Full Bloom 〜満開の歌声を〜 (grasshopper)
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第1部 桜咲く春のコンチェルト
1話 前前前世


ーーーごめんな、優人。

 

なんで…………

 

ーーーお前との夢、叶えられそうにねぇわ。

 

だからって……なんで………………

 

ーーーお前に酷いことしちまったから。……せめてもの報いだ。

 

ああ、そうだよ……お前は酷いことをした。

…………だから償えよ

……こんなカタチじゃなくて、一緒に夢を叶えて、償えよ!

 

ーーーほんとにごめんな。

 

うるせぇよ…………

 

ーーー俺さ、お前のギター好きだった。

ーーーもっと、聴きたい

ーーーだから……

 

 

 

 

この先はいつも思い出せない。

 

この後のあいつの言葉のおかげで俺はギターを、歌を歌い続けているのだから。

 

なのに、なんで……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日は平日。

時刻は朝4時半。朝日はまだ見えないが、深夜に比べると明るいかな。

こんな時間に起きてどうしたって。

 

バイトだよ。

 

そんなことはおいといて、今日からうちの学校に新入生がくる。期待に胸を躍らす新入生の諸君!今の内に言っておくが、ちゃんと勉強しろよ!俺みたいになるなよ!(←ホントは成績いい)

 

在校生は明日が始業式だけど、俺は学校へ行く!!!

 

理由はただ1つ!部活勧誘だ!!やっぱり、青春といえば、部活だよな!!!新入部員期待してるからな!!!!一緒に軽音部を盛り上げていこーぜ!!!!!

 

ハイ、無駄に!マーク使ってゴメンナサイ。何となく勢い出したかっただけです。

 

俺は誰に説明していたのだろうか。アホらし。てゆーかバイト!遅刻するぅー。

 

 

「急がねーと、遅刻する!」

 

 

俺は制服姿でバイト先に行き、そのまま登校する。

玄関で靴を履いてドアを開ける。

 

 

「寒いな……」

 

 

ドアを閉める前に小声で「行ってきます」と言った。返す声はない。だって、誰もいないから……。

 

朝日がようやく見え始めた。それによって生まれたグラデーションは優美以外の何物でもなかった。ほぼ毎日見ても飽きない。

 

 

 

 

 

バイト先はそんなに遠くない。《やまぶきベーカリー》というパン屋だ。一言で言うならば、ここのパンはうまい。朝飯食って来たのに、焼きたてのパンの誘惑に負けそうだ。

 

俺は扉を開け、

「おはようございま〜〜す」

と、なんともダルそうな声で挨拶した。これが日常。もう、この挨拶しか俺はできないと思うぐらいに乱用している。

 

 

「あ、おはようございます!優人先輩」

 

「おう。おはよう沙綾」

 

 

名前で呼んでることに大した意味はない。何故なら同じ学校だからな。まあ、俺からしたら妹みたいなもんだな。こんなしっかりした妹が欲しいッ!!!というのは冗談で、単なる先輩後輩ってだけだ。

 

 

「お前も今日から、高校生か〜。俺がバイトを始めた時はまだ中2だったのにな。あの頃の沙綾は可愛かったな〜」

 

「先輩もその頃は中3だったじゃないですか!」

 

「ハハハ。冗談だって。今でも可愛いよ」

 

 

そんな会話をしながら、商品のパンを並べる。ええ匂いやわ〜。並べたら、あとはレジ打ちあるのみ。正直言って、レジの計算システムより、俺の暗算の方が速い!…………ということはなかった。普通に考えてレジに勝負を仕掛けるキチガイなんていないからな。

 

 

「それにしても先輩、別に朝は来なくてもいいんですよ?朝のパン屋は忙しいですし」

 

 

確かに。でもな沙綾、あんまり客いないから大して忙しくないよ。という冗談は言わない。実質売れ行きいいし、客も多いからこんな事言ったら四肢を裂かれたのちにクビになるだけだ。

自分で考えたくせにあれだな、四肢をさくってのは流石にグロいな。

 

 

「んー。でもさ、やっぱり朝のパン屋の感じ好きだし。早起きは健康にいいしさ」

 

 

まあ、これは本当だ。正確に言えば、このパン屋が好きなのだ。家族の仲が良く、非常に心が温まる。あったかいんだからぁ。

 

 

「そ、そんな理由で……」

 

「ちっちゃいことはきにするなー」

 

「バカにしてるんですか?それと、棒読みは元ネタにしつれいですよ」

 

 

 

時間は過ぎて7時半。すっかり、日が昇った。その頃、ようやく、俺の目も冴え始めていた。スロースターターすぎるよね。

 

「じゃ、俺は上がらせてもらいますわ。じゃーな沙綾。また学校でな」

俺は彩綾の父親の亘史さんと沙綾にそう言い、店を出た。外は多少、暖かくなってるかな?と思ったが、全然寒い。お日さまはあんなに暖かそうなのにぃぃぃぃぃぃ!

 

 

 

 

花咲川学園。

それが俺の通っている高校だ。男女比率がおかしい。それしか、特徴がないな。仮にあったとしても、この印象が強すぎて、他が浮かんでこないほどだ。

 

俺は学校に着くと、当たり前だが暇なので、部室にこもって作曲を始めた。

 

すると、

 

 

「おっはよーう!」

でたよ。紹介しておこう、バンドメンバーでベースの櫻井 春だ。

黒髪(若干紫)のポニーテールで、明るい性格だ。美人だとも言われている。

俺も否定はしないが、こいつとは恋愛という関係には絶対にならないと確信を持っている。

なぜならこいつと俺は似ていて、感覚的には双子みたいなもんだからだ。

名前はザ・春って名前だよな。

 

 

「おはよう。朝から元気だな」

 

 

ちなみに、

部室とは言ったが、ここではほとんど活動していない。何故なら、他校にバンドメンバーがもう1人いるからだ。そいつが俺にバンドをやらないかと誘ってくれた。今では感謝している。あいつに出会っていなかったら………。

こういう話は1話目ではなく、もっとシリアス回でやろう。

だから、期待しててくれよ!

 

それはそうと、作曲の続きをする。

 

 

「なあ春、今作曲してるからさ、ちょっと弾いてくんね?ほら、ここ」

 

「ん?あー、そこは昨日も悩んでたよね。オッケー、わかった」

 

 

俺が弾くように頼んだのはベースではなく、俺の担当しているギターだった。

俺達のバンドはメンバー全員がいちようどれでも弾けるようにしている。こうしておくと、燃費がいい。ちゃうちゃう、燃費じゃなくて効率な。

 

 

 

 

時間は過ぎて、いよいよ部活勧誘。といっても中高一貫なのでほとんど意味がない。そう何が言いたいかって?

 

結果、不発!!!

 

悔しいです!!!!!

 

そして、再び部室にて、

 

 

「やっぱり意味なかったねー」

春が話しかけてくる。その声から、だいぶ疲れていると俺は悟った。

 

「まあ、だいたい予想してたけどな」

 

 

そう予想してたさ。でも、1人ぐらい入ってくれてもよくね!?

 

 

「ただただ優人がカッコイイって言われてただけだよね」

 

 

そうだったのか?記憶に残ってないな。

軽く春を小バカにしたら、後頭部にチョップ食らわせられた後の記憶が曖昧だからかな。まあ、、それ以外には理由が見当たらないけどな。

 

 

「いや、お前の方がよっぽど視線集めてただろ」

 

 

そう。俺なんかが視線を集めるはずがない。あったとしても、「あの人キモーい」という意味のこもった視線だけだろう。……自分で言ってて悲しいなあ。

 

 

「そうだった?」

 

 

これだから、無自覚美少女は!!!春、お前はもっと自分のビジュアルを把握しなさい!(←ブーメラン)

もし、軽音部に他の男子がいたら、お前絶対襲われてるぞ!……いや、待てよ。こいつはなんか近づきにくいオーラがあるからな。ハッ!もしやこいつのせいで部員が入らないのでは。

俺は最早、誰かのせいにまでしてしまいたい気分だった。

 

 

「ま、今の3Pでも十分クオリティ高いからいいけどな」

 

「そーだねー」

 

 

つまらなさそうに返事するのやめてもらえます。傷つくから。

まあ確かに、新メンバーが来たら面白くなりそうだけど。

 

 

 

数日後。

特に用も無いが俺達は部室を訪れた。

まあ、2週間ぐらいは部室にいよう、ということになった。

誰か来るかもしれないし。そう、俺達は希望を捨ててはいなかった。いつか必ず、その時がくると信じている!

もう1人のメンバーも学校に残った。向こうも一貫校のため、ほぼ0%だけどな。

暇なので自主練を始める俺と春。合わせはしない。全員でやらないとあまりポテンシャルとかが上がらないからな。

まあ、どうせ後で3人でみっちり練習するんだけどな。

 

すると、不意にドアが開けられる。

これは、これはまさかの……

 

 

「すみませーん。軽音楽部の部室ってここですよね?」

 

 

ドアの方を見ると茶髪で猫耳の女の子と、金髪ツインテールの女の子がいた。猫耳の方はギター持ってんな。これはきたパターンじゃないか?

 

 

「ど、どうした?入部希望か?」

 

「いえ!そうじゃないです!」

 

「…………あ、そう」

 

 

なんでやねーーん!そういう流れだったでしょうが!空気読んで!それとも、あれか!俺のセリフがフラグだったのか?なら、入るとこからやり直そう。

 

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

 

春が後輩2人に尋ねる。

 

 

「いや、その……」

 

 

ツインテールの方がモゴモゴ言っている。

冷やかしか、こいつら?

ヒドイ!私の事遊びだったのね!!

 

 

「あーー!!!」

 

「香澄うるさい!」

 

 

おいおい、さっきとキャラ変わりすぎだろ金髪ツインテール!

なるほど、猫耳っ子は香澄というのか。どうでもいーけど。

 

 

「どうしたの?」

 

 

春がきく。えー。この話は発展させなくていーよ。俺、どうせわかんないだろうし。

 

 

「こないだSPACEでソロで出てた人だ!」

 

 

春を指差してそう言った。

SPACEって確か、ガールズバンドのやつだよな。ちょくちょく春の奴出てるから知ってる。でも、会話に入りたくないなー。香澄って奴、絶対人の話聞かないタイプだと思うからな。

 

 

「見に来てくれたんだ!ありがとう!私は2年の櫻井 春(さくらい はる)!気軽に春先輩って呼んでね!」

 

 

「俺も2年の咲野 優人(さきや ゆうと)だ。優人先輩でいい」

空気になっていた俺もようやく参加できた。まあ、こいつ面倒臭さうだから、空気でもよかったんだけどねっ!

 

 

「1年の戸山 香澄です!香澄って呼んでください!ほら、有咲も!」

 

「えっ!いいよ」

 

「いいから!いいから!」

 

 

なるほど、面倒臭いが面白そうだな。それに悪いやつではなさそうだ。

 

 

「えっと……1年の市ヶ谷 有咲です」

 

 

香澄のゴリ押しにやられた市ヶ谷は自己紹介をした。なるほど、多分覚えた。

 

 

「で、何の用?」

 

 

春が言った。そーいや、忘れてたわ。

 

 

「演奏してもらえますか!」

 

「「…………え!?」」

 

 

無理な願いだ。何の準備もしてないし。それになぁ。ここであんまりガチの演奏はちょっとね……。

 

 

「俺らのバンドは3人なんだ」

 

「もう1人のメンバーは他校の生徒なんだよ」

 

 

春も俺に続けて言った。ナイスコンビネーション!

 

 

「やっぱり無理だって。帰るぞ香澄」

 

 

市ヶ谷が香澄の制服の襟を掴む。

 

 

「ただし!!」

 

 

おお、!マークってこういうところで使うのか。

部室から出ようとした香澄と市ヶ谷は足を止めた。

 

 

「俺ら2人の演奏なら、今すぐ出来るぜ?どうすーー」

 

「聴きます!!」

 

 

お、おう。即答ダネ。

いいね、結構ノリいいな!こういう観客いる方がやる気でるな!

 

 

「じゃあ、何かリクエストでもある?」

 

「キラキラドキドキするもの!!」

 

 

うん、具体性がないね。

と、心の中でツッコミを入れる。俺、あんまりツッコミ型じゃないんだよなぁ。

 

しかし、俺は香澄のバッグに付いてたキーホルダーを見て、質問する。

 

 

「星、好きなのか?」

 

「はい!大好きです!」

 

「なら、あれだね」

 

 

春が俺に言ってきた。

あれかぁ。ただただ春の好みの曲なだげだろ。まあ、いい曲だけどさ。

 

 

「カバー曲でもいいか?」

 

「ハイ!」

 

 

じゃあ、ちゃちゃっとやりますか。

俺はさっき下ろしたばかりのギターを再び首にかける。

ベースを持った春の方を見ると、無言で頷いた。

 

ドラマーがいないので俺が1、2、3、4と言う。

そして俺達は弾き始める。

 

選んだ曲は『前前前世』。春は「君の名は」を見に行った日以来、RADWIMPSの曲をアレンジしていた。まあ、アレンジすんのは俺も手伝ったけどね。仕事だけどね。

もう、半年経つから、そろそろ飽きるだろう。

 

イントロが終わり、Aメロ。

マイクがないから、俺達は地声で頑張る。ここでは前走の疾走感からさらに速くしようと原曲と歌は同じペースだが、演奏の方を結構変えた。

Bメロに入り、少し、声を弱くする。こうすることでサビの印象を強くすり。だからといって、ここの部分の印象が薄くなっていいわけでもないので、そこもアレンジで対応済みだ。

 

そしてサビ。一気に声のボリュームを上げる。ここではほとんど無我夢中って感じだな。結局音楽は楽しんだ者勝ちだ。だから、やりたいようにやり、歌いたいように歌う。そんな自由性(オリジナリティ)溢れるアレンジにしている。

 

1番を歌い終える。今日はここまでにしとこうと、春にアイコンタクトをとる。

 

終わったーー。2人でできたよ。大変だったよ。でも、練習の甲斐があったな。こんな思わぬ機会でライブするとはな。

 

 

「す……」

 

「「す?」」

 

「凄かったです!!」

 

「うおっ!びっくりしたぁ」

 

 

声、大きすぎたよぉ〜。頭に響くなぁ。

 

「急に大きい声出さないでくれるとありがたいな、香澄」

俺と春は続けて言う。俺と同じく、やめてほしいようだ。

 

 

「ホントにカッコよくて!キラキラしてて!ドキドキさせられました!」

 

 

だからデカイ声やめろって。

でも、

 

 

「そうか、喜んでもらえたなら嬉しいよ」

 

「私達もバンド組んで、絶対に追いつきます!」

 

「「「へ?」」」

 

 

俺と春だけでなく、市ヶ谷まで素っ頓狂な声を出した。

 

 

「それじゃあ!失礼しました!また来ます!」

 

 

と言って出て行った。

 

 

「おいコラ!待て香澄!!失礼しました!」

 

 

そう言って市ヶ谷も出て行った。

 

なんだったんだ?

 

嵐が通り去った後の静けさに、部室はつつまれた




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2話 にじいろ

side優斗

 

今日も朝からバイトだ。いつもいつも、寝みぃと言うわりに俺はバイトに来る。だって時給いいんだもん……。

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

「先輩シャキッとしてください……」

 

 

沙綾、呆れ口調はやめてくれ。傷つくよ。死んじゃうよ。先輩をもっと労っておくれよ沙綾君。

まあ、でもここで逆らったら、先輩としての威厳が無くなるかもな。よし、シャキッとしよう!…………とは、これっぽっちも思わない。

なので、、

 

 

「は〜〜〜い」

 

 

思わず間延びした返事を返す。

 

 

「お願いします」

 

 

おっとお会計のようだ。まともにせねば。お客様には流石に真面目にしなきゃ、解雇されるからな。

と思ったら、顔見知りだった。学校の後輩で、沙綾と同じ学年のーー

 

 

「おー、牛込じゃん!久しぶり」

 

「お久ぶりです、先輩」

 

 

ご丁寧にどうも〜。と言いかけた。これじゃ、ババァだな。俺は永遠の16歳だぞ!!

 

 

「今日もチョココロネか。よく飽きないな」

 

 

まあ、俺も好きなんだけど。毎日食うのはなんだかなぁだよ。

 

 

「はい、チョココロネ大好きですから」

 

「ハハッ、相変わらずだな。けど、俺はメロンパンがすきだなぁ」

 

 

この話何回目だ。会う度に話してる気がする。

まさか俺は同じ日をループしていたのか!?

そう思いながら俺はチョココロネを袋に入れる。

 

 

「先輩、箱に入れてあげてください」

 

「うおっ!沙綾いつからそこに?」

 

「最初からいましたよ」

 

 

ちょっと握り拳作らないで。怖いです。先輩殴るの?冗談だから、冗談だから!お願い殴らないデェ。とふざけた言い方をすれば殴られるのは間違いないので、

 

 

「す、すまん。で、なんで箱に?」

 

「外を見てくださいよ」

 

 

そう言われたので見ると、

 

 

「あ〜〜。牛込、ファイト」

 

 

察した。何が起きるか予想ついたわー。

 

 

「気をつけてね」

 

 

そう言って、チョココロネ2つを箱に入れた。これでもし落としても大丈夫だねー。

 

 

「???」

 

 

牛込は俺達の会話の意味がわからないまま、店の外へ出た。そりゃそうだわ。

 

『確保ーー!』

『バッチ来ーーーーい!』

市ヶ谷と香澄のそんな声が聞こえてきた。朝からそんなデカイ声よくでるな。あんまり使い道はなさげだけどな。

 

 

「香澄って朝から元気なんだな」

 

 

その元気を分けてほしい。いや、元気はあるのだが、朝は辛い…。

 

 

「ハハハ……」

 

 

沙綾は苦笑いをした。

大分お疲れのようで。散々振り回されてるんだろうな。オツカ〜〜レ。

そして再び外を見るとーー。

 

 

牛込が泣いていた。

 

 

ヤバいな。ここは誰かが行かないとまずい気がする。

 

 

「沙綾、俺ちょっと止めてくる!」

 

「あっ、はい!」

 

 

俺は店のドアを開ける。

 

 

「おいお前ら、朝から喧嘩はやめとけよ」

 

 

昼と夜もダメだけどさ。

すると牛込は走って行ってしまった。いや、話を聞こうとしただけなのに。

気を取り直し、何が起きたのか香澄に尋ねる。

 

 

「香澄、何があったんだ?」

 

「りみりんをバンドに誘ったんですけど、断られて。理由を聴いてたら、あんな事に……」

 

「あー、なるほど」

 

「先輩は何故だかわかりますか?」

 

 

まあ、わかってるな。

よく考えればわかる事だ。あいつの性格からして表に立つのは嫌い……というか、苦手なんだろう。

 

うん。謎は全て解けた!(←某有名高校生探偵のセリフ)

 

そして、その考えを香澄に言う。

 

 

「んー、あくまで推測だけど、あいつは多分、あがり症みたいなもんだと思う。バンドはやりたいけど、人前に立つのは無理みたいな。ま、あいつにも事情があるんだ。あんまり追求すんなよ?」

 

「…………そうですね」

 

 

香澄は俺の話を聞き終わると暗そうに学校へ向かった。

まあ、それでもあいつは諦めないんだろうけどさ。

 

 

 

雲行きが怪しいな。

今の空色は何か意味を含んでいるようにも思えてしまう。

 

 

考えすぎなのはわかっている。俺が首を突っ込むとこではないとわかっている。こういうのは柄じゃないのもわかってる。

でも……俺は香澄と牛込のためにお節介を焼くだろう。

 

たとえ……必要でなくても。

 

 

 

 

 

3日後。

いやー、降ってるなー。こんなに降ってると読書したくなるんだよなぁ。なのでベッドに座って本を読んでいた。

なのに……

 

 

「はあ!?なんで俺がSPACEに行かなきゃいけないんだ!」

 

 

只今、春と電話中だ。会話の内容はザックリ言うと、雨の中出てこい、という要件だった。

 

 

『まあまあ、いーじゃんか。今日はゆり先輩も出るんだよ』

 

 

それを言ったらダメでしょ。先輩のライブを見たくないみたいに解釈されたら、俺、先輩達に殺されるよ。

 

 

「わーったよ」

 

『ありがとー。陸君も誘っといたからー』

 

「りょーかーい」

 

 

そう言って電話を切り、支度を始める。

準備を終え、ギターケースを背負い、ドアを開ける。エレベーターで降りる。俺は一人暮らしのくせにかなりいいマンションに住んでいる。親は俺の顔を二度と見たくないのかな?

エントランスをでて、傘を差して、駅のホームを目指す。駅に着くとちょうど電車が到着した。

電車に揺られること5分。

電車を降りて俺はSPACEに向かい、店内に2人の姿を見つけた。

 

 

「おーい、きたぞー」

 

「遅ーい」

 

「まあまあ春。きたんだから許してあげたら?」

 

 

最後に声を出したのが俺達のバンドのドラマーの桃月 陸(とうげつ りく)。羽丘学園の2年生だ。大人しい感じで見た目も優しい感じだ。一人称も「僕」だし。それでいて、イケメン。実質、校内で1番モテているそうだ。それで、勉強できて、運動できるんだろ?羨ましいよ。まあ、運動は俺の方が得意だけどな。

それでも嫉妬というものは一度もしたことがなかった。

なぜならそこらの女子よりも遥かに陸の事を愛しているのは俺だからだ!

 

 

「よお、陸。今日は練習ないのに、呼び出しご苦労さん」

 

「そういう優人もね」

 

「ちょっと2人共、嫌だったの?」

 

「「だって雨降ってたから」」

 

 

俺と陸は息を揃える。

 

 

「いーじゃんか、別に。グリグリのライブ聴きたくないの?」

 

 

グリグリとはGlitter*Greenの略だ。『Glitter』の意味は確か……『輝く』とか『きらめく』だったかな。まあ、知ってたところで、大した使い道ないけどな。だって『shine』でいいんだもん。

 

 

「そろそろ始まるよ」

 

 

陸の発言により、俺達の会話は中断され俺も、もう考えるのはやめた。

ライブが始まる。

スッゲー盛り上がりと熱気だな。しかもどのバンドもクオリティ高いな。この中に次代のロックスターがいるかもな。

そしてあと1つのバンドが演奏したらグリグリだな。てことは、そろそろ帰れる!

しかし、グリグリの番になっても出てこない。

 

 

「どうしたのかな?」

 

 

陸が言った。春も気になっていたようなので、俺達はだんだんと心配になる。

 

 

「楽屋の方に言ってみる?」

 

「そうするか」

 

 

俺達は楽屋に向かう。

着くと、なんとも慌ただしい光景が目の前に広がった。これが新世界か。て、ちがーう!今、ボケてる場合じゃないよ。

 

そこには香澄達も何故かいた。こいつら暇人か?それとも追っかけか?

 

 

「おい、香澄。何があったんだ?」

 

「あ!先輩」

 

「実はお姉ちゃん達がまだ来てなくて」

 

 

俺の質問に牛込が答えた。そういや、修学旅行に帰って来るのが今日だったか?

 

 

「で、こういう状況か……」

 

「おい、あんた達」

 

 

俺達3人は不意に後ろから声をかけられた。

そこにいたのはオーナーだった。

 

 

「なんですか?」

 

 

陸が聞く。こういう時に大体率先して聞くのが陸だ。ならお前がリーダーになれよな。。

 

 

「ライブしてくれないか」

 

「「「はあ!?」」」

 

 

いやいやいや、ここ、ガールズバンドの聖地だよね。俺らは男子が2人もいるよ?無理だろばあちゃん。

 

 

「頼む」

 

 

オーナーが頭を下げてきた。

その場にいた全員がこちらを見ていた。

そんなに珍しいのか?

 

 

「やる?」

陸が聞く。

 

 

「やるか」

俺。

 

 

「そうだね」

春。

 

 

「そういうと思ったよ。やらせていただきます、オーナー」

陸、の順。

 

するとステージから、『今日はスペシャルゲストが来ています!』という声がした。準備はえーな。

 

 

「じゃあいくか!!」

 

 

そう俺が言い、ステージに出ていく。

 

こんなカタチでライブする羽目になったが、ここで成功させて、もっと盛り上がる!先輩達が来た時には客が疲れてるぐらいにまでしてみせる!

 

 

 

side香澄

先輩達がステージに出た途端、お客さんがザワザワし始めた。

それは、男性がいるからではなかった。

「え、あれって……」、「マジで!?」、「本物!?」、「曲、生できけんの!?」、「めっちゃうれしー!」等々のものだった。

 

 

「スッゲー人気。あの人達何者なんだ?」

 

 

有紗が言う。私にとっても疑問だった。初めて聴いたとき、確かに演奏はプロの中でもかなり上のレベルだと思った。それでも、デビューはしてないので、こんなに知名度が高いはずがない。

 

 

「2人共知らないの?」

 

 

りみりんが言ってきた。何の事なのかな?私は理解できなくて、質問仕返した。

 

 

「どういうこと?」

 

「これ見て」

 

 

りみりんがスマホで動画を見せてきた。

それは先輩達のバンドの動画だった。オリジナルの曲だけど、こんなにもクオリティの高い曲を作れるのがすごい。

 

 

「スッゲー……。てか、再生回数5000万回!?」

 

「えっ!?」

 

「うん。今、中・高生の間で1番人気のあるバンドが先輩達、《Full Bloom》なんだよ」

 

「知らなかった」

 

「かっこいい……」

 

 

私はもう2人の会話を聞いておらず、演奏を聞くのに夢中だった。

 

先輩達が演奏を終える。

歓声とともに戻ってきた。私も思わず拍手していた。

 

 

「先輩、かっこよかったです!!」

 

「おお、ありがとな。あっ!そうだ!紹介忘れてたけど、こいつ、ウチのドラマーの桃月 陸だ」

 

「よろしく……えっと……」

 

「戸山 香澄です!香澄って呼んでください!」

 

 

私は大きな声で自己紹介をする。

 

 

「う、牛込 りみです!」

 

「市ヶ谷 有紗……です」

 

 

一通り自己紹介を終える。

 

 

 

先輩達の演奏の後もいくつかバンドが出たが、グリグリは来なかった。

このままでは皆が帰ってしまう。なんとしてでも待ってもらいたい。

そのためには……

私は心を決め、ステージに出ていく。

 

 

 

side優人

はあ!?!?

香澄の奴何やってんだ!?

なんか歌い始めたぞ?まさかの『キラキラ星』とはな、、

あ、市ヶ谷呼ばれた。ドンマイ、死亡フラグたったぞ。てゆーか顔真っ赤にしすぎだろww!

あ、でもなんか、一緒に歌い始めた。客からのウケもいい。

俺も悪ノリで行こうかな?いや、そんな事しないけどな。

 

 

俺が出る番じゃない。

 

今、ステージに出るべき人物は隣にいる牛込だろう。

しかし、牛込は迷っていた。それもそうだ。今までできなかった事を急にやれと言われて即決できる人間などいない。つまり、ステージに出るか出ないか、当然迷う。折角香澄達が盛り上げたのに自分が出て行ったら、悪影響かもしれない。とか、考えてそうだな。

 

 

「牛込、周りの目なんか気にするなよ。自分のやりたいようにやれよ。じゃないと、いつか必ずお前は後悔する」

 

 

すると牛込は決心する。

歩き始める。

香澄達の所まで行き、ベースを弾き始める。それなりに上手く、今からバンドに入っても充分なレベルだ。

 

 

「珍しくいい事言ったね」

 

 

春は微笑を浮かべながら、しかしステージの方を向いたまま、言う。

 

 

「珍しくってなんだよ」

 

 

そこだ。まさにその部分だ。ヒドイよ春さん。

 

 

「いや、優人ってそういうの柄じゃないから」

 

 

わかってた。柄じゃないのは自分でもわかってた。でも、自分以外の人から言われるとなんか傷つくよね。

それだけ、こいつらが俺の事を理解してるってことか。

でも、捨てきれぬこだわりは俺にもある。

なので……

 

 

「おい、陸まで……。俺、結構空気読むよ」

 

「「うん、だって空気になってる事が多いもんね」」

 

「ヒデェ。あんまりだ……」

 

 

揃えて言われるのはあれだわ。最早感動だわ。

 

 

「冗談だよ。優人がいい事言うのは私達がよくしってるから」

 

 

な、なんだよ!それを言えよな!本気で空気になるとこだったぞ!

 

 

「まあ、これで牛込さんが何か変わったなら、良かっんだと思うよ」

 

 

陸が話題を上手く変えてくれた。

いや、そういうことではないな。

単に、思った事を述べただけだな。なら、俺も便乗しておこうかな。

 

 

「……そうだな」

 

 

俺達は観客側に戻る。3人は良く見えた。いい顔をしている。

 

もう、グリグリが到着したから、大丈夫だろう。

 

 

これで、前進してくれたなら、それは嬉しい事だ。



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3話 雨唄

side優人

 

今日は俺の日常を紹介していこう。

俺の朝は太陽より早い。朝目覚めると、俺は自分の弁当をまず作る。まあ、ダルくて作らない日もけっこーあるけどな。

その後、朝メシを食べ、身支度を済ませ、学校ではなくバイト先のパン屋に向かう。

俺はエプロンを着て、いつも通りのクソみたいに仕事をこなしていた。

そして、沙綾が家の方から店に来た。手伝うのだろう。

 

 

「沙綾、おは」

 

「おはようございます、先輩。昨日も練習でしたか?」

 

「まあな」

 

 

素っ気なく返す。こいつにはあまりバンドのことを話さないようにしている。

 

バイトは殆どレジ打ちだけだ。お客がくるまでは俺もパンをつくるが。

 

 

と、思っていたら客がきた。

 

 

「いらっしゃいませー。て、お前らか、蘭、モカ。おはよう」

 

 

この2人は美竹 蘭と青葉 モカ。《Aftergrow》というバンドをやっている。2人にはたまにギターの練習に付き合ってあげている。もう、俺なんか必要ないと思うんだけどな。詳しい紹介はメンバー全員が揃った時にするよ。

 

 

「おはよう……優人先輩」

 

「おはよ〜〜ゆーと先輩」

 

「モカは今日もパンか。いつもご贔屓してくれてありがとな」

 

「感謝してるなら、奢って欲しいな〜〜」

 

 

ごめん、撤回。結局俺がこいつに奢るとバイト代がこの店に戻るだけ。

つまり、この店を贔屓にしてんのは結果俺だわ。

 

 

「こないだ奢ったばっかだろ。まぁいいや、奢ってやるよ」

 

 

俺の懐はeverydayであったかいんだからぁ。

 

 

「やった〜〜!」

 

「蘭もいいんだぜ」

 

「…………私はお弁当があるから」

 

「え〜、でも、蘭さっき今日は学食って言ってたじゃん」

 

「ちょっとモカ!」

 

 

何で嘘ついたんだ?俺の金なんかで飯を食うのは屈辱ってことか。自分で言ったくせに自分で傷ついてしまった。まあ、そんなことないやろー。フラグ。

 

 

「別に遠慮すんなよ、蘭」

 

「じ、じゃあ、お言葉にあまえて」

 

 

良かったーー!フラグじゃなくてホンッッッット、良かったーー。

そうして会計をする。

 

 

「バンドどうだ?」

 

「調子いいですよ〜〜。蘭の作った歌詞聴きます〜?」

 

「お!いいねいいね」

 

 

やっぱモカとはイタズラの波長があうなー。思考回路が全く同じなのか?

 

 

「ちょ!モカやめて!先輩もふざけないでください!」

 

「ハハ、冗談だって」

 

「全く……」

 

「まあ、あれだ。バンド、頑張れよ。これからも応援してるよ」

 

 

俺はパンの入った袋を渡し、蘭の頭を撫でた。

 

 

「ん?どうした?顔赤いぞ」

 

「なんでもない!」

 

 

蘭は逃げるように出て行った。モカはありがとうございました〜、だけ言って店を出て行く。

 

 

「沙綾、俺そろそろ上がるわ」

 

「あ、はい。わかりました。お疲れ様でした」

 

 

俺はエプロンを脱ぎ、扉を開き、学校に向かう。

その途中で俺はあまり何もしたくない。

もちろん、話すこともだ。眠いから仕方ないんだなーこれが。

 

 

「ふあ〜〜」

 

「朝から眠そうだな」

 

「おお、冬夜。おはよー」

 

 

と言いつつも俺は心の中で呟く。

空気読めよ!!

 

こいつは漣 冬夜(さざなみ とうや)

俺の3番目の親友。

1番と2番はもちろん、陸と春だがな!こんなにも言い切ったら、恥ずかしさなんてもんは吹き飛ぶな。

 

 

「おはよ、今日もバイトか?」

 

「まーな、放課後は練習あるから朝出ないとな」

 

 

昨日の練習はあれだなー。…………特に大した出来事なかったわ。いつも通りだったわ。

 

 

「ふーん、大変だな」

 

「そう思うならもっと尊敬したまえ」

 

 

そうだぞ冬夜君、君は俺より下等民族なんだ。下っ端は下っ端らしくしてろよな。冬夜の扱いがあれだ。雑だな。

 

 

「ハーイ、スゴイスゴーイ」

 

「お前、張り倒すぞ」

 

 

あ、こいつも雑だった。ならば然るべき行動を取るのみ。それは取り敢えず締めるということだ。

 

 

「そんなことより、優人。お前、昨日も告白されてたよな?」

 

 

いや、話題の切り替えの早さな。締めるタイミング見失っただろ。

 

 

「うぐっ!痛いとこつくな。見てたのかよ。ストーカーか?お前、そんな趣味が……。しかも男の俺を……」

 

 

まさか、友人がゲイだったとはな。これから距離を置こうかな。

 

 

「バカか!?ちげーし!なんで男子のストーキングしなきゃなんだよ!」

 

 

あ、違うんだ。安心安心。でも、ホントにゲイって可能性も0じゃないから、やっぱり少し距離を置こう。

 

 

「それで見てたのか?それとも噂か?」

 

「ああ、バッチリ見てた。結構可愛い子だったじゃん。なんで付き合わないんだよ」

 

「別に恋愛とかキョーミないからな。そういうお前はどうなんだよ?」

 

 

これは事実だ。俺は女性にドキッとしたことがない。もちろん、男性にもないからな。

 

 

「俺か?俺も誰とも付き合ってねーよ。告白、昨日はされてない」

 

「『昨日は』ってことはつい最近告白されたんだな?」

 

どんだけ告られてんだよ。そんなんだから、チャラ男の称号がついたんだぞ!まあ、誰とも付き合った事は無いらしいけど。

 

 

「まーな。断ったけど」

 

「ハァ、これだからイケメンはムカつくんだよ」

 

「いや、お前も十分イケメンって持て囃されてんじゃん。事実、俺よりモテてるくせによ」

 

「大して変わらねーだろ」

 

 

こんな内容がものすごく薄い会話をしていると、学校に到着していた。

 

 

「俺、職員室に用あるから」

 

 

冬夜が言ってきた。

 

 

「わかった。先、教室行っとく」

 

 

階段を登っていると、春に遭遇した。

 

 

「春、おはよう」

 

「おはよう優人。今日は冬夜君と一緒じゃないんだ」

 

「まあな。それより、今日は練習だからな。遅刻するなよ」

 

「こないだ遅刻した優人に言われるのはなんだかなぁ」

 

 

そんな会話をしながら、教室に入る。因みに、春も冬夜も同じクラスだ。

とりあえず、席につき、鞄を横にかける。

 

 

「おはよう、優人君。眠そうだね」

隣から、声をかけられる。

 

 

「おはよう丸山。今日も朝からバイトだったからな」

 

 

俺の隣の席の丸山 彩。アイドル志望だそうだ。どうでもいいが、俺の感想を言わせてもらう。ピンクの髪って珍しいよな。

 

 

「昨日も練習あったの?」

 

「ああ、新曲を合わせたよ。近々、ネットにアップするよ」

 

「いいなー、優人君のバンドは人気があって。私もそれぐらい人気になりたいよ」

 

「あのなぁ、俺達はまだプロにすらなってないんだぜ」

 

「でも、いろんな事務所からデビューしないかって言われてるんでしょ」

 

 

な、なぜそれを!貴様、ニュータイプか?

 

 

「ど、どこで知った?」

 

「事務所の人が話してるのが聞こえちゃった」

 

「そ、そーか」

 

 

何とか頑張って気にしてない雰囲気を出すが、全然意味ないね。

 

 

「なんか断る時に『確かにプロにはなりたいですけど、まだ自分達が納得いく成果を出されてないので、プロでもやっていける自信はありません』って言ってたって聞いたよ」

 

 

丸山は悪戯な笑みを浮かべていた。

 

 

「…………まぁ、この話は置いとくとして、お前もなんかバンド始めたんだろ。アイドルバンド?だったか?」

 

 

すると丸山の顔が曇る。いつも明るいのに。絶対何かあったな。

俺は真面目に話を聞く事にする。

 

 

「う、うん。そうなんだけどさ。その事で相談したいことがあるんだ。場所を変えよ」

 

 

俺達は屋上に行く。

 

 

 

「はあ!?口パク!?弾いてるフリ!?何だよそいつら!バンド舐めてんのか!!今すぐ締めてくる!!!骨も残らないと思え!!!!」

 

「骨もですか!?じゃなくて!」

 

 

こんな状況でもノリいーじゃねーか。てゆーか真面目に聞くんだったわ。

でも、イライラしたのは本当だ。

だから無意識に指の骨を鳴らす。

 

 

「わー!ちょっと待って!行っても何の解決にもならないよ」

 

 

………確かにそうだ。

一度冷静になろう。

 

 

「けどよ、丸山、お前はそれでいいのか?お前の憧れてたアイドルってのはそんな歪んだものなのか?」

 

「確かに最初はだめだと思ったけど勝手に話が進んで。私なんかが口出しするのも……」

 

「は?なんだよ、お前?まだ研究生気分なのか?言っとくけどな、ステージに立つのはお偉いさんじゃないんだ。お前らなんだ。だから、お前が意見を言わなくてどうする」

 

「うん。でも、メンバーの中にも賛成している子もいたし」

 

「だから、意見を言わないのか?たかが1人の人間の意見を聞いただけで諦めるのか?」

 

「…………」

 

 

言い過ぎたかな。

 

 

「まあ、でも、俺がしてあげれる事はないからなぁ。そうやって相談したかったり、愚痴をこぼしたかったらいつでも言ってくれよ」

 

 

俺のこの言葉を聞くと、丸山の顔は晴れ、笑顔になった。

 

 

「うん!ありがと!なんだかやる気になってきたよ」

 

 

そう言ってあいつは去って行った。

俺は1人屋上に残される。

 

 

 

 

 

雨が降り始めた。

梅雨も近いかな。




最後が書きたかっただけです。結構重要なことを書いたつもりです。


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4話 Happiness

side優人

 

明日は練習がない日だった。そしてバイトもない。なので、引きこもりの予定だ。なのに、なのにぃ!

 

『先輩!私達のライブ来てください!』

 

「…………………………はぁ?」

電話の相手は後輩の香澄だ。

というか、「ふざけるな!なんで休日なのに外にでなきゃいけないんだよ!」と言いたかったけど、それよりも一つ、気になる事があった。

 

「てゆーかお前、俺の番号どこで知った?」

 

『沙綾に教えてもらいました!』

さーやさん……。何で教えたの?まあ、構わないけど。。

 

『ライブ、来てくださいね!』

でも、香澄と連絡取り合っても一方的に話すだけだろ、向こうが。

 

「いや、おまーー」

 

『明日、有紗の家でやります!それじゃ!!』

ほらな、言ったろ?

自己中すぎるな、こいつ。呆れを通り越して感心するよ。まあ、それを全部ひっくるめて明るいってことなのかも、、

つーかその前に、明日の予定勝手に決められた上に市ヶ谷の家知らねーし。

どうする……。

行かなくていっか!

すると、再び電話がかかってくる。相手は……香澄。嫌な予感しかしない〜。

「もしもーー」

 

『春先輩と陸先輩も誘っておきましたから!春先輩に有紗の家は教えてあります!それでは!』

プツッ。

いや、「もしもし」くらい聞けよ!

なんなんだよ!俺先輩だぞ!

 

一方的すぎないか……?

まあ、元気あるはいいことだけど、元気すぎるのはちょっとね……。

まあ、いいや。行ってやろう。この短期間でどれだけ上手くなったか、見てやるか。

 

 

翌日。

「ふぁぁ。……寝みぃ」

俺はとても起きる時間とは思えないほど、遅くに目覚めた。でも、時間は今から行けば、クライブには間に合うだろう。

今日はバイトはないが、沙綾の家に行って、あいつらにパンでも買ってってやるか。

家を出て、やまぶきベーカリーへと向かう。バイト無くてもあの店には行きたくなるなぁ。まあ、あれだいい匂いにつられてフラッと寄ってしまうんだ。

「いらっしゃいませー。あ!先輩!」

 

「よお、沙綾。今日は客として来たぞー」

俺はそう言いながら、チョココロネを10個ほど買う。多分俺の分は無くなるんだろうな……。

「こんなに買って、どうしたんですか?」

 

「いやー、なんか香澄達が市ヶ谷の家でライブするって言ってて、それに呼ばれたんだよ。チョココロネは先輩からの差し入れみたいな」

 

「先輩も呼ばれたんですね」

先輩『も』ってことは、

 

「沙綾もか?」

 

「はい……」

苦笑いしながら、答える。しかし、俺はその表情を見て心配する。

 

「……大丈夫…………なのか?」

 

「…………バンドが嫌いになったわけではないので」

 

「そっか」

俺は沙綾のバンドの一件を知っている。

別に沙綾がバンドをやめる必要性はなかったと思う。

だけどそれ以上に、自分が何もできなかったことが悔しい。

だから、香澄達が沙綾をバンドに誘ってくれたらありがたいが、恐らく、もう断られているだろう。

だけど、『CHiSPA』の一件を知ったら、また沙綾を誘うだろか?

「………い、……輩、先輩、…優人先輩!」

 

「うおっ!どうした沙綾!?」

 

「いや、よかったら一緒に行きませんか?」

 

「おお、いいぜ。でも陸と春と待ち合わせしてるからな」

 

「わかりました。準備して来ますね」

待ってる間に俺はスマホでテキトーに音楽を聴いて待つ。沙綾の支度が終わり、俺達は店から出る。

陸と春との待ち合わせ場所へ向かう。

「陸、春、おはよう」

 

「おはよう」

 

「おはよう優人……と沙綾。久しぶりだね」

 

「お久しぶりです、春先輩」

 

「もしかしてお邪魔だった?」

 

「いえ、そんな!」///

という春と沙綾の会話は俺には聞こえていない。

「2人共、どうした?」

 

「優人、気づいてないの?沙綾ちゃんはきみの事が」

 

「スタップ!ストップ!陸君ストップ!!いやっ、なんでもないよ!」

 

「どうした?すげぇ慌てようだけど?」

 

「先輩には関係ありませんから!」

なんか俺だけ外されてる?

 

「そこまでスパッと仲間ハズレにされると、俺にも傷つくものがあるぞ」

 

「冗談言ってないで、さっさと行くよ」

 

「俺は割と真面目だったんだが……」

そんな俺がなぜか被害にあう会話をしている内に市ヶ谷の家に着いた。

やった!これでこの会話は強制的に終わる!!

