オラリオにピエロがいるのは間違っているだろうか (れもね〜ど)
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魅惑のピエロ

迷宮都市オラリオ。

世界で唯一の迷宮(ダンジョン)に蓋をするように聳え立つ白亜の摩天楼《バベル》を中心として円形に広がる広大な都市。

富や名声などを求めた冒険者と娯楽を求める神々が集う地。

バベルを中心に広がる8本のメインストリート。

西に伸びる夜になると冒険者達が集う多くの居酒屋がある。空も茜色に染まり、居酒屋も客引きを始めたころ。そこには普段とは一風変わった人集りが出来ていた。

 

 

小人族(パルゥム)の少年?と赤髪のツリ目の女神を先頭に20人ほどの団体が西のメインストリートにある《豊穣の女主人》を目指していた。

彼等はオラリオで1.2を争うファミリア『ロキ・ファミリア』。その主神のロキは彼女の眷属達が呆れるほどの酒好きである。ロキほどではないにしろ酒好きの団員も多い。となると必然的に居酒屋の集結する西地区に足を運ぶことになる。そんな彼等が普段とは違う雰囲気に気づくのにもそう時間はかからなかった。

 

「ロキ、この時間にしてはいつもより子供が多くないか?」

「んー、確かなぁ。いつもよりは多い気もするけど別に気にするほどでもないやろ。そんなことより早く行って酒飲もうや」

 

そんなことを話してしている彼等の前に人集りが見えてきた。

そこには、娯楽を求める神々やまだ幼いの少年少女、仕事帰りの人々、ダンジョンから出てきたばかりであろう冒険者などが集まっており、その中心には道化の仮面を被り派手な衣装を着て大きな玉に乗りながらジャグリングをしているピエロがいた。

 

「なぁフィン、初めて見たかもしれんけどあのピエロなんか見たことないか?」

「同感だね。ちょうど僕もそんなことを考えていたよ」

「ですよね!私もそう思ってました!」

 

フィンの答えを半分も聞かないうちに褐色の肌と露出の高い服装に隠れた大きな双丘が特徴のティオネが割り込んできた。

 

「う、うん。あの、ティオネわかったからそんなにくっ付かないで」

 

そんなやり取りをしているとあたりに拍手と歓声の声が鳴り響いた。

 

「今日はありがとう!また会える日を楽しみにしててね!」

 

ピエロはボールを空高く投げ、全員の視線が上に集中した一瞬を狙って誰も気づかないうちに消えてしまった。それに驚いた様子も見せず「まぁピエロだしねー」「どうやってやったんだろ」などと言いながら観客は散り散りに散って行った。

ピエロの演技は観客だけでなくロキ・ファミリアの目も盗み第一級冒険者にも気づかれずに消えて行えていった。



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ピエロの事情

西のメインストリートにピエロが現れた翌朝。

オラリオの南東、イシュタルファミリアの運営する色街の一室に1人の男がいた。

 

「1年?いや、2年ぶりくらい?いきなり来た時は驚いたよ。もしかしたら死んだんじゃないかなんて噂もあったからね」

 

男の横で褐色の肌をした、美しい肢体に一糸纏わぬ姿を晒している女性が話しかける。

 

「はは、そんな噂あったのか。いっそのこと本当にこのまま死ぬのもありかな?なんてね。一応置き手紙はしてったのになぁ、そうか俺は死んでることになってるのか面白いな」

 

今からちょうど1年半前、男は当時所属していたファミリアに一通の置き手紙──一枚のメモ──を残してオラリオを出た。当時から数少ない貴重な戦力である第一級の冒険者である彼をギルドがオラリオの外に出ることを許可するはずもなく、ギルドに何も知らせず彼は神から授かり昇華させた恩恵(ファルナ)を利用して城壁を飛び越えて出て行ったのである。故に彼がオラリオを出たところを見たところは1人としておらず、失踪から2ヶ月ほど経つとオラリオには死亡説が流れ信じられていた。

 

