異能の少女は何を齎す (如月しらす)
しおりを挟む

1 初めまして、おやすみなさい

 

 

 

 

それは、静かに雪が舞う冬の日だった。

 

きらきらと、しんしんと、穏やかに降り積もる雪の中で小さな産声が響いた。

 

少し広めのお屋敷に、聞こえてきた産声に集まっていた人間たちは微笑みを浮かべる。

 

 

「よくやったわ…偉いわね。お疲れ様ソフィア」

 

 

ソフィアに産まれてきたばかりの赤ん坊を手渡される。

 

 

「まあ……この子が……私の、子……可愛いわ。ねえ、あなた。名前は、名前はどうするの?」

 

「ソフィア、そんなに急かさないでおくれ。昨日母さんと考えていたんだが、シャルロット…はどうだろうか?」

 

 

シャルロット、という響きを気に入ったのか、ソフィアは何回も何回も名前を呟く。

 

それから、素敵な名前ね、と呟いて赤ん坊の頬を優しく撫でる。

 

それはそれは幸せな家庭の様子だった。

 

これが、シャルロット・フリンデル誕生の瞬間である。

 

 

 

 

フリンデルの家は特殊だった。

 

代々この家の者は少し変な能力を持って生まれるのだ。

 

小さな怪我を触れるだけで癒す者、小鳥と話せる者、手を叩くと小さなお花がまわりに咲き乱れる者。

 

本当に少しの奇跡の力を魔法の力とともに持って生まれるのだ。

 

 

「っと…母さん、少し肌寒い…。シャルロットの為にも少し暖炉の火力をあげてくれないか?」

 

「……アルフレッド、貴方がやりなさいよ…」

 

 

はぁ、とため息を吐きながら、アルフレッドの母親___ミラは杖を出した。

 

ほんの少しだけの魔力を載せ、インセンディオと唱える。

 

すると、暖炉の火が少しだけ大きくなった____いや、大きくなりすぎた。

 

それはもう、壁や床に燃え広がるのではないかと思うほどに。

 

あまりの出来事に、ミラは小さく声をあげる。

 

その声にアルフレッドが反応した。

 

炎の様子を見たアルフレッドは慌ててアグアメンティ!と唱える。

 

その瞬間、あたり1面が水浸しになってしまった。

 

 

「ちょっと!アルフレッド!?何考えてるのよ!」

 

 

「ち、違う!!僕はここまで魔法の威力は出せないよ母さん!」

 

 

ここで、それまで黙っていたソフィアが口を開けた。

 

 

「2人とも、それは…シャルロットの能力かもしれないわ」

 

 

信じられない言葉に2人は目を見開く。

 

 

「いや、何を言っているんだソフィア。そんな大きな奇跡、フリンデルには出たことないぞ」

 

「本当よ、あなた!2人が魔法を行使する時、シャルロットの紫の瞳がぽうっと輝いたの……私、びっくりしてしまって思わず黙りこくってしまったのだけれども……」

 

「そんな…人の魔法の威力をあげるだなんて闇の陣営に知られでもしてみろ、そんな便利な恐ろしい力、誘拐ものだぞ!……それに、ああ、確かに魔力も増えた感覚がする」

 

 

アルフレッドのその言葉に、ソフィアは肩を震わせた。

 

 

「アルフレッド!そんな事言うもんじゃない!!いい、これは私達の中で絶対に守らなければならない秘密。これから極力この子の前で魔法の力を使うのは禁止よ」

 

 

ミラのその言葉に2人は固く頷いた。

 

何も知らないシャルロットは、楽しげにソフィアの髪で遊んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

それから五年の月日が経った。

 

金の髪をハーフアップにし、白いワンピースを纏った可愛らしい女の子が、小さなお屋敷を駆け回っていた。

 

 

「かあさまかあさま、もうすぐわたしのおたんじょうびよ、ねえねえ、やっとおそとにだしてくださるの?」

 

 

ソフィアは、シャルロットのその言葉に思わず顔が引き攣る。

 

外には魔法が溢れている。

 

シャルロットの力を隠すために今までずっと外に連れ出さなかったのだ。

 

シャルロット自身も外に出たいとは今まで一言も言わなかった。

 

それがこの前、酔っぱらったアルフレッドが、シャルロットに5歳になったら外に連れて行ってあげよう、などと言うものだから、外にいきたいと連呼するようになったのだ。

 

まあ、1度は連れていってあげたいものだが、まだ5歳で好奇心旺盛なのだ、どんなことが起きるのかわからない。

 

 

「そうねぇ……シャルがいい子にしてたらきっと行けるわよ。それよりも、昨日新しく買ってあげたご本は読んだ?」

 

 

「もちろんよんだわ!あのほんはとてもこうさつのしがいがあったわ、あのかたのさくひんはどれもすばらしくて、さいこうよ!つぎもまちきれないわ!」

 

 

このように、外に行けないシャルロットにはたくさんの本を与えてきた。本人も本を読むのは好きなようで、あっというまにフリンデル家に置いてある本を読み切ってしまったのだ。

 

悪いことではないのだが、もう少し軽い気持ちで読んで欲しい。

 

 

 

____________

 

 

 

 

「かあさま、とうさま、はやくはやく!!」

 

 

ソフィアは公園あたりでいいと思っていた。

 

だが、アルフレッドがダイアゴン横丁に行こうなどと言ったのだ。

 

アルフレッドはシャルロットの能力を軽視しているように見える。

 

無論反対したのだが、孫に甘いミラと娘に甘いアルフレッド、そしてシャルロット自身に押され結局ダイアゴン横丁になってしまった。

 

シャルロットの力があの時限りのことであってほしいと願わずにはいられないのだが、どうにもそうはいかないようだ。

 

シャルロットが通ると、その近くで魔法を行使した人の魔法威力が上昇。

 

魔法を使う人がたくさんいるこの場所で、魔法威力など上昇させてみろ、それはもう大混乱になる。

 

このように。

 

予想以上の威力が出て、周囲に被害が出る。

 

人でごった返したダイアゴン横丁がたちまち大混乱に陥り、皆が我先にと逃げ出す。

 

 

「シャルロット!こっち、だめよ、勝手に行かないで!」

 

「かあ…さま、まって、きゃ、ひとが…!」

 

 

人の波に足を取られたシャルロットは両親からどんどん離れていってしまう。

 

シャルロットは、今両親の元へ無理に行くのを諦め、とにかく人のいない方に一旦避難して、周囲が落ち着いたあと両親の元へ行こうと思い、そのまま人の流れに流される。

 

暫く流されていると、いつのまにか人がいなくなっていた。

 

見知らぬ場所に1人なのは心細いが、なんとかして両親の元へ戻らなければならない。

 

いくつかの路地をまがったところで段々と周囲が暗く、雰囲気が悪くなっていくことが感じ取れた。

 

どこを見ても黒かったり、怪しいお店が立ち並ぶ通りに入ってしまったのだ。

 

 

「もしかして、ここが…のくたーんよこちょう…?」

 

 

何かの本に書いてあった気がする

 

 

「おやおやお嬢さん迷子かな?」

「大丈夫かい?お婆さんについてくるかい?」

「こっちにおいで、甘いお菓子をあげよう」

 

 

話しかけてくる人は優しい言葉と表情だが、それはシャルロットが今までにみたことのない悪意が滲み出たものだった。

 

シャルロットはそこから逃げるように走る。

 

 

こわい、コワイ、恐い、怖い

 

 

前を見て走っていなかったからか、ドンッと誰かにぶつかってしまった。

 

 

「ごめ、なさ……」

 

 

全身真っ黒い服に身を包んだ男の人は慌てて離れようとするシャルロットの肩をがしりと掴んだ。

 

 

「おじさんは大丈夫だよ、こんにちはお嬢さん。

確認なんだけど、君はフリンデルの子かな?」

 

 

まだ小さいシャルロットは、苗字が出てきたことで安心したのか、こくこくと頷いてしまった。

 

 

「うん、うん。フリンデル。シャルロット・フリンデルだよ。おじさんは…とうさまかかあさまのお知り合い?」

 

 

「そうかぁ、それはよかった。フリンデルの力なら納得だ。さっきのダイアゴン横丁での騒動の原因は君だよね?君が歩く度に瞳が薄く輝いていた。あの不思議な力、見た時はびっくりしたよ?きっとこの子の力ならあのお方を復活させるための魔力が少なくても補える。そして復活したその後も、あのお方はきっとこれをお喜びなさるはず…!」

 

 

黒い洋服のおじさんは、先ほどの魔女や魔法使いと似たような悪意のある笑顔を浮かべた。

 

 

「ひ……ぁ………おじさん、ちがうよ……そんなの、わたし、しらない………おじさん…なにいってるの…わ、たし、そんなの、わからな…はなして…!!」

 

 

「シャル!!!!」

 

 

「…とうさま!!!かあさま!!!」

 

 

「この!シャルを離せ!ステューピファイ!」

 

 

油断していた黒い洋服のおじさんはあっさりと呪文に当たって気絶する。

 

両親は慌ててシャルに駆け寄ると、はやくここを離れよう、とだけ言い慌てて家へと帰った。

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「ソフィア」

 

 

アルフレッドの決意のこもった声が、ソフィアの名を呼ぶ。

 

その声に悟ったソフィアは思わず涙を滲ませた。

 

前々から相談していたこと。

 

どうやら今日シャルロットを外へ連れていったことにより、心に決めたらしい。

 

例のあの人が幼子に敗れた後、散り散りになったり捕まったはずのデスイーターの残党に運悪く見つかってしまった、バレてしまった。

 

シャルロットの力を知った闇の陣営は、勢力復活の為にもきっとすぐにここに来るだろう。

 

それまでにやってしまわねばならない。

 

 

 

それは、自分の命と魔力を引き換えに、シャルロットの魔力ごと能力を封印してしまうこと。

 

 

 

誰かがやらなくてはならないことだった。

 

だが、ミラはもう老体で体も弱く、命を代償にしてもシャルロットを封印する事は難しかった。

 

 

「あまり長引かせると後が怖い、そして君とも離れたくなくなる。寝てる母さんにはすまないと言っておいてくれ」

 

「あ、あなたがやるなんてだめよ!私が…」

 

「あの子に必要とされるのは、君だ。子は母がなによりも大切だ。最後だソフィア。愛しているよ」

 

「嫌、嫌よ!あの子のためだとしても…そんな、アルフレッド……!!まだ、一緒に……」

 

 

ソフィアの前で閉ざされた扉は、もう開く事は無かった。

 

 

寝ているシャルロットにアルフレッドは涙をこぼした。

 

まだ成長する娘を見ていたかった。

 

扉の前で泣き続けるソフィアとまだ暮らしていきたかった。

 

母さんの最後まで、一緒にいてやりたかった。

 

まだやり残した事は多いが、世界で一番の宝物、自分の子供の為ならば、自分は命を使ってでも守る。

 

 

「勝手な父を許してくれ」

 

 

シャルロットの手を握り、長い詠唱を終えると、アルフレッドは金色の粒子に包まれて消えていった。




とりあえず4話まとめて投稿してしまおうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2 おはようございます、さようなら

 

 

 

 

 

父親をなくしてからさらに5年。

 

魔力ごと封印されてしまったシャルロットは、魔法の知識は持つが魔法の使えない魔法族…、つまりスクイブのような立場になっていた。

 

元から自分が魔法を使っていた訳でも無く、家族もあまり使わないから、あまり前と立場は変わらない様な気もする。

 

父親が消えてからすぐにあの小さな屋敷からは引越しをした。

 

新しい家はあの家から遠く離れた所、さらに、近隣の街からも随分と離れた森の中だ。

 

元は誰かの別荘だったらしいが、あまりの使い勝手の悪さに手放したらしい。

 

その使い勝手の悪さがシャルロット達にはちょうど良かった。

 

無駄に敷地だけ大きい誰かの別荘は庭も広大だった。

 

その庭の隅で小さな家庭菜園をして、父親や祖父がフリンデル家のためにと貯めていた多大な額の貯金や、フリンデルの財産を少しずつ切り崩して暮らしている。

 

シャルロットは窓枠に腰掛け、分厚い本を読みながら、見事に紅く染まった森を窓から眺めていた。

 

 

「もうこの紅葉を見るのも5年目か、あと少しで私も11歳になってしまうけれど、私は……学校にも行かずにずっと館にこもったままなのかしらね」

 

 

1人ため息をついたその時、自室の扉がノックされた。

 

母親か祖母のどちらかだ。

 

どうぞと返事をするとガチャリと扉が開く。

 

アプリコット色の髪に私が譲り受けた紫色の瞳、母だ。

 

 

「シャルちゃん、そろそろ……行きましょうか、支度をして降りてきてね」

 

 

「うん、お母様。お祖母様連れてすぐに行くから大丈夫よ」

 

 

「ええ、じゃあよろしく頼んだわ」

 

 

もうあれから3ヶ月経ったのか、はやいものだと重いながら軽く髪を整える。

 

整えるといっても長い金の髪を軽く梳かすだけだが。

 

この金の髪はお父様譲りらしくて、素敵ね、綺麗ね、だなんてよくお祖母様に褒められる。

 

私達は3ヶ月おきに元の館へお墓参りに行っている。

 

とはいってもそこには骨もお墓もないのだが、お父様を忘れないようにする為に結構多めの頻度で祈りを捧げに行くのだ。

 

さ、これで準備は大丈夫、お祖母様を迎えに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

「お母様、お祖母様も連れてきたわ」

 

「もう、シャル?私はまだお祖母様なんて呼ばれたくないのに、まだまだ若いわよ?ほら、ほら」

 

 

階段でくるりと回ろうとする祖母をなんとか止める。

 

そろそろ本当に危ないのだからあまりお転婆な事はやめてほしいものだ。

 

 

「それじゃあ二人共、腕に捕まって」

 

 

玄関ホールで待っていた母親に近寄り、そっと腕に手を添える。

 

姿現しだ。私これちょっと苦手なんだけどなぁ。

 

とか思ってる間についた。うう、やっぱりちょっと気持ち悪い。

 

 

「さ、アルフレッドにお祈りを捧げに行くわよ、シャル」

 

 

お祖母様に腕を引っ張られて慌てて付いていくシャルロット。

 

その様子を見ていたソフィアは、微笑ましい気持ちになる。

 

貴方は……あんなに大きくなったシャルロットの事を見ているのかしら、アルフレッド。

 

その時だった。

 

ソフィアの首に杖が突きつけられているのだ。

 

 

「やっと、やっと見つけたぞ。シャルロット・フリンデルの母親のソフィア・フリンデル。あの娘から魔力を感じないが、貴様らが何かやったのか」

 

 

ソフィアは緊張と焦りで冷や汗が出た。

 

この5年間何もアクションが無かった為に完全に油断していた。

 

あの時のデスイーターの残党…!

