海上自衛官が渡辺曜の妹になりました (しがみの)
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第0話 プロローグ

20XX年7月14日

東北と言えども、夏の太陽が容赦なくさんさんと照りつける海上自衛隊大湊基地。そこでは、石垣沖で行われる米海軍、韓国海軍との合同演習に向かう、むらさめ型汎用護衛艦〝はくう〟(DD-103)が出航準備を進めていた。

 

「6番離せ、出航よぉーい!!!」

 

「3番離せ!!!」

 

ラッパの音が艦内に響き渡った後、航海長兼副長である町田(まちだ)慶喜(よしのぶ)二等海佐の合図で、6番と3番舫いが放たれ、ゴゴゴ・・・。と、音を立てながら埠頭から〝はくう〟が離された。

 

「前後部曳索離せ!!!」

 

「両舷前進微速。」

 

「両舷前進微速!!!」

 

艦長である高田(たかだ)壱頼(かずより)二等海佐の合図で速力通信士の八名(やな)一希(かずき)一等海曹が速力通信器の右舷と左弦の〝前進微速〟のボタンを押すと、最新型のガスタービンがうねる音を立て、〝はくう〟がゆっくりと大海原に向けて動き始めた。

 

「左、帽振れ!!!」

 

高田二佐の合図で埠頭に居る人々に向かい、自衛官達が制帽を降り出す。

 

「航海長操艦。両舷前進原速、赤黒無し、針路140度。」

 

大湊港を出ると、直ぐに操艦のバトンは高田二佐から町田二佐に渡る。

 

「頂きました航海長。両舷前進原速、赤黒無し、針路140度。」

 

しばらくし、〝はくう〟は大湊湾の真ん中程に差し掛かっていた。大湊湾は、養殖業が盛んでそこら中に養殖が行われている養殖筏がぷかぷかと浮かんでいる。これが大型船舶がただでさえ狭い大湊港と陸奥湾を出入りするのに障害となっている。ヘリ搭載護衛艦やイージス護衛艦などと比べ、比較的小さく設計されている汎用護衛艦も例外ではない。数年前、〝はくう〟が大湊基地に配属されたばかりの時、艦首と養殖筏が接触しようとなったという事件まであったのだ。その為、艦の操艦を担当する航海科は大湊湾から陸奥湾に抜けるまで気が抜けないのだ。

 

「大湊湾を抜けるぞ!!!針路そのまま!!!」

 

「30度ヨーソロー!!!」

 

慣れない手つきで操舵輪を握りながら元気に針路を言うのは薄い山吹色のように見える茶髪のショートカットが似合う(はやし)菜月(なつき)三等海曹。数年前に配属されたばかりの新人で、汚れ一つ無い紺色の作業着に身を包んでいた。

 

「よし、抜けた!!!両舷前進強速、取り舵40度!!!」

 

「両舷前進強速!!!」

 

「取り舵40度!!!」

 

完全に大湊湾を抜け、陸奥湾を進む(ふね)は、曲がりながら徐々に速度を上げていく。

 

漁港と漁場、もしくは養殖筏に向かう為に湾内を行き交う漁船達とすれ違う中で一際目立つ護衛艦〝はくう〟。人々は〝はくう〟の出航を喜んでいるのか、それとも、同じ船乗りとして、「頑張って来い」と言っているのか、手を挙げたり、警笛を鳴らしたりしていた。

 

 

「正面前方、6マイル!!!反航船あり!!!」

 

「面舵一杯!!!」

 

「面舵いっぱーい!!!」

 

右に向かって艦が曲がるが、数十ヤード進むと町田二佐がまた合図を出す。

 

「取り舵20度!!!」

 

「とーりかーじ!!!」

 

右に避けた〝はくう〟の左舷500ヤード横を青森方面に向かって通り過ぎて行く、多くの旅客や自動車を載せたフェリー。ここ、青森県の津軽海峡と下北半島を青い水で分断している平舘(たいらだて)海峡。本州と北海道を繋ぐ青函トンネルが開通してからは貨物列車や特急電車に引き継ぐ感じで海峡上を行き交う貨物やフェリーの便は激減したが、それでも特急電車より安上がりで済み、さらにマイカーを載せられるフェリーを使う人々が居るのか、度々今の様な沢山の旅客と自動車を載せたフェリーとすれ違う。電車だと、トンネルの大きさによって積める車の大きさが限られてしまう。そこがフェリーの強みだろう。さらに、数年前には青函トンネルを新幹線が走る様になったため、さらに運賃が上昇し、さらに乗客が増えたらしい。

・・・閑話休題。

 

 

 

〝はくう〟は、大湊港を出航し、陸奥湾、平舘海峡を抜け、津軽海峡に出た。ウイング要員は別れ惜しく大湊基地がある下北半島を眺めていたが、彼らはまだ知らなかった。二度と大湊基地に戻って来れないことを。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

20XX年7月15日

伊豆半島の石廊崎から南西に10km。〝はくう〟は演習のため、20ノットで演習場所である石垣島北西約30km地点に向けてて航行していた。

 

航行中でありながらも自衛官達の話し声が聞こえる艦内は、日本国の平和の象徴なのかもしれない。

 

辺りを見渡せる艦橋内も談笑する声が聞こえており、一般人から見るととても訓練をする前の感じとは到底思えない。

 

艦長はCIC(戦闘指揮所)に居るため、艦橋内の赤と青の2色のカバーがかけられている艦長席に艦長は居ない。そのため、艦橋内で一番階級が高いのは町田だけである。彼は航海長として、ジャイロコンパスの前に手を組みながら居るが、後ろにいる速力通信士の八名一曹と話していた。町田二佐と八名一曹は階級と年齢がかなり離れているが、ラブライブ!という同じ趣味を持つ者、更に同じ航海科だったので、直ぐに打ち解け、今では私語の時のみだが、敬語を使わないほどだ。

 

今、町田二佐と八名一曹は演習が終了したら秋葉原て行われるラブライブ!サンシャイン!!のイベントに参加する予定までたてている。なお、その予定には何故か林三曹まで参加することになっている。実は彼女も町田達と同じファンだということらしい。

 

彼らは早く演習を終わらせ、横須賀基地に寄港した時、秋葉原に向かおうと考えていたが、そんな考えは艦橋内にあるスピーカーと町田の着けているインカムから聞こえたある一言で壊された。

 

『こちらCIC!!!本艦に向かって対艦ミサイルが発射された模様!!!弾数12・・・12!?』

 

『対空戦闘よーい!!!』

 

CICからの緊急連絡で艦内はざわざわと騒がしくなり始めるが、対空戦闘用意の武鐘である電子音がカーンカーンカーンと艦内に鳴り響くと、直ぐに緊張感のある沈黙に変わり、総員は配置に着くべく、艦内を走り回っている。

 

ECM(電波ジャミング装置)ジャミング開始!!!』

 

ラティスマストに設置されているNOLQ-3(ジャミング装置)からジャミングの電波が出され、それにより十二発の内の二発が進路を変え、海面に突っ込んでいった。それはモニター上でしか分からないが、隊員に希望を見せるのにかなり重要な物だった。

 

ESSM(対空ミサイル)発射用意!!!トラックナンバー(目標)1425(ヒトヨンフタゴー)から1427(ヒトヨンフタナナ)!!!』

 

彼、町田の着けているインカムと艦橋内のスピーカーからは、CICからの砲雷長、清水(しみず) 吾郎(ごろう)三等海佐の緊張気味の声が聞こえる。それもその筈だ。この艦は、システムの都合上、ミサイルを一度に三発しか迎撃出来ないのだ。一歩やり方を間違えた瞬間、この艦と彼らは共に沈む。

 

『艦橋、CIC。面舵一杯、最大戦速!!!』

 

「了解!!!回避航行!!!面舵一杯、最大戦速!!!」

 

CICからの進路変更の指示が来るや否や、町田二佐は指示をすぐに出す。ガスタービンが唸り、そして艦全体に衝撃を出しながら急加速をし始めた。

 

「了解、最大戦速!!!」

 

「面舵一杯!!!」

 

ミサイルを撃ち落としたり攻撃したりする砲雷科と違い、操艦する航海科は何もしないのか?否。航海科は航海科なりにやる事がある。少しでもミサイルの接触が少なくなるように回避行動をとることだ。

 

『諸元入力完了!!!』

 

『ESSM発射、始め!!!』

 

『後部垂直発射装置(VLS)、ESSM、発射ァ!!!一斉発射(SALVO)!!!』

 

砲術長の叫び声が聞こえた直後、艦内に警報音が鳴り響き、轟音が響いた。警報音は轟音に掻き消され、艦が少し揺れる。二番煙突の前部にあるMk.48VLS(垂直発射装置)からESSMが発射された衝撃だ。

 

インターセプト(侵入阻止)5秒前!!!』

『4』

『3・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎撃成功(マークインターセプト)!!!』

 

艦橋からハッキリと光るオレンジ色の花火が水平線上に見えた。ミサイルを迎撃したのだ。

 

『艦橋、CIC。針路20度、最大戦速!!!』

 

「了解、もどーせー!!!」

 

「ようそろー!!!」

 

また艦の針路が変わる。

 

『次だァ!!!ESSM発射用意!!!』

 

『駄目です!!!全目標、ESSM防衛圏突破!!!』

 

砲雷長は、休む暇なく直ぐに次の目標を迎撃しようとしたのだが、もう対空ミサイルが撃ち落とせる範囲外になってしまった。そう、本艦に近づきすぎているのだ。

 

『クソッ!!!トラックナンバー1428(ヒトヨンフタハチ)、主砲、撃ちぃかた始めー!!!』

 

オート・メラーラ 76 mm砲がミサイルの方角を向き、ッダンッダンッダン!!!と高速で弾を撃ち始めた。弾は小さいが、一分間に八十五発撃てるためか、次々とミサイルに弾を当て、オレンジ色の花火を次々と作り出していた。

 

『残り3発です!!!』

 

が、残り三発のミサイルは、主砲の弾幕をすり抜け、主砲では撃ち落とせない範囲まで近づいた。

 

『CIWS、AAWオート!!!』

 

最後の望み、CIWS(高性能20ミリ機関砲)がミサイルが接近してくる方角を向き、目にも留まらぬ速さで弾と薬莢を吐き出し始めた。

 

『総員、衝撃に備えー!!!』

 

艦長は、素早く衝撃に備えるように指示を出す。ミサイルが命中しても被害を少なくするためのための策だ。

 

『あと一発!!!』

 

二発のミサイルを迎撃成功。あと一発になったが、なかなかCIWSの弾幕で迎撃できない。いや、ミサイル本体に当たって燃えているいるのだが、爆発しないのだ。そのため、進行方向を変えずにそのまま本艦に直撃。

 

運悪く弾薬庫に命中したのか、爆発音と共に(ふね)が中央部で真っ二つに分かれ、分かれた部分から急速に沈み始めた。航海長である彼の担当である艦橋も例外では無い。斜めになった艦橋内から脱出する暇もなく、ガタガタと音を立て、壊れそうになっている防水扉は、必死に部屋に海水が入り込まんとしていた。そんな時、彼は斜めになった艦橋で、ジャイロコンパスの支柱にしがみついていた。

 

まだ死にたくない。やり残した事がある。まだスクフェスのイベントが終わってない。部屋には塗装中のフィギュアが残ってる。まだ描き終えてない絵が残ってる。艦これの春イベまだやって無い。まだ曜ちゃんのコスp・・・

 

彼がそこまで思った瞬間、彼の体重に耐えきれなくなったのか、ジャイロコンパスを掴む手が滑り、斜めっている艦橋に放たれた彼は、抵抗する間もなく壁に頭を思いっきり叩きつけらた。通常ならヘルメット(鉄鉢)を被っているのだが、航海長である彼はインカムを着けていたので、被っていなく、衝撃を全て受けてしまい、致命傷を負ってしまった。

 

「慶喜!!!」

「航海長!!!」

 

それを見た八名一曹と林三曹が町田二佐のもとに駆け寄って来た。

 

「一希・・・。それに林・・・。すまん・・・。お前達と行く予定・・・、無理になっちまった・・・。」

 

町田二佐は、血まみれの顔をゆっくりと慶喜に向け、死にそうな声で何度も何度も謝った。すまん、すまんと。

 

「慶喜、約束だ。もし、俺と慶喜がサンシャインの世界に転生したら、Aqoursが結成された年の6月の第一週日曜日、内浦の船着場で会おう!!!」

 

「私もです!!!」

 

「わかっ・・・た・・・。」

 

町田二佐と八名一曹、そして、林三曹と手を繋いだが、その直後、町田二佐は、ゆっくりと目を閉じ、息を引き取った。八名一曹と林三曹は、直ぐに退艦し、町田二佐の敵をとろう心に決めたが、その瞬間、艦内と艦橋を繋いでいる防水扉をぶち破り、海水が流れ込み始めた。流れ込んでくる海水は冷たく、息をしようとすると海水が肺に入り込んでくる。そんな環境で同僚達はひたすらもがいていた。艦橋とウイングを繋いでいる防水扉は歪んでいて開かない。窓は防弾仕様の為か、ヒビすら入っていない。苦しんでいる同僚や、遺体になってしまった彼と共に(ふね)は伊豆沖の青い太平洋の底に沈んでいった。

 

13時17分。護衛艦〝はくう〟完全沈没。艦長 高田(たかだ)壱頼(かずより)二等海佐以下、乗員165名中、165名殉職。生存者は、0名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって別世界の静岡県沼津市。沼津市の中心市街地から外れにあるとある病院で、(町田)、もとい、彼女は新しい命としてこの世に生まれてきた。その瞬間、九つの色とりどりの歯車に新たな歯車が一つ、追加された・・・。



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第1章 2代目〝Aqours〟誕生へー
第1話 私は渡辺百香


朝、俺は目覚ましの音で目が覚めた。黄緑色の寝巻きから黄色いリボンがついた浦の星女学院の冬服に着替え、黒のカーディガンを着ると、朝食を食べる為に、直ぐに一階に降りた。

 

リビングにあるダイニングテーブルには一人分の朝食が置いてあり、両親はリビングに居なかった。恐らく、母は、今日の俺の入学式だから化粧でもしているのだろう。父は大型旅客フェリーの船長の為、家にはいない。しかも、大洗〜苫小牧航路のため、単身赴任中である。そのため、帰ってくるのは夏休み中と冬休み中が殆どだ。その為なのか知らないが、俺と姉はお父さんっ子だ。帰ってくるといつも2人で抱き着くのだ。

閑話休題。

 

俺、町田慶喜が、渡辺(わたなべ) 百香(もか)に転生して早15年以上が経った。最初は抵抗があったスカートも、着替えも慣れればどうってことはない。と言うか、スカートは前世でも履いてたし。あ?コスプレだよ?変な趣味とかじゃないから。話は変わるが、転生って、何処からか神様とか女神様が出てきて「転生するぞー。」とか、「好きな能力をやろう!!!」とか言うのだが、そんな事は無かった。頭を打ち、それから一分も経たずに目が覚めたと思ったら、産声をあげていた。前世の記憶が残っていたまま、さらにいくつかの所持品がこの世界に受け継がれたのに。

 

まあ、そんな事とかも考えながら朝食を食べていた。普段は姉も俺と同じ時間帯に朝食を食べていたのだが、今日はオレンジ、もとい、みかん色の髪の毛の幼なじみの友人に誘われ、部活動の勧誘をするためか、いつもより一、二本早いバスで学校に向かったらしい。

 

そう、何を隠そう、俺の姉は渡辺(よう)なのだ。そのため、俺の髪の色は曜と同じミルクグレージュ(諸説あり)で染まっている。地毛だよ?勘違いしないでよね!!!(ツンデレ風)違うのは身長と髪の長さとスリーサイズくらい。俺の方が17cm大きい174cmで、長さはセミロングだ。さらに顔だけトリミングすると瓜二つ。元々曜推しだった俺にとっても嬉しいことだが、髪型を同じくすると区別がつかなくなって大変だった。長い髪が好きでなかった俺も昔は曜と同じショートヘアだったが、曜に間違えられて無理矢理高飛び込みをさせられそうになったことがあった。それを避けるために髪を伸ばしたと言っても過言ではない。一番上の飛び込み台からの景色は見るもんじゃない。その時にトラウマが植え付けられたのか、高飛び込み台に上ると今でも足全体がガクガク震える。まあ、今となってはどうでもいい事だけどな。そもそも一般人は高飛び込み台に上らないし。それに今は身長が違い過ぎるから見分けがつく。

 

・・・閑話休題。(2回目)

 

 

 

 

朝食を食べ終わった俺は、直ぐに洗面所に移動し、歯を磨き、顔を洗い、髪を梳かし、化粧をしているだろう母を呼びに行った。が、母は既に玄関で待っており、俺を待っていた。

 

「行ってきまーす!!!」

 

誰もいない家に俺の高い声が響くが、響き終わる前に俺はドアを閉め、母がエンジンをかけていた車に乗りこんだ。目的地は浦の星女学院。新しい学校ライフが始まるっ!!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

駐車場に車を停める母と別れ、俺は、浦の星女学院に向けて歩き始めた。カーディガンのポケットに薄いエメラルドグリーン色の携帯ミュージックプレーヤーを入れ、お気に入りの黄緑色のイヤホンで音漏れしない範囲で歩きながら聞く。これが俺の外行きスタイルだ。

 

「スクールアイドル部入りませんかー!?あっ!!!」

 

浦の星女学院の正門から敷地内に入った瞬間、スクールアイドル部の勧誘をしていたオレンジ、もとい、みかん色の女性が駆け寄って来て、右耳のイヤホンを耳からもぎ取るように取った。高海(たかみ)千歌(ちか)だ。姉の曜とは幼馴染みの為、俺とは面識がある。(この身体での状態だが)小さい頃、よく遊んでもらった。

 

「百香ちゃん!!!浦の星入ったんだ!!!」

 

千歌は、満面の笑みで俺の両手を掴み、腕をブンブン振った。あ、この展開もしかして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、私と一緒にスクールアイドルやろうよ!!!」

 

やっぱりか。




〇次回予告〇
勧誘を終えて教室へ向かうスクールアイドル部員達。
興奮からか、不幸にも黒塗りの髪の黒澤ダイヤと衝突してしまう。千歌をかばいすべての責任を負った曜に対し、ダイヤが言い渡した示談の条件とは・・・。
次回、春の夜のヨーソロー
※予告と異なる場合があります
次回投稿日は9月25日0時0分です。

◎主人公設定(1話現在 追加予定あり)

・名前
渡辺(わたなべ) 百香(もか)
・誕生日
11月16日
・一人称
私(稀に 俺)
・血液型
A
・身長
174cm
・好きな食べ物
刺身、ブドウ
・嫌いな食べ物
焼き魚(特に秋刀魚)、辛いもの
・趣味
軍艦、ランニング
・スリーサイズ
B83/W58/H79
・学年
1年生
・好きな色、イメージカラー
フォレストグリーン
・ユニット
無し
・特徴
見た目は美少女。しかし、性格は男勝り(というか男)
声は少し低くしてる(元々曜の様に高いが、高いのが少し恥ずかしいため、トーンを少し下げてる)
・周りへの呼び方
基本的に年上はさん付け。(果南や曜、千歌は○○姉呼び)同学年、又、歳下は呼び捨て。
※キレたり、真面目な時になると全員呼び捨てになったりする。

呼び方一覧
・Aqours(未登場だが掲載する人物あり)
千歌→千歌姉、千歌
曜→曜姉、曜
梨子→梨子さん、梨子姉、梨子
果南→果南姉、果南
ダイヤ→ダイヤさん、ダイヤ
鞠莉→鞠莉さん、鞠莉
花丸→花丸、ズラ丸
ルビィ→ルビィ
善子→善子

・転生オリキャラ
1話現在、未登場

・オリキャラ
1話現在、未登場

・μ's
1話現在、未登場

・その他(1話現在、未登場だが掲載)
志満→志満姉
美渡→美渡姉

・名前の由来
面舵(おもかじ)(船の進行方向を右に曲げること)の〝もか〟からきたらしい。なお、取舵(とりかじ)(船の進行方向を左に曲げること)からきた〝りか〟という名前が候補にあったが、海上衝突予防法では、前方に反航船がある場合、取舵ではなく、面舵をとるのが定められているため、〝りか〟は候補から消え、〝もか〟になったらしい。

・前世から受け継いだもの(あってもほとんど使わないけどね)
記憶
パソコン
WALKMAN
財布内の現金と通帳
など・・・

〇前世
・名前
町田(まちだ)慶喜(よしのぶ)
・誕生日
8月21日
・一人称
俺(職務中 私)
・血液型
B
・身長
177cm
・好きな食べ物
刺身、ブドウ
・嫌いな食べ物
焼き魚(特に秋刀魚)、辛い物
・趣味
軍艦、ランニング、アニメ
・出身地
茨城県大子町
・殉職時階級
二等海佐(二階級昇進で海将補に)
・殉職時役職
副長兼航海長
・殉職時年齢
43歳


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第2話 登校初日

とりあえず、梨子(9月19日)とルビィ(9月21日)。お誕生日おめでとう。誕生日回は、しばらく話が進んでから順次行います。


「ねぇ、私と一緒にスクールアイドルやろうよ!!!」

 

千歌は俺の左耳のイヤホンまでも取り、俺の両肩を掴みながら必死に勧誘してきた。千歌の後ろには姉の曜が居るが、俺と視線を合わせると視線をずらし、見て見ぬ振りをしていた。しばくぞコラ。推しだからって助けてくれないのは腹立つ。だって見知らぬ人じゃなくて妹だぞ!?助けろよへっぴり船長!!!

 

おっと、話を戻そう。で、どうしよう。今は1話。しかも、勧誘してるところだ。早くしないとあのルビィと花丸と善子のシーンが出来なくなる。回避する為の選択肢は三つ。

1、千歌を無視する

2、丁重にお断りする

3、マネージャーをやると言う

 

 

 

 

もし、1を選択すると・・・

 

「百香って、そんなに酷い子だったんだね。」

 

と言われ、曜ちゃんに制裁を加えられるか、2人に話しかけられなくなってしまうかもしれない。

 

となると2と3か・・・。どっちが良いだろう。

 

うーん・・・。

 

2よりも3を選んだ方が好感度は上がりそう。え?お前は踊らねぇのかって?俺が踊ったらこの世界が狂ってしまう。俺自身、本来はここに居ない筈の存在だ。俺が下手にあれこれしてしまうと、別の元いた世界と矛盾が生じてしまう。その矛盾がどういう物かまだ分からないが、もしかしたら、メンバーにならない子まで出てきてしまうだろう。何としてでもそれだけは避けたい。

 

うーん・・・。

 

しばらくすると、俺のその考えはある一つの掛け声でNOの方向に曲がってしまうのだった。

 

「あ、百香ちゃんずら!!!百香ちゃーん!!!」

 

俺に近づいてきたのはセミロングの茶髪が似合う垂れ目の少女、国木田(くにきだ)花丸(はなまる)と、花丸の横で俺に手を振ってくる赤色の髪をツーサイドアップにしている少女、黒澤(くろさわ)ルビィだ。姉達は知らないが、2人とは中学時代からの付き合いだ。

 

「スクールアイドルやりませんか?」

 

が、そんな俺の目の前で急に俺に背を向けた千歌が2人にポスターを差し出した。

 

「ずら?」

 

急に目の前にポスターを出された花丸は少し驚いたのか、「ずら?」と言う声を出してしまった。

 

「ずら?」

 

千歌はその言葉に違和感を感じたのか、花丸の語尾を復唱していた。いや、復唱するなよ。

 

「いえ。」

 

「大丈夫。悪いようにはしないから。」

 

〝悪いようにはしないから〟って、何か何処ぞの詐欺師が言ってそうな言葉だな。

 

「貴女達、きっと人気が出るよ。間違いない!!!」

 

だからそれは詐欺師が言う言葉だって。いい加減気づけ。このバカ千歌。

 

「でもマルは・・・。」

 

花丸はそう言っていたが、後ろに隠れていたルビィがポスターをガン見していた。うん、眉間にシワがよっているね。

 

「サッ、サッ、ササッ!!!」

 

ルビィは、千歌が動かすポスターを目で追っている。動く防犯カメラを追う小学生低学年みたい。ランドセル背負ったら似合いそう。顔がロリ顔だから。あ、俺はロリコンじゃないぞ?

 

「興味とかあるの?」

 

「ライブとかあるんですか?」

 

千歌の問いかけに対し、ルビィは、花丸を押しのけ、目をキラキラ輝かせながら質問し始めた。

 

「ううん。これから始めるところなの。だから、貴女みたいな可愛い子に是非!!!」

 

で、千歌はルビィにやってはいけない事をした。そう、ルビィの肩に触れたのだ。あ、触れたからと言って医療費とか請求されるあれじゃないからね。

 

でだ、肩を触れられたルビィはどうなったのかと言うと、顔が真っ青になった。

 

「あっ(察し)」

「ずらっ。」

 

俺と花丸は直ぐに察し、直ぐに両手で耳を塞いだ。

 

「ん?」

 

千歌は何故俺達が耳を塞いだのか分からなかったが、直に分かるだろう。

 

「千歌姉、耳塞いで!!!」

 

「え?百香ちゃん何言って「ピギャァァァァァァァァァァ!!!」うわぁ!!!」

「うわあ!!!」

 

俺の警告も届かず、千歌と曜が耳を塞ぐ前にルビィが叫び出してしまった。髪が赤いと叫び声も通常の3倍になるというのは本当だったのか・・・。

 

「うわぁぁぁ、おねぇちゃぁーーーーーー!!!」

 

しかも、コイツ叫ぶと姉を呼ぶ癖がある。で、何故姉を呼んでいる間に盾になっているのが俺なんだ。俺の身長が高いからか?

 

「ルビィちゃんはね、」

「極度の人見知りずら。」

 

俺と花丸、2人の息ぴったりのセリフ。このセリフを言った瞬間、千歌が「早く言ってよ」と目で訴えかけてきたが、耳を塞がない千歌達が悪いと目で言い聞かせ、黙らせといた。

 

「うわぁぁぁっ!!!」

 

で、そのルビィの叫び声で木からダークブルーの髪の毛で、さらに俺から見て右によしこ玉(何だよよしこ玉って)を作っている女の子、津島(つしま)善子(よしこ)もとい、ヨハネが落ちてくると。まあ、既に堕ちてるが。あ、今のは〝落ちてる〟と〝堕ちてる〟を掛けて・・・。空気が寒くなるからよしておこう。千歌じゃあるまいし・・・。

 

「ぴっ!!!」

「うをぉ!?」

 

後ろに隠れているルビィが俺の両腕を掴んでくる。痛い痛い痛い!!!握力強すぎだろルビィ!!!しかも千歌に至っては女の子らしくない叫び声だし。

 

「うっ・・・、私・・・。」

 

さらに善子は足くじいてるし。

 

「ぐあっ!!!」

 

で、足をくじいた体にセカンドバッグがクリーンヒット。そういえば、アニメでもそうだけど、何でこいつ木に登ってたんだ?謎である。

 

「ちょっ・・・、色々大丈夫?」

 

千歌が善子に問いかけてる。ダメだよ。特に千歌の頭が。

 

「ここは・・・もしかして地上?」

 

足をくじいてかなり痛いのに、それでも堕天使を演じられるのは逆に素晴らしいわ。心の中で拍手するわ。

 

「大丈夫じゃない・・・。」

 

ね?千歌だって(心の中で)言ったでしょ?(錯乱)

 

「ということはあなた方は下劣で下等な人間ということですか?」

 

「それよりも足、大丈夫?」

 

おい千歌、くじいた所をツンツンするな。

 

「いっ!?

 

・・・痛いわけないでしょ。この身体は単なる器なのだから。この姿はヨハネの仮の姿。おっと、名前を言ってしまいましたね。堕天使ヨハネ。それが・・・」

「善子ちゃん?」

 

善子に花丸が近づいた。そうか、この2人は同じ幼稚園だったか。感動の再会。・・・感動?

 

「え?」

 

「やっぱり善子ちゃんだ!!!」

 

「うぇーっ!?」

 

「花丸だよ。幼稚園以来だね!!!」

 

うわぁ。流れ変わったなこれ。

 

「は、な、ま、るぅ〜!?」

 

うどん。あ、このネタわかる人少ないか。って、誰に話してるんだ俺。

 

「人間風情が何を言って」「じゃーんけん、「ぽん!!!」」

 

花丸につられて善子が変なチョキらしきものを出したぞ。

 

「ううっ!!!」

 

「このチョキ、やっぱり善子ちゃん!!!」

 

「善子ゆーな!!!

 

私はヨハネ、ヨハネなんだからねー!!!」

 

あ、善子が逃げ始めた。アニメ通り。

 

「あ、善子ちゃーん!!!」

 

「まるちゃーん!!!」

 

「どうしたの善子ちゃーん!!!」

 

「待ってー!!!」

 

「来るなー!!!」

 

花丸が善子を追い始めた。で、ルビィが花丸を追うと。頑張れ、頑張ルビィ。

 

「あははは・・・。頑張ってねー・・・。」

 

「あの子達、後でスカウトに行こう!!!」

 

「「あははは・・・。」」

 

懲りねえな千歌。俺と曜は乾いた笑いしか出ねえぞ。

 

「貴女ですの?このこのチラシを配っていたのは。」

 

うわっ!?いきなり千歌の背後に黒髪前髪パツンの女子生徒が立ってたぞ。ああ、ルビィの姉の黒澤(くろさわ)ダイヤか。確かダイヤは時を止める能力あるんだっけ?ああ、これはニコ生のネタか。だからダイヤは多分能力持ってないね。

 

「いつ何時スクールアイドル部なるものがこの浦の星にできたのです?」

 

「あ、あなたも1年生?」

 

「違うよ千歌ちゃん。あの人は新入生じゃなくて3年生。」

 

「リボン見れば分かるのに。やっぱ千歌姉はb・・・。ゲフンゲフン。何でもない。」

 

コイツもしかして手当り次第スカウトしてないか?それについ、馬鹿じゃないのか?と言おうとしてしまった・・・。

 

「とりあえずここでは目立ちますので生徒会室に来てくださる?で、百香さん、貴女はこの部活に入部するのですか?」

 

「い、いえ・・・。」

 

うおっ!?いきなり俺に振るな!!!返せねぇじゃねえか!!!

 

「じゃあ貴女は来なくても宜しいですよ。」

 

「あ、は、はい・・・。」

 

「じゃあ百香ちゃん、帰りね。」

 

「うん。」

 

ダイヤに連行(?)されていく曜達を見送った後、俺は一人、教室に向かったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

場所は変わり、1年1組教室。1組と言っても、1年生は1クラスしかないのだが。

で、その1年1組では、新入生達が自己紹介をしていた。俺は最後に言う。名字が〝渡辺〟で、わ行から始まるからだ。

 

「オラ・・・じゃなかった。私は内浦中学校から来ました、国木田花丸です。趣味は読書です。3年間宜しくお願いします。」

 

花丸、通称ズラ丸の自己紹介。方言出てるが、それが可愛い。

 

「えっと・・・、内浦中学校から来ま・・・した、黒澤ルビィです・・・。宜しくお願いしましゅ!!!」

 

あ、噛んじゃった・・・。まあ、それがルビィだからね。しょうがないね。

 

「フフ・・・。私は堕天使ヨハネ。

このヨハネと契約して、あなたも私のリトルデーモンになってみない?」

 

「「「・・・。」」」

 

善子の自己紹介が終わった直後、教室が静寂に包まれる。うん。知ってた。このシーン、リアルタイムで見たからね。

 

「ピーンチ!!!」

 

あ、逃げ出した。リアルタイムで見るとなかなかシュールな光景だと思う。

 

「あ、あははは・・・。それでは、次の人お願いします。」

 

担任の先生反応に困ってるよ!!!

 

 

 

 

そして、善子の逃げ出し事案後、何人か自己紹介をし、ついに自分の番になった。俺は地球儀を持って、教卓に向かった。

 

「内浦中から来ました、小須田(こすだ)梨香(りか)です。」

 

「ん?小須田梨香・・・。」

 

「小須田梨香・・・」

 

「コスダリカ・・・」

 

 

「コスタリカ!!!」

 

「そーれっ!!!」

 

俺は、地球儀を持ち、その場で足踏みをし、

 

「ここっ!!!コスタリカ!!!」

 

ビシッと、コスタリカの場所に指を指す。

 

「君の瞳に、レボリューション☆」

 

決まった!!!

 

「「「・・・。」」」

 

いや、白けるなよ。

 

「すみません。本名は渡辺百香です。すみません・・・。」

 

ヤベェ、恥ずかしい。

 

席に戻った後、休み時間になった。それと同時に花丸(ズラ丸)とルビィが寄ってきた。

 

「あれ、面白かったずら。」

 

花丸が言ったことに対し、ルビィも頭を上下に振る。いや、ね?白けたならつまんないでしょ?つまんなかったよね。励ますのやめてくれない?恥ずかしくなってくるから。

 

「面白かったよ。」

「そうだよ(便乗)。」

「またやって欲しいなー。」

「うんうん!!!」

 

更に俺の心に追い打ちをかけるようにクラスの子たちが次々と面白いと言ってくる。

 

「死にます。今すぐ死にます。」

 

「ちょっ!?待つづら!!!」

 

花丸が止めようとしたが、俺はそれを振りほどき、ベランダから飛び降りようとした。

 

「離せぇ!!!死なせてくれぇ!!!恥ずかしすぎるんだァ!!!」

 

「落ち着くずら!!!」

「落ち着いて!!!」

 

花丸とルビィが両脇をひっ掴んで俺を引き止めた。振りほどこうとすると、クラスメイト全員が花丸とルビィに続いて俺の足や腕を掴んで、ベランダから飛び降りされまいと必死になっていた。

 

「分かった・・・。分かったよ・・・。」

 

俺が力を抜くとみんな一斉に倒れ込み、俺の上に覆いかぶさった。

 

「重いから早くどいて・・・。」

 

あらぬ所も当たりまくってるし。

 

クラスメイトが全員退くと、俺はゆっくり立ち上がった。

 

「大丈夫だよ。飛び降りないから。」

 

笑顔でそう言った時、丁度チャイムが鳴り、先生が教室に入って来ると同時にLHRが始まった。

 

 

 

「じゃあ、委員会のメンバーを決めましょう。」

 

決めるのは各委員会のメンバー。各委員会によって委員になれる人員は違いがあるが、図書委員は2人。俺と花丸が手を同時に挙げ、俺と花丸に直ぐに決まった。

 

それ以外の委員会は時間ギリギリまで決まらなかったんだけどね・・・。まあいいか・・・。




〇次回予告〇
休学中の松浦果南の家を訪れた千歌達。そこで見たのは、デ〇ステ課金厨となった果南、いや、課南の姿だった。有償ガチャをやりたくなると課金、体力が足りなくなると課金、ゲームがエラーを起こすと、詫び課金。
そんな課金厨〝課南〟になった果南にとった千歌達の行動とは・・・!?
次回、課金厨〝松浦課南〟
※予告と異なる場合があります
次回投稿日は10月15日0時0分です。


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第3話 淡島の少女

駿河湾の内湾、内浦湾に浮かぶ淡島と内浦を結ぶ小型の定期船。その中には俺と千歌、曜の3人しか乗っていなかった。

 

「そういえば、スクールアイドル部はどうなったの?」

 

「生徒会長のダイヤさんに「駄目だっ」て言われちゃったよー。何でスクールアイドル部は駄目ーなんて言うんだろう・・・。」

 

千歌は、俺の問についてそう答えながら船の縁に寝そべっており、自慢のデカい2つのみかんを強調していた。まあ、俺のほうがデカ・・・ゲフンゲフン、何でもない・・・。

 

「嫌い、みたい。この前クラスの子が作りたいって、言いに行った時も断られたって・・・。」

 

「えー!?曜ちゃん知ってたの!?早く言ってよー!!!」

 

「ごめん!!!・・・でも千歌ちゃん夢中だったし・・・。」

 

「とにかく、生徒会長の家って、網元で、結構古風な家らしくて・・・。だから、ああいうチャラチャラした物を嫌ってるんじゃないかって噂もあるし・・・。」

 

「チャラチャラじゃないのになぁ・・・。」

 

千歌は、そう呟きながら夕焼け空と空を飛んでいる鴎を眺めていた。船は淡島に向かって、ただゆっくりと進むだけだった。

 

 

 

 

 

 

船は淡島の船着場に停船した。俺達は船長のおっちゃんにお礼を言い、船着場の桟橋に降り立った。

 

「着いた!!!」

 

千歌は、元気よく桟橋に飛び移ると、淡島マリンパークを抜け、寄り道せずにダイビングショップに向かった。そこにいるのは、ダイビングスーツに身を包んだ青色の長い髪をポニーテールにしている大人っぽい雰囲気が漂う女性、俺の2歳歳上の松浦(まつうら)果南(かなん)だ。

 

「遅かったね。今日は入学式だけでしょ?」

 

「まあ、色々あってね・・・。」

 

「はい!!!これ!!!回覧板とお母さんから!!!」

 

千歌は回覧板と千歌の母からの差し入れが入ったビニール袋を木製のデッキにいる果南に渡す。

 

「どうせまたみかんでしょ?」

 

「文句ならお母さんに言ってよー!!!」

 

果南がビニール袋を店内に置きに行ったとき、俺達は階段を上がり、デッキにあるパラソルの下にある椅子に座った。

 

「しかし、百香ももう高1か・・・。しかし、また大きくなったね百香。私を抜かしてもう何年経つだろうね。」

 

「軽く3年は経ってるよ。」

 

果南は、俺の前に立ち、身長を比べるためか右手を俺の頭上と果南の頭上を行き来させている。その時、店の奥から右足に包帯を巻いていて、〝I LOVE KANAN〟と書かれているTシャツを着ているガタイのいい男性が杖をつきながら出て来た。

 

「よう、よく来たな。」

 

「お父さん!?」

 

出て来たのは果南の親父。ガタイが良く(足を骨折しているが)、果南によく似た性格を持つ人だ。果南の髪の色や顔は母譲りだが、ほとんどの性格は父譲りなのだ(ハグは母親だけど)。この父親あってこの子あり。

 

「お久しぶりです。」

 

身長を比べるためか右手を俺の頭上と親父の頭上を行き来させる。ああ、2人共似てるなぁ・・・。

 

「お前ももう高校生か。大きくなったな。まあ、俺よりは小さいけどは。」

 

当たり前だ。俺は174cmあるが、果南の親父は190cmもあるんだから。

 

「もう、無理しないで休んでて。」

 

「このくらい良いだろう。」

 

果南は心配そうに言うが、親父は平気そうに言う。恐らく、心配なのだろう。学校を休学してダイビングショップを手伝っている果南の事が。だから、高校に進学した俺のことを見に来たと理由を作って、果南の様子を見に来たのかもしらないのだ。

 

「ダメ。お母さんに言いつけるよ?あと、その服で寄合行くのやめてよね。恥ずかしいんだから。」

 

「はいはい。わかったよ。」

 

だが、果南に強く言われた親父は杖をつきながらのそのそと屋内に戻って行った。うーん・・・。なんか可哀想に思えてくる。

 

「そういえば果南ちゃん、新学期から来れそう?」

 

「うーん、まだ家の手伝いも結構あってね・・・。父さんの骨折ももうちょっとかかりそうだし。」

 

千歌からの問いかけに対し、果南はダイビング用品の片付けをしながら答えていた。

 

「そっか・・・。果南ちゃんも誘いたかったな。」

 

「ん?誘うって?」

 

ちょうど酸素ボンベのバルブを閉めていた時だった。果南が深い闇を抱えているあの問題。千歌は知らず知らずのうちにその話題にしていた。

 

「えっとね、私ね、新学期からスクールアイドルやるんだ!!!」

 

「・・・。ふ~ん、まぁでも、私はもう三年生だしね。」

 

〝スクールアイドル〟

その単語に反応した果南は、一瞬だが、作業していた手を止めた。

 

「凄いんだよ!!!スクールアイうぐっ!?」

 

「はい、お返し!!!」

 

「えー、また干物?」

 

果南は、何もわかってない千歌の話題を変えるべく、お返しの干物を千歌の口に押し付けた。

 

「文句なら母さんに言ってよ!!!とにかく、まだ休学続くから、学校でなにかあったら教えてね。」

 

「あ、うん。

 

で、さっきの話に戻るね!!!えっとね、凄いんだよ!!!スクールんぐぐ!?」

 

「曜姉、千歌姉、もうすぐ船出るから行こー。あまり果南姉に迷惑もかけられないし。」

 

「え?あ、うん!!!」

 

「そうだねー。」

 

俺は、また話題を戻した千歌を強制的に淡島から出す為に咄嗟に千歌の口を塞ぎ、船着場まで連れつ行こうとした。

 

「・・・ありがとう。」

 

その時、果南からの小さな声で言われたお礼には、小さく手を振って答えた。

 

 

帰ろうとし、バッグを持った時、淡島には、ババババと、何やら空気を切る音が響き始めた。

 

「ん?何の音?」

 

みんなで一斉に空を眺めると(俺は知っているが、怪しまれないように同時に眺める)ピンク色のラインが入った小型ヘリが見えた。

 

「・・・小原家でしょ。」

 

果南は、その一言だけ言うと、ヘリをじっと見つめていた。その時の果南は、怒っているのか、悲しんでいるのか、そんな風に俺には見えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

帰りの定期船の中。カバンの中から前世から使っているミュージックプレーヤーを出そうとしたが、見つからない。恐らく学校に置いてきてしまったのだ。

 

「千歌姉、忘れ物したから向こうについたら自転車貸して。」

 

「え?いいよ。自転車は船着場にあるよ。」

 

軽い承諾で千歌から自転車の鍵を借りた。

 

「時間までに帰ってこなかったら曜姉は先に帰っててね。」

 

「ヨーソロー!!!」

 

ヨーソロー。その言葉は曜からすると肯定しているのだが、俺からすると、操艦時に使う〝そのまま〟の意味としてとってしまう。こう捉えてしまうのも直さなければならないね。

 

「じゃあ。」

 

俺は船が船着場に到着した時、千歌と曜と別れ、近くに止まっていた千歌のオレンジ、もとい、みかん色の自転車を借り、浦の星女学院に向かって自転車をこぎ始めた。




〇次回予告〇
忘れ物をし、千歌から借りた自転車(ママチャリ)で学校に向かった百香。浦女前の急な登り坂を登ってみると、1回も休まずに登れたのだった。新たな特技を見つけた百香は、スクールアイドル部に入部する事をやめ、自転車競技部を設立することになったのだった。
次回、内浦ペダル
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日を20日に1話から月2回(第ニ、第四水曜日)投稿にを変更致します。
そのため次回更新予定日は10月25日になります。

・名前
果南父(仮称)
・誕生日
9月12日
・一人称

・血液型
不詳
・身長
190cm
・好きな食べ物
食べられればなんでもいい。
・嫌いな食べ物
食べられない物
・趣味
筋トレ、娘可愛がり(いじり?)
・車
日産 エクストレイル(T31)
・ナンバー「沼津332 つ ・・210」
・色 ブリリアントシルバー


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第4話 桟橋の少女

未熟DREAMERの果南のクッションが二つあってどうしようかと悩んでいます。(どうでもいい)
あと、ネタバレですが、百香の衣装のアイディアを募集予定です。曲は、後ほど活動報告にて行われるアンケート内で公表されます。


俺は自分の机の中にある携帯ミュージックプレーヤーと着ていたカーディガン、上着をバッグに押し込み、そのバッグを自転車の前カゴにおしこみ、〝十千万〟に向けて急いで自転車をこいでいた。

 

行きに上り坂があったため、かなり息が上がっており、汗で下着はびしょびしょに濡れていた。

 

 

千歌の家の前のバス停からバスが発車するまであと5分。学校に通じている県道の旧道から新道に出る。

 

三津シーパラダイスの前を通り、道路を渡り(良い子はあまり真似しないでね)、十千万の車庫に自転車を止め、バッグを取り、バス停に向けて走り出す。が、俺の目の前をバスが走り去って行く。十千万の前にあるバス停向けて走るが、バスは待ってはくれない。

バスは沼津駅に向けて行った。バスのいなくなったバス停に居るのは俺と千歌だけ。

 

「行っちゃったねー・・・。」

 

「次の最終まで待つよ。」

 

俺はそう言いながらスマホで曜に帰るのが遅れる事を伝えておいた。まあ、1回言ってるから知っていると思うけど、念のためだよ。念のため。

 

「じゃあ、終バス来るまで家で待とうよ。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えてそうしようかな・・・。」

 

千歌からの提案で、俺と千歌は十千万前のバス停から十千万に向けて歩き出した。

 

「しかし、どうにかしなくちゃなー。せっかく見つけたんだし・・・。ハア・・・。」

 

千歌は、自分で作ったポスターを見て、溜息をつきながら話していたが、俺はカーディガンを着ながらずっと海の方を眺めていた。

 

「ねえ、千歌姉。あれ・・・。」

 

音ノ木坂学院の制服を着たワインレッド色の髪の女の子、桜内(さくらうち)梨子(りこ)が船着場の桟橋に立っているのを見つけた俺は、千歌の肩を叩いた。

 

「ん?」

 

「へ?」

 

「あれ?」

 

千歌は、その場で制服を脱ぎ出す梨子を見て、その場で足を止めた。

 

「まだ4月だよ?

 

・・・。百香ちゃん、止めに行くよ!!!」

 

インナーがスクール水着だと気づいた千歌は、バッグを桟橋に置き、俺を引きずりながら、梨子を止めに走り出した。

 

「たぁぁぁぁぁっ!!!」

 

その瞬間、梨子は声を荒らげながら走り出したので、俺はバッグを投げ捨て、千歌が梨子を止めている場所に全力疾走した。

 

「待って!!!死ぬから!!!死んじゃうからぁっ!!!」

 

「離して!!!行かなきゃ、行かなきゃいけないの!!!」

 

「無駄な抵抗は止めなさい!!!オフクロさんが悲しんでいるぞ!!!」

 

「百香ちゃんふざけてるでしょ!!!」

 

「私は真面目だよ!!!」

 

千歌が梨子を止めている場所に俺も止め(?)に入ったが、俺が止めに入った瞬間、重心が前に移動し、俺を含めた3人の体は宙に浮いた。

 

「へ?」

「はあぁっ!!!」

「嘘!?」

 

「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

俺達3人は、冷たい内浦湾の海中に向かって吸い込まれていき、大きな水柱を内浦湾にあげたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「クシュッ」

「ぶぇっくしゅ」

 

2つのくしゃみの音が内浦の砂浜に響き渡った。前者に聞こえたのが梨子ので後者に聞こえたのが俺だ。え?女の子らしさ皆無だって?だって元男だもん。

 

「大丈夫?2人とも・・・。沖縄じゃないんだから。海に入りたければ、ダイビングショップもあるのに・・・。」

 

「海の音が聞きたいの。」

 

千歌の問について梨子はそう答えた。だから水着なんだ。と、俺はアニメを見ながら感心していたという記憶がある。まあ、その光景がこれなのだが。

 

「海の音?どうして?」

 

「・・・。」

 

「分かった。聞かない・・・。じゃあ、海中の音ってこと?」

 

2度目の問については黙秘を貫いた。まあ、昔の千歌だったら答えるまで聞き続けたと思うが。まあ、子供っぽい千歌も成長してるって事だな。顔は成長してないけど・・・。

 

「ふふっ。私ね、ピアノで曲を作ってるの。でも、どうしても海の曲のイメージが湧かなくて・・・。」

 

「へー。曲を!!!作曲なんて凄いね!!!ここら辺の高校?」

 

「東京。」

 

「東京!?わざわざ!?」

 

千歌は驚いてるが、俺は驚いてない。まあ、知っているからね。しょうがないね。

 

「わざわざっていうか・・・。って、何で貴女は驚いてないの?」

 

「結構コミュ力高くてそっち方面の友人も多いからね。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

うん。そっち方面の友人は海自時代の友人や部下達の事だから、あながち間違ってはないよ。

 

「じゃあ誰かスクールアイドル知ってる?」

 

「スクールアイドル?」

 

「うん!!!東京だと有名なグループいっぱいあるでしょ?」

 

「何の話?」

 

「へ?」

 

千歌が驚いている。てか、何でμ'sの通っていた学校に通ってる梨子が気づかないのか、それを知りたいんだ俺は。って、この会話俺要らなくね?

 

「まさか知らないの?スクールアイドルだよ!?学校でアイドル活動して、大会まで開かれたりする。」

 

「有名なの?」

 

「有名なんてもんじゃないよ!!!ドーム大会まで開かれた事もある、ちょー有名なんだよ!!!」

 

「まあ、私も詳しくなったのは最近だけど・・・。」

 

「そうなんだ・・・。私、ピアノばかりやってきたから、そういうの疎くて・・・。」

 

「じゃあ見てみる?ナンジャコリャー!!!ってなるから。」

 

「なんじゃこりゃ?」

 

「なんじゃこりゃ。」

 

千歌が自分のバッグの中からスマホを出し、ある動画サイトを出し、梨子に差し出していた。通信量大丈夫かな・・・。って、完全に俺、置いてけぼりにされてるな。大人しく音楽でも聴いてるか。

 

「これは・・・。」

 

「どう?」

 

「どうって・・・、なんというか、普通?」

 

「ああ、いえ、悪い意味じゃなくて!!!アイドルって言うから、芸能人みたいな感じがしたから・・・。」

 

「だよね。」

 

「ふぇ?」

 

梨子が首を傾げながら千歌を見つめていた。俺、このシーン好きなんだよな。

 

「だから、衝撃だったんだよ。」

 

「貴女みたいに、ずっとピアノを頑張ってきたとか、大好きな事にのめり込んできたとか、将来こんなふうになりたいって、夢があるとか。」

 

「そんなの、一つも無くて。」

 

千歌は、そう言うと、海岸に落ちている石を拾い、海面に投げると、石はチャポンチャポンと音をたてながら3回海面を跳ね、沈んでいった。

 

「私はね、普通なの。特に目立つ能力もない、普通なんだって。そんなふうに思ってて、思ってたんだけど、気がついたら高二になってた。」

 

「このままじゃ不味い。このままだったら普通のまま一生を終えるかもしれない。そう思った時に、出会ったの。あの人達に。」

 

「みんな私と同じような普通の高校生なのに、キラキラしてた。それで思ったの。一生懸命練習して、みんなで心を一つにしてステージに立つと、こんなにもかっこよくて、感動出来て、素敵になれるんだって。スクールアイドルって、こんなにも、こんなにもキラキラ輝けるんだって!!!」

 

「気づいたら全ての曲を聴いてた。毎日動画見て、歌を覚えて、そして思ったの。私もみんなと一緒に頑張ってみたい。この人達が目指した所を、私も目指したい。」

 

「私も、輝きたいって!!!」

 

「ありがとう。なんか頑張れって言われた気がする。今の話。」

 

「ホントに?」

 

「ええ。スクールアイドル、なれるといいわね。」

 

「うん。頑張って!!!千歌姉!!!」

 

「百香ちゃんもやるんだからね!!!」

 

「ふふっ。頑張ってね。」

 

俺と梨子は応援したのだが、何故か俺もスクールアイドル部の部員にされてる。いや、マネージャーしかやらないから。てか、まだやらないから。

 

「えっ、何それ聞いてな「あ、私、高海千歌。そこの丘の上にある浦の星女学院っていう高校の2年生。」・・・。

私は渡辺百香。千歌姉と同じ学校の1年生だよ。」

 

しかも異論を唱えたら無視されたし。

 

「高海さんと同い歳ね。私は桜内梨子。高校は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院高校。」

 

梨子のワインレッド色の髪の毛が海風でふわっとなびいた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

この日の夜の事だった。

 

俺が部屋で前世からあるアニメ〝ラブライブ!サンシャイン!!〟のDVDを見ていたいながら日記を書いていた時だった。曜がドアをノックし、静かに部屋に入って来た。

 

「ねえ、百香。」

 

「ん?何?」

 

俺は、曜の目に付く前に素早く動画の画面を消し、ノートを閉じると目線をパソコンの画面と日記用のノートから曜に移した。

 

曜は、部屋着を着て、首からタオルをかけている。湯気も上がっているため、恐らく、入浴後直ぐに来たのだろう。

 

「私もスクールアイドルもやってみたいんだけど、どうすればいいか分からないんだ。」

 

「何で?」

 

「・・・私、水泳部に入ってるでしょ?」

 

「うん。」

 

「だから。」

 

「・・・。」

 

俺は、一応考える振りをした。だって考えなくても、答えが出てるんだから。

 

「やってみたら?ずっと千歌姉と同じ部活やりたかったんでしょ?」

 

「でも・・・。」

 

「やってみろよ。好きなんだろ?千歌の事。」

 

この俺の一言で曜はトマトの様に顔を赤くし始めた。恐らく、図星なのだろう。

 

「そ、そそそそ、そんな事無いよ!?」

 

曜は、恥ずかしそうに顔を赤くしながらその場であたふたしている。

 

「動揺してるぞ。好きなんだろ?」

 

「・・・。うん・・・。」

 

「わかりやすいんだよ。曜は。」

 

「え?そうなの?」

 

「千歌と話している時、とても嬉しそうじゃねえか。」

 

気付かぬうちに素になってしまった俺だが、今更口調を戻す訳にはいかないので、そのまま話を続ける。曜もさっきの事で動揺して口調とか気にしてないように見えるから大丈夫だろう。それに、小さい頃に一人称が〝俺〟になった時が何度かあったからな。

 

「そ、そう?」

 

「バレバレだよ。

 

 

兼部だって、大変かどうかはやってみないとわからないだろ?やってみな。」

 

「うん・・・。」

 

「俺は応援しか出来ねぇ。言うかどうかは曜、お前次第だ。」

 

「何で・・・、何で普通の人には嫌われそうな同性愛者なのに、応援してくれるの?」

 

「好きだからさ。」

 

「同性愛者が?」

 

「いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()のことが。」

 

この一言で、曜の顔がから火が出るように真っ赤に染まり、曜は、「な、何言ってるの!?じ、じゃあ私寝るからね!!!お、おお、おやすみっ!!!」と言いながら部屋を出ていった。隣の曜の部屋からベッドの上で足をバタバタさせている音がしていることは気にしないでおこう。っていうか、さっき言ったみたいにお前千歌が好きなんじゃなかったけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、曜の言動に疑問を感じながらも、替えの下着、寝間着を持って入浴する事にした。

 

脱衣場で、服、下着を脱ぎ、全身裸の状態で鏡の前に立つ。

 

 

曜に似た髪の色と顔と・・・

 

 

 

 

豊満の胸・・・。

 

俺は転生して16年経っても、未だにラブライブ!サンシャイン!!!の世界にいることが信じられない。前世では下半身にぶら下がっていた穢れたバベルの塔が無くなってもだ。俺は、鏡を見ながら自分自身の頬をつねり、この世界を現実だと捉えようとする。

 

「イタタタタ・・・。」

 

うん。痛い。

 

・・・。おっと。このままでいると身体を冷やして風邪をひいてしまう。さっさと入浴してしまおう。

 

 

 

 

 

チャポン。水音が浴室内に広がる。

 

〝お風呂は命の洗濯よ〟と、どこかのアニメね誰かが言っていたような気がすると、湯船に浸かりながら考える。

 

俺は命よりも脳みそを洗濯したい。洗濯して記憶を消してしまいたい。そうすれば、曜と何も隔たりも無く接することが出来るのに・・・。でも、そうすると、一希との約束を忘れてしまう・・・。

 

 

複雑な気持ちになった俺は、自分自身の顔の下半分を湯船に沈めたのだった。




〇次回予告〇
ーμ'sと高坂穂乃果に経緯を尽くしてー
次回、人足りぬ
※予告と異なる場合があります
次回投稿日は11月8日です。


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第5話 転校生

春の内浦湾沿いの県道を走っているオレンジ色ラインが入ったバスに私は乗っている。通学時間帯にしては乗っている乗客は少なく、聞こえる音は、バスのエンジン音や、時よりスピーカーから鳴る次のバス停のアナウンスだけだ。

 

妹の百香ちゃんも乗っているが、耳にイヤホンを着けて寝ている。恐らく、音楽を聴いている間に睡魔に襲われて寝てしまったのだろう。

 

〝曜の事が、好きなんだ〟

 

百香ちゃんの顔を覗き込むと同時に、昨日言われたあの言葉を思い出してしまい、全身が熱くなっていく。絶対顔は真っ赤だ。今、私自身でも感じている。その真っ赤な顔を冷やすために首をぶんぶん振り、どうにか正常に近づける。

 

ん?あの時、百香ちゃんは〝俺〟と言った。昨日は興奮してしまったため、良く思考回路が働かなかったが、よくよく考えるとおかしい言葉遣いだった。声の高さは私と同じようになっていたし、口調も男の子っぽい言葉だったからだ。まあ、百香ちゃんは〝俺〟っていう一人称はたまに使ってたけどね。あまり気にしないでおこう。っていうか、〝好き〟って、どっちの意味?〝LOVE〟と〝LIKE〟・・・。どっち?もし、前者だとすれば、絶対私のせいだ。私が千歌ちゃんの事を好きになってしまったことで、百香ちゃんまでも同性愛に抵抗が無くなってしまったのだ。(違います)

 

・・・もう一度、百香ちゃんの顔を覗き込む。私と似ている顔、背中の上半分まで伸びているセミロングの長い髪、そして、同じ髪の色の髪の毛。

 

身長を除いた見た目は殆ど私と同じなのに、私より勉強も出来るし、運動も私よりも出来る。私と彼女の間には気付かぬうちから差が広がっていた。・・・私では到底追いつけないような。

 

私は、百香ちゃんを静岡の名門私立高校に進ませたかった。本人も最初はそれの考えに賛同してきたが、中学三年の秋頃、急に浦の星女学院に進学する事を決めたのだ。中学時代、何もかも完璧、さらに各教科のほとんどの頂点に立っていた彼女が偏差値70くらいの名門私立高校から偏差値40程度の私立高校に進学する事を変更するのは、通常では考えられないことなのだ。彼女にその理由について問いかけたとき、彼女は「距離が近いし、友達もいっぱい居るから。」と言っていた。しかし、我が家からの距離は沼津市内の高校の方が近いし、浦女は何方かと言えば、伊豆市や伊豆の国市、沼津市の内浦より南部からくる人が約7割を占めていて、内浦中出身の子は半分以上沼津市内に行ってしまう。私は何故、彼女は急に進路を変え、浦女に通うことにしたのか今でも分からない。私としては嬉しいが・・・。

 

 

『次は、三津(みと)、三津です。』

 

アナウンスが鳴り、千歌ちゃんが乗ってくる三津バス停にバスはゆっくりと停車した。案の定、千歌ちゃんはバス停で待っていた。私は頭の中を百香ちゃんのことから千歌ちゃんのことに切り替え、横に一人分座れるスペースをつくる。

 

バスのドアが開くと同時に中に入ってきた千歌ちゃんは、運転士に定期券を見せると一番後ろに駆け寄って来た。

 

「おっはよー!!!」

 

車内に響く元気な声。百香ちゃんもこの声で目を覚ました。

 

「おはヨーソロー!!!」

「おはヨーソロ・・・。」

 

私の元気な挨拶と百香ちゃんの眠そうな挨拶が車内に響く。いや、百香ちゃんの声は響いていないのか・・・?そこら辺は曖昧だ。

 

浦の星女学院前のバス停に到着するまでは昨日地上波で放送された映画の話や、課題の話などをした。その時、また「課題のやった所見せて!!!」と千歌ちゃんが私に頼んでいるいつもの光景が広がっていた。バスはゆっくりと学校の入り口のある旧道に向けて交差点を曲がったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

バスを降り立った時、千歌ちゃんは、私と百香ちゃんにもう一度提案した。もう一度部活動設立書を持って行くと。

 

「もう一度?」

 

「うん。ダイヤさんの所に行って、もう一回お願いしてみる。」

 

「でも・・・」

 

「諦めちゃ駄目なんだよ!!!あの人達も歌ってた。その日は絶対来るんだって。」

 

飽きっぽい千歌ちゃんがここまで諦めないで行動するのは珍しい。

 

「・・・本気なんだね。」

 

「え?」

 

「よっ。」

 

私は千歌ちゃんの右肩をちょんと叩き、注意が右に向いた時、左から部活申請書を取った。

 

「ああっ、ちょっと!!!」

 

千歌ちゃんはちょっとビックリしていたけど、私は気にかけず、千歌ちゃんの背中に私の背中を合わせた。

 

「私ね、小学校の頃からずっと思ってたんだ。千歌ちゃんと夢中で何かやりたいなーって。だから、水泳部と掛け持ち、だけど!!!」

 

私はバッグの中からペンを出し、千歌ちゃんの背中を机代わりにし、部活申請書の名前の欄に〝渡辺 曜〟と書き加えた。

 

「えへっ。はい!!!」

 

「あ、ちょっと待って曜姉!!!」

 

笑顔でいる千歌ちゃんに差し出したところ、百香ちゃんが差し出す私から部活申請書を取り、自分のペンで〝渡辺 百香〟と、書いたのだった。

 

「私も、マネージャーだけどね。」

 

「曜ちゃん、百香ちゃんも・・・。

 

曜ちゃぁぁぁぁん!!!百香ちゃぁぁぁん!!!」

 

私と百香ちゃんの名前が追加された部活申請書を涙ぐみながら受け取った瞬間、私達に抱きついてきた。嬉しい。このまま昇天してもいいかも。

 

「苦しいよぉ・・・。」

「苦じい・・・。」

 

「よーし、絶対凄いスクールアイドルになろうね!!!」

 

「うん!!!」

 

私は、千歌ちゃんに元気よく答えたが、目の前をヒラヒラと部活申請書が舞い、水溜りにゆっくりと着陸していった。

 

「「「ん?」」」

 

「「「ああああああああああああ!!!」」」

 

浦女前のバス停には、私達3人の叫び声が響いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「よくこれでもう一度持ってこようと思いましたね。しかも1人が3人になっただけですわよ。」

 

ダイヤは、ゲンドウポーズをし、机にのっかっているしわくちゃになった部活申請書を見ていながら言っている。

 

「やっぱ、簡単に引き下がってはダメかなって思って。もしかしたら、生徒会長は私の根性を試してるんじゃないかって。」

 

「違いますわ!!!〝何度来ても同じ〟とあの時言ったばかりでしょう!!!」

 

「何でですか!!!」

 

ダイヤと千歌との言い合いが始まった。ちなみに俺と曜は見物人。・・・かも。

 

「この学校にスクールアイドルは必要ないからですわ!!!」

 

ダイヤは机に足を乗っけていて、千歌は机に正座をしている。千歌はともかく、良いのか?生徒会長であり、家元の後継であるダイヤがそんなことして。しかし、鉄壁スカートだな。中が見えそうで見えない。

 

「何でです!!!」

 

「「ぐぬぬぬぬぬ・・・。」」

 

二人は顔を近づけていく。このままダ〇ョウ倶楽部のようにキスとかすればいいのに。1年生ペアとかギルキスメンバーだったらやりかねないけどね。

 

「まぁまぁ・・・。」

 

「落ち着いて・・・。」

 

曜と俺が2人をなだめ、どうにか机から下ろした。

 

「貴女に言う必要はありません!!!大体、やるにしても曲は作れるのですの?」

 

「曲?」

 

机の上から窓際に立つ場所を変えたダイヤは私達に問いかけたのだが、千歌は相変わらずだ。首をかしげている。ほんと、よく調べない千歌さんの悪い癖だ。事を急ぐと元も子もありませんよ、閣下。・・・。誰が閣下だ。

 

「ラブライブに出場するのにはオリジナルの曲ではなくてはいけない、ですか?」

 

俺の答えに対し、ダイヤは「その通りですわ。」と言い、俺達の方向を向き、また更に言い出した。

 

「スクールアイドルを始めるのに最初に難関になるポイントですわ。東京の高校ならいざ知らず。うちのような高校だと、そんな生徒は・・・。」

 

ダイヤの問いかけで、千歌は「探すぞー」と言い出し、生徒会室を飛び出していった。いや、いや、お前さっきまでダイヤの言ってた事聞いてたか?

 

俺はそう思いながらダイヤに一礼してから曜と千歌の後ろ姿を追ったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

浦女の中で作曲が出来そうな人を探していた私達だが、

 

「一人もいない・・・。」

 

一人も居なかった。千歌ちゃんが溜め息をついているけと、常識的にかんがえて居ないよね。こんな田舎の学校に作曲が出来る人なんて。居てもそれは少数だからね。

 

「百香ちゃんも流石にピアノとかは駄目なんだよね。」

 

百香ちゃんは大抵の事は出来るけど、流石にピアノは出来ないんだよね。そもそも百香ちゃんはピアノ習わないって言ってたからね。まあ、小さい頃だけど。

 

「何それ・・・。完璧なら出来て当然じゃん・・・。」

 

「千歌ちゃんは私の妹をなんだと思ってるの?」

 

「何でもできる超人。そのうち生身で空とか飛んだり、一人で一つの軍隊滅亡できそう。」

 

あ?私の妹をなんだと思ってんだコラ。たとえ相手が千歌ちゃんだろうと妹に変なイメージを持つ奴は許さんぞ?

 

「ちょっと1年生の教室に行って熱々の鉄板の上で土下座しようか。」

 

私がバッグの中から1㎡の鉄板を出すと、ガスバーナーで熱し始めた。え?何で持ってるかって?気にしたら負け。

 

「冗談だってー。で、やっぱり曲は私がどうにかして作るしかないのかな・・・。」

 

千歌ちゃんが机の中から音楽の教科書を出して、私が作るとか言ってるけど、できっこない。もし今すぐ出来ても、それは奇跡以上の出来事でしかない。だから私は千歌ちゃんに出来る頃には卒業してると思うとの事を言うと、千歌ちゃんは、「だよねぇ・・・。」と言いながら机に突っ伏してしまった。

 

その時に丁度チャイムが鳴り、担任の先生が入って来た。

 

「はーい、皆さん。ここで転校生を紹介します。仲良くしてくださいねー。」

 

担任の先生の言葉の後にはワインレッドの長髪の子が入って来た。私は千歌ちゃんの方をちらっと見ると、千歌ちゃんは転校生の事をじっと見つめていた。

 

「今日からこの学校に転入することになった」

 

「くしゅっ!!!失礼・・・。東京の音ノ木坂という学校から転校してきました、くしゅっ!!!桜内梨子です。よろしくお願いします。」

 

自己紹介をしたワインレッドの子、桜内梨子さんは、深々とお辞儀をした。

 

「奇跡だよっ!!!」

 

「貴女は!?」

 

千歌ちゃんが急に立ち上がり、桜内さんに手を差し伸べた。桜内さんも驚いていたから多分面識があるのだろう。

 

「一緒に、スクールアイドル始めませんか!?」

 

千歌ちゃんがスクールアイドル部に桜内さんを誘った。その答えは?

 

「ごめんなさい!!!」

 

はい、千歌ちゃん☆残念☆。NOでした。




????「勝てる・・・!!!


ノンケの反撃は・・・これからだ・・・!!!」

次回、入学式の夜
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は11月22日0時0分です。


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第6話 貞操の危機・・・?

決めたよhand in handを原音キーで歌ったら喉が壊れかけました。


朝、ダイヤに「この学校にスクールアイドルは必要ないからですわ!!!」と言われた日の事であった。俺は今、貞操の危機に直面している。

 

今は2時間目と3時間目の間の休み時間。2時間目は生物基礎、3時間目は体育なのだが、ここは女子高で、男子生徒は一人もいない。着替える場所は・・・。もう言わなくてもわかるよな?

 

ルビィを除く全員は教室で堂々と着替えてるのだ。中年男性教師の目の前で。なのにみんな気にしないし、男性教師も何年もこの事を経験してるのか、気にせずに授業の準備を片付けている。

 

すげぇよ・・・。どっちも・・・。俺は最初に貞操の危機に直面していると言ったな?それは、次の授業が体育だからみんな着替えてる。つまり、みんな下着。今、男がいたら間違いなく襲ってる。あ・・・、男居たか。男性教師すまん。で、話を戻すが、今の俺の精神にはまだ少しだけ男としての感覚が残ってる(年々減っているのだが)。1年くらい昔、曜や千歌、そして、果南とお風呂に入ったことはある。が、あれは姉と幼馴染で、裸を見慣れていたというか、幼馴染だからこそギリギリ耐えたのだ(幼馴染組は俺も入れてみんなデカい)。それに、中学時代の着替えはみんな、セーラー服の下に体操着着てたから特に問題は無かったが・・・。高校ではそれもない。だから今、ヤバい光景が俺の周りで広がってるから脳内で葛藤中だ。もし、俺にムスコが生えていたらやばい事になっていただろう。

 

「百香ちゃん?どうしたの?着替えないの?」

 

「え?いや、直ぐに着替えるよ。」

 

俺は、ずっと着替え始まっていないルビィに聞かれた・・・と思っていたのだが、ルビィも既に着替え始まっていて、既に制服の上着を脱いでいて、下は・・・

・・・言わなくてもわかるだろう。1つだけ言えるなら、黒かな・・・。この状況で着替えられる理由は、恐らく、男性教師から約10メートル離れているし、男性教師が自分達に全く興味が無いというのが分かったのか、ゆっくりと着替え始めてる

 

「・・・。」

 

俺も覚悟を決め、男性教師が居て、そして、みんなが着替えている教室で着替え始めた・・・。

 

・・・。

 

 

・・・。

 

 

・・・。

 

 

勇気Lvが大幅に上がった!!!渡辺百香の勇気は〝今ひとつ〟から〝ないこともない〟に上がった!!!

 

・・・。何これ。艦こ(ryじゃなくて、ラブライブ!サンシャイン!!か。

 

 

 

そして、俺は素早く体操着に着替え、髪型を動きやすいように髪をポニーテールにし、花丸とルビィとの3人で適当に話しながら靴を履き替え、授業の行われるグラウンドに向かった。

 

今日は、体力測定の1,500メートルランニングだ。この学校のトラックは200メートルあるから7周半すればいい事になる。

 

花丸は運動が苦手だから露骨に嫌そうな顔をしていた。ルビィは・・・、あはは・・・と笑いながら花丸を見てる。心做しか、ルビィが花丸と俺の胸を羨ましそうに見てるように見える。

 

 

・・・そっとしておこう・・・。

 

 

そして、整列し、準備体操をしたら、体操着の上着を脱ぎ、Tシャツ、ハーフパンツ姿になる。

 

「じゃあ、みんなスタートラインについてー。」

 

先生からの合図でスタートラインにみんなで並ぶ。測定時は、あまり不公平のないようにできるだけ密着する。

 

・・・だからね・・・その・・・女の子特有の・・・柔らかい匂いが・・・、俺の・・・周りに・・・。ああ、幸せ・・・このままここに居たい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・じゃねぇ!!!ヤベぇよヤベぇよマジヤベぇよ!!!さっきの俺は完全に犯罪者の思考だったぞ!!!これ以上この空間に居たら本当に精神が持たない!!!だから先生早くスタートのホイッスル鳴らしてぇぇぇぇ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・それから10秒くらい経った時だろうか、ホイッスルがようやくなり、走り出した事により、俺はようやく普通の思考に戻ることが出来た。

 

俺は、毎朝ランニングを欠かせずしてることもあり、体力は並の男子位か、それ以上ある。え?ランニングをすると胸は小さくなるって?こまけぇこたぁいいんだよ。で、俺は今、トップで独走中。

 

俺は体育とかの運動系はめんどくさいから測定とかはちゃっちゃと終わらせるタイプだ。だって、早く終わらせれば、休み時間が増えるじゃん。だからだ。

 

・・・。さっきから1周半前を走ってるルビィがコースの先に居る(といっても花丸は俺の3周前だし、最後尾)花丸の胸を睨んでいるのはどうしてだろう。ゆっさゆっさと揺れてるからか?

 

そう思いながら花丸を抜かすと、やっぱりゆっさゆっさと揺れていた。だからか。俺はちゃんと対策してるから揺れてないんだぜ。ついでにルビィは揺れるまでの「チェストォォォ!!!」

 

「うわぁっ!?」

 

俺の思考を読んだのか、いきなり後ろから阿修羅像の様な顔をしたルビィが俺の背中目掛けて蹴りを入れてきた。俺は間一髪で避けたが、ルビィは確か、半周先を走ってたはず。何故ここにいるのかが分からない。

 

「チッ。外したか。」

 

舌打ちと呟いたこと、聞こえてますよ?というか、どうやってここまで来たのか。先生が怒らないということは、走って来たのか?ヤバいなルビィ。胸への「死にたいようだな」「ごめんなさい」「宜しい。」

 

怖ぇ・・・。もうルビィの前で胸について語るのはやめようと思いながら走っていると、右肩をトントンと叩かれた。後ろを向くと、阿修羅像・・・、ではなく、普通の顔のルビィが走っていた。

 

「百香ちゃん百香ちゃん。スクールアイドル部ってどうなってるか分かる?」

 

それは、前、ルビィが千歌に勧誘された(ルビィ自身は叫んだ、いや、ピギったのだが)スクールアイドル部の現状を知りたいということだった。

 

「うーん・・・。今はまだステップの練習してるだけだな・・・。まだ部員も設立するのには足りないし、まだ学校に正式に認められてないから、ライブとかの活動をするのは随分後になりそうだな・・・。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

走りながら俺の話を聞いたルビィは、しゅんとしながらちょっとずつ俺と距離を伸ばしていった。そして、そのまま俺は陸上部女子と10秒くらい差をつけてトップでゴールイン。

ルビィは中の上(6位くらいかな・・・?)、花丸は最後にゴールした。ルビィがこんなに早かったのはあの件のせいかな?

 

俺達1年生は、整理運動をした後、解散となった。そして、みんなで教室に戻り・・・

 

 

 

 

・・・制服に着替え始めることとなる。また俺の精神が大変なことになりそうだ・・・。でも、勇気レベルが上がったから大丈夫かな・・・?