俺の目論見通りこのただただ俺をdisる会話はおわったが、新たな刺客が現れた。

 

黒髪ロングの清楚な美少女だった。背中にあるのはギター。いかいもクールそうな少女だった。恐らく性格も容姿に見合っているのだろう。

しかし、彼女は俺の手を握って、

「ギター、教えてください」

 

「へ?」

 

「ち、ちょっとおたえ!?」

 

黒髪ロングの少女はおたえと呼ばれているらしい。

 

「沙綾!これが興奮せずにいられるの!?全国の高校生の中で1番と言われるギタリストが今、目の前にいるのに!?」

うわー、目、すっごい輝いてる。てゆーかよだれたらさなかった今?性格残念だなー。でも、この子もライブに呼ばれたんなら香澄の知り合いってことだろ?てことは、この性格も納得できる。

 

「あの、一旦離れてくれないかな?」

 

「なんでてすか?」

 

「い、いやー、女の子に手を握られてるのはちょっと……照れるというか……」

 

「じゃあ離す代わりにギター教えてください!」

 

「いやー、それは」

 

「じゃないと離しませんよ?」

何それ!?怖い!?現役JKは脅しなんかしたらいけません!ヤンデレなんだな!

てゆーか、少しずつ顔を近づけるな!

そして、もうそろそろでキスする距離になるので俺は、、

「わかった!わかった!今度教えるから!」

 

「ありがとうございます」

そう言って俺に笑顔を向けた。その笑みは満点なんだけどなぁ。性格があーでなければ……色々残念だな。

「てゆーか沙綾、なんで若干拗ねてんの?」

 

「えっ!顔に出てました!?」

あっ、否定しないんだ。

 

「ハッ!拗ねてなんかないです!!」

いや、手遅れだよ。

 

「それよりそろそろ行かない?」

おお、流石春、この永遠に終わりそうにない会話を終局へと導いてくれた、神よ!

……………………厨二臭いな。やめとこ。

 

俺達は市ヶ谷家の蔵に入る。そもそも蔵があること自体はツッコまないでおこう。

蔵に入ると、観客席側には数人、既にいた。1人は、おばあちゃん?で。1人は妹?で。あと1人が、

「あ!ゆり先輩!先輩も呼ばれたんすか?」

 

「うん。だって、りみの演奏姿見たいもの」

 

「そ、そうすか」

そういえば姉妹だつだな、この2人は。

 

「私、ゆり先輩の隣座るね」

 

「あ、ああ」

 

「今思ったけど男子、僕らだけだね」

 

「そうだな、すっかり忘れてたよ」

まあ、気にせず座ろう。もう、後にはひけないし。

 

さあてライブだ、ライブだ!

と思ったが違和感を覚える。

おたえはん、なんであなたは演奏する側に?

おたえちゃんをバンドに入れるためのライブって聞いたけど。

まあ、香澄達と弾きたくなったんだろうな。一回合わせてみて、楽しかったんだろうな。だから今、ステージにいるのだろう。

 

「こんにちは!戸山香澄です!クライブに来てくださり、ありがとうございます!!」

 

わりかしまともなMCでちょっと安心してしまった。

 

「今日はおたえと沙綾、あっちゃん、優人先輩、春先輩、陸先輩、ゆりさん、おばあちゃんをドキドキさせます!てくれたら嬉しいです!!」

 

相変わらず好きだな『ドキドキ』。

 

「いきます!『私の心はチョココロネ』!」

 

 

 

 

 

 

ライブ後。

メンバー4人は抱き合っていた。いや、変な意味じゃなくて!

皆はドキドキしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少なくとも俺はしなかった。

 

やっぱり俺をドキドキさせるのはあの声しかないのだろうか

 

もう何年も『ドキドキ』を感じていない

 

いや、あったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しい方の『ドキドキ』だけど



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5話 空色デイズ

この話は次の話に繋がるためなので大した意味ないですね。文化祭の《序章》みたいに思ってくれたら、幸いです!


side優人

 

退屈な授業を終わり、放課後。綺麗な夕焼けが見える。そんな時間に俺は後輩の少女2人と部室にいた。そんな風に言ったら、どこの恋愛小説だ!って言われそうだな。俺も言いたい。ただ、俺もこいつら2人も恋愛というものにまるで興味のない3人だった。

という訳で、部室で香澄とおたえにギターを教えている。といっても、

「おたえ、お前フツーにうまいじゃん。俺が教えれることはないよ」

俺が素直におたえを褒める。しかしおたえは謙虚に

「いえ、私なんかは全然です」

おたえのその言葉を聞いた香澄は、

「じゃあ、私はもっと全然だ〜」

香澄が死んだ声で言う。その目は明後日の方向を見ていた。と言うのはジョークです。香澄がそんな簡単に諦めるはずないもんね。

 

「まあ確かに今の香澄の状態じゃ、とても文化祭で演奏できるレベルじゃねーもんな」

ズバリ言ってやる。飴と鞭だな。つっても飴をやった覚えがないが。…………これってただのドSだわ。まあ、ドMよりはマシだよな!な!

 

「そういえば先輩も、もちろん出るんですよね。学園祭」

おたえがありえない質問を投げかける。

 

「何言ってんだ、おたえ。そんなの当たり前だろ?今、春が申請書出しに行ってるよ。一応あいつが部長だからな」

 

 

 

 

side春

今、私は生徒会室に来ていて、文化祭の申請書を提出しようとしていた。

しかし、七菜先輩はいなかったので、というか、1人しかいなかったのでその子に申請書を出している最中だ。

その男子はどうやら1年生らしい。見た目は焦げ茶っぽい髪をしていて、身長は平均くらいだろう。顔は俗に言う可愛い系というやつだけど、そんな見た目とは裏腹に、歳上の相手にはちゃんとした敬語で対応できる、いかにも真面目そうな後輩だった。

 

「はい、確かに」

その1年生君は書類に一通り目を通して、そう言った。

 

「ありがとう……えーっと、誰君?」

 

「1年の芽吹 健(めぶき たける)です。あなたは2年の櫻井 春先輩ですよね。有名だから知ってます」

芽吹っていう苗字珍しいなー。なんかかっこいい!

私はそう思いながら健君の持っていた書類を見ようとする。しかし、私の視線は書類から、彼の手へと代わった。

 

「私達ってそんなに有名なんだ……ま、いっか。私の事は気軽に春先輩でいいから。それと……いや、なんでもないよ。失礼しました」

 

私はそう言って生徒会室を後にした。

健君は???ていう顔をしてたね〜。

 

でも、多分だけど、健君はギターをやっている。それも、かなりの練習量だと思う。

でなければあんな手にはならない。

 

部室に戻ると、香澄とおたえの姿はなかった。

「あれ?2人は?もう帰ったよ。あいつらも、なんか学祭で忙しいみたいだし」

 

「そーなんだ。それよりさ」

私は健君の事を話すことにした。なぜなら、新メンバーが必要だからだ。

 

「ん?」

 

「この学校でギターを本格的にやってる人がいたら、どうする?勧誘する?」

 

「当たり前だろ。俺は歌うからあと1人はギターが欲しいよ。あと、キーボードも」

即答しなくていいから。

 

「じゃあ、勧誘行く?」

私がそう言うと、

「いたのか!?ギター弾けるやつ!?」

食いつかなくていいから。

 

「多分ね。しかも並み大抵の練習量じゃないよ」

 

「まじか!そいつ帰宅部か!?まあ、他の部活入ってても勧誘するけど!」

目を輝かせないでいいから。

 

「生徒会だよ。新しく入ったから、多分優人は知らないと思うな」

 

「生徒会か。…………よし、生徒会室に乗り込むぞ」

目をやる気に満ち溢れさせないでいいから。

あ、ホントに入れるつもりなんだ。

てゆーかさ、3回連続で『から』を使わせないでよ。

 

「七菜先輩も、会長やりながらバンドやってるから無理ではないだろ」

 

「そうだけど。今から行くの?」

これで今から行くって言ったらただの単細ぼ……。

 

「そーだよ。善は急げってな」

ただの単細胞でした。

 

「1人で行ってよ。私は自主練してるー」

 

「じゃあ、この曲のアレンジをしててくれよ。この曲、学祭演奏するときのセットリストにあるけど、この曲は春が歌うだろ?」

そう言って手渡された譜面はflumpoolの『君に届け』。文化祭では、オリジナルを4曲、カバーを2曲歌う予定だ。プラス、後夜祭で新曲とカバー曲を歌う。『君に届け』は後夜祭で歌う曲だ。因みにもう一つのカバー曲を歌うのは優人だ。

 

私達《Full Bloom》のボーカルは曲によって私と優人で分けている。たまにドラム無しで陸君がボーカルの曲も作る。

 

気がつけば優人はもういなかった。全く、優人はなんでそんなのなのかなぁ。

 

私は譜面とスマホ、そしてベースを取り出し、

「じゃあ、やろうかな」

 

しかし10分後。

「優人まだ来ないなぁー」

まあ、説得が難しいなら、このくらいかかってもおかしくないよね。もうしばらく待ってみよ。

 

30分後。

「ちょっと遅すぎないかな?何話してるんだろ?」

流石に30分は遅い。何か事故でもあったのかな?学校内だけど。。

 

1時間後。

優人は未だ、生徒会室から帰還していなかった。

何があったんだろう。最早、拉致された?優人は女子に人気あるからなぁ。毎日告白されてるらしいし。

 

その時私は最早アレンジする気力が残っていなかった。

 

「……………………帰ろう」

誰もいない部室で、1人、そう呟いた。

私は家で練習をしようと決め、帰路に向かう。

 

 

 

帰り道。

不意にスマホがなった。

すると、意外な人物からの電話だった。

「もしもし」

 

『あっ、春先輩ですか?少し相談があって今すぐ会えますか?』

相手は有咲だった。この子から連続きたの、何気に初めてだよ。

 

「いいけど。どうしたの?」

 

『バンド名を考えていたんですけど、少し悩んでて』

 

「そういうことならわかった。じゃあ私が蔵に向かうよ。今、近いし」

 

『ありがとうございます』

と言って有紗は電話を切った。冷たい。いや、これはツンデレか。

そんな、無駄な事に脳を働かせながら、蔵へ向かう。

 

 

「なるほどなるほど」

私は有紗に渡されたノートを眺めていた。

 

「どうですか?」

 

「どれも100点!」

私は舌をペロッと出し、ノートを持っていない左手で親指を立てた。

 

「バカにしてるんですか?」

もお、そんなに怒らないでよ。なんか、面白い事を言わないと気まずいから、優人の真似をしたのに……。

 

「んー。どれも有紗達らしくていいと思うけど。なんか、どれもバカっ……明るくて弾むような名前ばっかりだけど……」

バカっぽいとは言わない。と言うか、バカに当てはまるのは香澄とおたえだけでしょ。

 

「先輩達はなんで《Full Bloom》にしたんですか?」

有紗からの意外な質問。

私はその質問が来るのを待っていた。

「あ、聞きたい?何々興味ある?」

 

「…………はい」

有紗、興味ないって顔してるよ。

 

「まぁ、私達3人の苗字には『春』の漢字が使われてるからね。私は『櫻』で、優人は『咲く』、陸君は『桃』があるから。だから《満開》の意味する《Full Bloom》なんだ。これが1番の理由かな」

説明してみたかったんだよね、一回だけでも。

そのくせごめん、説明雑だね。かと言って、直す気はさらさらないけど。

 

「じゃあ、もうメンバーは増えないんですか?」

 

「いや、増えると思うよ」

 

「でも、そんな都合良くいます?苗字に『春』関連の漢字が入ってて、演奏できる人」

有紗の話し方が少し砕けてきているが、気にせず話そうかな。

うん!そうしよう!多分これがホントの有紗だと思うから!

 

「それが都合良くいたんだよねー、『春』の苗字の生徒が。今、優人がメンバーにしようとしてるよ」

 

「そーなんですか」

 

「でも入ってくれるかわからないんだよねー」

 

「誰なんですか?」

 

「1年の芽吹 健君。ギターをやってるっぽいんだよ」

 

「芽吹……。どっかで聞いた事あるような……」

 

「今まで不動の一位だった市ヶ谷 有紗から、トップの座を奪ったらしいよ。あの子は高校から編入して来たんだって」

 

私のこの発言に有紗は眉をひそめた。

 

へぇ。一位取られたのが嫌だったんだ。意外と負けず嫌いなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜オマケ〜

翌日、教室にて私は優人にき 昨日、何があったのか聴いていた。

すると、思わぬ返答が返ってきたので、

「え!?帰ってた!?」

と、大きな声をあげた。

 

「おう!悪いな、連絡するの忘れてて。上手く言い逃れて健のやつ帰ったから」

 

私は怒りがこみ上げてきた。

私が1人黙々とアレンジしてたのに、連絡せずに帰ってた?

「ちょっと」

 

「はい?」

 

「謝罪を要求する」

私はそう言う。これで素直に謝れば許してやらないこともないよ、優人。

 

「スミマセンデシタ」

あ、案外潔くあやまるんだ。

いや、絶対すぐ謝れば許してもらえると思ってる。……………………いや、ううん。人を疑うのはやめておこう。私も人間。優人も人間。誰だって間違いはある。

 

「わかってるなら、立ってよし」

 

優人は私の言葉を聞くと安心して立ち上がった。

まあ、ここらで許しておこう。

 

 

 

 

という気は微塵もない。

 

 

私は隙をついて、正拳突きを食らわせる。

 

「グホッ!!!」

 

この光景は最早、このクラスでは当たり前のようになっていた。これはもうコントというジャンルに属するらしい。

 

「そんなに痛くないでしょ」

 

「確かに威力はないけど、的確に痛い所突いてくんなよ」

まだまだ甘いね優人。君はこの後、今までの人生で味わった事のない悪寒と吐き気に見舞われるよ。(←本当です)

 

「力がないなら、技術で補わないと」

 

 

この後優人はトイレに駆け込んだよww。

 




これから、文化祭編に入ります。沙綾の話と、健の話を上手く同時に進めたいです!!!


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6話 未来

健君の方の話ですね。


side健

 

教室にて。

紅い夕日が窓から俺の目に直接届き、床からも反射して2つの光が目を細くさせた。

教室には殆ど誰もいない。部活に行ったり、その他の人々は既にHRが終わってだいぶ経つので帰宅していた。

そんな部屋に残っているのは俺と教卓の上に座ってこちらを見てくる先輩。相手が女性なら少女漫画のような甘酸っぱい青春ストーリーの一部なのかもしれないが、その先輩も俺と同じ雄だ。

 

「健、バンドやらないか?」

さっきから、いや、会うたびにこの人はこればっかりだ。正直なんでそこまで俺にこだわるのだろうか。

 

「いや、やりませんよ。優人先輩」

 

「オッケー。明日練習あるからな。いいな」

この人強引すぎるよ。俺の都合は無視ですか。ハイハイ、オッケーオッケー。…………いや、何一つオッケーじゃないです。

 

「…………何一つ良くないです。勝手に話を進めないでください」

 

このくだりは昨日、咲野 優人先輩が生徒会室に乗り込んで来た時と全く同じだった。

名前同士で呼び合うようになったし、それなりに仲良くなったつもりだが、だからと言ってバンドに入るかと言ったら話は別だ。

 

「何が不満なんだよ?」

 

「不満があるわけではありません」

そう、バンドというもの自体に興味がないわけではない。

 

「じゃあなんなんだ?」

 

「俺は趣味の範囲でギターをやってるだけです。でも、あなた達は本気だし、プロも目指してるじゃないですか。それに、もうスカウトもいっぱいきてるって噂で聞きました。そんなグループに俺が入れるわけがありません」

俺がいても邪魔になる。だから、バンドには入らない。

 

「その手を見たら誰もが本気だって思うだろうけどな。……それに、もし仮に俺達のバンドが本気じゃなくて、実力もなかったら、お前は俺らのグループに入るのか?」

 

「……………………」

その言葉には言い返せない。

多分、俺がギタリストとして成長できるのは本気で演奏しているバンド以外ありえない。

 

「じゃあーー」

 

「本気とかそれ以前に、技術の問題なんですよ」

俺は先輩の言葉を遮り、言い放つ。下を向いて、何もかも諦めているようなオーラを出して。俺自身も、なぜここまでムキになっているかはわからない。でも、自分のためではなく、先輩達のバンドを思ったの言葉と行動だった。俺なんかいたところでーー

 

「…………なら、お前ギター弾いてみろよ」

 

「え?」

なんで?

そうなった意図がわからない。

 

「ほら、ギター貸すから」

 

「いや、いいですよ」

 

「遠慮すんなって」

遠慮なんかしてない!と大きな声を出しかけたが、少し抑えて、

「いやいやいやいや。無理ですって!」

何回断ればいいんですか。この人、悪い人ではないんだろうけど。

 

「チェッ、それじゃ、今日のところはこれぐらいにしとくか」

小さく舌打ちが聞こえたが、不快にさせるような舌打ちではないのはわかった。

良かった。これでもうこないはず………。

 

「また明日な」

 

へ?

先輩明日も来るの!?もう諦めてくださいよ〜。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

side優人

 

俺は軽くグロッキー状態に陥っていた。

昨日寝る前に新曲の歌詞が思いついたから、そのまま書き留めて、そのまま一つの曲を作ってしまった。集中力がおかしいくらいに解放されたため、時間などはどうでも良かった。しかし、それが終わる頃にはまばゆい朝日が俺の部屋の窓から射し込んできた。

朝日に気づくと溜まった疲労が一気に押し寄せ、「寝たい!」と思ったが、バイトが入ってた。1時間ほど遅刻だわ。やっちまったな。朝からはやっぱキツイな。

沙綾の奴、心配するどこらか軽くひいてたぞ。

学校中は文化祭の準備で慌ただしかった。

そのうるささに余計に疲れていた。

 

 

しかしーー

 

 

不意にギターの音がした。

 

 

でも、この音に気づいているのは周りを見ても俺だけだった。

 

 

誰だ?誰が弾いている?

 

 

春か?香澄やおたえか?

 

 

いや、……………………否だ。

 

 

俺の知ってる人の中でこんなに心落ち着くようにギターを弾ける奴はいない。

 

 

とにかく、どこで弾いているか探そう。

 

 

 

「ここか」

そこは俺達、軽音楽部の部室だった。

 

 

ならばやはり、春だろうか?

 

 

いや、先ほども言ったが、否だ。

 

 

これは違う。ひたすらギターだけに時間を費やしてきたのが伝わってくる音だ。

 

 

「とりあえず入るか」

 

 

俺が部室に入ると共に音は止み、音の原因はこちらを向いた。

 

「なんでいるんだ?」

 

「鍵で開けたからですよ」

 

「そういうことじゃなくて、なんでギター弾いてんだ?ーー

 

 

 

 

 

ーー健」

そう健だった。俺の熱意が伝わり、バンドに入ることを決意してくれたのだろうか。

 

「先輩が弾けっていうから、来たんじゃないですか」

 

へ?

マジでこいつやる気になったのか?

 

「じゃあ、お前……」

 

「別にやる気になったわけではありません。俺の実力を知ってもらった方が諦めてもらえると思って」

………………そういう……事か。でも、このメロディを聴いたら、余計諦めがつかなくなりそうだな。

 

「…………そうか。でもな、お前の演奏が俺をここに連れて来たんだ。正直言って、凄いよ」

素直に言葉が出て来るあの雑音の中、確かに俺の耳に綺麗な音が届いたのだから。

 

「ありがとうございます。……でも、やっぱり俺はーー」

こよ先は何を言いたいか、理解した。

なので俺は

「わかってるよ」

 

「え?」

 

「もう、無理に勧誘はしない。お前の才能も技術も積み重ねてきたものもわかった。それでも、お前はまだ断るなら、無理には誘わない。でもーー」

ここで一息溜める。

 

「なんですか?」

健は俺が言葉を止めたので、そう聴いてきた。

 

「お前がバンドしたくなったら、いつでも来いよ」

 

「………………はい!ありがとうございます!!」

 

さてと、ここで問題がある。俺ら、サボりじゃね?

そう思うと早く教室へ戻ろうという気になる。

 

「優人先輩、そろそろ教室戻った方が良いと思うんですけど」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

俺達は部室から出る。しかし、

 

 

「お前ら何サボってんだー!!」

ヤッバ!先生に見つかったよ。

 

「健」

 

「はい」

 

「逃げるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

俺達はなんとか先生から逃走成功した。

でも、また不幸が訪れる。

 

俺が教室のドアを開けようとしたその瞬間に、ドアがひとりでに開いた。

いや、内側から開いたのだ。

俺は眠気&疲労のせいで思考が鈍っていたため、誰がいるのかわかっておらず、そのまま前進した。

しかし!俺は誰かにぶつかった!そりゃそうだ!誰かがドアを開けたのに誰もいないはずがない!!

 

俺は態勢を崩す。

これが運のつきだ。

俺はその場に倒れる。

なんとか両手で支えたため、床に顔面が接することはなかった。

 

なんだか顔に息がかかる。

嫌な予感。

恐る恐る、目を開く。

 

 

「あ……」

 

なるほど。これはあかん。

みーんな見てるよ。

だってーー

 

 

 

ーー丸山を押し倒す態勢になってるんだもん。

 

 

 

「あー、そのー、……ごめん」

 

しかし、丸山は顔を赤くしたまま何も言わない。

 

てゆか、ホントに両手で体勢を保って正解だったわ。じゃないと丸山にキスしてた事に……。

 

自分で考えておきながら顔が赤くなるのがわかった。

 

顔の距離は僅か5センチにも満たない。

 

俺は丸山の顔を直視できなかった。

いくら、恋愛に興味がないと言っても流石にこれは照れる。

 

しかし、そう考えると同時にキスしたいな、と考えている俺がいた。

丸山を異性として好きとかそういうのじゃなくて単なる鼓動が速くなっている事と、押し倒した事によってできたムードのせいだ。

 

まあ、しないけどね。

 

すると、丸山が、

「……………て」

 

「え?」

何か言ったが聞き取れなかった。すると、次の瞬間、ハッキリと聞こえる声で、

 

 

 

 

 

「早くどいてくれないかな?///」

 

「あっ…………」

 

そうだよなー!

なんで俺、すぐにどかなかったんだろうな!

そういや、ここ教室の中だったわー!!

 

「ご、ごめん!」

 

 

この時皆が面白おかしくニヤニヤしたり、恋愛ドラマを見ている様な顔をしてたのは言うまでもない。はたや、嫉妬の目線を丸山に向ける者も多かったが。。

 

 

 

 

だけど、1人だけ違った。

 

春だった。

 

あいつは他の皆と全然違うのは一目瞭然だった。

 

だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつだけ、ムービー撮ってるんだもん!!!

 

 

なんて日だッッッッッッッ!!!

ッの量な。

 

絶対後でこれをネタにいじられまくるのが予想できた。

 

 

 

 




次は沙綾の話をしていきたいです!


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7話

咲野 優人君の自己紹介を少し前書きで書かせていただきます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、どうも。咲野 優人、16歳。あ、でも高1だからな。
俺、遅生まれだからなー。
《Full Bloom》っていうバンドでギターをやってる。
ギターは結構昔からやってるな。
今では歌も歌うようになったけどな。
俺って実はここら辺で生まれたわけじゃないんだ。
とある事情があって1人で上京してきた。
そこで陸に出会ってバンドをさそわれたんだ。
でも、なぜかリーダーは俺なんだよな。
てわけで、これからも応援よろしくな」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

バンド:Full Bloom

パート:ギター&ボーカル

学校:花咲川学園

学年:高校2年生

誕生日:3月18日

星座:魚座

好きな食べ物:炊き込みご飯、凍らせたゼリー

嫌いな食べ物:なし

趣味:バスケ、読書、料理、絵を描く事

自己紹介:メンバー想いで、自分以上に友達が大事。美的センスは天才的。音楽や美術はもはや、神の域。運動神経バツグン。勉強は上の下。時々自棄に走ることも多々ある。マジギレした時は誰も手をつけられなくなる。しかし、本当に怒るのは自分に何かあった時ではない。過去に一体何が………。




side優人

 

今からバイトだー。今日は練習ないからバイトだー。寝みぃよぉ。レジで寝てやろうか?

と、思ったがそんなんしたらしばかれる。沙綾さんにな。

やめとこう。うん。

 

そんなバカなことを考えているとやまぶきベーカリーに到着した。

 

「…………お前ら、なんでいんの?」

 

そこにいたのはエプロンをつけた香澄達の姿だった。

 

 

 

 

 

「ふーん。文化祭でこの店のパンを出すのか」

 

「はい!」

 

その手があったかー!畜生!それを思いついていれば俺は執事なんかしなくても……いや、どの道やらされたいただろう。儚い……。

ちっくしょーーー!!

 

「そういえば、先輩達のクラスは何するんですか!」

香澄が目を輝かせながら聞いた。

そんなに文化祭楽しみなのか。

 

「執事喫茶だとよ。執事長は俺じゃねーぞ」

そう、執事長は冬夜だ。俺はライブでそんな暇無いと言ったらあっさり俺は執事長候補から降ろされた。皆そんなに俺達のライブ見たいんだな。頑張らなきゃな。

というわけで、すまない冬夜、俺のために犠牲になってくれ。てゆうか俺、冬夜をことごとく見捨ててるよなぁ?いや、気のせいだ。そう思っておこう。

それにあいつが文化祭実行委員だからな。冬夜しかいない!っていう空気になってたな。

 

そんなノリで決まったのだ。あれは傑作だったなw。

 

 

 

そうしてしばらくすると市ヶ谷、牛込、おたえは帰って行った。香澄は作詞するらしい。バイト後に手伝いを申し込まれたが、生憎俺はサービス残業をする気は微塵もない!

 

そして今が、その店を閉める少し前だった。

もう、誰も客は来ないと思っていたが、お客さんがいらした。

 

「いらっしゃいませー。……て、お前らか」

 

そこにはガールズバンドの《Aftergrow》だった。メンバーは5人だ。

俺はたまにこいつらの練習をみてやっている。よし、この期にこいつらの紹介をしておこう。(※本家とあまり変わらぬ設定ですが、あくまで優人君の独断と偏見です。なので、ギャグも織り込ませています)

 

「ゆーと先輩、奢ってくださ〜〜い」

 

「開口1番が『奢ってください』って。……お前なぁ」

 

今、遠慮なしに奢りを申し出たのがギターの青葉 モカだ。なんかいっつもボーっとしている。の割に成績いいとか舐めとるだろ。いや、俺が成績低いわけではないんだがな。俺はあれだ。毎回テストは20位以内に入ってるから、以外と頭いいぞ。て、これじゃあ俺の紹介文化祭やんけ……。

 

「モカ、口開いたらそればっかりだな」

 

俺が呆れると、

 

「しょうがないさ優人先輩。これがモカなんだから」

 

「うん、知ってる。何回奢らされたと思ってんだ」

 

今答えたのはドラムの宇田川 巴。身長が高く、性格も熱い。俺よりも男らしいぞ。いや、《漢》らしいか。服装も何つーかカッケーな。性転換をオススメします。と言ったら東京湾の藻屑になるのは間違いない。でも、正直なんでここまで男らしいんだろ?先輩に少し分けてくれよ。

 

「優人先輩!私も奢ってほしいです!」

 

「俺、奢るとは一言も言った覚えねーぞ」

 

今モカに便乗してきたのはベースの、とにかく明るい上原 ひまりだ。おっと、いかんいかん。紹介がどこぞの芸人みたいになってしまった。安心してください、違いますよ!……これがだめなんだわ。ンンッ!こいつは自称リーダー的な存在らしい。なんで進んでリーダーやりたがるんだ?俺は代わってほしいよ。

 

「まあいいよ。今日は練習だったんだろ。特別に奢ってやる」

 

「い、いいんですか?先輩」

 

今遠慮気味に言ってきた少女はキーボードの羽沢 つぐみ。一言で言うと「頑張り屋さん」だ。バンドの支えになっている。本人は自分の事を『普通』と言っているが、大丈夫!周りがヤバイだけだよ!それに、「頑張り屋さん」ってだけと言うが、それは充分すぎるほどの強みだと思うんだがなぁ。俺はそんなに頑張れる事がないから、寧ろ、頑張れる事があるって羨ましいよ。

 

「気にすんな。いつものことだ」

 

「いつものことって……それって特別じゃない気がするんだけど……」

 

「まあ、細かい事は気にするな。それより、蘭。お前も早く選んだら?つっても、もう閉める前だったから、そんなに残ってないけど」

 

最後の5人目は美竹 蘭。ギターボーカルだ。意地張ったりすることも多いが、ほんとは寂しがり屋で、幼馴染み想いのいい奴だ。ツンデレっぽいんだよなぁ。まともに口をきいてもらえるのにどれだけかかったか?(※そんなにかかっていません)まあ、なんだかんだで、5人の中でこいつとの付き合いが1番長いかな。こいつらがバンド組んだ時から俺がギター教えてあげてたもんな。あの頃の蘭達は中2だったっけか?

 

「そういえば、お前らってうちの学祭に来るのか?」

隣にいた蘭に聞く。

 

「行きますけど、どうかした?」

 

「いや、ライフも見るのか?」

 

「うん。……先輩のを見に行く」

 

「そうか、ありがとな。これで頑張る理由がまた一つ増えたな」

俺はそう言いながら、蘭の頭に手を乗せる。

 

「///」

 

「ならさ、ちょっと面白いバンドが出て来るから、そいつらも見てみたらどうだ?」

 

「なんて言うバンド名?」

 

「えっと確かー…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……《Poppin'Party》……か。あいつららしいな」

 

翌日、俺は校内に貼ってある香澄達のポスターを見て呟いた。おー、なんか明るい色ばっか使ってんな。自分達のバンドの個性をよくわかってる証拠だ。

 

ポスターにはローマ字でメンバーの名前が書かれていた。

Kasumi、Tae、Rimi、Arisa、そして…………

 

「なっ…………!!」

 

最後の1人はなんと沙綾の名前だった。

俺は何も考える事なく、1年生の階に走りだした。階段を踏み外さぬように気をつけることはなかった。

 

教室に着くと思い切りドアを開ける。その音が大きかったせいか、それとも上級生が表れたせいか、教室の中は静まり返る。

俺はクラス中に聞こえるようにデカイ声をだす。

「おい!沙綾はいるか!」

 

「い、いませんけど」

その返事を聴くと、俺は体の向きを180度変え、再び走りだす。

「クソッ!」

 

俺は今度は1年の脱靴場へと駆け出す。

階段を一段飛ばしで駆け下り、すぐに到着した。

 

いた!

 

「沙綾!」

 

「!優人先輩!どうしたんですか?」

 

「お前またバンドやんのか!?」

俺は息切れをしながらもハッキリとそう沙綾に言うが、

 

 

 

 

 

 

 

 

「やりませんよ」

 

「え?でもポスターにはお前の名前が……」

 

「香澄が間違えて書いたんですよ」

 

…………なんだ。

そういう理由か。香澄の奴、人騒がせな。

 

「……そっか。悪かったな」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

大丈夫じゃないだろ。本当は今すぐにバンドをやりたいくせに。ドラムを叩きたいくせに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾、俺はお前の叩くドラムをもう一度聴きたいんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

俺達は今から練習だ。

しかし、俺は少し遅れて到着した。

陸と春は先に練習していると俺は勝手に思い込んでいた。

 

入ろうとした瞬間。

なにやら中から2人の笑い声がする。

 

「おーい。来たぞー。てか、何見てんの?」

 

2人は動画を見ていた。

 

「なんの動画なんだそれ?俺にも見せてくれよ」

 

「優人、見たいの?」

 

春が聞いてきた。

何その意味深な言い方は?

 

「優人は見ないことをオススメするよ」

 

陸が続けて言う。

何それ?

人間とは不憫な生き物だ。俺はそう思う。そしてこの世界も同様だ。だけど。

 

 

 

俺は生き延びてみせる!この世界で!!

 

 

 

ごめん、今のなし。

take2、こういう時に余計気になってしまうのが人間という生き物だ。

 

「気になるような言い方すんなよ。後悔してもいいから見せてくれ」

 

しかし俺はこの時「練習しよーぜ」とでも言って、この動画を気にしなければよかったと後からとてつもなく後悔することになる。

 

「じゃあハイ」

春はスマホを手渡してきた。

 

「どれどれ…………!!!」

 

俺のその反応を見て、春と陸は再び笑い始めた。

 

「お前ら、これ……」

 

「だから、僕はやめとけって言っただろ?…クスッ」

 

今、こいつ小さく笑いやがった。何、見下してるの?おおっと、唐突のキレ口調はシャレにならないな。

 

そう、動画の内容は俺がこないだ起こしたとある事故の動画だった。

 

タイトルもわざわざ作ってくれていた。

 

その名もーー

 

 

 

 

ーー《咲野 優人の華麗なる押し倒し》だった。

 

ホントやめろよ。マジでやめろよ。俺のライフはもう0よ!!

 

……まだ笑ってるよこいつら。

ホントこいつら殴ってやろうか。

 

ようやく笑い終わったと思ったら。

 

「この動画今度アップする新曲のミュージック・ビデオに使えそうじゃないかな?」

 

「あ!それいいね!流石、陸君!」

 

「もう、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

もうヤダ。おうちにかえりたいよう。

 

俺は某有名アクションゲームで死んだ時に流れる音楽が流れた。。。

 




おまけが長くてすいません!!次は出来るだけ本編をしっかり書きたいです。(結局おまけを書くであろう作者)


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8話

1年前の話です!

基本的にside優人か、優人君が出てくるシーンでない限りギャグはないような、構成でやっていきたいのですが、今回はずっと真面目な優人君が見れるとおもいます。


〜1年前〜

 

side沙綾

 

「マジヤバイ!どうしよう!」

 

「体熱い!」

 

「ちょっと!うちら緊張しすぎ!」

 

地元のお祭りのステージでライブをすることになった。出番は次で、メンバーは緊張している。

 

私も緊張していたが笑ってすませる。

 

「なつ、掛け声」

 

「あ!うん!……何言おう?」

 

「ちょっとステージ上がった時、大丈夫?」

 

「わかってるってば!」

 

「挨拶とばすなよ」

 

「その時は沙綾いるから!」

急に私に振ってきた。そんなの無理だよぉ。

 

「あ、そーだ!沙綾よろしく!」

 

「ええっ!?無理だってば!!」

 

「大丈夫だって!沙綾なら」

 

「ちょっと頼むよ〜」

 

私はなつに助けを求めた。

 

「任せなって!よし!!」

 

なつはそう言い、片手を差し出す。みんなはそれに応じて手に手を乗せる。最後に私も。

 

「それじゃあ、飛ばしたくぞー!!」

 

「「「オー!!」」」

 

 

その後、私たちはステージを見ている人たちの中に家族がいるか探した。

夏希、真結、文華は既に見つけた。

 

だけどーー。

 

私は自分の家族が観客の中にいないことに気づいた。

何かあったのかと心配になり、母さんに電話をかける。

 

数コール経った後に電話が繋がる。

 

「あ、もしもし。かあさ……」

 

しかし、私は言葉を止める。向こうから聴こえたのが母の声ではなく、弟と妹の泣き声だったから。

 

「純!母さんは!?」

 

しかし弟は泣いたままだ。

 

『純!それ貸せ!』

 

ふと、新たな声が聴こえた。

 

『沙綾、俺だ!』

 

「!優人先輩!母さんに何が……!」

 

『落ち着いて聞け。千紘さんが倒れた』

 

…………え?

やめてくださいよ。冗談キツイですよ先輩。

 

とは言えなかった。弟と妹の泣き声がと、優人先輩の声が事態の深刻さを伝えてきたから。

 

『沙綾、俺が病院に付き添うから、心配しなくてもいい!純と紗南も連れてくし、亘史さんにも連絡は入れた!だから気にせずライブしろよ!』

そう言って電話を切られた。

 

なつ達はこっちを見ていた。

 

「何かあったの?」

 

「母さんが……」

 

3人に今の電話の事を全て話した。

すると、

 

「早く行って!何してんの!」

 

「純達待ってるよ!」

 

「けど…………」

 

「ライブはいいから!」

 

私はそう言われてライブの衣装のまま、病院に向かった。

 

その道中、私はずっと泣いていた。

 

けど、病院に着くまでには泣き止んでいた。

 

いや、こらえたのかもしれない。

 

 

 

side優人

 

問題です!

 

正解は俺は今日は珍しく1人だ。(←問題を言わない謎のスタンス)

沙綾はお祭りでライブに行ってるし、亘史さんも今、出かけている。

亘史さんはあと20分くらいで戻ってきて、千紘さん達と一緒に沙綾のライブに行くらしい。おれも誘われたが、店番をしときます、と断った。

 

俺は一人暮らしの為、そういうのが羨ましい。

 

しかしーー。

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

家の方から大きな音がする。

 

俺は急いで様子を見に行くと、俺の目に映ったのは泣き喚く子供2人と倒れた1人の女性。

 

「千紘さん!」

 

俺は駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

しかし意識がなかった。

 

すると、後方から電子的な音がする。千紘さんのスマホからだ。

しかし、いまはどうでもいい。俺は亘史さんに電話を入れて、俺が病院まで付き添うと言った。

電話が終わると、純が千紘さんのスマホを耳に当てて「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」と言っていた。

沙綾か!

 

「純!それ貸せ!」

 

俺は無理矢理奪い取り、応答する。

 

「沙綾、俺だ!」

 

 

 

検査が終わったあとに気づいたのだが、沙綾からメールが来ていた。

シンプルに『病院に向かってます』と。

あいつ、ライブをすっぽかして来たんだな。

俺は病院の入り口で待っていた。

 

「沙綾、お前ライブは……」

 

しかし、沙綾は答えなかった。そして俺も答えはわかっていた。

 

「…………千紘さん、貧血だって。命に別状はないそうだ」

 

俺は追求しないことにした。俺には関係ないから。亘史さんか千紘さんが必ず何か言うだろう。

 

でも、もし二人が何も言わなかった時は俺が言ってやらなきゃならない。それは義務だと思うんだ。

 

「そう……ですか。…………ありがとうございます」

 

俺は千紘さんのいる場所を教えた。

 

 

 

side沙綾

 

家に帰ると、なつ達がいた。

ライブがどうなったか色々聞かせてもらった。

 

申し訳なかった。

 

心が痛かった。

 

自分のせいで迷惑をかけていると気付いた。

 

バンドをやめるべきだと悟った。

 

だって、私だけ楽しんでいいはずがないから。

 

 

 

数日後、私はバンドをぬけた。

理由は話さなかった。

 

家に帰ってその事を家族に話した。母さんは申し訳なさそうにしていた。

 

誰からも何も言われないので、私はお店の手伝いをする。

 

店番を優人先輩としていると、

 

「沙綾がバンドをやめる必要はなかったんじゃねーの?」

 

「え?」

突拍子の無い事を言い出したので、思わず間抜けな返事をしてしまう。

 

「だって、お前がやりたい事を我慢するなんて千紘さんはのぞんでないだろ」

 

「…………」

確かにそうだと思う。そして、その気持ちは自分1番わかってあげなきゃいけないはずだ。

 

「それに、お前もバンド続けたいんだろ」

 

「……はい」

正直な答えがでた。なんでこんなに素直に答えれたかはわからない。ただ、落ち着く。でも、次の瞬間には、

 

「なら、続ければいいんじゃないのか?」

この一言で私はもっと素直になった。だけど、先輩にあたるのは間違っている。だけど私は先輩に向かって、

 

「先輩に何がわかるんですかっ!」

思わず声を荒らげてしまった。

 

「何もわかんねーよ」

 

「そーですよね!だって、先輩は他人ですもんね!」

これは言ってはならない。だけど、全部吐き出したい。

 

「ああ、他人だな」

 

「なら、首を突っ込まないでください!先輩には関係ないんですから!!」

 

「確かに関係ないな。…………でも、俺は先輩だからな。ここでビシッと後輩の相談に乗ってやらなきゃな、と思ったんだよ」

 

「そんなこと頼んでないです!」

そう、先輩が勝手にやっていることなとだ。だから、もうやめてほしい。

 

「でも、話したい事があるんだろ?話して少しでも楽になりたいんだろ?」

 

「……」

先輩はわかってくれていた。理解した上で私を楽にするために、私を怒らせたのかもしれない。

 

「…………沙綾、お前はさ、ちゃんとメンバーに相談してやめたのか?自分で考えて自分で決めたんじゃないのか?」

 

「!!」

そうだ。なんでもかんでも一人で決めていた。

 

「それってさ、苦しくないか?1人で抱え込むって辛くないか」

 

「…………」

 

何も言えなかった。だって、全部本当だから。

 

「沙綾、一つ質問するから、正直に答えてくれ」

 

「はい」

 

「今、泣きたいか?」

この質問には驚いた。もっとバンド云々の質問だと思ったから。でも、この問いには、せめて、

 

「………………はい」

 

「もう泣いてるぞ」

 

「あれ、私、いつから」

 

私は質問に答えながら泣いていたようだ。

先輩はそっと私を抱き締めた。

そして囁いた。

 

「お前がどれだけ重いものを背負ってるかは俺にはわからない。でも、いつかそれを分け合える仲間に出会えるよ。………きっとな」

 

 

 

 

 




感想や投票が…………欲しい!気軽にお待ちしております!!!

次回も割とマトモな回です。

週一ペースで頑張りたい……。


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9話

春ちゃんの自己紹介いきまーす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こんにちわ、私は櫻井 春。高2の17歳だよ。
自己紹介っていわれても、特にいう事ないなあ。
因みに、私、バンドやってるんだけどね。
それがすっごい人気なんだよねー。
ネットで曲をあげたら、一気に再生回数が増えて、
あっという間に全国の若者の人気者になってたんだ。
あ、バンド名は《Full Bloom》だよ。
よかったら、応援よろしくね!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

バンド:Full Bloom

パート:ベース&ボーカル

学校:花咲川学園

学年:高校2年生

誕生日:4月9日

星座:牡羊座

好きな食べ物:うどん、そば、ホットケーキ、エクレア

嫌いな食べ物:ニンニク

趣味:ゲーム!!!、マンガ!!!、ラノベ!!!

