ある世界線のマスターとサーヴァント (犬原もとき)
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とあるマスターと薔薇の皇帝
ある世界線のマスターと薔薇の皇帝


夢の中にネロちゃまが出てきたから勢いで書いた。
反省も後悔もしてない。

●●には好きな名前を入れよう。
一人称は僕だけど、気になる人は脳内変換だ!



それはもしかしたらのお話。

あり得たかもしれない話。

一つの夢の話。

 

 

「んぅ……」

目が覚めた。

スマホの画面をつけ、時間を確認する。

「………まだ5時じゃん」

早すぎる。約束の時間から逆算してもまだ後4時間はある。

寝よう。

今日は大事な日だ。久しぶりにあの人とデートが出来る。

体力と気力を十全にして、タップリと楽しめるようにしよう。

おやすみなさーい。

 

「とーう!!」

「ほごぉ!?」

可愛い声とともに走る衝撃。

僕のお腹にダイレクトアタック!

眠気を意識の彼方にシュウーーーー!!

超!エキサイティン!

「うむ!華麗に決まったな!約束の刻限前故、寝ていると思ったがまさか寝直すとは思わなかったぞ」

可愛い僕の皇帝の声が聞こえるけど、生憎それどころじゃなかった。

いい所に入ったお陰で、激痛で呼吸が出来ない!

今の僕にできるのはダンゴムシのように丸くなって呻く位だ。

鳩尾あたりかな?いや、ネロは膝から乗ってきたからやっぱり腹か。

今日の朝食べてなくてよかった。

というか今何時だろ?

あまりの痛さで僕の頭が処理しきれず、どうでもいいことを考える。

「むっ?どうした●●……も、もしや痛いのか!?痛かったのか?!」

あぁ、ネロが心配してる。

可愛いなぁ。ちょっと泣きそうになってるのもすごく可愛い。

可愛いけどお願いだから今は揺らさないで!

吐く!吐いちゃうから!お願いだからやめてぇーー!!

 

「起こしにしてくれてありがとう。ネロ」

あれから半時間して、僕の痛みはなんとか収まり、朝ご飯を食べている。

今日はレタスとハムとチーズを挟んだサンドイッチと、ヤクルト系の飲み物。

なんかテレビで朝はガッツリしたものがいいと聞いたけど、僕はやっぱり朝は軽い方がいい。

「うむ。だが本当に大丈夫なのか?やはり今日のデートは少しずらした方が…」

「そんな事したら本当に怒るよ。毎回僕がネロとのデートを、どれだけ楽しみにしてると思ってるのさ」

そこで僕は食事の手を止め、ネロの瞳を真っ直ぐ見る。

いつも強気で自信に溢れた目つきも、今は不安げで少し潤んでいる。

可愛い。

こう言う顔を彼女が見せるのは、世界中でも僕だけだ。

世間はいつも自信満々で、強引で、憎めない彼女の姿しか知らない。

彼女の悩んだ顔も、涙も、本当に怒った顔も、本当に嬉しい時の顔も僕しか知らない。

僕の前でだけ見せる本当のネロ・クラウディウス。

信頼しているからこそ見せてくれる、本当の彼女の顔。

僕はそれが嬉しくて堪らない。

「………●●」

「ん?」

「その…そなたがもう気にしてないのは分かった。分かったから見つめるのは止めよ。流石に照れるではないか」

「ネロが可愛いのが悪い」

うん。可愛いのが悪い。

「ふっ…そうか。なら仕方あるまいな!なにせ余の美貌はローマ随一。然らば見惚れるのも必然よの!」

ネロは、見よ!と大きな声を出しながら立ち上がり、自賛しながらクルクルと回り始める。

僕はそれを持っていたスマホで撮影しながら見ていた。

拝啓、父上様。母上様。

今日も僕の恋人が可愛すぎて堪りません。

 

