ありふれてない魔物で最強を目指してみよう (春夏秋)
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プロローグ的な
駄文の可能性がありますが、よろしくお願いします。
─────視界が暗い。明らかに暗黒とわかる中、急激に小さくなっていく光。無意識に手を伸ばせば、帰ってくるのは虚空のみ。とてつもない絶望感と落下感に背筋を凍らせながら、時雨 ハクヤは焦燥を顔に浮かべながら、無情に消える光を凝視する。
ハクヤは現在、奈落を降下中である。目に映るのは地上の光。だが、危機感のせいか色褪せて見える。何度もこうならないようにと願っていたのに、そのためにも工夫をしたはずなのに。
後悔の中、自然と脳はその軌跡を辿ろうとしていた。
日本人であった自分が、とある人物に南雲 ハジメを助けてくれと頼まれこのトータスに転移し、それを容易に受け入れてしまった自分の怠惰への嘆きと、現在進行形で味わっている不幸に至るまでの経歴を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
月曜日、それは一週間で最も憂鬱な始まりの日。きっと、いや、ほぼ全員がその地獄の始まりを嘆き、天国のような前日を思い浮かべるだろう。
それは、時雨 ハクヤも例外ではない。ゲームと遊びに包まれた天国が訪れるのは、今から約100時間後である。但し、ハクヤの場合は学校の人間関係が面倒であるという意味の、地獄でもある。
ハクヤはチャイムの十分前に登校し、徹夜でも部活で引き締められた体に気合を入れ、意気揚々と教室の扉を開けた。
ガラガラと扉を開ければ、周囲から挨拶が飛び交う。女子生徒数名からも挨拶をいただき、ハクヤもそれを返した。少なくとも、今現在ハクヤに敵意を向ける者はいない。無関心等々いるが、それでも過半数が好意的といえよう。
しかし、そんな中でも一つ、他とは違った反応をする女子生徒がいる。その人物はこちらに気づくとパァッと顔を明るくし、ハクヤの元へ小走りで近づいてきた。
「おはようハクヤ。ごめんね? きょう一緒に登校できなくて」
「いいよ雫。日直なら仕方がないって」
手を顔の前で合わせ、ウィンクしながら謝る女子生徒。その人物こそ、ハクヤが心を許せる数少ない人物であり、彼女である人物。
名を八重樫雫という。学校で二大女神の一角と言われ、男女問わず熱烈な人気を誇るとてつもない美少女だ。最近は恋をして、さらに美しくなった半面、アイドルが結婚したような寂しさを感じる、なんて声も聞こえる。
ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の瞳は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。
百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった身体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。ハクヤも幼い頃よりその道場に通っており、実力は雫以上だ。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で『お姉様』と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。もっとも、その場にハクヤがいた場合、よく盾にされるのだが。
ハクヤと雫が付き合っている、というのは、もはや周知の事実である。幼い頃より一緒に剣術を学んでいた二人が惹かれ合うのにそれほど時間はいらなかった。ハクヤは今現在剣術をやめてしまったが、二人合わせて剣神、なんて呼ばれることもあるのでそれなりに有名だろう。
そんな雫に対しハクヤが頭を撫でれば、くすぐったそうに身をよじらせ、雫は頬を赤らめた。
「もうっ、学校では恥ずかしいからやらないでって言ったでしょ?」
「ごめんごめん。雫がかわいくてつい……ね?」
「……ま、まあ? そういうことなら? 許してあげなくもないけど?」
上目づかいで雫が見つめ、教室を甘い雰囲気が包み、先ほどまで友好的だった生徒たちが般若のような表情を浮かべる。
だが、二人の視界にそれは映らない。見えているのは目の前だけ! とでもいうかのように見つめ合っており、非常にリア充感あふれる状況だ。これが漫画なら、ピンク色の光に包まれていたことだろう。
「相変わらず、二人はラブラブだね!」
だが、そんな雰囲気の中に突っ込んでいく生徒がいた。
名を白崎香織という。雫と並び二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。
いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。
唐突に言葉を掛けられ、雫はハッ! とした表情で、ハクヤから少し距離を取ると、詩織に対して言い訳をし始めた。
「ち、違うのよ詩織! これはその、あの、えっと」
「土日にあまり会えなかったから、俺寂しかったんだよぉ?」
「~~~~~」
そういいながら、ハクヤは雫を後ろから抱きしめる。瞬間、教室のほぼ全員が悪鬼羅刹に変わったが、それはスルーだ。
それを受けて雫はやはり頬を染めながら甘く呻くだけ。雫は普段クールに気取っているが、一度責められてしまえば弱いのを、ハクヤは今までの経験から知っている。
普通ならうざいと思われかねない光景だ。だが、幼馴染である香織やクラスメイトさえも、二人のいちゃつきっぷりは承知している。もはや、その感情を抱くのも無駄だ。むしろこれが普通? と思い始めているぐらいだろう。
香織はクスクスと笑い、二人を微笑ましそうにに見ている。この笑みこそ、香織が女神と称えられるゆえんなのだろう。実際その笑みを受け、教室内の空気が若干ほっこりしたような気がする。だが、悪鬼羅刹とほほ笑みで歯相殺できない。いまだ教室は般若だらけだ。
