最古の作家と呼ばれる者 (John_Doe)
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プロローグまたは状況開始

調子に乗って連載版にしてみる。


 目を覚ませば、見たことが無い天井だった。

それは土の固まった天井である。

ごく一般的な部屋で眠っていたはずであるし、何年も暮らした部屋なのだから天井を見間違えるなんて、幻覚でも見ない限りは有り得ない。

凡そ近代的ではない天井、慌てて体を起こし、周囲を確認しようとしてみれば、嫌に視界が低く、隣には見たこともない人が寝息を立てていた。

知らない誰かを直感的に母だと悟る。意味不明な事態に陥り混乱する思考の中で、何故か冷静である自分も存在し、すぐさま落ち着くことができた。

自身の手のひらを見やれば、凡そ5歳相当の大きさであった。

そんな幼い彼に私は憑依してしまったのだろう。そんな考えがストンと心に落ち着いた。

それと共に彼が今まで過ごした記憶も私は知りうることができるようであり、隣で眠る母や住処の人間たちとの関係がこじれることはないだろう。

そして重要なのは、この世界には魔術があるらしい。

憑依してしまった名も無き彼も少しだけ魔術を使えるようである。

ロマンを感じる。

研鑽を重ねなくてはならないだろう。

それから私の日々の暮らしが始まった。

小さい私の仕事は木の実の採取と家事の手伝いだけだ。それが終われば暇となる。

魔術の研鑽をしつつ、この世界には娯楽らしい娯楽が無いことに気づく。

何となく、憑依前の世界で知り得た物語を本にしてしまおうと考えた。

本にした内容、例えばそれは

『王になるべくして育てられた慢心する者と土くれで創られた人ならざる者の話』

『王を選定する剣を抜いてしまった誰かと、それに仕える騎士達が滅びへ向かって歩み始める話』

『土くれで出来た管を造り、配し、直すことを生業とした男が、巨大な亀の化け物に攫われた姫を助け出す話』

『いくつもの世界線の中で、名に宿命を背負わされた男と名に呪われた美しい姫を救う話』

『魔術のことなど知らなかった1人の人間が、作られた者や逸話を持った者たちと共に世界の未来を救う為の話』

等、要するにギルガメッシュ叙情詩やアーサー王物語といった昔話やマ○オやゼ○ダの伝説といったゲームの話を本にしていった。

様々な物語をあやふやで、ふわっとした感じで書き綴り本にしていった。

本を綴る間にも魔術の研鑽を重ね、外敵から住処を守る為に罠を仕掛けるようになった。

罠にかかった獣は魔術への耐性が高いので、腕で抱えられる程度の岩を脳天に落として物理的に殺し、大人たちに捌いてもらい、皆で分け合って食べていく。

肉を得られるようになったことにより、皆の体つきが変わっていく。

そして今まで裸であったが、皮を得られるようになったので、簡素な胸巻き、腰巻を作った。

余った皮を石投げ皮にしてみる。

うまく投げられなかったので、今度は遠心力を用いた鈍器にしてみる。

いい塩梅なので、今までは罠にかかった獣だけを食していたが、狩りをすることにしてみた。

日課に増えた狩りなのだが、なかなか上手くいかなかった。

やはりリーチが足りないのである。

どうにかしようと思い立ち、魔術で大木を切り倒し、加工して丸太の槍を作った。

この世界の人たちは肉を食べていなかったのに力強かった。

強化の魔術で肉体を強化しているのもあったのだが。

作った丸太の槍を振り回し、獲物を奢る。丸太の槍を使い始めてから狩りの成功率は格段に上がった。

この頃から魔術的な罠以外にも、物理的な罠を張るようにして住処をより強固なものとした。

住処で一番の男となり、嫁をもらうことになった。

住処で一番年の近い娘、こんな世界だけれども可愛い娘だった。

そんな嫁と子を生し、育て上げる。

書いた本を読み聞かせ、魔術を教え、狩りをし、罠を張り、日々を過ごしていく。

変わらない日常となった今を精一杯生きていた中で、妻が先に逝ってしまった。

この世界の寿命は短く、20半ばくらいで死んでいく。

しかし私はそれ以上に生きている。だが、老いをとめることは出来ず、狩りができなくなっていき、罠を張ることすら困難になった。

住処では一番の長老となってしまった私は最期まで物語を書き続けた。

そして私は死を迎える。名も無い彼に憑依してしまって過ごしてきた第二の人生の終わり、それが迫ってきていた。

様々な変革をもたらしてはきたものの、本を書くような物好きは私だけであり、逸話として何かが残ることは無いだろう。

憑依する前以上にスリルがあり、時間があったこの人生、沢山の事を経験できたと思う。

名も無い彼に憑依して凡そ30年、それは楽しいものだった。

名も無い彼の人生を奪ってしまったのかもしれないけれど、この人生は本当に楽しかったのだ。

それが終わる、終わってしまう……私は一体どこへ逝くのだろう。

天へ昇るか、はたまた憑依する前に戻って最初の人生を続けられるのかもしれない。

よくわからない気持ちのまま、住処の仲間たちに囲まれ私は逝った。その頬には一筋、涙が零れていた。

 

 

 そして私は再び目を覚ます。大地は燃え盛り、建物が倒壊している。

予測を遥かに上回る光景に失笑を禁じえないところである。

世紀末的な様相を呈した外界に私は立っている。

視界は高く、憑依した名も無き彼であった頃の全盛期に戻ったかのようにすら感じる……そして刻み込まれた様々な知識があった。

 

「何なのよ、漸く召喚した英霊が……丸太と本を持った野蛮人みたいな格好だなんて……そんな英霊なんて知らない! 何で、どうしてこんな!」

 

 ヒステリックな叫び声がした、そちらを見やれば銀髪の少女が発狂し、橙色の髪の少女が薄紫色の髪の少女と共に宥めていた。

この光景には見覚えがある……どうやら憑依したであろう名も無き彼は『FGO世界の過去の地球』の住人だったらしい。

異世界じゃなかったのか……と残念に思うものの、文章と絵で見知った世界であることに大なり小なり興奮する。

そして私はお決まりの言葉を口にする。

 

「サーヴァント預言者(キャスター)呼応により……」

 

 違和感を得る。魔術師(キャスター)のクラスを宣言しているはずなのに、私のクラスは預言者(キャスター)である。

キャスターであることは間違いないのだがこの違和感はなんなのだろうか。

途切れた言葉をさらに繋ぐ。

 

「……馳せ参じた。橙色の髪をしたお嬢さん、君が私のマスターだね。私はしがない物書きさ、真名は無……」

 

 無い、無いと言おうとしたのだが、私には無いはずの真名が()()と感じてしまった。

聖杯も意地の悪いことをするものだ。

 

「何度も言葉が途切れてしまってすまない。不測の事態に陥ってしまってな。私はボン、ただのボンだ。マスターよろしく頼む」

 

 その真名の由来を私は直感した。

それは私の手に持った本に彫られたサインであった。

そのサインは凡の字をただ横にして、ラインを歪めただけのものである。

自らを戒めるためにつけたその凡の字は、私が綴った全ての本にサインしてある。

そのサインを見る度に、自身が凡人であるということを思い出すためにも、そのサインを刻み続けたのだ。

それを聖杯は私の真名として認めてしまったのであろう。

本当に聖杯は意地が悪い。

ネーミングセンスの欠片もない。

 

「そんな真名の英霊なんて知らないわ! 折角の聖晶石が水の泡よ! どうしてくれるの!」

 

 推定藤丸立香(マスター)の返答よりも先に、推定オルガマリーが喚く。周囲を見てみれば、少し離れた位置にスケルトンが確認できた。

 

「状況を鑑みるに戦力が欲しかったのであろう。何、私の持つこの槍は伊達ではない。獲物の1匹や2匹、この槍でもって屠ってくれよう」

 

そしてまだ距離があるものの、こちらに迫ってきていたスケルトンに右脇に抱えていた丸太の槍を投擲して粉砕し、魔術を用いて手元に戻す。

 

「安心してくれ給え、これでも生前は住処で一番強い男だったのだ。この丸太の槍で日々の狩りをしていた。我流ではあるが戦いの心得はあるさ」

 

 丸太の槍を投げるだけではなく、スケルトンに駆け寄り振るう。

時には手足を使った近接格闘でスケルトン共を砕いて回った。

凡そキャスターらしい戦い方ではない為、3人はどこか唖然としているようであった。

 

「先ほども言ったが、私はあくまで模倣作家でありキャスターの枠に収まっている。この程度の雑魚ならば何とかなるが、これ以上の力を持った者を相手にするのは少しばかり骨が折れそうだ」

 

 言葉と共に左手に持った私の宝具であろう本を見せながら、スケルトン殲滅の締めとする。

するとマシュがサインに気がついたようである。

 

「先輩、ボンさんは若しかすると最古の作家と呼ばれる方かもしれません。確かあの本のサインは、彼の英雄王ギルガメッシュが編集及び編纂した数々の物語に著者不明としながらもつけられているサインと一致しています」

 

 驚愕の事実が明らかになる。

私はどうにも彼の英雄王誕生以前に生まれた人間に憑依してしまったようである。

挙句、英雄王が私の模倣した物語を編集して、ご丁寧に私の作品であるサインまで記してくれるだなんて。

ああ、だからか、だから私なんぞが英霊として座に登録されてしまったのか。

ただの凡人であり、ただの模倣者である、この私が。

 

「さて、周囲の安全も確保出来たところだ、君たちの名前を教えてくれないか」

 

 これから始まるは、人理救済の物語、たった一人の少女が沢山の仲間たちと共に戦い、救う物語である。

書き綴ろう、今度は模倣ではなく、実話を。

フィクションだったはずの物語が、今、ノンフィクションの物語として幕開けするのだ。




 やはり文章化するのは難しい作業です…


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特異点F 炎上汚染都市冬木
1.そして始まる彼女たちと私の物語


 投稿してから、似たような設定のFGO二次が表でランクインしていて戦々恐々している作者がいたそうな。しかもこっちが後だしなので尚更である。


「さて、周囲の安全確保も出来たところだ、君たちの名前を教えてくれないか」

 

 魔術で周囲に罠を張りながら、彼女らに問う。

 

「私は藤丸立香、よろしくねボン」

 

「私の名前はマシュ・キリエライトです。最古の作家と呼ばれる貴方に出会えて光栄です」

 

「私はカルデアの所長であるオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアよ。この中のトップですから、貴方も私の指示に従いなさい」

 

「フォウ! フォウ! キューン」

 

「ああ、彼はフォウさんです。よろしくお願いしますね」

 

『それから僕がロマニ・アーキマン。カルデアから通信で君たちをオペレートする役割を担ってるんだ。親しみを込めてロマンと呼んでくれて大丈夫さ』

 

 やはり、推定マスターは藤丸立香であった。

マシュは変わらず大盾を持っているし、オルガマリーはオルガマリーで当然の如く可哀想で、我らがロマンは相変わらず緊張感がない。

私の知るFGOに出てきた登場人物達、それが目の前にいるということに興奮する。

 

「ああ、皆よろしくお願いするよ。カルデアについても、これからすべき事も大まかには理解している。所長、マスター。私は何をすればいい」

 

 私の言葉に驚き目を見開く所長だが、直に気を引き締めて命令を下す。

 

「よろしい、先ずは周辺の探索をします。ボン……だったかしら?貴方はキャスターですが、マシュよりは戦闘経験があるようなので周囲の警戒を任せるわ」

 

「って事みたいなんでよろしくね」

 

 了承し、魔術罠を解除して私たちは移動を開始した。

大橋を渡り、港跡へ出て、教会の跡地へたどり着く。

それまではスケルトンしか出なかった為殲滅も容易でスムーズに探索は進んでいった。

開けた場所に辿り着くと所長の独り言が始まってしまい、ここで休憩せざるを得なくなった。

再度付近に魔術罠を張り、簡易的な陣地の構築をする。

 

「そういえば、ボンって最古の作家? なんだよね。どういうお話を書いていたの」

 

 マシュと話していたマスターが話を振ってくる。

そうだなぁ……と『土くれで出来た管を造り、配し、直すことを生業とした男が、巨大な亀の化け物に攫われた姫を助け出す話』を上げた。

 

「あっ、それ知ってる。スーパーマ○オだ。日本でゲームになってるよ。任天○って会社が、ボンのサインを入れて売り出してるよ」

 

「ええ、それは有名なお話ですね。他に書かれた物は……」

 

『兵士を志して村を出た青年が英雄となる物語』や『英雄を目指した少年と神の化身の少女の物語』、『十二の試練を乗り越えた英雄の話』を上げたのだが

 

「十二の試練を乗り越えた英雄のお話……若しかして英雄ヘラクレスのお話でしょうか? 確か、彼のお話にはボンさんのサインは無かったと思いますが……先輩はご存知ですか」

 

「うーん、T○DとT○D2はプレイしたから確かそのサインを見たような気がするけど、そっちの話はゲームじゃないからちょっとわからないかな」

 

 昔話系統の話にはサインがない……?

このように、私なんぞの模倣作家が座に登録されて召喚されている以上、私が書き綴り、英雄王が編集した作品には全てにサインが記されているはずだと考えられるのだが。

突然のコール音と共に緊急通信が入る。

 

『みんな、逃げるんだ! サーヴァントの反応が近づいている』

 

 現れたのは黒だった。

人の形を模っている黒い影……シャドウサーヴァント。

やってきたのはライダーメドゥーサ。

私は知っていたからメドゥーサであることは理解していた。

が、しかし、何故かあのサーヴァントの真名が()()()()()のだ。

何故私に真名が見えるのかはわからないが、既に理性を失ったただの影でしかないメドゥーサ。

倒すしかないだろう。

影はサーヴァントのついていない所長へまっすぐ向かい武器を振り下ろす……が、私が駆け入り、丸太で防御する。

 

「――ッ!! キャスターはそのサーヴァントの相手をしなさい。マシュは私と藤丸を守りなさい!」

 

 恐怖に耐え、所長が命令を下す。

仮にもサーヴァントである私がいることで、ストーリーとは異なり、所長に幾許かの精神的な余裕が生まれているのかもしれない。

本来なら所長の命に従うことなど無いのがサーヴァントなのだろうが、どうせマスターも似たような指示を出すのだろうしとそのまま影と対峙する。

影になり理性を失った彼女の相手なら、恐らく何とかなるだろう。

が、メタな相性的にはキツイかもしれない。

それでも、兎に角戦うしかないのだ。

大きく丸太を振るい、風の魔術を飛ばす。

だが、素早い彼女に翻弄され、私の攻撃は当たることがなく、相手の攻撃のみが私に当たり続ける。

私が生前相手にしたのは魔獣だけだったので、対人型の経験はほぼ無いに等しい。

防戦一方になってしまうのは当然の結果であった。

苦戦を強いられる中、マシュが駆けつけてくれた。

 

「加勢します! マスター指示を」

 

 辛うじて影を釘付けに出来ていたお陰か、周囲に他の反応がないとわかったらしくマシュを加勢に寄越してくれたらしい。

マシュのスキルで防御力を高めての持久戦となった。

流石に2対1となった戦いはこちらに傾き、辛くも勝利することが出来た。

肩で息をするマシュと私をマスターは労ってくれるが

 

「ちょっと、キャスター。あれくらい何とかしてよ、貴方英霊なんでしょ」

 

 所長はこのような調子である。

この様な状況であるし、辛辣な言葉になってしまうのは仕方のないことだろう。

召喚されたばかりで霊基が安定していないことを告げると悪かったわ……と謝ってはくれたので、やはり所長はそんなに悪い人ではないのだろう。

そしてまた、ロマンから通信が入る。

 

『落ち着いている場合じゃないよ、そこから逃げるんだ! 今の反応と同じものがそちらに向かっている』

 

 慌しく私たちは走り出す。私にもっと力があればこのような状況にはならなかっただろう。

が、憑依して死後に英霊として座に登録された挙句、人類最後のマスターに最初も最初の最序盤から召喚されるだなんてまずは考えないだろう。

今は兎に角逃げて体勢を整えるしかない。

港跡を越え、大橋に戻り、広場にたどり着いた。

 

「何でこんなにサーヴァントがいるのよ」

 

 愚痴を吐き出す所長に、答えを導き出したロマンが答える。

この地は聖杯戦争が行われた土地であったがそれが狂ってしまった。

狂ってしまったからこそ人はおらず、サーヴァントだけが存在し、敵であるサーヴァントを延々と狙い続けるのだと。

その答えと共に影は現れた。

暗殺者(アサシン)のサーヴァント……呪腕のハサンである。

やはり、知っているからだけではなく現在進行形で影の真名が()()()

 

「さっきと同じ! ボンは影の相手して、マシュはこっちで私と所長を守って」

 

 所長よりも早く指示を飛ばすマスターに最後まで戦い抜いたマスターの片鱗を見る。

私はハサンに向かって駆け出しながら叫ぶ。

 

「マシュさん、今度は私がどんな状態になろうともこちらに来てはいけない」

 

 ハサンに丸太を振るうも避けられる。

追撃で火球の魔術を放つもやはり避けられる。

そして相手の攻撃を私が受ける。

先ほど戦ったメドゥーサよりも攻撃が軽く感じられる。

どうやら、メタなタイプ相性は少なからず存在しているらしい。

だが、それでも痛いものは痛い。

横薙ぎや振り下ろし、突きを使いながら合間に魔術を飛ばし、足も使う。

だんだんと対人の感覚が掴めて来た中で

 

「マシュ、行って」

 

 マスターから指示が下された。

不甲斐無い私をどうか許して欲しい。

だが、既に私は未来を知っている……だから、マシュを止めなければならない。

ならば、こう言ってしまうしかない。

 

「待ち給え、マスター! ()()()()()、もうすぐここに()()()()()()が来る。だからマシュさんを動かしてはいけない」

 

 その言葉に駆け出そうとしたマシュは足を止め、突然の発言に動揺したのかハサンに隙が出来る。

その隙を逃さず、ハサンに強烈な一撃を叩き込む。

 

「キ、貴様――何故 ソレ ヲ 知ッテイル。 念 ヲ 置キ、後詰トシタ ランサーノ 事ヲ」

 

『ほ、本当だ立香くん、マシュ、そちらにサーヴァントの反応が向かっている……解析完了――これは! ランサーのサーヴァント反応だ』

 

 そして笑い声を上げながらやってきたのはランサーの影、やはり知っているだけではなく()()()真名……武蔵坊弁慶。

弁慶はマシュに向かって駆け、その手に持った槍を上段から振り下ろしてマシュを叩き切らんとするも、消耗していないマシュは攻撃を大盾をもって攻撃を弾いた。

2対1から2対2へ。相も変わらず劣勢であることには違いない。

 

「兎に角、戦うしかないよね……マシュ、ボン、勝って!」

 

「ちょっと藤丸、本気なの!? キャスターは押されているし、マシュもまだ経験不足なのよ!」

 

「承った、マスター!」

 

「わかりました、先輩ッ!」

 

「クッ……聖杯 ハ 目ノ前ダト 言ウノニ――ランサー、思ッタヨリモ 面倒デ アルガ、決メルゾ。 ドノヨウナ英霊カハ知ラヌガ、ソノ御首貰イ受ケル」

 

 ハサンの言葉に高笑いする弁慶が駆け出した直後、光弾が影の2人へと直撃する。

 

「敵の敵は味方……ってわけでもないが、嬢ちゃんも兄ちゃんもそれなりに兵じゃねーか。ここは俺の目的の為にも助太刀させてもらうかね」

 

 そして新たなサーヴァント、キャスターのクー・フーリンが戦場に割って入ってきたのであった。




 誤字脱字等は気をつけていますが、もしあればご報告いただけたらと。
稀に矛盾に気づかないまま矛盾したことを書いていたりもしますので、発見した際はご報告いただければ幸いです。


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2.私の宝具

 プロットとは一体……ノリと勢い、設定ガバガバでお送りしております。
流行りモノにあやかって、昔書いたネギま!よりもブクマと評価が高くなればなぁと思っています。


「敵の敵は味方……ってわけでもないが、嬢ちゃんも兄ちゃんもそれなりに兵じゃねーか。ここは俺の目的の為にも助太刀させてもらうかね」

 

 戦場に割って入ってきた新たなサーヴァント、キャスター、クー・フーリン。やはり、私には知識があるだけではなく、真名が()()()()()()

 

「俺はキャスターのサーヴァントだ。こいつらとは敵対中でな。加勢させてもらうぜ、だから今は信頼してくれていい。そっちの嬢ちゃんがマスターか、今は俺にも指示を出してくれ」

 

 そして3対2となった戦場はまたしても数の有利でこちら側に傾き、メドゥーサ戦よりも容易くハサンと弁慶の影を倒すことが出来た。

だが、未だ人型との戦闘に慣れきっていない私と、そもそも戦闘自体に慣れていないマシュは先ほどと同様に肩で息をしていた。

 

「おう、お疲れさん。特に嬢ちゃんはアサシンのヤロウにケツを執拗に狙われてただろう、身体の心配をしねえとな」

 

 近づいてきたキャスターことクー・フーリンがマシュの尻を撫でようとしたので腕を取る。

 

「おっと、アンタもお疲れさん。嬢ちゃんは何のクラスだかさっぱりわからねえが、アンタはランサーか? いや、この魔力量ならキャスターか」

 

「ああ、私はキャスターだ。ご同輩、()()()()()残念だったな」

 

「!? ――ハハッ、その槍が羨ましいねえ、俺がランサーだったらセイバーなんぞ一刺しだってのによ。冬木の聖杯戦争でキャスターなんかやってられねーぜ」

 

 ほんの一瞬の驚愕から笑いへ移行し、私の肩を力強く叩きつつ話すクー・フーリンに対してロマンから通信が入り、現状の説明と相互理解が行われる。

利害関係の一致から、この特異点のみではあるがクー・フーリンとの協力体制を敷くこととなり、私たちの目的は大聖杯の発見だと語られた。

大聖杯にはセイバーが居座り、残りのサーヴァントは影となったバーサーカーとアーチャーである。

バーサーカーは無視を、アーチャーはクー・フーリンが何とかするとのことで話はまとまり、大聖杯がある場所を目指すことになった。

戻ってきた道を再度辿る。

大橋を越え、港跡を通り教会跡へ。

更に進むが、道中はスケルトンだらけで良い戦闘訓練になった。

しかし、マシュの顔色が優れない……と言うよりも思い悩んでいるといった感じか。

ああ、そういえば彼女は未だに宝具の展開ができていないから思い悩んでいるのだったか。

 

「ちょっと、アナタ、立香。一応マスターなんだからマシュをケアしてあげなさいよ」

 

「マシュ、ちゃんと戦えてるから。頼りにしてるから、宝具が使えないことなんて気にしなくていいのに……」

 

「いえ、このような状態では欠陥サーヴァントでしかありません……」

 

『気にすることはないんじゃないかい、マシュ。一朝一夕で宝具が使えるようになってしまっては、元になったサーヴァントの面目が立たないような気もするし』

 

「あ?英霊と宝具は同じもんなんだからすぐに使えるだろ。サーヴァントとして戦えるなら宝具は使えるってこった」

 

 そういえば、私の宝具は一体なんなのだろうか? キャスターの枠に収められていて、作家としての知名度があるとすればこの本に関連するようなモノなのだろうが。

その時、突然何かを()()

それは黒い巨体の影……その姿は見覚えがある――バーサーカーのシャドウサーヴァント、そしてそれと戦う私たち……?