「それはそうと●●よ。やはり余は何かしらの形で謝罪をしたいのだが、何か要望はないか?」

街の中をデート中、ネロは朝の事をまだ気にしているのか、そんなことを聞いてきた。

ネロの事だから、しっかりとケジメをつけてスッキリさせたいんだろう。

そうは言っても、僕にとってはこのデートそのものがご褒美だ。別にこれと言って望みなんてない。

強いて言うなら、ネロと結婚したいのが望みだ。

「んー……何らかの形といってもなぁ」

「なんでもよいぞ?何だったら…め、夫婦になる……とか……」

………らめぇ。そんな顔で見ないでぇ。

上目遣いでモジモジしながらダメ?みたいな顔されて堕ちないわけないでしょう?

元々君のことが好きなのにこれ以上好きになったら君無しで生きていけなくなっちゃう…」

「う、うむ。そうであったか。途中から心の声が駄々漏れで、そなたの余に対する想いはしっかりと伝わったぞ。●●」

あっ、やば。これすっごい恥ずかしい。

ネロは顔を赤くして、イヤンイヤンと身体を揺らしている。

可愛い。可愛すぎて辛い。

結局お昼ご飯を奢る事で手を打ってもらった。

 

「人が多くなってきたなぁ」

混雑。と言うほどじゃないにしろ、手を離して歩いていると、うっかり逸れてしまいそうな位に、騒がしくなってきた。

やっぱり皆休みだからだろうなぁ。

「ん?」

前を見ると、ネロが誰かと話している。

誰なんだろう?と思い、人の波間から覗いてみると

男だった。

男の方は楽しげに話しているが、ネロの顔は何か企んでいる顔だ。

何をしてるんだろう?

と思うと、ネロの目が僕を捉えた。

そして、ふっ。と微笑み、男と歩き始める。

……意地悪。

ネロは僕を試そうとしている。

あれはワザとナンパについて行ってる。

ネロの事だ。適当なタイミングで僕の名前を呼び、見せつけるつもりだ。

分かってる。

分かってるけど……

「…ネロの意地悪」

恋人の僕の目の前で、他の誰かと楽しそうに歩いている。

それだけで、今すぐにでも飛び出してしまいたくなる。

けれど、僕がそうしようと構える度に、ネロはこちらを見て妖しく微笑み、抑えてくる。

………ネロの意地悪。

 

「あ〜…え〜…っと●●?デートの最中にあのようなイタズラをした事はすまなかったと思っておるし、ちゃんと埋め合わせも考えていた」

僕の前でネロが何か言ってる。

「朝の事といい、先の事といい、そなたの優しさに甘えていた事は否定できぬ。寧ろそなただからこそ甘えたかった。いや、これは言い訳に聞こえるかも知れぬが、本心なのだぞ?」

色々言ってるけど、僕は敢えて耳を貸さない。

「だからその…●●よ…余を抱えて歩くのは止めよ!嬉しくて恥ずかしくてどうかしてしまいそうではないか!」

「じゃあこのままで良いね」

「●●ーーーーー!!」

顔を真っ赤にしながらジタバタと暴れるネロ。

一見すると嫌がって暴れているように見えるけど、ネロがその気になれば僕なんか余裕で振り解ける。

要は満更でもないのだ。

けど人前なので、恥ずかしいのは恥ずかしい。と言った所だ。

「何を言おうとネロが悪い。ああ言うのは僕は一番嫌いだって前に言わなかった?」

「…聞いている。いや、知っていたからこそ、だ」

知っててやった。

うん。前にすごい喧嘩した時もそれが原因だった。

あの時はどうしても譲れなかったから、絶対に謝らなかった。

それ程に、僕は親しい人。それも自分が愛していると感じている人が、他の人についていく姿を見るのが嫌だ。

そのまま帰ってこないんじゃないのか?

僕を見捨てて行ってしまうんじゃないのか?

一人になってしまうんじゃないのか?

