進め!にゃんみく探偵団! (君下俊樹)
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ロリコンの謎を追え!!

調子に乗って特殊タグを使い過ぎるとこうなるという皆様の反面教師になれたらいいなと思います。
※注意事項※
オリジナルPオリジナル設定マシマシのギャグ小説です。
今回は鷺沢文香中心の三人称視点でお送りいたします。
ちひろさんは天使のようなお方です。
以上三点をご理解頂ける方はお進みください。
-追記-
自分で設定資料として名簿を作ったところ、早坂と福山の間に姫川が入ったため該当箇所修正。


 

「ねぇ、Pチャンってさ。ロリコンなんじゃないかにゃ」

 

 はあ。不意をつかれた一言にため息とも呆れとも疑問とも取れない微妙な声が漏れ出た。当の少女は、特に何とも思っていないようでスマホをぺらぺらと流し見ながら続けた。

 

「だってほら、みくたちは『前川さん』とか『鷺沢さん』とか、苗字にさん付けで呼ぶじゃにゃい?」

「…………はあ、確かにそうですね」

 

 手にしていた文庫本に栞を挟んでテーブルに置き、本格的に話を聞く姿勢をとる。その対面に座る少女も、横向きに寝転がっていたのを改めてソファの上にちんまりと膝を抱えていた。ご丁寧にも足下の靴をきちんと揃えて。

 

「ケドさ、舞チャンだけ『舞』だよ?」

 

 福山舞。二人の後輩に当たる彼女は確か今年で10歳。普段は佐々木千枝、的場梨沙、龍崎薫達の年少組と共に仕事をしていることが多いイメージがあった。確かにPとも20以上は離れていて、十分幼女と呼べる年齢だ。

 そして普段の光景を思い返せば確かに、彼は彼女のことを『舞』と呼び捨てにしていた。

 

「……ですが、Pさんは既婚者ですよね? それならば舞ちゃんを性愛の対象として見ているわけではないんじゃないでしょうか」

 

 それはちがうにゃ!

 

 いきりたち、ダンとテーブルを叩いた少女に少し驚いて、その身を跳ねさせた。驚いてしまったことに対する気恥ずかしさから、小さく身をよじり直ぐに姿勢を正した。

 

「Pチャンが今、休暇を貰って旅行に行ってるのは知ってるにゃ?」

「ええ、確か今日まで────」

「そう、そこ! そこでこのうちのアイドル全員分のスケジュール表!」

 

 ビシィ、と力強く指差さされたホワイトボード。

 それには、所属アイドルの名前のクリップと1週間先までのスケジュールがかなり細かく書かれている。安部、イヴ、一ノ瀬と始まり少し飛んでみればクラリスと佐久間に挟まれた鷺沢や、姫川と共に福山を挟む前川の名前もあった。そして、少女の指差す福山のスケジュール欄を見てみると。

 

「休暇…………ですね。ちょうど、Pさんの休みと重なってます」

「でしょー!?」

「………………??????????????????????????????????????????」

「文香チャンがガチで分からない時の顔久しぶりに見たにゃ……」

 

 

 

 

 

 

「つまり、前川さんはPさんが舞ちゃんと一緒に何処かへ行くために休日を合わせたんじゃないか、と?」

「そう!」

「…………ですが、新田さんやクラリスさんもそこの三日間はお休みですし、失踪分も合わせれば志希ちゃんさんもお休みですよね?」

 

 志希ちゃんさん…………? 謎のあだ名センスにか、首を傾げながらも少女はやれやれと言った風にはふーとわざとらしくため息を吐いた。少しイラっとするのは何故だろうか。

 

「美波チャンは前日からお休みだし、クラリスさんは自動車の教習所、さらに言えば失踪は休暇じゃないにゃ。やっぱりPチャンは────」

「Pさんのお話ですかぁ?」

「マ゜ーッ!?!?!!?」

 

 にょきり、と少女の後ろから赤いリボンが生えてきた。

 奇声の後から横から飛び出さんとする喉を裂くような悲鳴を何とか圧し殺し、少女はバクバクと煩い心臓に手を当てて振り向く。

 

「ま、まゆチャン……もしかして、聴いてたり?」

「はい、まゆですけど。今来たばかりですよぉ?」

 

 のほほんぱよえーんと効果音がつきそうなほどに平和な笑顔を見せる少女。優しく見えるが実際優しい。しかし少しばかり男女観念が旧式ザクでジムノットカスタム。生真面目な性格なのだ。

先ほど少女が言ったようにPが浮気をしている、それも20は離れた子供と。なんてことを聞いたら彼女のハイライトさんはたちどころにお亡くなりになってしまうだろう。その数十分後にはPとも今生の別れを済ませる羽目になることは想像に難くなかった。

 

「そ、そっか。なら良かったにゃ……」

「Pさんも、舞さんも今日帰ってくるんですよねぇ?」

「へ?」

「────たしか、兵庫のご実家に行ってるんでしたよねぇ」

 

 ぴぃっ、と少女が小さく鳴いた。

 Pは夫婦共に関西の出身だったはず。数年前までは向こうのTV局で働いていたが、ちひろさんからのお誘いを受けて東京に事務所を新設し、ちひろさん、P、そして初めてのアイドルである菜々さん、それにPの奥様に手伝ってもらい、3人+1人で始めたこの事務所ももう立派に成長したものだ、と懐古趣味のおじさんの様な声音でそんな話をお酒の席──無論、自身はオレンジジュースで乾杯した──で聞いた覚えがあった。

 それでもPの実家が兵庫にあるなんて聞いた事はなかったし、今回の休暇で実家に帰るだなんて事も聞いていなかった。

 彼女らでさえ知らない情報を、この少女が知っている。それが意味するのは何であろうか。つまりサイキックですね!