おかしい、そんなことはストーリー上ではなかった筈……私という異分子が介入したことによるストーリーからの乖離か?

いや、そもそもそのストーリーを鵜呑みにすることが間違っているのではないか。

ここは既に、ゲームというシナリオが完全に決められた物語の上ではない現実なのだ。

考えを改めて事に望まなければなるまい。

 

「純真なマシュをからかわないでよ」

 

「何、簡単な特訓を……」

 

 そう言って、所長のマントに厄寄せのルーンを刻もうとするキャスターを止める。

 

「待ち給え、キャスター……嫌な予感がする」

 

 途端、地響きが聞こえ大地が揺れる。

その音はこちらに近づいてきているようであった。

 

『この反応、またサーヴァントだ! 今そちらに向かってる!!』

 

 そして声が、意味を持たぬ叫びが、鼓膜を叩く。

影、シャドウサーヴァント……バーサーカー――その真名をヘラクレス。

セイバーすら手間取ると言われた、最悪の相手がやってきた。

先ほど見えた何かが実現してしまった。

一体私に何が起きているのだというのか。

 

『反応確認! バーサーカーのサーヴァントだって? 冗談じゃない』

 

「ッ! こいつぁ特訓なんざしてる場合じゃねえな。どうするマスター? やっこさんは完全にこっちを狙ってるみたいだぞ」

 

「ちょ、ちょっと、どういうことなのよ、アレは動かなかったんじゃないの!?」

 

「想定外ってやつだ所長さんよ。兎に角アンタは隠れてな」

 

「こうなったらやっぱり戦うしかないよね、マシュはこっちで防御、キャスターは遊撃、ボンが前衛……頼める?」

 

「あいよ!」

 

「承知した」

 

「了解です、先輩」

 

 私は前方に躍り出る。

咆哮と共にヘラクレスは私へ向かい、まるで暴風のように強烈な連撃を放ってきた。

一撃一撃が重く、まともに受ければひとたまりもない威力の攻撃が襲い掛かる。

何故か予測できる相手の攻撃を避ければ、キャスターの炎弾、光弾がヘラクレスに直撃する。

しかし、その攻撃をものともせずに更なる攻撃の嵐が私に降り注ぐ。

相手の攻撃の隙間に丸太の槍を叩き込もうにも、私の魔術を叩き込もうにも決定打に欠け、時間ばかりが過ぎていき、そろそろ避けるのも危うくなってきたところ

 

「兄ちゃん、離れろ! デカイの行くぞ」

 

 キャスターの声に伴って離脱する。

呪文(スペル)と共にヘラクレスの影は巨大な炎に包まれる。

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)、それがキャスタークー・フーリンの宝具だ。

 

「や、やったのよね? もう、大丈夫よね」

 

「ばっ、おま、そんな明らかなフラグ……」

 

 所長のせいか、そうでも無い気がするが、まるでフラグが立ってしまったかのように、ヘラクレスの影はまだ消えていなかった。

まるで弾丸のように一直線にマスターと所長が後ろに居るマシュの方へと駆ける。

離脱していた私には庇いきれず、キャスターも間に合いそうにない。

所長が叫び声をあげる中で、マシュとヘラクレスの咆哮がぶつかり合う。

マシュは願ったのだろう、守りたいということを、ただ純粋に、マスターを守りたいと。

そして展開された仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

それは突撃してきたヘラクレスを弾き飛ばした。

その光景の最中、貯まりきった私の魔力が、宝具を使えと訴える。

先ほどまであるかどうかすらわからなかった宝具が。

左手に持ったこの本が。

ならば

 

「マスター、宝具の使用許可を」

 

「いいよボン、やっちゃって!」

 

 使い方はわかる――頭に浮かび上がったキーとなる呪文(スペル)さえ唱えれば、()()は私に力を貸してくれるだろう。

そして私は()()がヘラクレスを打ち倒す()()()()()

左手に持った本……私の宝具『作られた英雄達の物語帳』に意識を集中させ、詠唱する。

 

「ここに綴られるは勧善懲悪の物語、さあ英雄達よ、今ここに顕現し敵を屠れ! 作られた英雄達(クリエイテッドヒーローズ)

 

 私の宝具が光り輝き、辺り一帯を眩く照らす。

そして輝きは人を模り、私が……いや、尊敬する先人が作り出した英雄――ゲームやアニメ、漫画のキャラクターがここに顕現した。

彼らはこちらに目を向けると微笑み、視線をヘラクレスに戻しそのまま殺到した。

 

「すげえ光景だな……」

 

「すごいすごい! スタ○に○イル、ジュー○スがいる! マ○オにルイー○、リン○にリ○ド……ああ、もう凄過ぎ!!」

 

 それは数の暴力であった。

様々な物語のキャラクターが混ざっているというのにも関わらず、彼らは同士を討つことも無く華麗に連携し、ヘラクレスにダメージを与えていく。

所長とマシュは目を丸くしたまま動けないでいるし、キャスターはその袋叩きのような光景に唖然とし、マスターはキャラクターの顕現に大興奮して語彙力の低下を起こしていた。

かくいう私もその光景を見て呆けていた。ヘラクレスを打ち倒す未来を見たものの、未だ戦闘が終わったという確証は無いというにもかかわらず、こみ上げる嬉しさと喜びに呆けざるを得なかったのだ。

これが、私の、私だけの宝具……模倣した物語しか書けなかった私の宝具。

模倣した物語を書き続けたからこその私の宝具。

そして、私が亡き後に書いたものを編集して後世に残してくれた英雄王がいたからこそ成った私の宝具。

英雄王には感謝の念が絶えない。

本当に、ありがとう……それしか言う言葉が見つからない。

私の知能指数まで低下しそうな勢いである。

英雄達の動きが止まり、散開する。

その中央には力無く倒れ伏したヘラクレスの影があり、再び動き出すことなく天へ消えた。

そしてそれを見届けた英雄達も、光の粒となっていなくなった。

 

「ちと長引いたが、何とかなったな」

 

「ああ、マシュさんも宝具を使用できるようになったのは良かった」

 

「あ、そうだった! マシュ、おめでとう。それと守ってくれてありがとう」

 

「い、いえ。それが私の役目ですから。でも、ありがとうございます先輩、ボンさん、キャスターさん」

 

「やるじゃないマシュ、でも宝具の真名を引き出せなかったのね。それならその宝具は仮にロード・カルデアスとしなさい。意味のある名前なら霊基の通りもいいでしょう」

 

「それじゃ、少しばかり休憩したら練習でもするかい嬢ちゃん」

 

「はい! よろしくお願いします」

 

 ストーリーとはいくらか異なった展開になりつつも、マシュの宝具訓練は開始される。

その間、私は休憩する場所を確保し、魔術罠を展開して陣地の構築を行う。

立ったまま、手持ち無沙汰にしている所長がいたので丸太の槍を地に倒し、私の外套をハンカチ代わりに敷いて彼女を呼ぶ。

 

「所長、良ければこちらで休まれてはどうか。貴女も色々なことがありすぎて疲れているだろう」

 

「ええ、ありがとうキャスター」

 

 思いのほか、すんなりと座った所長の姿に多少驚くが、やはり大分疲れていたのであろう。

そんな彼女に、こんな話をするのも酷ではあるが、この機会を逃せば落ち着いて話ができなくなるかもしれない。

 

「……所長、本当に唐突な話だが、聞いてくれないだろうか」

 

「何よキャスター? 急に改まった感じで、まぁいいわ。今はマシュの宝具の練習で時間もあるだろうし聞いてあげる」

 

「ありがとう、もし……もしもの話なんだが、志半ばで目的が達成できずに倒れてしまいどうしようも無くなってしまったが、直ぐにとは言えないがやり遂げられる可能性が僅かにあるとしたら、貴女はその可能性に賭けるか」

 

「何それ、変な話ね。でも、そうね、もしそんな可能性があるとしたら、きっと私は縋るかもしれないわ……認められたいもの」

 

「そうか。ならば、本当にどうしようも無くなってしまった時、私を呼んでくれ。私の真名を呼んでくれ。直ぐには何ともできないだろうけど、きっと、きっと何とかしてみせるさ」

 

「本当に変な話ね。でも、そうね、考えておいてあげるわ」

 

「ああ、ありがたい、是非考えて欲しい。では、私は少し周囲の警戒と探索をしてこよう。所長はここで休んでいてくれ給え。それでよろしいかな」

 

「ええ、頼んだわキャスター」

 

 力無き、不甲斐ない私。

先を知っていようとも、能力が無ければ何も出来ない。

今、直ぐに所長を救う手立ては無いし、所長が望まなければ、救う意味も無い。

だから種は蒔いた。

あとは所長が私の名前を呼んでくれる、その時を待つだけだ。

所長がもし私の真名を呼んだのならば、書き上げよう、彼女の物語を。

私が作家だからこそ出来ること、物語を書き上げて()()()()()()()()()

これは可能性の話、出来るか、出来ないかはわからないがやって見ることは出来るのだから。

 




 戦闘描写……しょっぱいですね。生暖かく見てもらえれば幸いですが、より良くなるアドバイスは歓迎します。叩かれるのは辛いって先生が言ってた。
ネーミングセンスの欠片も無い。宝具の名前ダサすぎでは?

没案

「刺し穿ち、突き穿つ……無限の槍投(アンリミテッドピアッシング)」

プロローグでやった槍を投げて魔術で手元に戻す。それを繰り返すだけというシュールな宝具。
ネタとしてはおいしいと思いたかったです。


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3.一端の決着、本当の始まり

 突然の文字数ほぼ倍化。会話とか色々端折ってこれだから、FGOのシナリオってすごく長いんだなぁと実感。

 お気に入り登録ありがとうございます。励みになります。
今回も色々とガバガバですが、お読みいただければと思います。


「さぁて、ここまで着たら大聖杯はもう目の前だが、入り組んでる大洞穴だ。気をつけろよ」

 

 キャスターのクー・フーリンの先導により大聖杯のある大洞穴までたどり着いた我々は暗がりの中をゆっくりと進んでいた。

 

「ところで、キャスターのサーヴァントはセイバーの真名を知っているような口ぶりだったけれども、セイバーの真名は教えてくれないのかしら」

 

「そういえば、私も気になるー」

 

「ああ、やっこさんの宝具を食らえば誰だってすぐにわかっちまうさね。他のサーヴァントはヤツのあまりにも強力な宝具にやられちまったけどな」

 

「あまりにも強力な? それはどういった」

 

「王を選定する岩の剣のふた振り目さ……おま」

 

「ふむ、約束された勝利の剣(エクスカリバー)か。騎士の王として名を馳せたアーサー王の持つ剣」

 

「なあ、兄ちゃん……折角俺が話してるのに腰を折らないでくれよ。しかし、兄ちゃんはいつの時代の英霊なんだ? 兄ちゃんみたいな魔力持ちなんて生前にも数える程しか出会ったことが無い」

 

「私自身に自覚は無いのだが、どうやら英雄王誕生以前の時代の人間らしい。まあ、仮にそうだったとしようがしなかろうが、私など凡人に過ぎないのだがな」

 

「英雄王より前の英霊たぁ、たまげたなぁ……しか」

 

「ちょっと、そんな桁外れの魔力を持っている英霊なのに、『私など凡人に過ぎない』ですって? あまりふざけたことは言わないで欲しいわ」

 

 会話の腰を私に折られたキャスターは、再度所長にまで折られて何も言えなくなってしまった。

しかも私の言葉で所長は大分ご立腹のようである。

『すまない』そう所長に声をかけようと思った矢先、また()()()()()

我々に向かって飛来する、捻れた剣――それは矢の如く空を切り、やがて()()()()

考えるよりも、所長への謝罪を口にするよりも先に、飛来する矢に向けて丸太の槍を投擲する。

そして、槍にぶつかった矢は爆発した。

 

『そんな、反応なんてなかったのに。何が起きたんだい』

 

「もちろん敵襲だ。遠距離からの()による狙撃――おそらくアーチャーだろう」

 

 またしても見えた未来。

生前には未来など垣間見たことなど無いというにも関わらず、見えてしまう。

一体私に何が起きているというのか。

そして現れた黒い影、アーチャーのシャドウサーヴァント……エミヤ。

 

「ああ、正解だ。つまらぬ客人達よ、来た道を戻り給え」

 

「なんでえ、信奉者のご登場かい? それとも門番か何かか? 何から聖剣使いを護ってるかは知らねえが、ここいらで決着(ケリ)をつけようじゃねーか」

 

「相も変わらず、自らの欲望に熱中しているな……魔術師であろうとその性根は変わらんか。ならば、この()でたたき直してやろう」

 

「え? 相手はアーチャーだよね? なんで剣なの。使うなら弓じゃないの? アーチャーなのに」

 

「ハハハ、こいつはそういうヤツなんだよ嬢ちゃん。ま、コイツは俺に任せて嬢ちゃん達は先に進みな」

 

「私が素通りなどさせる訳が無かろう」

 

 いつの間にか弓を持ったエミヤがマスターに向かって矢を放つも、すぐさまカバーに回ったマシュの大盾により弾き落とされる。

 

「させません」

 

「ほう、思いのほかできるようだな」

 

「チッ、やっぱ無理か。なら仕方ねえ、その余裕ぶった面、崩してやる」

 

 そしてエミヤとの戦闘が始まる。

今回は前衛がクー・フーリンで私が遊撃となった。

一種の因縁の対決であるからそうもなろう。

兎角マスターの指示が一々適切であり、彼女の過去が非常に気になるところである。

まぁ、人類最後のマスターは伊達ではないというのは確かだろう。

エミヤの放つ二刀の剣閃を杖で捌き、槍のように杖を使い時折魔術を放つクー・フーリン。

私も時折、魔術で援護し、マシュはマスターと所長の守りを徹底する。

完璧な布陣、数の有利、過ぎた時間は魔力を充填し、影には使えない宝具が炸裂する。

 

「とっておきをくれてやる! 灼き尽くす木々の巨人――灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)

 

 それが決定打となり、アーチャーは思いのほかあっけなく消えた。

しかし、流石錬鉄の英霊と言うべきか、多対一であったにも関わらず戦闘時間は長くなってしまったのは、理性を保っている影であったことも影響しているかもしれない。

 

「セイバーに惚れ込んでたヤツは消えたな。あとは俺らで聖剣攻略、嬢ちゃん、兄ちゃん頼りにしてるぜ」

 

「ああ、善処しよう」

 

「頼りにしてくださるのは嬉しいですが、音に聞こえたアーサー王の聖剣、その宝具を私は受け止めきれるでしょうか」

 

「ようは根性(ガッツ)だ根性。俺の見立てならその盾は破壊されることはないだろうしな。もし失敗するとなれば嬢ちゃんがヘマをした時だけだ」

 

「そして、それはマスターの敗北、ひいては死に直結する……といったところか。何、マシュさんの今までの姿を見てきただけでもわかるさ。君が護るということに特化した人だと」

 

「だから、セイバーを仕留めるのは俺らに任せてしっかりと指揮官を守り抜いてくれよ」

 

「頼りにしてるよ、マシュ」

 

「ええ、お任せください。先輩も所長も絶対に護り抜いてみせます」

 

 そして歩く、歩く、ほの暗い入り組んだ足場の悪い洞穴を奥へ、奥へと進んで行く。

大聖杯が目前となった頃、所長が立香の顔色が悪いことを指摘し、最終決戦前の休息を取ることになる。

 

「いいねぇ、んじゃ俺は猪でも狩ってきますかね」

 

「肉はやめて、それより果物を持ってきて頂戴」

 

 私は魔術罠を展開し、周囲の警戒及び探索を始める。

もし私が憑依前に見た、二次創作に出てきたとてつもない力を秘めた最強のサーヴァントであったのならば、彼女達をここへ残し、セイバーを討ち、魔神柱を消し炭にしていただろう。

だが、私にそのような力も無く、今は出来ることをするしかないのである。

しかし、私に一体何が起きているのか、疑問が尽きない。

見える真名、垣間見る未来。スキル的に言えば真名看破と未来視か千里眼か。

確か、真名看破は『裁定者(ルーラー)』の特性だったような気がするし、未来視や千里眼は生前には一切そのような感覚を得たことはないのである。

英霊にはスキルが付き物なのだろうが、凡人であろう私も座に登録されてしまった時点でスキルが付与されたのだろうか。

いや、そもそもこの()()()は何なのだ。

憑依後過ごした時は凡そ30年、しかも憑依というイレギュラーが発生していると言うにもかかわらず、物語を書けるだけの余裕がある記憶、磨耗しない記憶。

果てには、死後に至るまで継続しほぼ劣化しない記憶だ。

憑依後もそうであるが、憑依前ですらただの凡人、そこらにいる大学生にすらも劣るかもしれない社会人だったのが私である筈だ。

私に何が起きた、一体何が……

 

「……ン、ねぇボンってば。そろそろ行くよ? ねぇ聞いてるの、ボン。大丈夫なの」

 

 ぐるぐる回る思考の渦に飲み込まれかけた私をマスターが引き上げてくれた。

 

「ああ、ありがとうマスター。思考の渦に飲まれかけていたようだ、引き上げてくれて感謝する」

 

「どういたしまして、ボン。まあ、私も曲りなりにはマスターだからね。私の英霊(サーヴァント)だったら、当然気にかけるよ」

 

「お、嬢ちゃん。それなら俺のことも気にかけてくれるかい」

 

「もちろんよキャスター。今はまだ仮契約だけど、本契約できたら真名教えてくれるかな」

 

「ハッ、いいぜ、いや、本契約なんてしなくてもセイバーを倒せたら、俺の真名を教えてやるよ」

 

 私のことは棚に上げて、現状を見よう。

やはり人類最後のマスターとして最後まで戦い抜く英雄の片鱗が見える。

英雄としての名をつけるのであれば『絆の英雄』なんていいかもしれない。

おそらく、ゲームと同じように様々な性質の英霊達を惹きつけるであろう。

そんな魅力を立香(マスター)は持っている、そう思える。

 

「さて、十分に休息は取れたわね。では、大聖杯を目指して先へ進みましょう」

 

 そしてたどり着いた大聖杯。

その色は禍々しく、泥が溢れてくるかのごとく澱んでいる。

その前に立つ剣士が一人……セイバーのサーヴァント。真名はアルトリア・ペンドラゴン、即ちアーサー王、騎士王である。

しかし、その色は黒であり、英霊としての性質が反転した状態である『オルタ』であった。

そして垣間見る未来――雪の振る夜空をマスターと共に駆けるサンタコスの彼女を見た。

――真夏、まるでメイドのような水着姿で、やはり水着姿のネロと共に作成したマシンで駆る彼女を見た。

それは遠いようで近い未来、起こりえるであろう話のはずだ。

しかし私は何故今、それを見たのか。

先ほどまでであれば、ほんの少しばかり先の未来。

攻撃軌道の予測や、戦闘結果の予測だったというのに。

だが、そんなことよりもだ。

 

「やはりセイバー……オルタは美しい。好ましい。青よりも黒。Xや桜、槍もいいが、やはり黒。青だけはダメだ……」

 

「――!?」

 

「ちょ、ちょっとボン、さっきから本当に大丈夫? これから決戦だよ」

 

「ボンさんも心配ですが、アーサー王、男性かと思っていましたが、目の前にいるのは女性ですね……」

 

『恐らく生前は男装でもさせられていたんだろうね。宮廷魔術師の悪知恵かな。伝承にもある通り本当に趣味の悪い。ところでボン、君本当に大丈夫かい』

 

「ま、油断してなけりゃいいだろ。やっこさん、華奢な見た目だが魔力放出が異常だ。甘く見れば即座に上半身と下半身がおさらばするぜ」

 

「……ハッ!? ――面白いサーヴァントがいるな。蛮族の様な貴様もそうだが、それよりも……そちらの名も知れぬ娘だ。その宝具、実に面白い。その守り、真実かどうか確かめてくれよう」

 

 少しばかり頬を朱に染めたセイバーオルタはそう言うと、剣を構える。

高まるオルタの魔力に対して、我々の陣営全員が悟る。

 

「マスター! 大きい一撃が、()()が来る」

 

「マシュ、お願い、皆を護って!」

 

「はい、先輩! 必ず、守り通して見せます」

 

 そして令呪の1画が切られる。

 

「卑王鉄槌――極光は反転する。光を飲め、約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)

 

「宝具展開しますっ!」

 

 ぶつかり合うのは黒き極光と巨大な盾、展開された盾を飲み込まんばかりの光線は力衰えることなく迸り続ける。

しかし、マシュは負けんと咆哮し、これを押し返さんとする。

根気比べの如く、ぶつかり合いは続き、やがて黒の奔流は途絶え、オルタの姿が見えた。

 

「キャスター、ボン、前へ! マシュは引き続き守りを固めて」

 

 駆ける、彼女(オルタ)の元へ。

この身はキャスターなれど、この丸太の槍があれば僅かでも打ち合うことが出来るかもしれない。

大振りの一撃を、彼女はその剣でいなし、その反動で反撃する。が、その反撃も私には()()()()()

 

「ほう、今のを避けるとは中々。その槍、貴様はランサーか」

 

「お生憎、このような(なり)だが私はキャスターさ」

 

「――直感していたが、やはりランサーではないのだな。それにランサーにしては力が弱く、遅くもある」

 

「流石騎士王、その反転。その名は伊達ではないようだ」

 

 打ち合いながらも会話する私達。

オルタの攻撃を予測できるからこそ打ち合える喜び、会話できる興奮が私にはあった。

その合間にもキャスターの魔術が飛んでくるが、対魔力の高いオルタの前にはまず届かず、魔術は霧散した。

数の利と、指揮官の存在という有利があったものの、相手は一騎当千の上、キャスターとは相性の悪い対魔力の高いセイバーであったことにより案の定、決定打に欠く。

 

