白露型は幼馴染(例外あり) (なぁのいも)
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白露

 俺には親友が居た。小さいころからの仲で幼稚園もいつも一緒だった。しかも、そいつの家は隣だったから休日もよく互いの家に行って遊んだり、親も同伴で公園に遊びに行ったりもした。アイツと一緒にサッカーしたり、ゲームをしたり、取っ組み合いの喧嘩もしたりしたが、何があってもすぐに仲直りする関係だった。

 

 その親友は俺達が小学校に上がるころに転勤で引っ越してしまった。家に関してはローンがあるとか何とかでそのまま残ってるけど、つい最近までは誰も住んでない。

 

 そう、『つい最近まで』はだ!!

 

 なんとなんと!!驚くことに、その親友がついに帰ってくるのだ!!

 

 もう帰る事は無いかも知れないと、母さん達は言ってたけど、俺は帰ってくることを信じてた!!アイツならいつかこの街に戻ってくると!!

 

 二日前におばさんの姿を見た。大きい家具の搬入を業者に指示する為に先に戻ったらしい。俺の記憶より多少老けては居たが、そこは口にしない。したら、かなりやんちゃだったアイツが怯える程の鬼と化すのだけは覚えてるから絶対言わない。

 

 その引っ越しの作業も殆ど終わったらしく、今日にはアイツも来るらしい。

 

 アイツが居なくなってからこの街も少し変わった。娯楽施設が増えたり、駅を新調したり、遊び場だった空き地が別の場所になったりと大なり小なり変わった所はある。

 

 町の変わりっぷりにびっくりするだろうから、明日は少しだけ変わった案内してやろうかと思ってる。

 

 はてさて、もうそろそろ来るらしい。俺はおばさんの引っ越し作業を手伝いながらアイツを待つっている。

 

 掃除も手入れも業者に頼んで数か月に一度は管理して貰っていたみたいだから、長年留守にしていたとは思えない位に綺麗な家の中だ。

 

 引っ越しの箱をあちこちの部屋に運ぶ最中、荷物をちょっとだけ盗み見してみたりしているのだが、何だか女物の衣類が多い気がする。

 

 おじさんもあいつもそんなに衣類は気にしてないような記憶があるけど、そんなに多かったか?とは思う。まぁ、女性はシャレに気を遣うし多いのか?

 

 頭の片隅に疑問を放りながらも作業を手伝っていると、突然肩を叩かれる。おばさんはこんな事しないし、おじさんもしてこない。でも、何となくでわかるアイツだ。

 

「よぉ…!ひさし――」

 

 振り返ってみると、そこには――

 

「うん!久しぶりだねっ!!」

 

 ――明るい茶色の髪をカチューシャで止めた大きな瞳の美少女が俺の後ろにいた。

 

「はっ?」

 

 あれれー?あいつに姉貴なんかいたかー?記憶にある目と同じなんだがー?アイツの姉貴だからかー?

 

 目の前で何処か誇らしげな表情をしている美少女は昔の記憶にあるアイツの表情と一致する。

 

 昔の記憶と合わなくて急いで照合していると

 

「もう、白露、感動の再会を喜ぶのはいいけど、今はお手伝いの作業を代わってあげなさいな!」

 

「あぁ、ごめん。そうだね、後の作業はあたしがやるよ。一番に片づけて一番にそっちの家に行くから待っててね!」

 

 目の前の美少女が白露と言う単語に反応した。つまりはだ。コイツは俺の親友である白露その人という事になる。

 

 俺はずっと白露の事は男だと思ってた。何でかって?幼い時を共に過ごした白露は男だと思う位にやんちゃで、服装も男みたいな動きやすい服装だったし、お姫様に強く憧れる幼女らしからぬ位に運動大好きっ子だった。

 

 だから、ずっと男だと思ってた。今さっきまでそうだと思ってた。でも、現実はどうだ?実は白露が男だと言うのは俺の思い込みで実は女の子だった?

