ブロッコリー……じゃなくて、ブロリー! (Mr.ねこ )
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1話

宜しくでーす!


 明日も自分と同じようなオッサンに囲まれつつの仕事だと思いながら、憂鬱な気分で眠りにつき、目を覚ましたら赤ん坊になってました。

 何を訳の分からん事を言ってるんだと、そう思っただろう? 大丈夫だ、俺自身状況が理解出来ていないからな!

 

 その理解不能な状況の俺だが、取り敢えず自分の小さな体へと神経を集中させる。すると、何故か猿のような尻尾があるのに気付く。

 しかも、それが偽物の類いでないのは間違いなく、自分の考える通りに動かせる事から考えても本物なのだろう。

 

 人間はパニックに陥ると、その動揺の大きさによっては逆に冷静になるらしい。何故なら、今の俺自身がそうだからだ。

 尻尾を目前でユラユラとさせつつ、何でこんな状況に立たされて居るのかを冷静に考えてみる。

 

 ふむ、分からんな。寝て起きたら赤ん坊だった。それ以外に答えようがない。

 

 三十路のオッサンが、目覚めたら赤ん坊になってる訳ですよ。しかも、尻尾の生えた赤ん坊だ。人間かどうかも怪しい。

 

 で、自分の体に関する事情は分からないので一旦置いておくとして、自身の寝かされている保育器?っぽいやつの両隣へと視線を移す。

 するとそこには、俺と同じような赤ん坊が保育器に寝かされて居た。……ただし、右隣の赤ん坊は煩いくらいに泣き続けているけど。

 

 看護婦さーん、隣の赤ん坊が泣いてますよぉーー!!

 

 次いで、俺が視線を向けたのは足下だ。まぁ、足下とは言っても文字通りの意味ではない。ガラス張りの通路と思わしき方向、という意味である。

 

「戦闘力10かよ。下級戦士の子供とは言え、弱すぎないか?」

 

「確かにな。コイツの親は戦闘力10000のバーダックらしいが、やはり下級戦士のガキは弱くて当然なのだろう」

 

「それにしても弱すぎだろ」

 

 俺の隣で煩く泣き続けている赤ん坊に向かって、変な服を着た成人男性二人が嘲笑するような口調で感想を言い合っている。勿論、その成人男性二人にも尻尾が生えていた。

 

 で、ここまで来たら俺にも理解出来たよ。あの変な服とバーダックって名前、それと隣で泣き続けている赤ん坊の髪型からして、赤ん坊の名前はカカロットなんでしょう? ははは、ワロとけワロとけwww

 

 って、笑える訳ないじゃん!! 何だよそれ!! 何だよこの状況!! つまり、カカロットの隣に居る俺は、ブロリーって事かよ!!

 

「で、この隣のガキは………」

 

 内心で、これまでの人生でも一番のツッコミを入れていると、先程までカカロットの感想を言い合っていた連中の視線が俺へと向けられた。

 カカロットについてグチグチと姑みたいな事を言っていたが、俺に向ける視線はカカロットに向ける冷ややかな視線より更に酷かった。解せぬ。

 

 カカロットの隣に居るとなれば、ブロリー以外には存在しない筈。となれば、赤ん坊とは言え現時点での俺の戦闘力は10000程だろう。しかし、何故か俺へと向けられる視線には侮蔑すら感じられる。

 

 強すぎても敬遠されるのだろうか? あ、そうか。ブロリーは生まれながらに強すぎて、ベジータ王に嫌われていたっけ。

 

 そう内心で思う俺は、合点が行ったとばかりに赤ん坊らしくない仕草で小さく頷いた。しかし、どうやら答えは違っていたようだ。

 

「名前は、ブロリーか。バーダックのガキも弱いが、このブロリーってヤツはもっと弱いな」

 

「戦闘力1ってのは初めての事らしい。たまに強すぎる個体が生まれる事はあるが、ここまで弱いヤツも珍しいぞ」

 

「いやいや、珍しいって言ってもよ、弱すぎるのに珍しいもクソもねぇだろ」

 

「違いねぇ。この戦闘力じゃただのカスだしな」

 

 ちょっと聞きました、奥さん? ブロリーの戦闘力が1って可笑しくねぇ?

 ははは、ワロスwww ブロリーが弱いって、そんな訳ねぇじゃんwww

 

 え、嘘だよね? 死んだ記憶は無いけど、転生かと思い実は少し喜んだんだけど……しかも、ブロリーなら尚更じゃん? なのに、戦闘力1て……マジでカスじゃん……。

 

「カカロットとブロリーは、弱すぎるから同じ星に送られるらしいぞ」

 

「それも珍しいな。普通なら、一つの星に送る赤ん坊は一人だけだろ?」

 

「ああ、普通ならそうだ。だが、片や戦闘力10、片や戦闘力1だからな。流石に戦闘力が低すぎて、星の原住民を全滅されるのは無理だと判断されたらしい」

 

「ふん、弱すぎるサイヤ人など殺せば良いだけだ」

 

「オレもそう思うぜ」

 

 おいおい、好き勝手言ってんじゃねぇよ! 俺じゃなかったら大泣きしてるぞ、バカ野郎! って言うか、カカロットと同じ星なら地球って事じゃねぇか!?

 うわぁ……死亡フラグ満載の地球かよ。勘弁して欲しい。ドン引きだわ。

 

 天津飯に出会えるのは嬉しいが(原作で一番好きなキャラクターだ)、死ぬのはイヤだなぁ。いや、戦闘力が原作のブロリーのままなら別に構わないんだけど、何故か銃を持ったモブのオッサンより戦闘力が低いし、正直言って地球には行きたくない。

 

 しかし、赤ん坊の俺には拒否権がある訳もなく……。

 

 だが、暫く悩んでいた俺に名案が閃いた。それは、イヤなら逃げれば良いじゃない、だ。

 つまり、何とか保育器から脱出し、地球に送られるのを阻止すれば良いと言う訳である。

 

 となれば当然、早速行動に移すとしようではないか!

 

 生まれながらの戦闘民族の体のお陰か、どうにかハイハイが出来る事を確認した俺は、保育器から脱出する………と言うか、顔面から地面に思っくそ落ちたのだが。

 兎も角、一応は脱出したと言って良いだろう。次は、隠れる場所を探さねばならない。

 

 確か、カカロットは生後間もなく地球に送られる筈なんだから、一日くらい隠れてたら遣り過ごせるだろう。

 沢山の保育器の下を縦横無尽にハイハイし、周囲に視線を巡らす。しかし、隠れる場所が一つも見当たらない。

 

 絶望だ。結構疲れてきた事も相まって、かなりブルーである。

 

「ん? ガキが一人居ないぞ?」

 

「あぶぅ(ヤバ!?)」

 

「そこに居たのか! どうやって保育器から出たんだ!?」

 

 見つかっちまった!? 最悪だよコンチクショー!

 

 俺を捕まえようと近付く男から、一心不乱にハイハイをしながら逃げる俺。もうそりゃ必死に、だ。

 こうなったらカカロットが宇宙船に入れられるまで、保育器の下をハイハイしながらドリフトしたりしつつ遣り過ごすしかない。

 

「何だコイツ!? 戦闘力1のクセに、滅茶苦茶素早いハイハイだな! つうか、早すぎてキモい!!」

 

「あべあぶぶぅ(戦闘力の事は言うんじゃねぇよ!)あぶあば(泣きたくなるだろうが!)あびびぶぅあばあば(それに、キモいって言うな!こちとら必死なんじゃボケ!!)」

 

 悪態つきつつ必死の形相で逃げ続ける俺。多分、今の俺の顔は、十人見たら十人が笑うくらい必死の形相だと思う。

 それくらいマジで、全力で、フルパワーでハイハイしているのだ。

 

 だが、俺の必死の抵抗は虚しく、体力が尽きたところで猫を摘まむようにしてアッサリと捕まった。そして、ハァハァ(;´Д`)ゼェゼェと激しく呼吸を乱す俺と、煩く泣き続けているカカロットを一緒に抱える男の手によって、一人乗り用のポッドにそれぞれ押し込まれる。

 

 ポッドの中で項垂れる俺の呼吸が戻ったきた頃には、死刑宣告にも等しいカウントダウンが始まった。

 そうして、俺の必死の抵抗は名も知らぬ男の手によって防がれ、無情にも地球へと飛び立ったのだ。

 

 しかし、イタチの最後っ屁と言わんばかりにポッドの中に放り込まれる瞬間、俺は名も知らぬ男のスカウターをパクったけどな!

 ポッドの扉が閉まる瞬間の男の顔が、滅茶苦茶面白かったので許してやろうではないか! あと、キムタクみたいに、「ちょ、待てよ!」って叫んでいたところなんかが最高だったと付け足しておこうwww




のんびり書いていきまーす!


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2話

 宇宙船ポッドの中での生活は、実に快適だった………と言うか、睡眠装置なのか何なのか知らないが、飛び立つなりすぐに眠らされたのでブッチャけるとよく分からん。

 だが、多分一年くらいポッドの中に綴じ込められたままだったんじゃないかと言うのは間違いないと思う。何故なら、地球へと辿り着いて眠りから覚めた俺の体が少し大きくなっていたのがその証拠だ。

 そしてパクったスカウターで計測したら、戦闘力が1だった筈なのに十倍になっていた。流石は戦闘民族である。眠っているだけで上がるとは思いもしなかったよ………いや、成長したからか?

 しかし、俺が戦闘力10になったという事は、カカロットは既に20くらいはあるかもしれない。そう思うとちょっと泣けてくる。

 

 まぁ、それは良いとして、だ。カカロット(面倒なので次から悟空と呼ぶ)と同じ星だとしても、すぐ近くに落ちたのだろうか?

 

 同じ地域に落ちたとしたら、恐竜とかが居る筈だ。今の俺だと瞬殺されるだろうし、ブッチャケると少し怖い((( ;゚Д゚)))。

 

 なので、少々おっかなびっくりでポッドから出ると、周囲へと視線を向けてみる。だが、俺の乗っていたポッドのせいで巨大なクレーターが出来ており、何も見えなかった。

 

 仕方がないので、少し腰の引けた足取りでクレーターの上まで移動する。因みに、もう普通に歩けた。生後一歳で歩けるとか凄すぎじゃね?

 

 まぁ、それは良いとして、スカウターで周辺の数値に注意しつつ上がりきると、牧歌的な風景が広がっているのを見て少々気が抜けた。ちょっとビビり過ぎていたらしい。

 

 人工的な建築物は見当たらないが、危険そうな生物も見当たらないので良しとしとこう。それよりも今の一番の問題は、腹が滅茶苦茶空いている事だ。

 一年も寝たきり雀だったのだから当然だろう。

 

「いや待てよ……ポッドの中で一年も食事無しで寝てたのか? そんな訳無いよな? 実は、寝てる人に自動で食事を摂らせる機能があったりするのかも」

 

 あれ? 何気なく呟いてみたが、ナチュラルに喋れてるな。声帯も一年で喋れる程に成長するんだなぁ、サイヤ人って。

 

 自身の成長が胸にジーンと響く。いや、実のところそこまで感慨深いものは無いんだけどね。何となく感動したフリでもしとくべきかなって……テヘペロ。

 

「それより、マジでお腹空いたぁ」

 

 周囲に何か食べられる物がないかと見渡してみると、ラッキーな事に果実が沢山あるようだった。多分、ビワかな?

 他にも、梨のような物やミカンのような物もあり、食べ物には困る事はないようだ。

 

 とは言え、実際のところ食べられる物なのかは知らない。

 

 千切った果実の皮を剥き、恐る恐る口に入れてみる。

 

「うんまいな!!」

 

 品種改良もされてない野生の果実なのにも関わらず、味は最高だ。

 俺は、食欲が指示する通りに次々に果実を口に放り込むが、一つとしてハズレは無かった。

 

 マジで満腹になった俺は、食後の一息をつきつつふと気付く。

 もしかして………いや、もしかしなくても、今の俺って家無し子だよね? 安心した瞬間に、その絶望の事実に気付いたよ。

 

 今のところ周囲の様子を見ている限り危険は少なそうに感じられるけど、こんな見ず知らずの場所で野宿する勇気は無いぞ。

 肉食の獣に襲われるかもしれないし、夜だと夜行性の危ない動物とか沢山出そうでもある。

 

 ……うむ。ヤバいでしょ! このままじゃいかん! どげんかせんといかん!

 

 と言う訳で、取り敢えず周辺の調査をしてみよう。もしかしたら、人が住む町とかがあるかもしれない。……まぁ、見ず知らずの俺を泊めてくれるかどうかは疑問だが。

 しかし、行動しない事にはどうなるか分からないし、兎に角行動あるのみである。

 

 意を決して適当な方角に歩き続ける事三時間、めぼしい物は何も見当たらない。

 

 五時間後、何も無い。

 

 六時間後………。

 

 ふははははは!! 何も無いし、誰も居なーーーーい!!

 何でやねん!! 一人くらい居てくれても良いじゃん!!

 

 ガックリ項垂れつつ地面に腰を降ろす。そして、はぁぁぁぁと盛大に溜め息を漏らした。

 だが此処まで歩き続けていたが、戦闘民族の体は伊達ではなく一切疲れていないのは素直に称賛しよう。家は見付けられていないけどね。

 

 もう夕方となり始めているし、今日は野宿も仕方ないかも。正直に言えば、現代っ子の俺に野宿とか考えられないけど(ドが付く田舎の人間だけど、野宿はイヤだ)、家屋が見付からないのだから仕方ない。

 

 安全面を考えせめて見晴らしの良い丘の上へと移動しようと考え、手頃な丘を発見し次第、登ってみた。すると、俺の幸運もなかなか捨てたもんじゃなかったようだと確信する結果になる。

 

 なんとなんと!! 捨てられてから暫く経った家を発見したのだ!!

 

 しかも、埃は積もっているが屋根もしっかりしてるし、床も朽ちていたりしない。掃除さえすれば、最高の物件である。

 

 余りにも嬉しかったので、テンションに任せるままに掃除をしていたら、あっという間に夜となった。

 幸い、火打石もあったし灯りも点けられたので暗闇に怯える事もないだろう。

 

「……良い感じじゃん。風呂場は五右衛門風呂ってのがまた良いし、雰囲気が古き善き日本家屋って感じで最高だよ」

 

 ブッチャケると、日本に居た時より良い家だと言える。そう思うと、どんだけブラックな給料だったのかと思い少し切ない気分になるが、のんびりした家にこれまたのんびりした日常を送れると考えれば気分も高揚してくる。

 

 ま、それはそうと今日はそこそこ頑張ったので、もう寝させて貰いまっせぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●特に変化もないので、ここからはダイジェストでお送りします。●

 

 地球での生活二日目。

 気持ちの良い天気の中、清々しい気分で目を覚ました俺は、近くの川で顔と体を洗い、ついでに魚を手掴みで取った。

 原作で悟空が仕留めていたような肉食の巨大な魚ではなく、いたって普通の魚だったのが少々残念であるが、焼いて食べると最高に旨かったぜ!

 

 その後は、家の中に放置されてあった斧を使用して、薪割りに勤しんだ。そして、それで一日は終了。

 

 

 

 地球での生活三日目。

 今日も今日とて果実や魚を主食として過ごしつつ、これまた放置されていたナイフを使って釣竿や食器を作る。

 そんでもって、少し探検気分で周辺調査をしていると岩塩が採れる場所を発見した。これで食塩やミネラルについても問題解決である。

 

 地球での生活四日目。

 岩塩のお陰で魚が旨い!! 勿論、果実も問題なく旨いぞ!!

 因みに、山葡萄に似た果実の群生地を見付けられたので幸運だった。味も普通の山葡萄より旨い!

 

 

 地球での生活五日目。

 今日はここ数日と同じ食事をした後、本格的に周辺の調査をしてみた。だいたい、半径十キロ圏内は隅々まで調べたと思う。

 その結果は、残念ながら誰も居ないというものだった。

 

 ただし、ティラノサウルスに似ている恐竜は見付けられたぜ! 正直に言うと、ちょっとビビり過ぎて小便チビっちゃったけどそれは内緒だ! もう一度言うぞ! 内緒だからな!

 

 因みに、地球に来てからこれまでズーーーーット真っ裸である。一歳児だから許されるが、出来れば服が欲しい。現代っ子に真っ裸は辛すぎる。

 

 地球に来てから六日目。

 朝に腹部の違和感を感じて起床すると、30センチ近いムカデが居た。

 寝起きというのもあり、暫くボーッとしていると、思っくそ噛まれた! 痛すぎてワロエナイ!

 

 しかもあっという間に、腹部にバレーボールが入っているのかと疑うくらいに腫れ上がり、最悪の気分です。……痛いし、今日は何もする気にならないよ。

 

 地球に来てから七日目。

 昨日ムカデに噛まれて腫れた腹部は、もう元通りに治っていた。サイヤ人の体の凄さを改めて実感すると同時に、滅茶苦茶感謝しましたよ。

 いやぁ、サイヤ人ってスゲェ! もしかしたら、ブロリーの体が特別凄いのかもしれないけどね。

 まぁ、戦闘力は相変わらず10だけど……。

 

 何で戦闘力が低いのだろうか? ブロリーって生まれてすぐには10000はあったよね?

 

 俺がブロリーに転生?憑依?したからだろうか? でも、もしそうだとしても、ブロリーのポテンシャルは変わらないだろうし、修行すれば強くなれるかも?

 

 地球に来てから八日目。

 何も無い日常に飽きてきたってのもあるが、家の近くに恐竜が居たのは確認したし、尚且つ馬鹿デカイムカデに襲われたのもあって修行を始めた。

 やるのは勿論、悟空やクリリンが行った修行方である。

 

 気合いの掛け声で自身を奮い立たせ、素手で畑を耕すという荒行を始めてから三十分、あまりの痛みに挫折。

 痛すぎ、ワロエナイ。爪と皮膚の間が裂ける痛みに堪えられませんでした。

 

 悟空とクリリンの根性ってヤバすぎ! 俺には出来そうもないっす!!

 

 と言う訳で、取り敢えず足腰を鍛える事から始める事にした。

 今日は30キロ走って、薪割りをし続けたので良しとしとこう。

 

 地球に来てから九日目。

 今日も朝から走り続け、昼からは薪割りに勤しむ。そして、念のために家の周囲にお手製の罠を仕掛けた。

 それと言うのも、恐竜に襲われないようにする為である。だが、猪用の罠が通用するのかは知らん。

 

 まぁ、恐竜の大きさから言って確実に通用するとは思えないが、何もしないよりはマシだろうと思う。

 

 因みに、罠は地元の猟友会のオッサン達に教えて貰った物で、猪相手なら間違いなく通用する筈だ。

 

 地球に来てから十日目。

 朝のランニングをしつつ仕掛けた罠を見て回っていたのだが、ワロエナイ現実を突き付けられた。朝から勘弁して欲しい。

 

 なんとなんと!! 罠に狼が掛かってました!! 肉食獣の登場でっせぇ!! しかも、狼は群れを作るんでっせぇ!!

 

 思った以上にこの辺の地域は危険なのかも……。早急に戦闘力を50くらいには上げないと死ぬかもしれない。

 

 突き付けられた現実に愕然とするものの、真面目に訓練しようと思わされる事になったと言える。事実、痛みで諦めた素手で畑を耕すという荒行を、今日はなんとか堪えつつやり遂げた。

 まぁ、一日やっただけじゃ意味がないとは思うが、これを弾みにして頑張ろうと思う。

 

 地球に来てから十一日日目。

 朝起きたら、意外に手が痛くなくてビックリしたよ。やっぱりこれもサイヤ人効果だろうか?

 だとしたら、非常に有り難いと言わざるを得ないだろう。

 

 地球に来てから十二日目。

 まだ畑を耕すのは三日目なのだが、もう慣れ始めていて、あまり痛みを感じなくなった。麻痺したのかと一瞬だけ思ったが、そう言う事ではないようだ。

 純粋に、手が………いや、正確に言えば手の皮膚が、と言った方が正しいだろう。まぁ、兎も角、皮膚が強靭になっているらしい。

 

 サイヤ人万歳!! ブロリー万歳!!

