幼女戦記×編隊少女 (アル・ソンフォ)
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設定資料:登場人物・設定

本作は、幼女戦記と編隊少女のコラボ企画から構想したクロスオーバー作品です。
よって、編隊少女のコラボイベント「南方の砂塵と異界の蒼天」とは全く内容が異なっています。


■登場人物■

本作品オリジナル設定含む。CVはキャラクター設定より、読む際の参照にしてください

 

ターニャ・フォン・デグレチャフ【CV:悠木碧】

幼女戦記の主人公。存在Xにより理不尽な転生をさせられた元エリートサラリーマンの幼女。

本小説世界への転移は、ブレスト軍港強襲中止の直後(アニメ11話参照)

姿や装備はアニメ版と同じ。

こちらで受領した新式魔道具(本作品オリジナル設定、形状はアニメに出てきた前掛けのバック状のものと同じ)による魔力変換効率向上により戦闘機と編隊可能な能力を有する。

本小説世界では、極東基地航空大隊大隊長に任ぜられる。

 

司令官(藤堂守大佐)【CV:読者様もしくはお好きな声優さん】

元々日本の中堅会社のサラリーマン。架空歴史もの異世界もの転生もの小説の愛読者。

幼女戦記好き。

パソコ机の上に原作小説(全8巻)他、多数のライトノベルを置いていた。

幼女戦記と編隊少女のコラボイベントをプレイ中になぜかこちらに転生。

名前は佐藤大輔の小説の登場人物より拝借。

 

 

ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉【CV:早見沙織】

デグレチャフ少佐の副官。ドイツ軍人。

本作品世界の人物であり、幼女戦記の世界のセレブリャコーフ少尉とは別人。

ただし、容姿、性格、航空魔導士であることはアニメ版と同じ。

また、ベルリンの参謀本部にはゼートゥーア将軍やルーデルドルフ将軍、レルゲン中佐もいる模様。

 

エミリア・ユンカース【CV:三森すずこ】

ノルトライン=ヴェストファーレン州出身。ドイツでは有名な財閥、ユンカース家の令嬢。

真面目なおじいちゃんっ子。

極東基地における最先任小隊長。実質的な当基地操縦士達のリーダー。

本小説における階級は大尉。

 

 

鳩森 美羽【CV:早見沙織】

司令官に近しい隊員として部隊の中心的存在。正義感が強く、情に厚い。

本小説における階級は少尉。軍服ヴァージョンの姿。

セレブリャコーフ少尉と同じ声

 

エリノア・ユンカース・アーベントロート(Dr.エリノア)

極東基地技術顧問、フーファイター研究の第一人者。MAD。

フーファイターの精神干渉、特殊技能についてシューゲル博士とつながりがある。

 

フィオナ・ウェストバリー【CV:朝井彩加】

元新聞記者の操縦士。

元の職業柄かデグレチャフ少佐に興味を持つ。

 

 

その他:

操縦士の少女たちは、基本、編隊少女の設定どおりです。

オリジナルの設定が必要な場合は、都度追記します。

 

 

■オリジナル設定■

世界情勢:

フーファイターという人類共通の敵を得たことで、第二次世界大戦は終結している。

編隊少女の解説ではそれ以上のことは書かれていないが、本作品では邪魔になりそうな指導者(ドイツのヒトラー総統やソ連のスターリン書記長、ベリヤ長官)などは、初期のフーファイター襲撃で死亡している。

なお、ドイツはナチス崩壊の混乱に対応するため立憲君主制による帝政が復活しており、ドイツ軍を帝国軍といっても違和感を持たれることはない。

 

操縦士達の階級:

キャラクターに設定されたレア度に基づき軍曹、曹長、准尉、少尉、中尉とした。

ただし、エミリア・ユンカースは最先任の小隊長として例外的に大尉。

今後、他の基地の中心的存在、小説内での貢献などによってはレア度と異なる階級が設定される可能性あり。

 

航空魔導士:

この世界のドイツにもなぜか存在しているが、数は少ない。

こちらではシューゲル博士が実用化した模様。

戦闘能力など基本的には幼女戦記の設定に同じ。

操縦士の少女達の特殊技能の精神力も、航空魔導士の魔力も根源は同じ。

 



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第0話:プロローグ

ド・ルーゴ将軍の箱舟作戦阻止を成しえなかったデグレチャフ少佐は逃した戦争の終結と平和を嘆き崩れ落ちるように気を失った・・・
ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐が編隊少女の世界へ転移するそんな幼女戦記×編隊少女クロスオーバー作品です。


>>>統一歴一九二五年六月二十日 帝国軍第二〇三航空魔導大隊駐屯地<<<

 

糞っ、糞っ、帝国の勝利は逃げてしまった。

床に軍服から毟り取った銀翼突撃章を投げつけた後、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、ただ一人、ロッカーを殴り続けた。

帝国はダンケルクされてしまうのだ。いずれあの帝国よろしくこの帝国も焦土と化すのだろう。

さきほど副官のセレブリャコーフ少尉から伝えられた「停戦命令」は、待ち焦がれた「平和な日々」への扉を閉ざす無情な宣告であった。

息を切らせ握られたままの手を見れば、血塗れになった小さな手、少佐殿、大隊長殿、敵からはラインの悪魔と呼ばれようとも一二歳の女児の華奢な手が視界に入る。

手からするりと逃げて行った帝国の勝利、所詮は、この小さな手でつかむのは無理だったのだろう。

「糞っ!」

ターニャは床に崩れ落ち呻き声とも無言の慟哭ともつかぬ絶望の中で気を失った。

 

>>>????年?月??日 某所<<<

 

どれだけ時間が経ったのだろう再び気が付いた時、ターニャは格納庫のようなところに立っていた。

周りには誰もいない。ただ広いだけの格納庫。並べられていたはずのV-1すらないそこにターニャは立っていた。

「誰かいないか、少尉、セレブリャコーフ少尉、いないか」

ターニャは呼んだが、誰もいないようであった。

あきらめて外に出て、初めてターニャは違和感に気付く。外が明るいのだ。自分が逃した勝利を平和を嘆いたのは夕刻、いかにあの後気を失っていようと、大隊の過半が休暇中であろうと自分が一晩ほったらかしにされる訳がない。

立ち止まって気づく6月初夏というのにまるで前世の日本の春の日のようなうららかな陽気すら感じる。

「存在Xの仕業か?」

ターニャは左右を見渡すが時間が止まったようなあの違和感も忌々しいくるみ割り人形も見渡らなかった。

「ガチャリ」

横を向くと今持っているはずのない協商連合のあの魔導士から奪った短機関銃を左肩に担いでいる。軍帽も頭にのり、投げつけたはずの銀翼突撃章もいつもの位置に佩用された状態、あれだけ殴った手も傷一つない真っ白なお手々。いつもの姿でありながら通常ではない姿の自分がそこにいることに気付く。

ターニャは何気に視線を上に向けたとき、視界に入った低空を着陸態勢で横切っていく戦闘機をみて違和感は最大となった。その戦闘機は記憶が確かならば「フォッケウルフ」しかもご丁寧に国籍マークは帝国の国章ではなくドイツ国防軍の鉄十字、いかに帝国がドイツに似た国家であったとはいえ帝国の戦闘機は第一次大戦の戦闘機に類似したもののはず、第二次大戦時に登場した戦闘機など開発され配備されたなどという話は聞いたことはない。続けて飛んできた戦闘機を見てターニャは唖然とする。日本の戦闘機「飛燕」なのだ。仮に秋津洲皇国の戦闘機としても帝国は元の世界と異なり日独伊三国同盟ようなもの結んでいない。この戦争のさなかに飛んでくる訳がないのだ。

さらに続く戦闘機を見てターニャは愕然とする3機目はイギリスの「スピットファイア」、4機目はアメリカの「P51マスタング」、国籍が異なる4機が編隊を組んで飛んでいたかのように下りていくのを唖然とターニャは見続けたのであった。

「ありえない。私が気を失っている間に何があったのだ。」

思わず滑走路の方に駆け出しひらけた視界にあるものが見えたとき、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐はここが昨日までいた第二〇三航空魔導大隊駐屯地ではないことを受け入れざるえないこととなったのであった。

 

 

 



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第1話:極東基地

投稿開始した翌日に幼女戦記コラボ事前クエスト開始の朗報。
皆様、デグレチャフ少佐をお迎えする用意はできていますか?


>>>西暦一九四二年六月二十日午前 極東基地<<<

 

ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐が見たものは、滑走路に並ぶ国籍も様々な戦闘機であった。

先程見たフォッケウルフ Ta152と並ぶハインケル He219、メッサーシュミット Bf109Gの様なドイツ機はまだいい。帝国はドイツに極めてよく似た国家だよく似た機体があってもまだ理解できる。ライン戦線でⅢ号戦車に類似した戦車も見かけたし、開発されていてもおかしくはない。フランスのドボワチン D.510も戦闘中に鹵獲したのかもしれない。だか、英国のスピットファイア Mk.Vb、ソ連のイリューシン IL_2、アメリカのF6F ヘルキャットなどの戦闘機が並んでいるのは全く理解ができない。潜在的敵国の連合王国や連邦、今次大戦に不干渉の合州国の機体が堂々と隠すこともなく帝国の基地に駐機していることに違和感を抱かない帝国軍人などいたら耐え難い無能とさえいえよう。

 

「なんだこれは・・・」

ターニャがひとり呟いた時、後ろから聞きなれた声がした。

「ここにおられたのですか、探しましたよ」

「セレブリャコーフ少尉か、ここに並ぶ戦闘機は一体・・・」

振り向いて声をかけた人物を見たとき、ターニャは驚愕を噛み殺しいつもの軍人然とした姿勢がとれた自分を心の中で誉めた。理不尽な転生以後、驚くことなどもはやないとさえ思っていた自分に対してである。

「せ、せぶれりゃ?し、失礼しました。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐でいらっしゃいますでしょうか?私は鳩森 美羽少尉。司令官の命により少佐をお迎えに上がりました。」

そこにはセレブリャコーフ少尉ではなく「大日本帝国海軍」と書かれた制帽にセーラー服に白いホットパンツという軍服調のファッションに身を包んだ笑顔の日本人美少女が手を差し向けていたのだった。

「帝国軍第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐だ。お迎えとは?それに貴官の所属は?そもそもここは西部方面軍所属の帝国軍基地ではないのか?」

と名乗る少女はまるで前世の日本のアニメか漫画に出てきそうな制服を身に着けているが、ここは少なくとも軍の施設だ。いかにコスプレめいた服装であろうが軍人として扱うのが無難であろうとターニャは問い返す。

「はい、少佐。私は日本海軍よりフーファイター殲滅の命を受けFF特務機関極東基地に出向しております。確かに本基地は大日本帝国の領土内にありますが、FF特務機関にも日本軍にも西部方面軍という組織はありません。」

フーファイター?極東基地?ターニャは意味が分からない言葉に困惑し、そして大日本帝国と言われ、初めて自分がそしてこの鳩森少尉という少女が何語でしゃべっているのか気が付く。

「申し訳ありませんが、司令官がお待ちです。こちらへついてきてください。ご案内いたします。」

彼女は日本語で話している。そしてターニャ自身もライヒの言葉でなく十数年ぶりとなる日本語を使っている。

 

「ああ、案内を頼む」

皆目事態はつかめないが、ターニャは案内を任せることとした。少なくともその司令官という人物は自分がここに着任することを知っている。そしてこの鳩森少尉という少女も私を「ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐」と認識している。

であるならば、ここは司令官に会うというのが合理的判断といえるであろう。少女に気付かれぬように演算宝珠を起動させてみたが正常に作動している。短機関銃も担いだままだ。何らかの罠であろうが、自分のみ単機であれば逃げ切ることは可能、情報収集の好機とみるべきであろう。

「ところで少尉、今日は何日で今は何時だ。遠方からの着任だ。時差ボケをおこしてしまったかもしれない」

司令官室へと向かう通路でターニャはなにげなく確認する。ここが帝国でないことは確実だが、今までいた世界でないことの確認のためだ。

「遠路はるばるご苦労様です、少佐。本日は昭和17年、あっ、西洋の方でしたね。本日は1942年6月20日午前8時20分であります」

「ありがとう。時刻を確認してよかったようだ。手持ちの時刻が1時間ほどずれている」

ターニャは時計を取り出し時刻を合わせるふりをする。ライヒの文字が刻まれたその時計は、停戦命令を受けロッカーにこもった午後6時20分から1時間ほどしか進んでいなかった。しかし、昭和17年とはおかしなことをいう。昭和の時代にこのようなタイプの美少女がいるとも思えない。今は気にしないでおこう。

「それでですか。お迎えの場所におられなかったのは。」

「手間をかけてすまなかった。司令官室はまだかな?」

ターニャは冷静を装いつつ進む。ほどなくして司令官室と書かれた扉の前に着いた。

鳩森少尉は、扉の前にいた灰色と紺色を基調とした制服に身を包んだ少女に声をかける。

「一戸瀬補佐官。鳩森少尉は本日着任されるターニャ・フォン・デグレチャフ少佐をお連れしました。」

「ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐殿、司令官がお待ちです。こちらへどうぞ」

補佐官だという少女が扉を開けようとする。

「ご苦労。ところで一戸瀬補佐官。ここへ来るまでに少々手間取ってしまった。司令官殿をお待たせしてしまってはいないだろうか?」

「はい。いいえ、大丈夫です。8時30分と聞いておりますので、丁度5分前です」

状況は分からないが少なくとも遅刻などという失態はしていないようだとターニャは安堵する。

補佐官という少女に促され、少尉という少女とともに幼女とさえ言われてしまう少佐の自分が着任の挨拶をするのか、ある意味、冗談の様だなと心で思いつつターニャは入室する。

そこには、日本海軍の第一種軍装を着用した30前後の男性士官が書類作業をしていた。階級章は大佐、胸元にはいくつかの略綬と傷痍記章があるのが見えた。

「司令官。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐をお連れしました」

司令官と呼ばれた男は椅子から立ち上がるとターニャに向かいこう言った。

「FF特務機関極東基地司令官藤堂守大佐だ。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐、貴官の着任を心から歓迎する。」

 

 




コラボ設定で編隊少女の世界が1942年という設定であることがわかりましたので、昭和15年から昭和17年に変更しました。


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第2話:司令官室

なかなか話が進まないとお思いかもしれませんが、きちんと戦闘や世界観の補完も書いていきます。
あくまでも編隊少女の世界を舞台としますが、本作品は「幼女戦記」メインとなるように進めてまいります。



>>>西暦一九四二年六月二十日午前 極東基地司令官室<<<

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ魔導少佐であります。藤堂大佐殿お目にかかり光栄であります」

未だ状況はわからないが、司令官と名乗る人物から歓迎された以上、ターニャは藤堂大佐と名乗る司令官に規則通りの動作で敬礼し挨拶をして見せる。

 

「大いに結構。上からは極めて優秀な将校ときいている。」

藤堂大佐は敬礼を返すと、すぐに機嫌よさげにターニャを見続ける。

この身になって以来、このような挨拶の度に戸惑う態度をとる上官や同期、衛兵を数多見てきたが、幼女というべき自分が現れて上機嫌などという上官は初めてだ。同じ年頃やそれより幼い娘を持つ上官や軍大学の同期などむしろ自分の娘が戦場に送ることを想像して動揺したこともあるぐらいだ。まさか、幼女愛好家か何かではないだろうかと警戒しつつも表に出しては完璧な軍人の姿勢をとり続ける。

 

「はっ、過分な評価をいただいております。」

「そうだな、では、本基地での貴官の任務について説明しようと思うが、ああ、その前に鳩森少尉、君は新たに着任したデグレチャフ少佐を見てどう思う?ちょっと大切な質問なのだ。正直に答えてくれないか?」

「えっ、はい、藤堂司令官。少佐はまさに将校というべき方に見えます。」

後ろにいた鳩森少尉とかいった少女が戸惑いながら答える。

「本当にそう思うかね。本当はこんな幼女が少佐?どこかの王族か貴族のご令嬢か、初期のフーファイターとの戦闘で殉職した航空士官遺族の名誉将校かなにかと思っていないかね。」

藤堂大佐だという男は笑顔を浮かべたまま困惑した顔の鳩森少尉に問いかけ続けている。表情からしてある種の話のネタにしているようだが自身の名誉にかかわる。ターニャは抗議をしようした。

 

だが、先に一戸瀬補佐官と名乗っていた少女が司令官にちょっとだけ怒ったような表情で、藤堂大佐を咎めた。

「司令官、デグレチャフ少佐殿に失礼ですよ」

「そうだな。申し訳ないな少佐。貴官に失礼な話をしていたようだ。不快な思いをさせたのなら謝罪しよう」

藤堂大佐は軽く頭をさげる。

 

「小官はこのようなことには慣れておりますので。お気遣いなく」

ターニャは謝罪を受け入れる。ここにきてまだここにおける自分のことについて何の情報を得ていないのだ。早く本題に入ってほしい。いささか自分がいら立ち始めているが努めて冷静さを装う。

しかし、藤堂大佐とやらは、まだ本題に入ろうとしない。

「本日着任されたデグレチャフ少佐は、士官学校を次席で卒業し軍大学も優秀な成績で卒業された優秀な参謀将校なのだよ。無論それだけではないエースオブエースというべき撃墜スコアを有し、単機での中隊規模爆撃機の撃退、海上要塞攻略、本当に実戦経験実績豊富な将校なのだよ。」

