、体に燃え広がった炎を消そうと転がり回るが、鬼灯の炎はそう簡単には消えてくれない。むしろ消そうとすればするほど、どんどん炎は大きくなり、スノーマンイマジンの体全体を覆い尽くしていく。

 

 スノーマンイマジン「くっそがぁぁぁぁぁ!!」

 

 思い通りにいかずキレたスノーマンイマジンは、体が燃えている状態にも関わらずステッキをやたらめったらに振り回して攻撃するが、一夏の後方からカルマがゼロガッシャーの射撃で邪魔をし、さらに一夏が纏うホオズキが業火を吹き上げて接触を許さない。逆に一方的に攻撃を受け、漸く炎を消す事ができた時には、被っているシルクハットはボロボロになり、雪だるまらしい白く丸っこい体は熱で焦げでもしたのかところどころ炭のように黒くなっている。

 

 スノーマンイマジン「ぐ、ああ……!」

 一夏「だあああっ!」

 

 ボロボロフラフラなスノーマンイマジンに、一夏が一撃加えると、スノーマンイマジンの体に皹が入り、遂に砕け散った。

 

 一夏「よしっ!」グッ

 カルマ「まだです、一夏さん!」

 デネブ「そいつは氷像だ!」

 

 カルマとデネブの指摘に咄嗟に回避行動を取ると、さっきまで一夏がいた場所には倒された筈のスノーマンイマジンがいた。

 

 スノーマンイマジン「ふぅ……危ない危ない。さて、それでは反撃と行きましょうか!」

 

 スノーマンイマジンが叫んだその時、一夏達三人を囲むように氷像が生成され、それぞれがスノーマンイマジンの姿になった。

 

 一夏「氷像で分身!?」

 デネブ「どういう事だ?氷柱作ったり氷像作って分身のように動かしたり……奴にこんな能力は無かった筈だ」

 カルマ「さあ、分かりませんね。ですが、氷像なら攻略は容易い!」

 

 カルマはゼロガッシャーをサーベルモードに組み換え、一夏は無双セイバーと炎刀鬼灯丸を合体させてナギナタモードにする。

 

 カルマ「行きますよ、一夏さん、デネブ!」

 

 カルマが先陣切って氷像に攻撃を始めた。ゼロガッシャーの斬撃が容赦なく氷像を砕き、ただの氷の塊に変えていく。デネブは徒手空拳や両手から弾を放って氷像を砕く。ただの氷になった氷像は、一夏が炎刀鬼灯丸を振るって溶かし、水に戻す。

 

 スノーマンイマジン「ほらほら、本物がどれか分かりますか!?」

 

 しかしそれを嘲笑うかのように、スノーマンイマジンは次々と氷像で分身を作り出し、三人に襲い掛からせる。イマジンが作り出した分身は、一夏達に殴り掛かる等徒手空拳で攻撃してくる。しかし、一体だけ徒手空拳ではなくステッキで攻撃してくる氷像がいた。

 

 一夏「本物はお前だッ!」

 スノーマンイマジン「ぎゃっ!?」

 

 一夏がその一体に攻撃すると、本物を見破られたせいなのか他の氷像は全て砕け散った。

 

 カルマ「氷像が……!」

 スノーマンイマジン「くっ、何故本物が分かったのですか!?」

 一夏「いや何故ってお前……お前だけステッキ攻撃してたらなぁ、簡単に分かったぜ」

 スノーマンイマジン「あっ……」

 デネブ「あいつ……バカなのか?」

 カルマ「バカなんでしょうね」

 

 一夏達は呆れながらも、攻撃の手は決して緩めない。怒涛の連続攻撃はスノーマンイマジンに防御の暇さえも与えず、炎の斬撃や光矢がその体を焼き尽くしていく。そして一夏は数回斬撃を当てると、スノーマンイマジンの後ろに回って羽交い締めにした。

 

 一夏「今です、アガレスさん!」

 カルマ「はい!」

 

 《Full Charge》

 

 カルマはゼロノスベルトのバックルの左上のスイッチを押してカードにエネルギーを充填し、カードをバックルから引き抜いてゼロガッシャー・ボウガンモードにセット。カードからエネルギーがゼロガッシャーに移され、ボウガン全体にエネルギーが行き渡る。それをカルマは羽交い締め状態のスノーマンイマジンに向けた。

 

 カルマ「確実に仕留めましょう」

 

 そしてトリガーを引いて光矢を一発発射。真っ直ぐ放たれた光矢は、一夏が直前に羽交い締めを解いて回避した為にスノーマンイマジンのみに命中。スノーマンイマジンの体に、Aの文字が浮かび上がる。

 

 カルマ「一夏さん、止めは貴方に任せます。貴方の手で、全て終わらせて下さい」

 

 カルマはそう言うとゼロガッシャーを下ろした。一夏はカルマとデネブを見て小さく頷くと、炎刀鬼灯丸と無双セイバーを合体してナギナタモードにし、ホオズキロックシードを無双セイバーの窪みにロックした。

 

 《ロック・オン》

 

 《一・十・百・千・万!ホオズキチャージ!》

 

 頭上でナギナタを回転させ、巨大な竜巻を生成し、

 

 一夏「俺の心に燃える怒りの炎に焼き焦がされて……倒されろ!」

 

 竜巻をスノーマンイマジンに向けて飛ばした。竜巻は勢い良く飛んでいき、

 

 スノーマンイマジン「うぎゃあああああ!!」

 

 スノーマンイマジンを巻き込んで空高く舞い上がりーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴(中)「あ、見て見て一夏!花火!」

 一夏(中)「おお、綺麗だな~……ってあれ?今日って何処かでお祭りか何かあったかな?」

 鈴(中)「誰かが軒先で打ち上げ花火でも上げたんでしょ。それにしても綺麗ね~」

 一夏(中)「そうだな、鈴」ギュッ

 鈴(中)「きゃっ……もう何よ?」ギュッ

 一夏(中)「鈴……これからも、俺と一緒にいてくれるよな?」

 鈴(中)「勿論!それよりもまずは、箒って子の事でしょ?」

 一夏(中)「ああ、そうだな……」

 鈴(中)「怖いの?」

 一夏(中)「ああ。箒も鈴と同じく、俺に好意を持ってくれてたからな……何と言うか、話しづらいんだよな」

 鈴(中)「大丈夫よ!一夏がきちんと誠意を持って話せば、その子だって分かってくれるわよ、自信持って!」

 一夏(中)「鈴……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「……」

 

 その様子を、変身解除した一夏達が木の陰から見ていた。カルマは爽やかな笑みを見せ、デネブは感動したのか涙を流しており、一夏は懐かしそうに二人を見つめていたが、やがて踵を返して歩き始めた。

 

 カルマ「あれ、もうお帰りですか?もう少し見ていかないのですか?」

 一夏「いえ、大丈夫です。見たいものは見れましたし……それに、鈴が待ってますから」

 カルマ「そうですか、では帰りましょう。デネブ、行きますよ」

 デネブ「お、おう……」グスグス

 一夏「デネブさんって、意外と涙脆いんですね」

 カルマ「ふふ、デネブはいつもこんな感じですよ」

 

 こうして三人はゼロライナーに乗り込み、元の時間へと戻っていった。

 

 

 

 開けた大地の上で、幸せそうに抱き合う二人を見つめながらーー。

 

 

 

 





 次回でコラボ完結です。最後までお楽しみ下さい。



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コラボ7 初恋ノ記憶(10)


 コラボ最終話です。最後までお楽しみ下さい!




 

 IS学園のグラウンドでは、牙也達が一夏達の帰りを待っていた。その場に居合わせた牙也や箒、束や簪達に加えて、クロエから話を聞いた千冬達もそこにいた。一夏達がイマジンを追い掛けてからこちらの時間は大して進んでいないが、その場に居合わせているメンバーは皆心配そうに三人の帰りを待っていた。すると、何処からともなく汽笛が鳴り響いた。

 

 牙也「……帰ってきたな」

 

 牙也がそう言って空を見ると、空に歪みのようなゲートが開いて、そこからゼロライナーが飛び出してきた。勢い良く飛び出してきたゼロライナーは、螺旋を描くように地面に降りてきて牙也達の目の前に停車。そして車両のドアが開いて、

 

 一夏「戻ったぜ!」

 

 中から一夏が降りてきた。

 

 牙也「お帰り、イマジンは……倒せたみたいだな」

 カルマ「はい、無事に撃破出来ました。これで鈴さんはもう大丈夫です」

 

 後から降りてきたカルマのその言葉を聞いて、他の面々も安堵のため息を吐く。

 

 一夏「ところで鈴は?鈴は大丈夫なのか?」

 シャルロット「落ち着いて、一夏さん。鈴は今医務室のベッドに寝かせています。単に気を失っただけですから、心配しなくても大丈夫ですよ、じきに目が覚めます」

 一夏「そっか……ああ、良かった……!」ヘナヘナ

 

 それを聞いて一夏はその場にへたりこむ。

 

 千冬「一夏。お前は早く凰の所に向かって一緒にいてやれ。大事な彼女なのだろう」

 一夏「ああ、ありがとう千冬姉。アガレスさんもありがとうございました、鈴の事を助けてくれて」

 カルマ「お礼を言われる程の事はしていませんよ。それよりも、早く鈴さんの所へ行ってあげて下さい」

 一夏「はい、ありがとうございます!」

 

 一夏はお礼を言って走り出そうとしたが、不意に立ち止まって箒を見た。すると懐からホオズキロックシードを取り出して箒に手渡した。

 

 一夏「これ、返すよ。ありがとう、役に立ったよ」

 箒「そうか、それなら良かった」

 

 箒がロックシードをしまってから一夏を見ると、一夏は変わらず箒を見つめていた。

 

 箒「一夏?どうかしーー」

 

 箒が声を掛けようとした時、一夏がそっと箒を抱き締めた。その行動に、全員が驚いて一夏を見る。

 

 箒「い、一夏……?」

 一夏「……本当にありがとな、箒。そんで、ごめんな。箒の好意に、答えてあげられなくて」ギュッ

 

 そう呟くと、一夏は箒を抱き締める手に軽く力を籠めた。すると箒も同じく一夏を抱き締めた。

 

 一夏「箒……?」

 箒「全く……まだ引き摺っていたのか?私は大丈夫だと言っただろうに……何か思う所でもあったのか?」

 一夏「……」

 

 一夏は何も言わなかったが、箒は何かを察したのか一夏を抱き締めたその手で軽く彼の頭を撫でた。

 

 箒「その事を後悔しているのなら、キチンと最後まで鈴の事を愛してやれ。これは、同じくお前を好きになった者からの、切なる願いだ」

 一夏「箒……」

 箒「さ、私から言えるのはこれだけだ。早く鈴の側にいてあげろ、一夏」

 一夏「箒……ありがとう」

 

 一夏は小さく頭を下げると医務室に向かって駆けていった。それを見送る箒の肩に、牙也がそっと手を置く。

 

 牙也「……よく頑張ったな」

 

 その言葉に箒がハッとして牙也を見ると、牙也はにこやかな顔で箒を見つめていた。それを見た箒はゆっくりと牙也に近づき、そっと牙也を抱き締めながら牙也の胸辺りに顔を埋めた。その頭に、牙也がそっと肩に置いていた手を置く。

 

 牙也「泣きたいならしっかり泣け、そんで全部吐き出してしまいな」ナデナデ

 箒「っ……ああ……ああああ……うあああ……!」グスグス

 束「箒ちゃん……強くなったね」サスサス

 

 牙也のその言葉で耐えきれなくなったのか、箒は牙也の胸の中で泣き始めた。箒の後ろからは束がそっと手を伸ばして背中をさする。暫くの間、箒はずっと嗚咽を漏らしながら泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「う、ううん……」

 

 体にかけられた毛布の感触に気づき、鈴は目を覚ました。重く感じる体をゆっくりと起こすと、どうやら医務室のベッドに寝かされていると分かった。

 

 鈴「えっと……確か今日は一夏と一緒にデートに行って、色々買い物して、喫茶店で休んでて……それから確か……」

 ??「あら、目が覚めたのね」

 

 その声に鈴がその方を向くと、

 

 鈴「晴岡先生……私、一体……」

 ??「デネブって人ーーあれ人なのかしらーーが慌てて連れて来たのよ。何があったか覚えてる?」

 

 白衣を着た女性ーー学園の養護教諭の晴岡琴音(はれおかことね)が椅子に座った状態で鈴を見ていた。

 

 鈴「えっと、確か……あ……私、レゾナンスで雪だるまに襲われて……」

 琴音「(雪だるま?)え、えっと、まあそんな感じかしら。デネブって人が言ってた事とほぼ同じみたいね、ちゃんと覚えているのなら大丈夫かしら。怪我はしてないけど、念のため今日は医務室に泊まっていきなさい」

 鈴「……はい」

 

 コンコン

 

 琴音「開いてるわよ」

 一夏「失礼します」

 

 医務室のドアがノックされ、一夏が入ってきた。急いで来たのか、息が上がっている。

 

 琴音「あら織斑君。ナイスタイミングね、今目を覚ましたところよ」

 

 琴音が目配せした方を見ると、鈴が小さく手を振っていた。

 

 鈴「一夏……」

 一夏「鈴……!良かった……!」

 

 一夏が鈴に走り寄って鈴を優しく抱き締めた。突然の事に鈴は「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げるが、すぐに落ち着いて一夏を抱き締め返した。その光景に琴音はクスッと笑みを溢す。

 

 琴音「それじゃ私はちょっと席を外すわね。後は二人でごゆっくり」ヒラヒラ

 

 すると何を思ったのか、琴音は手を小さく振りながら立ち上がり、そう言ってそのまま医務室を出ていった。二人だけとなった医務室に静寂が訪れる。

 

 一夏「鈴……何があったか覚えてるか?」

 鈴「え、ええ……」

 

 鈴は一夏に何があったか事細かに話した。

 

 一夏「……多分だけど、鈴は気づかない間にアガレスさんが言ってた『イマジン』と契約してしまってたんだと思う。今回鈴が襲われたのはその為だろうって、アガレスさんはそう言ってた。思い当たる事はないか?」

 鈴「えっと、うーん……あ、そう言えば……二日前、セシリアと少し話をしてからの記憶がちょっとだけ途切れてるような……」

 一夏「二日前か……じゃあ多分それだな。アガレスさんに伝えておくよ」

 

 一夏は携帯電話を取り出して牙也のスマホにメールを送った。牙也にその情報を送ったのは、カルマのメールアドレスを知らないので、代わりに牙也からカルマに情報を伝えてもらう為だ。送り終えて携帯電話をしまうと、一夏は鈴を見た。鈴は今回の事について大方察したのか、頭を下げてしょげていた。

 

 鈴「……ごめんね」

 一夏「鈴……?」

 鈴「ごめんね、一夏。あたしのせいで、折角のデートが台無しになっちゃった。知らなかったとは言え、あたしがあんな怪物と契約していなければ、こんな事には……」

 一夏「鈴は悪くない!」

 

 鈴のその言葉に、一夏は声を張り上げた。珍しく声を張り上げた一夏に、鈴がびっくりして顔を上げる。

 

 一夏「確かに今回の事は、鈴が知らぬ間にイマジンと契約していたから起きた事だ。けど、それはイマジンが鈴の了承も得ず、勝手に鈴と契約したから起こった事。鈴は何も悪くないよ。だからそんなに自分を責めないでくれよ、お願いだから」

 鈴「一夏……」

 一夏「それに、デートならまた今度やり直せば良いだろ?もう二度と出来ないわけじゃないんだからさ、またデートに行こうぜ、な?」

 鈴「……ありがと」

 

 鈴は俯いた状態のまま一夏に抱き付く。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

 鈴「ごめんね、一夏……ごめんね……!」

 一夏「良いんだよ、鈴……鈴は何も悪くないから……」

 

 暫くの間、鈴は一夏の胸の中で泣き続け、一夏はそんな鈴をずっと慰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「落ち着いた?」

 鈴「ええ……みっともない姿見せちゃったわね」

 

 三十分程経って漸く泣き止んだが、鈴はまだ一夏に抱き付いていた。

 

 一夏「良いよ良いよ、可愛い鈴が見れたからさ」

 鈴「かわっ……!?////わ、忘れて////」

 一夏「いやだね♪」ギュッ

 鈴「にゃ、にゃう~////」

 

 暫くじゃれついていた二人だったが、不意に一夏が鈴から離れて椅子に座り直した。鈴がそれをキョトンとして見つめていると、

 

 一夏「鈴。俺から鈴に、言いたい事がある。よく聞いてくれ」

 鈴「う、うん……」

 

 急に真面目な顔付きになって一夏が話し始めた。

 

 一夏「……今回の件を解決するにあたって、俺はアガレスさん達と一緒に三年前の八月八日に向かったんだ。そしてアガレスさんとデネブの協力もあって、なんとかイマジンを倒せた。んでその後、俺はあの日の光景を近くから見ていたんだけど……」

 鈴「……箒の事?」

 一夏「ッ!?……はあ、やっぱり鈴にはお見通しか……そう、その通り。もう鈴は気づいてるかもしれないけど、俺はまだ箒に対する未練が残ってた事に今頃気づいたんだ。でも、さっき箒と話をした時、その事で箒はちょっとだけ俺を叱って、俺を前に押してくれた。あれでようやく、俺を縛ってた鎖を引きちぎれたよ。今ならやっと……やっと鈴の告白にキチンと答えられるって分かった」

 鈴「そう……良かった」

 一夏「あの日の告白は、鈴からしてくれた。だから……だから、今度は俺から言わせてくれ」

 

 一旦そこで言葉を切り、大きく深呼吸をしてから、一夏は鈴の目をしっかり見て言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏「一人の女性として、俺は鈴を愛しています。だからこれからも、俺の彼女ーーいや、俺の嫁として、一緒について来てくれますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴「……っ、グスッ……やっと……やっと聞けた。やっと、一夏の心からの告白聞けた……嬉しい……!」ギュッ

 

 一夏の告白に、鈴は感極まってまた泣き出し、一夏に抱き付いた。

 

 一夏「鈴、返事は……聞くまでもないよな?」

 鈴「当然でしょ……グスッ……!私だって、一夏のあらゆる事引っ括めて全部、大好きなんだから……!せいぜいあたしの尻に敷かれないようにしなさいよ!」グスグス

 一夏「善処するよ」クスッ

 

 そう言って一夏はもう一度鈴を抱き締めた。今度はさっきよりも強く、固くその手に抱き締める。もうずっと離さない為に。すると、

 

 鈴「……一夏」

 一夏「ん、なんだ鈴ーーうおっ!?」ガタッ

 

 鈴は何を思い付いたのか、一夏を抱き締めた状態からベッドに引き倒して、一夏の上にまたがった。

 

 一夏「り、鈴?」

 鈴「やっぱりさっきの言葉撤回するわ、尻に敷かれないようにってとこ」

 一夏「え?ど、どういうーー」

 鈴「いつまでも箒の事引き摺ってた一夏には、あたしが直々にお仕置きしなきゃね~♡」

 一夏「え、えっと……まさか……////」

 鈴「あら、可愛いお嫁さんに言わせる気なの?分かるでしょ、あたしが何を望んでるか」

 一夏「マジか……////で、でもここ医務室ーー」

 鈴「問答無用♡大人しくあたしの尻に敷かれなさい(意味深)♡」

 一夏「ああああああ!!////」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~医務室外~

 

 /ギシギシギシギシ\

 

 牙也(……撤退すべし、だな)ニガワライ

 

 ↑二人を呼びに来た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルマ「さて……私達はそろそろ帰らなくてはいけませんね」

 千冬「なんだ、もう行くのか?」

 カルマ「元々ゼロライナーが直るまでここに居させてもらう気でしたからね。それにこれ以上ここに長居すると、私達の世界の皆さんを心配させてしまいますし」

 箒「そうですか。またいつでも来て下さいね」

 楯無「覚えてなさい!カルマ様以上に格好いい彼氏作るんだから!」

 刀奈「ふふーん!カルマ様以上の彼氏なんていないんだから!」

 デネブ「ま、まあまあ二人とも……」

 牙也「お~い」

 千冬「牙也か、やっと戻ってーーん、一夏達はどうした?」

 牙也「あ、あー、えっと……今お楽しみ中のようで……思い切り尻に敷かれて(意味深)ました」

 『あっ……////』

 牙也「ま、まあそう言う事だ。一夏達には俺から伝えておくよ」

 カルマ「わ、分かりました。それでは私達はこれで失礼します」

 牙也「ああ。また会えたら、一戦交えたいな」

 カルマ「その時は是非お願いしますね」

 

 そう言うとカルマはデネブと刀奈と共にゼロライナーに乗り込む。ドアが閉まると、やがてゆっくりとゼロライナーが動き出した。

 

 カルマ「たった数日ですが、お世話になりました!また会いましょう!」

 デネブ「また会おう!その時は全力で相手するぞ!」

 牙也「道中気を付けてな!」

 

 ゼロライナーはどんどんスピードを上げ、やがてゲートに入って消えていった。牙也達はゼロライナーが消えてもずっとゼロライナーが消えた空を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 





 コラボはこれにておしまいです。魔女っ子アルト姫さん、ありがとうございました!またこれからもよろしくお願いいたします。

 さて今後ですが、次は本編とリンクしたコラボの予定です。コラボする作者はまだ決まっておりませんが、決まり次第活動報告にて発表致します。コラボして下さる作者もまだまだ募集中です。どんな作品でも構いません、ドシドシメッセージをお願いします!それではまた次回!



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幕間 嵐ノ前ノ静ケサ
不穏



 コラボも終わり、一先ず息抜き投稿です。




 

 千冬「なるほど、ではまたしばらくはここに居るのだな?」

 

 異世界旅行から戻ってきた牙也達三人。箒とカンナを一夏達に一旦預け、牙也は学園長室を訪れていた。そこには牙也と十蔵の他に千冬、真耶、ザック、楯無、千冬から連絡を受けたスコールがおり、今後の学園の守備について話し合っていた。

 

 牙也「はい。カルマ達が戻っていってから、例のクラックの気配を探りましたが、反応がありませんでした。となれば必然的に、次にあのクラックが開くまではここに滞在可能になる、という事です」

 真耶「そうですか……ところで、シュラさんの遺言について、何か掴めたんでしょうか?」

 牙也「あー、それがまだ……あちこちの世界に向かって、そこの住人と色々話をしましたが、いまいちピンとくるものが無くて……」

 十蔵「そうですか……」

 牙也「本当に申し訳ないです、せっかくのチャンスみたいなものだったのに……」

 千冬「あまり気負うな。また次の機会を待てば良いだろうに」

 スコール「あら、その次がないかもしれないのよ?もし二度とそのクラックが開かれなかったらどうするのよ?」

 牙也「その時はその時、それまでの出来事から見つけ出すまでです。ま、クラックが開かなければの話ですが」

 十蔵「現時点ではそれが妥当でしょうね、何とか頑張って下さい。さて、本題に移りましょう」

 

 十蔵がそう言うと、全員の目が真剣なものになる。

 

 十蔵「牙也君達が無事に帰還しましたので、今後の学園の守備について話し合いたいと思います。と言っても、方針は今までと大して変わらないとは思いますが」

 牙也「あ、その点で一つ提案があります」

 真耶「提案……と言いますと?」

 

 牙也の言葉に真耶が首を傾げると、

 

 牙也「ロックビークルの配備を進めたいと考えてます」

 千冬「ロックビークル……と言うと、ヒガンバライナーの大量配備か?」

 牙也「それだけではありません、アーマードライダーが存在する異世界から仕入れてきた技術をフルに活用して、誰でも使える戦闘用のロックビークルを作るんです。で、それらから取ったデータを、学園のISや専用機持ちの生徒のIS等に組み込むんです」

 スコール「なるほどね。けどIS専用としてキチンと使えるようになるの?」

 牙也「その辺は抜かりなく。既にその世界にて試しましたから」

 十蔵「なるほど……それで、実際に配備するロックビークルは何ですか?」

 牙也「これらのロックビークルを配備したいと考えてます。アーマードライダーでなくとも、慣れれば自在に使えるようになりますよ」

 

 そう言って牙也は配備したいロックビークルがリストアップされた資料を机に広げて全員に見せた。

 

 千冬「チューリップホッパー、ダンデライナー、スズランガーディアン……色々見つけてきたな」

 スコール「この『黒影トルーパー』って言うのは?」

 牙也「ロックシードの中でも比較的良く採れる『マツボックリロックシード』を使って変身する『アーマードライダー黒影』の量産型ですね。実物を見てみますか?」

 十蔵「ぜひとも」

 牙也「では」

 

 そう言うと、牙也はクラックを開いて手を突っ込み、中からマツボックリロックシードとつい最近作った戦極ドライバーを取り出し、ドライバーを腰に付けた。銀色の帯によってドライバーは腰に固定される。

 

 牙也「変身」

 

 《マツボックリ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!マツボックリアームズ!一撃・in the Shadow!》

 

 ロックシードを解錠してドライバーにロックし、カッティングブレードで切る。と、頭上に開いたクラックからマツボックリが現れて牙也に被さり、ライドウェアを纏ったのに合わせて展開して鎧となった。複眼はゴーグルアイで右手には長槍『影松』を持ち、全体的に暗い印象を受けるそのライダーこそ、『黒影トルーパー』である。

 

 千冬「思い出した。以前私が牙也達と共に異世界に飛ばされた時にも、この黒影トルーパーがいたな」

 牙也「ええ、あれです。ロックシードのグレードがブルーベリーやマスカットよりはるかに低いのでスペックこそ劣りますが、下級インベス程度なら一人で倒す事は可能ですよ」

 真耶「ドライバーの数は大丈夫ですか?」

 束「問題ナッシ~ング!!」ニュッ

 

 突如学園長室の窓から束が顔を出してきた。突如の登場に一瞬全員が身構える程だったが、束だと分かると元に戻った。

 

 牙也「なんだ束さんか。ちゃんとドアをノックして入ってきて下さいよ……」

 束「まあまあ、それはさておいといて」

 牙也「さておくなし」

 束「戦極ドライバーの数は問題ないよ~、牙君達が異世界巡ってる間に、束さんがIS関連の研究の傍ら作ってたからね~、ここの教員と亡国、それぞれで全員分はちゃんとあるよ」

 十蔵「ありがとうございます、篠ノ之博士。ではドライバーとロックシードの配布はこちらで行っておきます。織斑先生とスコールさんには彼女らに指導を宜しくお願いします。その黒影トルーパーのスペックは低いという事ですから、指導は集団戦をメインにして下さい」

 千冬「分かりました」

 スコール「すぐに実戦投入できるようにしてあげるわ」

 十蔵「では続いてロックビークルですが……」

 

 十蔵がそこまで言って牙也に向き直ると、牙也は変身解除してドライバーとロックシードをクラックに放り込み、同じく十蔵に向き直った。

 

 牙也「異世界からチューリップホッパーとダンデライナー、それにスズランガーディアンをそれぞれ一つずつ頂いてここに持ち帰り、今それらを解析して二号機の製作を進めています。再現出来れば、あとはそれらを量産する場所が欲しいんですが……」

 束「そ~なんだよね~。どっかに場所と人材貸してくれる所があればね~」

 スコール「あら、それなら亡国の技術者と工場を貸しましょうか?」

 

 スコールが進み出てそう言うと、牙也と束は「是非とも!」と目を輝かせながら即答。するとスコールは「じゃあ伝えておくわね」と言うとスマホを取り出して何処かに電話をし始めた。

 

 十蔵「しかし何故この時になってロックビークルの配備を?配備するならばもっと前にでもできた筈ですよ」

 牙也「まあそうなんですけどね。ただロックビークルに関しては、シュラがヒガンバライナーしか作ってなかったから量産はほぼ諦めてたんです。んで、今回異世界に向かって様々な技術とかロックビークルの情報を仕入れることができたんで、ようやく量産にこぎつけた次第です」

 スコール「なるほどね。ところで、うちにもロックビークル回してくれるのよね?」

 牙也「勿論。優先順位としては学園が先ですが、亡国にも相応の数を配備する予定です」

 スコール「それなら良いわ」

 十蔵「それでは今後についてはそのような形で行きます、よろしいですね?」

 

 十蔵の言葉に全員が頷くと、話し合いはそこでお開きとなり、牙也達は学園長室を次々と出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園長室を出た牙也が寮に続く廊下を歩いていると、

 

 カンナ「牙也様」

 

 カンナに出くわした。何やら真剣な表情で牙也を見ている。

 

 牙也「どうした、カンナ?何かお願いでもあるのか?」

 カンナ「はい、一つだけ。牙也様にお願いがございます」

 牙也「なんだ、改まって?」

 

 カンナは少し深呼吸すると、意を決して答えた。

 

 

 

 カンナ「私に、お暇を頂けませんか?」

 

 

 

 牙也「……その理由は?」

 

 突然の事に驚きながらも、牙也は平静を装ってカンナに聞いた。

 

 カンナ「理由、と申されますと……一言で申し上げるならば、私個人として、これからの戦いの為の準備をしたいと思いまして」

 牙也「個人として、か。疑うようで悪いが、それは俺達にも益のある事なんだよな?」

 カンナ「はい。これから牙也様がゼロと戦うにあたりまして、これはとても大事な事になります」

 牙也「ふむ……」

 

 牙也は何か考えているようだったが、

 

 牙也「……分かった、好きにしな。ただしなるべく早めに戻ってきてくれ。カンナがいないと、こっちの諸々が進まなくなるんでな」

 カンナ「ありがとうございます。それではすぐに出発致しますので、私はこれにて」

 牙也「なんだ、もう出るのか。箒達には伝えたのか?」

 カンナ「いえ……牙也様、この事は箒様達にはご内密にお願いします。なるべく時が来るまでは秘匿しておきたい事ですので……」

 牙也「訳有り、か……分かった、俺が適当に理由作って皆に伝えるよ」

 カンナ「お願い致します。あ、念のためバグヴァイザーを置いて行きますので」

 

 そう言って頭を下げると、カンナは粒子になってその場から消えた。それを見送り、牙也は自分の部屋に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、結局牙也は最後まで気付かなかったが、その後ろから牙也を見ている影があった。

 

 

 

 

 

 

 

 『……』

 

 

 

 

 

 

 

 それは三十代くらいの背格好の男性と小学生くらいの背格好の少女の二人だった。二人は牙也が寮へと向かっていくのを見送ると、不意に男性がポケットから何かを取り出した。それは何やら鍵の形をしており、様々な果物が表面に描かれ、全体が七色に輝いている。それを再びポケットにしまうと、二人はカンナと同じように粒子になって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 『……あと少し。あと少しで、覚醒する。今までにない、新しいオーバーロードが』

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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ウワ、ショタ強イ(前編)


 今回は全部箒sideです。




 

 side箒

 

 

 その日、私はいつものようにISの練習を終えて部屋に戻る途中だった。牙也と共に異世界を旅している間、ほとんどISを動かしていなかった反動で多少のブランクが露になり、セシリア達からは多少怒られた。仕方ないだろ、私は自分のISが無いのだから。セシリア達代表候補生みたいに四六時中動かせる訳ではないのだ。とは言えいちいち文句を言っていても始まらない、動かしていなかったのは事実なのだからな。

 

 「あぁ……体のあちこちが痛い……牙也にマッサージでもしてもらおうかな」

 

 そんな訳で、今日はいつも以上に厳しい練習を自らに課し、勿論全力でやり切った。お陰でブランクも解消に向かっている。うむ、セシリア達に感謝だな。だが筋肉痛には逆らえない……現在進行形で物凄く痛い。軋む体を無理矢理動かし、私は部屋に向かう。と、

 

 束「ほ、箒ちゃん……」

 

 その声に振り向くと、姉さんがそこにいた。何やら顔が青く見えるのは気のせいだろうか?しかも何かを背負っている。

 

 「姉さん?どうかしたのか、そんなに顔を青くして」

 束「え、えっと……非常に言いにくい事がありまして……」

 「何ですか、そんなに改まって?」

 束「え、えっと……実は……この子なんだけど」

 

 そう言って姉さんが背中に背負っている何かを降ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 「ほうきおねえちゃん!」ニパッ

 

 

 

 

 

 

 「ゴフッ!?」トケツ

 束「箒ちゃん!?しっかりして!」

 

 はっ!?いかんいかん、一瞬牙也に似たチビッ子が見えた。おかしいな、疲れからの幻覚か?いやいやそんな事はあるまい、牙也そっくりだと?第一私達はまだ子供などーー

 

 「ほうきおねえちゃん?だいじょうぶ?」ヒョコッ

 「グハッ!?」トケツ

 束「箒ちゃん、取り敢えず落ち着いて!」

 

 その後、落ち着くまで十分は掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『若返りの薬!?』

 

 私から事情を聞いて駆け付けた一夏達は、姉さんからの説明を聞いて驚きを隠せない。

 

 束「う、うん……実はね、最近一々変装して調査とかするのが面倒になってね……それで色々考えて、だったら一瞬で子供になったり老人になったり出来れば良いんじゃないかな、って結論に至ったの」

 千冬「束の思考回路はよく分からん……どうしてそんな結論に至ったんだ?」

 束「クロちゃん見てたら思い付いたの。それで試しに若返りの薬を作ってみて、自分で試してみたのよ。そしたら本当に若返っちゃって、束さんもびっくり~」

 一夏「な、なあ束さん……まさか、牙也がこうなったのって……」

 束「非常に言いにくいんだけど……若返りの薬を、間違えて飲み物に混ぜて飲ませちゃった♪」テヘペロ

 「姉さん、屋上」

 束「ぎゃー!!竹刀だけは勘弁して~!!」

 「はあ、まったく……物の管理はきちんとしてほしいな、姉さん」

 束「ごめんなさ~い……」ショボン

 

 ショボくれる姉さんを尻目に、私はチビ牙也(以降きばや)を膝に乗せて軽く頭を撫でる。気持ちいいのか、きばやは目を細めて私にもたれ掛かってきた。ああ、心地良い。

 

 千冬「おい束。その若返りの薬の効果はどれくらいなんだ?」

 束「えっと、大体一日くらいだよ。だから明日のこの時間には元に戻るよ」

 鈴「それまでこのままなのね……」ムニムニ

 セシリア「ちゃんと元に戻ってくだされば良いのですが……」ムニムニ

 きばや「?」ムニラレ

 シャルロット「ちょっと二人とも、あんまり弄らない方が良いんじゃない?ねえラウラ」

 ラウラ「……」スッ ←子供服

 シャルロット「唐突になんで子供服出してんの!?」

 ラウラ「いや、この際牙也を弄って遊ぼうと思ってな。こんな牙也と共にいるなどと、またとない機会だ」

 鈴「止めたげなさい。それにしても柔っこいわね~」ムニムニ

 セシリア「止められませんわ~♪」ムニムニ

 「牙也で遊ぶな貴様等!仕方ない、牙也の世話は私がーーあれ、牙也は?」

 

 

 

 

 

 楯無「はーい牙也君、お姉ちゃん達と一緒にお出掛けしようね~♪」

 きばや「おでかけ!ゆうえんちいきたい!」

 簪「食べたいのあったら、何でも言ってね。私が買ってあげるから」

 きばや「ぱふぇ!ぱふぇたべたい!」

 本音「牙っち~、乗り物何に乗りたい?一緒に乗ってあげるよ!」

 きばや「えっとね~……めりーごーらんど!」

 虚「ほらほら、お姉ちゃんの手を離してはいけませんよ、迷子になっちゃいますから」

 きばや「むぅ~!まいごになんかならないもん!」

 

 

 

 

 

 

 「何さらっと誘拐しようとしてるんだ貴様等ー!!あと虚さんまで何してるんですかー!?」

 楯無「あら失礼ね、誘拐だなんて。ちゃんと許可は取ってるわよ、篠ノ之博士から」

 「姉 さ ん?」ニコリ

 束「ヒイイイイ!?」ガクブルガクブル

 

 姉さんを軽く睨み付けてから、私はきばやを四人から引き剥がして確保。ああ良かった、色々しそうな目だったからな、あの四人の目は。

 

 「とにかく!きばやは今まで通り私の部屋で世話する!異論は受け付けん!きばやと遊びたければ私の許可を取れ!」

 『えー!?』ブーブー

 束「あはは、箒ちゃんったらチビッ子牙君を独占したくてたまらないみたいだね」

 千冬「やれやれ……頼むから問題だけは起こさないでくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で無理矢理話を終わらせて、私はきばやを抱っこして部屋に戻ってきた。きばやをベッドに降ろして私はその隣に座り、私の膝の上にきばやを乗せて後ろから優しく抱き締める。きばやは気持ちいいのか「ん~♪」と可愛らしい声を上げている。ああ尊い、ああ可愛い……♡

 

 きばや「ほうきおねえちゃん」

 「なんだ?」

 

 するときばやは何を思い付いたのか「んしょ、んしょ」と言いながら体の向きを変えて私の正面に向き直る。

 

 きばや「ぎゅー」ギュー

 「!?////」ズキューン

 

 き、きばやから私に抱き付いてきた……ああ嬉しい……♡

 

 きばや「ぎゅー♪」

 「ぎ、ぎゅー////」

 

 嬉し恥ずかしで、私もきばやを抱き締め返す。ああ、今凄く幸せだ……♡

 

 簪「篠ノ之さん、私にもぎゅーってさせて」

 本音「私にも~」

 「ちょっと待て、もう少しだけ……って、二人ともいつの間に部屋に!?」

 

 いつの間にやら、簪と本音がいた。まさか、私がきばやを抱き締めてる時にこっそり入ってきたのか……?

 

 簪「篠ノ之さんばかり独り占め……ずるい」

 本音「牙っち、私達にもぎゅーってして!」

 きばや「は~い」トテトテ

 

 二人が両手を広げて「おいでおいで」の仕草をすると、きばやが私から離れて二人の下へ。ああ、私の幸せが……

 

 きばや「ぎゅー♪」

 簪「ぎゅー……♡」

 

 簪が幸せそうにきばやを抱き締め返す。きばやも小さくなった体を精一杯に使って簪を抱き締め返す。あ、意外と微笑ましいな……

 

 本音「かんちゃん、交代交代!」

 簪「……駄目。もう少しだけ」

 本音「ず~る~い~!」

 

 これはこれで和むな。と、本音が無理矢理簪からきばやを引き剥がして「ぎゅー」をし始めた。

 

 本音「ぎゅー♪」

 きばや「ぎゅー♪」

 

 本音は楽しそうにきばやを抱き締めている。きばやも楽しそうだ。何気に面白かったので、しばらくその様子を観察する事にした。

 

 本音「もふもふ~♪」

 きばや「ほんねえちゃんももふもふ~♪」

 簪「……本音、次は私」

 本音「え~?もう少しだけーー」

 簪「駄目。順番、だよ」ヒョイッ

 

 今度は簪が本音からきばやを取り上げ、ギュッと抱き締める。

 

 簪「……ふかふか♪」

 きばや「かんざしおねえちゃんもふかふか~♪」

 本音「かんちゃん、まだ~?」

 簪「本音はさっきしたでしょ。次は篠ノ之さんの番で、本音はその次」

 本音「は~い……」

 「ああ、私の方は気にするな。後でたっぷり楽しむからな♪それよりも、そろそろ食堂に行かないか?もう夕食の時間だろう」

 簪「そうだね。ね、一緒にご飯食べに行こうか」

 きばや「やった~!ごっはん~ごっはん~♪」

 本音「よ~し、いざしゅっぱ~つ♪」

 

 こうして四人揃って食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほら、あーん♪」つ唐揚げ

 きばや「あーん♪ムグムグ……おいしい!」

 「そうかそうか、良かったな♪」

 簪「次は私。はい、あーん……♪」つサラダ

 きばや「あーん♪ムグムグ……これもおいしい!」

 簪「ふふ……良い子良い子」ナデナデ

 本音「次は私~♪」

 きばや「ほんねえちゃん、あーん♪」つハンバーグ

 本音「およ、食べさせてくれるの?それじゃ、あーん♪……うん、美味しいよ!」

 きばや「わーい♪」

 

 

 /ワイワイキャッキャッ\

 

 

 セシリア「すみませんが鈴さん、ポケットティッシュはありまして?」ハナヂダバー

 鈴「ごめんセシリア、あたしの分は全部使い切っちゃったわ」ハナヂダバー

 一夏「すぐに次のティッシュ取ってくる、待ってな」

 シャルロット「『うわショタっ子強い』(血文字)」チンボツ

 ラウラ「……軍人たる私が、あんな子供に良いようにやられるとは……不覚……ブフッ」ゴウチン

 

 

 

 『誰かー!ティッシュ大量に持ってきてー!』

 

 『助けてー!鼻血の海に溺れるー!』

 

 『ヘルプ!ヘルプ!』

 

 

 

 後で聞いたのだが、食堂は暫く血の匂いが取れなかったという。

 

 

 

 





 まだ続きます。



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ウワ、ショタ強イ(後編)

 続きです。




 side箒

 

 きばや「うにゃー!いたいいたい!」ジタバタ

 「こら、じっとしてろ!余計に目にシャンプーが入るだろう!」

 

 食堂にいたほぼ全員が鼻血を出してぶっ倒れるという事件が起きてから少し時間が経ち、私は部屋のお風呂にきばやと共に入っていた。本来は一人くらいしか入れない広さのお風呂場だが、ちっこくなったきばやと一緒に入る場合は大して気にならない広さに思える。それよりも取り敢えずきばやを落ち着かせねば。さっきからじたばた暴れて手が付けられない。

 

 「まったく……こんな事なら、姉さんにシャンプーハット作ってもらえば良かったな」

 

 そんな事をブツブツ言いながら、私はきばやの髪を洗う。それにしても、小さい頃からこんな特徴ある癖っ毛だったのだな。そんな事を考えながら、私はきばやの頭の上からシャワーを浴びせた。ある程度泡を落とすと、きばやは頭をプルプルと小刻みに振って水滴を散らしてきた。

 

 「こら、水滴を散らすな。後でしっかり拭いてやるから我慢しろ」

 「びしょびしょ~……」

 「シャワーを浴びたのだから当然だろうに……ほら、湯に浸かれ。ちゃんと百数えるのだぞ?」

 「は~い」

 

 そう言うときばやは湯に浸かってちゃんと百数え始めた。良い子だな……可愛いな……♡

 

 きばや「?ほうきおねえちゃん、なに?」クビカシゲ

 「……いや、何でもない(そんな仕草をするな……襲いたくなる////)」ナデナデ

 

 きばやの圧倒的可愛さに悶々としながらも、のんびりと時は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 セシリア「おはようございます、篠ノ之さん。きばやさんをお貸し願えますか?」

 「朝早くから唐突だな」

 

 部屋にセシリアがやって来て、きばやを貸してくれと頼みに来た。まあ断る理由は無いし……

 

 「まあ別に構わんぞ。ただ、昨日みたいに鼻血出さないように気をつけてな、きばやが多少だが怖がっていた」

 セシリア「その辺りは抜かりありませんわ。対策を考えておりますので」

 「それなら良いが……とにかく気をつけてな。それと、今日辺り効果が切れて元に戻る筈だから、その辺りも忘れずにな」

 セシリア「はい、それではお借りしますね。さぁきばやさん、セシリアお姉ちゃんと一緒に朝ご飯食べに行きましょうね」

 きばや「ほうきおねえちゃんは、ごはんたべないの?」

 「私も後から行くから、先にセシリアお姉ちゃんと朝ご飯食べて来なさい」

 きばや「は~い。はやくいこ、せしりあおねえちゃん」オテテギュッ

 セシリア「はい♪きばやさんはお任せ下さいね、篠ノ之さん」

 「ああ」

 

 セシリアはきばやに引っ張られる形で部屋を出ていった。さて、身嗜みを整えたら、私も朝ご飯のついでに様子を見に行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロット「はい、あーん♪」

 きばや「あーん♪ムグムグ……おいしい♪ありがと、しゃるおねえちゃん!」

 シャルロット「どういたしまして♪(可愛い可愛い可愛い可愛い~♡)」

 セシリア「はいきばやさん、スープですよ。熱いので私がふーふーして差し上げますわ。ふー、ふー……はいどうぞ♪」

 きばや「んっ……んっ……おいしいおいしい♪せしりあおねえちゃん、ありがと♪」

 セシリア「っ!?////い、いえ、どういたしまして////(ああ、そんな純粋な目で見られたら、私……////)」

 

 私が食堂に来た時、きばやはセシリア達に囲まれて朝食という名の餌付けをされていた。ショタ化したきばやの可愛さに何人かやられているようだが……まあ気にしない。私もその一人だから。皆鼻血が出てないだけでも奇跡に思えてくる。

 

 ラウラ「あれに加わらないのか?」

 

 その声に振り向くと、ラウラが腕を組んで呆れた顔をしながら立っていた。

 

 「ああ、今はセシリア達に貸し出してるからな。セシリア達が存分に楽しんだら、私もあの中に入るさ」

 ラウラ「では私もオルコット達に加わろうか。昨日は散々な目に遭ったが、今日は耐えて見せるぞ!」

 

 妙な気合いを見せながら、ラウラはきばやの元に向かっていった。

 

 /グハッ!マ,マサカコレホドトハ……\

 

 /ワー!?ラウラガマタハナヂダシタ!\

 

 あ、また駄目だったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 《非常事態発生!非常事態発生!生徒は直ちに避難して下さい!》

 

 

 

 

 

 

 突如警報が食堂に響き渡った。その途端に食堂は大騒ぎになり、次々と他の生徒達が避難を始めた。非常事態って事は……まさか、こんな時にゼロが襲撃してきたのか!?すると同時に私のスマホに着信があった。見ると姉さんからで、

 

 『ゼロが来たみたい!箒ちゃん達は急いで迎撃して!』

 

 と書かれていた。まったく、一番来てほしくないタイミングで敵が来るな……!私は急いで迎撃に向かった。

 

 

 side箒 end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「うふふ……さあて、雷牙也は何処にいるのかしら、織斑千冬さん?」

 

 アーマードライダーマルスに変身したゼロが、アーマードライダー白夜に変身した千冬にそう聞く。ゼロの後ろには大量の下級インベスが今にも襲い掛からんとしており、更にゼロの隣には配下らしき数人のIS乗りがいる。一方の千冬の後ろには、アーマードライダー閃星に変身した一夏、アーマードライダーバルカンに変身したザック、それにアーマードライダーシグルドに変身したスコールの姿があった。更に二人の上空では楯無率いる代表候補生や教員部隊がゼロ直属のIS部隊と激戦を繰り広げていた。

 

 千冬「すまないな、今ちょっとしたハプニングがあって戦線離脱している。相手なら私達がしよう」

 ゼロ「何よそれ?あーあ、つまんないわ。貴女達なんか、私一人にも及ばないって言うのにねー」

 一夏「牙也がいなくたって、俺達に出来る事はいくらでもあるさ!」

 ゼロ「うふふ、そうかしら。結局雷牙也頼みなんでしょ?インベスやヘルヘイムに関する知識も、アーマードライダーシステムも。雷牙也がいなければ、結局貴女達はただの雑魚。何も出来ないんだからねぇ」

 箒「それはどうかな?」

 

 そこへ箒が合流したーー背中にショタ化したきばやを背負って。

 

 千冬「おい篠ノ之!なんできばやをここに連れて来た!?」

 箒「す、すみません!こっちに来る途中できばやが『ぼくもいく!』って離れなくて……!」

 ゼロ(あらあら、こんな戦場に子供連れて来るなんて、随分と不謹慎ねぇ……ま、人質にでもさせてもらいましょうか)

 

 不意にゼロが配下に目配せすると、その配下がアサルトライフルを構え、箒の足元に向かって数発撃った。足元に砂煙が起こり、一瞬だが箒が目を反らした隙に、もう一人の配下がきばやの腕を掴んで拘束してしまった。

 

 箒「きばや!」

 ゼロ「はい、いただいたわよ。さて、雷牙也をーーってあら……この子随分と雷牙也にそっくりね。誰かさんとの間にできた隠し子かしら?」

 

 ゼロはきばやを抱き上げるときばやの顔をじっと見つめた。一方のきばやはと言うと、

 

 きばや「はなして!はなしておばちゃん!」ジタバタ

 ゼロ「お、おばっ……!?」

 

 ゼロの腕の中で暴れまわっていた。更にゼロに対して言ってはならない事を口にしてしまった。ゼロはわなわなと震えて、

 

 ゼロ「誰がおばちゃんですって!?私はまだ三十代よ!て言うかあんた!この子誰なのよ!?」

 箒「えっと、それはーー」

 束「私が説明するよ」

 

 そこへ紅椿を纏った束が降り立って、箒達を守るように立ち塞がった。

 

 ゼロ「あら、束ちゃんじゃない。久し振りねぇ」

 束「お久し振りですね、茜さん……」

 ゼロ「うふふ、随分と警戒されてるわね、私。まあ当然よね、敵なんだから。それで、この子は誰なのよ?」

 束「牙君だよ」

 ゼロ「へー、この子が雷牙也なのねー、随分とちっこく、なっ、た……?」

 

 衝撃の事実を聞いたゼロ。信じられない物を見るような目できばやを見、そして束を見た。束は何も言わず、申し訳なさそうな顔をしてただ首を縦に振る。それでゼロは察した。恐らく束が何かやらかしたのだと。

 

 ゼロ「……ちょっと、束ちゃん」

 束「……何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「……この子、私にちょうだい♪」

 

 

 

 『駄目に決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 

 

 その後ゼロは「流石にあんなちっこくなった雷牙也とは戦えないわ。日をおいてまた出直してくるわね、次こそは雷牙也を倒すわよ!」と言い残して配下と共に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「はぁ、何故かどっと疲れが……」

 束「ごめんね、箒ちゃん。束さんのせいで……」

 箒「いや、あんな場所にきばやを連れて来てしまった私にも落ち度がある。別に姉さんだけが悪い訳じゃない」

 

 なんとか危機(?)は回避し、慌ただしかった学園も静かになった。結果オーライではあったものの、下手すればきばやの命に関わる事だったので、箒は束と共に姉妹揃って千冬達から説教を受けた。今はその説教も終わり、二人揃って箒の部屋に戻ってきていた。部屋のベッドでは、流石に疲れたのかきばやがスウスウと寝息を立てている。

 

 箒「気持ち良さそうに寝ているな……本当に無事で良かった」

 束「そうだね……牙君に何かあったら私……」

 箒「姉さん」

 

 箒はそこで束の言葉を遮る。「分かっている」とでも言いたげだった。それを察したのか、束ももう何も言わなかった。

 

 束「それじゃあ束さんはもう戻るね。牙君の事お願い」

 箒「はい」

 

 束はそう言うと、部屋の窓からピョイッと飛び出していった。それを見送り、箒は眠っているきばやの隣に座り、頭を軽く撫でてあげた。

 

 箒「……なぁ、牙也よ。私はお前がまだ小さかった頃の事を知らない。けど、今回こういう事があって、私は牙也のまだ幼かった頃の事が何となくだが分かったと思うんだ」

 

 箒「今考えてみると、私と牙也がこんな風にして一緒にいられるようになったのは、既に決まっていた事なのかもしれないな……」

 

 箒「……なぁ、過去の牙也。お前はこれから、幾多の困難にぶつかるだろう。そして幾多の仲間を得、幾多の力を得、そして何かを得て、失っていく。そんな毎日になるだろうな」

 

 箒「でも、苦しくなった時は思い出せ。お前の隣には、常に誰かがいる事を。たとえ離れ離れになっても、たとえもう二度と会えなくても、お前の隣には、常に誰かがいる。私もしかりだ」

 

 箒「お前の事を思ってくれている人達の事を、絶対に忘れるなよ。それがきっと、これからのお前を作り出していくだろうから」

 

 箒「だから……だから、私は待っている。未来にて、お前が私に告白してくれる事を。私の思いに、お前が答えてくれる事を。それまでは、暫しのお別れだ」

 

 箒「……さようなら、過去の牙也」チュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 一夏「牙也が部屋から出てこない?」

 箒「ああ……どうやら小さくなってからの事をはっきりと記憶しているようでな、ベッドの上で奇声上げながらのたうち回って、最終的に布団に潜り込んで丸まってしまったんだ。姉さんが必死に謝っているが……」

 鈴「牙也からすれば災難よね……あんな純粋で無防備な自分を見せつけちゃったんだから」

 

 

 その後数日、牙也はショックで部屋から出てこなかったという。

 

 

 

 

 

 




 哀れ、牙也……


 さて、ここで報告です。次回からの本編&コラボのストーリーにてコラボする作者さんがようやく決まりました!詳しくは活動報告をご覧下さいね。ではコラボして下さる作者さん、次回からよろしくお願いします!



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奇跡ノ代償
第52話 絶望ノ襲来



 新章開幕デス!

 今回のコラボ相手は活動報告でも発表した通り、『仮面ライダールーク』作者のカイト・レインさん、『Fate/Zero Solitary Assassin』作者の三日月オーガムさん、そしてキャラクター提供者で『IS絶唱エグゼイド』作者の武神鎧武さんです。コラボして下さった皆さん、この場にてお礼申し上げます。

 では、始まります!




 

 「ぜえ……はあ……」

 

 アーマードライダー零に変身した俺は現在、紫炎を杖代わりにしてようやく立っている。今、俺はあまりに一方的に押されていた。息はあがり、ライドウェアはあちこちがボロボロ。鎧も所々欠けたり皹が入っている。何故ここまで追い詰められているのか、他の皆は理解に苦しんでいるみたいだがーー

 

 箒「牙、也……!」

 「俺はまだ大丈夫だ……皆……大丈夫か……!?」

 

 息絶え絶えになりながら俺が後方に呼び掛けると、後ろから数人の声が聞こえる。

 

 箒「くそっ……!まさか奴等の目的が、こいつだったとはな……!」

 「クロノエグゼイドの奴め……!俺のブルーベリーロックシードを奪ったのは、これが理由かよ……!」

 

 俺は歯噛みしながら悔しそうに空を見上げる。その目線の先にはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「ハーッハッハッハッ!!無様なもんだなぁ、あれだけ挑発しておいてよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前異世界旅行の道中で出会った平行世界の一夏ーー神童クロトが変身するライダー『仮面ライダーゲンム』がそこにいた。

 ただその姿は、俺が知っているゲンムとは明らかに違う。複眼の部分にはVRなんかで使うゴーグルみたいなのがついて、全身は金色に輝く鎧を装備している。そして変身ベルトだが、クロトがエグゼイドやゲンムに変身する際に使う『ゲーマドライバー』ではなく、クロノスに変身する際に使う『バグルドライバーⅡ』だ。そう言えばあれ、クロノエグゼイドも使ってたな。

 まあそんな事は今どうでも良い。問題は、今俺達の目の前にいるゲンムの事だ。突然現れたかと思えば、何の前触れもなく襲い掛かって来やがって……お陰で俺達も学園もボロボロだ。避難がスムーズに進んでくれたお陰で、被害や怪我人は最小限に抑えられているが、これからどうなる事やら……

 

 あ?なんでこんな事になったかって?今それどころじゃないが、まあ簡潔に説明してやるよ。あれは数時間前に遡るがなーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それっ!」ザンッ

 

 俺はその日第二アリーナで行われていた、千冬さんやスコールによるアーマードライダーシステムにおいての戦闘術の指導を見学していたんだ。俺が以前学園の防衛手段として提案した黒影トルーパーは無事に教員達、そして亡国のメンバー全員に行き渡り、少し前から千冬さんとスコールによる本格的な指導が始まった。今現在、トルーパーとして戦う事になった人達は皆張り切って指導を受けている。まあ今までは俺達アーマードライダーの力を持つ者に頼りっきりだったしな……「今度こそは自分達が!」って思いが強いのかもな。

 

 スコール「はいそこ、モタモタしない!黒影トルーパーは集団戦が命、一人でも勝手な行動をすれば、そこから崩れていくのよ!常に乱れなく動きなさい!」

 隊員「はい!」

 千冬「各小隊で数匹のインベスを囲み、槍や火炎放射機で止めを差す。これが基本的な流れだ。そしてインベスの動きに合わせて、その都度戦い方を変えていけ。特に中級インベスーークラス対抗戦で出現したコウモリインベスやヤギインベスは身体能力が高かったり特殊能力を持っていたりする。油断しないよう、各小隊の隊長は常に気を配れ。隊長がしっかりしなければ、部隊などと飾りにもならん事を忘れるな!」

 教員「はい!」

 

 流石は普段から大隊を率いてる人達。的確に指示を出してるな。

 

 千冬「おい牙也。どうせだから今日はお前が相手してやったらどうだ?」

 「俺ですか。構いませんよ」

 

 すると千冬さんが小隊との手合わせを提案してきた。ちょうど良い、俺も動きたいと思ってたところ、願ったり叶ったりだ。

 

 千冬「今回の手合わせは、小隊がどれだけ乱れる事なく動けるかを見るのが目的だ。牙也は攻撃せず、常に受けの姿勢を崩すな」

 「えー」

 千冬「えーじゃない、お前なら本気出さなくてもトルーパーを瞬殺出来るだろうに。まだ始めてそう時間は経っていない、お前の本気を見せるのはまだ先で良い」

 「へいへ~い」

 

 ちぇ、久し振りに派手にやれると思ったんだけどな……ま、良いか。俺は戦極ドライバーとブルーベリーロックシードをーー良く見ると、ロックシードホルダーにはブルーベリーロックシードが二つある。あれ、どっちがどっちだったっけ?片方がいつも変身用で使ってるんだけど……目を凝らして良く見ると、片方のロックシードには多少の細かい傷があったが、もう片方は大して傷がない。それで分かり、俺は傷の多い方を手に取った。

 

 「準備できました」

 

 そう言って俺はロックシードを解錠ーーしようとしたその時。

 

 

 

 

 「ッ!?」バチイッ

 

 突然もう片方のブルーベリーロックシードが紫電を放ち始めた。そしてロックシードホルダーから外れ、空中へと浮いていく。俺達がその様子を驚いた目で見ていると、やがてロックシードは空中に留まり、再び周囲に紫電を放つ。

 

 千冬「なんだ……!?何が起きている!?」

 「分かりません……千冬さん、スコール、全員を後ろに下がらせて下さい、あれは危険だと俺の勘が言っています」

 

 俺は二人に頼んでその場にいた全員を一先ず避難させ、ロックシードの様子を注意深く観察する。と、突然ロックシードから黒いスライムのような何かが溢れ出し始めた。あの反応、まさか……!

 

 スコール「ちょっと!まさかあのロックシード、VTシステムが搭載されてるんじゃないでしょうね!?」

 「そんな筈は……まさかあの時、奴等が……!?」

 千冬「覚えがあるのか?」

 「思い当たる事はありますが、今はあれに集中しましょう。千冬さん、スコール、行けますか?」

 スコール「ええ、任せておきなさい」

 千冬「いつでも行ける」

 

 二人はゲネシスドライバーと戦極ドライバーをそれぞれ腰に付けて、いつでも変身出来るようにしている。ロックシードの方は、変わらず黒いスライムを放出しているが……と、スライムが段々と集まり、人の姿を形成し始めた。スライムがウネウネと見てて気持ち悪いくらいに動いて人の姿を形成、スライムが完全な人の姿になると、やがて全身に色を含んだ。そして現れたその人に、俺達は驚きを隠せない。何故ならーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「い、ち……か……?」

 

 

 

 

 

 その人は、一夏そっくりだったからだ。

 

 ??「ッ……アア~、ようやく復活出来たぜぇ……」

 

 一夏に似たその人物は、低い声を上げながら軽く体を伸ばす。体全体からゴキゴキと骨が鳴る音がする。と、そいつは俺達を見つけるなり、

 

 ??「……ありがとうよ、俺の復活の手助けをしてくれてなぁ……さて、神童クロトをぶっ潰しに行こうか!」

 

 神童クロト……まさか奴は!?

 

 「てめぇ……イチカか!」

 イチカ「あ?お前、俺の事知ってんのか。だったら話が早い、神童クロトは何処だ?」

 「生憎だったな、ここに……いや、この世界に、神童クロトは存在しない」

 イチカ「何?」

 「この世界はお前がいた世界とは違うんだよ。しかし神童クロトが倒したと聞いてたが、まさか俺のブルーベリーロックシードを媒体にして復活してくるとはな……」

 イチカ「神童クロトに比べて優秀な部下が沢山いるんでな。媒体の提供感謝するぜ」

 「感謝される理由は無いし、提供した覚えもない。ま、確かにお前の部下は強かったが、随分と頭のイカれた奴等を侍らせてるんだな」

 イチカ「神童クロトと比べりゃ比にもならんさ」

 「どーだか。その神童クロトに叩き潰されたのは何処の誰でしたっけね~?」

 イチカ「……あ?」

 

 なんとなくやってみた挑発に、イチカは元々鋭い眼光を更に鋭くする。

 

 「ったく、面倒事を持って帰っちまったな……千冬さん、スコール、二人も下がって下さい。奴は俺が何とかします」

 千冬「だ、だが……」

 イチカ「俺を何とかする、だと?ハッ、笑わせんな!神たる俺には、たとえ神童クロトでも及ばないのさぁ!」

 「その神童クロトに負けたんだろお前は?」

 イチカ「……随分とからかうのが好きみたいだな……それじゃあお望み通り、てめぇから潰してやるよ……!」

 

 完全にキレたのか、イチカの奴は懐から何かを取り出した。それは俺がカンナと共に使っているガシャコンバグヴァイザーに似ている。俺のバグヴァイザーは色が紫を基調とした物だが、奴のバグヴァイザーは色が緑色に近い。恐らく、クロトがクロノスに変身する際に使うガシャコンバグヴァイザーⅡだろうな。

 

 《ガッチャーン》

 

 奴はそれを腰に付ける。音声と共にベルトが巻かれ、バグルドライバーⅡとなった。更にイチカは懐からゲームガシャットを取り出して起動した。

 

 《God Mighty Creator IX》

 

 すると、イチカの背後にゲーム画面が現れた。千冬さん達は何が起こっているのか分からず狼狽えている。

 

 イチカ「変身」

 

 《ガシャット!バグルアップ!》

 

 《世界再構成の理 All Remake!神の如きゲームマスター!God Mighty Creator IX!!》

 

 バグルドライバーⅡのAボタンを押して待機音声を流し、ガシャットをドライバーに差し込んでトリガーを引く。と、イチカの四方を四枚のパネルが囲み、イチカの全身を包み込む。そしてパネルが弾け飛んでーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イチカ「……神の力にひれ伏せ。哀れな人間共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 平行世界の災厄が、姿を現した。

 

 

 

 

 

 





 いきなり面倒臭いのが来たよ……(白目)

 えー、武神鎧武さんから『イチカ』をお借りしました。と言っても本人ではなく、所謂分身みたいなものです。
 今回のコラボ章は、こいつが牙也達の世界を荒らします。



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第53話 引キ寄セラレタ戦士達


 何ででしょうか、何故か執筆が進む……流し素麺のように……何ででしょ?




 

 「なるほどな……それが『仮面ライダーゲンム クリエイターゲーマー』か」

 

 俺は今のイチカの姿を見てそう言う。クロトが変身するゲンムとはまた異なる姿だが、その強さは飾りではないと分かる。だってクロトから以前こいつの事聞いたし。こいつ倒すのは、クロトでも『HYPER MUTEKI GOD』が無ければ倒せなかったと聞いている。ただイチカが使っているあのガシャットの能力については聞いてなかった。しまったなぁ、聞いときゃ良かった。とにかく今は、こいつを追い払わなきゃな。

 

 「千冬さん、スコール。箒を呼んできてもらえますか?それと生徒教員全員に、決して第二アリーナに近づかないよう伝えて下さい」

 スコール「分かったわ、負けるんじゃないわよ!」

 千冬「気を付けろ、必ず生きて戻ってこい!」

 

 二人はそれぞれそう返事して、その場から離脱した。それを見送り、俺はイチカに向き直る。

 

 イチカ「クックックッ……遺言は済ませたか?」

 「バーカ、遺言書くべきなのはお前だろ?いや、自称神が遺言なんか書いたら格好悪いか」

 イチカ「その余裕、いつまで持つだろうなぁ?」

 「さあな。ま、やるだけやってみるさ。変身」

 

 《ブルーベリー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・Hell Stage!》

 

 アーマードライダー零に変身し、紫炎を構える。一方のイチカは、相変わらず空中でふんぞり返ったままだ。何か策を隠してるかな?そう考えてイチカに攻撃しようとしたが、ここである事を思い出した。それは俺達がクロトとの共闘を終えて傷を癒していた時、箒がクロト達から聞いた事を俺に話してくれた。それによると、

 

 箒『イチカやノルンのようなバグスターは、クロト達が持つゲームガシャットの力ーーつまり、ゲームの力が無ければ倒せないんだ。私達の攻撃が奴等に通用しても倒す事が出来なかったのは、それが理由だ』

 

 そうだった、俺達の攻撃は奴等に通用しても、倒す事は出来ない。だってロックシードにゲームの力なんか無いから。絶望的じゃねぇか畜生。

 

 (こんな時、カンナがいてくれればな……)

 

 今現在、カンナは何やら準備があると言ってここにはいない。カンナなら何か策を巡らしてくれそうなのだが、生憎いつ戻るかも分からないので、それは期待出来ない。弱った弱った……

 

 イチカ「どうした?来ないのかよ?」

 

 イチカが痺れを切らしたのか逆に挑発してくるが、スルーを決め込む。不用意に突っ込んでボコボコにされるのはごめんだ。何か策は無いものかと考えてみたが、現状打開策は無いと言っても過言じゃない。となれば……

 

 「……一時的に追い払う、しかないか」

 

 そう結論付けて、俺は無双セイバーを腰から抜き、ガンモードにしてイチカ目掛けて撃った。ばら蒔かれた銃弾は勢い良く飛んでいき、イチカの胸に当たるーー

 

 

 

 

 イチカ「……下らねぇな」

 

 

 

 

 と思ってたら、なんとイチカに直撃というギリギリの位置で銃弾が止まってしまった。しかもイチカはそれを手で叩くだけで消し飛ばした。マジかよ……!?小手調べだけでとんでもない事が分かった。こいつ、やっぱり強い。

 

 イチカ「じゃあ次は、俺の番だな」

 

 そう言ってイチカか右手を上げた。すると、イチカの周囲に大量の銃火器が出現した。しかも全部の銃口が俺に向いている。嘘だろ!?

 

 イチカ「『God Mighty Creator IX』の能力……それは、武器生成。無限に武器を作り出す、まさに神たる俺に相応しい力だッ!」バッ

 

 上げていた手をイチカが俺に向けると、一斉に数多ある銃火器が火を吹いた。銃弾が雪崩のように俺に向かってくるが、俺は左手から蔦を伸ばして巨大なドームを作り、それら全てを防いだ。イチカは一瞬驚いていたが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 イチカ「蔦か……植物なんてのはなぁ、燃やしてしまえば良いんだよッ!」

 

 今度は火炎放射機を大量に出現させ、ドーム状に張られた蔦を焼き始めた。流石に不味いと慌てて蔦のドームから脱出したところに、先程の銃火器がまた火を吹く。止まない銃弾の雨に、俺は紫炎や無双セイバーで弾を弾いたりするなどして直撃を避ける事しか出来ない。と、こんどは火炎放射機が襲い掛かってきた。

 

 「こなくそっ!」

 

 俺は咄嗟に蔦を伸ばして銃や火炎放射機を奪い取り、イチカに向けて銃弾や炎を放った。しかし、無双セイバーで撃った時と同じように、弾は弾かれ、炎は効いている風には見えない。自分で作った武器では、自分にダメージは入らないのか……厄介だな。と、今度は大量の剣が生成されて俺に放たれた。

 

 箒「任せろ牙也ッ!」

 

 とそこへアーマードライダーレオンに変身した箒が突っ込んできて、放たれた剣を数本叩き落とした。しかし焼け石に水で、まだ剣が大量に飛んでくる。

 

 「ああもう、面倒臭ぇ!箒、範囲技で切り抜けるぞ!」

 箒「分かった!」

 

 《ロック・オン》

 

 《一・十・百・千!》

 

 俺と箒はそれぞれ無双セイバーにオリーブロックシードとイチジクロックシードをロックし、

 

 《オリーブチャージ!》

 

 《イチジクチャージ!》

 

 カウントと同時に無双セイバーを振るった。俺の無双セイバーからエネルギーでできたオリジンが大量に放たれてイチカの剣と相殺されていき、箒の無双セイバーは振るう度に爆発を起こして飛んでくる剣を破壊していく。

 

 箒「切りがないなッ!」

 

 しかし絶える事なく飛んでくる剣に箒は痺れを切らして、背中から蔦を伸ばして剣を強奪して振るい始めた。

 

 「箒!蔦は駄目だ!」

 箒「え?どういうーーなッ!?」

 

 見ると先程の火炎放射機が箒が伸ばした蔦を剣ごと焼いていた。炎はみるみる内に蔦を燃やしている。箒は慌てて燃えている蔦を切り離して残りの蔦を引っ込ませた。

 

 箒「牙也!奴は一体何なんだ!?」

 「ほら、以前神童クロトの世界に行ったろ!?あの時クロトが話してた『イチカ』だよ、あいつは!」

 箒「イチカだと!?奴は向こうでクロト達が倒した筈じゃないのか!?」

 「以前クロノエグゼイドに盗まれたブルーベリーロックシードを媒体にして復活しやがったんだ!ようやくクロノエグゼイドが俺からロックシードを盗んだ理由が分かったぜ……恐らくノルン達は、俺のロックシードを悪用して、倒されたイチカを復活させる気だ!」

 箒「そんな事が……!?」

 イチカ「出来るのさ、俺の優秀な部下達ならなぁ!」

 

 俺達が顔を上げると、イチカが更に大量の武器を生成してふんぞり返っていた。

 

 イチカ「俺が生んだゲームのバグスターはな、俺と同じくらい頭が回るのさ!あいつらなら俺一人復活させるくらい簡単なんだよ!今度こそ復活して、神童クロトをぶっ潰してやらぁ!」

 「野郎……!どこまで脳内も性根も腐ってんだ……!」

 イチカ「お褒めの言葉ありがとうよ!」

 「褒めてねぇよ!」

 

 イチカはそう言って大量の武器を俺達に向けて飛ばしてきた。無双セイバーで全部弾いていくが、武器生成は止まる気配すらないな。このままじゃ……!そう考えていると、突如視界が白い煙に覆われた。

 

 「野郎、煙幕まで作れるのかよ!?」

 イチカ「ご名答」

 

 《キメワザ!》

 

 《Critical Sacrifice》

 

 突如電子音声が煙の中から響き、

 

 

 

 

 

 

 

 「が……っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ガードの体勢を取る間も無く俺の体はガシャコンバグヴァイザーⅡ・チェーンソーモードで叩き斬られ、アリーナの壁まで吹き飛ばされて変身が解除される。そのまま俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「牙也ッ!」

 

 何やら電子音声が響くと、右手にガシャコンバグヴァイザーⅡを付けたイチカが煙幕ごと牙也を斬り裂いて吹き飛ばした。牙也はアリーナの壁に叩き付けられ、磔状態になる。まずい、早く牙也を助けないと……!

 

 《キメワザ!》

 

 《Critical Judgement》

 

 「ッ!?しまっーー」

 

 背後から電子音声が響き、慌てて防御体勢を取ろうとするが、煙幕の向こう側から極太のビームが放たれ、私の体を飲み込んだ。ビームによって大きく吹き飛ばされた私も、牙也と同じくアリーナの壁に叩き付けられ変身が解除された。私の体も磔状態だ。

 

 イチカ「他愛ねぇなぁ……もっと楽しませてくれよ……!」

 

 イチカはケラケラ笑いながら、ガシャコンバグヴァイザーをチェーンソーモードにして私に向けてゆっくりと歩いてくる。体を動かそうとしたが、腕が壁にめり込んで動かせない。最早これまでか……こんなところで、私は……!

 

 イチカ「さて、どうやって殺そうkーーあ?」

 

 突然私とイチカの間の上空に、あの闇を吐き出すクラックが開き、そこから大量の何かが落ちてきた。

 

 「人、形……?」

 

 よく見ると、どうやら全て人形みたいだ。種類も姿も豊富にあるのが分かる。

 

 イチカ「ハッ、なんなのか知らねぇけど、邪魔なんだよ!」

 

 イチカは突然降ってきた人形に驚きながらも、それらをチェーンソーで斬り裂いたり踏みつけたりする。人形の中の綿が辺りに飛び、地面を白くしていく。すると、クラックから更に誰かが出てきた。小柄な体型のその人は、黒いTシャツの上から黒いフード付きパーカーを羽織り、黒い短パンに黒いブーツ、更にその上からボロボロのローブを纏っている。その人は辺りに散らばる人形の残骸を見、そして目の前のイチカを見た。

 

 ??「……これ、貴方がやったの?」

 

 そうイチカに聞く。その声は女の子のようだが、声に感情が伴っていない。

 

 イチカ「ああそうさ、突然降ってきたから斬り裂いてやったよ!ああスッキリしたぜぇ……!」

 

 相変わらずケラケラ笑いながら喋るイチカ。と、

 

 

 

 

 

 イチカ「ごばっ!?」

 

 

 

 

 

 目の前にいた少女がいなくなったかと思うと、イチカが私がめり込んでいる壁の隣に吹き飛んできた。壁に叩き付けられてバウンドするイチカだが、すぐに立ち上がって辺りを見回す。

 

 イチカ「何処だッ!?何処にいやがる!?」

 

 しかし姿は見えず逆にまた吹き飛ばされた。斬撃を受けているのか、火花が散っているように見える。イチカはその後も空中コンボ攻撃を受け、地面に叩き付けられた。フラフラになりながらもイチカがなんとか立ち上がると、その前にあの少女が現れた。その目は明らかに怒気と殺気が混じったような感じだ。少女はその手に何やら異様な見た目の剣を出現させると、イチカに向けて構えた。

 

 ??「……私は貴様を許さない……私の大事な人形を傷付けて……生きて帰れると思うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を失った牙也の近くに、また別のクラックが開いた。そこから整った顔立ちの少年が現れた。アリーナに降り立つと、ここが何処なのか分からないようで、キョロキョロと辺りを見回す。と、

 

 ??「ッ!?大丈夫ですか!?」

 

 ボロボロの状態で壁にめり込んでいる牙也を見つけ、壁から引っ張りだそうとするが、めり込んでいる為に動かせない。

 

 ??「仕方ない……こいつで!」

 

 すると少年は懐から何かを取り出した。それは変身ベルトのようだが、戦極ドライバーとは明らかに違う。それを腰に付け、次にチップのようなものを出した。それをベルトの左側の隙間に入れる。そして、

 

 ??「変身!」

 

 ベルトのレバーを引くと、少年の体がエメラルドの光に包まれた。数秒ほど少年を包んだ光はやがて消え、少年の姿はエメラルド色の全身に黄色のラインが走り、額付近に二本の角が伸びた姿となった。

 

 《STRIKE!OK!LUKE!BATTLE START!!》

 

 ??「仮面ライダールーク……さあ、ここからは俺のターンだ!」

 

 

 

 





 現在ヒグマチキンさんの『IS×仮面ライダー 仮面ライダー炎竜』にてコラボ実施中。是非お読み下さい。

 キチンとルーク達のキャラを表現出来たのか心配……間違ってたらご指摘お願いします。



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第54話 崩レ行ク均衡


 投下します。




 

 「はぁ……はぁ……」

 

 磔状態から蔦を伸ばして無理矢理体を壁から引き剥がす事で、ようやく解放された私だが、体はあちこちボロボロで怪我も酷い。やむを得ず壁にもたれ掛かって座り込む。

 目の前を見ると、先程の少女がイチカを圧倒している。手に持った歪な形の剣を振るい、イチカが生成する武器を次々と壊していく。更に隙有らば一気に接近して攻撃を当てる。しかもその動きは、とても視認できるものではない。イチカもその俊敏なーーいや、俊敏という言葉では足りないかーー動きについて行けないようで、防御の暇さえもなくなすがままだ。

 

 イチカ「てめぇこのクソガキ……何者だ!?」

 ??「……クソガキ?誰の事?私にはお前の言うクソガキは、お前以外には見当たらないんだけど」

 イチカ「んだと!?」

 ??「ほら、そう言うところ。ちょっとからかえばすぐ怒る。クソガキの特徴そのものだよ」

 イチカ「てめぇ……!この最強の神に向かって……!」

 ??「最強?神?笑わせないで。お前みたいなのが神なら……世界はとっくに滅びてるよ。それにーー」

 

 少女は話しながらも攻撃の手を緩めない。イチカは生成した武器を少女に放って応戦するが、少女の神速の動きを見極められず、ただただ無様に攻撃を受け続けるだけ。最後に少女が腹部に豪快な蹴りを入れてイチカを壁に叩き付け、変身を解除させた。

 

 ??「……こんな弱過ぎる神なんかいる筈がないから」

 

 無様に地面に倒れ伏したイチカを侮蔑の瞳で見ながら、少女はそう吐き捨てた。

 

 イチカ「野郎……次会った時は、そのひねくれた頭を叩き割ってやる!」

 

 そう吐き捨てると、イチカはノイズのようになって消えた。奴め、何処かに逃げたか……と、先程の少女が私を見るなり急いで駆け寄ってきた。

 

 ??「……大丈夫?」

 「ああ、大丈bーーぐっ!」

 

 なんとか立ち上がろうとするが、全身に痛みが走り、立ち上がれない。すると少女が私の肩を持って立ち上がらせてくれた。

 

 「すまないな……手間掛けさせて」

 ??「別に……これくらい、何ともないから」

 「それでも礼だけは言わせてくれ……ありがとう」

 ??「……どういたしまして」

 

 少女は淡々と言って私を肩に担ぐ。

 

 ??「……出口は何処?」

 「こっちだ……そうだ、牙也は……!牙也を、助けないtーーぐっ!」

 ??「無理しないで。大怪我してるから」

 「だが……!」

 ??「おーい、誰かいないか!?」

 

 と、正面から少年らしき声が聞こえた。牙也の声ではない、となると誰だ……?すると正面から走ってきたのは、全身をエメラルドのアーマーて包み、額の二本角が目を引く姿の人物だった。肩に誰か担いでいるが……ッ!?

 

 「牙也……!?牙也ッ!」

 

 担いでいるのが牙也だと気づき、慌てて駆け寄ろうとするが、うまく歩けず転んでしまった。慌ててアーマーを付けた人物が変身を解除して駆け寄ってくる。

 

 ??「君、この人の知り合い?だったら何処かに病院か何かない!?大怪我してるんだ、早く病院に連れて行かなきゃまずいよ!」

 「大丈夫だ……ここはIS学園、医療設備は整ってるから……」

 『IS学園?』

 

 少年と少女はそれを聞いて首を傾げた。この二人、IS学園を知らないのか。二人はどうやら異世界の人間らしい。後で話を聞かなければ……

 

 ??「取り敢えず、一旦外に出よう……道を教えて?」

 「分かった……そこの通路に入ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は牙也に頼まれて篠ノ之を呼んだ後、この第二アリーナの正面入口で一夏達や黒影トルーパー達と共に待機していた。第二アリーナは牙也の命によって立ち入り及び接近禁止となり、回りには生徒達が野次馬状態でアリーナを見ている。が、あれから三十分は経つのだが、一向に牙也達から連絡が来ない。何かアクシデントでもあったのだろうか?

 

 スコール「千冬、どうする?試しに踏み込んでみる?」

 「……いや、敵の実力が未知数な以上、何の用意も無しに突入するのは危険だ。もう少し待ってみよう」

 

 スコールは突入を提案したが、私は却下した。牙也が私達を撤退させたという事は、奴は相当強いのだろう。恐らくだが、今の私達では太刀打ちできないと理解して私達を下げたのだと思う。牙也ならそう易々とは負けないとは思うが……

 

 隊員「隊長!誰かが来ます!」

 スコール「銃火器準備!いつでも撃てるようにして!」

 

 スコールが部下に命令を下し、部下達は素早く動いて隊列を組み、出入口に銃口を向ける。

 

 スコール「合図を出したら撃ちなさい」

 

 そう言ってスコールは鋭い目を同じく出入口に向ける。私もすぐに動けるようゲネシスドライバーを用意して待つ。やがて人影が見えた。

 

 「ッ!?牙也!?篠ノ之!?」

 スコール「撃ち方止めッ!銃を下ろしなさい!」

 

 出入口から出てきたのは、一夏と同い年くらいの少年と全身を黒いパーカーで包んだ誰かだ。二人の肩にはボロボロになった牙也と篠ノ之が担がれている。スコールが慌てて部下に命じて銃を下ろさせる。私はスコールと共に二人に歩み寄った。

 

 「牙也と篠ノ之を助けたのは、お前達か?」

 ??「はい!二人は大怪我を負っています、すぐに治療を!」

 スコール「分かったわ。誰か担架を二つ持ってきなさい!それと治療用具を医務室に準備しなさい!急いで!」

 

 スコールの部下が慌てて担架を取りに行く。二人に牙也と篠ノ之を地面に寝かせるように言うと、二人はそっと二人を寝かせて楽な姿勢にさせた。

 

 「牙也と篠ノ之を救ってくれた事、感謝する。だが、お前達には後で色々聞きたい事がある、大人しくついて来てくれるか?」

 ??「はい、分かりました」

 ??「……」コクリ

 

 少年は元気よく返事し、パーカーを被った誰かは小さく頭を縦に振った。OKサインだろう。するとちょうど担架が運ばれてきた。牙也と篠ノ之をそれぞれの担架に乗せて医務室に向かわせ、私は何があったのか話を聞く為に牙也達を担いできた二人を念のため拘束した。

 

 「ではついて来てくれ」

 

 二人を連れ、私はスコールと共に医務室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室に着いた時、室内は大混乱状態だった。やや狭めの室内を束を含めた数人の医者が駆け回り、牙也と篠ノ之は束作の治療用カプセルに放り込まれて治療を受けている。束がなにかブツブツ呟きながらカプセルとコードで繋がったパソコンに色々打ち込んでいく。

 

 「束。二人の容態は?」

 束「あ、ちーちゃん。二人とも生きてるのが奇跡なレベルの大怪我だよ……出来る限りの事はするけど、二人ともしばらく意識は戻らないだろうし、余談を許さない状況はしばらく続くと思う……」

 「そうか……二人の目は覚めるか?」

 束「……正直言うと、五分五分。さっきも言ったけど、二人の怪我は常人なら即死レベルだったからね……でも束さんは信じてる。牙君も箒ちゃんも、必ず目を覚ますって」

 「そうだな……頼んだぞ、束」

 束「任せといて!」

 

 サムズアップを見せて再びパソコンに向き直る束。しかしその顔は大分沈んでいた。牙也、篠ノ之……お願いだ、死なないでくれ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、生徒達の方も混乱を見せていた。突然第二アリーナが立ち入り禁止になったのだから当然かもしれないが、

 

 「ねぇねぇ、牙也さんが大怪我したって本当!?」

 「本当本当!さっきボロボロになった牙也さんと篠ノ之さんが運ばれていくのを見た人がいるみたい!」

 「嘘!?牙也さんも篠ノ之さんも死なないよね……!?」

 「だ、大丈夫よ!前だって大怪我しても生きて戻ってきたじゃない!」

 

 何処の教室もこの騒ぎの事で持ちきりだ。そして箒の所属クラスである一年一組も例外ではない。

 

 ラウラ「牙也程の強者をいとも簡単に倒すとは……どれだけ強いのだ、その人物は?」

 鈴「確かにそうね……あんなボロボロになってる牙也、初めて見たわ」

 シャルロット「二人とも、大丈夫かな……?」

 セシリア「お二方……どうかご無事で……!」

 

 何も出来ない自分達を呪いながらも、ただただ牙也と箒が目を覚ましてくれる事をひたすらに祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方ーー

 

 

 

 「ぎゃあああああ!!」

 「な、何なのよこいつ!?なんで攻撃がーーぐはっ!?」

 「て、撤退、撤退ー!!」

 

 とある国に建つビル。海沿いに建つビルのその内部は、まさに死屍累々の有り様であった。あちこちに死体が転がり、ISの残骸が壁に突き刺さり、大量の血が辺り一面を覆っている。生き残った女性達は既に戦意喪失し、慌てて逃げ出していく。

 

 イチカ「ああ~……気分が良いぜ。最高にHighって奴だ……!」

 

 その原因は、学園から撤退したイチカであった。あの後エナジーアイテム『回復』を使って傷を癒したイチカは、再び学園襲撃を画策し、その尖兵として使うためにそのビルを襲撃した。何故他のビルではなく、ここと決めて襲撃をしたのか。

 それは、元々イチカがいた世界ではこのビルが亡国企業の本部だったからだ。かつて亡国企業を襲撃してスコール達を傘下に引き入れたイチカ、だからこそ今回もそうしてスコール達を傘下に加えてやるつもりだったーーのだが、いざ行ってみるとそこは亡国ではなく、ゼロが社長を務める会社『株式会社メシア・ロード』であった。自身が知っている組織ではなかった事にがっかりしたイチカだが、探りを入れてみると、亡国以上の物がそこに隠れていた。これにはイチカも狂喜乱舞し、すぐに襲撃を実行に移した。

 そしてーー

 

 

 

 ゼロ「あ、貴方……何者……!?まさか、雷牙也の刺客!?」

 イチカ「はあ?誰だよそれ?ま、俺にとっちゃどーでも良い事だけどなぁ……!それじゃ、今日からここは俺の物だ。お前は用済み、ここには必要ない。消えな」

 

 イチカはそう言うと、ガシャコンバグヴァイザーⅡをビームガンモードにし、Bボタンを二回押した。

 

 《キメワザ!》

 

 《Critical Judgement》

 

 バグヴァイザーから極太のビームが放たれ、アーマードライダーマルスに変身したゼロの体を飲み込む。やがてビームが止まると、そこにはゼロの姿はなく、ゼロがさっきまでいた場所の後ろには、ビームによる大きな穴がぽっかり開いていた。それをイチカはガシャットの力で直し、社長の椅子にドカッと座り込む。

 

 イチカ「さあて……始めッか。この世界全てを手中に収める、第一手をなぁ……!」

 

 あまりにも気持ち悪い笑みを浮かべながら、イチカは『God Mighty Creator IX』のガシャットを見つめる。更にポケットから別のガシャットを取り出して起動した。

 

 

 

 

 

 『NOISE SOLOMON』

 

 

 

 

 





 ゼロは果たしてーー?