その雰囲気を遠目で見ていた二人の男子生徒が、こちらに寄ってきて話しかけてきた。
「まったく、二人のいちゃつきは困ったもんだな。そう思うだろ? 龍太郎」
「とりあえず、リア充は滅すればいいと思うぞ!」
まず最初にあいさつしてきたのが、天之河光輝という。
如何にも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。
サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。小学生の頃から八重樫道場に通う門下生で、雫と同じく全国クラスの猛者だ。幼少の頃は、よくハクヤと争った仲である。雫とハクヤとは幼馴染である。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる香織に気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。
ハクヤも、雫がいなかったら同じ言葉を吐いていた気がする。
後者の投げやりな言動の男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝とハクヤの親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かい事は気にしない脳筋タイプである。
龍太郎は努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、よくハクヤや光輝のことを好いている。光輝は努力と才能の塊だからいいとして、ハクヤは少々手を抜いているのに好かれているのは、親友補正だろうか。
「けど、羨ましいよ。あぁ、早く気付いてくれないものかなぁ?」
「ん? 誰がだ?」
「南ぐむぐぐ」
─────危なかった……
ハクヤと雫は、香織の口を押えながら内心焦る。
香織はとある男子生徒を好いているのだが、その生徒を光輝は、ひいては教室中の生徒は嫌っている。しかも、本人では気づいていないだろうが、光輝は明らかに香織が好きだ。そんな中香織が「南雲君が好き」なんて言ったら、それは確実に大変なことになる。いずれバレるだろうが、今はこのままがいいだろう。龍太郎は何が何だかわかっていないようで、不思議な顔をしながら周りをきょろきょろしている。
少し時間がたったころ、教室のドアが開かれ、噂の男子生徒が入ってきた。その瞬間、悪鬼羅刹だった生徒たちが血を求める悪魔のような表情になり、『テメエマジいい加減にしろよ!』という意志が見て取れる。おそらくハクヤと雫の件で悪くなった雰囲気が、さらに加速したのだろう。ハクヤは内心、ハジメに謝ったが、それが届くことはない。
南雲ハジメ。彼が香織の思い人であり、ハクヤの親友である人物だ。
容姿は説明するまでもなく、平均という言葉がすべてに当てはまるだろう。唯一つ違うとすれば、その表情が暗いのと、目の下のクマが酷いことぐらいだろう。
ハジメが教室に入った瞬間、数名の男子生徒が絡みにかかり、ゲラゲラと笑っている。ハジメははいわゆるいじめを受けており、その中心核が斎藤良樹、近藤礼一、中野信治、そして檜山大介である。ハクヤもいじめの存在に気づいてはいるが、心のどこかでハジメが悪いと思っている節があり、それを止めようとは思わななかった─────なにより、ハジメは今のままでないと、『化け物』にならないだろう。一言二言交わした後、ようやく香織ははハジメを認識したようで、一目散に走りだした。続いて、ハクヤと雫もその後を追う。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
「ハジメ、おはよう」
「南雲君、毎日大変ね」
「おはよう、ハクヤ。お、おはよう、八重樫さん、白崎さん」
その後、教室中から嫌みな視線をくらい、ハジメが顔を引きつらせる。
そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、何時ものようにハジメが夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。
そんなハジメを見て香織が微笑み、雫はある意味大物ねと苦笑いし、ハクヤは相変わらずだなと苦笑いし、男子達は舌打ちを、女子は軽蔑の視線を向けるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
キーンコーンカーンコーン
そんな無機質な音とともに、昼休憩の時間が訪れる。ハクヤは手を抜いているが、別に居眠りをしているわけではない。ただただ作業のようにノートに写し、テストを受ける。もっとも、その点数が高得点なのだから、できる所業なのだが。
ハクヤは授業で固まった筋肉を伸ばすように伸びをすると、前に人影が現れる。ところで、ハクヤやハジメの教室には購買組が多く、すぐさま飛び出して言ったようだ。だが、当然、ハクヤの昼食は
ゴトンッ
「ハクヤ、食べよう?」
雫手作りの弁当である。
高校に入ってから毎日、作ってきてくれる雫にハクヤは感謝をしっぱなしだ。できないことはないが、得意ということもない以上、とても嬉しい。恋人が作ってきてくれる弁当は、なんと美味なことか! と、内心感激しっぱなしである。
ちなみに、昼休みでハクヤに憤怒を向ける生徒はいない。なぜならば、憤怒を向けて来る生徒のほとんどが購買組だからだ。ハクヤのクラスは弁当組が多いので3分の2程度は残っているものの、さすがにこの時間ぐらいはやめておこうという……気遣い? なのだろうか。
「うん、いつも有り難う。雫」
「んっ!」
ハクヤが立ち上がり、雫の頭を撫でながら感謝を表す。
それに対し、雫の顔には笑顔が咲いた。どこの少女漫画? と言われそうな光景だが、現実となってはかたなしである。心なしか、周りの雰囲気も、やれやれと言った雰囲気に包まれている。
