黒い少年と影の世界 (ユキノス)
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1:影の世界

『紅魔館に拾われた少年はゆっくり暮らしたい』を見ていた方々はこんにちは、そうでない方は初めまして、プロット無しはもう当たり前の豹牙です。
前からSAOの小説はノートに書いていたのですが、今回は主人公すら変えて再スタートしました。同じなのはヒロインだけです。ストレアと迷ったんですよね…どっちも好きなキャラですから。ユウキも好きです。

えー、前置きが長くなってしまいました。こちらもナメクジになると思いますが、是非お楽しみください。どうぞ!


2022年、茅場晶彦によって巻き起こされた事件は日本中を震撼させた。世界初のVRMMO(仮想大規模オンライン)ゲーム、SAO(ソードアート・オンライン)

ログアウトボタンが消滅し、ログアウト不能のこのゲームで、元βテスターを含む1万人のプレイヤーは、HP(ヒットポイント)がゼロになると、後に『悪魔の機械』と呼ばれるヘッドギア、『ナーヴギア』の発する高出力電磁パルスによって脳を焼かれ、現実世界でも死に至る。

故にプレイヤー逹は、この狂ったデスゲームを1度もHPを全損する事無くクリアしなくてはならない。だがやはりゲーム、予期せぬ所のモンスターや平気でPK(人殺し)をする輩によって、デスゲーム開始から2年でおよそ半分、4千人のプレイヤーが現実と仮想、2つの世界から永遠にログアウトした。そして2024年11月6日、浮遊城アインクラッド75層にて、『黒の剣士』ことキリトによって茅場晶彦(ラスボス)は倒された―のだが…デスゲームは終わらず、しかも76層へと登った途端に下層に戻れなくなる、アイテムが壊れると言ったバグやエラーが起きたという。

そして、考えられる中で最も深刻で、一番数が少ないエラーが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと飛ばされる事だ。

 

 

数人しか居ないであろうそのエラーの被害者に、ある少年が居た。この世界の名前(プレイヤーネーム)をケントと言い、短めの黒髪に眠そうな黒の瞳をした、金属防具の一切無い、それでいて幼さの残る少年だが、腰に差した刀が攻略組の中でもトップクラスの実力を如実に表している。そんな彼が何故、フロアボス攻略にあまり居ないのかと言われると、寝坊で欠席しているからである。閑話休題。

のんびり屋と言われる彼でも、今回ばかりは焦っていた。何せ、迷宮区の中から突然森の中に飛ばされ、更に目の前には()()()()()()()が居るのだ。混乱するなと言われて出来る訳が無い。

 

「…お前は、誰だ?」

「そう言うお前こそ誰だ?お前、俺と全く同じじゃないか」

 

声を掛ければ、全く同じ声が返ってくる。いよいよケントは、混乱してどうにかなってしまいそうだ。目の前のケント(誰か)を、殺してしまいそうで、腰の刀―固有名(銘)『砕牙・叢雲』を抜いてしまいそうになり、慌てて止める。するとそこへ――

 

「グラァァァァァッ!」

「「!?」」

 

巨大な、それこそ3mにもなろうかと言う大きさのコボルドが、2人(ケント)の間に飛び降りてきた。その姿はまるで、()()()()()()()()()()()()、《イルファング・ザ・コボルドロード》に酷似していた。




プロローグはこれにて終了となります。フィリア出てきてないじゃねーかよおい、と思った皆さん、暫しお待ちを。
それでは、頑張って執筆します!


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2:光と影の共闘

こんにちは。豹牙です。まず、前回についての説明を。イルファングが3メートルと言った理由は、単にでかくしたかったからです。はい、それだけ。嘘じゃないです、ホンマです。
それでは第二話、どうぞ!


「っ…ぐ!」

 

1層で戦った時より遥かに少ない人数で、1層の時より遥かに大きなコボルド王と戦わなければならない。そんな無茶苦茶な条件だが、やらなければいけないのが現実だ。

 

「くっそ…ポーションがヤバい…」

「セアァァッ!」

「グラァァ!」

 

もう1人の『ケント』が斬り込み、イルファングが骨斧を振るう。双方共に、この世界での命(ヒットポイント)は既にイエローゾーンまで突入している。

 

「下がって回復しろ!スイッチだ!」

「…いや、まだ大丈夫…」

「んな訳あるか!早く!」

 

どうやらもう1人の『ケント』は、自分の死に対する心理障壁―死ぬのは嫌だ、と思うアレだとケントは思っている―がかなり低いらしい。事実今も、イルファングに突貫攻撃を仕掛けていた。そんな戦闘を、実に()()()()

遂にイルファングの、4段あったHPゲージの最後の1本が赤く染まり―1層と同じく、革盾と骨斧を投げ捨てた。―やはり、どうもおかしい。1層の時は背丈など2メートルあったかどうかだったのに、今対峙しているこいつ(イルファング)は3メートルにも達している。更には、攻撃モーションの変更。1層では最後の1本に入った時に変更していたが、今は最後の1本が赤くなった時の変更。違和感はある。寧ろ違和感しか無い。

だからと言って、その違和感が何なのかと聞かれたら分からない。そんな物だ。

これは今のケントには知り得ない事だが、《ホロウ・エリア》の全てがアインクラッドと大きく違う―もといかけ離れている。プレイヤーについては先程ケントも体験したが、モンスターはイルファング―固有名『ホロウ・コボルドロード』―の様に巨大化して取り巻きが居なくなっている者も居れば、他にも―――。閑話休題。

違和感に気付けぬまま、ケントは無意識に身を引いていた。―何か、嫌な事が起こる気がして。そして彼は、恐らくまた突貫する気の自分()に注意を促す為に口を開いた。

 

「気を付けろ、今のそいつは――」

 

しかしその声は、イルファング改めホロウ・コボルド王が放った咆哮によって掻き消された。

 

「ウグルゥオオオォォ――ッ!」

「オオォォッ!」

 

同じく咆哮を放ち、果敢に挑む自分()。そして――両者は激突した。

コボルド王が抜き身で放ったのは、湾刀(タルワール)でも刀でもなく両手剣。それも、パッと見ただけでかなりの業物と分かる代物。対して『彼』は、やはりケントと同じ『砕牙・叢雲』だが―ここでもケントは今更ながらおや、と思う。ケントの刀はプレイヤーメイド。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。何故、と思った時には、ぼろきれの様に高々と吹き飛ばされる彼を、ケントは見た。




因みにコボルド王を強くした理由は、ホロウ・リーパーが弱いんだし強化された奴居ても良いんじゃね?と思ったからです。考えが浅いのは、俺の専売特許ですからね(白目)

…毎度毎度短いのは気にしないでください。


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3:闖入者

こんにちは、中間考査が明後日なのに筆を取ってる馬鹿野郎、豹牙です。
今回、ようやくフィリアが出てきます。長かった。誰だよ書いてる奴。俺だわ。
…はい、くだらない事やってないで本編どうぞ!


「――――ッ!」

 

高々と宙を舞い、『彼』は落ちてきた。HPゲージは急速に、かつ無慈悲に減って行き――消滅した。

 

「嘘だろ…おい!嘘だろ!?答えろよ!」

 

ケントは、声の限り叫んだ。だがその言葉が言い終わらない内に、『彼』は青い硝子の破片を撒き散らして消滅した。ケントはその場に崩れ、恨めしそうに呟いた。その目には涙を浮かべている。

 

「……なんで…なんで俺の周りの人間(プレイヤー)は! ()()()()()()()()()()()()んだよ! クソッ……」

 

2年に及ぶ浮遊城での生活で、ケントとパーティーを組んだ、またはフレンド登録をしたプレイヤーの実に9割が、数日以内に死亡している。そのせいで付いた通り名は『慈悲深い死神』。これが濡れ衣なら大声で抗議したい所だが、事実の為そうも行かない。

コボルド王が、ゆっくりと歩いてくる。牙の生えたその口に、嗜虐的な笑みが浮かんでいる様に見えるのは、恐らく間違いではないのだろう。

ケントは刀を納め、コボルド王が両手剣を振り上げる。死の刃はすぐ近くに迫っているが、ケントは動かない、どころか――()()()()()

 

「……ははっ、ようやく天罰か……ああ、長かった」

 

誰かが死んでしまっても、誰かを助けられる。または、守れるのなら。それを心の拠り所としていたケントだが、自分()すら守れなかった事により、もう自暴自棄になっていた。―このまま、全てを終わりにしたい。

 

***

 

同時刻、ケントと程近い所で、フィリアはフィリア(自分)を殺してしまった事により犯罪者(オレンジ)に―と言うか攻撃した時点でそうなのだが―なったばかりのカーソルを頭上に浮かべ、混乱したまま樹海をさ迷っていたら―――もう少しで無くなりそうな4段のHPゲージと、全く動かないプレイヤーのカーソルを見た。

 

(プレイヤー?…どうせさっきの『彼女』と同じに決まって……!?)

 

ガサガサと茂みを掻き分けて、フィリアが見たのは―両手剣を降り下ろすコボルド王と、それを目の前にして動かず、嘲笑を浮かべている1人の男の子だった。

そうだと認識した途端に、フィリアは自分のAGI(敏捷力)が許す限りの速さで駆け抜けた。

 

「間に合って…っ!」

 

目を閉じ、致死の刃を待ち受ける。何となくだが、時間の流れが遅く感じるのは気のせいだろう。走馬灯が見えてくるが、正直見たくない。どうせ、今まで俺が死なせてしまった人の悲痛な顔しか出てこない。

そんな時、唐突に()()()()()()()()()。誰だと思って目を開けると、オレンジ色の髪にグリーンの瞳を持った犯罪者(オレンジ)の少女が居た。その顔は良かった、と言いたげに微笑んでいる。

―その笑顔が、俺のせいで消えてしまう。俺が自分にMPK(モンスタープレイヤーキル)を仕掛けたせいで。

 

(……死ぬ事さえ許されないってか。……なら!)

 

両足を踏ん張ってその場に留まり、降り下ろされる刃へ向けて愛刀を振り上げた。

ギィン!という硬質の衝突音と共に、両手剣の勢いが一瞬だけ止まる。

 

「っく…おぉ…!早く、逃げろ…!」

「で、でも…」

「早く!」

 

俺の気迫(あるのか?)に圧されたのか、少女は両手剣が当たらない位置に逃げた。それを確認すると同時に、愛刀を引き戻す。するとコボルド王は面白いぐらいに転倒した。

 

「…はは……」

「はは、じゃないよ!何やってるの!?」

…そして俺は怒られた。




フィリア激おこ状態らしいっすよ(他人事)。
…しかし俺が書いてるオリ主はよく自棄になるなぁ…(笑)
それではまた。多分更新遅れます。


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4:管理区へ

こんにちは、時間と文字数が比例しない豹牙です。
いやあー…薄いなぁ…(笑)
独足少年話程の文字数で書きたいですがネタが浮かばないという。誰だよプロット無しで書き始めた奴。俺だわ。
ではどうぞ。


「何で1人でボスなんか挑んだの?」

「途中まで2人だったんだって…」

 

あれから数分後、なんとかコボルド王を倒したケントは、改めて説教されていた。…しかし気になるのが…

「なぁ…アンタ」

「フィリア。キミは?」

「俺はケント。――自分を犠牲に人を助ける様な善人が、なんで犯罪者(オレンジ)なんだ?」

 

至極当然とも思われる質問に、フィリアはどこか悲しそうに答えた。

「あたし……人を殺したの」

「……そうか。フィリア、俺がああしてた理由は、また人を生かす事が出来なかったからだ」

 

その言葉に彼女は、疑問と悲壮の入り交じった顔で首を傾げた。

 

「あ、俺がどう呼ばれてるのか知らないのか…」

「…うん……ごめんね」

「ああいや、謝らなくていいんだ。『慈悲深い死神』、そう呼ばれてる」

「……なんで? おかしいよ、キミみたいな、優しい、人が………死神だなんて……」

 

ぽろぽろと涙を流し始めてしまったフィリアに、ケントは何をしたら良いのか分からずあたふたとしていた。元より一人っ子のケントにとって、『目の前で泣いてる女の子に対する行動』スキルは習得すらしていないのだが。

 

「あー、うー………えと、フィリアはさ。ここがどこか分かる? ……俺、突然ここに飛ばされてさ」

 

「……ここ? うーんと、確か《ホロウ・エリア》……だった、かなぁ…?」

「《ホロウ・エリア》……となると、そのホロウってのが居るのかな」

「そうみたい。……きっとあたしはホロウなんだ…」

「…?」

フィリアは何か小声で言ったみたいだが、ケントには聞き取れなかった。

「……ここから出るにはかなりの苦労がありそうだなぁ……」

「えっ? …うん、そうだね…」

 

何気なく発したケントの言葉にフィリアは、どこか暗い顔をして頷いた。と同時に、ケントの右手が光り始めた。それはしばらく光っていたが、やがて溶ける様に消えていった。

 

「これは……剣…?」

「あたし…それにそっくりな紋様見たことある…」

「本当か!?…教えてくれ、どこにある!?」

「わ、わ、わ…えぇっと、あそこ…」

 

フィリアが指差した先に、確かに逆三角柱の石が見える。

 

「……あった、あれか。よし、行ってみよう」

「うん……私も、ここから早く出たいし」

 

ケントとフィリアは同時に駆け出した――のだが、AGI(敏捷力)がわずかに高いケントが少しだけ離す結果になった――直後に速度を緩めてフィリアと並んだ。疑問符を浮かべる彼女にケントは、苦笑いと共に尋ねた。

 

「よくよく考えたら道知らなかった…」

「……キミ結構天然?」

「ケントでいいよ。天然とはよく言われる…おっと、ゴブリン共のお出ましだ」

「ギヒィ――――」

「じゃあな」

 

抜き身の刀でリーダー格を倒し、返す刀で別の1体を倒す。ちなみにここまで、一切速度を緩めていない。後はもう、集団がアワアワしてる間に駆け抜ければ大丈夫。

 

「お、着いた着いた…」

「つ、疲れた…」

 

緑がかった青の石――恐らく転移石――に手を近付けると、再び剣の紋様が光り始めた。

 

「…! よし…」

 

転移石に触れたその時、鈴の様な音と共にポップアップメニューが表示された。

 

「おわっ。えー、転移先……《ホロウ・エリア》管理区?」

「管理区…?」

「管理……何か突っ掛かるな……まあいいか。転移、っと」

 

瞬間、2人を青い光の柱が包み込んで――転移する直前、ケントは見知ったプレイヤーを視界の端に捉えた。だが、有り得ない。何故、あの男がここに――!?

直後、目深に被ったフードの奥で、男が嗤った。それと同時に、2人は管理区へと飛ばされた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

パッと見た所、球体の中にコンソールと石板らしき物がある、としか言えない。

 

「……ここが管理区か」

「みたいだね…散策してみよっか」

「だな、帰る方法が見つかるかもしれないし」

 

……まあ2つしか見るもの無いんだけどな。と心の中で呟き、ケントはコンソールへと向かった。

 

 

「えー、何々……実装エレメント? 何だこりゃ、見たこと無いのばっかだ……」

装備、モンスター、スキル等、そこそこハイレベルの―と言っても99だ―ケントにも見たことも聞いたことも無い代物ばかりだった。だがアインクラッドへと戻る為の方法が無いのは確定のようだ。

 

「フィリアー、そっちはどうだ?」

「ケ、ケント…見てこれ…」

「ん?どうしたそんな――に!?」

 

石板らしき物から出てきたポップアップメニューには、アインクラッドへと転移可能である事を示す文字列が並んでいた。




いやあー…薄いなぁ…(笑)(2回目)今回管理区入っただけで1話終わるって…ねぇ?
それではまた。頑張って濃くしたいです。


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5:決意

こんにちは、豹牙です。今回はあるキャラ2人が出てきます。ただ本当に今更ですが、この小説は『ソードアート・オンライン―ホロウ・フラグメント―』をプレイしていないと理解不能な部分があるかもしれません。報告が遅れ、大変申し訳ありませんでした。
ではどうぞ。


「転移先…アインクラッド…」

「帰れるんだよね…あたし達…!」

「ああ…れ? 帰れないのか?」

フィリアが転移先をタッチしても、何故か転移しない。試しにケントがやってみると―

 

「わっ…!?」

 

転移出来た。しかもフィリアを置いて。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……ここは…」

「76層主街区、《アークソフィア》よ」

「おぅああびっくりさせんなよリズ!」

 

ごめんごめん、と陽気に笑う鍛治屋―リズベットは、鍛治屋でありながらマスターメイサー、しかも女性という有名になる原因しか持ち合わせていない。鍛治屋としての腕は相当で、ケントの《砕牙・叢雲》も彼女が作ったものだ。

 

「…あれ、店はいいのか?」

「あー、それが…()()()()のよ」

「はい?」

 

戻れない? 何故? どうして?がおg(殴。それはまずいんじゃなかろうか。

 

「またまたー…転移門がバグってるだけだろ?転移結晶な…ら…あ?」

状況が飲み込めずにいるケントがストレージを開くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な…なんだよこれ…? 策敵も刀も体術も…叢雲もおかしくなってるし…」

「……76層に来てから、こーゆーバグが多発してるのよ。その刀、打ち直そうか?」

「…ああ、ここまで引っ張ってきたのも無茶があったしな」

元々70層で厳しめの武器だ、流石に替え時だろう。と同時に、はてリンダースに帰れないならどこでやるんだと思ったケントは、思わず聞いていた。

 

「なあ、リズ…どこでやるんだ?」

「商店通りにあるあたしの店よ?」

 

何を馬鹿な、とでも言いたげなリズの台詞に、ケントは驚き半分呆れ半分といった微妙な心境だった。

 

「…お前そういうとこちゃっかりしてるよな」

「キリト達のお陰よ」

「そうかい。またお世話になるよ」

「当ったり前よ。…さ、行きましょ」

「あいよぉぉう!?」

「リーズー♪」

「うわぁ!……びっくりさせないでよストレア!」

 

あ、良かった。てっきり百合展開になるのかと…と考えたのは言わないでおこう。

 

「…で、ストレア? だっけ? 攻略組には居なかった顔だけど」

「うん、よろしくねー♪」

「ん、おう」

ケントは、あまりハイテンションに着いて行ける程テンションが高くない。だがストレアとは、不思議と仲良くなれる気がした。

 

「俺はケント。よろしく」

「うんっ!」

(…おお、結構力強いなぁ)

 

握手して分かった。少なくとも観光目的で来たプレイヤーではない。しかも、武器は両手剣が振れるぐらいの筋力値(STR)だ。

 

「ほら、行くわよ」

「…あ、ちょっと待っててくれ」

「はい?」

「悪い、すぐ戻る!」

 

と言って転移門を潜ったケントの発した《ホロウ・エリア管理区》の言葉は、リズには理解出来なかった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…やっぱり私は、《ホロウ》のフィリアなんだ…」

 

フィリアは、ケントがアインクラッドへ戻った後、1人で座りこんでいた。アインクラッドへ戻れない。その事実が、フィリアの心を蝕んでいった。5分経っても、ケントは帰ってこない。いつものフィリアなら、買い出しかメンテにでも行っているのだろうと考えた。しかし今は、彼は自分を捨てたとしか考えられなかった。

 

「…やっぱり……あたしは…っ!」

「あれ?フィリア、なんで泣いてんだ?」

「……え?」

 

その声にハッと気付き、顔を上げたフィリアの目には、疑問符を浮かべたケントが居た。

 

「…な、ななな何でもない!」

「そうか? まあ深くは聞かないけど…武器のメンテに行くから、武器貸してくれ」

「あ、それならメンテより打ち直してほしいんだ。AGI重視で」

「あいよ、分かった。あ、そうそう」

「?」

 

この後聞いた台詞を、フィリアは一生忘れたくないと思った。それと同時に、それは叶わない事だとも思った。

 

「―俺は、フィリアがここ(ホロウ・エリア)から出られるまで、買い出しやメンテ以外ではアインクラッドには帰らない。いつか一緒に戻ろうぜ」

「……うん!」

 

因みにこの後、リズに「すぐじゃないじゃないのよ!」と怒られ、それでもしっかりと打ち直しをしてもらったのは別の話。




ストレア可愛いよストレア。フィリアの次に好きです。何度かひょっこり出て来そう(小並感)。リズベッドはちょくちょく出ます。まぁメンテナンスだから多少はね?…さて、また頑張って書きますか。
ではまた次回。


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6:セルベンディスの樹海

こんにちは、豹牙です。これ久々に更新したなぁと思った方、すいませんでした。はいそこ、居ないだろとか言わない。
更新しにくい理由として、
①結構前からPSVITAが出来ない
②とっくにクリアしている為ストーリーを詳しく覚えていない(この辺は二番煎じにならない様にわざと外してる部分もありますが)
③兎に角文章力が無い
の3つが挙げられます。
ではどうぞ(おい)。


「はいよ、フィリアの分」

「うん、ありがとう。わ、プロパティ凄いね」

「だろ?」

 

主武器(メインアーム)を更新し、ケントもフィリアもちょっとにやけるのは剣士の性―もしくはゲーマーの性だろう。ケントはさて、と手を叩き、コンソールと向き合うと、キーボードをゆっくりと操作し始めた。

 

「…パソコン、苦手なの?」

「……ハイ、タイピングは苦手です」

「もう…貸して?」

 

ケントの隣から手を伸ばし、キーボードを慣れた手つきで操作するフィリアに、ケントはブラインドタッチぐらい出来る様になるぞと頭をがりがりと掻きながら密かに決意した。

 

「…っと…ここかな?」

「何々…《セルベンディスの樹海》エリア? ここよく見たら、俺達が会った所じゃないか?」

「だね。よし、行こう!」

「の前にパーティー組もうか」

SAOの様なデスゲームにおいて、仲間のHP()が見えない事はかなり怖い。パーティーを組んでいれば相手のHPが見えるのでまだ安心出来る。

 

「えーと、送信……っと」

 

フィリアの視界にシステムメッセージが出てきた。内容は―

 

Kento is challenging You.

