FAIRY TAIL~愚者の魔導士~ (ほにゃー)
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プロローグ

「てっテメー……一体何者だ………?」

 

壁を背に座り込んでる男は目の前の黒いコートを着た男に尋ねる。

 

男は闇ギルドの魔導士で、ついさっきまで他の仲間たちと酒を飲みながら、今日自分が何をしたのかを自慢げに話していた。

 

すると突如この男が現れ、仲間たちを殺し始めた。

 

最初に男を追い返そうとした仲間は行き成り銃を向けられ、頭を撃ち抜かれて殺された。

 

そのまま銃に込められた弾を一発も外すことなく他の五人の仲間たちの額に当てて殺した。

 

そっからは魔法による殺し合いになるはずだった。

 

だが、魔法は発動せず、そのまま一方的な虐殺が起きた。

 

男は銃とナイフ、体術を駆使し次々と魔導士を殺していった。

 

中にはナイフや剣で反撃しようとした者もいたが、魔法を得意とする彼らに白兵戦は無理がありあっさりと殺された。

 

時間にしてわずか数分。

 

この男を残して他の魔導士は全員が死んだ。

 

「俺が誰かなんてどうでもいいだろ?今からお前は死ぬんだ……」

 

手にした銃の引き金に力を込めながら言う。

 

「くそっ………悪魔めがっ………!」

 

男は歯軋りをし、恨みを込めて男に言う。

 

そして、乾いた発砲音が響き渡る。

 

「悪いが、俺は悪魔じゃない。俺は………愚者だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………たっく、嫌な夢見たぜ」

 

ベッドから起き上がり、青年は頭を掻きながらシャワーを浴びる。

 

シャワーを浴びた後は、服を着替え部屋を出る。

 

「おい、おやじ。清算頼むわ」

 

「あいよ」

 

宿屋の店主に生産を頼んでいると、なにやら外が騒がしかった。

 

青年は店の外に顔を向けると、そこにはドレスを着た女性たちが出歩いていた。

 

「なぁ、おやじ。今日は何かパーティーでもあるのか?」

 

「お客さん知らないの?今、《妖精の尻尾(フェアリー・テイル)》の魔導士が町に来ててね。その人が船上パーティーを開いてるんだよ。町の女の子たちの殆どが招待されてるって話だよ。うちの娘もそのパーティーにさっき行ったところさ」

 

「《妖精の尻尾》が?」

 

それを聞き、青年は何か考え込むと店主に尋ねる。

 

「なぁ、ちなみにその魔導士の名前は?」

 

「名前は名乗ってないけど、火竜(サラマンダー)って呼ばれてるらしいよ」

 

「なるほど………泊めてくれてありがとな」

 

店主にお礼を言うと、青年は店の外に出る。

 

そして路地裏に入るとあたりに人がいないことを確認し口を開く。

 

「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》」

 

すると、青年の足元に魔法陣が展開される。

 

そして、光が収まると、青年は一気に跳躍する。

 

青年が使ったのは魔法。

 

青年は魔導士だった。

 

今の魔法は、《グラビティ・コントロール》と言い、自身又は触れた対象らにかかる重さを軽減させたり逆に重くさせることが出来るものだ。

 

そのまま民家の屋根まで上がり、屋根を足場にして海へと向かう。

 

海につくとパーティーをしていると思われる船を見つけ、青年はその船に乗り込む。

 

「《妖精の尻尾》に《火竜》。どうにもきなクセェな」

 

誰にも気づかれないように隠密行動で船内を散策していく。

 

「焼き印に販売禁止の魔法………銃に剣、そして奴隷の売買リスト………間違いなく黒だな。これだけ証拠がありゃ、軍にコイツを渡して一斉検挙だな」

 

手にリ得た証拠を懐に入れ、立ち去ろうとした瞬間、青年の後頭部に冷たく硬いものが押し当てられる。

 

「おい、何してやがる?」

 

「えっと……道に迷っちゃった的な?」

 

そう答えた瞬間、青年は思いっきり殴られ床に倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ………イッテェ……!ちっ、まさか俺が捕まっちまうとはな」

 

青年は体を縛られ、倉庫に押し込められていた。

 

「銃とナイフは奪いやがったか。ご丁寧に魔法封じのスペル・シールを施した縄で拘束してやがる。でも、ちょっと身体検査が足りなかったな」

 

そう言い、靴をコンコンと鳴らす。

 

すると、つま先からナイフが飛び出す。

 

「隠しナイフがあったりしちゃうんだな~」

 

そのナイフを使い、青年は縄を切り、立ち上がる。

 

「銃とナイフは新調するか……結構気に入ってたのに……!とりあえず、情報だけ持って軍の詰め所に行けばあとはどうにかなるか。証拠もあればもっといいんだが、探してまた見つかったら嫌だしな」

 

外の様子を聞きながら、青年はゆっくりと倉庫から出る。

 

その瞬間、ものすごい音が響く。

 

「なんだ?何か突っ込んだのか?」

 

「おい!さっきの不審者が倉庫から逃げ出してるぞ!」

 

その声に後ろを振り向くと、何人かの男たちが銃を手にして居た。

 

「絶対逃がすなよ!殺してでも止めろ!」

 

男たちはそのまま引き金に指をかけ、銃を撃ってくる。

 

「《我・時の頸木より・解放されたし》!」

 

その瞬間、青年は目にもとまらぬスピードで動き出し、男たちの懐へと潜り込む。

 

そのまま格闘技を次々と気絶さしてゆく。

 

「うぐっ!」

 

魔法が切れた瞬間、青年はその場に膝をつき倒れる。

 

「はぁ……瞬間的に加速できるのはいいが、効果が切れた後加速した時間の分だけ減速するのはキツイな」

 

今の魔法は《タイム・アクセラレイト》と言い、自身に流れる時間を加速させることによって、一定時間爆発的に加速することが出来る。

 

しかし、効果が切れると同時に加速した時間の分、減速してしまうデメリットもあり、好んで使うものはあまりいない。

 

「さっきの音も気になるが、一刻も早くここから出よう」

 

壁に無理矢理穴でもあけてそこから逃げようかと考えていると、今度は船が急に揺れだし、青年は壁にたたきつけられる。

 

「おいおい!今度はなんだ!?これ、流されてんのかよ!?」

 

青年の考えは当たっており、船は突如起きた波に押され、岸まで戻っていた。

 

そして、押し戻された衝撃で、青年は床を転がり、ある一室の扉を破壊した。

 

「イッテェ~!なんでこんな目に会うんだよ!」

 

怒りながら、体を起こすと、そこには男たちが何人もおり、その中には青年を気絶させた男もいた。

 

「どうやら皆で仲良くパーティーtってわけでもなさそうだな」

 

そう呟き青年は起き上がる。

 

「俺としてはここからおさらばして、軍の詰め所まで行ってお前らの悪事を話したいんだけど、逃がしてはくれないよな」

 

青年はそう言い、コートのポッケに手を入れて言う。

 

「たりめぇだろ。悪いがテメーには死んでもらおうぜ」

 

男は、手を向け、魔法を使おうとする。

 

「ちょ、ダメ!」

 

すると、部屋の中に金髪の少女と一匹の青い猫が入ってきて、それを止める。

 

「あれ?ハッピーじゃねぇか。なんでここにいんだ?」

 

「成り行きです、はい」

 

「ナツは?」

 

「そこにいるよ」

 

指さされた方を見ると、そこには荒い息をしながらふらついてる桜色の髪をした少年がいた。

 

「船酔いでグロッキー状態か。仕方ねぇ、あいつらとは俺が遊んでおくから、お前はちょっと休んでな」

 

「はっ!敵を前にのんきに会話してんじゃねぇよ!死にな!」

 

手を中心に魔法陣が展開され、魔法が放たれようとする。

 

「ダメ!逃げて!」

 

少女は鍵のような物を出し、鍵を使った魔法、精霊魔法で助けようとする。

 

だが、間に合わず魔法が放たれる。

 

しかし、魔法は放たれず、魔法陣は砕けるように消える。

 

「は?な、なんで!?」

 

男はもう一度魔法を使おうとするが、魔法は発動せず、魔法陣は砕けるばかりだった。

 

「悪いが、もう魔法は使えねぇぞ」

 

そう言い、青年はコートのポッケからある物を取り出す。

 

「愚者の……アルカナ?」

 

「俺はこのカードで変換した魔法式を読み取ることで俺を中心とした一定効果領域内における魔法を完全封殺することができる。それが《愚者の世界》だ」

 

「ま、魔法の完全封殺だと?そんな魔法、聞いたことねぇぞ!」

 

「そりゃそうだろうな。なんぜ、俺が作った固有魔法(オリジナル)だからな」

 

固有魔法(オリジナル)だと!?てめー、その域に達してるっていうのか!?」

 

青年が固有魔法(オリジナル)を持っていること、そして、魔法の完全封殺に男たちは完全にビビり、一歩下がる。

 

(魔法の発動を無効化するなんて、そんなの無敵じゃない。ワンサイドゲームなんてものじゃない!反則級の術じゃない!)