 

 

「ふ、シャルの魔力を封印したの。

もうあの力は使えないし、貴方達にはどうすることも出来ないわ、残念だったわね?」

 

 

「こいつ…ッ!…………!!!!そうか、そうか……!!!!クルーシオ!!」

 

 

「!?!きゃ、ぁあぁぁあああ」

 

 

遠くから聞こえた声に驚き、シャルロットとミラは後ろを振り向く。

 

ソフィアが謎の男になんらかの危害を加えられているようだ。

 

 

「お母様!」「ソフィア!」

 

「き、来ては……だめ!っ、ああぁああぁぁ!!!!!」

 

 

ソフィアは顔を歪ませ、必死に苦痛に耐えていた。

 

黒い服の男はシャルロットにも杖を向ける。

 

 

「ソフィア・フリンデル。その痛みを娘にも与えてあげるのはどうかな?」

 

 

男の声にソフィアは首を振る。

 

そんなのダメだ。絶対にダメだ。

 

あの子に傷なんてつけさせやしない。

 

アルフレッドの代わりに私が守らなければならない。それこそ命に変えても。

 

じゃなければ、命をかけてシャルロットを封印したアルフレッドに顔向けなんて出来ない。

 

そして、あの子は私達の大切な宝なのだから。

 

 

「あれ?返事なしかい?じゃあ、遠慮なく……クル__」

 

 

痛みに意識が朦朧とする中でこれだけは譲れなかった。

 

もう、痛みで頭もおかしくなっていたのかも知れない。

 

でも、あの子を今守るにはこれしかない。

 

きっとお義母様の魔法ではこの男に相殺されてしまう。

 

お義母様は魔力も少ないし、逃げきることが出来ない。

 

今コイツからあの子を守るためには…封印を解くしかない。

 

アルフレッドに顔向け出来ないな、なんて考えながら、男が呪文を唱える前に途切れ途切れに詠唱を始めた。

 

その詠唱と共に、辺りに金色の粒子が舞う。

 

突然のことに男は驚いて呪文を放つのを忘れていた。

 

最後の詠唱を終えると、ソフィアは腹の底から叫んだ。

 

「……好き、よ…大、好きよシャル。お義母様、逃げて!!!」

 

 

金の光が眩しく輝く。

 

シャルロットの失っていたものが元に戻っていく。

 

思わず涙をこぼすシャルロットに、ミラは思い切りシャルロットを引っ張った。

 

最後に見えたのは消えゆく母と慌てふためく黒い服の男だった。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

シャルロットが意識を取り戻すと、そこは玄関ホールだった。

 

どうやらミラの姿くらましで家へと帰ってきたようだ。

 

ミラも父と同様魔力量が少なくて、ここまでの魔法は使えないはずだが…一体。

 

二人共放心状態で座り込んでいた。

 

 

「………お祖母様……お母様は、どう、なって、しまったのですか…」

 

 

シャルロットが顔を上げると、ミラは涙を流していた。

 

ミラの前で手を振っても話しかけても反応無し。

 

これは、まずい状態かもしれない。

 

母がどうなったのかも気になるが、失った魔力が戻ってきたのは少し嬉しくもあった。

 

シャルロットが立ち上がると、ミラはぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

「…シャル……あなたの魔力を封印したのはね、あなたの力が問題だったの。フリンデルが代々小さな奇跡を持って生まれるのは知ってるわね?」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「あなたの力は…魔法威力増強。それに伴って魔力増幅も伴っているの。フリンデルではそんな大きな能力を持つものは出たことがなかった。それはとても危険な力なの、かつてダイアゴン横丁で小さな問題を起こしたことを覚えてる?」

 

「5歳の時のこと…?人の波にもまれたことしか……」

 

「そうね、その時のこと。あなたの能力でそこかしこで魔法を使っていた人の魔法が強化されてしまって、人々は混乱に陥った。それから、その能力を目にした闇の陣営の残党があなたに目をつけた。それを危惧したアルフレッドは……あなたの能力を、魔力ごと命を使って封印したの、ソフィアは…魔力量の足りない私にきっと気づいていた……。私達を逃がすために、また命を使って……あなたの魔力を解放したの……これが、全て」

 

それを聞いたシャルロットは崩れ落ちた。

 

お父様もお母様も亡くなったのは自分のせいじゃないか。

 

この忌々しい能力のせいだった訳だ。

 

 

「ごめん、なさい…私のせいで、お祖母様の大切な息子も、お嫁さんも……私のせいで__」

 

 

バシンッ。

 

ミラがシャルロットの頬を叩く。

 

突然のことにシャルロットは目を瞬かせた。

 

 

「シャル!アルフレッド達の想いを履き違えないで!二人共貴方を想って命をかけたの、貴方が大切な宝物だから…だからっ___」

 

「もういいよ、お祖母様。もう……ごめんね、そこまで言わせてしまって」

 

 

泣き崩れるミラをシャルロットは抱きしめた。

 

お祖母様の悲しみを晴らしたい。再び家族全員で過ごしたい。その為には____シャルロットの瞳には仄暗い光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

それから数ヵ月後、シャルロットの元にホグワーツからの入学許可証が届いた。

 

何故かコンタクトと共に。

 

 

「お、お祖母様?ホグワーツからの入学許可証と共に変なものが……第一私はホグワーツになんて行けないわ、私の能力が…」

 

 

ミラは編み物をしながら慌てるシャルロットに向かってくすくす笑う。

 

 

「びっくりした?ダンブルドアにずぅーっと前に頼んでたのよ、それ。シャルをこのままここに閉じ込めて暮らすだなんて前から嫌だったのよね。そのコンタクト、ある程度魔力を抑えてくれるの。魔力が抑えられるって事は能力も必然的に小さくなる。シャルの周りにいる人にはすこーし増強作用が出ちゃうかもしれないけど、その事については許可取得済みだから安心して行っておいで」

 

「い、いいの?お祖母様……そこまでしてくれていたなんて……」

 

「もちろん、それにここにいるよりホグワーツにいた方がシャルは安全だしね」

 

「お祖母様……ありがとう…!!!あ、でもお祖母様はここで1人になってしまうけど大丈夫…?」

 

 

魔法学校に行けるって事は魔法の勉強が出来るということ。

 

魔法の勉強が出来るという事は私の目的にも近づけるということ。

 

これ程嬉しいサプライズはない。

 

 

「しもべ妖精さんがいるし大丈夫よ、その代わり、シャルには手紙を書いて欲しいわ」

 

 

「うん、もちろん書くわ!絶対書く!」

 

「約束よ、シャル。そうそう、試しに1週間後にダイアゴン横丁に買い物へ行きましょうか。そのコンタクトをつけて、ね?大丈夫だから」

 

「き、緊張するわ……このコンタクト本当に大丈夫かしら……」

 

「ダンブルドアに頼んだものなんだから大丈夫に決まってるわよ、多分……」

 

 

最後のミラの言葉に2人とも半笑いになった。




ごめん、シャルちゃんごめん
軽率にご両親消してしまって本当にすまない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3 ダイアゴン横丁、再び

 

 

 

 

 

 

1週間後、シャルロットはミラとダイアゴン横丁に来ていた。

 

もちろんコンタクトをつけて。

 

そのコンタクトは薄氷色のカラーコンタクトになっていて、シャルロットの紫紺色の瞳は隠されていた。

 

 

「お、お祖母様…大丈夫?これ、被害出てないかしら?」

 

「うん、大丈夫そうだよ、ほら、魔力ごと抑え込んでいるから影響も少ない。本当に少しばかり威力が上がるだけだから問題はないわね」

 

 

ミラの言葉にホッとする。

 

こんなに人の多いところは5歳のあの時以来だ。

 

 

「それじゃあ私は銀行に寄ってくるからその間に制服の採寸と杖を見繕っておいで。連絡はこれでね」

 

 

そういうとミラは自分の耳につけていたイヤリングを1つシャルロットに手渡す。

 

これはミラの夫、つまり、シャルロットのお祖父様に結婚の時にプレゼントされたものらしい。

 

どんなに離れていても対になったイヤリングを持つもの同士で会話ができるという魔法具だ。

 

少し両面鏡と似ている。

 

 

「じゃあお祖母様またあとで…!」

 

 

お互いに軽く手を振って別れる。

 

まずは制服の採寸に行こう。

 

 

 

 

シャルロットはマダム・マルキンの洋装店の前までやってくると、恐る恐る扉を開けた。

 

 

「あら、いらっしゃい。制服の採寸かしら?」

 

 

若干ふくよかだが、人の良さそうな笑顔を浮かべた女性に話し掛けられた。

 

彼女がマダム・マルキンなのだろうか。

 

 

「あの、すみません…お邪魔しています、ホグワーツの制服の採寸をしていただきたく「ホグワーツね、こちらに来ていただける?」あ……はい…!」

 

 

会話は途中で遮られ、呼び寄せられる。

 

きっとこの時期は学生がひっきりなしに来る為に忙しいのだろう。

 

指定された場所に行くと先客がいた。

 

私よりも明るいプラチナブロンドの髪をオールバックにした少年だった。

 

 

「やぁ、君もホグワーツなのかい?」

 

「え、ぁ…ええ、そうなの、貴方も?」

 

 

驚いた。まさか話しかけてくるだなんて思っていなかった。

 

どうしたらいいのだろう、こんな感じでいいのだろうか?同年代の子と話すのはほとんど初めてだから緊張どころの話じゃない、死にそう。

 

 

「ああ、僕はマルフォイ、ドラコ・マルフォイだ。君は?」

 

「マルフォイ…?マルフォイってあのマルフォイ?凄い…!初め、まして……私はシャルロット・フリンデルよ」

 

 

マルフォイといったら知らない人がいないくらいの有名な名家じゃないか。

 

家なんかよりずっと名のある凄い家だ。

 

外の世界って凄い…なんかもう怖い。

 

 

「ああそうだ、君の思っているとおりのマルフォイさ、ふふん。逆に僕の家以外のマルフォイなんていない。それにしてもフリンデル…?長らく社交界に姿を表さないから廃れていたのかと思っていたよ」

 

 

あ、ちょっと失礼な人だこの人。

 

いや、確かに社交界に出ていなかったフリンデルも悪いけど…悪いけど!

 

 

「…少し事情があったの。両親にかわってお詫びするわ」

 

 

とりあえず謝っておこう。

 

ここは穏便にすませておきたい。

 

 

「ふ、じゃあ僕はもう終わったから出るよ、また学校で会えたらいいね」

 

 

出ていくオールバックの少年と交代でやって来たのは丸眼鏡にくしゃくしゃした茶髪の男の子だった。

 

やっぱりひっきりなしにお客さんが来るんだなぁ、なんて思っているとばっちり目が合ってしまった。

 

いけない、ずっと引きこもってた私みたいなのには辛い流れ……観念するしかない。

 

 

「こ、こんにちは…?こ、ここ、ここは初めて?」

 

「え?うん、そ、そうなんだ。僕ハリー・ポッター、よろしく」

 

 

手を向けられた。

 

こ、これは握手ということでいいのでしょうかお祖母様…!

 

とりあえず握手しておこう。

 

 

「私はシャルロット・フリンデル…って…待って、ハリー?ハリー・ポッター!?うわぁ…本物……凄いわ……」

 

 

ハリー・ポッターといったら生き残った男の子として有名だ。

 

本しか読んでない私でもよく知ってる。

 

え?何、外の世界ってこんなに有名人にホイホイ会えるものなの?こわい

 

 

「そ、そんなに有名人なのかな、僕って」

 

「有名人もなにも…本しか読んでない私だって知ってるくらいだもの、もう超有名人といっても差し支えないんじゃないかしら…?この魔法界に知らない人はいないと思うわ、多分」

 

「君、本しか読んでないの?外に出た事とかは?」

 

 

結構ぐいぐい来るんだなぁこの子。

少し驚いた。

 

 

「5歳までは1度も。その後は年に数回くらいかしら?でも私はそれで満足してるからいいのよ、それに、本好きなの」

 

「そ、そうなんだ。変なこと聞いてごめん悪気はなかったんだけど…」

 

「いいのよ気にしないで、採寸も終わったし、またホグワーツで会いましょう」

 

 

私はドアの方へ向かうが、最後にマダムに呼び止められる。

 

 

「ミス・フリンデル、買い物が終わった頃にでも受け取りに来てちょうだいね」

 

「はい、ありがとうございます。お邪魔しました」

 

 

シャルロットはペコリとお辞儀をしてからお店をあとにした。

 

 

「あの子可愛いし、礼儀もいいし、いい子よねえ。他の名家の子みたいに驕ってないわ」

 

「あの子……フリンデルさんの事ですか?」

 

「あらやだポッターさん、独り言聞こえてたかしら?」

 

 

この人かなり大きい声で話していた気がするのだが…そこはつっこまないでおこう。

 

 

「すみません、聞こえちゃったんでつい」

 

「やだもう謝らなくていいのよ、私声が大きいってよく言われるの、ほほほ。それでフリンデルさん、あの子もかなりの名家なのに自意識ないのかしらね…?」

 

「そんなに有名なんですか?」

 

「ええ、そりゃもう、フリンデルといったら異能持ちのお家ですもの。その中でもあの子は異質。フリンデルの籠の鳥姫なんて言われてるわね、生まれてこの方1度も社交界に出されたことがないの。少し…不憫よね」

 

「そう………なんですか」

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

 

「見つけたわ、オリバンダー杖店、ここね」

 

 

シャルロットは意気込んでお店の扉を開けた。

 

店内は少し暗めだが、木の良い香りがした。

 

棚に収まりきらないくらいの数々の杖がシャルロットを出迎える。

 

 

「おぉ、いらっしゃいませお嬢さん、杖をお求めかな?」

 

 

カウンターの後ろで杖を整理していたおじいさんがシャルロットに話しかける。

 

きっとこの人がオリバンダーさんなのだろう。

 

 

「はい、お願いしても大丈夫ですか?」

 

「もちろん、喜んで。お名前と杖腕をお聞きしてもよろしいかな?」

 

「ぁ、えと……シャルロット・フリンデルです。杖腕は…右?かしら」

 

 

シャルロットの名前を聞いたオリバンダーはカウンターから身を乗り出す。

 

 

「おお!なんと、フリンデルのご令嬢であったか……!これはこれは、お会い出来て光栄です」

 

「え!?あの、オリバンダーさん…?私は、そんな、畏まられるような人間じゃありません…!顔を上げてください…そ、それよりも杖を……!」

 

 

突然のオリバンダーの畏まった態度にわたわたするシャルロット。

 

こんな姿お祖母様に見られたら絶対絶対叱られる気がする。

 

 

「おっと、私としたことが……そうでした、杖ですね?少々お待ちを」

 

 

そういうと、オリバンダーはいそいそと店の奥へ消えていった。

 

数分後、大量の箱を抱えて戻ってきたオリバンダーさんにシャルロットが気を使ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

あれから何本か試したが、一向に決まる気配がない。

 

オリバンダーもシャルロットも困った顔をしていた。

 

そこへ、用事の終えたミラが合流した。

 