 

「…あの、これデュエル申請…」

「あ、間違えた」

 

ごめんごめん、と今度はパーティー申請をケントが送り、フィリアがそれを承諾した所で、双方の視界左側に、やや小さめのHPゲージが出現した。名前は勿論相手の物。

 

「…よし、じゃあ改めて…行きますか」

「うんっ!」

意味は無くとも「せーの」と声を合わせ、2人同時に《セルベンディスの樹海》へ転移した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「………で、どうしようか」

「うーん……あっ、高い所から見てみようよ」

「そっか、その手があった」

 

幸い周りは岩が多いので、足場には困らない―筈だ。ケントは早速手頃な岩に飛び乗り、そこから転々と飛び移って――

 

「着いたー、っと…えーと、あっちに教会みたいなのがあるぞー」

「教会ー?分かったー、行ってみよー」

 

ひらりと飛び降り、着地したケントを確認すると、フィリアはたったか走り出した。慌てて追い掛けなんとか追い付き、並走した所で広場に出た。

 

「おぉー…良い眺め…」

「ほんとだねー…あっ、管理区ってあれかな?」

下から木の枝の様に黄色の光が伸び、巨大な青い球体を支えている。なるほど景色に合わない。十中八九管理区だろう。

 

「…あれだな。お、教会見っけ」

「早速入ろー!」

「おー!」

 

この時発した2人の大きな声で――

「げ!?スケルトンにデカ蜘蛛に…ぎゃー蜂も居るー!」

「は、早く倒しちゃおう!」

 

モンスターが寄ってきた。10匹近くも。

 

 

「あーくそ…こっち来いお前らぁ!」

 

ケントは更に大きな声を出し、寄ってくるモンスター全てに一撃当てて憎悪値(ヘイト)を稼ぎ――

「……らぁっ!」

「ギィィィッ!」

 

足の蹴り、振り下ろし、更に腕の振り。威力とスピードを最大限までブーストした《旋車》の威力、そしてリズベット作の武器の性能は凄まじく、1発でモンスター共のHPを一気に危険域(レッド)まで持っていった。

 

「…おぉう、凄いな」

 

黒革の巻かれた柄はしっくりと手に馴染み、ダークグレーの刀身は虚無ではなく夜空を思わせる柔らかさがある。鍔は月の様に丸く、薄めの黄色。武器の銘は《朧月夜》というらしい―が、プロパティが恐ろしい。筋力値(STR)プラス80、敏捷力(AGI)は破格のプラス130。無強化状態でこれなのに、更に強化施行上限は20。これにはリズベットも「これホントにあたしが作ったの…?」と目を白黒させていた。

 

(…まぁ、どう考えても化け物だな)

 

素材はケントが《砕牙・叢雲》をインゴットにした物だけではなく、《ホロウ・コボルドロード》がLA(ラストアタック)のボーナスを含むドロップ品からは、鉱石やら金属片(プランク)がボロボロ落ちたので、それをこれでもかと最大数まで―結局フィリアの分を含めても余った―ぶち込んだ結果、この強さとなった。

確かフィリアのも似たようなステ振りだった筈…と思いながら、同時に俺がGM(ゲームマスター)だったら速攻で下方修正(ナーフ)だなこりゃ、とは思わずにいられないケントだった。




今話を見て、分かった人は分かると思います。そう、ホロウ・コボルドロードを出した理由は実際こっちなんです(分かるかボケ)。
…さぁて、サイト等見てちまちま書きますか。
ではまた次回。


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7:愉快な悪魔

こんにちは、こちらを更新するのは実に1ヶ月振りの豹牙です。か、書きづらい…誰か俺のVITAを…VITAをくれ…
なんて茶番やってないで、本編どうぞ。


「うわぁ…綺麗な場所だなぁ」

「凄い…月明かりがキラキラ反射してる…」

 

どうにかモンスターの群れを退け、教会内部に潜入したケントとフィリアはまず、ステンドグラスから射し込む光に目を奪われていた。

しかし、―フィリアは分からないが―ケントはイルファング改めホロウコボルド王との戦いからここまで、休憩や睡眠を一切せずに来ていた為――

 

「ふわ……」

「眠いの?大丈夫?」

「ちょっと休んでからにする……」

 

蕩けた目を眠そうに擦り、今にも眠ってしまいそうなケントは、フィリアの眠気を誘うにも充分な威力だった。

 

「…ふふっ、そうだね」

 

と言うとケントの手を取り、「確か外に転移石があったから、それ登録したら帰ろう?」と優しく促されたケントは、眠い体を―正確には脳を―動かし、転移石を目指して歩き始めた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…………」

 

ケントがいつも持ち歩いているらしいクッションに顔を埋め、フィリアはこれからどうしようと考えていた。

自分をアインクラッドへ戻したいケントと、ホロウの為アインクラッドへ行けない自分。根幹からして真反対の2人は、いつか必ず進む道が分かれる。フィリアは、その時が来る事が怖いのだ。フィリア()を殺した自分を受け入れ、沢山の(プレイヤー)の死を背負いながらも気丈に笑う彼を―心の支えとなっている人を失う事が。

 

「…すぅ……すぅ……」

「…よく寝られるなぁ……」

 

尤も、クッションを枕と抱き枕にして、幼くあどけない寝顔を晒している―以前によくもまあ管理区の固い床で寝られるものだ―黒髪のパートナー(当の本人)は幸せそうに眠っているのだが。

それに見入っていたからだろうか、足音を立てずに近付いていた人影に気付けなかった。

 

「Wow、こいつは驚いた。何度か会いに来てるってのに、警戒心ゼロじゃねえか」

「っ…! 誰!?」

 

短剣に手を掛け、振り向いたフィリアが見たのは、艶消しの革ポンチョに鋲の打たれたブーツ、そして不敵に嗤う口元だった。だが直後、人影―声からして男―が両手を挙げた。

 

「おっと、安心しなお嬢ちゃん。殺り合うつもりはねぇ、話さねえか?()()()()()だろう」

 

流暢な日本語だが、どこかネイティブな発音が混じっていて、それでいて誘われそうな―例えるなら麻薬の様な声。

フィリアは無意識に警戒を高めるも、引っ掛かる節があった為話を聞く事にした。無論、短剣はいつでも抜けるよう準備をしている。

 

「……私とアンタが、仲間? なんで」

「そいつは簡単だ、オレンジカーソル(こいつ)だよ」

「っ…!」

「俺達は同じオレンジだ、いがみ合うのは止めにしねぇか?」

 

クックックッと愉快そうに笑う男に苛立ちを感じ、フィリアは思わず「絶対に嫌!」と声を荒げてしまった。近くで寝ていたケントには、勿論聞こえている訳で。

 

「……ん、んん…」

「あっ…」

「…Shit」

 

当然と言うべきか、ケントは起きてしまった。視線はぼんやりと宙をさ迷っているが、それも数度の瞬きで戻った。

 

「…どうした? 嫌な夢でも見たか?」

「ううん、こいつが…あれ?」

「…? ……誰も居ないけど…特徴って分かる?」

「えっと…」

 

フィリアが特徴を言うと、ケントは顔面蒼白、といった表情で声にならない声を漏らしていた。

 

「どうしたの!?大丈夫!?」

「フ…フィリア…そいつの、そのプレイヤーの…ギルドアイコンを見たか…!?」

「う…ううん……」

 

何やら必死の形相で肩を掴んできたケントに、フィリアはただならぬ何かを感じた。

 

「…なら、まだ確証に欠けるけど……そいつは……()()()()()()()()()()()()()

 

ラフコフ。正式名称、ラフィン・コフィン。電子の牢獄となったこのゲーム(世界)で、最も多くのプレイヤーを手にかけた、唯一の《殺人者(レッド)》ギルド。

フィリアも勿論その名前を聞いていて、被害者が増える度に恐怖を覚え、討伐隊が壊滅させた事を聞いて胸を撫で下ろしていた。だがギルドリーダーであるPoHの姿は見付からなかったらしく、安心しきれなかったのも覚えている。よもやそれが今になって、しかもよりによってホロウ・エリア(こちらの世界)に現れているとは夢にも思わなかった。

 

「…どうしよう……」

「…なんとかするしか、ないだろう。……俺達2人で」

 

ケントの強い意思を宿した瞳を、フィリアは直視出来なかった。




英語が苦手な奴にPoHはキツい(断定)。
因みに、ケントはシリカと同い年(と言う設定)で書いてます。なので、ブラッキー先生とはそこそこ身長差があったり。エギルと並んだら親子かってなりそうですねぇ…
ではまた次回(いつになるんだ)。


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8:教会探索

こんにちは、豹牙です。
前回、PoHに出会ったフィリア。揺れてます(心が)。さて、セルベンディスの樹海・教会編です。鈴音鉱石?代わりの武器ありますよね?(威圧)
ではどうぞ(おいこら)。


「ふわ……」

「寝足りない?」

「うん…アイツが来たって分かってから寝られなくて…」

「…そっか」

 

2人は今、《セルベンディスの樹海》の教会の中を探索していた。と言っても、フィリアが調べている間にケントが敵を倒す、といった事の繰り返しだったが。

 

「おっと…!」

「KUKAAAAAA!」

 

奇声を発しながら振り下ろされる死神の鎌を、真正面から受け止め―るには少々危険なので、刃を斜めにして滑らせる様に(かわ)し、素早く体勢を入れ替える。

 

「せぇ…りゃあっ!」

 

バランスを崩した死神の(うなじ)に値する部分を上段斬りで斬り飛ばす。アストラル系の敵に首チョンパが効くのかは正直怪しかったが、どうやら有効だった様だ。HPゲージが消し飛び、ポリゴン片となって消えていく死神には見向きもせず納刀し、()()()()()鍵開けスキルを使っているフィリアの方を見ると、同時にガチャリと音がしたので、駆け寄ってハイタッチ。重厚な音と共に現れたのは、新たな部屋。そう、フィリアが鍵を開けて(ピッキングして)いたのは、壁ではなく()()()だったのだ。

 

「さーて、お宝ちゃんは……あれ?」

「何も無……っ!」

「GYUGAAAAAAAAA!」

 

これまた奇妙な、それでいてぞくりとくる声。そして2段のHPゲージと共に現れたのは、サンクチュアリと言うらしいNM(ネームドモブ)。カーソルの色は、ダーククリムゾンの一歩手前だ。

 

「戦うしか無さそうだ、行くぞ!」

「うん!」

 

2人は互いの得物を抜き、新たな死神を迎え撃つ為に駆け出した。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「GUGIIIIIII――――……」

 

某作家とどことなく名前の似ている死神が、その体をポリゴンの欠片に変えたのは、十数分後の事だった。ホラー系がそこまで苦手ではないケントは大丈夫だったが、フィリアも大丈夫だったのは少し意外に感じていた。中学生の価値観が世間に通じる訳ではないのだが。

 

「…ん?何かドロップしたみたいだぞ」

「え!?何なに!?」

「わぁっ…え、えーと…《虚光に燈る首飾り》?プロパティ…は……何だこれ、何もない」

「えぇー…? ――待って、これにそっくりな窪み見たことある」

「ほ、本当!?」

「わっ…う、うん。確か…浮かんでる遺跡の近く…だったかな?」

「浮かんでる遺跡…?新エリアか何かかな…となるとこれが鍵になるのか…」

 

そのままブツブツと小声で呟きながら、やや小さな(おとがい)に華奢な指を当てて考え事を始めたケントを止める術を、フィリアは知らなかった。

 

「エリアはいくつあるんだ…?少なくとも2つだけどそれじゃマップが広過ぎる…全体マップを見る限り4つか5つだろうけど…それをクリアすればフィリアは戻れるのか…?」

「ケント?ケントー?」

「流石にそんな簡単じゃないだろうけど…まずここにカルマ回復クエはあるのか?アルゴに聞いてみるか…」

何度か呼びかけても一向に返事しないケントに、フィリアはむっとなってしまい―えいっ、とケントの柔らかそうな両頬をつまんだ。

 

「ふぇ、ふぁに!?」

「…話、聞いてた?」

「ごめんなさい、聞いてませんでした…」

「もう…そこに行ってみようって言ったの。次は言わないからね? いい、次は言わないよ?」

 

早速「次は言わない」宣言を守れてないフィリアにくすっと来たケントだが、きょとんとした顔で首を傾げられたので「フィリアも天然なのかな?」と内心で思った。

 

「分かった、行ってみよう」

「うんっ、こっちだよ!」

 

たったか走り出すフィリアに並走しながら、ケントは頭の隅で考えていた。エリアボスを全て倒せたとして、それでフィリアをアインクラッドに戻せるのだろうか?それ以前に、《ホロウ・エリア》から出られない理由は、本当に《犯罪者(オレンジ)》だからなのか―――?

早くー、置いて行っちゃうよーというフィリアの声に思考の海から引き戻されたケントは、すぐ行くーと返事して速度を上げた。




サンクチュアリってなんか…何かの作者さんに似てません?名前(分かるか)。
さて、次回は頑張ってボス戦…にしたいなぁ……(懇願)
ではまた次回。


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9:神殿に落ちる涙

こんにちは、豹牙です。
…ぬわー、今日(書き始めた時間から考えて)あと3時間しか無いぃ…。
気張って行きます、どうぞ。


「…ここ?」

「うん、このロックだよ」

「よし…填めるぞ」

 

ゴクリと生唾を飲み、そっとペンダントを填めた結果、ロックが解除される――という事を期待していた2人だが、それを嘲笑うかの様に何も起きなかった。

 

「…あれぇ、何も起きないな……」

「うーん…何か足りてないのかなぁ…」

「そうだなぁ…教会の他に神殿っぽいのもチラッと見えたし、そっち行ってみるか」

 

神殿を新たな目標として動き始める事にしたケントは、フィリアと何か話してみようと思い、気の効いた話題を探してみる事にした。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「フィリアってさ」

「うん?どうしたの?」

 

隣を歩くケントに声を掛けられ、フィリアは首を傾げた。だが内心では、自分がホロウだと気付かれたのかもしれない、とネガティブな思考が渦巻いていた。しかし返ってきた質問は、フィリアの予想の斜め上をいく物だった。

 

「好きな人って居るのか?」

「~~~~~~!!?」

 

真顔で凄まじい事を宣うケントに、何と言ったら良いのかは分からない。だが、居るか居ないかと聞かれたら居るのも事実なのだ。

 

「あっ、その反応は居るんだぁ~…」

 

顔真っ赤だからすぐ分かるぞ、と意地悪く笑われてしまった事から、これは絶対に後々まで弄られるとは思わずにいられないフィリアだった。

 

「その人が羨ましいよ……なんて」

 

ケントは冗談のつもりで言ったのだろうが、フィリアにとっては冗談でも何でもない。何故なら、フィリアの好きな人は――

 

「おっ、着いたみたいだぞ」

「えっ? あ、うん、そう、だね…」

「ははは、緊張してるのか? ほら、リラックスリラックス」

 

ぽんと肩を叩かれ、自分より(恐らくだが)幼いケントの暖かさが緊張を―ケントが思っているのとは別種だが―(ほぐ)してくれた事に、何故か渇きに似た何かを感じた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…ふっ!」

「はぁぁっ!」

「クルルアァァ!」

 

ケントの刀とフィリアの短剣(ダガー)が、2体の骸骨兵(スケルトン)の首に吸い込まれる様に命中し、すかぁぁん!と乾いた音を立ててすっ飛んだ。それによりHPを全損させた骸骨兵を通り過ぎ、2人は神殿の最奥、開かない扉を目指して歩みを進めていた。

 

「あむ…あれかな、もぐ…扉って」

「…その肉、何のモンスターの?」

「もぐ、んぐ…フィリアも食べるか? 2層の牛からドロップした肉を焼いただけだけど」

「うーん…貰おっかな」

「ん。はいよ、これ」

 

この期に及んで緊張感の無いケントだが、実はこの性格が理由で生き残れている事をフィリアは知らない。緊張しない事で冷静さを保ち、的確な判断が出来る為──らしい。閑話休題。

 

「いただきます…はぐっ」

「結構イケるだろ?」

「…美味しい……」

「え、泣く程!?」

 

正直言って泣かれるとは思っていなかったケントは、とりあえずフィリアの涙を拭っていた。

 

「だって…ホロウ・エリア(こっち)に閉じ込められてからずっと、携行食ぐらいしか食べられなかったんだもん…」

 

そう言うと、ケントにぎゅっと抱きつき、「ありがとう」と呟いたフィリアの背中を、ケントは優しく擦っていた。

 

***

 

「…落ち着いたか?」

「うん…ありがとう、ケント」

「どういたしまして。それじゃ……」

 

扉に歩み寄り、窪みにペンダントを填めると――今度こそ、扉が重厚な音を立てて開いた。

 

「…よし、行くぞフィリア」

「うん、分かった」

向こうには、今まで《ホロウ・エリア》で見たどの扉よりも威圧感を放っている扉があった。だが、2人でなら不思議と怖くはなかった。




はい、1週間連続執筆&投稿は流石に難しかったみたいです。色々あったとは言え18時間オーバーは流石に笑う。…と思ってたんですが、紅魔館の方を予約投稿にしてたのすっかり忘れてました。
さて、次回こそボス戦です。
また次回。


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10:影に住まいし獣

こんにちは、豹牙です。
今回はようやくボス戦。最近二刀流でフルボッコにしてるから技の名前覚えてるか不安なので、やっぱり調べながら…と言う訳で、どうぞ。


「…よし、開けるぞ」

「うん…」

 

そんな事は無い筈だが、心なしか扉が冷たい気がする。フィリアと同時に片方ずつの扉に手を押し当て、ゆっくりと開き、するりと中に入って走り出した。

 

「祭壇…か、ここは」

「そう、だね…っ! 逃げて!」

「へ?なん……おわぁそういう訳か!」

 

急いでその場を離れたケントの居た場所には、黒い影があり―その中から、異形の怪物と4段のHPゲージが出てきた。

 

「あっぶねぇー……えーっと、《シャドウファンタズム》か」

「強そうだね…」

「でも」

 

ケントは《朧月夜》を音高く抜刀し、その切っ先をシャドウファンタズムへと向けた。

 

「やってみなくちゃ分からないだろ?」

「………ふふっ、そうだね…分かった、やってみよう」

 

ケントは攻略組である。しかしそれ以上に、重度のネットゲーマーである。誰も見た事の無いボスに、自分達が挑める。それだけで、ケントの好奇心は掻き立てられるのだ。恐らく、ケントの顔には「討伐してみたい!」と大きく書かれているだろう。閑話休題。

 

「まずパターンの確認だな。俺が斬り込んでみるよ」

「うん、分かった」

 

そう言って飛び出したケントは、完全に得物と一体化した様な不思議な感じだった。その顔には獰猛な笑みが貼り付いていて、獣が一瞬怯んだ―かに思えた。

 

「おぉぉ……らぁぁっ!」

「Guooooo!?」

 

高く跳び上がり、大上段に振りかぶられた《朧月夜》が、文字通り朧気な半月となって、シャドウファンタズムの胴体を斬り裂いた。しかし、まだケントは止まらない。刀を振り抜いた勢いで一回転し

―その刀身を、鮮やかなライトグリーンの光が包んだ。

 

「せえりゃあっ!」

 

《旋車》。全ての動きにおいて威力をブーストしたその一撃は、先程の縦斬りも含めて十字架の様に刻まれていた。

ずだんっ!と盛大な音と共に着地したケントを、仰け反り(ノックバック)状態から立ち直ったシャドウファンタズムの爪が切り裂いた。

 

「っぐ…!」

「ケントっ!…あ、あれ?」

 

フィリアの視界右端に表示されたケントのHPゲージは、驚く事に1割程しか減っていなかった。戻ってきたケントも、驚きを隠せない様子だ。

 

「ええ…?低威力普通装甲…?なんか…特殊攻撃無ければあんまし強くなさそう…」

「勝てそう?」

「油断さえしなければ、な。でもまあ、大体の実力は分かった」

 

シャドウファンタズムのHPゲージは、1段目が確実な幅で削れている。この分なら、1本に1時間も掛からなさそうだ。そう確信したケントは、今度はフィリアと共に走り出した。




短けー…短けー…(大事な事なので2回言いました)。
多分もう次回はシャドウファンタズム死んでるんじゃないでしょうか?←おいてめえ
さて、と…次回はとりあえずバステア行けるかなー…?って感じになります。
ではまた次回。


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11:浮遊大陸へ

こんにちは、豹牙です。
さぁーて、話すネタが無い。いやあったか。
漢検準2級(高校在学程度)ノー勉で受けたら11点足りませんでした。あはは。
ではどうぞ。


「Gyuooooo……」

 

異形の獣がその肢体を四散させたのは、戦闘開始から3時間後の事だった。

 

「やった…あ……?」

 

ドロップ品と経験値のリザルト画面を見た後に込み上げる達成感を、1つの現象が掻き消した。

――《虚光に燈る首飾り》が、突如光り始めたのだ。

 

「これっ……て…」

「!!…ケント、その状態であそこに行けば…」

「そうか、ロックが解除されるかもしれない!行ってみ……」

 

そこまで言った途端、ケントはふらりとよろめいた。フィリアが慌てて支えるが、立ち上がる気力が起きない。いや、正確には無い。5時間半も戦い、休憩を挟んだとは言え忙しなく動き回り、3時間戦ったのだ。疲れが取れる筈が無い。

 

「…お疲れ様、ケント」

 

その事を察したフィリアは、労いの言葉と共にケントを少し運んで寝かせた。自身も壁に寄り掛かり、瞼を閉じ、眠りに落ちた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「んみゅ…う~……」

 

ケントにしか聞こえないアラームの音が鳴り、まだ起きたくないと反抗していると、枕がいつもと違う事に気付いた。

 

(……あれ、いつから寝てたんだっけ? それ以前に、この感触は……)

 

薄く瞼を開けると、人のお腹辺りが視界に入った。誰のだろう、と考えてからすぐに答えに辿り着く。

フィリアだ。

間違いない。間違えようも無い。この装備はフィリアだ。

 

「……寝かせてくれてたんだね」

 

いつも使っているツンツンした性格に合わせた口調を外し、まだ眠っているフィリアの顔を覗き込んだ。その顔は微笑んでいる。

 

「…………」

 

不意に悪戯心が芽生え、ケントはある悪戯をしてみる事にした。それは落書きでも、はたまた装備の全解除でもない。そもそもケントに、そんな辱しめをする度胸は無い。

では何なのかと言うと――頬にキスする事だった。

しかしケントは知らなかった。フィリアが実は、ケントより先に起きている事を。

 

「……それっ」

「うわぁああっ!? お、起きてたの!?」

 

たちまち拘束され(とは言っても抱き締めただけなのだが)、むにむにと頬を引っ張られて弄ばれていたケントは、今更襲ってくる羞恥で顔が真っ赤になっていた。本当の意味で、穴があったら入りたい程に。

 

「そういうのは、好きな人にするものだよ? ね?」

「ひゃい、わひゃりまひた……」

「ん、よろしいっ」

 

ようやく解放された所で、はて何か忘れている様な……と思い、首飾りを見て思い出した。

 

「そうだ、ロック解除。行こうぜ」

「う~~~ん……」

「…?」

「…2人だけの時は、さっきの口調にしてもらえないかな?なんか…弟が出来たみたいだから」

 

思わぬ提案に、ケントは口をぽかんと開け、暫し呆然としてから――

 

「うん、良いよ?」

 

その提案を受け入れた。

こうして、樹海エリアのボスを倒した2人は、並んでロックされたゲートへ向かった。




今回の内容:シャドウファンタズム倒れてる→次の日の朝まで眠りこける→並んで歩く→続く
…うん、アホか俺は(今更)。
薄いにも程があるやろ(憤慨)。
と言う訳で(どう言う訳だ)また次回。


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12:バステアゲート浮遊遺跡

こんにちは、クリスマス特別編が間に合いそうに無い豹牙です。じゃあそっち書けよって思った方、ほんとそうですよね(他人事)。
さて、現実逃避して本編どうぞ。

……そう言やペンダントって翳す(かざす)んでしたっけ?