 

 急に部屋の温度が幾らか下がり、ずももと暗黒のオーラが優しかった少女を包む。

 

「お土産は何でしょうかねぇ。楽しみです♪」

 

 …………なんて事はなく。少女はうきうきとした表情でPの帰りを楽しみにしているようだった。拍子抜けしたように少女と目を見合わせて何度が瞳を瞬かせる。

 

「ちょ、一回タイム! まゆチャン目瞑って!」

「は、はい? いいですけど」

 

 落ち着くために少女は一度タイムアウトを貰い、意味も分からぬ状態でも言われた通り目を塞ぐ少女に一瞬ほっこりしつつ、ちょいちょいと手招きされるまま少女に近寄る。耳を貸してと言われたので少女に耳を近づけた。

 

「まゆチャンの言う通りなら、Pチャンと舞チャンはPチャンの実家に行ってるわけなんだよね?」

「…………ええ、そういうことになるのでしょうね」

 

 ぽしょぽしょ、とこそばゆい感じを我慢して少女の小さな声に耳をすませる。目を瞑ってもらっても、会話しかしないのであれば筒抜けなのではとも思ったが、少女は興奮気味だ、小さなものでも刺激はしない方が良さそうだった。

 それにしてもPの実家である。少女と、二人で? 何をしに? 両親への挨拶。最悪の言葉が脳裏をよぎる。肝が冷え、それに伴った脂汗がジワリと浮かんだ。

 

「それをまゆチャンは知ってるんだよね、もちろん」

「まあ、こうしてまゆさん自身が言っているわけですし……間違いないでしょう」

「つまりどういうことにゃ?」

 

 どういうことなのだろう。首を捻り、全く分からないですのオーラを放つが、悲しいことに少女からも全く同じオーラが返ってくるだけだった。

 ちらと様子を伺えば律儀に両手を使って目を覆う少女の姿。この少女もまた、Pに恋慕を寄せていた。彼が少女と出会った頃には既婚者であったが故に、間接的にフラれて成長したのだろう。今では大人しく優しい、少しポンコツな少女である。だが、その彼自身が幼い少女に手を出したなんて事を少女が知ったのなら…………誠氏ね大変なことになるだろう。

 しかしその様子はない。今の彼女はどこからどう見ても大人しくて可愛くて少々抜けたところもあるが優しく重ねて可愛く可憐な少女である。

 

「みくちゃん、まだですかぁ?」

 

 重ねて言うが少々抜けたところもあるのだ。そこもまた可愛いとネットでは評判なのである。

 

「…………推測ですが、あの年頃の児童が性愛の対象になり得る事を知らない、とか」

「…………ありそうだにゃ、それ」

 

 ロリータは文学作品として目を通してはいる。趣味趣向としてあり得る事は分かっているが、そんな自身でさえロリコン、なる人物は容疑者を含めても1人しか知らないのである。ならば彼女がそんな嗜好自体を知らなくても何ら不思議ではない……と思う。

 幼女は対象に取れない。そう思っていてもおかしくはない。

 トリシュ「来ちゃった♡」

 

「ともかく、まゆチャンには言わない方がいいにゃ?」

「そうですね、我々だけで解決できるならそうすべきです。さすがに曰く付きの事務所で働く気はありませんから」

「う、うん、そだね。まゆチャン。お待たせしたにゃ」

「はぁい」

 

 ふぅ、と3人の呼吸が揃った。

 

「ところで────」

 

 

「まゆに、何を言わない方がいいんですかぁ────?」

 

 

 

「もしかして────」

 

 

 

 

「なにか、疚しいことが────」

 

 

 

 

 

「あ る ん で す か ぁ ────?」

 

「ギニャァァァーッ!!??」

 

 ネコキャラからネコミミを奪うという暴挙にでた少女。普段の温和な性格からは想像も出来ない残虐な行為に無意識に頭のアレを守るようにして震える。いや、自分(読書家キャラ)が守るべきは本じゃないかと思い直してテーブルの本を胸元に抱えた。

 くるり、と少女であったナニカが此方を見た。それだけで空気が凍りついたような寒気が体を包み、身震いする。

 

「えいっ♡」

「…………あっ」

 

 普通に頭のアレを取られてしまった。一生に何十回以上はあるくらいの小さな不覚であった。

 

「…………まゆには教えられないんですか?」

 

 奪った頭のアレとネコミミを自分で身に着け、しょんぼりと凹む少女。ネコミミの持ち主は未だネコミミリアリティーショックから立ち直れずにいる。この場をなんとかしなければいけないのは自分であると気付いた。気付いてしまった。

 

「…………え、えっと、その」

 

 カツン、カツン、と事務所入口の階段から音がした。これぞ正しく救世主の登場であるかと、期待を持って扉の奥の薄ぼんやりとした影を見つめる。背は低くはない、体格は細身、少なくとも大人ではあるだろう。そして髪型は────

 

「ただいま戻りました、お土産買って来ましたよー!」

「おはようございます!」

 

 考えうる限りの最悪。少し長めのスポーツ刈りメガネ男子だった。さらに厄介なことに、両手に有名洋菓子ブランドの紙袋を提げたそいつは、お供に小学生を連れていた。

 飛んでいきそうになる意識を抑えて、なんとか現世に留まることには成功した。むしろ飛んでいった方がマシだったかもしれない。

 