先程イヤリングでオリバンダーの店にいると連絡をとったのだ。

 

 

「あらシャル?貴方まだ杖が決まってなかったの?」

 

「なかなかに難しいお客さんでして…」

 

「んー、そうねえ……」

 

 

ミラは少し考え込むと、かなり上の方にある白い箱を指さした。

 

あれなんていいんじゃないかしら?なんて言いながらこっちに引き寄せる。

 

 

「おや、これは…月桂樹にユニコーンの鬣とガーネットの粉末を混ぜ合わせたもの、24cm。所持者に従順で扱い易い。その代わり信頼を得るのは少し大変。どうぞ、お嬢さん」

 

「いや、お祖母様?そんな簡単に選んだ杖がぴったりな訳…な、い………あれ?」

 

 

ミラが選んだ杖をオリバンダーから手渡される。

 

それを軽く振ると、シャルロットの周りに魔力で出来た色とりどりの蝶が舞った。

 

 

「おお、素晴らしい…!!早速お包みしますので、さ、杖をこちらに」

 

「ほらみなさい私の見込み通りね!」

 

「流石お祖母様……!!」

 

 

その後、杖の代金を払ってから、家には置いてない足りなかった教科書やら鍋やらを買ってその日は終わった。

 

魔力をコンタクトで押さえつけるのは少しキツイが、外の世界はとても楽しかった。

 

新しい出会い、人との触れ合い。

シャルロットは当たり前のことが出来る喜びに浸っていた。

 

 




ハリーとフォイは邂逅できませんでした。
よかったねハリー(白目)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4 ホグワーツと幼馴染

 

 

 

 

 

買い物に行った際に新しく購入した本や教科書を読んでいたらあっという間に9月1日になっていた。

 

時間が経つのはあっという間だなぁと感じながらも身だしなみを整え、持ち物の最終確認をする。

 

煙突飛行粉で行くから少しはゆっくりしていられるが、席を確保しておきたいのでなるべく早く行かなくてはならない。

 

学校に行く前にお祖母様に挨拶するのも忘れずにして、両親へのお祈りもして…ああもう、やることだらけだ。

 

考えることに没頭していると、横からガッチャガッチャと音がする事に気がついた。。

 

何事かと思って見やると、ペットとして連れていくヨーロッパコノハズクのソワレがひたすら跳ねているのだ。

 

 

「え?へ?なに、なになにソワレさん外に出たいの?」

 

 

私の言葉をわかっているのかわかっていないのかは知らないが、コクコクと頷くソワレをケージから出す。

 

ケージから出たソワレは部屋の時計のある場所まで飛び、着地する。

 

何事かと思って見守っていると、今度は時計の上で小さく跳ねている。

 

流れにつられて時計を見ると10時30分。

 

…………しまったーーー!!!!考え込みすぎたー!!!!ゆっくりしすぎたー!!ああああああああああああああああ!!!!!!!

 

シャルロットに時間の事が伝わったのを確認したソワレは満足気に鳴くと、自分のケージに入っていく。

 

 

「ありがとうソワレさん、助かったわ…!もう行かなくちゃ…暫くそこでも大丈夫?」

 

 

大丈夫だ、と言わんばかりにピッと鳴くソワレに、シャルロットはごめんねと言いながら検知不可能拡大呪文のかけてあるトランクに詰める。

 

ソワレは賢いから、困ったことがあれば恐らく自力で解決するだろう。

 

そのままトランクを抱えて慌てて部屋を出る。

 

広間に煙突飛行粉をかけ、9と4分の3番線へ向かった。

 

 

 

 

 

 

駅のホームは暫くの別れの挨拶に来る家族や、ホグワーツの生徒でごった返していた。

 

人にぶつからないように気をつけてホグワーツ特急へ近づく。

 

汽車へ乗り込むと、予想していたとおり殆どのコンパートメントが使用されていた。

 

 

「ん……困ったわね…コンパートメントの中でソワレさんを一旦出してあげたいからできれば空いてるところがいいのだけれど……」

 

 

そうして何個目かのコンパートメントの前を通り過ぎた時だ。

 

突然勢いよくドアが開いたものだから、シャルロットは驚いて反射的に振り向く。

 

 

「あ、貴女……シャルよね!?」

 

 

そこにはシャルロットと同じ長い金の髪に穏やかな翠の瞳をもった少女がいた。

 

シャルロットはこの少女に見覚えがあった。

 

 

「………ダフネ…?」

 

 

この少女__ダフネ・グリーングラスは外に出なかったシャルロットと唯一関わりを持っていた同級生なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃぁ……改めまして、ダフネ・グリーングラスよ」

 

「えと、シャルロット・フリンデル…で、す………なんというか、改めてっていうのも少し、その、照れるわね」

 

 

場所を移してここはダフネが確保していたコンパートメントの中だ。

 

ダフネとシャルロットは母親同士の仲が良かったこともあり、幼い頃から両面鏡でよく話をしていたのだ。

 

お父様をなくして沈んでいた私に、お母様が気を使ってくれたのだろう、ちょうどその時にダフネと知り合った。

 

今シャルロットがある程度コミュニケーションがとれるのは社交力のあるダフネのおかげといっても過言ではない。

 

 

「そうね、私も少し恥ずかしいわ…!でも、やっと貴女に会えることが出来て私嬉しいわ!ここ最近音沙汰が無くて少し寂しかったけれど……!!」

 

「ご、ごめんなさいダフネ…色々あって……」

 

 

お母様が亡くなって、家の事や様々な手続きを数ヶ月に渡って対応していた為にダフネと話す時間を設けられたなかったのだ。

 

全面的に私が悪い、反省の限りである。

 

暫く談笑した後にダフネに一言言ってトランクの中からソワレさんを出していると、ダフネが何かに気づいたように声をかけてきた。

 

 

「そういえばシャルの瞳は澄んだ紫色じゃなかったかしら?私の記憶違い?」

 

「いいえ、紫よ。これカラーコンタクトなの、魔力を抑える為に必要な成分的にどうしても青になっちゃうみたいで」

 

「魔力を抑える?どうして?」

 

 

ダフネはシャルロットの言葉に首を傾げる。

 

そういえば言ってなかった。

 

 

「知っての通りフリンデルは異能持ちの家なんだけど、私の能力は周囲に影響を及ぼしてしまうものだから、このコンタクトで魔力ごと押さえ込んでるの。これ作るのに何年もかかったんですって」

 

「シャルも大変ねぇ…」

 

「ええ…でも、この力を制御できるように練習はしてるのよ?だけどうんともすんとも言わなくて…はぁ……」

 

「大丈夫よシャル、貴女ならいつか制御出来るようになるわ!それよりお昼ご飯、食べない?ママがランチボックスを渡してくれたんだけど量が多くて…」

 

「い、いいの?ありがたく頂くわ!ダフネのお家の料理は凄く美味しいってずっと聞いていたから気になってたの!」

 

 

そんな感じで仲良く昼食をとっていると、肩に乗せていたソワレがさっきから凄く頭をつついてくる。

 

何かあったのだろうか?それとも何か忘れてるとか?

 

今朝は忙しくて思いたる節しか無いのだが……あ、挨拶とお祈りをしてくるのを忘れていた。

 

しまった。これはお祖母様に怒られる。

あっなんか胃が痛くなってきた。悲しい。

 

 

「え、ちょ、ちょっとどうして泣いてるのシャル!?」

 

「自分の不甲斐なさに涙が………このチキン美味しい……」

 

「そ、そう……?ありがとう」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

汽車がホグズミード駅に到着したのを確認すると、寝ているダフネをそっと起こす。

 

昼食をとったあと早めに着替えを済ませ、しばらく歓談していたのだが、ダフネが眠気を訴えてきたので暫く寝かせておいたのだ。

 

 

「ん……ぅん…まま…?」

 

「……ん?違う、ダフネ待って私ママじゃない、あっちょっと抱きつくのやめて!?起きて!!皆もう動いててこっちのこと見てるから!!!」

 

 

私の叫びを耳元で聞いたダフネはパチリと目を開けると、頬を染め目をそらした。

 

ついでに凄い小声でごめんなさいって言ってた。

 

うちのダフネちゃんがかわいい(かわいい)

 

 

「気にしなくていいわ、さ、ダフネ、はやく降りましょう。1年生はもう外で集まってるみたい」

 

「えっえっ大変…!急ぐわよシャル!」

 

 

2人は慌てて汽車を降りると、1年生をまとめているらしい大男の元へ向かった。

 

案内に従って歩いていくと、湖の湖畔へたどり着いた。

 

どうやらここからは4人組で小舟へ乗ってホグワーツへ行くらしい。

 

ダフネとシャルロットの同乗者はパンジーとミリセントという人達だ。

 

サクッと自己紹介を終わらせると早速お喋りタイムが始まる。

 

 

「ところでダフネ、あんたって双子だったっけ?」

 

 

パグ顔のような女の子__パンジー・パーキンソンがダフネに尋ねる。

 

 

「ふ、双子!?違うわよ、私は2つ下の妹がいるだけよ!?そりゃ、シャルは凄く可愛いけど…そんなに似てる?」

 

「金髪、長い髪、同じくらいの身長、でも顔はダフネが綺麗系シャルロットは可愛い系だね、後ろから見たら間違いなく判別つかないよ」

 

 

スパッと言いきったこの人はミリセント・ブルストロード。凄くガタイがいい。

 

 

「ま、あんた達より私の方が最高にイケてて可愛いけどね!もうどの男の子もメロっメロよ!」

 

「パンジー鏡見る?」

 

「なんでよミリセント」

 

 

ぎゃーぎゃー言い争いを始める2人を見ながらさらに話を進める。

 

 

「でもダフネは基本面倒見がいいわよね、やっぱりアステリアがいるからかな?身長も私より大きいし…」

 

「そうかしら…?大きいと言っても2.3cmの差じゃない!」

 

「でもさっきみたいに甘えるとことかはすっごく可愛いわ…!」

 

「忘れて……あの事は忘れて………………」

 

 

う〜~、と頭を抱えるダフネにクスクスと笑っていると、あっという間にホグワーツへと到着した。

 

案内役を副校長に引き継がれた後、新入生は小部屋へ突っ込まれる。

 

 

「いよいよ、組分けだわ…シャルはどこの寮がいいの?」

 

「うちの家系は皆バラバラだから予想がつかないわね…でも私はダフネと一緒だと嬉しいわ」

 

 

それからまた他愛ない話をしながら待っていると、前方の方がなにやら騒がしい。

 

が、副校長が戻ってきたことによりおさまったようだ。

 

さて、いよいよだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだかんだで待つこと十数分。

 

「フリンデル・シャルロット」

 

ファミリーネームがFだから割と早い。

後ろにはダフネが控えてる、よし、頑張れ私の運命力。

 

シャルロットは意を決して組分け帽子なるものを被った。

 

『さて、君はフリンデルの子か。

おや、君には大きな野望があるようだね?』

 

『……貴方が何故それを』

 

『おや、あんまり怒らないでおくれ。これを皆に暴くつもりもない故な』

 

『御託はいいからさっさとしなさい、私にはやるべき事がある』

 

『それを叶えるためにはどんな手段も厭わない?』

 

『当たり前でしょう。私は絶対に________。』

 

『よろしい、ならば決まりであろうな』

 

「スリザリン!」

 

 

 

よし!やった、やった!!ダフネがスリザリンなのはほぼ間違いない、よくやった私の運命力。

 

スリザリンのテーブルへ向かうと、先に組分けされていたミリセントがおめでとうと言ってくれた。ありがとう。サンキュー。

 

ミリセントの向かい側へ席に着いたちょうどその時に、また組分け帽子がスリザリンと言う声が聞こえた。

 

恐らく私の後のダフネだろう。

顔を向けると、やっぱりダフネだった。

 

微笑みながらで足取り軽やかにこちらへ向かってくる。

 

うちの娘がかわいい(かわいい)

 

ダフネは迷いなくシャルロットの隣へ腰をおろす。

 

 

「やったわねシャル!これから卒業までずっと一緒よ!!」

 

「ええ、本当に一緒でよかった…嬉しいわ」

 

 

それからも着々と組分けは進んでいき、校長の二言三言が終わると待ちに待ったディナータイム。

 

スリザリン寮の皆と一言二言交わしながら夕食を食べ進めていたのだが、やたらと籠の鳥姫だのなんだの言われている気がする。

 

いったいなんなのだそれは。

 

それにしたってパンジーがやばい。

 

すっごい男の子達にアピールしてるけど、全力で無視されてる。

でも当の本人は無視されてるって気づいてない。なんという鋼のメンタル。

 

 

「あ、シャル、その糖蜜パイどこにあったの?」

 

「マルフォイの方、パンジーに取り分けてもらったの、これかなり好きだわ」

 

 

いやこれ美味しい、初めて食べたけど本当に美味しい。

死ぬほど甘そうで砂糖の塊吐きそうだと思ってたけど、隠し味のレモンの酸味がいい感じにマッチしてて甘酸っぱい仕上がりになっている。

紅茶と凄く合う。ありがとう神様、ありがとう。

 

 

「だふ、グリーングラス、もしよかったらこのパイをあげよう。僕がわざわざ取り分けたんだ、ありがたく受け取れ」

 

 

会話を聞いていたらしいマルフォイがダフネに糖蜜パイの乗った皿を突き出す。

その行動に、その場にいた全員が目を丸くする。

 

 

「あらドラコ、私の為にありがとう」

 

 

ダフネが微笑んでパイの乗った皿を受け取ると、ドラコの頬が少し赤く染まる。

皆一斉に察したようだがそれを表に出すまいと各々あらぬ方向を向く。

 

 

「もう、シャルったら、頬にクリームがついてるわよ?」

 

「え、あれ、本当に?…さっき食べたトライフルのクリームかしら、どっち?」

 

「え?シャルロットにクリームなんかついてな__」

 

「こっちよ」

 

ミリセントの言葉を遮ってダフネはそう言うとシャルロットの左頬を舐めた。そう、舐めたのである。

 

「!?!??」

 

突然の事にキャパオーバーしたシャルロットは固まる。

そのままダフネはマルフォイの方を見てにやりと笑ったのである。

それを見ていたマルフォイもシャルロットと同じくキャパオーバーで硬直している。

 

この時見ていたスリザリン生は思った。

この人、マルフォイを弄んでいる…と。

 

そのまま夕食をとりおわると、今学期の注意事項やらを言われてから解散となった。

 

 

 

スリザリンの寮は地下にある。

 

寮内は緑と銀で統一されていてやや冷たそうな印象だが、設えられた備品や家具は一級品だ。

 

純潔の貴族様ばかりのこの寮は結構勝手に弄られている様子だったが何気にセンスがいい。

 

 

「我らスリザリンは尊き血をもつもの、優秀なものばかりなゆえに、他寮よりも人数が少ない。部屋もかなり広いしだいぶ余っている。勝手に部屋割りなど理不尽な事はしない。各自個室をとるか相部屋にするかは自由にやってくれ。男子はこっち、女子はあっちだ」

 

 

監督生はそれだけ言うとさっさと自分の部屋へ帰っていった。

 

なんという投げやり加減。

 

スリザリンは血筋に重きを置くところがある。

 

まあ、はっきり言うとこの学年にはマルフォイがいる。

 

監督生だからといってあまり上から高圧的な態度をとるのもよろしくないのだろう。

 

機嫌を損ねてパパフォイにちくられました、結果家がなくなりましたとかは洒落にならない。

 

 

「シャル、もしよかったら相部屋になりましょうよ」

 

「…ダフネ、いいの?」

 

「もちろんよ!長年鏡越しだったし、生の貴方を見て話したいことがいっぱいあるのよ!さあ行くわよ私達のスイートホームへ!」

 

「………え?ちょっと待って何、スイートホームって何、え、ちょ、助けてミリセント……ッ!」

 

 

ミリセントはその様子を見て手を振るだけだった。

 

そんな、唯一の常識人だと思ってたのに!