そんな事は無いと思っていても、そう思ってしまう程に、僕はそれが嫌いだ。

それを知っていてネロは…。

「……●●。余に幻滅したか?」

「え?」

「知っていて尚、そなたが真に嫌う事をした。それは言わばそなたからの愛を、信頼を、絆を踏みにじる行為だ」

ネロが自分を責める。

「これから語るのは言い訳だ。しかし本心だ。哀れな女の戯言と受け止め、しばし時間を貸してほしい」

ネロが腕をゆっくりと外す。

そのまま少し離れ、こちらを向く。

「●●よ…余はそなたが好きだ。大好きだ。正直今こうしている時も、胸が高鳴って仕方がない。そなたの吐息を旋毛で感じ、肌の温もりを全身で感じ、心臓の鼓動を背中で感じている」

足が止まり、ネロの愛に耳を傾ける。

2度目になるけど、ここは人前だ。

公衆の面前ってやつだ。

何人かが、よく通るネロの声に反応して、足を止めている。

「腕に抱えられた身体が沈み、抱えなおされた時は甘い声が出そうだった。何かを喋る時に、脳天からかかる声と吐息で心が惚けた。歩く度に揺れる身体は愛撫のようで、思わず心のままに唇を奪い、そのまま愛でてしまいそうになった。頭の上から足の先まで、そなたの事を愛していると、全身と、持てる限りの言葉と技で伝えたいと思っている」

高らかに情熱的に。

美しく激しく。

彼女の愛はまさしく黄金の太陽だ。

多くの人が魅せられ、手にしたいと思う。

だけど手にする事なんて出来ない。

太陽に近づいた愚か者の末路は失墜。

身を焼かれ、目の光を失い、やがて死んでいく。

ならば僕は?

「奏者よ」

それは、嘗てのお互いの関係を表した呼び方。

何年振りだろうか?

随分前のようにも、つい最近の様にも思える。

「余はそなたの愛をもっと感じたい。静かで、美しく、揺蕩う様に幻想的な愛も好きだ。しかし、余は…余はそなたが熱く、激しく、燃える様な愛をもっとみたい!その為なら余は…余は…」

ネロの顔に悲痛という表情が見える。

その先は言わせてはならない。

嘗ての彼女の奏者として。

今の彼女の恋人として。

「じゃあ聞いてみる?」

僕の言葉にネロはピクリと反応する。

いつの間にか大通りは僕達を中心に大きな人だかりが出来ている。

そこに居るすべての瞳が僕を見ているような錯覚に陥る。

だ、大丈夫。大丈夫。平気平気……。

「大きな声は苦手だからさ…もっと近くに…」

「う、うむ…」

ネロが期待と不安の混じった顔で、おずおずと近づいてくる。

「もっと」

「もっとか…どうだ?」

「もっと…」

「こ、これ以上か?構わぬがお主なにを…!」

ネロの吐息が、顔が触れる程の距離になった時、僕は一気に抱き寄せ、彼女と唇を重ねた。

驚いたようなネロの表情が分かる。

見えなくても。

抱き寄せた行為に応えるように、彼女が腕を回し、抱き返してくる。

周りの喧騒が聞こえなくなる。

夏の暑さも、二人の燃えるような愛の前では涼やかなものだ。

僕はネロのように、情熱的に愛を語る事は出来ない。

だから、これが僕にできる精一杯。

今はこれで勘弁してね?ネロ。

 

