That Is How I Roll !! (さとそん)
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A Small One Step

みなさん初めまして、さとそんと申します!
美咲ちゃんに続いて今回のヒロインは羽沢つぐみちゃんです!
よろしくお願いします!!


 

 

  『努力は必ず報われる』

 

  そんな言葉は絶対に嘘だと思っていた。だってこの世界は幻想や妄想で作られた虚構の世界じゃない、自分の目に映るものがすべての現実だ。

 もし本当にそんな世界があるとしたら、誰だってかめはめ波を撃てるし、地球の危機を救う勇者にだってなれてしまう。そんなことは絶対にありえない。

 

  けれど、いつも俺の近くで努力をしてる彼女をみて。いつもひたむきに何かにうちこむ彼女の姿を見て、ほんの少しだけ考えが変わった。

 

  それまで、試合に出れれば楽しいからといった理由で、サボっていた練習にも少しだけ真剣に取り組んでみた。

 最初は遊び心で、なんなら「努力なんて無駄だってことを証明してやろう」くらいの軽い気持ちだった。

 

  ──そのはずなのに。

 気づいたら本気になっていた。

 

 

  頑張ればその分だけ自分が成長してるのが嫌でもわかってしまう。ときにスランプに陥ってしまうこともあったが、その度に試行錯誤して、アドバイスをもらって、それを乗り越えた時の快感は今でも心に残っている。

 

  それからは「努力」というものにハマってしまった。毎日朝早くに起きてランニングをし、練習が終わったあとも1人残って夜遅くまで素振りをしたり、友達を巻き込んでピッチング練習もした。

 

  そうしてわかった。

 努力をして結果を出すことに意味があるのではなく、努力をすることに意味があるのだと。

 

  確かに努力が必ずしも結果に結びつくとは限らない。けど、努力したという事実があるだけで気持ちは変わってくる。それは、すればするほど絶対的な自信に変わる。

 

  努力をすることの大切さを教えてくれたあの娘に、どうしても恩返しをしたい。そう思った。だから俺は決めたんだ。

 

「甲子園の舞台に彼女を連れていく」

 

  これが俺のできる精一杯の恩返しだ。そして、『これが俺のやり方』だ。

  彼女のお陰で俺はここまでこれた。だから俺の青春全てを費やして彼女に感謝を告げる──。

 

 

 

 ~~〜

 

 

  東の空から差し込む朝陽がまだ眠気が残っている俺の頭を強く刺激する。

 ふぅ、と1つ息を吐いたあとに軽く準備体操をして、毎朝の日課となっているランニングに出掛ける。

 まだ完璧に太陽がでている訳ではなく、太陽は少しだけ白んでいて……こういう時間をなんというんだっけかな、古文でやったはずだ……そう!あれだ、「冬はつとめて」っていう有名なあれ。

 

  古文の先生曰く、「つとめて」の語源は平安時代の人々は仕事に朝早くから「勤めて」いたからだとかなんだとか。

 うん、つとめてっていい言葉だな。「つとめて」の時間帯に「努めて」、「勤める」。現代の学生達にも見習って欲しいくらいだ。

 

  長くなったが、まぁ何を言いたいかと言うと今はだいたい朝の6時頃。努力することの楽しさに気づいたあの日からずっと日課として続けている早朝のランニングをするために、いつもこの時間帯に起きているのだ。

 準備体操が終わると、改めて靴紐をきつく結び直し、数メートル歩いてから徐々にスピードを上げていき、それに合わせて歩幅も広げていく。よし、今日もいつも通りいい朝だ……!