 

 

 

そして、その後、体育教師の合図で解散となり、1年生は教室に戻りはじめた。その最中、俺は、ふとある事を思い出し、グラウンドで歩く足を止め、正面に見える校舎の2階をながめた。

 

〝・・・そういえば、梨子は転校してきたのだろうか・・・〟と・・・。

 

そう思いながら2階を見ると、千歌が梨子を勧誘している場面だった。何度も何度も逃げていく梨子を千歌が追う光景を遠目ながら見えると、もう既に千歌が何度も勧誘活動しているのが外からでもわかる。

 

〝ああ、ようやく第1話のラストの部分が終わったのか・・・〟

 

俺は、そう思いながらクスッと微笑むと、校舎の中に入っていったのだった・・・。しかし、俺は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?なんで百香ちゃんこっち向いてたんだろう。

・・・もしかして、私のことを見ていたのかなぁ・・・。そんなわけないか。」

 

俺が見ていた2階の窓から曜がこっちを見ていた事を・・・。

 




〇次回予告〇
「みなさーん!!!ダイヤのパーフェクトμ's教室、始まりますわよー!!!(わたくし)の様な賢く可愛くなるために頑張ってくださいねー!!!」
次回、ダイヤのパーフェクトμ's教室
※予告と異なる場合があります
次回更新予定日12月13日です。


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第7話 ラブライバーダイヤ様

「ワンツー、ワンツー、ワンツー」

 

浦女の中庭では、千歌と曜が俺の携帯から流れてくるμ'sの曲であるSTART:DASHに合わせてステップをしている。

 

曜のまたダメだったの?という問で千歌はあと一歩、あと一押しって感じかなと言い、笑いながら俺達の方を見ながらステップしてる。

曜はホントかなと半信半疑になってるが、大丈夫。ちゃんと入るからな。・・・多分・・・。

 

「だって、最初は〝ごめんなさい!!!〟だったのが、最近は〝ごめんなさい・・・〟になって来たし!!!」

 

梨子の声真似をした千歌に対し、曜は嫌がっているようにしか思えないと呆れ声で言っているし、俺は呆れ顔で千歌を見ていた。まあ、誰だって何回も同じ人で、さらに同じ部活に勧誘されたら嫌になるよな。

 

「そのうち無視されたりね。」

 

「大丈夫!!!いざとなったら、何でもするし!!!」

 

千歌はどこからか出したのか、音楽の教科書を俺達の目の前に出した時、また曜はそれはあんまり考えない方がいいかもしれないと呆れ声で言っていたが、千歌は気づいてないようだ。

 

「それより、曜ちゃんの方は?」

 

「ああ。描いてきたよ。」

 

だって曲とか衣装の方気にしてるし。やっぱり馬鹿なんじゃないのか?・・・この事は心の中で留めておきながら千歌と曜の後について2年生の教室に向かった。

 

 

 

 

 

「「おお・・・。」」

 

「どお?」

 

教室で曜に見せられた最初の衣装の案はやっぱりあれだった。〝HAPPY PARTY TRAIN〟に似てる衣装。というか凄いな。何も見てないのに〝HAPPY PARTY TRAIN〟に似てる衣装描けるなんて。

 

「凄いね・・・。でも、衣装というより制服に近いような・・・。スカートとかないの?」

 

却下されましたか。まあ、アニメ通りだからね。しょうがないね。

 

「あるよ。はいっ!!!」

 

「ええ?いやこれも衣装って言うか・・・もうちょっと可愛いのは・・・?」

 

千歌が疑問に思っているのも無理はない。2枚目に書かれていたのは婦警の恰好。婦警の恰好なんてもう衣装じゃなくて制服だよね。さすが制服フェチ。

 

「だったらこれは?はいっ!!!」

 

「武器持っちゃった。」

 

「可愛いよねー!!!」

 

次に見せられたのは千歌が銃を握ってる絵。いや、流石に衣装なのにこれは無いでしょ。まあ、まあ、面白そうだから俺は的外れのツッコミでもしておこう。

 

「いや、ここは89式描くべきでしょ。」

 

「武器の問題じゃないよ!!!それに可愛くないよ!!!むしろ怖いよ!!!」

 

「ん?」

 

千歌のツッコミに対して曜が疑問に思っているのもどうかと思うんだけどなあ・・・。

 

「もっと可愛いスクールアイドルらしい服だよぉ・・・。」

 

「と思ってそれも描いてみたよ!!!ほいっ!!!」

 

「わぁー、凄い!!!キラキラしてるー!!!」

 

次の4枚目でようやくスクールアイドルみたいな可愛い衣装が出て来た。というか、曜、ここまで来るまで迷走しすぎじゃない?

 

「でしょ?」

 

「こんな衣装作れるの?」

 

「うん!!!もちろん!!!何とかなるよ!!!ね!!!」

 

「え?あ、うん。」

 

いや、俺に振られても困るんだけど。まあ、裁縫は人並みに出来るけどさあ・・・。

 

「よーし、挫けてるわけにはいかない!!!」

 

で、また千歌は部活動申請書を持ち、教室を出て行った。・・・。やっぱり千歌は馬鹿だな。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お断りしますわ!!!」

 

「こっちも!?」

 

「やっぱり・・・。」

 

ダイヤの反応に千歌は驚いているが、曜は当たり前だという顔をしていた。まあ、俺もそういう顔してるが。

 

「5人必要と言ったはずです。」

 

「そもそも、衣装しか進展がないのに申請出す時点でね・・・。よく出そうと思ったね・・・。」

 

で、ダイヤは2人以上に呆れてるし、指を机にトントン叩いてるから怒りも入っていると思う。

 

「ひどい百香ちゃん!!!」

 

「でも事実じゃん。」

 

「言い返せない・・・。」

 

「それ以前に作曲はどうなったのです?」

 

うん。作曲の進展具合は最悪だよ?

 

「それはー、多分ー、いずれー、きっとー・・・。可能性は無限大!!!」

 

「でも、最初は3人しか居なくて、大変だったんですよね。u()()s()も。知ってますか?第2回ラブライブ優勝校、u's!!!」

 

「ちょ、千歌姉それu'sじゃなくてμ'sだから・・・。」

 

俺が千歌の間違いを修正していると、ダイヤの怒り度数が上がっているのか、ダイヤが机を叩くペースが早くなっていく。

 

「え?あれ、μ(ミュー)って読むの?」

 

「お黙らっしゃぁぁぁぁい!!!」

 

ついにダイヤの堪忍袋の緒が切れたのか、生徒会室にダイヤの怒りの叫び声が響き渡った。

 

「言うに事欠いて、名前を間違えるですって!?ああん!?」

 

ダイヤは椅子から立ち上がり、ヤクザ紛いのことを言いながら千歌に近づいていく。生徒会長がこんな事やっていいのかな?

 

「μ'sはスクールアイドルにとっての伝説、聖域、聖典、宇宙にも等しき生命の源ですわよ!?その名前を間違えるとは・・・。片腹痛いですわ。」

 

「ち、千歌くないですか?」

 

あれ?誤字じゃない?〝千歌〟なの?〝近〟じゃなくて?

 

「あ、今のは私の名前の千歌と距離が近「火に油を注ぐようなことしないでよ!!!」ごめんなさい・・・。」

 

ああ、空気読めてないなコイツ(バカ千歌)

 

「フッ。その浅い知識だと、たまたま見つけたから軽い気持ちで真似をしてみようとか思ったのですね。」

 

「そんなこと・・・。」

 

「ならば、μ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますか?」

 

あ、始まった。ダイヤさん暴走パート。これでダイヤさんがライバーだと分かるんだよなぁ・・・。ついでにダイヤの推しは絵里さん。これのせいでμ'sの絵里さんよりもイメージが崩れたのが早かったよね。

 

「え?」

 

「ぶーっ!!!ですわ!!!」

 

「じゃあ百香さん。わかりますか?」

 

「え?ぼららら?」

 

いや、急に振るなよ。何で俺に振ってくるんだよ。まあ、答えられたのだが・・・。

 

「え、何それ」

 

「ピンポーン!!!ですわ!!!」

 

「「は?」」

 

は?いや、は?何それ。〝ぶっぶー!!!〟なら知ってるけど、〝ピンポーン!!!〟なんて初めて聞いたぞ。嗚呼、ダイヤ様ポンコツ化がアニメ以上のスピードで進んでいってるぞ。

 

「〝僕らのLIVE 君とのLIVE〟通称〝ぼららら〟」

 

「ちょ、通称なの!?ってか、知ってるの!?」

 

千歌が驚いた様子をしているが、このくらいは知ってる。ラブライブ!の1期と2期、そして劇場版を見たからね。DVDも家にあるぞ?まあ、ある場所は秘密だけどね。だって知られたら自分の正体まで言わなくちゃならなくなるからね。

 

「次、第2回ラブライブ予選でμ'sがA-RISEと一緒にステージに選んだ場所は?」

 

「すてーじ?」

 

「ぶっぶーっ!!!ですわ!!!百香さん、お答えください。」

 

ダイヤポンコツ化まで全速前進ヨーソロー!!!状態だな。しかも、2問目も聞いてくるし。

 

「秋葉原UTX屋上。」

 

「ピンポンピンポーン!!!ですわ!!!あの伝説とも呼ばれるA-RISEとの予選、ファンならこのくらい分からないといけませんわ!!!次、第2回ラブライブ決勝、μ'sがアンコールで歌った曲は?」

 

「それは知ってる!!!〝僕らは今のなかで〟!!!」

 

「ですが、曲の冒頭にスキップしている4名は誰?」

 

ようやく千歌が答えたのだが、〝ですが〟とか言ってなんか引っ掛けを出して来た。流石に酷いだろこれは普通のファンでもわからない人多いぞ。

 

「ぶっぶっぶー!!!ですわ!!!百香さんは答えられますの?」

 

「絵里さんと、希さんと・・・、あとは・・・。 誰だっけ・・・。」

 

だから振るなダイヤ。俺はこれわからないんだよ!!!流石にここまでは覚えられんわ!!!

 

「絢瀬絵里、東條希、星空凛、西木野真姫!!!こんなの、基本中の基本ですわよ!!!」

 

あー、はい。アニメでポンコツダイヤがさらにポンコツになったな・・・。

 

「「す、凄い・・・。」」

 

「・・・。」

 

「当然ですわ!!!(わたくし)を誰だと・・・。オホン・・・。一般教養ですわ!!!一般教養!!!」

 

「高度なスクールアイドル知識が一般教養なんて世も末だな。」

 

俺がそう言うと、千歌と曜はダイヤがμ'sの大ファンだということに気がついたようで、ニヤニヤしながらダイヤを見始めた。

 

「・・・とにかく、スクールアイドル部は認めません!!!」

 

ダイヤは一向にスクールアイドル部を承認してくれない様なので、千歌と曜と一緒に帰ろうとした。

 

「お待ち下さい、百香さん。」

 

が、俺だけダイヤに呼び止められたので、千歌と曜にバス停で待っててと言い、先に帰らせといた。

 

「何ですか?」

 

(わたくし)とお話があります。」

 

「はあ・・・。」

 

俺がドアを閉め、机の方を見ると、ダイヤは窓から外を眺めるようにしていた。

 

「貴女なので言いますが、本当は人数さえいれば、スクールアイドル部を承認したいのですが・・・。」

 

その時のダイヤは、さっきと違った悲しそうな顔だった。そんな表情を見せてくれる俺はかなり信用されているんだろうか。ダイヤ達の役に立った事は一回なのに。

 

「・・・ダイヤさん・・・。何で私にだけ言うんですか?」

 

「貴女は絶対に話さないと信じているので・・・。」

 

「・・・。わかりました。2人には言いません。特に千歌には。アイツ何か知ったら直ぐめんどくさい事にしますからね・・・。」

 

俺はそれだけ言うと、バッグを持ち、生徒会室から出た。ダイヤは、ただその場に立ち尽くし、生徒会室から出ていく俺の背中をじっと見つめていたのだった。

 




〇次回予告〇

「ひゃぁァァ!!!」

「曜ちゃん水色ー!!!」

「いやぁァァ!!!」

「百香ちゃんシマシマー私みかん色ー」

「「恥じらうこともなく人前で自分のスカート捲ったぞアイツ!!!」」

突如スカートを見ると捲り出すようになってしまった高海千歌。一体どうなってしまったのか・・・!?
次回、スカート捲り魔〝千歌〟
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は12月20日です。


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第8話 桜内さん

俺がバス停に向かうと、ちょうど千歌がルビィを棒付き飴で木の陰から引きずり出しているところだった。

 

「るーるるるる。」

 

「りゅっ!!!りゅっ!!!」

 

千歌が棒付き飴を引くと、ルビィが手を出す。マイクラのピストンのような謎原理でルビィを陽の当たる場所に出している。高校生になっても飴に釣られるなんて凄いな。よく今まで誘拐されなかったな。

 

「とりゃっ!!!」

 

「わっ!!!」

 

「捕まえたっ!!!」

 

千歌は空に向けて飴を投げ、ルビィがその上に飛んでいった飴に気を取られている間に千歌は抱きつくようにルビィを捕まえた。

 

「わっ、わわわっ!!!」

 

「っ!!!」

 

ルビィは捕まえられてから少しの間だけは抵抗していた(何故か笑顔だったが)が、飴が口の中に入ると抵抗するのをやめた。俺はよく変質者にハイエースされなかったなと、しみじみと思っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

オレンジ色ラインが入ったバスは沼津駅に向けて海沿いの県道を走っていた。

 

「スクールアイドル?」

 

「すっごく楽しいよ。興味ない?」

 

「ああ、いえ、マルは図書委員の仕事があるずら。いいや、あるし・・・。」

 

千歌ちゃんから言われたスクールアイドルやってみないかという問に対し、花丸ちゃんは図書委員の仕事があると言い、断っている。席順は、私と千歌ちゃん、百香ちゃんが一番後ろの5人席、ルビィと花丸が5人席の一つ前の2人席に座っている。

 

「私も図書委員だけ「ちょっと黙るずら。」はい・・・。」

 

ハナマルゥスゥパァドゥルァァァァイ(百香ちゃんに対しての対応が)

 

百香ちゃんと花丸ちゃん、仲いいなぁ・・・。同じ中学校出身だからかな?

 

「そっか・・・。ルビィちゃんは?」

 

「えっ?あ、る、ルビィは、その、お姉ちゃんが・・・。」

 

「お姉ちゃん?」

 

「ルビイちゃんはダイヤさんの妹ずら。」

 

へー。ルビィちゃんはダイヤさんの妹なんだ。確かに目の色が同じだね。

 

「え?あの生徒会長の!?目の色以外全然似てないじゃん!!!」

 

「あ?」

 

キレた。千歌ちゃんの一言でルビィちゃんがキレた。・・・。千歌ちゃんはよく黒澤姉妹を怒らせるなぁ・・・。黒澤姉妹を怒らせるスペシャリストだね。

 

「ごめんなさい・・・。」

 

私がスクールアイドル嫌いだもんねと言うと、ルビィちゃんは、はい・・・と言って、悲しそうな目で窓の外を眺めてた。ルビィちゃんを見て、ダイヤさんって昔、スクールアイドル関連で嫌なことでもあったのかなと、口から出そうになったが、あえて言わないでおいて、今は曲作りを先に考えた方が良いかもしれないと言っといた。そうすれば何か変わるかもしれないからね。

 

「そうだね・・・。花丸ちゃんはどこで降りるの?」

 

「今日は沼津までノートを届けに行くところで。」

 

千歌ちゃんの問の答えは・・・。沼津まで行くらしい。バス停の名前は言ってない。うん。まあ、答えになってないような感じがするけど、千歌ちゃんが納得してるならいいか。

 

「ノート?」

 

「はい。実は入学式の日、凄い独特な挨拶をして恥ずかしくなったのか、逃げ出した子がいまして・・・。それっきり学校に来なくなったずら。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

独特な挨拶って何だろう。かなり気になる。見てみたい。

 

「凄かったよね、あれ。」

 

「百香ちゃんの方が凄かったずら。よくあんなのにやったのに学校来れるのが凄く思うずら。」

 

「もうあれは言わないで。死にたくなるから。」

 

死にたくなる挨拶ってどんなのだろう。見たかった。もし見れたならビデオで保存して家宝にするのになぁ・・・。もし、保存できてたら「消して!!!」と訴えてくる百香ちゃんの顔写真とか撮れるよね。グへへ。

 

「死ぬなら勝手に死ねば良いずら。」

 

「酷くない!?」

 

「冗談ずら。」

 

私を含めた5人の笑い声と、1人のため息をつく声が響く賑やかなバスは内浦湾沿いの県道を沼津駅に向けて走って行くのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「じゃーねー!!!」

 

私は沼津駅に向けて走り去って行く曜ちゃん、百香ちゃん、ルビィちゃんと花丸ちゃんの4人を乗せたバスに向かって手を振った。

 

「お?

 

桜内さーん!!!」

 

「はあ」

 

夕日で照らされる海岸には桜内さんの姿が。私が呼びかけたらなんかため息ついたような感じがしたから気のせいだよね?

 

「まさか、また海入ろうとしてる?」

 

「してないです!!!」

 

私はまた桜内さんが海に入るのか気になったから、桜内さんのスカートを捲った。なるほどー。桜内だから桜色に近い色の下着なんだね(関係ないけど、柄は無いよ)。私はみかん好きだから無地のみかん色だよ?(知らんがな)あ、ちなみに百香ちゃんは水色の水玉だったよ(風でみえた)。

 

「よかった。」

 

「あのねえ、こんなところまで追いかけてきても答えは変わらないわよ。」

 

「え?ああ、違う違う。通りかかっただけ。」

 

私が桜内さんの横に並ぶが、視線は変わらず海の方を向いているだけ。

 

「そういえば、海の音は聞くことは出来た?」

 

「じゃあ、今度の日曜日空いてる?」

 

「どうして?」

 

「お昼にここに来てよ。海の音、聞けるかもしれないから。」

 

「聞けたらスクールアイドルになれって言うんでしょ?」

 

桜内さん、痛いとこつくなー・・・。そう思いながらとりあえず腕を組む。桜内さんは・・・、少しだけ微笑んでる。

 

「あー、だったら嬉しいけど・・・。その前に聞いて欲しいの。」

 

「音?」

 

「梨子ちゃんはスクールアイドルのこと全く知らないんでしょ?だから知って欲しいの!!!ダメ?」

 

「あのね、私、ピアノやってるって話したでしょ?」

 

その時の桜内さんの顔はどこか悔しそうで、悲しそうだった。

 

「うん。」

 

「小さい頃からずっと続けてたんだけど、最近、いくらやっても上達しなくて。やる気も出なくて。だから環境を変えてみようって。海の音を聞ければ、何か変わるのかなって。」

 

「変わるよ。きっと。」

 

「簡単に言わないでよ。」

 

そう言いながら私は桜内さんの手を取った。

 

「分かってるよ。でも、そんな気がする。」

 

「変な人ね。貴女は。

とにかく、スクールアイドルなんてやってる暇なんてないの。ごめんね。」

 

「わかった。じゃあ海の音だけ聞きに行ってみようよ。スクールアイドル関係無しに。」

 

桜内さんは私の手を振りほどき、この場から去ろうとしたが、私はつかみ直した。

 

「え?」

 

「ならいいでしょ?」

 

 

 

「・・・本当、変な人。」

 

私が差し伸べた手に桜内さんの細長い手が乗せられていて、桜内さんはふんわりとした笑顔で私のことを見ていたのだった。




〇次回予告〇

「R33だと!?ふざけるな!!!」

峠を走っていた黄色いFDを追いかけてきたのは自分自身が豚に食わせとけ!!!と言ったR33だった。

「豚のエサ同然のR33を、このFDがちぎれないだと!?俺は夢でも見てるんじゃねーのか!?クソッタレが!!!俺は地元のチームのナンバー2だぞ!?」

本気で走ってもついてくるR33。カーブの手前で減速しても、R33は減速せずに突っ込んでいった。

「この先を知らないのか!?キツイ右を越えたすぐにキツイ左がある。減速しなければ曲がれねぇ、そのまま谷底に真っ逆さまだ!!!」

そう、この先は急なカーブが2箇所あり、金髪の兄ちゃんが言ってるように、通常、減速しなければ曲がれない。そう、()()はだ・・・。

「スピードが盛りすぎてる!!!立て直すスペースも無え!!!」

R33がドリフトをすると、前直ぐにカーブがまた現れた。FDの兄ちゃんがクラッシュするのを見る覚悟でいたが、ありえないことが起きた。ドリフトをし、カーブを曲がったのだ。

「!!!」

そう、前のR33は遠心力でドリフトをしたのだ。

「慣性・・・、ドリフト・・・!?」

FDの兄ちゃんがそう呟いた時には、R33は視界から消えていた。
次回、頭文字M
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日1月10日


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第9話 俺の愛車はR33

あけましておめでとうございます。今年も今作を宜しくお願いいたします。今回の話から、読者さんの好みと分かれてくると思います。あ、あと、今回は短いです。あと、主人公の渡辺百香ちゃんのカラー立ち絵を目次部分に出しました。まあ、ラブライブ!の絵柄に近づけたため、8割ほどトレスですが・・・。


「「ただいまー。」」

 

狩野川沿いの下河原町地区にある住宅街、そこの一番川側にある家々のうちの一件の家に俺と曜が入る。この家が俺達、渡辺家の自宅だ。

 

今、家の中に母は居ない。家の駐車場に車が止まってなかったから、多分、まだ仕事中なのだろう。

 

俺は制服の上に一枚上着を着て、部屋の机の引き出しの中にあった車のキーを持ち、曜にコンビニ行ってくると言い、家を出た。

 

家を出ると、向かうのはコンビニと全く別の方向にある月極駐車場だ。そこは10台から20台駐車出来る駐車場で、俺はキーで、あるシルバー色のスポーツカーの鍵を開けた。

 

乗り込んだ車は、シルバー色(正式にはソニックシルバー)の日産スカイラインGTRのR33(Vスペック)だ。何故だか知らないが、この車は前世で乗っていた車と同型車、内装や、中に載っている積載物、そして、色も同じで沼津ナンバーであることを除くとナンバーも同じなのだ。つまり、前世の俺の車。車両の保有も俺名義だったし、月極駐車場の料金は俺の前世の口座から自動的に引き落とされている。俺としては、お小遣いと高校、大学時代の全バイト代、海自の給料を全て使って買った思い入れのある車だったからこの世界に俺と来たのは嬉しかった。

 

え?転生後に鍵はどうやって手に入れたって?とっても簡単だったよ。鍵は中学に進学したと同時に自室の机の引き出しの中に入ってた。え?免許証はって?免許証は・・・あるよ。まあ、中学2年のとき、一回(秋の交通安全週間やらなんやらの)検問に引っかかってねぇ・・・、もしかして捕まるんじゃないかと思ってビクビクしながら免許証を出したんだよ。そしたら免許証を確認した後、「ご協力感謝します」と警察官に言われただけで何も無かったし、その後も何も無かった。あの時は色々死ぬかと思ったよ。まあ、俺は人より見た目が大人だったから何も言われなかったんだと思う。子どもっぽい人といえば・・・、ほら、見た目がロリで胸がペターの人も居るしね。ほら、μ'sの某矢澤に〇こさんがそうじゃん。だって、バスト3センチ盛ってるていううわさ話があるのに、μ's、Aqours合同のバストランキングで最下位。(ついでにワースト2位は凛さん、ワースト3位はルビィ、トップはやっぱり希)

 

・・・。ってか、何で前世の物がこんなに自分の周りに溢れかえっているのか不思議だ。

 

そんな事を思いながら俺はキーをキーシリンダーに挿し、エンジンを掛けた。

 

行き先はあの赤い(朱色?)看板のガソリンスタンド。ガソリンタンクの容量はたっぷり65Lあるのだが、1Lで8.1kmしか進まないため、直ぐにガソリンがなくなってしまうのだ。生産台数が少ないR33で、さらに頻繁にスタンドに行く。さらに女性ということもあり、スタンドの店員に顔を覚えられた。スタンドに入ると、すぐに言われる。窓拭き無しのハイオク満タンだと。

 

今日もそんな感じで店員にTが描かれたポイントカードを渡した後に給油が始まり、無事に50L給油して満タンになった。

 

「6,950円です。」

 

うん。高い。リッター139円だからね。7,000円払い、50円お釣りを貰った後、コンビニに向かう。コンビニはガソリンスタンドから一番、家からは3番目に近いセブン-〇レブン沼津大手町4丁目店に寄る。

 

俺は、コンビニに寄ると、いつもコーヒーや新聞を買う。新聞は、記者によって内容やまとめ方が違く、読み比べるのが面白い。

 

「あ、百香ちゃんずら!!!」

 

げっ!!!花丸!!!

 

俺は、心の中で声を上げた。それは、買い物が終わり、帰ろうとした時、コンビニの駐車場で花丸に話しかけられたのだ。しかも、車の鍵を開けた時だった。ああ、忘れてた。今日は善子の家に花丸とルビィの2人で行ってたんだったんだ。更に、運悪く、ここは善子の住んでいるマンションから内浦に通じるバスの走るバス停まで一番近いコンビニ。しまった・・・。ちゃんとこのことを考慮して家の前のファ〇リーマート沼津下河原店かセブ〇-イレブン沼津本町店にすれば良かった・・・。

 

「これ、百香ちゃんのお父さんの車ずら?」

 

「あ、うん!!!そうだよ!!!」

 

急に誰のか問いかけられたから危うく〝俺の〟と言いそうになった。良かった言わなくて。言ったら色々めんどくさい事になってたと思うから。

 

で、花丸はスポーツカーずら、未来ずらー!!!って言い、目をキラキラ輝かせながら俺のR33の周りをぐるぐる回っている。ついでに俺のR33は1998年製だけどね。全然未来じゃない。というか、女性でスポーツカーを好きな人って少ないんだよね。後ろの羽何って普通に言われるからね。(後ろの羽(ウイング)は、高速走行時に車を安定させる役割があります)

 

・・・。花丸には悪いけど、早く帰って欲しい。そうしなければ、俺、運転出来ないもん。帰れないもん。

 

「ねえ、百香ちゃん。」

 

「ん?何?」

 

なんか嫌な予感が・・・。セーフかアウトか・・・。さあ、どっちだ!?

 

 

 

「この車乗ってみたいずら。」

 

はいアウトォォー!!!乗せないよ!!!乗せられないよ!!!どうするか?どうしよう!!!花丸が上目使いでこっち見てくるよ!!!可愛いよ!!!ぺろぺろしたいよ!!!断れないよ!!!

 

「いいずら?」

 

良い・・・、いや、ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!ダメだ!!!冷静になるんだ俺!!!

 

「ごめん。無理だよ。この車、2人乗りだから・・・。」

 

「わかったずら・・・。」

 

どうにか言って花丸には諦めても「じゃあ、日を改めてなら良いずら?」は?いや、は?

 

 

「パパが大丈夫だったらね!!!」

 

どうにかして早く花丸を返さないと。てか、ルビィはどこ?

 

「花丸ちゃぁぁぁん!!!百香ちゃぁぁぁぁぁんーー!!!」

 

ん?何やら叫び声が後ろの方から聞こえたぞと思った瞬間、後ろから何かが突っ込んできた。

 

「グぼへ!!!」

 

突っ込んできたのはルビィだった。突っ込まれたせいで変な声を出してしまった。

 

「ここに居たんだ。花丸ちゃん。探したよー。」

 

どうやらルビィは花丸を探してたらしい。探すのは一向に構わないのだが、何故俺に突っ込んでくるんだ。

 

「もうすぐでバスの時間だから行こー。バイバイ、百香ちゃん。」

 

「わかったずら。じゃあねー。」

 

「またねー。」

 

助かった・・・。このまま残られたら帰れないかと思ったよ。ありがとう。ルビィ、そして、東海バスオレ〇ジシャトル(路線バス)。

 

俺はルビィとバス会社に感謝しながら車に乗りこみ、家に向けて走り出した。

 

 

家に帰った後、携帯のメッセージアプリを確認すると、千歌からダイビングの誘いのメッセージが受信されていたので、俺はとりあえず、「行くよ」と返信をしといたのだった。




〇次回予告〇
東京と内浦の、都会と田舎の垣根を越えた物語。

「チカ!!!」

「チカ、オウチ、デンワ。」

次回、T.T.
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は1月24日0時0分です。

◎主人公設定(9話現在 追加予定あり)
・名前
渡辺(わたなべ) 百香(もか)
・誕生日
11月16日
・一人称
私(稀に 俺)
・血液型
A
・身長
174cm
・好きな食べ物
刺身、ブドウ
・嫌いな食べ物
焼き魚(特に秋刀魚)、辛いもの
・趣味
軍艦、ランニング
・スリーサイズ
B83/W58/H79
・学年
1年生
・好きな色、イメージカラー
フォレストグリーン
・ユニット
フリー
・特徴
見た目は美少女。しかし、性格は男勝り(というか男)
声は少し低くしてる(元々曜の様に高いが、高いのが少し恥ずかしいため、トーンを少し下げてる)
・周りへの呼び方
基本的に年上はさん付け。(果南や曜、千歌は○○姉呼び)同学年、又、歳下は呼び捨て。
※キレたり、真面目な時になると全員呼び捨てになったりする。

呼び方一覧
・Aqours
千歌→千歌姉、千歌
曜→曜姉、曜
梨子→梨子さん、梨子姉、梨子
果南→果南姉、果南
ダイヤ→ダイヤさん、ダイヤ
鞠莉→鞠莉さん、鞠莉
花丸→花丸、ズラ丸
ルビィ→ルビィ
善子→善子

・転生オリキャラ
9話現在、無し

・オリキャラ
果南父→親父さん

・μ's(今現在4名のみ)
凛→凛さん
絵里→絵里さん
にこ→にこさん
希→希さん

・その他
志満→志満姉
美渡→美渡姉

・名前の由来
面舵(おもかじ)(船の進行方向を右に曲げること)の〝もか〟からきたらしい。なお、取舵(とりかじ)(船の進行方向を左に曲げること)からきた〝りか〟という名前が候補にあったが、海上衝突予防法では、前方に反航船がある場合、取舵ではなく、面舵をとるのが定められているため、〝りか〟は候補から消え、〝もか〟になったらしい。

・前世から受け継いだもの(あってもほとんど使わないけどね)
記憶
パソコン
WALKMAN
財布内の現金と通帳
運転免許証(現世の顔になっている顔写真がついている)
ラブライブ!とラブライブ!サンシャイン!!のBlu-rayセット
日産 R33型スカイライン 後期型(Vスペック)
・ナンバー 「沼津33 た 40-460」
・色 ソニックシルバー



〇前世
・名前
町田(まちだ)慶喜(よしのぶ)
・誕生日
8月21日
・一人称
俺(職務中 私)
・血液型
B
・身長
177cm
・好きな食べ物
刺身、ブドウ
・嫌いな食べ物
焼き魚(特に秋刀魚)、辛い物
・趣味
軍艦、ランニング、アニメ
・出身地
茨城県大子町
・殉職時階級
二等海佐(二階級昇進で海将補に)
・殉職時役職
副長兼航海長
・殉職時年齢
43歳


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第10話 海の音

あ、ずっと言い忘れていましたけど、μ'sはまだ出ないです。多分今年の12月くらいには誰か出るんじゃないすかね(適当)


「音ノ木坂から来た転校生?」

 

「そうだよ!!!あのμ'sの!!!」

 

「そんなに有名なの?」

 

「へー。知らないんだ。」

 

俺は、果南と千歌、梨子の会話を聞きながら、空気ボンベを運んでいた。って、何で俺が空気ボンベ運んでんだよ。果南の役目じゃなかったか!?なあ、果南。何で3人で話してんだ。ああ?キレるぞ?キレるぞ!!!・・・。・・・あ、そういえばここの場面・・・。果南がスクールアイドル知ってるってことになるよね。これは・・・、伏線だったのかな・・・。

 

「イメージ?」

 

「水中では、人間の耳に音は伝わりにくいからね。ただ、景色はこことは大違い。見えている物からイメージすることも出来るんだよ。」

 

「想像力を働かせるわけですか?」

 

「そういうこと。出来る?」

 

「やってみます。」

 

俺は、果南と梨子の会話を聴きながら、果南に頼まれた数の空気ボンベを運び、水着とダイビングスーツに着替えた。あ、水着に着替えたのは一応だし、色は秘密だぞ。え?元男だって?あー、あー、何?大きな声でもう一度。

 

 

で、ダイビングスーツに着替え終わったら直ぐに小さなクルーザーに乗り、ダイビングポイントまで移動した。・・・。果南・・・、少しくらい休ませてよ・・・。

 

最初は、梨子だけが潜っていたが、10分程すると、クルーザーの前に頭を出した。

 

「駄目?」

 

「残念だけど・・・」

 

千歌の問に対し、梨子は、残念そうに答える。

 

「イメージか・・・。確かにむずかしいよね。」

 

「簡単じゃないわ。景色は真っ暗だし・・・。」

 

「真っ暗?」

 

「そっか。わかった。もう1回いい?」

 

曜の〝真っ暗〟の用語で千歌は何か思いついたのか、梨子と曜を連れて、クルーザーから海に飛び込んで行った。

 

「あ、百香はまだ入らないで。」

 

「え?ああ。うん。」

 

俺も3人に続いて海に入ろうとしたが、深刻そうな顔をしていた果南に止められたため、俺は入るのをやめた。

 

 

「ねえ、百香。」

 

そして、3人の頭が海中に消えた時、ずっと深刻そうな顔をしていた果南が口を開いた。

 

「何?」

 

「入学式の日、私をスクールアイドルに誘おうとしてる千歌を止めたじゃん。何で・・・?百香。貴女は一体、何を知ってるの?」

 

「・・・。」

 

・・・。やばい。どうやってはぐらかそう。

 

もう、これはバラすしかないと観念したその時だった。海の方から3人の嬉しそうな声が聞こえた。

 

 

 

 

「聞こえた?」

 

「うん!!!」

 

「私も聞こえた気がする!!!」

 

「本当!!!私も!!!」

 

3人の笑い声がこちらにも響いてくる。

 

 

「・・・。聞こえたようだね。」

 

「うん。」

 

俺と果南は、さっきまでの雰囲気をぶち壊すように、にっこりと笑って顔を見合わせた。

 

「じゃあ、私も行くからね。」

 

で、その隙に俺は海に飛び込み、3人のところに向かった。その時、果南が逃げた・・・か・・・。これは何かありそうね・・・と言っていて、ダイビングスーツから私服に着替えた後にも聞き出せるかどうかチラチラこちらを見てきていたが、俺はずっと曜や千歌、梨子と一緒に話して、隙をつくらなかった。どうにか危機回避をして、帰宅したのだった。

 

それから、果南からあの事について言われることはしばらくの間無かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

海の音を聞いた次の日の放課後の事だった。私と千歌ちゃんの前に梨子ちゃんが立って、あることを言った。「作曲の事だけど、手伝うことにしたわ。」と・・・。

 

「えっ!?嘘!!!」

 

「本当に!?」

 

「ええ。」

 

「ありがとう・・・。

 

ありがとおー!!!うわぁ!!!」

 

千歌ちゃんはテンションアゲアゲヨーソロー!!!状態になって梨子ちゃんに抱きつこうとした。でも、梨子ちゃんは直ぐに避けて、千歌ちゃんは後ろにいる同級生に抱きつく形になっちゃった。

 

「待って。勘違いしてない?」

 

「へ?」

 

勘違い?もしかして、あの一言でスクールアイドルになるって千歌ちゃんは勝手に解釈したの?

 

「私は曲作りを手伝うと言ったの。スクールアイドルにはならない。」

 

「えー・・・。そうなんだ・・・。」

 

あ、やっぱりスクールアイドルになるって勝手に解釈したのか・・・。

 

「じゃあ詩をちょうだい。」

 

ああ、詩ね。

 

「し?」

 

千歌ちゃんは詩を知らないのか、教室内や、時分のバッグの中を「し」と言いながら見回し始めた。千歌ちゃんのバッグの中はみかん2つ。いや、教科書入れなよ。学校に持ってくる通学用のバッグなんだからさ。

 

「詩って何〜♪」

 

「多分〜、歌詞の事だと思う〜♪」

 

千歌ちゃんがなんか歌い出したため、私も釣られて歌って答える。

 

「「歌詞?」」

 

私と千歌ちゃんのイェス、フォーリンラブ!!!はい、ふざけましたごめんなさい。

 

「考えてなかった・・・。」

 

「じゃあ、今から考えようよ。百香ちゃんも呼んでさ!!!」

 

私の提案で、百香も呼び、千歌ちゃん家で、歌詞を考えることにした。百香ちゃんを呼んだら二つ返事で承諾してくれたよ。

 

 

 

 

 

「あれ?ここ、旅館でしょ?」

 

「そうだよ。」

 

着いた場所は旅館の〝十千万〟。この旅館は千歌ちゃんの自宅でもあるんだから!!!

 

「ここなら時間気にせずに考えられるから。バス停近いし、帰りも楽だしねー。」

 

「いらっしゃーい。あら、曜ちゃんと百香ちゃん。相変わらず可愛いわねー。百香ちゃんは、また大きくなった?」

 

で、中から志満姉ちゃんが出てきて、私を可愛いという。百香ちゃんは・・・、大きいね・・・。身長も・・・。不本意だけど・・・、胸も・・・。

 

「あ、うん!!!174cmだよ!!!」

 

「大きいねー。そちらが千歌ちゃんの言ってた子?」

 

「うん。志満姉ちゃんだよ!!!」

 

千歌ちゃんが志満姉を梨子ちゃんに紹介してる時、梨子ちゃんは、チラチラ高海家で飼っているしいたけの方向を見てる。ん?犬苦手なの?

 

「桜内梨子です。」

 

「よろしくー。」

 

「こちらも美人さんだねー。」

 

「そうなんだよ!!!さすが東京から来たって感じでしょー?」

 

「本当に。何にもないところだけど、くつろいで行ってね。」

 

私達が中に入ろうとすると、美渡姉にとっておいたプリンを食べられてた千歌ちゃんが怒り出したり、梨子ちゃんがしいたけに吠えられてびっくりしてたり、その光景を見ていた百香ちゃんがニヤニヤしてたり、なんだかカヲスな状態だったな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺は、1階で2階に持ってく菓子類や飲み物類を用意していた時だった。2階からドンッという音が聞こえた。恐らく、美渡と千歌の姉妹喧嘩に巻き込まれて海老のぬいぐるみと浮き輪をぶつけられ、作詞を始めようとしたら曜と千歌が新しいスマホに気を取られていて、一向に作詞をしないため、梨子が怒ったのだろう。

 

で、美渡が2階から逃げてくると・・・。

 

「逃げるぞ、しいたけ!!!」

 

「わんっ!!!」

 

で、何でしいたけもついて行くのかが分からない・・・。まあ、呼ばれたからついてってるだけだと思うんだよなぁ・・・。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ・・・。」

 

私達は、千歌ちゃんの部屋で歌詞を考えていたが、なかなか出来ない。最初の歌が恋の歌なんてハードル高すぎでしょ。

 

「やっぱり、恋の歌は無理なんじゃない?」

 

「いやだ!!!μ'sのスノハレみたいにつくるの!!!」

 

・・・。諦め悪いなー。まあ、そこが千歌ちゃんのいいところなんだけどね。

 

「そうは言っても・・・。恋愛経験ないんでしょ?」

 

「なんで決めつけるのー?」

 

「あるの?」

 

同感。

 

「無いけど・・・。」

 

「やっぱり・・・。それじゃあ無理よ。」

 

ああ、やっぱり・・・。

 

「っていうことは、μ'sがこの曲を作った時、誰かが恋愛してたってこと?調べてみる!!!」

 

「何でそんな話になってるの?作詞でしょ?」

 

「でも、気になるし!!!」

 

「いや、普通載ってないでしょ。」

 

千歌ちゃんはパソコンを立ち上げて調べ始めた。百香ちゃんの言った通り、調べても載ってないと思うんだよね。それに音ノ木坂は女子高だし。

 

「千歌姉はスクールアイドルに恋してるからねー。」

 

「「「!!!」」」

 

百香ちゃんの一言で、私達3人に衝撃が走る。けど、千歌ちゃんは気づいてないけどね。

 

「何ー?」

 

「今の話、聞いてなかった?」

 

「スクールアイドルにドキドキする気持ちとか。」

 

「それなら書ける気しない?」

 

「!!!うん!!!書ける!!!それならいくらでも書けるよ!!!」

 

千歌ちゃんは、パソコンをぶん投げる(パソコンを投げてはいけません)と、紙に歌詞を次々と書き始めた。

 

「まず、輝いているところでしょ?あとねー・・・」

 

私は、歌詞を書いている千歌ちゃんを見ながら梨子ちゃんをチラッと見ると、羨ましそうな、悲しそうな表情をしながら、千歌ちゃんをじっと眺めている。

 

「はい!!!」

 

「もう出来たの?」

 

「参考だよ。」

 

千歌ちゃんが梨子ちゃんに渡したのは、〝ユメノトビラ〟の歌詞だった。まあ、こんなに早くできたら馬鹿(うましか)(柔らかい表現)じゃなくなっちゃうからね。千歌ちゃんが。あ、千歌ちゃんを馬鹿(バカ)って言ってる訳じゃないよ!!!

 

「〝ユメノトビラ〟・・・?」

 

「私ね、それを聴いてね、スクールアイドルになりたいって、μ'sみたいになりたいってね、本気で思ったの!!!」

 

「μ'sみたいに?」

 

「うん!!!頑張って努力して、協力して奇跡を起こしていく。私でも出来るんじゃないかって。今の私から、変われるんじゃないかって!!!そう思ったの!!!」

 

「本当に好きなのね。」

 

「うん!!!大好き!!!」

 

そうこうしていたら、もう終バスの時間だったため、百香ちゃんをつれて帰ることになった。帰る時の千歌ちゃんを見る梨子ちゃんの表情は、まだ、変わっていなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

曜と帰宅した俺は、俺1人でこっそり家を抜け出し、自分のR33で十千万の裏の道に向かった。裏の道に到着後、ゆっくり走り、梨子の家と千歌の家(十千万)の間を探した。梨子の部屋と千歌の部屋はちょうど正面で、ベランダから会話が出来るほど近い。恐らく、そこは裏の道から見えると思う・・・。

 

しばらくゆっくり走り、2つの部屋が見える場所で、2人から見えない位置にR33を停めると、運転席側のパワーウィンドウを下げてからエンジンを切った。エンジン音で気づかれるかも知れないからね。

 

で、今は梨子の部屋から聞こえてくる、梨子の歌声を聞いていた。歌っているのは、μ'sの〝ユメノトビラ〟それを聞いた千歌が、千歌の部屋から顔を覗かせる。

 

「梨子ちゃん?」

 

「高海さん・・・?」

 

車からよく見えないが、恐らく、梨子は驚いた顔をして千歌を見ている。だって、アニメでそうなっていたからだ。まあ、車から降りて表情の確認とかもしたいけど、下手すると俺がこの場にいることがバレるから車の中に留まっていた。

 

「梨子ちゃん!!!そこ、梨子ちゃんの部屋だったんだ!!!」

 

「そっか。引っ越したばかりで全然気づかなくて・・・。」

 

千歌はベランダに出てくる梨子に向かって元気に話すが、梨子の話し声にはまだ元気がない。

 

「今の〝ユメノトビラ〟だよね!!!」

 

「え?」

 

「梨子ちゃん歌ってたよね!!!」

 

「え?いや、それは・・・。」

 

「夢の扉、ずっと探し続けていた。」

 

「・・・そうね・・・。」

 

「私ね、その歌大好きなんだ!!!第2回ラブライブの・・・」

 

「高海さん。」

 

「へ?」

 

千歌は好きなμ'sについて話し始めようとすると、梨子は、自分の悩みを打ち明けた。私、どうしたらいいんだろう・・・。と・・・。

 

「梨子ちゃん・・・。やってみない?スクールアイドル。」

 

千歌は、そう言いながら梨子に手を差し伸べ始めたが、梨子は、ピアノを諦められないと言い、ベランダの柵に目線を落とした。このシーンは車からでもはっきりと見える。

 

「やってみて、笑顔になれたら、変われたら、また弾けばいい。諦める事ないよ。」

 

「・・・失礼だよ。本気でやろうとしてる高海さんに・・・。」

 

梨子は、更に申し訳無さそうに、ベランダの柵の下に消えた。恐らく、ベランダに座っているのだろう。目に涙をためながら。

 

「そんな気持ちで・・・。そんなの・・・失礼だよ・・・。」

 

「・・・梨子ちゃんの力になれるなら、私は嬉しい。みんなを笑顔にするのが、スクールアイドルだもん。」

 

手を伸ばしていた千歌は、欄干の上に座り、更に身体を梨子に近づける。場所が不安定な場所にある為、タオルが風に煽られて地面に落ちる。俺は、もしかしたらと思い、シートベルトを外し、いつでも千歌が誤って転落してもいいように、スタンバった。

 

「!!!千歌ちゃん!!!」

 

流石に危ない場所だったため、梨子は千歌ちゃんと叫んだ。千歌のことを高海さんと呼んでいた梨子が、だ。

 

「それって、とっても素敵なことだよ!!!」

 

梨子も手を伸ばすが、届かない。

 

「流石に遠いかな・・・。」

 

「待って!!!駄目!!!」

 

梨子は諦めようとしたが、千歌は、もっと身を乗り出したため、梨子も身を乗り出す。手は、どんどん近づいていき、そして、2人の指の先端がピトっと触れた。この瞬間だった。まだ無名(そのまんま)のAqoursのメンバーに梨子が入ったのは。

 

千歌と梨子はどちらも笑顔で見つめていた。俺も笑顔で、2人が家の中に戻って行くまでその場で見つめていた。

 

2人が俺の視界から消えると俺はR33のエンジンをかけ、パワーウィンドウを上げると帰路についた。〝ユメ語るよりユメ歌おう〟を口ずさみながら・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

梨子が加入すると決まった次の日の登校中のバス車内のことだった。俺は一番後ろの座席に曜と一緒に座っている。

 

バスは、遅れ無しで、時間通りに三津バス停に着き、ドアが開く。それと同時に千歌が元気にバスに飛び乗ってきた。昨日メンバーとなった梨子を連れて。

 

「おっはよー!!!」

 

「おはヨーソロー!!!」

 

「おはヨーソロー。」

 

「おはよう。」

 

千歌、曜、そして、俺のいつもの3人の挨拶に梨子の挨拶がプラスされる。前よりも少し賑やかになった。

 

「曜ちゃん!!!百香ちゃん!!!梨子ちゃんスクールアイドル部入るって!!!」

 

「「え!?」」

 

「本当!?」

 

「ええ。」

 

梨子は、驚いた曜や、俺に対し、微笑みながら頷く。え?何で加入したことを知ってる俺が驚いた顔をするのかって?怪しまれないためだよ。怪しまれる事をして自分の首を絞めるなんてやりたくないからね。

 

「よろしくね!!!梨子ちゃん!!!」

 

「よろしくお願いします。梨子さん。」

 

「よろしくね。」

 

俺は、梨子に軽くお辞儀をしたが、ん?と感じ、しばらくお辞儀をしたままで、あることを考えた。そして、バスがバス停一区間分進んだくらい時間が経ったとき、俺はあることを心の中に決意して顔を上げ、

 

「・・・。やっぱ、梨子さんじゃなくて梨子姉て呼んでも良いですか?」

 

と言った。梨子は、一瞬だが、驚いたのか、目を見開いた。それから梨子は、しばらく考え、何故か言いずらそうに部活の時だけねと言った。

 

「やったァァァ!!!」

 

梨子に許可を貰い、俺はガッツポーズしながら飛び上がり、運転士から「うるさいですよ」と、注意をうけ、さらに、さっきまで眠そうだったのにね・・・と、曜と千歌に呆れられてた。

 

「それほど嬉しい事かしら・・・。」

 

嬉しいよそりゃあ。あのAqoursのメンバーの一人である梨子のことを前よりかなり親近感があるように呼べるんだから。

 

俺がはしゃいでいた時に見た梨子の顔は、明るく微笑んでおり、この前、千歌の部屋で見た、羨ましそうで、悲しそうな表情はしていなく、前みたいな雰囲気も出していなかった。よかった。梨子が元気になって・・・。

 

バスは今日も駿河湾の内湾、内浦湾沿いの道を学校に向けて走って行く。スクールアイドルを夢見る3人の少女達と、別世界の記憶を持った少女を乗せてー

 




〇次回予告〇
現れたのは、もう一人の自分の姿だった。

[ただ、お前は自分の理想の世界である事を望んでいるんだろ?]

「違う!!!」

[Aqoursがよければ、その他はどうなってもいい。]

「違う!!!何だよ、何なんだよお前は!!!」

「俺は、お前だ。わかるだろ?」

「違う!!!お前なんか、お前なんか俺じゃない!!!」

[ふっ、ハハハハ!!!我は影、真なる我・・・]

もう一人の自分の姿は化け物に姿を変えてしまった・・・。

次回、ペルソナA
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日2月7日


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第11話 新理事長

「ワントゥースリーフォー、ワントゥースリーフォー、ワントゥースリーフォー」

 

夕日で照らされている砂浜。そこでは、千歌、曜、梨子の3人が俺の合図でステップをとっていた。

 

「みんな切り上げ早い!!!」

 

「千歌姉、少し遅れてる!!!」

 

「5分休憩。」

 

「ア゛ア゛ァ・・・。疲れたぁ・・・。」

「ふぅ・・・。」

「はぁ・・・。」

 

俺の合図で3人が砂浜に腰掛ける。千歌がなんかオッサンみたいな声を出してるが気にしないでおこう。

 

「疲れるの早すぎない?」

 

「ヒドッ!?そんなヒドイこと言うなら百香ちゃん踊ってよ!!!」

 

「えー?まあ、手本だけなら良いけど・・・。」

 

「それだけでもいいから早く踊ってよ!!!」

 

「OK分かった。」

 

俺は千歌の提案により、3人の前で一通り踊ってみせた。みんな目を見開いて驚いてみてる。まあ、この動きは前世でかなりやってたからな。〝はくう〟のヘリ甲板とか、艦首で同じ航海科の八名一曹と林二曹とリズムとりながらやったからな。まあ、そのせいで同僚や部下から変な目で見られたんだかな・・・。でも、楽しかったから良しとしよう。で、踊りは俺達3人でやるだけでは留まらず、砲雷科から砲雷長以下4名拉致ってきて、それに艦長、飛行長を混ぜ、合計9人で出会った民間旅客船に向かって〝MIRAI TICKET〟や〝HAPPY PARTY TRAIN〟などを踊ったりした。最初はみんな恥ずかしがっていたが、やっているうちに楽しくなってきて、気づいたら単独で航海してる民間船舶の殆どに向けて踊って、「やりすぎだ」と上層部から怒られたこともあった。

 

「こんな感じかな?まあ、私はあくまでもマネージャーだからステージには出ないけど。」

 

一通りステップが終わった後、ステージに出ればいいのに・・・と、俺のステップを見た梨子が呟いた後、梨子は上空を飛んでいるピンク色のヘリを見つけた。

 

「何、あれ・・・。」

 

「小原家のヘリだね。」

 

「小原家?」

 

曜の答えで梨子は首を傾げる。まあ、ホテルの経営者知ってる高校生なんて少ないからね。しょうがないね。

 

「淡島にあるホテル経営してて、新しい理事長もそこの人なんだってさ。」

 

「へぇー・・・。百香ちゃんは物知りだねぇ・・・。」

 

俺は物知りじゃないよ。ただ、知ってる情報を言っただけ。まあ、確定事項だけどね。

 

「なんか近づいてきてない?」

 

「気のせいよ。」

 

ヘリは旋回してコッチに近づいてくる。大丈夫。千歌の予想は当たってるよ。

 

「でも・・・。」

 

「「「うわぁ!!!」」」

 

ヘリはさらに近づき、俺達の頭上スレスレを越えていく。千歌達3人は風圧に耐えられず、倒れるような体勢になってるが、俺は慣れてるから立ったままでいる。前世、護衛艦〝はくう〟に乗っていた時、ヘリの誘導、少しだけやったこともあったからね。

 

「何何!?てか、何で百香ちゃんは立ってられるの!?」

 

千歌は現状を理解出来なてないようだ。まあ、そうだろうな。ヘリが目の前でホバリングしてるんだからな。

 

Ciao(チャオ)ー!!!」

 

で、ホバリングしてるヘリのドアが開き、中から金髪の女性が現れた。イタリア系アメリカ人の父と日本人の母から生まれたハーフの女子高生、小原(おはら) 鞠莉(まり)だ。俺は、この時初めて本物の鞠莉に出会ったのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

次の日、俺達4人は浦の星女学院の理事長室に集められていた。理事長のネームプレートが置かれている机の横には鞠莉が立っている。

 

「え?新理事長!?」

 

「イェース!!!でも、あまり気にしないでマリーって呼んでほしいの!!!」

 

千歌達は鞠莉が新理事長だと驚いた顔をして鞠莉を見てるし、鞠莉はハイテンション。普通な表情で普通のテンションなのは俺だけだ。

 

「でも・・・!!!」

 

「紅茶、飲みたい?」

 

「ミルk」「あの、新理事長。」

 

百香キャンセル。ミルクティーがあるなら貰おうと思ったけど、千歌によってその言葉がキャンセルされる。

 

「マリーだよぉー!!!」

 

「マリー・・・。」

 

あのテンションの高い千歌が鞠莉にテンションで圧されている。鞠莉は凄いなぁ・・・。

 

「で、その制服は・・・。」

 

「変かなー。ちゃんと3年生のリボンも用意したつもりだけどー。」

 

「理事長ですよね・・・?」

 

「しかーし、この学校の3年生。生徒兼理事長。カレー牛丼みたいなものねー!!!」

 

「例えがよく分からない・・・。」

 

うん。梨子と同じく、例えがわからない。ほら、野球選手の大谷投手みたいと言えば分かるかな?え?わからない?

 

「分からないの!?」

 

「分からないに決まってます!!!」

 

で、ダイヤが理事長の机の下から出て来た。というか、何故そこにいた。

 

「生徒会長!?」

 

そして、ダイヤは鞠莉の正面に立つ。その瞬間、鞠莉は・・・

 

「Oh!!!ダイヤ、久しぶりー!!!ずいぶん大きくなってー!!!」

 

ダイヤに抱きつき、ダイヤの頭を撫でてるが、何で鞠莉はダイヤが机の下にいることわからなかったんだろう。謎。

 

「触らないでいただけます?」

 

「胸は相変わらずねぇー。」

 

「やかましい!!!・・・ですわ。」

 

鞠莉がダイヤの胸を触ると、ダイヤは鞠莉を力づくで遠ざける。〝ですわ〟が後付けになってるのは気にしないでおこう。

 

「It's Joke」

 

「全く・・・。1年の時に居なくなったと思えば、こんな時に戻ってくるなんて。一体、どういうつもりですの!!!」

 

「シャイニィー!!!」

 

鞠莉は、ダイヤの話を聞かずに、カーテンをバッと開く。

 

「人の話を聞かない癖は相変わらずのようですわね。」

 

「It's Joke」

 

ダイヤが鞠莉の制服のリボンを握り、鞠莉を胸元に近づけた。

 

「とにかく、高校3年生が理事長なんて、冗談にも程がありますわ!!!」

 

「ソッチはJokeじゃないけどね。」

 

「は?」

 

鞠莉は、頭上にハテナマークを浮かべた千歌達3人と、素っ頓狂な声を出したダイヤ、そして、真顔の俺に、制服のスカートのポケットから出した理事長の任命状をドヤ顔で見せてきた。

 

「私のホーム、小原家の学校に対する寄付は相当な額なの。」

 

「嘘・・・。」

 

「そんな!!!何で!!!」

 

任命状を見たダイヤは、信じられないようにして鞠莉を見る。

 

「実は、この浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね。」

 

「まさかそれで・・・?」

 

「そう!!!ダイヤに邪魔されたらかわいそうなので、応援しに来たのです。」

 

「ホントですか!?」

 

鞠莉の言葉で千歌は、ぱあっと笑顔になる。

 

「イェース!!!このマリーが来たからには、心配いりません。デビューライブはアキバドームを用意してみたわ!!!」

 

千歌の笑顔を見た鞠莉は、ミニパソコンを出し、アキバドームの写真を見せた。梨子は、絶望顔(?)のような顔をし、千歌は、かなり嬉しそうに奇跡だよ!!!と叫び出す。曜は・・・、なんかいつも通りの顔。なんかこの事が出される事が分かってたみたいに・・・。

 

「どうせ嘘でしょ?」

 

「イェース!!!It's Joke」

 

「ジョークのためにわざわざそんな物用意しないでください。」

 

まあ、嘘か誠かどうかを知ってる俺は普通に冗談だと返し、鞠莉もジョークだと返す。・・・千歌のテンションがかなり下がったのはあまり気にしないでおこう。

 

「実際には・・・」

 

 

 

 

で、俺達4人が鞠莉に連れられて行った先は浦女の体育館。アニメと同じだ。ダイヤは、生徒会の仕事があると言って帰ってしまったが・・・。

 

「ここで?」

 

「はい!!!ここを満員に出来たら、人数に関わらず、部として承認してあげますよ。」

 

「本当!?」

 

千歌の顔がまた笑顔になる。部員設立時の人数は5人必要という規定があるが、今のスクールアイドル部の人数は4人。特例で部活として承認されるのは凄いね。流石理事長、鞠莉!!!俺達にできない事を平然とやってのけるッ!!!そこにシビれる!あこがれるゥ!!!

 

「部費も使えるしね。」

 

「でも、満員に出来なければ・・・」

 

「その時は、解散してもらうほかありません。」

 

「そんなぁ・・・。」

 

「嫌なら断っても結構ですけど〜?」

 

「どうします?」

 

鞠莉は、ニヤケながら千歌を見る。絶対やって欲しいって思ってるよ。これ。

 

「どうしますって・・・。」

 

「結構広いよねここ。やめる?」

 

出た。曜の「やめる?」作戦。これ言うと千歌がもっと燃えるんだよね。この方法で、どれだけ千歌を動かしてきたか・・・。両手で数えられないや・・・。

 

「やるしかないよ!!!他に手があるわけが無いんだし!!!」

 

「そうだね!!!」

 

「OK?行うって事でいいのね。」

 

「OK!!!ズドン!!!」

 

俺が鞠莉に向かって、銃を向けて撃つふりをすると鞠莉は、「Oh!!!」と言ってやられた振りをしてくれた。うん。ノリいいな。まあ、その後、曜に手刀されたけどね。

 

で、手刀された直後、全校生徒の人数を把握していた俺は、曜に問いかけていた。この学校の全校生徒は何人か。と・・・。

 

「え?えーっと・・・、あ!!!」

 

「何何?」

 

「分からないの?」

 

曜と梨子は、俺の質問を、理解できたらしいが、千歌は理解出来なてないようだ。

 

「全校生徒、そして、教職員をいれてもこの体育館は満員にはならない。ってことでしょ。」

 

「うん・・・。」

 

「嘘・・・。」

 

やっと、事の重大さを分かった千歌は頭を抱え始めた。

 

「まさか、鞠莉さん、それをわかって!!!」

 

「見かけによらず、結構凄いこと言うんだな。鞠莉は。」

 

こうして、俺達は浦の星女学院の体育館で初めてのライブを行う事を決定したのだが、同時に浦女の体育館を満員にするという課題も生まれたのだった。

 

 

ー10つの歯車は進路通りに進んで行く。多少のズレがありながらもー




〇次回予告〇
「私は高校生松浦果南!!!
幼なじみで同級生のダイヤと鞠莉で三津シーパラダイスに遊びに行った時、ミルクグレージュ色の女とワインレッド色の女の怪しげな写真の取引現場を目撃した!!!(千歌の生写真)
取引を見るのに夢中になっていた私は・・・
背後から近づいて来るみかんの髪の色のもう一人の仲間(?)に気づかなかった・・・
()()はその女に毒薬を飲まされ、目が覚めたら・・・」





「何も変化していなかった。」

「大きくなったら頭脳は☆筋肉☆」

「迷宮有の迷探偵」

「その名は、名探偵カナン!!!」

次回、名探偵カナン
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日2月21日


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第12話 ファーストライブに向けて

鞠莉と体育館でライブをすると約束した日の帰りのバスに俺達は乗っていた。

 

「どーしよー・・・。」

 

千歌は、全校生徒が体育館に入っても満員に出来ないことを知った直後、頭を抱えだしていた。

 

「でも、鞠莉さんの言うこともわかる。そのくらいできなきゃ、この先は無理でしょという事でしょ。」

 

「やっと曲ができたところだよ!?ダンスもまだまだだし・・・。」

 

「じゃ、諦める?」

 

悩んでいる千歌に向かって、曜が言った言葉、〝諦める?〟は千歌のやる気倍増スキルの様な言葉だった。

 

「諦めない!!!」

 

「何でそういう言い方するの・・・。」

 

そのため、千歌のやる気は右肩上がり。千歌の性格をよくわかってない梨子の機嫌は少し落ちたが・・・。

 

「こう言った方がね」

 

「千歌姉は燃えるから。」

 

曜と俺の息の合った言葉。やっぱ姉妹だなーと、俺は、思う。梨子は、納得したようで、「なるほど」と、小声で呟きながら頭を上下に振っていた。

 

 

「そうだっ!!!」

 

で、千歌は何か良案を思いついたのか、座席から飛び上がった。

 

『走行中は立たないでください。』

 

「・・・。」

 

・・・のだが、運転士に注意されたので、千歌は、顔を真っ赤にしながらゆっくりと座ったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

で、千歌が考えた案は、千歌の姉、高海家次女の美渡(みと)が勤めている会社の従業員を連れて来てくれという内容だった。

まあ、提案した後、千歌は美渡に〝バカチカ〟と、マッキーで額に書かれたのだが。

 

 

・・・千歌の頭脳についてのことをかなり的確に的を射ている言葉だ・・・。

 

「おかしい。完璧な作戦な筈だったのに・・・。」

 

「姉さんの気持ちも、わかるけどねー。」

 

部屋に戻ってきた千歌は、不満を言っていた。その時の曜の言動は、裁縫をしながら美渡の気持ちを弁解しているように思える。

 

「えー?曜ちゃんお姉ちゃん派!?」

 

「まあ、一社員が全社員を動かせるかと言われたら、まあ、普通は無理だよね・・・。せめて一千万くらいあれば・・・。」

 

「何故お金になるの!?」

 

え?曜は緊急事態(?)は金で何とかしない派?え?千歌は肯定らしい。頷いているし。

 

「世の中金なんだよ!!!」

 

「何でそうなるの!?」

 

「・・・ていうか、梨子ちゃんは?」

 

「お手洗い行くって言ってたけど・・・。」

 

で、千歌がようやく部屋に居なかった梨子の事に気がついたようだ。・・・。

 

千歌が障子を開けると、そこには、廊下に寝そべっているしいたけの上に橋のようにしている梨子が居た。足は障子、手は欄干で全体重をかろうじて支えている。

 

「何やってんの?」

 

「それより人を集める方法でしょ?」

 

「え!?」

 

梨子は、千歌に助けを求めようとしたが、裁縫をしていて、周りが見えていない曜によってキャンセルされてしまう。哀れ、梨子。

 

「そうだよねぇ・・・。何か考えないとねぇ・・・。」

 

「町内放送でもしてみたら?頼めば出来ると思うよー。」

 

「後は沼津かな・・・。向こうには高校いっぱいあるから、スクールアイドル興味ある高校生もいるだろうし。」

 

で、沼津に行こー!!!と言いながら千歌が障子を閉めかけた時、俺は、「お手洗いに行ってくる」と言い、どうにか千歌の部屋から抜け出してきた。で、その時の梨子は、まさに限界のような顔をしていた。The 顔芸。

 

「イーヤァァァー!!!」

 

「よっと。」

 

耐えきれなくなったのか、梨子は、真下に居たしいたけに向かって、落下し始めてしまった。俺は、落ちてくる梨子を180度回転させ、お姫様抱っこのような形で抱き抱えた。ふぅ・・・。間に合ったか・・・。

 

「ふぇ?」

 

「〝ふぇ?〟とか、可愛いね。梨子姉。」

 

お姫様抱っこされた梨子は、現状を理解出来ていないのか、ぽかんとしていたが、俺が話しかけると、俺がやっていることを理解したのか、顔がどんどん真っ赤になっていく。

 

「あ、あ、ああ・・・、ありがとう・・・。」

 

「わ、わわわ、私、お手洗い行ってくるね!!!」

 

俺が梨子を降ろすと、梨子は顔を真っ赤にしながらトイレに向かって走って行ったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

千歌が沼津に行くと言った翌日、学校が終わると、俺達4人は直ぐに沼津駅行のバスに飛び乗り、沼津駅に向かったのだった。

 

「東京と比べれば人は居ないけど、やっぱり都会ね。」

 

梨子がそう言うように、人口約20万人の住む沼津市の中心市街地にあり、東海道本線の主要駅である沼津駅の駅前は、人通りも建物も内浦より多い。ここで配れば観客も多少は増えるだろう。

 

「そろそろ部活が終わった人達が来るはずだよね。」

 

「気合い入れて配ろう!!!」

 

千歌は、チラシの束を持ち、人々の前に出て行った。

 

「あのっ!!!お願いします!!!」

 

千歌は、下校中の女子高生2人組にチラシを差し出したのだが、話に夢中だったのか、千歌に気づかず、スルーしてそのまま駅の中に消えていった。

 

「あれ?」

 

「意外と難しいわね。」

 

「うん。スルーするのはいいけど、スルーされるのは流石に・・・、ねぇ・・・。」

 

俺は、そう言いながら唖然としている千歌の横で頭を搔いた。

 

「こういうのはタイミングだよ!!!見てて!!!」

 

曜は、こういうのは得意だと言わんばかりの顔をしながら別の下校中の女子高生2人組の前に駆けて行った。

 

「ライブのお知らせでーす!!!よろしくお願いしますー!!!」

 

「ライブ?」

 

「はい!!!」

 

「貴女が歌うの?」

 

「はい!!!来てください!!!」

 

曜がチラシを差し出すと、2人組の傍らがチラシを受け取って、駅舎の方向へと向かって行った。2人組の話の話題はスクールアイドル関連の事になっており、行けるかどうかの話とかも聞こえてきたのだった。

 

「よろしくお願いしまーす!!!」

 

「凄い・・・。」

 

「よーし!!!私も!!!」

 

曜の勧誘を見て、やる気が出できた千歌は、チラシを配りに出たのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

が、千歌が取った行動は壁ドン。チラシ配る相手の女子高生を壁ドンしてるのである。

 

「え?」

 

「ライブやります。ぜひ。」

 

「え?でも・・・」

 

「ぜひ!!!」

 

「わぁ!!!」

 

千歌に無理矢理チラシを配られた相手のか弱そうな女子高生は、チラシをもって逃げていった。

 

「勝った!!!」

 

「勝負してどうするの?」

 

千歌は、ガッツポーズをしているが、梨子が言っているように、正直言って勝負する必要は無かったと思う。

 

「はい、千歌姉。17時12分、暴行罪の現行犯ね。」

 

「ちょっと百香ちゃん!!!何言ってるの!?」

 

で、そう思いながら俺は、千歌の両腕を後ろに回し、ロープで手首を固定しようとした。・・・。曜の視線が凄いのは気にしないでおこう。

 

「壁ドンは暴行罪ですよぉ?」

 

「え?」

 

〝壁ドンは暴行罪〟この一言で梨子はあからさまに萎んでいる。いや、どんだけ壁ドン好きなんだよ。

 

「次、梨子ちゃんと百香ちゃんだよ。」

 

「わかった。」

 

「え?私?」

 

俺は二つ返事で返したが、梨子は頭にハテナマークを浮かべながら首を傾げていた。

 

「当たり前でしょ?4人しか居ないんだよ。」

 

「それはわかってるけど・・・。こういうの苦手なのに・・・。」

 

梨子は、渋々チラシの束を持ち、駅前広場に出ていったのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ライブやります!!!来て!!!」

 

で、駅前広場に出て行った梨子は、ポスターに向かってチラシを渡していた。もちろん、相手はポスター。受け取ってくれるはずがない。

 

「何やってんの。」

 

そんな梨子を千歌は呆れながら見つめている。

 

「練習よ、練習!!!」

 

「練習してる暇なんか無いの!!!ほら!!!」

 

「ちょっと、千歌ちゃん!?ちょ、ちょっと!?」

 

そして、梨子は、千歌に引きずられるようにして駅前広場の中心部に連れてかれたのだった。

 

 

 

 

 

「すみません!!!」

 

梨子が最初にチラシを配った人はサングラスとマスクをしているいかにも不審者みたいな格好をしている人だった。髪型と髪色、身長は・・・、善子と同じ。というか善子だろ絶対。アニメでも善子だったから。

 

「あの、お願いします!!!」

 

「うううう・・・。」

 

「あの・・・。」

 

「うっ!!!」

 

俺の方をちらっと見た瞬間、不審者(善子)はびくっとし、逃走し始めた。あ、そうか、俺、善子と同じ1年だから事故紹介で痛いヤツだと思っていると思っているのか。

 

「やった・・・!!!」

 

で、梨子チラシをが無事に善子(不審者)に渡せた事を確認した俺は、ロータリーの乗降場に向かい、シルバーのパジェロの助手席側のドアに寄りかかりながらタバコを吸っているネクタイとワイシャツ姿の中年男性にポスターを渡した。

 

「お?ライブか・・・。お前も出るのか?」

 

「いや、私はマネージャーだよ。出ない。」

 

「そうか・・・。お前も十分可愛いと思うんだけどなあ・・・。」

 

中年男性は、顎を触りながら答えていると、横から誰かが走ってきて、その中年男性を蹴り飛ばした。

 

「グボハッ!!!」

 

「コラァー!!!私の百香ちゃんに手を出すとは何事だぁー!!!」

 

「ちょ、曜姉!!!」

 

千歌の様なことを言いながら中年男性を蹴り飛ばしたのは曜だった。スカートの中が見えたが、中は体操着のハーフパンツが・・・。残念。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・。」

 

「良いって、良いって。しかし、元気のいいお姉さんだな。」

 

曜が謝っている相手は、先程蹴り飛ばされた中年男性だ。中年男性は微笑みながら曜を見ている。

 

「アハハ・・・。あ、曜姉、紹介するね。沼津警察署の新島(にいじま) 喬太郎(きょうたろう)警部だよ。」

 

実は、この人、俺の知り合いだったのだ!!!

 

「はは。百香さんよ。警部だったのは三年前だぞ?今は沼津警察署長をしていて、階級は警視になったんだぞ?」

 

「あれ?そうだったんですか?三年ぶりだったんで、わかりませんでした。」

 

どうやら新島さんの階級が上がったらしい。()()()からもう三年経っているから仕方がない。

 

「沼津、警察署長・・・。」

 

「え?ああ、うん、そうだよ?」

 

「沼津警察署長!?」

 

俺と新島さんは何故曜が驚いたのか分からなかったが、よくよく考えると、ただの女子高生が警察署長と知り合いなんて滅多にいない。だからか。

 

「何で警察署長と知り合いなの!?」

 

「三年前に、ちょっとね・・・。」

 

「・・・。」

 

曜は俺の言葉に察したのか、何も言わなかった。

 

「おっと。もうこんな時間だ。じゃあ、またな。」

 

「ライブ、来てくださいねー!!!」

 

非番(ヒマ)だったらなー。」

 

新島さんは、チラシを持つと、車に乗り込み、どこかに行ってしまった。・・・ところで、新島さんはここで一体何をしていたんだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくチラシ配りを続けていると、千歌がある2人の人物を見つけた。

 

「あ、花丸ちゃーん!!!」

 

「はい!!!」

 

花丸とルビィだ。千歌がチラシを渡すのだが、受け取るのは花丸だけ。ルビィは花丸の背中に隠れている。

 

「ライブ?」

 

「花丸ちゃんも来てね。」

 

「やるんですか!?」

 

〝ライブ〟

その一言を聞いたルビィは、顔をぱあっとさせながら花丸の後ろから急に姿を表せた。

 

「え?」

 

「ああ、うりゅぅ・・・。」

 

しかし、千歌の言葉で自分自身が急に人前に出たと気づいた瞬間、花丸の背中にまた顔を埋め始めた。・・・仕方ないな・・・。

 

「ル、ビ、ィ、ちゃん。」

 

「ん?あ、百香ちゃん!!!」

 

俺が、花丸の後ろに居るルビィにチラシを出しながら話しかけると、ルビィは相手が俺だとわかったので、直ぐに顔をぱあっとして出てきた。ルビィと友人でよかった・・・。

 

「絶対満員にしたいから絶対来てね。ルビィ。」

 

「うん!!!」

 

「じゃ。」

 

「待って百香ちゃん!!!」

 

「ん?」

 

チラシをルビィに渡したので、俺がその場から移動しようとした時、ルビィに呼び止められた。

 

「グループ名は何ていうの?」

 

「・・・。」

 

〝グループ名〟は何?ルビィの問に俺は答えられなかった。知らない訳では無い。でも、今話すとね・・・。

 

俺は、しばらく考えると千歌を呼んだ。

 

「千歌姉ー。」

 

「何ー?」

 

千歌はヘラヘラ笑いながら近づいてくる。グループ名とか絶対考えてなさそう。だって、アニメがそうだったからね・・・。

 

「グループ名決めた?」

 

「あっ・・・。」

 

そう、まだ決めてない段階なのに、グループ名なんて発表出来るわけないのだ。俺達4人は直ぐに合流すると、バスに乗り、グループ名を決めに砂浜に向かったのだった。




〇次回予告〇
初めてのBirthdayStory!!!作者はどんな話を執筆するのか!!!まだ自分自身でも分からない!!!

次回、Happy Birthday花丸
次回更新予定日は3月4日0時0分です。

◎オリキャラ紹介(1)
・名前
新島(にいじま) 喬太郎(きょうたろう)
・誕生日
9月17日
・一人称

・血液型
O
・身長
178cm
・好きな食べ物
納豆、コーヒー
・嫌いな食べ物
生卵
・趣味
珈琲淹れ
・所属先
静岡県警沼津警察署
・階級
警視
・役職
警察署長
・出身地
静岡県清水市(現 静岡市清水区)
・車
三菱 パジェロ(4代目)
・ナンバー 「沼津 334 ほ54-581」
・色 クールシルバーメタリック


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特別編1 Happy Birthday 花丸

はい、初めてのBirthdayStoryです。初めては花丸。尚、特別編では、主人公の事がAqours全員にバレている事になります。ようするにパラレルワールドです、パラレルワールド。


俺は早朝の海岸沿いの県道を自分のR33で快調に飛ばしていた。

 

今日は、花丸と一緒に東京御茶ノ水一帯にある神田古書店街に向かうのだ。あ、ついでに高速道路料金は割り勘な。駐車場料金は俺の知り合いである沢木さんの知り合いの和菓子店の駐車場借りるから無し。

 

車をしばらく走らせた俺は、内浦地区にある寺の門の前に向かい、そこで止まった。既に花丸は門の前で俺の事を待っていて、車が着き、サイドブレーキを上げると、花丸は直ぐに乗り込んでいた。

 

花丸はスポーツカーに初めて乗るからだろうか、未来ずらぁー!!!と言いながら車内を見回していた。

 

「ねえ百香ちゃん、運転してもいいずら?」

 

いや、流石に不味いだろ。花丸は免許ないから。

 

「無理だよー。花丸免許ないじゃん?」

 

「だよね・・・。」

 

花丸は、俺の返答で(´・ω・`) ショボーンとしてたけど、しょうがない。免許無いんだから。

 

「じゃあ、シートベルト締めて。出発するよ!!!」

 

「ずら。」

 

花丸は、シートベルトを締め、持っていたバッグを膝の上に乗せた。・・・。シートベルトが・・・、食い込んでいる・・・!!!何処とは言わないが。

 

 

 

 

・・・。俺も食い込んでいるんだけどな。

 

 

俺は、サイドブレーキを下げ、車を発進させた。俺のR33は、B83の2人を乗せ、東京に向け、走り出したのだった・・・。

 

 

しばらく走らせると、車は長岡インターから伊豆中央道に入った。まだ朝早い為、交通量はまだ少ない。今回のルートは、伊豆中央道と伊豆縦貫道経由で長泉沼津インターチェンジから新東名高速道路に乗り、御殿場ジャンクションから東名高速道路に入り、東京に向かうというルートだ。

 

車は快調に伊豆中央道を走り、江間インターチェンジの信号で停車した。江間インターチェンジ。珍しい交差点のインターチェンジだ。現在時刻は5時58分。伊豆中央道は唯一の江間料金所が有人のみのため、6時から有料(普通車200円)になる。伊豆中央道の江間料金所はこの交差点の目と鼻の先。無料の時間帯に通過したいから、早く発車したい。だが、変わらない。信号が・・・、変わらない・・・!!!

