妖精のいる飲食店 (ふくちゃん)
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〜異世界でのんびりやってます〜

ある朝、目覚めると僕は異世界にいた。

眠りについた記憶はなかったのに。

 

あの日のことはよく覚えている。

「知らない天井だ…。」と言って目覚めたんだ。

小説や映画、漫画なんかではよく見る話だろう。でも僕はごくごく普通の人間だ。ただ、吹奏楽部の活動が楽しすぎて過労死するぞ?って言われるくらい練習していたくらいで。

 

そんな僕がどうしてこんなことになるんだろうって何度も考えたさ。

 

僕は両親を早くに亡くした。両親はプロの音楽家をしながらバーの経営もしていた。そのせいか遺産がすっごい額だった。その遺産を横取りしたがる叔母を退けてからは一人暮らしをしながら両親に教えてもらった音楽に明け暮れる日々だった。少しだけやりすぎていたかもしれないけど。ちなみに僕は父さんが初めて僕にくれた楽器のトロンボーンが一番好きだよ。

 

そのおかげで、一通りの家事はできるし、その中でも料理は美味しいって友人たちに人気だった。音楽も毎日欠かさず練習していたら知らない間にそれなりにはなっていたと思う。バーの手伝いをするうちにカクテルの作り方とかも覚えた。

 

でもそれだけしかできない僕が異世界に突然放り出されて生きて行けるわけもない。

 

僕がきたこの世界はまさにファンタジーな世界だ。街から出れば魔物がたくさんいる。少なくとも剣と魔法の片方がないと街と街の移動もままならない。それか冒険者さんに護衛を頼む。他にも獣人さんとか龍人さん、あと魔族の人たちもいる。宗教とかでの迫害はないわけじゃないけどみんな仲がいい。

 

そんな世界で僕を助けてくれたのはマーリンっていうこの世界の梟のような鳥が大好きじいちゃんだ。

昔は冒険者としてブンブン言わせてたみたい。引退して王都でのんびり宿を経営していた。僕が目覚めたのはその宿の一室だ。なんでも王都の外に食材調達してる途中に倒れているのを見つけたんだって。側にあった荷物も一緒に。そのものから推測すると僕は部活帰りにこの世界に来たっぽい。そして保護してくれたというか、孫にしてくれて冒険者としての能力と宿の仕事をじいちゃんに、それと鑑定してもらってわかった天職の「職人」に関するスキルをじいちゃんの友人に叩き込まれてやっと一人前って時に老衰で死んじゃった。僕は宿を引き継ぎ、元気にやってます。

この世界に来て3年。今日も元気にいきます。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ。『梟の止まり木』へ。お泊りですか?それともお食事でしょうか?」

 

本日も開店です。

 



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美味しい料理は妖精のおかげ

「いらっしゃいませ。お泊りですか?お食事ですか?」

 

ある日の夕方、僕はいつも通りに宿の運営をしていた。宿泊されるお客様には台帳に名前を書いてもらいかけない人には代筆をし、お食事の方から注文をうけ、料理をする。まあ基本的に分業してやってるけど。

 

「オムライスですね。かしこまりました。」

今回はオムライスのご注文だ。ちなみに日本、というより僕が元いた世界の料理はこの宿の名物になっている。じいちゃん時代から付き合いのある商人さんがお米や大豆とかを持ち込んできたから僕の故郷の料理を作ってみたら大ヒットってところだね。

 

厨房に行き、家妖精シルキーの従業員のローズのところへいき、オムライスの注文が入ったと伝える。

 

じつはこのローズも僕と同じく地球出身だ。僕をじいちゃんが見つけた時、近くにあったのは学校のカバンとケースに入ったトロンボーンがあったらしい。で、ローズはそのトロンボーンのケースに宿っていたみたいなんだ。

 

聞くところによると、僕の家に宿っていたんだけどトロンボーンの家っていう認識でケースに分身が住み着いていていて、こっちの世界に来たら本体と同じ力がついた。その上実体化できるようになったんだって。その代わり、本体とのリンクがなくなったとかでもうべつの存在らしい。正直僕にはよくわからないけどまあいいかなって思ってる。

 

ローズは家妖精だから宿の運営にはこれ以上ないくらいの戦力だ。炊事洗濯掃除全部できるもん。僕もできるけどまだまだ。ローズには本当に上手って言ってもらえたけどね。

その上美人さんなんだよなぁ。多分地球だとどんな女優も泣いて逃げ出すレベルの。整った顔に、長い綺麗な脚、綺麗な白い肌。まさに大人のお姉さんって感じ。宿で食事する人の中にはローズ目当てな人もたくさんいるんだよね。

 

「おーい。リョウくん。オムライスできたよ。お届けお願〜い。」

 

リョウとは僕の名前だ。本当は坂井リョウトっていうんだけどこっちじゃ不自然だし貴族か、功績を挙げて苗字をもらった人じゃないと苗字は持っちゃいけないからじいちゃんに言われてリョウって名乗ってる。もうこっちが本当の名前みたいになってるけどね。

 

厨房からオムライスを届けるとお客様に残念そうな顔をされた。どうやらローズに持ってきてほしかったみたい。仕方ないけどなんか悔しい。まあ、ボソッと今日はローズが作ったって言ったら大喜びで食べるのを見ると文句なんか出てこなくなる。

 

厨房のところへ戻るとローズから、何を勘違いしたのか「大丈夫。私はあんな男じゃなくてリョウくん一筋だから。」って言ってきた。

 

その一言で店内が鎮まり返り、戦場のような雰囲気になった。ローズってば恐ろしい子。

 

その日のお食事の売り上げは男性客のやけ食いでいつもの三割増しでした。



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可愛い音楽家

「ねぇ!リョウ!今日デュエットしよーよ!」

 

こいつの名前はベラ。こいつも地球出身の自称妖精だ。こいつも僕と一緒にこの世界へ来た。こいつも一緒に宿の運営してる。僕のトロンボーンに宿っていたんだけどこの世界に来て存在がトロンボーンから独立したって言ってる。

 

本当かどうかは知らないけど、日本のネタがわかるみたいだから地球出身なのは認めてる。

 

こいつの成り立ちは僕がトロンボーンを愛用したからトロンボーンに生まれた自我が、さらに強くなって生まれたらしい。どんな存在にも意思が宿るっていう日本の言い伝えみたいなやつ、こやつが証明しました。

 

こいつは3階建ての宿の一階で音楽をお客様に提供している。僕とデュエットもよくやるんだ。もとは僕のトロンボーンだからなのかな?僕とすっごく息が合う。それにどんな楽器でもすぐ上手にち演奏するようになる。ベラとアンサンブルコンテストに出ることがあったら多分いいとこまでいくんじゃないかな。

 

宿は3階建てのうちに2階、3階は宿の客室で、一階に僕らそれぞれの部屋と、食事ができるレストランスペースがある。

 

そのレストランスペースに僕のお願いでじいちゃん時代からよく演奏してる。この世界は音楽がそんなに発展してないから最初はトロンボーンしか演奏できなかったけど今ではいろんな楽器を自作して使ってます。幸い、僕が音楽好き過ぎなせいでほとんどの楽器の仕組みがわかるからいろいろ作れたんだ。お金はかかったけど…。

 

 

ベラは炊事洗濯掃除は何一つできないから演奏しない時はウエイトレスとして働いている。

ローズと違って背が小さい可愛い系で、こいつも結構人気だ。「ベラちゃんを見守り隊」っていう組織ができるくらいだ。いろいろ危ない匂いがする集団で、街の衛兵の方に聞いた話だと監視対象らしいけど。

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

もちろん聞いてますとも。って答えたらウソだ。って軽く叩かれた。いてて、バレてたみたい。

 

今日はどの曲をやるの?

 

「さっきお客さんからリクエストもらったの。これをやろう。」

 

そう言って渡されたのはこの世界に来て初めて二人でデュエットした曲。もともとはトロンボーン8重奏の曲だけどピアノとトロンボーンのデュエットに僕が書き直した曲だ。日本を想う曲で本当はチャリティーのために書き上げられた曲なんだけど僕らは日本を思い出すために演奏した。今ではそんなこと関係なく、人気な曲だからたまに演奏してる。

 

よしわかった。準備しよう。ローズ、厨房は任せた。

 

 

Ladies and gentlemen、and boys and girls、皆様大変長らくお待たせいたしました。僕とベラのデュエットステージ、開演です。



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姫騎士 1

「私の剣を修理してくれないか。」

 

ある日、夜レストランスペースが酒場として営業している時間にやってきたローブをかぶり、素顔を見せないようにしているお客様は僕の目の前のカウンターに座り、注文を聞くとそう言った。

 

一応、ここは今酒場だ。聞き間違えかもしれないのでもう一度聞く。

 

「ご注文は?」

 

「ならばこの店でしか飲めないというカクテルとやらをいただこう。そのあとで私の話を聞いてはもらえないだろうか」

僕は話を聞くだけならと、ため息をついた後尋ねた。

 

「カクテルと言ってもいろいろありますがどうしますか?

 

ーーーーーーーー

 

カクテルが一種類じゃないことを知ったお客様は少し恥ずかしそうにしながら「オススメを。」といったのでバレンシアというカクテルを作ってお出しした。

 

お客様はバレンシアの味に驚いたようだった。この世界のお酒はキツイだけのものが多いからなぁ。ここで提供しているお酒は僕の職人スキルを駆使して作ったものだ。元の世界のお酒よりも美味しいと思う。すごいでしょ。えっへん。

 

 

しばらくしてバレンシアを飲み干したお客様が話し出した。

「この店は不思議なものばかりだな。酒場といえば騒がしいものなのに、それなりに話し声がするとはいえ、とても落ち着いた雰囲気だ。この酒一つをみてもそうだ。他で飲む酒とも違う。とても飲みやすい。」

 

お客様は感心したようにいう。僕も嬉しくなり笑いが溢れる。静かなバーにしようと頑張った甲斐がある。

 

それは良かった。そのカクテルは女性の方にも飲みやすいものですからね。

そう言うと、お客様はとても驚いた顔をした。「私が女だと気がついていたのか?」とでも言いたそうな顔だ。

 

「そりゃ気がつきますよ。アーガイル公爵御令嬢。いや姫騎士アメーリア様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか。」

 

彼女だけに聞こえるようにそういうと、彼女は興味深そうに質問してきた。

 

「ほう?そこまで気がついていてなぜ最初断るようなことをしたのか?」

 

わざわざ聞かなくてもわかることを聞いてくるとはね…。まず、アーガイル公爵家はとても有名だ。その令嬢もしかり。そんな人物が変装して店にいたら警戒くらいはする。

そして依頼だときた。貴族、それも公爵令嬢相手に失敗でもすればどうなるかわかったものでもない。その上、姫騎士となれば顧客にしたい鍛冶師なんていくらでもいる。資金に関しても問題ないだろう。にもかかわらず、僕のところへ持ってきた。まあなにかあると思うに決まっている。

 

そう答えるとアメーリア様は「なるほど。」笑って、「それに関しては安心してくれ。そうだな、宿の部屋を今から一晩借りよう。その中で説明と条件を話したいのだがいいかな?」

 

あいにく部屋は満室です。

 

僕は笑顔でそう答えた。

 

「なっ!?…仕方あるまい。また明日来よう。」予想通りの反応である。笑ってしまいそうだ。

 

なので

 

まあまあお待ちください。商談用の部屋でお話ししましょう。

 

そう言うと悔しそうな顔をした後苦笑を浮かべて、「ああ、お願いする。」

そう言い終わった彼女の顔は安心したのか年齢通りの少女の笑顔だった。

 



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姫騎士 2

部屋に案内するとアメーリア様は部屋の調度品をみて感心したように言った。

「とても良い品だな。この王都でもここまでのものを作るのはそうはいない。これは君が?」

 

なるほど少しバカっぽいイメージを受けてたけどそうでもないようだ。

 

良い目をお持ちですね。紅茶を淹れながら言うと今までいろんなものを見てきたから出来が良し悪しくらいは見分けられるんだそうだ。

 

「さて、ご依頼のお話しですが、確か剣の修理するというものでしたよね。」

 

「ああ、そうだ。この剣を修理できる人物は君ぐらいだとギルドから紹介を受けてな。受けてくれるか?」

 

「なるほど、御断りします。」

 

「なっ、即答はないだろう⁉︎」

アメーリア様は慌てているみたいだ。はぁ、僕は言ったじゃないか。

 

「私は先ほど、話を聞くだけならと、そう申し上げたと思うのですが。」

 

そう言うとしゅんとしてしまった。公爵令嬢が一人でこんなところにいるんだ。事情があることくらいはわかるがこちらも仕事がある。妖精は休みを必要としない上、ローズとベラの二人で宿はちゃんと切りもりできる。でも精神的な疲労はどうにもならない。そう長い間は抜けられないのだ。だから基本的に依頼は受けていない。

 

向こうもそれがわかっているのだろう。だが他に選択肢もないようだ。理由だけでも聞いてくれないかと言ってくる。

 