 

 

 

 

  俺のランニングコースは毎日変わらない。家の南側だいたい2㌔ほど進んだところには少し角度が急な舗装された山があり、そこを登ったところにある小さなグラウンドの周りを3周、そのまま山を下って家に戻ってくるというコースで、全長は約8キロの山あり谷ありという、なかなかハードなコースだ。

 昔は走るだけで一苦労だったが今では40分程で走れるようにまで成長した。自分で言うのもアレだが、これも努力の為せる技っていうもんなんだろう。

 

  走っている時は普段、音楽を聴いている。

 心が燃え上がるような、それでいてクールで、直接自分の心臓を叩くようなハードな音楽。

 そして一番重要なのは自分の幼馴染たちが、その血湧き肉躍るような音楽を奏でているということだ。

 その声や音楽は聴いているだけで疲れが一瞬にして消え去ってしまうような不思議な力を宿しているようで、それを聴いている限り自分にはなんでもできてしまいそうな気さえしてしまう。

 

  美竹蘭の歌声は、力強く、そして聴いている人々の心に語りかけてくるような曲を。

 

  青葉モカのギターはとても自由で、それでいてしっかりと曲にマッチしている、まさに彼女自身を表している。

 

  宇田川巴のドラムテクニックは、周りを鼓舞するような男気溢れるもので、見ているものを魅了する。

 

  上原ひまりのベースは、いつも明るい彼女とは正反対に低い音を奏でるが、それでも彼女らしく存在感のある綺麗な音だ。

 

  そして羽沢つぐみのキーボードは、努力の痕が一瞬でわかるほどたくさん練習されていて、いつもメンバーを影で支える美しい旋律を奏でている。

 

  この5人のバンドはAfterglowといい、先程も言った通り、俺の幼馴染み達5人が中学の頃に組んだバンドである。

 中学の頃のクラス替えで俺達の中で蘭だけがクラスが離れてしまい、それが原因でグレてしまったことから、つぐの提案でバンドを始めたのだ。

 

  あの時は本当に大変だったな……授業には参加しないわ、立入禁止の屋上に入るわ、挙句の果てにはモカまで一緒になってるし……。

 まぁ結局はモカの声掛けや、つぐの提案、その他諸々のお陰で立ち直れたわけだが。あ、でもその黒髪にいれた赤色のメッシュは今でも健在だ。

 

  そんな昔の記憶に想いを巡らせていると、いつの間にか家の近くの商店街のところまで来ていた。家まではあと200mも無いだろう。やっぱり何かを考えていると時間って早く感じるな。

 

(よし、そろそろスパートかけるか……!)

 

  俺はいつもランニングの最後には全力で走ることに決めている。理由は疲れている時にこそ、力を発揮出来なければならないから。

 ピッチャーをやっていると、終盤になればなるほど球威がなくなり、打たれてしまう。だから終盤になってもバテないように日頃から鍛えているのだ。

 

「よし、いくぞ……!」

 

  一言ボソッとつぶやき、気合を入れてから全力で風を切るように地を駆ける。

 自分の足音が風を切るよう音で掻き消されるほど、強く、強く……!

  ようやく視界が自宅を捉えたとき、家の前に人影があった。

 

(今日も来てるのか……)

 

  家の前に着いたところで、先程まで強く地面を蹴っていた足のスピードを徐々に落としていき、玄関前のコンクリートに抱きつくかのように倒れ込む。本当はマラソンの後に急に止まると心臓に負担がかかるし、足に乳酸が溜まってしまうので良くないのだが、身体があまり言うことを聞かずに寝っ転がってしまう。

 

「准くん、今日もお疲れ様!」

 

 すると、先程まで家の前で俺が帰ってくるのを待っていた少女が太陽の日差しを遮るかのように俺の顔を覗き込み、白くふかふかなタオルを手渡してくる。

 

「はぁ、はぁ……今日もサンキューな、つぐ」

 

  目の前にいる女の子の名は羽沢つぐみ。

 黒髪の肩ぐらいまで伸ばしたショートボブ、まるで吸い込まれるように錯覚してしまうほど綺麗な純黒の瞳に華奢な身体にはエプロンをしている。だがその小さな身体には芯が通っていて、行動力もあり、イザというときにはとても頼りになる。そしてなにより大の努力家で──俺の大切な人。

 

「ううん、大丈夫だよっ、私も准くんの頑張ってる姿をみるの大好きだから」

 

  つぐはニコリと笑って普通なら恥ずかしいような言葉を口にする。

 そんな事言われるとこっちだって恥ずかしいじゃないか……!