 

ああ!ダフネ曰くスイートホームへ連れ込まれる…ああああああああああ

 

 

 




イメージしやすいかなと思い、シャルちゃんの見た目を軽く落書きで描いてみました
時間があればデジタルで描けたのですが…

【挿絵表示】



ここでコンタクトについて説明をさせてください。
シャルロットが3歳の時にミラがこのままの状態だと可哀想だと思い、アルフレッド達には内緒で知り合いだったダンブルドアに魔力を抑えるコンタクトの制作とホグワーツの入学前に届けて欲しいという依頼をしました。
魔力を抑えるコンタクトの開発は予想以上に難航し、何年もかかりました。
その間に相談もなしにアルフレッドは命を使ってシャルロットの魔力を封印。
当然実の息子を失ったミラはぼろ泣き。コンタクトのことなんてすっかり忘れていました。
そのあとソフィアが今度は逃がすためにシャルロットの封印を解いた為に、今後どう守れば良いのかミラは困りはてていました。
ですが、シャルロットの11歳誕生日にダンブルドアから手紙が届きました。
軽く抜き出すと、君がいつの日か頼んでいたものを今年の夏に送る予定だが、大丈夫かね、と。
ミラはそこでようやくコンタクトの事を思い出して、シャルロットの能力を抑えホグワーツに守ってもらうという当初の目的を思い出し、シャルロットにホグワーツに行ってもらいました。

どこかでいれようかと思っていたのですが、入れる部分が思いつかなかったのでこちらで説明させていただきました…!



スリザリン内部については自由に、ラフにやって行きたいですね!軽く行きましょう軽く
ダフネとシャルちゃんの話を考えてる時が一番楽しいです




2017/08/23 13:55
金春花様よりご報告いただいた誤字を変更いたしました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5 授業、授業、授業

 

 

 

 

 

昨日の夜は酷い目にあったが、なんとか充分な睡眠を獲得出来たシャルロット。

 

だが、今何故か物凄く寝苦しい。

 

完全に意識が浮上してきてしまったので仕方なく目を開ける。

 

まだ真っ暗じゃないか、とも思ったがそういえばここ地下だ。

 

仕方なくベッドサイドのテーブルに置いてある懐中時計へ手を伸ばそうとすると、そもそも腕が動かなかった。

 

なんとか動かせそうな反対の手で毛布をどかすと、すやすやと寝息をたてながら私の全身をがっちりホールドしているダフネがいた。

 

 

「ぴ…ぴぇぁああぁぁあああああああ!!??!!??!?!!」

 

 

我ながらなんとも情けない悲鳴をあげてしまった。

 

こんなのソワレさんに聞かれたならばぴっぴっぴっぴ笑われること間違いなしだ。

 

私の声に反応したダフネがもぞりと動く。

 

 

「…うぅん……アス…テ、リア…マ、マ……」

 

 

そう言ったダフネの顔には泣いた痕が見えた。

 

気丈に振る舞っていてもやはり11歳。本当は心細かったのかもしれない。

 

開幕一番に叫んでしまったことを申し訳ないと思いながら、まだ起きないダフネの髪をくるんくるん弄っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

「もう、朝からうるさい!私まで起きちゃったじゃない!」

 

 

ミリセントとパンジーだ。

言い合いをしててもやはり仲がいいのか、2人は相部屋にしていた。

 

 

「ご、ごめんなさい…おはようミリセント、パンジー、今何時か知らないけれど」

 

「ちょ、あんた達そんな仲だったの!?」

 

 

パンジーが驚いた顔をしているが何か問題があっただろうか。

 

寂しくなってベッドに入るのは普通にある事だと思う。

 

私もよくお母様のベッドに潜り込んだものだ。

 

 

「だって、そんな、腰に手を回して……二人仲良くベッドに入ってるだなんて…」

 

 

そういえばミリセント達が入り込んできたあたりからなんか動いてるな~とは思ってたけど、まさか、まさか…____。

 

慌ててダフネの方を見ると、翡翠の瞳とばっちり目が合った。

 

しかも先程まで私をホールドしていた手つきがなんか怪しい動きをしている。

 

 

「……おはよ、シャル」

 

 

ダフネはにこりと微笑むと、シャルロットの頬へキスを落とした。

 

 

「ぐぇ………」

 

 

段々顔の周りが熱くなっていく。

キャパオーバーだ。無理。ぷしゅぅ。

 

 

「ちょ、ちょっとシャルロット!!ああもう、ダフネ何してるの!?」

 

 

ミリセントが慌てて駆け寄ると、ダフネはにこにこしながらベッドから降りる。

 

 

「……ん、ちょっと、また気づかれちゃったかなって………………なんでもないわ!その、おはよう!今何時かしら?」

 

「5時!!よ!!!私のぴちぴちお肌に影響があったらどうすんのよ!」

 

 

パンジーがその場で地団駄を踏む。

 

駆け寄ってきたミリセントはというと、シャルロットの肩をつかんでぶんぶん揺らしている。

 

 

「……………っ!ゆ、揺れ…!?あっあっ気持ち悪、待って、ちょっと……生きてる、生きてるから!」

 

「生きてた、よかった、またキャパオーバーで固まってたから心配したよ」

 

 

心配してくれるのは嬉しいけれども、朝からそこまでぶんぶん揺さぶるのはやめていただきたい。

頭がぐわんぐわんしてる。

 

 

「……とにかくその、私のせいで朝早くから起こしてしまってごめんなさい…、まだ寝るんだったら寝てきても大丈夫よ?起こすから」

 

「別にいい!まあ?早起きは三文の徳?とも言うみたいだし、仕方なくこの私が一緒に起きておいてあげる」

 

「パンジーは素直じゃないね」

 

「うるさいわね、ミリセント!埋めるわよ!」

 

「はいはい、じゃあ皆着替えて、談話室に行きましょう」

 

 

ダフネの言葉を素直に聞いたミリセント達は自分の部屋に戻る。

 

それからダフネは天井にぶら下がっている銀のランタンに光を灯す。

 

 

「…あの、さ、ダフネ。貴方泣____」

 

「言わないで…!お願いよ、家族と離れて寂しかったとか…別にそんなんじゃ、ない……から」

 

 

だが、ダフネの肩は小さく震えていた。

 

シャルロットはダフネの所へ歩み寄り、ぎゅっと抱きしめた。

 

 

「無理しなくていいのよ。……鏡越しだったけれど、私達幼い頃からの友達、でしょう?それに、私も貴女の気持ちはよくわかるから」

 

「…うん、うん…………ごめんなさいね、シャル。あと、勝手にベッドに入ったこともごめ、」

 

「寂しくなったらいつでもおいで、今日は、その、驚いただけだから…」

 

「……………シャルこそ、私に甘えてもいいのよ?」

 

ダフネは自分の額とシャルロットの額をこつりとくっつける。

 

「お馬鹿さんね、貴女の方が弱いのに…」

 

「っ!…うるさいわよ、もう!」

 

私がクスリと笑うと、ダフネも釣られたようにクスクスと笑い出した。

 

ああ、この関係がとても心地良い。

 

鏡越しじゃなくて、ちゃんと会える友達ってとてもいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを済ませた早起き4人組が談話室でお茶をしていると、次第にスリザリン生がちらほらとやってきた。

 

 

「それにしたってシャルロット、紅茶淹れるの上手だね」

 

「ずっと家にいたからかしら……自然とそういうことだけ無駄に上達してしまって……」

 

 

シャルロットはティーポットをそっと撫でる。

 

私も伊達に引きこもりやってたわけじゃないのだ。

 

 

「シャルの紅茶気に入ったわ、私毎日淹れてもらおうかしら」

 

「ちょっとダフネ、あんただけずるいわよ、私も!」

 

「えぇ……私メイドさんになった覚えはないのだけれど…」

 

朝からわちゃわちゃしていると、後ろから声をかけられる。

 

 

「やあ、おはよう」

 

「やーん!ドラコ!おはよぉ♡」

 

 

パンジーが一目散にマルフォイの元へ行く。

 

あまりの勢いにマルフォイも若干後退している。

 

 

「吐き気」「そうね」

 

「今しれっと私のこと馬鹿にしたでしょあんた達」

 

「してない」「ええ、全くね」

 

 

ミリセントはわかるとしてもダフネまで!?

いや、昔からちょっと片鱗は見えてたけれども…!

シャルロットはティーポットを握りしめたまま苦笑いをする。

 

 

「だ、ぐ、グリーングラス、調子はどうだ?」

 

「上々よ、シャルの紅茶のおかげね」

 

「そ、そうか、それはよかった」

 

 

頑張れフォイ。もっとアピールしなきゃダフネには通じないぞ。

 

 

「シャル、そろそろ大広間へ朝食を食べに行きましょ」

 

「ええ、いいわよ」

 

 

そのままダフネはさも当然かのように手を握ってくる。何事。

 

 

「だっ、ダフネさん……?その…手、手!!!あの、その、恥ずかしいかなって……」

 

「何よ、私と手を繋ぐのが嫌なのかしら」

 

「そそ、そういうわけじゃないけどおぉぉぅぁぁあぁぁあぁ」

 

 

やだもうダフネちゃん意外と力が強い。

 

すっごい引っ張られる。いやもうすっごい。

 

 

「ダフネ・グリーングラスとシャルロット・フリンデル……合格だな、可愛い」

 

「どっから湧いて出てきたザビニ」

 

「ブレーズくん私は?」「なし」

「私の可愛さに照れてるのね!」「…………」

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

軽く朝食をとってから、授業のある教室へと向かった。

 

最初の授業なんてまだつまらないものだ。

 

どの授業も大体が説明。本格的な授業は来週からだそうで。

 

 

 

 

 

そんな感じで入学してから約1週間後。

ようやく本格的な授業が始まった。

 

 

けれど、闇の魔術に対する防衛術だけは別。

まともな授業を全ッ然やってくれない。

正直期待はずれだった。

というか教室がにんにく臭い。なんとかして欲しいのだが、我慢するしかないのだろうか。

 

 

魔法史はカスバート・ビンズという先生が教鞭をとっているのだが、いかんせん眠くなる。

魔法でも使ってるんじゃないかと思うくらい眠くなる。

けれど、将来の為にもどの授業もまじめに受けなければ。

絶対に目的を達成させる為にも。

 

 

薬草学はハッフルパフの寮監であるポモーナ・スプラウト先生が担当だ。

薬草や魔法植物についての知識は全くといって無いので新鮮だった。

 

 

天文学は夜に行われる。

オーロラ・シニストラ先生のもと、生徒は天体についての知識を学び、天体観測を行ったり天体の動きを計算したりするのだが、この時はダフネがぴったりくっついてきてとても可愛いのだ。

 

 

妖精の魔法こと呪文学はレイブンクローの寮監、フィリウス・フリットウィック先生の担当だ。

1、2年時は、杖を使い、物を浮かせる術などを訓練するらしい。(妖精がいたずらをするような類の魔法)

3年以上は呪文学になるため、さまざまな呪文を訓練するようだ。

まだ説明段階で魔法には手をつけてはいないが、とても期待できそうな教科ではある。

今からでも楽しみ。

 

 

 

変身術は動物をモノに変身させたり物体を消去させたりする術などを訓練する教科だ。

教鞭をとるのは副校長のミネルバ・マクゴナガル。

マグゴナガル先生曰く、一番難しい教科らしい。

ちなみにマクゴナガル先生は最初の授業で見せてくれたように猫に変身できる動物もどきだ。

 

今回の授業は変身術の構造や理論をしっかりと理解し、マッチ棒を針に変える授業だった。

 

「落ち着いて、よくイメージしなさい。きっと出来るはずです。ではどうぞ」

 

 

なんだかんだで、これがホグワーツで初めて習って使う魔法だ。少しばかり緊張する。

マッチ棒を針に、マッチ棒を針に。

銀色で、尖った針に。

 

杖を構えて集中し、魔力回路を起動させて、魔力を張り巡らせる。

 

「コンヴァルシオン」

 

___手応えは確かにあった。

 

だが、やはり上手く魔力が放出できない。

コンタクトのせいで、どうしても針の穴に糸を通すような作業になってしまう。

 

「きゃ…!!」「おわっ」

 

私の周りにいたいつものメンバーが声をあげた。

何事かと思うと、声をあげた人のマッチ棒が2m程吹き飛んでいたのだ。

 

「え…?ど、どうしてかしら…私そこまでの魔力を使った覚えはないのだけれど…」

 

隣でダフネも狼狽えている。

____ああ、そうか。これは私のせいだ。

また、私のせいだ。

 

コンタクトではある程度しか抑えられない。

近くにいる人には効果が出てしまう、と言っていたではないか。

 

今回は攻撃系の呪文ではなく変身術だからまだよかった。

これが攻撃系の呪文になれば危険性が格段に上がる。

 

本当に、この能力のせいで、私は……私の人生は……!