「Pさん、おかえりなさい」

「おっ、なんです今日は前川にゃんの代わりに佐久間にゃんですか。可愛いの二つも着けちゃって」

「えへへ」

 

 まさかの当事者のご登場とはこの本のフミカの目を持ってしても見抜けなかった。旧ネコミミ少女は何かアヤシイお薬が切れたかのような挙動をしていらっしゃるし、どうすれば良いのか見当もつかず適当にゆさゆさとトリップしているネコを起こす。ふっと当事者がこちらに視線を向けた。

 

「そちらが被害者の会ですか」

「…………はぁ、そうですね。そう言えるかも、しれません」

「ハッ、ここはどこにゃ!? みくは誰にゃ!?」

「答え出てますよ」

 

 キャラが崩れていないあたり狸だったなと軽く睨むがひょいと躱される。あっこの野郎。心の中で大凡そんな感じのもう少し丁寧な悪態をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時である。

 

「あ、舞。電話取ってくれ。母さんに着いたって連絡入れなきゃ」

「あ、うん! ()()()()()だね、ちょっと待って」

 

 ふ、と二人の時間が止まった。これはマズい。しかし余りにも突然のことだ。少女の耳を塞ぐことも、Pの口を塞ぐこともできず、不幸にもその文章を耳にしてしまう。全てきっちりと。無駄に良い滑舌のせいで聞き違いも期待はできない。恐る恐る、少女の様子を伺う。

 

「「…………あれ?」」

 

 佐久間まゆにゃん、ニッコニコであった。

 それはもうニコニコである。微笑ましいものを見るような、愛おしいものを見るような。オフショットとして高値がつきそうな。

 

 まるで、()()()()()()を眺めるかのような。

 

「…………あの、非常に申し上げづらいのですが」

「…………うん、みくも文香チャンと同じこと考えてると思う」

 

 

 

 

 

「すっごい恥ずかしい勘違いしてませんかこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ、ふふ。Pさん、お二人には言ってなかったんですかぁ?」

「福山舞は芸名なんです、本名は都築舞ですよ」

「まあウチのの旧姓なんですけど。まあ、うん、娘です。そうね、言ってませんでしたね。ごめんなさい!」

 

 ペコリと頭を下げるP。静かに笑う少女たち。返事も出来ずぽかん、と大口を開ける二人。注ぐ言葉があるわけもなく思考も吹っ飛ぶ。

 娘。Daughter。つまりそれは一等親の直系であり云々。

 

 

 

「それで、様子がおかしかったんですねぇ」

「それにしても、僕が舞とですか? ははは、随分年の差がありますね」

「それにゃ! 元はと言えばPチャンが舞チャンだけ下の名前で呼び捨てにするから紛らわしい話になったのにゃ!」

 

 ほう、と息を吐く。

 重い空気など何処へやら。にゃんにゃんと騒がしさが帰って来た。五人でテーブルを囲み、ちひろさんの入れたお茶を飲む。無事、この事務所にもありふれた日常が戻って来たのであった。

 すごいぞ! 我らのにゃんみく探偵団! 行け行け! 我らのにゃんみく探偵団!

これ以上文字数が増えると片手間には読み辛いから巻きでお願いしますとかいうカンペなどないのである!

 

 

 

 

 

 

 

 

-おまけ-

 

「や、そんな事を言われましてもね。逆に聞きますけど前川さんは自分の子供を苗字で、しかもさん付けで呼べるんですか?」

「え、呼べるわけないでしょ」

「ほらー」

「にゃああ゛あ゛!!! そっちに合わせなくてもいいじゃん! ほら、プリーズコールミーみく!!!」

「まゆ」

「え、ええ……?」

「まゆ」

「み・く!!!」

「まゆ」

「…………わ、私も、文香で────」

「まゆ」

「いや、あのですね」

「まゆ」

「ダメですっ! お父さんをこまらせないでくださいっ!」

「まゆ」

「ふふん、お父さんを取られるのが怖いのかにゃー?」

「まゆ」

「そんなことないですっ!」

「まゆ」

「いや、ちょっと」

「まゆ」

「「Pチャン/お父さんは黙ってて(ください)!!!」」

「まゆ」

「どうしろってんですか…………?」

「まゆ」

「佐久間さん怖いです」

「まゆ」

「…………まゆ」

「はい、まゆですよぉ♪」

「「ぐぬぬぬ………!」」

「…………ああもう! みく! 舞! 喧嘩おわりっ! ほら、文香もまゆも。ちひろさんも二人を止めてくださいよ!」

「私は読び捨てにしてくれないんですか?」

「えっ、いやちひろさんはちひろさんっていうか…………」

「……スタミナドリンクのお買い上げですね♪ ありがとうございます!」

「なんで!?」

 




何?娘ならばセーフではないのか!?

雑なのは生まれつきなんです……ユルシテ……(小声)


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フランスからの刺客!宮本フレデリカの巻

調子に乗って流行りのネタを使いすぎるとこうなるという、皆様の反面教師になれたらいいなと思います。
※注意事項※
この話は現在鷺沢文香さんが長野で長期のロケをしているので喜多見柚視点にてお送りします。
宮本フレデリカは可愛い。
宮本フレデリカの登場シーンが少ないけどそれでも可愛いので初投稿です。
以上三点をご理解頂ける方はお進み下さい。


 

 

 

「ふん、ふん、ふふん、ふふふんふんふー♪」

 

 ターゲットを目視した。ふふ、こちらに気がついてすらいない。馬鹿な奴だ。これから貴様を待ち受けるのは地獄も生温いほどの恐怖だというのに…………!