自己紹介:典型的なヲタク。ゲームして、食って、寝るのを繰り返す残念系女子。なのにスタイルは良くて、美人。ほとんど家に篭ってるので、肌も白くて綺麗。ことゲームにおいては燐子よりも実力を上回る(God knows…のexpertを初見フルコンでオールパーフェクトいけるくらい)。記憶力がいい。だけど運動は残念。ビリヤードくらいしかできない。







☆文化祭3日前

 

side優人

 

「ねえ、マジでこれ着なきゃいけないの?」

 

「うん、頑張って!」

 

春にそう言われて渡されたのはタキシード。文化祭で俺たちのクラスは執事喫茶をやる。

作った衣装は中々の出来栄えだが、これを着るとどうなるかわかっている。だが、腹をくくるしかない。冬夜も諦めて試着中だ。俺はカーテンに隠れて着替え始める。着替えながら、冬夜に話しかける。

 

「なあ、俺、だいたいオチ見えたんだけど」

 

「優人はまだましな方だろ。俺なんかは絶対に…………ハァ」

 

俺達は着替え終わってカーテンから出る。お互いに容姿を見ると、

 

「これは……」

冬夜が呟く。

 

「ああ、確定だ……」

俺も呟く。

 

 

 

「「これ、執事じゃなくてホストだろ!!」」

 

 

 

そう、至ってシンプルなタキシードを渡されて着崩さずに着たつもりだが、無理だった。

やはり現役男子高校生がタキシードを着てもチャラくなり下っ端のホスト感が溢れ出てくる。

 

「優人、お前はまだマシだろ」

 

「まあ、お前に比べたらな」

そう、冬夜の見た目はチャラい。よく遊んでる?ときかれるそうだ。よくわかる。金髪だから仕方がないがな。しかし冬夜の性格は、真面目な小心者なのだ。

つまり、ナンパできる程の度胸を持ち合わせてないチキンなのだ!(←ブーメラン)

 

「冬夜、なんかそれっぽい事言ってみろよ」

 

「えぇー、やだ!」

 

「俺もやるからさ」

 

「うぅー。…………わーったよ。やるよ」

 

「はーい!みんなちゅうもーーーく!漣 冬夜君がいまからホストのマネをするそうでーーす!」

一気にクラス内の視線が集まる。イェーーイ。これだから冬夜をいじるのはやめられないぜ!

…………はぁ、ホント俺ってクズだなぁ。だけどな、もう、後には引けないんだ。だから、すまん冬夜。最高のホストを期待してるぜ!

 

「えっ!ちょっ!おい!優人!この野ーー」

 

「ハイ!相手役、影村頼む!それと冬夜、無理ならホストが無理なら、ナルシストでいいからな!」

クラスメイトの女子の影村にホストに来た女性という程でやってもらう。なんで、まんざらでもない表情してんだよ、影村。嬉しそうですね。

 

「カウントダウンいくぞ!3!2!1!」

 

「え、えーっと。……………………ホント、君って魅力的だね。男子とか放っておかないんじゃないの?」

 

「え、いやいや、そんな事ないです!///」

 

「へぇ、そうなんだ。なら、今はフリーなの?」

 

「は、はい///」

 

「なら、

 

 

 

俺の物になれよ」

ドサドサドサドサドサッ!!

女子が20人ほど倒れてやんのww。影村に至っては「私を襲って」とか言ってるよ。残念ながらRー18タグを付ける気はないから、その頭の中の妄想は捨てましょうね。

つーか、冬夜の奴、茹でタコみたに真っ赤になってら。

 

「冬夜、今の心境は?」

 

「死にたい死にたい死にたい!!///」

 

「面白かったから、安心しろ……ププッ」

おっと、思わず笑いが漏れてしまった。

 

「イラッ…………ほら、次は優人だろ。早くやーー」

 

「春ー。伊達メガネってあるか?」

冬夜の言葉を遮る。理由はみんなもわかってるよな!

 

「あるよー」

春は俺に眼鏡を渡す。

 

「サンキュ」

 

「いいって、これがないとホントにホストになっちゃうもんね」

 

「おい!優人!春ちゃんも会話を続けないで!」

 

「ほら、冬夜もつけろよ」

 

「もぉいいよう」

冬夜はキャラ変した。「もぉ」って言っちゃうあたりが気持ち悪ぃぃぃぃーー!!

ンンッ!話を変えよう。

 

「まあ俺はほとんどシフトないからいいんだけどな」

俺は通常のライブがあるし、後夜祭でもライブをするから忙しい。

 

「ほんと、こればっかりは変わってほしいよ」

涙を浮かべてガチトーンで嫌がる冬夜。

すまんな。俺のために犠牲になってくれ。

……「犠牲になってくれ」ってよく言うな俺。

 

「あ、そろそろ陸がくる時間だな。じゃあ、俺はこれで」

 

「ああ、陸によろしく」

 

「春〜。……て、あいつは?」

 

「もう行ったよ」

 

「早いな。待ってくれてもいいと思うんだが」

 

俺は急いで着替えて、校門に向かう。

なぜ今日、この学校に陸がくるかというと、ステージを見るためだ。

ドラムを他のバンドと共有で使うため、陸は試運転的なノリで軽く演奏したいらしい。

毎年同じドラムたがら、一緒だろぉ?

 

「よお陸」

 

「あ、やあ優人。なんだか疲れてるみたいだけど、大丈夫?」

 

大丈夫じゃないです。

自分がホストのチャラ男になったと思うと、どんどんメンタルが蝕まれていく感覚です。

 

「文化祭の準備が忙しいだけだ」

 

「そっか。ならいいんだけど。ライブ当日に体調崩すなよ」

 

「心配すんなって」

もう、殆ど体調崩してるのと同じ状態だからね。

 

「さっきから私、空気な気がするよ」

春が言った。いーじゃねーか。おれをおいてったくせによー。

 

「スマンスマン」

 

俺は軽く謝る。そして言葉を続ける。

 

「んじゃ、そろそろ行こーぜ」

 

体育館に到着すると、香澄達がいた。なんか、ドラムギターとか言う謎の単語が聞こえた。

て言うか、両方やる以前にギター自体弾けるのだろうか。

 

「あ!優人先輩!春先輩!陸先輩!」

 

うげぇ。見つかった。

 

「うへぇ。見つかった」

 

「「優人、声に出てるよ」」

 

おおっと。いかんいかん。思ったことがつい口から出てしまった。スマン香澄、悪気はない。まあ、聞こえてないだろうけど。

 

気をとりなおして。

 

「お前らもステージの下見か?」

 

「はい!」

 

「返事もいちいち元気なのね……」

後ろに(呆れ)はつけないことにしておこう。

 

「先輩達もですか?」

牛込がきいてくる。ああ、まともな子だ。一家に一台欲しくなるね。

 

「ああ、僕がドラムを軽く叩きに来たんだ」

 

「じゃあ、曲を弾くんですか?」

おたえが食いついてきたな。うん、予想してた。一家に入らないね!

 

「うん。そのつもりだけど」

春が答えた。多分、こいつら聴きたいとか言うんだろうな。

 

「「聴かせてください!」」

香澄とおたえって息ピッタリだな。なんか感心。波長ってやつが全く同じなのね。。。もはや、生き別れの双子!?なわけねーよな。

 

「まあ勝手に聴くのは構わないけど」

 

「やったーー!!」

 

「香澄うるせぇー!」

はい、ナイスツッコミ市ヶ谷。一家に一台欲しいな。一人暮らしだから、こんなツッコミが欲しいよ。……まあ、ホントのところはいらないけど。(上げて落としてくスタイルは優人君の自称専売特許だそーです)

 

「市ヶ谷ってそんなキャラだったんだ。なんかイメージと違ったなぁ」

あまり香澄達と交流のない陸が言った。

 

「な、何の事ですか?桃月先輩?」

 

「いや、もう遅いだろ」

ツッコんでしまう。まあ、そんなキャラ変は無理がありすぎたからな。

 

「……」

市ヶ谷は諦めた。

ここで「市ヶ谷ドンマイ」とか言ったら、どれだけ面白い反応をするか。あ、これフラグだな。次の瞬間誰かが……。

 

「ドンマイ有咲」

流石おたえ。市ヶ谷の事わかってるなー。

市ヶ谷は起こり始める。顔が凄く赤いな。そこまで猫を被る必要がわからぬ。香澄や牛込はそれを見て笑っている。

 

 

 

「そろそろ演奏しない?」

 

あ……。

「すっかり忘れてた」

 

「うん、だと思った」

春さん、冷静ですね。その冷静さを分けておくれよ。いや、《冷静》の《静》だけ渡しそうだな。そしたら俺がずっと黙っているスタイル。ありえねーよな、そんなの!喋ってこそ俺だ。そうでないと俺が俺じゃなくなっちまう。。。

 

俺達はステージに上がる。結構物見客が多いな。たかが練習だぜ。そんなに聞きたいんなら。んー。どーしよっかなー。これが焦らしプレイか。

 

そんな事はさておき、演奏を始める。

 

演奏中、俺はさっきの事の続きを考えていた。

 

《冷静》についてだ。自分で言うのもあれだけど、意外かもしれないが、俺はどちらかと言うと冷静かもしれない。

 

それで、少し驚くと思うが、逆に春はそんな冷静なタイプじゃねーけどな。俺の暴走抑止軍特別隊隊長ってだけだ。……肩書きながすぎ。因みに総司令官が陸な。

 

 

 

それに俺もホントはこんなにバカな発言をするキャラじゃないんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は無理してキャラ作ってるだけなんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆文化祭2日前

 

side陸

 

今日も練習がある。でも僕はその前に楽器店によっていた。

なんていうか、周りに楽器があるだけで創作意欲とか湧いてくるんだよな。

 

「集え少女よ!大志を抱け!フゥーーー!!」

 

…………ひなこ先輩。

何やってるんですか。また、リィ先輩に怒られますよ。

 

「抱けーーーー!」

 

新たな声。

香澄ちゃん…………。

君も何をやっているんだ。

 

「お店に迷惑だーーーー!!」

 

なんですかそれ!?理不尽とはこういうものなんだね。

 

「キラキラ星の香澄ちゃん!花園ミステリアスたえちゃん!蔵弁慶の有咲ちゃん!そして、マイシスターりみちゃん!」

静かになる様子がない。僕はその場に向かい、止めようとする。

 

「ひなこ先輩、僕からも、静かにしてください」

 

「「「「先輩!」」」」

後輩4人綺麗にそろったね。

 

「あ!ボクっ娘ドラマーの陸君!」

 

なんですかそれ。僕は女子でもオネエでもないですよ。

 

「その紹介文は酷くないですか……」

 

「可愛い少女達はぜーんぶ、ひなちゃんワールドにごしょうたーーい!」

 

あくまで僕は女子ですか。確かに女顔とはよく言われますけど、そんなにもど直球は酷いですよ……。

 

「ウルセェ!仕事中だ!」

 

リィ先輩がキレたよ。ありがとうございます。これでこの謎の空気から解放されるよ。…………まあ、僕から絡みに行ったんだけど。

だけど先輩の勢いは止まらなかった。有咲ちゃんのツインテールに顔を擦りつけるという最早どうする事も出来ない状況になる。

 

「先輩方!どちらかドラムやってくれませんか!?」

香澄ちゃん???

 

「はい、喜んで!」

ひなこ先輩も軽すぎるよ。

 

「んー、でも君達の近くにはひなこちゃんよりバッチリな子、いるぜー。ね、なっちゃん!」

 

「ひなこ先輩!それは……!」

僕がこの話題を止めようとするも、時、既に遅し。

 

「……沙綾のことですか?」

夏希ちゃんが答えちゃったよ。どうしようこれ。絶対に香澄ちゃんは沙綾ちゃんのこと誘うって。…………いや、待った。それはそれでいいことなのでは?この件に関しては僕ほとんど何も知らないからなあ。

とりあえず、優人にメールを送っておこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆文化祭前日

 

side沙綾

 

「沙綾。香澄が来てるぞー」

 

キッチンで母さんの手伝いをしていた私にバイト中の優人先輩がそう言った。

それにしても香澄が?どうしたんだろう?

私はお店の方のドアから出る。

 

「どうしたの?練習は?明日本番でしょ?」

 

「うん。するよ。するけど……」

香澄のにえきらない返事から察する。

 

「お腹空いた?」

 

「うーん。お腹も空いたかも?」

変だ。いつもの香澄はなんでもかんでもズバッと遠慮なく発言するのに。

 

「ん?香澄、変だよ」

 

すると、香澄は意を決した表情で。

「あのね……バンドのこと、聞いちゃった」

 

「えっ…………」

き、聞き間違いじゃないよね。

香澄は今、確かに「バンドのことを聞いた」と言った。誰に?誰から聞いたの?

 

「沙綾、ドラムーー」

 

「ストップ」

私は冷たく言い放つ。

 

「!!」

 

「部屋行こ」

 

 

 

side香澄

 

沙綾の部屋でなっちゃんから話を聞いたと話した。

 

「なっちゃん、心配してたよ。沙綾わ何も言ってくれないって。……今のままじゃやだなって。……私、沙綾がドラム叩いてるとこ見たい!やろ?沙綾!」

 

「他の人探してよ」

 

諦めない。

「沙綾がいい!新しい曲も一緒に……」

 

「無理だよ。練習してないし。迷惑かけるだけ」

 

「いいよ」

そんなの気にしないから。

 

「やだよ、もうバンドやるつもり無いから」

 

「なんで?」

この質問の答えはなっちゃん達も知らない。だから、理由さえ聞ければ。

 

「帰り遅くなるの嫌なんだ。純達寂しがるし、母さん無理しちゃうし」

 

「お母さん?」

 

「昔から体弱いんだ。なのに家の事全部やろうてして。私、あの時まで気づかなかった。純達すごい泣いてて、先輩やなつ達に迷惑かけた。これ以上、迷惑かけたく無い」

 

そんなのって、自分でそう思いこんでるだげだよ。

それに、

「私もいっぱい迷惑かけた!」

 

「別に迷惑だなんて…………」

 

私もーー

「迷惑だなんて思わない!」

私はベッドに腰掛ける沙綾の前まで行って、手を差し伸べる。

 

「一緒にやろ?お店忙しかったら手伝う!じゅんじゅん達と一緒に遊ぶ!宿題も見る!放課後ダメなら昼休みにやろ!」

これが私にできる事。だから、届いてーー

 

「無理だよ」

 

「無理じゃない!」

お願い!届いて!!

私は沙綾の手を握る。沙綾はこっちを見てくれない。

 

「ごめん」

その声は掠れていた。

沙綾は私の手をほどいた。

 

「どうして、……あんなに楽しそうだったのに………………………………バンド、嫌いになっちゃったの?」

 

すると、沙綾は私のその言葉に反応し、立ち上がった。

 

「そんなわけないじゃん!!」

 

 

 

side優人

 

俺は今、盗み聞きをしている。大丈夫変な事じゃない。ただ、バイト先の女の子の部屋を盗み聞きしてるだけだからな。……こういうと、変な意味になるな。

 

真面目な話、今、沙綾と香澄が話している。昨日、陸からメールが来た時に知ったのだが、香澄達は沙綾の過去を知ってしまった。そうして今、沙綾をバンドに引き込む為に説得に来ている。

 

しかし、

 

『そんなわけないじゃん!!』

部屋の中からの沙綾の声。聞き耳をたてなくても充分に聴こえる声量だった。

 

『香澄にはわかんない!ライブ滅茶苦茶にして、みんな気遣って、自分の事より私の事ばっか!なつも真結も文華もホントに楽しいの!?私だけ楽しんでいいの!いいわけ無いじゃん!!』

 

それは違う!3人ともお前とバンドが出来るから楽しかったんだ!お前、そんなこともわかんねぇのか!?

俺だったら、そう言うだろう。しかし今は香澄のターンだ。ここは任せよう。

 

『一緒にやっても練習に行けない!SPACEでライブしたいんでしょ!?そんなの私、足手まといになるだけじゃん!!』

 

なんで、そこまで苦しんでまで……。

 

『そしてみんなまた気遣う。大丈夫だよって。……大丈夫なわけないじゃん!楽しくできるわけない!てゆーか、どんな顔して出ればいいの!!』

 

違う!違う違う違う違う!沙綾、お前は考えすぎなんだよ!気遣ってるんじゃないんだよ!お前の事が仲間として大切だったから心配してくれたんじゃないか!!

 

『私の代わりに誰かが損をしてる。だからやめたのに……今更…………』

 

『………………できるよ』

 

『できない!!』

 

『できるよ!……なんでも1人で決めちゃうのズルい!ズルいズルい!!

…………一緒に……考えさせてよ………………!』

 

泣いてるのか?なんとなくだが、そんな雰囲気がする。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!喧嘩しちゃダメ!みんな仲良くしなきゃダメ〜!」

 

「あ!こら!紗南!!」

沙綾の妹の紗南が勝手にドアを開けた。ていうか、俺も存在に気づいてなかった。

 

「喧嘩じゃないって!な!そうだよな!香澄!」

俺は紗南の頭を撫でながら香澄に話を振った。こいつらから喧嘩じゃないと言わせなきゃ意味が無いから。

 

「そうだよ、喧嘩じゃないよ」

香澄は涙を拭い、

 

「泣いた振り〜」

 

「ホント?」

 

「元気。元気〜!ほ〜ら、ヨシヨシ」

 

話は結果的にここで終わりになった。

とても話ができる状態ではなかった。

階段を降りると、

 

「お疲れ」

そこいは市ヶ谷、牛込、おたえの姿があった。

 

「なんで?」

 

「香澄が先に行っちゃったから」

香澄の問いに答えたのはおたえだった。

 

「声、下まで聴こえてたぞー」

 

「純くん、怖くてお店の方に行っちゃった」

市ヶ谷とりみが続けて言う。このまま話し合いをするのだろうか。

 

「さて、帰るか」

市ヶ谷が何の躊躇もなく言う。それもそうだ。こんな状況で話し合いは切り出すまい。

 

「まあ、ライブはどうでもいいんだけど。知らない人よりは山吹さんの方が楽かな。私は」

そう言い残して出て行く市ヶ谷。

 

「私も沙綾ちゃんとできたら、すごく嬉しい」

次に牛込。

 

沙綾のスマホが鳴る。

「曲のデータ送った」

おたえも帰って行く。

 

 

 

「無理だってば」

沙綾の声。

 

 

 

「待ってる。…………待ってるから!」

答えたのは、香澄。

香澄も帰って行った。

 

 

 

俺もここは何か言っておこう。

「沙綾、俺、明日は朝から練習あるからさ、バイト来ないから」

 

「……はい」

 

「まあ、その、あれだ。お前も練習したくなったら、来いよ」

 

「…………」

これには答えてくれなかった。

 

 

 

俺は沙綾の家を出て香澄達を追いかけた。

「おーい!」

 

「先輩?」

香澄にはいつもの元気がなかった。

 

「沙綾をバンドに入れたいんだろ?」

香澄は声を出さずに首を動かし、頷く。

 

「なら、俺にできることは言ってくれ。何でもする」

 

「ありがとう……ございます」

 

 

 

 

 

そうして、香澄達とも別れ、俺は練習に向かった。

 

明日がいよいよ本番だ。

 

泣いても笑っても、これで全部決まる。

 

香澄の気持ちが届くか、届かないか。



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10話

長いです!!!

タイトルはこう書かれていますが、入りはほぼ遊びです。それにデートの部分も尺を取るために欲しかっただけです。重要なの最後です。




side優人

 

雲なき日。それを日本人は『晴れ』を超えて、『快晴』と呼ぶ。今日はそんな日だ。

この青空は1つの青春の前触れだっのだろうか。

 

そんな空の下。

今日は待ちに待った文化祭。あと10分程で始まる。

なので文化祭実行委員(キング)がここで何か一言言うのだ。そして、それは冬夜だった。正直な話、押し付けられていたようだがな。

今、クラス全員が冬夜に注目している。

 

「正直……俺なんかが『キング』でいいのか、俺にはわからない。でも、一つだけ言えることは、俺は『生きたい』」

 

……………………は?

俺は謎に思った。は?もう一回言おう。は?『生きたい』?何故に今、そんなことを?今は文化祭の士気を上げようってことじゃないの?ほら、皆を見てみろよ…………って、あれ!?皆なんでそんなに真剣な表情で聴いてんの!?ツッコミたくないの!?

 

「生きて……この文化祭(ゲーム)を終わらせて……死んでしまった仲間達と……一緒に生きた仲間達を救いたい」

 

……………………へ?

いや、謎すぎる!?!?『死んだ』って誰が!?てゆーか!仲間って俺らのことだろ!?てことは死んだの俺達かよ!勝手に殺すな!!

 

「今はまだ救う方法がわからないけど……これだけは誓えるーー…………『皆が信じてくれるなら、俺は絶対に裏切らない』って事」

 

…………ちゃんといい事言うなぁ。やっとマトモな言葉を聴いた気がする。

 

「だから、この『キング』という役割を与えられた事に、ワクワクしてる俺がいる」

 

おお!士気上がるな!この後ホストするけどな……。(※執事です)

 

「皆の命を背負える事に、俺は誇りを感じている」

 

……………………はいぃ?

冬夜ー。大至急戻ってこーい。頭ぶつけたのかー。保健室に付き添ってやるぞー。

 

「その命を託してくれれば、俺は、どこまでも強くなれる」

 

 

???????????????????????

 

ごめん、謎が増えたわ。最早意味わかんねー。なぁ皆……って、アッレー。皆さんどうしてプルプルしてんの!?なんで「いいね!」とか言ってんの!?違和感無いの!?もしかして変なの俺だけ!?なんかの流行なのか?俺、遅れてる…………?皆、俺を置いてかないで!!!

 

「さぁ行こう。勝つのは俺達だーー……」

あ、売り上げ1位を目指すって事だよね!うん!きっとそうだよな!!

 

 

 

「生きるのは俺達だ!!」

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!(クラス一同)』

 

 

 

 

 

いや、待てい!色々あったぞ!色々ツッコミ所あったぞ!

1番ツッコミたい箇所は最後にするけど。

 

まず一つ目、冬夜、どうした?色々……というか全体的に問題だらけだったぞ。流石の俺でもついていけないよ。「生きたい」とか「生きる」とか「死んだ」とか「救いたい」ったなんだったんだ!?色々謎すぎたよ!!

 

二つ目、最初からだが、文化祭実行委員を《キング》っていう当て字にしたのは俺の脳内だよな?お前に話してないよな?なら、なんでわかんだよ!?なんで知ってんだよ!?最早、サイコパスの域だぞ、冬夜!それに文化祭を《ゲーム》に置き換えるって狂ってるだろ!クレイジーだろ!

 

そして三つ目、この学校って女子の人数が圧倒的に多い。そしてこのクラスも例外でない。現に40人のクラスに男子は10人くらいしかいない。そのはずなのに…………女の子が「ウオオオオオオオオオオオオ!」とか言っちゃダメだろ!どうした現役JK!?

 

最後の四つ目、やっぱりお前だよ、冬夜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今のセリフってどっかで聴いたことあるぞーーーーーー!!!!!

 

名言を悪用するなぁーーーーー!!!!!!!

 

 

 

元ネタなんだったっけ。

 

てかよ、少しはアレンジしろよな。まんまパクるのはアウトでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

そんないつも通り(?)のクラスの雰囲気で士気は完全に上がった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時は過ぎて文化祭が始まった。

早速シフトが入っていたので俺は接客に励んでいた。ただ、、、

 

「なんでこんなに客が多いんだ?」

俺は料理を取りに行くため、この教室の目の前の空き教室で料理を作っているので、そこに来ていた。そこには俺とシフトが全く同じな、春やその他がいた。そして俺は先程の質問をしたのだ。

 

「ああ、それはね、皆が優人と冬夜君のツーショット写真(執事姿)のチラシを前もって配ってたからだよ」

 

「へーー、、、っておい!肖像権の侵害だろ!ていうか学校側もよくそんな広告配る許可だしたな、オイ!それに、もはや、やり口がホストだろ!てゆーか!なんで俺らなんだよ!?なんで俺なんだ!?俺、イケメンでもないのに!!」

 

 

 

side春

 

はぁ、この男はまだ自分の事を理解しきれていない。

「何言ってんのよ。あんた鏡見た事ある?」

 

「あるよ。この死んだ魚みたいな目を、どうにかしたいと日中考えてるよ」

 

「わかってないんだね、優人は。あんた、この学校で1番イケメンって言われてるの、知らないの?」

半ば呆れ口調になってしまう私。

 

「…………またまたぁ。そんな訳ねーだろ」

 

「まあ、私も最近知ったんだけど、《花咲川学園イケメンランキング》ていうものが女子の間で存在するらしいんだけど……

 

5位・・・一ノ瀬 卓也(3年生)

4位・・・笹原 涼介(1年生)

3位・・・芽吹 健(1年生)」

 

「おおー、健ランクインしてんじゃん!」

確かにイケメンだと思うし、選ばれても当然だよねー。でも、理由は他にもあった。それはーー

「なんか、可愛い系でMっぽいけど、Sの姿もみてみたいって子がいるらしいよ」

 

「……健も苦労してんだな。ていうか誰がランキングつけたんだ?どうせ、誰か1人の偏見だろ?」

まあ、疑問に思うよね。

 

「男子の秘密裏に3年生の先輩方が高等部・中等部の両方の女子全員からアンケートをとったそうだよ」

 

「……マジかよ。極秘でよくできたな。因みに春は誰に入れたんだ?」

 

「死票だよ。陸君がいれば、投票してたけどね」

 

「あ、さいですか」

 

「続きを発表するよ。

 

2位・・・漣 冬夜

 

そして1位の栄光に輝いたのは………

 

咲野 優人!」

 

「………………………………」

ちょっと、間を空けないでよ。恥ずかしいじゃない。もしかして、まだ信じてないの?

 

「…………仮にそれが本当だとして、選考理由はなんなんだ?」

あー、それ気になる?気になっちゃう?

 

「後悔しても知らないよ」

 

「その程度で後悔はしないさ」

まあ、多分、後悔はしないだろうけど。優人の方はマトモなのばっかりだったらしい。問題は冬夜君だよ。ヤバかったらしい。

 

「じゃあ、ついでに冬夜君のも教えるね」

 

「ああ、頼む」

 

「冬夜君は、まとめ役だけどいじられキャラだし、その上、金髪で遊んでるっぽいっていう、そんな謎めいた、ミステリアスチックな所がいいんだって」

 

「はあ、あいつが遊んでる?ミステリアスぅ?なわけ。あいつはただのいじられチキンだろ」

ひどい言われようだね。本人がいないから……いや、優人は本人の前でも言ってるね。

 

「まあ、今の理由が半分の人らしいよ」

 

「へぇ、んじゃあ残りは」

これに答えていいのかな?いや、答えよう。私から聞かなくても、多分、他の人から聞くと思うし。

 

「残りは…………鞭で叩きたいそうです」

 

「………………大丈夫なのか?この学校」

ううん。全然大丈夫じゃないね。

 

「まあ、あいつはドM顔だしな。……で、俺が選ばれた理由は?」

さらっとドMって言われる冬夜君の扱いって。まあ、ドMっぽいけど。

 

「えーっとね。優人が選ばれた理由は、ギター弾いてる姿がかっこすぎてww、それでいてクールで(笑)、でも優しくて相談にも真剣にのってくれる。そして、仲良い人達だけに見せる面白い一面のギャップが最高!…………らしいよ」

前半は笑いどころしかなかったね。優人がクール?何それ!?こんなにもクールにかけ離れた人間はいないよ!」

 

「おい、声に出てたぞ」

あ、やってしまった。……まあ、でも

 

「優人はどう考えてもクールには見えないからさぁ」

 

「だから!それはお前も最後に言ったろ?仲良い人には面白い一面を見せる、って。それだよ、それ!それに俺、教室じゃ大人しくしてるだろ!」

む。

確かにそうかも。

まあ、そういう事にしといてあげるよ。

 

「おーい優人!早く戻って来い!人手が足りない!」

冬夜君が言いに来た。

 

「お!悪い悪い、ドMの冬夜」

あ、バカ!流石にそれは言ったらマズイよ!

 

「…………はい?」

冬夜君は疑問符を頭上に3つほど浮かべていた。当たり前だよね。

 

「いや、なんでもない!」

優人はそう切り返して教室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、料理持ってって!!」

 

 

 

side優人

 

春と話してからもう1時間ほど経っていた。

シフトもあと30分くらいで終わり、今日の仕事はライブだけになる。

このまま何事も起きずおわってくれ。てゆーか俺のシフトなかに知り合いくるな。知り合いくるな。知り合いくるな!

あれ?俺、誰か文化祭に行くって言ってたような……。両親とは離れて暮らしてるし、元々呼ぶ気なんて無い。

友達か?いや、中高一貫だから、いないな。いや、羽丘学園に……まあ、陸は来るよな。あいつはいいんだよ、あいつは!じゃあ他に誰が……。

っとと、客が…………じゃなくてご主人様orお嬢様がお帰りになられた。責務を果たさねば。

俺は礼のモーションに入ったので、顔は見てないが体型や服装からして女性だろう。

 

「お帰りなさいませ。お嬢さまあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

俺が叫んだ理由。それは俺が先程悩んでいた事に繋がった。今、目の前にいるのが俺の知り合いの5人だっからだ。

 

「優人先輩!来ましたよー!執事喫茶?そのわりには、ホストにしか見えませんよ!」

1人目が絶対先手の《電光石火》で俺のメンタルを削る。《電光石火》の割にはダメージ大きい!

 

「ゆーと先輩、カックイイ〜〜」パシャパシャパシャ

2人目が俺の写メを撮る。普通は最後の人が写真撮って、「何撮ってんだよ!」と言いつつ、笑いながら終わるというはずだが……。2人目で写メって最早後3人が何するか予想つかなくて怖いよ!《フラッシュ》の効果、恐るべし!

 

「あんまり先輩にトラウマ植え付けるなよ。せっかく、男っぽくなったのによ」

はい、今の言葉がトラウマですね、はい。ひどくね!え?何?元々そんなに俺、男っぽくねーの!?言葉の暴力……いや、言葉の《インファイト》だ。

 

「先輩!私もとっても似合ってると思いますよ!」

それはホストの姿がって事かな。そう聴こえたよ。そう聴こえたね。悪意しか感じられない。《悪の波動》だな。わざとではないんだろうけど、傷つくものがあったぞ。

 

ラスト1人だ。

俺のライフはもうすぐゼロだ!もう失う物は何もない!かかって来い!

 

「…………似合ってる。……かっこいい………多分」

…………《不意打ち》だ。……メンタルHPが1残った。

最後の1人は少し恥ずかしげに言った。顔も少し赤らめて。そんなに恥ずかしいことだろうか。でも、あまり、男子と関わりを持ったことが無いらしいし。

しかし、その態度はこちらも照れさせた。普段、女子と話してたりして照れることは無いのだが、この子にそういう事を言われた事がなかったからだろうか。

 

「お、おう。…………お世辞でもありがとな、()

そう、お帰りになられたお嬢様方は《Aftergrow》の5人だった。

上から順にひまり、モカ、巴、つぐみ、そして蘭だ。

 

「お世辞じゃない……本当にかっこいい……と思う」

なんかこんな蘭初めてだから、調子狂うな。

 

「まあ、取り敢えず座って、なんか頼めよ」

俺はテーブルに案内して、メニューを渡す。

「あと20分くらいで終わりだから、その後俺でよければ案内するけど……どうする」

 

「わっかりましたー!それまでここにいますねー!皆もそれでいいよね」

ひまりが4人に聴くと揃って頷いた。

 

「了解。暇になったら言ってくれ。話相手するからよ」

 

「ゆーと先輩、それって完全にホストじゃないですか〜〜?」

 

「うぐっ!それだけは言うなよ。せっかく忘れてたのに……」

モカは容赦ねーな。流石は俺と同じ波長を持つ者だな。

 

 

 

20分後。

俺は春と一緒に蘭達を案内しながら、あと30分くらいで来るであろう陸を待とうと思っていた。

しかし春が、

 

「優人は蘭と一緒に回ったら?」

はいぃ?何でそうなったんですかぁ?経緯を教えてほしいですなー。

 

「ハーイ、私もそれにさんせ〜〜」

ちょ、モカ!?

 

「ちょ、ちょい待ち、何でそうなるんだよ。俺と蘭が2人だけで回ったら変な噂たつかもだろ?」

 

「でも蘭はここの生徒じゃないよ」

 

「いや、でも、意外と羽丘の生徒来てるぞ。うちと羽丘は結構仲いいから」

 

「なら、優人は男子1人に対して女子6人で文化祭回りたいの?そっちの方が噂経つと思うなー」

何でそこまでして蘭と俺を2人きりにしたいんだよ!

 

「ぐぬぬ、、、わかったよ!でも、蘭はいいのかよ?」

俺は蘭に尋ねる。最早、頼れるのは蘭だけだったからな。

 

「別に私はどっちでもいいし……」

らーーーーーーーーん!!!何故だ!何故なんだ!思わず劇場版のコナン君みたいになったじゃないか。

 

「うぬぬぬぬ……ハァ、仕方ないな。2人で楽しもうぜ、蘭」

 

そうして、俺達は文化祭を回り始めた。

まず、初めに、外で料理を売っている場所に向かった。

 

「蘭、なんか食いたい物あるか?奢るよ」

 

「いいですよ。なんか、いっつも上がってもらってるし……」

 

「それは主にモカだろ?お前は遠慮しすぎなんだよ。それに俺、無駄に金貯めてるから、こういう時以外に使い道ないんだよ。だから、気にすんな」

 

「そういうことなら…………あれ、食べたいかも」

 

そうして俺達は軽食を挟んで、再び校舎に入った。なぜなら、俺には行きたいクラスがあったからだ。

そのクラスに到着した。そこは百合さん達のクラスだ。何をしているかというと、『お化け屋敷』だった。

 

「ここ、入るの……!」

蘭が若干不安げにしていた。

 

「怖いのか?」

 

「な…………!そんなわけないじゃん!///」

あ、図星だな。顔真っ赤だから、バレバレだわ。

 

「悪かった、悪かったって」

 

「それに……たかが偽物じゃん」

なのに入り口を直視できてないよね?

 

「じゃあ入るか」

 

「あっ!ちょ…………待って!」

そんな蘭の言葉も聞かずに俺はズカズカと入り口を入っていった。蘭もゆっくりとついて来る。

 

中は暗くて、いかにも『出そう』な雰囲気がすごい。

すると、「うぁぁぁぁ」とうめき声が聞こえた。

「おー、結構リアルだな?」

俺は素直に感心していた。しかし、、、

 

何か背中に当たった。いや、俺は動いてないから、何かが近づいて、俺にぶつかったのだろう。しかし、腕は両方ともホールドされていた。つまり、抱きつかれていた。

一体何のお化けなんだよ!と俺は思いながら振り向いた。

だが、抱きついていたのはお化けではなく、蘭だった。

 

「ちょ、蘭さん!?どうなさったんですか!?!?」

いや、まあ、怖い以外には解答がないけどね。それよりも背中に柔らかいモノが……。

 

「…………蘭、怖いんだろ?」

 

「はぁ!?べ、別に怖くなんかないし!」

 

「なら、解放してくださいな」

 

「……………………やだ」

やっぱり怖いんだろーが!

あー、もう。しょうがないな。

 

「わかったよ。外に出るまでこの体勢でもいいよ。たがら、さっさと出るぞ〜」

そうして再び前に進み始めた。その後は会話をしなかったな。いや、蘭ができる状態でなかったわ。

 

「いやー、文化祭のお化け屋敷にしたら、凄いいい出来だったなぁ。なあ、蘭?」

 

「別に……あれぐらい平気だし」

 

「えー。じゃあさっきまで俺に抱きついていたのは誰だったんだろ?」

 

「〜〜〜!///」

蘭は言い返せない。むしろ、顔を真っ赤にしている。我に返って俺に抱きついてたことを改めて考えると、恥ずかしくなったのか。あるいは、大きな態度をとった割にはこわがった事を恥じているのか。

そのどちらかはわからないが、俺は心でそっと決意する。

俺は少しからかうと決めた。あんなにこっちは動きにくい体勢でゴールしたんだから、そのくらいの権利はあるよな。

 

「じゃあさ、蘭。平気ならもう一回入ったら?今度は1人で」

 

「………………ひ、1人で入っても楽しくない///」

そうくるか。ここで「じゃあ俺も入るよ」と言ってもさっきの二の舞になるだけだ。

それにしても蘭の顔はまだ赤い。

ここら辺でからかうのはやめとくか。

 

「ハハハ、悪かったな、意地悪言って。少しからかいたかっただけだよ」

 

「…………先輩」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「嫌い」

グハッ。

ダメージでけー。蘭さんや、軽い冗談だからやめてくださいよ。そんな、どストレートに嫌い宣言させられたら、死ぬぞ?

 

「フフッ、冗談だから。その…………嫌いじゃないから」

 

パアァァァァァァァァァァァァ。

蘭さん眩しい!凄い光って見える!心が今、スーってなってった。

いやー、ホント焦ったよ!そして、ホント安心した!!

嫌われてなくて良かったーー。

 

「でも」

蘭が口を開く。その言葉の続きはーー。

 

「喉が渇いたから、飲み物奢って?」

なんだよ、そんな事かよ。焦らすなぁ。

 

「いいよ。なら、後輩がカフェやってるから、そこに行かないか?」

 

「わかった」

そうして俺は教室へ向かう。その教室は香澄達のクラスだ。あんまり知り合いのいる所で蘭とうろうろすると後で質問攻めにあうかもしれないが、やはり昨日の一件から、その後、どうなったかが気になる。

 

そして1ーAに到着した。教室内に入ると、

「よーっす。来たぞー」

 

「あ!先輩!」

香澄のシフトのタイミングに来てしまったか。1番メンドくさい。

まあ、一度入ったからには店を出る事も出来ないので、椅子に座り、飲み物を2人分。そしてライブ後に食べる用のパンを注文した。

 

飲み物が出てくる。

「なあ、香澄。沙綾とはあの後どうなった?」

俺が質問すると香澄は少し表情を暗くして。

「沙綾、今日来てないんです。お母さんが倒れたみたいで」

 

「えっ……!」

 

「だから、沙綾は病院に行ってるんです」

 

「…………そっか」

俺はこれ以上、何か言おうとも思わなかったし、それ以前に言葉が見つからなかった。

俺はカフェオレが飲み終わったころには蘭も注文した物を飲み終わっていた。

店を出ると、

 

「沙綾って、先輩のバイト先の……」

先ほどはほとんど喋らなかった蘭が口を開いた。

 

「ああ、そうだよ。さっきの香澄……猫耳っ子と沙綾が昨日喧嘩をしたんだ」

すると、不意に俺のスマホが鳴る。電話をかけて来たのは春だった。今は香澄と沙綾の事を考えているので通信拒否しようかと思ったけど、大事な事かもしれないので、電話にでた。

「もしもし春。どうした?」

 

『いや、そろそろ陸君が来るから合流しよーってだけだよ』

 

「あ!もうそんな時間か!悪い!今、そっちに向かうから!」

 

俺は電話を切って、蘭の方に向き直る。

 

「蘭、そろそろ陸が来るから春達と合流するぞー」

 

 

 

その後、春と合流して、蘭達は5人で回ることになった。俺達はその間自分達のクラスの手伝いをしてた。もちろん、裏方をな!ホストなんてゴメンだ!

すると廊下がやけに騒がしくなって来た。

恐らく陸が来たのだろう。陸が花咲川学園に来ると女子生徒が興奮する。逆に俺が羽丘学園に行くと同様の現象が起きる。

 

俺と春は調理をしている教室から出る。やはりそこには陸の姿があった。

「よお、陸。朝練ぶりだな。お前のせいで凄い騒ぎだぞ」

 

「それはお互い様でしょ。優人」

俺と陸が会話してるのを見て、余計に興奮する女子達。多分、今この廊下に100人はいるな。

「そんなことより陸、春、移動しようぜ」

2人は即決で頷いた。

人の多さを利用して、なんとか逃げ出された。

 

しかし、香澄と沙綾の問題はどうしたものか……。やっぱり、1番丸く収まるのは沙綾が《Poppin'Party》に入ることだろう。沙綾はまたバンドをやりたいはずだ。だから、あと1個きっかけがあれば……。

 

「優人、どうしたの?」

不意に春の声がした。

 

「ん?ああ。なんでもないよ」

 

「そっか、ならいいけど」

どうやら、心配してくれたらしい。

 

「体調悪かったら、言えよ」

陸も心配してくれていた。今、俺ってそんなに深刻そうな顔をしてたんだ。

 

「あ!先輩!」

新たな声。これは男子のものだった。俺は声のする方を向く。

 

「おお!健じゃん。どうかしたか?」

声の主は後輩の健だ。何か用でもあるのだろうか?生憎、俺は別件について考えているから、陸か春に聞いてもらえ。

 

「いえ、見かけたんで声をかけただけです。こんにちは優人先輩、春先輩、と……」

あ、そっか、陸と健は会ったこと無いんだったな。

 

「ああ、会うのは初めてだね。僕はドラムの桃月 陸だ。優人から話は聞いてるよ」

 

「あ!俺は芽吹 健です!」

 

「いやー、優人が迷惑かけてるみたいでゴメンね」

おい、陸。迷惑ってなんだよ。迷惑って。

 

「いえ、迷惑なんて最近はここ2、3日はかけられてないですよ」

ブルータス!お前もか!健、俺一様先輩だからな。

 

「それにしても先輩方のバンドを見るためにテレビなんかも来てましたよ」

 

「え!ホント!?」

春が大きな声で聞き返す。

 

「はい。お陰で案内とかで忙しくて。また、これから色々仕事もありますし」

健の話を聞きながら、俺は未だに香澄と沙綾の件について考えている。

 

「へえ、健は生徒会に入ってるんだ」

陸が聞いた。俺、その情報教えて無かったっけ?

 

いや、そんなことは今はどうでもいいんだ。どうする。何かできることはあるか?今から沙綾を連れて来ようと思ったら時間もギリギリだな。それに絶対に来るとは限らない。むしろ、来ない確率の方が高い。どうする、どうする…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーーー!もう、わかったよ!)

 

そして俺は決意する。

 

「健」

俺は申し訳ない気持ちなんぞは全て捨てて、陸と春と健の3人の話の腰を折った。

 

「どうかしましたか?」

 

「お前ってチャリ通だったよな?」

 

「はい、それがどうしました?」

 

「自転車貸してくれ」

俺は短く言う。

 

「いいですけど、どうしてですか?」

 

「…………行かなきゃ行けない場所があるんだ。頼む!」

俺は頭を下げる。

 

「ちょ!先輩、貸しますから顔を上げてください!」

 

「ホントか!?」

俺は健のりょうかたをがっしりと掴んだ。

 

「は、はい」

健はそう答えながら鍵を差し出した。

 

「サンキューな!」

俺は今すぐに行かなくてはならない。なので、俺は急いで駐輪場まで行こうとしたその時。

 

「「優人!」」

陸と春の声が重なり、俺を呼んだ。そうだ、このふたりには理由を説明しなければならない。だから、俺は口を開け、単語を言おうとすると、

 

「それが優人の選択なんだね」

春が小さく、それでいてしっかり届く声で言い放った。

2人には香澄達のことは話したが、今の俺と健のやり取りだけで察したのなら、それは凄いことだ。

しかし、今はそんなことよりも、

 

「ああ」

 

「じゃあ、約束だ」

次に口を開いたのは陸だ。

 

「なんだよ?」

 

 

 

「時間内に戻って来ること。でも、君1人で戻ってくるのはなしだよ」

 

 

 

「ああ、わかってる!」

俺は答える。そして、走り始める。

駐輪場に着き、自転車の鍵を開け、こぎ始める。

 

 

 

目指す場所は病院。

 

 

 

 

 

空は相変わらず雲1つない。だけど風もなかった。

 

 

 




最初の冬夜君のくだりで1000字超えたよ。あそこは遊びで書こうと思っただけなのに…………。

あの最初の部分の元ネタ(というか丸々パクった)が何かわかっていただけたら、嬉しーです!解答を感想欄に書いていただけると祈っております!!!