 

「あ、あぁ、頑張れ、よ?な?」

 

 曖昧な笑みを浮かべながら、俺は白露の家から一目散に去っていく。

 

「はあぁぁああああああああ??!!??!!」

 

 白露が女の子だったと言う事実はまだ受け止められそうにない。

 

 

 




 イメージは小さい頃は男のかと思ってた幼馴染


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時雨

「じゃあなー!!」

 

「おうまた明日!!」

 

「おい部活はどうした!?」

 

「休むことは伝えてあるって!じゃあな!!」

 

 ホームルームを終えて俺は一目散に校門から学校の敷地を飛び出す。部活を休むことは予め部長と顧問に伝えてある。最近熱いから熱中症気味でかったるいと誤魔化してきた。部長と顧問の先生が優しい人で良かった。他の運動部じゃ、この理由じゃ休むことは許してくれないし、今の全力の走りを見られたら十中八九引き止められるだろう。

 

 とは言え学校から出てしまえばこっちの物、後はスーパーによってお見舞いの為の果物でも買えば第一ミッションは完了。そんなわけで夏風邪にいいと言うバナナとキウイを買ってスーパーからも一目散に立ち去る。

 

 第一ミッションは終了。後はメインミッションのみ!

 

 そんなわけで俺が向かったのは、自分の家―――では無くお隣さんの家。この家に、夏風邪を引いて今日の学校に来れなかったひとがいる。

 

 インターホンを鳴らすと、おばさんが出迎えてくれる。

 

 俺の息を切らして肩で呼吸をする姿と手に持ったスーパーの袋でお見舞いに来たことを察してくれたようで、いつも悪いわねと遠慮がちに言われながらも家に上がらせて貰った。

 

 おばさんにお見舞いの品を渡して俺は二階に行って、その人の部屋の前に立つ。一息ついて、ドアをコンコンと叩く。

 

「ん…、来てくれたの?本当に悪いね…。良かったら入って来てくれるかな?」

 

 孤独から解き放たれたように弾む澄み渡るような声。長年の付き合いとノックの仕方で自分が来たことは彼女にはお見通しのようだ。

 

「しぐ姉、入るぞー」

 

 ドアノブを回して中に入ると、黒と白の水玉模様のパジャマを着た黒髪の儚い雰囲気を纏う少女、時雨姉がベッドに腰かけていた。

 

 時雨姉は昔から病弱な所はあるけど、お隣さんのよしみか、勉強がわからないと言えば教えてくれたし、小さい頃は家の中が中心だけど遊んでくれたりもした。だから、俺の中の相性はしぐ姉。俺にとって頼りになるお姉さんの様な人。

 

「しぐ姉、もう平気かな?」

 

「うん。今朝よりは熱も下がったし、食欲も戻ってきたよ。いつも心配してくれてありがとうね」

 

 ふんわりと花が開くような笑みをしぐ姉。笑い方から見ても無理をしている様子は無いから、俺もホッとする。しぐ姉がノックの音で俺だとわかるように、しぐ姉の笑い方次第で無理している事がわかるくらいには気心が知れた仲だから。

 

 それからは、今日の学校であった他愛の無い事をしぐ姉に話す。ちょっとした事や、下らない事でもしぐ姉は笑ってくれるから、俺もついつい話し込んでしまう。

 

「あっ、そうだ」

 

 しぐ姉から借りた物があった。忘れないうちに返さないと。

 

「この本ありがとう」

 

 しぐ姉の趣味の一つに読書がある。俺は国語の成績が悪く、その根幹には読書嫌いがあるのではないかとしぐ姉に言われたから、しぐ姉のおすすめの小説を読むことにしてる。

 

「うん…。その…どうだったかな?」

 

 しぐ姉は受け取った本で口許を隠しながら、何処か期待するような、不安そうな表情でオレの感想を伺う。

 

「その…二人が結ばれてよかったかなーって…あはは…」

 

 と言っても、俺は読書感想文でここが凄かったしかかけない残念読者なので、こんな感想しか言えない。

 

 本の内容としては何というか、恋愛小説だった。ある少女が年下の幼馴染と結ばれる為に四苦八苦する話。この本が国語の成績アップに繋がるかはわからないが、しぐ姉は病弱な所はあるけど頭は俺何かより良いから間違った方法では無いと思う。

 

「………にぶちん」

 

「へっ…?」

 

 しぐ姉が何か言った気がするけど、気を抜いてて何もきいて無かった。

 

「何でもないよ。ただ、君はもうちょっと人の気持ちを知るべきだよ。…僕のとか」

 

「ちょっ、どういうコトだよしぐ姉!?俺はそんなに冷血な人間じゃないって!?それに、しぐ姉の事なら誰よりもわかってるつもりなんですケド?!」

 

「っ!き、君は…わかってるようでわかって無いんだから…。もういいよ。僕はまた寝るから。何だかまた熱が出ちゃったみたいだよ」

 