「着いたーっと」

「ふぅ……ケント、やってみようよ!」

「うん! って、あ──」

 

ケントはゴールスプリントをかけて加速し、ゲートにペンダントを填める――前に勢い余って石の柱にぶつかった。

 

「うぅ…」

「あ、あはは……前見てなかったしね……」

 

軽いスタンに陥るケントの額を撫でてから―システム的に意味は無いのだが―、フィリアはケントを立たせると、「大丈夫?」と問いかけた。ケントが小さく頷き、ペンダントを填めると光が消え、ロックが解除された。

 

「解除されたね…よし、行ってみよう!」

「おー!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「これは……えーと、《空に浮かぶ遺跡》って言えば良いんだよ…ね?」

「うん、お宝ちゃんはあるかな~…」

「あるよ、きっと」

 

ケントは、大事な事を忘れていた。フィリアが、トレジャーハンターである事を。

――宝箱は全開けだろうなぁ……モノによってはエギルの旦那に売ってこよ……

等と考えている内に、ケントは――がくん、と落下した。

 

「…あれ?」

「ケント!」

「うわぁぁぁ!?えーとえーと……転移!《ホロウ・エリア》管理区!」

 

ギリギリで落下死を免れ、管理区へと飛んだ2人を待っていたのは――

 

「……キリト!?なんでここに!」

「え、いや…よく分からないんだ」

 

なにぃ、と思うが、考えてみればケントもフィリアもどうやって来たのか分からないのだ。聞いても仕方あるまい。

 

「うーん……」

「えー、と…どちら様?」

「ああ、俺はキリト。よろしくな、えー…」

「私はフィリア。よろしくね、キリト」

「にしても……お前こんな所に居たんだな」

「あはは……攻略組はどうなってる?」

 

ケントの問いに、ぶっちゃけほとんど変わらないぞ、と苦笑したキリトの違和感に、ケントは気付いた。

 

「…何かあったんだろ」

「え゛っ、いや……」

「何となく分かるんだよ。何があったんだ?」

 

数秒間沈黙したキリトだったが、やがて諦めた様に溜め息をついた。

 

「…実は、ラスボスがヒースクリフ……茅場だったんだ。あいつは100層の紅玉宮で、俺達を待っている」

「っ……!?」

「…………」

 

フィリアは驚愕したが、ケントは内心「やっぱりそうか」と思っていた。ただの一度もHPを危険域(イエロー)に落とした事の無いあの男ならばあるいは、と数ヵ月前に考えていたのである。

 

「因みに今は何層だ?」

「76層の迷宮区に入った辺りだよ。そもそも、そんな早くに攻略出来てたら苦労しないさ」

「…ま、だよなぁ……」

「ケントはどうするんだ?」

「え?フィリアが戻れるまではこっちの攻略をするつもりではあるけど……」

 

すると、キリトは何事か考え始めたが、すぐに答えが出たらしく、得心した様に頷いた。

 

「なあ、ケント。その攻略、俺達にも手伝わせてくれないか?」

「ほんとか!?助かるよ!」

「ああ、攻略組にも人手が足りないからな。レベリングも兼ねるならアスナも許してくれるだろ」

 

2人でがっちりと握手をして、キリトはアークソフィア―76層の主街区だ―へと戻っていった。

 

「…ケント、攻略組だったの?」

「へ?まあ…うん」

 

事情の説明を求めるフィリアにあれこれ説明した後、もう一度浮遊遺跡へ行ってみる事にした。




セルベンディス終わるの早かった(今更)。でも書きたいのがレインとの絡みっていうね。
無理にロスト・ソングまで登場引っ張らなくても良い気がするとか言わないでください、今全力で悩んでます。最近レインが尊い。
さて今回はキリトさん初登場。今まで名前すら出てませんでしたね。ホロウ・エリア、案外早くに終わりそうです。
ではまた次回。


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13:補給帰還

こんにちは、茶熊ティナが欲し過ぎる豹牙です。
今回は補給の為帰還。出会う人は…。

注:前回の最後で仄めかしてたもっかい行くぜー的な事…から帰ってきた辺りの時系列です。大体3日後かな?
ではどうぞ。


「……ふー、帰ってきた」

「あ、ケントー!」

「へ? ストレ――うわあぁ!?」

 

転移門から出てきた直後にこれである。ストレアのハグは威力が伴う事を忘れてはいけないのだ。

 

「いっ…たたた……」

「わわっ、大丈夫!?」

「え? ああ、まあ……」

 

金髪のポニーテール、若草色を基調とした装備、そしてかなり目立つ身体的特徴の少女が駆け寄ってきて、手を差し伸べてくる。その手を掴んで立ち上がると、少女はまずストレアに「危ないから駄目ですよー」と言い、次いでケントに「すいません、いきなりこんな事しちゃって……」と言った。

 

「ああいや、俺こそごめん。ボーッとしてて」

 

その顔は本当に申し訳なさそうだったが、ストレアの行動は予測不可能なので仕方無いだろう。謝るにせよ、少女に罪は無い。

 

「も~リーファ~、嫌がってないんだから良いでしょ~?」

「いや、そういう意味じゃないんだけど……」

 

嫌がってはいないが、ポーション類の補給に行かなくてはならない。ケントはそれを伝え、なんとかストレアに離れてもらうと、リーファというらしい少女に会釈して商店通りへと小走りで向かった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あーあ、行っちゃったー…」

「えーと…ストレアさん、あの子は?」

「ケントっていう凄腕のプレイヤーだよ♪とっても強いってキリトが言ってたの」

「へぇー、お兄ちゃ…キリト君がですか?ちょっと意外かなー…」

「えー、リーファも今度見てみなよー」

「…そうですね、機会があったら見てみます」

 

あの時リーファは、ケントとストレアがきょうだいの様に見えた。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……そんな訳無いか、見た目的にも全然違うし)

 

かぶりを振って思考を中断し、「よし!」と気合いを入れ直したリーファは、ストレアと共にレベリングへ向かった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「えーっと…あったあった、すいませーん店主は居ますかー?」

「はい、少々お待ちください。リズベットさーん、お客さんですよー!」

 

NPCの店員さんの呼び掛けに、リズはガチャガチャと金属音を立てながら工房に続いている扉を開け――

 

「きゃあっ!?」

――武具の雪崩が起きた。

「う、お、お!? …これ、全部リズが?」

「……そうよ、全部あたし。鍛冶スキルの修復の為に、ね」

「おいおい、どう少なく見積もっても100は越えてるぞ。いくらなんでも無茶し過ぎじゃないのか?」

 

ケントの問いに、リズベットは泣きそうな声で答えた。

 

「…だったら、あんたは今のアタシに鍛冶を任せられる?」

「いや任せたじゃんか。しかも見たろ、朧月夜(コイツ)のプロパティ」

「…あんなのただの偶然よ。それに素材が良かっただけ。だから……」

「メンテやら何やらは任せるな、ってか?」

「分かってるじゃない。ほら、鍛冶スキル上がるまで――」

「んじゃ、《朧月夜》と《ナイトメアリパルサー》のメンテ頼む」

 

あっけらかんとしたその言葉に、リズベットは唖然とするしか無かった。

 

「…話、聞いてたのよね?」

「ああ」

「理解してたのよね?」

「おうともさ」

「ならなんでよ……あたしに任せちゃ……」

「何寝惚けてんだ?リズにしか任せられないから言ってんだ」

「……え?」

「…だって、俺が知ってる鍛治屋リズしか居ないもんよ」

 

事実である。NPCを除けば、ケントの知っている鍛治屋は2年以上もお世話になっているリズベットだけなのだ。

 

「それに、さ…リズだけじゃなく、誰かが凹んでると…なんか励まさなきゃいけないって思うんだ」

 

これは本音である。ケントには《人の負の感情を消し去らなくてはいけない》という呪いにも似た衝動があり、それは負の感情を目の当たりにすると更に強くなるという奇妙なものだ。

 

「~~~~~っ……分かったわよ、メンテやるから耐久度見せなさい」

「ほんとか!?ありがとうリズ!」

「うわっちょっ、抱きつかなくても良いでしょ!」

 

怒られはしたもののしっかりメンテをしてくれる辺り、リズはやはり良い人なのだろう。だからこそ、客足は絶えないのだ。

改めてそれを感じたケントは、リズベットに心からの感謝を込めて「ありがとう」と呟いた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

リズのメンテも終わり、ケントは満足した様子でエギルの店―リズベットに場所を聞いた―に足を踏み入れた。その第一声が――

 

「おーっすエギルー、儲かりまっかー?」

 

である。キリトも認めるぼったくりであるエギルにこれを聞くのは愚問かもしれないが、ケントは昔からエギルの店に入る時はこの台詞を言う。なのでエギルも、「ぼちぼちでんな」といつも通りに返すのである。

 

「今回は何だ?安く買って高く売るぜ」

「変わらないのかそのポリシーは……えーっと、この《ラグーラビットの肉》3個を3億コルで」

「おいおい、《アストラル種のコア》を15個で15000コルにしか見えねーぞ」

「そりゃ《ラグーラビットの肉》なんざ3つも4つも落ちるかって話だ」

「…ま、そうだよな。買うもんはあるか?」

「この店」

「本音は?」

「ポーション類を出来るだけ」

 

長い付き合いだからこそ、こうした冗談も言えるのだ。因みに用事が済んだ後は、最近どうだ? といった世間話になる。そうしていると(何故か)大抵クラインが来るので、後は女子会ならぬ男子会の始まりである。

 

「おう!クライン様がおいでなすったぜ!」

「よークライン、元気してたか?」

「おうともよ!」

 

どうやらまた遅くなりそうだと思ったケントは、フィリアに帰りが遅れる棟のメッセージを送った後で気付いてしまった。

――これじゃあ、恋人みたいじゃないか?

ぼっ、と顔が赤くなり、慌てて顔を逸らしたが、エギルは気付いたらしく、いつもの太い笑みを浮かべていた。




補足:《ナイトメアリパルサー》はフィリアの短剣の名前です。意味はそのまま、『悪夢を祓う者』ですね(安直)。

と言う訳で、補給回でした。次回、……えーと何しよう()
ではまた次回。


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14:進撃

こんにちは、豹牙です。
眠い。
ではどうぞ。←おい


「なあアスナ、ちょっと良いか?」

「…?どうしたの、キリト君」

愛する人に声を掛けられ、アスナはレイドの組分けの為に開いていたホロパネルを全て閉じた。キリトの声に真剣さを感じた為である。

するとキリトはキョロキョロと辺りを見回し、アスナに顔を寄せ、小声で切り出した。

「いや…ケントがさ、『レベリングの効率が良い狩り場が見付かった』って言ってたんだ。だから…」

アスナは「皆まで言うな」と言うかの様に手を翳し、にっこりと笑った。

「うん、勿論行くよ。それと、これは内密に、でしょ?」

「…ああ、頼むよ。ただ、内密とは言ってもリズやシリカ達には話して良いぞ」

「ふふっ、了解」

アインクラッド最強の鴛鴦(おしどり)夫婦は、ケントの言う《レベリングの効率が良い狩り場》がどこかは分からない為、ケントにメッセージを送ってみた。すると数分で返信があり、内容は

『了解。何かフラグが必要なのかもしれないけど、《ホロウ・エリア管理区》って所に来てくれ。来れなかったら連れていく』

というものだった。

早速仲間達に話をして、予定の空いていたキリト、アスナ、ストレア、シノンのパーティで行く事にした、のだが………

 

 

「転移!《ホロウ・エリア管理区》!」

「「「…………」」」

「…うーん、やっぱり無理だな……。仕方無い、ケントに連れてってもらおう」

「なんで最初からそうしないのよ」

シノンの鋭い突っ込みに、キリトは「いやぁ、あはは…」と笑うしか無かった。

 

 

「―――で、俺が呼ばれたんだな。まあ予想はしてたけど……」

「悪いな、フィリアも居るってのに」

「いやいや、人手が増えるなら大歓迎だよ。えーと……初めましての人が1人だけ居るな」

ケントの言葉に、全員の視線がシノンへと集まった。やれやれ、と思いながらも、シノンは簡単に自己紹介をした。

「…シノンよ。よろしく」

「俺はケント。よろしくな、シノン。――さて、行くぞ……転移!《ホロウ・エリア管理区》!」

しーん……

「…あれ、1人ずつしか駄目な奴?ちょっとストレア以外離してくれ」

「ふふ~ん、私いっちばーん」

「転移!《ホロウ・エリア管理区》!」

直後、ケントとストレアが光の柱に包まれた。

「わっ、消えた」

「やっぱ1人ずつみたいだな。さて、俺達は――」

キリトがそこまで行った所で、ケントがまた現れた。

「え?って、ちょっ!?」

ぽかんとしているシノンの腕を掴み、また《ホロウ・エリア》へと消え、戻ってきて――という反復作業を人数分行い、なんとか全員が《ホロウ・エリア》へと入れた。帰りに同じ事をするのは、目に見えて分かるだろう。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「…ここが……」

「《ホロウ・エリア》……」

「そ。んで、この子がフィリア。ホロウ・エリア(この世界)に囚われてるんだ」

「よ、よろしく…」

()()()()返事と共に女子組が自己紹介を始める中、フィリアとは既に会っているキリトだけはコンソールとにらめっこしていた。

ケントはそれに気付き、キリトの方へ向かうと、この世界の全体図を見せ、2人であれこれ相談し――

「…よし!んじゃ、今から――ってそこ、聞いてるかー?」

女子組の話し合いを中断させ―キリトがアスナの肩を叩いた事で中断した―、ケントは今攻略中の《バステアゲート浮遊遺跡》についての説明を簡単にして、各々アイテムに不足は無いかの確認を済ませ、ようやく出発となった。

「…で、キリト。バランス考えて1人回してくれないか?」

「ああ、構わないぞ。ストレアをそっちにするよ」

「おう、よろしくな」

ストレアーちょっと良いかー?と言って呼びつけたストレアに説明をして―喜んでOKされた―、ケントは全員に触れさせて転移―問題無く出来た―した。




薄い(驚愕)。
さーてどうしよう、こんな事しといてなんだけど大人数の描写とか苦手過ぎる。←じゃあ何故書いたし
ではまた次回。遅れるかもしれません。

あそうだ、良いお年を。


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15:乱舞

こんにちは、豹牙です。
こっちの投稿は新年初ですね、宣言通り遅れました(バカタレ)。
さて、前回の大量転移ですが、これは俺が「マルチでこんなん出来るんだからこれ出来ても良いんじゃね?」と思ったのでやってみました。
ではどうぞ。


「……うん、こんなもんかな。他に聞きたい事はあるか?」

「うん、私は大丈夫だよ♪」

「ストレアって元気だねー」

「ふふーん、褒めて褒めてー♪」

「あ、あはは……」

ストレアの活発さには、その大人びた容姿とはかなり違った幼さがある。他人から見たらちぐはぐとしか言えない違和感を感じたフィリアだったが、ケントは何も言わない。話を聞くに、彼がストレアと出会ったのはかなり最近の筈だが、現実(リアル)で会った事でもあるのだろうか――

「フィリアー?置いてっちゃうぞー?」

「え?あっ、ごめんごめん!」

「よーし、レッツゴー!」

「おー!」

元気良く出発する2人を見て、フィリアは弟と妹でも出来たかの様な気分だった。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

1時間後。

「ふっ!」

「グ、ウゥゥゥオォォォ!」

《竜の巣》と言うらしいダンジョンの奥に出現した飛竜(ワイバーン)のカーソルを見た時、フィリアは強そうだと思ったが、ぶっちゃけ全然強くなかった。いや言い直そう。強い事は強いのだ。だが、ストレアが弾き防御(パリング)で隙を作り、すかさずフィリアが斬り込み、スイッチでケントがトドメというコンボがあまりにも強力で、ダメージをほとんど喰らわずに倒してしまうので、強いという感覚が無いのだ。

「ふぅっ、今どれくらいだ?」

「えーっと……このフロアは7割ぐらいかな?」

「もうそんなに!?早いねー……」

「なーんか思ってたより手応え無いなぁ……」

「えぇ……」

先刻、キリト達から《『竜の巣』ってダンジョンに何かあるらしい。多分それがゲートの鍵だ》というメッセージを貰ったので攻略に乗り出したフィリア達だったが、この分ならささっと行けそうだ――

「あれ?開かない……」

「え?……ほんとだ、鍵開けも効かない」

ぬぬぬ……と唸り始めるケントを、やや低めの声が遮った。声は言う事だけ言って聞こえなくなってしまったが、要点だけ言うと「《竜の秘宝》を持って来ないと通さない」という事らしい。

「まぁた戻るのかよー……お使いクエやってる気分だぜ……」

「よーし、その《竜の秘宝》ってのを取りに――」

「……ストレア、場所分かってるか?」

「あ……」

「だろうと思った。……キリト達と手分けして探すかぁ……」

と言ってメニューウインドウを開いたケントの元に、1件のメッセージが届いた。

「ん?キリトから……もしかして!?」

「ど、どうし……」

「『《竜の秘宝》ってアイテムが手に入った。何かに使えるんじゃないか?』……だって!」

「ほんとに!?」

「やったー♪」

「待て、続きがある。『PoHも見付けた、充分に警戒してくれ』……以上か。まぁたPoHかよ……」

「あ、あはは……」

油断は出来ない。それでも、ケントと過ごす時間は楽しいと、フィリアはそう思えた。




超短いですが、今回はここまでにさせてくだせぇ……(馬鹿野郎)。
ではまた次回。


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16:強さの意味

こんにちは、豹牙改めユキノスです。
あの……ロスト・ソングでやりたい事が多過ぎて……ホロウ・フラグメント早く終わらせなアカンとは思うとります。なので、こっからかなり駆け足になったり滅茶苦茶になったりするかもしれません。ですが、その辺りはどうかご容赦を……(懇願)。

さて今回は……今回、は……
…………ではどうぞ。(おい)


「あっ居た居た、おーい!」

ケントに気付き、手を振り返すキリト達だったが、素早く抜剣した。どうしたんだろうと考える間も無く、何体ものモンスターが襲い掛かってきた。

――そうだ、大声に反応して寄ってくるんだった!

と今更ながらに思い出し、音高く抜刀した勢いで横を通過した一匹に《辻風》を放つ。ダッシュの勢いや、腕の振りを含めて威力がブーストされたそれは、飛竜の頭を容易に落とした。唸る様な断末魔を聴覚から振り落とし、硬直が解けた途端、キリト一行の中で一番手間取っているプレイヤー――シノンへと向かっている(あぎと)を食い止めた。

「っ、ああっ!……悪い、大丈夫か?」

「え?ええ、なんとか……」

「そうか。俺が弾くから、その間に攻撃してくれ。後はその繰り返しでどうにかなる」

「……分かったわ」

「よし、行くぞ!」

フィリアとストレアも、飛竜の殲滅を始めている。2人の3グループ――しかもその内2グループは急拵えでここまで出来るのなら、きっとボスもちゃちゃっと倒せてしまいそうだ。

なんて考えていたからだろうか、目の前に飛竜が居た。

「おっと……スイッチ!」

「―――ハッ!」

素早くパリィで返し、仰け反った飛竜の腹に、シノンの《アーマー・ピアース》が命中した、が…………

(気のせいか、戦闘の運びが拙い気がするな……短剣に慣れてないのか?それとも別に何か……)

硬直から解けたシノンが身を引いたが、飛竜はスタンに陥っている。ゲージの残り具合からして、短剣でも押し切れる程度だ。

「シノン、そのまま倒しちまえ!腹に通常攻撃を――」

「ハアアアアッ!」

その短剣が、再びライトブルーの光を帯びた。ダメだ、アーマー・ピアース(それ)だと当たらない!

「待て、それは――」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「くっ……」

案の定、と言うべきか空を切った刺突。基本技の為短いが、それでも致命的な硬直に陥ったシノンを、飛竜の突進が襲った。クリティカルだったらしく、激しいライトエフェクトを散らして吹き飛ぶシノンは、がくんと減少したHPを眺め――しかし、恐怖を抱く事は無かった。否、恐怖を押し退けた。

――私は、強くならなきゃいけない!

既にゲージは黄色くなっ(半減し)ているが、一体それがどうしたと言うのだ。()()()に比べれば、こんなモノはただのゲームだ。ただ私はそこで、心が石の様に固くなり、流れる血が凍るまで、《敵》を排除していけば良い――――

「んむっ!?」

再び飛竜に攻撃を仕掛けようとしたシノンの口に、何か液体の入った小瓶が突っ込まれた。反射的に吐き出しそうになるが、相対したケントの瞳を見た途端、抵抗する気力が薄れてしまった。何故だろうか。

その真っ直ぐにこちらを見詰める瞳に、()()()()()()()()()()()()()()()

「シノン、頼むから無茶はしないでくれ。……もう、誰一人として失いたくないんだよ……」

「……!」

ケントをちらりと横切った影、そして小声で発せられた台詞は――間違いない、ケントも背負っている。シノンのものとは別だが、人を――――

「グオォォォ!」

「うるせえ」

そう言って横凪ぎに振るわれた黒い刀身は、シノンの目で捉える事は出来なかった。

――強い。コイツは、《強さ》を知っている。

「……ふうっ、どうにか終わったな」

「もー……元はと言えばケントが原因でしょ?」

「そうだっけー覚えてないなあははー」

……知って、いるのだろう。きっと。




シノンの過去を全力でふざけて説明するとなると、「誰かお客様の中で強さをお持ちの方は居ませんか!」的なやーつです(ごめんなさい)。
ではまた次回。


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17:ちょっと休憩

こんにちは、ユキノスです。
前回、シノンにちょっと勘づかれたケントですが……。

今回から一人称視点にします。割と書いてて違和感あるんですよ、三人称。合わないのかなぁ……。
ではどうぞ。


俺は……いや僕は、このゲーム(世界)で6人のプレイヤーを目の前で亡くしている。その死に際の顔は、恐怖、絶望、憤怒……中には、虚無感を浮かべて消滅する人も居た。

そして、彼らは一様に、僕を憎んでいるだろう。……当然、だろうね。だって僕は――――皆に、「絶対に死なせない」と宣っていたから。

 

 

 

「――夢、か……」

「大丈夫?(うな)されてたみたいだけど」

「ん、あー大丈夫大丈夫」

勿論、あまり大丈夫じゃない。でも、辛い事を経験したフィリアに、これ以上心配を掛ける訳にはいかないのだ。

「ほら、今日も頑張って攻略に励もう!」

「ふふっ、そうだね」

昨日はキリト達の協力もあり、《刃竜ゾーディアス》なるエリアボスを討伐した――が、それも明け方の事だったので、今日は10時半からのスタートとなる。……《向こう》だったらお母さんに物凄く怒られるんだけどね。SAOだと怒られないからちょっと嬉しい。

「えーと……あれ、封印解除ってしたっけ?」

「え?確か倒した後は「休憩したら行こう」って言って……」

「……そのまま寝ちゃったのか。じゃあまだだったんだね」

「うん、だからそこからだね」

「そんじゃ、レッツゴー!」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……よし、封印解除ーっ!」

「それじゃ早速行こ……うわ、慎重に進まないと……」

「……なぁんでここまで浮いてんだろうねぇ……」

(原理は不明なれど)浮遊している足場を飛び移り、ちょっとずつ下に降りていくと――

「……わあっ、海だ!」

「ほんと!?わっ、凄い綺麗!」

カニ型モンスターや半魚人、更にはふよふよ浮かんでいるエイは居るが、それを差し引いても綺麗な海だ。泳ぎたいなぁー、海にはモンスターも湧かないみたいだしなぁー、でも水着とか無いんだよなぁー……と呑気な事を考えていると、ふとアイデアが浮かんだ。

急いでメニューを開き、メッセージタブからある人物を選択、手早くメッセージを―何故か両手だと出来ない―打つ。

「聞けるかなぁ……まいっか、送信っ」

「……?」

隣でフィリアが訝しげな視線を送ってきたが、「内緒」と言って誤魔化した。――あ、送れた。まだフィールドか圏内に居たんだ。……問題はスキルがあるかどうかなんだよなぁ……。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「やっほー♪」

「ストレア!それに、そっちは……?」

「あ、えっと……シリカっていいます。よろしくお願いします!」

「よろしくね、シリカ。……で、ケントは?」

「いや、これ海じゃん?」

「うん」

「海にはモンスター湧かないじゃん?」

「そう言えば……確かに」

「泳ぎたいなーって」

「ああ、そういう……え、泳ぐの!?」

……あれ、思ったより驚かれた。なんでだろ?