「ふふふ♪昼間は情熱的だったな。●●♡」

「や、やめて…ちょっと恥ずかしかったから」

「何を言う。余は…余は…感動が今も止まっておらぬ!そなたがあそこ迄とは!余は嬉しい!!」

「ははは……」

部屋のベッドの上でぴょんぴょんとはしゃいでいるネロを見て、昼間のキスを、思い出し僕は顔を枕に沈める。

我ながら何と大胆な事をしたのか。

結果としてネロが喜んでくれてるからいいけど、そうじゃなかったらただの恥ずかしい奴だった。

結局2〜3分位ディープなのをして、口を離して間もなく、ネロがホテルへ連れ込もうと、手を引いて全力疾走した。

なんとか言い包めてその日のデートコースを回り、こうして家についた。

正直引っ越しを考えている。

恥ずかしくて街歩けないよ…。

SNSやら動画やらで既に拡散されてるし…うぅ…もうどこへ逃げても同じか…。

「●●……」

ネロが甘えた声で、僕を呼ぶ。

そっちを振り向くと、そこには艶やかに寝転ぶネロの姿があった。

ストロベリーのネグリジェから見える肌は真珠の様に美しい。

いつもはシニヨンにしている髪も、今は下ろしており、いつもと違った雰囲気で、特別感がある。

「余はもう寝ようと思うが…そなたはどうする?」

「もちろん。僕も寝るよ。今日も疲れちゃった」

「んふふ…そうか…そなたも寝るか」

ん?なんか言い方が怪しいぞ?

と、取り敢えず僕もベッドで横になろう。

隣で横になると、急にネロが抱きついてきた。

「ネ、ネロ!?」

「ふふふ…奏者よ。まさかあれ程の事をしておいて、今宵なにもなく寝れると思っておったのか?」

「や、やめ…ちょっ!?当たってる!当たってるから色々!」

「何…気負うことはない。そなたは余に任せて身を委ねるが良い」

ネロの顔が近づいてくる。

その目はいつもの様に無邪気で自身に溢れたものでも、こちらを陥れようとする策謀の目でもなく

「忘れる事のできぬ…暑い夜にしよう…のぅ?そ・う・しゃ♡」

これからご馳走を頂こうとする獣の目だった。

 

 

この日の夜の事を、生涯忘れる事は決して無い事をここに記しておく。

 




以上です。
お目汚し失礼_(:3」∠)_


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薔薇の皇帝の聖夜

思いつきで書きました


Side You

クリスマス。

元はイエス・キリストの誕生した日とされ、キリスト教を重んずる人達が粛々としかし華やかに祝われていたが、時代の流れか国の風土か、日本では恋人達が色めき立ち、溢れた人々がリア充死ね!等と血涙を流す業の深い行事となっている。

さて、そんな豪華で楽しげなイベントを逃しそうにない人が僕のすぐ近くにいる。

ネロ・クラウディウスだ。

彼女はイベント事は好きだ。

好きな筈だ。

好きなはずだけど…。

 

「余はクリスマスなぞせん」

12月に入ってからネロはそう言って、ムスッとしている。

なかなか珍しいけど、初めてじゃない。

さて、原因は何だろうか?

ネロがこんな表情をするのは大体三つ。

一つ、自分にイラついてる。

二つ、僕にイラついてる。

三つ、頭痛がひどい。

三つ目はまず無い。

12月になって測ったように頭痛が起こる可能性は低いし、仮になったとしたらもっと凄い。

二つ目も可能性は低い。

僕にイラついてるなら、ネロは分かりやすく怒っているアピールをする。

目線を合わせなかったり、露骨に怒っている原因を声に出したり。

今回はそれがない。

なので残るとなると一つ目になるけど、こうなると僕ができることは少ない。

ネロが自分を許せるまで、支えてあげるしかない。

けど、今回ばかりはそれはダメだ。

僕はネロとクリスマスを過ごしたい。

ただ過ごすんじゃなくて、二人で楽しんでその日を迎えたい。

と、僕は思ってはいるものの、今回は相当根が深いらしく、僕が力になるよ。と声を掛けても

「うむ。ありがとう。余は嬉しい。嬉しいがこれは●●には関係の無い事だ」

と丁寧に関わるなと言われた。

そうこうしているうちに、もうクリスマスは目の前に迫った。

僕はもうお手上げだった。

遠回しに聞いても直球で聞いても、ネロは打ち明けてくれなかった。

考えあぐねた末に、僕はある人に連絡を取ることを決意し、スマホの連絡帳を開いた。

 