男がオラリオに戻ってきたのは昨日正午、出て行った時とは違い荷馬車に忍び込んで帰ってきた。──男が荷馬車に乗っていたことは荷馬車の所有者も気づいていない──オラリオに入り荷馬車を降りた後、泣いている子供を見つけた。男は元気づけようといくつかの曲芸を披露した。子供が泣き止む頃にはいつの間にやら人集りが出来ていた。そして、そこにロキファミリアも来てしまった。彼等に一早く気づいた男はその場を逃げ出し、逃げるようにして入った色街で旧友と一夜を過ごしていた。

 

「死ぬ気なんかさらさらないくせによく言うよ。せっかく帰って来たのになんでファミリアに帰らないんだい?真っ先に私のところに来て、そんなに私が恋しかったのかい?」

「確かに恋しかったなぁ。俺もオラリオ出る時はこんなに長い間外にいるとは思ってなかったんだよ。それで置き手紙にも『1ヶ月ほど遊んでくる』って書いたからさ、それがどうしてか1ヶ月のはずが1年半だよ?帰ったら確実に殺されるに決まってる」

「な!!バカ!!思ってもないことを口にするんじゃないよ!!まぁ分からん訳でもでもないね、実際私も楽しませてくれなければ半殺しにしてただろうからね。」

 

女は思ってもなかった返事に戸惑いながらも続けた。

 

「でも一度姿を見られてるんだろ?それだったらもう時間の問題じゃないか?分ったなら観念して帰りな、捕まって帰ってくるかか自分から帰るってくるかで結構変わったりするもんさ。自分から帰って来たら案外許してくれたりするんじゃないか?」

「無理だよ。3日間ほどしばき倒されて半年はただ働きさせられるとこまで見えてる。自分から殺されに行くなんてそんな無様なことしたくないね。それとも()()()()も一緒に来てくれるんなら考えないこともないかなー?なんてね」

「アホ、あんな化け物の巣窟なんか誰が行くか。うちはただでさえあのヒキガエルのせいで立場が悪いのさ、行ったら何されるかわかったもんじゃない」

 

男の横にいるアマゾネスの女性(アイシャ・ベルカ)の所属するイシュタルファミリアは、団長であるフリュネ・ジャミールのせいで男の所属するロキファミリアとは犬猿の仲である。戦力的に何倍も劣っているイシュタルファミリアがもしロキファミリアと戦争になったとしたらするまでもなく結果は見えている。なのでアイシャには友人である男は別として、なるべくロキファミリアは関わりたくない存在であった。

 

「バレて死ぬか謝って半殺しかしかないんだから諦めな。まぁ嫌なことがあったらまた私のとこに来てまた楽しませてくれればいいさ」

「んじゃあ死ぬまで頑張ってみっかな!」

 

男は太陽が照らす今は閑散としている色街へと出て行った。



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三者三様

陽の光の届かない地下にあるダンジョン。その24階層に生えている木の下、宝財の番人(トレジャーキーパー)の死骸の横にピエロはいた。

 

久しぶりに潜ってみたけど何も変わんねーな、身体も思ってたより訛ってはなかったしもちっと下行くか。どうせなら最高級のアダマン取ってくるってのもいいな。

 

 

ダンジョン18階層リヴィラの街。

ならず者が集まるこの街に剣姫アイズヴァレンシュタインがいた。

 

「おぉ、剣姫!面白いニュースがあるぞ聞いてくか?」

 

ならず者達を束ねる眼帯男、ボールスがアイズに話しかける。

 

「...お金取らないなら」

「はっ!この街でタダで情報が手に入るなんてまだ思ってるのか?そうだな、その腰の袋に入ってる魔石をくれたら教えてやろう」

 

ボールスの提案にアイズは返事もせず立ち去ろうとした。

 

「お、おい!半分でいい、半分だけでいいから聞いてく気はねえか?」

「お金取るなら結構です」

道化(クラウン)についてだとしても?」

 