「そろそろ飽きたな、貴殿の槍そこそこのものであった。では終わりにしよう」

 

「ああ、そうだな。では私は下がらせてもらう」

 

 彼女(オルタ)と剣を重ねる中で見えたのは、キャスターが宝具を使う姿だった。

 

「兄ちゃん、行くぞ――灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)

 

 そして、灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)がオルタを飲み込んだ。

今度は流石に誰も言葉を発することはなく、成り行きを見守っている。

炎が消えた、その中から現れたのは、ほぼ傷を負っていない、再度剣を構え魔力を高めたオルタである。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

 放たれた黒の極光。

 

「マシュ!!」

 

 再び切られる令呪、展開する宝具。

再度、黒き光の奔流と特大の盾がぶつかり合い、黒き光の奔流を押し返したマシュの盾。

だが、その先に見えたオルタは更に宝具を使わんと剣を構えていた。

 

「あ……」

 

 その声は誰が発したのか、諦観を感じ取れるものだ。

 

「いや、まだだ。作られた英雄達(クリエイテッドヒーローズ)!!」

 

 オルタが宝具を使用するその前に、私が宝具を使用する。

眩い光と共に英雄達が現れ、オルタへと殺到する中、一人だけ私達の前に佇む騎士(ナイト)がいた。

長身で耳が長く色黒だが、その髪と装備は白で統一され、唯一その手に持った剣のみが黒であった。

守りの英雄、とんずらで誰よりも早く駆けつける黄金の鉄の塊――至高のナイト。

彼がいれば守りはより強固な物となり安心出来る。

そして私はまたも未来を垣間見る――英雄達の攻撃が終わっても倒れ伏すことはないオルタの姿を。

 

「これなら」

 

「わからない、油断はしないでくれ給え」

 

 そして英雄達が散開したその中央にオルタは立っていた。

正しく表現するのであれば、その手に持った剣を地に突き刺し、杖の如く扱ってようやく倒れずにいる、そんな状態であった。

 

「聖杯を守り通す心算であったが、己が執着に傾倒し最後の最後に手が緩んでの敗北か……結局私一人では同じ末路を辿るか」

 

「アン?どういうこったそりゃ」

 

「いずれわかる。冠位指定(グランドオーダー)――聖杯を巡る戦いは始まったばかりだという事を」

 

「おいおいおい、そりゃねーだろ!? って、強制帰還かよ! 嬢ちゃん次があるならランサーで喚んでくれよな!」

 

「ちょっと、キャスター! 真名、真名を教えてくれるんじゃなかったの」

 

「時間が無いからそっちの兄ちゃんに聞……」

 

 セイバーオルタが天に消え、キャスターのクー・フーリンも消えた。

ここで冬木の聖杯戦争は一端の終結を迎え、そこには聖杯が残った。

 

「ねぇ、もしかしてボン、キャスターの真名わかったの」

 

「ああ、彼はクー・フーリン。光の御子、アイルランドの大英雄……だったか」

 

「成る程、彼の大英雄はルーン魔術にも見識が合ったと言われていますから、今回はその側面で喚ばれたのでしょうか」

 

「ああ、クー・フーリン! 確かにランサーで召喚した方が強そうだね。ところで所長、これからどうしますか」

 

 オルタが呟いた冠位指定(グランドオーダー)――その言葉に気を取られていた所長が気を取り直す。

 

「え、ええ、貴方達、よくやったわ。これでミッションは終了、あの水晶体を回収してカルデアに戻るわよ」

 

 どこからともなく響く拍手と共に誰かが語る。

 

「まさか、君達がここまでやるとは想定外だ。そして私の寛容さの許容外、48人目のマスター……侮り、見込みのない子供だからと善意で見逃した私の失態か」

 

 現れたのはシルクハットを被った緑色のもじゃもじゃ――レフ・ライノール・フラウロスだった。

 

「レフ!」

 

『レフだって?レフ教授がそこにいるのかい』

 

「この声はロマンか、あれほど中央管制室へ来いと指示を出したと言うのに生き延びたとは、つくづく愚かしい」

 

 悪態をつくレフに対して、所長は彼に駆け寄り縋りついた。

 

「レフ、ああ、レフ、貴方が生きていてよかった。私、どうすればいいかわからなかったの、今度も私を助けてくれるわよね、レフ」

 

 それは所長の本当の姿であった。卑屈で小心者、どこか他力本願でレフに依存した、可哀想な一人の少女。

だが、所長の知っているレフは偽りである。レフは所長に死の事実を突きつけ、かつ突き放した。

 

「さて、最後の慈悲だ。君の宝物とやらに触れるといい。その太陽か、ブラックホールとも変わらぬ地獄の具現。遠慮なく触れて無限の死を味わい給え」

 

「嫌、嫌よ。まだ何もしていない、誰にも認められていないし、褒めてもくれない……どうして、どうしてよ!?」

 

「所長!」

 

「いやよ、いやいや……誰でもいいから助けてよ……そうだ……キャスター……ボ……」

 

 手を伸ばせば助けられる距離でもない。

宙に浮かび灼熱の太陽の如きカルデアスに、まるで吸われるように引き寄せられる。

誰もがその光景を見守ることしかできないまま、所長は消えた。

だが、所長は私の真名を呼んだのだ。召喚されてからここへ来るまで、1度しか呼ばなかった私の真名。

若しかしたら、所長は信じていないかもしれないだろうあの話を思い出して、最後の最後で私の真名を呼んだのだ。

縋りついたのだ。

ならば私は微力を尽くさねばなるまい。

 

「さて、ロマン。学友として教えてやろう。未来が観測できないのは未来が消失したという希望的観測ではない。焼却されたのだ。結末は確定した、貴様たちに未来はない」

 

 大洞穴が震動する。それはただの地震ではなく、空間の、ひいてはこの世界が崩壊する前触れであった。

 

「カルデアはカルデアスの磁場によって守られているのだろうが、カルデア内の時間が2016年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅するだろう。では私は次の仕事がある、さらばだ」

 

「ドクター! 至急レイシフトを」

 

『もうやってるよ! けど、そっちの空間崩壊の方が早そうだ……意識を強く持って』

 

「マシュ、フォウ君、ボンこっちに」

 

 視界が白に染め上げられ、何かに引き寄せられる感覚を得る。

目を開けば文明的を通り越し、科学的な部屋へと降り立っていた。カルデアである。

どうやらレイシフトは成功し、帰還することができたようだ。

 

「おかえり……、って立香君とマシュは倒れてる、至急救護室へ! それとボン、顔を合わせるのは初めてだけど……」

 

「今はいい、倒れた二人を診るのが最優先だろうロマン、いやドクター。マスターとマシュさんを頼んだ」

 

「ああ、わかったよ、じゃあ彼のことは頼んだよレオナルド」

 

 美しい女性――黄金比を持った誰かが愛した女性……だが男だ――が立っていた。

その真名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。愛した女性モナ・リザを模った人形に自らの霊基を入れ込み、自らがモナ・リザとなった変態……万能の天才である。

そして、やはり彼? 彼女? の真名は()()()()()

 

「やあ、ボン君、最古の作家と呼ばれる者。お会いできて光栄だよ」

 

「そういう君は、モナ・リザ。いや、レオナルド――レオナルド・ダ・ヴィンチ、万能の天才。私こそ君と出会えて光栄さ」

 

 ここまでくれば、私は真名看破を持っていると認めざるを得ないだろう。

 

「ふむ、完全には名乗ってはいない筈だが……確かに私はレオナルド・ダ・ヴィンチさ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれ給え」

 

「ああ、承知した。ダ・ヴィンチちゃん、どうやら私は真名を看破できるスキルを得ているらしい」

 

「わお、それは心強いね。さて、君はここまでマスターである藤丸立香(彼女)に力を貸してくれたようだけど、これから先も力を貸してくれるのかな」

 

「勿論だ、それに果たすべき約束も出来てしまったからな。当分はこちらで世話になりたいと思う」

 

「よしよし、ではこちらへ。君の霊基をカルデアスへ登録しよう。ここへ登録すれば、戦いに敗れても座に戻るのではなく、このカルデアに戻って来れるようになる筈だからね」

 

「ああ、よろしくお願いする」

 

 ここに冬木の戦いは終結した。だが、それは新たなる戦い――冠位指定(グランドオーダー)の旅路の始まりに過ぎないものだ。

今は彼女(マスター)が目を覚ますまで、しばしの休息を取ることにしよう。




 熱い青アンチ。青よりは黒の方が好きです。唐突なネタを挟んでみましたが、どうでしょうか。
次は幕間を予定しています。
誤字脱字、変換ミスや矛盾、アドバイスがあればお気軽にお伝えください。


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幕間1.そして彼女が目覚めるまで

 亀更新とは一体なんだったのか。書けたら投下する。そういうことであった。幕間は小話的な感じで書き上げました?
やはり全てはノリと勢いで出来ています。評価、お気に入り登録ありがとうございます。やる気が出ます。(続きが書けるとは言っていない


1.獣、または同士

 

 宛がわれた部屋で私は文明の利器、シャープペンシルを手にまっさらな白紙とにらめっこをしていた。

今、私が書こうとしているのは所長――オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア――を英雄に仕立て上げるための物語である。

のではあるが、そもそも私自身がオリジナリティの欠片もない模倣作家であるが故に、どのように物語を書けばいいのかわからないのである。

今までそれなりに、模倣とは言えども物語を書いてきたのだから、それを元にしていけばいいのではないかとも思うのだが、中々筆は進まないのだ。

不意に部屋のドアが開く音がする。

 

「フォウ!」

 

「やあ、同士よ。どうかしたのかい? ああ、何か食べたくなったのか、では食堂へ行こうか」

 

「フォウ、フォウ!」

 

 このような感じで、私の部屋に突如としてやってくるようになったのはフォウ君である。

では、どうしてこのような状態になったかと言えば、部屋を宛がわれた時へと遡る。

 

 

「じゃあ、ボン君はこの部屋を使ってくれ給え。ところで部屋の説明は必要かな」

 

「いや、大丈夫だダ・ヴィンチちゃん。ありがとう、私はこちらで少し休ませて貰うよ」

 

「ああ、それじゃあごゆっくり」

 

 扉が閉まる音と共にダ・ヴィンチちゃんは去っていく。

久しぶりのベッドの感触を味わおうと、歩を進めようとしたところ、生物の気配に気づく。

足元を見てみれば、フォウ君が私を見上げていた。

 

「ふむ、フォウ君……キャスパリーグ君……――――……」

 

 最後の言葉に、彼は勢い良く後退し距離を取った。

 

「すまない、それ程警戒されるとは思わなくてな。どうにも私の出自は特殊であり、君の境遇は少なからず見えていたのだよ」

 

 勿論原作知識というやつであるのだが。

 

「飼い主は腐れ宮廷魔術師と名高い……のか? その宮廷魔術師。そして君は何がしか言葉をかけられつつ――捨てられた。違うかい」

 

 私の問いに対して彼は目を見開いていた。

 

「ふむ、それが答えか。どうやら私が見たモノは当たらずと(いえど)も遠からずといったところかね。何、私は君と敵対する気は無いし、君の事を誰かに伝えるということもしないさ」

 

 首をかしげる彼は、謎の生物ながらも可愛らしいものだ。

 

「要するに、君の境遇に同情しているとでも思ってもらって構わない。まぁ知っていることは凡そその程度であって、君が他にどんなものを見てきたのかとか、君の好きな食べ物はとか、そういったことは知りえていないのさ」

 

 離れた距離が最初の位置まで戻る。

 

「しかしあれだな。私も彼には酷い目に合わせられたから、君の気持ちは十分とは言えないが共感できるものがある」

 

 酷い目、要するに限定ガチャに登場した際に、いくら回してもヤツは私のカルデアにはやってこなかった、そういうことである。

すると彼は私に接近し、足元まで来ると『同士よ、気を落とすなよな』とでも言いたげに、そのクリっとした双眸でこちらを見ると、前足を使って私の足の甲を軽く叩いた。

音にすれば『ポンポン』だとか『テシテシ』であろうか。

 

「ははは、君とは仲良くなれそうだ。同士と呼びたいところであるが、人前ではフォウ君と呼ばせてもらおう。それで良いかな? 同士よ」

 

「フォウ! キューン」

 

「ありがとう同士よ、では同士となった祝いに何かしないかい? そういえば、君は一体何が好きなのかね? 肉、魚、野菜……そうだ、食堂へ行こう。親睦を兼ねて食事でもしようじゃないか」

 

「フォウ! フォウ!」

 

 彼は同意を示すかのように鳴き、その尾を振った。

 

「ああ、そういえばだ。この先ヤツに言われた何かが知りたいのであれば、マスターとマシュさんを見ているといい。きっと君も何かを得ることができる筈さ」

 

 その言葉に彼は首を傾げたものの、心得たとばかりに頷いた。

 

「では行こうか」

 

 

 そして私達は食堂へと向かった。

 

「おお、フォウ君今日はこれを調理しろと言うのか……うーむ、私には難しいな。せめて料理の得意な英霊がいてくれればいいのだが……」

 

「キューン……」

 

 またか、と言わんばかりに残念そうな声を上げる彼。

そう、またなのである。

生憎私は料理が出来ないのだ。

憑依前は出来合いの物を購入していたし、憑依後の生前はそもそも調理するという文化すらなかったのだから。

せいぜいやったことと言えば、肉を焼くくらいのことしかしなかったのである。

今生き延びたスタッフは仕事に追われている時期である。

だから調理専門のスタッフもいないので、用意するなら自分で用意するしかないのだ。

 

「すまない……すまない……今日もこの文明の利器で肉を焼くことくらいしか出来ずに、本当にすまない……」

 

 キャラ被りはNGであるが、すまない彼はまだこのカルデアに来ていないのでセーフだと思いたい。

結局、このようなやり取りを繰り返しては一緒に食事を楽しむのであった。

 

 

2.救うのが先か、導くのが先か

 

 今日も今日とて、まっさらな白紙を睨むだけで時間が過ぎていく。

マシュは目覚めたようだが、マスターは未だ目を覚まさない。

初めての経験と初めての魔術回路酷使による影響だと思われる。

未だ所長を英雄に仕立て上げるための物語が書けないでいるまま、時間ばかりが過ぎていく。

そこへ唐突な閃きが頭を巡る。

 

「導くのが所長……救うのが立香(マスター)……導いた者がたまたま全てを救う英雄になったのではなく、何れ全てを救う英雄を導いたが故に英雄となる……」

 

 書き殴る。

卑屈で小心者、どこか他力本願で敵になる人物に依存してしまった可哀想な一人の少女。

そんな少女が虚勢を張ってでもやり遂げて見せると進んだ道、そんな少女が進む道は茨の道だった。

誰からも愛されず、褒められることも、認められることもなく魔術師として生きてきた少女。

そんな中で、頭首である父が急死し父の運営していた組織を引き継ぐこととなる。

組織のプロジェクトで結果を出すために四苦八苦するも、結果は出ずに上層部やスポンサーから苦言を呈される始末であった。

そんな組織の中へやってきた何も知らない未熟者が入ってくる。

その姿に憤慨するも、現場に出て見ればその未熟者しか居らず、それを使うしかなかった。

やってきた未熟者は、何れ全てを救う者であった。

そんな人物を彼女はを導いたのである。

そして、その中で未熟者だった者を認め、謝罪した。

彼女は人として一つ大きくなったのだ。

しかし、彼女の進んだ道は茨の道、依存した……してしまったが故に、依存していた敵に死を与えられ、世界から消える。

彼女の生は短いものであった。

だが、彼女の残したものは大きかったのだ。

何故なら彼女は全てを救う者に道を示したのだから。

未熟者だった、全てを救う者の進む道は茨の道になるだろう――険しい道になるだろう。

だがしかし、彼女が道を示さねば、未熟者は未熟者のままであったかもしれない。

彼女が導かなければ、全てを救うための道へ辿りつけなかったかもしれない。

だから私は称えよう。

彼女の行いを。

そう彼女は言うなれば『導きの英雄』、世界を救うであろう『絆の英雄』に道を示した偉大な人物なのである。

 

 端的に書き記せばこのような感じだろうか。

そこから更に肉をつけ、読めるものへと改善していく。

タイトルは非常に安直『導きの英雄』だ。

これは、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアの物語である。

 

「ふむ、初めてのオリジナル作品か。しかし、この物語で大丈夫であろうか」

 

 初めて自分自身が生み出した作品に自信が持てずにいる。

だが、折角書き上げた物語なのだから、この物語を触媒にして召喚を行おう。

成功して欲しいとは思うが、可能性は限りなく低いと考える。

何せ、私が模倣もせずに書いた物語であるのだから。

やってみるまでは結果などわかりはしない。

 

3.疑問の1つ

 

 同士フォウ君と共に食堂で食事をしていると、稀に生き延びたスタッフが食事休憩にやってくることがある。

そんなときに大体せがまれるのは、私が書いた物語を聞かせて欲しいということだ。

『土くれで出来た管を造り、配し、直すことを生業とした男が、巨大な亀の化け物に攫われた姫を助け出す話』

『いくつもの世界線の中で、名に宿命を背負わされた男と名に呪われた美しい姫を救う話』

は特に有名らしく、日本と言う国でゲーム化されワールドワイドな人気の物語であるという。

ああ、知っている、知っているとも。

何せ平行世界なれど、憑依前の私が暮らした国こそ日本なのだから。

しかし、そうなると疑問になるのが、私の存在によりこの世界線の日本で『マ○オやゼ○ダの伝説が生まれたのかどうか』という謎である。

憑依前の日本にあった企業が、この世界線でも存在している。

だが、私が物語を書いてしまったが故に、彼の大企業は私の記したマークをつけて販売しなくてはならない状態に陥った。

では、私がもし、物語を書かなかった場合、彼の大企業は大ヒットかつワールドワイドな作品となるそれらのゲームをこの世界線では生み出していたのであろうか。

全く持って疑問である。

私という存在が、この世界線にあり、物語を書いてしまったという事実がある以上、解消されない疑問の一つである。

 

4.文明的な服

 

 同士フォウ君との食事会を終え部屋に戻ってから気付いたことがある。

私の着ている服、前時代的というか太古過ぎるのでは? ということだ。

何せ皮を巻いただけで下着などないから、()()とは言わないがぶらんぶらんであるし、特異点Fでの戦いでは外套を纏っていたからソレが見えなかっただけであって。

つまり何が言いたいかといえば、服が欲しいのである。

折角文明的な時代にたどり着いたのだから、私は服が着たい。

下着を穿きたい。

風呂にも入りたいぞ。

と言うことである。

取り合えず、部屋に設置されている個人用のシャワーを浴び、部屋へ戻ってタオルでワシャワシャと体を拭いていると、突然部屋のドアが開いた。

 

「やあ、ボン君調子はどう……」

 

 ロマンである。彼は部屋主の許可なく、部屋に踏み入った挙句、私の何かを見てしまった。

 

「……せめて部屋主の返答を待ってから、入ってきてくれ給え。太古の時代ではなく、今は既に文明的な時代なのであろう? まぁ丁度いい、私に下着と文明的な衣服を用意してはくれまいか」

 

「ああ! ごめん、すぐに用意してくるよ」

 

 そしてロマンは脱兎の如く部屋から飛び出していった。

廊下に誰もいなかったからいいものを、私はまだ全裸であったのだ、焦らず注意して部屋を出て欲しかった。

体を拭ったものの、また皮を巻く気にもなれずに、下半身にタオルを巻いたまま部屋で待つこと数十分、今度はちゃんと確認を取ってからロマンは部屋に入ってきた。

ダ・ヴィンチちゃんを伴ってだが。

 

「お邪魔するよ、ボン君……おっと、いい肉体をしているじゃないか。それでクラスはキャスターかい? クラス詐欺もいいところさ」

 

「あはは……それはそうと、服を何種類か持ってきたよ。この中から選んでくれないかな」

 

 持ってきた服は、カルデアの制服に戦闘服、魔術師教会等の制服や水着にどこかの学校の学生服などの魔術礼装であった。

水着と学生服は論外、戦闘服もぴっちりとして嫌な感じがしそうである。

その他の制服も、丸太を振るうなどすれば邪魔になりそうな作りであまりよろしくはない。

 

「刻まれた知識には、ジャージという服があるということなのだが、そういったモノは無いのか?」

 

「え? 戦闘時はその皮を巻いていくんじゃないのかい」

 

「そんなわけなかろう。服という文明的なものがあると言うのに、それを着用しないのは過去に生きた人間としては勿体無く思うしな。それにこの皮もありきたりな獣の皮だ。何より着心地は今の時代の服に比べれば相当に悪いだろう」

 

「ほほう、ではその皮は必要ないということかな」

 

「ああ、この外套も含めて不要になるな」

 

「勿体無い、勿体無いぞボン君。それならこれを使ってこの私、万能の天才であるレオナルド・ダ・ヴィンチが新たに究極の服を仕立てて見せよう。何分()()()()()()、時間はかかると思うがよろしいかな」

 

「ああ、いいぞ。君に任せよう、ダ・ヴィンチちゃん。期待している」

 

「ではでは、私は今からコイツを服に仕立てる仕事が出来たのでこれで」

 

 そしてダ・ヴィンチちゃんは皮を嬉しそうに取り上げると、スキップでもせんばかりの鼻歌を歌いながら部屋を出た。

 

「そういうことに、なったんだね」

 

「ああ、なったな。と言うことでだ、彼? 彼女? ……ダ・ヴィンチちゃんが仕立てるまでの間に着るジャージを所望する」

 

「アハハ、了解だよボン君」

 

 そういうことになったのである。




 次回も幕間予定です。どの英霊を召喚させようかと思い悩む今日この頃です。
誤字脱字、変換ミスや矛盾等見かけた際は是非お教えください。サイレント修正します。自分でも読み直しているのですが、何度か読み直してようやく文章がおかしいことに気付くことが多すぎます。助けてください


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幕間2.そして彼女が目覚める時

 表側の他作者様の作品感想欄をみて戦々恐々とする作者です。チラ裏でよかったーと思いつつ続きを投稿。しかしまぁ、チラ裏でまで酷評されたら心が死ぬ自信が作者にはありますね。
 お気に入り登録、ありがとうございます。夢の三桁が見えて嬉しい限りです。
 今回もノリと勢い、ガバガバな設定でお送りしておりますので、見るに耐えないのであればそっ閉じしていただけますように。


1.彼女が見た夢、その記憶は無く

 