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11話 STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜

1〜3話のタイトルを変えました!1話目はRADWIMPSの『前前前世』。2話目は絢香の『にじいろ』。3話目はGReeeeNの『雨唄』という曲のタイトルです。4〜10話も曲名に変えていきます!


side優人

 

俺は健に借りた自転車をこぎだした。日差しが容赦無く俺を襲う。汗をかいているが、拭うことすらどうでもいい。

 

向かうのは病院。今から病院に向かって、また学校に戻るとなると、ライブはギリギリかな。

 

沙綾がすんなりと学校に行くと言えば、余裕で間に合うが。

 

 

 

正直、可能性は限りなくゼロに近い。

 

それでも、行かなくてはならない。

 

俺はこの件に関しては大した関係者なわけではない。

 

だからこそ、向かうのだ。

 

他人だからこそやってあげれる事があると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沙綾は高校生にしては大人びて見える。

だけどその実態は、自分のやりたいこと…………つまり自分自身を押し殺していただけに過ぎない。

確かに、そういう人間を大人だというのかもしれない。

 

でも、沙綾はまだ大人じゃない。

 

もっと高校生らしくていいはずなのだ。

 

それに、自我を捨てないと大人にならないのならば、大人になんかなりたくない。

 

 

 

だって、そんなの自殺行為と同じだから。

 

ならば、沙綾の行動も自殺と同然だ。

 

沙綾は今日、香澄達のバンドに入らないと、恐らく二度とドラムは叩かなくなるだろう。

 

そうすればきっと、山吹 沙綾という人間は死んでしまう。

 

 

 

side沙綾

 

私は缶コーヒーの空き缶をゴミ箱に捨て、母さん達の所に戻ろうとした。歩きながら、スマホを開くと、メッセージが入っていることに気づいた。

私はメッセージを再生し、そっと耳に当てた。

 

『沙綾?香澄です。お母さんどう?さーなん泣いてない?じゅんじゅん元気?沙綾、大丈夫?…………カフェはね、大成功!みんなすごいの!お客さん、パン美味しいって!お持ち帰りする人もたくさん!エヘヘ』

 

香澄の言葉を聞いて、文化祭がうまくいっているとわかり、安心した。

 

『沙綾?沙綾に電話してるの?』『マジ?おーい!』『おーい!』『沙綾?』『こっちは任せて!』『お母さん大丈夫?』『パン美味しいぞ!』等々、クラスメイト達の声が聞いてきた。

そのまま、みんなの声がして、結果的にメッセージは終わった。

 

二件目のメッセージを再生すると。

『もしもし?こっちは大丈夫。すごく楽しい。すごく、すごく、すっごく!だから、ライブも頑張るね!沙綾に届くくらい頑張るから!』

不覚にも泣きそうになる。昨日、あんな事があったのに……。

 

『それから、歌詞、沙綾の家に届けたよ。沙綾とみんなで作った歌。よかったら、読んでね』

ここでメッセージは終わる。

スマホをポケットに入れ、その代わりに今朝、家に届けてあった香澄からの手紙を取り出す。未だ未開封のその手紙を私は開く。

曲名は《STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜》。

私はその場に立ち尽くし、ただただ歌詞を眺める。

すると、優しく風が吹く。

香澄からの手紙には雫が落ちていた。一滴ではなく、私の気持ちに比例し、数はどんどん増えていく。

手紙を強く握りしめ、思わず呟く。「香澄……」と。

涙は止まらない。止める方法はわかっている。でも、それはできない。

 

「沙綾」

不意に後ろから声をかけられる。振り向くとそこには母さんと弟達の姿があった。

 

「行って」

母の口から出たのはその3文字だけだった。でも、その言葉の意味は自然と汲み取ることができた。

しかし、私は首を横に振る。

 

 

私にはできない。もう、二度と。

 

 

すると母さんはまた、口を開き、話しかけた。

「沙綾は優しいね。お母さんにもみんなにもすごく優しい」

そう言いながら近づいてくる。

 

「その優しさを、もっと自分に向けて」

母さんはそっと、優しい声で言う。

それでも、私はーー

「……できないよ」

 

「沙綾ならできる。1人じゃないんだから」

その言葉に気付かされる。私は1人ではなかったことに。香澄からの手紙を三度、強く握る。

 

「さーながいるから、大丈夫」

紗南が私の左手を持つ。

 

「俺も」

純もそう言い、右手を掴む。

 

 

 

私は決断する。

また、涙が浮かんでくる。少し溜めて、

「なんか私、全然ダメだね」

私の言葉に母さんはそうっと返す。

「行ってらっしゃい」

「「行ってらっしゃい!」」

母さんに続き、2人も言ってくれる。

 

私は小さく深呼吸をして、

目を開け、

母さんをまっすぐ見て、

「行って来ます」

 

 

 

私は走り始めるたとえ間に合わないとしても。それでもいい。だって、後悔したくないから。

スマホをポケットから出し、昨日、おたえが送って来た曲をイヤホンで聴こうとする。

 

 

 

 

 

「沙綾!!!」

 

 

不意に声をかけられる。若い男の人の声。一年前、私はこの声がなければ、もっと苦しんでいただろう。この声の主が私を楽にしてくれたように思っているから。

だから私は呼び返す。

 

 

「優人先輩!!」

 

 

 

side優人

 

俺は自転車を必死でこいでいた。時速はチャリとは思えない速さになっていた。

あと少しで病院に到着するということろで、その病院から出て来た人物がいた。俺はその人を学校に連れて行くためにここまで来たのだ。だから、名前を呼ぶ。ありったけの大きな声で。

 

 

 

「沙綾!!!」

 

「優人先輩!!どうしてここに!?」

沙綾は俺がここにいる事を疑問に思ったようだ。まぁ、そうだろうな。だけど、、

「今はそんな事どーでもいい!後ろに乗れ!」

 

「は、はい!!」

自転車の2人乗りなんか見られたらメンドくさい事になるが、それすらもどうでもいい。

沙綾が後ろに乗ったら俺は再びデカイ声を出す。

「しっかり掴まってろよ!!」

 

 

 

俺は自転車をこぎ続けているし、沙綾が乗った分、重くなっている。でも、向かっている時とはもう一つ、明らかに違う点があった。

 

それは、風が吹いていること。

先ほどまでの無風とは打って変わって、とても心地が良い。

まるで後押しをしてくれているような感覚に陥った。

 

このまま学校まで大した距離はない。俺はスパートをかけた。時間も余裕にある。でも、沙綾は今聴いている曲しか叩けないはずだ。俺にはその曲がいつかはわからない。

 

だから、1秒でも早く!!

俺は風にそう願った。

 

 

 

side沙綾

 

私は香澄達の曲を聴きながらも別の事を考えていた。

私は今、優人先輩の自転車の後ろに乗っている。つまりは抱きついているのだ。

全く、呆れるというか、何というか。この人はホントに優しい人なんだ、と感じてしまった。先輩自体も香澄達のライブの直後にステージに出るのに、それを構わず私を迎えに来てくれた。そして今も、こうして自分のためではなく、私のために必死になってくれている。自分の事を御構い無し。

いつもふざけてばかりに見えて、誰よりも優しく、人のために懸命になる。

私は先輩のそんなところにーー。

 

「沙綾、着いたぞ!」

先輩のセリフに無理矢理思考を止められる。

「あっ、はい!」

私は自転車から降り、走る。そして先輩が背後から声をかける。心強くて、優しい声を。

 

「行ってこい!!!」

 

はい!!

心の中で答える。

 

そして、体育館の入り口まで駆けて行く。しかし、そこで立ち止まる。なぜならそこにはなつ達の姿があったから。

早く中へ入りたいが、それ以上に彼女らへの謝罪をすべきだと思った。

でもなつは私の言葉を遮り、私とバンドをやれて楽しかったと言ってくれた。そしてドラムの子がスティックを貸してくれる。

 

 

そして私は扉を開いた。

 

 

 

side優人

 

……これで良かったんだよな。

心で呟く。俺なんかが出しゃ張らなくても沙綾は素直になり、俺が病院に着く前に走り出していた。俺は、何かしてやれたのだろうか?

あの状況において俺は沙綾を学校まで連れてっただけだ。本当に大事な事は俺が気付かせたわけではない。ならば誰が?その答えはとっくにわかっている。

香澄だ。

あいつしかいない。結局俺は何にもできなかった。…………でも、沙綾が前へ進めれたなら、それでいい。

 

と考えつつ、俺は健の自転車を駐輪場に戻す。すると後ろから。

 

「お疲れ様」

声を聴き、俺は反射的に振り向く。すると、目に入ったのはペットボトルだ。俺は驚いたが難なくキャッチする。

コーラだ。そしてこれを投げた人物は。

 

「お前なあ、炭酸投げんなよ」

 

「ごめんごめん。でも、丁度飲みたかったんでしょ?」

陸だった。こいつはよく俺のことを理解してんな。確かに俺は汗をかいたため、炭酸飲料が飲みたかったのだ。

俺はそれを一気飲みして。駐輪場にある自販機の横のゴミ箱に投げ入れる。

 

「春はどうした?」

 

「ああ、春ならクラスメイトの子達とライブを見に行ったよ」

 

「そうか。なら、俺らも行くか?暇だし」

 

「別にいいけど、休まなくていいの?」

 

「もう大丈夫だよ」

 

「OK。なら行こうか」

そうして俺も体育館へ向かう。

 

 

 

体育館に入るとまだ香澄達の演奏中だった。曲はわからないからオリジナルだろう。

確か来ないだ曲名を教えてもらったような……。あ、思い出した。『STAR BEAT!〜ホシノコドウ〜』だ。とは言ってももう既にサビに入ってるからもう終わるかな。

香澄達もこの曲が終わったら、あと一曲くらいだろう。そして次は俺達だ。なので、陸に言いステージ袖に行こうとする。恐らく春もいるだろう。

 

しかし、頭では別の事を考えていても、《Poppin'Party》の曲が耳に流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

まぶた閉じて 諦めてたこと

 

いま歌って いま奏でて

 

昨日までの日々にサヨナラする

 

 




評価、お気に入り登録、感想お待ちしております!!


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11.5話 いつかきっと

ナオト・インティライミの『いつかきっと』です。
番外編です。。冬夜君の恋模様を描こうかなぁ。冬夜君のヒロインは見てのお楽しみですよ。

4〜7話のタイトルを変更しました。
4話は嵐の『Happines』です。なんか明るい曲だから、ドキドキにあってるかなと解釈しました。
5話は中川翔子の『空色デイズ』。香澄とおたえとの部室での練習はこの曲です。恐らく文化祭でも歌ったのだと。。
6話はコブクロの『未来』。優人君が聴いた健君の曲はこれだったのでしょう。


side冬夜

 

文化祭1日目。

俺は今、休憩中だ。と言っても、1人虚しく歩き回る以外にする事がねーけど。女子達に一緒に回ろうと誘われたけど、あいつらの事あんまりしらねーからなぁ。。そういうわけで1人なのだ。

まあ、他にも理由がなくは無い。それは俺に好きな人がいる、ということだ。しかし、困った事に向こうは俺の事なんかミジンコぐらいにしか思っていないだろう。そもそも俺の存在を知らないかも。。

その人とは中3で同じクラスになったのだが、ハッキリ言うとあまり話した事がない!なんかいつもキョドッちまうんだよなぁ。それでもクラスが別々になってもたまに見かけたからな。向こう側は見つけてくれてないだろうけど。

だから、その人と一緒に文化祭を回れたらどんなに幸せだろうか……。例えばこの廊下の向こう側から1人で歩いて来るなんてこと、ないかな。

………………ないよな。

 

その事だけに頭を使っていからか、俺は下を向いて歩いていた。すると、誰かにぶつかってしまった。

 

「あっ、スミマセン………!」

 

そこにあるのは柱だった。

もしや俺の想っている人では……と少し期待した自分が恥ずかしい!

 

「柱になんか謝って、変な人ね」

突然、後ろから微笑混じりに声をかけられた。いや、名前は呼ばれてないけど柱にぶつかったのは俺くらいだろうからさ。

そして「誰だ?」と思いつつ振り返る。と言っても、この声は……

 

「し、白鷺!?」

あちゃー!やっちまったー!1番見られたくないところを1番見られたくない人に見られてしまった!!

 

「下を向いて歩いてたら、次は転げるわよ」

 

「えっ、あっ、いや!………き、気をつけます」

またしてもやっちまったわ。あーもう!なんでこんなにすぐキョドるんだよ俺は!他の女子なら大丈夫なのにぃ!

そう、俺が密かに想いを寄せている人物は今、目の前にいる白鷺 千聖だ。

とはいえ、この恋は叶わない。彼女は芸能人で、アイドル。俺は一般高校生。住む世界も違うし、アイドルは恋愛ができないし。だから、この想いは誰にも打ち明けないと決めていたのに……。なんで文化祭の日に限って。しかも白鷺は1人だし。

 

「……白鷺、1人なのか?松原とかは?」

 

「花音なら、後輩の子達に連れて行かれたわ」

へー。松原って後輩に知り合いがいたんだ。……って、今はどうでもいい!つ、つまり今、白鷺は1人って事か?なら、俺が誘ったらワンチャン…………。

思い切って言ってみよう。

 

「な、ならさ。お、俺と一緒に回らないか?」

 

「えっ……」

 

「あっ、いや!そういうんじゃなくて!俺、1人だからさ!」

 

「でも、噂とかになったりしたら……」

 

「いくらアイドルでも校内で男子と文化祭回る程度なら大丈夫だろ?」

いける。いけるぞぉぉぉ!!

 

「いえ、そうじゃなくて。漣君は噂になってもいいのかしら?」

あ、そうくるの……。いや、でも白鷺と噂になるのは願ったり叶ったりだ!

 

「お、俺は平気だぜ!今までにもそういうのあったし……」

これは本当の事だ。体育祭で二人三脚でペアになった女子と噂になった。くじで決めたのになんであーなったんだろ?

 

「まあいいわ。じゃあ一緒に回りましょ」

よっしゃああああああああああああああ!!!!!

超超超嬉しい。涙出そうだわ。

「でも」

 

「ん?」

まだ何か心配事があるのか?

 

「くれぐれも彼氏ヅラはやめてもらえると……」

えぇぇ。ガンガン彼氏ヅラするつもりなのに。こんなチキンの俺が想い人を誘えれたんだから彼氏ヅラくらい……。しかし、ここでOKしとかないと絶対に俺の気持ちがバレる。それだけはまずい。ならばこの申し出を受け入れるしかない。

 

「OK、そもそもそんな事俺みたいなチキンにはできねーよ」

うわー、自分で言ったくせに傷つくわー。

 

「ありがとう。じゃあ、行きましょ」

こうして白鷺との文化祭が始まった。

 

 

 

その後は時間があっという間に過ぎていった。

お化け屋敷に行き怖がる白鷺を見れたり、メイド喫茶に行き少し気まずくなったり、ダーツを全部真ん中に的中させようとしたら全然別の方に飛んでいったり、などなど。

 

ホントにたくさん笑った。

距離も縮まったかな。

 

「はぁ、この時間がいつまでも続けばいいのに……」

 

「今何か言った?」

 

「あ!いや、なんでも無い!」

そう言うと白鷺は首を傾げて、不思議そうに思っていた。その仕草、可愛い!!!

ホントにこの時間が永遠になれよ!

心からの声だ。しかしそんな事が起こるわけもなく、今から体育館で優人達のライブを見たら俺の休憩時間は終わる。はあ、鬱になりそうだわ。

そして体育館に到着した。

優人達のバンドが丁度始まったところだ。どうやら一曲目はオリジナル曲のようだ。

そして二曲目はカバー曲だった。曲名は『いつかきっと』。なんかこの曲、すっごい『青春』な曲だから俺、この曲好きなんだよな。そう思っていたら、

 

「え……?」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「今『好きなんだ』って言ってたから……」

 

「…………へ?」

えっと……。え?えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!まじか!声に出てたのかよ!!早く訂正しないと……。しかし俺の口は開かず、無意識に彼女の手を取り、体育館から出て行き、別の場所に移る。あまり人気の無いところに俺は行った。そして俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、俺、好きなんだ!お前の事が!」

 

 

いや、俺何言ってんの!?こんな事、言うつもり無いのに!!

 

「初めて同じクラスになった時から好きだ!」

止まれ!止まれよ俺の口!しかし俺の意思とは裏腹に、

 

「お前の……君の声が好きだ。演技が好きだ。いつも、どんな役でもこなして。そこに俺は魅了されたんだ」

まだ止まらなかった。

「クラス替えして、別々のクラスになってからも、ずっと目で追いかけてた!」

止まれない。そして最後に。

 

 

 

「好きなんだ!!」

 

 

 

俺は白鷺の顔を覗き込む。

そこには明らかに困っていた白鷺がいた。

 

「…………ごめんなさい」

 

「……………………そう……だよな」

わかっていた。こうなる事はわかっていた。なのに俺はなんで告白なんかしたのだろう……。でも、後悔はしていない。

 

「なあ、因みに白鷺がアイドルじゃなかったら俺と付き合ってくれてた?」

俺はこの質問を投げかけたのは少しでも希望が欲しかったからだ。

 

「……いいえ」

…………だよな。脈ナシに決まってる。わかってた。わかってたんだ。

 

「わかった。ごめんな、時間とって。俺、そろそろ休憩終わるから戻るな。それと…………」

俺はそこで一旦区切ると、

 

「?何かしら?」

俺は白鷺の目をまっすぐ見て、右手の人差し指を立てて向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかきっと……いや、絶対に『好き』って言わせるからな!!」

俺はそう言い残して教室に戻って行く。その道中。

何言ってんだ俺ぇぇ!!!クッソ恥ずい。あれじゃあナルシストじゃん!あれじゃあホストじゃん!!絶対ドン引きされたよな〜。

あー、もう。絶対気持ち悪い奴って思われたよ。

 

 

 

side千聖

 

「いつかきっと……いや、絶対に『好き』って言わせるからな!!」

そう言い残して漣君は帰って行った。

特に彼には好意を抱いていなかった。どちらかと言うと、見た目は遊んでいそうだなとも思っていた。

なのにあんな純粋でベタな告白をしてくるなんて……。

 

「不意打ちだわ……」

以前と変わらず漣君には恋愛感情は抱いていない。でも、少しだけ気になる存在になっていた。

 

お芝居でなら恋愛ものなんて幾らでもした事あるのに、現実で告白するとこうも違うなんて……。人ってあんなに真剣な表情で顔を紅くできるものなのね。

 

「あっ!千聖ちゃん!」

背後から私を呼ぶ声がする。

 

「花音!」

そこにいたのは友人の松原 花音だった。

 

「こんな所でどうしたの?」

花音が質問を投げかけてくる。

 

「ううん、何でも無いわ。……ただ、少し面白くなりそうだから」

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

俺は優人に、白鷺に告白した事を話した。

「はあ!?告白した!?お前が!?白鷺に!?」

 

「う、うん。悪いかよ」

 

「いや、悪くねーけど。……以外だなって」

 

「え?なんで?」

 

「いや、お前の事だからそんな度胸ないだろって思ってたからさ」

 

「うぐっ……!」

どストレートに言ってきやがって。

 

「それはお前にも当てはまるだろ?優人」

 

「残念ながら、俺に好きな人がいた事はないし、これからもできるはずがない」

 

「……なんでそこまで言い切れんだよ」

 

「さぁな、もしかしてゲイなのかもな」

 

「えっ!!」

 

俺は思わず距離をとる。

 

「ハハハ、冗談だって。ただ、俺は誰かと一緒に人生を歩むつもりがないだけさ」

 

「…………高校2年生が何言ってんだよ」

 

「俺には誰かと歩み寄る権利なんか無いって事だよ」

 

「フーン、変な奴だな」

 

「お前には言われたく無いな。それより、なんで白鷺が好きなんだ?単にビジュアルか?それなら他にもいたんじゃないのか?」

 

「いや、ビジュアルとかじゃなくって。彼女の演技に惚れたんだ。白鷺の演技が、表情がとても綺麗で愛おしく思えたんだよ」

 

「フーン。で、気付いてたら恋に落ちてたと」

 

「うん、まあ、そんなとこだな」

 

「……………………」

 

「…………なんで黙り込んだんだ優人?」

 

「いや、青春してて羨ましいなぁって」

 

「お前も俺と同年代だろ」

 

「まあ、そうなんだけどさ……」

そう言っていた優人の顔は儚げだったことに俺は気付いていなかった。



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12話 Rally Go Round

まだ文化祭のお話です。取り敢えず、文化祭での優人君達のライブをかきます。
タイトルはLiSAの『Rally Go Round』です。恋のキューピッド的なのをイメージしたから……。


side優人

 

ステージ裏。香澄率いるポピパが今、最後の一曲を歌い終わり戻って来た。

 

「あ!先輩!」

ステージから戻って来たばかりの香澄がこちらに気付いた。

 

「よお、いいステージだったぞ」

俺は香澄、おたえ、牛込、市ヶ谷、そして沙綾を見渡して言った。

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

そう言い残して5人は去って行った。

 

「さてと、じゃあ俺らもいくとしますか!」

俺は陸と春に言う。

 

「そうだね!」

春は言い返してくれた。しかし陸は無言で右手を俺と春に差し出した。その行動が何をしたいかはすぐにわかった。春は陸の手の上に手をかざした。

そして俺も、手に手をかざした。

「いくぞ!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

珍しく陸が「うん」ではなく「ああ」と言った。

そして俺達は袖からステージに登場する。それだけで観客は香澄達の時以上に声を出し、盛り上がった。ここで俺は更に煽る。

 

「学祭、盛り上がってるかーー!!!」

すると、他のどのバンドよりも既に観客が多かった。なんか申し訳ない。今から歌ってもっと盛り上げるつもりだから、ホントに申し訳ない気持ちになった。

 

一曲目、これはオリジナル曲だ。これはいきなりトップギアにするような曲のため、ハッスルしすぎて声がもう枯れそうだ。でも、次も俺が歌う。因みにカバー曲で『いつかきっと』だ。この青春ソングは文化祭にピッタリすぎるからな。

三曲目はオリジナルで、陸がメインボーカルだ。陸の声は俺に比べてややキーが高い。なので、陸が歌うと同じ曲でも違う印象を与えることもできる。

そしてMCに入る。

 

「あー、どうも。《Full Bloom》です!メンバー紹介いきます!ベースボーカルの春!」

春は派手にベースから音を出した。「キャー!!」と観客側から聞こえる。

 

「続いてドラムの陸!」

陸も春に負けないくらいデカイ音を出す。すると「キャーーーーー!!!!!!」と観客からの黄色い声援が送られてきた。

 

「そして俺、ギターボーカルの優人だ!」

三度黄色い声援が飛んでくる。

 

 

 

side蘭

 

先輩達の演奏を見ていると、早く追いつきたいといつも感じてしまう。でも、その差は歴然で、縮まるどころか開く一方だった。たまに優人先輩に練習を見てもらっているのになぜだろう。

やっぱり魂だろうか。

優人先輩の演奏はいつも全力で、見てる側は鳥肌が立つほどだ。普段はヘラヘラしてて、陽気な人なのになぜあそこまで熱のこもった演奏ができるのだろうか。

 

すると、隣にいたモカが、

「蘭〜、ゆーと先輩ばっかり見てるけど、ホントゆーと先輩のこと好きだよね〜」

そう、いつも私は優人先輩だけを見ている。なぜかいつも心惹かれてしまうのだ。その理由はわかってる。

 

 

 

「うん、いつも周りに笑顔を振りまいてる優人先輩も好きだけど、あんなに楽しそうに演奏してる時の、真剣な表情も…………好き」

 

「フウー。蘭ったらだいた〜〜ん」

 

「え?私、今、声に出てた?」

 

「うん、出てたよ〜」

モカのその言葉を聞いた瞬間に、耳まで真っ赤になっていくのがわかった。思わず私はその場にしゃがみ込んだ。

 

 

 

side優人

 

そしてMCは春に交代して、

「じゃあ4曲目、LiSAの『Rally Go Round』!」

俺達は演奏を始める。この歌も恋愛感の強い曲だ。恋愛系を選ぶとそれ自体が青春ソングに聞こえるのだから、必然的にこういった曲が多くなる。

 

その後は陸がMCを担当し、五曲目、六曲目も終わらせて俺達の文化祭ライブは終わった。俺達がステージを去る時にはこの文化祭ライブ1番の盛り上がりだった。もはやこれ以上は無いと思わせる程までに。

 

「ありがとーーーー!!!」

そう言い残し、舞台袖に戻る。

 

「あーー、まじで疲れたわー。喉枯れる」

今日俺が歌った曲数は3曲。春は2曲で、陸が1曲だ。なので俺の喉は死んでるに等しい。

この後のクラスのシフト、サボっていいよな。サボっていいに決まってる。クラスの男子供、俺の分までしっかり稼いでくれよ!

 

 

 

時間は過ぎて、特にやることも無くなった。陸は花咲川の生徒でないため、もう帰ってもいいのだが、残って俺と一緒に屋上にいる。

俺は地べたに腰掛け、柵にもたれかかっている。陸も立ってはいるものの、俺と同様に柵にもたれかかってる。

 

「ホントにサボって大丈夫なのかい?冬夜にまた怒られるでしょ」

 

「あいつが怒った時の対処法はマスターしてある」

 

「あはは」

陸は俺の発言に苦笑いで返す。

 

「なあ。話は変わるけど明日の後夜祭、結構な人数が参加するらしいぞ」

 

「へぇ、僕達の企画なのに集まってくれるのは嬉しいな」

そう、後夜祭は生徒会や学校側が運営する行事では無い。なので昨年は無かったのだが、今年は俺達が企画し、申請した。まさか本当に申請が通るとは思っていなかった。この後夜祭の目的は新曲のミュージック・ビデオを撮ることだ。そして、俺達の演奏が終わった後にフォークダンスがある。相変わらず、男女比がおかしいの女子同士で組むペアもあるだろう。つまり、ガールズでラブな光景が見られるだろう。

 

「明日のフォークダンス、陸も参加するのか?」

 

「いいや、僕は遠慮しておくよ。ここの生徒でもないし。踊る相手もいないし」

 

「春と踊ればいいじゃん」

 

「え?」

陸が何故かそんな間の抜けた声を出すので俺も思わず

 

「え?」

 

「いや、優人が春と踊るんだと思ってたから」

 

「はぁ?なんで俺があいつと?」

 

「いや、1番仲良い女の子って春でしょ?」

 

「まあ確かにそうだが、あいつとの間隔は幼馴染?というか親友?というか。とにかく、あいつとはそーゆー仲じゃないさ」

 

「そっか。良かった」

ここで何が良かったのは聴かないでおこう。恐らく、陸は春の事が好きだ。そして俺の予想だと、春も陸の事が好きだ。そんな両想いの2人と一緒にバンドを組んでる俺っていったい……。

つーわけで、俺はこいつらの恋のキューピッドになろうと思っているのだが、こいつら超奥手すぎる!会話量が少ないとか顔が紅くなったりという事はあまり無い。だから進展も無い!!いつだって似たような会話しかしねーし、2人で遊ぶ事もあるそうだけど手繋いだりとか無いみたいだし!そもそもこいつら自分の気持ちに気付いてねーんじゃないのか?陸はさっき「良かった」と言ったが、それでも自分の気持ちに気付いていない。春も春だよ。陸の事は普段からカッコいいとか、俺に比べて大人っぽいとか言ってるくせに全く自分の気持ちに気付かねー!!

俺は今までに何度も2人にいいパスを出したのに2人はゴールを決めるどころか、パスの存在にも気付いてくれない……。俺って恋のキューピッド失格なのかな?

 

「それにしても、ここから見る夕日も中々に絶景だね」

陸が不意にそんなことを言い始める。

俺は立ち上がり、真っ直ぐに太陽を見つめる。そして思わず口から言葉が溢れた。

「ああ、俺も結構気に入ってるんだ。羽丘も屋上から夕焼け見えるのか?」

 

「うん。今度、夏休み明けに文化祭があるから見るといいよ」

 

「そうしてみるよ。ライブついでにな」

 

「いやー、なんか今から楽しみだなぁ」

 

「おいおい、それより前に明日もライブあるし、夏にはデカイフェスにも出場するんだから、気が早ぇよ」

 

「あはは、そうだね」

 

バンッ!!

唐突に大きな音がする。恐らくドアが開かれたのだろう。俺達は見事にシンクロしながら扉の方に振り返る。

 

「ここにいたんだ!全く、探したんだよ2人とも」

そこには春の姿だった。

 

「どした春?」

 

「もう一般客の人は皆帰ったから、皆で軽く打ち上げしようって」

 

「え?明日も文化祭だよね?」

ここの生徒でない陸が訊き返す。しかし、俺も疑問に思った事を代弁してくれた。

 

「いや、私もよくわかんないけど、なんかそういう雰囲気になっちゃったんだからしょうがないでしょ」

なんだよそれ。気分が大分アゲアゲなんだな。

 

「じゃあ、僕は帰るとするよ」

 

「あ!陸君も来てもいいって」

 

「「え?」」

関係の無い俺まで声をあげる。

 

「ライブ出てたからなんか来て欲しいってクラスの皆が」

 

「あー、なら逃げられないな。ドンマイ陸!」

 

「いや、別に逃げようと思ってたわけじゃ……」

しかし陸の言葉を俺ではなく春が遮る。

「なら、早く行こ!」

 

そうして俺達は綺麗な夕焼けの元、クラスメイトの待つ教室へと3人並んで向かった。

 




文化祭は2日間あるという設定なので、学祭の話はまだ終わりません。次の話で後夜祭の話をして文化祭編は終わりたいです。


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13話 君に届け

陸君の自己紹介です!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「初めまして。僕は桃月 陸、高校2年生だね。
今、僕はスリーピースバンドを組んでるんだ。
2人とも個性的で、面白くて、
本当に大切な親友だと思ってる。
僕が優人をバンドをやろうと誘ったのが始まりなんだけど、
今思えばよくあんな事を言えたなぁって思うよ。
でも、今ではあの時優人を誘ったのは正解だったと思うよ。
じゃないと僕は多分後悔してたからさ。
なんか話それたかな……。
というわけで、応援よろしくお願いします」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

バンド:Full Bloom

パート:ドラム

学校:羽丘学園

学年:高校2年生

誕生日:2月13日

星座:みずがめ座

好きな食べ物:海の家の焼きそば、たこ焼き、抹茶系のお菓子

嫌いな食べ物:無し

趣味:映画鑑賞、読書、天体観測

自己紹介:優しくて、常に穏やか。頭脳明晰で日菜と一位争いを度々繰り返しているが、2人とも全教科満点のため、決着がつかない。運動はできる方。あまり自分の事は話そうとせず、大人びている。基本的には会話の輪に入ろうとせず、暖かく見守る。


昨日の文化祭ライブ以降、大した出来事もなく文化祭2日目も終わっていった。

残すところ、後夜祭のみ。後夜祭までの時間は主にクラスで片付けをする時間だ。

優人はその間、クラスの仕事をサボった事がバレ、正直に謝ると、クラスメイトは「演奏が最高だったから許す!」と皆口を揃えて言った。

そして、一昨年や去年と同様に、多くの女子が優人に告白をしてきた。おそらくこの2日間で50人は超えていた。

そして、今も優人は呼び出されていた。校舎裏で話があると言われた優人。まだ告白とはわからないが、この流れは告白だと超絶鈍感王の優人でもわかった。

ただ、相手は3年生だったので、優人は強く物言いはできないし、相手も腹をくくっているので、自分もまじめに答えるつもりだ。

 

「ねえ、後輩君。私の事、どう思う?」

相手はテニス部員で、スタイルも良く、顔も綺麗な先輩だった。誰から見ても魅力的だろうが、優人からしたらそんな事は関係ない。何故なら答えは最初から決まっているからだ。

 

「別に、綺麗だと思いますよ」

 

「じゃあ、その……」

 

「?どうかしたんですか?」

 

「お、女の私から言わせるつもり……!」///

 

(って言われてもなぁ。俺、先輩の事あんま知らないし。第1、俺は告白しないし。俺から言う事があるとすれば『スミマセン』くらいなんだけど……)

 

そして、この場には優人と3年生の先輩以外にもう1人いた。丸山 彩だった。たまたま、優人を見かけたので声をかけようと思ったが、告白の雰囲気だったので、見守っている。

彩はこの状況を楽しんでいいのかどうかわからなかった。

 

「あの、俺から言う事は無いんですけど……」

 

「…………じゃあ、私から。………………好きです。付き合ってください」

 

 

 

 

 

ズキン

 

 

 

「…………スミマセン。俺、恋愛とかは」

優人は頭を下げる。

 

「ううん、わかってたから。じゃあね」

そう言うと、先輩は去って行く。

優人も教室へと戻っていった。

 

しかし彩はその場から動いていなかった。

彩は優人の告白を見て何を思ったのか、俯いていた。優人が告白される前は他人事のように眺めていたが、優人が告白された瞬間に胸がざわついた。明らかに『ズキン』という音が聞こえた。

 

 

 

(なんでだろう。……なんでこんなに胸が痛いの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎて、いよいよ後夜祭。これが終われば本当に文化祭は終わる。優人は、陸は、春はステージに上がり、それぞれ準備をする。

優人はスタンドマイクを握り、

 

「文化祭、最後まで盛りあがろうぜ!!!」

 

次に春が、

「最後まで楽しもー!!!」

 

陸も、

「さあ、〆にしよう!!!」

 

そしてMCは春に戻り、

「一曲目!《君に届け』!!」

 

3人は演奏を始める。

最後まで文化祭を楽しんでもらうために、そして、自分達が最後まで楽しめるように。前奏、Aメロ、Bメロ、サビ。春はフレーズを次々とリズムに合わせて並べる。

 

(ああ、この時間も、もうすぐ終わる)

おそらく、演奏を聴いている人達はテンションが上がっているが、こんなことも頭の片隅で考えていただろう。

そして、優人も。

 

(これが終わったら、残すところ、来年のあと一回か……)

 

気付けば一曲目が終わっていた。優人は無心で演奏していたので、陸に小声で名前を呼ばれるまで放心していた。そして、二曲目に入る前に再びMC。

 

「みんな、いよいよ二曲目、、最後の曲だ。今から歌うのは新曲だけど、みんなが盛り上がる事を期待してる。だからさ…………もっと燃え尽きようぜ!!!」

観客側からは大きな歓声が生まれた。

 

二曲目が始まる。

殆どの生徒が参加していた後夜祭。プログラム自体は30分程度のものなのに、記憶にハッキリと残るだろう。少なくとも優人はそうだ。自分達で企画したイベントがこんなにも大成功するのは嬉しい事この上ない。

 

(だけど、運営側は疲れるからもうやりたくねーな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二曲目も終わり、文化祭の最終プログラム。

フォークダンスだ。

男子の人数は明らかに少ない。だから、もちろん男子の争奪戦になり、逆に男子は選り取り見取りになる。そにで例外なのは陸ただ1人のはずだった。なんと陸は他校生にも関わらず、花咲川学園の生徒にダンスのお誘いがきていた。しかし陸は断っていた。先日、優人に話していたように、やはり参加しないのだろう。それを先読みした優人は、

 

「陸、春。お前ら踊ってこいよ」

 

「「えっ!!」」

 

「いや、なんで驚いてんの?」

 

「いや、僕と春が!?恥ずかしくて無理だよ!」

 

「そ、そーだよ優人!それに陸君にも迷惑だし!」

 

「でも、このまま踊らないと陸には誘いが来る一方だぞ。その方が陸は困るんじゃねーの?だけど誰かと踊ってれば、誘いは来ないだろ」

 

「そ、そういう事なら……!」

 

「ち、ちよ!春!?優人の口車に乗せられたらダメだよ!」

 

「ならば陸、俺と踊るか?」

 

「…………あー!もう!わかったよ!」

陸は決心をする。

そして春の目の前に立ち、右手を差し出す。

 

「春、踊ろ」

陸の頰が赤いのは、キャンプファイヤーのせいなのかはわからない。しかし、春も赤くして、

 

「……うん」

と言って陸の手を取る。

優人はそんな2人を見送り、1人になる。

 

「……さてと。俺はどうすっかなぁ。俺を誘う奴なんかいないだろうから、自分から誘ってみるしかないよな」

優人のところにおそらく女子が群がるだろう。問題は優人がそんなはずはないと思っていることだ。優人はこの2日で多くの女の子に告白され、その全てを振ったというのに未だに自分のルックスを認識できていない。

なので彼は辺りを見回して、フリーな人はいないかと探す。しかしながら殆どがペアを組んでいる。女子同士の量が多すぎるが。

 

「校内に誰か残ってたりしないかな?」

優人はそう呟き、校舎に入る。流石に教室とかには誰もいないと思ったのか、階段は素通りした。向かったのは職員室だった。

しかし職員室の入り口には誰もいないし、室内から出てくる気配も無い。

 

「仕方ないか、1人虚しくダンスを眺めてーー」

 

「ゆ、優人……君?」

刹那後ろから声が聞こえてくる。

優人は女子の声だと気付いた。そして、振り返る。

 

「おお!花音じゃん!久しぶりだな!」

優人に声をかけたのは松原 花音だった。2人は高等部1年の時に同じクラスでそれなりに仲が良かった。

 

「ひ、久しぶり……だね。ライブ……見てたよ」

 

「ああ、サンキューな。それより花音はどうして職員室に?」

 

「あ……私、教室の鍵を返し忘れてて。それで……」

 

「そういう事か。ところでお前、1人か?」

 

「うん。そうだけど……どうかしたの?」

すると、優人は安堵の笑みを作って、

 

「丁度良かった!花音、俺と踊らないか!?」

 

「…………えぇ!?」

 

「ん?何か問題あったか?それとも嫌か?」

 

「えっ!……いや、その、……私でいいのかな?」

花音が質問する。優人はその問いに答えるべく、口を開く。

 

「何言ってんだよ。花音がいいんだよ」

その発言に花音は顔を真っ赤にする。

 

「ゆ……優人君、あんまり今の言葉……言わない方がいいよ……。勘違いするから……」///

 

「じゃあ、花音も勘違いしたのか?」

一層花音は顔を赤らめる。耳まで赤い。ここまでくると優人はわざとやっているようにしか見えないだろう。実際彼はわざとやってるのだし。

 

「ハハハ、ごめんごめん。なんかいじめたくなっちゃうんだよな」

 

「ひ、ひどいよぉ……」

花音は少し涙を浮かべた。

 

「わ、悪かったって。それより、俺と踊るの?踊らないの?」

 

「う…………うん。お……踊る……」

花音は優人の誘いに乗った。

 

「OK花音。じゃあ、行こうか」

そして2人は鍵を返した後、グラウンドに戻って来る。優人は手を差し出し。笑顔を作り。

 

「踊ろうぜ」

花音は優人の手に触れる。すると優人は強く握りしめ、リードする。2人はこの時間を楽しんだだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

春とは別々に帰っていた優人と陸。

2人はいつも通りの会話をして、いつも通りの2人だった。だが、不意に優人が言う、

 

「俺達はあと1年半と少しで卒業するんだよなぁ」

すると陸は驚いた顔をして、何事か?という顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな笑みに戻り。

 

「そうだね。でも、それが普通なんだよ。……青春時代はいつか終わる」

 

「ああ。……でも、俺らの関係は終わらないよな?」

 

「何言ってんの。当たり前じゃないかそんなの。たとえ音楽を、バンドをやめても僕らはずっと変わらないよ」

陸がそんなことを言うと、優人は安心の表情の中に悲しみを見せた。

 

「だよ……な。………………お前はいつも俺の横にいて、それは死ぬまで続く。でもって、死んだ後も墓は隣か?」

 

「ハハハ、そ、そこまで考えるのは気が早いよ。……でも、そのくらい固い絆で結ばれてたいな」

 

「ああ…………俺もだよ。でもさ……」

優人が口籠る。陸は優人の異変に気付き、問いかける。

 

「どうかした?」と。

 

「なら……さ。『バンドをやめても』とか言うなよ…………」

優人は俯き、悲しい声で言い放った。

 

「も、もしもの話だからね」

 

「《もしも》そうなるのが俺は嫌なんだよ」

優人はこういうところが自分の短所だとわかっていた。しかし陸はそうなことは気にしていない。そして、少し声を大きめに言う。

 

「君がやめない限り、僕もやめないよ」

優人は顔を上げ、真っ直ぐに陸の方を見据える。そして次に優人が声を発する前に、陸が続ける。

 

「だから安心しなよ。信じなよ。僕達の絆を。…………そんなことより。ほら、1番星が見えるよ」

 

優人はその時、いつもの笑顔を取り戻したいた。

 

「ああ、そうだな……!」




どうしよう。問題がこの話で二つも……。
一つ目は優人君が他にもフラグ建ててたことです。まあ、これはまだいいんですよ。

問題は二つ目ですよ。

そう。陸君のヒロイン感が強すぎるんですよ!そういう結末を想像してたつもりは無いのにな……。

今のところ、タグに『ボーイズラブ』を追加する予定はありません!断じてありません!!!


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14話 イマジネーション

質問です。
バレーボールと言ったら何が思いつきますか?
もちろん「ハイキュー‼︎」ですよね!
なのでタイトルは1番最初のOPの《イマジネーション》です。


side優人

 

スポーツという言葉は人によって意味が変わる。主流としては健康のための運動だろう。しかし、スポーツには大会というものがあり、健康という枠からはみ出している。スポーツのしすぎで熱中症になったり、骨折などの怪我もしばしば。健康の二文字とは真逆だ。ならば、なぜそこまでしてまでスポーツをするのか。

 

それは自分の限界を知り、もっと伸ばすためだ。

 

「自分には限界があるからムリだ」と弱音を吐く人間は限界なんか見た事ないのにそんなセリフを吐く。

 

ならば、今、俺の目の前にいる他クラスの男子は、俺に宣戦布告をしてきた男子もそうなのだろうか。

 

ここで、花咲川学園の体育の授業の仕組みを話しておこう。

この学園では男子が鬼のように少ない。笑えるほど少ない。死ぬほど少ない。キモいほど少ない。絶望するほど……え?しつこいって?いいだろ別に!前回は三人称視点だからふざけられなかったんだからよ!

コホン。

男子と女子が分かれて行う体育の授業は他のクラスと合同でやるのだ。でないと男子の人数が……な!そして、合同するのは大体隣同士のクラスだ。その隣のクラスの男子・六兎 俊(ろくと しゅん)が俺にバレーボールで宣戦布告をしてきたのだが、これも限界を超えるためだろうか。自分の限界を知るために俺と比べようと言うのだろうか。なるほどな、俺を物差し代わりにしようってことか。

 

「人を物みたいに言いやがって!」

俺は自己解釈で出した答えを六兎にぶつける。

 

「うおい!急に怒ってどうした優人!?」

 

「お前の目論見通りにはさせないからな!俺は全力で全力を出さずにプレーする!」

フッ。こうすれば俺と比べてもなんの意味もないぞ。本気を出さない俺と比較しても無意味だからな!