感情を表に出さず人形のような雰囲気をしていたアイズが道化(クラウン)という単語を聞いた瞬間、年相応の子供っぽい雰囲気に変わった。

 

「どうだ?聞く気になったか?」

 

プレゼントを待ちわびる子供のようなアイズは小さく頷いて袋をボールスに渡した。

 

「ニュースってのはな、死んだと思われてた道化(クラウン)が3時間ほど前リヴィラに現れたってんだ。確かロキ・ファミリアだったろう?どうだ聞いといてよかっただろ」

「まだここにいるの?それともどこか行っちゃったの?」

「さっきまではいたが...確か『アダマン取って来る』って言って下に行ったと思うぞ」

 

ボールスの言葉を聞き終わるや否や、アイズは大樹の下の19階層への入り口へ駆けていった。

 

 

アイズが7階層を駆けているとき。

ロキ・ファミリアの本拠地《黄昏の館》にて。

 

「さぁ、分担は済んだかな。僕とガレスは魔石を換金してくる。他は各々頼んだよ」

 

今日は遠征で得た数々の魔石やドロップアイテムを換金したり、アイテムの補充をしたり武器の整備に出すなど、1日かけて遠征の後始末をする予定だった。

 

「フィーン、アイズがいないけどなんでー?」

 

褐色の肌に双子の姉とは違い残念な双丘を露出の高い服で隠したティオナが話しかける。

 

「それはほんとか?はぁ、またダンジョンだろう。昨日あれ程言っておいたのに、帰ってきたら罰が必要だな。フィン、私がアイズを連れ戻す。行ってきてもいいか?」

「うんわかった。頼んだよリヴェリア」

「えー!リヴェリアだけずるい!私も行きたいー!」

「わかったよ、2人で行っておいで。それでリヴェリアとティオナの分は...ラウル、君に任せた」

「えぇー!そんなの酷いっすよ!」

 



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網掛け

アイズが19階層へ向かった30分後、リヴェリアとティオナは18階層リヴィラの街に来ていた。

 

「ボールス、ここをアイズが通らなかったか」

「おお、九魔姫(ナインヘル)それに大切断(アマゾン)か。どうした?こんなとこにエルフ様が来ていいのか?」

「余計なことは聞くな質問にただ答えればいい」

「おっかないねぇ。でもここのルールは分かってんだろ?そうだな、その腰の袋で話してやろう」

「...この外道が。わかった話せ」

「いいねぇ、剣姫ならついさっき下に行ったばかりだぜ」

「あのバカは!いったい何処まで行くつもりなんだ」

 

そう言うと18階層に来るまでに倒し手に入れた魔石の袋を渡した。

ボールスから必要最低限の情報を聞き出した2人はすぐに19階層に繋がる大樹の下へと向かおうとした。しかし、その2人をボールスが引き止める。

 

九魔石(ナインヘル)1つ面白いニュースがある、どうだ聞いてかねーか?お代は...そのドロップアイテムでいいだろう」

「馬鹿を言うな私達は今急いでいるのだ。余計なことに費やす時間などない」

「ほーお、道化(クラウン)についてだとしてもか?」

「な!?」

「どうだ聞く気になったか?」

「...話せ」

 

ボールスはリヴェリアとティオナからドロップアイテムを受け取ると

それらを品定めするように眺めながら言った。

 

「少し前にここリヴィラの街に道化(クラウン)が現れた。って言っても、2時間ほどここに滞在した後すぐに下に行っちまったから今はいねぇがな」

「...それは本当か」

「あぁ、嘘は言わねぇ。なんなら神に誓ってもいい。ちなみに言うと剣姫はこれを聞いてすぐに下に飛んで行ったな」

 

ティオナが驚きを隠せない様子で固まっている。

 

「ティオナ!全速力で上に戻ってフィン達を呼んで来い。私は19階層の入り口で見張っている。ここで捕まえるぞ!」

「え...あぁ!わかったすぐ戻るから待ってて!」

 

 

陽は傾き始め空が茜色に染まり出した頃、黄昏の館の一室に──フィンの自室に──ティオナが転がり込んで来た。

 