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第55話 嘆キノ一手


 国民的テレビ番組『笑点』でメンバー及び司会者として活動していた桂歌丸師匠がつい最近お亡くなりになりましたね……『笑点』は大好きな番組だったので、なんか寂しいです。

 そんな事を考えていると、何故か無性にこのハーメルンにて笑点をやってみたくなりました。現在調整中です。




 

 「では二人とも。名前と年、それとここに来るまでの経緯を話してくれ」

 

 医務室では流石に色々聞くのは無理だと察した私は場所を移し、一先ず取調室に二人を連れてきた。そして二人をパイプ椅子に座らせ、私もテーブルを挟んで向かい側に座る。そして二人にそう言うと、

 

 『分かりました』

 

 同時に二人は返事して、まずは少年の方から話し始めた。

 

 ??「僕は夜月雅樹と言います、天童杯学園の生徒です」

 「天童杯学園?なんだその学園は?」

 

 そんな学園など聞いた事もない。隣にいるパーカーを被った誰かも首を傾げているように見える。

 

 雅樹「え、知らないんですか?あんなに有名なのに……」

 「待てよ……ああ、そういう事か」

 

 一つ思い浮かぶ事があった。天童杯学園など聞いた事がない。しかし目の前にいる少年は、それがあると言っている。つまりこの少年は……

 

 「ならば別の質問をしよう。お前がここに来るまでに何があったのか、具体的に話してくれ」

 雅樹「はい。俺はいつものように、学園の友人達と下校していたんですが……突然頭上にジッパーみたいなのが開いたかと思うと、抵抗する暇も無く吸い込まれてしまって……気づいたら、ここのアリーナにいたんです」

 「なるほど……」

 

 決まりだな、これは。という事はーー

 

 ??「……私も、彼とほぼ同じ。家で人形の掃除をしてたら、頭上に同じようにジッパーが開いて……人形がどんどん吸い込まれていったのを追い掛けて、私も飛び込んで……気づいたらここに」

 

 やはりな、パーカーを被った子ーー彼女も、クラックに吸い込まれてここに来たのだな。

 

 「よく分かった。では、夜月だったな。単刀直入に言おう、お前が言う天童杯学園という学園は、存在しない」

 雅樹「……はい?」

 「つまりこういう事だ。お前達二人はそのジッパーを通って、別世界に来てしまった、という事だ」

 雅樹「別世界!?」

 

 夜月は酷く驚いていた。しかし隣の少女は無表情。ううむ、感情が読めん……

 

 ??「……つまり私達は、元々いた世界からこの世界にワープしてしまった、という事ですか?」

 「その通りだ、えっと……」

 ??「……アリス。アリス・セブンス・レストロイ。それが、私の名前」

 「そうか。では夜月、アリス。お前達にはしばらくこの学園で生活してもらう。念のため監視付きだが」

 雅樹「監視付き、ですか?」

 「一応部外者扱いだからな。それに帰る手段が無い以上、ここに住むしかないだろう」

 ??「……気遣い、ありがとう」

 「礼はいい。すぐに部屋を用意するからちょっとここでーーああしまった。部屋掃除担当がダウンしているのだったな……仕方ない、後で私が住んでいる寮監室に案内する、しばらくは私と共に生活だ」

 雅樹「マジですか……」

 「不服か?」

 雅樹「出来れば一人部屋が良いです。知らない女性と一緒に寝るなんて……」

 「ここは女子校みたいなものだからな、もしここの生徒に見つかったら、何されるか知れた事ではないぞ」

 雅樹「やっぱ寮監室で良いです」

 「アリスも異論は無いか?」

 アリス「……ない」

 

 結局その日は牙也は目覚めず、篠ノ之も治療後そのまま寝てしまった為、私も二人を伴ってそのまま寮監室に戻って寝てしまった。その際目の前に夜月がいるにも関わらず、アリスと揃って服を着替えようとして夜月に全力で止められたのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、学園近くの海沿いを歩いていたのはシャルロットとラウラであった。

 

 シャルロット「あ~、気持ち良い~♪」

 ラウラ「そうだな。いつもは朝練等でこんな事する暇もないのだが、たまにはこういうのも良いな」

 

 波の音が静かに響く海岸を、二人はのんびりと歩いていた。この日は昨日の騒ぎもあって休日となり、二人は暇をもて余している状態だった。

 

 ラウラ「牙也はまだ目が覚めないのか……篠ノ之は意識があったから良かったようなものの……」

 シャルロット「まああんな大怪我負ったんだし、仕方ないのかもしれないけど……早く目が覚めてくれないかな……あれ?」

 

 ここでシャルロットが何かに気づいた。

 

 シャルロット「ねぇラウラ。あそこ、誰か倒れてない?」

 ラウラ「む?本当だ、行ってみるか」

 

 二人が倒れている駆け寄ってみると、倒れていたのは女性で、流されてきたのか全身びしょ濡れであった。顔を確認すると、二人はとても驚いた。

 

 ラウラ「デュノア、こいつは……!」

 シャルロット「この人……なんでゼロが……!?とにかく医務室に運ばなきゃ!私はゼロを見てるから、ラウラは急いで織斑先生達を呼んできて!」

 ラウラ「分かった!」

 

 ラウラが学園へと駆けていくのを確認し、シャルロットはゼロを一先ず安全な場所へ運んだ。脈を確認すると、まだ息がある。

 

 シャルロット「それにしても、どうしてこんなボロボロになってるんだろう……?ゼロの強さは皆知ってる。けど、ここまでボコボコにされてるのは見た事ないよ……一体誰が……?」

 

 新たな敵の登場という最悪の予感を思い付いたが、一先ずそれはおいといて、今はゼロを見張る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪「……」

 本音「かんちゃん、心配?」

 

 一方こちらは簪と本音。中庭のベンチに座ってノートパソコンを弄っていた。現在整備室は束が拠点代わりとして使っている為にほとんど使えない状態で、簪は代わりとしてノートパソコンを使って自身のISの整備を行っている。勿論本音に手伝ってもらって、だ。しかし作業中簪はずっと上の空であり、見かねた本音が声を掛ける。だが返答は返ってこない。

 

 本音「……ぎゅー♪」ギュー

 簪「ふわぁ!?な、何!?」

 

 突然本音は簪に抱き付き、簪はびっくりしてノートパソコンを落としそうになった。

 

 本音「笑顔だよ、かんちゃん。沈んだ気持ちでいたら、牙っち目が覚めた時に悲しむよ?」

 簪「本音……」

 本音「だいじょぶだいじょぶ、牙っちならだいじょぶだって!ほら、笑顔笑顔!」

 簪「……ありがと。少し、楽になった」ニコッ

 本音「うんうん、やっぱりかんちゃんはこうでなきゃね!さ、頑張ろ頑張ろ!」

 

 

 

 

 《NOISE SOLOMON》

 

 

 

 

 突然電子音声が響いたかと思うと、簪と本音がまるで糸が切れたかのように倒れた。すると二人にノイズ状のものが発生して二人を包み込んだ。やがてノイズが晴れると、二人の姿は怪物に変わってしまっていた。二匹の怪物は、ゆっくりと歩き出して何処かへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すまないな、心配かけて」

 

 私の寝ているベッドを囲むクラスの皆に向けて、私は礼を言った。しかし皆は特に気にしていない素振りを見せ、「早く復帰出来ると良いね!」とか「怪我が治ったら今度一緒に遊ぼうね!」とか色々言ってきた。そんな彼女達に私は思わず小さく笑みを浮かべる。そしてその中に紛れている二人の少年少女ーー夜月雅樹とアリス・セブンス・レストロイに向き直る。

 

 「夜月とアリスもありがとう。お陰で助かった」

 雅樹「礼なんて……困ってる誰かを助けるのは人として当然だろ?」

 アリス「私はたまたまその場にいて介抱しただけ。礼はいらない」

 

 夜月は笑顔で言葉を返し、アリスは素っ気ない返事をする。夜月はともかくアリスは感情が読めないな……まあ助けてくれた事は勿論感謝しているが。

 

 「ところで、さっき千冬さん達が慌てて出ていったが……何かあったのか?」

 雅樹「さあ?でも大分焦ってたみたいだし、何かあったのは確かなんじゃないかな?」

 

 

 

 

 ガシャアンッ!!

 

 

 

 

 すると突然私の後ろの窓ガラスが割れた。辺りにガラスの破片が飛び散る。後ろを振り向くと、なんとそこには異様な見た目の怪物が二匹いた。他の皆はそれを見て大騒ぎになって次々逃げ出した。私が慌てて身構えると、怪物は私に掴み掛かってきて、私を外に引きずり出した。受け身を取って着地し、そのまま襲い掛かってくる怪物をいなしていく。しかし怪我が完全に治っている訳ではないので、痛みとの戦いにもなる。怪物は徒手空拳で私に攻撃してくるので、私はとりあえず怪物の攻撃を避ける事に集中する事にした。そして二匹の怪物のパンチを受け止める。と、

 

 

 

 

 

 

 ??「……タスケテ……!」

 ??「オネガイ……ダレカタスケテ……!」

 「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 今の声……まさかこの怪物は……!?すると怪物達は突然後ろに飛び退いた。その場所にノイズが発生し、そこから誰かが現れた。

 

 「貴様は……イチカ……!」

 イチカ「よぉ。随分とボロボロだなぁ……ま、俺がやったんだから当然か」

 「貴様!二人に何をした!?」

 イチカ「教えねぇよバーカ。ま、この二人は頂いていくぜ……じゃあな!」

 

 そう吐き捨てるとイチカは二匹の怪物と共にノイズとなって消えた。私以外誰もいなくなったその場に、虚しく風が吹く。

 

 「くそっ……!くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 自分の弱さに、そして大事な仲間を奪われ怪物にされてしまった事に、私は地面を殴り付けて泣く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 





 デデーン

 イチカ、OUT~



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第56話 活路


 始まります。




 

 医務室に戻り、汚れた包帯を交換していると、

 

 千冬「今の騒ぎはなんだ!?何があった!?」

 

 千冬さんが医務室に戻ってきた。その後ろには誰かが担架に乗せられている……って!?

 

 「ゼロ!?」

 

 担架に乗せられている人物を見て、私は驚きを隠せなかった。担架には、大怪我を負ったゼロが乗せられていたからだ。

 

 千冬「デュノアとボーデヴィッヒが近くの海岸で倒れているのを発見したんだ。束、すぐに治療してやれ」

 束「分かった、すぐに治療するよ」

 スコール「あら、良いの?一応敵よ?」

 束「今は敵だ味方だなんて言ってる暇なんか無いの。それに……敵とは言え、私の恩人だから」

 

 そう言うと束は治療用カプセルにゼロを入れ治療し始めた。千冬さんはその場にいたクラスの皆に「極秘の話をするから、お前達は部屋に戻れ」と命令して半ば強制的に医務室から追い出した。残ったのは千冬さんと姉さん、そして一夏達いつものメンバーだった。

 

 千冬「それで篠ノ之、一体何があった?」

 「はい……私がクラスの皆や夜月達と話してたら、突然後ろの窓ガラスが割れて、怪物が二匹入ってきたんです。その怪物は私を狙って攻撃してきたのですが……昨日現れた奴がその怪物を回収していきました」

 千冬「そうか……篠ノ之は大丈夫だったのか?」

 「なんとか。ただ……」

 千冬「?なんだ、言いにくそうにして。その怪物に覚えがあるのか?」

 「ええ、まあ……千冬sーー織斑先生、スコールさん、更識会長と布仏会計を呼んできてくれませんか?」

 千冬「?ああ、分かった」

 

 千冬さんとスコールさんが医務室を出ていくと、

 

 牙也「う……うう……」

 

 この声、牙也が目を覚ましたのか!私と姉さんは急いで牙也が寝かされているベッドに駆け寄った。

 

 「牙也、大丈夫か!?私が分かるか!?」

 「牙君、束さん達が分かる!?何処か痛む所はない!?」

 

 立て続けに質問すると、牙也は煩いとでも言いたげな顔をして耳を塞いだ。他の皆も思い思いに牙也に声を掛ける。

 

 牙也「落ち着けっての……俺は大丈夫だから。それよりさぁ……」

 

 牙也はそこまで言って、隣のベッドを見る。そこにはいつの間にかゼロが寝かされていた。

 

 牙也「……なんでゼロがここに?」

 束「近くの海岸に漂着してたのを見つけたんだってさ」

 牙也「珍しいな、ゼロがここまでボコボコにされるなんて」

 「ああ……ところで牙也。奴の事、皆に話すべきか?」

 

 それを聞いて牙也は少し考えていたが、その顔は曇っていた。

 

 牙也「勿論話すべきなんだろうが……どうにもなぁ」

 「だがそうも言ってられん。早急に対処せねばならん事態だ」

 牙也「……?俺が寝てる間に、何かあったのか?」

 「ああ。ちょっと耳を貸せ」

 

 首を傾げている牙也に、牙也が寝てる間に起こった事と私の推測を話すと、牙也の顔はみるみる内に怒気を含んだものに変わっていった。

 

 牙也「野郎……!どこまで腐ってやがる……!」

 「だがどうする?今の私達では……」

 牙也「けどどうにかして策を練らなきゃ、俺達は終わりだ……今回ばかりは、誰の手も借りられないからな」

 束「牙君、それって……?」

 牙也「すいません、束さん。奴は異世界を巡っている時に想定せず俺達が持ち帰ってしまった厄災なんです、束さん達ではどうにもなりません。今回の事、全て俺に預からせて下さい」

 束「でも……」

 雅樹「なあ、俺にも何か出来る事は無いのか?」

 

 するとここで夜月が話に入ってきた。

 

 牙也「お前は?」

 「私達を助けてくれた人で、夜月雅樹とアリス・セブンス・レストロイだ」

 雅樹「夜月雅樹です」

 アリス「……アリス・セブンス・レストロイ。よろしく」

 牙也「雷牙也だ。二人はなんでここに?」

 束「二人とも、クラックに吸い込まれたんだって」

 牙也「そっか。ところで奴は?」

 「あの後、アリスがボコボコにして撤退させた。多分またすぐにここに来るだろう」

 牙也「そうか……対策を急がなきゃな。ところで夜月、お前は何か力があるか?」

 雅樹「力……これぐらいしかないな……」

 

 そう言うと、夜月は懐から何やら変わったデザインのバックルとチップを取り出した。

 

 「それは?」

 雅樹「これは『デュプリドライバー』と『エナジーチップ』。俺はこの二つを使用して、『仮面ライダールーク』に変身出来るんだ。エナジーチップには変身用の物と使用者を強化する物があって、それぞれを駆使して戦うのさ。俺の世界は、このチップを使ったゲームが流行ってるんだよ」

 「エメラルド色のアーマーに黄色のライン……あれが『ルーク』だったのか」

 牙也「デュプリドライバーとエナジーチップ……ワンチャンあるな……それでアリス、だったか?お前の実力は……ああそうだ、奴をボコボコにしたんだっけな」

 アリス「……あんな奴、相手にするまでもない。私の力が必要なら、手を貸すけど」

 牙也「すまねぇな二人とも、是非ともお願いする。さて、後は……」

 

 そこまで言うと、牙也はベッドから降りて衣服を整えると、医務室のドアに向けて歩き始めた。

 

 束「牙君?どこ行くの?」

 牙也「整備室です。あそこなら何か思い付くかと思ってね。箒、俺の代わりに奴の事を皆に話しておいてくれ」

 

 そう言って牙也は出ていってしまった。すると外が何やら騒がしくなったかと思うと、牙也と入れ替わりで千冬さん達が入ってきた。

 

 千冬「牙也が目を覚ましてくれたか……良かった良かった。篠ノ之、言われた通り更識姉と布仏姉を連れて来たぞ」

 楯無「どうかしたの?何か大事な事なの?」

 「はい。奴についての全てをお話しします」

 

 私は全てを話した。千冬さんとスコールさんが目撃した一夏そっくりの人物は、私達が巡った異世界の中の一つ、そこで神童クロト(元織斑一夏)と敵対している存在、『イチカ』である事。その世界で一度はクロト達によって倒されたが、牙也が持っていた純化していないブルーベリーロックシードを奪って復活に利用した事で、それを媒体にして甦った事。奴はとあるゲームのプログラムから生まれた『バグスター』というコンピューターウイルスのようなものであり、神童クロトから生まれたバグスターである事。そしてイチカを倒す為には、イチカが使っている『God Mighty Creator IX』のようなゲームガシャットの力が無ければ倒せないという事。他にも知っている限りの事を、私は皆に打ち明けた。

 

 「私が知っている事は、これで全部です」

 

 私の説明を聞いて、皆は押し黙っていた。それはそうだ、まさか異世界の怪物が自分達の世界に流れ込んでくるだなんて、誰が予想しただろうか。

 

 「そして、ここからが大事な事です。さっき私は、二体の謎の怪物に襲撃されました。そしてその怪物に応戦した時、声を聞きました」

 一夏「声?」

 「微かな声で『助けて』って。その声に、私は聞き覚えがありました」

 楯無「誰なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 「……簪と、本音です」

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「なんだと!?」

 楯無「う、嘘……!?」

 虚「ほ、本当なんですか、それは?」

 「確証はありませんが、声質的にほぼ間違いないと思います。それに私の予想が正しければーー」

 真耶「お、織斑先生~!大変です!」

 

 とそこへ山田先生が飛び込んできた。

 

 千冬「どうした、山田先生?」

 真耶「そ、それが……更識さんと布仏さんが、行方不明に……!中庭で更識さんのノートパソコンが見つかって、周辺を探したんですが、何処にも……」

 楯無「か、簪ちゃんと本音が……!?」

 虚「そ、そんな……!?」

 「やっぱり……いつかは分からないが、イチカに捕らわれて怪物にされてたのか……」

 楯無「ね、ねぇ……簪ちゃん達を助ける方法って、無いの……?」

 「あるにはあります。が……それが可能な人が、ここにはいません。簪と本音を助け出すのは、現時点で正直に言うと……絶望的です」

 

 それを聞いて、二人はヘナヘナとへたり込んだ。

 

 「ですが、可能性が0という訳ではないです。今、牙也が対抗策を探しています。異世界から持ち帰ってきたのはアーマードライダーに関するものばかりではありません、他にも色々持ち帰ってきましたから……その中に簪達を助け出す方法が必ずあると、私は信じてます。だから……だから、牙也を……私達を信じて下さい、お願いします」

 

 私は頭を下げた。今この状況を何とかする手立てを見つけ出す事が出来るのは、牙也以外他にはいない。だから今の私には、こうやって頭を下げて皆の言葉を一心に受け止める事しか出来ない。すると、楯無さんが私に向かってふらふらと歩み寄ってきて、私の手をギュッと握り締めた。

 

 楯無「お願い……お願いだから……簪ちゃんと本音を……助けてあげて……!」

 虚「私からも、お願いします。どうか簪お嬢様と本音を、救って下さい」

 

 虚さんからも頭を下げられる。とても申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

 「信じるのでしたら、今は私じゃなくて牙也を信じてあげて下さい。今この状況を打破出来る術を見つけられるのは、牙也だけですから」

 

 私はそう言って楯無さんの手を握り締め返す。楯無さんと虚さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 

 (……もっと私に力があれば……こうやって牙也に任せっきりになる事も無かっただろうが……すまない、牙也。なんでも良い、どうか策を見つけ出してくれ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 整備室に籠り、俺は今回の異世界旅行でちゃっかり持ち帰ってきた物やデータ等とにらめっこしていた。フルボトル、調理用具、武神スサノオと冥王イザナミのデータ、ゼロノスのデータ。他にも色々あるが、どれを見てもこれと言って良い策が思い浮かばない。データ類はそのほとんどが強力過ぎて、使おうとしても逆に自分が飲み込まれる恐れがあるのでボツ。フルボトルや調理用具に関しても、俺達が戦闘で使える訳ではないのでこれもボツ。はっきり言って手詰まりの状態だった。

 

 「くっそ……全然浮かばないな。奴の強さは身に染みて分かった、だが奴の傲慢さには付け入る隙はある……けど、一番の問題は、『どうやって奴を倒すか』だ」

 

 以前箒が言っていたが、ゲーム内部のコンピューターウイルスが変質して出来たと言われるバグスターは、ゲームの力でなければ倒せない。何か奴を完全撃破出来る方法を見つけ出さない限り、奴は延々と俺達を邪魔してくるだろう。そうなったら対抗手段の無い俺達はひとたまりもない。

 

 「何かある筈だ……!奴に対抗できる手段が……!」

 

 色々策を考えてみるが、奴なら全て正面から叩き潰しに来るのが目に見えて分かる。今まで様々な出来事を自力でどうにかしてきた俺だが、今回ばかりは一人では難しい。

 

 「はぁ……考えてばかりじゃ思い付くものも思い付かん。少し休むか」

 

 一先ず心を落ち着かせる為に、一旦部屋に戻って何か飲む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻り、冷蔵庫を漁って麦茶のペットボトルを見つけ、コップに注いで飲む。程よく冷えた感じが心地良い。ペットボトルとコップを持ったまま自分の椅子に座り込んだ。

 

 「せめて奴と同じ力があればな……奴と同じゲームの力が……けど俺達はそんな物持ってーー」

 

 

 

 

 

 ……あ。

 

 

 

 

 

 俺は急いで部屋の中をくまなく探し、そして机の引き出しの中からある物を見つけた。

 

 「これだ……!これなら奴を倒せる可能性がある……!よし!」

 

 俺はそれを持って急いで整備室に戻り、それをパソコンに繋いで操作し始める。

 

 (これが上手くいかなければ、今度こそ終わり……絶対に作り上げるんだ……!)

 

 そうしてパソコンをひたすら弄ること一時間ーー

 

 

 

 

 「見つけた……!これだ!後はこれを……!」

 

 

 

 

 活路は見えた。後はそれを現実にするだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第57話 危険ナ同盟


 始まります。




 

 イチカ「ククク……まずは二人、使い捨ての尖兵を手に入れたぜ」

 

 目の前にいる二体のバグスターーーサラシキバグスターとノホトケバグスターを見ながら、イチカは社長室の椅子でふんぞり返る。

 

 イチカ「さぁて、次はどいつを尖兵に仕立て上げてやろうか……ククク、この世界は俺への対抗手段が無くて助かるぜ、好き勝手出来るからなぁ」

 

 机の上に並べられた複数の『NOISE SOLOMON』ガシャットを手に取りながら、イチカは次の襲撃の手立てを練る。

 しかしこの時、イチカは気づいていなかった。そんな自分の野望が、ある誤算で脆くも崩れ始めていた事にーー。

 

 

 

 

 

 

 

 「牙也が昨日から整備室に籠りっきりになってる?」

 

 姉さんからそんな報告を聞いて、私は首を傾げた。今までそんな事しなかったのに、何故今になって……

 

 束「うん……なんかキーボード一心不乱に叩いてて、声掛け辛い雰囲気だったよ」

 「何か手立てを見つけたんでしょうか……?」

 束「そうだと嬉しいんだけどねぇ……」

 「ところで姉さん、ゼロの方はどうなの?」

 束「さっき目を覚ましたよ、今ちーちゃん達が事情を聞いてる。見に行ってみる?」

 「お願いします」

 

 私は一先ずゼロの話を聞く為に、姉さんに連れられて取調室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「ちーちゃん、入るよ」コンコン

 

 取調室に到着し、姉さんがドアをノックすると、「入れ」と中から千冬さんの声が聞こえてきた。まず姉さんが中に入り、後を追って私も中に入る。中にはドア側に千冬が座っていて、小型のテーブルを挟んで反対側にゼロが座っている。するとゼロは右手の親指と人差し指を立てて左右に回転させた。それを見た千冬さんは立ち上がり、私を見て「ここに座れ」と言わんばかりに目配せをする。不思議に思いながらも、私は渋々椅子に座ってゼロに向き直る。

 

 「……怪我は大分治ったみたいだな」

 ゼロ「ええ、お陰様でね。束ちゃんには感謝してるわ」

 

 右手の指を曲げ伸ばししながらゼロが笑みを見せる。姉さんは不本意そうな顔をしているが、ゼロは気にしていない。

 

 ゼロ「ところで聞くんだけどさぁ……あの織斑一夏そっくりな子、貴女達の差し金じゃないでしょうね?」

 「……もしそうだとしたら?」

 ゼロ「後で報復に来ようかしら」

 千冬「勘弁して欲しいなそれは。だいいち私達はお前の拠点を知らない。とある会社を作って簑にしている事は知っているが、その会社の場所までは知らん、今までお前が秘匿しているからな。それにーー」

 

 そこまで言って、千冬さんはまだ包帯が巻かれている私の左腕を掴んでゼロに見せた。

 

 「痛い痛い!痛いですよ!」

 千冬「……奴が私達の味方なら、ここまで奴に痛め付けられる理由などあるまい」

 ゼロ「なるほどね……分かったわ、信じてあげる(ちっ、これを口実にして攻められるかと思ったけど)」チッ

 

 一瞬舌打ちをしたように見えたが、見てないふりをする事にした。奴に不意討ちされた事を根に持っているのだろうな。

 

 ゼロ「それで、どうするの?」

 千冬「……何がだ?」

 ゼロ「奴よ。どうせ倒さなきゃいけないんでしょ?だったら私が力を貸してあげても良いのよ?」

 千冬「どうしてお前が私達に味方する?」

 ゼロ「何故って?決まってるじゃないの、奴が私と貴女達共通の敵だからよ。生憎私はね、大事な会社を襲撃されて、大事な部下を沢山殺されて、それでも黙っているような弱虫じゃないのよ。貴女達は学園を守る為に奴を倒す、私は大事な居場所を取り戻す為に奴を倒す。形は違えど、利害は一致してるでしょ?」

 束「簡単に言うけどさ、奴の怖さを分かって言ってんの?奴に倒されてここに漂着したんでしょうに」

 ゼロ「うっ……痛い所突いてくるわね、流石束ちゃん。勿論分かってるわよ、痛い程にね。でも、それでもやるしかないのよ、私達は。対抗策が何も無いからって突っ立って倒されるのをじっと待ってるよりかはまだマシよ」

 束「……ごもっとも。流石は元家族、思考回路がそっくりだね」

 ゼロ「あらそう?やっぱり家族なのね……」

 

 ゼロは感慨深そうに言うが、あえて気にしない。

 

 ゼロ「それで、ご返答は?」

 千冬「少し待て、学園長や牙也にも話してみなければ決められない。篠ノ之、牙也にこの話をして意見を聞いてきてくれ、私は学園長に意見を聞いてくる。束はしばらく話し相手にでもなってやれ」

 束「は~い……」

 

 姉さんは嫌そうな顔だが、渋々了承して私と交替で椅子に座り、私と千冬さんは取調室を出てそれぞれの行き先へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 整備室に着くと、なにやら中からブツブツと小さく声が聞こえる。何か悩んでいるのだろうか?やや大きめにドアをノックしたが、返答は返ってこない。そっとドアを開けて中に入ると、牙也はブツブツと何か言葉を繰り返しながらパソコンとにらめっこしていた。キーボードを叩くカタカタという音が部屋に響く。

 

 「……」ソロー

 

 牙也は私が入ってきた事に気づいてないようだったので、こっそり忍び足で近づき、

 

 「……ほいっ」ツーッ

 牙也「くぁwせdrftgyふじこlp----!?」

 

 おお、なんか意味不明な叫び声が。

 

 牙也「ぜえ、はあ……なんだ箒か。敵襲かと思った」

 「集中し過ぎだ、肩の力を抜け。急ぎとは言えど、焦り過ぎてはどこかでミスをする。落ち着いてやれ」

 牙也「ああ、分かってる。それで、何の用だ?」

 「ああ……ゼロが、一時的な同盟を提案してきた」

 牙也「受けてやれ」

 「即答か。しかし良いのか?仮にも敵同士だぞ?」

 牙也「今は敵味方どうこう言ってる暇なんか無い、少しでも味方になってくれる奴がいるなら積極的に組み入れろ。それに、あいつだって現状が理解出来ない程バカじゃない」

 「なるほどな……しかし大丈夫なのか?奴の事だ、イチカを倒したら即刻牙也を殺そうとするだろう。それも承知の上でか?」

 牙也「まあな、共通の敵がいなくなればその時点で同盟はチャラになる、その瞬間を逃す程あいつはお人好しじゃないし。けど、易々とはあいつの攻撃は受けんよ」

 「そうか……何かあったら、すぐに連絡するからな」

 

 そう言って私は整備室を出た。その時牙也が発した言葉は、私には聞こえていなかったが。

 

 『クロト……お前の知恵と勇気と才能を、未熟な俺に分けてくれ。俺の目の前で、二度と惨劇を起こさせない為に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬ちゃんと箒ちゃんが出ていって、取調室は私と束ちゃんだけになったわ。束ちゃんはムスッとして私を見てる。それが何て言うか可愛らしくて、私はニコニコと笑顔を返す。

 

 束「……」

 「……不本意そうね。まあ恩人が裏切っただなんて分かったら、嫌でも距離を置きたくなるのは分かるけど」

 束「……なんであんな事をしたんですか?」

 「あんな事って?」

 束「……どうして牙君に、ヘルヘイムの果実の力を……!もっと他にも手立てはあった筈なんじゃ……!」

 「……仕方なかったのよ。あの子を不治の病から救い出す為には、あの方法しか無かった。結果は知っての通りだけど」

 束「牙君がそんな事望んでたと思ってんの!?貴女は一応牙君の母親なんでしょう!?母親なら、もっと別の方法くらい……」

 「……たとえあの子があのまま死ぬ事を望んだとしても、私はその望みを叶える事は出来なかった、と思うわ」

 束「どうして……!」

 「あの子には、どうしても生きていてもらわなければいけなかったから……それが、あの人の願いだから……」

 束「あの人?」

 「あの子はいずれすぐに、あの子の誕生の真実を知る事になるわ。たとえどんなに残酷な真実であったとしても……あの子なら、乗り越えていける。私はそう信じてるから」

 束「真実?真実って何よ!?」

 「だから、それまで私は絶対に死なない。私の願いを、あの子が叶えてくれる事を信じてるから」

 束「何がーー」

 「私から言えるのはここまでよ。いずれ貴女達にも分かるわ、全ての真実が」

 

 束ちゃんはまた聞きたそうにしているが、私が言えるのはここまで。束ちゃんがその後も色々聞いてきたけど、私は黙秘を貫いた。

 

 (馬鹿な親でごめんね、牙也。貴方の知らない私達家族の秘密……私の心が霧に溶けて消え行く時、全ての真実は明かされるから……後は貴方次第よ、牙也)

 

 すると再び取調室のドアが開いて、千冬ちゃんと箒ちゃんが戻ってきた。

 

 千冬「戻ったぞ……って束、どうした?」

 束「……なんでもない」ムスッ

 

 ムスッとした顔がやっぱり可愛くて、私はまたクスッと笑ってしまった。

 

 「それで、お二人の返答は?」

 千冬「……全て牙也に一任せざるを得ない、との事だ。学園長はまた何も出来ない事を嘆いていたな……それで、牙也の方は?」

 箒「『受け入れろ』と即答しました。今は少しでも戦力を増やしておくべきというのが牙也の考えです」

 千冬「そうか……聞いての通りだ、ゼロ。一時的だが、同盟関係を結ぶ事にする」

 「それなら良かったわ、それでなんだけど……念のため、私にも奴の情報をくれない?」

 千冬「分かった、ただしこれは他言無用だ、それだけは頭に入れておけ」

 「はいはい」

 

 こうして奴ーーイチカの情報を得て、私は一旦地下牢に入れられた。内応を防ぐ為なのかしらねぇ……ま、そんな事死んでもごめんだけど。とは言え私のゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードは千冬ちゃん達が没収してたのが手元に戻ってきたし、これでいつでも動けるわね。あとは……牙也、貴方に全てが掛かってるわ。

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第58話 アリス、友達ヲ作ル/雅樹、ゲームデ遊ブ


 二パターン展開です。




 

 「私の人形……」

 

 イチカとか言う馬鹿のせいで無惨に斬り刻まれてしまった大切な人形の残骸を見ながら、私ーーアリス・セブンス・レストロイはあのバ神への怒りをフツフツと煮えたぎらせていた。人形は真耶と言ったかーーそんな名前の女性が全部集めてくれたのだが、直す事は出来なかったらしく、「ごめんなさい、私裁縫は苦手でして……」との事だった。引き裂かれて中の綿が飛び出ていたり、完全に真っ二つにされてしまっている人形達をじっと見つめ、私は奴をどう倒すか考えていた。

 

 「磔にしてゲイ・ボルグで脳天を貫くか……それとも闇の炎で黒焦げにするか……はたまた村正の試し斬り用の藁にするか……選択肢は多い。奴が来るまで、ゆっくりと考えさせてもらうか」

 

 ああ、忘れていた。ここはIS学園、だったか?そこの学生寮、という建物の一室ーー寮監室。千冬という女性が普段使っている部屋に、彼女と私、そしてもう一人が住んでいる。今千冬は仕事でここにはおらず、もう一人はここの生徒に絡まれて連れて行かれた。御愁傷様、とでも言うべきか……。そう考えているとドアがノックされた。

 

 「失礼します、織斑先生は……あら、貴女は」

 

 部屋に入ってきたのは、縦ロールに整えた長い金髪に透き通るような碧眼の少女。一瞬だけ身構えたが、彼女に覚えがあったので構えは解いた。

 

 セシリア「はじめまして、私はセシリア・オルコットと申します。貴女は確か……」

 「……アリス。アリス・セブンス・レストロイ」

 セシリア「そうそう、アリスさんでしたね。つかぬことをお聞きしますが、織斑先生はどちらに?」

 「……仕事と言っていた」

 セシリア「そうですか。だとしたら職員室かしら……教えてくださってありがとうございました、アリスさん」

 「……礼なんか、いらないから」

 

 と、彼女ーーセシリアという少女の目が、私の足元に向いた。そこに散らばるのは、バ神にズタズタにされた私の大事な人形達。

 

 セシリア「その人形は……何かあったのですか?」

 「……ここを襲った奴にこうされた。真耶という者が出来る限り集めてくれたが……」

 セシリア「そうでしたか……」

 

 彼女は何かを考えていた。すると、

 

 セシリア「それでしたら、私がその人形を直して差し上げましょうか?」

 「……何?」

 

 予想していなかった一言が彼女の口から出てきた。直す?こんなにボロボロにされた、人形達を?

 

 「……出来るのか?」

 セシリア「軽い応急処置程度にはなりますが……どうでしょうか?」

 「……ならば、頼もうか」

 

 願ってもない事だ、私の大事な人形を直してくれるとは。彼女は「ちょっとお待ち下さいね」と言って、一旦部屋を出た。数分後、彼女は何かを持って戻ってきた。手持ちサイズの鞄だ。それを開けると、中には裁縫用の針や糸がぎっしり。裁縫セットだろうか。ともかく私はバラバラになった人形を彼女に差し出すと、彼女は人形の手足から縫い始めた。手、足、体、頭、動物系の人形の尻尾。一つ一つのパーツを綿を詰めて縫い直し、そしてパーツを縫い合わせて繋いでいく。そうして暫く修繕を続けること一時間ーー

 

 セシリア「ふぅ……いかがでしょうか?多少元より不恰好になってしまいましたが、大体元には戻りました」

 「……これは驚いた。完璧とまではいかないが、きちんと修繕できている。凄いな」

 セシリア「ふふ、お褒めの言葉ありがとうございます。それにしても……こんなに沢山の人形を持ってらっしゃるなんて、アリスさんは余程人形がお好きなのですね」

 「まあ、な……暇な時は大体人形達と戯れているからな」

 セシリア「ふふ、可愛いですわね」

 「かわっ……!?////そ、そんな事は……!////」

 セシリア「いえいえ、可愛いですわ。戦いに明け暮れていたとは言え、やはり内面は女の子なのですね、少しほっとしましたわ」

 「そ、そうか?おかしくないか?」

 セシリア「まさか。人の趣味をとやかく言うつもりは毛頭ございませんし、それに女の子らしい趣味だと私は思いますわよ?」

 「そ、そうか……(女の子らしい、だと?そんな事、今まで考えた事もなかった……)」

 セシリア「それにしても……」ジーッ

 

 何やら彼女が私をじっと見てくる。なんだ、何か私の顔に付いているのか?

 

 セシリア「……良い。良いですわ、この小柄な見た目!そしてその鋭い目付き!こんな素晴らしい逸材を逃す訳にはいきませんわ!デュノアさん!」

 シャルロット「呼んだかい?」ヌッ

 

 な!?こいつクローゼットの中から現れただと!?私が気づけなかったとは、不覚……!

 

 セシリア「すぐにボーデヴィッヒさんのクローゼットの中の着せ替え用の服を全て私の部屋に持ってきて下さいまし!これより私の部屋にて、アリスさんの着せ替えタイムを始めますわ!」

 シャルロット「了解、任せて!ついでにラウラも拘束してーーもとい、セシリアの部屋に連れて来るよ!」

 セシリア「お願い致しますわ!」

 

 おいこいつ、今確か拘束って言ったぞ!?凄まじく嫌な予感が……!私はこっそり逃げ出そうとするが、彼女に両肩を掴まれる。

 

 セシリア「……逃がすと思いまして?大人しくすれば、酷いようには致しませんわよ?」

 「ま、待て!私に何をするつもりだ!?」

 セシリア「決まっているでしょう……貴女という逸材と、ボーデヴィッヒさんという逸材を、実際に着せ替えして比べてみるのですわ!双方共に、磨けば光る逸材と見て間違いございません。大丈夫ですわ、何も考えず全て私達にお任せ下さいね!」

 「……拒否権は?」

 セシリア「あると思いまして?」ニッコリ

 「……ならば逃げるのみ!」ダッ

 

 慌てて逃げ出そうと窓を開けると、肩に私と同じくらいの背丈の少女を背負い、何かアーマーのようなものを纏った先程の少女が目の前にいた。

 

 シャルロット「逃がさないよ?」ニッコリ

 「……慈悲をくれないか?」

 シャルロット「そんなの無いよ?」

 

 ……ああ、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャアアアアアアアアアア!!

 

 

 

 「……?何か叫び声が聞こえたんだけど気のせいかな?」

 一夏「ああ、気のせい気のせい」

 鈴「どうせまたラウラがセシリア達に着せ替え人形にされてるんでしょ」

 

 どうも、夜月雅樹だ。今織斑一夏さんと凰鈴音さんの部屋にいる。この学園を襲った奴の驚異が無い間は普通に生活できるので、俺はこの学園で生活しているんだが……同じ部屋にいるのが、俺と同じく異世界から飛ばされてきた少女ーーアリス・セブンス・レストロイさんと、一夏さんの姉の織斑千冬さん。二人とも男の俺がいても気にせず服を脱いだりほぼ素っ裸で部屋をうろついたりと、流石に心臓に悪い事ばかりするんだよな……まだ一日だけしか一緒の部屋で寝ていないとは言え流石に俺が耐えられないので、一先ず助けを求めたのが一夏さんと鈴さん。けど一夏さん曰く、

 

 一夏「ああ、それがいつもの千冬姉だからな……頑張れ、としか言えねえや」

 

 との事。弟の一夏さんなら、あの人に対する何か良い考えが出てくるんじゃないかと思ったけど……駄目だったか。

 

 鈴「まあまあ、あんたの世界に帰るまでの辛抱よ、我慢したら?」

 

 なんて鈴さんは言うけどさぁ……その『元の世界に帰れる』のが何時なんだって話。下手したらずっとここにいる事になる。そうなったら俺は流石に耐えられないし、無事に元の世界に帰れたとしても、奈々と愛に知られたらなんて言われるかーーいや違うな、何されるか分かったもんじゃない。はあ、問題山積みじゃないか……。

 

 一夏「まあまあ、そう悩んでないでさ、ゲームでもして楽しもうぜ?」

 「ゲーム?何するんだ?」

 鈴「ジャンルは色々あるわよ、あんた得意なゲームとか無いの?」

 「ゲームなぁ……俺はあんまりゲームとかしてなかったからな……」

 鈴「へぇ、珍しいわね、今時ゲームをあまりしないなんて。だったら教えてあげよっか?」

 一夏「なんならやってみたいゲーム選んでくれよ。俺達が分かりやすく教えるぜ」

 「ああ……じゃあこれを」

 

 そう言って俺が手に取ったのは、某人気ゲームメーカーの大○闘スマ○シュ○ラザー○ってゲーム。なんか色々なキャラクターがパッケージに写ってて面白そうだったから、何となく手に取っただけだけど。一夏さんはそれをゲーム機にセットして起動した。

 

 一夏「それじゃ、順を追って解説するからな」

 

 

 

 

 

 

 その後大体の操作方法を教えてもらい、実際にプレイした。最初の内は操作に慣れるのに精一杯で一夏さん達に負けてばかりだったが、操作を完璧にマスターしてからは、段々と勝てるようになっていった。意外と楽しいな、ゲームって。

 

 一夏「だろ?操作を覚えるまでが大変だけど、慣れれば結構楽しいぜ」

 鈴「あんたももう少しゲームで遊ぶなりなんなりしたら?そういう事できる友達少ないんでしょ?」

 一夏「鈴、余計な事言わないの」

 鈴「あっ……と、ごめんね、言い過ぎたわ」

 「いえ、大体彼女の言う通りで合ってますから。気にしなくて良いですよ」

 

 こっちの世界ではゲームと言ったら『デュプリバトル』くらいだったからかな、こういうゲームが何故か新鮮に思えてくる。この際だから、色々なゲームをやってあいつらに自慢するのも良いかもしれないな。

 

 一夏「じゃあ次はどれをやる?」

 「じゃあこれで!」

 

 それじゃ、今のうちにこの世界のゲーム、いくらか楽しませてもらおっか!

 

 

 

 

 

 

 





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 では、次回もお楽しみに!



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第59話 侵攻、反攻


 始まります。




 

 学園のグラウンド。私はスコールと共に見回りをしていた。

 

 スコール「それにしてもとんでもない奴だったわよね、あの変なライダー。あんなのが別世界にいるんでしょ、どうなってるのかしらね、その世界は?」

 「まあ色々変わっていたからな、その世界は……一夏なんか、あまりに性格が変わり過ぎて逆に引いたぞ……」

 スコール「そんなに変わってたの?」

 「ああ……初見だと全力で引くくらいに」

 スコール「貴女が初見で引くレベルで性格が変わる……想像出来ないわね」

 

 スコールはそれを聞いて頭を抱える。本当に変わっていたからな……そしてそれをシンフォギア達がハリセンで突っ込む。今思い出すと、笑いが止まらなくなるから必死に抑えた。

 

 スコール「その子達がいたら、こんな事すぐに解決できたかもしれないのにね……残念だわ」

 「仕方ないです、あちらもあちらでイチカやイチカの配下のせいで大変な事になってるんですから。手伝ってと言われても身動きが取れない状況だから……」

 スコール「そう……ところで、彼は何してるの?」

 

 スコールは牙也の事を聞いてきた。私は牙也が異世界から持ち帰ってきた物の中から、イチカを攻略する為の策を練っている事を話すと、スコールは少しホッとしたような表情になった。

 

 スコール「それなら良かったのかしら……もしお手上げ状態なら、遺言でも書こうかしらって考えていたのよ」

 「不吉ですよ流石に。ただ今回の一件は一筋縄ではいきません、何せ異世界の異物が紛れ込んだ訳ですから」

 ??「全くだな」

 

 その声に振り向くと、狗道供界がそこにいた。

 

 狗道「まさか異世界のいざこざに巻き込まれるとはな……私もあの時加勢してやりたかったがな」

 「狗道か、ならば何故加勢しなかった?」

 狗道「仕方ないだろう、私はヘルヘイムの森と繋がるこの世界でしか実体として存在出来ないのだからな。だから加勢したくても出来なかったのだよ」

 スコール「こういう時不便よね、彼が持つザクロに潜む貴方は」

 狗道「全くだ……だが今回こそはお前達の役に立たなければな。奴を倒さない限り、この世界に安寧はない」

 

 

 

 

 ??「誰を倒すってェ?」

 

 『!!』

 

 

 

 

 また振り向くと、『仮面ライダーゲンム クリエイターゲーマー』に変身したイチカがそこにいた。私はこっそり小型警報器をポケットの中で鳴らしておいた。じきに千冬さん達が救援に駆け付けるだろう。

 

 イチカ「偉そうにほざきやがるなァ、そこのおっさん……神の力を持つ俺ーーいや、神たる俺に勝てるとでも思ってんのか?」

 狗道「神、か……っくく」

 イチカ「何がおかしい!?」

 狗道「いやなに、自分の事を神と自称するとは随分大きく出たな、と思うとな……笑いが込み上げてくるのだよ、あまりにも残念で」

 イチカ「へぇ……何が残念なんだ?」

 狗道「こんなちんけなガキと一緒にされるのは、流石に真の神でもお断りするだろうなぁ……そう考えると、な」

 イチカ「へっ、安心しな、すぐにその考えを撤回させてやるよ。こうやってな!」

 

 イチカはそう言うと、頭上に大量の武器を生成して私達に投擲してきた。私は咄嗟に背中から蔦を伸ばし、イチカが変身している事で出現していたエナジーアイテムを一つ取った。

 

 《反射!》

 

 「スコール、掴まれ!」

 スコール「分かったわ!」

 

 エナジーアイテム『反射』が発動し、目の前に反射壁が現れると同時に、私はスコールを蔦で引き寄せて壁の後ろに隠れさせた。反射壁で跳ね返った武器は他の武器と相殺されたり、イチカに向かっていくが全てイチカの目の前にきた時に消滅したりした。一方狗道は……あれ?いつの間にか姿が見えない。何処に行った?

 

 イチカ「くっ!?」

 

 見ると、狗道がイチカに蹴りを入れて攻撃していた。数発蹴りを入れると、狗道は後方宙返りで私達の隣に戻ってきた。

 

 狗道「ったく……ガキの子守りは本当疲れるんだよな……」

 イチカ「誰がガキだゴラァ!?」

 狗道「誰もお前とは言ってねぇよ馬鹿。それとも何か?お前、自分が単なるガキだって自覚してんのか?」

 イチカ「この野郎……!てめぇなんかが俺に勝とうなんざ、ウン千年の月日でも足りねぇくらいに早いんだよ!」

 

 そう言うと、イチカはガシャットを一本取り出して鳴らした。

 

 《Noise Solomon》

 

 すると私達を囲うようにして『ノイズ』が現れた。

 

 スコール「何よこいつら!?」

 「こいつらは『ノイズ』。奴がいた世界に蔓延る敵の兵隊みたいなものだ。人間があれに触れられると炭素分解される、危険な敵だ」

 狗道「炭素分解だと!?生身では危険だ、変身して蹴散らすぞ!」

 

 私達は戦極ドライバーを腰に付けてロックシードを解錠しようとしたその時、ノイズが斬り裂かれて一瞬で全て消滅した。驚いた私達をよそに、ノイズを斬り裂いた人物は一気にイチカに接近して怒涛の連続攻撃を繰り出す。応戦するイチカだが、明らかに押されている。その人物はイチカを蹴り飛ばすと、私達の所まで戻ってきた。

 

 「アリス!」

 アリス「……遅くなった。警報を聞いて、急いで駆け付けてきた。じきに仲間が合流する」

 スコール「来てくれて助かったわ、ありがとうね」

 アリス「礼はいらない。それより……」

 

 アリスはイチカに目を向けた。近くにいると冷や汗が出るくらいに、アリスから殺気が出ている。

 

 アリス「……あのバ神の相手は私がする。お前達は、バ神が呼び出す雑魚の露払いを任せる」

 狗道「お前みたいなガキに命令されるのは気に食わんが……そうも言ってられんな、頼むぞ」

 

 アリスは小さく頷いてイチカに向かっていった。すると今度はバグスター戦闘員が周囲に現れた。

 

 「ちっ、今度はバグスター戦闘員か」

 狗道「これも奴が呼び出したのか?」

 「ああ。炭素分解はされないが、それなりな強さだ」

 スコール「そう。とにかく今は、こいつらをなんとかしましょうか」

 

 私達はロックシードを解錠する。

 

 「「「変身」」」

 

 《マスカット》

 

 《チェリー》

 

 《ブラッドオレンジ》

 

 《ザクロ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!》

 

 《ソイヤッ!チェリーアームズ!破・撃・棒・術!》

 

 《ハッ!ブラッドザクロアームズ!狂い咲き・Sacrifice!ハッ!ブラッドオレンジアームズ!邪ノ道・on・Stage!》

 

 アーマードライダーに変身し、各々武器を構える私達。と、バグスター戦闘員が何処かから銃撃を受けて吹き飛び、更に空から何かが降ってきて踏み潰された。見上げると、ヒガンバライナーに乗った千冬さんがおり、更に正面にはチューリップホッパーに乗った一夏と、スズランガーディアンに乗ったザックがいた。更に後方には、黒影トルーパーに変身した先生達や亡国戦闘員が影松や火炎放射機を構えてこちらに走ってきていた。

 

 千冬「各隊は目標を絞って集中攻撃!他隊との連携を怠れば一気に崩れるぞ、気を引き締めろ!」

 『はいっ!!』

 スコール「ここが崩れたら、私達は一貫の終わりと言っても過言じゃないわ!敵を倒したとしても気を抜いては駄目よ!なんとしても、ここを死守しなさい!」

 『了解ッ!!』

 

 千冬さんとスコールの命令で先生達や亡国戦闘員達が隊毎に散らばり、バグスター戦闘員に攻撃を仕掛けていく。凄い、あの短時間でこんなに連携の取れた状態にするなんて……!千冬さんとスコールの指導の賜物だな。

 

 雅樹「箒さん!」

 

 そこへ黒影トルーパーに混じって夜月が走ってきた。腰にはデュプリドライバーが巻かれている。

 

 「夜月か!牙也はどうした?」

 雅樹「それがまだ動けないみたいです。完成まであと少しって時にこれで……なので、なんとか時間を稼いで欲しいとの事です」

 「分かった。夜月も皆に加勢して、バグスター戦闘員を蹴散らしてくれ!」

 雅樹「分かりました!」

 

 夜月は腰のデュプリドライバーにエナジーチップを装填し、両腕を大きく回して右腕で左側にガッツポーズを取る。そして左手でドライバーのレバーを引きながら叫んだ。

 

 雅樹「変身!」

 

 《Strike!OK!Luke!Battle Start!!》

 

 夜月の全身がエメラルドの光に包まれ、光が消えると夜月の体はエメラルドに黄色のラインが入り、額に二本の角が伸びた鎧に包まれた。夜月は私のマスガンドにも似た剣と銃が組み合わさったような武器を持ち、バグスター戦闘員に果敢に向かっていく。

 

 夜月「さぁ!此処からは俺達のターンだッ!!」

 

 そう決め台詞を言って、夜月はバグスター戦闘員を斬り捨てていく。千冬さん達もバグスター戦闘員に攻撃を仕掛け、劣勢を押し戻していく。

 

 「……皆の心が一つになっている。これが私達の絆、とでも言うのか……?」

 

 私も負けてられないな。マスガンドを構え、私もバグスター戦闘員に向けて突っ込んでいく。牙也、頼んだぞ……この世界の全ては、お前に掛かっている!

 

 

 

 





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 次回もお楽しみに!



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第60話 抗ウ意志ハ、ココニ有リ


 始まります。




 

 「うおおおおお!!」

 

 俺は『アーマードライダー閃星』に変身して、スターカリバーを振るっている。さっきまでは束さんによって複製されたロックビークル『チューリップホッパー』で暴れていたんだけど、あれ、実を言うと意外と操作が難しいんだよな……下手したら味方を誤射したり踏んづけちゃいそうで怖い。取り敢えずある程度は蹴散らせたので、一旦チューリップホッパーから降りてスターカリバーで応戦してるんだ。

 

 ザック「ハッハッハァ!なぁ一夏!こんなに燃える時がお前にはあったか!?」

 

 『アーマードライダーバルカン』に変身したザックがスズランガーディアンに乗って応戦しながら話しかけてきた。スズランガーディアンの主武装の巨大なスズランが描かれた盾で、バグスター戦闘員、だったかな?そいつらを突き飛ばしている。

 

 「無いよ、流石に!それにしてもこいつら、本当にしつこいな!斬っても斬っても切りがない!」

 ザック「そんだけ硬ぇんだろ!?ぶん殴り甲斐があるなぁ、一夏!」

 「俺の武器、剣なんだけどなぁ……」

 

 まあとにかく、斬って斬って斬りまくるしかないか!

 

 《スターフルーツスカッシュ!》

 

 俺はロックシードを一回切ってスターカリバーにオーラを纏わせ、一閃。バグスター戦闘員を斬り裂くが、バグスター戦闘員はすぐに起き上がってきた。

 

 「やっぱり倒せないか……!」

 ザック「ハッハッハァ!こりゃめんどいなぁ!」

 「言ってる場合かよ!」

 ザック「ま、なんとかなんだろ!今はとにかく牙也の到着まで耐えるのが俺達の仕事だぜ!」

 「牙也……ああ、そうだな!牙也なら、この逆境を何とかしてくれるよな!」

 

 そうだよ……牙也なら、こいつらの攻略法を見つけてくれる……いや、今この間にも、何か見つけてくれてるかもしれねぇ……!

 

 ザック「一層奮起しろよ、一夏ァ!」

 「言われなくても分かってるんだよ、筋肉バカ!」

 

 絶対に、ここは落とさせはしない!俺達の手で、守ってみせるぜ!

 

 ザック「どわっ!?」

 「うわっ!?」

 

 突然空から誰かが降ってきて、その場にいたバグスター戦闘員を押し潰してしまった。バグスター戦闘員は消滅し、辺りは土煙で覆われる。何事かと思い見ると、

 

 イチカ「や、野郎がァァァァ……!」

 

 あれが、牙也が言ってた『イチカ』……確かに俺そっくりだな。するとイチカの体を踏みつけながら、誰かが現れた。

 

 アリス「……まだだ。まだ殺り足りない」

 

 あれはアリス……!凄ぇ、イチカを押してる……!と、アリスは視認出来ないくらいのスピードでイチカを鷲掴みにすると、何処かへ消えた。

 

 ザック「あ?んだよ、あいつらの戦いの余波で、こっちはあっさり片付いちまったな」

 「本当だ。じゃあ俺達は他の皆を助けに行こう。俺は千冬姉達に合流する、ザックは箒達と合流するんだ!」

 ザック「オーケー、バンバン殴り倒してやるぜッ!!」

 

 俺達はそれぞれの敵へと走り出す。牙也……なるべく早めに合流してくれよな……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「教員部隊、まだ行けるか!?」

 教員A「大丈夫です!まだ行けますよッ!」

 教員B「そう言う織斑先生こそ大丈夫なんですか!?」

 「私よりも今は目の前の敵に集中しろ!倒せなくても良い、とにかく押し返せ!生徒達の所に行かせるな!」

 

 『アーマードライダー白夜』に変身した私は、ソニックアローを振るってバグスター戦闘員とやらを斬り裂いていく。が、こいつらやけに硬い。何度斬り裂いても、ゾンビのように立ち上がってくる。必殺技を数回当ててみたが、効いている素振りも見せなかった。教員部隊が変身している黒影トルーパーの攻撃も勿論効いていない。

 

 教員C「本当に大丈夫なんですかこれ!?私達の攻撃、一つも効いていないように思えるんですが!?」

 「それは私も気づいている!だが何もせずなす術無くやられるよりはまだましだろう!?さっきも言ったが、倒せなくても良いから、とにかく生徒達が避難している場所まで行かせなければ良いんだ!じきに牙也が来るそれまでなんとか耐えるんだ!良いな!?」

 『はいッ!!』

 

 スコール「貴女達もよ!学園の教員部隊ばかりに良い格好させては駄目!戦闘では私達の方が経験を積んでるって所、存分に見せてあげなさい!」

 『はっ!!』

 

 向こうで『アーマードライダーシグルド』に変身して部下に指示を出すスコールも、教員達を引き合いに出して兵達に命令を下す。なるほど、本物の戦場での戦闘慣れしている者は違うな。すると轟音と共に周囲にいたバグスター戦闘員が吹き飛んでいき爆発四散した。

 

 アリス「……足りない。足りない足りない足りない!!お前を倒さない限り、私は満たされない!!」

 

 周りの教員達は何が起きているのか分からないようだが、私には辛うじて分かる。アリスが視認出来ないくらいのスピードでイチカに怒涛の連撃を浴びせているのが見える。イチカも応戦しているようだが、アリスの攻撃スピードが速すぎるのか、押されに押されている。何が憎いのか、アリスのその攻撃には憎悪や憤怒が感じられた。そのままアリスは私達に目もくれず、イチカの胸ぐらを掴んで飛んでいった。アリスの奴め、相当荒れているな……私達にその怒りが飛び火しなかっただけ良しとしよう……周囲を見ると、さっきアリス達が大暴れしたお陰で、バグスター戦闘員が全て倒されているようだった。

 

 「奴等の巻き添えで簡単に片付いてしまったな。各隊はそれぞれ、他のアーマードライダー達の援軍に向かえ。消耗の激しい者は無理せず下がっておけ」

 スコール「時には休む事も大事よ、動ける人達の事は気にせずしっかり体を休めなさい。千冬、貴女はどうするの?」

 「一先ず篠ノ之に加勢する、スコールは?」

 スコール「一旦ザックと合流しようかしら。向こうも苦労してるでしょうしね」

 一夏「その必要は無いですよ」

 

 その声にスコールの後ろを見ると、いつの間にか一夏が立っていた。

 

 一夏「さっきアリスの奴が暴れたお陰で、こっちも片付きました。後は箒達の方を片付けるだけです」

 「そうか、一夏達の方でもアリスが暴れたのか……よし、奴の相手はアリスに任せよう。全隊、篠ノ之達の救援に向かうぞ!」

 『了解!!』

 

 私達はこれより篠ノ之達を助けに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「はああっ!」

 狗道「フッ!」

 

 箒さんと狗道さんが、果敢にバグスター戦闘員に立ち向かっていき、俺が使っているストライクバスターカリバーとは違う形だが、同じく剣と銃の要素を持った武器を振るい、バグスター戦闘員を蹴散らしていく。狗道さんも小型の弓のような武器と血のように紅いオレンジの房の形をした刀でバグスター戦闘員に攻撃している。しつこく立ち上がってくるバグスター戦闘員に臆する事なく戦う姿は、まさに戦士そのものだ。

 

 「よし、俺だって!」

 

 俺もそれに続き、果敢にバグスター戦闘員を攻撃する。ストライクバスターカリバーを振るって斬り裂き、銃撃して吹き飛ばす。と、吹き飛ばされたバグスター戦闘員が爆発四散した。それを見た箒さんはとても驚いていた。

 

 箒「何、バグスター戦闘員を倒した!?馬鹿な、ゲームの力が無ければ奴らは倒せない筈……!どうして!?」

 狗道「さあな。だが、これで少しは活路が見えたな。夜月、バグスター戦闘員への止めはお前がやれ、私達である程度のダメージを与えておく」

 「任せて下さい!」

 

 そう返事すると、二人は互いに頷き合ってバグスター戦闘員を再び蹴散らし始めた。その間に、俺はチップを一つ取り出してエナジーバイザーに装填し、ボタンを押す。

 

 《SonicWave》

 

 《SonicWave FinalFullBreak!!》

 

 「これでも食らえッ!」

 

 そして右手でバグスター戦闘員がいる方向へパンチすると、凄まじい程の超音波の奔流が右手から出てきて、バグスター戦闘員を吹き飛ばし爆発四散させた。

 

 「よしッ!」

 箒「これで全部か……?いや、まだいるな」

 

 箒さんがそう言って校舎のある方向を向く。つられて俺もその方向を見ると、あの時襲ってきた二体の怪物が立っていた。怪物は俺達をその目に見るなり、ファイティングポーズを取って飛びかかってきたので、俺はストライクバスターカリバーでその攻撃を防ぐ。箒さんも手に持った武器で攻撃を防ぎ、そこへ狗道さんが弓と刀で怪物を斬り裂く。斬撃で吹き飛ばされた怪物だが、すぐに起き上がって再びファイティングポーズを取る。

 

 箒「簪、本音……!完全にガシャットの力に飲み込まれているな……!」

 「なぁ、俺の力じゃ助けられないのか!?」

 箒「特殊な方法じゃないと、人間とバグスターウイルスを分離させる事は出来ないんだ!倒すのではなく、今はなるべく攻撃を避けろ!」

 

 特殊な方法か……俺が変身してるルークじゃ、倒す事は出来ても救う事は出来ないのか……!

 

 狗道「ボケッとするな、来るぞ!」

 

 狗道さんのその声で我に帰る。と、突然足元から蔦が大量に生えてきて、二体の怪物をがんじがらめに縛り上げた。

 

 ??「間に合ったか!?」

 

 その声と共に空から降りてきたのは、

 

 箒「遅いぞ、牙也!」

 

 左手から蔦を伸ばして怪物を縛り上げている牙也さんだった。

 

 

 

 

 

 

 





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 次回もお楽しみに!



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第61話 運命ハ託サレタ


 始まります。




 

 俺が救援に駆け付けた時、既に敵戦闘員は全くおらず、その上空ではアリスがイチカ相手に善戦していた。イチカの武器生成能力がアリスの攻撃スピードに全く追い付けてない。改めて思うが、アリスはやはり強いな。

 

 箒「牙也、出来たのか?」

 「いや、もう一仕上げが必要でな……物を持ってこうやって出てきた次第だ。おいアリス!そいつをこっちに寄越してくれ!」

 アリス「……まだ殴り足りないのだが」

 「用が済んだら返却するよ、少しの間で良い」

 イチカ「おいコラ!俺はてめぇらの玩具じゃねぇんだよ!」

 

 イチカがなんか怒ってるけど無視無視。するとアリスは「……早くしろよ」と言ってイチカをこっちに蹴飛ばしてきた。隕石の如き速さで俺達の目の前の地面に墜落したイチカ。やがて土煙を上げながら、「野郎……神たる俺をこんな目に遭わせやがって……!」と怒りを露にしながら立ち上がってきた。

 

 「さて……次は俺が相手になるぜ?」

 イチカ「ケッ、俺に一撃も与えられなかった奴が何をほざくかと思ったら……寝言は寝て言いやがれ!」

 

 イチカはバグルドライバーⅡをガシャコンバグヴァイザーⅡ・チェーンソーモードにして攻撃を仕掛けてきた。同時に武器も生成して攻撃しようとしているようだが、アリスがその武器全てを生成された傍から破壊している。アシストどうもな。バグヴァイザーⅡによる攻撃は紙一重で回避し、俺はじっと機会を伺う。少しでも隙が出来れば上等だ。と、突然横から二体のバグスターが乱入してきて、イチカを守るように立ちはだかった。さっきまで蔦で縛ってたのに、拘束を自力で解いたのか……!それにしても……

 

 「簪……本音……!」

 

 これが箒が言ってた『Noise Solomon』ガシャットで生まれたバグスターか……こいつらを見ると、益々イチカへの怒りが込み上げてくる。

 

 「二人共……もう少しだけ、待っててくれよな。すぐに、助けてやるからな」

 

 俺は一先ず撃剣ラヴァアークを二本取り出して構える。機会はすぐに訪れる、絶対に逃してはいけない。そう考えて、俺はバグスターに攻撃した。二体のバグスターは腕でラヴァアークの斬撃を防ぎ、反対に拳で攻撃し返してきた。それをやはり紙一重で回避して再びバグスター達を蔦でさっきより強く縛り上げると、

 

 イチカ「野郎ッ!」

 

 バグヴァイザーのチェーンソーが襲い掛かってくる。今変身してないから、あれに当たったら大怪我じゃ済まないな。二本のラヴァアークでチェーンソーの刃に当たらないように受け流し、逆にその腹に蹴りを入れる。イチカが後ろに転がり一瞬俺から視線が外れた隙に、俺は『アレ』を取り出し、そして一気にイチカに接近する。イチカが立ち上がってきたタイミングで、追撃のタックルをブチ当ててやった。イチカはまた吹き飛び、いつの間にか地面に降り立っていたアリスの足元まで転がった。それをアリスが足で踏みつけて止め、首根っこを掴んで無理やり立ち上がらせる。

 

 アリス「……もういいか?」

 「OKだ。後はそいつは好きにしな」

 

 そう言うとアリスは小さく頷いてイチカを上空に放り投げると、自分も上空に飛び上がった。多分またしばらくは、あの二人は上空で激戦を繰り広げるだろうな。奴が向こうに躍起になってる間に、簪と本音を助けなきゃ。俺はバグスターを二人から引き剥がす為の準備を始める。俺が新たに取り出したのは、戦極ドライバーと何も描かれていないブランクのロックシード、それにーー

 

 

 

 箒「そ、それ……ガシャコンバグヴァイザーと、ゲームガシャット!?」

 

 

 

 ブランクガシャットを差し込んだガシャコンバグヴァイザーだ。そしてバグヴァイザーに必要な情報を入力すると、ブランクガシャットが光りだしてガシャット全体を包み込む。そして光が晴れると……

 

 

 

 

 

 「……完成。さあ、あと一息だ。最後の仕上げと行こうか……!」

 

 

 

 

 ブランクガシャットはピンク色のガシャットに変化し、一頭身のキャラクターがラベルに描かれた。それを一旦バグヴァイザーから抜き取り、俺はそれを右手に持つ。

 

 「クロト……お前の力、俺に貸してくれ!!」

 

 そして意を決して、俺はガシャットを起動した。

 

 

 

 

 《Mighty Action X》

 

 

 

 

 ゲームガシャットが起動し、俺の背後に『Mighty Action X』のゲーム開始画面が現れる。本来のこれは、何処か懐かしさを感じる横スクロールアクションゲーム。そんな楽しいゲームを、まさか戦いで使う事になるとはね。そんな事を考えながら、俺はガシャットを再びバグヴァイザーにセットし直す。そして戦極ドライバーを腰に付けてブランクのロックシードをロック。

 

 イチカ「な!?なんでお前なんかがゲームガシャットを!?」

 

 あら、イチカはこのガシャットを俺が作り上げた事に驚きを隠せないようだ。まあそうだろうな、何せゲームガシャットを作れるのは、クロトとイチカくらいだしな。

 

 箒「まさか……!?止せ、牙也!!」

 

 真意に気づいたのか箒が止めに入ろうとするが、俺はやめない。こうしなきゃ、簪と本音は助けられないんだ……!

 

 

 

 

 

 

 「クロト……共に戦おうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 バグヴァイザーを胸に突き立てる。と、

 

 「ぐ……ががっ!?」バチバチバチッ

 

 体中にノイズが走り、鋭く重い激痛が全身を駆け巡る。全身の細胞が悲鳴を上げているように聞こえる……両腕には静電気が走り、少しだが体が透けている……これが、ゲーム病の症状か……ッ!

 

 箒「牙也ッ!」

 「来るな、箒!」

 箒「ッ!」ビクッ

 「来るな、お前も感染するぞ……!お前は、何も、するな……ッ、ぎ、あッ……!」

 雅樹「牙也さん!!」

 狗道「牙也ッ!!」

 

 体の中に、毒を直接流し込まれているような感覚を覚えながら、俺は更にバグヴァイザーを胸に押し付ける。するとさっきより余計に激痛が増し、俺の体を蝕んでいく。体は半分以上が透けて、全身の痛覚以外の感覚が徐々に抜けていく。俺は何度も意識が飛びそうになったが、その度に激痛が全身を襲って我に帰る。

 

 イチカ「ッ、ハハハハハ!!こいつ馬鹿だなぁ、自分の体にバグスターウイルス打ち込みやがった!!なんだ、自分がエグゼイドに変身しようってのか!?無理だよ、ゲーマドライバーは無い、ガシャットもそれだけ、ましてやお前にはバグスターウイルスへの抗体が無い!!そんな無意味な事をして、何になるってんだ!?お前もイーサの奴と同じだなぁ!!力を欲してガシャットを手にし、そして返って苦しむ羽目になる!!ハハハハハ、滑稽な事じゃねぇか!!ま、どう足掻こうが、運命なんざ変えられねぇんだよッ!!」

 

 アリスの攻撃をなんとか受け流しながら、イチカは俺を見て高笑いする。ああ……そうか。これが、ゲームガシャットの力を、無理やり体に打ち込まれる感覚……クロトの世界の箒ーーいや、イーサがその身で味わった痛み……!その痛みを感じながら、俺はゆっくりと膝をつく。

 

 「ッ、ハハハ……滑稽、か。なら、今みたいに、アリスにボコボコにされてるお前も、随分と滑稽だな……ッ、ぐっ……!」

 イチカ「何だと!?」

 「神を、自称しておいて……その様は、なんだってんだ……?もし、お前ごときが、本当に神、なんだったら……アリス一人、簡単に倒せる、だろ……?だがどうだ……今お前はアリスに劣勢を、強いられてる……!はっきり言って……クロトに倒された、のも……必然的、だったのかもな……!」

 イチカ「てめぇ……!お前ら!そいつを殺れッ!!」

 

 イチカが剣を生成して投げつけると、剣はサラシキバグスターとノホトケバグスターを拘束していた蔦を切断した。拘束から解放されたバグスター達が俺に襲ってくるが、箒達がそれを許さない。

 

 「ッ、ハハハ……!運命は変えられない、だと……?違うな……!運命を変えられないのはな……運命を変えようとする努力を、誰もが怠っているからだ……!たとえ変えられないと分かってる運命でもな……変えよう、変えなくちゃいけないって考えて、行動に移さない限りな……運命なんざ変えられないんだよ……!」

 イチカ「ケッ、ならお前が今やってるそれも、運命を変える為の事か!?」

 「その、通りだよ、糞餓鬼が……!」

 イチカ「ケッ、言ったろ、無意味で無駄な努力だと!!俺がいる限り、世界の運命は俺の思い通りに動く……!たとえお前みたいな奴が抗おうとしてもな、所詮屑な人間では何も出来ないんだよッ!!」

 

 《高速化!》

 

 《マッスル化!》

 

 《マッスル化!》

 

 イチカはアリスに大量の武器を向かわせ、その隙に三つのエナジーアイテムを取ると、バグルドライバーⅡのBボタンを二回押した。

 

 《キメワザ》

 

 《Critical Crews-Aid》

 

 高速化で一瞬にして俺の目の前に立ち、

 

 イチカ「雷牙也ァ!!てめぇは絶版だァ!!」

 箒「牙也ッ!!」

 狗道「逃げろ、牙也!!」

 雅樹「牙也さん!!」

 

 バグスターウイルスの影響で動けない俺に向けて回し蹴りを浴びせるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事は、出来なかった。何故ならーー

 

 イチカ「て、てめぇ……神童クロト……!?」

 

 顔を上げると、そこには『仮面ライダーエグゼイド ムテキゲーマー』が立っており、イチカの回し蹴りをその腕で受け止めていた。そのままエグゼイドはイチカをガシャコンキースラッシャーで斬り裂き、イチカは生成された武器を片付け終えたアリスの所までまたも吹き飛ばされた。エグゼイドはそれを確認し、膝をついている俺に向き直る。そして俺に向かって右手を差し出した。

 

 「……クロト」

 

 その手を俺が同じく右手で握り締めると、エグゼイドは小さく頷いた。するとその体が粒子になり始めた。粒子は俺の体を伝って戦極ドライバーにロックされたブランクのロックシードに吸収されていく。やがて全ての粒子がロックシードに吸収されると、エグゼイドはまた小さく頷いて静かに消えていった。粒子を全て吸収したブランクロックシードは、やがて一筋の光と共に輝き始め、俺の全身を包み込んでいった。そして光が晴れると俺の右手には、エグゼイドの顔が描かれたロックシードが握られていた。

 

 「ありがとう、クロト。また、助けられたな」

 

 困ったような笑みが思わず出てくる。それを握り締め、俺はサラシキバグスターとノホトケバグスターに向き直る。

 

 「さぁ……New Game開始だ!!」

 

 俺は右手に持ったロックシードを解錠した。

 

 《エグゼイド》

 

 音声と共に頭上にクラックが開き、そこからエグゼイドの顔を模したアームズが出てきた。俺はロックシードを持った右手を左前に突き出し、両腕を左側から右側へ回す。

 

 

 

 

 

 「簪と本音の運命……俺が変えて、新たな運命を切り開く!!変身!!」

 

 

 

 

 《ロック・オン》

 

 

 《エグゼイドアームズ!ノーコンティニューで、ゲームクリア!!》

 

 

 

 

 

 ロックシードを素早く左手に持ち替えて高く掲げ、そのまま戦極ドライバーにロックし、カッティングブレードで切る。音声とエレキギターの音と共にアームズを被り、アームズが展開してエグゼイドに似た姿となった。これが『仮面ライダー零 エグゼイドアームズ』だ。剣とハンマーが一体化したような武器『ガシャコンブレイカー』を握り締め、俺は二体のバグスターに向けて手を伸ばす。そして手を伸ばしたまま、拳を握る。

 

 

 

 

 

 「ノーコンティニューで……クリアしてやるぜッ!!」

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第62話 I'm a Ex-aid!!


 始まります。




 

 「凄い……!」

 

 今の牙也の姿を見て、私は驚きを隠せない。何故なら、今牙也が変身しているのは、異世界で出会った神童クロトが変身する『仮面ライダーエグゼイド』を模したアームズを被っている『仮面ライダー零』だからだ。

 

 狗道「まさか、『レジェンドライダーロックシード』を自力で開発するとはな……なんて奴だ……!」

 雅樹「『レジェンドライダーロックシード』?」

 狗道「ここだけでなく、何処かの世界には仮面ライダーが存在する世界がある。その世界の仮面ライダーの力を宿したロックシードの事だ。本来ならある特殊な条件でないと作れないのだが……やはり奴は、頂点に立つに相応しい……!」

 

 レジェンドライダーロックシード……本当に牙也が一から作り上げたのか……!

 

 牙也「ノーコンティニューで……クリアしてやるぜッ!!」

 

 牙也はクロトの決め台詞を叫ぶと、サラシキバグスターとノホトケバグスターに向かっていった。

 

 ゼロ「あら、凄い事になってるのね」

 

 その声に振り向くと、『仮面ライダーマルス』に変身したゼロがいた。

 

 箒「遅かったな、地下牢にも出てきていたのか?」

 ゼロ「いいえ、ここに来る道中で鉢合わせただけよ。と言っても、あのフード被ったチビッ子が全部蹴散らしていったけどね」

 

 そう言ってイチカに怒濤の連続攻撃を仕掛けているアリスを指差しながら、やや自嘲気味に微笑むゼロ。アリスの攻撃力は本当に未知数だな。味方で良かった、もし敵にまわっていたらと思うと、それだけで身震いが止まらない。私達の手で奴等を倒す事が出来ない今、私達にできるのはただ一つ。今必死に戦っている牙也の勝利と、バグスターにされた簪と本音の無事を祈る事のみ。後は任せたぞ、牙也……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャコンブレイカーをハンマーモードにし、俺は二体のバグスターに攻撃を仕掛ける。向こうが腕を振るって攻撃してくるのを回避して一撃二撃。さらに蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「もう少し我慢してくれよな……必ず助けるからな」

 

 そう思いながら、俺はガシャコンブレイカーのAボタンを押す。

 

 《ジャ・キーン!》

 

 するとハンマーが変形してピンク色の刃が伸びた。これがブレードモードだ。さらにBボタンを五回押してバグスターを斬り裂く。すると一回の斬撃で五回分の攻撃が入った。あれ、これってパラドクスのガシャコンパラブレイガンのBボタン効果じゃなかったっけ?まあ良いか、多分パラドクス変身者のパラドがクロトから生まれたバグスターだから、予期せずこの効果が入ったんだろう。そう割り切って俺はさらに攻撃を続ける。よく見ると、攻撃を当てる度に《Hit!》と出てきている。なるほど、攻撃がちゃんと効いているのがよく分かるな。

 

 「さぁて……これでフィニッシュと行こうか」

 箒「待て、牙也!まずはバグスターを二人から切り離さなくては……!」

 

 バグスターを蹴り飛ばしてから、俺はガシャコンブレイカーをハンマーモードにする。と、箒が後ろからそう叫んで俺を引き留めた。

 

 雅樹「どういう事ですか?」

 箒「通常人間とバグスターを分離する場合は、リプログラミングするかレベル1でないと分離できないんだ。それ以上のレベルでは、分離せずに倒してしまう可能性がある。だからレベル1は結構大事なフォームなんだ、それが出来れば簪と本音を助け出せる……!」

 イチカ「ハハハハハ!!そいつは無理だな!この『Noise Solomon』ガシャットは特別製でな、リプログラミングやレベル1では取り出せないようになってるんだよ!お前ごときじゃ神たる俺は超えられない!!」

 

 上空からイチカがそう叫ぶ。アリスの攻撃を生成した武器で抑え込めてるあたり、奴もアリスの能力を理解してきたようだな。さっさと片付けないと、アリスもそろそろ辛いか……?

 

 「……果たしてどうかな?」

 イチカ「……何?」

 「神だかノミだか知らねぇが……てめぇごときが神を自称するなんざ、一万年早いんだよッ!!」

 

 《エグゼイドスパーキング!》

 

 まずは簪と本音を助けなきゃな。俺はカッティングブレードでロックシードを三回切る。と、アームズが畳まれてエグゼイドの顔になり、さらに何処からか白いパーツが飛んできて俺と合体した。そうして出来上がったその姿は、

 

 箒「あれは……レベル1!だが、レベル1では……!」

 雅樹「あ、あれがレベル1……何て言うか、可愛いですね」

 狗道「そうか?私には不恰好にしか見えないが」

 

 二頭身のエグゼイドーーレベル1そのものだ。でっぷりとした体型だが、実は対バグスターウイルスでは重宝するフォーム。後ろの三人がなんか色々好き勝手言っているが、まあ見てろよ……

 

 「はぁぁぁぁ……ハアッ!!」

 

 力を溜め、大きく跳躍してガシャコンブレイカーを大きく振りかぶる。そして上空からもぐら叩きのようにハンマーをサラシキバグスターに叩き付けた。《Great!》と出てきて、サラシキバグスターは後ろに倒れ込む。するとバグスターの頭頂部付近に皹が入り、そこが割れて中から簪の頭部が見えた。そこに俺は手を突っ込み、簪を中から引きずり出した。そしてバグスターは蹴飛ばして距離を取り、気を失っている簪は蔦を使って箒達の所に運んだ。これで簪は大丈夫。と、後ろからノホトケバグスターが襲い掛かってきたので、同じように頭部に一撃お見舞いしてやり、皹が入って頭頂部から本音の頭部が露になった所に手を突っ込み、本音を引っ張り出した。そして本音も蔦を使って箒達に渡す。

 

 雅樹「やった、助け出せた!」

 「二人は気を失っている!狗道のおっさんは二人を安全な場所に運んでくれ!」

 狗道「分かった」

 

 狗道のおっさんが二人を肩に担いで運んでいくのを見送り、俺は再びバグスターに向き直る。宿主である簪と本音がいなくなった事で、バグスターは二体共弱体化している。今なら安心してこいつらを倒せるな。

 

 「さぁて、これで今度こそフィニッシュだ!!」

 

 《エグゼイドスカッシュ!》

 

 《ガシャット!キメワザ!》

 

 カッティングブレードで一回ロックシードを切り、さらに『Mighty Action X』ガシャットをブレードモードにしたガシャコンブレイカーのスロットにセット。

 

 《Mighty Critical Finish!》

 

 「ついでにこれも!」

 

 《高速化!》

 

 《マッスル化!》

 

 「食らいやがれッ!!」

 

 蔦で二つのエナジーアイテムを取り、高速で接近して逆手持ちにしたガシャコンブレイカーを振るいバグスターを二体まとめて滅多斬りにした。バグスター達は意味不明な叫び声を上げながら爆発四散し、煙が晴れた後には、『Noise Solomon』ガシャットが二つ残されていた。俺はそれを踏みつけて粉々に破壊する。これ以上奴の好き勝手にされてたまるかってんだ。

 

 イチカ「ぶべらっ!?」

 

 空を見ると、ちょうどイチカがアリスにぶん殴られているところだった。それにしても、アリスって普段どんな奴と戦ってんだ?あんな強いなんて、相当の猛者と激戦を何度も繰り広げてると見えるが……そんな事を考えていると、目の前にイチカが降ってきて地面に突き刺さった。そしてそれを追い掛けて、アリスも空から降りてくる。

 

 アリス「……そろそろ飽きてきた。さっさとこのバ神を倒して、元の世界に戻りたい」

 「そうだな、こんな奴と関わるのは俺ももう御免だ。やるぞ、箒、夜月」

 箒「任せろ!」

 雅樹「俺も手伝います!」

 

 俺達四人はそれぞれの武器を構えてイチカを見据える。そのイチカはと言うと、地面に突き刺さった頭をようやく引っこ抜いたところだった。

 

 イチカ「ああくっそ、予想外にやられたな……!野郎め、なんで俺と同じようにガシャットが作れたんだ……!?それになんでレベル1でバグスターと人間が分離出来たんだよ……!?あれは特別製なんだぞ、そんな簡単に攻略できる筈がない!」

 「へっ、お前なんかに教えるかよ、バ神が!行くぞ、皆!」

 『ああ(はい!)(……分かった)』

 

 《エグゼイドスカッシュ!》

 

 《ブドウエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ミックス!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!ジンバーブドウ!ハハァーッ!》

 

 《ロック・オン》

 

 《ハイー!マスカットスカッシュ!》

 

 《Impact Kick Turn Smasher Finish Down Trinity Brust!》

 

 俺の叫びに箒達は頷き、箒は素早くジンバーブドウアームズにフォームチェンジしてソニックアローにブドウエナジーロックシードをロックして、俺と共にカッティングブレードでロックシードを一回切る。夜月は三枚のチップを取り出してエナジーバイザーに装填、アリスは見るからに禍々しい槍を取り出して構える。

 

 「これで……オールクリアだッ!!」

 

 俺と夜月はそれぞれの右足にエネルギーを溜めて跳躍し、箒はソニックアローをイチカに向けて構え、アリスは槍を投げる姿勢を取った。

 

 《ブドウエナジー》

 

 《Trinity Final Full Break!!》

 

 音声と共に、ソニックアローから紫と薄緑の矢が放たれ、アリスは槍を思い切りイチカに投擲する。さらに俺と夜月はイチカに向けて『ダブルライダーキック』を放った。イチカが苦し紛れに『鋼鉄化』のエナジーアイテムを使って耐え抜こうとするが、アリスが投擲した槍が鋼鉄化ごとイチカを貫き、さらにそこへ箒が放った矢が突き刺さる。そして追い討ちで俺と夜月のキックが決まった。イチカの体に《Hit!》が何回も表示される。

 

 イチカ「がっ……!?認めない……認めない認めない認めない認めない認めない!!この最強の神が負けるなど……俺は絶対に認めないィィィィィ!!」

 

 そう叫んで、イチカは大爆発。爆風が晴れると、そこにはイチカの核として動いていたブルーベリーロックシードが落ちていた。俺は一旦変身を解除してそれに歩み寄り、異常が起こる気配がない事を確認した上で手に取った。すると「お~い!」という声が聞こえて後ろを振り向くと、向こう側から千冬さん達が走ってきていた。

 

 千冬「やったのか!?」

 箒「はい、やりました!簪と本音も助け出せましたから、もう大丈夫です!」

 

 箒の言葉に周りは色めき立ち、ハイタッチが交わされる。俺はその様子を見て笑みを浮かべながら、手に持っているブルーベリーロックシードを見つめる。

 

 箒「やったな、牙也!」

 

 箒が嬉しそうに俺に抱き付いてきた。箒の豊満な胸に俺の顔が埋まる。う、嬉しいが苦しい……!箒はそんな俺の気持ちなど分かる筈もなく、さらに腰に強く抱き締めてくる。でもまあ良かった、無事に事が解決して……そんな事を思っていたーー

 

 

 

 

 

 

 箒「良かった、良かった……!お前ならやってくれるって、私達は信じてーー」

 「……箒?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後から箒の心臓を貫いた、一本の剣を見るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第63話 Who are you?


 始まります。




 

 箒「ーー」ドサッ

 

 一瞬血の気が引いたように顔が白くなり、箒の体はゆっくりと俺に倒れかかってきた。何事かと思い箒の体を受け止めると、右手に大量の血がべっとりと付いていた。見ると箒の心臓部には、巨大な剣が深々と突き刺さっており、それが心臓を貫通して俺の心臓をも貫通していた。

 

 「ーーコフッ」

 

 自分の体からの激痛を理解した時、俺の意識はそこで途絶えたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「牙也さん!?箒さん!?」

 

 俺が二人の様子がおかしい事に気づくのには時間など掛かる筈もなかった。イチカを無事に撃破して他の皆とハイタッチし、ふと牙也さん達の方を見ると、二人が仲良く抱き合っているのが見えた。仲が良いんだな……そんな事を考えながら一瞬瞬きをしたその時、異変に気づいた。二人が抱き合ったままゆっくりと倒れ始めたのだ。目を凝らして見ると、箒さんの背中に見覚えのある巨大な剣が突き刺さっているのが見えた。俺の声に気づいたのか他の皆も牙也さん達の方を見た。

 

 『牙也ッ!!』

 『箒(篠ノ之さん)ッ!!』

 

 全員が急いで駆け寄ろうとすると、それを許さないかのようにバグスター戦闘員が再び現れた。そしてその後ろに、倒した筈のイチカが現れた。

 

 「お前……さっき倒した筈だろ!?」

 イチカ「いつ俺が倒されたと言ったよ?こんな事も見越して、最初から俺は戦ってなかったのさ。『俺』はな」

 一夏「『俺』は……?どういう事だ!?」

 イチカ「ふっ……こういう事さ!」

 

 《分身!》

 

 なんとイチカはエナジーアイテム『分身』を使って自分をもう一人作っていた。つまり俺達が倒したのはただの分身体で、今目の前にいるこいつ、つまり本物じゃない。今の今まで本物は何処か別の場所で俺達を静観していたのか……マジかよ……!

 

 イチカ「ハハハハハ……!残念だったなぁ、せっかくのチャンスを不意にしちまってよぉ……ま、当然だよなぁ、所詮神には誰も敵わないんだからなぁ、ククク……!」

 一夏「てめぇ……!」

 イチカ「ああ……残念だ、非常に残念だッ!!もっと骨のある奴かと思ったらこの様だ。つまらねぇな!!」

 

 イチカはつまらなさそうに倒れている二人に近寄って、二人の体を踏みつけた。気を失っているのか反応はないが、イチカはそんな事お構い無しに踏みつけ続ける。

 

 千冬「貴様……!二人に何をした!?」

 イチカ「聞いて何になるよ?どうせお前等皆これから絶版するってのによぉ……あれか、遺言ってやつか?」

 ゼロ「こんな所で遺言なんか書く気は無いわよ。次こそ大人しく倒されなさい!」

 イチカ「ハハハハハ……無理な相談だな。お前等ごときじゃ、俺は倒せない」

 「やってみないと分かんねぇだろッ!!」

 

 俺はストライクバスターカリバーで斬りかかるが、イチカはバグルドライバーⅡを取り外してBボタンをこちらに向ける形で右手のグリップパーツに装着。ガシャコンバグヴァイザーⅡ・チェーンソーモードにした。そしてストライクバスターカリバーをチェーンソーで弾き飛ばし、追い討ちで蹴りを入れてきた。

 

 「がっ!?っ、くそおっ!」

 

 《Sonic Wave》

 

 《Sonic Wave Final Full Break!》

 

 俺はすぐに立ち上がり、チップを一枚エナジーバイザーに装填して大きくパーに開いた右手をイチカに向ける。その右手からは超音波が発され、バグスター戦闘員を蹴散らすが、

 

 イチカ「その程度で俺は倒せねぇよッ!!」

 

 《反射!》

 

 イチカは『反射』のエナジーアイテムで超音波を跳ね返してきた。跳ね返された超音波が俺を含めた全員に襲い掛かるが、なんとか全員が武器を構えて防御するなどして耐え抜いた。

 

 千冬「全隊、なんとしても牙也と篠ノ之を救い出せ!急げばまだ間に合う筈だ!」

 

 千冬さんが他の教員に命令して救出に向かわせ、自身もバグスター戦闘員に攻撃を仕掛けようとするが、

 

 イチカ「ギャーギャーギャーギャー喚くなよ……これから絶版になる屑共がよぉ……さて、これとこれと、あとこれだな」

 

 《伸縮化!》

 

 《マッスル化!》

 

 《マッスル化!》

 

 イチカ「これより……お前等を全員絶版するッ!!」

 

 《キメワザ》

 

 《Critical Crews-Aid》

 

 「まずい……!全員防御の態勢を!!」

 一夏「任せろ!」

 

 《スターフルーツスパーキング!》

 

 「よし、俺も!」

 

 《Protect Metal》

 

 一夏さんがカッティングブレードでロックシードを三回切って星型の盾を構え、俺はチップを一枚エナジーバイザーに装填した。盾はオーラを纏って巨大化し、俺の体は鋼鉄のような色合いになる。一夏さんが俺達を守るように盾を構え、その後ろに俺が一夏さんを支えるように立つ。これなら必殺技も、なんとか防げる筈……!