 

 恐竜とかムカデとか狼とか見て、かなりビビっていたけど何とかなりそうだ。ホッとしたよ。



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3話

 修行を始めてから3ヶ月が経過した現在、俺の戦闘力は20に上がっていた。それもこれも、日々の辛い修行の賜物である………と言いたいところだが、正直にブッチャけるとサイヤ人の肉体のお陰だと思う。

 まぁ、そうは言っても辛い修行の日々だと言うのは事実で、何度か挫けかけたものの目前の脅威が存在するので修行は続けられている。

 

 実際、目の前に脅威が迫っていなかったら普通の日々を送っていただろう。………いや、脅威が無いに越した事はないのだが。

 

 それは兎も角、連日の修行の合間に局部を隠す為のズボンも作れたし(罠に掛かっていた狼の毛皮で作った)、ここ最近は充実していると言える。

 しかも、俺が住む家の30キロ先に人の暮らす村も見付けられた。そのお陰で、野生動物の毛皮を売ったりして金銭を得て、金槌と石鑿(いしのみ)を買う事も出来ていたのだ。

 

 で、石鑿(いしのみ)で何をするのかと言うと、岩をランドセル型に削って、それを背負って修行しようと考えたからである。

 分かりやすく言えば、武天老師が背負っている亀の甲羅の代わりだ。

 

 これで、日々の修行も捗るってもんですよ! まぁ、ランドセル型とは言え、作るのに一週間も無駄にしたけどな!

 

 しかも、本当に型をランドセルに似せただけであり、中に荷物を入れる事も出来ないしね。ただの岩の塊だから当然だけど……。

 

 そんなこんなで、重量50キロの岩を背負い、今日から何時もと同様の修行を開始します。

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

「ハァハァハァ……し、死ぬかと思った」

 

 50キロの岩の塊は、今の息切れしている俺の背には存在しない。何故なら、ランニングの途中で捨てたからだ。

 それと言うのも、狼の群れに遭遇したのが原因である。

 

「ハァハァハァ……50キロはまだ俺には早すぎたな」

 

 そう、50キロという重量は重すぎて、遭遇した狼達から逃げる事が出来ず、あわや喰われるところだった。

 で、一週間も掛けて製作した力作だったのだが、逃げるために捨てざるを得なかったのだ。

 

 そんなこんなで、俺は理解したよ。50キロは俺にとって重すぎだったのだと。

 

「まずは、20キロから始めるかぁ……いや、またトレーニング中に襲われるかもしれないし、10キロにしとこうかな」

 

 うん、それが良いような気がしてきた。焦らずじっくり修行するとしよう。

 

 そうと決まれば、家に帰って新しいランドセルを作ろう!!

 

 って訳で我が家に帰還した俺は、金槌と石鑿を使って新しいランドセルを製作した。が、しかし、重量を10キロにしたせいか、滅茶苦茶薄いランドセルになってしまったよ。

 外見が貧相すぎて笑えるwww つうか、これじゃランドセルとは言えないだろうwww

 

 まぁ、そうは言っても始めから本来の目的であるランドセルとは違うのだから、別に外見はどうでも良いのだが。

 ただ………少し面白かっただけだ。外見が俺のツボにハマったのがいけない。

 

「早速背負ってみるか」

 

 うーん………軽くしすぎたかな? いや、今より重くして、トレーニング中に襲われたら同じだしな。これで良しとしとこう。

 

 出来立てホヤホヤのランドセルを背負い、俺は全力で走り始めた。進路にある倒木や岩は、軽やかにジャンプして避けつつ、途中の小川などもこれまた軽やかなジャンプで飛び越える。

 戦闘力が3ヶ月で10は伸びているのだから、当初トレーニングを始めた時より足取りは軽やかだ。

 

 だが、強くなった気がしない。その原因は、我が家の近辺に居る生物達のせいだろう。

 何せ、恐竜や狼だぞ? しかも、狼に至っては群れを作ってるしな。

 早々勝てる訳もなく、明らかに俺が狩られる方なのだ。

 

 それに、数は少ないもののオッコトヌシみたいなヤツも見付けたんだが、そいつがまた強い。どれくらい強いのかと言えば、ティラノサウルス擬きを倒せるくらいには強いと言っておこう。

 トレーニング中にたまたま両者がタマの取り合いをしているのを見た限り、多分両方とも戦闘力50はあると思う。個体にもよるが、一度スカウターで計ったティラノサウルス擬きは、戦闘力40だった。

 

 弱いヤツでも俺の戦闘力の倍はあるのだ。ここら辺の生物がどれ程危険なのかは理解して貰えたと思う。

 因みに、狼一頭の戦闘力は20である。……つまり、俺と同じ戦闘力だと言う事であり、もし群れに遭遇すれば、俺など簡単に殺されてしまう訳だ。

 

「ハァハァ……着いたぞーー!」

 

 そんな事実を考えている間に到着したのは、俺の畑である。我が家から20キロの地点にある為、行き帰りでフルマラソンに匹敵する距離だ。

 少し遠い気もするが、我が家の近辺に畑を作った場合、農作物を目的に集まる動物を肉食の動物が狙って来ると思われるので、安全面と体力強化と考えれば一石二鳥である。

 

 そんな畑であるが、今の大きさは東京ドーム三個分にはなっているだろう。メッチャ頑張って耕した結果だ。

 作物はトウモロコシが中心で、次に多いのはキャベツ。他には少し少ないものの、今の季節に育てても問題無いのかを実験する意味合いでニンニクを育てていたりする。

 やっぱり肉体労働をしていると、ニンニクが食べたくなるのだ。パワーも付くだろうしね。………パワーと言うか、スタミナか?

 

 ま、それは良いとして、この農作物の種は全て発見した村の住人から売って貰った物になる。狼とか猪の毛皮が結構な値段で買い取って貰えるのは非常に助かっているのだ。

 で、農作物が収穫出来たら、それも売ろうと考えている。まぁ、自分で食べる分を除いて、だけどね。

 

「ガンガン耕すぞぉいやぁああ!!」

 

 今で東京ドーム三個分もあるので、普通ならもうこれ以上は畑を大きくする必要は無いと思うだろ? でも、武天老師様流トレーニングでは必要な作業になるし、貴重な収入源となるのだから(その予定)、畑は大きければ大きい程に良いのだ。

 つう訳で、ランニングの後はひたすら農作業になる。

 

 素手でやるのも慣れたし、戦闘力も上がったお陰でバンバン耕していく俺は、夕方まで作業を続行した。そして、日が傾くのを視界で確認すると、再び全力のランニングで我が家へと帰還する。

 

 今日から10キロの重りを背負ってのトレーニングだったけど、最初は余裕だったが途中から結構疲れてたね。自分で言うのも何だが、10キロっていうチョイスはバッチリだったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 あれから十一年が経過した現在(正確にはカレンダーが無いから分かんない)、俺の背負っている重りは100キロを超えていた。そして、戦闘力はと言えば、300に到達している。

 

 ビックリしただろ? 滅茶苦茶頑張ったのだよ!

 

 今の俺は、恐竜やオッコトヌシも余裕で倒せるようになりましたぜ。しかも、片手間に倒せるのだ。

 勿論、仕留めた獲物は俺の胃袋へ直行します。大変美味である。特にオッコトヌシは旨いぞ。

 

 そんな俺なのだが、少し困っている事がある………いや、かなりかな? それと言うのも、戦闘力が300に到達してから伸びなくなったのだ。

 いくら疲れ果てるまで努力しても、この半年というもの全く上がらなくなっちゃったんだよねぇ。

 

 それに、他にも困っている事がある。それは、肉体の年齢に精神が引っ張られているのか、俺の口調が子供っぽくなる事だ。……まぁ、内心で考える時は変わらないのだから問題無いと言えば問題無いので、特に気にしないでも良いけどね。

 でも、少し気になるのは仕方がない。

 

 それ以外に十一年の期間に変化した事と言えば、俺の懐具合だろう。村の人に売り続けていたら、ビックリする程に稼いでいたのだ。

 現在の総資産は、なんと驚きの一千万ゼニーである!! 収穫した作物を季節ごとに売り続けていたら、こんなにも貯金が増えました!!

 

 いやぁ、日本に居た時よりリッチになっちゃったよ。それもこれも、武天老師様流のトレーニングのお陰なので、武天老師様には足を向けて寝られないね。マジで感謝してます!

 ま、田舎なのでお金の使い道が無いんだが、何れは都会とかに出ようと思ってるし、その時に役立つだろう。

 

 と、こんな感じの結果が十一年の成果になる訳だが………口調の件は良いとして、問題は戦闘力の伸びだな。何故戦闘力が上がらなくなったのか皆目見当も付かない。

 まぁ、順当に推測すると、トレーニングをする際に負荷が足らないのだと思うけど………今背負っているランドセルでは、背負える大きさの限度だし、これ以上に大きくすればバランスが取れないのでトレーニングどころではなくなってしまう。

 

「………うーむ、難題だな」

 

 今の俺は空を飛べないのだから、そっち方面の修行をするべきか? つうか、舞空術どころか気功波も撃てないんだけどね。

 何故なら、気の使い方がさっぱり分からんのだ。原作で、見よう見まねで悟空が”かめはめ波“を放っていたが、あれは悟空の才能がズバ抜けていたからこそだろう。

 俺も毎晩「かめはめ波!!」「気円斬!!」「操気弾!!」とか叫びながら挑戦していたものの、一度たりとて成功していない。

 

 で、その結果俺は戦闘力を上げる基礎的なトレーニングに終始していた訳だ。しかし、その戦闘力も現状では上がらなくなったので、やはり修行内容を変更する時に差し掛かっていると言える。

 

 だが、その方法が思い付かん! 武天老師様ぁーーー、知恵を御貸しくださーーーーい!!

 

「はぁぁぁ………ん? あっ、そうか!」

 

 何で気付かなかったんだろうか!? 武天老師様のところに行って、弟子入りすれば良いじゃん!!

 

 こんな簡単な事に気付かぬとは、俺は馬鹿か? だが、そうなると問題が一つ浮上するな。

 武天老師様が何処に居るのか知らない事だ。そう言えば、村の人と会話する事はあったが(農作物を売る時)、此処の地名すらも知らなかったな。

 

 であれば、先ずはこの場所の地名を聞きに行くか?

 

「だな! そうしよう!」

 

 家の中で一人モンモンと考えていた俺は、早速聞きに行こうと思い勢い良く立ち上がった。

 するとその瞬間………

 

「うわ、ボロい家ねぇ。こんな家に人が住んでんのかしら?」

 

 そんな失礼千万な声が耳に入り、機先を削がれる。

 

 悪かったな、ボロくて!! でも、あっちこっち修繕したんだぞ!!

 

「ま、良いか。ドラゴンボールを探す為には道を聞かなきゃならないし、人が居る事を祈っておきましょ。

 ごめんくださーい! 誰か居ますぅ?」



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4話

「ま、良いか。ドラゴンボールを探す為には道を聞かなきゃならないし、人が居る事を祈っておきましょ。

 ごめんくださーい! 誰か居ますぅ?」

 

 ………は? ………え?

 外から聞こえる女性の声は、確かに“ドラゴンボール”と発言したよね? ドラゴンボールの存在を知ってるとか、一体全体何者だ?

 

 驚愕の発言に戸惑っていた俺は、先程の失礼な言葉を忘れ呆然としてしまう。だが、再度外から俺を呼ぶ声により我を取り戻した。

 そして、声の主の正体を何者かと考えつつ外に出た俺を待っていたのは、俺の顔を見た途端に顔色を真っ赤にし始めた真っ青な髪色の女の子だった。

 

 ……誰だ? 原作キャラじゃねぇな。

 

 一瞬だけブルマかと思ったが、それにしては子供っぽく見えるので、多分ブルマじゃないだろう。なら誰だろうか?

 

 目の前の女の子は、何故かモジモジとしつつ俺の顔をチラチラと見詰めてくる。………まぁ、何となく理由は分かるぞ。

 何せ、今の俺はブロリーなんだからな。自分で言うのも何だが、そこそこイケメンなのだ。

 ただし、年齢が十二才なので身長は150くらいしかないのだが。

 

 ……しっかし、目の前の女の子については分からんな。思い当たる節がない。強いて言えばブルマに似ているが、決定的に違う部分がある。

 

 それは、胸、だ。大事な事なのでもう一度言うが、胸、である。

 

 俺の年齢が十二才と言う事は、悟空も十二才になったと言う事。つまり、原作が始まる年な訳だ。なので、ブルマがドラゴンボールを探してたまたま此処に来たとしたら有り得る話だと言える。

 そして、初めて悟空とブルマが邂逅した時、ブルマの年齢は正確なところは不明(ブロリーは忘れてるだけ。原作開始時のブルマの年齢は16)であるが、胸が結構大きかったので十五才以上なのは間違いない筈である。

 だが、目の前で恥ずかしがっている女の子は、そのブルマに似てはいるものの、胸が小さすぎるのだ。

 

 と言う事は、目の前の女の子はブルマじゃないって事だろう。……それなら、何故ドラゴンボールを知ってるんだ?

 

 まぁ、ピラフとかがドラゴンボールの事を知っていたりするし、原作キャラ以外にもドラゴンボールを知ってても不思議はないのだが。ピラフもブルマも、文献を見てドラゴンボールの存在を知ったって原作で言ってたしな。

 

 絶賛恥ずかしがり中の女の子を尻目にクドクドと考え込んでいたのだが、何時までも考えていたとしてもしょうがないので、怖がらせないように意識しつつ声を掛ける。

 

「ドラゴンボールと言ってたようだけど、何でその名を知ってるのかな?」

 

 俺は肉体に精神が引っ張られているせいか、少し集中しないと子供っぽい口調になるので、相手を怖がらせないように意識しつつも子供っぽくならないように話し掛けた。

 すると、女の子は俺がドラゴンボールの事を知っていると分かって少し驚いたようだが、モジモジとしながら口を開く。

 

「えっと……家の書庫にあった文献で、何でも願いが叶うと言うドラゴンボールの存在を知ったの」

 

 ブルマやピラフと一緒か。となると、世の中には結構ドラゴンボールに関する記述が記された本が残ってるのかな?

 多分そうだろう。原作では登場しなかっただけで、こんな風に沢山の人がドラゴンボールを求めて世界中を旅してたのかもしれない。

 

「あの、アナタの名前は?」

 

「ん? ……ブロリーだ。君の名は?」

 

「良い名前ね! アタシは……」

 

「どうかした?」

 

「えっと……あんまり名前を名乗りたくないのよね」

 

 はて? 指名手配犯だろうか? いや、そんな訳ないか。見た目は可愛らしい女の子だし、犯罪を犯すような人物には見えないしな。

 ………いや、ランチさんと言う存在が居たか。でも、あれは二重人格だし、別枠かな?

 

 俺が名前を隠したがる女の子の理由を考えていると、暫く悩んでいた女の子が意を決したように強い視線を俺に向けて来た。

 

「笑わないでよ! 絶対よ!」

 

「……何故名乗るだけで俺が笑うと?」

 

「いいから! 約束出来るなら教えるわ!」

 

 身長が俺と変わらないから、多分俺と同年齢なのだろう。その女の子は、何故か強い口調で約束しろと言い募る。

 まぁ、人の名前を聞いて馬鹿にするような子供ではないし(精神年齢は40を超える)、俺には損をする事もないので無言で頷いた。

 

 すると、それを見て女の子はボソッと自身の名を口にした。が、しかし、あまりにも声が小さかったのが理由でしっかりと聞き取れず、思わず即座に聞き返してしまう。

 

「うぅ………だから、その……ルマよ」

 

「ん? ルマ、か?」

 

「もう! 一度で聞き取りなさいよ!」

 

 無茶も良いとこだ。声が小さいのだから聞き取れる訳がないだろう。俺はピッコロじゃないんだぞ。

 胸は小さいが、顔が似ているだけにブルマに見えてきたな。……強めの口調や態度が非常に似ていると言える。

 

 女の子はビシッと人差し指を俺に向けると、再び口を開く。

 

「アタシの名前はブ・ル・マ! 笑ったら許さないんだからね! もし笑ったら、アタシのボーイフレンドになって貰うわよ!」

 

 ………パードゥン? へ? 嘘だろ………?

 態度や口調は確かに似ているが、セクシー担当であるブルマの肝心な胸が小さいじゃん。原作だとヤムチャがシャワー中のブルマを覗く描写があったが、その時は結構なボリュームの胸が描かれていた。

 いや、それだけじゃない。透明人間と闘った時もそうだし、他にも度々胸を出すシーンがあったが、その全部で大人の胸を披露していた筈。

 そして何より、目の前のブルマだと宣言する女の子は、身長が小さくないか? 顔も似ていると言ったが、少し幼いようにも見える。

 年齢をどんなに高く見積もっても、十三才か十四才程にしか見えないぞ。

 

 何だこれ!? どうなってんの!?

 実はブルマは二人居た、とかか? いや、そんな訳ないとは思うが、もうそうとしか考えられない!

 

 俺が内心でパニックに陥っていると、何の反応も返さない俺を見て疑問に思ったブルマが更に言葉を紡ぐ。

 

「ちょっと、聞いてる? あ、さては心の中で笑ってるわね!?」

 

「い、いや、そうじゃない。少し動揺していただけだ」

 

「嘘おっしゃい! 内心だろうが表面でだろうが、笑った事には間違いないわ! 約束通り、アタシのボーイフレンドになって貰うわよ!」

 

 なんちゅう無茶苦茶な論理だよ! お前はジャイアンか!!

 目の前の女の子がブルマだと否定したい俺からしたら、そのブルマとしか思えない態度と口調は辛すぎる。………だって、セクシー担当の証拠とでも言える胸が……原作とは違って小さいのだと言う事実を認めなくてはならなくなるからだ。

 

 当時小学生だった俺の初恋が……俺の幻想が音もなく崩れさるのを感じた。だが、俺はどうしても諦めきれないでいる。

 もしかしたら原作では語られなかっただけで、双子という可能性も無いとは言いきれないだろ? だって、原作には登場しなかったけど、ブルマには姉のタイツって存在も居るのだし、双子の可能性も………いや、それなら同じ名前は付けないか。

 

 えぇぇぇぇ、勘弁してよぉΣ(Д゚;/)/ と言う事は、武天老師様とかヤムチャとかって、ロリコンだったんですか?

 うわぁ………ドン引きだ。マジでドン引きだし、心底落ち込んだ。

 

 原作キャラであるブルマを目前にして落ち込む俺に、ブルマは年齢を聞いてきた。多分、原作だとブルマは年上が好きっぽかったから、俺の年齢を聞けばボーイフレンド発言は撤回してくれるだろう。

 

 そう思い素直に十二才だと告げると、予想とは違って満面の笑みを浮かべるブルマ。

 

「本当!? アタシと同い年ね!」

 

 なん……だと!? ブルマは十二才だったのか!?

 って、そんな訳ないだろう。それだと色々と可笑しな事になってくるぞ。本当にヤムチャがロリコンになってしまう。

 それにヤムチャは原作で、異性だとしても子供なら緊張しないとプーアルに言っていたし、ブルマが十二才なら初めから緊張しなかった筈だ。でも、原作のヤムチャはしっかり緊張していたのだから、ブルマはそこそこの年齢だった筈である。

 

 ………もしかして、この世界はドラゴンボールに酷似した世界であり、全く同じ世界ではないとか? いや、それも可笑しな話だ。有り得ないだろう。

 

 何故ならば、もし酷似した世界であると仮定するなら、都合良く悟空が地球に送られるのが変だと言える。他の星に送られても不思議じゃない………と言うより、無限にある星の中で、何故都合良く辺境である地球に送られる?

 いくらパラレルワールドが存在するからと言っても、そんな都合良くいかないだろう。それにその都合の良い世界事情のところに、これまた俺と言う異分子が入り込む確率を考慮しても有り得ないと断言出来る要因だ。

 

 とするなら、あれ? 混乱してきたな。

 ……パニクりすぎて頭がこんがらがってきたぞ。

 

 だから、えぇと………いや、有り得るのか? つまり、このドラゴンボールの世界では、ブルマが悟空と同じ年齢だと言う訳であり………そうか、そう言う事か。

 

 別に大まかなところは変わらず、年齢だけが少し変化しているだけとするならば、大した違いはないと言える。それなら、少し変化しただけの世界に俺が来たと考えれば、確率的にはそんなに可笑しな部分はないよな?

 

 うむ、もう分からん! そう思っておこう!

 

 他の原作キャラはまだ会った事がないのではっきりとは言えないが、ブルマだけが原作とは違う年齢だとしたらそこまで大きな変化ではないし、そうすると世界にとって都合の良い事が頻発するという確率論的には有り得ない事情という訳でもないのだし、今のところ有り得る事だと思っておこう!