 

少女も青年の魔法の効果に驚きを隠せずにいた。

 

「まぁ、俺も魔法が使えないけどな」

 

は舌を出し、へらっと笑う。

 

「「「「「は?」」」」」

 

二人だけでなく、その場にいた全員が、その言葉を聞き、口を揃えてそう言う。

 

「いや、だって俺も効果領域内にいるんだからさ」

 

その瞬間、男たちは大笑いをし、青年の魔法を馬鹿にし始める。

 

「魔導士が自分の魔法まで封じ手どうすんだよ!お前、どうやって戦うんだよ!?」

 

「いやいや、魔法がなくてもコレがあるだろ?」

 

そう言い青年は握った拳を見せる

 

「は?拳?」

 

「そう、拳」

 

青年はそのまま有無も言わさず、拳を男の顔面に叩き付ける。

 

男は鼻血を出し、後ろに下がる。

 

「て、テメー!」

 

男は青年に掴み掛ろうとするが、青年はそれを躱し、カウンターのように再び顔を殴る。

 

そして、足を引っかけ、バランスを崩すと、そのまま回転させるように投げ飛ばし、壁に叩き付ける。

 

「やっぱ、なまってんな。ここ最近、ぬるい依頼ばっかだったし、久しぶりに高難易度の依頼でも請けないとな」

 

「うっ!ぐっ………妙なアレンジが加わってはいるが、今のは間違いなく軍隊格闘術だ……!テメー……何者だ!?」

 

「俺か?いいぜ、教えてやるよ。俺の名は」

 

青年は、胸元の服を緩め左胸にあるある紋章を見せる

 

「グレン=レーダス。魔導士ギルド《妖精の尻尾》の魔導士だ」

 

「なっ!?テメーが《妖精の尻尾》の魔導士だと!?」

 

「ああ。それで、テメーらの顔見たことねぇんだが、俺が知らない間に新人でもはいいたのか?だったら、見せてくれよ。《妖精の尻尾》所属の証の紋章をよぉ」

 

グレンはニヤニヤと笑いながら尋ねる。

 

「あの紋章、本物だ!」

 

「まずいですよ、ボラさん!」

 

「ば、馬鹿!その名で呼ぶな!」

 

「ボラ?ああ、紅天(プロミネンス)のボラか。《巨人の鼻(タイタンノーズ)》にいた魔導士の」

 

「確か数年前に追放された奴だね」

 

「知ってる!魔法で盗みを繰り返して追放されたって!」

 

「つまり、今ここでテメーらをボコしてもいい理由があるってわけだな」

 

グレンは腕を鳴らしながら、拳を構える。

 

その時、先ほどの少年、夏が立ち上がっていた。

 

「グレン、こいつらはオレにやらしてくれ」

 

「……いいのか?まだフラフラじゃねぇか」

 

「あいつらは《妖精の尻尾》の名を騙った。善人だろうと、悪人だろうと知ったことじゃねぇ!絶対に許さねぇ!」

 

「そうかい。なら、お前が決着つけろよ」

 

そう言い、グレンは《愚者の世界》を解除した。

 

「バカめ!敵の前で魔法を解除するとはな!死ね!」

 

するとボラはナツに向かって火の魔法を放つ。

 

「ナツ!」

 

少女はナツがやられたことに声を上げる。

 

「心配すんなよ。ナツに炎は効かねぇよ」

 

「お前、本当に火の魔導士か?こんな不味い火は初めてだ」

 

そう言って、ナツはをもしゃむしゃと喰らっていた。

 

「喰ったら力湧いてきた!」

 

ナツは頬を膨らませ、何かを吐き出すような構えを取る。

 

「お。思い出した!桜色の髪に、鱗みてぇなマフラー!間違いない!コイツは!」

 

「火竜の!」

 

「本物の火竜(サラマンダー)だ!」

 

「咆哮!」

 

ナツは口から炎を吐き出し、男たち、奴隷商人共を吹き飛ばす。

 

そして、残ったボラに向かって炎を纏った拳を向ける。

 

「よーく覚えておけよ。これが《妖精の尻尾》の魔導士だ!」

 

そして、ナツはボラを殴り倒す。

 

「火を食べたり、火を吐いたり、火で殴ったり………本当に魔法なの?」

 

「ああ、間違いなくあれは魔法だ」

 

「竜の肺は炎を吐き、竜の鱗は炎を溶かし、竜の爪は炎を溶かす。自身の体を竜の体質へと変換させる太古魔法(エンシェント・スペル)

 

「元々は竜迎撃用の魔法。その名は滅竜魔法。それを使う魔導士、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。それがナツだ」

 

「育ての親、火竜のイグニールがナツに教えたんだ」

 

「………竜が竜退治の魔法教えるって変な話ね」

 

少女がそう言うと、ハッピーはハッ!っとした顔になる。

 

「疑問に思わなかったのね。………確かに凄いけど……やり過ぎよ!」

 

少女の言う通り、ナツは暴れまくり、港を半壊させていた。

 

「ありゃりゃ、こりゃまた大目玉くらいそうだな。おっ、俺の銃とナイフじゃん!」ラッキー!」

 

グレンは落ちていた自分の銃とナイフをホルスターに収め、満足そうに笑う。

 

すると騒ぎを聞きつけて、大勢の兵士がグレンたちに近づいていた。

 

「やべ、逃げんぞ!」

 

「あい」

 

ナツは少女を掴み、走り出す。

 

「俺も逃げる」

 

グレンもその後を追いかけるように走り出す。

 

「ちょ、ちょっと!なんであたしまで!?」

 

「だって、妖精の尻尾(俺たちのギルド)に入りてぇんだろ?来いよ!」

 

「……うん!」

 

ナツはにかっと笑うと、少女も釣られて笑顔になり、頷く。

 

「んじゃま、自己紹介と行くか。俺はグレン=レーダス!よろしくな!」

 

「あたしは、ルーシィ!よろしくね!」

 

逃げながら自己紹介をしつつ、三人と一匹はハルジオンの町を駆け抜け、ギルド《妖精の尻尾》へと向かった。



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第1話 ようこそ、《妖精の尻尾》へ 

「着いたぜ。ここが俺たちのギルド、《妖精の尻尾》だ」

 

《妖精の尻尾》はフィオーレ王国の東方にあるマグノリアと言う街にあり、《幽鬼の支配者(ファントム・ロード)》というギルドと並んで、フィオーレ王国を代表するギルドとして有名である。

 

グレンたちは街に着くと、ルーシィをギルドへと連れて行った。

 

「ただいまー!」

 

「ただー」

 

「帰ったぜー」

 

「あら、ナツにハッピー、それにグレンもお帰りなさい」

 

店の中にいた酒場のウェイターをしている銀髪の少女、ミラジェーンが三人と一匹を出迎える。

 

ナツはと言うと、扉を開けるなり、ナツは近くのテーブルにいた仲間を行き成り蹴り飛ばす。

 

「テメー、火竜の情報嘘だったじゃねぇか!」

 

発言から考えるに、ギルドの仲間から火竜の情報を聞き、あの町にまで出向いたんだろうっとグレンは考え、手近の空いてる席に腰を下ろす。

 

ギルド内はというと、ナツの喧嘩を皮切りに、乱闘が起きていた。

 

酒を飲んでいた者も、飯を食べていた者も、雑談をしていた者も、便乗するかのように殴る蹴るの応酬をしていた。

 

「このギルド、まともな人は一人もいないの……」

 

「あら?もしかして、新人さん?」

 

「ミ、ミラジェーンさん!?本物!?……じゃなくて!あの、あれ止めなくていいんですか?」

 

「いつものことだからぁ放っておけばいいのよ」

 

「大丈夫だって、すぐに収まるからよ」

 

ルーシィはギルド内の光景を見ながら、グレンとミラに尋ねるも。二人はいつものことと言ってスルーする。

 

「でも、魔法も使おうっとしてるんですけど!?」

 

「マジで?さすがにそれはまずいだろ……」

 

「ちょっとマズイわね。グレン、なんとかできる?」

 

「くっそっ!しゃーねぇな!」

 

グレンは立ち上がり、愚者のアルカナを取り出すと、魔力を送り込んで、《愚者の世界》を使おうとする。

 

「そこまでじゃ!いい加減にせんか、バカタレ!!」

 

突如現れ巨人が一括する。

 

すると、先ほどまでの乱闘が嘘のように収まり、魔法を使おうとした者も大人しくし始める。

 

その光景に、グレンは助かったかっと呟き、アルカナを仕舞った。

 

「だーっはっはっはっは!!皆してビビりやがって!この勝負オレの勝「うるさい」ぴっ!?」

 

高笑いを上げていたナツだったが、巨人に踏まれ大人しくなる。

 

「あら、マスター。いたんですか」

 

「マスター!?」

 

「うん?新入りか?」

 

「は、はい……」

 