 

 イチカ「雑魚が……そんなショボい防壁で、俺の攻撃を防げると思うなッ!!」バギッ

 一夏「っ!?しまっーー」

 

 

 

 

 

 

 『うわああああああああ!!』

 

 

 

 

 

 

 一夏さんの作った星型の防壁はあっさりと粉々に砕かれ、伸縮化で伸びた右足がその場にいたほぼ全員を捉えた。イチカが勢い良く右足を振るとあちこちで大爆発が起き、俺達は全員派手に吹き飛ばされて変身が解除されてしまった。

 

 イチカ「ハハハハハ!!憐れだな、無謀にも神の攻撃を受け止めようだなんてよ!!俺のレベルは一兆だぜ、受け止めようなんざ無理なんだよ!!」

 ゼロ「一兆、ですって……!?」

 千冬「馬鹿な……!?そんなふざけたレベルなど……!」

 イチカ「あるのさ、今、ここにな!さぁて、流石にもう飽きた……後始末はこいつらに任せるか」

 

 《Noise Solomon》

 

 イチカがガシャットを起動すると、またもノイズやバグスター戦闘員が出現して、ボロボロの俺達を取り囲んだ。くそっ……これが俗に言う絶体絶命ってやつか……!なんとか立ち上がって変身しようとするが、体へのダメージが大き過ぎて立ち上がる事すら出来ない。

 

 イチカ「じゃあな、憐れな屑共。せいぜいお前等の愚かさを呪うが良い」

 

 そう吐き捨てて、イチカは牙也さん達の方へと歩き始めた。ボロボロの俺達では、奴を追い掛ける事すら出来ない。ここまでか……!

 

 アリス「……手間をかけさせるな」

 

 突然聞こえたその声と同時に、周りにいたノイズやバグスター戦闘員が一瞬で全て消滅した。その声の主は、黒いパーカーにボロボロのローブを着た小柄の少女。

 

 千冬「ア……アリス……!お前、今まで何処に……!?」

 アリス「……奴の様子を探ってた。途中から奴の様子が少しだけおかしく感じたから、少し離れた場所から観察してた」

 「見てたのなら、さぁ……せめて加勢くらいはしてくれよ……!」

 アリス「……さっきの一撃で、全員戦闘不能になるよりかは、まだこっちの方がマシ」

 「ごもっともだけど……!」

 

 尤もな言葉に呆れながらも、俺はアリスに文句を言う。だけど、劣勢である事には変わりない。アリス一人で、果たしてどこまで通用するのか……

 

 イチカ「ッ!?いない、いない、いないッ!!奴は……雷牙也は何処だッ!?」

 

 何やらイチカの奴が騒がしい。聞くに、さっきまで倒れていた筈の牙也さん達がいなくなったみたいだ。まさかアリスがこっそり安全な場所に運んだのか?

 

 アリス「……私は何もしていない」

 

 俺の考えている事が分かったのか、アリスがそう反論してくる。じゃあ誰が……?

 

 イチカ「何処だッ!?雷牙也は、何処にいるッ!?」

 

 

 

 

 

 ??「ここですよ」

 

 

 

 

 アリスとは別の少女の声が聞こえた。その方向を見ると、白いワンピースに白い長髪とアホ毛が特徴的な少女がおり、その後ろには牙也さんと箒さんがいた。突き刺さっていた剣はいつの間にか抜かれ、出血も治まっている。あの子が治療したのかな?

 

 イチカ「おいガキ。そこを退きな、今なら怪我させるだけで許してやるよ」

 ??「ガキ?貴方みたいなガキにガキと言われても説得力がありませんね」

 イチカ「んだと?嘗めた口訊くと、ただじゃ済まねぇぞ?」

 ??「嘗めた口、ですか……貴方よりかは私の口調はまだ普通だと自負していますよ」

 イチカ「そうかそうか。つまりお前は……ここで死にたいって事なんだなッ!!」

 

 イチカはガシャコンバグヴァイザーⅡ・チェーンソーモードで少女に斬り掛かった。しかしそれを振り下ろそうとした途端、少女がイチカに向けて右手を翳すと、その攻撃は見えない壁によって阻まれた。

 

 イチカ「障壁だと!?」

 ??「牙也様達には、貴方ごとき指一本触れさせません。それにしても……貴方の攻撃は単調でつまらないですね。それでは……私が、戦い方をお教えしましょう」

 

 少女はそう言うと、懐から何かを取り出した。それはイチカが使ってるようなゲームガシャットが二本くっ付けられたような見た目で、ダイヤルが付いている。色は片方が紫を基調とし、もう片方は薄緑を基調としている。少女はそれを手に持ち、ダイヤルを右に回した。

 

 《Ancient Creator》

 

 《Let's Making Ancient Field!Let's Making Ancient Field!》

 

 少女の背後に、謎のゲーム開始画面が現れ、エナジーアイテムがセットされた。イチカは何が起きているのか理解出来ていないのか、キョロキョロ周囲を見ているその顔には明らかに焦りが見えていた。

 

 イチカ「なんだそれは……何なんだお前は!?」

 

 ??「私を知りたければ……私を倒してみたらどうですか?そうしたら分かるかもしれませんよ……?変身」

 

 《Dual Up!》

 

 《Maker Maker Cosmic Make!Maker Maker Natural Make!Maker Maker Oll Make!Let's Summon Ancient Creator!!》

 

 ガシャットを起動すると、ガシャットからパネルが飛び出してきて少女を通り抜けた。すると少女の姿は、頭部はサラサラとした白い長髪に人の眼球のような鋭い複眼、首回りはマフラーが巻かれ、体は見た目巫女のような服装で胸部にはゲージのようなものがある。謎の仮面ライダーは腰のホルダーにガシャットを差すと、その巫女装束をはためかせ、イチカに向けて右手を差し出す。

 

 ??「さぁ……始めましょう。貴方の結末は、私の手の中にあります」

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第64話 Ancient and Future


 大分長くなりました。書きたい事が山とあって、なんとか短くできましたが、それでも5000字超え……読んでくださる皆様の為にも、「もっと頑張りましょう」と自分に言いたい気分です。

 では、始まります。




 

 「さぁ……始めましょう。貴方の結末は、私の手の中にあります」

 イチカ「俺の結末だと……?そんなの、俺の完全勝利だけだッ!!」

 

 お久し振りですね、カンナです。さて、皆さん驚いていらっしゃるかと思いますが、私は今仮面ライダーとして目の前の敵ーーイチカと戦っています。え、何故あのガキの名前を知っているか、と?それはまた後々分かる事ですので……あら、イチカがガシャコンバグヴァイザーⅡで攻撃してきましたね。取り敢えず今は、戦いに集中する事にしましょう。私はその攻撃を受け流し、反対にその背中に蹴りを入れてあげました。そんなに強い蹴りではありませんが、イチカを怯ませるにはちょうど良いようですね。

 

 イチカ「調子に乗るなよ……クソガキがァァァァ!!」

 

 その叫びと共に、イチカの頭上に大量の武器が生成されました。さらに、突然私の体が重くなったように感じました。一体どうしたのでしょうか……?

 

 イチカ「俺の『God Mighty Creator IX』はなぁ、フィールドも俺の思うように作れるんだぜ!?今このフィールドは、俺以外に対して通常の千倍の重力がかかるフィールドにした!お前等はろくに動く事も出来ず、無様に死んでいくんだぜ!!」

 

 なるほど、重力による抑圧のようなものですか……体が重く感じたのも頷けますね。ですが……

 

 アリス「……つまらん。この程度で私を倒せるとでも思ったか?」

 イチカ「ッ!?馬鹿な、何故ーーぐはっ!?」

 

 どうやらあのローブを纏った彼女にとっては千倍の重力などと大した事でもないようですね、普通に動けています。では、私も参戦しましょうか。私が指を鳴らすと、途端に体の重さを感じなくなり、生成されていた武器も全て消滅しました。

 

 イチカ「馬鹿な、武器が消えた……!?お前、何しやがった!?」

 「そうでした、説明してませんでしたね。ではお教えしましょう……私のこのゲーム『Ancient Creator』は、何もない宇宙そのものからーーつまり一から創造を始めるクリエイトゲーム。飲料食料も、自然も、前提条件たる自身が住む為の星も、全て自身が一から作らなくてはなりません。貴方はまだ自身の力で何も創造できていませんから、武器の創造・生成は不可能なんです。貴方の生成した武器が消えたのも、武器創造・生成の為の素材が無いからです。あとついでに重力フィールドとかも消しましたので、皆さん普通に動けますよ」

 イチカ「何だと……!?そんな馬鹿な話があるか!!」

 「まあ別に信じて下さらなくても結構ですが……貴方程度では、このゲームは攻略出来ませんよ」

 イチカ「っざけんなッ!!」

 

 イチカはガシャコンバグヴァイザーⅡ・ビームガンモードで攻撃してきましたが、撃ち放たれた光弾は全て私に届く直前で全て消滅しました。逆にローブの少女が連続攻撃でイチカを痛め付けています。

 

 「無駄ですよ。貴方の攻撃は、『絶対に』私には当たりません。ですが逆に、私の攻撃は『絶対に』貴方に当たります」

 

 《キメワザ!デュアルガシャット!》

 

 私は右腰のホルダーに差していたガシャット『ガシャットギアデュアルVer.カンナ』を一旦ホルダーから抜いて、ダイヤルを左に90度、更に右に90度回してからホルダーに戻しました。

 

 《Ancient Critical Craft!!》

 

 「これもおまけで使いましょうか」

 

 《マッスル化!》

 

 《鋼鉄化!》

 

 そして私がイチカに向けて手を翳すと、イチカの周囲を土壁が囲い、ブロック状になってイチカを閉じ込めました。私はその土のブロックに向けて駆け出し、思い切りブロックをパンチしました。ブロックは砕けて土に還り、ブロックに閉じ込められていたイチカは吹き飛ばされて近くに生えていた木に叩き付けられました。

 

 イチカ「ごばっ!?や、野郎……!!殺してやる……!!必ずお前は、この手で絶版にしてやるッ!!」

 

 あら、あの一撃を受けてなお立ち上がってきますか……それなら、今度はこのゲームで遊びましょうか。私はホルダーからガシャットを抜き、今度はダイヤルを左に180度回しました。

 

 《Future Artist》

 

 《What's The Next Art?What's The Next Art?》

 

 「大変身」

 

 《Dual Up!》

 

 《Unknown Future Let's Paint!Future Artist!》

 

 ガシャットギアデュアルVer.カンナをホルダーに差し直すと、フェイスが半回転して前後で入れ替わり、今度はVRのようなものを付けたフェイスになりました。巫女装束風の鎧は変形して近未来的なローブに変わり、両腕には小型大砲のような発射口を装着。色もメカメカしさが出る銀色が基調となっています。

 

 イチカ「姿が変わったくらいで!!」

 

 イチカが今度はガシャコンブレイカーとガシャコンソードの二刀流で攻撃してきましたね。ではこのゲームの力をお見せしましょう。私は二つの斬撃を両手で受け止め、両方の武器の刀身を握り締めました。すると二つの武器はそれぞれピンクと青の液体に変化してドロドロになってしまいました。

 

 イチカ「なッ!?武器が溶けただと!?」

 「いえ、溶かしたのではありません。このようにしてーー」

 

 私は両腕の発射口をドロドロの液体に向け、それを全て吸い取りました。そしてその発射口を今度はイチカに向け、そこから吸い取った液体を弾丸のようにして飛ばしました。イチカの体は瞬く間にピンクと青の液体まみれに。

 

 「液体でできた弾丸に変えただけです。この『Future Artist』は、触れた物全てを液体弾丸にして撃ち、とある世界の未来を塗り替えるゲーム。半端な攻撃では、私にダメージを与える事すら出来ませんよ」

 イチカ「てめぇ、ふざけた真似しやがって……!神に逆らう気かァァァァ!?」

 「神に逆らう……?何を馬鹿な事を。善悪の分別も出来ない貴方ごときが、神を名乗らないで下さい!!」

 

 私はさらに弾丸を撃ちますが、イチカには当てずわざと外しました。辺りはピンクと青の液体でベタベタに。

 

 イチカ「随分ノーコンだな、俺の前に力が抜けたか?」

 「いえいえ、これも戦略ですよ。このゲームの更なる力……お見せしましょう!」

 

 私は地面に散乱したピンクの液体の上に立ちました。すると、私の体は瞬く間にピンクの液体に変わり、他のピンクの液体と同化しました。

 

 イチカ「な!?あのガキ、何処にーーぐあっ!?」

 

 『Future Artist』のもう一つの効果ーーそれは、吸い取った液体と同じ色の物同士を行き来できる、というもの。つまり、ピンク色の壁に入って、同じくピンク色の車から出てくる、なんて事が出来るのです。そしてそれは、敵に当たらなかった液体の弾丸にも適用されます。私はその能力を利用して、あちこちに散乱した液体から神出鬼没に現れて攻撃しました。この攻撃は効果抜群のようで、イチカは反撃する事すら出来ません。連続で攻撃するだけで、イチカは簡単に倒れ伏しました。

 

 イチカ「くそがッ!!こんなゲーム……こんなゲームなんざ、俺は認めねェェェェェ!!」

 

 《キメワザ》

 

 《Critical Sacrifice》

 

 ガシャコンバグヴァイザーⅡ・チェーンソーモードでキメワザを使ってきますか……無駄の極みなのですがねぇ。チェーンソーの斬撃が私を斬り裂こうとしますが、その斬撃は液体に変化した体を通り抜けただけ。残念ながら液体は斬れませんよ?ローブの少女にも斬撃が飛んでいきましたが、彼女は剣を一振りしてあっさり叩き落としました。私もそうですが、彼女も大概ですね……

 私はホルダーからガシャットギアデュアルVer.カンナを抜き、ダイヤルを右に90度、更に左に90度回してホルダーに差し直しました。

 

 《キメワザ!デュアルガシャット!》

 

 《Future Critical Paint!》

 

 私は発射口からピンクと青の液体を発射して空中にピンクと青のゴーレムの絵を複数描きました。それらはやがて立体化してゆっくりと動きだし、イチカに向けてその拳を振り下ろしました。

 

 イチカ「くっ、こいつらァァァァ!!」

 

 斬撃が効かないと分かると、今度はビームガンモードですか……やっぱり効かないのに。ゴーレムに当たった光弾はゴーレムの体や腕を突き抜け、空高く飛んでいきました。しかしゴーレムの体は、新たに自力でペイントを補充してあっという間に回復しました。

 

 イチカ「そ、そんな馬鹿なーーぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 叩かれ、殴られ、踏み潰され、イチカはボロボロになり、黄金の鎧も皹割れています。ふふ、少しやり過ぎたかな?私は一旦変身を解除して様子見する事にしました。するとなおもイチカは、よろめきながら立ち上がってきました。

 

 イチカ「こ、の……クソガキ、がァァァァ……!俺を……この俺を、こんな目に、遭わせやがって……!殺す……殺す殺す殺す殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥゥゥゥ!!オ前ダケハ、絶対二殺シテヤルゥゥゥゥッ!!」

 

 突然イチカの体から紫電が発せられ、その体は黒いドロッとした何かに飲み込まれ始めました。思わず身構えると、そのドロッとした何かは段々と形を成していき、やがて見覚えのある姿へと変貌してしまいました。見上げる程の巨体に龍の頭を模した両腕、それに下半身はそれそのものが大剣になっています。

 

 「ッ!これは、超ゲムデウス……!どうやらこのタイミングで、ブルーベリーロックシードが拒絶反応を起こしたみたいですね……!ですが、イチカにはゲムデウスウイルスなど無い筈……一体何故……?」

 

 イチカの媒体になったブルーベリーロックシード。今まではイチカに完全に抑え込まれていたようですが、ここに来てイチカの力が弱まった事で、やっと暴走にこぎ着けたようです。しかし面倒ですね、まさか最悪のタイミングでこいつに変貌するなんて……!早く皆さんの安全を確保しなければ……一先ず後方で動けずにいる皆さんを囲うように『防護の布陣(ディフェンシブ・ドーム)』を張っておきました。以前より強化されていますから、これでしばらくは大丈夫ですね。

 

 ??「う、ううん……」

 ??「あ、あれ?俺達は……」

 「牙也様、箒様!」

 

 すると意識を取り戻したのか、牙也様と箒様が起き上がってきました。良かった、どうやらお覚悟が決まったようですね。私は急いでお二人に駆け寄りました。

 

 牙也「カンナ……!帰ってきてたのか!」

 「はい、つい先程こちらに。お二人のお怪我は治療致しました、後はあれを倒すだけです」

 

 そう言って私は超ゲムデウスを指差しました。

 

 牙也「……なんだありゃ!?」

 箒「あれは一体……!?」

 「あれが超ゲムデウスです。一夏様そっくりの敵が先程あのように変貌しまして……恐らく、ブルーベリーロックシードの影響かと」

 牙也「イチカが……!?一体なんで……」

 アリス「先程までこのチビが奴をボコボコにしていたから、そのせいだろう」

 

 すると空から先程の少女が降りてきました。

 

 牙也「アリス」

 アリス「お前達の仲間はお前達が気絶している間に全滅した。さっさと倒さないと危険大だ」

 箒「皆が……!?大丈夫なのか!?」

 「先程私が『防護の布陣』を張りましたので、もう大丈夫かと。あとは、あれを倒すだけです」

 牙也「そうか……すまんな、二人とも」

 アリス「……礼はいらないと言った筈だ。さっさと奴を倒すぞ」

 箒「そうだな。牙也」

 牙也「ああ」

 

 お二人は戦極ドライバーを腰に付けて、牙也様は黒く四角い形のロックシードを、箒様は見た目はマスカットに近いですが白いロックシードを取り出しました。私はゲーマドライバーを出現させて腰に付け、ガシャットギアデュアルVer.カンナを取り出します。

 

 《ゼロ》

 

 《シャインマスカット》

 

 《ロック・オン》

 

 《デュアルガシャット!》

 

 《Making Ancient Field!What's The Next Art?Making Ancient Field!What's The Next Art?》

 

 牙也「暗黒」

 箒「閃光」

 「レジェンド大」

 

 

 『変身ッ!!』

 

 

 《ソイヤッ!ゼロアームズ!夢・幻・無・双!》

 

 《ハイー!シャインマスカットアームズ!光刃・ザン・ザン・ザン!》

 

 《ガッチャーン!マザルアップ!過去作る楽しさ!未来描く面白さ!過去と未来交差!Ancient Future!!》

 

 牙也様には黒く汚れた四角いアームズが瘴気と共に被さって展開。箒様には白く神々しく輝くマスカットアームズが被さって展開。私は二つのゲームが合わさったパネルが私を通り抜けて、それぞれ変身完了しました。アリス様も歪な剣を構え、超ゲムデウスを睨み付けます。

 

 

 

 

 牙也「この盤面……俺が支配する!!」

 箒「この過酷溢れる世界に、私の光を……!!」

 「ノーコンティニューで……超ゲムデウスを完全攻略致します!!」

 アリス「……貴様を消す。異論は認めないし、聞かない」

 

 

 

 

 

 

 





 次回は牙也達sideから触れようと思います。



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第65話 人デナクナル覚悟

 始まります。




 「……う……ううん……?」

 

 何か眩しい光が、俺の目に入ってくる。朝焼けにも似ているが、これはそれよりもう少し強めの光だ。何かと思いゆっくりと目を開けると、そこには眩しい程に青い空があった。背中や腕に草の感触がある。何処かの草原だろうか?そう考えて体を起こすと、そこは草原などではなく、どこか見覚えのある庭園のど真ん中だった。

 

 「ここ……確か、カンナがいた場所……?待てよ、確か俺はさっき……」

 

 俺は先程までに俺に起こった出来事を思い出してみる。確かあの時、俺はイチカと戦っていて、エグゼイドアームズを完成させてイチカを倒した。その後は……そうだ、突然剣が飛んできて箒と俺に……!

 

 「何処だ箒!?いるなら返事してくれ!箒ッ!」

 

 俺は周囲に向けて大きな声で箒の名前を叫ぶが、どんなに大声を出しても反応は何も返ってこない。ここには俺だけしかいないのだろうか?箒は大丈夫なのかな……?他に何か無いか周囲をもう一度見渡してみると、

 

 「あれは……確か、パーゴラって言ったかな……?待てよ、あれは以前ここに来た時は無かった筈だ。新しく追加されたのか……?」

 

 ともかく俺は、パーゴラまで行ってみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーゴラに入ると、そこはやはり白い壁と、パーゴラに合っているのかは微妙だが白い椿が辺り一面に咲いており、中央には白いテーブルが一つと椅子が四つ。その上にカップが四つとポットが一つポツンと置いてあった。中には何も無く、それらが使われていない事が分かる。

 

 「……誰かいるのは確かだな」

 

 カップやポットがあるのなら、ここには誰かが必ずいる。そう結論付けて、俺は一先ず誰かがここに入ってくるのを待つ事にした。そうして待つ事十分ーー

 

 

 

 

 「……誰も来ねぇ」

 

 

 

 

 誰一人として来る気配がない。

 

 「このままじゃ埒が明かないな……けどあてもないしな……このまま待つか」

 

 そう決めて俺はパーゴラの椅子に座る。

 

 

 

 ??「……待ってたよ」

 「ッ!」

 

 

 

 突然声が聞こえ、周囲の景色が歪み始める。やがて歪みが収まると、

 

 「箒!」

 箒「牙也!」

 

 箒が俺の正面の椅子に、残り二つの椅子になにやら仮面を被った二人組がいた。一人は癖のある黒髪に俺が着ているのと同じ黒一色の袴を着て、目も鼻も口もないのっぺらぼうな仮面を被っており、もう一人は白く染まった長髪に箒と同じIS学園の制服で、こちらものっぺらぼうな仮面を被っていた。

 

 ??「ようやく座ってくれたね。君が椅子に座るまでかれこれ十分前から待っていたよ」

 「……最初からいたって事かよ。声の一つや二つ掛けてくれれば良かったものを」

 ??「ごめんごめん。さて、全員揃った事だし、本題に入ろうか」

 

 仮面を被った男はそう言って、懐から何かを取り出した。真っ黒く汚れ、見るからに禍々しいオーラを醸し出すそれは、他とは明らかに違う四角いロックシードであった。するとそれを見た箒の顔色が変わった。

 

 箒「こ、これ……!何故お前が持っている!?」

 「箒、これを知ってるのか?」

 箒「ああ。以前クロトと共にノルンというバグスターと戦っただろう?その時にお前が使ったロックシードだ」

 「俺が?……覚えてないな」

 ??「まあ知らなくて当然だな。その時お前は、この『ゼロロックシード』に精神を乗っ取られていたからな」

 「ゼロ……ロックシード?」

 

 ここで女が初めて口を開いたが、俺はその女が言った名前に疑問を持った。そんなロックシード、俺は持ってないぞ?

 

 ??「ほら、シュラから貰った二つのロックシードがあっただろう?片方はザクロで、もう片方がこれなんだ」

 「ああ、そう言えば確かにシュラから受け取ったな……ってなんでお前シュラを知ってるんだ?」

 ??「シュラとは私達も接触しているからな、顔馴染みなんだ。それと、今お前達と共にいるカンナは、私達の仲間だ」

 箒「何!?」

 牙也「カンナがあんたらの……あんたら、なんでカンナを俺達の所に寄越した?何のために俺達を助けるような事をした?」

 ??「まあまあ落ち着いて。取り敢えず今は、このロックシードについて話すよ」

 

 そう言うと男はゼロロックシードを俺に差し出して言った。

 

 

 

 ??「このロックシードはね……君自身の力で生まれたロックシードなんだ」

 

 

 

 「俺……自身の?」

 ??「そう。君が今まで心に抱え込んでいた大いなる闇。常人なら既に押し潰されている程に大きく、重く、そして真っ黒い闇。それが具現化して、このロックシードは生まれた」

 「闇……」

 ??「本当ならこれは私が没収しておきたいのだが……そうもいかない。これは、君に返しておくよ」

 

 そう言って男はゼロロックシードを俺に差し出した。が、俺はそれを素直に受け取る気にはなれなかった。それを見て男は首を傾げる。

 

 ??「どうしたんだい?」

 「……なあ、箒。これを使ってた俺、どんな感じだったよ?正直に答えてくれ」

 箒「え?えっと……正直に言うと、怖かった。何と言うか……こう、怒りと憎しみとがごっちゃになって、ただただそれを敵にぶつけている……そんな気がした」

 「そうか……」

 

 それを聞いて、俺は怖くなった。もしこれを使って、もし暴走でもして、箒を……皆を傷付けてしまったら……そんな事を考えると、俺はこの真っ黒いロックシードを使っちゃいけない気がした。

 

 ??「……怖いのか?」

 

 すると、女がそう聞いてきた。俺は何も言わずただ首を縦に振る。

 

 ??「そうか。それで良い……それで良いんだ。もしそれに恐怖を感じなかったとしたら、お前は壊れているのだろうな。だが、お前はそれに恐怖を感じた。そうだ、それで良いんだ。初めて物事を行う時、人は必ず恐怖を持つ。それは『もし失敗したら……』とか、『もし私には無理だったら……』とか、そんなネガティブな事ばかり思い浮かぶ筈だ。それが普通の人間なんだ。それをちゃんと分かっている限りは、お前はれっきとした人間だ」

 「どーだか……蔦を自在に操れる奴のどこら辺を普通の人間と思うよ?」

 ??「たとえ人間でなくとも、人間と同じように生きる事くらいは出来るよ。蔦を使わなければ君はどう見ても人間なんだから」

 「だが……」

 

 俺は反論しようとしたが、良い言葉が思い浮かばず口ごもる。すると男が「はぁ……」と息を吐いてから言った。

 

 ??「……君はさ、彼女を信じてないのかい?」

 「……?」

 ??「いや、厳密に言うと……君は仲間を信じてないのかい?君は今まで、たった一人で戦ってきたのかい?」

 「馬鹿言うなよ、そんな訳無いだろ。今まで俺が戦ってこれたのは、皆が協力してくれたからこそだ」

 ??「だったら……なんで信じてあげないんだ?」

 「!」

 ??「なんでそんな大事な仲間を信じてあげない?何故無理だと決めつける?最初から無理だと、不可能だと決まった訳じゃ無いだろう。もし今までの事で仲間に感謝しているのなら……彼らを、彼女らを信じてあげてやれ。お前には多くの仲間がいるんだ、苦しい事や辛い事があったなら、構わず頼れ。仲間とは、そう言うものだ」

 「仲間、か……」

 

 そんな事考えた事も無かったな……俺は今まで、とにかくこの世界の異変を解決する為、そしてゼロの悪行をこの手で断ち切る為に戦ってきた。けど、それは俺一人でやってきた事じゃない。箒や一夏に束さん、千冬さんや理事長にスコール達……他にも沢山の仲間がいてくれたから、応援してくれたから出来てたんだな……なんで気づけなかったんだろうな……。と、男が再びゼロロックシードを差し出してきた。

 

 ??「……それを踏まえて、改めて聞こう。君は、この力を欲するかい?」

 

 男は俺の顔をじっと見ながらそう聞いてきた。……はっ、そんなの決まってんだろ?俺はゼロロックシードを手に取り、改めて男を見た。

 

 「……俺が皆を信じないでどうするんだ、って事だ。大丈夫、俺ならやれるさ」

 

 その返答を聞いてか、男は小さく頷いた。「それで良い」とでも言いたげだな。箒も「良かった」というような表情を見せる。

 

 ??「さて、次はお前だな」

 箒「……私?」

 

 すると女の方が箒を見ながらそう言い、懐から強く輝く何かを出した。俺がそれを覗き込むと、それは見覚えのあるロックシードだったが、少し異なる点があった。

 

 「マスカット……?いや、違うな……こんなに光を放つロックシードは見た事無いな」

 箒「なあ、これは一体……?」

 ??「……これが、お前のこれからを左右する」

 箒「?」

 ??「……これを使えば、お前はオーバーロードの呪縛から解放される……その代わりお前は、人間として生きる事が出来なくなる」

 「……どういう事だ?」

 ??「簡単に言うと、これを使ってオーバーロードの呪縛を解き放つ代わりに不老不死になるか……それともこれを使わずオーバーロードの呪縛に囚われっぱなしで最期まで生きるか……どちらか選べって事さ」

 『!?』

 

 不老不死、だと?つまりそれは、一生死ねないし、一生年も取らないって事かよ……て言うか、このロックシードは一体何なんだ?

 

 ??「……これは、所謂『神のロックシード』。禁断の果実の一部から生まれた禁忌のロックシード。そして、ヨモツヘグリの暴走を唯一自力で抑えられる存在だ。恩恵には代償が付き物だが、これは他の比にならない程にハイリスクハイリターンなロックシード。けど、使いこなせればハイリスクも気にならなくなる。使いこなせれば、だがな」

 箒「『神のロックシード』……」

 ??「さぁ、どうする?どうするかは、君次第だ」

 

 箒は悩んでいた。そりゃそうだ、下手すりゃこれも暴走の危険がある。まして『神のロックシード』だなんて物騒な物だと余計にな。けど、何故か俺には箒がどうするのかある程度予想できていた。何故って?さっきの俺と同じ、って事さ。と、

 

 

 箒「……使わせてもらう」

 

 

 俺の予想通り、箒はそれを手に取った。

 

 ??「あまり躊躇わなかったな。何か思う事でもあったか?」

 箒「まあな。私は仲間を信じているからな、牙也とは違って」

 「おっと、耳が痛い一言だな……」

 箒「止めてくれるのだろう?もし暴走したなら」

 「無論。俺が……いや、俺達が、な」

 箒「……ふふ」

 「ははっ」

 

 お互い笑い合う。ああ、久しぶりだな。こんな笑顔を見せられたのは。

 

 ??「さて、そろそろ時間かな?私達が君達に力を貸せるのは、これで最後。後は君達の手で、未来を切り開いてくれよ」

 「ああ。必ず救う、俺の……俺達の世界を」

 箒「その為なら、どんな苦境にも入り込むさ……誰かの助けを借りてでもな」

 ??「私達も、影ながら応援するぞ」

 「誰かは分からんが、ありがとな」

 ??「気にしないでよ。それじゃ、最初入ってきた所から出てくれれば戻れるよ、頑張ってね」

 「ああ。それじゃ行くか、箒」

 箒「……ああ!」

 

 俺が手を差し出し、箒がその手を取って、一緒にパーゴラの門をくぐる。と、俺達の体は光に包まれて消えたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……なぁ、二人はやってくれるよな?」

 ??「勿論。お前も知ってるだろ、あの世界の結末をさ」

 ??「それはそうだが……」

 ??「ははは、やっぱり心配か?大丈夫だって、あの二人なら、どんな苦境だって乗り越えてくるよ。それに今はまだカンナがいる。カンナがいれば心配する必要もないだろ?」

 ??「……そうだな、いらぬ心配だったか」

 ??「だろ?それじゃ俺達は帰ろっか。俺達の故郷、ヘルヘイムの森へ」

 ??「ああ……カンナもすぐに帰ってくるんだよな?」

 ??「おう、バ神を潰したら帰ってくるよう言いつけてある。もう俺達はあの世界に干渉しないで大丈夫だろ、母さんの遺言も問題なく伝わるだろうしな」

 ??「そうだな。だが戻ってからが面倒だぞ、ラファアやミェドゥウン、それにフォンエジェが私達の帰りを今か今かと待ってるらしい」

 ??「ディムシャウとオムシャシュの事か?」

 ??「ああ、相変わらず喧嘩していて、デェムベムとショデュインが仲裁しているとオアデュアンボが泣き付いてきた」

 ??「またあいつらは……ああもう、さっさと帰るぞ。ヘルヘイムの森を荒野にされたらたまったもんじゃない」

 ??「ふふ、そうだな。では帰ろうかーー『キバヤ』」

 ??「ああーー『ホウキ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後の謎の名前ですが……全てオーバーロード語に直すと、

 ラファア=ほのお(炎)

 ミェドゥウン=みず(水)

 フォンエジェ=だいち(大地)

 ディムシャウ=せんこう(閃光)

 オムシャシュ=あんこく(暗黒)

 デェムベム=しんりん(森林)

 ショデュイン=かぜ(風)

 オアデュアンボ=あおぞら(青空)

 を意味します。ネタバレですが、本編では登場しません。ご了承下さい。

 では次回もお楽しみに!



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第66話 激闘


 始まります。




 

 「この盤面……俺が支配する!!」

 箒「この過酷溢れる世界に、私の光を……!!」

 カンナ「ノーコンティニューで……超ゲムデウスを完全攻略します!!」

 

 三人揃ってファイティングポーズを取り、超ゲムデウスを見る。いよいよラストバトルだ。絶対にこいつを倒し、この世界に平穏をもたらしてみせる!

 ちなみに今の俺達の姿だが、俺は今までのアームズとは大きく異なり、重厚な漆黒の鎧に身を包み、鎧武の三日月に加えて徳川家康所有の歯朶の葉前立てが特徴の兜、そしてフェイスの髭のような意匠と、戦国大名により近づいた姿だ。箒は今までの中国風の鎧に加えて、背中には白いマントを羽織り、ダルンダルンに伸びた袖のような意匠が両腕に施されている。カンナは右半分が巫女風、左半分がメカメカしいローブで、頭部の髪のような意匠は黒と白が入り交じっている。

 

 超ゲムデウス「劣等種ガ……ホザクナァ!!」

 

 超ゲムデウスはそう叫び、下半身の大剣を振り下ろしてきた。

 

 「散開!!」

 

 そう言って俺達はあちこちに散らばる。と、さっきまでいた場所に大剣が振り下ろされ、地響きを起こす。一夏達の方は、カンナが防護の布陣を使ってるお陰でなんとか防げてる。ちょっと見ない間にカンナも強くなったんだな。俺も負けてらんねッ!

 

 超ゲムデウス「望ミヲ捨テ諦メロ!!最早貴様等二勝チ目ハ無イ!!」

 

 超ゲムデウスはそう叫ぶと、龍のような両腕を大きく開き、その中から大量の武器が溢れ出てきた。

 

 「だったらこれだ!」

 

 俺は背中ではためく二本の旗を手に取った。その旗ーー『零旗(ゼロフラッグ)』は黒く、鬼の顔のような家紋が目を引くものであった。それを両方の手に持ち大きく一振りすると、黒い熱波が旗から飛んで大量の武器を押し返していく。そしてもう一回旗を一振りすると、今度は黒い炎が飛んでいって武器を全て焼き払った。

 

 超ゲムデウス「何!?」

 

 超ゲムデウスがこれに驚いている間に、箒は一気に接近していた。その手にはライムラッシュが握られ、それを勢い良く超ゲムデウスに振り下ろす。さらにイチジグレネードを呼び出して超ゲムデウスに向かって投げつけた。斬撃と爆発が超ゲムデウスを包み、『Hit!』の文字が出てくる。効いているな、俺達の攻撃が。

 

 超ゲムデウス「馬鹿ナ、何故貴様等ノ攻撃ガ我二有効二ナッテイル!?」

 

 本来ならゲームの力が無い俺達の攻撃であるにも関わらず、自身に攻撃が通っている事に驚きを隠せていない超ゲムデウス。けど、まだまだこんなもんじゃないぜ?

 

 「来い、『火縄名冥DJ銃』!!」

 

 俺は銃身にディスク型プレートが付いた大型火縄銃『火縄名冥DJ銃』を呼び出し、スクラッチして鳴らした。擦るとロック調の音が響き渡る。さらにその上にある『スピードコントロールツマミ』を一番右に捻ってからまたスクラッチした。さっきのロック調の音がやや早く響き渡り、スクラッチした時の光も三つから四つに増える。それを超ゲムデウスに向けてトリガーを引いた。するとマシンガンのように弾丸が放たれていき、超ゲムデウスに次々と『Hit!』の文字が出てくる。

 

 超ゲムデウス「小癪ナ……失セロッ!!」

 

 超ゲムデウスが再び武器を飛ばしてきたが、俺は火縄名冥DJ銃を向けてトリガーを引き、その全てを叩き落とした。

 

 超ゲムデウス「馬鹿ナッ!?コンナ事ーー」

 「ありえないーーなんて事はありえない。全ての事象は、偶然じゃなく必然だ。これもしかり」

 超ゲムデウス「フザケタ事ヲ抜カスナッ!!」

 

 すると超ゲムデウスが龍のような両腕から何かを吐き出した。それは真っ黒いスライムのようであったが、地面に落ちると細かく契れ、それぞれが醜い音を立てて変化し、バグスター戦闘員とノイズになった。

 

 超ゲムデウス「行ケ、バグスター戦闘員二ノイズヨ!!奴等カラ全テヲ奪イ取レッ!!」

 カンナ「そんな事は、私達がさせません!!」

 

 《ガシャコンカナブレイガン!》

 

 《デュアルガシャット!キメワザ!》

 

 そこへカンナがバグスター戦闘員やノイズの前に立ち塞がり、パラドが使うガシャコンパラブレイガンに似て、色が赤い部分が薄緑に、青い部分が紫になった武器『ガシャコンカナブレイガン』を出して、ガシャットギアデュアルを差し込んだ。

 

 《Ancient Critical Finish!》

 

 銃口に緑のエネルギーが充填され、トリガーを引くとそれが分散して放たれた。エネルギー弾が雨のように降り注ぎ、バグスター戦闘員やノイズを消し飛ばしていった。

 

 カンナ「牙也様と箒様は超ゲムデウスを!私はアリス様と共に露払いをしておきますので!」

 「悪ぃな、頼むぜ!」

 

 一先ずバグスター戦闘員とノイズはカンナとアリスに任せよう。俺は箒と共に超ゲムデウスに突っ込んでいく。超ゲムデウスは両腕を振るって攻撃してきたが、片方の腕は俺が裏拳で弾き、もう片方の腕は箒が蹴飛ばす。さらに俺は火縄名冥DJ銃からマシンガンのように弾丸を連射して攻撃、箒は炎刀鬼灯丸・ナギナタモードを振るってその体を斬り裂いた。

 

 超ゲムデウス「クッ、タカガ劣等種ノ分際デ……!神タル我ヲ超エルト言ウノカッ!?」

 「神だと?たとえ神だろうとな……害を撒き散らせば、それだけでお前の言う劣等種同然なんだよッ!!」

 超ゲムデウス「貴様……我ヲ劣等種ト抜カスカッ!!」

 箒「ふん、劣等種というより劣化した鉄屑と表現した方が良いか?」

 超ゲムデウス「……ホザクナァ!!」

 

 超ゲムデウスが再び下半身の大剣を振り下ろしてきた。

 

 《デュアルガシャット!キメワザ!》

 

 《Future Critical Finish!》

 

 と、俺達の後方から紫の斬撃が飛んできて、その大剣を受け止め、さらに真っ二つにへし折った。

 

 カンナ「お二方、ご無事で!!」

 箒「カンナ、良いタイミングで来てくれたな。と言うか、もう終わったのか?」

 カンナ「戦闘員程度なら、もう私一人でも蹴散らせますから。ただ今回はほとんどアリス様が倒してくれまして、私の出番はありませんでした」

 「ははは、アリスに横取りされたかよ。まあ邪魔者は消せたし良かったじゃねぇか。それじゃ、さっさと終わらせるぞ」

 カンナ「お待ち下さい、牙也様。超ゲムデウスを攻略するには、まだダメージが足りません、もっとダメージを与えなくては……」

 「そんな暇も無いだろ。ただでさえ皆が今も危ない状況だってのに……」

 箒「何か一撃で大ダメージを与えられる物があれば……」

 

 勿論こうやって話したり思考を巡らせてる間も、超ゲムデウスの攻撃は止まらない。なので俺達はその攻撃を回避しながら話をしている。さて、何かないかな?ロックシードホルダーを漁っていると、俺はあるロックシードに目を付けた。

 

 「……これだ。箒、カンナ!超ゲムデウスを引き付けておいてくれ!デカイ一撃、そいつにかましてやるからよ!」

 箒「何か策が浮かんだようだな……分かった、任せておけ」

 カンナ「お気をつけて!」

 

 箒とカンナが超ゲムデウスを攻撃して自分達に引き付ける。その間に、俺はホルダーからさっき作り上げた『エグゼイドロックシード』を取って火縄名冥DJ銃にロック。

 

 《ロック・オン!一・十・百・千・万・億・兆!無量大数!!》

 

 銃口にエネルギーを充填した火縄名冥DJ銃を超ゲムデウスに向ける。そしてーー

 

 「箒、カンナ、回避だ!」

 

 《エグゼイドチャージ!》

 

 俺がそう叫び二人が超ゲムデウスから距離を取ったところに、トリガーを引いて膨大なエネルギー弾を放った。巨大な球体となったエネルギーは周囲に衝撃波を飛ばしながら突き進み、超ゲムデウスの体にヒットして大爆発。さらに何処から出てきたのか、アリスが歪な剣を構えて超ゲムデウスに突進し、その体に大きく深く傷を付けた。あいつ毎回何処で傍観してるんだ?

 

 超ゲムデウス「グ、オオオオ……!」

 

 超ゲムデウスは予想外のダメージだったのか、苦しそうにもがいている。ダメージは通っているようだが、まだ足りなさそうだ。ならもう一度、強烈な一撃を与えてやろう。俺は腰に提げた無双セイバーを抜き、火縄名冥DJ銃と合体させて『火縄名冥DJ銃 大剣モード』にした。そして再びエグゼイドロックシードをロック。

 

 《ロック・オン!一・十・百・千・万・億・兆!無量大数!!》

 

 《エグゼイドチャージ!》

 

 そして大剣を豪快に振るってエネルギーの斬撃を飛ばし、超ゲムデウスを斬り裂いた。体を斬り裂かれた超ゲムデウスはバランスを崩し、地面に転落。なんとか立ち上がるも、龍のような両腕を動かすだけで精一杯の様子だ。

 

 超ゲムデウス「オ、オノレェェェェ……!!」

 「お前の弱さがよく分かっただろ?さぁて、お片付けと行こうか。合わせろ、箒、カンナ、アリス」

 箒「ああ!」

 カンナ「これで終わらせましょう!」

 アリス「……命令されるまでもない。行くぞ」

 

 《ガッチョーン ウラワザ!》

 

 《ガッチャーン!Ancient Future Critical Volcano!!》

 

 《ソイヤッ!ゼロスカッシュ!》

 

 《ハイー!シャインマスカットスカッシュ!》

 

 俺と箒はカッティングブレードでロックシードを一回切り、カンナはゲーマドライバーのレバーを閉じて再び開く。アリスは歪な剣と禍々しい槍を取り出して構える。俺達三人は同時に跳躍し、アリスは呼び出した槍を超ゲムデウスに向けて投擲した。超ゲムデウスは両腕で防ごうとするが、アリスはそれよりも早く行動を起こしていた。

 

 超ゲムデウス「ーーア?」

 

 超ゲムデウスでも視認出来ない速さで接近し、その両腕を斬り落としたのだ。そして超ゲムデウスがそれに気づいた時には、既に槍はその体に突き刺さっていた。あまりのスピードに、超ゲムデウスは一瞬何が起こったのか思考を巡らせているようだが、それが仇だ。俺達三人は両足で飛び蹴りを放った。超ゲムデウスはなんとかしようとするが、腕はアリスに斬り落とされ、下半身は動かせないのでは最早抵抗すら不可能だった。俺達のキックは超ゲムデウスの体を貫き、大きな穴を空けた。そして優雅に着地し、俺達はそれぞれの拳を突き合わせた。

 

 超ゲムデウス「グォォォォォォォォォォ!?」

 イチカ「何故だ……何故だ何故だ何故だ!!俺は最強のバグスターの筈なのにッ!!何故こんな無能共に負けたんだッ!!」

 

 超ゲムデウスの巨大な体は、次々と誘爆し、最終的に大爆発を起こした。そして爆発が止まると、俺の頭上から何かが降ってきて、頭に当たった。拾い上げると、それはイチカが行動するための媒体として使われていたブルーベリーロックシードだった。

 

 「……イチカ。お前は何処の世界にもいてはならない存在だ。だから……天に堕ちて、相応の裁きを受けてこい」

 

 そう呟いて、俺はそのブルーベリーロックシードを握り潰した。粉々になったブルーベリーロックシードが、俺の手からこぼれ落ちる。

 

 「……これで、終わった。なぁ、クロト……俺達、少しはお前の役に立てたか?」

 

 異世界の住人ーー神童クロトとシンフォギア達に思いを馳せ、俺は空に向かってそう呟く。

 

 

 こうして、俺が予期せず持ってきてしまった災厄との激闘は、一応の終焉を告げたのだったーー。

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第67話 重キ代償


 また5000字だよ畜生メェ!ああもう、どうしても長くなるな……頑張ろ。

 じゃ、始まります。




 

 「……う、ううん……」

 

 俺が目を覚ました時、俺の近くには一夏さんと千冬さん、それにスコールさん達が倒れていた。重く感じる体をゆっくりと起こして周囲を見回すと、何やら緑色のドームのようなもので周囲が囲われていた。しかも気づけば、あれだけダメージを受けた筈の体の傷が治っている。

 

 「一体これは……?何が起きてるんだ?」

 

 訳も分からずキョロキョロしていると、そのドームがゆっくりと消え始めた。ドームはやがて完全に消え失せ、周囲の景色がようやく見えるようになった。辺りは戦闘によって出来たのであろう傷痕が生々しく残り、所々煙が上っている。

 

 「う……うう……」

 

 うめき声に気づいて後ろを向くと、一夏さん達が次々と目を覚まし、起き上がってきた。良かった、皆も無事だったんだな。

 

 一夏「夜、月……?」

 「一夏さん、大丈夫ですか?」

 一夏「これくらい何て事……いてて」

 

 痛そうに肩を押さえる一夏さんを支え、その場に寝かせる。傷が見当たらないとは言え、完全に怪我が治ってる訳じゃないだろうから、今は一先ず安静にしてもらわないと。

 

 千冬「夜月、お前は大丈夫なのか……?牙也達は……?」

 「いえ、俺もさっき目を覚ましたばかりなんで……」

 スコール「うう……酷い目に遭ったわね」

 ザック「ハッハッハァ……皆ボロボロだなぁ……!」

 ゼロ「全く……私以上にとんでもない悪党だったわね」

 

 千冬さん達も起き上がってきて、それぞれ思い思いに言葉を交わす。と、

 

 牙也「おーい!皆無事か!?」

 

 向こうから牙也さん達が走ってきた。あれ?なんか一人増えてね?鈴さんよりも気持ち背が低いくらいの白い髪の女の子がいる。

 

 ザック「おう、牙也か……奴はどうしたよ?」

 牙也「心配すんな、さっき無事に撃破したぜ。これで一応は大丈夫だ」

 千冬「倒せたのか、良かった」

 スコール「なんか、今回不甲斐ないわね私達」

 アリス「……仕方のない事だ。お前達ではまだ役不足だったのだからな」

 ゼロ「ぐぬぬ……言い返せないのが悔しい……」

 

 ゼロがなんか悔しそうにしている。まあ皆良いとこなしだったし、仕方ないのかな……

 

 牙也「取り敢えず治療からか、カンナ?」

 カンナ「そうですね。箒様は束様にお電話を繋いで、事情を話して担架を複数持ってきて下さるようお願いして下さい。他の方で怪我が比較的浅い方は、重傷者を運ぶのを手伝って下さい」

 

 カンナと呼ばれた女の子が的確に指示を出していく。あんな小さな子が的確に指示を出してる……凄いな。

 

 数分後、箒さんから連絡を受けた束さん達が合流し、負傷者を次々と医務室に運んでいく。俺も怪我がそれなりに酷かったので、担架に乗せられて運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、重傷者はベッドの方に行ってー、軽傷者はこっちな」

 

 医務室に着くなり、急いで治療を開始する。重傷者は束さんと晴岡先生が中心になって治療を急いでいる。何せ今回は教員部隊に重傷者が多い。黒影トルーパーは元々スペックの低いマツボックリを使うから、防御力は他のロックシードより低め。大ダメージを受ければ、それだけ体に来る負担もデカイからな。今後はエナジーの方のマツボックリの導入も検討するかな……ともかく今は、負傷者の治療を終わらせよう。俺はカンナを手伝って軽傷者の治療を行う。軽傷なら俺やカンナの治癒能力だけでもなんとかなるしな。問題は、今回の一件で大きなダメージを受けた教員部隊や亡国戦闘員達だ。トラウマが植わってなければ良いんだが……

 

 鈴「一夏ッ!!」

 一夏「ん?ああ、鈴kーーゴフッ!?」

 

 突然大きな音を立てて医務室のドアが開き、鈴が飛び込んできた。鈴は椅子に座って治療を受けている一夏を見つけるなり、勢い良く一夏にダイブした。当の一夏は、ダイブの勢いで椅子から転げ落ちる。おい鈴、一夏は一応怪我人なんだからな……?女性陣は「あらあら」といった顔で苦笑い。

 

 鈴「良かった……!一夏が大怪我したって聞いて、いてもたってもいられなくて……!」

 一夏「ははは、大丈夫だってこれくらいーーいてて」

 

 大丈夫アピールをしようとしたが、痛みで肩を押さえる一夏。鈴はそれを見るなり、優しく一夏の肩を擦ってあげていた。

 

 雅樹「それよりも牙也さん達は大丈夫なんですか?剣が思い切り心臓に突き刺さってたでしょ?」

 カンナ「ご心配なく。私が治療致しましたので」

 

 夜月が俺達の怪我を心配してそう聞いてきたが、カンナがそう言って夜月に治癒能力を施す。

 

 カンナ「それで牙也様。確かこちらの夜月様は、別世界から来られたという事で間違いないのですか?」

 「ああ。クラックに吸い込まれてここに来たんだと」

 カンナ「そうですか……そちらに立っておられるアリス様もですか?」

 アリス「……まあな」

 

 カンナの質問にアリスは素っ気なく返す。

 

 カンナ「なるほど……それでしたらお二方、私が元の世界までお送り致しましょうか?」

 雅樹「え、良いんですか!?ありがとうございます、是非お願いします!」

 アリス「……頼む」

 カンナ「お任せ下さい、主の元へ帰る道中、お二人の世界に寄りますので」

 スコール「帰る?」

 

 スコールがカンナの言葉に引っ掛かりを覚えたのか、カンナにそう聞いた。カンナは「はい」と頷いて続けた。

 

 カンナ「私が本来お仕えしている主が、これ以上の介入をせぬよう申されまして……私はこの度、元の世界に帰らなくてはならなくなりました」

 千冬「そうか……私としては、もう少しここにいてほしかったのだがな」

 カンナ「申し訳ありません、これ以上力になれず……」

 「仕方ねぇさ、主の命令だってんなら尚更だ。後の事は俺達でなんとかするさ」

 カンナ「はい。牙也様、箒様、そして皆様方。私がいなくなってからの事、よろしくお願い致します」

 

 カンナはそう言って頭を下げる。これからは、カンナの手は借りず俺達だけでヘルヘイムの騒ぎを収めなければいけない。一層奮起しなくちゃな……

 

 箒「……!牙也、すまないが一旦席を外す。ここは頼むぞ」

 「はいよ」

 

 すると何に気づいたのか、箒が医務室を出ていった。慌てているようにも見える箒のその髪をチラッと見た時、俺は箒の異変にすぐに気づいた。

 

 「あの髪の色……副作用がもう現れたのか……?」

 

 ほんの少しだが、箒の髪が白くなっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は急いでトイレに駆け込み、自分の髪を鏡で見た。自分でも惚れ惚れするくらいだった黒髪が、ゆっくりとだが白く変色を始めていた。さらに私の両目も、蒼と緑のオッドアイになりつつあるのが分かる。この変色はもう止められないだろう……そうだと理解した。すると、ポケットから淡い光が漏れているのに気づいた。その原因たる光るロックシードをポケットから取り出して見つめる。

 

 「『神のロックシード』か……アダムとイブの話をちょっとだけ姉さんから聞いた事はあったが、禁断の果実とはここまで人を変えてしまう代物なのか……」

 

 自分がゆっくりと変わっていってしまうその光景を鏡を通して見ながら、私は自分の体の変化を直に感じていた。しかし、怖くはなかった。自分が変わっていってしまう事への恐怖を感じなかった。何故だろうか?

 そんな事を考えている内に、私の顔の外見はすっかり様変わりした。髪はすっかり白く染まり、目は右目が蒼、左目が緑というオッドアイになった。最早普通に見ては私が篠ノ之箒だとは気づけないだろう。

 

 ??「篠ノ之……さん?」

 

 後ろから微かに聞こえた声に振り向くと、簪がそこにいた。避難していた皆が少しずつ戻ってきているのか。

 

 簪「そ、その髪……どうしたの?あんなに綺麗な黒髪だったのに……それに、目も……」

 

 私の外見の大きな変化に驚きを隠せない簪。私は「ちょっと訳有りでな」と言って、簪には後で自分から皆に話す事を告げた。簪は何処か納得していないようだったが、「……分かった」と言って戻っていった。やれやれ、事情を説明するのが面倒だな……そんな事を考えながら、私も医務室に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし、これで全員の治療はできたな」

 

 最後の怪我人の治療を終え、俺は一息つく。箒が席を外してからは、教員部隊や亡国戦闘員の皆さんの治療を行いながら彼女らに今回の事を謝罪していたが、誰も俺達の事を責めはしなかった。むしろ「今回の件で、自分の弱さを思い知った」というような意見が多く、「これからも宜しくね」とも言われた。信頼されてるのかな……今まであまり実感は無かったけど、今になって実感が沸いてきた。

 とは申せ、いつまでもこの戦いを長引かせる訳にもいかない。いずれはこの戦いを収めて、ドライバーとロックシードは全てヘルヘイムの森で管理しておかなくてはいけなくなる。何故って?元々これらは、あってはならない物だからさ。この世界は本来ISで成り立ってるから、異端たるアーマードライダーの力がいつまでもあってはならない。少しでも早く、この戦いを収束に向かわせないと。その為には……

 

 ゼロ「あら、どうしたの?」

 「……いや、別に」

 

 一瞬だけ隣にいるゼロを見て、すぐに目線を戻す。いずれはゼロをーー母さんを倒さないといけない。この手で、この力でーー。

 

 箒「すみません、戻りました」

 束「あ、お帰り箒……ちゃん?」

 

 そこへ箒が戻ってきた。しかしその顔は大きく変わってしまっていた。あの美しい程に黒かった髪は白く変色し、目は蒼と緑のオッドアイになっている。あまりにも変わり果てた顔になった箒に皆は驚きを隠せずにいる。

 

 ゼロ「あ、あら?えっと……箒ちゃんで、合ってるのよね?」

 箒「はい」

 千冬「牙也!これはどういう事だ!?」

 束「箒ちゃん、一体何があったの!?」

 

 千冬さんに掴み掛かられるが、俺は何も言えなかった。代わりに当事者の箒が全てを話した。二人揃って気を失っている間に、精神世界の中でカンナの主に会った事、箒が持つオーバーロードに酷似した能力を治す方法として、禁断の果実の力の一端であるシャインマスカットの力が必要だと知らされた事、その代償として箒は不老不死になってしまう事、箒はもしもの時は皆が止めてくれるのを信じ、その力を自分から受け取って使用した事。事情を聞き、皆は唖然としていた。

 

 箒「私の顔がこのように変化したのは、その副作用の一つだと思います。何せ『神のロックシード』を自らの意思で使ったんですから」

 束「箒ちゃん……」

 箒「天罰を受けたんですよ……神様の私物を勝手に使って、怒られない訳ないですし」

 スコール「……後悔は?」

 箒「してません。私が決めた事ですから、後悔なんてしませんよ。それに、牙也も共犯で罰を受けたから……そうだろ?」

 「ああ。俺自身の闇をその一身に纏い続ける。それが俺への罰だ」

 

 懐からゼロロックシードを出して、俺はそう呟く。

 

 「俺は他人を心から信じていなかった。全て己の手で解決しようとし、心の内を晒さなかった。その結果がこれさ……馬鹿だよな、俺……一番先頭に立って戦ってる奴が、皆を導くような存在だった俺が、皆をきちんと信じていなかった事に今の今まで気づかなかったとはね……」

 

 俺は自嘲気味にそう呟いた。思わず溜め息が零れる。

 

 ゼロ「でも、それに気づけたのなら良かったんじゃないの?」

 「……あ?」

 ゼロ「他人から教えてもらったとは言え、自分に何が足りないか分かったんでしょ?それならそれで万々歳じゃないの。はっきり理解出来たのなら、そこから挽回する事だって不可能じゃないわ、そうでしょ?」

 

 うーん、確かに……てかゼロはさ、敵に塩送ってるの気づいてないのか?

 

 ゼロ「自分の事がちゃんと分かったのなら、そこから直していきなさいな。それでこそ私の子よ」

 「……今は敵同士だろうに」

 ゼロ「あら失礼、ふふ……それじゃ私は失礼するわね」

 束「もう行くんですか?」

 ゼロ「ええ。奴を倒したから同盟を続ける意味は無くなったし、これ以上塩は送れないわよ」

 

 ゼロはそう言って立ち上がる。と、何か思い出したかのように俺に顔を近づけてきた。何、「ちょっと耳を」だと?渋々耳を近づけると、

 

 

 

 

 ゼロ「ーーーーーー」チュッ

 

 

 

 

 ……あ?

 

 ゼロ「ふふ……それじゃあね、IS学園と亡国企業の皆さん」

 

 ゼロはクラックを開くと、ささっと去っていった。おかしいな、今額から変な音がーーってまさか……?

 

 スコール「あらあら、敵の筈の母親からキスなんて貰っちゃって……ふふ」

 箒「牙也……?」ユラァッ

 

 箒がハイライトオフの状態ですり寄ってくる。

 

 「……後でな、箒」

 

 今はもうこうとしか言えねぇ……複雑な思いを抱えながら、俺はすり寄ってくる箒をあやしつつも、頭も抱えるしかなかった。けどそれ以上に気になったのは、ゼロの一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ『葬送の地へ行きなさいーー私達が眠るその地へ行きなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回でこの章は最後ですかね。そろそろこの小説も終わりになるかな……(ネタ切れ気味なので)?



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第68話 別レ/全テハ芝居


 始まります。




 

 次の日。

 

 牙也「……もう行っちまうのか」

 カンナ「出来る限り早く戻るように、と言われていましたから」

 

 第二アリーナには、牙也を始めとしたいつものメンバーが揃っていた。牙也と話しているカンナの後ろには、牙也達が異世界を旅する際に使った闇を吐き出すクラックが口を開けていた。カンナはこれからここに入り、夜月の世界とアリスの世界を経由して主の元へ戻るのだ。

 

 雅樹「いや~、最初はどうなる事かと思ったけど、帰れる手段があって助かったよ。ありがとうね、カンナちゃん」

 カンナ「お気になさらず。ところでアリス様はどちらに……?」

 

 カンナの言葉に牙也達が辺りを見回すが、確かにアリスの姿が見えない。

 

 アリス「……待たせたな」

 セシリア「お、お待たせ致しました~!」

 

 と、ようやくアリスがセシリアを伴って合流した。その背中には、巨大な袋が背負われている。

 

 束「あれ、アリスちゃん、その袋は?」

 セシリア「中身は全てアリスさんの人形ですわ。アリスさんがここに来る際、一緒に来てしまったのだとか」

 スコール「凄い沢山あるのね……プレゼント入れた袋を背負ってるサンタクロースみたいだわ」

 セシリア「私はトナカイではありませんわよ!?」

 牙也「誰もそんな事言ってねぇよ……」アキレ

 

 牙也のツッコミはさておき、

 

 カンナ「お揃いになりましたね。それでは皆様、大変お世話になりました。またいつかお会い致しましょう」

 雅樹「良かったら今度はこっちの世界にでも遊びに来て下さいね!」

 牙也「その時はそっちの世界の『デュプリゲーム』とやらを教えてくれよな!」

 箒「カンナも元気で!」

 アリス「……」

 

 皆が思い思いに言葉を交わす中、アリスだけは黙っていた。それを見て、セシリアがアリスに声を掛ける。

 

 セシリア「またいつでもいらして下さいね。その時は、アリスさんのお人形の数々を見てみたいですわ」

 

 そう言ってセシリアが右手を差し出す。と、アリスはその手を掴んで、

 

 アリス「……あ、ありが、とう。私の人形、直して、くれて」

 セシリア「!?」ズキューン

 

 恥ずかしいのか俯きながらボソッと言う。

 

 セシリア「ああもう可愛過ぎますわアリスさんは!!この私を萌え殺すおつもりで!?」ギュムーッ

 アリス「く、苦しい……!は、離せ……!」ジタバタ

 箒「おいオルコット、アリスが窒息するからそれくらいにしておけ。それに早く行かないと三人共帰れなくなる」

 セシリア「あっ……と、そうでしたわね。名残惜しいですが、また次の機会にでも」パッ

 アリス(次が無い事を祈るか……)ハイライトオフ

 

 ようやくセシリアから解放されたアリスは、人形の入った袋を背負い直し、クラックへと近寄っていく。

 

 アリス「……また、な」

 

 そう一言だけ言い残し、アリスはクラックに入っていった。それを追って夜月も手を振りながらクラックに入る。続いてカンナがクラックに入ろうとした時、ふとカンナが足を止めて牙也に駆け寄った。

 

 カンナ「牙也様、ちょっとお耳を……」

 牙也「?どした?」

 

 牙也が首を傾げながら耳を貸すと、

 

 カンナ「……最後に、牙也様だけには、私が何者なのか話しておこうかと思いまして」

 牙也「カンナの正体?」

 カンナ「はい。私カンナはーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンナが耳打ちすると、牙也は驚いたような顔をしてカンナを見た。箒達が何の事なのか首を傾げているのを尻目に、カンナは「えへへ」と笑顔を見せながら牙也の頬にそっとキスをした。そしてほんのり顔を赤らめながら牙也の元を離れ、クラックへと入る。そして振り向いて一言、

 

 カンナ「それでは……また機会がありましたら、主と共に来させていただきますね」

 箒「その時は沢山お礼させてもらうぞ」

 

 カンナが一礼すると、ゆっくりとクラックが閉じていく。アリスはそっと目を背け、夜月はクラックが閉じる直前まで手を振り、カンナはクラックが閉じる直前にまた笑顔を見せーークラックは完全に閉じていった。

 

 一夏「……行っちまったな」

 箒「そうだな……寂しくなるな」

 千冬「だがこれからは、カンナの力を借りず私達だけで何とかしなくてはならない。皆、一層頑張らねばな」

 スコール「そうね、それじゃあまずは全体的な強化からかしら?」

 

 鈴「あたし達も強くならなきゃね。牙也達ばかりに活躍なんてさせないわよ」

 ラウラ「ああ、その通りだ。ただただ守られてばかりでは、私達の気が済まん」

 簪「……強くなる。これからも」

 楯無「ふふ、負けてられないわね。お姉さんも頑張っちゃおうかしら」

 

 皆が思い思いに言葉を交わす中、牙也だけは先程までクラックが開いていた場所をじっと見つめていた。それに気づいたシャルロットが牙也に声を掛ける。

 

 シャルロット「どうかしたんですか、牙也さん?」

 牙也「ん?ああ、シャルか。ちょっとな」

 

 牙也は去り際にカンナが耳打ちした事を思い返していた。

 

 牙也(……次会う時は、幼い頃ってか?全く……だが、これでカンナが何者なのか、何故ゲーマドライバーとガシャットとガシャコンバグヴァイザーを使えたのか、ようやく分かったな)

 

 牙也は曇り無き青空に目を向けながら、いずれまた出会うであろうカンナに思いを馳せた。

 

 牙也(それじゃ、また会おうぜーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バグスター、カグラ)

 

 

 

 カンナが去り際に話したのは、自身の出生についてだった。

 

 

 

 

 カンナ「私カンナはーー牙也様、貴方から生まれたバグスターであり、本名は『カグラ』またの名を『仮面ライダーカンナ』と言います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ「あったあった。束ちゃんがお墓を移したって聞いて、急いで探させた甲斐があったわね」

 

 一方ゼロは、束が以前新しく移し替えた牙也の家族の墓ーー実際は父親と妹のだがーーを訪れていた。手に持った小さめの花束を供え、墓に手を合わせる。そしてゼロは、懐から何かを取り出して墓に置いた。それはロックシードのようであったが形が鍵のようで、無色透明であった。

 

 ゼロ「ふう……これで私の役目はおしまいね。後は……」

 

 そこまで言って、ゼロは後ろを振り返る。そこには、黒いローブに身を包んだ人物が立っていた。

 

 ゼロ「私を殺して、黄金の果実を奪いに来たの?そう……奪ってみなさいな、貴方自身の力で」

 

 ゼロは『仮面ライダーマルス ゴールデンエナジーアームズ』に変身し、黒いローブの人物に攻撃し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を、木の陰から二人の人物が見つめていた。

 

 ??「黄金の果実、そして禁断の果実……パーツは揃いつつあるな」

 ??「パパ……」

 

 40代くらいの中年の男性と、10代くらいの少女。二人はゼロと黒いローブの人物が戦う様子をじっと眺めていた。

 

 男性「お芝居もこれで終幕になる……ゼローーいや、茜。君は私が頼んだ苦しい仕事を、よくぞ無事に成し遂げてくれたね。感謝してもしきれないよ」

 少女「パパ……これからどうなるの?」

 男性「ふふ……すぐに分かるさ。すぐに、ね。さ、早く行きなさい。お前には最後の役目があるだろう?」

 少女「うぅ……一人で大丈夫かな……?お姉ちゃん、怒ったり、しないかな……?」

 男性「大丈夫、あの子なら笑って許してくれるさ。何せ我が息子の自慢の嫁だからね。さぁ、これを持って早くお姉ちゃんの所に行きなさい」

 

 男性はそう言って、自分の胸に左手を当てた。そこから淡い光が溢れだしたかと思うと、その左手には一部が食べられたかのように欠けた果実が握られていた。男性はそれを少女に差し出す。

 

 少女「う、うん……じゃあ、行ってくる」

 男性「行ってらっしゃい」

 

 少女はそれを受け取り男性に向かって小さく頷くと、粒子となって消えた。それを見送り、男性はゼロと黒いローブの人物の戦いに目を向ける。そこにはーー

 

 

 

 ゼロ「ああ……終わっちゃったのね……私」

 

 

 

 瀕死の重傷を負ったゼロが変身解除された姿で倒れていた。使っていたゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードは黒いローブの人物によって持ち去られたのか、陰も形もない。男性はそれを見てゆっくりとゼロに近づく。それに気づいたゼロは、僅かに動く顔をその男性に向けた。

 

 ゼロ「あ、あら……見てたなら、止めてよね……」

 男性「何言ってんだ、結果は知ってただろ?」

 ゼロ「それは、そうだけど……まあ、良いわ……私の仕事は、もう終わった、から……」

 男性「そうだな……後の事は私に任せて、お前はゆっくり休め。お疲れ様、よく頑張ってくれたな」

 ゼロ「そう、ね……それじゃあ、後の事、よろしくお願いするわね……あなた」

 

 ゼロはその言葉に弱々しく微笑み、やがてその体は粒子となって消えていった。その粒子は男性の体へと吸収されていく。全て吸収し終えて、男性は一息ついた。

 

 男性「さぁ……あと少しだ。私はここでゆっくりと待つとしよう」

 

 男性は墓の近くに腰掛ける。ふと墓を見ると、さっきゼロが置いていった筈の鍵の形をしたロックシードが無くなっていた。恐らく黒いローブの人物が、ゼロとの戦いの後で奪い去ったのだろう。

 

 男性「やはり奪われたか……フン、まあ良い。どうせ奴には使えん代物だ……」

 

 男性はそう言ってある方角を見つめる。その目線の先には、小さくだがIS学園が見えていた。男性はおもむろに自分の胸に右手を当てた。そこから金色の光が溢れだしたかと思うと、その右手には金色に光り輝くリンゴーー黄金の果実が握られていた。しかしその果実は、そのほとんどが削り取られたかのように無くなっている。

 

 男性「終演まで、あと少し……せいぜい最後まで私の手の内で踊っていてもらおうか、織斑春輝……いやーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウガネ」

 

 

 

 

 





 という事で、本編&コラボ章はおしまいです。カイト・レインさん、三日月オーガムさん、武神鎧武さん、ありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします。

 今後ですが、少し裏の章を書いていきます。ここではコラボ章の間に、元の世界の裏で起こっていた出来事をある人物視点から執筆します。時系列で言うと、学園祭後、牙也達三人が異世界に渡ってから~この話までの間です。

 これからも『IS×仮面ライダー 紫の世捨て人』をよろしくお願いします。では、また次の話にてーー。



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裏話 脈動ノ暗黒(ダークネス)
裏話 胎動スル悪意



 裏話です。牙也達三人が異世界を旅している間の物語で、一話一話は短いです。




 

 ??「ああくそっ!!気に入らない気に入らない気に入らない!!」

 

 とある拘置所。そこにある独房の一つから、怒気を含んだ大声が響き渡る。

 

 ??「何故だ……何故だ何故だ何故だ!?何故俺の思い通りにならない……!?何故神童と呼ばれた俺が、こんな目に合わなければならないんだ!?」

 監守「囚人番号96!!静かにせんか!!また懲罰室に入れられたいか!?」

 

 監守の大声も後から響き渡るが、当の声の主は聞く耳持たず。相変わらずギャンギャン悪口を吠えている。

 

 ??「許さない……絶対に許さない!雷牙也……篠ノ之箒……!今に見ていろ……俺はお前達をも越える力を手に入れ、お前達を完膚無きまでに叩き潰してやる……!そしてそのふざけた頭を、俺の手で粉々に砕いてやる……!」

 

 牙也と箒に対し強い憎しみをぶつけるこの男ーー名を、『中沢春輝』と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 少し過去の話をしよう。

 

 この男、生まれはかのブリュンヒルデの血筋であり、幼い頃から『神童』と周囲から揶揄される程に頭が回り、そして運動神経も抜群に高かった。人々は彼を崇め、更に期待を寄せるようになった。

 その男には兄が一人いた。この兄は男程ではないが人並みよりやや上くらいの頭と運動神経を持っていた。人々は弟である彼を例に挙げて、その兄に期待を寄せた。しかし、兄は弟に追い付く事は出来なかった。兄が強くなれば、弟もまた強くなる。ある意味世の常かもしれないが、それだけ二人の成長力は凄まじかったとも言えよう。つまり、兄はどんなに頑張っても弟には追い付けなかった、という事だ。

 人々はそれを見て、兄に更なる期待を寄せた。お前なら出来る、弟に出来た事が兄に出来ない筈はないーーそんな期待を。だが、それでも兄は弟を越えられなかった。そして日を追う毎に、人々の期待は侮蔑や嘲笑へと変わっていった。弟に出来た事が何故お前には出来ないのか、兄なのに出来ないなんて恥ずかしくないのかーー。そんな謂れのない中傷が兄を襲う。彼はそれを見て兄をせせら笑い、嘲った。そしてそれに乗じて兄を虐めに掛かった。兄に味方する者は、こうして一部を除いて誰もいなくなった。

 そして兄はある事件を契機に一般の生活から離れて、ISを製作した幼馴染みの姉と共に人目を忍んで暮らすようになり、彼の名声は更に高まった。その裏で彼は、名声とブリュンヒルデという後ろ楯を隠れ蓑に好き勝手し始めた。不良と手を組み金銭を要求したり、誰の目にも届かない所で女子を暴行したり、神童と呼ばれるにはあまりにも不相応な悪行を重ねていき、何時しか彼の周りには誰もいなくなっていた。しかしそれに気づかぬまま彼は成長していき、やがて彼は完全に変わってしまった。『神童』と呼ばれる所以だった頭脳は数々の悪行の為に使うようになり、神童としての面影は鳴りを潜めた。

 

 そんな風にして時間はあっという間に過ぎていき、そして彼はISを動かした。彼は突然の事に驚く反面大いに喜んだ。そして気づいた、自分は神に選ばれた者だ、ならばこの能力、神に近しい者として使うのが良いと。

 

 しかしその考えは、一つの出来事によって脆くも崩れ落ちた。

 

 『ヘルヘイムの森』より現れたインベスと言う怪物。そしてヘルヘイムの果実の力で戦う『アーマードライダー』と言う存在の登場。そして全てを知るアーマードライダーの青年、雷牙也。

 

 世界はIS委員会を通じてこの存在を一部の者達が知り、そして畏怖した、IS以上の恐怖がすぐ近くにあり、しかもISでは太刀打ち出来ない事を。彼は恨んだ、世界をねじ曲げた、そして姉をも変えてしまったヘルヘイムの森とアーマードライダーを。

 

 しかしここで、彼に名案が浮かんだ。ISで駄目ならば、アーマードライダーとして名声を高めていけばいいと。それなら一番性能が高い物が良い、神に選ばれた自分ならば、それくらいなければ釣り合わない。しかしそれを手に入れるチャンスはなかなか訪れなかった。一度牙也が使っている物を試したが、体に異常をきたして使いこなせなかった。ならばどうするか……

 

 そうして考えている内に、あるチャンスが訪れる。牙也達がとある人物の依頼でヘルヘイムの森に向かう事になったのだ。このチャンスを不意にしてはいけない、直感的にそう感じた彼は、こっそりヘルヘイムの森に忍び込んで戦極ドライバーの設計図をコピーして盗み、そのついでに牙也に報復という名目で重傷を負わせた。この後ボコボコにされたが、取り敢えずドライバーは手に入れた。

 

 しかし肝心な事を忘れていた。ヘルヘイムの果実が無い。戦極ドライバーが完成したところで、ヘルヘイムの果実ーーつまりロックシードが無ければそれは使えない。困った……

 

 考えに考え抜いた結果、彼は牙也が所持するロックシードを強奪する事にした。それなら手っ取り早いし、良い性能の物が簡単に手に入る。そしてそのチャンスは簡単に訪れた。

 

 臨海学校にて銀の福音が暴走し、しかもインベス化した事で、「IS関連については我関せず」という事で待機していた牙也達は出撃を余儀なくされた。その際自分がわざと勝手な出撃をして牙也を誘き寄せる事で、誰にも見られない状態からロックシードを強奪、そして牙也をこっそり処分する事に成功。しかし、思わぬ事でボロを出してしまい、ドライバーも盗んだロックシードもシュラに回収され、彼は殺人及び同未遂罪で牢に入れられる事となった。

 

 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、他ならぬゼロであった。彼女は彼の友人を装って彼と面会し、「貴方の頭脳と力が必要なの。乗ってみない?」と脱獄計画を提示した。それに乗った彼は、予定通り脱獄に成功し、ゼロからシュラのゲネシスドライバーとイーヴィルエナジーロックシードを受け取って、ゼロと共に学園を急襲。しかし、牙也の帰還と学園側の必死の抵抗、更に亡国企業の介入によってまたも捕らえられた彼は、またまた牢に放り込まれる事になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「許さない……俺をこんな目に合わせたあいつらが憎い……!力が欲しい……!あいつらを越える力が……!あいつらなんか簡単に蹴散らせるくらいの強大な力が……!」

 

 春輝は牢に入れられてからずっとこんな事ばかり口にしていた。そしてーー

 

 

 

 

 

 ??「……クク……!」

 

 

 

 

 自身の心の奥底から聞こえる不気味な笑い声に気づく事も出来なかった。

 

 

 

 





 次回もお楽しみに。



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裏話 目覚メノ時


 始まります。




 

 監守「囚人番号96!とっとと起きろ!起床時間はとうに過ぎているぞ!」

 春輝「……ちっ」

 

 監守のうるさい声に春輝は起こされた。いつものように番号確認を行い、全員で朝食を食べ、運動場で体を動かすかもしくは作業室で様々な物をひたすら作る。そんな毎日に春輝は飽きていた。

 

 春輝「あー、つまんねぇの。ったく、なんでこの俺がこんな地味な仕事をしなきゃいけねぇんだよ……面倒くさ」

 

 この日春輝は作業室で椅子の組み立て作業を行っていた。木を組みただひたすらに同じ形の椅子ばかり作る毎日。まあこうなったのも全て春輝の自業自得なのだが、春輝は日に日に牙也達への恨みを募らせていた。

 

 春輝「……なんとしてもここから抜け出して、あいつらに復讐しねぇと気が済まねぇ……が、まだなにも準備出来てないからな……」

 

 

 

 

 

 『……おい』

 

 

 

 

 春輝「……?」

 

 不意に聞こえた声に顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回すが、声の主であろう人物は見つからない。気のせいか、と思いそのまま作業を続けるーー

 

 

 

 

 

 

 『……おい。お前だよ、お前』

 

 

 春輝「!?」

 

 

 やはり声が聞こえる。春輝が耳を澄ますと、その声は自身の心の奥底から聞こえてくる。怪しまれないよう、作業を続けながらその声に耳を澄ます。

 

 春輝「……誰だ、お前は?」

 『俺か?俺はな……お前の憎悪そのものだ』

 春輝「俺の、憎悪?」

 『お前、復讐したいって思ってるよな?その復讐心、俺に預けてみないか?』

 春輝「なんだと……?お前に何が出来るってんだ?」

 『そうだな……お前が今憎んでる奴を簡単に殺せる、と言ったら?』

 

 声の主のその言葉を春輝が無視する筈もなく、

 

 春輝「ハハハハハ……良いだろう、俺の復讐心、存分に使え」

 『フッ……交渉成立だな。では少しの間準備をするから、それまで大人しく待っていろ。まずはこの生臭い監獄を出ねばならん』

 春輝「ああ、分かったよ」

 監守「囚人番号96!何をぶつぶつ言っている!?」

 春輝「ああ、すみません。ここがちょっと上手くいかなくて……」

 監守「何?ちょっと見せてみろ」

 

 監守を上手くごまかし、春輝は心の中でせせら笑いを浮かべた。いよいよ牙也達に復讐が出来る、そんな喜びを心に隠し、春輝は作業を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな単純作業を続けること、およそ二ヶ月経ったある日の夜。

 

 監守「……」

 

 いつものように監守が点呼の為に牢をチェックして回っていた時、何やら違和感を覚えた。いつもならブツブツ文句を垂れている春輝の声が、今日に限って全く聞こえないのだ。不審に思い春輝がいる独房を覗き込むと、既に寝ているのか春輝の後ろ姿らしきものがベッドにあった。

 

 監守「珍しいな、奴が黙ってさっさと寝るだなんて」

 

 不思議に思いながらも、この時はまだ「たまにはこんな時もある」というような考えでいた。監守は異常なしとしてそのまま独房から去っていく。

 

 

 

 

 春輝「……よし、行ったな」

 

 毛布にくるまっていた春輝が、遠ざかっていく足音を確認して顔を上げる。

 

 春輝「おい、約束通り脱獄の手段を教えてくれるんじゃないのか?」

 『フッ、まあそう急くな。焦らずともすぐに出してやる。俺の言う通りにすれば、必ずここから出る事が出来るからな。まずお前の右手を壁に付けろ』

 春輝「こうか?」

 

 ベッドから這い出た春輝は、言われた通りに右手を壁に付ける。

 

 『それで、そのままゆっくりと右手を下にずり下げていけ』

 春輝「こうか?」

 

 春輝ぎ壁に付けた手をゆっくり下にずり下げていくと、なんとその壁にクラックが開いた。

 

 春輝「こ、これは……!」

 『どうだ、凄いだろ?後はここを通り抜ければ脱獄は完了だ……』

 春輝「凄ぇ……!感謝するぜ!よし、すぐにここを通り抜けて……!」

 『む……?一旦クラックを閉じろ、どうやら監守が戻ってきたようだぞ』

 春輝「マジかよ……どうやって閉じれば良いんだ?」

 『さっきの逆だ。今度は下から上へやれば良い』

 春輝「こうか」

 

 春輝は急いでクラックを閉じると慌てて毛布にくるまった。少しして、カツカツと足音を立てながら監守が独房の前を通り過ぎていった。

 

 春輝「行ったか……?よし、今度こそ……!」

 

 春輝は手順通りにクラックを開き直し、誰も見ていない事をドアの小さな覗き窓から確認した上で、クラックの前に立った。

 

 春輝「はぁ~……ようやくあの地獄の日々からもおさらばか……!」

 『フッ、良かったではないか。では、これから行ってもらいたい場所がある』

 春輝「あ?んだよ、このままあいつらをぶっ殺しに行くんじゃないのかよ?」

 『そう急くな。奴を倒す為の力を手に入れるだけだ』

 春輝「へぇ……そう言う事なら、さっさと行こうぜ」

 

 そう言って春輝はクラックに飛び込んだ。クラックがゆっくりと閉じていき、やがて独房には誰もいなくなったーー。

 

 

 

 

 なお、この後に春輝の脱獄に監守が気づいたのは、朝の点呼の時間になる頃だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春輝「んで?これから何処に向かおうってんだ?」

 

 春輝がクラックを通って降り立ったのは、とある山中であった。木陰に腰を降ろし、声の主にそう聞く。

 

 『ん?ああ、この先にある墓さ……そこに、目的の奴がいる』

 春輝「へぇ……そうと決まれば、すぐに行こうぜ!」

 『ああ、そうだな……そうと決まればーー

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとお前の体を借りるぜ?』

 

 春輝「は?」

 

 と、春輝が糸が切れたかのように崩れ落ちた。がすぐに起き上がって、ある方向へと走っていった。

 

 『フフフ……さて、何処にあるかーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の果実、そして、禁断の果実は』

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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裏話 黒リンゴ


 始まります。




 

 ??『ククク……さぁて、獲物は何処だ……っと』

 

 春輝の体を乗っ取った存在(以後偽春輝)は、黒いフードを全身に被り、目的の場所へと歩を進めていた。この先にはとある人物の墓があり、偽春輝はそこにあるであろう目的の物を回収せんとしていた。

 

 偽春輝『あの女が持つ黄金の果実、そして何処かに必ずある禁断の果実さえあれば、私は完全な復活を果たす……!その時こそ、人間共は私の手によって最期を迎えるのだ……!』

 

 偽春輝は不気味な笑みを浮かべながら、目的地へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて偽春輝は、山中にポツンと建てられた墓にたどり着いた。そこには女性が一人墓に手を合わせている。偽春輝は気づかれないようこっそりと女性に近づいていく。と、

 

 ??「私を殺して、黄金の果実を奪いに来たの?」

 

 女性が立ち上がったかと思うと、見透かしていたかのような口調で言いながら振り向いた。

 

 偽春輝『ああその通りだ、ゼロ。お前の持つ、黄金の果実のロックシードを頂きに来た。ついでにお前の命もな』

 ゼロ「そう……奪ってみなさいな、貴方の力で」

 

 ゼロはそう言って一瞬で『仮面ライダーマルス ゴールデンエナジーアームズ』に変身すると、ソードブリンガーをアップルリフレクターから抜いて偽春輝に攻撃を仕掛けた。

 

 偽春輝『ハッ、甘ぇよ』

 

 それを偽春輝は何処からか黒い刀を出して防いだ。刀身が一房の真っ黒いオレンジのようで、そこから黒い瘴気が溢れ出している。

 

 ゼロ「『ダーク大橙丸』……やはり貴方は……」

 偽春輝『フン、今さら気づいて何になる?今から死ぬお前が』

 

 偽春輝はダーク大橙丸を振るって反撃に出る。ゼロはそれをアップルリフレクターで防ぐが、あまりの一撃の強さに衝撃までは相殺出来ず、後ろに仰け反る。それを見逃さず、偽春輝はアップルリフレクターを蹴飛ばしてゼロの左手から離れさせ、更にダーク大橙丸の斬撃でゼロを斬り裂いた。

 

 ゼロ「くううっ!」

 

 斬撃でゼロは吹き飛ばされるが、なんとか態勢を立て直し、

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 エナジーロックシードを一回搾って、斬撃を数回飛ばした。

 

 偽春輝『……甘いっつってんだろ』

 

 偽春輝が右手を翳すと、ソードブリンガーから飛ばされた斬撃が一瞬で真っ黒く染まり、斬撃がUターンしてゼロに向けて飛んでいく。

 

 ゼロ「っ!?斬撃が黒くなってーーきゃあああああああっ!?」

 

 Uターンで戻ってきた斬撃はゼロに直撃し、ゼロは吹き飛ばされ、ベルトとロックシードが外れて変身が解除された。

 

 ゼロ「くうっ……なん、で……」

 偽春輝『ハッ、分かってた筈だろ?どんなにお前が抗ったところで、こうなるだけってさ』

 

 偽春輝はそう言い捨てて、地面に転がったゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードを拾い上げる。

 

 偽春輝『こいつは頂いていく。じゃあな』

 

 そう言って、偽春輝はダーク大橙丸をゼロの心臓に突き刺した。

 

 ゼロ「コフッ……!」

 

 ゼロの心臓に深々と突き刺したダーク大橙丸を引き抜き、偽春輝はその場から去ろうとする。と、ふと墓に目を向けると、あの鍵のような形をしたロックシードが目に入った。

 

 偽春輝『へぇ……面白そうな物があるじゃないの。こいつも貰っていくぜ』

 

 偽春輝はそれを掴むと、不気味な笑みを浮かべながらクラックを開いて去っていった。

 

 さっさとその場から去ろうとするあまり、ゼロが最後に言っていた言葉を聞き逃した事に、偽春輝は最後まで気づかなかったが。クラックが閉じる直前、ゼロは偽春輝に向かってこう言っていた。

 

 

 

 

 ゼロ「……ふふ……馬鹿ね。全部芝居だと未だに知らずにいるわ……どこまで、馬鹿なのかしら……『ダークネス』って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの廃工場。そこにクラックが開いたかと思うと、中から偽春輝が出てきた。

 

 偽春輝『さて、これで終わりだ。こいつを解放するか』

 

 そう言うと偽春輝は春輝の体から離れ、春輝と同じ姿で実体化した。春輝の方は一瞬ふらついたかと思うと、すぐに意識を取り戻した。

 

 春輝「はっ!?俺は一体……それにここは……?」

 偽春輝『よぉ、目が覚めたか、俺』

 春輝「っ!?俺……だと!?」

 

 意識を取り戻した春輝は、目の前にいた自分とそっくりの人物に驚きを隠せない。一方偽春輝は「フン」と鼻を鳴らすと、懐に入れていたゲネシスドライバーとゴールデンエナジーロックシードを春輝に手渡した。よく見ると、ゴールデンエナジーロックシードの金メッキは、いくらか剥がれ欠けていた。

 

 春輝「おお……これが、お前が言っていた物……!遂に俺の物に……!」

 偽春輝『馬鹿、俺のじゃない。俺達の、だ』

 春輝「っと、そうだったな……これさえあれば、俺もお前もあいつらを越えられる……!」

 偽春輝『ああ、その通りだ。まぁこれだけではお前は物足りないだろうから、更にもう一つ力をやろう』

 

 偽春輝はそう言うと、廃工場の広いスペースから大量の蔦を伸ばした。蔦は少しずつ絡まって人形を模していき、やがて蔦が枯れてボロボロと崩れ落ちると、そこには緑や紅が特徴的な怪物が沢山現れた。

 

 偽春輝『これだけいれば大丈夫だろ。右からデェムシュ、レデュエ、デュデュオンシュ、グリンシャ、シンムグルンだ』

 春輝「す、凄ぇ……!こいつらオーバーロードか!?」

 偽春輝『ああそうだ。さぁ行くぞ、お前のその力を、あいつらに存分にぶつけにな!!』

 春輝「おう!絶対にあいつらを倒してやるぜ!変身!!」

 

 《ダークネスエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 《黒!ダークネスエナジーアームズ!黄金の果実!!》

 

 頭上のクラックから現れた真っ黒いリンゴを被り、春輝が変身したのはーー

 

 

 

 

 春輝「ハハハハハハハハハ!!これだ!これこそが、神に選ばれた者の姿だァッ!!」

 

 

 

 

 『邪』という文字を模したフェイスが特徴的なアーマードライダーであった。春輝が狂ったような笑い声を廃工場に響かせる中、偽春輝は満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 偽春輝『(ククク……後はこいつをこのまま暴走させて弱ったところで体を乗っ取れば良い。順調だぁ……順調過ぎて怖いくらいだ……この私が復活するのも、最早時間の問題よ……!)』

 

 

 

 

 

 

 





 これで裏話はおしまい。

 そろそろ最終章に入っていきますので、皆さん最後までよろしくお願いします。それではまた次回ーー。



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最終章 ヘルヘイムノ統率者
第69話 悲シミノデート



 最終章、始まります。




 

 箒「デートに行くぞ、牙也!」

 牙也「唐突だな」

 

 今日は土曜日。そして今の時刻は朝6時ちょうど。いつも通りの時刻に起きた牙也は、いつものように朝練を終えた箒から唐突にデートに誘われた。

 

 牙也「デートに行くのは構わんけどさ、当てはあるのか?」

 箒「ん?まあ鈴達から色々アドバイスを貰ってる。それに以前ラジオに出た時にシャルロットから色々聞いたからな」

 牙也「ラジオ……ああ、あれか。てか向こうのシャルロットにそんな事聞いてたのか」

 箒「う、うむ……牙也と共に沢山楽しめたら、と思ってな////」カァ

 

 箒は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら言う。すると牙也は箒の腕を掴んで引き寄せ、優しく抱き締めた。

 

 箒「き、牙也?////」

 牙也「……ごめん、しばらくこうさせて。今凄く箒が愛おしく思えてな」

 箒「っ!?////……ふふ……そうかそうか……私の事をそんなに……って、こんな事していると時間が……!」アタフタ

 牙也「嫌か?」ボソッ

 箒「!?////」ビクッ

 

 耳元でボソリと一言。それだけで箒は顔を更に真っ赤にしながら牙也の胸に顔を埋める。

 

 箒「あ、朝御飯の時間までだぞ?♡////」

 牙也「ん♪」ナデナデ

 

 その後約束通り朝御飯の時間までこの態勢のまま過ごしたのだが、長時間抱き締められた上に撫でられ続けていたせいで、箒の顔はしばらく蕩けっぱなしになり、朝御飯の為に食堂に向かうと鈴達に散々に弄られたとか。ちなみにこの時の箒の事を、後に鈴はこう話したという。

 

 鈴「いつになく締まりのない顔だったから驚いたしよく覚えてるわよ……てかよく考えたら、一夏に抱き締められてる時のあたしも、もしかしたらあんな感じだったのかしら……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前10時。学園と本州を結ぶ電車に揺られて本州に上陸し、牙也と箒は取り敢えず駅周辺をぶらぶら歩いていた。

 

 箒「なあ牙也、何処か行きたい場所とかあるか?今日は私が奢ってやろう」

 牙也「奢るって……それは流石に箒に悪いよ。それに何処か行きたい場所と言われてもねぇ……箒と一緒なら何処へ行っても楽しいし嬉しいからーーってやばっ」

 箒「ば、馬鹿者////そんな事を簡単に言うものではないぞ……馬鹿////」

 牙也「あ、あはは……////ごめんごめん、それなら一つ行きたい場所があるんだけど」

 箒「何処だ?」

 牙也「ボウリング場!」

 箒「ボウリングか……私も最近ほとんどやってないな。よし、では行くか!」

 牙也「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 ROUN○1ーー。

 

 牙也「っしゃあ!思い切り転がしてピンをなぎ倒すぜ!」

 箒「なぎ倒すって……」ニガワライ

 牙也「てな訳で、第一投!」

 

 牙也が元気良く投げた球はーー

 

 

 

 ガコンッ

 

 

 

 ガーターにin。

 箒「おい牙也。いきなりガーターとはどういう事だ?流石にこれは格好悪いぞ」

 牙也「言うな……俺だって分かってるんだよ、格好悪いってさ……さっき元気良く投げたのが恥ずかしいわ……」ガクー

 

 その後はなんとかスペアで挽回した。

 

 箒「よし、次は私だな」

 牙也「頑張れよー。ストライク取ったらキスしてやるぞー」

 箒「キッ……!?////」ボフッ

 

 突然の事に箒はバランスを崩しそうになり、危うくボウリングの球を足に落としそうになった。落とさずに済んだものの、箒はワナワナと肩を震わせながら牙也を睨む。牙也も今のは自分の落ち度だと理解したのか、「悪い悪い」と罰が悪そうな表情で謝った。箒は「ふんっ////」と鼻を鳴らし、改めて球を転がす。勢い良く転がした球はレーン中央を転がっていき、その先のピンを全て倒した。お見事、ストライクだ。

 

 牙也「おー、ストライクだ!やるな、ほうーー」

 箒「んっ」

 

 箒はストライクなのを確認するとすぐに牙也に飛び付き、そのまま押し倒してキスをした。

 

 箒「ん……ちゅっ……んむっ……あむ……ぷはっ♡」

 牙也「んん……ほう、き……んちゅっ……ぷは……ったく、俺からしようとしてたのに……////」

 箒「ふふん、早い者勝ちだ♡」

 

 店員『甘ったるい……』サトウダバー

 カップル『畜生、ブラックコーヒーが旨いよ!!』ゴクゴク

 

 その後も箒がストライクする度に牙也にキスした為、最終的に店長に「こ、今後はお控え下さい……」と釘を刺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所を移して、R○UND1の近くにあるファミレス。

 

 牙也「うまうま」

 

 牙也はミックスグリル定食を、箒はオムライスを注文してそれぞれ食べていた。

 

 箒「学園の食堂も良いが、たまにはこういう所での外食というのも良いな」

 牙也「そーだな。今度また来るか?」

 箒「それも良いが……私は牙也に手料理を振る舞って一緒に食べたいな」

 牙也「ん、良いな。是非とも是非とも」

 箒「ふふ……楽しみにしておくのだぞ」

 

 ??『ふふ、お二人とも仲睦まじいですね』

 ??『クロちゃん、シーッ!!』

 

 箒「?今の声は……」

 牙也「束さんとクロエか?」

 

 二人が隣の席に目を向けると、束とクロエがそれぞれステーキ定食と鉄火丼を食べていた。クロエの手にはビデオカメラが握られている。

 

 束「ご、ごめ~ん……邪魔するつもりは無かったんだけど……」

 クロエ「ご馳走さまです。それにしてもお二人のご様子を見ていると、私達も嬉しくなってきますね」

 箒「それはどうも……で、二人は今日は何しに街へ?」

 クロエ「お二人を追跡してデートのご様子を撮ってきてくれと、黛様と更識様に頼まれまして!」

 束「クロちゃん、それ言っちゃ駄目!」

 牙也「……まぁ良いや。束さん、これ食べます?」

 

 牙也は小さくカットしたハンバーグをフォークに刺して束に差し出した。

 

 束「え、良いの?それじゃ遠慮なく!」

 

 束は疑う事なくフォークに刺さったハンバーグを食べる。

 

 束「~~~~~!?」ジタバタ

 

 口を抑えてのたうち回る束を見て牙也はケラケラと笑った。

 

 牙也「引っ掛かった引っ掛かった!さっきのハンバーグ、こっそり一味唐辛子大量にかけておいたんだよ!」

 束「じだが、じだが(舌が、舌が)~~~~!!」

 クロエ「束様、お水です!」

 

 クロエから渡された水を一気に飲み干し、大きく深呼吸する束。そして涙目で牙也を見た。

 

 束「いたた……意地が悪いよ牙君!」

 牙也「あはははは、あー面白!」

 箒「ほら牙也、次は私からだ」

 

 すると今度は箒がオムライスを差し出した。

 

 牙也「ん、いただきま~す」

 

 牙也はそれを疑う事なく食べる。

 

 牙也「ゴホッゴホッ!?辛ッ!箒お前、オムライスにかけたのケチャップじゃなくてタバスコかよ!?」

 箒「ふふん、姉さんの仇は取ったぞ♪」

 束「グッジョブ 箒ちゃん!」

 牙也「畜生、箒だから安心してたのに~!!見事に騙されたよ……辛ッ!そして口が痛い!」

 

 しばらく辛さでのたうち回る事になった牙也であった。クロエが持っていたビデオカメラは箒が没収しておき、後で薫子と楯無を脅ーーもとい叱る為の素材として利用する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 更に場所を移して、箒の提案により今度はゲーセンに向かった二人。

 

 箒「おお……これがゲーセンか」

 牙也「箒ってこういう所来た事無かったんだっけ?」

 箒「初めてだ……牙也、何から遊ぼうか?」

 牙也「まぁ時間はそれなりにあるし、まずはゆっくり店内を見て回ってから、気になったゲームをすれば良いんじゃないか?」

 箒「そうだな、そうしよう……っと、すまん、ちょっと……」モジモジ

 牙也「?ああ、そういう……分かった、そこのベンチで待ってるから行ってきな。確か奥の方だったと思うぞ」

 箒「す、すまんな……」

 

 箒は慌てて店の奥へと走っていった。牙也は「やれやれ」と一息つきながら、近くにあったベンチにドカッと座り込む。そしてスマホを取り出すとスマホゲームをやり始めた。

 

 

 

 ??「雷牙也様」

 

 

 

 と、突如横から声を掛けられた。牙也が顔を向けると、スーツ姿の若い女性がいつの間にか隣に座っていた。

 

 牙也「……何者だ?」

 ??「はい、私はゼロ様配下で秘書をしております、鳳榛名(おおとりはるな)と申します。以後お見知りおきを……」

 牙也「ゼロの秘書?何の用だ?」

 

 すると榛名は気まずそうな表情になった。牙也が首を傾げていると、

 

 

 

 

 

 

 

 榛名「……ゼロ様が殺害された事を、ご報告に上がりました」

 

 

 

 

 

 

 その報告に、牙也は目を見開いて榛名を見る。榛名はやはり気まずそうに言葉を続ける。

 

 榛名「つきましては、今後私達『メシア・ロード』は全権を雷牙也様ーーつまり貴方に移譲するように、と前社長のゼロ様の仰せにより、本日お伺いした次第です」

 牙也「そうか……会社のメンツは全員俺に従う事に賛同しているのか?」

 榛名「はい。トップを失った今、私達を自由に動かせるのは、ゼロ様のご子息ーーつまり貴方のみです」

 牙也「そうか……」

 

 牙也は項垂れて黙り込んでしまったが、すぐに顔を上げて榛名を見た。

 

 牙也「……分かった。取り敢えずお前達全員は、ほとぼりが覚めるまでは何処か都合のいい場所へと身を隠せ。俺が学園長達に掛け合ってみる」

 榛名「ありがとうございます……それともう一つお知らせがございます」

 牙也「なんだ?」

 

 すると榛名は封筒を懐から取り出して牙也に差し出した。牙也がそれを受け取って中身を見ると、中には青寄りの紫色をしたロザリオが入っていた。

 

 榛名「『それを持って、以前私が言い残した場所に来なさい』との事です」

 牙也「このロザリオを持って……?これに何の意味が……」

 榛名「分かりません。ですがそれを貴方に渡したという事は、それが何か特別な物なのではないでしょうか」

 牙也「特別な物、か……」

 榛名「そうだと私は思います。何か進展がありましたら、こちらにご連絡下さい。では用事は済みましたので、私はこれにて」

 

 そう言って電話番号が書かれた紙を渡すと榛名はさっさと行ってしまった。榛名のその後ろ姿には、どこか哀愁の念が見えたように思えた牙也であった。

 

 箒「お待たせ牙也、戻ったぞ……どうかしたのか?」

 

 そこへ箒が戻ってきた。何やら悲しそうな目をしている牙也を見て箒がそう聞くと、牙也は「……ちょっとな」と言ってはぐらかした。

 

 牙也「……せっかくゲーセンに来たんだ、楽しもうぜ、な?」

 箒「……そうだな、そうしよう」

 

 その後二人はUFOキャッチャーやコインゲームをして楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 





 冒頭のラジオは『INFINITE・CROSS-Z』をお読み下さいね。

 次回もお楽しみに!