 

「待て待て待て待て!なんでそうなったんだよ!俺が宣戦布告したんだから、全力でかかってこいよ!」

 

「だからこそだ!お前のシナリオをぶち壊してやる!」

 

「…………優人、お前なんか誤解してるだろ?」

六兎が聞いてくる。てゆーかなんでコイツ俺を名前呼びしてんの。コミュ力高ーな。

 

「誤解なんかしてねーよ。俺と比べようって魂胆だろ?」

 

「なっ!?お前、気付いてたのか?」

 

「まあな。簡単なことだよワトソン君」

すると六兎は俺の制服の襟を掴み。

 

「ちょっと来い!」

おい!俺のボケをスルーするなよ。もっとツッコミがほしい!

そんな俺を六兎は引きずり、人気の無い場所へ連れてきた。

えっ。ちょっと落ち着けよ六兎君。俺達男同士。でもって人気の無い場所。2人きり。。。おい!俺、ゲイじゃないからな!(←前回ラストにBLぶっ込んだ張本人)

 

「なあ優人」

 

「ひゃ、ひゃい!」

あかん、呂律が回らん。俺死亡だわ。俺の純白は今から……。

そして、六兎が口を開く、

 

 

 

「俺、お前の彼女の櫻井 春ちゃんが好きなんだ!!」

 

 

 

ここでクイズのお時間です。

上のセリフから間違いを探しなさい。

3、2、1、

正解は「お前彼女の櫻井 春」でしたー。ここ、正しくは「お前のバンドメンバーの櫻井 春」だからな。

それではまた来週〜。

(終)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや終わってたまるかーーー!!!

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!

ちょっ、待てよ!

どーゆーことダッ!俺の彼女?はぁ?違うし!なんだし!

 

「ちょい待て六兎。俺と春は付き合ってない。アンダースタン?」

 

「はあ?気ぃ使わなくていいぜ。結構有名な話だし」

 

「はあ!?有名な話だと!?その話、もっと詳しく!!!」

 

「お前と春ちゃんは校内1のカップルだとか、爆発しろとか色々な噂あるぞ。あと、もうヤッたとか……。ヤッたのか?」

 

「ヤッてねーよ!」

待てい!なんで当事者の俺がその噂知らねぇんだよ!

 

「ほ、ホントか!?」

 

「ああ、そぅだよ!ヤッてねーよ!それ以前に付き合ってねーよ!」

 

「もう隠さなくていいぜ」

あー、もう!コイツがめんどくせー!コイツ邪魔なんだよ!なんなんだよ!

 

すると六兎は俺を指差し、

「だから必ず俺が奪うから。そのためにも、まずはバレーで勝つ!」

カッコつけて去って行った。

…………いや、ふざけんなよ!てめーのせいで面倒くさい事になったのに何カッコつけてんだよ!!

 

「…………どうする咲野 優人。童貞16歳」

俺は1人呟く。不幸にも次が体育だ。サボろう。

…………いや、待てよ。

 

 

 

そして体育の時間。俺は結局授業に出る事にした。

六兎を見つけたので俺は、

 

「おい六兎。もう一回言っとくぞ。俺と春は付き合ってない」

 

「もういい。俺は全力でテメェを潰すだけだかんな」

あーはい。やっぱり聞く耳持ってないな。ならば俺は本気を出さない事に全力を尽くすとしますか。そしたら誤解は解けないが、俺をライバル意識しなくなるだろう。運悪かったら、敵意をぶつけられるようになるかもだけど。。

 

そしてゲームスタート。俺はコートに立っているものの、やる気がないとクラスメイトの男子に前もって話したため、俺は期待などされていない。そして俺もボールを触る気すらない!!

そして何回かローテンションして、俺が後衛に回った時に事件が起きた。

俺はもうやる事がないだろうと思っていた。なので欠伸をする。なぜかその間に敵の六兎が打ってきたサーブが俺をめがける。

当然俺は気づいていない。

何が言いたいかって?

 

俺は今、顔面サーブを喰らってぶっ倒れてんだよ!!

 

「優人!大丈夫か!」

俺らのチームのセッターの冬夜が駆け寄り、聞いてくる。

 

「ああ、大丈夫だ。それより、、

 

 

 

 

 

 

俺は今から本気出すぞ」

 

敵の六兎は謝るどころか、ニヤニヤしている。クッソ。あの顔面ウザいな。ぜつてー一泡吹かせてやる。

もう一度六兎のサーブが飛んでくる。

また顔面を狙って来やがった。

しかし俺は巧みにオーバーハンドでレシーブをし、綺麗な放物線を描きながら冬夜の頭へ落ちていく。冬夜はセットアップの構えをして飛ぶ。

 

「冬夜!」

俺は名前を呼んだ。これがどういう意味かはわかるだろう。もちろんトスをよこせということだ。俺は冬夜がトスをこちらにあげる前から助走を始め、冬夜が俺の思い通りのところにトスを上げてくれた。俺は踏み切り、ジャンプする。速攻だ。バレー部員ならば俺程度の速攻はいとも簡単にとってしまうが。今の敵のブロッカーは全員素人。反応できても体は追いつかない。

そしてブロックがない=俺の視界が明白(クリア)になることを意味するので、容易に六兎に標準を定めることができる。そのままフルスイング。俺のスパイクは六兎を追った。もちろん顔面、

 

 

 

ではなく、男の子の急所だ。あいつは俺の見事なレシーブからの華麗なセットアップ。そして完璧な速攻に呆気にとられて呆然としていた。

 

「くらえ!」

 

俺の右手がボールに触れる。その瞬間に

 

バシン!!

という音がした。狙い通りのコースにボールはかなりの速度で飛んでいき、見事に六兎 俊のアレを玉砕した。

 

勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!wwwww

 

 

 

その後も俺と冬夜の見事な速攻で点数を狩り続けた。結果は圧勝と。因みに六兎にはもう2、3発急所めがけたから途中から見学してたねww。

噂をすれば、その六兎が俺の方へやってきた。

 

「完敗だ。お前には負けたよ。でも、まだ諦めないからな!」

だからお前は滑ってんだよ!いちいち言動が恥ずかしいぞ、お前!これを読んでる皆様からしたら、お前大分恥ずかしいぞ!!

 

「だから俺達は付き合ってないって」

 

「隠すなよ!そういうのが1番傷つくんだ!」

なんで熱くなってんだよ。そろそろ滑りすぎてひくぞ。キャラが固定されるぞ。お前、滑り担当になるぞ。

 

「あーはいはい。わかった。めんどくせーから手っ取り早い方法にするか。六兎、ついて来い」

 

「は?」

俺は六兎の髪を引っ張って行く。

 

「ちょ、髪じゃなくて襟にしろよ!」

 

「ウルセー滑り担当!黙ってついて来い!」

もう決定しちゃったね滑り担当。ドンマイ六兎君。

 

俺達は、というか俺は春の机へ向かった。ペットを連れて。

 

「なあ、春。お前って今付き合ってる奴いんの?」

俺が春に聞く。

 

「ん?どうしたの優人?そんなこと聞くなんて珍しいー」

 

「まあ、答えてくれ」

 

「いないよ」

春は俺の期待した答えを言ってくれる。助かったー。

 

「ほら六兎、これでわかっーー」

 

「ホントに彼女いないの春ちゃ……櫻井!?」

あ、コイツ今「春ちゃん」って言いかけたな。

 

「う、うん。そんなにがっつかなくても……てゆーかなんで六兎君?だっけ?がここにいるの?」

 

「え!?あ!それは!そのあれだよ!」

あ、コイツ誤魔化すの下手くそだな。しょうがない、助け舟を出してやるか。

 

「ほら六兎。もういいだろ。帰った帰った」

 

「ああ!じゃあな!」

明らかにテンション上がってんなー。

 

「なんだったの?」

春が俺に聞いてくる。コイツは何も知らないから気が楽だよなぁ。俺がどれだけ苦労したと思ってんだ。

 

 

 

昼休憩。

いつものメンバーで飯を食ったあと、俺と冬夜は自販機まで来ていた。

俺は100円玉を挿入口に入れ、抹茶ラテのボタンを押す。冬夜はいちごオレを買っていた。俺達はそれを飲みながら教室に戻っていた。

 

「なあ冬夜」

 

「なんだ?」

 

「俺と春が付き合ってるって噂を聞いた事あるか?」

俺はどれくらいこの噂が広まっているのか聞きたくなった。春は男子の少ないこの学校でもかなり告白されてるそうだから、今後も六兎みたいなのが現れる可能性がある。

 

「あーその噂か。1年くらい前に学校中で話されてな」

 

「ん?」

 

「でも、今じゃ2人は付き合ってない事は全生徒の共通認識だな」

 

「んん?」

 

「なのに何で優人は今更そんなことを聞いてきたんだ?」

 

「待て、冬夜。今の話は本当か?事実か?現実か?」

 

「あ、ああ」

なるほど、噂に疎いのは俺ではなく六兎だったという訳か……。なーんだ!そーゆー事だったのかー。ハハハ。

俺は笑顔で持ってた紙パックを握りつぶす。

 

「ゆ、優人?」

 

「悪い冬夜。ちょっと用ができたわ」

 

「あ、ああ。わかった」

俺は近くのゴミ箱に空きパックを投げ入れ、走り出す。目指すのは教室。しかし俺のクラスの教室ではない。みんなもどこかわかるよな!もちろん!隣の六兎をしばき上げて血祭りにするんだよ!

顔は笑いつつもこめかみに怒りマークが浮かんだ事は分かっていた。

 

はい到着。

俺は他クラスに行く事は滅多に無い。なのでなんだか視線を集めている。

 

「あ、ごめん。六兎呼んでくれないか?」

俺はクラスの女の子に声をかける。

女子と話したかったからじゃないからな。六兎を呼ぶためにしょうがなくね。女子が多いから仕方ないだろ!

それにしてもなんで今の子少し顔を赤らめたんだろ?

 

すると、窓際で友達らしき人物達と会話していた六兎が来た。

 

「どうした優人」

 

「今って時間あるか?」

 

「ああ、大丈夫だが……」

 

「ちょっとついて来い」

俺はそう言い、六兎の右足を掴み引きずる。

 

「ちょ!優人なんかさっき以上に扱いヒデェよ!」

 

「知るか!お前が悪いんだ!」

俺はそのまま体育館まで引きずった。昼休憩は体育館は使用が自由になっているため、バスケ、バレー、バトミントンなどができる。

俺はバレーボールを一つ拝借して、

 

「六兎、俺のサーブを受けてみろ」

 

「はあ?なんでだ?」

 

「後で俺と春の噂を誰かに聞いてみろよ。そしたら理由はわかるだろうからな」

 

「まあいいや。さっきの仕返ししたいしな!」

だから全部お前が悪いのに、よくカッコつけられるな!噂に振り回された挙句、人に顔面サーブ喰らわせたのによ!

 

「じゃあいくぞ」

俺はバレーボールを高く上げる。そしてハイジャンプし、叩きつける勢いでスイング。六兎に狙いを定めて飛んでいく。

しかし六兎はアンダーでレシーブしてくる。まあ、来るってわかってたら取れるよな。

 

「ハッ!どうだ!」

はあ、この後起こることを想像したら、最高に滑ってるぞお前。

俺はレシーブされたボールにタイミングを合わせてジャンプする。そうして再びフルスイング。俺と六兎との距離は2メートル弱だ。これは避けれないな。俺はスパイクをコイツのアソコに叩きつける。

 

「グヘッ!」

六兎は吹っ飛ぶ。かろうじて意識はあるようだ。

 

「お、おい優人。……お前、……本当に人間か?…………やってることが血の通う人間の行動じゃねぇぜ…………」

 

「六兎、お前は後で俺と春の件について友達に聞いたら、なんでこんな目にあったか理由はわかるだろうな。じゃあな!」

 

そして放課後、六兎は渋々謝りに来た。

 

 




書きました!昨日の今日なのでクオリティ低いかもです。。。


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15話 SISTER(前編)

タイトルはback numberの曲ですね、確か。この曲を選んだ理由は本編をどうぞ。


side優人

 

ここ最近で色々な事があった。

ガールズバンドの聖地・SPACEがもうすぐなくなること。《Poppin' Party》のギターボーカルの香澄が歌えなくなったこと。それを5人で乗り越え、見事オーディションに受かったこと。などなど、色々あるが、これらは全て俺の身に起こったことでは無い。そもそも俺にイベントなどは起きるわけがない。

 

そう思っていたのに、

 

「いやー、ごめんね優人。一度優人の家に来てみたかったから」

 

「それにしても連絡の一本くらいよこせよな

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

 

今、俺の借りてるマンションの部屋の扉を開けた所に、我が姉・咲野 舞衣(さきや まい)が立っていた。普通に美人なのだが、やはり姉弟なので欲情する事など無い。

 

「でも、なんで急に来たんだよ」

 

「今言ったじゃない。優人の生活ぶりを見に来たのよ」

 

「ホントは観光目当てだろ?」

 

「うぐっ!……で、でもお母さんから頼まれて来たから……」

 

「わーったよ。とりあえず上がったら?お茶くらいは出すよ」

 

「お茶しか出ないの?」

 

「…………菓子も出すよ」

はあ、なんで姉ちゃん来たんだよ……。ま、久々に顔見れたからいっか。そんな事を思いながら姉の荷物を持ってやる。

 

「それにしても、中々立派なマンションに住んでるんだね〜」

 

「まあな。父さんは俺を家から追い出すためならこれくらい痛くも痒くもないだろ」

そう、俺は父親から嫌われている。正確に言えば俺を奇妙に思っていた。俺との会話を極力控え、俺を見るときは妖怪でも見るような目で見ていた。そんな父から離れられて心底嬉しかったし、今でもその気持ちは変わらない。ただ、一つ心配な事がある。

 

「その……母さんは大丈夫か?」

 

「うん。元気だよ。優人が出てった頃は大分やさぐれてたけど、今では平気になったみたい。…………でも、たまに悲しそうな顔するからちゃんと電話するのよ。優人、出てったっきり私以外には連絡を一切しなかったでしょ」

 

「ま、まあな。俺もあのころは色々大変だったんだよ。引っ越したばっかだから土地勘とかも色々あるし、1人で転校手続き殆どしたし。……………………それに、何より精神的に辛かったし」

 

「確かに優人がどれだけ辛かったかはわからないけど、連絡しなさいよ。お母さんどれだけ心配したと思ってーー」

 

 

 

 

 

 

「1人になりたかったんだよ!」

 

俺は強く怒鳴る。そんなつもりは無かったのに。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……」

なんで姉ちゃんが謝るんだよ。俺が明らかに悪いのに。

 

「それより立ってるのもキツイだろ。座ったら?」

 

「うん」

短く返事を返した姉はソファに静かに座った。俺はお湯を沸かし、紅茶を淹れる。それに客人用のクッキーを皿に盛って、ソファの前のテーブルに置く。

姉はカップの取っ手を握り、一口分口に含んで喉に運ぶ。カップを皿の上に戻すと、さっきの重い空気からは打って変わって。

 

「優人、彼女できた?」

 

「ブハッッ!!なっ!何聞いてんだよ急に!!」

 

「えー?何?弟の恋路を聞いちゃダメなの?それとも図星?」

 

「い、いるわけねーだろ!」

 

「えー。一緒にバンド組んでるあの超絶美少女は?」

え?この人も俺達のバンドの動画見てんの?

 

「俺と春はそういう関係じゃねーよ」

 

「へー、あの子春ちゃんっていうんだ。まあ優人とは釣り合わないよね」

聞き分けが良くて嬉しいがサラッと俺がけなされたな。

 

「ああ、俺みたいなブサメンに彼女がいるわけねーだろ」

すると、姉ちゃんは驚いた表情になる。え?なんで?俺、変な事言った?

 

「優人、本気で言ってる?」

 

「?もちろん本気だけど?」

 

「あんた告白されたことは?」

 

「何回もあるぞ」

 

「それでもブサメンって言い張るの?」

 

「だって、どうせ罰ゲームかなんかだろ?」

 

「…………ハァ。あんたに惚れた子達は大変だろうね」

 

「?どういうことだ?」

 

「もっと自分を知りなさいってことよ」

 

「はいはい。それより姉ちゃんの方はどうなんだよ?まだ処女か?」

 

ドスッ

気づくと俺は腹パンさせられていた。いつの間に。早すぎる。

 

「優人、実の姉にそんな事をよく恥ずかしげ無しに聞けるね」

 

「まあ……な。…………デリカシーがないのは俺の専売特許だから……」

ダメージがまだ大分残ってるし、痛みが中々引かないし。相変わらず、うちの姉は化け物だわ。

 

「ま、結局は処女なんだけどね〜」

 

「答えるなら殴るなよ」

 

「いや、さっきのは殴らるのは当然だから」

 

「彼氏は?」

 

「いないよ」

 

「姉ちゃんもう20歳だろ。それで経験ナシどころか彼氏もいないって危機感持てよな」

 

「大丈夫大丈夫。言い寄ってくる男はいっぱいいるから」

 

「あ…………さいですか」

心配して損しーー

 

 

 

 

 

「なら、優人なら初めてをもらってくれる?」

 

「ブフッッッ!!ゲホッ!ゴホゴホ!ちょ、何言ってんだあんたーー!!」///

 

「心配するならヤろうよ」

 

「あんた頭沸いてんじゃないのか!?」///

 

「優人はまだ童貞?」

 

「よし!病院行くぞ!姉ちゃんは絶対熱だ!!」

俺はソファから立ち上がる。だが、姉ちゃんに手を掴まれた。そのまま引っ張られ、結果的に俺が押し倒したような体勢になった。

 

「あの?これはアウトなんじゃ……」///

 

「優人は私とじゃ嫌?」

 

「嫌とかそういう問題じゃないなら!俺達姉弟だから!」

 

「へえ、先に私に処女かどうか聞いたのは優人じゃない」

 

「うっ…………」

言い返せない。俺が明らかに悪いなこれは。

気づくと姉は俺に顔を近づけてきた。

 

「えっ!?あっ!その……!お姉様!?!?」

俺の慌てた声には耳を貸そうとせず、あと1ミリというところまできた。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!

 

「プッ」

 

「へ?」

 

「プハハハハハハハハハハ!!」

 

「ちょ!?姉ちゃん!?」

 

「優人ってやっぱり馬鹿だね!弟に発情するわけないじゃん!」

………………………………………………まじかよ!!

まあ、どうにかして逃げるつもりだったけど。それなりにキスの覚悟は決めてたのによ。

 

「ハァ……そろそろ本題に入ってくれよ、姉ちゃん。何か話があって来たんだろ?」

 

「あ!そうだった。実は……」

急に真剣な雰囲気になるので、テンションに合わせるのが疲れる。しかし、それでもちゃんと聞こうと思った。

 

 

 

パンッ!

 

と乾いた音がした。まるで手を鳴らしたような。てゆーか実際に手を鳴らしたのは姉なんだけど。

 

「本題は後回しにして…………ちょっと観光したいから案内してよ」

本当にこの人は無邪気というか掴めないというか……。

 

「わかった。けど大した場所ないぞ。…………駅前のショッピングモールに行く?」

 

「ショッピングモールって……観光したいんだけど」

 

「だから名所的なのが無いからしょうがないだろ。東京っぽいところに行きたいんなら時間も結構かかるぞ?」

 

「わかった。でも何か一つくらいめぼしいところはあるよね?」

 

「ああ、ショッピングモールから少し歩くけど、有名なケーキ屋があるんだ。結構雑誌にも載ってる店だぞ。そこに行ったらいいだろ?」

 

「奢り?」

 

「…………自分で買えよ。大学生」

というわけで俺達は出かけることになった。つってもあのショッピングモールで買い物するとなったら俺は絶対荷物持ちだな。そしてケーキも奢らされる羽目になるんだろ、どうせ。どこのパシリだよ俺は。

 

 

 

そしてバスで目的の駅まで移動する。

「もうすぐ着くぞ」

俺は一声かけて立ち上がる。姉ちゃんも遅れて同じ行動を取る。俺達はショッピングモールの敷地内のバスセンターでおり、早速入店する。

 

「さてと、どんな店に行きたいか?」

 

「んーー。まずは服かな?」

 

「ここに服なんて腐るほどあるから、見れきれないぞ」

 

「じゃあオススメの店は?」

姉ちゃんは近くにあった案内図の方まで行き、どこ?と聞いてきた。

 

「えーっとねー。……て、俺が女性服のオススメの店なんかあるわけないだろ!」

 

「えー。てゆーか男性ものの服もイマイチ理解して無いでしょ。流行に疎そうだもんね」

あ、バレてましたか。そりゃそうだよな。だって俺、全身真っ黒コーデだぜ?ファッションなんか興味ないし。別に陸とか春とかもそういう知識ないから気にしないし。そもそも似合ってるからいいだろ。…………似合ってるよな?ダサくないよな?

 

「じゃあテキトーに回ろうかな」

そうして本当にテキトーに回ったので時折変な店にも入ってしまった。靴紐専門店みたいなのもあったな。「千種類以上の靴紐が、ここにある」って言われても違いが分からん。オーダーメイドとかあったが、最近の靴紐もすごいんだな。けど、1番やばかったのは普通にランジェリーショップだったな。俺は入りたく無かったのに無理矢理入店させられた。周りからの視線がすげー痛かった。俺ずっと下むいてたよ。あとは普通に買い物してたけど、楽しかったな。荷物持ち以外は。

 

「じゃあ次どこ行く?」

ハッキリ言うと、俺が行く店は楽器店とCDショップと本屋とゲーセンしかない。

 

「ゲーセン行くか?」

 

「オッケー。優人には負ける気はしないかな」

 

「まあ、俺はゲームはスマホでしかやらねーからな」

 

 

 

そしてゲーセンにて。

 

「どうして…………私が……優人なんかに………。優人なんかゴミなのに……」

いくら負けたのが悔しいからってゴミはないでしょ!ゴミは!

俺達はエアホッケーで負けた方がジュースを奢るという罰ゲーム付きでやったわけだが、結果は俺の5勝0敗。ここまでくるとなんだか申し訳ない。その後、太鼓の○人やマ○オカートもしたが、俺が全勝。計ジュース三本程度かな。でもゲームのプレイ料金全額俺持ちだから、結局のところ俺が赤字。

 

俺は缶のサイダーを片手に持って、

「次はどっか行きたいところあるか?」

 

「んー。もう特に無いかなぁ」

 

「じゃあ、さっき言ってたケーキ屋に行く?」

 

「うん。いいよー」

そのケーキ屋とはこのショッピングモールから徒歩10分くらいで着く。そこのケーキが中々に絶品で、このモール内や周辺のお店からはケーキ屋が他に無い。確かに、一度陸と春と食いに行った時はビビった。

そんなわけだから、俺もまあまあ楽しみなのだ。

だが、人生甘くは無い。この後、いや〜な出来事が起こるが、この時は想像すらしてなかった。

 

 

 

ケーキ屋に向かう道中。

 

「あれっ?あー!やっぱり先輩だー!!」

後方から聞き覚えのある声。この時、他人のフリをしてればよかったのに、思わず振り返ってしまうのが人間だ。

振り返ると知り合いの姿があった。それは2人で、両方とも後輩だ。とりあえず、俺と姉ちゃんの関係を誤解するだろうな。それはしょうがないのだが、よりによってコイツらかよ……。

 

後ろにいたのはなんとも口の軽そうな香澄とおたえだった。こちらに手を振っている。

何という悪運だろう。人の話を聞かない奴と天然な奴って。

俺は呟く。

 

「……ゲームオーバーだな」

 




一様、次回に続きます。お楽しみに!!


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16話 SISTER(後編)

まあね、はい、前回といえば、優人君に姉がいたという明らかな後付け設定がありましたね。
まあ、僕(作者)がイメージした優人君のお姉さん・舞衣はどういうキャラクターにしようかは《優人君よりヤバイキャラ》って決まってました。ヤバいかどうかはわかりませんが、優人よりはぶっ飛んでいたと思います。弟にあんな風に誘ってくる美人の姉って……そんなの現実にいねーよ!

そんな舞衣さんは今回も優人君を困らせます。



(後半はシリアスもどきですが)


side優人

 

現在の状況をおさらいしておこう。

隣には姉。そして背後には口の軽そうで頭のネジが抜けてる後輩2人。その2人は俺に姉がいることを知らない。さて、勘違いされたらめんどくさいぞ。

取り敢えず笑顔で取り繕う。

「よ、よお香澄。おたえ。ど、どうしたんだ?2人だけで?」

うん。ナチュラルだね。

 

「「優人先輩」」

 

「ん?どうした?」

いや、うん。ほんとは何言うか分かってるから言わなくていいよ。誤解だからな。

 

「「笑顔ひきつってますよ」」

………………………………そこかよ。

今、どーでもよくね?いや、姉ちゃんのことをスルーしてくれるなら、それは不幸中の幸いだけど。

つーか、コイツらのシンクロ率がクソ高いな。頭の中身が一緒だろ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

「「それと、彼女さんですか!?」」

 

 

 

ここでかよ!!

タイミング、ゼッテーおかしいからな!よく俺の笑顔の話からその話まで変えれたな!荒技すぎるだろ!

てか!目キラキラさせんなよ!絶対楽しんでるな!

そして俺の隣の人!!あんたなんでずっと微笑んでんの!?焦ったりしないの!?いや、俺も外見は焦ってないように見えるだろうけど!内心クッッッソ冷や冷やしてんだからな!

取り敢えず、否定の言葉を言っておこう。

 

「いや、ちがーー」

 

「そうだよー」

おいこら!咲野 舞衣ぃぃぃぃいいいい!!あんたなんなの!?そこまで俺をいじり倒したい訳!?流石My sisterだなぁ、おい!

 

「優人先輩!綺麗な人ですね!」

香澄、お前にうちの姉の頭の中身を見せてやりたいよ。そしたら、そんな祝福の言葉も出なくなると思うからさ。

 

「どっちから告白したんですか?優人先輩、再現してください」

…………おたえさん、今の質問には3つの間違いがあったぞ。

1つ。まずは「どっちから?」と聴いてるくせに俺から告白したと判断し、再現を求めてることだ。

2つ。告白というリア充のイベントを俺がするはずがないということだ。

3つ。そもそもコレ、うちの姉だから!俺の言い分を聞いてくれよ!!

 

「おいお前ら、言っとくけど、コレ姉だからな」

 

「「…………またまた〜」」

 

「なんで信じてくんねーの?」

俺の信用度ゼロかよ。。結構心にダメージだ。後輩から信頼がないのは悲しいことこの上ないぞ。

 

「ひどい!家では私を床に押し倒して、あんなことをしたのに……」

 

「テメェ殴るぞ」

姉だろうともう関係ない。そろそろ殴らせろ。第一、いかがわしいことなんか無かっただろ。でも姉ちゃんの発言でコイツら2人はまた勘違いするんだろうな。

 

「ねえ、おたえ。押し倒すって姉弟喧嘩でもしたのかな?」

 

「さあ、そんな言葉使わないからわかんない」

 

あ、コイツら、無知だわ。そーゆー知識が全くない純粋な生き物だ。俺も大してそーゆー知識持ってないけど。

とにかく、助かったってことだよな。いやー、安心したー。

 

「押し倒すっての意味はね、S○Xしたってことよ」

 

……………。完璧に詰んだ。詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ詰んだ。

うちの姉はなんでこんな風になったのだろうか。弟としてなんか嫌だ。もっとまともな姉が欲しい。

だって、ダイレクトにS○Xとか言う姉なんか!!もー嫌だ!僕帰る!

いや待て。最早香澄とおたえが絶句してる。これは完全に信じ込んでるな。なんで俺の言葉は信じないのに、今日初めて会った姉ちゃんの言葉は受け入れるの!?つか、このハイテンション&天然の2人組を黙らさせるなんてよく考えたらすごいわ。って素直に感心できねーよ!

 

「姉ちゃん、そろそろやめてほしい。もう精神的に限界が」

うん。ここまで来ると疲れるわ。

 

「わかったよ。じゃあ、2人にネタばらしするから」

 

「ああ、頼んだ」

そう言って姉ちゃんは石化していた2人に事情を話していた。

 

数分後。

「で、誤解は解けた?」

 

「ええ。バッチリ」

 

「なら良かった。因みに何て言ったんだ?」

 

「『ごめんね2人共。実は私と優人は姉弟なの。ほらコレ、身分証。あ、優人とエッチしたのは本当だから』って」

うん。ストップ。問題が1つしか解決されてないよな。しかも姉弟でそーゆーことしたって思われてるだろうし。今度学校で誤解を解くのが面倒くさい。

 

「もーいいや。それより早くケーキ屋行こうぜ」

 

 

 

その後、姉とケーキ屋に到着しそこでケーキを味わい、マンションに帰った。うまかったなぁ。また今度食べに行こう。

 

「ところで姉ちゃんは今日、うちに泊まってくのか?」

 

「ええ。そのつもりよ。優人の家だから何しても構わないから」

 

「ふざけるな」

ああ、今日でどれだけ疲れた事か。それなのにまだ俺を困らせるか。もう休ませろよな。

 

「まあそんな下らない事、どうでもいいや。それより昼の続きは?」

 

「えっ?昼の続きって押したーー」

 

「そこじゃねーよ。姉ちゃんが今日、俺に話しに来たことだよ。《本題》のことだよ」

 

「ああ、あれね。聞きたいの?」

 

「まあ、そりゃな」

 

「わかった。でもその前に変な質問をしていい?」

目の前に座っている姉の目は急に真面目に変わった。相当深刻な内容なんだろうな。

 

「いいけど」

 

「じゃあ、優人。あなたにーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友はできた?」

 

なんでそんな質問を?と俺は聞き返そうとしない。なぜなら今の質問で姉ちゃんが今日俺に会いに来た本当の理由と、今日ふざけていた理由が全てわかったからだ。会いに来た理由は俺の人間関係を知るため。俺をおもちゃにしてた理由はこの後の展開を考えると気が重くなるから、笑っておきたかったのだろう。

 

「…………」

俺は沈黙を貫いた。いや、答えを探していた。

 

「嫌なら答えなくてもいいよ」

姉ちゃんはそう言ってくれる。でもこれは答えなければならないのだろう。

俺には確かに親友がいる。

俺は心を決め、口を開く。

 

 

 

「いや、できたよ」

 

 

 

「そう。なら、ここからが本題。その子は1()()の親友?」

 

!!!

俺はこの質問が来ることを恐れていた。正直自分の中で答えが出てるわけでもなく、解答を見つけ出そうという気もない。けど、そんな俺の気持ちとは正反対に脳が俺の記憶から答えを導き出そうとする。

 

春か?

ーーいや、違う。

 

冬夜か?

ーーコイツも違う。

 

クラスメイトか?

ーー丸山達でも無いな。

 

蘭?Afterglow?

ーーいや、蘭達も否だ。けど惜しいな。羽丘か?

 

となるとやっぱり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸」

 

俺は口から思わず陸の名前が漏れた。

 

「その子が1番の親友なの?」

 

再び答えに行き詰まる。けど、やっぱり

 

「…………ああ、俺らのバンドのドラマー。桃月 陸は俺の1番の親友だ」

 

俺は言い切る。でも本当は、心にはまだ迷いがあった。

 

 

 

「ふーん。本当にそう思ってるの?」

 

やっぱり姉ちゃんは鋭い。やっぱり頭いいんだな。いや、俺の姉だからか。

 

「……………………ああ、思ってるよ」

 

「じゃあ今の間はなんなの?」

 

「…………」

 

…………。

最早俺の頭も心も、

 

思考も感情も、

 

記憶も思い出も、今の質問の答えは導き出せない。

 

「なんでそんな意地悪な質問するんだよ」

 

「…………わかったわ。質問を変える」

 

「そうしてくれると助かる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優人の生きる理由は?」

 

 

 

ーーこの人は俺という人間の核心を突いて来る質問しかしない。

 

ーー本当に嫌な人間だ。

 

ーーでも憎めない。なぜなら俺のために聞いているのだから。

 

「俺の生きる理由は…………誰かが俺の…………いや、あいつの歌声を待っているから……………………」

 

 

 

すると姉ちゃんは口を開いて、現実を俺に教える。

 

「今の発言からして、まだあなたの1番の親友はその桃月 陸君ではないようね」

 

ーーああ、本当は自分自身が1番わかってた。

 

 

 

「結局優人は2年前、中3の夏にうちから出て行った時から……いや、()()()()以降から何も変わっていないのね」

 

ーーそれも自分でわかってる。だから、もう言わないでくれ。

 

 

 

「優人の生きる理由はずっと過去にあるまま、変わらない」

 

ーーわかってる。わかってるから。だから、もう続きは言わないでくれ。

 

 

 

「過去を捨てろとも言わないわ。……でも、未来を捨ててるあなたは間違っている」

 

ーーもうやめろ。聞きたくない。

 

 

 

「今の優人は自分のために生きてないわ」

 

ーーやめろ。やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

 

 

 

「親友ができたなんて言ってるけど、結局あなたはひとりぼっちなんでしょう?」

 

ーー黙れよ!そんなの認めたくないけど、俺が1番わかってる!だから黙れよ!!

 

 

 

「あなたは咲野 優人じゃない」

 

ーーわかってる!俺自身がそれを望んだんだから!!

 

 

 

 

 

「あなた、…………死んでるのと同じよ」

 

 

 

「わかってるよ!!!!!」

 

俺はとうとう声を上げる。

 

 

「優人……」

 

 

「俺が1番わかってることを、俺が望んでやったことを知った風に言いやがって!!」

 

 

「じゃあ、なんでギターも続けてるの!?」

 

 

「決まってるだろ!俺がギターを弾き続けないと、あいつが悲しむんだよ!!」

 

 

「なにそれ!?ただの自己満足じゃない!結局優人は死んでなんかないじゃない!!」

 

 

「ちげーよ!!死んだんだよ!!」

 

 

「違うわ!!あの時自分が死んでれば良かったらって、ずっと後悔してるだけじゃない!!!」

 

 

「!!!……ああ、そうだよ。俺なんか死んでれば良かったんだ。俺なんかよりもあいつの方がよっぽど必要とされてたんだ。俺なんかが生きる必要なんか無かったんだ。だからずっと後悔してたんだ。家を出てから2年間、ずっと苦しんでたんだ。俺なんか死ねばいいってずっとーー」

 

 

 

パァン!!

 

 

 

刹那、頰に痛みが走る。ぶたれた。

 

 

「お前、何すんだ!姉だからっていつまでも偉そうに……!」

 

 

「ええ。私はあなたの姉よ。そして優人は弟。…………姉の私は優人に死んでほしくなんかない!誰にも必要とされてないなら、私が必要とする!だから、死んでもいいなんて、二度と言っちゃダメよ!!」

 

 

「!!姉ちゃん……!」

 

 

「それに、私以上にあなたを必要としてる人がいるんでしょ!?バンドやってるんでしょ!?ギターボーカルが死んでどうするの!?」

 

 

不覚にも心に響いた。そうだ、陸と春がいるんだ。

 

 

でも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを姉ちゃんにとやかく言われる筋合いは無い。

 

 

「ああ、そうだな。話は終わりか?じゃあ、出てってくれよ。あいにく、客人ようの布団とか無いからさ」

 

 

「!!言われなくても……そのつもりよ!」

 

姉ちゃんは持って来ていた大きなバッグを持って足早にドアの前まで行った。その時、

 

 

 

 

「ゴメンね、優人」

姉ちゃんが呟いて、出て行った。

 

 

 

なんで姉ちゃんが謝るんだよ。

一方的に切れて、それでも姉ちゃんは俺を見捨てず、前へ進めさせようとしてくれたのに。

全部俺が悪いのに。

 

明日は学校だ。練習もある。陸と春に会って一旦心の中を整理しよう。

 

俺は明日もいつも通り過ごせるだろう。

 

だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉ちゃんと喧嘩しても、何も変わってないから。




シリアスにかけてたら嬉しいなー。でも、自分で読み返すと結構ぐちゃぐちゃになってますね笑。

優人君の過去には一体何が?そして度々出てきた《あいつ》とは?

真相が明かされるまで首を長くしてお待ちください!!


◎感想、お気に入り、評価等々をよろしくお願いします!!!


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17話 世界は恋に落ちている

タイトルはご察しの通り、そういう内容です。あと、10/31にカバーがでるから……。


side春

 

昼休み。私はいつも通り、クラスの女の子達と一緒にご飯を食べていた。その際に彩がなんだか考え事をしていた。

 

「どうしたの彩?悩み事なら相談乗るよ」

私はそう声をかけた。他の子達は呑気に会話をしていたため、私の声は聞こえていないだろう。

 

「えっ!な、なんでも無いよ……!」

彩が何か隠すような言い方をした。

なんだろう、気になるなぁ。

彩がジュースを口に含んだ。私はこのタイミングでとある質問をするけど、それは後悔することになるんだ。

 

 

 

「……恋?」

 

「ブッ!」

彩が口に含んだいちごオレを躊躇なく私の顔に吹きかけた。わざとじゃ無いんだろうけど、これは汚いなぁ。

まあ、それはともあれ。

 

「図星?」

私は顔を拭きながらまた質問する。

 

「ど、どうしてわかったの……」

彩は口の周りがベトベトになっていることにも気づかないほど、動揺していた。

 

「顔に書いてあったから。……それと顔を拭こうね。女の子がはしたないよ」

世の中で1番はしたない女の子が、アイドルの卵に女の子のあり方の説教をする日が来るなんてね……。

そんなことを考えながら、彩が口を拭くのを見守った。そして、拭き終わり。

 

「相手は優人だよね?」

私は笑顔でそう言う。笑顔の理由は面白くなりそうだからかな。そして私の言った通り、相手は優人で間違いないよねー。だって赤面しちゃってるもん。

 

「…………」

 

「彩?」

急に黙り込んだので、思わず声をかけた。すると、ゆっくりと口を開き、

 

「その……わからないんだ。…………今まで恋したことなかったから。……それに、私、一様アイドルだし」

ムムム。確かにアイドルは恋愛禁止だけど、優人になら彩を任せられるんだよなぁ。(父親目線)

 

「よし!こうなったらそれが恋かどうか確かめてみようよ!」

 

「ど、どうやって?」

 

「そりゃあ、優人の家に乗り込むの!」

 

「えっ!む、無理だよ!///」

 

「大丈夫大丈夫。私も付いて行くからさ!」

そう言うと、彩は了解した。

さてと問題は優人の家にどうやって行くかだよね。家に行く口実がないと上がらせてもらえないだろうし。。

 

「あ!そうだ!」

私はとある方法を思いついた。これなら大丈夫!

そう意気込んで、優人の元へ向かう。後ろには彩もゆっくりとだけど、付いてきていた。

しかし、私は優人の元にたどり着くと、言葉を失った。

 

 

 

 

 

side優人

 

親友とは良きものだ。

いつも支え合い、泣き合い、笑い合う。それこそが美しく、爽やかさのある高校生の人間関係だと思う。

そして俺は幸運に恵まれ、親友と呼べる人間が少なからずいる。一生忘れることのないであろう、大切な時間を共有したものだ。

つまり、俺の高校生活は恋愛などに興味がなくても、順風満帆に送っていたのだ。

なのに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が悲しくて親友の土下座を見下ろしているのだろうか。

それもクラスメイト全員が見ている前で。

 

因みに、今土下座をかましているのは漣 冬夜。一様親友だ。しかし、絶交しようと思う。なぜなら次にこう言ったからだ

 

「優人様!何なりとご命令を!そして……ご褒美を!!」

 

おい待て。発言が明らかにドMの言葉じゃねーか。俺に踏んで欲しいの?ガチホモなの、お前は?

 

なぜこうなったのか……

 

それはほんの数分前のことだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、回想に入ると思ったか?

それは期待を裏切ってすみません。ただ、俺の親友がドMになってホモになったことなんて気にならないだろ?

 

それより大事なことがある。

梅雨が明け、7月の上旬になると、学校ではとあるイベントが発生する。学生諸君にはおわかりだろう。

 

期末試験だ。

 

人生のうちに、それも中学・高校生時代に何度も学生達の行く手を阻むあれだ。

 

そしてテストと言えばお決まりのイベントがあるだろう?

 

 

 

 

 

 

 

「勉強会だ!!」

 

青春モノには定番のイベントだ。そして大体は2人きりなどの場面が多い筈だ。

 

「1人、2人、3人……ハァ」

 

現実はそんなに甘くない。

つーか、なんで俺にイベントが来んの?他所でやってくれよ。そんな青春チックな漫画の主人公に俺は向いてないから。

今、部屋の中にいるのは俺以外に3人。春、丸山、そしてガチホモ。

 

「誰がガチホモだって!?」

うーわ。こいつ俺の考えてることがわかるとかいよいよ気持ち悪いな。さすがホモ。

 

「おお、ガチホモ。どっかわからないのか?悪いが俺じゃなくて春に質問してくれ。俺はそんな性癖持ち合わせてないから」

 

「だからホモじゃないからな!」

 

「あー、ハイハイ」

既に冬夜がホモだろうが興味はなかった。

 

ちなみにどこで勉強会を開いていると思うか?

ご察しの通り、ウチだ。

 

「何で俺の家なんだよ……」

 

すると俺の声が聞こえたようで、春がこちらを見てきた。

 

「理由ききたい?」

春がなんだか嫌な笑みを浮かべている。大した理由があるのだろうか。

 

「ああ、教えてくれよ」

 

「えっとねー……」

春が俺の問いに答えようとする。その瞬間。

 

「だ、ダメェーー!」

丸山が叫んだ。そして春の口を両手で塞いだ。

 

「ど、どうしたんだよ?そんなに焦って?」

 

「い、いや。なんでもないよ」

丸山はそう言い、わざとらしい口笛をした。絶対裏があるな。なるほどな。そこまで勉強に切羽詰まってたのか。

 

「わかった。理由は聞かない。ただ、おまえが勉強してないのはわかったから」

 

 

side彩

 

あれ?今、なんか変な勘違いされたよね?