もうこれくらいでいいだろう。向こうがこちらに無理をさせたということにはなったはずだ。理由聞き、内容によってはうけてみよう。

そう思って、いいでしょう。お聞きしますよ。そう言って彼女の方を見る。あ、復活した。

 

「鍛冶屋を専門でやっていないここに依頼を持ってきたのは普通の鍛冶屋ではこの剣を治すことはできないと言われたからだとさっき言ったが、理由は簡単だ。これを見てくれ。」

 

そう言って腰から剣を外し、渡してきた。

 

受け取ってみてすぐ、なるほどと思った。

これの材料を扱える人間は僕以外にはあのじいちゃんの友人しか知らない。あの人ももう死んじゃったし、他にないというわけだ。それにこれ…。

 

「ここに持ち込まれたわけは理解しました。たかにこれを扱える人間はそうはいません。僕は扱えますが。」

 

僕は扱えますがのところで目に見えて表情が変わる。この人交渉下手なんだろうな。というかこんなんで貴族社会で生きていけるのだろうか。そんなことを思いながら続ける。

 

「この剣を修理することは可能です。もちろん費用も報酬もそれなりにいただきますが。しかし、この素材で作られた武器は余程の相手でなければ威力が強すぎます。私が聞きたいのはなぜそのようなものを修理する必要があるのでしょうかということです。それともう一つ。この剣、()()()のものではないですね?」

 

あ、ダメだ。また驚いた顔してる。この人きっと貴族社会でやっていけないタイプの人だ。

 

なぜそこまでわかるかって?簡単だよ。まずどうして公爵令嬢だってわかったかというとかぶってるローブに公爵家の紋章が付いてた。しっかり見ないとただの模様にしか見えないくらいのサイズだったけど。

その上で歩き方から女性、その上何かしらの武術を持っていることまでわかった。貴族社会に公爵家に関係のある武術を修めた女性ってことで姫騎士さんかなってカマかけたらドンピシャってわけ。

 

そして剣のほう。こっちは簡単。だってこれあのじいちゃんの友人が前修理したやつだもん。まあ僕の師匠なのかな?師匠の工房で修行してる時に50代くらいのおっさんが修理してくれって言ってきた時ものだし。

 

全部伝えるとアメーリア様は少し悩んでから何かを決心したような表情になり、こう切り出した。

 

「やはり明日、また話をしよう。明日の朝、迎えをおくる。それで構わないかな?」

 

何かに巻き込まれそうだけど師匠が扱った剣に関係する話だ。行くしかないでしょう。それにアーガイル公爵家からの話だし、あの人関連だろうしな。

 

 

かしこまりました。宿「梟の止まり木」でお待ちしております。

 



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姫騎士 3

どうしてこうなった…。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

アメーリア様がよこしてくれた迎えは朝のはずだったのに真夜中のうちに迎えがきた。

 

なんでも公爵に面会することになるから礼服を用意しなくてはならないのだそう。

 

しかも使用人の独断。というよりは公爵の知らないところで他の貴族からの攻撃材料が生まれないようにするためみたい。身分差別は基本的に存在しないし、公爵もそんなことをする人ではないらしいのだけれど中にはそんな貴族もいるんだって。そんな配慮ができる使用人さんってすごい。

 

しかもお抱えの服屋さんもいて、朝公爵に面会する前に採寸から全部やるんだとか。すっごくお金かかってる…。まぁ費用は公爵家が出してくれるみたいだから安心だけど。

 

今回は大まかに作ってあったのを採寸のデータを元に調整するって形だったから服の製作はすぐ終わった。

 

 

 

そう、製作は。

 

公爵家の好意で何着か作ってもらえたんだけど、公爵家のメイドさんたちがその服からどれにしようか迷ったみたいで着せ替え人形状態だったよ。顔が幼くて可愛いからって理由で。日本人はよく幼く見られるらしいけど…まさかそれがここまでとはね…。年下の子もいたんだけどなぁ…。

 

こっちの世界に来て3年。今年で18なんだけど、15くらいに見えたんだって。

 

 

そんなメイドさんたちの戦い(着せ替え)が終わった時にはもう疲れ切ってた。

 

アメーリア様も迎えとして来るということなので使用人の方々の行動がばれないように宿に戻り仮眠。 朝の仕込みとかが終わり時間のあったローズが膝枕してくれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして迎えの馬車が来た。

僕らの宿があるところは平民街の商業区画にある。そんなところに貴族の馬車が止まることなんてなかなかないからすぐ野次馬がたかっきてさ、そんな状態の時にローズが「いってらっしゃい。帰ってきたらまた膝枕してあげわね!」なんて言ったもんだから…。

 

ベラに膝枕のことがばれてローズに対抗心があるみたいなベラが次は「次は私がリョウにしてあげるんだからね!」ってローズに大声で言ってしまいもうあたりは大騒ぎ。

 

あーあ、衛兵さんまで出てきちゃった。

 

ごめんなさい。じつは……………。

 

 

衛兵さんに全部はなしたら、騒ぎを収めるのを手伝ってくれてなんとか終わったよ。

 

公爵家に行く前になんでこんなに疲れちゃうかな…。

 

馬車に揺られて考えてもベラとローズが悪いとしか思えない。

よし帰ったらお説教だな。



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姫騎士 4

「お嬢様、お客様、間も無く公爵家に到着致します。」

 

御者さんに言われて外を見ると公爵家が見えた。広い庭に、綺麗な植物、噴水もあって鳥もたくさんいる。日本の植物園などよりも綺麗かもしれない。

 

これから公爵家当主に会うことになるらしいんだけど、同じくらいの女の子の父親に会うってなんだか結婚前に挨拶するみたいだなぁ。

 

アメーリア様お強いから尻に敷かれそうだけど…。

 

「そうだ、リョウ。」

 

は、はいぃ!すいません。つい出来心で、変な考えしてすいません!!

 

「どうした、びっくりしたような顔になって。

まぁいい、私はこれから着替えてくるように言われている。先に父と会っていてくれ。」

 

はぁ、そういうことか…。わかりました。先に行ってます。

 

ーーーー

 

メイドさんの案内で当主執務室前まで案内された。

 

コンコン

 

「旦那様、お客様をお連れいたしました。」

 

え、ちょっと待って。心の準備が…。

 

なんて言ってる暇もなく、「入れ」と声が聞こえちゃったよ…。

 

仕方ない。入室するか…。

 

お邪魔します。初めまして、リョウといいます。いやお久しぶりですかね。

 

「おや、覚えていてくれたのかい?」

 

「ええ、もちろんです。ゲオルク=アーガイル公爵様。」

 

あ、なんか嬉しそう。この人は師匠のところに今回の依頼の剣を持ってきた人だ。でもあった時からまだ2年と少ししか経ってないんだけどなぁ…。

 

ーーーー

 

挨拶をしてからはもう早かった。この人、師匠とは年齢こそ離れていてまだ若いけど友人だったみたいで…。公爵家後継なのに冒険者してた人で、基本的に武器関連のことは師匠に頼んでたんだって。公爵家前当主が死んで代替りする時に最後の迷宮探索で見つけた剣を直してもらいにきた時、そこで修行してたと僕にもあったってわけ。

 

僕の持ってきたワイン(収納の腕輪に入れておいた。)を飲みながら師匠の話で盛り上がる。この腕輪も師匠につくり方教わったんだけど便利だよなぁ。作る過程で内部時間を止める止めないとか、容量とかもきめれるから楽チン。

 

あ、話が逸れちゃった。

 

互いにそれに気がつき笑う。

 

でも急に深刻な顔になったので、僕も姿勢を正す。「さて、今回君を呼んだ件だが…。」

 

「お心遣い、感謝致します。」

 

言い淀んでいるけどもう全部お見通しです。って意味を込めて、重ねるようにいう。

 

「やはり君は聡明だな。冒険者時代の私を貴族と一目で見抜いただけのことはある。」

 

その言葉、そのままお返ししますよ。あなたこそ、御令嬢に剣を持たせればこの状況になると読んでいたんでしょ?

 

「ん?違うぞ。君こそ今の状況を理解してるじゃないか。」

 

ちぇっ。顔に出てたか。

 

「さてやっと本題には入れる。察しがついてはいると思うが今回の依頼は剣には関係ない。実は私の妻がな、少し特殊な病にかかってしまい…。」

 

「なるほど、エリクサーですか。いいですよ、瓶何本ですか?なんなら在庫全部の100本とかでもいいですけど。」

 

「今回エリクサーを作ってもらうに当たって申し訳ないのだが素材調た……ん?今なんて言った?」

 

えーっと、なるほど?

 

「その後だ。」

 

エリクサーですか、かな?

 

「もう少し後。」 瓶何本?

 

「その次。」あー、在庫全部で100ってと…。

 

「そこだよそこ。なんなんだい君、エリクサーを100本?なに霊薬量産しちゃってるわけ⁈なんなの、君の師匠も理不尽な能力持ってたけどそこまでぶっ飛んでなかったよ⁉︎」

 

ち、ちょっと落ち着いて…。とりあえず、どうどう。

 

ーーーー

 

「すまないね、取り乱した。」

 

いえ、気にしません。これ、接客業の基本ですから!

 

「はっはっは、君らしい。ではエリクサーを買わせてくれないか。お代そうだな、王金貨300枚でどうかな?」

 

 

え…?

 



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姫騎士 5

「すいません。聞き間違えかもしれないのでもう一度お願いできますか…?」

 

「ん?王金貨300枚では足りなかったかな?」

 

なんなのこの人。金銭感覚おかしくない?

日本円で大体3000億円だよ?人一人のためだけの薬に。お貴族様すごいや。

 

 

というより、平民の僕がそんな額のお金をもらったらめんどくさいことになっちゃう…。

 

「そうだなぁ、王金貨450枚でどうだ。」

 

え、ちょっと待って。足りないなんて言ってないよ?むしろ多すぎるんだけど!

 

どうしよう…。

 

コンコンコン

 

あれ?ドアがノックされた。

 

「お父様、アメーリアです。入っても?」

 

あ、アメーリア様か、着替え終わったんだね。

 

「ああ、入れ。」

 

「失礼します。」

 

ーーーー

 

「改めて自己紹介をされていただきますわ。アーガイル公爵家三女、アメーリア=アーガイルです。よろしくお願いしますね。」

 

部屋に入って公爵様の横につくと僕に向かって自己紹介をしてくれた。カーテシーと一緒に。

 

すっごく綺麗だ。ホントに。姫騎士モードの時にはまとめている長い金髪をおろし、凛とした雰囲気だったのが一変してふわりとしたお嬢様然としたもとになってる。

 

普段着なのか装飾の少ない青いドレスを着ているがそれが彼女の魅力をより一層引き立てているみたい。

 

ーーーー

 

「あ、あのぅ…リョウ様?」

 

はっ⁉︎や、やべぇ見惚れてた…。

てかアメーリア様反則だよ、ここに来るまでみたいに騎士っぽい喋り方じゃなくてお嬢様みたいなんだもん。

 

「す、すみません。ぼーっとしてしまって。」

 

「はっはっは、さてはアメーリアに見惚れてたな?」

 

うわ公爵様楽しそう。

「ちょっとからかわないでくださいよ、アメーリア様に申し訳ないです。アメーリア様も何か言って…」

 

言いながらアメーリア様の方を見ると、顔を真っ赤にして口をパクパクさせているアメーリア様がいた。

 

あーっもう!可愛いなぁちくしょう!

 

「お、お父様‼︎お戯れが過ぎます!」

 

真っ赤な顔したままアメーリア様が怒る。

 

「なんだお前、照れてるのか?」

 

さらにからかわれて、恥ずかしくなったのか部屋の隅の方に行ってしまった。

 

「……。少しやりすぎたかな、話を戻そうか。エリクサーは1本でいい。王金貨450枚で売ってくれ。」

 

ホントにその値段払うつもりなんだ…。

あ、あの高すぎるんですけど…。

 

「高すぎるって言ったって最高の薬だぞ?傷と病気を癒し毒も抜く、その上魔力増強の能力もあるものだ、それくらいはするだろ?」

 

「いえ、材料費だけで銀貨2〜3枚、手間賃とっても大銀貨1枚も頂ければ充分です。」

 

 

「ちょっと待て、なぜその値段でエリクサーが作れる?それだと最上級の10級どころか8級回復ポーションより安いぞ?」

 

え?マジで?ポーション高すぎでしょ?