理由を聞いてみた所、手招きされて耳打ちされた。……ちょっと息が擽ったいかな?

「……ああ、なるほどね……って、フィリア泳gむぐぐ!?」

「しーっ!」

……こほん。まあその、つまり……フィリア、泳げないみたい。

いやまあ、SAOの水泳が難しいのは分かるよ?でもコツさえ掴めば簡単だし、4層で拾った浮き輪の実も残ってるし。……いーじゃん、3つ落ちてきたんだもん。

「何なにー、どしたのー?」

「ひえぇ、カーソルが真っ黒……」

「あそっか、シリカって今レベル幾つ?」

「えっと……は、85、です……」

わぉ、思ってたより低かった。……よし、やるか。

「シリカ、ちょっとパーティ組まないか?」

「へっ!?ど、どうして……」

「レベリング、しちゃおうぜ。湧きを減らす意味もあるけど」

「い、いえ、あの……」

……顔が真っ赤だけど、緊張してるのかな?




休憩とは一体何だったのか。
そしてシリカ初登場です。これで主要キャラは……アルゴが出てない……。割と出そうで出ないですねぇ……
ではまた次回(いつになるんだ)。


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18:海水浴ですか?いいえ水遊びでした

めっちゃお久し振りです、ユキノスです。
受験が終わり、SAOHF出来るようになったのでやったんですが……入り江エリア、めっちゃ浅いし普通にモンスター湧いてましたね……ごめんなさい。
気を取り直して、海水浴改め水遊び話、どうぞ。


「よーし、突撃ー!」

「おーっ♪」

「ハァァッ!」

「ひ、ひええ……」

何故か僕の指示のもと、モンスターの湧き潰しをする事にした。勿論砂浜に降りた……んだけど……

「あ、思った以上に浅い……」

よくよく考えたら、砂浜のすぐ近くは浅くて当たり前だった。泳ぐって言うより水遊びだねこれ。

「フィリアー、ここかなり浅いよー!ほらー!」

「あ、ほんとだ……」

僕もそこそこ小さいけど、それでもお腹が入るかどうかぐらいの浅さ。うーん浅い。

「……じゃなくて、湧き潰しだった……いけないいけない。ストレアー、スイッチー!」

「了解っ!」

武器で強打する《ウェポンバッシュ》でブレイクポイントを作ったストレアと入れ替わる様に飛び込み、居合い斬りの様なモーションの《辻風》でヘイトを引き受ける。ストレアが下がったのを確認し、《クイックチェンジ》Modで曲刀に持ち替える。……実は刀より曲刀の方が使い慣れてたりするのだ。

「やあっ!」

「ギィィ―――――」

「わ、っとっと……」

やはりスペック的には《朧月夜》より劣るが、それでも正確さ(アキュラシー)に+7振っただけのクリティカル率はある。回転しながら放つ《ダンシング・ヘルレイザー》によってHPを削られたエイ(に似たモンスター)は、断末魔の悲鳴と共にその姿を散らした。……と言うか、あれ威力は高いんだけど目が回るんだよねぇ……

「……いてっ」

「大丈夫ー?」

「目ぇ回った……」

「あ、あはは……」

そんな事もあったが、狩りを続けて……えーと、3時間!?そんなにやってたのかー……

「ふぅっ、大体湧かなくなったかな?」

「そうだね、海に湧いた時はびっくりしたけど」

「あれを知らずに水遊びしてたらと思うと……うう、恐ろしいです……」

「……確かに」

因みに、シリカはいくつかレベルが上がったらしい。らしい、と言うのは、レベルアップの度にストレアと一緒にハイタッチしていたから、どっちがどっちか分からなかったからである。

「……さて、そんじゃ……」

「水着ならもう作ってあるよー♪」

「早っ!」

ストレアの言葉は本当だったらしく、ストレージの中から4人分の水着が出てきた。……名前は知らないけど、全部デザインが違う辺り凄いなぁ……裁縫スキルいくつなんだろ。

「えーと……そこの岩陰で着替えてくるね」

「おう、行ってらっしゃい」

「覗かないでね〜?」

「だーいじょうぶ覗かないよ。まあ緊急時には報せるけど」

さて僕も着替えよっと。……あっ、後ろに猫のアップリケがある。可愛い……

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「あ、終わった?」

「うんっ♪ほらほらシリカー、恥ずかしがってないで出てきなよー」

「うぅ……スタイルの差が……」

「まだまだこれからでしょ?大丈夫大丈夫!」

体の成長云々は保健体育で習ったけど……僕は胸の大きさで女性を評価しないよ?うん。だって成長スピードとか人によるじゃん。

「わぁっ、冷たい!」

「うーん……出来れば夏に来たかったなぁ……」

「でも、ここは暖かいですよ」

「それが救いだなー、それっ!」

「わぷっ、何するんですか!」

「あははっ、こっちこっちー!」

「隙アリっ!」

「なんのっ……っと、っと、どわぁっ!」

「わわわ、大丈夫!?」

本当に浅かった為、水の掛け合いをしているだけではあるが、()()()()()()楽しめた――――いや、時間忘れちゃダメじゃん!

「グルルル……」

「あっ……」

「いっ?」

「うっ……」

「えっ」

ヤマタノオロチ……じゃなくてミツマタノオロチ的なモンスターが、丁度海に湧いた。

「せっ、戦闘準備ー!岩陰で着替えて、ちょっとは持ち堪える!」

「「了解!」」

「あ、あわわ……」




やはり8ヶ月の空白は大きかった。今度はこういう事が無いように気をつけねば……。
という訳で……次回、……次回……
………………
ではまた次回!
ケント「あっ、逃げた!待てー!」


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19:くたびれた後は美味しいもの食べよ

こんにちは、ユキノスです。
今回はですね、なんと時系列無視ってます(おい待てこら)。
書きたかった話何だっけなー、と思いながら書き進めて、最近思い出したので書く事にしました。時系列は間に入れるのも何かなと思ったのでそのまま。
という訳で、クラインニキの格好良さを再確認出来るこのイベント(エピソード?)、どうぞ!


「あー疲れたー……そろそろ帰るー?」

「うん、そうだねー……もうくたくただよー……」

唐突に湧いていたミツマタノオロチを苦労して倒し、更に数分経つ頃には、モンスターの湧きもすっかり元通りになっていた。日も傾いてきたので、また皆疲れたので、そろそろ帰る事にしよう。……あっ、ポーションが少なくなってきてる……

「フィリアー、ポーションまだ足りるー?」

「うーん、そろそろ少なくなってきたかな……ケントも?」

「ああ、ついでに補充しとくよ。武器のメンテもしちゃおう」

「ありがとう、よろしくね!」

「いいっていいって」

フィリアはまだホロウ・エリアから出られないんだし、補給やメンテは僕がやらなきゃね。《ナイトメア・リパルサー》も《朧月夜》も鉱物素材を使っている為、切れ味耐久性共に高い――が、どちらも華奢な為、少しだけ減るのが早いのだ。《ナイトメア・リパルサー》は分からないが、《朧月夜》は今日だけで1割減ってしまっている。むむむ……耐久に幾つか振っとこうかな……。

 

ピロン♪

 

「ん?メッセ?クラインからだ……なんじゃこりゃ、兎に角来いって事か?」

「あ、そう?……じゃあ……行ってらっしゃい」

寂しそうな顔のフィリアに罪悪感を覚えつつ、(悲しくなってくるが)数少ない友達の呼び出しにも答えたい。ぐぬぬ……と唸り始めた途端、答えが出た。

 

土産話かお土産持ってけば大丈夫(かもしれない)じゃないかな?

 

「えー、あーフィリア、お土産か土産話は持ってくるから……しばらくはそれで我慢して……」

「う、ううん、聞かせてくれるだけでも充分嬉しいよ。……ほらほら、早く行った方が良いんじゃない?」

無理して笑っている、のは分かる。でも、それを自然な笑顔に変えるには、どれだけの時間が――――

「ケーントっ。そんなに怖い顔してたら、可愛い顔が台無しだよ?」

「む……そんなに怖い顔してたか?」

「んー……なんかね、難しそうな顔してた!」

「そっか、まあ考えはしてたな」

「えー、何なに〜?」

「今後の事。さ、どっちにしろ《管理区》には戻ろう」

「あ、あのっ!」

「おわっ、ととと……ん?」

突然呼び止められた為少しつまづいたが、フィリアにしては珍しく口ごもっているのを見るに言いづらい事だろう。はて何だろう?

「……私、もう少しここで……レベリングしてくるっ」

「……フィリア!?フィリア!待っ……!」

そう言ってフィリアが駆け出した先は、当然ながら僕もフィリアも行っていない場所――未開の地。

「嘘だろ……フィリアっ!」

「ギュアアア!」

「くそっ……悪いストレア、もう一戦だ!シリカはダッシュで転移石に向かえ、先に帰っててもらって構わない!モンスターに見付かったら全力で戻ってくるんだ!」

「了解っ!」

「は、はいっ!」

数匹のモンスターが押し寄せ、それを全て倒した時には、フィリアを追う事が出来ない距離まで離れてしまった。

「……フィリア、大丈夫かな……」

「きっと大丈夫だよ!ほらほら、クラインが呼んでたでしょ?行こう?」

「……そうだな。また明日、フィリアに連絡してみよう」

シリカは無事帰れた様で―むしろ無事じゃなければただでは済まされない―、その旨のメッセージが届いていた。……そう言えば、クラインは何故に呼び出したんだろうか?

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おう!おせぇーぞおめぇ!」

「悪い悪い、ちょっと野暮用があって。……ところで、この嗅いでるだけで腹が減ってきそうなこの匂いは何だ?」

「『フライングバッファローの肉』というS級食材です。……パパ、この方は誰ですか?」

「こいつはケント。俺やアスナと同じ攻略組だ」

「そうなんですか……私はユイです、よろしくお願いします!」

そう微笑んだユイはとても可愛らしく、また何故こんな小さな子が―SAOは15歳以上推奨の為、言ってしまえば僕やシリカもそうなのだが―SAO(この世界)に―――って待った、パパ?

「えっと……キリト?説明してくれるとありがたい」

「はーい出来たよー!あっ、ケント君!来てたんだ!」

「こんばんはアスナ。おお……美味そう……」

「へっへっへっ、このクライン様が取ってきた肉だぜ?不味い訳がねーだろ!」

「違うでしょーS級食材だからでしょー」

「リズ、そんな事言わないでくれよ……んっ、美味い!」

「あっ、つまみ食いしたわね!」

僕やリズだけでなく、クライン(と、シリカの側に居るフェザーリドラ)を除いた全員が肉を食べ進め、残り1枚になってしまった。……僕は2枚食べただけだよ?2枚フィリアへのお土産として確保したから実質4枚かもだけど。

「おめぇら……」

「ご、ごめんクライン!1枚だけだけど……」

「そ、そうよ、1枚だけのが肉の味がよく分かるってもんよ!」

何人かフォローになっているのかいないのか分からない言葉を投げかけ、フェザーリドラが「きゅるぅ……」と鳴いた。

「あっ……ピナの分あげてませんでした……」

「あ、うーーー……よぉし分かった、この肉はお前が食え!」

「きゅるぅっ♪」

「えっ!?で、でも……」

「いいんだよ、俺様はいつでも食えるんだから、今日はお前らが腹一杯喰えって」

クラインさんマジかっけぇぇぇぇぇ!と思った瞬間だった。




クラインニキマジリスペクトっす。パネェっす。
このイベントはほんっとにクラインの人間性超高い事が知れたんで何度でも見たいです。何故これで彼女が出来ないんだか。見た目か?見た目なのか!?畜生ぉぉぉぉぉぉぉあああ!(発狂)

ではまた次回。


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20:影の少女

こんにちは、毎度お馴染みユキノスです。
前回、「レベリングに行く」と駆け出したフィリアですが……?
今回はフィリア視点になります。前半ケント出ません。
ではどうぞ。


「…………」

「よう、久し振りだなぁ」

「……何の用?」

いつの間にか来ていたメッセージ。呼び出しの内容だったそれは、不本意ながらも()()人物からだった。

「――PoH(プー)

「おいおい、そんなに嫌そうな顔すんなよ。俺ァ悲しいぜぇ?」

「前置きはいいから。……さっさと用件を言って」

「おー怖い怖い。おめぇに依頼だぜ、俺から直々にだ」

「ッ……」

この男と関わりを持つ以上、いずれは殺しの依頼(こういう事)が来るのではないか。そう思っていた。だが、早い。早過ぎると言っても良い。

何故なら私は、PoHと出会ってからひと月も経っていないのだ。それなのに依頼とは、ラフコフも相当にメンバーが減ったのか――と思いつつ、標的とされる不運な―と言っても手を出すつもりは無い―人物の名を聞いた時。私は、心臓を持ち上げられた様な気分になった。

「――嘘、でしょ?」

「俺ァ嘘が嫌いだぜェ?ま、お前にしか出来ねーだろーよ」

Good Luck、の言葉と共に肩を叩かれ、音を立てずに歩き去っていくPoHには目もくれずへたりこみ、徐々に全身が震え始めた。

「出来ない……私には……出来ない……っ」

誰も居ない空間で、ただ声が響いていた。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「――フィリアー!」

「きゃっ!?」

「むー、やっと気付いた……ずっとぼーっとしてるんだもん」

「あはは……ごめんごめん」

私の前で笑うケントは、過去に(PoHとは違えど)何人かの人を目の前で亡くしているとは思えない程に無邪気で、しかし傍から見ても無理をしていると分かる。

――そんな彼を、殺す?

嫌だ。私は、彼を殺したくない。一緒に居たい。でもそれは叶わない。私は《ホロウ・データ》で、ホロウ・エリア(この世界)から出られない。でもケントは紛れも無く《本物》で、アインクラッドが攻略されたら現実世界(リアル)に帰る事が出来る。

頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。何が真実で、何が嘘かさえも分からなくなってきた。ごうごうと耳鳴りがする。視界が定まらない。

「あ……あっ……」

「フィリアッ!落ち着いて、僕が居る!だから、気をしっかり持って!今自動ログアウトなんてしたとしたらどうなるか分からない!だから今は!僕だけを見てて!」

「ケント……助けて、ケント……」

感情の制御も出来ない。ぽろぽろと際限なく涙が溢れ、目の前の彼を目一杯抱きしめた。頭の中のぐちゃぐちゃが、少し和らいだ気がした。

そこまできて、ようやく気付く。私は、ケントが好きなのだ。望まぬ屍を生み出してしまった、とっても優しく、儚く、小さな死神。

守ってあげたい、と思った。しかし、実際守られているのは私だった。安全も味方も無かった《ホロウ・エリア》で蝕まれた精神を、お釣りが来る程度に癒してくれたのだから。

「……よしよし……もう大丈夫だよ……」

そっと抱き返され、撫でられた頭を通して、ケントという不思議な少年の温もりを感じた。




ええ話や……(お前が言うな)。

因みにですが俺が英語苦手な為、この作品のPoHさんは基本的に英語使いません。意味とかスペル違ったら恥ずかしいですからねぇ……(遠い目)

でも実際、フィリアって精神崩壊しててもおかしくないレベルで追い詰められてましたよね……《圏内》のほぼ無い、犯罪者(オレンジ)がうようよ居る、プレイヤーに話し掛けても反応がおかしい……そんな世界で数週間過ごしただけでも耐えられなさそうな俺でしたとさ。
ではまた次回。


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21:海賊の財宝

こんにちは、絶賛期末考査のユキノスです。
え?勉強しろって?……全くその通りですよねぇ……でもですね、日頃から勉強する癖が無いと、マジで何すれば良いか分からないんですよ。なので、皆さんはしっかり勉強しましょうね。
さて、前回フィリアの重い話があったので、今回は明るめの話に出来たら良いなと思っとります。
ではどうぞ。


「うみゅ〜……」

「えへへ……」

先程、突然倒れかけたフィリアを宥めて(と言うか支えて?)からというものの、ずっとこの調子である。頼られている、と考えるとやや複雑だが、それでも笑ってくれているなら満足だ。……ただ、頬をこねくり回されて満足かと言われたら分からないが。

「柔らか〜い……」

「お姉ちゃ〜ん、これいつまで続くの〜?」

「私が満足するまでー」

と言った直後、その手を止めて「やめた方が良い?」と聞いてくる辺り常識はあるだろう。皆は嫌がっているならやめようね?って、僕は誰に言ってるんだろ……

「……いや、好きにして良いよ」

両手を広げ、受け入れる体制になった時、むぎゅっと抱きしめられた。

「わぶっ。わー食べられるー」

「ふふふ、食べないよー」

傍から見ていると、「何イチャついてんだこいつら」「リア充爆発しろ」と思われそうだけど、そんな事気にしちゃ負けだと思おう。そうでなきゃ……ってちょっと待った、ゲームの中でリア充っておかしくない?

「むにゅー……そう言えばフィリアー」

「なーにーケント?」

「んしょ、んしょ……っと、あのね、入江エリアに関するー、フィリアがとっても喜びそうな情報をゲットしたんだー、《ホロウ》からだけど」

「へぇー、どんな?」

「えっとねー、それっぽく言うと……――その昔、この海には大海賊が居たという。海賊はありとあらゆる財宝を手に入れたが、ある時嵐に逢い、この入江に難波した。食料も尽き、死人が出始めた海賊は、財宝を砂浜の周辺にある遺跡に隠し、息絶えたという――――っていう情報。海賊の財宝って、1度は憧れるよねー」

「うんっ!行こう!そのお宝ちゃんを取りに!」

「お、お宝ちゃん……?」

目をキラキラさせている辺り、やっぱりトレジャーハンターなんだなぁと思わせる何かがある。このまま焦らすのも可哀想なので、その遺跡へ向かう事にする。

「転移!グレスリーフの入江!」

例の如く青い光が全身を包み、僕とフィリアを入江へと送った。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「……って事で、着いた訳ですけども」

「?」

「……どの遺跡、とかは分からないんだよねぇ……」

それを聞いたフィリアの顔が、見る見るうちに複雑そうな顔(恐らく、『楽しそう』と『えぇー……』が混じっていると思われる)になっていくので、慌てて「ああでも、確か……」とフォローを入れる。そうでもしないと、フィリアを元気にさせる事は出来ないだろう。

「あはは……頑張って探そ?」

「うんっ、こういうの燃えるよね!」

「それは分かる。何か楽しいんだよね〜」

という風にワイワイやりながら、僕達は一番近い遺跡に向かって歩き始めた。




今回短っ!1100行ってないだと!?
と思った方、居るかもしれません。ですが……
ネタが無いんです(´・ω・`)
あまり早く進め過ぎても「チートや!」って言われそうなんで、もうしばらくお待ちくだせえ。
ではまた次回。


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22:遺跡の中からこんにちは

お久しぶりです、ユキノスです。
今回もトレジャーハント回。本編は犠牲になったのだ……

という笑えるのか笑えないのか分からない冗談は置いといて、近頃(というかサービス開始日から)PUBGをやっております。ユーザーネームは普通にユキノスなので、今度見つけたら容赦無く撃ってみては?あ、Mじゃないです。

ではどうぞ。


「んー、無いねぇ……」

「ここじゃないのかも。――いや、あそこ見た?」

「ほえ?あ、見てないかも。見てくるー」

なんてのほほんとしたやり取りしてるけど、実はかれこれ3時間経っていたらしい。わお。

「えー、っと……あっ、マッピングしてない!フィリアー、こっちまだ見てなーい!」

「ほんと!?今行くー!」

……と、言うか。この遺跡、広過ぎやしないだろうか。まずそこそこ高さはあったが、大体3〜4階ぐらいかと思っていた。しかし予想を大きく上回り、下手したら倍の8階ぐらいありそうな規模だった。天井が低いってのもあるんだろうけど。

「狭い……そしてあっつい……」

「そうだね……どうにかならないかなぁ……」

あ、そっか。上脱げば良いんだ。長袖だし、革装備だけど耐寒ボーナスあるし。余計暑いじゃん。

「……ふー、かなり違う……」

「いいなぁ……私もうそんなに脱げる装備無いし」

因みに、普通に武装解除しているのには理由がある。

この遺跡、トラップはあれどモンスターは湧かないのだ。それこそレイスとか湧いてても不思議じゃないけど、何故か湧いていない。かなり謎だが、今はそれに感謝しなくてはならない。何故なら……ここ、窓が無い。

なので、明かりはランタンしか無いのである。雰囲気作りとしては申し分無いが、腕が疲れる。

「うぅ~~っ、休憩……」

「あはは……まあ、しゃがんでる時も前に突き出してたからね……ゆっくり休んで」

「ん、そうする」

コトッ、と音を立ててランタンを置き、やや広いスペースでもたれ掛かる。一気に睡魔が襲ってくるが、今はまだ(朝の)10時、今はまだ10時と脳内で繰り返して強引に起きる。話を持ち出した手前、先にリタイアするのも悪い気がするのだ。

「はふ……うわっ!?」

「ケントっ!?」

どう考えても洋風の遺跡なのに、壁にどんでん返しの仕掛けがあったと誰が気付けるだろうか。いや無理だ。

「い、たた……、眩しい……外?じゃないよね……あ、これ……!」

「ケント!?ケントー!?」

「大丈夫ーこっちは無事ー!それよりこっち来てー!」

「ええっ!?……きゃあっ!」

「おわっ!」

「いたた……大丈夫?」

まさか突撃(?)してくるとは思わなかった。……というかこの体勢、えっと……

「フ、フィリア……あの、この体勢恥ずかしいから……」

「えっ?」

今フィリアは、僕の上に覆い被さって――と言うか跨っている状態。先に気付いてしまった僕は赤面している為、傍から見たら(見る人は居ないだろうが)それは――

「~~~~~~~~~っ!」

顔が真っ赤、どころか湯気すら立ちそうな勢いだが、残念ながら―あるいは嬉しい事に―スペースが無い為、フィリアが動く事は出来ない状態になっている。

恥ずかしさを押し殺しながら、少しずつ明るい方に向かい、なんとか抜け出せた。

「ふぃー、なんとか出られた……それと、あの明かり……は……」

フィリアが来ない。その場にへたり込んで、真っ赤な顔に手を当てているが……いくら何でも、抜け出した時点で恥ずかしさが消えた僕がおかしいのだろうか。おかしいか。

「フィーリアっ。あそこ、見える?」

「うう……」

「フィリアー、フィーリーアー?」

「……何?