 夜の薄暗い部屋の中で眠る女性と小さな男の子が見える。

小さな男の子は突然目を見開き、まるで飛び跳ねるかの如く勢い良く起き上がったのだが、自らの手のひらをじっと見つめてから何事もなかったかのように再度眠りについた。

 

『母よ、木の実は集め終わった。何をすればいい』

 

 小さな男の子らしいとは言えない発言をする、どことなくボンに似た彼は仕事が早かった。

その日の仕事を終えれば、彼は魔術の練習を始める。

風、火、水、土……様々な属性の球を作っては消して、時折飛ばしてみたり、自分の周囲を回してみたりしている。

まるで魔法を使っているように見えてしまう。

 

『あ^~~~魔術が使えるとか、浪漫に溢れるんじゃ~~~~』

 

 彼は興奮すると、時折人が激変したかのような言葉を吐くことがある。

それは、私が友人達と話していた時の様な現代的な発言――インターネットスラングのようであった。

だが、そういったことがあるだけで、日常を見ればその集落において彼は平凡な人間であった。

と思ったのだが、彼は急に本を、物語を書き出した。

 

『暇すぎるので、本を書くことにしよう! まずはマ○オとゼ○ダの伝説だな。他にもゲームのシナリオは十分にある。昔話なんかもいいかもしれんぞ、楽しくなってきた! ……独り言ばっかりになって辛い』

 

 それは、私が良く知っている現代で発売されているゲームのお話であった。

聞いたことがあるような昔話であった。

 

 景色が変わる。

ボンに似た男の子は成長して、よりボンに似るようになっていた。

研鑽した魔術により、住処の周辺に魔法の罠を張る様になり、踏めば穴が開き外敵が落下するようなもの、踏めば火が吹き上がり踏んだものを消し炭にするようなものだったりした。

落とし穴タイプに稀にかかった獣は大き目の石を投げつけて物理的に殺していた。

そして肉と皮が取れるようになり、彼は集落で一目置かれるようになる。

皮をなめして、胸と腰に巻くようになり、木の実ばかりだった食事に肉が加わった。

罠にかかった獣の肉だけじゃ物足りなくなったのか、彼は余った皮で投石皮を作り狩りを始める。

 

『人類初めての投石機! なんちゃってな……しかし、当たらん。もう遠心力を用いた鈍器として扱った方がいいんじゃ』

 

 狩りで鈍器として使い始めたが、効率は上がらず中々獲物を獲ることができないまま日々が過ぎる。

 

『埒が明かん、いっそのことそこらへんの木を切り倒して丸太の槍にしてしまえ……皆、丸太は持ったな!? ってな』

 

 そして彼は大木を切り倒して、丸太の槍を作った。

その槍は、どこかで見たことのある槍だった。

そう、それはボンが持っていた丸太の槍。

槍を作ったことにより、狩りの成果は日に日に増えていく。

食事に肉が増えたことは言うまでもない。

 

 時は加速する。

よりボンに似た彼は成長し、その姿は完全にボンになった。

今の場面はどうやら、お嫁さんを貰うところらしい。

 

()()含めて、初の嫁さんゲット! ありがとう、ありがとう……はぁ、嫁さん可愛くてよかった』

 

 前とは一体なんなのだろうか。

疑問に思いつつも、光景は止まらない。

そして彼に子供が出来て、お嫁さんと一緒に育てる。

日々の生活にやることが増えただけで、生活の流れは変わらなかった。

彼のお嫁さんが先に亡くなっても、彼は出来ることを続けていく。

狩りができなくなって、罠も張れなくなった。

それでも物語を書くことはやめなかった。

 

『衰えが早すぎる……もう手慰みに物語を書くことくらいしかできないな。結局書き綴ったのは模倣というよりも盗作なんだろうが、魔術が使えたということは、恐らくこの世界は()()()だったのであろう。問題は無い筈だ』

 

 そして彼は住処で一番長く生きて、皆に囲まれて逝った。

 

 模倣、盗作……?

それよりも、()()()とはいったいどういうことなのだろう。

もしかして、彼は私と……そう思える節はいくらか散見されている。

それでも、わからないことだらけのまま彼の生の終わりを見た。

 

 そして場所が変わる。

何も無い白の空間、そこにただ立っているボン。

 

『おや、そこに居るのは立香(マスター)か』

 

 突然、夢の中のボンに話しかけられて私は困惑する。

いや、早い段階だけど()()()()()()ではない。

 

『突然このような夢を見せられて混乱しているのであろう? 英霊(サーヴァント)とパスが繋がり絆が深まれば、今後他の英霊達と契約を結んだ後にも似たような事が起こる可能性はあるだろう』

 

――どうしてそんなことがわかるの

 

『ただの推論――いや()()さ。現に今このようなことが起こっているのだから』

 

――ねぇ、ボン。もしかして貴方、私と……

 

『さてな……おっと、立香(マスター)。長い眠りからお目覚めの時間みたいだ。この夢のことを君は覚えてないであろうし、私も覚えていないだろう。何せ夢の中の話だからな』

 

――そんな

 

『何、いずれ現実でわかる日が来る筈さ。私は預言者(キャスター)だからな』

 

 そして私はマイルームで目を覚ました。

 

 

 

2.彼女が目覚めたその後で

 

 目覚めたマスターが管制室へやってきた。

時折、彼女の眠る部屋へと足を運び様子をうかがっていたが、だいぶ顔色が良くなっている。

 

「おはよう、マシュ、ボン、それからロマン。助けてくれてありがとう」

 

「いえ、私も先輩のおかげで意識を保っていられたから」

 

「おはよう、藤丸立香君。そしてミッション達成、お疲れ様」

 

 そしてロマンが私たちにした説明をマスターにし始める。

外部の状態、確定した焼却される未来を変える方法――人類史におけるターニングポイントであろう時代の狂い、その狂いを正す。

例えば

『もしこの戦争が終わらなくなってしまったら』

『もしこの航海が成功しなかったら』

『もしこの国が独立できなかったら』

『もしこの発明が間違っていたとしたら』

それは人類史における土台、それが崩されるとは人類史が崩れることに等しく、7つあると判った特異点はまさに土台の部分に当たるのだ。

確定された未来がある、そこへ未だ辿り着いていないのが私たちであり、その土台を修復できるのは私たちしかいない。

 

「結論、この7つの特異点を正しいカタチにすること、それが人類を救う唯一の手段。そしてそれを行えるであろうマスター適正者は立香君、君1人だ。それに」

 

 マスターはロマンの言葉を遮るように話す。

 

「大丈夫だよ、ロマン。私は曲がりなりにも英霊(サーヴァント)のマスター。戦うよ、人類を、父さんや母さん、友達に……みんなを救ってみせる」

 

「そっか、立香君は強いんだね。ありがとう、ならばボクたちの運命は決定した。それはカルデアの前所長オルガマリー・アムニスフィアが予定した通りに人理継続の尊命を全う」

 

「目的は人類史の保護と奪還、探索対象は各年代に発生した歪み、原因であると仮定される聖遺物・聖杯か」

 

「そうだねボン君。そしてそれは過去へ弓を引くこと、過去への挑戦。ボクたちが生き延びるにはそれしか、未来を取り戻す方法はこれしかないんだ……」

 

「結末なんてわからないけど、それでもやるしかないんだよねロマン」

 

「うん。これらの決意をもって、作戦名は改められる、カルデア最後にして原初の使命――人理守護指定・G.O(グランドオーダー)

 

「ここから、私たちが未来を取り戻す旅路が始まるんだね。頼りにするからね、マシュ、ボン。もちろんロマンや他のスタッフさんも、だけど」

 

「ええ、お任せください先輩」

 

「微力ながら、私も手伝おう」

 

 今ここで、序章を終えた。

次に出会うのは一体なんなのであろうか。

未来は誰にもわからない、そうあるべきなのだ。

 

 

 

3.立香の英霊召喚

 

「さーて、戦力増強、即戦力の確保! 英霊召喚の時間だよ」

 

「いえーい!」

 

「い、いえーい……」

 

 テンションの高いダ・ヴィンチちゃんとマスターに合わせるマシュの姿は可愛いものである。

意思表明をした後、管制室へと現れたのはダ・ヴィンチちゃんであった。

皆との顔合わせは済んでいるようなので、この先サーヴァントが2人だけでは戦力的にも厳しかろうという話になり、英霊召喚を行う運びとなった。

 

「今のカルデアは電力不足でね、本来ならこの英霊召喚システム・フェイトに使用する際の触媒は聖晶石3つなんだけど、しばらくは4つ必要になってしまうみたいだ」

 

 どうやらガチャは初期の修羅時代らしい。

 

「取り合えず、特異点Fの冬木でこれくらい拾ったけど……ちょうど12個ある!」

 

「それからそれからー、ダ・ヴィンチちゃんお手製の呼符を今ならなんと2枚だけお付けしちゃいまーす!」

 

「おお、太っ腹」

 

「んっんー、この美しいくびれを見て何が太っ腹かな。そこはこれ以上言及しないとして、立香君、この金の呼符でまずはドーンと召喚してみようじゃないか。英霊が召喚に応じるか、概念礼装が出現するか。見ものだね」

 

「それってただのガチャ……まぁ、やってみるよ」

 

 それ以上いけない、とツッコミを入れたいところであるが、召喚が始まるので大人しくしていよう。

結果は宝石剣ゼルレッチと虚数魔術の概念礼装であった。

悪くはない引きではあるものの、今は英霊という戦力が欲しいのであってお呼びではないのである。

 

「あらら、残念。それじゃあ今度は聖晶石を使ってみようか」

 

「はーい」

 

 4つの石は光となって回転を始める。

その光は金色に輝き、3本の輪となって広がった後、収束する。

収束した光から生み出されたカードは金色の騎士が描かれたカードであった。

 

「高い魔力反応だ! これは高位の英霊が……」

 

 だが、突如として更に魔力が高まり、風が吹き荒れる。

金の騎士のカードに紫電が走り、カードが再構築されていく。

 

「え……」

 

 戸惑い、ただ一言がマスターから発せられる。

かく言う私も口に出かけたが、何とか踏みとどまることが出来た。

ゲームではなかった反応、一体何が起きるのだろうか。

そして再構築されたカードの柄は金の()()のカードとなった。

 

「割り込みだ! 呼応した召喚への割り込み、更に高位の英霊が来る!!」

 

 金の騎兵のカードが破れるように消え、光を発する。

光の中から出てきたのは冬木の大聖杯前で見た彼女であった。

 

「サーヴァント、ライダー。アルトリア・ペンドラゴン。問おう、貴様が私のマスターか」

 

 マスターに視線を向け確認を取るオルタ。

 

「うん、そう、だけど。もしかして、冬木のアーサー王……」

 

「うむ、そうである。そして、そこの男、そうだ、そこのお前、貴殿が私のご主人様だ。私が来たからには理想の生活を送ってもらおう。掃除、洗濯は徹底的に、りょ、料理は……出来る範囲で、だ」

 

 そして彼女(オルタ)は私をご主人様と呼んだ。

訳がわからない、一体どういうことなのであろう。

 

「ご主人様はあの特異点で、私にこう言ったではないか。『やはり彼女は美しい。好ましい。青よりも黒』とな。あれは私の胸を打ったぞ、だから……こうして馳せ参じた」

 

「そうか、騎士王、例えその反転であったとしても、貴女が戦力に加わってくれるのであれば大変心強い。私が言うのも難ではあるが、歓迎させてもらおう」

 

 少し気恥ずかしくあるが、嬉しい限りである。

 

「うん、歓迎するよ……えーっと、ライダーのことは何て呼べばいいかな」

 

「ふむ、ここには反転していない私は居ない様だが、これから来る可能性も有るだろう。オルタ、そう呼ぶが良い」

 

「わかった、歓迎するよオルタ」

 

「よろしくお願いします、オルタさん」

 

「ご主人様はメイドと呼ぶように。ご主人様がそう呼べば、私はすぐさま駆けつけよう。流石にマスターの次に、ではあるが」

 

 やはり青より黒。

色も好みであるが、茶目っ気がある黒の方が好ましい。

 

「ところでご主人様の真名は何と? マスターからは『ボン』と呼ばれていたようであるが、その姿からはどのような英霊で、真名は何であるか皆目検討もつかない」

 

「ボンは、ボンだよ」

 

「ええ、ボンさんはボンさんです」

 

「は?」

 

「いや、メイド……メイドオルタと呼ばせて貰おう。私の真名はボンだ。生前の私には名前など無かったのであるが……どうやら座に登録された時にボンという真名にされてしまったようだ」

 

「な、なるほど。しかし、真名を聞いてもどういった英雄なのかわからないとはな。ご主人様はどういった偉業を成したのだ」

 

「ボンさんの持つ本を見てください、このサイン、最古の作家と呼ばれている方です」

 

「おお、ではもしや『黄金の鉄の塊で出来た騎士が皮装備の一般兵に遅れを取るはずが無い話』もご主人様が書かれたのか」

 

「ああ、そうだ。冬木でセイバーであった君を倒した時に彼は私の呼びかけに応えて出てきてくれたな」

 

「なんだと、ご主人様それなら今度……」

 

 どんどんと話題が変わっていく中で、今はまだ召喚の最中であったことを思い出す。

ふと、ダ・ヴィンチちゃんやロマンの方に目を向ければ、2人はニヤニヤと笑っていた。

話を切り上げて続きを促すことにする。

 

「ああ、そうだったな……メイドオルタ、今度見せると約束しよう。それよりも残りの召喚はしなくていいのかね立香(マスター)

 

「あ、そうだった。戦力増強しないとね、こう、ガチャっと」

 

「む……そうか、今は次のオーダーに向けた召喚中であったか。すまないマスター、邪魔をした」

 

「大丈夫、大丈夫。ダ・ヴィンチちゃんやロマンが止めなかったし、兎に角次だよ。えーい」

 

 そして光は3本の輪となり、収束した光の中から魔術師の描かれた銀のカードが出現した。

 

「サーヴァントキャスター。クー・フーリンだ。来てやったぜ嬢ちゃん……しかし、また槍じゃねーのか。今度は槍の方で喚んでくれって言っただろーに」

 

「ふっ、無様だなランサー……いや、今はキャスターか」

 

「ん? なんだセイバーか……いや、違うな。それよりもお前さん、その格好は何なんだよ」

 

「メイドだ。ご主人様に忠実なメイド、理想的な生活を届ける敏腕メイドだ」

 

「ハハハ、いいじゃねーか。反転前(あっち)よりオルタ(そっち)の方がおもしれえ」

 

「ふ、(アレ)と一緒にはしないで貰いたい」

 

「ま、兎に角よろしく頼むぜ、マスターさん達よ」

 

「またクー・フーリンさんと共に戦えること、心強く思います。よろしくお願いします」

 

「よろしくね、キャスター。それじゃ、あと一回っと」

 

 そして最後に現れたのは概念礼装・月霊髄液であった。

 

「うーむ、立香君の運はいいのやら悪いのやら……兎に角何とか戦力は揃ったみたいだし、オルタ君やクー・フーリン君にカルデアの施設を案内しようかな」

 

「そうだね、それじゃ行こう」

 

「おっと、すまない立香(マスター)。私はまだ確かめたいことがあるのでな、ここに残らせて貰う」

 

「む、ご主人様は行かないのか」

 

「何、直ぐに合流するさ」

 

 そしてダ・ヴィンチちゃんは立香(マスター)やマシュ、新たに召喚された2人を伴って部屋を出て行った。

しかし、何故彼女(オルタ)が召喚されたのであろうか。

ゲーム的に言えば、彼女は人理を救済した後に起きる出来事で霊基を登録することになる姿の筈だが……待てよ、宝石剣ゼルレッチ……平行世界の運営……うっ……頭が――私の脳の処理能力を超えそうである。

戦力が増えたことを喜ぶこととしよう。

それに私がやるべきことはまだあるのだから。

 

 

 

4.英霊召喚、その後に

 

「少し試したいことがあるんだ、私にもこの英霊召喚システムを貸してはくれないか」

 

 マスターの召喚が終わり、彼女(オルタ)らが出払った後に私はロマンにそう切り出した。

 

「勝手に使われるのは困るけど、まぁ今ならいいか。それで何をするんだい」

 

「ああ、触媒を使った召喚を試みようと思うのだが、問題はないかね」

 

「うん? 触媒かい? まるで冬木の聖杯戦争の召喚のようだね」

 

「そうなるな。私も聖晶石は数個程得ていたのでな。これを使わせて貰いたい」

 

「うーん……できれば立香君の戦力強化に使って欲しいところなんだけど」

 

「本来ならばそれが最優先なのだろが、高位の英霊を召喚したばかりであろう。カルデアの電力は持つのか」

 

「それを言われたら痛いところだね」

 

「何、成功するかは全く持って不明だ――そんなことを言うならばやらないで欲しいと言いたいように見えるが、後生だ」

 

「はぁ……わかったよ。特別に、今回だけだからね」

 

「ああ、恩に着るよロマン」

 

 私は『導きの英雄』をサークルの中心に置き、その上に聖晶石を4つ置いた。

そして私は冬木式召喚の詠唱をする。

集まった光は触媒を中心に回転し、広がった輪は3本になる。

それは英霊召喚の合図であったのだが、収束した光の中からは英霊を示すカードも、概念礼装を示すカードも現れずに、触媒である本に纏わりついた後、ただ弾けて消えた。

 

「失敗……か」

 

「うーん、勿体無い。流石に次以降は認められないから、覚えておいてねボン」

 

「ああ、承知している……」

 

 やはり、私の書いた拙い物語では無理なのであろうか。

彼女を――所長を英雄に仕立て上げるということは。

失意のままに、触媒とした『導きの英雄』を手に取り、ロマンと共に部屋を後にする。

しかし、手にした『導きの英雄』には魔力が宿った。

まるで何かを待つように、誰に気付かれることなく今は眠る。




 尚、我がカルデアにメイドはいない模様。キャットならいるワン。
何でメイド出したんや!
いないからSSの中くらいならいいじゃないか……という願望。
設定ガバガバすぎて叩かれそうで怖い。
 今回も最後まで読んでいただき幸いです。
誤字脱字、変換ミスや矛盾、改善点がわかるアドバイスは大歓迎です。


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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
1.修復開始、その一歩


 地味に体調不良かつ、案の定特異点Fで燃え尽きた感があるので更新が遅くなります。亀更新とは一体なんだったのだろうか。

 評価ありがとうございます。今のところ目標以上に評価されて嬉しい限りです。お気に入りが3桁になる前にゲージが染まって土曜の朝から笑わせていただきました。ありがとうございました。

 お気に入りも3桁突入し、感想もいただき本当にありがとうございます。

 尚、いつも通りノリと勢いとでアレしていますので、アレな感じの方はそっと閉じて心の安寧を保っていただけますように


 第一特異点に向かうにあたって、ブリーフィングが行われることとなったのだが、肝心のマスターがやってこない。

 

「ふむ、立香(マスター)がまだ来ないか。メイドオルタ、貴女が起こしに行かなくてもいいのか」

 

「ああ、マスターには後輩という名の従者(マシュ)がいるからな。恐らく彼女が起こしに向かっているであろう」

 

「ふぁー……まだまだ眠り足りねえな。なあ、説明を聞くのは任せるから、もう一眠り」

 

「このメイドがいる以上、そのようなことはさせん。そう言った筈だ」

 

「おお、怖い怖い」

 

「君たち、大分仲が良さそうだね。まだ召喚されてから殆ど日も経っていないのに」

 

 新たに召喚されたサーヴァントといっても、一度は顔を合わせているおかげか、それなりに良い関係を築くことが出来ている。

 

「しかし、遅いな。これから特異点の修復に向かうのだ、体調は万全で臨まなくてはならない。よく眠れているのなら問題は無いのだが」

 

 扉の開く音と共にマスターとマシュが管制室へやってきた。

 

「遅れてごめん、みんな……ふぁーあ」

 

「遅くなりました皆さん」

 

 どうにも眠そうであるが、マスターはあの夢――これから行くであろう、第一特異点に居る裁定者(できそこない)のジャンヌ・ダルク・オルタが英霊(どうし)を召喚し、某神父を殺害したもの――は見たのであろうか。

 

「おはよう、立香君、マシュ。みんな揃ったみたいだから、第一特異点に向けてさあ、出発! と行きたいところだけど、最初の最初だからね。まずはやることの確認だ」

 

 それはもちろん特異点の修正である。

時代を正しく進めるために、改変されてしまった事柄を調査及び解明し、修正することが第一。

第二に『聖杯』の調査。

膨大な魔力を宿した願望器であるそれを回収または破壊することが目的となる。

 

「おおよそこんな感じかな」

 

「うん、わかったよロマン。あと、やることがあるとすれば、現地でベースキャンプを作ればいい……のかな? 冬木でやったみたいに」

 

「立香君、よくわかったね。それもお願いするよ、やっぱりそうしてもらえないと補給物資等が送り難くなってしまうからね」

 

「そういえば、ダ・ヴィンチちゃんはこっちは手伝ってくれないのかな」

 

「うーん、そうしてもいいんだろうけど、こっちもまだゴタゴタしてるからね。体がもう一つあれば、そちらに付いていくことも出来ただろうけど、今はこちら側の修繕が最優先かな? だから現場は君たちに任せるよ」

 

「そうだね、じゃあ現場は私たちで頑張るから、カルデアはロマンとダ・ヴィンチちゃんに任せるね。もちろん、スタッフの皆さんもよろしくお願いします」

 

「よし、それじゃあレイシフトを開始しよう。立香君用のコフィンも用意したから、これを使って欲しい」

 

 そういえば、我々サーヴァントはどのようにレイシフトするのであろうか。

 

「マシュやサーヴァントのみんなも他の空いているコフィンに入って」

 

「わかりました」

 

 成る程、そうなっていたか。

私はコフィンに入る。

機械音声が再生され、レイシフトが開始された。

 

 

 無事に転移が完了し、私たちは緑茂る平原に立っていた。

皆の無事と、同士ことフォウ君のレイシフトや現在地の年代を確認し、やるべきことを始めようとした矢先に空を見上げたマスターが何かに気づく。

 

「ねぇ、アレって何なんだろう」

 

 それは光の輪であった。

カルデアと通信が繋がり、映像を解析してもらえば、それが魔術式であり、おかしな大きさであることが判明する。

だが、この時代に来たばかりでやることは山積みである。

一つ一つ消化していかなければなるまい。

 

「まずは街へと向かうのが良いか。この時代の人間と接触せねばなるまい」

 

「うん、ボンの言う通り、街へ向かおう」

 