 

「え?そうなんですか?僕は冒険者時代に自分様のものは自分で作ってたので知りませんでした…。でも材料は一つを除けばこの街の市場で買えますしねぇ。その一つのものも僕なら簡単に手に入ると言ったところでしょうか。なので大銀貨1枚以上の額は頂きません。」

 

「そ、そうなのか…。わかった、では大銀貨1枚で買おう。その上でそれとは別になにか報酬を出そう。」

 

「いえ、遠慮しておきます。僕は今の生活が続けられればそれでいいので。」

 

「うーむ、躱されたか。兄に爵位でももらえるよう頼もうかと思ったのだがな。」

 

兄って…。公爵様が王弟だから国王様じゃないですかやだー…。

 

なんとかして話を逸らさないと…。

 

「あのぉ、とりあえずエリクサーを奥様に…。」

 

「あ、そうだな。が、私はこの後にも面会しなければならない人がいるのでな。アメーリア、リョウ殿をご案内しろ。」

 

……。

 

アメーリア様まだ拗ねてる…。

 

かわいい。やばい。ナデナデしたい…。

 

で、そのまま「かしこまりました。リョウ様ついてきてください。」とだけいって、部屋から出てしまった。

 

「すまないね、でもかわいいだろ?」

とかニヤついていたので嫌われますよ?って言ってから部屋を出た。言った瞬間のしまったという顔を見て笑いそうになったのをこらえながら。

 

ーーーー

 

部屋を出るとアメーリア様が待っていた。

 

「…ついてきてください。」

少し拗ねたままで。

 

案内されるままついて行く途中、

「先ほどはごめんなさいね、お父様はいつもあんな感じで…。」

 

うん、なんとなくわかってた。

どっちかっていうとモードチェンジする貴女のことのほうが気になるんですが…?

 

「あ、それはですね…。」

 

なんと両親との約束らしい。自分が貴族社会で生きていくのは無理そうだから20になる前に家を出て騎士なり冒険者なりになると親に伝えたら許可は出たけど姫騎士モードじゃない時は公爵家の娘でいてくれって話みたい。冒険者活動は家を出るまえから許されていたら知らない間に姫騎士なんてあだ名がついたってところ。

 

ーーーー

話をしているうちに着いたみたいだ。

 

コンコンコン

 

「お母様、アメーリアです。お客様も一緒ですが入ってもよろしいでしょうか?」

 

ガチャリ。どうぞとメイドさんが内側から開けてくれた。

 

「あらあら、娘が男の子を連れてきたわね。結婚の挨拶かしら?」

 

「お、お、おお、お母様⁉︎⁉︎」

 

まーたこのパターンかよ、娘いじり好きすぎだろ…。

 

ーーーー

 

そのまま少しお話しをさせてもらったが、病気は魔侵病と呼ばれるものみたいだ、なんらかの理由で自分の体内許容量を超えて魔力を取り込んでしまうようになり、体のあちこちに負荷がかかるものだ。完治させるにはエリクサーしかないものだった。

 

魔力増強、つまり体内魔力の量を増やすことができることを利用し過剰分の魔力分も許容量にしてしまうことで解決をする。

 

で、エリクサーをメイドさんの毒味の後飲んでもらって治療は終了。

 

公爵家の依頼は終了した。

 

ーーーー

 

あの後、昼食をご馳走になった。うまかったよ?さすがにローズにはかなわない感じだったけど美味しかった。

 

これから宿まで送ってくれるらしいんだけどね、使用人さんたちが総出でお見送り。みんな口々にお礼を言ってくる。公爵家ら使用人に愛されているみたいだね。

 

でもまさか、宿の暇な時間に暇つぶしで作りましたなんて言えるわけもなく、ただ良かったですねとしか言えなかった。

 

ーーーー

 

なんやかんやあって行きと同じく、馬車でアメーリア様と宿まで戻ってきた。

 

あーかえってきたぞー!!

 

「リョウ様。」

 

あ、やっべ。アメーリア様のこと忘れてた。

テヘペロ。

 

はい、なんですか?

 

「私はまだ18ですがもうすぐ家を出ようかと考えています。その時、この宿に厄介になってもよろしいですか?」

 

 

「ええもちろん。同い年の友人が宿を利用してくれるなんてとても嬉しいことです。お待ちしていますよ。アメーリア様。」

 

「アミィです。」

 

え?

 

「私のこと、アミィと呼んでください。」

 

えーとそのぉ…。

 

「あ、アミィ。」

 

「はい♪」あれ、るんるんになってる。

 

その後、また来ますね。と言って僕のほっぺにキスをしてから馬車で帰って行った。

 

僕はその小さくなっていく馬車をほっぺを抑えながら見ているしかなかった。

 



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閑話 ベラの早とちり

 

 

〜これはリョウが公爵家へ出かけている時の宿のお話し〜

 

「ローズ!さっきの約束忘れないでよね!」

 

「はいはい、わかったよ。はいこれ、8番様に届けて。」

 

「はーい!〜〜♪〜♪〜〜〜♪」

 

ーーーー

 

「お待たせしました〜!はい、中華丼です♪」

 

「ありがと、ベラちゃん。今日はルンルンねぇ。何かいいことあったの?」

 

「はい!リョウが帰ってきたら膝枕してあげるんです!」

 

そーなのー、いいわねー、頑張ってね!などなど、ベラを応援する言葉が周囲の人からあがる。

 

盛り上がる中に、ある声が響いた。

 

 

いや響いてしまった。

 

「でも今日出かけた理由って姫騎士様関連なんでしょ?リョウってあのマーリンさんの孫だしもしかしたらそのまま姫騎士様と結婚とかしちゃったり…。」

 

言った冒険者風の男も気がついたのだろう。

 

これは言ってはいけなかったと。

 

沈んでいく空気と周りのご婦人からの冷た〜い視線に耐えられなくなったのか「す、すいませんでしたぁー!」っと言いながらお代を多めにおいて行ってしまった。

 

ーーーーーーーー

 

ずーん。

 

そんな言葉が似合う空気があの発言の後続いてい……

 

「うえ〜ん〜〜〜、リョウがリョウがぁ〜。」

 

なかった。

 

ベラ、大泣きである。

 

あの発言の結婚の部分が特に響いたらしい。

 

すでに頭の中の想像ではラブラブの二人が の間に子供ができているくらいには。

 

「はいはい、ベラちゃん大丈夫だからねぇ〜。」

 

お昼時も過ぎ、お客さんも少なくなってもまだ泣きっぱなし。流石のローズもお手上げであった。

 

と、そんな時にーーーー

 

バァン!

 

勢いよくドアが開いた。

 

「お、おい!公爵家の馬車がきたぞ!」

 

先ほどの冒険者風の男だ。

なんでもさっきのことを負い目に感じていたらしい。

 

「ほ、ほんと⁈」

 

「ああ、本当だとも。だから出迎えてやりな。」

 

 

「うん!」

 

ダダッ

 

ベラは駈け出す。大切な男の子を出迎えるために。

 

店を出るとそこには……。

 

 

「あ、アミィ。」

 

女の子を愛称で呼んでいる彼がいた。

 

ーーーー

 

そっか、そうなんだね。

 

なんでだろう。ねえ、どうして涙が止まらないの?足が動かないの?ねえ、震えてないで動いてよ。

 

リョウを出迎えてあげなきゃいけないのに、

 

リョウに膝枕してあげるのに、

 

リョウと姫騎士様におめでとうって言ってあげなきゃいけないのに、

 

キス、されてる…。

 

でも唇同士じゃない…ね。

 

言ってるだけ無駄かな、私はしたことないし。

 

姫騎士様行っちゃった。

 

あれ、リョウほっぺおさてえるだけだよ?

 

もしかして突然されたの?

 

もしかして、そういう仲じゃないの?

 

コツコツ

 

 

あ、ローズがリョウのとこに…。

 

うわあ、ローズ怒ってるよ。怖い…。

 

ここまで声聞こえてくるもん。

 

ん?

 

んん?

 

はぁぁ〜〜〜〜⁈⁉︎⁉︎

 

突然キスされただけ⁉︎

 

呼んでくれって頼まれただけ⁉︎

 

なにそれ⁉︎

 

ーーーー

 

ベラはもう一度駈け出す。

 

リョウを叱るために。

 

あんたのキスは私の物なのだと、

 

ドロボウ猫なんかにとられてるんじゃないと、

 

ちょっと瞼腫れてるけど笑顔で跳んで……

 

「リョウ!おかえりなさい!」

 

ドコォ!

 

ドロップキックを決めるために。

 

 

ーーーー

 

これが理由でリョウは怪我をした。自前の治療薬どころか市販品すらローズに禁止され、安静にするのであった。

 



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告白

あーいてて…。

 

ったく、生身の人間の腰にドロップキックかますかなぁ……。妖精の本気だったらシャレにならんぞ…。

 

まあ軽い怪我で痛いだけで動けるんだけどね、ローズに理由とか聞いているんだけど…ねえ…。

 

僕がアメーリア様にとられちゃうって思ったってさ…。

 

まずベラが僕のことそういう意味で好きだったなんて、思いもしなか…っていたいいたい。

僕けが人だよ、ローズさんグリグリしないで…。

 

「だったらベラにちゃんと謝るのよ〜。乙女心を弄んだ罪は重いぞ〜?」

 

も、弄んだ⁈

 

まあそうなっちゃうのかなぁ……。よし!

 

「ねえローズ。」

 

「なにかしら?」

 

「協力してくれない?ベラに謝りたいから。」

 

「いいけど〜、ベラの次は私ね〜?」

 

「え?」

 

「あ、ひど〜い。言ったじゃないの、私はリョウ一筋って。今回の事でね、ベラも私も自分の気持ちを自覚したのよ?責任とってよね?重婚で大丈夫だから。」

 

え…?マジっすか?

 

二人とも僕にはとてもよくしてくれてたけどまさかそんな風に思っとくれてたなんて…。気がつかなかった…。でも僕と二人が夫婦になるって想像するとなんかドキドキする。僕も二人が大好きみたいだ。

 

 

よしちゃんと告白しよう。

 

ーーーー

 

結果、協力してくれる事となり怪我は軽いのに「安静にしなきゃいけない」ってベラには伝わったよ。

 

で、できた時間でなにをするかはもう決めてる。

 

師匠からいろいろなものを作る技は叩き込まれた。それをいかして、二人にアクセサリーを送ろうと思う。ベラだけのつもりだったけどローズもだなんてね…。僕って鈍いのかなぁ…。

 

アクセサリーに使う宝石も僕が作る。公爵家に行った時に教えてもらったんだけどじいちゃんも師匠もとっても凄い人で、その両方の技術を受け継いだ僕はそれこそチート級みたい…。宝石を作るなんてことも普通はできないみたい。

 

まあ今回はそのチートをふんだんに使うよ。

 

作る、というか生成するのはダイヤモンド。それもファンシーピンクダイヤモンド。

綺麗なピンク色のダイヤモンドだ。

ピンク色になるのは結晶構造が少し歪んでいるからって言われてる。

炭素の集合体だから僕の魔法で、空気中の二酸化炭素から精製できる。

歪みも再現できるはずだ。

 

人工石っていうと聞こえが悪いけど二人に送る二人だけのアクセだし、僕が一から作りたい。

 

ローズの事だからベラにはばれないだろうけど慎重に宿の地下の工房へ行こう。

 

ーーーー

 

工房についた。

 

よし、やるか!

 

作るのはファンシーピンクダイヤモンド。地球ではほとんどお目にかかる事のないものだ。

 

そしてカットはハートシェイプ。ハートの形をしたカットでピンク色との組み合わせは最高だと思う。まあカットというより作り出す時に形も決められるからカットも研磨もしないんだけどね。

 

魔法っていっても想像しながら魔力を使うだけでいい。この世界の魔法は呪文とかはいらないんだよね。実戦で使ったりする時に呪文唱えるとか恥ずかしくてできないから良かったーっておもってるんだ。

 

よし集中‼︎やるぞ‼︎

 

ーーーー

 

「よし!できた!」

 

思わず声を上げてしまった。

 

でもそれくらいは大変だった。初めてだったけどうまくいって良かったー。

 

あとは、宝石をアクセサリーに加工するだけ。

アクセサリーはハート型を生かした。ロケットペンダントにするって決めてる。それともう一つ作るけど。

 

地球だとプラチナをつかって作るんだったと思うけど、今回僕はプラチナとファンタジー金属定番のミスリルとオリハルコンを使おうと思う。

 

昼から始めたけど夕食をベラたちが部屋に持ってきてくれるまでまだ時間があるから作ろうも思う。

 

工房の棚からオリハルコンとミスリル、白金の原石を取り出し、加工していく。

 

どれも腐食をしないっていう特性があるけど、ミスリルは魔力との親和性がとても高い、オリハルコンは魔力との親和性がとても低い代わりにとても硬いっていう特徴がある。

 

これから作るのはその相反する二つの素材を白金でうまくつないでいくイメージで作る。

 

ーーーー

 

ここをこうしてっと…。

それでここを…。

よし!完成し…。

 

コンコン

 

「あ〜れ〜?部屋から抜け出してなにをやってるのかな〜?」

 

「安静にしなきゃいけないって嘘だったの⁉︎ひどい!」

 

あ、ばれちゃった…。

 

…。

 

…。

 

「とりあえず正座‼︎」

 

あ、アイマム!