 

 

歩行者用信号機がようやく点滅し始め、信号が変わる徴候を出していたのだが、時刻は5時59分。あと1分。

 

俺は、早く発車したいため、エンジンを蒸し始め、花丸はのっぽパンを頬張り始めた。

 

 

 

・・・青!!!

 

俺は直ぐにアクセルを踏み、車を急発進させた。もう少し、もう少しまでで料金所に差し掛かる時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・料金所のバーが下がった。午前6時、料金所稼働開始。

 

「あらら。惜しかったですね。200円です。」

 

「・・・。はい・・・。」

 

残念でしたと言ってくる料金所の職員に俺は200円払い、バーが開くと同時に車を発進させた。

 

「はあ・・・。」

 

「まあ、200円くらいいいよ。のっぽパンでも食べて元気出すずら。」

 

俺がしばらく溜め息をついていると、花丸が齧り掛けののっぽパンを口に突っ込んできた。

クリーム味か・・・。甘くて美味しいな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ん?・・・齧り掛け?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

齧り掛けだぁ!!!間接キス?間接キスになるよなあ!!!これ!!!ヤベぇ嬉しい!!!\( 'ω')/ヒィヤッハァァァァァァァア!!!

 

「なんか変なこと考えてるずら?」

 

「いえ、そんな事はございません。」

 

なんか花丸が握りこぶしをつくって聞いてきたから俺は即座に否定した。肯定したら命が無くなったかもな。

 

車は伊豆中央道から伊豆縦貫道に入り、長泉沼津インターチェンジから新東名高速道路に入った。料金所をETCで通過する時、花丸が「未来ずらー!!!」と言ったことは言うまでもない。

 

車は制限速度内で新東名と東名高速道路を通り、途中、海老名サービスエリアで休憩となった。東名高速で東京にいちばん近いこのサービスエリアはまだすべての店が空いていないこの朝早い時間からでも駐車してある車の数は多い。

 

俺と花丸は、トイレ休憩で寄っただけなので、トイレに行ってからトイレ脇にある自販機で花丸はお茶、俺はコーヒーを買ってから直ぐにサービスエリアを出た。

 

 

車は東京料金所を抜け、首都高速に入る。渋谷線、都心環状線を通り、代官山出入口で首都高速を降りた。首都高乗ってから花丸がずっと「未来ずらー!!!」と言っていたのはまた別の話にしよう。ていうか、花丸。「未来ずらー!!!」を言い過ぎだ。

 

首都高速を降りた車は一般道を抜け、秋葉原の手前で路地に入った。それは、和菓子店の駐車場が路地にあるからだ。

 

駐車場に車を止め、和菓子店に入り、ショーウィンドウの先に立っている高坂さんに一言挨拶し、古本店街に向かった。あ、高坂さんっていっても、あの高坂穂乃果じゃないからな。それだけは言っておく。

 

20分くらい歩き、御茶ノ水の神田古書店街に着く。着いた途端に花丸は目を輝かせながら走り出してしまった。Aqours10人の中でも体力が2番目に多い俺が花丸に追いつけないほど速い。

 

・・・。練習の時もこんなに速く走れればいいのに・・・。そう思いながら息を切らしながら花丸を追う。

 

 

花丸に追いついた時、〝これも、これももう無い本ずら!!!〟と言いながら既に何冊かの本を買っていた。中古品とはいえ、既に絶版になっている本を買えるのは嬉しいだろう。でも、多すぎるのはやめてね。トランクに入りきらなくなるから。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

3時間後、俺達は丁度お昼時だったため、近くにあったファミレスで昼食をとることとなった。・・・花丸は結局トランク一杯になるまで本を買った。ガソリンが・・・、燃費が・・・。

 

花丸はそんな俺の気持ちも知らずに笑顔でハンバーグを頬張っている。まあ、花丸が笑顔ならいいか。

 

俺はそう思いながら花丸と世間話程度の話をしながらエビグラタンを頬張り始める。

 

しばらくすると、花丸は、ハンバーグが先端についたフォークをこっちに出してきた。

 

「食べる?」

 

「うん。花丸もグラタン食べる?」

 

俺は、スプーンにグラタンを掬い、花丸に差し出すと、花丸は肯定の「ずら。」を言ったので、とりあえず、食べあいっこをした。絵面的には大丈夫。うん、大丈夫・・・。

 

 

昼食をとった後は大型書店に寄り、また沢山の本を買った。花丸がね。だからトランクだけじゃなくて後部座席にも本が置かれ始めた。

 

 

 

そして、花丸とショッピング(といってもほぼ全て本だったが)を楽しんで帰路についた。俺の車の後部座席の右半分が本で埋まり、左半分は組み立て式の本棚の材料で埋まっていて、首都高速の高架橋同士を繋いでる伸縮装置を通過すると、カタカタと音をたてながら揺れていた。

 

最初は花丸と話をしていたが、ふと気づくと、花丸は、ドアにもたれかかってすやすやと寝息をたてて寝ていた。

 

俺は、その姿を見て微笑み、アクセルを踏んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、マルは布団の上に寝そべりながら今日のことを思い出していた。朝、料金所の稼働時間前に料金所を通過できなくてご立腹していた百香ちゃんに齧り掛けののっぽパンをあげたり、ハンバーグとグラタンを食べあいっことかをした。これが今日一番の思い出。本?確かに本も買ったけど、本の思い出は二の次だったりする。マルは悪い子だ。マルには善子ちゃんが既にいるのに、百香ちゃんにも同じ感情を持ってしまったからだ。

 

「どうすれば、いいずら・・・。マルには選べないよぉ・・・。」

 

そんなマルの独り言は、誰にも聞かれずに部屋の中に消えていった・・・。




〇次回予告〇

曜「ようもか、ご期待ください」

次回、「新春ドラマスペシャル・ようもか」
※予定と異なる場合があります。
次回更新予定日は3月7日0時0分です。


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第13話 ぐるーぷめい?

俺達は、まだ決めていなかったグループ名を決めるため、沼津駅から島郷海水浴場に移動し、そこの砂浜に集まった。俺は、名前を考えてる時に筋トレとかをすればいいと提案した。すると直ぐにOKが出たため、俺達4人は練習着に着替えて柔軟をしていた。

 

「まさか、決めてないなんて・・・。」

 

「梨子ちゃんだって、忘れてた癖に。」

 

柔軟しながら梨子と千歌が話し合っている。どうやら俺と曜はハブられてる様だ。

 

「とにかく、早く決めなきゃ。」

 

「そーだよねー。どうせなら学校の名前入ってた方がいいよね。浦の星スクールガールズとかー。」

 

「まんまじゃない。」

 

「じゃあ、梨子ちゃん決めてよー!!!」

 

「え?」

 

「そうだね。ほら、東京で最先端の言葉とか。」

 

「そうだよそうだよ!!!」

 

「えっと・・・、3人海で知り合ったから、スリーマーメイドとか・・・。」

 

梨子がどうにか捻り出したような名前だった。みんな多分嫌だと思ってると思うけど、俺は別にこれいいと思うんだけどな。採用しないけど。

 

「1、2、3、4・・・。4人だよ。」

 

「待って!!!今の無し!!!」

 

梨子が必死に無しだと言ってるけど、千歌がまさかの俺をメンバーにいれていた。俺はマネージャーだけでいいんだけどな・・・。

 

「曜ちゃんは何かない?」

 

「制服少女隊!!!どお?」

 

「無いかな。」

 

「そうね。」

 

「うん。」

 

「えー!!!」

 

千歌、梨子、俺が同意して曜の案は直ぐに却下された。〝制服少女隊〟は無いよ。流石に。

 

「百香ちゃんは?」

 

「浦女レボリューションズ!!!」

 

「「「さー、考えよー。」」」

 

「無視するなよぉー!!!」

 

・・・。なんか梨子や曜よりも俺の扱い酷くない?それに何故か無視してる時の曜の顔がイキイキしてるし。Sなのか?曜は。

 

「やっぱり、こういうのは言い出しっぺがつけるべきよね。」

 

「だね。」

 

「さんせーい!!!」

 

「戻って来たぁー!!!」

 

しばらくみんなで砂浜に文字を書いて考えた後、千歌は自分に命名権が戻ってきた事を嘆いていた。うん。千歌。言い出しっぺの法則って知ってるかな?

 

「じゃあ、制服少女隊でいいの?」

 

「スリーマーメイドよりはいいかな・・・。」

 

「それはなしって言ったでしょ!!!」

 

「だって・・・」

 

千歌がそこまで言った時、俺は、俺達から遠く離れたところで砂浜から立ち去るある人を発見した。その人がたっていた場所には文字が・・・。俺は千歌の肩を叩き、その場所に誘導した。

 

「お?」

 

「これ、なんて読むのかな・・・。エーキューアワーズ・・・。」

 

「アキュア?」

 

「駅の自販機かよw」

 

「もしかしてアクア?」

 

「少しは反応して・・・。」

 

千歌と梨子の言ったことにみんな反応したが、何故か俺の言ったことには反応しない。何故だ。

 

もしかして、沼津駅の管轄がJR東海だからか!!!JR東海の自販機はJR東海パッセンジャーズがやってるからか!!!acureはJR東日本の自販機だから分からなかったのか!!!(そもそもマイナーすぎて分からない)

 

「水って事?」

 

「水かあ・・・。なんか良くない?グループ名に。」

 

「これを?誰が書いたのかも分からないのに?」

 

曜は誰が書いたんだろうと首を傾げてるけど、これ書いた人はあの人だからね。

 

「だからいいんだよ!!!名前を決めようとしてる時に、この名前に出会った。それって、すごく大切何じゃないかな!!!」

 

「そうだよね。」

 

「このままじゃいつまでも決まらないし。」

 

「じゃあ決定ね!!!この出会いに感謝して、今から私達は、Aqoursだよ!!!」

 

この瞬間、4人(1人はマネージャー)のスクールアイドルグループの名前が〝Aqours〟になった瞬間だった・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

家に帰った俺は、宿題、入浴、夕食を終えた後、自室に向かった。机に向かい、スクールバッグの中から深緑色の筆箱と〝日記帳〟と書かれた表紙が薄汚れた分厚いノートを出した。この日記帳は2歳くらいから使い始めた日記帳だ。日常生活に何か変化があった時にこれに記録するのだ。俺は、深緑色のシャーペンを筆箱から出すと、日記帳を開き、記入し始めた。

 

〝2016年4月12日

遂に2代目Aqoursが結成された。まだ初期のメンバーの3人だが、このまま9人まで順調に増やしていこう。〟と・・・。

 

日記帳に記録し終わった俺は、ミュージックプレーヤーを日記帳と入れ違いでバッグから出し、パソコンをしながら音楽を聴き始めた。

 

最近の俺の趣味、それは動画実況だ。生声実況じゃないよ!!!ゆっ〇り実況だよ!!!アカウント名は〝斉藤さん〟だぞ!!!アカウント名の〝斉藤さん〟は、曜の声優さんの斉藤〇夏さんの名字からとっている。

 

主に、某自由にプレイ出来る「Min〇craft」というゲームや、RPGゲー、レースゲーなど、沢山の実況動画を某コメントが流れる動画投稿サイトに出してきた。視聴回数は平均して20万〜50万くらいだ。何故こんなにウケてるのか分からない。でも、意外だったのは善子のゲーム実況や占いなどの動画の視聴回数が100万回以上の物が多かった事だ。恐らく、善子がJK(女子高生)、そして堕天使(?)だからだろう。俺の動画みてみろよ。下ネタばっかで女だってわからなくなってるぜ。姿とか声とか公開してないし、元男だったからね。しょうがないね。・・・。でも1回くらいは善子とコラボ実況してみたいな・・・。

 

俺は、そんなことを思いながらパソコンをしていたが、よくよく考えると、スクールアイドルのマネージャーやるってことは、必然的に動画制作時間に、ゲームのプレイ時間が大幅に減ってしまう・・・。仕方ないか・・・。

 

俺は、最初の5分の部分だけ作ったところで作業をやめ、俺はパソコンを閉じて携帯電話を取り出し、電話を掛けたのだった・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

千歌の部屋で俺は放送機器をいつ借りられるかを携帯で問い合せていた。

 

「はい、はい、わかりました。少々お待ちください。」

 

俺は、携帯を保留にし、千歌達の方向を向いた。

 

「?」

 

「千歌姉。町内会に問い合せたら、今すぐ放送できるって言ってたけど、どうする?」

 

「するよ!!!良いよね!!!思い立ったが仏滅だって言うし!!!」

 

俺が千歌に問うと、千歌は間髪入れずに答えた。でも、千歌。思い立ったが()()でしょ。馬鹿。

 

「私は良いよ。」

 

「私も。」

 

「じゃあ決まりだね。」

 

「お待たせいたしました。えー、今すぐでお願いします。はい、はい。わかりました。ありがとうございます。失礼します。」

 

2人からも賛成であると貰ったため、俺は、放送機器を今すぐ借りると伝え、電話を切った。

 

「じゃあ、行こうよ。」

 

「うん。」

「ええ。」

 

そして、カオス放送をしに、公民館に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『浦の星女学院スクールアイドル〝Aqours〟です。』』』

 

スピーカーから内浦の町中に俺を除いた3人の声が響き渡る。

 

『待って。まだ学校から正式な承認貰ってないんじゃ・・・?』

 

おい梨子。突っ込むな。

 

『じゃあ、えっと、浦の星女学院非公認アイドル〝Aqours〟です。明日、4月23日14時から浦の星女学院体育館にてライブを・・・。』

 

『非公認ってのはちょっと・・・。』

 

『じゃあなんて言えば良いのー!!!』

 

そして、放送は切れた。アニメ通りのカオス(コント?)放送だったぞ。まあ、大半は梨子が千歌に突っ込んだのがいけないのだが・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そして、放送後に私達はチラシ配りにまた沼津駅前に来ていた。ハードスケジュールよね、今日。誰が決めたんだろう。どうせ千歌ちゃんよね。

 

「よろしくお願いしますー。」

 

「よろしくー。」

 

「ありがとうございます。」

 

チラシ配りもようやく様になってきたように感じて来た。最初は緊張していたチラシ配りも今は普通に配れるようになった。

 

「「「次は私達も!!!」」」

 

すると、バス乗り場の方から何人かが同時に言う大声が聞こえてきた。

 

「じゃあ、せーの!!!」

 

「全速ぜんしーん「「「「ヨーソロー!!!」」」」」

 

「流石曜ちゃん。人気者ー。」

 

「あはは・・・。」

 

どうやら直ぐに仲良くなった人達は曜ちゃんと一緒に写真を撮っているらしい。百香ちゃんの方を見てみると、曜ちゃんに比べると少ないが、何人か集まっていた。

 

「貴女も踊りなよ!!!可愛いんだしさ!!!」

 

「そうだよそうだよ!!!」

 

「お・・・、私はマネージャーですよ・・・。」

 

「百香ちゃんも人気者だぁ・・・。」

 

「流石曜ちゃんの妹ね・・・。」

 

百香ちゃんは違う意味で人気者だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そして、ついにファーストライブの前日になった。俺達4人は、最終確認の為に千歌の家、旅館〝十千万〟に集まっていた。

 

「「おお!!!ゴージャス!!!」」

 

良いな。2人共。生の曲聴けて。イヤホン二つしかないから俺は聴けんのだよ。

 

俺は、2人が聞き終わるのを待ってからバッグの中からダンスとかが書かれているノートを出した。ついでに、この時点で結構練習している。

 

「ここでステップするよりこう動いた方が・・・、お客さんに正対出来ていいと思うんだけど・・・。」

 

「じゃあ、ここで私がこう回り込んでサビに入る?」

 

だから、梨子、曜。話し合わなくてもいいんだよ。

 

「間に合う?」

 

「曜姉なら間に合うと思うけど・・・」

 

「千歌ちゃん、どう思う?」

 

で、千歌の方を見ると、千歌はシャーペンを持ちながら寝ていた。

 

「そろそろおしまいね。」

 

梨子がそう言ったように、もうそろそろやめた方がいいと思う。外は真っ暗になってるからね。

 

「うん。って、ああ!!!終バス終わってる!!!」

 

「ええっ!?」

 

「どうしよ・・・。」

 

「大丈夫。お母さん呼んであるから。」

 

俺は、そう言いながら曜の飲みかけのペットボトルを曜に渡した。曜は一口飲むと、数分後にうとうとし始めた。

そう、ペットボトルの中身に睡眠薬を入れたのだ。母なんて呼んでない。俺の運転する車で帰るのだ。え?志満姉とのシーンがない?軽トラが2人乗りって知ってますか?それに十千万のバンは今修理中って聞いたから。アニメとは違うけど、そこら辺は仕方ない。

 

「お邪魔しましたー。」

 

俺は、バッグを持ち、睡魔に勝てず、寝てしまった曜をお姫様抱っこをして近くの駐車場に向かった。

 

俺は、片手でキーを操作し、鍵を開けて、助手席に曜を座らせ、シートベルトをしめた。

 

俺は、直ぐに運転席に移動し、曜を起こさないように、そして、早く帰るように運転をした。

 

 

 

 

車が口野放水路交差点で停車した時、助手席で気持ちよく寝ている曜が寝言を言い出した。

 

「むにゃむにゃ・・・。千歌ちゃぁん・・・。好きだよぉ・・・。」

 

「曜は本当に千歌が好きなんだな。」

 

「ふふふー・・・。百香ちゃんも好きだよぉ・・・。」

 

俺は、目線を曜に向けると、曜は口から涎を少しだけ垂らしながら答えた。

 

「!!!」

 

俺は、顔が赤くなるのを感じながらも、心の中では冷静に考えていた。

 

ー曜は俺の事も好きなんだー

 

曜に好きと言われるのは嬉しかったのだが、その事とは裏腹に心の中は曇り空のように複雑な気分だった。




〇次回更新〇
果南とシーラカンスがつき合って3ヶ月後のある日、果南は道路で躓いた。そこに居眠り運転の一台のトラックが・・・。

轢かれそうになった果南はシーラカンスに助けられたのだが・・・


駿河湾出て会った果南とシーラカンスは互いに惹かれ合う、種族を越えた恋愛物語の衝撃な結末は・・・!?

次回、シーラカンスVSい〇ゞのトラック
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は3月21日0時0分です。


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第14話 ファーストライブ

俺は、駿豆線伊豆長岡駅前ロータリーに停車している(R33)に制服姿で乗っていた。

 

現在の伊豆の国市の空は灰色の雲に覆われ、風も強く、いつ雨が降り出しても可笑しくないような状態だった。

 

俺は今、伊豆長岡駅前に10分くらい滞在している。それは、千歌達のライブに行くある人を待つためである。千歌達3人には既に〝迎えに行く〟と言ってあるため、ノープロブレムである。

 

俺は暇そうにスマホを弄りだした時と同時にコンコンと車の窓を叩かれた。

 

「久しぶりー。」

 

微笑みながら車内を覗いてくる茶髪ロングの髪の毛をサイドテールにしている沢木(さわき) 陽葵(ひまり)さん。東京の私立神田川大学に通う大学3年生で、俺の昔からの知り合いの人だ。

 

沢木さんを助手席に乗せると、俺は車を発進し、浦の星女学院に進路をとった。

 

しばらく沢木さんとスクールアイドル関連についての話をしていると、ちょうど内浦に通じる県道のカーブの辺りで渋滞にはまった。ローカル局のカーラジオを聞くと、ついさっきにこの道でトラックと乗用車の衝突事故があり、渋滞がどんどん伸びていっていると何回も繰り返していた。

 

間に合わないかもしれないと感じた俺はカーナビを弄り、ハンズフリー通話で曜の携帯に繋げた。

プルルル・・・、プルルル・・・。とコールが2回程鳴ると、直ぐに千歌と梨子の話し声が聞こえてきた。

 

『もしもし。』

 

「あ、曜姉。ゴメン、帰りのバスが渋滞にはまっちゃった。もし間に合わなかったら先に始めといて!!!」

 

『わかった!!!』

 

曜は直ぐに事情を理解したのか、直ぐに千歌達に報告していた。その途中に通話は切れたのだが。

 

俺は、車のハンドルに顎を載せ、少しずつしか進まない渋滞にため息をついた。それと同時にフロントガラスに水滴がポツポツと着き始めた。

 

 

 

 

 

渋滞にはまってから15分後経ち、どうにか現場の緊急車両の赤色灯を目視できる場所まで移動できた。しかし、雨脚はだんだんと強まり、車内で流れる音楽の音の大半が天井とガラスに打ち付ける雨の音と時折鳴り響く雷の音で掻き消される程まち強くなっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

浦の星女学院の体育館のステージ裏。私と曜ちゃん、そして、梨子ちゃんの3人は曜ちゃんの作った衣装を身にまとって、刻々と迫る開演時間を待っていた。

 

「百香ちゃん、渋滞に嵌って身動き取れないみたいだよ。」

 

「嘘・・・。」

 

曜ちゃんから一言。百香ちゃんが渋滞に巻き込まれ、身動きが取れないらしい。だから、百香ちゃんがまだ来ないのか。それに渋滞が発生したなら、このライブに来る人も減るかもしれない・・・。

 

「事故だから仕方ないよ。」

 

「じゃあ代わりの人を入れないとね。」

 

「誰か一人欠けても大丈夫な様にしてて良かった・・・。」

 

「もうすぐで時間だから先に始めてようよ。」

 

「うん。」

 

私達は3人で手を繋ぎ、輪っかを作った。辺りは静寂に包まれ、聞こえてくる音は体育館の屋根にうちつける雨の音と時折鳴ってくる雷の音だけだった。

 

「雨・・・、だね・・・。」

 

「来てくれるかな?」

 

「じゃあここでやめて終わりにする?」

 

曜の一言に対する答えは、3人の笑い声だった。それを聞いて安心した私は笑いながら、身体を2人に近づけた。

 

「さあ、行こう!!!」

 

「今、全力で輝こう!!!」

 

「「「Aqours、サーンシャイーン!!!」」」

 

ステージ裏に聞こえる声で、なおかつ、体育館の運動場に聞こえない声で叫び、開演の準備は完了した。

 

 

私達がステージに立つと、ブザーが鳴り響き、幕がゆっくりと上がっていった。

 

だが、幕の先には厳しい現実しか待っていなかった。きっと満員にすると決めたのに、体育館の運動場にいるのは、たった7、8人。思わず泣きそうになったのだが、涙をこらえ、挨拶を始めた。

 

「私達、スクールアイドル」

 

「「「Aqoursです。」」」

 

「私達は、その輝きと、」

 

「諦めない気持ちを、」

 

「信じる力にあこがれ、スクールアイドルを始めました。目標は、スクールアイドル、μ'sですっ!!!聞いて下さい!!!」

 

曜、梨子の後に私が始まりのコールをすると、ほぼ空の状態に運動場に音楽が鳴り響き、私達は歌い、そして、踊り始めた・・・

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

どうにか2()()()の渋滞を抜け、学校にたどり着いた。校舎前の駐車場に車を止めた時、近隣の建物の避雷針に雷が落ちたのか、バァン!!!と鳴り響いた。

 

さっきまで点灯していた街頭は消え、辺りを照らす明かりはグラウンドと学校に通じる道からの車達のヘッドライトだけだった。そう、停電だ。

 

「艦長!!!車の鍵、お願いします!!!」

 

俺は、ハンドブレーキを上げると、シートベルトを外して雨の降る外に走り出した。向かった先は、体育館裏の防災倉庫だ。

 

 

雨に濡れながら体育館裏に向かうと、案の定、ダイヤが発電機を防災倉庫から運び出そうとしていた・・・のだが、重いのか、防災倉庫から1mすら離れていなかった。

 

「ダイヤ!!!」

 

「百香さん・・・何故ここを・・・?」

 

「話は後だ!!!さっさとそっち持つ!!!せーので行くぞ?いいな!?」

 

「え?あ、は、はい。わかりましたわ。」

 

ダイヤが少し混乱気味になってるが、そんなの気になっている時間は無い。一刻も早く電気を流さなければならない。千歌、梨子、曜、そして、これからのAqoursの為に・・・。

 

「せーのっ!!!」

 

俺の掛け声で発電機を持ち上げ、裏口からステージ裏の配電盤室に発電機2機を移動させた。

 

俺は胸ポケットからペンライトを出し、配電盤を照らし、コード類を繋げ、電気がスポットライトと放送機器に流れる様に配線をし、ダイヤは多少時間がかかりながらも2機の発電機のエンジンをかけていた。

 

5分ほどかかったが、配電盤とエンジンが繋ぎ終わり、電気が発電され始まると、俺は発電機からの電気を流す切り替えスイッチを切り替えた。ステージが照らされるのが配電盤室からでも見える。よかった。ちゃんと流れたようだ。

 

「バカ千歌!!!あんた開演時間間違えたでしょ!!!」

 

その瞬間、運動場の方から美渡の声が聞こえ、人々の歓声が上がった。

 

どうやら体育館のアリーナは満員になったらしい。それもそのはずだ。渋滞は2箇所でおきていたからだ。1箇所はさっきの事故現場、そして、もう1箇所は、学校前の坂だ。

地元の人々がみんなでこぞって車で見に来て、さらに学校に登る道路が狭いため、道路のキャパシティが直ぐにオーバーしてしまい、渋滞が発生していたのだ。

 

そして、たくさんの人々で埋め尽くされた体育館で千歌達のファーストライブは最初から再開された。

 

美渡ってなんだかんだ言って優しいよね。妹の為に色々やるなんてね。会社にポスターとか貼ってたりしていたから。

 

 

 

そして、ファーストライブは大成功、そして、アリーナは大歓声に包まれた。

 

「彼女達は言いました!!!」

 

「スクールアイドルはこれからも広がって行く。どこまでだって行ける!!!どんな夢だって叶えられるって!!!」

 

そして、ステージで、アリーナに集まった人々に向けて梨子、千歌が言い出す。

 

「これは、今までのスクールアイドルの努力と、町の人の善意があっての成功ですわ。勘違いしないように。」

 

その言葉を聞いたダイヤは、ステージの目の前に向かい、千歌達に厳しい声で言った。全く・・・、素直じゃなねぇんだから・・・。

 

「わかってます!!!」

 

「!!!」

 

ダイヤは千歌から反論がないと思ったのか、千歌からの反論をびっくりしながら聞いている。

 

「でも、見てるだけじゃ、始まらないって。うまく言えないけど、今しかない、瞬間だから・・・。」

 

千歌達はそう言いながら2人と手を繋ぎ、前を向きなおす。

 

「だから」

 

「「「輝きたい!!!」」」

 

最後の一言を言い終わってから、体育館の運動場は拍手に包まれた。さっきまで滝のように降っていた雨はいつの間にか止んでいて、内浦、いや、伊豆半島、いや、静岡東部一帯に雨を降らせた灰色の雲の隙間から青空が見えてき始めた。まるで、この先への道が開いたように・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

雨が完全に止んだ内浦。1台のスポーツカーが浦の星女学院から伊豆長岡駅方面に向かって走っていた。

 

運転しているのは、もちろん俺で、助手席には沢木さんが乗っている。ちなみにライブの片付けは、千歌から「私達がするから送ったついでに先に帰っていいよ。」と言われたため、免除されたも同然である。

 

「いやあ、一時はどうなるかと思いましたよ。」

 

「全くね。あのまま停電してたらライブ自体出来なかったんじゃないの?」

 

俺と沢木さんは、しばらくライブについて話し合うが、あまり長く話が続かなく、直ぐに車内は沈黙に変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、沈黙のまま、車は伊豆長岡駅のある伊豆の国市に入る。すると、沢木さんが沈黙を破った。

 

「なあ、副長。」

 

「はい?」

 

しかし、それは、彼女が、沢木陽葵ではなく、前世の護衛艦〝はくう〟艦長の高田壱頼二等海佐、いや、〝Aqours〟がラブライブ!の第2作のコンテンツとして存在している世界の人間として発した言葉だった。

 

「君は、何かAqoursに関わっているだろ。」

 

「ええ。今はマネージャーとして、支えています。」

 

俺は、ハンドルを握りながら答える。沢木さんいや、高田艦長は、こちらを見ようとせず、ただ、窓から外を見ているだけだ。

 

「そうか・・・。

 

変えるのか・・・?Aqoursの歩む道を・・・。」

 

「いえ、そんな気は更々ありませんよ。マネージャーになったのは、幼馴染になってしまった千歌からの勧誘が激しくなると見越したからです。」

 

高田艦長からの問いかけに対し、俺は、思ったことをそのまま返すと、高田艦長は、なら良かった・・・。と言い、柔らかい笑顔になったのだった。

 

車は伊豆長岡駅前のロータリーに滑り込み、沢木さん(艦長)を降ろし、千歌に言われたとおりにすぐに帰宅したのだった。しかし、俺は雨に濡れて体を冷やしたまま放置したのが原因なのか、次の日に風邪をひいたのだった。




沢木さんも転生者ですが、今のところ本編にあまり関係ないので今出しました。

〇次回予告〇
国内共通の飲み物を強制的に珈琲にする、珈琲王国が地球の大半を侵略していた。その勢力に対抗するため、ある1人の特殊能力を持つ少女が立ち上がった。
少女の名は〝チカチーカ・チーカカ〟
みかん真剣の使い手である少女の戦いが、今、始まる!!!
次回、チカチーカ・チーカカ
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は4月11日0時0分です。

◎オリキャラ紹介(2)
・名前
沢木(さわき) 陽葵(ひまり)
・誕生日
7月16日
・血液型
B
・身長
157cm
・好きな食べ物
〆鯖
・嫌いな食べ物
ミョウバン
・趣味
海釣り、ドライブ
・スリーサイズ
B79/W60/H77
・学年
3年
・所属先
私立神田川大学経済学部経済学科
・前所属先
国立音ノ木坂学院高校
・出身地
東京都千代田区外神田(秋葉原)近辺

〇前世
・名前
高田(たかだ)壱頼(かずより)
・誕生日
7月16日
・血液型
B
・身長
169cm
・好きな食べ物
〆鯖
・嫌いな食べ物
ミョウバン
・趣味
海釣り、ドライブ
・出身地
新潟県新発田市
・殉職時階級
二等海佐(二階級昇進で海将補に)
・殉職時役職
護衛艦〝はくう〟艦長
・殉職時年齢
46歳


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第15話 打ち上げ!!!

ファーストライブが終わった次の日の日曜日。俺、曜、千歌、梨子の4人はファーストライブの成功を祝うのかなんなのか知らないが、千歌の部屋で打ち上げをする事となったのだ。ちなみに俺は今、咳は出るわ、鼻水は出るわ、寒いわ、そして、薬を飲んだせいで眠いわですこぶる体調が悪い。

 

風邪をひいた理由はアレしかない。発電機を雨の中運び出して、そして、服が濡れたまま沢木さんを沼津駅に送ったことで体温が下がり、風邪の菌を体内に入れてしまったからだろう。

 

多分熱も出てるけど、明日になればどうにかなるだろうと考えて参加する事にした。

 

で、今は曜と一緒にバスに揺られてる。実は曜に「風邪ひいてるなら別の日にしよう」と提案されたのだが、どうにか押し切って今日行う事になった。その代わりに曜から身体に異変を感じたら直ぐに曜に言うように、そして、今日一日中マスクを着用するようにと条件を提示されたが・・・。

 

俺達を乗せたバスは内浦湾沿いの県道を進んでいき、停車ブザーが押された三津バス停にゆっくりと停車した。

 

運転士に定期を見せてバスを降り、少し歩くとそこには千歌の家である〝十千万〟がある。なお、しいたけはリードで完全に繋がれている。梨子対策だろう。

 

「「お邪魔します・・・。」」

 

2人でこっそり入ると、どうやら志満は外出中、美渡は仕事中で2人共居ないらしい。

 

「よーちゃーん!!!もかちゃーん!!!」

 

玄関を開けた音が2階にも聞こえたのか、千歌がドタドタと足音を響かせながら玄関に来た。

 

「いらっしゃーい!!!梨子ちゃんはもう来てるよー!!!」

 

正直言って、千歌の高音大音量の声は風邪の頭には悪い。千歌の叫ぶような大声で頭がズキズキする。

 

「あれー?百香ちゃん、風邪?」

 

俺がマスクをしているのに気づいたのか、千歌は心配そうに声をかけてきた。

 

「大丈夫だよ。」

 

俺は、とにかく曜と千歌を心配させないように返事を返し、お菓子を持ちに台所に行った千歌を横目で見ながら2人で2階に上がった。

 

 

「こんにちはー。」

「ヨーソロー!!!」

 

「こんにちは。あら、百香ちゃん、風邪?ダメよ。ちゃんと体調管理はしないと。」

 

千歌の部屋に入ると梨子が既に女の子座りをしていて、挨拶と一緒に俺に体調管理をしっかりしないとと、説教までしてきた。しょうがないじゃん。雨に濡れた後にシャワー浴びる時間無かったんだから。

 

荷物を隅においてある梨子のバッグの横に置いてから、俺は座布団に正座し、曜は千歌のベッドに座って、千歌が来るのを待った。

 

5分くらい経った後、千歌がお菓子とジュース類が入ったビニール袋を持って入ってきた。

 

「はーい!!!お菓子だよー!!!」

 

千歌は直ぐにコンソメ味のポテチとトンガリ〇ーンを開封し、〇っちゃんやバ〇ヤースの飲み物類(オレンジと書かれているところは消されて〝みかん〟って書いてある)が小さなテーブルの上に置かれ、みんな飲みたい飲み物をコップに注ぎ始めた。と言ってもオレンジ系しか無いのだが・・・。

 

千歌は、みんながオレンジみかんジュース(?)をコップに注ぎ終わったのを確認すると、コップを持って立ち上がった。

 

「えー、皆さんのおかげで無事、ライブが成功いたしましたー。」

 

千歌のスピーチが始まったのだが、これが長い長い。話を纏められなくて「えー」とか「そのー」とか言っていて何か話題がループして一向に終わる気配がしない。

 

スピーチが始まって10分経過すると終わって欲しいというムードが部屋中に漂ってくる。でも、千歌は気づいていない。俺も正直言って、限界だ。正座を最近して無かったから足が痺れてきた。正座を胡座とかにしてもいいと思う連中も居るだろう。でも、今の俺はミディアムスカートなのだ!!!スカートで胡座をかくと?当然中は見える。流石に自ら見せには行きたくない。だからと言って見られるのはいいと言ってるわけではない。勘違いしないでよね!!!(誰得なツンデレ)さらに、風邪薬の副作用で眠くなってきている。現在進行形で。

 

「千歌ちゃん、早く始めよう!!!」

 

曜が俺の事に気づいてくれたのか、千歌に耳打ちしてくれている。

 

「あ、うん。じゃあ、かんぱーい!!!」

 

「「「乾杯!!!」」」

 

俺を含めた3人の声が部屋中に響くと同時に打ち上げが始まった。主な話題はライブの時の話や、μ'sについての話、ダイヤの弱みとかは知らないかとかについてのほとんどどうでもいい話だった。別に返しても問題ない話題は返答したが、それ以外の答えちゃ不味いことは適当に相槌を打ってどうにかした。でも・・・

 

「そうそう!!!ヨーソローナンバーの車を見つけたんだ!!!」

 

「!!!」

 

この話題になった時、俺は激しく咳き込んでしまった。恐らく、驚いてしまったせいで俺の飲んだジュースが体内の変な場所に入ってしまったと考えられる。〝ヨーソローナンバー〟ってどう考えても俺の車だと思う。俺の車のナンバーは〝沼津33 た 40-460〟なんだ。海自時代はよく上司や部下、同僚から〝ヨーソローGTR〟、曜ちゃん好きからは〝曜ちゃんGTR〟と呼ばれた。後部座席に特大サイズのテラジャンボ寝そべり曜ちゃんのぬいぐるみがあるからこう呼ばれたと言われたと言っても過言ではない(ちなみに通常サイズの寝そべりぬいぐるみはちゃんとAqours9人分ある。)

 

曜が大丈夫?と言いながら背中をさすってくれてるが、そんな事はどうでもいい。曜の話題に出てきている車が何なのか知りたい。

 

運良く、曜のスマホに画像が出されていたので、落ち着いてから写真を見てみた。

その写真に写ってる車は・・・

 

 

 

 

 

 

 

どう見ても俺の車だった・・・。しかも、家の前の月極駐車場と浦の星女学院の駐車場に止まってる2枚の写真だった。運良く乗り込むところや、後部座席の曜ちゃんの寝そべりぬいぐるみは目撃されてなかったのが幸いだっと感じたのだが、そのとき既に熱が高くなっていたのか、抵抗する暇もなく、ゆっくりと瞼を閉じて曜の膝に身体が頭から自然と落ちていった。俺の頭に〝ぽすっ〟という音と同時に柔らかい感触が伝わったと同時に意識は途切れた。

 

しゅかしゅーと曜ちゃんファンのみんな、膝、ごめんなさい・・・。と、千歌達3人などのこの世界の人には訳の分からない言葉を残しながら・・・。

 

 

 

 

 

その後、俺の熱が高いとわかった瞬間、曜と梨子の進言(という名の脅迫)で打ち上げは急遽中止になり、一番早いバス便で曜によって強制的に帰宅させられた。さらにそれだけじゃなく、帰ったあとに曜に怒られたし、風邪も悪化してた(と気づいた)し、熱も上がっていた(測っていなかったけど)。携帯には千歌の〝大丈夫?〟というメッセージもあったが、梨子からは〝後でお話があります〟というメッセージが届いていて頭を抱えたくなったのは言うまでもない。

 

で、次の日の学校は曜と梨子の〝次の日学校行ったらどうなるかわかってるよね?〟という言葉とチャットのダブル忠告があったため、当然休んだ。行ったら多分説教という名の地獄が待っているからね。というか、梨子にきつく言われるなんてな・・・。もしかして、俺、梨子に好かれてるのか・・・?

俺は、熱でよく回らない頭をフル回転しながら考えたが、結局分からなかった。俺もいつか本当の事を言うかどうかだけ考えたが、やっぱり睡魔が襲ってきてまた眠ってしまった・・・。




〇次回予告〇
次回は曜のBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthday曜
次回更新予定日は4月17日0時0分です。


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特別編2 Happy Birthday曜

はい、Happy Birthday、曜!!!一番の推しの曜ちゃんの誕生日!!!イェェエエイ!!!Why japanese people!!!(意味不)

はい、今回もパラレルワールドです。


俺が、朝目覚め、ベッドを見てみると、自分のベッドに自分の体の山と、それより小さいもう一つの山が出来ていた。俺は、いつもテラジャンボ寝そべり曜ちゃんのぬいぐるみと寝ているので、それかと思い、思いっきり甘い声で「ふへへ・・・。曜ー。好きだよー」と言いながら抱きついたが、どうやら違うみたいだ。なんだか暖かい空気を胸元に感じるし、柔らかさもぬいぐるみとは異なる。この感触は・・・、人間・・・?

 

 

 

俺は、もしやと思いながら布団をめくると、予想通り、そこには、鼻息を荒くし、顔を真っ赤にして悶え死んでいる曜が居た。

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

「も、百香ちゃん・・・、おは、おはヨーソロー・・・。」

 

曜が悶え死んで呼吸困難になりそうな息遣いになりながら俺に朝の挨拶をしてきた。

 

 

・・・

 

 

・・・正直に言って・・・

 

 

・・・

 

 

・・・

 

 

・・・俺は死にたくなった。

 

 

俺は、ベッドから出ると、ベランダに向かって一直線に走り出した。

 

「ちょ、百香ちゃん!!!飛び降りないで!!!死んじゃうからぁ!!!」

 

「嫌だァ!!!あんな姿を曜に見せてしまった俺なんてもう恥ずかしくて生きてけねぇ!!!」

 

「お母さん!!!百香ちゃんがご乱心!!!」

 

「HA☆NA☆SE!!!」

 

曜は、俺を羽交い締めにして止めるが、曜より力の強い俺は、曜を引きずりながらゆっくりとベランダに向かう。その場に母さんとちょうど帰ってきていた親父も俺を止めに入り、どうにか、その場は収まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺と曜は、一緒に朝食を食べたあと、俺の運転する車で愛鷹スマートICから東名高速道路に乗った。高海家や浦の星女学院などのある内浦とは違い、沼津市街地の南方に位置する我が家からは伊豆縦貫道経由よりも直接東名高速や新東名高速に乗った方が早い。

 

「百香ちゃん百香ちゃん。ルビィちゃんの真似するねー。」

 

「ん?どんなだ?」

 

「〝エ、エ、エ、ソ、ソユトコアルヨネー〟」

 

「それルビィじゃなくない?」

 

「じゃあ次は梨子ちゃんの真似ー。」

 

「話聞けよ。」

 

「いくよー?・・・〝お前を葬り去ってからな〟」

 

「それハンバァーグ!!!」

 

などと、曜と色々な話をしているうちに車は御殿場JCTを通り過ぎ、横浜青葉ICで降り、保土ヶ谷バイパス、横浜横須賀道路、本町山中有料道路を経由したのち、横須賀市街地に到着した。今日は、曜と一緒に軍港のある横須賀巡りをするのだ。家を出る時、曜が水兵服で出てきて俺が無理矢理着替えさせたのはまた別のお話で・・・。

 

で、俺は、車を横須賀市街地にある駐車場に停め、曜と一緒に遊覧船乗り場へと向かう。海上自衛隊の基地がある大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保のうち、横須賀を除いた4基地は、決められた日時に、決められた一部艦のみ一般公開されている。横須賀基地は、米海軍の横須賀基地や、5つの基地の中でも首都である東京に一番近く、安全性などの問題があるため、通常は(横須賀カレーフェスとかがある日なら別だが)一般公開されない。その為、遊覧船が運航されており、そこからなら艦艇を見れるようになっているのだ。ただし、予約をしてない場合は、空席がないと乗れないので、必ず見たいなら要予約が必要なのである。あ、もし無理だったらバスにでも乗ってヴェルニー公園とかにでも行ってくれ。あそこからなら遠くだけど護衛艦、潜水艦と米海軍の駆逐艦が見れるし、JR横須賀駅もかなり近いから(横浜に向かうとき、少し(?)歩いたところにある逸見駅や汐入駅から京浜急行線に乗った方が速く、運賃も安いのは公然の秘密である)。

 

・・・話を戻そう。遊覧船は、船着き場である汐入ターミナルを出ると、米海軍基地と海上自衛隊の基地の正面を通り、約45分かけてまた汐入ターミナルに戻るというルートになっている。曜は、駆逐艦や護衛艦が並んでいる姿を遠くから見てるだけでもかなり嬉しそうだ。だって、千歌や俺と一緒にいる時のような笑顔だもん。正直、護衛艦に乗れないため、つまんなそうにしなくて良かったなと思っている。

 

遊覧船が米海軍基地の前を通ると、艦艇を紹介するアナウンスが鳴る。アーバンレイク級だとかタイコンデロガ級だとか言っていたが、今の俺には全く関係ないし、前世でも米海軍に接する事が無かった(合同演習あったけど、合流前に死んだ)ため、記憶にあまり残って無いし、これからも残らない。それに、転生したなら別の職業にもついてみたいしな。

 

そして、遂に、海上自衛隊の桟橋が眺められる場所へと差し掛かった。前世で見た事や乗ったことがある(ふね)が何隻も繋留されている。生前最後に俺の乗艦していた〝はくう〟以外の艦の名前は変わってなく、乗艦していた時を懐かしめる。まあ、懐かしめるとか言っても、乗艦出来ないからつまらないんだけどね。

 

右手に見えてまいりましたのが、海上自衛隊横須賀基地ですと、アナウンスが鳴り、俺と曜が船から身を乗り出すようにし、持ってきたポケット双眼鏡で停泊している護衛艦達を眺める。

 

「あの艦はー?」

 

「あれは〝はるさめ〟だ。俺が乗艦していた〝はくう〟とは姉妹艦だ。」

 

「へー。あっちは?」

 

「向こうはこんごう型イージス護衛艦の〝きりしま〟。数回だけ用事で乗艦した事があったな。」

 

「乗ったことあるの!?」

 

こんな会話をしながらでも、俺と曜はじっと護衛艦を眺めている。すると、俺達が見ていなかった左側から入港しようとしている護衛艦があるとアナウンスが鳴り、俺と曜は直ぐに視線を左に向ける。

 

左側から警笛を鳴らしながら艦が近づいてくる。船体には〝116〟と書かれている。あれは、あきづき型汎用護衛艦〝てるづき〟だ。()()()()では艦長以外の女性自衛官を初めて所属させ、さらに、最初から1度に2つしか撃墜できない対空ミサイルであるシースパローの発展型で、装置によってだが、1度に12つ撃墜できるESSM(発展型シースパロー)を積み、〝はくう〟とかのむらさめ型汎用護衛艦は1度に3つしか撃墜できないのに比べ、〝てるづき〟などのあきづき型は1度に6目標を撃墜できる対空戦闘に特化した汎用護衛艦として有名だ。

 

と、曜にそう解説をすると、曜は笑顔でうんうんと頷いていた。興奮で絶対聞いてないし、わかっていないような気がするが、・・・まあ、楽しそうならよしとしよう。

 

そして、ヴェルニー公園の前を通り、船着き場である汐入ターミナルに到着した。下船し、船着き場にあるお土産に入る。中には護衛艦や潜水艦のカレーを詰めた缶詰や、色々なアクセサリーなどが売っている。曜は、護衛艦のキーホルダー売り場に行き、俺が乗艦していたむらさめ型汎用護衛艦のキーホルダーを2つ手に取った。どうやら船尾の艦名が入っている部分に名前、そして、艦首の部分に2〜4桁の数字を彫れるらしく、曜は直ぐにレジに持って行って、会計後、名前を彫るように頼んでいた。

 

「はい。」

 

名前を掘り終わり、曜は2つのキーホルダーのうちの一つを俺に渡した。船尾を見ると、ひらがなで〝もか〟と、そして、船首には〝102〟と書かれていた。曜のキーホルダーの船尾には〝よう〟、艦首には〝101〟と書かれており、そのキーホルダーを持っていた曜は、笑顔で「これで姉妹艦だね!!!」とか言っていた。いや、そうしなくても俺達は血の繋がった姉妹なのに・・・。

 

それから、そこで家族分、Aqours分、個人9人分のお土産を買い、どぶ板通り商店街に向かった。

 

どぶ板通り商店街は、汐入駅と横須賀中央駅の間(汐入駅寄りだが)にある全長300mある商店街で、昔、この道にはドブ川が流れており、そのドブ川に海軍工廠から提供してもらった鉄板で覆いをしたことから通称だが、その名がついた。正式名称は本町商店会とか何とか・・・。何か、俺の前世の地元にもそんな名前の商店街があったような・・・。まあ、いいか。

 

で、ここのどぶ板通り商店街は、戦前は帝国海軍の横須賀鎮守府の門前町、戦後は進駐軍や在日米軍の兵に向けての店が多く建ち並んだが、今は日本人向けの店も数を増やしている。尚、今日、ドブ川は埋め立てられて、鉄板も無くなってる。

 

「なんか、外国に行った感じ・・・。行ったこと無いけど・・・。」

 

どぶ板通りを歩いていると、ふと、曜がそんな事を行った。確かに、米兵向けの店が多いし、外国人(特にアメリカ人)も多い。スカジャンとかも売ってるが、買うつもりは無い。前世とかなら買ったんだがな。今は・・・、なんかいいや。気分的に?

 

そして、しばらく歩き、観光客などに人気なネイビーハンバーガー専門店に着いた。運良くあまり並んでいなく、直ぐに中に中に入り、カウンター席に2人で隣合って座った。店内は土曜日ということもあってか、在日米軍所属らしき外国人が多い。

 

俺は通常サイズのネイビーバーガー、曜が1/2サイズのチーズバーガー、そして、2人で食べる用にフライド・チキンを頼んだ。

 

注文後に、ちらりと曜の顔を見たところ、今日の曜はいつも以上に楽しいのか、満面の笑みだ。そんなにここが楽しいのか。良かった。ルートがちゃんと曜の好みにあっていて。

 

そして、20分程で、店員が注文した品を持ってきた。ハンバーガーは普通のハンバーガーとはあまり見た目は変わらないみたいだ。

 

2人でいただきますと言い、ハンバーガーをひと口食べると、俺達は雷が打ち付けられたような感覚に陥った。

 

「何だこれ・・・、美味い・・・。」

 

「本当・・・。大手ファストフード店で食べるのとはかなり違う!!!」

 

そう、言葉に出来ないほど(美味いと言っていた事に突っ込むなよ?)美味かったのだ。だって、肉だったんだ!!!肉、肉ゥ!!!(深刻な語彙力不足)だったんだ!!!やっぱり何かが違う!!!

 

「曜、これ美味いぞ。食べるか?」

 

「うん。百香ちゃんもこれ食べる?」

 

「うん。」

 

そして、俺の提案で曜とハンバーガーを食べあいっこした。絵面?大丈夫だよ。なんか、外国人が「Oh!This is Japanese 〝Yuri〟!」とか言っていたが、気にしないようにしよう。てか、百合の英語ってYuriなのか?あまり気にしてはいけないな・・・。

 

そして、最後に中まで味が染み込んでいるジューシーチキンを食べ、一息ついている時、俺は、ショルダーバッグからある物を出し、曜に手渡した。

 

「これは?」

 

「誕生日プレゼントだよ。」

 

「え?ありがとー!!!って、何これ・・・。」

 

曜は、お礼を言うとその場で袋を破き中のものを確認し、落胆していた。中に入っている物はスカートであった。

 

「何でスカートなの?」

 

「曜姉って、スカートあまり持ってないし、履くのも制服の時くらいじゃん。」

 

「確かに・・・、言われてみればそうだね・・・。」

 

曜は、そう言いながら荷物を持ちながら席を立ち、お手洗いに向かって行った。

 

俺は、トイレに向かう曜に「会計して入口で待ってるよ」と言い、会計をすぐに済ました。

 

外に出てたった1分もしないうちに出て来た・・・、のだが、曜の足にさっきまでとは違う違和感を感じる。さっきまでハーフパンツを履いていた曜は俺が渡したスカートにトイレで履き替えていたのだった。

 

「似合ってる・・・、かな・・・?」

 

「似合ってるよ、曜姉。」

 

そう言うと、曜は、俺の袖をつかみ、上目遣いをしながら、「今日だけは私の事、全部曜って呼んで。」と言ってきた。確かに、俺は、曜のことを呼ぶのに「曜姉」と「曜」の2種類を使っている使用頻度は「曜姉」の方が遥かに多く、「曜」と呼んでいるのは日本の領土の沖縄島が占める割合くらい少ない。

 

・・・でも、今日一日は良いかな・・・?

 

「行くよ、曜。」

 

「うん!!!」

 

曜を呼びつけで呼ぶと、曜は満面の笑みで俺に抱きついてきたのだった。

 

そして、俺達はどぶ板通りの散策に出た。通りは思いのほか長くなくて直ぐに末端部に到着した。末端部から山に伸びる道には、〝諏訪大神社〟と書かれた門が建っている。諏訪な〇かさんとは全く関係ないけどね。

 

そして、俺達は、どぶ板通りからバスに乗り、10分から20分程で三笠公園に移動した。三笠公園には、日本海海戦で当時世界最大・最強とも言われた艦隊を破り、世界中に衝撃を与えた連合艦隊旗艦であった戦艦〝三笠〟が保存されている。俺達は、入場料の600円(1人)を曜の分も一緒に払い、三笠の中へと入る。

 

「わぁー、ひろーい!!!」

 

曜と甲板に出ると、さっきよりもかなりのハイテンションで木製の上甲板を走り出した。よく食べたあとすぐであんなに走れるな。俺は無理だ。気持ち悪くなるし・・・、それに・・・揺れ・・・、いや、これは曜でも有り得ることだからな。ってか、何で曜は大丈夫なんだろう。・・・。気にしたら負けか。

 

俺は、はしゃいで3歳児みたいに走り回る曜を止めに行った。段差の少ない上甲板でも、三笠は旧式艦。段差は今の軍艦と比べたら格段に多い。その為、曜が転ばないように俺は止めに行った。

 

「おーい、曜ー。危ないぞー、転ぶぞー。」

 

「きゃあっ!!!」

 

俺が曜に注意したのだが、間に合わなかったみたいだ。俺は、自分のスカートが捲れるのも気にせず走り出し、曜が甲板に叩きつけられる前ギリギリに抱き抱えた。

 

おおおと、周りから歓声が上がり、俺達の写真を撮っていた。何?お宅らネイビーハンバーガー専門店にいた外国人と同類か?

 

俺はそう思いながら曜をお姫様抱っこの形に抱き直し、三笠から下船して駐車場に戻るべく、バス停に向かった。俺は、バス停に着くまで曜を降ろさなかった、いや、降ろさせなかった。実際、お姫様抱っこして歩き出した直後、曜は下ろしてくれと暴れ始めたのだが、今の曜は俺がプレゼントしたスカートを履いていたので、「暴れると見えるぞ」と言っておいた為、曜は動きを止め、顔を真っ赤にして俺の胸元に顔を埋めたのだった。

 

・・・。妹が姉をお姫様抱っこする姉妹ってなんかおかしくねぇか。気にしたら負けかな・・・。

 

 

俺と曜は車に戻り、帰路についたが、曜はずっと顔まだを真っ赤にしていて俺の方を見なかった。ミラー越しでも見えないようにする徹底ぶりだ。

 

車は保土ヶ谷バイパスに入り、東名の横浜青葉ICを目指したのだが、渋滞でかなりゆっくりしか進まない。ここ、保土ヶ谷バイパスは関東屈指の渋滞地帯だ。元々保土ヶ谷バイパスは交差する大和バイパスとの渋滞緩和のために作られたのだが、それよりも遥かに交通費が多く、速度制限80km/hでも、時速50km/hという、遅い速度でノロノロとしか走れない。

 

さらに、東名高速の横浜青葉ICが近づいてくると同時に混雑も酷くなり、ブレーキランプが大量に乱立する地帯に入り込んでしまった。

 

俺は、曜がどうなっているのか気になり、助手席を見ると、すうすうと寝息を立てて寝ていた。今日はいつも以上に歩いたから疲れたのだろう。そう思いながら俺はコーヒーをひと口飲んだのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから車で1時間半ほど走ると、見慣れた沼津市街地の光景へと変わっていた。車は家の駐車場に入ったのだが、曜はまだ寝ていたままだった。俺は、また曜をお姫様抱っこして、曜の部屋のベッドに寝せ、曜の机の上に前々から曜が欲しがっていた親父の乗船しているフェリー船の750分の1の模型と、俺が2日前に作り終えた護衛艦はくうの750分の1の模型とメッセージカードを置き、部屋から出たのだった・・・。

 

 

 

 

次の日に、机の上に船の模型がある事に気づいた曜は、また俺のベッドの中に入ってきて、また俺がベランダから飛び降りようとしたのはまた別のお話。




〇次回予告〇

「言え!!!白状しろ!!!」

「マルは犯人じゃない!!!」

「嘘をつけ!!!お前がやったんだろ!!!」

浦の星警察署、取調室ー
ここでは、取り調べのプロ、落としの百香さんこと、渡辺百香警部が容疑者の国木田花丸の取り調べを行っている。

「全く。お前みたいな強情な奴は初めてだ。この時は秘密兵器の出番だ!!!」

「ナ、ナンダッテー!!!」

\テテーッ!!!/

「これだ!!!取り調べルーレット!!!」

百香警部が出したのは取り調べルーレット。ルーレットを回して出た目の方法で取り調べするという方法だ。しかし、そのルーレットで〝釈放〟を出すか(確率は百万回のうち一回)、自分が犯人だと白状しないと取調室から出られないものだったのだ!!!

「出た!!!ジーパン刑事!!!」

「何でスカート脱いでるずら!?」

「ジーパンに履き替えるんだよ!!!」

「それだけ!?じゃあ、どすこい刑事は!?」

「まわしで取り調べだ。」

「スッポンポン刑事ってのは・・・」

「・・・。次はラッキーチャーンス!!!一つある事を話せば警察署名物のカツ丼が食べられまーす!!!」

「え!?どんな話しをすればいいずらか!?」

「自分で白状する話ー。略して自白ー。」

「しないずらぁ!!!」

ジリリリン♪ジリリリン♪ガチャ。

「何!?真犯人が捕まっただと!?」

「でも、取調室から出られないずら!!!」

「・・・。ルーレットが釈放を指すか自白するまで出られないって言ったよな?」

警部が容疑者(無実)を犯人だと白状させるのか、ルーレットで〝釈放〟を出すのか・・・。
・・・カヲスな戦いが始まる!!!

次回、取り調べルーレット
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は4月25日0時0分です。


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第16話 A literature girl and coward girl (上)

脚立に乗っている私は、曜ちゃんと梨子ちゃんに見守られながら〝スクールアイドル部〟と書かれたプレートを体育館にある一室の出入口に取り付ける。

 

「これでよしと。」

 

「それにしても、まさか本当に承認されるなんて。」

 

「理事長が良いって言うならいいんじゃない?」

 

「良いっていうか・・・ノリノリだったけどね。」

 

曜ちゃんが言ったように、理事長の鞠莉さんは「しょーにん!!!」と言いながら部活動の承認の欄に印鑑をくれた。

 

「でも、どうして理事長は私達の肩を持ってくれるのかしら。」

 

「さあ?」

 

「スクールアイドルが好きなんじゃない?」

 

梨子ちゃんが不思議がってるけど、私は曜ちゃんのようにただ、スクールアイドルが好きなんだと思うんだよねー。

 

「それだけじゃないと思うけど・・・。」

 

「とにかく入ろうよ!!!」

 

私は、鍵を開け、部室となった部屋に入ったのだが・・・

 

 

 

・・・埃はすごいし、倉庫代わりとして使われているのか、バドミントン部やバスケ部の備品も置かれてるし、なんて言えばいいのかわからないほど・・・汚い。

 

 

「うぅ・・・」

 

「うわぁ・・・。」

 

2人も絶句してるから、どれほど汚いのかがすぐに伝わる。

 

「片付けて使えって言ってたけど・・・」

 

「これ全部ー!?」

 

私がそう叫んだように、これ全部を掃除するなんてめんどくさい。

 

「文句言ってても、誰もやってくれないわよ。」

 

「もーっ・・・。・・・ん?何か書いてある?」

 

汚い部室の中を見回すと、私は何かが書かれているホワイトボードを見つけ、書かれた痕跡を解読しようとした。(解読できなかったけどね)

 

「歌詞、かな?」

 

「どうしてここに?」

 

「分からない・・・。」

 

「とりあえず、掃除しましょうよ。」

 

「わかった・・・。」

 

めんどくさいと思いながらも私は梨子ちゃんに促されるままに部室の掃除を始めた。ああ。私も百香ちゃんの様に学校休めばよかったかな・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スクールアイドル部の部室ができたと知ったルビィは、花丸ちゃんに早く知らせようと、図書室に走っていった。図書委員のカウンターには、今週の週番の花丸ちゃんが座ってる。百香ちゃんは、風邪で休んでるから座ってない。

 

「やっぱり部室出来てた!!!スクールアイドル部承認されたんだよ!!!」

 

「よかったね。」

 

花丸ちゃんは、読む本を閉じてルビィに笑顔で向き合ってくれる。百香ちゃんが居ないのは残念だけど・・・。

 

「うん!!!ああ・・・。またライブ見られるんだ・・・!!!」

 

でも、ルビィの一番の楽しみはね、ただ、2()()()Aqoursのライブを見てみたいだけじゃなくて、百香ちゃんがステージに出るのも見てみたいって思ってるんだ。今、百香ちゃんに想いを伝えたくても百香ちゃん居ないから伝えられないよぉ・・・。

 

 

「ピッ!!!」

 

三人の足音が近づいていることに気がついたルビィは、花丸ちゃんのいるカウンターから飛び跳ねるように扇風機の後ろに移動し、隠れる。

 

「こんにちはー!!!」

 

「あ、花丸ちゃーん。」

 

「と、ルビィちゃん!!!」

 

「ピギャァ!!!」

 

図書室にやって来たのはスクールアイドル部の千歌さん、曜さん、梨子さんだった。ルビィは、千歌さんに指を指されてびっくりしちゃったけど・・・。

 

「良くわかったね。」

 

「ふふん。」

 

「こ、こんにちは・・・。」

 

「可愛い・・・!!!」

 

千歌さんは、ルビィを見ながらかわいいって言ってる。

 

「これ、部室にあったんだけど、図書室の本じゃないかな。」

 

「ああ、多分そうです。」

 

3人がカウンターに本を置いていき、花丸ちゃんが本を確認しているのをルビィは見ながら少しずつカウンター目指して近づいていく。

 

「!!!」

「ピギッ!!!」

 

「スクールアイドル部へようこそ!!!」

 

花丸ちゃんが本の確認をしている最中にも関わらず、千歌さんはルビィと花丸ちゃんの手を握って勝手にスクールアイドル部に入部させていた。

 

「千歌ちゃん・・・。」

 

「結成したし、部にもなったし、絶対悪いようにはしませんよー!!!2人が歌ったら絶対キラキラする!!!間違いない!!!」

 

曜さんが呆れているけど、千歌さんはそんな事も気にせず、ルビィ達を勧誘してきた。

 

「あ、え・・・、でも・・・。

 

お、おら・・・。」

 

「おら?」

 

「い、いえ。マル、そういうの苦手っていうか・・・。」

 

花丸ちゃんは、動揺してるのか、一人称を〝オラ〟と言いながらも、断っている。

 

「ええ・・・、ルビィも・・・。」

 

ルビィは・・・、入りたいんだけど、お姉ちゃんがね・・・。だから・・・。

 

「千歌ちゃん。強引に迫ったら可愛そうだよ。」

 

「そうよ。まだ入学したばかりの1年生なのに・・・。」

 

「そうだよね・・・。可愛いからつい・・・。」

 

梨子さんと曜さんに勧誘を止められた千歌さんは、やってしまった・・・と、思っているのか後頭部に右手を添えながらあはは・・・。と笑っている。

 

「千歌ちゃん。そろそろ練習。」

 

「あ、そっか。じゃあね。」

 

曜さんの一言で、千歌さん達は図書室から出ていこうとしていた。だから、ルビィは・・・

 

「あ、あの・・・、曜先輩。」

 

曜さんに話しかけた。曜さんは、2人に先に行っててと言うと、図書室に留まる。

 

「ん?何?」

 

「百香ちゃんのお姉さんですよね。」

 

「うん。そうだよ。」

 

「家教えてくれませんか?百香ちゃんにプリントとかノートとか届けなくちゃいけないんで。」

 

「ああ、それなら私が持ってくよ。」

 

「いえ、お見舞いもしたいし、沼津には花丸ちゃんがこの前言った子にノート持ってく用事もあるので・・・。」

 

 

 

 

「んー・・・。伝染るのは自己責任になっちゃうけど・・・。大丈夫?」

 

「大丈夫です。ね。花丸ちゃん。」

 

「え?あ、はい。」

 

「じゃあ、紙に書いとくね。」

 

「ありがとうございます!!!」

 

曜さんは、図書室の備品のコピー用紙にボールペンで最寄りのバス停と道、そして、家の場所に黒丸を書き、ルビィに渡してくれた。

その後、曜さんは「じゃあねー」と言うと、小走りで図書室から出て行った。

 

騒がしくなっていた図書室は、ルビィと花丸ちゃんの2人だけ。丁度、図書室を閉める時間になり、ルビィ達は下校することとした。

 

「スクールアイドルか・・・。」

 

「やりたいんじゃないの?」

 

「へ?でも・・・。」

 

思わず、スクールアイドルと呟いたら、やりたいんじゃないの?と、花丸ちゃんに問いかけられた。やっぱり花丸ちゃんは、ルビィのことが分かるんだ・・・。でも、やりたくてもね・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ダイヤさんが・・・?」

 

ルビィちゃんがスクールアイドルをやりたくても、できない理由。それは、ダイヤさんがスクールアイドルを嫌いなのだ、ということだ。

 

「うん。お姉ちゃん、昔はスクールアイドル好きだったんだけど・・・。一緒にμ'sの真似して、歌ったりしてた。

 

でも、高校に入ってしばらく経った頃に・・・、〝片付けて。それ、見たくない〟って・・・。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

「本当はね、ルビィも嫌いにならなければならないんだけど・・・。」

 

「どうして?」

 

「お姉ちゃんが見たくないって言うもの、好きでいられないよ・・・。それに・・・。」

 

「それに?」

 

「・・・花丸ちゃんは興味無いの?スクールアイドル。」

 

「マル?無い無い!!!運動苦手出し、オラ、オラって言っちゃうことあるし・・・。」

 

オラは別にいいよ。そういうことやる様な柄じゃないから・・・。

 

「じゃあ、ルビィも平気。百香ちゃんもマネージャーだしね。」

 

「・・・。」

 

やっぱり、ルビィちゃんは、スクールアイドルやりたいと思ってる。我慢する必要は、無いんだよ・・・。

 

 

なんとなく重苦しい雰囲気になった所で沼津行のバスが来たので、マル達はバスに乗りこんだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺は、曜と梨子の忠告を聞いたので、学校を休み、自室のベッドに寝ていた。熱を出したのは日曜日で、その日に実施された打ち上げに参加したせいで悪化してしまった。今日1日寝ていた為か、平熱になった。でも、今日曜が学校と部活休んで看病してくれると言った時はびっくりした。どうにかして学校と部活に行かせたが・・・。

 

しばらく暇な為、パソコンで動画を見ながらベッドでゴロゴロしていると、携帯からポーンという音が鳴る。

 

「ん?何・・・。」

 

『曜:花丸ちゃんとルビィちゃんが今からお見舞いに行くんだって。』

 

携帯を見ると、ホーム画面に曜からのチャットが表示されていた。花丸とルビィが家に来ると。とりあえず、寒くないように着替えをして、風邪が伝染らないようにマスクして2人を待とう。

 

 

 

ちょうどチャットが届いてから1時間と10分くらい経った時、玄関のチャイムが鳴らされた。俺は、ベッドから出ると、玄関についてるカメラで花丸とルビィが玄関に居ることを確認すると、鍵を開けた。

 

「こ、こんにちは!!!」

「こんにちはー。」

 

「いらっしゃい。」

 

「具合はどお?」

「大丈夫ずら?」

 

花丸とルビィは入ってくるなり、体調を心配して来たので、熱はもう下がったと言うと、2人は安心そうに微笑む。

 

「あ、これ。今日の授業分のノート。」

 

ルビィは、バッグの中から黄色のノートを出して、俺に渡してくれる。渡してくれるのは嬉しいんだけど・・・、別に1日くらいノート取らなくても教科書読めばなんとかなるのに・・・。

 

「あ、うん。ありがとう。」

 

でも、ルビィに申し訳ないから、とりあえず受け取っておく。

 

しばらく今日の学校の事について一通り花丸とルビィと俺で話した。

ちょうど20分くらい経った時、花丸が時計を見ると、申し訳なさそうに言い出した。

 

「あ、マルはこれから善子ちゃんちにノート届けに行くずら。ルビィちゃんはどうする?」

 

「もう少し居る・・・。大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。」

 

それから5分後には花丸が「じゃあねー」と、俺とルビィに手を振りながら善子宅へと向かっていったのだった。

 

・・・。てか、何でルビィは俺に抱きついてるんだ・・・。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

マルは、善子ちゃん家にノートを届けた後、マルサン書店に立ち寄っていた。マルは、小説売り場に行こうと思いながらも、スクールアイドルコーナーに立っていた。マルは、不意に目に入ったμ's特集の雑誌を読み始めた。

 

「μ'sか・・・。オラには無理ずら・・・。」

 

伝説とも呼ばれたμ's。呟いてしまったように、そんな領域にマルが入り込むのは、場違い感が物凄いと感じていた。

 

しばらくページを捲っていくと、ある1人の少女の写真が目に入った。

 

「!!!」

 

μ'sの星空(ほしぞら) (りん)さん・・・。このページを見た瞬間、マルは、自然と手に取った雑誌をレジへと持って行っていた。




〇次回予告〇
「カベドゥン!!!」

「あ、あの(同人)は5,000円もするんだぞ!?」

その日、梨子は思い出した。
同人誌に支配されていた恐怖を。
壁クイに囚われていた快感を。

次回、5年前の私へ
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は5月9日0時0分です。


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第17話 A literature girl and coward girl (中)

スクールアイドル部が承認された次の日。マルとルビィちゃんは帰りのSHL後、誰も居なくなった教室に居て、話をしていた。

 

「えええ!?スクールアイドルに!?」

 

「うん。」

 

マルが話したのは、マルがスクールアイドル部になりたいという事だ。

 

「どうして?」

 

「どうしてって・・・。やってみたいからだけど。駄目?」

 

「全然!!!ただ、花丸ちゃん、興味とか無さそうだったから・・・。」

 

「いや、ルビィちゃんと一緒に見ているうちに、いいなーって。だから、ルビィちゃんも一緒にやらない?」

 

「ルビィも!?」

 

ルビィちゃんは、驚きながらも、嬉しそうだ。やっぱり、ルビィちゃんもやりたいんだと感じることが出来た。

 

「やってみたいんでしょ?」

 

「それはそうだけど・・・。人前とか苦手だし、お姉ちゃんが嫌がると思うし・・・。でも、百香ちゃんいるなら・・・。

 

?ルビィちゃんは最後、小声で何を言ったのだろう。あまり気にしてないが・・・。

 

「そっか。じゃあこうしない?」

 

マルは、ルビィちゃんにある事を耳元でこそこそと話す。

 

「体験入部?」

 

そう。マルが提案したのはスクールアイドル部への体験入部だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺が復帰した日。(と言っても一日休んだだけなんだけど)スクールアイドル部の部室にはいつものメンバーと花丸とルビィの二人の姿があった。ついに、体験入部の話まで進んで来た。風邪で休んでなければ、部承認や図書室最初のシーンとかが見れたのにな・・・。でも、2人に怒られるリスクを考えたら・・・。それ以上は考えたくない・・・。

・・・話を戻そう。ついに花丸とルビィは、スクールアイドル部に体験入部に来たのだ。その話について聞いた千歌はもうかなり上機嫌になっている。

 

「本当!?」

 

「はい。」

 

「よろしくお願いします!!!」

 

花丸とルビィの挨拶で千歌の顔は今以上にどんどん笑顔になっていき・・・

 

「やった・・・。やったぁ・・・。

やったァァァ!!!」

 

体育館の渡り廊下に飛び出した。誰も千歌のテンションについていけていない。

 

「これでラブライブ優勝だよ!!!レジェンドだよ!!!」

 

しかも、曜と俺、梨子に抱きつくほど嬉しがっているけど、勘違いしてる。

 

「ああ、また勘違いしてる。」

 

ほら、曜が呆れてるよ。

 

「千歌ちゃん。待って。体験入部だよ。」

 

「へ?」

 

梨子の言ったことでも、千歌は首を傾げる。こいつの脳内がどうなってるかを知りたい。

 

「要するに、仮入部っていうか、お試しってこと。それでいけそうだったら入ったり、合わないって言うなら辞めるし。」

 

「そうなの?」

 

「いや、まあ、色々あって・・・。」

 

「もしかして、生徒会長?」

 

「あ、はい。だから、ルビィちゃんとここに来た事は内密に・・・。」

 

「出来たー。」

 

花丸が内密にと言っているのに千歌は話を聞かないで、ポスターに〝新入部員!!!2名!!!〟とマッキーでデカデカと書いていた。もしかして千歌の耳って壊れてるの?

 

「千歌ちゃん。人の話は聞こうね。」

 

「へ?」

 

「じゃあとりあえず、練習やってもらうのが1番だね。」

 

「これは、百香ちゃんがある元スクールアイドルの人から聞いた練習メニューと、私が独自に調べたスクールアイドルの練習メニューを合わせて作ったスケジュールよ。」

 

梨子は、俺と共同作成したスケジュール表をホワイトボードに磁石で貼り付ける。

 

「元スクールアイドルの人って?」

 

「ひーみーつー。ふふっ。」

 

秘密だけど、しいて言うなら、登山が好きな人かな・・・?でも、練習メニューを聞いた時に「百香のところには海と富士山があるので、〝遠洋10キロ〟や〝登山〟とかがいいと思いますね!!!」とか言ってたね。当然、却下したけど。

 

教えてもらえなかった千歌は、えー!?と、騒ぎ始めたが、目が笑ってない曜に黙れと、柔らかい口調で言われたため、「はい・・・。」と言って黙った。怖い、怖いよ曜。

 

「曲作りは?」

 

「それは別に時間を見つけて作るしかないわね・・・。」

 

「本物のスクールアイドルの練習・・・!!!」

 

曜と梨子の会話中に、ルビィは、スケジュール表を見ながら呟いてる。

 

「でも、練習どこでやるの?」

 

「あ!!!」

 

曜に指摘されたように、俺達は、全く練習場所を考えていなかった。まあ、正確には、俺は考える気がなかったと言っても過言ではない。俺はどこでやるかをもう知ってるからだ。でも、周りに怪しまれないように俺も考えてないように装う。

 

「体育館はバスケやバドミントン使ってるし・・・。ステージ上で練習する訳にも行かないだろ・・・。」

 

そして、指摘された後から俺も考えた振りをして適当なこと言う。

 

「グラウンドも中庭も駄目・・・。部室もそれほど広くないし・・・。」

 

「砂浜じゃあダメなの?」

 

「行って戻ってくるだけで日暮れるぞ。」

 

「そうね。できたら学校内で確保したいわ。」

 

千歌は中身が少ない脳みそでずっと考えていたり、曜が砂浜と提案して俺に却下され、梨子に条件を提示されたり、みんなでどこがいいかしばらく考えていた。そして、その中で一番いい提案をしたのが・・・

 

「屋上はダメですか?」

 

「屋上?」

 

ルビィだった。

 

「μ'sはいつも屋上で練習してたって。」

 

「そうか。」

 

曜が納得した。μ'sは屋上で練習してたから名案だと思うけど、雨降ったら使えなくなるよね。まあ、千歌はそんな細かい事は気にしなさそうだけど。

 

「屋上か!!!