「あれがお宝じゃないかな?なんかそれっぽい見た目だし」

「えっ!?」

途端に元気になったフィリアに、凄いなーお宝、効果覿面だなーと思いながらも、その足元に糸が張っているのが見えた。これはもしかしなくても――

「フィリア、止まって!」

「えっ……?」

ピン、と音を立てて、糸が切れた。

何がまずいって、2人とも武装解除していたのだ。ウインドウを出すのももどかしく、《クイックチェンジ》で曲刀に持ち替え、まず自分の周辺、続いてフィリアの周辺に居るモンスターの首を一太刀で落とす。実は結構練習が居る。

「っ……!まだ湧くのか……」

その時咄嗟にフィリアの手を引き、奥へと進んだ。何故かは僕にも分からない。

何か無いか、何か―――




薄い。
眠い。
ダブルパンチです。悲しいなぁ……
ではまた次回。


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23:機転の起点

こんにちは、水着邪ンヌが欲しくて3日でバビロニア~ソロモンまで終わらせたユキノスです。スピードを手に入れる代償として、大量の聖晶石と令呪が犠牲になりました(白目)。

さて前回は、モンスターから逃げた所で終わりました。今回はどう終わるんでしょうか?(謎)
ではどうぞ。


「あー、うー……何も無い!畜生!」

「わ、ちょっと落ち着いて……」

「舌噛むからあんま喋んない方が良い!今は兎に角逃げ――えっ、待って多くない!?10体以上居るんだけど!?」

ただ今絶賛逃走中。いやこれ何が恐ろしいって、今もモンスター増えてるんだよね。そうでなくても、トラップもガン無視。止まったら間違いなく戦闘、でも道は狭い。そう言えば昔、ロボットアニメの団長が「止まるんじゃねぇぞ……」と遺していたのを思い出した。死に様をネタにしないでやって。

「――いやいや、そうじゃなくて……っと!?」

かちっ、という音が足元から聞こえた。もしかしなくても――

「トラップ!ってあれ、壁が開いて……」

「じゃあ、あそこで……!」

「お礼参りといこうか!」

「うん!」

現実世界でこんな事したら絶対に酸欠で倒れるレベルの距離を全速力で走ったが、流石にアグロ化が解かれる訳ではなかったらしい。スケルトンやらゾンビやらが、ワラワラと集まってきた。

「うわ……あれって、皆……」

「大方、海賊の宝を取りに来た元人間……って所じゃないかな?」

「死霊かぁ……なんか抵抗あるなぁ」

「触れるだけマシだと思うよー……」

「……うん、そうだね」

「CUCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「あ゛ーっ、うるさいっ!」

デバフ付きの咆哮だろうけど、そんなもんお構い無しに突貫する。……だって、なんか知らないけどデバフ来ないんだもん……

「セリャアッ!」

シュカーン!と気持ちいい音を立てて、スケルトンの首を跳ね飛ばすフィリアと、ひたすらにゾンビを惨殺していく僕。傍から見たらバーサークなのだろうが、こっちとしては大真面目にやっているので、どうか分かってほしい。のほほんとした雰囲気だったので忘れている人も多いだろうが、これはデスゲームなのだ。落下だろうと毒だろうとPKだろうと、死んだら終わり。

「そこを……どけぇっ!」

曲刀から刀に持ち替え、モンスターの弱点部位―プレイヤーで言う首や心臓、アストラル系だとコアだ―を薙ぎ払う。中々に神経を使う妙技だが、慣れてしまえばどうって事はない。

 

 

30分後……

 

「CUCYAAAAAAAA……」

最後の1匹が消滅し、ぺたんと膝をついてしまう。……何故か出来てしまう女の子座り。関節に少し異常があるとか何とか。まあ、ずっと座りっぱなしでPC弄ってたら異常くらいあって当然か。

「はぁー……終わったぁ……」

「お疲れ様~……」

ずっと気張っていたので少しクラッときたが、ここで倒れる訳にはいかないと持ち堪える。でも仰向けに寝転びはしとこう……という事で、ごろーん。

「……んん?」

「どうしたの?」

「いや……一瞬、1箇所がボヤけた様な……」

「ええ……?何も無――~~~~~~っ」

ガツッという、何とも痛そうな音と共に崩れ落ちるフィリア。……あ、これ絶対角入ったな……。

「何かある!そして痛い!」

「大丈夫~?痛いの痛いの飛んでけー」

実は効果があるらしいこの言葉。SAOで効果があるかは謎。確かシステム的に無かった気がする。

「ふーむ……あっ、これ宝箱だ!」

「ほんと!?」

事実だ。《索敵》で調べた所、普通に看破されて宝箱が現れたのだから。……どういう原理?

「ふーーーむ……」

「おったかっらおったかっらなーにっかなー♪」

考えている間に、トラップ解除~鍵開けまで終わらせてしまったフィリアに感服しつつも、中身は気になる為除き見。

「……え゛っ」

「うわぁ……」

中身はなんと、大量の胡椒(に似た香料)だった。……何故に?

「なんで胡椒ー?お宝じゃ……」

「あ、そうか……ははっ、大事な事忘れてた」

「……?」

「昔、()()()()()()()()()()()()()()()。だからこれを隠した海賊も、胡椒を《貴重なお宝》として隠したんだ」

「そっかー……残念」

過程が過程だっただけに、しゅんと肩を落としてしまったフィリア。本当に残念だったのだろう、髪型も少し垂れている(気がした)。

「……まあ、また次のお宝を探しに行こうよ。勿論、その時は手伝うからさ」

「……うんっ」

尋常ではない無理をしていた上、味方もほとんど居なかったフィリア。お宝を渇望していたのはそのせいなのか……?と考えたが、これ以上聞いたらそれこそ何が起きるか分からないのでやめた。それに、トレジャーハンターを始めたのが序盤だったら笑えないし。

 

「――とりあえず明日から攻略だね」

「うん、頑張ろう」

互いに手と手を取り合って立ち上がり、せめて明るくならないかと、僕が知っている数少ない歌を口ずさみながら《管理区》へ帰った。

 

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「おいオメーら、やけに時間掛かったじゃねえか」

「いやー、思ったよりタフだったんぐほっ……」

PoHは苛立っていた。迷い込んで、オレンジになった少女は引き抜けない。因縁の黒い少年も殺せない。黒の剣士と閃光も殺せない。

――全てが、PoHに刃向かっているかの様に。

歯軋りをした奥で、深淵の様な瞳がキラリと光った。

「何が何でも殺してやるぜぇ……待ってやがれ……」

闇夜にポンチョが(なび)いていた。




PoHの旦那はご立腹。いやーほならね?自分で殺ってみろって話でしょ?私はそう言いたい。アッアッアッ


という訳で、入り江の宝探し編でした。次回から通常の攻略に戻ります。早くアインクラッドの日常が書きたい……
ではまた次回。


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24:水位の推移

こんにちは、宿題なんざ知らねえぜ状態を貫い(てしまっ)たユキノスです。
皆さんはちゃんと宿題やりましょうね?

さて今回は、ようやく来ましたグレスリーフ攻略。長かった。
ではどうぞ。


《ホロウ・エリア》における3つ目のエリア、《グレスリーフの入り江》。ここはその名の通り入り江で、灯台があれば建物もある、言ってしまえば海岸エリアだ。一昨日は水遊びで沢山遊び、昨日は宝探しをしたので物凄く疲れてはいるのだが、《圏内》に入れる僕と違って、フィリアは《圏内》には入れない。カーソルがオレンジだからだ。

一応入る事自体は無理ではないのだが、その際は鬼のように強く設定されているNPCガーディアンが数人襲いかかってくるため、正直言わなくても僕とフォリアではキツい。こちらのHPゲージが3本もあれば全員倒せるが、1本で1体倒せれば御の字というのはキツいにも程がある。

話を戻そう。僕とフィリアは今、大灯台へ向かっていた。マップを見る限り、大灯台に向かうルートは1つだけ。しかし、どう見積もっても水位が高くて通れない。

「うーん……こりゃ困ったぞー?」

「どこかで、水位を下げないといけないのかな……」

「そーだねー……」

マップを開き、大量のホロウミッションを1つ1つ漁っていく。一見詰みに見えても、大体こういうのにヒントやキーアイテムが隠されてたりするのだ。

「……ん?」

「うわぁ!?けっ、けけけケント!モンスターモンスター!」

「えっちょ……もー、タイミング悪い!」

エイ型のモンスターが数体こちらに気付いた様で、奇声を発しながら襲いかかってきた。

「だぁぁぁりゃっしゃあああああ!」

「お、おじさんみたいだよ……」

「こちとら尻尾掴んだと思ったら速攻で逃げられてんだぁぁ!」

後にフィリアが話していたが、この時の僕は会ってから一番怖い顔をしていたらしい。でも、その後更新したとか何とか。

 

 

 

「……全く、また見直しだよ……」

ぶー、と頬を膨らましながらホロウミッションを漁り続け、ようやく件のミッションを見付けた。名前は《水の王者》。ざっくり言うと、《アルファルド》というモンスターが、「うぇーい水位支配してやったぜー」的な事をしてるんだとか何とか。説明雑だって?潜伏(ハイド)しながらだから許して。

(なんで今PoHが居るんだよ畜生……!)

岩陰に隠れてはいるが足跡までは消せないので、足跡がバレたらそれで最後、ジ・エンド。戦って勝利する事で生還も可能だが、殺しは何がなんでもしたくない。……つまり、PoH達がどこかへ行かない限り詰みである。

(あっち行けあっち行けあっち行けあっち行けあっち行けあっち行けあっち行け─────!)

運良く向こうへ行ってくれたのを確認し、岩にズルズルとへたり込む。同時にハイドが解除され、緊張が解けた。

「んむ、んー……」

「あっ、ごめん……」

同時にハイドした時、咄嗟にフィリアの口を塞いだままだった。失敬失敬。

「……ぷはっ、急に隠すからびっくりしたぁ……」

「ごめんね、PoHが居たから……」

「ううん、守ってくれたんだから良いよ」

「そっか……いやいや、フィリアをアインクラッドに戻さなきゃ。そこまでしないと、僕の中では助けた事にならない」

「………うん、そう、だね……」

「……フィリア?」

「あっ、ううん何でもない。……さ、早く水位を下げに行こうよ!」

「あっ、ちょっ……」

今一瞬、フィリアの瞳が悲しそうに揺れたのは、目の錯覚だろうか。……いや、SAOに錯覚は無い。となると、何が悲しいんだ?

「……分からない。感情データをモニタリング出来れば別なんだけど」

「ケーントー、置いてっちゃうよー」

「待ってよー!」

……今は考えている時間は無い。しかし、考えなければいけないのは確実だし、すぐにその時は来るのだろう。




何故書き終えたのに放置してたのか()
ほんとに謎です。マジで謎です。
さて置き、攻略までが長いので、下手したらボス戦どころか階層がいくつかハイライトになるかもしれません。
ではまた次回。


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25:笑う棺桶

こんにちは、ユキノスです。
実はVitaのPSNアカウントでメアド入力をミスりまして、初期化せざるを得ませんでした。わぁキッツい。
しかしながら、逆に言えば一度しか出来ない《ホロウ・エリア》の攻略編を並行してプレイ可能ということになります故、少しは頻度が上がる……かなぁと思うとります。
ではどうぞ。


「あれ、結構弱い……」

「……だね、ちょっと拍子抜けしたかな」

僕がヘイトを稼ぎ、フィリアが遊撃しまくった結果、割と簡単に《アルファルド》を倒してしまった。でもこれで水位が下がり、通れなかった所が通れる様になっている筈だ。

「なーんか物足りないけど……行こっか」

「うん、そうだね」

のほほんとした雰囲気で行こうとしたが、ケラケラという複数の笑い声が聞こえた事により、一気に緊張が走った。

「……!フィリア、あれ……!」

「あれ……って……大人数で、1人を……」

「くそっ!」

「あっ、ケント!」

間に合え、間に合え、間に合え───!

「その手を離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「……チッ」

抜刀と同時に斬り掛かったが──間に合わなかった。攻撃されていたプレイヤーは、青い硝子の欠片となって消えた。

「ターゲットは倒した、ずらかるぞ!」

数人のPKer(殺人者)が走り去って行く中、ただただ悔しかった。もっと早くに気付けていたら。見た瞬間、即座に動いていたら。あのプレイヤーは、助けられたかもしれない。

「っ……!待て、あのプレイヤー……()()()()()()()()()()()()()()……状態異常の重ねがけ……集団で殺すやり方……」

「……どうしたの、ケント……怖い顔してるけど……」

「去り際一瞬だけ見えた、あのタトゥー……フィリア、今日は早めに引き上げよう」

「え……うん、分かった」

このままだと、いつか()()に襲われる。だが、だからと言って同じ《ホロウ・エリア》に居る以上、恐れていても始まらない。

しかし、奴らが──殺人ギルド《ラフィン・コフィン》が、アインクラッド史上最も危険である事には変わりない。

「あいつら……こんな所に隠れてやがったのか……!」

「ケント、……気持ちは分かるけど、落ち着いて」

言われてハッと気付き、一度忘れる事にする。どうやら、思っていた以上に怒っていたらしい。

「……ごめんねフィリア、あいつらは……あのギルドは──」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「そんな……!人を殺すって……この世界だと、ほんとに死んじゃうんでしょ!?」

「うん……でも、あいつらは殺人行為(それ)を楽しんでる。控えめに言って、狂ってるよ……。だからこそ、大規模な討伐隊が作られた。僕もその1人として呼ばれた。でも……どこからか情報が漏れて、待ち伏せされてた。後は血(みど)ろの乱戦さ。我慢出来ずに武器を捨てる人。躊躇無く刃を振り下ろす人。何も出来ず、あたふたしてる人。……皆、攻略組の話だよ。《ラフコフ》は……むしろ、自分の命すらどうでもいいような感じだった。傷を負っても、どれだけHPが減っても、恐怖どころか快楽に感じてるみたいで……怖かっ………」

突然、その時の記憶が全て引っ張り出された。どれだけ死にかけても止まらない、猟奇的な眼をギラつかせて襲いかかってくる奴らの──命を、僕は────

「……ケント?」

「あ……ぅあ……あっ……やだ、来ないで、やめろ、やめろ来るな来るな来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ケントッ!」

嫌だ、思い出したくないと思えば思う程、どんどん溢れてくる。PoH本人から、《ラフコフ》に誘われた事。初めてPKされそうになった事。気配に気付いて、戦わなければならなくなった事。HPが尽きかけ、言い様のない恐怖を味わった事。今までに関わった《ラフコフ》の面々の顔が、次々に浮かんでは笑って消えた。

「やだ……やだ……死にたく、ない……」

宙を掴む。胸を掻き抱く。現実で嘔吐でもしそうなレベルのトラウマが、一挙に押し寄せた。

そして、その手は──フィリアが、そっと掴んでくれた。

「ケント……キミに何があったのか、全部は私には分からない。だけどね……少しずつでいいから教えて?そして……乗り越えて行こう。1つずつ、一緒に」

ああ、僕はやっぱり大馬鹿だ。

助けるなどと宣っておいて、助けられているのだから。《慈悲深い死神》と呼ばれた男の、血に塗れた手を握ってくれているのだから。──近々、彼女もアインクラッドからもリアルからも去るのだろう。僕と関わっているのだから。

でも、今は。今だけは。そんな事、全部どうでもいい。

「お姉ちゃん……助けて……!」

涙が止めどなく溢れた。コードが反応しようと、今は……この暖かさに、全てを委ねていたい。




ケントそこ変わ(殴
という訳で、ケントのアインクラッドでの過去に触れてみたの回でした。お互いに傷を持っているケントとフィリアですが、どう癒していくんでしょうか。
ではまた次回。


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26:大灯台の頂点

こんにちは、雨で水泳の補講が潰れたユキノスです。
それはそうと、並行して進める事で忠実にはなるんですが……大きなデメリットを見つけてしまいました。

なんと……書き終えないと、ストーリーが進められないのです!

これ悲しくないですか!?早くやりたいのに書き終えてないから進めるに進められないって!
という訳でどうぞ。しばらくはこっちの投稿ペースが早まりそうです。


あれから数日後。僕とフィリアは、大灯台の攻略に向かった、のだが。

「あれ、水位が戻ってる……」

「うーん……流石にヒュドラがリポップしたんじゃないかな?数日経ってる訳だし」

「……だね。また倒さにゃならんのかぁ……RTAやってんじゃないんだぞ……」

「あはは……」

ぶつくさ愚痴を言いつつ《水棲竜のねぐら》へ向かう。案の定ボコボコにした後─Implement Element、と言うらしい調査も少しずつ進めている─、再び大灯台へ。すると水位が下がっており、ようやく大灯台へ入る事が出来る。

「おっ、通れる通れる。リポップしないうちに行こう」

「うん!」

《ホロウ・エリア》のマップを見る限り、大灯台は6層構造らしい。出来ればちゃちゃっと行きたい所だけど──

「うわ、強いのばっか……」

「見付かった時は全力で逃げよう……」

「うん、それが良いよ絶対」

その辺のナイトですらカーソルが赤いのだ。囲まれたらどないせーっちゅーねん。

「……うう、1階でこれかぁ……」

先行きがかなり不安だが、重要なものがありそうなのは変わらない。行かねば。

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

「はひー……ずっと緊張してるから疲れる……」

「嫌な汗ばっかり出るよ……今、何階だっけ?」

「5階。次で最上階……あっやばダッシュで逃げよう」

「えっ……!」

カーソルが真っ黒い──それだけでも恐ろしい死神型Mobが一直線にこちらに向かってくるのを見て、即座に階段との距離、大きさを死神に当て嵌める。

「ギリギリ……だけど通れない!……しゃがまれなければ」

「ど、どっちにしても急ごう!」

「そりゃそうさ!」

僕のレベルは今107まで上がったが、それでも真っ黒というのは120とかその辺だ。勝てる訳無かろうて。

「抜け……たっ!」

「どうだ!?」

シーン…………

「……はふぅ……良かった、追ってこない」

「助かったぁぁ………」

ぺたり、と座り込んだが、ここは灯台の最上階。となると灯火があってしかるべきだが、その灯火が無い──という訳ではないのだが、その前にランプを持ってローブを来たMobが居る。ほぼ間違いなくNMだろう。

「……あれ、倒さないと進まなさそうだよね」

「うぅ……もう疲れた……」

「頑張って、これ倒したら休憩しよう?」

「頑張るー……」

よっこいせ、とおじさんっぽい─と、叔父さんに言われた─声と共に立ち上がり、刀を抜く。耐久値は8割近く残っているが、これが終わったらメンテ時だろう。見た所では、フィリアの方も似たような感じだ。

「……よっし、やりますか!」

「うん!」

カーソルは黒い。名前は……《NM Tower Keeper》。まあ要するに灯台守だろう。嘘吐けそんなおぞましい見た目の灯台守居てほしくないわ。

「フッ!」

《辻風》で先制を仕掛ける。これでどれぐらい減るかによっては──

「……へ?」

なんと、単発である《辻風》1発だけで1本の5分の1が削れた。……よっわ!

「意外と大した事なさそう、だっ!」

振り回してくるランプの軌道を逸らし、弾く。

「スイッチ!……ハァァァァッ!」

《アクセル・レイド》の9連発が綺麗に決まった時には、当然ながら硬直も解けている。

「フィリア!スイッチ!」

刀5連撃ソードスキル、《東雲》。もうこれだけで、ゲージが1本削れている。何なら2本目も10分の1が削れた。

「紙耐久にも程がないかこれ……むしろ警戒するレベル」

「うん……気を付けよう」

なんて言ってた割に特別な事は何もせず、そのまま倒してしまった。……あの、道中の方がキツかったんですがそれは。

「……もっかい湧いてくれたら、ここ経験値稼ぎのスポットになりそうだけど」

「だね、それぐらいに沢山貰えた……あっ、何かドロップしたみたいだよ!」

「おっ、何が落ちた?……《岩砕きのマトック》?特攻付きだ、《岩石特攻》……岩石?って事は岩?」

「ゴーレムとか、かなぁ……」

「……いや、あれは確か魔法生物の類だった気がする。……となると………………まいっか、とりあえず持っとこう。使える時が来るかもしれない」

「うん!」

ちょいとググ……れないんだそうだ。となると、まあアルゴ……も駄目じゃん、《ホロウ・エリア》に来れるかすら分からない。そもそも情報源も少ないし。

「とりあえず休も、もう疲れたよ……転移、《ホロウ・エリア 管理区》」

苦笑いするフィリアと共に、管理区へと転移した。……だって、ずっと張り詰めてたんだもん。

 

 

「ふふっ……お疲れ様、ケント」

「うん……お疲れーフィリア……あーそうだ、武器のメンテ行かないと……フィリアの方も、メンテ要るでしょ?」

「あっ、うん……じゃあ、お願い」

「承りました~、それじゃ行ってくるね」

フィリアから武器を受け取り、今度は《アークソフィア》へ転移。名残惜しそうに手を振るフィリアの姿が、胸にチクリときた。




タワーキーパーはほんっとに弱かった。何故にあれのカーソルが赤黒かったのか不思議でならないです()
という訳で、急ぎめに次回書きます。もうゲームの方は大空洞来てるんですよ!進めたい!