 

ーーーー

 

二人には事情を説明した。

 

ローズは途中までしってたからまだしもベラの驚き様がこっちまでびっくりしてしまうレベルだった。

 

で、最後に。

 

「僕のすべてをもっと幸せにすると誓います。僕に結婚してください‼︎」

 

 

「「いや。」」

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちだけじゃだめよ〜。」

 

「リョウも幸せにならないでどうするのさ。」

 

「「みんなで幸せになりましょう‼︎」」

 

ふ、二人とも…。

 

あれ、なんでだろ。涙が止まらない…。

 

このあったかい感じ。懐かしいなあ。

これきっと家族ってやつなんだよね?

 

二人にペンダントを贈った。

 

そしてもう一つ。結婚指輪を贈った。

こっちの世界でも結婚で左手薬指に指輪を風習があるんだ。

 

二人ともとっても喜んでくれた。

 

ありがとう。僕はきっと世界一の幸せ者です。

 

P.S その日の夜は3人で川の字になって寝ました。



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小さな音楽家の話 1

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。」

 

「そうね、アイスコーヒーをミルク入りで。」

 

「かしこまりました。」

 

僕が結婚を二人に申し込んでから1年。

 

3人でちゃんと経営してます。

 

でも、宿じゃないです。

 

宿は姫騎士様が一回泊まった後、やめてレストランとバーに専念することにしました。

 

理由は……。

 

ローズがせっかく夫婦になったのに宿だから夜もお客さんいるんだよね〜ってふてくされたのがきっかけです。

 

あとは……ね?

 

まあそんなこんなでやってます。

 

朝7時から喫茶兼レストランを営業。

 

バーは夜7時から2時間だけの営業です。

 

最近では常連さんもできたし、日本みたいに勉強していく学生さんも増えた。

 

みんなが思い思いに過ごせるお店にすることができたかなって思ってるんだ。

 

んで、いまは午後3時すぎたくらい。

 

近くの王立学院の生徒が帰り出す時間。

 

王立学園は年齢で見ると日本でいう中学校から大学までまとめたみたいなもの。初等部、中等部、高等部があってそれぞれ中学、高校、大学にあたる。でも義務教育じゃないんだよね。

 

毎年3月末に入試があって4月に入学する人を決めてる。その中で優秀な成績の人は特待生で授業料がタダだけど他の人は結構なお金がかかる。だから貴族や有力商人の子供が多いらしい。

 

いまは2月だからちょっと学生さんはピリピリしてるね。

 

この時間はその学院の生徒がくる稼ぎどきだ。

 

宿をやめて飲食店にしてからよく来るようになった。

 

貴族や有力商人の子供だけじゃなくそうじゃない平民の子供も来るようになった。

 

まあ材料は自分で調達してるものもあるから値段が安いので気軽に来れるんだと思う。

 

あ、でもその平民の子供が来てるのを見てきゃんきゃん吠えた貴族の勘違いしてるガキ野郎は出禁にしたっけな。

 

それ以来、学院の生徒間でここで過ごしたいのならば身分関係なくいなければならないっていう不文律ができたって聞いた。

 

ちょっとびっくり。まあ原因は他にもあるけど。まあそれはまたいつかね。

 

カランコロン。

ドアのベルが鳴る。

 

お客さんが来たみたいだ。

 

「リョウ!勉強教えて!」

 

彼女はマリア。年は僕の三つ下の15歳。学院の三年生だ。学院に通う数少ない平民のうちの一人。成績優秀で学費がタダで通ってる。

 

「いらっしゃい、マリア。今日は学院で部活があるんじゃなかったっけ?」

 

「それがさ………。

 

 

ーーーー

 

なんということか。彼女が成績優秀なのは皆が知っているが、彼女の所属する初等部音楽部の同級生にはもっと成績がいい貴族の人物がいる。

 

いや、いたというべきだろう。

 

学院には毎月頭に行われる定期テストがあり毎回、マリアは彼女に勝てなかった。

 

しかし今回は違った。最近はマリアがここに来るたびに僕が勉強を教えていた。僕が日本で習ったことだけでこちらでは高等部まで通用する。その結果、マリアの方が良かったのだ。

 

それが問題を引き起こした。マリアと彼女との間には何も問題なかったのだが、部活の顧問が貴族出身で平民を見下している人間であったのだ。

 

これまでも何かと理由をつけては平民の部員を退部させてきたのではないか、担任している平民の成績を改竄し退学させたことがある、などと黒い噂が絶えない人物らしい。

 

そして今回、マリアが標的にされた。

 

だったらとことん成績をよくしてやるとのこと。

 

 

ーーーー

 

……っわけ。だからお願い‼︎」

 

「うーん、いいけどちゃんと注文もお願いね。」

 

「ちぇっ。……はーい。」

 

あれ?舌打ちされた?

 

まあ、いっか。

 

ーーーー

 

夜7時。

 

お店でお酒がではじめる時間だ。

 

「マリア、お疲れ様、今日はここまでにしよう。」

 

「えっ?私閉店まで入られるよ?」

 

「たまにいるもんね。知ってる。だけどね、ちょっと奥来てくれる?」

 

ーーーー奥の部屋

 

「マリアって担当楽器はたしかフルーノだったよね?」

 

フルーノはこっちの世界の楽器だ。パイプオルガンと同じような仕組みの楽器と思へばいい。違うのは足元が自転車のペダルみたいになっててそれをこぐと空気が送られる。早くこぐと大きな音が、ゆっくりこぐと小さな音が鳴るってことと、サイズがアップライトピアノくらいだってこと。

 

「ええ、そうよ。」

 

「ならこれ弾けるかな?」

 

マリアは僕が渡した楽譜をスラスラと見ていく。そしてーーーー

 

「うん。できる。」

 

ーーーーそう答えた。

 

 

じゃ、やってみよっか!

 

そう言って僕は彼女の手を引き、店のステージへ上がった。

 

ステージからベラに目配せをしてベラもステージへ。

 

さあ、レッツショータイム‼︎

 

ーーーーステージ終了後 奥の部屋

 

「もう!リョウ!突然ステージなんて聞いてないよ!」

 

「はは、ごめんごめん。じゃあマリア、はいこれ。」

 

 

「え、なにこれ。」

 

マリアはそういって僕の渡した小包をあけ、

 

「ち、ちょちょっとなによこれ。大銀貨じゃない‼︎ど、どういうことよ‼︎」

 

慌てたようにそういってきた。

 

なにって今日のメインミュージシャンへの報酬だよ?あ、授業料は差し引いてあるから。こうすればいつでも勉強聞きにこれるでしょ?

 

そういうとマリアは顔を真っ赤にしてポカポカ叩いてくる。

 

 

けど僕はそれをいなしながら仕事に戻るから、もう帰れよ?といって部屋から出る。

 

荷物も部屋にあるし大丈夫だろう。

 

 

さてもう一仕事。頑張りますか!

 



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小さな音楽家の話 2

マリアの初ステージから数日後。

 

あの日からマリアはほぼ毎日来るようになった。そして僕がマリアに教えてる間はベラとローズで切り盛りしてもらう代わりとしてお昼時が終わってからマリアが来るまでの時間は僕が一人で対応している。二人はいいって言ってくれたんだけど僕の気持ち的な問題で。

 

そろそろ来る頃かなと考えているとふらりと女性が入店してきた。

 

「へぇ、あなたが…。」

 

僕のことを観察するように見て言った。

 

綺麗なお嬢さんだと思う。マリアと同じくらいの年だろう。綺麗な紺色の髪に翡翠色の瞳。肌も白くて綺麗だ。少し気が強そうだ。服は一般的で落ち着いたデザインだが、一目で質のいいものだとわかる。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 

とりあえず注文を受ける。入店してきてすぐのお客さんで困ったら注文を聞く。開業してから学んだ鉄則の一つだ。

 

「そうね、ならコーヒーをホットで。」

 

「かしこまりました。」

 

彼女は注文をすると僕の目の前のカウンターに座った。何だろう。この人他のお客さんと違う気がする。

 

一度、アメーリア様の鎧を修復してからはたまに修復依頼が来るようになったがそれでもなさそうだし…。

 

サイフォンでコーヒーを淹れながら考えても答えが出ない。まあほっとこう。

 

すぐコーヒーはできた。彼女のまえにコーヒーとミルクを置き、カウンター上の砂糖の小瓶を少し寄せておく。

 

彼女は一口コーヒーを飲んでから口を開いた。

 

「上手に淹れるのね。今までに飲んだコーヒーとは大違いだわ。」

 

それはどうも。というか他の店のコーヒーがまずいだけだと思うけど…。焙煎も適当だし沸騰したてのお湯で淹れるから苦味が強く出るし。

 

「今日はね、お礼を言いに来たの。」

 

え?

 

「お礼よ、お礼。」

 

こういうのを突然っていうんだと思う。

 

何の脈絡もなく唐突に。

 

想像もしていなかった発言にポカンとしてしまう。

「マリアのことよ。あなたでしょう?演奏する場をマリアにくれたの。彼女からその場所を奪ったのは私なんだから…。」

 

彼女が話し始めたその時ーーーー

 

カランカラン。

 

ーーーードアが開いた。

 

「やっほー!リョウ!今日もお願い!飲み物はカフェオレで!」

 

入ってきたのはマリアだった。いつも通りちょっと騒がしい。

 

「ーーーーってあれ‼︎何でリースがいるの⁉︎」

 

訂正。今日はいつも以上に騒がしい。

 

それとやっぱり僕の目の前の彼女と知り合いらしい。

 

ーーーー

 

どうやら彼女はマリアと同級生の女の子。

名前はリース=スタンリー。伯爵家令嬢だ。

そして音楽部顧問にマリアを退部させる口実を与えた存在でもある。

 

「で、何でリースがここにいるの?」

 

マリアが心底不思議そうに尋ねる。

 

「あなたのことでよ。ここで演奏させてもらってるって聞いてそのお礼に。私のせいで部活できなくなったんだし…。」

 

「ばっかじゃないの。バーカバーカ‼︎」

 

「だ、誰がバカですって‼︎」

 

「だってそうじゃん。ーーーー

 

ーーーー

 

 

二人とも元気だなぁ…。あれからずっと言い合いしてるよ。

 

途中で巻き込まれそうになったから洗い物とか他のお客さんの相手とかして、二人はローズに任せてた。

 

って言ってもローズも離れたところから見てるだけだけどね。

 

ベラがそろそろ演奏の準備をしようって言ってきたから、キャットファイト一歩手前になってる二人からマリアを引き剥がして裏に連れて行く。

 

さてチューニングしようか。

 

ーーーーリースside

 

マリアが店の奥に連れていかれた。

 

綺麗な女の店員さんによるとこれから演奏があるらしい。

 

あの男の店長がマリアにレッスンもしてくれたみたいで「楽しみにしててね〜」って言ってくれた。

 

私は不安だった。演奏する場所を失ったマリアが変なところで演奏をするようになってないかって。彼女の家の財力では楽器はまず買えない。それでも楽器をやりたいから音楽部に入ったのだ。なのに私のせいで……

 

ふと顔を上げるとステージの照明がつき、マリアと店員2人が演奏位置についたところだった。

 

男女1人ずついる店員の男の方が合図をだし、曲が始まる。

 

ーーなんだろうこれ……。

今まで聞いたことないような曲。

 

マリアが弾くフルーノと男性店員が演奏している金色の緩やかなカーブがかかっている楽器が代わる代わる旋律を奏でる。もう1人が演奏しているのはフルーノに形が似た黒い楽器。同時に何種類もの音を出し、伴奏を1人でこなしている。

 

私が知っている曲は教会で使うような曲と儀式の時の曲だけだ。こんな楽しい音楽があるなんて私、知らなかった…。

 

うらやましいな。心配した私がバカなんじゃん。マリアすっごく楽しそう。

 

 

ーーーーリョウside

 

裏でマリアに今日の譜面を渡す。

 

 

「今日のはちょっと難しいぞ。僕とマリアで交互に旋律。ベラはピアノで伴奏をたのむ。」

 

2人から了解の返事をもらうとそれぞれ準備に入る。

 

とは言ってもベラもマリアももう楽器はステージにあるので身だしなみの確認くらいなんだけどね。

 

僕の今日の楽器はアルトサックス。

 

やる曲がジャズっぽい曲だから材質は銀。

 

ではなくミスリルです。ミスリルアルトサックス。まえにちょっとした遊び心でミスリル製のサックスのネックを作ってみたらいい音がなったんだよね。

 

せっかくだから純ミスリルアルトサックスも作ってみようってことで作った楽器。

 

世間の冒険者が聞いたら三回は気絶できるんじゃないかなーなんて思ってる。

 

まあいっか。さてそろそろ本番だね。

言ってきます。

 

 

ーー

 

演奏を終え、楽器を片付けてから戻ると、マリアとリース様が笑いながらカフェ・オ・レを飲んでいた。

 

仲直りしたみたいで何より。

 

 

これならリース様も責任を感じずにすむもんね。悪いのはどっかの勘違い顧問なんだし。

 

 

よし!これで一件落着

 

「ねぇ、リョウさん。私もここで奏者として雇ってはいただけないかしら?」

 

 

ーーーーーーしないようです。



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小さな音楽家の話 3

は……?