 

「……あ、いや!いまのはそういうのじゃなくて……うぅ、」

 

  かと思いきや向こうも無意識にした発言だったらしく、俺が少し顔を赤らめているのを見ると、つぐも顔を真っ赤にして目を逸らしている。控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。つぐマジ天使。

 

「いいっ、もういいから!これ、ありがとな!」

 

  さすがに恥ずかしくなった俺は柔軟剤のいい香りがするタオルをつぐに返したあと、朝から天使の姿をみて頬がゆるゆるになっているニヤケ顔を隠すかのように急いでバットを取りに行く。

 

「それにしても、准くん勿体ないよね。せっかくあの明光学園から推薦来てたのに、それを蹴って雛河に一般受験するだなんて……」

 

「あぁ〜、まぁな。確かに明光も強いけど雛河だって弱いわけじゃないし」

 

  俺は中3の頃に中学の野球部でエースをやっていた。チームは県予選の決勝で地元の強豪校に惜しくも敗れ、全国大会に出場することは叶わなかったが、俺のピッチングは目に留まったらしく県内でも有数の強豪校から推薦が来たのだ。しかし俺はそれを蹴った。

 

  理由はいくつかあるのだが、一番大きな理由はつぐたちと離れてしまうからだ。

 俺の目標はただ甲子園にでることじゃない。『甲子園につぐを連れていく』ことだ。雛河高校は、つぐたちが通う羽丘女子学園と結びつきが強く、学校自体は別なのだが学園祭などのイベントはいつも一緒にやっている。

 更に羽丘は女子高、雛河は男子校ということで、羽丘の生徒は野球の応援などに全校応援で応援しに来てくれるのだ。そういう訳で俺は雛河を選んだのだが、これはつぐには内緒にしてある。恥ずかしいし。

 

「あっ、そろそろ私戻らなきゃっ!」

 

「開店の準備か?」

 

 つぐの家は羽沢珈琲店という喫茶店を営んでおり、つぐもその手伝いをしているのだ。そのため朝は学校へ行く前に家の前の掃除や、食器の準備などの仕事があるのだ。

 

「うん、それじゃあまた後でね!」

 

「おぉ、あとで向かいに行くわ」

 

 そういってつぐは純白のエプロンを振りながら、とたとたと家へと走っていった。いやぁ、それにしてもエプロン似合うなぁ。つぐに毎日味噌汁を作って欲しい……って俺は何を考えてるんだ!?

 

  それからは雑念を振り払うように素振りやシャドーピッチングに専念した。

 

 

 

 

 ~〜~

 

 

 

 

 

 

  春の暖かな陽気に包まれている商店街は朝から活気に満ちている。喧騒に包まれた商店街の一角にある珈琲店、『羽沢珈琲店』の前で俺達はいつも待ち合わせをしていて、既に幼馴染みたちは全員集まっているようだ。

 

「よう、ジュン!遅いぞ〜」

 

「わりぃ!練習してて気づいたらこんな時間になってた……」

 

「……遅い。また練習?ホントに准は懲りないよね」

 

  最初に話しかけてきたのはドラムの宇田川巴と美竹蘭。

 2人ともいい意味で目立つ容姿をしているため、俺達は彼女らを『生けるランドマーク』と呼んでいる。真正面から言ったら3/4殺しにされるので直接は言わないけど。

 

「まぁまぁ、准くんだって悪気はないんだし……ね?」

 

「そ〜そ〜、じゅんじゅんが遅れてくるなんていつものことだし〜」

 

「いつもはモカだって遅れてくるじゃん!!」

 

「俺は毎日遅刻してるわけじゃねぇ。ってかそう言うひまりだってよく遅れてくるだろ?」

 

「ははっ、まぁお互い様だな!」

 

  それに続くは天使こと、つぐ。少し機嫌が悪くなっている蘭のことを天使スマイルで宥めている。

  モカはいつも通りのマイペースで、俺を擁護している……とみせかけて、人を棚にあげて自分は逃げようとしている。

  ひまりは逃げたモカを指摘しているが結局は同じ穴の狢、ということでただの骨折り損だった。

 

  いつも俺達はこんなくだらない話をしながら登校している。俺が通う雛河高校は羽丘女子学園の500m程手前のところにあるため、高校に入った今でもこうして一緒に学校へいっているのだ。そしてこれからも、少なくともこの三年間は、こいつらと、つぐと、このくだらない日常を送りたい。