絶対優人君、私が全然勉強してないって勘違いしたよね?優人君の家で勉強会を開きたい理由がバレなくてよかったけど、なんだか傷つくなぁ。

 

「で、どっかわかんない所あるか?理数系なら任せろよ」

 

「う、うん!」

はあ、やっぱり優しいなぁ。急に勉強会を開かせてもらったのに。私は申し訳なくなってきた。

 

そして数分後。

「ねえ、優人君。ここ、教えてもらえないかな?」

 

「おお、いいぜ。……あ、そこか。この問題はここを……こうして……。どうだ!」

す、すごい。私が5分くらい悩んでギブアップした問題をこうも簡単に……。

 

「これ結構引っ掛けだからな。多分テストに出るだろうから、解き方覚えといたらいいよ」

 

「あ、うん。ありがと!」

かっこいいなぁ。

なんであんなにスマートにこなせるんだろう。そんなところに惹かれる人も多いんだろうなぁ。

優人君はさっきまで座っていたところに戻っていった。私はその姿を目で追いかけていた。椅子に座り、真剣な表情でノートと向き合い始める。

 

ドキッ。

 

普段の教室などではあまり見られない、真面目な表情。いつもとのギャップが激しく、なんだか大人っぽく見える。

 

わからない問題で頭を掻く仕草。

 

シャープペンシルの頭を下唇に当てて芯を出す仕草。

 

不意にこちらの視線に気づいて微笑んでくれる仕草。

 

疲れた時に窓から夕焼けを見る仕草。

 

その後、子供みたいにやる気を出す仕草。

今日一日で、優人君の色々な顔が見れた気がする。そしたらもっと色々な顔が見たくなり、優人君に惹かれる自分に気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、これが恋なんだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

勉強会は無事に終わり、私と春ちゃんは帰路についていた。その際、

 

「それで、優人のことをどう思ってるか、気づいた?」

 

「……うん」

 

「それは恋心?」

春ちゃんが少しいたずらな笑みを浮かべて聞いた。ほんとはわかってるのに、聞いてくるなんて。。でも、相談にも乗ってくれたので、ちゃんと答えるべきだと私は思った。

 

「…………うん」

その時、私の頰は紅潮していたと思うけど、夕日でバレてないよね?と、そっと願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

side優人

 

今日、俺と春と陸は、映画館に来ていた。

 

「あー!Fate面白かったー!!」

春が大きな声でそういった。そう、皆さん忘れてると思うが、彼女は生粋のアニオタである。見た目とは打って変わって、女の子とは程遠いくらいに部屋も散らかってる。

そして今日は俺と陸も映画に付き合わされていた。

 

「全く分からなかったけど、結構面白かったな」

原作はゲームらしいが、全く分からず。アニメや小説も見たことないため、全く分からないまま、Fateという映画を見に来たのだが、なかなか面白いものだった。

 

「ああ、そうだね。今度から僕もアニメとか見てみようかな?」

陸も高評価を出していた。この映画は3部作になっているようだが、残りの2作も見ようと思った。

 

「それより、春、お前は今日で何回目だ?」

 

「7回目!」

この数字は、今見終わった映画を何回見たか、ということだ。7……か。さすがだな。俺にはとても真似できん。

 

「だって、You ●ubeで動画あげるだけで、かなりのお金が入るから有効活用しなきゃね!」

こいつの金の使い道は全部アニメとかゲームに注ぎ込まれてるんだろうな。

 

「また見る時は僕も誘ってね。面白かったし」

陸のやつ、ハマったな。

まあいいや。

俺もハマりそうだし。

 

 

 

「これだから、日本はサイコーなんだよ!」

春が元気に叫んだ。珍しく子供っぽいところを見た気がする。

でも、今日ぐらいはいいだろう。

ずっと見たがってもんな。

 

 

 

 

 

 

 

俺と陸が帰りに深夜アニメの劇場版のDVDを借りたのは別の話だ。




Fate面白かったー。
見てないなら、見ることをオススメしますよ!

◎感想、評価等々、よろしくおねがいします。


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18話 アイのシナリオ(前編)

また、CHiCOの曲。。


side優人

 

無事にテストが終わり、俺達はいつもの生活に戻っていた。練習、練習、練習の日々。ちなみにテストの順位は320人中、24位というなかなかの順位を叩き出した。

 

そして俺は練習がない日はPoppin' Partyの練習に付き合うのが日課になっていたりもする。今、演奏が終わって、俺が一人一人にアドバイスをする。

 

「香澄。テスト終わったからって張り切りすぎ。Bメロ音程ズレてたから直せよ」

 

「わかりました!」

香澄が俺のアドバイスを聞き、元気よく返事をしたものなので、「よし」と俺は言った。

 

「沙綾は全体的に自己主張しすぎかな。もう少し控えめにしてサビを強くすればいいと思うから」

 

「やってみます」

そう言ってイメージトレーニングを始め、頭の中を整理していた。

 

「牛込、お前は逆にもうちょい強く。イントロでいるのかわかりにくいぞ」

 

「は、はい!」

と言い、ベースを持ち直し、エアで引く真似をしてイメージを固めている。

 

「おたえは、そうだな……全体的に申し分ないけど、サビ前、もうちょっとみんなを引っ張るつもりでやってみたらいいと思うぞ」

 

「わかりました〜」

おたえは間延びした返事をする。コイツは俺の話をちゃんと聞いているのだろうか?

 

そして最後に、

「市ヶ谷だけど……」

そう言って、キーボードの方へ首をかしげる。

 

その方向にいたのは何故か目の燃えている市ヶ谷の姿だった。それはやる気ではなく、憎悪のような炎に包まれていた。

 

「……………………どうした?」

 

「学年1位が取れなくて少し精神が……」

 

「なるほどな」

ここでドンマイとでも言ったら、首元を噛みちぎられるだろうな。

 

「因みに1位は誰だったんだ?」

 

「確か、有紗ちゃんと同じクラスで芽吹 健君っていう人でした」

わざわざクラスまで教えてくれてサンキュ、牛込。つか、

 

「健の奴、学年1位とったのかー。今度、勉強のコツを教えてもらおう」

まあ、TOP30には入ってたからコツなんて必要ないけどな。

そんな事を考えていると、市ヶ谷がこちらを向いた。どうやら俺が健と知り合いだったことに反応したようだ。しかし何も言わずに黙っている。ただ目が怖い。健の住所教えたら事件が起きそうな気がする。。

 

 

 

不意に、

 

「お、悪い。俺のだ」

俺のスマホが音を鳴らし、電話がかかってきたのを伝えてくれる。俺は階段を登り、蔵から出て、電話にでる。相手は、

 

「噂をすればってやつか……」

健だったのだ。

 

「もしもし」

この後、驚愕の一言が受話器越しに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『芽吹 健は預かった』

 

 

「なっ…………!」

明らかに健の声ではない。ボイスチェンジャーのような機械的な音声でもない。30代の男性の声だ。

 

「ど、どういう意味だ……!?」

 

『そのままの意味だ。今から言う私の要求を全て呑まないと、芽吹 健の命は無いと思え』

 

「…………」

 

『今から私の言う住所に迎え』

 

落ち着け俺。向こうは健を本当に拉致したかどうかはわからない。むしろ悪質ないたずらの可能性の方が高い。第1、健の声をまだ聞いていない。

 

「おいおい、ちょっと待ってくれ。まだ健の安否が確認できてない。声を聞かせてくれ」

俺はカマをかけた。これで健の声が聞こえない場合は無視するまでだ。しかし、最悪の場合……。いや、考えるのはよそう。

 

『…………わかった』

 

何!?

 

『優人先輩!』

 

間違いない。これは健の声だ。

 

『来ちゃダメです!コイツの狙いは……』

 

健がそこまで言いかけてパァンと乾いた音がこちらにも届いた。おそらく殴られたのだ。俺は頭に血が上った。

 

「お前……何してんだ……!!」

 

『さてと、では今から言う住所に来たまえ』

奴はスラスラと呪文のように住所を唱え、そのまま通話を切った。

 

「あ、……待て!」

クソッ!

こうなったら行くしかないよな。それにしてもどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ホントに事件が起きちゃったな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺は香澄達に心配させないように、急用ができたと言って、抜け出した。そのまま止まることなく、指定地まで走り抜ける。その道中、2回ほど人にぶつかってしまった。

俺は指定地はてっきり廃墟かなんかだと思っていた。

しかし違った。

そこにはただただデカイ屋敷があった。

 

 

 

弦巻家。

そこに住んでいるのは後輩の女の子で、超が5個つくほどの金持ちの家だ。確か、その女子と健は同じクラスだったはず……。

 

まさか……

 

①その女子・弦巻 こころと健が結託して、屋敷の人に電話をさせた確率85.2%。

②健が弦巻 こころに拉致された確率14.3%。

③健と弦巻 こころ含む、この豪邸にいる全員がここに監禁されてる確率0.5%。

 

①だな!よし、健君は死刑!

俺はそんな答えを導き出してインターフォンを鳴らす。

すると玄関が開く。なぜかって。俺はこころとちょっとした知り合いだからな。その話はまた今度だが。

 

俺はだだっ広い庭園を駆け抜け、デカいドアを開けようとする。すると、1人でに開いた。便利〜。

 

そうして足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷った。

 

ここに来るのも5回目くらいだが、余裕で迷う。つか、どの部屋行けばいいかわからない。仕方ないので俺は、しらみつぶしに部屋を当たった。

 

 

 

しばらくして声の聞こえる部屋を見つけた。知ってる声がいくつも。その中には健の声も。ここだな!と俺は思ってドアノブに手をかける。

 

今から、芽吹 健の死神が参りまーーす!!

 

 

 

ドアを開けると、そこには確かに健の姿があった。

しかしーー

 

 

 

 

 

ーー椅子に縛られていた。

 

「あー、健?これはどういう」

俺は言いかけると、その部屋にいた者全員がこちらを向く。いやだ!ナニコレ怖い!

 

「あら、優人じゃない!」

 

「…………」

俺は絶句していた。因みに、今話しかけて来た少女が弦巻 こころだ。

 

「黙り込んでどうしたの?」

 

「……後輩の女子の家で、後輩の男子が縛られてるのを見ると絶句するのは俺だけか?」

 

「それより優人!」

 

「俺だけなのか?」

 

「私達のバンド《ハロー、ハッピーワールド!》のみんなを紹介するわ!」

 

「…………」

ヒデェ。

執拗以上にスルーしてないか!?これが素なのか?そうだとしたら、こわいの2、3段階上回ったよ!

つか、その前に状況説明を……。

 

「まずはベースの……」

 

「知ってるよ。北沢 はぐみだろ?バイト先の目の前の家に住んでるからな」

 

「はぐみよ!」

あ、ここすらスルーしてくんだな。俺、知ってるって言ったよな?え、もしかして俺の声届いてなかった?

 

「初めまして!よろしくね、ゆーくん先輩!」

オレンジ髪のボーイッシュな少女が俺に言ってくる。うん、それ、初見の挨拶だよね?

 

「いや、なんでお前まで初めて会った人みたいに振る舞うの!?俺の豆腐メンタルが限界近いぞ!」

 

「そしてギターの薫よ!」

すると、男性のような人が前へ出る。その容姿は高身長で、紫の髪をポニテにしている。ウチの春も紫だが、春に比べたら明るく見える紫いろだ。

そしてお辞儀。宝塚?

まあ、こころやはぐみに比べたら常識ありそうだな。しかしそんなのは俺の願望にしか過ぎなかった。

 

「シェイクスピアはこう言った……」

シェ、シェイクスピアァ?

てっきり自己紹介してくるかと思ってたのに、なんだそれ。

 

「『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのさ』とね。……つまり、そういうさ」

うん、わからん。

もう対処の仕方がわからない。なので思った事を言う。

 

「どういうことだ?」

 

「そういうことさ」

 

「……どういうこ「そういうことさ」」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………どうい「そういうことさ」……はい」

もお、なんでもいいや。

 

「次は美咲よ!美咲はミッシェルと仲がいいのよ!」

いや、知らんがな。

そうして呼ばれた美咲という少女は何というか……ダルそうだった。

 

「ハァ……どうも、奥沢 美咲です。いつも健がお世話になってます」

 

「ん?健の知り合いか?」

つか、知り合いじゃない人が縛られてるのを見るのもかなりの拷問だよな。

 

「ええ、まあ。幼馴染っていうか、腐れ縁ってやつです」

うん。縛られてる人を幼馴染って言うのは気がひけるよね。でも、助けてあげよ。

 

「それと、私がミッシェルです」

おお、最後のは子供の夢を壊したね。R15設定にしてて正解だったな。

そしてこころが最後の1人の紹介をしようとする。最後の人を1番知ってるんだよな。

 

「ドラムの花音よ!」

 

よっしゃ!ここまで来たら最後までツッコミ切るぞ!

俺はよく目立つ水色の髪をサイドテールにしている少女の方に向く。

 

「花音!バッチ来い!!」

 

すると、花音は。

「ふ、ふえぇ……優人君、そんな無茶振り無理だよぉ〜……」

まあ、そーゆーキャラじゃねーもんな。花音がボケ倒すなんてのはキャラ崩壊の域を超えていくぞ。流石に本家が怒るぞ。

それにーー、

 

「それでこそ花音だもんな」

いやー。花音で終わると平和だなぁ。なら、花音付き合おう!(唐突&暴論&狂気)

 

しかし、ここである事を思い出す。きっかけは、次のこころのセリフだ。

 

「で、コレが健よ!」

 

あ…………。

すっかり忘れてたな。

 

「どうしたんだ?健。椅子に縛り上げられた挙句、コレ呼ばわりされたぞ」

 

「優人先輩!助けてください!弦巻さんがいじめてくるんです!」

 

「よしみんな!ゲームでもしようぜ!」

するとみんなは同意して、こころがゲームばかりある部屋に案内する。

 

「ちょ!ゆ、優人先輩!?どこ行くんですか!?あ!美咲まで!た、助けてくださーーい!」

 

俺達はホントにゲームルームに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何があったか説明しろよな?」

俺はこっそりと抜け出して、健のいる部屋に戻ってきた。

 

「優人先輩……!……はい。説明します」

健は口を開いた。

 

「まず、美咲がバンドに入ったっていうから、見に来てみたんです。そしたらいつしかそれが習慣になっていて……。で、今日もそんなノリで来たら弦巻さんが『決めたわ!!!!船に乗りましょう』って言い始めて……」

 

「アハハ……こころらしいな」

苦笑いしかできなかった。

 

「そしたら当然のように俺も乗れって言われて、必死に抵抗した結果……黒服の人達にこうされました」

Oh……。それはかわいそうだな。でも、俺からしたらどうでもいい。問題はその後だ。

 

「で、黒服の人達にスマホ取られて、俺に電話がかかって来たってことか……」

うし。コレで解決だな。なら帰るか!

 

「謎は全て解けた…………。じゃあな健!」

俺は健の縄を解かずに帰ろうとする。

 

「待ってください!!」

あ、やっぱり解かないといけないか。めんどくせー。

 

と、俺は今、そう思っていたが、次の健の発言で心境が一変することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スマホなんか取られてませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…………?ど、どういうことだ?」

 

「いや、スマホどころか何もとられてないですよ。そこの俺のカバンには誰も触ってないですから」

 

「は…………?くだらない冗談はやめろよな……」

俺は冗談だと思っていたかった。しかし本能が言っていた。健は嘘をついていないと。

 

「なら、このロープ解いてください。そしたらスマホの履歴を見せますよ」

 

「あ、ああ」

俺は殆ど力が抜けきっていたが、それでもなんとか筋肉を行使して、拘束を解く。

健は椅子から立ち上がると、伸びをした後にカバンに手をかけ、ファスナーを開ける。中からスマホを取り出す。ロックを解除して、俺に証拠を突きつけた。

 

「ほら、履歴に残ってないでしょう?」

おかしい。男との電話で明らかに健の声がしたのだ。

 

「いや、俺のスマホに着信履歴が……」

そう言いながら、俺もスマホを開く。しかし、寒気がした。何かおかしいと直感が告げる。それでも、恐怖よりも真実を知りたいので、電話のアプリケーションをタッチし、履歴を確認すると、

 

「な…………無い!」

健は、頭でもぶつけたのだろうかこの先輩は、という目で見ていた。

 

「おかしい……絶対におかしいって!」

背筋が凍った。

夢だったのだろうか。いや、それは己の願いだ。できればそうあって欲しいと願うだけだ。

なんでだ!?

 

と、その瞬間ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『船に乗りましょう!』

 

「ッッ!……っくりしたぁ」

不意にこころの声がした。ゲームルームからこの部屋は大分遠いいはずだけど。

 

「先輩驚き過ぎですって」

コイツ……!全く呑気なやつだよ。一体誰のせいだと思って……健のせいではなかったな。

 

 

 

バァン!

 

「船に乗りましょう!!」

こころがドアを破壊する勢いで開けた。つか、壊れたな。デストロイヤーだな。

 

「こころ……俺、今結構真剣なことを考えてたん……」

いや、待てよ。船の上で、風に当たれば、この得体の知れない感情もなくなるかも……。こういう時は心理学だよな。いい風景見れば、心も一新するよな。こころだけに。

 

「そうですよ。俺達は遠慮しておきます」

健がそう言ったのだが俺は全く別のことを言う。

 

「行こう」

俺。

 

「へ?」

健。

 

「行こう」

俺。

 

「さっきと言ってることが真逆ですよ?優人先輩」

 

「いいだろ別に。気分の問題だよ。それに来たく無いならお前だけ帰っても別にいいだろ」

俺の挑発まがいな発言に健は顔をムッとする。

 

「わかりました。俺も行きます」

 

すると、すぐに黒服の人達が車を用意してくれた。

 

 

 

3時間後。

車の中にて、もうすぐ着くのだが、みんなは雑談状態だった。

しかし俺はずっと考えごとをしていた。

もちろん先程の一件だ。

健の言葉を聞いた瞬間に全身の毛が逆立ち、凄まじい吐き気と悪寒に襲われた。

しかし、それと同時に好奇心もあった。恐怖とは違う類の感情。近くもなければ、遠からず。そんな新たな感情にワクワクする自分がいた。

そう、俺はいつでもアドベンチャーなのさ!

 

結果的に俺は今、どういう状態だと思う?正解は冷や汗をかきながらも、笑みを浮かべていたということだ。

ただの変態だな。

もちろん誰にも見られないように手で口元は覆っていたが、やはり汗は隠しきれなかったようで、

 

「優人君、……汗すごいよ」

隣に座っていた花音が俺の額をハンカチで拭いてくれていた。

そのことに気づくと、俺は急いで身を引き、

「あ、いいよ!汚いだろ?洗って返すよ」

 

「ううん。全然平気だよ……。それより顔色悪いよ……、大丈夫?」

やっぱりいい子だな〜。やっぱり俺達付き会おう!

 

「あ、ああ。大丈夫だよ。もうすぐ着くから外に出れるし。心配してくれてありがとな」

俺はそう言い、右手で花音の頭をそっと撫でた。少し顔が赤らめていたので、俺は「ご、ゴメン」と言ってすぐに手をどけた。

 

花音の少し名残惜しそうな顔には気づかなかった。

 

 

 

車から降りて、港にて。目の前には大きな船。プロジェクションマッピングとは全く違うリアリティ。

 

「まさかの豪華客船て……」

俺は思わず口からこぼれた。

そのスケールの大きさに圧倒され、船に乗る前から俺の悩みは吹っ飛んだ。

 

「こころちゃん、今日はどうして船に乗ろうと思ったの?」

花音がこころに質問していた。

 

「もちろん、楽しそうだと思ったからよ!さ、みんなも乗り込むわよ」

あー、想像した通りの回答だな。

そして、みんなが乗り始める。俺は最後でいいや、と思って待っていると何やら瀬田と黒服の人達が話していた。

 

どうしたんだろう。

俺は盗み聞きしようと思って近づくと、

 

 

ドンッ

通りすがりの若い男性にぶつかった。服装からしておそらく、客ではなく乗務員だろう。向こうがすみませんと言ったので、俺もすみませんと言っておいた。

 

気づくと瀬田はいなくなっていた。階段を登っていた。いつの間に?

まあ、いいや。俺も乗ろうか。そう思って歩き始める。

 

 

刹那。

何かが落ちた音。音から推測するに、おそらく紙のようなものだろう。どうやら、俺のポケットから落ちたようだ。しかし紙なんか入れてたか?

そう思って足元の長方形の紙を拾い上げる。持つと紙には変わらないが、以外と丈夫にできている。こんなの持ってたか?

 

裏返すと、赤い十字架が真ん中にあり、その周りを赤薔薇が囲んでいた。ますます思い当たる節がない。

 

くだらない。そう思って俺はその場に捨てようとした。

 

 

 

「「「待ってください!!」」」

黒服の人達が大声を上げる。何事だぁ?

 

「それを見せてもらえますか?」

焦りを感じさせる声で言うので、有無を言わずに無言で差し出した。

それを見た瞬間、黒服の人達は慌ただしくなり、急いで無線機を使って、ほかの人々とも連絡を取り始めた。どうしたんダァ?

 

「あの、……なんかあったんですか?」

 

「これは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある怪盗の予告状です」

 

「はあ?怪盗?今の時代に?」

正直な話、怪盗なんぞがこのご時世にいるのだろうか。いたら天然記念物だな。

 

「はい。あまりにも有名な宝石や絵画を盗んでいるので、国連からは存在をもみ消され、世間一般には知られていない存在です」

 

な、なんかスゲェこと聞いてしまった。世界規模で問題の怪盗か……。

 

「で、そいつは今日この船に現れるってことですか?」

 

「おそらく、そのように推測されます」

 

「わかりました。じゃあ、ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー俺に探させてください」

 

その俺の発言にその場の黒服全員が唖然とする。

 

「だ、ダメです。こころ様の友人を危険な目に合わせるなど……」

 

「そのこころ様の友人の頼みでもダメなんですか?」

黒服達はぐぬぬとなり、白旗を掲げた。よっしゃぁぁ!!

 

え?なんで捜査したいかだって?そんなの面白いから以外に理由はいるかよ!世界レベルで注目視されてる怪盗と対決って……。心が躍る。

 

「因みに、なんて言う名前の怪盗なんですか?」

 

「はい。あまりにも巧妙な手口は、さながらアルセーヌ・ルパンのよう。そのアルセーヌ・ルパンを省略して、彼を知る人はこう呼ぶようになりました。ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー《怪盗アルン》と」




はい、次回に続く形にしました。急いで書きました。本家であったイベントの内容とは全く別のところで優人君が本物の怪盗と対決するお話です。

そして、謎の男からの電話の正体は?



◎感想、評価等々、よろしくお願いします。


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19話 アイのシナリオ(中編)

side優人

 

 

「おおー!いいな、コレ!」

 

 

俺は自分から望み、怪盗と対決することになった。その際、探偵の衣装がありますか?と聞くと、黒服の人達は渋々貸してくれた。

その衣装はそれこそ皆様が思い浮かぶような、シンプルな探偵服だった。しかし、それでも俺はテンションが上がってしまう。あとで貰えたら貰おう。

 

 

「咲野様。これを」

黒服の人が前に出てメタリックシルバーの長細い物を渡してきた。それには持ち手があったので、そこを握る。そして、もしや、と察する。

 

 

「あの……コレって……」

 

 

「はい。レイピアです」

 

 

「Wow……!It's so amazing!」

思わず英語が出てしまう。

 

 

「護身用ですので安心してください。それに、歯が無いので殺傷能力はありません。しかし、それでも生身の人間に向かって使用すれば、骨折や気絶は免れないでしょう」

スラスラと説明したけど、内容は大分ヘビーなモノだな。

 

俺はそう思いながらも、ベルトに鞘を押し込んだ。

 

 

「それと、コレも」

どうやら、まだ何か渡す物があるようだ。

 

 

「次は何です……か…………。あの、…………コレって……」

俺の言葉は途切れ途切れになった。それもそのはず。

 

黒服の人が持っているのはとある黒い物体。それは片手で持てれる程度の大きさだが、その黒塗りのモノは異質な存在感と重厚感を漂わせる。

 

そして、律儀にも俺の質問に答えてくれた。

 

 

 

 

 

「はい。ピストルです」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

腰にレイピア。

懐にピストル。

そして極め付けは、右袖に忍ばせた二丁目のピストル。

俺は本当に探偵なのか?下手すれば、探偵なんかよりもよっぽどタチが悪いぞ。暗殺者に間違えられかねん。

 

それにしても。

 

「何の手掛かりもないんじゃ探しようが無いな」

 

俺が捜査役を買って出たけど、恐らく裏でも探しているのだろう。普通はその道のプロに任せればいいんだけど、あんな我が儘を聞いてもらったんだ。少しでも手掛かりを見つけてやる。

 

そうしていると、ハロハピのみんなを見つけた。

向こうも俺の存在に気づいたようだ。てか、人数が2人足りなくないか?

 

 

 

side健

 

 

はぐれていた優人先輩を見つけたので、松原先輩と瀬田先輩なしのハロハピメンバーと一緒に駆け寄った。

すると、優人先輩はいなくなった2人同様に異世界バリな服装を纏っていたのだ。

 

 

「あ、優人先輩。どこ行ってたんですか?……って、その格好どうしたんですか?先輩も衣装着せられたんですか?お疲れ様です」

 

 

「ああ、まあそんなとこだ……先輩『も』ってどういうことだ?」

 

 

「怪盗さんが花音を連れ去ったのよ!」

弦巻さん、アバウトすぎます。

 

 

「なん……だと……!」

あれ?どうして優人先輩は若干「先手を打たれた」みたいな顔をしているのだろうか。一様、状況は知っていると思うけど。

 

 

「その怪盗はどこにいるんだ!?」

どうしたんですか?その目。今にも怪盗を見つけてはリンチにしそうなぐらいに目が燃えてますよ。

 

 

「一様、カジノに向かってるんですけど」

 

 

「よし、俺もついていく!」

なんか、優人先輩がすごくやる気になっている。馬鹿なのかな。

 

 

 

 

 

 

 

カジノに到着する。

するとそこには怪盗ハロハッピーこと瀬田先輩がいた。その時、優人先輩は怪盗が瀬田先輩だと初めて知ったらしく、リアクションに困って、真顔と呆れ顔の中間に位置するような表情をしていた。

そして、小さくため息をつき、入ってきたカジノの扉に逆戻りして行く。

 

 

「優人先輩。どこか行かれるのですか?」

 

 

「まあな、俺には別件があるしな」

そう言って派手な装飾の扉から出て行った。弦巻さんと北沢さんと瀬田先輩は勝手に話を進めていたので、優人先輩がいなくなったことに気づいていなかった。

 

 

 

 

side優人

 

カジノから出てしばらくしないうちに、俺は恐ろしい事実を突きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココドコ?」

 

 

 

 

そう、迷った。今さらだけど、大型客船の船内を一人で徘徊してると迷う確率120%だよな。

 

 

「取り敢えず、歩くか」

 

そうして、止めていた両足を、右足から順に、交互に出そうとする。すると、右足の裏に変な感触がした。

俺は何かを踏んでしまったようで、拾い上げるとそれは手紙だった。

 

包みには『挑戦状』と記してあった。ムムム、と顔をしかめ、中身を確認すると一枚のカードが入っていた。

そのカードの面には、船に乗る前に拾った赤薔薇、赤十字のモノと同じだった。違う点は、赤薔薇が白薔薇に。赤十字が白十字になっていたことくらいだ。

 

しかし、裏面は全く違う。

 

1枚目の赤薔薇ver.は裏面には何も書かれていなかった。しかし、今、手の中にある白薔薇ver.は裏面に文字が書いてあった。

 

 

『1番高く、新しい扉.私はそこに現れる』と。

 

 

…………意味わかんねぇ。高くて新しい扉なんか、自分の目で判断するしかないだろぉ!

でも、挑戦状ってことは、引っ掛け問題みたいなんだろ。どうせ。考える気にならないな。。

 

つかよ!なんで挑戦状とか送る訳!?え、何?俺舐められてんの!?そもそもカードで送るとか、怪盗キッドかよ!こちとら身体が縮んでないからコナン君にはなれないんだよ!ああそうかい!わかったよ!コナン君が無理なら金田一少年になるし!

 

そんな8割ふざけた脳内での葛藤と共に俺は右手のカードをへし折ろうとする。しかし、俺はカードの文章のあるおかしな部分に気づく。

 

 

「待てよ……」

 

文章を読み返す。

 

「ん〜………………………………あ!そういうことか!」

(※皆さまもよろしければお考えください)

 

 

答えのわかった俺はそのカードが示す場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は指定場所に到着した。そこにはもちろん扉があるが、扉の前に怪盗キッドが立っているわけではない。恐らく扉の向こう側にいる。

 

開ける前にある2つのことに気づいた。そこの室内が防音対策されていることだ。なぜなら、ここはシアター。つまりはミュージカルを観たりする場所。なぜ俺がここだと思った理由はもう少し秘密だ。つまり悲鳴をあげようと、銃を発泡しようと、殆ど外には漏れない。

 

そしてもう1つはそのシアター内に、人の気配が既にしていることだ。あくまで怪盗キッドのイメージだが、彼は人に危害を加えない。だから、怪盗は皆、少なからず良心的かつ話し合いのできる輩なのだろう。間違っても、目が合っただけで心臓に穴を開けたり、毒薬を盛らないはず。もし今までに、そんなことしていたら怪盗ではなく世界を股にかけた殺戮者だ。

 

だから俺は、デスゲームモノの開幕アウトで死亡みたいなことはないだろう。シアターだけに開幕って、うまい事言ったなぁ。

 

 

「ハハッ…………こんな状況でもこんな間抜けな事考えられるなんて……。余裕だな、俺」

 

自分で自分に突っ込まんでいるのはいつもの習慣か。それとも、怪盗と対峙することに対して心を落ち着かせているのか。

 

その答えはわからないままだが、扉を勢いよく開く。

 

 

 

 

 

しかし、そこには怪盗キッドの姿はなかった。

 

いるのは、ハロハピのメンバー5人に健だ。はあ、また1から操作洗い流しか。。と言いたいのは山々だが、ステージには、いささか、気になるものがあった。

 

それは奥沢と瀬田が順番に花音に告白するというなんとも同人誌チックなものだった。俺はドアを開けた瞬間にその光景が飛び込んできたため、驚かざるを得なかった。そして、呆然と立ち尽くした。

 

そして、6人はもちろん俺の存在に気づいた。そして声がこちらに投げかけられる。

 

 

 

「どこ行ってたんですか?優人先輩」

健が1番最初に話しかけてきてくれた。良かった話が通じる奴が一番手で。

 

「あ、……ああ健、大したことじゃないから気にするな」

 

 

「そう言われると余計に気になりますよ」

 

 

「なあ、それよりこれはどういう状況なんだ?」

 

 

「あ、これはですね。怪盗ハロハピッーがーー」

しかし、ここで健の声が遮られる。

 

 

「優人!」

「ゆーくん先輩!」

こころとはぐみが俺の名を呼ぶ。

 

 

「ん?どうした2人共?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「花音を取り返して!」

「かのちゃん先輩を取り返して!」




次で終わる予定……。皆さんも、怪盗アルンからの挑戦状の謎を解いてみてください。答えは客船の中のとある場所になります。


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20話 アイのシナリオ(後編)

お、お久しぶりです。。テストの勉強。。


side優人

 

 

 

「花音を救って!」

と、俺は言われたものの、何をしていいかわからなかった。第1にあの怪盗は瀬田だろ。危害なんか加えない筈だ。なのになんでこんな茶番に……。

 

あ、察し。

絶対こいつら怪盗の正体がわかってないな。それもそうか。こころやはぐみみたいな年中脳内お花畑みたいなお子ちゃまにはわからないな。

 

それはいいとして。花音を助ける方法が少し……いや、かなり鬼畜なことは皆からのダイジェスト版の説明を聞いてわかった。そう、愛の告白だ。しかも設定はお姫様と王子って……。そんな小っ恥ずかしいことできるわけないだろ!

 

 

「ちなみに、奥沢はもう挑戦したんだろ?どんな感じだったんだ?」

 

 

「えっ!?あ…………いや……」

 

奥沢は俺の問いに言葉を濁した。

 

 

「ダメダメだったわ!」

 

 

「ダメダメだったよ!」

 

 

「ダメダメでした。ムービー撮ったけど、参考に見ますか?」

 

代わりに答えたのはこころとはぐみと健の3人だった。

満場一致とはこのことを言うんだな。ここまで言うと、冗談抜きでダメダメな演技だったんだろうな。

 

 

「ちょっ!健!なんで動画を撮ったの!?それを他の人に見せたら口聞かないからね!」

 

 

「えっ!それはキツイよ……」

 

…………。何の茶番だよ今のは。

 

 

 

「で、俺はもう演技を始めていいのか?」

 

俺は面倒くさくなり、もう開き直って告白することにした。

すると、怪盗ハ、ハ…………。何だったか?ま、いいや。ステージ上の怪盗が俺の問いに対して返す。

 

 

「ああ、別に構わないが、この勝負はもう決着がついているから、君が演技したところで何の意味も無い」

 

 

「え?何それ?俺やる意味ないのか?俺のやる気返せよ」

 

俺はそう小声で毒を吐きながらやる気を持て余していた。でも、愛の告白をやらなくていいのなら、その方がいい。

しかし、

 

 

「行くのよ優人!」

 

こころが俺に向かって言った。どこに行けばいいんだ?いや、流れ的には明らかにステージに行けってニュアンスなのはわかるけど、必要性がないし。そもそもこいつは怪盗の話を聞いていたのか?

 

等々の事柄が頭の中を駆け巡って、何から言えばいいのかわからないので俺は簡潔に言う。

 

 

 

「は?」

 

 

「いいからステージに行くのよ優人!最高の演技を見せれば怪盗さんの考えも変わるかもしれないわ!」

 

 

「その前にお前の考えを覆したいんだけど」

 

ホント、思考回路イカレてるな。どういう方程式を使ったらその答えにたどり着くの?俺にその方程式を教えてくれ。

 

 

「さあ早く!」

 

 

「はぐみ、こいつをどうにかしてくれ」

 

俺はこの時チョイスを間違えた。こころとはぐみは意見がほとんど別れることがないことを。

 

 

「こころんの言う通りだよ!ゆーくん先輩!バシッと決めてきて!」

 

 

「えぇ〜。。奥沢、こいつらをどうにか……」

 

俺が奥沢に視線を向けると、何が起きたと思う?

 

答えは簡単。目を逸らされた。もうこの件には関わりたくないと、そう横顔が言っていた。

 

 

「健。もう頼れるのはお前だけだ」

 

俺は健に助けを求めた。こちらは目を逸らさなかった。

 

 

「優人先輩!俺に任せてください!」

 

おお、頼もしいな。俺はいい後輩を持ったなぁ。

 

そうして健はこころとはぐみを説得しようと試みた。何やら話し始めたが、俺にはよく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

数分後、健が俺に報告に来た。しかし、説得しに行く前とは明らかに顔つきが変化していた。

 

 

 

泣いていた。。

 

 

「おい健?一様聞くけど結果は……?」

 

 

「撮影係の任務を全うします」

 

 

「デスヨネ!」

 

一体、この数分間の中で、健の身に何があったのか気になるが、傷口を広げそうなので、聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でステージ上。

 

 

「俺、何でここにいるんだろう……」

思わず本音が出た。やらなくてもいい告白をなんで。。

 

 

怪盗ハロ何ちゃらが、

「勝負には関係無いが、君の演技を見てあげよう」

 

いや、別に見なくてもいいっすよ。俺の黒歴史の一つになるであろう瞬間に立ち会う人間は1人でも減らしておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

side花音

 

 

ど、どうしよう……。なんだかみんなの勢いで優人君も告白する流れになってるけど……。

 

演技だとしても優人君から告白されるのは嬉しいけど……。やっぱり恥ずかしいよぉ。///

 

優人君が目の前に立った。なんだか探偵?みたいな服装に身を包んでいるけど、その姿もカッコいい。

 

優人君は私の前でひざまづいて、右手を差し伸べた。

 

 

 

 

 

 

「あなたの美しさは最早言葉にできません。……………………好きです」

 

 

 

「///ゆ、優人君…………///」

 

多分、自分で理解している以上に私の頬は紅潮していると思う。

 

 

すると、ここで怪盗ハロハッピーさんが、

 

「君の愛はそれだけかい?まだまだだね」

 

え!まだ続けるんですか……!?これ以上続けると私……//

しかし優人君は、

 

 

「スゥ〜〜〜、ハァ〜〜〜。……よし花音、俺はまだできるぞ」

 

ふ、ふええ。……な、なんで優人君までやる気になってるんだろう。

優人君は再びこちらに向き直って、

 

 

 

 

「……………………全て捨てて、俺と逃げよう」

 

 

「ゆ、優人君。……は、恥ずかしいです///」

 

 

「まだまだ愛が伝わらないよ」

 

怪盗さん、も、もうやめてください///

 

 

「いや、もういいだろ」

 

 

「ならば、君の限界はそこまでというところだ」

 

か、怪盗さん、煽らないでください///このまま続けると……私もう…………。

 

 

 

 

「わかったよ。続ければいいんだろ!」

 

優人君は右手を私の顎に当て、軽くあげた。少女漫画で出てくる顎クイに該当するもの。

 

は、恥ずかしいです///

 

 

「…………お姫様。俺はあなたのことを国から、民から

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奪いたい」

 

 

 

 

 

 

 

side優人

 

 

「あなたのことを国から民から…………奪いたい」

 

…………な、何言ってんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

待て待て待て、自分で言っておきながら臭すぎないか?大丈夫かな?花音にひかれてないよな?

 

俺はそう考えて、意識を再び花音に向けると、顔を真っ赤にして、頭から湯気を出していた。

 

 

 

「お、おいっ!大丈夫か!?花音!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後のこと。

結局、怪盗は花音を返して、瀬田に戻った。

帰ってきた花音はまだ気を失ったままなので、俺はとりあえず休憩所のソファに寝かせておいた。こころ達は俺に丸投げして、晩飯を食べに行った。

 

すると、

 

「あ、花音。起きたか」

 

 

「…………あれ?優人君?私どうして……?」

 

どうやら覚えてないらしい。

 

 

「あー……実はな、俺の告白の演技という名の黒歴史中に花音が倒れちゃったんだ」

 

 

「告……白……」

 

すると花音は思い出したようで、小さく「あっ……」と、声を漏らして顔を赤らめた。

 

 

「ゴメンな。意味のない演技に付き合わせて。俺の告白なんか聞きたくなかったろ?」

 

まあ、これだけ恥ずかしく思ってるということは嫌だったに違いない。しかし花音は。

 

 

「う、ううん。……そんなこと、ないよ……。私、ときめいたもん…………///」

 

花音はそう言いながらも顔は赤いままだった。

その表情と視線にドキリとした自分がいたことには気づかなかった。

そして、俺の顔も赤くなっていることに。

 

 

「な、なんかそう言ってもらえると……やった甲斐はあったかもな。…………それより花音、まだ少し気分悪いなら甲板に出て風でもあたるか?」

 

 

「あっ……うん」

 

そうして俺達は外に出た。

夜風は涼しさを超えて、肌寒さを感じさせた。夏も近いのに、やっぱり夜はまだ寒いな。

 

 

「花音、寒くないか?」

 

 

「だ、大丈夫だよ。……優人君こそ寒くないの?」

 

 

「まあ、これくらいならな。それより、空が綺麗だな」

 

俺は柵に手を掛け、感嘆の声を漏らした。

 

 

「本当だね。……今更だけど、優人君はなんで、探偵さんの服を着てるの?」

 

花音は俺同様に柵に手を添えて、こちらを見て、質問してきた。

 

 

「ああ、これか。これは…………あっ!!忘れてたぁぁぁぁ!!」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

俺は何も知らない花音に説明することにした。今更、話しても関係ないだろう。どうせ俺はもうあのカードの意味がわかんねーし。

 

 

「いや、俺さ、黒服の人達に任務を任され(立候補し)ててさ。で、今までそれを忘れてた」

 

 

「そ、そうだったんだ。続けなくていいの?」

 

 

「ああ、別に俺には無茶だったし。何より暗号の意味が…………」

 

俺は言葉を止める。なぜなら、答えにたどり着いたかもしれないからだ。もしかするとあれは……。

 

 

「なあ花音。高い物って聞くと、どんな単位を思い浮かべる?」

 

今度は俺が花音に質問する。花音は何のことかサッパリわかっていない。

 

 

「え!……えーっと、やっぱりお金の単位かな?」

 

 

「だよな。じゃあ、高い場所って聞くと、どんな単位が思いつく?」

 

 

「え、えーっと、それもお金、かな?あとは……何回建とか、地上何メートルとかかな」

 

そうか。やっぱりそうだったんだ。じゃああの時の謎も納得がいく。てことは場所は……あそこか。

 

 

「花音、俺ちょっと用事ができた。行ってくる」

 

 

「え!……き、急にどうしたの?」

 

 

「いや、謎が解けたんだ。だから終わらせに行く。………花音も来るか?多分危なくないだろうし」

 

 

「え、えーっと。……じゃあ行こうかな」

 

 

「よし!早速行くぞ」

 

そうして俺達はとある場所に向かった。その場所に向かう道中、俺は花音にカードを見せて、怪盗の存在と謎解きの説明をした。そうして場所についた。

目の前のドアを開く。その先には1つの人影。おそらく怪盗だろう。すると、向こうから声をかけられる。

 

 

「どうしてこの場所がわかったのですか?」

 

ビンゴだ。こいつの発言から怪盗であることは100%確定だな。

そして、俺はキザなマントを纏っている紳士に向かった。

 

 

「そんなの簡単さ。…………と言いたいけど、けっこう悩んだな。まあ、それはいいとして。

 

お前が俺宛に落としたカード。

『1番高く、新しい扉.私はそこに現れる』

 

ってやつから『新しい扉.』がまづ初めに気になった。『()』ではなく『.(ピリオド)』を使ってたのから違和感があった。つまりこれは日本語ではなく、英語にしろということだ。

『新しい扉』は『NEW DOOR』だ。

 

しかし、これではダメだ。この7つのアルファベットを並び替えると『ONE WORD』になるんだ。

ONE WORD(1つの単語)』……つまり、船内全ての店や場所も英単語にして、1単語になる場所なわけだ。

 

レストランとかはイタリアンとか、中華とかあったからまず無い。トイレ、休憩所、ホールとかも複数あるから無い。

 

しかしこれでも絞り込めてないから、最初の『1番高く』だ。これから、どの場所の建設費が高いのかを考えた。そうして俺はシアターを選んだんだ」

 

 

「ですが、ここはシアターではありませんよ」

 

怪盗が言う。そりゃそうだ。俺の推理は1つ間違いがあるのだから。

 

 

「俺はシアターでないことに気づいた。なぜなら『1番高く』は金額ではなかったからだ」

 

 

「ほう……ならば続きを聞かせてもらえますか?」

 

 

「もちろんだ。単純な話、これは金額ではなく、高度の話だったんだろ。だから1番高度の高い場所なんかは1つしかない。

 

ここ、屋上に該当する『ヘリポート』しかないんだよ。

 

これで正解だろ?」

 

俺の推理を全て話すと怪盗は不敵な笑みを浮かべて、

 

 

「パーフェクトです。ならば私をどうしますか?捕まえますか?」

 

 

「いや、そんなことはしねぇよ。ただ1つ、答えてくれ。()()()()()()()()()?」

 

すると、怪盗はすぐに答えなかった。解答がないのか、それとも俺を揺さぶっているのか。どちらかやからなかったが、ようやく口を開いた。

 

 

「それは、どうしてでしょうね?」

 

 

「は?」

 

こんだけ待たせてなんだよその答えは。

 

 

「恐らく、あなたならここまでたどり着けると思ったからでしょうね」

 

 

「なんだよ、それ」

 

俺は呆れてしまった。最早ため息も出ないほどにな。

 

 

「それでは私は退散するとしましょう。もう目当ての物は手に入れましたから」

 

すると、怪盗は懐から宝石を取り出した。

 

 

「あ!おい待て!まだ聴きたいことが!」

 

しかし怪盗は聞く耳を持たずに指をパチンと鳴らす。すると、風が吹き荒れた。なんだか強い気がする。変な音がする。だんだん強くなるので、俺は花音に覆いかぶさった。

 

それは突然上から現れた。

 

上にはなんとヘリコプターがあった。そこから簡易ハシゴが垂らされており怪盗はそれに捕まる。

俺は阻止しようとするも、風で動けなかった。何より、俺が離れたら花音が危ないから動こうとも思わなかった。

そのままヘリは怪盗を乗せて去って行った。

 

 

「花音、もう大丈夫」

 

 

「あ…………うん」

 

花音は立ち上がろうとするが、足が震えていた。俺は肩を組んで、支えてあげる。

花音は立ち上がることができ、一息ついてから俺に聞く。

 

 

「結局、怪盗さんの正体、わからなかったね」

 

 

「いや、そんなことない。……てか、俺は最初から殆どわかってた」

 

 

「えっ!……そ、そうだったの……!?」

 

花音は驚いた。まあ、それが普通の反応だろう。

 

 

「あの怪盗は恐らく、黒服の人達の内の1人だ。

 

理由は、

まず今日俺に健から奇妙な電話がかかってきたんだ。その内容がヤバかったから俺はこころの家に行ったんだ。

そこから、あいつの手の上だったんだ。

 

健のスマホに細工できるのは家族か、弦巻家に仕える人達だけだ。つまり、あいつは健のスマホに細工をして、俺のスマホに時限式で電話をかけた。

 

そして、俺のスマホから履歴を消そうとするはずだ。俺はこころの家に着く途中に二回、人とぶつかった。恐らく、一回目で俺のスマホを盗んで履歴を削除。2回目は服装を変えて、衝突に紛れてスマホを俺のポケットに入れる。

 

まあ、こんな感じだろう」

 

俺がスラスラと説明すると花音は。

 

 

「ゆ、優人君って……すごいね」

 

 

「え?そうか?」

 

 

「う、うん。すごいよ。……だってそんなに簡単に謎を解いちゃうなんて……私には全然……」

 

 

「そっか。そういうもんか。…………それより俺らも飯食いに行こうぜ。腹がずっと減ってるんだ」

 

 

「あ、うん。みんなはもう食べてるんだっけ……?」

 

 

「そうなんだよ。全く。薄情な奴らだよな」

 

そして俺は花音の手を握った。

 

 

「えっ……!?ゆ、優人君……!?///」

 

 

「腹減っていかたないんだ。走るぞ花音」

 

 

「じゃなくて、手……///」

 

 

「ああ、これか?花音って方向音痴だろ。このヘリポートに来るまで散々迷いそうになってたからさ」

 

 

「だからって、これは恥ずかしいよ……//」

 

 

「気にすんな。ほら、行くぞ」

 

そうして俺は花音の手を握ったまま駆け出す。花音の手は小さくて、華奢だった。そんな手を俺は優しく、それでいて強く握っていたようだ。

 

月が良く見える。

雲1つない夜に、船の上。

 

そこから君と見た景色は忘れないだろう。



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21話 夢みるSunflower

お久しぶりです。
テストがあったので中々書く時間がなかったです。




side優人

 

朝、目が覚める。

朝は気温が寒い季節から涼しい季節に移り変わっていた。梅雨が明けたの。

俺はゆっくりとベッドから起き上がって窓に向かう。カーテンを開け、更に窓を開ける。すると、なんとも爽やかな風が部屋に入ってくる。空気を喚起すると同時に俺の気分も爽やかにしてくれる。

 

夏だ。

 

しかも明日からは夏休み。

普段できない事をやろう。最近は凝った料理を作ってないから、何か時間をかけて豪勢な料理でも作って誰か招こうかな。運動もしたいし。最近はバスケしてないからやりたいな。中学はバリバリやってたのにな。

あとはやっぱ練習だよな。フェスにも3つくらい出るから忙しいんだよな。商業デビューしてないのにもかかわらず、こんなにオファーが来たのは嬉しい事だけど。

朝からのバイトでも、ずっとこのことばかり考えていて、気づけば登校する時刻になっていたほど浮かれている。

学校に着き、教室に入る。クラスメイトとも当分会えなくなる。そういえばクラスでどこか行くって冬夜が言ってたな。それも楽しみだな。

そんなこんなで濃いい夏休みになりそうだな。

 

なのに……。

 

 

 

 

 

 

 

「咲野。丸山。貴様らは夏休み最初の1週間補習だ」

 

終業式が終わった後のSHR(ショートホームルーム)で担任教師から告げられる。

 

 

「んなっ……!ちょっと待ってください先生!自分で言うのも何ですが、俺はテストで赤点取って無いし、総合順位も高かったんですけど!」

 

 

「貴様の場合は授業態度だ。提出物は遅れる、出さないのが当然。居眠りなんかは世の中の常識と思っている。終いにはサボりの常習犯ときた。これを見逃す教師はいないからな。生徒指導にならなかっただけでも感謝するんだな」

 

 

「そんな理不尽な……」

 

俺は思わず呟く。しかし、聞こえないように言ったつもりだが、先生には聞こえていた。

 

 

「ほう、なら今か貴様を生徒指導室に連行しても敵わんのだぞ」

 

 

「補習に行かせていただきます!」

 

俺は綺麗な90度に腰を折る。全く、先生という生き物はなんでこんなにも卑怯なのだろう。俺は結果は出しているんだ。だから妥協してくれてもいいはずだ。

 

ん?そういえば丸山は?