 そして道なき道、ただ広大な平原を歩く。

街を目指すとは言ったものの、ただ闇雲に歩いては体力を消耗するだけである。

街道か何かを探さなくてはならないだろう。

歩き続けると、街道ではなく、街でもない、砦を発見した。

しかしと言うかやはりと言うか、外よりも中がボロボロになっており、負傷兵で溢れ返っている。

怯える兵士を宥めて話を聞けば、蘇ったジャンヌ・ダルクが『竜の魔女』となってシャルル王を殺害し、故郷であるフランスを焼いていると言った。

ジャンヌ・ダルクが魔女というのは私以外にとっては腑に落ちないものであろう筈だが、ふとマスターの方を見やれば、特段変わった様子ではなく、平常通りであった。

そして私は、敵襲を受ける未来を見る。

 

『おっと、魔力反応だ! これは……骸骨兵だね。体慣らしに思いっきりやっちゃって大丈夫みたいだよ』

 

「よし、それじゃちゃちゃっと殲滅させちゃおう。オルタが前衛、ボンとキャスニキが中衛及び遊撃、マシュは防御。じゃ、お願い」

 

「マスター……キャスニキってーのは、もしかして俺のことか」

 

「うん、キャスターのアニキって感じがするから、略してキャスニキ。ほら、クー・フーリンって呼ぶと長いし、クーとかフーリンだと何だか変な感じがするから」

 

「ま、いいか。んじゃまあ、行って来るとしますかい」

 

「我が剣の錆びにしてくれる」

 

「では、行って来る。マシュさん、立香(マスター)の守りは任せた」

 

「承りました、みなさんよろしくお願いします」

 

 敵襲は、ゲーム的にもリアル的にも過剰戦力な状態であるが故に、殲滅するのはものの数分であった。

 

「ふむ、もう終わりか。肩慣らしにもならんな」

 

「そうだな、全然歯ごたえがねえ」

 

 だが、次が来ることを私は知っている。そしてやはり見えている。

大量のワイバーンがこの砦に向かってきていることが。

こうなってしまえば、未来が見えてしまい、攻撃を予測できてしまうと言うことから、未来視ないしは千里眼を私は真名看破と同様に、スキルとして取得していると仮定せざるを得ない。

 

「油断するな、次が()()

 

『お次は生体反応だ! 大型でしかも速い』

 

「ド、ドラゴンだ……いや、あれはワイバーンだ! ワイバーンが来たぞ! 迎撃しなけりゃお陀仏だ」

 

 ここはフランスであるはずなのだが、異教徒のフランス軍一般兵が混じっているのは気のせいだろうか。

兎角、次はドラゴンことワイバーンである。

このカルデアには伝説の佐々木小次郎(ドラゴンスレイヤー)が居ないのだから、私たちで殲滅するほかない。

 

「陣形は変わらず、だけどキャスニキとボンはワイバーンの攻撃に少しは注意してね。もちろんオルタもだけど」

 

「ん? どういうこった? まあわかったぜ」

 

「ふむ、あの程度の亜竜の攻撃など受け流すことは容易なのだが、気を付けるとしよう」

 

 2人は私と違い、様々な戦闘経験があるおかげか痛みに耐性があるのは当然と言えよう。

対して私は、それ程まで痛みに耐性があるわけでもない。

恐らく未来視による攻撃予測が出来るので、避ければ良いだけなのではあるが、当たれば痛い。

メイドオルタがその手に持った水鉄砲ハンドガンと剣で立ち回り、キャスターはルーン魔術を、私は魔術と槍投げで攻撃を開始する。

 

「おい、お前ら立ち上がれよ! こんなとこでヤツらに食われたいのか? いくら大きくても生物なら俺たちにだって、きっと殺せる! 複数人で囲んで槍で突け! 正面に立つなら回避に徹しろ! 周囲に居ても尻尾に気をつけるんだ!」

 

 私たちが戦う中で先ほどの異教徒らしきフランス軍一般兵も奮闘する。

張り上げられた大声の指示はこちらにも聞こえてきたが、あの一般兵は一体何者なのであろうか。

彼らの活躍もあったが、私たちもメイドオルタを中心に戦うことでワイバーンを一掃することに成功する。

 

「終わっているようですね」

 

『微弱な反応だけど、彼女はサーヴァントみたいだ』

 

 戦闘が終了したころに、サーヴァントと化したジャンヌ・ダルクがやってきた。

だが、彼女を見た一般兵たちは彼女を『魔女』だと言って、逃げ出してしまった。

 

「…私は裁定者(ルーラー)。サーヴァントクラスはルーラー、真名をジャンヌ・ダルクと申します」

 

「ねぇ、ボン。彼女は本当にジャンヌなの」

 

 マスターの問いに、私はジャンヌを見つめる。

見えた真名は、やはりジャンヌ・ダルクであり、啓示のスキルを持ち、宝具は我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)であるとまで見えた。

ここまで詳細に見えてしまうのは、やはり彼女が本当に弱くなっているからであろう。

 

「ああ、間違い無い。ジャンヌ・ダルクだ」

 

「貴方は一体……いえ、それは置いておきましょう。死んだ筈の私が何故という疑問を持たれたと思いますが、彼らの前で話すことでもありません。お話はあちらでしましょう、付いてきて頂けますか? お願いします」

 

「行こう」

 

 マスターただ一言、即座に返答する。

まるで、こうなることが解っていたかのように。

そして私たちはジャンヌ・ダルクの後を追った。

その森の中にも襲撃に遅れたのだろうか骨とワイバーンがいたが、こちらのメンバーがメンバーであり、すぐさま殲滅した。

 

 更に進んで開けた場所、ようやくジャンヌが話し始める。

自身がルーラーであること、だがクラス特性である真名看破も神明裁決も使えず、聖杯戦争に関する知識が抜け落ちていて、ステータスも大幅に下がっていることを明かす。

更には現界したのは数時間前であり、詳細は定かでないが、この世界にもう1人ジャンヌ・ダルクがいるとのことである。

それは即ち、ジャンヌ・ダルクが反転した姿を持つ、裁定者(できそこない)のジャンヌ・ダルク・オルタの事であった。

が、それを知る私は、それを皆に語ろうとは思わなかった。

未来は確定していない、と言うのも冬木であったシャドウヘラクレスの襲撃、あの件があるからこそ迂闊なことは言えないのである。

それ以前に、冬木でランサーについてまるで予言のように原作知識を基にした発言をしたが、あれは結果として当たっていたに過ぎないのだ。

では、私が持つと仮定しているスキルである、未来視なり千里眼で未来を見通せないのかという疑問も発生するだろうが、今のところ私にはそれを意図的に使うことができないのである。

だからこそ、今はそれが見えた時にしか警告のような言葉を口にすることしかできないのである。

そういえば、私が攻撃軌道の予測や、ほんの少し先の未来や遠くも近いであろう未来を垣間見るようになったのはいつからだったか。

一番最初にはっきりと感じたのは……そうだ、シャドウヘラクレスと対峙する前だ。

何故私は未来を見るようになってしまった?

何か鍵となるものがあったのであろうか。

 

「ボーン! また思考の海にでも潜ってるの? ほら、自己紹介して」

 

「ああ、すまない。私はキャスター、真名をボンと言う。真名からはどのような英霊かわからないであろう、他称は最古の作家と呼ばれているらしい。よろしく頼む、聖女ジャンヌ」

 

 どうやら、話は自己紹介のところまで進んでいたらしく、マスターに怒られてしまった。

生前、いや憑依前からの悪い癖だ。直したいと思わないこともないのだが、どうにも直る気がしないのである。

 

「自己紹介も済んだけど、ジャンヌはこれからどうするの」

 

「私は……オルレアンに向かい都市を奪還するために、障害であるもう1人の私を排除します」

 

「そっか、じゃあ、私達が手伝うよ」

 

『竜の召喚は最上級の魔術で、これだけの数を召喚してるとなれば、現代は愚かその時代の魔術でも不可能だろうから。恐らく聖杯も関係しているだろうし、こちらの思惑とも一致するね』

 

 やはり、立香(マスター)の決断が早すぎる、そう思えてならない。

だが、特異点の修正には原因の排除がもっとも効率的であろう。

彼女の決定に従うほかない。

 

「ま、夜も更けてきたし、ここいらで野宿でもするかね。マスターもそろそろ眠った方がいいだろうしな」

 

「うむ、私も賛成する。出発は明日の早朝が良いだろう。メイドとしてはマスターの体調管理も徹底したい。そろそろ眠るべきだ」

 

「ならば、私が火を熾そう。陣地の構築も任せ給え」

 

「ありがとうみんな。じゃあ、少し眠らせてもらうね」

 

 マスターはそう言うと、すやすやと寝息を立て始めた。

鋼を通り越して覚悟が完了したかのようなメンタルを持っているように感じる。

 

「付き合いは短いが、コイツはすげえな。肝の据わり方が半端じゃねえ」

 

「うむ、敵を前にしても恐れずに即座に指示を出す。判断力も高いな」

 

「これでカルデアに来るまでは魔術の魔の字も知らぬ一般人だったそうだ」

 

「マジか! こりゃすげーヤツを掘り当てたんだな」

 

「魔力も順調に成長しているようだ。その辺りは期待できるな」

 

 カルデアのサーヴァントである私たち3騎が話している間に、マシュとジャンヌの会話も進んでいるようだ。

そのまま私達は、明日に備え、火の近くで夜を明かした。




 FGOにわか勢の提供でお送りしております。設定自信ニキに叩かれるまで頑張ります(白目
 尚、ジャンヌ・オルタの裁定者のルビができそこないなのは、作者としては復讐者のクラスこそが彼女に相応しいと考えているため、このようなルビとなっています。
ジャンヌよりもオルタが好きだっていうことです(謎
 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、変換ミスや矛盾、改善点がわかるアドバイスは大歓迎です。


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2.相対、慢心、告白

 難産でした。
初期構成という名の思いつきではヴラド3世をEXTRAの方にしようと思ったのですが、wiki読んでたら、バーサークがバーサークして、バーサークアーチャーなアタランテさんと似たような鯖が増えるだけやんけと断念。
それじゃ生存者助けるか! と思ってキャラ分断させたら、マリー登場後どないしよ? となってしまい断念。
そして今回の話に纏まりました。

 プロットなんて本当に無いんです許してください。
尚いつも通り、読むに耐えないと思ったのであればそっと閉じていただけますよう。


「んあー……おはよー……」

 

 夜明けと共にマスターは目覚めるが、やはり慣れない野宿であったせいか十全には眠れていないようであった。

それでも、昨晩から今にかけてまで、一切目を覚まさなかったあたり、かなりの胆力と言うか、図太さを持っているように思える。

 

「おはようございます、先輩。こちらの水で顔を洗って朝食を摂ってから出発しましょう」

 

「それでいいと思うが、何処へ向かうか。聖女殿、行く宛てはあるかね」

 

「当然、オルレアンに向かうのですが、もう1人の私についての情報があまりにも少なすぎます。オルレアン方面の最寄の街で情報収集をしようかと。それと私のことはジャンヌとお呼びください。他の方々も」

 

 皆了承し、先ずは森を抜けてラ・シャリテに向かうこととなる。

街を目指して歩く中、ジャンヌが不安を吐露しつつも、もう1人の自分との戦いに慎重な姿勢を見せるが、遠目に街から煙が上がっていることに気づくと真っ先に街へ向かって走り出した。

 

『待ってくれ、この先の街にサーヴァントの反応だ! しかも、5騎だって!? どうする立香君』

 

「ジャンヌも助けなきゃいけないし、特異点の修正もしなきゃいけないんだから、当然行くよ。サーヴァントの数は同数だしね」

 

「なら、急ぎましょう先輩」

 

 街へと走る。

そこは火の海であった。

建物は倒壊し、人はワイバーンに食われ、死んだ人間はアンデットと化す。

地獄の体現がそこにあった。

 

『なんて(むご)い光景なんだ…』

 

「ッ!! 兎に角ジャンヌを追おう……立ちふさがる敵は倒して、助けられる生き残りがいたら助けるよ」

 

 マスターの覚悟が篭った言葉に、皆が頷きジャンヌを追いかける。

駆けた先には生存者の反応は無く、本当にただの地獄と化していた。

そしてジャンヌの背に追いついた。

その先には黒のジャンヌ、反転しそこなった(した)ジャンヌ・ダルク・オルタ――邪ンヌが他の4騎の英霊(どうし)と共に居た。

バーサークセイバー、シュヴァリエ・デオン。

バーサークライダー、聖女マルタ。

バーサークアサシン、カーミラことエリザベート=バートリー。

バーサークランサー、ヴラド三世。

 

立香(マスター)、あれらの真名は看破した。情報は必要か」

 

「勿論、お願い」

 

「中性的な剣士はシュヴァリエ・デオン、杖持ちの女性は聖女マルタ、アイアンメイデン持ちの美女はカーミラ……いや、エリザベート=バートリーか。そしてあのロマンスグレーはヴラド三世だ」

 

「じゃあ、あの黒の邪ンヌも」

 

「ああ、邪ンヌ・ダルクで間違いない。」

 

 マスターと私の黒のジャンヌに対する呼称が、一致しているような気がするが気のせいだろうか。

 

「ハァ? そこのアンタもルーラーなの!? 出来損ないの残り滓だけだと思っていたのだけど、どうやら違うみたいね。 面倒だわ、先ずはあのサーヴァントから潰しましょう。ええ、滅ぼすべき人間共を助けようとするんですもの、潰されて然るべきよね」

 

「ふむ、出来損ないか。しかしそちらの君には裁定者(ルーラー)なんぞ似合わんな、邪ンヌ・ダルクよ」

 

「んん? ちょっとアンタ、なんか私の呼称がちょっとおかしい気がするんだけど」

 

「そんなことないよ邪ンヌ! 邪ンヌは邪ンヌだよ!」

 

「サーヴァントがサーヴァントなら、マスターもマスターね!! ……まあ、いいでしょう。皆さん、彼女達を蹴散らしてしまいなさい」

 

「来ます! ジャンヌさん構えて! マスター、指示を」

 

「キャスニキはカーミラ、オルタはヴラド三世、ボンはデオン、ジャンヌはマルタ、マシュはこっちで防御!」

 

 そして戦いが始まる。

戦いに慣れているメイドオルタに対して、相手も戦い慣れをした串刺し公で攻防は一進一退。

純粋な技術と狂化による力押しのデオンに対し、攻撃の予測で回避しなんとか打ち合う私。

場慣れしたキャスターは、吸血鬼と化したカーミラを相手に圧し込んでいる。

ジャンヌは防戦一方で、マルタにどんどん圧し込まれている。

マシュをカバーに回したいところであるが、そうすればマスターがフリーとなってしまい、すぐさまやられてしまう可能性がある。

邪ンヌがフリーであるという事実が、マシュを動かすことのできない状態に押し留めているのだ。

そうでなくとも、周囲にはワイバーンがいる。

尚更、マシュはマスターを守ってもらわなくてはならないのだ。

戦場は動く。

マルタがジャンヌを圧し込みつつ、圧されているカーミラのフォローへ回り2対2の状態へ。

こちらも私が動かされ、いつの間にかメイドオルタの近くにまで追い込まれ2対2の状態になってしまう。

何とか勝つことができる、私単身でも何とかできるであろう、そう考えてしまっていた。

冬木での戦いの勝利が、私に慢心を生み出していたのであろう。

あのときの戦いは常に多対一であったというのに、対人戦の経験が少ない私が、剣士であるデオンに勝てるわけがないのだ。

そう、ただ打ち合えているだけ、時間を稼ぎ、多対一の状況を生み出すことしか、私には出来ないのだから。

その時、戦場に一輪のガラスの薔薇が突き刺さる。

 

「優雅ではありません、この街の有様、戦い、主義、思想全て!」

 

 タキシード仮面様!

ではなく、現れたのは赤の少女――ヴェルサイユの華と謳われた少女、マリー・アントワネット王妃であった。

彼女の登場により、双方の態勢が整えられ、再び相対することとなる。

 

『この反応、彼女もサーヴァントだ!』

 

「ボン、彼女は」

 

「ああ、見えた。真名はマリー・アントワネット……後のフランスの王妃だな」

 

「お兄さん、わたしの名前をよんでくれてありがとう! そして、その名前で呼ばれる限りわたしはわたしの役割を演じます」

 

「フン、貴女の真名はわかりましたが、そこの面倒なサーヴァントとそのマスターに与するのであれば、貴女も敵なのでしょう。共に捻り潰して差し上げます」

 

「戦場に語らいは不要ということですね。何はともあれ、貴女が殺めた人々への鎮魂歌を…アマデウス、出番ですわ」

 

 そして現れたヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの宝具『死神のための葬送曲(レクイエム・フォー・デス)』が炸裂し、一時撤退をすることになる。

ひたすら駆け抜ける、誰も言葉を発さずに無言となるのは当然であった。

マスターを背負いつつ、私は走り抜ける。

先ほどの相対で、相手のサーヴァントを少しでも減らしておきたい、私はそう考えていた。

そう考えていたが、力及ばず、ただただ翻弄されるだけであった。

ああ、私単体で敵1体を屠れる能力があれば……いや、それこそ慢心だ。

生前で獣を相手に1人で戦ったことはあっただろうか。

無い、全て住処の男衆と共に戦い、討ち倒した。

確かに私が討ち取る役割であったが、常に誘き寄せる役割、足を止める役割の仲間がいたからこそ、獣を狩れたのだ。

そして私はキャスターのクラスだ。

正面切っての戦闘など、普通に考えれば無意味に等しいことだ。

確かにスキルを用いて打ち合うことはできる、間を持たせることはできる。

だが、倒しきるなんて必要はない。

そもそも相手の土俵に上がること自体が間違っているのだ。

いや、この特異点にいる以上大きく言えば相手の土俵なのではあるが、その土俵の中で、私が得意とする土俵を作り上げて、そこに相手を誘えばいい。

 

 街からかなり離れた森の近く、漸く腰を落ち着けられるであろう場所にたどり着く。

するとロマンから森の中に拠点とできる霊脈の反応があるという通信が入り、そこへ向かうこととなる。

マスターを背から降ろすと、少しばかり気分が悪そうではあるものの、次の行動はどうすべきであろうか、そう考えているように見える。

そして、少しばかり落ち着いたマスターが私に声をかける。

 

「そういえばボン、もう1人合流した彼ってやっぱり」

 

「そうだな、彼もサーヴァントだ。真名はモーツァルト――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトだ」

 

『マリー・アントワネットとモーツァルトか。二人が幼少の頃にモーツァルトがマリー・アントワネットにプロポーズしたという話は有名だね。だから今は一緒に行動しているのかな』

 

「それで、ジャンヌさんと……マリーさん? それからアマデウスさん。こ」

 

「マリーさんですって!? うーん、とてもいい響き。まるで羊さんみたい! 素敵な異国の方々、わたしのこと、そう呼んでくださるかしら」

 

「ははは、こうなったマリアは僕でも止められないよ。ああ、僕のことは好きに呼んでくれて構わないよ」

 

「うん、わかったよマリーさんにモーツァルト。それで、マシュが言おうとしてたけど、この森の中に霊脈があるから、そこを拠点にしようと思うんだけど、どうかな? 一緒に来てくれる?」

 

「私は、問題ありません」

 

「ええ、ええ、わたしも大丈夫。アマデウスは」

 

「僕に聞いても無駄さ、マリア。君の好きにするといい」

 

「でしたら、向かいましょう」

 

 霊脈にたどり着くと、モンスターが群がっていた。

しかし、雑魚相手には過剰な戦力だった私たちに、追加で2騎のサーヴァントが加わったとなれば、より殲滅は容易であった。

サークルを設置し、改めて自己紹介を行う。

 

「私はボン。しがない物書きさ。真名はボン、クラスはこのような(なり)だがキャスターだ。真名だけでは私がどんな英霊かなんて想像もできないだろう。他称は最古の作家と呼ばれている者だそうだ」

 

「まぁ、お兄さんが最古の作家さんなのですね。『九人の偶像と偶像の頂点を目指す話』は何度も読みいってしまいましたわ」

 

「ああ、そういえばマリアはその話が好きだったね。僕は『軽音楽者達の日常の話』なんかがお気に入りだったかな。たまたま目に入っただけなんだけどね」

 

 まさか、と思わずにはいられないが、彼の英雄王が広めたモノだ、後世の人間の殆どが何かしら、私の書いてしまった本に目を通しているのだろう。

今後出会うサーヴァントにも、何かしら私が書いてしまった本のファンがいるのだろう。

嬉しくもあるが、恥ずかしくもあり、罪悪感も沸いてしまう。

だが、既に事は成ったのである、成るようにしか成らないだろう。

 

「拙作を読んでくれて嬉しいよ。それは兎も角、現状を説明しなければいけないな、立香(マスター)

 

「そうだね、それじゃ説明しようか。その間にオルタとキャスニキとボンは今日の野営地の作成よろしく」

 

 そしてカルデア3騎で野営地を整える。

 

「ヴラド三世、中々の武人だったな。私がセイバーであれば圧倒は可能であったようにも思えた」

 

「こっちはさっさと仕留め切れなかったのが痛かったぜ……殺人鬼として名を残した女だったか? 所詮はその程度、吸血鬼と化してたっても、生前ならそれくらいの兵はごまんと居たぜ。だから尚更な」

 

「私の方は打ち合いで手一杯だったな。そういえば、メイドオルタとの冬木での戦い、あれは手を緩めていただろう? まぁ、そのお陰で私は貴女と打ち合えて嬉しく思っていたがな」

 

「ほう、嬉しいことを言ってくれるじゃないかご主人様」

 

「お熱いな、お二人さんよ。お邪魔虫は退散といきますかね。何かしら肉でも狩ってくるぜ」

 

「ああ、頼んだキャスター」

 

「うむ、任せたぞドルイドの」

 

 そしてこの特異点で初めてメイドオルタと二人きりになるのではあるが、特段イチャイチャしたりすることも無く、黙々と野営の準備を進める。

別にイチャつく必要などないのだ、ただ二人で、近くで、何がしかをできること、それが大事なのである。

未だ戦いの中にあるが、これも一種の息抜きとなるのだ。

 

 夜は更ける、マスターの眠りの時、そして夜襲の時間。

雑魚の相手はお手のもの、マシュにマスターを起こしてもらっている間に殲滅は完了する。

カルデアの2騎、メイドオルタとキャスターのクー・フーリンは伊達ではないのだ。

起き抜けのマスターがやってきた頃に、ようやく姿を現すのは聖女マルタ、狂化され、素が出かけている、素敵な女性だ。

 