ではまた次回。


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27:読み合い

こんにちは、ユキノスです。
今回は補給帰還……と、ゲームでもあったイベントです。流石に《ホロウ・エリア》終わっても76層終わってなかったら遅すぎor早すぎなので、最低でも何層かは進めます。ご了承ください。あと今回(いつもに比べて)めっちゃ長いです。
ではどうぞ。


「………帰ってきたぁ……」

「オッ、お帰りケン坊」

「その声は……アルゴ!来てたのか!」

「ニャハハ、オレっちも来ちゃったゾ」

満面の笑みでVサインする情報屋──アルゴは、76層に登ってから攻略組が戻って来なかった事、それで原因を探りに来た事、もう戻れないと分かったから前に進む事を話してくれた。

「そっか……でも、アルゴが来てくれたのは嬉しいな」

「ホー、オネーサンが恋しくなったのカ?」

「ある意味ではな。頼れる《鼠》が居るだけで、攻略組はグッと安定するだろ」

「トッププレイヤーにそこまで言ってもらえるとは、オネーサン照れちゃうナー」

「だぁからトップじゃないっての……あ、そうだ」

どうせだから、この機会にあの《岩砕きのマトック》──正確にはそれが持つ《岩石特攻》の効果について聞いておく事にした。早速ストレージから500コル硬貨をオブジェクト化し、指先でピンと弾いてアルゴに渡した。

「調べてほしい事があるんだが──」

「ほーう?ケン坊からの依頼は久々だナ。それで、何が聞きたいんダ?」

ストレージから、今度は《岩砕きのマトック》をオブジェクト化した。

「こいつの持ってる《岩石特攻》……これが効くのが、ゴーレムとかのモンスターじゃなくてホントに岩限定なのか。それを調べてほしい。期間は……なる早で」

「アイヨー……と、言いたい所だケド。実はナ、42層の隠しダンジョンに岩のオブジェクトがあったんダ。そいつは打撃武器でも壊せナイ代物だったケド、たまたま《岩石特攻》がついてた短剣(ダガー)で攻撃したラ……」

「壊せた、のか。となるとやっぱり岩限定なのかな……」

「だろうナー、そいつも『ゴーレムには何も変わらなかった』って言ってたシ」

「そっか……」

ゴーレム系に効果が無いのは確定したが、その名の通り岩が砕けるというのは大きい。勿論破壊可能オブジェクトのみだろうが、障害物を壊すという点では大いに活躍することだろう。

「うん、十分だ。ありがとな、また何かあったら教えてくれよ」

「ニャハハ、毎度アリー」

ヒラヒラと手を振り、クエストボードに向かうアルゴに手を振り返し、僕は僕で鍛冶屋に向かう。今は鉱石素材が豊富に残っているが、無くなったらどうしよう。割と笑えない。

「……ッ!」

「ケーンートっ♪」

「おわぁやっぱり!驚かさないでくれよストレア……」

「えーっ、良いじゃん別にー」

むぅ、と頬を膨らますストレアに抱きつかれたまま、商店通りにあるリズの店へ。

「リズー、居るー?」

「リズベットさんなら、先程出て行かれましたよ」

「あ、そうですか……となると、先にエギルの所行ってこようかな」

「私も行くー♪」

「言われなくても着いてくだろうに……まあ良いけど」

これだけ見てると《弟が大好きな姉》の構図だが、性格の点では恐らく真逆だろう。どうしてちぐはぐなのかは置いとくとして、胸が頭に当たって気になるんだけどどうしよ。向こうから触れられた為ハラスメントコードも動かないが、これはこれで問題ありなんじゃなかろうか。

「おお……相変わらず繁盛してんなぁ。っと、大丈夫かい?」

「は、はい。申し訳ありません、ぶつかってしまって……」

「いやいや、俺の方こそごめん。……って、あれ?キリトかアスナは?」

誰かにぶつかったと思ったら、なんとユイだった。いつもはキリトかアスナと一緒に居る─もしくはエギルの店でマスコットをしている─が、今日は居ないのだろうか。と思ったら居たわ。なんかしてるけど。

「パパとママは、ポーカーで遊んでます。優勝商品は、パパの独占権なんですよ」

「そりゃまた凄いのが商品になったもんだ。……でも、商品抜きにしても久々にやってみたいなぁ」

「面白そうだね~、入れてもらおうよ!」

「そうしようか。ユイはどうするんだ?」

「私は見てます。まだルールが理解出来ていないので……」

「そっか。じゃあ俺が優勝したら、ユイに独占権をあげるよ」

「ホントですか!?やったー!」

多分キリトも同じ事を言ったんだろうけど、まあ気にしない。……あ、《ホロウ・エリア》の攻略手伝いに独占権使えば──いや、独占せずともしてくれるか。

「おーいキリトー、俺も混ぜてくれよー」

「アタシもー♪」

「ん、大丈夫だぞ。皆もそれで構わないよな?」

参加していた全員が頷き、椅子を2人分持ってきて座らせてもらう。エギルがディーラーで、テキサス・ホールデムのルールらしい。

 

軽く説明しておくと、場の5枚と手札の2枚で役が決まるルールだ。役の内容は分かると思うので割愛させてもらう。分からなかったらゴメンね。

「それじゃ、改めてルールの確認だ。手持ちのチップを使い切ったら脱落……最終的に一番稼いだ奴が優勝だ。これ以上やりたくなかったらFold、受けて立つ時はCall。掛け金を上乗せしたい時はRaise!と叫ぶんだぞ。──それじゃ、ゲームを始めよう」

「ゲームの中だけどね」

「そいつは言わない約束だぜ」

 

―*―*―*―*―*―*―*

 

手札は……うん、Aとキングのツーペア。ツーペアとしては強過ぎるレベルだけど、所詮はツーペア。スリーカードなんて来たら即負ける。僕はちびちび賭けるタイプだけど、だからこそ負けは痛いのだ。

「うーん……辞めとくか、レイズ」

「俺もだ、レイズ」

「うーん、手札は十分……えーい、オールイン!これで負けたら脱落なんだから、なんとかなってよー!」

「コール!」

「コールぅ!?」

「Show down。手札を見せてくれ」

「……ストレート!?」

「あはは、残念でした♪キングのスリーカードも強いんだけどね。勝ちを確信しちゃダメだよ、何事も失敗の可能性はあるでしょ?」

「く、くやしー!」

リズ脱落。敗因はオールイン。いやまあ、誰もストレートなんて来ると思わないだろう。

その後、シリカも脱落。少ししょんぼりしていたが、楽しめたので良かったそう。

リーファはと言うと、キリトに自信無い時の癖を見抜かれて脱落。兄妹って凄いね。

 

 

「ふっふっふ……来たぜ来たぜ、オレの所にも運が巡ってきたぜ!勝負だキリト、オールイン!」

「チップを全賭けか。……本当に良いのか?」

「ああ良いとも。俺の手札は最強だ、キリトに勝ち目はねぇぞ。降りるなら今のうちだぜ!?」

「分かった、レイズだ」

「俺はオールイン」

「なんで降りねぇんだよー!」

「……Show down」

「……おいクライン、ブラフにしても4のワンペアで全賭けとはよくやったな?」

「あ、良かった……」

2のスリーカードだった為、ブラフじゃなかったらホントに危なかった。キリトは2と7のツーペア。

「ひゅう、嫌な汗掻いた……ゴメンなクライン」

「…………くっそーーーー!また美味しい所を全部キリトに持ってかれるのかよぉー!!」

「持ってかれたくないならもう少し頭を使えって……」

あの、僕の事完全にスルーされてるんですが。今明らかに僕のチップ一番多いのに。

「なんかもう寝ててもバレない気がしてきたなぁ……」

「きゅるぅ♪」

「わっ、えーと……ピナ。どうした?お前の好きなナッツは持ってないぞ?」

「きゅー!」

「わっ、擽ったいから、ちょ……あはははっ」

「こらピナ!……すいません、ピナがご迷惑をお掛けして……」

「ああ、大丈夫大丈夫……え、僕の番?えー……どうしよ、ベット」

「うーん、うーん……勝負よ、オールイン!」

「俺は……少しだけベットしようかな」

「アタシはレイズー」

「私も。この勝負は勝てる気がしないわ」

「Show down。手札を見せてくれ」

……いやまあ、勝てるの確定したんですが。あのさ、ストレートフラッシュ以上って無いよね?ロイヤルストレートフラッシュはこの場だと出ないし。

「はい、俺の勝ち。乗ってくるとは思わなかったなぁ」

「……うぅ、勝ちたかったなぁ……」

「ケント、お前何考えてるのか分からせないの得意だろ」

「まさか、俺にそんな能力無いよ」

一応ホントに無い。でも強いて言うなら、()()()()()()()()()()からだろうか。……言わないどこ。

「えーと、後は……ストレアとシノンと、キリトと俺か。あーそうだ、リズー!後で武器の研磨頼むー!」

「今言うのそれー!」

「店に居なかったからだよー!」

「あーゴメーン!」

「……さて、始めよ始めよ」

「お、おう……カードを配るぞ。これで最後だ」

配られたカードを見てみると、まさかのノーペア。笑うわこんなん。

「コール」

キリトは手札が強いのだろうか。ゲーマーとの勝負というのは、これを悟らせない人が多いから面白い。

だからこそ、不安を煽ってみる。

「オールイン」

「なっ……」

「え……!?」

僕が今持っているチップは、ちびちび儲けた分と、クラインとシリカのをごっそり持っていった分があるので物凄い量になっている。それをオールイン。僕でもされたら驚く。

「……コール」

「アタシもコール!」

「私もコール」

「Show down」

「じゃーん!キングのスリーカードだよ♪」

「Jと2のフルハウスだ。……危なかったな」

「フルハウス~~!?そんな強い手札が、最後の手札に来るのぉ!?」

「……で、ケントは」

「ん?ノーペア」

「は?」

「だから、ノーペア。ブラフだよ」

「恐ろしいブラフ掛けたな……シノンはどうなんだ?」

「…………」

「…………残念だけど、私の負けよ」

「えっ……」

「凄いです!パパの優勝です!」

……でも、景品にさせられてたキリトが優勝ってどうなるんだろ。自由?

同じ事を皆も思った様で、それについてはユイを独り占めという事で話が纏まった。……それはともかくとして。

「シノン、1つだけ良いかな。……あの勝負、ホントに負けてた?」

「……じゃあ、勝ってたら私がキリトを独占する事になるわね」

「俺の事じゃないからまあまだマシだけど……片付けの時、フォーカードだった気がしてさ。気のせいだったみたいだ、それじゃ」

「……分かってるんじゃない」

店から出る直前、シノンは何かを言いかけた様だったが聞き取れなかった。

 

 

研磨が遅れた為、翌日の朝に帰る旨のメッセージをフィリアに送信。エギルの店の2階にある宿屋の一室を貸してもらい、久々のベッドの感触に感動していた──が、すぐに目が醒めた。

「……そうだよ。フィリアが辛い所で待ってるのに、僕だけがなんで楽するんだよ……!」

《朧月夜》は預けている為曲刀を装備し、77層のフィールドへ向かう。深夜な上に疲れもあるが、ただ寝ているよりマシだろう。

「転移。……トリベリア」

この世界に月は無い。無くはないが、外周部に行かないと見えない。光は少ない。都合が良い。

「おぉぉぉああああ─────ッ!」

既に攻略されていようと、少しでも強くならなければいけない。そうでないと、誰も助けられない。

闇夜の中、僕は狂ったように敵を惨殺していた。




イベント丸々ってかなり長いんですね(今更)。
いやでもマジで早く進めたい……!
という訳で(どういう訳だ)、ではまた次回。


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28:ずがーん、ばこーん、どーん!

明けましておめでとうございます(白目)、ユキノスです。まためっちゃ遅れました申し訳ねぇ。

という訳で、今回は攻略です。岩砕きましょ。
ではどうぞ。


「──そぉいっ!」

 

オブジェクトの岩がガラス音を放つのはどうにも慣れないけど、意外と爽快感はある。 と言っても遊んでる訳じゃないよ?ちゃんと攻略中だよ?

 

と言うのも、実は攻略中、ダンジョン内に破壊可能な岩を見つけたのだ。 カーソルを合わせられ、なんとHPの概念がある事が判明したが、斬っても突いても減らない。 じゃあどうするか、と思った矢先、《岩砕きのマトック》の存在を思い出したのだ。 てけてん。

 

「ふぅー……だいぶ奥まで進んだねぇ」

 

マッピングはしてるけど、そこそこ入り組んでたりするのでちょっと帰るのが面倒。 転移結晶も安くないしね。

 

「ふふっ、そうだね……ちょっと休憩する?」

「ん、そうしよっか」

 

時刻は昼過ぎ。 昼食は食べたけど、流石にハンマーを振ってばかりだと疲れてくる。 そう思うと、リズって相当凄い事してるんだなって。 ……なんて、今更だけどね。

 

それはそうと、岩に腰掛けて無言のままだと(精神的に)休憩と言うか微妙なので、明るい話でもしないといよいよ参ってしまう。 ……というか、ここ最近寝てないから余計にそう考えてしまうんだろうけど。

 

「ねぇフィリア」

「ん、どうしたの?」

「フィリアはさ、《ホロウ・エリア》から出られたら何したい?」

「私は───アインクラッドで、何か食べたいかな。 《 ここ(ホロウ・エリア) 》だと、主街区みたいな所が無いから……」

「……フィリア?」

 

気のせい、だと良いんだけど……。 彼女の顔に、どこか暗い影が落ちたような気がした。 説明出来る言葉は無いけど、何か、深い深い闇のような……

 

「っ、ううんなんでもない。 なんでも、ないから……早く行こ、日が暮れちゃうよ」

「えっちょ、まだ30分しか休んでな……あー待ってそっち壊せる岩あるからー! マトック無いと壊せないよー!」

 

今はまだ詳細も掴めない黒い影が、何故か僕に向けて笑っている気がした。 その寒気がする嫌な感じは、PoHに向けられたものと酷似していた。

 

ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

 

「せいっ!」

 

相変わらず変わらない硝子音と共に消えた岩の跡を進むと、レールとトロッコが置いてあった。 どちらも破壊不能オブジェクトらしく、押してもうんともすんとも言わない。

 

「んー……ここは、廃坑ってとこかな」

「みたいだね……うわ、あちこちに水晶があるよ。 換金出来たらいくらになるんだろ」

 

即物的だって? ……いいじゃん、別に。 コルは有り余ってるけど、あって困らないことは無いから。 《はじまりの街》で配ったりね。 ……あ、もうそれ出来ないじゃん。 アルゴもこっち来ちゃったし、信頼出来る知り合い皆下層に居ないし。

 

という事で、まあ奥に進んでみた訳ですよ。 そしたらですね。 部屋のド真ん中に宝箱があった。 怪し過ぎる。

 

「……なんじゃあの分かりやすく罠っぽい宝箱は」

「あ、あははは……とりあえず、トラップだったら解除するね」

 

指をわきわきと動かして宝箱に手をかけるフィリアの後ろで、すぐに抜刀出来るように─モンスターだった場合が怖いから、というのは分かってくれると思う─していたけど、トラップもへったくれも無いぐらいにすんなり開いた。 そこはトラップじゃないのかよ。

 

「そこはトラップじゃないのかよ」

 

口に出てた。 いやでもさぁ、こういうのって大体ドッキリじゃない? 僕の思い込み?

 

「ふふっ、そう思った? ……そうそう、ほらっ。 こんな鍵が入ってたよ」

「………錆びが凄いなぁ、使えるのこれ?」

「ふっふーん。 私の手に掛かれば、そんなのわけないよ!」

 

凄い、探索する上でフィリアめちゃくちゃ頼りになる。 しかもある程度ならソロでも十分戦えるとかホントに凄い。 狂ったように戦闘ばっかしてた僕とは大違い。

……自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「……でもこれ、どの辺で使うんだろ?」

「あー……確か、砦の2階に扉があった気がする。 そこじゃないかな?」

「うん、じゃあ次はそこだね」

 

えいえいおー、なんて言った後で少し子供扱いされてる気がした。 まあ子供だし、《ラボ》の人で慣れてるからいいや。




このペースだと、恐らくですが次回の次回辺りでボス戦ですかね?
多分守られないんだろうなぁ……遅くなるんだろうなぁ……と思ったそこの貴方!多分その予想当たります()

ではまた次回。


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29:目指す先は

畜生!やっぱり遅くなった!俺はいつもそうだ。


「ねぇフィリアー」

「うん?」

「いつから天井歩けるようになったのー?」

「えっと………ケントが逆さ吊りになってるだけ、じゃないかな」

「だぁよねぇー、無理に繕わなくていいよー」

 

どうしてこうなった。 答えは簡単、僕が先走ったから。 自己解決はいいから、早く抜け出さないとだよね。

 

「ふぬっ……。ふぎぎぎ……。ぐぬぬぬぬ……ていっ! 切れ……だっ!」

「だ、大丈夫……?」

「あうぅ、星が見えるぅ……」

 

逆さ吊りから落っこちたら、体を床に打ち付けた。 よく良く考えれば当然だよね、ダメージ的にも痛い。 ペイン・アブソーバがあって良かった……。

なんて思いながら、頭を振って立ち上がる。 少しだけ立ちくらみはあるけど、それはただの寝不足。 気にすることは無い。

 

「いよっと。 ごめんね、先走っちゃって……」

「ううん、私もレアアイテム見付けたら先走ることあるから……」

「いやいやそんな……………やっぱやめとこ、これじゃ無限ループだ」

「言われてみれば、確かにね。 お互い、傷舐め合ってるだけ……」

 

ぽつりと悲しげに呟いて、すぐにハッとして訂正されたけど、割と間違った事は言ってない気がする。

《ホロウ・エリア》に1ヶ月近く閉じ込められているフィリアと、攻略組から疎まれている僕。 なるほど、確かに(精神的に)ボロボロだ。 傷の舐め合いだってしてるだろう。 だが、だからと言って不快かと言われればそうじゃない。 こう、もっと違う……なんというか……

 

「あっ、2層の階段が見えてきたよ!」

「おっほんとだ……んん? ……待って、あの階段違う。 確かあっち、宝箱しか無かった筈だよ。 えっと、確か……なんだっけ」

「えーっと……あ、思い出した。片手剣があった場所だね」

「あーそうだそうだ、そこ。 だから僕らが目指すのはー……あっち!」

 

ビシッと指さしたは良いものの、その先にはコボルドが居て、「何か用?」と言いたげに首を傾げていた。 と言うかアクティブモンスターじゃなかったのかお前。

 

「ふふふっ……コボルドを目指す、ね」

「だぁぁもう、そんなんじゃないってぇ」

「分かってる分かってる、行こっ」

「むぅ……それはそうとさ、階段付近のアクティブモンスター多くない? なんでぐるっと囲まれる程度に居るの?」

「あはは……明らかにおかしいよね、この配置」

「……しゃーない、いっちょやりますか。最短距離で、抜けるよ」

「うんっ!」

 

互いに得物を抜き、まずは近くに居るリザードマンの盾を思いっきり叩きつける。作用反作用の法則で、どっちも跳ね返されてしまう。

ここまでは想定済みだ。あとは──

 

「スイッチ! ──ハァッ!」

「ナイス連携! この調子で行こう!」

 

体勢を崩したリザードマンの皮膚に、斬撃を叩き込んでやればいい。ゲームにおけるトカゲ類は、斬属性が弱点な場合が多いよね。

それはそうと、今のでかなり削れた。群れが状況の変化に順応するまで、あと数秒といった所か。

 

「ッ……!」

「ギュイィ─────」

「……ふぅ。危なかったぁ」

 

ノックバックの、手がジーンとする衝撃から抜け出し、硬直が解けた瞬間に放った《辻風》だが、ギリギリ首を捉えてくれたようだ。クリティカルヒットとなったそれは、半減していたリザードマンのHPを消し飛ばした。

獲得コルとドロップアイテムのウィンドウを消去し、次の標的に狙いを定める。健全な男子たるもの、ここで少しカッコつけたいが、今は1人じゃないので自粛。見られたら黒歴史確定だもんね。

 

「さぁて、長丁場になりそうだけど、っと! どんくらいで逃げる?」

「うーん……どのくらい、って言われても……。スイッチ!」

「はいはーい今行くよー──うげっ」

 

突進しながら体当たりとかいう刀使い失格クラスなスイッチだけど、でも意外とヘイトは持って行けるから馬鹿に出来ない。体術スキルってほんと便利だね。

で、これ当たり所によってはめっちゃ痛いんだよね。例えば、剣の先とか。

 

「い゙っ……たいなぁもう!」

「……いや、それ自爆じゃ……」

「気にし……ないっ!」

 

貫通継続ダメがどれぐらいかと思ったら、3割減ってた。案外多いなぁ、嫌な汗かいた。

 

POT(これ)飲んで、走るよ!」

「えっちょむぐっ、飲みながら走れないって!」

「ごめーん!」

 

群れを置き去りにして、兎に角走る。階段で何匹か蹴落としたけど、流石に学習したのか足を掴まれた時はヒヤッとした。即振りほどけて良かったよ……。

 

「はひぃ、キツい……」

「ふぅ……。ところで、ケント?」

「はいはい、何でしょ?」

「ケントって、私よりAGI(アジ)高かった筈だよね?」

「あー、多分。フィリアのがいくつか分かんないから、何とも言えないけどね。……んくっ、んっ、んっ……」

 

AGI云々は確か、セルベンディスの神殿辺りで実証されていた気がする。……多分。

つい1ヶ月前の事なのに、もう遠く昔の事に思えるのは、恐らく沢山の事を連続でこなしてきたからだろう。

 

「……ぷはぁーっ、やっぱそんなに美味しくない。味覚エンジンとかもうちょっとどうにかならなかったのかなぁ……」

「うん……えと、さっきからちょっと気になってた事、良い?」

 

首を傾げつつも頷くと、フィリアは重厚な扉をぺちんと叩いた。何をしているのか分からず、更に首を傾げると、少し膨れ顔でぽかぽか叩いてきた。

 

「いたったったっ、痛い痛いよー……」

「もうっ、この扉! これ、ボス部屋のじゃないの?」

「……へっ!? え、だってここ来てから数日しか……」

「1週間と4日は経ってるよ。ケントは、アインクラッドのマッピングとかしてたかもだけど……」

「……そっか、フィリアは……」

 

ずっと《ホロウ・エリア》に居たんだ。の言葉を飲み込み、頬を叩く。ぺちんとやや情けない音だが、目を覚ますにはこれくらいで十分だろう。……肉体的な痛覚は一切無いから、何とも言えないけど。

 

「それじゃ、行こっ」

「……うん!」

「「……せーの、っ……!」」

 

ゆっくりと、確実に石扉を開けると、中には巨大な玉座があった。硬そうだから登って遊ぶ気にもなれないけど、その前にボスを倒さないと、でも一体どこに……

なぁんて思ってると、意外な所から出てきた時に反応しづらいんだよね。

 

「グルルァァァ!」

「は? ……裏ぁ!? おいおい嘘だろ、そんなスペース……で……」

「収まり、きるね……っ、来るよ!」

 

なんで。なんでお前が、ここに居る。名前が違うから、別のモンスターなのは分かる。しかし、その見てくれはそっくりだった。

 

 

()()、《 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




色々用事が重なってコメント出来る余裕があまり無い為、後書きはこれで終わりとさせていただきます。

ではまた次回。


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30:乗り越えろ!