大げさに手を広げ語り続ける。ターニャは前世で読んだ紅茶党の提督の嫌いだった衆愚政治家を思い出し心の中で少しだけこの藤堂大佐とかいう司令官の評価を下げた。

 

「司令官、報告書は読みましたが、少佐殿は12歳ですよね。21歳のタイプミスかと思っておりましたが、本当に12歳の少女なのですね。」

一戸瀬補佐官という少女は何かの書類を再度見直してながら驚きを隠せないという表情をしているし、鳩森少尉という少女も豆鉄砲を食らったように12歳とつぶやいている。やはり、衝撃的なのだろう。

「やはり、君達でも驚くかね。対FF耐性ということで少女ばかりのこの基地に配属されている君達でも不思議がるのだ。ましてやこの身長、本当に戦闘機を操縦できるか疑っているのだろう。その点についていえば問題はない。彼女の撃墜数は本物だし、空を自由に駆けることができるが、操縦士ではない。航空魔導士というのだ。これについては、後で皆に紹介するときにでも説明しよう。」

考えてみれば130㎝にも届かないこの体、目の前にいる司令官やらだけでなく、少女たちまでも身長は10㎝単位で上なのだ。第二〇三遊撃航空魔導大隊の隊員たちはすっかり私の体が小さいことを忘れていたようだが、こういわれてしまうと自分が小さいことを思い出し情けなさが襲ってくる。

ただ、一つ司令官とやらが言った「少女ばかり」「操縦士」という言葉がターニャの脳裏に引っかかり、そちらに思考を向け、その思いを封印する。この基地には一戸瀬補佐官や鳩森少尉みたいな少女が大勢操縦士として配属されているとでもいうのだろうか。

 

「すまないが、一戸瀬補佐官、鳩森少尉、デグレチャフ少佐と任務について打ち合わせを行う。2人とも退室してよろしい。ああ、あと、一戸瀬補佐官、コーヒーは用意できているかな?」

「はい、用意しております。でも、本当に砂糖もミルクもご用意しなくてよかったのでしょうか。今からでもお持ちいたしますが?」

「不要だ。デグレチャフ少佐は地獄のように濃く天使のように甘い香りがするコーヒーが好みなのだ。官給品などではなく私が用意した珈琲豆で淹れてくれたかな?」

一戸瀬補佐官が副官室のような扉から出て戻ってきたときには、その手には芳しい本物のコーヒーの香りとともに、コーヒーポットとコーヒーカップが2客、ご丁寧にケーキまで用意されている。戦場ではいつ見たかも忘れたような代物が平然と用意される。ターニャはこの基地は相当優遇されているだと考えてしまう。

応接セットのテーブルに並べさせると、藤堂大佐は二人を退室させる。

「では、二人とも退室したまえ。ご苦労だった」

「はい、司令官失礼します」

2人の少女が退室し、この部屋には藤堂大佐という司令官の男性とデグレチャフ少佐だけが残った。

「では、デグレチャフ少佐。そこのソファーにかけてくれたまえ。好みに合うように淹れることができているかわからないがコーヒーも用意した。戦時下だ甘いものも久しいだろう。遠慮せず食べてほしい。では、本題に入ろうか」

 




ルビの振り方がわからない・・・


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第3話:珈琲の香り

もう少しデグレチャフ少佐と藤堂司令官のやり取りが続きます。
少佐殿の性格から考えて、すんなりと配属なんてありえないでしょう。


「では、本題に入ろう。まず、貴官は明日付けをもって本極東基地航空大隊大隊長に任命される。これが辞令だ。」

目の前に座る藤堂司令官から1枚の書類が渡される。

国際連盟傘下の対FF特務機関名義で作成された辞令には、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐を航空大隊大隊長に任ずる旨が記されている。

 

だが、ターニャは第二〇三大隊の大隊長だ。そうでなくてもこんな良くわからない組織の大隊長など到底受け入れられるものではない。

「藤堂大佐殿、小官は現在帝国軍より第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長を拝命しております。また、現時点でその任を解くような命令は受領しておらず、この辞令にも現在の職務を解くような記載もありませんが。」

それに対し藤堂大佐は次のように告げる。

「伝達がうまくいっていないようだな少佐。少佐は現在も帝国軍の第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長だ。現下の状況に鑑み、出向というかたちで本基地に配属される。無論、対FF特務機関の指揮下に入ってもらうが、貴官の帝国軍の軍籍はそのままだ。あと、大隊実務については既に副長のヴァイス大尉に引継ぎが完了しているとの報告を受けている。まさか、ダキアや北方ノルデン、ライン戦線で航空魔導大隊を率い絶大な戦果を挙げた貴官が、航空大隊を指揮する自信がないとでも。」

「はい、いいえ、そうではありません。小官は航空魔導士官です。航空と名がついても空軍士官でない小官が戦闘機を主力とする航空大隊を指揮する資格はありません。参謀将校課程は修了しておりますので、基地付きの作戦参謀ということであればまだ理解できますが、大隊長というのは小官の職責からして疑問を呈さざるを得ません。それとも、本基地にも航空魔導士が大隊規模でいると?」

ますます状況がつかめない。いままで真面目に対応してきたが、夢か何かなのだろう。状況がおかしすぎる。きっとブレスト軍港強襲を断念せざる得なかった絶望で寝込んで変な夢でも見ているのだろう。ターニャはならばと自分の目の前に置かれている芳しい香りを漂わせている珈琲をあおる。夢の中でとはいえ代用珈琲ではない珈琲を飲める機会だ。醒める前に飲んでしまおう。ああ、よい豆を使っている。

 

「少佐、用意した珈琲は口にあったかな。そう睨まないでいただきたいな。」

藤堂大佐とかいう男がまだしゃべっている。夢ならば大抵こういったものを飲んだり食したりすれば目が覚めても良さそうなものだが、飲んだ珈琲はセレブリャコーフ少尉に淹れてもらっている珈琲には劣るが味も香りも上等なそれ、ケーキも一口食べてみたが、新鮮なフルーツと本物のクリーム、混じりけのない小麦が使われたやわらかいスポンジ、夢にしてはリアルな感覚に、ターニャはやはり夢ではないのかと思い直す。

上官の前である意味無礼な対応をとってしまっているターニャに対し、藤堂大佐は言った。

「やはり、なかなかすんなりとは受け入れてもらえないようだな少佐。まあ、こんな状況に放り込まれてすんなり着任を受け入れるようなら、貴官を私が知っているデグレチャフ少佐に似た何か別の存在と思っただろう。」

「藤堂大佐殿、何を言われているのでしょうか。」

ターニャは藤堂大佐を見返す。彼の表情から笑顔は消え真顔になっていた。

「少佐、今から話すことは貴官以外の誰にも聞かせたくない。持っている演算宝珠でこの部屋に対する防諜を施すことは可能か。できるのであれば、速やかに行ってほしい。誰にも、この世界の誰にも聞かせたくないのだ。そして、その話さえ聞いてくれたら、少佐、貴官も納得する。少なくとも、この基地で大隊長となることが最も合理的な判断だとわかってくれる。お願いだ、いや、命令だ。演算宝珠を起動し司令官室に防諜術式を発現せよ」

やはり、この藤堂大佐とやらは何かを知っている。そして、それを教えてくれるというのだ。聞く必要がある。少なくとも不明だらけの現状の判断材料を提供してくれよう。ターニャはそう判断した。

「了解しました藤堂大佐殿。すぐに防諜術式を施しましょう。効果は最大で30分ほどですが十分でしょうか?」

「十分だ。頼む」

デグレチャフ少佐はエレニウム97式を取り出し、防諜術式を起動した。

 




防諜術式は原作では出てきてませんが、通信や映像記録など様々な使われ方をしている以上そのような使い方ができてもおかしくないと考え、出しました。
編隊少女の世界と異なる幼女戦記の世界、他の誰にも聞かせるわけにはいきませんから。


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第4話:転生者

編隊少女とのクロスオーバーなのに、編隊少女のキャラクターたちが殆ど出ていないそういわれそうなので、冒頭で出してみました。
やっと、少佐殿は着任を受け入れてくれました。
なかなか、戦闘が始まらないとクレームが来そうです。


>>>西暦一九四二年六月二十日午前 極東基地内の廊下<<<

 

「よう、美羽。さっき、子供を司令官室に連れて行っていたようだけど。司令官の娘かなにかか?」

司令官室を退出した鳩森美羽に、アデル・ガーランドが声をかける。赤尾茜もアデルの後ろから顔を出す。

「俺っちよりも、小さかったもんな。でも、金髪だったのよ。司令官さんの娘と違うっしょ。迷子でも保護したんだべか」

「残念、違いますよ。私たちの新しい仲間です。たしか、デグレチャフ少佐とかいう名前でしたよ。」

鳩森美羽の返答に二人は反論する。

「おいおい、少佐って本当か。確かに軍服は着てたけど、ありゃ、どう見ても子供だったぞ、コ・ド・モ。アタシたちだって、操縦士ってことで少尉だの中尉だのといった将校様だけどよ、佐官はないだろうって」

「そーだよ、先任小隊長のエミリアだって、やっと、最近大尉とかいってたべ。実はああ見えて俺たちより年上なのか。それもと、どっかの王様のお姫様ってか?」

鳩森美羽は二人にデグレチャフ少佐の印象を話す。

「どうなんでしょうねえ。でも、少し会っただけの印象ですが、なんというか、少女というよりも、かっちり纏った軍装がまさにぴったりで、本当に将校っていう感じだったんですよ。あっ、そういえば十二歳とか聞いたような」

「十二歳!余計少佐なんてありえないだろ。年下だぞ。」

「そうさよ!そうさよ!俺っちより年下じゃねーか」

二人はあきれたような声を出す。

「でも、司令官さんは、デグレチャフ少佐は士官学校を次席で卒業し軍大学もでてるって、あと、エースオブエースだとおっしゃてましたよ。あと、実戦経験実績も豊富だとか」

鳩森美羽の答えに、アデル・ガーランドは顔を手で押さえて言い放つ。

「待てよ、十二歳ってさっきいったじゃねえか。十二歳の子供が士官学校も出て、軍大学も卒業、あまつさえ実戦経験ありって、一体、何歳で軍に入ったんだよそのデグなんとか少佐ちゅーのは」

「信じないぞ、美羽。俺っち、いままで美羽は嘘をつかないと思ってたのに。」

茜も続けて反論する。

そこへ、元新聞記者のフィオナ・ウェストバリーが顔を出す。

「面白そうな話をしているじゃない。新しく入ってくる少佐様とやらの話の様ね。今日来たんだ。どんな子なの。すごい戦力になるって聞いているのだけど」

「聞いてくれよフィオナ、そのデグなんとか少佐っていうのは、十二歳なんだとよ。軍大学卒で実戦経験豊富なエリート様らしいぜ。なあ、美羽」

アデル・ガーランドが真っ先に答える。

「ええ、司令官室にお連れしたのはわたしだったんですが、本当に将校っていう感じだったんです。でも、茜さんより小さいんですよ。」

「俺っちを比較対象にするな!」

鳩森美羽の返事に、赤尾茜が突っかかる。

「ふーん、気になりますわねその少佐。その方はまだ司令官室かしら?ちょっと、見てきますわ」

フィオナ・ウェストバリーはそういって司令官室の方へかけていった。

 

>>>同時刻 極東基地内司令官室<<<

 

「藤堂大佐殿、防諜術式展開しました。」

演算宝珠が光る。

「デグレチャフ少佐、了解した。」

藤堂大佐としては、実際、防諜術式がかかっているか確かめる術はない。でも、信頼している。あのデグレチャフ少佐だ。いま、彼女は絶対に情報を必要としている。そして、出来なければ出来ないとはっきりというだろう。値踏みされるということに慣れていないとは言え、自分は司令官という立場なのだ。その立場にふさわしい姿勢を虚勢でもいいから取り続け、彼女を手に入れなくてはならない。そうでなくては、自分も破滅するのだ。

 

「藤堂大佐殿、すべてお話しいただけますか?」

金髪碧眼で容姿が整いまさに西洋人形といった顔とそれに似つかわしくない鋭い目がこちらを見る。これこそ、見た目幼女ながら大隊を率いた強者だ。幼女の皮をかぶったバケモノとかのレルゲン大佐が評したのも今なら共感できる。

「小官の疑問にお答えいただきたい、藤堂大佐殿。まず、本基地がおかれている戦況、本基地の戦力、大隊長としての職務これらを教えてもらいたい。残念ながら、伝達に不備があったのか、どこかのまぬけな伝令将校が忘れたのか知らないが、小官は一切情報を得ていない。」

ターニャとしては聞きたいことは多いが、常識的な質問から開始する。存在Xの姿こそ見ていないが、間違いなく今までいた世界とは異なる、ましてや、日本だなどと言っていても、前世の世界とも異なることは確実だ。

だが、最初からここは異世界ですかなどという質問をするのは馬鹿のすることだ。帝国に転生して十二年、ダキア首都兵器工廠の誘爆を見た際につい「たまやー」と叫んだ以外あちらでも転生者であるなどというそぶりは見せたことはない。

「デグレチャフ少佐、戦況だの当基地の戦力だの職務などはおいおい説明しよう。聞きたいのはそれではあるまい。先程私は防諜術式展開展開を命じた。それらも重要だが、わざわざ防諜術式を展開する必要はあるまい。本当に聞きたいことを質問したまえ。遠慮はいらんすべて答える」

 

藤堂大佐は間違いなく知っている、ターニャは確信した。

「すべてを語っていただけるとは気前の良いことですな、小官がそれほど必要で?」

「必要だ。本物の大隊指揮官である貴官がいなければ遠からず破滅する。私と貴官は同じ境遇者として協力していく他、ここで生き残る道はない。」

藤堂大佐は自分の手を固く握りしめ言った。

「同じ境遇者?それはどういう意味ですか藤堂大佐。」

ターニャは身構える。目の前の人物が次に告げる言葉がこわい。

「異なる世界からの転生者ということだよ。元人事課長殿。」

 

そこから、藤堂大佐とやらは、この世界とこの私ターニャ・フォン・デグレチャフについて知っているということを語った。なんとこの世界はゲームの世界だという。そして、私は累計二百万部以上売れアニメ化までした小説の主人公だというのだ。そして、最後にこう言った。

「私も元々日本のサラリーマンだ。残念なことにあなたほど優秀な人材ではなかったけどね。このゲームをプレイしている最中に気を失って気が付いたらここで司令官をやっている。感覚的に二日ほど前のことだ。」

「はっ、私が小説の主人公!もとからフィクションの存在だと!貴様はそういうのか、貴様も存在Xの手先か何かか。」

ターニャは激昂し、思わず目の前の男に魔導刀を突きつける。

「落ち着いてほしいデグレチャフ少佐。君は先程珈琲を飲みケーキを食べただろう。味はしたかな?香りは?食感は?きちんと感じただろう。」

そういわれて見れば珈琲もケーキにも味も香りもあった。

「少し冷めてしまったが、おかわりでもどうかな。」

藤堂大佐はターニャのコーヒーカップに珈琲を注ぐ。再度、口をつけてみれば確かに冷めてはいるがコーヒーに違いない。ターニャは飲み干してしまう。

 

藤堂大佐は立ち上がって言う。

「デグレチャフ少佐。現実主義者であるあなたが小説の主人公などというふざけたことを受け入れられないのはよくわかる。でも、それは私の世界における事実で、あなたの世界の事実ではない。そして今だ。さっき私はこの世界がゲームの世界といったがどうだ。君も私も非現実のアニメキャラクターに見えるかな。見えないだろう。さっきの補佐官も、基地にいる操縦士の少女たちも産毛の一本一本まで見えるし、呼吸も体温だってある。当然、お腹も空くし眠くもなる。我々にとって今時点での現実とはこれなのだ。わかってほしい。そして、助けてほしい。」

そして頭を下げた。

「取り乱して申し訳ない。謝罪させていただきます。あと、藤堂大佐とお呼びすればよろしいでしょうか、それとも、元の世界の名前を憶えておいででしたら、そちらの名前でお呼びしましょうか。」

ターニャは落ち着きを取り戻し、謝罪する。

「気遣いは無用だ。こちらでの立場に慣れねばならない。こんな私ではあるが今後も司令官か藤堂大佐と呼んでもらいたい。あと、こちらはこの世界の情勢に関する資料だ。司令官の権限で取り寄せたものだからこちらの世界のものだ。一部機密指定のものもあるが、貴官なら適切に管理できるだろう。」

藤堂大佐は資料の入った厚みのある封筒をターニャに渡した。

 

「ありがとうございます。確かに協力していかなくては生きていけないようですね。航空大隊大隊長を引き受けましょう。」

「引き受けてくれるかありがとう。では、今後ともよろしく頼む。いま、案内を呼ぶから宿舎の方へいって休んでくれたまえ」

「ありがとうございます」

互いでお気遣い敬礼を交わした。

 




追伸:
デグレチャフ少佐も編隊少女の操縦士たちもみんな設定された声優さんの声をしていると思ってください。
悠木碧ボイスのリアルな金髪碧眼のデグレチャフ少佐、さぞ美幼女?なのでしょうね。中身おっさんですけど。


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第5話:存在Xの祝福

ついに存在Xのご登場です。
理不尽な転生をデグさんに与えた存在X、今回はどんな嫌がらせをするのでしょうか。


>>>西暦一九四二年六月二十日一〇〇〇時 極東基地司令官室前廊下<<<

 

フィオナ・ウェストバリーは元新聞記者だった。フーファイターの正体が知りたいとFF適性試験を受け晴れて操縦士となり、この基地に配属されている。情報は足で稼ぐものだ。ジャーナリストの経験を活かし基地内の情報にも通じている。