マスターの姿におびえているルーシィだったが、マスターの体が突如小さくなりはじめ、小柄な老人になる。

 

「ワシはマカロフ。《妖精の尻尾》のマスターじゃ。よろしくネ」

 

そう言うとマカロフは跳躍し、二階の手すりに立つ。

 

「まーた、やってくれたのう貴様ら。見よ評議会から送られてきたこの半端ない文章の量を」

 

マカロフは懐から取り出した文書の束を読み上げる。

 

密輸組織を検挙し、その語、素っ裸で街を歩き回り、挙句他人の服を盗んで逃走した半裸の男、グレイ。

 

要人警護中に要人に暴行をした学ランの男、エルフマン。

 

酒場で飲んだ大滝十五個の請求書を評議会宛てにした女性、カナ。

 

評議会のレイジ老師の孫娘に手を出したイケメンの男、ロキ。

 

そして、デボン盗賊一家を壊滅させたが、民家七軒を壊滅させ、チューリィ村の歴史ある時計台を倒壊させ、フリージアの境界を全焼、ルピナス城の一部損壊、ナズナ峡谷漢族所を崩壊並びに機能停止、ハルジオンの港を半壊させたナツ。

 

その他多くの魔導士の名前と、問題行動が読み上げられていく。

 

全員が後ろめたそうな表情になり、俯く。

 

「そして、グレン=レーダス」

 

「お、俺も!?」

 

「フィオーレ魔法研究所の警備任務で、侵入しようとしていた他国のスパイを取り押さえたはいいものの、取り押さえる際に栽培中だった貴重な花の鉢、十鉢中七鉢をダメにし、採掘された希少鉱石を誤って粉砕、そし、挙句研究所内でスパイと魔法で交戦。お陰で研究所は半焼。当分の間は活動停止だそうじゃ」

 

グレンはそっぽを向いて、気まずそうな顔をする。

 

「貴様らぁ、ワシは評議院に怒られてばかりじゃぞぉ」

 

マカロフは顔を下に向けて体を小刻みに震えさせていた。

 

「……だが、評議院などクソくらえじゃ」

 

顔を上げたマカロフは手に持っていた文書を燃やし、そのまま捨てる。

 

燃えた文書はナツが口でキャッチし、胃の中に収めた。

 

 

「よいか…理を越える力はすべて理の中より生まれる。魔法は奇跡の力ではない。我々のうちにある気の流れと自然界に流れる気の波長があわさり、はじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う。いや、己が魂すべてを注ぎ込む事が魔法なのじゃ」

 

マカロフの言葉に全員が真剣な表情をする。

 

「上から覗いている奴等を気にしてたら魔道は進めん。評議院のバカ共を恐れるな。自分の信じた道を進めェい!!それが《妖精の尻尾》の魔道士じゃぁ!!」

 

マカロフのその言葉を聞き、全員が声を上げる。

 

先ほどの乱闘なんかまるでなかったかのように、互いに笑いあい、肩を組んだりしていた。

 

その光景に、ルーシィは《妖精の尻尾》は素敵なギルドだと心から思った。

 



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第2話 グレンの戦い方

「やっぱ、ここの飯が一番だな。この味が落ち着くぜ」

 

グレンはパンをシチューに浸しながら口に放り込む。

 

グレンは痩せの大食いで、結構な量を食べる。

 

そのため、常日頃から割と金欠だったりする。

 

「本当にグレンはよく食べるわね」

 

そんなグレンを見ながら皿を片付けるミラ。

 

「食事は数少ない、俺の娯楽の一つだからな。うまいもんたらふく食えればそれでいいんだよ、俺は」

 

手を合わせごちそうさまを言い、グレンは立ち上がる。

 

「もう仕事をするの?」

 

「ああ。面倒だが、金がもうねぇんだよ。報酬のいい仕事で一稼ぎしてくる」

 

「くどいぞロメオ」

 

仕事を探しに行こうとした瞬間、マスターの声が聞こえ、そちらを振り向く。

 

「貴様も魔道士の息子なら親父を信じておとなしく家で待っておれ」

 

「だって、三日で戻るって言ったのにもう一週間も帰ってこないんだよ。探しに行ってくれよ!!心配なんだ!!」

 

そう言うのは、《養成の尻尾》の魔導士、マカオの息子のロメオだった。

 

「ロメオ、貴様の親父は『妖精の尻尾』の魔道士じゃ。自分のケツもふけねェ魔道士なんてこのギルドにいない。大人しく帰ってミルクでも飲んでおれぃ!!」

 

「……バカー!」

 

ロメオはマカロフの顔を殴り、ギルドを飛び出す。

 

「マスター、ガキ相手に言いすぎじゃねぇのか?」

 

「助けに行ったところで、マカオの自尊心が傷つくだけじゃわい」

 

「なら、せめて様子だけでもよぉ」

 

「心配いらん」

 

マカロフがそう言うと轟音が響く。

 

見ると、ナツがリクエストボードに依頼書をめり込ませていた。

 

ナツはそのまま出て行ったロメオを追って、ギルドを出て行く。

 

「いいのかよ、マスター?」

 

「ナツの奴、マカオを助けに行く気だぜ?」

 

ほかの魔導士たちが、マカロフにそう尋ねると、マカロフは煙草を吹かしながら言う。

 

「進むべき道は誰が決める事でもねぇ、放っておけぃ」

 

「こうなるってのわかってたのか?」

 

「さぁの」

 

「しゃーねぇし、ナツが請けようとしてた依頼、俺が請けるわ。いいよな、マスター?」

 

「構わんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツが請けようとしていたのは、盗賊退治の依頼で、グレンはその依頼を受けると、すぐにその盗賊のアジトへと向かった。

 

しかし、盗賊たちはものの数分で倒された。

 

「やっぱぬるいな。いっそのことS級クエストでも……いや、面倒だし、やめとこ」

 

盗賊たちを縛り上げ、花使って素敵なアートにしつつ、グレンは溜息を吐く。

 

「で、いつまで隠れてるんだ?」

 

後ろに向かってそういうと、そこから誰かが現れる。

 

「俺の気配に気づけるとは、流石は《妖精の尻尾》だな」

 

フードを被った男が現れ、グレンの背後に立つ。

 

「俺を《妖精の尻尾》の魔導士と知って現れるとは、テメーも魔導士か?」

 

「そうだ。もっとも雇われの身だがな。金をもらってる以上、仕事はする」

 

グレンは警戒しつつ、《愚者の世界》を発動する。

 

《愚者の世界》は発動の際に、音もなく発動できるので誰にも気づかれることもなく、魔法を封じることができる。

 

「ふん、お得意の魔法封じか?」

 

「なっ!?」

 

「あれだけ暴れまわって知られないと思ったか?情報はいくら隠そうとしても、必ず漏れるものだ」

 

そういう男の背後には宙に浮く剣が五本あった。

 

「貴様のその魔法は、魔法の発動を封じるもの。だが、発動を封じるだけであって、すでに発動済みや起動済みの魔法には効果がない」

 

「宙に浮く剣とか嫌な予感しかしねぇんだが」

 

「だろうな」

 

男が手を振ると五本の剣が一斉に襲い掛かってくる。

 

グレンは三本の剣を交わすと、今度は銃を抜き、二本の剣を弾き飛ばす。

 

「甘い!」

 

男がもう一度腕を一振りすると、剣が再びグレンに襲い掛かる。

 

「俺の操る剣からは逃げられんぞ」

 

「操るだって?はっ!よく言うぜ!実際操ってのは二本だけで、残りの三本は自動で動いてるだけだろ」

 

「ほぉ、今の攻撃でそれだけのことを知るとはな。その通りだ、貴様が先ほど、銃で撃ち落とした二本が俺が操っている剣。そして、最初の三本が単純な命令でオートで動く自動式だ。だが、それが分かったところで、貴様にはどうすることもできん」

 

そう言い剣が回転しながら、グレンに切りかかる。

 

「それができるんだよ。!《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ》!」

 

グレンは冷気と雹弾の攻撃魔法、《アイス・ブリザード》を唱える。

 

「ふん!効かん!」

 

男は剣を振り、襲い掛かる雹弾を叩き割り、顔をフードで覆い、全ての剣を重ね合わせ、冷気から身を守る。

 

「かかったな!《原初の力よ・正負均衡保ちて・零に帰せ》!」

 

グレンが呪文を詠唱すると、剣は突然力を失ったかのように、そのまま地面に転がる。

 

「なっ!剣が!?」

 

「付与魔法を打ち消す魔法。《ディスペル・フォース》だ」

 

「くっ!《目覚めよ剣》!」

 

「遅ぇ!」

 

男はもう一度剣を操ろうと魔法を使おうとするが、すでにグレンの《愚者の世界》により、魔法は使えなかった。

 

「これで終わりだ!」

 

そのまま男を殴りつけ、男を倒す。

 

「ネタがバレていても、勝利をつかむのが《妖精の尻尾》だ!舐めんな!」



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第3話 エルザ

「う~ん」

 