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第70話 君ハ一人ジャナイ


 始まります。




 

 牙也「くぁ~……疲れた~」

 箒「そうだな、久しぶりにあんなにはしゃいだな、私達」

 

 デートもあっという間に終わり、牙也達二人は学園寮の自室に戻ってきた。牙也は部屋に入ったと同時に自分のベッドに倒れ込み、箒も自分のベッドに座り込む。

 

 牙也「今まであちこちの異世界を見て回ってたから、今日みたいに思い切り羽を伸ばす事なんて無かったからな~」

 箒「何処か異世界に向かう度に何かしらバトルしていたからな、休めないのも当然か」

 

 牙也は寝転んだ状態から天井を見つめている。箒はそんな牙也を見つめていたが、ふと牙也の顔を見ると、多少だが悲しそうな表情である事に気づいた。すると箒は、自分のベッドから牙也のベッドに移り座り直した。

 

 牙也「……どした?」

 箒「……まったく、お前はまだ私達の事を信じきれてないのか?」

 牙也「……何の話だ?」

 箒「惚けるな、お前とどれだけ一緒にいたと思っている?お前の表情がいつもと違う事くらい、良く見ればすぐに気づくさ」

 

 牙也はそれを聞いて「……はぁ」と息を吐き、起き上がってベッドに座り直した。

 

 

 

 

 牙也「…………ゼロがーー母さんが、死んだ」

 

 

 

 

 箒「……え?ゼ、ゼロが死んだ……?」

 

 その言葉を箒は信じられずにいた。だが牙也のその悲しそうな表情は、それが事実である事をはっきりと示している。

 

 牙也「さっきゲーセンで、ゼロの秘書に会ってな……何故死んだのかまでは明かさなかったけど、恐らく殺されたんだろうな。誰かに裏切られたか、もしくは恨まれている奴によって殺られたか、それとも……」

 箒「……ゼロが持つ、黄金の果実のロックシードが目的か?」

 牙也「Exactly(その通り)。まぁ十中八九ロックシードが目的だろうがな」

 

 牙也はそこまで言って頭を抱える。

 

 牙也「ったくあの野郎……ヘルヘイムの件が終わったら数発殴ってやろうかと思ってたのによ……先に野垂れ死にやがって。まぁ良いや、一番の強敵が消えてくれたからな……」

 箒「……それは本心か?」

 牙也「……」

 

 箒は真剣な表情で牙也にそう聞くが、牙也は黙ったまま何もしようとしない。

 

 箒「……本心かと聞いているんだ!」ガッ

 

 痺れを切らした箒は、思わず牙也に掴み掛かる。しかし牙也は抵抗する事もなく、掴んできたその手に自分の手を重ね、箒を見据えた。

 

 牙也「……本心だと思うか?」

 箒「……!」

 

 牙也のその言葉は、軽く、だが重く、箒にのし掛かってきた。その目は涙に濡れ、雫が一滴こぼれ落ちる。

 

 牙也「……本当に、これが本心だと思うか?敵であったとは言え、親だぞ、家族だった人なんだぞ……?そんな人が死んで、清々しただなんて、そんな事が易々と言えると思うか……?」

 箒「い、いや……だが今牙也はーー」

 牙也「ああ、今確かに俺はそう言った……いや、そう言わなきゃいけなかった……そうしなきゃ俺はーー」

 

 そこまで言った牙也の口を、思わず箒は自分の人差し指を当てる事で閉じさせた。箒のその目は牙也と同じく涙に濡れていた。

 

 箒「もう言うな、それ以上は……」

 牙也「箒……?」

 箒「……」

 

 キョトンとする牙也を箒はそっと抱き締めた。

 

 箒「……今この部屋には私とお前だけしかいないんだ。牙也……全部吐き出せ。お前のその心の奥底に溜め込んでいた物を全て、私にぶつけてくれ。お前の心がそれで少しでも癒されるのなら……」

 牙也「箒……」

 箒「苦しかったのだろう……?辛かったのだろう……?実の親に刃を向ける事が……すまなかった、お前の本心も分からずにあんな事を言ってしまって……だから……」

 

 箒は思わず牙也を抱き締めている腕の力を少し強めた。すると牙也も箒を抱き締め返した。

 

 

 

 牙也「……バカ母が……勝手にこの世界で暴れるだけ大暴れしておいて、さっさと逝っちまいやがって……!俺の本心も知らないで、勝手にグダグダグダグダと……!俺があんたの無事を喜んでないとでも思ってたのか……!?寧ろ怒ってるとでも思ってたのか……!?」

 

 牙也「あんたが生きていると分かった時、俺は内心嬉しかったんだよ……!それと同時に恨んだよ……!なんで敵として戦わなきゃいけないんだって……!どうしてお互いに刃を交えなきゃいけないんだって……!そんな俺の気持ちが、あんたに理解出来るか……!?それこそ敵として戦った時間は短かったけど、それでも俺の心を抉るには充分だったよ……!」

 

 牙也「しかも少し前に共闘したと思ったら、すぐに死んだだと……!?ふざけんなよ!!勝手にこの世界を混乱させておいて、謝罪の一つもせずにさっさと逝っちまいやがって……!」

 

 牙也「寿命ならともかくとして……!殺されただと!?あんたはそれくらいでくたばる奴じゃないだろう……!なんで先に逝っちまうんだよ……!なんで俺を連れて行ってくれなかったんだよ……!」

 

 

 

 

 

 牙也「あんたはまた、俺を一人にするのかよ……!!馬鹿野郎……本当にあんたは馬鹿野郎だよ……!!うああ……うわあああああ!!」

 

 

 

 

 

 今まで我慢して心の奥底に溜め込んでいた思いを全て吐き出し、牙也は今まで見た事ない程に泣き喚いた。箒はそんな牙也をただ優しく抱き締め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから小一時間後。牙也は泣き疲れたのか眠ってしまい、箒は牙也を膝枕していた。牙也の目は散々泣き喚いたせいか赤くなっており、まだ少しだが涙が出てきている。

 

 箒「……ずっと我慢していたんだな。すまない牙也、早くにこうしていれば……」

 

 箒は自分の観察力の無さを嘆き、謝罪の言葉を呟く。と、

 

 本音『ほーちゃーん、いるー?』

 簪『篠ノ之さん、今大丈夫……?』

 

 部屋の外から本音と簪の声が聞こえた。

 

 箒「すまない、今動けないんだ。鍵は開いているから、勝手に入ってきてくれ」

 

 箒が外に向けてそう言うと、ドアが開いて本音と簪が入ってきた。

 

 本音「ほーちゃーん、今日も牙っちと一緒にーーってあらら……」

 

 部屋に入ってきた本音と簪が一番に目にしたのは、目を赤く腫らして眠っている牙也と、牙也を膝枕している箒であった。

 

 簪「牙也さん、目が真っ赤……喧嘩したの?」

 箒「喧嘩……ではないな。胸中を全て吐露した、とでも言おうか……」

 本音「トロ?」

 簪「そっか……牙也さん、大丈夫なの?」

 箒「少しショックが大きいくらいだな……溜め込んでいた物を一気に吐き出したからな」

 

 そう言って箒は牙也の頭をそっと撫でる。本音は何の話なのかさっぱり分からないようで首を傾げている。

 

 箒「それで二人とも、用事があって来たのか?」

 簪「うん。実はね……」

 

 簪が箒に耳打ちすると、箒は「ほうほう」と軽く相槌を打った。

 

 箒「なるほどな。それが牙也の慰めに少しでも役立つなら、私は協力を惜しまないぞ」

 本音「ありがとね~」

 

 千冬『篠ノ之、いるか?』

 

 と、また部屋の外から声が聞こえた。今度は千冬の声だ。

 

 箒「あ、はい!すぐ行きます!悪いが二人とも、牙也を見ていてくれないか?」

 簪「分かった……いってらっしゃい」

 本音「分かったのだ~」

 

 箒は牙也の頭をそっとベッドに降ろすと、静かにベッドから降りて部屋を出ていった。残された二人は、未だ眠っている牙也をじっと見つめていた。

 

 簪「牙也さん、色々溜め込んでいたんだね……」

 本音「水臭いよ~、たまには私達を頼ってくれても良いのに~」ブー

 簪「私達にあんまり迷惑を掛けたくなかったんじゃないかな……牙也さん、普段から私達に出来ない事、沢山してたし……」

 本音「むぅ~……それでも少しくらいは私達を頼っても良かったんじゃな~い?」

 簪「そうだね……今の私達に、何か出来る事って無いかな?」

 本音「私達に出来る事……そーだ!」

 

 すると何を思い付いたのか、本音は眠っている牙也にガバッと抱き付いた。

 

 簪「ほ、本音……!?牙也さん起きちゃうよ……!」

 本音「いーの!たまにはこんな悪戯するなりして、適度に気を抜かなきゃ駄目でしょ~」

 簪「それで気が抜けるのかな……」

 本音「じゃあかんちゃんは何もしなくて良いの?ほーちゃん今いないから、私が牙っち独り占めしちゃうよ?」

 簪「むぅ……じ、じゃあ私は……こう!」

 

 簪は牙也の頭を持ち上げると自分の膝に乗せた。膝枕だ。

 

 簪「本音には負けたくない、から……!」

 本音「私だって~!」

 簪・本『むぅ~!』

 箒「まったく、牙也もモテモテだな」

 

 二人が見てて可愛く思える表情で睨み合いをしていると、いつの間にか箒が戻ってきていた。

 

 本音「あ、お帰り~。牙っち堪能させてもらってるよ~」

 簪「あ……お、お帰りなさい……」

 箒「大丈夫だ、簪。私は気にしてないからな。それより二人とも、そろそろ行かなくて良いのか?」

 

 箒にそう言われて二人が時計を見ると、既に時刻は午後6時を回っていた。

 

 簪「あ……もう行かなきゃ、時間が……」

 本音「そーだね。じゃあほーちゃん、予定通りお願いね~」

 箒「ああ、任されたぞ」

 

 二人はベッドから降りると牙也の頭を一撫でしてから部屋を出ていった。二人が部屋を出たのを見送り、箒はベッドに座り直す。

 

 牙也「……んむ……」

 

 と、さっきので目を覚ましたのか、牙也が体を起こした。

 

 箒「もう起きたのか?もう少し寝てて良かったのだが……」

 牙也「あまり寝過ぎると、かえって疲れるからな……ごめんな、色々八つ当たりして」

 箒「気にするな……少しはすっきりしたか?」

 牙也「まぁな……」

 

 牙也は頭を軽く掻き、箒の肩に寄り掛かる。箒はただ「ん」とだけ言ってそれを受け入れる。と、牙也のお腹から「クゥゥゥゥ~」と音がした。

 

 牙也「……腹減ったな」

 箒「そうか。少し早いが、今日は食堂で食べないか?」

 牙也「賛成~……流石に今日は自炊する気力が無いわ……」

 

 こうして牙也は箒に伴われて食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「……なぁ、牙也」

 

 食堂に向かう途中、箒は先ほどの事を気にしてか牙也に話し掛けた。

 

 牙也「なんだ?」

 箒「……私ではーー私達では、代わりにならないのか?」

 牙也「代わり……?ああ、家族の事か」

 

 牙也は少し考えてからこう言った。

 

 牙也「……分かんねぇ。俺にとって箒は恋人だし、学園の皆や束さん達も仲の良い友人みたいなもんだからな……家族の代わりになるか、と問われるとどうにも……返答に困るな」

 箒「……学園の皆という事は、簪と本音も友人という立場として見ているのか?」

 牙也「勿論あの二人の好意は気づいてるさ。けど俺は、まだ二人の本心に触れられてない。それに……お前の事もあるから、もし好意をはっきりと示されたとして、まだどう返答するか迷ってるんだ」

 箒「……返答に困るか、お前らしいな」

 

 箒はそう言って牙也の正面に立つと、その顔をじっと見ながら言った。

 

 箒「この際私の事は隅に置いておけ。お前自身がどうなのか、それをはっきりと二人に伝えれば良い。お前が決めた事なら、あの二人もちゃんと納得してくれるだろう」

 牙也「俺の……俺自身の……」

 

 牙也はその言葉にハッとした。

 

 牙也「……そうだな、そうだよな。ありがとう箒、少し心が晴れたよ」

 箒「それは良かった……さ、早く食堂に行くぞ、面白いものが見れるからな」

 牙也「面白いもの?っておい、待てって!」

 

 そう言って箒は先々廊下を進み、牙也は慌ててそれを追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ったく、先々行きやがってからに……おーい、ほうーー」

 

 

 『ようこそ、IS学園食堂へ!!』

 

 

 食堂内に入った牙也を待ち受けていたのは、メイド服やら執事服やら、様々な服を身に纏った学園の生徒達。中には定番の黒の執事服の千冬や、胸をやたらに強調したメイド服の真耶等、教員や亡国企業のスコール達も混じっている。

 

 牙也「なぁにこれぇ?」

 千冬「学園の為に必死になって働いてくれている牙也を、たまには私達が労ろう、という事で集まってくれた有志達だ」

 牙也「ああそう……で、千冬さんと山田先生まで何悪乗りしてんの……」

 真耶「うう……織斑先生に強制的に着させられました……」

 M「私達まで着させられるとは……どうしてこうなった」

 オータム「あたしに聞くなそんな事!!」

 スコール「フフフ……案外楽しいわね、これ」

 

 真耶とオータムは恥ずかしさのあまり縮こまっており、Mは慣れない格好に頭を抱えるばかり。よく見ると奥の席では、赤のメイド服を着た鈴が一夏の世話をしており、一部の生徒が混じろうとしているが、その度に鈴の一睨みで追い返されていた。

 

 牙也「やれやれ……なるほどなぁ」

 箒「何がなるほどなんだ?」

 

 するとメイド服姿の箒が顔を赤らめながら隣に来た。牙也は箒の頭を軽く撫でながら言った。

 

 牙也「いや……俺なんかの為にこういう事を皆で平気でやってのけるあたり、ある意味ここの人達は家族みたいなもんなんだな……って思ってな」

 箒「なるほど、一理あるな……って、私のメイド姿には言及しないのか!?ある意味恥ずかしいんだぞこれ!!」

 牙也「おっと悪い悪い」

 

 牙也は箒にこっそり耳打ち。

 

 牙也(後で部屋でも楽しませてくれよな、その姿)

 箒「!?////」ボンッ

 

 箒の顔は一気に真っ赤になり、頭から湯気がわき出る。そんな箒を牙也がお姫様抱っこすると、他の生徒達がキャーキャー騒ぎ出す。

 

 牙也「さーて……取り敢えず飯と行こうかね!」

 『はい!!少々お待ち下さ~い♪』

 

 料理を運ぶ役目の取り合いになっている生徒達を見ながら、牙也は「ハハハ」と笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也(……俺は一人じゃない。こんなにも俺の事を信頼してくれて、一緒にいてくれる人がいるから。だから……母さん。空の上から見守っていてくれよな)

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第71話 紡グ思イ出


 始まります。




 

 牙也「……暇っ!」

 

 牙也は自室で暇をもて余していた。この日、牙也は既に用務員としての仕事を全て終わらせていた。が、箒は久しぶりに束と共に買い物に出掛けて不在、千冬は真耶と共にIS委員会に出向いており、一夏は鈴とデートと言った風に、一番良く話しているメンバーが出払っている為に、非常に暇なのだ。

 

 牙也「やれやれ……誰か他の奴等で暇潰ししようかな」

 

 そう言って牙也は立ち上がると部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 セシリア「あら牙也さん、ごきげんよう」

 牙也「よぉ……って、なんだその大量の人形は?」

 

 誰か暇潰しになりそうな人を探して寮内を歩いていると、セシリアと出くわした。両腕に沢山の人形を抱えており、よく見るとどうやら牙也や一夏、それに箒や鈴等の学園のメンバーそっくりに作られていた。

 

 セシリア「アリスさんの人形を以前直してあげたのですが、あれ以来人形製作にはまってしまいまして。こうして作った人形を皆さんにお配りして回っているのですわ」

 牙也「なるほどなぁ。にしても、本当そっくりだな」

 

 牙也は自分そっくりの人形を手に取りまじまじと見る。細かい所まで精巧に作られており、完成度の高さが窺える。

 

 セシリア「牙也さんそっくりのその人形、よかったら差し上げますわ。それと箒さんにもこちらの人形を渡して頂けませんか?」

 牙也「お、これは箒そっくりだな。分かった、わざわざありがとな」

 セシリア「お礼を言われる程の事ではありませんわよ。それではまた」

 

 セシリアは優雅に一礼すると、人形を抱えてホクホクとした顔で行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャルロット『ほらラウラ、動かないで!服が破けるから!』

 ラウラ『嫌だぁぁぁぁぁ!!こんな服着たくなぁぁぁぁぁい!!』

 

 今度はシャルロットとラウラの部屋の前を通り掛かると、中から何やらラウラの叫び声が聞こえた。

 

 牙也「はぁ……また着せ替え人形にされてんのか?」

 

 牙也は頭を抱えながらドアをノックする。

 

 牙也「煩いぞ、ラウラ!静かにしろよ!」

 ラウラ『そ、その声は牙也か!?助けてくれ!こんな姿、お前には見せられない!!』

 シャルロット『あれ、良いの?牙也さんが助けに入ってきたら、その格好見られるよ?』

 ラウラ『あああああ!!こ、こうなったら……牙也、少し待て!』

 シャルロット『え、ちょ、ラウラ!?何すんのさ!?』

 ラウラ『ええい、こうなったらお前も道連れだ!デュノアも私と同じものを着ろ!』

 シャルロット『ま、待って!僕が悪かったから、それだけはーー』

 ラウラ『ええい、散々着せ替え人形にしておいて許してもらおうなどと……!着せ替え人形にされた私の気持ちになれ!』

 シャルロット『嫌ぁぁぁぁぁ!!』

 

 牙也「……逃げるが勝ち、か?」

 

 何やらカオスな事になっているようなので、牙也はさっさと退散する事にした。後でこっそり教えてもらったのだが、どうやら二人揃ってバニー服を着ていたのを、後から訪れたクラスメイトにもろに見られて発狂してたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪「えっと……それでここに逃げてきた、って事?」

 

 場所を更に変えて、簪と本音の部屋。騒ぎに巻き込まれるのを避ける為に二人の部屋に逃げ込んだ牙也は、本音に膝枕して色々構いながら簪と話していた。

 

 牙也「そう。ラウラが着せ替え人形にされるのは今に始まった事じゃないけど、今回は接触を控えろと勘が働いてな……ほれ」つお菓子

 本音「あむあむ……う~ん、ひあわへ~(幸せ~)♪」

 簪「もう、本音ったら……だらしないよ(羨ましいな……)」

 

 牙也にお菓子を餌付けされている本音に、簪はやれやれと呆れ返るばかり(本心では自分もやってもらいたいと思ってるのだが)。

 

 牙也「……ほれ」つお菓子

 簪「ふぇ?あ、ありが、とう……」パクッ

 本音「も~、かんちゃんも素直になれば良いのに~」

 簪「本音はオープン過ぎるの!」

 牙也「は~いはい、喧嘩しない喧嘩しない」ナデナデ

 本音「んにゃ~♪」

 簪「あぅ……はぅ……////」

 

 二人を宥める為に牙也が二人を撫でると、本音は気持ち良さそうに顔をすり寄せ、簪は恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。

 

 ラウラ『牙也ぁぁぁぁぁ!!何処にいる!?私を放って逃げ出しおって、よくも恥をかかせてくれたなぁぁぁぁぁ!!』

 シャルロット『牙也さん何処!?こうなったら牙也さんにも恥をかいてもらうんだから!!』

 

 部屋の外からシャルロットとラウラの騒ぎ声が聞こえる。どうやらさっきの事を根に持って追い掛けて来たようだ。

 

 牙也「やれやれ、八つ当たりする気満々だな……んじゃそろそろ行くわ、迷惑掛けたくないしな」

 本音「またおいで~」

 簪「えっと……ご無事を祈ってます」

 牙也「簪、それ死亡フラグだから止めて」

 

 牙也はその場にクラックを開いて飛び込んだ。そしてクラックが閉じたのと同時に、シャルロットとラウラが部屋のドアを蹴破って入ってきた。

 

 ラウラ「更識!布仏!牙也は何処にいる!?」

 本音「二人の声聞いてさっき逃げてったよ~」

 簪「クラックを使って逃げたから、行き先までは分からない……」

 シャルロット「くっ、一歩遅かったみたいだね……!行くよラウラ!」

 ラウラ「ああ、絶対に逃がさん!」

 

 二人は急いで部屋を飛び出した。

 

 簪「ああ……せめてドアを直してから……」

 本音「もう遅いよかんちゃん」

 牙也「行ったか?」

 

 またクラックが開き、逃げた筈の牙也が顔を出した。

 

 本音「あ、お帰り~」

 簪「お帰りなさい……ドア、壊されちゃった……」

 牙也「ドアは俺が直すよ。原因は俺だからな」

 本音「お願いね~、頑張れ~頑張れ~♪」

 

 こうしてすぐにドアを直した牙也は、取り敢えず他に避難出来そうな場所を探しに行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 M「……で、ここに来たと」

 牙也「おぅ」

 M「一言言おう……帰れ」

 牙也「んだよ、釣れねぇな」

 

 という訳で見つけたのが、学園の敷地の隅に小さく建てられた亡国企業の臨時支部。そこに避難した牙也は、居合わせたスコールとMと話していた。

 

 スコール「あらあら、災難ねぇ。貴方は何もしてないのに」

 

 スコールがお茶を持ってきて牙也に差し出すと、牙也はそれを一啜りしてから話を続けた。

 

 牙也「まったくだ、俺はたまたまそこに居合わせただけだってのに……しかも静かにしろって言っただけなのによぉ……」

 M「……ある意味不幸体質だな、お前は」

 牙也「……否定出来ないのがなんか悔しいわ」

 

 項垂れる牙也にスコールは「まあまあ」と言って隣に座る。

 

 スコール「でも貴方は、降りかかってくる不幸なんてものともせずに進み続けてるじゃない。その度に貴方は生き残ってきた。ある意味幸運なんじゃないの?」

 牙也「……家族を犠牲にしてまで得た命が幸運?そんな訳あるかよ」

 スコール「っと、失言だったわね……そうね、家族が犠牲になったのに、自分はノコノコと生きてる……私の命も貴方の命も、ある意味不幸に近いものよね」

 牙也「……何が言いたい?」

 スコール「私も家族を亡くしてるのよ。弟をね」

 牙也「っ!あんた弟がいたのか?」

 スコール「ええ。もう何年経ったかしらね……年が大きく離れた弟だったんだけど、大学の卒業旅行で行った先で、ISを使用した戦闘に巻き込まれてそのまま……遺体として見つかったのは頭部の一部と右腕だけで後は見つからず、死亡と判断されたわ」

 牙也「そうか……亡国に入ったのも、ISを憎んでの事か?」

 スコール「ええ。本心を言うと、今まではISを憎んでるのにISに乗る事がおかしく思えてたのよね。けど、アーマードライダーの力を手に入れてからは、その考えも改まったわ。力を抑える為には、それと同じかそれ以上の力を持たなければいけない……核兵器をある国が一つ持つだけで、他国への抑止力になるようにね」

 牙也「ある意味最強の壁だよな、力ってのはさ。ある力に対抗する為に同じ力を持つという矛盾……本当皮肉だよな」

 スコール「そうね……そうだわ、そろそろあの子の墓参りに行かないといけないんだったわね」

 牙也「墓参りか……俺も久しぶりに行ってみようかな。最近バタバタしてたから、近況報告も兼ねて」

 

 ラウラ『牙也ぁぁぁぁぁ!!何処だぁぁぁぁぁ!!』

 シャルロット『絶対に逃がさないよ!!』

 

 外からシャルロットとラウラの大声が聞こえてきた。

 

 牙也「げ……もうここまで来たのかよ。仕方ない、それじゃそろそろお暇するぜ」

 M「まったく……さっさと行け、面倒事はごめんだ」

 牙也「へいへい。スコール、お茶ご馳走さま」

 スコール「またいつでも来てね」

 

 牙也がまたクラックに飛び込むと、オータムがシャルロットとラウラを連れて入ってきた。

 

 オータム「おいスコール、この二人が牙也を探してるんだと……あれ、さっきまでここにいなかったか?」

 M「一足遅かったな、たった今クラックで逃げたぞ」

 スコール「二人の大声がここまで聞こえたんだから、そりゃ彼だって逃げるわよ」

 ラウラ「ぐぬぬ、また逃げられたか……!」

 シャルロット「ラウラ、早く行くよ!牙也さんに取り敢えず女装してもらわなきゃ、僕達の気が済まないよ!」

 

 二人は牙也がいない事が分かると、バタバタと出ていった。

 

 M「ようやく行ったか……スコール、私は寝る」

 スコール「はいはい」

 

 Mはそう言って奥の部屋に引っ込んだ。と思うとすぐに顔だけ出して、

 

 M「……嘘を教えて同情して、何の意味がある?奴に同情したところで、何か変わる訳でもあるまい」

 スコール「……何か彼のこれからのヒントになるかと思って言っただけよ。彼、何か思い詰めてた感じがしたから」

 M「……そうか」

 

 それだけ言ってまた引っ込んだ。

 

 オータム「何の話だよ、スコール?」

 スコール「彼の話よ」

 

 スコールはそう言って片付けを始め、オータムは何の話かさっぱり分からず首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「墓参り、墓参り……と思ったけど、今日はもう遅いしな……明日で良いか」

 

 シャルロット達から逃げ回っている間に夕方になってしまい、牙也は一旦部屋に戻る事にした。

 

 牙也「お供えはいつもの饅頭にして、墓に供える花はーー墓?」

 

 と、『墓』というワードに何かを感じ取った牙也は、ゼロが遺した言葉を思い出した。

 

 ゼロ『葬送の地へ行きなさいーー』

 

 牙也「葬送ーー墓?まさか……そうか、そうだとすると母さんが言いたかったのは……」

 

 ここでようやくゼロの言いたかった事を理解した牙也。一先ず明日も休みを貰う為、牙也は轡木の元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークネス『よぉ、準備は出来てるな?』

 

 とある廃屋。そこからはIS学園は電車を使って数分という近場にあり、しかも近々取り壊される予定の為、隠れるにはもってこいの場所であった。そこに春輝とダークネス、そしてダークネスが呼んだオーバーロード達がいた。

 

 春輝「ああ、いつでも行ける。ところで本当なんだろうな?学園の何処かに、その『禁断の果実』ってのがあるって情報は?」

 ダークネス『ある……と言うよりは、必ず現れる、と言った表現が正しいか。心配するな、黄金の果実はこちらの手中にある。奴等がどう足掻こうと、最後にはお前の手に黄金の果実も、禁断の果実も握られる……俺を信じろ』

 春輝「フン、命令されるのはいけ好かないが、最強の力が手に入るのなら……俺はお前を信じてやるよ」

 ダークネス『それで良い……ならば行くぞ。今こそ、世界を手中に修める時だ!!』

 

 ダークネスの号令の下、彼らは動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!



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第72話 戦力強化

 始まります。




 「ん……あれ?」

 

 午前4時半。いつもの時間に起きた私はすぐに違和感に気づいた。電気を付けてみると、隣のベッドで寝ている筈の牙也の姿が見えない。布団はめくれ、ベッドの上には牙也の寝間着が乱雑に脱ぎ捨てられており、連絡用のスマホは充電コードに繋がれたまま机に置き去りにされている。

 

 「牙也?」

 

 布団から這い出て部屋を見渡すが、牙也の姿は見えない。何処に行ってしまったのだろうか……?

 

 「……まあ朝食の時間には戻ってくるだろうな」

 

 そう考えた私は、取り敢えずいつもの朝練に向かう事にした。パジャマを着替えて荷物を持って、さぁ出発ーーと思った時、ふと机を見ると牙也のスマホの下に何か紙が敷かれていた。手に取ると、

 

 

 『朝早いが、ちょっと出てくる。学園長には既に話を通してあるから心配なく。飯はコンビニで適当に済ませるから、そのつもりで。   牙也

 

 

 

 p.s. 迎撃準備を進めておけ。多分今日辺り、ISでもインベスと戦えるようになるだろうからな』

 

 

 

 牙也の書き置きだ。しかし迎撃準備とは?まさか敵が今日攻めてくるという事か?そんな馬鹿な……だが今までの事を考えると、牙也の言っている事もあり得なくはない。

 

 「……朝食後に、千冬さんに進言してみるか」

 

 一先ず私はその書き置きを机に戻し、朝練に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ……今日はいつもよりキレが悪かったな」

 

 朝練をあっという間に終えて、私は部屋に戻ってシャワーを浴び、食堂に来た。今日は月曜日ーーと言っても、祝日なので授業は無いのだが。なに、授業の描写がまったくないではないか、と?気にするな、コラボとかの影響もあって作者が忘れてただけだ。多分今後もその描写は出ないだろう……。

 さて、中に入ってみると食堂は今日も大勢の生徒で混雑しており、満席状態だ。弱ったな、少し時間を空けてからまた来るか……

 

 千冬「篠ノ之か。今良いか?」

 

 後ろを振り向くと千冬さんと山田先生がいた。

 

 「織斑先生。ちょうど良かった、私も話したい事がありまして」

 千冬「迎撃準備の事か?」

 「……もう牙也から話が来てましたか。どうしますか?」

 千冬「既に教員部隊と亡国は動き出してる、後は私達だけだ。いつでも動けるように準備を怠るな」

 「はい」

 

 と、突然校内放送のチャイムが鳴った。

 

 『ほいほ~い!皆のアイドル束さんからのお知らせだよ~!今学園にいる専用機持ちの生徒は、すぐに整備室まで来られたし~!新しい力を束さんからプレゼントするよ~!』

 

 放送は姉さんからだった。新しい力……インベスに対抗する手段が構築出来たのだろうか?

 

 千冬「束め、ようやく完成したのか。珍しく時間が掛かったようだが……まあ出来たのなら良しとしようか。篠ノ之はこれからどうする?私は山田先生と共に見回りに行くが」

 「私は朝食を食べてから合流します」

 真耶「分かりました、では先に行ってますね」

 

 千冬さんと山田先生は食堂を出ていった。ふと食堂を見ると、どうやら席がだいぶ空いてきたようだ。お腹も空いたし、早く朝食を食べて合流しようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「束さん、いよいよですね」

 束「そだね、いっくん。牙君から頼まれてたIS専用疑似アームズウェポン一式……全員分作るのに時間掛かっちゃったけど、ようやく完成したよ」

 

 俺は整備室のテーブルの上に並ぶ武器の数々を見ながら束さんと話す。フルーツの意匠が目を引くそれらの武器は全て、国家代表や代表候補生、それに亡国の戦闘員に渡される対インベス用の武器。今までインベスとの戦いは全てアーマードライダーが担当していただけに、これで俺達アーマードライダーの負担も少しは減るだろうから助かるな。

 え、勝手に最新武器乗せたら国がうるさいんじゃないかって?そこは束さんがお偉いさんを全員纏めて説き伏せたから大丈夫。と、

 

 セシリア「失礼致しますわ。篠ノ之博士、例の武器を受け取りに参りました」

 

 一番に来たのはセシリアだ。相変わらず優雅だな……

 

 鈴「こんにちは~!新型武器受け取りに来ました!」

 シャルロット「失礼します。放送で言ってた武器を受け取りに来ました」

 ラウラ「右に同じく、だ」

 楯無「同じく、武器を受け取りに来ました!」

 簪「私も、武器を受け取りに……」

 

 その後も次々と代表や代表候補生が集まった。ちなみに亡国からは代表してMが受け取りに来た。それにしても、本当に千冬姉に顔がそっくりだよな、Mって……

 

 束「皆いらっしゃ~い♪それじゃあ一人一人に渡していくよ~!セシリアちゃんの武器はこれ、その名も『グレープマグナム』!アームズウェポン『ブドウ龍砲』を改造したハンドガンだよ!二丁作ったから、バンバン使ってね!」

 セシリア「ありがとうございます。大事に使わせていただきますわ」

 

 セシリアに渡されたのは、ブドウの意匠が特徴のハンドガン二丁。

 

 束「続いて鈴ちゃんと簪ちゃん!まず簪ちゃんには薙刀『業炎』を、鈴ちゃんには『業炎』に加えて方天牙戟『闇松』をプレゼント!牙君が使ってるアームズウェポン『紫炎』と黒影トルーパーの使う槍『影松』がそれぞれのモチーフだよ!」

 鈴「ありがとうございます!これであたしも一夏と一緒に……!」

 「鈴、頑張ろうな!」

 鈴「任せなさいよ!」

 

 簪「私も、これでやっと戦える……!」

 楯無「良かったわね。一緒に頑張りましょう、簪ちゃん!」

 簪「お姉ちゃん……うん、私頑張るから!」

 

 簪ちゃんに渡されたのは、牙也が使う『紫炎』そっくりの紅い薙刀。一方鈴に渡されたのは、簪ちゃんと同じ薙刀とマツボックリの意匠が目を引く方天牙戟という武器。

 

 束「うんうん、二人とも頑張ろうね!それじゃあ次はシャルちゃん!シャルちゃんにはこの『バナランス』!『バナスピアー』をグレードアップしたランスだよ!」

 シャルロット「ありがとうございます!よーし、これで僕も皆の力になるよ!」

 

 シャルに渡されたのは、黄と白のランス。どうやらランス本体の長さを変えられるようだ。

 

 束「続いてラウラちゃん!ラウラちゃんにはこれ、名付けて『メロンガードナー』!これも『メロンディフェンダー』をグレードアップしてるんだ!」

 ラウラ「巨大な盾か。AIC使用中は無防備になるから、これは頼りになりそうだ」

 

 ラウラが受け取ったのは、メロンの意匠が特徴の巨大な盾。ラウラのISとは色が不釣り合いな気がするけど……。

 

 束「はい、次は楯無ちゃんね。楯無ちゃんにはこの『アーモンドリル改 霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)仕様』!まあ言うなれば蒼流旋と『アーモンドリル』を合体させた武器だね。ちょっと雑になっちゃったけど、その分威力とかは他と段違いだよ!」

 楯無「ありがとうございます、篠ノ之博士。よーし、お姉さんも頑張っちゃおっかな!」

 

 楯無さんには、アーモンドの意匠で蒼流旋に似た槍が渡された。

 

 束「そして亡国の二人、Mちゃんとオータムちゃんにもプレゼント!Mちゃんには箒ちゃんの『マスガンド』の上位武器『ベリーアサルト』!近距離・遠距離双方に対応可能なガンブレードだよ!それとオータムちゃんには『サクラン棒改』!ミューちゃんが使ってる『サクラン棒』に爆発攻撃と凍結攻撃の機能を追加したんだ!」

 M「……感謝する。ところでミューちゃんとはスコールの事か……?」

 

 Mは箒のとは色違いの紫のガンブレードとオータムさん用にサクランボ型のトンファーを受け取った。

 

 束「そしてそして、これは全員に配布する共通武器!『無双セイバー』をIS専用武器に改造した、その名も『IS無双ブレード』!ロックシードを使って必殺技も打てるんだよ!あ、ロックシードは誰かに借りてね?」

 

 そして大量に製造された『IS無双ブレード』も配布される。これで学園の皆はインベス相手にもほぼ互角に戦えるようになった。勿論俺達アーマードライダーだって負けてないけどな。その後も代表や代表候補生に次々と武器が手渡された。

 

 束「よーし、これで配布はしゅーりょー!皆はそれぞれ受け取った武器の動作確認を必ずしておいてね!」

 『ありがとうございました!!』

 

 武器を受け取り、皆は束さんにお礼を言って次々と整備室を出ていく。どうやら早速武器を試す気なのか、皆はアリーナの方へと向かっていくようだ。

 

 束「いっくんも行ってきたら?ちゃんと攻撃が通るか不安でしょ?」

 「まあ正直その通りですけどね。でも大丈夫です、牙也がこの時の為に持って帰ってきた対インベスのデータ、信じないでどうするんですか?」

 束「そうだね、その通りだね。この世界を守る為に牙君が持ち帰ってきた大事な力……私達が信じて使わなきゃ、牙君に怒られるよね」

 「そうですよ。まぁ見に行くんですが」

 束「行くんじゃん結局!!」

 

 

 

 と、突然校内に警報が鳴り響いた。

 

 「束さん!」

 束「うん!」

 

 言うが早いか、俺は束さんと共に整備室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ!インベスが来たか……!っと、しまった、ドライバーとロックシードを部屋に置いてきた」

 

 朝食を食べ終えて姉さんのいる整備室に向かっていると、突如警報が鳴り響いた。やれやれ、牙也の予想が大当たりしてしまったな、私としては外れてほしかったが……とにかくすぐに向かおうとしたが、戦極ドライバーとロックシードを忘れてきたのに気づいた。急いで部屋に戻り、早く皆と合流してインベスを撃退しなければ……

 

 「はぁ、はぁ……急がなければーーん?」

 

 部屋に到着してさぁ部屋に入ろうとした時、ドアを開ける手が止まった。鍵を掛けて出た筈なのに、何故か中から人の気配がする。おかしい、部屋の鍵は全てかけてから部屋を出た。だから牙也ではない。牙也なら普通に鍵を開けて入るし、何より私がいるのに鍵を閉めたりしない。ならば泥棒か?ともかく慎重に入るとしよう……私は音を立てないようにそっとドアを開け、部屋の中へとゆっくり入っていく。朝なので電気を付けなくてもある程度は部屋が見えるので、誰がそこにいるのかはすぐに分かった。が、

 

 ??「……ひっ!」

 「お前は……誰だ?」

 

 そこにいたのは、恐らく十歳にも満たないくらいの見た目の少女だった。よく見ると、どこかカンナに似ている。少女は私が怖いのか、小刻みだが震えている。取り敢えずこの子を落ち着かせないと話が出来ないな……私はゆっくりと少女に近づき、その子の頭をそっと撫でる。

 

 「大丈夫大丈夫……怒ってないから、そんなに怖がらなくていいんだ」

 ??「……怒って、ないの?勝手にお部屋に入ってたのに……」

 「大丈夫だ、気にするな。それよりお前は一体誰なんだ?何故ここにいるんだ?」

 

 私は少女にそう聞く。すると少女はゆっくりと私に寄ってきて、そのままギュッと私にしがみついた。そして耳元に顔を近づけてーー

 

 

 

 

 

 

 ??「……ちょっと我慢してね?」

 

 

 

 

 

 その時、私の意識は途切れたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は箒の胸に手を押し当てる。と、箒は一瞬で気を失い、その体は粒子になって少女に吸収されていき、やがて箒の姿は部屋からなくなった。少女は机に置かれていた箒の戦極ドライバーとロックシード一式を持ち、

 

 ??「……牙也お兄ちゃんの事、全部話すよ。だから少しの間、私と一緒にいてね?」

 

 同じく粒子となって消えた。

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに!



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第73話 語ラレル真実(前編)


 始まります。




 

 「ふぅ……やれやれ、ようやく到着したよ」

 

 俺は今、俺の家族の墓の近くまで来ている。まだ夜が明けない時間から学園を出て、電車とタクシーを乗り継いでここまで来た。ちなみに学園からここまでおよそ三時間程掛かった。とある県の山奥の開けた場所に束さんが新たに建てた、俺の家族の墓。俺の予想が正しければ、ゼロのーー母さんの言っていた場所ってのは、ここで間違いない。

 

 ゼロ『葬送の地へ行きなさいーー』

 

 葬送とは確か、死体の埋葬を見送る事だった筈。つまり母さんが言いたかったのは、死体の埋葬をする場所=墓。そう、俺の家族が埋葬されている墓に来いと言いたかったんだ……多分。

 

 「確信は無ぇが、多分ここで合ってる筈だ。だが母さんはなんでここに来いと言ったんだ……?」

 

 ……まあ実際に行ってみれば分かる話か。俺は墓に続く山道をズンズンと登っていく。

 

 

 

 

 

 そうして山道をひたすら登ること十五分。ようやく開けた場所に出た。そこには俺の家族の墓がポツンと建っており、辺りは雑草で覆われている。と、

 

 「ん?あれは……」

 

 墓の前に誰かが立っているのが見えた。大きく開けた場所故に、両手に花束を持ってそこに立っている人物が黒のスーツを着た男である事はすぐに分かった。敵か、それとも味方かーー俺は慎重にその男に近づいていく。男は俺に気づいていないのか、もしくは気づいていないふりをしているのか、振り向こうとしない。俺が男のちょうど真後ろに立つと、男は花束をその場に置いた。

 

 「あんた、何者だ?」

 

 俺は男にそう問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 ??「……よく来たな」

 

 

 

 

 

 「っ!?」

 

 男の声を聞き、俺は思わず後退りした。何故なら俺は、その声に聞き覚えがあったからだ。いや、聞き覚えがあったという表現は似つかわしくないな……間違える訳がない、今の声を俺が誰かと間違えるなど……。

 俺が身構えていると、男は俺がここに来るのを待っていたかのようにゆっくりと振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……父、さん……?」

 

 

 

 

 振り向いた男は、紛れもなく、俺の父だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……起きて。早く起きて、お姉ちゃん」

 「う……ううん……?」

 

 誰かに頬をプニプニとつつかれて、私は意識を取り戻した。重い瞼をゆっくり開けると、ぼんやりとだが先程の少女の顔が目の前にあった。

 

 少女「お姉ちゃん……起きた?」

 「……ここは?」

 

 体を起こして辺りを見回す。そしてここが何やら真っ白で何もない空間である事が分かった。

 

 少女「ここは、私の精神世界。見ての通り、何もない真っ白い世界だよ」

 「精神、世界?つまり、お前の中に私はいる、という事か?」

 少女「うん、そうだよ」

 「……何故私をここに連れて来た?お前は一体何者なんだ……?」

 少女「これからそれを全部話すよ。この世界とヘルヘイムの森が繋がった理由も……牙也お兄ちゃんの事も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「父さん、だよな……?なんでだ……なんで父さんが生きてるんだ!?父さんはあの時死んだ筈だ!」

 準也「ああ、確かに私はあの日に死んだよ。だが……私の遺体をお前は確認したのか?」

 「それは……」

 

 そう言われて俺は口ごもる。そりゃそうだ、俺は父さんの遺体を確認していない。ヘルヘイムの森から戻った時、俺は一番に実家に関するニュースを探したが、政府に隠蔽されたのか何も見つからなかった。だから今まで俺は父さんは死んだとばかり思っていた。ひっそりと生きていたのか……

 

 準也「まぁ当時のお前は、私が生きているなどと考える程心身の余裕など無かったろうから、それも仕方ないか。だが……茜の遺した言葉だけで、よくもまあここが分かったな」

 「ああ……言葉の意味に辿り着いたからすぐに分かったけど、ある意味賭けだったよ……で、なんでその事を知ってるんだ?」

 準也「本人から聞いたからな」

 「ああそうかよ」

 

 別に驚く程の事でもない、父さんが生きていたと言うのなら、もしかしたら何処かでこっそり母さんに会っていた可能性が高いからな。

 

 「んで?母さんはなんで俺にここに来るように言ったんだ?父さんなら何か知ってるんじゃないのか?」

 準也「ああ、勿論知っているとも。どうやら、お前に芝居の全てを話す時が来たようだな」

 「芝居の全て?何の事だ?」

 準也「順を追って話す。まずこの世界とヘルヘイムの森が繋がった理由だが……それは牙也、お前という存在に理由がある」

 「俺に……?どういう事だ?」

 準也「今だからこそ話そう。牙也……お前は、お前の正体はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知恵の実ーーつまり、黄金の果実そのものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な……!?牙也が、黄金の果実、だと……!?」

 

 私は牙也の妹だと言う少女から語られた真実に驚きを隠せずにいる。少女は私の驚いた表情を見て辛そうな表情になり、思わず後ろを向いた。

 

 少女「うん。牙也お兄ちゃんが小さい頃、体にヘルヘイムの果実を注射された事、お兄ちゃんから聞いてる?」

 「あ、ああ、それは聞いた」

 少女「その時注射したのが、黄金の果実の一部なの。それを注射した事で、お兄ちゃんの体の中で眠ってた黄金の果実が目覚めて、更には新しいオーバーロードが生まれたの。それがシュラさん」

 「シュラは、黄金の果実から生まれたのか……ちょっと待て、何故牙也の体に黄金の果実が混じっていたのだ?」

 少女「それはねーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準也「まずお前の体にある黄金の果実というのは、本来無い筈の『二つ目』の黄金の果実なのだ」

 「二つ目……?」

 

 つまりあれか。黄金の果実は二つ存在していたって事か?

 

 準也「うむ。そして、一つ目の黄金の果実は今、葛葉紘汰が所持している」

 「葛葉、紘汰……?誰だそれ?」

 準也「数百年前……とある世界にてアーマードライダー鎧武に変身して戦っていた人間だ。彼は自分が生きていた世界を救う為、私の妻が託した黄金の果実を自ら食す事でオーバーロードに覚醒し、その世界に跋扈していたインベスを連れてどこか別の世界へと旅立った……」

 「つまりその人は、元人間で現オーバーロードなのか」

 準也「そうだ。そしてヘルヘイムの森は黄金の果実を失った事で消滅する……筈だった」

 

 筈だった?何かあったのだろうか……?

 

 準也「が、そのヘルヘイムの森に、新たに黄金の果実が実ってしまった。しかもそれは、葛葉紘汰が黄金の果実を食するより前の事だった……つまり、黄金の果実が二つも存在する事になってしまったのだ」

 「最初一つだと思っていた黄金の果実が二つ……一つは葛葉って人が食べ、もう一つが俺の体に……」

 準也「そういう事だ」

 「じゃあなんで俺の体に黄金の果実が混じっていたんだ?」

 準也「それはな……私がこの世界に流れ着いた事が、全ての始まりだったのだ」

 

 俺は父さんの言葉『この世界に流れ着いた』という部分に妙に反応した。

 

 「流れ着いた……どういう意味だ!?あんたはあれか、転生者か何かか!?」

 準也「違う。その事についてはまた後で話すが、まずは私達家族の秘密を話そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女「元々私はお母さんの連れ子でね、お母さんは私が物心ついた時にお父さんと再婚したんだけど……それより少し前に、お母さんは子宮癌にかかっちゃったの。それでお母さんは、二度と子供が産めない体になっちゃって……」

 「そうか……ちょっと待て、だとしたら牙也は誰から産まれたのだ?ゼロから産まれたのではないのだとしたら、お前の父は以前誰かと結婚して、その人が牙也を産んでいたのか?」

 少女「ううん、そうじゃないの。実はね、お兄ちゃんの出生の真実こそ、お父さんがこの世界全体を舞台とした芝居を演じた理由なの」

 「牙也の出生……?」

 少女「ここから先の話、お姉ちゃんは覚悟して聞ける……?覚悟が無いなら私は話さないけど……」

 

 すると少女は私に向き直ってからそう聞いてきた。勿論私の答えは一つだ。

 

 「……いや、聞かせてくれ。牙也と共に戦う者として……何より、牙也を愛する者として、牙也の真実を知りたい」

 少女「……分かった。それじゃ話すね」

 

 少女は意を決して話し始めた。

 

 少女「お兄ちゃんなんだけど、実はねーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間としてじゃなく、最初からオーバーロードとして生まれたの。お父さんが作った人間の入れ物に、黄金の果実を心臓にして入れて誕生した、人間そっくりの人形……それがお兄ちゃんの正体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、俺が……俺自身が、黄金の果実、だと……!?」

 

 そんな馬鹿な……!俺は……俺は最初から、人間じゃなかったのか……!?馬鹿な、そんな筈は……!

 

 準也「無い、と果たして言い切れるか?ではお前の記憶の中に、人間としての記憶が残っているか?」

 「当たり前だ、残ってるさ!」

 準也「じゃあどんな記憶があるか具体的に言えるか?」

 「え?えっと……」

 

 俺はそう言われて必死に思い出す。が、

 

 「なんでだ……なんで思い出せない……?なんで一つも、頭の中から出てこない!?」

 

 人間としての記憶が、一切出てこない。出てくるのはどれもオーバーロードとしての記憶ばかり……なんでだ……なんで思い出せない!?頭の中で辛うじて思い出せるのは、インベスに関する事ばかり……人間としての記憶、つまり箒達と一緒にいた時の記憶が、何故か一切出てこない。なんでだ!?今までこんな事無かったのに……!

 

 準也「そういう事だ。オーバーロードに限らずインベスとなったら最期、人間としての記憶など灰や塵程度の物になる。お前に人間としての記憶がなくなっているのは、お前が最初から人間ではなかったという事に他ならない」

 「嘘だ!」

 準也「嘘ではない!現にお前を生み出した私が言うのだ、間違いなどない!!」

 「生み出しただと!?あんたは俺を何だと思ってやがる!?」

 準也「勿論お前を息子だとーー」

 「だったらなんで『生み出した』なんて表現した!?あんたは俺の事を物扱いしてたのか!?あんたにとって俺は家族でもなんでもなかったのか!?」

 準也「牙也……」

 「なんでだよ……なんで人間として産んでくれなかったんだよ……!なんであんたは俺を作ったんだよ……!」

 

 あまりに衝撃的過ぎる真実に、俺は泣く事しか出来ない。けど父さんは何も言わない。いや、何も言えないのだろう……

 

 「答えろ……なんで俺を作った?なんで俺にこんな虚し過ぎる運命を託した!?」

 準也「……コウガネ」

 「……コウガネ?」

 準也「奴から……コウガネから、黄金の果実を守る為だ」

 「おい、誰なんだよ、そのコウガネって」

 

 すると父さんは「はぁ」と息を吐いてから話し始めた。

 

 準也「コウガネ……奴ははるか昔、あるオーバーロードが人工的に知恵の実ーー禁断の果実を作ろうとした時に生まれた人工生命体だ。かつての人類ーーフェムシンムは知恵の実を手に入れる為に戦いを始めた。その裏でコウガネは彼らフェムシンムの闘争心を煽る事で、結果的に自らの手を汚す事なく彼らを滅ぼした。しかし奴はあるオーバーロードによってヘルヘイムの奥深くに封印されていたのだが……何の因果か奴は復活を果たした。自らである人工的な黄金の果実を完成させ、先程言った葛葉紘汰が生きていた地球を滅ぼし、新世界を作って自らが神になろうと画策してな。しかしそれは葛葉紘汰達に阻まれ、奴は消滅した、かに見えた」

 「……また復活したのか?」

 準也「そうだ。再起を志したコウガネは手始めにかつてのアーマードライダー変身者に襲い掛かり、その力を見せつける事で人々を恐怖に陥れた……が、唯一残っていたアーマードライダー龍玄と、加勢に現れた葛葉紘汰によってまたも阻まれ、奴は今度こそ消滅……したかに見えたのだが……」

 

 父さんはここで一旦話を止め、呼吸を整えた。そして俺に向き直ってから続きを話し始めた。

 

 準也「奴は、またもしぶとく生き延びた。自らの力の一部と、力の一端であったあるロックシードを犠牲にしてな。そして奴は魂だけの存在となってこの世界に流れ着いた」

 「な……!?」

 準也「かつてヘルヘイムを支配していた私は妻からそれを聞き、急ぎ奴を追い掛けてこの世界にやって来た。そして奴の目的が、二つ目の黄金の果実を手に入れる事だと知り、奴より先回りして黄金の果実を回収し、茜に事情を打ち明けて協力を仰ぎ、カモフラージュの為に自作の人形に入れて、お前を生み出した……これが全てだ」

 「ヘルヘイムを支配……?父さん、あんたまさか……!」

 準也「気づいたか……そうだ、私はお前と同じ、オーバーロードなのだ」

 

 そう言うと、父さんの体がみるみる内に変化し、呪術師に似た白い見た目の怪物になった。顔付近からはイカの触手のようなものが伸びている。

 

 準也「私の真の名は、ロシュオ……お前の生みの親であり、かつてのヘルヘイムの王だ」

 

 

 

 

 

 

 

 





 牙也の記憶は現在、インベスやアーマードライダー、それにヘルヘイムに関する記憶だけが残り、人間と同じような生活をしている時の記憶が全て抜け落ちた状態(名前等の固有名詞はちゃんと覚えてる)。ますますオーバーロードに近づいている証拠でもある。

 さて準也ーーロシュオの暴露はまだまた続きます。



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第74話 語ラレル真実(後編)


 真実を知った牙也と箒。二人はどんな答えを出すのか……?




 

 「父さんが……ヘルヘイムの……」

 

 俺は父さんーーロシュオのその姿をじっと見つめる。ヘルヘイムの王たる風格溢れるその姿に俺は見入っていた。

 

 ロシュオ「数百年前、まだ葛葉紘汰が人間であり、アーマードライダー鎧武として戦っていた頃……私は彼とその仲間を相手に戦っていた。ヘルヘイムを束ねる長として、知恵の実を守護する存在として。そして何より……私が愛した妻の為に戦っていた。しかし私は部下の裏切りによる不意討ちによって敗れ、一度は消滅した。だが……ヘルヘイムの王たる私の運命は、そこで終わらなかった」

 

 ロシュオは一旦話を止め、呼吸を整えた上でまた話し始めた。

 

 ロシュオ「死後の世界で私は最愛の妻と再会を果たしたのだが、そこで妻から二つ目の黄金の果実の存在を聞かされた。そしてそれを付け狙うコウガネの存在をも知った。このままでは人間は私達の二の舞となる……そう気づいた私はコウガネの野望を阻止すべく、十五年前にこの世界へとやって来た、後は先に説明した通りだ」

 

 俺はロシュオの説明をただ黙って聞いていた。そして思い出していた。かつてあちこちの世界を旅していた際に訪れた、とある世界。そこにいたアーマードライダーーー炎竜と共闘した時に現れた南蛮風の甲冑のアーマードライダー。そうか、あの人が葛葉紘汰……。

 

 ロシュオ「そしてあの事件ーー私が興した会社の襲撃事件を境に、私は裏の世界を生きてきた。そしてついに、コウガネがどこにいるのかを突き止める事が出来た。が、その時コウガネはまだ完全に目覚めていなかった。だから奴が目覚める前に一芝居うつ事にした。これから奴が起こすであろう戦乱を逆手に取る為に」

 「その芝居の一つが、俺……」

 ロシュオ「ああ。黄金の果実からお前を産み出し、更に禁断の果実を瑞穂の体内に隠す事で二つの果実をカモフラージュしたのだ」

 「瑞穂にも……!?瑞穂が生きてるのか!?」

 ロシュオ「生きている……というよりは、禁断の果実を体の中に入れた事で、辛うじて生きている状態だな。だがお前の嫁……束ちゃんの妹で箒ちゃんだったな、彼女に禁断の果実の一部を分け与えた為に、瑞穂は身体の維持ができなくなり始めている。近い内、瑞穂は消えてしまうだろう」

 

 瑞穂が、禁断の果実を……。

 

 「……止められないのか?」

 ロシュオ「無理だ。元々死んだ体に無理やり果実を入れたものだから、瑞穂の体は常に不安定な状態だったのだ。だが今回の事でその不安定さが増した、最早私でもどうにもならん」

 「そうか……」

 ロシュオ「さて、話をお前の事に戻すが、実を言うとお前の体内にある黄金の果実は、まだ不完全な状態だ。その理由は、私があえて黄金の果実の一部をお前を産み出すのに使わず、このようにして所持している為だ」

 

 ロシュオはそう言うと左手を差し出した。淡い金色の光が手から溢れ、光が収まると芯の部分だけの黄金の果実が手に握られていた。

 

 「なんでわざわざそんな事を?」

 ロシュオ「シュラが生まれたからだ。お前が産まれた際にシュラが目覚めたのだが、その時にシュラは意図せず黄金の果実の力の半分を持っていってしまったのだ。だからこの残りの果実を入れようとすると、お前の体が保たずに壊れてしまう。故に一部を残しておいた」

 「じゃあ俺がバグヴァイザーを使わないとオーバーロードになれないのは……」

 ロシュオ「それが原因と考えれば良い。だがシュラの全てをその身に宿した今のお前なら……これを取り込んでも大丈夫だろう」

 

 ロシュオはその芯だけの黄金の果実を俺に差し出す。が、俺は手を出そうにも出せなかった。

 

 ロシュオ「……どうした?」

 「……それを食べれば、俺は身も心も完全にオーバーロードになるのか」

 ロシュオ「まあそうだな……やはり、まだ抵抗があるのか?」

 「当たり前だ……今の今まで人間に戻ろうとしていた俺が、人間に戻るんじゃなく人間を捨てようとしている……いや、元々人間じゃなかったんだ、人間に戻るも何もあったもんじゃないな」

 ロシュオ「人間としての己を得たが故に、か?」

 「そうしたのは他でもない、あんただろ?ま、別に恨んではいないさ。信頼に足る仲間を沢山得たし、何よりーー愛し、そして守るべき人に会えたからな」

 

 箒に会えた事だけは感謝してるーーそれだけを伝え、俺はロシュオから黄金の果実を受け取る。

 

 「これは、今はまだ食べない。本当に必要になったその時に、俺はこれを口にする。それが、俺が選んだ道だ」

 ロシュオ「なるほど……では返してもらうぞ、ザクロを」

 

 ロシュオがそう言うと、懐にしまっていたザクロロックシードがするりと懐から抜け出てロシュオの手元に納まる。そしてそのザクロから、狗道のおっさんが出てきた。

 

 狗道「あまり力になれなかったが……私の役目もここまでのようだな」

 「おっさん……」

 狗道「かつて私も、葛葉紘汰と戦い、そして敗れた。そして人たる者のーー神たる者の決意を心に刻んだ。お前もいずれ、それを知る時があるだろう……それまで、精々くたばらない事だな」

 「分かってるって。臨海学校の時は助かったよ、おっさんがいなかったらの垂れ死んでた」

 狗道「私はお前の力を引き出す事以外何もしていない、お前が助かったのはひとえに亡国企業のおかげだろう」

 「それはそうだが……まあとにかくありがとな」

 

 俺は狗道のおっさんに頭を下げる。

 

 ロシュオ「さて、牙也。お前確か茜からロザリオを受け取っていなかったか?」

 「ロザリオ?ああ、受け取ってるけど……」

 ロシュオ「そうか、それを持ってすぐに学園に戻れ。奴はついさっき目覚め、IS学園へと侵攻を開始した。急ぎ止めに行かねばならん」

 「何だと、学園が……!?分かった、ありがとな!」

 ロシュオ「礼はいい。行け、私も後で合流する」

 

 ロシュオは自分の背後にクラックを開き、俺は急いでそのクラックに入る。今行くぜ、皆……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「瑞穂……お前は私に禁断の果実を渡して、どうしようと言うのだ?」

 

 私は目の前にいる少女ーー瑞穂にそう問いかける。

 

 瑞穂「私の役目は、お姉ちゃんに禁断の果実を渡す事、ただそれだけ。さっきも言ったけど、私は禁断の果実に生かされてるだけの人形。でもその人形も、もう全身ボロボロで使えなくなってる有り様。だから私は、お姉ちゃんにこれを託して消える。ただそれだけ」

 「兄に……牙也に会いたいとは思わないのか?」

 瑞穂「会いたいよ……会って、お兄ちゃんに思い切り抱き締められたい。頬擦りしたい。けど、もしここでお兄ちゃんに会ったら……私は未練を残してしまいそうで……だから、会わないって決めてるの」

 「そうか……牙也も会いたかっただろうに」

 瑞穂「……お姉ちゃんはどうなの?」

 「何がだ?」

 瑞穂「これを受け取って、良いの?お姉ちゃんだって、人間でありたいって思ってたんじゃないの?」

 

 私は少し考えた後、瑞穂の目をしっかり見ながら言う。

 

 「前はそうだったさ。けど、今は違う。牙也の為に何か私に出来る事をしたい、牙也の支えになりたいーーそう決意して行動した結果がこれだ。別に後悔も無いし、それにーーこんな私を信頼してくれる人達がいて、こんな私を愛してくれる人に会えたから」

 瑞穂「そっか……良かった。本当は凄い怒ってるんじゃないかって思ってた……」

 「瑞穂も良かれと思ってした事だろう?ならば誇りに思えば良い。別に私は怒ってはないからな」

 瑞穂「えへへ……」

 

 瑞穂は嬉しそうに微笑む。うむ、やはり兄妹だな。

 

 瑞穂「それじゃ、はい!」

 

 瑞穂は嬉しそうな顔をしながら、自分の体から淡く輝く果実を取り出して私に差し出した。そうか、瑞穂が今差し出したこれが禁断の果実……と、瑞穂の体が少しずつだが消えていっている事に気づいた。

 

 「瑞穂!」

 瑞穂「えへへ……牙也お兄ちゃんを、どうかよろしくお願いします、箒お姉ちゃん」

 

 私に一礼し、瑞穂は粒子となって消滅していった。消えていった瑞穂の手からこぼれ落ちた禁断の果実は、一瞬空中で止まったかと思うと、ゆっくりと浮遊して私の体へと吸収されていった。そして完全に吸収されると、やがて私の体も粒子化し始めた。ふとさっきまで瑞穂がいた方向を見ると、

 

 「シュラ……?」

 

 うっすらとだが、シュラの姿があった。

 

 シュラ『……我も、力を貸そう。行け、篠ノ之箒。最後の戦いへ』

 

 シュラがそう言って、私に何かを投げ渡してきたのと同時に、私の意識はそこで途絶えたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……はっ!?」

 

 次に目を覚ますと、そこは私達の部屋だった。時計を見ると、部屋に戻ってきた時からはあまり時間が経っていない。急げば間に合うか……と、左手に何か握られている事に気づいた。見てみると、それは『E.L.S.TABOO』と書かれたエナジーロックシード。それからはうっすらとだがシュラの魂が感じ取れた。

 

 「……行こう、シュラ。私達の手で、この戦いを終わらせるぞ」

 

 私は自分用の戦極ドライバーと、保管していたシュラのゲネシスドライバーを掴むと部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 





 次回、アーマードライダー&ISvsコウガネ。



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第75話 勇武継戦


 ようやく投稿出来ました……これじゃ進まねぇな……。できる限り頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

 では、どうぞ。




 

 千冬「おおおおっ!!」

 

 IS学園のグラウンド。そこは、数えきれない程のインベスで溢れ返っていた。その中を縫うように移動しながらインベスに攻撃する複数の影。それは、千冬率いる『IS学園教員部隊』改め『IS学園教員ライダー部隊』と、スコール率いる『亡国企業ライダー部隊』であった。黒影トルーパーに変身した彼女らは、ひたすらに影松を振るってインベスを攻撃する。

 

 スコール「常に複数で行動しなさい!互いの背中を守り合いながら戦うのよ!」

 千冬「円陣だ、円陣を組め!敵に背中を見せるな!何としてもここで押さえ付けるのだ!」

 

 その戦いの中央には、アーマードライダー白夜に変身した千冬と、アーマードライダーシグルドに変身したスコールがいた。二人は背中合わせになってインベスを相手する。

 

 千冬「まったく、牙也がいない時に限って敵が攻めてくるなっ!」

 スコール「あら、そう言われれば確かにそうね……けど、だからと言って彼に任せっきりにするのは無いでしょ?」

 千冬「当たり前だ!牙也がいないからこそ、私達が踏ん張らねばならんのだ!」

 

 千冬はソニックアローを、スコールはサクラン棒を振るってインベスを蹴散らしていく。

 

 

 

 

 

 

 その向こう側では、

 

 一夏「どらぁぁぁぁぁぁ!!」

 鈴「邪魔よっ!」

 

 アーマードライダー閃星に変身した一夏、甲龍を纏った鈴がこちらも背中合わせで戦っていた。

 

 鈴「一夏、大丈夫!?」

 一夏「心配すんなって、これぐらいじゃあ俺は簡単にはへばらねぇよ!てか鈴こそ大丈夫なのか?」

 鈴「一夏ったら、あたしを何だと思ってるの?この程度でへばる程柔な体じゃないわよ!」

 

 鈴が方天牙戟・闇松を振るってインベスを蹴散らしていく。蹴散らされたインベスが転がっていった先には、

 

 M「……対策さえなれば、やはりインベスも雑魚同然か」

 オータム「ぶつぶつ言ってる暇があんなら戦えよ!」

 

 オータムがサクラン棒改でインベスを殴打して攻撃。その度に爆発と凍結が起こり、次々とインベスは倒れていく。一方のMはと言うと、ガンブレード・ベリーアサルト片手に悠然と立っているだけ。たまに射撃をしてオータムを援護するくらいで、積極的には応戦していない。

 

 オータム「ああくそっ、良いとこ取りするつもりかM!?」

 M「良いとこ取りとは人聞きの悪い。せめて横取りと言え」

 オータム「大して変わんねぇよ!良いから手伝え!」

 

 オータムが喚きながらインベスを殴打する。Mは「やれやれ」と呟き、ベリーアサルトでの攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 ラウラ「フッ!」

 シャルロット「それっ!」

 

 校舎の近くでは、インベスの校舎内侵入をそれぞれのISを纏ったシャルロットとラウラが防いでいる。束から受け取った武器ーーバナランスとメロンガードナー、更にIS無双ブレードを振るって次々と襲ってくるインベスを追い払う。

 

 ラウラ「まったく、これではAICが使えんではないか……せっかくレベルアップしたと言うのに……」

 シャルロット「まぁまぁラウラ、また次の機会に使えば良いでしょ?それにこんな沢山来られたら、流石のAICでも動きを止め切れないでしょ」

 ラウラ「分かってはいるのだがな……」

 

 そんな会話をするラウラにインベスが飛び掛かる。が、突如響いた銃声の後、インベスは吹き飛んで爆発した。

 

 セシリア「日本の言葉で言うなら、油断大敵、でしたかしら?」

 

 二人が空に目を向けると、グレープマグナム二丁を構えたセシリアが上空から優雅に下降してきた。

 

 ラウラ「オルコットか、礼は言わんぞ」

 セシリア「結構ですわ、礼を聞く暇などございませんので……他の皆さんの避難は無事完了致しましたわ、後はこのインベスの群れを蹴散らすまで。参りますわよ!」

 ラウラ「貴様の命令などいらん!今やるべき事など、皆当に分かっているだろう!」

 シャルロット「はいはい、喧嘩はそこまで。早く倒して、織斑先生達と合流しなきゃ」

 

 三人は襲い掛かってくるインベスへと自ら突っ込んでいくーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪「えいっ!」

 

 校門では、薙刀・業炎を振るう簪とアーモンドリル改を振り回す楯無の姿があった。簪が業炎を振るえば炎が巻き起こってインベスを焼き焦がし、楯無がアーモンドリル改を振るえば水の槍がインベスの体を貫いていく。

 

 楯無「簪ちゃん、大丈夫?」

 簪「大丈夫だよ、お姉ちゃん。私だって、牙也さんの役に立ちたいから……だから、絶対に挫けない。絶対に、ここは守ってみせるよ」

 楯無「ふふ……嬉しいわね、簪ちゃんがこんなに強い心を持つなんて。これも全部簪ちゃんが好きになった牙也君のおかげかしら?」

 簪「お、お姉ちゃん!?////そ、そんな事は……////」

 楯無「あらあら、図星なのね。頑張ってね、お姉ちゃんも応援してるから」

 簪「も、もう!////は、早く倒して安全を確保しなきゃ!////」

 楯無「はいはい、分かってるわよ」

 

 そう言って楯無が再びアーモンドリル改を振るおうとすると、上空から光弾の雨が降ってきてインベスを撃ち抜き、次々と爆発四散していった。二人が上空を見ると、

 

 ザック「おぅ、いらん節介だったか?」

 

 アーマードライダーバルカンに変身してヒガンバライナーに乗ったザックがいた。

 

 簪「ザックさん!」

 楯無「あら、今まで何処にいたんですか?」

 ザック「悪い悪い、ついさっきまで別任務でアフリカにいたんだ。んで帰ってきて早々にスコールから連絡を受けて、慌てて飛んできたって事だ」

 楯無「それはお疲れ様……と言いたいけど、取り敢えず織斑先生の所に向かって!他にもあちこちでインベスが現れてるから、そっちにも援軍に向かわなきゃいけないの!」

 ザック「OK、任せろ!」

 

 ザックはヒガンバライナーを元のロックシード状態に戻すと、インベスに向かって殴り掛かる。そして無理やり道を開けると、インベスを押し退けて校舎に向かって走っていった。

 

 楯無「簪ちゃん、大技で決めるから一旦離れて!」

 簪「う、うん」

 

 簪が距離を取ったのを確認し、楯無はアーモンドリル改を構える。と、アーモンドリル改にナノマシンの水が集束していき、巨大な槍のようになった。

 

 楯無「これでも食らいなさい……『ミストルテインの槍・暴撃ノ雨』!!」

 

 楯無が槍を突き出すと、アーモンドリル改の先端が幾重にも分裂し、小型の水の槍となって次々とインベスの群れに降り注いだ。水の槍はインベスの体を易々と貫き、インベスは全て爆発四散。

 

 簪「凄い……お姉ちゃん、もう貰った武器を使いこなしてる……」

 楯無「ふふ、これでもまだまだよ……追い越してみなさいな、簪ちゃん」

 簪「む……絶対、負けない……!絶対に追い越してみせるよ、お姉ちゃん……!」

 楯無「それで良いのよ、簪ちゃん。さ、他の皆の加勢に行きましょ!」

 

 姉妹は揃って、次の場所へと飛んでいくーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 一方、瑞穂から禁断の果実を受け継いだ箒は、千冬達がいるであろうグラウンドへと走っていた。

 

 箒「急がねば……!急がねば、何が起こるか分かったものじゃない……!」

 

 先程まで瑞穂と話をしていていくらか時間を使ってしまい、箒はいくらか焦っていた。しかしだからと言って焦り過ぎてはいけないのは箒本人も分かっている。なるべく気持ちを落ち着かせ、箒はグラウンドへと駆けていく。と、

 

 箒「ん?あれは……?」

 

 走っている箒の目の前に、人影が見えた。そしてその人物が立っている向こう側には、数匹のインベスの姿が。

 

 箒「まずい……!助けなければ!変身!」

 

 《ハイー!マスカットアームズ!銃剣・ザン・ガン・バン!》

 

 箒はアーマードライダーレオンに変身し、マスガンドを振り上げて大きく跳躍、インベスに斬り掛かった。が、

 

 箒「ぐっ……!?何!?」バチイッ

 

 箒の攻撃は、突然現れた見えないバリアに阻まれた。バリアに攻撃を弾かれた箒は吹き飛ばされて地面を転がるが、すぐに起き上がってマスガンドを再び構える。

 

 ??「あら、貴女は……」

 

 と、先程の人物が突然振り向いた。その人物は女性で、金髪ショートヘアーで白のオフショルダーのワンピースを着て、首に金の首飾りを付けて茶色のブーツを履いていた。そして彼女はゆったりとした足取りで箒に近寄り、手を差し出しながら言った。

 

 ??「どうか、あの子をお願いしますね……?あの人が……ロシュオが、この世界の命運を託した、あの子を」

 

 そう言って穏やかな笑顔を見せると、彼女はゆっくりと粒子となって消えていった。彼女が消えた後、周りにいたインベスもすっかり消え失せており、そこには箒だけとなった。

 

 箒「あの人は一体……?それにあの子とは……と、とにかく千冬さん達と合流しなければ!」

 

 一先ず彼女の事は置いておいて、箒は千冬達と合流する為にグラウンドに向けて再度走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千冬「よし、あらかた片付いたな。怪我している者は下がって治療を行え、残りの者は引き続き周辺警戒にあたるように」

 『はい』

 

 インベスの掃討をある程度終えた千冬は、スコールと共に部下に指示を出す。今までの事を考慮すると、ほぼ100%の確率でこの後何かが起こる。そう考えた千冬は、引き続き周辺警戒を怠らないように命じた。

 

 千冬「スコール。この騒ぎ、どう思う?」

 スコール「どう思うって……どういう事よ?」

 千冬「うむ、何と言えば良いのか……何かあっさり片付けられたなと思わなかったか?」

 スコール「そう言われれば……確かにいつもよりかは数は多かったけど、抵抗と言える抵抗、ほとんどしてこなかったように思えるわね」

 千冬「恐らく何かあるのは間違いないが……それが何なのか……」

 スコール「そこね。出来れば何もない事を祈りたいけどーー」

 

 そこまでスコールが話したその時、

 

 『きゃあぁぁぁぁぁ!!』

 『な、何なのよこいつーーぐはっ!?』

 

 突然の事に慌てて二人が見ると、そこには赤い洋風の騎士のような外見で肩から二本の角が伸びている、初級インベスとは明らかに違う怪物がいた。

 

 ??「愚かしい……愚かしいぞ、猿共!!貴様らのような下等生物が、我等オーバーロードに楯突くなどと!!貴様らなど、このデェムシュが微塵にして消し去ってくれよう!!」

 

 デェムシュと名乗るその怪物は、右手に持つ錫杖のような形の剣を振り回して、黒影トルーパーを圧倒していた。黒影トルーパー達はデェムシュの前にまるで歯が立たず、一撃で次々と変身解除に追い込まれている。

 

 千冬「な……!?あれはまさか、オーバーロード……!?」

 スコール「まずいわ、黒影トルーパーじゃ彼らには太刀打ち出来ない!私達で抑えないと!行くわよ!!」

 

 二人は武器を構え、デェムシュに突撃したーー。

 

 

 

 

 

 

 

 





 デェムシュの乱入によって、更に混乱の極みに達するIS学園。しかし、これだけでは終わらなかったーー。果たして牙也達は間に合うのかーー?