 …………なに? 無駄口はいいから黙って追えって? ちぇっ、わかってますよー。

 

「ふるふるぅ〜、ふーん……あんたが私のとぅてぃってーんっ♪ フフ-ン!! \フンフンフフフ-/ ↑↓ミヤモト↑↓ フ-ンフ-ンフ- フフフ フンフフ- フフフフフン♪」

 

 しかしなんだあの鼻歌は。聞いているだけで不安になってくるぞ。どうやって発音してるのか全くわからん。

 え? ああ、ターゲットは特売の豚バラ肉を上機嫌で振り回している。オーバー。

 

「〜〜〜♪〜〜〜〜♪」

 

 ────いきなり口笛にシフトしただとぅ!?

 …………く、くくく、奴め、どうやらこちらの動揺を誘う気らしい。大きく盛り上がる直前で謎の鼻歌を口笛によるマスピに変えやがった。クソっ! ダラララララ(アッフゥフン!)、カモカテペテー(ニラノカオ-リガスル-)、ダラッダッダラッ(メンタ-イコ-)の続きはなんなんだ! めっちゃ気になる! なんで一度オーケストラの指揮者みたいな動きをしたんだ!? 完全にサビに入る時の動きだったじゃないか!

 …………はっ、いかん、奴の思惑に乗せられてはダメだ。落ち着け、落ち着け、平常心だ…………。ふぅー、はぁーっ────よし。

 

 

 

 あっ、ごめん見失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんて」

「さすがに許されざるにゃ!?」

 

 アタシ、喜多見柚はフリーの探偵…………あ、うそうそ。こんなんでもアイドルやってます、いぇいいぇい。

 

「いやね、あれは卑怯だと思うわけよ」

「遊んでたからじゃないかにゃ」

「それとこれとは別、それとこれとは別」

 

 先日、前川みくちゃんとPサンからの依頼により、標的の追跡をしていたわけなんだケド。これがアイドルの仕事なのかどうかはこの際置いておいて。

 見るものといえばデスクと観葉植物くらいしかないような簡素な事務所の一角、ガラステーブルを囲むソファに座りつつ、輪っかになって作戦会議の真っ最中なのだった。

 残り少ないりんごジュースをズゴズゴと吸い上げ依頼主たる二人と向き合う。お行儀悪いですよとちひろさんに叱られつつ、成果の発表。まあ、行動範囲が少しわかっただけでそれ以外はスカなんですけどもネ!

 

「対象の追跡は失敗だねぇ。てかさ、本当にあの子スカウトするの? 関節あるのか怪しい動きしてたよ?」

「ぶっちゃけ可愛ければ関節とか材質とかどうでも良いと思います」

「思ってたより重症だったにゃ!?」

「アタシも流石に無機物はちょっとねぇ……」

「合成樹脂姉貴はセーフですかね?」

 

 有機物でもモノホンはアウトじゃないかな。アタシポリエチレンドロイドも裸になったらただのマネキンだと思うのだ。元は石油。うん、アウトで。

 

「…………んー、と。たしか、読モなんだっけ」

 

 ガサゴソ、とソファーすぐ後ろのラックから最新のファッション雑誌からいくつかめぼしいものをペラペラとめくってみる。

 前前前世から思っていたが、アタシの感性がついて行けていないのか世界の感性が遅れてるのか、そこら辺は分からないが、一体ダサ可愛いって何なのだろうか。ダサいの何が可愛いんだろう? 可愛いとダサいは両立するのか?

 そんなことを考えている間に発見。だぼっとしたハイウエストマムジーンズに白いシャツ。ピンクの縁の眼鏡を少しズラしてアクセントにウインク一つ。他のモデルも中々ハイレベルな雑誌だが、確かに彼女は一歩抜きん出てると思う。

 そして何より────

 

「「────めっちゃ楽しそうだよね(ですよね)」」

 

 意見が一致し、Pサンとハイタッチを交わす。

 改めてそのページを見直す。とっても綺麗な笑顔でポーズをキメる彼女。暗い色の壁をバックにしているためか、対比で金髪が映える。ガイアにもっと輝けと囁かれちゃったのならしょうがないので、煽り文を適当に流し見てコーデのお値段を確認する。未だに洋服に1万円もかけれないアタシには少し重いかなってトコ。ちょっとため息。

 

「まあ、たしかにすんごく可愛いけどさ、他のモデルさんとかスカウトしちゃって問題にならないのかにゃ?」

「……ウン。カワイイ……ヤバイコレ……ハァ」

「まぁた語彙力先輩が溶けてらっしゃる」

 

 まあ、そこらへんはゴールドマスターちひろさんにどうにかしてもらいましょ。それよりも、このカワイイbotと化したPサンをどうにかして現実世界に戻さなくては。フォロワーが数万人近くいる公式ツイで余計なこと言われでもしたら、恥ずかしいのはアタシ達だし。

 まゆすきと1.7回/sで呟いていた時は流石のまゆさんも照れながら笑いつつ恥ずかしそうに泣いていた。ぽこぽことまゆすきマシーンを優しく叩く姿には非常に癒されたが。そのせいで未だに事務所のPCで『ま』と打つと予測変換のトップは『まゆすき』だ。どげんかせんといかん。ちなみにその次は『マ?』である。

 気を取り直してぺちぺちと軽くビンタ。

 