 

 一人内心でパニックに陥る俺とは正反対に、満面の笑みを浮かべるブルマは俺の右腕に自身の腕を絡ませてきた。

 そういや強制的に彼氏にされたんだっけ……原作のブルマと違うだけに、あまり嬉しくないな。

 

 原作のブルマだったら、泣いて喜んでただろうけどね。……でも現実は悲しいかな、胸が小さいし顔が幼い。

 

 つうか、マジで俺を彼氏にするつもりなのだろうか? 出会ったばかりなのに?

 ……あ〜でも、原作のブルマもヤムチャの事を碌に知らないのに彼氏にしてたなぁ。




 ブルマの年齢は、原作初期では16歳です。ですが、この作品の中では12歳という事で……変な改変だなと思うかもしれませんが、おひとつ宜しくどうぞ。


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5話

 パニクりすぎて変な事を考えてしまうような心境に追い込まれる事になったのだが、ブルマと出会った後は流されるままに俺もドラゴンボールの捜索に参加する事となった。

 まぁ、ブッチャケるとドラゴンボール捜索は良いんだよ。武天老師様に……つまり、亀仙人様に出会えるだろうし、俺としては願ったり叶ったりだからな。

 ただ、問題が一つある。

 

「アンタの好きな食べ物は何? やっぱり、ガールフレンドとしては知っとかなきゃならないし、色々教えて欲しいのよね!」

 

 これだ。十一年も過ごした我が家を出発してから、ズーーーッとこの調子なのだ、ブルマが。

 

「……オッコトヌシかな?」

 

「オッコトヌシ? 何それ?」

 

「オッコトヌシってのは……簡単に説明すると猪を巨大にしたヤツだと思えば間違いない」

 

「へ〜、全然美味しそうじゃないわね」

 

 いやいや、あれは滅茶苦茶旨いから! 食べれば分かるぞ!

 いや、そうじゃなくて、別にオッコトヌシの感想はどうだって良いんだよ。問題は前を見て運転して欲しい、という事だ。

 

 現在、俺はブルマの運転する車に乗っている訳だが………運転手であるブルマは、俺に視線を向けたまま時速100キロで(わだち)さえもない道を爆走中なのである。超絶心臓に悪いよ!!

 

「それはそうと、さっき言ってたドラゴンレーダーがあれば別に道を尋ねる必要は無かったんじゃないか?」

 

「必要あるわよ。だって、道を走るのとそうじゃないのとでは、運転する者が体力を消費するのに大きな違いがあるじゃない」

 

 ……まぁ、確かに一理あるな。道の上を走るんなら振動はそれ程大きなものにはならないが、道のない場所を走るなら振動は滅茶苦茶大きくなる。となれば、運転手は結構な体力を消費する事になるだろう。

 原作ではブルマというキャラは非常に知能の高い人物だと描写されていたが、このような運転技術に関する知識にも精通してるんだなぁ。胸は小さいけど、見直したよ。

 

「……ちょっと!」

 

「何だ?」

 

「失礼な事考えてたでしょ!」

 

 ワッツ!? 俺ってサトラレだったっけ!?

 いやいや、そんな訳はないよな! 乙女の勘ってヤツだろう。

 

 女って時々怖いよね。昔の彼女を思い出すよ。

 

「気のせいだ。……いや、マジで」

 

「……何か嘘臭いけど、まぁ良いわ。

 それより、そろそろ着く筈よ」

 

「ドラゴンレーダーに反応があった所か?」

 

「そう言う事! あっ、道があるわよ」

 

 漸く前方へと視線を向けたブルマが見付けたのは、道と呼ぶには頼りない程の道だった。しかしこんなドが付く田舎にしたら、ありふれた道だったりする。

 寧ろ、舗装された道など存在しないと言っても良い。

 

「こんな場所に道があったんだな」

 

「もうアンタの家から100キロは離れてるんだから、知らなくても不思議じゃないんじゃない?」

 

「いや、100キロ圏内は走って移動するには手頃な距離だから、結構色々調べ回ったりしてたんだよ。でも、道とかは見付けられなかったんだよね」

 

「……田舎の男って凄いわね」

 

 いや、確かに田舎の人間の戦闘力は結構高いのだが(平均して戦闘力7くらい)、俺みたいな修行を長年続けている訳ではない為、100キロを走って移動したりは出来ないぞ。せいぜい10キロくらいだろう。

 

 それは兎も角、ドラゴンワールドの中でも最強の男ともうすぐ会えるのかと思ったら、かなりドキがムネムネしてきたな!

 現時点では俺が地球最強だが(戦闘力だけ)、後の闘いでは間違いなく最強となる男だ!

 

 表情には出さず、助手席で一人ワッフルしていると、乱暴な運転のまま車は道の上へと車両を移した。そして、そのままブルマと何気ない会話を続けていれば、道の両脇に鬱蒼と茂る雑木林から俺よりも身長の低い子供 が出て来た。

 しかも、ただ出て来た訳ではない。俺が今乗っている車と同じくらいの大きさの魚を引きずって出て来たのだ。

 

 悟空ーーーーーーーーーーーーーーーぅ!!!!!

 

 俺は内心で叫びつつ、助手席に座る俺へと視線を向けているブルマに忠告する。

 

「前を見た方が良い。人が居るぞ」

 

「へ? あ、ヤバ!!」

 

 ズギャーとかギキャーとかって感じのブレーキ音を響かせながら、俺とブルマが乗る車は悟空にぶつかる寸前で急停止した。

 少々ヒヤッとさせられたものの、土煙が晴れると悟空の姿が俺の目に映る………と言うか、感動しすぎて他に視線を向けられない。

 

 惑星ベジータで一度だけ悟空の姿を見ていたが、今の姿を見れば感動の大きさが違っても仕方ないだろう。何せ、原作初期の悟空なのだ。そりゃ原作と共に成長していた子供の俺からしたら、今の悟空を見て感動に震えない筈がない!

 

 そんな悟空なのだが、何故か如意棒を構えて剣呑な雰囲気を撒き散らしている。

 はて? 何故に怒ってらっしゃる?

 

 暫し呆然としていると、悟空が車に突撃して来た。そして、その瞬間思い出した。

 

「オラの魚はやらねぇぞ!!」

 

 ですよねぇ。そう言えば、これでブルマの車が大破するんでしたね。

 

 車同士の正面衝突かと思える程の凄まじい衝撃が、搭乗者である俺とブルマを襲う。そしてそれと同時に、車は横倒しにされてしまった。

 

 まっこと、大した男ぜよ!! 流石は悟空ぜよ!!

 

 横倒しになった車両の中で一人悦に浸っていると、ブルマは俺とは正反対の怒りの形相で、ウージー(短機関銃の名称)片手に半身を車両外へと出した。

 

「何すんのよ! これでも喰らってなさい!!」

 

 見た目は可愛いだけに、怒ると怖い。美人は怒ると怖いと言われるが、文字通りの意味で怖いね。ブルマは怒らせないようにしよう。うん、マジで。

 

 ウージーは毎分600発の弾丸を放つ。となれば、その先端から光が放出されるのは数秒間だけで、あっという間にカートリッジの中身を悟空に向けて全て放たれるという事。

 しかし、その無慈悲な弾丸を全て喰らった筈の悟空は………

 

「アダダダダ、イテー………もう許さねぇぞ!」

 

「ちょっと何なのコイツ!? 何で死んでないの!?」

 

 タフっすよね。マジでタフすぎるよ。一般人のブルマからしたら驚愕するのも仕方がないと言える。

 ……いや、一般人なら子供に向けて発砲しないか。しかも、明らかに殺すつもりで発砲してたし、やっぱりそんな一般人は居ないと思える。

 

 それは兎も角、話が拗れるのは俺としても良くない訳で、ブルマだと更に喧嘩吹っ掛けそうなので仕方なく俺が車から身を乗り出し話し掛ける。

 

「待て待て、ちょっと落ち着け」

 

「な、ななな……化け物の中から人が出て来た!? オメェら、コイツに食われてたんか!?」

 

「は? あぁ、いや……」

 

 俺が会話を試みようと思ったのだが、あまりに変な事を悟空が言うものだから少々どうして良いのか戸惑ってしまう。

 すると、俺の代わりにブルマが言葉を続ける。……ぶちギレながら、だ。

 

「ちょっとちょっと! 何なのよ、アンタ!! 車が壊れちゃったじゃない!!」

 

 滅茶苦茶キレてます。何なら再び銃を乱射しそうな勢いですよ。

 だが、悟空はブルマを無視して、横倒しになった車を如意棒でツンツンしていた。そして、心底不思議そうな表情を俺へと向ける。

 

「なぁ、コイツ食えっかな?」

 

「アタシの話を聞けぇぇえええ!!!」

 

 ブルマの咆哮が、牧歌的な田舎の風景に響き渡った。そして、俺の脳内ではクレイジーケンバンドの“俺の話を聞け”という曲が何故か流れ続ける事になった。

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 ぶちギレのブルマを宥めつつ、車は食えないと言う事を真剣に説明する俺。……って言うか、俺でも車を見たりしていたのに、悟空はマジで車を見た事がなかったらしい。

 しかも、悟飯さん以外には人との交流も皆無だったようで、悟飯さんが死んだ時以来の人との会話が俺達らしい。凄まじい田舎者である。

 

 で、本題のドラゴンボールへと話が進むと、そこからは原作通りとなった。それと言うのも、ブルマの前で俺が闘ったりした事がない為に、ブルマは悟空をボディーガードとして雇う事になったのだ。

 まぁ、それは予想の範囲内の事だったので、俺としては問題無い。と言うよりも、悟空と一緒に行動出来るのは嬉しいので、何の反論も無いのだ。

 

 問題は移動手段である車を悟空が大破させてしまったせいで、バイクしかないという事である。

 原作ではブルマが運転するバイクの後部に、悟空がチョコンと座っていたのだが、今は俺という異分子が存在するのだ。……つまり、俺を含めて三人となる訳で、そうなると移動手段が一人だけ徒歩となる。

 

 まぁ、俺は別に足で走っても構わない。それだけの訓練はしてきたつもりだ。

 だが、それを提案したがブルマが反論し出した。

 

「二人乗りするならボーイフレンドとした方が良いに決まってるじゃない」

 

「……そのボーイフレンドってのはまだ続けるのか?」

 

「約束破るつもりなの!?」

 

「いや、それは……」

 

「孫くんなら大丈夫よ。サイドカーがあるし」

 

 いや、それならそうと早く言ってくれ。俺はてっきり移動手段が無いものと考えていたんだから。

 

 兎も角、ボーイフレンド云々は置いておくとして、移動手段の問題は解決した。

 で、新たに仲間入りした悟空はと言えば、今はドラゴンボールを取りに行っている最中。ま、家はすぐ近くらしいので、俺達は悟空の取って来ていた魚を代わりに焼いている。

 多分、悟空が戻って来る頃には丁度良い焼き具合になっているだろう。

 

「それにしてもデッカイ魚ねぇ」

 

「そうだな。俺もこんな魚は見た事がない」

 

「食べられる種類なのかしら?」

 

「それは……悟空が何時も食べてるらしいし、食べれるんじゃないか?」

 

「そう言われるとそうね」

 

 いや、マジでデカイ。都会育ちのブルマなら分かるが、俺ですらも見た事が無いからな。そりゃ驚くよ。

 いくらオッコトヌシやティラノサウルス擬きを見慣れたと言っても、流石にこんな巨大な魚は初見です。

 

 悟空に頼めば、一口くらい貰えるかな? 正直言うと、ちょっと味に興味がある。旨いのだろうか?

 

 味の事や白身なのか赤身なのかと疑問を抱いていると、魚が焼き上がった頃に悟空が戻って来た。そして一口だけ貰えたのだが、滅茶苦茶旨かったと言っておこう。

 また食べたいなぁ。



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6話

 悟空との邂逅から数日が経過した。原作では亀と出会うまですぐだったのだが、実際は数日後の出来事らしい。

 何故そんな風に言い切れるのかと説明すれば、先程ブルマに遅すぎるとか亀になるぞとか文句を言いつつ運動の為に外へと出た悟空が、「ドヒャーーΣ(゚Д゚ノ)ノ」と盛大に叫んでいるからだ。

 多分、亀を見付けて本当にブルマが亀になったと思いビックリしてるんだろう。想像力の豊かな悟空ってのも、実に面白いよね。

 

 因みに、俺が居るので”パンパン事件“は発生していない。期待していたヤツには悪いが、原作とは違う年齢のブルマには配慮した結果だ。

 流石にパンツを脱がされるのは可哀想だろう? 俺と同じ十二才なんだぜ?

 

「何叫んでるのかしら?」

 

「さぁ? 海亀でも見付けて、ブルマが本当に亀になったと思い込んでるんじゃないか?」

 

「あのねぇ……海から何百キロも離れてるのよ? 海亀が居る訳が無いじゃない」

 

「外を見てみるか?」

 

「……はぁぁ」

 

 コーヒー片手に呆れるブルマは、そんなアホな事がある筈がないと言いつつ外に出る。

 すると次の瞬間………

 

「何でホントに海亀が居るのよ!?」

 

 ワロスwww 予想通りのリアクションで、余は大変満足じゃwww

 

 あまりにも面白すぎて腹を抱えて笑っていると、ブルマと悟空がキッチンへと入って行った。そして、バケツ一杯に塩水と昆布を入れ、再び外へと出て行く。

 何だかんだ言いつつも、亀の為に食事を用意してやるんだから良いヤツだよね、ブルマって。

 

 で、俺は一人で黙々とパンを胃袋に収めていたら、暫くしてブルマ一人が室内に戻って来た。どうやら、原作通りの流れに落ち着いたようだ。

 となれば当然、外で奇声を上げる恐竜の声を聞けば、ブルマは俺を急かして悟空を追い始める。ま、俺がそこそこ闘えると知らないのだから当然の反応だ。

 

 着の身着のままパジャマ姿でバイクを運転するブルマと背後に座る俺は、暫くして亀を背負う悟空へと追い付く。だが、その場には悟空と亀以外にも第三者が居た。

 俺が乗っていたせいで少しスピードが遅くなり、その結果亀を寄越せと言い募る巨大な狼人間の登場を見逃したようだ。

 

「ほぇ? なぁんだ、結局オメェも亀の事が心配だったんだな」

 

「ちょ、ちょっと……それより何なのよ、この状況」

 

「アイツが亀を寄越せってさ。なぁブロリー、亀ってウメェのかな?」

 

「スッポンは旨いが、海亀は知らないなぁ……そう言えば、登山家が書いた本に記してあったんだが、しっかりと下処理したミドリガメは旨いらしいぞ。スッポン以上に美味だそうだ」

 

「そんなにウメェのか!? オラも食ってみてぇなぁ」

 

 俺と悟空との会話を聞き、滅茶苦茶怯え始める亀。安心してくれ、君を食べるつもりなぞ一切無い。

 ………悟空は物欲しそうな視線を亀に向けているが、気のせいだよね? うん、気のせいだと思う。

 

「わ、私は美味しくないと有名です! メチャクチャ不味いらしいですよ!」

 

「だよなぁ。旨そうに見えねぇもんな」

 

「そんな事よりアイツは何なのよ!?」

 

「お前ら、俺様を無視してふざけてんのか!!!」

 

 プルプルと怒りに震えていた狼人間が、とうとう我慢出来なくなったようで怒りを露に叫んだ。……目の前でコントのような遣り取りを見せられ、無視しし続けられれば誰でも怒るよなぁ。

 しっかし、何故か分からんのだが無性に狼人間をイジメたくなる。何でだろう?

 

「いいか、もう一度言うぞ!! その亀を寄越さねば、ただではすまんぞ!!」

 

 自信満々に言い退ける狼人間だが、やはりムカつく。

 あれか? まだ俺が修行を始めた当初、狼の群れに襲われて殺されかけたのが原因か?

 

「べー、だ。オメェに亀はやらねぇよ!」

 

「クックックッ、どうやら死にたいらしいな」

 

「オラは強いから負けねぇぞ」

 

「ふん、貴様のようなチビなど一捻りにしてやるわ!」

 

 ジッと二人の遣り取りを見てて、やっぱりムカつくなぁと思っていると、ドンドンその思いが強くなってきた。

 でも、俺は本物の狼を見ても別になんとも思わないのだが……知らぬ内にトラウマになってたんだろうか?

 

 うーん、良く分からんがムカつくのは止められないので、悟空の前に身を乗り出す。

 

「なんだよブロリー? アイツと闘うのはオラだぞ?」

 

「いや、何か無性にムカついてしょうがないんだよ。代わってくれないか?」

 

「えー……じゃあ、昨日オメェが言ってたオッコトヌシってヤツを今度食わせてくれよ!」

 

「おう、良いぞ」

 

「うひゃー、楽しみだなぁ。想像したら腹が減ってきたぞ」

 

 いや、今度だぞ、今度。この後すぐって意味じゃないからな。

 

「ちょ、ちょっと! やめときなさいよ! 孫くんに任せてた方が良いわ!」

 

「問題無いよ。コイツみたいな雑魚なら、指一本で殺せるし」

 

 大袈裟に言ってる訳じゃない。多分オッコトヌシより戦闘力は低いだろうし、本当に指一本で倒せると思う。

 そんな俺の発言が気に入らないらしく、狼人間はプルプルと拳を震わせつつ腰に差している剣を抜き構える。そして、何の構えもしていなかった俺に向けて、勢い良く剣を振り下ろした。

 

 だが、俺からしたら欠伸が出るくらいのスピードにしか感じられず、一瞬で狼人間の肩に移動する。

 すると、俺の姿を見失った全員が動揺の声を上げた。

 

 キョロキョロと俺の姿を探す狼人間に向けて、敢えて攻撃せずに声を掛ける。

 

「のろまなヤツだ」

 

「な、何!? 何時の間に!?」

 

「メチャクチャ手加減してやるよ。感謝するんだな」

 

 そう声を掛けた後、俺は狼人間の眉間を狙ってデコピンをした。……いや、マジでただのデコピンだ。殺すまでもないし、出来る限り人殺しとかしたくないからな。

 

 で、俺のデコピンを喰らった狼人間は盛大に吹っ飛んで行き、巨大な岩にぶつかると白目を剥いて地面に倒れ伏した。

 うむ、完全勝利です! 対人戦は初めてだが、無事に勝利出来ました!!

 

 謎のムカつきから解放され、スッキリした俺が満足したように小さく頷いて悟空達に視線を向けると、ポカンと俺へと視線を集中させている事に気付く。

 

 速すぎて見えなかったからかな?

 

 そう思いどう声を掛けようか迷っていると、悟空が満面の笑みで口を開く。

 

「オメェ強かったんだな! おどれぇたぞ!!」

 

「まぁ、そこそこは強いつもりだ」

 

「いや〜そこそこって感じにゃ見えなかったぞ。オラより修行したんだろうなぁ………なぁ、今度オラと闘ってくれよ」

 

 悟空から闘いの誘いを受けるとは………感激だ!!

 十一年間の長きに渡って、ひたすら修行づけの毎日を送ったかいがあると言うものだ。

 しかし、ここでテンションを上げて返答すると、俺が変なヤツだと思われる為、敢えて軽い口調を意識して返答する。

 

「今度な」

 

「へっへへ〜、楽しみだなぁ」

 

 俺が感動しつつ悟空と会話していると、フリーズ状態から立ち直ったブルマが必死な様子で話し掛けてきた。

 

「ね、ねぇ! アンタ強かったの!?」

 

「あぁ、そこそこな。少なくとも、あんな雑魚よりは強いぞ」

 

 親指でクイッと倒れ伏す狼人間を指差しつつ、そう答える。すると、何故か嬉しそうに笑顔で跳び跳ねるブルマ。

 まさかとは思うが、ブルマも闘って欲しいとか言いだすんじゃないよな? 原作と少し違う年齢というだけだと思ってたが、武術にも興味があったとか?