 

操縦士が着任すると聞けば、伝手を頼り、情報を収集し、着任前にはどういう子が来るのか把握している。

しかし、今日着任したというターニャ・フォン・デグレチャフについては、ほとんどわからない。フォンが付いているからドイツ貴族なのだろうが、名前も苗字もロシア系のそれ、どこの軍に所属しているのかもよくわからない。トップエースというが戦績が一切確認できない。わからない尽くしの子、しかも、操縦士ではないとも聞く今までになく正体不明な子なのだ。意を決して司令官室に近づく、あまり行儀のいいことではないし、司令官室の盗み聞きなんてスパイ行為に近い行動はいけないことだと知っている、でも、ジャーナリスト魂がその躊躇を振り切る。

 

しかし、司令官室に近づいていつもと違うことに気が付く。今日は音が全く漏れてきていない。どうしても、FF適性を有するのが若い女性である以上、女性特有の挨拶は結構漏れ聞こえる。この挨拶だけでも新任操縦士の性格は掴める重要な情報だというのに、もう、退出してしまったのだろうか。

「ああ、もう気になってしかたがない。何者なのよ。新人少佐さんは。」

フィオナが残念がって戻ろうとすると、司令官室の扉が開き一人の金髪の小さな少女が出てくる。身に纏っているモスグリーンの軍服も目深に被った軍帽も、男性用と変わらない変哲のない軍装、いろいろ着飾った服装を着用することが多い操縦士にあっては地味そのもの。首元にある赤い大きな珠をはめ込んだペンダントと銀地に青の徽章だけが飾りといえば飾りだ。きびきびとした動きは正に模範的な軍人そのもの。幼女とでもいうべき姿にかかわらず少佐という肩書がしっくり違和感がない。

宿舎へ案内するのだろう一戸瀬補佐官と一緒にデグレチャフ少佐が向こうへ歩いていく。もう少し良く見ようとしたとき、フィオナ・ウェストバリーは見てしまった。それは獲物を見つけ今まさに狩ろうかとする獰猛な笑みを浮かべるバケモノの横顔であった。

 

>>>同日一一〇〇時 基地内宿舎<<<

 

一戸瀬補佐官に案内され自分にあてがわれた個室に落ち着いたターニャは、ベットの上に転がって先程受け取った資料を読んでいた。

藤堂司令官は、昼食までゆっくり休んでいてほしいと言ってくれたし、いままでの帝国での戦闘に次ぐ戦闘を思えば清潔なシーツが敷かれたベットで横になれるというのは贅沢の極みだ。

今もしこの部屋の中を見ることができる者がいたら、もらったチョコレートを食べながら寝っ転がって書類を読むデグレチャフ少佐という珍しいものを見ることができただろう。

 

「チョビ髭の伍長もスタ公もフーファイターの襲撃で死んでしまっているのか。モスクワ襲撃?自分も参加してみたかったな。共産主義の牙城をコテンパンに叩きのめし、革命指導者の銅像や廟を破壊する。全資本主義者の夢の光景じゃないか。羨ましい。まあ、こいつらがいなくならないと一致団結して戦うなんで無理だろうがな。」

 

読み終えた資料を横に置き、仰向けになって今までを思い起こす。考えてみれば、帝国は自分が強行しようとしたブレスト軍港強襲が出来ずド・ルーゴ将軍を南方大陸に逃してしまった時点で勝利を逃したのだ。あとは、自由共和国な度という御大層なものが作られ、拡大していく戦線に国力は疲弊、第二次世界大戦よろしく合州国からの膨大なレンドリースによる物量戦、兵士が畑でとれる連邦の参戦で優先むなしく崩壊するのだろう。

 

最初は変な世界に迷い込んだと考えたが、考えようによっては悪くない。いかに正体不明なフーファイターとやらが世界中を攻撃しているといっても、この基地を見る限りまだ余裕がある。晴れ時々砲弾日和なライン戦線などと比べたらリゾート地といって差し支えない。それに大隊長だといっても戦闘機に乗れない自分が戦闘に参加することはない。いかに自分で飛べるとはいえエレニウム95式を最大限起動させても15000、あのシューゲル博士の言った18000など瞬間ならいけるかもしれないが持続して航行するなど自殺行為、ノルデンでは鈍重な爆撃機だから相手にできたのであって、速度が500も600も出るような戦闘機と編隊を組んで出撃などできるわけもない。

そう考えれば、出撃してもよくて観測任務、場合によっては基地からの戦闘指揮、いままで渇望していた後方勤務というべき任務ではないか。悪くない、泥船となりかけている帝国から安全な後方勤務、本物の珈琲を飲みデスクワークにいそしめるのだろうと思うと思わず笑いが出てくる。

まあ、二〇三大隊の諸君には悪いが私は平和主義者なのだ。ヴァイス大尉も十分に大隊を指揮できる能力もあるし戦争大好きな彼らのことだ私がいなくなっても十全の能力を発揮してくれることだろう。

そう考えていた時、ターニャにあのいやな感覚が襲う。呪わしい存在Xのご訪問だ。くそったれ。

 

「まったく逃げていく勝利、逆境、苦難、普通の人間なら神にすがろうと信仰心をはぐくむ好機を与えてやっても一向に信仰心が芽生えない救いようのない奴め。信仰にさえ芽生えれば祝福された未来が待っているというのに、無理をする必要はないのだぞ」

声のする方を見れば机においてあるアンティークドールが立ち上がりしゃべりだす。

 

「ああ、また貴様か存在X。今度はアンティークドールでご登場とは随分と可愛くなられたもので、ひょっとして幼女化はご自分の趣味でありましたか?人の趣味にはケチをつける気はありませんが、他人に押し付けるのはやめてもらいたいものですね。」

せっかく久々にゆっくりできているところを邪魔されたターニャは毒舌を吐く。存在Xに対してなら小一時間でも罵詈雑言を並べる自信はある。

 

「貴様のような合理主義者や現実主義者とかいう不信心者には、血で血を洗う戦争では追い詰められないのだな。むしろ生き生きとしていたではないか。でも、知っただろう。所詮貴様が小説の主人公でしかないと知った気分はどうだ。現実主義者と思っていた自分が架空の存在だと知った気分は」

存在Xは、分厚い本を数冊目の前に顕現させる。それには軍服を着た幼女が表紙に印刷され表題にははっきりと『幼女戦記』と記されている。

見てみるがいいといって投げられ思わず手に取った本を斜め読みすれば確かに今までの自分の行動が書いてある。

 

「で、このようなものを見せてなんだというのか。紙の上の存在に過ぎなかったいって悔悟するとでも、私は私だ。自分を支配できるのは自分だけだ。自分で考え自分で判断して行動するから人間だ。操られる人形になるなどご免被る。ああ、そうか。いつも人形で現れるから不思議に思っていましたが、所詮、創造主など名乗っても人形に過ぎない紛い物という暗喩ということですか、不用品は不用品らしくごみ箱にでも入っていればいい」

ターニャは、以前のくるみ割り人形と同じく手では払うと、アンティークドールは砕け散る。

 

「ふん、私から信仰心などというものを得たかったら、ドラッカーの本でも読んで顧客というものの考え方を学んだ方がいいでしょうな」

ターニャは転がったアンティークドールの頭を踏みつぶそうとしたとき、その目が動き、こういった。

「まあよい不信心者め。再び恩寵をくれてやる。少しは私の慈愛というものを感じ取るのだな」

そう言い捨てられたのち、不快なあの感覚が消える。振り返れば、先程のアンティークドールは無傷のまま元の場所にもどっていた。

 

「この事態も存在Xの仕業か。呪われているな自分は」

ターニャがひとり呟いた時、扉がノックされる。

「少佐殿はいらっしゃいますか、デグレチャフ少佐殿、入室を許可願います」

ああ、さっきの鳩森少尉だな。セレブリャコーフ少尉と同じ声で紛らわしい。司令官との昼食ミーティングの呼び出しだろうと、扉をあけた。

 




最初からくるみ割り人形がおいてあればデグさんは警戒するでしょう。
ということで、存在Xの憑代を変えております。
人形の形は編隊少女で好感度をあげるためのプレゼント一覧にある人形と思ってください。

あと、司令官はデグレチャフ少佐からの好感度を上げるためさり気にチョコレートを渡しています。


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第6話:新装備と共に

デグさんとペアいうべきセレブリャコーフ少尉登場です。
戦闘機と編隊するための新装備をもってきてもらいました。


>>>西暦一九四二年六月二十日一四〇〇時 極東基地格納庫内<<<

 

「なんだこれは。」

どうしてこうなった。ターニャは、机の上におかれた装備の前に呆然とする。見た目は今までとほぼ変わらないが存在Xとあった後では嫌な予感しかしない。

「少佐殿。帝国技術廠より新たに配備されたエレニウム工廠の新式魔導具であります。エレニウム95式と併用した場合、出力は従来に比べ50%増加、また術式処理の効率化により魔力消費量は30%軽減、さらに常時酸素生成と耐冷術式を演算宝珠の補助なく発動可能。これにより少佐殿であれば高度18000、速度550でも戦闘行動が可能になるとのことであります。」

セレブリャコーフ少尉が説明する。

「少尉、理論と実際は異なるということを知っているのだろうな。エレニウム工廠には良い思い出がない。信頼できる装備なのだろうな。」

あのエレニウム工廠製?MADなシューゲル博士が作ったものなど信頼ができるかと、ターニャはセレブリャコーフ少尉をにらむ。

「ご、ご安心ください少佐。V-1偵察機飛行試験に耐えた選抜中隊の隊員により、エレニウム95式と併用を想定して97式を2個同時発動を行った実地試験を行っております。試験の詳細はこのレポートにまとめられております。ご確認ください。」

「少尉、これはもう1部あるかな。藤堂司令官殿にもお見せしろ。」

「藤堂司令官殿失礼しました。こちらをどうぞ」

 

あれは1時間ほど前、入室許可を求められて入ってきたのは、鳩森少尉ではなく、自分の副官のヴィクトリーヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉、彼女がいつもの笑顔で立っていた。そして、彼女がこの装備をドイツ本国から彼女自身を引き続き私の副官とする辞令とともに持ち込んできたのだ。

 

「すごいなこれは、この装備があれば戦闘機との編隊も可能ということか。この戦闘機との模擬訓練の結果は火力こそ劣るが機動性で十分に戦闘能力を補えることを示している」

藤堂司令官が資料を見入っている。まずい、こんなものを持ち込まれたら再び最前線勤務。戦闘機とお空の散歩し、フーファイターと鬼ごっこ、冗談ではない。

 

「司令官殿、ここに示されているのはあくまでも模擬訓練の結果、実際のところエレニウム95式を発動しての運用は行っておりません。二核同調の97式での結果であり、実際運用するとなると相当期間の訓練が必要となるでしょう。現下、恒常的な敵襲がある以上、十分な訓練時間がとれるとも思いませんが。」

ターニャはどうにかして実戦回避を模索するが、セレブリャコーフ少尉の発言はそれが困難であるという。

 

「少佐殿、参謀本部からの命令には、積極的な運用と実戦データの収集が含まれています。現在の少佐のお立場を考えますと、消極的運用は良い結果をもたらさないかと・・・」

「立場、何のことだ少尉?」

なぜ、これを使わないと立場が悪くなる。このセレブリャコーフ少尉は私の知っているセレブリャコーフ少尉なのか?彼女の言うデグレチャフ少佐というのは本当に私のことなのか。これは絶対に存在Xの仕業に相違ないと思いつつ確認する。

 

「はい、何と言いますか、少佐殿は金髪碧眼でありますよね。昨年のフーファイターの欧州襲撃でニュルンベルクが爆撃され総統をはじめとするナチ党高官が死亡し、親衛隊が壊滅的被害を被ってナチ党政権が崩壊しましたよね。このことは国防軍の一員である私たちにとって清々したというのが正直なところですが、少佐の場合、2年前銀翼突激章を授与された際、アーリア人の優位性を示すとかなんとかプロパガンダに引っ張りまわされたでしょう。あれが今になって問題になってしまっているのです。」

「まさか、私がナチのシンパだとでも言われているか」

冗談ではない私は自由主義者で平和主義者だ。ファシストと思われるのは不愉快極まりない。

 

「当然、ベルリンの参謀本部におられるゼートゥーア少将やルーデルドルフ少将は少佐がそうでないことをご存知です。しかし、あまりお会いしたことのない軍高官の方は少佐の年齢もあり、今までの功績をプロパガンダのためのものだと思っていらっしゃる方が多いようでして、一旦は予備役編入の形で軍から追放するという話もあったとか」

それでは、不名誉除隊に近いではないか、せっかく積み上げてきたキャリアを無に帰されたら、孤児である自分は明日の生活もままならないだろう。ターニャは不快になる。

「幸いにも、少佐はFF適性試験で最も高いS級適正が確認されたことと、人事局のレルゲン大佐が少佐の予備役編入を強く反対されたことで、こうして極東基地に出向しフーファイター殲滅の任につくということで決着がついたときいております。ちなみに私の副官としての派遣は少佐殿への恩情だとか」

どうやら私もここにいるセレブリャコーフ少尉もドイツ軍人らしい。会話を聞く限りでは、こちらのドイツにも帝国でのお知り合いと同じような人物がいるようだ。きっと会えば、目の前のセレブリャコーフ少尉と同じくそっくりな人物が出てくるのだろう。

 

だが、状況は最悪だ。要は私はこの謎な装備を使用して、戦闘機と編隊して戦わなくてはならないらしい。そうでなければ、軍を追われ身寄りのない12歳の孤児になってしまうということか。選択肢はなきに等しい。さっき存在Xが言い捨てたくれてやる恩寵とはこれのことか、素晴らしい兵器をやるから戦争をもっと知れということか。くそったれの存在Xめ。今度会ったら、絶対にライフルで銃殺してやる。

 

 

 




時間がなくて装備の詳細は書けませんでした。その件は明日のお楽しみに。


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第7話:模擬戦闘進発

幼女戦記コラボ&AFFイベント正式開始に伴い途中ですが、キリのいいところで投稿します。闇属性5☆、手に入れれるでしょうか?


>>>西暦一九四二年六月二十日一四三〇時 極東基地滑走路<<<

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐、進発する」

 

編隊訓練を行うため先に飛び立った鳩森機、鷹登機、吹雪機に次いでターニャは空へと駆け上がる。

使用したのはエレニウム九七式だ。精神汚染の恐れのある九五式を最初から使うのはご免被る。模擬戦闘が始まってからでよいだろう。しかし、いかに航空魔導士とは言え人間、「飛燕」や「隼」といった戦闘機と編隊を組まされるとどういうことだろう。

 

「スゲーな、本当に飛んで行っちまいやがったぜ。しかし司令官、本当に飛ぶだけじゃなくて戦闘もできるのか。アタシには信じられねーぜ」

アデル・ガーランドが急速上昇していくデグレチャフ少佐を見ながら驚きの声を上げる。

「私たちもすぐに飛び立ちませんと。」

横でアデルと対照的に真面目そうなグンヒルド・リュッツオーが声をかける。

「ガーランド少尉、リュッツオー軍曹。メッサーシュミット Bf109Kに搭乗し、4人と模擬戦闘を実施せよ。特に、デグレチャフ少佐は歴戦の勇士だ。誉れ高き銀翼突撃章保持者だ。敵から悪魔と恐れられたエース・オブ・エースだ。優秀なエースパイロットが乗った新鋭の戦闘機と対峙する気でいかなければ撃墜スコアをつけられるのは、君たちだ。心してかかれよ。」

藤堂司令官は二人のドイツ人少女操縦士に檄を飛ばす。

 

「司令官、わかってるてーの。じゃ、いってくるぜ」

「司令官、いってまいります」

二人が滑走路をかけていく。

 

「本当にいたのであるな。航空魔導士というのが。ゲーリングが空軍を牛耳っていた時に、対空砲部隊をとられた陸軍が意趣返しに航空機が絡まない航空部隊として設立させたという噂は聞いていたが。本当に人が空を飛ぶとは」

 

司令官の横にいた最先任小隊長であり作戦参謀を兼ねるエミリア・ユンカース大尉がつぶやきに、それを聞いた藤堂司令官は尋ねる。

「ほう、ユンカース大尉、君は航空魔導士というものを知っていたのか」

「噂レベルの話である。でも、デグレチャフ少佐のことなら聞いたことがあるのである。訓練校時代に士官学校出身者から聞いた『戦場よりもデグレチャフ一号生殿が怖い』というたぐいの話だが、本当にたまには噂にも真実があるのだな」

エミリアが固い表情のまま答える。

「真実が戦場の噂を上回ることもある。ユンカース大尉、模擬戦闘の評価をお願いするよ。セレブリャコーフ少尉、航空魔導士のことについて我々はよくわかっていない適宜説明をお願いするよ」

「はい、わかりました。司令官殿。」

「しかし、本当に飛べても生身で戦闘ができるのか?」

 

 

さて、航空魔導士の戦闘能力はこちらではどんなものだろうか?エミリア・ユンカース大尉とセレブリャコーフ少尉とともに遥か上空へと上昇していくデグレチャフ少佐を見上げていた。

 

 

 



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第8話:模擬戦闘2

デグさんが戦闘機と編隊を組みます。


>>>西暦一九四二年六月二十日一四五〇時 極東基地上空<<<

 

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は小回りと制空力、打撃力を生かす攻撃ヘリのような運用こそ魔導士の最適な運用と考えている。