 

僕らは皆固まっていた。

 

最初に復活したマリアが吠える。

 

「ちょっと!何言ってるの!部活はどうするのさ‼︎」

 

「やめるわよ。それはここに就職できなくてもだけどね。」

 

「どうしてよ!あなた、王立音楽団にはいるのが夢じゃなかったの⁈あそこは音楽部からのオーディション通過した人しか入れないってしってるでしょ!」

 

「もういいのよ。今回の事をね、そこの現団長に助けてもらおうと話したんだけど当たり前っていったのよ。音楽は貴族の楽しみだ。平民が触れていいものではないってね。団長だけじゃない。ほとんどの団員がそうだったわ。そんなところに入りたいって思ってたのが馬鹿らしくなったの。」

 

リース嬢の発言に皆押し黙る。

 

まだリース嬢の言葉は続く。

 

「もちろんそうじゃない団員もいたわ。その人から教えてもらったんだけど同じ時にオーディション受けた平民の方は自分より上手だったのに落とされたそうよ。だから辛いっていってた。その友人が演奏を聴かせてっていってくれなかったらきっともう団員じゃないって、そういってた。」

 

「このことをマリアに話して謝ろうって思ってたら演奏できてるっていうじゃない。自分の楽器も持たないマリアがよ?だから気になったの。」

 

「そしたらこんなに楽しそうに演奏してるじゃない。楽しそうに仲間と作り上げた。そんな演奏だったわ。私もその演奏をしたいのよ。だからお願い。私もここで働かせてくださらないかしら。私にも楽しく演奏する場所をくださいな。」

 

リース嬢は言い終わると僕をまっすぐ見てきた。

 

マリアが何か言おうとしたのを手で制し、僕は口を開く。

 

気がつけばもう閉店時間間近だ。

 

周りを見れば他のお客さんはもういない。

 

とりあえず本音行っとこうかな。

 

「とりあえず、僕は君を雇うつもりはない。っていうかマリアも雇うのはそろそろ終わりって考えてたんだけど……。」

 

「「えっ!?!?!?」」

 

「ち、ちょっと‼︎」

 

「ど、どういうことですの!?」

 

 

「まあまあ、最後まで聞いて、ね?」

 

ーーーーーー

 

 

僕の考えを一通り説明した。

 

まずマリアのこと。

 

マリアは僕らの店の店員として演奏してくれていたけど、これからは外注扱いで演奏してもらうっていうだけでこれからも変わらない。そしたらそこらへんの吟遊詩人と同じだからね。

 

まあ、そこ話さないとただの解雇にしか聞こえないよね。わざとだからいいけど〜。

 

そしてリース嬢のこと。

 

まず貴族令嬢を働かせるっていうのはそもそもハードルが高い。バカ貴族に対する扱いじゃないとかほざかれかねない。

 

だこら雇う形は無理。そしてマリアを雇う扱いから外すのはその逆の平民は雇うのに貴族はダメなのかっていう文句を避けるためっていうのもある。貴族って勝手だよねー。実際そんな話は前聞いたから気をつけなくちゃ。

 

まあそんな感じていくつか障害があるから、それを躱すか、排除しなくちゃいけない。

 

「ここまではわかるかな?」

 

2人は頷く。ちょっとマリアの仕草が不安だけど……。

 

多分大丈夫……だよね?

 

「だからさ、ーーーーーー」

 

 

僕の提案を聞いた2人の顔はとても強い驚きと大きな期待に満ちていた。



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小さな音楽家の話 4

「はい。これが今回の報酬金になります。」

 

あれから3日後。僕は久しぶりに冒険者組合で冒険者として仕事をしていた。

 

じいちゃん達のおかげで簡単に狩れるようになったから、効率も抜群。お金もがっぽり。

 

ん?なんで冒険者復帰して稼いでるかって?

 

そんなの簡単さ。あの計画のためだよ。こないだマリアとリース嬢に説明したやつ。

 

2人に提案したのは王立音楽団や音楽部にいる音楽は貴族のものというように思っていない、僕らと同じ考えを持ってる人もこちら側にしちゃおうというもの。

 

そのために店を会場として使う。

 

その日はステージに上がるのはマリアとリース嬢だけ。僕らは裏方と店の運営だけ。

まずとにかく人集める。だからその日は店の料理や飲み物はタダ。その代わり2人の演奏はちゃんと聞いてもらう。そしてその場で2人にどうしてこのような形で演奏会を開くことになったのか、これからどうしていくのかを話してもらうって感じかな。

 

そしてそこに、音楽は貴族のものっていう考えに賛同してない人たちも招待する。それが今から一週間後。

 

2人にはきついだろうけど10日でやれるって言われたからね。

 

ま、そのための資金集めって感じだよ。これから頑張らなくちゃ。

 

 

「あの〜〜…リョウさん?」

 

はっ!いけないいけない。受付嬢さんをほったらかしにしてた。

 

えっと、まだ何か?

 

「報酬以外に、まず今回の討伐モンスターにかけられていた懸賞金と、多数討伐者に贈られる褒賞金です。あ、それに素材売却の代金ですね。」

 

 

あれま。そんなにもらえるの?やったね。討伐するのは三日間の予定だったのになぁ。目標金額達成だよ。……ハハハ。

 

「……はい。どうも、ありがとうございます。 あ、そうだ。ギルドで非番の方、これよければきてください。」

 

そう言ってお金を収納の腕輪しまい、そのかわりに取り出した今回のことのチラシを渡す。なんだかんだギルドの人たちはよくうちの店を使ってくれてる。特に受付嬢さんたちが。美味しいんだって。やったぜ!

 

「え、えーー??こ、これほんとですか!行きます行きます!絶対!う、受付嬢全員で行っちゃいます!この日は有給とっちゃいますよ!」

 

え、受付嬢全員で来ちゃギルドが止まるでしょ。ギルドに負担をかけないようによ〜く話し合ってから来てくださいね。

 

そう言い、ギルドを後にし、店への帰路につく。

 

 

「楽しみにしてますね〜〜。」

 

…………後ろから聞こえる声に言いようのない不安を感じながら……。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ーー宿side

 

〜〜♪ 〜〜〜〜♫

 

コンコン。

 

マリアとリース嬢の2人が練習してる部屋がノックされる。

 

ドアが開けられ、

 

「2人ともお疲れ様〜。」

 

「お昼だよー!ごっはんー!」

 

ベラとローズが入ってくる。

 

「やった。ありがと〜。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう。ここ数日は奏者の2人は『梟の止まり木』で練習しているのだ。週末の昨日今日は元宿の客室に泊まって朝から晩まで練習である。

 

「さ、食べよ食べよ。さっき帰って来たリョウに店の方は任せてあるからのんびり久しぶりにのんびり食べられるからうれしい!」

 

そして昼食である。

 

女三人寄れば姦しいというが、それは世界共通どころか異世界でも通用するようである。

 

そして皆年頃の女の子である。リース嬢やマリアの学校の男子の話であったりベラとローズの惚気話であったり、またまたリョウとの夜の話であったり………。とやかく話題なんていくらでも出てくるのである。

 

そのまま小一時間話してしまい、4人が時間に気がついたのはリョウの空腹が限界を感じ始めた時だった。

 

 

ーーリョウside

 

 

 

 

 

あ〜、お腹すいた……。

 

一体どれだけ話してたのさって感じだね。

 

僕もサッとお昼つくって食べちゃおっと。

 

今日の討伐のついでに狩って解体して血抜きを済ませたホーンラビットを一口サイズに切る。

 

それとネギみたいなこっちの野菜。めんどくさいからネギって呼んでるけど…。これも切っておく。

 

塩胡椒で軽く味を整えて、フライパンにオリーブオイルをちょっと多めに引いておく。

 

 

そこにホーンラビットの肉とネギを入れ、焼く。

 

焼き終えたら店にも使ってるタレをかけて、おかずの完成。これとご飯がよく合うんだよ。

 

 

 

ん?お客様、これはまかないですが…?

 

 

 

 

………………。

 

 

半分くらい取られちゃいました…。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

そんな感じで一週間はすぐに過ぎ、いよいよ本番である。

 

勘違い貴族どもが手を出したりできないようにいろいろ手は打ったし。

 

 

あとは本番まつだけだね。

 

マリア達は来てくれた部活や王立音楽団のメンバーに挨拶してる。

 

あ、受付嬢さん達だ。

 

って、ええ……。

 

 

ギルドに勤めてる受付嬢さん達のほとんどがきた……。

 

まーいーや、しーらなーい。

 

 

 

 

 

 

さて、間も無く開演です。

 

僕もいろいろ教えたし、ベラも一緒に練習したらしい。

 

そして何より彼女達が頑張った成果。

 

みんなの前にこれから披露です。

 

みなさま、大変長らくお待たせいたしました。

 

息ぴったりな2人の奏者が、身分を超えて手を取り合い素晴らしい音楽を作り上げました。

 

どうか今夜は身分や出自に関係なく2人の演奏に耳を傾けていただき楽しんでください。

 

それでは開演です。



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小さな音楽家の話 5

ー本番前日 マリアside

 

〜〜〜♪

 

………。

 

い、今のって…。

 

「ね、ねぇリース…」

 

「え、えぇ。きっと今のがそうよ。」

 

私たちは本番前日も梟の止まり木で練習していた。

 

リョウに言われた音が一つになる感覚。夜も更けきった頃に初めてわかった。

 

今までの演奏とは明らかに違う。

 

私の奏でた音もリースが奏でた音もそして私やリース自身も周りの空気もなにもかもが一つになって、とても大きく暖かい、幸せな響きになる。

 

その中にいると楽しくて自然に笑顔になったの。

 

演奏を終え、音がふっと消えて無くなってもずっとずっと胸にじんわり残っているわ。

 

曲の最後の方のほんの少しの時間だったけどその間のことはきっとずーっと忘れないわ。

 

リョウたちに伝えなきゃね!

 

もうお店も閉まる頃だ。もしかしたらもうしまってるかも…?迷惑かけちゃったなぁ。

 

どうしよう。なんて言おう…。ドアを前にしたら緊張が…。

 

ーリョウside

 

 

閉店時間も過ぎ、お酒で酔いつぶれた人たちもそのお仲間さんに任せて、店をしめた。

 

うちにくるのは初めてっぽい人だったからペース間違えたのかな?一応こっちの世界のお酒もあるし、地球の知ってるお酒はある程度揃えてある。カクテルとかも作ってるからなぁ。飲みやすいくせしてすっごくきついのとかあるからたまに出るんだよね〜。

 

まぁいっか。

 

酒場の喧騒がなくなったから奥からマリアたちの演奏が聞こえてきた。

 

お?いいじゃんいいじゃん。

 

差し入れもってこ。

 

〜〜〜〜♪

 

 

ちょうど演奏を終えたみたい。

 

ーガチャ

 

「入るよ〜。これ夜食がわりにでも…ど…うぞ…?」

 

 

あれ?なんでマリアがドアの前で固まってるの?

 

「もう!リョウのバカ!」

 

ベシィン‼︎

 

 

マリアさん。痛いです。

 

 

 

ーーーーーーー

 

そのあとマリアにビンタしたことを謝られ、またまた二人から謝られ…。

 

あれ?謝られてばかり?

 

 

まあそんなこんなで練習は終了。

 

よーし明日は忙しいぞ〜。

 

おやすみなさい!

 

 

ー本番。 身分で楽団入団できなかった人side

 

 

 

ーみなさま、大変長らくお待たせいたしました。

 

ー息ぴったりな2人の奏者が、身分を超えて手を取り合い素晴らしい音楽を作り上げました。

 

ーどうか今夜は身分や出自に関係なく2人の演奏に耳を傾けていただき楽しんでください。

 

ーそれでは開演です。

 

 

どうやら開演みたいね。

 

こないだ音楽部を退部させられた子と、その原因になった貴族御令嬢さんが演奏するみたいね。

 

何日か前にここの店でオーナーさんから宣伝を受けたの。

 

無料で食事ができて、演奏もある。

 

ちょっと怪しいって思ったけどよく来るお店だし、きてみようかしらって感じできたの。

 

 

どうせ貴族と平民でのデュエットだし上手くいくわけないとは思うけど、その時はお食事を美味しくいただければそれでいいわ。

 

奏者の準備が整ったみたい。さて、どんな音楽を聴かせてくれるのかしら?

 

〜〜♪

 

〜〜〜〜〜♪〜♪

 

周囲が一斉に息を呑むのがわかった。

 

いえ、違うわね。私も息を呑んだわ。

 

 

フルーノを演奏する貴族様と黒いフルーノみたいな楽器でその伴奏をする平民の娘。

 

私は今日初めて音楽というものを知ったのかもしれないわ。

 

黒いフルーノみたいなのはそれ一つで多彩な音が出せるものみたいね。

 

それでフルーノの伴奏を。

 

リズムが二人の間で完璧に共有されて…。

 

〜〜〜♪

 

…………。

 

演奏終了…ね。

 

何かしら。この感じは…。

 

諦めたはずなのに。

 

もう音楽はやれない、やってはいけないって…。

 

すごいわね、あの娘たちは…。

 

人の心をこんなにも簡単に揺さぶるなんて。

 

これからも応援してるわ。

 

ーーーーー

 

ーリョウside

 

演奏会は終了だね。

 

お疲れ様。

 

え?アンコール?