 

 

「丸山、お前は何で補習なんだ?」

 

俺は勢いよく立った反動で倒れてしまった椅子を直しながら、隣の席の丸山に聞く。

 

 

「えっ!いや、私はちょっとしくじっちゃって……」

 

 

「へえ、因みに何の教科だ?」

 

 

「……」

 

 

「え?ごめん、もう一回言ってくれないか?」

 

聞こえなかったのは事実だ。だけど、明らかに声が小さい上、早口だった。だから聞き返しただけだった。

なのに、なぜ丸山はこんなにも震えているのだろう。なんか聞いちゃまずかったかな?それにしてもスッゲー震えてる。ケータイのバイブ並みに。

 

 

「で、なんだったんだ?」

 

 

次に丸山の口から出た単語はというと。

 

 

「数学……です」

 

なるほどな。なんで震えてたかも、敬語を使ったかもわかったよ。

丸山は明後日の方向を向く。今から起きる事を理解したようだ。

 

 

「おい丸山よ」

 

 

「はい」

 

 

「俺の家で勉強会したの覚えてるか?」

 

 

「はい」

 

 

「俺、数学を教えてやったよな?」

 

 

「はい」

 

 

「俺が教えた所は理解してたんだよな?」

 

 

「……はい」

 

 

「じゃあなんで赤点取ったんだ?返答次第では雷が落ちるから気を引き締めろよ」

 

 

「えーっと。その、これはー……」

 

しかし俺は丸山の話を遮る。

 

 

「丸山。話してる相手の顔を見なきゃ失礼だぞ」

 

未だにこちらとは真逆の方向を見ていたので、声を極力まで低くして促した。恐る恐る。こちらに向き直る。俺の顔を見ると、泣きそうになる。え?俺は今、そんなに鬼の形相なの?

 

 

「で、先に何点だったか言ってみ」

 

 

「……点」

 

こいつ、また声を小さくしやがったな。どうせ言わなくちゃいけないんだから、腹くくれよな……。

 

 

「もっ回言ってくれ」

 

 

「37点」

 

Oh……。これは由々しき事態だな。つっても怒っては無いんだけどな。だが、取り敢えずはキレとくか。

 

 

「丸山ァ!お前は……」

 

しかし、

 

「おい、補習組!まだホームルーム中だ!静かにしろ!」

 

担任教師がキレた。多分、また目をつけられたんだろうな。まあ、丸山への説教もそろそろ終わろうと思ってたしな。

 

 

 

 

 

そうしてホームルームが終わり、放課の時になった。俺は席を立つ前にスマホを開く。

 

 

「うわっ。キモっ!」

 

スマホを開くと、999+もの通知が来ていた。こんなん見たことないな。人生初めてこんなに連絡が来たのに、なぜか嬉しくない。

恐る恐る、某無料通話アプリのアイコンをタップし、開く。

 

見てみると3人から通知が来ていた。

主に香澄……999+件

沙綾……2件

おたえ……13件

 

開くのが怖いんだけど。もうね、アレだよ。嫌な予感しかしない。絶対内容ヤバイやつだよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。

 

取り敢えず香澄のを開こう。1番多いのを最初に消化しておきたいからな。そう思って香澄のトークルームを開く。

内容はというと。

 

『優人先輩‼︎』

『優人先輩‼︎』

『優人先輩‼︎』

『優人先輩‼︎』

 

何この必要以上な俺へのコール。しかも最後まで何が言いたいかわからなかったし。こんな物で容量とらせんなよな。つかなんでこいつらは俺のL●NEを知っているんだ?沙綾か?沙綾が教えたのか?

 

 

「ポピパの子達に優人のアカウントを教えたのは私だよ」

春がいつのまにか俺の机の前まで来ていた。というか、

 

 

「何ナチュラルに人の心を読んでんだよ。いや、この際それはどうでもいい。なんでこいつらに教えたんだよ!香澄からの通知を見てみろ!どこぞのチェーンメールなんかよりもよっぽどタチが悪いぞ!」

 

 

「うーん、なんで教えたかって言われてもねー。……気の迷い?それとも血の迷い?」

 

 

「なんで『?』がつくんだよ。あと、意味わかんないことばっかり吐くな」

 

でも、これだけで終わってよかった。なぜなら後2人は通知数は少ないけれど、なんかありそう。

 

 

だけど俺は沙綾のルームを見る。おたえはどうせ内容がクレイジーなはずだから、メインディッシュにしておく。

 

『先輩、今日はSPACEのライブに出ます!』

 

ああ、そういえば朝のバイトでもそんな事言ってたっけか?香澄が言いたかったのはこれのことか。

何がともあれ、内容がまともで良かった。

と、思ったのは束の間だった。俺はもう1つの沙綾から送られてきたメッセージに目を通す。

 

『来なかったら…………わかってますよね』

 

うーーん。怖い!沙綾ちゃん、可愛さのかけらも、いや、女子力のかけらも無いね!お兄さんちょっとビビっちゃったな☆

 

 

さて、ここでおたえの出番だ。Poppin' Party1の異端者こと花園たえは一帯俺にどんな連絡を……。つっても、どうせライブのことだろうけど。そんなノリで開く。

 

『優人先輩‼︎』

入り方が香澄と寸分たがわず同じという異例を成し遂げたな。

 

『今日SPACEでライブですよ‼︎』

あーはいはい。知ってる知ってる。

 

『見に来てください‼︎』

うんうん。そこまで言われたなら行ってやろう。

さて、後10件だな。そう思って、下へとスクロールをする。

 

『見に来てくれますよね』

……なんだい、そのヤンデレみたいな言い方は。もう不穏な匂いがプンプンするな。

 

『おーい』

『あれ?』

『先輩?』

『まだ授業中ですか?』

『そんなわけないですよね』

『無視しないでください』

『ホントは見てるんじゃないんですか?』

『ねえ、見てるんでしょ』

 

もはや下にスクロールするのに大分勇気が必要になって来たな。指先がトラウマ抱えるぞ?

だが、俺はスクロールをする。おたえは大丈夫だ。バカだから大丈夫だ。天然だから大丈夫だ。そう念じながら。

 

 

『返信しろ』

 

 

「怖い!怖いよー。おたえさん、もう感想が怖いしかないよ。今度から話しづれーよ。怖ーよ。あと怖い」

 

 

「返信しなくていいの?」

 

春が聞いてきた。誰かに話しかけられただけでビビる体質にならなくてよかったよ。

 

 

「ああ、別にいいよ。どうせすぐに会うんだし」

 

 

「じゃあSPACEに行くんだ」

 

 

「当然だろ。ポピパだけじゃなく、Aftergrowやグリグリも出るしな」

 

 

「あとRoseliaも大トリで出るって」

 

ムムッ。あいつらも出るのか。なんか、行く気失せたな。行かなきゃダメか?でも行かなかったら沙綾からの腹パンは確定演出だし。おたえからも絶対なんかあるし。仮に何もなかったとしても、それはそれで怖い。てか、全部春がいけないと思う。沙綾に俺の駆除方法をしこんだのも春だし、おたえに俺のアカウント教えたのも春だし。そういうことなので、取り敢えず春を睨むことにした。

 

 

「優人、感情がもろ顔に出てるよ。すっごく嫌そう」

 

おい、そこ。俺の睨みを無視するなよ。

 

 

「そりゃあ、嫌だろ。わかってるだろ?俺達Full BloomとRoseliaの中の悪さを」

 

 

「いや、それは優人だけだよ。というか、そろそろ行かないと陸君との待ち合わせに遅れる!ほら、優人行くよ!」

 

 

「お、おう!」

 

 

そうして俺達は階段を駆け下りて行く。脱靴場で外靴にはきかえて、正門までそのままダッシュ。しかし門がゴールではなくスタートだ。てか、ホントに時間ギリギリなのかよ!ならもっと早めに言えよな。俺のL●NEのトーク内容なんてどうでもよかったでしょ!特に香澄!

 

 

 

 

そして俺と春はSPACEの最寄りの駅に着いた。そこには陸の姿があった。

 

 

「あ!おーーーい!」

 

陸がこちらに気づいた。俺達は駆け寄る。

 

 

「悪いな、遅れちまって」

 

 

「ううん。僕も今来たところだよ。それより春……大丈夫?」

 

 

「ハァハァ……うん、全……然……大丈……夫……ハァ」

 

こいつ、運動できないくせにあんなペースで走るから。俺でも合わせるのがキツかったんだぞ。すると陸が近くの自販機に150円を入れる。そしてヨーグ●ーナを買って春に差し出す。

 

 

「はい、これ飲んで」

 

陸君や、イケメン過ぎないか?そんな風に微笑みながら言われたら、世の中の女子を全員落とせちゃうよ。

 

 

「あ、ありがと、陸君」

 

春は受け取り、キャップを開ける。いい飲みっぷりだった。もはやアラサーのOLが居酒屋で飲んでるみたいになってるな。これが学校1の美少女か。中身残念すぎるだろ。

 

 

「よし、そろそろ行こうか」

 

陸が促す。

そうして俺達は再び足を動かす。

ほんの数分でSPACEに着いた。そこには大勢の人間で溢れかえっていた。名言から引用すると、人がゴミのようだ!そんな中、オーナーを見つけた。

 

 

「こんにちわ」

 

陸が挨拶をする。なので、俺も続けることにする。

 

 

「チワス」

 

春も同様に挨拶をした。

 

 

「ああ、来たのかあんた達。自分達の練習はしなくていいのかい?」

 

 

「ここには俺の後輩がお世話になってるし、今日も出演するから見にこないわけがないですよ」

 

 

「フッ、せいぜい楽しんでいきな」

 

そう言い、オーナーは離れて行く。

俺達は店内に入る。軽く挨拶にでも行こうと思い、楽屋に向かう。もちろん許可は取ったからな。

 

 

「失礼します」

 

ここは春に先陣を切ってもらう。着替え中だったりしたら、俺と陸は犯罪者になるから。

中から視線が集まる。が、1秒後には敵意は無くなった。春は中にズカズカと入って行く。そしてどこかのグループを引っ張って来たようだ。それはなんと先程言ったRoseliaだった。

俺達とRoseliaに交流はある(と言っても、向こうは最近結成したのだが)。陸は一様5人全員と顔馴染みだし、春も殆どのメンバーとは話したことがあるそうだ。それに引き換え俺は、図書室に行った時に白金と会ったら世間話するか、あこに駄々をこねられてゲーセンに連れて行ってやるくらいだ。しかし、1人だけよく知っている人物がいる。

 

 

「あら、誰かと思えば優人じゃない」

 

その人物から声をかけられる。

 

 

「ああ、友希那か。お前らもライブ出るんだってな?」

 

 

「ええ、私達の音楽を直接肌で感じて欲しいもの。それに対して貴方達は、未だにネットに動画を上げて楽しんでるようね。そんなにお金が欲しいのかしら?陸、春、こんな男とはすぐに解散することをお勧めするわ」

 

 

「はあ?何ほざいてんだよ孤独の歌姫こと湊 友希那さんよ。俺はただ純粋に俺らの音楽を聴いて欲しいだけなんだ。あんたと一緒だよ。それに、少しでも多くの人に知ってもらいたい。俺達のことを応援して欲しい。そう思って何が悪いんだよ」

 

 

「考え方そのものよ。そんなに色んな人に聴いて欲しい理由がわからないわ。自分で動画を上げなくても、真に人気なアーティストは人気が自然に出るものよ」

 

 

「でも、その逆もまた然り。俺らは動画をネットにアップする。人気が出る。ほらな、順番が逆さになっただけだろ。実際このやり方で人気の出たアーティストもいるのは事実だろ?」

 

 

「そういう人間は確かにいるけど、ごく限られてるわ。そもそも貴方の場合は無計画すぎるわ。これだから頭真っ白な人は嫌いなの」

 

 

「は?無計画じゃないから。実際に、俺らはメジャーデビューしてないのにワンマンライブ何回もしてるから。それにもし俺が頭が真っ白だとして何が悪いんだ?純白じゃないか。そうだ!俺は潔白だ!それに対して友希那は……ああ。『黒でもいい』だったか?いやー!自分の性癖を綴るなんて俺には真似できませんな!流石だな!」

 

 

「そんな訳ないでしょう!それに貴方こそいつも真っ黒な服を着てるじゃない。まるでゴミを漁るカラスね。いえ、一緒にされたカラスがかわいそうだわ。ごめんなさい、カラス」

 

 

「は?お前もステージ衣装は全部暗色じゃねーかよ!それにお前、いつもはクールぶってるけど猫好きなんだってな!」

 

 

「な!……誰からそれを!?」

 

 

「それは言えないな。クライアントの情報は流さないのが俺の主義でな」

 

 

「ッ……!そんな卑怯な手口をするなんて、貴方はやっぱり下衆ね!」

 

 

「それはブーメランになるぞ」

 

 

「「ぐぬぬ……!」」

 

まあ、察して貰った通り、俺ーー咲野 優人と湊 友希那は引くほど仲が悪い。目を合わせただけでいつもこうだ。

 

 

「まあまあ2人共、そこまでにしといたら?」

 

陸が仲裁に入る。これもいつも通りの流れだ。

 

 

「「陸が言うなら……」」

 

俺と友希那は揃って言う。ホントそれが気に食わなくて睨む。すると向こうも睨んでた。しかし、また口論が始まるわけではない。俺達は陸の言葉が絶対なのだ。俺と友希那は考え方は違えど、同じ陸のファンだからな。陸には逆らえないし、逆らうつもりも無い。

 

 

「さて、僕らはそろそろ出ようか。ここに居座っても迷惑だし」

 

 

「そうだね。じゃ!みんな頑張ってね!」

 

陸と春が続けざまに言った。

 

 

「ま、せいぜいガンバレ」

 

俺もそう言い残して退室した。

 

 

 

 

 

さて、ポピパはどこだ?楽屋にはいなかったし、……トイレ?と思ったら、

 

 

「お前らはなんでそんなところでパンを食べてるんだ?」

 

そう、ポピパのメンバーを見つけた。見つけたのはいいんだが、こいつらはなんかすごい場所にてパンを頬張っていた。つか、いつからいたんだ?気づかなかったぞ。

すると香澄が立ち上がって。

 

「あ!優人先輩!さっきなんでスルーして楽屋に行ったんですか!?」

 

 

「えっ!さっきからいたのか!?マジで気づかなかった……」

 

 

すると、おたえも続けて、

 

「春先輩と陸先輩は気づいて手を振ってくれたのに……。優人先輩はなんて薄情者なんですか」

 

 

ごめん、ホントにごめん。だからもうそれ以上は言わないでくれ。心のダメージがヤバイから。

 

 

「それはそうとなんでここで食べてるの?楽屋に入るの緊張しちゃった?」

 

春が上手く話題を変えた。てか、なんでそんなに微笑みながら聞けるの?君、そんな人だった。ついさっきまでのOLは何処へ?

 

すると、グリグリもやって来た。今日でこのSPACEでのライブも最後なのに、来ようと思って来れたメンタルがすごいな。

 

 

「「「こんにちわ」」」

 

俺達3人はポピパが気づく前に挨拶を済ませる。

 

 

「あ、3人とも来てくれたんだ〜。ところでりみ達は?」

 

 

「すぐそこにいますよ」

 

 

「……すごいところにいるね」

 

ゆり先輩、その下りはもう終わりましたよ。

すると、おたえがヒナコ先輩に髪をわしゃわしゃされていた。まあ気にしない。

 

 

「と言うか、有咲は?」

 

春が言った。おそらく、ヒナコ先輩はトイレだと気づいたようで、市ヶ谷の元に行こうとしたようだが、リィ先輩にハウスを喰らった。

 

 

「あ、そろそろ入場できる時間だから行こうよ」

 

春が自身の腕時計を確認して俺と陸に伝える。

 

 

「そうだね。じゃあ皆さん、頑張ってください」

 

陸はそういう風に応援の言葉をポピパやグリグリにかけた。

俺達は早速入って、前の方を陣取る。Aftergrowのみんなにはまだ会ってないけど、終わってから会いに行けばいいだろう。

すると、俺達に続いて何人ものお客さんが入ってくる。通常のライブの10倍単位だろう。閉店するというだけでこんなにも来るなんて、この店が愛されている証拠だ。

 

 

 

 

 

それから10分経ったか経たないかくらいの時間でライブが始まった。1番手はGlitter Greenだった。トップバッターは会場を一気に盛り上げないと、その後の出演者にも続かない。なので、このSPACEにおいて人気のあるグリグリが1番なのは妥当だ。

 

 

「SPACE!遊ぶ準備はできてますか!……OK!行くよ!」

 

 

 

 

グリグリの演奏と歌は流石としか言い様が無かった。

ギタリストのキャリアとしては俺の方が先輩に当たるのだが、ゆり先輩を見るとやはり凄みを感じる。正直な話、技量は俺の方が上だろうが、今日のグリグリの演奏は100点中200点あげたくなる程心に響いた。自分達の思い出の場所での最後のライブだからやる気は当然普段以上だとはわかっていたが、予想以上だった。

グリグリのステージが終わった後も俺はその余韻に浸っていた。

 

次に登壇したのはCHiSPAだった。

地味に初めて聞くんだよな、こいつらの演奏は。何度か相談やらなんやらは受けたがこうして実力をみることは無かった。さて、見せてもらおうか。

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

これもまた、素晴らしい出来だった。どうやら、最近の学生バンドは粒揃いが多いらしい(ブーメラン)。もしかしたら、俺達やRoseliaに追いつくバンドも出かねないな。今日からまた気を引き締めて練習をしよう。

 

すると、ステージ袖から、

 

『ポピパ!ピポパ!ポピパパ!ピポパー!』

 

と、掛け声が聞こえてきた。わかりやすずぎる。

 

 

「あはは、考えたのは香澄かおたえかな?」

 

 

「ははは、きっとそうだろうね」

 

春と陸は苦笑いしながら会話していた。

 

そして、ステージに現れる5人の少女。ポピパの曲もフルで聞くのは初めてだろう。文化祭は最初を聞き逃したからな。しかもその曲が最後の曲だったし。あ、そういえば、チョココロネがあった。あれはフルで聞いたな。うん、あれだろ。

 

そうこうしてると、彼女らの自己紹介が始まる。まずは一人一人名前を言ってゆく。

 

 

「バンドを初めて、だいたい2ヶ月!」

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

香澄以外の4人が声を合わせ、驚きの色を見せる。

その後の5人の話は正に俺や春が見守ってきたストーリーだった。今思うとこんなにもあの5人は輝いていたのか。まるで、フィクションの世界の主人公だ。それに比べて俺は……。

 

 

「聴いてください!『夢みるSunflower』!」

 

香澄の曲紹介ののち、おたえの指が滑らかに動き、青いギターの弦をなぞる。そして、4人も入ってくる。Aメロに入り、香澄の歌声が届く。

 

 

「この曲は多分、あの子達のストーリーそのものなんだろうね」

 

陸が独り言なのか、それとも俺達に投げかけたのか、いまいち掴めない発言をする。

 

 

「きっとね。この3ヶ月であったことをSPACEで歌いたかたんだと思うよ」

 

春は陸の言葉に繋げた。しかし俺は繋げなかった。いや、()()()()()()()

そうしていると、もうサビに入ってしまった。

 

 

「悪い、俺ちょっと外出てくる」

 

 

「えっ!あ、うん」

 

陸は驚いたようだが、止めはしなかった。春も驚愕した目で俺を見ていた。

 

俺はドアを開け、外の空気を吸う。

何故か見ていられなかった。きっと……見るのが辛かったんだ。戸山 香澄という人間は俺と正反対の人間で、俺はあいつの事が苦手だった。しかし今ではポピパのメンバー全員に少し引け目を感じている。

理由は簡単だった。

あいつらは俺と違って強いからだ。Poppin' Partyのメンバーはみんな誰かの手を借りつつも立ち上がってみせた。

 

 

「なんで……なんでそこまでできるんだよ。また挫折するのが怖くないのかよ」

 

沙綾もおたえも牛込も市ヶ谷も、香澄がきっかけをくれたから、今、ステージに立っているんだ。だけど、その香澄も一度は挫折して、声が出なくなった筈だ。

 

 

「なんで声が出なくなってたのに、そんなに歌えるんだよ。俺なんかは……」




久しぶりなので、話し方とか曖昧だったんですけど、大丈夫でしょうか?もし、おかしな点があればご指導のほどよろしくお願いします。


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第1部(裏) 桃の花咲かせるアンサンブル
1話 君の知らない物語


この話からは優人が花咲川学園で、高校2年生の前期を送っている時の、羽丘学園での出来事を書いていきます。



ゆりしぃが引退……だと……。







本日、僕の通う羽丘学園は登校日で、今日で僕も晴れて高校2年生だ。

僕はいつも通りに朝早く学校に到着する。この時間に来ると、だいたい朝練がない生徒はまだ登校していない。

だけど今日は違った。

やはり、みんなは自分のクラスが気になったようで、ざっと目算で30人程度来ていた。僕は彼ら彼女ら同様に自分のクラスを確認し、教室へ向かった。

 

僕が教室に入ると、中には女の子が数人いた。僕がドアを開けた音に反応したのか、視線が集まった。

僕に話しかける事はなかったものの、ずっとこちらを見て顔を赤らめていたので困ったのだった。

 

 

「早く知り合いの人とか来ないかなぁ……」

 

僕は心の声を漏らした。

しかし、これがフラグだったのか、五分経っても顔馴染みの人は教室に入ってこなかったので、バッグの中に入れていた密閉型ヘッドホンを取り出し両耳にあてる。スマホのロックを手慣れた動きで解除して入れている曲を流す。

 

 

 

そのまま音楽を2・3曲流していると、不意に肩を叩かれた。しかしそれは暴行目的のものではないと加減で察した。

僕はヘッドホンを耳から真下に下ろして、首にかけている状態にした。

その動作と並行に、後ろを振り向く工程もこなしていた。

 

 

「おっはよー!桃月クン!」

 

やけにフレンドリーに話しかけられたからといって、知り合いなわけではなかった。

 

 

「おはよう。えーっと……今井リサさん?」

 

 

「アタシのこと知ってるんだー」

 

同じクラスになった事はないし、直接顔を合わせた事があるわけではないが、噂で名前は聞いたことがある。俗に言うギャルらしい。

 

 

「まあ、目立ってるからね。君の方こそなんで僕のこと知ってるの?」

 

 

「えっ……それ、本気で言ってるの?」

 

 

「?うん、本気だけど?」

 

僕何か変なこととか失礼なことを言ってしまったのかな。特に思い当たりはないんだけど。

 

 

「陸は校内1の有名人なんだよ?色んな噂も立ってるのにアタシが知らないわけないじゃん」

 

いきなり名前呼びですか。はいそうですか。さっきは苗字で呼んでたような気がするけど気にしないよ。

 

 

「へぇ、僕ってみんなからどういう認識されてるのかな?」

 

 

「まあ、主にルックスと穏和な性格でしょ。あとは勉強できるし、運動もまあまあできる方って聞いたし」

 

そ、そんな噂が。見た目とか性格とか普通のつもりだったんだけど。

勉強も毎日努力してるからだし、身体だって一様鍛えている。にもかかわらず、細いままだ。「よくこんなに細い腕であんなに力強いドラムが叩けるね」って言われるんだよね。

 

 

「それで、何の用かな?」

 

 

「いやー別にこれといって用があるわけじゃないんだ」

 

 

「そっか。じゃあ1年間よろしく頼むね、今井さん」

 

 

「リサでいいって」

 

 

「ううん、今井さんって呼ぶよ」

 

 

「へぇ〜」

 

 

「ん?どうかした?」

 

 

「別にー。見た目の爽やかさとは裏腹に頑固なんだな、って思っただけ」

 

今の流れだったらそういう風に捉えられても仕方がないけど、一様今が初対面だから普通じゃないかな?なんて話が長くなりそうな事は言わない。

 

 

「じゃ!そういうことだから1年間よろしく〜」

 

 

「うん、よろしく」

 

話は終わって今井さんは自分の席につく。のではなく別の人に話しかけた。というか、話している時も周りの視線がすごかったのはなぜだろう?今井さんって女子からモテるのかな?

 

今気づいた事ではないけど、僕が音楽を聴いている間に結構な人数がクラスにいた。友達も結構いるし、あとで話しかけに行こうかな。

 

 

「りっくんおはよー!」

 

また声をかけられる。先程の今井さんよりも馴れ馴れしい挨拶だが、声の持ち主は友達なのでこれといって気にならない。

それに、「りっくん」なんて呼びかたをする人は1人くらいしか思いつかないし、それ以外に現れるとも思わない。

結論を言おう。

彼女の名前は氷川 日菜だ。

 

 

「おはよう日菜。君もこのクラスだったんだね」

 

僕は彼女とは中等部のころからの友達。同じ天文部員(僕達2人で全員)に所属しているし、昨年度はクラスメイトだった。因みに僕は軽音部(僕1人)と天文部の掛け持ちをしている。

 

 

「2年連続で同じクラスなんて凄いねー!やっぱり運命なんだよ!」

 

 

「運命なんて軽々しく言うものじゃないよ」

 

 

「軽々しく言ったつもりなんてないんだけどなー」

 

女の子の友達のなかでは日菜が1番仲が良いだろう。2人きりで遊びに行くこともある。

 

 

「それより今日は天文部の活動するの?僕は練習がないんだけど、どうする?」

 

昨日までが春休みだったので、毎日毎日練習をしていて休みがあまりなかったので、今日はオフになった。とは言っても、家で自主練はするんだけど。

 

そして、まともに部活をしているように聞こえるが、いつも部室で日菜の色々な話を聞くだけだ。部室じゃなくてもできる。

 

 

「んー。今日はあたしが練習あるんだー」

 

 

「へ?日菜って習い事とかしてたっけ?」

 

 

「ううん。バンド始めたんだ!なんかギターのオーディションに受かってアイドルバンド?ってのを始めるの!」

 

 

「……それってまだ公式発表されてない情報なんじゃない?だとしたら僕に言ったのは不味かったんじゃ……」

 

 

「あっ!そうだった!じゃあ今のナシね!」

 

 

「む、無茶言わないでよ。でも他の人には言わないから。練習頑張ってね」

 

 

「と言ってもがんばるほどでもないんだよなー。ギターってそんなに難しくないから」

 

 

「さ、流石だね日菜。……それよりそろそろ予鈴がなるよ」

 

 

「あ!ホントだ!じゃあまた後でねー!」

 

彼女は元気に自分の席へと行った。僕はその姿を見ながら日菜がギターを弾き始めたことについて詮索していた。

 

多分、彼女がギターを始めたのはお姉さんの紗夜がギターをしているからだろう。すぐに追い抜きそうだけど。

 

でも、日菜はギターでは1番にはなれないんだろうな。

 

だって僕は日菜以上のギターの才能を持っているであろう親友がいるから。

 

 

 

 

 

始業式が終わり、担任の先生からの連絡事項も済み、午前中での放課となった。日菜は事務所に向かって行った。

 

自主練は夜からやるとして、誰か友達を誘って遊びに行こうかな。幸いにも仲のいい男友達とも同じクラスになれたわけだし。

しかし一旦家に帰って昼御飯を食べよう。誰かを誘うのはその後でもできるからね。

 

そう思ってクラスにいた友達に挨拶を済ませて教室を出た。

 

すると、廊下でまたもや知り合いに出会う。

 

 

「やあ、友希那。新しいクラスメイトと馴染めた?」

 

目の前にいる少女は凄まじいオーラというか存在感を放っていた。見た目からザ・クールな感じだし、中身もその印象を裏切らない。猫が好きで苦いものがダメなところ以外は。

 

そんな彼女の名前は湊 友希那。

ライブハウスで知り合って同じ学校ということもあり仲良くなった。冷淡な彼女でも普通に笑顔を見せてくれた時は驚いた。そして、若干照れてしまった。

 

 

「あんな人達と馴染む必要ないわ」

 

 

「あはは、友希那らしいね。でも、少しくらいクラスメイトと仲良くしたら?」

 

 

「……気が向いたら」

 

 

「うん、自分のペースでね。それより、今日はなんの用かな?」

 

僕は早速本題に移った。別に焦っているわけではないし、もう少し世間話をしてもいいのだが、友希那が音楽以外の普通の会話ができるとは思っていない。

 

 

「ええ、今日はこれからライブハウスに行こうと思ってるの。それで、貴方を誘いに来たのよ」

 

 

「なるほど、それは単に見に行くってこと?それとも友希那が出演するの?」

 

 

「もちろん、私はステージに上がるために行くのよ」

 

 

「OK。なら僕も行くよ」

 

二択質問をしたけど、この後大した予定があるので、たとえ友希那が出演しなくてもついて行っていただろう。

 

 

 

 

 

そうして僕らはライブハウスへと向かう。

今日は登校日たげど、曜日で言うと日曜日なのだ。昨日の土曜日に入学式が行われていたらしい。

なので、こんな昼間からライブすると言っても、平日ならお客さんは集まらないだろう。しかし土日となれば、昼過ぎでもかなりの人数が集まる。

 

なので、そのライブハウスに入って人の多さに驚いた。やはり友希那のライブとだけあって、集客率はすごい。

 

そして当然のように僕らが音楽業界にとってどのような存在かも秒でバレた。

 

 

「ねえ、あれって友希那だよね。近くで見ると迫力がすごいなぁ」

 

 

「うん。それに隣にいるのはFull Bloomの陸だよね」

 

 

「あの2人が一緒にステージに立ったりするのかな?だとしたら絶対カッコいいって!」

 

 

などと周りからの声がする。それよりも制服で通っている学校がバレそうだけど、大丈夫かな?

 

 

 

すると、1組目のバンドが登壇した。

そのバンドはお世辞にもいい演奏とは言えなかった。譜面通りにすら演奏できてないし、なにより熱意が感じない。おや、1人だけ違った。

 

 

「このバンド、ギター以外は全然ダメね」

 

友希那が呟いた。やはり彼女程のレベルだと気づくようだ。

 

 

「ああ、僕もそう思う。でも、こうしてみるとやっぱり紗夜は流石だなぁ」

 

 

「あの子を知っているの?」

 

友希那が、これは呟きではなく明らかな疑問系として声を出す。

 

 

「まあ、ちょっとしたね。友達のお姉さんで、紹介されたんだ。それなりに仲は良いつもりだよ」

 

 

「そう……陸、私彼女とバンドを組むわ」

 

 

「へぇ、いいんじゃない。…………えっ?」

 

な、何を言いだすんだ彼女は。確かに紗夜の技術を凄いけど、そんなに即決しなくても良いのでは?というか、引き抜くの?

 

でもなんで結論を急ぐのかは僕には分かっていた。

 

 

「やっぱりFUTURE WORLD FES.に?」

 

 

「ええ、もちろんそのつもりよ。それにあたって陸、貴方も一緒にバンドを組まない?」

 

はぁ、またですか。僕は彼女から何度も何度も繰り返しバンドを組もうと誘われている。

 

 

「前から断ってるよね?間に合ってます」

 

 

「いいえ、貴方は私と組むべきよ。あと春とも組みたいわ」

 

君はどこのお嬢様なの?それが口から溢れそうになったのは事実だ。

 

 

「何でそんなに優人を毛嫌いするんだい?」

 

 

「何でって言われても……優人は第一印象が最悪だったからかしらね」

 

全く。優人も優人だけど、友希那も友希那だ。2人とも音楽への愛情は測りきれないし、努力も最大限音楽を超えてるし才能にも恵まれている。音楽的感性は2人とも似ているし、性格が違っても仲良くなれると思ってるんだけどなぁ。

 

いや、今はそんな事はどうでもいい。それよりも……。

 

 

「自分から聴いておいてなんだけど、僕の前であんまり優人の悪口を言わないでほしいな」

 

 

「!……ごめんなさい」

 

僕は少しだけ声を低くした。つもりだったが、予想外に怖くなっていたようたった。

 

 

「いいよ、僕こそごめんね」

 

実際のところ、僕の気分は害されていなかったが、友希那がこのままヒートアップしていたら間違いなく優人の悪口を言いまくっているはずだ。

そうなると、僕はほんとに気分が悪くなるから、早めに止めておいた。

 

 

「じゃあ、楽屋の方に行ってみる」

 

 

「……ええ」

 

この少しの間はおそらくまだ先ほどのことを気にしているのだろう。だけど少ししたらいつもの調子に戻るだろう。なので、あまり気にしてない感じを漂わせて人混みの中を掻き分けて行った。

 

 

 

そして目的の楽屋。ではなくロビーに僕と友希那は立っていた。いや、話を盗み聞きしていたというべきだ。と言ってもロビーだから意識しなくても声が耳に入ってくるのだが。

なぜなら友希那が今から勧誘しようとしている例のギタリスト・氷川 紗夜が彼女のバンドメンバーと揉めていたからだ。

 

見守っていると、どうやら決着がついたようだ。雰囲気からして紗夜はそのバンドから脱退したようだ。

彼女はどうやらお遊びでバンドをする人達とはやって行けない。自分と同じくらいの練習量じゃない人とは組んでも意味がないと前から言っていたのを僕は知っている。

ま、隣にいる同学年の少女もなかなかハードな練習をしているけど。

 

すると、紗夜が僕らのことに気づいた。

 

 

「!ごめんなさい。他の人がいるとは気づかずに……桃月さん!?見に来ていたんですか?」

 

 

「やあ紗夜。いい演奏だったよ」

 

 

「いえ、ラストの曲、アウトロで油断してコードチェンジが遅れてしまいました。拙いものを聴かせてしまって申し訳ありません」

 

そんなに気にならなかったんだけどなぁ。僕はその一言を口にしなかった。なぜなら質問が飛んで来たからだ。

 

 

「……ところで桃月さん、そちらのお方は?」

 

 

「あ、ああ。彼女はーー」

 

 

「湊 友希那よ。紗夜といったわね。貴方に提案があるの。……私とバンドを組んで欲しいの」

 

僕が紹介をする前に自分で済ませてしまい、その上本題まで一気に切り込んだ。

 

 

「ーーえ?私とあなたでバンド?すみませんが、あなたの実力がわからないので、今はお答えできません」

 

紗夜の反応は当然のものだろう。これで即OKする方がおかしい。友希那の実力を知っている・知らないにしてもそんなにすぐに答えは出せるはずない。

 

 

「私はこのライブハウスは初めてなんですが、あなたは常連なんですか?」

 

 

「そうね」

 

その短い返事を返した友希那は、紗夜を誘った理由を熱心に話し始めた。FUTURE WORLD FES.のことも話し実力とか覚悟がある人とは組めないと紗夜が言った。

その言葉に僅かに燃えて来た友希那がいた気がした。

 

 

「私の出番は次の次。聴いてもらえればわかるわ」

 

しかし紗夜はそれでも反論を述べる。

 

 

「待ってください。例え実力があってもあなたが音楽に対してどこまで本気なのかは一度聴いただけではわかりません」

 

 

「それは私が、才能があっても胡座をかいて努力しない人間のように見えるということ?私はフェスに出るためなら何を捨ててもいいと思ってる。貴方の音楽に対する覚悟と目指す理想に、自分が少しも負けてるとは感じないわ」

 

友希那は堂々と言い切った。内容はそう簡単に言えたものではない。冗談半分でも口にする人間はいないと思えるほどに。紗夜は友希那の意思に折れたのか、

 

 

「……わかりました。でもまずは一度、聴くだけです」

 

 

「いいわ、それで十分よ」

 

そして友希那は楽屋の方に去って行った。準備をするのだろう。出番は次の次と言っていて、どのバンドも数曲やるので時間はまだ余裕があるはずだが、おそらく闘争心が駆り立てられているのだろう。

 

 

「桃月さん、あなたから見て彼女の実力はどれほどのものですか?」

 

紗夜が突拍子のない問いをする。おそらく、少しだけだが興味を持ったのだろう。

 

 

「んー。もうすぐ歌うからあんまり言わないけど、彼女は……友希那は凄いよ」




久しぶり?なんですかね?もう前回がいつ書いたか覚えてません。

今回きらはちょっと話を四月に戻して、「裏」と題して話を進めていきます。ここの話が終われば夏休みに入ります。季節感ゼロっスね。

ちなみに、今回が陸君目線だっただけでちゃんと優人君に焦点は戻します。でも、あと2・3話は陸君目線かなぁ。


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2話 Break the Chain

お久しぶりです。なんか投稿ペースがグダグダになりつつありますが、頑張ります。


「友希那の出番は次だね」

 

僕は隣にいる紗夜に確認をする。紗夜は、

 

 

「ええ、分かってます。それにしても……」

 

紗夜は言葉をそこでせき止めた。多分、お客がみんな友希那を待っているからだ。しかも、騒いだり、混雑するのではなく、静かに。

これだけで友希那の人気はわかるものだが、紗夜の目つきは変わらず。

僕も実は友希那の歌が楽しみなのだ。彼女の歌を聴くのは楽屋やステージ袖ということが多くて、客として見た回数を数えるには両手で足りるだろう。

紗夜が誰かとぶつかったり、後ろで騒いでいる女の子を注意しようとしていたが、ハッキリ言ってどうでも良かった。

 

 

友希那の歌を聴くのが楽しみなのだ。

 

 

以前聴いた時からより洗練されているはずだ。

 

 

そして友希那が登壇した途端、お客さん達の歓声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

いま、クラス中の視線は僕の方に集まっている。いや、教室以外にも、廊下にいる人がこちらを見ていた。他のクラスの子も見に来たのだろう。

なんで、こんなにこちらを見ているのか。その答えは簡単だった。それは学年で、いや、校内でもかなり有名な友希那が昼休憩時に僕の元へやって来たからだ。

彼女は、数日前のライブで見事紗夜を認めさせ、1人目のメンバーを確保した。その後、出待ちしていた女の子にドラマーとして入れてください!と言ってきた子がいたが、一蹴していた。