 いかに魔導士同士で空対空戦闘を行っているとはいえ、実際の戦闘高度は四千とか六千、自分の指揮する二〇三航空魔導大隊以外で高度一万越えで戦闘を行える部隊などいない。そもそも二万という高度で戦闘を繰り広げることもある戦闘機との編隊などということを航空魔導士は想定していないのだ。

 それゆえ、訓練開始までターニャは高度一万までの上昇力こそ戦闘機に匹敵しても、それ以上の高度で隊形を組んだり戦闘を行えないだろうと考えていたし、こちらの世界で提供された新型魔導具でも無理と思っていた。 

 しかし、実際に空に上がってみたら最初こそ制御に戸惑ったものの、すぐに慣れる。特に演算宝珠の助けなしに魔道具側で常時酸素生成と耐冷術式を発動するという今までいた世界になかった機能は、防殻膜強化にリソースを回すことができる優れもので、高度一五〇〇〇でも行動が可能であった。

「この新型魔導具は確かに優秀だ。酸素生成の精製式や耐冷にリソースをとられない分防殻術式に対する魔力負担がが今までと全然違う。だが、エレニウム九七式のみでは単調な機動はとれでも、乱数回避起動や戦闘は九五式の起動が必要となりそうだな」

空を飛びつつターニャは思った。高高度の戦闘は戦闘機で行えばいいのだ。いくら防殻術式とかでいけるからといって生身の人間が、それも幼女と言って差支えのない体でおこなうものではない。

 

「しかし、本当に人間があんな装置だけで飛行できるのですね。」

 

 先程、司令官から突然編隊訓を行うと告げられた鳩森少尉が、鷹登まつり少尉、吹雪 舞弥准尉とともに滑走路に到着してみれば、そこにいたのは、今朝、司令官室への案内したデグレチャフ少佐、飛行服らしい服装をしているが、戦闘機に乗るにしてはおかしなものがいくつか目に入る。

 まず目に入るのが腰元に装着された大きなバック、右足にはまるで金属鎧のようなブーツを装着、なぜか大きなバックと金属ブーツはホースで接続されていた。加えて、短機関銃まで肩にかけている。

 事態をつかめていない私達に司令官がいった言葉をすぐには理解できなかったのは無理もないこと、司令官はこういったのだから「いまより三人はデグレチャフ少佐と編隊訓練を行う。なお、少佐は航空魔導士であるのでこのまま飛行する。訓練の詳細はユンカース大尉が説明する。」と、そして今、少し離れてしまったが、本当にデグレチャフ少佐は戦闘機並の速度で飛んでいるのだから。

 

「すごいね、美羽ちゃん。あんな子が本当にお空をとべるなんて、驚きだよ。ららら~ん♪」

「信じられないのであります。鳩森小隊長」

 

 無線越しにまつりちゃんと舞弥ちゃんの声が入ってくる。二人ともまだ驚いているようだ。二人と違って今朝司令官室に案内し、司令官さんからエースオフエースだの軍大学出のエリートだの言われても西洋のお人形さんみたいな金髪碧眼の小さな少女、意思の強そうというか鋭い目つきがそうでないことを示している少佐さんと戦闘機を駆って大空を飛んでいるなんて昨日まで想像すらしなかったのだから。

 

「鳩森小隊長、遅れて申し訳ない。そろそろ所定ポイントだな。編隊指揮をお願いする。」

いつのまにか横に飛んできたデグレチャフ少佐から無線が入る。新型魔導具での初飛行で慣れるのに手間取った申し訳ないとも言っていた。

「はい、デグレチャフ少佐。司令官の指示通り一四三〇よりアブレスト、アローヘッド、スカイノービスの順に陣形を編成、一連の動きを評価し問題が生じなければ、あとから合流するガーランド小隊と模擬交戦をおこないます。」

 

「高度一万五千、アブレスト隊形とります。」

無線で鳩森少尉が訓練開始を報告する。

 地上では、藤堂司令官とエミリア・ユンカース大尉、セレブリャコーフ少尉が各種測定器と無線機を前に、デグレチャフ少佐と三人の操縦士との編隊訓練を確認している。

 実際、エミリアは航空魔導士という存在を先ほどまで疑っていた。ドイツ本国にいたときに映画館でその活躍を記録したという映画も見たが、優秀なドイツ民族というプロパガンダにまみれた内容であったし、画面にこのような少女ですら勇猛な帝国の先兵となりえるのだという風に可憐に着飾ったぎこちない表情の幼女が出てきたときにはあきれたものだ。FF耐性を有するのが圧倒的に女性ということで自分を含め少女達が大空を駆け戦闘していようと、デグレチャフ少佐という妙に軍人然した幼女といって差支えのない小さな少女を司令官が真面目な表情で紹介しても信じることはできなかったのだ。

 

 だが、現実はどうだ。いま、計測器に示される測定結果、鳩森少尉からの報告、一三〇センチあるかないかの少女が全幅一〇メートルを優に超す戦闘機と見事な編隊を組んで空を飛んでいる現実、最初こそ、乱れや遅れが見られたが、すぐに修正して見せている。今ここに立ち会っていなければどうやっても信じれなかったことだろう。

 

「やはり少佐殿はお見事です。戦闘機とも編隊行動がとれるなんて見事です。」

 デグレチャフ少佐の副官だというセレブリャコーフ少尉が尊敬を込めたような表情で見ている。彼女も航空魔導士だそうだ。

「編隊行動に問題なし、むしろ、生身で飛び小回りがきくデグレチャフ少佐であれば回避力は並の戦闘機の比ではないだろう。」

藤堂司令官は測定結果を見てうなずく。そして、無線で呼びかける

「デグレチャフ少佐、鳩森小隊長、私は一連の編隊行動から戦闘行動可能と判断した。引き続き、模擬戦闘訓練に移行してもらいたいが、問題はないか?」

「問題ない。」「はい、準備はできています」

二人から返答がある。

「今より一八〇秒後、ガーランド少尉、リュッツオー軍曹が搭乗したメッサーシュミット Bf109Kがそちらに到達する。なお、攻撃はデグレチャフ少佐のみが行い、鳩森、鷹登、吹雪の三人は援護に徹せよ。」

「了解した。航空魔導士というものの実力をお見せしましょう。」

藤堂司令官の指令にデグレチャフ少佐は平然と応答する。

「司令官、本当に問題ないのか?確かに編隊行動は戦闘機と遜色はなかったが、武装が違いすぎるであろう。」

エミリアは驚く。メッサーシュミット Bf109Kは機首上面に一三mm機関銃、モーターカノンと両翼に三〇mm機関砲を備える重武装を備えている。かたやデグレチャフ少佐が担いでいた短機関銃は七・六五ミリ勝負にならないはずだ。

「問題ない。単機で爆撃機の編隊を撃墜したこともある。」

「少佐殿なら問題ないですわ」

藤堂司令官もセレブリャコーフ少尉も平然と答える。何がそこまで二人が信用させるのだろうか。

「百聞は一見に如かずだ。よく見ておけよ。エミリア・フォン・ユンカース大尉」

 




デグさん「ところで、作者、君は私を迎え入れることはできたのだろうか?」
作者「はい、いいえ、少佐殿。まだであります」
デグさん「私をこの世界の呼んでおいてまだ入手していない?怠慢だと思うのだが、私に対する執念が足りないのではないかね?」
作者「はい、いいえ、兵站の問題であります。」
デグさん「課金は食事と一緒というだろう。一回居酒屋に行かなければいいだけだろう。貴官ならできるはずだ」
作者「はい、今日も10連ガチャ挑戦します…」

追伸:
書いていたら、最初と最後のデグさんの動きに矛盾がでてました。
当初冒頭ではデグさんは途中で若干遅れ戦闘機との戦闘は困難と愚痴る内容でしたが、出来ないと思っていたが新型魔導具(本作オリジナル)のおかげで飛べるようにてしまったという内容に変更しております。
なお、攻撃ヘリ云々は原作からの引用です。

メッサーシュミット Bf109Kの装備を、最終型のK-14に準拠


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第9話:模擬戦闘3

遅くなりました。


 大空には、小さな幼女とさえいうべき航空魔導士の自分と全長十メートルを超える戦闘機三機の編隊があった。

 ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、最初のうちこそ制御に苦労したものの、すぐに当初の予想に反して比較的順調に編隊行動が行えていることに自らのことながら感心していた。

 そして、実際の飛行を見て分かったが少女たちの操縦技能はベテランのそれといっていい見事なものであった。現実離れしているなと思い、ああそういえば元はゲームの世界だったかと余計な考えすら行える余裕がある。

 そういえばこの世界に来て渡された新型魔道具について、こちらのセレブリャコーフ少尉はシューゲル博士の開発だと言っていたが、やはり異世界だ、きっとMADでない有能な博士なのだろう。元の世界に帰ることになるのならついでに交換したいものだ。

 

 ターニャはそのようなことを考えられるぐらい機嫌が良かった。地上から無線で藤堂司令官が訓練継続が可能か確認してきたとき、順調といって差し支えない状況とこちらの世界の戦闘能力も知りたいという思いから、無論可能と回答する。

 当初は訓練でも呪い付きの九五式を使用することを覚悟していたターニャにとって、慣れれば九七式でも編隊行動が可能。実戦となれば使わざる得ないだろうが索敵や後方攪乱であれば九七式でも対応可能といううれしい誤算は大歓迎であった。まあ、戦闘に積極的に駆り出されることはないだろうが、自分の外見を考えれば少佐という肩書と司令官の後ろ盾だけで航空大隊大隊長など勤まらない。せいぜい実力があることを見せつけておこう。

 

「司令官、確認なんだけど、本当に撃っちまっていいんかい。模擬弾でも生身の人間に当たってしまったら即死だぜ。」

 

 模擬戦闘訓練開始準前に、無線越しにアデル・ガーランド少尉が確認してくる。極東基地で出撃数随一を誇る彼女でも、フーファイター以外との戦闘経験などない。

 考えてみれば空飛ぶ少女と戦闘経験があるほうがおかしいのだと藤堂司令官は思い直す。確かに、戦闘機で生身の人間を撃てば木端微塵になって即死する。だが、デグレチャフ少佐に対してなら問題はない。航空魔導士は一般的に防御に徹すれば防御膜で四〇㎜程度までは持ちこたえることができる筈だし、エレニウム九五式であれば八八㎜程度の対空高射砲を弾けるのだから問題ないだろう。

でも、まあ、もう一度言っておいた方がいいだろうと無線機をとり、アデル・ガーランド少尉とグンヒルド・リュッツオー軍曹に語り掛ける。

「問題ない。今の高度を確認は高度一五〇〇〇だ。そんなところに何の防御もなく生身の人間はおれないよ。航空魔導士というには防御膜というもので特殊な防御機能で保護されている。四〇㎜程度の砲撃なら防御可能、並の戦闘機の装甲と比較にすらならない。模擬弾ならダメージすらないだろう。訓練なのだ少佐に失礼のないよう遠慮せずに全力で撃て。」

「へえー、航空魔導士っていうのは、スゲーな。じゃっ、遠慮せず撃っちまおうか。グンヒルドも準備はいいな」

「はい、了解しました。」

ガーランド少尉、リュッツオー軍曹は無線でそう答えた。

 

 模擬戦闘訓練開始の合図とともに、ターニャに向けて正面から現れたメッサーシュミット Bf109K二機の機首上面から機銃が放たれる。ターニャはあえて防殻を強化し受け止めて見せる。七・九二㎜機関銃だと思っていたがどうも最終型で一三㎜機関銃であったことと、命中精度が予想以上に良かったことで模擬弾とはいえ威力は予想以上であった。

 しかし、思い起こせば航空機のと戦闘は北方ノルデンで経験がある、あの時は、鈍重な旧式爆撃機、今回は第二次大戦型の戦闘機、スピードも機動性も異なるがこちらの世界に来て渡された新型魔道具であれば九七式でも十分戦闘機とダンスが踊れる。こちらの世界でも航空魔導士というものがどういうものかご覧にいれでみせよう。

 

 

 一方、アデル・ガーランド少尉とグンヒルド・リュッツオー軍曹にとっても、全て弾かれたことに驚きを隠せなかった。

「おいおい、機銃の弾すべて弾いちまったぞ。航空魔導士の防殻ってのはすごいな」

「ガーランド少尉、引き続き撃ち続けますか?」

「いや、あいつは動いてさえいなかった。あの感じでは一三㎜じゃダメだ。今度は三十㎜機関砲で撃ち抜いてやる。グンヒルド、援護を頼む。」

「わかりました。えっ!、あれを!!」

「どうした、グンヒルド。あっ、あいつ突っ込んできやがる!」

 

 デグレチャフ少佐は、今度はこちらの攻撃とばかりに、二機に向かって急速接近する。迎撃のため撃たれてくる機銃は防殻と機動回避で全て避けてみせ二機の後方へ回る。

 そして、急旋回し一機に取り付き、ターニャは操縦席前に降り立ってみせる。中にいる驚いた顔をした淡い金髪の操縦士の少女に短機関銃を向け、ご挨拶をする。

「ごきげんよう。貴官は運がいい。今日は訓練だ。もし、これが訓練でなかったら撃墜されていたな。さて、もう一機にも挨拶行くか」

 ターニャはそう言い残すと、グンヒルド・リュッツオー機から飛び立ち、もう一機に突進する。

 

「なんなんだよあの機動は、戦闘機並の速度であの機動なんで冗談じゃないぜ。でも、これで燃えてきたってばよ。あの少佐に、アタシが撃墜判定を喰らわしてやる」

 アデル・ガーランドは、デグレチャフ少佐がいとも簡単に戦闘飛行中の僚機に降り立ったを見た驚きを闘志に変えるあ

 デグレチャフ少佐との距離は、彼女がグンヒルドの機体に飛び乗っていた間に丁度良い間合いとなっている。デグレチャフ少佐がグンヒルドの機体から離れた瞬間から銃撃を行う。

 

「あたれ、あたれ、あたれ~~~!」

 アデル・ガーランドが全力で機銃を撃ってきた。しかし、ターニャは巧みな乱数機動をとって掻い潜り、アデル・ガーランドの機体にも降り立った。

「うむ、以前爆撃機との戦闘経験は、戦闘機相手でも通用するようだ。これで二機撃墜といえるが、何か聞きたいことはあるかな貴官は?」

「アタシの負けだよ。でもよ少佐殿。起動や回避の能力は分かったけど。実際毎回こんな風な戦闘をする気か。その手持ちの短機関銃じゃどうやっても、接近戦でしか戦えないように見えるんだが?」

 アデル・ガーランドは、操縦席の風防ガラスの前に立つデグレチャフ少佐に無線越しで聞く。

「そうか、貴官らには単純に短機関銃にしか見えないのだったな。」

 デグレチャフ少佐は納得する。一応、こちらの世界にも航空魔導士いるらしいし、先程現れたこちらのセレブリャコーフ少尉も航空魔導士であった。しかし、列強各国に航空魔導士がいたあちらの世界と異なり藤堂司令官から渡された資料では、ドイツにわずか三個大隊のみが存在する幻のような存在、こちらの二〇三大隊というのはなんでも軍大学時代に私がゼートゥーア少将に航空魔導士の戦略的有用性を説いたことで設立された試験増強大隊らしい。見せた方が、早いであろう。

 

天井に向け、術式を放った。

 




おまけコント2

作者「少佐殿、なぜ、お出にならないのですか!」
デグさん「貴様、神になど祈ったのではないだろうな。存在Xにたよるなど許されないことだ。
作者「しておりません。」
デグさん「ならばよい。まあ、なんだ。私の撃墜姿など見る必要はないのだ。」
作者「え?」
デグさん「まあなんだ。私の戦闘中のあられもない姿なら東條チカ先生がコンプエースで描いてくれただろう。あれで我慢したまえ。おい、あれ、作者、どこへ行った。」


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第10話:フーファイター襲来

光学術式を打ち上げたら、フーファイターを呼び寄せてしまいました。
具体的な訓練の方式を指定しない司令官も悪いが、つい、調子に乗ってしまうデグさんも悪いのですよ。






天空へ抜ける一条の光、それは計測機器やセレブリャコーフ少尉の持つ演算宝珠の中継画像だけでなく地上からの見ることができた。

 

「あはっ、すごいなこれは。いやいや、驚きだ。」

 

 実のところ藤堂司令官がデグレチャフ少佐に編隊訓練を命じたのは、新型魔道具が届いたというのもあるが、本当に戦闘機と編隊を組めるのかということを確認しようと思っていたからであった。

 危惧していたのは、フィートではなくメートル単位での高度一万の空を飛ぶ戦闘機と編隊しての高高度での戦闘ができないのではないかということであった。転生前に読んでいた原作小説においてはデグレチャフ少佐は確かに高度一万を超えた空域での戦闘をしている記述はあるものの、あの小説での高度の単位はフィート、メートルに換算すれば高度一万で三千m強、エレニウム九五式に対してシューゲル技師が理論上確実と言っていた高度一万八千ですら五千五百mに過ぎないからだ。

 しかしながら、訓練でデグレチャフ少佐が見せた動きは、想定以上であった。訓練とはいえ、出撃数随一のアデル・ガーランド少尉をやすやすと手玉にとるあの姿、戦闘機に対してあの北方ノルデンで行ったとの同じく銃撃を掻い潜り戦闘機に降り立つ動き、こちらに転移する前に見たアニメや小説、コミカライズで何度も見たあの光景が目の前で繰り広げられた。司令官を演じることをひと時忘れ興奮してしまったのも無理はないだろう。