「えぇっと…その…。お大事にしぐ姉。身体を大事にしっかり療養してくれよな」

 

 熱が出たと言われればもはや為す術はない。しぐ姉にお大事にと声をかけて退室していく。

 

 それにしても、人の気持ちがわからない人間だと思われてたのは心外だ。今度それを見返してやらなければ。

 




 イメージは病弱なお姉さん的な幼馴染。


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村雨

 俺には幼馴染がいる。幼稚園の頃から一緒で、小学校から今の中学校まで一緒。

 

 家はそれなりに近いから、よく一緒に遊んだりもしている。

 

 そんな幼馴染の名前は村雨。変わった名前なのだがちゃんと女の子だ。

 

 俺の贔屓目無しに見ても村雨は美少女だし、この学校で一番かわいいと思う。と言うか、ミスなんたらみたいなコンテストがあっても絶対村雨なら一番をとると思う。事実、先輩から後輩まで村雨に告白してフラれたと言うのを聞いたし。

 

 村雨は偶に意地悪な所はあるけど、基本的に優しいし、思慮深いしお世話さんな所もあるから村雨の事を嫌っている人は誰も居ないと思う。

 

 俺はそんな大人気な村雨さんと、幼馴染と言う間柄だからよく一緒に居たりする。だから、よく友達に『お前ら付き合ってるだろー』とか『美男美女同士でお似合いだぜ』とか『リア充轟沈しろオラァン!!!』とか言われる。

 

 俺と村雨が付き合ってる?ははっ、そんなわけあるか!!

 

 第一に、俺も村雨も異性の友人の中で一番仲が良いし、色々と分かり合っている仲だ。ある種依存なのかも知れないけど、気心が知れてるから一緒にいて一番安心できる仲ではある。

 

 確かに村雨と一緒に映画を見に行ったり、プールや海に行ったり、ボーリングやゲーセン、場合によっては遊園地にもいったりするが、そんな事友達同士なら当たり前だろ?

 

 確かに休日が被ったら、よく村雨から遊びに行こうと誘われたりするし、他の人を誘ったら何故か断られたり、ドタキャンされる事がよくあるせいで結果的に二人きりになる事が多いけど、別におかしなことは無い筈だ。友達同士なら二人っきりで遊ぶのもおかしくない。

 

 第二に俺は別に美少年じゃない。村雨に見合うレベルの容姿かと言われたら絶対に違う。それぞれのレベルの男子が二十人集まっててその中に俺が紛れて居たら良くて中の下と言った容姿だ。

 

 俺ですら美少女だと認める村雨の容姿には到底及ばない。

 

 頭だってよくないし、運動は大して出来ない。殆どなんでも出来る村雨には及ばない。

 

 第三に村雨には好きな人が居ると言う事を何処かの噂で聞いた。

 

 何故か野郎共に『それはお前の事だろ!!』とよく言われるが、別に村雨からアプローチを受けた記憶も無いし、好きだと言われたのは幼稚園に通ってた頃だか小学校に通ってた頃だかの気がする。流石にそのころの発言を本気には今の俺はしない。そのころはよく母さんに『ママ大好きっ!!』って言ってた頃だし。

 

 小学校中学年の頃から、村雨からよく『女の子に対する作法』として色々と教え込まれたが村雨が言ってたしその通りなのだろう。

 

 だから、俺は村雨からアプローチを受けてないし、好きだという事も直接言われてないと俺が言うのも当然の帰結だろう。

 

 こう言うと野郎共からは割と本気のヘッドロックを極められて痛いし、女子の視線が呆れだったり、変にきらきらしてたりしてて怖いので、最近は言わないようにはしてる。俺とて死にたくはない。

 

 というわけで、俺と村雨は付き合ってないし、お互いに恋人は居ない。幼馴染として、村雨に良い恋人が出来る事を祈っている。

 

 と、そんな事を考えている内にホームルームが終わった。クラスメイト達にまた明日と声をかけながら教室を去り、下駄箱で靴を履き替えて校門に向かう。校門の前では、村雨が待ってくれていた。

 

「待たせたか?」

 

「ううん。村雨のクラスも終ったばっかりだから待ってないわ」

 

 ふんわりと笑みをうかべながら村雨は言っているが、村雨のクラスの担任と違って、俺のクラスの担任は他所のクラスより五分も長くホームルームをやっている。

 