「アッ! コッ→コ↓コ←コ↑コ⇔コ↘︎コ↙︎コ↖︎コ↗︎ヤッベエ!……カワッ……ウァ-カワイイ……」

 

 ダメか、斯くなる上は。

 

「ぐさぁーっ!」

「完全な刺突音から頭に打撃のような痛みが!?」

 

 これもいわゆる一つのジャジャン拳である。

 なんにせよ、無事にPサンを現実世界に戻すことができたと言えよう。当の本人は何が起きたか把握しきれずに辺りを見回している。どんだけ没頭して居たのだろうか。若干ゃキモい。

 

「まあ、前川さん────みくの、心配も最もですし。どうしたものでしょうかねぇ」

「愛と平和とロックとメタルとフォーゼでなんとかするしかなくない?」

 

 聞いてたんかい、と心の中でツッコミつつ。

 なんとかすると言っても具体的には超融合的な何かでGOIN’‼︎にぐらいしかないような気もする。一枚捨てる手札はみくちゃんのネコミミでいいだろう。シルバードが一番好きなのだ。

 

「愛と平和とメタルはいるけどロックとフォーゼってにゃにさ」

「そら自分を曲げないお方よ」

「うっさい」

 

 はっはっは、どすこいどすこい。じゃれるなじゃれるな。爪長いよみくちゃん、切って。

 

 

 

 

「さて、ここで唐突ですが、宮本フレデリカさんのスカウトプランなどにフィーチャリングしたディスカッションをスタートしたいと思います」

「腰低い系意識高い系男子だと……?」

 

 本当に唐突に始まったのはそんな感じの会議。誘ってはいたもののちひろさんは業務が忙しいようで、何枚かの書類を抱えて資料室へと向かったそうな。

 

「何か意見のある柚は手を挙げてくれ」

 

 ところでちひろさんは汗水垂らして働いてるわけだがコイツは仕事しなくていいのだろうか。そしてみくちゃんを無視してやるな。可哀想みがあって可愛いが、それはみくちゃんの領分ではないと思うんだ。

 さておき、意見と言われましても。仕方なく手を挙げてみる。指される。

 

「やっぱギリギリまで体力を削ってねむらせるのが手っ取り早いでしょ。万全を期すならみねうち持ちとか、かげふみ、ありじごくじゃない?」

「デジモンじゃない -10点

 ありふみ要素がある +100万点

 オルガが死んだ -ナハノウボキ

 総評:現実的に考えよう」

 

 うるさい現実見て仕事しとけや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は9時を通り越した。宵闇が幅をきかせ、良い子はもう寝て、ねないこだれだと幽霊が悪い子を探す時間である。我々の様な良いアイドルもそろそろ帰宅の時間であり、普段ならプロデューサーが社用車で送ってくれる手筈になっている。

 

「遅い」

「遅いにゃ」

「アタシもー、お腹すいたーん」

 

 社内に残されているのはどういうわけかアタシこと喜多見柚、前川みく、撮影帰りの塩見周子、そして業務に追われる千川ちひろの4人だけ。プロデューサーは一足先に年少組を自宅、もしくは女子寮に送り届けてもう帰ってもいい時刻。

 退屈に身をよじらせてスマホをいじっているとピロピロと事務所の電話が鳴る。数秒もせずにちひろさんが出て、いくつか会話をしたと思ったら急にキレた。

 

「今からですか!? 何言って────は!? 何時だと思ってるんですかこのお馬鹿! ご自分でなさってください!」

 

 ガチャン! そこそこ乱暴に受話器を叩きつけてため息を吐いた。

 

「…………どしたんちひろさーん。なんか手伝う?」

 

 おお、行った。周子ちゃん勇気あるなぁ。しかし、ちひろさんは怒った顔を収めて、いつものスマイルで書類を片付け始めた。それについて行った周子ちゃんとちひろさんはパーテーションの向こうで一言二言会話を交わし、戻ってきた。詳しくは聞こえなかったが、周子ちゃんはクスクスと笑ってちひろさんはムスッとしている。Pサン関連で面白いことでもあったのかな?

 

「さっ、帰りましょう。柚ちゃん、みくちゃん。帰りの準備、して下さいね」

「……あ、もう出来てまーす、ケド」

「で、でもPチャンもいないし車もないにゃ?」

「私の車で帰ります。もうプロデューサーさんなんて知りませんから」

 

 ツーン、とそっぽを向くちひろさん。ちひろさんがここまでとは、こりゃ相当だなぁと。今までの事例からして、ガチギレ案件は志希ちゃんの失踪について行って4日間姿を眩ませたときと、裏の駐車場でユッキと野球してガラスを割った時ぐらい。

 そして今回のような呆れ半分の中ギレはクリスマスプレゼントに貰ったとか言って家なし服なし金なし身分証明書もなしと無い無い尽くしのイヴさんを拾ってきた時と、お年玉を貰ったと何処かからよしのんを拾ってきた時。今回もまた、カープのCS出場祝いに貰ったとか行って美波さんみたいな人を拾ってきたのだろうか。

 まあそれも明日になれば正座させられたPサンの口から聞けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちハロー! 宮本フレデリカでーっす!」

「少し早いですが、バレンタインにいただきました」

 

 想像通りすぎてなんの感情も湧かなかった。

 翌日の事務所にて、スーツで硬い床に正座しているPサンにぐしゃぁーっ! と寄りかかってダブルピースをキメているのは、先日話題に上がったばっかりの宮本フレデリカさん。フランスと日本のハーフだとか。

 