毎度の事ながらお久しぶりです、ユキノスです。
マルチでレベル上げした方がめっちゃ早いことに今更気づいてしまった……。

さておき、今回遂に入り江編完結!……に、なるのかな?
流石にプロット用意しないと、って言うのも何度目でしょうねぇ……。


グレスリーフの入り江、エリアボス。どんな奴なのかな、やっぱり海関係のボスなのかな、と少しだけ楽しみにしていたが、玉座の前に立ち、ボスが出現した時、その楽しみは粉々に打ち砕かれた。

……『Detonator The Cobalt Lord(雷管のコボルト王)』。それが、このエリアのボスの名前と種族だった。

 

 

僕にとって、コボルトというのはこのゲームで最&高に嫌いなモンスターに位置する。1層からわんさか出現し、沼に武器を落とされたり、後ろからぶん殴られたり、落とし穴にハメられたりとロクな思い出が無いのもそうだが、個人的に犬が苦手なのもあるかもしれない。

いや、それ以前に《ホロウ・エリア》に来た時の『Hollow Cobalt Lord(あいつ)』が1番の原因だろうか。

 

──大丈夫、落ち着け。あの時とは違う。隣に居るのは、《ホロウ》なんかじゃない!

 

パチンと頬を叩いて、深呼吸。目を閉じ、抜刀。隣で同じ音がしたのを確認し、玉座に座ったいけ好かないコボルト(野郎)を引きずり下ろす!

 

「……フィリアは後ろからお願い。斧は僕が止める」

「でも……」

「大丈夫、斧持ちには慣れてるんだ。それじゃ──」

「待って。条件、2つだけ。……ある程度したら、交代(スイッチ)すること。体力が少なくなってきたら、必ず離脱すること」

「……分かった。じゃあ、行こう!」

「了解!」

 

同時に走り出した僕らを見て、コボルト王がニヤリと笑った。続いて、たった2人で何が出来ると言わんばかりに吼えた。……絶対に泣かせてやる!

まさか感情に呼応した訳では無かろうが、腰だめに構えた愛刀を包むライトエフェクトがいつもより強い気がした。

 

「ぜぇあああああっ!」

「フン!」

「ぐっ……っうう!」

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

《辻風》は盾で弾かれたが、後ろから繰り出された《フィニット》は通った。3段あるHPゲージが僅かに減り、内心ガッツポーズ。辛くも着地し、フィリアに行っている筈のターゲットを引き剥がすべくピックを投げる。一直線に飛んでいったそれは、コボルト王の右目に刺さり、赤いライトエフェクトを散らした。

 

「グォオオアアアア!」

「ハッ、ボサっとしてっからだ! 悔しかったら俺を倒すんだな!」

「……グルルルル」

「ちょ、煽り過ぎじゃ……?」

「こんぐらいでちょうど良いんだよ、こいつら総じて馬鹿だからさ!」

「なんか性格変わってない!?」

 

え、そう? と首を傾げた横で、緑の光が輝いた。振り向いて見ると、コボルト王が下品な笑みを浮かべて斧を振り上げているのが見えて、慌てて指示を出す。

 

「垂直振り下ろし、正面に立たないで! 空振らせたらソードスキル!」

「り、了解!」

「同時に行くぞ! 3、2、1、今!」

 

ズガァン!と地を揺らした音は、なるほど雷のようだ。でもそれがどうした、こちとら刀を持った死神だ!

驚愕で顔が歪むコボルト王に、ざまーみろ! と言わんばかりに舌を出す。ギリギリと牙を剥き、睨みつけてくるその顔へ向かって、斧を足場にして──跳ぶ!

 

「天っ…………誅────!」

「ハアッ!」

 

コボルト王の顔と腰で派手に光るライトエフェクトを後目に、ブーツの底で火花を散らして停止。向こうも硬直は解かれている筈なので、反撃に備えて構え直す。

HPゲージは……1段目の85パーセントくらいか。他のボスではこうならないのに、何故かコボルト系統だと妙にこう思ってしまう。

 

全然削れない。

 

勿論、フルレイド(48人)と2人で比べているのだからいつもより削れている方ではある。あるのだが、何故かそんな気がしない。感覚的なアレだろうか?いや、待て。僕は今……()()()()()? 何故? 何に?

いや、違和感がある。でもどこに? そんな刹那の疑問を、怒りに満ちた唸り声が掻き消した。

片手斧を肩に担ぎ、腰を低くし、体を捻る──この動作から、予測出来る動きは? ──決まってる!

 

「ウゥグルルルル……!」

「右から横薙ぎ、右後方退避! 追撃来るかもしれないから避けても迂闊に寄らないで!」

「了解!」

「ヌガァーーーッ!」

 

またも避けられて頭に血が昇っているらしく、顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。……いや、顔赤くしてるのか? 元から赤いから分かんないなぁ。

 

いやそんな事はいい。追撃は来ない。技後硬直で動かない。ならやるべき事は1つ。

 

「ゴー! SS(ソードスキル)撃ったらちょっと退いて!」

「了解! ──ハアアァァァアッ!」

「……っと、オォォォォリャア!」

 

ちょうどそこにあった柱を駆け登り、上から首目掛けて《辻風》を放つ。コボルド王を挟んで反対側でもソードスキルの輝きが見え、その連撃回数を見て衝撃が走った。

 

──9回だって!?

「ケント、ノックバック切れるよ!」

「……あ、ああ! 悪い! 硬直解けるまでタゲ貰う!」

「ありがと、頼んだよ……ッ!」

「ッ………ラァ!」

 

《辻風》は単発技なので、硬直はかなり短い。それを活かせば、9連撃の硬直ぐらいは余裕で耐えられる。

 

「《ヘイトチェンジ》……こっち来いよ、クソ犬」

「ウゥグルルル…………グラァッ!」

「ぜぇあああ───」

 

咆哮は、長くは続かなかった。横から、鈍器で殴られた衝撃が来たから。前からではない。横から。

──護衛か!

気付いた所で、ようやく合点がいった。最初のアイツ(デトネイター)は、護衛が居なかったのだ。コボルド系のボスが必ず連れている護衛を。僕は、それに焦っていたのだ───

 

「あぐっ、がっ、ぐぅ……! ンの、やろ、っ……!」

「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ……」

「ケント! 下がって回復して!」

「まだやれ……!?」

「スタンだよ! あと体力も、2割減ってる!」

「っああ、クソッ……マジかよ……」

 

立てた膝がガクンと落ち、頭がチカチカして目の前が霞む。無様に倒れ伏している間、護衛兵たちがドカドカ と殴ってくる為、容赦なくHPが減っていき、イエローに落ちた。途端、冷たい恐怖に腕を掴まれた気がして、回らない舌で喘いだ。その声に快楽でも覚えたのか、より一層攻撃は苛烈になり───護衛兵が、一瞬にして消滅した。

 

「っはぁ、はぁ……」

「え、あ、あ……」

「《ヒール》。……無事?」

「……あり、がと……」

「ううん、私こそ……ほんとに、良かった……」

 

フィリアの防具にも、柔肌にも、いくつか切り傷が付いているのを見ると申し訳なさが溢れ出る思いだが、今はそう言っている場合じゃないと立ち上がる。

 

「……心配かけてごめん。──代わりに、速攻でコイツぶっ飛ばす!」

「うん、その意気! ……行くよ!」

「応!」

 

***

 

「──ラスト1本! こっから刀!」

「避け方は指示して、それまでは……」

「2人とも遊撃、てかそれしか出来ないでしょーが!」

「だよね!」

 

あれからの集中力は凄まじく、2人ともドットダメ以外ほとんど喰らわず、更には護衛兵すら踏み台にして、義経の八艘飛びよろしく大立ち回りを演じた。

その時間、なんと30分。その間ずっと、2人は気を張り、互いのフォローを極限まで減らし、それでいて妨げないように動いた。

 

──だが。そんな均衡も、いつかは崩れる。

 

「わ、っとやべ──」

「ケント前!」

 

不安定な体勢なので、ソードスキルは使えない。横薙ぎにされた刀が前から迫ってくる。──どうする?

それを考え、瞬時に行動に移す事の難しさくらいは知っている。でも、ここは仮想世界。なら、現実で出来ない事くらい出来たって良いじゃない?

……あと強いて言うなら、そうだな……

 

「当たるのを全力で祈る、かなぁっ!」

「えっちょっ……え?」

 

既に回復していた筈の、爛々と光る目に標準を向ける。横から来る刀は、とりあえず無視。そしたら、刀をぶん投げる、以上! 終わり! んで刀避け──

 

「っあ、畜生……!」

「ああもう、ほんとにっ!」

 

ほんのちょっと、爪先辺りがギリギリ掠め、HPゲージががくんと減る。……おいウソだろ、爪先掠めてこれなら直撃だとほぼ即死じゃん。怖っ!

なんて呑気な事を言う間も無く、もう自棄(やけ)だと言わんばかりに、フィリアも短剣をぶん投げた。

互いの獲物が、同じ目標へ向けて投擲されるというのは、実際かなり危ない。邪魔になるとかザラだからね。

 

「当たれ……っ」

「──いや、動く!」

「ウッソだろざけんなちくしょーめぇい!」

「……おじさんみたいな言い方するね」

 

《閃打》。《体術》スキルでは恐らく最速の出だが、果たしてこれで止まってくれるだろうか? ……無理だな。

まあでも何もしないより良いかな、と恐らく今までで1番消極的なグーパンチが当たる直前で、

 

キィィン!

 

という甲高い金属音が聞こえた。間違いなく、刀と短剣がぶつかり合った音だろう。流石にスタンまでは行かなかったが、音爆弾的な効果があったらしく、怯みはした。してくれた。

その数瞬があれば、十分だ。

互いの得物を掴み取る。

 

「これでラスト! 行くよ!」

「勿論!」

 

駆け出す。振りかぶる。

 

「せえぇあああぁぁぁああっ!」

「ハァアアアアアアアアアッ!」

 

ザシュッ、と最後にしては、あまりに短く、呆気ない音を立てたコボルドの身体にヒビが入った。そこから青い光が漏れ、次第にヒビも増えてきて──硝子片となって、砕け散った。

 

「───、終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「お疲れ様、ケント。……ちょっと休んでく?」

「そうするー……」

 

《グレスリーフの入り江》エリアボス、撃破。

戦闘時間、2時間。死傷者、0(まあこれは当たり前か)。

 

「……あと2つだね、頑張ろ」

「勿論。……どうする? 1回補給に帰る?」

「そだねぇ、武器(こいつ)もだいぶ消耗しちゃってるし」

「私としてはケントが一番消耗してると思うんだけど……」

「いやぁ、僕はまだま」

 

だ、の言葉は続かなく、代わりに目の前が真っ暗になった。耳鳴りがする。頭も痛い。身体の感覚も、ふわふわしている。

 

「ケント? ……ケント! ねぇ、ねぇったら!」




入り江編、完っ!
サクサクどころか進行が泥沼化しそうな気もしてますが……まあ、少なくとも《ホロウ・エリア》編はこんな感じで進みます。申し訳ありませんがお付き合い下さい。

ではまた。


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31:《犯罪者》

何十日ぶりの更新だろうか。広げた風呂敷が処理出来ないとこうなります()

さて、前回唐突に倒れたケントですが、今回はどうなんでしょうか。


──暗い。

 

意識が泥の中に沈んでいる。思考も濁っている。

 

1人の男が現れた。こちらを向いて笑っている。

 

その男に触れる。すると男は、恐怖に叫びながら硝子の破片と消えた。

 

1人(独り)になってしまった。

 

次は、3人組の男女が現れた。手を差し伸べてくれている。

 

その手を掴む。……3人の身体を、リザードマンの剣が次々に貫いた。

 

また1人(独り)

 

沢山の人が、現れ、硝子のように砕け散っていった。そうしてこの2年で、実に4000人近くの人間が、2つの世界から消えた。

 

昨日笑顔で話していた人間が、今日滅多刺しにされて死んだ。さっき会話した人間が、トラップによって死んだ。1層に篭っていた名も知れぬ人間が、好奇心に殺された。

 

そう、これはゲームだ。ゲームでは、「人が死ぬ」なんてよくある事だ。笑い話だ。……この世界でそう割り切れたら、どんなに楽か。

 

***

 

「よぉ、フィリア。答え聞きにきたぜェ」

 

「…………」

 

「おいおい、そんな怖ぇ顔すんなよ」

 

わたしは、ワタシを殺した。突然転移させられて、突然出てきて、混乱して、──気付いたら、相手はその身体を四散させていた。

 

その時の感覚が、頭にこびり付いて離れない。人を殺す、その瞬間の、言いようのない感情。焦り? 安堵? それとも──快楽? それは無い。絶対に。

 

だから今、こうして笑う棺桶(ラフコフ)の首領と対峙しても、仲間意識を持たれても、決して乗る気は無かった。だけど、たった1つの言葉で、私の決意は粉々に砕かれてしまった。

 

「俺たちは《ホロウ》。あいつは《人間》。決して相容れねぇ。住んでる世界が違うんだからなぁ。あいつらはこの《ゲーム》をクリアするだろう。そうしたら、《ホロウ》の俺たちはどうなる? 丸ごと一気にパーだ。つまり──殺されるって事だ、自分を支えた人間に。嫌だよなぁ? 死にたくねぇよなぁ? あのガキ……《死神》と一緒に居たいよなぁ? なら……やることは1つしかねぇんじゃねえかぁ?」

 

「…わたし……わたし、は……───」

 

 

──ねえ、ケント。この時わたしは、なんて答えるべきだったのかな。……なんて、キミなら間違いなくわたしを選んじゃうよね。……キミは、優しいんだね。でも……わたしはキミと、一緒に居たい。だから、わたしは───────。

 

 

***

 

「う、ん……」

「……おはよう、ケント。よく眠れた?」

「まあ……丸1日寝てればね。おはよう、フィリア。いや、1周回っておそようかな?」

「そうかも。どうする? もう次のエリア行く?」

 

休んだのは丸1日。多分無理が祟ったのだろうが、割とよくある事なのでもう慣れてしまった。

それはそれとして、何だかフィリアに元気が無いように見えるんだけど……何かあったのかな?

いや、今は思考の端……いや真ん中から4分の1くらいのとこに追いやっとこう。

しかし、次のエリアか……ええと、確か次は……

 

「《ジリオギア大空洞》……か」

「うん。わたしはいつでも行けるから、行ける時に声かけて」

「分かった。じゃあ今……と言いたいけど、メンテはしとこうか。もう5分の3(折り返し)は過ぎてるんだし、万全の体制で挑みたい」

「了解。それじゃあ、お願い」

「承りました。……防具もやっとく?」

「うーん……」

 

ぴっぴっ、と耐久値の確認をしたフィリアが顔をしかめた。どうやら思ったより無いらしい。

──と思っていたんだけど、小さく「そう言えば」と呟いてアイテムウインドウを開いた。ただの紫の板が、可視化モードに設定されたことで見えるようになっ……て……

 

「何これ!? え、え、何このプロパティ……ぶっ壊れも良いとこじゃん……どしたのこんなん」

「ケントも? 実は私もよく分かってなくて……情報屋の、えっと……」

「アルゴだね。ついでに聞いてみるよ」

「うん、お願い」

 

***

 

戻って、アークソフィア。いつも転移門近くにいるというアルゴを見つけ、100コル硬貨を5枚オブジェクト化する。

 

「よっ、アルゴ。またお願いがあるんだけど、いいかな」

「オッ、今度はなんだイ? キー坊の弱点カ? それとも色恋沙汰カ?」

「うん、全然違う。この前言ってた《ホロウ・エリア》って覚えてる?」

「アア、覚えてるヨ。未知のアイテムが大量ダーってキー坊も言ってたしナ」

「あ、キリトも入れたのね。ああいや、それじゃなくて……物凄いぶっ壊れ防具が、いつの間にか相方のストレージに入ってたらしくてさ。何か知らないかなって」

 

すると、鼠の情報屋は眉をひそめて唸り始めた。片っ端から記憶を探っているのだろうか、凄い記憶力だ。

 

「フーム……ぶっ壊れ防具、ネェ。プロパティ見ても良いカ?」

「そりゃ勿論。だけど、ちょっと移動しようか。人目につかない方がいい」

「アイヨ。じゃあそこの路地裏だナ」

「了解。……あと、場合によっては報酬金上乗せするけど」

「ホウ、じゃあ10倍ニ……と言いたいとこだケド、オレっちも初めて聞く話だからナァ。情報提供料とシテ、逆に払うこともあるゾ」

「それもあったか」

 

歩きながら話していても、この「アルゴ」という鼠の魂胆というか真意というかが全く読めない。恐ろしい鼠である。思えば、彼女(?)が情報屋をする義務はどこにも無いわけで。それでもアルゴは、情報屋としてアインクラッドでの地位を確立した。何故?

改めて問いただそうとしても、差し出される手に多額の金を積むことになるのは明白なのでやめておく。1人で生活するには十分なコルが貯まっているが、笑顔で「10億コル」と言われたらもうお手上げである。

 

「……と、この辺で良さげだナ。さ、見せてもらおーカ」

「はいはい、ちょっと待ってておくんなまし…はいっ」

「フム、フム、フム……ちょっとシバいてもいいカ?」

「ダメです。でも実際強力でしょ? これを色んな人が装備出来れば、生存率はグッと上がる筈だよ。……きっと」

「そこは言いきレ、ヘタレのケン坊」

「う、何も言い返せない……」

「マァそこは良いとして、ダ。入手方法が確定してナイってのはナー」

「それなんだよなぁ……『いつの間にかストレージにあった』なんて言ったって意味不明だし、そもそもそれだと情報発信する意味も無いし」

「マ、そーゆーのがあったって情報は貰えタからナー。今回はそれで満足しておくコトにするサ」

「………ありがと」

「どいたまー。じゃ、オレっちはこの辺デ」

「うん、またね」

 

手を振りながら路地裏の闇に消えていく《鼠》を見送って、やっと本題の鍛冶屋に行こう。思ってたより経ってた。

 

***

 

下層に戻れなくなって、スキルが落ちた状態で新装開店することになったリズベット武具店も、客は減ったとはいえそこそこに繁盛していた。

 

「こちらですか? そちら2000コルになります」

「うむ、じゃあそうしよう」

「ありがとうございます!」

 

キリトやアスナ、その他攻略組も常連になってきているぐらいには回復したけど、やっぱり前よりはスキルの落ちが痛い。……まあ、そんなの関係なしに来る客は居るんだけど。

 

「おいっすー、研磨よろしくー」

「はいいらっしゃい、また刀と短剣?」

「うん、最近消費が激しくてさ……相手も強敵揃いになってきたし、気が抜けないねぇ」

「そんな無理に笑わなくていいわよ、出来るまで休んでなさい」

「……いや、向こうでも休めるとこあるからいいよ」

「嘘おっしゃい。明らかに疲れ抜けてないでしょ」

「研磨に時間かかるよね僕は街ぶらぶらしてるから終わったらメッセ飛ばしてそれじゃ!」

「あっ待っ………はぁ、こっちが胃痛起こすわ…」

 

一体何を食べたらあんな馬鹿ムーブが出来るのか。私はそんなもの到底食べる気は起きないけど。

 

「……さて、研磨しちゃいますかねーっと」




2月も終わり、出会いと別れが忙しいシーズンになってきましたね。………これ今年初投稿ってマジですか?遅筆レベル高いですね俺()


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32:ジリオギア大空洞

待たせるの大好きって言われてもそろそろ反論出来なくなってきました


ジリオギア大空洞

 

《円環の森》という名前らしいこの森は、その名の通りぐるぐると同じ所を彷徨う──訳ではなかった。

マップこそ広いものの、蓋を開けてみれば道はハッキリとしていて進みやすく、平坦だったため、特に危なげなく突破できた。問題はエリア名にもなっている《ジリオギア大空洞》だが、まあ当然柵なんて無いんだろうな…と思いつつ。

 

さっきから、フィリアがずっと俯いたまま目を合わせてくれないんですが……。

 

「……えと、フィリアさん。僕が何かしたなら謝るから、顔を上げて貰っても…」

「あ、ううん。ケントが何かした訳じゃないよ。…ただ、ちょっと考え事してただけ」

「考え事…今後のこととか?」

「うん、そんな感じ。何しようかな、って色々浮かんできちゃって」

 

──嘘だ。分かりやす過ぎる。僕でも見抜ける。

 

「そっか。早く実現させる為にも、ここのボスもぱぱっと倒さなきゃね」

 

でも、今思い返してみると、この時僕はフィリアに何があったか聞くべきだった。でも色んな人に嫌われてきたから、彼女には嫌われたくないからと、僕は逃げた。逃げてしまった。すぐ隣で、彼女が音を立てて壊れていくのを見過ごしてまで。

 

***

 

「……うわ、でっか……てか高っ! これが《ジリオギア大空洞》かぁ」

「落ちたら……まあ、即死だよね」

「戦闘の時も気をつけないとね。…あと、これどこに行けば良いんだろ?」

「…あそこ、大きめの亀裂入ってない? 私達も入れそうなぐらいの」

「えっ、どれどれ……あれか!」

 

角度的に少し見えづらかったが、確かに岩肌に大きな亀裂が入っている。あそこがダンジョンでなかったら何がダンジョンなのか。

 

「行ってみようよ、キーアイテムとかあるかもしれない」

「うん、行こう!」

 

***

 

「随分と不気味な場所だな…マッピングもしなきゃ」

「あ、それなんだけど……実は昨日、ちょっとここ探検してたんだよね」

「ええっ、武器預けてたのに!? そんな無茶な…」

「ふっふっふ、私の《 隠密(ハイド) 》スキルを甘く見ないでね? 暗い所なら、敵に見つからず探索する事などお手の物なんだから」

「いや、フィリアのスキルを疑うつもりは毛頭無いけど…『もしも』があってほしくないから…」

「大丈夫。ほら、こっちこっち」

「…はぁーい」

 

出来る限りの戦闘を避けるべく、2人とも《 隠蔽(ハイド) 》で身を隠して進んでいるが、こうしてるとトレジャーハンターより盗賊(シーフ)なんじゃないかな……と口に出したら最後、お叱りを受けそうな上に《 隠蔽(ハイド) 》が破れそうなので言わないでおこう。

 

そうして少し歩いたら、突然壁の前で「ここだよ」と言って止まった。……何があると?