 ちょっとした嘘をついて気を悪くしないようにしてくれる村雨は相変わらず優しい。

 

「そうか。じゃあ、帰るか」

 

「うん。今日も勉強頑張りましょ!」

 

 村雨の手をとってその手を握りながら帰路につく。村雨が教えてくれた『女の子に対する作法』だ。他の女の子にやると困惑する子もいるから、やる子は選ばないといけない。取りあえず、村雨は大丈夫。と言うか、教えてくれた本人だし。

 

 村雨の態度も別に変わったものじゃない。互いの家が近いし、俺達は受験生だから学校帰りはいつも村雨の家に寄って一緒に勉強する。ちょっと前まで友達を誘ってそれなりの人数で一緒にやろうともしたのだが、絶対に断られるから最近は誘ってない。

 

 不思議な事と言うほどでもない。他の人と勉強したいのだろうし、一人の方が勉強が捗る人もいるのだろう。

 

 これでわかったと思う。 

 

 なっ?俺と村雨は付き合ってないだろ?

 

 




イメージは村雨が積極的過ぎて、距離感を麻痺させてしまったので外堀を埋めつつ挽回しようとしてる幼馴染


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夕立

 

 僕には妹は居ない。妹どころか、兄も姉も弟も居ない。

 

 でも、可愛らしい妹分なら居る。小さい頃から仲良しで、僕の事を兄の様に慕ってくれる女の子。

 

 名前は夕立。不思議な名前だけど、僕からすればよく慣れ親しんだ可愛らしい二歳年下の女の子。

 

 夕立は僕と違って元気いっぱいで活発で太陽みたいな女の子。僕はどちらかと言うと、夕立みたいに活発じゃ無ないし、明るくも無い。よく外に出て運動を楽しんでいる夕立とは違って、部屋で音楽を聞いたり読書をしている方が好き。

 

 でも、幼馴染のよしみか、はたまた可愛い妹分の為に知らぬ間に自分も張り切っちゃうのかは自分でもはっきりとしないけど、夕立に誘われるとついつい断る事が出来ずに一緒に外出してしまう。

 

 夕立のエメラルドの瞳がキラキラと輝くのを見ると、僕の心も弾むから。夕立が太陽の光を受けて輝く亜麻色の髪が綺麗だから。いや、それも言い訳かな。夕立が僕と一緒にいるととても楽しそうに笑ってくれるから。

 

 僕は外に出る事も、運動をする事も得意じゃ無いけど、夕立と一緒なら不思議と楽しく感じる。ちょっと言いすぎになるかもしれないけど、夕立と一緒なら何でも出来る気さえする。

 

 とまぁ、妹分をの良さを語ろうと思えばいくらでも語れるけど、今はこれくらいで止しておこう。夕立は僕の可愛い妹分だってことだけはわかって貰えたら嬉しい。

 

「おにーちゃん?」

 

 そんな事を考えながら歩いていたら、隣に居た夕立が顔を覗きこんできた。

 

「ぼうっとしてるけどどうしたの?」

 

「何でもないよ」

 

「ふーん…」

 

 不思議な物をみるかのような視線を僕に向けてくる夕立に僕は苦笑いを浮かべる。

 

 今日は夕立と一緒に映画を見に行ってその帰りにクレープの移動販売を見つけたから、それに寄り道している最中だ。

 

 アニメとかを中心に見てる夕立にしては珍しく、ドラマ系の映画を見ようと言って来た。と言っても、多分漫画を実写映画化した物だと思うけど。

 

 映画は中々面白かった。夕立のような年頃の女の子が好きそうな学生の青春系のラブストーリーと言った所。夕立に感想を求められたから、思いつく限りを言ってみたけど、夕立が不満そうに頬を膨らまして「そういう感想が欲しかったわけじゃないっぽい」と言われてしまった。

 

 それからと言うもの、夕立は不機嫌になってしまったのだ。理由はよくわからないけど、何とか機嫌を直せないかと思ったらクレープの移動販売を見つけた。だから、夕立に一緒に食べないかと誘った。食べ物で釣るのは卑怯かも知れないけど、原因がわからないし、教えてくれないし、そんな僕が情けなさ過ぎて嫌だし。でも、それ以上に夕立が不機嫌な顔のままなのが嫌だった。

 

 何とか夕立を説得して一緒に食べる事が出来た。それで機嫌を直してくれるかはわからないけど、夕立が喜んでくれるならそれで構わない。

 