「いやぁ、昨日事務所へ戻る途中、一人で歩いていまして、夜道を一人は危ないだろうと思い声をかけたら何故かトントンと話が進んでアイドルをやってくれることになりました」

 

 1ミリも理解できない……。やはり私ごときがPサンに勝てると思ったのが間違いだったか。

 ちひろさんは未だにぷんぷんと怒りを撒き散らしている。書類をまとめる手は止まらないままだが。

 

「モデルの事務所はどうしたの?」

「やめた!」

「どこから通ってるの?」

「新宿だよー。デザイナーズマンションって言うの? スッゴい変な形してるとこ!」

「フレデリカ……フレちゃんって呼んでいい?」

「フレちゃんもフレちゃんのことフレちゃんって呼ぶから大丈夫だよー」

 

 そんな感じで質問責めにされるフレちゃんとそれに巻き込まれるPサンを見ながら、隣に座るみくちゃんと目を合わせた。アイスを加えてちひろさんと話し込む周子ちゃんとも目が合い、互いに軽く笑った。

 

 ここでフリージアを流せば綺麗に終わるんじゃないかなとか、適当なことを考えながらやはり愛と平和とロックとメタルとフォーゼが最強だったのだ、と独りごちる。みくちゃんにそれは違うよと突っ込まれるが。それはそれ。このテキトー加減が私の生き様なのだと、この時代に叩きつけてやる。

 

 

 晴れ渡る秋空も、言っていた。そろそろ〆といたほうがいいよ、と。

 




続ける予定はありませんでしたがスカチケをフレちゃんに叩きつけた記念に書きました。
遊戯王ネタは好きです。一人合作ネタも好きです。キャベツは許さんけど好きです。昨日のうちに投稿できればタイトルは宮本フレデリカ浅利七海説にするつもりでした。
この話を一行でまとめる。

『宮本フレデリカ が なかまになった!』

以上です。


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風もない凪のように穏やかな

胸とか言うなよ。

キャラ崩壊あるのでご注意。ギャグ時空だから仕方ないねと思えない方にはお勧めいたしません。

荒木先生とクズかれぴとゲスPのお話を考えていたら遅れました。
モンハンワールド楽しいですね(正直)。


 前川みくは優しい。

 

 前川みくは生来世話好きな気質であり、捨て猫を一度は通り過ぎても、後々罪悪感で居ても立っても居られずにその場所へ戻り、拾われていたことに多少の後悔と安堵を覚えては、その代わりに事務所で全員の世話を焼こうとするような優しい、それはもう優しい一般市民である。

 

 前川みくは多少のイタズラにも目を瞑り、少しばかりのヤンチャも笑って済まし、理不尽にファンが減っても戒めとして己を奮起させることの出来る、優しく強い少女である。

 

 

「お前を殺す」

 デデン!

 

 前川みくは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐のPを除かなければならぬと決意した。

 念のためもう一度言っておくが前川みくは優しい少女である。彼女のフィギュアを徐ろにひっくり返して白か……と呟いたところで、顔を真っ赤にしながら『それは流石にやめてほしいんだケド!?』っつって目をグルグルさせながらベシベシはたきはすれども本気で怒りはしないくらいには優しあああああああ可愛いいいい────失礼しました。熱盛と出てしまいました。

 

「許さにゃい……次にPチャンと会うのは法廷だにゃ!」

「……どうしたのですか? みくちゃんさんが、ここまで怒るなんて」

 

 ふと、事務所の隅で本をパラパラとめくっていた鷺沢文香は顔を上げてわいのわいのと騒がしい彼らに視線を向けた。集中できないというわけではなかったが、単に何度も読んで結末どころか何ページ何行目と言われても大体は思い出せる本より、そちらの方が興味があっただけの話だった。

 

「ああ、さ……文香。君からも、みくを説得してくれませんか」

「何があったのか教えて貰えませんと、私からは何も……」

 

 フシャー、と喉を鳴らして威嚇するみく。どうにか宥めようとソファーを陣取る猫に手を伸ばしても神速の猫パンチにはたき落とされる始末。

 これはダメだというわけでPは距離を取ることにしたが、その間も恨みがましい視線がチクチクと、文香を通り越してPに突き刺さっていた。

 

「次回のお仕事なんですが、あの五十嵐さんのアシスタントなんです。それも公録」

「はぁ」

 

 世情に疎い文香でもあの五十嵐と聞けばそれが五十嵐響子を指すのだとわかった。

 どこぞの週刊誌で息子の嫁に欲しいアイドルランキングNo.1なんて称号を勝ち(?)取り、料理の写真をツイートすれば軽く5万のリツイートがツイッター上に溢れかえるような良妻系アイドル、それが五十嵐響子。なお、15歳である。

 

「当初はハンバーグとか、その辺になる予定だったんですよ。けど、前々からのリクエストとか旬の食材の関係で、知ってか知らずかお魚ハンバーグになっちゃって」

「……ああ、それであのように」

 

 ぶっすー、と頬を膨らませていかにも私不機嫌だにゃと態度で主張する魚嫌いなネコミミ。睨みを利かせていた先ほどまでとは違い、彼らを見ようともしないのは今の自分がただの八つ当たりイキリネコミミであると自覚しているからかもしれない。

 そんな折、キキィ、と扉が開かれてちょこんと少女が顔を覗かせた。

 

「こんにちはー……あら、どうしたんですか? みなさん、固まって」

「あ、藍子さん、おはようございます」

 