 

 

 

いいぞー!もっとやれ!(笑)

 

 

アンコールの最後に僕とベラまで一緒に演奏しちゃった…。えへへ。

 

もうすぐ店が閉まるという頃、二人が自分たちの楽団創設を考えてることをお客さんに話してた。

 

いいね。身分なんかに縛られず、音楽を楽しめる環境づくりか〜。応援するよ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日に楽団を創設したあとはどこで活動するか、どうすれば入団できるのかっていう話をしなかったせいでしばらくそれを聞きに来るお客さんが多かったのはまた別の話。

 



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小さな音楽家の話 後日談

演奏会の次の日ーー

 

「やっほ〜、リョウ。」

 

扉が開くのと同時に元気の良い声が店内に響く。

 

「いらっしゃい、マリア。そっか、学園終わる時間だね。」

 

「そうね、リースは退部手続きしてるからまだ学校だけど。それでさ、聞いてよーーーー

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

うんうん。よかった。

 

学園にも昨日きてくれた人がたくさんいるから、リース嬢の退部にも問題ないみたい。大っぴらな妨害ができないってだけだけどそれでも充分。手続きするだけならすぐ終わるし大丈夫そうだね。

 

他にも音楽部をやめてこっちに入ろうとしてる子が何人もいるって。やったね。

 

 

これなら2人が学園で浮くなんてことはやさそうだね。

 

 

あとは音楽なんてほとんど触れたことないけど楽団に入団したいって人もいるみたい。そんな人は入団後、僕とベラで鍛えてほしいとのこと。

 

 

もちろん。ビシバシ鍛えるよ〜。

 

 

「それでねそれでねーーーーーーーー

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

話しているうちに気がつけばお酒も出す時間が近づいてきた。

 

 

途中でリース嬢もきて、私もお話に混ぜてくださいなって感じで一緒に話してた。

 

部活も無事退部できたみたいで一安心。

 

 

そんなことを思いながら店の看板に酒場営業中と看板を変えに行くと、通りの窓から店の中を覗く、ちょっと薄汚れてる、小さな5歳くらいの女の子がいた。

 

「お嬢さん、どうかしたのかな?」

 

き声かけるとビクッとしたあとこちらを見て、直後顔が喜色に染まった。

 

 

そして、「私、リリっていうの‼︎お、お店で働かせてください!」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

店内に招き入れ、カウンターで話を聞く。

 

落ち着いた頃に話し始めてくれた。

 

「き、昨日の演奏、聞いてたよ!わ、私感動した。それで私も一緒に演奏がしたいって思って…。でもまだちいさいから…。だ、だから、ここで働きながら、演奏を近くでみて、お金貯めて、楽器買って、一緒に演奏したいの。そ、それが私の今の夢!」

 

元気いっぱいに語られた。

 

僕らはとても嬉しかった。

 

 

音楽は夢を与える。

 

 

そんなありきたりな言葉があるが、実際100%そうであるかというとNOと言わざるを得ない。

 

それでも自分たちの演奏で夢を与えることができた。その事実がとても嬉しかったのだ。

 

だから、答えは決まってる。

 

 

「えっと、リリちゃん。お店で働いてもらいながら、音楽を教えてあげるね。その代わりしっかり頼むよ。音楽も店も厳しいからね!」

 

 

「うん!」

 

 

こうしてまた1人、音楽の仲間が増えたのだ。



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リリの修行とご褒美

ジリリリリリ。

 

「うぅ〜ん…。」

 

うるさいなぁ…。

 

目覚ましを止めて起きる。

 

あ、朝ごはんまであんまり時間ないや。

 

起きて仕度しなくちゃ。

 

私の名前はリリ。7歳。

 

「ふくろうの止まり木」で住み込みで働いてる。

 

本当は毎日通うつもりだったんだけど、初日に出勤した時に汚れてたから、いろいろ聞かれて孤児ってばれちゃった時に、住み込みにしてくれたんだ。

 

孤児ってばれた時の店長たちのお顔、すごくびっくりしたようだったなぁ。

 

そのあといろいろ教えてもらって言葉使いも普通になったし、感謝だよね。

 

あ、いけないいけない。遅れちゃうよ。

 

 

ーーーー

 

あぁ〜、緊張してきたよぉ………。

 

カランコロン。

 

 

「い、いいらっしゃいませ。」

 

どうしよう。顔が赤くなるのがわかるよ…。

 

「うふふ。可愛いわねぇ〜。」

 

あーもう!なでなでしないでよぉ!

 

 

ーーーー

 

 

「御注文は何になさいますか。」

 

 

カウンターに座ったお客さんにそう聞くと同時に、店長が会話に入ってきた。

 

「奥さん、今日からリリが紅茶淹れてもいいことにしたんですが、いかがです?」

 

 

て、店長‼︎ それ私のセリフですよぉ!

 

「あら、だからちょっと様子がおかしかったのね。ほんとかわいいんだから。せっかくだしリリちゃん。お願いするわ。」

 

 

ーーーー

 

「お、お待たせしました。『ふくろうの止まり木』スペシャルブレンドです。」

 

「ありがとう。いただくわね。」

 

お客さんが紅茶をのもうとカップを持ち、口に近づけるに従って、私の心臓が早鐘を打ちます。

 

「美味しい……。とっても美味しいわ、リリちゃん。」

 

 

やった!やったよ!

 

「よかったね。これで合格だよ?こんど僕にも淹れてね。」

 

そう言って店長が撫でてくれた。

 

 

「ち、ちょっと店長〜、くすぐったいですよぉ〜。」

 

 

「ははは、ごめんごめん。リリ、今日はもうあがっていいよ。着替えておいで。」

 

え?なんでかな?

 

「不思議そうな顔してるね。ちょっとしたお祝いだよ。新メニューの試食も兼ねてるけどね。」

 

 

 

はい!すぐ着替えてきます!

 

 

 

ーーーーーーーー

 

ただいま戻りましたぁ〜。

 

 

店長!早くくださいな!

 

「はいはい。どうぞ。最近暑くなったって言ってたでしょ。僕の故郷で暑い時によく食べるものだよ。『かき氷』って言うんだ。召し上がれ。」

 

はむっ。

 

冷たくて美味しい!いくらでも食べられるよ!

 

 

「あぁっ。そんなに急いで食べると…」

 

 

 

キーン

 

 

いたたたたぁ…。

 

 

「遅かったか。冷たいものを一気に食べるとなぜかそうなるんだよね〜。あはは」

 

 

て、店長!笑わないでくださいよ‼︎

 

ーーーーーー

 

その日、リリがかき氷を食べてるのを見たお客さんたちが、リョウにかき氷を注文しようとしてまだ値段設定とかしていないから無理と言われ、肩を落としたのはまた別のお話。



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綺麗な〇〇の秘密

キュッキュッ。

 

僕は今、普段通り店で過ごしている。

 

カウンターの後ろで喫茶店のマスターに求める理想像その4の行動である、カップ磨きをしながら。

 

 

ふと店内に視線を向ける。

 

店内は、最近売り出したかき氷などの冷たいおやつめあてに親子連れもよくくるようになった。またいつも通りのお客さんもいる。

 

クリームソーダをこぼさないようにおどおどしながら食べる子供とそれをみて笑顔でコーヒーをのむ母親。うん、美味しそうに食べてくれてる。嬉しい。

 

楽しそうに談笑する若いご婦人たち。テーブルにはトップではないけど安定した人気を誇るロシアンティー。話してる内容が夫や彼氏の愚痴と陰口じゃなければいい絵になる。

…内容がこうでなければ。

 

カップルらしき男女もいる。女性の方はスコーンがとてもお気に入りらしい。男性はそれをみて微笑んでる。まぁデートするにはぴったりなくらい、スイーツが多い自信があるし、やったぜって感じだね。

 

 

机に本とノートを広げて勉強してる学生さん。この店は静かで居心地のいい店になるように頑張ったから、結構居心地いいんだよ?だから何人も学生さんが来てくれてる。

 

カウンターに座ったお客さんたち3人は、給仕してるベラと厨房にいるローズのことを話してる。

 

「ねぇねぇ、ここの女の店員さんってみんな髪きれいだよね〜。」

 

「だよね〜、何か秘訣あるのかなぁ?」

 

「マスター、秘密あるんですかぁ〜?」

 

あらら、巻き込まれちゃったよ。

 

まあ、答えはーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うーん、秘密です。」

 

 

で、終わりなんだけどね。

 

「て、店長〜、外で売ってたアイス、売り切れちゃいました〜。」

 

 

扉を開けてリリが入って来た。

 

「あ、この子も髪きれい‼︎」

 

 

「ねぇ、どうしてこんなに髪きれいなの?」

 

あ〜あ、リリまで巻き込まれちゃった。

 

「あぅ、え、えっとそのぉ、店長さんが作るシャンプー「リリ、着替えておいで。ちょっと早いけど楽器の練習しよっか。」

 

「は、はい。」

 

ダメだダメだ。バレたら作る量が増えちゃう。

 

 

 

そんなのめんどくさいからやだ!

 

リリが裏に行くのをみて、僕も片付けていこうとカウンターの方へ振り返ると、ある意味で「いい」笑顔のたくさんの女性客が僕をみてた。

 

怖。

 

ただそれに尽きる。

 

 

んじゃ、練習してきまーす!

 

じゃね!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

結局逃げきれず、ベラがバラしちゃって、喫茶店なのに持ち帰り商品にシャンプーとリンス、トリートメントが追加され、かなりの収益を上げるようになったのはまた別のお話。



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見た目なんか関係ない

「え?なにこれ、泥水?」

 

「わ、私、何かしちゃった⁇そ、その謝るからそ、その、これはちょっと…。」

 

はぁ……。

 

やっぱりこうなるのかぁ…。

 

今日は休日。雨模様。

 

いつものお客さんだけじゃなくて、学園の生徒も昼間からくる。雨だから、普段より多い。

 

その中に混じって、マリアとリースもいた。あの演奏会の後は、平日休日問わず、入り浸るようになった。練習するときもあればうちの料理を食べてくれるときもある。常連さんってやつだね。

 

ただ一応、妻帯者の家に入り浸って、料理を食べたり仲良く話したりするもんだから、2人は学校で、やれ愛人さんになっただの、不倫してるだの、略奪愛してるだのと噂になっちゃって…。2人が顔を真っ赤にしたり、その上リース嬢は社交界でも話の種になり、それを聞きつけた姫騎士さんもきちゃったりと、それはもう大変だったよ。

 

……今もたまに間違わられるけどね…。

 

んで、朝一できた今日はお店を開けながら交代で僕やベラ、ローズが食べてた朝ごはんを食べたいって言うから、出したんだけどね…。

 

今日は日本食な訳ですよ。

 

ご飯と焼き魚、卵焼きは良かったんだけど

 

自家製味噌と豆腐と、僕が手に入れたものでとった出汁、あとは大根。そして刻みネギを入れたオードソックスなやつ。

 

 

そう味噌汁がダメだったんだ。

 

 

よりにもよって最近は赤味噌だった。

 

決して、赤味噌が悪いとかそう言うことを言うつもりはない。

 

けど初見の人にはね…うん、仕方ないのかな。

 

 

って、ベラとローズがクスクス笑ってる。

 

 

笑ってる2人に目線で助けを求める。

 

 

そうすると、ローズがよく笑ったとでも言いたげな表情で、助けに来てくれた。

 

 

「いいから〜、一口飲んでみて〜。私も飲むから〜。」

 

そう言って、自分の分をよそってきて2人の横で飲む。

 

 

それをみてから、2人はおそるおそる器に口を近づける。

 

そして、

 

 

「「おいしい」」

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「ねぇ、リョウ。これってなんて言うの?」

 

「ん?味噌汁っていうの。」

 

「これはスープの一種かしら?」

 

「そうよ〜。」

 

なんだかんだ、味噌汁を気にいってもらえてよかった。

 

「ローズもありがとね。」

 

そうローズに言いながらローズの方を見ると嫌な予感がした。

 

「別にいいわよ〜、愛人の相手してるとはいえ、夫を助けるのは妻の務めだし〜。」

 

 

え、えと、えっとちょっとまって…。

 

 

「ろ、ローズさん?愛人騒ぎのこと、まだ怒って…る?」

 

ローズの顔がだんだん強張る。

 

離れたところでベラが笑いをこらえてる。

 

一部の男性客からの目線が厳しくなり、残りは少し怯えたような表情になる。

 

対照的にほとんどの女性客の目線が輝き出す。残りは現状に気がついてない。

 

そしてローズが大きく息を吸い…

 

 

「んなわけないでしょ〜。やっぱり打てば響くからリョウいじりは面白いわね〜。」

 

 

周りから、ツッコミや罵声、こける音にホッとする息、いろんなものが聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだけじゃない。

 

 

ーーー

 

いろいろ話してたら、2人に加え、リリもお昼にも味噌を使ったものを食べてみたいということなので、作ることにした。

 

 

今日は雨で少し肌寒いから、あったかいものにする。

 

 

昼までまだ4時間あるけど、作り始めないとね。

 

 

ーーー

 

 

「はい。お待たせ。味噌煮込みうどんだよ。」

 

あれから、うどんを打ってなんとか間に合った。

 

 

うどん打ちって疲れるんだよね。

 

「さぁ、召し上がれ。」

 

 

そういってそれぞれの土鍋の蓋を取る。

 

 

わぁ。

 

誰かが思わず声を出したようだ。

 

 

三人とも美味しそうに食べてる。

 

僕も食べたくなってきちゃった。

 

「ねぇ、ベラ、ローズ。今日の晩御飯は味噌煮込みうどんでいいかな?」

 

2人から「もちろん」って帰ってきたのはいうまでもないかな?