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第76話 蘇ルフェムシンム


 すみません、大分遅くなりました。一週間以上空けての投稿、上手く書けたかが心配……これから持ち直していきますので、また応援よろしくお願いします。

 では、どうぞ。




 

 千冬とスコールは連携して、突如現れた赤いオーバーロードーーデェムシュに向かっていく。千冬はソニックアローから矢を放ちながら接近戦を仕掛けていく。スコールもサクラン棒でデェムシュを殴打して攻撃する。が、デェムシュはそれらの攻撃を大剣で軽々といなしていき、反対に手に持つ剣ーーシュイムで二人に斬り掛かる。

 

 デェムシュ「ふん、猿が……貴様らごときがヘルヘイムの力を使うなど、もってのほか!!身をもってその愚かさを知るが良い!!」

 千冬「愚かなのは貴様のほうだ!私達人間を嘗めてもらっては困る!私達の実力、見せてやろう!」

 

 デェムシュが振るうシュイムをソニックアローで受け止めながら、千冬はそう叫んでデェムシュを押し返していく。それに乗じてスコールもサクラン棒でデェムシュに再び攻撃を仕掛けていく。しかし流石は歴戦のオーバーロード、二人の更なる攻撃にも動じず、そればかりかまたも二人を押し返していく。

 

 スコール「くっ……オーバーロードと戦うのは初めてだけど、こんなに強かったの!?」

 千冬「シュラは確かに強かったが、奴とは比べ物にならないな……!ゲネシスドライバーでやっと対等、と言った所か……!」

 

 ぶつぶつ文句を垂れながらも、二人は攻撃を続ける。しかしデェムシュはそれら全てをいなし、逆に反撃してくる。

 

 デェムシュ「無能な猿が……消えろ!!」

 

 苛立ったデェムシュは、その手に炎の球体を複数個作って投げつけてきた。二人の周囲を次々と炎の球体による爆風が覆っていく。

 

 千冬「ぐううっ!?」

 スコール「あああっ!?」

 

 炎攻撃を受けた二人は後方に下がるが、デェムシュはそれよりも早く二人に接近して攻撃してきた。

 

 スコール「なっ!?は、早い……!」

 

 スコールはギリギリの所でサクラン棒で防御したが、先程のダメージがあまりにも大きく、スコールは簡単に弾かれてしまった。

 

 千冬「スコール!くそっ!」

 デェムシュ「無駄だ!!」

 

 千冬が再びソニックアローから矢を放って攻撃すると、デェムシュは両肩の角から雷撃を発生させて周囲に放射し始めた。雷撃によって矢はあっさり落とされ、二人の装甲からも雷撃によって火花が上がる。

 

 千冬「ぐおおっ!?」

 デェムシュ「これで終わりよ……消え去れ!!」

 ザック「させっかよ!!」

 

 デェムシュが千冬に斬り掛かろうとした時、横からザックが殴り掛かった。突然の事に対応出来ず攻撃を受けたデェムシュだったが、すぐに持ち直して今度は攻撃対象をザックに変更し、シュイムを振るい始めた。

 

 一夏「させるかッ!!」

 鈴「加勢するわよ!」

 

 しかしそこへ一夏と鈴が颯爽と現れてデェムシュの攻撃を受け流し、ザックと共に千冬達を守るように立った。

 

 デェムシュ「次々と邪魔が入る……!無能な猿共がッ!」

 一夏「黙れッ!!お前なんかに俺や皆を無能呼ばわりされるのはごめんだ!!」

 デェムシュ「ほざけ!」

 

 一夏とデェムシュがそれぞれの武器を打ち合い、更に鈴やザックが死角から攻撃を仕掛けていく。が、

 

 デェムシュ「その程度の事で倒せると思っていたのか!?馬鹿め、返り討ちにしてくれるわ!」

 

 デェムシュはどこからか蔦を伸ばして三人を拘束、そのまま校舎の壁に向けて投げ捨てた。三人は校舎の壁に叩き付けられ、鈴の甲龍はダメージ超過したのか強制解除されてしまった。

 

 一夏「鈴!?てめぇ、よくも!」

 千冬「落ち着け一夏!怒ったら奴等の思う壺だ!」

 一夏「けど……!」

 千冬「お前は下がって凰や他に負傷した者達を守れ。奴等は私達が相手する」

 一夏「……っ、分かった。あまり無理しないでくれよ、千冬姉達」

 スコール「善処するわ。ザック、まだやれる!?」

 ザック「ハッ、この程度でダウンする程柔な体してねぇよ!むしろ燃えてきたぜ!」

 

 千冬達はそれぞれの武器を構えてデェムシュに突撃していく。と、突如三人の足元から大量の蔦が伸びて壁のようになり、三人の行く手を塞いだ。

 

 ??「……邪魔ヲシタカ、デェムシュ?」

 デェムシュ「ハッ、邪魔どころか良い時に来たな、レデュエ!」

 

 蔦が消えた時、そこに立っていたのは中華風の緑色の鎧を身に纏った怪物。デェムシュはその怪物をレデュエと呼んで救援を歓迎した。

 

 デェムシュ「他はどうした?お前が指揮していたんだろう?」

 レデュエ「他ノオモチャノ世話ヲサセニ行カセタ。時機二戻ッテクルダロウ」

 デェムシュ「だったら良いが……ともかくこいつらを片付けるぞ」

 レデュエ「……私二命令スルナ、脳筋」

 デェムシュ「誰が脳筋だこの頭でっかち!」

 レデュエ「……一々反応スルナ、ソレダカラ脳筋ナノダ」

 デェムシュ「言ったなてめぇ!後で覚えてろよ!」

 

 口喧嘩しながらも二体は千冬達に向けて攻撃を始めた。炎や雷撃、それに光弾や緑色のエネルギー波で千冬達の接近を許さず、それらを盾にして剣や戟で千冬達に攻撃を仕掛けてきた。応戦する千冬達だが、二体のオーバーロードの前には多勢に無勢。まったく歯が立たず段々と追い詰められていく。

 

 千冬「くっ、ただでさえ強いオーバーロードが、二体も……!」

 レデュエ「残念ダガ、二体デハナイ……合ワセテ五体ダ!!」

 

 レデュエがそう叫んだ時、突然地響きが起き、地面から何かが顔を出した。顔を出したのは、幻獣玄武のような見た目の怪物であった。その手には見覚えのある二人の少女が抱えられている。

 

 千冬「デュノア、ボーデヴィッヒ!?」

 ??「お前達の仲間か?やはりそうか……やはり弱いな、人間は!!」

 

 その怪物はそう叫んで抱えていた二人を千冬達に向けて投げ捨て、それを盾にするようにしてそのまま斧を振りかざして突進してきた。

 

 ザック「くそっ、させるkーーぐはっ!?」

 

 ザックが飛び出して防ごうとしたが、斧を振りかざしての攻撃のパワーにザックも一撃で吹き飛ばされた。

 

 スコール「ザック!今助kーーっ!?」

 

 スコールが救援しようとした時、急な殺気に思わずサクラン棒で防御態勢を取る。と、巨大な大剣が勢い良く振り下ろされ、スコールの体ごと弾き飛ばした。

 

 ??「……主の邪魔はさせん」

 

 なんとかスコールが態勢を立て直して見ると、大剣を振り下ろしたのは、白い牛を模した怪物であった。大剣を持つ手と反対の手には、

 

 スコール「オータム、M!?」

 

 ボロボロに叩きのめされたオータムとMの姿が。更に、空から何かが降ってきて千冬の周りに落ちた。

 

 千冬「更識姉妹、オルコット……!?」

 

 降ってきたのは、虫の息状態のセシリアと楯無、それに簪だった。その上空には、何やら幻獣朱雀を思わせる見た目の怪物が悠々と浮遊していた。

 

 ??「ハッハッハッ、弱き事は罪よな……」

 

 その朱雀のような怪物はゆっくりと地上に降り立ってレデュエの後ろに立ち、牛のような怪物はオータムとMを投げ捨てるとデェムシュの隣に立ち、玄武のような怪物は正面に立った。

 

 一夏「オーバーロードが、五体も……!」

 

 勢揃いしたオーバーロード達を見て、千冬の後方で怪我人の撤退をサポートしている一夏は強く歯噛みする。シュラと同じオーバーロードが目の前にいるのだから無理もないだろう。と、

 

 レデュエ「サテ……サッサト終イニシヨウカ」

 

 レデュエが右手を前に出すと、複数のクラックが彼らの背後に開いて、中から大量のインベスが現れた。

 

 千冬「くっ……お前達、一体何が目的だ!?」

 レデュエ「決マッテイル、我ガ主ノ悲願ノ為、貴様等人間ヲ消ス……タダソレダケヨ。サア行ケ、オ前達」

 

 ただそれだけ答えたレデュエの号令と共に、インベスの群れが千冬達に襲い掛かってきた。しかし次の瞬間、千冬達を守るように地面から蔦が伸びて壁のようになり、インベスの行く手を塞いだ。更にその蔦の壁は、倒れ込むようにしてインベスを飲み込み、後には何も残さなかった。デェムシュ達は咄嗟に回避して事なきを得たが、レデュエが呼び出したインベスはクラックごと消されてしまった。

 

 レデュエ「ム……!?我ラト同ジ力ヲ……一体誰ガ!?」

 ??「……ぁぁぁぁああああああ!?」

 

 突然響いてきた叫び声に全員が上を向く。と、

 

 ??「ぁぁぁぁあんの馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!?なんで学園上空にクラック繋げたんだぁぁぁぁぁ!?」

 千冬「牙也!?」

 

 上空から牙也が何か叫びながら頭から落ちてきていた。

 

 牙也「だぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ!!こうなったら自棄だぁぁぁぁぁ!!変身!!」

 

 《ゼロ》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!ゼロアームズ!夢・幻・無・双!!》

 

 空中で牙也は『仮面ライダー零 ゼロアームズ』に変身し、態勢を整えてから着地した。重厚な鎧を纏ったゼロアームズの着地の震動で、辺りは大きく揺れる。

 

 牙也「ふぃ~……ったく、クラック開く場所なんとかならんかったのかねぇ?」

 

 牙也はやれやれと首を振りながら背中の零旗を抜くと、二刀流のように構えた。

 

 ??「貴様……何者だ?」

 

 白い牛のような見た目のオーバーロードが大剣を振り上げて牙也に攻撃を仕掛けようとすると、

 

 《シャインマスカットアームズ!光刃・ザン・ザン・ザン!!》

 

 また別の音声が鳴り、オーバーロードの足元に銃撃による小さな砂埃が出る。また全員がその方向を見ると、『仮面ライダーレオン シャインマスカットアームズ』に変身して無双セイバーの銃口を向けている箒の姿があった。

 

 箒「すみません、遅くなりました!」

 千冬「気にするな、来てくれただけでも大助かりだ。それはともかく……」

 牙也「この圧倒的不利を、覆さなきゃな」

 

 牙也を筆頭に、箒達はそれぞれの武器を構えてオーバーロード達に向けた。

 

 牙也「さぁ……こっからは、俺達のステージだッ!!」

 

 その言葉と共に、牙也はオーバーロード達に向かって走り出したーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 アーマードライダーVSオーバーロードの戦い。さて、これから一体何が起こるのかーー?



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第77話 君臨スル必要悪

 始まります。




 牙也が目の前のオーバーロードーーデェムシュに向けて零旗を振り下ろす。デェムシュがそれを剣で防ぐと、牙也は更に叩き付けるようにして零旗を振るう。一方デェムシュは更に肩部の角から雷撃を放ち牙也を牽制しようとするが、牙也のその重厚な鎧の前には多少ビリッと痺れる程度のもの。ものともせず牙也はデェムシュに向かっていき、零旗を叩き付ける。

 

 デェムシュ「無能な猿が……!何故滅びを止められぬ事を分かっていながら、尚も抗い続けるのだ……!?」

 牙也「誰がそんな事決めたよ……?誰が滅びを止められないなんて決めたよ?そんなもん、実際に動いてみないと分かんないだろうが!てめぇらの価値観で勝手に決め付けるもんじゃねぇ!!」

 

 牙也はそう叫んで零旗を振り下ろし、槍のように突く。デェムシュはそれをシュイムで弾き、火球を投げ付けてくるが、それを牙也は大きく振るった零旗から黒い炎を放って相殺させた。

 

 デェムシュ「フン、馬鹿馬鹿しい……貴様等の価値観など、我等の前には捨てられるが運命の生ゴミをも下回る程に無意味ッ!無駄、無意味、無価値ッ!あまりにもくだらないものだッ!!」

 牙也「くだらない……?ろくに人間の事を知ろうともせず、ただ単純に人間の価値観を『くだらない』の一言で片付けるてめぇらの価値観こそ、『くだらない』と言えるんじゃないのか?」

 デェムシュ「ハッ、笑わせる!貴様等のような人間など、以前猿だった存在が無駄に知能を得ただけだろう!そんな輩の言葉や行動に、価値観などあるものか!」

 

 デェムシュは更に火球を周囲にばら蒔くように飛ばした。しかしそれを再び大量に伸びた蔦が壁のようになって防ぐ。更に牙也は右手をデェムシュに向け、デェムシュの火球によって燃えていない蔦を全てデェムシュに向けて伸ばした。

 

 デェムシュ「何っ!?ヘルヘイムの植物の力を……貴様まさか……!?」

 牙也「その通り。あの時の蔦の壁は、俺が咄嗟に呼び出したものさ」

 デェムシュ「貴様……!オーバーロードともあろう者が、我等を裏切るばかりか、あまつさえ人間に手を貸すとは……!恥を知れ!!」

 牙也「うるさいんだよ……裏切る?悪ぃが俺はてめぇらの仲間になった覚えは無いね!ましてや俺はその人間に今まで育てられてきたんだぜ?俺を育ててくれた人間に攻撃するてめぇらの下で、なんで戦う必要がある?それがオーバーロードだからか?ハッ、だったらてめぇらの仲間になるなんざこっちから願い下げだぜ」

 デェムシュ「黙って聞いておけば……ならば潔く我等に殺されろ!!」

 

 デェムシュはシュイムを構えて牙也に突撃する。と、

 

 《火縄名冥DJ銃!》

 

 牙也は火縄名冥DJ銃を取り出して銃身の丸いプレートをスクラッチし、スピードコントロールツマミを上に向けた上でもう一度スクラッチした。そしてDJ銃をデェムシュに向け、引き金を引く。と、DJ銃からマシンガンのように黒い弾が放たれた。咄嗟にシュイムを前に構えてそれを防御するデェムシュだったが、防御が多少遅れた為かそのほとんどを被弾する事になった。更に牙也はデェムシュが銃撃によって吹き飛んだ際の隙をみて、他のオーバーロード達にもDJ銃を発砲、その強さの前に劣勢であった箒達を援護する。その援護に助けられた箒達は、オーバーロード達にそれぞれが強烈な一撃を当てて吹き飛ばした。オーバーロード達はデェムシュの近くまで吹き飛ばされる。

 

 レデュエ「グオッ!?貴様、余計ナ真似ヲ……!」

 牙也「余計な真似をしなきゃ負けるんでな。皆、大丈夫か?」

 千冬「大丈夫だ、良いタイミングで援護してくれたな、感謝する」

 牙也「そりゃ良かったです。奴等の攻撃は極力回避した方が良いかもしれませんね」

 レデュエ「クッ……グリンシャ、デュデュオンシュ、シンムグルン!オ前達三人デ奴等ヲ包囲シ、波状攻撃ヲ掛ケルノダ!強烈ナ一撃ヲ与エレバ、奴ノ鎧モ保タヌ筈ダ!」

 グリンシャ「……はっ」

 

 レデュエの命令で、オーバーロード三体が牙也に向かってきた。牙也は火縄名冥DJ銃を構えると、先程と同じようにマシンガンのように黒い弾を放つ。それをグリンシャは大剣で斬り裂き、デュデュオンシュは自らが放つ火球で相殺して、シンムグルンは斧で斬り裂いて対処し、そのまま牙也に武器を振り下ろした。牙也はそれら全てをDJ銃の銃身で順番に防いで弾き、逆にその銃身でグリンシャ達をぶん殴った。

 

 《ロック・オン》

 

 デュデュオンシュ「ま、まずい!レデュエ様達をお守りせねば……!」

 

 三体が怯んだ隙に、牙也はゼロロックシードをDJ銃にロック、その銃口をデェムシュ達に向ける。グリンシャ達は慌ててデェムシュ達を守るように立ち塞がった時、

 

 牙也「これでも食らっとけ!!」

 

 《ゼロチャージ!》

 

 銃口に溜められた闇の如くドス黒いエネルギーが、DJ銃の引き金を引くと同時に一気に放出され、黒いエネルギーの奔流となってデェムシュ達を呑み込んだ。大爆発と共に、周囲は黒煙に包まれる。

 

 一夏「……やったのか?」

 牙也「分かんねぇ。何にせよ、まだ警戒を解かないようにな」

 

 牙也はそう言ってDJ銃を構え直し、一夏達も牙也に倣って武器を構え直す。やがて黒煙は晴れていくーーと思いきや、黒煙と周囲の炎が何かに吸収されていくのが分かった。その光景に牙也達周辺の空気ははりつめたようになる。やがて黒煙が全て吸収されると、

 

 ??「まったく……この程度の攻撃に臆するとは、オーバーロードも形無しだな」

 

 そこには、一際派手な服装に身を包んだ男がオーバーロード達を庇うように立っていた。

 

 千冬「貴様……何者だ?」

 ??「フン、人間ごときに名乗るのも恥だが……敢えて名乗ろうか。私は『コウガネ』……新世界の神となる者だ!」

 牙也「コウガネ……そうか、お前が……!」

 一夏「てめぇ……一体何が目的だ!?こんな事しやがって、ただで済むと思ってんのか!?」

 コウガネ「この程度の事で一々騒ぐな、人間共が……」

 一夏「この程度だと!?てめぇ……!」

 牙也「落ち着け一夏。コウガネ……お前の目的は既に分かってる。お前の目的、それは……『禁断の果実』と『黄金の果実』を手中に納める事。そうだな?」

 

 牙也はコウガネを指差しながらそう言う。するとコウガネは「くくくっ」と含み笑いをしながら答えた。

 

 コウガネ「そこまで分かっているとはな……その通りッ!!この世界に流れ着いた黄金の果実、そして禁断の果実、双方を手中に納め、今ある世界を滅ぼしここに新たな世界を生み、その世界の神として君臨する事ッ!!それこそが私の野望だ!!」

 スコール「この世界を滅ぼす……!?」

 コウガネ「そうだ……この私が全ての生命の頂点に立ち、生きとし生ける者全てを支配する。それこそが、私が望む世界よ!」

 箒「そんな事、絶対させるものか!貴様の野望、私達が砕いてやる!!」

 コウガネ「フン、やってみろ。貴様等人間ごときに、神たる私は倒せぬさ……!」

 

 そう言ってコウガネはレデュエに目を向ける。レデュエは頷いて右手を一夏達に向けると、一夏達の足元から蔦が伸びてきて、一夏達を閉じ込めてしまった。それを確認し、コウガネは不気味な笑みを浮かべながら牙也に目を向けた。

 

 コウガネ「……それに、私の目当ては今、私の目の前にあるからな。貴様等への興味など一切無い」

 千冬「目当てだと……?」

 

 千冬達もつられてコウガネの目線の先にいる牙也を見る。当の牙也は、相変わらずDJ銃を構えていた。

 

 コウガネ「お前か……私を神の領域へと導く鍵は。その有り余る力……私に寄越せ!!」

 牙也「なんだ、分かってたのか……じゃあ奪ってみろ。簡単には渡さない!!」

 

 牙也はそう言ってコウガネにDJ銃を向け、マシンガンのように弾を連射した。コウガネはそれを透明なバリアを張って防ぐ。

 

 コウガネ「お前程度、私が相手するまでもない……行け、私の忠実なしもべよ」

 

 コウガネは指を鳴らしてクラックを開く。と、その中から一人の男が現れた。その男が現れた時、一夏達は思わず武器を再び構え直していた。

 

 春輝「クヒャハハハハハ……!!遂に、遂に来たぜ……!!漸くてめぇを合法的に殺せる時が来たァァァァァ!!」

 一夏「……っ、春輝……!」

 千冬「愚か者が……遂にそこまで堕ちたか……!」

 春輝「アァ?煩いんだよ無能共がよぉ……それにしても随分そいつに毒されたみたいだなぁ、一夏。そいつの事を何も知らないで、呑気なもんだなぁ!」

 一夏「何が言いたい……!?」

 春輝「ヒャハハハハハ!ま、すぐに嫌でも分かるさ!!待ってろよ、すぐにこいつを片付けて、それからじっくりなぶり殺してやるからよぉ!!」

 

 《ダークネスエナジー》

 

 《ロック・オン》

 

 春輝「へぇん身ッ!!」

 

 《黒!ダークネスエナジーアームズ!黄金の果実!!》

 

 春輝は『仮面ライダー邪武 ダークネスエナジーアームズ』に変身し、黒く汚れたソニックアローを構えた。

 

 春輝「行くぜオラァァァァァァ!!」

 牙也「馬鹿が……何も知らないでやがるな。しょうがない、相手してやるか」

 

 牙也はDJ銃を零旗に持ち替え、春輝に向かっていった。

 

 

 

 

 

 




 次回、牙也VS春輝。しかし事態はとんでもない結末へーー。



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第78話 奪ワレタ力


 始まります。




 

 春輝がその手に持つ黒いソニックアローから、無数の黒い矢が放たれる。それを全て零旗で叩き落とし、牙也は春輝に向かって言い放つ。

 

 牙也「随分と堕ちたもんだなぁ……その強さを手に入れる為に、遂に悪魔にまで魂を売ったか」

 春輝「ヒャハハハハハ、悪魔だろうが何だろうが、結果俺が何になろうが関係ねぇ!!この圧倒的強ささえ手に入れば充分なんだよ!!」

 牙也「この大馬鹿が……!」

 

 牙也は内心イラつきながらも、冷静を保ちながら攻撃を続ける。春輝が振るってくるソニックアローを零旗で弾き、斬撃を受け止め、飛んでくる矢を叩き落とし、カウンターで零旗を打ち据える。しかし牙也はこれを繰り返している内に、妙な違和感を覚え始めた。

 

 牙也(くっ、何だ……?体が異様に重く感じる……それに俺の攻撃が奴に効いている風にも見えないし、何より奴の攻撃を受けると、俺の体に痛みが走る。確実に防いでいる筈なのに……どういう事だ?)

 

 

 

 

 

 

 コウガネ「……気づき始めたか?」

 

 違和感によって牙也の表情が微妙に変わったのを、後ろでオーバーロード達と共に観戦するコウガネは見逃さなかった。すかさずコウガネは春輝にテレパシーに似た方法で指示を出す。春輝はそれを理解すると、牙也に向けて怒涛の連続攻撃を開始した。

 

 コウガネ「あと少し……あと少しで、私の野望は達成される……!葛葉紘汰によって阻止された私の野望が、今この世界において、遂に果たされるのだ……!」

 

 コウガネは狂った笑みを浮かべながら、二人の戦いを静観する。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここでコウガネについておさらいしておこう。

 コウガネーー彼の出生は遥か昔、かつてのフェムシンム、つまりロシュオ達が知恵の実を巡っての殺し会いに発展してほとんどが滅びるより前まで遡る。フェムシンムのとある科学者が、人工的に知恵の実を作れないか、と考えて実験をしている途中に、その結果として生まれた人工生命体ーーそれがコウガネである。

 まだフェムシンムが大勢生きていた当時、知恵の実は最後まで戦って勝ち残った一人だけが手に入れられる物であった。これに目を付けたコウガネは、自身を完全な存在に昇華せんとする為に、自身の力を使ってフェムシンム達の闘争心を煽り、結果知恵の実を巡ってのフェムシンム同士の殺し合いに発展させた。しかしあと一歩という所でとあるオーバーロードによって封印され、一端は眠りについた。

 しかし時は流れ、この出来事が記された碑文を発見し、これに則って人工的に知恵の実を作り出そうとしたある科学者がその調査を行っている最中、何らかの要因でその封印は解かれてしまった。そして復活したコウガネは自身の力を使って今度は人間の闘争心を煽り、それによって得たエネルギーを収束させる事で知恵の実を完成させ、元の世界を滅ぼし、新たに世界を創って自らが神になろうとした。が、その野望は自らを封印したオーバーロードの助けを得た葛葉紘汰達伝説のアーマードライダー達に阻まれて一度倒され、その後力を蓄えて再び復活したが、またも葛葉紘汰達に野望を阻まれて倒され、コウガネは完全に消滅したように見えたのだがーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在に戻る。そのコウガネは戦闘前、目の前で牙也と戦っている春輝にこっそりと『邪悪の種』を植え付けていた。この邪悪の種は、植え付けた者の闘争心を煽る効果がある。フェムシンム同士の殺し合いの時も、コウガネはこれを使ってフェムシンム達を滅びの未来に誘導したのだ。そして封印から目覚めた時も、この邪悪の種をアーマードライダー達に植え付ける事で闘争心を煽り、戦いを誘発させる事によって吸収、力を蓄えた。

 

 コウガネ「行け、私の忠実なる尖兵よ……勝って、私に黄金の果実を献上するのだ……!」

 

 そして今、その邪悪の種が春輝に植え付けられ、力が着々とコウガネに蓄えられている事に、植え付けられている春輝を含めた全員は気が付かない。何せ牙也達にはコウガネの情報など一つもないし、デェムシュ達オーバーロードはコウガネによって呼び出された意志を持つ人形のようなものなので、コウガネの事など知る由もないのだから当然である(牙也に関しては、名前だけはロシュオから聞いている)。そんな事露も知らないまま、二人は武器を打ち合っている。

 

 春輝「クヒャハハハハハ……!!力がみなぎる……心が震える……魂が満ちる……!!これだぁ……俺は、これを待ってたんだよぉ……!!」

 

 そんな訳の分からない事をブツブツ言いながら、春輝は狂った機械のように黒いソニックアローを振り下ろす。零旗で受け止める牙也だが、その表情は苦悶のそれであった。

 

 牙也(くそっ、どうなってやがる?受け止める度に体に痛みが走る……まさか、攻撃が貫通しているのか……?だとしたらこれ以上奴の受け止めるのは危険だ……弾くか避けるのに徹しないと)

 

 やむなく牙也は攻撃回避に徹せざるを得なくなった。春輝の攻撃を受け止めるのではなく弾いていなし、隙有らば零旗を振るって黒い炎を飛ばす。しかし春輝の怒涛の攻撃に防戦一方になる。

 

 箒「牙也が押されている……!」

 

 そしてレデュエによって蔦の檻に閉じ込められた箒達も、牙也が防戦一方になりつつある事に気づき始めた。

 

 千冬「馬鹿な……春輝がそこまで強くなっていたのか……?それとも何か理由があっての事か……?」

 ザック「いずれにしても、このままじゃ不味いのは見れば分かる。ここから早く脱出をーー」

 一夏「それは無理だ、ザック」

 ザック「あ?何でだよ?」

 一夏「この蔦、相当の強度がある。俺や千冬姉の攻撃が効かなかった程にな」

 

 一夏はスターカリバーで蔦をバシバシ叩きながら言う。

 

 スコール「斬れなかったの?不味いわね……私とザックの武器は殴打系統だからそもそも効かないでしょうし……」

 箒「牙也に何とかしてもらうしか……くそっ!」

 

 箒は地面を殴って悔しがるが、どうにもならない。そうこうしている間にも、春輝の攻撃は激しさを増していく。猛攻に押され、やがて牙也は箒達のいる蔦の檻にまで後退させられた。

 

 箒「牙也ッ!!」

 牙也「大丈夫だ……!もう少しだけ、待ってろ……!」

 

 《火縄名冥DJ銃!》

 

 春輝の猛攻をなんとか押し返し、牙也は火縄名冥DJ銃をもう一度呼び出し、腰に提げた無双セイバーと合体して大剣モードにした。そして再び春輝と打ち合う。

 

 春輝「へッ、そんな単調な攻撃で俺を倒せると思ってんのかァ?だとしたらそれは大きな検討違いだぜッ!!」

 

 《ダークネスエナジースパーキング!》

 

 春輝はシーボルコンプレッサーを二回押し込んで、黒いソニックアローにエネルギーを溜める。負けじと牙也もゼロロックシードを火縄名冥DJ銃にロックする。

 

 《ロック・オン》

 

 《一十百千万億兆・無量大数!!》

 

 牙也「ぜやぁッ!!」

 

 《ゼロチャージ!》

 

 そして大剣を春輝に向けて振るい、紫の斬撃を飛ばした。対して春輝も黒いソニックアローを振るって黒い斬撃を飛ばした。二つの斬撃がぶつかり合いーー

 

 

 

 

 

 

 いや、斬撃同士が触れた途端、牙也の飛ばした斬撃だけが消滅した。

 

 牙也「攻撃が打ち消された!?」

 春輝「詰めが甘かったな雑魚がァ……終わりだァ!!」

 牙也「しまっーーぐああああああ!?」

 

 勢い止まらず飛んできた斬撃をもろに受け、牙也の変身は解除されて地面を数回転がって蔦の檻にぶつかって止まった。

 

 『牙也!!』

 

 箒達が声をあげるが、牙也は大ダメージの為か動く事も話す事も儘ならない状況に陥っていた。必死に何か言おうとしているが、声が出ない。そうこうしている間に春輝が近づいてきて、牙也の首を掴んで持ち上げた。その右手には何かが握られている。

 

 春輝「ヒャハハハハハ……無様な姿だなぁ、お前。ま、俺にとっちゃどうでも良いがな。さあて……頂いていくぜ!!」

 

 春輝はそう言って、右手に握った何かを牙也の心臓目掛けて突き刺した。その途端、牙也の体から紫電が発生し、エネルギーのようなものが牙也の体から溢れてきて、春輝が右手に握るそれに吸収されていく。やがてその全てが吸収されると、春輝はぐったりして動かなくなった牙也の体を放り捨て、手に持ったそれをマジマジと見つめる。それは、様々なフルーツが彩られた鍵の形のロックシードであった。

 

 春輝「クヒャハハハハハ……遂に、遂に完成だァ!なぁコウガネ!遂に完成したぜ、なぁ!!」

 

 春輝は高らかに笑いながら変身を解除し、コウガネに走り寄る。そしてその鍵形のロックシードをコウガネに見せた。

 

 コウガネ「これか……遂に、遂に果たされるのか……!私は遂に、神になれるのか……!!」

 

 コウガネはそれを手に取り高らかに笑う。そして、

 

 コウガネ「やった……無事に完成したぞ、神へと続く道が……!漸くだ……漸く果たされるのだ……!!ハハハ、感謝するぞ、織斑春輝。私はこれを手に入れる為にお前に力を貸したのだ……よくやってくれた!!」

 春輝「ヒャハハハハハ、礼なんかいらねぇよ、それより力は!?俺に分けてくれるんだよな、その力を!!」

 コウガネ「ハハハハハ、勿論分かっているさ。お前にも勿論授けようーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死』というプレゼントを、な」

 

 

 

 そしてコウガネ以外のその場にいた全員が気づいた時、春輝の腹部には、いつの間に呼び出したのか、剣が突き刺さっていた。

 

 春輝「……ぁ…………なん、で……?」

 コウガネ「ふん。所詮お前も私の駒の一部であった、という事だ。お前の役目は終わった、とっとと失せろ」

 

 コウガネは剣ごと春輝を放り投げた。地面に数回バウンドして、春輝の体は蔦の檻の前で止まる。

 

 千冬「春輝……この、大馬鹿者が……!」

 

 変わり果てた弟の姿に、千冬はそう吐き捨てながらも、身内たる弟にひっそり涙する。

 

 コウガネ「さぁ……今日の今こそ、新世界誕生の瞬間となるのだァ!!頭を垂れて屈せよ人間!!これが、神の力だァァァァァァァァ!!」

 

 コウガネはそう叫んで、鍵形のロックシードを自身の心臓に突き刺す。と、凄まじい程の紫電が発生して辺りを火の海に変え、コウガネの体は段々と異形のそれと変化していく。また、近くにいたオーバーロード達も粒子状になってコウガネへと吸収されていく。レデュエが吸収された事で蔦が消え、それにより何とか動けるようになった箒達は、その様子を呆然としながら見つめる。やがてコウガネの体は、巨大で炎を纏った馬の姿になった。

 

 コウガネ『我コソ新世界ノ神ナリ!マズハココニイル貴様等カラ蹂躙シ、世界ソノモノヲ我ガ手デ創リ直ストシヨウカ!!』

 

 コウガネーーいや、馬の姿の異形は、手始めに火球をあちこちに吐き始めた。

 

 スコール「不味いわね……!全員回避、回避ーーーーっ!!」

 

 スコールがそう叫ぶも、火球の着弾によって辺りは火の海に包まれ、箒達は炎の中に呑み込まれたーー。

 

 

 

 





 力を奪われ戦闘不能に陥った牙也、牙也の力を手に入れて蹂躙を始めようとするコウガネ、それに抗おうとする箒達……成す術は果たしてあるのかーー?



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第79話 助ケ船


 始まります。




 

 牙也(……ぁ…………ぁぁ……ぁ…………)

 

 牙也は、真っ暗な空間の中で動く事も出来ずに漂っていた。そこは全ての感覚が失われ、思考能力等も奪う空間であった。牙也は何も考える事が出来ず、体をちょっとも動かせず、ただその空間で漂うままであった。思考能力も段々と消え、体全体がゆっくりと活動を停止していくのにも気づけないまま、牙也はただ暗闇へと堕ちていく。

 

 ??「………………ゃ、…………ばや…………牙也……!」

 

 と、誰かが叫んでいるのが、辛うじて微かに聞こえてきた。更にほんの少しだが、光の眩しさを感じた。牙也は感覚が無くなり最早動いているのかさえも分からない腕を伸ばし、その見えない光を掴もうとするーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……牙也!!寝惚けてないで、さっさと起きなさい!!」

 牙也「いでっ!!」

 

 聞き慣れた声と共に頭に強烈な痛みが走って、漸く牙也は目を覚ます。まだ眠気が残る頭を無理矢理動かして起き上がると、隣には鬼のような形相の茜がいた。

 

 牙也「おはよ、母さん……てか朝からデカイ声出さないでよ、せっかく良い夢見てたのに……」

 茜「夢?どんな夢よ、お母さんにも教えてよ」

 牙也「えっと……あれ、どんな夢だったっけ?」

 茜「何よ、覚えてないの?あら、もしかしたら、さっき思い切り拳骨したのがいけなかったのかしら……?」

 牙也「多分ね~。瑞穂は?」

 茜「何言ってんのよ、今日からあの子は牙也が通ってた幼稚園に入園でしょ?朝からテンションマックスで起きてきたわよ、しかも朝5時にね」

 牙也「ああそっか、今日からだっけ……」

 茜「牙也はもう入学式も済んで、昨日から授業でしょ?初めての授業で堂々と『分かりませんっ!!』って大声で言ったって担任の先生から聞いた時はもう頭を抱えそうになったわ。本当、我が子ながらこれから大丈夫なのかしら……」

 牙也「俺が目の前にいるのにそんな事言う……?」

 茜「あらごめんね。それより早く着替えてご飯食べなさいよ。今日は楽しみにしてた体育の授業の日なんでしょ?」

 牙也「あ、そうだった!急がないと……!」

 茜「じゃあ早く着替えるのよ?」

 

 茜はそう言って部屋を出た。牙也は慌ててタンスを漁り、服を着替えるとバタバタと階段を降りていく。そしてリビングの扉を勢い良く開けると、

 

 準也「こら牙也、体育が楽しみなのは分かるが、少しは落ち着いて行動しなさい」

 

 準也が朝食のベーコンを噛み締めながらそう注意してきた。

 

 牙也「ちぇ~、良いだろ、楽しみなんだからさぁ……」

 準也「全く……ほら、早く朝御飯食べないと遅刻だぞ」

 牙也「あ、やっべ!?それじゃいただきま~す!!」

 

 慌てて椅子に座り、用意されていた朝食に手を付けていく。茜がキッチンから「ちゃんとよく噛んでゆっくり食べなさい」と注意しても、急いでいる牙也の耳にはまったく届かない。牙也が急いで朝食を食べていると、

 

 瑞穂「おはよ~♪」

 

 スキップしながら瑞穂がリビングに入ってきた。幼稚園に着て行く新しい制服姿で、楽しそうにスキップしている。

 

 牙也「おはよ、瑞穂。楽しみなのか、幼稚園」

 瑞穂「もっちろん!たくさん遊んで、たくさんお友達作るんだ!お友達できたら、お兄ちゃんにも紹介してあげるね!」

 牙也「ん、楽しみにしてるよ」

 準也「瑞穂、幼稚園行きたいなら早く朝御飯食べなさい。後からでもゆっくり新しい制服を楽しめるだろう?」

 瑞穂「は~い」

 

 瑞穂は牙也の隣に座り、朝食を食べ始めた。と、

 

 牙也「ご馳走さま。お先に」

 

 瑞穂が食べ始めて間もなく、牙也があっという間に朝食を食べ終わった。食器を流し台に置き、洗面所へと向かう。歯磨きや顔洗いをすると、一旦部屋に戻って荷物を持って降りてきた。

 

 牙也「んじゃ、そろそろ行くよ。瑞穂、幼稚園楽しんで来なよ」

 瑞穂「は~い♪」

 茜「こらこら、ちょっと待ちなさい。お弁当忘れてるわよ」

 

 茜がリビングからバタバタと走ってきて、牙也にお弁当が包まれたバンダナを渡す。

 

 牙也「あ、ごめんごめん、ありがと母さん」

 茜「お礼は良いから、早く行きなさい。箒ちゃん達が外で待ってるんでしょ?」

 牙也「そうだったそうだった……あれ?」

 

 玄関のドアを開けた所で、牙也はふと引っ掛かる言葉を聞き振り返る。目の前に立つ茜は、相変わらすニコニコしている。

 

 茜「どうしたのよ?ほら、早く行きなさいったら」

 牙也「わっ!?」

 

 茜が牙也の背中を軽く押すと、牙也はふらつきながら外へと倒れていき、ドアはゆっくりと閉まった。それを見送り、茜は一筋の涙を溢す。

 

 茜「……これで、本当に最後。牙也……絶対に勝ちなさいよ」

 

 その言葉と共に、全ては白く塗り潰されたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……はっ!?」

 

 また牙也が目覚めると、そこは何もない真っ白な空間だったーーいや、よく目を凝らして辺りを見ると、何やら鍵のようなものが宙に浮いている。体を起こして立ち上がり、それを手に取った。

 

 牙也「鍵形の、ロックシード……?これって確か、葛葉紘汰さんのと同じ……?」

 

 それを見て思い出したのは、かつてアーマードライダー炎竜と共闘した時、危機に陥った炎竜を庇ったあの白銀のアーマードライダー。後でそれがアーマードライダー鎧武ーー葛葉紘汰だと知り、大いに驚いた事は記憶に新しい。と、ポケットから突然光が溢れ出してきた。ポケットを探ると、それはロシュオから受け取った芯だけの黄金の果実だった。更にそれを取り出した時、ポケットから更にロザリオが音を立てて落ちる。気づいて拾い上げると、

 

 牙也「っ、ぐうううううっ!?」

 

 突如頭の中に膨大な情報が流れ込んできて、牙也の脳内に集約していく。あまりに膨大な情報の為に強烈な頭痛が発生し、牙也は持っていた物を取り落とし、頭を抑えて苦しみ出す。が、それもほんの少しの時間だけで、すぐに頭痛は消える。

 

 牙也「ハァ……ハァ……ハァ……今のは、一体……?少しだが、影松やソニックアロー、それに見覚えのある白銀の鎧が見えた……まさか今のは、葛葉さん達アーマードライダーの記憶……?」

 

 荒くなった息を整え、牙也は落とした物を全て拾い上げる。相変わらす黄金の果実は目映い程に光を放っている。

 

 茜『……行きなさい。箒ちゃん達が、貴方の帰りを待ってるわよ?』

 

 牙也にはそんな声が聞こえた気がした。黄金の果実と鍵形のロックシードを握り締め、牙也はロザリオを片手で首に下げる。

 

 牙也「……今が、その時か」

 

 牙也は鍵形のロックシードを左手に持ち直すと、右手の黄金の果実を一口で食べた。シャクシャクと瑞々しい咀嚼音が響く。と、牙也の体は、瞬く間にロザリオから伸びた蔦と黄金の光に包まれたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園のグラウンドは、火の海と化していた。あちこちが炎で焼かれ、雑草の一つも残らない程に燃えていた。

 

 コウガネ『フハハハハ……!これが、これこそが、この沸き上がる程に膨大な力こそが、黄金の果実の力!!神の力だァァァァ!!』

 

 巨大な炎の馬の姿となったコウガネが、高らかな笑い声を辺りに響かせながら叫ぶ。

 

 箒「……ぅ…………ぁ…………」

 

 そしてその足元には、火球の直撃こそ回避したものの、大爆発に巻き込まれて変身解除にまで追い込まれた箒達が倒れていた。全員まだ意識はあるものの、辛うじて意識をはっきりさせている状態の為、それもいつまで続くか分からない。

 

 コウガネ『む……まだ生きているのか。火力をもっと上げるべきだったか……まぁ良い、次で終わりになるからな』

 

 コウガネはそう呟いて、その前足を大きく上に上げる。その前足の下には、満身創痍の状態で倒れている箒がいた。

 

 束「間に合えぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 と、突如上空から紅椿を纏った束が急降下してきて、箒を回収した。コウガネの前足は地面を踏みつけ、学園全体を大きく揺らす。

 

 箒「……ね……姉、さん……」

 束「箒ちゃん、しっかりして!あいつは何なの!?ちーちゃん達は無事なの!?」

 箒「まだ……皆はあそこに……私の事は、後で良い、ですから……早く、牙也達を……」

 束「嫌だよ!箒ちゃん置いてきぼりにして行ける訳ないじゃん!!」

 コウガネ『蛆虫が次々と出てくる……燃やしてくれよう!!』

 束「ちっ!?」

 

 コウガネは上空の束に向けて火球を放った。束はギリギリの距離で回避し、千冬達が倒れている場所まで一気にまた急降下する。ちょうど千冬達も、ふらふらになりながらもなんとか立ち上がっているところだった。

 

 千冬「ハァ、ハァ……束、か?ちょうど良い……セシリア達を急いで回収、してくれ……これ以上危険な目に遭わせる訳には……」

 束「だったらちーちゃん達も!もう皆ボロボロなんだよ!?」

 スコール「悪いけど……そうは、いかないのよね……」

 

 スコールがボロボロになった体に鞭打って立ち上がりながら言う。

 

 スコール「私達が、今ここで逃げたら……どうなると思う?貴女でも分かるわよね……?」

 ザック「だから、こんな所で逃げる、訳にはいかないんだよ……!俺達しか、戦える奴がいないんだから、よぉ……!」

 一夏「束さん……皆を、よろしくお願いします……!」

 束「でも……!」

 コウガネ『下らん……人間とは、何故にこれほどに愚かしいのか!?所詮人間は神には勝てんのだ!私に勝ちたいのなら、神を連れて出直してこい!!』

 

 コウガネがそう叫び、またも火球を放ってきた。

 

 千冬「くっ、ここは私がーー」

 束「駄目ッ!!」

 

 ここで束が全員の前に立ち塞がった。

 

 千冬「束、止せッ!!」

 

 しかし束は尚も立ち塞がる。火球が後少しで自分達にぶつかるーー死への恐怖に、束は思わず目を閉じたーー。

 

 

 束「……?」

 

 

 しかし、何時になっても体が炎に包まれない。恐る恐る目を開けると、束の目の前には黒いスーツに身を包んだ男が手を翳し、コウガネが放った火球を束達全員を覆う程の大きさのバリアで受け止めていた。そして男は手を払って火球を消し飛ばした。

 

 ??「……久しぶりだね、束ちゃん」

 

 男はそう言って振り返る。その顔に、束は見覚えがあった。十年前、自身が発明したISをいち早く理解し、そして援助をしてくれた会社の社長ーー忘れる筈もない。自分にとって恩のある人の顔を、声を、そして存在そのものさえもーー。

 

 

 

 

 束「じゅ……準也、さん……!?」

 

 

 

 

 牙也の父、準也がそこにいた。

 

 

 

 

 

 





 束達の前に姿を現した準也ーーオーバーロード・ロシュオ。準也はコウガネに対し嫌悪感を露にするが、コウガネは準也もろとも人間を滅ぼさんと動き出す。が、準也はそれを笑い飛ばす。何故ならーー。



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第80話 奇跡ハ起コス物

 始まります。




 束「じゅ、準也さん……!?なんで……!?」

 千冬「準也……まさか、あの『ファクトリー雷』の社長だった……!?」

 スコール「って事は彼は……」

 一夏「牙也の父さん!?」

 

 突然現れた牙也の父、準也を前に驚きを隠せない束達。

 

 準也「死亡扱いされてから何年経つかな……もう八年にはなるのか?こうやって束ちゃんと箒ちゃんの顔を見るのも久しぶりだね」

 束「な、なんで……準也さんは確かにーー」

 準也「んー、まぁ確かに一度は死んだよ、私は。けどね束ちゃん、僕の遺体を君は確認したかい?」

 

 束はそう言われて考え込む。確かに束はこれまで、準也の死亡は聞いても遺体を見た事は一度も無かった。

 

 準也「そうだろうそうだろう、まぁ単にその時だけ僕の運が良かっただけの事さ。会社が跡形もなく崩れ落ちてしまったから、遺体の回収なんて出来る筈もないしね。お陰で瑞穂以外は全員、今までこうやって生き延びる事ができた。そして今に至るんだよ」

 

 準也は苦笑いを浮かべながら軽くはにかむ。そしてふとあらぬ方向を見ると、気を失った牙也が倒れているのが分かった。準也は近づいて牙也の体を持ち上げると、それを束に差し出す。

 

 準也「牙也と後ろに倒れてる娘達を頼むよ、束ちゃん。ここは僕達で何とか抑えておくから」

 束「でも……!」

 準也「心配はいらないよ。それっ!」

 

 準也がそう言って左手を高く上げると、淡い緑の光が箒達を包み込んでいく。やがて光が消えると、箒達の体の傷はある程度治っていた。

 

 箒「これ、カンナが使っていたのと同じ能力……」

 一夏「体の痛みが、消えた……!」

 準也「これでしばらくは保つよ。後は君達の頑張り次第だ。僕が奴の攻撃を受け流すから、君達はただ攻撃に専念しておいてくれ。時間まで耐えれば、後はあの子がどうにかしてくれるさ」

 スコール「あの子って?」

 準也「すぐに分かるよ……すぐにね」

 

 準也はそこまで言うと、飛んできた火球をバリアで防ぎ、それをコウガネに向けて押し返した。火球は続けて飛んできた火球と相殺、爆発。

 

 準也「さ、早く行きなさい。犠牲者を出したくないのなら、尚更ね」

 束「……分かりました」

 

 束は悔しそうに俯きながらそう言い、紅椿を操作した。すると一瞬でその場に束作の無人機・ゴーレムが現れる。

 

 束「皆を乗せて。これから治療の為に退避活動を行うよ」

 

 束がゴーレムにそう命令すると、ゴーレムは頷いてセシリア達をまとめて抱えると、コウガネから距離を取るようにして校舎の向こう側へと飛び立つ。

 

 束「皆……必ず帰ってきてね」

 

 そう言い残し、ゴーレムを追い掛けて束も飛んでいった。

 

 箒「……必ず帰ります、姉さん」

 

 その後ろ姿に、箒もそう呟いて答える。そしてコウガネに向き直り、箒は徐にゲネシスドライバーを取り出して腰に付けた。

 

 千冬「……!?篠ノ之、お前そのゲネシスドライバーは……!?」

 箒「シュラが使っていた物です。話は後でしますから、今は奴をなんとかしましょう!」

 

 そう言って箒は淡い赤のエナジーロックシードを出して解錠した。

 

 箒「シュラ……お前の力、私に貸してくれ!」

 

 《リンゴエナジー》

 

 クラシック調の音声が流れ、クラックから巨大リンゴが現れる。箒はスッと目を閉じると、両手を大きく左右に広げ、次いでそこからエナジーロックシードを挟み込み拝むような姿勢になる。そして目をカッと開くと、その目は淡い緑に光る。

 

 箒「……変身!!」

 

 《ロック・オン》

 

 《ソーダァ!リンゴエナジーアームズ!》

 

 エナジーロックシードをロックしシーボルコンプレッサーを押し込むと、回転と共に果汁を吹き出しながらアームズは箒に被さり、ゲネティックライドウェアの上に展開される。『仮面ライダーレオン リンゴエナジーアームズ』の誕生だ。千冬達もそれに続けて変身し、武器を構える。

 

 スコール「私とザックが前線に出て戦うわ。貴方達は遠距離攻撃での援護をお願いね」

 一夏「それなら俺達も前線に出た方が良いんじゃ……」

 スコール「彼のバリアで防げる範囲も限度がある筈よ。まぁ実戦経験豊富な私達に任せておきなさいな」

 

 スコールとザックはフフッと笑いながらコウガネに向き直る。と、コウガネはちょうど次の火球を箒達に向けて放ったところだった。しかしその火球は、準也が張ったバリアに阻まれ跳ね返される。もう一度火球を放って相殺し、コウガネは準也を忌々しそうに睨み付ける。

 

 コウガネ『貴様……それほどの力を持ちながら、何故人間に味方する?私と共にいれば、この世界どころかこの世の全てを手に入れられるというのに……』

 準也「お前の傘下なんか誰が入るもんか。数百年前、私の仲間を滅びの未来に導いておいて、よくもまあそんな事が言えたものだな。しかも織斑春輝の精神に寄生する事で邪悪な意志を刺激し力を蓄えるとは……随分と狡い真似をするな」

 コウガネ『仲間……数百年前……?貴様、まさか……!』

 

 ここでようやくコウガネは準也の正体に気づくも、その表情は愉悦に満ちていた。

 

 コウガネ『ククク……そうかそうか。お前は私を作り上げたあのフェムシンム共の生き残りか……勘違いするな。私はただ貴様等にヒントを与えただけだ。禁断の果実を手にする為のヒントをな。結果貴様等が滅んだのは、単に貴様等の結論が愚かであっただけの事だ!!』

 準也「ああ……確かに私達フェムシンムが滅んだのは、『強き者が生き残り、他は切り捨てる』という結論に至ったからこそ起こった事象だ、それは認めよう……だかな、同じ手口で私達と同じ道を人間に歩ませるのは、流石に承服しかねるんだよ。牙也達に……今この世界で必死になって生きている人間達に、私達と同じ末路を辿ってほしくはないと考えてる。だからこそ、私は人間に味方する事を決めたのだよ。貴様の思い通りになってしまうのは、私達だけで充分なのさ」

 千冬「準也さん、何を言って……?」

 コウガネ『フン、どうせ上部だけなのだろう?所詮は他のフェムシンムを見捨てた化け物、また見捨てる気でいるのだろうに』

 準也「人間は生きる事から目を背けぬ限り、何度でもそこからのやり直しが効く。私がこの世界にーー人間の世界に来て、人間の生活に馴染む事で知った事だ。間違った道を一度進んだ事があるからこそ、それを正す方法が分かる。誰にも二度と同じ道は歩ませない。それが今の私の使命だ」

 

 準也は拳で胸を軽く叩きながらそう言った。しかしそれを、コウガネは鼻で笑い飛ばす。

 

 コウガネ『ハッハッハ、滑稽だな。人間を滅ぼそうとしたお前が、今度は人間を守るだと?笑わせるな!』

 準也「人間を滅ぼそうとしたのは貴様であって私ではない。が……部下が人間を毛嫌いしていた事は否定しようもない事だがな」

 コウガネ『フン……で、どうするつもりだ?真に黄金の果実の力を得た私を、貴様等はどうやって倒すつもりなのだ?教えてくれたまえ!』

 準也「すぐに分かるとも……すぐにな」

 

 準也がそう言った途端、準也との会話に気をとられていたコウガネの顔面が弾けて、その巨体が揺らいだ。見ると、スコールとザックがそれぞれの武器で顔面を殴打したようだ。

 

 コウガネ『小細工を……!』

 準也「馬鹿言うな、貴様が彼らの存在を忘れていただけの事だろう?炎を纏った馬になったようだが、熱くなり過ぎて脳が沸騰したか?」

 コウガネ『ほざくなッ!!』

 

 コウガネは再び火球を放って攻撃してくるが、準也が的確にバリアを張って無効化していく。

 

 準也「僕の事は気にせず、皆はバンバン攻撃しなさい!少しでもダメージを与えておけば、後々有利だろうからね!」

 千冬「わ、分かりました!一夏、篠ノ之、行くぞ!」

 一・箒『ああ(はい)っ!』

 

 千冬と箒はソニックアローの弓撃による攻撃を、一夏はスターカリバーの斬撃を飛ばして攻撃し、接近戦を仕掛けるスコールとザックを援護する。コウガネはその巨体を揺らして攻撃を対処していこうとするが、その巨体故に敏捷性は皆無、ましてや五人の同時攻撃を全て対処する等不可能……よって成す術もなく攻撃を受けるーー

 

 コウガネ『ちょこまかと動く羽虫め……私を誰だと思っているッ!!』

 

 と、そう叫びながら炎の馬が嘶く。と、ソニックブームの如き嘶きがバリアを粉々に破壊してしまった。そしてその嘶きは、接近戦を仕掛けていたスコール達二人を吹き飛ばし、二人を援護していた一夏達をも怯ませた。スコール達は何とか態勢を立て直し着地、再びコウガネに向かおうとするが、嘶きはまだ続いていた。その嘶きは辺りの木々をへし折り、薙ぎ倒し、更に暴風程の威力はあろう衝撃波を生み出していた。それが再度攻撃しようとする一夏達を無理矢理押し返していく。

 

 準也「くっ、予想外だね……まさかここまで強くなってるとは……!お陰でバリアが張った傍から壊されていくよ」

 コウガネ『フハハハハ……!やはりその程度か。ならばこれで終いにしてくれよう!!』

 

 コウガネは嘶きに加え、今まで以上に灼熱に燃えた巨大な火球を箒達に向けて放った。嘶きのソニックブームに邪魔されて態勢を崩しかけていた箒達は防御も間に合わず、火球の着弾によって辺りは大爆発に包まれる。その大爆発は地面を丸々抉り、大きな穴を空ける。そして爆風が晴れようとした時、

 

 コウガネ『おっと、やり過ぎたか……まぁどうせ消し炭にする予定だったのだ、問題なかろう』

 準也「……それが、大有りなのさ!!」

 コウガネ『何ッ!?ぐおっ!?』

 

 爆風を斬り裂いて準也が現れた。その手には2mはあろう大剣が握られている。準也はその大剣を馬の姿となったコウガネの喉に突き刺した。そして突き刺した状態からそのまま一気に縦一閃。予想外の攻撃にコウガネは大きく後退りする。

 

 準也「今だ、皆!喉元に一撃お見舞いしてやれ!!」

 

 《リンゴエナジースカッシュ!》

 

 《シークヮーサーエナジースカッシュ!》

 

 《スターフルーツスカッシュ!》

 

 《チェリースカッシュ!》

 

 《アンズスカッシュ!》

 

 そのまま地面へ着地した準也が後ろへ声を上げる。と、ドライバーを操作してそれぞれの右足にエネルギーを溜めた五人が、コウガネの目の前に現れた。

 

 五人『行ッけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

 五人のライダーキックがコウガネの喉元へ突き刺さり、またも大爆発が起こったーー。

 

 

 

 

 

 

 




 次回もお楽しみに。



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第81話 名・軍・師!!


 始まります。




 

 学園のグラウンド全体を覆う程の大爆発は、やがて真っ黒い煙が少しずつ消えるのと同時に収まっていった。グラウンドは地面が抉れ、木々や草花は薙ぎ倒され燃えカスと化し、校舎は辛うじて倒壊を免れたもののあちこちに皹が入っている。

 

 準也「ふぅ……」

 

 立ち上る黒い煙の外側、そこには地面に突き刺した大剣を壁代わりにして準也が寄り掛かっていた。黒いスーツは所々焼け焦げて穴が空いており、髪もいくらか燃えてしまっている。

 

 千冬「や……やった、のか……?」

 

 その後ろには、疲労で膝をついている箒達がいた。未だ上がる黒煙を見つめながら、千冬はそう聞く。

 

 準也「どうだか……手応えはあったけどね。あぁ煙い煙い」

 

 焦げ臭い匂いに渋い顔をしながら準也がそう答える。と、

 

 ヒヒィィィィィィン!!

 

 黒煙の向こう側から馬の嘶きが響き渡った。咄嗟に立ち上がり身構える箒達。そして黒煙の向こう側から、

 

 コウガネ『お、おのれぇぇぇぇぇ……!!よくもこの私に、傷を負わせてくれたなぁぁぁ……!!』

 

 コウガネがゆっくりと現れた。喉元の傷は多少残ってはいるが、既に半分程が塞がっている。

 

 準也「ちっ、大して効かなかったか……!良い一撃になったと思ったんだけどねぇ……っく」

 

 準也は大剣を構えようとしたが、突然の目眩に襲われる。咄嗟にザックが支えて倒れる事はなかったが、疲労困憊なのがよく分かる。

 

 ザック「お、おい!大丈夫か!?」

 準也「くっ……久々だから力加減を間違えたね、これは……まずいね、非常にまずい……」

 スコール「ザック、貴方は彼を連れて下がりなさい!ここは私達で抑えるわ!」

 ザック「済まねぇ……!おい、動けるか?」

 準也「大丈夫だ……!」

 

 準也はザックの肩に担がれて下がっていく。

 

 コウガネ『逃がすものか……!!』

 

 コウガネはまたも火球を放ってきた。放たれた火球は今までとは違い、着弾前に爆発して細かくなり、流星の如く降ってきた。箒達は必死に火球を払っていくが、続く戦いに疲労は最大にまで達していた。しかしそれでも箒達は戦う。必死に武器を振るって火球が校舎の方へと飛ばないようにしていく。しかし、

 

 箒「はぁ……はぁ……ぐっ!!」

 一夏「やばい、体が……!」

 

 遂に疲労困憊によって体は限界に達し、五発目の火球を対処したところで、全員が膝をついてしまう。

 

 コウガネ『フン、随分と長く抗ってくれたものだな。だがここまでよ……消えろッ!!』

 

 最早抵抗は不可能と判断したコウガネは、これまでの物とは比べ物にならない大きさの火球をいくつも形成した。それを見て箒は悟った、自分達もこれまでだという事をーー。

 

 箒「……ごめんなさい、姉さん。約束、守れそうにないや」

 

 そう呟いて、箒はそっと目を閉じたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつになっても火球が飛んでこない。箒が恐る恐る目を空けると、

 

 コウガネ『ゴ……アアアア……!?な、何故だ……何故、力が抜けていく……!?』

 

 コウガネが苦しんでいるのが分かった。巨体をうねらせてもがき苦しんでいるのが見てとれる。更にその巨体が、ボロボロと灰のように崩れ落ちつつあった。

 

 コウガネ『や、止めろ……!止めろ……!!これは私の力なのだぞ……!何故逃げていく……!?何故だ、何故止められぬのだ……!?私はーー私はァァァァ!!』

 

 もがき苦しむコウガネの体は、やがて完全に崩れ落ち、辺りはその残骸の成れの果てたる灰にまみれ、その中央には、元の姿に戻ったコウガネが倒れていた。そしてすぐにコウガネは目を覚まし、自らの姿に混乱を隠せずにいる。

 

 コウガネ「何故だ……何故力が……黄金の果実の力が消えたのだ……!?」

 準也「そうか……間に合ったか……」

 

 いつの間にか箒達の側に準也が戻ってきていた。早くも回復したのか、普通に歩いてきた。

 

 コウガネ「貴様……私に何をした!?」

 準也「何もしてないよ……俺はな」

 コウガネ「ほざくなッ!!」

 

 よろめきながらもなんとか立ち上がったコウガネは、自身の力を解放して、灰の中から新しい怪物を呼び出した。それはイナゴに似た外見の怪物であり、それが数百体も出現した。

 

 千冬「くっ……!あの馬が漸く消えてくれたと思ったところに……!」

 一夏「くっそぉ……でも、やるしかないんだろ……!?」

 箒「ああ……意地でもここは、私達で守りきる!!」

 

 箒達もふらつきながら立ち上がり、それぞれの武器を構え直す。

 

 コウガネ「やれっ!!」

 

 コウガネの号令により、数百体のイナゴ怪人は一斉に飛び掛かってきた。空を覆い尽くす程のイナゴ怪人が襲い掛かろうとしたその時、金色と漆黒が入り交じった波動のようなものが箒達の背後から発生し、全てのイナゴ怪人を跡形もなく消し飛ばしてしまった。

 

 準也「……来たか」

 コウガネ「な、なんだと……!?私の尖兵達が、一瞬で……馬鹿な、この力は……!?」

 

 コウガネは驚きながら、波動が飛んできた箒達の背後に注目する。箒達がつられて後ろを振り返ると、

 

 

 

 

 

 

 牙也「……間に合った、かな?」

 

 

 

 

 

 

 正面に広げた右手の掌に、あの金色と漆黒の波動を纏った牙也がそこにいた。しかし牙也の姿は、今までとは多少だが異なっていた。着ているのは普段通りの黒袴。しかし今までと違うのは、その上から黒と紫に彩られた軽装の鎧と、肩から踵までを覆う程の大きさの黒いマントに身を包み、髪は茶色の長髪となって箒と同じようにポニーテールに纏められている。またその目は右目が漆黒に、左目が金色に輝き、右目からは真っ黒な瘴気が火の粉のように出てきている。牙也は右手を下ろすと、箒達に向き直った。

 

 箒「牙也……なのか?その、姿は……?」

 千冬「何が……起きたのだ?今のは一体……?」

 

 箒達の疑問を他所に、準也は牙也に歩み寄る。すっかり様変わりした姿の牙也に、準也は手を差し伸べる。

 

 準也「やっと……やっと、念願叶ったか」

 

 感極まったのか、思わず目を伏せた準也のその目は涙に濡れていた。牙也はそんな準也の肩を軽く叩き、ニカッと笑って見せる。そしてマントをはためかせながら前に進み出て、箒達を守るように立つ。そして状況を理解できずにいるコウガネを一瞥しながら言った。

 

 牙也「よぅ。てめぇが欲しがった力を、全部奪い返された気分はどうだ?」

 コウガネ「貴様……やはり貴様が……!!何故だ……何故貴様がここにいる!?貴様の全ては、私に吸収されて消滅した筈だ!!」

 牙也「はぁ?思い違いも大概にしろよ。誰がてめぇなんぞの力になるかよ」

 準也「フッ……やはり予想通り、最後まで気が付かなかったか。所詮はその程度だった、という事だな」

 

 準也もまたコウガネを一瞥し、牙也の肩に手を置いて尋ねる。

 

 準也「束ちゃん達はどうした?」

 牙也「そろそろ来るよ」

 

 そう答えて牙也が後ろを向くと、紅椿を纏った束を先頭に、学園の代表達が次々と合流してきた。

 

 束「皆大丈夫!?」

 千冬「束!それに楯無達も……!これは一体、何があったというのだ……?」

 束「う、うん……牙君達の治療をしてたら、突然牙君の体が金色に光って、他の皆を包み込んでいったの。そしたら皆の怪我が一瞬で治って……もう何が何だか私にも分かんないよ……」

 セシリア「敵に倒された後の記憶がはっきりしませんの……何があったのかしら……?」

 鈴「何て言うんだろ、体が暖かい光に包まれるような感覚があったわね……」

 簪「暖かくて……気持ちよくて……凄い心地よかった……」

 

 束達は突然起こった出来事に大きく混乱している。そして準也に気づくと、駆け寄って尋ねた。

 

 束「準也さん……!一体これってどういう事なの……!?牙君って何者なの……!?答えてよ!!」

 

 束は準也に掴み掛かってそう尋ねる。すると準也は悲しそうな表情になりながら答えた。

 

 準也「そうだな……もう種明かししても良い時かな。皆に全部教えてあげるよ……私のーー私達の全てを」

 

 そう前置きして、準也は話し始めた。コウガネの正体と目的、牙也の正体、そして準也本人の正体を。そして今までの出来事は全て、準也の手の内にあったという事を。

 

 束「そ、そんな……!準也さんが、オーバーロードだなんて……!」

 シャルロット「しかも、牙也さんが……黄金の果実そのものだったなんて……」

 準也「私達の問題に君達を巻き込んでしまった事は、今ここでお詫びする、すまなかった。が、そうするより他に無かった。私が気づいた時、既にコウガネはこの世界に根深く浸透していた。だからこそ、奴を今ここに引きずりだす為に、皆を巻き込む必要があったのだ……」

 

 準也はそこまで言って目を伏せる。信じられない事実に、束も千冬も他の皆も驚きを隠せない。

 

 準也「が……牙也はその事実を嘆く事も、僕に怒りをぶつける事もしなかった。ただただ何を言うまでもなく、その事実を受け止めていた……その時私は気づいたんだ。あぁ、私はこんな真実を、これからずっと牙也に背負わせてしまうのだとな……」

 牙也「別に背負う程の物でもないさ」

 

 準也の言葉に牙也が反応を返す。その表情は先程と同じく満面な笑みであった。

 

 牙也「むしろ俺は父さん……あんたに感謝してる。あんたに作られて、人間の世界の中で少しの間だけだが育てられ、人間のなんたるかを知れた。それにーー」

 

 牙也は箒と簪を見つめながらこう言った。

 

 

 

 

 牙也「何より、これから俺の一生を掛けて愛する人達に出会えたからね」

 

 

 

 

 その言葉に、箒と簪は一瞬にして顔を赤くした。牙也は「へへっ」と笑うと、改めてコウガネに向き直る。が、コウガネのその表情は余裕を見せていた。

 

 コウガネ「フン、黄金の果実の力を取り返したところで、私には勝てんよ。何故なら……私こそが、本物の黄金の果実だからだッ!!」

 

 コウガネはそう叫ぶと、自身の体から小さな種を取り出して、それを今まで放置されていた春輝の体へと埋め込んだ。すると、

 

 春輝?「アァァァァァァァァ……!!」

 

 死んだ筈の春輝が奇妙な声を上げながら起き上がってきた。そしてコウガネを守るように立ち塞がる。更にその体がボコボコと音を立てて変質し始めた。やがて春輝の体は原型を無くし、それはさっき箒達と激戦を繰り広げたオーバーロードーーデェムシュの姿となる。偽デェムシュは剣を構えて攻撃の姿勢を取る。

 

 牙也「違うな。お前は黄金の果実なんかじゃない。ただの金メッキーーいや、その金メッキさえも偽物の存在。つまり何の変哲もない、ただの模造品なんだよッ!!」

 

 それをまた一瞥し、牙也は戦極ドライバーを腰に付けてロックシードを解錠した。

 

 《ゼロ》

 

 《ロック・オン》

 

 牙也「変身ッ!!」

 

 《ソイヤッ!ゼロアームズ!夢・幻・無・双!!》

 

 牙也は『仮面ライダー零 ゼロアームズ』に変身して偽デェムシュに殴りかかった。偽デェムシュもそれにパンチで答える。そして二人のパンチが交差する。

 

 偽デェムシュ『グオッ!オ、オノレッ!』

 

 牙也のパンチを受けた偽デェムシュは、右手に炎を出現させて牙也に投げ付けた。炎は爆発して、牙也の全身を包み込む。

 

 箒「牙也!」

 

 と、箒の叫びに呼応したかのように、炎はいつの間にか牙也の右手にあった鍵型のロックシードへと収束していく。

 

 コウガネ「そ、そのロックシードは……!?」

 準也「フッ……お前が織斑春輝に命じて茜から盗ませたお陰で、漸く完成したロックシード……牙也達を次代へと導きーー世界をも塗り替えるロックシードだッ!!」

 

 牙也に代わって準也がそう言い、牙也はそのロックシードを遂に解錠した。

 

 

 

 

 

 《フルーツアイランド!》

 

 

 

 

 

 その音声と共に、牙也の頭上には複数のクラックが開き、そこから今まで牙也達が使用した全てのアーマーが現れた。そしてアーマーは次々と偽デェムシュへと突撃し、牙也から強制的に距離を取らせる。

 一方牙也の戦極ドライバーには、フェイスプレートが消滅して新たに鍵穴のようなものが現れた。牙也はコウガネに向き直り、その鍵型のロックシードを鍵穴に差し込んで捻った。

 

 

 

 

 

 

 《ロック・オープン!》

 

 

 

 

 《絆アームズ!名・名・名・名・名軍師!!》

 

 

 

 

 

 

 出現した全てのアーマーが牙也の回りに集まり、そして牙也と融合する。ゼロアームズの鎧は弾け飛び、中から現れたのは、先程まで牙也が着ていたあの黒袴と軽装の鎧、それに『絆』の文字が意匠として施された兜だ。マントをはためかせ、牙也はコウガネ達を指差しながら叫ぶ。

 

 

 

 

 

 牙也「俺の謀略で……俺は、仲間を勝利へと導く架け橋となる!!」

 

 

 

 

 

 





 やっと出せたよ、零の最強アームズ……鎧武が大将軍なら、こちらは名軍師と来ました。

 次回、牙也の謀略が次々と解き放たれるーー!



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第82話 軍師ノ戦略


 計略一つで、戦場の優劣は簡単に逆転するーー。




 

 ??「……!この気配は……!」

 

 ここは、牙也達の世界と繋がったヘルヘイムの森とは別のヘルヘイムの森。ヘルヘイムの植物は既にいくつかの世界を侵食し、そこにある文明を滅ぼしていた。だが、このヘルヘイムの森はそれを何とか回避し、繋がっていた世界との分離に成功し、他の世界へと移っていった。そしてそれが出来たのは、今何かを感じ取っていたこの白銀の鎧に身を包んだ一人の青年ーー今は神かーーのおかげでもあった。

 

 ??「紘汰、どうかしたの?」

 

 そこへ一人の少女が、紘汰と呼ばれたその青年に駆け寄る。青年は少女を見て軽く頷くと、再びその何かを感じ取った方向を見ながら言う。

 

 紘汰「舞……いやな、今少しだけど、黄金の果実の気配がしたんだ」

 舞「黄金の果実……!?紘汰のだけだった筈じゃ……!?」

 紘汰「多分、次が生まれたんだ。そしてそれを手に入れた人がいる……」

 

 紘汰はそこで言葉を切り、舞と呼ばれた少女と共に再びその方向を見る。その方向には、ある一つの惑星が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 比類なきその風格、そして圧倒的存在感。今の牙也を例えると、まさに『王』と言えよう。しかし彼は今、ここに将達を導く軍師として存在する。揺らぐ事の無いその漆黒と金色の瞳でコウガネ達を見据え、かつ大きな何かを背負っているであろうその漆黒と紫の鎧で箒達を守るように聳え立つ。

 

 箒「これは……!?」

 一夏「な、なんだよ……あの姿は……!?」

 スコール「新しいロックシード!?どうやって……!?」

 ザック「名、軍師……?」

 

 箒達が思い思いに呟くのを背後に、

 

 《紫炎!》

 

 牙也は鍵型のロックシードーー絆ロックシードを捻った。音声と共に、空から零の基本武器、紫炎が現れる。それを掴み、偽デェムシュに向けて構えた。

 

 偽デェムシュ『コケオドシダッ!!』

 

 偽デェムシュはそう叫んで、剣を構えて突進する。対して牙也も、紫炎を構えて突進した。二つの斬撃がぶつかり、しかし太刀筋は牙也に軍配が上がる。一撃、二撃と斬撃を当て、その度に優雅にマントが翻る。そして三撃目を当てると、偽デェムシュは一旦後ろに下がってから再び突進して来た。それを見て牙也は絆ロックシードを捻る。

 

 《サクラン棒!》

 

 音声と共に、牙也の後方からサクラン棒が飛んできて連続で偽デェムシュを殴打する。

 

 スコール「あ!それ私と同じ武器!」

 

 驚くスコールを尻目に、牙也はサクラン棒を掴んで殴打攻撃を叩き込んだ。息もつかせぬ連続攻撃を浴びせて、偽デェムシュを大きく吹き飛ばす。

 

 偽デェムシュ『オ、オノレ……!!』

 

 と、受け身を取って態勢を立て直した偽デェムシュは、肩部の二本の角から雷の球を飛ばした。それを見逃す牙也ではなく、

 

 《スターシールド!》

 

 絆ロックシードを捻りスターシールドを呼び出してこれを防御、

 

 《グァバライナー!》

 

 雷の球を弾き飛ばすと、三たび絆ロックシードを捻ってグァバライナーを呼び出し、偽デェムシュへ矢を撃ち出した。矢は次々と偽デェムシュに深々と突き刺さり、火花を上げながら怯ませる。

 

 ザック「一夏の盾に、ギリアのボウガンまで……!」

 千冬「あのアームズ……まさか、他のロックシードのアームズウェポンを呼び出せるのか?」

 

 《マスガンド!》

 

 牙也「はぁぁぁぁ!!」

 

 今度はマスガンドを呼び出し、偽デェムシュに向けて振るう。マスガンドで斬り裂き、突き、撃ち、そしてスターシールドで殴打、タックル。更に他に呼び出した武器で打撃、斬撃、射撃を繰り返し、偽デェムシュに攻撃の隙さえも与えず吹き飛ばした。

 

 偽デェムシュ『オ、オノレ……オノレェェェェェッ!!』

 

 よろめきながら立ち上がった偽デェムシュだが、突如その体がボコボコと音を立てて変質し、その姿を変えていった。次の姿は、玄武をモチーフとしたオーバーロード、シンムグルンであった。偽シンムグルンはその巨体を丸めて、タックルの姿勢で突っ込んできた。

 

 《王子鎚(ジャックハンマー)!スイカ双刃刀!マンゴパニッシャー!》

 

 それをかわし、牙也は王子鎚とスイカ双刃刀を呼び出して偽シンムグルンに向かわせ、自分は切ったマンゴーの形をしたハンマー、マンゴパニッシャーを持って殴打攻撃を浴びせる。王子鎚とスイカ双刃刀、二つの巨大武器は意志を持つかのように動いて偽シンムグルンの甲羅に攻撃を加えていく。牙也が思い切り殴打すると、偽シンムグルンはよろめきながら後退りし、するとまたもその体がボコボコと変わり始めた。次に変わったのは、牛をモチーフとしたオーバーロード、グリンシャだ。

 

 《スネークサリガマ!キウイ撃輪!ブラッド大橙丸!》

 

 偽グリンシャが大剣を構えて突進してきたのを見て、今度はスネークサリガマを呼び出して投げつけ、大剣に巻き付ける。こうして大剣を封じ込むと、次にキウイ撃輪を投げつけてからブラッド大橙丸で攻撃し始める。スネークサリガマが巻き付いた大剣に気を取られ、偽グリンシャは二種類の武器の攻撃を立て続けに受ける。

 

 《影松!》

 

 その後それらの武器を一旦しまい、牙也は影松と影松・真を呼び出し、二槍流攻撃で偽グリンシャを追い詰めていった。

 

 偽グリンシャ『貴様……許サン……許サンゾ……!!』

 

 二槍の攻撃を受けて後退を余儀なくされた偽グリンシャがそう呻き、またも姿を変えていく。今度は朱雀がモチーフのオーバーロード、デュデュオンシュ。偽デュデュオンシュは火球を複数発生させて牙也に投げ付けた。

 

 《メロンディフェンダー!ドンカチ!ブドウ龍砲!》

 

 牙也はメロンの意匠を施した盾、メロンディフェンダーで火球を止め、ドングリを模したトンカチ、ドンカチを偽デュデュオンシュへと蹴飛ばした。ドンカチは偽デュデュオンシュの頭にクリーンヒットし、偽デュデュオンシュをよろめかせる。そこへブドウ龍砲の顔への射撃、顔を滅多撃ちにされて偽デュデュオンシュはまたも後退する。

 

 《ソニックアロー!セイヴァーアロー!》

 

 次いでソニックアローとセイヴァーアローを呼び出し、偽デュデュオンシュへと向かっていく。偽デュデュオンシュの反撃を掻い潜っての二つの弓による怒涛の連続攻撃が、劣勢であった偽デュデュオンシュをさらに追い詰めていく。すると二弓の攻撃で飛ばされた偽デュデュオンシュの体がまたまた変化していく。その姿は中華風の鎧を纏ったオーバーロード、レデュエとなった。偽レデュエは戦斧を構えると、戦斧から光弾を放って攻撃してきた。

 

 《アップルリフレクター!アーモンドリル!》

 

 牙也は光弾をアップルリフレクターで防ぎ、アーモンドリルで応戦。突き攻撃をしようとすると、その攻撃は偽レデュエの体をすり抜けたーーいや、攻撃を加えようとした偽レデュエそのものが消滅した。牙也が辺りを見回すと、突如牙也を囲むように次々と偽レデュエが現れた。

 

 箒「レデュエが分身した!?」

 束「違う……あれは多分、幻術の類いだね」

 

 束が機械的な見た目の眼鏡をかけて、その様子を観察しながら言う。この眼鏡は対象の生体反応を感知できる物なのだが、今束が見ている光景には、偽レデュエは一体しか映っていない。

 

 束「牙君、斜め左後ろ!」

 

 束が指摘した方向から偽レデュエが光弾を放ってきた。牙也は振り向く事なく、アップルリフレクターをその方向に向かわせて光弾を防御、更に振り向く事をせぬままアーモンドリルの先端を射出して偽レデュエを攻撃した。咄嗟にそれを戦斧で弾き、偽レデュエはまた後ろへ下がる。

 

 偽レデュエ『オノレ……イラヌ邪魔ヲシオッテ……!!』

 

 偽レデュエがそう呻いて戦斧を束に向ける。と、束達の目の前にクラックが開いて、そこから沢山のインベスが顔を出した。ぞろぞろと現れるインベスに、箒達は距離を取ってから臨戦態勢に入る。が、

 

 一夏「くっ、ここは俺達が《絆軍配!》あ、あれ?」

 

 それは杞憂となった。臨戦態勢を一番に取った一夏の前に、電子音声と共に突如巨大な鎧武者ーーいや、全身黒タイツの搭乗者が乗ったスイカアームズが複数現れたからだ。アームズ達は双刃刀、槍、グローブをそれぞれ構えて、次々と現れるインベスを蹴散らしていく。

 

 箒「牙也……」

 牙也「さっきまで必死になってコウガネ達を抑えてくれてたんだ。皆には今はしっかり休んでもらわないとな」

 

 そう言う牙也の手には、表面には様々なフルーツや木の実が描かれ、裏面に『絆』と書かれた黒い軍配ーー絆アームズ専用ウェポンの一つ、絆軍配が握られていた。この絆軍配、どういう能力があるかと言うとーー

 

 《オレンジアームズ!バナナアームズ!ブドウアームズ!メロンアームズ!》

 

 牙也が軍配のトリガーを四回引くと、音声の後に全身黒タイツのような姿の人形が現れ、それぞれにオレンジ、バナナ、ブドウ、メロンの鎧が被さって展開、アーマードライダー(擬き)となった。そう、絆ロックシードが任意のアームズウェポンを呼び出せるなら、絆軍配は任意のアームズそのものを呼び出せる武器なのだ。これによって四つのアームズを呼び出し、スイカアームズと共にインベス対処に向かわせる。

 

 牙也「さて……これでタイマンだな」

 偽レデュエ『ホザケッ!!』

 

 牙也がそう言って偽レデュエに向き直ると、また偽レデュエの体がボコボコと音を立て始めた。

 

 束「また姿が変わるの!?」

 

 しかし今度は、偽レデュエの体からドロドロした液体のようなものが溢れ出てきて、それが人の形を成していく。やがてそれらは、先程まで戦っていた偽オーバーロード達の姿となる。偽オーバーロード達はそれぞれの武器を構えて牙也を囲む。しかし牙也の顔に焦りなど微塵もない。ただ絆ロックシードを何度も捻り始める。

 

 《大橙丸!パインアイアン!イチゴクナイ!ソードブリンガー!ドリノコ!オリジン!ライムラッシュ!イチジグレネード!炎刀鬼灯丸!スターセイバー!》

 

 音声と共に牙也の周囲に現れたアームズウェポンは、牙也が小さく「行け」と言い絆軍配を偽オーバーロード達に向けると、アームズウェポンが一斉に偽オーバーロード達に襲い掛かる。次々と襲い掛かるアームズウェポンによって、生み出された偽オーバーロード達はあっさりと倒され偽レデュエの体へ戻っていく。

 

 《クルミボンバー!マロンストライカー!アンズクラッシャー!カキアロー!》

 

 それを追い掛けるように三種のグローブを呼び出し偽レデュエに向かわせ、牙也はカキアローの射撃で攻撃する。怒涛の打撃攻撃とそれをサポートする射撃で、偽レデュエに反撃の隙すら与えない。

 

 《バナスピアー!》

 

 《ソイヤッ!絆スカッシュ!》

 

 そして偽レデュエが吹き飛ばされたのを確認すると、牙也はバナスピアーを呼び出してからカッティングブレードでロックシードを一回切り、バナスピアーを地面に突き刺した。すると、偽レデュエの周りからバナナの形をしたエネルギーが伸びて偽レデュエを拘束した。

 

 偽レデュエ『アリ得ン……アリ得ン!!何故コノ私ガ、貴様等ノヨウナ人間二、コウモ簡単二……!?』

 牙也「あんた達の事は父さんから聞いたよ、あんた達、父さんの元部下なんだってね。父さんの代わりに、その質問に答えてやろうか?答えは至って簡単な事ーー俺とお前じゃ、背負ってる物の重さが違う。単にそれだけの事だ」

 

 《火縄名冥DJ銃!無双セイバー!》

 

 牙也は火縄名冥DJ銃と無双セイバーを呼び出し、二つを合体させて大剣モードにし、

 

 《ソイヤッ!絆オーレ!》

 

 牙也「じゃあな、オーバーロード・レデュエーーいや、織斑春輝……ゆっくりと眠りなよ」

 

 カッティングブレードでロックシードを二回切り、火縄名冥DJ銃・大剣モードにエネルギーをチャージ、二つ斬撃を飛ばして、エネルギーによる拘束で動けない状態の偽レデュエを斬り裂いた。

 

 偽レデュエ『私ノ心ハ……カツテノ仲間ト共二ーー』

 

 偽レデュエは最期に一言そう静かに呟き、火花を上げながら爆発四散した。

 

 牙也「……父さんを裏切ったお前に、ちゃんと仲間意識があったとはね……敵ながら感服するよ」

 

 大剣を地面に刺しながら、牙也は燃え上がる炎に向けてそう呟くに留めるだけだったーー。

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに。



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第83話 最終決戦ヘ


 今回はいつもより短いです。




 

 未だ燃え上がる炎を見ながら、牙也は召還したアームズウェポンとインベス討伐を終えたアームズ達を全て仕舞う。その目は仮面に隠れてよく見えないが、哀愁の念が漂っている事は辛うじて分かった。ふと後ろを振り返ると、箒達がバタバタと走ってくるのが見えた。

 

 牙也「皆……」

 

 箒達は心配そうな顔で牙也を見ている。と、先頭にいた準也が進み出てきた。

 

 準也「完全に己の物にしたな……黄金の果実を」

 

 その言葉に、牙也は顔をしかめる。

 

 牙也「……分かってたのか?」

 準也「何をだ?」

 牙也「惚けんな、この結末の事だよ……今までの事は全部あんたの考えた余興に過ぎないって言ってたよな?なら、この結末も見えてた筈だ。そうだよな?」

 

 準也は「ふむ……」と少し考えてから言った。

 

 準也「……見えていなかった訳ではないが、僕が考えていた結末とは違った。まさか黄金の果実を己の物にするとは思ってもみなかったよ……それに、箒ちゃんの事もね」

 牙也「知ってたのか?」

 準也「シュラにこっそり会って聞いていたのさ、箒ちゃんが使ってるマスカットロックシードについてね。だから大体は知ってた」

 箒「マスカットについて……?ヨモツヘグリと何か関係が?」

 準也「鋭いね、箒ちゃん。箒ちゃんが使ってるマスカットロックシードは、元はシュラがヨモツヘグリロックシードを変質させて作った擬似ロックシードのようなものなんだよ。んで、このヨモツヘグリが厄介でね……使用者の生命力を糧にして戦うロックシードなんだ。だからこれを変質させて作ったマスカットは常に不安定で、ごく少量ずつだが使用者の生命力を奪っていたんだよ」

 箒「生命力……そうか、それでたまに使用後に気分が悪くなったりしたのか……」

 準也「覚えがあるみたいだね。それで最終的に箒ちゃんに渡ったのが、あのラズベリーロックシードとシャインマスカットロックシードなんだ。ラズベリーロックシードは状況に応じてその力を変える事が出来るし、シャインマスカットロックシードはヨモツヘグリの生命力消費を肩代わりしてくれるんだ」

 箒「そうだったんですか……それで、牙也のその力は一体……?」

 準也「……一言で言うなら、牙也と黄金の果実が完全に一体化した証、だね。つまり牙也は、真にオーバーロードに覚醒した、という事。おk?」

 箒「は、はい」

 準也「ん、それなら良し。残りの事は後で話すとして今はーー」

 

 そこまで言った時、牙也達の背後から斬撃が飛んできた。箒達は気づくのが遅れ対応出来なかったものの、牙也が進み出て左腕だけでその斬撃を消し飛ばした。

 

 準也「奴をどうやって倒すか、だね」

 

 準也と牙也が目を向けた先には、いつの間にか『仮面ライダーマルス ゴールデンエナジーアームズ』に変身したコウガネがいた。箒達も気づいて武器を構える。

 

 コウガネ「おのれ……!人間の分際で、黄金の果実に認められるなどと……この愚か者が!!」

 牙也「愚か者はお前だろ?ったく……」

 準也「後は奴さえ倒せば、全てが終わる。皆、力を貸してほしい」

 

 準也はそう言って頭を下げる。代表して一夏が進み出て言った。

 

 一夏「勿論です!牙也にーー準也さんに、俺達は力を貸します!それは皆だって同じですから!」

 準也「一夏君……」

 

 準也が他の皆を見渡すと、皆笑顔で頷いてくれた。

 

 準也「皆……ありがとう」

 束「準也さんが私の作ったISの為に協力してくれた事、今まで少しも忘れた事はありません。だから今度は、私が貴方を助けます」

 準也「束ちゃん……」

 束「必ず終わらせましょう……この戦いを、皆で一緒に!」

 準也「……ああ!」

 

 準也は気づかぬ内に流れていた涙を拭い、改めてコウガネに向き直る。

 

 準也「終わらせてやろう……貴様との因縁を、僕達の手で!!」

 コウガネ「やってみろッ!!」

 

 コウガネが叫んでソードブリンガーを地面に突き刺すと、コウガネの周囲にクラックが大量に開き、中からインベスが続々と現れた。中にはヘルヘイムの果実を大量摂取したと思われる巨大なインベスの姿もある。

 

 コウガネ「私の思い通りにならぬ世界など必要ない……私の力で、すべからく滅ぼしてくれよう!!」

 

 コウガネは更にそう叫び、自身の背後にクラックを開くと中に飛び込んだ。クラックはそのまま閉じ、他のクラックからインベスが殺到する。その数一万は越えているだろうか。

 

 千冬「奴め、逃げたか……!」

 準也「速攻で倒して追い掛けるだけだ!」

 スコール「けどこの数をどうやって捌くのよ!?いくらなんでも数が多すぎるわ!」

 ザック「泣き言言ってねぇでとっととやるぞ!」

 

 全員が武器を構えた時、牙也がゆっくりと前に進み出てきた。

 

 一夏「牙也、何を……!?」

 牙也「心配すんな……すぐに半分は片付ける」

 

 《絆羽扇!》

 

 牙也がそう言って絆ロックシードを捻ると、音声と共に真っ黒な羽扇が現れた。そしてそれを右手に持ち、持ち手部分に付いたトリガーを引く。すると『火』『水』『風』『土』『雷』『環』『弱』『挑』『奮』『浄』の十の文字が円を描くように現れた。牙也はそれに向けて羽扇を扇ぐ。と、

 

 《火計!》

 

 その中の『火』の文字が文字でできた円の中央に移動し、そして文字自体が輝き始めたかと思うと、更に火を帯び始めた。もう一度牙也が羽扇を扇ぐと、それは勢い良く飛んでインベスの群れへ突進、インベスの体を次々と焼き焦がしていく。そうして火が動き回ること十数秒、インベスは牙也の言った通り半分が倒された。

 

 牙也「ついでにこれでダメ押ししておくか」

 

 《埋土ノ計!》

 

 《浄化ノ計!》

 

 牙也が更に二度羽扇を扇ぐと、今度は『土』『浄』の文字が輝き始めると、残りのインベス達が立つ地面が揺れたかと思うと、インベスを覆うように土壁が現れて、インベスをいくつかのグループに分けて閉じ込めてしまった。更に牙也達は淡い緑の光に包まれていき、受けていたダメージと傷が修復された。

 

 牙也「これで時間稼ぎはできる。後は各個撃破していけばいい」

 鈴「凄い……あの数をこんなあっさりと……」

 楯無「しかも回復まで……最早なんでも有りね」

 簪「勝てる気が、しない……」

 

 牙也の他の追随を許さないその実力に皆が呆然とする中、その牙也は上空を見上げていた。その目線の先には、空間が歪んでいると思われる場所があった。

 

 牙也「……多分あそこに逃げ込んだな、コウガネは」

 準也「何?……ああ、あれか。間違いない、あそこからコウガネの気配がする」

 

 準也もそれを見て顔をしかめる。

 

 千冬「奴はあそこで何をするつもりだ?」

 準也「分からない。分からないが……黄金の果実が手に入らなくなった以上、十中八九奴はこの世界を滅ぼしに掛かるだろうな」

 一夏「っ!だとしたら、早く奴を止めないと……!」

 準也「残念だが、あそこに入れる者は限られている。この中だと……僕と牙也、それに箒ちゃんだけか」

 牙也「もう一刻の猶予もないな……皆は引き続きインベス撃破を急いでくれ。コウガネとの決着は、俺達で付ける」

 スコール「確かにもう四の五の言ってられないわね……ここで待つしかできないのは心苦しいけど……」

 束「三人とも、ちゃんとケリ付けて帰ってきてね!」

 牙也「分かってます。たとえどんな姿になったとしても……俺達は必ず戻ります」

 準也「その通りだな……さぁ行こう、二人とも。早く行かないとあの歪みが消えてしまう」

 

 準也が差し出した手を二人が揃って繋ぐと、三人の体がゆっくりと浮遊し始めた。三人はそのまま勢い良く上空の歪みへと突き進んでいく。そして三人が歪みの中に突入すると、その歪みは消えてしまった。

 

 ラウラ「奴の事は、牙也達が何とかしてくれる……そう信じよう。私達は、私達にできる事をしなければ」

 オータム「あぁ、そうだな。やるぞ!」

 

 『おうっ!!』

 