 

 え、何それ怖い。そんなブルマはブルマじゃねぇ。

 

「顔だけじゃなく、強いとなったら更にポイント高いわね! アタシのボーイフレンドとして、花丸合格よ!」

 

 なんじゃそりゃ………まぁ、戦闘狂のブルマじゃなかっただけ良しとしとこう。

 俺は悟空との会話で爆上げとなっていたテンションを、跳び跳ねたり海亀を撫でたりするブルマを眺めつつ落ち着ける。

 

 そうして暫くした後、俺達は海に向かって進み始めた。

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 見上げれば青い空、前方を見れば広がる大海原。最高のロケーションである。

 突如としてドラゴンワールドに来た俺は、十二年ぶりの真っ青な海を見て遠くへ来たもんだとオッサン臭くしみじみと思い深呼吸していた。

 他のドラゴンボールを探す面々は、海亀と何やら会話している。多分、助けてくれた礼をするから待っててくれ、とかって言われてるんだろう。

 

 俺は別に礼とか要らないので、会話に混じる事もなく久しぶりの海へと身体を浸す。

 

「うおっ、結構冷たいな」

 

 現在、この近辺の季節は夏である。しかし、海水は意外と冷たかった。

 だが不快に思う程でもない為、そのまま身体を浸して海面に浮かぶ………って言いたいところだが、筋肉質な身体のせいか、海面に留まる事が出来ずに自然と沈んで行く。

 

 まぁ、考えてみれば当然だな。地球に来てからズーーーッと鍛え続けていたんだから、脂肪なんて殆んどついていないのだから。

 

 優雅に海面に浮かぶのを諦めた俺が、体勢を整える為に海中を蹴ると、丁度亀が泳ぎ去って行くのが視界に入った。亀は心底嬉しそうに笑っていたように俺には見えた。

 何せ海亀なんだ。陸に居続けていた期間は大変だったのだろうと察せられる。

 

 

 苦労しただろうなぁ、と俺が内心で思っていると背後から俺を呼ぶ声がした。そしてその声のする方へ視線を向けてみると、何故かブルマが爆笑していて、悟空は苦しんでいた。

 

「……どうしたんだ?」

 

「ちょっと聞いてよ。孫くんったら、海水をがぶ飲みしちゃったのよ! アハハハハ!!」

 

「オメェら、この水は飲まねぇ方が良いぞ。メチャクチャ辛いかんな」

 

 そりゃそうだ。何せ塩水だからな。

 

「ホント田舎者ねぇ。海の水は飲んじゃダメに決まってるじゃない……でも面白かったわよ!」

 

「ひぃ〜……海って変な川なんだなぁ」

 

 いや、川ではないぞ。海は海だ。断じて河川ではない。

 ま、悟空に説明するのはクリリンの役目だから諦めるが……と言うよりも、クリリンの方が説明するのが上手いだろうからな。

 

 クリリンの登場はまだ先だが、その時に覚えてたら話を振ってみるとしよう。

 

 そんな風に考えつつ、やれ珍しい魚だとか、やれこれは旨いのかとか、ほぼ食事に関しての話題ばかりを中心に話し合い、実際に焼いて食べながら亀を待つ。

 すると、俺と悟空の視力でなんとか見える距離に、亀の甲羅に立つ老人が見えた。

 

 武天老師様ぁーーーーーーーーーー!!!

 

 俺一人が感動している中、やがて甲羅の上に立つ甲羅を背負った老人は、よっこいしょういち、と言うしょうもないダジャレと共に陸に降り立った。



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7話

「グッドアフタヌーン、亀を助けてくれたそうじゃの。礼を言うぞ」

 

 アロハシャツが滅茶苦茶似合う老人は、ポカンとする悟空とブルマを無視して言葉を続ける。

 

「わしは亀仙人と呼ばれておる、宜しくの。

 ……して、亀よ。助けてくれたのは誰じゃ?」

 

「このお坊ちゃんのお二人です」

 

「うむ、ではお礼に素敵なプレゼントをあげちゃおう」

 

 いや、俺は要らんぞ。弟子にしてくれればそれで良いのだ。だが、そうは思うものの、折角の原作の流れを今は見ていたいので邪魔はしない。

 原作キャラの初登場時くらいは黙って見ていたい。別に悪い事をする訳じゃなし、構わんだろう。

 

「来い、不死鳥よ!!!!」

 

「あの、大分前に不死鳥は死にましたよ。確か食中毒だったかと」

 

「何!? 気付かぬ内に死んでしまうとは、立つ鳥跡を濁さず、と言うヤツを見事に体現しておるの」

 

 いやいや、それは違うだろwww ただ単純に武天老師様が気付かなかっただけじゃんwww

 俺が内心でツッコミつつ爆笑しているのとは正反対に、ブルマは不死鳥が死んだ事に呆れ、悟空は現状の展開が理解不能で固まっている。

 

 そんな俺達を置き去りに、亀と武天老師様の二人は何やら話し合い始めた。

 

「永遠の命をやろうと思ったのじゃが……他に何かあったかの?」

 

「……私に聞かれても困るのですが、強いて言うなら筋斗雲はどうです?」

 

「おぉ、そうじゃそうじゃ。それがあったの」

 

 大きく二度頷いた武天老師様は、空に向かって再び叫ぶ。

 

「来い、筋斗雲よ!!!!」

 

 杖を掲げて叫ぶと、何も遮る物が無い青空に武天老師様の声が木霊した。すると空の彼方から、此方に向かって凄まじい速度で飛翔して来る一塊の雲が姿を現す。

 俺が全力で走る速度を上回る筋斗雲は、その速度を俺達の目前まで保ちながら接近し、そして悟空の顔辺りの高さで急停止した。

 

 メッッッチャ速いな!! これは俺も少し欲しいと思うが、実際に乗っているところを想像すると怖いから……やっぱり要らん!!

 

 別に高所恐怖症って訳じゃないが、あの速度で飛ばれたら誰でも怖いと思う筈だ。そう思わない人物は、多分悟空くらいだろう。あとは、息子の悟飯とか悟天とかかな?

 ……いや、大概のZ戦士なら大丈夫そうだな。ただし、一般人なら全員が恐怖するだろう。

 

「これは筋斗雲と言う有り難い雲じゃ。これをお主にやろう」

 

 俺の隣に立つ悟空に向かって武天老師様がそう言うが、悟空はキョトンとしたまま首を傾げる。

 俺としては嬉しがると思っていただけに、そのリアクションに疑問を覚えるが、悟空が武天老師様に向かって放った言葉で笑ってしまった。

 

 だって「どうやって食うんだ?」、って言ったんだぞ? 俺は爆笑しながら思わず「食いもんじゃねぇよ!」、って武天老師様と同時にツッコミを入れてしまったぜ。

 

 いやぁ、悟空の予想外すぎる頓珍漢な発言は面白いよなぁ。それに、ハンカチで額の汗を拭いつつ呆れる武天老師様も面白すぎるよ。

 

 で、その後は原作通りの流れを辿るのだが、俺の分もお礼をくれると言ってくれたので、武天老師様の持っているドラゴンボールをブルマに上げて欲しいと頼んだ。

 すると、すんなり武天老師様は首に掛けていたドラゴンボールをブルマに渡してくれ、ブルマは滅茶苦茶嬉しそうに笑っていた。

 

 これで残りのドラゴンボールは3つと言う事になる。悟空とブルマならすぐに見付けてしまうだろう。

 

 俺は喜ぶ二人をよそに、少し離れた場所で武天老師様と内緒話をする。

 

「すいません、実はお願いしたい事があるのですが」

 

「ふむ、悪いが筋斗雲は一つしかないのじゃ。じゃからもうやれんぞ」

 

「いや、筋斗雲が欲しいのではなく……武天老師様の弟子にして欲しいのです」

 

 武天老師様は俺達に“亀仙人”としか名乗っていなかった。それ故に、俺が武天老師様と呼ぶと大層驚きになられ、何故知っているのかと聞かれてしまう。

 

 ……うむ、ミスったな。理由を考えてなかったわ。

 

 ま、ミスったのは間違いないが、テンション上がってたので仕方ないとしよう。それに「武天老師様を知らない人は居ないのでは?」、とそれらしい言葉を投げ掛ければ充分に誤魔化せたしな。

 

 少し照れたように後頭部を掻く武天老師様は、そのまま俺へと視線を向け言葉を発する。

 

「うむ、確かに有名人じゃから知られておっても不思議はないの。………しかし、お主は既にかなり鍛えておるじゃろ? しかも、亀仙流を修めておるように見える」

 

 ワッツ!? 武天老師様ほどの達人なら、見ただけで強いかどうかは確かに分かると思えるが、俺が亀仙流を学んだという事はどういう意味だろうか??

 俺は一人で修行していたし、誰かに師事した記憶もない。

 

 半ば呆然としつつそう考えていると、武天老師様は少し笑いながら俺が亀仙流を体得したと見破った理由を説明し始めた。

 

「達人ともなると、相手の立ち居振舞いを見ただけで分かるようになる。歩き方、立った状態での体重の掛け方などじゃ。

 それらが教えてくれるのじゃ、お主は間違いなく亀仙流を体得しておると」

 

 そう自信満々に告げられ、俺は武天老師様が勘違いした理由に思い至った………いや、あながち勘違いとは言えないのかもしれないが。

 つまり、十一年間の俺が行った修行は、全て武天老師様が悟空やクリリンに施した修行内容であり、それ以外の何物でもないのだから亀仙流を学んでいたと言える訳だ。

 だが勿論、俺としても独自の………いや、独自ではないが、ドラゴンボール以外の漫画の作品に登場する修行をやっていたりする。ま、それが身になっているかどうかは分からんがね。

 

 それは兎も角、武天老師様の発言に内心で納得すると、それが表情に出ていたらしく武天老師様は更に言葉を紡ぐ。

 

「昔に聞いておったからピンときたんじゃ。お主、孫悟飯の孫じゃろ?」

 

「へ? い、いやいやいや、それは違いますよ。確かに聞き齧った亀仙流の修行を長年続けてきましたが、俺は天涯孤独の身ですから」

 

「何じゃと!? とすると、聞き齧った修行方法だけでずっと一人きりで努力しておったのか!?」

 

「はい。………ですが、その言い方だと……何か俺がメチャクチャ寂しい憐れな男みたいな気がするのでやめてくれません?」

 

「いや、すまんすまん。いやぁ、わしゃてっきり悟飯の孫かと思っとったわい」

 

 テヘペロって感じでベロを出す武天老師様。落ち込む俺を気遣ってのリアクションだと思うが、指摘されて思うのは「確かに」という感情なので気は紛れない。

 

 俺、ボッチでした。悲しいくらい、ボッチでした。

 たった今、気付かされました。

 

「ま、それはそうと、見た限りで言えばわしがお主に教える事は無さそうじゃ」

 

「いや………自惚れるつもりではありませんが、確かに基礎体力や筋力などは俺の方が上だと思います。ですが、決定的に俺には勝てないと思える部分が武天老師様には沢山あります。

 パッと思い付くものを例に上げれば、戦闘での駆け引き、経験、武術の技、そして何より、気の扱い方です。中でも気の扱い方は絶対に勝てない部分だと思っています。他の部分については、自身で色々な武術家と闘うなりして身に付けられるでしょうが、武天老師様の奥義である”かめはめ波“などは自己流では身に付けられせん」

 

「う〜む……その年齢でそこまで深く考えておるのか」

 

  武天老師様は自身の髭を撫でつつ、唇を真一文字に結ぶと唸りながら思考の海に沈んで行く。そして暫くして、ニカッと笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「良かろう。わしが教える事は少なそうじゃが、お主を弟子にしてあげちゃうもんね」

 

 スゲェ軽い口調の御許しの言葉だな。目の前の人が武天老師様だと知っているから俺は気にしないが、知らない人からしたら胡散臭いと思うだろうなぁ。

 

「あ、有難う御座います!」

 

「それで、すぐに弟子入りするのか? お主達はドラゴンボールとか言うヤツを探しておるんじゃろ?」

 

「あ〜……それは」

 

 う〜ん……ここまですんなりと弟子入り出来るとは思ってなかったから考えてなかったな。

 まぁ、俺が居なくとも問題なくドラゴンボールは集められるのは分かってるんだけど、悟空達について行けばヤムチャとかに出会えるから行きたいっちゃ行きたい。

 でも、それは暫くすれば何度でも会えるんだし、あまり拘る必要は無いとも思える。

 

 どうしようかと気持ちがユラユラと揺れ動いていると、少し離れた位置で話し合っていた俺と武天老師様の所に悟空とブルマが近付いて来た。……悟空は筋斗雲に乗っていて、ブルマは何故か不機嫌そうに見えるが。

 

「美しすぎるのも罪って事なんでしょうけど、アタシを乗せない筋斗雲はバカよね」

 

「オラはそうじゃねぇと思うぞ?」

 

「どういう意味よ!?」

 

「オメェがわりぃ事ばっか考えてっからだ」

 

「そんな訳無いじゃない! 心のあり方が表に出るのよ! どう考えても、アタシの美貌は完璧でしょ!

 ブロリーもそう思うわよね!」

 

「……そういうところがオラはダメだと思う」

 

 ブルマが何で不機嫌なのかは今の遣り取りで充分に理解出来たけど、俺も悟空と同意見だから口をつぐむ。迂闊な発言をすると、ウージーで撃たれるかもしれないからな。

 悟空でも少し痛い程度で済むので大丈夫だろうが、それでも試したいなどと思う筈がない。

 

「それより、オメェ達は何を話してたんだ?」

 

「ん? あぁ、亀仙人様に弟子入りを認めて貰えてな」

 

「弟子入り? ちょ、ちょっと、聞いて無いわよ!?」

 

 そりゃそうだ。何せ言ってないのだから当然である。

 

「それに、なんの弟子入りなのよ!? どっからどう見ても、ただのハゲチャピンじゃない!」

 

 ハゲチャピンてwww 確かにハゲてるのは事実だけどもwww

 内心で爆笑しつつ、チラッと武天老師様に視線を向けるとプルプル震えていた。ワロスwww

 因みに、亀も俺と同じく必死に笑いを堪えている。

 

「なぁ、なんの弟子入りなんだ?」

 

「武術だ」

 

「武術? じいちゃんってつえぇのか?」

 

「強いなんてレベルじゃないぞ。悟空も亀仙人様に弟子入りした方が良い」

 

「へぇ〜、ブロリーが言うんならホントにつえぇんだろーなぁ」

 

 キラッキラッとした目で武天老師様を見つめる悟空とは正反対に、ブルマは胡散臭そうに武天老師様へと冷ややかな視線を向ける。まぁ、知らなきゃそうなると思えるだけに、当然の反応だと言える。

 だが、俺の発言は事実であるし、それは変わらないし変えられない。

 

 この後、ブルマと色々話し合って、ドラゴンボールを探し終わったら会いに来れば良いし俺から会いに行っても良いんだから問題無いだろうという結論に至る。

 因みに、ブルマが亀に住所を聞いていたので迷う事も無いだろう。それと、念のためにと携帯電話を渡されたので会話なら何時でも出来る。

 ただし、電話は一つしか持ってなかったらしいので、俺が渡された電話に掛かってくるのはブルマが家に帰ってからになると思う。



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8話

 なんとかブルマを宥めすかして、結局は別々に別れる事になった。

 で、ブルマと悟空二人の背中を見えなくなるまで見送った後は、亀の背に乗る武天老師様の案内でカメハウスへと辿り着く。勿論、俺は泳いで移動していたぞ。

 

 そしてカメハウスに着くなり、先ず始めたのはテレビ観賞である………と言うか、武天老師様が日課にしているらしい“ドキドキ!水着大作戦!!”とか言う番組を、カメハウスに入るなり見始めたので何も言えなかったのだ。

 

 久しぶりのテレビであるが、何が面白いのか判断出来ないので全く何の感慨も抱かなかったよ。だって、水着姿の女の子達が何故かスパイ活動をするという内容で、水着になる意味が理解出来ずポカンとするしかなかったからだ。

 ただし、その水着姿の女の子達は非常にナイスバディだったのは認める。それと、滅茶苦茶可愛かったのも認めるぞ。

 

 ま、それは兎も角、漸くその番組が終わると、かなり真剣な表情を窺わせる武天老師様が、お茶を飲みつつ尋ねて来た。

 

「して、ブロリー自身でも気付いておるようじゃが……戦闘技術や経験は色々な格闘家と闘う事によって学んで貰うとして、気の扱い方を教えるとしようかの」

 

「はい。宜しくお願いします」

 

「うむ、しかしそれには必要なモノがあるのじゃが……分かるかの?」

 

 うむ、何となく分かるぞ。武天老師様の鼻の下が伸びているところを見るに、考えている事は手に取るように分かる!

 

「まさか天下でも最強の格闘家と呼ばれる武天老師様ですからね……不純な事を言われる事はないでしょうし、きっと高尚な事をお考えなのだと察せられますが……。

 ダメですね、俺には皆目見当も付きません」

 

「う、うむ、そ、そそそそそうじゃろうな………!」

 

 ワロタwww 吃りすぎですよ武天老師様www

 どうせピチピチギャルを連れて来いとか言うつもりだったんだろうが、針で突き刺すように俺がチクリと告げると慌てた様子でハンカチで冷や汗を拭い始めた。

 

 考えが透けて見えるよ。流石は武天老師様だ。

 

「ブロリーさん、武天老師様の事を買いかぶりすぎですよ。ホントの武天老師様は………」

 

「コ、コラ、余計な事を言うんじゃない! 亀よ、お主はホントに口煩いヤツじゃな」

 

「だったらそれらしくしてくださいよ。そしたら私だって………」

 

「わ、分かった分かった! ……はぁぁぁ、ほんに口煩い姑みたいなヤツじゃ」

 

「聞こえてますよ」

 

「ゴホンッ、地獄耳め」

 

 突如始まる武天老師様と亀のコントwww 滅茶苦茶面白いwww

 亀は結構辛辣な事を言うタイプらしい。このコンビが揃ってるところを見るのは最高である。

 ただ、原作では亀が途中でフェードアウトするので少し心配だったりする。病気とかになった訳じゃないよな? いや、俺が記憶してないだけで、実は結構出てるのか? 何かそんな気がしないでもないけど……。

 

 ま、一応亀の健康も気を付けておくって事で良いか。

 

 と、俺が亀の身の安否を考えている間に、二人のコントは一応の落ち着きを見せる。すると、武天老師様が今度こそ真面目な様子で口を開く。

 

「気の扱いと言うても、様々な違いがあるのでな。どのような部分を学びたいのか聞いておこうかの」

 

「そう、ですね。……やはり気功波関係でしょうか」

 

「うむ、要は”かめはめ波“の事じゃな?」

 

「はい」

 

「成る程の。……ふむ、修行内容を考えておくので数日はノンビリしておいてくれ」

 

 おぉ! と言う事は、俺の為に俺専用の修行内容を作ってくれるって事か!!

 いやぁ、滅茶苦茶光栄だ。天下の武天老師様にそこまでして貰えるとは、夢にも思わなかったぜ。

 

 俺が満面の笑みで頷くと、武天老師様は修行内容を考える為に二階へと上がって行く。

 うむ、素直に有り難いと言える。だが、少々困ったな。ブッチャケると暇だ。

 何せ、此処は小さな島だし、修行するにしたって狭すぎるだろ? せめて島の大きさが今の十倍くらいあるのなら、ひたすら外周を走り回ったり出来るのだが。

 

「ブロリーさん、どうかしました?」

 

「へ? あぁ、いや、どう暇を潰そうかと……」

 

「あぁ、それなら海を案内しましょうか?」

 

 海亀が海の案内……だと……? まさか、竜宮……

 

「竜宮城ではありません。……竜宮城なんて存在しませんし」

 

 ですよねぇ。そうだと思いました。

 しっかし、俺の内心を読むとは……やるな、亀よ!

 

「やる事ないし、案内頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 リトルマーメイドのアリエルってこんな気持ちだったのだろうか?

 そんな疑問を浮かべた理由は、亀に案内されて辿り着いた海中の光景を目にしたからである。

 視界一杯に泳ぎ回る小魚達や、海底に沈む岩の隙間から時折顔を覗かせる照れ屋なイルカ達は、何時までも見ていたいと思わせる魅力に満ち溢れていた。

 

 本当に別世界かと思える光景に俺はただただ圧倒されるだけであり、それと同時に感じた事も無い感動を与えてくれる世界に感謝する。

 素晴らしいの一言では言い表せず、言語化する事さえ不可能なのではとも思わされた。

 

 そんな風に俺が一人感動していると、少し離れた海中で亀とイルカが何やら会話をしているように見えた………いや、海中なのに話が出来るのかは不明だが、兎も角俺にはそう見えたのだ。

 そして、その表現は当たりだったらしく、イルカと別れた亀は慌てた様子で俺の元へとやって来た。

 

 此処は海中なので、海の生物である亀は会話に不自由しないだろうが俺は不自由する。と言う訳で、海上に顔を出すと俺を追って来た亀に向けて言葉を掛ける。

 

「どうした?」

 

「実は、此処から少し離れた場所に怪しい人物達が集まって居るらしいんです」

 

「ん? それは、漁師とかって事か?」

 

「いえ、それが違うらしいんですよ。何やら海底基地を建設して、そこで怪しげな事を密かに行っているようなんです」

 

 はて? 地球でも行われていたような取り組みだろうか?