だが、ハジメは別だ。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。よかったら、一緒にどうかな?」
再び教室が暗い感情で包まれていく。
雫とともに横を見れば、笑顔を浮かべる香織と、苦笑いを浮かべるハジメの姿だった。もう本当に、ハジメは焦った様子で、その口からは「なんでわっちに構うんですか?」という言葉が少し出ていた。
それに対し、雫とハクヤは苦笑い。「またか」と。
ハクヤは2日前、ハジメが「ハジメ、二徹いっきまーす!」と言っていたのを思い出す。いつもなら教室を出ているはずなのだが、二徹はさすがにこたえたらしい。
ハジメは、抵抗を試みるが、さすがに10秒チャージをお昼と言い張るのは無理がある。
「南雲くんは相変わらずね」
「相変わらず、ゲーム馬鹿だな」
「ハクヤは頭いいよね」
「雫の可愛さほどじゃない」
「もうほんと、頼むから。頼むから爆散してくれ」
またいちゃつき始めるハクヤと雫を尻目に、いつの間にか背後にいた龍太郎がジト目で呻く。
そんな龍太郎を無理やり押しのけ、雫とハクヤはリア充を存分に発揮しながら食べ始める。
(ハジメも災難だな……早い所異世界召喚されれば、救われるだろうに……まっ、そうなるにはもう少し時間がいるか)
クラスの誰も知らぬ出来事を呟き、少し瞑目する。
それに対し「どうしたの?」と聞いて来る雫に「なんでもない」と微笑み─────凍りついた。
ハジメの目の前、ハクヤから少し離れたところ、光輝の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。自分の足元まで異常が迫って来たことに漸く硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
ハクヤはその光景を見ながら、自身の認識の甘さを後悔する。
知っていたはずなのに! 対策できたはずなのに! 今日じゃないなんて保証はどこにあった!
せめて───ハクヤは心の中で後悔しながら、驚きを浮かべる雫を抱きしめ、目を閉じる。
数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。
この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして、大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。
空の上で一人嗤う誰かがいても───別の話だ。
いかがでしたでしょう?
それでは、楽しみにしてくれる人を待って。
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異世界召喚の裏側
というわけで今回は、あまりオリジナル要素はありません。原作同様戦争に参加の意思表示、世界観説明となります。
────気がつけば、白い世界にいた。
上も下も、周囲の全ても、見渡す限りただひたすら白い空間で距離感がまるで掴めない。地面を踏む感触は確かに返ってくるのに、視線を向ければそこに地面があると認識することが困難になる。ともすれば、そのままどこまでも落ちていってしまいそうだ。今まで自分が体験してきたどの感覚と似ても似つかない状況だ。
「やあ、白夜くん、元気かな?」
唐突に声がかかる。
唖然としながら首を向ければ、そこには───光があった。光の玉という表現の方が近いだろう。それは、白すぎるこの空間においても、悠然と存在を提示している。同じ白のはずなのに、しっかりと視認できた。
────ああ、そうか。お前か
「そう、我だ────エヒトだよ」
エヒト、光の玉は不思議と言葉を発し、フレンドリーな口調で白夜に声を投げる。
白夜の口調も、しっかりと目の前の存在を認めているかのように、しっかりとしたものだ。
そう、白夜はエヒトと言う名の光の玉を知っている。忘れるはずもない。白夜は少しため息をつくと、やれやれとばかりにため息をついた。
────そうか、今日だったんだな。異世界召喚は。
「言ってなかったかな? けどそんなのは誤差だろ? たかが数年や数十年」
─────俺はお前の誤差の間に死ぬぞ……
相変わらず、この口調とテンションはなれない。まるで感情をぞわりと撫でられているようで、少し不快な気持ちになってくる。
なぜ、白夜はエヒトを知っているのか。なぜ、白夜は異世界召喚という単語を口にしたのか。それは、この一言で説明がつく。
『白夜は、異世界の神エヒトの使徒である』
つまり、そういうことだ。
数十年前、白夜はエヒトにあることを頼まれた。『今度異世界召喚するから、ちょっと君にも手伝ってくれと』。
その当時から異世界に興味のあった白夜は、簡単にエヒトの言葉を了承した。幼いこともあったのだろう。手伝いの具体的内容は、至ってシンプルで、
「高校生南雲ハジメと友人関係になり、青春を謳歌せよ───我はそう言ったね。見事に実行してくれたようで安心だよ」
───まあ約束通り異世界召喚してくれるならな。けど、友達になってみればいいやつだったぞ?
「我は嫌いだ」
エヒトは、明らかに不機嫌な感情を隠さずにそう告げる。
どうしてそこまで嫌っているのかは不明だが、大方クラスメイトがいじめる理由と変わらないだろう。神がそんな幼稚な理由で人間をいじめてもいいのかと思うが……
「さて、雑談はこれまでにして本題に入ろう」
エヒトはピシャと会話を遮り、声を重くして話し始めた。
「まず一つ、今までご苦労だった」
労いの言葉をかけられ、白夜は少しホッとする。
今までの経験からエヒトはキレやすいとわかっているので、少しでも癪に触ることがあればキレられているところだ。が、この反応を見る限り大丈夫そうである。
だが……
「本当にありがとう────まったく、予想以上さ。あいつのヘイトを代わりに集めてくれて、どうもありがとう」
───どういう、意味だ……!?