 

 

 

「あっ、そういや今日からまた一緒に帰れなくなるから」

 

 ふと、そんなことを思い出した。再来週には春の県予選が始まる。別にこれに負けたところでなにかある訳ではないのだが、勝てば夏の予選大会でシードを取れるため、俺の、いや、俺達の夢である甲子園に行くのに有利になる。だから、もちろんチームは全力で勝ちに行く。そのため今日からはいつも以上に厳しい練習が待ち受けているのだ。

 

「そっか、もうそろそろ大会だもんね! みんなで応援しに行くから!!」

 

「ははっ、出られるかわからないし、ベンチ入りすら出来るかまだわからないんだけどな!」

 

「おいおい……ジュン、しっかりしてくれよ? ジュンなら出来るって!」

 

「ま、そんだけ毎朝毎晩練習してるんだし心配いらないんじゃない?」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ……っと、着いたか。んじゃ、お前らも気を付けてな」

 

  気が付くと、すでに雛河高校の校門まで来ていた。周りは見渡す限り雛河に通う男子生徒で溢れかえっている。そしてなぜかこちらを睨んでは「はっ、なんだアイツ。今日もハーレムかよ」などと悪態をついている。確かあいつは1組の山田くんだな、あとで練習用の重いバットでぶん殴ってやろう。

 

「うん〜、じゃあねぇ〜」

 

「練習、頑張ってね!」

 

「おう!お前らも今日はスタジオ練だろ? 頑張ってな」

 

  そう告げて、俺は校門へと一歩を踏み出す。それは、甲子園という長い道のりへの小さな小さな第一歩であった。

 

 

 




読了ありがとうございます!
感想やお気に入り、評価等々お待ちしております!

書いてる時は題名どうしようかな〜とかずっと考えていたんですが、アフグロの作品は曲名から取られている作品が多いので、まだ使われてない曲の意味を調べてみたところ「これが俺のやり方だ」と書いてあってこれにしようと即決しました。
以上、くだらない裏話でした。



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This Is My Usual Life

いつも通り、遅れましたがよろしくお願いします!




 

 

 

 ──むさくるしい。これが俺の通う雛河高校の今の印象だ。

 入学当初は「どんな素敵な高校生活を送れるんだろう……!」だなんてドキドキが止まらなかったもんだが、入学から1ヶ月ほどだった今となってはただただ苦痛でしかない。

 

「よぉーノヤ! 今日も相変わらずカワイコちゃん達と登校か? 羨ましいやつめ!」

 

 だって、こんな男しかいない高校に青春もクソもあるわけないじゃねぇか!!

 

「朝からうるせぇな、ギン。アイツらはただの幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 

 こんな朝っぱらから騒がしく絡んでくるコイツの名前は則本 銀次。中学の頃から俺とバッテリーを組んでいて、鬱陶しいが頼りになる坊主頭だ。いや、俺も坊主なんだけどな?

 

「またそのセリフかよ……。まっ、何年もお前とバッテリー組んでるせいで、俺とお前は一心同体だからお前のことなら何でもわかっちゃうんだけどな!」

 

「はいはい、いいから自分の席に戻れよ。タダでさえ野球部は暑苦しいイメージあるのに余計ややこしいことになっちまう」

 

 俺はギンのウザったいトークを適当にいなして、1時間目にある日本史の授業の準備を進める。一方ギンは俺の冷たい対応にも慣れた様子で、笑いながら自分の席へと戻っていく。

 

 普段からアイツはこんな感じでおちゃらけているふざけた奴だが、野球が関わると急に人柄が変わる。

 守備では、そのデカイ図体を活かし、とてもピッチャーからすると安心感がある。リードはとても研究されており、繊細で、ときに大胆なリードをしてくれる。

 打撃では、キャッチャーならではの相手の配球を読んで打ち、昔から打点、打率が共に高い頼りになる四番打者であった。

 俺が推薦されていた明光学園も、俺とギンをセットで獲得しようとしていたようだ。まぁ評定が足りなくて推薦を受けれなかったそうだが……。

 そういう訳で、俺にとっての相棒はギンただ1人なのだ。あの甲子園の舞台で、ギンに向かって全力でボールを投げ込みたいと俺は思う。

 