 それと言うのも、生まれながらにあらゆる化学合成物質に過剰反応してしまう体質の人間を対象に、彼等にとって住みやすい環境を海底に建設して移住しようと言う取り組みがあったりする。勿論、自然物質にも過剰反応してしまう者達にも有用な取り組みであるのは言うまでも無いだろう。

 

 それをやっているのだろうか? でも、それを怪しく見えるかと言われれば………いや、取り組みの内容を知らなきゃ充分怪しく見えるよな。

 或いは、そんな取り組みとは全く違う事をしている集団って可能性も………まぁ、無いとは言いきれないか。

 

「ふむ、取り敢えず場所が分かるなら案内してくれるか?」

 

「はい。ですが、かなり危ない連中みたいですから注意してくださいね」

 

「何か危ないと言いきれるような事が?」

 

「物騒な兵器を持っているそうですよ」

 

「……物騒な兵器ねぇ……分かった、注意しとく」

 

 原作ではなかった出来事だな。と言う事は、特に気にするような事案ではなかろう。

 多分、兵器も自分達の身を守る為の物だろうし、危険は無いと思う。

 

 亀に案内されつつそんな事をつらつらと考えていると、暫くして件の海底基地へと辿り着く。見た目は、妙にパイプが多い建築物って程度であり、他にはこれと言った特徴もない海底基地だ。

 ま、パイプが多いのも酸素を色々な部屋に送る為の物なのだろうし、そう考えると特段怪しい物ではない。

 

 海中を漂いながら暫く眺め続けているが、やはり可笑しなところはなかったので、亀にジェスチャーで帰ろうと指示を出した。

 するとその瞬間、亀が慌てた様子で俺の手を引っ張って海底の岩の影へと連れ込んで行く。

 

 妙に慌ててどうしたと言うのだろうか?

 

 俺が疑問に思っていると、それが表情に出ていたらしく、亀が自身の片手をある方向へと必死に向けた。

 小首を傾げつつ、俺はその方向へと視線を向ける。そして、亀が慌てた理由が理解出来た。

 

 なんと、海底基地に明らかに軍用の物と思える潜水艦が入って行ったのだ。しかも、二機も、である。

 確かにこれは怪しい………って言うか、それ以前の問題だ。

 

 何せ、二機の潜水艦にはとあるマークが描かれていたからだ。……特徴のある赤い蝶ネクタイのようなマーク。

 そう、レッドリボンである。

 

 悟空より早く俺がレッドリボンと関わる事になるとは思いもしなかったぜ! つうか、レッドリボンが何で海底基地とか作っているんだろうか?

 マジで謎だな。

 

 一旦海上へと出ると、俺の後にヒョコッと顔を出して来た亀に言葉を掛ける。

 

「相手は危険思想の連中だから危険な出来事が予想される。俺一人で海底基地に侵入するから、亀はさっきの場所で待っててくれないか?」

 

「それは良いですけど……」

 

「俺なら大丈夫だよ。武天老師様との会話を聞いていただろ?」

 

「ホントに大丈夫なんですね?」

 

「約束する」

 

「分かりました。ですが、危ないと思ったらすぐに逃げて来てくださいよ」

 

 俺の身を案じてくれる亀に大きく首を縦に振ると、俺は再び海底へと潜って行く。

 そして、先程潜水艦が入って行った場所から音を立てないように意識しつつ慎重に顔を出し、人の目に付かぬようにそそくさと隠れやすそうな箱の影に身を隠す。

 

 潜水艦からの荷物の搬入のせいで、かなり人が多いな。五十人くらいは居るだろう。

 しかもそれだけじゃなく、元々この海底基地に居た人間も含めると、きっと十倍………いや、二十倍の規模の人数が居ても不思議じゃない。

 海底基地の大きさは、東京ドーム一個分程はあったように見えたから、多分俺の推測はそれ程的外れなものじゃないだろう。

 

 更に現在居る場所の情報を得ようと視線を巡らしてみると、驚きの事実が次々に見付けられた。

 先ず、潜水艦の数だ。先程海底基地に入った潜水艦は二機だったが、他にも三機も停泊しているのが見て取れたし、次いで俺は兵器について詳しくないので良く分からないが、重機関銃の類いが積まれている一画があったりして、まるで此処は軍事基地のようだ。

 

 これは結構ヤバい場所なんではなかろうか?

 

 ノンビリした一時から一転して、何故かソリッドスネークのような心境へと変化した俺は、スネークを彷彿とさせる動作で(ダンボール箱を被っての移動)、慎重に基地の内部を探索し始めた。



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9話

 とある男は、ダンボールという人類の叡知を使用して数々の困難を打破し、そして数々の脅威を打ち払ったと言われる。

 ある時は慌てず動かずジッとその場を遣り過ごし、ある時はダンボールからの奇襲を仕掛ける。

 その恐るべき戦闘スタイルは無数の人々の心を支配し、それと同時に魅了した。

 

 そう、その男とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

「あれ? 何でこんな場所に荷物を放置してあるんだ?」

 

 あ………ヤバい(;・∀・)

 いや、大丈夫だ。まだバレた訳じゃなし、焦る時間帯ではない筈だ。

 それに、俺があの伝説の男を操作していた時は、少し警戒されたとしてもすぐに警戒を解いてくれたのだから。

 

 そう思いながら自分を安心させていると、俺の被ったダンボールに接近してくる兵士。

 ……な、何故だ!? ゲームでは上手く行っていたじゃないか!!

 そ、そうか、これはハードモードだったんだな!? イージーモードだと思い込んでいた!

 

 クソ、俺とした事が……とんだ醜態を晒しちまったぜ。

 

「まったく……適当な仕事をするヤツが居たもんだ」

 

 愚痴を言いつつダンボールに触れようとした瞬間、俺はダンボールから飛び出した。そして、兵士が声を出す暇を与えずに、顎の先端を掠めるように右フックを放つ。

 すると、兵士の意識は彼方へと飛んで行き、糸の切れたマリオネットの如く地面へと倒れ伏した。

 

「ぎ、ギリギリの攻防だった」

 

 ふぅぅぅ、と大きな溜め息を吐くと手近にある扉を開け、その中にたった今気絶させた兵士を引きずり込む。そして兵士の装備一式と軍服を奪い、それを着込むと再び通路へと出た。

 

 完璧な変装だ。そして完璧な手際である。

 

 スパイとしての自身の手際を自画自賛しつつ、俺は通路をゆっくりと進む。海底基地であるのにも関わらず、通路を歩いている限りはそれを感じさせない。

 まるで地上と変わらぬ様子に、時折此処が海底である事を忘れる始末だ。

 

 ふむ、潜水艦が停泊していた場所には数々の兵器が積まれていたが、あそこ以外は普通だな。となると、此処は兵器製造所なのか?

 

 この海底基地の存在理由を推測しつつ進んでいると、何やら異様な扉を見付けた。今までにも沢山扉はあったが、どれもこれも普通の家にありそうな何の変哲もない扉であった。

 だが、今見付けた扉は、銀行の金庫かと見紛うような造りになっており、中にはきっと重要な物が保管されていると予想させる。……或いは、重要な施設、という可能性だろう。

 

 しかし残念ながら、暗証番号とカードキーがなければならないらしく、中には簡単に入れそうもない。

 ……いや、俺のパワーなら容易にぶち破れるのだが、それをしてはスパイ活動はそこで終了だ。ならば、暗証番号を知っている者を探し出し、次いでカードキーを手に入れねばならないだろう。

 

 だが、この海底基地の規模がそれを阻む。何故なら、あまりに大きすぎてしらみ潰しに探し回れば数日は掛かると予想されるからだ。

 確かに走り回ればすぐに見付けられるだろうが、それをすれば先程も述べたようにスパイ活動は終了となるだろう。故に、変装したスパイだとバレずに動く必要性がある訳だ。

 

 ますます自分が伝説の男を知っているお陰で冷静な判断で行動出来る事に良かったと思いホッとしつつ、その場をあとにする。

 先程気絶させた兵士に尋ねるか、それとも他の兵士を捕らえて聞き出すか、どちらが良いだろうかと考えながら来た道を戻って行く。

 すると、先程気絶させた兵士を引き込んだ部屋に入ろうと扉に手を掛ける新たな兵士を視界に入れ、俺は少し焦る。

 

 ヤバい! 他に兵士は居るか!?

 

 背後と前方を確かめ誰も居ないのを確認すると、扉に手を掛ける兵士の背後に素早く回り込む。そして、羽交い締めにするとそのまま気絶させた兵士の部屋に引きずり込んだ。

 

「動くな!」

 

「ひぃ……」

 

「この先にある扉、あれを開ける暗証番号は何だ?」

 

「お、オレは知らない……」

 

「カードキーを持っている者は?」

 

「博士だ……名前は知らない」

 

「博士? この海底基地の存在理由は兵器製造所なのか?」

 

「オレは警備の為に派遣されただけで、知らない……」

 

 ふむ、下っ端と思わしき兵士は、背後から羽交い締めにしている為に表情は窺えないが真実を言っているのだと察せられる。

 どうしてかと説明すると、今にも殺されるのではと恐怖して小刻みに震えているからだ。この状態で嘘などつけれない筈である。

 もし嘘だとしたら、それこそ稀代の大嘘つきだ。

 

 もう聞き出せる事実はないと判断した俺は、最後に博士の居場所を尋ねた後に兵士を気絶させた。勿論、一人目の兵士同様に無駄に苦しめたりしていない。

 

 その後は、怪しまれないように意識しつつも素早く通路を進みながら時折見掛ける兵士にそれとなく敬礼して遣り過ごし、何やら機械の部品が乱雑に放置されている一画に辿り着いた。そして、人間にしては異常に上半身が大きい護衛を侍らす博士を見付ける。

 

 あれは人間か? ……大きすぎないだろうか?

 

 いや、大きい以前に、明らかに変だろう。何せ、下半身は普通の大きさの男が、上半身だけビスケットオリバのようになっているのだ。

 まるで上半身だけを取っ替えたような、そんな可笑しな体型である。

 

「何だね? ボクの護衛に興味があるのかな?」

 

 あまりにも変な体型の男を見て思わず呆然としてしまっていた俺は、博士だと思われる白衣姿の男に見咎められた。

 俺はその手痛いミスに小さく舌打ちしつつ、やむを得ずその場を何とか遣り過ごそうと思い小さく頷く。すると、白衣姿の男は満面の笑みを浮かべる。

 

「なかなか良い目をしているね。良いだろう、説明して上げようじゃないか!

 この護衛の男は、実は人間じゃないのだよ。総督は何処ぞの研究者が造った不細工な機械人形に御執心だが、ボクが造り出したのはあんな貧弱な人形とは大きく違う。

 ボクのサイボーグは、あの人形の倍のパワーを誇るのだよ!」

 

「えぇと、その人形ってのは……メタリック軍曹の事でしょうか?」

 

「その通りだ。君も見たなら分かるだろう? あの不細工で愚鈍な人形など、ボクのサイボーグと比べたら雲泥の差だと!」

 

 ……いやぁ、俺から言わせるとメタリック軍曹の方が好きだな。シュワちゃんに似てるし、何より格好良い。

 でも、そのメタリック軍曹も悟空が破壊しちゃうんだよね。まだ先の話だけど。

 

 ま、それは兎も角、目の前の博士はどうやらサイボーグを造る為に雇われた博士のようだ。ただし、人造人間やセルを生み出す予定のドクターゲロに、レッドリボン軍内での地位を奪われているらしい。

 然もありなん。このサイボーグでは大した評価は受けられないんだろう。故に、妥当な評価だと言える。

 

「ふん、総督も愚かなヤツだよ! ボクが……いや、ボク達が優れた科学者だと、いずれは認めさせてやるけどね。

 あの兵器が完成したら、世界は……くくく、はぁはっはっはっ!!!」

 

「……何やら物凄い兵器を生み出したような発言ですが……」

 

「ふっふっふっ、それは流石に秘密さ。例えレッドリボンの兵士だとしても喋る訳にはいかない。

 それに……これから死ぬヤツに教えたって意味は無いしね!!!」

 

「なっ!?」

 

 不敵な笑みを浮かべる博士は、突如俺に向けて懐から取り出した銃を向ける。そして、一切の躊躇いもなく引き金を引いた。

 しかし、一般人からしたら無慈悲な弾丸だとしても、俺からしたらただの石つぶてである……いや、石つぶてより頼りない物だと言えるだろう。

 

 乾いた音が室内に響き渡り、次いで銃の先端から光と共に弾丸が飛翔して来るが、俺はそれをキャッチボールでもするかのように容易く掴み取る。

 

「何故俺がレッドリボンの兵士ではないと分かった?」

 

「……この研究棟には兵士でも入らないように言い聞かせているからさ。それより、君は何者だい? 何故銃弾を素手で掴めるのかな?」

 

「……何でだと思う?」

 

「君もサイボーグなのかな?」

 

「……さてね」

 

「面白い。ボクの造ったゴライアスと、君という謎のサイボーグのどっちが強いのか……それを試すのも一興!

 ゴライアス! あの男を破壊しろ!!」

 

 ゴライアスと呼ばれた護衛のサイボーグが、ドスンドスンと足音を響かせながら俺へと接近し始めた。

 しかし、その足取りは……いやいやいや、折角シリアスな雰囲気だったのに、これじゃあ台無しだ。

 何故なら………

 

「足遅っ!?」

 

「パワーに割り振ったから仕方ないだろ!!」

 

「いくらパワーに割り振ったとしても、限度があるだろう! 」

 

「煩い煩い煩ーーーーーい!! あのバカな総督とおんなじ事を言うなーーーーーー!!!」

 

 いや、言うよ。だって遅すぎるもん。そして、総督ってのはあのちっちゃい男の事なのだろうが、結構見る目があると思うよ?

 だって、こんな偏った性能のサイボーグより、ドクターゲロのサイボーグを支持してるんだから。

 

 ゴライアスと呼ばれるサイボーグからしたら全力のスピードなのだと思われるが、客観的に見て牛歩のようなユッタリとした足取りで俺の間合いへと漸く到達すると、屈強な上半身を捻り、勢い良く右ストレートを放って来た。

 流石に身体が大きい事もあり、その迫力はなかなかのものである。

 

 だがしかし、如何せん俺を倒すにはパワーが低すぎた。メタリック軍曹の倍のパワーだと言っていたが、確かにそれくらいの性能はあるのだと理解させられるものの、戦闘力300の俺からしたらショボい一撃にしか感じられない。

 ただし、メタリック軍曹と闘った時の悟空なら苦戦するだろうな。

 

 それは兎も角、俺はゴライアスのパンチを片手で掴むと、拳を破壊する為に力を込めて握り締める。

 すると、バキバキッと金属が歪むと同時に軋みをあげる音が室内に響き、ゴライアスの右手から黒煙が立ち上ぼり始めた。

 

 博士は、それを見て驚愕したように目を見開く。

 

「そ、そんな!?」

 

「俺を倒すには役不足だったようだな」

 

 そう不敵に言い放つと、一般人には目にも止まらぬスピードで回し蹴りを放った。きっと博士には何が起きたのか理解出来ないだろう。

 

 俺の全力から程遠い一撃を横腹に受けたゴライアスは、下半身と上半身に分断され地に落ちる。最早その一撃だけで機能停止寸前に陥っているらしく、人間と変わらぬ姿をしている為に気持ち悪いと思わせる不気味な動きを繰り返す。

 

「あびぼ……あじゃぱぁ……暗証番号……140.15」

 

「暗証番号?」

 

 成る程、どうやらカードキーは博士が持ち、暗証番号は護衛のサイボーグであるゴライアスが知っていたらしい。俺としてはラッキーな状況だな。

 ……だが、警備の観点から言うと、カードキーと暗証番号を一緒にしたら不味いだろう。いくら分けていると言っても、博士の護衛として常に一緒に行動しているのだし、意味が無くなるじゃん?

 

「そんな、ボクのゴライアスが……」

 

「カードキーを渡して貰おう」

 

「くっ………き、君の正体は、まさかFOX部隊員なのか!?」

 

「何の話だ?」

 

「違うのか!? なら何故ボクの……ボク達の邪魔をする!?」

 

「いや……何でと言われても……暇潰し?」

 

「ふ、ふ、ふ………ふざけるなぁぁあああああ!!!」

 

 錯乱したかのように叫びながら暴れ出す博士を見て、平和的にカードキーを譲って貰うのを諦めた俺は、博士の背後に一瞬で回り込むと手刀を叩き込み気絶させる。

 そうして静かになった博士の懐から、目的であったカードキーを抜き取った。



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10話

 暗証番号とカードキーを手に入れた俺は、兵士にバレないように帽子を目深に被ると再び金庫のような扉へと進み出した。

 だが、色々迷いながら研究棟へと辿り着いた事もあり、少々迷ってしまい………いや、正直に言えば迷子になっちゃったようだ。

 

 此処は何処? 私は誰?

 

 などとふざける暇はない。夕飯時が近くなったせいか、沢山の兵士を見掛けるようになったからだ。それは気のせいではなく、通路を進んでいるとドンドン兵士とスレ違う人数が増えている事から考えると、先ず間違いないと思える。

 

 俺がいくら変装しているからとは言っても、身長が150センチしかないのだから不審に思う兵士も現れる筈。

 故に、少々焦りながら今歩いている場所が何処なのかを知ろうと努力するものの、何処もかしこも同じような造りになっているので見分ける事も出来ず、とうとう明らかに通った事もない場所へと来てしまった。

 

 此処は……牢屋か? 何で兵器製造所に牢屋が? いや、兵器製造所ってのは、あくまでも俺の推測にすぎないんだけどね。

 

 兎も角、牢屋に用は無い。となれば、当然俺は踵を返し再び金庫を探そうと背後へと振り返る。だがその瞬間、牢屋の一つからカタンと金属音がし、俺は反射的に視線を向けた。

 するとそこには、妙齢の女性が一人立っているのが俺の目に映った。

 

「妙に背の小さい兵士ね」

 

 悪かったな、小さくて! でもな、俺はブロリーなんだ。つまり、将来的には滅茶苦茶デッカクなる筈なんだよ!!

 

 ちょっとイラッとしたが、大人のブロリーの姿を知っているだけに、それをイメージして溜飲を下げる。

 

「女性の兵士かしら? 私と同じで勇ましいわね」

 

 ……つうか、コイツは誰だろうか? レッドリボンの基地で囚われているって事は、悪いヤツじゃないって事だよな?

 

 目の前の女性について考えていると、女性が更に言葉を紡ぐ。

 

「こんな場所に入れられてるから暇なのよ。何か話をしてくれない?」

 

「……何者だ?」

 

「男? ……背が低かったから女性なのかと思ったわ」

 

 身長についてはもういいっちゅうねん! 何度も言うなよな!!

 

「……何者だと聞いた筈だが?」

 

「気にさわった? そんなに怒らないでも良いじゃない」

 

 質問に答えて貰えないので会話のキャッチボールが成り立たない。……いや、敢えて言葉のキャッチボールをせずに、自分のペースに持ち込もうとしているのかもしれないな。

 兎も角、俺から何か情報を聞き出そうとしているところから見るに、きっとレッドリボンの兵士ではないのだろう。それに、レッドリボンの兵士なら牢屋に入れられる筈がないし、やはり第三者なのは間違いないと判断して良いと思える。

 だがそうなると、目の前の女性は何故レッドリボンに囚われているのかが疑問だ。

 

 このまま再度尋ねても喋らないだろうと思えるので、取り敢えず脱帽する。そうする事によって俺が子供である事を相手に示し、それと同時に俺がレッドリボンの兵士ではないのを証拠に会話のキャッチボールをしようと試みたのだ。

 すると、俺が子供だと知った女性は予想以上に驚き、少し俺の予想外の方向へと女性の考えが飛んで行く。

 

「レッドリボンは子供ですら兵士として運用しているの!? なんて酷い事を!!」

 

 ……確かに俺が前に居た地球上でも、子供の兵士を運用している国があったりしたけど……いや、あれは政府軍じゃないから国じゃないか。反政府組織だったな。

 いやいや、それはどうでも良い。

 

「俺はレッドリボンの兵士ではない」

 

「どういう意味……まさか!? 救出部隊が貴方なの!?」

 

「救出部隊? つまり、お前は正規軍の人間なのか?」

 

「救出部隊じゃないの? でも、それなら何で子供が此処に居るの?」

 

「暇潰しに泳いでいたら、イルカが教えてくれたんだよ。怪しい人間達が、此処に海底基地を作って何やら行っているってな」

 

「まさか、それを聞いたから此処に来たの!? こんな危険な場所に!?」

 

 嘘ではないと頷く事で言外に告げると、女性はますます信じられないと叫びながら動揺する。そして、頭を抱えたまま大きく溜め息を吐く。

 だが、暫くすると俺に呆れたような視線を向けながら口を開いた。

 

「私の名前はメリル、メリル・シルバーバーグよ。貴方の名前は?」

 

 へ? 嘘だろ!? 何でメリルが居るんだよ!!