 横を見ると、エミリア・ユンカース大尉が、セレブリャコーフ少尉にしきりに、航空魔導士ついて質問しているのが確認できる。彼女もデグレチャフ少佐の凄さを素直に認めたようだ。

 

「セレブリャコーフ少尉、あれが最新型のエレニウム九五式を使用しての動きか?」

 藤堂司令官は興奮を抑えつつ確認した。原作での活動限界高度一万二千を超える高度一万五千での模擬戦闘、そしてあの機動、いかなデグレチャフ少佐とて九五式を使用したと思ったのだ。

 だが、セレブリャコーフ少尉は否定する。

「はい、いいえ、藤堂司令官殿。計測機器での反応を見ますと今回の訓練ではデグレチャフ少佐は九七式のみを起動しております。」

「九七式のみ? 先程の新型魔道具の説明からすると今の一連の動きは九五式でないと無理なように思えたが」

「はい、先程の資料はあくまでも二〇三大隊の隊員による試験運用データに基づいて算定された予測値です。少佐の魔力運用効率は私たちより格段に優れており、想定以上の能力を引き出したものかと。流石、私たちの大隊長です。」

 

「司令官、いかがであったかな」

無線からデグレチャフ少佐の声がした。あれだけの動きをした後だというに呼吸の乱れもない落ち着いた声だ。

「デグレチャフ少佐、素晴らしい、いや、本当に素晴らしい動きだ。新型魔道具の動作確認と戦闘機との編隊行動がとれるかの確認のつもりだったのだが、エレニウム九七式のみで二機相手に瞬く間に撃墜判定をとるとは見事なものだ。トップエース級のアデル・ガーランド少尉の機体にやすやすと降り立ってみせるとは、これで貴官の戦闘能力を疑うものはいないだろう。地上に戻り次第、本訓練を総括しよう。」

 ああ、まさにあのデグレチャフ少佐だ。小説を繰り返し読みコミックを揃えBDまで購入して魅入ったあのターニャ・フォン・デグレチャフ少佐の戦闘を画面越しでなく生でその目で見れた。今は司令官だということも忘れ、元の世界の一幼女戦記ファンに戻りそうになるのを抑えるのが精一杯だ。更に声をかけようとしたとき、研究棟の方から白衣の女性、Dr.エリノアがむかっていることに気が付いた。

 

「おいおい、司令官、吾輩をおいて随分楽しそうなことをしていたようじゃないか。面白い反応に興味を惹かれてね。で、先程の光の柱はなんだい。まさか今日到着するとかいうドイツの航空魔導士の仕業かね?」

いつもは研究室にこもっているDr.エリノアは、元は綺麗であっただろう銀髪を掻き上げながら聞いてきた。

 

「おや、Dr.エリノア。あなたが外に出てくるとは珍しい。今のは、今日着任したデグレチャフ少佐の光学術式だよ。おそらくだがその威力はどの戦闘機から放たれる火力よりも強力だろう。後で、今日のデータをそちらに渡そう。」

しかし、なぜかDr.エリノアは曇った表情まま、あきれたという口ぶりで言い放つ。

「藤堂司令官、いまさら言うことでもないと思うが、フーファイターは神出鬼没なのだよ。そして、昨今、出現頻度も増えている。そんな状況で先程の光学術式だっけ、派手なものを天上に向けた放ったらどうなると思うかね?」

Dr.エリノアの指摘はもっともだ。やはり、デグレチャフ少佐と会って浮ついていたようだ今後は気を付けようと思ったその時、基地に警報が鳴り響く。遅かったようだ。

 

「言わんことではないか司令官。呼び寄せてしまったようだね。今後新実験をするようなときは吾輩と相談したまえ。フーファイター研究の第一人者として、可能な限り隠蔽できるような環境を用意するよ。」

Dr.エリノアはそれだけ言うと、薬品で汚れた白衣を翻し研究棟の方へ戻っていた。

 

「司令官、大変なのである、かなり近い位置に出現している。北西方向より本基地に接近中四八〇遅くとも六〇〇以内には本基地上空に到達する見込みなのである」

 エミリア・ユンカース大尉が、状況を報告する。

 やむを得ないな、訓練直後であるが仕方がない。上空へ無線で呼びかけることとする。

「四八〇!今から発進させても間に合わないな。しかなたがない。デグレチャフ少佐、鳩森小隊長、鷹登少尉、吹雪准尉。フーファイターが出現した。北西方向より当基地に向かっている。直ちにこれを迎撃せよ。なお、ガーランド少尉、リュッツオー軍曹、両名の機体は訓練弾しか積んでのだったな。直ちに、帰投せよ」

 

これに対して、デグレチャフ少佐の声が無線から響き渡る。

 

「司令官殿、他の部隊で対応すべきでは。我々は訓練のための編成、連携などに問題があると言わざるをえませんが。」

「残念ながら出現位置が悪い。敵は最短で四八〇以内に基地上空に到達する。基地からの戦闘機を出撃させての迎撃は不可能、故に今から出撃しても回避は困難と判断する。可及的速やかに後援を送る。後援到着まで遅滞防御に努めて欲しい。」

 もっともな意見だが、今は無理だ。頑張ってもらうしかない。でも、リップサービスぐらいはしておこう。

「とはいえ、デグレチャフ少佐、貴官には後衛を頼む。鳩森小隊はこう見えても連携は本基地で一番といって差し支えない。実際の戦闘を観戦するつもりで十分だ」

 




おまけコント3:コラボイベントをデグさん

デグさん「なぜ、私がフランソワ共和国など救わねばならない。敵国だぞ、取り逃がしたド・ルーゴ将軍のいる国だぞ」
作者「いえ、フランソワではなく、フランスです。」
デグさん「貴様、私がこの世界に来たタイミングを知っているだろう。本編では南方に飛ばされたようだが、あちらでも、自由共和国と戦っているのだろう」
作者「あ、読まれたのですか存在Xから渡された小説。」
デグさん「ああ、やはり気になってな。後ろの歴史概略図を。でも、もう燃やしたぞ。不愉快だ」
作者(中身を読んで、すれ違いに気付いたかもな、この反応・・・)


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第11話:接敵

遅くなり申し訳ございません。更新しました。
編隊少女の方ではコラボ企画は終わってしまいましたが、こちらの作品は続きます。
最終話までよろしくお願いいたします。

追伸:
編隊少女でデグレチャフ少佐をゲットされた方おめでとうございます。残念ながらゲットできなかった方も引き続き幼女戦記をお願いいたします。


「観戦するつもりで十分か」

鳩森小隊の三機の後に付くように北東方向へ進路をとったターニャはつぶやく。いくらラインでノルデンで戦闘を重ねてきた自分でも来た早々に正体不明の敵と航空戦などごめんだ。本当なら、彼女たちにまかせてさっさと帰投したいが、こちらでの戦い方と今後の敵を特等席から観戦すると思えば悪くはない。

 

「デグレチャフ少佐、鳩森です。まもなく接敵します。後方で私達の戦いを見てて下さい。」

セレブリャコーフ少尉の声とよく似た鳩森少尉のからの無線が入る。

「了解した、鳩森少尉。交戦開始次第、一〇〇〇ほど距離をとる。では、貴官らの奮戦を期待する」

既にターニャの目には、北西方向から向かってくる三機の黒い戦闘機らしきものが見えている。航空魔導士とは何か違う感じはあるが魔力反応も感じる。そういえばフーファイターという敵は精神に干渉し狂乱状態を起こす感応波というものを出すとか資料に書かれていたなと思い起こす。

「少佐さん、見ててくださいね♪」

「デグレチャフ少佐殿、私達の戦闘しかと見ていてほしいのであります。」

 あとの二機からも無線が入る。先程一緒に編隊訓練をした鷹登少尉と吹雪准尉だろう。ターニャは彼女達にも型通りの返答をした。さて、彼女たちの戦闘を見せてもらおう。

 

 ターニャは砲撃観測手よろしく双眼鏡を取り出し、戦闘状況を確認していた。戦闘機と違い上空で静止できる航空魔導士というのはこういう時ありがたい。

「鳩森少尉たちの方が優勢というところだな。うむ、訓練の時もそうだったが、実戦でもあれだけの動きが取れるのか、うまく敵機の後ろをとっているし、編隊に乱れもない。だが、しかし、あれを回避するフィーファイターというのもなかなかの技量だな。んっ、魔導反応?」

 ターニャは魔導反応が敵であるフィーファイターからだけではなく、味方である鳩森小隊からも感じることに気が付いた。戦闘をよく観察すると、敵味方にかかわらずその反応が起こるたびに機銃からでは有り得ない様な火力が生じたり、行動に乱れが生じたりしている。なるほど、感応波とかいう精神に影響を与える波長に対する耐性だけで操縦士をやっているわけではないということだなと判断した。

 

「デグレチャフ少佐、我々が優勢のようだな。このままでは貴官の出る幕はなさそうだ」

藤堂司令官からの無線が入る。

「藤堂司令官殿、有難いことです。おかげさまで小官も特等席で空中戦を眺めていることができます。あっ、今、一機撃墜できたようですな。残りの二機も高度が低下、煙もでていることからもうすぐ全機撃墜できそうですな。」

「うむ、まあ、今回進入してきた敵はあまり強力ではないようだな。おそらく先程の光学術式に反応した偵察か何かだろう。このまま進めばちょっと遅いがティータイムを兼ねた訓練検証会ができそうだな。」

「藤堂司令官殿、了解した。ああそういえば、先程の着任挨拶の時出された珈琲の豆は残っていますかな。副官のセレブリャコーフ少尉はこう見えてバリスタ並みの技量を持っているのですよ。よろしければいかがですか。」

 

 ターニャは今日一日が存外順調であることで機嫌を良くしていた。存在Xが現れたときはまたくそったれな展開が訪れるかと思っていたが、その後は順調そのもの、新型魔道具の到着のせいで昼食はあわただしくなったが、その新型自体はシューゲル博士が関わったとはとても思えない優秀なもの、検証を兼ねての訓練すぐの戦闘とはけしからんと思ったものの、実際は観測手よろしくお空で高みの見物、これが終われば珈琲にお菓子まで待っているというのだから素晴らしいの一言に尽きる。ひょっとして十年かけても理不尽さが治らなかった存在Xも少しは市場原理というものを学んだのかもれないとさえ思えてしまう。

 

「セレブリャコーフ少尉、司令官の指示に従って訓練検証会の準備をしまたえ。」

そうセレブリャコーフ少尉に指示したとき、無線が入る。

「デグレチャフ少佐、南東方向に機影。接近してきます!」

 準備の回答が接敵?一瞬混乱しかけたが、セレブリャコーフ少尉ではなく鳩森少尉からの無線が割り込んできたのだと思いなおす、声が似ているうえにコールサインが使用されていないから紛らわしい。間違えそうだとおもいつつもターニャが南東方向に集中すると強力な魔力反応が急速に接近してくるのを感じた。

 

 

「デグレチャフ少佐より司令官、ボギーより強力な魔力反応を感知。南東方向距離四〇〇〇。」

 やはり存在Xはくそったれか、順調と見せかけて一気に叩き落すか、磨いたのは嫌がらせと理不尽さのほうかと悪態をつきつつターニャは呼びかける。

「魔力反応から敵は一機であるものの鳩森小隊が戦闘中の三機よりも強力と推定、至急救援を乞う。」

フーファイターとやらに術式がどれくらい通じるか分からない以上、増援は必要だ。短機関銃を構えつつターニャは救援を要請する。

「少佐、我々も地上からの観測により、敵を「ボス」級と判定した。ただ、鳩森小隊は戦闘継続中であり援護不能、こちらよりエミリア・ユンカース大尉の小隊を救援に回す。ティータイムは邪魔されたようだな。」

「司令官、ユンカース大尉はそばにいたのでは?救援到達時間は」

「デグレチャフ少佐、残念ながら空中待機の部隊はいない。基地からの発進となるので到着は急いでも六〇〇はかかる。遅滞戦闘に努められたい。」

 

 余裕を感じたところでの強力な敵との遭遇とは北方ノルデンの初陣と同じではないか、救援到着も六〇〇とは悪意のある偶然だなとターニャは感じた。

 仕方がないせいぜいあがいて見せよう。ターニャはエレニウム九五式を起動させた。

 




おまけコント4:コラボ終了後

デグさん:「結局、でなかったのか」
作者:「出ませんでした。どうもガチャ運がないようでして」
デグさん:「それで更新が遅れたのか?」
作者:「そういうことにしておいてください。ところであちらの世界はどうでした」
デグさん:「まあ、悪くはなかったな。なにせナポレオンの愛したコーヒーが飲めたのだからな」
作者:「わかりました。こちらの世界でも近いうちに美味しいものを用意します」
デグさん:「期待しようではないか」


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第12話:撃墜

遅くなりました。
戦闘をやっと書き切ることができました




 高速で黒色の戦闘機が接近してきている。

 敵機は一機たが、周辺のフーファイターを統率している可能性のあるボス級という強敵、今回襲来したそれの戦闘能力は普通のフーファイターの五倍だというありがたくない情報が告げられている。

 高速の戦闘機、その脅威はネームドの一個中隊に相当するだろう。唯一救いがあるとすれば、航空魔導士と違い複雑な機動をとられることがないことぐらいだ。幸い、敵機は鳩森小隊の戦闘空域とは逆方向からの進入、最初から遠慮なくいくべきだろう。魔力を演算宝珠に限界まで充填する。

 

「あれなるは、人類の敵。神を穢すもの」

ターニャは短機関銃を構えつつ、空間座標を把握する。

「主よ、今まさに良き人々を滅ぼさんとする黒き災厄の翼を撃ち堕とす力をしめしたまえ」

 信仰心に満たされる喜びと精神を蝕まれる苦痛を噛み締めながら、ターニャは北方ノルデンで撃ち落としたこのある爆撃機であれば数機は落とせるであろう術式を展開した。爆裂反応を含む術式が発動し敵機は爆煙に包まれる。

 だが、術式以外の爆発音がないことからターニャは瞬間で仕留めきれなかった判断、高度をとりつつ反転する。現時点ですでに高度は一万五千だが、上をとられれば負ける躊躇することはできなかった。

 

「あの威力の術式に耐えるか、硬すぎるだろう。フーファイターの戦闘機とはやはり見た目通りのものではないということか。ただ、全くの無傷ではないようだな。」

 すれ違い様、爆煙の中から姿を見せる黒い機体を見て舌打ちをする。だが、出てきたフーファイターの機体には、数か所の損傷、風防ガラスの割れが確認できる。

 ターニャが操縦席に人らしきもの、それも、小柄な操縦士が乗っているのを見たとき、感じたことがない違和感が前方よりターニャを襲う。これが感応波だろうか。不快、不安、恐怖といった感情が沸き起こるが、ターニャは歯を食いしばし耐えてみせた。

 だが、その時、機銃の掃射音がした。

 

「なっ、今真下にいたはず。」

 有り得ないことに敵機はターニャの後方そしてわずからながらも上にいた。念のため、防殻を厚めにしておいたことで撃ち抜かれることはなかったが、衝撃は四〇㎜の対空高射砲並、もし、エレニウム九五式でなかったら、まず撃ち落とされていたのは間違いなかった。

 

「火力、装甲、機動力、いずれも人の操るものではないな。なまじ黒いだけの普通の戦闘機に見えるからか敵の能力を甘く見積もりすぎたな」

 ターニャは光学術式を放ち牽制しつつ、乱数回避機動と防殻で攻撃を避けながら考える。

 回避機動をとりながら、あれを撃墜するだけ術式を構成するのは困難であり、そのためには、援護を受け、一旦、後方に下がる必要があると判断、無線で確認する。

 

「デグレチャフ少佐より、司令官。増援の到達予定は。なお、敵機の防護は極めて強固、また、機銃も対空高射砲並極めて強力。対応するための術式構築には時間を要する。」

 これに対する地上の藤堂司令官からの回答は、ユンカース大尉の小隊は当初予定どおり到達するものの、戦闘中であった鳩森小隊は、敵機殲滅に成功したが残弾数僅少のため基地へ帰投したとの内容、基地からの増援が予定通りなのは朗報だが、残念なことにできればと期待していた鳩森小隊の支援は受けられないことが確定した。

 しかたがない、増援が来るまで防御に徹しよう。

 

  エミリア・ユンカース大尉率いる小隊が戦闘空域到達したとき、目に入ったのはおおよそ戦闘機では不可能な機動をとり続け回避と牽制攻撃をするデグレチャフ少佐と、損傷しながらもその機動に追いすがる黒いフーファイターの機影であった。

 ボス級のフーファイターとは、通常は小隊で応戦する。それをデグレチャフ少佐は救援までの間、単機での戦闘を行い、しかも、僅かではあるが優位をとっている。エミリア・ユンカースは驚きつつも無線で呼びかける。

「デグレチャフ少佐、ユンカース小隊到着。これより戦闘に入る。」

「救援感謝する。可能であれば一時後退したいが、問題はないか。」

 デグレチャフ少佐からの回答は、交代ではなく一時後退、今の状態は通常の私達であれば後継にまかせて帰投するタイミングのはず、エミリア・ユンカースは単機でボス級と戦闘をしてなお継戦の望むデグレチャフ少佐の責任感の強さにフーファイターの出現で全てを失ってしまった尊敬する祖父のかつての姿をつい重ねてしまう。