「外出?いや、予定は無い。出かける支度をしよう」

25日になり、断られるかと思ったが、何とか家から連れ出す事に成功した僕は、ある場所に向かう事をネロに告げる。

場所は立川。

先生から「そこへ行けばまぁ、上手く行くだろう」と言われた場所だ。

 

Side Another

その日、ある男は鼻歌交じりに家路を歩いていた。

クセの強い髪を肩まで伸ばし、外国人特有の彫りのある顔。少し控えめに整えられた髭がチャームポイントと言えなくもない。

厚手のジャンパーにジーンズという出で立ちを見れば、誰もが彼を日本に来た、或いは長く住んでいる外国人と思うだろう。

だが、彼には他とは一線を敷く特徴があった。

彼の頭には冠にみたてた茨があった。

お気づきの方は既にいるだろう。

彼こそは立川において、下界バカンスを楽しんでいる救世主、イエス・キリストである。

彼もまた、クリスマスを楽しみにしている一人だ。

尚、一昨年は下界のクリスマスは、サンタクロースがトナカイでの飛行に成功した日だと思っていたり、去年はサンタのあまりの人気っぷりに当てられ、思わず教会に飛び込んだ後、懺悔室にて自分がイエス・キリストだと暴露したり(その時に同居人の仏陀の名前をだした為に仏教徒と間違われている)と、どこか抜けてて頼りないが、立派な救世主である。

(去年はうっかりケーキを駄目にしちゃったけど、今年はそんな失敗しないぞ!)

と、スキップしたい気持ちを抑え、歩いていると、彼の行先に一人の女性が目にとまる。

金色の髪をシニヨンにまとめ、真紅のダッフルコートを着ている。

意志の強そうな瞳をしているが、何か、或いは誰かを探しているのだろう、あたりをキョロキョロと見渡している。

立川はある程度歩き慣れたイエスであったが、彼女の様な所謂美女がいれば、噂くらいは耳に入る。

そんな噂を聞いた事もないということは、立川には珍しい観光客だろう。

普段なら微笑ましいと感じる光景だが、彼女の纏ってる雰囲気が、イエスにそうはさせなかった。

「迷える子羊よ。どうかしましたか?」

 

「そうですか。恋人とここにいらしたのですね」

「うむ。憂い奴であろう?」

イエスの話術に引き込まれた金髪の女性ーー名をネロと言うーーは、最初こそ警戒していたものの、今ではすっかり友人の様に想い人の話をしていた。

出会った時のこと。

駆け抜けた聖杯戦争の事。

住んでいる街のこと。

そして自身の受肉の秘密の事。

普段の彼女なら、ここまで話すことは無いだろう。

しかしそこはイエス・キリスト。

彼女の警戒心を解き、見事聞き出してみせた。

しかし彼にとって、それはこれから聞きたい事の一つにすぎない、

「随分と話してしまったな。そろそろ行くとしよう。では…」

「待ちなさい。仔羊よ」

その場を後にしようと、腰を上げたネロを、イエスは呼び止める。

まだ終わってないとばかりに顔を向けるイエスに、ネロは訝しみながらも、腰を下ろした。

「ネロよ。紅き薔薇の皇帝よ。私は初めに言いました。迷える子羊よ。どうしましたか?と」

「…おぉ!そうであったな。では案内を頼もう」

「違います。紅き薔薇の皇帝よ。私が導くのは貴方と貴方の想い人への道ではなく、貴方の迷いです」

迷いと聞いた瞬間、ネロは表情を固める。

「紅き薔薇の皇帝よ。貴方は今生の愛を過去の為に使うのですか?」

放たれた言葉に、ネロは首を傾げる。

なんのことを言っているのか。

確かに今は幸せだ。

しかしその愛を過去に使っているとはどういう事なのだろうか?