 それは、紛れもなくヤツである。高森藍子。この事務所における下世話な話、稼ぎ頭のうちの1人であった。ほんわかとしたゆるふわオーラが魅力的な癒し系アイドルである。

 しかしその癒しのオーラを振り撒く藍子を見てあっやべーヤツが来たと、みくは自身の死を悟った。死んだ目を泳がせてなるべく顔を合わせないようにした。それは一瞬の出来事であったが同時に文香も顔を逸らして自然な動きで一歩下がった。

 

「あっ、もう。またですよ。藍子で良いって何度も言わせんなや言ってるじゃないですか」

「ん、今何か……」

「気のせいですよ」

 

 気のせいなら仕方ないですね。とPはほんわかと微笑む藍子に釣られて破顔する。それがまた気にくわないのか、みくはPの膝を蹴りつけて、ソファーの背もたれに顔を埋めた。

 

「みくちゃん、どうかしたんですか? やっぱりお魚食べないからカルシウム足りてないんですか?」

「ちゃんと毎日牛乳飲んでますゥー!」

 

 にゃ。と取ってつけたかのように小さく続けたのはご愛嬌である。かくかくしかじかダイハツムーヴと先程文香に説明したように藍子にもみくの不機嫌の理由を説明する。

 

「なるほど、それで」

「ええ。藍子、ぜひ君にも説得に協力して欲しいのですが」

「では、こうしましょう」

 

 ポン、と藍子は手を打った。みくは不審げに文香は不安そうに、彼女を見て両手でバツの印を作る。しかし、一縷の望みに賭けてPはそれを気にせず続きを促す。次回、『前川死す!』ジュエルスタンバイ!

 

「無理矢理にでも魚を食べさせて、慣れさせるんです」

「発想がアレルギーの子を殺す大人のそれ」

 

 スパルタにも程があるにゃと抗議し、なんとか勝訴をもぎ取ることに成功。ではどうするかと四人の知恵を振り絞るが、あまりいい案は出て来なかった。舌を焼いて味を分からなくさせるとか、水で流し込むとか、

 

「舌をこんにゃくで包んで守るとか……」

「文香ゾ口リ読んでたんですね」

「普通のハンバーグを別に用意して貰えばいいのでは?」

「藍子チャンがまともな意見を出した……だと……にゃ」

 

 ある程度は言葉を選んだみく。

 だがそれが逆に(?)藍子の逆鱗に触れた!

 ガッチリとコブラツイストを極められて悲鳴をあげるみくを戦力外とし、気持ち新たに3人で意見を出し合う。

 

「やっぱりダミーを用意してもらうといっても、響子さんもプロの料理人ではありませんから違う材料から全く同じ見た目にするなんて難しいでしょう」

「……今の時代、ネットの影響も大きいですから、安易な考えでは動けません」

 

 藍子や文香の言う通り、料理番組でダミーを食べたなんて事があれば双方のイメージダウンも免れない。今のネット社会が発展した世の中では、今後の人生にも大きく関わって来るだろう。

 

「敢えてこちらから魚嫌いを公表して、《○○嫌いでも食べられる!!》────みたいなのはどうです?」

 

 のんのん、と地底の奥底から声が聞こえる。猫キャラとしてイメージは大切らしいが、えり好みできる立場か、と突っ込んでやればぐぬぬぬぬ……にゃ、と地獄より怨嗟の声が響いた。

 

「こうなったらアレしかないですね……」

「アレ、とは……」

「魚料理が嫌いなら、嫌いじゃない魚料理を作ればいいんです」

 

 ほう、と3人の目が光った気がした。その拍子にゴキリ、と人体からしてはいけない音が響いたような気もした。気がするだけだ。地に伏せる猫などいない。

 

 

 

 

 

「どうも! 今週もやってまいりました、《(ハート)五十嵐響子の女子ごはん(ハート)》! はい、パーソナリティ兼、コックさんの五十嵐響子です」

 

 パチパチと割れんばかりの拍手が巻き起こり、照れたように響子は笑み(難波でない)を浮かべた。そうしていつものように和やかに生放送はスタートした。

 Pはといえば、スタジオの隅の方でそのハートは本当に読むものなのか……? えってか結構露出エグくねスカートアレでいいのほらえっうわヤバいあのエプロンめっちゃスケべじゃんと真剣な顔をしてそこまで重要じゃない考え事を巡らせる。

 

「本日も、素敵なゲストをお呼びしております。どうぞー!」

 

「はーい! みなさんお待ちかね、ネコチャンアイドル、前川みくだよ! よろしくニャン☆ ほらいっしょにー……ニャン☆」

 

『ニャン!!!!!!』

 

 野太く雄々しいちょっとキレ気味な大合唱がスタジオに響いた。もっと可愛くやって、と前川さんからのお触れを頂戴したため、2take目は可愛く野太く雄々しくかわいい益荒男のようなにゃんコールが響いた。Pももちろん参加している。

 ちょっとだけ動揺したものの響子はすぐに持ち直して進行を務めた。

 

「は、はぁい! そんなわけで、今日は大人気ネコミミアイドルの前川みくさんに来ていただきました───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────トーク部分の収録は恙無く進行し、年頃の女子2人が仲良く談笑をするだけの見ていて微笑ましいような懐かしいような光景があった。

 が、収録が調理場面に移ったところで、早速大きな山場を迎えた。猫プリントのエプロンを装備し、肘の辺りまで長袖をまくり、白魚のように細やかな指先を丹念に洗うみく。その表情は──素人目には分からない程度に──暗く、ぎこちなかった。

 キュッ、と水道を止める。どうやら観念したようだとPも固唾を呑んで見守る。

 