 エミリア・ユンカースは極東基地の最先任である私たちが奮戦しなければならないという思いを抱き、小隊各員に呼び掛けた。

「小隊各員、只今から戦闘に入る。少佐殿の奮戦に応え我々の活躍をしっかり見せようではないか。」

 

 ターニャは、救援の到着により一旦後退できたことで体勢を立て直した。

 敵機であるフーファイターには、かなりのダメージを与えたが、未だ尋常ではない攻撃力と防御を保っている。ユンカース小隊と交替できたことにより再度の術式を組む時間的余裕ができた。初回の攻撃以降は、回避と牽制攻撃に留めたため、残存魔力はまだ余力があるが、流石に最初に放ったような術式はあと一回が限度だ。さらに言えば、エレニウム九五式を用いての短時間で二度の術式の展開は精神汚染の観点から避けたい。

 そう考えながら、ユンカース小隊の戦闘を確認する。

 だが、後方から確認すると、隊長機らしきメッサーシュミット戦闘機が自分の光学術式と同程度の攻撃をしたものの、他の戦闘機が、一旦、強力な魔導反応の後攻撃せず離脱したり、機会を伺うような不可思議な行動をとっている。

 ターニャは小隊長であるエミリア・ユンカースに状況を確認する。

 

「ユンカース大尉、デグレチャフ少佐だ。状況を確認したい。撃墜は可能か」

「敵機の装甲は予想以上に強い、敵機の回避能力の低下やこちらの命中や会心補正の強化を図っても撃墜には最低でも三から四ターンはかかると推定されるのである。」

「ユンカース大尉、時間的はどれくらいか?」

「順調にいけば四八〇、しかし相手の能力が不明。強力な混乱や強化を使われた場合、・・・すまぬ、攻撃を受けた。反撃する!」

 

 ターニャは、帝国と全く異なるこちらの世界の空中戦について測りかねていた。今のやりとりからも、難戦となる可能性が高い。更に、無線からは芳しくない会話が聞こえる。

「被弾した!」

「ロドルフィン、大丈夫か」

「大丈夫だ、私は問題ない!」

「うわっ、熱い、引火した!」

「グリンリー、経戦は可能か」

「まだ、いけますよ。小隊長」

 

 ターニャは、このまま不利な状況が続き、誰かが撃墜された場合、こちらでのキャリア形成に支障があるのはと思い始めた。今後のこの世界でのキャリアとエレニウム九五式による精神汚染を天秤にかける。そういえば、藤堂司令官は私をこの基地の大隊長に任命するといっていた。もし、今日の戦闘で誰かが撃墜でもされた場合、味方も守れぬ新参の無能者となってしまう。そして大隊長を務めることに対する反感が湧き、侮られる。そして、統率できないまま無能の烙印を押され最前線で酷使も有り得る。あの司令官がいかに私の前世を知りファンだと言っていたとはいえ、失望させたら、案外と恐ろしいことになるかもしれない。ファンとは勝手な期待を押し付け勝手に失望する危険な存在、安心するわけにはいかない。再度術式を組む。今度は、残存魔力をほぼ全力で打ち込むこととした。

 

「デグレチャフ少佐より、司令官及びユンカース小隊各員へ。いまより再び攻撃に入る。司令官、空間爆撃警報。」

「司令官よりデグレチャフ少佐、まさか空間爆裂術式を使用する予定か」

「司令官、その通りだ。味方機は敵より一〇〇〇以上の距離をとることを要請すする。」

「デグレチャフ少佐へ了解した。ユンカース大尉、デグレチャフ少佐からの要請により空間爆撃警報を発令する。牽制しつつ当該区域より離脱、敵機より一三〇〇の距離をとり待機せよ」

「司令、どういうことか説明してほしいのである」

「デグレチャフ少佐が特大の攻撃を行う。ユンカース小隊各員へ巻き込まれないように注意せよ」

 

ターニャは決心し再び残存魔力のほぼ全てを演算宝珠に充填する。

 

「去ね、不逞の者。ここは主の尖兵が守護する空。なおも吾らを撃ち滅ぼそうするのならば神の制裁を与えん。

主よ、今ここにその御力を示し、敵を撃ち滅ぼす力を吾に与えたまえ。」

祈りの言葉とともに、強大な術式が形成される。

 

「ユンカース小隊各員、衝撃に備えよ。神は我等と共に。勝利を祈らん」

意思に関係なく出る紙をたたえる言葉に怒りを覚えながら、ユンカース小隊の後退を確認したのち、敵であるフーファイターに向け術式を発動させた。

「主よ、今まさに破魔の光が怨敵を浄化せん」

 

激しい爆音と共に、敵フーファイターは戦闘機の部品をまき散らしながら地上に落ちていく、撃墜できたようだ。緊急脱出装置も働かなかったようだしあの感じであればまあ助からないだろう。だが、念のために言っておこう。

「投降するならば、戦時規定に基づき捕虜の権利を保証する」

私は国際法を順守する軍人なのだからな。

 

 




デグさんは、こちらの世界の戦闘をまだわかっていません。
いかに有能でも、今日来た世界で異なる理で動く世界を一日では理解できません、


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第13話:帰投

短いですが、キリが良いので投稿します。
本日9月24日は第二〇三遊撃航空魔導大隊大隊長ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐の誕生日です。
皆様、お祝いしましょう。


「ゲホ、ゲホッゲホホヘ」

 ターニャは、久々に放った空間爆撃による沸騰魔力拡散爆発の黒煙と気圧の急変にむせながら、状況を確認していた。今の攻撃で残存魔力は帰投する程度しか残っていない。念のために呼び掛けた投降への反応もなし、黒煙の下から地表へ落ちていくちぎれた翼や大小の部品が敵機を打ち果たしたことを示していたるが、まだ、気を抜けない。

「まさか、フーファイターの操縦士は我々航空魔導士と同様に空を飛べたりするわけではないよな」

魔導反応で確認したいが、放った術式の影響で不能状態とは、しばし待つしかないだろう。

 

「う、嘘なのである。あの敵を一撃で・・・」

 エミリア・ユンカースは、目の前で起こったことが信じられないでいた。

 司令官から、空間爆撃警報などという聞きなれない警告と退避命令を受け旋回し敵フーファイターから距離をとった時、デグレチャフ少佐の神へ捧げる祈りの言葉と共に突如自分たちの機体にまで襲った衝撃、何とか機体の安定を取り戻したとき見えた光景は、黒く巨大でなおも広がり続ける爆煙であった。

 思わず無線で司令官と自分の小隊に呼び掛けるが、激しいノイズで通信ができない。一体、航空魔導士とは、デグレチャフ少佐とは何なのだろうか。エミリアは視界に広がる黒煙をただ見ているしかなかった。

 

「魔力反応測定限界突破、敵機反応消滅。」

 セレブリャコーフ少尉の報告と共に、ノイズが走り演算宝珠からの戦闘中継も途絶した。それでも、ここまで届いた爆音とここからでも目視で確認できるほどの爆煙を起こす威力だ勝利は確実だろう。

 藤堂司令官は思わず笑いだした。

「藤堂司令官殿、どうされたのですか。」

 セレブリャコーフ少尉が心配そうな顔で聞いてくる。戦闘指揮を執っている最中に指揮官が笑い出すのは、確かに異常だろう。でも、これは抑えられない。二回も展開した術式の威力を見て確信できた。デグレチャフ少佐の強さは規格外だ。ゲームのガチャで引き当てて出てきたばかりのLv.1の状態という代物なんかでは絶対ない。あのアニメの世界からその能力そのままにこの世界に来ていただけた本物のデグレチャフ少佐だ。

 いけないいけないここは司令官という立場に戻ろう。

「すまない、セレブリャコーフ少尉。少佐のあまりの威力を目の前にして狂喜のあまり笑い出してしまった。通信はまだ回復できないか?」

「はい、魔力ノイズの影響で通信の回復には一八〇ほどかかるかと。ですが、少佐殿の勝利は間違いありません。」

セレブリャコーフ少尉は明るい表情で言った。

 

 

 

 やっと爆発による黒煙が晴れたとき、ターニャはやっと敵機撃墜成功を確信した。空には、あの敵機も操縦士も見当たらない。念のため、魔力反応も確認したが無反応だ。九五式を全力で用いて二回の術式展開を必要とする強敵、あの恐ろしいまでに執拗であった協商連合の魔導士よりも厄介だったなど思いながら演算宝珠で司令官に呼び掛ける。なんと目まぐるしい一日だったのだろう。

「デグレチャフ少佐より藤堂司令官へ、敵機撃墜を確認。帰投許可を。」

まだ若干のノイズがあるが、すぐに返答がきた。

「デグレチャフ少佐、帰投を許可する。ユンカース小隊と共に基地への進路をとるように。見事な勝利だ。着任早々このような戦果を挙げるとはね、貴官の副官に珈琲を用意させておこう。」

「小官への配慮に感謝します。できればチョコレートも用意していただけると嬉しいのですが。何分、魔力を限界まで使い果たしておりますので。」

「承った。それぐらいお安い御用だよ。早く帰投したまえ。」

 

 流れ去った黒煙の向こうからユンカース小隊がこちらに向かってくるのが見えた。ヴァルハラなどいつでも行けてしまうご時世だ。今日は美味しい珈琲の待っている基地へ戻ろう。

 




おまけコント5:

デグさん:「今日9/24は私の誕生日だ。作者よ何か用意してくれているのだろうな?」
作者:「珈琲とアップルパイをご用意しました。どうぞ。」
デグさん:「うむ、まあ、おいしいではないか。んっ?」
ヴィーシャ:「ご相伴に与っています。パクッ」
デグさん:「セレブリャコーフ少尉、いつの間に。というか半分なくなっているではないか。おい!」
ヴィーシャ:「缶詰でないアップルパイが美味しくてつい」
作者:「お土産に1箱用意してあります。あとでお持ち帰りを(余、用意しておいてよかった…)」


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第14話:ちょっとの間

真が開いてしまい申し訳ありません。
クロス作品ですから編隊少女のキャラにも場を与えないといけません。


基地の飛行場に降り立つとセレブリャコーフ少尉が駆け寄ってきた。

「少佐殿、藤堂司令官殿がお待ちです。」

ターニャは取り外した魔道具をセレブリャコーフ少尉に渡す。

「すぐに行こう。まったく、訓練の予定が着任早々の空中戦になるとは、余程私は戦争に好かれているらしい。」

「藤堂司令官は少佐殿の戦闘に感心しきりでしたよ。やはり、少佐殿は戦場でこそ輝いておられます。」

「セレブリャコーフ少尉、私を何だと思っているのだ。私は平穏な環境こそ好みなのだがね。んっ?」

 

 気付くとターニャの前には、金髪に羽根つきの黒い軍帽を被り、左腰に重厚な機関銃らしきものを装着し、裂けたマントを羽織った少女が、左手の親指を立てドヤ顔で立っていた。

「おっ、いたな。先程の戦い、新入りながら貴様なかなかヤルではないか!私に援護など不要だったのだがな。」

「き、貴官はだれだ?」

「わーっはっはっはっは!よくぞ聞いてくれた。この私こそ本基地所属の急降下爆撃エース、かのヨハンナ=ウルリカ・ルーデ・・・痛い!」

突然現れて不意を突かれたターニャをよそに始められた彼女の名乗りは、後ろから慌てるように駆け寄ってきたアデル・ガーランドの突っ込みで中断させられた。

「いや、すいませんね、デグレチャフ少佐殿。こいつにはアタシがよ~く言い聞かせておきますので」

「まだ、名乗り終えていないのだぞ、アデル、痛い!引っ張るでない、むぐっ!」

「さっさと来い、ヨハンナ。新人とみると虚勢を張るその癖いつか痛い目をみるぞ。」

アデル・ガーランドはその少女を口を押えて引っ張りながら器用に敬礼をして兵舎の方へ戻っていった。

 

「い、一体何だったんだ。あれ?」

「さあ。ユンカース小隊の一員でしょうか?滑走路の方から来たようですけど」

ターニャはセレブリャコーフ少尉と目を合わせやれやれといった表情をする。

「まったくここの基地の軍紀は一体どうなっているのだ。あとで藤堂司令官殿と話し合う必要がありそうだな。」

「まったくです。少女ばかりというということで緩いのかもしれません。」

「おいおい、私と貴官もその女性だぞ。ひとたび軍服を纏ったら軍規に従う。そこに男女の違いなどない。教育が必要なようだな。うむ」

セレブリャコーフ少尉は、デグレチャフ少佐の表情と声からあの少女の受ける教育を想像しちょっとだけ同情した。

 

 変な少女と遭遇こそしたが、そのあとは特に妨害もなく司令官室に到着した。

「藤堂司令官殿、失礼します。」

セレブリャコーフ少尉を連れて司令官室に入ると、笑顔の司令官がソファーの方に招き寄せる。

「デグレチャフ少佐。素晴らしい勝利を見せてもらった。あのような不意遭遇戦であっても流石だな。疲れただろう楽にしてくれ。」

「はい、我々は軍人であり戦時中である以上常在戦場の心持がなくてはなりません。とはいえ、小官も先程の戦闘ではいささか疲労しておりますのでお言葉に甘えさせていただきます。」

「いま、一戸瀬補佐官に今回の戦闘での観測データをまとめさせている。ユンカース大尉と鳩森少尉も小隊の損害状況を確認次第来る予定だ。来たら、戦闘概報を作成しようとおもうが、時間がありそうだ。そうだ、セレブリャコーフ少尉に珈琲を淹れてもらっても構わないか。そこに用意してある」

「ええどうぞ、セレブリャコーフ少尉、用意をしたまえ」

 

 

 セレブリャコーフ少尉の淹れた珈琲を飲むことで、ターニャはやっと一息入れることができた。丁寧に風味を引き出しているこの淹れ方は元いた世界のセレブリャコーフ少尉と同じだ。これさえあればこの世界でも乗り越えられそうだなとソファーによりかかる。

 

「ところで、藤堂司令官殿、いささか気になっていたのですが。この基地の軍紀はゆるくありませんか?」

「デグレチャフ少佐、少女ばかりということでなかなか普通の軍隊と同じ様にはいかないのだよ。陸軍さんのようなことをしたらみんな逃げてしまって戦えなくなってしまう。なにか問題でもあっただろうか?」

「いえ、さっきも司令官室に向かう途中にやたら尊大ぶった少女に道を遮られましてね。名乗り途中でガーランド少尉が引っ張っていきましたが、まあ、同じてっ、ああドイツ人として恥ずかしい限りです。」

「あっ、なんだもうヨハンナ・ルーデルに会ったのか。あれは新入りを見るといつもあんな挨拶をするのだ。あれでもかわいい方だぞ。小心な性格をああやって隠そうとしている健気な子だよ。そうか、少佐は規律には厳しいから不快に思ったか。ははは。」

「しかし、上官に対してあれはないでしょう。いささか教育が必要ですな。」

藤堂司令官は、珈琲を飲み干すとすっと立ち上がり、ターニャの座るソファーの後ろに回り肩の近くのソファーの背をつかみ、少佐にこう告げだ。

「まあ、危惧するところは良く分かる。なかなか男性の身では若い女性に細かな規律を押し付けるのも難しくてね。だからこそ少佐、貴官が着任してくれたことは本当にありがたい。無論、本基地における大隊長の服務には教育が含まれる。着任してすぐにそれを指摘してくれるとは、教育よろしくお願いするよ。」

ターニャが後ろを振り向き見上げると、満面の笑みをしてやったりという顔の司令官の顔があった。どうもこの司令官は私に面倒ごとを押し付ける気があるようだ。ちょっと気を抜いたところで言質を取られてしまった。

「いや、どうやって少佐に教育係をお願いしようか考えていたんだが、そちらから積極的に申し出てくれるとは手間が省けた。方針は少佐に任せるが、さすがに大隊選抜試験のようなことはしないでくれよ。おっ、準備ができたようだな。さあ、今日の戦闘を検証しよう。」

 

 なんというタイミングであろうノックとともに大量の資料を持った一戸瀬補佐官と共にユンカース大尉と鳩森少尉も入室してきた。ターニャは反論の機会を逸し、少女ばかりのこの航空基地の部隊教育までする羽目になってしまったのであった。

 




おまけコント6:ヨハンナ・ルーデルの不幸

ヴィーシャ:「そういえばさっきの子、少しだけ少佐に似ていましたね。」
デグさん:「どこがだ?セレブリャコーフ少尉」
ヴィーシャ:「金髪で碧眼のところとか、なんというか雰囲気とか」
デグさん:「私があいつと一緒だと。ん?」
ルーデル:「私がこいつと一緒だと。私の方が勝っておるだろうが」
デグさん:「どこがだ!」
ルーデル:「よく見ろ、私の方にはきちんと胸があるだろう。貴様はまな・・・痛い!」
作者:「恐れを知らないとは怖いな。さあ、戻るぞ。」
デグさん:「作者よ、ちょっとソイツ渡してくれないか。ピクニックに連れて行くからな。」
ルーデル:「ピクニックか、気が利くではないか。焼きアーモンドはおやつに含まれるのだな」
作者&ヴィーシャ:(彼女生きて帰れるかな)


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第15話:検証会

更新が遅くなり、申し訳ありません。
当初のここに投稿する予定の話を没にし、書き直したため遅れてしまいました。


「君たちはよく頑張ってくれた。お陰で今日もフーファイターを撃退することができた。さあ、食べてくれ」

 藤堂司令官がねぎらいの言葉と共に、出席者に出したものは資料ではなくケーキであった。一戸瀬補佐官もそれに合わせるように珈琲を用意する。唖然とするターニャをよそに皆は普通にケーキを食べ始めた。横を見れば、副官であるセレブリャコーフ少尉もちゃっかりをケーキを頬張っている。