 夕立の注文したクレープはトッピングが沢山で今にも溢れ出てしまいそう。

 

「わわっ!!クリームが溢れるっぽい!?」

 

 ちょっと指でクレープの生地を押しただけで、生クリームが溢れそうになってしまう。追加で生クリームは流石にやりすぎだと思ったけど、慌ててクレープに噛り付く夕立は可愛らしいので良い物が見れた。

 

 夕立に習う様に僕もクレープを齧る。

 

「うん。おいしい」

 

「おいしいっぽい!」

 

「よかった」

 

「おにーちゃんの少し貰っていいっぽい?」

 

「うん。召し上がれ」

 

 ほんのりと顔を赤く色づかせて恥ずかしそうにする夕立の口許に僕のクレープを持っていく。

 

 食べさせあいっこ位、昔からしてるのにとか思ったりして僕は笑みを零す。

 

 いつもは大きく口を開けて食べる夕立が、僕が食べていた箇所を小さく噛みちぎると口許を手で隠しながら僕のもとから離れていく。

 

「う、うん。美味しいっぽい」

 

「うん。よかったね」

 

 ちょっと言葉に詰まった事が気になったけど、夕立の満面の笑みが嘘をついているとは思えない。僕の好きに選んだクレープだけど、夕立の好みに合う物だった様で何だか嬉しい。

 

 そのまま何も言わずにクレープを互いに食べ続けていたけど、ふと夕立が言葉を零した。

 

「おにーちゃん」

 

「うん?」

 

「夕立、おにーちゃんの事…その…大…好き……ぽい」

 

「うん。僕も夕立の事が大好きだよ」

 

 可愛い妹分の夕立。嫌いになる筈がない。

 

 でも、夕立はまた頬を膨らまして僕の事を可愛らしく睨む。

 

「おにーちゃんは乙女心の勉強が足りないっぽい!!」

 

 夕立はぷんぷんと可愛らしく怒りを露わにする。

 

「えぇ…彼女も居ないし仕方ないじゃないか。僕と一緒にいる女の子は夕立、君しか居ないよ」

 

「……ふん!!」

 

 ついにそっぽを向いてしまった夕立。彼女の長い髪の隙間から覗く耳は怒りからか紅葉色に染まっていた。




 イメージは妹以上の存在として見て欲しいけど、中々抜け出せない幼馴染


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春雨

僕にはお隣さんの幼馴染みがいる。

 

名前は春雨ちゃん。高校生になったばかりの僕より、3歳位年下の可愛らしい女の子。いつも、何処かおどおどしてて、小動物的な愛らしさを秘めている、妹みたいな幼馴染み。

 

ちょっとだけ昔のお話をしてみると、小さな頃の春雨ちゃんは、僕の背中に隠れているようなか弱い女の子だった。一緒の登校班で通学してた時も、僕の背中にピッタリとくっついてたくらいに。

 

春雨ちゃんの両親は共働きで帰ってくる時間も遅い事が多いから、昔から僕の家で一緒にご飯を食べたり、泊めてあげたりと、所謂家ぐるみの付き合いだ。

 

今日も春雨ちゃんの両親の帰りが遅いらしく、春雨ちゃんの事を頼まれた。僕のお父さんもお母さんも、親戚の方に用事があるから出掛けてた。けど今日中に帰ると言ってたから楽観視してたんだけど……。

 

『ーー市は台風の影響を受け、暴雨と暴風によりーー』

 

受話器を当ててた耳とは、反対の耳がテレビからの音声を拾う。

 

「ーーそっか……。うん。気をつけて」

 

『ごめんね……。春雨ちゃんの事を頼んだわよ。気をつけてね』

 

「仕方ないよ。うん。そっちも気をつけてね」

 

僕の両親が、台風で帰れなくなって、親戚の家に急遽泊まってくことになってしまった。

 

僕は重くなった足をなんとか持ち上げて、春雨ちゃんの待つテーブルの椅子に腰をおろす。

 

「なんて言ってましたか……?」

 

春雨ちゃんは彼女が腕を振るって作ってくれた料理越しに、不安そうに僕に訪ねる。

 

「ごめんね……。天気が荒れすぎて帰れなくなったって……」

 

「そうですか……」

 

残念そうに項垂れる春雨ちゃん。言葉少ない僕らの会話には、雨戸を叩く暴雨と荒れ狂う風が絶え間無く合いの手を打っている。

 