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学生の敵

「マスター!ここ教えて〜。」

 

「はいはい。」

 

七月も半ば、もうすぐ学園も夏休みである。

 

 

夏休みがくるということは、その前のアレもくるということである。

 

 

そう、テストだ。

 

日本全国どこへ言っても学生の敵であり毎月のお小遣いの天敵でもあるテスト。

 

もちろん、この世界でも学生の敵である。

 

期末試験が近づくにつれ、ここで友達と勉強していく生徒さんが増えた。

 

今呼んだ子もそのうちの一人だ。

 

えっと、ここをこうして……

 

 

はい、これでできるよ。

 

 

「ありがと!マスター!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「ったく、ここは塾じゃないんだけどなぁ。」

 

 

「そんなこと言ってるくせして、顔は笑ってるわよ。」

 

カウンターに座ってリース嬢と一緒にケーキを頬張るマリアにからかわれる。

 

「そうかな?」

 

 

「そうよ、ねぇみんな。」

 

「そうねぇ〜、普段通りに見えて、少し楽しそうというか嬉しそうな顔してるわね。」

 

「うんうん。店内がこの状況になってからずっとそうだね!」

 

「私も、そこまであなたのこと知っているわけではありませんが、どことなく楽しそうですよ。」

 

「ふーん、そう見えるんだ。」

 

「実際どうなのかしら?」

 

リース嬢が尋ねてくる。

 

「うーんなんというか、懐かしい感じなんだ。」

 

 

「「そういうことね!(〜)」」

 

二人は納得したみたいだね。

 

さて、不思議そうにしてる二人にどう説明したらいいのやら…。

 

 

ーーーーーー

 

 

「僕がまだ故郷で学生やってた時、夏休み前の期末試験前には同じように喫茶店で勉強してたんだよ。他のテスト前のときは部活が休みになるから休息も兼ねて勉強してたんだけどね、夏休みの頭からコンクールシーズンだから部活は休みにならなくて、遅くまで部活した後じゃないと勉強できなかったからね。」

 

「コンクール?」

 

マリアがなにほれ?って感じでケーキを食べながら聞いてくる。

 

「簡単に言えば音楽大会。学校がいくつもあるからそれぞれの音楽部が演奏を競う大会かな。課題曲と自由に選べる曲の2曲を50人くらいで演奏するんだよ。」

 

「なにそれ楽しそう‼︎やりたい!」

 

マリアが目を輝かせる。

 

「はいはい、その通り楽しいんだけど、先に君たちの楽団をちゃんと整えようね〜。あの演奏会の後結構な人数が参加表明したらしいじゃん。練習場所とかの用意は手伝ってもいいけどどうするか示してくれないとね楽団長。」

 

「はぃ…。」あーあシュンとしちゃった。

 

 

まーいいや、ほっとこ。

 

 

「マスターはコンクールで、どんな楽器を演奏なさったんですの?」

 

リース嬢も気になるようだ。

 

「僕は楽器はトロンボーンでしたね、指揮をすることも多かったですけど。」

 

「トロンボーンといいますと、あの伸び縮みする金属のでしたか。」

 

「ええそうですね。僕が初めて触れた楽器でもあります。いい楽器ですよ。」

 

あ、なんかベラの頬が赤い。かわいいね!

 

「あなたを見ていると、いい楽器なのはわかりますよ。いい笑顔で話されてますから。」

 

 

「それはどうも。んじゃそのいい楽器を楽しむために、まずマリアと楽団をね?副団長。」

 

「ええ…。そうですね…。」

 

深めのため息ついたみたいだ。

 

 

あっ、でもー

 

「先にテストがありましたね。」

 

ー勉強も忘れちゃダメだよ?

 

はぁぁ…。ため息二つ。店内に放出されました。



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女騎士×2がお店にやったきた。

「お久しぶりですね、姫騎士様。」

 

「そうだな。しかし何故その名前で呼ぶ?」

 

学院も夏休みに入り少しした頃、アメーリア様が朝早くに店に来た。騎士団の部下なのかな?1人連れて来た。女の人でなんとなく貴族っぽい感じがするけど、纏ってある雰囲気がそれだけじゃないって告げてる。きっと相当なやり手だろうね。

 

って、そうじゃないそうじゃない。

 

なんなのアメーリア様。こんな公の場で平民に貴族を愛称で呼ばそうとしてるよ…。

 

互いにわかっているので目を合わせて、苦笑する。

 

「それで、後ろの方は?」

 

「おっと、これは失礼した。今回、私の副官になったんだ。」

 

「王都第五騎士団副団長のアルティン=リードと申します。以後、お見知り置きを。」

 

「これはこれは。私はここの店主をしております、リョウといいます。よろしくお願いしますね。」

 

 

ん?第五?

「名前からわかるだろうがリード家令嬢だ。その名に恥じぬだけの力はあるぞ。まだ16だが対人戦のセンスには目を見張るものがある。私だったら剣一つでオーク100匹を相手にした方がマシだと感じるな。」

 

 

おっと、無視しちゃダメだ。

「リード家と言えば去年男爵に叙勲されたのでしたか。」

 

「そうだ。それまで長い間騎士として国に仕えていてな、その中で培われた剣術は厄介だぞ。」

 

厄介だと言っておきながらアメーリア様は笑顔のままだ。この人ってバトルジャンキーではなかったと思うんだけどな…?

 

「さて、本日のご用件をお伺いしますね。」

 

「父上から聞いたのだが、リョウも戦えるそうじゃないか。それに自前の訓練設備があるとか。どうだ、稽古をつけてはくれないか。」

 

「稽古を、ですか?それはこの第五騎士団と関係があるとみてよろしいので?」

 

さっき言われた、第五騎士団。

 

王都には常に五つの騎士団がある。

 

王都の北側を守る第一騎士団。

南を守る第二騎士団

東は第三騎士団で、西が第四騎士団。

 

それぞれの方角の門と、その地区の治安維持を担っている。

 

そしてもう一つの騎士団は近衛騎士団。

 

王城内とその周辺が管轄だ。

 

そう、普段は王都第五騎士団なんてものは存在しないのである。

 

第五騎士団が編成されるのは必要に応じる形で他の王都の騎士団の人数を割いて編成される。

 

何かない限りは編成されないものが編成されているということは面倒ごとの予感しかしない。

まあ、聞けばわかるんだろうけど。

 

「そうだ。北の大霊峰から魔物が降りてきたのか、王都からみて北の街、ノスキャビンの北側の街道でかなりの被害が上がっている。王都以外には戦力に余裕があるところはないからな。第五騎士団を編成し、対処をすると言ったところだ。」

 

 

「なるほど、それで稽古と何の関係が?」

 

「今回の第五騎士団には新米も幾分か含まれてる。訓練こそしてあるが実戦はほぼない。だから出発の日まで自主練で訓練場が埋まっていてな。私やアルティンのような実戦経験のあるものは訓練場を使用できない。そこで父上に相談したのだ。そしたらリョウを頼れとな。」

 

「わかりました。場所はお貸ししましょう。が、私が稽古のお相手をする理由が見当たりませんが。」

 

 

「そんなものは簡単だ。父上が言っていたよ。リョウなら近衛騎士団長ですら単独では抑えられないほど強いとね。だったら戦いたくなるものだろう?」

 

「私もお相手していただきたく思います。近衛騎士団長である父ですら抑えられないとまで言われるその実力、ぜひお見せくださいな。」

 

はぁ、仕方ないか。

 

「かしこまりました。これからでよろしいですか?」

 

 

「ああ。」「はい。」

 

ごめんローズ、ベラ。

 

少しの間お店をお願いね。



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リョウの実力

「では、奥へどうぞ。」

 

そう言って、二人を奥へ誘う。

 

ん、これって。

 

案内しながら、ふと思った。

 

「姫騎士様、その剣って公爵殿下の剣ですよね?」

 

「そうだ。と言いたいがもう違うな。正式に家から出たのだ。とは言っても貴族典範のおかげで貴族籍からは抜けないし死ぬまで貴族としての身分は保証されるのだがな。貴族をむやみに増やさないための仕組みが減る時にも邪魔をする、皮肉なものだ。まぁその際に父上からもらったのだ。餞別代わりだろうな。」

 

 

 

「はは、なるほど。さて到着です。この部屋が目的地。さあどうぞ中へ。」

 

〜〜

 

「これは…。」

 

「リョウ殿、この部屋は一体何なのでしょうか?」

 

ありゃま、二人とも呆然としてるね。

 

 

この部屋の壁にはたくさんの扉が並んでいる。

 

中央には休憩用にソファとテーブルがあるだけ。

 

初めてみたら何これ?ってなるのも仕方ないかな。

 

「そうですねぇ、ではアルティン様、今入ってきた扉のすぐ右隣の扉を開けてみてください。」

 

「え、えぇ。でも廊下から見たときはこの位置に扉なんてなかったと思うのですが…。」

 

ガチャ。

 

引き戸を開けるとそこには茶畑が広がっていた。

 

「な、なんだこれは。」

 

「こ、これは…。」

 

「この部屋にある扉は最初にこの部屋に入ったときのものを除いて空間同士を繋げる魔道具です。例えば今開けていただいた扉はうちの店で使ってる茶葉の生産場所の一つですね。」

 

 

「これは遠い土地同士を繋げるものなのか?」

 

 

「少し違いますね。近いものといえば収納関連の魔道具でしょうか。この扉はそれぞれ、その扉だけでしか出入りできない空間につながっています。」

 

「なるほど。して、なぜ私たちをこの部屋へ連れて来られたのでしょうか。」

 

「その答えはこの扉を開けたらわかりますよ。」

 

ガチャ。

 

「どうぞ。こちらが訓練場です。」

 

ーーーー

 

「これは…。」

 

「とても広いのですね。」

 

「ええ。他にもいろんな機能があります。仮想敵として何種類かのゴーレムを出したり今はただの更地ですが草原や雪原、岩石地帯や火山内部といった環境も再現できます。」

 

 

「それはすごいな。いつもここで鍛錬しなくなる。」

 

「それはご勘弁ください。さてどのような訓練がお望みで?」

 

「とりあえずリョウと手合わせしたい。私とアルティンの二人と同時に頼めるか?」

 

「かしこまりました。武器の方は?」

 

「訓練用のものがあるのですか?」

 

「ええ、隣の部屋に。」

 

「ならそれを使わさせてもらう。」

 

「了解です。では僕も支度しますので。」

 

 

 

ーーーー

 

「武器はお二人ともそのロングソードでいいですね?」

 

「ああ、鎧は自前のものを使うが武器はこれを借りる。」

 

「では始めましょうか。制限とかは?」

 

 

「魔法は身体強化のみ、単純に近接のみでお願いします。」

 

「かしこまりました。そちらからどうぞ。」

 

 

「では、いくぞ。」

 

互いに10Mくらい離れたところから、アメーリア様が動き出した。

 

やはり速い。地球では考えられないくらいだ。

 

アメーリア様が上から下へと剣をまっすぐ斬り下ろす。

 

僕は半歩横へ動き剣先を斜め下に向け持ち上げる。

 

そのまま受け流して後ろから来ているアルティン様の方へ。

 

なんとか二人は衝突せずに済んだものの足が止まった。

 

 

「さぁ、こっからはこっちの番です。」

 

そう宣言して、背中合わせで止まってる二人の周りを駆ける。

 

速く、疾く。

 

一瞬、二人へ殺気を飛ばす。

 

 

そしてそのまま半周し、いわば殺気と僕自身の挟撃をする。

 

僕に近い側にいたアメーリア様がとっさに剣を向けてくるが弾き飛ばし手から離れたところを奪う。

 

そしてそのまま二人の首筋へそれぞれ剣を向けた。

 

「チェックメイト。」

 

 

「参った。」

 

「お見事です。」

 

 

ーーーー

 

「すごいな、リョウ。最初の一合でこれはすごいと思ったぞ。」

 

 

「私は一合もさせてもらえませんでしたね。」

 

「はは、次は本気でやりたいですね。」

 

「なんと、まだ本気ではないというのか。」

 

「ええ、まぁ。」

 

まだこれくらいだとじいちゃんに片手だけで相手されちゃうよ。しかも一歩も動かずに…。

 

コンコン。

 

「ん、入れ。」

 

アメーリア様がノックに返事をする。

 

 

「失礼いたしますね。」

 

入って来たのはローズだった。ワゴンに紅茶が乗ってるね。

 

「紅茶が入りました。どうぞお召し上がりください。それとリョウ、マリアさんが楽団のことで用事みたいよ、お店に来てるわ。」

 

 

「そっか。申し訳ありません、お二方。ちょっと席を外しますね。ローズ、二人をよろしく。」

 

「はい。」

 

 

さて、楽団の方はどうなったのかな?