ある日のこと、この間《妖精の尻尾》のメンバーになったルーシィがリクエストボードの前で、依頼書を見ながら唸っていた。

 

「ルーシィ、何やってんだ?」

 

「あ、グレン!依頼って色んなのがあるんだなって思ってて」

 

「そうだな。盗賊退治から探し物、警護や子守りなんかもあるしな」

 

「やりたい仕事があったら私の処に持ってきてね。今はマスターがいないから」

 

カウンターからミラがそう言い、ルーシィはマスターがいないことに気づく。

 

「マスターはどうしたんですか?」

 

「ああ、定例会だろ」

 

「定例会?」

 

「地方のギルドマスターが集まって定期報告会をするのよ」

 

そう言ってミラはルーシィに魔法界の組織図について説明をする。

 

一歩、グレンはと言うとさほど興味がないのか、カウンターに座り、コーヒーを飲んでいた。

 

「ギルド同士の繋がりがあったなんて知らなかったなぁー」

 

「ギルド同士の連携は大切なのよ、これをおそまつにするとね」

 

「黒い奴らが来るぞォォォォ!」

 

「ひいいい!!?」

 

突然、ナツが現れルーシィを驚かす。

 

「うひゃひゃひゃ!なーに、ビビってんだよ!」

 

「驚かさないでよぉ!」

 

「でも、黒い奴らは本当に居るのよ。闇ギルドって言って連盟に属さないギルドがね」

 

「あいつら法律無視だからおっかねーんだ」

 

そんな話をしていると、突然ハッピーはあることを思い出す。

 

「そう言えば闇ギルドっていえば、黒い悪魔って噂があったよね」

 

その内容に、グレンは思わず反応する。

 

「黒い悪魔?なにそれ?」

 

「闇ギルドばっか潰して回ってる黒いコートを着た魔導士のことだよ、なんでも

一人で多くの闇ギルドを潰してきたんだって」

 

「一人でギルドを!?」

 

一人の魔導士で一つのギルドを潰したという話にルーシィは驚く。

 

「でも、かなり残虐って噂を聞くわ。その闇ギルドの魔導士、一人残らず殺したそうだし」

 

「殺したんですか!?」

 

「でも、あくまで噂だし、そこまで気に留めなくていいと思うわよ」

 

「そんなことよりルーシィ、早く次の仕事選べよ」

 

「今度はルーシィの番だよ」

 

「冗談言わないで!チームなんて解散よ!」

 

ルーシィはナツとハッピーの二人とチームを組んだらしいが、前回のクエストの一件でルーシィはナツたちとのチームを解消することを決めたらしかった。

 

「なんで?」

 

「金髪だったら誰でもよかったんでしょ!」

 

なんでも、クエスト内容がエルバーって言う侯爵の家から本を盗んでくると言うもので、そのエルバーが金髪の女好きだったらしい。

 

「そうだけど?でも、ルーシィを選んだのはいい奴だからだ」

 

笑顔でそう言うナツにルーシィは怒る気が起きないのか、何も言わなくなる。

 

「別にチームなんて無理して組む必要ねぇだろ」

 

そう言ったのはグレイだった。

 

「傭兵ギルドの《南の狼》の二人と、ゴリラみてぇな女を倒したんだって?実際スゲェーや」

 

「それ、全部ナツ」

 

「てめぇか、コノヤロー!」

 

「文句あっか、ああんん!?」

 

喧嘩をし始めるナツとグレイを他所に、サングラスをかけた男、ロキがルーシィに話しかけていた。

 

「君って本当にキレイだよね。サングラスを通してその美しさだ。き肉眼で見たらきっと目が潰れるね」

 

「潰れれば」

 

辛らつな言葉を放つルーシィに対して、ロキは笑顔を崩さなかった。

 

しかし、ルーシィの腰の鍵の束に気づき、急に慌てて離れだす。

 

「き、君は精霊魔導士なのかい!?なんたる運命のイタズラ!ごめん、僕たちはここまでにしよう!」

 

そう言い残し、ロキは去っていく。

 

「何あれ?」

 

「ロキは精霊魔導士が苦手なの。きっと昔の女の子がらみよ」

 

ギルドを出て行ったロキだが、ものの数秒で戻ってきた。

 

「大変だぞ、ナツ、グレイ!エルザが帰ってきた!」

 

「「なっ!?」」

 

エルザという名に、ナツとグレイだけでなくギルド全体に緊張が走る。

 

グレンも飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになり、慌てだす。

 

同時に、力強い足音ともに、鎧を着た女性がギルド内に入ってくる。

 

巨大な角を片手に。

 

「今戻った。マスターはおられるか?」

 

「お帰り、エルザ。マスターなら定例会よ」

 

「そうか」

 

「あの、エルザさん。このデカい角は一体……」

 

仲間の一人が、恐る恐るエルザの持ってきた角について聞く。

 

「ああ、討伐した魔物の角だ。地元の者が飾りつけをしてくれてな。綺麗だったのでここへの土産にしようと思ってな。迷惑だったか?」

 

「いえ!滅相もない!」

 

その角は成人男性の身長の二倍以上の高さで、本体を考えたらとてつもなくデカい魔物なのは誰でもわかる。

 

「それにしても、お前たち。また問題ばかり起こしているようだな。マスターが許しても私は許さんぞ。カナ、なんという格好で酒を飲んでいる。座って飲め。ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸い殻落ちてるぞ。ナブ、相変わらずリクエストボードの前をウロウロしてるのか?仕事をしろ。まったく世話の焼ける。今日の処は何も言わずにおいてやろう」

 

(随分といろいろ言ってたような……)

 

エルザに対し、心の中で突っ込むルーシィだった。

 

「ところで、ナツとグレイ、それにグレンはいるか?」

 

「あい」

 

エルザに言われ、ハッピーがナツとグレイを指さす。

 

「や…やあ、エルザ。お…オレ達今日も仲良……良くや……やってるぜい……」

 

「あ゛い……」

 

ナツとグレイは肩を組んで体を震えさせていた。

 

その光景にルーシィは驚いていた。

 

「そうか。親友なら時には喧嘩することもあるだろう。しかし、私はそうやって仲良くしてるところを見るのが好きだぞ」

 

「いや、いつも言ってるけど……親友って訳じゃ……」

 

「あい……」

 

(こんなナツ見たことない!)

 

「うん?グレンはどこだ?」

 

「あれ?さっきまでそこにいたんだけど………」

 

「ああ、グレンならさっき裏から出て行ったぜ」

 

そう言って近くにいたマカオが裏口の方を指さす。

 

「グレンの野郎!逃げやがったな!」

 

ナツはグレンが逃げたことに怒りを露わにする。

 

「そうか」

 

するとエルザは突然、拳を握り、マカオに殴り掛かる。

 

「うおっ!?」

 

「エルザ!何を!?」

 

「茶番はそこまでにしろ、グレン」

 

「……ちっ!バレちまったか」

 

すると、マカオの姿が消え、代わりにグレンが現れる。

 

《セルフ・イリュージョン》。

 

光を操り、自身の姿を変える魔法で、変えるものは使用者のイメージによって何にでも変えることができる。

 

グレンはそれを使い、マカオに化けてエルザをやり過ごそうとしていたが、エルザには効かなかったようだ。

 

「実は三人に頼みたいことがあるんだ。仕事先で厄介な話を耳にしてしまった。本来ならマスターの判断を仰ぐとこなんだが、早期解決が望ましいと思って私は判断した。三人の力を貸してほしい。ついてきてくれるな」

 

エルザの言葉に全員が驚いた。

 

巨大生物を一人で倒せる魔導士であるエルザが人を誘うことなど滅多にないからだ。

 

「出発は明日だ。準備しておけ。詳しくは移動中話す」

 

エルザはそう言い残し、ギルドを後にする。

 

「エルザとナツとグレイ、それにグレン。今まで想像したこともなかったけど、これって《妖精の尻尾》最強チームかも」

 

ミラがそう呟く中、グレンはエルザの後を追った。

 

「おい、エルザ」

 

「なんだグレン?」

 

「どう言うわけかきっちり説明してもらおうか」

 

「詳しくは移動中に話すといっただろ」

 

「いや、納得できねぇ。お前ほどの魔導士が人手を欲しがる程だ。それもナツとグレイ。ウチの中でも伸びしろが高く、戦闘向けの魔導士をだ。事情を説明してもらわねぇと、こっちも動いてやることができねぇんだよ」

 

グレンの言葉に、エルザは少し考えて息を吐く。

 

「そうだな。貴様にだけは先に話しておこう。エリゴールは知ってるだろ」

 

「エリゴールだって!?魔導士ギルド《鉄の森(アイゼン・ヴァルト)》の魔導士、死神エリゴールか!?」

 

「ああ。そいつらの仲間と思しき連中がオニバスの酒場で集まっていて偶然話を聞いたんだ。どうやらララバイと言う魔法を探してるらしくてな」

 