春雨ちゃんは料理の練習をしてきたから、日頃のお礼として、僕たち家族に振る舞いたかったらしい。なんとも優しい心を持った女の子だろう。

 

しかし、今この時、彼女の手料理を賞味出来るのが、僕だけと言うのが、本当に悔やまれる。

 

「僕だけでごめんね……。…… 食べようか」

「い、いえ、お兄さんに食べてもらえるだけでも、春雨は嬉しいです、はい……」

 

彼女の言葉には嘘はないだろう。でも、言葉尻が萎んでいくのには、ちょっと申し訳なさを覚える。

 

ーーお兄さんか……。昔は、お兄ちゃんった呼んでくれてたのになぁ……

 

郷愁を覚えるかのような、一抹の淋しさを僕は胸の奥底で感じる。

 

春雨ちゃんは俯かせてた顔をあげると、笑顔を作り、両手を合わせる。僕も春雨ちゃんに習うように両手を合わせる。

 

「「頂きます」」

 

二人だけの晩餐がここに始まった。

 

春雨ちゃんの料理はちょっと濃かったりしたけれど、頑張って作ってくれたのが、よく分かる出来だった。

 

 

 

 

ご飯を食べ終わり、僕も春雨ちゃんもお風呂に入り、お互いに寝床に着く。寝る場所は別々の部屋。僕もその……女の子にあまり見られたく無いの物があるわけで……。だから、普段は別の部屋で寝ている。

 

窓から閃光が差し込み、間を開けて轟音が鳴り響く。

 

ーー近いな

 

光と音から何となくそう思っていると、また閃光と雷鳴が轟いた。

 

ーーそう近くもないのか?

 

今度は光と音の感覚が広い。

 

寝ようとしても、この光と轟音に寝れず、ぼんやりとした頭でこれは停電もあり得るのでは?とか考えてると、小さくドアを叩く音とドアノブが回された音が新たに耳に入った。

 

ドアに目をやると、そこには、紅色の宝石が宙に浮かんでいた。いや、それが宝石なんかじゃなくて、春雨ちゃんの瞳であるのは重々わかっているのだけれど……。

 

「あの……一緒に寝ても……いいですか……?」

 

雷鳴に消されそうな弱々しい声と、今にも零れ落ちそうな位に潤みを帯びた紅瞳。

 

「うん。いいよ」

 

僕は二つ返事で了承する。こうなるだろうと思って、隠すべきものは隠してあるし。

 

春雨ちゃんは昔から雷が苦手なのだ。

 

 

 

 

春雨ちゃんが寝てた部屋から、二人でお布団を引っ張って、僕のお布団のとなりにセッティングする。

 

お布団をセッティングし終わって、僕が布団に入ると、春雨ちゃんも慌ててお布団に入って、小動物が甘えて来るかのように僕の胸の中に収まる。

 

「お兄ちゃん……」

 

この時ばかりは、昔と変わらない呼び方に戻る。春雨ちゃんからこう呼ばれると、今も昔も春雨ちゃんは春雨ちゃんなんだなって、不思議な安心感を覚える。

 

「よしよし……」

 

だから、僕も昔みたいに春雨ちゃんの背中をポンポンと叩く。

昔の春雨ちゃんは、雷が落ちる度に大きな声で泣いてたから、泣き止んで貰うために背中を叩いてたのが、今もこうして残ってる。流石に今は泣いたりはしない。泣きそうになってることは、今も何回かあったけども……。

 

「お兄ちゃん……」

 

「なぁに?」

 

「お兄ちゃん……」

 

「ここにいるよ」

 

「お兄……ちゃん……」

 

「君を守るよ」

 

「うん……お兄……ちゃ……」

 

「よしよし」

 

「お……に……ち……ん……」

 

うわ言のように僕の事を呼び、僕がここに要ることを確かめるように、僕の手を握る春雨ちゃん。

 

雷が収まってきたことと、僕がずっと返事をしたことが功を制して春雨ちゃんはやがて、安らかに寝息をたて始めた。

 

「うん……おやすみ……春雨ちゃん…………」

 

春雨ちゃんの小さな身体を守るように、僕は春雨ちゃんを僕の身体で覆うように抱いて眠りに着く。

 

明日こそは、父さんと母さんにも春雨ちゃんの料理を味わって貰えることを願いながらーー――



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