「そんなに慌ててどうしたんだい?アイズたちは一緒に来なかったのか?」

「フィン!19階層の入り口に集まってってリヴェリアが!」

「何があった」

「ティッキーが、ティッキーがリヴィラにいたってボールスが!とにかく早くしないと逃げられちゃう!」

「ティキが!?わかったすぐに行く。ティオネ!いるんだろう?レベル3以上の団員はすぐに準備出来次第19階層の入り口に集まるように回してくれ」

「はい!わかりました!」

「ティオナ少し休んでからでいい、君もなるべく早く来てくれ。さぁ鼠を捕まえに行こうか」

 



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可能性

こんな駄作の更新を待っていてくださる人がいるか分かりませんが、更新遅くなりすみません。
これからは出来る限り早く更新したいと考えてます。
これからも何卒よろしくお願いします。


ティキを追いかけ走り続けたアイズは30階層のとあるルームにいた。

アイズの足元には返り討ちにあった数多のモンスター達。アイズが背にしているルームに繋がる道にも同様の光景が広がっていた。

30階層に着くなりいきなり3体のブラットサウルスのお出迎えから始まった嵐のような怪物進呈(パス・パレード)

やっとの事で生き残り剣を納め一息つこうかとした直後。

ビキリ

アイズ正面の壁面に亀裂が走る。

小さかった亀裂は一瞬のうちにルーム全体に広がり新たな怪物進呈(パス・パレード)を生み出した。

 

また!?...ポーションを飲む暇もくれないなんて

 

アイズの頭には逃走の選択肢は無かった

剣を抜き、

 

「エアリアル!」

 

アイズが叫ぶと風の鎧が出現した。

 

よし、まだいける

 

自分に言い聞かせるように言葉に出しながらモンスターの群れへと向かいっていった。

 

 

アイズが30階層に到着した10分程前。さらに下の31階層より繋がる通路よりティキが30階層へ足を踏み入れた。

背中には今にもはち切れそうな程に詰まったバックパックを背負い地図を片手にただただ上を目指し歩く。

 

30階層には『異常(イレギュラー)』その一言で片付けてしまっていいのか分からない異常な光景が広がっていた。

武器の類は何一つ所持しておらず誰が見ても無防備な状態にもかかわらず、ティキに襲いかかってくるモンスターはいない。というより、遭遇することすら出来ずにいる。

透明になっているわけでも特別早く動いているわけでも無い。それなのに一度姿を確認した直後にはもうそこにはいない。モンスターからしたら幽霊にでも出会ったかのように不思議な出来事が起こっていた。

 

やっぱり便利やなぁこのスキル。帰ったらロキに酒でもプレゼントしようか。

 

ティキはオラリオで唯一のスキルを駆使しモンスター達から上手く逃げていた。

 

便利はいいけど、この階層なんかモンスターの数少なすぎないか?

...まさか、また誰か襲われてるのか?

 

ティキのスキルは便利ではあれ完璧ではない。それ故ここまで完璧に逃げられた経験は少ない。

あるとは言え、逃げられた時は毎回同じ階層の近くのルームか通路で誰かが怪物進呈(パス・パレード)に襲われていた。

その見知らぬ誰かが意図せずモンスターを引き付けているお陰でモンスターに遭遇しないで済むのだ。

ティキはこれまでの経験から誰かがこの近くで襲われている可能性を考えた。

彼らを放置するのは間接的にとはいえ、見殺しにしているのと同じ事である。

見殺しにするのは余程の悪人でない限り気分の悪いものだ。ティキ自身も良く思わないでいた。

 

はぁ、どうする助けるか?

武器になるものは、...採取用の短剣とピッケルだけかよ笑

でもまぁ、この階層の奴らなら素手でいけるだろうし。見殺しも気分悪りぃしな。

ここで恩でも売って高く返してもらうとするか。

 

ティキは今までとは逆に、モンスターが多く現れた方向に向け走り始めた。



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