 オータムの声と共に、全員が次々とインベスの群れに向けて突撃していく。最終決戦の幕は、今上がったのだーー。

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに。



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第84話 彼ガ背負ッタモノ


 お久しぶりです。リアルが忙しくて執筆・投稿共にが停滞してました。今年もそろそろおしまい、体調に気を付けながら、元気に新年を迎えられるようにしていきましょう。
 では、久しぶりに始まります。




 

 牙也、箒、準也の三人が学園上空に現れた歪みを抜けて辿り着いた先は、草木がほとんど生えていない荒野であった。近くには切り立った崖がいくつも連なり、そこから数本だけ木が生え、後は広大で草木が疎らに生えただけの荒野のみである。

 

 牙也「コウガネの野郎は何処だ……?」

 準也「ここにいるのは確かだ。何処かに隠れているか、それとも……」

 

 三人はコウガネを探してひたすら荒野を歩く。と、

 

 箒「……近いな」

 

 突然一番後ろにいた箒が立ち止まったかと思うと、そう言ってソニックアローを構えた。それにつられて牙也は薙刀・緋炎を、準也も大剣を構え、周囲に意識を集中させて気配を探る。と、岩影から何かが飛び出してきた。

 

 牙也「そこっ!」

 

 飛び出してきたそれにいち早く牙也が反応し、緋炎でそれを斬り裂いた。飛び出してきたそれは体を斬り裂かれ、その場に倒れ伏す。

 

 準也「こいつはさっきのイナゴ……という事は……!」

 

 準也が辺りを見回すと、岩影や空から次々とイナゴ怪人が現れて牙也達三人を囲んだ。先程体を斬り裂かれたイナゴも立ち上がり、仲間に合流する。

 

 箒「さっきよりも数が多いぞ!」

 準也「ひぃふぅみぃ……多く見積もって、凡そ百ーーいや、二百はいるな」

 箒「さっきと同じように、物量で押し込むつもりか……」

 準也「こいつらを倒さなければ、コウガネの下に辿り着くのは不可能だな……牙也、早急に始末してーー牙也?」

 

 武器を構えた二人であったが、牙也が反応しない事に気づいて牙也を見ると、牙也はいつの間に呼び出したのか、絆羽扇を持って立っていた。牙也はそれを顔の正面に持ってきて、精神を研ぎ澄ましているのか一言も喋らない。

 

 箒「どうした牙也?」

 牙也「ーー見つけた」

 準也「見つけたって、何処にーー」

 

 《風化ノ計!》

 

 準也が聞き終わる前に、牙也はトリガーを引いて『風』の文字を扇ぐ。と、三人の体は突風に包まれて、あっという間にイナゴ怪人の群れの中から消え失せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 コウガネ「消えた!?奴等、一体何処に……!?」

 

 先程まで牙也達がいた場所から遠く離れた岩影に潜み様子を伺っていたコウガネは、三人の気配が消えた事に驚きを隠せない。すぐさま岩影から飛び出してあちこちを見回し三人を探すが、影も形もない。

 

 コウガネ「くっ、奴等め、一体何処にーーむっ!?」

 

 コウガネが咄嗟に後ろを振り向くと、コウガネの後方から突然牙也が現れて無双セイバーを振るってきた。それをコウガネはギリギリの所で回避し、距離を取って構える。

 

 牙也「ちっ、完璧に後ろを取ったと思ったんだがなぁ……殺気が隠せてなかったか」

 

 牙也は舌打ちしながらコウガネに向き直る。その後ろからは、牙也を追い掛けるようにして箒と準也が現れた。

 

 箒「まさかイナゴ共を無視して、ダイレクトにコウガネを探し出すとはな」

 牙也「あのイナゴ共をまとめて相手してるよりは、そいつを呼び出してる奴ーーつまりこいつを探し出す方が余程楽だからな」

 準也「しかしその羽扇、意外と便利だな。様々な計を打てるあたり、流石は名軍師と言うべきか……」

 コウガネ「ぐぬぬ、忌々しい……葛葉紘汰と言い貴様と言い、何故こうも私の野望の邪魔をする!?」

 

 すると牙也は「フン」と鼻を鳴らしながら答えた。

 

 牙也「理由は簡単ーーこの世界が……俺達が存在する世界が、好きだからだよ」

 コウガネ「好き、だと?いつの時代も争いの絶えぬ、この世界が?そうだとしたら、貴様は随分とお人好しなのだな」

 牙也「お前はこの世界の素晴らしさを何も知らないから、そんな血も涙もない事を平気でほざけるんだな。関心を通り越して呆れるよ」

 コウガネ「知る必要が何処にある?どうせ私の手で滅びる運命にある、この世界の事を。至極どうでもいい事だ……すぐに何もかも忘れ去られるのだからな!」

 

 コウガネはそう言うと、右手を掲げて指を鳴らす。すると一瞬にしてイナゴ怪人がコウガネ達を囲むように現れた。更に続けて指を鳴らすと、今度はレデュエを始めとしたオーバーロード達も現れる。

 

 コウガネ「決着を付けよう……雷牙也。私の望む完璧な世界の創造の為、今ここで貴様等に引導を渡してやる!!」

 

 そう言ってコウガネはソードブリンガーを高く掲げ、そしてその切っ先を牙也達に向ける。

 

 牙也「その前にーーお前に聞きたい事がある」

 

 と、牙也が人差し指を立てて聞いた。

 

 牙也「お前は何故、神となる事にこだわる?神にならずとも、お前程の実力なら一国一城の主で充分じゃないのか?」

 コウガネ「フン、忘れたのか?私は貴様等フェムシンムに作られた存在……フェムシンム達が擬似的に禁断の果実を作り出そうとした、その結果が私だ。私が禁断の果実になれる存在だと言うのなら、なろうとするのが当たり前だろう。それが私に与えられた、唯一の力なら尚更な」

 牙也「ふーん……つまり、自分は選ばれた存在だから、神になろうとしても問題ない、と」

 コウガネ「その通り……得た力は、存分に使ってこそだろう、違うか?」

 牙也「いいや、お前の言う事にも一理あるね。けど……」

 

 牙也はそこまで言うと、緋炎の切っ先をコウガネに向けた。

 

 牙也「けどーーそれでも、俺達はお前の野望について行くつもりはない」

 コウガネ「ほほう……何故だ?」

 牙也「言ったろ……俺達は、この世界が大好きなんだ。この世界を滅ぼすと言われて、はいどうぞと言ってこの世界を見捨てるような俺達じゃないんだよ」

 

 そう言って牙也はコウガネを睨み付ける。と、コウガネは高笑いをし始めた。

 

 牙也「何が可笑しい?」

 コウガネ「ハハハハハ!!これが笑わずにいられようか!!忘れたのか、貴様は化け物だぞ!?そんな化け物が『この世界が大好きだ』と言って信じるような輩が果たしているのか!?いや、いる筈がない!!」

 箒「そんな事はない!少なくとも、ここにいる!私が、牙也を信じている!」

 コウガネ「フン、貴様とて化け物の類いだろうに、説得力の欠片もない」

 準也「なら、IS学園の生徒達ではどうだ?貴様を相手するのはISではどうにもならぬ事を、彼女らは分かっている。故に彼女らは、私達に希望を託した。私達ならやってくれると信じて」

 箒「それでも足りぬなら、亡国企業の皆もそうだ!ISの現状を一番理解し、尚且つ牙也の事も理解している!彼女達も私達を信じて、希望を託してきたのだ!」

 コウガネ「では他にいるか?それ以外に、雷牙也を信じている者を挙げる事はできるか?」

 

 しかしコウガネにそう聞かれ、箒と準也は押し黙ってしまう。

 

 コウガネ「そうだろう、他に名が挙がる者などいないだろう。結局そういう事だ、化け物の言う事を信じる者など指折って数える程度しかいないのだよ。人間とはそういう者だ、化け物の言う事に耳を貸す者などほんの一握りしかおらぬ。何故そんな人間達の生きる世界を守る必要がある?この世界を守る事に、果たして何の利がある?お前達はそれでも、こやつの言う事を信じると言うのか?」

 

 箒も準也も黙ったままだ。と、

 

 牙也「お前、何か勘違いしてないか?」

 

 ここで牙也が進み出て言った。

 

 コウガネ「勘違い?何をだ?」

 牙也「確かにお前の言う通りさ、化け物の言う事なんざ誰が信じるのかって話さね」

 コウガネ「そうだろう。ならばーー」

 牙也「でも、それに何か問題があるって言うのか?誰も聞いてくれない、信じてくれない。だから仕方ないで終わらせるのか?俺の答えは『否』だ。誰も聞いてくれない、誰も信じてくれない。だからこそ、俺は行動で示さなきゃいけないのさ、その言葉一つ一つが真実である事を。そしてそれを目で見、耳で聞き、信じ、理解した者達は、それを更に外へーー他の者達へと繋いでいく。そうして真実は広まり、そしてそれがやがて世界を一つに纏めていく……」

 コウガネ「何が言いたい?」

 牙也「つまりこう言いたいのさ……人間の団結力を嘗めんな、ってな!!」

 

 《水計!》

 

 牙也は絆羽扇のトリガーを引きながら振るうと、『水』の文字と共に激流が迸り、コウガネへと襲い掛かった。コウガネはそれを横へ回避し、カウンターでソードブリンガーから斬撃を飛ばす。その斬撃を無双セイバーで斬り飛ばし、牙也はコウガネにその切っ先を向ける。

 

 牙也「ま、人間が真に団結する時ってのはまだ先の事になりそうだが……けど、ある意味それで良いのかもしれないな。どこかいい加減で中途半端な所があるくらいが、ちょうど良く感じるものさね。さっきお前、完璧な世界の創造の為って言ってたようだが、人間は完璧にはなれないらしいのさ。だとしたらフェムシンムが作り出したお前も同じ事だ、完璧にはなれない、お前には完璧な世界など創れないよ」

 コウガネ「言ってくれる……ならば貴様には出来るのか?私の言う、完璧な世界というものを創れるのか?」

 牙也「俺が?無理無理、俺にはまだ上に立つ実力も人心もないからな。けど、少なくともお前よりかはマシだと自負してるぜ。それにーー」

 

 牙也はコウガネに向き直りながら続ける。

 

 牙也「別方向での信頼なら……いつの間にか得てるみたいだからな」

 

 そう言って牙也が右手の指を鳴らすと、牙也達三人の頭上にいくつものクラックが開いた。それはあの闇を吐き出すクラックであった。そのクラックから闇の瘴気が溢れ出すと同時に、瘴気で流されるようにゾロゾロとインベスが現れる。現れたインベスの体は皆黒く穢れ、時折見せる眼光が不気味さを物語る。

 

 牙也「こんな風にね。さあ、始めるか……終わらせてやるよ、長き因縁を、俺達の手で」

 コウガネ「やってみろ、餓鬼が」

 

 牙也とコウガネはそれぞれ、絆羽扇とソードブリンガーを高く掲げ、それぞれの相手に向けた。

 

 コウガネ「進め!!私の望む、完璧な世界の創造の為に!!」

 牙也「進め!!俺を信頼してくれた人間達と、彼らの世界を守る為に!!」

 

 それぞれが号令を下すと、後ろに控えていたインベスやイナゴ怪人達が一斉に突撃を開始する。最終決戦の幕は、今上がったのだーー。

 

 

 

 

 

 

 

 





 今年の投稿はひとまずここまで。今年も読者の皆さんにはお世話になりました。来年もよろしくお願いします。それでは皆さん、良いお年をーー。




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第85話 運命ガ定マル時

 はい、読者の皆様、一ヶ月以上更新なじで申し訳ありませんでした。学生身分故に就職活動等でリアルに執筆の暇がなかったんですよね……言い訳にしかなりませんが。今回はその合間を縫って、急いで執筆しました。

 取り敢えず今後もどうなるか分かりませんが、少なくとも失踪はしませんのでご安心を。
 では久々に始まります。




 溢れるばかりの数の黒きインベスとイナゴ怪人が広い荒野の真ん中でぶつかり合う。その数それぞれ五千はいるだろうか、あちこちで取っ組み合い、殴り合い、地上戦、空中戦を展開している。

 

 ??「我ラ……我ラ信ズルハ、我ラガ神……イヤ、神王様ノミ……!皆、進メ!!神王様ノ為、我ラハコノ身全テヲ捧ゲ、神王様ガ天ニ立ツソノ時マデ戦イ続ケルノミ!!」

 『オオオオォォォォォォォ!!』

 

 ある一匹の黒きインベスが先頭に立ち、他の黒きインベス達に呼び掛ける。そのインベスは姿こそシカインベスに似ていたが、その目は紅く光を帯び、背中にぼろ切れを纏い、その左手には剣を握っていた。黒きシカインベスの掛け声に、他の黒きインベス達も大きな声援で応える。そして次々と襲い掛かってくるイナゴ怪人を片っ端から殴り飛ばし、放り投げ、組伏せて取っ組み合う。

 

 シカインベス(黒)「右翼ト左翼ノ諸君ハ前方二展開、中央ノ諸君ハ一旦後退セヨ。ソノママ敵ヲ包囲シ、四方カラ押シ潰セ!!」

 『オオオオォォォォォォォ!!』

 シカインベス(黒)「上空デ待機スル諸君ハ、包囲ヲ抜ケ逃走スル敵ヲ随時撃破セヨ、一匹タリトテ逃ガスデナイゾ!!」

 『グオオオオォォォォォォォ!!』

 

 黒きシカインベスは大声で指示を出し、他の黒きインベス達を導いていく。そして自らも前線に立ち、左手に持つ剣を振るってイナゴ怪人を斬り倒していく。ある程度斬り倒し、黒きシカインベスはふとある一方を見る。その目線の先には、コウガネと再び刃を交わす牙也達三人がいた。

 

 シカインベス(黒)「神王様、王妃様……ココハ思ッタヨリ早ク片ガツキソウデス。後ハ……貴方ダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ライムラッシュ!》

 

 牙也「せいっ!」

 

 『仮面ライダー零 絆アームズ』に変身した牙也が、絆ロックシードを捻ってライムラッシュを呼び出し、コウガネに向けて振り下ろす。コウガネがソードブリンガーで弾くと、

 

 《クルミボンバー!》

 

 コウガネ「っ!?ちっ!」

 

 牙也が唐突に頭を屈めたその後方からクルミボンバーが突っ込んできた。それを舌打ちしながらアップルリフレクターで受け止め、払い退ける。そして追い掛けるように攻撃してきた牙也を迎え討つ。

 

 コウガネ「私の野望への道のりに、邪魔できる者などいない……そう思っていた。だがしかし、蓋を開けてみればどうだ……!?貴様という障壁が、私の行く手を阻む……!あの時もそうだった……葛葉紘汰さえいなければ、私の野望は容易く達成できたのだ……!何故……何故貴様等人間は、私の野望に真っ向から抗う!?何故人間は、己の弱さを分かろうとせぬ!?」

 準也「分かろうとしていないのではない……分かっているからこそ、貴様のような輩には媚びぬのだッ!!」

 

 牙也とコウガネが鍔迫り合いをしているところに、準也が大剣を振りかざしながら割り込んできた。二人揃ってそれを回避したところ、更にソニックアローを持った箒も割り込んできてコウガネに攻撃を仕掛ける。

 

 箒「確かに私達人間は、お前の言う通り弱いさ。だからと言って私達人間は、弱いまま終わるつもりはない。私達は弱い、だから強くなりたい……だから私達人間は、強さを追い求める。そして強さを手に入れ、戦う。言うなれば私達は常に、誰よりも強くありたいと願っているのだ。まあ私も人間のはしくれだから、偉そうには言えぬがな」

 コウガネ「下らぬ欲よな。誰よりも強くありたいなどと……そのような下らぬ欲が、止まらぬ争いを引き起こしておると言うのに。そのような愚かな者共に、未来など必要ないッ!!」

 

 箒と準也の攻撃をいなしながらコウガネが叫び、一旦距離を取ってからソードブリンガーを天高く掲げると、剣先から炎が吹き出し、一つに集束していく。それはやがてあの巨大な馬の怪物となった。

 

 コウガネ「私が貴様等から未来を奪ってやる……そして貴様等人間を滅ぼし、私が神として天に立つッ!!」

 

 そして掲げたソードブリンガーを牙也達に向けると、炎の馬は嘶きながら牙也に向けて一直線に突進していく。それと同時に、炎の馬は周囲に火炎弾をばら蒔いていった。

 

 牙也「……るな」

 コウガネ「?」

 

 《火縄名冥DJ銃!》

 

 《無双セイバー!》

 

 牙也は降り注ぐ火炎弾を巨大なバリアを張って全て防ぎ切り、更に火縄名冥DJ銃と無双セイバーを呼び出して二つの武器を合体、巨大な大剣にした。それを両手に持ち、強く握り締める。その間にも、炎の馬は牙也へと突進してきていた。そして馬がぶつかるその瞬間ーー

 

 牙也「命一つの重みも分からない奴が……神を語るな」

 

 その言葉と共に馬は火縄名冥DJ銃・大剣モードの一閃の前に真っ二つに斬られ、嘶きも響かぬまま力なく倒れ伏し、炎と共に消滅した。

 

 コウガネ「一閃……!?あの葛葉紘汰でさえ倒すのに苦労した我が力を、いとも容易く……!?」

 

 牙也の圧倒的実力を前に、コウガネは一瞬怯む。そして一瞬ーーその一秒にも満たない間に、瞬きをした次の瞬間ーー目を開けば、それぞれの武器を振り下ろしてくる三人がいた。金色に煌めくアーマーを斬り裂かれ、コウガネは大きく後退を余儀なくされる。

 

 牙也「神になるって事を、お前は何も分かっていない。神になるという事はな……たとえどんなにその世界に存在する生命が愚かしい存在であったとしても、その生命の最期の時まで見守り続けるって事なんだよ……神様になろうって奴が、簡単に『滅ぼす』なんて言葉を口にするんじゃない!!」

 コウガネ「黙れッ!!生命とは所詮神に操られるだけの存在!!大人しく私の意のままに動いていれば良いのだ、身の程知らずの無能な生命がッ!!」

 

 《ゴールデンエナジースパーキング!》

 

 コウガネはシーボルコンプレッサーを二回押し込んで、ソードブリンガーに膨大な量のエネルギーを纏わせる。それはやがて、その切っ先が天さえも貫かんとする程に長い刃となった。そしてコウガネは、その長大な刃を三人に向けて薙払うように振るう。

 

 コウガネ「屈しろ無能共ッ!!我が力の前に塵も残さず消え失せるが良い!!」

 牙也「絶対に屈さない……!俺達の世界も未来も、俺達の手で守り抜いてみせる!」

 準也「我等とお前という因果を今!ここで完全に断ち切る!!」

 

 コウガネの振るった刃を準也がバリアを張って防ぎ、

 

 牙也「俺の心に眠る黄金の果実よ……俺達の祈りに応えてくれ!!」

 

 《絆レボリューション!!》

 

 牙也はカッティングブレードでロックシードを三回切った後で絆ロックシードを一回捻る。すると、牙也の体が黄金と漆黒の光に包まれたかと思うと、光が晴れた時、その背には先程の光と同じ黄金と漆黒の翼が生えていた。翼を羽ばたかせ、牙也は空へ飛び立つ。そして、

 

 牙也「繋がれ、俺達の声よ……轟け、俺達の怒りよ……届け、俺達の祈りよ……そしてッ!今こそ響け、俺達の魂の鼓動よ!!」

 

 空中で牙也は両手を大きく広げる。と、牙也の体は輝きに包まれていき、その輝きは今牙也達がいる大地を覆い尽くしていくーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその輝きは、学園で劣勢ながらも奮戦している仲間達の元へも送り届けられた。

 

 束「この輝きって……!」

 千冬「間違いない……牙也が、私達を求めている……!」

 一夏「千冬姉、皆!」

 千冬「言わずもがなだ……皆、武器を掲げろ!そして祈れ!今こそ、私達の絆を示す時だ!!」

 

 千冬が先んじてソニックアローを天高く掲げ、それに続いて他のメンバーも次々と各々の武器を天高く掲げる。するとそれぞれの武器から一筋の光が現れ、それら全てがある一点へと集まっていく。やがて一つに集束した光は、一瞬の輝きと共に爆ぜて、次々とインベスへと降り注いでいく。

 

 インベス達『ギ、ギィィィィィィ……!!』

 

 光を受けたインベスは苦しみ始め、次々と膝をつくが、それでもなお立ち上がり襲ってきた。しかしその動きは誰でも易々と回避できる程に、今までとは比べ物にならないくらい弱々しくなっていた。

 

 スコール「様子がおかしいわね……さっきの光が原因かしら?」

 束「弱体化したのかな?だとしたらチャンスだよ!」

 千冬「よし、一気に叩き潰すぞ!」

 

 千冬の号令の元、再び全員がインベスに立ち向かう。学園での戦いも、終わりに差し掛かろうとしていたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コウガネ「こ、この光はーーっぐ!?」

 

 そしてこの光を浴びたコウガネもまた、体をよろめかせ膝をつく。装備していたソードブリンガーとアップルリフレクターは、一瞬ノイズのようなものが発生したかと思うと、また一瞬にして消え失せてしまった。

 

 コウガネ「く、くそっ……また、力が抜けて……!」

 準也「おお……!これが、牙也の体に潜む黄金の果実の力……!全てを浄化する神聖なる輝きと、全てを呑み込む邪悪なる輝き……!相反する二つの光、なんと美しい……!」

 コウガネ「おのれ……ふざけた真似をぉぉぉぉぉ!!」

 

 《ゴールデンエナジースカッシュ!》

 

 コウガネは苦し紛れにシーボルコンプレッサーを一回押し込み、準也に向けてストレートパンチを繰り出した。気づいた準也もすぐにバリアを張ってこれを防ぐ。が、

 

 コウガネ「その程度で……笑わせるなぁぁぁぁ!!」

 準也「ぐあっ!?」

 

 コウガネの怒りの一撃は準也が張ったバリアを易々と砕き、胸部に一撃を食らわせて吹き飛ばした。

 

 牙也「父さん!」

 箒「準也さん!」

 準也「ぐ、ううう……わ、私の事は、良い……!だから、早く奴を……!」

 

 胸部から紫電を発しながら倒れ伏した準也は、呼び掛けてくる二人にそう告げる。二人が見ると、コウガネが二撃目を当てんと突っ込んできている。

 

 箒「やらせはせん!」

 

 咄嗟に箒がその体を輝かせたかと思うと、一瞬の間にコウガネの前に立ち塞がって攻撃を防ぎ、弾き飛ばした。更に空中にいた牙也が無双セイバーでコウガネを斬り、充分な距離を取る。

 

 箒「牙也、決めるぞ!」

 牙也「……ああ!」

 

 《ソイヤッ!絆スカッシュ!》

 

 《ソーダァ!リンゴエナジースカッシュ!》

 

 牙也はカッティングブレードを、箒はシーボルコンプレッサーをそれぞれ一回操作し、右足にエネルギーを溜めながらゆっくりと上昇していく。そして頂点に達した時、

 

 牙也「俺達の絆の力は……!」

 箒「誰にも奪わせない!」

 

 右足を輝かせながらダブルライダーキックを繰り出した。コウガネは先程と同じくストレートパンチで受け止め応戦する。激しいエネルギーのぶつかり合いに、バチバチと火花が散る。が、

 

 コウガネ「ぐおっ!?」

 

 一瞬コウガネが揺らいだ。ライダーキックをする二人の後方から、準也が大剣の斬撃を飛ばしてアシストしたのだ。これによってキックを防ぐ手段をコウガネは失い、

 

 牙・箒『ッだぁぁぁぁぁぁ!!』

 コウガネ「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

 

 二人のライダーキックは胸部に直撃、また大きく後方へ吹き飛ばされ倒れ伏した。

 

 コウガネ「ば、馬鹿、な……また、破られたのか……人間ごときに、この私が……わ、私の、野望が……」

 牙也「一生来るもんか、お前の時代なんかな。誰もお前を信じなかった、それがお前のたった一つの敗因だ」

 

 着地した牙也は、虫の息状態のコウガネにそう声を掛け、体を翻す。

 

 牙也「さぁ……天へと堕ちていけ……そして、相応の裁きを受けろ!!」

 

 その言葉と共に、コウガネは断末魔の叫びも上がらぬまま大爆発に呑み込まれていったーー。

 

 

 

 

 

 

 




 次回も気長にお待ち下さい。



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第86話 最期ノ一仕事


 始まります。


 

 コウガネの完全撃破を見届けた牙也と箒は、地面に突き刺した大剣に力なく寄り掛かっている準也に歩み寄った。

 

 牙也「終わったよ、父さん。何もかも全て」

 準也「そうか……よくやってくれた。私の我が儘に、文句一つ言わずにやり遂げてくれて、ありがとう。箒ちゃんも、本当にありがとう」

 箒「礼なんて……牙也が今まで負ってきた傷と比べたら……」

 準也「謙遜しなくていい。私は今の自分が情けなく思えるんだよ……二人のような若者達にこんな大事を、私の我が儘を押し付けて……」

 

 準也の力ない言葉に、二人は何も言えなくなる。

 

 準也「とにかく、二人には感謝の言葉しか出てこないよ……本当にありがとう。これでようやく、ゆっくりと眠れるよ……」

 箒「眠れる……?それってどういうーー」

 

 そこまで言って、二人は気づいた。準也の体が、粒子となって消え始めている事に。

 

 準也「元々奴をーーコウガネを倒すまでの命だったのさ……目的を果たした今、私の生きる意味は無くなった……これでようやく、愛する妻の元へ行ける……」

 牙也「父さん……!」

 箒「準也さん……!」

 準也「私なんかの為に泣いてくれるな、牙也、箒ちゃん。私はな、牙也……お前の親として、やってはならない事ばかりしてきた。これは、その報いのようなものなんだ……何も言わず、ただ送り出してくれ……こんな愚かな父を……」

 

 牙也は知らず知らずの内に流していた涙を拭い、準也の手を取る。

 

 牙也「誰があんたのような人を愚かだって言うんだよ……!もし誰かが父さんの事を愚かだって言うなら……俺はそいつをぶん殴ってやるよ……!」

 準也「フン……馬鹿者が……まぁ、良いさ……運命に振り回された一生だったが……それなりには楽しめたよ……」

 

 準也は一度牙也を見、次に箒を見た。

 

 準也「箒ちゃん……どうか牙也の事を、最期までよろしく頼むよ……君なら安心して、牙也を任せられる……」

 箒「ッ……はい、一生を賭けて、私は牙也を愛します」

 準也「うんうん、良かった……では、さらばだ……束ちゃん達にも、よろしく……と、伝えて……くれ……」

 

 この言葉を最後に、準也は力尽きたかのように目を閉じ、そして粒子となって消えていった。辺りで戦っていたあの黒く汚れたインベス達はいつの間にか姿を消しており、後には準也が使っていた大剣だけが残された。

 

 箒「牙也……」

 牙也「……大丈夫、折れちゃいないよ。皆がいるから」

 箒「そうか……」

 牙也「さ、帰ろう。皆が、俺達の帰りを待ってる」

 箒「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也達がコウガネを倒し終えた頃、学園での戦いも終止符が打たれていた。

 

 鈴「吹っ飛びなさい!」

 

 鈴のIS『甲龍』に搭載された龍砲の一撃で、最後のインベスが倒され、これで学園に現れたインベスの掃討が終わった。

 

 鈴「おしまい!ふぅ……なんとかなったわね」

 ラウラ「後は牙也達だが……大丈夫だろうか?」

 千冬「ボーデヴィッヒ、今私達にできる事はただ一つーー信じて待つ事だ。信じろ、信じて待て、牙也を」

 ラウラ「教官……はい!」

 

 三人が話している所に、他の場所で戦っていたメンバーも次々と合流する。そして全員がその場に揃った時、メンバーの目の前に先程の歪みのようなものが現れ、その中から大剣を担いだ牙也と牙也に寄り添う箒が出てきた。

 

 牙也「ただいま戻りました」

 束「おっかえり~!三人とも無事でーー牙君、準也さんは?」

 

 戻ってきた二人を総出で迎えた時、いち早く準也がいない事に気づいた束が牙也にそう聞くと、牙也は静かに首を横に振り、担いでいた大剣を目の前の地面に突き刺した。それを見て察したのか、束は「そう、なんだ……」と呟いて後ろを向く。その目にはうっすらだが涙が見えた。

 

 束「そっか……役目を果たしたんだね、準也さん……」

 箒「はい……準也さんは最期に、『姉さんによろしく』とだけ言い残して……」

 束「そっか……」

 

 束は目をゴシゴシ擦り、空を見上げる。

 

 束「生きてて欲しかったなぁ、準也さん。私まだ準也さんに、何もお返しできてなかったのに……」

 箒「姉さん……」

 束「他にもまだ沢山やり残した事があったのに……また一緒に、IS談義したかったのに……」

 千冬「束……今は泣け。思いきり泣けば良い。誰もお前を責めはしないから」

 束「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」

 

 肩に手を置いてそう言う千冬に、束はすがり付いて泣き崩れた。他のメンバーもそれにつられて涙を流す者もおり、それからしばらくの間、束が泣き止む事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「うぇぇ……準也さん……準也さん……!」

 千冬「まったく……いつまで経っても子供のようだな、お前は」

 牙也「けど、そんな父さんの決死の覚悟が……この戦いに終止符を打った」

 一夏「やっと、全部終わったんだよな……」

 楯無「実感沸かないけど、これで全部ーー」

 

 楯無がそこまで言った直後、突如地面が大きく揺れ始めた。

 

 セシリア「な、なんですの、この揺れは!?」

 ラウラ「も、もう終わったのではないのか!?」

 シャルロット「み、皆!そ、空を見て!」

 

 空を指差したシャルロットの言葉に全員が空を見上げる。その先にはーー

 

 

 

 「ヘルヘイムの、森が……!」

 

 

 

 誰かがそう呟いた。学園上空に突如逆さまの状態のヘルヘイムの森が現れたのだ。しかもそれは、段々と近付いてきている。

 

 鈴「な、なんで!?なんでヘルヘイムの森が!?」

 簪「段々と、こっちに近付いてきてる……!一体、何が起こるの……?」

 束「ま、まさか……このままぶつかって……双方消滅なんて事、無いよね……?」

 

 束のその一言に、全員が青ざめる。束の言葉は、あながち嘘ではないかもしれないのだ。現に今も、ヘルヘイムの森はゆっくりと迫ってきている。

 

 オータム「ふざけんなよ……!折角守りきれたと思った矢先に……!」

 シャルロット「僕達はこのまま終わっちゃうの……?」

 

 

 

 

 

 牙也「……させねぇよ……!」

 

 

 

 

 

 牙也は知らず知らずの内に、大剣を握り締めていた。牙也のその言葉に、全員が牙也の方を向く。

 

 牙也「このまま終わってたまるかってんだ……!絶対に守る……俺が……いや、俺達が……!」

 

 牙也はポケットからロックシード状態のヒガンバライナーを取り出して解錠しようとしたが、束がそれを止めた。

 

 牙也「束さん……」

 束「嫌、行かないで……!牙君まで死んじゃったら、私……!」

 牙也「束さん……それでも俺は、行かなきゃいけないんです。生きる為に」

 

 その言葉に、束はハッとした。

 

 牙也「以前一緒に墓参りした時、言いましたよね……?誰かが死んで、残された人達がすべきなのは、生きる事だって。死んでしまった人達の分まで、必死になって生きる事だって」

 束「」コクリ

 牙也「俺は生きたい、この世界で。俺を受け入れてくれた、この世界の中で。だから……行かせて下さい」

 

 束は黙り込んだままだったが、少ししてようやく手を離した。そして牙也をじっと見つめながら言った。

 

 束「必ず、帰ってきて。どんな姿になっても良い、生きて私達の元に帰ってきて。それだけ、それだけ約束して」

 牙也「……はい!」

 

 牙也が周りを見回すと、他のメンバーも牙也と目が合うと、小さく頷いてそれに答えた。箒もまた目が合うと、同じように頷いた。それを確認し、牙也は改めてヒガンバライナーをスタンバイし、

 

 牙也「変身」

 

 《絆アームズ!名・名・名・名・名軍師!!》

 

 一瞬で『仮面ライダー零 絆アームズ』に変身すると、大剣を肩に担いだ状態でヒガンバライナーに飛び乗った。そしてアクセルを全開にして、

 

 牙也「じゃ、行ってきます。約束、必ず果たしますよ」

 

 そう言い残し、ヘルヘイムの森が見える上空へと飛んでいった。学園の生徒教員達は、ただ祈った。世界が救われる事、そして、牙也が無事に帰ってくる事をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也(呼んでる……誰かが、俺を呼んでるんだ……)

 

 ヒガンバライナーを運転しながら、牙也はそんな事を考えていた。上空にヘルヘイムの森が突如現れた時、牙也だけには声が聞こえていた。それも短く「……助けて」とだけだが。牙也はそれが気掛かりだった。誰の声なのか、何故助けを求めているのかーー考えても答えは出そうにない。そうこうしている間に、ヒガンバライナーはヘルヘイムの森の中央までやって来ていた。

 

 牙也(こうやって見てみると、改めてデカイな……止められるか、俺に……?)

 

 そんな不安が頭の中をよぎる。冷や汗がジワジワと吹き出す。大剣を握る手に汗が溜まる。不安で頭の中が一杯になる。と、その手に誰かの手ーー手は手でも、細かい粒子でできた手だがーーが添えられた。牙也がその手の方を見ると、そこにはシュラがいた。更にもう一つ粒子の手が添えられた。また見ると、そこには狗道供界がいた。そして最後に、牙也の両肩に手が添えられた。振り向くと、そこには準也、茜、瑞穂がいた。彼らは牙也に向けて頷くと、笑顔を見せながら消えていった。

 

 牙也「……ははっ、そうだったな……俺、色々背負ってんだったよな。……俺がやらなきゃ、誰がやるってな!」

 

 牙也はヒガンバライナーに乗った状態から立ち上がり、大剣を構える。その顔には最早迷いも不安もなく、ただ単に晴れやかだった。

 

 牙也「我が心に眠る黄金の果実よ……今一度、我の魂となれ。この世界を覆う厄災に……今こそ終止符を打たん!!」

 

 牙也の体と大剣、それにヒガンバライナーが黄金と漆黒の光に包まれていく。そして、

 

 牙也「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 流星の如くヘルヘイムの森へと突っ込んでいき、それを大剣で豪快に斬り裂く。

 

 

 

 

 

 箒「行け、牙也ッ!!」

 

 

 

 

 

 箒の叫び声と共に、世界は真っ白く塗り潰されたーー。

 

 

 

 

 

 





 次回が一先ず最終回になります。その後は『ラストストーリー』と題して、またその後の世界を書いていこうかと。物語は次回で一旦終わりを迎えますが、これからも応援よろしくお願いします。
 では、最終回にてーー。



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最終回 新シイ世界ノ幕開ケ

 最終回ですね。読者の皆様、この世界の結末に、最後までお付き合い下さい。


 三月。

 

 あっという間に時は流れていき、季節はいつの間にやら卒業の季節を迎えた。最上級生であった虚さん達が卒業していき、来月には私達も進級する。生徒会の人員も次の世代へと代わり、既に運営を始めている。虚さんが抜けた穴である会計には、一学年全員の推薦によりセシリアが入った。楯無さんいわく、

 

 「あの子虚ちゃんより厳しすぎるわよ~!!誰なのよあの子推薦したのは~!!」

 

 との事。まぁたまに虚さんが様子を見に学園を訪れるらしいし、大して変わらないだろうな。ちなみにこの一年間で唯一空いていた副会長の椅子は、結局虚さんの推薦によって簪が座る事になった。虚さんから普段の様子をよく見張り、逐一報告するように、と言われたらしい。楯無さん、頑張れ。

 

 さて、他の皆だが、現在の様子を一人ずつ順番に説明していこうか。

 

 まずセシリア。さっきも言ったが、進級に際して生徒会会計に就任、学園の行事や部活動における活動費用の諸々を厳しくチェックしつつ、生徒会長である楯無さんを除いた代表候補生の筆頭として私達を統率する日々を送っている。それと同時に、学園で初の生徒による実技試験の担当に選ばれた。現在は入学試験の準備に駆り出され、てんてこ舞いのようだ。趣味となった人形作りは、生徒会の活動の合間を縫って継続しているとの事。

 

 次に鈴。あの戦いの後、姉さんが修理中に甲龍のISコアに劣化を見つけ、一旦休学という事で姉さんを連れて中国に帰国、現在は甲龍の修理・改造と筋トレ等に時間を費やしているらしい(授業代わりとして学園からは数日に一回纏めてプリントが送られてくる)。本人いわく、進級するころには戻ってくるとの事。

 

 次にデュノア。戦いが終わってからは、経営が傾いていた実家を立て直す為、奨学金制度で学園に通いながら、新しいフランス製の第三世代機のプラン作りに力を入れている。ラファール・リヴァイブの後釜を製造するという大事な事業の為、最近のデュノアは寝不足なのか目に隈が大量にできていた。本人は大丈夫と言っていたが、同室のボーデヴィッヒは何とかしてデュノアを休ませようと躍起になっているとか。

 

 そのボーデヴィッヒは、変わらず学園に通いながら『シュヴァルツェア・ハーゲン(通称黒ウサギ隊)』の隊長を続けている。元々日本に来る際に、黒ウサギ隊の副隊長に日本について色々教えてもらっていたのだが、最近になってそれが全て日本の漫画の受け売りである事を知り、携帯電話越しにその副隊長を叱っているのを見た。隊長も大変なんだな……

 

 簪と本音は簪が生徒会副隊長に就任したと同時に、なんと更識家を出るという驚きの行動に出た。後で本人から聞いたのだが、更識の分家としてこれから姉である楯無を補助していきたいと言っていた。あの戦いで、何か思うところがあったのだろうか。両親や楯無さんは当初は分家を立てる事に反対したが、簪が何やら「秘策」というものを使ったところ、それがあっさり了承されたらしい。何だったのだろう、簪の言っていた「秘策」とは……?

 

 千冬さんと山田先生は、変わらず学園の教員を務めている。あの戦い以来、学園の教員部隊の加入条件は一層厳しくなったそうで、あれからほぼ毎日千冬さんは隊長として、山田先生は補佐として教員部隊の指導に励んでいる。時々スコール達元亡国企業の人達もその指導に参加しており、教員部隊のレベルは代表候補生を凌ぐほどに成長していた。以前ラウラがその中の一人と手合わせしたのだが、両者共に互角の戦いを繰り広げ、最終的にラウラの辛勝に終わった。だがその戦いでAICを何度も看破されたラウラは「私もまだ伸び代がある、という事か……」と呟き、後日から指導に自主参加していた。今度私達も参加する事にしている。

 

 一夏は姉さんの補助を続ける傍ら、「鈴と一緒に店を出す」という目標の為、鈴の母親に弟子入りして、居候しながら中華料理を習っている。要領の良い一夏は鈴の母親の指導にしっかりついていっており、「いずれすぐに抜かされるかもね」と母親に言わせる程だったと鈴が言っていた。店ができたら、私も食べに行こうか。

 

 スコール達亡国企業は、戦いの後で姉さんに雇われて、姉さん専属のIS搭乗者として活動している。各地に散らばるISの様子を見に行かせたり、新しく作った武装の試運転をしたり、IS最大の欠点である『男性が乗れない』点の原因調査(一夏も協力)の手助け等だ。スコールもオータムも姉さんと仲良くしているし、Mはクロエと仲良くなったと姉さんが嬉しそうに話していた。

 ちなみに亡国企業が姉さんに接収された際、ゼローー牙也の母親が経営していた企業『メシア・ロード』も同時に姉さんに接収され、一先ず姉さんが実質上の社長として経営している。秘書には鳳榛名さんという人が選ばれた。聞いたところによると、元はゼロの専属秘書であった人だと言う。実際に会ってみたが、とても綺麗でお淑やかな人だった。いつか私もああなれるだろうか……

 

 皆、思い思いの道を選んで、一歩一歩進んでるんだな……え、私か?簡潔に言うと、私は今、日本の代表候補生になる為に勉強している。既に候補生には簪がいるが、あくまで候補生なので新参者の私にもチャンスはある。頑張るぞ!

 

 さて、さっきまでこうして学園の一部の生徒教員について話している私だが、今私はある場所へ向かっている。右手に花束を、左手にスポドリのペットボトルを持ち、ある場所へ続く道を歩く。と、

 

 簪「あ、篠ノ之さん……行くの、あそこへ?」

 

 簪と本音がいた。二人の手にも花束が、本音の手には更に小さなジョウロがある。

 

 「ああ。簪と本音もか?それなら一緒に行こうか」

 本音「うん、そ~しよ~。牙っちに沢山話したい事、あるからね~」

 

 こうして私達は揃ってそのある場所へ向かう。歩くこと五分、到着したのは正面にグラウンド、背後に校舎のある木々が疎らに立っているエリア。そこに、多くの花束や飲み物が置かれている場所があった。そこには準也さんが愛用していた大剣が突き刺さっている。私達はそこに同じように花束と飲み物を置き、本音がジョウロで水を掛け、揃って手を合わせる。

 

 「牙也。また来たぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、気づいている人もいるだろうが、ここであの戦いの顛末を簡潔に語る事にする。

 

 まず結果から言うと、私達の世界とヘルヘイムの森の衝突による滅亡は免れた。牙也が最後に衝突をさせない為に尽力してくれたお陰だ。しかし滅亡を免れた事による代償は、私達にとってはあまりにも大き過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也は、消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、消滅したと言うより、眠りについたという表現の方が良いだろうか。

 

 二つの世界の衝突を牙也は防ぐ事ができた。しかし衝突を防ぐ為に、牙也は自身の体内にある黄金の果実の力全てを使い切ってしまったのだ。ヒガンバライナー共々ボロボロになりながらもなんとか私達の元へは戻ってこれたが、戻ってくるーーというより学園のグラウンドに墜落するーーまでが限界だった。墜落によりヒガンバライナーは大破、牙也も墜落する前から既に全身大怪我を負っており、最早手遅れとしか言い様のない有り様……更にその体は力が無くなったせいなのか、粒子となって今にも消滅しようとしていた。私達の必死の呼び掛けには辛うじて応じる事は出来ていたが、体はほとんど動かせず腕が少し動かせる程度で、何と言うか……見ていられなかった。それでも、私達の呼び掛けには答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 ~回想~

 

 牙也『あぁ……守れた、のか……守り切れた、んだな……良かっ、た……』

 

 牙也『生きてる……皆、生きてる、な……約束、果たせ、たな……』

 

 牙也『でも……半分、だけだ……果たせなかった、約束が……ある……』

 

 牙也『俺、は……無事に、帰って来れ、なかった……』

 

 徐々に消えていく牙也を見て、私達はただ泣く事しか出来なかった。そんな私達に、牙也は途切れ途切れにこう答えた。

 

 牙也『泣いて、くれんなよ……俺は、やるべき事を、やった、だけさ……』

 

 本音『でも……!牙っち、体が……!』

 

 牙也『心配、すんな……死ぬんじゃ、ない……少しの間、眠る、だけさ……また、皆に会える、時まで……』

 

 その時、牙也の体が本格的に消え始めた。

 

 簪『牙也さん……!』

 

 牙也『俺が、いない間……箒達を、この世界を、頼んだよ……皆……』

 

 牙也『んだよ……湿気た面は、止めて、くれ……っての、皆……また、必ず会える、から……だから……待ってて、くれるか……?その時、まで……』

 

 『牙也……!ああ、待つさ!何年でも待ってやる!だから……!』

 

 思わず私は、消えていく牙也を抱き締めた。簪と本音も牙也の両手を握り、涙を流す。

 

 牙也『あぁ……暖かい……悪く、ないな……』

 

 簪『牙也さん……!私……私……!』

 

 簪が何か言おうとしたが、牙也が辛うじて動く手でそれを遮った。

 

 牙也『それは……まだ取っといて、くれ……また会えた、ら……その時に……本音も、だぞ……』

 

 簪『ッ……はい』

 

 本音『うん……』

 

 牙也『それで、良い……最後に、箒……顔を、見せてくれる、か……?』

 

 『……ッ、あぁ……!』

 

 私が顔を近づけると、牙也は手をそっと私の頬に寄せた。

 

 牙也『ありがとう、な……俺の側に、ずっといて、くれて……感謝、しきれない、な……』

 

 『牙也……!』

 

 牙也『あぁ、満足、だ……これで安心、して……ゆっくり、眠れる……』

 

 牙也『じゃあ……新しい、未来で……また会おう、な……』

 

 その言葉を最期に……頬に寄せていた手はゆっくりずり落ち……抱き締めていた体は世界に溶け……

 

 

 

 牙也は、私達の前で、私の両腕の中で……ゆっくり静かに、消えていった。

 

 

 

 完全に牙也が消えてしまった後で、何かがポトリと落ちた。拾い上げると、何かの種のようだったーー

 

 

 

 ~回想 了~

 

 

 

 

 

 

 

 私達はその種を先程の場所に植え、日夜様子を見守っている。まだ芽が出る気配はない。けど、いつか芽が出て、大きく立派に成長してくれるだろう……。それが「いつなのか」は分からないけどな。

 

 手を合わせ終え、私達はそこに突き刺さった大剣を見る。

 

 簪「……また会える、よね……?」

 

 徐に簪がそう呟く。

 

 「……会えるさ。きっと」

 本音「いつ?」

 「さあな。けど、そんな気がする。根拠はないがな」

 簪「……何ですか、それ?でも……そうですよね。いつかまた、会えますよね」クスクス

 「ああ。牙也は基本的に、約束は破らない男だからな!」フンス

 本音「早く会いたいな~。いっそ土の中からいきなり出てきてくれないかな~?」

 簪「ま、まだ先の事だろうしそれはそれで怖いよ……でも、私も……」

 「皆考える事は同じだな……これも全て、牙也が紡いできた信頼の証、か」

 

 私はそう言って、いつもの変身の仕草をなんとなくやってみる。

 あの戦いの後、私達が今まで使用していた戦極ドライバー・ゲネシスドライバー・ロックシード及びそれらをモチーフとしたIS武装は全て行方不明になってしまった。役目を終えたら全て消滅するように設定してあったのか、はたまた何か別の原因か……それは私にも分からない。けど今分かるのは、アーマードライダーの世界は終わり、これからはまたISが跋扈する世界へと戻る、という事くらいか。あの戦いで一度世界は区切られ、そしてここからまた始まるんだ、新しい世界が。

 

 

 \オーイ、サンニントモー/

 

 

 簪「この声、ボーデヴィッヒさんかな?」

 「そうだな……っと、デュノアやオルコットの声も聞こえるが、そろそろ千冬さんの指導の時間のようだな。行くか?」

 本音「うん!またここに来ようよ、今度は皆揃って一緒にね!」

 「ああ!」

 簪「うん!」

 

 私達はもう一度手を合わせてから、皆がいる方へと駆けていく。

 

 

 (牙也……お前は今まで必死に頑張ってくれた。私達の為に、私達の世界の為に……今までよく頑張ってくれた。だから今は……今だけは、ゆっくりとその体を休めてくれ。大丈夫、心配しないでくれ。お前が守り抜いた世界を、今度は私達が守る番だ。次にお前が起きる時まで……絶対に私達が守り抜いてみせる。何せここは……お前の居場所なんだからな)

 

 そう心に決め、私達は駆ける。

 

 

 

 

 ありがとうーー

 

 

 

 

 そんな声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒達が去った後の献花場所。そこにはまだ小さいが、既に立派な芽が出始めていた。そしてその隣には、

 

 

 

 

 

 

 

 

 何やら紫と紅、それと蒼と緑の二つのストップウォッチのようなものが転がっていたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  Fin

 

 

 




 これにて『IS×仮面ライダー 紫の世捨て人』は一旦終了です。読者の皆様、最後までこの駄作にお付き合い頂き、ありがとうございました。前話の後書きで言いましたが、この後は『ラストストーリー』を書いていきます。その他の小説については、『ラストストーリー』執筆完了後活動報告にて今後の動きを発表しますので、そちらをご覧下さい。

 それでは、最後までご愛読ありがとうございました。またお会いしましょうーー。



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ラストストーリー 終ワラナイ絆ノ物語
プロローグ 魔王君臨 隠サレタストーリー


 えー……まず最初にお詫び申し上げます。






 投稿遅くなってすみませんでしたァァァァァァァッ!!


 いや本当に申し訳ないです、待たせ過ぎちゃって。言い訳させていただくと、この『ラストストーリー』執筆、自分の就活や世間を騒がせる新型コロナの影響もあってストップせざるを得なかったんです。そうしないとガチでヤバかったので……
 とにかく『ラストストーリー』はようやく半分書き終えましたので、書き上がった分を投稿させていただきます。次の投稿が何時になるかはまだ未定ですが、できる限り早めに投稿する予定ですので、気長に待っていただけたら幸いです。



 では、『ラストストーリー』、始まります。





 いつかどこかの未来ーー。

 

 その未来に存在するとある店がある。

 

 そこに住む者には、夢がある。

 

 

 

 

 「王様になる」

 

 

 

 

 そう公言した青年の名は、『常磐ソウゴ』。

 

 彼は今、己に定められた未来に抗う為、日夜戦っていたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所に聳え立つ城、その敷地内にある森の中ーー一人のライダーと一体の怪物が刃を交えていた。ライダーは両手に持った二本の剣を合体させると、四方から襲い掛かってきた怪物達を纏めて斬り裂く。ライダーの攻撃を受けた怪物達は爆発四散し、残ったのはライダーと怪物達を使役していた怪物のみ。ライダーは更にその剣を残っていた怪物に向けて勢いよく振り下ろした。その一撃を受け止める事すら出来ず、怪物はなすすべもなく崩れ落ちる。

 

 ??「何故だ……何故俺は奴に敵わない!?」

 

 怪物が地面を殴り付けながらそう叫ぶと、ライダーは怪物を見ながら言った。

 

 ??「それは……お前が過去の事しか見てないからだ!」

 ??「どこまでも偉そうに……!うおおおお!!」

 

 ライダーのその言葉に怒り狂った怪物は刃を構えて攻撃を仕掛けるが、ライダーはそれを剣で迎撃し、更に怪物の二回目の攻撃を受け止めながら続けた。

 

 ??「そして俺は……未来を作る為に戦う!」

 

 そう言ってライダーは怪物を凪ぎ払うと、持っていた剣を投げ捨ててベルトに装着された二種類のウォッチのボタンを押し、バックルを一回転させた。

 

 《フィニッシュタイム!グランドジオウ!》

 

 そして大きく跳躍すると、ライダーの周囲にゲートが現れ、中から沢山のライダーが現れた。出現した総勢19人のライダー達は揃ってキックの構えを取り、

 

 《オールトゥエンティ!タイムブレーク!!》

 

 一斉に怪物に向けてライダーキックを繰り出し、最後に彼らを呼び出したライダーが止めのライダーキックを叩き込む。その強烈という言葉では足りなさすぎる攻撃に、怪物はなすすべもなく大爆発し、爆風は世界を包み込んでいったーー。

 

 

 

 

 

 

 ??「……あれ?」

 

 爆風が晴れ、ライダーは一先ず変身を解除したが、辺りを見回して気づいた。先程まで自分がいた場所ではない、何処か別の場所にいる事に。いや、そもそも辺りの光景が自分がいた世界とは明らかに違っていた。周囲は真っ白に覆われて何もなく、あるとすれば青年がいるだけである。ライダーに変身していた青年は分かりやすく動揺していた。

 

 ??「おかしいな、ちゃんと倒した筈なのに……もしかして、倒しきれなかったのかな……?」

 ??「いいや、きちんと倒せたとも」

 

 その声に青年が振り向くと、青年と同じかやや高めの背丈の人物が歩み寄ってきた。その人物はその身を真っ白な死装束で包んでおり、顔は目も口も鼻も無い真っ白な仮面で隠されていた。

 

 ??「常磐ソウゴ……で合っているか?」

 ソウゴ「そうだけど……君は?」

 ??「我か?我はーーいや、ここで名乗るのは止めておこう。一先ず仮称として『レイ』とでも呼んでほしい」

 ソウゴ「あ、うん……ねぇレイ。ここに俺を呼んだのは君なの?」

 レイ「あぁ」

 

 レイと名乗った人物は頷いて続ける。

 

 レイ「さて、早速本題に入ろうか。我がお前をここに呼んだのには理由がある。『仮面ライダージオウ』としてーー未来の『オーマジオウ』として、願いを一つ聞いてくれないかと思ってな」

 ソウゴ「願い?何の事さ?それにあんた、何で俺の事を知ってーー」

 レイ「それは追々分かる事だ。今は何も聞かずに、我の願いを聞いてはくれないか」

 ソウゴ「……分かった。それで、願いって何?」

 

 ソウゴの質問に、レイは溜め息をつきながら言った。

 

 レイ「……アナザーライダーを倒してほしいのだ。かの世界を脅かし、尚且つ奪い取ろうとしている輩を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??『ヨウヤク……ヨウヤクダ、俺ガ完全二甦ル時ガ来タンダ……!』

 

 禍々しい瘴気を全身から出し、一種の狂気のような言動の男……その男の目の前には、

 

 ??「何だお前……!俺に何をするつもりだ……!?」

 

 一人の少年がいた。右目に眼帯を付けたその少年は男の狂気の前に腰が抜けたのか、立つ事すらできないでいる。

 

 ??『コノウォッチトモウ一ツ……マダ力ヲ持タヌコノウォッチ。ソノ力サエ揃エバ、俺ハ甦リ、ソシテ究極トナル……!待ッテイロ、俺ヲ貶メタ屑共ヨ……フハハハハ!!』

 

 その男の手に握られていたのは、二つの黒塗りのウォッチであった。片方は何やら怪物の顔が描かれており、もう一つは怪物の顔が描かれていない。男は高笑いをあげながら、怪物の顔が描かれている方のウォッチを起動する。

 

 《zero》

 

 少年「ま、待て……!や、止めろ!止めーーッうああああああああ!?」

 

 野太く禍々しい音声と共にウォッチが起動、そしてウォッチを少年の胸に押し当てる。と、少年の体は漆黒に覆われていき、

 

 《zero》

 

 姿が変わった。その姿は禍々しい鎧武者のようにも見える。左肩からは枯れ枝のようなものが伸び、大量の蔦が巻き付いた鎧は長い年月が経ったかのように朽ち果て、脚絆や着物を模したアンダースーツをその下に着込み、腰には錠前とナイフが合体したような外見で中央に8の字を描いた何か、右肩の鎧に20XX、左肩の鎧にZEROと書かれている。

 

 ??『サア、誕生ダ……今日カラオ前ガ、仮面ライダー零ダァァァァ!!』

 

 鎧武者が巨大な青龍刀を掲げる様を見ながら、男は高らかな声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここに語られるのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 己を信じてくれる人間達の為に戦い続けたとある仮面ライダーの、最後の物語『ラストストーリー』である。

 

 

 

 

 

 



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ジオウ・オンパレード NextStage 2019(1)

その1


 ソウゴ「アナザーライダーだって……!?そんな、アナザーライダーは俺達の世界にしかいない筈じゃーー」

 

 ソウゴのその言葉に、レイは首を横に振って答える。

 

 レイ「だが実際に存在してしまった。あの世界に」

 ソウゴ「どうして……!」

 レイ「仮面ライダー鎧武……かのライダーの物語が消えた事。それが全ての始まりだった」

 

 レイはそう言って事の経緯を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 レイの話を要点だけ纏めて話すとこうである。

 

 元々その世界は、仮面ライダー鎧武の世界に存在したオーバーロードインベス・ロシュオが流れ着き、彼らが黄金の果実を人工で作ろうとした結果、失敗作であったとして封印、その後鎧武の世界を含め三度の復活を遂げた存在・コウガネを撃破せんとして、新たなアーマードライダーの力が生まれた。更にロシュオはアーマードライダーの力が正しき人間達に手渡されるようにする為、予め回収していた黄金の果実を媒体として人工オーバーロードを作り上げてその世界に置き、コウガネに対する対抗措置としていた。この対抗措置のお陰でコウガネは三度倒され、その世界には平和が戻るーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。

 

 

 

 

 ジオウーーソウゴが鎧武の力を受け継ぎ、鎧武の物語が消滅するまでは。

 

 

 

 

 

 ソウゴ「……つまり、俺が鎧武の力を受け継いだ事で、君達の世界も同じように無かった事になろうとしているーーって事?」

 レイ「半分正解だ……が、もう半分は違う」

 ソウゴ「?」

 レイ「別にお前が鎧武の力を受け継いだ事は問題ではない。寧ろそれが運命だった……そしてあの世界もまた、本来の歴史に戻る運命だった。そういう事だ」

 ソウゴ「運命……」

 レイ「だが我が最も問題視しているのはそこではない。何者かが本来存在しない筈のアナザーウォッチを所持し、タイムジャッカーの真似事が如くその世界の頂点に君臨せんと企んでいる事なのだ」

 

 レイいわく、誰がいつ何の目的でアナザーウォッチを手にしたのかはまだ不明だという。しかしスウォルツ達タイムジャッカーのアナザーウォッチではないにしろ、出自不明のアナザーウォッチによって世界が書き替えられようとしている事に変わりはない。

 

 ソウゴ「それで俺の力が必要になった、と」

 レイ「大まかに言えばそういう事だ。ライダーの記憶を内包したライドウォッチ……それを使えるお前なら、奴を倒すのは苦にもなるまい」

 ソウゴ「成る程ね……でも良いのかい?もし俺がその世界を救ったとしても、アナザーライダーの元になった仮面ライダーはもう戻ってこない。それにーー」

 レイ「構わん。ライダーの記憶を取り戻すには、二年という月日は長すぎた。もっと早くにお前に協力を依頼していれば或いは……いや、考えても仕方がないか」

 

 レイはそう言って天を仰ぐ。仮面に隠れて分かりにくいが、その顔には哀愁の念が見てとれた。

 

 レイ「まぁ、なんだ。お前がライダーの記憶を受け継いでくれれば、我は充分満足だ。どうだ、頼まれてはくれないか?」

 ソウゴ「……分かった。協力するよ、今回だけね」

 レイ「感謝する、若き日のオーマジオウ。では早速で申し訳ないが、すぐにその世界に向かってほしい。どうやらアナザーライダーを生み出した阿呆が、既に動き出しているようだ」

 

 レイはそう言って指を鳴らした。するとレイの背後にクラックが開いた。そのクラックからは闇の瘴気が溢れ出ている。

 

 レイ「これを潜ればすぐだ、行ってくれ」

 ソウゴ「分かったよ、ありがとう」

 レイ「あぁそれと今回の為にーー」

 

 レイが言葉を繋げるより早く、ソウゴはクラックへ飛び込んでいく。クラックはソウゴが中に飛び込むや否や、溢れていた瘴気と共に消えていった。

 

 レイ「もう二人程協力を頼んだのだがーーってもう遅いか」

 

 レイはそう言って頭を掻く。クラックがあった場所を見つめながら、レイはぼそりと呟いた。

 

 レイ「頼んだぞ、若き日のオーマジオウ……我にはもう、時間がないのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園。

 

 

 

 最終決戦から既に二年が経過していた。現在の学園は二年前から大きく様変わりし、新たな建物が建設される等して学園の規模は更に大きくなっていた。かつての決戦を知る生徒達も二年という時間の中でその半分以上が卒業、教員も三分の二が交代し、残っているのは当時の一年生と一部の教員のみであった。

 

 二年前の決戦は、当時は『水面下の大決戦』として大きく注目を集めていた(ヘルヘイムの森が突如世界各地の上空に現れた事が発覚の原因)が、決戦が終結して僅か数日であっさり世界中から忘れ去られるという異例の事態となった。原因は未だ分かっておらず、今ではその大戦を知るのは、先程も挙げたIS学園に在籍する一部の生徒教員のみである。

 元々ヘルヘイムの森による侵食はIS学園に留まらず世界へと広がっていたが、中でもIS学園がそれが顕著であった為、他での人的被害(ヘルヘイムの森に迷い込んで行方不明になる等)は埋もれた状態であった。しかし今では、ドライバーやロックシードが行方不明になった事によるアーマードライダー達の存在及びヘルヘイムの森の消滅が原因なのか、人的被害を受けた人達はいつの間にか社会復帰し、普段通りの生活を送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話を学園に戻してーー

 

 

 

 

 

 ??「フッ!ハアッ!ヤッ!」

 

 その学園の敷地の一角にある剣道場。そこには防具を着用して竹刀を振るう一人の女子生徒の姿があった。一心不乱に竹刀を振るい、その動きに一切の乱れはなく、吹き出す汗は多かれど疲れている様子は一切見えない。やがて彼女は竹刀を振るうのを止めると、その場にゆっくり正座して竹刀を置き、防具を外す。そして防具を体の横に置くと、ゆっくりと息を吐く。

 

 箒「……ありがとうございました」

 

 一礼して汗を拭っているこの女子生徒こそ、あの決戦を知る者の一人であり、かつてアーマードライダーレオンとして最後まで戦い抜いた猛者でもある、篠ノ之箒その人であった。二年の月日が経った今、箒は引き続き剣道に打ち込むと同時に、数ヶ月前に任命されたばかりの日本代表候補生という肩書きによってISの訓練にも力を入れていたのである。

 ちなみに箒のISは、『銀の福音事件』の際に束が持ってきた第4世代IS『紅椿』を使用する事になった。というのも、この二年の間に紅椿は束の下で更に改造され、そのブッ飛び性能を説明した映像が束の手で各国に送られた事で、様々な国家が所有権を巡って争っていたのだが、それを使いこなせるIS操縦者ーー束によって候補生はおろか現役の操縦者ですらもて余すISに魔改造されていたから仕方ないのだがーーが各国にはおらず、結局魔改造前に搭乗経験のあった箒が所有権を獲得する事になった。この決定を聞いた束は、何やら裏でニンマリと笑みを浮かべていたようだが。

 

 箒「……」

 

 箒は足を崩し、後ろに倒れ込んだ。服に染み込んだ汗がべったりと体にまとわりつき、動いた事で暖まった体を急激に冷やしていく。背中に感じる不快感に、箒はたまらず体を起こした。とそんな箒の顔へ、勢いよく何かが投げ付けられてきた。危うく顔面で受けそうになったそれを手に取ると、普通にタオルであった。

 

 ??「お疲れ。しっかり体を拭きなさいよ、ほっとくと体冷やすんだから」

 箒「ああ。いつもすまないな、鈴」

 鈴「良いのよ、好きでやってるんだから。はい、スポドリ」

 

 鈴が差し出したスポーツドリンクを「ありがとう」と言って受け取り、蓋を開けて一気に半分ほど飲み干す。

 

 鈴「落ち着いて飲みなさいよ、噎せるわよー」

 箒「分かってるさ」

 

 そう言って箒はスポーツドリンクを床に置く。そして「はぁ……」とため息をついた。

 

 鈴「……まだ引き摺ってるの?」

 箒「……いや、そうじゃない。あれからもう二年になるのかと考えると、な」

 鈴「そうね……それにしても不思議よね、あんだけ大騒ぎになったのに、今じゃあれを覚えてる人はあたし達学園の一部の人間しかいないなんて。白騎士事件の時じゃないけど『世紀の大事件』って言われてもおかしくないでしょ」

 箒「ああ。それに、ドライバーやロックシードがいつの間にかなくなった事も気になる。盗まれた訳ではない、紛失した訳でもない、ならばどうしてなくなったのか……疑問は尽きないな」

 鈴「牙也がそうなるように設定したっていうのは?」

 箒「そうする理由も思い当たる分、可能性としてあり得なくはないが……私達の一存ではな」

 鈴「そうよね……ところで箒、あんたこれから何か予定ある?」

 箒「いや、無いが……ISの訓練か?」

 鈴「ええ。動きを見ていてくれるだけで良いから、付き合ってくれない?」

 箒「分かった、何なら訓練にも付き合うが」

 鈴「良いわよ、気にしなくて。さっきので疲れてるでしょ?それにあんたのIS、今束さんが点検中じゃない」

 箒「あれくらいなら準備体操と同等だ、問題ない。それにあれが無くとも訓練機を使えば良い話だろうに」

 鈴「まったくもう……無理だと思ったら止めるからね」

 

 互いに苦笑いを浮かべながら、二人はアリーナへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園のアリーナは複数あるが、どこも入学生の増加に伴って改築され、二年前の倍近い広さになった。より多くの人員を収容できるようになった各アリーナには、既に多くの生徒がISの練習もしくは先輩達の見学の為に訪れていた。

 そしてここは、それらのアリーナの中でも一番の広さを持つ第1アリーナ。

 

 生徒A「キャー、オルコット様ー!!こちらを向いて下さーい!!」

 生徒B「あぁ、なんと凛々しいお姿を……いけない、鼻から出てはいけないものが……」

 生徒C「足りない……オルコット様成分が、圧倒的に足りない……!」

 

 その観客席の一角に、一際目立つ生徒達の集団があった。横断幕やら旗やらプラカードやら、色々掲げて黄色い声援を送るのは、学園の一年と二年で構成された集団だ。彼女らの目線の先にいるのは、自身のIS『ブルー・ティアーズ』を展開し、アリーナの中央で悠然と佇むセシリア・オルコットであった。セシリアは空中静止した状態で目を閉じ、ピクリとも動かない。その周囲を、量産型ISを纏った女子生徒達が包囲する。そして合図と共に一斉にセシリアに向けて攻撃する。

 

 セシリア「……私には、全て見えていますことよ」

 

 そう呟き、セシリアは目を閉じたまま頭上に向けてライフル『スターライトMk,Ⅲ』からレーザーを次々と放つ。レーザーは放たれたと同時に二度三度と急激に曲がり、周囲のISの武装やアーマーに直撃していく。わずか十数秒で、全てのISはSE切れとなった。

 

 セシリア「ふぅ……偏向射撃にも大分慣れましたね。ですが、まだ粗がある……今後の課題になりますわね」

 生徒A「キャー、オルコット様素敵ー!!」

 生徒B「あぁ、戦うお姿もなんと凛々しい事か……まずい、濡れてきた」

 生徒C「フフフ……オルコット様成分、順調に溜まっているわ……!!」

 

 若干危険な言葉が出てきたが気にしないでいただきたい。とにかく練習を終えて優雅に地上に降り立ったセシリアは、ISを解除すると観客席の生徒達に向けてにこやかな笑みを見せながら軽く手を振る。それだけで更に生徒達のボルテージは上がり、益々黄色い声援が飛び交う。

 

 もう気づいただろうが、彼女らはこの二年の間に現れたセシリアのファン達によって結成された『オルコットお嬢様親衛隊』という学園長公認の組織なのである。最初は小さかったこの組織も、現在では学園の三分の一が組織に入っている程の大所帯だ。

 

 セシリア「ふふ……注目されるのも、悪くありませんわね」

 鈴「今日も平常運転ねぇ、あんたのファンクラブ」

 

 その声にセシリアがピットの出入口に目を向けると、ISスーツに着替えた箒と鈴がいた。

 

 セシリア「あら、篠ノ之さんに凰さん、ご機嫌よう。これから訓練ですか?」

 鈴「ええ。箒に色々見てもらおうかと思ってね」

 

 /アッ,アレハファンセンパイダ‼️\

 

 /チッチャーイ,カワイイ-‼️\

 

 鈴「誰よ豆粒ドチビとかほざいたのは!?」

 

 /イヤ,ダレモイッテマセーン!?\

 

 箒「この弄りも平常だな」

 鈴「平常であってほしくなかったわ……」ガックリ

 セシリア「それで、如何致しますか?久々に一戦交えるのでしたら、大歓迎ですわよ?」

 鈴「良いわね、やりましょ。箒、審判お願いね」

 箒「分かった」

 

 箒は頷いて管制室へと走っていく。セシリアと鈴はそれぞれのIS『ブルー・ティアーズ』と『甲龍』を展開して待機し、開始の合図を待つ。

 

 箒「二人とも、準備は良いな?」

 セシリア「何時でも行けますわよ」

 鈴「どんと来なさい!」

 箒「よし、ではこれより、セシリア・オルコットvs凰鈴音の模擬戦を開始する。ではーーはj《ドゴンッ!!》な、なんだ!?」

 

 突然の大きな音に箒は管制室の窓からアリーナを覗き込む。そこに見えたのは、アリーナの壁に大きく空いた穴と、何やら鎧武者のような見た目の何かだった。それを見て箒は大いに驚いた。

 

 箒「あれは、零……!?いや、それにしては何かおかしい……くっ、とにかく皆を……!」

 

 その異形を目にして驚きを隠せない箒ではあったが、とにかく急ぎ警報ボタンを押して、アリーナの生徒達に危険を知らせる。

 

 箒「第1アリーナにいる生徒達に告ぐ!アリーナに謎の侵入者あり!アリーナ内にいる生徒は急ぎアリーナから脱出せよ!繰り返す、生徒達は急ぎ第1アリーナから脱出し避難せよ!」

 

 箒の放送によって危機を知った生徒達は、慌ててアリーナから避難していき、ISを展開して練習をしていた他の生徒が彼女らの避難を支援する。わずか一分ほどで、ほぼ全員の避難は完了した。

 

 千冬『篠ノ之!これは何の騒ぎだ!?』

 

 すると管制室に千冬からの通信が入ってきた。

 

 箒「ちふーーじゃない、織斑先生!第1アリーナに侵入者です!急ぎ教員部隊の救援をお願いします!」

 千冬『なに!?分かった、すぐに向かう!アリーナに誰か戦える者はいるか?』

 箒「オルコットと鈴がいます!迎撃させますか?」

 千冬『侵入者の動きによる。向こうが攻撃してくるようなら迎撃させ、来ないならそのまま様子を見ろ。私達が来るまでなんとか持ちこたえるんだ。一分で合流する!』

 

 そこまで言って、通信は一方的に切られた。箒は「やれやれ」と首を振りながらアリーナに目を向け、セシリア達に通信する。

 

 箒「オルコット、鈴。千冬さんから、『一分で着くから、それまで持ちこたえろ』との事だ。私もすぐにそっちに向かう!」

 セ・鈴『了解(しましたわ)!』

 

 箒と通信を終え、セシリアと鈴は謎の侵入者に目を向ける。鎧武者にも見えるその侵入者の目が、二人を捉える。

 

 鎧武者「ガァァァァァァ……グァァァァァァ!!」

 

 侵入者は二人を見るなりそう吠えて左手の青龍刀を構えた。

 

 セシリア「なんとも不気味な姿ですわね……それにしてもあの姿、牙也さんが変身していた零に見えるのは私だけでしょうか……?」

 鈴「奇遇ね、あたしもよ。でどうする?応戦すんの?」

 セシリア「あちらは聞く耳をお持ちではないようですから、やらざるを得ないでしょうね」

 鎧武者「グルル……ガアッ!!」

 

 その時、

 

 鈴「ッ!?」ガキンッ

 

 鈴の目の前に既にその鎧武者はいて、青龍刀を振り下ろしてきていた。鈴は辛うじてそれを自身の青龍刀『双天牙月』で防ぐ。常人なら受け止める事はおろか姿すら見える事もないであろうその攻撃スピードは、二人の顔をしかめさせるには充分であった。

 

 鈴「ッ……こいつ、速い……!それに重いわね……!」

 セシリア「お行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!」

 

 セシリアはスカート部からビット型武器『ブルー・ティアーズ』を分離して鎧武者に向かわせた。ビットからの絶え間ない射撃とセシリアのライフルからの射撃、二種類の射撃が鎧武者を襲う。しかしその射撃は虚しくボロボロの鎧に全て阻まれた。

 

 鎧武者「ガァァァ!!」

 

 鎧武者は鈴の攻撃を青龍刀で弾くと、少しの溜めの後セシリアに向け青龍刀で突きを繰り出した。と、青龍刀から発せられたエネルギーの刃が次々とセシリアへと飛んでいき、まるで分裂したかのように連続突きを繰り出した。セシリアはなんとかライフルを盾にして防ぐが、連続突きは『ブルー・ティアーズ』の装甲をゴリゴリと削り取っていき、それに比例してSEも削り取られていく。

 

 セシリア「くううっ!?」

 鈴「ちょっと!あんたの相手はあたしよッ!」

 鎧武者「ギギッ!」

 

 鈴が牙月で再び攻撃して気を向けさせようとすると、鎧武者が右手を鈴に向ける。すると何処からともなく蔦が伸びて鈴に襲い掛かってきた。蔦は鈴の両手両足に巻き付き、動きを封じてしまった。

 

 鈴「牙也と同じように蔦を……!くっ、離しなさいよ!」

 鎧武者「ギギギ……ガアッ!!」

 

 身動きの取れない鈴に向けて鎧武者が青龍刀を振り下ろす。最早これまでと、鈴は目を瞑ったーー

 

 箒「させるか!」

 鎧武者「グハッ!?」

 

 しかし後少しで青龍刀の攻撃が当たる所で声が響き、鎧武者は吹き飛ばされた。鈴が恐る恐る目を開けると、訓練機の打鉄を纏った箒が立っていた。

 

 箒「すまない、遅くなった!今蔦を切るからな!」

 鈴「遅くはないけど、早くもないわね。けど、救援ありがと。千冬さん達は?」

 箒「あそこだ」

 

 箒が見た方向を鈴も見ると、千冬率いる教員部隊がセシリアを回収していた。

 

 箒「後は私達がなんとかする、鈴も下がっておけ」

 鈴「仕方ないわね、こんなボロボロじゃ足手まといだもの……頼んだわよ、箒」

 

 箒によって蔦の拘束から解放された鈴は、そのまま数人の教員と共にその場を離れた。それを見送り、箒は鎧武者に向き直る。鎧武者は忌々しそうに箒を睨み付けたかと思うと、一瞬驚いた顔を見せながらもその表情は不気味な笑みに変わった。

 

 鎧武者「ガ、ルル……寄越、セ……!果実……!禁断ノ、果実、ヲ……!」

 箒「ッ!?貴様、何処でその事を……!」

 

 一瞬驚いた箒だったが、すぐに打鉄の主要武器・葵を構えた。

 

 千冬「篠ノ之!」

 真耶「篠ノ之さん!」

 箒「下がってください!こいつの目的は恐らく私です!私がこいつを引き付けますから、織斑先生達は早く他の皆を!」

 

 箒はそう言って鎧武者を見据える。と、突然箒の目の前に白黒のオーロラカーテンが現れた。箒と鎧武者を分断するように出現したオーロラカーテンから、やがて一人誰かが出てきた。

 

 ??「ふぅ……ようやく到着したよ、IS学園。ここにお宝があるのは間違いない。早速探しにーーおや」

 

 オーロラカーテンが消えると、そこに立っていたのは年齢二十代くらいであろう金髪の青年だった。その右手には全体的にシアンが目立つ変わった形の銃が握られている。青年は辺りを見回していたが、鎧武者が目に入るなり、その銃を向けた。

 

 ??「まさかここにいたとはね、彼が。ま、お宝を彼に渡す気はないんだけどね」

 鎧武者「ギギギ……!」

 ??「さぁ頂こうか、この世界のお宝をね!」

 

 青年はそう言って鎧武者に銃撃するが、銃撃は多少鎧武者を怯ませる程度であった。

 

 鎧武者「ウゥゥゥゥゥゥ……!」

 ??「まぁ当然そうだよね、この程度で倒れる筈もないか。仕方ない……それじゃ、始めようか」

 ソウゴ「うひゃっ!?」

 

 と、青年の後ろにクラックが出現し、そこからソウゴが青年の足元に転げるようにして現れた。ソウゴは体を擦りながら立ち上がる。

 

 ソウゴ「痛て……ここは?」

 ??「おや、君も呼ばれたのかい?……いや、呼ばない訳にはいかないか」

 ソウゴ「あんたは……海東大樹!?」

 大樹「久しぶりだね、魔王。まぁつもる話は後にして、今はあれを追い払おうか」

 

 大樹の目線の先には鎧武者がいた。二人を見るなり、低い唸り声を上げて警戒している。

 

 ソウゴ「アナザー鎧武……?いや、前に見たアナザー鎧武とは、何か違う気がする」

 大樹「聞いた所によると、あれはアナザー零と言うらしい。この世界の物語は鎧武の物語の続きのようなものだ、って言ってたよ、レイは」

 ソウゴ「あんたもレイに会ったのか」

 大樹「あぁ。それとレイは士にも声を掛けているらしい、後で合流出来れば良いんだけどね」

 

 大樹はそう言いながら一枚のカードを取り出す。それにはバーコードをモチーフとしたシアンカラーの仮面ライダーが写っていた。

 

 大樹「行くよ、魔王」

 ソウゴ「あぁ、分かってる」

 

 《ジクウドライバー!》

 

 《ジオウ!》

 

 ソウゴは腰に変身ベルト『ジクウドライバー』を付け、懐中時計の形をしたアイテム『ライドウォッチ』を右手に持つ。そしてウォッチを起動してドライバー右側にセット、ドライバー上部のボタンを押してロック解除した。そして時計の針のようなポーズを切る。背後には半透明の大きな時計のエフェクトが現れた。

 

 《KAMEN RIDE》

 

 大樹は取り出したカードを持っていた銃『ネオディエンドライバー』にセットし、ディエンドライバーの銃口を空に向ける。

 

 ソウゴ「変身!」

 大樹「変身」

 

 《ライダータイム!仮面ライダージオウ!》

 

 《DIEND!》

 

 ソウゴがジクウドライバーを回転させると、背後の時計の針が10時10分を差すと同時に、ソウゴの周囲を無数の腕時計のバンドのようなエフェクトが包み込み、黒のスーツと銀の鎧といった姿に変えた。時計には『ライダー』の文字が浮かび上がり、それが飛び出して顔にセットされた。

 大樹が銃のトリガーを引くと、シアンカラーのプレートが複数と人形のエフェクトが三体現れて大樹の周囲を囲うと、三体のエフェクトが合わさってアーマーに変化し、その顔にはプレートがはめ込まれる。

 

 『仮面ライダージオウ』と『仮面ライダーネオディエンド』の御披露目だ。

 

 《ジカンギレード!ケン!》

 

 ソウゴ「俺達なら……やれる気がする!」

 

 ソウゴはそう言ってジカンギレードを構え、アナザー零に攻撃を仕掛け始めたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ジオウ・オンパレード NextStage 2019(2)

その2


 ジオウ、ディエンドがそれぞれの武器でアナザー零に攻撃を仕掛けていく。それに対しアナザー零は唸り声を上げながらも青龍刀を構えて応戦を始めた。大振りな攻撃はジオウ達に当たる事はないものの、攻撃を躊躇させ回避に徹させるには充分であった。

 

 ソウゴ「鎧武者が相手なら、こっちも鎧武者だ!」

 

 《鎧武!》

 

 ジオウは腕に付けたホルダーから『鎧武ライドウォッチ』を外して起動し、ベルト左側のスロットに装着。ベルトのロックを解除し一回転させる。

 

 《ライダータイム!仮面ライダージオウ!!アーマータイム!ソイヤッ!鎧武!!》

 

 ジオウの頭上に巨大な鎧武の頭部を模した装甲が現れると、ジオウに被さり展開して全身を覆うアーマーとなり『仮面ライダージオウ 鎧武アーマー』になった。

 ジオウは『大橙丸Z』を二本抜くと、アナザー零に接近して振るい始める。同時に両脚部に装着された『大橙丸Z』を蹴りの要領で振るう。

 

 《ATTACK RIDE BLAST》

 

 ディエンドはドライバーに新たなカードをセットしてトリガーを引く。と、銃口から放たれたエネルギー弾はジオウを避けるように飛んでアナザー零へと向かい着弾。アナザー零が怯んだ所へジオウの斬撃が次々と当たる。

 

 アナザー零「グ、グルル……ガギギッ!」

 

 二人の攻撃に後退を強いられるアナザー零だが、素早く体勢を立て直すと左手を正面に翳した。するとアナザー零の周囲に複数のクラックが出現し、中から大量のインベスが溢れ出てきた。インベスがジオウ達を見るなり襲い掛かっていくのを見ると、アナザー零は更にクラックを開いて中に飛び込んだ。

 

 ソウゴ「あっ、待て!」

 

 ソウゴが追いかけようとするが、それは大量のインベスに阻まれる。そうこうしている内にクラックは閉じてしまった。

 

 大樹「逃げられたか……仕方ない、取り敢えずインベスを片付けるとしようか」

 

 大樹はそう言うとベルトに付けられたカードデッキから三枚のカードを取り出し、それをディエンドライバーにセットした。

 

 《KAMEN RIDE THE BEE》

 

 《KAMEN RIDE METEOR》

 

 《KAMEN RIDE CROSS-Z》

 

 三枚のカードをセットしてトリガーを引くと、銃口から三体の異なるエフェクトが現れ、それが実体化。三人の仮面ライダーとなった。一人は蜂を模したライダー『仮面ライダーザビー』、一人は蒼き流星がモチーフのライダー『仮面ライダーメテオ』、一人は龍を模したライダー『仮面ライダークローズ』である。ザビーとクローズは徒手空拳で、メテオは拳法を駆使してインベスを攻撃する。的確な拳打によってインベスを次々と怯ませた所に、

 

 《ATTACK RIDE CROSS ATTACK》

 

 《RIDER STING》

 

 《METEOR LIMIT BREAK!》

 

 《READY GO!DRAGONIC FINISH!》

 

 大樹が別のカードを銃にセットしてトリガーを引くと、召喚されたライダー達がそれぞれのベルトやブレスを操作して必殺技を発動、ザビーはインベスに接近してゼクター部分の針を拳打と同時に次々と打ち込んでいき、メテオとクローズはエネルギーを纏ったキックをインベスに叩き込んだ。必殺技を受けた全てのインベスは倒され、それによってクラックも閉じていく。

 

 大樹「ふぅ、終わったね。じゃあ僕は一端これで。またね」

 

 《ATTACK RIDE INVISIBLE》

 

 ソウゴ「あっ、ちょっと!」

 

 それを見届けた大樹は、ソウゴが声をかけるより早くまた別のカードを銃にセットしてトリガーを引き、透明化して消えた。それと同時に召喚されたライダーも消滅した。

 

 ソウゴ「まったく、自由過ぎるんだから……」

 

 ぶつくさ愚痴を溢しながらソウゴは変身を解除して、今まで蚊帳の外だった箒達に走り寄る。

 

 ソウゴ「大丈夫?」

 箒「あ、ああ……だが、お前は一体何者だ?それにさっきの怪物は……?」

 ソウゴ「事情は後で話すよ。それよりも今は仲間の元へ行こう、俺も行くから」

 箒「……分かった」

 

 箒は打鉄を解除するとソウゴに「こっちだ」と言って歩き始める。ソウゴもそれについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が医務室に着くと、ちょうど室内から千冬と真耶が出てきた。

 

 千冬「篠ノ之か、ご苦労だったな。それと……後ろのお前。加勢してくれた事、感謝する。お陰で被害を最小限に抑える事ができた」

 真耶「もう、織斑先生……!すみません本当に……」

 ソウゴ「あ、いえ、気にしないで下さい。それよりも怪我した人達は?」

 千冬「何ら問題はない。オルコットも凰も大した怪我ではない、せいぜい軽めの打ち身か打撲程度だ」

 箒「そうですか……良かった」

 千冬「うむ……で、だ。当時の状況とあの怪物に関する情報が欲しい、悪いが話を聞かせてもらうぞ。山田先生、彼を会議室へ案内しろ」

 真耶「あ、分かりました!さ、こちらですよ」

 ソウゴ「はい」

 

 ソウゴは真耶に連れられて会議室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 会議室に着くなり、ソウゴは様々な事を聞かれた。ソウゴ自身の事、アリーナに現れた怪物の事、ソウゴと共に戦っていた金髪の青年の事……ソウゴが簡潔に話した内容を真耶がメモしていく。一通りソウゴが話し終わると、千冬は「ううむ」と唸った。

 

 千冬「アナザー零、か……生まれると同時に仮面ライダーの力を奪い、歴史をねじ曲げる存在『アナザーライダー』……なるほど」

 ソウゴ「はい。それで俺はこの世界に来ました。さっき俺が変身したライダー……『ジオウ』の力を使って、そのアナザー零を倒す為に」

 千冬「ふむ……事情は分かった。だがどうやってそのアナザー零とやらを倒すのだ?お前の話では、アナザーライダーは同じライダーの力でなくては倒せない、という事らしいが」

 ソウゴ「これを使います」

 

 そう言ってソウゴが机に置いたのは、ソウゴがいつも使っている『ジオウライドウォッチ』だ。

 

 ソウゴ「『ライドウォッチ』と言います。これには様々な仮面ライダーの力が宿っています。俺が変身するジオウは、これを使いライダーの力を得る事でアナザーライダーを倒せるようになるんです」

 

 ソウゴが差し出したライドウォッチを千冬が手に取り、まじまじと眺める。

 

 千冬「ライドウォッチ、か。束がこれを見たらどんな反応をするだろうな」

 箒「分解して仕組みを知って、同じ物を作ろうとするんじゃないですか、姉さんの事ですし」

 真耶「有り得ますね、篠ノ之博士なら……」

 ソウゴ「ちょっと、分解だけは止めて下さい!これがないと俺戦えませんよ!」

 千冬「分かってる、もしもの事だ」

 

 千冬はそう言ってライドウォッチをソウゴに返す。

 

 千冬「しかしお前の話が事実なのだとしたら、おかしくはないか?アナザーライダーが誕生したら、仮面ライダーの記憶は私達はおろか、世界そのものから徐々に無くなってしまうのだろう?だが私達の場合、仮面ライダーの記憶を全く忘れていない、むしろはっきりと覚えているぞ?」

 真耶「ですがそれはこの学園の一部の生徒教員に限られてます。単純に忘れていくスピードが私達に限って遅いだけなのでは……」

 ソウゴ「それは有り得ないと思います」

 千冬「何故だ?」

 ソウゴ「アナザーライダーが出現すると、変身者は徐々に変身能力を失ってしまうんです。そしてそれと並行して、ライダーの関係者からも徐々に記憶が失われていきます。一部の人達だけ記憶の欠落が遅い、もしくは欠落が起こらないなんて事はこっちの世界でもありましたが、それは現代でアナザーライダーが誕生した場合の事です。確かアナザー零の右肩には、20XXという数字がありましたね」

 千冬「そう言えば、確かに奴の右肩には年号らしき数字があったな。あれが年号ならば今年は20ZZ年……そうだ、あの年は今からちょうど二年前だ!」

 真耶「えっと……つまり?」

 ソウゴ「つまり今回のアナザーライダーの誕生は過去で起こった事であり、記憶の欠落が起こらない筈はないんです。それに……もし今回アナザー零を生み出した敵が皆さんの記憶をあえて残したのだとしたら、それはリスクが高すぎるように思えます。単純に歴史をねじ曲げるだけなら、一部の人達の記憶だけを残すなんて面倒な事、やる必要無かった筈です」

 千冬「つまり私達に仮面ライダーの記憶が残っているのは、何か別の要因だと?」

 ソウゴ「……多分、そうだと思います」

 千冬「なるほど……」

 

 千冬はそれを聞くなり何やら考え事を始める。と、「そう言えば……」とふとソウゴが声を溢した。

 

 ソウゴ「そう言えば俺、この世界の仮面ライダーについて何にも知らないんだ。知ってるなら教えてくれませんか?」

 

 それを聞くと、途端に箒の表情が曇る。真耶が心配して箒の顔を覗き込むと、箒は「大丈夫です」と言って苦笑いを見せながら立ち上がった。ソウゴが顔に「?」を浮かべていると、箒は立ち上がってソウゴに手招きした。

 

 箒「……ついて来てくれ。私達が知る限りの話をしよう。この世界で最期まで戦い続けた、一人の仮面ライダーの物語を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園のグラウンドは通常の学校のそれがあまりにもショボく見える程に広く、グラウンド一周が㎞の単位で表される程の広さである。これはアリーナが満員で使えない場合のIS練習場として、特に入学したばかりの一年生が結構な頻度で使用する為だ。