 

行ってみよー!!!」

 

千歌は思い立ったが仏滅だよ!!!と、また間違ったことを言いながら直ぐに練習着に着替えて部室を飛び出して行った。俺達は、着替えた後に千歌を追いながら屋上に移動することとなった。その時、花丸が千歌をあいつ馬鹿なんじゃないか?という目で見ていたことは心の奥に置いておこう。

 

 

「うーわー!!!すごーい!!!」

 

屋上に移動した俺たちは、千歌が走り回りながら飛び回る場面に遭遇した。

 

「富士山もくっきり見えてるー。」

 

曜が言ったように富士山も良く見える。あ、表富士は静岡だからな。山梨と言った奴は後で体育館裏だ。・・・と、言いたいところだが、実はどっちが表富士かはまだ分からないらしい。頂上周辺の県境は未だ静岡、山梨両県で争っているとの事だ。みんな!!!静岡に来た時は静岡側が表富士と、山梨に行った時は山梨側が表富士だと言おう!!!高確率で助かるから!!!(ただし100%とは言ってない)

 

「でも日射しは強いかも・・・。」

 

花丸はインドア派だからね。俺もこっちに来てからは前よりインドア派になったんだ。()()()←ここ重要

 

「それがいいんだよ!!!太陽の光をいっぱい浴びて、海の空気を胸いっぱいに吸い込んで・・・。暖かい・・・。」

 

「本当だ。」

 

千歌がコンクリートの地面に手をつくと、皆が次々に手を置いていく。

 

「んー。気持ちいいずらー♪」

 

花丸は寝そべってるが。・・・しかし、花丸デカいな。どことは言わないが。花丸と俺は同じサイズなのに、何でこんなにも違うのか・・・。

 

「花丸ちゃん?」

 

そんな姿の花丸を見たルビィは、花丸の頬をつんつんしていた。おでんじゃないよ花丸だよ。おでんだったら、即刻タイーホになるからね。。

 

「さあ、始めようか。」

 

そして、しばらく暖かいコンクリートの地面を堪能(?)した後、千歌の掛け声で皆立ち上がり、円状に並んだ後、俺を合わせて6人の右手を合わせる。

 

「じゃあ、いくよ。Aqoursー」

 

「「「「サンシャイーン!!!」」」」

 

右手をみんなで上に向けて、練習が開始された。

 

ダンスの練習はマネージャーの俺がカウントをとる。ちなみに俺は制服のまま。昨日間違えて母が練習着を洗ってしまって、まだ乾いていない。だからカウントくらいしか出来ない。え?ダンス?したらどうなるか分かってるよね?

 

「ワントゥースリーフォー、ワントゥースリーフォー、ワントゥースリーフォー。」

 

俺のカウントに合わせて千歌とルビィがポーズをとる。

 

「出来た・・・。」

 

「流石ルビィちゃん。」

 

一通りのダンス練習をすると、みんなからルビィにお疲れーという掛け声とかがかかる。

 

「出来ました!!!千歌先輩!!!」

 

「あ、あれ?」

 

「千歌姉はやり直しだ。」

 

千歌は・・・出来てない。千歌はやり直し。だからルビィに俺が持ってきたクーラーバッグの中から好きな飲み物を持ってくように指示をし、千歌のダンス指導に入る事になった。

 

しばらく屋上で練習した後にまた部室に移動し、曲作りをすることになったのだが

 

「今日までって約束だったはずよ。」

 

「思いつかなかったんだもーん。」

 

歌詞ができてなかった。

 

「思いつかなかったじゃないでしょ!!!」

 

「まあまあ。」

 

千歌が梨子に怒られ、曜が梨子を宥める。ちなみに俺は基本歌詞とか、作曲類にはノータッチにするつもりだ。変な事して未来が変わっちゃ厄介だからな。だから俺はクーラーバッグの中にある飲み物の管理をしてる。

 

「何かあったんですか?」

 

「ああ、今新しい曲作ってて。」

 

花丸は、千歌が梨子に怒られていた事に気づいて曜に尋ねていた。

 

「花丸ちゃんもなにか思いついたら言ってね。」

 

「はあ・・・。」

 

花丸はそう言いながらルビィの方向を向き、ダンスの細かい練習をしていたルビィを見て微笑んでいた。

俺はその光景を飲み物の管理をしながら、横目でずっと眺めていた・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

練習を合計1時間半くらいやった後、俺達は、淡島に移動していた。目の前には淡島神社に続く階段。μ'sも階段を上ってたけど、あの階段とは比べ物にならないくらい長い。上まで登ると軽い登山に匹敵する。良かったじゃねえか、登山がメニューに入って。

 

「これ、一気に登ってるんですか!?」

 

「もちろん!!!」

 

「いつも途中で休憩しちゃうんだけどねー。」

 

「えへへ・・・。」

 

千歌は、曜に言われたことで、あはは・・・と、少し力無く笑っていたけど、曜に言われた通りだ。この階段2、3回は登ったけど、少しトレーニングしてた俺や曜でも少しキツかった。あ、登ったのは今世の時だぞ?

 

「でも、ライブで何曲も歌うには、頂上まで駆け上がるスタミナが必要だし。」

 

「じゃあ、μ's目指して、よーい、どーん!!!」

 

千歌の合図でみんなが走り出し、一斉に階段を登り始めた。俺はクーラーバッグ持ってるし、制服だし、病み上がりだからゆっくり登るんだけどね。

 

 

 

ゆっくり登り始めて2分経たないくらい登った時、随分と失速した花丸の姿と20段から30段上を行くルビィの姿が視界に入った。俺は、近くにあった木の幹の陰に隠れ、2人の姿を見た。このシーンに俺は余分だと考えたからだ。

 

「やっぱり、マルには・・・。」

 

花丸が息が途切れ途切れになりながら階段を上っている。上にいるルビィは、花丸の姿を見つけた時、その場で足踏みして立ち止まった。

 

「ルビィちゃん・・・?」

 

「一緒に行こう。」

 

「ダメだよ・・・。」

 

ルビィは、ずっとしていた足踏みをやめて、その場に立ち始めた。

 

「え?」

 

「ルビィちゃんは走らなきゃ・・・。」

 

「花丸ちゃん?」

 

「ルビィちゃんはもっと自分の気持ち、大切にしなきゃ・・・。自分に嘘ついて、人に合わせるなんて辛いだけだよ・・・。」

 

「合わせてる訳じゃ・・・。」

 

「ルビィちゃんはスクールアイドルになりたいんでしょ?」

 

「・・・。」

 

「だったら、前に進まなきゃ。」

 

「さあ、行って。」

 

「は、は・・・。でも・・・。」

 

ルビィは、花丸の名前を出そうとするが、躊躇していた。

 

「さあ。」

 

「・・・うん!!!」

 

花丸が促した後に、ルビィは上に向かって走り出した。しばらく笑顔で、そして、少し心残りがありそうな顔でルビィのことを見送っていた。俺は、ルビィの姿が見えなくなると同時に階段を登りだし、花丸の前で立ち止まった。

 

「花丸・・・。」

 

「百香ちゃん・・・。」

 

花丸は、俺と目線を合わせてくれない。

 

「上に行かないの?」

 

「うん・・・。マルには向かないから・・・。」

 

「おい、待てって!!!花丸!!!」

 

花丸は俺の静止も聞かず、目線を合わせないまま階段を降りて行った。俺は、溜息をつき、また階段を登り始めた。

 

しばらく登ったのだが、花丸の事が気になった俺は、折り返して花丸を追い始めた。階段が急だから転げ落ちないような速さで階段を降りていく。

 

「登りきったよーっ!!!」

 

遠くから千歌の声が聞こえたことは、ルビィが登りきったんだと思いながら、花丸の姿を追う。

ちょうど踊り場にあるベンチにダイヤさんが座っていたのを見つけた。恐らく、花丸が呼んだのだろう。ルビィに決意をさせるために。

 

「ダイヤさん!!!花丸見たか!?」

 

「ええ。下に降りて行きましたわ。」

 

「分かった、ありがとう!!!」

 

花丸の行き先を知った俺はダイヤにお礼を言った直後に花丸を追って階段を駆け下り、船着き場まで全力疾走した。しかし、花丸を乗せたと思われる連絡船は既に出航していて、淡島と半島のちょうど真ん中辺りを航行していた。

俺は、連絡船を見ながらただ、その場に立ち尽くしていた。




〇次回予告〇
千歌「もしかして」
穂乃果「私達・・・」
千歌・穂乃果「「入れ替わってるー!?」」

都会と田舎の少女達が入れ替わる物語が、今、始まるー。
次回、君の名は
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は5月23日0時0分です。


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第18話 A literature girl and coward girl (後)

3rdLIVEの大阪公演、当たりました。やったぜ



俺は、桟橋で淡島から離れていく花丸の乗った連絡船をただ、眺めている事しか出来なかった。

 

淡島神社の方向からは、曜、梨子、千歌の3人が歩いて来る。千歌が嬉しそうな顔をしているということは、どうやら、ルビィはダイヤにスクールアイドルをやりたいと、はっきり言うことが出来たのだろう。

 

俺は、ちゃんとアニメ通りに進んで来たことに、少し違和感を感じた。何故、大半が俺が行動した時に、アニメのストーリーが進むことになっているのか。

 

もしかして、俺、渡辺百香の存在もラブライブ!サンシャイン!!アニメの世界に取り込まれてしまったのか──

 

──いや、それは無いと思いたい。俺は渡辺曜の妹だが、アニメ視聴者から見ると俺は2年生モブ3人(むつ、いつき、よしみ)以下の存在、血縁者だけどただの部外者という事になる。つまり、俺がAqoursに関わっているという事は、部外者がAqoursに首を突っ込んでいることだ。部外者が必要以上に首を突っ込むと・・・、世界は歪みを引き起こし、未来は大きく変わる。世界が変わると、あのアニメの世界は存在出来ない。世界を変えないにするには、俺はスクールアイドル関連から、特にAqoursから距離を置くことが重要なんだ。

 

俺は、千歌からの幾度となく行われる勧誘から避けるため、そして、自らがスクールアイドルにならないための最良の手段であるマネージャーとなり、過去には、あるメンバーがちゃんとスクールアイドルになるように進路を沼津市の進学校から浦女に変えたんだ。

 

今のところはアニメ通りにストーリーが進んでる為、大体順調だ。けど、いつ、このストーリーが変わってしまうか、分からない。

 

俺は、嬉しがっている3人の横で嬉しそうな顔をしながら悩むことしか出来なかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

次の日、図書委員の仕事である本の整理を一通り終わった俺は、本棚の影に隠れて花丸を見る。昨日、あれから考えて出た結論は、これ以上、スクールアイドル関連に必要以上に関わらないようにする事だ。もちろん、マネージャーの仕事だけはするが。しなかったら千歌とか千歌とか千歌とかからクレームが来そうだからな。これから俺はメンバーに必要以上に関わらないよう、こうして本棚の影から見守っているんだ。

 

花丸はスクールアイドル雑誌を本の整理をしている最中、俺に見つからないようにこそこそ読んでるらしく、いつも読んでいる文庫本はカウンターの上に置いてあり、花丸の目線はカウンターの下に行っている。

 

「大丈夫。ひとりでも。」

 

「バイバイ・・・。」

 

花丸は、本の整理をしていると思われる俺に見つからないようにして読んでいたスクールアイドル雑誌を心残りがある様にゆっくりと閉じようとしている。だが、俺はもう作業を終わらせ、見ているのだが。で、その目の前にはあの引っ込み思案の赤い髪の少女が図書室に静かに入ってきて花丸の事を見ていた。

 

 

 

「ルビィね!!!」

 

「っ!!!」

 

そして、少女、いや、ルビィは花丸に話しかけた。

 

「ルビィちゃん?」

 

「ルビィね、花丸ちゃんの事見てた!!!ルビィに気を使ってスクールアイドルやってるんじゃないかって!!!ルビィのために無理してるんじゃないかって心配だった・・・。でも、練習の時も、屋上の時も、みんなで話してる時も・・・、花丸ちゃん、楽しそうだった・・・。それ見て思った!!!花丸ちゃん好きなんだって!!!ルビィと同じくらい、好きなんだって!!!スクールアイドルが!!!」

 

「!!!マルが・・・?まさか・・・。」

 

花丸は、そう言いながらまた下を向き始めた。

 

「じゃあ、なんでその本そんなに読んでたの?」

 

「それは・・・。」

 

花丸は、言葉に詰まる。文学少女である彼女が言葉に詰まるということは、嘘を誤魔化せなくなったからだろう。

 

「ルビィね、花丸ちゃんとスクールアイドル出来たらって、ずっと思ってた!!!一緒に頑張れたらって!!!」

 

「それでも、オラには無理ずら。体力無いし・・・。向いてないよ・・・。」

 

「そこに写ってる凛ちゃんも、スクールアイドルに向いてないってずっと思ってたんだよ。」

 

その時、図書室のドアから3人が入って来た。梨子、千歌、曜の3人だ。俺は、3人の姿を確認してから、カウンターに向かい始める。

 

「でも、好きだった。やってみたいと思った。最初はそれでいいと思うけど?」

 

梨子がそう言う。俺もやってみたいけど、俺の場合はやりたくても出来ない。

 

「ルビィ、スクールアイドルがやりたい!!!花丸ちゃんと!!!」

 

「マル、出来るかな・・・。」

 

「私だってそうだよ。」

 

千歌がそう言いながら花丸に手を出す。かなり4話の終盤になってきた。

 

「!!!」

 

「大切なのは出来るかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ!!!」

 

花丸は、膝の上に置いていた手を伸ばし、千歌の手に触れた。俺を合わせたみんなで右手を出し合い、花丸は笑いながら、左手もさし出した。花丸、加入の瞬間だ。

 

その後、直ぐに花丸は入部届けを書き、正式にスクールアイドル部に入部し、それと同時に俺は部室にある千歌のパソコンでラブライブ!にエントリーの手続きを行った。

 

「百香ちゃん、キーボード見ないで打てるんだね。」

 

「そ。色々やってるからねー。」

 

千歌とかと適当に話をしながらエントリー手続きを行ったパソコンには〝浦の星女学院 Aqours 4,999位〟と表示された。

 

「4,999位・・・。」

 

「上に5000組以上のスクールアイドルがいるってこと!?凄い数・・・。」

 

「さあ、ランニング行くずらー!!!」

 

画面を見た花丸は、自分から率先してランニングをしに笑顔で部室を出ていき、みんなもそれに続き、部室を出ていくが、俺は、部室の中にとどまり、パソコンの〝4,999位〟が表示されている画面を少しだけ眺めた。

 

「あと1ヶ月だな。」

 

誰にも聞こえないように呟き、パソコンを閉じた。

 

「百香ちゃーん!!!」

 

「今行くー!!!」

 

曜に呼ばれた為、俺は返事をして直ぐに部室を飛び出した。

ランニングをしながら俺はずっと願っていたAqoursが出来たことを一希や林が知って、約束を覚えていることを・・・。

 

彼らの約束の6月第一週日曜日まで、あと約一ヶ月程・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

俺は、慶喜の敵をとれなかった。慶喜が死んだ直後に艦橋は沈み、俺は溺死したのだ。

 

「応天門の変、この反乱を起こしたと言われているのは誰でしょう。じゃあ、神田(かんだ)大智(だいち)。」

 

だが、俺は精神だけは死んでなかった。恐らく、親友の慶喜と約束を結んだからだろう。慶喜との約束、Aqoursが結成された年の6月に内浦の船着場で会うという事だ。もちろん、俺はラブライブの世界に転生できた。男で、しかも住んでるのは全くµ’sやAqoursに関係ない北陸地方だが。

 

「おーい、神田?神田ー。」

 

俺は慶喜はどうなっているかは知らない。連絡手段も無いのだ。とにかく、Aqoursが結成された年の6月に内浦に行こう。これを行って慶喜が転生出来てるか確認しよう。多分、アイツも男に転生してるだろうから。どんなイケメンになってるだろうか、楽しみだ。

 

「神田大智!!!」

 

「は、はいっ!!!」

 

おっと。先生に呼ばれるのに気づかなかった。いやー、忘れない様に毎日毎日この事を思い浮かべてるんだけど、たまに思い浮かべるのに集中して周りの事が聞こえなくなるのがちょっとね・・・。

 

ここはどこだって?ここは、ラブライブ!サンシャイン!!の舞台である静岡県沼津市内浦地区から遠く離れた石川県加賀市にある、石川県立加賀湊(かがみなと)高等学校だ。

 

 

 

「よお大智。またボーッとしてたのか。」

 

SHR終了後、そう言って俺に話しかけてきたのは中嶋(なかじま)和也(かずや)。俺と同じスクールアイドルを好んでいるやつだ。親友みたいになっているが、俺の本当の親友は慶喜だ。まあ、周りのヤツらには話してないから周りのヤツらは知らないのだが。

 

「あはは・・・。」

 

「で、話は変わるが、また新しいグループ見つけんのか?」

 

そう言って和也はスマートフォンを渡してきた。俺と和也は、新しいスクールアイドルグループを開拓しているのだ。まあ、俺は開拓してると言うより、Aqoursを探しているだけなのだが。

 

 

俺は、〝Aqours〟の情報を探してスマホで検索していた。〝Aqours〟と検索エンジンで検索すると、100%関係ないことが出てくるが。例えば、JRの自販機とか、英語の水のAquaとか、英文で書かれたホームページとか・・・。今日もめぼしい収穫もないかと思いながら、〝Aqours〟と入力し、検索した。

 

 

〝Aqours〟での検索結果は・・・

 

 

浦の星女学院スクールアイドル 〝Aqours〟

 

 

あった・・・!!!見つかった!!!結成された!!!

 

 

「あった・・・。あった!!!あった!!!あったぞ和也!!!」

 

俺は、〝Aqours〟の文字を見た瞬間、椅子から飛び跳ねるように立ち、和也の背中をバンバン叩いた。

 

「痛っ!痛い!!!大智痛い!!!」

 

「ああ、ごめん。ずっと探していたグループが見つかったから、つい嬉しくなって。」

 

「ははっ。お前らしいな。」

 

「そうか?」

 

俺と和也はスクールアイドル関連の話をしながらカバンを持ちながら席を立ち、下校する生徒や部活へ行く生徒の集団に混じりながら外へ出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「6月・・・。あと一ヶ月か・・・。」

 

俺は、下校途中の通学路でボソッと呟きながら歩いていた。

 

「なあ、あと一ヶ月って何がだ?」

 

あ、和也に聞かれてた。横にコイツ居たの完全に忘れていた。

 

「昔の親友に会うんだよ。」

 

「昔の?」

 

「そう。俺が今の俺じゃなかった時のさ・・・。」

 

そう言いながら俺は、慶喜の姿を思い出すように、上に広がる日が沈みそうになっているオレンジ色で染まっている空を遠い目で眺めていた。




〇次回予告〇
「ルビィは大変な物を盗んでいったよ。」

「・・・松浦警部・・・。」

「ダイヤの、プリンだよ。」

「ルビィィィィ!!!許すまじ!!!ですわ!!!」

次回、ルビィ3世 カリオストロの城
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は6月6日0時0分です。


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第19話 堕天使発見

西武線のやつ、鞠莉の作画ひどいですよね。何故鞠莉だけああなったのか・・・


ルビィと花丸がスクールアイドル部に入部してから1週間程経った時の日曜日。俺は、行きなれた店での車のETC設備交換の待ちの時間で沼津駅北口の映画館で映画を見てきた。

 

作品は別時代の(といってもたった3年だが)高校生男女が入れ替わる某新〇誠監督の最新作のアニメ映画だ。タイトルは、あの、君のなんちゃらっていう映画。面白かったけど、ハマってもいない映画を5回も見たら流石に飽きる。1回目は曜と千歌、梨子で観て、2回目は花丸とルビィで観て、3回目からは自分1人で見た。

 

何でこんなに観たかって?実は、父、いや、親父の同僚が映画のチケット買いすぎたからと言い、貰ったのだ。1()0()()も。

 

で、そのチケットを全て親父から貰って、Aqoursのみんなを誘って見に行ったのだ。流石に3年生組とあまり接点のない善子は誘えなかったから今日だけで残りのチケットを消費したのだ。え?今日5回観たのかって?いや、昨日3回観て、今日2回観た。沢山見たせいで劇場スタッフから奇異な目で見られたんだから・・・。親父の同僚のヤロォ・・・呪ってやる・・・。というのは冗談。呪いのかけ方とか知らないからね。善子なら知ってそうだけど。

 

で、俺は今、沼津駅北口から南口に移動するため、駅前の道を歩いていた。映画館のある沼津駅の北口と家のある南口は自由通路が無く、南北に移動する場合は、入場料140円払い、駅構内を通過するか、西にあるアンダーパスを通るしかないのだ。

 

めんどくせーなーと思いながら俺は西にあるアンダーパスにある歩道を歩く。頭上には東海道本線が通っているからなのか、時折電車が頭上を通過する凄まじい轟音が聞こえる。

 

アンダーパスを抜けると、そこには南口の商店街が広がっていた。アーケードの下を抜け、沼津駅南口に向かう。

 

南口ロータリーに向かうと、何やら男女の警察官がマスクとサングラスをしているある1人の見た目からして怪しい少女に職務質問らしきことをしている。黒髪でシニヨンがついてるあの髪型は・・・

 

 

 

 

・・・善子か。

 

「お待たせー!!!」

 

俺は、善子に駆け寄り、抱き着いた。

 

「あ、山寺さん、すみませーん。この子、日焼けが苦手なんでこんな格好してるんです。」

 

「あ、そうなの?」

 

「そ、そうよ!!!」

 

怪しそうに聞いてくる男性警察官、山寺(やまでら) 邦男(くにお)巡査に対し、善子は俺の言ったことが自分を助けるためだと知ったのか、直ぐに賛成した。

 

「なら、ちゃんとそう言ってくださーい。」

 

「は、はい・・・。」

 

なんか身長が小さく、シャイニーとか言い出しそうな可愛い女性警察官、鈴木(すずき) 彩奈(あやな)巡査部長が善子に注意し、最後に、「メッだよー↑。」とか言って山寺巡査部長とこの場から離れていった。・・・警察官に完全に子供扱いされてるな善子。まあ、成人している警察官から見て高校生はまだ子供か。俺は今、58歳(43歳+15歳)だけど。

 

さあて、善子も助けた事だし、帰るとするか。

 

「じゃあ、また警察とかに職質(聞か)されないようにね。」

 

善子にそう言い、帰ろうとすると、急に右の袖を掴まれた。善子だ。善子が袖を掴んでいるのだ。

 

「待ってよ。貴女にお礼しないと・・・。」

 

「え?でも・・・。」

 

「いいから!!!」

 

俺は拒否したのだが、どうやら、俺に拒否権は無いらしく、無理やり善子に駅前のあのL字マークのハンバーガー店に連れ込まれた。

 

・・・。かなり久しぶりに来るなこのチェーン。最近来たのって、確か、前世が最後だったよな。市ヶ谷(防衛省)に用事があった日の次の日が休日だったから、実家に帰ったんだ。その時の乗り換え駅構内にこのチェーン店があったから寄ったんだ。でも、今は改装でべなんちゃらコーヒーってカフェに変わっちまったんだ。残念。

 

で、そのL字マークのハンバーガー店で、ドリンクとポテトLサイズを注文した。俺のドリンクは無難にメロンソーダ。元々低年齢層が対象のドリンクだからいい歳のオッサンが飲むのには勇気がいるが、今は(見た目は)女子高生。気軽に飲める。善子は、白ぶどうジュース。好きな色が白系だからね。堕天使なら黒系なような気がするけど・・・。・・・あんまりそういうのは考えないようにしよう。設定に突っ込むのは野暮だからな(メタい)。そう思いながら俺と善子は2人がけの席に座る。俺は普通に座ったが、善子はそわそわしてるように見える。

 

「「・・・。」」

 

俺と善子の2人が座っているテーブルにはしばらく沈黙の時間が過ぎる。どちらもただ、ドリンクを飲み、ポテトを頬張っているだけだ。

 

「・・・。とりあえず、自己紹介だけしましょうか・・・。」

 

沈黙を最初に破ったのは善子だった。まあ、ここに呼び込んだのは善子だからね。妥当な判断だろう。

 

「あの・・・、動画とか見ていれば知ってるかも知れませんが・・・、その・・・、私は・・・、堕天使ヨハネです。」

 

・・・。あの事故紹介事件で善子自身も相当気が滅入っているのか、周りに聞こえないような小さな声で言ってきた。

 

「渡辺百香です。よろしく。津島善子ちゃん。」

 

「ななな、なんでその名前を!?」

 

俺が自己紹介し、善子の名を呼ぶと、善子は動揺し始めた。まあ、確かに、初めて会う相手が自分の名前知ってたら誰もが同じような反応するよな。しかも、善子の場合はアカウント名じゃなくて本名。

 

「だって、同じ浦の星の1年・・・、おっと、おい、ちょ、待てよ。逃げんなよ。」

 

〝浦の星の1年〟だけで反応した善子は、この場から逃げ出そうとしたのだが、俺が善子の袖をつかみ、逃がさないようにする。

 

「落ち着けよ、善子。別にお前の事でなんか変な事とか思ってないから。」

 

「・・・本当?」

 

「本当本当。」

 

どうにかしてこの場から逃げ出そうとする善子を落ち着かせ、席に戻らせる。

 

「でも、貴女以外はどうせ〝堕天使って何?〟とか〝何あれープークスクスwww高校生なのに恥ずかしくないのーwww〟とか言ってるんでしょ!!!」

 

それ以上いけない。最後の方は俺の心にくるから。

 

「大丈夫だって。そうなってたら私も不登校になってたからな。」

 

「貴女も変な自己紹介したの?」

 

俺は、善子の問に対し、首を縦に振り、俺がやった自己紹介についてに詳しく話した。なんか善子が( ^ν^).。oO(キチガイこわ・・・近寄らんとこ・・・)みたいことを思っていた感じだったけど、そういう思われることについてはお前も同類だからな。

 

「・・・。じゃあ、私はやり直せるかもしれないのね。」

 

それに、善子に自信が出てきたようだからね。

 

「で、貴女、ヨハネを知ってるんでしょ?動画、見てるでしょ!!!」

 

「え?うん。」

 

急にどうした。動画の話なんて始めて。

 

「アカウント名教えなさい。お気に入りユーザーにするから。」

 

あ、今、某コメントが流れる動画投稿サイトのお気に入りユーザーの機能は無くなったとかのコメントはやめろよな。今の年代は2016年の5月だから。お気に入りユーザーが無くなったのは同年10月31日だからな。

 

「わかった。ユーザー名は〝斉藤さん〟だ。」

 

俺は、そう言いながらバッグから出したメモ帳に〝斉藤さん〟とボールペンで書いた。

 

「斉藤さんって、あの超会議の誘いを全部拒否している、動画サイト内ではかなり有名な下ネタゆっくり実況者の・・・!?」

 

なんか善子がブツブツ言ってる。まあ、男性だと思われていた人物が女性で同い年だったらそうなるわな。

と思っていると、善子にガシッと両手を掴まれた。

 

「私、貴女のファンなんです!!!貴女に憧れて動画投稿始めたんです!!!」

 

え?そうなの?確かに、俺の方が1年くらい投稿するのが早かったけど、投稿当初はあんまり人気じゃなかったんだけどなぁ・・・。今のようになったのは投稿し始めてちょうど3年経った時、中学2年生の時だった。あるゲームの実況がウケて、口コミやSNSで急激に広まったのが原因だった。それ以前から見ているユーザーは古参。さらに、この後の善子の話を聞くと、最初の動画投稿時点で見ていたらしい。という事は、古参中の古参。つまり、最古参という事になる。最古参は合計5千人くらい。その中の1人を見つけ出せた。こんな近くに最古参が居たなんて、世間は狭いものだなぁ・・・。

 

「師匠と呼ばせてください!!!」

 

「え?いや、普通に百香とかでいいよ。」

 

「いや、でも・・・。」

 

「いいから。」

 

急に善子が今の俺には理解不能な事が発生していた。師匠か・・・。なんか・・・、凄く・・・、堕天使らしくない命名の仕方だな・・・。

 

不思議に思っていると、急に俺の携帯がスヌーズをしながら鳴った。店からの電話だ。どうやらETC設備交換が終わったらしい。

 

だから、とりあえず、俺と善子はお互いのチャットのアカウントを友だち登録してから別れた。明日、月曜日に善子は学校に来るだろうか・・・。

 

そんな淡い期待を持ちながら、俺は、自動車整備工場に向かったのだった。




〇次回予告〇
次回は鞠莉ちゃんのBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthday鞠莉
次回更新予定日は6月13日0時0分です。


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特別編3 Happy Birthday鞠莉

Happy Birthday鞠莉ですね。鞠莉の話を1日中考えた結果がこれだよ!!

※今回もパラレルワールド。


今日、俺は鞠莉に呼び出され、車で淡島への連絡船が出ている重寺港に移動していた。重寺港に着くと、鞠莉は、待っていたと言わんばかりに、腕を組みながら鞠莉自身の愛車に寄りかかって俺を待っていた。・・・嫌な予感しかしない・・・。

 

「グッモーニン!!!百香!!!」

 

運転席から降り立つと、挨拶されたが、俺にとっては俺が呼び出されたのが一番の疑問点だ。普通なら鞠莉なら使用人や果南とか、ダイヤとかが居るはずだ。というか、要件はなんだ。早く言え。

 

「急に呼び出してソーリーね!!!今日は、私のドライブに付き合って欲しいのー!!!」

 

あ、これ(精神的に)死ぬパターン(パティーン)だ。そもそも真新しい初心者マークが貼り付けてある真新しいピンク色に染めてある鞠莉の愛車を見れば分かったはず。ああ、何で気づかなかったんだろう。

 

「使用人とかに頼まなかったの?」

 

「使用人よりも貴女の方が良いって今日の占いで言ってたのデース!!!」

 

「本音は?」

 

「使用人にもメイドにもママにも果南にもダイヤにも断られた。」

 

「あっ・・・(察し)」

 

そんな占い無いだろと思いながら鞠莉に本当の事を聞いてみたところ、あっさりと吐いてくれた。これはヤバイ。どれだけヤバいかって?前世、俺には5歳離れた妹が居たんだが、妹が免許取りたての時に、妹が一緒に出かけようとか─もちろん妹の運転がしたのだが─言っていきたんだ。それで、着いて行ったら・・・、煽られるわ、前の車にぶつかる寸前まで行ったりしたり、もう、最悪だった・・・。

 

「そんな事より一緒にドライブデース!!!」

 

「えっ、ちょっ!!!や、やめっ、だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

ゆっくり後ずさりして逃げようとすると、鞠莉は素早く逃げ出さないように俺の首根っこを掴み、鞠莉の愛車の方向に引きずり始めた。

 

「ちょっと待っててデース。今から楽しいとこに行きましょ?」

 

「ちょ、独り言に参加すんな!!!しかも、楽しいとこってあの世か?あの世なのか!?俺2回も死にたくねぇぞ!?」

 

「女の子が〝俺〟なんか言っちゃダメよ?たとえ前世が男だったとしてもね・・・。」

 

「待て、俺なにかされるのか?そうなのか!?イヤァァァァァ!!!」

 

鞠莉が俺を無理矢理助手席に引きずり込み、ドアを閉めた。尚、助手席側の内側のドアノブはご丁寧に紙とガムテープで埋められていた。これでは出たくても出られない。

 

「さー、出発デース!!!」

 

俺は、ただ、諦めることしか出来なかった・・・。

 

出発してすぐに、果南が海の上に止まっている水上バイクから俺がいる方角に向かって合掌していたのが助手席のドアから見えた。

 

「果南!!!貴様ァ覚えてろよ!!!」

 

「私の果南に次そんな事言ったら分かってるよね?」

 

「YESマム。」

 

「OKデース!!!」

 

・・・色々な意味で逃げられない地獄のドライブが始まった・・・。

 

 

 

 

 

 

車は口野放水路交差点で信号待ちの為、停車していた。いったい鞠莉は俺をどこへ連れていこうとするのか・・・。

 

「なあ、鞠莉・・・。」

 

「何ー?」

 

「どこに連れてくつもりだ?」

 

「着いてからのお楽しみー♡」

 

鞠莉はウィンクしながら言うのだが、この先、鞠莉が泣く運命しか思い浮かばない。道路事情というのは、皆が思っている以上にカヲスな事になっている。ちょっとでも気を抜くと大怪我、下手すると死に至るという危険な場所なのだ。これは、俺個人の意見なのだが、初心者なら教習所で走り慣れたルートに慣れてから別の場所に走り始めた方が良いのかもしれない。

 

あ、青になった。車が走り出した。とてもゆっくりだが。車は内浦地区を通っている県道から沼津市街地と伊豆長岡を繋ぐ大動脈である国道414号に出た。交通量もかなり多く、初心者が走るのにはちょいキツいと思う。だって・・・

 

 

「鞠莉!!!センターラインはみ出してる!!!」

 

「そんなこと言ったってしょうがないでショー?私は初心者なのデース」

 

こんな状況でまだふざけてられるのはいろんな意味で素晴らしい。感心するよ。褒めてはないけどな。

 

そして、車は交差点を右折しようとしたところ・・・

 

「ちょ、鞠莉、馬鹿野郎ォー!!!」

 

対向車線の車に突っ込もうとしてしまった。

 

「ソーリーね、百香。」

 

一応、鞠莉は謝ってきてるのだが、ルー語(笑)を使うから本当に謝ってきてるかふざけてるのかがわからない。まあ、帰りの運転は鞠莉から鍵をかっぱらい、俺が運転すればいいだろう。で、車は内浦と沼津中心市街地のちょうど中間地点ほどにあるロ〇ソンの駐車場に止まったのだった。ひとまず、ここで少しだけ心を落ち着かせておこう。

 

「死ぬかと思った・・・。」

 

「もー、百香は心配性何だからー。」

 

心配性うんぬん以前に運転をどうにかしろ。

 

「さー、着いたよー!!!ここが目的地!!!ロー〇ン 沼津下香貫南店!!!」

 

何で〇ーソン、何故ローソ〇なんだ。

 

「で、何でロー〇ンに来たんだ?」

 

「ここでコーヒーを飲むのー。」

 

「それ鞠莉んちのでも良くねえか?ホテルなんだし。」

 

何故鞠莉が大衆店、しかもコンビニでコーヒーを飲みたいのかが分からない。鞠莉の家のレストランとかで普通にコーヒー頼めばいいのにと言おうと思った瞬間、鞠莉は、まだ飲んだことがない大衆店のコーヒーを飲んでみたいとか返してきた。なるほど。鞠莉はまだローソ〇に行ったことがないのか。ちなみに俺は〇ーソンよりもセイ〇ーマート派。本州とってはマイナーだろ?セイコー〇ートは、北海道に本社があって、北海道に1048店、茨城県に87店、埼玉県に17店展開していて、北海道でのシェアは大手3社よりもかなり多く、ダントツでナンバーワンになっている。前世の高校の近くにあったから、たまにセイコー〇ートの弁当を思い出すんだ。あの、店舗内で作られたあの弁当がな。でも、コーヒーは他のコンビニのコーヒーと比べて凄く薄い。あれはコーヒーと言えるのだろうか。あれはコーヒー風味のお湯だ。

 

「果南が美味しいって言ってたロー〇ンのコーヒーを飲んでみたいの。だから。」

 

なるへそ(なるほど)(古い)。鞠莉は果南の彼女だからね。「果南も彼女になるじゃん。じゃあ彼氏はだあれ?」とか思ったヤツは月に代わって抹殺よ。どう考えても果南の方が彼氏だよね。女の子だけど。

 

・・・。話を戻そう。で、俺達は車から降りて(俺は降ろされたと言った方が正しいか?)ロー〇ン店内に向かった。店内は変なものも無ければ、驚くようなものもない。ただ、どこにでもあるような普通のコンビニ。こんな所のコーヒーなんて、有能なバリスタが淹れたのより、多分劣る。まあ、果南が言わなければ来ることも無かっただろう。

 

「コーヒーM2つと〇チキ2つ。」

 

「お支払いは?」

 

「W〇ONで。」

 

前言撤回。こんなお嬢様でもコンビニには頻繁に行くらしい。動作がもう手慣れている。

 

「なあ。鞠莉って、頻繁にコンビニに行くのか?」

 

「え?私でも行くよ?セ〇ンとか、ミニス〇ップとか帰り寄って、果南と買い食いしたりー、雑誌とか買ったりするのー。」

 

さいですか。かなり庶民的なお嬢様だな。で、鞠莉は、店員からコーヒーを渡され、店外に向かおうとしていた。バッグも持っているのに、大変そうだ。バッグを持ってあげよう。そして、中を漁って車の鍵を取り出そう。

 

「あ、バッグは持つよ。コーヒー2つ持たせちゃ悪いからな。」

 

「いや、いいよ。私が持つから。」

 

はい、キャンセルされました。しかも、鞠莉はニヤニヤと笑いながら言ってきている。きっと俺のやろうとしている事に気づいたのだろう。

 

「どうせ、〝俺が運転してやるんだー!!!〟とか思ってたんでしょ?」

 

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ。」

 

まあ、嫌いじゃないけど、鞠莉に運転されるのはもう嫌だ。

 

「あ、用事思い出した。今から行かなきゃいけなくなっちまった。」

 

だから嘘をついといた。我ながら上手い嘘だ(どこがだ)

 

「車は?」

 

「え?」

 

鞠莉に言われるまで完全に失念していた。車は重寺港に止まっていたことを・・・。

 

「じゃあ、百香の車まで一緒に戻るデース!!!」

 

「ちょ、離せ!!!バスで行くからバスで!!!」

 

ズリズリと鞠莉が俺を車の方へ引き摺り始めた。

 

「私の車の方が早いよ?じゃあ、港までドライブデース。」

 

「も、もうやめてくれぇぇぇ!!!」

 

その後、百香の姿を見た人、Y(偽名)によりますと、「口から魂がヨーソローしてた。」とか言っていたらしい。その日、百香は金輪際初心者(しかもルー語を話す運転手)の車には乗りたくないと思ったのだった。だが、その時の鞠莉が笑顔だったため、後日、また鞠莉の車に乗ってしまうのだった。




〇次回予告〇

雪道で停車している車のタイヤに百香はチェーンを付けようとしているが、花丸は車内で、しかも笑顔でベラベラ喋っているだけだ。

「マダズラー?ヤッパシンカンセンダッタンジャナイスカネーマズイズラーホラドンドンヌカレテイクズラヨーゼンゼンスベルジカンナイズラーリフトトカコンジャウズラヨー」

「うっせえなー少しは手伝えよ・・・」

百香は、イライラして雪玉を花丸の顔に投げつけるが、花丸は避けてしまった。

「スゲーメンドクセーズラーダカライッタジャナイズラーヤッパシンカンセンダッタンジャナイスカネー」

花丸も車から降り、車に手を突いて寄りかかったところ、車が傾いていき・・・









崖下に転落した

「うおwwwwうお、おおお!!!おおおおwwwwおおおああああああwwwwww」

そして、崖下でひっくり返った百香の車が何故か爆発してしまったのだった。

「まじかよ・・・。なにすんだよお前ー!!!」

「(花丸、笑顔で)ヤッパシンカンセンダッタンジャナイスカネー」

次回、「SNOW TR〇iNG」
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は6月20日0時0分です。


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第20話 堕天使登校?

俺は善子とが出会った3日目の話だ。朝、登校してきて、善子の席を見ると、空席のまま。きっと来るのだろうという期待を持ちながら待っていたが、善子が来ないまま、SHRが始まるチャイムが鳴る。SHRが終わり、1時間目が始まっても、善子が来る気配はない。

 

そうなりながらついに昼休みになった。・・・。もうこうなってしまっては、今週中に学校に来るのは絶望的だ。

 

もしかして、善子はアニメ通りに放課後に学校に来ると思っているのだが、こうなってはあと1、2週間かかるのかもしれない・・・。そんなふうに思いながら俺は、食堂で花丸とルビィ、千歌、曜、梨子の5人と一緒に弁当を食べ始める。

「百香ちゃん?どうしたの?そんなに深刻そうな顔して。」

 

「え?ああ、ちょっとね。」

 

善子について考え過ぎていたためか、ルビィに心配そうに言われた。今はあまり気にしないようにして、午後の授業中に考える事にしよう。適当にノート取ってればそれなりに点数は取れるから。

 

俺は、心の中でそう思いながら、弁当を食べたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれからずっと善子についてあれこれ考えていたが、気づくと、放課後になっていた。

 

「百香ちゃん、部活行くよ。」

 

「ああ、うん。」

 

ルビィに促されるままに俺は部室に向かった。部室では、千歌が千歌のパソコンを操作して、今の順位を調べている。

 

「あー・・・。」

 

「今日も上がってないね。」

 

「昨日が4856位で、今日が4761。」

 

そう言いながら2年生組は〝4761位〟と、表示されているパソコンの正面で画面を見ている。まあ、アニメ通りだから、俺はあまり文句は言いたくないのだが。

 

「まあ、落ちてはないけど・・・。」

 

「ちょっとゆっくり過ぎだよなぁ・・・。」

 

だから、俺は、順位の伸びについて言うだけにしておいた。必要以上に関わりたくないからな。

 

「ライブの歌は評判良いですけど・・・。」

 

「それに新加入の2人とマネージャーも可愛いって!!!」

 

「そうなんですか?」

 

ルビィが驚きながら言っているが、内心で一番驚いているのは俺だと思う。マネージャーを載せたらマネージャーにも〝可愛い〟という意見が出たからだ。おそらく、このまま時間が過ぎれば俺にも踊って欲しいという意見が出てくるかもしれない。

 

「特に花丸ちゃんの人気が凄いんだよね。」

 

「〝花丸ちゃん、応援してます〟・・・。」

 

「〝百香ちゃんも踊ればいいのに〟」

 

「〝花丸ちゃんが歌ってるところ、早く見たいです〟って。」

 

みんながパソコンの画面に映し出してある花丸に向けてのコメントを読み上げている。しかも、どさくさに紛れて俺に踊って欲しいって言ってる奴がいる。誰だ。声からして曜か?

 

「ね?ね!!!大人気でしょ!!!」

 

「こ、これがノートパソコン!?」

 

千歌の問いかけで花丸は、パソコンについて言い出した。話通じてないし、パソコンは中学の授業で使ってなかったっけ?

 

「そこ!?」

 

「もしかして、これが知識の海に繋がっているというインターネット!?」

 

「そうね。知識の海かどうかはともかくとして・・・。」

 

パソコンを見て驚いている花丸を見た梨子が引いてるし、中学の授業でインターネット使った様な気が・・・。学校のパソコンはデスクトップパソコンだからかな?うーん、わからん。

 

「おおお・・・!!!」

 

「花丸ちゃんってパソコン使った事ないの?」

 

「実は、実家が古いお寺で、電化製品とかほとんど無くて・・・。」

 

「そうなんだ・・・。」

 

2年生組は納得してるが、俺は、何か納得出来ない。まあ、設定に突っ込むのはあまり良くないが・・・。

 

「この前沼津行った時も・・・。自動の蛇口で興奮してたり、手を乾かす機械の下にしゃがみこんだりして。」

 

「触っても良いですか!?」

 

ルビィが花丸の事を説明している時も、花丸は、目をキラキラと輝かせながらパソコンを見ている。

 

「もちろん。」

 

千歌にパソコンを触る許可を貰うと、花丸は、まるで友好に接してくる地球外生命体に初めて接する人類みたいな感じでパソコンに近づいていった。

 

「?

 

 

ずらっ!!!」

 

パソコンに一つだけ光るボタンを見つけた花丸は、好奇心のためか、直ぐに長押ししてしまった。すると、パソコンの画面は直ぐに真っ黒くなり、動かなくなった。そう、花丸が押したのはインプット(I)/(/)アウトプット(O)ボタン。分かりやすく言うと、電源ボタン。電源が切れると多少の未保存のデータは復元できるけれど、それ以外は破損するか、消えてしまう。

 

「あっ!!!」

 

「何押したの花丸ちゃん。」

 

「え?1個だけ光るボタンがあるなって。」

 

みんなにちょっと威圧気味に言われた為、花丸がちょっと控えめくらいに言うと、曜と梨子がパソコンの前に駆け出して行った。

 

「大丈夫?」

 

「衣装のデータ保存してたかなー?」

 

「サルベージなら任せろーバリバリー!!!」

 

「「やめて!!!」」

 

曜と梨子が俺の提案を拒否した。一応、俺、パソコンちょっと詳しいよ?警視庁のメインサーバーをハッキングするくらいだけど。

 

「マ、マル、いけない事しました?」

 

「はは・・・、大丈夫・・・、大丈夫・・・。」

 

花丸は、自分自身が無意識に悪い事をしたと感じたのか、涙目になっていた。涙目可愛い。

 

 

 

 

 

そして、俺たちは練習着に()()()()後、練習場所の屋上に向かった。え?俺が着替えた場所はって?決まってるじゃねえか、みんなと一緒だよ。大丈夫。俺は、今、女子高生だから。・・・。で、今、俺は、屋上の真ん中らへんにあるちょっとしたコンクリート製のひらべったい突起物の上に座りながらこれから先の部活のスケジュールをバインダーに挟んでいる予定表に書き込んでいる。その横では、コンクリートの床に座りながら千歌のパソコンを操作している曜と、それを見ている花丸の姿があった。

 

「おおっ!!!弘法大師空海の情報がこんなに!!!」

 

「うん。ここで切り替わるからね。」

 

「すごいずらー。」

 

「もう、これから練習なのに。」

 

曜が花丸にパソコンの使い方を教えているのを見ている梨子は不満をもらし、それに対し、曜は、「少しくらいいいじゃない?」と、言っていた。それに対し、千歌は、そんな事なんてどうでもよかったのか、それとも、それより重要なことなのか、パソコンについてはあまり突っ込まず、ランキングをどうするかという話を始めた。ルビィは、スクールアイドルが毎年増えていると言うと、千歌は、頭を抱え出し、こんな何も無い場所の、地味、アンド地味、アンド地味!!!のスクールアイドルだと言い出した。大丈夫。千歌も十分可愛いと思うし、胸もある方だと思うから。まあ、俺の方が1cmでかいけど?←ここ重要

 

「やっぱり目立たなきゃ駄目なの?」

 

梨子の疑問に曜は、人気は大切だと言い出すと、千歌は、何か目立つことか・・・。と、言いながら考え始めた。ちなみに俺は、最低限の助言をする以外は何も突っ込まないつもりだ。

 

「そうね・・・。例えば、名前をもっともっと奇抜な物に変えてみるとか?」

 

「奇抜って、〝スリーマーメイド〟?あ、ファイブ、いや、シックスか!!!」

 

梨子の提案で、千歌が、梨子の黒歴史を出したので、梨子がまたぷるぷる震え始め、その横では、ルビィが「シックスマーメイド・・・」とか言いながらその姿を想像していた。・・・だからなぜ俺を勘定に入れる。

 

「なんで蒸し返すの!?」

 

「って、その足じゃ踊れない!!!」

 

千歌は、梨子の事を無視して、ルビィのように想像している。

 

「じゃあ、みんなの応援があれば足ができるとか!!!」

 

「おお!!!なんかいい、その設定!!!」

 

「でも、替りに声が無くなるという・・・。」

 

「駄目じゃん!!!」

 

「だからその名前は忘れてって言ってるでしょ!!!」

 

ルビィや曜も千歌の話に乗ってくるが、梨子は、やっぱり嫌なのか、千歌の胸ぐらをつかみ、左右に揺らしていた。

 

それから、曜とルビィが人魚姫の話、千歌と梨子がスリーマーメイドとか忘れろとかで言い合いになり始めた時、3階への階段を見た花丸が小さく「・・・善子ちゃん?」と呟いるのを俺は発見した。〝善子勧誘イベント〟第1話(自分で今命名した)の始まりだ。

 

俺は、バインダーをコンクリート製のひらべったい突起物の上に置き、花丸に近づきながら「花丸、どうかした?」と話しかけた。

 

「いや、不登校の幼馴染が居たから、どうしたのかなーって。」

 

「もしかして、善子か?」

 

「何で知ってるの?」

 

花丸は、俺が善子の事を知っている事を不思議に思いながら俺を見ている。

 

「まあ、色々あってね。」

 

「色々?」

 

「うん。じゃあ、一緒に見つけに行こう。」

 

俺は、花丸との話を適当に誤魔化し、曜に一言断ってから花丸と一緒に善子を探しに校舎の中に降りて行った。

 

 

 

しばらく俺と花丸で善子ー、善子ちゃーん。と、善子を呼びながら校舎の廊下を調べていると、1箇所のロッカーだけガタンと音を立てた。俺と花丸は、無言であることを思いついた。

 

「やっぱ、居ないか。」

 

「違う場所も探そうよ。」

 

俺と花丸は、わざとっぽい演技をし、足踏みをして、その場から遠ざかる様に演技をした。すると、ロッカーの中からため息が聞こえる。間違いない。善子が入っている。花丸は、ゆっくり、忍び足でロッカーに近づき・・・

 

 

 

 

 

思いっきり開けた。

 

「学校来たずらか。」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

善子は、別の場所に行ったと思っていた花丸が目の前にいて、さらに、急にドアを開けられたのか、驚きながらロッカーから素早く出てきて、反対側に直ぐに移動した。

 

「来たって言うか、たまたま近くを通りかかったから来ただけって言うか・・・。」

 

「たまたま?」

 

たまたまでこんな所に来るとか・・・。それに、善子が住んでいるところって、沼津駅から近い狩野川沿いのマンションでしょ?そこからここまでバスで40分くらいかかるんだけど、そんな遠い所にたまたまで来るのか?制服着てるなら、学校に満々だったとか・・・。ってか、俺の警告というか、俺が言ったことちゃんと守ってたんだな(言ったのは3日前だけど・・・)。そういうところ、善子って常識あるよな。そういうところは。

 

「どうでもいいでしょ!!!そんな事!!!それより、クラスのみんななんて言ってる?」

 

「え?」

 

「私の事よ!!!〝変な子だねー〟とか、〝ヨハネって何ー?〟とか、〝リトルデーモンだってーぷぷーww〟とか!!!」

 

「はあ・・・。」

 

「そのリアクション、やっぱり噂になってるのね!!!そうよね、あんな変な事言ったんだもんね!!!終わった、ラグナロク。」

 

そう言いながら善子は四つん這いになって超高速で棚の中に戻っていく。

 

「まさにデッド・オア・アライブ。」

 

そして、バァンと音を立て、善子の入った棚の扉が閉められた。その光景を見ていた花丸は、棚の前に座り込み、誰も気にしていないと言うと、善子は、信じられないのか、棚の中から疑問の声を上げる。・・・。俺は空気か。

 

「それより、みんなどうして来ないんだろうとか、何か悪いことしちゃったのかなって心配してて・・・。」

 

「本当?」

 

「うん。ね、百香ちゃん。」

 

花丸が空気的な存在になった俺に急に話しを振ってきた。俺は、善子に、私だって、善子の様な事故紹介したのに、学校に来れてるというのは、みんな変な事言ってないっていう証拠だ、と、言うと、善子は、その事が本当かどうか確かめようとしたのか、ゆっくりとロッカーから顔を出した。

 

「本当ね?天界堕天条例に誓って嘘じゃないわよね。」

 

「ずら?」

 

花丸が?マークを出したような声で答えると、いきなりロッカーのドアが完全に開き、「まだ、まだやり直せる!!!」と叫ぶように言いながら善子が飛び出るように出てきたので、花丸は、びっくりして、腰を抜かしてしまっている。

 

「ずら丸、そして、師匠!!!」

 

「な、何ずら〜!?」

「・・・。」

 

善子は、腰を抜かしている花丸と呆れ顔をしている俺の前に立つと、「ヨハネたってのお願いがあるの。」と言い、明日から登校するという事を条件に、とある事を俺達にあることをお願いしてきたのだった。




〇次回予告〇
ー静岡県沼津市三国橋ー
この橋に青色の髪をポニーテールにしている少女が一人、立っていた。そしてその後ろから竹刀を持った男性がその少女に近づいていた。

?「・・・かーなしみを知り、ひーとりで泣きましょーおー、そしてー輝ーくウ〇トラソッ!!!」

そして、その男性は\ハァイ!!!/と言いながら少女に竹刀を振りかざしたのだった。

♪探偵アニメの映画の序盤のBGMぽいやつ

沼津市で起こったスクールアイドルを狙う連続殺人事件!!!犯人は犯行現場に謎の薄い本を持ち去っていった!!!その頃、アメリカ・マサチューセッツ州に居る小原鞠莉は・・・

Dad(パパ)!!!Come out (出てきて)!!!Today is my birthday,My birthday!!!(今日は私の誕生日、誕生日なの!!!)Dad!!!」

鞠莉は、ドアを叩くが、鞠莉の父親が出てくる様子は無い。

・・・そして、未熟DREAMERの衣装が消え、犯人からの挑戦状が!!!

百「衣装を手に入れてどうするんだ?」

果「・・・ヤフオク?」

そして、再び起きた殺人事件と俺達Aqoursの取材が重なり、案wwwのwww定www曜が捕えれてしまった!!!

犯『お前の姉は預かりましたわ。返して欲しければ1時間後内浦の国木田家の寺まで来なさい。』

百「身代金か!!!いくら用意すればいいんだ!!!」








犯『プリンですわ。』

百「何!?」
果「良心的な犯人じゃないか・・・。」

その頃、小原鞠莉は・・・。

ボディーガードが父親の部屋のドアをHPを減らしながらこじ開けようとしているが、開く気配はない。

仮面の下に隠されたホクロと黒髪の犯人の正体とは!?シリーズ第30弾、至上最高のクライマックスが待っている!!!

名探偵カナン、迷宮のヌマヅロード!!!

HappyBirthday to me(誕生日おめでとう、私)・・・.」

次回、「名探偵カナン 迷宮のヌマヅロード」
※予告と異なる場合があります
次回更新予定日は7月11日0時0分です。


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第21話 堕天使ムービー

善子ロッカー立て篭り事件(勝手に命名)が発生した次の日、1年生の教室には善子の姿があった。1、2ヶ月ぶりに学校に来た為なのか、善子はクラスメート全員に囲まれていた。

 

「雰囲気変わってたからびっくりしちゃった。」

 

「みんなで話してたんだよ。どうして休んでるんだろうって。」

 

「ごめんね。今日からちゃんと来るから。宜しく。」

 

ただ・・・、善子の今の外面を見てみると・・・誰だこいつっておもう。だって、声も言葉遣いも違うし。同じなのは頭に善子玉(笑)があるくらいだもん。

 

「こちらこそ。津島さんって、名前なんだっけ。」

 

「!!!」

 

「酷いなー。あれだよー、アレ。」

 

「確か、ヨ、ヨハ・・・」

 

これはひどい。クラスメートが善子の名前を思い出そうとしているのだが(そもそも俺と善子自身を入れて13人しか居ないのに忘れられるとか・・・)全く覚えられていない。しかも覚えているのは堕天使ヨハネの部分だけ。

 

「善子!!!私は津島善子だよ!!!」

 

「そうだよね。」

 

そして、善子との雑談タイムが始まったのだった。その光景を俺、花丸、ルビィの3人が奥から見守っている。

 

「津島さん、学校来たんだね。」

 

「ずらっ。マルと百香ちゃんがお願い聞いたずら。」

 

「お願い?」

 

「そ。堕天使が出ちゃうから、危なくなったら止めてって。」

 

花丸は、胸を張り、胸のどデカいみかん(比喩)を強調しながら言う。

 

「堕天使が出ちゃうの?」

 

「津島さんって、趣味とか無いの?」

 

ルビィが善子が昨日言ったことについて疑問に思っている時、遂にクラスメートがあの話題に入り出した。アニメを見た俺なら分かるが、他のみんなは知らない。だから焦り顔にならない様に気をつけならなければならない。

 

「趣味?と、特に何も・・・。

 

占いをちょっと・・・。」

 

何故何も無いと言いかけたし。

 

「本当?私占ってくれるー?」

 

「私も私も!!!」

 

しかも、女子は占いが好きという人が多いらしく、次々と占って欲しいという人が続出してきた。善子自爆への道が着々と整備されていっている。

 

「良いよ。えーっと・・・。

 

あ、今占ってあげるね。」

 

「やったぁ!!!」

 

クラスメートは嬉しがっていたが、この状況はヤバい。

 

「百香ちゃん、この状況どう思うずら?」

 

「非常にやばいな。これは。」

 

「マルも右に同じずら・・・。」

 

「?」

 

アニメを見た俺と昔からの善子を知っている花丸はこの後どうなるかを直ぐに想像出来たのだが、善子とあまり面識がないルビィは何も分かってない様な顔をしている。

 

「「え?」」

 

そして、善子のバッグの中から魔法陣が描かれた布が小道具と共に机の上に出され、黒いローブを羽織る善子の姿があった。クラスメートは、いきなりの事に唖然としている。

 

「これで良し!!!」

 

・・・どうしてこうなった。

 

「はい、火をつけて。」

 

蝋燭を一人のクラスメートの目の前に出したのだが、クラスメートは明らかに引いてる。なのに善子は気づく気配はない。気づけ、善子!!!

 

「え?」

 

「あ、ちょっと待ってね、百円ライターだけど、はい。」

 

「ありがとう、師匠。」

 

「「師匠・・・?」」

 

クラスメートが固まってしまっていたので、俺がすかさずライターを出し、火をつけたのだが、善子が俺の事を師匠と呼びやがった。俺に飛び火したら許さんからな。

 

「天界と魔界に蔓延る遍く全て、煉獄に落ちたる眷属に告げます。」

 

「「・・・。」」

 

善子がマイワールド全開になっているのか、全く周りが見えていない。引いているクラスメートそっちのけで占いを始めている。

 

「ルシファー、アスモデウスの従者、堕天使ヨハネと共に、堕天の時が来たのです!!!」

 

そこまで善子が言い切った時、ようやく善子は花丸からの冷ややかな視線と、自分がやらかしてしまったことに気づいた。

 

「善子。やっちまったな。」

 

善子は、ドン引きしているクラスメートと呆れながらろうそくの火を消した花丸と、俺の前で、ただ、固まる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「何で止めてくれなかったのー!!!せっかくうまくいってたのにー!!!」

 

ところ変わってスクールアイドル部部室。部室の中、いや、体育館周辺には、善子の悲痛な叫びが響き渡った。

 

「まさかあんな物持ってきてるとは思わなかったずら・・・。」

 

そんな叫びを聞いた花丸は、そう言いながら机の下を覗いた。善子は、恥ずかしかったのか、ずっと机の下に姿を隠している。

 

「どういう事?」

 

「ルビィもさっき聞いたんですけど、善子ちゃん、中学時代、ずっと自分は堕天使だと思い込んでいたらしくて・・・。まだその頃の癖が抜けきれてないって・・・。」

 

梨子が疑問に思った時、ルビィが花丸とかから聞いた話をそっくりそのまま返した。

 

善子は「わかってる・・・。自分が堕天使なはずは無いって・・・。そもそもそんなもん居ないんだし・・・。」と言いながら出てきた。

 

「だったら、どうしてあんな物学校に持って来たの?」

 

梨子が苦い顔をしながら善子に聞くと、善子は、「それは・・・、まあ、ヨハネのアイデンティティのようなもので、あれが無かったら私は私で居られないっていうか」と言い、そこまで言った時に、また自分はやってしまったと感じていた。やっぱり善子は堕天使から抜け出せないような気がするんだがなぁ・・・。

 

「なんか、心が複雑な状態にあるということはよくわかった気がする・・・。」

 

「ですね。実際今でもネットで占いやってますし・・・。・・・、あれ、パスワードなんだっけ・・・?」

 

ルビィは、梨子の言ったことに対し、証拠の動画を見せようと、千歌の私物のパソコンをいじっていたが、自分のアカウントのパスワードを忘れてしまったようだ。

 

「貸して。私の使うから。」

 

『またヨハネと堕天しましょう』

 

俺は、パソコンをルビィから受けとると、直ぐにメールアドレスとパスワードを入力し、某コメントが流れる動画投稿サイトを開き、善子のアカウントの投稿履歴から動画を出し、流し出した。

 

善子は、動画を流されたくなかったのか、机の上に乗り、その勢いでパソコンも同時に閉め、みんなに必死に普通の女子高生になりたいと言っていたのだが、反応は、花丸が難しそうに「ずら・・・。」と言っていただけだった。

 

・・・のだが、千歌の「可愛い」の一言で事態は急変する。周りのみんな(俺も含め)は疑問に思っている。

 

「これ、これだよ!!!」

 

「千歌ちゃん?」

 

曜が千歌が何をしようとするのかが分からなく、千歌に呼びかけたのだが、千歌の耳にはそんなこと届いていなかった。千歌は、善子の乗っかっている机の上に乗り

 

「津島善子ちゃん、いや、堕天使ヨハネちゃん!!!スクールアイドル、やりませんか!?」

 

と、言ったのだった。その事に対し、善子は・・・

 

「なに・・・?」

 

現状をよく理解出来ていないようだった。

 

 

 

 

それから俺、曜、善子の3人で我が家、渡辺家のリビングで衣装作りを始めた。つくるのは6着。何故1着多いのか曜に聞いてみたところ、予備と言っていた。本当に予備なのか不安なのだが・・・。俺の担当はルビィと花丸、梨子の分、曜の担当が千歌と曜、そして、予備の分だ。善子はデザインや指導、生地を切る係として呼ばれた。俺の家なら大通り2本分と、善子の家もかなり近いから便利だ。

 

それから3時間ほどで1着ずつ仕上げ、残り4着のデザインが終わったところで解散となった。解散と言っても俺と曜は同じ家に住んでいるのだがな。そして、それから仕事から帰宅した母も混ぜ、5着は完成させた。残り1着、それは次の日に持ち越しになった。次の日はこれから行われる1年生の林間学校の代休で一応、全学年休みだ。午後に練習をするため、集合は午後1時なので、早起きすれば完成できる。そう思いながら俺は眠りについたのだが・・・

 

 

 

「何で起こさなかったぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「寝顔が可愛かったから♡」

 

目覚めた時、時計の短針は11、長針は6を指している、つまり、11時30分だ。そう、寝坊だ。完全に。俺は、急いで髪をとかし、制服に着替え、朝食(もう昼食なのだが、気にしたら負け)をかき込むように食べ、歯を磨き、顔を洗ったあと、机の上に置いておいた明日に持ち越した分の衣装を縫うべく、生地を探したのだが、何故か無くなっていた。俺は裁縫はどうなっているのか曜に聞いてみると、曜が俺の寝顔を見ながら縫ったとか返してきた。ハイスペックなのはいいのだが、なんか曜がどんどんシスコンになってってないか?

 

そんなことを思いながら曜と一緒に千歌の家に向かう為に、準備をし、家を出たのだった。

 

 

 

そして、千歌の家、旅館〝十千万〟では、堕天使風の衣装に着替えた9人と俺の姿があった。

 

「こっ、これで歌うの?この前より短い・・・。これでダンスしたらさすがに見えるわ・・・。」

 

「だいじょぶー!!!」

 

「そういう事しないの!!!」

 

梨子が堕天使衣装でダンスをするのを恥ずかしがっていたところ、千歌が自分自身のスカートを捲り、中に履いているハーフパンツを見せてきた。まあ、梨子に咎められたのだが。でも、それ以前に言いたいことがある。

 

「はあ・・・。良いのかなぁ・・・本当に・・・。」

 

梨子が溜息をつきながら言ったところ、千歌は、「調べたら堕天使アイドルって居ないし、結構インパクトあると思うんだよね。」とか、訳の分からないことを言っていた。

 

「なんか恥ずかしい・・・。」

 

「落ち着かないずら・・・。」

 

ルビィや花丸も恥ずかしそうにしているが、一番の問題は俺だ。だって・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で私まで・・・。」

 

「可愛いじゃん♡」

 

・・・曜によって俺まで無理矢理堕天使衣装を着せられていたからだ。しかもサイズぴったり。

 

「もしかして、昨日の予備って・・・。」

 

「百香ちゃんのだよ?」

 

曜は悪びれることもなく白状してきた。

 

「謀ったな、曜!!!」

 

しかも、曜と手を組んだのだろう花丸に「曜さんに自己紹介のことバラすずら」とか脅迫まがいの事を言われたため、脱ぐことは出来なかった。

 

「ねえ、本当に大丈夫なの?こんな格好で歌って・・・。」

 

梨子は心配そうに千歌に聞くが、千歌は「可愛いねぇー!!!」と、全く違うことしか言わない。千歌は本当にアレだな。なんて言うか、あれだ。話を聞いていないというか・・・。

 

「そういう問題じゃない。」

 

「そうよ。本当に良いの?」

 

梨子にツッコミに続き、善子も千歌に尋ねてくる。

 

「これでいいんだよ!!!ステージ上では堕天使の魅力をみんなで思いっきり振りまくの!!!」

 

「堕天使の・・・魅力を・・・?

 

ダメダメ!!!そんなのドン引かれるに決まってるでしょ!!!」

 

「だいじょぶだよ!!!きっと、大人気になるよ!!!」

 

「大人気・・・。」

 

善子も最初は堕天使衣装に否定的だったのだが、千歌の〝大人気になる〟という一言で善子も直ぐに協力ムードになってしまった。

 

「もう・・・、しょうがないわね・・・。」

 

曜は、部屋から出ていこうとする梨子に「どこ行くの」と尋ねると、短く「お手洗い。」と答え、梨子は千歌の部屋から出て行った。

 

・・・アニメ通りなら、梨子はこの後、美渡としいたけに出会い、美渡の静止も間に合わずにしいたけが梨子を追い始めるだろう。

 

「イヤぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「ちょっ、しいたけ!!!」

 

梨子の悲鳴と美渡がしいたけを止める声、そして、バタバタと動き回る音が廊下から聞こえてき始めた。

 

「ちょ、梨子ちゃん?」

 

「やめて!!!来ないでぇ!!!」

 

千歌が梨子の様子を確認しようと梨子に呼びかけてみるのだが、梨子はしいたけを撒こうと必死なのか、走り回って聞く耳すら持たなかった。

 

「だいじょーぶ?しいたけは大人しヴァッ!?

 

梨子ちゃん!?」

 

「とりゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「「「飛んだ・・・。」」」

 

「わん!!!」

 

梨子は、しいたけから逃げるのに必死で、隣の美渡の部屋に逃げ込み、しいたけもそれを追う。千歌は、襖越しだが、梨子にどうにか呼びかけてみるのだが、梨子は、襖をぶち破り、下敷きになった千歌を踏み越え、窓から梨子の部屋に通じるベランダに向かって飛んだのだった。

 

「ひっ!?」

 

「「「おおおー!!!」」」

 

ベランダの床にお尻を打ち付けられた梨子は、悲鳴をあげたが、千歌の部屋にいる(俺を除く)6人は拍手をしながら歓声をあげていた。

 

「おかえりー・・・。」

 

「ただいま・・・。」

 

梨子は、何かを言おうとして、ベランダからこちらを見たのだが、梨子の母親が挨拶をしたことで、母親がいる事に気づき、そのせいで怒りより恥ずかしさが上回り、その場でへなへなと座り込んでしまい、結局何も言う事は無かった。

 

そして、俺達は学校の屋上に移動し、ムービー撮影をした・・・のだった・・・。だったんだけども・・・。

 

『みんなも一緒に堕天しない?』

 

『『『しない?』』』

 

こんな物がインターネットで全世界に配信されたなんて絶対に信じたくない。ビデオの中身は堕天使ヨハネを紹介するムービーと、宣伝を兼ねているので、メンバーは全員出るようになっている・・・。

 

・・・なっているのだが何故マネージャーまで入れられなくちゃならないのだ。しかも、このムービーは我々(俺と梨子)に大変なものを作りました。心のキズです。

 

「やってしまった・・・。」

 

「俺達の黒歴史が生み出されたな、梨子。」

 

「ええ。今すぐにでも消したいくらい・・・。」

 

そう、心にキズを作ってしまい、俺と梨子は、部室の隅に暗い雰囲気でいる。

 

「でも、順位はかなり高いよ?」

 

曜が言っているように、Aqoursの順位がかなりの高ペースで上がっているのは分かってる。分かってるけど

・・・見たくない嗚呼見たくない見たくない

 

「コメントもたくさん!!!凄い!!!」

 

「〝ルビィちゃんと一緒に堕天する〟!!!」

 

「百香ちゃんお持ち帰りしたい!!!」

 

「〝ルビィちゃん最高〟」

 

「百香ちゃん〇したい♡」

 

「〝ルビィちゃんのミニスカートがとてもいいです〟」

 

ルビィの一言で、みんながパソコンに表示されたAqoursファン(この世界の俺ら)のコメントを読み始めた。俺は、壁に突っ伏しているので直接画面は見えないので、当然、この中には曜の私情も入っていると思われる。いや、入ってる。

 

「もうやめてくれもうやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ・・・。」

 

「百香ちゃんがただの案山子になっちゃったずら。」

 

「案山子は喋らないよ?」

 

もう俺には、ムービーを止める気力すらなかった。さらに花丸が俺の事を案山子扱いしてくる。曜は否定してる様だが、何故かご満悦曜スマイルになっている。(何だよご満悦曜スマイルって)俺が部室から逃げ出そうとした時、スピーカーから放送が始まる前の3点チャイムが鳴り、

 

『スクールアイドル部!!!今すぐ生徒会室に来なさい!!!今すぐに!!!ですわぁ!!!』

 

ダイヤのキレ声での呼び出しの放送が鳴ったのだった。

 

「誰か・・・、・・・誰か俺の心を補強する時間をください・・・。」

 

そんな俺の小さな呟きは、呼び出しによって騒がしくなった6人のスクールアイドル達の声によって掻き消されたのだった。




〇次回予告〇
次回は善子ヨハネのBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthday善子ヨハネ
次回更新予定日は7月13日0時0分です。


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特別編4 Happy Birthday 善子(ヨハネ)

今日は津島善子ヨハネの誕生日です!!!

今回もパラレルワールド全開っ!!!


それは─

ある一通のメールから始まった1日のお話──

 

〝明日、一緒に買い物、付き合ってしてくれる?男装でね。〟

 

・・・。?

 

朝、制服に身を包み、バス停でバスを待っている最中にこのメールを読んだ俺は・・・、最初、この文章の意味を理解出来なかった。

 

バス停にバスが到着すると、バスに乗り込む。いつもは車通学だが、昨日の夕方から今日夕方まで修理に出しているため、今日はバス通学なのだ。ちなみに曜は、千歌と同じ委員会に所属していて、朝にその委員会の集会があるため、このバスには乗っていない。

 

バスに乗り込むと、一番後ろのシートには、善子が座っているのが見えた。善子は、バスに乗りこんできた俺の姿を見たと同時に顔を赤くして目を反らした。

 

「おは善子。」

 

「・・・。」

 

俺は、横に座り、いつもの様に挨拶をした。これを言うと、善子は必ず「だからヨハネよ!!!」と、言い返すのだが、今日は何故か顔を赤くしたままで、何も言い返して来ない。

 

「おーはよーしこー。あれれー?聞こえてないのー?おっはよーーーーしこーーーー。」

 

「聞こえてるわよ!!!」

 

何回も言い直すと、善子は顔を赤くしたまま直ぐに言い返してきた。顔が赤くなっている理由は、恐らく・・・、さっき俺に送ってきたメールだろう。

 

「・・・のよ・・・。」

 

「え?」

 

善子がボソッと言った一言を俺は聞き取れなかった。

 

「なんで今日は車じゃないのよ!!!」

 

「そりゃあ、修理に出してるからな。」

 

仕方ないだろ。車がない状態で学校に来る手段はバスか自転車くらいしかないんだから。

 

「・・・。」

「・・・。」

 

そして、何故かしばらくの間、バスの中は沈黙に変わり、人の少ないバスの車内で聞こえる音は、バスのエンジン音や、時よりスピーカーから鳴る次のバス停のアナウンスだけになった。

 

『次は─、マリンパーク、マリンパークでございます。』

 

「・・・。喋れよ。果南達乗ってくるぞ?」

 

「・・・。分かったわよ!!!」

 

淡島への連絡船が出ている重寺港の前のマリンパークバス停に差し掛かった時、遂に善子はやけくそ気味で話し始めた。

 

「明日、買い物に付き合ってよ!!!それだけ!!!

 

・・・まあ・・・、用事があったらいいけれど・・・。」

 

でも、最後の方は、恥ずかしくなってきたのか、声が小さめになっていた。こんな善子見たことない。あ、pi〇ivとかに投稿されてる二次創作は除く。

 

「分かった。いいよ。」

 

「やっぱダメよね・・・。

 

・・・え?

 

 

・・・い、いいの?」

 

俺は2つ返事で返したのだが、善子はその事が信じられないのか、驚いた後におずおずと聞いてきた。

 

「いいよ。」

 

「本当に?」

 

「いいって言ってんだろ。」

 

「いっっっやっっったァァァァァァァ!!!」

 

善子に何回も念を押すように聞かれたので、めんどくさ気味に何回か返すと、善子は、上機嫌な声で喜び始めた。まあ、この後運転士に止められるのだが。

 

で、その後、果南達がバスに乗ってくる前に善子の買い物に付き合うことが決まり、集合場所は沼津駅南口にある車輪のオブジェの前で待ち合わせとなった。恐らく、善子は『男装百香が、駅でまーってる、心ウキウキワクワクー♪』(クリアア〇ヒのCM)状態なのだろう。善子のやつ、1日中ずっと笑顔だったからな。明日、善子にとって幸せな日になればいいと、俺は思ったのだった。

 

 

 

次の日、俺は、沼津駅南口のオブジェの前、言い換えれば、沼津機関区の記念碑の前に立っている善子を探していた。

 

善子はすぐに見つかった。あの頭に丸いシニヨン(善子玉)を作っている青がかかった黒髪の女の子と言えば、善子くらいしかいないからな。俺は、イケボな声を作り出してから、善子に話しかけた。

 

「お待ちどー。待った?」

 

「いや、今来たとこよ。」

 

俺は、本当?と、問いかけると、善子は「本当本当。」と言いながら俺の全身を見てきた。

 

「へー。結構違和感無いわね。」

 

善子が男装した俺の服装、髪を見た最初の反応はこれだ。ミルクグレージュ色で、セミロングの長さの俺の髪の毛は真っ黒な短髪のカツラになっており、善子よりも()()()(ここ大事)にでかく、バストが83もある胸はサラシによってスッキリ押し込まれている。無理に押し込んでいるのか、少し苦しいんだが、まあ、1日くらいは良いだろう。

 

「じゃあ、行きましょう。」

 

善子は少し顔を赤くしながらそう言い、俺の片腕に抱き着いてきた。傍から見ただのイチャイチャカップルだが、実際は百合カップルになるのだろう。

 

 

俺と善子が駅前から向かったのは商業ビル内にある普通の服屋。今日の善子の私服は黒を基調とした服なのだが、向かった服屋には黒を基調とした服は少ない。まあ、服屋で売っている服の大半が黒を基調とした服だったらそれはそれでちょっとアレだがな・・・。

 

というか、善子ってこういう服屋とか来るんだ。俺ずっと善子の私服は全部ユ〇クロとかで買ってるかと思っちゃった。

 

「なんか失礼な事考えてない?」

 

「そんな事ないです。」

 

両手に試着するであろう服を持っている善子が心を読んできたように少しムッとした顔で尋ねてきた。何?浦女の生徒って人の心を読み取る能力でもあるの?