ネロが考えを巡らせていると、イエスは更に言葉を続ける。

「確かに貴方は私の仔羊達に謂れなき罪を被せ、迫害したでしょう。しかし、その罪は貴方の人生が終わると共に赦されたからです」

「なぜそう言い切れる」

「愛し、守ろうと一人罪を背負った人を、同じく愛し、守ろうとした者が何故笑えましょうか?」

その言葉に、ネロは思わずたじろぐ。

イエスは人を愛し、人を守る為に多くの地へ赴き、愛を、教えを説き続けた。

ネロはローマの民を愛し、守る為に彼女なりの愛を示し続けた。

その結果、イエスは時の権力者によって、ゴルゴダの丘に張り付けにされ、ネロは皇帝の座を追われ、自害し、暴君と呼ばれた。

「紅き薔薇の皇帝よ。私は貴方の罪を再び許しましょう。そしてここに誓いなさい。愛を過去の為に使わないと」

イエスは手を差し伸べ、ネロの返答を待つ。

見る人が見れば、絵画の一枚にでもしたのかもしれない。

「否」

「……」

「イエス・キリスト。ユダヤの救世主よ。確かにそなたの言う通り、余はローマの大火災において、謂れなきキリスト教徒に罪を着せ、迫害した。それを理由に愛する者からの誘いも無下にし、こうした手段を取らせてしまった」

差し伸ばされた手を、ネロは否をもって返す。

「しかし!余は止めぬ!たとえ天が、始祖ロムルスが!余を許したとしても!余は余を許さぬ!」

ネロは叫ぶ。

「何故なら彼らもまたローマに住まう者だった!ローマの中に住まうなら、その者の信ずるものが何であれ、余の愛する民だった!!」

己が受け継いできた愛を。

「守るべきだった!救うべきだった!それを余は見捨てた!切り捨てた!」

己の犯した罪を。

「然らばこの罪は忘れてはならぬ!許してはならぬ!許されて良いはずもない!!故に余は余を許さぬ!!」

己が決めた道理を。

「余の心を導く?大言壮語も甚だしい!余を誰と心得る!?」

そして不敵に彼女は微笑う。

「我が名はネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス!!ローマの暴君!バビロンの大淫婦!情熱と薔薇の皇帝とは余のことよ!!」

雄々しく、可憐に、そして華々しく立ち、彼女は言い切る。

見よ。救世主。ネロ・クラウディウスはここにあり。と。

ネロの大演説が終わり、辺りに光が差し込む。

いつのまにか空を覆っていた雪雲が、僅かな隙間から太陽のスポットライトを作ったようだ。

そこに照らされるは二人の役者。

ユダヤの救世主。イエス・キリスト。

紅き薔薇の皇帝。ネロ・クラウディウス。

迫害された者とした者。

しかし、二人はよく似ていた。

人を愛し、人を守り、それを理解されずに愛し、守った人から命を追われた。

「……ネロよ。紅き薔薇の皇帝。私は貴女を誤解していたようです。貴女も愛に生き、愛に殉じる者のようです」

「イエス。ユダヤの救世主よ。余も誤解していたようだ」

二人は顔を見合わせ微笑んでいた。

二人が何者かを知れば、歴史的な瞬間と言える。

「まさかイエスの服のセンスがそこまで低いとはな」

「えぇ!?そこ!?」

 

Side You

ネロとはぐれて結構な時間が経った。

行きそうな所は全部探したけど、一向に見つかる気配がない。

初めての場所で土地勘もない僕は、駅で途方にくれている。

このまま見つからなかったらどうしよう…。

「大丈夫ですよ。●●さん。もうすぐ見つかります」

ありがとうございます。と僕の隣りにいるパンチパーマの耳たぶの長い男性ーー聖 仏陀さんというらしいーーに反応を返す。

僕が困っていると、親切にも一緒に探してくれた人だ。

聖さんはこう言うものの、本当に見つかるだろうか…。

「そうですか。分かりました。ありがとうございます」

僕が落ち込んでいると、隣で誰かと電話を終えたらしい聖さんが、こっちを向いた。

「●●さん。探してる人の特徴は金髪に赤いコートでしたね?」

僕がそうです。と返すと、聖さんは頷き

「では間違いありません。私の知り合いが見つけてくれたようです」

見つかった!?