「……さ、さぁて! それじゃあみくはタネを作ろうかにゃぁ」

 

 そして、みくはその手で生姜の汁に浸かった鰯を摘んだ。水ですすぎ、三枚におろし、フードプロセッサーにガガガとかける。その手付き自体は手馴れたもので、オーディエンスにもなんら違和感を与えるようなことはないだろう。

 

 ガガガ

 

 ガガガガ

 

 

 ガガガガガ(春過ぎて)

 

 

 ガガガガガガガ(夏来にけらし)

 

 

 ガガガガガ(以下省略)

 

 

 にゃんみく心の俳句。

 それにしても長くね? とPが疑問に思うのも当然だ。それほどまでにみくは鰯を丹念に丹念にフードプロセッサーにかける。

 カメラは響子の手元を追っているし、観客もまたそちらや画面に映る響子の手元を見ているのでまだ怪しまれてはいないだろう。しかし、みくはまるで親の仇かのように魚をすり潰しまくる。

 

 ふぅ、とみくが清々しい顔で息をついた頃には彼らはペーストどころかもはやこれはゲルじゃないかと思うくらいにすり潰されていた。

 しかしそこはさすがの前川さんと言ったところか、こなれた手つきで上手く繋ぎ合わせて見事に成形していった。

 

「────響子チャン、できたケド。そっちどうかにゃ?」

「あ、ありがとー。じゃあ、メインディッシュに取り掛かりましょう!」

 

 オーブンレンジの方で作業をしていた響子がそう言うと、カメラが少しフェードアウトして二人を映す。Pはここら辺で一旦切れるのな、と思いながら笑顔を見せるみくを心配そうに見つめる。

 そんな心配をよそに、二人はストローの付いたペットボトルで水分を補給して少し息を吐く。のんびりと二言三言の会話を行いながらも調理器具や、皿に水を張る手は止まっていない。

 

 

 

 ここらで、ネタばらしと行こう。彼女が公録までにしてきた特訓とはすなわち、苦手意識の改善。一言で言ってしまえばそれに尽きる。

 

 意外にも女子力の高いP、あまり料理はしないものの人並みにはできる文香、鬼殺しの藍子、当然のように女子力天元突破なP嫁による出来る限り魚々しさを抑えた料理を食べることで『もしかして魚って大したことないのでは?(池沼)』と思わせる作戦である。

 それが功を奏し、上手いこと洗脳いい感じに魚料理を食べられるようになったみく。刺身とかThe・魚みたいなのはまだまだ食べられる気がしないにゃとは本人の弁である。

 

 

 

 そうして挑んだ今回の収録。あと数分もすれば『お魚煮込みハンバーグ』も完成である。女子ご飯らしいヘルシーなサラダを器に盛り付けてあとはご飯が炊き上がるのを待つだけというところ。

 お腹が空いたな、とPはもう夕飯気分。帰ったらとりあえずビール、これもまた人の性なんだなぁと哲学者気取りが思考をそらしていると響子の明るい声が聞こえてきた。完成だ。

 

 

 

「「いただきまーす!」」

 

 未成年に優しい麦茶で乾杯すると、お行儀よく箸でスイスイと食べ進める響子。対面のみくは未だ、一口目をご飯の上にバウンドさせている最中である。それを見た響子の純粋な?マークがみくに直撃する。覚悟を決めて口に運んだ。

 

「……………あー────」

 

 フルフルと震える肉が、薄桃色の境界を越えて、口の中に滑り込む。

 パクリ、と口に入れてしまえばもぐもぐごくん、それだけである。

 

「……! おいしい!」

 

 スタジオの中でしゃがみ込み、安堵に一息ついた。パクパクとみくはサラダもごはんも食べ進め、最終的に響子の料理番組はヘルシーとは、アイドルとはなんぞやと視聴者に問いかける教育TVと化した。無論、大成功である。

 

 なお、みくの一口目が妙にエロいと密かに話題になったとかならないとか。プロダクションの公式アカウントがそう呟いたとか呟いてないとか。ちひろさんに怒られ当該ツイートは削除されたとかされてないとか。

 

 

 

 

 

 

 前川みくは優しい。

 

「やはりあの時生かしておいたのが間違いだったにゃ」

 デデドン!(絶対特権)

 

 そうでもない。

 

「……今度はどうなさったんですか?」

 

 少し呆れ気味に問いかける文香。ちょっと雑になっているのは否めないもののそれでも気を遣って話を逸らしてあげるあたり文香の方が優しいまであるかもしれない。

 

「ああ、文香。ちょうど良かったです、君もみくを説得してくれませんか」

「今度は鯖ですか?」

「違うにゃ! 流石に今回はみく悪くないもん!」

 

 バッと突きつけられたのは企画書の紙束。1ページ目、大きく縁取られたそのタイトルは────。

 

「────『前川みくV.S.焼き鮭』…………?」

 

 パッと反射的にPを振り返る。いくら、特訓をしたとてV.S.焼き魚なんてそんな“魚ァーッ!”って感じの企画書にPが許可を出すわけがない、そう思っていた。文香は信じられないようなものを見る目でPの瞳を見つめる。

 

「…………いや、うん、いけるかなーって」

 

 今度はPが目を逸らした。




探偵団のメンバーはガチャで決めました。
草案が『前川みくV.S.焼き鮭』です。お弁当交換によって自然死に見せかけてみくを鮭殺する智絵里のお話でした。自分で書いてて流石に意味がわからなかったのでちょっと書いて消しました。


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