 

俺がそう思い始めた時、善子は、「じゃあ、試着するわよ」と言い、両手に試着する服を持って試着室に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝善子は何でも似合う〟

 

──服を試着した善子を見た瞬間、俺はそう思った。

 

恐らく、何を着てもここら(アニメ)の世界の住民は何でも似合うんだ。良いなぁ・・・。

 

 

いやぁ、似合ってますねと、店員に話しかけられた俺は

「そうですよね!!!わかりますか!?」

と、自信満々に返した。善子は顔真っ赤だが。

 

そして、試着も終わり、善子は服を全部購入する事になった。俺が全額出すと言ったら流石に善子に拒否されたのだが。

 

「いやぁ、素敵な彼女さんですねぇー。」

 

そんな光景を見ていた店員がそんな事言ってきた。いや、彼女じゃなくてただの友人なのだが。俺は、自分の事を店員にばらそうと思った瞬間、善子に睨まれた。あ、話すなという事か。OK分かった。

 

「はい!!!顔から性格、全てが素晴らしいので!!!」

 

だから善子を思いっきり持ち上げてあげた。善子は急に恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして、俺を店外、いや、ビルの外に連れ出し、ある1つの紙袋を俺に押し付けてきた。

 

「今日はありがとうね!!!じゃあ!!!」

 

善子はそう言い放つと、赤い顔のまま走ってここを去っていった。ビルの入口には、ただ呆然と立っている俺だけが残されていた。

 

5分くらい経ち、はっと我に返った俺は紙袋の中を見てみた。中には、可愛らしい弁当箱が2つ──。

 

とりあえず、南口ロータリーに移動した俺はベンチに座り、俺用かと思われる弁当箱を開いてみた。中には、善子が握ったと思われるおにぎりや、手作りだろうと思われる卵焼きや、唐揚げ、タコのように切込みがはいっているウインナー、そして、俺の好きなブドウなどが入っていた。

 

「いただきます。」

 

俺はウェットシートで手を拭いたあと小声でそう呟き、卵焼きを一口食べた。

 

「これは・・・!?」

 

卵焼きは、辛党の善子が作ったとは到底思えないような甘さだった。俺は、もしやと思い、もう1つの弁当箱を開けてみると──

 

 

 

 

案の定、唐辛子やタバスコなどで真っ赤に染まっていた。これを見た俺は、善子が恥ずかしくて逃げ出したんだと安易に推測できた。だって、こんな辛いのなんて、俺食べられないから。

 

俺は、弁当箱を紙袋にしまうと、善子が逃げて行った方向に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、お弁当の入った紙袋を百香に押し付けてつい逃げ出してしまった。恥ずかしい事や嫌なことがあると逃げ出してしまうのは私の悪い癖だ。本当はこの後、南口ロータリーのベンチで男装した百香と一緒に昼食を食べてまた違う場所に買い物に行こうと思ったのに。

 

「善子。」

 

「誰!?」

 

私は、後ろから声をかけられ、びっくりしながら後ろを向くと、そこには、男装したままの百香が紙袋を大切そうに抱えて立っていた。

 

「何?」

 

「一緒に食べよ?」

 

私は、こくりと頷くと、駅の方向に向けて百香と歩き出した。ああ、私ってヘタレ堕天使だわと、つくづく思う。それに、一緒に居るだけで楽しくて、気分が快くなる人って、花丸以来だわ。・・・どうしよう、私にはもう花丸が居るのに。

もし──、

もし仮に───、

百香と花丸、どちらか1人を選べと誰かに言われたら──

私は絶対に選べない──




〇次回予告〇
♪ちーかネットちーかネットー、夢の千歌ネット高海ー♪デデデ、デデデデン♪

千歌「さー、皆さん、今日の商品はコチラ!!!〝梨子ちゃんの使用済みパンツ〟です!!!」

千歌「しかも、今なら中学時代の曜ちゃんの使用済みリコーダーをつけて19,800円!!!19,800円です!!!リボ払い、分割払いも可能!!!」

♪フリーダイヤル055-943-×〇×〇♪
♪お電話ください、今ーすぐーにー♪

次回、千歌ネット高海
※予告と異なる場合があります。
次回更新予定日は7月25日0時0分です。


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第22話 ありのままで

生徒会室にあるパソコンからは、スクールアイドル部の新しい部員紹介─善子のムービーが流されている。あの、俺と梨子の黒歴史になってしまったムービーだ。

 

「Oh!!!Pretty bomber head!!!」

 

「プリティー?どこがですの!?こういうのは破廉恥と言うのですわ!!!」

 

鞠莉は、可愛いと言ってくれたのだが、ダイヤはかなり御立腹みたいだ。まあ、破廉恥とは言わないが、(俺が)着たくないこんな衣装を妹が着させられたらこうなるのも分からなくない。いや、俺は着たくなかった。なのに、曜と花丸のせいで着る羽目になってしまった。まあ、破廉恥では無いような気がするが・・・。

 

「いやー・・・、そう衣装というか・・・」

 

「キャラというか・・・」

 

「だから私は良いの?って言ったのに・・・」

 

千歌と曜が一応、この衣装にした言い訳なんやらをするのだが、梨子はダイヤ側につくようだ。まあ、俺もダイヤ側だが・・・。

 

「一番の常識人だと思った百香さんまであのような格好をしたのですか!?」

 

「・・・ダイヤさん・・・、殺してくれ・・・。一思いに・・・。死にたい・・・。」

 

ダイヤ・・・俺の黒歴史をほじくり返すな・・・。死にたくなるだろう・・・。

 

「どうなったら百香さんがこうなるのですか!?顧問の時雨(ときさめ)先生は止めなかったのですか!?」

 

ダイヤは、半ば放心状態になっている俺に驚きながら言ったところ、千歌は、

 

「あはは・・・。時雨先生は基本的に私達にほぼ全て丸投げしてるので・・・。」

 

と言った。アニメでは放送されていないのだが、実は、スクールアイドル部にも顧問がいたのだ。1年次主任でロリババアの時雨先生。彼女は、先生が少ない為なのか、スクールアイドル部だけでなく、卓球部、吹奏楽部、サッカー部の顧問をしており、スクールアイドル部は、出来のいい(と、校内では勝手に言われている)俺が居るためなのか、完全に俺に顧問の仕事を放り投げている。まあ、4つも正顧問に任せられるのは大変だから仕方ない事だろう。

 

「・・・生まれ変わったら砂利になりたい・・・。」

 

だが、こんな事を思っていながらも俺の心の修復は終わっていない。

 

「・・・そもそも、(わたくし)がルビィにスクールアイドル活動を認めたのは、節度を持って自分の意思でやりたいと言ったからです!!!こんな格好をさせて注目を浴びようなんて・・・」

 

「ごめんなさい・・・お姉ちゃん・・・。」

 

ルビィは、ダイヤの言ったことに対し、謝ったところ、ダイヤは、自分が少しヒートしすぎたことに気づいたらしい。

 

「生まれ変わったらバランになりたい・・・。」

 

ダイヤは、俺の独り言を無視しながら一息をつくと、

 

「とにかく、キャラが立ってないとか、個性がないと人気が出ないとか、そういう狙いでこんなことするのは頂けませんわ。」

 

と、言った。

 

「生まれ変わったら八ッ場ダムになりたい・・・。」

 

「でも・・・一応順位は上がったし・・・。」

 

「そんなもの一瞬に決まってるでしょう?試しに今、ランキングを見てみるといいですわ!!!」

 

曜の呟きに反応したダイヤは、生徒会長机の上に置いてあったノートパソコンを俺達の方向に投げてるように渡した。曜がすぐさまそのパソコンでランキングを確認したところ・・・

 

「あっ!!!」

 

案の定順位は下がっていた。まあ、仕方ないね。アニメ通りだし。

 

「本気で目指すならどうすればいいか・・・、もう一度考えることですね!!!」

 

「はっ、はい・・・。」

 

千歌は、ダイヤの態度に押され、ただ、言われた事を肯定するしかなかった。雰囲気に耐えられなかった俺達は、その後、生徒会室から脱兎のごとく抜け出したのだった。

その後、反省会っぽいことをするため、浦女前バス停が面している小さな岬っぽい場所にみんなで腰掛けていた。

 

「失敗したなぁー・・・。確かにダイヤさんの言う通りだね・・・。こんなことでμ'sになりたいなんて失礼だよ・・・。」

 

千歌がそう言うと、ルビィは千歌さんが悪いわけじゃないですと、言った。確かに、みんな止めてなかった(梨子は止めたけど)から、連帯責任でみんな悪いでいいと俺は思う。

・・・俺はそう思うのだが、善子は全て自分が悪いと思ってしまったのだろう。

 

「そうよ。

 

いけなかったの、堕天使。」

 

だから善子は自身の堕天使を否定し始めた。

 

「え?」

 

「やっぱり高校生になっても通じないよ。」

 

「それは・・・!!!」「なんかスッキリした。明日から普通の高校生になれそう。」

 

千歌は、否定し始める善子に何か言おうとしたのだが、善子に言葉を被せられ、完全に黙ってしまった。ルビィは、スクールアイドルはどうするのかと善子に問いかけて見ると、善子は、

 

「うーん・・・、やめとく。迷惑かけそうだし・・・。じゃあ。」

 

と答え、バス停の方向に少し、歩いて行く。そして、善子は、何かを思い出したかのように1回足を止めると、くるっとこっちを向くと、

 

「少しの間だけど、堕天使に付き合ってくれて、ありがとね。楽しかったよ。」

 

笑顔でそう言った。その時の善子の顔は清々しいような顔のように普通の人は思うが、俺は、無理して作っている顔にしか見えなかった。だから俺は・・・

 

「善子、ちょっと待て。」

 

善子を止めた。善子は、何?と言いながらもう一度振り向く。

 

「本当にそれがお前の本心か?自分の気持ちに嘘ついてないのか?」

 

「・・・ええ・・・。」

 

俺が、少し善子に迫ってみても、善子は笑顔のままだった。ただ、少しだけ顔を暗くしたが・・・。

 

そして、善子は沼津駅行きのバスに乗って帰って行ってしまった。

 

その光景を見ていた梨子がぼそっと言った。

「どうして堕天使だったんだろう。」

と。すると、花丸は海面を眺めながら言い出した。

 

「マル、わかる気がします。ずっと、普通だったんだと思うんです。私達と同じで、あまり目立たなくて。そういう時、思いませんか?これが本当の自分なのかなって。元々は堕天使みたいにキラキラ輝いていて。何かの弾みで、こうなっちゃってるんじゃないかって。」

 

「確かにそういう気持ち、あった気がする。」

 

梨子が肯定したように、実際、アニメの世界だけでなく、現実世界でもありえる話だと思える。人々の荒波に揉まれていくうちに、本当の自分って何だろうと思ってしまうことだってある。俺だって、百香と慶喜の2つを使い分けているのだが、たまにどれが本当の自分なのか分からなくなっている。今も、昔も──。

 

「・・・幼稚園の頃の善子ちゃん、いつも言ってたんです。〝私、本当は天使なの。いつか羽が生えて、天に帰るんだ!!!〟って・・・。」

 

花丸がそう言うと、千歌は、何かを決心したかのように水平線上を見つめ始めた。恐らく、また勧誘しに行くのだろう・・・、

・・・善子を。

 

「・・・千歌姉、善子の家、行くんでしょ?」

 

俺がそう尋ねると、千歌は千歌はコクっと頷いた。やっぱりな・・・。多分、明日に行くだろう。鉄は熱いうちに打てと言うからな。多分、俺も堕天使衣装を着せられるのだろうか?いや、千歌の事だ。絶対着せてくるだろう。まあ、明日くらいは我慢しよう。明日、善子の家を訪問した時、善子は十中八九逃げ出すだろう。で、今の一番の問題は、その逃げ出したルートだ。善子と俺達が走るのは沼津駅南口をぐるぐるしてから沼津港まで行くルートだ。全長約3km、女子高生が走るのには厳しいルートだ。特に体力がない花丸には。

恐らく、走る以外の別の手段があるのだろう。例えばバスとか。明日までによく考えておこう。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

そして、次の日、善子の住むマンションの1階、倉庫入り口で善子のことを狩野川沿いで待っていた。まあ、待っていたと言うより、待ち伏せていたという方が正しいのだが。

 

「堕天使ヨハネちゃん。」

 

1階の倉庫から出てくる善子に千歌が呼びかけると、善子は、ゆっくりながらもこちらを振り向いた。

 

「「「スクールアイドルに入りませんか?」」」

 

俺達みんなで声を合わせて善子を勧誘すると、善子は、「はあ?」と言いながら首を傾げた。

 

「ううん。入ってください、Aqoursに!!!堕天使ヨハネとして!!!」

 

「何言ってるの!?昨日話したでしょ?私は・・・」

 

「良いんだよ!!!堕天使で!!!自分が好きならそれでいいんだよ!!!」

 

千歌が善子を説得し始めた。

 

「昨日、質問した時の善子、未練がましい顔してたぞ?」

 

「・・・駄目よ。」

 

俺も善子に言い寄ると、善子は走りだした。全長約3kmの鬼ごっこの始まりだ。

 

「あ、待って!!!」

 

堕天使衣装のまま、俺達は善子を追いかける。この格好で表通りを走るなんて正気の沙汰ではないと思うのだが、そんな事考える暇なんてない。

 

「生徒会長に怒られたでしょ!!!」

 

「うん!!!それは私達が悪かったんだよ!!!善子ちゃんは良いんだよ!!!そのまんまで!!!」

 

「どういう意味ー!?」

 

千歌の走りながらの説得を聞きながらアーケード名店街や仲見世商店街、沼津駅、リコー通りなどを抜けて善子は逃走する。運がいいのか悪いのか、善子が横断歩道を横断する時は必ず車の流れが途切れたり、信号が青になったりしていた。

 

「しつこーい!!!」

 

そして、ついに善子は、しつこく追ってくる俺達を振り切るためにバスに乗ってしまった。俺は、昨日の時点でこの事も想定済みだったため、動揺せず、すぐに手を挙げて走っていた空車中のタクシーを1台停めた。

 

「前のバスを追ってください。」

 

2年生3人を乗せ、助手席に座った梨子に2000円を渡した後、運転手にそう伝えると、直ぐに外からドアを閉めた。セダン型の為、全員が乗り切れない。そのため、俺達1年生3人は別のタクシーに乗ることになるのだ。

 

・・・

 

 

乗ることになるのだが・・・、空車のタクシーがなかなか来ない。善子が乗ったバスと2年生が乗ったタクシーはもう既に見えない。タクシー、早く来い・・・。

 

 

 

・・・それから5分ほどしてから千歌達の乗ったタクシーとは別の会社のタクシーを捕まえた。もしすぐにタクシーが捕まったならば直ぐに追えたのにと、思ったのだが、もうこうなってしまっては仕方ない。先回りしかない。

 

「深海水族館まで!!!」

 

助手席に滑り込むようにして乗り込み、即座にタクシー運転士のおっちゃんに伝えた。後部座席に座った1年生2人は疑問に思ってるが、まあ、勘だと言えば大丈夫だろう。

 

「!!!止めてください!!!」

 

「え?お客さん。まだ水族館前だよ?」

 

「いいから!!!」

 

タクシーは沼津港まで通じる県道を走り、沼津深海水族館前のバス停でのところで、俺は、タクシーを止めた。バス停には、善子の乗ったバスと2年生組が乗ったタクシーが止まっていたからだ。

 

「お釣りはいりません!!!」

 

俺は、そうドライバーに言うと花丸とルビィと共にすぐにタクシーから飛び出した。そして、2年生と合流し、善子善子追跡劇を再開させる。

 

「私ね、どうしてμ'sが伝説を作れたのか、どうしてスクールアイドルがそこまで繋がって来てるのか、考えてみて分かったんだ!!!」

 

「もー、いい加減にしてー!!!」

 

沼津深海水族館と沼津 みなと新鮮館の前を抜け、沼津港北西側付近まで善子の追跡劇は続いた。ついに、善子は諦めたのか、体力が無くなったのか、沼津港大型展望水門びゅうおの北側出入口付近で走るのをやめてしまった。

 

「ステージの上で、自分の好きを迷わず見せることなんだよ!!!お客さんにどう思われるとか、人気がどうとかじゃない。自分が一番好きな姿を、輝いている姿を見せることなんだよ。

 

だから善子ちゃんは捨てちゃダメなんだよ!!!自分が堕天使を好きな限り!!!」

 

「良いの?変な事言うわよ。」

 

千歌の最後の説得で、善子は本当に受け入れてくれるのかと疑問に思っているのか、そう訪ねてきた。

 

「良いよ。」

 

「時々、儀式とかもするかも。」

 

曜が二つ返事で答えると、善子は少し希望を持った感じでまた俺達に尋ねた。

 

「そのくらい我慢するわ。」

 

「リトルデーモンになれって言うかも・・・!!!」

 

梨子が答えると、善子は、さっきよりも強い希望を持った感じで最後の問を尋ねた。

 

「それは・・・。でも、ヤダったらヤダって言う。

 

だから。」

 

流石に千歌もリトルデーモンになるのはちょっとアレだったらしい。けれども、千歌は嫌そうな素振りは全く見せずに善子に近づき、微笑みながら黒い羽を差し出した。善子は、すべてを受け入れてくれたらしく、黒い羽を受け取った──

 

 

 

Aqoursメンバーの6人目、津島善子Aqours加入

Aqours完成まで

残り3人

 

 

 

そしてその頃、静岡県沼津市の反対側ら辺に位置する石川県加賀市の福井県側にある地区のある民家の部屋では、1人の男子高校生が深刻そうな顔をしながらパソコンの画面をずっと見つめていたのだった。




〇次回予告〇
次回は千歌のBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthday 千歌
次回更新予定日は8月1日0時0分です。


※更新回数についてのお知らせ※
次回更新から(特別編を含み)今年の8月中のみ毎週水曜日更新となります。ご注意ください。


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特別編5 Happy Birthday千歌

今回は千歌ちゃんのお話です。ってかこの話って特別編なのか分からないです。


※更新回数についてのお知らせ※
今回から今年の8月中のみ毎週水曜日更新となります。ご注意ください。



「あー暇だー。」

 

部屋にあるプラモデルも全て組み立て終わり、漫画もすべて読み終わり、夏休みの宿題も全て終わって完全に暇な俺は、何か楽しいことないかなと思いながらベッドの上に寝そべっていた。

 

その時、俺のスマホに1件の電話がかかってきた。着信者は・・・千歌だった。もしかしたら、花火大会に誘ってくるのかもしれない。今日と明日は狩野川の花火大会だからな。ちなみに明日は1年生メンバー組と一緒に行くつもりだからもし、誘ってきた日が明日だった場合は千歌には悪いけど、断っちまうがな。

 

「はい、百香です。」

 

『あ、もしもーし。私だよー、千歌だよー。』

 

とりあえず電話に出ると千歌の能天気っぽい声が聞こえてきた。

 

俺が「何だー?」と聞くと、千歌は

 

『今日暇でしょー?2人で花火大会行こーよー。』

 

と言ってきた。俺の予想通りだ。ん?2人?曜とか梨子抜きで?

 

「なあ、千歌姉。梨子とか曜姉は誘わないの?」

 

気になった俺は千歌に尋ねた。すると千歌はすぐに「梨子ちゃんと曜ちゃんとは明日行く」とすぐに返答してきた。

どうやら千歌は俺と2人で1日目である今日の花丸大会に行きたいらしい。

 

『で、どうなの?行ける?』

 

そんな事を考えている事も知らない千歌は、すぐに返事をする様に催促してきた。

・・・まあ、今日は特に重要な予定も入ってないし、大丈夫だろう。

 

「ああ。で、集合場所は?」

 

『6時半に沼津駅南口のあの車輪みたいな変な像の前ねー。あ、浴衣で来てね。じゃ。』

 

千歌に行く旨を伝えたらすぐに集合場所を言ってきてすぐに切れてしまった。浴衣か・・・。確か、明日行く時に着る浴衣は黒澤家のを借りるんだっけ・・・。今日からでも借りれるかな?ん?今の時間は?今の時間は・・・、4時半・・・!?ヤバい!!!あと2時間しかない!!!どうすれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、6時25分過ぎになり、俺は千歌に言われた通りに沼津駅南口ロータリーに建てられている沼津機関区の記念碑の前で待ち合わせとなった。

 

「百香ちゃーん!!!」

 

6時半きっかりに千歌は駅前に現れた。千歌の服装は、俺に浴衣で来いと言っていただけあってちゃんと朝顔模様でオレンジ・・・いや、みかん色の浴衣を着ている。いつもお下げにしている髪も解いていて、いつもの元気な千歌とは違う雰囲気が漂っているような感じがする。あくまで感じだ。←ここ大事

 

「約束通り浴衣着てきたねー。」

 

千歌がそう言った様に、俺は深い緑色で、牡丹模様の浴衣を着ていて、セミロングの髪の毛はポニーテールに纏めている。実はあの電話の後、すぐにルビィに電話。事の急さをルビィに伝えた後、黒澤家まで車を飛ばした。黒澤家の正門前に直接車を乗りつけたため、ダイヤがなんか文句言ってたけれど、千歌の約束に間に合わないよりかはかなりマシだった。

そして、文句をグチグチ言ってくるダイヤとそれを慰めている(?)ダイヤ・ルビィの母に着付けを手伝ってもらい、着付けが終わった直後にお礼を言って黒澤家から飛び出した。幸い、裏道を使ったことで花火大会の会場近辺に向かおうとする車達の渋滞にはあまりはまらず、交通規制が始まるまでに沼津市中心部に到着し、沼津駅から近い知り合いの駐車場に停車した。それから急いで沼津駅南口に向かったらギリ、千歌が来る前に到着出来たということだった。

 

閑話休題。

 

 

 

 

 

で、合流した俺と千歌は交通規制が始まり、少しずつ混み始めたさんさん通りを歩き始めた。

 

夏祭りという事もあり、浴衣姿の男女が多く、屋台も沢山出ている。こうして見てみると、千歌も結構大人に見える・・・。

 

「あ、百香ちゃん!!!クレープ屋にみかんクレープあるかな?」

 

「ある訳ねーだろ。」

 

・・・前言撤回。どうやら千歌はいつでも平常運転でまるで小学生のようだ。あ、体型は除くぞ。

 

「あ!!!りんご飴!!!百香ちゃんりんご飴買って!!!」

 

俺は千歌の親か。

 

「嫌。」

 

「だってもうすぐ60でしょー?」

 

いや、それは前世との合計年齢であって、俺の今の年齢は普通に15歳だから。

 

「でも駄目。今は千歌姉の方が上でしょ。」

 

「百香ちゃんのケチー。」

 

なんか千歌が文句を言ってくるが無視しよう。しかし、人が多い。人通りの少ない沼津にこんなに人住んでいたんだと思う瞬間である。

 

当然、こんなに人が多い時には痴漢とか盗みとかする不届き者も居るようで・・・。

 

「キャッ!!!」

 

千歌にわざとぶつかってくる人も居る。そして・・・

 

「どうしよう、ポーチがない!!!盗まれた!!!」

 

普通に人の物を盗んでいく。

 

「千歌、警備本部に行け。」

 

「え?百香ちゃんは?」

 

「俺はアイツを追う。」

 

俺は、千歌に地元警察の警備本部に行くように千歌に促した。そして、俺は千歌のポーチを取った人物、黒い帽子、サングラスをし、緑色のエコバッグを持った身長170くらいの男を追い始めた。

 

男は、歩きながらであるが、誰かにぶつかっている。あれは、(推測だが)千歌の時と同じように何かを取っているのだろう。恐らく、常習犯だ。そして、俺は、犯人を見失わないようにしながら警察官を探した。

 

「鈴木巡査部長!!!」

 

そしたら案外早く見つかった。沼津駅前交番の鈴木巡査部長と山寺巡査の2人組だ。

 

「ん?渡辺じゃん。どうかしたの?」

 

「窃盗だ!!!犯人の特徴は黒い帽子、サングラスをし、緑色のエコバッグを持った身長170くらいの男!!!沼津駅南口方面に逃走してる!!!」

 

「分かった!!!」

 

「分かりました。」

 

山寺巡査は、鈴木巡査部長の指示を聞くやいなや鈴木巡査部長と歩き出しながら無線機に話し始めた。

 

「沼津駅前PB(交番)山寺PM(警官)から本署。花火大会会場で窃盗事件発生。(目撃者)によると、容疑者は黒い帽子、サングラスをし、緑色のバッグを持った身長170くらいの男性。現在さんさん通り大手町交差点付近を沼津駅南口方面に移動中。只今から職質(職務質問)を行う。」

 

そして、一般人の俺には分からないが、応援が来るのか、2人はイヤホンに右手を当てて、何かしら聞こえているのを聞いているように見えた。そして、山寺部長が沼津駅に向かっていくあの窃盗犯の肩を叩いた。

 

「すみません、静岡県警です。ちょっとバッグの中見してく──

うわっ!!!」

 

バッグについて触れた途端、窃盗犯は山寺部長を押し飛ばし、沼津駅方向に全力で走り始めた。

 

「逃げんなぁ!!!」

 

俺は叫んだと同時に走り出し、窃盗犯の服の襟を掴み、逃げ出せないようにした。窃盗犯は当然、抵抗するが、応援らしき警察官が次々と来ると、窃盗犯は抵抗する力を強めていく。

 

ワッパ(手錠)!!!ワッパかけて!!!」

 

「はっ、はい!!!18時48分!!!公務執行妨害で現逮(現行犯逮捕)!!!」

 

鈴木巡査部長の指示で他の他の警察官は、数人の警察官に抑えつけられている窃盗犯に手錠をかけた。そして、逮捕された窃盗犯は、最寄りのパトカーに連れて行かれた。窃盗犯は最初、バッグの中の盗んだと思われている数個のポーチを自分の私物だと言っていたが、バッグの中のポーチの持ち主達が現れると、窃盗犯は、自分の行ったことについて自供はじめた。なお、持ち主達の中に千歌が居たのは聞くまでもなかった。

 

 

 

 

 

「いやぁー、まさか盗まれるとは思ってなかったよー。」

 

その後、警察の事情聴取から解放された千歌は、そう言いながら頭を掻いていた。俺は、ついさっき、パトカーに乗っていた男性巡査 高坂(たかさか)から一応犯人逮捕に協力した事で後日感謝状が出るとか言われたが、あんまりそういうのは求めてない。千歌のポーチを盗んだから取り返しただけだ。ただ、それだけだ。

 

予想外のことがあったが、どうにか花火が打ち上がる前に観覧席に入ることが出来た。観覧席はチケットが無くては入れなく、さらにチケットの競争率は高い。けど、親父のコネとか知り合いのコネで1,2枚は余裕で花火大会当日に確保できる。親父とか知り合いは一体どこからチケットを取ってくんだろう。

 

あゆみ橋と御成橋に挟まれている狩野川の歩道。花火の打ち上げ場所のちょうど川を挟んで真正面の指定された場所に2人で座れる小さなレジャーシートを敷く。時間は7時14分。打ち上げ前にギリギリセーフで間に合った。

 

「間に合ったね。」

 

「そうだな。」

 

千歌と俺が向かい合ってしばらくの沈黙の後、2人でにししと笑い合う。

 

「百香ちゃん、ちょっといい?」

 

「なんだ?千歌姉」

 

俺がそう言うと、千歌はとたんに不機嫌そうな顔になった。

 

「今だけ千歌って呼んでよ。元は男でしょ?」

 

「分かったよ。千歌。」

 

俺は、千歌の子供っぽい要求を飲み、少し優しくそう言い、手を差し出してきた千歌と手を握った。

 

花火が打ち上げられ、漆黒な空を綺麗な色で染め上げていった。花火がドーンとなった時、千歌が何かを呟き、俺の肩に頭を載せてきたが、結局なんて言ったのかは分からなかった。

 

 

 

 

 

花火大会が終わり、沼津駅前のバス停で内浦方面のバスに乗り込んで行く千歌を見送ってから帰ることとした。

 

 

「気をつけてな。くれぐれも〝みかんあげるよー〟とか行ってくる変な人に連れ攫われないようにな。」

 

「もう千歌は子供じゃないからひっかからないよ!!!」

 

千歌は、顔を膨らませながら俺に言ってきたため、俺は、千歌の頬を指で押した。するとプスーと空気が抜け、頬は元の状態まで萎んだ。

 

「えー、三津、西浦方面江梨行き発車します。」というバスからのアナウンスがなると、千歌は「じゃあ、またね」と言い、バスに乗り込んで行った。

 

発車した時、千歌は小声で俺に気づかないように

 

「・・・バカ」

 

と言ったのだった




○次回予告○
(ネタが無くなったので今回から次回予告は)ないです。

次回投稿日は8月8日0時0分です。


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第23話 りーんかんがっこーぜんじつー

善子がAqoursに加入してから5日経った木曜日。

 

今日は明日から始まる林間学校の準備の買い出しを生徒だけで行う為、午前中で1年生の授業は終了する。そのためか、今日の部活は1年生だけオフだ。2年生3人だけで部活なんて大丈夫なのだろうか・・・。特に千歌。あいつは馬鹿で頭の中は空っぽだから何しでかすか分からない・・・。まあ、曜と梨子の2人が居るから大丈夫・・・、なのか・・・?前世で入手したドラマCDの千歌がヤバかったからなんかちょっと心配になってきた。・・・今は気にしないでおこう。多分大丈夫。ドラマCDの世界線じゃないから・・・。

 

で、話を戻すが、買い出しと言うのは、明日の夕食を作る飯盒炊爨の食材を各班で買うという事なのだ。夕食のメニューはとくに決められてない。つまり、何を作っても自由。まさにフリーダム。

 

だから、今、俺達は伊豆三津シーパラダイスから出てるバスで移動した先にある伊豆長岡駅前から少し歩いた所にあるマッ〇スバリューに居る。え?何で沼津市中心部のスーパーじゃないのかって?それは、事前に4人の班分けされた時、4人中2人の家が駿豆線沿線で、沼津市街地よりも伊豆長岡の方が4人中3人の帰宅が楽だからという事だ。4人中で俺だけ沼津市内に住んでるし、距離もそこそこもあるから帰宅に物凄く時間がかかるんだけどね。伊豆三津シーパラダイスか伊豆長岡に車持ってくればよかったかな・・・。

 

ついでに、班長は(何故か)俺で、メンバーは、ルビィと、同じクラス(そもそも1クラスしかない)の原田(はらだ) 美希(みき)さんと、坂井(さかい) 由衣(ゆい)さんだ。どうでもいい情報(?)だけど、花丸と善子は俺たちと別の班だけど、2人は同じ班に所属している。ちなみに、花丸と善子が同じ班なのは、前に班決めの時、花丸が自ら一緒の班になると言ったからなのだ。

閑話休題。

 

・・・。で、今、俺とルビィはお菓子売り場に居る。なんか、俺達妹2人組は料理が出来なそう(完璧先入観で決定)という理由と、原田さんの両親が料亭をしているという事で、原田さんと坂井さんが夕食の調理の殆どを担当することになり、食材決めをする事になっていた。ちなみに俺たち2人はテントの中で食べるお菓子類を決めることにしていた。

 

ついでに、メニューはキャンプでは王道中の王道であるカレーだ。班全員の賛成ですぐにカレーに決まった。他の班では、ラーメンや雑炊とか、キャンプでそれ作るのか!?と思わせるメニューを決めてるところがあった。っていうか、作るだけまし。夕食をのっぽパンにしていた班だってあった。百歩譲ってラーメンや雑炊は良いとしよう。のっぽパンは無いだろ。米は使ってないし(ラーメンもだけど)、既製品だし・・・。突っ込みきれないほど色々問題がある。

 

 

 

・・・飯盒炊爨ってなんだよ(哲学)。

 

ついでに、のっぽパンを夕食にしたのは某大手うどんチェーンと全く同じ名前の子がいる班だ。どうでもいい事だが、そのチェーンで沼津市から一番近い店舗は隣の富士市だけどな。

 

「誰が大手うどんチェーンずら?」

 

!?いつの間に後ろに!?

 

「はなまるうどん!?殺されたんじゃ!?」

 

「残念だったね。トリックずら。てか、次その名前で呼んだら・・・、曜さんにあの事故紹介の事を「もう呼びません花丸様!!!」よろしい。」

 

よく知ってるなこのネタ。ネタを知らないルビィは首を傾げてるが・・・。っていうか、こいつナチュラルに心読んだし、脅迫まがいのことしてきたぞ。

 

「寺生まれだからずら♪」

 

寺生まれ関係ねーだろ!!!寺生まれの子全員に謝れ!!!

 

「っていうか、何で花丸がここに居んだよ!!!」

 

「のっぽパンはダメって先生に言われたから善子ちゃん達と別の食材を買いに来たずら。」

 

あ、本当だ。花丸の数メートル後ろに同じ班の善子がいる・・・、って花丸。のっぽパン食べられないだけでそんな悲しそうな顔するな。先生が悪者扱いされるぞ?

 

「ちなみに何を作るんだ?」

 

「ぼた餅ずら。」

 

「へー。頑張ってねー。いっ!?」

 

俺は、なんかもう、突っ込むのもめんどくさくなったので、適当に返してたらルビィに足を踏まれた。ルビィの脚力でも充分痛い。そうか、相手にして欲しいんだ。

 

「じゃあ、マルはまだ買い物があるから。」

 

「おう。」

 

俺の前から花丸が離れていき、俺が花丸に買い物続けるぞと言うと、ルビィは満面の笑みでうん!!!と答えた。でも、ルビィ。何で俺に抱き着いているんだ。いい加減離してくれないかな・・・。そろそろルビィファンに殺されそうだから。全国12.5人のルビィファンの皆さんごめんなさい。←反省する気なし

 

 

 

 

 

 

 

「カントリーマ〇ムはどうっすか?」

 

「入れようよ。」

 

「ペ〇ちゃんの棒付き飴は?」

 

「うりゅっ!!!」

 

「それは肯定と捉えていいの?」

 

「うりゅ。」

 

ルビィが俺の横に並んで立ち始めた時からこんな風にルビィと話をしながらばらくお菓子を籠に突っ込むと、何故か鮮魚コーナーにいる調理班の2人のところに向かい、2人から購入の許可を貰ってからレジに向かった。え?何で俺が班長なのに調理班の2人に許可をもらったのかって?だって、お菓子とかでも好き嫌いとかあるからね。確認だよ。確認。

 

そして、俺たち2人と調理班2人は別々にレジを通り、出入口に向かった。原田さんと坂井さんの持つ2つのレジ袋は膨れている。一体何を買ったんだ・・・。

 

そして、その後、俺達は、マックス〇リュー前で解散となった。

 

「じゃーねー。」

「また明日ー。」

 

俺とルビィはそう言いながら伊豆長岡駅方面に消えて行く2人に手を振る。

 

2人の姿が完全に消えたのを確認した後に俺達は沼津方面と内浦方面のバスが出る〇ックスバリュー前のバス停へと向かった。そして、俺達はバス停でまた・・・

 

「「「「あ・・・」」」」

 

花丸と善子に出会った。

 

「や、やあ花丸さん。また出会いましたね。」

 

「そ、そうずらね。」

 

「「あはは・・・。」」

 

2人で笑い合う。・・・。何これ。艦これ・・・じゃなかった。ラブライブ!サンシャイン!!の世界かここ。

 

「何で笑いあってんのよ。」

 

善子に突っ込まれた。ルビィも善子の言ったことと同じ事を思っているのか、首を縦に降ってるし。

 

「まあいいわ。で、百香達の班は何作るの?」

 

「カレーだけど。」

 

「普通!!!」

 

いや、普通で何が悪いんだよ。普通が1番良いだろ?シンプルイズベスト。

 

「普通で何が悪いの?善子ちゃん。」

 

ルビィが善子に聞く。普通の解答だね。これは。

 

「善子じゃなくてヨハネっ!!!」

 

ぴょん。って、皆やらないんだ。俺だけバス停でジャンプするなんて異様な光景じゃないか。しかも、「コイツこんな所で何やってるんだ」と言わんばかりの目で俺を見ている。ルビィや花丸ならまだわかるのだが、善子まで同じ目で見てくるのはちょっと許せないかな。だって俺にこんなことさせたのは善子だもん。善子。

 

「だって、普通なんてこの堕天使である私にふさわしいわけないでしょ?まあ、私はタバスコてか鷹の爪が入ってるのがよかったけど・・・。」

 

辛い物はやめてさしあげろ。(班の他のみんなは)絶対完食できないから。

 

その後、俺と善子はやってきた沼津駅行きの伊豆箱根バスに乗りこみ、ルビィと花丸の2人とは別れることになった。ルビィと花丸は10分後に来る伊豆三津シーパラダイス行きのバス(経由地が別な為、一緒に帰れない)で帰宅するのだ。俺と善子はバスの窓から見える花丸とルビィに手を見えなくなるまで振っていた。

 

だが、俺を含み皆が楽しみにしている次の日の林間学校の夕食時に、俺の班だけ、色々な意味で恐ろしい悲劇が起こることをまだ知らなかった・・・。

 




次回更新予定日は2018年8月8日0時0分です。

アンケートをとりたいと思います。現在、オリ主をライブに出そうかどうか迷っております。(想いよ一つになれのライブを除く)
期限は9月26日です。
なお、アンケートは()()()()で行いますので、返答は()()()()の方でお願いします。

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第24話 りーんかんがっこーいちにちめーぜんぺーん

5月20日金曜日。朝、俺達は学校に行くためにバスに乗っている。いつも通りの光景だが、俺と善子、花丸、ルビィ、要するに1年生組の服装にはいつもとは違う違和感がある。そう、学校指定のジャージだ。今日から明日まで林間学校。だから、荷物はいつも持って行ってる教科書類の入ったバッグではなく、着替えや、お菓子、その他用品などが入った登山用に近い少し大きめのリュックだ。

 

俺達の通う浦の星女学院は、1年次にクラスメイトとの友情を深める為に御殿場にある国立の青少年教育施設で林間学校を行う事になっているのだ。Aqours3thシングル〝HAPPY PARTY TRAIN〟のドラマCDに登場した、あの大瀬テント村ではない。あのCDはいろんな意味で酷かった。だって、キャンプをするのに千歌が用意した荷物の中身がボウリングのピンとボウリングの球やタイヤだったり・・・。テントや食材は準備すらしてなかったし・・・。いろいろ酷かった・・・。でも、今回はそんな事は無い。

 

そもそも1年生の林間学校なのに千歌が来る事は吉田〇保里3人vs日馬〇士で日〇富士がビール瓶を使う可能性よりも少ないからな。え?今の世界線が2016年なのに2017年の話を知ってるっておかしいって?大丈夫だ。俺は転生者だからな。

 

で、林間学校で行うことは御殿場にある散策コースをみんなで歩いたりとか、あらかじめ分けておいた班で飯盒炊爨とか、テントで2班一緒に寝たりとかをするのだ。いやー、楽しみだ。Aqoursの1年生組と宿泊できるんだから。

 

バスは学校坂下にあるバス停につき、そこから俺達は、歩いて坂を登る。坂を登っている最中、静岡東部観光と車体に書かれた小型の観光バスが俺たちの横を登っていった。静岡東部観光という会社は静岡東部自動車サービスという東証2部上場の会社のグループ企業だったりする。

 

あ、じつはその2部上場の静岡東部自動車サービスという会社の社長、知り合いなんだ。何故だか知らないけど、俺の車を修理している場所がこのグループ会社なんだけど、ある日車をそこに持ってった時、ちょうど社長がいて、話したら趣味が合ったから連絡先を交換したんだ。

 

閑話休題。

 

 

学校まで登ると、そこには、ついさっき横を登って行ったバスが既に転回を終えてドアを開けて止まっていた。バスの前には理事長の鞠莉、学校長の志田川(しだがわ) 由紀子(ゆきこ)先生、教頭であり、数少ない男性の1人の山下(やました)遼一(りょういち)先生、40代なのにどう見てもロリみたいな感じで年齢詐称している様な見た目の1年次の学年主任の時雨先生、1年A組担任の佐藤(さとう) 洋子(ようこ)先生、そして、1年A組副担任であり、この場にいて、さらに林間学校に参加する唯一の男性の(さき) 和也(かずや)先生、そして、5,6人くらいのクラスメート達が立っていた。

 

「「「おはようございます。」」」

「お、おはようございます!!!」

 

俺達が鞠莉や教師陣に挨拶すると、「おはよう」とか、「シャイニーィィ!!!」とか・・・。そんな声が教師陣の塊の方から聞こえてきた。挨拶の中で俺達にシャイニーとか言った奴は分かるよな?鞠莉しかいねーだろ?シャイニーとか言うのは。

 

そして、5分くらい経ち、クラスメート総勢13人はバスの前に集合した。集合後には理事長挨拶と校長挨拶があった。鞠莉の挨拶は相変わらずハイテンションで綺麗に要点もまとめられている話だったので、飽きずに楽しく聞くことが出来た。・・・校長の話は・・・言わずもがな長い。前世、護衛艦に乗艦してた時、たまに朝会があったんだが、その時の高田艦長(現:沢木さん)の話よりも長い。だから、俺も含めみんな聞き飽きてる。

 

話が終わる頃になると、もう誰も校長の話を聞いていない。あの花丸でさえでもだ。花丸の目線は校長の方向を向いてるが、ぼーっとしてるのか、何かしら考えてるような顔をしてる。善子は前の子の背中に本を隠しながら読んでいる。流石にこれは怒られるだろと思ったが、浦女の校長は話がクソ長いのに話す内容は金網のようにかなりスッカスカで、聞く価値すらない。だから誰も善子を咎めようとしない。いや、咎めないどころか学年主任は寝てる。立ちながら寝てる。教頭に至ってはTwi〇terで〝校長話長すぎワロエナイ〟とかツイートしてた。生徒も教師も自由過ぎるなこの学校。

 

だが、こんな状況になっても校長の話は止まないどころか現状を理解してない。しかも今の校長の話は娘が修学旅行に行った──とか、息子が可愛くて仕方がない。男の娘にしたい──とか。林間学校どころか学校生活に関係ない話になり始めた。だから呆れ顔の鞠莉の「・・・もう行っていいよ。」という鶴の一声で俺達はバスに乗る準備を始めた。校長はこんな状況でも電源が切れないラジオのようにずっと話をしているだけだ。

 

「「「行ってきます!!!」」」

 

バスの前で見送ってくれる鞠莉と教頭に挨拶をし、バスの中に乗り込み始めた。校長はまだ気づく様子すらなく話をしているだけだ。哀れ校長。

 

 

 

 

 

日本古来からの街道である東海道、今日は国道1号線と呼ばれている道路。俺達を乗せたバスはその国道1号線を越え、東名高速沿いの国道を御殿場方面に走っていた。バスの車内は人数が少なくても騒がしい。恐らく、車内で行われているクイズゲームのレクリエーションの影響だろう。横に座っているルビィも上機嫌になってる。

 

「じゃあ次の問題!!!」

 

1番前にいるレクリエーション担当の生徒がマイクを握りながら言ってる。次の問題は何だろう。でも、さっきからろくな問題が出てない。

たとえば、「渡辺 百香さんのスリーサイズは?」

とか、「μ'sの中で黒澤ダイヤさんの推しは?」とかばっかりだった。全部ルビィが答えたが。ってかなんでルビィが俺のスリーサイズ知ってるんだという話になるのだが、あまり良く考えない方がいいだろう。最悪、嫌な事になるかもしれないからだ。

 

「今回はイラストクイズです!!!出されたイラスト4つのうち2つ以上答えられたらチョコ1個!!!全部答えられたらチョコ3個!!!」

 

どうやら次はイラストクイズらしい。レクリエーション担当が絵が描かれたスケッチブックをバス車内に見せている。全部アニメ関連だったのだが。

 

「わかった人ー?」

 

レクリエーション担当が聞くと、みんなが「はい!!!はいっ!!!」と言う声で車内は今以上に騒がしくなった。

 

「じゃあ国木田さん!!!」

 

「ずらっ!!!」

 

どうやら指されたのは花丸だった。花丸って本ばっか読んでてアニメとか無知だと思っていたが、その考えは改める必要があると思う。

 

「これは?」

 

「ら〇☆すたずらっ!!!」

 

「これは?」

 

「らき☆〇たずらっ!!!」

 

「じゃあこれ。」

 

「らき☆す〇ずらっ!!!」

 

「はい・・・。」

 

「〇き☆すたずらァ!!!」

 

「らき〇すた一本縛り止めろ。」

 

前言撤回。花丸はアニメについて全く無知だったようだ。このことについてはどうやら善子に指図されたようだ。善子がくすくす笑ってる。これ、花丸怒るわ。絶対「津島善子ゥァア ゙ーッ!!!」って展開になるだろう。

 

 

「・・・善子ちゃん?」

 

「はいっ!!!」

 

花丸が背すじが凍るような声を出しながら善子を見てる。あ、これ怒ってるわ。

 

「みかん、食べる?」

 

「すみませんでしたァァァ!!!」

 

花丸のポケットから善子が嫌いなみかんを5個出された瞬間(なんで持ってるかって?気にしたら負け)、すぐに謝った。これ以降、こういうネタは花丸にやらせてはいけないと感じた俺だった。

 

 

バスは御殿場市街地を抜け、登山口前の駐車場に停車した。ここからは歩いてハイキングだ。ここから標高1,213mの山に登るのだ。・・・これハイキングじゃなくて登山じゃねーか!!!

 

マップによると、駐車場から頂上まで登りは145分、帰りは60分なのだが、女子の集団のため、絶対行きだけで160分くらいはかかるだろう。

 

ゆっくりと山を登る16人の集団、その最後尾に俺と副担任の崎先生が居る。

 

俺は女子の中では体力がある方にいるため、こういう登山などの時は一番後ろが多いのだ。

 

ちなみにルビィや花丸は体力のない方なので前の方、善子は花丸にべったりみたいな感じだから前と、一番後ろには、Aqoursの1年生組が居ない。居るのは若い男性数学教師(崎教諭)だけだ。彼と話をするのもいいだろうが、はたして趣味が合うだろうか・・・。

 

「渡辺。お前ってなにか趣味あるのか?」

 

崎教諭が話してきたのは趣味の事だ。普通の女子なら裁縫とか、料理とかそんなんだろうと彼は考えているのだろう。裁縫は、出来るけど趣味じゃない。料理も同じだ。競馬や競輪・・・。近所になかったし、そもそもやったことないし出来るのは二十歳から。そうなると・・・、あれかな・・・。

 

「車とかですかね・・・。」

 

そう俺が言うと、崎教諭はへぇ・・・。と、声を出した。そりゃそうだ。女子が車に興味を持つなんてほんのひと握りくらいしかいないからだ。

 

「車ってどんなのが好みなんだ?」

 

「R33ですね。」

 

俺は即答した。別にそれ以外の車に興味が無いという事ではなくて、一番、誰よりも付き合いが長いからだ。大学生の時に買い、丁寧に整備し、乗りこなしてきて早30年くらいは経っているからな。正直、この世界で一番付き合いが長いのはこの車だったりする。

 

「珍しいな。失敗作だって言われてんのに。」

 

失敗作。そう、R33は失敗作と巷では言われている。それは、あの峠の走り屋の漫画のせいだ。そう、その中にあるあるセリフを紹介しよう。

〝俺はGTRだけでももう4台乗り継いで来ている・・

R32がデビューした時にはすげーインパクトだった。

2代目のR33を買ったときには()()()()()()()()・・

あれは日産の()()()だ〟

 

・・・かなり酷い評価をされている。だが、それは峠を攻める時の話。一般人は峠を攻めないし、攻める必要もない。そして、R33は、ボディがかなり大きいが、その大きいボディは空力を優先し、効く。

そして、R33の長いホイールベースは超高速域で急激な変化を押さえこみ、信じられない一体感安定感を出す。結果R33は恐ろしい速さで右に左に舞える。

そして、R33は真っすぐ走ろうとする。普通の車は真っすぐ走らない。その領域で真っすぐ走る車は世界中何処にもない。

そう、R33は市販車の中で一番高速走行に適した車なのだ。

 

・・・そんな事を崎教諭に話したら「おお、そうか・・・。」と、引き気味に言われた。

 

 

・・・その瞬間だった。

 

 

 

 

「ピギャァ!!!」

 

ある1人の叫び声が聞こえた。ルビィだ。紛れもなく。

 

俺と崎教諭は頷き合うと、すぐにルビィの元に走り出した。

 

 

 

「ルビィ!!!」

「黒澤!!!」

 

俺と崎教諭が駆けつけると、ルビィが尻餅をついていた。恐らく、転んだのだろう。崎教諭は、心配そうにルビィに触れそうになったため、俺は

 

「ちょっと待ってください。」

 

崎教諭を止めた。こんなところで叫ばれちゃあ、たまんないからだ。叫ばれたら崎教諭は周りの一般人から見るとただの不審者扱いされてしまう。だからだ。

 

「ルビィ、立てるか?」

 

「こ・・・、ここ、腰が抜けちゃったよぉ・・・。」

 

俺がルビィに話しかけると、ルビィは、そう言っていた。とにかく、怪我がなくてよかった。

 

「ルビィ、リュック、崎先生に持たせてもいい?」

 

俺がそう尋ねると、ルビィはコクリと頷いた。この時、崎教諭はムッとした顔をしていたが。

 

俺は、ルビィが背負っていたリュックを崎教諭に渡し、ルビィをお姫様抱っこした。ルビィは、顔を赤くし、どうにかして降りようとしていたのだが、腰が抜けているためか、暴れられていなかった。

 

クラスメートからは黄色い声援が飛んでくるが、無視して登り始めた。

 

そして、それから1時間から2時間くらい滑りやすい階段状の登山道を登ったくらいだろうか。ついに山の頂上に着いた。ついでにルビィは、お姫様抱っこしてから5分くらいしたら降ろしといた。叫ばれたら、たまったもんじゃないからね。その時のルビィの顔は何故か不満そうだったが。

 

山の山頂であるため、たくさんの人が写真を撮ったりしている。山頂からは日本の象徴でもある富士山が見える。

 

そうそう、富士山は表富士と裏富士があるが、静岡県側と山梨県側、どっちが表富士か知ってるか?実際、決まってないらしい。表富士か裏富士は山頂が何県にあるかで決まるのだが、両県とも境界争いはしたくないのだろうか、静岡県知事と山梨県知事の合意の上で山頂の境界は未確定になっている。だから別にどっちが表富士かは県民性で変わってくる。静岡県民だと、静岡県側を表富士だと言うし、山梨県民なら山梨県側を表富士と言う。俺は、今は静岡県民なので、静岡県側を表富士としよう。山梨県民の皆さんごめんなさい。

 

・・・閑話休題。

 

で、今、俺達は山頂で富士山をバックに集合写真を撮り、昼食を食べてから下山することとなった。なお、帰りは別ルートになる。

 

急な下りが15分くらい続いたが、すぐに緩やかな下り坂となった。途中、金太郎やその母親が住んでいたと言われている宿り石の前で一旦休憩し、一気に下山することとなった。

 

・・・特に何も無かったな。

 

駐車場に着いた俺達は、待機していたバスに乗り込み、国立の青少年育成施設に向かった。御殿場にある青少年育成施設は、伊豆地方一帯では一番大きく、俺達のような少人数が使うのにはちょっともったいないくらい大きい。だって、キャンプサイト3つのうち俺達が使う1つのサイトには、元々8つのテントが設営されている。なのに、俺達の人数では2つしか使わない。先生はって?引率者専用のログハウスだよ。

 

そして、施設到着後に炊事係とそれ以外に別れて作業に移る。炊事係は炊事場で夕食を作り、それ以外の人達はキャンプファイヤーのための薪を倉庫から持ってくる。みんな一本づつ持ってるのだが、俺と崎先生は何故かペアを組ませられ、リアカーで運ばされている。何故だ・・・!!!

 

 

話によると俺は怪力だとかなんとか。クラスメートは俺をなんだと思ってんだよ。

 

 

そして、嫌々言いながら薪を全て運び終わったと同時に夕食が完成した。完成していたのだが・・・。

 

 

「これはカレーだよな・・・?」

 

黒と紫色に混ざった色のようなルーがかけられているカレーから禍々しい紫色の湯気が立ち込めていた。

 

「うん!!!美味しいよ!!!食べて食べて!!!」

 

原田さんが目を輝かせながら言ってくるから多分こんな見た目でも()()味見をしてるから美味しいのだろう。

 

「じゃあ、いただきまーす。」

 

俺は、カレーを一口頬張った瞬間、この世のものとは感じられない味を感じ、目の前が真っ暗になった・・・。

 




次回更新予定日は2018年8月22日0時0分です。

アンケートをとりたいと思います。現在、オリ主をライブに出そうかどうか迷っております。(想いよ一つになれのライブを除く)
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第25話 りーんかんがっこーいちにちめーこうへーん

今、11章までの大まかな内容を考え終わったところですが、シリアス章が2〜3つくらいになりそうです。それに誰かモブが死ぬかもです。まだ決まってないですけどね。


「アァァ!!!」

「渡辺さん!!!」

 

東屋の周辺に原田さんと坂井さんの悲鳴が響き渡った。そう、カレーを一口食べた俺がベンチに倒れたのだ。

 

「百香ちゃん!!!」

 

ルビィが俺に近寄ってきて心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「大丈夫?」

 

「か・・・、か、か・・・」

 

だが、俺は毒物カレーの凄まじい威力のせいで、途切れ途切れにしか言葉が言えなくなってしまっている。

 

「蚊?」

 

「み・・・、みず・・・」

 

「ミミズ?」

 

だからルビィに勘違いされている。

 

「蚊とミミズ?」

 

「そんなの入ってるわけないでしょ?」

 

原田さんと坂井さんは、自分達が原因を作った事も知らずに呑気なことを言ってる。

 

「大丈夫?百香ちゃん。」

 

俺は、言葉を発する気力すらなかったので、震える指で黒と紫色、赤色が混じった様な色をしたカレーを指さした。

 

「百香ちゃんが我慢出来ないほどカレーが辛かったの?」

 

「普通だと思うよ。ねえ、由衣。」

 

ルビィがカレーを見ながらそんな一言を言うと、原田さんがそう言いながら坂井さんの方向を向いた。

 

「え?ああ、うん!!!心配なら黒澤さんも食べてみなよ。」

 

坂井さんは、「あ、コレやべ」といった雰囲気でそう言った。さらに坂井さんはルビィにまで食えと促した。犠牲者2人目誕生。さよならルビィ。君の事は一生忘れない。

 

「い、いただきます・・・。」

 

そして・・・ルビィは、震える手でカレーを一口頬張った・・・そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピギァァァァ・・・」

 

「アァァ!!!」

「黒澤さん!!!」

 

俺のようにベンチに倒れたのだった。

 

 

 

ある程度回復した俺は、俺達を倒れさせたカレーが入っている鍋を見た瞬間・・・

 

「なんじゃこりゃぁー!!!おめーら、なんちゅーもんおえぇ・・・。」

 

叫ぶようにして原田さんと坂井さんに訴えかけた。まあ、途中で気持ち悪くなって全部言えなかったが。でも、誰でも黒と紫色、赤色の3色が混じった様な色をしたカレーを見たら叫び出すと思う。

 

 

 

原田さんは、「味見すればよかったね」と呑気に言っているから、恐らく、メシマズ自覚はなし。坂井さんは「そんな勇気は無かった・・・」と、申し訳なさそうに言っていたから、多分、メシマズ自覚はあるのだろう。自覚がないのは、かなり厄介だ。無意識で生物兵器らしきもの作り出すようなものだからな。

 

「カレーって普通甘ー(あめえ)か、辛れ(かれえ)ーかだろ!?あれクセーんだよ!!!」

 

俺は、とにかく2人に向かって叫んだ。クサいってもう味じゃないけど、味を言えないほど酷い料理なのだ。

 

ルビィは、水をちょびちょび飲みながら新食感だった・・・と、語っていた。マジモンの植物兵器だなこれ。

 

「ジャリジャリしてる上にドロドロしてて、ブヨブヨんとこもあって、なんて言うか、気持ち悪りーんだよ!!!」

 

「なんか、上手く混ざらなくて・・・。

でも、愛情は入れたんだよ?」

 

俺は、言い訳をしてくる原田さんにこう言いたい。

愛情って何ぶち込んだんだよ!!!っとな。

 

 

坂井さんの話によると、どうやら、こうなったのは、食材が原因らしい。時刻は昨日に遡り、伊豆長岡駅前のマック〇バリュー。

 

 

事の発端は、料理ができない自覚がある坂井さんのある一言が原因だった。その一言は・・・

 

「カレーに片栗粉って使うよね。」

 

だった。俺が食べたカレーがドロドロした原因だ。

 

「そ、それは使うんじゃない?」

 

「使わないととろみつかないよね。」

 

しかも、原田さんは止めない。ルー使えよ。

 

「じゃあ、片栗粉と小麦粉もいるかな・・・。」

 

そして、坂井さんはブヨブヨの原因である片栗粉と小麦粉を買おうとする。確かに、ルーを作るなら必要だが、初心者で出来るわけがない。

 

「薄力粉と強力粉・・・。どっちがいいかな・・・。」

 

「強いほうがいいよ。なんとなくだけど。あとは・・・。」

 

坂井さんの問に対し、原田さんの答えは意味不明。薄力粉と強力粉の違いくらい分かっておこうよ。料亭の子なんだから。

 

「唐辛子・・・。辛くないとカレーじゃないよね。」

 

 

 

「キムチも辛いよ。あと、胡椒?」

 

「胡椒は白と黒があるよ。」

 

「さっすが料亭の娘!!!」

 

そして、ジャリジャリの原因の胡椒が投入された瞬間である。さすが料亭の娘?さすがにこのまま料亭の女将になったら死者出して営業停止処分になるぞ。

 

「あと、隠し味もいるよね。」

 

「そういや、テレビで言ってたなー。確か、コーヒー入れるとか。でも、コーヒー苦いから、コーヒー牛乳でいいよね!!!」

 

そして、坂井さんの一言でコーヒー牛乳が追加されたらしい。少量なら陸自のカレーに入ってるって同期から聞いたけど、まさか1リットルまるまる入れたんじゃないだろうな?

 

「魚介も混ぜる?良い出汁でるよ。」

 

ナマコ・・・。ナマコ!?ナマコなんて入れたのか!?カレーにか!?

 

「出汁いいものなんでも買ってこー!!!」

 

という、坂井さんの一言で出汁いいものなんでも買ってきたという事だ。しかも、2人がメシマズだったせいで闇鍋以上のヤバいのになってやがる。

 

「ごめんなさい。」

「すみませんでした・・・。」

 

「どーすんだ俺らの班。夕飯(ゆうめし)抜きだぞ?食えるんならともかく・・・、こんな物体X食えねーだろ絶対・・・。」

 

一応、原田さんと坂井さんは、被害者の俺達に謝ったのだが、実際、夕飯抜きは辛い。ほかの班に余りとか無いかとか聞いた方がいいし、これの処理についても考えなくちゃいけない。そう思った時、俺の肩が後ろから叩かれた。

 

「そのカレー、美味しそうずら。」

 

「花丸!?」

「花丸ちゃん!?」

 

背後に立っていたのは花丸。目と鼻が腐ってるのか知らないが、俺達の班のカレーが美味しそうと言ってる。

 

「余ってるの?」

 

「うん(食べられるか知らないけど)・・・。」

「良かったら食べる?(死ぬかもしれないけど)」

 

コイツら花丸に食べさせんなよ。

 

 

で、原田さんがライスとカレーを皿に盛って、花丸に差し出した。処刑現場かよここは。また犠牲者が出てしまうのかと俺とルビィは感じた。・・・感じたのだが、

 

「んー♡新食感ずらー♡」

 

花丸はこんな物体Xを倒れずに皿一杯分を食べきった。

 

この時、俺達が思ったことは〝花丸の胃袋強すぎだろ〟だった。

そして、俺達はどうにか周りの班と交渉して、お菓子と交換する条件でどうにか夕食にはありつけた。お菓子を大量に買っといて良かった。そして、1時間くらいで夕食の片付けをし、1時間くらい、テントの中で休憩する。そして、その休憩時間の後は・・・、問題の入浴タイムである。体育

の授業前後の着替えはどうにか慣れたのだが、今回は下着姿ではない。みんな一糸まとわぬ姿になり、俺もその集団の中に入るのだ。

普通の男子だとしたらそこは桃源郷のように感じるだろう。だが、もし変な事を起こして元男だとバレてしまったら恐ろしい事になるだろう。今のうちに変な事を起こさないように心の準備をしておこう。素数でも数えていればいいか。ん?ルビィがルビィ自身のバッグの中を漁ってる。まさか・・・

 

「百香ちゃん。お風呂行こ。」

 

「あ、ああ。」

 

ああ、遂に来てしまった。しかもまだ心の準備が出来てないのに。ああ、入りたくない。でも入らないとみんなに怪しまれるから入るしかない。俺は、浴場のある建物まで続く道を歩いている時に覚悟を決めたのだった。脱衣場には既に5、6人の女子生徒達がいて、その中に花丸と善子の姿もあった。

 

・・・とりあえず無心になろう。

 

俺はとりあえずジャージや下着類を脱ぎ、一糸まとわぬ姿にならぬように素早くタオルを巻いた。

 

なるべく周りを見ないように、なおかつ不審がられないように浴場に歩いていく。

 

浴場は、白タイルで覆われており、いかにも浴場と言うのに相応しすぎる場所だった。

 

入浴のマナーというか、ルールなのか知らないのだが、浴槽に入る前に体を洗わなければならない。俺は、そこら辺に積み上げてあったプラスチック製の椅子と桶を持ち、シャワーの前に置き、それに座った。頭と自前のそこそこ長い髪の毛を洗い始めると、横に誰か来たような気配を感じた。

 

「横いい?」

 

どうやら、声からして横に立っているのはルビィらしい。口を開けると、シャンプーが口の中に入ってくるため、俺は無言でこくりと頷いた。

 

髪の毛を洗い終わり、体を洗うために髪の毛わアップヘアーに纏める。え?髪を下ろしたまんまにしないかって?下ろしたままにすると背中に髪がへばりついてなんか嫌な気持ちになるんだ。

 

俺は、体を洗っている最中、ふと横を見てしまった。

 

「うゅ?どうしたの?」

 

横には、首を傾げてくる赤髪の少女、ルビィがいた。いや、ルビィと言っていいのだろうか。髪の毛を洗っている為、今のルビィは髪を解いてる。だから、いつもの様な子供っぽさがないように見える。言動は除くが。

 

「いや、何でもないよ。」

 

俺は、そう言いながら体洗いを再開した。そういえば、どこの媒体か公式か知らんが、ルビィは昔、ダイヤと同じく髪を伸ばしてたらしいと書いてあったような気がした。

 

 

 

 

「あああー・・・。」と言いながら湯船に浸かると、既に浸かっている花丸が「オッサンみたいずら。」と言っていた。え?オッサンみたい?中身オッサンだけど?

しかし、花丸の胸でけぇな。善子はそこそこでルビィは・・・。・・・俺と花丸の胸を凝視してるからルビィについて考えるのはやめとこう。

・・・あ、Aqoursファンの中でもこの空間に居れるのは俺だけなんだ。やったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、百香って花丸くらいでかいわよね。」

 

「え?」

 

着替えている時、ふと善子がそう言ってきた。お前は一体何を言っているんだ。

 

「確かにそうだよね。」

 

「ちょっと2人共?何言ってるかわかんねぇんだけど。」

 

ルビィが善子に共感していた。不穏な空気が流れ始めた。もしかして・・・、これって・・・。

 

「百香、揉ませて。」

 

やっぱり。早くコイツらなんとかしないと・・・。

 

「うん。揉ませてよ、百香ちゃん。女子力皆無なのにこんなにでかくなるなんて、羨ましいよね。」

 

「ちょっと、おい!!!やめろってやめっ!!!」

 

そして俺は脱衣場で女子高特有のノリになった2人に胸を揉まれ、変な声を出してしまったのだった。その後は特に変なこともなく何もなく恋愛話などの女子トークを適当に聞いた後就寝したのだった。




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第26話 引きずるもの

今回はシリアスです。大丈夫です。次回からまた通常運転になりますんで。


──副長!!!威嚇だけでは危険です!!!攻撃命令を!!!

 

 

 

 

 

 

 

──だが・・・

 

 

 

 

 

 

 

──撃ってきました!!!

 

 

 

 

 

 

 

──『艦橋左舷に命中!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──『艦橋左舷、A火災(可燃物による火災)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

──『艦橋内部、死傷者数名有り!!!予備応急隊、衛生班、至急艦橋へ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

───俺の妹の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹の早苗が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早苗が死んだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──〝撃つ〟という判断を下せなかった俺の責任だ

 

 

 

 

 

 

 

俺は──、俺はこの事を忘れる事はない──

 

 

 

 

 

 

 

 

──絶対に、、、忘れない

 

 

 

 

 

 

 

──忘れるもんか

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

「・・・」

 

 

俺は、周りですやすやと寝ている同級生達のいるテントの中でゆっくりと目を覚ました。前世のある一つの事が夢に出てきたことによるのか、俺自身にとっては最悪の目覚めだった。

 

朝日が上り始めてまだあまり経っていないのか、テントの中はまだ薄暗い。

 

自身のスマホの画面をつけ、時刻を確認すると午前5時前。起床時刻の6時半までまだ1時間半以上もある。

 

 

 

 

トイレに行き、スッキリとした気分でもう一度寝ようと思い、毛布の中に入り、目を閉じた。もう少しで夢の世界に入ろうとした瞬間、肩を揺すぶられた。

 

 

ゆっくりと目を開け、肩を揺すぶられた方向を見ると、そこには俺の顔を覗き込んでいるルビィがいた。

髪を解いているルビィは、顔をほんのりと赤く、そしてもじもじしながらこちらを見ている。

 

 

「あのね、百香ちゃん。お願いがあるの。それは──」

 

 

 

ルビィから言われた事。それは、トイレに行くから着いて来て欲しいということだった。

ルビィ曰く、薄暗い中、1人で外のトイレに行くのが怖いらしい。幼稚園児かよ。と、思ったのだが、特に断る理由もなったため、こうしてついていった。待っている間、水音とかが聞こえたのだが、その音は聞いていない事にしよう。覚えてたら絶対目が笑っていないダイヤに殺される。きっとそうだ。

 

「終わったよ。」

 

「ん。じゃあ行くか。」

 

ルビィが個室の中から出てきて、手を洗ったため、スマホをジャージのポケットに入れた俺と合流してテントに戻る道を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、百香ちゃん。ちょっと話いい?」

 

トイレ棟から歩き始めて少しだけ経った時、ルビィがふと、そんな事を言ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どれがいい?」

 

「いちごオレ。」

 

ボタンを押すと、自販機はガタンと音を立て、取り出し口にいちごオレの缶を落としてきた。

俺は、取り出し口で拾ったいちごオレの缶をルビィに渡し、ルビィからのお礼を聞きながらもう一度自販機の前に立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

自販機で俺の飲む飲み物、ブラックコーヒーを買った俺は、あのカレー事件のあった東屋の椅子に座っているルビィの横に座った。ルビィの手にはさっき購入したいちごオレ、俺の手にはついさっき買ったブラックコーヒーの缶が握りしめてある。ルビィは、ずっと、空いたままの缶の飲み口を見ていた。

 

 

 

「・・・コーヒーなんて、大人だね。百香ちゃん。」

 

「え?そうか?コーヒーは昔から飲んでるが、そんな事思った事すらないぞ。」

 

ルビィが振ってきたのは俺が飲んでるコーヒーの事だった。ブラックコーヒーは、前世で毎日のように出されていたし、仕事中も飲んでいる事が多かったため、気づかぬうちこっちの世界でも習慣化されていたのだろう。転生後初めて飲んだ時のコーヒーの味は忘れられない。一口飲んだとき驚いたからな。ブラックコーヒーってこんなに苦いのかーってな。今ではすっかり慣れて毎日のように飲んでるんだけどな。

 

俺は、コーヒーをグイッと二、三口ほど飲み、ルビィの方を向いた。

 

「なあ、ルビィ。」

 

「な、何?」

 

「もしかして、私の左肩の事、まだ気にしてんのか?」

 

俺は、昨日の入浴中からずっと気づいていた。ルビィが俺の左腕をずっと見ていたことを。

ルビィは、俺の話を聞いた瞬間、バツの悪そうな顔をしながら頷いた。

そうなるのも当然なのかもしれない。こうなった原因はルビィにあるのだから。

だからといって俺はルビィを責めたりしない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからだ。

 

「別に気にしちゃいねぇよ。俺とルビィ、どっちも無事だったし、それでいいじゃねえか。」

 

俺は、そう言いながら缶の中に残っている残り僅かなコーヒーを一気に飲み干し、10メートル先にある鉄網のゴミ箱に缶を投げた。

俺の手を離れ、しばらく空中を漂った缶はコーンと高い音を鳴らしながら鉄網の箱の中に消えていった。

 

「先戻ってるよ。」

 

俺は、木製椅子から立ち上がりながらルビィにそう言い、東屋から出た。すると、ルビィに待って百香ちゃんと呼び止められた。

 

・・・今度は何だ。

 

「百香ちゃんは、スクールアイドルやりなくないの!?」

 

「何でだ。」

 

俺は、咄嗟にそう返していた。その返答を聞いたルビィは、すぐさま答えを返して来た。

 

「だって、百香ちゃん楽しそうにしてたもん!!!皆に手本を見せてた時!!!百香ちゃんも一緒に踊ろうよ!!!ルビィ達のように!!!」

 

確かに、踊るのは楽しかった。Aqoursの皆とステージに立って踊りたいと思った時もあった。でも、それは叶えられない。俺は異物。異物にそんな事は出来ない。

 

「無理だ。そんな事。」

 

出来っこない、皆と踊るなんて。皆と同じステージに上がってしまえば、この世界を変えてしまう事となる。この世界を変えてしまうと、未来も大きく変わる。浦の星女学院の廃校を少しだけでも先延ばしにできるならやるに越したことはない。だが、ハイリスクローリターン、つまり、リスクが高すぎるのだ。危ない橋を渡っても、その先には大したものすらない。だって、廃校を先延ばしに出来るのは数年だけだと思うからだ。

 

「なんで諦めるの?」

 

「諦めてなんかない。最初から資格がないだけなんだ。」

 

「なんで・・・、

 

・・・いや、何でもないや・・・。」

 

ルビィは、まだ何か聞こうとして、何か言い出したのだが、俺の答えようとしない様子を感じ取ったからなのか、ずっと黙っていた。

 

「じゃあ、戻るわ。ルビィも点呼までには戻って来いよ。」

 

そんな俺の言葉に対してのルビィの呼び止めはもう無かった。チラッと東屋の方を向くと、ルビィは、缶を握ったまま俯いていた。

俺は、ルビィに気にすることなく、テントに向かって歩き始めた。

 

 

入って欲しいと説得してきたルビィの気持ちも分かる。〝大切なのは出来るかどうかじゃない。やりたいかどうかだよ〟って千歌も言っていた。が、それはあくまでもアニメのストーリー通り、そして、Aqoursのメンバーだから成り立つ言葉だ。

俺が加入したらどうなるか?その後の活動がいい方向に進めば廃校阻止。悪い方向に進めば、夏中に廃校決定、最悪、Aqours解散になるかもしれない。そうならないから、リスクが低い無難なルートを通る。そうすれば、誰も失敗しないし、悲しむことがあっても、すぐに対処できるからだ。

 

だから、俺は踊らない。

 

逃げた?ああ、逃げたさ、俺は。最初はあまりそういう歴史とか、ストーリーとかどうでもいいって思ってた。だが、高校進学前に一度、ルビィをAqours未加入ルートに進ませようとしてしまった事があった。

 

だから、俺は逃げたんだ。あのストーリー通りのAqoursを作るために。

 

 

 

 

 

 

 

帰りのバスは、俺とルビィの座っている席だけ妙に静かで、盛り上がる周りに壁を作っているような感じだった。

 

学校に到着し、解散した後もルビィと話はしなかった。何となく気まずい感じがしたからだ。ただ、唯一話した事は「じゃあね」という、サヨナラの言葉だけだった。

 

ルビィと別れた後、ポケットに手を突っ込立ち止まった俺は空を見上げた。その時の空は、少しだけ黒っぽい曇り空だった。




次回更新予定日は9月12日0時0分です。次回から月2更新に戻ります。


アンケートをとりたいと思います。現在、オリ主をライブに出そうかどうか迷っております。(想いよ一つになれのライブを除く)
期限は9月26日です。
なお、アンケートは()()()()で行いますので、返答は()()()()の方でお願いします。

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第27話 PVをつくろう

お願いです。数字だけでいいのでアンケートに答えていただけますか?今現在は50/50なのでこの先執筆できなくなるかもしれないので。どうか、1人でも多く意見をお願い致します!アンケートは後書きから飛べます!