 そんなグラウンドの片隅、植え込みや数本の木があるエリアに、二人の女子生徒の姿があった。二人は地面に突き刺さった大剣に絡まるように生えた一本の木に手を合わせて拝んでおり、木の根元には沢山の花束や飲み物が置かれている。二人は木に拝み終わると、側に置いていた如雨露を手に持って木に水を掛けた。

 

 ??「……もう二年になるんだね」

 ??「時間ってなんでこんなに経つのが早いんだろ~ね~。あっという間だったよ~」

 

 オドオドした表情の眼鏡の少女に対して、ダボダボの制服の袖をブンブン揺らしながら答える少女。眼鏡の少女は『更識簪』、ダボダボ袖の少女は『布仏本音』である。

 

 本音「ね~ね~かんちゃん。牙っち、私達の事見ててくれてるかなぁ?」

 簪「……うん、見てる筈……だと思う」

 本音「成長した私達見たら、喜んでくれるかなぁ?」

 簪「……うん、喜ぶよ……絶対。牙也さんなら絶対、喜んでくれる」

 本音「だよねだよね~。かんちゃんはあんまり成長しなかったけどね~特にむn」

 簪「……本音?」

 本音「じょ、冗談だって~!」

 

 簪の殺気の混じった笑顔に慌てて謝る本音。そんな本音を横目に、簪は目の前の木をただひたすらに眺めていた。

 

 簪(……会いたいな)

 

 簪の胸中はそれ一つであった。二年前のあの日、簪自身の思いを伝える事が出来ぬまま牙也は消滅した。この二年の間、一部の友人以外誰にも打ち明ける事もないまま秘め続けてきた思いは今も変わらない。勿論思いを伝えたところでどうなるかの予想は、簪にも容易に想像出来る。しかしそれでも簪は伝えたかった。自分が牙也の事をどう思っているのか、その胸中を早く牙也本人に自身の言葉で伝えたい、という思いがあった。

 

 本音「大丈夫だよ、かんちゃん。牙っちは必ず戻ってくるよ」

 簪「本音……」

 本音「だからさ、気長に待とうよ。いつ戻ってくるかなんて皆分かんないんだから、ね?」

 簪「……分かってる。分かってるんだけど……」

 

 暗い表情になる簪に、本音は更に続けた。

 

 本音「私だってかんちゃんと同じだよ、早く会いたいなぁ、早く帰ってきてくれないかなぁ、っていつも思ってるよ。でもさぁ、今のかんちゃんみたいな暗~い表情、牙っちが見たらどんな反応するかなぁ?」

 簪「……」

 本音「だからさ、やっぱり笑顔でいなきゃ駄目だよ。牙っち泣いちゃうよ?かんちゃんも私達も皆、やっぱり笑顔でなきゃ!ね~?」

 

 いつも通りの満面の笑みを浮かべながら、本音は簪に抱きつく。いつも通りな本音に、簪も思わず笑顔がこぼれる。

 

 簪「……ん、そうだね。ありがとう、本音。少し楽になったよ」

 本音「い~よい~よ、友達でしょ?気にしないでよ、かんちゃん!ほら、これから家に帰って近況報告しなきゃいけないんだし、もう電車まで時間もないから早く行こ!」

 

 簪の返答にニパッと笑顔を返した本音はパッと立ち上がると、校舎の中へと駆けていった。

 

 簪「……ありがとね、本音」

 

 そう呟きながら、簪はふと目の前の木に目を向ける。すると、

 

 簪「……あれ?何だろ、これ?」

 

 木の根元の辺りに、何やら色鮮やかな丸っこい物が二つある。手に取ってみると、一つは紫と紅の配色、もう一つは蒼と緑の配色が成されたストップウォッチのような物であった。表面には何やら見覚えのあるイラストが描かれている。

 

 本音「かんちゃ~ん、何してんのさぁ!早く早く~!」

 簪「あ、うん!すぐ行くよ!」

 

 簪が来ないのを心配してか戻ってきた本音の声に我に返った簪は、慌ててそれを制服のポケットに詰め込み走り出す。取り敢えず用事を済ませて戻ってきた後で、誰かにそのウォッチについて聞いてみよう。一先ずウォッチの事は頭の片隅に置いておき、簪は実家帰省の荷物準備の為に部屋に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 簪と本音がその場を去ってから約十分後。

 

 箒「……以上が、この世界の仮面ライダーに関する全てだ」

 ソウゴ「そんな事があったんだ……」

 

 ソウゴは目的の場所へ向かいながら、隣を歩く箒の話を聞いていた。正史である仮面ライダー鎧武の物語を知るだけに、箒が話した内容は驚きの連続でもあった。

 

 ソウゴ「まさか鎧武の物語に続きがあったなんて思いもしなかったよ」

 箒「私達だって驚いたさ。あまりにも非現実過ぎてな……さ、着いたぞ」

 

 箒に連れられてソウゴが訪れたのは、先程簪と本音が拝んでいた木の前だった。

 

 ソウゴ「この木は?」

 箒「……ここに今、牙也がーー仮面ライダー零が眠りについている。墓石……と言うよりは、霊廟の代わりと言った方が良いか」

 ソウゴ「えっ?それってつまり、彼は死んだって事ーー」

 箒「牙也は死んでないッ!!」

 

 突然の箒の叫びに驚くソウゴだが、箒はそれを無視して続ける。

 

 箒「死んでない……!牙也は戻ってくる……!必ず……必ずだ……!約束したんだ、また必ず会おうって……!」

 

 先程とは違い声を荒げている箒の様子から、ソウゴはこれ以上は踏み込むべきではないと理解する。そして荒い息をしていた箒も我に返り、気まずそうに顔を背ける。

 

 ソウゴ「……ごめん、知らなかったとは言え配慮が足りなかったよ」

 箒「……いや、良い。私も急に声を荒げてしまってすまない。お前に当たり散らしても意味がないと言うのに……」

 ソウゴ「俺は気にしてないよ。先に配慮のない発言をした俺が悪いんだし……」

 

 二人の間に、やや気まずい雰囲気が流れる。

 

 箒「……ところで常磐。お前の言う『ライドウォッチ』は、誰が持っている物なのだ?」

 ソウゴ「んー、基本的にはウォッチに描かれたライダーの変身者か、もしくはその関係者の誰かが持ってる物だけど……篠ノ之さん達は持ってないみたいだし、彼に関係する他の誰かが持ってるのかもしれないね。あ、あと俺の呼び方はソウゴで良いよ」

 箒「そうか、なら私の事も箒と呼んでくれれば良い。さて、となると……今後はまずその『ライドウォッチ』を見つけ出す事から始めねばならんな」

 ソウゴ「彼の関係者に手当たり次第聞いてみるのが早いね。早速聞きに行こう」

 

 そう言って駆け出そうとするソウゴを、箒は慌てて引き留めた。

 

 箒「待て待て。関係者と言っても、この学園は生徒だけでも通常の学校の倍以上はいるのだぞ、手当たり次第に聞くなど面倒な事で時間は潰せぬ」

 ソウゴ「そうなの!?……じゃあどうするのさ」

 箒「こういう時頼りになる仲間がいる。ちょっと待て」

 

 そう言うと箒はスマホをポケットから取り出した。

 

 箒「ソウゴ、先程のライドウォッチを出してくれ。写真に取る」

 ソウゴ「良いけど……写真はどうするの?」

 箒「まぁ任せておけ」

 

 ソウゴが『ジオウライドウォッチ』を取り出して見せると、箒はそれを写真に取り、更にそのまま誰かに電話を掛け始めた。

 

 箒「……あぁ、オルコット。ちょっと頼みがある。今から送る写真の物に似た物を持ってる者が学園にいないか、早急に調べてくれ」

 セシリア『物、ですか?それはどのような物なので?』

 箒「ちょっと待て、すぐ写真を送る」

 

 そして箒はメールに写真を添付してセシリアに送った。

 

 セシリア『届きましたわ……なるほど、見た目はストップウォッチのような物ですわね。しかし私は怪我で動けぬ身、となると……あの子達に任せるのが妥当でしょうか』

 箒「お前の親衛隊か?」

 セシリア『ええ。私の親衛隊の二年生幹部の一人に、新聞部出身の方がいらっしゃいますわ。彼女に頼めばすぐ情報が集まるかと。私が彼女に写真を送って早急に調べさせます。ところで、何か探し物の具体的な特徴等はありますか?』

 箒「特徴か……ちょうど良い、それについて知ってる者が今ここにいる、その者から聞くと良い。ちょっと代わるぞ」

 

 そう言うと箒はソウゴにスマホを渡して電話を代わらせた。

 

 ソウゴ「も、もしもし。常磐ソウゴと言います、よろしくお願いします」

 セシリア『常磐さんとおっしゃるのですね。はじめまして、このIS学園の生徒会長であるセシリア・オルコットと申します。どうぞよろしくお願い致しますわ。それで、このストップウォッチのような物の特徴というのは?』

 ソウゴ「はい。送った写真の物は『ライドウォッチ』と言って、仮面ライダーの力を内包した物なんです。種類が沢山ありますが、大きな特徴としてはウォッチを正面から見ると、内包した仮面ライダーの顔が描かれています。今回の場合は、仮面ライダー零の顔が描かれている物ですね」

 セシリア『なるほど……よく分かりました、では生徒会長の名誉に賭けて、早急に探しだして見せますわ。ではごきげんよう』

 ソウゴ「よろしくお願いします」

 

 電話を終えたソウゴはスマホを箒に返す。

 

 ソウゴ「まさか生徒会長を動かすなんて……」

 箒「普段はここまでやらないが、今回ばかりは事情が事情だ。しかも対応策が限られる以上、情報収集と目的の発見は早い方が良い……そうだ、姉さんやデュノア達にも情報収集を要請しておくか」

 

 箒はシャルロットやラウラ等の友人や姉の束、更に卒業生である楯無達にもメールと写真を送り協力を仰いだ。

 

 箒「よし、これで大丈夫だろう。ソウゴ、私達は次に奴が来た時の対処法を千冬さん達と共に考える事にしようーーん、電話か?」

 

 と、箒のスマホから着メロが鳴った。確認すると千冬からのメールだった。

 

 箒「違った、千冬さんからのメールだ。何かあったのだろうかーーな!?」

 

 千冬からのメールと添付された写真を見るなり、箒は大いに驚き動揺していた。

 

 箒「ば、馬鹿な……!本当なのか、これは……!?」

 ソウゴ「どうかしたの?」

 

 ただならぬ様子にソウゴが尋ねると、箒は体をワナワナ震わせながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「牙也だ……牙也が、帰ってきた」

 

 

 

 

 

 

 



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ジオウ・オンパレード NextStage 2019(3)

その3


 牙也「雷牙也です。今日はよろしくお願いします」ペコリ

 

 小会議室に設けられた簡易的面接スペースに、面接担当の真耶と一人の青年の姿があった。動揺を作り笑いによって無理矢理隠し、真耶は目の前の青年を見る。目の前の青年は間違いなく自分達の知る人物。しかし一方の本人はあまりにも無表情で、しかも自分達の事をまるで知らないかのように振る舞っていた。

 

 真耶「え、えっと……こちらこそよろしくお願いします、牙ーーじゃない、雷君。それでは早速、学園清掃員の面接を始めます」

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその様子を部屋の外のドアガラスから見つめているのは、ソウゴ、箒、千冬である。

 

 ソウゴ「あの人が箒ちゃんが言ってた牙也君なんだね」

 箒「牙也……!」

 

 箒は急いで中に入ろうとするが、千冬に腕を掴まれ静止させられた。

 

 箒「どうして止めるんですか!?せっかく牙也にまた会えたのに……!」

 千冬「……今あいつと顔を合わせた所で、無駄な事だ」

 箒「どうして……!」

 

 箒が千冬に詰め寄る中、ソウゴは先程の自身の説明からある仮説を立てていた。

 

 ソウゴ「……もしかして、記憶が無いんじゃないかな?」

 千冬「……恐らくそうだ。牙也は私達の事を何一つ覚えていないようだった。さっき廊下で会ったが、私を見て会釈しただけで他に何の反応も示さなかったからな」

 箒「そんな……!」

 

 すると会議室から真耶と牙也が出てきた。

 

 真耶「あ、織斑先生。学園清掃員の面接、滞りなく終わりました」

 千冬「ご苦労。正門まで彼を送ってやれ」

 真耶「はい」

 千冬「雷。面接の結果は後日連絡する、帰る前に連絡先を山田先生に教えておくように」

 牙也「……はい」

 

 真耶は牙也を連れて三人の脇を通り過ぎる。牙也は三人をチラッと横目に見ただけで、後は何の興味も示す事なく真耶の後を追っていった。箒は彼を追い掛けようとして、しかし動けなかった。

 

 千冬「篠ノ之。今日はもう休め、お前には気持ちの整理の時間が必要だ」

 箒「……はい」

 

 箒は二人に一礼して去っていった。その様子はソウゴから見ても分かるように、無理して落ち着いているようであった。

 

 千冬「……ところで常磐。お前、何故牙也が記憶喪失だと考えた?」

 ソウゴ「さっきも言いましたが、アナザーライダーが誕生した時点で変身者は徐々に変身する力を失い、最後にはライダーであった事すら忘れてしまいます。簡単に言うとこの世界の仮面ライダーは、アナザーライダーの誕生によって『存在そのものを乗っ取られた』んです」

 千冬「存在を乗っ取られた……?つまり奴が仮面ライダー零に成り代わったという事か!?馬鹿な、あれのどこが仮面ライダー零なのだ!?誰がどう見てもあれは偽物ではないか!」

 ソウゴ「今はあれが仮面ライダー零なんです」

 

 ソウゴは初めてアナザーライダーと相対した時にウォズに言われた言葉を思い出しながら答えた。

 

 ソウゴ「貴女達からすれば偽物でしょうが、他の人達からすればあれが本物なんです。そう認識するように歴史が改竄されているんです」

 千冬「馬鹿な……」

 ソウゴ「ただ、一度アナザー零を倒せば一時的ではあるけどライダーの記憶は戻ります。ですが、アナザーライダーを生み出すアナザーウォッチを破壊しない限り、アナザー零は再起動して何度でも蘇ってきます。アナザーライダーを倒した上でアナザーウォッチも破壊すれば、アナザー零は二度と蘇りません」

 千冬「ならば奴を倒してそのアナザーウォッチとやらを破壊すれば、牙也の記憶は戻るのだな?よし、ならば一刻も早く奴を倒す為に作戦を練らなければ!」

 ソウゴ「あ、ちょっと!まだ話は終わってーー」

 

 ソウゴが止めるのも聞かず、千冬は拳を握り締めながらズカズカと行ってしまった。

 

 ソウゴ「行っちゃったよ、まだ大事な話があるのに……でも、この事を果たして言うべきなんだろうか……?」

 

 ソウゴが懸念しているのは勿論、この世界の仮面ライダーの記憶についてである。ソウゴが先程説明していた通り、過去でアナザーライダーが誕生した場合、仮面ライダーに変身する人物もその関係者も、徐々に仮面ライダーに関する記憶が消えてしまう。そしてアナザーライダーを倒す為には、ジオウーーソウゴが零の力を受け継がなくてはならない。そしてそれはつまり、仮面ライダー零の記憶は二度と戻らない事を意味していた。ジオウが力を継承する事は、同時にその記憶すらも継承する事に他ならないのである。現代でアナザーライダーが誕生した場合は、ジオウの継承後は変身能力を失うだけで記憶まで消える事はないが、今回はそうはいかない。

 勿論今のソウゴは、アナザーライダーに対応するライドウォッチを使わずともアナザーライダーの完全撃破は可能だ。しかしそれを行ったのは現代でアナザーライダーが誕生した時だけであり、過去で誕生したアナザーライダーに対してはこの時はまだ試した事がなかった。

 

 ソウゴ(この世界の人達は、アナザーライダーの誕生がどれだけ悲しい現実を生み出すのかを知らない。いや、知る事すら出来ないんだよな……)

 

 この世界に存在するライダーの記憶は、『仮面ライダー零』ただ一つ。そして彼女達はその記憶をーー雷牙也を取り戻したい、そう考えている。しかしアナザーライダーを倒せば、取り戻そうとしたその記憶は途端に消滅する。だからこそソウゴは、この事実を千冬や箒等の学園の人達に打ち明ける事を躊躇っていた。

 

 ソウゴ「はぁ……こればかりは正直に打ち明けられる気がしないよ……」

 

 この事実を彼女達に教えれば、彼女達は絶望してしまうかもしれない。かといってこの事実を話さない訳にもいかない。たとえ消えてしまう記憶であったとしても、その記憶に関わってきた彼女達にも知る権利があるし、アナザーライダーを倒すにあたって大事な話である事に変わりはないのだ。今までに19もの仮面ライダーの力を継承してきたソウゴであったが、ここに来て思わぬ壁にぶつかってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 結局ソウゴはその話を誰にも打ち明けられないまま時は過ぎていき、その間アナザー零の襲撃はおろか音沙汰すらなく、千冬達は昼夜問わずの警戒網を張り巡らせて神経を尖らせていた。またそれと同時に千冬は去年学園を卒業した楯無に頼んで、アナザー零の仕業とおぼしき事件が無かったか調べさせたが、こちらもヒットしなかった。どうやらつい最近になって急に出現したようだ。

 

 ソウゴ「学園全体がピリピリしてるなぁ……当たり前だけど」

 

 そんな学園内を彷徨きながら、ソウゴはこれからの戦いに思いを馳せていた。ふと周りを見ると、余程自分がいる事が珍しいのか、あちこちから女子生徒の好奇の目線が飛んできていた。

 千冬達と話した後、ソウゴは戻ってきた真耶からこの学園についての説明を受けた。それによると、ここは女性にしか動かせないパワードスーツ『インフィニット・ストラトス(通称IS)』を操縦する人材を育てる専門学校のようなものらしい。ISは現状女性にしか動かせない(一夏が動かせる事は、実はまだ束は公表していない)為、IS学園をはじめとした育成機関に通う生徒は必然的に女子のみとなる。つまりIS学園は実質女子校と対して変わらない故に、男性であるソウゴが学園にいる事自体非常に稀なのだ。

 

 ソウゴ(うぅ……周りの女の子達の目線が痛い)

 

 針のむしろになりながらもソウゴは学園内を歩く。そうしてアリーナの入り口に差し掛かった時、

 

 ??「誰ッ!?」

 ソウゴ「うひゃっ!?」

 

 突然入り口から声がしたかと思うと、そこから青龍刀が伸びてきてソウゴの首に向けられた。驚いたソウゴは思わず尻餅をついてしまう。すると入り口の影から、青龍刀の持ち主らしき少女が出てきた。

 

 ??「あら、あんた……そうだ、千冬さんが言ってた人よね?ごめんね、少し殺気立ってたわ」

 

 現れたのはツインテールの髪型の小柄な少女だった。少女・凰鈴音はソウゴに向けて紅い装甲ーー甲龍を纏った手を差し出し、ソウゴはその手を掴んで立ち上がる。

 

 ソウゴ「えっと……君は確かーー」

 鈴「中国代表候補生の凰鈴音よ。宜しくね、異世界の仮面ライダーさん。それと、あたし達を助けてくれてありがとね」

 ソウゴ「あ、あぁうん……別に気にしなくて良いよ。凰さんはアリーナの警備?」

 鈴「鈴で良いわよ、別に。まぁ警備というよりは、もしもの時の迎撃要員の方が正しいかもね。それとアナザーライダーって奴の件、千冬さんから聞いたわよ。牙也の力を奪ったのあいつなんでしょ?」

 ソウゴ「そうだね、その認識で間違いないよ。俺はそのアナザーライダーを倒す為にここに来たんだ」

 鈴「みたいね。期待してるわよ、今のあたし達は、あんたを一番頼りにしてるんだから」

 ソウゴ「ぐ……そう言われると緊張するな……」

 ??「あら、常磐さんに鈴さん。ご機嫌よう」

 

 するとアリーナから別の女子生徒が出てきた。こちらは蒼い装甲ーーブルー・ティアーズを纏っている。生徒会長のセシリア・オルコットだ。

 

 鈴「セシリアじゃない。警備地点外れて大丈夫なの?」

 セシリア「先程別の方と交代しましたわ。なので他の方達の様子を見に……そう言えば常磐さんとこうして顔を合わせるのは初めてでしたわね。私がイギリス代表候補生でありこのIS学園の生徒会長を務める、セシリア・オルコットですわ。どうぞよろしく」

 

 お嬢様らしい優雅な挨拶にソウゴはドキッとしながらも挨拶を返す。

 

 ソウゴ「あ、どうも……常磐ソウゴです、よろしく。ところでオルコットさん、ライドウォッチの事なんだけど……どうかな?」

 

 するとセシリアは残念な表情を見せた。

 

 セシリア「……真に申し訳ありません、まだそれらしき情報は掴めておりませんの。何しろ学園の生徒教員のほとんどが、牙也さんの事も仮面ライダーの事もご存じない方ばかりなので、情報収集が遅々として進まないのが現状でして。新聞部の方達が総動員で情報収集に協力してくださっているのですが……」

 ソウゴ「そっか。あれさえあれば、アナザーライダー撃破が出来るんだけど……」

 

 すると突如、何処かから爆発音が響き渡った。

 

 ソウゴ「爆発!?何処で……」

 鈴「音の方向からして……この第一アリーナ内部ね!行きましょ!」

 セシリア「何もなければ良いのですが……」

 

 鈴を先頭に、ソウゴ達はアリーナ内部へと走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を少し遡り、こちらは第一アリーナ内部のフィールド。そこを警備していたのは、

 

 ??「私達が留守にしている間に、まさか襲撃が起こるとはな」

 ??「怪我人はそれほどいなかったみたいだから良かったけど……」

 

 金色に輝く装甲を纏った金髪ショートカットの女子生徒と、黒き装甲を纏った銀髪ロングに眼帯の女子生徒であった。

 

 ??「それは喜ばしい事だが、一番の問題はそこではないぞ、デュノア。襲撃者が牙也のーー仮面ライダー零の偽物だと言う事だ」

 ??「そうそう、そこだよね。なんの目的でここを襲撃したのかな……?」

 

 金髪ショートカットの女子生徒はフランス代表候補生のシャルロット・デュノア、銀髪ロングの女子生徒はドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒである。アナザー零の襲撃があった日、シャルロットは会社の重役会議の為、ラウラは母国ドイツで行われる軍事演習参加の為にそれぞれ帰国していたのだが、今回の襲撃を聞き付け予定を早めて学園に戻ってきたのだ。そして現在二人は各々のISを纏いこの第一アリーナの警備をしている。

 

 ラウラ「教官の話によると、奴の狙いは篠ノ之の体内に眠る禁断の果実の可能性が高いそうだ。奴はそれを手に入れて何か企んでいると、教官は見ているそうだ」

 シャルロット「それって不味くない?僕達はともかく、篠ノ之さんは今ISを点検に出してるんでしょ?」

 ラウラ「篠ノ之博士が急ピッチで点検を進めているそうだ。ただ狙われている事を考慮すると、前線に立って戦う事は出来ないだろうな」

 

 そんな話をしていると、ふとシャルロットが思い出したかのようにラウラに聞いた。

 

 シャルロット「ところであの話聞いた、ラウラ?今度入ってきた清掃員の人、牙也さんなんだって」

 ラウラ「牙也だと!?まさか、そんな筈はーー」

 シャルロット「うん、だから僕も気になって昨日見に行ったんだけど……信じられないけど、あれは牙也さんだったよ。ほら、あれ見て」

 

 シャルロットが指差した先には、アリーナに続く廊下を掃除する牙也の姿があった。

 

 ラウラ「そうか……生きていたか……!」

 シャルロット「……でも、素直には喜べないかな」

 ラウラ「どういう事だ?」

 シャルロット「……何も覚えてないんだよ、牙也さん。私達の事も、自分の事も」

 ラウラ「なんだと……!?」

 

 それを聞いたラウラが驚きながら牙也に目を向けると、掃除をしていてふと顔を上げた牙也と目があった。しかし牙也はラウラに向けて一礼しただけで、掃除用具を持ち上げるとそのまま奥へと引っ込んでしまった。

 

 ラウラ「なんという事だ……奴が記憶喪失とは……」

 シャルロット「せっかく再会できたのに……」

 

 二人は思わぬ事実に肩を落とす。

 二年。人によっては長くも短くも感じる二年という月日は、この二人だけでなく学園に在籍し、二年前の出来事を知る者達にとってもあまりにも残酷な長さであった。

 

 シャルロット「……早く元の牙也さんと話がしたいな」

 ラウラ「そうだな……話したい事が山とある」

 ??「ナラ、会ワセテヤロウカ?」

 シャ・ラ「「!?」」

 

 謎の声に二人が振り向くと、いつの間にアリーナに侵入したのか、全身をフード付きのロングコートで隠した人物がそこにいた。

 

 ラウラ「貴様何者だ!?どうやって私達に気づかれずにここに侵入した!?」

 シャルロット「答えて!返答によっては、実力行使も辞さないよ!」

 ??「ハハハハハ、元気ナ小娘共ダナ。マァソンナ質問、答エル気ハ更々無イ」

 ラウラ「ほう。では大人しく私達に捕まってくれるのか?」

 ??「……ダト思ウカ?」

 ラウラ「まさか。無駄だとは思うが……何となく聞いてみただけだ!」

 

 ラウラはそう言うと、自身のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の両肩からワイヤーを伸ばしてフードの人物を拘束しに掛かる。しかしワイヤーが触れるか触れないかの所で、ワイヤーは次々と切断されていった。見るとフードの人物の手には、いつの間にか剣が握られている。

 

 ラウラ「ちっ!そう簡単には捕まらんか……」

 シャルロット「援護するよ、ラウラ!僕の新しいISの力、見せてあげる!行くよ、『ゲイル・エボリューション』」

 

 ワイヤーの拘束が不可能だと察したラウラは、両手のプラズマ手刀を展開して斬り掛かる。シャルロットもこの二年の間に実用化されたフランスの新たな第三世代IS『ゲイル・レボリューション』の翼を羽ばたかせて飛翔、拡張領域からアサルトライフル『ファルコン』を引っ張りだし、フードの人物の足元を狙って撃った。フードの人物はシャルロットの銃撃を回避すると、ラウラの攻撃を剣で防いだ。

 

 ラウラ「……あまり生身の人間にはISを使いたくはないのだが。貴様が応戦する以上、私達は本気を出して貴様を捕らえさせてもらうぞ」

 ??「クク……」

 ラウラ「何が可笑しい?」

 ??「オ前ハ一ツ勘違イシテイルナ。俺ガ生身ノ人間ダト誰ガ言ッタ?」

 

 フードの人物の言葉に何を感じ取ったのか、ラウラは唐突にシャルロットの腕を掴んで後方に飛び退いた。と、さっきまで二人が立っていた地面に銃撃が撃ち込まれた。見るとフードの人物の左腕は機械仕掛けの義手になっているようで、正面に突き出した左の義手からは煙が上っている。どうやら義手に小型のガトリング砲か何かを仕込んでいるのだろう。

 

 シャルロット「ありがとう、ラウラ。助かったよ」

 ラウラ「構わん。それよりも奴に集中しろ、次に何をしてくるか分からんぞ」

 ??「フン、運ノ良イ奴等メ。マア良イ。ドウセ俺ニモコイツニモ勝テンノダカラナ」

 

 その言葉に、ラウラとシャルロットは揃って首を傾げる。と、後方からの殺気に二人は同時に左右に飛び退いた。そして二人がいた位置に巨大な青龍刀が振り下ろされ、辺りが衝撃で起こった煙にまみれる。煙が晴れるとそこには、ボロボロになった鎧を纏った鎧武者がいた。

 

 ラウラ「む……もしやこいつが例の『アナザー零』という奴か?」

 シャルロット「多分そうだね。見た目だけなら零にそっくりだよ」

 アナザー零『グルル……!ガアッ!!』

 

 アナザー零は青龍刀を持ち直すと、再び二人に向けて振り下ろしたので、

 

 ラウラ「AIC!」

 

 ラウラがAICを使用してアナザー零の動きを止め、

 

 シャルロット「吹き飛んじゃえ!」

 

 そこにシャルロットが弾幕を張ってアナザー零を吹き飛ばした。アナザー零は吹き飛ばしされながらもなんとか空中で受け身を取ると、低い唸り声をあげながら青龍刀を構え直す。と、

 

 セシリア「食らいなさいな!」

 鈴「龍砲!」

 

 アリーナの非常口から、セシリアのレーザーと鈴の龍砲が放たれ、アナザー零に命中した。アナザー零は再び吹き飛ばされるが、素早く受け身を取ってまた立ち上がる。アリーナの非常口からは、ISを纏ったセシリアと鈴、更にジクウドライバーを腰につけたソウゴが飛び出してきた。それを追いかけるように千冬達教員も駆け付ける。

 

 ラウラ「オルコットと凰か!」

 セシリア「常磐さん、アナザー零ですわ!」

 鈴「シャル、ラウラ、あんたらは下がりなさい!ソウゴ、頼んだわよ!」

 ソウゴ「分かってる!」

 

 《ジオウ!》

 

 ソウゴ「変身!」

 

 《ライダータイム!仮面ライダージオウ!!》

 

 ソウゴは仮面ライダージオウに変身し、ジカンギレードを剣モードにしてアナザー零に攻撃した。しかしアナザー零はその攻撃を青龍刀で易々と受け止め、ジオウに連続攻撃を浴びせる。ジオウもジカンギレードを振るって攻撃するが、攻撃はアナザー零に立て続けに避けられ、更に反撃を受けた。明らかに動きが良くなっている。

 

 ソウゴ「なんだ……!?前に戦った時よりも強くなってる気がする……!だったら!」

 

 《ディディディディケイド!》

 

 ジオウは懐から『ディケイドライドウォッチ』を出して起動しジクウドライバーにセット、ロックを外して一回転させた。

 

 《ライダータイム!仮面ライダージオウ!アーマータイム!KAMEN RIDE(WOW)!ディケイドディケイド!ディケイド!!》

 

 《ライドヘイセイバー!》

 

 ジオウの周囲にジオウのライダーズクレストが描かれたカードが現れ、それぞれがアーマーの一部を装着したジオウの幻影となる。そしてすべての幻影がジオウと重なり、『仮面ライダージオウ ディケイドアーマー』に変身した。ジオウは更に『ライドヘイセイバー』を呼び出して構える。

 

 ソウゴ「よし……今度こそ、行ける気がする!」

 

 ジオウはライドヘイセイバーを構え、アナザー零に向けて再び攻撃を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 



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ジオウ・オンパレード NextStage 2019(4)

その4


 《Hey、鎧武!》

 

 ジオウはライドヘイセイバーの針を回して鎧武のライダーズクレストに合わせる。

 

 《鎧武!デュアルタイムブレーク!》

 

 そしてトリガーを引いてアナザー零に斬りかかる。すると斬撃と同時に果汁が吹き出した。アナザー零は斬撃に押され後退する。

 

 《Hey、カブト!》

 

 《カブト!デュアルタイムブレーク!》

 

 続いてジオウはライドヘイセイバーの針を回してカブトのライダーズクレストに合わせ、アナザー零に向けて振るった。すると何処からか巨大なゼクターの幻影が次々と飛んできてアナザー零に体当たりした。

 

 アナザー零「グググ……ガギギッ!」

 

 アナザー零は再び後退するも、素早く態勢を立て直すと青龍刀に邪悪なエネルギーを充填し、ジオウに向けて斬撃を放った。

 

 《Hey、響鬼!》

 

 《響鬼!デュアルタイムブレーク!》

 

 ジオウは対してライドヘイセイバーの針を回して響鬼のライダーズクレストに合わせ、正面に向けて構えた。すると響鬼のライダーズクレストの形をした音波の壁がジオウの目の前に出現し、アナザー零の斬撃を防いだ。更にジオウがライドヘイセイバーを振るうと、防いでいた斬撃を弾き返し、アナザー零に当たった。さらに音波の壁がアナザー零に向けて飛んでいき、そのまま弾き飛ばした。斬撃を返され、アナザー零は吹き飛ばされて地面を転がり、青龍刀を杖代わりにしてよろめきながら再び立ち上がる。

 

 ソウゴ「よし、これで終わりだ!」

 

 《電王!》

 

 《ファイナルフォームタイム!D-D-D-DEN-O!》

 

 ジオウはその様子を見ると、『電王ライドウォッチ』を取り出して起動し、ディケイドライドウォッチにセットした。すると『仮面ライダー電王 クライマックスフォーム』を模したスーツに変化し、アーマーには『デンオウ クライマックス』の文字が出てきた。フェイスはクライマックスフォームそのものが映されている。

 

 《電王!ファイナルアタックタイムブレーク!》

 

 そして電王ライドウォッチのボタンをもう一度押すと、チャージ音と共に右足にエネルギーが充填された。そしてアナザー零に向かって走りだし、

 

 ソウゴ「とりゃああああああ!!」

 

 低く跳躍してライダーキックをアナザー零に叩き込んだ。キックで吹き飛ばされたアナザー零はアリーナの壁に叩き付けられ、再び地面に倒れ込む。

 

 ソウゴ「これでも倒れないか……なら!」

 

 《フィニッシュタイム!》

 

 ジオウはキックから宙返りして着地すると、ディケイドライドウォッチをライドヘイセイバーにセットし、針を三周回した。

 

 《Hey、仮面ライダーズ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘヘヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘヘヘイ!》

 

 リズム良い音声と共に、ジオウはライドヘイセイバーを構える。そしてトリガーを引くと同時にライドヘイセイバーを横凪ぎに振るった。

 

 《ディディディディケイド!平成ライダーズ!アルティメットタイムブレーク!》

 

 すると『ヘイセイ』の文字とそれぞれのライダーズクレストが描かれた計20枚のカード型のエネルギーがライドヘイセイバーに集束。それを横凪ぎに振るい、更に逆に振るい、最後は上段から振り下ろした。

 

 アナザー零「グオオオオオオオ!!!?」

 

 斬撃を食らったアナザー零はまたアリーナの壁に叩き付けられ、地面を転がる。そしてその変身は解除された。変身者の足元に、アナザー零のウォッチが転がり落ちる。

 

 ??「ぐ……うぅ……」

 箒「牙也!?」

 

 変身者を見て箒は驚きを隠せなかった。アナザー零に変身していたのが、牙也だったからだ。箒は慌てて牙也に駆け寄り、その体を抱き起こす。

 

 箒「牙也、大丈夫か!?しっかりしろ!」

 牙也「うぅ……俺、は……一体……?」

 

 意識を取り戻した牙也は薄目を開けて辺りを見回す。そして箒と目が合うと、痛みに耐えながら体を起こした。

 

 牙也「ほ……箒、か……?」

 箒「……!あぁ、篠ノ之箒だ!私が分かるのか!?」

 牙也「あぁ……良かった……ようやく会えた……。お陰でーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オ前ノ力ヲ奪イ取レル!!」

 箒「何を言ってーーぐっ!?」

 

 と、急に牙也が何かを箒に押し付けた。すると箒の体から薄緑のエネルギーが漏れ出したかと思うと、押し付けられた物にエネルギーが収束していく。やがて全てのエネルギーが収束すると、

 

 《Leon》

 

 禍々しい音声とともに、その手にはアナザーウォッチが握り締められていた。

 

 ソウゴ「アナザーウォッチ……!?まずい!」

 

 気づいたジオウがライドヘイセイバーを構えて攻撃しようとしたが、牙也が手を翳すと衝撃波が発生してジオウと箒を吹き飛ばした。ジオウはなんとか態勢を整えられたが、不意討ちを受けた箒は地面を転がり、そのまま気を失ったようだ。牙也はそんな二人に目も暮れず、事態をアリーナの端で傍観していたフードの人物にそのアナザーウォッチを投げ渡した。

 

 牙也?「……約束ハ果タシタゼ」

 ??「結構。デハソノアナザーウォッチハ君二差シ上ゲルトシテ、早々二奴等ヲ片付ケルトシヨウカ」

 

 《Zero》

 

 《Leon》

 

 二人はそれぞれが持つアナザーウォッチを起動すると、胸に押し付けた。そして牙也はアナザー零に、フードの人物はボロボロの中華風の鎧を纏った『アナザーレオン』になった。アナザーレオンの胸部には『Leon』と20ZZの文字があり、左手には錆び付いたガンブレードを握っている。

 

 千冬「これは……!?どういう事だ!何をしている、牙也!」

 ラウラ「目を覚ませ、雷!貴様はそんな奴とつるむような男ではあるまい!」

 牙也?「アァ?何言ッテンダ。俺ハ最初カラ目ヲ覚マシテル」

 真耶「ちょっと貴方!牙也君に何をしたんですか!?」

 

 真耶がアナザーレオンになったフードの人物を問い詰めると、

 

 ??「コイツカ?俺ハ何モシテネェヨ。マァイズレ元ノ記憶ハ戻ル。ガ……ソノ前二コノ世界ヲ俺ノ所有物トシテヤル。アリガタク思エ」

 鈴「誰がありがたく思うのよ!」

 セシリア「牙也さんは返していただきますわ!」

 

 学園のメンバーがそれぞれの武器を構えると、アナザーレオンはため息一つついた。

 

 ??「……負け犬ほどよく吠えるものは無い。雑魚は雑魚らしく……地べたに寝そべっておけ!!」

 

 そしてアナザーレオンは肩に背負ったガンブレードのトリガーを引いた。すると周囲で次々と爆発が起こり、学園のメンバーごとアリーナ全体を呑み込んだ。

 

 ??「……ふん、他愛ない」

 

 そう言ってアナザーレオンはガンブレードをおろす。と、

 

 鈴「どっせい!」

 ??「!?」

 

 爆発の煙の中から甲龍を纏った鈴が飛び出してきて、青龍刀を振り下ろしてきた。咄嗟にアナザーレオンはガンブレードでこれを防ぐ。更に彼女を追い掛けるようにして他のメンバーも煙の中から飛び出してきた。

 

 牙也?「随分頑丈ナ奴等バカリダナ」

 ??「…どうやら私は、お前達という存在を侮っていたようだ。ならば!」

 

 アナザーレオンは鈴を凪ぎ払うと、ガンブレードのトリガーを再び引いた。と、周囲が再び小規模の爆発に包まれていく。しかし彼女達は先陣を切った鈴や千冬を筆頭に、次々と起こる爆発の中を掻い潜り、アナザーレオンやアナザー零へと接近していく。これを見たアナザーレオンは、ならばとガンブレードをアリーナの地面に突き刺す。すると地面や空中から数多の蔦が伸びてきた。

 

 楯無「牙也君と同じ技を使ってくるの!?」

 千冬「退けっ、更識!」

 

 千冬が伸びてきた蔦に立ち塞がると、拡張領域から葵を二本抜いて、二刀流で蔦に突っ込んだ。スラスター全開で蔦に立ち向かう千冬は、その勢いのままISを纏った自身の体をドリルのように回転させる。すると伸びてきた蔦が次々と回転に絡め取られ、斬り裂かれていった。ドリルのような突進は止まらず、蔦を片付けた千冬は勢いそのままにアナザーレオンへと攻撃した。

 

 ??「む。流石はブリュンヒルデ、と言うべきか」

 千冬「私をその名で呼ぶな!!」

 

 叫んだ千冬は二本の葵をアナザーレオンへと振り下ろす。しかしアナザーレオンは意に介さず、最低限の動きでそれをかわす。

 

 千冬「ちっ!」

 

 千冬は舌打ちしながらスラスターを逆噴射してブレーキをかけ、再び葵を構えた。アナザーレオンもガンブレードを構えるが、直後にその場から飛び退いた。するとさっきまでアナザーレオンがいた場所に巨大な水の槍が突き刺さる。その後方には蒼流旋を構えた楯無と、通常のディケイドアーマーに戻ったジオウがいた。

 

 千冬「楯無と常磐か!」

 楯無「はい、加勢します!」

 ソウゴ「俺も加勢します!」

 千冬「常磐は向こうに加勢しろ!こちらは私達に任せておけ!」

 ソウゴ「は、はい!」

 

 ソウゴがアナザー零に向けて駆け出すのを見送り、千冬と楯無はそれぞれの武器を構え直す。

 

 ??「ふん。まぁ良い……面倒だ、二人まとめてかかってこい」

 

 

 

 

 

 

 セシリア「『ブルー・ティアーズ』!」

 シャルロット「いっけぇっ!」

 

 アナザー零に、次々と実弾とレーザーの射撃が降り注ぐ。二年間の鍛練によりライフルとビット兵器の同時操作を難なくこなせる程の集中力とほぼ100%の命中率を誇る射撃精度を身につけたセシリアと、新たなIS『ゲイル・レボリューション』の特殊機構『ガトリング』により絶え間なく武器を交換して攻撃できるようになったシャルロット。高空からの二人の攻撃はアナザー零に反撃の隙を一切与えない。更に、

 

 ラウラ「進化したAIC…今こそ力を発揮する時だ!」

 

 回避に徹しようとするアナザー零を、『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICが封じ込める。この二年間で、AICも更なる進化を遂げていた。

 

 ラウラ「見よ!これが新たなAICだ!」

 

 AIC発動の為に右手をアナザー零に向けていたラウラが、唐突にその右手を上下に動かす。と、その動きにつられるようにアナザー零の体も浮き上がり、地面に叩き付けられる。右手を左右に動かせば、アナザー零もまた左右に振り回される。短時間かつ限定的だが、停止させた対象を意のままに動かせる程になったのだ。ある意味超能力に近いものである。

 

 鈴「せいっ!」

 

 そして、射撃の雨を掻い潜りアナザー零に接近戦を仕掛けるのは、鈴だ。二年前に束と共に行った『甲龍』の修理の過程で、『甲龍』は機動力と火力を両立した機体に改造された。装甲が以前よりスマートな形になり、『龍砲』も小型化かつ威力強化がなされ、全体的なスペックは底上げされた。

 

 牙也?「クソガッ…邪魔スルンジャネェッ‼️」

 

 自らのISを存分に駆って戦う四人に対し、アナザー零は闇雲に青龍刀を振り回すが、機動力の圧倒的な差がアナザー零を更に焦らせる。

 

 ラウラ「ふん、やはり貴様は牙也には及ばないな!この程度の実力で牙也の名を騙るとは、恥を知れ!」

 鈴「あたし達を相手にした事、後悔しなさい!」

 

 鈴は二丁の龍砲を続け様に撃ち放った。空気の弾は次々とアナザー零に命中し、更にセシリア、シャルロット、ラウラの銃撃がアナザー零を襲った。

 

 牙也?「ッ、クソガ……!コウナッタラ!」

 

 劣勢を強いられるアナザー零は、なんとか態勢を立て直すと、クラックを開いてそこに左手を突っ込んだ。そして中から何か光る物を取り出すと、おもむろにそれに齧りついた。

 

 セシリア「……?何でしょうか?」

 シャルロット「何だろう?」

 

 四人の疑問をよそに、アナザー零はそれをあっという間に食べ尽くした。

 

 牙也?「ッアア!!」

 

 と、アナザー零の全身が目映い光に包まれたかと思うと、

 

 シャルロット「ぐうっ!?」

 

 一瞬にして高空にいたシャルロットに接近し、青龍刀の斬撃で吹き飛ばした。不意を突かれたシャルロットはそのまま砂煙をあげながら地面をバウンドして壁に激突した。

 

 鈴「シャル!?」

 ラウラ「なっ!?奴め、一体何を食べた!?」

 セシリア「落ち着いて下さい!冷静に対処すればーーがっ!?」

 

 セシリアが言い終わるより早く、アナザー零はセシリアに接近して一撃を見舞った。同じく高空にいたセシリアは青龍刀の一撃で地面へ叩き落とされる。

 

 鈴「セシリア!?」

 ラウラ「くっ、速すぎる……!ISをもってしてもこの速さは捉えられぬのか……!?凰、二人を頼む!私が奴を引き付けておく!」

 鈴「ち、ちょっと!?」

 

 鈴が止めるのも聞かず、ラウラはプラズマ手刀を展開してアナザー零に立ち向かう。スラスター全開で接近し、アナザー零に一撃食らわせようとするが、それより早くアナザー零は体を輝かせて鈴の目の前に瞬間移動した。

 

 鈴「っ!?」

 牙也?「残念、本命ハコッチダ!」

 ラウラ「それは読んでいたぞ!AIC!」

 

 ラウラは急旋回すると、右手をアナザー零に向けてAICを発動した。その能力によりアナザー零は一切の動きが取れなくなる。

 

 牙也?「ソンナ物モウ食ラウカヨ!オオオッ!!」

 ラウラ「何っ!?」

 

 しかしアナザー零は咆哮と共にAICを自力で解除してしまった。そしてそのまま鈴に掴み掛かる。鈴はバックステップで避けようとするが、それを読んでいたかのように鈴の後方から蔦が伸びてきて鈴を拘束しようとした。

 

 鈴「っ!?しまっーー」

 

 

 

 《ライダータイム!仮面ライダー!ライダー!ジオウ・ジオウ・ジオウⅡ!》

 

 

 

 と、謎の音声と共に蔦は全て叩き斬られた。バックステップした鈴は、後ろに立った何者かに受け止められる。

 

 ??「大丈夫?怪我はないかい?」

 鈴「ソウゴ!?」

 

 鈴を受け止めたのは、『仮面ライダージオウⅡ』に変身したソウゴだった。その手にはジオウの顔を模した意匠のある武器『サイキョーギレード』が握られている。

 

 鈴「……あんた何それ?なんというか……変」

 ソウゴ「あれっそう?俺結構気に入ってるんだけどなぁ……」

 ラウラ「鈴!」

 

 更にそこへラウラも合流した。

 

 ラウラ「鈴、大丈夫かーーと、お前は誰だ!?」

 鈴「ラウラ、彼は味方よ!あたし達を助けてくれたのよ!」

 ソウゴ「君は鈴さんの友達かな?後は俺に任せておいて、早く彼女達を安全な場所に」

 

 ソウゴはそう言って、近くに倒れている箒となんとか起き上がってきたセシリア達を指差す。

 

 ラウラ「……分かった。まだ信じた訳ではないが、任せる」

 

 そう言ってラウラは鈴と共に他の三人を救助に向かった。

 

 牙也?「テメェ……何邪魔シテヤガルンダ!」

 ソウゴ「邪魔するさ。だって君は……今ここで倒さないといけないんだからね!」

 牙也?「ホザケッ!」

 

 アナザー零は叫ぶと、青龍刀に禍々しいエネルギーを溜め始めた。

 

 ソウゴ「見える……お前の未来が!」

 

 ソウゴがそう言うと同時に、ジオウⅡのフェイスにある二本の長針が回り出す。ソウゴの脳裏には、アナザー零が青龍刀に溜められたエネルギーを複数の斬撃にして飛ばしてくる光景が映っていた。

 

 牙也?「コレデモ食ライヤガレッ‼️」

 ソウゴ「なるほどね。それなら!」

 

 《ライダー斬り!》

 

 ソウゴはサイキョーギレードのトリガーを引くと、それにピンク色のエネルギーを纏わせた。そして脳裏に見た光景と全く同じように斬撃が飛んでくると、サイキョーギレードを横一閃する事で斬撃全てを消し飛ばす。

 

 牙也?「何!?」

 ソウゴ「おりゃっ!」

 

 そのまま接近し、アナザー零を斬り飛ばした。

 

 ソウゴ「終わらせる!」

 《ジオウサイキョウー!覇王斬り!》

 

 更にサイキョーギレードのフェイス部分を操作して『ライダー』の文字を『ジオウサイキョウー』に変え、再びトリガーを引き、斬り飛ばしたアナザー零へ向けて時計の文字盤を模した七色の斬撃を飛ばした。斬撃は全て狂い無くアナザー零を捉え、吹き飛ばし、

 

 牙也?「ガフッ……!」

 

 アナザー零は千冬達と応戦するアナザーレオンの近くへ飛ばされる。アナザーレオンは千冬達に対して優勢に戦っていたが、アナザー零が劣勢なのを見るや否や、一端二人から距離を取った。

 

 ??「……ちっ、やはり頼りにならんか。ならばこうしよう」

 

 アナザーレオンは舌打ちすると、ガンブレードを再び地面に突き刺す。と、再びクラックが開いて、そこから大量の蔦とインベスが溢れ出てきた。

 

 ??「行けっ!」

 

 アナザーレオンが命令すると、一斉に蔦とインベスがソウゴ達に襲い掛かってきた。対してソウゴ達は武器を構え直す。と、蔦とインベスの動きが突如止まった。そしてインベス達はある方向に釘付けになる。

 

 ??「……?」

 ソウゴ「……何で?」

 

 これにはソウゴもアナザーレオンも疑問を持ち、同じようにその方向を見る。そこには、

 

 

 

 

 

 

 楯無「……き、牙也君……?」

 

 

 

 

 

 牙也がそこに、アリーナの出入口にいた。突然の出来事に周囲が何も言えずにいるその時、牙也はインベス達に向かって歩み寄ってきた。そしてソウゴ達とインベス達の間に立つと、インベス達を見、そして奥にいる二人のアナザーライダーを見た。

 

 千冬「……牙也」

 

 千冬が牙也に声を掛ける。しかし牙也は反応せず、自身の左右に巨大なクラックを開き、インベス達に手招きした。と、インベス達はそれに反応して次々とそのクラックに飛び込んでいく。一分と経たぬ内に、インベスは全てクラックへと消えていった。それを見送り、牙也はクラックを閉じて再びアナザーライダーに向き直る。

 

 牙也?「テメェ、一体何者ダァ!」

 ??「止めろ、下がっておけ」

 

 アナザー零はアナザーレオンの静止も聞かず牙也に向かって走りだし、青龍刀を振り下ろした。対して牙也はアナザー零に向けて右手を翳す。と、アナザー零はあっさり吹き飛ばされた。

 

 牙也?「野郎……!」

 

 アナザー零はクラックを開くと、あの光輝く何かを取り出して食べた。そしてフェイントを織り混ぜた瞬間移動で接近すると、再び青龍刀で攻撃。しかしその攻撃もまた翳した右手に阻まれ無理やり押し戻された。アナザー零は諦め悪く向かおうとするが、それをアナザーレオンが無理やり静止した。

 

 ??「念導力か。厄介な……退くぞ、最早ここに長居は無用だ。どうせこの世界は消える運命なのだからな」

 牙也?「チッ……覚エテロヨ!」

 

 二人はアリーナのバリアを突き破り逃走した。ラウラと楯無が追おうとするが、千冬がそれを静止させる。

 

 千冬「まずは怪我人が先だ」

 

 千冬はそう言って二人を救助に向かわせ、自身は牙也に歩み寄る。牙也はアナザーライダー達が逃走した方向を見上げていたが、千冬の存在に気づくと振り向き、左手を差し出して言った。

 

 

 

 ??「……久しぶりだな、織斑千冬」

 

 

 

 千冬は驚いて牙也をーーいや、目の前の人物を見る。姿は確かに牙也、しかし声は別人。だが千冬にはその声に覚えがあった。かつてアーマードライダーであった自身を鍛え上げ、そして自分達と共に戦ってくれた存在。そして、この世界の平穏を他ならぬ誰よりも願いながら散った存在。忘れる筈がなかった。その者の存在を、その者の名をーー

 

 

 

 

 千冬「……シュラ、なのか?」

 

 

 

 

 シュラ「うむ。我はシュラーーオーバーロード・シュラ。牙也より生まれし、ヘルヘイムの主よ」

 

 

 

 

 





 次回、『仮面ライダージオウ』はーー

 ??「その戦い、俺も混ぜてもらおうか」

 ??「後ハ総仕上ゲダケダ」

 ソウゴ「君のそれはーーただの盗品だ!」

 箒「帰ってこい、牙也ッ!」

 シュラ「どうかお前達に良き結末があらん事をーー」

 次回、『オレ×ワレ×ワタシのラストステージ』

 お楽しみに!



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(1)

後編その1


 騒ぎは一先ず収まり、学園の会議室には学園長の轡木十蔵を筆頭に学園の有力メンバーや騒ぎの当事者、更にイベント参加の為に別の場所にいた束や一夏が集まった。十蔵はスクリーンの近くでシュラと久々の立ち話をしていた。

 

 十蔵「久しぶりだね、シュラ君。まさか君が復活していたとは……」

 シュラ「うむ……確かに久しいな、轡木十蔵。二年前の夏以来か」

 十蔵「もうそんなに経つんだねぇ……」

 

 十蔵がシュラとの思い出を懐かしんでいるそこへ、千冬達が現れた。箒達の治療を行っていたのだが、唯一気を失っていた箒が目を覚ましたので、全員揃っての報告とシュラとの再会にやって来たのだ。

 

 箒「シュラ!」

 シュラ「む?おお、篠ノ之箒か、久しいな。それに……学園の有志達よ」

 シャルロット「お久しぶりです!」

 セシリア「またこのようにして出会えた事、誠に喜ばしい限りですわ」

 シュラ「うむ。ところで亡国の者達等姿が見えぬ者がいるが、ここにはおらぬのか?」

 束「亡国の皆は連絡したら後から遅れて来るってさぁ」

 楯無「簪ちゃんも同じくよ」

 シュラ「そうか」

 

 再会を喜んでいると、ふとシュラがある方向を見た。その目線の先には、少し緊張した面持ちのソウゴがいた。シュラは自ら歩み寄り、ソウゴの前に立つ。

 

 ソウゴ「えっと……貴方は一体……?」

 シュラ「なんだ、もう忘れたか?ーーいや、この姿なら分からぬも当然か」

 

 そう言うとシュラは懐を探り始めた。ソウゴ達が不思議そうに見ていると、シュラは懐からのっぺらぼうの白いお面を取り出してソウゴに見せた。

 

 シュラ「……これに覚えがあろう」

 ソウゴ「これは確か……俺が最初に会ったレイって人が付けてたお面ーーまさかあんた!?」

 シュラ「うむ。我がお前が最初に会った人物、すなわち『レイ』だ」

 

 思いもよらぬ事実にソウゴは驚き、他の学園メンバーは首を傾げる。

 

 ソウゴ「俺をこの世界に導いたのは、あんただったのか……」

 シュラ「そうだ。我がお前という存在に目をつけ、この世界に呼び寄せたのだ。世界の為……そして牙也の為に、な」

 ソウゴ「なるほど……ところであれ以降何か分かった事はあるの?」

 シュラ「いくつか分かった事がある。報告がてら話すとしよう」

 千冬「……シュラ、私達にも全て話してくれ。この二年の間、一体何が起こったのかを」

 シュラ「そうだな、お前達も知っておくべきか。皆、心して聞いてくれ。まずは……我がこの二年間何をしていたか話すとしようか」

 

 

 

 

 

 

 束「なるほどねぇ。つまり最初の内は、薄ぼんやりした感じでしか記憶が無かったのね」

 シュラ「そうだ。故に我は今の今まで、雷牙也として世俗より離れて生きていた。その間オーバーロードとしての記憶はちょくちょく夢に出てくる程度で、我もその時はこれが何なのか分からなかった。だがこの学園近辺を訪れた時、それが事実であった事をはっきりと思い出した」

 十蔵「なるほど。ところでシュラ君、ソウゴ君をこの世界に呼び寄せたのは君らしいけど、事実なのかい?」

 シュラ「うむ。記憶が戻った後、この世界の現状に違和感を覚えてな、独自に調査していたのだ。その過程において、かのアナザーライダーの存在、そしてそれを倒す存在ーーつまりお前の存在を知った」

 

 そう言ってシュラはソウゴを指差す。

 

 千冬「そしてお前は仮称として『レイ』を名乗り、常磐に接触した、と」

 シュラ「大まかに言えば、な」

 

 シュラはそこで一呼吸置くと、ソウゴに向き直った。

 

 シュラ「さて、常磐ソウゴ。改めて頼む、この世界を、牙也を、救って欲しい。この通りだ」

 

 シュラはソウゴに深々と頭を下げた。

 

 ソウゴ「勿論だよ。君達にとって大事な人の記憶もーー仮面ライダーとしての記憶も、絶対に消させはしない。同じ仮面ライダーとしてーー魔王として、彼を救う」

 シュラ「……ありがとう。我等も出来る限りお前をサポートする」

 ??「その戦い、俺も混ぜてもらおうか」

 

 突然聞こえてきた声に全員の目線が会議室の出入口に集まる。そこにはIS学園の男子用制服に身を包み、首にマゼンタの2眼トイカメラを提げた青年がいた。

 

 ソウゴ「門矢、士……!」

 シュラ「来たか。海東大樹は連れて来なかったのか?門矢士」

 士「生憎、俺はあいつの保護者じゃないんでな。まぁほっといても良いだろ、お宝を嗅ぎ付ければすぐに飛んでくるだろうさ」

 

 いつものように尊大な態度を崩さない士。対してシュラは「やれやれ」と首を振った。

 

 千冬「シュラ、こいつは……」

 シュラ「我の協力者だ。実力は我も認めているのだが……何故この学園の制服なのだ?」

 士「この世界での俺の役目、と言ったところか」

 

 シュラは「なるほど」と頷いて近くに置いてあった椅子にドカッと座り込む。士もそれにつられて近くの椅子に座る。

 

 シュラ「さて、本題に行くとしようか。今回の最終的目標は、アナザー零及びアナザーレオンの撃破。この二体を倒さぬ限り、牙也は永遠に戻って来ぬと考えておかねばなるまい。その為にはまず、『ライドウォッチ』とやらを早急に見つけなければならん。セシリア・オルコット、お前が捜索に尽力していると聞いたが、進展はあったか?」

 セシリア「いいえ、全く……常磐さんの話を聞くに、私達や今この場にいない方達の誰かが持っている、と見ているのですが」

 十蔵「持っている人は今のところ現れていない、と」

 シュラ「そうか……では引き続き捜索を頼む。次いで、アナザーライダー達の情報を大まかに纏めるとしよう。まずアナザー零だが、あの青龍刀の攻撃に加え、蔦を自在に操る能力を持つ。この辺りは牙也の力に酷似しているものだな」

 シャルロット「それでアナザーレオンは、あのガンブレードの攻撃と、クラック開閉による蔦やインベスの使役。なかなか厄介だね」

 ソウゴ「基本的にアナザーライダーは元となる仮面ライダーの力を踏襲してるんだ。余程の事がない限り、戦い方は本家とほぼ同じ認識で大丈夫だと思うよ」

 シュラ「そしてそのアナザーライダーの変身者だが……」

 

 シュラがそう言うと、士以外の全員が思わず顔を伏せる。アナザー零の変身者が牙也であり、なおかつ牙也はアナザーレオンに変身する何者かに操られているらしい、という事だから当然だろう。

 

 シュラ「……我は疑問に思う事がある」

 十蔵「疑問?」

 シュラ「うむ。まず我は牙也から生まれたオーバーロードだ。これは常磐ソウゴと門矢士以外は勿論知っている、そうだな?」

 

 ソウゴと士以外の全員が頷く。士はともかくソウゴは驚いていたが、シュラは気にせず続けた。

 

 シュラ「……問題はそこなのだ」

 全員『(゚Д゚≡゚Д゚)?』ドコナノダ?

 シュラ「違う、そうではない。我は牙也を形成する黄金の果実の一部を取り込んで生まれた存在。故に我は、ある程度だが牙也の体内にある黄金の果実を感じ取れるのだ」

 真耶「えっと……つまり?」

 シュラ「我はアナザー零の変身者が、我等の知る牙也ではない、と考えている。体内から黄金の果実の気配が感じられなかったからな」

 箒「では奴は偽物の牙也と言う事か!?」

 シュラ「いや、そうとも限らぬ」

 ラウラ「……何が言いたい?」

 

 ラウラの質問に、シュラはこう答えた。

 

 シュラ「……あれは確かに牙也だ。だが、牙也ではない」

 一夏「どういう事だよ?」

 シュラ「正しく言うなれば、あれは『この世界の』牙也ではない」

 箒「この世界の……では奴は!」

 千冬「なるほど、そう言う事か」

 束「え?ちーちゃん、どういう事?説明してよ」

 

 束に急かされ、千冬は回答を語り始めた。

 

 千冬「まだ牙也がオーバーロードとしての力を認知していなかった頃、牙也、篠ノ之、シュラ、そして私は、とある事情からクラックによって別世界に飛ばされてしまった事がある。その飛ばされてしまった世界というのは、この世界と同じようにISやアーマードライダーが存在していた世界なのだが、私達の世界とは異なる面もあった」

 束「例えば?」

 千冬「色々変わっていたな。一夏が女だったし、しかもオルコットと同性愛していたし……」

 一夏「はぁ!?」

 セシリア「にわかに信じられませんわね…」

 箒「牙也とカンナと私の三人で異世界を巡った時にも、同じようにISとアーマードライダーが存在する世界を訪れた。アーマードライダーではない、別の仮面ライダーが存在する世界にも行ったな。あそこの一夏は、いつぞやの姉さんを彷彿とさせるぶっ壊れゲームクリエイターだったしな」

 一夏「俺他所の世界でどんな扱いされてんだよ……」

 

 一夏が嘆息するのを「やれやれ」と言った表情で見つつ、シュラは続けた。

 

 シュラ「まぁつまり我が言いたいのは、あの牙也はおそらく別世界からやって来た牙也ではないか、という事だ」

 束「うーん……ちーちゃん達の話を聞くあたり、あり得ない話じゃないね」

 十蔵「なるほど。それで、シュラ君の言う疑問とは?」

 シュラ「……何故他所の世界の牙也を連れてきて、わざわざアナザー零に変身させたか、だ」

 

 その言葉に、その場にいる全員の目がシュラに釘付けになる。

 

 シュラ「アナザーライダーを生み出すのが奴等の目的ならば、わざわざ他所の世界の牙也を連れてくる必要はない筈だ。この世界の人間を適当に選び、そやつにアナザーウォッチを渡して使わせれば良い。がしかし、奴はそうしなかった。わざわざ牙也にそれを渡し、アナザー零に変身させた」

 ソウゴ「えっと……つまり?」

 士「……変身者がその牙也という奴でなければならない特別な理由がある、か」

 真耶「牙也君、特別な理由となると……私には彼が黄金の果実から生まれた存在だと言う事しか思い浮かびませんね……」

 シュラ「とにかく今は少しでも多くの情報が欲しい。何でも構わん、何か奴について気にかかる事が無かったか?」

 

 シュラの問いかけに全員が考え込む。と、セシリアが何かを思い出したような表情を見せた。

 

 セシリア「そう言えば……アナザー零ですが、何か食べていましたわね」

 ラウラ「そうだな。私達に追い詰められた際、クラックから何やら金色に輝く何かを取り出して食べていた。シュラも見ていたのではないか?」

 シュラ「む、確かに……一瞬の事だった故、それが何なのかは分からなんだが」

 楯無「もしかして、アナザー零が食べていたそれに何かあるんじゃないかしら?黄金の果実や禁断の果実みたいに特別な力が得られるとかーー」

 ??「それ自体が黄金の果実、という可能性もあるんじゃないかしら?」

 

 その声に全員が会議室の扉に目を向けると、亡国企業のスコールが扉から顔を出した。

 

 束「ミューちゃんお疲れ様~」

 スコール「束博士、その渾名は止めて頂戴……遅れてしまったわ、ザック達の回収に手間取っててね」

 

 スコールの入室に次いで、オータム・M・ザックの三人、更にもう一人細身で長身の男が入ってきた。その男を見て、楯無の顔色が変わる。

 

 楯無「貴方……ギリア・フレイア!?」

 

 現れたのは、福音暴走の一件においてザックと共に牙也を襲撃し、春輝に討たれた筈のギリア・フレイアだった。

 

 ギリア「はじめまして、と言うべきでしょうか……IS学園の皆さん」

 シュラ「貴様は確か死亡した筈では?」

 ギリア「そうなのですが……私にも分からぬままいつの間にか蘇っていまして。彼女達に色々教えてもらい、現在の状況はある程度理解しているつもりです」

 スコール「行く宛もないらしいし、ザックの仕事仲間だから取り敢えずこちらで預かってるの」

 

 そう言うとスコールはシュラに向き直った。

 

 スコール「話を戻すけど、そのアナザー零が食べていた物、金色に輝くって言ってたわね。もしそれが黄金の果実なのだとしたら?」

 シュラ「ふむ……無くはない話だが」

 士「なら、その黄金の果実とやらは何処から持ってきたんだ?」

 

 ここで士が口を開いた。

 

 士「この世界に存在する黄金の果実は、牙也という奴そのものだろう。だが、そいつは今存在していない。なら、その黄金の果実は何処から来た物なんだろうなぁ?」

 

 その問いかけに、全員がまた考え込む。

 

 シャルロット「何処かの世界から持ってきたとか?」

 箒「いや、それはない。黄金の果実は現状牙也のそれを含めて二つしか生まれていないと聞いている。残りの一つは信頼できる筋の者が所持している、盗まれたなんて事があったなら、早々に連絡の一つもあるだろう」

 士「だろうな。奴が所持している黄金の果実はまず簡単に盗めるような代物じゃない。他所の世界から持ってきたというのはまずないだろう」

 束「あんたの言う『奴』ってのが気になるけど……それなら人口物、とか?」

 一夏「いや、黄金の果実をどうやって人口栽培するんですか!?無理でしょ!」

 千冬「一夏の言う通りだ。それにコウガネの例もある、もし人口物なら、もっと惨事になっていてもおかしくはない」

 束「むー、そっかぁ……束さんなら出来そうだけどなぁ」

 ギリア「止めて下さい世界のバランスが崩壊するだけでは済まされません」

 オータム「ISを世に出した時の二の舞になるぞ、確実にな」

 ラウラ「となると、あと考えられるのは……」

 ソウゴ「……牙也君が、まだ生きている可能性は?」

 

 ここでソウゴも話に入ってきた。ソウゴの言葉に全員の目線が移る。

 

 ソウゴ「あんまり考えたくはないんだけど……牙也君はその、黄金の果実から生まれたんだよね?もしかして、アナザー零が食べていたのが、牙也君を産み出した黄金の果実の一部、って事は考えられない?」

 箒「つまり……牙也はまだ生きていて、何処かに捕らえられており、しかもその体の一部がアナザー零によって食べ尽くされようとしている、と?」

 ソウゴ「確証はないけど……もしかしたら、と思って」

 士「……ジオウ。もしそれが当たっていたとして、今そいつは何処に捕らわれているんだ?」

 ソウゴ「そこなんだ。牙也君が何処にいるのか、それが検討がつかない。それさえ分かれば動きやすくなるんだけど……」

 

 暗礁に乗り上げてばかりの会議に全員が頭を抱えていると、

 

 

 

 ドゴンッ!!

 

 

 

 ソウゴ「っ!?なんだ!?」

 十蔵「爆発音だね……!何かあったのかもしれない、みなさん、急いで対処を!」

 

 十蔵に急かされるように、千冬を先頭にして次々と彼女達は会議室を飛び出していく。

 

 

 

 

 



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(2)

後編その2


 遡る事数分前ーー

 

 

 

 

 簪「や、やっと帰ってこれた……」

 本音「長かったねぇ~」

 

 簪と本音が実家から学園に戻ってきたところであった。

 

 簪「もう……いつも大袈裟なんだから、父さんったら」

 本音「ほ~んと、かんちゃんラブだよね~。分からなくもないけどぉ~」

 簪「でも帰ってくるなりハグ半日は長過ぎ……」

 

 親や親族との交流でヘトヘトな簪を、本音はいつも通りのにこやかな笑顔で支える。

 一年前、簪達が進級するにあたり簪は更識家を出て、新たな分家『新識家』を立ち上げた。両親や更識家に仕えている従者達には猛反対されたが、簪がとある策を用いると、両親はあっさり折れた。簪が一体どんな策を用いたのか、それは本人とその関係者以外知るよしもない。

 

 簪「それよりも急がなきゃ……私達がいない内に、学園が襲撃されたなんて……」

 本音「誰が何の目的でやったんだろうねぇ」

 

 重たい荷物を一端部屋に放置し、二人は廊下を走って会議室へと急ぐ。その途中、ふと簪は制服のポケットから何かを取り出した。それは実家に帰る直前に、あの大木の陰に置かれていたのを発見した二つのストップウォッチのような物だった。

 

 簪(……これ、一体何なのかな……?誰か知ってる人がいれば良いんだけど……)

 ??「ホウ……何処ニモ無イト思エバ、貴様ガ持ッテイタノカ」

 簪「っ!?誰!?」

 

 聞き慣れぬ男の声に、簪は立ち止まり警戒を強めた。本音は気づかなかったのか、先に行ってしまっている。現状一人ぼっちのため、簪はいつでも打鉄二式を展開できるようにし、辺りを見回して声の主を探す。

 

 ??「ココダヨ、貴様ノ真後ロダ」

 簪「っ!?」

 

 簪が振り向いた時、彼女は脇腹に鈍痛を覚えていた。見ると簪の目の前にはいつの間にか、フードを深く被った誰ともわからぬ人物がおり、彼女の脇腹にはその人物の拳が突き刺さっていた。激しい痛みに、簪は持っていたそのウォッチを思わず落としてしまう。膝から崩れ落ちた簪は、何とか脇腹を押さえながら立ち上がろうとするが、

 

 ??「邪魔ダ、失セロ」

 

 謎の人物に突き飛ばされ、廊下に転がされた。その人物は、簪が落とした二つのウォッチを拾い上げると、フードの下に狂った笑みを見せた。

 

 ??「回収完了。コレデヨウヤク揃ッタナ、総仕上ゲ二必要ナ物ガ」

 簪「あ、貴方……一体、何を……!?」

 ??「オ前ニハ関係ナイ事ダ。死ニタクナケレバ、知ラヌフリデモシテオク事ダナ」

 

 フードの人物はそう言って、廊下の窓から飛び降りた。

 

 簪「ま、待って……!」

 

 簪はフラフラ立ち上がりその人物を追い掛けようとした。と、その足下に何かが転がってきた。不審に思いそれを見ると、

 

 

 

 

 ピンが抜かれた手榴弾だった。

 

 簪「っ!?しまっーー」

 

 回避する間もなく、廊下は爆発に包まれたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……惜シイ事ヲシタカ。マァドーデモ良イ事ダ」

 

 先程まで自分がいた廊下を尻目に、フードの人物はその場を去る。その手に持った二つのウォッチを、壊れそうな程強く握り締めながらーー。

 

 

 

 

 

 

 

 ソウゴ「さっきの爆発、このあたりの筈なんだけど……」

 

 爆発音を聞き付けて、ソウゴ達は爆発か起こったと思われる場所まで来ていた。

 

 ラウラ「恐らく今の爆発は、手榴弾か何かかもしれん。誰かが忍び込んだとみて間違いないだろうな」

 千冬「奴の仕業か、それともーーっ、これは!?」

 

 その場所の廊下に差し掛かった時、ソウゴ達はそこにあった光景に愕然とした。そこにあった廊下は、爆発の影響か窓ガラスや扉が吹き飛んでそこいらに散乱しており、一部の壁が崩れて道を塞いでいた。窓側の壁の一部は、爆発が至近距離で起こったのか大きな穴を開けている。そしてその近くには、自身のIS『打鉄二式』を部分展開した状態の簪が倒れていた。

 

 楯無「簪ちゃん!!」

 

 楯無が慌てて簪に駆け寄り、容態を確認する。

 

 楯無「……良かった、まだ息はあるわ!虚ちゃん、簪ちゃんをすぐに保健室の篠ノ之博士に!」

 虚「わ、分かりました!」

 

 虚は簪を背負うと急いで保健室へ向かった。それを見送り、楯無は苦い表情で千冬に向き直る。

 

 楯無「……織斑先生、指示を」

 千冬「ここはしばらく立ち入り禁止とする。ボーデヴィッヒ、更識姉、スコール、オータム、M、ザックは周辺を捜索だ。まだ犯人が近くに隠れている可能性もある。他の者は私と共にこの瓦礫を片付けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある廃工場の一角。中央に置かれた机の上で、フードの人物が何か作業をしていた。机の上には簪から奪ってきた二つのウォッチ、更に二つのアナザーウォッチが置かれている。

 

 牙也(異)「完成スルノカ?」

 

 作業をしているフードの人物の後ろから、異界の牙也が顔を出した。

 

 ??「アァ。必要ナ物ハ全部揃ッタ、後ハ総仕上ゲダケダ」

 牙也(異)「ハハハハハ、ヨウヤクカ……!必ズ完成サセロヨ、俺ノ野望ノ為二ヨォ……!」

 ??「……分カッテイル。オ前ハ体ヲ休メロ、ココカラハ俺ノ仕事ダ」

 牙也(異)「ハイハイ、分カッテルヨ」

 

 異界の牙也はヘラヘラ笑いながら奥の部屋に引っ込んでいった。そんな彼を見送り、フードの人物はポケットの中に手を突っ込み何かを探す。そして取り出したのは、何も描かれていないブランクのロックシードだった。それを見て薄ら笑いを浮かべ、フードの人物は自身の仕事に没頭するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪「……う、ううん」

 

 全身への痛みを覚え、簪は目を覚ました。体を起こそうとするが、激痛で起き上がれない。

 

 束「こらこら、ダメだよ。怪我が治った訳じゃないんだから」

 

 見るといつの間にか束が隣にいた。ずっと付きっきりでいてくれたのだろうか。時計をみると、既に夕食の時間を過ぎていた。2時間は気を失っていたようだ。

 

 簪「……ここは……?」

 束「保健室。自分に何があったのか、覚えてる?」

 簪「何が……そうだ、早くあの人を追いかけてーーッ!?」ズキッ

 束「あぁもうだからダメだって!寝てて寝てて!」

 

 束が無理やり簪を止めてベッドに寝かせる。

 

 簪「でも……」

 束「でもも鴨も紐もないの!怪我を治すのが先決!」

 簪「……すみません」

 

 簪は大人しく布団を被る事にした。

 

 束「明日色々話してもらうよ、何があったのか。それまでは体を休めて、ね?」

 簪「……はい」

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 千冬「さて、更識妹。何があったのか、包み隠さず話せ」

 

 保健室には簪と千冬の他に楯無と士それにソウゴがいて、簪の話を聞こうと真剣な表情をしていた。簪は知らない人物が立ち会っている事に戸惑いを隠せずにいながらも、何があったのか全て話した。簪が話し終わると、千冬はソウゴと士に顔を向ける。

 

 千冬「どうだ常磐。更識妹の話を聞く限り、私は奴が奪った物こそ、お前が探す『ライドウォッチ』と見るが」

 ソウゴ「間違いない……形状、特徴、どれも『ライドウォッチ』に当てはまる……君が持ってたのか」

 士「どうりで学園中探しても見つからない訳だな。とんだ骨折り損だったという訳だ」

 

 士はそう言って保健室の扉に目を向ける。そこには簪を心配してか、セシリアや鈴といったいつものメンバーが勢揃いして扉の隙間から様子を伺っていた。最もセシリアは先程の士のセリフに怒り心頭のようだが。そんな事気にする様子もなく、士は首に提げた二眼トイカメラでセシリア達を写す。

 

 ソウゴ「問題は、何故そいつは『ライドウォッチ』を奪っていったのかだね」

 千冬「む?お前に使わせない為ではないのか?」

 士「それならいっその事、その場で壊してしまった方が手っ取り早いだろう。わざわざ奪う必要はない」

 ソウゴ「何か別の目的があるのかもね」

 

 そう言ってソウゴは立ち上がり、保健室の扉へと歩き出す。

 

 士「何処へ行く気だ?」

 ソウゴ「……試しに20XX年に向かう。仮面ライダー零について、俺は知る必要がある」

 士「ここはどうするつもりだ?」

 ソウゴ「あんたがいてくれればいいだろ。とにかく何か行動を起こさなきゃ、奴の目的も分からずじまいのままだし。それに俺には、ライダーの記憶を継承するって目的があるから」

 士「……それは魔王として、か?」

 

 士のその言葉にソウゴは思わず立ち止まる。しかしソウゴは振り返りもせず言った。

 

 ソウゴ「いや……同じ仮面ライダーとして、だ」

 

 

 

 

 

 

 千冬「継承……?それに魔王とは?どういう事だ?」

 

 ソウゴが出ていった後、彼の言葉の真意が気になったのか、千冬はそう士に問いかけた。先程までドアから立ち聞きしていたセシリア達も興味津々のようだ。

 

 士「あいつ、話してないのか……はぁ」

 

 士はため息を吐くと、ソウゴについて千冬達も知らない事実を全て話した。

 

 千冬「全てのライダーの歴史を継承した時、常磐ソウゴは魔王として君臨する、か……どこのRPGの話だ」

 士「そこいらにあるRPGと一緒にするものじゃない。あいつの力はそれ以上に危険だ、よく分かっただろ?これを聞いて、まだお前達はあの魔王に頼るのか?」

 

 士のセリフに全員が押し黙る。当然と言えば当然だろう、確かにアナザー零を倒せば歴史は元に戻る、しかしそれは歴史をソウゴが継承する形で元に戻るのであり、仮面ライダー零が存在した世界に戻る訳ではない。しかしアナザー零を倒さなければ歴史は完全に消えてしまう。どちらを選ぶにしても、結局歴史は元には戻らないのだ。

 

 箒「……迷う必要はない。答えは一つだろう」

 

 と、箒が立ち上がりながら口を開いた。

 

 シャルロット「篠ノ之さん?」

 箒「ここは、牙也がその命を賭けて守ろうとした世界だ。ならば牙也がいない今、この世界を守るのは残された私達の役割。結末がどうであろうと、それは変わらん」

 束「……何もかも忘れちゃうんだよ?牙君と束さん達との繋がりも、牙君との楽しい思い出も、全部……それでも良いって言うの?」

 箒「良い訳ないでしょう!でもここは……この世界は、牙也の唯一の故郷なんです。たとえ歴史が無くなったとしても……私はここをーー牙也の帰る場所を、守らなきゃいけないんです」

 

 そう言って箒は保健室のドアに手をかけ、保健室を出ていく。

 

 箒「姉さん、紅椿の点検急いで終わらせて下さい。近い内にまた奴等は来る筈ですから」

 束「え、ちょーー箒ちゃん!?待ってよぉ~!」

 

 束も後を追い掛け保健室を飛び出していった。姉妹のそんなやり取りに、千冬達は頭を抱えてため息を吐く事しかできなかった。

 

 千冬「馬鹿者が……牙也の事となると、いつもあれだ」

 ラウラ「ですがあれがいつも通りなのですから、なんとも言えませんね、教官」

 千冬「まあな。だが篠ノ之の言葉も一理ある。今私達がすべきなのは、私達の手でこの世界を守る事だ。皆気を引き締めて警備にあたれ」

 『はい!!』

 

 千冬達がそんなやり取りをしている間に、いつの間にか士は保健室からいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方保健室を出た箒は、一端機械室に向かう束と別れ、あの大木が聳え立つ植木地帯を訪れていた。二年の間に立派な大木に成長したそれを前に、箒は膝をついて拝む。

 

 箒(……すまない、瑞穂。お前から受け継いだ物を、私は易々と奪われてしまった。情けないな、本当に)

 

 アナザー零の二度目の襲撃の際、箒は『アーマードライダーレオン』の能力に加えて、自らの体内にあった禁断の果実のほとんどを同時に奪われていた。その影響もあってか、箒の髪は白髪から元の黒髪に戻り、瞳も普通の人間のそれになっていた。代表候補生の座に登り詰める事ができたのはひとえにそれのお陰でもあり、現状の箒の生身での実力は普通の人間とさほど変わらないレベルにまで落ちていた。

 

 箒(だが、この程度で折れる私ではない。私はーーいや、私達は必ず取り戻してみせる。牙也をーーそして、牙也と共に過ごした記憶を。だから少しだけで良い……私に勇気と執念を分けてほしい)

 

 心の中でそう拝み終えた箒は立ち上がり、ふと後ろを振り向く。

 

 士「なるほど、この木がお前の原点か」

 

 いつの間にやって来ていたのか、士がそこにいた。

 

 箒「門矢士か。私に何か用か?」

 士「用という程の物じゃない。お前に興味があってついてきただけだ」

 箒「……貴様の嫁にはならんぞ」

 士「あいにく略奪愛が趣味ではないんでな」

 

 軽口を叩きながら、士は大木に歩み寄る。大剣に巻き付くように育った大木を見、そして彼はふと箒に問いかけた。

 

 士「お前……いつまでこいつの幻を追い掛けているつもりだ?」

 

 その質問に、箒の肩がピクリと震える。

 

 箒「……何の話だ?」

 士「お前はよく理解している筈だ、もうこの世界に、雷牙也という存在はない事を。そして、仮面ライダー零の物語はもう帰ってこない事を。それが分かっていて、何故未だにこいつの幻を追い掛け続ける?何故物語の終わりを認めようとしない?」

 

 その問いかけに箒は少し考える素振りを見せる。そしてこう呟いた。

 

 箒「……私はまだ信じているんだ。いずれ牙也がひょっこりと帰ってくる事を。またいずれ牙也に再会できる事を。だから私はこれからも待ち続ける、牙也の帰還をーー」

 士「その雷牙也はもういない。そしてお前達の前に現れたのは偽物の雷牙也だ。いい加減逃げずに現実を見ろ。そして知るべきだ、物語は終わったと」

 箒「……まだ物語は終わってない。まだ続いているんだ、私達の望まぬ形で。だから私は物語を元に戻したい、そして再び牙也の帰りを待つのだ。どれだけ年月が経とうとな……用はそれだけか?ならば私は戻る」

 

 そう言って箒は去ろうとする。

 

 

 

 

 《KAMEN RIDE DECADE》

 

 

 

 

 突如響いた電子音声に箒が振り向くと、『仮面ライダーディケイド』に変身した士が殴りかかってきた。咄嗟に両腕でそれをガードする箒だったが、士のパンチはそのガード毎吹き飛ばしてしまった。強力なパンチに箒の体は大きく後ずさる。

 

 士「……なら、俺がその夢幻から覚ましてやる」

 

 士の敵意に対し、箒もまた応戦の構えを取る。

 

 箒「……やってみろ!」

 

 

 

 

 



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(3)

後編その3


 ソウゴ「さて、どんな物語があったのかなぁ……?」

 

 時空間の中を悠々と進むのは、『タイムマジーン』を乗りこなすソウゴだ。目指すは物語の消滅が起こったのであろう20XX年。そこに全ての答えがあると見たソウゴは、急ぎその時間へ向かっていた。

 

 ソウゴ「ところで、貴方は向こうに残らなくて良かったの?」

 

 そう言ってふとソウゴは後ろを気にする素振りを見せる。ソウゴの後ろには、いつの間にか誰かが立っていた。

 

 シュラ「構わん。向こうは門矢士と海東大樹がいる、万一の時は奴等がどうにかするだろう」

 

 彼の後ろに立つのはシュラだった。ソウゴが過去に飛ぶ際に同行を申し入れたのだ。

 

 シュラ「我は物語の途中で退場した筈なのだが、何故か蘇る事ができた。ギリア・フレイアも然り。故に我は、答えを知りたい。我等が何故蘇らなくてはならなかったのか……誰がこのような事を起こしたのか……我にも知る権利があろう」

 ソウゴ「だろうね」

 

 ソウゴはそう言って再び正面に目を向ける。時空間はそろそろ出口に差し掛かろうとしていた。

 

 シュラ「行くぞ、若き日のオーマジオウ。虚実を駆逐し、真実を取り戻す為に」

 ソウゴ「うん」

 

 二人が乗ったタイムマジーンは、一気に加速して出口へと飛び込んでいったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「はっ!」

 

 一方学園のグラウンドには、『仮面ライダーディケイド』に変身した士と、彼に応戦する箒の姿があった。箒はディケイドの武器『ライドブッカー』の攻撃を華麗にいなし、隙あらば懐に潜り込んで攻撃を行う。思わぬ健闘に、仮面の奥の士は渋い表情であった。

 

 士「ふん、禁断の果実の力が無くともここまでやるか。それならこいつで行くか」

 

 《KAMEN RIDE GAIM オレンジアームズ!花道・On ・STAGE!》

 

 士は鎧武のカードを使って『ディケイド鎧武』に変身、大橙丸と無双セイバーの二刀流で再び攻撃を始めた。

 

 箒「貴様……私の事を、どこまで知っている!?」

 

 箒はそれを両手で受け止めながらそう問い掛ける。

 

 士「篠ノ之箒、18歳。ISを作り上げた天才、篠ノ之束の妹。そしてーーその身に禁断の果実を宿した元人間……と言ったところか?」

 箒「ちっ……当たっているのが腹立たしい!」

 

 互いに軽口を叩き合いながら戦闘を続ける二人。だが箒に疲れの表情が見え始めた事で、若干ながら士が押し始めていた。ほぼ互角とは言え、ライダーに変身した士と生身の箒では、どうしても実力や体力に差が出てしまうのだ。

 

 士「どうした?お前の信念はそんなボロっちい物だったのか?この程度で容易く壊れるような物だったのか?」

 箒「ほざけ……まだこれからだ!」

 

 《KAMEN RIDE KUROKAGE TROOPER》

 

 と、突如電子音声が響くと、箒を守るように『黒影トルーパー』が三人現れた。三人の黒影トルーパーは専用アームズウェポン『影松』でディケイドを牽制する。

 

 士「ちっ……何のつもりだ、海東!」

 

 士が箒の後方に向けて声を荒げる。そこには『仮面ライダーディエンド』に変身した海東大樹がいた。

 

 海東「彼女を手にかけるのはおかしいんじゃないのかい、士?」

 士「こいつを夢から覚まそうとしてるだけだ。それの何が悪い?」

 海東「まだ夢から覚めるには早いって事さ。僕のお宝の為に、それだけは邪魔させてもらうよ、士!」

 

 海東が銃撃で士を更に牽制し、三人の黒影トルーパーが連携して槍撃を仕掛けていく。

 

 士「邪魔をするな!」

 

 士は大橙丸と無双セイバーで黒影トルーパーに応戦、最低限の動きで攻撃をいなし、逆に攻撃を積極的に仕掛けていく。元々スペックの低いマツボックリロックシードで変身するトルーパー達は、士の長年の研鑽による戦闘力に押され続ける。

 

 士「これで、終わりだ」

 

 《FORM RIDE GAIM JINBER CHERRY オレンジアームズ!花道・On・Stage!ジンバーチェリー!ハハァーッ!》

 

 《FINAL ATTACK RIDE G・G・G・GAIM》

 

 士は『ディケイド鎧武 ジンバーチェリーアームズ』にフォームチェンジして、ジンバーチェリーの特殊能力・高速移動からの斬撃で黒影トルーパーを次々と葬った。が、

 

 士「……ちっ、海東の奴。今度は何を狙ってやがる?」

 

 いつの間にか、海東も箒もいなくなっていた。してやられたと、士は悪態をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 箒「……何故助けた?」

 

 校舎の裏手まで撤退(というより海東に無理やり連れてこられたのだが)した箒は、変身を解除した海東にそう問いかけた。

 

 海東「簡単さ、この世界のお宝が欲しい。それだけだ」

 箒「何故それが私と結び付く?」

 海東「君こそが、この世界のお宝を手に入れる為のキーカードだからさ。僕は一度狙った獲物は絶対に逃さない。だからお宝に繋がる君は、僕にとって守るべき物なんだ」

 

 理由を聞き、箒は「やれやれ」と首を振った。

 

 箒「とことん宝にしか興味がないのだな、貴様は……」

 海東「誉め言葉として受け取っておくよ、篠ノ之箒ーーいや、仮面ライダーレオン」

 

 海東は飄々とした態度で言葉を返す。と、

 

 ??「あー、こんな所にいた!もー箒ちゃんったら勝手にうろちょろしないでよぉ!」

 

 聞き覚えのある声に箒が目を向けると、束が膨れっ面で歩いてきていた。手には何やら簪が握られている。

 

 箒「姉さん。紅椿の調整終わったんですか?」

 束「まぁ束さんにかかればちょちょいのちょいってね。はいこれ、紅椿」

 