「ララバイ?なんだそりゃ?」

 

「私もわからない。だが、封印されてるらしく、かなり強力な魔法らしい。もし奴らの手に渡ったら確実に危険なことが起きる」

 

「そのための俺か」

 

グレンの固有魔法(オリジナル)《愚者の世界》であれば、どんな魔法も発動前なら封じることができる。

 

それに相手が魔導士ならグレンの得意分野でもある。

 

そして、ギルド一つが相手となればいくらエルザでも荷が重い。

 

そこで、戦闘向けのナツとグレイが呼ばれた。

 

グレンは納得し、そして、あることを思い出した。

 

(《鉄の森》………まさか、こんなところで再開するとはな………)

 

グレンは思案顔し、エルザの方を向く。

 

「分かった。そういう事情なら手を貸す」

 

「ああ、助かる。では、明日は頼むぞ」

 

そう言って、エルザは去っていき、グレンは一人空を仰いだ。

 

「くそっ……よりにもよってエリゴールか……あの時、始末しておくべきだったか……」



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第4話 グレンの魔法

翌朝、駅に集合したメンバーの中に、ルーシィもいた。

 

どうやらミラに、グレンはともかく、ナツとグレイ、エルザの仲はおせじにもいいとは言えず、ギクシャクしたところがあるので、仲を取り持ってほしいとの事で、ルーシィも同行することになった。

 

ちなみにナツとグレイはと言うと出会うって早々に喧嘩をしていた。

 

「あいつらは、一日何回喧嘩すりゃ気が済むんだ?」

 

そんな二人を眺めつつ、グレンはホットドッグを頬張る。

 

「すまない、待たせたか?」

 

そこにカート一杯の荷物を載せたエルザが現れる。

 

「相変わらず荷物が多いな。一泊、二泊する量じゃねぇぞ」

 

「そうか?これでも少ない方なのだが」

 

一年近くは旅行するのではと思える量の荷物に、ルーシィは「あれで少ない方なの!?」っと心の中で突っ込む。

 

「あ、そうだ。エルザ、こいつはルーシィ、最近入った新人だ。訳あって今回の依頼に同行することになったぞ」

 

「新人のルーシィです。ミラさんに頼まれて同行することになりました。よろしくお願いします」

 

「そうか。君が噂の新人か。なんでも傭兵ゴリラを倒したとか」

 

「それナツだし……てか、いろいろ違ってるし……」

 

「今回は少々危険な橋を渡るだろうが、その活躍ぶりなら平気そうだな」

 

「危険!?」

 

危険という言葉に、ルーシィは驚く。

 

「何の用事が知らねぇが、ついてってやるよ。条件付きでな」

 

「条件?」

 

ナツが急にそんなことを言い出し、全員が驚く。

 

「帰ってきたらオレと勝負しろ。あの時とは違うんだ」

 

ナツは昔、エルザに喧嘩を売ってボコボコに返り討ちになったことがある。

 

そのナツがもう一度、エルザに戦いを挑んだ。

 

グレイは無茶だとナツに言う。

 

「確かに、お前は成長した。いささか自信がないが、いだろう、受けて立つ」

 

そして、エルザはその条件を飲んだ。

 

「おっし!燃えてきたぁ!やってやろうじゃねぇか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ………!」

 

列車に乗るなり、ナツは早速酔ってしまい、辛そうになる。

 

「なっさけねえなぁ」

 

「毎度のことだけど辛そうね」

 

「仕方ない。私の隣に来い」

 

エルザはナツを隣に呼び、そして、腹を殴って気絶させる。

 

「少しは楽になるだろう」

 

なんか違うだろっと言う突っ込みをグレンはしたかったが、何も言わず黙っていた。

 

「そう言えばあたしナツとグレンの《愚者の世界》以外の魔法って見たことないかも。エルザさんは、何を使うんですか?」

 

「エルザでいい。私の魔法は「エルザの魔法は綺麗だよ」

 

エルザが答えようとしたが、先にハッピーが答える。

 

「相手の血がいっぱい出るんだ」

 

「綺麗なの?」

 

「大したことはない。私はグレイの魔法の方が綺麗だと思う」

 

「そうか?」

 

グレイはそう言い、掌で拳を握る。

 

すると冷気が起き、グレイの手には《妖精の尻尾》の紋章を型取った氷の彫像があった。

 

「氷の魔法だ。グレン、オメーの見せたらどうだ?」

 

「別に大したもんじゃねぇぜ?俺のは詠唱魔法だ」

 

「詠唱魔法?」

 

「まぁ、今は使う奴なんていねぇ魔法だ。知っての通り、魔法を使う時、呪文はいらねぇだろ?でも、詠唱魔法は呪文の詠唱が必要なんだ。こんな風にな」

 

グレンはそう言って、試しに《ショック・ボルト》を使う。

 

撃たれた《ショック・ボルト》は床に当たり散る。

 

「ナツが魔法使う時、咆哮とか鉄拳っとか言ってるだろ。アレは技のイメージを固める為に言ってるだけで、実際はいらないんだ。事実、グレイは今何も言わずに、魔法を使っただろ?だが、詠唱魔法は詠唱することで魔法を発動する。これは絶対なんだ」

 

「じゃあ、使いづらかったりするの?」

 

「当たり前だろ?だから、使う奴なんて今はいねぇんだと。知ってるやつもいねぇだろうな」

 

「なら、なんでグレンは使ってるの?」

 

「それはだな、詠唱魔法には他の魔法にはない詠唱魔法ならではの面白さがあるんだよ」

 

「詠唱魔法ならではの?」

 

「まぁ、それは秘密だ。ギルドにいりゃ、いつか目にする機会もあるだろう」

 

「じゃ、エルザ。そろそろ本題を頼む」

 

「ああ、そうだな」

 

グレンの魔法についての説明が終わり、エルザが本題に入る。

 

エルザは昨日、グレンに話した内容をそのまま二人にも伝える。

 

そして、話してる内に目的の駅に着き、全員が下りる。

 

「《鉄の森》か……確か、六年前に魔導士ギルド連盟から追放されたんだっけか?」

 

「ああ。今は、闇ギルドにカテゴリーされている」

 

「追放って、処罰はされなかったの!?」

 

「されたさ。《鉄の森》のマスターは逮捕され、ギルドは解散命令を出された。しかし、闇ギルドの大半が解散命令を無視し活動し続けているギルドの事だ」

 

「なるほど。確かにギルド一つとなりゃ、エルザも骨が折れるわな」

 

「奴らはララバイを奪い、何かを企んでいる。それを看過することはできない。乗り込むぞ、《鉄の森》に!」

 

「面白そうだな」

 

エルザの言葉に、グレイは面白そうだと言って笑う。

 

ルーシィはと言うと話を聞いて帰りたくなっていた。

 

「ん?なぁ、エルザ」

 

「どうしたグレン?」

 

「いや、ナツはどうした?」

 

グレンのそのセリフに、エルザ、そして、グレイ、ルーシィ、ハッピーも辺りを見渡す。

 

「「「「あ!」」」」

 

全員がナツを列車に置いて来てしまったことを知った。



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第5話 黒の悪魔の正体

「話に夢中でナツのことをすっかり忘れていた!私の過失だ!殴ってくれ!」

 

「今はそれより、ナツと合流が先だろ」

 

「そうだな。そう言う訳だ!列車を止める!」

 

「ど、どう言う訳?」

 

突拍子もないことを言うエルザに駅員も困惑する。

 

「仲間が一人降り遅れたんだ。わかってほしい」

 

「無茶言わんでくださいよ!降り損なった客一人のために列車を止めるなんて!?」

 

無論そんな理由で列車が止められるわけもないため、駅員は了承しない。

 

「ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

するとハッピーが空を飛び、勝手に緊急停止信号のスイッチを入れる。

 

「ナツを追うぞ!」

 

「もうめちゃくちゃ……」

 

「だな」

 

「服は!?」

 

めちゃくちゃな状態の中で、グレンは溜息を吐き、エルザを見る。

 

「エルザ、念のために俺は次の駅まで行ってる。そこでナツと合流できるかもしれん」

 

「ああ、頼む」

 

「じゃ、後で合流だ。《颪の風浪よ・我をその背に・とく激しく駆けよ》!」

 

指向性の風をまとうことによって移動力をアップさせる《ラビット・ストーム》を使い、それを連発して発動させて高速三次元機動が可能にする疾風脚(シュトロム)を使い、グレンは次の駅まで向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の駅、クヌギ駅に着くと、そこでは多くの乗客と軍の人間で溢れていた。

 

「なんだ?一体何が起きてるってんだ?」

 

「グレン!」

 

すると魔導四輪車に乗ったエルザたちがグレンの前に現れる。

 

見ると、後部座席にはナツがいた。

 

「ナツ!?お前なんでエルザたちと!?」

 

「そんなことは後回しだ!急いで乗れ!すぐに奴らを追う!」

 

エルザの気迫が只事ではないと感じ、グレンは言うとおりに魔導四輪車に乗る。

 