「簡単なことさ、我は君に頼みごとをした。南雲ハジメを助け、仲良くなり、化け物となるのを援助しろと。けど、我の目的は別のところにあった。君もクラスメイトからヘイトを集めることで、南雲ハジメの被害を少なくする。これが我の目的だ」
────なにを……
「実は我にも友達がいてね。そいつは未来予知がだぁいすき。それで見てもらったんだ。『南雲ハジメがエヒトを殺す』。そういう未来を。さらに、南雲ハジメが化け物となる所以、理由、根拠を。するとどうだろう、クラスメイトから攻撃を受けたのが化け物になった理由だそうじゃないか。南雲ハジメはいじめを受けていたという。そこで我は、なるべく簡単な方法で化け物を潰そうと考えた。すなわち、いじめの対象を多くし、南雲ハジメの強化を止める。君が女子生徒と付き合うことでヘイトを集め、攻撃されることを防ぐのさ。それが目的───おっと、そうキレるなよ」
────ふざけるなよ?
エヒトの驚きの感情がなぜか白夜に伝わってくる。対して、白夜は激しい怒りを覚えていた。
自分を踏みにじられたことも、最初から騙されていたことも、そんな理由で利用されていたことも、ハジメとも友情を踏みにじられたことも────そして一番、雫との関係を利用されたことが許せないッ!!
────ふざけ、るな。ふざけるなァァァ! 許さない。雫をバカにするんじゃねえぇぇ!
「何もあの女をバカにしているわけじゃないだろう? 怒りで冷静を失っているのか……無様だな───『エヒトの名を持って命ずる、跪け』」
その言葉がトリガーとなり、刹那、ハクヤの体が白い空間に沈んだ。
地面という概念が存在するかは謎だが、冷たくて平たい地面に押し付けられたような感覚である。エヒトは少し間を起きて、息をついた。光の玉なので定かではないが、吐息を吐くような音が聞こえたのである。
それには、終わりという感情が秘められているように聞こえた。
「ああ、そうそう。君が異世界に行った時、ここの記憶は消える。そして、君はまた無様に我に騙されるというわけだ。お笑いだなぁ────じゃ、お疲れ。愚か者くんぅ?」
エヒトは最後に、嫌味ったらしく、そう呟いたのだ。
───────────許さねえぞォォォっォッ! エヒトォォォォォォォォォッ!!!!! 後悔させてやるッ! 雫と俺の関係を踏みにじったこと、絶対に後悔させてやるぅぅぅぅぅぅッ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
────────景色が彩りを取り戻していく。
最後の瞬間まで目など閉じていなかったハクヤは、目の前が光を取り戻す光景に、思わずギュッと目を瞑る。数秒後、目が慣れたことを確認し、ゆっくりと目を開けた。同時に、情報を求めて視線を巡らせる。
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。しかし、どこか不思議と邪悪な気配がする。普通の人間なら、思わず目を逸らしているところだが……ハクヤは違った。
─────エヒト……か?
その壁画の中性的な人物、それは、ハクヤをこの世界に呼んだ人物のように見えた。|会ったのは一度きりで、しかも球体であった。そう、ハクヤはこうなることをあらかじめ知っていた。タイミングなどは分からないにせよ、『南雲ハジメとそのクライメイトと共に異世界召喚される』ことを、召喚した人物(?)エヒトから言われていたのである。
その事実を今一度整理し、さらに視線を巡らせる。
よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石作りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が掘られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。
ハクヤ達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りにはハクヤと同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。
当然その中には雫やハジメ、光輝などもしっかりいる。ハクヤは雫を視界に収めると、ほっと息をついた。いくら異世界召喚を事前に知っていたとはいえ、そしてその性質を聞かされていたとはいえ、イレギュラーなど起きたらたまったものではないが……どうやら、そういうことはないらしい。
そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。
そう、この広間にいるのはハクヤ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、ハクヤ達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。
彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。
その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。
そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハクヤ達に話しかけた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
さて────ここからは、エヒトからも聞かされていない未知の領域だ。果たして、ハクヤは自身の役割を、きちんと果たせるだろうか。
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現在、ハクヤ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達五人組(ハクヤも含む)が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメは最後方だ。
ちなみに、当然のようにハクヤと雫は隣同士である。みんながみんな、二人を隣にするかのような行動を見せていた。そんな行動を雫が察し、呆れと歓喜を浮かべ、ニンマリと笑みを浮かべていた。さらにそんな雫をハクヤは愛おしそうに見つめ、ガッツポーズをしていたのは別の話である。
ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせた事、ハクヤと雫がいつも通りのテンションでいた事が理由であるのかもしれない。
教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。あと、結婚についてもつぶやいていた。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!
こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……
ハクヤは側に来て飲み物を給仕してくれたメイドさんにお礼を言い、雫の頭を軽く撫でる。
凝視なんかしたら絶対零度以上の瞳で、いや、拳が飛んでくるかもしれない。そもそも、雫がいるというのになぜメイドを凝視する必要があるというのか。雫もハクヤがメイドさんを見ていないのを理解しているかのように、撫でをありのまま受け入れている。
全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なもの、そして、ハクヤがある程度予想できたものだった。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差を人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが、魔人族による魔物の使役だ。
今まで、人間族は数の優位で対抗していた。
だが、魔人族が魔物を指揮するとこにより、戦術、連携というものが生まれる。早い話、数という人間の優位が崩れたせいでピンチなのである。
「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
ハクヤが、主が嫌な奴ならそれを信仰するやつも嫌なやつかと心の中で悪態をついていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
愛子先生だ。
「ふざけないでください! 結局はこの子たちに戦争をさせようって事でしょう!? 許しませんよ、親御さんも心配しているはずです! 早く元の場所に返してください! あなたたちのやっていることは立派な誘拐ですっ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましく、その何時でも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられた生徒は少なくない。
愛ちゃんと愛称で呼ばれ親しまれているのだが、本人はそう呼ぶと直ぐに怒る。何でも威厳ある教師を目指しているのだとか。
今回も理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だったが、次のイシュタルの言葉に凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に乗りかかっているようだ。ハクヤ以外が何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。それに対して、ハクヤは当然冷静だ。この情報を事前に知らされていただけでなく、知らされたのは昨日今日の話ではない。心構えなど十分だし、これで動揺していたらどうなるのかたまったもんじゃない、というのが本音である。
誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。だが、ハクヤは、何となくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。
ふとそこで、ハジメの方へ眼を向ける。ハジメも同じく、慌ててはいるが、ほかの生徒よりも冷静だ。オタク故、このような状況の創作物などいくらでもあるのだろう。だからこそ、冷静でいられるのだ。
未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。
同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「まあ、光輝は一度言いだしたら止めないもんなぁ」
「ハクヤ……」
「気に食わないけど……それしかないわよね」
「雫……」
雫の言葉は若干震えており、ハクヤの手をぎゅっと握る。言葉は威勢のいいものだが、やはり内心怖いのだろう。雫だって女の子。こんな状況に直面して正常でいられるはずがない。
そんな状況で、いくらハクヤであっても瞬時に落ち付消せることは出来ない。ゆえに、ハクヤは握ってくる手を握り返し、再度頭を撫でながら「大丈夫だよ……」と、耳元でささやいておく。後ろから呆れたような雰囲気を感じるが、スルーだ。
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
いつもの五人組が光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。
ハクヤは、それと同時に、イシュタルを危険視することにした。クラス中が光輝たちを見ているせいで気づいていないが、イシュタルはこれを予想していたかのようで、満足そうに頷いている。イシュタルが事情説明をする間、それとなく光輝を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。正義感の強い光輝が人間族の悲劇を語られた時の反応は実に分かりやすかった。その後は、ことさら魔人族の冷酷非情さ、残酷さを強調するように話していた。おそらく、イシュタルは見抜いていたのだろう。この集団の中で誰が一番影響力を持っているのか。
だが……イシュタルを危険視しているのはハジメも同様のようだ。なので、いっその後と一に任せることにする。むしろ、雫を守ることを最優先にしたい。この子は、自ら先頭に立とうとするところがあるから。
─────せめて、精一杯守らないと
速く、戦闘させたい
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仮初のチート
規格外の潜在能力。そんなものを要していたとしても、元は平和主義国日本の単なる高校生である。魔物や魔族─────地球では考えられないような化け物と戦うのだから、このままでは無理というのは当たり前の話である。戦争に参加すると決意したのだから、そのための術や能力は必要不可欠だ。
しかし、その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
王国は聖教教会と親密な関係にあるらしく、創造神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国のバックに教会があるのだから、如何にその繋がりが強いかはっきり理解できるだろう。
ハクヤ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、凱旋門もかくやという荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかったのだ。雫の家が経営している道場での修行、その時間に山登りの訓練があった。なぜか足音を消すための訓練などもあったが……今となっては謎である。太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海と透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩れた。
そこで初めて、ハクヤは異世界に来たのだという実感がわく。日本では考えられないような自然、そして光景。どこか閉ざされた空間ではなく、まるで自由を象徴するかのように輝く世界を目にして、自分が望んだ世界に来られたのおだと、今一度実感したのだ。
ガコンッ
「っと」
「おっと、ハクヤ、ぼーっとしてどうしたの?」
どうやら感動に浸りすぎていたようで、自分の足場が等々に動き出した瞬間、思わずたたらを踏んでしまった。雫が心配そうに顔を覗き込んでくるので、「なんでもない」とハクヤは照れ臭そうに笑う。
まるでロープウェイのような足場だ。その足場が地上に向かって斜めに降りていく。どうやら、先ほどの詠唱で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る魔法に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎになっていて、少し煩かった。
やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、いや国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。
その後、王宮に着くと真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。
あまり居心地がいい気はしないが、まあ期待されているのだから邪険に扱うのもなんだろう。
美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。
そこからは唯の自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織や雫に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから地球の美少女の魅力は異世界でも通用するようである。
その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまに変な色彩の料理が出てきて、虹色に輝く液体なんてものあった。真っ黒い球体、あえて名前を付けるとすればダークマターを食し、ジャガイモの味だった時には何故だかとても悲しくなった。
ちなみに、雫がいそいそとハクヤ用のさらに食材を盛り、「あ~ん」をするという場面もあった。ハクヤも断る理由はないし、ちょっと恥ずかしい思いをしながらそれを食べる。瞬間、周りにいるメイドや執事、王宮の者などからわっと歓声が上がる、なんて場面があった。
それを見た香織がハジメに近づいて同じ行為をしようとしたが、ハジメはそそくさと逃げて、香織がガッカリしていた。
王宮では、ハジメ達の衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きのベッドなど、おとぎ話でしか聞いたことがないため、思わず驚いてしまったのはハクヤだけではないはずだ。いまいち落ち着かないが、まあ、これはこれはいいだろうと内心あきらめにも似た感情を宿す。
あとは寝るだけだが────────ハクヤには、まだやることがあった。その体を起こし、部屋を出ていく。
向かうのはとある二人の部屋。外出は許可されていないが、逆に許可されないこともないだろう。まあ、それでも注意されたら戻るしかないので、慎重に進んでいく。
たどり着いたのはハジメの部屋だ。
この世界にハクヤが来た理由はハジメが『化け物』になるのを手伝うためである。さすがに直接そのことを言ったりしないが、一応、様子が気になったので少し話そうと思ったのだが─────ドアをノックしても応答なし。どうやら寝ているようなので、もう一つの部屋へと向かう。
これはもはや説明は不要だろう。本当に、どこまで愛しているのかと疑問に思う程だ。だけど、そんな風に様子を見ないと安心できない。さすがに同部屋というわけにはいかないが、毎晩こうして様子を見る様にしよう。
ハクヤは雫の部屋に到着した。
余計お世話だと怒られるかもしれない、心配しすぎと笑われるかもしれない。ハクヤは心配だった。
ドアをノックする。
コンコン
「雫まだ起きてるか? ハクヤだけど、ちょっと中に入れてもらえるか?」
礼儀は大切なので、言葉も添えておく。
するとその瞬間、「え!? ハクヤ!? ち、ちょっと待ってて!」と、中からどんどんという大きな音が聞こえてきた。部屋の片づけを行っているか、それとも別の何かか。
もっとも、部屋が与えられて数時間も立たないうちに汚せる性格ではないので、別の理由があるのだと思うが……
数十秒後、ガチャリとドアが開かれ、そこには頬を染めた雫が立っていた。
「どうしたの? ハクヤ」
「いや、何……ちょっと心配になってな。雫のことを」
「……うん、ありがとう。とりあえず中に入って?」
にこっと笑みを浮かべ、ハクヤを部屋に招き入れる雫。
──────ぁ、気づいた。何故雫がドタバタしていたのか。それは、ハクヤと分かり、身だしなみを整えていたのだ。夜のせいかいまいちハッキリしないが、先ほどの食事の際とは少し違って、髪や服装がしっかり整えられている気がする。
「雫!」
「わっ! どうしたの!?」
思わず愛おしくなって雫を背後から抱きしめてしまった。雫が驚くが、構わず頭も撫でる。
満更でないのはいつも通りのこと、すぐに雫も見をゆだねてしまった。だけど、やっぱり反発するようで「もうっ」と言っている。
やはり雫も少し不安だったようで、その後の雑談は心に安らぎを与えた。
結局話過ぎてハクヤは寝不足になるのだが……本望であった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日から早速訓練と座学が始まった。
まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。
騎士団長が勇者たちにつきっきりでいいのか、とほぼ全員が思ったが、神の使徒である勇者たちを、実力も中途半端なそこら辺のやつに任せるわけにはいかならしい。
むしろ、「面倒な雑事を副長に押し付ける口実が出来て良かった!」と豪快に笑っていた。副長の苦労が目に浮かび、ハクヤは苦笑い。合唱。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ? プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 『ステータスオープン』と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクト。ハクヤやハジメのようにそういう話に耐性のある物ならば、それが異世界の便利アイテムだと察することが出来るだろう。
が、光輝たちはそうもいかないようで、聞きなれない言葉に質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰めながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハクヤも同様に、針を指先へ刺す。あ、深い。
===============================
時雨ハクヤ 17歳 男 レベル:1
天職:魔物使い
筋力:10
体力:5
耐性:10
敏捷:150
魔力:15
魔耐:20
技能:魔物服従[+魔装]・剣術・魔力感知・言語理解・
===============================
と、表示される。
このステータスがいいのか悪いのかは分からないが、少なくとも『剣術』という技能があったことが嬉しい。もう一つ言うとすれば、職業の魔物使いだ。読んで字の如くであれば『魔物を使役する職業』となるのだが……
メルド団長からステータスの説明がなされた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に『レベル』があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないようだ。
「次に『天職』ってのがあるだろう? それは言うなれば『才能』だ。末尾にある『技能』と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
ハクヤの天職魔物使いは、魔物使役というものに才能があるとみていいだろう。文字通り、魔物を従わせる技能のはずだ。
上位世界の人間だから、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていたこと。何らかの才能があると言われれば嬉しいものだが、どうせだったら剣士がよかったなと思う。
しかし、メルド団長の言葉で凍り付くことがある。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
この世界のレベル1の平均は10らしい。敏捷が飛び出ていることにも驚きだが、それ以上に驚きのことがある。
──────たたたたたたた体力ごぉぉぉぉぉぉ!?