 

 

「…ル?…シ………?シャル?…大丈夫?」

 

 

ダフネの言葉にシャルロットはハッとする。

また、考え込んでいた。

お祖母様の時みたいに、相手に心配をさせてしまった。

 

 

「…ん、その……ごめんなさい、お腹の調子が良くなくて。マクゴナガル先生、ちょっとお手洗いに行ってきても?」

 

「ええ、構いませんが、次からは授業の前に行くことをお勧めします」

 

「…はい、すみません、ありがとうございます」

 

 

シャルロットは変身術の教室から逃げるように出た。

 

お腹の調子がよろしくないなんてもちろん嘘だ。

 

アテもなくホグワーツの中をぶらぶら歩いていると、ベンチと小さな噴水が少し置いてあるだけの小さな中庭を見つけた。

 

座ろう、そうしよう。

ずっと歩いていたから疲れてしまった。

 

 

「はぁ…」

 

ベンチに座り、溜息をつくと頭上から声をかけられた。

 

「溜息はよくないと思うのじゃが、そうは思わんかね?」

 

「だ、ダン…ブルドア……先生……」

 

そこには見間違うはずもない、入学式の時に初めて見たアルバス・ダンブルドアがいた。

 

「こんにちは、シャルロット。わしも隣に座っても良いかな?」

 

「あ、えと、どうぞ…」

 

急いでダンブルドア先生の分のスペースを空ける。

 

「よいこらしょ……シャルロット、ホグワーツはどうじゃ?」

 

「……とても、いい所だと思います。私には全てが目新しく映りますし、お友達も増えました。これも全てダンブルドア先生のコンタクトのおかげです」

 

思ったことを素直に話していると、ダンブルドア先生のキラキラした水色の瞳と目が合った。

 

「ご両親の事は本当に残念じゃった……じゃが、シャルロットがここで楽しく過ごしてくれているようで本当によかった。ミラも安心しているじゃろう!…ところで、何か困ったことがあったりするんじゃないかね?」

 

「!!」

 

何故わかったのだろうか。この人、なかなか侮れない。

 

「…実は、力の影響で皆の授業を妨害…しているような状態になってしまって、邪魔をしないように教室から出てきたんです。私自身も、コンタクトをつけた状態だと魔力を引き出すのが難しくて…」

 

「シャルロット、変身術で使った魔法を今使ってみてくれるかね?」

 

そう言うと、ダンブルドアは雑草を1本引き抜き、杖を軽く一振りする。

 

すると、その雑草は先程見ていたものとなんら変わりないマッチ棒へと変身した。

 

流石校長なだけはある。凄い実力だ。

今の私では足の爪程度にも及ばないだろう。

 

「では、その、失礼します……コンヴァルシオン!」

 

だめだ、やっぱり魔力が引っかかる。

それでも、それでも……____!

 

引っかかる魔力を強引に引っ張り出した結果、マッチ棒は形だけ針へと変化した。

 

「…………すみません」

 

「いいや、謝ることはない。新入生でここまで出来るのはなかなか凄いことじゃ。スリザリンに2点。ではシャルロット、そのコンタクトを外してもう1度じゃ」

 

「はい、コンタクトを…って、ええ!?外してしまって大丈夫なのですか!?」

 

ダンブルドアは針の形をしたマッチ棒を元のマッチ棒へと戻しながら頷く。

 

「今ここにはシャルロット以外に魔法を使う者はおらん。大丈夫じゃ、さ、やってみるのじゃ」

 

この人が何を考えているのかはよくわからないが、コンタクトを外してケースにしまう。

 

それから強く、強く針のイメージをする。

煌めくような銀色で、先端の尖った細い針。

 

「コンヴァルシオン…!」

 

マッチ棒は、シャルロットのイメージと同じ見事な針へと変化していた。

 

「……!やった……!成功したわ…!!」

 

魔力の引っかかりもなく、スムーズに魔力を引き出す事が出来て思わず笑みがこぼれる。

 

「おお、おお!これは凄い、スリザリンに5点じゃ!」

 

「…はい!ありがとうございます…!」

 

本当に嬉しい。無事に成功できてよかったと思う。

 

シャルロットが喜びを噛み締めていると、ダンブルドアがシャルロットの手元のコンタクトを見ながら話しはじめた。

 

「そのコンタクトは魔力を6割カットしている状態なんじゃ。じゃが…先程の君は、それでもマッチ棒を針へと変化させかけていた。シャルロットの能力的にもコンタクトをつけたままでも魔法が出来るようにならねばならん。シャルロット次第ではあるが…どなたか先生に個別に授業をして頂いた方がよいと思うのじゃが……」

 

個別……それはとてもいい案だとは思う。

どの道私はたくさんの魔法を使えるようにならなければならない。

 

だが1つだけ問題がある。

 

「先生、それはとてもありがたいお話だと思います。私としても是非お願いしたい所なのですが…最初に言ったとおり、今の負荷のままでは皆の妨害をしてしまいます。………ですので、8.5割まで魔力をカットして頂きたいのです。きっとそこが最低限のライン…だと思うので…お願い出来ませんか?」

 

「……それでは魔法を使うのがより厳しく、難しいものになってしまうのじゃが………君がそこまで言うのなら調整してこようかの、友を思う気持は何よりも尊重せねばならん」

 

「ありがとうございます…我侭を聞いていただいて……。その代わり個別授業で力をつけて負荷を頑張ってカバーしたいと思います…!」

 

ケースに入れたコンタクトをダンブルドア先生に渡すと、ダンブルドア先生は代わりにといってキャンディーをくれた。

 

「…?先生、これは……?」

 

「レモン味じゃ、ああ、そうだ。先生はスネイプ先生に頼んでおこうかの。スリザリンの寮監じゃし、ちょうどよいじゃろ」

 

そう言うと、ダンブルドア先生は颯爽とその場を去っていった。

 

スネイプ先生の授業…魔法薬学は確かまだ受けていない。

確か今週からスタートだった気がするが、いつだっただろうか。

 

何にせよ、魔法を個別に学べる手段を得たのは凄く大きい。

負荷はキツくなるが、ダフネ達の勉強まで邪魔はしたくない。

学年があがって攻撃系の魔法が出てきた時に対処ができるようになるためにもここは頑張らなければならない。

 

気合いを入れる為にも、貰ったレモンキャンディーを口の中に放り込む。うん、酸っぱい。でも、とても優しい味がする。

 

次はどこに行こうかな、なんて考えていたけど、よくよく考えてみたらどこにも行けない。

さっきコンタクトをダンブルドア先生に渡してしまった。

 

仕方ない。お昼寝でもしてよう。

むやみやたらにこのまま出歩いて、ホグワーツを混乱に陥れるつもりもない。

この小さい中庭はお日様がぽかぽかしていて気持ちがいいし、お昼寝には最適だと思う。

それじゃあ、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……み………ぇ、ねえ、君、大丈夫…?」

 

誰かが私に声をかけている…?

だが、確実にダフネではないことがわかる。

ダフネの声はもっとこう、可憐で可愛らしいのだ。

 

「なあハリー、そいつ緑のネクタイしてるぜ?スリザリンだろ、やめろよ、もう行こう」

 

ハリー……ハリー・ポッターかな?

どっちにしろ意識も浮上してきてしまったのでゆっくりと目を開ける。

目を開けた瞬間、太陽の光が目に入った。

 

「ん…眩し………ぅ……」

 

「あれ…君は……」

 

こちらをのぞき込んでいるのは丸眼鏡にくしゃくしゃした茶髪の男の子。

やはりハリー・ポッターで合っていたようだ。

その後ろにいるのは、燃えるような赤髪に、やたらと背の高い少年。ウィーズリー家の子だろうか。

 

 

「ごめんなさい、迷惑をかけたわ……久しぶりね、ポッターさん」

 

 

シャルロットは立ち上がって、身だしなみを軽く整えてから挨拶をする。

だが、さっそくウィーズリー家の子と思われる子が動いた。

 

 

「本当だよ!とんだ迷惑だ!!なあ、もういいだろハリー?」

 

「ちょ、ロン落ち着いて。ごめんねフリンデルさん、久しぶり。あ、僕の事はハリーでいいよ」

 

 

ロンと呼ばれた男の子にじろりと睨まれ続けていて、少し居心地が悪い。

うう、ストレスで胃が痛くなってきた。

 

 

「ありがとう、ハリー、じゃあ私の事もシャルでいいわ。………あ、それ、魔法薬学の教科書…?」

 

「うん、そうなんだ。この後スリザリンと合同で魔法薬学の授業」

 

「そう、スリザリンと合同…で………合同!?ああ!私も行かなくちゃ…ごめんなさい、お先に失礼するわ。起こしてくれて本当にありがとう」

 

 

そう言うと、シャルロットは長い金髪を揺らしながら走り去っていった。

 

前に見た時と瞳の色が違った気がするが気のせいだろうか?

 

一か月前のことだ、自分の記憶も確かだとは言えなかった。

つまり、この感覚は気の所為だとハリーは思うことにした。

 

 

「ふん、ハリーがスリザリンの奴と仲良くするなんて思ってなかった。いつの間に仲良くなってたんだよ、見損なったね」

 

 

そう言ったロンはつかつかと先に行ってしまった。

ロンはスリザリンの事になると短気も短気。超短気になってしまう。

 

 

「待ってくれロン、違う、違うんだ。あの子…シャルとはダイアゴン横丁で会ったんだ。マルフォイと違っていいやつなんだよ。さっきも僕達のこと弄ってこなかっただろ?……それに、シャルとは何か似通ったものを感じるんだ…僕は」

 

「いいや、ハリー。今が良くてもきっと後からマルフォイみたいになるに決まってる。だってスリザリンだからな」

 

 

ロンには何を言ったって無駄な気がしてきた。

スリザリンにはマルフォイとかいう悪いお手本みたいなのがいるから仕方ないかもしれないが、あの子から悪意は全く感じない。

それだけはわかって欲しかったのだが……駄目そうだこれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

慌てて魔法薬学の教室まで行くと、スリザリン生しかまだいなかった。

ああよかった。寮監の授業に遅刻なんて絶対したくなかったから。

シャルロットは一人で座っていたダフネの隣へ座る。

 

 

「もう!シャル!貴女どこ行ってたのよ!心配してたのよ!?」

 

「ごめんなさいダフネ、廊下に出た後、ダンブルドア先生に捕まってしまって……」

 

「はぁ…でも本当に、貴女が無事で良かったわ…………あれ、コンタクトはどうしたの?」

 

 

しまった。また忘れてた。

まあ魔法薬学は魔法使わないだろうし多分大丈夫………でしょう。

 

 

「ダンブルドア先生に今メンテナンスしてもらってるの」

 

「ふーん、そうなのね、あ、これ魔法薬学の教科書と置いてった変身術の教科書よ」

 

「持ってきてくれてたの…?ありがとう…ダフネ」

 

「別にいいわよ、気にしないで。あ、グリフィンドールが来たみたい。スネイプ先生も来たわ」

 

 

グリフィンドール生の中には先程会ったハリーや赤髪の子がいた。

 

それから程なくして魔法薬学の授業は開始した。

 

スリザリンの寮監であるセブルス・スネイプ先生は、淡々と生徒達の出席をとっていく。

 

だが、とある人物の名前でそれは止まった。

 

 

「ハリー・ポッター。我らが新しい____スターだね」

 

 

その様子に一部のスリザリン生がクスリと笑った。

 

スネイプ先生はすぐにハリーから視線を外す。

 

出席を取り終わると魔法薬学という学問について語り始めた。

 

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 

スネイプ先生はそこで一拍置いて、教室を見回した。

 

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが………」

 

 

スネイプ先生の圧倒的な演説の前に生徒達はただ黙るしかなかった。

 

 

「ポッター!」

 

 

スネイプ先生の声が教室に響く。

 

それから唐突に魔法薬学の問題を出した。

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

 

 

ハリーが「わかりません」と答えると、スネイプの表情がやや嬉しそうな顔に変化した。

 

 

「チッ、チッ、チッ…有名なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探す?」

 

 

ハリーはまたもわからないらしく、困った表情を浮かべていた。

 

ハリーの近くにいる栗毛の女の子が高らかに右手を挙げているが、どうにも無視されているようだ。

 

ハリーは苦々しげにわかりませんと答えた。

 

その答えにスネイプ先生は呆れた表情を浮かべる。

 

 

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかった訳だな、ポッター、え?」

 

 

シャルロットは少し不憫だと思って眺めていた。

いくら一年生の教科書を開いても一番最初の質問の問題は載っていない。

一番最初の質問の答えは生ける屍の水薬、あれは6年生で習うもののはずだ。

随分前にフリンデルの家の本を漁っていた時に目にしたことがある。

 

 

「…さて、ではモンクスフードとウルフスベーンの違いはなんだね?」

 

 

ああ、まだ質問責め続いてたのね。

シャルロットはこんな人に教えてもらうのは大丈夫なのかと少し不安になってきていた。

 

 

「わかりません……、ハーマイオニーがわかっていると思いますから彼女に質問してみたらどうでしょうか」

 

 

スネイプ先生はハーマイオニーをじろりと見やると、座りなさい、とただ一言だけ言った。

 

 

「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力な為、生ける屍の水薬とも言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、大抵の薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名アコナイトとも言うが、トリカブトの事だ。諸君、なぜ今のを全てノートに書きとらんのだ?」

 

 

スネイプ先生の言葉に皆一斉にノートをとりはじめた。

 

 

「…そうだポッター、君の無礼な態度でグリフィンドールは一点減点」

 

 

これが引き金で、グリフィンドールはどんどん点数を引かれていくことになる。

 

 

 

今回の授業はおできを治す薬を調合する事だった。難易度的には比較的簡単な薬だ。

 

材料に、干しイラクサ、砕いた蛇の牙、ゆでた角ナメクジ、山嵐の針などを使う。

 

 

「ぅ……ぅ……なめ、くじ…………ご、ごめんダフネよろしく……!」

 

「ええ、いくわ、いくわよ。茹でるわ!」

 

 

ナメクジはぬめぬめしてるのが嫌で少し苦手なのだ。

それをダフネはフツフツと煮えたぎる鍋の中に勢いよく突っ込んだ。

ああ!悶えてる…!ナメクジが悶えてる!!