部活動やら仕事やらで出払っているためなのか、ほぼ無人状態の浦女職員室。その場所いる唯一の教諭、崎 和也は、自身のデスクの場所にあるチェアに座り、その横に立つ俺を見つめている。

崎教諭に割り当てられているスチールデスクの上には、まだ何も書かれていない真っ白な退部届けが載せられている。

 

「渡辺・・・。お前、部活・・・、辞めるのか・・・?」

 

「いえ、保険です」

 

崎教諭は、「保険・・・?」と言いながら顔を少し顰めた。

そう、これは保険なのだ。自分の正体が一部でもAqours知られてしまった時、Aqoursに関われない俺は責任を取って退部するための。理由が分かれば、千歌も深追いはして来ないだろう。アイツはかなりの馬鹿だが、こういった時の大半は手を出さないと思ったからだ。

 

「あと、この事、他の先生方、特に時雨主任には言わないでください」

 

「何でだ?」

 

「バレないように、です」

 

崎教諭なら誰にも話さないと思うのだが、念には念を入れておかなければならない。情報は独り言を呟いているだけでも漏れる場合があるからだ。特に顧問である時雨先生の耳入った場合、ふとした拍子でそこからAqoursにバレてしまう危険性が最も高い。

 

俺は、手元にあるファイルに周りから見えないように退部届けを入れ、崎教諭に一礼して職員室を出た。その時、俺は一つだけではあるが、重要な事を忘れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

部室に向けて廊下を歩いていると、後ろからバタバタという足音が聞こえてきた。後ろを振り向いてみると、ルビィが息を切らしながら走って来ていた。

 

「も、百香ちゃん!!!大変、大変だよ!!!」

 

「どったの?」

 

ルビィの様子から見て、かなり重要な事だようだ。というか、昨日の林間学校のあの一件でルビィとの仲はちょっと気まづくなったような感じがしたのだが、なんか気づいたら普通に接していた。女の子の友情って不思議だし、ルビィって極度の人見知りとかでこういう気まずい相手とかって苦手なような・・・。というか、この展開ってもしかして・・・

 

「大変だよ、学校が!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「統廃合〜!?」」」」

 

「そう見たいです」

 

やっぱりだ。ルビィが急いでいたのは廃校についてだった。

 

「沼津の私立高校と合併して浦の星女学院は、無くなるかもって・・・」

 

「そんなぁ!!!」

 

「いつ?」

 

ルビィからの知らせを聞いた部室にいる1、2年のAqoursメンバーがみんなが騒ぎ始めている。

 

「それは・・・、その・・・、来年の入学希望者の数を見てどうするか決めるらしいんですけど・・・」

 

 

 

 

 

「廃校・・・」

 

千歌は、俯いているのだが、これからの展開を知っている俺からすると、この行動は無駄なんじゃないかと思ってしまう。だって・・・

 

「来た、ついに来た!!!統廃合ってつまり廃校って事だよね!!!学校のピンチって事だよね!!!」

 

顔を上げた途端、満面の笑みになって廃校を語る千歌が居るんだから。

 

「千歌ちゃん?」

 

「まあ、そうだけど」

 

「なんか心做しか嬉しそうに見えるんだけど・・・」

 

千歌の反応を見ていた曜と梨子の2年生組は、困惑しはじめている。そりゃそうだろう。地元の学校が、しかも自分自身が所属している最中に統廃合してしまうのだから。

 

「嬉しそうじゃなくて嬉しいんだろ」

 

「だって・・・」

 

俺が千歌にツッコんだところ、千歌は外に駆け出し始めた。

 

「廃校だよーっ!!!音ノ木坂と一緒だよ!!!」

 

「これで舞台は整ったよ!!!私達が学校を救うんだよ!!!そして輝くの、μ'sの様に!!!」

 

しかも、バレー部が練習中である事すら気にとめていないのか、体育館中を走り回って戻ってきて善子となんか演劇みたいなポーズをとっていた。善子が完全に千歌に流されてる。

 

梨子が、簡単に出来るの?と千歌に問いかけている時、俺は、バレー部の活動を千歌が邪魔してしまったので、申し訳なさそうにバレー部の部長に一礼すると、バレー部の部長はいいよいいよと手を振って答えてくれた。浦女って皆仲良いなぁ・・・。

 

そんななか、千歌の様子を見ていたルビィは、花丸にどう思う?と問いかけたところ、花丸は目をキラキラと輝かせながら統廃合〜!?といかにも統廃合になるのを楽しみにしているように言った。

 

「合併ということは、沼津の高校に通うことになるずらね!!!あの街に通えるずらよね!!!」

 

「ま、まあ・・・」

 

「うわぁ〜!!!」

 

千歌同様といっても過言ではない花丸の様子を見ていたルビィは、少し呆れている。

 

「相変わらずね、ずら丸。昔っからこんな感じだったし」

 

「そうなの?」

 

善子は、梨子と曜に花丸の今の行動と近似している保育園時代のエピソードを教えた。この2人は俺の出身保育園と別の保育園出身だから俺はこのシーン見れなかったんだよなぁ・・・。

 

「で、善子ちゃんは?」

 

「そりゃ、統合した方がいいに決まってるわ。私のような流行に敏感な生徒も集まっているだろうし」

 

「やったね善子。友達に会えるよ!!!」

 

「おいやめろ!!!」

 

善子が統合賛成派だったし、花丸が何も言わなかった為、俺が善子を無理矢理反対派に押し曲げてやった。やったぜ。

 

「とにかく、学校の廃校の危機が迫った以上、

 

 

Aqoursはそれを阻止するため、行動します!!!」

 

「で、行動って何するの?」

 

「へ?」

 

「「「え?」」」

 

 

梨子の質問を聞いた千歌が疑問の声を出した為、皆千歌を驚きながら見、そして、カーン(33-4)というような音が鳴ったような感じがし、部室中が一瞬だけ沈黙に包まれた。な阪関無。

 

 

 

 

場所は移り、三津海水浴場。

千歌は、ここまで来るまでの練習時間中ずっとμ'sが行った事を考えてきたのだが、スクールアイドルとしてランキングに登録して、ラブライブ!に出て有名になって、生徒を集めただけだったらしい。人が集まったのは東京の都心だからという理由もあるのだろう。

 

「あとは・・・、PVか・・・。μ'sをもやってたしな」

 

「そうだねー・・・。あ、ネットにアップして内浦のいい所をいっぱい外に伝えようよ!!!じゃあ、明日から撮りに行こうよ!!!」

 

俺がそう言ったらすぐに千歌がPVを撮ると即決した。千歌ってそういう時の行動力は速いんだよな。

 

そして、その後少しだけ練習し、解散となった。

 

 

 

 

 

そして、次の日の学校が終わった放課後。俺達は内浦を紹介するムービーを撮ることとなったのだった。まず最初に来たのは長浜城跡。そこからPVを撮り始めた。カメラマンはもちろんアニメ通りで曜だ。俺は何をしてるのかって?それは・・・

 

 

 

監督だ。ちゃんと皆が紹介出来てるかどうかを見てほしいらしい。なお、監督に俺を指名してきたのは善子だ。後に理由を聞いてみると、俺が動画投稿してるからだと言っていた。なお、編集は善子がやるらしい。

 

 

・・・俺居る意味無くね?

 

そんな事を思っていた時、既に曜によって勝手に撮影が始まっていた。

 

「内浦のことを知ってもらうために、1つよろしく!!!」

 

千歌は、花丸とルビィの両肩を掴みながらそう言った。そして、曜はカメラを3人に向け、まず最初に花丸を映した。

 

「い、いや、マルには無理ず・・・、いや、無理」

 

花丸は、言い直しながらも紹介を拒否したので、すぐに曜はルビィにカメラを向けた。

 

「ぴっ・・・、ピギッ!!!」

 

するとすぐに逃げ出したではありませんか。カメラでもダメとか・・・。あれ?そしたら何で堕天使のムービー撮れたのだろうか?それ以上いけない。

 

「見える!!!あそこー、よっ!!!」

 

そして、善子がルビィの逃げた先を指差した。だが、そこにルビィは居なかった。ルビィは、案内板から顔を出し、「違いますー!!!べーっ!!!」

と舌を出しながら挑発するような言い方で善子に言い放った。

 

その後、すぐに曜がカメラを向けたので、ルビィは「ピギッ!!!」とまた叫び、俺の後ろに隠れた。そうこうしているうちに時間だけがすぎていくので、俺が「いい加減早く撮ろうよ」と言い、ようやく撮影が開始された。

 

最初に紹介したのが〝富士山〟〝海〟そして〝みかん〟の3つだった。そこまでの紹介はまだ良かった。そう、そこまではだ。内浦の中心部的な地区、三津の市街をバックに千歌が言ったこと、それは「特に何も無い」だった。

 

 

 

・・・これはひどい。

 

皆も俺と同じような事を思ったのか、内浦以外の場所もPVに入れていくこととなった。そして、カメラは俺に渡され、沼津駅南口の前と仲見世通りの2箇所で、曜を撮った。

 

「バスでちょっと行くとそこは大都会!!!」

「お店もいっぱいあるよ!!!」

 

だけどこれもどうかなと思ってしまう。沼津市街地が大都会という時点でおかしい。大都会と言えば──といっても五大都市の定義内だが──首都圏、大阪都市圏、名古屋都市圏、福岡、札幌だろう。お店もいっぱい・・・。うん、内浦よりもいっぱいあるけど、東海道線で静岡とか東京とかに出た方がいいよね。沼津駅前は寂れ始めてるから。

 

そして、千歌の提案で俺達は自転車で沼津駅を出て内浦の三津坂経由で伊豆長岡駅に向かった。流石にこれをするはバカだろ。歩道のないトンネルがある三津坂経由よりも歩道がある国道414号経由の方が安全で坂も多少ながら緩やかだからだ。

 

「ちょっと・・・、自転車で・・・、坂を越えると・・・、そこは伊豆長岡の、商店街が・・・」

 

で、そんなバカなルートを通ったせいで皆、息がキレている。梨子も紹介文を言うのが大変そうだ。しかも伊豆長岡駅はもう沼津市ですらない。だが、伊豆長岡駅から内浦に行くのは沼津市街地からよりも速いし安い。

(内浦から沼津駅までバスで片道740円、伊豆長岡駅までは340円かかります。東京から内浦に来るなら安くて速く時間に正確ないずっぱこをご利用ください)

 

そして伊豆長岡駅、三津シー(伊豆・三津シーパラダイス)での撮影とその後そこら辺にあった盛ってあるただの土を中二病っぽく紹介する謎の善子コントも終わり、俺達は浦女に戻って制服に着替えて洋菓子店の松月に向かった。

 

 

 

 

 

「どうして喫茶店なの?」

 

善子が何故松月に集まっているのか疑問の声を上げた。ルビィは、この前家族の皆に怒られたから別の場所にしたのではないのかと問いかけたところ、千歌は呑気な声で「ううん。梨子ちゃんがしいたけいるなら来ないって」と言っていた。

 

「行かないとは言ってないわ!!!ちゃんと繋いでおいてって言ってるだけ」

 

そんな梨子の言い訳に千歌はいやでもと答えた。ここら辺だと、家の中だと放し飼いの方が多い。千歌の家然り、近所の家然りそして・・・

 

 

 

松月(ここ)も然りである。

 

そんなぁ・・・と梨子は力なく言う。その後、すぐに犬の鳴き声がした。梨子は最初、この鳴き声を幻聴だと思っていたのだが、また犬の鳴き声がしたので、ゆっくりと後ろを見てみると、そこには、松月で飼っている犬のわたあめがいた。

 

「ひいっ!?」

 

梨子は、叫び声を上げてビクッとしたため、千歌は、「こんなに小さいのに!?」と驚いている。恐らく、犬そのものに何かトラウマかなにかを持ってるのだろう。だとすればどんなサイズの犬でもこうした反応をするのは妥当だからだ。

 

「大きさは関係無いわ!!!その牙!!!そんなので噛まれたら・・・

 

死!!!」

 

そんな感じで怯えている梨子の横で千歌は「噛まないよ~。ねー、ワンちゃん」と、笑顔で言いながらわたあめを抱き抱え、顔を近づけた。梨子は、顔を近づけ過ぎたら危ないと言っているが、千歌は聞く耳を持たなかった。さらにそれだけではとどまらず、「わたちゃんで少し慣れるといいよ」言い出し、梨子の顔にわたあめを近づけやがったのだ。わたあめと至近距離で向かい合った梨子は、固まってしまった。そして、わたあめはペロッと梨子の鼻を舐めたのだった。

 

そして梨子はわたあめから逃げるためにすぐにトイレへ駆け込んだ。どうやら梨子が言うのにはトイレの中でこれからの話を聞くらしい──アニメ内でも同じであったが──。

そして、この事をしでかした千歌は、悪びれる様子もなく、善子に動画の編集は出来たかと問いかけた。すると善子は

 

「簡単に編集しただけだけど、お世辞にも、魅力的には言えないわね」

 

と言っていた。やっぱり内浦だけでは難しいのではないかというルビィの意見も出てきたので、千歌は、沼津の賑やかな映像を混ぜて詐欺まがいのPVを投稿する案を出した。

 

「そんなの詐欺でしょ!!!」

 

まあ、そんな案は梨子によってすぐに一蹴されたのだが。梨子は、たった約3ヶ月間で千歌の行動パターンが大体分かってきてる。すごいな。

 

俺はふと、時計を見てみた。時間は19時になるまで残り5分といったところだ。三津から沼津に行く終バスは18時56分だ。ん?あそこに見えるオレンジ色のバスは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

終バスだ。

 

「曜姉!!!終バス来てる!!!」

 

「嘘!?」

「ヤバっ!!!」

 

俺、曜、善子の沼津組3人はすぐに帰る支度を済ませ、松月の出入口で一旦立ち止まった。

 

「ではまた!!!」と、善子が言った後、敬礼しながらアレを言う。曜と一緒にー

 

「「よーしこー」」

 

はい決まった。

 

「何なのよそれー!!!」と、善子がそう言いながら追いかけてきたので、ついでにバスまで競走する事としよう。曜も、ヨーソローと言って肯定してるようだし。

 

善子の「ちょっ!?まだ体力残ってるの!?この体力バカ姉妹!!!」という言葉は聞かなかったことにしよう。

 




〇次回予告〇
次回は梨子ちゃんのBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthday梨子
次回更新予定日は9月19日0時0分です。

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特別編6 HappyBirthday梨子

今回もパラレルワールドです。


「え?みかんケーキを作りたい?」

 

俺は、休み時間に俺の教室にやってきた梨子に不思議そうに尋ねた。だって、俺の教室に来て開口一番に「みかんケーキ作りたい。」とか言い出したしたからだ。

 

「そう。みかんケーキ作るの。出来る?」

 

あんまり現状を理解してない俺に梨子はそう言う。そもそも誘うなら部室でもいい筈だ。2年生の梨子が単身で1年生の俺のところに来ること自体がわからない。

 

「え?まあ、できないことは無いけど・・・、何で?」

 

「その・・・、今度千歌ちゃんの「分かった。千歌姉の誕生日にケーキを出すんだな。」まだ言ってないけど・・・、合ってるわ・・・。」

 

梨子が驚きながら言ってるが、みかんケーキなんて好むのは千歌くらいだろ?それに梨子は千歌の事が大好きだからな。

・・・千歌気づかれたくないから俺の教室なのか!!!なるほどな。

 

「で、今度作るの手伝ってくれる?」

 

「え、いいけど・・・。」

 

2つ返事で俺は答える。みかんケーキとかを作るのはもう決まりだからな。というか、今、クラスの中では「まさか、桜内先輩と渡辺さんが!!!」とか「え?桜内先輩って高海先輩とじゃない?」とか「桜内先輩を呼びつけで読んでるからワンチャン。」とか「え?きっと渡辺先輩も高海先輩のこと好きだから・・・、いったい何角関係なの!?複雑!!!」とか聞こえてきている。特にここ、浦女の生徒達は百合に飢えてるのか知らないがこういう類の話は広がるのは早い。だから誤解が広まる前に帰ってほしい。俺のため、梨子のため、そして、千歌のために。

 

「じゃあ決まりね。日時とかは後で連絡するわ。」

 

梨子はそう俺に言うと教室から出て行った。その後、俺はクラスメートに質問攻めにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー。」

 

「お邪魔します・・・。」

 

そして、ある日の昼、俺は梨子を家に連れて来た。別にみかんケーキを作るなら梨子の家でもいいのだが、千歌からその事を隠すために俺の家でみかんケーキを作ることになったのだ。

 

「おかえりー。

あ、梨子ちゃん、いらっしゃーい。」

 

メガネをしてラフな格好をしている曜は、俺と梨子の姿を見ると、挨拶しながら部屋に上って行った。反応が無関係な人みたいな感じだったなあ・・・。これでも同級生で友人、さらに同じ部の部員なのか?

 

 

俺と梨子は、リビング横のキッチンに移動した。キッチンには既に材料とレシピを見るためのタブレット端末を用意してある。

 

俺と梨子はエプロンを着け、髪をポニーテールに纏めてからいざみかんケーキ作りを開始しよう。

 

「あ、百香ちゃん可愛いエプロンね。」

 

梨子は、そんな言葉を俺にかけてきた。俺のエプロンは、ピンク色でウサギのイラストが描いてあるエプロンだった。男勝り(どう考えても中身は中年男だから仕方ない)だと心配した母さんが俺の誕生日に買ってくれたのだ。

 

そんなことはどうでもいい。さっさとみかんケーキ作りを始めよう。

 

俺は、手を洗ってから、前日茹でて、リビングのテーブル冷やしていたみかんを持ってきて、その間に梨子がオーブンの余熱を始めた。設定は──190度。うん、大丈夫だな。

 

「じゃあ、みかんのヘタ取ってフードプロセッサーに入れて潰しといて。」

 

俺は、梨子にそう指示すると丸い型を用意し、側面にバターを塗ったりして、オーブンで焼く準備をする。梨子は、ルンルン言いながらみかんのヘタを取ってフードプロセッサーの中に入れている。

 

「スイッチー、オーン!!!」

 

梨子は、そう言いながらフードプロセッサーの電源を入れている。

 

・・・こんなに上機嫌な梨子はあまり見ないな・・・。

 

みかんがミンチになると、フードプロセッサーには卵、砂糖、ベーキングパウダー、アーモンドプードルを加え・・・て・・・。

 

・・・。

 

何故か梨子が俺の方をガン見してくる。

 

「ねえ、百香ちゃん。」

 

「な、何?」

 

梨子が気まずそうに聞いてくるため、俺は少し気まずそうに返してしまう。

 

俺、何かしたか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、百香ちゃんも私のようにして。」

 

だが、そんな不安はすぐに壊された。めっちゃ上目遣いで見てくる。しかも、やれと言うのはあの〝スイッチー、オーン!!!〟のようなやつらしい。これやったら黒歴史化するぞ。冗談抜きで。

 

「いや、恥ずかしいから・・・。無理かな・・・?」

 

そう俺が答えると、梨子はあからさまにしゅんとしている。それほどやって欲しいのか。

・・・わかったよ。やればいいんだろ?やれば!!!(ヤケクソ)そして、俺はフードプロセッサーのスイッチを入れると同時に言った。

 

 

「・・・お、美味しくなーれ♡」

 

 

・・・おえぇ・・・。キモ。吐き気がするし、自分でやって自分で引いてる。見た目や声は曜に似てるが、これやってんの中身40歳のオッサンだぞ。ドアの隙間から見ていた曜は悶え死にそうになってるし、梨子はめっちゃ笑顔で動画を撮っていた。

 

「じゃあ、グループチャットに上げるわね。」

 

「やめろぉ!!!」

 

「ナイスゥ!!!」

 

「ふりじゃねーよ!!!マジでやんなよな!!!マジで!!!」

 

「それは上げていい合図ね」

 

「ダチ〇ウ倶楽部じゃねーよ!!!」

 

俺は、梨子から携帯を取り上げようとすると、梨子は、笑いながらキッチンから逃げ出して、グループチャットに俺の動画を上げているような素振りをしている。

 

 

「・・・はあ・・・。」

 

俺は、溜息をつきながらフードプロセッサーの中で潰れて混ぜ合わったものを型に入れ始めた。

 

「冗談よ。」

 

そんな俺を見た梨子はグループチャットに動画を上げていないことを確認できるようにチャットの画面を見せてくれた。

 

確かに、動画は上げられてはいないのだが、俺の黒歴史が爆誕し、さらに、梨子に弱みを握られた結果となったのだ。俺も梨子の弱みを握ってるが、これでもどうにかプラマイゼロになったくらいだ。それほどこの黒歴史は心にきてるのだ。

 

「焼くぞ・・・。」

 

俺は、あらかじめ余熱で温めておいたオーブンにさっきの生地が入った型を入れ、スイッチを押した。

 

焼いている間、俺達は3、40分適当にコーヒーを飲み、雑談しながら待ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は一日ありがとうね。また明日」

 

「ああ」

 

梨子は、ケーキが中に入ったケースを持っていない手で車の運転席に座っている俺に手を振ると梨子は、十千万の横の自宅に通じる道を登って行った。

 

俺は、帰宅後、車のカーナビ下の小物入れに入れていた予備の緑、黒、銀の3つのヘアピンについてふと気になり、灰皿を改造した小物入れを確認したところ、緑色のヘアピンだけなくなっていた。この前ヘアピンを着けるのを忘れた時、ここの緑のヘアピンを使い、戻したと思ったのだが、どこかに忘れてしまったらしい。俺は家に予備があるため、あまり気にしなかったのだが。

 

 

 

 

 

次の日、新しい緑のヘアピンを車内の小物入れに補充して曜と一緒に車で浦女に登校すると、校門前で会った梨子が珍しくバレッタだけではなくヘアピンを着けていて、何故か俺を見た瞬間、俺から逃げるようにして校舎の中に消えて行った。いつもは「あ、ヘアピン着けてきたんだ」としか俺は気にしておらず、それだけでなくなぜ走り出したのか?という疑問が残ったのだが、その時梨子が着けていたヘアピンの色までは分からなかった。その後、部活中に梨子が着けているヘアピンの色が緑色、しかも、俺が失くしたヘアピンだと気づいてしまった俺はその瞬間ある事を悟り、誰にも気づかれないところでハァ・・・と、ため息をついたのだった。

 




〇次回予告〇
次回はルビィちゃんのBirthdayStory!!!

次回、Happy Birthdayルビィ
次回更新予定日は9月21日0時0分です。

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特別編7 Happy Birthdayルビィ

ルビィの誕生日編です。相変わらずのパラレルワールドです。


春。

それは、冬を乗り越えた桜の木々が満開になり、心地よい陽気が眠気を誘う、新年始まってから訪れる最初の過ごしやすい季節だと人々は感じる。そう──

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

── 一部を除いて。

ルビィは、練習着姿で屋上から体育館にある部室に向かっている最中の連絡通路でくしゃみの音を盛大に響かせた。

 

 

──そう、花粉症だ。ルビィは、副作用で眠くなるため薬は飲んでいなく、マスクしかしていない。しかもマスクとて完璧に花粉を防げる訳では無い。横、上に空いているすき間から花粉が入ってくる為、気休め程度にしかならない。

 

それどころか、昨日の雨のせいで今日飛ぶ花粉の量は通常の倍以上になってしまっていた。Aqoursの練習場所は基本的に屋上の為、くしゃみが止まらなかったルビィは、姉のダイヤとその他のメンバーによって無理矢理部室に向かわされたのだった。

 

 

「ぶえくしょい!!!あーちくしょー」

 

 

 

ルビィは、鼻をすすりながら部室の扉を開けようとしたところ、中から大きなくしゃみの音が聞こえたため、ぴぎっ!!!と特徴的な声で驚いてしまった。

 

オッサンみたいな──正体を知っているルビィからすれば中身は本物のオッサンだと突っ込むのは野暮だが──大きなくしゃみをした声の主は渡辺百香。彼女もまた、ルビィ同様に花粉症である。

 

百香自身の私物であるパソコンの前に座っている彼女は今、マスクを顎まで下げ、鼻に優しい柔らかいティッシュで鼻をかんでいる。彼女が座っている椅子の横に置かれている部室のゴミ箱がティッシュで満杯になっており、柔らかいティッシュでも鼻が真っ赤になっていることから、どれほど多くティッシュを使っているのかが分かる。

 

「・・・ん?ああ、ルビィも部室行け(中に入れ)って言われたんだ。」

 

部室に入ってきたルビィに気づき、マスクを元の場所に戻しながらそう言った百香に対し、ルビィはコクっと頷いた後、くしゃみが凄かったから中に行けって。と言い、少し力なく笑った。

 

 

ルビィは、机を挟んで百香の反対側にある椅子に座り、今度のイベントの衣装デザインを考えるために自身のバッグからノートを出した。

 

 

 

 

 

描き始めて約五分経過した。部室の中に聞こえる音はパソコンのキーボードをカタカタと叩く音と、ノートに絵を描くサラサラという音だけだ。

 

「くしゅん!!!くしゅん!!!」

 

ほぼ静寂したといってもいい空間を消し去ったのはルビィ自身の口から放たれた2回にも及ぶ大きなくしゃみの音だった。

 

ルビィは、練習着のポケットからポケットティッシュを出すと、ルビィ自身の鼻水と唾液で湿めり、さらに貼り付いた鼻水が糸を引いているマスクを取ってゴミ箱に突っ込むと、赤くなっている鼻をかんだ。この時のルビィの顔は、赤くなってしまった鼻から鼻水を垂らしているというスクールアイドルがしていけないような酷い顔だったというのは言うまでもない。

 

「これ、あげるよ」

 

「え?」

 

そんなルビィを見かねたのか、百香は、自身のバッグの中に入っていた未開封のボックスティッシュをルビィに手渡した。ルビィは、流石に同じ花粉症の人から貰うのはできないとから断ったのだが、百香は、車のトランクににまだ山ほどあると言い、半ば無理矢理にルビィの胸元に押し付けた。

 

「あ、ありがとう」

 

ルビィは、躊躇いながらも受け取ったティッシュで鼻をかんだあと、バッグの中にあるポーチから新しいマスクを取り出して着けた。

 

「薬とか飲んでないの?」と様子を見ていた百香が聞いてきたところ、ルビィは「眠くなるから飲まなかった」答え、そしてまた2回大きなくしゃみをした。

 

その様子を見ていた百香は、花粉症に効くお茶があると言いながらパイプ椅子から立ち上がると鞠莉が勝手に備え付けたティーセットに茶葉を入れ、ポットのお湯を入れようとした。

 

 

 

 

 

 

・・・したのだが、まだ今日は誰もポットを使っていないのか、中身のお湯の残量を示す目盛りは0を指していた。

 

「あー、空だ。水入れてくる」

 

「いいよ。ルビィが入れるよ」

 

「ん、そうか?ありがとな」

 

百香がポットを持ち出そうとする前にルビィがポットを掴み、水道へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

内部タンクの水が満タンになり、タプタプと音を鳴らすようになったポット。さらに重さも増えたため、両手で取っ手を持ちながら持ってくる。部室のドアの前に着くとルビィは、持っているポットを床に置いた。ポットで塞がっていた両手が空いたので、ルビィはドアをカラカラと開けた。

 

「重かったぁ・・・」

 

ルビィは、そう言いながら部室に置いたポットにコードを繋いだ。

 

水が温められ始めた。その時、ルビィはふと百香を見てみると、薬の副作用には勝てなかったのか百香は、腕を組みながらスースーと寝息を立てながらパソコンの前で寝ていたのだった。

 

それを見たルビィは、寝ているからじろじろ見ても気にならないだろうと思ったのか百香に近づき、百香の顔をまじまじと見つめてみた。

 

そして、完全に寝ていると分かったのか、ルビィは、顔と顔の距離を少しずつ近づける。だんだん距離が近づいていくと心臓のドキドキも増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り15センチ程となった時だった。急にポットから音楽が鳴り出し、ルビィはビクッとしてピギッ!!!という驚きの声を出してしまった。

 

 

ポットが鳴ったのはお湯が沸いたからだった。誰にも見られていない。だが、もしかしたら今ので百香が起きてしまったのではないのかとルビィは思い、百香を見てみた。百香はさっきの事など気にせずすやすやと寝ていた。その様子を見たルビィは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

その時、茶葉が入った急須と沸いたお湯の入ったポットがルビィの目に入ったのだった。

 

「これ・・・

 

 

 

 

 

使えるね」

 

ルビィはそう呟くと、ティーセットの元へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ん。ああ・・・。寝ちまった・・・」

 

目が覚めた百香は、身体を伸ばし、身体をスッキリとさせる。

その後に部室全体を眺めてみると、ルビィが顔を真っ赤にしながら衣装案を描いている。そんな様子を見た百香は、何故か口の中にほんのりの残っているお茶の味と一緒に、不思議に思ったのだった。

 




アンケートをとりたいと思います。現在、オリ主をライブに出そうかどうか迷っております。(想いよ一つになれのライブを除く)
期限は9月26日です。
なお、アンケートは()()()()で行いますので、返答は()()()()の方でお願いします。
なお、次回は9月26日に投稿致します。


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第28話 内浦の魅力

申し訳ありません。20分くらい遅刻致しました。


ムービーを録画したその日の内に映像編集を行い、どうにかPVを完成させ、次の日に、そのデータの入ったUSBメモリを善子が持ってきたので、千歌のパソコンを持ち、俺を含めた皆で理事長室に向かった。

 

『・・・以上!!!〝頑張ルビィ〟こと、黒澤ルビィがお伝えしました!!!』

 

と、ルビィが頑張ルビィのポーズを見せてPVが終了した。千歌は鞠莉に「どうでしょうか」と聞いてみたところ、鞠莉はデスクに手を組みながら寝てるいた。

 

「もう!!!本気なのに!!!ちゃんと見てください!!!」

 

「本気で?」

 

寝ていたことに対し、千歌が鞠莉に苦情を言ったところ、鞠莉はそう答えた。当然、本気で作った千歌は元気良く「はい!!!」と答えた。その千歌の言葉を聞いた鞠莉は、素早くパソコン閉じた。

 

「それでこのテイタラーク(体たらく)ですか?」

 

「ていたらーく?」

 

「それは流石に酷いんじゃ・・・」

 

「そうです!!!これだけ作るのにどれだけ大変だったと思っているんですか!!!」

 

流石に体たらくと言われるのが嫌だったのか、意味を分かっていない千歌を除く2年生組から文句が飛んできた。

 

「努力の量と結果は比例しません!!!大切なのはこのtownやschoolの魅力をちゃーんと理解してるかデース!!!」

 

しかし、その文句も鞠莉に反論され、すぐに文句の声は止んだ。

 

「それって、つまり・・・」

 

「私達が理解してないって言うことですか?」

 

「じゃあ理事長は魅力が解ってるって事?」

 

「少なくとも、貴女達よりは。聞きたい?」

 

最後の善子の問いかけで鞠莉は微笑しながら言った。その微笑は馬鹿にしているのか、この苦難を乗り越えられるのか楽しみにしているのか。恐らく考えている事は後者だろう。いや、絶対に後者だ。そんな鞠莉を見た千歌は、言わないでいいですと言い、俺達を連れて理事長室を後にした。

 

 

そして、階段前まで移動した時、ふと梨子が千歌にある事を聞いた。

 

「どうして聞かなかったの?」

 

「なんか、聞いちゃダメな気がしたから」

 

何意地張ってんのよと善子に言われたが、千歌はそれは意地じゃ無く、大事な事だったから、自分で気づけなきゃPVを作る資格は無いと答え、最初に質問した梨子は「なるほど」と言い、納得した。

 

「ようそろー!!!じゃあ、今日の放課後、千歌ちゃんちで作戦会議だ!!!皆PVのアイディアを1つずつ持ち寄ろうよ!!!」

 

「そうだね」

 

こうして、俺達は階段前で2年生組と俺含めた1年生組に別れたのだった。

 

そして、午前中のSHLと授業が終わり、昼休みになった。昼休みになると1年生組は花丸と善子の机を繋げて4人で囲み、昼食を取ることになる。俺の正面にルビィ、俺の右に善子、斜め前に花丸が座る。

 

食事を始めるとすぐに善子が俺に問いかけてきた。

 

「百香・・・貴女なんかいいアイデアないの?」

 

「無い」

 

「速っ!!!ズラ丸は?」

 

「百香ちゃんが思い浮かばないのにマルが分かるわけないずら・・・」

 

やれやれといったような表情と仕草でそう答えた。何故俺が思い浮かばなければみんな思い浮かばないと言うことになるのだろう。

 

「はぁ・・・。ルビィは?」

 

「ルビィ?」

 

善子がルビィに話を振ったのだが、ルビィは俺の弁当箱を凝視するだけで反応しない。善子は、「ルビィ?ルービーイー」と言い、ルビィの目の前で手を振っていたが、まだ反応しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思っていたところ、ルビィが急に立ち上がり、俺が箸で掴んでいた1口だけ食べたスイートポテトをかぶりつき、食べてしまった。

 

「ルビィ!?」

「ルビィちゃん!?」

「俺のスイートポテト!!!」

 

「ごめん百香ちゃん。そこにスイートポテトがあったから・・・。で、何の話だったの?」

 

驚いている俺達を差し置き、スイートポテトを食べ終えたルビィはあっけからんとした表情で座っている。

 

「・・・まあいいや・・・PVの中身の話で、何かアイデアが無いかって善子が聞いてきたんだ」

 

俺の説明でようやく話の内容を理解したルビィは、あー、それねと言い、紙パックのジュースを一口だけ飲み──

 

「せっかくスクールアイドルなんだから踊ってみたらいいかなって思った」

 

と言った。

 

「それずら!!!」

「それね!!!」

「それだ!!!」

「それだよ!!!」

 

皆その事については盲点だったらしく、ルビィに言われるまで気づかなかった。正直俺もルビィに言われるまでスクールアイドルの本分を忘れていた。が、何故か最後のそれだと言った時、千歌の声が混じっていた。俺達が教室の入口を見てみると、そこには千歌の姿が・・・

 

「「「千歌さん!!!」」」

「千歌姉!!!」

 

驚きながら千歌の名を呼ぶと千歌はえへへーと言いながら弁当箱を持っていない右手で頭を掻いている。というか、ここ1年生の教室なのに何故千歌がいる。

 

俺がここ1年の教室だけどと言うと、千歌が言うに、いいアイディアが思いつかなかったから食べながら探していたら俺達の声が聞こえてここに来て、今のルビィのアイディアを聞いたらしい。食べ歩きするなよ。しかも弁当箱だし。食べ歩きするってレベルじゃねーぞ!!!

 

なお、この後千歌は曜と梨子に引きずられていって2年生の教室に戻って行った。

 

そのうちスクールアイドル部は変人の集まりという変な噂が立ちそうだと俺は考えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

今日1日の授業が全て終わり、俺達は千歌の部屋に集まった。千歌のダイヤ勧誘シーンもあったのだが、俺が1年次主任兼スクールアイドル部顧問の時雨先生に呼び出され、見ることは出来なかった。残念だったね!!!

 

 

 

その日の夕方、俺達は千歌の部屋に集まっていた。ただし、梨子だけは障子から俺達がいる部屋の中を覗いているが。

 

「しいたけ居ないよ。ね、千歌ちゃん」

 

曜がベッドのモッコリしている部分にそう言うと、ベッドの布団はもぞもぞと動く。私はしいたけじゃないと言っていると思うのだが、あれはしいたけだ。どうあがいてもしいたけ。これは決定事項。梨子の犬嫌いを治すために千歌と曜が梨子の居ないところで決めたのだ。もちろん俺も居なかった時に決めたので止められなかった。

 

「それよりもPVだよ。どうすんの?」

 

「確かに・・・。踊ること以外何も思いついていないずら・・・」

 

「それはそうだけど・・・」

 

善子と花丸に犬なんてどーでもいいだろという雰囲気を作り出されたのだが、梨子は相変わらず障子から様子を見ていままだ。

 

「あら、いらっしゃい」

 

そんな梨子を茶を持ってきた志満が部屋の中に誘導してくれた。

 

「皆で相談?」

 

「はい」

 

志満が茶を茶盆ごとちゃぶ台に置くと同時に梨子がベッド脇に座ってしまった。そのベッドの中にはしいたけが・・・。だけどバラせない。バラすなという視線が刺さるからだ。

 

「いいけど、明日皆早いんだから今日はあんまり遅くなっちゃダメよ」

 

「「「「はーい」」」」

 

みんなで返事を返したところ、志満は出ていった。これでしいたけが出てくる準備はほぼ完了。しかし、このやりかたもひどいもんだなー。

 

「明日、朝早いの?」

 

「さあ、何かあったかな?」

 

明日の朝について梨子が曜に聞くが、曜は思い出さないふりをし、これを千歌を呼ぶ合図とした。

 

「海開きに向けた掃除だよー」

 

「あれ?千歌ちゃん!?

 

 

じゃあ・・・」

 

曜の合図で廊下から姿を現した千歌を見た梨子は、瞬時に後ろのベッドの中に入っているのが千歌ちゃんじゃない何かだと気づき、後ろを恐る恐る見ると・・・そこにはしいたけが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事もありながらも次の日になった。昨日の梨子の悲鳴なんて聞いていない。イイね?

 

で、今俺達は朝4時からジャージ姿で浦女の全校生徒と内浦の人々と一緒に海岸を掃除している。母さんはこのためだけに俺と曜を車で送ってきてくれた。朝早くからお疲れ様です。

 

「やっぱ、朝方はまだ寒ぃなぁ・・・」

 

俺がそう呟くと、千歌が梨子を呼ぶ声が聞こえたため、俺は千歌と曜のいる場所まで向かった。

 

「おはヨーソロー!!!」

「おはヨーソロー」

 

「おはよう」

 

テンションは違うが曜と同じ挨拶をし、梨子からも挨拶の返答をもらう。

 

「梨子ちゃんの分のあるよ」

 

千歌は左手に持っていたビニール袋と提灯、トングを梨子差し出し、曜は道路沿いから海の方まで拾って行ってと指示を出していた。

 

千歌からビニール袋と提灯、トングを受け取った後、しばらく内浦の人々や浦女の生徒のゴミ拾いの様子を見ていた梨子は、ふと、ある事を思いついた。

 

「これなんじゃないかな・・・。この町や学校のいい所って」

 

「そうだ!!!」

 

梨子から意見を貰った千歌はすぐにある事を思いつき、すぐに俺達にビニール袋と提灯、トングを渡すと、ちょうど辺りが見渡せる場所へと移動した。

 

「あの、皆さん!!!私たち、浦の星女学院でスクールアイドルをやっているAqoursです!!!私たちは学校を残す為に、ここに生徒をたくさん集める為に!!!皆さんに協力して欲しいことがあります!!!」

 

千歌は、内浦の人々にある願い事をし、PV撮影の回はいよいよ終へと向かっていった。

 

「あ、沢木さん?例のヤツ、お願い出来ますか?」

 

俺は、誰にも見えない建設中の海の家の裏で、沢木さんと繋がっている携帯でそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

その後、撮影したPVは、どこからかすぐに届いたスカイランタンを〝Aqours〟の文字に並べて飛ばし、それを背に踊ったという高校生が作るPVではかなり斬新なものであった。

 

俺は、ビデオカメラで撮影しながらふふっと誰にも解らないように微笑んだのだった。

 




次回は10月10日に投稿致します。


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第29話 合宿をしよう

申し訳ありません。遅れました。


「はぁー・・・」

 

部室の中で百香は、大きなため息をついた。今日は6月3日金曜日。クマゼミがやかましい合唱を行い始める6月に入り、まだ1週間も経過していないが、それでももう数えられないほど多い回数の溜息を百香はついている。そしてクマゼミはそのため息掻き消すほどの大合唱をおこしている。

 

百香がため息をつく理由は、制服だ。月は5月から6月に移り、衣替えによって制服は冬服から夏服に移行する。当然、制服の生地は基本的に薄くなり、下着が見えやすくなってしまう可能性も高まるし、学校の制服によっては別デザインを用意し、冬服の時とは違った気分で登校できるところだってある。

そして、百香がため息をついている問題は浦の星女学院、1年生の夏服のデザインにあったのだ。

 

「何で1年の夏服はノースリーブなんだよ・・・」

 

そう、今百香が着ているのは袖無(ノースリーブ)のセーラー服だ。前世の時は、よくアニメ内や生放送で1年生担当の声優さんが着ていた。それに関しては別に良かった。そう、つまり、見てる分はよかったのだ。

 

しかし、いざ着てみると腋毛とかのムダ毛処理は面倒臭いし、来年の夏服は何故か袖有の制服になるし、腋はあまり見せたくないし、下手すると水で濡れてすらいないのに袖口から下着が見えてしまうかもしれないし・・・と、いうように良いことなんてひとつも無い。

 

そんな制服を着なければならないとか普通に死ねる(精神的にだが)。だから今は一時期のみ冬服で着ていたカーディガンを着てどうにか精神を落ち着かせている。6月と7月の初めくらいはあんまり暑くないからどうにかなるだろう。

 

しかし、何故1年生の制服だけ袖無セーラーなんだろうか。もしかしたらアニメ製作陣か、原案者の趣味だったのかもしれない。

 

「はぁー・・・」

 

そしてまた百香はため息をつく。このため息はこれから夏服の間は精神が削られていくことを意味していた。

そんな俺を見ていた善子が「そんなにため息ついてると幸せが逃げるわよ」と言ってきたため、俺が「いつも不幸な善子に言われた()ねぇ」と言ったところ、「どういう意味よよれ!!!」と、善子に言われ、そして花丸に「善子ちゃん、やめるずら」と言われるまでずっと善子に両肩を掴まれて前後に動かされた。

 

そして、善子を止めた花丸はため息をつき、「遊んでないで、早く千歌さん家いくずら」と呆れるように言いながらスクールバッグとパンパンになっている薄い黄色のダッフルバッグを持った。2年生3人はもう千歌の家に向かったのか、スクールアイドル部室に姿はなかった。

 

そう、実はあの時作ったPVがアニメ通り高評価をもらい、6月初めに東京行きが決まったのだった。そして、今のままではヤバいと千歌からの進言があり、6月の第1週の金、土、日の3日間にわたって合宿が行われることとなったのだ。合宿の内容は歌詞とダンスの大まかな決定ということで、ほとんど遊びみたいな事となってる。よくこの合宿にルビィが参加することダイヤが許したな。千歌は、この計画に俺が反対すると思っていたらしく、バレないように秘密裏に進めていた。で、Aqours皆のOKを貰ってから俺のところに来たという事は、この事を「皆からOK貰ってるからー」とか言って無理やり俺にOKさせようとしたのだろう。

合宿について聞いてきた時の千歌の顔はどうか!?通るか!?という千歌としては珍しい真剣な顔だったからだ。

 

もちろん俺は二つ返事でOKを出した。千歌は最初その事を信じられなかったのか俺に何度か「本当に?本当の本当に!?」聞いてきたので、「じゃあダメ」と言った。すると千歌は「え!?」と悲しそうな顔をすぐにしたので笑いながら冗談だと返したところ、千歌は安堵の表情を見せたのだった。本当、千歌って裏表の少ない子でわかりやすい。

 

それはともかく、俺が二つ返事した理由はその合宿の日時と前世の最期で約束した時の日時が一致していたからだ。それに合宿場所であろう十千万から内浦の船着場までは目と鼻の先。途中抜け出して容易に会えるし、もし誰も来なくても怪しまれることもなく戻れるからだ。

 

「百香ちゃん。そろそろ行くよ」

 

「あ、ああ」

 

部室と校舎に続く連絡通路の入口付近にピンク色のリュックサックを背負いながら立っているルビィにそう言われ、俺は深緑色のダッフルバッグとスクールバッグを持ち、千歌の家である十千万にバスで向かうため、部室を出て鍵を閉めたのだった。その時、わざと3日目の下着の入った袋を部室に置いてきたのだった。

 

 

 

 

 

 

鍵を職員室のキーボックスに戻した後、善子、花丸、そしてルビィと合流し、一緒に十千万に向かったのだった。合宿初日である金曜日に土日の宿題をすべて済ませることを予定していたため、活動は軽く運動(3kmランニング)をしただけとなった。その時、千歌や善子が全然少しじゃないと文句を言っていたが・・・。

 

そして、夕食を食べ、宿題を終えた後に皆で十千万の露天風呂で入浴をする事となった。もちろん、入浴時刻は一般のお客に配慮したらしいのか、少し遅い9時30分頃だったが。

 

服を脱ぎ、全身を洗った後に髪が湯船の中に入らないようにアップヘアーに纏め、浴槽の中に入り、梨子の横に座った。周りを見渡すと、髪が長いメンバーは皆髪を纏めているし、善子や梨子のようにきめ細やかな白い肌をしている子も多い。善子は、自分の肌をタオルで隠して中々湯船に入らないのだが。

 

 

 

 

・・・可愛らしいくしゃみをしてようやく湯船に浸かった善子を苦笑いしながらながらふと思いついた事があった。

 

明日、もし仮に転生した一希と菜月と会い、この姿を見たとならば2人はどんな反応をするだろう。女になった俺を見て驚くのだろうか。それとも曜の妹になった事を羨むのだろうか。それとも──

 

 

 

 

 

 

 

──世界を変えてしまうのかもしれないのにAqoursに、いや、浦女に入ってしまった俺の事を軽蔑してしまうのだろうか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、明日アイツらに会ってみてなければならない。この()の姿で──

 

俺はそう思い、もくもくと湯気がたっている湯船から立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、2日目用の下着も忘れた・・・」

 

まあ・・・、考えすぎるのも良くないか・・・。

 




アンケートを取りたいと思います。当作品に登場する新しいオリジナルキャラクターを決めたいと思います。期限は11月27日です。
なお、アンケートは()()()()で行いますので、返答は()()()()の方でお願いします。
↓活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=196630&uid=133483

次回更新予定日は
10月24日0時0分です


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第30話 再会

合宿1日目が終わり、Aqours一同と就寝した俺は、ある夢らしきものを見ている。

 

 

 

 

 

今、俺は浦女の冬服の制服に身を包み、何も無い真っ白の空間に立っている。

 

 

 

 

 

 

 

もう一度、辺りを見回しても何も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢らしきものが覚めるまでこの何も無い白い空間にただ立ち尽くしているようなのかと思った瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは。はじめまして、だね。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある空間(場所)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、今の(百香)に似た声が後ろから聞こえた。俺は、ゆっくりと後ろを振り向いてみると、真っ白のワンピースに身を包んだ(百香)と全く同じ姿の女性が立っていた。

 

 

 

「お前は・・・」

 

 

 

「我は汝、汝は我。我、汝を我に宿し者」

 

 

 

「・・・どういう事だ?」

 

 

 

俺が問いかけると、俺と同じ姿の女性は少しニヤリと笑うと、言った。

 

 

 

「今はまだ話せない。そのうち貴女に話すよ。じゃあ」

 

 

 

女性がそう言うと、辺りはすぐに真っ黒に包まれた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年6月4日土曜日午前11時。駿豆線伊豆長岡駅に1人の女性、東海道線沼津駅に1人の男性がほぼ同時刻に降り立った。2人の出発地こそ別だが、目指している目的地は同じであった。2人共キャリーケースを持ち、別々のバスで目的地に向かっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、内浦に向かう人物はもう1人居た──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・、歌詞浮かばないー」

 

そう言いながら千歌は自室のテーブルに突っ伏し、それを見ていた曜が苦笑いをしながらノートに衣装案を纏めていて、そして、千歌の横に座っている梨子が「早く」と、千歌を急かしていた。え?ルビィと花丸と善子はって?それは俺がビシバシ鍛えてる。ルビィ、花丸は元々体力がないし、善子はヒッキーだったから体力が無いから参加させた。

 

とりあえず体力作りのために内浦の船着場から十千万まで合図でダッシュしてそこから歩いて戻ってくるインターバルをやろう。ただ、俺は合図をするだけ。善子からは文句を言われたから〝じゃあ私と同じ体力あるんだろうな?じゃあ軽く5km行こう〟と俺は言ったところ、善子は黙った。当たり前だ。今日の朝、曜と内浦の海岸沿いを10km一緒に走り、しかも曜の方が先にへばってしまい、最後は俺の独走状態になっていたからだ。

そんな俺と同じペースで走ったらどうなるかもう言わなくても分かるだろう。え?下着はどうしたかって?曜の3日目の下着を使ってるよ。もともと俺のいる渡辺家は下着や服を共有することが多い。下着は母さんと曜と俺の3人で、服は母と曜が共有して着ている。俺の身長サイズの服だと曜が着た場合、ブカブカになるし、曜の服を俺が着たらピチピチというか、着れない。絶対。

 

・・・閑話休題。

 

 

 

 

「よーい、ドン!!!」

 

で、俺達4人は千歌の自室から船着場に移動し、俺の合図で走り始めていた。現在時刻は11時15分。30分から45分くらいになったら5分休憩入れてまた15分くらい走らせて昼食休憩を入れようと計画した。ふと、船着場の先を見てみたところ、スーツケースを横に置いた女性が座わりながら海を眺めていた。見た目的に女子高生か女子大生くらいだと思うのだが、もしかしたら転生してきた人で、俺の知っている人なのかもしれない。その証拠にこちらをチラチラと見てきているからだ。

 

だが、今はAqoursの皆との練習に混じっているため、下手な行動は出来ない・・・。話しかけたくても我慢するしかない。

 

 

・・・今はどのくらいか・・・?

 

・・・ああ、3本目に入ったところか・・・。

 

・・・もう既に花丸がへばり始めている。へばるの早すぎィ!!!

 

「もう・・・、ダメずら・・・」

 

船着場まで戻って来た花丸がそうこぼした。初めの頃よりも体力は上がってきたはきたのだが、3本目でへばるのではまだまだ体力は足りない。だからもう少し走らせよう。

 

「鬼、悪魔、百香ちゃんずら!!!」

 

少し息を整えた花丸が俺を見ながらそう言ってきた。

おいおい。俺はあの他作品の緑色の事務員じゃねえよ。少なくとも金や気力を奪うようなことはしない。奪うのはせいぜい体力程度だよ。

 

おい、上目遣いで俺を見るな。

 

 

 

 

 

 

 

・・・わかったよ。5分だけ休憩だ。

 

花丸の上目遣いに負け、休憩をする許可を出すと、その場に花丸は座り込んだ。座ったらさらに疲れるのにな。

 

「で、花丸。〝鬼、悪魔、〇〇〟なんて言葉誰に教わった。」

 

「善子ちゃんずら」

 

「よし善子。今から私と沼津までランニングか50本走り込み、どっちがいいか選ばせてやる」

 

「何でよ!!!」

 

花丸の横でいつの間にか休憩していた善子が俺の標的になった。花丸にそんな言葉を教えた善子が悪いんだ。だって俺は・・・

 

「千川〇ひろが大嫌いだからだ」

 

「え!?嘘!?」

 

予想外の答えが帰ってきたからなのだろうか。俺の答えを聞いた善子が驚いた。

 

「何故だ。ゲームをやり込んでいる善子はこちら側ではないのか!?」

 

「ジュエル沢山くれるいい人じゃない」

 

「嘘だ!!!これは罠だ!!!善子が私を陥れるために仕組んだ罠だ!!!デ〇ステやっているのにち〇ろが嫌いじゃないというのはおかしいじゃないか!!!」

 

「私は無課金勢よ!!!重課金勢にはわからんでしょうね!!!」

 

こんな感じで俺と善子の喧嘩らしきものがヒートしてきはじめ、船着場の出入口を塞ぐ感じで向かい合い、ち〇ろについての言い合いが始まった。ちなみに俺は今も無金勢だけどな。リアルの曜だけで満足出来るから課金する必要も無い?君は何を言っているのかな?ゲーム=課金。鉄則だよ鉄則。担当?布袋・・・じゃなかった、安部〇々Pだったんだ。あの三十路に近い永遠の17歳。

 

「お前、もしかしてSSRいっぱいあるだろ!!!20枚とか30枚とか!!!」

 

「何言ってるのよ!!!SSRなんて出ないし、せいぜいSRよ!!!チケット使ったら落ちるし!!!」

 

「・・・ごめん善子。ち〇ろ以上とは思わなかったよ・・・」

 

「はぁ!?どういう意味よそれ!!!」

 

「2人共やめなよ」

 

「「ルビィは首を突っ込まないで!!!」」

 

「ピギッ!?」

 

ルビィが止めに入ったのだが、言い合いの間の出来事にしか過ぎない事にしかならなかった。そう、ヒートしすぎた俺と善子には通用しなかったのだ。

 

「どうしよう、花丸ちゃん・・・」

 

「うーん・・・」

 

ルビィと花丸は、言い合いになっている俺と善子を止める術が無くなったのか、立ち尽くすだけだった。その時だった。

 

 

 

 

 

「すみません、少し通らせていただけませんか?」

 

紺色のスーツケースを持っている高校生程の男性が言い合いになっている俺と善子に話しかけてきたのだ。当然、言い合いをしていた俺と善子は、互いの顔を少しだけ見つめあってから船着場までの道を空けた。

 

男性は、善子と俺の顔を交互に見て、首を傾げながら船着場の先に歩き出した。その男性の歩き方を俺がちらりと見た時、既視感があったのだった。

 

 

 

 

 

「よし、頃合だ。1時半まで昼休憩にするぞー。先に昼飯食ってこい」

 

俺が息切れ切れで死にそうになっている1年生3人にそう促すと、1年生3人は十千万に向けて歩き出した。若干1名、「ご飯ずらー」と言って走って行くのがいるのは気にしないでおこう。・・・ってか、さっきまで死にそうだったのにそんな体力どこに残ってたんだ。

 

 

 

 

 

俺は、1年生3人の姿が見えなくなった後、船着場の方をちらりと見た。船着場では、男女が何やら話し合って抱き合っている。あの反応を見て推測しただけなのだが、もしかしたらアイツらかもしれない。そう、八名一希と林菜月だ。

 

俺は、そこまで考えてから船着場の先に向けて歩き出し、船着場の先にいる2人に話しかけたのだった。

 

「すみません、人を探しているんですが、八名一希さんという方をご存知でしょうか・・・」

 

その瞬間、男性の方は笑顔で「ああ」と答えたのだが、一瞬で衝撃を受けたような表情となった。

 

「お前・・・、もしかして慶喜か!?」

 

八名一希と思われる男性に両肩を掴まれて詰め寄られた。俺は八名の気迫に満ちた表情に押され、俺は「あ、ああ」としか答えられなかったのだが。

 

「お前、女になったのか!!!」

「嘘!?」

 

2人の驚く声が内浦中に木霊したのだった。

 




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第31話 再会2

一応、エンドパターンは2パターン考えました。後日談は・・・。1パターン目がキツイですね、色んな意味で。絶対書くのが辛いと思います。ベースとしてる作品がダークすぎるので。


「いやぁー、まさか慶喜が女になったとわなぁ・・・」

「本当、本当」

 

八名と林は勝手に2人で頷きあっていた。本当、前世から八名と林は仲がいいな。これで付き合ってるわけじゃないからなコイツら。

 

「まあとりあえず、コッチの名前で自己紹介するようだよな。俺は、渡辺百香だ」

 

神田(かんだ) 大智(だいち)だ」

 

「私は大辻(おおつじ)美咲(みさき)

 

とりあえず、コッチの名前で挨拶をしたのだが、名字とAqoursと一緒にいた事を見ても気づかないのか?俺が曜の妹ということを。

 

「まあお前ら。立ち話もなんだし、移動すっか」

 

俺が2人にそう言い、とりあえず内浦を南北に貫いている県道出た。車通りは土曜日なのにも関わらず少ない。俺が前世に内浦に行った時にはかなり混雑していた。まあ、あの混雑はこの世界が原因なんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ慶喜。お前、さっき善子と話してただろ。どうしてだ?」

 

県道に入ってすぐに八名に問いかけられた。八名や善子推しの林からすると善子と話している俺が羨ましいだろう。

 

「ああ、友達だらかな」

 

「はあ?善子と友達!?ズリぃぞお前!!!」

 

「え!?善子と!?ズルいですよ!!!私善子が一番好きなのにー!!!」

 

八名が不満の声を漏らしたと同時に林まで不満の声を漏らし始めた。普通にAqoursのメンバーと話せる事は俺達にとって普通はありえないからだ。そんな普通では無い事を出来ている俺は、他ライバーから羨まれる存在なのだろう。それに俺は曜と血が繋がってる。もしこれが慶喜だった時の世界だったら・・・下手すると殺されるんじゃないか?俺。そしたらこの空間が天国に思えるに違いないな・・・。

 

「そんなの俺に言われたって・・・。転生先を決めた神様とかに言えよ」と2人に言ったのだが、不満の声は、十千万の少し前まで歩いてきても止むことは無かった。こうなったら奥の手を使うしかない。

 

「・・・あーああ。いい情報教えようとしたんだけどなー。教えるのやめようかなー」

 

俺は、ニヤニヤしながら2人にそう言った。すると──

 

 

「あ?どんな情報だ?」

「そうですよ」

 

 

 

──思った通り2人共食いつきてきた。

 

「お前ら、今日どこに泊まる?」

 

「十千万だ」

 

「私も十千万です」

 

2人に宿泊場所を聞くと、2人共〝十千万〟だと答えた。

 

「実はな、今日はAqoursの合宿があるんだ。十千万でな」

 

その2人の答えを聞いた俺は、ニヤリとして答えた。

 

「嘘だろ!?マジか!?花丸ちゃんに会えるじゃねーか!!!」

善子(ヨハネ)にも!!!」

 

「あんま騒がしくすんなよ。バレたらヤバいんだから」

 

俺が八名に忠告すると、八名と林はわーってるよと答えた。守る気無いだろうコイツら。

 

はーっと俺がため息をついたと同時に俺達は十千万の入口の前に着いた。八名と林はスーツケースを預けるらしく、2人して十千万のチェックインカウンターに向かって行った。

俺は、制服に着替える為に2人と別れ、2階に向かう事となった。2階で制服が置いてある宿泊部屋である千歌の部屋にはうんうん唸りながら突っ伏している千歌と曜、千歌に軽く怒っている梨子がちゃぶ台を丸く囲うように座っていた。

 

制服に着替えながら3人に〝着替え取りに行くから、そのついでになんか買ってくる物あるか〟と、尋ねたところ、曜と梨子は特に何も無いと答えたのだが、千歌は突っ伏していた顔を上げ、みかんアイス!!!と答えてきたので、部活動に関係するものを頼もうなと答えた。すると千歌は酷いよーと言いながらまた突っ伏してしまった。

 

制服に着替え終わり、行ってくると言うと曜が行ってらっしゃいと敬礼をしてくれた。俺は曜に海自バージョンの敬礼をして1階に降りていった。

 

 

「お待ちどー」

 

「えっ!?」

「おま、それっ!?」

 

俺が外に出ると既に八名と林が待っており、俺のことを見た後、驚いた声を出しながら出迎えてくれた。

 

「話は車でだ。行くぞ」

 

だが、俺の事をここで話すわけには行かない。とりあえず2人を車へと誘導した。走る車の中ならばある程度の大声を出しても盗聴器が取り付けられていない限り外に漏れると言うことは無いからだ。窓が空いていたら別だが。

 

助手席に八名、後部座席に林を乗せたR33は静岡県道と国道414号を沼津市街地に向けて走り出した。走る車の中で、俺はこの世界の俺の事を全て八名と林に話した。もちろん、曜と血の繋がった妹だということや、Aqoursにマネージャーとして入ったということもだ。

 

「ズルいぞ慶喜!!!」

「そうですよ!!!」

 

羨ましそうに言ってくる2人に対し、「にひひ。ズルいでしょ?」と、曜の声真似をして答えたところ、八名は、「どうりで曜と姿と声が似ていたわけだ」と、2回ほど頷いていた。

 

「で、今はどこに向かってるんだ?」

 

「俺の家。あ、入ったら不法侵入で通報するからな」

 

その瞬間、車内は落胆の雰囲気に包まれた。コイツら本当に入りたかったんだな、曜の家。いや、もしかしたら家じゃなくて部屋とか・・・!?よし、車内に置いていこう。絶対だ。

 

 

 

 

家に着くと、降りるなと2人に釘を刺してから車を降り、すぐに曜の部屋に入って下着を袋に入れて持ち出した。曜は俺に下着を貸したため、持ってきた下着が1着少なくなったからだ。車に戻り、後部座席に置いといてと後部座席に座っている林に言い、袋を渡した。

 

「何ですか?これ」

 

「下着だ。曜の」

 

「「えっ!?盗んだ!?」」

 

「なわけあるか。俺が下着忘れて曜から借りちまってな、それで1着足りなくなったんだ」

 

2人に警察に通報されそうになったため、俺は2人に持ってきた理由を説明した。林はそうだったんですかーとうんうん頷いていたが、八名はなるほど・・・ん?と言い、首を傾げ始めた。

 

「という事は・・・今の慶喜の下着は・・・」

 

「曜のだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・はぁ!?」」

 

しばらくの沈黙の後に2人は驚きの声を出した。そりゃそうだ。誰もメンバーの下着を着けているとは思わないからだ。これも妹の特権・・・なのかもしれない・・・

 

「仕方ねぇーだろ。忘れちまったんだから」

 

俺は、少し不機嫌そうに言いながらアクセルを踏んだのだった。

 

 

 

 

 

 

車が向かった先は浦の星女学院。昨日わざと置いてきた下着を回収するためだ。とりあえず、俺は浦の星女学院前のバス停脇の広場に車を止めた。2人は浦女が見れないと文句を言ってきたが、不審者と思われて通報されたらどうすると言い、不満そうな顔をした2人を車に乗せたまま浦女に向かうため、階段を上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、部室に置いてきた下着を取ってきてバス停に通じる階段を降りた。車にいた八名と林は車から降りていた。八名は暇そうに車のボンネットに座っており、林はバス停の写真を撮影していた。

 

「何やってんだ林・・・」

 

「え?いやぁー、浦女のバス停って現実で初めて見るので、写真に収めておこうかなーって・・・」

 

「あまり不審そうな事はするなよ。撮り終わったら助手席に乗れよな」

 

俺はそう言うと、ボンネットに座っていた八名を半強制的にR33の後部座席に押し込んだ。文句を言っていたが、この後十千万に行くことを知っている為か、拒否する事はなかった。

 

「終わりましたー」

 

そう言いながら車の助手席に乗り込んだ林を俺はすぐに確認し、十千万に向けて発車した。

 

 

 

 

「あ、そうだ。ちょっと寄りたいところがあったんだ」

 

ふと、ある事を思い出した俺は少しニヤリとしながらルームミラー越しにきょとんとする2人を見たのだった。

 




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第32話 転生者

28日が投稿日だとすっかり忘れていました。しかも、書き終わったのは28日の夜です。どうにか12月から東京編に入れそうです。


「じゃあ、お前ら食事の時間にもう一度会おうな」

 

途中、コンビニに寄ったため、レジ袋を持った百香は、チェックインするためにまたカウンターに向かって行った2人にそう言って2階に上がって行った。

 

「おかえりー・・・」

 

千歌の部屋に入ると千歌は、ノートに顔を突っ伏していた。歌詞の状況は、少しだけ増えているだけでほとんど進んでいなかった。まあ、千歌らしい。

 

「どう?書けたか?」

 

「全然・・・」

 

「頑張れよ。ほら、差し入れだ」

 

俺は、そう言うと千歌にアイスを差し出した。その瞬間千歌は顔をぱあっと明るくし、すぐにアイスを食べだした。そんな千歌を横目で見ながら曜と梨子、そして、横で少し休憩していた1年生組3人にもアイスを差し出した。

 

皆でアイスを食べ始めてから俺は、さっき寄ったコンビニで、八名と話した出来事を思い出していた。

 

「なあ、お前。他にラブライブ!系を好きだった奴覚えてるか?」

 

「確か、鎌田(かまた)三尉、本間(ほんま)三尉、三浦(みうら)一曹と佐々木(ささき)二曹・・・あと、・・・福田(ふくだ)二曹だったっけなぁ・・・。それがどうした」

 

「俺ら3人以外にも好きな奴居るだろ?だから他にも転生した人がいねーかなって」

 

「いたらいいが、確率は少なくねーか?」

 

「たらればの話だよ。たらればの」

 

「はあ・・・」

 

といった感じのような話だった。その話を聞く感じでは、俺達仲良し3人組(今命名)と艦長(沢木さん)以外にも誰か来てほしいという事らしい。転生する分には構わないのだが、この世界のAqoursを変えてしまうという事だけは避けて欲しい。それだけは思った。

 

「百香ちゃん?百香ちゃーん」

 

「んぁ?ああ、花丸か。どうした?」

 

考えていて気づかなかったのだが、目の前に花丸が居た。この後花丸が言ってきたことは、善子が「百香が練習しないなら私もしなーい!!!」と言いながらストライキ紛いの事をしていて、どうにかして欲しいということだった。

 

「ああ、わかった」

 

俺は、黒い笑顔になりながら少し青ざめている花丸と一緒に善子とルビィのいる場所まで向かった。その後、十千万のある一室で死んだように倒れている善子の姿があったのは言うまでもない。

 

ちなみに、今この場副顧問の崎教諭も実は居るのだが、実質、この部を取り仕切っているのは、俺である。そのため、崎教諭も1年生の中に混じって一緒に練習に参加して汗を流している。だっては暇だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと・・・思ったわ・・・」

 

夕食の時、善子はそんな事を言いながらテーブルにうつ伏せになっていた。ストライキなんてするからだ。ストライキとかをせずにキチンとルビィのように練習をしていたならばこんな事にはならなかった。

 

「うわぁ・・・。なんか善子ちゃんが凄いことになってるね・・・」

 

それは、2年生が食堂にやって来て善子を見た瞬間、皆絶句していて、唯一発せられた言葉だった。そりゃそうだ。たった半日見ぬうちに善子の目から光が消え、自分のキャラさえ忘れている程になっているのだから。

 

「百香ちゃん・・・善子ちゃんに何やったの・・・?」

 

「腹筋と腕立て伏せを20回5セットずつとランニング10km」

 

鬼畜だ!!!とか言ってきた千歌だったが、俺がストライキなんてするからだと言うと、黙ってしまった。

 

「まあ、とりあえず夕食食べようよ」

 

「そ、そうね」

 

とりあえず、皆でいただきますと言い、夕食を食べ始めた。一応、合宿料として十千万側に幾らかの金額を支払っているのだが、通常の宿泊客が支払う金額よりもかなり安い。そのためか、通常の宿泊客の食事よりも簡素なものとなっている。たまに作りすぎて残った余り物とかは貰うけどな。

 

色々話しながら食事を食べているのだが、後ろからの視線が刺さる。恐らく、後ろには八名と林が居るからだ。アイツらまだ羨ましく思ってんのか・・・

 

とりあえず、後ろからの視線を無視し、善子と曜の会話を聞いてみた。

 

「で、この前の昼休み、ルビィが百香が箸で掴んでいたスイートポテトを勝手に食べたの。そう、つまり間接キス!!!」

 

「言わないでよ善子ちゃん!!!」

「えっ!?姉であるこの渡辺曜に隠れてそんな事するなんて!!!ルビィちゃんズルいよ!!!」

 

Aqoursのメンバーはだんだんヒートアップしはじめ、声もどんどん大きくなっていく。

 

「ちょっと、皆。ほかのお客様もいるんだから静かにしなさいよ!!!」

 

梨子がどうにかしてこの場を収めようとしたのだが、止まる気配は全くしない。

 

「おい、これ以上五月蝿くするんだったら東京まで飯抜きでランニングさせるぞ」

 

「「ごめんなさい・・・」」

 

少しドスの効いた声で言うと2人はすぐに大人しくなり、普通の声量での会話をするだけというさっきと比べたらかなり静かな夕食となった・・・

 

 

 

・・・なったのだが、後ろからの視線が凄い。多分、聞いてしまったのだろう。

 

説明が面倒なことになるなと思いながら俺は、ため息をついたのだった。

 

 

 

「なあ、慶喜!!!間接キスってどういう事だ!!!」

 

「おい、八名。声でかい。千歌達にに聞かれたらどうすんだ」

 

夕食が終わり、一旦千歌達と別れ、今食堂にいるAqoursの誰からも気づかないような場所である温泉前の休憩室に移動した時に、八名は大声で言ってきた。

 

「羨ましいぞ!!!俺なんかAqoursに関われずに15年も過ごしたんだぞ!!!」

 

「そうですよ!!!」

 

「そんな事俺に言われてもなぁ・・・」

 

二人は一方的にヒートアップし、事態を収拾出来なくなるのではないかと憂いた時だった。

 

「あの・・・、すみません・・・」

 

と、後ろから声を掛けられたのだった。

 

 

 

後ろを振り向くと、そこには金髪で俺と同じくらいの身長の女性が立っていた。

 

「あの・・・、副長と八名一曹、そして林三曹ですよね?」

 

高身長に似合わない低姿勢、そして通常の高校生と同年代には似つかない丁寧な言い方で言っていた物腰は、俺達にとっては前世のどこかであったような言い方だった。

 

「え?あ、ああ、そうだが・・・」

 

「俺です!!!〝はくう〟船務士の三浦(みうら) 義治(よしはる)一曹です!!!」

 

「「「はっ?」」」

 

そう、目の前にいる金髪の女性は、俺達の前世で一緒の(ふね)所属の三浦義治一曹だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、アメリカ人のパツキン(金髪)女とはな・・・」

 

八名と林にとっては本日二回目の驚きである。というか、何故コイツ(三浦)だけアメリカ人になったのか。

 

というか、転生者多すぎィ!!!なんでこの場に俺を含めて4人も居るんだ。しかも3人日本人だぞ!?もっとフランス人とか中国人とか、カナダ人とかメキシコ人とかいてもよかったのでないのかと思ってしまう。

 

「というか、お前、来て良かったのか?」

 

「え?」

 

急に八名が聞いてきた。突然どうしたのだろう。

 

「だって、お前、夕食はAqoursと一緒に居ただろ?俺らと居てもいいのか?」

 

「どういう事だ?」

 

「いやぁ・・・その・・・な・・・」

 

何だか申し訳なさそうに言っているが、9割9分ここに来た原因は八名と林(お前ら)だからな。まあ、申し訳なさそうに言っているという事は自覚はあるんだな。

 

「じゃあ、そろそろ・・・「渡辺ー」ん?」

 

八名達と別れようとすると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。後ろを向くと、副顧問の崎教諭が着替えを持ちながら立っていた。

 

「崎先生。どうしましたか?」

 

「ああ、高海が風呂入ってくる時に渡辺見つけたら歌詞出来たって言っとけって言われたからな」

 

崎教諭は、じゃ。と言うと男と書かれた暖簾の先に消えて行った。

 

「じゃあ、お開きだな」

 

「ああ。次は東京で会おう」

 

「ああ」

 

俺達はそう言葉を交わすと、チャットを交換し、別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁー、全ての歌詞を書き終わった後のお風呂は格別だねー」

 

そう言いながら千歌は湯槽に足を伸ばしてのびのびとしている。今の時刻は21時30分くらい。Aqours一同以外誰も大浴場には居ない。

 

「千歌ちゃん。何だか、おじさんみたいわよ」

 

「千歌ちゃんはおじさんじゃないよ!!!」

 

少し微笑みながら千歌の右横に座っている梨子がそう言うと、千歌の左側に座っている曜が反論する。なんとも微笑ましい光景なんだ。

 

「こんばんは」

 

その時、湯けむりの中から1人の声がした。

 

「貴女は・・・」

 

「こんな所出会うなんて奇遇ね」

 

「校長先生!!!」

 

そこには、浦の星女学院の校長、志田川由紀子が同じ湯槽に浸かっていた。え?何故ここに居る?さっきまで誰も居なかったのに?

 

「どうしてここに?」

 

「残業で夜遅くなっちゃってねー。家に帰っても息子居ないし、お風呂入るのも面倒くさかったし。だからここで入ろっかなーって」

 

「ソウデスカ・・・」

 

俺がそう答えると、校長は、よいしょっとと、言いながら立ち上がった。

 

「頑張ってね、スクールアイドル」

 

そう言い残すと、校長は湯槽からでて行った。今、Aqoursの皆は応援してくれているんだと思っているはずだ。こんな時、東京の大会に出たAqoursに票が1票も入らないと分かっていた俺は、何だか複雑な気持ちになった。

 




次回更新予定日は12月12日です。


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第2章 出会いと挫折と漏洩と
第33話 東京へ


すみません。またまた遅れました。


6月24日土曜日、沼津駅南口ロータリー中央部、沼津機関区記念碑前──

 

 

俺と曜、そして顧問の時雨(ときさめ)先生は、約束時間を過ぎてもまだ来ない千歌達を待っていた。

 

「遅いなー・・・。・・・百香ちゃん、結構な荷物だね」

 

曜に言われた通り、俺の荷物は、スーツケースを持ち、リュックサックを背負っていた。理由は、このリュックの中身を、東京で会うある人物に渡すためであったからだ。そのため、俺だけ秋葉原に着いたら途中まで別行動だ。

 

ちなみに、この話をしている横では、いつも通り善子が堕天していた。

 

「ものすごく注目されてるんですけど・・・」

 

「曜姉、他人のフリだ、他人のフリ!!!」

 

善子は、かなり奇抜な格好をしている為、曜が言うように周りの人々からかなり注目されていた。この時の時雨先生は、スマホを弄り、完全に他人としての対応をしていた。

 

「何か善子ちゃんへの対応がひどいずらね」

 

「過去の1件がまだあとを引きずってるんじゃない?」

 

「?」

 

いつの間にか花丸とルビィ、そしてまだ何も話していない千歌が居た。どうやら、善子が堕天している時にここに着いたらしい。

 

「あれは忘れろ!!!」

 

「みんな遅いよー!!!」

 

俺と曜が花丸とルビィの二人と話をすると、善子が何やら力を溜めているようなポーズをし始め、そして──

 

「善子じゃなくて・・・、ヨハネ!!!漆黒のステージ、溜まりに溜まった堕天使キャラを解放しまくるの!!!」

 

叫んだのだった。その瞬間、辺りの人々は一斉に散りはじめた。小さな子供に至っては、母親に無理矢理連れてかれている。まるで何かから逃げるように・・・。

 

その堕天使キャラについていけなかったのか、千歌達は「お、おう・・・」と、しか言えなかった。

 

その後、俺達は沼津駅前までに移動し、俺は、きっぷを買うために千歌達と一旦別れ、沼津駅の全線きっぷ売り場に向かった。

 

「在来線使用で秋葉原までの往復7枚で」

 

「新幹線はどうされますか?」

 

「在来線使用って言ってますよね?」

 

「新幹線は」「在来線で」

 

「・・・では合計5万6千」「それ新幹線だろ」

 

「25,060円となります」

 

「御殿場、小田急線経由にしないでくださいね?」

 

「・・・31,780円となります」

 

どうにか新幹線誘導をしてくる販売員に騙されずに在来線のきっぷを購入(時雨先生を除く分)する事が出来た。何?俺が鉄道に詳しくないと思った?