「私如きを倒せぬならば、壊れた聖女を打ち倒す事なんてできはしないわ」

 

「んあー……どちらかと言えば、自分が戦いたいだけなんじゃないのかな……ふあー」

 

「ちょ、何言ってんのアンタ……ゴホン、兎に角、私を倒すのです。躊躇無く、その刃を胸に突き立てるのです。さあ、出番よタラスク!」

 

 それは自殺行為となんら変わりはない、神風特攻のようなものだ。

陣地への単身奇襲、察知されるために(わざ)と出された音、完全にこちらの土俵に上がってきただけだ。

メイドオルタを中心に、援護に動くだけでバーサークライダーであった聖女マルタはいとも容易く沈んでしまった。

 

「ふん、やるじゃない。手なんて抜いてないわよ? ま、これで虐殺からおさらばできるわ」

 

 この状態ならば、幾ばくか話ができるであろう。

 

「バーサークライダー……いや、聖女マルタ。聖女であるならば、貴女にも裁定者(ルーラー)クラスの適正があるだろう」

 

「ええ、そうね」

 

「ならば、ルーラーの貴女が欲しい」

 

「「「『なっ?!』」」」

 

 驚き過ぎでは……ないな。

言葉選びに失敗してしまった。

まるで唐突なプロポーズのようだ。

 

「ああ、失礼、カルデアの戦力としてだ。言葉足らずですまない」

 

「何よ、突然、本当にびっくりして手が出そうになったじゃない」

 

「それが貴女の素なのだろう? 聖女マルタ。そちらの方が素敵だと思うぞ。何より好ましい」

 

「うーん? ボンって女たらしだったりするの」

 

「ご主人様、私というものがありながら……」

 

「ボンさん……」

 

 カルデアの女性陣には不興のようだ。

 

「ま、いいでしょう。世界の危機、そちらのマスターと共に救うってのも悪くなさそうだしね。マスターもアンタも面白そうだから、そうね、この手甲を持って行きなさい」

 

「ありがとう、ライダー」

 

「マルタでいいわ、未来のマスターさん。それと最後に一つ、竜の魔女が操る究極の竜種に貴方達だけでは勝てない。あの竜種を倒せるのはドラゴンスレイヤーだけ。だからリヨンへ、リヨンへ向かいなさい。それじゃ、またね。今度はタラスク共々マトモに召喚して欲しいものだわ……」

 

 そしてマルタは座に還った。

 

「とても穏やかで、激しい方でしたね。鉄の聖女、最後は拳で解決する金剛石のような方」

 

「あれは確実に説法なんかしてねえ、拳の力技でやったにちがいねえ」

 

「それは兎も角、彼女が目的地を示してくれたんだ、早速向かわないかい」

 

「ああ、そうだな、マスターどうする」

 

「しかしまだ夜中だ、早いに越したことはないが、マスターは人間だ。メイドとしては、十分に睡眠を取って翌朝早朝に出発するべきだと提言する」

 

「んー今の戦闘で目も覚めちゃったし、行こうか。リヨンへ」

 

 そして、私たちはリヨンへ歩を進める。

 

「ところで、ボン。なんでマルタが欲しいだなんて言ったの」

 

「ああ、やはりメイドオルタのように好ましいと思ったからだな。それに裁定者(ルーラー)となれば、真名看破もできるであろう。私だけでなく、彼女が真名を看破できれば、より精度は上がる」

 

「あはは、取ってつけたような言い方だね」

 

「どう取ってもらっても構わないさ」

 

 まだ、リヨンは遠い。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
クッソ寒いネタとかいろいろぶち込んですいません。
あと今回のマルタが欲しいはやりたかったことなので、出来て満足!
尚、我がカルデアにはライダーもルーラーもいない模様。

ところで、更新していない間もお気に入りが増え続けていたのですが、どのような検索でチラシ裏なこの拙作に辿り着いているのでしょうか?
私、気になります!
まあ、FGOという原作コンテンツが強すぎるだけだからでしょうががが……

お気に入り登録、評価、感想、ありがとうございます。
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3.宝具、その可能性

 プロットは無く、ストーリーを読みながら端折れる所は端折ってオリジナリティを出そうと四苦八苦するも、全然オリジナリティの欠片も出せない作者()

 今回の宝具で年齢バレするのでは? みたいなサムシングがありますし、各方面にわかな作者が書いたモノですので、ご容赦いただきたく思います。
と予防線を張る。

 いつも通りノリと勢いを調整して書いていますので、見るに耐えなくなったのであればすぐにそっと閉じて心の安寧を図ってください。
チラシ裏ですので。


 王妃とマスターの間にキマシ(タワー)が建築された又は百合の花が咲いた――ように見えた。

それを見たマシュが嫉妬したり、聖女が慌てたり等ということが発生しながらも私たちはリヨンへと向かっている。

 

「ロマン、そろそろ街が見えてきたんだけど、生体反応ってあるかな」

 

 リヨンの街も目前となり、マスターはカルデアに問い合わせるも、通信が不調なせいか反応が無い。

 

「うーん、応答なしかー……仕方ないからこのままマルタの言ってた『竜殺し』を探そうか」

 

「ふむ、サーヴァントの数も多い、ここは手を分けて行くべきか」

 

「じゃあ、わたしとアマデウスは西側から行くわ」

 

「私とマシュとジャンヌは東側だね。うーん、戦力的にボンとキャスニキが西側で、オルタが東側。振り分けはこんな感じかな」

 

「ああ、では行こうか」

 

 二手に分かれて街へと入ると、再び地獄を垣間見た。

そこはラ・シャリテ程の地獄では無い、無いのではあるが、あのような惨劇の爪痕としては十分な地獄の様相を呈している。

かつては美しい街並みであっただろうリヨンは、その面影も無く、生きる屍(リビングデッド)とワイバーンが蔓延る廃墟と化している。

そのような光景を見て、恐怖かはたまた義憤を得たのか王妃が震え、その手をモーツァルトが握る。

 

「ケッ、見慣れちゃいるが、胸糞悪いのは変わらねえな」

 

「そうだな、早くこの状況を引き起こした大本を叩かなければなるまい」

 

 リビングデッド(かれら)に安らぎを与える――鎮魂する為に叩き伏せる。

これが供養となるかはわからないが、このまま化け物として残るよりはマシだろうと、生者特有の理論で片を付ける。

そして私は未来を見る――巨大な竜(ファヴニール)の襲撃を受けるマスターたちの姿を。

()()()()展開に驚きを隠せない。

だが、こうなる可能性など十分あったのだ。

今更ストーリーから外れたことでとやかく言っても仕方が無いのだから。

迂闊だが、知識を使うしかないだろう。

 

「マリーさん、キャスター、モーツァルト、この先の城へ行ってくれ。恐らく其処に()()()()()()

 

 突然の発言に付き合いの短いモーツァルトがくってかかる。

 

「はい? 何を根拠にそんな事を言って」

 

「いや、兄ちゃんの虫の知らせっぽいヤツだな……これが結構当たるんだわ。それで俺らに行けって言うなら、兄ちゃんはどうするんだ」

 

「マスター達が危ない、だから3人には取り急ぎ竜殺しを連れてきてもらわねばならない」

 

「よし、なら行くぞ、嬢ちゃん達。結果は後でわかるからさっさと行くぞ」

 

「ああ、頼んだ」

 

 キャスターに急かされるように2人も城へ向かう。

私も急ぎマスターたちの元へと向った。

辿り着けば、既に暗殺者(アサシン)オペラ座の怪人(ファントム・オブ・ジ・オペラ)と対峙するマスター達の姿があった。

 

「マスター、こちらは竜殺しを発見した。先行して私だけ、こちらに合流したぞ」

 

「丁度良かった! ボン、オルタと一緒に前に」

 

「承知」

 

 ワイバーンと共にアサシンがいるわけだが、この程度のワイバーンならば既に塵芥に等しく、すぐさまアサシン単騎となる。

そう、この状況に持ち込むことこそが確実な勝利への道であり、私がするべき事なのだ。

そしてアサシンは遺言を詠って散る。

おかしい、先ほど私は未来を見た筈だ。

なのに何故、ファヴニールはこちらに来ていないのか。

 

『やっと通信が繋がった! 立香君、そちらに超極大の生命反応が物凄い速さで接近している! ついでにサーヴァントも三騎一緒だ!』

 

 それはストーリーと似たような流れであった。

合流し、リビングデッドとワイバーンを蹴散らした後に現れるアサシン。

更にそれを撃破したら現れるファヴニールと邪ンヌ、ランスロットとシャルル=アンリ・サンソン。

私が見た未来は訪れるだろうが、一体私に何をさせたいのだろうか。

まだ竜殺しの英雄であるジークフリートは合流していない……マシュと聖女の宝具でファヴニールの攻撃を防ぐのをただ見るしかないのか。

私は何の為にここに居る。

できることが有るだろう、冬木を思い出せば、望んだ彼が其処に来た筈だ。

ならば今度も、私が願えば竜をも屠る物語の英雄が来てくれるのではないか。

 

「マスター、すまないが宝具を切らせて貰う!」

 

「えっ、ボン!?」

 

 突然の提案に驚くマスターの許可無く、宝具を使用する。

 

「この書に綴られるは勧善懲悪の物語、さあ英雄たちよ、今ここに顕現し敵を屠れ! 作られた英雄達!(クリエイテッドヒーローズ)

 

 眩い輝きは人を模る。

現れたのは盾を構える勇者達、その手にはドラゴンキラーが握られていた。

誰かが呟いた呪文、それは炎や吹雪の威力を緩和する魔法『フバーハ』だ。

その中に混ざった一際背の高い騎士――黄金の鉄の塊で出来たナイト――は気合と共に『ランパート』のアビリティを使用する。

そして私の目の前には少女が1人、静かに呪文を詠唱している。

 

『な、何だい!? 強大な魔力反応を探知……ってボン君!? 君なのか!』

 

 ロマンから通信が入るほどの膨大な魔力を消費するであろう攻撃が、今準備されている。

 

『黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋もれし 偉大な汝の名において 我ここに闇に誓わん』

 

 それは誰もが憧れた呪文(スペル)、知りえていたのであれば、どうしても覚えたくなるほどの詠唱。

 

『我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに  我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを! 』

 

 一度目の発動は必ず失敗するお約束がある、だがここにそんなものはない。

 

竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!』

 

 放たれる赤光は既に此方から目視できる位置に来てい邪竜ファヴニールに向かい伸びる。

だが、何かを感じたのであろうファヴニールは急上昇し、その赤光を避けた。

赤光はそのまま空へと向かい雲を突き抜けて消えた。

魔力が消し飛ぶかの如く消費され、もう一度、今すぐに宝具を使用できるかと問われれば、否としか答えられない。

私の前で呪文を詠唱した魔導士の少女は、こちらを振り返ると舌を出しながら両手を合わせて『ごめんね? テヘペロ』とでも言い表せるかの表情のまま光の粒となって消えた。

私では結局ファヴニールを打ち倒せなかった、打ち倒せなかったのではあるが、()()()()()()()()()であろう。

舞い戻ったファヴニールは再び突撃の体勢を見せる。

 

「マシュさん、私と一緒に」

 

「はい!」

 

「――その必要は無い。 久しいな邪悪なる竜(ファヴニール)、蘇ったならばまた食らわせよう。我が真名はジークフリート! 嘗て汝を打ち倒した者!」

 

 怯えるファヴニールは二度急上昇する。

 

「宝具開放――幻想大剣天魔失墜(バルムンク)

 

 再び避けられたものの、ファヴニールによる襲撃は今のところ途絶えたようであった。

王妃とモーツァルト、キャスターも合流し、ジークフリートを連れて撤退する。

ひたすら走る、走り、走った先にはフランス軍がワイバーンとカーミラに襲われていた。

聖女は一人、フランス軍兵に助力へ駆ける。

追っ手の先触れに追いつかれ、ワイバーンと対峙するも、所詮はワイバーン。

6騎もの英霊が揃っている私たちだ、殲滅は迅速に行われる。

だが、追っ手は雑魚だけではない。

セイバーとして召喚されたシャルルとバーサーカーとして召喚されたランスロットがついに追い着く。

 

「……卿はそうなってしまったか。ならば私の手で討たなければなるまい」

 

 それは彼女の直感か、私が真名を看破し教えるまでも無く、メイドオルタは狂気に落とされたランスロット卿と対峙する。

 

「今の私は騎士ではなく、ただのメイドである。だが、そうだとしても王であったことには変わりは無い。だからこそ、狂気に落ちたであろう我が円卓の騎士である卿は、この手で討たねばならぬのだ」

 

「そうだね、オルタ。ならそっちのバーサーカー……ランスロットでいいのかな? そっちの相手は任せるよ」

 

 そして対峙した瞬間に、因縁の相手を見破ったモーツァルトと王妃はシャルルと対峙する。

 

「ボクとマリアはこっちだ、落とし前をつけてもらわないとね」

 

「処刑人として同じ人間を再び殺せるだなんて、なんて運命的なんだろうね」

 

「わかったよ、モーツァルトとマリーさんはそっち。キャスニキは全体のカバーに回って! マシュは防御、それとボン」

 

「マリーさんたちと対峙しているのはシャルル=アンリ・サンソン。王妃の天敵である処刑人だな。そしてあちらのバーサーカーは湖の騎士、ランスロット。狂化しているが、メイドオルタの顔を見て完全にそちらに狙いを定めたようだ」

 

「ありがと、ボン。それじゃボンはジャンヌの援護に行って」

 

「わかった」

 

 辿り着いた先では聖女はカーミラと対峙し、ワイバーンはフランス軍兵士が相手取っていた。

 

「何が『竜の魔女』だ! ここに居るのは我らが『聖女』だ! 死して尚、俺らを守る為に戦ってくれている。だと言うのにそれを『竜の魔女』だと? ふざけるなよ! 手前らの目は節穴か!? 先ず色が違うだろ!!」

 

 つい最近、聞いたような声でとてもメタな事を言っているフランス軍の一般兵が居た。

 

「我らが『聖女』を援護しろ! いいか、ワイバーンを複数人で囲んで槍で突け! 尻尾に注意しながら着々と傷を増やせばいい! 正面に立ったなら、攻撃はするなよ! 回避に徹して、敵が沈むのを待つか交代して当たれ!」

 

 似たような事を言ったヤツが居たなと考えて、そのフランス軍一般兵をよく見れば、数日前のその人であった。

更に、若き日のジル・ド・レェも現れ、大砲でワイバーンを攻撃し、聖女の援護が始まる。

 

「ふむ、ジャンヌ殿、私の援護は不要であるかな」

 

「チッ、追加のサーヴァントですか……ならば撤退です、ランスロット! サンソン!」

 

 私の到着に不利を悟ったカーミラは即座に撤退を決意し、残りの二人に声を上げる。

声が届いた、シャルルは退く構えを見せるも、メイドオルタに釘付けのランスロットは攻撃の手を緩めることは無い。

 

「正気を失った黒騎士に付き合う道理はありません。ランスロット、その命が尽きるまで、時間を稼いでいなさい」

 

 撤退するカーミラとシャルルを追おうにも大量のワイバーンが飛来し、阻まれてしまう。

聖女と共にワイバーンを屠り、マスターの元へ戻れば、既にランスロットは座に戻っていた。

 

「狂気に陥ってまでも、卿は許しを求めるのか……さて、マスター行こう。此処にはもう何も無かろう」

 

 幾許か目を閉じて物思いに耽ったメイドオルタは、目を開いて先に進むことを提言する。

一行は、フランス軍を置いて先へ進み、放棄されたであろう砦で一休みすることになる。

ジークフリートの呪いは変わらず強固なものであり、やはりもう一人の聖人、ゲオルギウスを探さなくてはならないようだ。

 

「そういえばボン、さっき宝具使った時に出たアレは何だったの」

 

「竜をも殺すであろう魔術だ。あれは『自称天才美少女魔導士が伝説の魔王を打倒してしまう話』の主人公が使う魔術の一つだな」

 

「お兄さんの宝具、凄かったわ! そうだ、お兄さんの宝具で邪竜は倒せないの?」

 

「恐らく、当たれば倒すことは間違いなく可能であろう。だが、アレで魔力をかなり持っていかれた……この調子なら、しばらくは宝具の使用も難しいな。確実性も考慮するのであれば、私は竜殺しの解呪をするべきだと考える。何せ呪われた身でありながらも、その姿だけであの邪竜を怯えさせられるほどの英雄だ。解呪をすれば、私よりも確実にあの邪竜を討ち取ってくれると私は愚考する」

 

「些か過分な評価だと思うが……」

 

「そんなこと無いと思うよセイバー」

 

「ジークフリートでいい。魔術師殿」

 

「わかったよジークフリート。それじゃ効率も考えて、二手に分かれてもう一人の聖人を探そうか。きっと抑止力として召喚されてる……って推測できるよねロマン」

 

『そうだね、聖女ジャンヌ・ダルクの対となる黒のジャンヌ・ダルク・オルタが居るのだから、聖女マルタと対になるであろう聖人が抑止力として召喚されている可能性は大いにあるね』

 

「そういうことだから、二組に分けるよ。私とマシュ、ジークフリートにキャスニキとモーツァルトで一組、ボンとオルタとジャンヌとマリーさんで一組。これでいいかな」

 

「彼と彼女が一緒なら、安心できるかな。ボクの代わりにマリアをよろしくね」

 

「承知した。では行こうか、メイドオルタ、ジャンヌ殿、マリーさん」

 

 そして二手に分かれて聖人を探す、フランスの街巡りが始まる。

始まったのだが、両手に花以上の状態になることを考慮していなかった。

普段はキャスターがいるから気にならなかったが、カルデアは女性の比率が多いのだ。

同性のサーヴァントの存在はは大事なのだなと思いつつ、聖女と王妃の会話を耳に入れながら歩き続けるのであった。




 今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
と言うわけで、唐突にあの有名な呪文を使ってみることにしました。
最初は『大剣ドラゴン殺し』を持ったあの人を出そうかなと考えたのですが、邪竜さんが飛んでることを考慮した結果、飛び道具となる竜破斬を使えるあの美少女を出すことになりました。完全にノリです本当にありがとうございました。
知らないのであれば、どうぞ読んでみてください。中二病心をくすぐられるでしょう。

 尚、オペラ座の怪人さんは端折りの犠牲になったのだ。
ファンの皆様、申し訳ありません。

 お気に入り登録、評価、感想、ありがとうございます。
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4.解呪、決戦に向けて

難産その2+α

 お空の戦い、花びら集め、ネフェニーちゃん可愛い。(遅れた理由その2
プロットを下さい。(貰うものなのであろうか

 お気に入り登録、感想等ありがとうございます。減るものだとばかり思っていましたが、じわじわ増えて作者も驚いています。

 最低でも週1回は更新したいです(ポロロン
尚、今回は4000文字割です 短い。



 西を目指し歩を進める。

女三人寄れば姦しい等と言われるものであるが、メイドオルタは黙々と歩む。

また、私も黙々と歩むので、必然的に聖女と王妃が会話することになる。

王妃は聖女を綺麗で美しいと評した。

だが、私には聖女は眩し過ぎる様に感じる。

自らを犠牲にした、見殺しにした、そんな他者に憎しみすら抱かない、そんな聖女。

突き抜けた善の体現でもあろう、聖女の有様は、凡人である私に言い知れぬおぞましさのようなものを感じさせるのである。

自らの矮小さに嫌気が差す。

 

「どうした、ご主人様。酷く険しい顔になっているぞ」

 

「まあ、ジャンヌは難しい顔でしたけど、お兄さんは怖い顔になってますわね」

 

「マリー……」

 

 自らの考えに顔を顰めてしまったのか、それに気付いたメイドオルタの発言を皮切りに、彼女らの話題の標的が私に切り替わってしまう。

 

「そういえば、ボンさんは最古の作家と呼ばれている方らしいですが、一体どのような本を書かれたのですか」

 

「あら? ジャンヌはお兄さんが書いた本を読んだことはないの」

 

「ええ、田舎の村に生まれた農家の娘ですから、文字なんて読めなかったですし、本に触れる機会もありませんでしたから」

 

「なんと勿体無い、ならば私が薦めるのは『黄金の鉄の塊で出来た騎士が皮装備の一般兵に遅れを取るはずが無い話』だな。他にも『亡国の王子が世界の平和を取り戻す話』等も良い」

 

「わたしは勿論、『九人の偶像と偶像の頂点を目指す話』ね。後は『十二人の偶像と偶像の頂点を目指す話』もとても良いわ」

 

「機会があれば、読んでみたいものですね。ところでボンさんのお薦めというのはあるのですか」

 

 挙げるのであれば、やはり『土くれで出来た管を造り、配し、直すことを生業とした男が、巨大な亀の化け物に攫われた姫を助け出す話』と『いくつもの世界線の中で、名に宿命を背負わされた男と名に呪われた美しい姫を救う話』だろう。

憑依前で最も思い入れの深い話だ。

子供の頃に初めてプレイしたゲームであり、大人になっても続編をプレイし続けたほどのゲームの話である。

挙げるのも当然であろう。

 

「ああ、それなら知っています。村の知識人から話を聞かせてもらったことがあるので」

 

「私も幼き頃に読み聞かされた覚えがあるな」

 

「わたしも小さい頃に。夜眠る前の読み聞かせがそのお話でした」

 

 どうやら、この2つの話は夜に寝る前の子供に読み聞かせる話の様な状態になっているようである。

道中はこの様に会話が出来る程度には平和であった。

そして街が近づいた頃、聖女がサーヴァントの反応を感知する。

と同時にマスター側から通信が入り、マスター達も現地サーヴァントを発見、対話を試みたところ、聖ジョージとも呼ばれる聖人ゲオルギウスであったようだ。

ストーリーとの相違点、ならばマスター達の方へ戻ろうかと思った矢先、街から戦闘音が響く。

この先の街から感知できるサーヴァントの反応は2つ、そして街から上がる炎……恐らく槍のエリザベート・バートリーとバーサーカー清姫であろう。

関わり合いにならない方が色々と無難な気がするのであるが、聖女が止めると言って聞かず、街へ突入することとなる。

そこでは予測通りの少女ら二人が、その身に宿した英雄と匹敵しうる力をぶつけ合い、喧嘩をしていた。

そう、喧嘩である。

案の定というか、ストーリーと変わらない展開に呆れつつ、喧嘩の仲裁は聖女と王妃に任せ、その戦闘音に釣られてやってきたワイバーンをメイドオルタと共に狩る。

狩り終えても未だ仲裁しきれていない二人。

 