 

 俺が女性の名前を耳にして思わず放心していると、再度メリルが名前を尋ねてくる。それによって我を取り戻す事に成功した俺は、その戸惑いを表に出さないように意識しつつ返答する。

 

「……ブロリーだ」

 

「分かった、ブロリーね。それで、此処に侵入して何をしていたの?」

 

「取り敢えず、この施設が何を目的にした施設なのかを調査していた。俺の推測では、兵器製造所ってところだが……」

 

「なかなか鋭いわね。でも正確に言うと、この施設はとある兵器だけを組み立てる為だけに存在する場所よ。……まぁ、私も何の兵器を組み立てているのかは知らないけど」

 

 ……潜水艦で此処にナニカを運び込み、そして組み立てるって事か。その謎のナニカは、余程に重要機密なんだろうな。

 でなけりゃ、わざわざこんな海底に基地など造ろうと考えないだろう。

 

 それとメリルと話していてもう一つ分かった事があるのだが、それはメリルが正規軍に所属しておりレッドリボンの兵器を調査する為に潜入し、尚且つその過程で囚われたって事だ。

 勿論、これははっきりとメリルから聞き出した事ではないので俺の推測の域を越えないが、それでも現状では大きく外れた推測とは思えない。なので、恐らく当たりだろう。

 

 って言うか、メリル・シルバーバーグがドラゴンワールドに居るとは驚いたな。マジでビックリしたぜ。

 とすると………いや、まさかな。それは流石に有り得ないだろう。

 

 俺が内心で一人問答していると、天井の通気孔の蓋が独りでに外れ落ちた。無論、そんな不自然な出来事に直面した俺とメリルは、即座に身構えながら通気孔へと視線を向ける。

 すると、その通気孔から三十代半ばの男がスッと姿を現した。

 

 顎髭を生やした男は、地面へと音も無く着地を決めると、屈んだ状態でメリルに言葉を掛ける。

 

「……待たせたな」

 

 ま、ま、ま、まままままままま………まさか!? こんな事があるのか!?

 こ、この目の前に現れた男は、間違いなく……あの伝説の……

 

「成る程、貴方が私の救出部隊の一人って訳ね……スネーク」

 

 スネーーーーーーーーーーーク!!!!! やっぱりあの伝説の男じゃないか!!!!!

 

「救出するだけじゃなく、色々と探っていて遅くなった。すまないな」

 

「構わないわ。何か分かったの?」

 

「あぁ、そこの子供のお陰でな」

 

「……ブロリーの?」

 

 待って、ちょっと待って!! 深呼吸させて!!

 半ばパニックに陥っている俺は、メリルとスネークの視線を集めつつ大きく深呼吸する。だが、なかなか気持ちを落ち着ける事が出来ない。

 それも仕方ないだろう。何故なら、目の前に伝説の男であるスネークが居るのだから。

 

 確かに、俺もドラゴンワールドの中では伝説の男と呼ばれる存在だけど、こうやって客観的に伝説の男を目にすると感動の大きさの次元が違うのだ。スネークの存在感も合わさって、とても軽々しく言葉を発する事が出来ない。

 

「スネーク、ブロリーが何かやらかしたの?」

 

「この施設の重要機密である場所に入る為の暗証番号、そしてそのカードキーを、確かに入手したのをこの目で確認した」

 

「それは有り得ないわよ。だって、カードキーを持ってるのは博士本人よ? それに、博士にはゴライアスと呼ばれる異常なパワーを持ったサイボーグが護衛としてついているわ。しかもそのサイボーグが暗証番号を記憶してるし、拷問や尋問をしても聞き出すのは不可能だわ」

 

「そのサイボーグはブロリーが破壊する事に成功している。余談だが、暗証番号はショートしたサイボーグ自身が喋っていた」

 

「本当なの!? あんなヤツを破壊出来るなんて……」

 

「外見は子供だが、恐らく単純な強さは俺より強いだろう……いや、間違いなく強い。フランク・イエーガーや雷電と同等の身体能力を有しているように見えたからな」

 

 ファッ!? グレイフォックスと雷電も居るの!? もうやだ、何それ怖い((( ;゚Д゚)))

 

 驚愕の出来事が次々に俺を遅い、もう脳がオーバーヒート寸前である。

 だが、このドラゴンワールドは俺に優しくしてくれないらしく、俺の脳を機能停止させんと決定的な一言がスネークからもたらされた。

 

「それより、問題はこの施設で組み立てられている兵器だ」

 

「え、えぇそうね。……私の予想ではサイボーグだと思うのよ」

 

「サイボーグではない。巨大な二足歩行型ロボットであり、あらゆる地形に適応した遠隔地破壊を目的に製作された………その名も、メタルギア!!!

 そのメタルギアが完成した場合、レッドリボンの影響力は今以上に強くなるだろう。そして戦争は形を変え、意志(sense)を持った人間が命を奪い合うのではなく、何のイデオロギーも持たぬ機械が、統率され完璧に統制された普遍な争いによる虐殺になる事が予想される」

 

 キャーーーーーーーーーーー((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 もう止めてーーーー!! 俺のライフはゼロよ!!

 

 俺の脳が機能停止に追い込まれた中、息を飲むようにメリルが「メタルギア」と呟くと、スネークが大きく首を縦に振るった。

 そんな緊迫した一場面に、俺と言う気絶寸前のせいで白目をした存在が一緒の空間に居るのは違和感しかないぞ。もう居たたまれない!

 

 だが悲しいかな、俺に再び二人の視線が集中する。多分、金庫型の扉の先に行く為にカードキーが必要だから渡して欲しいんだろう。

 俺が博士とサイボーグの二人を相手に闘っていたのは見られていたようだし、暗証番号はその時に聞いただろうから、あと必要なのは俺の持つカードキーだけだからな。

 

 そう俺が予想していると、スネークがメリルの入れられている独房の鍵を開け、俺の方へと歩いて来る。そして、間近まで迫ると立ち止まった。

 ダンディーな顔が眩しすぎるよ!

 

「カードキーを渡して欲しい。君は本当に工作員ではないんだろう? 君には必要無い筈だ」

 

 もう好きにしてくれ。その声とその顔で近付かれると俺の心臓が止まりかねない。

 そんな風に内心で考えつつ、俺は必死に手の震えを押し留めながら懐からカードキーを取り出す。そして、スネークに動揺を悟られぬように差し出した。

 するとスネークは、一言「すまない、助かった」と渋い声で俺に礼を告げると、メリルと共に牢屋から出て行った。

 

 その瞬間、俺は肺の中の空気を全て吐き出し、次いで新しい空気を肺一杯になるまで取り込む。そうする事で幾分か緊張が和ぎ、嫌になるほどに煩く騒ぎ続けていた心臓の音が普段通りに落ち着いた。

 

 マジでビックリした………いや、ビビりまくった出来事だったよ。感動したと言うのも事実だが、それ以上に緊張した一時だったと言えるだろう。

 

 兎も角、もう海底基地の調査は必要無いな。何せ伝説の男が居るんだ。

 俺が行動しなくても、この海底基地は伝説の兵士によって破壊されるだろう。それは間違いない。

 それ故、俺は素早く移動しつつ潜水艦の止めてある部屋から海中へと無事に脱出した。

 

 伝説の男………いや、スネークよ! 良いセンスだったぜ!!




 暗証番号で少しだけ登場人物のネタバレしてましたが、分かりましたか?
 多分、メタルギアが好きな人はピンときたと思いますw


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11話

 海底基地から海中へと身を脱した俺は、ノンビリとしたペースで泳いで行く。もう海底基地の危険性が皆無となったので、俺としてはイルカさん達の懸念を払拭出来たと思えているので焦りは一切無い。

 勿論、スネーク達が失敗する可能性も………いや、それは有り得ないだろう。だが、もし万が一にもそんな事があったのなら、俺が行って全力で暴れれば良いだけだし、やはり問題無いと言えるだろう。

 

 で、ノンビリ海中を進んでいると、亀やイルカさん達が待ち受ける場所へと辿り着いた。すると、俺を視界に入れた途端、亀が焦った様子で必死に海中を泳ぎながら近付いて来るのが目に映った。

 どうやら、かなり心配していたようだ。

 

 俺は亀やイルカさん達を安心させる為、海上に顔を出すとすぐに声を掛ける。

 

「大分待たせたみたいで悪いな」

 

「いえ、それは良いんです。それより、怪我はありませんか?」

 

「掠り傷一つ無いよ」

 

「そうですか! ホッとしました」

 

 ふぅぅぅ、と大きく息を吐く亀を見ていると、少し罪悪感が湧いて来た。まぁ、別に俺が悪い事をしている訳じゃないんだけどね。

 でも、心配を掛けたのも事実であるし、罪悪感を抱くのも仕方ないだろう。

 

「海底基地はどうなりました?」

 

「あぁ、あそこは兵器製造所だったみたいだ」

 

「そんな危険な施設だったんですか!?」

 

「レッドリボンって知ってるか?」

 

「反政府組織ですよね? ……まさか!?」

 

 やはり亀はかなり頭が良いよ。少し話すだけで、その内容の先を容易く読み取るからな。

 一を話して十を理解する亀は、流石は武天老師様の側近だと頷ける。マジで優秀すぎるよな。

 

 俺は亀を安心させるように、意識して何でもないかのように言葉を発する。

 

「少なくとも、海底基地については問題無い。恐らく、そろそろ爆発でもして崩壊するんじゃないかな?」

 

「爆発、ですか?」

 

 まぁ、本当に爆発するかどうかは不明だが、使用不可に陥る程のダメージは受けるだろう。何せ伝説の男が居るんだからな。

 実際、歴代メタルギアでは悉くが爆破されているし、俺の予想は的外れとも思えない。

 

 そう思っていると、俺の言葉が真実へとなる。何が起こったのかと説明すると………

 

「わ、わわわわ!!?? 爆弾でも仕掛けていたんですか!?」

 

 俺達が今居る海上から少し離れた場所に、巨大な水柱が爆音と共に発生したのだ。どうやら本当に爆発したらしい。

 恐らく、スネークやメリルがメタルギアと闘った末に、ロケットランチャーとかで爆破したんだろう。或いは、基地自体の破壊を目的に爆破した可能性もある。

 

 だが亀よ、慌てるのは理解出来るのだが、何故俺が爆弾を仕掛けたと思うんだ? 俺はそんな物騒な事はしないぞ。

 

 俺が苦笑しつつ首を横に振ると、亀は怪訝そうな視線を水柱が起きた方向へと向ける。多分、俺の発言を信じていないのだろう。

 でも俺の発言は真実であり、それは変わらないし変えられない。

 爆発させたのはスネークですからね。もしくはメリルですよ。

 

 俺は無実だ。

 

 だが再び俺へと視線を向ける亀の表情は、明らかに俺を疑っていた。心底心外である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 カメハウスへと戻って来た頃には、既に空の色は漆黒となり夜に変わっていた。となれば当然、晩御飯の時間帯である。

 もう腹ペコである俺が目にしたのは、武天老師様が沢山の食材を庭に用意している姿であり、それを見て察するのはBBQなのだと言う事実。

 

 イヤッホーーイ!! BBQだぜーい!!

 

 満面の笑みを浮かべながら炭を燃やす武天老師様に近付くと、タオルケットを手渡されたので礼を告げて受け取る。そして濡れた身体を拭き終わる頃になると、武天老師様が声を掛けて来た。

 

「亀と出掛けておったようじゃが、何処に行っておったんじゃ? この辺りには何も無かったじゃろう?」

 

「レッドリボンの海底基地があったので、調査してきました」

 

「何っ!? レッドリボンじゃと!?」

 

「でも大丈夫ですよ。もう施設は爆発して跡形もありませんから」

 

「お主、意外とアグレッシブじゃの」

 

 何やら勘違いされているが、爆破したのは伝説の男達ですよ。俺は無関係です。

 だがそれを指摘するよりも、今の俺が大事なのは目の前のBBQだ!

 

 俺が網の上で焼かれる肉にズッと視線を向けていると、武天老師様は呆れた様子で苦笑しつつ食事を進めてくれる。

 

「頂きます!!」

 

「うむ。成長期じゃからの、沢山食べると良い」

 

「ウメェーー! 肉も良い肉だけど、タレが旨いですね!」

 

「わし特製のタレじゃ」

 

「武天老師様は料理も出来るんですね!」

 

「いやいや、簡単な料理だけじゃよ。手の込んだ料理は出来んしの」

 

 武天老師様は照れたようにそう告げるが、このタレはマジで旨い! 多分、黄金のタレと同等レベルだ!

 それは兎も角、俺は最高に旨いBBQを堪能し用意されてあった食材だけでは足りなくなったので、真夜中の海にダイブして新たな食材を確保して更に食べまくった。

 因みに、武天老師様は俺の食欲に呆れていたが、それはサイヤ人の特性なんで仕方ないんですよ。うむ、しょうがないんだ。

 

 で、そんなこんなで楽しい晩御飯が終わると、カメハウスで初めての一夜をすごした。十一年間をすごした家とは違うので、少し寝づらかったのは事実だが充分に眠る事は出来たよ。

 

 そうして、それからカメハウスでの生活が数日経過したとある日、突然玄関先で悟空の声がした。その事に少し驚いたが、それもすぐに納得出来た。

 それと言うのも、原作でフライパン山の火を消す為に武天老師様の持つ芭蕉扇を借りに来るという出来事があるのを思い出したからである。

 そして、フライパン山のドラゴンボールを手に入れたとしたら残りは一つであり、悟空が大猿化する時が近付いているという事だ。勿論、神龍が見れる瞬間があるという事でもある。

 

 悟空やブルマは着々とドラゴンボールを集めているようだと確信しつつ玄関に顔を出すと、未来のお嫁さんであるチチの姿も当然ながら見受けられた事に安心し、その夫である悟空へと視線を向ける。

 

「よう、悟空」

 

「オッス、じいちゃん居るか?」

 

「あぁ、今は丁度日課のドラマも見終わったところだから、武天老師様の手も空いて……」

 

 俺が悟空との会話をしている途中に、背後に気配を感じたので視線を向ける。すると、話題の張本人である武天老師様が誰と話しているのかと聞いて来た。

 なので俺は、玄関から自身の身体を退けると武天老師様に場所を譲る。

 

「ん? 誰かと思えば、この間の子供ではないか」

 

「オッス、じいちゃん。実はさぁ、じいちゃんに頼みがあんだよ」

 

「……ふむ、取り敢えずその頼みとやらを聞かせて貰うかの」

 

 何やら思案するような仕草で話しの先を促す武天老師様。すると、悟空がチチを紹介した後で頼みとやらの説明を始めた。

 それから、暫く要領を得ない悟空の雑な説明に手を焼いたものの、チチが合間合間に合いの手を入れる事によりちゃんと武天老師様へと詳しい事情が説明される。

 

 そうして、芭蕉扇が既に消失している事が判明して亀と武天老師様のコントが予定調和のように発生し、その後は当然ながらチチによる突然の凶行によって武天老師様の頭部が割られるが、比較的原作と同様の流れを辿る事となった。

 勿論、チチの凶行を止めようと思ったら簡単に出来たのだが、楽しみにしていたので手は出さなかったよ。……仕方ないだろ? 原作を読んだヤツなら気持ちは理解してくれる筈だ。

 

 それは兎も角、結局芭蕉扇が無いのだから苦肉の策として武天老師様直々に出られる事となり、俺は移動手段が無いのでお留守番となった。

 ま、話し相手の亀が居るので暇にはならないし、俺としては問題無い………いや、強いて言うなら、悟空が“かめはめ波”を放つ瞬間は見たかったな。無論、武天老師様の”かめはめ波“も同様である。

 

 しかし移動手段が本当に無いので、こればっかりは諦めるしかなかった。

 まぁ、修行が始まったら俺も“かめはめ波”を出せるようになるだろうし、それまでの辛抱だと我慢しとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 武天老師様が帰って来てから色々と話を聞いて原作と変わりなく進んだ事を確認すると、そこからは愚痴を聞くはめになった。

 何でも、俺がフライパン山まで来なかった事にブルマから滅茶苦茶文句を言われたらしい。しかも、結構辛辣な発言を受けたらしく、武天老師様がかなり凹んでいたよ。だが、それは俺のせいか?

 確かに会いに行かなかったが、正確に言い表すと会いに行けなかったのだから仕方ないと思うだろう? だって移動手段が無いんだからしょうがないじゃん。

 俺としては武天老師様から愚痴を聞きつつ、終始頬を引き攣らせるしかなかったよ。

 

 で、その後は俺の修行の話へと話題が移行したのだが、フライパン山での悟空との遣り取りによって孫悟飯の孫である事などが判明した事から悟空を弟子にする事に決めたと報告があり、ついてはそれまでノンビリしてくれと言われてしまった。

 まぁ、悟空と一緒に修行出来るのは良いのだが、今日からまた数日間を暇な時間と闘う事になるのかと思うと少し憂鬱である。亀と一緒に海中散歩するのもそこそこ楽しいのだが、そろそろ気功波関係の修行をしたいと言うのが俺の本音なのだ。

 

 とは言っても、修行内容を決めるのも何時修行を始めるのかも、それを決定するのは師である武天老師様なので弟子である俺は師の決定に反論する立場にいない。それ故に、また数日間をノンビリするしかなさそうだと俺は覚悟するしかなかった。

 だが、何もせずにジッとしているのは辛いので、海中でのトレーニングでもしようかと思っている。

 

 トレーニングの内容は、史上最強の弟子に登場した修行方法で水中で蹴りを放つというものだ。重いランドセル型の岩を背負うのとは違って、新鮮な感覚で修行出来るんじゃないかと思っている。

 身体に掛かる負荷は少ないが、バランス感覚などを鍛えられるだろう。………多分、きっと、メイビー。

 

 さぁ、悟空がくるまで自主練を頑張るとしましょうか!! 自分、ガンバ!!



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12話

 ひたすら海中に下半身が浸かっている状態で蹴りを放ったり、少し行きすぎた時は全身を海中に浸けた状態で蹴りや正拳突きをしたりと、少々修行の方向性を見失ったりしていたが、何故か分からんが結構楽しく過ごせた数日間だったと思う。

 自分でもはっきりした理由は分からないのだが、途中から修行ハイとでも呼べる心境に陥っていたからじゃないかなぁとは思っている。ま、結果良ければ全て良しって感じだな。

 

 それは兎も角、今日も朝から海中で修行をしようと思っていると、そこに丁度良く悟空がやって来た。とうとうドラゴンボール集めが終わったらしい。

 その証拠に、武天老師様に修行しに来たと悟空が言っているので間違いないだろう。

 

 で、これまた丁度良く、本当に狙っていたんじゃないかと言うレベルで船をえっちらこっちらと漕いでクリクリ頭のクリリンがやって来た。

 とうとう………とうとう冒険編ではなくバトル編へと移行する時がきたんだなぁ、とクリクリ頭を眩しく見詰めながら思ったよ。

 

 そして、そこからは何故か原作通りではなくすぐに修行を始める為に移動する事になった………いや、クリリンがエロ本を渡すところは原作と同じだったんだが、プロレスラーみたいな女性の登場とか人魚さんの登場とかなかったのはビックリした。………ブッチャケると、人魚さんはマジで楽しみにしてたんだけど、何故登場がなくなったんだろうか?

 俺という異分子が居るとは言え、少し変化した部分にちょっとガッカリしたのは内緒である。

 

 って言うか、ランチさんはどうなるんだ? まさかこのまま出会う事も無いのだろうか?

 となるとかなり残念である。俺としては天津飯とくっついて欲しいので、是非知り合っておきたいのだが………いや、こうなったら自分から探しに行くべきか?

 だが何処に探しに行けば良いのか不明だし、かなり無茶無謀だよな。

 

 俺が一人考えている間に、カプセルに戻されたカメハウスを懐に入れた武天老師様の先導によってボートへと促された俺達は、自己紹介をしつつ修行場所であるそこそこの人口の島へと到着した。

 そして、適当な場所にカメハウスを設置し終わると、割りと真剣な様子の武天老師様が声を掛けて来た。

 

「さて、早速修行を始めたいところじゃが……先ずは悟空やクリリンの身体能力の程度を調べるとしようかの」

 

 あー、そう言えばそんな描写があったな。……確か、100メートル走の記録を計るんだったっけ? 