 そう言って束は紅椿の待機状態ーー紅い簪を箒に手渡した。受け取った簪を箒は手際よく髪に差す。

 

 箒「ありがとうございます、姉さん」

 束「いーのいーの、可愛い妹の為だもん。それにしても……」

 箒「?」

 

 束は箒の全身ーー特に顔をじろじろ観察し始め、箒はこの姉は何がしたいのかと首を傾げた。

 

 束「……元に戻ったんだね。髪も、瞳も」

 箒「あ……」

 

 そう言われて箒はハッとする。そもそも箒の髪色と瞳の色が変わってしまったのは、自らの体を侵食していたヘルヘイム因子を抑制する為に手に入れたシャインマスカットロックシードのせいである。が、現在それを含めたアーマードライダーの力は、アナザーレオンの誕生によって体内のヘルヘイム因子と共に無くなってしまった。あの白髪に蒼と薄緑の瞳は、本人も気づかぬ間に元に戻っていたのは前回解説した通りだ。

 

 束「なんか久々に黒髪の箒ちゃんの姿見たかも。あれからもう二年になるんだ……」

 箒「はは、私も久しぶりですね、自分のこの姿を見たのは……」

 

 感慨深い表情の箒に対し、束はなんとも言えない表情を見せる。

 

 束「……やっぱりその姿こそ、束さんの大事な妹なんだって思っちゃうよ」

 箒「こっちの黒髪の方が良かったですか?」

 束「本心ではね。けど箒ちゃんが決めた事だもん、束さんは温かく見守るだけだよ」

 箒「そうですか……」

 束「ところで話は変わるけど……こいつ誰?」

 

 束はさっきから蚊帳の外状態だった海東に目を向ける。

 

 箒「アナザー零の最初の襲撃の時に救援しに入った仮面ライダーです」

 束「そう、こいつも……何か企んでないよね?」

 箒「それはないでしょう。とことん宝にしか興味を持たない奴ですから」

 束「何それ」

 箒「そういう奴なんです、察して下さい」

 海東「随分酷い言われようだね、その人は」

 束「お前の事だっての」

 海東「おや、そうだったのか」

 

 束のツッコミにも飄々と返す海東。

 

 海東「僕はトレジャーハンターだからね。お宝を欲しがって当然なのさ」

 束「ふーん……ところでお前の欲しがるこの世界の宝って何なのさ?」

 海東「おっと、それは言えないなぁ。知ったら君も欲しくなるだろうからね」

 束「ちぇっ」

 

 つまらなさそうに口を尖らせる束。

 

 束「まーいっか。箒ちゃん、こんな奴ほっといて束さん達とISの訓練しよ?皆待ってるよ」

 箒「そうですね、それが良い。ではな海東」

 海東「あぁ」

 

 海東に礼を言い、箒は束と共にその場を去った。海東はその後ろ姿をいつもの飄々とした表情で見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 箒「そう言えば、紅椿はどんな強化が成されたんですか?」

 

 アリーナに向かう傍ら、箒は束に調整が施された紅椿について聞いてみた。

 

 束「ふっふーん、それは秘密!アリーナに着いてのお楽しみってね!あ、けど以前みたいなお遊び魔改造なんて事はしてないからね!」

 箒「ほぅ……姉さんにしては珍しい事もあるものですね」

 束「それどういう意味!?」

 箒「今までの自分の行動が物語ってるでしょう」

 束「」orz

 

 的確に弱点を突かれ意気消沈する束に、箒は手をさしのべる。

 

 箒「でも、姉さんには本当に感謝してます。姉さんの支えがあったから、私はこうやって戦えるんですから」

 束「ほ、箒ちゃん……」

 箒「照れ臭いですけど……本当にありがとうございます、姉さん」

 束「箒ちゃーん!!」ガバッ

 

 嬉しさのあまり束は箒に飛び付いて抱き締め、箒はそれを嫌がる事なく抱き締め返す。

 

 束「えっへへ~、やっぱり箒ちゃんが妹で良かったよ~」

 箒「……素直に嬉しいですね」

 

 

 

 

 

 ??「ハハハ……家族ノ団欒ハ済ンダカ?」

 

 

 

 

 箒・束『っ!?』

 

 突然の声に二人が身構えると、二人を遮るようにアナザー零とアナザーレオンが現れた。双方共に青龍刀とガンブレードを構え、臨戦態勢に入っている。

 

 牙也(異)「ヨォ。マタ会ッタナ」

 箒「……やはり来たか。姉さん」

 束「はいはい、もう皆に連絡送ってるよ」

 箒「仕事が早くて助かります……展開せよ、『紅椿』」

 

 箒は紅椿を展開し、臨戦態勢に入る。紅椿の主力武装である刀剣『雨月』と『空裂』を二体のアナザーライダーに向け、箒は真っ先に斬りかかった。それをアナザー零が進み出て青龍刀で防ぐ。

 

 箒「甘い!」

 

 それを予測していたのか、箒は刺突攻撃と同時に雨月からレーザーを放ち、アナザー零を怯ませる。そして二刀で連続攻撃を仕掛けた。

 

 牙也(異)「コノ野郎……!今度ハ油断シネェカラナ!」

 

 アナザー零もまた前回の戦闘で学習したのか、箒の刺突攻撃に対して同じく青龍刀の刺突攻撃で応戦してきた。箒も二刀の刺突攻撃で応戦する。と、突如箒は空裂を束のいる方向へ向けて振るった。それはエネルギー刃となり、隙を見て束を攻撃しようとしたアナザーレオンの足元を斬り裂いた。

 

 ??「フン、随分良ク見エテイルナ」

 箒「二年間の私の研鑽、嘗めてもらっては困るな」

 ??「……ナラバ貴様カラ始末スルダケダ!」

 

 束への奇襲は不可能と判断したのか、アナザーレオンは箒に目標を変えて攻撃を仕掛けた。ガンブレードの射撃と斬撃、青龍刀の刺突攻撃。針を縫うような攻撃の雨霰を、箒は涼しい顔で丁寧にさばいていく。そして隙あらば反撃に出る。空中から雨月のレーザーと空裂のエネルギー刃のコンボ。そして肩部の展開装甲をクロスボウ型ブラスターライフル『穿千』に変形させての高火力攻撃。それは最初と二回目の襲撃の時とは比べ物にならない程洗練されていた。

 

 牙也(異)「クソガァ……!涼シイ面シテ余裕ブッコキヤガッテ……ダッタラ!!」

 

 イラついていたアナザー零は、意を決するとクラックを開いて、中から淡く輝く果実を取り出した。

 

 箒「貴様、それは……!」

 

 箒が驚愕している間にも、アナザー零はその果実を頬張り、食べ尽くしてしまった。すると、

 

 牙也(異)「オオオオオオオオ……!!」

 

 アナザー零の全身が禍々しく鈍い輝きを放ち始めた。その輝きはアナザー零の全身を覆い、そして新たな装甲を形成していく。やがて輝きが晴れると、

 

 牙也(異)「ッハハハハハ……!コレガ真ノ力トイウ事カ!気二入ッタ!」

 

 アナザー零の姿は、重厚な漆黒の鎧のような見た目となり、背にはぼろきれで作られたとも見てとれる二本の旗が存在感を示していた。

 

 箒「あれは、まさかゼロアームズ!?馬鹿な、進化したと言うのか!」

 牙也(異)「クハハハハ、行クゼ!!」

 

 アナザー零は背中の旗を抜くと、空中にいる箒へ向けて大きく跳躍し、二本の旗を振り下ろした。箒は雨月と空裂でガードするが、

 

 牙也(異)「シャラクセェッ!!」

 箒「ぐあっ!?」

 

 アナザー零の一撃はガードごと粉砕し、箒を地面に叩きつけた。更にアナザー零は地面に着地すると、箒を無理やり立ち上がらせて胴に重いフックを見舞う。そしてそのまま投げ飛ばした。そこへアナザーレオンも加勢し、投げ飛ばされ身動きの取れない箒へガンブレードの斬撃で攻撃する。

 

 箒「ぐぐっ……なんの、まだまだーーガフッ!?」

 

 なんとか立ち上がった箒だが、その横腹に何処からともなくレーザーが突き刺さった。腹部の肉が抉られ酷く吐血する箒だが、なんとか意識は保った。

 

 セシリア「篠ノ之さん、大丈夫ですか!?」

 

 空に目を向けると、セシリアが『ブルー・ティアーズ』を纏って立っていた。手に持つライフルからは白煙が上っている。

 

 束「ちょっとオルコットちゃん!?これは一体何の真似!?」

 セシリア「も、申し訳ありません!今私達は体の自由を奪われておりまして……!」

 

 束が箒に駆け寄りながらそう噛みつくと、セシリアは申し訳なさそうにそう返した。よく見るとセシリアの纏うISに大量の蔦が巻き付いている。

 

 束「達?って事はまさか……!」

 セシリア「はい、そのまさかです……」

 

 その言葉を皮切りに、セシリアの周囲に鈴・シャルロット・ラウラ・楯無・簪といったいつもの面々が次々と現れて整列した。他にも千冬達教員部隊や他の学園生徒達、亡国企業の面々も現れて箒達二人を包囲した。いずれもISや体の何処かに蔦が巻き付いている。

 

 束「ちーちゃんにミューちゃんまで……どうして……!」

 千冬「すまん、不意を突かれて身体の自由を奪われてしまったのだ……普通に話す事は出来るがな」

 スコール「あっという間に体の自由を奪われて……面目ないわ」

 

 千冬とスコールは忌々しそうに悪態をつく。

 

 ??「今学園二イル者達ハ全テ我ガ掌ノ上ニアル。ドウ足掻コウト逃レラレハセヌ」

 楯無「くっ……こんな事して、貴方何するつもりよ!?」

 ??「ククク、決マッテイヨウ……ココデコノ二人ヲ消スノダヨ。貴様達ノ目ノ前デ、ソシテ貴様達ノ手デナ!!」

 

 アナザーレオンはそう言ってガンブレードを箒達に向ける。そして操られている者達もまた、自身の意思に反してそれぞれが持つ武器を箒達に向けた。箒も束も苦悶の表情が浮かぶ。

 

 ??「ハハハ……ト言ッタ所ダガ、最後ノ余興ダ。貴様等ニハ面白イ物ヲ見セテヤロウ。オイ、オ前」

 牙也(異)「オ、何ダヨ?」

 

 アナザーレオンはアナザー零へ手招きをした。不思議がりながらアナザー零が寄っていくと、

 

 ??「ホレ!」

 牙也(異)「ゴッ!?ナ、何ヲーー」

 

 なんとアナザーレオンはアナザー零の腹へその腕を突っ込んだ。腕を突っ込んだ箇所から紫電が迸る。そしてアナザーレオンはそこからアナザーウォッチを無理やり取り出した。アナザーウォッチが抜けた牙也(異)はその場に崩れ落ちるが、それをアナザーレオンは掴み上げて箒達へ放り投げた。束が彼を受け止めている間に、アナザーレオンは自らの体からもアナザーウォッチを取り出し、フード付きコートの姿となった。

 

 箒「貴様、何をするつもりだ!?」

 ??「……見テイレバ分カル。見テイレバ、ナ」

 

 そう言ってフードの人物は懐から何かを取り出した。それを見て箒達は分かりやすく動揺した。

 

 簪「そ、それって……!」

 真耶「せ、戦極ドライバー!?」

 

 真耶の指摘通り、それは戦極ドライバーそのものであった。更にそれにはブランクのロックシードがロックされている。フードの人物は、手に持っていた二つのアナザーウォッチをブランクロックシードに近づける。すると、アナザーウォッチは二つのともブランクロックシードに吸収されていき、ロックシードはその見た目を変えていく。やがてその見た目は、ヘルヘイムの果実が描かれた物となった。

 

 千冬「ロックシード、だと……!?」

 鈴「あいつまさか、最初からこれが目的で……!」

 ??「フン、今頃気ヅイテモ遅イ」

 

 フードの人物は戦極ドライバーからロックシードを外して、それをまじまじと見つめた。

 

 ??「……完成ダ。サテ、覚悟シテモラウゾ、人間共」

 

 

 《ヘルヘイム》

 

 

 フードの人物がロックシードを解錠すると、法螺貝の音と共に四方にクラックが複数開き、そこから蔦が大量に溢れ出てきた。蔦はどんどんフードの人物の体に巻き付いていく。そしてフードの人物がロックシードをドライバーにロックしてカッティングブレードで切ると、

 

 

 ??「……変身」

 

 《ソイヤッ!ヘルヘイムアームズ!終焉の果実!!》

 

 

 蔦が全身を覆い尽くし、その姿を一人の仮面ライダーへと変えた。リンゴアームズに似て紫と朱が混じったような色をした鈍色のアーマー、髑髏を思わせるフェイス、そしてヘルヘイムの果実をカットして作られたかのような薙刀。あまりにも禍々しいそれは、彼女らに絶望を想像させるには十分だった。

 

 ??「……我が名は、『仮面ライダーサタン』。さぁ人間共、終末を楽しめ」

 

 

 

 

 

 



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(4)

後編その4


 ー20XX年ー

 

 

 

 曇天の空に歪みが現れると、そこから巨大な機械が現れた。ソウゴ達二人を乗せた『タイムマジーン』だ。タイムマジーンはその場で滞空し、辺りを確認するかのように周囲を見回す。

 

 ソウゴ「さぁ到着。まずは牙也君を探さないとね」

 シュラ「うむ。早く見つけねばなーーっ、何だ!?」

 

 突然タイムマジーンが大きく揺れ、二人は辺りを見回す。と、シュラが何かに気づいて空を見上げた。

 

 シュラ「これは……!ヘルヘイムの森が、目前に……!」

 

 つられてソウゴも空を見上げる。と、空にはヘルヘイムの森が上下逆さまに出現しており、段々と地上に迫ってきていた。

 

 ソウゴ「嘘でしょ、こんな事が起きてたの!?」

 シュラ「マズイ、あれを止めねばこの世界はーー」

 

 シュラがタイムマジーンから飛び出そうとした時、ある方向から金色と漆黒の波動が大波の如く押し寄せてきて、空全体を覆い尽くした。あまりの眩しさにソウゴもシュラも目を背ける。二人が乗るタイムマジーンも、波動によって大きく揺れる。

 

 ソウゴ「うわぁぁぁぁ!!な、何が……!?」

 シュラ「分からん、分からんが……!」

 

 そして波動が晴れると、空に現れた筈のヘルヘイムの森は綺麗に消え去っていた。

 

 ソウゴ「一体何が起きたの……?」

 シュラ「……この力、まさか牙也が……?常磐ソウゴ、波動が来た方向へ向かうぞ」

 ソウゴ「分かった」

 

 ソウゴは急ぎタイムマジーンをその方向へ走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 ソウゴ達がタイムマジーンを走らせ始めた頃、ちょうどIS学園の真上にあたる空には、ロックビークル『ヒガンバライナー』に乗った牙也がいた。『仮面ライダー零 絆アームズ』に変身した牙也は、父・準也の形見である大剣を肩に背負い、ヒガンバライナーにドッカリと座り込んだ。大量に力を使ったせいか、牙也は既に疲労困憊状態だ。

 

 牙也「……や、やった……半分以上持ってかれたが、なんとか防げた……良かった……!」

 

 肩で息をしながら、牙也は安堵の表情を浮かべる。自分の役目を無事に果たす事ができた。今の牙也の脳内はそれだけだった。

 

 牙也「はぁ……はぁ……なんとか約束は果たせそうだな。さぁ、落ち着いたら帰ろう、皆が待ってる」

 ??「残念ナガラ、ソレハ叶ワヌ願イダ」

 牙也「!?」

 

 その声に牙也が振り向くと、その胸に何かが押し付けられた。すると牙也の体から青白いオーラが溢れ出てきて、押し付けられた物に吸収されていく。やがてオーラが全て吸収されると、牙也は変身が解除され膝から崩れ落ちた。何とか顔をあげると、牙也の眼前にはフード付きコートの人物がいた。その手にはアナザーウォッチが握られている。

 

 牙也「て、てめぇ……!何をしやがった……!?」

 ??「貴様二教エル必要ハ無イ。失セロ」ドカッ

 牙也「うわあっ!?」

 

 フードの人物は牙也をヒガンバライナーから蹴落とし、自身はヒガンバライナーを駆ってそれを追いかけた。蹴落とされた牙也は、木々がクッションとなって何とか怪我もなく着地したが、疲労等によってフラフラの状態だ。そこへフードの人物も降り立つ。

 

 ??「サテ、目的ハ果タシタ。後ハ貴様ヲ始末スルダケダ」

 牙也「て、てめぇ……!」

 ??「貴様ノ全テ、貰イ受ケル。今日カラ私ガ貴様ダ」

 牙也「ははは……笑わせんな……!お前は俺にはなれねぇよ……!」

 ??「減ラズ口ヲ……モウイイ、大人シクソノ首ヲ差シ出セ、敗者ヨ」

 シュラ「させぬ!」

 

 と、牙也の後方からシュラが飛び出してきて、『撃剣ラヴァアーク』を抜きフードの人物に斬りかかった。フードの人物はそれを容易く避け、一旦距離を取る。攻撃が当てられないと見たシュラは、一旦牙也に駆け寄る。

 

 牙也「シュラ!?なんで、お前は……!」

 シュラ「話は後だ!常磐ソウゴ、頼むぞ!」

 ソウゴ「任せて!」

 

 シュラが牙也を回収して後方に下がり、代わってソウゴがフードの人物の前に進み出た。

 

 ソウゴ「これ以上は、君の好きにはさせないよ!」

 ??「貴様、俺ノ邪魔ヲスル気カ……ナラバ消スマデダ!!」

 

 《ZERO》

 

 フードの人物はアナザーウォッチを起動すると、それを自身の胸に押し付けた。アナザーウォッチは体内に飲み込まれ、フードの人物の姿を変えていく。

 

 《ZERO》

 

 フードの人物は、アナザー零に変身した。

 

 牙也「な……!?零にそっくりの怪物だと……!?」

 ソウゴ「アナザーライダー誕生は止められなかったか……それでも、俺はあんたを止めなきゃいけないんだ!」

 

 《ジクウドライバー!》

 

 《ジオウ!》

 

 《グランドジオウ!》

 

 ソウゴは『ジクウドライバー』を腰に付け、『ジオウライドウォッチ』と金色の『グランドジオウライドウォッチ』を起動した。そしてそれをジクウドライバーにセット、ドライバー天面のロックを解除した。

 

 《(アークル音声)♪ (オルタリング音声)♪ ADVENT! COMPLETE! TURN UP! (音角音)♪ CHANGE BEETLE! SWORD FORM! WAKE UP! KAMEN RIDE! CYCLONE!JOKER! タカ!トラ!バッタ! 3・2・1! シャバドゥビタッチヘンシーン! ソイヤッ! DRIVE! カイガン! LEVEL UP! BEST MATCH! RIDER TIME!》

 

 音声と共にソウゴの背後に、地中から黄金の時計台と20人のライダーの石像が時計状の金の紙吹雪と共に現れた。そして石像の表層が剥がれ、20人のライダーの姿が現れる。そしてソウゴは時計の針のようなポーズを切る。

 

 

 

 

 ソウゴ「変身!!」

 

 

 

 《ライダータイム!仮面ライダージオウ!グランドタイム!クウガ!アギト!龍騎!ファイズ!ブレイド!!響鬼!カブト!電王!キバ!ディケイド!!W!オーズ!フォーゼ!ウィザード!鎧武!ドライブ!ゴースト!エグゼイド!ビルド!祝え!仮面ライダーグランドジオウ!!》

 

 

 

 ソウゴがドライバーを回転させると、20人のライダーは黄金のフレームに取り込まれ、ジオウの基本の素体に張り付き、アーマーを形成する。そしてフレーム内のライダーはそれぞれの決めポーズに定され、最後にジオウが決めポーズで定されると時計台から『ライダー』の文字が飛び出してジオウの眼にあたる場所にセットされた。これが『仮面ライダーグランドジオウ』だ。

 

 ソウゴ「さぁ……行くぞ!!」

 

 《鎧武!》

 

 ソウゴは左足中央の鎧武のフレームをタッチすると、『2013』の年代番号と共にゲートが現れ、中から『仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ』が現れた。鎧武は『火縄大橙DJ銃』を構えてアナザー零に銃撃を仕掛ける。マシンガンの如く撃ち出される弾に、アナザー零は防御するので精一杯だ。

 

 ??「クッ、貴様ァ……!」

 ソウゴ「どんどん行くよ!」

 

 《龍騎!》

 

 《ブレイド!》

 

 《ディケイド!》

 

 ソウゴは更に右手首・右足中央・胸部中央のフレームをタッチし、『2002』『2004』『2009』の年代番号と共にそれぞれのゲートから『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダーブレイド』『仮面ライダーディケイド』を呼び出した。龍騎は右手に『ドラグクロー』を付け、ブレイドは腰から『ブレイラウザー』を、ディケイドは『ライドブッカー』を抜き、アナザー零へ挑む。ドラグクローからの火炎弾、ブレイラウザーの雷を纏った斬撃、そしてライドブッカー・ガンモードの射撃がアナザー零を次々と襲う。更にそこへ鎧武も加わり、アナザー零は押されていくばかり。

 

 ??「クッ……何故ダ、何故コンナ事ガ……ッ!」

 ソウゴ「その力は君の物じゃない……その力ーー仮面ライダー零の力は、彼のーー雷牙也君の物なんだ!それを奪って歴史を改変させるなんて……!」

 ??「己ノ努力デ得タ力ヲ好キニ使ッテ何ガ悪イ!?」

 ソウゴ「君のそれは努力とは言わない!君のそれはーーただの盗品だ!!」

 ??「黙レ!!」

 

 アナザー零は激昂してソウゴに襲い掛かるが、ソウゴはいたって冷静に『サイキョーギレード』を召喚し、これを迎え撃った。青龍刀の斬撃を受け止め、振り払って斬り返し、

 

 ソウゴ「時間よ止まれっ!」

 

 更にグランドジオウの能力で一瞬だけ時間を止めて背後に回り込み、再び斬撃を繰り出す。これを行う事数回、予測不可能な攻撃にアナザー零は為す術なく追い詰められていった。

 

 ??「クッソォ……フザケタ真似ヲォォォォォォ!!」

 ソウゴ「もう時間が無いんだ……君の野望、今ここで終わらせる!」

 

 《フィニッシュタイム!グランドジオウ!》

 

 ソウゴはジオウライドウォッチとグランドジオウライドウォッチの天面スイッチを押し、ドライバーのロックを外して再び一回転させた。

 

 《オールトゥエンティ!タイムブレーク!》

 

 音声と共に、ソウゴの隣から『仮面ライダー龍騎サバイブ』が『ドラグランザー バイクモード』に乗って、アナザー零の背後から『仮面ライダー鎧武 イチゴアームズ』が、上空には『仮面ライダーブレイド ジャックフォーム』と『仮面ライダーディケイド コンプリートフォーム』がそれぞれ現れた。

 

 《ジオウサイキョー!》

 

 《覇王斬り!》

 

 ライダー出現を確認したソウゴはサイキョーギレードを操作し、トリガーを引いた。そして再び時間を止めてアナザー零に接近、サイキョーギレードで斬り上げた。抵抗の術のないアナザー零は大きく上空へ打ち上げられる。

 

 ??「ウワァァァァァ!?」

 ソウゴ「行っけぇー!」

 

 《FINAL VENT》

 

 《LIGHTNING SLASH》

 

 《FINAL ATTACK RIDE D-D-D-DECADE》

 

 《イチゴチャージ!》

 

 ソウゴの号令と共に、ドラグランザーの火炎弾と突進、ブレイラウザーの雷を纏った斬撃、ディケイドのライダーキック、鎧武のエネルギー状のイチゴクナイの雨がアナザー零を呑み込んでいく。あまりのオーバーキルな必殺技にアナザー零は耐えきる事すら許されず、

 

 ??「グワァァァァァァァ!!」

 

 終いに大爆発。そして地面に叩き付けられた。変身は解除され、アナザーウォッチが転がり落ちる。そしてウォッチは紫電と共に粉々に砕け散った。

 

 ??「グ……マダダ、マダ俺ハ……!コンナ簡単二ヤラレルナド、認メラレルカ……!」

 

 フードの人物は這いつくばりながらもその破片に手を伸ばす。しかしそれはソウゴによって静止された。

 

 ソウゴ「……もう止めようよ。これ以上戦っても、もう君と繋がる物は何もないんだ」

 ??「黙レ……!貴様二……貴様二俺ノ何ガ分カル!?」

 ソウゴ「分からないよ……俺も、そして彼らも」

 

 変身を解除したソウゴが目を向けた先には、シュラに支えられてようやく立っている牙也がいた。牙也はシュラの肩を借りてソウゴに歩み寄る。そしてソウゴを見、倒れているフードの人物を見た。

 

 牙也「……説明を頼む。突拍子過ぎて、どうにも理解が追い付かねぇんだ」

 ソウゴ「それはねーー」

 シュラ「我が説明する。今回の事、そして……さして遠くない未来で起こった出来事をな」

 

 シュラはこれまでの事を具体的に分かりやすく牙也に説明した。最初は疑心暗鬼だった牙也だが、

 

 牙也「成る程な。どうにも信じがたいが、俺の前にシュラがいる事を考えると、納得いく話だ」

 

 話を聞くにつれて納得を深めた。と、牙也は徐にフードの人物のフードを取ってその顔を覗き込んだ。そして顔を確認すると、二人に見せる事も教える事もせず、何も言わずそのフードを元に戻した。

 

 牙也「……成る程。こんな未来もあり得たのか」

 ソ・シ『?』

 

 牙也の言葉の真意を、二人は理解できなかった。と、フードの人物の体に変化が訪れた。その体が段々と灰のように崩れ落ち始めたのだ。

 

 ??「俺ノ野望ガ、貴様如キニ破ラレルトハ……ダガ忘レルナ、コレカラドウ足掻コウト『仮面ライダー零』ノ物語ハ消エル……俺ノ勝利ハ揺ルガナイ……ハハハハハ……!」

 

 そういい残し、フードの人物は灰となって消滅した。

 

 

 

 

 

 シュラ「……確かに奴の言う通りだ」

 

 フードの人物が消滅したのを見送り少し経った頃、シュラが口を開いた。

 

 シュラ「我等はアナザーライダーの誕生を止められなかった。それはつまり、これから先の物語も、それより前の物語も消える事を意味する……抗い切れなかったのか、我等は」

 ソウゴ「そうでもないよ」

 

 ソウゴのその一言に、牙也とシュラの目が釘付けになる。

 

 ソウゴ「まだそうと決まった訳じゃない。できる事はまだあるんだ、まぁ任せておいて」

 

 疑問符を浮かべる二人の事など露知らず、ソウゴは爽やかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「アーマードライダー……!」

 

 傷付き、ボロボロになった箒が、目の前のアーマードライダーを睨み付けながら立ち上がる。腹部の出血激しく、少し動く度にプシュッと音を立てて血が飛び散る。しかしそれでも箒は戦う姿勢を崩さない。

 

 束「ほ、箒ちゃん!無茶しちゃ駄目だよ!」

 

 しかしそれを牙也(異)を抱きかかえた束が止める。

 

 箒「だ、大丈夫です……このくらい、なんとも……」

 束「大丈夫な訳ないじゃん、そんな傷で!でもなんで……!?ISには絶対防御があるから、使用者には直接ダメージは来ない筈なのに……!」

 ??「クク、我ガソノ事ヲ知ラナイトデモ思ッテイタノカ?奴等二巻キ付イタアノ蔦ニハ能力阻害効果ヲ持タセテイル。ツマリISノ絶対防御ナド無意味トイウ事ダ。マァ一撃デ死ヌトイウノモ面白クナイ故、威力ハ落トシテ撃タセタガナ」

 束「そんな……!」

 

 絶対防御が無意味。それはつまり、いつでも自分達を始末する事ができるという事だ。戦える者がいないも同然の今、その事実は絶望を加速させるには充分過ぎた。

 

 牙也(異)「う、うぅ……」

 

 とここで牙也(異)が目を覚ました。体を起こし、辺りをキョロキョロと見回す。

 

 牙也(異)「ここは……?」

 ??「フン、ヨウヤクオ目覚メカ、我ガ操リ人形ヨ」

 牙也(異)「っ!?その声、お前はあの時の……!お前、俺に何をしやがった!?」

 束「ち、ちょっと待ってよ!君、何も覚えてないの?」

 牙也(異)「覚えてないのって……どういう事ですか?それに貴方は……?」

 箒「話は後だ……!今はこいつを何とかしなければ……!」

 

 話を無理やり終わらせ、箒は再びアーマードライダーサタンを見据える。そして雨月と空裂を構えて突進した。二刀の斬撃がサタンを襲う。しかしそれをサタンは薙刀を使って涼しい顔で受け止め、薙刀の柄の部分で箒の怪我した腹部を叩いた。

 

 箒「ぐぎぁっ!?」

 ??「ホレホレ……動キガ随分ト鈍クナッタナ」

 箒「黙れ……!元はと言えば貴様のーーぐあっ!?」

 

 突然の全身への衝撃に箒は大きく吹き飛ばされた。その攻撃により、紅椿から警告のアラートが鳴る。彼女がなんとか顔をあげて衝撃が来た方向を見ると、鈴のIS武装『龍砲』がその砲身を箒に向けていた。

 

 鈴「箒、大丈夫!?」

 箒「大丈夫、だ……!この程度で、私は倒れん……!」

 ??「フン、無駄二頑丈ナ女ダナ。コレカラ死ヌトイウノニ」

 

 サタンはそう言って箒の首根っこを鷲掴みにした。そしてそのまま箒を思い切り放り投げた。箒の体は弧を描くように飛び、あの大木の前まで飛ばされ地面に叩き付けられた。その衝撃により、遂に紅椿は展開解除されてしまった。

 

 ??「ククク……サテ、ドウ始末ヲツケヨウカ?ン?」

 

 サタンは大木の根元に倒れ込んだ箒の髪を鷲掴むと、無理やり立ち上がらせた。そして満身創痍の表情をした箒の顔を覗き込む。そして何か考えたかと思うと、箒の体を大木に叩きつけた。

 

 ??「……決メタ、コノ大木ゴト消スカ。コレハ奴ガ存在シタトイウ象徴……コレガ無クナレバ、奴等ハ戦意喪失スルダロウカラナ」

 

 そしてそこから数歩下がると、手にした薙刀を構えた。

 

 束「箒ちゃん!」

 ??「煩イ奴メ、少シ黙ッテイロ」

 

 サタンは箒を助けようと駆けてきた束を蔦で縛り上げ、その場から動けなくした。同時に蔦で操っていた学園及び亡国企業の面々も同じように蔦で縛り上げた。

 

 ??「フン。サテ、ヤルカ」

 

 《ヘルヘイムオーレ!》

 

 そしてドライバーを操作して、構えた薙刀を高く振り上げた。薙刀に膨大なエネルギーが集束していく。

 

 『篠ノ之(さん)!!』

 『箒(さん)(ちゃん)!!』

 

 皆が助けようとするが、蔦に縛られ動けず、箒もまた満身創痍で逃げるどころか動く事すらできなかった。

 

 ??「オ前達ハ充分抗ッタ……イッソ一思イニ止メヲサシテヤロウ……サラバダ」

 

 哀れみの言葉と共に、サタンはその薙刀を振り下ろした。膨大なエネルギーで構成された刃が大木を背にした箒に向かっていく。

 

 箒(……せめ、て……この、大木だけは……牙也との思い出が詰まった……この、大木だけは……!)

 

 満身創痍であった箒は、最後の力を振り絞り、そのエネルギーの刃へ右手を伸ばした。その瞬間ーー

 

 

 

 

 

 

 

 束「箒ちゃーーーーーん!!」

 

 

 

 

 

 

 大爆発が、大木を襲った。爆風が大木も箒の体をも包み込み、呑み込んでいく。爆発の度に黒煙が上がり、辺りを黒く染めていく。それを見ながらサタンは薙刀を下ろし、皆を縛っていた蔦を解いて自由にさせた。

 

 一夏「ほう、き……?」

 シャルロット「そんな……」

 オータム「こんな、事……」

 

 拘束から解放された一夏達はその様子を呆然として見ていた。

 

 束「嫌だ……嫌だよ……箒ちゃんが……!嫌……嫌ァァァァァァ!!」

 

 同じように拘束から解放された束は、それを見て膝から崩れ落ち、泣きわめく事しかできなかった。

 

 ??「ハハハハハ……!コレデヤット念願ガ叶ッタゾ……!俺ガ雷牙也ダ!!俺コソガ仮面ライダー零ダ!!ハハハハハ!」

 

 サタンが高笑いしている間に、黒き爆風は段々と晴れてきた。

 

 ??「ハハハハハ、ハーッハッハッハッハーーン?」

 

 と、何か違和感を覚えたのか、サタンは高笑いを止めて大木に眼を向けた。そして爆風が完全に晴れると、

 

 

 

 

 箒「……?」

 

 

 

 

 大木と共に巨大なバリアに守られた箒が無傷の状態で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 海東「……読み通りだね。さて」

 

 その様子を校舎の屋上から見ていた海東は、懐からタブレットのような物を取り出して何かを書き込んだ。

 

 海東「これでよし。さて、お宝も手に入ったし、帰ろうかな」

 

 タブレットをしまうと、海東は左手に数枚のライダーカードを、腰にいくつかのロックシードをぶら下げ、自身の背後にオーロラカーテンを開き、そのまま去っていった。

 

 

 

 

 『仮面ライダー零は、仲間達との絆の力によって再び甦った』

 

 

 

 

 



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(5)

後編その5


 箒「……?」

 ??「……バ、馬鹿ナ!何故アノ一撃ヲ受ケテ無傷ナノダ!?ソレドコロカ、傷ガ癒エテイルナドト……!」

 

 必殺技を放ったサタンも、その様子を目の前で見ていた者達も、そして当の箒本人でさえも、何が起きたのか理解出来ていなかった。箒と彼女の背後の大木は、突如出現した巨大なバリアによって守られ、更に箒がサタンから受けていた諸々の傷もそのほとんどが回復していた。

 

 束「ほ、箒ちゃん……?い、生きてるん、だよね……?」

 

 涙目であった束がそう問いかける。箒はまだ状況を理解出来ていないのか、右手をサタンに向けた状態で首を軽く縦に振るしかなかった。

 

 ??「……クッ、ナラバ再ビ消スマデ!!」

 

 《ヘルヘイムオーレ!》

 

 サタンが再びドライバーを操作して必殺技を放った。しかしその必殺技はまたも出現したバリアに阻まれた。そして箒が右手を降ろすと、バリアは一瞬で消えていった。

 

 箒「この力は、牙也と同じ……?私にも使えたのか……?いや、この土壇場で使えるようになったというのか……?」

 

 どうやらバリアは、箒が無意識に張った物であった。そしてその力に、箒だけは覚えがあった。かつてコウガネとの最終決戦の際、牙也がコウガネが呼び出した炎の馬の攻撃を防御する際に張ったバリアとその性能が似ているのだ。

 

 箒「……まさか」

 

 と、箒が何かに気づいたのか後ろの大木に向き直る。そして右手で大木に触れた。すると大木は淡い光を一瞬だけ放ったかと思うと、箒に向けて何かを落とした。箒がそれをキャッチしてみると、それはサタンに奪われた筈の『零ライドウォッチ』と『レオンライドウォッチ』だった。

 

 箒「……」

 

 箒はそれを見て何を確信したのか、『零ライドウォッチ』を大木にそっと供えた。すると、供えたライドウォッチが目映く輝きだした。

 

 M「な、何が起きている……!?」

 ラウラ「きょ、教官……!これは一体……!?」

 千冬「分からん、分からんが……!」

 牙也(異)「ちょ、ちょっと何が起きてるの!?」

 束「ま、眩しいーー」

 

 そして瞬く間に、その輝きは周囲を呑み込んだーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、輝きが晴れてきた。眩しさにより失われていた視界も、時間が経つ毎に開けてきた。箒はゆっくりと目を開ける。

 

 箒「……ここは、ヘルヘイムの森?」

 

 いつの間にか、箒はヘルヘイムの森にいた。いや、箒だけではない。箒が後ろをみると、学園の面々、亡国企業の面々もまたそこにいた。

 

 楯無「凄く眩しいと思ってたら……なんで私達ヘルヘイムの森に?」

 一夏「何がどうなってんだよ?」

 スコール「少なくとも、私達の予想の範疇には収まらない何かが起こったのよね……」

 本音「ああっ!?あれ見て、あれ!」

 

 本音が何に気づいたのか、岩場の方を指差す。全員がその方向を見ると、そこには巨大な玉座のようなものが置かれており、

 

 箒「っ!牙也!!」

 牙也(異)「お、俺……!?」

 

 更にその玉座には、蔦に身体のほとんどをからめとられた状態の牙也が鎮座していた。箒が急いで牙也に駆け寄り、遅れて他の面々も駆け寄った。玉座に座った牙也は、頭部と右手のみ蔦が絡んでいない状態だった。

 

 箒「牙也!!」

 束「牙君!!」

 

 箒と束が呼び掛けるが、牙也は何の反応も示さない。まだ意識が戻っていないのだ。

 

 箒「目を覚ませ、牙也!私だ、篠ノ之箒だ!分からんのか!?」

 束「牙君お願い、目を覚まして!皆待ってるんだよ、牙君の帰りを!」

 

 二人は牙也の右手を握り締め、必死になって牙也に呼び掛ける。しかし反応はない。二人はなおも牙也に眼を覚ますよう呼び掛ける。その目は涙に濡れ始めていた。

 

 箒「牙也……!お願いだ、目を覚ましてくれ……!私達はまたお前と一緒にいたいんだ……!」

 束「牙君、目を覚ましてよ……!束さん、牙君にまだ恩返しできてないんだよぉ……!」

 

 涙目になりながらも、二人は必死に牙也に起きるよう呼び掛ける。と、

 

 簪「牙也さん……!お願い、起きて……!約束、まだ果たせてない、から……!」

 本音「牙っち!起きろー!早く起きて一緒に遊ぼーよー!」

 

 簪と本音も駆け寄ってきて、牙也に呼び掛け始めた。身体を揺すったり、頭をベシベシ叩いたり、色々起こす方法を試している。

 

 一夏「……頼む、起きてくれよ牙也……!またお前の力が必要なんだ……!」

 鈴「起きなさいよ牙也!あんた箒をまた一人ぼっちにするつもり!?ふざけんじゃないわよ!とっとと起きなさいったら!」

 ラウラ「起きんか牙也!まだ貴様との勝負がついていないのだぞ!忘れたのか!?」

 セシリア「起きて下さいませ牙也さん!人形の感想、まだ聞いていませんことよ!?」

 シャルロット「起きてよ牙也さん!ISの武装談義、まだ続きがあるんでしょ!?僕まだ聞き足りないよ!」

 

 いや、簪や本音ばかりではない。一夏達もその場から牙也に向けて起きるよう呼び掛け始めた。

 

 千冬「起きろ牙也!皆がお前の帰りを待っているぞ!」

 スコール「起きなさい坊や!まだ貴方の助けが必要なのよ!」

 真耶「起きて下さい牙也君!起きてまた私のお仕事手伝って下さい!お願いですから!」

 M「私事混じっているぞ貴様……さっさと起きろ、雷牙也!私との勝負もまだ途中だっただろうが!」

 オータム「私事混じって当然だろ!起きろよ牙也!アタシとゲームやる約束だったろ!」

 ザック「起きろよコラァ!起きてまた一緒に仕事しようぜ!なぁ!」

 楯無「起きなさい、牙也君!簪ちゃんをこれ以上泣かせないでよぉ!」

 虚「起きて下さい牙也さん!簪お嬢様達の為、ここにいる皆さんの為にも!出来るだけ早く、早く!」

 

 千冬やスコール達もそれぞれが声を張り上げて、牙也に呼び掛け続ける。

 

 『起きて下さい、雷さん!!』

 『起きろー!』

 『起きろ牙也さーん!』

 

 それにつられて、他の面々も声を張り上げ始める。その中には牙也(異)の声も混じっていた。それは合唱のようにヘルヘイムの森に響き渡った。たとえ声が枯れようと、彼ら彼女らは呼び掛け続ける。牙也が眼を覚ます事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 箒「起きるんだ、牙也ッ!私達は、お前が目覚める事を心から信じているぞ!!」

 

 

 

 

 

 箒のその一言がヘルヘイムの森に響き渡ったその時、眠っている状態の牙也の全身が目映く輝きだした。突然の輝きに、牙也の近くにいた箒達四人が怯んで玉座から落ちそうになった。なんとか態勢を立て直し、四人は一旦玉座から降りる。そして全員が牙也に釘付けになる。と、牙也の身体に絡んでいた蔦が、意思を持ったかのように動き始め、牙也の拘束を解き始めた。

 

 ギリア「な、何が起きているのでしょうか……?」

 

 ギリアの疑問を他所に、蔦はやがて全て牙也の身体から離れた。すると、牙也の輝きは更に増し始めた。

 

 箒「帰ってこい、牙也ッ!!」

 

 箒の叫びと共に、その輝きは再びその場の全員を呑み込んだーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「はっ!?」

 

 次に意識が覚醒すると、箒達は皆学園へと戻ってきていた。時計を見ると、輝きに呑み込まれてからほとんど時間は経っていないようだった。

 

 ??「何ダ、今ノハ……!?貴様等、一体何ヲシタ!?」

 

 唯一サタンだけは状況が呑み込めず困惑してるようだった。箒達は決意に満ちた表情をしてサタンに向き直る。

 

 ??「クッ、貴様等ァァァァ……ソンナ目デ俺ヲ見テンジャネェヨ!!」

 

 サタンはそう叫んで薙刀を振るい、エネルギーの刃を箒に向けて飛ばしてきた。

 

 束「箒ちゃん!」

 

 束の声に箒がそれを右に避けようとすると、突如左手を掴まれて引っ張られ、無理やり左に避けさせられた。刃はさっき箒が避けようとした右方向へ飛んでいき、そのまま空中へ飛んでいった。そして箒は何者かに左腕で身体を支えられている状態からその人物の顔を見た。箒の顔からは、涙が止めどなく流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 箒「牙也ッ!!」

 

 

 

 

 牙也「帰ってきたぜ、皆ァ!!」

 

 

 

 

 

 

 漆黒の袴に紺の軽装の鎧、そして右目の眼帯ーーそこには、人々の絆によって生まれた一人の名軍師が、大事な家族を守るように悠然と立っていた。

 

 『牙也(さん)!』

 『牙君(っち)!』

 『雷さん!』

 

 皆の呼び掛けに、牙也は右手に持った羽扇を高く掲げて答える。そして皆の声援は更に大きくなった。牙也は箒を立たせると、箒の額に自身の額をコツンと合わせた。

 

 牙也「必死になって頑張ってくれたんだな、ありがとう。そしてーーただいま、箒」

 箒「お帰り、なさい……!牙也、会いたかった……!」

 

 箒は感極まってまた泣き出し、牙也に抱きついた。まるでこの二年間の空白を埋めるように、箒は牙也の体温を感じ取っていた。そして牙也もまた箒を抱き締め返す。その目には、喜びの涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 ??「フザケルナ……フザケルナフザケルナフザケルナァッ!!」

 

 その声に、牙也達は我に帰った。見るとサタンが怒りに満ちた声を上げながら牙也を睨んでいた。

 

 ??「コンナ事アリ得ルモノカ!雷牙也、貴様ハ私ガ始末シタ筈ダ!黄金ノ果実ノ力ヲ全テ奪ワレタ貴様ガ、何故甦ル事ガデキタ!?」

 

 サタンは納得いかないのか大声で喚き散らす。すると、

 

 ??「当然だ。そいつが甦る事が出来たのは、至極当然の事象だ」

 

 その声にサタンが振り向くと、そこには首に二眼トイカメラを提げた青年ーー『仮面ライダーディケイド』門矢士がいた。

 

 ??「何ダト!?」

 士「そいつは自らの身に危険が及んだ時の為に、黄金の果実のごく一部を種の形にして残していたんだ。そいつは黄金の果実そのもの、果実の一部でも残っていれば、そこから時間を掛けて復活するのも不可能ではない、と言う事だ」

 ??「ソンナ事ガアッテタマルカ!」

 士「別に信じようと信じまいとお前の勝手だ。だがな……こいつらはこの二年間、ずっと待ち続けていた。こいつが復活する事を信じて」

 ??「……何ガ言イタイ?」

 士「『信じる』という行為はとても危険なものだ……信じていた奴に突然裏切られて絶望に落とされたり、信じていたもの全てが嘘っぱちだったり……大抵ろくなもんじゃない。簡単に踏みにじられたり、ポイ捨てされたりもする」

 

 そこまで言って、士は箒達に目を向けた。

 

 士「だがあいつらは、それでも愚直に信じ続けた。あいつらは、こいつが戻ってくる事を信じ続け、またこいつも皆がーー仲間や家族が自分を助けに来てくれる事を信じていた。こいつらの絆は何よりも堅く、何よりも暖かい……お前はその絆を、土足で、平気で踏みにじった……お前はこいつにはなれない。所詮お前は、ただの愚か者だ!」

 ??「フン、怪物ト人ノ絆ナド、所詮ハスグ破レルダケノ偽物ダ、偽善ダ!ソコニ何ノ意味ガアル!?」

 

 サタンが反論すると、牙也と箒が進み出て言った。

 

 箒「偽物だと?意味がないだと……!?貴様は何も分かっていない!」

 牙也「偽物だから何だよ?意味がないから何だよ?だからって、怪物と人が絆を紡いじゃいけない理由にはならねぇだろ」

 ??「ナラバ雷牙也!何故貴様ハ絆ナドト言ウ偽善二シガミツク!?」

 牙也「簡単だよ……それが、人だからだ!!」

 

 牙也の剣幕に、サタンは思わずたじろぐ。

 

 牙也「人は誰しも、一人で生きていく事は出来ない。誰かと繋がり、誰かと支え合い、誰かと絆を結ばなけりゃ、生きていくなんて不可能なんだ……全てを失ったあの日から、俺はずっと一人ぼっちだった。だから俺は、生きる為に人と絆を結ぶ事を選んだ。そして出会ったんだ……俺を信じて背中を押してくれる、大事な仲間や、家族に」

 箒「牙也……」

 

 牙也は後ろを振り返り、そこにいる学園の皆を、亡国企業の皆を見た。そして持った羽扇を掲げると、皆一様に武器を掲げたり「頑張ってー!」等と声援を送ったり、様々な反応を示した。牙也はそれに笑顔で応えると、再びサタンを見た。

 

 牙也「俺はこれからも、この絆を信じ続ける。そして戦い続ける……たとえ世界の全てを敵に回しても……俺は、この絆を守り続ける。お前ごときに、俺が必死になってチマチマ積み上げてきた絆の重みが分かるもんかよ!」

 ??「貴様ァ……偽善ヲ語ル怪物ノ癖ニィ!!」

 士「あぁそうさ、所詮は偽善だ。けど、偽善と知ってなおもこいつを信じる……それもまた、悪くないもんだ。そうだろ?」

 

 士の問い掛けに、箒達は笑顔で頷く。

 

 ??「コノ野郎ガ、偉ソウニ説教垂レヤガッテ……!何様ノツモリダァ!?」

 士「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ……変身!!」

 

 《KAMEN RIDE DECADE》

 

 士は腰のライドブッカーからディケイドのカードを抜き、『ネオディケイドライバー』にセットして『仮面ライダーディケイド』に変身した。

 

 牙也「お前に真の零を見せてやる。変身!」

 

 《ブルーベリー》

 

 《ロック・オン》

 

 《ソイヤッ!ブルーベリーアームズ!侵食者・HELL・STAGE!》

 

 牙也もまた戦極ドライバーを腰につけ、ブルーベリーロックシードを解錠。ドライバーにロックして『仮面ライダー零』に変身した。

 

 牙也「久々の零だ。派手にやらせてもらうぜ」

 ??「嘗メルナァ!!」

 

 サタンが薙刀を高く掲げると、周囲にクラックが開き、大量のインベスが溢れ出てきた。そして二人の仮面ライダーを大軍で囲む。二人の仮面ライダーは背中合わせとなって迎撃に備えた。

 

 士「行くぞ。帰る場所、意地でも守りたいんだろ?」

 牙也「ディケイド、訂正しとけ……『帰る場所』だけじゃない。俺は……俺にとって大事な『絆』と『家族』を守りたいんだ!」

 

 そう言って牙也は薙刀『紫炎』を構える。と、ライドブッカーから三枚のブランクカードが飛び出してきた。士がそれらを掴むと、ブランクカードは一瞬にして色を持ち、三枚のカードに変化した。一枚は零が写ったカード、一枚は零の象徴たる鬼に似たエンブレムが写ったカード、一枚は半分が零、もう半分が巨大な『火縄冥冥DJ銃』が写ったカードであった。

 

 士「あぁ……ならやるか!」

 

 《FINAL FORM RIDE Z-Z-Z-ZERO》

 

 士「ちょっとくすぐったいぞ」

 牙也「ん?おう」

 

 士は三枚のカードの内、零と火縄冥冥DJ銃が写ったカードをドライバーにセットした。そして牙也の後ろに立ち、その背中を開くような動作をした。すると牙也の身体が変形し始めた。体の構造を無視したかのような変形の後、士の目の前には火縄冥冥DJ銃そっくりの『零式火縄冥冥砲』が佇んでいた。士はそれを持ち上げると、空に向けて一発弾を放った。放たれた弾は空中で爆ぜると、雨に如く降り注ぎインベスを次々と葬った。しかしそれでも三分の一が生き残った。それを確認し、士は冥冥砲を持った状態で零のエンブレムが写ったカードを取り出してドライバーにセットした。

 

 《FINAL ATTACK RIDE Z-Z-Z-ZERO》

 

 そして冥冥砲を残りのインベスとサタンに向けた。

 

 ??「グッ……!ドケッ、ドケェェェェェ!!」

 

 サタンはこれが危険と判断したのかインベスを盾にこれを避け、更にそのまま逃げ出そうとした。しかしそうは問屋がおろさない。士がサタンに向けた冥冥砲を構えてトリガーを引くと、漆黒に染まった膨大なエネルギーの奔流が銃口から放たれ、残りのインベスを一瞬にして呑み込み、大爆発を引き起こした。そしてそのまま奔流は逃げようとしたサタンをも呑み込んでいった。

 

 ??「ヤ、止メロ!コッチニ来ルナーーグワァァァァァァァ!!」

 

 エネルギーの奔流が直撃し、サタンは大きく吹き飛ばされ変身も解除された。サタンに変身していたフードの人物が地面に転がる。

 

 士「……ほれ」

 

 士が冥冥砲を放り投げると、冥冥砲は変形して再び零に戻った。牙也は優雅に着地し、「やれやれ」と頭を掻く。

 

 牙也「地味に痛かったぞ、今の」

 士「俺に文句を言うな。それよりあれだ」

 

 士が指差した先には、フードの人物がいた。痛みを堪えてフラフラと立ち上がるところだった。

 

 士「あいつをどうするつもりだ?」

 牙也「あぁ……後は俺の手でケリをつける。あんたは手出しするなよ」

 

 そう言うと牙也は変身を解除してフードの人物に歩み寄っていった。そして倒れていたフードの人物の首根っこを掴むと、そのフードを強引に取っ払った。

 

 『え!?』

 

 フードの人物の素顔を見て、その場にいた牙也と士以外の面々は驚きを隠せなかった。何故ならフードに隠されていた素顔はーー

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「気分はどうだ?『異世界の俺』」

 

 

 牙也(サ)「……ッ」

 

 

 

 

 

 こちらもまた、牙也であったからだ。つまり今ここには、『仮面ライダー零としての牙也』『アナザー零に変身させられ操られていた(と思われる)牙也』『仮面ライダーサタンに変身した牙也』と、三人の牙也がいる事になる。

 

 束「え?え?え?なんで?牙君が三人……?」

 千冬「……これはまさか、そう言う事なのか?」

 士「おい、どういう事だ?」

 

 困惑の表情が皆隠せない中、牙也(零)は話を続ける。

 

 牙也「お前は所謂、『別の未来から来た』俺だ。そっちでは俺は、仮面ライダー零の力を手に入れることが出来ず死にかけていたが、何の因果か生き残る事が出来た。そして何らかの方法で別の未来を知ったお前は、アナザーウォッチの力を使い自分が仮面ライダー零になろうと考えたんだろ?が……ここで一つ問題が起こった」

 ザック「問題って何だよ?」

 牙也「俺の予想なんだが……アナザー零のウォッチが、こいつと適合しなかったんだろ。仮面ライダー零の力が奪えても、自分が使えないんじゃ宝の持ち腐れ。そこでお前は、また別の未来からある人物を拐ってきた。それがあそこにいる三人目の俺だ」

 

 牙也が指差した先には、困惑の表情を浮かべた牙也(異)がいた。

 

 牙也「あいつをこっちに連れてきてアナザーウォッチを使わせ、時間稼ぎさせてる間に自分は他の方法を探していた。そこで辿り着いたのが、この『仮面ライダーサタン』という訳だ。そうだろ?」

 

 牙也は地面に転がった戦極ドライバーと『ヘルヘイムロックシード』を片手で拾い上げながらそう言った。牙也(サ)は図星だったのか顔を伏せたままだ。

 

 牙也(異)「そうだ、段々思い出してきた……俺はあいつに唆されたんだ。『俺に協力してくれれば、お前に最強の力をやろう』って……!なんで俺はあの時二つ返事で了承しちまったんだろ……!」

 牙也「仕方ないさ……家族を皆殺しにされて、そんな時にやって来た甘い誘いだ、正常な判断なんてできるわけないだろ。非はあるだろうが、全てお前のせいって訳じゃない」

 牙也(異)「でも……」

 

 牙也(異)は正常な判断が出来なかった自分を心の中で責めているようだった。

 

 牙也「もう気にするな。俺もここにいる皆も、お前の事を責めるつもりはねぇよ」

 

 その言葉に牙也(異)が周囲を見ると、皆一様に首を縦に振った。牙也(異)は申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

 牙也「さて、こっちは片付いた。後はお前だけだが……」

 

 そう言うと牙也は牙也(サ)を地面に放り捨て、更に持っていた戦極ドライバーとヘルヘイムロックシードを地面に落とすと、両足で思い切り踏み潰した。しかし、戦極ドライバーもロックシードも壊れるどころか傷一つついていない。

 

 牙也「やっぱ駄目か。となるとーー」

 

 牙也が一瞬目を反らしたその時、牙也(サ)が全力で駆け寄ってきて、戦極ドライバーとヘルヘイムロックシードを奪い返してしまった。

 

 牙也(サ)「ははははは!油断したな、これは返して貰ったぜ!今度こそお前を倒す!」

 

 牙也(サ)は勝ち誇ったような笑い声を上げ、再び戦極ドライバーを腰につけた。そしてロックシードを解錠しようとしたその時、

 

 バチッ!!

 

 牙也(サ)「ぐっ!?な、何だ!?」

 

 突如ロックシードが紫電を発生させたかと思うと、ロックシードからアナザーウォッチが二つとも弾き出された。そしてロックシードは元のブランクロックシードに戻ってしまった。

 

 牙也(サ)「な、なんで……!?」

 ??「君の野望は、俺が潰えさせたよ」

 

 その声に全員が空を見上げた。そこには、

 

 箒「ソウゴか!」

 

 タイムマジーンに乗ったソウゴとシュラがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(6)

後編その6


 ソウゴ「やぁ、ようやく戻って来れたよ」

 シュラ「遅くなった」

 

 タイムマジーンが着地すると、中から『仮面ライダーグランドジオウ』に変身したソウゴと、オーバーロードとしての姿のシュラが降りてきた。

 

 士「終わったのか?」

 ソウゴ「うん。向こうに出現したアナザー零は倒した。もうアナザー零は復活しないよ」

 

 ソウゴの報告に全員が胸を撫で下ろす。そしてその報告と共に、地面に落ちていたアナザー零のウォッチは粉々に砕けた。

 

 牙也(サ)「くっそぉ、せっかく考えてきた計画が全部台無しだ……!けどまだ俺には……!」

 

 牙也(サ)は諦めが悪いのか、落ちていたアナザーレオンのウォッチを使おうとした。ところが、

 

 牙也(サ)「あ、あれ?なんで取れないんだ……!?」

 

 何故か彼はアナザーウォッチを拾う事が出来ない、しかも、

 

 牙也(サ)「な、アナザーウォッチが……!?」

 

 アナザーレオンのウォッチも、ブランクロックシードも、はたまた戦極ドライバーも同様に「バキン」と音を立てて粉々に砕けてしまった。

 

 士「……お前、一体何をした?」

 ソウゴ「ああ、彼に助けて貰ったのさ」

 

 《カブト!》

 

 ソウゴは右腰のカブトのフレームをタッチした。するとソウゴの隣に『2006』の年号とゲートが現れ、中から『仮面ライダーカブト ハイパーフォーム』が出てきた。

 

 士「なるほど、大体分かった。ハイパークロックアップでアナザーウォッチを生み出す瞬間まで飛んだのか」

 

 『仮面ライダーカブト ハイパーフォーム』は、カブトが『ハイパーゼクター』を使用して変身する最強フォームだ。その能力とは、『ハイパークロックアップ』という超高速移動能力であり、簡単に言えば『過去や未来にすら飛べる』というチートじみた物である。

 

 ソウゴ「その通り。それで一緒にアナザーウォッチが生み出される瞬間にワープしてアナザーウォッチを破壊したって事。これで『アナザー零は誕生しなかった』事になったよ」

 

 それを聞き、牙也(サ)は膝から崩れ落ちた。アナザー零が誕生しなければ、アナザーレオンも、また仮面ライダーサタンも誕生しない。それは自身の野望が完全に潰えた事を意味していた。一方学園の面々達からは喜びの声が上がる。ソウゴはカブトを元の世界に帰すと、変身を解除して牙也に歩み寄った。

 

 牙也「ありがとう、ソウゴ。お陰で俺は、大切なものを失わずに済んだ」

 ソウゴ「大した事はしてないよ。けど……どういたしまして」

 

 牙也が右手を差し出し、ソウゴもまた右手を差し出して握手する。

 

 牙也「あぁそうだ。ソウゴ、これをお前に」

 

 と、何を思い出したのか牙也は懐を探り始めた。ソウゴが不思議そうに見ていると、牙也は懐から『零ライドウォッチ』と『レオンライドウォッチ』を取り出してソウゴに差し出した。

 

 牙也「俺達の物語、お前に託しておく。いずれ必要になる筈だ、そうだろ?」

 

 牙也はそう言ってウォッチを渡そうとするが、

 

 ソウゴ「……いや、これは君達が持っているべき物だ、受け取れないよ」

 

 ソウゴはそれを断った。

 

 牙也「だが……」

 ソウゴ「君達の物語は、まだここで終わって良い物じゃない。まだこれからも続いていくべきなんだよ。だから……俺は君達の力は継承しない」

 

 そう話すソウゴの目は、決意に満ちたそれだった。牙也は納得したのか「そうか」とだけ言ってウォッチを懐に仕舞った。と、突如学園全体が大きく揺れた。

 

 牙也「っ!?なんだ!?」

 

 ??「アハハ、仮面ライダー零ノ物語ガ消滅シナイバカリカ、マサカコレカラモ続イテイクナンテネ。予想外ダッタヨ。僕ノ渡シタウォッチ、全然役二立タナカッタノカナァ?」

 

 誰とも知れぬ声に全員が辺りを見回すと、牙也(サ)の背後にフードの人物が現れた。フードの人物は牙也(サ)の首根っこを鷲掴みにすると、フードの下から狂った笑みを見せた。

 

 牙也(サ)「お、お前……何しやがる……!?離せ……!」

 ??「初メマシテカナ?『世界ノ破壊者』サン?」

 士「誰だ?お前……」

 ??「アハハ、ソウダネェ……ジャアアエテ名乗ロウカ。僕ノ名前ハ『ヘイグ』。コレデモ女ダカラネ、以後ヨロシク」

 

 謎の女ーー『ヘイグ』はそう言って牙也(サ)を掴んだ状態で優雅に一礼した。牙也(サ)が未だに喚いているが、ヘイグは首根っこを掴む手に少し力を入れた。途端に牙也(サ)はガクッと崩れ落ちた。どうやら気絶させられたようだ。

 

 シュラ「ヘイグと言ったか……貴様、何を企んでいる?」

 ソウゴ「君……もしかして『タイムジャッカー』?」

 

 シュラとソウゴがそれぞれの疑問をヘイグに投げ掛ける。

 

 ヘイグ「ウーン、『タイムジャッカー』ッテノガ何ナノカハ知ラナイ。デモモシカシタラ、僕ハソノ『タイムジャッカー』ッテノカモシレナイネェ……デ、何ヲ企ンデルカ、ダッケ?」

 

 ヘイグは少し考える素振りを見せると、こう言った。

 

 ヘイグ「特二企ミトカハ無イヨ。強イテ言ウナラ、『僕ガ楽シミタイ』ッテダケカナ」

 シュラ「何だと……?貴様……自分が楽しみたいが為に、この世界を滅茶苦茶にしたのか!!」

 千冬「なんとも身勝手な……!」

 ヘイグ「アハハ、マァマァソンナ怒ラナイデヨォ。小皺ガ増エルヨ?」

 千冬「誰のせいだ、誰の!?」

 真耶「お、落ち着いて下さい!」

 

 真耶が必死に千冬を宥める。一方ヘイグはクスクス笑いながら、牙也に向き直った。

 

 ヘイグ「ソレニシテモ君、ナカナカ面白イネ。ネェ、僕ト一緒二アチコチノ世界ヲ好キ勝手シテ楽シマナイ?」

 牙也「断る」

 

 ヘイグの誘いを牙也は速攻で断った。

 

 ヘイグ「ンー、マァソウダヨネ……残念」

 牙也「今度はこっちが聞こう。そいつにアナザーウォッチを渡したのは、お前なのか?」

 

 牙也はヘイグが掴んでいる牙也(サ)を指差して問い掛けた。

 

 ヘイグ「ンー、マァソノ通リダネ。ナンデ僕ガ持ッテタノカハ分カンナイケド、使イ方ハ知ッテタ。デ、コイツガ使イタイッテ頼ンデキタカラ渡シタ、ソレダケダヨ」

 

 ヘイグはそう言ってヘラヘラ笑う。が、途端に膨れっ面になった。

 

 ヘイグ「ケド、マサカ壊サレチャウナンテネ。僕ガ何ナノカ知ル為ノキーアイテムダッタノニ……」

 牙也「そんなの渡した自分を恨むんだな。俺等に文句言うのはお門違いってもんだ」

 ヘイグ「ソレモソッカ。仕方ナイ、ソレジャアコイツ連レテ帰ロッカナ。八ツ当タリモ兼ネテネ。ア、ソコノ君」

 

 次いでヘイグは束の隣にいた牙也(異)に声をかける。

 

 牙也(異)「な、何さ?」

 ヘイグ「今回ノ事、僕二原因ガアルカラネェ……オ詫ビトシテ僕ガ責任持ッテ元ノ世界二還シテアゲルヨ。サァ、ツイテキテ」

 

 ヘイグは牙也(異)に手招きするが、束が彼の前に立って行かせない。

 

 束「信用ならないよ、お前。絶対ついて行っちゃ駄目だからね、牙君」

 牙也(異)「は、はぁ……でも……俺は正直言うと、元の世界に帰りたいです……」

 士「なら俺がついて行こう」

 

 とここで士が名乗りをあげた。

 

 士「俺がコイツのボディーガードになってついて行く。それならどうだ?」

 束「うーん……まぁあんたなら多少は信用できるかな」

 ヘイグ「フフフ、交渉成立ダネ。サァ、行コウヨ」

 

 そう言ってヘイグは自身の背後にオーロラカーテンを呼び出した。そして先程までずっと首根っこを掴んでいた牙也(サ)を先に放り込む。

 

 牙也(同じ俺とは言え、扱いが雑なのはなんかなぁ……)

 牙也(異)(下手したら俺があの立場になってたのかぁ……)

 

 そんな事を考えながら、牙也(異)は士と共にオーロラカーテンの前まで来る。そして牙也達に対して一礼すると、オーロラカーテンの中へ入っていった。それを追い、士も中へ入っていく。それを見届け、ヘイグもオーロラカーテンに入ろうとした。と、何を思い出したかヘイグは牙也の方を見て言った。

 

 

 

 ヘイグ「マタネ」

 

 

 

 一言それだけ言うと、ヘイグはオーロラカーテンに飛び込んでいった。そしてヘイグがオーロラカーテンを潜ったのを最後に、オーロラカーテンは一瞬で消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「……取り敢えずは、これで終わったんだよな」

 

 ヘイグ達が去って静寂が辺りを包む中、最初に口を開いたのは牙也だ。

 

 シュラ「ひとまずはそうだろうな。色々疑問が残る終わり方だったが」

 千冬「なんとも後味の悪い終幕だ……」

 

 なんとも歯切れの悪い終わり方に、皆渋い表情を浮かべる。

 

 本音「んー、でも牙っちが無事に帰ってこれたんだし、それで良いんじゃな~い?」

 シャルロット「そう、なのかなぁ……?」

 牙也「当人の俺はあまり納得してないんだがなぁ……」

 本音「いーのいーの!そんなの後々で考えればいーんだから!それよりほら、牙っちが帰ってきたのをお祝いしなきゃ!ねー!」

 

 本音はお得意の明るさで皆を盛り上げていく。と、それにつられて皆一様に「お祝いだお祝いだ!」と騒ぎ出した。牙也を含め一部納得してない者もいたが、皆が大騒ぎするのを見て諦めたのか、ひとまず頭の隅に置いておく事にした。

 

 楯無「よーし、派手にお祝いしましょ~!」

 セシリア「親衛隊の皆さん、お手伝いお願い致しますわ!」

 『はーい!』

 一夏「よーし、久々に俺も腕を振るうとするかな!」

 鈴「一夏、あたしも手伝うわよ!」

 虚「私も微力ながら手伝わせて頂きますよ」

 

 \ワイノワイノ/

 

 スコール「やれやれ、暢気な子達だこと」

 ザック「ハッハッハァ、ガキの特権って奴だろ!」

 オータム「そーだな。で、あたし達はどうするよ?」

 ギリア「今日くらい好き勝手騒いでも問題ないかと思いますがねぇ」

 スコール「……そうね。こんな日はなかなか無いものだわ、一日くらい騒いでもバチは当たらないでしょ」

 M「……フン」

 オータム「素直じゃねーなー、M」

 

 皆がワイワイ騒ぐ中、牙也だけは未だオーロラカーテンがあった場所を見て何か考え事をしていた。

 

 ソウゴ「どうしたの牙也君。何か気になる事でもあったのかい?」

 牙也「ん?あぁ……まぁ、一つだけ、な」

 ソウゴ「?」

 牙也「なに、大した事じゃない。それより行こうぜ、ソウゴ。久々にお前と色々話をしたいしな」

 ソウゴ「そっか。じゃあ先に行くよ」

 

 適当に話をはぐらかした牙也は、大宴会の準備に向かう学園の面々や亡国企業の面々を見、次いでそれを追うシュラや箒、ソウゴを見、そしてまたオーロラカーテンが出ていた場所を見た。

 

 牙也(……俺だけらしいな。あの『龍』が見えてたのは)

 

 実は牙也(異)との別れの際、牙也にだけ見える姿があった。それは∞の形にとぐろを巻いた龍のような生き物であり、牙也(異)を守るように寄り添っていた。そしてヘイグを見て低く唸り声を上げているようにも見えた。

 

 牙也(いずれあいつも仮面ライダーになるのか……?いや、そんな訳ないか……?いやでも……)

 箒「牙也、何をしている!?早く行くぞ!」

 牙也「おー、悪い悪い!すぐ行く!」

 

 答えは出ないと理解した牙也は、一旦その事は忘れて大宴会に集中する事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は夜遅くまで進み、大宴会もたけなわとなった頃。

 

 牙也「……」

 シュラ「……」

 ギリア「……」

 

 学園の校舎の屋上に、牙也、シュラ、ギリアの姿があった。そして三人の目の前には、あのオーロラカーテンが出現していた。と、ガチャリと音がして、誰かが屋上に上がってきた。

 

 ソウゴ「……見送りに来てくれたのかい?」

 

 上がってきたのはソウゴであった。ソウゴはこれからこのオーロラカーテンを通って元の世界に帰るのだ。

 

 牙也「あぁ、だいぶ世話になったしな。もう少し話が出来れば良かったんだが」

 シュラ「仕方あるまい、これを逃すとこやつは元の世界に帰れなくなる。流石にそれは可哀想だ」

 ギリア「帰る場所があるというのは良い事ですがね。まぁそれは私達とて同じ事」

 ソウゴ「俺ももう少し君達と話がしたかったんだけどね……俺達の世界がどうなってるのか、少し心配な面もあるから」

 シュラ「そうか、中途半端なタイミングで我が呼んでしまったのだったな。それはすまぬ事をした」

 ソウゴ「良いよ、気にしなくて。お陰で良い体験ができたしね」

 シュラ「そう言われると多少は楽になるな」

 

 ソウゴはオーロラカーテンの前に立つ。と、

 

 牙也「……ソウゴ。お前はこの先、最高最善の魔王を目指すんだってな」

 

 牙也がそう問い掛けた。

 

 ソウゴ「あぁ。俺は魔王になる。そして最悪の未来を変えて見せる」

 牙也「そうか……なら人生の先輩からのアドバイスを一つ伝授しとくか」

 

 牙也はソウゴを指差しながら言った。

 

 牙也「お前の選択に、『後悔』の二文字は残すな。そしてその選択に、『自信』を持て。そうすれば自ずと道が開けるもんだ」

 ソウゴ「アドバイスありがとう。もしも俺が魔王になったら、君を是非とも軍師として迎え入れたいね」

 牙也「あぁ、その時が来るのをゆっくり待たせてもらう」

 

 牙也はそう言ってサムズアップする。ソウゴもまた笑顔でサムズアップを返した。

 

 ソウゴ「……それじゃあ、俺はもう行くよ」

 牙也「あぁ。元気でな」

 ソウゴ「シュラさん達もありがとうございました。皆さんによろしく伝えて下さい」

 シュラ「確かに」

 ギリア「任されました」

 

 ソウゴはもう一度サムズアップすると、オーロラカーテンを潜り元の世界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 ギリア「……行ってしまいましたね」

 シュラ「うむ」

 

 オーロラカーテンが消え、屋上には三人だけが残された。ひゅうぅ、と冷たい風が吹く。

 

 シュラ「……さて、次は我等か」

 ギリア「……のようですね」

 

 その言葉に牙也が二人を見ると、二人の体が粒子となって消え始めていた。

 

 牙也「そうか、アナザー零の誕生がなかった事になったから……」

 シュラ「うむ、そういう事だ。この世界は、ようやく本来の歴史に戻り始めたようだな」

 ギリア「私達は本来ならもう死人ですからね。未練がない訳ではありませんが、少し寂しくもあります」

 牙也「シュラ……ギリア……」

 

 シュラは牙也に近づきそっとその肩に手を置いた。

 

 シュラ「これからはお前が皆を、この世界を導くのだ。我等はお前の礎となるだけ。泣いてくれるな」

 ギリア「どうかザック達をよろしくお願いします。貴方なら、安心して任せられます」

 牙也「あの筋肉ダルマをか?やれやれ、骨の折れる仕事が増えるぜ……」

 

 牙也はブツブツと愚痴を溢し、シュラとギリアは軽く吹き出す。

 

 シュラ「……まぁ、なんだ。お前に会えて、お前とまたこうやって話ができた事、とても喜ばしく思う。牙也……ありがとう」

 ギリア「私からもお礼を。かつて敵だったザック達を受け入れてくれた事、感謝します」

 牙也「当然だろ?もうあいつ等は『仲間』なんだから」

 

 牙也の言葉に、二人は安心したような笑みを見せた。

 

 ギリア「ではそろそろ時間のようなので……私達はこれにて」

 シュラ「……さらばだ、牙也。どうかお前達の未来に、良き結末があらん事を」

 

 その言葉を最後に、二人の体は粒子となって数多の星煌めく夜空へと消えていった。

 

 牙也「……さようなら、シュラ、ギリア。二人の意志は、必ず繋いでいくから」

 

 満天の星空に向かって、牙也はそう誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後牙也は学園寮内をぐるりと一周した後、寮にある自分の部屋に戻ってきた。時間は日付が変わるギリギリのところであった。本来なら学園寮の規定によりこの時間は既に就寝時間なのだが、牙也は用務員兼警備員であるが故見回りという名目でこの時間に起きている事を半ば許されている状態だった。

 

 牙也「さー、寝るべ寝るべ」

 

 寝間着に着替え、さぁ寝ようとした時、牙也は自身の使っているベッドがやけに膨らんでいる事に気づいた。はて、と布団を捲ると、

 

 牙也「なんだまだ起きてたのか、箒」

 

 可愛らしい猫のイラストが描かれたパジャマに着替えた箒が丸まった状態で出てきた。

 

 箒「……えーと、その……ふ、布団を暖めておいた、ぞ」

 牙也「そりゃどーも。久々に一緒に寝るか?」

 

 牙也がそう聞くと、箒はパアッと目を輝かせて大きく頷き、急かさんばかりに牙也の腕を掴んで引き倒すようにベッドに招き入れた。引っ張られた勢いで、牙也の顔は箒の豊満な胸にポフンと納まる形になった。箒は牙也を抱き締めたままベッドにゴロリと横になる。

 

 牙也「モゴモゴ……ぷはっ。随分熱烈な歓迎だな」

 箒「……二年。二年もの間、お前の帰りをじっと待っていたのだ。当然だろう」

 牙也「そうだな、二年か……そんなに経ってたんだな」

 箒「今の今まで、ずっと我慢し続けてきた……だがもう我慢は止めだ。もう絶対に離しはしない、ずっと一緒だ……お前と、私は」

 牙也「あぁ、そうだな。これからも一緒だ……お前と、俺は」

 

 そうして二人は二年の空白を埋めるように互いを抱き締め合い、互いの暖かさを感じながらゆっくりと眠りについたーー。

 

 

 

 

 

 



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ラストタイトル   長キ時ガ過ギ去ッテ

ラストになります。


 ーーーーーーーーーーーーや

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーばや

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー牙也

 

 

 

 

 

 

 箒「起きろ牙也!朝ごはんが出来たぞ!」ベシッ

 牙也「いてっ!?」

 

 頭を思い切りシバかれ、意識が強制的に覚醒する。強烈な痛みにドヒュンッという擬音が聞こえそうな勢いで牙也は飛び起きた。

 

 箒「それにしても珍しいな。お前がこんな遅くに起きるなど」

 牙也「そうだなぁ……ふぁぁ」

 

 寝ている間にボサボサになった髪を掻き、牙也はふと箒に目をやる。そして無意識にその美しい白髪に手を伸ばして優しく触れた。

 

 箒「……どうした?まだ寝惚けてるのか?」

 牙也「違ぇよ。なんか……懐かしい夢を見たもんでな」

 箒「なるほど」

 

 箒はそれだけで瞬時に理解し、「ほら早くしろ、朝ごはんが冷めてしまう」と牙也を急かした。牙也はクラックを開いて中から着替えを取り出すと、ささっと着替えて身嗜みを整えた。そして部屋を出て向かったのはーー

 

 

 

 箒「来たか。皆大人しく待っていたぞ」

 

 

 

 巨大で武骨な石造りのテーブルが置かれた広いスペースだった。そこは天然の洞窟にいくらか手を加えて作られたリビングのような場所であり、テーブルの周りには大勢のインベスが鎮座し、目の前に置かれたヘルヘイムの果実の山を見てジュルジュルと涎を垂らしている。

 

 牙也「行儀悪いぞ、お前ら。落ち着いて待てねぇのかよ……?」

 箒「仕方ないだろ、お前の号令無ければ食べられないのだからな」

 

 そう言いながら、奥に設計されたキッチンから二人分の朝ごはんを持って箒がやって来た。そしてそれらを牙也と自身が座る席の前に並べる。炊きたての白米に豆腐とワカメ入り味噌汁、鮭の塩焼き、ホウレン草のお浸し、沢庵といったラインナップである。

 

 牙也「今日も旨そうでなにより」

 箒「『旨そう』ではない、『旨い』のだ。忘れるな」

 

 箒はそう言って牙也から見て左側の席に座る。牙也も倣って着席した。彼の背後には、巨大な玉座が存在感を示すように鎮座している。

 

 牙也「そんじゃ、いただきます」

 箒「いただきます」

 

 牙也の号令と共に、インベスは皆一様に牙也の真似をして手を合わせた。そして合わせ終えると我先にとヘルヘイムの果実に飛び付いていった。

 

 牙也「お前ら落ち着いて食え、喧嘩すんなよ。数はまだあるんだからな」

 

 そう言いながら牙也は自身に用意された朝ごはんに手をつけていく。箒もまた自身が作った朝ごはんに手をつける。

 

 箒「うん、旨い。今日もよく出来たな」

 牙也「あぁ、全くだ。にしても、オーバーロードになっても普通に人間の食事ができるなんて、どういう訳なんだろうな」

 箒「さぁな。お前が分からんのに私が答えられる訳がないだろう」

 

 本来オーバーロードに覚醒すると、段々と人間の食べ物が食べられなくなり、最終的にはヘルヘイムの果実しか受け付けなくなってしまうのだが、この二人は未だ普通に人間と同じように食事が出来ている。本人にもその理由は分からなかった。

 

 牙也「……そういや、何年だっけ?皆と別れてから」

 箒「……もうそろそろ200年になる筈だ。時が経つのは早いものだ」

 

 そんな他愛ない話をしながら、牙也は朝ごはんに舌鼓を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれから牙也達の世界がどうなったか、簡潔に説明していこう。

 

 

 牙也達がいた世界は常磐ソウゴーー仮面ライダージオウの協力もあって崩壊を免れ、元の喧騒を取り戻した。しかしソウゴや士、海東が去った後も、牙也達は引き続き事態収拾に奔走していた。突然世界が元に戻った事による反動を落ち着かせる為だ。アナザー零の出現により世界の様相は大きく様変わりしており、それを落ち着かせるには流石の牙也達であっても数年の月日を要した。

 

 そしてそれがある程度目処が立つと、牙也は箒と共にヘルヘイムの森で修行に入った。牙也は自身に内包されたオーバーロードの力を完全に己の物とする為、箒はアナザー零及び仮面ライダーサタンとの戦いで突如目覚めたオーバーロードの力を、ある程度理解し使いこなす為。それぞれの目的の下、二人は思い思いに修行を重ねた。その間、二人には新たな出会いがいくつかあった事を記しておく。

 

 そうして修行を重ねる事更に数年、牙也は完全にオーバーロードの力を己の物とし、箒もまた牙也に勝るとも劣らないレベルでオーバーロードの力を使いこなせるようになった。更にヘルヘイムの森で修行を続けた事が幸いしたのか、はたまたオーバーロードインベスと知っての事か、牙也達は森にいたインベス達にすっかりなつかれ、今では数多のインベス達を統率する立場となっている。

 

 そうして修行を重ねつつ、裏で牙也は単身でヘルヘイムの森を調査し、植物の性質や特徴等をレポートにまとめていた。そこで牙也は遂に、自身のいた世界とヘルヘイムの森がくっつく原因となったクラックを発見する事が出来た。これを発見した後、牙也はこの世界とヘルヘイムの森の分離を目的として、様々な研究を行った。このままヘルヘイムの森がくっついている状態をほっとく訳にはいかない。いずれは完全に分離し、ヘルヘイムの脅威を取り除かなければ。たとえその結果、自身と自身の大事な仲間や家族を引き剥がす事になろうともーーそれが牙也の願いであり、決意でもあった。牙也はヘルヘイムを統率する者として、本格的に動き始めたのだ。

 

 がこれには当然、束をはじめとして牙也と長く面識のあった者達から反対の声が上がった。ヘルヘイムの森との分離は、彼女達からすれば牙也との永遠の別れを意味するものであったからだ。まだ共にいたい、最後まで一緒にいたいーーが、牙也の決意は揺らぐ事は無かった。

 

 牙也「皆の気持ちは痛い程良く分かる。けど、皆も知ってる通り、ヘルヘイムの森はこの世界をまだ侵食し続けてる。そしていずれは、この世界を呑み込んで滅ぼしてしまうだろう。俺は……俺が生まれたこの世界を、ヘルヘイムの二の舞にはしたくない。もう、あんな地獄を見たくないんだよ。分かってくれ」

 

 牙也、そして牙也と共に行く決意を最初からしていた箒の説得が決定的となり、束達は遂に折れ、その計画を了承した。勿論『たまにはこの世界に戻ってきて、自分達と色々な話をする事』という交換条件もちゃっかり出して。

 

 こうして計画は牙也と束を筆頭に推し進められ、苦節数十年、ようやく二つの世界を切り離す事に成功した。そして牙也と箒は多くのインベスと共に、家族や仲間に惜しまれながら生まれ故郷を去ったのであった。

 

 

 

 

 

 そして現在に至る。

 

 牙也「もう200年か……長いようで短いようで……」

 箒「とにかく色々あったな、この200年。あの戦いを知るのは、もはや私達だけとなった」

 牙也「そうだな、俺達だけだ。が……物語はまだ終わってない」

 箒「覚えてくれる人がいる限り、か」

 牙也「あぁ」

 

 昔を懐かしみながら、二人は引き続き朝ごはんを食べる。

 

 牙也「忘れられない限り、物語に終わりはない。そういう事だ……こらお前ら!食べ終わったんなら食器くらい片付けていけ!」

 

 食べ終わって食器も片さずさっさと逃げようとするインベス達を注意する牙也。これも日常風景となっていた。インベス達も牙也の言う事は聞くのか、自分達の使った食器を洗って片付けていく。

 

 箒(……随分馴染んだな。お前も、私も)

 

 その様子を見ながら、箒はほっこりとした表情を見せる。

 

 ??「お食事中のところ失礼致します」

 

 と、牙也達の近くに一体のインベスが近寄ってきた。そのインベスは見た目こそシカインベスに似ていたが、その体は漆黒に包まれ、枯れ草色の外套を羽織り、腰に剣を差していた。

 

 牙也「エジョムか。今のタイミングで来るあたり、また面倒事でも起きたか?」

 エジョム「はっ。それ故急ぎ神王様と王妃様のご判断をいただきたく参りました」

 牙也「なるほど。で、その面倒事は何だ?」

 エジョム「はい、少々お耳を拝借」

 

 二人が耳を近づけると、エジョムと呼ばれたそのインベスは二人にゴニョゴニョと耳打ちした。と、二人の表情は真剣なものになった。

 

 箒「牙也」

 牙也「あぁ。エジョム、ひとまずその周辺を封鎖しろ。誰一人として近づけさせるな。それと、それの調査は俺と箒で行う」

 エジョム「神王様と王妃様自らですか……!?お待ち下さい、それは危険です!ご希望でしたら私が一軍を連れてーー」

 箒「馬鹿者、それこそ危険だ。もしお前が一軍を連れて行った先で非戦闘員と出会えば何が予想される?」

 エジョム「し、しかし……」

 牙也「必要になればお前達を呼ぶ。それまではお前は皆と共にここをよく守れ。これは命令だ」

 エジョム「……はっ。それが命令とあらば従いましょう。では失礼致します」

 

 エジョムは納得いかない表情だったが、『命令』と言われた事で大人しくなり、命令遂行の為戻っていった。

 

 箒「……やはりまた、か。切り離す方法があるとはいえ、難儀なものだ」

 牙也「それが宿命だ、俺達がどうこう出来るもんじゃない。けどそれでも……被害を最小限に抑える為の対策は立てられる」

 

 牙也はそう言うと残っていた朝ごはんを一気に掻き込んだ。箒も急いで朝ごはんを食べきる。

 

 牙也「さ、片付けたら行くぞ。エジョムが暴走しないか心配だ」

 箒「真面目なのは良いが、それが過ぎてやり過ぎる事が多々あるのがな……」

 牙也「だが忠臣である事は事実。あいつがいるからこそ、俺達は安心して調査が出来るんだ」

 箒「違いないな」

 

 二人は笑い合い、朝ごはんの食器を仲良く片付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 エジョム「……おぉ、お待ちしておりました」

 

 二人がその場所に到着した時、既に周辺はエジョムと中級インベスの一軍によって完全に封鎖されていた。封鎖を担当していたライオンインベスに案内され、二人はエジョムの元へ来た。

 

 牙也「ご苦労様。で、これか?」

 エジョム「左様でございます。今までにない大きさでした故に、指示を得なければならぬと思い……」

 箒「なるほど、エジョムが慌てるのも納得だな」

 

 二人の目線の先にあったのは、今まで見た物とは比べ物にならないほど巨大なクラックであった。その大きさはヘルヘイムの大木ほどの大きさと太さがあった。その内部は真っ黒く覆われ、全容は見えない。

 

 エジョム「しかし……本当にお行きになるので?」

 箒「くどいぞ、エジョム。牙也の性格は、お前もよく理解している筈だ」

 エジョム「はい、それはもう……故に心配なのです」

 牙也「エジョム。未知の場所で生き残る為に大切な事がある。何だと思う?」

 

 唐突に牙也はエジョムにそう問い掛けた。

 

 エジョム「は?はて……そのような物があるのですか?」

 牙也「俺はな、『こちらから敵意を見せない事』だと思ってる。会っていきなり敵意を向けられて、『さぁ話し合いしましょう』って言われて、信じられると思うか?」

 エジョム「それは無理があります」

 牙也「だろ?お前が行くのを止めたのも、そこにある。お前の格好見てみろ。剥き出し状態の剣に、明らかに姿が異形のそれ。敵意向けられてもおかしくねぇぞ」

 エジョム「な、なるほど……それを見越してのあの命令でしたか」

 箒「まぁあくまでこれは『話が通じれば』の話だがな。通じなければまた別の手段を取るまで。そうだろ、牙也?」

 牙也「あぁ。エジョム、お前のその忠義は俺達も認めてる。が、時にその忠義が仇となってしまう時ってのもあるんだ。そこのところ、よく覚えておけ」

 エジョム「はっ。このエジョム、深く肝に命じます」

 牙也「それにな。エジョム、お前がいるからこそ、俺達は安心して調査に向かう事が出来るんだ。お前のその忠義は、信じられる物だからな」

 箒「うむ、その通りだ。お前の実力は私と牙也のお墨付きだ、胸を張れ」

 エジョム「神王様、王妃様……分かりました、このエジョム、必ずやこのヘルヘイムの森を守り抜いてみせましょう!」

 牙也「うん、その意気だ。それじゃあエジョム、俺達が戻るまで、ここの統治はお前に任せる。頼むぞ」

 エジョム「ははっ!」

 

 エジョムは綺麗な敬礼で答える。二人は揃って「うむ」と頷くと、改めてクラックの前に立った。

 

 箒「この先、どんな世界があるのだろうな」

 牙也「さぁな。けどワクワクするぜ」

 箒「私もだ。まぁ本音を言うと、お前と一緒なら何処であってもワクワクするというものだ」

 牙也「そりゃ嬉しいな」

 

 牙也はそう言って箒にその右手を差し出す。箒もまたその右手を左手でとり、ニコッと笑みを浮かべた。

 

 牙也「それじゃ、行ってくるぜ!」

 箒「皆、しっかりやるのだぞ!」

 エジョム「行ってらっしゃいませ!」

 

 牙也と箒は、二人揃ってクラックへ飛び込んだーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語は、時に思わぬ形で続いていく事もある。この二人の物語もまた、我々の知らぬ形でこれからも続いていくのだろうーー。

 

 

 

 

 

 

 

                 Fin

 

 

 

 

 





 はい、という訳で長きにわたって投稿してきた『紫の世捨て人』も、これにて完結となります。読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

 今後もちょくちょくではありますが、様々な作品を投稿できたらな、と思います。

 それではまたお会いしましょうーー。



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