 

「ここ? 壁……じゃない、隠し扉か」

 

うっすらとだが壁らしき扉の輪郭が見え、改めてフィリアの視力に感心する。僕ならあと3年経っても無理だっただろう。

 

「うん。それで、ほらあれ」

「宝箱だ! なんかワクワクしてきたねぇ」

「私が開けてくるから、ケントには入口で見張っててほしいんだ」

「了解。任せたよ」

「ありがと、………お願いね」

 

サムズアップで返し、《索敵》を使う。………何もいない。それでもたまに《隠蔽》しているPKerがいるので、刀に手をかける。ラフコフなんかはそれでも厳しい時もあるので、油断ならないのだ。

 

「……ねえ、ケント」

「ん、どったの?」

「私が、犯罪者(オレンジ)になった理由。まだ、話してなかったっけ」

「いや、『人を殺した』って言ってたけど……それがどうかした?」

「うん。その、殺した人についての話。」

「それはしてない、かな。…大丈夫なの?」

「お陰様でね。ケントと初めて会うほんの少し前のお話」

 

お互い背を向けたまま、ピッキングの音に混じって、ぽつりぽつりと言葉が紡がれていく。

 

「ある日探索していたら、突然《ホロウ・エリア》に飛ばされたの。何かのクエストフラグでもなければ、近くに誰か居たわけでもない状態で。……拠点に戻ろうとしても、転移結晶(クリスタル)は使えない。かと言って《圏内》の場所も分からなかった。だから、1ヶ月近くかけて慎重にマッピングしてたの。……結局、街も何にも無かったけどね」

「1ヶ月……!?」

 

1ヶ月。彼女は1ヶ月も、見知らぬ《圏外》の土地に放り込まれて、プレイヤーとも触れ合うこと無く過ごしたというのか。……そんなの、普通だったら壊れてしまう。モンスターに備えて夜もろくに眠れず、加えてたまに見る人もNPC、尚且つあのザマ。店も無いから、アイテム類は尽きたら終わり。生き延びただけでも奇跡だ。

 

「……で、またある日のこと。散策してたら、《索敵》に誰かが引っ掛かった。カーソルの色はグリーンだったから、仲良くなれたらぐらいに思ってたんだ。……でもね、そこに居たのは……………()()()()()()

「……!」

「……あれは……絶対にわたし。信じられる? その時の事……無我夢中で……必死だった……。我に返った時、目の前のわたしは消えていたんだ」

「……フィリア」

 

いつしかピックの音も止まっていた。それを気にも留めず、彼女は話を続ける。

 

「そのあと、わたしのカーソルはオレンジになっていた。わたしが……わたしを殺したからかなって」

「……そんな」

「……ケント。だからわたしの罪は、カーソルの色を戻しても決して消えない。ずっと……ずっとこの影の世界で、生き抜かなきゃいけない。わたし…あなたと出会わなければ良かった…こんな…気持ちにならなくてよかったのに…」

「……っ、いられるよ! 絶対方法はある! 僕がそれを見つける!」

「……ケント、ありがとう……。でも……すこし我慢してて」

「フィリア……? 何、」

 

を。と口に出すより早く、誰かに後ろから押された。ギリギリ倫理コードが発動しない強さだった為、プレイヤーの特定はできない。でもそれより気にすべき事は、いつの間にか空いた――落とし穴。

 

「……え? ──うわあああ!!!」

「ごめん──ごめんケント……」

 

ああ、なんだ。彼女は──

 

「じゃぁな、《 死神(Grim Reaper) 》」

「──!」

 

違う。彼女は、僕を見捨てた訳でも、殺したかった訳でもない。()()()が絡んでいるのが、それを如実に示している。

 

「……ッ、貴様ァァァァァァァ!」

 

落ちていく中で、その名を呼んだ。呪われたゲームに現れた、PoH(本物の死神)の。




また次回、がいつなんだ。……いつなんだ……………。


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33:今度こそ、掴んで離さない

夏休みに入りました。今年こそはちゃんと課題やらないと……と何回言っただろうか。


「がっ! ……つ、うぅ……クソッ、何が起きた?」

 

 フィリアと《犯罪者》になった理由を話している時に、後ろから誰かに押されて……ふらついたら床が抜けて、ここへ落ちてきた。

 それに、落ちる直前に聞こえたあの声。……どうして、PoHとフィリアが一緒に?

 

「……罠にはめた? いや、それにしては理解できない点が多い……けど、今はまず脱出かな……」

 

 ずっとフィリアと行動していたから、だろうか。前は1人が普通だったのに、いつの間にか彼女にもたれかかっていたかもしれない。

《死神》と呼ばれたような人間が、人の温もりを求めるからこうなるのだ。

 

「……敵、はやっぱいるのか。──邪魔だっ!」

 

 自分の甘さに対する怒りを、哀れなモンスターにぶつける。マップの広さ的に、フロアの数はそう多くない筈だ。

 

(フィリアに何があったのかは、分からないけど……今ここで死んでたら、何も聞けずに終わってしまう。それだけは、絶対に嫌だ!)

 

「っは、はぁっ、はぁっ……」

 

 最後の敵が(たお)れ、ダンジョンの外まで出た時、HPゲージはレッドの数ミリ手前まで削られていた。

 

「は、はは………空気が美味いや………」

 

 本来なら、PoHによる待ち伏せが無かったことには大いに感謝するべきなんだろう。でも、それを補って余りある程の疲れと、心にぽっかりと空いた穴が、そんな事を微塵も感じさせてくれなかった。

 

「あー……とりあえず、帰るか……」

 

 と言っても、《ホロウ・エリア》には今帰っても誰も居ないし、寝込みを襲われる可能性も十分にある。

 だからと言って、75層より下にはもう行けないし……

 

「…いや、そもそも、なんでアークソフィアって選択肢が出ないんだろ」

 

 あそこなら《圏内》で、エギルやクラインも居て、リズベット武具店2号店もある。拠点としては申し分無いだろう。……他と違って、受け入れ拒否も無いし。

 

「……転移、《ホロウ・エリア管理区》」

 

 後ろで、「ごめんね」と聞こえた気がした。

 

 ***

 

 アークソフィア 転移門前

 

「よっ、ケン坊。今日はやけに浮かない顔してるじゃないカ」

「やぁ、アルゴ。そんなに分かりやすいかな?」

「……そこはウソでも否定してほしいもんだったけどナ。悪いが、オネーサンじゃなくても一発で分かるヨ」

「そっか……感情の抑制プログラムでも仕込んでみるかな…」

「何バカなこと言ってるんダ、このゲームクリアしない限りは無理だゾ」

「『組めないだロ』とは言ってこないんだ?」

「そりゃあナ」

 

 くつくつと笑う《鼠》は、果たしてどこまで知っているのか。真相はコルの山の先にある、というと思ったよりしょぼい感じがする。

 それはともかく、長居するのも申し訳ないので、「何かあったら報せてくれヨー」、の声を背中に受け、中央通りにあるエギルの店へ向かうことにした。

 

 ***

 

「マスター、特製のカフェオレだ。2杯くれ」

「2杯ってことは……大方、フィリアって子のことか?」

「ご名答。流石、ゲーム前からの付き合いなだけはある」

「褒めても3杯目は出ねぇぞ。で、何があった?」

 

 エギル──本名アンドリュー・ギルバート・ミルズと、その奥さんが開いている店『ダイシー・カフェ』は、東京都御徒町にある。昼はカフェ、夜はバーという特徴があり、夜は繁盛している。

 夜は、というのはまあ……カフェに強面のスキンヘッドがいたら、入るの躊躇するよね、っていうこと。

 でも居心地は悪くないので、江戸川区から週一で通う程には気に入っている。

 

 ちなみに『カフェオレ2杯』は、「相談したいことがあるから、飲みながら話そう」という意味。

 

「うん、実は──」

 

 時系列もバラバラで、途中から涙が出てきて、それでも最後まで話し終わったと同時に、エギルはカップを置いた。

 

「なるほどな。裏切られて、尚且つその相手があいつとは……つくづく、お前も因縁があるな」

「……うん。正直、うんざりだけどさ。『ごめんね』って、言われたからには……どうしても、そうしなきゃならない理由があったんじゃないかな、って……。もしかしたら、PoHに俺の事を吹き込まれて、そんな奴と一緒になんて嫌だ、とか思われてたり……って考えると……怖くて……」

「ケント。フィリアを拠り所にしていたお前と同様、フィリアもお前を拠り所にしていたんじゃないか?」

 

 僕を、拠り所に。《死神》なのに。一緒にいたら、死ぬのに。

 でも、ここしばらく一緒に居たけど、フィリアは死ななかった。攻略組でもない、トレジャーハンターなのに。《死神》と呼ばれる僕に、涙を流した。「あんまりだ」と。だからこそ、僕はフィリアを拠り所にしていた。

 

 じゃあフィリアは? 1ヶ月近くもの間、《ホロウ・エリア》の狂ったプレイヤーと、補給も出来ない状況で、自分を殺し、それでも生き延びていた。そんな彼女が、僕を頼る必要があるのか……?

 

「……いや、そんなこと……」

「ある。逆に言うと、そんな極限状態でひと月過ごした所に、ようやくまともなプレイヤーが来たんだぞ? 同じ状況なら、俺だって頼る。……お前には俺たちがいる。でもな、今のフィリアにはお前しかいないんだ」

「僕しか、いない……」

「そうだ。助けたいっていうなら、俺たちもできる限りのバックアップはする。だから、()()()()掴み取るんだ。そしてその手を離すな。お前が必ず、アインクラッドまで持ってくるんだ」

「うん………うん。分かった……僕、やるよ。絶対、フィリアを連れ戻して……ここに連れてくる。だから、待ってて。どれだけ時間がかかっても、絶対に帰ってくるから」

「おう。そん時は、ジンジャーエール……に似たドリンクでも振る舞わせてもらうぜ」

 

 涙を拭い、その手で拳を突き合わす。太い笑みを交わし、温くなってしまったカフェオレを飲み干す。

 ………うん? ちょっと待った。さっきエギル、俺()()って言った? ってことは、誰かもう1人……

 

「……しかし、立ち聞きとは随分な趣味じゃねえか? クライン」

「へへっ、いやぁレア素材がドロップしたもんでよ、どれくらいの値がつくか聞きに来たら……」

(先客)がいた、ってわけか。……ちなみにどっから聞いてた?」

「えーと……悪ぃ、『カフェオレ2杯』の所から」

「全部じゃねえか! しかもエギル、お前気付いた上で言わなかったな!?」

「ああ。話を途中で切るのも悪いしな」

「むぐ……ま、まあとにかく。今何層の攻略中?」

「今か? えーと……82層だな」

「そっか、さんきゅ。じゃあ……目標、88層までに連れてくる!」

「おっ、じゃあ賭けるか。俺は間に合わない方に賭けるぜ」

「おいおい、賭けにならねーだろ!」

「いやいやいやいや少しは信じろよ。お前ら鬼か」

 

 男3人の笑い声が、カウンター周辺に響いた。その光景を1人のプレイヤーが見ていたが、その時は誰も気付かなかった。




ホロウ・フラグメントには会話ログ機能が無いので、会話文をメモる為にスクショすると、アルバムの画像がえげつない量になるのがネックです。スキップと非表示はあるのに、何故ログだけ無いのか……。


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34:決別

サブタイトルが浮かばなくなってきました。もし急に「第〇〇話」とかになったら、まあそういう事だと思ってください。


《ホロウ・エリア》とは、そもそも何なのか。

 

未知の敵、未知のスキル、未知のアイテム。これらは勿論、攻略が進めば半ば自動的に未知ではなくなっていくだろう。

だけど、スキルの取得クエスト程度だとしたら……メインメニューの項目が追加されたり、動作のチェックが必要だったりするだろうか。

 

答えは、どちらも否だ。

 

となれば、ここは──

 

「……ビンゴ。ここは──開発用のエリアだ」

 

よくよく考えれば、有り得ない話ではない。テストするなら同じ鯖を使うのは何もおかしくないし、通常なら侵入不可能なエリアにある(と思う)なら削除していなくても影響は無い。何故入れたのかは……恐らく、75層以下に戻れなくなったのと原因は同じだろう。

 

ともかく、これでいくつかの疑問に合点がいった。挙動のおかしいフィリア以外のプレイヤーは、全員が《ホロウ》……要するに、アインクラッドのプレイヤーの影法師だ。

彼らに《人間の心理》なんてものは存在しない為、死を恐れずに特攻するのだろう。AIは《感情》を持つことが出来るが、それもデータを入力しないと持てないのだから。

しかも《ホロウ・エリア》は開発──要するに、実験用のエリアだ。恐怖や生存本能など、持たせるだけ無駄、ということか。

 

「でも、問題はまだ残ってるんだよな。あそこにいる大多数のAIが、アインクラッドのプレイヤーデータを参照して作られたものだとして……僕に与えられた謎の権限と、僕とフィリアが来た理由は……?」

「それについては、ユイが協力してくれるよ。ユイ、頼んだ」

「はい、パパ!」

 

考察の海に潜っていた意識が一瞬にして引き戻され、声のした方を向くと、見慣れた全身真っ黒剣士と手を繋ぐ女の子が来ていた。言うまでもなくキリトとユイである。

 

「……来てたのか。っていうかキリト、お前権限あったんなら先に言ってくれよ」

「いやぁ、俺も最近気付いてさ……まあそれはそれとして、俺達にも協力させてくれよ。何か力になれるかもしれないしさ」

 

キリトの戦闘力と判断力、ユイのシステムサポート力はとても頼りになる。1人で攻略しなければならなかった事を考えると嬉しい誤算だ。

 

「いや、それはむしろこっちから頼みたい。……フィリアを助ける為に、力を貸してほしい」

「ああ。……で、どこから攻略するんだ?」

「えっと、セルベンディスとバステア、あとグレスリーフは攻略した。だから、今はここ……ジリオギアの途中から」

「分かった。ユイ、少しの間お留守番を頼めるかい?」

「分かりました! その間、ここのコンソールでこのエリアに着いて調べておきますね」

「ありがとう。ケント、ユイは……」

「ああ、言わなくても大丈夫。……前に、誰だったかな? 誰かから聞いたんだ」

「誰か? クラインかエギル辺りかな……まあ、そういうことだから、データ面の調査は任せて大丈夫だぞ」

 

一瞬、「ここはテスト用のエリアだ」と言いかけたが……言わないでおこう。主に、僕の保身の為に。

 

***

 

「……よし、進もう」

 

フィリアが行方不明だ、と聞いたので攻略を手伝っているが、それにしてもケントの足取りが重い……気がする。

 

「なぁケント、具合悪いのか?」

「いや、大丈夫。行こう、フィリアを助けないと……っとと」

「おいおい、大丈夫じゃなさそうだぞ。最近あんまり寝てないだろ、今日の所は──」

「嫌だ!」

「……ッ」

 

いつも眠そうで、攻略組の中でも比較的──いやかなり大人しい方のケントが、ここまで声を荒らげたのは、どれくらいぶりだろうか。いや、もしかしたら初めてかもしれない。

それ程までに、彼はフィリアを大切に想っているのだろう。あるいは──

 

「もう死なせたくない、か」

「…………」

 

返事は無い。だが確信があった。

 

「ケント」

「……そうだよ。僕は彼女を死なせたくない。だって、いきなりこんな所に閉じ込められて、現実どころかアインクラッドにも戻れずに死なせるなんて……僕には出来ない」

「……ああ。同感だ」

「だけど……怖いんだ。僕の力が足りないせいで、僕が遅かったせいで、僕が避けられなかったせいで、僕が弱いせいで! 皆死んだんだぞ! だから止まってなんかいられない、もう誰も死なせたくない!」

 

思い詰めすぎだ、とは俺も言えない。理由は違えど、『誰も死なせたくない』という点に於いては同じだから。……だが、だからと言って、万全でない状態のケントを行かせる訳にはいかない。

 

「ケント。もし、それで……お前が死んだらどうするんだ」

「…………死なないよ、俺は」

「この世界に『絶対』は無い。まして、そんなにふらついたお前が、PoHの所に行ったとして……勝てるとは思えない」

「それでも、行かないと!」

「ダメだ! お前を殺したぐらいで、フィリアを殺さない訳が無い! それがPoHという男だぞ!」

「そんな事、お前に言われなくても分かってんだよ! でも……行かなくても、殺されるんだぞ! 大方、『あそこに落とせばずっと一緒に居られる』なんて唆されたんだろうけど……そんな場所は無い。『絶対』は無い。でも、精神的に弱ってるフィリアはそれを受け入れた。あいつが『ケントは死んだ』って言ったとして──彼女は、絶望したまま殺される。それだけは嫌だ。だから、俺は……」

 

そこで口を紡ぎ、代わりにちゃき、と鯉口を鳴らして、いっそ美しさすら感じる動作で抜刀した。そのまま切っ先をこちらに向け、冷たく言い放った。

 

「──今、フィリアを助けに行く。例え、俺が死のうとも。……お前を、殺す事になろうとも」

 

デュエル申請ウインドウは、現れなかった。



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35:一線

……年度、変わりましたねぇ…………


 刃を振るう。()なされる。手首を返して切り返す。防がれる。

 

(ああクソ、突破出来ない!)

 

 ケントは内心焦っていた。デュエル申請せずに斬りかかったことに、ではない。キリトの持つ《二刀流》が、攻めにも守りにも厄介であったことだ。

攻められれば、反撃に転じる余裕が無くなる。守られれば、突破する為の速度または威力が足りなくなる。愛刀を全力で振るえば勝てるだろうが、その間に反撃されてしまう。

 

(この剣筋、ヒースクリフはどうやって突破したんだよ……!)

 

そう、ヒースクリフは二刀流のキリトを破っている──ケントは知らないが、そのヒースクリフでさえシステムの力を借りての勝利だった為、参考にするだけ無駄である──。

デュエルとも言えない、何も産むことの無い殺し合いを始めてから10分。休むこと無く刀を振るっているが、全く届かない。それどころか、どんどん弾かれる回数が増えてきた。視界もグラグラして、照準が定まらない……。

 

「いい加減……諦めやがれ! 俺は……フィリアを、助ける……ん、だ!」

「そんな状態で行かせられるか! もうフラフラじゃないか!」

「うる、さい……! 早く、行かなきゃ……!」

 

ぐらぐらと揺れる視界の中で、キリトが駆け寄ってくる。まだ止めようと言うのか。まだ縛ろうと言うのか。

──分かってる。無理なレベリングで、眠気も疲労も何もかも限界な事ぐらい、自分が一番分かってる。

だからこれは意地だ。助けると決めた。もう死なせないと決めた。それだけの事。たったそれだけの……何よりも譲れない意地。

 

「──()()!!間に合わなくなるだろうが!!」

 

最後の力で踏ん張り、獲物を振るう。空を切ったかに思えたそれは、微かに、だが確かにキリトのHPを削った。

 

***

 

「ッ──!」

 

目の前で、友人のカーソルが犯罪者(オレンジ)に変わった。……避け切れなかったらしい。

しかし当の本人は、刀を振り抜いた姿勢のまま倒れてしまった。流石の彼も、溜まりに溜まった疲労の前には無力だったようだ。

 

「ケント! おい、しっかりしろ! ケント!」

 

返事が無いが、かと言ってこのまま放っておく訳には行かない。互いに納刀してケントの肩を担ぎ、ポーチに入れてある転移結晶を掲げる。

 

「──転移!『《ホロウ・エリア》管理区』!」

 

***

 

アークソフィア、エギルの店

 

「──という事があって、今は……少なくともしばらく、ケントはアークソフィアに戻れない。……俺が油断したせいだ、ごめん」

 

頭を下げるキリトを、仲間達が慌てて宥める。

 

「ううん、キリトくんは悪くないよ。ケントくん、あれで頑固な所はあるし……それに、彼の言う事も分かる。フィリアさんの安否も分かっていないみたいだし、不安に思っても仕方ないよ」

「私もそう思います。でも、だったらお兄ちゃんが代わりに行く、とかじゃ駄目だったのかな……」

「そうよね……1人より2人が良いと思うんだけど、違うの?」

「んーん、その通りよ。でも、仮にその時行ったとして……遅かれ早かれ、ケントは限界だったでしょうね。でも行きたかった」

「それで、一度止めたかったキリトさんと口論になっちゃったんですね……。でも、それなら責めてデュエルがあったんじゃないですか?」

 

そう、別に斬り掛からなくてもデュエルと言う手があった筈なのだ。攻撃を捌くのに注力せざるを得なかったキリトはともかく、ケントがデュエルをしなかったのは何故なのか。

 

「恐らく、だが」

 

その言葉に、全員がさっとそちらを向く。それまで聞き役に徹していたエギルだ。

 

「キリトやクラインなんかは、大方予想がついてるんじゃねえか? あいつが意地でも助けに行った理由と、デュエルを選ばなかった──()()()()()()()()()理由」

「前者はともかく……後者は《慈悲深い死神》の話か? でもよォ、ありゃあ……」

「ああ。最終的には『《ラフコフ》の仕業』って事で、討伐戦を以て片付いた筈だ。だが、PoHの奴は逃げ延びているし、《ホロウ・エリア》に残党が居ないとも限らん」

「……それに、パーティーメンバーが死んだ事実は変わらない……。だから──」

 

トラウマ。その4文字が全員の脳裏を過ぎった。

 

「……エギル」

「ああ。半分は俺達がああ言ったせいだろうよ。……だけどな、だからってどこ行くんだお前」

「決まってらァ! あいつを助けに…………ああクソッ、行けねぇ……ッ!」

「……そうだよ。俺達じゃ行けねぇんだ」

 

かつて助けられ、その後何度か関わる内に、いつしかかけがえの無い友となった男が窮地に向かおうとしているのに、自分は何も出来ない。握り締めた拳に、悔し涙が落ちた。

 

「……なぁ、キリの字よ。おめぇに頼みてぇ。おめぇにしか頼めねぇ。……出来るもんなら俺が行きてぇけど……ケントを、俺の親友を、どうか助けちゃくれねぇか」

「ああ、勿論。……それと、お前も来いよ。もう1人なら一緒に来れるからさ」

 

その話を聞いたクラインがハッとして顔を上げた。すぐに 涙を拭うが、出てきた言葉は「で、でもよォ……」といった自信無さげなものだった。

 

「ありがたい事ではあるんだけどよ。その……アスナと行かなくて良いのか? 実力的にも、パートナーとしても最適だろ?」

「今回は譲ります。だって、クラインさん行きたいんでしょう?」

「お……おうとも! あいつにゃ大恩があるんだ、ここで動かにゃ男が廃るぜ! 男クライン、ケントの助太刀として推参してやらぁ!」

「ああ、頼りにしてるよ」

 

全員一抹の不安はあれど、この2人なら必ず帰ってくるという確証があった。




今更ですが、ストレアエンディングを見たいが為にSteam版でRe:ホロウ・フラグメントを購入しました。Vita版でもちまちま進めるしか無かった実装エレメントですが、やっぱ多いし条件鬼畜だと思うんですよね……何なんでしょうアレ。ほんとに。


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