いけない、今日夢に出てくるかもしれない。

 

 

「ど、どうして君達はそんなに必死なんだ……」

 

 

ダフネとシャルロットの前の席にいたマルフォイは茹で終わった角ナメクジを掬いながら振り向いた。

 

 

「ひぃ…ぅ!だ、だめ!マルフォイお願いこっちに向かないで…!」

 

「す、すまない…」

 

 

ああ…ああ……あのナメクジは完全に茹であがってる……お亡くなりになられてる。

凄いぐったりしてるしもう見てられない。

 

 

「シャルがナメクジ苦手なんて知らなかったわ」

 

 

ダフネはにやにやしながら鍋の中のナメクジの様子を眺めている。

 

シャルロットは蛇の牙を砕きながら反論する。

 

 

「に、苦手ってわけじゃないわ…!な、なんかぬめぬめしてるのがちょっと……」

 

「そういうのを苦手って言うのよ!」

 

「う、うぅ………あ、ダフネ、茹でるのはそのくらいで」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

ダフネがナメクジを鍋の中から掬い上げるのと同時に、スネイプ先生がマルフォイの茹でた角ナメクジを褒めた。

 

スネイプ先生に褒められて嬉しかったのか、マルフォイは年相応の笑顔を見せていた。

 

 

「うわぁぁ!!!」

 

 

その時突然、誰かの声が響くと同時に地下室いっぱいに強烈な緑色の煙があがった。

 

床にはこぼれた薬が流れ出している。

 

誰かが調合に失敗したのかもしれない。

 

 

「馬鹿者!おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに山嵐の針を入れたんだな?」

 

 

スネイプ先生は杖をひと振りしてこぼれた薬を消失させる。

 

おできを治す薬は調合に失敗すると、おできを作る薬になってしまう。

 

調合に失敗したらしい男の子には体のいたるところにおできができあがっていた。

 

スネイプ先生はおできが出来てしまった子の隣にいた男の子に医務室へ連れていくように指示をする。

 

 

「ポッター、何故隣にいたのに注意をしてやらなかったのだ?彼が失敗することによって自分をよく見せようと考えたな?グリフィンドールから一点減点」

 

 

理不尽な減点だ…ハリーは拳を握ってるし、やっぱり少しばかり可哀想だ。

 

 

「…シャル?もう干しイラクサいれても大丈夫?」

 

「え?あぁ、ええ。問題ないわ。牙も入れてね」

 

「了解よ」

 

 

その後も淡々と薬を調合していき、完全にどんよりモードなグリフィンドールをおいて、スリザリンは薬の出来を褒められ合計で6点程稼いだ。

 

魔法薬学の授業が終わると、グリフィンドールの生徒はそそくさと教室を出ていってしまった。

 

 

「やっとお昼ね!シャル、今日はもう授業もないし、ママから送ってもらったお菓子で後でお茶しない?」

 

「だ、グリーングラス、僕の家からもお菓子が届いているんだ。皆でやらないか?」

 

「皆でお茶会なんて名案だわ!ミリセント達も誘いましょう」

 

 

ダフネ、マルフォイ、シャルロットの3人で午後の予定について思案していると、背後から声がかかった。

 

 

「フリンデルは少し残ってくれ」

 

 

スネイプ先生だった。

 

2人に先に行くよう伝えて、シャルロットはスネイプ先生の元へ向かう。

 

 

「あの……なんでしょうか?」

 

 

シャルロットが話しかけると、スネイプ先生は懐からケースを取り出した。

 

 

「…あ、これ……」

 

「校長から既に事情は聞いた。金曜日の午後は個人授業を行えとの事だ。昼食をとった後、我輩の研究室まで来たまえ」

 

 

午後の予定が全部消えたよ!!!

ハリーとのやり取りを見ているとあまり気は進まないが…しょうがない。

私はいずれにせよやらなければならないのだから。

 

 

「はい、その…では、午後にお伺いしますね。コンタクトありがとうございます」

 

 

要件だけ済むと、スネイプは準備室の方へと行ってしまった。

 

………上手くやれるのか心配になってきた。

 

 

 

 

 





い、1万字こえてる……ひぇ……初めてだ…

コンヴァルシオンはオリジナルスペルです


この物語上でのダフネちゃんをイメージしやすいように軽く落書きしてみました

【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6 個人授業とか

6話と7話はロンがかなりアレです
ロン好きの方は今すぐブラウザバックを推奨します。


 

 

 

 

 

つぅ……と頬に伝ってきた汗を拭う。

 

ロクに魔法も使えない私が魔力8.5割カットの状態で魔法を使うのはなかなかの苦行だ。

 

今頃皆は美味しいお菓子を囲ってお茶会してるんだろうなぁ、いいなぁ。

 

そんな事を考えていると呪いが飛んできた。

 

防御の仕方もわからないので、横へ勢いよくスライディングする。

 

 

「今何を考えていた?理論と構築は理解していても使えなければ何も意味が無いぞ」

 

 

スネイプ先生は顔色1つ変えずにまた杖を構える。

これでも大分手加減してもらっている方なのに、何の成果もあげられていないのが悔しい。

 

場所を研究室から空き教室へ移り、最初は呪文の構築要素辺りから始めたのだが、そのあたりは長年の読書で既に理解していた。

簡単に言えば、足りないものは実戦経験。

加えてシャルロットには魔力制限がかかっているのだ。精度をあげ、確実に行使しなければ魔法自体が使えない。

 

だが、魔力の枷が大きくなろうとも、フリンデル家固有の魔法は問題なく使えるはずだ。

 

「……ヴェ二グローリア」

 

聞いたこともない呪文にスネイプ先生は怪訝そうな顔をする。

 

魔法発動後、シャルロットの周りに色とりどりの蝶が召喚された。

 

「…蝶は、ただ綺麗なだけじゃないです。…………オパグノ」

 

突如優雅に舞っていた蝶が殺気を纏う。

 

スネイプ先生は慌てて杖を構えるが、それよりも早くシャルロットが動いた。

 

「オーキデウス!エンゴージオ!」

 

シャルロットは殺気を纏う蝶を隠すように花を咲かせ、それを大きくすることによってスネイプ先生の視界を遮った。

 

……頭が痛い。割れるように痛い。

たった4つ。たった4つの呪文を使っただけで魔力が空になりかけている。

消費量の少ない固有魔法を使ってもこの有様だ。

 

蝶はスネイプ先生の近くへ瞬時に向かうと怪しげな鱗粉を振り撒いた。

 

手加減をしていたスネイプ先生もこれはまずいと思ったのか、まともに対処することを決めたようだ。

 

「ディセンド」

 

しまった、それはいけない。蝶たちが落とされる。

増量させて、時間を稼がなければ。

 

「…ッジェミ___ッホ、ゴホッ」

 

突然身体の力が抜けて、床へ座り込んでしまう。

咳を抑えるために口に添えていた手を離すと、手には紅い血がべっとりとくっついていた。

 

その様子を見ていたスネイプ先生は慌てて駆け寄ってきた。

 

「……馬鹿者!いくら魔力が足りないからといって血液を代償に使うなど……」

 

頭がぼーっとしてしまって何が何だかよく分からない。

なんだか疲れて眠く……なって、きた…ような。

 

「エネルベート」

「う………ぁ…」

 

……叩き起された。

頭がぐわんぐわんする。痛い。

 

「今日はここまでだ。ところで、まだ習ってもいないような魔法を何故…それに、あの魔法………」

 

固有魔法はさておき、他に使った魔法は一年生で習うものではない。

シャルロットは深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がる。

 

「っ…はい、ヴェ二グローリアはフリンデル家固有の魔法です。他の魔法はそれを最大限に活かすために使えるかなと思いまして…練習を…すみません、それ以外は全く使えなくて……」

 

「……そうか、今日でフリンデルの実力はよくわかった。来週からは他の重要な魔法を重点的に教える。来週までにこの呪文学の本を読み、レポートを書いてきたまえ」

 

 

そう言ってスネイプ先生はシャルロットに一冊の本を押し付けると、空き教室を出ていってしまった。

 

これ読んだことある気がするんだけど…まあいいか。

 

魔法式はよくわかってはいるのだが、実際にやるのとはまた違う。

だからこそ私は他の魔法が使えない。なんてったって難易度が高いもの。

 

シャルロットは溜息をつきながらそのまま空き教室を出た。

 

 

 

____________

 

 

 

 

寮へ戻るとお茶会はお開きした後のようだった。

 

談話室のソファにはダフネとマルフォイが向かい合わせで座っている。

 

シャルロットの帰りに気づいたらしいダフネがシャルロットに向かって手招く。

 

「お疲れ様シャル、どうだったの個人授業は」

 

ダフネはにこにこしながら私の為に残しておいてくれたらしいお菓子を出してくれた。

よくクラッブとゴイルからお菓子を死守出来たな…尊敬する。

 

「……聞かないで…魔力が空なのよ、頭が痛くて」

 

疲れた体に甘い物が染み渡る………ありがとうお菓子、ありがとうダフネ。

 

「魔力が空に!?一体どんな事をすればそこまでなるんだい?それにしたってスネイプ先生との個人授業…羨ましい限りだよ本当にね」

 

「シャルにはコンタクトのことがあるもの。個人授業は仕方ないわ」

 

「コンタクト?……なんだい?コンタクトの事って」

 

そうか、マルフォイは知らないのか。そういえば話してなかった気がする。

めんどくさいし、この機会にダフネにもここ最近のことも合わせて話しておこう。

 

 

「ん、ええと、実は……____」

 

 

私の話を聞き終えた2人はなんともいえない顔をしていた。

 

「……魔力8.5割カットってそれ貴女大丈夫なの?」

 

「…大丈夫よ、皆の邪魔をしたくないもの……変身術の時にマッチ棒が吹き飛んだのだって私のせい。でも、きっとこれからは大丈夫よ、もう邪魔しないわ」

 

 

シャルロットが2人に有無を言わさぬように微笑むと、2人は何も言えなくなったのか、黙って紅茶に口をつけた。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

シャルロットは毎週金曜日のスネイプ先生のスパルタ個人授業をこなしつつ、充実的なホグワーツ生活を送っていた。

 

出来なかった魔法も1回コツを覚えればさくさく出来るものだ。

 

スネイプ先生のスパルタ具合は見せられないよ!レベルだが、その効果は高い。

 

たった数回の授業でシャルロットは一年生終了過程の魔法まで使えるようになっていた。

 

まだ攻撃魔法から身を守れるようなレベルではないが、スネイプ先生には感謝してもしきれない。

 

 

「今日はこれくらいで切り上げる。この後飛行訓練なのだろう?」

 

「っは………はぁ…っ、わかりました。ありがとうございます」

 

 

今日は15時半から初の飛行訓練の授業が入っていた。

時間を確認して、15時半が差し迫っていることに気づいたシャルロットは慌てて教室を出ようと扉に手をかける。

その瞬間、後ろからスネイプ先生に声を掛けられた。

 

 

「フリンデル、飛行訓練は魔法を使わない。その間にコンタクトの様子を見るから渡すようにと校長から言われている」

 

「ダンブルドア先生が…?わかりました」

 

 

あのコンタクトはちょくちょく様子を見ないとたまに負荷が緩んでいることがある。

それを防ぐ為に、魔法を使わない時にダンブルドア先生がコンタクトの様子を見てくれるのだ。

 

シャルロットはコンタクトをとってケースにしまい、それをスネイプ先生に手渡す。

お願いしますとだけ言って慌てて教室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行訓練を行う場所まで行くと、またしてもスリザリンのみ先に到着している状態だった。

 

朝からマルフォイが箒やクィディッチについて熱弁していたから、無理矢理早い時間から引きずられてきたのかもしれない。

 

 

「シャルは箒に乗ったことがある?私はあるわ!妹と空で過ごす時間がとても好きなのよ」

 

隣へやって来たシャルロットに、ねえねえ!とダフネが興奮気味に話しかける。

ダフネもマルフォイと同じで箒やクィディッチが好きなのだ。

鏡時代に熱弁された記憶がある。

 

「いいえ、私はないわ。そもそも外に出られたなかったんですもの。でも、とても楽しみよ飛行訓練」

 

「そ、そうよね…私ったら失言を……でも、何かわからなかったら言って!コツを教えるわ」

 

ダフネは悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに切替え、シャルロットの片手を両手で握りしめてぶんぶん振る。

 

「ありがとう、ダフネ」

 

 

 

「何をぼやぼやしてるんですか!」

 

 

突然響いた声に慌てて顔をあげる。

 

いつの間にかグリフィンドールの生徒もやって来ていて、飛行訓練の先生であるフーチ先生も到着していた。

 

「皆さん箒の側に立って、さあ早く!」

 

なんだか凄く急かしてくる先生だな。

でもぼやぼやしているとまた怒られるかもしれない、急いで箒の側に行こう。

 

「右手を箒の上にかざして、上がれと言ってください、いいですね!」

 

その指示のあと、皆が一斉に上がれ!と言い出した。

 

一声で上がったのは、マルフォイやダフネ、ハリー、他一部の人だけだった。

 

シャルロットはというと…

「上がれ」

 

箒は反応した。確かに反応した。

反応はしたのだが、些か反応しすぎた。

 

そう、勢いあまって額に直撃したのだ。

 

「あう!」

 

鈍い痛みに額をおさえてうずくまると、ダフネがクスクス笑う声が聞こえた。

 

涙目のシャルロットに睨まれながらごめんなさいねと謝るその姿には全く反省の気配が見えない。許すけど。

 

「気負いすぎよ、もっと力を抜いて、落ち着いてやってみて?」

 

ダフネの言うとおりにやってみると、箒はすんなりと手中に収まった。

 

 

その後、どうしても上がらなかった人はそのまま自分で持って、次の段階へ進んだ。

 

 

「さ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2m程浮上したら、少し前屈みになってすぐに降りてきてください。それでは…1.2の____」

 

 

だが、笛の合図を待たずに、グリフィンドールの生徒の1人が勢いよく飛んでいってしまった。

確かあの少年、魔法薬学でもミスをしていなかったか?

 

 

「こら!戻ってきなさい!!!」

 

 

フーチ先生の大声が響くが、無駄だ。

 

完全に箒に主導権を握られている。

箒はそのままぐんぐんと上へ行き、少年を振り落とした。

 

皆は突然の出来事に呆気に取られて動けずにいる。

 

その間にも少年は地面へ向かって落下していく。

 

もしこのまま少年が落下死したらどうなるだろうか。

きっと飛行訓練自体が禁止になる。そんな事には絶対させない。

 

シャルロットは覚悟を決め杖を取り出す。

 

その様子に気づいたダフネが慌てて止めよつとする。

 

「シャル!?貴女何を…!?」

 

的は動いているし、見た目からして質量が多そうだから魔法の負荷は凄そうだけど、きっとなんとかなる。

 

「私は…友人と幼馴染みの好きなこの授業を絶対に禁止になんてさせないわ。……ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

次の瞬間、負荷がかかり、魔力が消費される感覚がした。

でも大丈夫、今はコンタクトを付けていない。いくら使っても魔力は足りてる。

 

「っは……ぅ…オーキデウスッ」

 

彼の落下地点にたくさんの花を咲かせ、小さな花の山を作り、落下の衝撃を柔らかくする。

 

我ながらナイスアイデアだとは思うけど、少し危ないかもしれない。

2つの魔法を同時に最大出力で使うのは流石に集中力がもたない。

 

花の山が完成し、少しほっとした私は気を緩めてしまった。

そう、集中力が欠けたせいで花の山まで残り1.2mのところで浮遊術の効果が切れてしまったのだ。

 

「っ…しまっ……!」

 

だが、心配は杞憂だった。

花の山が少年をふんわりとキャッチする。

 

「…ありがとうございます、あなたの咄嗟の判断で彼は救われました。スリザリンに10点与えましょう」

 

あんなに鋭かったフーチ先生の目が柔らかくなっていた。

それからフーチ先生は倒れた少年の元へ向かう。

 

「…………気絶していますね。一応医務室へ連れていきましょう。いいですか皆さん、私が戻るまで空を飛んではいけません、絶対にです」

 

そういうと、フーチ先生は少年を抱えて城内へと入っていった。

 

だが、シャルロットがほっと息をつく暇はそこには無かった。

 

「おい、お前」

 

上からかけられた声に顔を上げると、赤髪の男の子がいた。

ハリーの隣にいた子だった気がする。

 

「なんでネビルを助けた?」

 

ネビル…あの少年はネビルっていう名前だったのか。

また何かあったら困るし覚えておこう。

 

「なんで答えない?スリザリンがグリフィンドールを助けるなんておかしい、絶対裏があるに決まってる!」

 

ちょっと待って、この人少しも待てないタイプなのだろうか。

私が返答する時間を与えて欲しいのだが。

 