「ふむ、仕方ない。言って聞かないのであれば、殴ってでも止めるしかないな。聖女マルタ風に言えば、『鉄拳制裁』と言ったところか。皆、あの2騎を叩く」

 

 見てくれは少女であるが、結局のところ英霊として召喚されている二人だ。

少しばかりは痛い目に遭わせなければ止まりはしないだろう。

どこからか『今度会ったら絶対しばく……』と言う声、あるいは電波が届いたような気もするが、大丈夫であるだろう……大丈夫であると思いたい。

そして鎮圧、数の有利と言うのはとても重要で大切なものである。

抑止力として召喚されたであろう英霊なのだから、少しは何とか……などと言い聞かせようとも思ったが、どちらも混沌・悪の属性だったのでそっとしておく事にした。

取り合えず、他のサーヴァントとは出会わなかったか尋ねたが、清姫が聖人と会い、自分とは反対側へと向かったと口にする。

既にマスター達が接触済みなので、他にはいなかったかと再確認するが、いないようであった。

ならばと、私たち()()はマスター達の下へと移動を始める。

 

「何故着いてくる、エリザベート・バートリー。それに清姫」

 

「別にいいじゃない、ねえ」

 

「ええ、わたくし達もサーヴァント。戦力が増えるのですから、そちらとしても問題は無いはずです」

 

 こちらに協力してくれるというのであれば、良いことではあるのだが、何分理由が不明瞭過ぎる。

もし、こちら側にマスターが居たならば、マスターの人柄に惹かれたなどと言われるのが想像できるので、納得するかもしれないが。

 

「三人とも、彼女等を連れて行くことをどう思う? 私は、まぁ、マスターに害が無ければ問題は無いと考えるが」

 

「私もご主人様と同じ考えだ」

 

「わたしもそれで良いと思います」

 

「ええ、私もそうであるならば大丈夫だと思います」

 

「……との事だ、着いてきても構わない。だが、先ほどのように無暗矢鱈と喧嘩をするなよ? 街もそうだが、生きる人々に無駄な被害を出す必要性を感じられないからな。言う事を聞かなければ、先ほどのように殴ってでも止める」

 

「な、何よ……もうしないわよ」

 

「ええ、わたくしたちは負け蛇、敗蛇(はいじゃ)……そのようなことはいたしません」

 

 そういうことになった。

なったのだが、エリちゃんの顔が少しばかり赤らんでいるのは気のせいであろうか。

考えても詮無きこと、今はマスター達と合流することが最優先である。

マスター達の居る街へと歩を早めた。

 

 マスター達の下へと辿り着くと、聖女は竜殺しの元へと駆けて行く。

 

「お疲れ様、ボン、オルタ、マリーさん。ところで何か二人ほど増えてるけど……」

 

「私たちが向かった先の街で喧嘩していたサーヴァント2騎だ、マスター。真名をエリザベート・バートリーと清姫、バートリー嬢はカーミラの若き日の英霊か」

 

「そちらの女性がマスターなのですね……仮、ですがマスター契約を結んで下さいますか」

 

「ん? えー……いいけど」

 

「ならば小指を……ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼん のます ゆびきった」

 

 それは一種の呪いであった。

止める間も無く契約をしてしまったマスターと清姫。

この特異点を修復した後の戦力増強で、清姫は必ずカルデアに現れるであろう。

私は詳しいのだ……それだけだと思っていたのだが

 

「ふーん、それなら子イヌ、わたしともソレをしなさい」

 

 ストーリーでは共に戦うだけであったエリちゃんまで契約をすることとなる。

次いでの契約に驚きつつ、私は未来を垣間見た――増える女性サーヴァント、殆ど増えない男性サーヴァント、そしてシミュレーターでボコボコにされる私の姿を。

制御しきれないスキルとは、なんと恐ろしい物なのであろう。

私は男性サーヴァントをスカウトすることを固く決意した。

そして、聖女とゲオルギウスによる竜殺しの解呪は上手くいき、竜殺しもマスターの剣となった。

戦力は十二分に整い、後は『竜の魔女』邪ンヌ・オルタを倒すのみであろう。

私たちは決戦の地となるであろうオルレアンへと向かう。

 

 移動手段が徒歩しかない以上、街へ向かうには時間がかかる。

サーヴァントのみの構成であれば、いくらでも走ることはできるのであるが、人間であるマスターがいる以上、短期的に緊急でもない限りは歩調を揃えるべきであろう。

日は暮れ、夜の闇が近づき夜営をすることとなる。

流れるように周囲の探索、魔術罠による陣地構築を行い、安全の確保を実施する。

カルデアからの補給物資を受け取り、最後の休息に入る。

いよいよ、明日はこの特異点における決戦となるであろう、その前の休息。

夜営となってしまうが、マスターには十分に休んでもらいたいものである。

サーヴァントの数も増え、野営地は賑わう。

特にマスターの周りは華だらけ、姦しい限りである。

安全が確保されているからこそ、こうもなれるのであろうから、リラックスしてもらいたい。

そして私たち男性サーヴァントとメイドオルタは少し離れたところで休んでいる。

 

「はぁ、あちらは(やかま)しそうだ。あんなところに居たら休憩にもならないよ」

 

「あれだけ騒げるのは安全が確保されているからであろうし、決戦前のリラックスにもなるやもしれん。私たちはこちらで静かに休んでおこう。ところで、メイドオルタはあちらには行かないのか」

 

「ああ、こちらで静かにしている方が落ち着く」

 

「ハッ、それだけじゃ無いだろ……っておいおい、そう睨んでくれるなって。ところで竜殺しの兄ちゃん、調子はどうだい」

 

「好調だ。今の状態ならば、ファヴニールも何とかできるかもしれない」

 

「竜を屠った英霊だというのに、何故そうも自己評価が低いのかな。君は既にヤツを打ち倒した実績があるのだから、もう一度できると言い切って欲しいな」

 

「すまない……」

 

「そう言ってくれるな、モーツァルト。私はその慎重さを美徳だと感じているさ、竜殺し。私の宝具でもヤツを討つことは可能であろうが、君の方が適任であると思っている」

 

「ありがとう、最古の作家殿。期待に副えるように微力を尽くそう」

 

 5騎で火を囲み、ゆるりと会話する。

火の揺らめきと共に時は進み、夜はどんどん更けていく。

戦士達は休息し、決戦に備えるのであった。




 今回も最後まで読んでいただき感謝。
 そういえば、原作プレイ済み、または別の作品で予習済みだと思って本作を書いているのですが、そうでない人っているんですかね……

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5.竜は墜ち、終止符は打たれる

会話文が多くなってしまった。
反省したい。
今回も駆け足で、戦闘描写が貧弱一般人以下です。


「この中で軍を率いた経験は……ああ、騎士王がいたか。すまない……貴女から説明願いたい。出しゃばった真似をして、本当にすまない……」

 

 朝、決戦も目前となり、今後の方針を固めるためのミーティング、音頭を取った竜殺しが開幕からすまないさんになるのは宿命なのだろうか。

そのおかげか、少しばかり緊張し過ぎた面持ちであったマスターも破顔し、丁度良い塩梅になった様に見える。

 

「結論から言えば、正面突破だ。少数精鋭の我々と有象無象の大軍……相手にするのであれば、背面からの奇襲という手段もある。だが、こちらの居場所は既に割れている……となれば、そうせざるを得まい」

 

「やっぱりそうなっちゃうかー……残ってる相手は邪ンヌにヴラド三世、デオンにカーミラとサンソンだったかな」

 

「んだな、遭遇したサーヴァントはその5騎だったな」

 

「それと、もしかするとジルがいるかもしれません……」

 

「そうなると、ファヴニールにはジークフリートが必須、カーミラはエリちゃんが行くかな」

 

「あら、子犬、気が利くじゃない。アイツを片付けたら、すぐに駆けつけてあげるわ」

 

「ジャンヌには黒の邪ンヌに当たってもらうとして、デオンにヴラド三世とサンソンはどうするかな」

 

「ヴラド三世は私が受け持とう。今はメイドだが、騎士王としての側面が疼いて仕方ない。今度こそ打ち負かせとな」

 

「はいはーい! サンソンはわたしとアマデウスが行きますわ。ね? いいでしょ、アマデウス」

 

「うーん、こう言い出したマリアは止められないか。この前も落とし前はつけられなかったし、そうするか」

 

「んじゃ、俺は剣士の相手でもさせてもらうかねえ。兄ちゃんの宝具は切り札にもなりそうだしな」

 

「わかったよオルタにキャスニキ、マリーさんとモーツァルト。そっちは任せるね! マシュはガード。私をしっかり守ってね? 他の人はワイバーンを片付けながら着いてきて。他にサーヴァントが出てきたら適宜振り分けるよ……それじゃ、勝ちに行くよ!」

 

 オルレアンへの進撃、その道中にはワイバーンが多数配置され、それを悉く倒しつつ進む。

 

『サーヴァント反応! 真っ直ぐそっちに向かってるよ』

 

 そして現れたバーサークアーチャー、アタランテ。

狂化によって殺人マシーンと成り下がった彼女の役回りは損の一言に尽きる。

 

「彼女の真名はアタランテ……狂わされて無理に配下とされたのだろう。彼女に慈悲を」

 

「マシュ以外の皆で一気にやっちゃって!」

 

 凄惨たる状態になったアタランテ。

それでも彼女は微笑みながら座に帰る。

 

「これでよかった。どうしようもなく損な役回りだったな……さあ、行って竜を打ち倒せ。次こそは……私も……」

 

「また会おう、純潔の狩人。次は敵方ではなく、な」

 

 そして邪竜が舞い降り、邪ンヌがジャンヌの前へと立ちはだかる。

 

「こんにちは、(ジャンヌ)の残り滓、そして皆々様。これより始まるは貴方達を蹂躙し、我が祖国は竜によって不毛の地とする――そう、それは世界の完結! 竜同士の無限の戦争、無限の捕食……それこそが真の百年戦争! 即ち邪竜百年戦争の開幕よ!」

 

「私は貴方(ジャンヌ)の残り滓などではありません! 竜の魔女、今の貴女に私の言葉は届かないでしょう……だから、この戦いを終わらせて、思う存分言いたい事を言わせて貰います!」

 

「ふん、ファヴニール。立ち塞がるもの全てを悉く燃やし尽くしなさい!」

 

「二度会えば、三度会う……俺は此処に居る! ファヴニール! 貴様を再び討つ者、ジークフリートは此処に居る!!」

 

「ならば……我がサーヴァントたちよ、前に!」

 

「それじゃ、振り分け通りに頼むよ、皆!」

 

 ファヴニールと相対するジークフリート。

デオンの前に杖を槍の様に構えて躍り出るキャスター。

次こそは勝ちを拾ってみせると意気込み、ブラド三世と睨み合うメイドオルタ。

過去を、未来を否定し合う為の戦い、カーミラとエリザベート。

因縁の対決である、マリー王妃にモーツァルト対シャルル。

そして、この戦いの終着点ともなり得るジャンヌと邪ンヌ。

各々の戦いが幕を開く。

 

 

「相対するのは三度目かファヴニール……あの時の勝利は薄氷上の勝利だった。ああ、そうだ、どうして勝てたのかわからないモノだった。慎重に、大胆に。広く、集中して。海のように、空のように。光と闇のように……矛盾する二つの行動、それが勝利への鍵か」

 

 独白するジークフリートに対し、ファヴニールは咆哮を返す。

慎重に駆け、大胆に攻め込む。

広く吐き出される炎を、一点に集中して掻い潜り更に前に駆ける。

振り下ろされる前足を転がるように避け、切り込む。

駆け抜けた先には竜の尾。

振り回されたその尾を剣を盾にして、再び距離を開けられる。

攻撃を繰り返しては、相手から攻撃を貰う。

与える傷よりも、自らが受けるダメージの方が大きい。

だが、その体は既に不死身の体。

己が薄氷上の勝利だと言ったものは、既に確定された未来となっていた。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす! 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 そして邪竜殺しの聖剣から放たれる黄昏の剣気はファブニールを飲み込む。

かくして邪竜は再び土に還ったのである。

 

 

「おや、丸太の槍を持った彼が来るのかと思ったけど、君が来たのかい」

 

「ハッ、ご期待に副えずにスマンな剣士さんよ」

 

「いいや、問題は無いよ。改めて名乗ろう……シュヴァリエ・デオン! 今は悪に加担すれど、我が剣に曇りは無く! さあ、この悪夢を滅ぼすために全力で立ち向かえ!」

 

「本当に、ランサーとして召喚されてりゃなぁ……キャスター、真名をクー・フーリン。推して参る!」

 

 剣と杖がぶつかり合う。

杖は槍の様に振るわれ、デオンは剣でいなす。

だが、デオンの相手はキャスターであり、合間合間にルーン魔術が飛来する。

シングルアクションのそれはデオンには無効化されるのであるが、修羅の時代を生きた戦士であるクー・フーリンは消される事を前提として目潰しの如く魔術を放ち隙を生み出す。

魔力以外のステータスで上回るデオンに対し、戦いの勘を持って上回るキャスター。

続く打ち合い、その終止符はキャスターの宝具であった。

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───倒壊するは灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)! オラ、善悪問わず土に還りな!!」

 

 贄を求めて炎を纏った巨人がデオンに襲い掛かる。

如何に対魔力を持ったセイバークラスと言えど、デオンの対魔力では宝具に耐え切ることなどは不可能であった。

 

「これで我が身の呪いも解ける……感謝を。そして愛しき王妃に謝罪を……王妃よ、申し訳ありません、我が過ちを――」

 

 そしてデオンは座に還る。

 

「ああ、やっぱりキャスターよりランサーだわな……聖杯にはランサーにしてくれって願うかねぇ。はっはっは」

 

 少しばかり草臥れた様子でキャスターは笑った。

 

 

「来たか、騎士王」

 

「ああ、決着をつけに来たぞ串刺し公」

 

「ふむ、不死身の吸血鬼としての側面として喚ばれた余をそう呼ぶか」

 

「何だ、ドラキュラ伯爵とでも呼んで欲しかったか」

 

「いや、良い。望み通り決着をつけようではないか」

 

 駆けるオルタ。

その手に持った水鉄砲のハンドガンを乱射しながら接近するオルタの姿はシュールである。

だが、その水は魔力を内包しており、当たればそれなりの痛手を与えるであろう。

その水を避けるヴラドに肉薄する。

そして剣の間合い、上段から振り下ろされるオルタの剣をヴラドは手にした槍で受け流す。

以前の戦いでは、ハンドガンの射程を生かした戦いをしたオルタであったが、此度の戦いではハンドガンを捨てた。

剣の間合いで戦い続ける。

その身はセイバーのクラスでは無くとも、剣は振れる。

体が覚えているのだから。

力のステータスは上であるヴラドだが、オルタの素早さと魔力放出による攻撃威力の増加により押し返せずにいた。

削り削られ、為す術もなく膝を突く。

 

「してやられたか」

 

「宝具を使わせずにいて、何を言う」

 

「ふっ……まぁ良い、許す。余の夢も、野望も、また潰えたが……そこのマスターよ。己を見失わぬ鋼の乙女。次こそは余を召喚するが良い。護国の槍、その真髄を見せてやろう――民を守る武器は、貴様の手に映えるだろうからな……」

 

 ヴラド三世が座に還る。

 

「武器を捨てなくては勝てない相手、精進が足りなかったか……この戦いが終わったら、ご主人様とシミュレーターに潜る。あとはドルイドのも連れて、な」

 

 負けず嫌いの彼女の努力は続く。

 

 

 少女が持ったマイクスタンドを、まるで槍の様に振り回す。

白銀の髪の仮面の女はその手に持った杖でそれを受ける。

その戦いは過去と確定された未来の戦いである。

 

「鬱陶しいですわ、この()! 嗚呼、忌々しい姿で私の前に現れて、血の伯爵夫人として完成された反英霊たる私を否定すると言うの!?」

 

「ええ、そうよ、アタシは叫ぶわ! 自らが犯すであろう罪から目を逸らす行為かもしれない……それでもアタシは、醜い(アンタ)になりたくないって! 全力で、唄い叫ぶわ!」

 

 少女のエリザベート=バートリーの歌声が戦場に響き渡る。

誰もが耳を塞ぐであろう雑音とも言えるその歌声は、近くに来たワイバーンの脳を破壊した。

 

「くっ……本当に忌々しい()! 老いることを拒み、封じられることを恐れただけの存在が、どうして私を超えられると」

 

 歌声に脳を揺さぶられたカーミラはふらつきながらも少女の槍を受ける。

 

「だから言ったでしょう! これがどんなに醜い自己欺瞞でも、アタシは叫んで(アンタ)を否定するって!」

 

 歌声で脳を揺さぶっては、その手に持ったマイクスタンドを叩きつける。

カーミラはその杖で受けるしかなく、ただただ消耗するのみである。

そして、カーミラは力尽きた。

 

「未来が過去を否定するのではなく、過去に未来が否定される……ああ、眩しい、眩しい(ひかり)……ああ、暗がりの中に戻るよう。最後の瞬間……レンガの先に見えた……あの……」

 

 カーミラは光となり座に帰る。

 

「さよなら、悲しい程に分離したアタシの未来。アタシの罪も恐怖も消えないけれど、それでもアタシは何度でも未来を否定して唄ってやるわ」

 

 

「来たわね、サンソン」

 

「絶縁状を叩きつけられに、まんまとやって来たみたいだね」

 

「来たとも、再び君を処刑するためにね……ねぇ、僕の断頭はどうだった? 研鑽を重ねた死ぬほど気持ちよくなれる、僕の斬首は」

 

「わたし、倒錯趣味の殿方はもう間に合っているわ」

 

「あれ、それってもしかして、ボクのことかい? マリア」

 

「知ってるさ、でも僕はあの時よりももっと巧くなったから、君にもう一度最後の恍惚を与えよう! ついでにくっ付いて来たアマデウス、おまえも一緒に殺してやるよ!」

 

 サンソンの持つ剣が王妃に向けて振るわれる。

だが、その刃は王妃に触れることすらなく、王妃の放つ光弾とモーツァルトの放つ光弾に打たれるのみである。

 

「どうして……どうして僕が打ち負ける!? あの時から何人も殺して、何倍も強くなったと言うのに!」

 

「再開した時に言ってあげればよかったわね……貴方の刃は錆付いていると。処刑人としてではなく、ただの殺人者の刃となってしまったの」

 

「罪人を救うためのおまえが、殺人を巧くすれば巧くするほど、処刑人(おまえ)の刃は錆付いたのさ」 

 

「ハ――そうか、だから敗れるのか。なら邪悪は間違いなく僕で、正義は君たちにあったんだね……」

 

 そしてシャルルは戦場から消える。

 

「バカめ、そんなことに拘っていたのか。まったく辛気くさい」

 

「それでも、わたしはあなたを処刑人として信頼していましたよ」

 

「さあマリア、行こう。面倒だけどワイバーンを片付けないとね」

 

「ええ、そうね。行きましょうアマデウス」

 

 手を繋ぎ、戦場を駆る男女がそこにあった。

 

 

「アハハハハ! その程度なのかしら(ジャンヌ)! そうならば、私の憎悪に飲まれて此処で終わりなさい!」

 

 ジャンヌと邪ンヌの戦いは、圧倒的に邪ンヌの優勢であった。

 

「滑稽ね、無様ね! 哀れな小娘、羽虫! ネズミ! ミミズ! ああ、なんてちっぽけなんでしょう。私の方が笑い死んでしまいそうだわ!」

 

 旗と旗が交差するが、ステータスの下がったジャンヌは打ち負ける。

 

「こんな小娘(わたし)に頼るしかなかった祖国(フランス)など、ネズミの国にすら劣るのね!」

 

「貴女は――」

 

「何かしら? 残り滓。でも聞いてあげないわ。そんな暇など与える訳がないでしょう!」

 

 邪ンヌの強烈な旗の振り下ろしによる一撃に耐え、聖女は言葉を紡ぐ。

 

「貴女は、自分の家族を覚えていますか」

 

「え――」

 

「あの牧歌的な生活を、ただの田舎娘として暮らした記憶を、貴女は持っているのですか」

 

 邪ンヌの攻撃が止まる。

 

「私、は……」

 

「記憶が無いのですね」

 

「それが、それが! それがどうした! 記憶の有無に関わらず、私はジャンヌ・ダルクだ!」

 

「そうですか、ならば私は貴女を哀れみます」

 

「ッ!!」

 

 そこに割入ったのはジル・ド・レェ……異相をしたキャスターのジルである。

 

「ジャンヌ、お戻りあれ! 監獄城に帰還し、態勢を立て直すのです」

 

 既に邪ンヌの召喚したサーヴァントは座に戻され、ファヴニールも討たれたところであった。

周囲に在ったワイバーンは混乱し、手当たり次第に襲い掛かり敵も味方も無い状態となっていた。

 

「くっ……わかりました、ジル。ここは一旦退きます」

 

「行かせないっ! 令呪・宝具開放(セット)。ボン、宝具を使用して!」

 

「承知した! 行くぞ、作られた英雄達(クリエイテッドヒーローズ)!」

 

 ここで逃がせば長引くだけだと、立香(マスター)は敵を倒せと吼える。

そして私の宝具が光輝く。

光の粒は人を模り、そこに現れたのは()()()()()()()であった。

少女は旗を振る。

力強く、雄大に。

彼女が振る旗に鼓舞され、現れた英雄達はジルと邪ンヌに殺到する。

 

「くっ、盟友プラディーテよ!」

 

 海魔を呼び出そうとも、宝具から喚び出された英雄達の敵ではなく、彼等の連携により切り刻まれるのみである。

 

「おのれ、おのれ、おのれ、おのれ! 私の、私の聖女を、私のジャンヌ・ダルクを! 再び殺させてなるものか!!」

 

 英雄達が光の粒となって消えた。

だが、ジル・ド・レェを仕留め切れず、彼は深手を負いながらも未だ立っていた。

 

「ジル……」

 

「今は休むのです、私の聖女……次に目覚めた時は、私が全てを終わらせておきますから」

 

 優しく諭すように邪ンヌに語りかけ、邪ンヌは安心した表情で光となって消える。

そこに現れたのは聖杯だった。

 

「やはり、彼女は……」

 

「そう、私が信じた、私が焦がれた、私が造り上げた! ジャンヌ・ダルク――『竜の魔女』を聖杯そのもので! 私が憎んだ神、王、国家を滅ぼし、殺す。それが私の聖杯に託した願望!! 我が道を阻むな!!」

 