 

 

 ~〜〜

 

 

 

「起立、気をつけ、礼」

 

『アーッしゃァ!』

 

 帰りのHRでの、挨拶とはとても形容し難い挨拶を終えて、俺達のクラスは気だるい勉強モードから一気に部活モードへと切り替わる。今日は週に一度の7時間授業だったせいか、先程までは虚ろになっていた目にも、今ではやる気が漲っているように見える。

 

 ここ、雛河高校は体育系の部活が盛んで、生徒の大半がスポーツ推薦で来ている連中だ。

 同じクラスの野球部の連中も同様で、まさに脳筋的思考かつスポーツ大好き人間であるため、我先にと競い合うようにグラウンドへと駆けていく。

 

「おいノヤー、さっさと行くぞー!」

 

 ギンが俺を待っている姿を一瞥し、机に掛けてあったスクールバッグを背負って先にグラウンドへと走っていった連中の背中をギンと共に追いかける。

 夕焼けに照らされる校舎には既に誰もいなくなっており、俺達の足音だけが反響していた。

 

 

 

 

 

 

 既に日も沈み、西の空が綺麗な夕焼けの下、春にしては暑い青春の汗が零れている。

 

「さぁこぉぉーいっ!」

 

「バッチコォォォーイッ!」

 

 今日の練習メニューは試合形式でのバッティング練習だ。うちの野球部の練習は実戦を主に置いている。本番では、練習したことのないような状況に陥ることも多いため、このような練習法を取り入れているのだ。

 

 そんなわけで、俺はいまマウンドに立っている。入部してすぐの練習の時の能力適正テストで投手に合格し、俺は一年生ながら一軍のメンバー候補の中に含まれている。捕手ではギンも順調にメンバー候補の1人であるため、いま俺の球を受けているキャッチャーはギンだ。

 

 セットポジションから大きく足をホームベースに向かって踏み込み、下半身の力を意識して腰を捻り、腕を力強く振り下ろす。

 

 投げたボールは打者の手前で鋭く右バッターボックス側に曲がり、バットの空を切ってギンの構えているミットに吸い込まれる。

 

「ははっ、やっぱり准のスライダーはエグいなぁ! こりゃあなかなか打てんわ」

 

 すると、バッターボックスに入っていた雛河高校野球部キャプテンの聖 誠さんが声をかけてくる。聖さんは細身だが身体がガッチリしている。そのため長打力も高く、うちの不動の4番打者に君臨している。

 

「あははっ、聖さんに褒めてもらえて光栄ですよ」

 

「まぁな? ただアレやな、男だったらストレート勝負やろ! 次の球はストレートな、これは先輩からの命令や!!」

 

 聖さんは中学が関西の方だったらしく、少し関西訛りが混じった口調で、そう命じてくる。

 笑いながら喋っているようにも見えるが、目はマジだ。たぶん空振りさせられたことが相当悔しかったのだろう。聖さんは獲物を捕食する獣の様な視線で俺を見つめている。

 

(超怖ぇぇぇ……)

 

 一軍の候補入りを果たしたとは言えど、俺が所詮は中卒のチェリーボーイであることに変わりはない。3年の先輩、それも関西弁混じりの坊主頭の主将にそんな目で見られたら萎縮してしまう。

 

 そんな状態でマトモにストレートを投げられるわけもなく──

 

 ドスッ!!

 

 俺がビビりながら投げた球は、あろうことか先輩に向かって一直線。そのまま背中を向けた聖先輩のケツに直撃し、辺りに硬球特有の鈍い音が響き渡る。

 

「あっ……」

 

 その瞬間、場が驚くほどシーンと静まり返り、俺の喉からでた蚊の鳴くような声がそれに続く。

 

「准……覚悟はできてるんか?」

 

「すいませんでしたぁぁぁあーっ!」

 

 怒気を孕んだその声に俺はその場から逃げることも出来ず、被っていた汗臭い帽子を脱ぎ捨て、誠心誠意土下座をする。先程までグランドの中で一番高いところにいたはずなのに、いつの間にか俺は一番低いところに頭を擦りつけていた。