平均の半分。つまりハクヤ二人で一般人一人分だという事。下手したら一撃で死ぬような紙耐久である。かといって耐性が高いわけではないし、見事に10だ。
メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……
============================
天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
==============================
ガチート、その言葉が似合いそうなステータスだった。
まさにチートの権化だった。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。
ハクヤが勝てるのは敏捷だけ。思えば、100メートル走で負けたことはなかったが……
ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が『派生技能』だ。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる『壁を越える』に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。
しかし、ハクヤには魔物使役の派生技能、『魔装』というものがある。これは言葉だけではわからない。というよりも、ハクヤは魔物を使役する経験などない。なのになぜ、派生技能が存在しているのだろうか……
光輝だけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。それにどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが……
「ハクヤ」
と、そこで背後から声がかかった。
振り返れば、同じくステータスプレートを持った雫の姿が。そのまま「ん」とステータスプレートを差し出し、ハクヤに見せてきた。
============================
八重樫雫 17歳 女 レベル:1
天職:剣士
筋力:65
体力:75
耐性:52
敏捷:100
魔力:50
魔耐:50
技能:剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・言語理解
==============================
こっちもこっちでチートだよ!?
そんな言葉が出そうなステータスである。先ほど「技能は二、三」と言われたばかりだというのに、雫の技能は言語理解を除いても五つある。その上、天職:剣士だ。ハクヤが剣士でなかったのは残念だが、それでも剣術が被っているので良しとしよう。
同じくハクヤもステータスを見せると、「5!? でも大丈夫。いざとなったら私が守るわ!」と、気合を入れていた。頭をこれでもかというほど撫でた。可愛かった。
その後、すぐにハジメの番になった。どうやらステータスがよくなかったのかびくびくしているようで、恐る恐るといった感じでステータスを提示した。
===============================
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
===============================
今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。
その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。
檜山大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
檜山が、実にウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの生徒達――特に男子はニヤニヤと嗤っている。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
「南雲君! 元気だしt」
「趣味悪いな、お前ら」
すかさず、ハクヤが前に出てハジメを守る。
メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞く檜山。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人もはやし立てる。強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ。事実、香織や雫などは不快げに眉を顰めている。
だが、ハクヤはそれでは収まらない。ハジメを近くで見てきたのであるから、当然いいところを知っていれば、ステータスが低い如きで貶すような性格でもない。
ハクヤの言葉に檜山は「あぁ?」と不機嫌そうに振り返る。
「だったらお前はどうだっていうんだよ!? どうせ高いんだろ?」
ステータスプレートをプレートを取られ……というか、取らせた。
檜山は最初、「どうせ……」なんて表情をしていたが、確認を終えるころにはハジメを見ている時と同じ目になった。
「なんだよ、体力:5って! お前も南雲と同じで雑魚じゃねえか!」
ぎゃははは! と、何が面白いのか嘲笑う檜山たち。そして、斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。
「むしろ南雲よりザコか! その辺の子供にも殺されるんじゃねえの!? ぶはははは~」
「二人とも雑魚な事には変わらねえって! どうせ俺らより……弱いんだからぁ! ぎゃははは!」
「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツら! 肉壁にもならねぇよ! むしろ……本当に人間? ははははは!」
次々と笑いだす檜山たちに、ほかの生徒はドン引きだ。だが、これはハクヤがいる効果だろう。ハクヤが居なければ、ハジメはほぼ全員から笑われていたはず。まあ、だからと言ってハクヤは天狗になる気はない。むしろはじめへのいじめの抑止力になるのなら笑われた方がましだ。
そして、ステータスプレートは周りに回ってメルド団長の所へ。
彼はハクヤのステータスを見るなり、喜んだり、落ち込んだり、百面相を見せた。