でも、今はその事は置いておこう。

何故友希那がここにいるのか。それは僕から話があると誘ったのだけど、まさか教室に来るとはね……。

 

 

「それで陸、話って?」

 

 

「あ、うん。今のところ他のメンバーの目星はついてるのかな?って思っただけだよ」

 

 

「いえ、まだ決まってないわ。だから陸、貴方は……」

 

「お断りします」

 

全く、友希那も懲りないなぁ。どうして僕に固執するんだろう。

 

 

「それよりドラマーは昨日の子じゃダメだったの?やる気は十分だと思ったけど」

 

 

「彼女は自分のことを世界で2番目のドラマーと言ったのよ?」

 

 

「うん。それがどうしたの?自信持ってるんだからいいんじゃない?」

 

 

「私が目指すのは頂点よ。No.2のドラマーが私の理想のメンバーになるはずがないわ」

 

……一理あるから何も言い返せない。

 

 

「それにあの子はお姉さんが世界1のドラマーと言ったわ。そこが気にくわないのよ。だって、1番のドラマーは陸ですもの」

 

 

「っ!ちょ、友希那何言ってるんだい!?恥ずかしいからやめてよ!」

 

あくまでも友希那の独断と偏見によって決めたNo.1のドラマーが僕だとひても、真正面から言われるのは……照れる。

 

 

「そんなことよりも、早くメンバー見つけないて練習しないといけないんだから、僕も知り合いに話してみようか?」

 

これでも高校生でバンドをやってる人達の関係は広い。それなりに上手でガッツのある人も見つかるだろうし。

 

 

「いいえ、遠慮しておくわ。陸の手を煩わせるわけにはいかないもの」

 

 

「わかった。そろそろ予鈴鳴るから、教室に戻った方がいいよ」

 

 

「そうね。じゃあ」

 

そう言って友希那はまるで周りの目を気にせず教室から出て行った。もしかしたら気づいてなかっただけかも。

僕らを観ていたギャラリーは友希那が教室を出て行くのを見送り、そのまま見えなくなるまで彼女を観て、見えなくなった途端、僕の方に集まって来た。

 

めんどくさいなぁ。質問ぜめ。

そう思ったら、僕はチャイムに救われたのだった。

 

 

 

 

 

放課後になり、僕は教室を出ようとする。

 

 

「さてと、練習行かなきゃ」

 

クラスの男子の友達と下駄箱まで降りて、靴を履き替えたのちに正門へ向かう。

すると、正門前で何やら人だかりができていた。といっても、それほど集まっておらず、友人含む3人がいて、それを通りすがりにチラ見している人が多かったからそう見えただけだ。

その3人とは、友希那と今井さんとこの間のドラムの子だった。というか、うちの中等部の生徒だった。

何事だろう?と思ったけど、よそ様の問題に首を突っ込むのは良くないだろう。

僕は友人と、何も知りませんというオーラを醸し出して通り過ぎようとするも。

でも、

 

 

「ちょっと待ちなさい、陸」

 

話しかけられたらそこで終わりなんだよ。

僕は友達に「ごめんけど今日は一緒に帰れそうにないから」と言った。3人の友達は厄介事には関わりたくないけど、女の子とはお喋りがしたいという2つの気持ちで揺れた結果、帰った。

 

 

「さてと、友希那。一体どうしたんだい?」

 

しかしこの問いに答えたのは友希那自身ではなく、今井さんだった。

 

 

「え?友希那と陸って知り合いだったんだ。なんで教えてくれなかったの友希那」

 

もっとも、これが返答になっているとも思えないけどね。

というか、友希那と今井さんは幼馴染だそうだ。今日の昼休憩に今井さんが教室に残ってたら絶対もっと視線がヤバかった気がする……。

 

 

「だって聴かれてないもの」

 

どんどんと話が逸れて行ってる。このままだと、最終的には地動説くらいのスケールに変貌しそうなので僕が軌道修正を買って出る。

 

 

「そんな事よりどうしたんだち?こんな正門の真ん前で…………その子、この間のドラム志望の子だよね?内容は大体想像ついたけど、一様説明してくれるかい?」

 

そう言ってザッと教えてもらった事をまとめると、どうやら今井さんがオーディションをやるという提案をし、友希那が一回セッションすることだけを認めた。それでダメだったらもう2度と来るな、ということだ。

 

 

「成る程ね…………。つまり僕は関係ないね。じゃあ」

 

 

「待ちなさい陸。貴方にもオーディションを立ち会ってもらうわ」

 

 

「なんでなんだい?僕がいたって出来ることは何も無いよ?それに邪魔になるかもだし」

 

これは本音だった。

自分で言うのもなんだけど、僕は困っている人は放って置けないタチだけど、自分にできないことは静かに見守り、自分の出番を大人しく待つタイプだと思っている。

なので、今回の案件はいくら待っても僕の出番は無いだろう。

だから最後まで友人として邪魔はしたくない。僕がオーディションに行くと集中の妨げになったり、ギャラリーがいるだけでドラム志望の彼女も緊張するかもしれない。

 

 

「いいえ陸、貴方はきっと邪魔にはならないわ」

 

 

「何を根拠に……」

 

 

「根拠?そんなの勘よ」

 

 

「そんなのって……」

 

そんなのってアリ?と言おうと思ったが『勘』という言葉の前ならどんなに言葉を並べても意味ないと悟った。

 

 

「……分かった。僕もついて行くよ」

 

友希那は微笑を浮かべていた。今井さんは……ポーカーフェイスだね。それにあの中等部の子も今は特に緊張は伺えないかな。

 

それにしても。

友希那も『勘』なんて言うんだね……。

 

そんな事を考えながら僕は3人について行った。

 

 

 

 

 

ライブハウスCiRCLEに到着した。

ここは僕達も良く来るライブハウスだ。というか今日の練習もここで行うので一曲終わればすぐに練習に向かえるわけだけど。

 

問題は2人に……優人になんて言うかだ。

多分友希那のバンドの事だと知ったらこちらに突撃してくるだろう。

だから、僕は春だけに連絡を入れて、上手く隠蔽してもらう。

 

友希那を先頭に予約を入れていたスタジオに入る。

僕が「お邪魔します」と言うと、後ろに続く今井さんや宇田川が真似して「お邪魔します」と言った。

スタジオ内には紗夜が既に来ていた。彼女は僕がいる事に若干驚いたが、僕以外にも人がいる事に気付いた。

 

 

「湊さん、桃月さん。この人達は?」

 

すると、今井さんと宇田川が自己紹介を始め、オーディションをする理由を友希那が述べた。

 

 

「という事は実力はある方なのですね?」

 

 

「努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんなさい。実力がなければ、2人ともにはすぐに帰ってもらうわ」

 

…………ん?2人?

ちょっと僕は含まれてないの?

練習あるんだけど。紗夜もなんで意義なしみたいな顔してるのさ。違和感とか感じなかった?

 

 

「リサ姉!あこ絶対合格するように頑張るから!」

 

 

「そうだね。あこ、ファイトっ」

 

そろそろ始まる空気になって来たかな。オーディションを執行する側も受験する側も準備できてるようだし、僕はそろそろ用済みかな。

しかし、

 

 

「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価ぎできるんだけれど……」

 

紗夜がそう言うと、友希那は彼女ではなく僕の方を向いた。紗夜もわざとらしくこちらに向く。

わかった、そういうことね。

僕にベースをやらせる為に連れて来たんだね。多分、彼女らは自分の口から言わないだろうから、時間重視で僕から立候補しよう。

 

 

「じゃあ、僕がベー……」

 

 

「あ、あのさ。アタシが弾いちゃダメかな?」

 

僕の言葉は今井さんによって中断された。だけどそれは僕にとっては好都合だ。最近あんまりベースは触ってないからなぁ。

 

 

「リサ姉、ベーシストだったの!?」

 

 

「昔ちょっとやってたんだよね。誰もいないんでしょ?だったらアタシ弾くよ。待ってて、ベース借りてくるから!」

 

誰もいないわけではないが、今井さんが異論反論を受け付けずにそそくさとベースを借りに行ったので、言い出せる雰囲気ではなくなっていた。

 

 

 

そして、今井さんがしばらくして戻ってくると、早速オーディションが始まった。

僕は見学する。義務付けられてるだけなんだけどね。

 

そうして4人のセッションが始まった。

 

 

「っ!!」

 

音が肌にビリビリ伝わってくる。その刺激が鳥肌を立たせる。

しかし、そのことに気づかないほど、脳にも刺激が届いていた。

4人も驚きが隠せていない。

 

それもそうだ。

昨日今日で集まった4人の演奏がこんなにもハイクオリティだなんて、誰の想像にもつかない。

まだまだ技術面て劣っているメンバーもいるし、全然合わないパートもある。

 

 

 

 

 

「『調和』というよりも、『共鳴』だね……」

 

僕は思わず呟いた。

僕も過去に1・2度、その『共鳴』というものを感じたことがあった。

そして、ある確信もしていた。

 

 

きっと彼女達は大きく羽ばたく、と。

 



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3話 チャレンジャー!!

お久しぶりです。ホント忙しくて投稿できませんでした!これからもこんなペースになるかも……。でも、月に1回は最低更新致します!


「へぇ……じゃあ、結局キーボーディストも集まったんだ」

 

僕は教室にて、現在のRoseliaの状況を教えてもらっていた(というより聴かされていたという方が正確だが)。

しかし、その相手は友希那ではなかった。

 

 

「うん、そうなんだよねー。しかもその子、なんか小さい頃には賞とかとってたんだって」

 

相手はクラスメイトの今井さんだ。朝に「おはよう」と挨拶し合う程度なので、僕からしたらあまり仲良くなったつもりではないが、彼女距離とかはあまり気にせず、壁を作らずに話すことのできる人だとわかった。

 

 

「……ホントに?だとしたら、僕達は今まで近くに優秀なピアニストがいたことに気づかなかったということ?」

 

 

「近くっていっても、燐子はこの羽学(はねがく)の生徒じゃなくて花学(はながく)生だよ。それに、あんまり周りに話してなかったみたいだし」

 

燐子さんっていうのか……。今日の練習で優人や春に知り合いかどうか聞いてみよう。

 

 

「そっか。ならしょうがないか……。でも、なんで僕らは2年近くバンド組んでるのに、メンバーは初期の3人のままなんだろう…………」

 

そう、僕らのバンドはもう1人2人は欲しいものの、全く寄り付かない。

 

 

「やっぱり有名だから、みんなレベル的に寄り付きにくいってことでしょ」

 

 

「別にそこそこの技術があればいいんだけどなぁ」

 

 

「その『そこそこ』の基準が高いって思われてるんだって」

 

 

「まあ、しょうがないかな。…………それより、FUTURE WORLD FES.には出られそう?」

 

この質問は実力や、グループの雰囲気を指したつもりだった。

 

 

「うん!合わせた感じは良かったかな」

 

 

「そっか。なら、みんなに伝えておいてほしいことがあるんだけど。いいかな、今井さん」

 

 

「うん。別にいいよー」

 

 

「じゃあ、『僕達もフェスに出場する』って伝えてもらえる?」

 

 

「……………………マジ?」

 

 

「うん。まだ優人達には言ってないけど、多分乗り気になると思うよ」

 

この事を直接友希那に伝えなかったのには意味があった。直接言っていたら絶対拗ねたと思う。そこを今井さんというワンクッションを置く事で少しでも緩和したかったのだ。

 

 

「はあ、わかった伝えとく」

 

 

「助かるよ、今井さん」

 

そうして僕は教室を出て、優人と春の待つライブハウスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?FUTURE WORLD FES.に出る!?なんで、去年は出なかったのに今年は出る気なんだ!?」

 

優人は声を上げていたが、反感を買ったわけではなさそうだ。なぜなら、若干声は弾んでいるし、表情を見ても口元が喜んでいるのがわかるからだ。

 

 

「去年は去年。今年は今年だよ」

 

 

「まあ、陸の決定なら文句は言わないけどよ!」

 

大した説明もせずに優人は納得してくれた。理由なんかどうでもいいって顔してるし。

 

 

「それよりもどうして急に?」

 

春も出場すること自体には何も言わないので、出てもいいということだろう。

 

 

「なんて言うのかな……。そろそろこういう本格的なものにも挑戦しないとプロとの実力差が分かりづらいから、かな」

 

というのは建前で、本音は優人と友希那をぶつけたいだけだ。

それに、僕らの実力ならそこら辺のプロには負けないとも思っている。別に自意識過剰なわけではなく事実なのだ。以前その事実を否定し、自分達は下手だ、と言ったら嫌味にしか聞こえないと言われたことがある。

 

 

「なるほどね〜。私も出てもいいよ。陸君がそこまでやる気なら、とことん付き合うよ」

 

春はそう言ったが、どうやら僕よりもやる気を出している。本当に頼もしいよ。

 

 

「わかった。ありがとう、僕の我儘に付き合わせちゃって……それと、Roseliaが5人揃ったって」

 

 

「えっ!?そうなのか!?」

「うん。知ってたよー」

 

どうやら優人と春の情報網は全く違うらしい。

優人は出遅れたという顔をして、なぜか悔しがってた。別に悔しがることでもないような……。

 

 

「春はどこで知ったの?」

 

 

「大したツテがあるわけでもないよ。ただキーボードの子が友達だったってだけだから」

 

 

「あっ、そうなんだ」

 

 

「と言っても、その子がピアノやってるなんて私も今まで知らなかったから優人が知らなくても無理ないよね」

 

 

「ちなみにその子は誰だ?お前の友達ってことは元俺らのクラスメイトってことだよな?」

 

あっ、そっか。この2人、ずっとクラス一緒だったんだっけ。なんかいいなぁ。僕だけ仲間はずれみたいな感じで。まあ、2人はそういうのを気にせず接してくれるから有難いけど。

 

 

「燐子だよ。白金燐子。優人もそれなりに話してたよね?」

 

 

「はぁ!?白金、ピアノやってたのか!?俺、聞いてない!」

 

なんだか話の焦点がどんどんズレていってるような気がするけど、本質は変わってないからいいや。でも、練習したいから僕は、

 

 

「と、取り敢えずこの件についてはもういいかな?そろそろ練習始めよう」

 

僕は長くなりそうなのを察して、練習を促した。2人は気持ちをすぐに切り替えてくれた。

 

その後、曲を合わせてみると、2人の音が少し力んで聴こえた。いや、僕も入れて3人ともだろう。予想以上のリアクションをしてくれた優人はもちろんのこと、春もやる気は十分だ。どうやらRoseliaも出場してくると察したようだ。全力で友希那達に勝ちに行くんだろうな。

久しぶりに優人と陸が同じステージの上で競い合うのを観れるのだ。そのためにも足を引っ張らないように、僕も頑張らなきゃな。

 

と、僕も密かに心を躍らせていた。

 

 

 

 

 

 

僕は練習が終わって家に帰っていた。

「ただいま」と言って、家族からの返事を聞くと洗面所で手洗いをし、すぐに自室へと続く階段を上る。

制服から部屋着に着替える。大した柄のない藍色のシャツに腕を通す。

それから夕飯を食べようと、再び一階に降りようとするが、その前にスマホを開いた。

すると、日菜から通知が来ている。

 

 

「明日は休みの日だから遊びに行きたいのかな?」

 

僕は予測し、少し微笑み、1人呟く。

しかしながら、内容は違っている。

 

 

『明後日はあたし達のお披露目ライブだから見に来てね!特等席を用意してるから!』

 

なるほど、強制イベントだね。ま、これが日菜の通常運転なんだけど。

 

それより、明後日は日曜だから練習あるんだけど……早く切り上げさせてもらおう。今日、僕からフェスに出ようと提案したのに、2人には申し訳ないことをしちゃうな。

 

優人と春を誘ってもいいけど、アイドルに興味はないだろう。

まさか、2人にもパスパレのメンバーに知り合いがいるっていう、そんなミラクルがあるわけでもないだろうから。

 

僕は早速優人と春とのグループにメッセージを入れておいた。

 

 

『今度の土曜日、夜に用事ができたから早めに始めてもいいかな?』

 

2人からはすぐに既読が付き、ほぼ同タイミングで返信が来た。

 

 

『OK!!』

『りょーかいっ!』

 

と、優人と春から送られてきた。

2人が快く快諾してくれたお陰で、僕はすぐに日菜に返事をすることができた。

 

 

『わかった。日曜日に行くよ』

 

すると、こちらもすぐにメッセージを確認したのか、

 

 

『ヤッター!!後から行かないって言うのはナシだからね!』

 

 

「ホントだよ。嘘ついたって意味ないじゃないか」

 

僕は小声でそう口から溢した。その時、呆れ混じりにも微笑んだのはナイショだ。

 

僕はスマートフォンの電源ボタンを押し、机の上に置いた。そのまま部屋から出て家族の待つリビングへと向かう。

その道中の階段で、僕は思ったことがあった。

 

 

「みんな、なんで僕に対してこんなに早く返事するんだろう……?」




エキスパート、あと12曲でフルコン制覇します。
レベル26はY.O.L.O!!!!!とハッピーシンセサイザのみ……。あいつら難過ぎです……。


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4話 しゅわりん☆どり〜みん

お久しぶりです。なんか月1更新になってきていますが、ペースを早くしたいとは思っております。

自分でタイトルは曲名にしたクセに、タイトル決めが難しいです。(何話かタイトルついてないのは本当にスミマセン!!!)
パスパレのお披露目ライブの回なので無難にしゅわりん☆どり〜みんにしました。

6000字超えましたが、前半会話少なくて読みづらいかもです(泣)。


 side陸

 

 ライブ当日の日曜日。

 土日は朝から晩まで練習というのが僕らのバンドだが、今日は我儘を言って午後3時頃に切り上げてもらった。優人と春には「用事があるんだ」と言っただけで納得してくれた。今度埋め合わせをしなきゃいけないな。

 

 今日は梅に入っているくせに雨が降ってないので余計ジメジメして蒸し暑い。長時間もドラムを叩いていたら汗もかく。だから僕は一旦家に帰って、着替えてからライブに繰り出すことにしたのだ。

 僕はアイドルのライブは初めてなので、どういった服を着ればいいのか分からず。結果、いつもの私服と同じようなコーディネートになる。

 

 家を出て、駅に向かう。

 日曜日の電車は時間にもよるが人が多い。といっても、僕と同じ目的であり、同じ場所へ向かう人々ばかりに思えた。

 

 そんなわけで、ライブ会場に到着した。その会場はというと……。

 

 

「い、意外と大きい……」

 

 しかし僕は観る・聴く側なのでこれといった緊張があるはずもなく。昨日日菜に直接会って、貰ったチケットで中に入る。

 それでも、会場内に入るとまた思ったことが溢れる。

 

 

「人も多いい……。1万人はいるかな……?」

 

 それもそうだろう。これはPastel*Palettesだけのライブではないのだから。お披露目ライブがワンマンなわけもない。

 

 

 

 ライブが始まり、いくつかのアーティストのパフォーマンスを拝見させて貰ったが、誰もが有名な人ばかりで、「流石」と思わざるを得ないステージだった。

 

 そして、

 

 

『続きまして、新生アイドルバンド『Pastel*Palettes』の登場です!このステージで初お披露目となる彼女たちを、どうぞご覧ください!』

 

 日菜は緊張してないだろうけど、他のメンバーには少なからずそういう心情な筈だろう。

 

 そうこうしていると、ステージ袖から5人の少女が登場した。周りの人々は、彼女らを見て色々思うこともあっただろう。

 なぜなら、元子役の白鷺 千聖がいたからだった。あの5人の中では、業界でのキャリアは1番長いし、若手女優の中でも演技力は抜かんでているとの評判だ。それでいて、あのルックスだ。人気にならない訳がない。

 そんな彼女が何故アイドルに?と思う人は多いだろう。僕もその1人だ。恐らく、自己でやったのではなく、事務所の意向が100%なのだろけどね。

 

 それにしても、1つ気掛かりな事がある。それはドラマーの子についてだった。彼女が美人だから僕は凝視していた訳でもなく、どちらかといえば自分の職業柄、見つめていただけだ。最初はドラマーとして気にかけていただけだが、今ではそれとは別にして気になっていた。

 

 

「彼女、どこかで……」

 

 僕は目を細めてみたが、それでも収穫はなかった。それよりも、いつ演奏が始まるのかな?

 

 

『……』

 

 センターのピンク色の髪をした子が黙っている。

 緊張だ。

 顔色を観れば安易にわかることだった。これは僕の洞察力がどうとかではなく、誰から観ても一目瞭然だったに過ぎない。

 要は、ピンクの彼女は、

 

 

「吐きそうな顔」

 

 をしていた。

 

 

『みなさーんっ!はじめましてーっ!私達、Pastel*Palettesです!略して『パスパレ』って呼んでくださいね♪』

 

 ようやく言葉が出てきたので、観客側は皆、安心をしていた。

 

 

『私達のことをよーく知ってもらうためにー……。まずは1曲聴いてくださいっ!『しゅわりん☆どり〜みん』!』

 

 あ、なんかMCがアイドルっぽい。いや、まあ、アイドルなんだけどね。それに他のアイドルとか知らないし。

 

 

「……今度優人か春にアイドル風のMCやってもらおうかな」

 

 しばしば考えてみる。

 …………本気でやりそうだから言わないでおこう。

 

 そしてメンバー達が演奏を始めた。周りのお客さん達からの評価は中々に高い。

 それもそのはず。生演奏なのだから。

 しかし、僕はそれについて同時に少しばかり疑っていた。

 日菜から聞いていた話では、パスパレが結成されてそんなに日が経っていない。それなのにこのクオリティはどうだろうか。この演奏はとても数週間のものではない。

 …………いや、この考えはよしておこう。今は日菜のステージに集中だ。

 

 しかし、センターの彼女は歌うのをやめた。いや、その表現は適切でなかった。

 

 

「音が……。当て振りだったか……」

 

 僕はこの言葉を口にするつもりはなかった。だが、周りもその事実に気づいて野次を飛ばし始めので僕の声は隣のお客にも聞こえていない。

 

 しかし、僕は彼女達を非難しようとは思わない。これも全部事務所の意向だと察したからだ。

 言うなれば彼女らは被害者。叩かれるのはもっと別にいる。

 

 だけど、またこの事態を対処するのも彼女達自身だ。それもあのアガリ症(と思われる)リーダーの子に。

 

 

「さて、どうするんだい……?」

 

 こういう時の対処法は2つ(小さく分ければまだまだあるが)だ。当て振りを認めるか認めずに謝罪をしてステージから履ける。もう1つは本当に演奏をする。

 前者を選んだ場合はネットでのバッシングは避けられない。下手をすればパスパレがなくなりかねない。

 後者の場合は、演奏が出来なければ前者よりも酷くなる。それは当て振りを前提に練習を怠ったということになるのだから。仮にまともな演奏ができてもまた、振りだと思われる可能性が高い。

 

 つまり、

 

 

「前者を選ぶしかない」

 

 

『…………』

 

 しかし、ピンクの子は黙ったままだ。あの子の代わりに誰かが何かを言わないと一層事態は悪化する。

 

 

『皆さん、ごめんなさい。機材のトラブルで、残念ですが演奏ができなくなってしまいました。私達は、今後もライブを行なっていく予定なので、もしよろしければ遊びに来て下さいね。それでは、『Pastel*Palettes』でした!』

 

 白鷺千聖が率先してくれたお陰で、5人はスムーズに舞台から去っていった。

 

 

「事態はスムーズにいかないみたいだけどね……」

 

 興醒めした僕は、帰ることにした。

 これから続く他のアーティストの演奏を聴かずに。普通、途中退場はできないが今はスタッフが慌てているため、僕もまた、スムーズに会場から去っら事ができた。

 

 

「……これだから、事務所に就きたくないんだよ……」

 

 その日、日菜からの連絡はあったが、特にライブの事は気にしてない印象を受ける内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、僕はいつも通り登校して既に学校に着いている。と言っても、僕は軽音楽部の部室で練習をしているから早く来ているのだけどね。といっても今から教室に行こうと思っていたのだけれど。

 

 コンコンコン。

 ドアがノックされた。から僕は「どうぞ」と言いたかったが、その前に()()が入ってきてしまった。

 そうするや否や、日菜は、

 

 

「りっくーーーーん!!!」

 

 

「ちょっ!日菜!?」

 

 彼女は僕の胸に飛び込んで来た。

 

 

「何やってんの日菜!?は、離れてよ!!」

 

 しかし、僕の言うことは聞いてくれなかった。

 なので僕は諦めた。

 日菜にこうやって抱きつかれることは多々あるけど、毎回男子のみんなからの嫉妬の視線がすごいんだよなぁ。あとは、女の子からも意味ありげな視線を感じるけど。

 

 

「ライブ失敗しちゃったー!」

 

 

「そ、そのわりに元気そうだね」

 

 この時、僕はもう照れていなかった。

 

 

「うん。だってあたし気分で入ったようなカンジだし?別に思い入れがあるわけでもないからさー」

 

 

「……いや、でもさ。このまま終わってしまうのはなんか嫌じゃないの?」

 

 

「うーん?確かにメンバーの子達と練習できないのはちょっと寂しいけど、会おうと思えば会えるわけだし」

 

 日菜はこのままパスパレが無くなっても大した事は感じないだろう。それが1バンドマンの僕としては非常に残念に思えた。

 

 まあでも、選択するのは日菜自身なのだ。日菜が助けてほしいと思っていないのに僕が手を貸すのもおかしいと思う。

 日菜のステージに立つ姿はもう一度ちゃんと観たいが。

 

 というか、そろそろ教室に戻らなきゃ遅刻になるよね。

 だから、僕は日菜と戻ろうと思ったその時。

 スマホが震える。バイブが長いので電話かな。相手は……。

 

 

「優人から……。日菜、ちょっとごめん」

 

 すると日菜はあっさり了承し、手を腰から離してくれた。

 僕はスマホを耳にあて、

 

 

「もしもし優人?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side優人

 

 俺は朝からのバイトを終えて、学校に向かっていた。いつも通りの時間に登校していると、いつも通り冬夜と合流できる。一緒に行く約束はしてないが、1つの習慣だ。

 そのまま、いつも通りの他愛の無い言葉を交わし、いつもの学校に着き、いつも通り教室に向かう。

 

 しかし、教室内は全然いつも通りではなかった。他クラスや他学年の生徒が大勢、うちのクラスに出向いていたのだ。

 

 

「な、なにごとだ?優人?」

 

 冬夜が俺に問うた。しかし、それは俺が聞きたい。

 なので俺達は人ゴミを掻い潜ってなんとか室内に入る。

 すると、この人ゴミ共が理解できた。

 

 俺の席の隣の少女が病んでいたからだ。なんかたまに不気味な笑みをする可愛らしい女の子。

 つまり、鬱もどきなのは丸山彩。

 

 

「「…………」」

 

 俺と冬夜は絶句してしまった。

 

 

「あ、2人ともおはー」

 

 

「!あ、ああ春。おはようさん」

 

 

「!春か。グッモニん」

 

 

「冬夜君、どうしてそんなにわか関西弁なの?あと優人に至ってはツッコムのメンド臭い」

 

 俺への扱い酷いけど、それも今更って感じがするのはなんでだろう。

 しかし、そんな事よりも気になることがある。なので、早速春に質問してみることにした。

 

 

「んなことより、丸山の奴どうしたんだよ?側から見たらヤベー奴なんだが」

 

 横で冬夜が「うんうん」と頷いている。お前、今のところ大して台詞無いのにそれでいいのかよ。。

 

 

「えー、君たちニュース見ないの?」

 

 と言いながら彼女はスマホを取り出し、こちらに差し出した。

 画面には『期待のアイドルバンド《Pastel*Palettes》がお披露目ライブで当て振り』となる見出しがあり、スクロールしてみると詳細が書かれていた。

 

 

「ホントに知らなかったの?テレビでも結構話題になってるよ。私も心配になってすぐ連絡したんだけど、返事なくて心配してたんだ」

 

 このギャラリーもアイドル見たさに、もしくは可哀そうと哀れみの目を向けるためにここにいるのか。

 

 呆れた。

 そんな時間を無駄遣いする連中の方が丸山より可哀そうだ。

 

 

「いや〜、俺エンタメニュースは見ないからさ」

 

 冬夜、反応するのはそこじゃ無いと思うぞ。

 

 

「じゃあ、今日学校に来てからは何かしら声かけたのか?」

 

 

「話しかけてみたけど、周りがこれじゃ本題に切り出しにくくってね。それで関係の無い話をして気分転換させようと思ったんだけど、大して意味なかったんだ」

 

 確かに、周りの奴らが「丸山さん、可愛いのに可哀そう」とか「これでアイドル人生終わったな」「口パクとかマジウケるんですけどー!ww」とか言ってる奴らがいるからな。

 ……なんか、殴りたくなってきた。

 

 

「というわけで優人」

 

 と、春は俺の右肩に彼女自身の右手を置き、

 

 

「彩を今すぐ元気にして。You must encourage her right now!」

 

 

「なんで英語に言い換えたんだよ!?つか、春が無理なのに俺に出来るわけないだろ!?」

 

 

「ハァ、優人なら大丈夫だから。You can do it! ほら、行った行った!」

 

 そう言って軽く鳩尾に一発入れられる。こいつの後からジワるんだよな。だから本気で殺られる前に場を治めることにする。

 

 

「うっ!分かったよ!」

 

 俺は取り敢えず自分の席に座りながら、

 

 

「おはよ、丸山!」

 

 人を励ます時、どういう言葉が良いのかわから無いので挨拶から入った俺氏。

 そして、丸山の反応はと言うと、顔をゆっくりとこちらに向け(その時首が『ギギギ』と鳴ったのは気のせい?)、首を傾げた。

 

 

「……………………あ、優人君だ。おはようございます」

 

 怖っ!怖いよ。怖すぎてもはや恐い。なんかカラクリ人形みたいだけど。

 

 しかし、俺はそこで周りの声が聴こえてきたのだ。

「え?優人が丸山に話しかけてるよ」「やっぱり優人君優しいね!」「ステキ!丸山さん羨ましいなぁ」等々。

 

 別に、そんなんじゃない。周りの好感度が欲しくてしたわけではないのだ。

 

 しかし、これでは確かに話しづらい。

 よって場所を変えようと思う。みんなはどこが良いと思う。

 空き教室?校舎裏?それとも体育館倉庫か?

 どこも間違いが起こりそうな場所ばっかり……。

 

 

「よし!」

 

 俺は時計を見た。そろそろSHR(ショート・ホーム・ルーム)が始まる時間だが、サボると決めた。授業にはちゃんと出るから、許せセンセー。

 

 俺は丸山の手を取り、

 

 

 

 

 

「行くぞ、丸山」

 

 

「……えっ!?ゆ、優人君!?」

 

 俺が手を握ったことで意識は覚醒したらしいが、ここで話せないことに変わりはない。

 

 俺は走り出した。人ゴミの中を進むのは大変だが、屈めば寧ろ場所は特定されにくい事を知っている。なので、アッサリと抜け出し、そのまま丸山の左手を引っ張り走る。

 

 階段を駆け上がって、1番上まで駆け上がって。

 屋上の扉を開く。

 場所を特定されるのは時間の問題だが、SHRが始まるまでバレなければこっちのモンだ。

 

 

「ハァハァハァハァ」

 

 丸山は息を切らしていた。まあ、男子の全力疾走に引っ張られた女子はみんなこんなものだろう。

 

 

「ごめん丸山。でもこうするしか無くって」

 

 

「ううん。私こそなんか変でごめんね。何か話しづらい事なんでしょ?」

 

 丸山はあえて「パスパレの事なんでしょ?」とは聞かなかった。その話題に触れられるのは嫌なのはわかってる。

 

 でも俺は、

 

 

「いやー、春にお前の事を励ませって言われたんだけどなー。俺的にはそんな気分じゃないからやめた。……でも」

 

 

「でも?」

 

 

「相談があるなら聞く」

 

 

「!!」

 

 こないだ丸山から相談を受けたのがここだったから、俺はこの場所に丸山と逃げたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優人君……助けて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 side彩

 

「相談があるなら聞く」

 

 無粋な言い方だった。

 不器用な優しさに思えた。

 でも、だからこそ信じることができたのだと思う。

 

 

「優人君……助けて……」

 

 私はその時涙を零していた。高校2年生にもなって、人前で泣くなんてなぁ。

 しかし、優人君はハンカチを渡して、

 

 

「『助けて』ってのは、どういう意味。今のパスパレの状況を変えろって事か?だとしたら、答えは『NO』だ」

 

 

「っ!……どうして!?」

 

 優人君は力になってくれると思った。だって私を教室から連れ去ってここまで必死に逃げてくれたから。

 なのに、なんで。

 

 でも、優人君の答えは至ってシンプルだった。

 

 

「技術面においてのバックアップはできても、今のお前の立場をどうにもできないからだ。できるのは事務所とお前らパスパレ自身だ」

 

 

「……確かに……そうだよね」

 

 

「俺達と一緒にミュージックビデオ撮るって手もあるけど?」

 

 

「それはダメ!それじゃあ、優人君たちのバンドの人気が落ちちゃうかもしれないんだよ!?」

 

 

「いや、俺らの事はいいんだよ。陸や春も多分話せばわかってくれるから。それに、ちょっとの傷くらいはすぐに治るしな」

 

 どうしてそこまでしてくれるの?という事は聞かない。でも、本気で言ってるのはわかった。

 だからこそ、

 

 

「それでも、ダメだよ!人の人気に乗っかるのは良くないから……」

 

 

「そっか。じゃあ技術面でのバックアップしかやる事が無いかな」

 

 

「……えっ?」

 

 優人君の言った意味がわからなかった。

 

 

 

 

 

「俺達のバンド《Full Bloom》はアイドルバンド《Pastel*Palettes》の技術指導をしたいと思ってる。いいか?リーダーの丸山彩さん?」

 

 

「で、でもいいの!?そんなに勝手に決めちゃって!?私としては是非お願いしたいんだけど……」

 

 すると、彼はとっくにスマホを取り出して電話をかけようとしていた。

 

 

「勿論、今から聞くんだよ」

 

 なんで電話を取り出したんだろう。春ちゃんなら教室にいるのに。

 

 

「もしもし陸。悪いなSHR前に」

 

 陸って確か、ドラムの男の子だよね?

 春ちゃんじゃなくて、そっちに聞くって、よっぽど陸って人が好きなんだね。

 

 

 

 

 

「陸、少し頼みがあるんだけど……」




見てわかる通り(裏)での話は主に優人君と彩ちゃん。パスパレとロゼリアのバンストを基盤に同時進行していきます(予定)。



↓ここからただの余談↓

僕も勿論無課金ながらバンドリやってるんですけど、こないだシュガーソングとビターステップのexpertがフルコンできたんです!!!
深夜にテンションMAXになって、そのあと中々ねつけませんでした(笑)。
フルコンしてない曲はあと10曲程度なので頑張るぞい!

あと、CHiCOさんのアルバムが発売されましたね!『私、アイドル宣言』を彩ちゃんにカバーしてもらいたいと思ってます!「可愛くなりたい』もいいですよね!もちろん、CHiCOさんも雨宮天さんの声も好きです!

そういえば!
雨宮天さんと言えば!
本日!仮面ライダービルドに声の出演になるんですよ!
仮面ライダー好きで声ブタの僕からしたら感動ですよ(笑)!


あとがき長々と失礼しました。また、近いうちに。


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特別編集
12月27日


彩ちゃんの誕生日ということで急ピッチですが、書きました!本編で悩んでいるから息抜き程度に書きました。

視点は彩ちゃんです。12月27日ですが、学校がある設定です。




まん丸お山に彩りを。

パスパレのピンク担当、丸山 彩です!

私事ながら、今日は誕生日なんです!ファンの皆さんからも沢山のプレゼントやメッセージを貰えて嬉しいです!

そして、学校でも色んな人から祝ってもらってます!友達からは勿論、違うクラスや学年でファンの子達からも「おめでとう」って言われたんです!

ただ……

 

 

「おっ、おはよう丸山」

 

 

「あ!おはよう優人君!」

 

彼は私の想い人で、歌のレッスンをしてくれているんです。そんな優人君と仲良いと思っていた私は、プレゼントがもらえるなんて図々しい事は考えてなかったけど、祝福の言葉くらい贈ってもらえると思っていました。でも。

 

 

 

多分優人君は今日が私の誕生日だと知らない。

 

こんな事なら昨日とかに「明日誕生日なんだ!」とかさり気無く言っておけば良かった(泣)。当日になって言うのは何か欲しいって言ってるみたいだから言いづらいし……。

 

すると、春ちゃんがやって来て。

 

 

「彩ーー!誕生日おめで!また1つ老けたね!」

 

春ちゃんがプレゼントを渡してくる。箱の大きさからしてアクセサリー類かな?

 

 

「う……素直に喜べないよ春ちゃん。でもありがと!」

 

春ちゃんとそんなやり取りをしながらも優人君のことを見る。今の会話を聴いててくれたら……。

しかし横には机にうつ伏せになった同い年の少年が見切れただけ。

 

 

 

って!優人君もう寝てるのーー!?

 

そのまま授業の時間になったのは言うまでも無いよね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後。優人君はちゃんと授業は受けていたが、今日はグループ学習や優人君が教科書を忘れるなどが無かったため、殆ど話せていなかった。

 

 

せっかくの誕生日なのに……ついてないなぁ。

 

と、思っていたら。

 

 

「丸山、その紙袋の量、どうしたんだ?」

 

優人君が自身のリュックを背負いながら私に問いかけた。

私はこれをチャンスだと思った。……なんで私「おめでとう」を言ってもらいたいだけなのに、こんなに必死になってるんだろう。

やっぱり愛かな!

 

 

「実は私今日誕生日なんだ」

 

さり気無く言ったし、向こうから聴いてきたのだから自然な流れだと思う。

 

 

「えっ!」

 

優人君はどうやら驚いたようだった。やっぱり私の誕生日知らなかったんだね。言ってない私が悪いんだけど。

 

すると、優人君は左腕に巻いていた腕時計を確認した。すると、焦り始めて。

 

 

「悪い丸山!じゃあな!」

 

優人君はそう言い残して教室から去って行った。

 

 

「……結局『おめでとう』って言って貰えなかった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、優人君からは祝福されずに家への帰路に立っていた。

春ちゃんと一緒に帰っていると、突然「今日はこっち通ろ?」と言われた。その道はちょっとした坂道で夕焼けが綺麗に見える。

その坂の途中にある公園に寄ろうと春ちゃんが提案してきた。今日はレッスンがない日だし、春ちゃんも自主練だそうなので、疑問には思ったけど何も言わずに着いて行く。

 

 

 

そこからは絶景が見えた。

夕日の光が眩しくて、上手く目は開けられなかったけど、春ちゃんはこれを見せたかったんだと思う。

 

 

「ありがとう!春ちゃん!」

 

私がそう言うと、春ちゃんは私がその言葉を言うのを待っていたような顔をした。

 

 

「まだだよ。実はもう少しサプライズがあるんだ」

 

 

「えっ……?」

 

私はこれ以上に何があるのだろうと思った。すると、背後から第三者の声がした。

 

 

「丸山」

 

私はその声の方へ振り向いた。

いつまでも聴いていたいと思うほど素敵な歌を歌うその声を。

 

 

「優人君!?」

 

私はなんでここに?という意味も含めてなまを呼ぶ。そして、答えたのは彼自身ではなく、隣にいる美少女だった。

 

 

「実はさっき優人から連絡あって、彩をここに連れて来て欲しいって。……じゃ、あとはごゆっくり〜」

 

春ちゃんはザックリとした説明をしてから去って行った。恐らく気を使ってくれたのだろう。

 

今の状況は、私達は見つめ合っている状況だ。優人君は私がまだ驚いてると思ったようで、口を開いた。

 

 

「いやぁ、その……ごめん!」

 

目の前に立つ彼は頭を下げた。

 

 

「……どうして優人君が謝るの?」

 

 

「だって……誕生日知らなかったし……」

 

 

「でもっ!私が言ってなかったわけだし……!」

 

 

「そう言ってもらえると助かるんだけどな。……まあ、何はともあれ……」

 

優人君は少し間を作った。意図的なのか、それとも躊躇うことでもあったのかな?

 

 

 

「誕生日おめでとう、丸山」

 

 

 

これなんだ。

私が聞きたかったのはこの一言だけ。

私はこれさえかけたんだから、もう何も望まなかった。でも優人君はこちらに歩み寄って来て、学校では持っていなかった大き目の紙袋を私の手の中に納めた。

 

 

「……今買いに行ったから、そんな悩んでる時間無かったけど、喜んでくれたら嬉しいな」

 

どうやらプレゼントまで買って来てくれたみたい。だから教室を急いで……。

私は袋の中身を覗き見てみた。

中に入っていたのは、

 

 

 

「ピンクの…………薔薇……」

 

思わず口に出てしまった。

すると、頰に熱い感覚がした。

 

涙だった。

 

嬉しくて泣いていたんだと思う。こんなことで泣くなんて安い人間かもしれない。

でも、それほど嬉しかったから。

 

相手が他の誰でもない、優人君だったから。

 

 

「ちょ!ま、丸山!?ど、どうして泣いてるんだ!?泣くほど嫌だったか!?やっぱり彼氏でもないのに薔薇なんてキモいよな!ごめんな!」

 

優人君は自分で選んだ物を否定し始めた。そんなことはない!と私は言いたかった。だから。

 

 

「ううん、そうじゃなくて……嬉しくて泣いてるんだよ。……………………ホントに、ありがとう優人君」

 

 

「…………そっか。喜んで貰えたなら走った甲斐があったかな。でも、『ありがとう』は泣き顔じゃなくて、笑顔で言って欲しいかな」

 

優人君はイタズラに微笑みながら、そんな事を言う。ならば、私も誠意に答えるべきだろう。

 

なので、最大級の笑顔を作って。

 

 

「ありがとう」

 

 

「ああ、どういたしまして」

 

そのまま流れで優人君は私を家まで送ってくれた。その途中には色々な話をして、それでも会話が尽きなかった。寧ろ、まだまだ会話していたいと思うほどに。

優人君も同じ事を考えてくれてると幸せだなぁ。

 

しかし、家に到着してしまった。

 

 

「ホントに今日はありがとう、優人君」

 

 

「いや、いいんだよ。俺がしたくてしたことだからさ。……あっ!そうだ」

 

優人君は手招きで耳を貸してくれとジェスチャーをした。私は言う通りに耳を近づける。これだけでもドキドキしていた。しかし、今から不意打ちを食らうんだ。

 

 

「ハッピーバースデイ、()。いつでも夢を追いかける君は輝いてるから、ずっとそのままでいてくれよ。…………じゃあな!」

 

私は顔が人生1の赤さになっていたと思う。

優人君は耳にそっと囁いて、終わったと思えばすぐに帰って行った。多分、彼も恥ずかしかったんだと思う。

 

 

 

私は優人君の贈ってくた薔薇の入った紙袋の取ってを強く握りしめて、心で誓った。

 

 

ーー絶対に枯らしたりはしない。

 

 

ーーこの薔薇も。この想いも。

 

 




めっちゃ急ぎました!


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