「私は友人と幼馴染みの為に…__」

 

「嘘をつくな!スリザリンのくせに……ハリーにでも気に入られたいのか?ああ、もうオトモダチ、だったっけ?」

 

「やめろロン!シャルはネビルを助けてくれた!シャルに限って裏なんかない!」

 

暴走し始めた赤髪の少年…__ロンをハリーが止めに入る。

 

「離せ!君はどうしてスリザリンの肩を持つんだ!おかしいよ!」

 

するとロンは杖を勢いよく引き抜いた。

 

何か魔法を使うつもりなのだろうか…それはいけない、今はコンタクトをつけていないのだ。

 

彼は何の魔法を放てばいいのかわからなかったのか、杖をめちゃくちゃに振り回してこちらに向けた。

 

まずい、めちゃくちゃな振り方に魔力をのせている。

魔力波がくる。それもかなり高威力なものが。

 

 

そしてシャルロットの紫紺の瞳がキラリと輝いた。

 

 

彼の放った適当な魔力波がシャルロットの能力の強化を受け、倍の威力となってシャルロットに降りかかる。

 

至近距離のものは流石に避けられない。

これ運が悪いと死ぬかも。

 

強力な魔力波がシャルロットに当たった。

 

シャルロットに凄まじい衝撃が襲う。

 

そのまま受け止めきれるはずも無く、軽く10mは吹き飛ばされた。

 

 

 

 

ロンは呆然としていた。

何が起こったのかわからない、そういった顔をしていた。

 

すると、いつの間にかシャルロットと似たような少女がロンの目の前に来ていて、思い切り頬を叩かれた。

 

「貴方、最低よ…__!!」

 

少女は今にも泣きそうな顔をしながら踵を返し、シャルロットの方へ走って行った。

 

「………彼女の言う通りだ。君、本当に最低だよ」

 

ハリーもロンと目を合わせずにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ル!…………ャル!シャル!しっかりして、目を覚まして!」

 

これはダフネの声だ。

軽く意識を失っていたのかもしれない。

起き上がろうとすると全身に鈍い痛みが走った。

これは骨が何本か折れているかもしれない。

最悪内臓にもダメージが入っているかも。

それでも、ダフネを安心させるために無理して上体を起こす。

 

「だふ…ね、泣かないで……大丈夫……全然、問題ないわ」

 

「…嘘よ、嘘をつかないで。貴方、だいぶ無理してるわ…!」

 

ダフネは泣きながら反論してくる。

もちろん図星だから何も言い返せない。

 

「ウィーズリーのやつ……スリザリンに喧嘩を売ったな」

 

ダフネの反対側でマルフォイが憎々しげに呟いた。

それに同調するようにパンジーやミリセントも続く。

 

「私の……私の友達に手を出すなんて、絶対に許さないわ」

 

「スリザリンの絆は生半可なものじゃない。どこよりも結束力の高い寮。これは宣戦布告ととっても問題ないね?」

 

だめだ。

今ここで問題を起こしたらスリザリンの皆にも被害が行く。それだけは絶対避けなくちゃならない。

私の幼馴染み以外での初めての友達。

なによりも大事にしたい。

スリザリンの皆がここ一か月の間に友達の素晴らしさを余すこと無く教えてくれた。

 

「……っだめ、みん、な、落ち着いて…そんなこと、したらダメ。皆…に、危険な橋は、渡らせな……___」

 

そのとき何か熱いものが体の内側からこみ上げてきて、思わず口を押さえて咳込んだ。

 

目に入ったのは鮮烈な紅。

 

血だった。

 

これは多分内臓までダメージ入ってる。

 

意識し始めた途端、ズキズキと強烈に痛み始めた。

 

だめだ。これ、痛すぎて意識飛ぶ…____。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとシャル!?シャル!」

 

ダフネは、再び倒れたシャルロットに驚き、揺らそうとする。

 

だがそれは、マルフォイの手によって阻まれた。

 

「待て、グリーングラス。揺らすな。血を吐いたということは確実にどこかの内臓が傷ついているか破裂している。余計な振動はあたえるべきじゃない」

 

マルフォイの顔はいつもと違って真剣そのものだった。

 

「あ~んドラコったら…真剣な表情も素敵…!」

「パンジー、こんな大変な時にそういう事は言わない」

 

くねくねするパンジーをミリセントがなんとか止める。

 

 

「グリーングラス、僕がフリンデルを運ぶ。グリーングラスは皆を寮に戻してくれ。どのみちこの状況じゃ授業なんて出来ない、中止だ」

 

「…わかったわ、そうする。シャルをお願い………」

 

 

ダフネの言葉に頷くと、マルフォイはシャルロットを抱きかかえた。

 

 

「ドラコは力持ちなのね…!今度私も倒れようかしら……」

 

「いいからいいから、ほら行くよ。パンジーはもうちょっと痩せてから頼みなよ」

 

「うるっさい!今ダイエット中なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか心地よい揺れを感じる。少しの揺れでも傷は痛むけど、気遣うような持ち運び方に優しさを感じた。

 

「………痛…っ………あれ、マルフォイ…?」

 

シャルロットの声に反応したマルフォイはこちらに顔を向けた。

 

「!目覚めたか…よかった。これでダフ、グリーングラスも安心するだろう。医務室まであと少しだ。もう少しだけ耐えてくれ」

 

少し、意外だった。

こんな事をするタイプには見えなかったから。

 

「ごめ、なさ…重かったでしょう……もう、下ろし…__」

 

「その身体じゃ歩けないだろう?いいから僕に任せてくれ、これくらいなら出来る」

 

11歳の子供が同じ歳の子供を運ぶってかなり無理してる気もするけど…しかもマルフォイ痩せ型だし、本当に大丈夫なのだろうか。

 

何か言葉をかけようかと悩んでいると、本当にあと少しだったらしく、医務室へ到着してしまった。

 

それからはあれよあれよとベッドへ案内され、何種類かの薬を渡されて飲む事になった。味?味は死ぬほど不味い。

 

フーチ先生とは入れ替わりで医務室へ来たらしく、まだ飛行訓練の状況を知る先生はいない。

状況を聞かされたマダム・ポンフリーは飛ぶように職員室へ向かった。

 

私の代わりに一通りの事を説明してくれたマルフォイにはいつもの面影はなく、しっかりした優等生、という印象の方が強かった。

やれば出来るタイプなのかな……わからないけど、とても助かった。

 

 

「あの…マルフォイ、運んでくれて…その、ありがとう……」

 

「気にしないでくれ、スリザリンの仲間だろう?……それより、何故ロングボトムを助けた?」

 

 

マルフォイはシャルロットに射るような視線を向ける。

これも、初めて見た表情だった。

 

 

「…貴方やダフネが箒やクィディッチの事が好きだって知ってたから。飛行訓練楽しみにしてたんだろうなぁって……けど、そこでもし死者が出るような事が起きたら…きっと飛行訓練の授業はなくなってしまうわ。だから……友人の好きなものを私は守りたくて……その……」

 

 

上手く話をきれなくて、しどろもどろになる言葉に不安を覚えながらベッドサイドの椅子に座っていたマルフォイの方を見る。

マルフォイは驚いた表情のまま固まっていた。

 

 

「あ、あれ…?マルフォイさーん、おーーーーい」

 

目の前で手を振るとハッとしたように体を震わせた。

 

「そ、そうか……ありがとう。あと…フリンデル、ダイアゴン横丁での事は謝る。小馬鹿にしてすまなかった」

 

今度は私が目を丸くする番だった。

まさか謝られるだなんて思っていなかったから。そもそもそんな事すっかり忘れていた。

 

「いいのよ、気にしないで。あとその、フリンデルっていうのもやめよう?ダフネに対してもそうだけれど、わざわざファミリーネームで呼ぶことないわ。せっかく同じ寮の友達…なのに」

 

「あ、ああ、わかった。シャル…ロット、でいいか?僕のこともドラコでいい。けど、ダ、グリーングラスだけは…___」

 

「それはダフネの事が好きだから?」

 

つい流れで今まで誰も踏み込まなかった問題について触れてしまうと、青白いドラコの頬に朱色が差した。

 

「な……ん、な………そ、それをどこで!!?い、いや、僕がグリーングラスを好きなわけが………な、くも…ない……けど…」

 

「……あんまり奥手すぎるとダフネには伝わらないわよ。現に眼中に無いみたいだし…もっと積極的に行かないと駄目ね」

 

パンジー以外の皆が気づいている事は言わないでおこう。

1人が知っているだけでこの慌てようだと、全員に知れ渡っていることがバレたら気を失いそうだ。

 

「…忠告、ありがたく受け取っておく………」

 

「ええ、応援するわ」

 

「うぇ!?あ……ありがとう……また夕食前に皆と来るよ」

 

ドラコは最後にそう告げると、そそくさと医務室を出ていった。

頬が少し赤かった為にきっと照れてたのもあるのだろう。

 

 

それにしても、身体が熱い。

 

傷の痛みでズキズキするし、薬の効果が効いている為か、物凄く内側が熱い。地獄だ。

 

今すぐ治ってくれれば楽なのに。

 

そういえばお父様……アルフレッドには傷を癒す力があるってフリンデルの家系図に書いてあったような気がする。

お父様は魔力が少なかったから擦り傷を治す程度しか使えなかったらしいけれど、ひいおばあ様は底無しの魔力を持ち、どんなに大きな怪我も治せたとかなんとか。

 

フリンデル家での能力が遺伝することはよくある事のようなのだが、残念ながら私は引き継いでいない。

 

シャルロットは、私も治癒の能力を引き継いでいたら良かったのに、なんて思いながらお腹に手をあて、冗談半分で治れー!と魔力をのせて念じた。まあ治るはずもないのだが。

 

はぁ…とため息をついて手を離そうとすると、お腹にあてていた手から淡い藤色の光が溢れる。それと同時に、自分の魔力がガクンと減る感覚がした。

 

いや、まさか………まさかそんなはずがあるわけない。

 

だが、体の痛みや熱さがすーっと消えていく。

 

「嘘でしょ……」

 

まあでも、こんなのただの偶然かもしれない。だが、確かめなければ。

もし使えるのであればそれは物凄く助かる。

 

シャルロットはベッドから降り、マダム・ポンフリーの机へ向かう。

さっきまで1人では歩けなかったのに歩けるようになっている……本当に治っているのか。

そして、机の上でお目当てのものを見つけた。

羽ペン、だ。

羽ペンの先端はとても鋭利だ。

あとは簡単、これを思いっきり刺してから治してみるだけ。

流石にそのまま使うのはマダム・ポンフリーに申し訳ないので、双子の呪文を使い、羽ペンを複製する。

そして腕に向かって思い切り羽ペンを振り下ろした。

 

「っ…………!!!!!」

 

………い、痛い。痛すぎる。

声がでないくらい痛い、いやもうこれ駄目なパターン。

この後治さなければならないのだが、まずは刺さったままの羽ペンを抜かなければならない。

羽ペンに手を伸ばすと、誰かの声が医務室に響いた。

 

「な、何してるの!?」

 

シャルロットが振り向くと、そこにはハリーがいた。

きっとネビルのお見舞いに来たのだろう。

ハリーはシャルロットの蒼白な表情を見て、慌ててこちらに駆け寄って来る。

そして腕に突き刺さった羽ペンを見てうわぁという表情を浮かべた後、がっしりと腕を掴まれた。

 

「何があったかはよくわからないけどはやく抜かなきゃ!ごめん、じっとしてて!」

 

「…えっ………え、ちょっ、待っ…………っ!ぅ………!!」

 

物凄い勢いで抜かれた。ポーンッという効果音がつきそうなくらいに。

もう二度と羽ペンを腕に突き刺すのはやめよう、物凄く痛い。

 

羽ペンが抜けた後の傷口からはどくどくと血が流れている。

それを見たハリーはさらに焦ったらしく慌てふためいている。

 

「ど、どうしよう…血、血を止めなきゃ!シャル!なんでこんなこと……」

 

まあ、ハリーは気にしないでいこう。抜けたあとにやる事は変わらない。

慌てていろいろ聞いてくるハリーの口に指をあてて黙らせる。

 

「…黙ってて、ね?」

 

そして手を傷口にかざし、先程と同じように念じる。

すると、やはり藤色の光が溢れ、まるで傷なんて無かったかのように腕が治っていた。

 

偶然じゃ無かったんだ。

けど、何故私にだけ二種類も能力が使えるのだろうか。

……もしかして、魔力を封印された時にお父様の力全てを使って封印したからその時に付与されていたのかもしれない。

詳しい事はよくわからないが、今はそういう事にしておこう。

 

「っ……凄い!今のなんて魔法!?」

 

ハリーはさっきまでの慌てようはどこへ行ったのか、今度は驚いたように何度もシャルロットの顔と腕を見る。

そういえばハリー・ポッターはマグルの家に育てられていたんだっけ。それならば、あまり魔法界の事は詳しくないはずだし能力持ちのフリンデル家の事も知らないはずだ。

 

「ふふ、秘密よ」

 

知らないのなら知らないままでいてもらおう。他寮の生徒には簡単にこちらの手の内を明かすのはあまりしたくはない。

 

「すっごく気になるけど…そうだネビル!僕ネビルの様子を見に来たんだ。シャル、あの時はネビルを助けてくれてありがとう」

 

「え、あ……いや、私は………うん…」

 

本当はネビルの為にネビルを助けた訳では無いのだが、否定しても説明するのが面倒くさい。ここは頷いておくべきだろう。

 

 

その後特にやることも無かった私は元のベッドへと戻った。

 

他の先生に状況を知らせに行ったマダム・ポンフリーが戻って来た際に傷の具合を再び診られたのだが、全て治っていたことに大分首を傾げていた。

本当は薬を使って3日程かかるはずのものがたった数十分以内に治っているのだからそうなりもするだろう。

 

コンタクトの調整が終わったらしいダンブルドア先生もやってきて、コンタクトを渡される。状況を事細かく聞かれたがお咎めが出たのはロンただ1人で、謹慎処分1週間だそうだ。

 

私もその後すぐに寮へ返され、再び元のホグワーツ生活へと戻った。





ヴェニグローリアはオリジナルスペルです。
詳しい魔法の内容はまた次の機会に


申し訳ありません、遅くなりました。
試験や旅行で予想以上に大幅に遅れてしまいました…!
前回言っておけばよかったのですがついつい言い忘れてしまって…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7 決闘

 

 

 

誰かの用事がない限り変わらない大体同じいつものスリザリンメンバーと会話に花を咲かせながら大広間へ入ると1週間ぶりに見る顔があった。

 

ロナルド・ウィーズリーだ。

 

彼を見つけたドラコはダフネと夢中で話をしていたシャルロットの手首を引いた。

 

「うぇ!?何、誰!?」

 

突然の事に状況が上手く飲み込めないのか、シャルロットは大きな蒼い瞳を瞬かせている。

 