そして、エルザから驚くべきことを聞いた。

 

「ララバイが呪殺の為の道具!?しかも笛の音を聞いただけで呪殺するってのはまじか!?」

 

「ああ、そうだ!奴らの目的はわからんが、きっと恐ろしいことに使う気だ!」

 

「聞いただけで人を殺す〝集団呪殺魔法”か………厄介にもほどがあるぜ」

 

「でも、どうして列車なんて乗っ取ったんだろう?」

 

「レールの上しか走れないし、奪ってもメリットないよね」

 

「だが、スピードはある。理由はわからねぇが、急がざるを得ないことがあるんじゃないか?」

 

グレンは魔導車の屋根の上で服を脱ぎつつ、そう言う。

 

暫く魔導四輪車を走らせて、オシバナ駅に着くとそこも人と軍の人間でごった返していた。

 

「まさか奴らはここに?」

 

「行くぞ」

 

エルザはそう言うと、ずかずかと野次馬たちをかき分け、前へと出る。

 

「中の状況は?」

 

「はっ?あんただふぎゃっ!?」

 

エルザは近くの軍人を捕まえると、状況を尋ねる。

 

だが、軍人が答えようとしなかった瞬間、頭突きをし軍人を黙らせていた。

 

それを繰り返し続けた。

 

「即答できる人しかいらないってことね……」

 

「そうだな」

 

やっと即答した軍人が言うには、すでに軍の小隊が中に突入したらしいが、まだ戻ってきておらず、《鉄の森》もだ誰一人として出ていないとの事だった。

 

それを聞いたエルザはすぐに駅の中へと入り、グレンたちもそれに続いた。

 

駅の中ではすでに軍の小隊は全滅しており、不気味なぐらいに静かだった。

 

そして、ホームに出ると、そこには《鉄の森》の魔導士たちが全員そこにいた。

 

「やはり来たな《妖精の尻尾》」

 

「エリゴール、貴様の目的は何だ?」

 

「遊びてぇんだよ。仕事もなくて暇だからな」

 

そう言い、半裸に鎌を持った男、エリゴールは飛び上がる。

 

「駅には何がある?」

 

そう言って、駅にある拡声器を叩く。

 

「まさか!ララバイを放送するつもりか!?」

 

「今、駅の周りには何百……何千ものの野次馬がいる。いや。音量を上げれば町中に響き渡るかもな」

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

「これは粛清だ。権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げ生活してる愚か者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た。死と言う名の罰をな」

 

「はっ、よく言うぜ。元々はテメーらが悪いんだろうが。それを棚に上げて偉そうに」

 

「そうよ!第一、そんなことしたって権利は戻ってこないのよ!」

 

グレンは耳の穴をほじりながら、エリゴールにそう言う。

 

ルーシィもそれに乗る形でエリゴールに言う。

 

「お前……どこかで……」

 

エリゴールはグレンを見て、一瞬何かを考え出すが、すぐに考えるのをやめる。

 

「まぁ、いい。俺たちが欲しいのは権利じゃない。権力だ。権力さえあれば、すべ他の過去を水に流し、未来を支配することだってできる」

 

「こりゃダメだ。六年前より質が悪くなってる……」

 

グレンは誰にも聞こえないようにボソッと呟く。

 

「俺は笛を吹きに行く。妖精(ハエ)共に《鉄の森》の怖さを思い知らせてやれぇ」

 

そう言い残し、エリゴールは隣のブロックへと逃げ込む。

 

「ナツ!グレイ!グレン!エリゴールを終え!お前たちならエリゴールにだって負けるはずがない!」

 

エルザにそう言われ、ナツとグレイは互いを睨み合う。

 

「聞こえたら返事をしろ!」

 

「「は、はい!」」

 

「なら行け!」

 

「「あいさー!」」

 

エルザに一喝され、二人は肩を組んだままエリゴールを追う。

 

「やれやれ、じゃ、俺もエリゴール追うわ。エルザ、無茶すんなよ」

 

「ああ、わかってる」

 

「ルーシィ、エルザを頼むぜ」

 

そう言い残し、グレンもエリゴールの後を追う。

 

《グラビティ・コントロール》を使って、エリゴールが逃げた経路を通り、隣のブロックに移る。

 

すると意外なことに、エリゴールはすぐに見つかった。

 

「こんな処でのんびりと散歩か?随分と暇じゃねぇか」

 

「テメーを待ってたんだよ。さっき思い出した。テメー、あの時の魔導士だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「六年前、俺たちのギルドのメンツを半数以上殺し、マスターを検挙した評議会の犬!黒の悪魔さんよ!」



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第6話 グレンVSエリゴール

「またあの時の様に、俺たちを殺しに来たのか?どうなんだよ?」

 

「ちげーよ。俺たちは、テメーらのくだらねぇ考えを潰しに来たんだよ。そもそも、あの時だって、戦いになったのはそっちが原因だろ」

 

グレンは銃を抜き、ハンマーを下す。。

 

「最初、こっちも穏便に済ませる予定だった。だが、テメーらのマスターは解散指示を受け入れようとせず、指示書を持ってきた評議員の人間を殺害した。そして、そのまま不意打ちで評議員の人間を五人、その後の戦闘で非戦闘員が四人、戦闘員が三人死んだ。あの場を殺し合いの現場にしたのはそちら側だってのを忘れんじゃねぇ」

 

「ふん、俺たちから権利を奪おうとしたんだ。当然のことをしたまでだ。で、あの時、殺さなかった俺をもう一度殺しに来たのか?」

 

「正直、あの時、お前を殺さなかったことは後悔してる。お陰でしなくてもいい仕事をする羽目になっちまったしな。でもな」

 

グレンはにやりと笑って、銃口をエリゴールへと向ける。

 

「今の俺は評議員の魔導士じゃねーえ。《妖精の尻尾》の魔導士だ。お前を、捕まえる」

 

「ハッ!やってみな!」

 

そう言うとエリゴールは風魔法で攻撃を仕掛けてくる。

 

「《駆けよ風・駆けて抜けよ・打ち据えよ》!」

 

グレンは《ゲイル・ブロウ》を使い、エリゴールの風と自身の風をぶつけ相殺させる。

 

「チッ!」

 

「まだだ!《《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》!」

 

今度は、《ショック・ボルト》に似た魔法をエリゴールに放つ。

 

今の魔法は《ライトニング・ピアス》と言い、見た目は《ショック・ボルト》に似ているが、射程・弾速・威力・魔力効率、全てにおいて《ショック・ボルト》を上回る。

 

放たれた《ライトニング・ピアス》はエリゴールが鎌で弾いたことで当たらなかった。

 

「後ろ取った!」

 

するとグレンはいつの間にか、エリゴールの背後に居て、そのまま銃を撃つ。

 

「くそが!」

 

鎌を引き戻し、回転させ、弾丸をはじく。

 

「おらっ!」

 

その瞬間、グレンは飛び蹴りをエリゴールにくらわし、そのまま地面に倒す。

 

「《三界の理・天秤の法則・律の皿は右舷に傾くべし》!」

 

《グラビティ・コントロール》は詠唱の左舷の部分を右舷に変えることで自身の重さを重くすることができる。

 

グレンは両足でエリゴールの腕を踏みつけ、動かせない様にし、銃口をエリゴールへと向ける。

 

「チェック・メイトだ。大人しくララバイをよこしな」

 

「クククッ!」

 

「何がおかしい?」

 

「おかしいから笑ってんだよ。なんせ、分身を抑えた程度で勝った気なんだからな」

 

「何!?」

 

エリゴールがそう言うとエリゴールの姿が消え、風になって消える。

 

「風魔法の分身だと!?そんな高度な魔法は使えなかったはず!?」

 

「今は使えんだよ」

 

エリゴールはすでにグレンの真上におり、手を構えていた。

 

「くらえ!暴風波(ストームブリンガー)!」

 

「くっ!《極光の光よ・障壁となりて・我を守れ》!」

 

エリゴールの魔法を食らうのは危険と判断したグレンは、六「角形の強固な魔術障壁《フォース・シールド》を展開させ防ぐ。

 

「もっと遊んでやりてぇどこだが、あいにく時間がないんでね。あばよ」

 

「んだと!?待ちやがれ!」

 

だが、攻撃が終わると、そこにエリゴールはもういなかった。

 

「くそっ!逃げられたか!」

 

グレンは舌打ちし、走り出す。

 

「そう遠くまでは行ってねぇはずだ!まだ近くに………なんだ、コイツは………!」

 

その光景にグレンは驚きを隠せなかった。

 

グレンが見たものは駅が巨大な風で覆われているる光景だった。

 

「コイツは、まさか魔風壁か!?なんでこんな物を今使うんだ!?」

 

エリゴールの考えがグレンには読めなかった。

 

「………待てよ。あいつらはやたら権利に拘っていたな。権利を奪われた者、権利を掲げる者………それに、船や馬車じゃなく列車をとったのもおかしい。この魔風壁じゃ列車も動かせられねぇ……………まてよ、確かこの駅の次はクローバー駅。クローバー駅って言えば…………マスターたちが定例会してる場所だ!」