 真の聖杯所持者に聖杯は力を分け与える。

 

「先輩! 聖杯を確認しました。指示を!」

 

「行くよ! ジャンヌ、マシュ、ボン!」

 

 嗤う、嗤う、ジル・ド・レェ。

けたたましい嗤いと共にジルの宝具が放たれる。

海魔が召喚され、津波のように押し寄せてくる。

 

令呪・宝具開放(セット)。ジャンヌ! 皆を守って!」

 

「主の御業をここに! 我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! 我が神はここにありて!(リュミノジテ・エテルネッル)」 

 

「更に令呪・宝具開放(セット)! ボン、再び宝具を……そして敵を討ち倒して!」

 

「勿論だマスター! この書に綴られるは勧善懲悪の物語、さあ英雄たちよ、今ここに顕現し敵を屠れ! 作られた英雄達(クリエイテッドヒーローズ)!」

 

 輝く光が再び収束し、人を模る。

現れたのは先ほど現れた旗を持った少女に瓜二つの()()()()

その手に握られたのは旗では無く血に濡れた剣だった。

その少女は闇に飲まれた少女。

それでも救わんと足掻き、最後に残った希望に縋った少女であった。

黒の少女は唯一人、宝具を使用するキャスターの元へと駆ける。

彼を討つ為に、最後の希望に縋る為に。

黒の少女の歩んだ道は血まみれの道。

怨嗟によって落とされた少女の姿。

その魂は絶望、恐怖、憎悪によって磨かれていた。

それは皮肉か、黒のジャンヌ、ジャンヌ・ダルク・オルタに似た黒の少女にジル・ド・レェは討ち取られる。

 

「馬鹿な! 貴女は()()()()()()()()!! 私の造ったジャンヌ・ダルクに似た貴女が!! 何故、何故私を討つか!!」

 

 黒の少女は答えない。

彼女は堕ちてしまっても、救わんとするために歩むのだから。

そして黒の少女は私の方を向いて微笑み、光の粒となって消える。

 

「聖杯を以てしても、届かないだと? そんな理不尽が……! 私は、まだ……」

 

「もう休みなさい、ジル。貴方はよくやってくれた。何もわからぬ私を信じて、この街を解放するまで。あの時の貴方を信じています。私の屍が誰かの道へと繋がっている、それだけで良かったのです」

 

 ジャンヌの言葉を聞き、ジルは微笑んで座に還った。

 

『聖杯の回収は完了だ! 時代の修正も始まる。レイシフトの準備も整っているから、皆、すぐにでも帰還して欲しい』

 

「わかったよ、ロマン。じゃ、行くねジャンヌ。それに皆も。助けてくれてありがとう、もしかしたら、この後皆を喚ぶかも知れない。その時はまた助けてくれると嬉しいな」

 

「いいわよ、子イヌ。夢に見るマスターほどじゃないけど、アンタと一緒ならそれなりに楽しそうだしね」

 

「マスター、しばしのお別れです。ですが、すぐにでも逢いに行きますわ」

 

「竜を殺すくらいしか能が無い俺だが、召喚されれば使って欲しい」

 

「私も召喚されたのならば、喜んで力をお貸ししましょう」

 

「ボクを喚ぶなんて奇特なマスターがいるならば、是非マリアと共に召喚されたいものだね」

 

「わたしも、もし喚ばれたら頑張るわ! それじゃ、またね」

 

 抑止力として召喚されたサーヴァント達が座に還る。

 

「さて、皆さん私たちもお別れの時ですね。恐らく、出会い、戦い、失った命……無かったことになるのでしょう」

 

「そうかもしれないね。だけど、私は覚えているよ、覚えておくよ」

 

「ふふ、ありがとうございます、マスター。 皆さんとはまた、何処かで会える予感がします。私の勘は、よく当たりますから」

 

「それじゃ、()()()。ジャンヌ」

 

「また、お会いしましょう。ジャンヌさん」

 

 

「お帰り、お疲れ様、皆。初のグランドオーダーは無事に成功だね。立香君、君はもう一人前の魔術師(ウィザード)だ!」

 

 帰還するなりロマンが喜びの声を上げる。

さぞ嬉しかろう、一般人だった少女が最低の条件で始まったグランドオーダーの最初の一つを達成したのであるから。

 

「ありがとう、ロマン。少し疲れちゃった……ごめん、休ませて貰っていいかな」

 

「ああ、そうだね。皆、暖かいベッドとシャワーが恋しいだろう? 遠慮せずに戻って休んで欲しい。あとは僕達がやっておくさ」

 

「抗いがたい提案ですね、ドクター。失礼します」

 

「私たちも少しばかり休ませて貰うか。手伝えることがあれば呼んでくれ」

 

「ああ、ボン君たちもお疲れ様。何かあったら呼ぶよ」

 

 管制室から出て部屋へと向かう。

 

「お疲れ様でした、先輩。また明日からも、頑張りましょう」

 

「そうだね、マシュ。ところで体は大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫です……」

 

「どうした? マシュさん」

 

「ボンさん……あの、ジル・ド・レェの事を思い出していたのです」

 

「ああ、彼の剥き出しの感情に驚いたのか」

 

「ええ、そうです。世界を滅ぼさんとする程の剥き出しの感情……凄いものなんですね」

 

「そうだね、マシュ。人間だから、人間だったから、あんなに感情的になれたんだよ」

 

「そう、なのですね。経験不足の私には、あれ程の深い感情も、それを受け止めきれる心の強さもありません」

 

「ならば、学べばいいさ、マシュさん。すべてが分からなくとも、少しずつ、ほんの少しずつでいいから分かっていけばいいのさ」

 

「ありがとうございます、ボンさん。それではまた明日、おやすみなさい先輩、皆さん」

 

「おやすみ、マシュ」

 

「さて、私たちも少しばかり休むとするか」

 

「そうだな、俺はさっさと部屋に戻って眠らせてもらうぜ」

 

「メイドオルタも少し休んだ方が良い。ヴラド三世と戦ったばかりだからな」

 

「ふむ、確かにそうだな。添い寝でもしようかと思ったが、部屋で休ませてもらうか」

 

「ああ、ではまた」

 

 各々は部屋に戻り休息を取る。

それはまだ束の間の休息。

修正された特異点はまだ1つだけ、されど始めの一歩を踏み出した。

さて、私はこの出来事を書き上げよう。

タイトルは勿論『邪竜百年戦争 オルレアン』だ。

世に出ることは無い、自己満足だが、覚えている為に、私は書き上げよう。

人理修復の物語、その第一歩を。




 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
不遇アンド不遇のアタランテちゃんの今後の活躍にご期待ください(白目)

 キャラクターが多すぎて多すぎて、ゲームなら会話でもキャラ絵があるからなんとかなるのでしょうが、文章にしてみると、地の文が少なすぎて、これ大丈夫なの?
と不安になってしまう不具合。
やはり、物を書くのは難しいものですなぁ……。

 毎度のことなのですが、ボンの書いた物語だったり、宝具から登場するキャラクターには元ネタがちゃんとあるのですが、これも理解されているかどうか不安になってる作者がいたらしいです。
技量が足りないのか、無いのか……。

 お気に入り登録、評価、感想、ありがとうございます。
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幕間3.前と後の小話

 チラ裏ながらUA2万突破、及びお気に入り登録300件突破しました。
ありがとうございます。過分な評価、感想もいただき、続けるモチベーションは上がっております。

 遅くなってしまいましたが、ご覧いただければ幸いです。


1.メイドと同士と私

 

「うーむ……料理とは難しいものだな……」

 

「キャウ、キューン……」

 

 食堂内の厨房にて今日も今日とて同士フォウ君と食事会と言う名のふれあいをしていた。

 

「む、ご主人様と……ん? お前は、キャス……あー、何だったか。マーリンの飼っていた生物だったか」

 

「キャウ! キャウ!!」

 

 厨房に現れたのはメイドオルタ。

同士フォウ君の事をキャスパリーグと呼ぼうと思ったようであるが、どうにも印象が薄かったらしく覚えていないようである。

 

「メイドオルタか。どうした厨房なんぞに来て。それと彼はキャス何某ではなく、フォウ君という立派な名前があるのだぞ」

 

「フォウ、フォウ!」

 

「おお、そうなのかご主人様。王としてブリテンを治めていた頃に、宮廷魔術師のマーリンが飼っていた生物にそっくりだったものでな。ふむ? 私の直感も鈍ったか」

 

 大嘘を決め込む私に便乗するかのように声を上げる同士。

メイドオルタに嘘をつくのは心苦しいが、同士との約束がある。

そちらを大切にしなければ、この先生きのこることができなくなってしまうかもしれないから。

ああ、そういえば既に死んでいたのだったか。

 

「それで、何故厨房に来たかと問うたが、厨房に来ればやることは一つ、そうだろうご主人様」

 

「ああ、確かにそうだな」

 

「フォーウ……」

 

「厨房に来てやること……それは」

 

「料理でも作りに来たか」

 

「つまみ食いだ」

 

「フォ、キャウ!」

 

 メイドオルタの答えにがっくりとする私と同士。

同士の尻尾など、あまりの酷い回答にしなびている。

 

「あー……メイドオルタ、今はカルデアの復旧に人員を取られて皆忙しいからな。作り置きの料理などは無いぞ」

 

「なん……だと……」

 

「まぁ、作って食べる分には問題は無いらしいからな。私もこのところ、フォウ君と一緒に食事を摂っているぞ」

 

「フォウ!」

 

「む、ご主人様は何かしら作れるのか」

 

「いや、肉を焼くか野菜を炒める程度しかできんな……ちなみに味付けは塩胡椒のみ……だな……」

 

「キューン……」

 

 私と同士はお通夜ムードになる。

何せ交流を始めてからと言うもの、本当に肉を焼くか野菜を炒めたものしか食べてないのである。

しかも、味付けの変更は無しという地獄仕様である。

まぁ、サーヴァントである私は食事が不要であるし、同士フォウ君もその他調味料を好んでいないので問題はないのであるが。

 

「ふむふむ……ならば、ご主人様。私と一緒に……その、りょ、料理を……してみないか」

 

「ならば一緒に料理をするか。ああ、カルデアの場所が場所だから食料はこれでもかと言う程にあるが、あまり食べ過ぎるなよ」

 

「ぐ、注意しよう」

 

「キャキャウ」

 

 そして作ったのはマッシュポテト。

マッシュポテト……これは料理なのだろうか?

兎も角、同士フォウ君とメイドオルタと共に、食事会と言う名のふれあいを楽しむのであった。

ああ、まだ特異点の一つも修正していないというのにな。

 

「ところで、ご主人様」

 

「何かな、メイドオルタ」

 

「嘘をつくのはよくないぞ」

 

 女の直感とは恐ろしいものである。

 

 

 

2.緊急事態?

 

『Warning! Warning! 英霊召喚システム・フェイト強制起動! 英霊召喚システム・フェイト強制起動! 職員は直ちに現場に急行してください。繰り返します……』

 

 第一特異点から帰還した翌朝のこと、突如として警報が鳴り響いた。

 

『立香君にマシュ、並びにサーヴァントの皆、至急召喚制御室へ来てくれ! 警報通り、英霊召喚システムが強制的に起動したみたいなんだ! もしかすると、凶悪なサーヴァントが来るかもしれないから対処願いたい』

 

 ロマンから館内放送も入り、召喚制御室へと駆け、扉の前に皆が揃う。 

 

「来てくれてありがとう皆。じゃあ、行くよ? 何かあったら、立香君たちに任せることになっちゃうけど……」

 

「大丈夫だよロマン。皆がいればきっとなんとかなるよ」

 

「ありがとう、立香君。それじゃあ」

 

 まぁ、何が起きたかなど予測できているのであるが。

 

「ふむ、そうだな……私が先頭で入室しよう。何、いつもの様に虫の知らせが何かしら教えてくれるだろうからな」

 

「いいの? ボン」

 

「ああ、女性を先頭にするのは好ましくない。ロマンは人間であるし、キャスターは私よりも耐久が低いだろうからな」

 

「むむむ」

 

「それじゃ、お願いねボン」

 

「うーん……悠長にしている暇は無いんだけどなぁ……」

 

 ロマンに呆れられながらも召喚制御室へと突入する。

室内では、誰もいないのにも関わらず、召喚システムが起動しており、魔力が渦巻いていた。

すかさずロマンはコンソールに駆け、状況を把握する。

 

「これは……英霊の反応だ!」

 

 渦巻いた魔力は3本の輪となって収束し、カードを生み出す。

銀の人狼のカード……即ち清姫である。

だが、突如としてカードに紫電が走る。

この現象は前にも見たことがあるが……まさか。

 

「割り込みだ! また割り込みが入ったよ。一体どうなってるんだ!?」

 

 カードが再構築され、金の槍兵が描かれたモノとなる。

そう、これは……もう訳が分からない。

 

「ははは、もうどうにでもなぁれ」

 

「「「!?」」」

 

 許容範囲を超えてしまったせいか、滅多に出ない私の素が出てしまった。

 

「ちょっと、ボン!? 大丈夫!?」

 

「……うむ、失礼した……少しばかり自棄になってしまったようだ」

 

 そして現れた少女は豊満であった。

 

「ますたぁ、約束通りすぐに逢いに参りましたわよ。うふふ」

 

「ロマン……危険は無い。恐らく無い。だが、マスターの貞操的な意味での危険が増えたやもしれん……」

 

「ちょ、ボン……縁起でもないこと言わないで……」

 

「ところで清姫さん……どうして水着なのですか?」

 

「こちらの霊基の方がますたぁのお役に立てるからですわ。ああ、くらすはらんさーですよ、上手く使ってくださいましね、ますたぁ」

 

「あ、うん……とりあえずよろしくね、清姫」

 

「兎も角、危険は無くなったようだな。ならばマスター、ついでに戦力増強をしては如何か」

 

「いいんじゃねえか? そういえば、聖女のねーちゃんに手甲を貰ったじゃねーか。あれを触媒に召喚しようぜ」

 

「そうだね、この前のフランスで拾った聖晶石はっと…15個かー……」

 

「ふむ、私も少しばかり拾った物だ。マスター、使ってくれ給え」

 

 私も第一特異点滞在中に何故か()()()()()聖晶石をマスターに渡す。

 

「これで20個、5回召喚にチャレンジできるね」

 

「ちょーっと待った! 召喚するならこの私、ダ・ヴィンチちゃんを呼ばないとダメじゃないか。君に幸運がありますようにと、毎日お祈りしてるこのダ・ヴィンチちゃんを!」

 

 召喚制御室の扉が突如として開いたと思えば、ダ・ヴィンチちゃんが駆け込んできた。

その手には呼符が3枚握られていた。

 

「この万能の天才、ダ・ヴィンチちゃんは! またしても頑張る立香君の為に、金に輝く呼符を作ってあげたんだゾ? 存分に褒め給え」

 

「うーん、流石ダ・ヴィンチちゃん! この万能! 天才! 変態! ……それじゃ、召喚するね」

 

「んー? 何か聞き捨てならないことが聞こえたけど、ま、いいか」

 

 先ずは召喚サークルに聖女の手甲を置き、それを囲むように聖晶石を配置する。

すると、マスターは召喚の詠唱を行っていないにも関わらず、召喚が始まる。

回転する光は当然の如く3本の輪となり、収束して金のカードを生み出した。

その絵柄は天秤を持った美しい女性が描かれていた。

 

「マルタ、参りました。貴女と共に世界を救いましょう……って何よこれ!? なんで私水着なの!?」

 

 とても良いリアクションである。

 

「んん、まぁ良いでしょう。在り方さえ違えねば、主もお許しくださるでしょうから……よろしくお願いしますねマスター。それと、そこの貴方、そうジャージ着てるアンタよ。後でシミュレーターね。少しOHANASHI、しましょうか」

 

 マルタは良い笑顔でそう言った。

私に神はいなかったらしい。

 

「わ、本当に来てくれたんだね。聖女様、よろしくね」

 

「その呼び方、むず痒いわね。マルタでいいわ、マスター。それから皆さんも、そのようにお呼びください」

 

「マルタ、よろしく頼む」

 

 私が震える声で返した後、聖晶石で残り4回を回す。

だが、英霊の反応は無く、ありきたりな概念礼装が出現するのみであった。

続けてダ・ヴィンチちゃんが態々持ってきてくれた呼符で召喚を試みるが、2回はやはり概念礼装であった。

そして最後の召喚、再び回転する光は3本の輪となって収束する。

 

「また高い魔力反応だ! 高位の英霊が来るよ!」

 

 再び現れた天秤を持った美しい女性が描かれた金のカードが現れ、もう馴染みの展開となった割り込みの紫電がカードに走る。

 

「立香君の運は異常だね。幸運なのか、不運なのか分からないね」

 

「あはは……はぁ」

 

 カードが再構築され、現れたのは鎖に繋がれた咎人が描かれた金のカードとなった。

それは復讐者(アヴェンジャー)のカードだ……このタイミングで来るアヴェンジャーなどいない筈……くっ、原作知識に縛られて発想が貧困になっているか。

光が溢れて人を模り、現れたのは彼女であった。

 

「アハハハハ! あの女の現界を阻止してやったわ!! ……ンン、サーヴァントアヴェンジャー、召喚に応じてあげたわよ。何よその顔。特にそっちの男……なんかアンタ、ムカつくわね。ま、いいわ――貴女がマスターよね? はいこれ、契約書」

 

 マスターに手渡された契約書を思わず覗き込むと、そこに書かれた文字は達筆であった。

ではなく、ジャンヌ・ダルク・オルタこと邪ンヌが召喚された。

メイドオルタに始まり、水着清姫、水着マルタ、そして邪ンヌの召喚……これが意味するのは、平行世界の存在確定だろう。

幾多もの平行世界において、どこかの世界で既に人理は修復され、彼女達の霊基が聖杯に登録された。

だからこそ、この世界では謎の特異点は発生していないにも関わらず、彼女達が存在するのであろう。

 

「よろしくね! 邪ンヌ!!」

 

「ンン? なんだかマスターの呼び方に違和感があるのだけれど。まぁいいわ、好きに呼びなさい。皆様も、どうぞお好きに」

 

 よろしくお願いしますと皆自己紹介をして、さぁ部屋に案内するから解散しようという運びとなり、そそくさと部屋に戻ろうとした。

 

「ちょっと、貴方何処に行こうと言うのかしら? 私たちをお部屋に案内してください。部屋に着いたら、今度はシミュレーター室ですよ」

 

「あら、マルタ。シミュレーターなんて使ってどうするのです」

 

「ええ、この男と少しOHANASHIをしようと思ってね」

 

 そう言いながら、拳を揉むマルタに笑顔で「良いわね」と乗っかる邪ンヌ。

この後、シミュレーターで良い感じに絞られたのは無理もない話である。

今後も定期的にやるわよとのことであった。

私の明日はどっちだ。

 

 

3.私とマスターとタブレット

 

「キャウキャウフォーン、キャウキャウキュー」

 

「ふむ、ご機嫌だな同士よ。何か良いことでもあったのかい」

 

「フォウ!」

 

「おお、その反応ならば何某か良いことがあったのだな。それは何よりだ」

 

 肩に同士フォウ君を乗せながら、いつもの様に食堂へと向かって廊下を歩いていると、何やらフラフラと歩くマスターを発見する。

その手にはタブレットを持っており、それを見ながら何処かへ向かっているらしい。

 

「コラ、マスター。そんなものを見ながら廊下を歩くものではないぞ? フラフラと左右に揺れているじゃないか。 見るなら見るでいい。立ち止まって端の方に寄るなり、真っ直ぐ歩きたまえ」

 

「あ、ボン。ゴメンゴメン。他のサイトは一切見られないんだけど、唯一見られるマギ☆マリのサイトが意外と面白くてつい見入っちゃったんだ」

 

 その言葉に同士フォウ君の尻尾が逆立った。

あ、コレはマーリンのクソ野郎だなと瞬時に察してしまう自分が悲しい。

 

「それでさ、この動画。ボンとフォウ君も見てみなよ」

 

 2人と1匹、何故か廊下の端に寄ってタブレットで動画を見始める。

私はタブレットを受け取ると、当然の様に指で画面をタップし、手馴れた動作で操作を行う。

最後に触れたのは憑依前だと言うものの、謎に備わった記憶力の前ではこの程度の操作など容易いようである。

そして流れるダンス動画、そこに映っているのはどう見てもマーリンだが、巧くそっくりさんと言える様な感じにした、やっぱりマーリンであった。

静かに怒り、それを抑える同士フォウ君。

それを宥めながら、サイトのブログ等も流して読む。

 

「ボン、凄いね。他のサーヴァントに見せると知識にはあるけど、実際の操作は難しそうにしてたけど、ボンは完璧だね」

 

 瞬間、電撃が走る。

そういえば、私は太古の英霊になっていたのであった。

つまりはタブレットなど、知識としてあっても、初めて見た段階で上手く操作できるなど出来ることなど殆ど無いに等しいのである。

つい、素で操作してしまった。

 

「あ、ああ、カルデアのスタッフの手伝いをしているときに、たまたまコレを使っている所を見たことがあってな。なんとなく覚えてしまったのだよ」

 

「そっかー、やっぱりすごいね」

 

「それ程でもないさ、面白いものを見せてくれてありがとうマスター。ところで、これから何処に」

 

「そういえばそうだった。食堂に行こうと思ってたんだよね、コレ見ながら」

 

「成る程、私とフォウ君も食堂に行こうと思っていたんだ。良ければ一緒にどうかね」

 

「うん、そうだね。一緒に行こうか」

 

「では、そのようなものは不要だな。前を見て真っ直ぐ歩くぞマスター。職員が少なくなっているとはいえど、他の人も歩く廊下だからな」

 

「はーい……なんだかボンって先生みたいだね」

 

「そのようなものにはなれないさ」

 

 どうにか落ち着きを取り戻した同士フォウ君とマスターと共に食堂へ向かい、交流を図った。




 今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

 召喚が早くも天丼状態になっているので終止符を打ちたいところ(打てるとは言っていない)フォウ君とのやり取りを書いてると心が落ち着きます()

 クオリティが低下している気がする。
ネタが出ないので更新速度が下がるかもしれませんがまったりお待ちいただければ幸いです。
次回はまた幕間にしたいです。

 尚、3つ目の小話は感想欄からのネタですが、感想欄にはネタの提供など(する人はいないと思いますが)はしないように願います。
活動報告の方ではどうぞ適当に、気が向いたら読んで投げていただいて構いません。
もちろん、拾うとは限りませんが。

 お気に入り登録、評価、感想、ありがとうございます。
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