 そんな俺を嘲笑うかのように、既に赤くなっている西の空を飛ぶカラスが「アホー、アホー」と鳴いていた。

 

 

 

 ~~~

 

 

 

 先程まで街を明るく照らしていた太陽も暮れて、真っ暗になった夜の商店街を街灯が明るく照らしている。

 ポケットに入っているスマホに繋がったイヤホンからは、とても聞き慣れた音楽が聴こえくる。幼馴染みが歌っているその歌を口ずさみながら、1人で帰宅の途につく。

 

 主将にデッドボールを当ててしまった後は本当に地獄だった。1人でバックネットの前に立たされて千本ノックとか、どこの漫画の話だよ……。

 お陰で俺の身体はボロボロだ。ユニフォームに土が入りまくって気持ち悪かったから、いまは学校の指定ジャージに変えているが、それでも身体にまだ砂やらなんやらが付いていて気持ち悪い。

 

 ふと、前方を見ると見慣れた後ろ姿を発見した。あれはつぐか?

 

「おーい、つぐ〜!!」

 

「……?? あっ、准くん!!」

 

 つぐは俺の声に気づいて、こちらの方に振り返る。買い物の帰りだったのか、彼女は今にもはち切れてしまいそうなほどパンパンに膨らんだ買い物袋を両手で持っていた。

 

「またそんな重そうな荷物を一人で運んでんのかよ……この前おばさんに言いつけといたばっかりなんだけどなぁ」

 

 俺はそう1人呟き、つぐの方へと駆け寄って手に持っていた荷物をひょいと持ち上げる。

 

「えっ!? いや、いいよいいよ! 准くんは野球のカバンだって背負ってるんだし……」

 

「まぁまぁ、こういう荷物を持つのは男の役目だろ? それに女の子のつぐにムキムキになられても困るしな、ははっ!」

 

「ムキ、ムキ……? 私が……? いやいや、そんなことにはならないよっ!」

 

 俺の言葉でつぐはムキムキになった自分の姿を想像してしまったのか、顔をブンブンと左右に振って否定する。

 

「とりあえずこれは羽沢珈琲店の買い物だから、袋は私が持つよ!」

 

 そう言ってつぐは、再び荷物を取り返そうと袋に手をかけたため、2人で荷物を引っ張り合うような形になる。

 

「ふむふむ……つまり、この問題は俺が羽沢家の一員になれば解決するってことだな?」

 

「ふぇ……?

 

 

 

 

 

 

 ──ええぇぇぇ〜〜!?」

 

 俺が無意識に発言すると、つぐは顔から火が出るように赤面をして身体を仰け反らせ、ここが商店街であるのにも関わらず、大声で驚嘆する。

 

「おいっ、つぐ! 声がでかいって!!」

 

「えっ、いや、だって……それって私と准くんが、け、けけけ、結婚するって……ちょっと、まだそれは早いっていうか、その……」

 

 ……はい??

 俺が羽沢家に入るってだけだろ?

 

 それって……あれ、確かにそうだな。俺が羽沢家に入るってことは……うん、結婚するしかないな。

 

「ええぇぇぇ〜っ!?」

 

「ちょっ、准くん! 准くんも声大きいよ!!」

 

「だ、だだだ、だって! 無意識の発言だったのに、そんな、口説き文句みたいな……」

 

 やばいやばい恥ずかしい死にたい恥ずかしい赤面してるつぐ可愛い。

 

 確かにつぐのことは好きだし、いつか結婚できたら幸せだろうな〜とかは考えてるけど、告白するのは甲子園に行ったらって決めてるんだ!!

 

 ダメだ……!このままじゃマトモにつぐの顔を見ることなんて、、俺には出来ない……!

 つぐも頬を紅潮させて、何をしていいか分からないような様子でオロオロしている。

 

 頼む、神様。そこにいるなら助けてくれ……!

 

 

「あれれ〜? 2人ともなにやってんの〜?」

 

 

 こ、この独特な間延びした声の持ち主はまさか──

 

「よ、よぉ〜モカじゃねぇか!」

 

 

 パンの神様──青葉モカ!!

 

 

「も、モカちゃんっ!!」

 

「ん〜? あ〜、なるほど〜。いやぁ〜、こんな夜に2人で帰ってるだなんて、お熱いですな〜」

 