「こいつぁ……珍しい天職を引いたな。魔物使い、現代じゃあんまり見ねえぞ? その名の通り心を通わせた、服従させた魔物を使役できる。所謂召喚術とかにも精通するかもな」
どうやら、かなり珍しい職業らしい。団長の話では、今この世界で確認されている魔物使いの数はおよそ三人だという。ハクヤで四人目だ。しかも一人を除いてどの国にも属していないらしい。そのため、この国でも魔物使いはいないという。
しかも、従わせる魔物の強さによって本人の強さも変化すると言っても過言ではないほど、魔物頼りの職業らしい。そのため、珍しいが強いかと言われると……微妙だそうだ。
「まあ、お前は敏捷が特に高い。『当たらなければどうという事はない』の精神でがんばれ!」
「なんで団長そのネタ知っているんですか……」
豪快に笑いつつ、ハクヤにステータスプレートを返してくれた。
が、ハクヤとしては何とも言えない気分である。悔しいが、団長の言う通り敏捷を生かす戦術の方がよさそうだ。強い魔物を使役できれば話は別だが、それも今では敵わないだろう。
視界の横で愛子先生があわあわしているのが見える。どうやら先ほどから口を挟もうとしているのに、ハクヤに遮られて出るタイミングを無くしたらしい。
「おい……檜山」
「あ? なんだよ時雨」
「そんなにバカにするんだったらよ……勝負しねえか? これから、俺とお前で」
檜山に近づき、突飛にそんな提案をする。
さすがに頭に来たのもあるが、ハジメとハクヤが一緒に貶されているのは逆にチャンスだ。ここでハクヤが檜山を下せば、ステータス=実力ではないことを証明できる。
単純なもので、檜山は「俺が負けるはずがない!」と、高いステータスを手に入れたせいかハクヤに勝った気になっているようで、その挑発を容易に受けた。
雫が一瞬「なっ!?」と前に出そうになるが、ハジメが雫を止める。
普段なら男子が「なに触ってんだこら!」となる所だが、状況が状況だけにそれは眼に入っていない様子。ハクヤの方を見て香織はニコニコ笑い、光輝は溜息をつき、龍太郎は「リア充は死ね!」と関係ないことを言っている。とりあえず、後で拳骨を入れておこう。
メルド団長やその他クラスメイトはすっかりお祭り騒ぎだ。
ハクヤと檜山が対決すると聞いて盛り上がっているらしい。傍迷惑ではあるが、今はそれぐらいの方がやりやすいというもの。
メルド団長が豪快に笑って「戦闘訓練? おもしろいな!」と許してくれたので、案内をされながら訓練場に向かう。
───────さあ、どこまで俺に耐えられるかな。
負ける気はない。いわば檜山は『強い武器を手に入れただけで強くなった気でいる子供』だ。実際今回強くなって入るが、ハクヤには戦闘経験がある。負けることはないと祈ろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
場所は変わって、戦闘場。
ハクヤと檜山はそれぞれ武器を構え、対峙していた。ほかの生徒たちや兵士などは端で待機している。念のため、メルド団長だけは剣を構えていた。
ハクヤが選んだ武器は普通に剣。刀や木刀とは使い勝手が違うので、なるべく形状の近いものを選んだ。一本だ。盾などの使用も認められてはいるが、ハクヤは基本的に使わない方針で行くことに決めた。
対して、檜山が選んだのは槍と盾だ。彼の天職は軽戦士。その名の通り軽装で戦う戦士だ。槍は良いとして、重そうな盾を使う分、天職を潰しているとしか思えないが……
もちろんであるが、どっちも木製である。
両者が構えたのをメルド団長が見届けると、頷いて、
「両者、よぉぉぉぉーい……始ぇ!」
と生き良いよく宣言した。
タンッ
「おらぁ!」
最初に動いたのは檜山だ────というより、ハクヤが先に行動させるよう、誘導した。八重樫道場にて、雫のお父さんから特別に教わっていた剣術。雫の父によれば、「ちょっと創作物で面白そうな感じだったから再現してみました!」だ、そうで。
相手の視線や自分の小刻みな動きを巧みに利用し、相手を先に動かせる技だ。見事に引っかかってくれたようで、ハクヤにとっては気持ちがいい。もっとも、それを相手が知らないとなると笑えて来るのだが……
しかし、盾を構えているせいか遅い。いや、ステータスも相まって遅くはないのだが、それでも今までたかってきた剣士の動きとは比べ物にならないほどだ。もっとも、何もかも初心者なのだから所がないと言えばしょうがないが……
やがて近づいてくると、檜山はでたらめに槍を突き刺そうとしてくる。
ハクヤはそれを肉眼で捉え、剣で槍のけら首(槍の刀身と棒部分の中間)を剣で強く打つ。
「ぐあッ!」
其れだけで檜山は情けなく声を出し、体勢を崩しそうになる。が、踏みとどまって体勢を立て直すと、もう一度突っ込んできた。
学習しないのか何なのかは分からないが、先ほどと同じ動きだ。他のクラスメイトの様子を観察する暇さえある。雫の方を見れば「あれはだめだ」とばかりに頭を抱え、輝光の方を見れば「戦いをバカにしているのか!?」とばかりになぜか怒鳴っている。
ハクヤは視線を檜山に戻すと、次で決めることにした。この戦い……蹂躙は何も生まない。唯の時間の浪費だ。
檜山が再度槍を突き出すのに合わせ、ハクヤは少し横に移動する。同時に、雫のお父さんから教わった技を放った。
「『八重樫流:腕落とし』」
檜山の両腕の小手を一瞬で狙い、叩く。同時に檜山は腕の力を抜き、槍と盾を落としてしまった。無様に転がる。
ハクヤは檜山に木刀を突きつけると、
「俺の勝ちだ」
「ちっ……くそ野郎がァッ……!」
勝ちを宣言した。
この時のハクヤはまだ知らない。この時の勝利が、檜山の負けが、後の後悔につながるなんて……
龍太郎……完全ギャグ化……
今回は檜山と戦わせたり、八重樫流に勝手に追加したり、あとは内心檜山との戦闘をもう少しうまくできなかったのかなと、びくびくしたりしました。戦闘部分とハクヤのステータスは変更する可能性があるかもしれません。
其れでは次回で。
※タイトルを少し変更いたします。見切り発車なもので、魔物使いをレア化することにいたします。前の方がいい! という場合は、結構ルートを考えているのでコメントいただければ((
※死んではおりません。ただ少し忙しいので書けていない状況です。やめる際は自ら言います。おおう……ありふれたがアニメ化に伴い枠に追加されている……(十二月二十八日)。生きてます。
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