 

グレンは今の推理で全てが繋がったのを確信した。

 

「奪われた者がアイツら闇ギルドだとしたら、権利を掲げる者は正規ギルド!そして、アイツラの真の狙いはギルドマスターか!」



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第7話 仲間とは……

《鉄の森》の目的に気付いたグレンは、この事を伝えるべくエルザを探した。

 

駅の中を走っていると、グレイとエルザを見つけ、グレンは呼び止める。

 

「エルザ、グレイ!」

 

「グレン!無事だったか!」

 

「そんなことより、奴らの目的が分かった!」

 

「ああ、こちらもそれを知ったところだ!」

 

「なら、外の魔風壁のことも知ってるのか?」

 

「ああ。それは何とかなりそうだぜ。奴らの仲間のカゲって奴なら魔風壁を解除できるかもしれねぇんだ」

 

解除魔導士(ディスペラー)か!なら、さっさと探すぞ!」

 

三人で走り回っているとナツの声と破壊音が聞こえる。

 

ナツがソイツと戦っているのだと確信し、そちらに向かうと、案の定、ナツがカゲを倒していた。

 

「ナツ!よくやったぞ!」

 

エルザはそう言い、カゲの胸ぐらをつかみ、壁に叩き付け、剣先を向ける。

 

「外の魔風壁を解除しろ。一回NOと言う度に切創が一つ増えるぞ。いいな?」

 

「わ、わかった……」

 

エルザの脅しビビり、カゲは頷く。

 

その瞬間、カゲの動きが止まり、口から血を吐いて倒れる。

 

見ると背中に短剣が突き刺さっており、その背後にはカゲの仲間の一人が魔法で壁の中にいた。

 

「まさか……魔風壁を解除させないために、仲間を殺したのかよ!」

 

「仲間じゃ・・・・・ねぇのかよ……同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!」

 

ナツは敵と言えども仲間を刺したことに怒り、男が隠れている壁を殴って破壊し、男を引きずり出す。

 

「カゲ、しっかりしろ!」

 

「無理だ、エルザ!意識がねぇ!」

 

「それでもやってもらわねばならないんだ!」

 

「そう言ったってこんな状態じゃ魔法は使えねぇぞ!」

 

「どいてろ!」

 

グレンはエルザを押しのけ、カゲに触れる。

 

「《慈愛の天使よ・彼の者に安らぎを・救いの御手を》!」

 

グレンは《ライフアップ》と言う、対象の自己治癒力をアップさせる魔法を使うも、これは回復魔法でも治癒魔法でもない。

 

あくまで自己治癒力を高めるだけで、応急処置ぐらいにしかならない。

 

「危険な状態は脱したが、完璧じゃねぇ。それに、意識もいつ戻るか………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カゲを連れたまま、グレン達は魔風壁の前まで来る。

 

だが、魔風壁をどうにかする術を持たないグラン達にはどうすることもできない。

 

ただカゲの意識が戻るのを待つしかなかった。

 

ナツはというと、魔風壁に突っ込もうとして何度もはじかれていた。

 

「グレン、お前の魔法で何とかできねぇのか?」

 

グレイがグレンの方を見て訪ねてくる。

 

「詠唱魔法には確かに解除魔法もある。だが、これだけの物となると流石に俺の魔力が足りねぇ。精々、効果を弱める程度だ」

 

「くそ……手詰まりか。急がねぇと爺さんたちの命がねぇってのに……!」

 

グレイが親指の爪を噛みながら悩んでいると、突如ナツが声を上げる。

 

「そうだ、精霊だ!」

 

ナツはルーシィの肩を掴んで言う。

 

「エルバーの屋敷で精霊界を通って移動できただろ!」

 

「いや、そもそも人間が精霊界に入ったら死んじゃうんだけど……それに門は精霊魔導士のいる場所でしか開けないの。つまり精霊界を通ってここを出たいなら、最低でも一人は駅の外に精霊魔導士がいないといけないの」

 

「ややこしいな!いいから早くやれよ!」

 

「だからできないの!そもそも、人間が精霊界に入ること自体が重大な契約違反。あの時は、エルバーの鍵だからよかったけど」

 

「エルバーの……鍵………ああ!」

 

ルーシィの話を聞き、ハッピーが声を上げる。

 

「ルーシィに言いたいことがあったんだ。はい、これ」

 

そう言ってハッピーは一本の金の鍵を出す。

 

「そ、それって、バルゴの鍵!?」

 

「バルゴがルーシィにって。エルバーが逮捕されて契約が解除になったから、今度はルーシィと契約したいんだって」

 

「あ、あれが来たのね………うれしい申し出だけど、今はそれ所じゃないでしょ」

 

「でも、バルゴは地面に潜れるし、魔風壁の下を通って出られるんじゃないかな?」

 

ハッピーのその言葉に、全員が固まる。

 

「そっか!やるじゃないハッピー!」

 

ルーシィが声を上げて喜ぶ。

 

ハッピーから鍵を受け取り、バルゴを呼び出す。

 

「我、精霊界との道を繋ぐ者。汝、その呼びかけに応え門をくぐれ。開け、処女宮の扉!バルゴ!」

 

そして、現れたのはメイド服に身を包んだ、女性だった。

 

「お呼びでしょうか、ご主人様」

 

「え!?」

 

その姿に、ルーシィは声を上げる。

 

「痩せたな」

 

「あの時は、ご迷惑をおかけしました」

 

「痩せたって言うか別人!?」

 

ルーシィが驚いているのは、エルバーの屋敷で見たバルゴは身長が二メートル近くある、ゴリラのような巨漢メイドだったからだ。

 

だが、今のバルゴはすらっとしたモデルのような体系だ。

 

「私はご主人様の忠実なる精霊。ご主人様の望む姿にて仕事をさせて頂きます」

 

「そんなことより、時間がないの!契約は後でもいい!?」

 

「かしこまりました、ご主人様」

 

「ご主人様はやめてよ!」

 

「では、女王様と」

 

バルゴはルーシィの腰になる鞭を見て言う。

 

「却下!」

 

「では、姫で」

 

「妥当ね」

 

「いいから、急げよ!」

 

グレイに突っ込まれ、ルーシィはバルゴに穴を掘るように命じる。

 

「では、行きます!」

 

バルゴは勢いよく地面を掘り進み、進んでいく。

 

「よくやったルーシィ!」

 

「おし!あの穴を通っていくぞ!」

 

穴を通ろうとすると、ナツは負傷してるカゲを担ぐ。

 

「何してんだ、ナツ?」

 

「コイツも連れてく。俺と戦った後に死なれちゃ、後味が悪ぃんだよ」

 

そう言いナツは影も一緒に外に連れ出す。

 

外に出ると、風が吹き荒れ、目もまともに開けられない状態だった。

 

「早くエリゴールを追うぞ!」

 

「む、無駄だ……い、今からじゃ追いつけやしない……俺たちの勝ちだ………!」

 

目が覚めていたカゲはこんな状態になりながらも、自分たちの勝利を確信しほくそ笑む。

 

「ん?ナツはどうした!?」

 

ナツがいないことに、エルザが声を上げる。

 

「あれ?ハッピーもいねぇぞ?」

 

そして、ハッピーもいなかった。

 

「あいつのことだ。先に、エリゴールを負ったんだろ。ハッピーの全力なら、今からでも間に合うだろうからな。俺たちも急ぐぞ!」



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第8話 ゼレフの書の悪魔

ナツ追って、線路を魔導四輪車で走っていると、ルーシィがあることに気付く。

 

「これって私たちがレンタルした奴じゃないわよね?」

 

「《鉄の森》の周到さには頭が下がる。ご丁寧に破壊されてやがった」

 

「弁償か……」

 

「それでほかの車盗んでちゃ世話ないよね」

 

カゲはそう言うと少し考えてから口を開く。

 

「なんで僕をつれてく?」

 

「なんでってケガしてるじゃない。町は誰もいなくなっちゃったし、クローバーのお医者さんに連れてってあげるんだから感謝しなさいよ」

 

「そうじゃない!なんで助ける!?敵だぞ!」

 

カゲはそう叫ぶと、あることに気付きまた口を開く。

 

「そうか。僕を人質にエリゴールさんと交渉するんだな。無駄だよ。あの人は冷血そのものさ。ぼくなんかの」

 

「なら、殺してやろうか?」

 

「ちょ、グレイ!?」

 

グレイがカゲに対してそう言う。

 

「生き死にだけが決着のすべてじゃねぇだろ?もう少し、前向いて生きろよ。お前ら全員さ……」

 

「………だったら、どうすりゃ良かったんだよ」

 

グレイの言葉にカゲが口を開く。

 

「権利を奪われ、仕事もできず……闇ギルドになった俺たちに……一体何ができるってんだよ………どうすりゃいいんだよ………」

 