 

俺は、きっぷを持ち、きっぷ売り場を出ると、千歌達と合流した。さっきのきっぷ購入の茶番の時に千歌の同級生のモブ3人組、むつ、いつき、よしみが来たのか、袋いっぱいに詰められているのっぽパンがあった。

 

「千歌姉。きっぷ買ってきたぞ」

 

「ありがとう。じゃ」

 

俺達は、モブ3人組(むつ・いつき・よしみ)にいってきまーすと言い、ホームに止まっている熱海行きの3両編成のオレンジ色の電車に乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

三島、函南駅を経て、俺達は熱海駅に到着した。熱海駅は東海道線の主要駅で、静岡方面と東京方面の電車の乗り継ぎ駅でもある。朝晩の数本だけ東京から沼津まで行く便もあるが、今は昼間な為、全て乗りかえる必要がある。

 

その熱海駅では、千歌が「コッチだー」と下田方面のホームに行って、それに曜がついて行ってしまったり、花丸が勝手にのっぽパンを食べ始めてたり、善子がまた堕天しようとしたりと、カオスな状態が発生したが、どうにか梨子と一緒に場を収め、東京行きのオレンジ色と緑色のラインが入った電車に乗り換えた。

 

東京駅で山手線に乗り換え、秋葉原駅の電気街口に着いた俺は、とりあえず、千歌達と別れることとなった。

 

 

 

俺が向かった先、そこは、秋葉原を南北に貫く中央通り沿いのビルの中にあるファミリーレストランだった。

 

そこに居たのは・・・

 

 

「遅いぞ、副長」

 

「どれだけ待ったと思ってるんですか?」

 

「すみません。千歌達が集合時間に遅れて1本後で来たので・・・」

 

沢木さんと林だった。沢木さんはコーヒーを飲み、林はパフェを食べていた。何故この2人が居るのかと言うと、2人はどちらも東京住みで、すぐに集まれるからと言うのと、沢木さんと俺の用事とAqoursが招待された東京での大会がちょうど同じ時にあったからだ。ちなみに、石川県住みの八名はさすがに今日は呼べなかった。高校生にとってだが、1ヶ月でかなりの金額を使う事になってしまい、親からいろいろ言われるらしい。明日は、親が居ないため、東京に来るらしいが。なお、林に沢木さんが艦長が転生した姿だと言ったら大変驚いたのだが。

 

「ドリンクバー1つ」

 

「で、例の物は?」

 

「持ってきました」

 

ドリンクバーを頼んだ後、沢木さんに言われた通り、沢木さんに事前に言われたあるものリュックから紙袋に移し替え、手渡した。

 

「よし。これで高校時代の答え合わせと、これからを見れる」

 

手渡した物は、ラブライブ!とラブライブ!サンシャイン!!のアニメと劇場版のBluRayディスクだった。沢木さんは音ノ木坂学院出身で、さらに、あの高坂穂乃果と同い年なのだ。

 

沢木さんは紙袋を自身のバックの中に入れると、立ち上がった。

 

「じゃあ、そろそろ・・・」

 

「え?もうですか?」

 

「ああ。ちょっと・・・あれだからな・・・」

 

そう言いながら、沢木さんはコーヒー分の代金を置いてすぐにファミレスから出ていこうとした。

 

「艦長。いくらなんでも早すぎますよ。もう少しゆっくりしたらどうですか?」

 

「副長、今はそれどころじゃないんだ!!!」

 

いつもは丁寧な言葉遣いをする沢木さんが元の口調になるほど焦っていた。

 

「わ、わかりました」

 

沢木さんにそう言うと、沢木さんはすぐにファミレスのドアを開けようとした。その時、ドアが外側から開いた。

 

「やっと見つけました、陽葵」

 

「う、うう、海未!!!」

 

ドアを開けたのは、黒髪ロングの女性、いや、こう言うのが正しいだろう。元μ'sの、園田海未。海未の姿を見た瞬間、沢木さんは固まってしまった。

 

「もう。勝手に家を抜け出すの辞めてくださいね。家の人から友人の私達にも見つけるように言われるので・・・」

 

笑いながら言っていたが、明らかに目が笑ってなかった。沢木さんは冷汗を流し、すぐに進行方向を反対に変えると、走り出した。

 

「逃がしません!!!」

 

「百香!!!囮になってくれ!!!」

 

沢木さんはそう言いながらこちらに走って来た。

 

「百香、囮になったらどうなるか分かってますよね!?」

 

「アッハイ」

 

「この、裏切り者ォ!!!」

 

沢木さんは後ろから追ってきた海未に捕まった。海未は、青のスマホをポケットから出すと、すぐに連絡をし始めた。

 

「嫌だァ!!!帰りたくない!!!後生だから!!!」

 

「貴女は穂乃果ですか・・・」

 

そう言いながら、海未は沢木さんを引き摺りながらでていったのだった。

 

「「・・・」」

 

「・・・明日は来るんだよな?」

 

先程の光景を見た俺は、少し言いづらそうに言った。

 

「あ、はい!!!八名一曹と一緒に行きます!!!」

 

「艦長は?」

 

「行けないと言ってましたね。もっとも、さっきの状況では来れそうじゃないですけどね」

 

林は、苦笑いをしながらココアを一口飲んだ。パフェは全て食べ終わっており、容器は空になっていた。

 

「そうだな・・・」

 

「そうだ、これから買い物行きませんか?Aqoursとの集合時間はまだあるんでしょ?」

 

「そうだな」

 

「副長とこんな事が出来るなんてね」

 

林は、そう言いながらクスッと笑ったのだった。

 

俺と林は席から立ち上がると、料金をレジで支払うと、一緒に街に向かったのだった。

 

 

ファミレスを出た俺と林は秋葉原から電車に乗って新宿経由で原宿や渋谷などに行き、夕方までの短い時間だけだったが、有意義な時間を過ごす事が出来た。

 

最後は林の家が近い品川駅で別れ、山手線で秋葉原に向かい、電気街口で顧問の時雨先生を含む千歌達7人と合流した。

 

「どうだったか?」

 

「皆勝手に移動するから時間なくなっちゃった・・・」

 

千歌は、俺の質問に対し、苦笑いをしながら答えた。周りを見てみると、梨子は後ろに薄い本、同人誌を隠しているし、善子は何か堕天グッズを持ってるし、曜は何故か巫女服を着ている。呆れるしかない。

 

千歌達と話しながら秋葉原のビルや家の合間の路地を歩いてつあた場所は、明神男坂下だった。

 

「ここだ」

 

「これが、μ'sがいつも練習していた階段・・・!!!」

 

千歌とルビィは階段の上を見ながら目を輝かしていた。

 

「登ってみない?」

 

「そうね」

 

「よーし、じゃあ、皆行くよー!!!」

 

千歌は掛け声と一緒に階段を登り始めた。俺達もあとに続くが、登り始めた時に、千歌は既に真ん中よりも上に行っていた。

 

 

 

 

男坂の頂上にある神田明神。そこに到着すると、本殿から歌声が聞こえてきた。本殿を見ると、二人の女子高生が賽銭箱の前で歌っていた。俺達はしばらくその歌声を聴いていた所、あるフレーズを境に、振り向いた。

 

振り向いたのはAqoursと同じスクールアイドルグループであるSaint Snowの鹿角聖良とツン強め妹の理亞だった。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは」

 

急に聖良から挨拶されたため、千歌は、少し詰まりながらも挨拶を返した。

 

「あら?貴女達、もしかしてAqoursの皆さん?」

 

「嘘・・・。どうして・・・」

 

「PV見ました。素晴らしかったです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

疑問に思っている千歌を置いてけぼりにしながらほぼ一方的に聖良は話している。

 

「もしかして・・・、明日のイベントにいらしたんですか?」

 

「はい・・・」

 

「そうですか。楽しみにしてます。Aqoursの皆さんに新しい仲間も増えたみたいですしね」

 

聖良は、そう言いながら顧問の時雨先生を見た。私服の場合だと、時雨先生はロリ顔な為、俺達と同じ高校生に見えてしまうらしい。むしろ、マネージャーの俺が顧問に見えてしまうこともあるらしい。

 

「それ、僕の事?僕顧問だけど」

 

「あ、申し訳ありません。見た目が若かったので」

 

時雨先生に指摘された聖良は、時雨先生に向かって、90度直角のお辞儀をして謝った。

 

「あはは・・・。よく言われるよ。もう歳なんだけどね・・・」

 

理亞は一礼し、このまま姉の聖良について行くと思いきや、3人で固まっていた1年生の目の前に向かって走り出し、1年生の目の前でジャンプし、宙を舞って着地するという、アクロバティックな動きをした。

 

あっけにとられている千歌達を横目で見ながら聖良は「では」と言い、参道に向かって歩いていった。

 

理亞はちらりと俺達の方を見て、姉の背中を追って行った。

 

「凄いです・・・」

 

「東京の女子高生ってこんなに凄いずら?」

 

「あったりまえでしょ!!!」

 

ルビィ、花丸、善子の1年生組が勝手にSaint Snowを東京の女子高生だと思っているらしい。だが、鹿角姉妹は道産子で、南北海道の函館の女子高生でした。

 

 

それから俺達は、お参りは特にせず、周りの写真を撮りまくり(写真を撮ったのは千歌とルビィだったが)、予約していた旅館に向かったのだった。

 

その後、旅館で就寝前に音ノ木坂学院に向かおうと千歌が提案したのだが、梨子の反対により、向かうのをやめた。

 

明日のライブ、どうなるのか、そう思いながら俺は、曜の横に敷いていた布団で眠りについたのだった。

 




次回更新予定日は12月26日です。

オリキャラ紹介

時雨(ときさめ)優樹菜(ゆきな)
浦の星女学院生徒指導部長
同上一学年主任
書道教師

【挿絵表示】


・CV
谷邊由美
・旧姓
白露(しらつゆ)
・一人称
「僕」
・出身地
神奈川県横須賀市(育ちは長崎県佐世保市)
・誕生日
5月18日
・趣味
コスプレ
・顧問
スクールアイドル部、卓球部、吹奏楽部、サッカー部
・備考
千歌の姉の志満、美渡の担任、さらに千歌の母親と同級生。つまりロリバ「君には失望したよ」
このキャラはあるゲームのキャラとかなり似ているが、作品・キャラ同士の関係性は全くない「残念だったね!!!」のかもしれない・・・。さらに、スクールアイドル部の仕事の6割から7割は百香に押し付けている。昼行灯。


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第34話 過去と誓い

あけましておめでとうございます。今年も当作品をよろしくお願いします。





・・・遅れたのと、分量が少ない事をお詫び致します。すいませんでしたァ!今日の12時にはダイヤ様の誕生日の特別エピソードを出すので許してください!何でもしませんから!


 

艦橋の消火活動が続くDD-116護衛艦〝はつづき〟

戦闘配置が解除された艦内は予備応急隊と衛生班に所属している自衛官が慌ただしく走り回っている。艦後部のヘリ格納庫には、ヘリで陸に輸送する重症者が次々と担ぎ込まれていた。艦内にも設備はあるのだが、数が多いのと、艦内では完全に治療できない重症者が多い。そして、陸が近く、応援で横須賀基地所属のDD-174〝ちょうかい〟とDD-110〝たかなみ〟の2隻が駆けつけてくれたことも、ヘリで陸に向かえる要因となっていた。

 

SH-60K(哨戒ヘリ)、準備出来次第発艦せよ!!!』

 

ライフネット(防護柵)展開!!!』

 

ベア・トラップ(へり拘束具)、輸送軌条に展開!!!』

 

「待て!!!まだ乗れてねーぞ!!!」

 

「機長!!!待ってください!!!」

 

ヘリのパイロット達を待たずしてコックピットが無人のヘリが格納庫からヘリ甲板に向かっていき、機長と搭乗員がそれを走って追っていた。

 

『ベア・トラップ、リテイリング(離艦)レールに到達確認!!!甲板作業員は退避ー!!!』

 

「勝手に退避するな!!!こっちはまだ準備終わってないんだぞ!!!」

 

「ごちゃごちゃ言わずに早く飛び立て!!!館山からのヘリが来るんだ!!!」

 

戦闘終了後の混乱により、ヘリ甲板と格納庫は作業員とパイロットの怒号が飛び交っていた。

 

被害の確認の為、艦内を歩き回っていた副長兼砲雷長、町田慶喜三等海佐はそのような状態である格納庫の端を通りがかった時、飛行科のNo.1である飛行長の自衛官が駆け寄ってきた。

 

「副長!!!ちょうど良かった。副長もヘリの中に!!!副長の妹さんが乗ってるんです。妹さんが1番の重症です!!!早く向かっていってください!!!艦長から許可も出ています!!!」

 

「いや、・・・俺は残る。副長だから陸に着くまで艦を離れられない」

 

「え?でも・・・」

 

「いいから出せ!!!」

 

この空間で1番ヘリに乗り込んで一緒に陸の病院に向かいたかったのは町田三佐自身。だが、その提案を町田三佐は拒否した。彼自身は艦内部のNo.2であり、艦を個人の事情で離れる事は出来なかったからだ。

 

「わかりました・・・。ヘリを出せ!!!」

 

町田三佐は、拳を強く握り、作業着の帽子のつばを下げてその場を去った。

 

『ベア・トラップ、オープン』

 

『エンジン、レッドブースト』

 

テイクオフ(離艦)!!!』

 

そして、ヘリは町田を乗せずに飛び立って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町田三佐の妹、横溝早苗(旧姓、町田)はヘリで横浜市内の総合病院に搬送された。その数時間後、町田の乗艦していた護衛艦〝はつづき〟は横須賀基地に帰港した。帰港後すぐに彼は書類を片付けてから横浜市内の大学病院に向かった。

 

 

しかし、彼女の病室に着いた時、彼女は既に──

 

 

 

 

 

息を引き取っていた──

 

 

 

 

 

 

第34話

 

 

 

 

 

寝ているAqoursのみんなに気づかれないようにこっそりと浴衣から私服に着替え、置き手紙だけをして旅館を抜け出した

 

決して近くない水道橋駅まで歩き、そこから電車に乗り込んだ。まだ利用者も少ない早朝で、日中快速電車として走っている電車が各駅停車で走る姿は、前世の時の光景を思い出す

 

俺が電車を下車したのは、水道橋から2駅先の市ヶ谷だった。市ヶ谷には、前世、俺の所属していた自衛隊の上層部である防衛省がある

 

その市ヶ谷から一駅分、都営新宿線曙橋駅あたりまで歩き、外苑東通りに架かる曙橋の欄干から防衛省方面を眺めた

 

「よお。慶喜」

 

「なんだ、八名か」

 

後ろから声が聞こえたため、振り返るとそこには八名が立っていた

 

「よくここが分かったな」

 

「何年の付き合いだと思ってるんだ?」

 

八名のその言葉を聞いた時、俺はやっぱり八名にはわかっちまうんだなと思った。だが、その俺の考えが分かるのはほんの一部だけだ。全て分かるわけではない。そうなれば世の中苦労しない

 

「で、今日は来るのか?ライブに」

 

「ああ。行くぜ。ちゃんとブレード(ラブライブブレード)持ってきたしな」

 

八名はそう言うとリュックサックの中から4本のAqoursのデコレーションをしたキングブレードを出した

 

「そうか」

 

俺は、そう言い、ふっ、と笑ったのだった。

 

その時と同時にスマホがブルっとバイブレーションを出した

 

スマホの通知を見ると、曜からのチャットと今の曜達のGPSの位置情報だった

 

『どこにいるの?今千歌ちゃんを追ってるとこだよ』

 

千歌を追っているということは、恐らく朝のランニングで千歌が秋葉UDX、いや、UTXに向かったのだ

 

「すまん。曜達が呼んでるからもう行くな」

 

「次は会場でな」

 

「ああ」

 

そう言うと、俺と八名はハイタッチをし、市ヶ谷駅に走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、千歌はUTX前の黒いディスプレイを見ながらペデストリアンデッキに立っていた

 

「やっぱり、ここだったんだね」

 

曜の声が聞こえたため、後ろをむくと、百香を除くAqoursメンバーのみんなが立っていた

 

「皆・・・」

 

「練習行くなら声かけて」

 

「一人で抜け駆けなんてしないでよね」

 

「帰りに神社でお参りするずらー!!!」

 

「だね」

 

梨子、善子、花丸、ルビィが言い、千歌はふふっと笑ったが、一人足りないことに気付いた

 

「あれ?百香ちゃんは?」

 

それはマネージャーの百香だった。彼女は他のAqoursメンバーとは別に市ヶ谷に行っていたため、曜達の中には居ない

 

「後ろにいるよ」

 

「えっ!?いつからそこに!?」

 

だが、後ろに居ないとは誰も言っていない。彼女は秋葉原駅を使わず、御茶ノ水駅から走ってきたのだ。

 

「今着いたんだ」

 

百香はそう行ったのだが、それは嘘だった。本当は、UTXの裏側に居て、千歌が皆の方を向くのを待っていたのだ。その証拠に、彼女は息を切らしていない。

 

「そうなんだ」

 

千歌がそう返すと、ディスプレイに映像と音楽が流れ始めた。

 

今年の夏のラブライブ!のエントリー開始の映像だった。

 

「ついに来たね」

 

「どうするの?」

 

「もちろん出るよ。μ'sがそうだったように、学校を救ったように、さあ、行こう!!!今、全力で輝こう!!!」

 

千歌がそう言うと、百香とAqoursの皆は手を合わせた

 

「Aqours!!!」

 

「「「サーンシャイーン!!!」」」

 

千歌の合図と百香とAqours皆の掛け声で手を上に挙げ、6()()は学校を救うと誓ったのだった。

 




次回の更新予定日は2019年1月1日12時0分です。


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第35話 蝶

ダイヤ様の誕生日エピソード、なかなか執筆が進みません。いまのところ、果南ちゃんと同じ日に出そうと思っています。


ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?

──エドワード・ローレンツ

 

 

 

 

 

 

 

朝、軽く練習をしたAqours6人達と百香は大会が開催される東京都内の会場に向かった。会場のエントランスホールには他地域のスクールアイドルのグループが数組、ミーティングをしている。百香が受付を済ませていると、スタッフ証を首から下げた1人の女性が千歌達に話しかけてきた。

 

その女性曰く、この大会では、会場のお客さんで出場するスクールアイドルの順位を決めるという、全校生徒、創設年数、ラブライブ!決勝の出場回数、そして、百香の元々居た世界を除くファンの数が少ない浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursには圧倒的に不利な条件だった。そして、この時に出場する出番も伝えられた。出番は2番目。つまり、前座だ。

 

何事でも前座は重要な位置になる。前座のグループが平均として認識され、さらに演者側は何を標準にも出来ないからだ。

標準があるとないのでは心構えが全く変わってしまう。前座が良ければ後座のハードルが上がってしまう。しかも、前座には準備時間が少ない。そして何よりもが多いのだ。

後座は、前座よりもプレッシャーは低いが、観客の多くが退屈してしまい、帰ってしまう場合もある。どんなに演出を良くしても、投票する観客が見る前に帰られてしまっては、目も当てられない。

一番良いのは真ん中(昼休憩より後は除く)である。真ん中ならば、前のグループを見ているため標準も分かり、さらに観客によく見てもらえるからだからだ。

舞台で行う吹奏楽や演劇もこれに当てはまる。この出番で順位が変位することも大いにありえるのだ。

 

 

 

 

 

出番が2番目ということは、上手側の舞台袖で1番目の演技を見る。そのため、Aqours6人は衣装に着替えるためにすぐにエントランスホールから控え室に向かって行った。先程のスタッフの女性は、ステージ裏に入る許可証を百香に渡すと、ステージ裏の扉の中へ消えて行った。その場に残されたのは、百香1人。百香は、6人の向かった先をずっと物思いにふけながら眺めていた。

 

「よお」

 

後ろから呼びかけられたので、振り向いてみると、そこには、朝会ったばかりの八名が一人で立っていた。八名だけかと問いかけてみると、八名の後ろからひょっこりと私服姿の林が姿を見せた。

 

「私も居ますよー」

 

にひひと笑う林は、百香とは違い、精神年齢30後半と思えないほど、年相応の振舞いだった。

 

「そういや、Aqoursは何処にいるんだ?」

 

八名がそう聞いてきた。百香の周りにAqoursの6人が居なかったのを気にしているのだろう。とりあえず、控え室に行ったと言い、ステージの舞台袖に向かおうとしたところ、八名に呼び止められた。Aqoursのステージが終わったら会おうということであった。

百香は、ああ。と返すと、ステージ裏に続くドアを開け、舞台袖に向かって行った。

 

 

青い小さな照明に照らされた薄暗い舞台袖には、数組のスクールアイドル達とそのマネージャーや関係者が出番を待っていた。そこには、Aqours6人と百香の姿もあった。1年生3人は、初のライブ出場であり、舞台袖から客席を見て観客の多さに吃驚し、3人の緊張状態にさらに拍車がかかっていた。

2年生は、3人は人の前で踊るのは2回目なだけあり、1年生3人とは違い、少し緊張していながらも、1年生の様子を見て微笑むくらいの余裕があった。

 

後ろから足音が聞こえてきた。1番目に踊るスクールアイドルがステージ上に出るのだ。千歌は、1番目に出るスクールアイドルが気になり、後ろを振り向くと、そこには、昨日神田明神で出会ったSaint Snowの鹿角聖良と妹の理亞の姿があった。

百香を除くAqours6人は、彼女達がスクールアイドルだとは知らなかった。

 

「スクールアイドルだったんですか」

 

と、千歌は目を見開いて驚いていた。聖良は、言ってませんでしたっけ?と挑発口調で言いながら改めて自己紹介をし、理亞と共にステージ上へと向かって行った。

 

Saint Snowが見せたのは

〝SELF CONTROL!!〟

一時期ネットで「ダンスなう!ダンスなう!」と弄られ、さらに声優さんも曲とダンスをネタにしたという曲だった。なお、函館ユニットカーニバル後は、ダンスと歌唱力の高さで「ダンスなう!ダンスなう!」と弄る行為は大きく減った。

ライブで見ると評価が一気に手のひら返しされる様な曲。つまり、その場に居たAqoursの6人に影響を与えるのには十分すぎた。

 

そのため、次にステージ上で踊ったAqoursは、全員全力で踊りきり、今までで1番良いパフォーマンスを見せることが出来たのだが、前に出たSaint Snowに比べたらどうしても霞んで見えてしまう。それは、踊り終わったAqours6人も重々承知していたため、踊り切ったと頭で分かっていても、身体には、踊り切った感が全くなかった。

 

「良かったぞ」

 

百香は、舞台袖に捌けてきたAqours6人にそういった言葉をかけたのだが、千歌はやりきれなかった表情をしていた。百香は、やっぱりそうかと思い、他のメンバーを見ると、全員千歌と同じ様な表情であった。

 

とりあえず、エントランスホールの前で落ち合おうと決め、Aqours6人は控え室に、百香はエントランスホール方向に向かって行った。

 

今は入れ替えのための休憩時間であり、エントランスホールと大ホールを繋ぐ廊下は出入りする人々でごった返していた。その廊下の一部分には、廊下を行き来する人に目に付きにくい空間があった。その空間の中には厳しい顔つきをした3人組がいた。百香、八名、林の3人だ。

 

しばらくの間、3人は見つめ合い、次のステージが始まるのを待っていた。

扉が閉まる音が廊下に響き渡り、廊下を歩く人が全く居なくなったことを確認すると、八名が口を開いた。

 

「どうすんだ、菜月。指をくわえて、Aqoursが悲しむ顔を見るのか?投票すべきだ」

 

「投票する?Aqoursに一票入れようとするの?」

 

八名が言うのには、Aqoursに一票も入んないのは可哀想だという事だ。そして、それを聞いた林はその場で溜息をついた。

 

「・・・。それをバタフライ効果と言うの。」

 

〝バタフライ効果〟

ミクロな現象でもマクロに大きな影響を与えることもある事のことだ。バタフライ効果の例え話としては、北京の蝶の話が有名だ。この話をかいつまんで言えば、小さな事象が大きな事象に繋がるという事だ。

 

それに、この件はここにいる3人にとっては、蝶どころの話じゃ無い。Aqoursの一年後の未来を知ってる。たった一票でも、あるかないかでAqoursメンバーの心境は大きく変わってしまい、私達が知っていた未来は見知らぬ物となり、最悪、Aqours自体が解散してしまう可能性がある。

 

そう、彼女達は、Aqoursにとって危険なのだ。

 

強い口調で言った林の言葉に対して、林自身の拳は震えていた。だが、林の言葉からはそれを感じさせる言葉は出なかった。

 

「じゃあ、なんで俺達はここに居るんだ?俺達は今、Aqoursに関われてる!!!俺たちの手で、Aqoursを更に上に行かせられるかどうか、試してみろって事じゃないのか!?」

 

林は、震える自身の両手をグッと握り、これは偶然だと、どうにか強気に言い切った。一アニメファンに、この代償の責任を負わせるのは、かなり精神的にもくることなのだ。

 

「偶然?お前はこれがただの偶然だと・・・?

・・・慶喜はどう思う・・・?」

 

八名は、未だに諦め切れていないのか、それとも、何も考えていないのか、ずっと腕を組みながらその場に立っている百香に問いかけた。

 

「俺は・・・

 

 

 

未来を変えるべきじゃないと思う」

 

「何故だ慶喜!!!」

 

八名は、百香からその言葉が出てくるとは思ってもなかったのか、声を荒らげて言う。恐らく、百香は八名と同意見だったと思われてたのだろう。

 

「Aqoursのこの先を決める権利は、俺達にはないからだ」

 

「じゃあ、何故Aqoursに入ったんだ!!!変えるためじゃないのか!?」

 

百香がAqoursに入った事は、ここまでの経緯でこうなったこと。つまり、避けられないことだった。百香自身はその避けられないことに多少には関わるが、不要位にこの世界に関わろうとは思ってなかった。そして、この大会での順位は後のAqoursの土台を作りあげる重要な位置にあるからだ。

 

意見が2対1となり、八名はもうこの事は覆せないと思ったのか、林に戻るぞと言い、一緒に客席の方に戻って行こうとしたため、百香は二人を呼び止めた。

 

「一応、お前らの投票用紙は俺がここで処分する。一番確実に処分出来るからな」

 

そう言うと、八名と林から投票用紙を受け取り、百香自身の投票用紙を混ぜると、2人の目の前でビリビリに破り、ゴミ箱の中に捨てた。

 

捨てた事を確認した八名は「これでいいな」と言い、林と2人の姿が見えなくなった後、百香は壁に寄りかかり、彼女は天井に埋め込まれている長方形の箱から光を放つ蛍光灯を眺め、1回だけ溜息をついた後、口からこぼした。

 

「ここにいる意味か・・・」

 

ここにいる意味。それは、彼女が最も考える事を恐れていたことだ。Aqoursのメンバーと同い歳、そして関わりがある。偶然にしては余りにも───

 

いや、現実に意味を求めることは危険な事。彼女は、そんな危険な事は考えたくはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻るか・・・」

 

百香は、寄りかかっていた身体をゆっくりと起こすと、落ち合う場所のエントランスホールに向けて歩き出した。その時、目の前をなにかが横切り、すぐに跡形もなく消えてしまった。

 

「ん?蝶?」

 

彼女の目の前を横切ったのは虹色の羽を持った蝶。建物の中にいるのも、虹色の羽を持つというのも、そして、跡形もなく消えてしまったことは非常に奇々怪々であった。

 

彼女は、首を傾げながらも歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘・・・そんなの嘘よね・・・」

 

──だが、その時彼女は気づいていなかった。先程の3人の会話を聞いていたAqoursのメンバーが1人だけいたということを──

 

 




次回更新予定日は1月23日前後です


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特別編8 Happy Birthdayダイヤ

あけましておめでとうございます。今日は2019年1月1日。そう。ダイヤさんの誕生日です。え?今日は2月28日だって?果南の誕生日(2月10日)も過ぎたって?(∩゚Д゚) アーアー キコエナーイ








私事により、投稿が大幅に遅れてしまった事、そして当話の最後がかなり駆け足になってしまったことをお詫び申し上げます。これからは少なくとも、月に一回、多くて月二回(例外あり)更新致します。果南の誕生日回は来月更新する予定です。



夏が過ぎ、気候的にも過ごしやすくなったある日の休日の昼下がり、百香はルビィと勉強をする為に黒澤家を訪れていた。

今は休憩中。客間で百香は自分の分のプリンを食べていた。

 

「ルビィィィィ!また(わたくし)のプリン食べましたわねぇぇぇぇ!」

「逃げルビィ!」

 

黒澤家の中がドタドタと騒がしい。百香が差し入れにと、持ってきた三つの手作りプリンのうち、黒澤姉妹分の二個のプリンをどちらともルビィが食べてしまったため、ダイヤが怒って追いかけているのだ。ルビィは悪びれる様子もなく、食べ終わった空のプリンのプラスチック容器片手に黒澤家の客間と縁側を走り回っていた。

ルビィはダイヤよりもインドア派で体力は少ないのだが、スクールアイドルの練習でダイヤに引けを取らない程まで体力をつけていた。そのため、5分経過しても、ルビィとダイヤの2人の距離は縮まらないでいた。

いや、それどころか、距離が離されていた。半年という時間の差は、かなり大きかった。

 

「ほとぼりが冷めるまで花丸ちゃんのとこ行ってくる!」

「行ってらっしゃいー」

「待ちなさい!ルビィ!まだ(わたくし)と話をしていませんわ!ちょっと!ルビィ!!」

 

ルビィは、百香の目の前の座卓に置いてある勉強道具を素早くルビィお気に入りの手提げのなかに滑り込ませるとすぐに肩から下げ、そそくさと玄関から逃げて行った。

 

「また逃げられましたわ・・・」

 

ダイヤはそう言い、溜息をついた。これでもう何回目なのだろう。片手、いや、両手でも数えられないくらいの回数、ルビィに食べられているのだろう。

百香さんの手作りプリン・・・

と、小声で言っているダイヤの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

その様子を見ていた百香は、スカートのポケットに入っている車のキーを出し、チラリと時計を見た。充分に時間はある。

「なあ、ダイヤ。ちょっと伊豆長岡行くか?」

俺は人差し指で車のキーを一周、くるりと回したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

およそ2時間後、白色に塗装された一台のスポーツカーが黒澤家の門の前にゆっくりと停車した。運転席からは俺、助手席からは大手スーパー名と大手百円均一店名が刻印された二つのビニール袋を持ったダイヤが降りた。

 

2人は黒澤家の台所に向かい、ビニール袋の中身を確認した。

卵、牛乳、砂糖、フタ付きの耐熱プラスチックカップ。

エプロンは────持ってきてない。ダイヤかルビィのでも借りれば良いか。

 

 

 

「よし、始めるぞ」

 

ダイヤから借りたシンプルな赤いエプロンを身につけた百香は、さっそく和風建築の家には似つかない真新しいキッチン台に大きなボウルを置き、そこに卵と牛乳、砂糖を入れて混ぜ、何度かこし、溶けない砂糖を完全に溶かす。

それと同時に、ダイヤはプリンを蒸すのに使う湯を沸かす為、水道水が入った鍋をIHコンロにのせた。

 

百香は溶かし終わった溶液を台の上に並べた耐熱のプラスチックカップに泡立たないように流し込んだ。

ふう。と、百香が一息つくと、こぽこぽという音がコンロの方から聞こえてきた。

 

「お湯が沸きましたわよ」

 

ダイヤがそう言い、百香を見た。

 

「ありがとう、ダイヤ」

 

百香はダイヤに微笑み、ダイヤの立っていた位置に立ち、ダイヤは横に移動した。百香がチラッとみたダイヤの顔がほんのり赤くなっていた理由は百香にはわからなかった。

 

 

「ゆっくりな」

 

その言葉を合図として、ダイヤがカップを両手で持ち、一つ一つゆっくりと百香に渡してくる。受け取った百香も、沸騰している水が入っている鍋に一つずつ、一つずつゆっくりとゆっくりと下ろしていく。

 

 

全てのプラスチックカップを下ろし終わると、コンロにあるスイッチを押して火を弱火に変えて、鍋に蓋をした。

ここからは簡単だ。およそ10分間蒸し、それからカップに蓋をして冷蔵庫で冷やすだけだ。

百香は、自分自身のスマートフォンで10分タイマーをセットしてから、コンロの前に2つの椅子を置いた。

 

「百香さん、これは・・・?」

「火を見張るためだよ」

 

見張るため?とダイヤは首を傾げた。ダイヤのように火が出ないIHなら目を離しても安全だと思っている人は少なくない。だが、目を離した隙に鍋やフライパンの中身が原因で火がつき、火事になってしまったケースも少なくない。湯で蒸すからといって、中身と周辺に燃えるものがある以上、火が出ない確証はどこにもないからだ。

 

 

「百香さん、アイスコーヒー飲みますか?市販のですけれど・・・」

 

ふと、ダイヤがそう言った。ダイヤの手にはスーパーなどで売っている市販のコーヒーが入った1リットルペットボトルを持っていた。

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言うと、ダイヤは2つのマグカップにコーヒーを注ぎ、片方にはミルクと砂糖を入れている。百香はストレート派だから恐らくダイヤのだろう。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

百香は、ダイヤからアイスコーヒーを受け取り、一口飲んだ。

 

 

「そういえば百香さん」

「なんだ?」

「百香さんは・・・、その・・・、前は殿方でしたわよね」

「・・・そうだけど、どうしたんだ急に」

百香がダイヤの方を見ると、ダイヤは両手で持っているマグカップに目線を下ろしていた。

「その・・・、いきなり女性の身体になって生きづらいとか思ってませんの?」

「そりゃそうさ。元々男だったからな。記憶がそのままで急に女性として産まれたらそら混乱もするよ。多分、これが(女から男)でも混乱はしただろうな」

 

百香は、そう言いながらこの身体になってから初めのことを思い出していた。前世とは別の性別の身体。初めての色々な体験。もう慣れてしまった今にとってはいい思い出だ。

 

「もし、前の殿方(町田 慶喜)に戻れると言われたら、百香さんはなんて答えますか?」

 

ダイヤはマグカップから百香に目線を向けた。その時のダイヤの顔は真剣だった。

 

 

百香は、片手で握っているマグカップに目線を落とした。

 

「このままかな。男女の身体、どちらもメリットデメリットがあるけど、男に戻るとAqoursとしても活動出来なるし、それに、ダイヤにももう会えなくなっちまうからな」

 

ピピッ、ピピッ──。百香のスマートフォンから電子音がスヌーズと一緒に10分経過した事を伝えた。

 

百香は、立ち上がってマグカップを持っていない手でアラームを止めて、マグカップを台の上のスマートフォンの横に置いた。

 

「画面の向こうなんて嫌だ。こうして一緒の世界に居たい」

 

IHの電源を切ってからもう一度ダイヤを見ると、ダイヤはまた顔を赤くしていた。

何故だ──?

プリンのプラスチックカップのフタを閉めている百香は、一生懸命理由を考えたが、結局頭上には?のマークしか浮かばなかった。

 

 

出来上がったプリンを冷蔵庫に入れて扉を閉める。後は冷やすだけ。

 

「多分食べられるのは明日かな」

「そうですか・・・」

ダイヤはしょんぼりとしていた。よほど今日食べたかったのだろう。

 

 

「・・・。私の食べるか?食べかけだけど」

 

百香は、別に好物でもないし、さらに中身はプリン好きとも言えないいい歳したオッサンだったため、まあ、別にダイヤにあげてもいいだろうと思った。

 

「えっ、・・・そ、それは・・・」

 

提案されたダイヤは、また急に顔を赤くした。

(何故顔を赤くするのだろう・・・)

百香は頭の中でまた疑問に思いながらダイヤに別に好物でもないから食べていいともう一度促した。

 

 

「・・・わ、わかりましたわ」

 

ダイヤは顔を赤くしながらプリン作り前に冷蔵庫に仕舞った百香の食べかけのプリンを出した。

さすがに食べる時に使ったステンレススプーンは冷蔵庫の中に置けず、流しに置いてしまっていたため、百香は食器棚から乾いたスプーンを出し、ダイヤに手渡した。

 

 

「い・・・、いただきます・・・」

 

ダイヤは、スプーンでゆっくりとプリンを掬い、パクッと食べた。少し落ち着いたのか、真っ赤だった顔は薄ピンク色になっている。

 

「あーっ!ぉねぃちゃぁ(お姉ちゃん)!百香の食べかけのプリン食べてるー!」

「ああ、あああああ──────!」

「ダイヤさんがご乱心ずら!」

 

百香の食べかけのプリンをダイヤに渡していたところを気づかないうちに帰宅していたルビィと、ルビィがダイヤに謝るのを助けるために黒澤家に来た花丸の2人が目撃してしまい、ダイヤは悲鳴まがいの声を出して、また顔を真っ赤にして、今度はダイヤが外に走り出してしまった。

 

何故、顔を真っ赤にして外に走り出したのか、百香にはよくわからなかった。

 

 

 



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特別編9 Happy Birthday果南

3月中にどうにか間に合いました。

なお、クオリティと文字数は(ry



 

秋になり、内浦湾に浮かぶ淡島の木々が色付き始め、内浦の北から西を貫いている静岡県道17号線は、百香の前世の時とは遠く及ばないが、秋の交通渋滞が目立ち始めていた。

 

「すっかり涼しくなったね」

「そうだな。風も心地いいし、ハードな練習するならこのくらいの時期が良いよな」

 

ルビィと百香は話し、善子は「この脳筋野郎」と小声で言い、花丸はまた走るのか、と想像したのか無言だったが善子の今の顔ような少し嫌そうな顔をしていた。そんな4人は朝日に照らされた屋上へ続く階段を登っていた。

 

屋上には、たまたま廊下で出会ってしまった時雨先生に少量の仕事を押し付けられ、来るのが遅れてしまった1年生4人を待っていた5人が軽い準備運動をしながら立っていた。

 

2年生の千歌、梨子、曜。3年生のダイヤ、鞠莉だ。

 

「あれ、果南は?」

 

屋上を見回した善子がそう言った。確かに屋上には果南の姿がない。

 

「果南は風邪で休みよ」

 

早朝に見舞いに行ったら門前払いされたわ。と、両手を少しだけ広げ、鞠莉はため息をついた。

 

「果南ちゃんが風邪!?」

「あの筋肉オバケが!?嘘でしょ!?」

「果南ちゃんでも風邪ひくんずらね・・・」

 

ここまでの話を聞いた1年生3人は好き勝手言っている。ここの1年生は果南を異能生存体か何かと勘違いしているのかと思っているのかと思い、準備運動をしながら百香は少しだけ人間扱いされていない果南に同情したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後2時頃。沼津市内浦重寺にあるあわしまマリンパークの駐車場に1台のスポーツカーが滑り込んできて、係員のおっちゃんの誘導に従っていた。

 

シルバーのR33、百香の車だ。部活動の練習が午前中で終了したため、帰宅後に来たのだ。

 

「松浦のとこの嬢ちゃんの友達じゃねーか。今日はどうした?」

「果南が風邪ひいたから見舞いだ」

 

車から降り、助手席からボストンバックを取り出した後、近づいてきた駐車場の係員のおっちゃんに制服の上に着ている薄い上着のポケットの中にあらかじめ入れておいた500円玉を1つ手渡した。

 

「見舞いだけなら料金はいらんよ」

 

係員のおっちゃんはそう言って駐車場料金を返そうとしてきたのだが、百香は片手を振るという、返さなくていいという合図を出しながらちょうど淡島行きの船が接岸した桟橋に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝本日臨時休業〟

 

たどり着いたダイビングショップのガラス戸にはそう書かれた紙が貼ってあった。

 

ガラス戸を引いてみると、カラカラと軽い音を立てて横に動いた。鍵は閉まっていなかった。

 

「おーい、果南。鍵くらい閉めたらどうだ?いくらなんでも不用心すぎるぞ」

 

百香はそう言いながら店内を歩き、店舗後部の住居部分の引き戸を開けた。住居部分に入ると最初にあるのは角に32型液晶テレビが置かれた8畳の居間。靴を脱ぎ、居間の中を見回してみるが、誰の姿を見えないただの静寂に包まれていた。

 

「果南。果南ー」

 

百香は建物中の部屋を見て回るが、果南の姿はどこにも無い。最後の部屋、キッチンに入ろうとすると、キッチンに倒れている誰かの足が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──そう、そこに果南が倒れていたのだ。

 

「果南!おい果南!大丈夫か!?」

 

「百・・・香・・・」

 

百香が抱き上げた果南は顔が真っ赤になっており、それだけでなく息がたえだえになっていた。

 

百香はすぐさま果南を寝室に連れて行き、熱くなっていた額にさっき買ってきた冷却シートを貼り付けてから寝かした。

 

すやすやという寝息がベッドから聞こえてきた事を確認してから百香は果南の机の椅子に座り、上着のポケットから携帯ゲーム機を出してプレイし始めた。

 

 

 

 

「・・・百香」

 

「どうした?」

 

30分くらい経った時、果南に呼びかけられた。

 

「お腹空いた・・・」

「よし分かった。食材勝手に使うからな」

 

 

 

 

 

果南の要望を聞いた百香は食事を作るためキッチンに立った。

 

食器棚から土鍋を出して軽く洗って軽く拭き、白だしと水、研いだ白米、そして戻したわかめを入れて蓋を閉め、コンロの火をつけた。

 

ぐつぐつと音がなり、水が蒸発し始め、水が少なくなってから溶き卵を土鍋の中に入れて混ぜて、蓋をして水を飛ばしたらわかめ卵粥の完成。

 

 

「出来たぞ」

「うん・・・」

 

寝ながら食事を待っていた果南の前まで土鍋を持って行って蓋を開けた。

 

「あっ、わかめ!」

 

中に入ってる具材を見た瞬間、果南の表情がぱあっと明るくなった。それを見た百香は、気分だけでも元気になってよかったなとクスッと笑った。

 

「ちょ、何笑ってるの」

「いや?なんでもー」

 

そう言いながら百香はわかめ卵粥を食べ始めた果南の頭を撫でた。

 

「もう高3なんだから子供扱いしないでよ」

「俺からするとAqours9人は皆子供だ」

「ふうん」

 

果南はそう言うと、お粥を食べることをやめ、レンゲをトレーの上に置いた。

 

「どうした?もう食べないのか?」

「あーんして。私、子供だから食べられない」

「はいはい」

 

百香は少し苦笑いしながらレンゲを持ち、お粥を掬い、自分の息で冷まして果南の口にちかづけた。

 

「ほら、あーん」

「あー」

 

果南がパクりとお粥を掬ったレンゲを口に入れた。百香は、レンゲを持ちながらこのシーンがもしも前世の俺の姿のままだったら結構アレな絵面になるかもしれないなーと思っていた。口には出さなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「おう」

「なんかこんなふうにあーんして貰えるなんて結構久しぶりかも」

 

そう言って果南はえへへっと笑った。

 

「今日は泊まってくからな」

「えっ!?泊まってくの!?」

「今日、親父さんリハビリで居ないだろ?甘えてもいいんだぞ?」

 

百香はそう言いながら笑うと、果南は恥ずかしそうに少し頬を赤らめながら目線を逸らした。

 

 

 

 

 

 

「・・・頭、もう1回撫でて、ハグして・・・」

 

果南は掛け布団に口元を埋めながらそう言った。百香は、空になった土鍋が載せてあるトレーを果南の机の上に置き、果南のベッドの縁に据わった。

 

 

 

 

 

そして──左手で果南を抱いて、右手で果南の頭を撫でた。

 

日が暮れるまでずっとずっと、果南を抱き、そして撫で続けた。

 




本編は来月から再開致します。


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第36話 悔しくないの?(上)

お待たせ致しました。およそ3ヶ月ぶりの本編更新です。

とりあえず、今後の方針としては、途中で分岐ルートを作りたいと思います。

余談ですが、今回の文章の一部は沼津と内浦で執筆しております。



百香とAqours6人はエントランスホールにて無事に合流した。時計の針はまだ11を指しておらず、東京から今から帰るのにも少し早い時間であったため、東京都内観光に向かう事となった。

千歌の提案で向かった先は、東京都港区芝公園の東京タワー。東京スカイツリーは、高く、眺めも素晴らしい物なのだが、高い。値段が東京タワーよりも1,400円も高い。たかが展望台に登るだけで一高校生に2,000も出させるのは気が引けたらしい。

 

東京タワーの地上150メートルにある大展望台。スカイツリーが開業し、幾分か人が減ったのだが、東京のシンボルということには変わりはなく、未だ多くの人に訪れられていた。

 

「この街、1,300万人の人が住んでいるのよ」

 

梨子と曜は2人で新宿の高層ビル群をぼんやりと眺めていた時、ふと梨子がそう言った。

 

「そうなんだ」

 

「て、言われても全然想像出来ないけど・・・」

 

「やっぱり、違うのかな。そういう所で過ごしていると」

 

沼津市は駿東地域では比較的都会である。だが、東京は東京都市圏だけでそよそ4,400万人が暮らしている世界最大の都市圏。沼津市、三島市、伊豆の国市、伊豆市などが形成する駿東地域最大の沼津都市圏ですらおよそ51万人であり、首都圏の足元にすら及ばない。それだけ規模が違うならば、当然、色々な施設の数も違うし、受ける刺激や練習も違うはず。

2人はそう考えたのかもしれない。Saint Snowの2人は函館市の生まれ函館育ちの道産子なのだが。(函館都市圏人口 およそ35万人)

 

「どこまで行ってもビルずら」

 

花丸とルビィの2人は折りたたみ式の双眼鏡で渋谷区・目黒区・町田市方面を眺めていた。

 

「あれが富士山かなぁ・・・」

 

「ずら」

 

2人の目に入ったのは、ぼやけてよく見えない富士山らしき影。それは、随分遠くまで来たことを象徴する事を意味していた。

 

アニメ通りなら善子はここ堕天している。今もアニメ通りに堕天をしているのだが、少し様子がおかしい。今日の善子はいつも以上に結構周りを気にかけている。

 

「善子ちゃんは元気だねー」

 

「善子じゃなくて・・・ヨハネ!」

 

一瞬善子が百香をチラリと見た。その時の善子の表情は一瞬でツッコミをし始めた花丸達の方に向いてしまったため、百香には分からなかった。

 

「お待たせー!何これ凄い。キラキラしてるー!」

 

花丸の善子弄りがヒートアップし始めた時、千歌がアイスが6つ刺さった箱を両手で持ち、皆の前に出てきた。千歌はいつも通りの明るい声をしていたのだが、無理をして明るくしているということは誰の目にも明らかだった。

 

「それにこれ、すっごく美味しいよ!食べる?」

 

千歌は曜、ルビィにアイスを差し出した。2人は千歌にお礼を言ったのだが、それよりも、千歌が何故こんなに無理をしてでも元気でいられるのかが気になっていた。

 

今日のライブは一生懸命頑張り、ミスが一番少なく、一番出来が良かったライブで、周りはラブライブ決勝にまで出ているグループ。その中で、出来たばかりのAqoursは優勝できなくて当たり前だ。千歌はそう思っていた。

 

しかし、千歌が今目指している〝ラブライブ!決勝出場〟には、今日出ていたグループと同じ踊りが出来なければならなかった。

 

大会のホームページには、5位までの順位が載っているが、Saint Snowの順位は大会のホームページの順位表には載っていなかった。トップレベルの踊りができても優勝や入賞すらできない。つまり、ラブライブ!本戦に出場するのには、このレベルでも怪しいということだということを裏付けていた。この事は、千歌だけでなく、この場にいる全員が思っていたことだった。

 

場の空気が少し暗くなった瞬間、善子が〝こうなったのは、たまたま。魔力でうんたらかんたら〟と言い始めた。下手くそだが、善子なりに気を使ったのだろう。

 

「そんな事考えてもしょうがないよ。それよりも、せっかくの東京だし、みんなで楽しもうよ!」

 

千歌が、そう言い、東京観光を再開しようと思ったところ、百香のポケットの中に入っているスマートフォンがバイブレーションを出した。電話の相手は今日行った大会の事務局からだった。

 

渡したいものがある。電話の先で事務局職員は少し言いづらそうに百香にそう言っていた。百香は、大体想像はできていた。渡したいものは、Aqoursの順位が書かれた紙。渡されなくても結果は予測できる。いや、アニメ通りなら、ああなってないとおかしい。結果を知っている百香だからこうした事が思えるのだ。

 

百香は、Aqoursの6人に通話内容を伝え、会場に戻ろうという事を提案した。6人は、このことを了承し、もう一度会場に向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

会場に到着すると、百香が受付を済ませている最中に千歌達に話しかけてきた時のスタッフの女性がメインエントランスの前に立っていた。

 

「ゴメンねー。これ、渡すようなんだ」

 

女性スタッフはそう言いながら、青封筒を出した。この青封筒の中には今回の大会に出場したグループの順位と得票数が書かれている紙が入っている。

 

「正直、これ渡そうかなーって思ったんだけど、出場したグループには渡すことにしてるから」

 

そう言う女性スタッフの表情はあまり良くはなかった。それもそのはず。Aqoursに渡された青封筒の中には最下位、そして、得票数0という結果が入っているからだ。それを知らない百香を除くAqours6人は興味深々に封筒を眺めている。いや、正しくは5人だ。なぜなら、1人はさっきの百香達の会話を聞いており、本当にその通りになるのか確かめたいと思いながら眺めているのだから。

 

「最下位・・・」

「しかも得票数は0・・・」

 

封筒を開けた後、誰かがそう発した。そう、Aqoursはアニメ通りの結果であったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇都宮発、熱海行きの電車の最後尾、Aqoursの7人は、千歌、梨子、曜とルビィ、花丸の2つのペアがボックスシート、善子、百香の2人が2人がけのロングシートに座っていた。この車両にはAqoursの7人の姿の他にも数人居るのだが、車両の中は沈黙に包まれていた。いや、沈黙どころか、Aqoursが落ち込んでいる雰囲気を出しているため、他の乗客は話しづらい環境になってしまっていたのであった。

 

こうなってしまったのは、Aqoursの順位が最下位、そして得票数が0だった事、そして封筒を開けた後に発生したある出来事も関係していた。

 

それはSaintSnowの2人が放った言葉だ。聖良の〝μ'sのような姿を目指してるなら諦めた方が良い〟と、理亞の〝ラブライブ!は遊びじゃない〟だった。

 

特に後者については、Aqours内から馬鹿にされているという意見も出てきたが、曜が〝もしかしたら、遊びのように見えたのかも〟と言ったため、誰も言い返せなくなり、また車内は沈黙に戻った。

 

が、沈黙は直ぐに破られた。千歌が言葉を発したのだ。

 

「私はこれでいいと思うな。私に出来ることを精一杯やれたんだもん。頑張って努力して、東京に呼ばれたんだよ。それだけでも凄いことだよ。でしょ?だから、胸張っていいと思う。今の私達の精一杯ができたんだもん」

 

Aqours5人は、この千歌の言葉と表情に驚いていた。いつもの千歌らしくない意見、そして、少しだけ笑顔だったからだ。

 

「千歌ちゃんは悔しくないの?」

 

「それは・・・、ちょっとは・・・。でも満足だよ。皆であそこに立てて。私は・・・、嬉しかった・・・」

 

その笑顔は、ただのつくり笑顔だった。曜に問い詰められただけですぐに崩れ、また沈黙。今度は誰も話すこと無く、その場には、ゴゴゴン、ゴゴゴンという車両が千歳川橋梁を通過する音しか響かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中の熱海駅で電車を乗り換えたこと以外、何事も無く、そして、乗り換え以外、誰も一言も話すこと無く一行は沼津駅へ到着した。

 

沼津駅南口の1番南側のバス乗り場の近くには、浦女の2年生が「おーい!」と呼びながらAqoursに走って近づいてきた。

 

「どうだった?東京は!」

「う、うん。凄かったよ。ステージもキラキラしてて・・・」

「ちゃんと歌えた?」

「緊張して間違えたりしなかった?」

「あ、それはなんとか。ね」

「そ、そうね!ダンスのミスも無かったし」

 

千歌、曜、梨子の2年生3人は、興味深々の同級生達に質問攻めにされた。田舎の学校では、東京の大会に出られるだけでも十分であるし、ほとんどの部活が地区大会、せいぜい勝ち進んでも県大会までしか行けない浦女では、『東京の大会に出場した』と、言うだけで輝いて見え、この後の成果に期待したのだ。

 

さらに、同級生達は、期待と共に、もしかしたら、失敗するのではないのかと、心配もしていた。だが、千歌の「今までで1番のパフォーマンスだねって話してた」という言葉を聞き、これは決勝を狙えるかもと確信してしまった。

 

「本気でラブライブ!決勝狙えちゃうかもってこと?」

 

「そうだよね!東京のイベント呼ばれるくらいだもんね!」

 

その同級生の確信の言葉で千歌達の笑みが消えた。

 

「──あー、そうだね。だといいけど・・・」

 

一応、作り笑いでその場を凌いでいたのだが、Aqours5人の感情を出そうとしないとする心は少しずつ削られていっていた。

 

「おかえりなさい」

 

北口駅舎の方からダイヤが歩いてきた。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

ダイヤの姿を見た瞬間、安心したのか、ルビィの心は耐えきれなくなり、泣き出した。

 

「よく頑張ったわね・・・」

 

ダイヤは、ルビィを抱きしめると、頭を何回も何回も優しく撫でた。Aqoursの4()()は、ただただ、何も言えず、その場にたたずみ、1人は見た目は4人と同じようにしながら、頭の中ではこれからの事を考え、もう1人は────

 

 

 

 

 

 

ひたすらその1人を睨んでいた──

 




高海千歌(CV:若本規夫)「お前らは学校をなくすんだ・・・。千歌達の浦女を廃校にすると言った。お前らが千歌達を〝スクーrrrr()アイドル〟と呼ぶぅ!!!だが今、迫害された千歌達に強力な武器が与えられた。よく聞けオハラよ。浦の星女学院の廃校を撤回させろ。即刻!そして永遠になぁ!!!我々Aqoursは要求が通るまでオハラの施設を毎週 ひ と つ づ つ 破壊していく事を宣言する。ただし一つ目の爆弾は内浦湾に泊めた無人のボートで爆破させる。千歌達の力を世界に示すために、千歌達の人名尊重の意志の証として!しかしだ、要求が受け入れられない時は、千歌達は迷うことなくオハラへの爆弾攻勢を開始するだろう。週に一つぅ!!!」

「・・・バッテリー切れずら・・・」

「切れたらサッサと入れ替えろマヌケェ・・・」

次回 ズラーライズ
※予告と異なる場合があります。


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第37話 悔しくないの?(下)

どうにか、月2更新に戻すことが出来ました・・・


 

ルビィが泣き止んだ後、ダイヤはAqours7人をつれて話をするために西岸側の狩野川河川敷に向かった。

 

「得票、0ですか・・・」

 

千歌から結果を聞いたダイヤは、やっぱりか・・・という雰囲気を出しながらそう言った。ダイヤは、河川敷の階段に座り、上半身だけ横たわっているルビィを膝枕し、頭を撫でていた。

 

「貴女達は決してダメだった訳ではないのですよ。スクールアイドルとして充分練習を積み、見てる人を楽しませるに足りるだけのパフォーマンスをしている。でも、それだけではダメなのです。それだけでは──」

 

ダイヤはそう言った後、口を噤み、一呼吸おいてから話し始めた。

 

ダイヤが言った事。それは、元々人気があったスクールアイドルというカテゴリーに〝A-Rise〟と〝μ's〟誕生という大きな着火剤が加わり、〝ラブライブ!〟第1回大会が始まってまだ4年程しか経っていないにも関わらず、大会決勝は日本最大規模のアキバドームでの開催、スクールアイドルの数は4年前の10倍以上という異常なペースで増加し、それに伴いレベルの向上を産み、東京の大会で2代目Aqoursが支持されず、ダイヤが以前所属していたスクールアイドルグループが東京の大会で歌えなかったのは仕方がないという事だった。

 

その事を聞いたAqours6人はたいそう驚いた。スクールアイドル部結成を大反対していたあのお堅い生徒会長であろうお方がスクールアイドル部に所属していたのだから。

 

ダイヤが以前所属していたのは、ダイヤと鞠利と果南の3人ユニットだった初代Aqours。2年前、浦の星女学院が統合になるという噂があり、千歌のように統合阻止のために結成したのだった。当然、ダイヤはAqoursというグループに所属していたという事は、伏せていたのだが。

 

そして、千歌達のように東京に招待された。だが、千歌達と違って歌えなかった。他のグループのパフォーマンスの凄さと、巨大な会場の空気に圧倒されたから。

 

 

 

そう言っているのだが、少し嘘が混じっていたりする。確かに歌えなかったのだが、それは、果南はあの為に歌いたくなかったからだった。それを知っているのは果南とダイヤ、そして前世でアニメと映画全話を見た百香の3人だけだった。

 

嘘について知っていた百香だったが、Aqours6人の前でこれは嘘だとバラすようなことはしなかった。ダイヤは千歌達を慰めるために嘘をついたのだ。優しくしてくる人をフルスイング殴るような行為はしたくないし、ストーリーの進行上のエラーが発生してしまうからだ。

 

 

 

 

 

 

 

「慣れない環境で疲れが溜まっているでしょうし、家の方を待たせているでしょう?もうそろそろお帰りになったらいかがですか?」

 

「そう・・・、ですね・・・」

 

「明日は創立記念日でお休みです。ゆっくり身体を休めてください」

 

「わかりました・・・」

 

ダイヤの優しい声色で言われた言葉に落ち込んでいる6人と百香の中で千歌だけが答え、中央公園の前に止まっている十千万旅館の車の前まで全員で移動した。

 

「千歌ちゃん・・・、やめる・・・?」

 

車内に乗り込もうとした時、曜が千歌にそう問いかけた。作り笑いをして答えた電車の中の時とは違い、千歌は何も答えなかった。

 

「やめる?スクールアイドル・・・」

 

「・・・じゃあね」

 

曜はもう一度千歌に聞いてみた。やっぱり千歌は別れの挨拶以外何も答えず、車内に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、百香ちゃん。何で千歌ちゃん何も答えなかったのかな・・・」

 

帰り道、曜がふと聞いてきた。

 

「・・・。多分気を使っていたからだと思う」

 

そう答えると、曜は頭にはてなマークを思い浮かべたため、百香は〝リーダーの私がマイナスな事を言ったらみんな落ち込む〟と千歌が考えたからだと言うと、話を理解したのか、曜は軽く握った右手に顎を乗せて〝なるほど・・・〟と呟いた。

 

「・・・そうだ、曜姉。家帰ったらすぐに風呂入って寝ろよな」

 

「え?」

 

またまた曜の頭にはてなマークが浮かんだ

 

「今日はいろいろ疲れただろうし、明日早いからな」

 

「え?明日は創立記念日で休みだってダイヤさんが・・・」

 

「明日、始発で千歌を慰めに行くんだ。多分、一番堪えてるのは千歌だからな」

 

そう言ったあと、百香と曜は千歌の家の方向に立ちはだかっている狩野川の堤防を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

曇り空の下、N21系統 沼津駅発、浦の星女学院・河内農協経由大瀬岬行始発バス。車内には渡辺姉妹と善子の3人以外も数人乗っていたのだが、全員途中で降りていき、マリンパークバス停を過ぎると、3人以外乗客は居なかった。百香はふと気になって、なぜ善子も乗っているのかと試しに聞いてみたところ、「なんか行かなきゃ行けない気がしたわ」と言っていた。

 

・・・やっぱりアニメ通りに進んでいる。百香は一安心した。もし乗っていなかったら拉致ってでも来させようとした。そうしなければアニメ通りに進まないからだ。

 

「千歌ちゃん・・・、スクールアイドルやめるのかな・・・」

 

ふと、曜がそう言った。

 

「千歌が諦め悪いのは知ってるだろ?こんなんで諦めたら千歌じゃねぇよ」

 

「そっか・・・」

 

そう。飽きやすいが、諦めが悪い千歌は、このくらいでは諦めない。そもそも、Aqoursはまだどこにも辿り着いていないし、何も見つかっていないからだ。ここで終わってしまったらアニメ1期終了どころか、矢立肇先生達の次回作にご期待ください状態になってしまう。

 

おそらく──

 

 

 

 

──いや、絶対に千歌は諦めない。百香はその確信だけ持ち、曇り空を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三津バス停でバスを降り、千歌の家に向かっていると、三津浜から千歌の声が聞こえてきた。百香は、曜と善子の顔を見合わせてから両側から車が来ない事を確認してから道路を横断し、三津浜に向かった。

 

三津浜の目の前の海には全身ずぶ濡れになっている千歌と千歌に寄り添っている梨子が居た。

 

「私も悔しかった!だけど、私が泣いたらみんな落ちこむでしょ。今まで頑張ってきたのに、せっかくスクールアイドルやってくれたのに、悲しくなっちゃうでしょ?だから・・・、だから・・・」

 

千歌が泣きながら梨子に言っていた。やっぱり我慢していた。昨日何も言わなかったのは、おそらく、感情を抑えていたからなのだろう。県道から三津浜に降りると、後ろから声をかけられた。

 

ルビィ、花丸の2人だった。2人も、千歌達を慰めに朝早く来たのだ。なぜこんなに早いのかと聞いてみたところ、「なんか朝早い方がよかったからかな。何でかわからないけど・・・」と、ルビィが答えて少しだけ笑っていた。

 

「馬鹿ね。みんな千歌ちゃんのためにスクールアイドルやってるんじゃないの。曜ちゃんも、ルビィちゃんも、花丸ちゃんも。もちろん、善子ちゃんも、マネージャーの百香ちゃんも」

 

〝ね。〟微笑みながらいい、梨子はこちらに振り向いた。

 

「おーい!」

 

曜の、千歌と梨子を呼ぶ声を合図に、5人は靴を脱ぐとバシャバシャと音を立てて千歌と梨子の居る海の中に入って行った。

 

「でも・・・」

 

「千歌ちゃんは感じたことを素直にぶつけて声に出していいの。みんなで一緒に歩こう。一緒に」

 

みんなが千歌を取り囲んだ後、梨子は、そう言いながら両手で千歌の両手を優しく掴んだ。

 

「今から0を100にするのは無理だと思う。でも、もしかしたら1にする事は出来るかも。私も知りたいの。それが出来るか・・・」

 

「うん」

 

梨子の言葉に千歌が答えると、今まで分厚い雲に覆われていた空が晴れ始め、朝日が差し込んできた。

 

「うん!」

 

千歌は、力強い声でもう一度、答えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌の本音を聞け、東京の一件はどうにか一件落着し、Aqoursの存続は決定された。

 

ずぶ濡れになり、半ば呆れ顔をしていた美渡に叱られる千歌を見送り、「練習したい!」と言っていたルビィ、花丸には今日は休養日だから練習は無しだと返し、すぐに家に返した。

 

「さて、私らも帰ろうか。もうすぐバスが来るはずだ・・・、お?」

 

曜と一緒に帰宅しようとした瞬間、百香のスマートフォンからバイブレーションが発せられた。

 

百香はズボンからスマートフォンを出し、画面の電源をつけ、何の通知か確かめた。

 

宛先はAqoursのあるメンバーからの個人チャットで、内容は『これから2人きりで会いたい。指定された場所に来て欲しい』だった。

 

 




次回更新予定日は2019年5月8日です


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第38話 追求

申し訳ございません。予約投稿日、1日後にして水曜日に投稿することが出来ませんでした。あと、感想の返信はネタバレ防止のため、行いませんでした。



・・・なんか投稿遅れるのがデフォルトになってきましたね・・・


 

曜と一緒に帰宅しようとした瞬間、百香のスマートフォンからバイブレーションが発せられた。宛先はAqoursのあるメンバーからの個人チャットで、内容は、『これから2人きりで会いたい。指定された場所に来て欲しい』だった。

 

「え?バスに乗らないの?」

 

スマートフォンの画面を見ている時にバスがやってきたのだが、百香がそのバスに乗らないことに気づいた曜がバスに半身突っ込んだ体制になりながらも聞いてきた。

 

「ああ。内浦にちょっと用事思い出した。先に帰っていて」

 

「・・・わかった」

 

訳を説明すると、曜は納得しながらも、少し不満に思うような顔をして沼津駅行きのバスに乗り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曜をバスに乗せて先に帰らせ、それを見送ったあとに百香が歩いてきた場所は、沼津南消防署内浦派出所の裏にある気多神社。

 

いつも犬の散歩のついでにしか人が来ないため、昼過ぎた今は誰も居なく、物静かだ。だが、物陰からこちらを見ている気配を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

「そこに居るんだろ?隠れてないで出て来いよ」

 

失笑しながらそう言うと、本殿の裏からひょっこりと善子が現れた。

 

「来たわね」

 

「何で隠れてたんだ」

 

百香は、怪訝な顔をしながら尋ねると、善子は何も言わずに早足で近づいてきた。

 

「場所変えるわよ」

 

耳元でそう呟くと、善子は百香の手を引き、また別場所へ移動し始めた。

 

「何でまた移動するんだ・・・」

 

「私が聞きたい話、誰かに聞かれたら多分、マズい事になるかもしれないから」

 

それだけ大事な話をするのだろう。この場所は誰かがたまに来るため話の内容を聞かれる事になる。しかも、ここは十千万旅館の犬、しいたけの散歩ルートに入っている。もしも千歌が来て話を聞いたら大変になるからだ。念には念をと考えたのだと、百香は考えた。

 

 

 

 

百香は善子に連れられて海沿いを通る県道に出た。そこに出ても、善子は何も話さない。

 

「なあ、善子」

 

「黙ってついて来なさい」

 

「・・・」

 

長浜の集落を過ぎ、長浜城跡前までの崖の区間に入ると、反対側の車数台分広くなっている路側帯に沼津市街方面からやってきたシルバー色のコンパクトカー、ホンダ フィットが止まり、身体が並の男性より少しだけ細い男性が降りてきた。

 

「善子、こっちに来るぞ」

 

「・・・何か用事でもあるのかしら・・・」

 

その若い男性は小走りになりながら善子と百香が小走りになりながら学校方向に向かっている歩道にやってきた。百香は、善子に小声で不審者の可能性もあると言い、自身のスマートフォンでこっそりと110通報の用意をした。

 

「君達、浦の星女学院の生徒?僕、こういう者なんだけど・・・」

 

「・・・芝山(しばやま) 秀俊(ひでとし)・・・伊豆駿東新聞の新聞記者ね・・・」

 

男性から名刺を受け取った善子はゆっくりと読み上げ、それと同時に百香は少しだけ嫌そうな顔をした。

 

百香はあまり新聞記者が好きではない。自衛隊に関してあることないことを書かれ、しかも新聞という媒体を使うため、拡散力が強い。そして、前世の百香はその媒体によって後ろ指をさされることがよくあったからだ。

 

「で、新聞記者(プレス)がただの女子高生に何の用ですか?」

 

「いやぁー、ある話を知っているなら教えて欲しくてね」

 

「・・・何ですか?」

 

百香の顔はだんだんと険しくなっていく。

 

「浦の星女学院の廃校についてとか、3年前の沼津市誘拐事件の噂とかね」

 

「・・・なにも知らないです」

 

「本当に?」

 

若い記者、芝山はそう言いながら、いつの間にか芝山を睨んでいた百香の顔を見た。その時の芝山は「お前、何か知ってそうだな」という顔をしていた。

 

「まあ、何か思い出したらここに電話してよ。君もね」

 

そう言いながら、芝山はまた真新しい銀色の名刺ケースから善子に渡した同じ名刺を百香に渡した。

 

「じゃあ、僕はこの後取材があるから」

 

そう言いながら、芝山は沼津方向の車線側の路側帯に停車している車に乗り込むと、浦の星女学院方向に走り去って行った。

 

「何だったんだ・・・」

 

「さあ・・・」

 

そのあとの百香と善子の会話はこれだけで、長浜城跡に着くまで、2人の足音と、横の県道を走る車の音以外は聞こえなかった。

 

 

 

「んで、その話とはなんだ?」

 

長浜城跡に着いたため、善子に理由を聞く。

 

「東京での貴女の話」

 

「東京で?」

 

百香は、首を傾げながら善子に尋ねた。百香には心当たりがなかった。東京では、沢木さんに呼ばれてたため、Aqoursとはほとんど一緒に行動しなかったし、Aqoursの前で何か大変な事を言った覚えもない。前者は大会事務に呼ばれていると嘘をつき、もし、確認されてもバレないよう、沢木さんに手を回してもらっていたから、バレるわけが無い。後者の場合も、百香はほとんど空気状態だった。バレるわけがない。

 

「どういう話だ?」

 

百香は首を傾げながら善子に聞いてみたところ、善子は苛立っている様子だった。

 

「東京で貴女がコソコソしてた話よ!」

 

「っ!?」

 

善子の返答を聞いた瞬間、百香の心臓は急に動作が早くなる。久々にきたこの感覚。

 

「〝Aqoursのこの先を決める権利は、俺達にはない〟!?〝お前らの投票用紙は俺がここで処分する〟!?貴女、何を知ってるの?私達に何を隠してるの!?」

 

善子は背伸びとつま先立ちをし、ずいっと百香の顔に顔を近づけた。

 

「・・・」

 

「何か答えなさい!百香!」

 

何も答えない百香に業を煮やしたのか、百香の白色のTシャツの胸ぐらを掴んだ。

 

「・・・教えてしまったら、Aqours内での善子の自由はなくなる。その時は俺達のように傍観者になってもらうぞ!」

 

百香は、善子に掴まれた手を離しながら言った。百香は、もしも誰かにバレてしまった時、春のラブライブ!でAqoursは優勝することをバラすという事を決めていた。

だが、このことを話せるのはAqoursメンバー以外だった。もし仮にあるAqoursメンバーに話してしまい、そのAqoursメンバーが調子にのってしまい、ラブライブでのAqours優勝が無くなってしまったら──

 

と、百香は思っていたため、善子に胸ぐらを掴まれても理由は話せなかった。

 

「傍観者だからって、私達に何も言わなかったの!?Aqoursが東京の大会で最下位になるって知っていても!」

 

「仕方無いだろ!?俺の居た世界のAqoursに俺は、百香は居なかった!俺は、媒体上のAqoursに、この世界に存在するはずない人間なんだ!」

 

「媒体上・・・?」

 

百香は、ついに善子に話し始めた。善子の頬には、1滴だけ話を始める前の数秒間、頭をフル回転させ、全て話してもいいのかどうか考え、そして、ある一つの結論にたどり着いた。

 

 

〝俺の存在と前世だけ話そう〟

 

と──

 




次回更新予定日は5月22日です


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第39話 略説

めちゃくちゃ難産でした。これ、なかなかいい話が思いつかず、かなりボツが出ました。ボツだけで5000字は軽く越したと思います。今回だけ3,000字弱になってしまいましたし、少し適当になってしまいました。許して下さい、何でもしますから!
あと、感想の返信ですが、なんて書けば良いのか分からず、あまり返せません。申し訳ございません。


「ほら。カフェオレで良いか?」

 

「・・・ありがと」

 

百香は、三の浦案内所横、県道沿いに置かれている白色の自動販売機で買ってきた冷たいカフェオレを〝ほいよ〟と言い、善子に手渡した。この時には、百香と善子は既に長浜城跡から三の浦案内所から県道を挟んだ反対側の防波堤に移動し、足をプラプラと宙に浮かせながら防波堤の上に座っていた。

 

「俺のいた世界のAqoursは、ある会社がμ'sの後釜で作り出したグループだった」

 

「後・・・釜・・・?」

 

善子は首を傾げた。当たり前だ。今のAqoursにμ'sとの繋がりは全くないし、会社の指示で作った訳でもないからだ。

 

「そうだ。あっちの世界のAqoursはμ'sの後継としてできたアニメアイドルグループだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!アニメアイドルグループ!?どういうことなの!?」

 

善子は少し混乱している。無理もないだろう。急に〝お前はアニメの中のキャラクター〟だと言われて〝はいそうですか〟なんて言える人がいるだろうか。

 

「そのまんまの意味だ。()()()Aqoursはアニメの中の存在なんだ。だから設定もきちんとある」

 

「私が・・・アニメの中の・・・?もしかして、貴女が言った〝媒体上〟って・・・」

 

「ああ。Aqoursの設定では、1年生のメンバーは津島善子、国木田花丸、黒澤ルビィの3人。渡辺曜は一人っ子、そして、浦女1年生の生徒数は12人」

 

善子は、その瞬間、気づいてしまった。〝今、私が話している渡辺百香という存在はこの世界、そして、浦の星女学院にとって異物だったんだ〟と。

 

「でも、別の学校に通えば・・・」

 

「それも考えて、高校は新静岡高校にしようとしていた。合格通知も出ていたしな。だが、ある事が原因で浦女に進学せざるを得なくなった」

 

善子は〝えっ!?〟と、小さいながらも驚きの声を上げた。

 

「で、さらに入学式の日、千歌の勧誘を受けてしまった。千歌の勧誘を受けた人は全員Aqoursメンバーになっている。これで分かるな?」

 

「もしかして、百香は向こうの世界ではなるはずのないAqoursのメンバーになり、世界が違った方向に進んでいくのが嫌って事?」

 

善子が百香の顔を覗きながら聞いてきたため、百香はコクリと1回だけ頷いた。

 

「ああ。しかも別のゴールのハードルが高すぎるし、それを達成できるかどうか分からないだから、俺はAqoursの中ではあまり目立たないようにマネージャーとしていたんだがな・・・、

あの堕天使ムービーで少々目立ってしまった」

 

そこまで言った時、善子が少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。あれは曜の暴走で着せられて花丸の脅迫でムービーに出させられたのだから善子は全く悪くない。というか、事情を知らない曜と花丸も悪くない。全員悪くない。まあ、曜と花丸に関してはいろいろと度が過ぎるのだが。

 

「それからはあまりAqoursでは目立たないようにしてきたつもりだ。変に目立ってこの世界を変えたくないんだ」

 

少しの事が発生しても、すぐに元のレールに戻せば運命が変わってしまうということは無い。俺に対する千歌の勧誘はAqoursにマネージャーとして入った事で一旦止んだ。だが、また勧誘される可能性は少なくない。どうにか2学期まで持ちこたえることが出来れば、そこからは忙しくなり、勧誘する暇は無くなるだろう。そこまでの辛抱だ。

 

「で、結局、向こうの世界を知ってる貴女は何者なの?」

 

「俺はその世界から転生してきた転生者・・・、と言ったら信じるか?」

 

善子の問いにそう答えると、善子は〝転生者・・・、転生者・・・?転生者!?〟と小声でブツブツと言い、少しずつ顔が明るくなって行った。

 

「お、おい・・・、善子?」

 

普通の人なら〝こいつ頭おかしいんじゃねーの〟と思うはずの百香の返答に対し、今の善子の様子はどう見てもおかしい。

 

「ねえ、本当に転生者なの!?本当の本当に!?前世の名前は?もしかして、前世って男!?ねえ、百香、どうなの!?」

 

善子は、興奮気味になった顔をガバッと上げると、ずいっと百香に顔を近づけ、質問攻めにし始めた。

 

 

 

「・・・おっと・・・、悪魔に惑わされるところだったわ・・・。このヨハネをここまで追い詰めるなんて・・・」

 

百香は、あまりにも善子がグイグイと来たため、一驚しながらもすぐに冷静になり、返答を考えていたのだが、善子は勝手に自己完結し始めた。

 

「で、転生者だという証拠は?それを見せてもらえなければ私は信じないわ」

 

〝やっぱり聞いてきたか・・・〟百香はそう思った。ふざけた事を言いながらも、善子は極めてまともな事を考えていた。〝こうなったら、アレを言うしかない〟

 

「・・・幼稚園まで哺乳瓶離さなか「うにゃーぁぁぁぁ!」」

 

善子は顔を真っ赤にしながら百香を睨み、背中をぽかぽかと叩き始めた。善子にとっては忘れたい黒歴史なのだろう。この、〝堕天使ヨハネ〟よりも。

 

「だから言ったろ?俺は転生者なんだって」

 

「わかったわ、わかったから絶対にバラさないで!わかった!?百香!」

 

「ああ。その点に関しては確約する」

 

ただし、百香以外がバラさないとは言っていない。この事に関しては善子の母親と仲良くなった梨子がAqours全員の前でバラしてしまう。だが、そんな事はどうでもいい。この時の百香に必要だったのは、情報の極秘性の高さだった。

 

情報の相手自身しか知らない極秘性が高ければ高いほど、相手に信じられる可能性が高くなる。身長、スリーサイズ、好きな食べ物や嫌いな食べ物などの情報は友達とかに聞いたり、診断結果をこっそり見るなどという、簡単な方法で知れる。さらに、そのような簡単な情報だと、信用される確率はグンと下がり、下手すると変人として見られる可能性もある。

 

そのような事をこの短時間で百香は考えつき、すぐに善子に話した。

 

善子は善子と両親しか知らない恥ずかしいエピソードを話されてしまったため、信じざるを得なかった。その後、百香は善子と同じバスで沼津市街地に帰るのだが、百香が一番後ろの席に座った途端、顔を未だに真っ赤した善子が一番前の席に移動し、バスを降りるまで一度も顔をあわせようとしなかった。その行為は、百香にとってほんの少しだけ心の荷が降りた事と反比例した、少し寂しい気分のという、もう1つの気持ちを生み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

百香は、その日の夜、自室の窓から外に出てベランダの欄干に左手をぶら下げ、右手はスマートフォンを持ち、右耳にあてていた。

 

「地元密着の新聞社なら・・・もしかしたら・・・な・・・」

 

そう小声で言いながら百香は、左手に持つ名刺を見て、そして、右耳にあてているスマートフォンから発せられている電子コール音を聞いていた。

 




次回更新予定日は6月12日です


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第40話 2人の決断

Aqours5thライブが去る6月8日、9日に開催されました。もちろん私は両日現地で参加致しました。
5thライブが終わり、次は6thライブ・・・なのですが、アニメ1期2期と劇場版を元に作るライブはこれで終わりなんですよね。これからはアルバム曲をライブの土台にすることになると思います。・・・で、ここからが問題なのですが、もしかしたら、Aqoursのファイナルライブも近づいてきてるのかもしれません。ただの杞憂で終わればいいのですが・・・。
Aqoursが終わってしまったらどうなるか・・・。まだまだ先の事ですが、5thが終わってからその事について強く意識してしまい始めてしまいました。
多分、ソロ活動し始めたAqours声優さん達を追いかけるという事はしないと思います。私はあの場所でライブを行う9()()のAqoursを見に行っているので。
恐らく、ファイナルライブ後も私は追い続けると思います。


夢を追い続けるAqoursを───





───Aqours continue existing in my heart even if Aqours disappear.