 ターニャはケーキを見つめていた。資料は司令官の執務机に置かれたままだ。司令官はみんながケーキを食べる様を無言で見ている。

 

「デグレチャフ少佐、どうしたのかな。」

藤堂司令官が声をかけてきた。

「遠慮はいらないよ。私は甘いのが若干苦手でね。貴官もそうだったのなら、別なものを用意したが。」

「はい、いいえ、そうではありません。小官は戦闘検証会と聞いておりましたが、お茶会の間違いでありましたでしょうか」

横でセレブリャコーフ少尉がむせている。慌てて、テーブルにケーキの皿を戻し。姿勢を正している。

 

「少佐、そう生真面目である必要はないぞ。」

藤堂司令官は周りを見てくれというジェスチャーをする。

 ターニャは改めて見まわして気付いた。司令官以外、少女と言って差支えのない女性ばかりがいる。いかつい軍人然とした将校も、会議のたびにひどく眼と鼻にくる紫煙も漂っていない。

「いかに、フーファイターと戦えるのは君たちのようなFF耐性をもつものとはいえ、本来ならば君たちは護られる側のはずだ。確かにフーファイターとの戦いは絶え間なく続いている。だが、検証の前にケーキを食べる時間ぐらいとっても罰は当たらないだろう」

なろほど、藤堂司令官は女性中心の組織であることに配慮すべきと言外に指摘している。ターニャは帝国と同じようにしようとしたことは良くなかったなと反省する。

「失礼しました。余裕を持つことも必要ですね」

ターニャは、珈琲に口をつけ、ソファーによりかかった。皆がケーキを食べ終わるまでゆっくりしよう。そうだ、第二〇三航空魔導大隊の諸君は停戦の日々を満喫できているのだろうか。

 

 検証会が始まると、ユンカース大尉も鳩森少尉も姿勢を正して資料見ている。ターニャはその姿を見て反省していた。女性の士官もいたとはいえ男性社会の帝国軍と女性中心のこの基地とでは対応を変えるべきだった。前世の人事経験を思い出せば容易に思いつくことを忘れていたとは、軍人に染まり過ぎているなと思う。

 しかし、場所が変われども、軍人であることは変わりはないのだ。軍人らしくあり続けよう。

「・・・以上のことより、今回のフーファイターの行動は、デグレチャフ少佐の光学術式に反応した威圧偵察と考えられる。また、デグレチャフ少佐の戦闘能力であるが・・・・・」

 藤堂司令官が、資料を見ながら語る。

 なるほど、今日の敵はあの光学術式が呼び寄せたというわけか、だが、精神汚染の危険性を顧みずエレニウム九五式を二回も使用しなくてはならない敵が出てくるとはどういうことだろう。ターニャは存在Xの悪意を感じずにはいれない。

 

「となると、演習などによる新型魔導具の運用データの収集は困難になるということでしょうか?」

「いや、今回は私の魔導具に対する理解不足が原因だ。思いがけない戦闘を誘発させたことは素直に謝罪しよう。むしろ、今回の戦闘で収集されたデータからは想定以上の能力を発揮していることが示唆されており、少佐の戦闘能力に対する調査は重要性を増したとさえいえる。今後のデータ集積の件については、本基地でFF研究に従事しているDr.エリノアが協力してくれる。彼女に任せれば、そういった問題は解決してくれるだろう。明日、打ち合わせよう。」

 ターニャは一瞬準備不足であんな状態に置かれたのかと不快になったが、すぐに思いなおす。藤堂司令官も自分と同じくこの世界に飛ばされたいわば同じ被害者だ。しかも、反省することは臆することなく謝罪し、配慮さえ見せている。上官としては悪くはない。ターニャは配慮に対する感謝を口にする。

 

「司令官殿、配慮感謝します。ですが、今回、小官が撃墜したフーファイターはかなりの戦闘能力を有していたといわざるを得ません。あのタイミングを考えると偵察と思われた小隊は囮で時間差で我々を挟撃、しかる後突破を図ろうとしていたと思われますが」

「ええ、デグレチャフ少佐が後衛待機でなく、私達と共に敵小隊と戦闘状態であった場合、先手を取られ私達が撃墜されていた可能性がありました」

「たしかに、あの敵は強力な全体攻撃能力を有していたのである。防御も固く、2個小隊が撃墜覚悟で当たらなければ撃墜できなかったと言わざる得ないのである。警戒警報も出ていないのに不思議であるな司令官。」

「新型魔導具は、当初の見込みよりもエレニウム九五式の能力を引き出せていました。もし、想定以下であったなら、少佐殿でも今回の敵を撃破できたか不明です」

鳩森少尉もユンカース大尉も、強力な敵と認識しているようだ。セレブリャコーフ少尉もさらりと怖いことをいってる。ターニャは司令官の返答をまつ。

 

「いかにフーファイターとの戦闘が続いているとはいえ、あのような敵が出るのはイ・・、すまない、本部より警戒情報がでる。出ない状態であのような強力な敵が出現することは今まではなかった。今までにない異例の事態ともいえる・・・」

 藤堂司令官はそういった後、ふと、気づく、目の前にいていま言葉を交わしている相手は誰だ。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐だ。じゃあ、なぜ、幼女戦記の登場人物である少佐が編隊少女の世界にいる。それは、自分がこのゲームを始めた理由、幼女戦記のコラボ企画ではないか。自分がこの世界に来る直前何をしていた。このゲームをしてガチャを回して少佐を引き当てた。そこで記憶が途絶えている。そして確か今回のイベントはAFFイベントと合同、イベントが始まっている状態ということか。一気に青くなった。

 

「司令官殿」「司令官」「司令官様?」「司令官殿」「司令官」

急に表情が固まった藤堂司令官に皆が呼び掛ける。書類の一点を見たままだ。ターニャは、何か重大な見落としがあったがと資料を再度見るが時に気になる記載はない。どうしたのだ。

 

「藤堂司令官殿、何かお気づきになったことでも」

ターニャは席を立ち、近づいて呼び掛ける。やっと、藤堂司令官は反応をかえす。

「一戸瀬補佐官、至急本部に連絡をとれ。AFF襲来の可能性ありだ。」

一戸瀬補佐官が通信室に駆けていく。藤堂司令官は覚悟を決めてみんなを見る。

「さあ、皆、これから忙しくなるぞ。でも、その前に腹ごしらえをしよう。三〇分後、食堂に集合だ。夕飯を共に取ろう。あと、デグレチャフ少佐、再度打ち合わせがしたい。夕飯後、再度司令官室にくるように。なお、副官の参加は認めない。」

 




おまけコント7:
デグさん:「なんでこんなに更新が遅くなった。エタったと思われるぞ」
作者:「申し訳ない」
デグさん:「で、理由は」
作者:「いえ、実は当初、検証会をこんな真面目な内容にせず、少佐殿に呆れさせる内容だったのです」
エミリア:「なに、私を馬鹿にするつもりだったのか。聞き捨てにならんのである。ユンカース家の名誉にかかわる問題なのである」
鳩森:「そうですよ、わたしだって平和のために戦闘に参加しているのに」
作者:「申し訳ない。」
デグさん:「なるほど、最初のケーキの下り部分はその名残か」
作者:「はい、そうです。すべて削ってしまって、ケーキを食べる機会まで取るのは流石にと思いまして・・・」
全員:「今回は許します。では、ケーキおかわり!」


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第16話:少佐と二人での打ち合わせ

デグレチャフ少佐は12年ぶりの日本食を食べました。


 ターニャは、セレブリャコーフ少尉と共に司令官室へ向かう廊下を歩いていた。

 先程とった夕食は十二年ぶりの日本食、もはや二度と食べられないと思っていた白米や味噌汁には感激してしまった。白米を口に含んだ時、つい、『白銀』という名は自分より、湯気を立てているつやつやの炊き立てのご飯にこそふさわしいと心の中で叫んでしまった。

 ターニャは、上機嫌なまま、セレブリャコーフ少尉に声をかける。

「少尉、あの肉じゃがはうまかったな。同じジャガイモと肉を使った料理でも参謀本部のシュラハトプラットとは天と地の差だよ。」

「はい、少佐殿。おかずもですがご飯ってあんなにおいしいんですね。つい食べ過ぎてしまいました。」

セレブリャコーフ少尉も満足しているようだ。ああ、でもご飯4杯はお替りしすぎだったぞ、少尉。

「知っているか少尉、ご飯にな生卵を混ぜたものをかけて醤油を入れて食べるとうまいのだぞ。」

 ターニャは卵がけご飯だけでなく納豆も試してみたいなと思った。前世ではあまり食べようと思わなかった筈だが、今は無性に食べたいと思えてしまう。

「えっ?卵を生で食べるのですか。冗談でしょう。生で食べたらお腹を壊してしまいます。」

「はっはっはっ、少尉なら大丈夫だろう。何なら、納豆という食べ物を試してみるか。日本の朝食の定番だ。大豆を発酵させた食品で独特の臭いとねばねばがあるが、栄養価の高い健康食品だ。」

「え、遠慮します。少佐殿。ほら、もう司令官室の前です。」

「では、行ってくる。司令官と話し合っている間に、FF特務機関と本国の参謀本部に提出する新型魔導具に関するレポートの準備をしておいてくれ。早急に提出する必要があるぞ。」

 

 

ターニャは、セレブリャコーフ少尉が廊下を曲がっていくことを確認してから、司令官室に入る。

「藤堂司令官殿、デグレチャフ少佐入室いたします。」

規則通りの敬礼をした先では、藤堂司令官が机で書類を見ていた。

 

「ご苦労、夕飯は満足いただけたかな。」

藤堂司令官は席を立ち、ソファーに座るように勧める。

「はい、軍の基地でこれほど美味しいと思える料理が出てくるとは思いもしませんでした。参謀本部の食堂も少しは見習ってほしいものです。」

「確か、常に戦場を思い起こしてくれる素晴らしい料理が出てくると聞いているが」

「ええ、あれを食べ続けるといかなる将兵も前線勤務を希望してしまうという帝国参謀本部の名物料理です。もし、機会が有れば一度是非ご馳走したいものですよ。」

 

「ベルリンに行く機会があれば是非、ああ、飲み物は珈琲で良かったかな。私が淹れたものだから、口に合うといいのだが。」

ターニャがソファーに座ると、藤堂司令官がトレーに乗せたコーヒーポットとカップを運んできた。

「お気遣い感謝します。ところで、小官だけが呼ばれたということは、やはり、着任挨拶の続きで。」

「その通りだ、少佐。」

司令官は珈琲を注ぎながら答えた。

「了解しました。すぐに準備します」

ターニャは再び司令官室全体に防諜術式を展開した。

 

 

「さて、少佐、私はこの世界をゲームの世界だといったのは覚えているかな」

藤堂司令官は、デグレチャフ少佐の目を見て話す。

「はい、覚えています。ですがこうもリアルな感覚があると現実感が有り過ぎて実感が湧きませんが」

 ターニャは珈琲を口に含む。

「まあ、そうだろう。私もこちらに来て二日が経つがリアル過ぎて変な気分だよ。アニメのキャラクターだった少女たちが雰囲気そのままに生きた少女となって目の前にいる。しかも声音と性格はゲームの時と一緒だ。最初はゲームのやり過ぎで夢でも見てるのかと思っていたが、現状はこの通りだ。」

 そこで、藤堂司令官は胸ポケットから紙を取り出した。ターニャは、そこに懐かしささえ覚えてしまう日本的なアニメ調の少女が数人描かれていることを確認した。腕を組み右肩にハヤブサを乗せた少女、長い髪が舞うセーラー服のような服装を身に着けた少女、不敵な笑みを浮かべたライフルを担ぎ魔導具を装着した少女が描かれている。

「夢であればどれだけよかったことか。まあ、これは我々の間でしか言えませんな。ああこの絵、左は、ユンカース大尉に鳩森少尉ですかな。良く描けておられる。そして右は。んんっ、え、まさか、小官でしょうか」

「その通り、忘れたかな少佐、私にとってはあなたも小説やアニメの世界の人物なのだが。ちなみに服装や装備、顔の特徴、声は、小説やコミカライズではなく、アニメのほうだな。」

「まあ、そんな世間話をするために貴官を呼んだのではない。実は、ゲームの世界といったが、ここはゲームそのままの世界ではない。かなり相違がある。今日は、我々がここで生き残るための相談というわけだ。」

 

 藤堂司令官がこちらに来て以降に調べたという話を聞いて、ターニャは、再び頭を抱え込んでいた。嗜好品が用意可能な状況や恵まれた食事から帝国よりはるかに恵まれていると思われた世界は、最終的勝利の方法が全く見えないろくでもない世界であると知ってしまった。

 ゲームの世界だということからある程度の覚悟はしていたが、はっきり言って疑問を呈するレベルではない。軍としての規律が全く取れていない女学校同然の操縦士達、対抗手段はあれど跳梁跋扈する敵FFに有効打がなく襲撃してくるフーファイターを逐次撃退していくしかない現状は変わらないまま、それなのに、現実化した世界であるがゆえにゲームとして備わっていた機能、操縦士のレベルや技能強化が地道な訓練と実戦経験でしか上がらなくなっていること、戦闘が終了すれば解消していたダメージが、戦闘後も残っていることなど条件はさらに厳しくなっている。を難易度の上昇などという生易しい言葉で済ますことのできる問題ではない。

 

「司令官殿、我々は出現した敵を現状の戦力で撃退する。これを繰り返していくしかないということでしょうか。」

ターニャは、冷めかけた珈琲を啜る。

「そういうことだ。ゲームであれば問題がなかったことが、今や最大の問題となっている。我々は終わりのない永遠の戦争に捕らわれたようなものだ。」

 

藤堂司令官は、一旦言葉を切る。

「そして、さらに問題なのは。先程説明した通り、ゲームの時であれば撃墜されても操縦士達は死にもしなければ怪我もしなかった。戦闘機だって修復の必要すらなかった。だが、この世界では、通常の整備に加え、戦闘のたびに補修が必要で連続して使用することなどできない。操縦士もだ。ゲームであればプレイヤーの気力が続く限り、同じ操縦士をいくらでも飛ばすことが出来たし、撃墜覚悟の特攻プレイだって何度でもできた!だが、戦闘をすれば当然それ相応の疲労をするし、負傷すれば治療が必要となる。もし、これで撃墜などされたら、どうなるか考えるだけでも怖いよ。」

藤堂司令官は、自らの握りこぶしを自分の足に打ち付ける。顔を横に向け苦虫をまとめてつぶしたような表情だ。

 

「あなたはお優しい人のようだ。司令官殿。ですがどのような形であれ戦争には違いなく、そして我々はしょせん軍人、殺し殺される存在です。覚悟はされるべきかと」

興奮気味の司令官に対し、ターニャは努めて冷静に返す。

「所詮ゲームの世界と割り切れればできるかもしれない、周りの風景がゲームのままで操縦士達もアニメ絵のままであったら、まだ、試せたのかもしれない。だがね、操縦士の少女たちは現実世界となんら変わない生きている生身の少女達だ。彼女達を私が死なせることもなるのかも知れないと思うといたたまれない。」

「割り切ってもらわなくてはなりません、司令官殿。いかに不本意な形とはいえ、この基地の司令官はあなたです。あなたは職務を放棄するというのなら、小官は軍法に則った行動を起こさなければなりません。」

ターニャはソファーから立ち上がり司令官を見下ろす。

「小官も理不尽な転生をした身、あなたの境遇に同情を禁じ得ませんが、責任を放棄なさるおつもりですか。」

「申し訳ない、私はまだ自分の立場に慣れていないようだ。司令官の責務からは逃げることはない。この世界にいる限り司令官の職務を全うする。それは信じてほしい。」

藤堂司令官は、デグレチャフ少佐の顔を見上げながら話す。ぎこちなくい笑い不安を打ち消そうとしている表情だ。

ターニャは、少し脅しが過ぎたかなと思った時、司令官は深く息を吐くと、言葉を続けた。

「見ての通りこの基地にいるのは軍隊的な規律とはほぼ無縁な少女達だ。志願してきた動機、経歴、国籍、能力、姿勢すら全てがまちまちだ。軍隊というよりただの集団としてのまとまりすら欠いているかもしれない。だが、彼女たちがこの世界における数限られた対抗力でもある。要するに我々は限られた人的資源の価値を高め、有効に活用しなくてはならない。」

そういうと、藤堂司令官は書棚に向かいファイルを取り出す。

「私だけだったら恐らく無理だった。だが、今日、貴官が着任した。この基地に所属する操縦士は四七名、デグレチャフ少佐、貴官を加えると丁度四八名、偶然にも貴官の率いた増強大隊である第二〇三遊撃航空魔導大隊と同数だ。大隊長、私は貴官が彼女達をうまく指導できるものと信頼している。最前線で戦いながら戦死者を出さなかった貴官の大隊と同じレベルまで高めてくれることを期待している」

 

 ファイルを開き、藤堂司令官はデグレチャフ少佐にその中身を見せる。

「これには、基地に所属するすべての操縦士の各種ステータス値やスキル効果、特殊技能、プロフィールが記載されている。これは、当基地の技術顧問でフーファイター研究者であるDr.エリノアがそれぞれの操縦士を検査して作成したものだ。今日までの戦闘で、少なくとも操縦士達はゲームと同じ能力を持っている。まあ、これは、敵であるフーファイターも同じだがね。」