「あっと!?待ってください!●●さん!」

飛び跳ねるように立ち上がった僕を、聖さんが慌てて引き止める。

「気持ちは分かりますが、道が分からないでしょう?私に着いてきてください」

そうだった。危ない所だった。

危うくまた迷子になる羽目だった。

「落ち着いたようですね。では行きましょう……徒歩で」

何で?

 

「なんと!そなたはまだこのアプリをしておらぬというのか!?」

「いや〜、私達結構生活苦しいから切り詰めてるんだよ。興味はあるんだけどねー。」

「働けば良いであろうに。余が株の読み方を教えてやろうか?ん?」

ついた瞬間、僕の目の前に飛び込んできたのは見知らぬ人と和気藹々と話しているネロの姿だった。

…………何これ。

僕達が必死になって探してる間、ネロはこの人と楽しんでたって事?

まさかとは思うけど先生の言ってたどうにかなるってこういう事?

僕が呆れて帰ろうとしたその時だった。

「二人共。これはどういう事ですか?」

隣りにいる聖さんが光っていた。

え?なにこれ?

 

その後、聖さんからそれはそれは有り難い説教を貰った(何故か僕も正座していた)僕達は、立川駅で分かれる事となった。

「うぅ…本当にごめんよ。私が連絡を入れていれば…」

「すまぬ…余もスマホとやらを使えば良かったと言うのに…」

「私は一般人の前で何ということを……」

四者四様の反省をしていると、間もなく電車が到着することを告げるアナウンスが流れる。

「はっ!?まずい!行くぞ●●!!」

ネロが僕の手を握り、走り出す。

僕も引っ張られるように走り出した。

「あっ!またね〜!ネロちゃん!」

「●●さんもお元気で〜!」

聖さん達が改札口の向こうからこっちに呼びかけてくれる。

僕たちはそれに手を振って答えた。

 

「………」

帰りの電車の中、僕達は並んで座っている。

ネロは朝と違い、ピッタリとくっついている。

「●●…」

ネロが僕を呼ぶ。

僕は顔を向けると、ネロは僕をじっと見ていた。

「その…や、やっぱり余もクリスマスパーティーとやらをしたいのだが……いや、やるぞ!今からでも間に合うはずだ!帰ったら早速準備に取り掛かろう!プレゼント交換もやるぞ!折角だ!知り合いも誘って盛大に盛り上げよう!」

そういうネロは、何時もの…いや、前よりスッキリしたような顔をしていた。

大丈夫だよ。

僕は君の元マスターで、現恋人なんだから。

君のしたい事はなんとなく分かってる。

帰る頃が楽しみだね。

「ん?どうした?…おい、何故ニヤついておるのだ?えぇい!言え!言わぬかー!」

あー、空が綺麗だなー。

 

 

Side Another

「行っちゃったねー」

「そうだね」

二人を見送ったイエスとブッタは歩いて帰路についていた。

「でも良かったよ。ネロちゃんが良い子で」

「私はよく知らないけど、凄い乱暴者って聞いてたけど、そんな事なかったね」

「うん!話せば分かるんだよ!アガペーだね!」

何となく違う気がするが、友人が満足しているようなので、黙っておこうと口を閉ざすブッタ。

「それはそうとイエス。頼んでたケーキは?」

「…………あっ」

 



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