 

「亀仙人様、私は少林寺でそれなりに修練を積んでいるのですが、何故私と悟空のみの身体能力の測定でブロリーはしないのですか?」

 

「そりゃクリリンと悟空とは鍛え方が違うからしょうがないじゃろ」

 

「あまり強そうに見えないのですが?」

 

 クリリン君、なかなか辛辣な事を言うじゃないか。しかも、その怪訝な目付きも結構心にくるぞ。

 でもな、俺はかなり強いんだぞ。そりゃあもう、今の君なら瞬殺出来るくらいは強いつもりだ。

 

 まぁ、そうは言っても今のクリリンや悟空なら気で相手の強さを計る事は出来ないんだし(偉そうに言ってるが、ブロリーもスカウターがないと分からない)、ある意味では仕方ないんだよねぇ。

 

「今のお主では分からんじゃろうが、その内理解出来る時がくるじゃろう。

 それより、さっさとお主らの身体能力を計るぞ」

 

「……分かりました」

 

「オラは早く修行したいぞ」

 

「まぁ、待て待て……先ずはどれだけ鍛えてるかを正確に見極めねば、過剰な修行をさせてしまうかもしれんのじゃ。順を追ってやらねば適切な修行は難しいからの」

 

「ふ〜ん、そうなんかぁ」

 

 分かったのか分かってないのか、少し頼りない返事をする悟空ではあったのだが、特に不満そうな様子も見せないので本心からの返事なのだろうと察せられる。

 素直な悟空なら表情に心境が出るだろうし、そう言うところは美点と言えるが少し改善させないと戦闘で不利になるかもね。まぁ、悟空は戦闘の天才だし、そこは色々な経験を積めば自然と身に付くのかもしれないが。

 

 それは兎も角、予想通り武天老師様は100メートル走を二人に命じた。だが、そこで原作とは異なる結果が表れる事になる。

 何が起きたのかと言うと、クリリンが9秒1で走り抜けたのだ。そして、悟空が7秒ジャストだった。

 

 既に武天老師様に弟子入りする前から人間の限界を………いや、悟空は原作でも人間の壁を越えていたが、クリリンも限界を越えてるってのが驚いたよ。

 確か、本来であったら10秒1がクリリンのベストタイムの筈だったのだが、何があってこんなに変化したんだろうか?

 

 予想外の出来事にポカーンとしていると、何やら武天老師様も走り終わっていたらしく、そこからは原作の通りに石を探しに行ったらしい。

 で、俺はと言うと………場所を変えたりする事もなく、そのまま気の扱い方についてのレクチャーが始まった。

 

 まだクリリンや悟空の身体能力が原作以上になっている理由について考えていたいのだが、待ちに待った修行が始まるんだから集中しないといけないよな!

 俺の為に武天老師様が修行内容を考えてくれたんだし、集中してないと失礼にあたる!!

 

 そうして武天老師様による詳しい説明がなされ、俺はそれを真面目に聞き入った。

 

「………………さて、ここまで分からぬ事はあるかの?」

 

「正直に言えば、理論は分かりましたが……」

 

「ふむ、まぁそりゃそうじゃろうな。自身で試してみねば、頭だけでなく身体で理解しているかは分からぬからの」

 

「精進します」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、そう無理して畏まる必要はないぞ」

 

 いやいや、そう言われても何故かこうなっちゃうんですよねぇ。……多分、普段のおちゃらけた武天老師様ではなく、ピッコロ大魔王に死ぬと分かっていても立ち向かっていく本来の武天老師様を知っているからこそ、こうやって畏まった口調になっちゃうんだと思う。

 俺だったら絶対に勝てぬと分かっている敵に、面と向かって啖呵を切る自信はないぞ。

 

 まぁそうは言っても、時には武天老師様をおちょくったりするんだけどねwww

 だが、ズッと馴れ馴れしい口調で接するのは無理だよ。自然と畏まってしまうんだから、こればっかりは仕方ないだろう。

 

「すみません。善処します」

 

「まぁ、それは追い追い慣れて貰うとしようかの」

 

 ニカッと笑う武天老師様は、そう告げるとカメハウスへと入って行った。そして俺は、説明されたばかりの理論を実証してみようと考え、修行を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲△▲△▲△▲△

 

 気の扱い方の修行を始めて一ヶ月が経過した頃、俺の一日のトレーニング内容は一人山籠りしての修行となっていた。

 最初の内は武天老師様に逐一見て貰いながらであったのだが、少しコツを掴み始めると一人で修練しなさいと言われた為に、こうして山に籠っている訳だ。

 

 で、そのトレーニングの結果はと言うと…………

 

「か〜め〜は〜め〜………波ぁーーーーーーーーー!!!」

 

 突き出した俺の両手から、ブロリーの特徴でもあった緑色の気の塊が放出され、次いで一気に前方へと飛んで行く。そして俺の視線の先にあった巨大な岩に着弾し、とてつもない爆発音と共に激しい粉塵が舞う。

 

 そう、俺は”かめはめ波“を会得したのだ。しかも、それだけじゃないぞ!

 まだ不完全ではあるが、ノロノロとしたスピードなら空を飛べるようになった。……つまり、舞空術をマスターしたのだ。

 

 一旦コツを掴んだら面白いように上達していて、今は修行が楽しくて楽しくて仕方がないと言うのが正直な心境である。

 となると当然、俺としては一日の修行時間が少しずつ増えて行き、結局山籠りしてしまった。

 いやぁ、ハマりすぎも駄目だよね。分かっちゃいるんだけど止められないのだ。………だって楽しいんだもん。

 

 ま、それはそうと、ここ最近の日課である“かめはめ波”の素早い発射訓練の後は、これまた日課にしている舞空術の訓練だ。

 気功波関係の技と違って、舞空術は少し難しいのでまだまだ訓練が必須だろう。

 

「良し………行くぞ!!」

 

 気合いの掛け声と共に空へと浮かび上がる俺。だが、気合いとは裏腹にその浮かび上がる速度は非常に遅い。

 客観的に今の俺を例えるなら、フワフワと頼りない様子からするに風に舞う風船のようなものだと言えるだろう。………つまり、少し気を抜くと簡単に風に煽られる風船のようになってしまうのだ。

 

 うむ、要練習だな! でも、これでも結構上達した方だったりするんだよね。

 

 で、空へと浮かび上がった俺は、取り敢えずそのまま空中散歩へと出掛けて行く。

 

「今日は隣の島まで行こうかなぁ」

 

 昨日までは、舞空術の訓練では島の上空のみだったのだが、今日から少し離れた島を目指そうと思ってる。まぁ、今居る島の上空だけでも充分修練になっているんだけど、見慣れた光景ばかりだと新鮮さが無くなってくるから、少しでも新鮮な気持ちを持って修行を行った方が気分的にも良いからというのが理由な訳だ。

 

 集中を切らさぬように、フワフワとしたまま一定の高度を保って飛び続けていると、とうとう海上を抜けて隣の島の岩石地帯に辿り着いた。

 少し休憩する意味も込めて地面へと足を付けた俺は、グルリと周囲を見渡す。

 

「……何もない場所だな」

 

 見渡す限りに広がるのは、岩岩岩岩岩岩、岩山だらけだ。……ただし、その岩影には見慣れぬトカゲとかが居て少し面白い。

 前に居た地球では見受けられないこの世界での地球ならではの生物だ。

 

 そんな初めて見るトカゲを楽しげに見ていると、ふと気付けば遠くから車の音が響いているのが耳に入る。……多分、一台や二台じゃなく、数十台規模になるだろう。

 少し気になったので、その音の発生源と思われる場所へと走って移動してみると、赤い蝶ネクタイが特徴のマークがある軍服を着た男達が沢山の車から降車していた。

 

 ……またレッドリボンかよ。ちょっと面倒だなぁ。

 

 そう思うものの、何を目的に此処に居るのかは気になるのが本音で、俺は少しだけ調査する事に決めた。



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13話

 岩山を機関銃片手に進む一行を尾行する事一時間、彼らが辿り着いたのは岩山をくり貫いて作られた家だった。

 それを見てまたレッドリボンの基地かと思ったのだが、連中が警戒しながら入って行くのを見てそれは違うのだと察した。

 

 しかし、そうすると………この目の前の家は何なのだろうか?

 

 当然の疑問が浮かぶが、その答えを導き出すには判断材料が少なすぎる。どんな名探偵だってパズルのピースがなくては推理のしようがないというものだ。

 が、しかし、家の規模が外観からは分からないので、レッドリボンの兵士が中に入っている現在、そこに俺が入って行って調べて大丈夫かどうかが判断出来ない。

 

 意外に中は広く、或いは洞窟のようになっており俺が入ってもバレない可能性もあるのだが、迂闊に動く事は憚られるだろう。

 とは言え、そうなると此処で連中が出て来るまで待つしかないってのも暇なのだが……。

 

 暫くボーーーーーっと眺めていたのだが、やはり暇には勝てず結局行動する事にした俺は、抜き足差し足で入り口へと接近し、入り口の壁に耳を押し当てた。すると、壁の向こう側からは何一つ聞こえなかったのだ。

 まぁ、壁が厚い可能性もあるので聞こえないという事も充分にあるのだが、ここ最近の修行で気の扱い方を学んだ俺からすると壁の向こう側に人の気を感じない事に気付ける。

 となれば当然、暇が嫌な俺であるからして”ガンガン行こうぜ!“である。

 

 ユックリ鉄製の扉を開け中の様子を覗き見すると、中は教会のようになっていて奥にまた鉄製の扉がある事が見てとれた。恐らく、レッドリボンの兵士達は奥へと進んだのだろう。

 

 此処は教会なんだなぁ。隠れキリシタンか?

 

 と思うものの、このドラゴンワールドにキリスト教は存在しないので、それは無いだろうと思い直した。が、それなら何で隠れるように教会を作っているのかという疑問が浮かぶ。

 とは言え、別に宗教について調べている学者でもないし、本当に知りたい訳でも無いのだが。

 

 うん、先に進むか。面白いものがあるのかと思ったけど、案外何も無いしな。

 

 少々中の様子にガッカリしつつ奥の扉を開ける。すると驚く事に、扉の先には何も無かった。

 

「は? へ? ……岩壁しかないじゃん」

 

 扉の先に通路があるとばかり思っていたが、予想に反して何もない事に少し呆けてしまう。……いや、正確に言えば岩壁があるので何もないって訳じゃないんだけど。

 ま、それは兎も角、この扉はただの見せかけだと言う事だ。

 

「つまり、隠し扉があるのか?」

 

 まるでインディジョーンズのような展開にワクワクしてきて、思わず笑みが浮かんでしまう。俺が小さい頃は、何度もインディシリーズを見たものだった。

 そんな体験が出来るかもしれないとあっては、興奮するのも当然と言えるだろう。

 

 俺はインディになりきって岩壁を探ってみたり、教会内の地面や壁をコツコツ指先で叩いてみたりしてみた。

 そう、壁の向こう側に空間が存在した場合、叩いた音が少し変わる可能性があるから叩いているのだ。インディジョーンズを見たりしていたヤツなら理解出来る行動だろう? 知らない人からしたら、多分俺はキチガイかと思われるだろうけど。

 

 しかし、その行動が俺に幸運を運ぶ事になる。

 

「お? おぉ!?」

 

 ある一部分だけ、コツコツという音だったのがカツカツという甲高いものへと変化したのだ。

 

「これは間違いなく隠し扉だな!」

 

 より一層ワクワク感が増してくる中、俺は隠し扉を開ける方法を探し始める。

 だが残念ながら俺が開けるより早く、この発見したばかりの隠し扉が勝手に開き始めた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ、と教会内に音が響き渡り、そこからレッドリボンの兵士を引き摺りながら金髪のお姉さんが出て来た。滅茶苦茶美人です!

 でも、目付きが鋭くて滅茶苦茶怖いです! しかもスパス(ショットガンの名称。正式名称はフランキ・スパス12)を片手に持っている事もあり、尚更怖い!

 

 だがしかし!! 美女がデカイ銃を持ってる姿は、何故かソソられるよね!! 何とも形容し難い魅力があるんだよ!!

 

 そんな馬鹿な感想を抱いていた俺に気付いたお姉さんは、スパスを俺に向けつつ口を開く。

 

「あぁん? テメェもこの馬鹿どもの仲間か?」

 

 メッチャ怖いっす!! でも、妙に魅力的だ!!

 美女に銃って、何かエロいよねd(*`・(エ)・´*)b

 

「おい、聞いてんのかテメェ!!」

 

「あ、悪い。少し別の事を考えていた」

 

「テメェもコイツらの仲間か!?」

 

「いやいや、そんな訳ない。俺は冒険気分で探検してたんだよ」

 

「あぁん? 探検だぁ? ガキみてぇなヤツだな」

 

「いや、見た目通りまだガキだよ」

 

「………ふん! なら殺さねぇでいてやる。さっさと消えろ」

 

 見た目は怖そうな女性だが、子供には優しいらしい。……いや、話し方があれだから勘違いしてしまいそうになるけどね。

 そんな女性なんだが、彼女には見覚えがある………って言うか、ほぼ間違いなく俺の予想は的中しているだろう。

 

 見てすぐに分かったんだが、彼女は原作でも登場したランチさんに違いない!

 

 ただし、十代後半くらいにしか見えないが。もうブルマという前例もあるから別に驚かないが、やはり年齢に若干の違いがあるキャラが居るみたいだ。

 

 

「……何をジロジロ見てんだよ」

 

 年齢の違いに驚いていた訳ではないが、思わずジッと見つめてしまっていた俺に不快そうな表情を見せるランチさん。

 俺はランチさんが怒りだす前に、早口で捲し立てるようにして言葉を発する。

 

「俺の此処に居る理由は説明したから理解して貰ったと思うけど、貴方は何故此処に居るんだ? 宝探し?」

 

「はっ! 宝なんてある筈がないだろ。此処はただの打ち捨てられた教会なんだからね」

 

「じゃあ、そんな教会に居る理由は?」

 

「警察が煩くて仕方なかったから隠れてたんだよ。そしたら、この馬鹿どもが入って来たんで叩きのめしてた訳だ」

 

 んー………何か辻褄が合わなくないか? ランチさんが目的なのか、或いはランチさんの持つ何かが目的でレッドリボンが此処に来たと思っていたのだが………まぁ、ランチさんを見てそう思っただけなんだけどね。

 

 兎も角、それが違うとなるとレッドリボンのヤツらは偶々運が悪い時に此処に入っただけって事か?

 そんで、そう考えるとレッドリボンのヤツらは別に他の目的があるって事になるんだが、それは何だろうか?

 

 ………引き摺り続けている人は生きてるのかな? 生きてるなら聞き出したいんだけど。

 

「ねぇ、その人に聞きたい事があるんだけど……生きてる?」

 

「あぁん? オレの眠りを妨げやがったから弾薬をパクろうと思って生かしてはいるが、何が聞きたいんだ?」

 

「気にならない? 此処に侵入した理由」

 

「…………好きにしな」

 

 多少は気になってたんだね。でないと既に殺してただろうし、予め聞くつもりだったんだろう。

 

 そう思いつつ、俺は白目を剥く男の頬をつねる。すると、面白いくらいに飛び上がりながら目を覚ました。

 

「な、なななな何しやがる!!」

 

「此処に何しに来たんだ?」

 

「俺がレッドリボンの兵士だと知っての狼藉か!?」

 

「いや、それはその特徴的なマークを見れば分かるよ。だってそのマーク、自己主張が激しいもん。

 ……それより、何しに此処に来たのか教えてくれる?」

 

「くっくっくっ、ガキはレッドリボンの恐ろしさが分からないようだな! だったら、俺が教えてやるぜ!」

 

 男の真正面には俺しか居ないので、背後にはランチさんが居る事に気付けていないらしい。まぁ、だからこそ今みたいに勝ち誇った様子の発言が出来るんだろうけどね。

 しかし、その背後に立つランチさんが心底不機嫌そうに、天井に向かってスパスの咆哮を轟かせると途端に大人しくなる兵士。

 

 うん、君の気持ちは良く分かるよ。……突然の銃声に後ろを振り向けば、ランチさんの顔が般若みたいになってるんだもんね。そりゃ小便チビっても仕方ないよ。

 俺でもビビるレベルだもん。

 

「ひ、ひぃぃぃ」

 

「今すぐ死ぬか? それとも少しでも長く生きていたいか? 後者なら、さっさと喋りな」

 

 うわぁ……怖すぎ。……って言うか、その言い方だと結局喋っても死ぬって事?

 そりゃ酷すぎないか? 何も殺さないでも良いじゃありませんか。

 

「そ、総督の命令で此処に来たんだよ。此処に隠された財宝があるらしくて、それを探せって命令をされたんだ」

 

「へぇ……そいつは良い事を聞いたぜ」

 

 兵士の発言を耳にするなり、ランチさんはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 その笑顔は正直言うと見惚れるくらいに綺麗だったが、何故か背筋がゾクゾクしたよ。ブッチャケると、ちょっとビビった。

 

「おい、ガキ! お前を雇ってやるから宝探しについて来な!」

 

「は?」

 

「探検しに来たんだろ? だったら丁度良いじゃねぇか。それに、宝が見つかったら一割やるぞ」

 

 一割って………安くね? でも面白そうだし、これは話に乗っておくのが良いよな!

 

「分かった。……で、この男はどうするんだ?」

 

「そりゃ当然……」

 

 最後まで言わず、スパスの弾薬を再装填する事で言外に殺すと告げるランチさん。……若い頃からイケイケだったんすね。

 

 でも、俺は出来る限り人殺しはしたくない。

 なので………

 

「待て待て。気絶させとけば良いじゃん」

 

「ふんっ、甘ちゃんだね。まぁ良いさ、子供の前で血を流させるのもなんだしね」

 

 やっぱり結構優しいよね、ランチさんって。

 でも、言いきるなり兵士の顔面を踏みつけて気絶させるのは………大人には厳しいのかな? いや、そんな次元の話ではないような気もするけど。

 

 俺が一人ドン引きで再び白目を剥く兵士を見つめていると、ランチさんはズカズカと先に進み始めた。

 仕方ないので、俺はその背中を追って小走りに隠し通路を進む。

 

 少し戸惑うような事もあったけど、ワクワクするような事態になったので良しとしとこう。

 さぁ、宝探しの時間じゃぁぁぁぁあああああ!!  

 



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14話

「クソッ、全然見つかりゃしねぇじゃねぇか!」

 

「いやいや、まだ探し始めて二時間しか経ってないのに、諦めるのは早いよ」

 

「チッ………それなら、早くそれらしい何かを見つけな! 報酬減額するよ!」

 

 最初から一割って言ってたのに、そこから更に減額するとなると殆ど報酬無い訳で………ランチさんってドS過ぎるよね。

 

「こういう時は、壁を叩いて地道に調べるのが大切なんだよ」

 

「……それならコイツで充分だな」

 

 イライラを少しでも払拭させるべく、俺が探索のコツを告げる。

 すると、何を思ったのか突然スパスで壁を打ち出すランチさん。

 

 ドンッドンッドンッ!! と銃声を響かせながら、少しずつ通路の壁を移動しつつ発砲していく。

 俺としては、「拳で壁をコンコンと叩くんだよ」って意味だったんだが、彼女にはそう伝わらなかったらしい。

 

 ドン引きですよ。えぇ、ドン引きです。

 

 短気な人もそれなりに見て来た人生だと思ってたけど、ここまで短気過ぎる人は初めてで、もう何て形容したら良いのか分かりません。

 だが、何故かその短気さが今回に限っては有効だったもようで………

 

「お!? おい、隠し通路見つけたぞ!」

 

(………俺が想像していたヤツと違う。もっとこう、慎重に探索した上で……)

 

「ったく、ブロリーもしっかりしろよ? でねぇと、マジで報酬減額しちまうぞ?」

 

(いやいや、アドバイスしたのは俺じゃん? だったら報酬減額しなくても良いじゃん?)