ターニャはファイルを受け取るとソファーに座りなおす。

「司令官殿、小官に丸投げなどということはないでしょうな。」

「戦闘は極力今までいる操縦士達で対応するようにする。少佐、貴官の主たる任務は教育と訓練、まあ、人材育成だ。扱いにくい個性的な操縦士達だが、私もフォローする。あと、検証会に参加した二人とあと一人足して三人ほどに協力してもらおう。後、一人は、真面目なものがいいだろう。八洲島准尉が適任だな。」

「エミリア・ユンカース大尉と鳩森少尉がフォローに入っていただけるとは少しは楽になりそうですね。あと、八洲島准尉とはどのような人物で」

「丁度、開いているページの操縦士だ。彼女は操縦士となる前は剣術道場の師範代を務めていたし、朝昼の鍛錬も欠かさない。指導教官に丁度いいだろう。」

「悪くなさそうな人選ですね。訓練はいつから開始すべきでしょうか。」

「そうだな、明日の朝礼点呼で貴官の着任を皆に知らせる。ああ、Dr.エリノアにも会ってもらわなくてはならないな。それから、打ち合わせとなると、早くて明後日か。」

「了解しました。生き残るためにもしっかりと規律というものを叩き込んだ差し上げましょう。」

 

ターニャは、口角を上げた笑みを浮かべた。基地での教導任務ならある意味後方勤務に等しい、今日のような突発的な不意遭遇戦でもない限り、戦闘は避けることが出来るに相違ない。

「少佐、珈琲は希望する量を必ず手配しよう。私は定年退職より先にヴァルハラへ行くのは御免だし、誰も死なせたくない。訓練の件、よろしくお願いする。」

藤堂司令官はそう言った後、焙煎された珈琲豆の入った袋をデグレチャフ少佐に渡した。

本物の珈琲も十分に手配してくれるか、素晴らしい。司令官のご希望に叶うようしっかりとした訓練を行おう。ターニャはそう決意した。

 



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第17話:着任挨拶

更新がのびのびなって申し訳ありません。少しづつでも進めていきます。


■視点:ある操縦士の少女■

 金髪碧眼の少女、白い肌と整った顔立ちはドレスを着ていれば貴族の令嬢といっても通用するような小さな少女が壇上に立って、私達に語り掛けています。

 私達の誰よりも小さいかもしれない西洋人形の様な少女、しかし、彼女の纏っているのは男性用と変わらない変哲のないモスグリーンの軍服、本来なら似つかわしくない組み合わせのはずなのに、それ以外の姿が想像できないほど彼女に馴染んでいる少女の名前はターニャ・フォン・デグレチャフ、階級は少佐、きょう正式のこの極東基地に配属された私達の新しい仲間、少なくとも、仲間だよと藤堂司令官は紹介されました。

 

 最初、その少女が壇上に現れたとき、キレイな子が来たと思いました。あの無造作に束ねられた金髪をブラシを入れて整えたら可愛くなるに違いないあの少女が、昨日の食堂の話題となっていたアデルやグンヒルドを模擬戦闘訓練で簡単に手玉に取り、あまつさえ、訓練中に突如襲撃してきたボス級のフーファイターをほぼ単機で墜とした少女にはとても見えないと思いました。 

 

 ですが、彼女は簡単な挨拶の後に発した言葉が、その幻想を打ち砕きました。彼女は、淡々とこう口にしたのです。「私は大隊長として、司令官より勝利と諸君ら全員を生き残らせることを命ぜられた」と、唖然とする私達に彼女は続けてこういったのです。

 

「諸君、私は確かに諸君らより幼く見えるかもしれない。だが、問題はない。私はこれでも軍大学を出ている。そして、大隊を一から編成し、それを率いて剣林弾雨の戦線を駆け巡ってきた。」と

 

 そして、少女に似つかわしくない冷たい碧眼で私達を見わたした後、急に明るい表情になりこう続けたのです。

 

「諸君らは、人類の敵たるフィーファイターと戦える特殊な能力を有する貴重な人的資源だ。よって、私は諸君を丁重に扱うことを約束する。私は諸君らが平和と護るために女性の身でありながら志願して戦い続けていることに敬意を示そう。」

 

 壇上の少佐殿が語られ続ける言葉は、『少佐』として相応しい言葉であっても『少女』には、似つかわしくない言葉、でも、もはや、私には違和感を感じることはできなかった。壇上では、少佐殿が語り続けている。

 

「だが、安心してほしい、今まで私が率いていた大隊は屈強な男性が殆どであったが、この基地にいる操縦士は全員が女性だ。そのことを配慮するようにとの司令官の要請を私は理解し尊重しようと思っている。だから、訓練について諸君らが何も気にすることはない。私のような一二歳の子供でも耐えれるような訓練にするつもりだ。優秀な諸君であれば脱落するなどということは考えられない簡単な訓練となるだろう。まあ、おままごとのような生温い訓練と諸君らに思われないよう気を付けるとしようか」

 

 私達は何を安心したらよいのでしょうか。私達を見るその凶悪かつ嬉しそうな微笑は、獲物を見つけ狩り取ろうとするその瞳は、首元に光る血を吸ったような赤いペンダントは何でしょうか。

 藤堂司令官様、私たちは力不足だったのでしょうか。フィーファイターとの終わりの見えない戦いに勝利しようとするあまり何を召喚されたのですか。壇上にいる少佐という方は本当に私達の仲間なのですか。ほら、私の横ではエディッサが十字架に向かってなにかつぶやいています。前の方ににいる綾小路さんも何かいつもと様子が違います。少女の皮を被った少佐によって私達はどうされてしまうのでしょうか。。

 

■視点:デグレチャフ少佐■

「各員傾注!司令官に敬礼!」

 エミリア・ユンカース大尉が号令をかけると、少女達が壇上にいる司令官に向かって敬礼する。

 司令官と共に壇上に立っているターニャは、眼下にあるその隊列が一応整っているものの規律が重視される軍隊にあっては満足に足るものでは状態であることを見て無意識のうちに顔をしかめる。

 

「全員、楽にしてよろしい。さて、みんな。既に聞き及んでいるかもしれないが、君たちに新しい仲間が加わることとなった。紹介しよう。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐と副官のヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉だ。」

藤堂司令官がターニャと副官のセレブリャコーフ少尉を紹介する。

 

「デグレチャフ少佐は、本日付で本基地の航空大隊大隊長となる。少佐は君たちの戦闘技能向上すなわち教導が主任務となる。少佐は一月で精鋭の大隊を鍛え上げた経験を有する教導のプロフェッショナルであり、ここにいる全員が能力を向上させる好機を得たといえる。」

 ターニャは、司令官が教導任務が主業務と明言したことを心の中で喜ぶ。だが、少女達の隊列の方を見ると、幾人かがヒソヒトと私語を交わしている。こんな短い時間でも規律を守れないとは、要注意リストを加えなくてはいけないなと顔を覚えておく。

 

「また、少佐は卓越した戦闘能力を有する。そのことは、昨日の戦闘により既に証明されている。AFFすら単機で斃しうる能力は本基地随一といっていいだろう。この点からも我々は、心強い後衛を得たといえる。」

 心強い後衛、なるほど予備戦力として温存してくれるというありがたい言葉に相違ない。ターニャは、自分が戦闘から遠ざかるためにも少女達の戦闘能力を上げる訓練を考え始める。

 

「・・・以上である。では、デグレチャフ少佐、着任挨拶をお願いする。」

では、私の優秀な盾となってくれる少女達に挨拶をしよう。

 

「私は大隊長として、司令官より勝利と諸君ら全員を生き残らせることを命ぜられた」

着任の目的は再度宣言しておこう。私は後方で君たちの訓練にいそしみたい。

 

「諸君、私は確かに諸君らより幼く見えるかもしれない。だが、問題はない。私はこれでも軍大学を出ている。そして、大隊を一から編成し、それを率いて剣林弾雨の戦線を駆け巡ってきた。」

 精神はともかく見た目はどう見てもここにいる少女達よりも年下だ。実績があることを説明しておこう。

 

「諸君らは、人類の敵たるフィーファイターと戦える特殊な能力を有する貴重な人的資源だ。よって、私は諸君を丁重に扱うことを約束する。私は諸君らが平和と護るために女性の身でありながら志願して戦い続けていることに敬意を示そう。」

 フーファイターと戦える操縦士達は、帝国における航空魔導士と同等以上に貴重な戦力に相違ない。重要な人的資源であると認識していることをはっきり明言しておこう。

 

「だが、安心してほしい、今まで私が率いていた大隊は屈強な男性が殆どであったが、この基地にいる操縦士は全員が女性だ。そのことを配慮するようにとの司令官の要請を私は理解し尊重しようと思っている。だから、訓練について諸君らが何も気にすることはない。私のような一二歳の子供でも耐えれるような訓練にするつもりだ。優秀な諸君であれば脱落するなどということは考えられない簡単な訓練となるだろう。まあ、おままごとのような生温い訓練と諸君らに思われないよう気を付けるとしようか」

 流石に第二〇三航空魔導大隊編成の時のように脱落させることが目的ではないしそれに全員が女性だ。帝国軍規の規定にある女性士官への優遇・配慮も考慮しなくてはならない。合理化して二〇三大隊よりも軽度でかつ適度で意味づけされた訓練にしよう。しかし、考えてみれば、勇ましいことを言いすぎていた気もする。笑顔で語って困難な訓練であるというイメージを払しょくしよう。

 しかし、何故だろう。横のセレブリャコーフ少尉の顔が心なしかこわばっている。ああ、きっと二〇三大隊の訓練を思い出しているだろう。あれはやり過ぎた。ここでは三六時間も砲兵防御訓練も冬山訓練もなしだ。あとで司令官と相談して合理的で有意義な訓練計画を練ろう。

 

「では、諸君、平和と勝利を我々の手で勝ちとろうではないか」

 

 



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第18話:Dr.エリノア(1)

 ターニャは、大隊長用として与えられた部屋で、この基地の操縦士達をどう教導するか考えていた。

 地獄のような訓練を耐え鍛え上げた規律のある第二〇三遊撃航空魔導大隊の代わりが彼女達とは、頭が痛い。この基地にいる操縦士達全員を先程初めて見たわけだが、あのような短時間の着任挨拶の場ですら姿勢を正しくし続けることができない。それどころかヒソヒトと私語を交わしている始末、あまつさえ飴を舐めている隊員がいるに至ってはあきれるしかなかった。

 確かに、操縦士たる彼女たちは個々の戦闘能力は高いのかもしれないが、統制というものがまるでなっていない。まずは、基本の初歩の初歩である規律というものを教え込まなくてはならないだろう。

 

「少佐殿、どうされたのですか。難しい顔をされていますが。」

セレブリャコーフ少尉が、分厚い資料の束を抱えて戻ってきた。これから会いに行くDr.エリノアへ渡す資料だ。この世界で受領したあのエレニウム工廠の新式魔導具に関する資料なども含まれている。

 

「ああ、すまない。ここの操縦士達をどう訓練するか考えていた。壇上から見ていて貴官も感じているとは思うが、規律というものを初歩から教えなくてはならないようだ。全く、どうしたものか。」

ターニャは、肩をすくめる。

「少佐殿、まだ少し時間もあるようですし、珈琲をお持ちしましょう。今日も忙しくなりそうですし、小休止しなされてはと。」

「誠にありがとう。気が利く副官がいると大変助かる。できればこちらでも戦闘に際しては貴官とツーマンセルを組みたいのだが、難しいのだな。」

ターニャは残念そうに、セレブリャコーフ少尉を見上げる。

「はい、少佐殿。申し訳ありません。エレニウム九七式演算宝珠では新式魔導具と併用しても高度の問題から戦闘機との編隊は困難とのことです。現状、戦闘機と編隊可能なのは少佐殿ただお一人かと。」

「謝ることはないぞ、少尉。空中で戦えない分、貴官には操縦士達の訓練で働いてもらう。なかなか困難な任務だぞ。」

ターニャは笑みを浮かべてセレブリャコーフ少尉に返答する。見知らぬ世界でもこの気の置ける副官がいる。有能な部下とはなんと心強いものだろう。

 

 

 時を暫くして一戸瀬補佐官に案内されたDr.エリノアの研究室は、あからさまに怪しい雰囲気を醸し出していた。

 笑顔のままの補佐官に促され、副官と共に入室すると、あからさまに怪しい機器や薬品が雑然と置かれた研究室には、藤堂司令官といかにも怪しげな汚れた白衣を着た女性がいた。

 

「吾輩はこの基地の技術顧問にして研究者であるエリノア・ユンカース・アーベントロートだ。デグレチャフ少佐、君のことは知己のシューゲル博士から聞いているよ。なんでも、そのエレニウム九五式減算宝珠とやらの開発に深く尽力したそうではないか。」

 

 あからさまにMADそうなぼさぼさの銀髪の女性研究者の口からあのMADなドクトルの名前が出てきたことにターニャは思わず驚いてしまいターニャは反応が遅れる。すると、その女性研究者は怪しげな液体が入ったフラスコを持ったまま近づいていて、ターニャをまじまじと観察し始める。ターニャはその突拍子もない行動に動けなくなる。

 

「Dr.エリノア、興味深いことはわかるが少佐から離れてくれないか。」

藤堂司令官が慌てて止めに入る。

「ドクトルは興味があるものには、突っ走ってしまう傾向があるのでね。デグレチャフ少佐、申し訳ない。」

「吾輩はただ観察しようとしただけだぞ、何もしていないではないか。」

全く反省の色も見せず、Dr.エリノアは不機嫌な顔をする。

 

「本当に驚かせて済まない少佐。改めて紹介しよう彼女が当極東基地の技術顧問でフーファイター研究者であるDr.エリノアだ。ドクトルには操縦士達の潜在能力の向上、捕獲したAFFの研究、運用、監視などを行ってもらっている。大変優秀な研究者なのだが時として怪しげな研究に人を巻き込むことがあるのが欠点といえる。」

「司令官、失礼なことを言うなあ。吾輩がまるで歩く厄災の様ではないか。吾輩はただただフーファイターとの戦いに勝つための研究をしている過ぎないのだがね。」

 

 これはシューゲル博士と同類だ。司令官とDr.エリノアのやり取りだけを聞いて思わす帰りたくなったターニャであったが、表面上はいつもの冷静な表情で挨拶を行う。

 

「挨拶が遅れてしまいましたね。Dr.エリノア、お初にお目にかかります。小官はターニャ・フォン・デグレチャフ、帝国軍魔導少佐を拝命しております。小官はこのたび当基地の航空大隊大隊長に任じられましたのでその挨拶に伺いました。対FF作戦遂行のため兵站総監部の許可のもと、演算宝珠及び魔導具に関する性能資料を持参しております。」

 

 ターニャはセレブリャコーフ少尉に持たせていた資料をDr.エリノアに渡すよう指示する。

 しかし、Dr.エリノアはその資料を流すように読むと机に放り投げる。

 

「藤堂司令官、君もこれを読んだのかい。優秀な性能ということはわかるが、肝心の機構とか核心部分が書かれていない。」

「昨日読んだがDr.エリノア、やはり技術的なものの開示は問題があるのだろう。」

「まったくと言っていいほど技術面の記載がない資料など吾輩には興味がないな。詳細を知るためにはその演算宝珠とやらを分解したいね。」

ターニャの胸元にあるエレニウム九五式を見るドクトルの眼は、獲物を狙う獣のそれだ。自己の興味のためならば他人の迷惑など顧みないタイプの人物とターニャは確信する。

 

「Dr.エリノア。残念ながらエレニウム九五式を含め演算宝珠や魔導具はわが軍の最高度の軍事機密に該当するものですので、本国の許可なく触らせるわけにはいきません。その性能資料さえも本来でしたら特秘に該当するものであります。ご理解いただきたい。」

 

「残念だねデグレチャフ君。吾輩にまかせてもらえばより素晴らしい性能を付加できるのだが。」

「お申し出は有難いのですが、エレニウム九五式はまさに偶然の産物。神とやらの奇跡というものです。変に手を加えればどうなることか。同調が崩れて魔力が暴走すれば最悪この基地ごと吹き飛びませんが。」

 

 エレニウム九五式はあの存在Xの呪いの産物だ。下手にいじればどうなるか分からない。

 

「しかたがないな。では、デグレチャフ君。君のステータスを吾輩にも再度測定させてもらえないか。君に関する資料にも記載があったのだが、昨日の戦闘データと合わせて検証するためには最新の測定データが必要だ」

Dr.エリノアが指差す先には、魔導適性の有無を確認する装置と同じ形状をした装置がある。

 

「流石に見覚えがあるようだね。操縦士達の特殊技能の精神力も、航空魔導士の魔力も根源は同じものだ。この装置はドイツで魔導適性を測定する装置を吾輩が改造したもので、属性や各種ステータス値、スキル効果、特殊技能がわかる。そうだ、君の副官、セレブリャコーフ少尉だったかな?魔導士で女性ならばFF耐性があるはず。彼女も測定しよう。」

 

 




おまけコント8:
デグさん:「なんでこんなに更新が遅くなった。エタったと思われるぞ。2回目とはなさけない」
作者:「申し訳ない」
デグさん:「で、理由は」
作者:「コラボをきっかけに始めた編隊少女のほうにはまりまして・・・」
デグさん:「はっ?」
作者:「はい、編隊少女側のキャラの性格を深く知ろうとしているうちに、イベントを頑張り過ぎました。」
デグさん:「この話を作り始めたのは貴様だ。きちんと描き切るまで監視する。さあ、続きだ。」


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