 



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土地確保とリョウの秘密

さて少し前からハーメルン様にも投稿させていただいているふくすけ(ふくちゃん)です。

この小説は小説家になろう様、カクヨム様にも投稿させていただいております。

投稿は毎月1日と15日です。

ただ、次回か次々回のどちらかはお休みさせていただきます。
受験勉強の息抜きに書いているのでテストが近いと書く時間がありません…。

ご意見、感想等お待ちしております。


「やあ、マリア。調子はどうだい?」

 

カウンターに座ってるマリアを見つけると声をかける。

 

「それなりよ。これで美味しいケーキが食べれたら最高なんだけどね。」

 

ちょっといたずらっ子な笑みは反則だね。負けた。

 

「それはそれは。あとでサービスするよ。」

 

「うん、ありがと。」

 

「いいよ。その代わり新作だから感想教えてね。ところでローズから聞いたんだけど楽団の件だって?」

 

 

「ええ。リースとか他の参加してくれる人とかとも話したんだけど、劇場を借りるとなると王立音楽団とかからの妨害が入りかねないのよ。貴族権限で無理やり利用予定を横取りとかならやりかねないわ。なら自前のを持つしかない。ちょうど商業区の王都中央広場に面した建物のうちの一つが破産した商人の持ち物だったらしく借金してた商業ギルドがオークションにかけるみたいなの。土地も大きいしそのまま使うにしろ建て替えるにしろ十分な大きさよ。」

 

「それを落札すると?」

 

「ええ。オークションは商業ギルド主催である以上貴族の手出しはまず無理。そんなことしたらギルドの信頼に関わるもの。妨害するなら普通に落札するしかないわ。つまり必要なのは落札し、それを改装ないし建て替えるのに十分な資金、そしてオークションの参加権。」

 

 

「ギルド主催なら僕が参加できるね。資金は?」

 

「問題はそこなのよ。リースの家の力を借りたら意味がないし。またリョウに頼むのもね。」

 

「ふーん。最低落札価格は?それとオークション開催日も教えて。」

 

「白金貨5枚。オークションは五日後。」

 

「ならなんとでもなるよ。僕が落札するね。」

 

「で、でも…」

 

「いいから。その代わり最初の演奏会で一番いい席をお願いするね。」

 

「……やっぱりダメよ。リョウにばかり負担が行くわ。」

 

「うーん…なら今度デートしよっか。」

 

 

あ、あれ?突然マリアの顔が真っ赤に…。

 

 

「ち、ちょちょちょっと!なに言ってるのよ!前愛人扱いされた時の二の舞にしかならないわよ!」

 

あ、そっか。普通そう考えるよね。

 

でもおふざけなんだよなぁ…。

それにそんなに必死に拒否しなくても…。

 

「ごめんごめん。その、買い物に一緒に言ってお金があること、見せようかなって思ったんだ。」

 

「それならそうと言いなさい!この罰として今回は助けてもらうことにするわ!」

 

「かしこまりました。して、お客様。せっかく喫茶店にいらしたのです。コーヒーとケーキはいかがですか?」

 

二人でくすっと笑った。

 

ーーーーーーーー

 

 

ーローズside

 

「流石だ。この店の紅茶は美味い。公爵家にもここまでの物を淹れられる者はいなかったな。」

 

「私も驚きました。紅茶とはここまで美味しくなるものなのでしょうか?」

 

アメーリアが感嘆の声を漏らし、アルティンは驚きを隠せないと言った表情でローズに問う。

 

「市井で売られている茶葉も一般的な淹れ方ではなくちゃんとした淹れ方をすれば美味しくなりますよ〜。けれどこの紅茶はリョウが本気で育てたものですし、特別です。」

 

「特別とは?先ほどそこの扉の向こうの茶畑を見せてもらったが特別な要素は見当たらなかったが…。」

 

「見られたのですね〜。あの茶畑が特別な紅茶の秘密ですよ〜。見ただけではわからないことだらけですけどね〜。」

 

この茶畑は天気、気温、湿度、日照角度や時間、風などお茶が成長するのに必要な物をそれぞれに最適な分だけ供給するようにできている。その上扉が閉まっていて中に人がいない間は時間の流れが早い。収穫できるようになると中にいるリョウ製作のゴーレムが収穫をして時間停止倉庫に保管される。その後必要な分だけ熟成、発酵させ使用しているのだ。

 

 

それをローズが二人に説明する。

 

最初は興味深そうに聞いていた二人だが、だんだんと顔が強張り、最後には冷や汗が出てきた。

 

 

笑顔で話し終えたローズにやっとの思いでアルティンが口を開く。

 

「り、リョウ殿は一体何者なのですか?私の父である近衛騎士団長すら単独で相手をすることはできないと言わせ、その上このような魔道具を…。」

 

「それだけではないな。母上の病を治してくれたのもリョウだった。自前で作ったというエリクサー。そんなもの普通は個人で作れるものではないぞ。」

 

アメーリアもそれに追随するように言う。

 

「そうですね〜。とりあえず彼は人間ですよ〜。」

 

 

「あ、あぁ。それは分かっているつもりだ。」

 

「私もです。しかし…。」

 

 

「じゃあ付いてきてくださいね〜。一つ、お見せしたいものがあります〜。」

 

 

そういってローズは一つの扉へ向かう。

 

それを二人は追う。

 

ガチャ。

 

「彼には一つ夢がありました。そのために強く、物作りも超一流になりました。」

 

そして扉の先にある物を指し、

 

「あれがその夢を追った証であり、夢破れた跡でもあります。そしてあなた方の質問への答えですね。」



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夢の残骸

“あれ”

 

そういってローズが指差したのはとても大きいもの。

 

魔道具の扉は店の建物に入りきらないはずの大きさの建物の中に繋がっていた。

 

その中に鎮座するものもまた、大きなものであった。

 

「あれは空間航行船“天鳥船”です。」

 

 

「空間航行船だと?あれは船なのか?」

 

アメーリアが混乱してはいるがなんとか質問を口に出した。

 

「厳密には違いますね〜。全長およそ355m、全幅は74.2mの空中、水上、水中そして宇宙空間など全領域で航行可能な乗り物です〜。」

 

 

「「なっ…!」」

 

 

二人が絶句し、必死に次の言葉を紡ごうとしたその時…

 

 

ーーコンコン。

 

 

ノックの音が響いた。

 

 

ーーーーリョウside

 

「珍しいわね、リョウがそんなふざけ方するなんて。」

 

「えー。マリアがちょっと気負いすぎな感じだから気を遣ったのにそんな反応かよ〜。」

 

ふざけた後もカウンターで話している。

 

他のお客さんの対応したりもいてるから途切れ途切れだけどね。

 

「ったく、相変わらずなのね。」

 

ダメなのかな?

 

「だ、誰がそんなこと言ったのよ!あんたはそのままお人好しでいればいいの!」

 

はいはい。

 

「本当にもう…。はぁ…。」

 

 

「ため息なんかついちゃってどうしたの?」

 

「少し情けなくなったのよ。何もかも助けてもらってばかりでね。あーあぁー、何にも縛られない場所とかないかなぁ。いっそ空を浮かぶ島とかでもいいから…。」

 

「それだ!」

 

「ひゃっ!」

 

マリアが突然上げた僕の声に驚き、変な声を出した。

 

それが面白くて笑いながらマリアの方を見ると、少し顔を赤くして、こちらをジト目で見てきた。

 

「なによ。リョウのせいでしょ!」

 

「はは、ごめんごめん。ちょっとついてきて。声を上げた理由見せてあげる。ベラ、少し外すから料理は“ストレージ”からお願いね。」

 

おっけーという声が聞こえたのを確認し、ベラを連れて奥へ行く。今日の朝、女騎士二人に見せたあの扉だらけの部屋へ。

 

 

ーコンコン

あれ?返事がない。ただの…ゲフンゲフン。

 

入りますね。

 

ーガチャ

 

ありゃいないや。

 

女騎士二人はまた訓練かもしれないからまだしもローズはどこに?

 

あれ、一つだけ扉がほんの少し空いてる。

 

ここかな?でもこと扉って…。

 

まあいっか。用があるのもこの部屋だし。

 

マリア、ついてきて。

 

ん?扉の向こうから何か聞こえるね。

 

『厳密には違いますね〜。全長およそ355m、全幅は74.2mの空中、水上、水中そして宇宙空間など全領域で航行可能な乗り物です〜。』

 

気づかれないように扉を開けきってからわざとらしくノックをする。

 

ーコンコン

 

さーて、ローズさんにお二方?なにもしていらっしゃるんですか?

 

 

 

 

 



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夢の“残骸”たる理由

な〜にしてるんですか?

 

「え、えっとそれはだな…。」

 

「そ、そのぉ…。」

 

んもう。仕方ない。

 

ローズ?ここでなにしてるの?

 

「えっとね、その二人にリョウは何者だってきかれたから…。これを見せて説明しようかなって。なにも説明しなかったら、騎士としては疑わなきゃいけなくなるだろうし。」

 

 

はぁ…。

 

理解はぁするけど納得はできないね。

 

 

ったく。

 

「ローズは店に戻って。お二人はどこまで説明を?」

 

 

「ええっと、これのサイズと全領域で航行可能であるってことくらいだ。」

 

「なら、僕が引き継ぎますね。ただ、このマリアも一緒になりますが。」

 

 

「わかりました。マリアさん、よろしくお願いします。第五騎士団副団長、アルティンと言います。こちらは団長のアメーリア様です。」

 

「アメーリアだ、よろしく頼む。」

 

「は、はい。マリアです。よ、よろしくお願いします。」

 

「あ、ローズはお仕置きだから。さ、店に行った行った。」

 

さてローズが戻ったところで説明始めるますか。ぷぷっ、ローズの顔引き攣ってたなぁ。

 

ーー

 

「この船は先ほどもあったように全領域で航行できる船ですね。水中、水上、空中どこでも問題なく飛行できます。また理論上の航続距離は無限です。」

 

「全長は約355mだったか、全幅は74.2m。小さな街の住人くらいの人数が乗れるような船が補給なしで航行可能とはな。」

 

感心したようにアメーリア様が言ってきた。

 

「ええ。ただ、船内の設備もかなりあるので客船のような運用を取ると乗客数は1500人程度になりますね。」

 

えっへん。自信作でござる。

 

「なるほど、それでリョウ殿はこれを軍事利用はなさるのですか?」

 

不安そうにアルティン様が聞いてくる。

 

「確かに軍事利用できると便利でしょうね。相手の攻撃が届かない場所を通って敵陣深くに切り込むなんてこともできるでしょう。武装を積まなくても高高度から岩でも落とせばかなりの威力です。でもやりませんよ。この船はそのためのものじゃないですから。」

 

「それは“夢”のためですか?」

 

あれ、ローズはそこまで話したのかな?

 

「ローズから聞いたのですか?」

 

「ええ、この船は夢破れた跡だと。ただ、それだけ伺いました。」

 

「なるほど。ならお答えしましょうか。まず僕の夢は故郷へ帰ること、ないし帰る手段を見つけ手に入れることにあります。」

 

「ど、どう言うことだ。リョウの故郷はどこにあるかもわからないとも聞こえるが。」

 

「ええ、そうです。僕は気がついたら王都のここ、この店の前の主人に拾われてました。王都近郊に倒れていたそうです。文献を見ても言い伝えや旅人の話にも僕の故郷の話は出てきません。帰りたい。が、ルートも場所もわからない。いまは色々あって諦めましたが、当時は文字通りどこにでも行ける手段が必要が必要でした。」

 

「それで作ったのがこの船?」

 

マリアがおそるおそる訪ねてくる。

 

「そう。それで夢を諦めることになって残ったのがこの船。だから夢の跡ってわけです。」

 

「なるほどな。して、リョウはなぜそこのマリアという者を連れてきた?」

 

「簡単ですよ。貸し出すんです。」

 

「「「は?」」」

 

 

この時、三人の気持ちが身分やしがらみ、考えを超えて一つになった。




こんにちは。ふくすけです。

ここで重大なお知らせがあります。
投稿を一時的に停止しようと思います。現在僕は受験生でして、センター試験まですでに100日を切っています。そんな中、作品を書く時間が取れなくなってきました。
なので、この先不定期で投稿することは一度か二度程度はできると思いますが受験終了まではほぼ更新ゼロのつもりでいます。ご了承ください。


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