 

「おい、聞いてんのか? ……ははーん、さてはオレが見つけたから拗ねてんだな? はっはっはっ!いち早く見つけちまって悪かったな!」

 

 もう何も言うまい。

 確かに隠し通路の発見は自分でしたかったが、その程度で拗ねてしまう程に子供ではないぞ。……いや、確かに外見は子供なんだけどね。

 

 ともあれ、崩れた壁を拳と蹴りで広げると、その隠されていた通路を進み出す俺とランチさん。

 そうやって暫く進んだ先には、小学校の体育館程の広さの空間に出た。

 しかし、ただの広い空間だけで、何も存在しない。

 

 いや、真ん中に何故か紙切れが一枚あるな。とは言え、それ以外には本当に何も見当たらない。

 

「おい、行き止まりみたいだぞ?」

 

「そうみたいだね。でも、あの紙切れにヒントでも書かれてあるかもよ?」

 

「紙切れ? ……あぁ、アレか。面倒だな、宝探しってのは」

 

「いやいや、それが楽しいんじゃん」

 

「お前は変わってるな。敵が出て来てそれを殺せば先に進めるとか、そんな分かり易いのがオレは好みだね」

 

 おうふ………それは宝探しっちゅうか、ただの強盗なのでは?

 そう言いたかったが、スパスで撃たれたくないので黙っとく。

 

 まぁ、取り敢えず紙切れを見てみましょう。

 

「……ん? ナゾナゾっぽい?」

 

「ナゾナゾ? 何て書いてあるんだ、呼んでみな」

 

「激しく音が鳴る、静かに音が鳴る、一定のリズムで音が鳴る、不規則なリズムで音が鳴る。これは何?

 ……これしか書いてないよ」

 

「へっ、簡単なナゾナゾだね」

 

「もう分かったの?」

 

「お前に問題を解く時間をやるから、さっさと考えな! さっきみたいに拗ねられると困るからね」

 

 いや、拗ねてねぇし! ちょっと残念には思ったけど、絶対拗ねてねぇし!

 

 

 ※皆さんも良かったら考えてみてね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ分かんないのかい?」

 

 クッ……悔しい。

 だが、如何せん答えが分からんのは事実。

 

「ランチさんは、本当に分かってるの?」

 

「ふんっ、この程度なら直ぐに分かるぞ。それで、お前は分かったのか?」

 

「……多分」

 

 俺が自信無さげに答えると、ランチさんはニヤニヤと笑みを浮かべた。

 俺が絶対に答えを間違うと確信しているかのような笑みだ。

 

「だったら、その答えを叫びな。恐らく、その答えが当たっていたら隠し扉とかが反応するんだろ?」

 

「……それじゃあ失礼して……答えは、メトロノーム!!」

 

「プハッ! くっくくくく」

 

 敢えて自信満々な様子で叫んでみたのだが、体育館程の広さの空間には何も変化は見受けられない。………つまり、答えが合っていても意味はないのだろうな。

 そんな風に自分を慰めているのだが、勿論理解しますよ? 答えが間違っているのは。

 

 って言うか、爆笑しているランチさんは本当に答えが分かっているのだろうか?

 

「……そ、それで、ランチさんの考える答えは?」

 

「はっはっはっ!良いのかい、オレが答えても? また拗ねられると困るんだよねぇ」

 

 何度も言うが、俺は絶対に拗ねてねぇ!

 

「そんなに笑うくらいですし? きっとちゃんとした答えが分かってるんでしょ?」

 

 俺が悔し紛れに少し嫌味っぽく言い募ると、尚もニヤニヤしたままのランチさんは叫ぶように大きな声を響かせる。

 

「答えは、心臓!!!」

 

 そう叫んだ瞬間、地面の一角がゴゴゴゴゴゴと重低音を響かせながら沈んで行く。

 それはまるで、ランチさんの答えを讃えるかのようで、俺は思わず膝から崩れ落ちた。

 

「はっはっはっ!いやいや、悪かったねぇ、オレが答えちまって」

 

(そんな馬鹿な! 俺はそこそこ賢いつもりだったが、この短気すぎる人より馬鹿だとでも言うのか!?)

 

「おやおやぁ、やっぱり拗ねたのかい? あ〜、拗ねてるみたいだねぇ」

 

 す、拗ねてねぇし! ちょっと悔しかっただけだし!

 

「ほら、何時までも拗ねてないで、先に行くぞ! 折角地下へと続く階段が姿を現したんだからね」

 

 ガックリと項垂れる俺は、ランチさんに急かされるままに階段を降って行く。

 そうして暫く進むと、今度は金庫のような扉が存在する空間に辿り着いた。

 

 恐らく、此処が終点なのだろう。

 

 そしてその重厚な扉の上には、先程のナゾナゾっぽい文言とは違って真面目な質問文が記してあった。

 

「人体の中で、通常時よりも六倍以上に大きくなる部位は何?

 今度の問題は直ぐに分かりましたね。ランチさんはどう?」

 

「……アレだろ? ほら、アレ」

 

「え? アレって?」

 

「………」

 

 先程とは打って代わって、今度はランチさんが答えが分かってないようだ。

 ……いや、答えが分からないという訳ではないのか? どうも、何か言いづらそうに見える。

 

 だが、何故か顔色が真っ赤になっているのだが……何故だ? 答えは普通なのだが、何処に言いづらい部分があるんだろう?

 

 ※皆さんも良かったら考えてみてね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、答えは分かりました?」

 

 俺が自信満々の笑みを浮かべながら尋ねると、ランチさんは真っ赤な顔色を更に赤くし、今までの態度が嘘のように乙女チックにモジモジとし始めた。

 ……ただし、モジモジとしているのが普通の乙女なら手遊び程度になるのだが、ランチさんの場合だとスパスの解体になる。……こえぇよ。

 

「お、オレは良いよ。今回は譲ってやるからよ、ブロリーが答えると良いぞ」

 

「何をそんなに恥ずかしがる必要が? ランチさんは大人の女性でしょう?」

 

「う、うるせぇよ! お、オレだってまだ経験がないんだから、人前でアレの名前を叫ぶのは……お、お前が分かってるならお前が答えりゃ良いだろが! れっきとした男だろ、ブロリーは!」

 

 はい、皆さん聞きましたか? ランチさんは処女だそうですよ。

 あれだけ傍若無人な振る舞いをする人だが、貞操観念は確りしているらしい。……ちょっと予想外で、天津飯の嫁にますます相応しいのではと思っちゃったぜ。

 

 まぁ兎も角、彼女が何故この質問文の答えに恥ずかしそうにしているかは、その答えが分かっている諸君でも意味不明な部分が多分にあるだろう。

 そう、彼女は勘違いしているのだ。そしてその回答を、彼女と俺との遣り取りを見ていた君達の中にも勘違いしてニヤニヤしている者も多くいるだろう。

 

 一応、大切な事だから言わせて貰うぞ?

 

 読者諸君、何時から勘違いしていた?

 

 答えは、断じてチ〇ポではないぞ!

 

 そんな恥ずかしい答えを予想した君!君が未成年で、まだ十代前半だと言うなら直ぐに現実を理解しなさい!

 

 男のイチモツは、成人した男でも本番でそれ程に大きく変化しません! 自分が成人した時、自分のJr.が小さいかも、なんて悲壮感を味わう事がないように理解しときなさい!

 

 そして、十代前半の女の子達よ!そしてまだ男のイチモツを見た事がない淑女達よ! 男のイチモツが六倍も大きくなるなんて幻想を抱いていたら、初めての一夜のその時にガッカリする日が来ます! 現実を知りなさい!

 

 

 さて、長々と説教してしまったが、その説教中にランチさんの無言の視線が徐々に鋭くなって来たので、ここらで本当の正解を発表しとこう。

 焦らし過ぎてスパスで撃たれるとか嫌だしね。……まぁ、多分撃たれても、多少痛い程度だと思われるのだが。

 

「正解は、瞳孔!!!!」

 

 肺の中の空気を全部吐き出す勢いで俺が正解の回答を叫ぶと、ランチさんがポカーンとした顔を俺に向けているのが視界に入った。

 そしてその数瞬後、俺を讃えるように動き始める金庫の扉によって、瞳孔という回答が正しいのだと理解したランチさんは………

 

「ふ、ふざけんじゃねぇぞ!! この問題を考えたヤツは殺してやる!!」

 

 顔色を真っ赤にしつつドッカンドッカンと銃声を響かせながら、金庫の扉の上に彫られてあった質問文を砕いていた。

 俺に自分が処女だって暴露しちゃったし、回答が卑猥なものだと勘違いしていたのもあるし、彼女からしたら踏んだり蹴ったりな出来事だったのだろう。

 

 うん、分かるよ、その気恥ずかしさは。

 

 でも、その照れ隠しに銃声を響かせるのは止めて貰いたい。……怖いです。滅茶苦茶怖いです。

 だけどその照れている表情は、結構可愛い。勿論、そんな事を口にすれば撃たれるので、俺はそんな無謀な事は言わないけどな。

 

「ランチさん、扉が開きましたから行きましょうよ。弾の無駄でしょ?」

 

「…………分かった」

 

 大人な俺は、先程のランチさんが何を勘違いしていたのかと口にしたりはせずにそう言うと、聞こえるか聞こえないかの微妙な声音で返事をするランチさん。

 彼女の意外な一面を知れた瞬間であったと言えるだろう。

 

 ともあれ、俺達は真っ暗な金庫の中へと、少し期待しながら入って行く。

 ランチさんは未だに落ち込んでいるけどね。



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15話

お久しぶりでーす!


 真っ暗な金庫内に足を踏み入れた瞬間に、左右の壁から幾つもの炎が発生した。

 それに少し驚くものの、暫くして炎の明かりに目が慣れると、天井から吊るしてある松明に火が点いたからなのだと理解し、驚きも冷めた。

 

 だが、直ぐに新たな驚きにより目が点になる事となる。

 

 その理由は…………

 

 

「レッドリボンの兵士ではないな。何者だ?」

 

 金庫内にある筈の金銀財宝は一つも存在せず、その代わりに近未来的な様相のサイボーグが一人居た。

 俺は知っている。目の前の真っ青な色をしたサイボーグの事を、俺は知っているのだ。

 それ故に意味の無い質問であったのだが、自分の心を落ち着ける為に敢えて質問する事で時間を稼いだのである。

 

 そんな俺とは対称的に、ランチさんは親の仇でも前にしたかのように叫ぶ。

 

「何だテメェ! オレの宝は何処だ!」

 

「下品な女だな。……しかし、お前の発言で何者かは理解出来た。トレジャーハンターなのだろう、お前達は?」

 

「ぶっ飛ばすぞ、テメェ! 宝は何処だって聞いてんだろうが!」

 

 俺が動揺のせいで黙っていると、宝が無い事で怒髪天になったランチさんがサイボーグに文句を言い募り始めた。

 そしてそんなランチさんにサイボーグが、「やれやれ」って感じで肩を竦めた瞬間………

 

「死ね!キザ野郎!」

 

 そう叫びながら発砲するランチさん。サイボーグの………サイボーグ忍者(●●)の仕草に我慢ならなかったらしい。

 だがスパスから放たれた散弾の悉くが、サイボーグ忍者が持つ忍者刀によって弾かれてしまう。

 

 それを見てますます苛立ったランチさんは、腰に提げていたポーチから手榴弾を取り出し、物凄い凶悪な笑みを携えてピンを抜く。

 そして小さく秒数を呟いた後、サイボーグ忍者に向かって投擲。

 

 弧を描くように投げられた手榴弾は、サイボーグ忍者の頭上で盛大に爆発し、破片を四方八方に飛び散らせた。

 

 

「はっはっはっ!素直に宝のある場所を喋っていれば助かったのにな!」

 

 勝ち誇るランチさんには悪いが、俺の目には確りとヤツの動きが見えていた。

 ……ヤツは、サイボーグ忍者は、俺達の真後ろに移動しているのだ。

 

 ただ素早く移動しただけじゃない。残像拳を使用して真後ろに移動したのを確かにこの目で確認した。

 その証拠に、勝ち誇るランチさんを尻目に俺が背後に視線を向けると………

 

「ほう、私の動きを視認出来るとは驚かされる。なかなか優れたソルジャーのようだ」

 

「な、何!? 何時の間に後ろに!?」

 

「子供は年齢に見合わぬソルジャーっぷりだが、女の方は年齢相応だな」

 

 驚かされたのは俺の方だよ。何でお前が残像拳を使えるんだ?

 いや、そもそも何故此処に居る………グレイフォックス!

 

「ど、どうやって………オレの爆弾で死んだ筈だろ!」

 

「手榴弾が爆発する瞬間、その刹那に素早く移動しただけだ。

 それより、此処にはレッドリボンの兵士が来ている筈。ソイツらには遭遇しなかったのか?」

 

「チッ……いけすかねぇヤツだ」

 

「質問に答えてくれないか?」

 

「あぁ、会ったよ。だが、ソイツらは一人を残して全滅したがな」

 

「お前が殺ったのか? それとも、そっちの子供のソルジャーか?」

 

「オレだよ。文句でもあんのか?」

 

「いや、文句など一つもない。どちらにせよ、私が排除する手筈だったからな」

 

 何か俺を他所に話が進んでいるんですけど……いや、それが悪いとは言わないよ? ただ、グレイフォックスの存在にパニクっている俺を無視するのは止めてくれると有り難い。

 

 そんな俺を尻目に、ランチさんが「だったらオレらに用はねぇだろ。宝は何処にある? 隠してるとぶっ殺すぞ」などと言い始めたので、マジで再び殺し合いを再開しそうだったので俺が仲裁に入る。

 

「ストップ!ランチさん、落ち着いて!」

 

「バカかお前。やっと宝を隠してある場所まで来たのに、指咥えて我慢出来んのか? それでも男か、ブロリー?」

 

 確かにそれはそうだけど、今は我慢して欲しい場面なんですよ。仕方ないでしょうが。

 そう思いつつガックリ項垂れていると、グレイフォックスが小さく俺の名前を呟きながら驚いているのが視界に入った。

 

 あれ? 俺とグレイフォックスは初対面の筈なんだけど、何で俺の名前を聞いてビックリしてるのかな?

 

「……そうか。ふっふっふっ、お前がブロリーだと言うのならば納得出来る。私の動きを視認出来た理由がな」

 

「……初対面の筈だけど?」

 

「仲間からの情報で、恐ろしく強い子供に出会ったと聞いた。そして、その子供が成人する頃を見計らってFOX部隊に勧誘する為、ブロリーという名の子供を探すべきだと新人の部隊員が進言していたな。

 因みに、情報をくれた男の名前はスネーク。勧誘すべきだと進言していたのはメアリーだ」

 

 何それ止めて!? 俺はFOX部隊には絶対に入らんぞ!

 何せ俺は武道家であって兵士ではないのだから、戦場に行ったりするつもりは微塵もないんだ。

 

 ………あれ? でも、ナメック星に行ってフリーザ達と戦うって事は、戦場に行くのと同義なような気が………。

 

 い、いやしかし、やはりそれとこれとは別問題だと思う。常識的に考えて。

 

「お、俺は兵士になるつもりは無いぞ!」

 

 ちょっと考え始めたら動揺したのもあって、少し吃りつつの拒否となってしまった。

 しかし、俺の明確な意思が伝えられたのは事実。

 

 すると、グレイフォックスは俺の発言を耳にしても特に気にした素振りも見せず、クツクツと笑いながら口を開く。……いや、フルフェイスのヘルメットを被っているのではっきりとは分からないが、喋り始めたので口を開くと言う表現は間違っていないだろう……と思う。

 

「そこまで毛嫌いしなくとも良い。それに、本気で勧誘を考えているのはメアリーだけだからな。他のメンバーは新人の戯れ言だと思っているから気にしなくとも問題ない」

 

「そ、それなら安心だ。……それはそうと、何でレッドリボンの兵士が来る事を知っていたんだ? アンタの口振りから察するに、此処で待ち受けていたのは分かるが」

 

「雷電……ブロリーは知らないだろうが、雷電という仲間からの情報で事前に知っていたのだ。そして、その兵士達の始末に丁度良いからと、丁度近くに居た私が待ち受けていた訳だ」

 

「成る程。……それじゃあ、もう一つ教えてくれ。此処にあった宝は?」

 

 いい加減宝の事を尋ねなきゃランチさんに怒られそうなので、それを尋ねてみた。

 すると、無言で俺の横に立っていた妙齢の女性からの殺気が消えた。……誰とは言わない。怖いので、そこは察してくれ。

 

「宝は確かに此処にあったが、それは十年も前の事だ。私達FOXの隊員が以前に発見し、その時に回収している。

 余談だが、此処にあった宝のお陰で部隊の装備が最新式になった」

 

「そ、そう、ですか」

 

 片頬がピクピクと痙攣しているのが分かる。

 その痙攣を無視して、隣に居る女性に視線を向けると………

 

 

(般若!!! 恐ろしい程に憎悪の炎を瞳に灯した般若!!!)

 

 メッチャ凄い形相を浮かべるランチさん。

 きっと誰が見ても同じ発言をするだろう。……般若だと。

 

 そんなランチさんが、俺へと鋭いメンチを切って来た。

 ははは、ランチがメンチを切るって、何それちょっと面白いではありませんか!

 

 なんて冗談を言える雰囲気ではないのは一目瞭然で、まるで親の仇かのように俺を睨み付けると、これまたまるでこの世のすべての怨み辛みを吐き出すかのように口を開くランチさん。

 

「宝が無いのなら、オレは何の為に此処に居るんだ?」

 

「それは………レッドリボンの兵士が、此処に宝があると言ったからで、俺は無関係ですよ?いや、マジで」

 

「だったら、その兵士はぶっ殺すべきだったんじゃないか? 確か、ブロリーが殺す必要は無いとか言わなかったか?」

 

「い、いやぁそんな事言ったっけ? ……言ったような気もするけど、取り敢えずそのショットガンを下げてくれる? ちょっと怖いんだけど」

 

 この世の全ての負を背負っているかのような雰囲気を醸し出すランチさんと言い合っていると、スゲェ楽しそうに笑い出すグレイフォックス。

 まるで他人事のようなリアクションをしているが、お前らFOXの隊員が宝を持って行ってるせいでランチさんが怒っているんだから、彼女をどうにかして欲しい。

 

 だが、グレイフォックスはその笑い声を最後に、ランチさんが笑い声に反応して声の主に銃を向けた瞬間、フラッシュグレネードの閃光と共に消え去った。

 ……自分だけエスケープするとは、なんたる卑怯者!

 しかも宝に関係する者の一人のクセに、逃げるというのはマジで信じられない諸行!

 

 しかし、そんな悠長に内心で愚痴っている場合ではないのだ。

 何故なら、苛立ちを向ける相手が居なくなった事で、その苛立ちを拭い去る為に俺の方へと銃口が向けられたからである。

 

「あー……良かったら、俺がお世話になっている人のところに来ません?」

 

「そこに宝があるのか? あぁん?」

 

「いや、宝は無いけど……ランチさんの好みバッチリな男と出会うチャンスがありますよ」

 

「な、何でテメェがオレの好みのタイプが分かるんだよ? 適当な事を言ってると……いや、そうじゃねぇだろ。お、オレは宝が欲しいんだ」

 

 ちょっと動揺を示したところを見るに、ここが攻め時だな。

 俺は敢えて意図的に意味深な笑みを浮かべると、言葉を続ける。

 

「ワイルドな外見と、それでいてキッチリした性格の男」

 

「なっ!? 何でオレの好みを!?」

 

「そんな男と知り合えるチャンスがありますよ? 直ぐに出会えるとは言いませんが、再来年までの内には出会う事になるのは間違いありません。

 ランチさんは可愛いから、きっとその男もほっとかないんじゃないかなぁ。いや、先ず間違いなくほっておかないでしょうね。どうします?」

 

「ほ、本当にオレの好みの男か? それに、何で再来年までなのか気になるんだが……」

 

 ミスったかもしんない。……確かに言われて気付いたんだけど、好みの男に心当たりがあるのなら直ぐに会わせれば良いだけなのに、わざわざ再来年まで待てってのは変な話だよね。

 何て言い訳すれば………

 

「好みなのは間違いありません。ただ、来年じゃないと会えないってのは……えーと、今の居場所が分からないから、ですね」

 

「それは、適当な事を言ってる訳じゃ……」

 

「そんな事ないですよ! あれっすよ、実は俺には稀に未来を予測出来る時があるという能力があるんですよ!」

 

「めちゃくちゃ嘘臭ぇ」

 

「でも、信じてついてくれば、再来年にはワイルドな彼氏持ちになれますよ? ついて来た方が良いと思いますけどぉ?」

 

「お、オレが彼氏持ち!? しかも、ワイルドな彼氏だと!?」

 

 カメハウスへ、一名様ご案内致しまーす!




出来れば天津飯とくっついて貰いたいと主人公が、ランチさんを亀ハウスへと連れ帰るのが決定しました。
でも、実際にくっつくかどうかは不明。


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