「知るかよ」

 

悔しそうに言うカゲに、グレンはそう言った。

 

「同情してやらねぇでもねぇが、結局はお前は自分で道を選ばなかっただけだろ。ギルドに縛られず、自分で道を選んでりゃ、もっと違った道もあったんじゃねぇのか?」

 

グレンはそう言い、そっぽを向く。

 

(そうだよな………あの時、違う道を選んでりゃ俺も…………いや、過ぎたことを言ってもしょうがねぇか…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツの後を追い、もうすぐでクローバーの街に着く辺りで、グレン達はナツに追いついた。

 

見ると、ナツはエリゴールを倒していた。

 

「ナツ、エリゴールを倒したのか!」

 

「そんな!エリゴールさんが負けたのか!?」

 

全員、魔導四輪車を降りて、ナツに駆け寄る。

 

「こんな奴に苦戦しやがって。《妖精の尻尾》の格が下がるぜ」

 

「何処が苦戦だ?圧勝じゃねぇか。な、ハッピー?」

 

「微妙なトコです」

 

「何はともあれナツ、お前のお陰でマスターたちは守られた 。ついでだ……定例会場に行き、事件の報告と笛の処分についてマスターに指示を仰ごう」

 

「クローバーはすぐそこだもんね」

 

その時、カゲが魔道四輪を動かし、ララバイを自分の影の魔法で拾ってクローバーの町を向かっていく。

 

「油断したな妖精(ハエ)ども、ララバイはここにある―!ざまぁみやがれ!!」

 

「あんのやろぉぉぉぉぉ!!」

 

「何なのよ!助けてあげたのに……」

 

「追うぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン達がクローバーにある定例会の会場に着くと、そこではカゲがララバイを手に、マカロフの前に立っていた。

 

「いた!」

 

「じっちゃん!」

 

「マスター!」

 

助けに向かおうとすると、グレン達を誰かが止めた。

 

「今いいところなんだから、見てなさい」

 

「《青い天馬(ブルーペガサス)》のマスター!?」

 

「あら、エルザちゃん、大きくなったわね」

 

止めたのはギルド《青い天馬》のマスターのボブだった。

 

「どうした?早く吹かんか?」

 

マカロフはカゲにララバイを吹くように促す。

 

カゲは体を震わせて、今にも笛を吹きそうだった。

 

「いけない!」

 

「黙ってなって。面白ぇトコなんだからよ」

 

今度はギルド《四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)》のマスターのゴールドマインが止める。

 

「………何も変わらんよ」

 

マカロフが口を開く。

 

カゲはその言葉に、恐怖を感じた。

 

「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし、弱さの全てが悪ではない。人間は元々弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だから、ギルドがある。仲間がいる。強く生きるために寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶつかる。しあkし、明日を信じて踏み出せば、自ずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける。そんな笛に頼らずともな」

 

その瞬間、カゲは手にしたララバイを地面に落とし、膝をついた。

 

「参りました」

 

カゲは負けを認めた。

 

マスターたちの命は助かったのだ。

 

「流石です!マスター!」

 

「力じゃなくて言葉で相手に負けを認めさせるとか、流石だよ」

 

「じっちゃん、スゲーな!」

 

「一件落着だな」

 

勝会ムードになっていく中で、カゲに捨てられたララバイから黒い煙が吐き出され、その吐き出した煙が巨大な樹木の怪物のような姿になって表れた。

 

『どいつもこいつも、根性の無ぇ、魔導士共だ。もう、我慢できん。ワシ自ら貴様らの魂を喰ってやろう』

 

「コイツはゼレフの書の悪魔だ!?」

 

「ゼレフって大昔の!?」

 

「黒魔導士ゼレフ。魔法界の歴史上もっとも凶悪だった魔導士。何百年も前の負の遺産が、こんな時代に姿を現すなんてね………」

 

『さぁて、どいつの魂から喰ってやろうか………決めたぞ。全員だ』

 

ララバイは呪歌を使おうと、口を開く。

 

異常事態に、他のギルドマスターが駆け付けるも反撃が間に合わない。

 

その瞬間、ナツとエルザ、グレイの三人が走り出す。

 

「換装!天輪の鎧!」

 

「魔法の鎧の換装だと!?なんて速さだ!」

 

エルザは剣を振り、ララバイの足を切り付ける。

 

そして、ナツはララバイの体をよじ登り、炎を纏った蹴りを顔に当てる。

 

『くっ!小癪な!』

 

ララバイは口から魔法を放つが、ナツはそれを簡単に躱す。

 

だが、その代わり地面にいるギルドマスターたちに攻撃が向かう。

 

「いかん!こっちに攻撃が!?」

 

「逃げろ!」

 

ギルドマスターたちは反撃が間に合わないと理科しい、逃げようとするが、グレイは手を合わせ魔法を使う。

 

「アイスメイク〝(シールド)”!」

 

八方に広がる花のような形状の氷の盾を造り出し、ギルドマスターを攻撃から守る。

 

「奴を倒すには生半可な技じゃダメだ」

 

その様子を見て、グレンはポッケからあるものを出す。

 

「マスター。アレを使う。いいな?」

 

「仕方ないじゃろ。構わん、やれ」

 

「サンキュー。………ナツ、エルザ、グレイ!そいつを消し飛ばす!動きを封じてくれ!」

 

「わかった!換装!黒羽の鎧!」

 

「任せな!右手と左手の炎を合わせて………火竜の煌炎!」

 

「いいぜ!アイスメイク〝槍騎兵(ランス)”!」

 

エルザは一撃の破壊力を増加させる鎧に換装し、ナツは右手と左手の炎を合わせ巨大な炎にし、叩きつけ、グレイは数の氷の槍を造り出し、ララバイに攻撃する。

 

それにより、ララバイはそのまま後ろ向きに倒れ、動きがとりにくくなる。

 

「倒せたの!?」

 

「いや、ゼレフの書の悪魔はこの程度じゃ死なない。もうひと押しがいるんだよ」

 

そう言い、グレンは赤い宝石を取り出し、構える。

 

「《我は神を斬獲せし者・我は始原の祖と我は知る者―――――》」

 

グレンは詠唱を始めると、魔法陣が幾重にも現れ、それが砲身のように重なる。

 

「《―――――其は摂理と円環へと帰還せよ・五素より成りし物は五素に・象と理を紡ぐ縁は解離すべし ・いざ森羅の万象は須く此処に散滅せよ―――――》

 

「な、なんなのアレ?すごい魔力……!」

 

ルーシィは何が起こるのか分からないため、そう言うしかなかった。

 

「あれはグレンが作り出し、詠唱魔法の中でも、膨大な魔力を消費し放つ魔法。その威力は《妖精の尻尾》に伝わる三大魔法に匹敵する。その威力から、グレンは普段は決して使わない」

 

マカロフはルーシィにグレンが使おうとする魔法について説明をする。

 

「何かあるとは思っていたが、こんな隠し玉があったのか」

 

「やっぱグレンの奴スゲーわ」

 

エルザとグレイは、グレンの隠していた実力に思わず感服していた。

 

「グレンの奴とも戦ってみてー!」

 

ナツはグレンを戦いたいのか興奮していた。

 

「巨大な光の衝撃波を発生させ、対象を根源素(オリジン)にまで分解消滅させると言う最高峰の威力を持つ魔法。その名は――――――」

 

「《遥かな虚無の果てに》!」

 

マカロフが最後の言葉を言い終わる直前に、グレンも詠唱が完了し、グレンはニヤリと笑う。

 

「ぶっ飛べ!《イクステンション・レイ》!」

 

一瞬、その場に居た者、全員の視界が真っ白になった。

 

視界が回復すると、そこにゼレフの書の悪魔の姿はなく、まるで空間ごとくり抜いたかのように、跡形もなく綺麗に吹き飛ばされていた。

 

「やっべ………今ので魔力が空になった………もう一発も魔法打てねーわ」

 

グレンはそう言い、その場に座り込む。

 

(凄い……〝愚者の世界”なんて馬鹿げた魔法の時も思ったけど、この魔法も規格外すぎる………エルザに、ナツに、グレイ……そして、グレン。これが、《妖精の尻尾》最強チーム!)

 

ルーシィはそう思い、四人を見つめる。

 

「いやー、いきさつはよく分からんが、《妖精の尻尾》には借りができちまたな」

 

「なんのなんのー!ふひゃひゃひゃひゃ!!」

 

マカロフは笑うが、次の瞬間、あることに気付き、顔を青ざめる。

 

他のギルドマスターたちも何事かと思い、後ろを振り向く。

 

そこにあったのは、ナツとエルザ、グレイが戦った後の壊れた地形と破壊された定例会の会場、そして、グレンが跡形もなく吹き飛ばした森があった。

 

「悪い、マスター。やり過ぎた」

 

「申し訳ありません……」

 

「いーのいーの。どうせもう呼ばれないでしょ?」

 

そう言い残し、グレン達は急いでその場を後にした。

 



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