「ちょっとドラコ…私とシャルの会話を邪魔するとはどういう了見かしら」

 

突然会話を終了させられたダフネは機嫌が急降下していくのが目に見えてわかった。

二人の関係を応援しているシャルロットの身からすればこれはあまり良くない、非常に良くない展開である。

 

「待ってダフネ、落ち着いて、ほら深呼吸よ」

 

「すぅー…はぁーーーって落ち着けるわけないでしょう!?うちの子に何するのよー!もう!」

 

「いやいや待って、うちの子って何よ、どっちかというとダフネの方が…」

 

 

「あの…そろそろいいかい?シャルロット、ちょっとそこまで来てくれないか」

 

何か用事でもあるのだろうか。

さっきも何も言わずに手首を引くくらいだったのだからきっと何かあるのだろう。

こくりと頷くとドラコは満足そうに微笑んだ。

 

「助かるよ。すまないダフネ、シャルロットを借りる、すぐに戻る」

 

ドラコはそれだけ言うとシャルロットを連れて行ってしまった。

 

 

「うっうぐ…えっうっうっそんなぁ…しゃるうぅぅ………」

「ちょっとあんた、泣かないでったら!私だってドラコに引っ張られたいっていうのに………」

 

「ぱん、じー………」「だ、だふね……」

「「うわぁぁぁぁああぁぁん!!!」」

 

「はいはい暑苦しい暑苦しい、先にテーブルに行ってようか。あの2人ならすぐに戻ってくるよ」

 

ミリセントは寂しがるダフネとパンジーを連れて無理やりスリザリンのテーブルまで引っ張っていった。

 

 

 

 

 

ドラコに連れられた先はグリフィンドールのテーブルだった。

スリザリンとグリフィンドールは知っての通りあまり仲がよろしくない。

色々な意味を含めて注目度の高いスリザリン生2人がやってきたのだから自然と視線も集まる。

 

「あの、ドラコ、聞いてもいいかしら。どうしてここに…」

 

「シャルロットは黙って僕の後にいてくれるだけでいい」

 

話す気はないみたいだ。

仕方ない、大人しく事を眺めていよう。

 

ドラコはとある人物の横で止まった。

そう、ロナルド・ウィーズリーの横だ。

 

 

「やぁウィーズリー。1週間ぶりの大広間での食事はどうだい?」

 

何故今更あの関連の話題を出すんだこのお坊ちゃんは…!!しかも!ここ!グリフィンドールのテーブル!考えが足りないんじゃないか!?

シャルロットは突然の話題に思わず咳き込みそうになるのを必死に抑えた。

 

「……黙れマルフォイ。僕に近づくな」

 

ロンはシャルロットの方を一目見てから冷たい声でドラコにそういった。

 

「嫌だね、君はスリザリンの仲間に手を出したどころか、怪我まで負わせた。君の身勝手なスリザリン嫌いのおかげでね。ああ、やっぱりグリフィンドールって言うのは猪突猛進的で頭の硬いやつしかいないのかい?」

 

ああああ……もうダメだ終わりだ……。

正直、ここにいるのが物凄く辛い。ドラコの声を聞き取ったグリフィンドール生が殺気だったのがよくわかった。もう顔を手で覆ってしまいたい。

 

その時1人の男子生徒と目が合った。

ネビルだ。

 

彼はシャルロットと目が合うと、驚いたように思い切り目を逸らした。

そのあと何度か頷いたかと思うと、今度は勢いよく顔を上げた。

 

「あ、あの…!」

 

そしてなんと、そのままシャルロットに話しかけてきたのだ。

前方ではドラコとロンの言い争いがどんどんヒートアップしていく。正直巻き込まれたくはないのでネビルの方へ少し歩み寄った。

 

シャルロットが自分の声に気づいてくれたのが嬉しかったのか、歩み寄ってくれたのが嬉しかったのか、ネビルは顔を輝かせた。

 

「シャル…ロット……さん、だよね?僕ネビル、ネビル・ロングボトムっていうんだけど…ハリーから、君が助けてくれたって聞いて……」

 

ネビルは戸惑いながらも一言一言呟いていく。

彼の声は自信なさげで少し小さい、シャルロットは隣の大声からネビルの言葉を一語一句聞き逃さないようにしっかり聞いた。

 

「だから…その、一言!お礼……を、言いたくて……あの、ありがとう」

 

言い切った!とばかりにほっと一息つくネビルと、微笑ましげに眺めるハリーの視線がシャルロットの胸にズキリと刺さった。

 

本当は貴方を助ける為じゃなくて、自分の友人を想っての事だったなんて申し訳なくて。そんな考えで行動した私に純粋に感謝の言葉を伝えてくれるなんて。

でも、ここで白黒つけないでどうするのだ。

 

「…ごめんなさい、私、貴方を思って助けたわけじゃなくて……友人の為に…友人の悲しむ顔を見たくなくて、だから…そんな純粋な感謝の気持ちは私に向けられていいものじゃない」

 

二人の顔を見ていられなくなってふいと顔を逸らすと、くすっと笑い声が聞こえた。

慌ててそちらへ顔を向けると2人がくすくすと笑っていた。

 

「それでも、だよ。シャルロットさんが結果的に僕を助けてくれたことには変わらないよ!シャルロットさんは優しいんだね」

 

「友人の為にってなかなか出来ることじゃないって僕は思うよ。シャルは友達想いだ。まあ、その友人っていうのがそこのマルフォイっていうのがあれだけど…」

 

2人の言葉に思わず涙腺が緩んだ。

2人の方がよっぽど優しくて、お人好しだ。

 

顔をあげてお礼を言おうとすると、またしても手首を引っ張られた。

 

 

「わかった。なら僕の介添人はシャルロットだ。ウィーズリーは?」

 

「僕は……っ、ハリーだ!いいね!?ハリー!」

 

 

突然名前を呼ばれたハリーとシャルロットは訳が分からないというように顔を見合わせて首を傾げた。

 

 

「今夜0時頃にトロフィー室だ。あそこはいつも鍵が開いてるんでね」

 

 

ドラコはそれだけ言うと、もう用がないというように歩き出した。

 

「あの…ドラコ、介添人って何の話なの?まさかとは思うけど……」

 

スリザリンのテーブル近くまで来るとドラコは口を開いた。

 

「ああ、そのまさかさ。魔法使いの決闘だ。ウィーズリーのやつから言ってきたんだ、スリザリンの誇りをかけてこてんぱんに打ちのめしてやる」

 

魔法使いの決闘だって?それはいけない。

最悪どちらかが死んでしまうかもしれない。

ロンの事は正直どうでもいいが、ドラコが傷つくのは友人としてあまり見たくない光景だし、ロンが倒れた後に戦うのはハリーだ。

友人同士が闘う光景は見てて味気のいいものではない。それに、もしドラコが倒れたら……無理無理無理無理、絶対に無理だ。

 

「だめ、私は反対よ。あまりにも危険すぎるもの」

 

「…君が傷つけられてもずっと黙っていろと?そんな事は出来ない。もちろんスリザリンに軽はずみに手を出したこともあるが、僕の一友人に手を出した事は何よりも許し難いことだ。決着がつくまではこの事は絶対に許されるべきことじゃない」

 

ドラコの瞳はシャルロットを運んだ時と同じ目になっていた。

ここまで言われて反対できる程シャルロットは強くは無い。シャルロット自身にもその気持ちはよくわかるから。

もしダフネや友人達に危害を加えられたとしたら許しはしないだろう。

こうなったら1度満足するまでやってもらうしかない。

もし何かあったら私が回復させればいい。

 

「………わかった、わかったわ。けど、その1回限りにして。私だって友人が傷つくところを見たいわけじゃないもの」

 

「っ……ああ、そうするよ」

 

2人は静かに頷きあって、友人達の座るテーブルへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

軽く仮眠をとっていたシャルロットは目を覚ました。

時間を確認すれば23時半頃。

なかなかいいタイミングに起きる事が出来たと思う。

ダフネを起こさないようにそっとベッドを抜け出そうと思うと、またがっしりとホールドされていた。

 

「…ごめんね」

 

慎重にダフネの手を解いてベッドから抜け出すと、真夜中の冷たい空気がふるりと体を震わせる。

シャルロットは机に掛けておいたブランケットを手に取り、談話室へ向かった。

 

談話室にはまだドラコはおらず、この寒いまま待っているのもあれなので紅茶を淹れて待つことにした。

しかし、5分、10分経とうともドラコが来る気配は全くない。

 

「…まさか寝てるんじゃないでしょうね?」

 

規則破りにはなるけれど起こしに行くしかない。どっちにしろ今からさらに規則破りをするのだから気にしても仕方のないことだ。

時間も差し迫っているし、シャルロットは覚悟を決めて立ち上がった。

 

男子寮ではまだ誰か起きているのか、どこかの部屋から笑い声や話し声が聞こえる。

男子寮の通路の灯りは全て落とされ、真っ暗だった。

シャルロットは暗いところがあまり得意ではない為、恐る恐る壁伝いに進んでいく。

 

壁のプレートを見つつ進んでいくと、ようやくお目当ての人物の名前を見つけた。

鍵開けの呪文を使って中に入ると、やはりドラコは熟睡中だった。

オールバックにしていない時の彼は新鮮で、ついつい眺めてしまう。

まだまだあどけなさの残る顔に、さらさらなプラチナブロンドは天使の髪みたいで、普段あんなにハリー達に意地悪なのが嘘みたいだ。

しまった、観察してる場合じゃない。

 

「ドラコ起きて、ほら、もうすぐ時間よ」

 

体を揺らすが全く起きる気配がない。

こうなったらもう強引に起こす。時間が無いのだ。

 

「………リクタスセンプラ」

 

次の瞬間ドラコが大声で笑い始めた。

流石くすぐりの呪文。

 

「ちょ、待っ…やめ、ふはっ、あっははは!!!!!」

 

「フィニート、おはよう。もうすぐ時間、4階まで走るわよ」

 

ドラコは涙目でまだひいひい言いながらシャルロットの方を見る。

 

「いやいや、確かに寝ていた僕も悪いけど、もうちょっとマシな起こし方とか無かったのかい!?」

 

「……水をかけたりした方が良かったのかしら…一応声は掛けたのだけれど起きそうになかったから」

 

「……………うん、もし次があったら僕は必ず自分で起きる。よし、行こう」

 

杖に光を灯し、2人はスリザリン寮を抜け出した。

目指すは4階のトロフィー室だ。

 

 

 

トロフィー室へ到着し、懐中時計で時間を確認すると、0時までまだあと少しあった。

先に到着した2人はただ静かに待つ。

 

その時、外から足音が聞こえた。

 

「来たみたいよ。でも……足音の数が…人数が多い…?」

 

シャルロットの言う通りで、やってきたのは4人もの生徒だった。

ロン、ハリー、ネビル、そして1人の女生徒。

 

「ふん、逃げずにやってきたか。だが、些か人数が多いんじゃないか?」

 

「そっちこそ!もっと卑怯な手を使うと思ってた。人数は、その……」

 

「まあいい、僕達が負けるなんて事は1ミリもないからね!」

 

ドラコのその言葉を合図に、ドラコとロンは魔法をぶつけ合った。

だが、二人とも攻撃魔法を習っていないので、火花を散らす程度で済んでいる。

よかった、これなら死人が出るなんて事は起こらない、そうシャルロットが思った時だ。

 

トロフィー室の外からもう一つ足音が聞こえたのだ。

しかも、シャルロット達がいる方の扉から。

 

きっと見回り中のフィルチだろう。

タイミングが悪すぎる。

 

「皆早くここから出て!」

 

シャルロットの突然の言葉に皆目を丸くした。だが、大きい声を出せばあちらにも気づかれる。

 

「今どこからか生徒の声が聞こえたぞ!ここか!?」

 

フィルチがトロフィー室の扉を開いた瞬間、シャルロットは杖を向けて魔法を使った。

 

「ルーモス・マキシマ!ノックス!」

 

今使える簡単な魔法を使った軽い目くらましだ。

間近で見てしまったフィルチは目をおさえて呻いている。

 

その間にドラコを引っ張って反対側のハリー達がいる方のドアから出た。

 

 

「もう決闘は中止よ。フィルチに見つかったということは、これ以上夜のホグワーツにいるのは危険を伴うわ、寮に戻るわよ」

 

「っ……けど…………いや、戻るよ…」

 

「はやく走って、きっとすぐに追いかけてくるから」

 

ハリー達などとっくに逃げ出している。

勇猛果敢なグリフィンドール生とは一体。

まあフィルチになんて捕まりたくはないだろうからさっさと逃げるのも当たり前なのだが。

 

シャルロット達は扉から一番遠かったのもあり、逃げるのが一足遅れていた。

 

動く階段の所までなんとか走るけれど、後ろから動けるようになったフィルチが追いかけてくる。

このまま行先に階段が動くのを待ちつつ下っていると間違いなく捕まる。

 

「……ドラコ、階段の中心が全て開く瞬間があるわね?その時に一階に向かって飛び降りて」

 

「いや、何を言ってるんだ!そんなの無理に決まってる」

 

「大丈夫よ。大幅に減点されるのと私を信じるのどちらがマシ?」

 

ドラコの返事を待つ間にもフィルチはどんどん近づいてくる。そろそろまずい。

 

「……君を、信じるよぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ」

 

階段のタイミング的にも返事的にもバッチリだ。叫び声さえなければパーフェクトだったのに、残念。

ドラコを抱え込みながらダイブしたシャルロットは少し位置を調整しつつ、杖を構え直す。

 

「インカーセラス…!」

 

コンタクトをしていないシャルロットの魔法は絶好調だ。

普段は対象を縛る程度しか出来ないこの魔法も自由自在にコントロール出来る。

素早く2階に位置する階段の手すりにロープを巻き付け、ついでに自分達にも巻き付ける。

一階に激突する最悪の結果はなんとか免れた。

ただ、落下の勢いを殺しきれなくて空中でぷらんぷらんしているが、そこは大目に見て欲しい。

 

「あ…あああ………ああああああ……たまに、君って、過激なことするね…」

 

「逃げるにはこれくらいしか思いつかなかったのよ、ごめんなさいね」

 

ロープを少しずつ緩めて一階に着地する。

心なしかドラコがガタガタしている気がするが気の所為だろう、多分。

 

自分達に怪我がないか一通り確認していると、上からも誰かの悲鳴が聞こえた。

きっとハリー達だろう。何かあったのだろうか。

まあ、今はフィルチがこっちに来ないうちに寮へ戻る方が大事なのでさっさと戻るけど。

 

「はあ…なんか、酷い目にあった気分だ。僕はもう寝たいよ」

 

ドラコの言葉にシャルロットはクスッと笑った。確かに酷い目にはあったけど、それ以上に楽しかったからだ。

 

「な、なんで笑ってるんだ?」

 

「……別に…なんでもないわ、早く戻ってもう休みましょう」





ここのフォイはチクりません戦います、でも寝坊する




フライハーイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。