 パンの神様こと、モカは悪巧みをしていそうな表情で、ニヤニヤしながら俺達のことを交互にチラチラ見ている。

 前言撤回。こいつ神様じゃなくて悪魔だわ。

 

「ちょっとモカちゃん! これは、そっ、そういうのじゃないから!」

 

「え〜、でも2人とも手を繋いでたし〜」

 

「は?? 俺達は手なんか繋いでないぞ……?

 

 

 ……あ。」

 

 モカに手を繋いでたと言われ、そんなことしてたかなぁと思い返す。すると数秒考えると一つだけ思い当たることがあった。

 

 

「買い物袋ェ……!!」

 

 

 恐らくモカが言っているのは、さきほど俺とつぐが買い物袋を取り合っていた時のことだろう。そのときは手と手が触れ合うレベルに距離が近かったため、それを見たモカが勘違いしたようだ。

 

「なぁモカ、ちょっとこっち来て」

 

「ん〜、なに〜?」

 

「パン奢ってやるからもうやめてくれ……俺とつぐのライフは既にゼロなんだ……」

 

「ん〜? なんのことか、よく分からないけどラッキ〜。なんもしてないのにパンを10個も奢ってもらえるなんて、モカちゃん大勝利〜」

 

「えぇ、そんなに食うのぉ〜……まぁいいけどさ」

 

 なぜか大量にパンを買わされることになっていたが、こちらにVサインをしながら微笑んでいるモカを見ていると何故か「仕方ない」という気持ちになってしまうから不思議だ。これご幼馴染みパワーというものなのだろうか。いや、たぶん一刻も早くこの場から逃げ出したいだけなんだろうけど。

 どうせ野球やってたら月の小遣いなんて食にしか使わないし、あって無いようなもんだろう。パン10個くらい山吹ベーカリーで買えば1000円ぐらいで買えるだろうしな。

 

「な、なんかごめんねっ、准くん……」

 

「いいよいいよ、とりあえず荷物は俺が持つからさ」

 

「じゃあお願いしてもいいかな? お詫びと言ってはなんだけど、うちでゆっくりしていかない?」

 

「おっ、いいのか? じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

 折角のつぐからのお誘いだ。まぁ2日に1回くらい行ってるんだが、ここはお言葉に甘えてお邪魔するとしよう。

 

「それじゃあ、あたしは帰るね〜」

 

「あれ、モカは来ないのか?」

 

「あたしは家帰ってパン食べなきゃいけないし〜」

 

「え、お前がパン食ってる理由って使命感なの!?」

 

「……まぁね〜」

 

 モカはそういうと踵を返し、自分の家がある方向へと向かって歩き出す。微かにそよぐ春風が、モカがいつも着ているお気に入りのパーカーのフードを揺らしている。その様子はまるで、自由気ままなモカの性格を的確に表わしているようだった。

 

「モカちゃん、どうしたんだろうね?」

 

 つぐが少し心配そうな声色で、俺に問いかける。

 

「さぁな。ただひとつ言えるのは、モカっていつもあんな感じだろ?」

 

 いつものほほんとした態度で自由に行動して、パンが大好きで、人をおちょくって遊ぶのが得意で。

 それでいてなんだかんだで1番周りを見ている────。

 

 そのとき、俺のポケットに入っていたスマホが振動した。映し出されたホーム画面を見て、俺は小さく笑みを零す。

 

『じゅんじゅんが「やめてくれ」って言ったんじゃ〜ん』

 

「じゅんくん? どうしたの??」

 

「いや、なんでもないよ。さて、早速つぐの家でも行くか〜!」

 

 俺は、小憎たらしい顔をしてニヤついているであろうモカの顔を脳裏に浮かべながら、既に真っ暗になった帰り道をつぐと共に歩き出した。

 

 

 

 




ヨハネスさん、チョコテラスさん、高評価ありがとうございます!


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