2016年6月28日火曜日17時30分頃

沼津駅南口前雑居ビルテナント内

某カラオケ店──

 

 

2、3人用の小さな個室にスーツ姿の男性、新聞記者の芝山が座って腕時計を見ていた。何故カラオケ店なのに座るだけで何も歌わないのか・・・。周囲からすると、この部屋の中だけ異彩な光景だった。

 

それは昨日、百香に会いたいと言われ、ここは会う場所に指定されたからだ。百香は、今日のAqoursの活動を、大会後の休養日という事で休みにしたため、沼津に早めに来れるのだが、あるところに寄ってきたため、遅れて来ていた。

 

「お待たせ致しました」

 

「いや、こちらも来たばかりだから気にしてないよ」

 

芝山はそう言い、プラスチックカップになみなみと貯められているアイスコーヒーを1口飲んだ。芝山の雰囲気は、初めて会った時のような興奮はしておらず、物静かな様子だった。百香は、芝山とテーブルを挟んだ反対側に座り、バッグを横に置いた。

 

「まず、一つ聞きたいことがあります。何故、貴方は浦の星女学院の廃校についてと、沼津市誘拐事件の2つをあの時、同じ話に出したのですか?」

 

百香の問に対し、芝山は黙りを決め込み、〝子どもに教えて何になる〟と言っているような、少し挑発したような目でこちらを見ていた。

 

「私が言いたいのは、貴方が調べている3年前の沼津市誘拐事件の事についてです」

 

「ほー・・・。同じ沼津市民だから知ってるって?」

 

「・・・いえ、私も関与したからです」

 

少しだけニヤニヤしていた芝山の顔がすぐに強ばった。逮捕者や指名手配犯を除き、関係者はほとんど居ず、公にされた調査報告も指摘事項や矛盾だらけだったこの事件。逮捕者は頑なに口を開かず、指名手配犯は3年がたった今も見つからない。被害者や関与した人からの情報はマスコミからしたら喉から手が出そうなほど欲しいのだ。芝山に何故百香が持っているのかという事も問いかけたれたのだが、自分自身の事をあまり言いたくなかった百香は適当ににはぐらかしておいた。

 

「そこで、提案があります」

 

はぐらかしたあとの百香の言葉で、芝山の眉がピクっと動いた。

 

「今現在知っている浦の星女学院についての情報をください。こちらとしても、それ相応の対価は払います。

 

 

・・・こちらは沼津署内で厳重保管されている本当の沼津市誘拐事件の調査資料のコピーです」

 

バッグの中から〝沼津市誘拐事件調査報告書〟と書かれた茶封筒を出し、テーブルの上に置くと、席の向こう側から〝君は一体・・・〟という芝山の呟き声が聞こえた。

 

「ちょっと、太いパイプがあるのでね」

 

百香がそう言うと、芝山は少し納得いかないような顔をしながら百香の顔を見ていた。警察署内に隠されている資料を持ってこれるような力は通常、どんな記者でもありえないからだ。ましてや、彼女の見た目はただの学生。記者が持ってこれない記事の時点で彼女は普通じゃない。

 

「解っていると思いますが、これは取引です。こちらからも条件を提示します」

 

百香のその言葉が発せられた瞬間、芝山の右眉がピクっと動いた。

 

「それは、貴方が手に入れた情報を全て私に提供することだ!この条件を飲めなければ、この情報は提供しない!」

 

そう百香が言い切った時、芝山の顔は険しくなり、腕を組み唸り声を出し始めた。

 

 

 

百香の提供は、情報を追い続けてきた芝山にとっては願ってもない提案だった。芝山は、ここで情報を渡すかどうかの葛藤をしていた。これは喉から手が出そうなほど欲しい情報だが、もしかしたら、この少女は追い求めている者のスパイで、俺を消すかもしれない・・・と。

 

5分程唸り声をあげた後、芝山はようやく決断したのか、髪の毛を掻きむしっていた左手をズボンの上に下ろし、下げていた頭を上げ、百香の顔をじっと見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日夜──

渡辺家2階のベランダで百香は手すりと兼用にされている壁に寄りかかりながらスマートフォンを耳にあてていた。通話相手は沢木陽葵だった。

 

『ほう。じゃあ、彼に情報を渡すことにしたんだな』

 

「はい。彼も同意しましたし、見る限り、怪しいところはありません」

 

一種の業務連絡らしき文を交わした後、少しだけの沈黙があった。

 

『・・・本当にあの件は浦の星女学院の廃校に繋がっているのか?』

 

「はい、おそらく。あの記者は()()()と浦女の事を同時に出したため、関連性があると思われます」

 

『なるほど・・・』

 

沢木は、そう言いながら納得しているような答え方をした。

 

『・・・そうだ。この前君に貸してもらったラブライブ!のBluRay、全部見たよ』

 

「・・・どうでしたか?」

 

『全く一緒だった。記憶の中に残ってたところはな・・・。覚えてないことは合ってるかどうかはわからなかったが・・・』

 

そう返してきた沢木に対し百香は、やはりな・・・と思った。元々確証はあったのだが、これはAqoursの居る浦の星女学院に通っていた百香だから確認できたこと。μ'sのアニメ全てが合っているかどうかは、音ノ木坂学院に通っていて、なおかつ、μ's2年生と友達であった沢木にしかわからなからないことであった。

 

「という事は・・・やっぱりここはμ'sアニメ世界とも一緒・・・という事ですか」

 

『そうなるな・・・

 

 

 

・・・そうだ、話は変わるが、いつ頃BluRay返せばいいかな』

 

「そうですね・・・次は8月くらいに東京に行く予定なので、その時に渡してくれれば・・・」

 

『わかっ・・・、ここです!私はここですよー!』

 

電話中、向こう側から「陽葵お嬢様ー!」という女性の声が聞こえてきた後、沢木の声のトーンが急に高くなり、言葉遣いも変わった。

 

『すまん。今、某企業のパーティーから抜け出してきたんだ』

 

「パーティーって・・・」

 

百香は、呆れながら言った。今日は平日。こんな日にパーティーをやるなんて本当に一般市民からするとありえない事だからだ。

 

『毎月1、2回、大学終わりに大企業のパーティーに招待されてしまうんだ』

 

「へぇー。さすが沢木グループのご令嬢。私のような一般市民とは違いますねぇ」

 

百香は、心底羨ましそうに言うと、スピーカーの向こう側から沢木のため息混じりの声が聞こえてきた。彼女も苦労しているのだろう。

 

『皮肉で言ってるだろ。私だってなりたくてなった訳じゃないんだよ』

 

「ははは。まあ、仕方ないじゃあないじゃないですか。他社も、日本経済を牛耳っている中の1社である沢木グループと仲良くしたいんですよ」

 

百香がそう言ったように、沢木グループは国際的大企業であり、日本の就職人口のうち、1%は沢木グループに就職している。そして、沢木グループは日本の経済を牛耳る三井、三菱、住友などの財閥系の一員でもある。沢木曰く、「日本のほとんどの金持ちが擦り寄ってくる・・・」らしい。

 

『わかっとるよ。これも各社との関係を築くために必要だからな。だがな・・・洒落たパーティーは苦手なんだ・・・』

 

「分かってますよ。私は()()との付き合いは長いですから。何年貴方の下で働いたと思ってるんですか?」

 

『まあ、八名には敵わないがな』

 

「ははは。そうですね」

 

『じゃあ、これからちょっと死んでくるから切るな』

 

「はい。頑張ってくださいね!」

 

そう答えると、百香のスマートフォンのスピーカーからプツッと言う音がなり、ツーツーという信号音が聞こえるだけとなった。

 

「これが吉と出るか凶と出るか・・・どうなる・・・」

 

スマートフォンを耳から離しながらそう言う百香の声は、沼津の夜空へと消えて行った・・・。

 




投稿が遅くなってしまい、申し訳ございません(いつものこと)遅れた原因、5thです。そうです。え?何、曜ちゃん。5thを遅れた原因にするなって?わかってるよ。でも、最初の文を・・・、ごめんごめんごめんごめんやめてやめて悪かったから本当に!だから腕を曲げないで!その関節はそっちには曲がらな・・・








次回更新予定日は6月26日です。
(多少前後する恐れがあります)
↑前後駅「前後と聞いて」
「お帰りください」


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第41話 加賀へ(上)

久しぶりの定刻更新です。
7月は3話くらい更新したいですね・・・。


2016年7月2日土曜日早朝──

 

 

 

 

 

 

 

 

狩野川沿いの道をスーツケースを転がしながら歩いている百香の姿があった。百香は、ゆっくりと歩きながら自身の車が止まっている月極駐車場に向かっていた。月極駐車場が見える位置までに来ると、月極駐車場に、スーツケースを横に置いている1人の人影を見つけた。

 

「おはよう」

 

「おはよう。早いな。家まで迎えに行くって言ったんだが・・・」

 

月極駐車場に立っていたのは善子だった。

 

「良いじゃない、別に」

 

百香が半ば呆れていると、善子は片腕をスーツケースのとって部に載せながら答えた。

 

「わかった。じゃ、スーツケース載せるぞ」

 

百香は、キーに内蔵されているボタンを押し、車の鍵を開けてからトランクのドアを開けた。

 

カーナビは設定済みのため、2つのスーツケースをトランクに入れ、トランクのドアを閉めれば、出発準備は完了。

 

「出発するぞ。乗れ」

 

百香は善子にそう言うと、車に乗り込み、エンジンをかけ、善子がシートベルトを着けたのを確認した後、車を発進させた。

 

「そうだ善子。音楽は掛けられないから何かビデオでも流してくれ。DVDはそこに入ってるから」

 

百香は、シフトレバーを掴んでいた左手で善子が座っている助手席側のドアポケットを指さした。音楽が流せない理由、それは、入っている曲がAqoursの曲ばかりだからだった。まだこの世で披露されていないAqoursの曲をAqoursメンバーに聞かせる訳にはいかないのだ。

 

「・・・これね・・・。色々あるわね・・・」

 

善子は、ドア横のドアポケットから何枚か、白ディスクを出すと、そこに黒色の油性ペンで書かれていた文字を読み始めた。

 

「〝もう助からないぞ〟〝ぼくはひこーきぱいろっと〟〝機長不在〟〝あのバカ来やがった〟〝長けりゃいいってもんじゃない〟〝みんなだいすきでぃーしーてん〟・・・何これ」

 

善子は少し困惑しながらハンドルを握る百香を見た。

 

「40分強の番組をダビングしたやつだ。オススメは〝もう助からないぞ〟だ」

 

「・・・とりあえず掛けてみるわね・・・」

 

不安な顔をした善子がDVDをカーナビに内蔵されているDVDプレイヤーに入れると、すぐにメイデイ(May Day)メイデイ(May Day)・・・という音声と航空機の映像が流れ始めた。

 

「何これ・・・」

 

「実際にあった航空機事故の解説だ」

 

フィクション(F)じゃないの(N)!?騙されたわ(D)!」

 

善子がそう言っているうちに、車は長泉沼津ICから新東名高速道路に入った。百香は、アクセルを踏み込み、時速90kmほど加速し、本線に合流し時速100kmまで加速した。カーナビからは、レーダー管制官の〝なんてことだ、もう助からないゾ♡〟という声が聞こえてきていた。

 

百香は、善子がどうしているのか気になり、カーナビを見るふりをして善子を見たところ、善子はその番組を脇目も振らずに見ていた。

 

 

車はノンストップで走り続け、豊田東JCTに差し掛かった時には、〝もう助からないぞ〟の他に、〝着氷ストライク(回転回)〟〝プロペラ「ちょっとコンビニ行ってくる」〟の3つを見終えていた。

 

「凄いわね・・・。こんなに凄いストーリーがあの天空の馬車にあったなんて・・・」

 

「これ、まだいいほうだからな」

 

百香はため息混じりの声で、善子にそう言った。今まで見たのは、全員無事に生還した例だった。酷い例だと、警報を無視(というか、なぜ警報が鳴ったのかわからなかった)し、飛び立とうとして失敗し、墜落した〝ぼくらはずっと一緒だからな〟や、修復作業をマニュアル通りにやらずに修復後20数年後に空中分解した〝古傷(ポテト回)〟、投資に失敗した機長が乗客乗員全員と無理心中をした〝パートナー〟など、事故原因が胸くそ悪い回もある。(胸くそ回の方が多いため、あげるとキリがないため一部のみ紹介)

 

 

「・・・もうすぐ、休憩するか。3時間近く走り続けてるからな」

 

「そうね」

 

百香と善子の2人の合意があったため、百香はハンドルを切り、豊田JCTを過ぎて最初のSAの駐車場に向かって車を走らせて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に寄ったSAでは、どこも店は開いておらず、開いている店はコンビニか土産物店だけ。東海圏に住んでいる人が自分自身に買う東海圏のお土産なんて誰が得をするのか。

 

そのため、そこでは飲み物を買い、トイレを済ませただけで出発した。

 

その後、また2~3時間ほど車を走らせた後、一箇所、北陸自動車道のあるSAに寄った。そこは、最初に寄ったSAよりも施設が少なかったため、そこではトイレを済ませたのと、給油しただけで発車した。

 

そこからは、別のDVDをセットし、それを見ながら過ぎていく時間を過ごした。

 

『コ☆カ☆イ☆ン☆だ』

 

『今夜暇かい?』

 

『クソして寝な』

 

『ああどうも。最近の姉ちゃん、キツいや・・・』

 

『バスの運転なんてどこで習った?』

 

『キエフだ。軍隊で』

 

『すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだ』

 

 

 

見ているDVDで、主人公である、ロシア警察のマッチョマンがシカゴからモスクワに向かう飛行機に乗り、エンディングが流れ始めたと同時に北陸道の加賀ICで高速道路を降りた。

 

そこからまた20分から30分ほど車を走らせ、カーナビが示したゴールのある、一軒家にたどり着いた。百香は、家の前の3、4台程の砂利のスペースに車を止めた。

 

百香と善子がそこに降り立つと、辺りは、畑や、田んぼ、山ばかり広がっており、百香にとっては前世の実家を彷彿させる風景であった。

 

トランクを開けて中の2つのスーツケースを出し始めていると、一軒家の中から八名が出てきて、百香の姿を見ると「よっ」と言いながら手を挙げた。

 

「おう、慶喜。よくこんな所まで来たな」

 

「大変だったよ。ここまで運転してきたのは」

 

八名と百香が軽く会話し、百香は、百香の後ろに隠れ気味になっていた善子を八名の前に出した。

 

「・・・つ、津島善子です・・・」

 

「神田大智だ。・・・も、もも、百香には前世の名前の八名って呼ばれて・・・笑うな慶喜!」

 

善子と八名が自己紹介をしていると、百香は急にニヤニヤと笑いだした。いつも会う度に〝慶喜〟〝慶喜〟と言っていた八名がぎこちない口調で〝百香〟と言っていた事に百香は笑いをこらえられなかったからだった。

 

「とりあえず、よろしくな。津島さん」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

八名が善子に右手を差し出すと、右半身だけ百香の後ろに隠れていた善子はおずおずと両手を差し出し、八名の右手をゆっくりと握った。

 

 

 

「本物・・・本物だ!本物の善子で本物のヨハネだ!夢じゃないんだ!すげぇ!触れられる!」

 

八名は、そう言い出すと善子の手を上下にブンブンと振り出したため、善子は、最初だけ呆気に取られていたが、八名が百香と同じ転生者であったことを理解したのか、納得したような顔に変わっていた。

 

「お前きしょいな」

 

百香の冷やな目と言葉でそう言ったところ、八名は善子の手を離し、百香に「辛辣ゥ!」と言った。

 

「お前も気をつけろよな。コイツは男なんだから」

 

百香は、そう言いながら善子の左肩をポンと叩き、一軒家の中に入って行き、八名も、「お前の中身もオッサンだろ!」と言いながら百香の後ろをついて行ったのだった。

 

「本当に、これ大丈夫なのかしら・・・」

 

砂利のスペースに残された善子は、この後の展開を予想し、小さくため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、善子の不安は的中せず、楽しい時間が過ぎていった。荷物整理後、あるレースゲームを3人でプレイし、そのゲームプレイ最中に、八名が百香に甲羅を当てられてコース外に落ちたり・・・

 

 

「お前、甲羅はやめろ甲羅は!」

 

 

「ざまぁ」

 

八名がコーナーで善子にコース外に落とされたり

 

「おい善子!なにしゃがんだ!」

 

「よそ見してるのが悪いのよ」

 

コーナーで外から百香に抜かされたり・・・

 

「なにィ!外からだとぅ!?ナメてんじゃねーぞ!外から行かすかよォ!」

 

「お前はいつから妙義の32ドライバーになったんだよ・・・」

 

何回やっても八名がビリであった。何度も何度も抜かそうとしても百香と善子の謎のチームプレイでコーナーでコース外に落とされ、甲羅で飛ばされ、雷を落とされ・・・と、散々であった。

 

気づけば、八名と善子の間にあった壁もほとんど無くなっており、八名と善子の間には世界の壁を越えた(文字通り)友情が芽生えていた。

 

その後は、中心部付近にあるファミリーレストランに百香の運転する車で食事をしに行く事になった。助手席に八名、後部座席に善子が座っていた。

 

「今回は泊めてくれてありがとな」

 

百香がそう言うと、八名は、今日は両親が居ないから、むしろ助かったと答えた。料理をするのが死ぬほど嫌いな八名は、両親が居ない日は近所のコンビニとかで弁当を買って過ごしていた。さすがに来客にコンビニ弁当は不味いと思ったのだろう。

 

ファミリーレストランに着くと、店員にボックス席に案内され、八名は1人で、百香と善子は一緒のシートに座った。10分ほどメニュー表と睨めっこした後、店員を呼び出しボタンで呼び、とりあえず、個々に別メニューを頼み、それにドリンクバーをつけた。

 

「ほらよ。八名の分だ」

 

百香は、善子と共にドリンクバーを取りに行き、八名の目の前にドリンクの入ったのグラスを置いた。

 

「お前・・・。全部混ぜただろ・・・」

 

八名は、呆れながらで百香を見た。八名の目の前に置かれたグラスの中身は黒色だった。コーラではない。いや、コーラの色より酷い色をしている。コーラの黒色は透き通っている黒色だが、このドリンクは透き通っていない。

 

「いーっき、ほらいーっき」

 

八名が飲むのを躊躇っていると、百香が手をパンパンと叩き、八名をはやし立て始めた。

 

「「いーっき、いーっき」」

 

善子が席に戻ってくるやいなや、百香と一緒にはやし立てた。ここに八名に味方は居なかった。

 

「お前こんな時だけ子供っぽくなるよな。しゃーねぇ、飲むよ」

 

半ば諦めながら八名はソフトドリンクを飲み干した。まさか飲むとは思わなかった百香と善子の2人は八名に拍手を送ったのだった。

 

それから料理が届き、3人はたわいない話をしながら料理を食べ始めた。

 

 

 

夜はふけていく──

 




次回更新予定日は7月10日です


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第42話 加賀へ(下)

今月と来月は週一投稿出来そうです


 

ファミリーレストランで夕食を取った後、百香、八名、善子の3人は百香の運転する車で神田家(八名家)に戻って来た。

 

「善子。先風呂入れ」

 

百香は、車のキーや財布が入ったそバッグをソファーに置くと、善子にそう言った。

 

「え?私が先に?いや、さすがにそれは・・・」

 

「いいから。なあ、八名」

 

「あ、ああ。いいぞ」

 

「・・・わかったわ」

 

善子は、来客であるためなのか、先に入ることを拒んだ。だが、百香と今日だけ家主的存在である八名が何度も勧めたため、善子は一番風呂に入ることを決定し、善子のスーツケースの中に入っていた着替えを持ち、脱衣所へと消えていった。

 

2、3分くらい経つと、浴室に入る扉の音が聞こえてきた。この家は、一見豪華そうに見えるのだが、この家は、バブル初期に建てられた木造の家。音なんて全部ではないが、筒抜けになってしまう。唯一、浴室の中だけがリフォーム済みで防音仕様だった。

 

「入ったようだな・・・」

 

八名は、音を確認した後、ソファーに座り、それに続き、百香もローテーブルを挟んで反対側のソファーに座った。

 

「善子に教えたそうだな」

 

「ああ。東京の大会で俺達の話が聞かれたからな」

 

「本当に話しちまって、大丈夫なのか?」

 

八名は、心配そうに聞いてきた。善子に百香が転生者という事を少しだけ話した日、八名に電話をし、この事を話していた。八名はこの時から、百香が一番起こしたくなかったこと、「世界が変わってしまうこと」これが起こってしまうと思い始めたからだったからだ。

 

「俺達は善子の秘密を知ってるからな。軽々しくバラしたらそれがバラされるって思うんじゃないか?善子って、口は以外と堅いからな。他のAqoursの誰かが気づかなければ大丈夫だ」

 

百香はそう言い、他のAqoursメンバーに百香の事が知られてしまった時を考えた。

 

〝曜は、千歌との関係でわかるが、関係が変わり果ててしまうことを恐れているため、恐らく、チラチラ見るだけで何も言ってこず、気がつくと、関係悪化などもありえてしまう。

 

ルビィは、善子にちょっと技をかけられただけですぐに話してしまった事もあるため、聞かれた後、いつ話されるかどうか分からない。

 

花丸は、仲が良くなりすぎると畜生度が大幅に上がる性格であり、一部界隈ではその性格を揶揄されて畜生丸とも言われている。アニメでは善子に向かってだけ毒を吐いていたが、この世界では百香にも毒を吐いている。下手すると仲のいい人にはホイホイとバラしそうだ。

 

千歌は、聞いたら何か変な行動を起こしそうだ。聞かれた事により、世界が変わってしまう可能性は大いに高い。

 

梨子は、曜と並ぶAqoursの貴重な常識人枠であるが、善子の黒歴史を普通にバラしてしまうという畜生さも少しだけ持っている。安易に話してはいけい〟

 

と、百香は考え、いい意味でも悪い意味でも個性的なメンバーが多いAqoursの中で話が聞かれたのが善子で良かったと思っていた。

 

「だがな、俺らが知ってるのはアニメや媒体資料上での津島善子だからな。あの扉の向こう、今風呂に入っている生身の人間じゃない」

 

八名は、善子に出会えた事を喜んでいたが、自分達が知っているのはただの記録であり、実際に長年一緒に過ごした訳ではなく、本当に百香が思っている通りにならないのではないのかと心の中で思っていた。

それでも百香は善子に話した。

百香は、信じるしかなかったからだった。今、転生者の()()を理解してくれるのは善子しかいない。

 

 

そこまでの話が終わった後、百香は思い出したように「ああ、そうだ」と言い、先程とは打って変わり、少し笑いながら八名の方を向いた。

 

「お前と俺は別部屋、善子は俺と同じ部屋にしろよな。お前だからやらないと思うが、もし襲ったら殺すぞ」

 

「お前の場合、最後の言葉は冗談に聞こえねぇんだよなぁ・・・」

 

もちろん、八名は手を出してこない。それは、この前2人だけで宿に宿泊した林が手を出されていないということを知っていたため、手を出してこないということはほぼ確実という事を示していた。

だが、林と善子がどう思うかだ。百香が見る限り、林は八名に好意を向けている。もし同じ部屋で寝た事が林に知られてしまった時、どうなるかは想像がつかない。

善子については、今日まで赤の他人だった人と一緒に寝るのはどうかと百香が思ったからだ。あまり人と積極的に話さない善子にとって、すぐに「お泊まり会(笑)」なんて事は地獄に等しいことだと思ったからだった。

 

「お風呂、あがったわよ」

 

「じゃあ、風呂入ってくるから、布団敷いとけよ」

 

善子の入浴が終わり、部屋着に着替えた善子が脱衣所から出てきたので、百香は換えの下着と部屋着を持ち、脱衣所に向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百香が風呂から上がった時、脱衣所の扉の前に立っていた八名が、寝る予定の部屋に案内してくれた。八名が案内した部屋には、すでに布団が並行に2つ敷かれており、左にはすでに善子が入っていた。

 

「ねえ、百香」

 

布団に百香が入った時、ふと、善子がそう言った。

 

「思ったんだけど、貴女が車運転できるのって、転生特典とかいうものなの?」

 

「まあ、そんなもんだな・・・」

 

百香にとっては唯一と言ってもいいほど便利な転生特典だった。もうひとつの転生特典である記憶は、百香にとってはいらないものであった。そもそも、百香はこの世界に転生しただけでも充分なのに、曜の妹になるなんて願ってもいなかった程の事だった。

 

「転生して良かったって思ってる?」

 

「ああ。こうしてAqoursみんなに会えてるからな。こうして善子と話ができるのも、転生したおかげだ」

 

百香が答えた後、善子は何も返事を返さなかった。百香が善子の方向を向いてみると、善子は百香に背を向けていた。

 

「・・・善子?」

 

「な、何でもないわよ!おやすみ!」

 

百香が善子に問いかけたとろ、善子は明らかに動揺しながら言い、布団を頭から被ったのだった。

 

「おやすみ・・・」

 

百香は、頭にはてなマークを浮かべながら電気を消し、明日の運転に備え、寝たのだった。

 

 

 

 

 

 

「思ったより荒れてない・・・」

 

「日本海が荒れるのは冬だからな」

 

「そうなの!?」

 

海開きをまだ迎えてない夏が始まったばかりの塩屋海岸。砂浜には善子、八名、百香の3人の姿以外数人の釣り人しかない。

 

「濡れると面倒になるから海には入るなよー」

 

「わかったー!」

 

百香の忠告の後に善子の声と、八名がこちらに手を振ったのが見えた。2人とも楽しそうだ。

 

「ん?」

 

善子と八名に手を振った後、スカートのポケットの中が振動した。

 

「はい、渡辺ですが・・・」

 

百香は振動していたスマートフォンを出してから通話ボタンを押し、耳にあてた。通話相手は、新聞記者の芝山だった。

 

『この前の件、渡せる日が決まった』

 

芝山は、まだ新人新聞記者。ほとんどの取材に新人研修と称して駆り出され、今は日本各地と三島を行ったり来たりしている。百香とカラオケボックスで会った日の次の日には札幌、そして、そのまま広島に飛んでいたため、重要な資料を百香に渡せないでいた。

 

「いつですか?」

 

『明日だ』

 

「じゃあ、明日、沼津駅南口で」

 

『ああ。あと、明日の11時から1時間ほど電話は無理だからな』

 

「飛行機にでも乗るんですか?」

 

スマートフォンのスピーカーからは、空港らしきアナウンスが聞こえてきたから本当なのだろうと、百香は推測していた。

 

『ああ。今広島だからな』

 

「広島ですか。良いですね」

 

『良くねえよ。こちとら仕事だよ。仕事。静真高校弓道部の全国大会の取材』

 

芝山が言った〝静真高校〟というのは、百香の1歳歳上の従姉妹、渡辺 (つき)が通っている私立の共学高だ。これは余談であるが、アニメでは、ここと浦の星女学院が統合になるのだが、この世界ではどうなるのかは分からない。

 

『しかも、今日来たのに明日帰るとか、早すぎだろ』

 

「ははは。あと、言い忘れましたが、会う時刻は夜8時でいいですか?」

 

『ああ。大丈夫だ』

 

「それでは、失礼します」

 

そう返し、百香は小さくガッツポーズをしながら通話を切った。

 

〝ようやく黒幕が分かるかも〟

 

そう思った後、百香は一息つき、腕時計を見ると10時30分を指していた。これ以上ここに居ると帰宅する時刻が遅くなるため、もうそろそろ帰らなければならない。

 

「おーい!もうそろそろ帰るぞー!」

 

百香が両手でメガホンを作るような形を作り、善子と八名に呼びかけた。善子は何時ものトーンで、八名は少しだけ寂しそうに返していた。

 

「大丈夫だ。また会えるからな」

 

百香は、そう言って少しだけ寂しそうにしていた八名の左肩をポンと叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の就寝後のことであった。

百香は、真っ白の空間で目を開けた。

 

 

 

 

「およそ1ヵ月ぶりか・・・」

 

 

 

 

およそ1ヵ月前に見た不思議な夢をまた百香は見ていた。1ヶ月前と同じく、服は浦女の冬服と黒のカーディガン。今の時期では暑いこの服も、この空間内では不思議と暑くなかった。

 

 

 

 

「久しぶり。どお?1年生組が加入したAqoursは。ちゃんと浦の星ライフを楽しんでる?」

 

 

 

「毎日賑やかだよ。ってか何だよ、浦の星ライフって・・・。

 

 

っで、何の用だ」

 

 

 

百香は呆れながら向かい側に立っている百香と同じ顔と声をしている百香らしき女性に話しかけた。服は相変わらず白のワンピースを着ており、同じ顔とは思えないほどお淑やかに見える。

 

 

 

「貴女に──

まあ、忠告かな。それをしよーって。

 

 

貴女が知ろうとしていることは、とてつもなく大きな事」

 

 

 

 

百香らしき女性はそう言って彼女自身の身体の後ろで手を組んだ。

 

 

 

「あまり詳しくは言えないけど、下手すると、100年、いや、1000年に及ぶこの世界のグランドデザイン。そこまで及ぶ問題。気をつけなさい。百香。貴女のやろうとしていることは、歴史に残ってしまうかもしれない事なのよ────」

 

 

 

女性は最後の部分を強調した口調で言い、強調した辺りから辺りが真っ黒の闇に包まれはじめ、言い終わる頃には、漆黒の闇の中に女性は消えて行ったのだった。

 




次回更新予定日は7月17日です


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第43話 広島発羽田行 扶桑航空713便

次回もどうにか完成できました。週一投稿です!


2016年7月4日12時26分

房総半島上空

 

広島空港11時00分発、羽田空港12時25分着、スカイチームメンバーである扶桑航空713便のB737-800は浦賀水道を西に進みながら羽田空港に向かっていた。

 

羽田発広島行きANA677便に使用されているB767の機材故障による機材変更の為、代わりの機体となったB787の到着が遅れ、当便には少しばかりの遅延が発生していた。

 

広島空港は滑走路が1本だけだ。そのため、ANA677便の到着を待っていた当便は離陸が遅れてしまった。

 

この扶桑航空713便として使用されているこのB737-800を操縦する2人のパイロットは飛行時間11000時間以上を持つ機長と飛行時間約5600時間の副操縦士という、ベテラン同士であった。

 

さらに、機長の父親は政府専用機のパイロットに抜擢されたこともあるエースパイロット、祖父は日本海軍のエースパイロットであり、機長は、パイロット家系の3代目であった。

 

だからといってどこぞのパイロットよろしく片目が義眼とかではない。

 

副操縦士については、特に特筆すべき点がない。強いていえば、彼女の姉妹は全員パイロットになったという事と、気を抜くと彼女の癖である名前の上に〝クソ〟をつけてしまうことくらいだろう。

 

天気は晴天。格好の飛行日和の中を自動操縦で飛ぶB737のコックピット内で、機長と副操縦士は雑談を交わしていた。

 

「そういや、この前休暇だったよな。どっか旅行でも行ったのか?」

 

「函館です。もちろん飛行機で」

 

機長の問いかけに副操縦士はにこやかに答えた。コックピット内のパイロット2人の関係も良好。このまま着陸すれば最高のフライトであった。

 

「もちろん使ったのはうちの会社(扶桑航空)の路線だろ?」

 

「行きがANAで帰りがJALでした」

 

機長は、副操縦士が悪びれることも無く競合他社を使った事を暴露したため、機長は笑いしか出なかった。

 

「仕方ないじゃないですか。ウチの会社の函館線は本数少ないんですから」

 

Huso Air 713(フソウ713便),Contact Tokyo approach 119.1.(東京アプローチにコンタクト、周波数は119.1)

 

Contact Tokyo approach 119.1, Huso Air 713.(周波数119.1で東京アプローチにコンタクト)

 

機長は機長席と副操縦席に挟まれているコントロール・ペデスタルにある無線の操作パネルを慣れた手つきで操作し、東京航空交通管制部(東京コントロール)から東京進入管制(東京アプローチ)へと、無線周波数を変更した。

 

Tokyo approach, Huso Air 713(東京アプローチ、こちらはフソウ713便), Leaving FL230 for 180(現在、フライトレベル230から180まで降下中), Information juliett(ATISの情報は〝J〟を受信).」

 

無線周波数変更後、機長はすぐに東京進入管制に必要な今の情報を全て伝えた。1万時間以上の飛行経験を持つ機長にとってはいつも通りの事だった。

 

Huso Air713,Tokyo Approach(フソウ713便、こちら東京アプローチです),for vector to ILS runway 34L final approach course(ILSで34L滑走路へ最終進入コースに誘導します).』

 

Fly heading 015 ,Huso Air713(フソウ713便、方位015)

 

機長の復唱後、操縦を担当している副操縦士が自身のサイドテールを揺らしながら自動操縦装置の設定変更をダイヤルを回し、方位の数値を〝015〟に変えた。

 

「もう少しで羽田ですね」

 

「これが終わったら休暇だ。

 

 

っ!?」

 

「きゃっ!?な、何なのよ!?」

 

副操縦士と機長が話をしていると、爆発音とともに機体が急に左に傾いた。

 

自動操縦中であったため、機体はすぐに垂直に戻されたが、爆発音がしたということから、どう考えても機内で異常事態が発生したと考えるしかなかった。

 

「I have control!」

 

「ゆ、You have control.」

 

異常事態が発生後すぐに操縦は機長が請け負い、副操縦士には通信と今の状況を確認させた。

 

今、重要なのは機体にどれくらい被害があるかを確認し、至急近隣の空港に緊急着陸させることだった。

 

「綾波!機体状況を確認してくれ!」

 

「わ、わかりました」

 

副操縦士が装置の確認を始めた時、機長はいつ不具合を起こすか分からない自動操縦を監視しながら機内電話で客室乗務員に連絡をした。

 

客室乗務員からの情報は、〝客室前方、9Kの座席で小規模の爆発が発生し、その座席に座っていた乗客1名の下半身が無く、生死不明。他の乗客数名が怪我をしている〟という事だった。

 

「わかった。とりあえず、機体にヒビが入っていないか確認してくれ」

 

機内電話で通話する前に副操縦士から機体の装置類は大丈夫だと報告を受けたため、機長は次に機体本体の状況チェックをしようとした。もちろん、機長はコックピットを離れられないので、客室乗務員が行うのだが。

 

飛行機の機体は非常にデリケートである。小さなヒビでも墜落する可能性がある。最悪、空中分解するかもしれない。

 

そのため、機長は、客室乗務員からの報告で驚きを隠せなかったのだが、機長は生死不明の乗客を気にする暇もない。気にして動揺してしまったら死ぬ。冗談ではなく乗客乗員全員死ぬ。

 

〝海に着水すれば助かる〟そういった意見もあるが、そういう人は何も分かっちゃいない。〝ハドソン川の奇跡〟と言われているUSエアウェイズ1549便不時着水事故は、抵抗の少ない川だったため出来たことであった。

 

海に着水してしまうと波とエンジンに与えられる抵抗によって機体がバラバラになる。海上は救助隊がすぐ来るか分からない場所である。そんなことをしてしまったら死んでしまう確率が高くなってしまう。

 

助かる可能性が高いといわれている、陸地から近い海に着水しても乗客乗員の3分の1しか助からなかったエチオピア航空961便ハイジャックの例もある。

 

リスクが高い着水よりも空港に着陸するのが最善の策である。

 

「綾波、東京進入管制(アプローチ)に〝May Day〟だ!」

 

「は、はい!

MayDay MayDay MayDay(メーデーメーデーメーデー)This is Huso Air 713(こちらはフソウ713便)Explosion occurred in board(機内で爆発発生)Requesting emergency landing(緊急着陸を要請する).147 souls on board(乗客乗員は147名).」

 

この単語が発せられた瞬間からこの周波数は〝May Day〟を発した便が独占し、周辺空域はこの便以外を退かす事となる。

 

そのため〝MayDay〟は、最上級の緊急事態が発生した時にしか使われない。

 

そして〝May Day〟は緊急事態が発生したという事を知らせるためであるが、他機に迷惑をかけたくないと思う機長が居るため、発信するのが遅れ、助からなかった事態もある。

 

そのため、機長の判断は勇断であっただろう。

 

Tokyo Approach(こちらは東京進入管制)Explosion occurred in board,Roger.(機内での爆発、了解)あー、ここからは日本語で交信して大丈夫です。被害状況を教えてください』

 

ヘッドホンから聴こえる東京進入管制の管制官からの声。彼の声は震えていた。

 

1983年、ヤード・ポンド法とキログラムの計算間違いでその時の担当機であるB767には予定の半分しか燃料が積まれず、目的地の途中で燃料がカラになってしまった事があった。

 

それが、ギムリーグライダーと呼ばれているエア・カナダ143便不時着事故。

 

事故当時の143便を担当していた管制官が発した、有名なセリフがある。

 

I'm talking to a dead man(もう助からないゾ♡)

 

この言葉が示すとおり、今、管制官のヘッドホンから聞こえてくる声は、この後故人になってしまう可能性が高い。

 

管制官が震えてしまうのも無理もないだろう。

 

余談であるが、エア・カナダ143便不時着事故の時の乗員乗客は全員生存している。

 

「機内で爆発発生により、負傷者有り。飛行には問題無いですが、乗客の怪我が酷いため羽田に緊急着陸したい」

 

『わかりました。では、方位340に』

 

「了解。方位340」

 

機長は副操縦士の復唱後、自動操縦装置の設定変更をダイヤルを回し、方位の数値を〝340〟に変え、羽田空港に着陸する体勢を少しずつとりはじめた。

 

「ご搭乗の皆様、こちらは副操縦士です。当機は羽田空港に緊急着陸いたします。皆様、シートベルトを着用の上、ご着席し、客室乗務員の指示に従ってください。客室乗務員は着陸位置に」

 

副操縦士は、落ち着いた声色で機内アナウンスをしていたが、内心は緊張状態であった。

 

副操縦士は、こういったトラブルに逢うのは初めてであり、下手したらここで一生を終えるかもしれないと危惧してしまっていたからだった。

 

『フソウ713。空港を目視できますか?』

 

「フソウ713。できています」

 

副操縦士は、コックピットの窓から羽田空港を目視にて確認した。空港までもう少しだ。

 

『フソウ713。滑走路は34Lと34R、どちらでも使えます』

 

管制官からの報告で、機長は進入経路や使用滑走路についてを頭の中で考えていた。

 

「着陸体制に入る。ギアダウン」

 

「了解。ギアダウン」

 

副操縦士は、復唱後にレバーを下げると、ウィーンという機械音が機内に響く。タイヤが下ろされた証拠だ。

 

「3グリーン」

 

「フラップ2」

 

「フラップ2」

 

緑色のランプが点灯し、ギアが固定された。フラップも出し、着陸準備は出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滑走路上には、〝May Day〟コールにより出動していた消防車と救急車、そしてその2つが出す赤色灯が見えていた。

 

「よし、行くぞ!」

 

「はい!」

 

機長と副操縦士は覚悟を決め、羽田空港34L滑走路にゆっくりとB737を降ろして行った。

 

 

 

 

 

 

────大丈夫だ、737。俺を信じろ

 

ふと、コックピットで機長が機体に向かって呟いた。まじないか、願掛けかは分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

737は羽田空港に降りていく────

 




当話上でのスカイチームへの酷い風評被害
デルタ航空「訴訟も辞さない」
エールフランス「ボナン送るぞ」
アエロフロート「児童操縦の航空機はいかが?」

・・・だって日本の航空会社2社はワンワールド(JAL)とスターアライアンス(ANA)加盟なんだもん。つまりスカイチームは余り物だったから扶桑航空(架空)が割り込んだ。

次回更新予定日は7月24日0時0分です。

下手ですが、一応挿絵です。

【挿絵表示】


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第44話 青天霹靂

ようやくAqours3年生加入エピソードを執筆し始めました。3年生加入エピソードまでおよそ2年。長すぎですね・・・。この間でもAqoursの情報は更新され続けています。さてさて、これからのAqoursはどうなるでしょうね・・・。


2016年7月4日16時24分

浦の星女学院1階廊下──

 

百香は、学年主任であり、そしてスクールアイドル部の顧問である時雨先生の元へ向かっていた。

 

「なんでこーなってんのかなぁ・・・」

 

百香は、はあ・・・と、ため息をつきながら歩いていた。時雨先生による、いつもの「書類やっといて」という、スクールアイドル部の事務押しつけであった。

 

重要な書類は時雨先生が行うが、あまり重要ではない書類は全て百香に押しつけ。押しつけるのが百香ではなかったら、処理できないどころか、問題になる。

 

そもそも、生徒である百香に押しつけているのが問題になるのではないのかという突っ込みもあるのだが、百香は嫌々であるが、誰にも言いつけずに書類を処理していた。

 

「失礼します。1年A組の渡辺 百香です。時雨先生はいらっしゃいますか?」

 

「来たね」

 

百香が職員室に入ると、書類が山積みになっているデスクの前に座っている時雨先生が、百香にこっちこっちと手を挙げた。

 

百香は、〝また書類溜め込んでいるのか・・・〟と、心の中でため息をつきながら時雨先生のデスクの前に向かった。

 

「先月の活動報告書です」

 

百香は、ポケットから報告書のデータが入った緑色のUSBメモリを出し、時雨先生に手渡しで渡した。

 

「いつもいつもありがとう」

 

時雨先生は、回転椅子をくるりと回し、百香に身体を向けた。

 

「いえ、別になんとも思ってないですよ」

 

「ならいいんだけど・・・」

 

時雨先生は、少し眉を下げて回転椅子をくるりと回し、百香の方に向けていた体をデスク前に戻した。

 

百香は部室に戻ろうとするため、時雨先生に一礼し、職員室を後にしようとした。

 

一礼した後に体を上げた時、職員室の天井からぶら下げてある36型の液晶テレビが目に入った。

 

液晶テレビからは、いつもの番組を取りやめ、臨時ニュースが流されていた。いつもの百香なら、気に求めなかったニュース番組も、〝臨時〟とついた緊急性の高い事のため、顔を上げて液晶テレビを見た。

 

臨時ニュースでは、羽田空港に広島発羽田行き扶桑航空713便のB737が不時着した事故が報道されていた。

 

百香は、墜落原因はレバノン料理だの、アンチアイスオフだの、DC-10だのと、若干偏見を持ちながらも、航空機事故には少しだけ詳しい。ブラックボックス?もちろん「真水につけろ!」と彼女は言うだろう。

 

そのため、百香には日本国内の飛行機事故のデータと、世界中の飛行機事故10数件が頭の中に入っている。

 

日本国内で最近発生したB737型機の事故は2007年、那覇空港で発生したチャイナエアライン120便炎上事故のみ。

 

彼女のデータベース上に、この扶桑航空713便の事故はなかった。

 

チャイナエアライン120便の事故の後、次に発生した737の事故や問題は、2019年に国土交通省がFAA(連邦航空局)に続いてB737MAXの運行停止を決定したことであった。

 

つまり、百香が居るこの世界は、慶喜であった時のラブライブ!世界とは別の世界が動き始めていた。日本国内の一部だけという小さなレベルではない。

 

航空機事故において、米国企業の機体か米国製の部品が使われていると、事故の解明のため、NTSB(国家運輸安全委員会)から調査官が派遣される。

 

米国内ではたった小さな変化かもしれない。だが、それは米国内での話だ。日本国内では大きな変化となり、この沼津市にも何かしら変化を与えることとなる。

 

 

 

 

 

 

何故、世界規模で別の世界が動き出してしまったのか──

 

百香は、その場で頭をフル回転しながら考え始めた。航空機内での爆発は機体に欠陥があったDC-10など一部を除き爆弾テロだ。

 

首謀者が何を考えていたかは分からないが、国会内の議員の名前も、事件で亡くなってしまう人も全て同じという、Aqoursを除き前世と同じ世界である。もしかしたら、転生者が1枚噛んでいるのかもしれない。

 

だが、それにしても百香には分からなかった。

〝何故航空機内で爆弾を爆発させたのか。政治関係ならもっと別な場所を爆発させるだろう。

米国に恨みを持っており、米国産の航空機を爆破させるならば、最新型のB787の方が適任だし、多くの人を殺したいならば、B767かB777、A380の方が適任であっただろう〟と。

 

 

 

百香のその疑問の答えは最悪な形で判明することとなった。

 

 

 

 

 

──ニュースキャスターの前に1枚の紙が追加された。

 

『たった今入った情報です。扶桑航空713便の事故で死亡した男性の身元が判明しました』

 

キャスターが読み上げたと同時にどこから入手したのか分からない被害者の顔写真と、被害者の名前、そして、職業が映し出された。

 

「ま、まさか・・・!?」

 

 

 

〝扶桑航空713便爆発事故死亡者〟

 

〝伊豆駿東新聞社記者

〝芝山 秀俊〟

 

 

その表示を見た瞬間、百香の頭の中には、この爆発事件の真相が創り出され、それと同時に嫌な予感がした。

 

百香は不思議な顔でこちらの様子を伺ってくる時雨先生には目もくれず、スカートのポケットからスマートフォンを出し、つい最近電話帳に登録した伊豆駿東新聞社の電話番号をタップした。

 

 

早く出てくれ──

 

 

百香はスマートフォンから聞こえる信号音を聞かながら〝もし出なかったら〟と思い、一筋だけ冷や汗が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分近く信号音が鳴っているのだが、一向に出る気配がない。

 

 

嫌な予感がした百香は、通話終了のアイコンをタップすると、職員室から飛び出した。

 

 

脇目も降らず、「走るな!」と呼び止める教師を無視し、体育館アリーナ横のスクールアイドル部の部室に全速力で向かった。

 

 

百香はスクールアイドル部部室のアルミサッシ扉を荒々しく開け、ズカズカと部室の中に入っていった。

 

「ど、どうしたの百香ちゃん」

 

「急用ができた。もしかしたら泊まりになるかもしれないと曜に伝えておいてくれ」

 

折りたたみテーブルの前にある折りたたみ椅子に座っている千歌が一連の百香の行動を見ていたため多少驚きながら聞いてきたが、百香はそれを無視し、自分のスクールバッグを手に取った。

 

「ねぇ、ちょっと!待って!百香ちゃん!」

 

百香は一方的に話しを終わりにし、千歌の呼び止める言葉を無視して飛び出して行った。

 

 

 

浦の星女学院前の坂を駆け下りた百香は、浦の星女学院前バス停の時刻表と自身の腕時計の両方を確認した。

 

 

 

現在時刻16時49分──

 

 

 

次に浦の星女学院前バス停を通過するバスは17時20分。あと30分以上もあるし、バスは必ずと言っていいほどよく遅れる。

 

すぐに本数が多くなる県道沿いにある重須バス停に向かって走り出した。重須を通過するバスは16時51分通過予定。間に合うか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

16時51分。N24系統木負農協発沼津行きのバスが定刻通り長井崎トンネルを抜け、重須バス停を通過した。

 

 

結論を言うと、百香はそのバスに乗れなかった。バスは遅れるが、それは始発からの距離が長いバス停でしか通用しない。始発の木負農協バス停は重須バス停からわずか2つ前のバス停。遅れろという方がの難しいだろう。

 

次のバスは30分後。それを知っていた百香は、伊豆・三津シーパラダイスから出る伊豆長岡駅行きのバスに間に合うため、また走り出した。

 

 

 

 

 

17時01分。

伊豆・三津シーパラダイスに着いた百香は、バスの折り返し用スペースに置かれている椅子に腰掛け、あがっている息を整えた。体力があっても全力ダッシュで約1キロは辛い。

 

全力ダッシュした後、百香は時刻表で伊豆長岡駅行きの発車時刻を調べた。次の発車は17時30分。歩いてきても十分間に合った時刻であった。

 

「なんだよ・・・、歩いても・・・、間に合う・・・、じゃねえか・・・」

 

過ぎ去った時間(とき)は戻って来ないと思ったのか、それとも、そんな事気にする余裕が無かったのか、走った事を悔やんだのはその一言だけだった。

 

息が整う前にスマートフォンを出し、もう一度百香は伊豆駿東新聞社に電話をした。彼女の頭の中には〝もしかしたら、輻輳で繋がらなかったのかもしれない〟という考えが浮かんでいた。いわゆる、現実逃避というやつだろう。

 

 

 

17時19分。百香は何回もかけ直しをしたが、結局新聞社には繋がらず、到着した伊豆長岡駅行きのバスに乗り込むしかなかった。

 

 

 

18時03分。伊豆・三津シーパラダイス発伊豆長岡駅行きのバスが定刻通りに発車し、予定通りダイヤより遅れて伊豆長岡駅に到着した。百香は1番最初にバスを降り、券売機で三島までのきっぷを購入した。

 

 

三島行きの駿豆線の電車が18時06分に発車し、18時29分、ダイヤ通りに終点・三島駅の頭端式ホームにゆっくりと滑り込んだ。ワンマン運転のため、停車後、運転手が確認するまでの数秒間ドアは開かない。その数秒間でさえ、百香には数十秒のように感じられた。運転手の指差し確認の後、ドアが開くと同時に百香はホームに飛びだし、改札口を抜けた。

 

伊豆駿東新聞社は、三島駅南口から数百メートルの場所にある。百香の足なら10分もかからずに到着できるが、今日は物理的に到着することができなかった。

 

それは、警察が規制線によって伊豆駿東新聞社周辺を閉鎖していたからだった。伊豆駿東新聞社の入居するビルは───

 

 

 

 

 

 

 

──時折爆発音を轟かせながらメラメラと炎を上げ、炎上していた。

 

 

「う、嘘だろ・・・」

 

百香は、今起きている現実をただ、見ているだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、百香の所有するパソコンに狩野川花火大会の運営から出演依頼のメールが入った。残酷だが、本人の意思無くともAqoursの歴史は順調に流れていったのだった。




次回本編更新予定日は7月31日です。
※本編以外を更新するかもしれません


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閑話 某記者の手記

本編以外なので、短めです。

え?なんで本編更新しないかって?まだ半分も書けていないんですよ・・・


 

4月5日

ようやく夢だった新聞記者になれた。伊豆駿東新聞という小さな新聞社だけど、頑張っていきたい。これからはこのノートに出来事を記録していきたいとおもう。

 

4月21日

研修期間が終わり、俺より少し小さい辻堂という女性の先輩について行って取材のやり方や記事の書き方を教わった。しかし、辻堂先輩と親しく話す地域の人々を見ると、地方紙の新聞社は地域に本当に密着しているんだなと感じた。俺も将来こうなれるだろうか。

 

 

5月2日

小さなコラムの記事を書かしてもらった。編集長にかなり添削されたけれど、これは一人前の記者になるための第一歩だと思う。添削の数が減るようにこれからも頑張っていこう。

 

 

5月24日

添削される箇所が日に日に減ってきて編集長と先輩に褒められた。このまま行けば来月か再来月には一人で取材をさせてくれるらしい。

 

 

6月5日

編集長から沼津市の内浦という所にある浦の星女学院という学校が廃校になるという話を聞いたと言われ、将来の日本の学校事情のことについて書いてみないかと誘われた。浦の星女学院・・・。沼津の長井崎にある私立高校だ。遠いから少しだけ取材が面倒臭いけど、少しだけ調べてみよう。

 

 

6月19日

面白い。次々とヤバい情報が出てくる。これは、地方紙レベルじゃない。全国紙、いや、全世界レベルだ。全ての事がわかれば大スクープだ!

 

 

6月30日

まさか、3年前のあの事件もあそこが関わっていたとは・・・。しかも、あの人が・・・!?嘘だろ・・・!?しかも、急に決まった沼津署の警官大移動もこうした経緯があったからか!なるほど、そういう事か!

 

 

7月1日

これ以上取材するなと編集長から怒られた。明日、ようやくあの事件に関係している関係書類を受け取れるんだ!絶対にやめるものか!ここまでわかったのに手を引けるものか!絶対に記事にしてやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三島市郊外にある鉄筋作りのアパートのある一室。畳6畳程であるフローリング敷の狭い部屋には、スーツ姿の男女(男性の方が多いのだが)が何十人も詰め込まれていた。そのうちの背の高い若い男がノートを読んでいた。

 

「これは・・・」

 

韮山(にらやま)。それ、被害者(ガイシャ)のか?」

 

「主任!」

 

韮山と呼ばれた若い刑事に声をかけたのは、三島署刑事課主任であり、巡査部長でもある30代の男性だ。

 

「見せてみろ」

 

ノートを受け取った巡査部長はパラパラと読むとすぐに、別の若い女性警察官に渡したのだった。

 

「韮山。帰るぞ」

 

「え?何でですか!?」

 

「俺達は邪魔だからな」

 

そう言いながら、巡査部長は部下である刑事を連れてアパートの外に出てシルバー色のセダン車の助手席側に、後に続いて刑事が運転席側に乗り込んだ。

 

「どうしたんですか。主任」

 

「韮山。この事件、無理矢理お宮(迷宮入り)させられるな・・・」

 

「はぁ?」

 

「本庁だけじゃねえ。警察庁からも捜査員が来てやがる」

 

「はあ・・・」

 

「とりあえず、出せ」

 

「はい」

 

巡査部長はため息をつきながら腕を組み、改めてグレーのシートに深く座り、刑事は、車を三島署に向けて走らせた。

 

「この前、FA(扶桑航空)の爆破事件、あっただろ?」

 

「はい」

 

「どうやら、JTSB(運輸安全委員会)とNTSBは殺人事件ではないのかという結論をもう出しているらしい。そうじゃなきゃ、被害者宅の捜査なんてさせないだろ?普通」

 

「そうですか・・・?」

 

ハンドルを握っている刑事の頭の上にはハテナマークしか思い浮かばない。

 

「・・・これから忙しくなるぞ」

 

巡査部長は、刑事の顔を見て少し苦い顔をした。それは、話しが理解できなかった若い刑事に向けたのか、この事件の事なのか、はたまた両方か。知るのは本人だけである。

 

「忙しくなるって?」

 

「次は三島でも始まるんだよ。沼津署名物だった、刑事課の大移動が」

 

「?」

 

またハテナマークしか思い浮かばない刑事に向けて、巡査部長は〝ここだけの話だ。一切他言無用だ〟と言った後、話を続けた。

 

「ひよっこのお前は知らないが、過去何回か沼津署の刑事第1課の大移動があったんだ」

 

「大移動・・・ですか・・・?」

 

「ああ。つい最近の事例は、ある誘拐事件が沼津であってな、その誘拐事件の現場リーダーは射殺されたんだ。首謀者は上条財閥のある人物。リーダーを射殺したのは沢木財閥の息が掛かる少女。この2つを隠蔽するために沼津署の刑事第1課の9割が異動となったんだ」

 

「でも、この話がほとんど公になってないのはどうしてでしょうか・・・。私、ずっと静岡県内で生活してきましたが、そんなニュース聞いたことありませんよ」

 

「部外者に話そうとした人は消されたよ」

 

「えっ!?」

 

刑事は、驚いた顔で巡査部長の顔をぱっと見た。巡査部長は、いつも以上に不機嫌な顔で窓枠に頬杖をついていた。

 

「本庁の捜査員3人、沼津署の刑事2人、上条財閥から1人、大手メディアが4人。全員死に方は違うが、全員にあった共通点は〝沼津市誘拐事件〟の真相を公表したか、知ろうとしたかだ。今回のコイツもそうさ」

 

「主任・・・。もしかすると・・・」

 

「ああ。沢木財閥の息が掛かってるあの娘も、知りすぎたら消されるかもな・・・」

 

「そんな・・・」

 

「・・・この話はここまでただ。どうせどう足掻いてもこの事は発表できん」

 

「どういう意味ですか?」

 

両手を広げ、お手上げのポーズをした巡査部長をルームミラー越しで見た刑事は、まだ疑問に思っていた。

 

「沢木や上条はこの国になくてはならない存在なんだ。どちらかが傾けば日本が傾く。どちらも傾いて消えてしまえば・・・」

 

「消えてしまえば・・・?」

 

「日本経済は壊滅状態になり世界経済にも混乱を来す。下手をすれば日本は────」

 

「日本は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──消滅する!」

 

 

 



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本当に読まなくてもいい用語解説

この解説は、メーデー民のメーデー民によるメーデー民のための解説なので、別に読まなくても結構です。


・扶桑航空

日本第3位の航空会社であり、当作品内でしか存在しない架空航空会社。航空連合はエールフランスやデルタなどが所属するスカイチームのメンバー。

 

JASのJAL統合前はJASが第4位の航空会社であり、一昔前は一国にレガシーキャリアが4つもある異常な光景が広がっていた。米国?あそこは面積も人口も異常だから・・・。

 

元々は大和航空にしようと思っていたが、現実の大和航空とかぶったので却下した。

 

・エールフランス

旧フランスの国営航空会社。現在は民営化されている。昔、音速旅客機コンコルドを飛ばしていた事もある。なお、そのコンコルドはコンチネンタル航空のDC-10のせいで墜落したのもあった。

 

・デルタ航空

アメリカの航空会社。経済制裁を受けているイラン航空以外のレガシーキャリアにしては珍しく、古い航空機も使っている会社。ただし、古い航空機を使うことはどこぞの岡山の末期色のように金が無いからではない。

 

〝航空燃料が高いなら自分で燃料を作ればいいじゃない〟と言ったのか定かではないが、航空燃料に使うための油田を持っている。なお、石油業の業績はお察し下さい。

 

・アエロ・フロート

旧ソ連の国営航空会社。ソ連解体と同時に民営化されている。ソ連時代、共産主義にも関わらず、パイロットは上流階級の生活をできたという。パイロットは沢山いるわけじゃないからね仕方ないね。

 

・DC-10

マクドネル・ダグラス社(MD社)ご自慢のジェット旅客機。初期不良で貨物室ドアが飛んで機体にANA()があいたり、それをMD社が無視してまた落とすし、整備不良でエンジンが落ちたり、エンジンの部品で音速旅客機コンコルドを落としたり・・・。色々やっている問題旅客機。

 

そのため、一部では〝またDC-10か〟と言われ、米国内ではDCを捩って〝死のからくり〟〝死のクルーザー〟〝デイリークラッシュ〟〝ドナルドの災いと群衆殺害機〟などとあだ名されている。

 

さらに、米国内で〝最も乗りたくない飛行機No.1〟という不名誉な称号も得ている。事故率は当時の別会社の主力旅客機であるL-1011のおよそ1.2倍、B747より約1.5倍。後続機のMD-11も〝ああ^~MD-11がぴょんぴょんするんじゃ^~〟となり、墜落するケースが多い欠陥機(例:FedEx80便着陸失敗事故)。

 

そのため、B747より売れず(およそ4倍差)、MD社は存続することが出来ずにボーイング社に吸収された。なお、()()()のDC-10は全て退役済みだが、貨物機はまだくたばってない模様。

(一部要出典)

 

・L-1011 トライスター

(DC-10を解説したならこれも解説しなきゃ・・・)

ロッキード社ご自慢のジェット旅客機。ボーイング社、MD社との開発競争で作られた機だが、なんとあのDC-10にぼろ負け。

 

そのためロッキード社は民間航空機市場から撤退した。なお、発生した事故の原因として機体の欠陥がなかった(電球切れ1つで墜落ならあった)という素晴らしい機体でもあった。

 

おうDC-10、製造数の少ないL-1011に事故率の少なさとかで負けてんぞ。悔しくないのか。

 

・エアバス

大抵のメーデー民が嫌いな会社。コンピューター制御に便っているエアバスのクソUIが原因で発生した事故はごまんとある(メーデー民特有理論)。メーデーの番組内でエアバス機が登場すると〝墜落全員死亡フラグ〟と言われるが、運行会社がカンタス航空だとすると〝生存フラグ〟だと急に手のひらクルー。

 

・ギムリー・グライダー(エア・カナダ143便不時着事故)

通称:もう助からないゾ♡

モントリオール発エドモントン行きエア・カナダ143便の燃料が空になった事故。

 

事故の原因は、このB767型機がエア・カナダ初のキログラム法の飛行機であり、さらに、カナダ国内では重量計算をヤード・ポンド法で計算しており、ボブ・ピアソン機長や副操縦士はその二つを混同してしまい、22,300kg給油する予定であったのに、本当に給油したのは22,300lbs給油していた。

 

0.5kgはおよそ1lbsであり、つまり、補給分の半分しか給油できていなく、さらに、燃料計は故障していたため、燃料が足りなかった事も知らなかった。

 

そのため、途中で燃料切れを起こし、ウィニペグ空港に不時着しようとしたが、ウィニペグに着く前に墜落してしまうことに気づき、ギリギリ着陸できたギムリー旧空軍基地に不時着した。

 

なお、着陸時にはグライダーで用いられるサイドスリップという方法が使われたため、この機体はギムリーグライダーというネームド機となり、ピアソン機長は英雄となった。(ただし一部を除く)

 

・USエアウェイズ1549便不時着水事故

通称:ハドソン川の奇跡

カナダガンの群れにより、全エンジンがバードストライクを起こし、停止した。離陸直後だったため、高度が低くて空港まで飛べず、ハドソン川に奇跡的に着水したが、乗客乗員全員が助かったため、着水すれば助かるというふざけた理論を世間に定着させた。海に着水すると通常、機体はバラバラになるのにね。

 

映画にもなっているが、映画内ではNTSBが悪者扱いされているため、メーデー民からの評判は悪いらしい。(一部要出典)

 

・エチオピア航空961便不時着水事故

通称:スペック厨

エチオピア・アディスアベバ発、コートジボワール・アビジャン行きのエチオピア航空961便がハイジャックされた事件。

 

3人の犯人は爆弾らしき物を機長に見せ、オーストラリア行きを要求したが、この機はナイロビで途中給油するつもりであり、オーストラリアまで飛ぶ燃料が足りないとハイジャック犯に伝えたのだが、この機の最大航続距離ならオーストラリアに行けると主張し、機長の意見を聞かなかった。

 

そのため、エチオピア航空961便はアフリカ大陸とマダガスカルのほぼ中間に位置する長野県小諸市コモロ諸島近海に不時着した。乗客乗員175名の3分の2である123名が死亡した。ハイジャック犯は全員死亡したため、ハイジャックの目的は分からなかった。

 

なお、当該機の機長はハイジャックされたのが3回目であり、犯人が機長に見せた爆弾らしき物はただの酒瓶だった。

 

・ANA(穴)

アメリカン航空96便とトルコ航空981便のDC-10の貨物室ドアが飛んだ時、客室にANAがあいた。ANA(全日本空輸)へのひどい風評被害。

 

前者は、死者は出た(そのままの意味)ものの全員生還し、後者は全滅した。事故原因はどちらも同じであり、アメリカン航空96便の事故でちゃんと対策をしていればトルコ航空の事故は防げた事故であった。

 

当該機の整備書類は偽造されており、ドアが改修されていないのに改修したこととなっていた。

 

なお、当該機はANAの導入予定機だったが、ロッキード事件によりキャンセルされ、トルコ航空に引き渡された機体であった。サンキュー角栄。(一部要出典)

 

・ボナン

(本名:ピエール・セドリック・ボナン)

アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港

(ブラジル・リオデジャネイロ)

2009年5月31日19:00発、

パリ=シャルル・ド・ゴール空港

(フランス・パリ)

2009年6月1日11:10着、エールフランス447便

 

ボナンはこの便の担当副操縦士であり、エールフランス447便墜落事故を起こした張本人。

 

大西洋上を飛行途中、飛行機にある速度を測るピトー管が凍結した。ピトー管を解凍するのには機首上げ(機体をこんな感じ⇗)をするようであったが、機首上げをすると速度が落ちる。だが、ボナンは機首を上げ続け、どんどん速度が落ちる失速状態になった。

 

数分前に機長と交代していた交代副操縦士のロベールは速度を上げようとし、機首下げ(⇘)をしようとしたが、ボナンがずっと機首上げをしていたため、操作が相殺。ずっと機首が上がったままで速度が落ち、落下して行った。

 

ロベール副操縦士は操作が出来ないと誤解し、休憩に入ったディポア機長を呼び戻した。

 

コックピットに戻った機長がボナンが機首上げを続けていることに気づき、「No No No!Don'tClimb!(ダメだ!機首を上げるな!)」と機首下げするようにボナンに叫んだが、時すでに遅し。そのまま墜落して行った。

 

墜落前の最後、ボナンは「このまま墜落します。こんなの嘘でしょ・・・。何故なんですか!?」という言葉を残していた事から、自分が墜落させている事も分かっていなかったと推測されている。

 

エールフランス447便はプールに腹打ちするように\ビターン/と海面に激突し、エアバス.zip(機体がペチャンコ)を一瞬だけ作り上げた後、バラバラに分解した。

 

なお、腹打ちするように落ちる、つまり、機首上げ状態での墜落を〝ボナン落ち〟と一部界隈では言われており、エールフランス447便の事故検証動画では墜落時に\ボナーン/という赤コメが流れる。

 

なお、この事故の調査にフランス事故航空調査局、建物がしょぼいBEAは2200万€以上(日本円でおよそ26億円以上)注ぎ込んで、2年間も調査しいたにもかかわらず、その結果がこれであり、爆弾テロで墜落した方がマシだったのではないかとまで言われてしまっている。

 

なお、ボナンの名前である〝bonin〟をネット検索すると〝bonin idiot〟(ボナン 愚か者)と書かれた海外のサイトまで出てきてしまう始末である。

 

・アエロフロート593便墜落事故

通称:ぼくはひこーきぱいろっと

ロシア・シェレメーチエヴォ発、イギリス領香港・啓徳空港行きのアエロフロート593便がロシア国内で墜落した事故。

 

事故の発端は機長が自分の息子に操縦桿を握らせて操縦させ、息子が操作した操作の影響で隠しコマンドが発動して自動操縦が解除され、墜落した事故。

 

当該機で使用されていたA310-300の隠しコマンドはエアバス社内でしか公表されておらず、隠しコマンドで墜落したこの事故などの影響でエアバス社は一時的に業績不振になった。

 

・BEA

正式名称:フランス航空事故調査局。建物が他国の調査機関よりも質素(しょぼい)ため、某動画サイトではBEAの建物が映し出されると、〝小学校〟〝公民館〟〝村役場〟という赤コメントが大量に湧く。

 

建物がs・・・、質素なのだが、737MAXの事故原因をいち早く見つけたということもあるなど、調査能力は超一流。

建物の豪華さと調査能力は同じじゃない。

 

この建物のしょb・・・、質素さはよくネタにされ、日本国内では1/150のダンボール模型を作った人まで現れた。

 

1/150のダンボール模型はどういうわけかBEAの職員に発見され、国際貨物便でフランスに飛び立ち、BEAのエントランスに飾られている。

 

なお、BEAの建物のしょぼさを1とするBEAというメーデー民にしか分からない建物の立派さを表す単位が存在する。(数字は見る人により変動)

例↓

フランス航空事故調査局(仏)=1BEA

運輸安全委員会(日本)=0.5~5BEA

ロス・ロデオス空港管制塔(スペイン)=50BEA

航空事故調査局(英国)=50BEA~500BEA

国家運輸安全委員会(米国)=100BEA~

 

建物の豪華さ

仏≦日本<英国<<<<<<<米国

 

・NTSB

正式名称:国家運輸安全委員会。米国内の事故や、米国製の部品などが使用されている交通系機械の事故が発生した時に調査する国家機関。そのため、米国製のタイヤが使用されていたコンコルドの墜落事故時には、BEAとNTSBがチームを組んだ。よくBEAと対比され、建物の立派なNTSBと言われているが、米国内では、NTSBの建物は欠陥建築だと言われている。NTSBの建物が欠陥ならBEAは・・・。

 

最初の扶桑航空を除き、全てメーデー民の基礎知識。全部ではないですが誇張表現が混じってます。というか、墜落原因を先入観で判断するメーデー民の言葉は大体信用出来ない。

 



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第3章 繋がらないココロ
第45話 過去とは?


先週はちょっと事情があって投稿出来ませんでした。許してくださいネ♡(←キモッ)


 

2016年7月9日土曜日。

 

百香は三津海水浴場で行われているAqoursの練習中に千歌を十千万旅館の裏に呼び出し、狩野川花火大会の運営から出演依頼のメールが届いたと知らせた。千歌は、出たいけど、他のみんなはどう思っているのか疑問に思っており、みんなの答えを聞いて決定すると答えた。

 

少しの沈黙の後、2人は意味もなく乾いた笑いをし、十千万の休憩スペースへ向かって行ったのだった。

 

2人共、少しだけ悩みの顔を浮かばせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、みんな集まれ。話がある」

 

十千万の小さな休憩スペースに千歌を除くAqoursの5人を集め、全員思い思いに座らせた。善子に関しては座ると言うより、寝そべったと表現するのが正しいのだが。

 

「先日、狩野川花火大会にAqoursが出ないかというお誘いがあった」

 

「夏祭り!?」

 

「屋台も出るずら?」

 

「これが・・・功績・・・」

 

百香の発表の後、1年生組3人は狩野川花火大会に出られることに驚いていた。無理もないだろう。狩野川花火大会は静岡県内でも有名な祭りの1つだからだ。もちろん、驚きかたは人それぞれであり、1番驚いていたのがルビィであり、花丸はのっぽパンを食べながら話しており、善子は寝そべりながら木製椅子を撫でていた。

 

「どうだ、出たいか?」

 

百香はアニメ通りなら出るに決まっていると思いながらも、少しでも世界が変わり始めているため、その確認としてAqoursメンバーから答えを聞くために腕を組みながら休憩スペースを見回した。

 

「Aqoursを知ってもらうのには1番ずらね」

 

「私は、今は練習を優先した方が良いかと・・・」

 

「千歌ちゃんは?」

 

のっぽパンをまだ食べている花丸と梨子の意見の後、曜が千歌に出演するかどうか尋ねた。千歌の意見は百香だけに言っていることであって、Aqoursメンバーには言っていなかったからだった。

 

「うん。私は出たいかな。

今の私たちの全力を見てもらう。それでダメだったらそれで頑張る。それを繰り返すしかないんじゃないかな」

 

「ヨウソロー!賛成であります!」

 

「ギラン!」

 

「うん!」

 

千歌の返答の後、曜は敬礼を、善子はいつものポーズを返し、それに対して千歌は力強い声で返答したのだった。

 

「変わったね。千歌ちゃん」

 

「うん」

 

しかし力強い返答の後、千歌は少しだけ不安な顔で転生者で元々事情を知っている百香以外には知られていない事をまた考え始めていた。それを見た百香は、〝果南の事だな〟と、頭の中だけで呟き、口には出さなかった。

 

「どうしたの?」

 

「果南ちゃん、どうしてスクールアイドルやめちゃったのかな・・・」

 

当然、善子以外には転生者であり、Aqoursの事を知っている事を教えていない。そのため、曜が千歌に聞いたように周りのメンバーは疑問に思っていた。

 

「生徒会長が言ってたでしょ?〝東京で歌えなかったからだ〟って」

 

「でもそれでやめちゃうような性格じゃないと思う」

 

「そうなの?」

 

「うん。小さい頃はいつも一緒に遊んでていつも私の背中を押してくれたから」

 

千歌は、そう言いながら十千万前の県道に移動し、歩道用の細いガードレールに腕を乗せ、海を眺めていた。

 

千歌の頭の中には、怖かった埠頭からの飛び込みを、果南が背中を押してくれたから克服できたという子どもの頃の出来事が思い浮かんでいた。千歌の話を聞いた百香の頭の中には、過去、高飛び込みがトラウマになっていた百香を突き落とした果南の悪魔の姿が思い浮かんでいたが、特に口に出すということはしなかった。

 

「そうだったのね」

 

「とてもそんなふうには見えませんけど・・・。

あっ、すいません・・・」

 

ルビィは、果南の事を()()()()()にと言ったので、幼なじみである千歌、曜、百香、3人の気分を害したと思ったのか、直ぐに謝った。

 

「まさか、天界の眷族が憑依!?」

 

善子の独り言的なこの言葉はもはや誰にも聞かれていない。善子の言葉は大抵まともではない。まともな言葉以外はほとんど聞かれないだろう。

 

「もう少しスクールアイドルやっていた時の事がわかればいいんだけどなぁ・・・」

 

千歌がそう呟いた瞬間、2年生3人の目線は砂浜に立っていたルビィに向けられた。

 

「ピギッ!?」

 

「ルビィちゃん、ダイヤさんから何か聞いていない?」

 

「小耳にはさんだとか・・・」

 

「ずっと一緒に家にいるのよね。何かあるはずよ」

 

ダイヤの妹であるルビィは何か知っていないかという結論に3人共至った。

 

「え?えああえうぇうぇ・・・、うぇびぃぃぃー!」

 

「あ、逃げた!」

 

急に自身のピンチを迎えたルビィは、砂浜を三津シー方面に逃げ出した。それを善子が追う。

 

ルビィより足が速い善子は、ルビィが砂浜から出る前にルビィを捕まえ、そして何故か技をかけた。善子曰く〝堕天奥義 堕天龍鳳凰縛〟

 

どう見ても関節技というか、弱い女の子を捕まえるのに技をかけるのはどうかと思ったのか、花丸の威圧的な〝やめるずら〟という一言で、善子は技を解き、ルビィは解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、特に全員ダイヤの事を気にかけるということは無く、普通に活動を始めた。誰も、さっきの話題は口に出さず、花火大会に向けての話題ばかり話していた。

 

 

夕方になり、今日の活動は終了となった。Aqours6人と百香は、活動に使用した一部の備品を戻しに、部室に向かった。その時、ルビィが口を開いた。

 

部室内では、もう既に荷物置きは終了していたため、各々自由に行動していたが、ルビィが口を開くと、全員部室内のパイプ椅子に座り、ルビィの方を見た。

 

ルビィがダイヤから聞いたのは、東京のライブが上手くいかなかった事と、東京の件があってから黒澤姉妹はスクールアイドルの話は全くしなくなったという話だけであった。

 

しかし、そこまでルビィが話した時「ただ・・・」と言い、最後の言葉を濁した。

 

その言葉に対し、Aqours5人はルビィに〝ただ?〟と返した。ルビィは軽く笑うと、もう一度話し始めた。この時の笑いは何だったのか、本人しか知らない。

 

 

ルビィが次に話した事。それは、東京の件があった後、黒澤家の客間でダイヤが鞠莉に向かって話していたことであった。

 

〝逃げてる訳じゃありませんわ。だから、果南さんのことを「逃げた」なんて言わないで〟

 

と。この事で、Aqours5人の頭の中にはまた新たな疑問が生まれた。何故、〝「逃げた」なんて言わないで〟なんて言ったのだろうか。この答えを知るのは、百香とダイヤ、果南の3人だけだ。百香がこの事を知っていると知っている善子は、チラリと百香の目を見たが、目で「何も言うな」という合図を送り、善子には百香の事を何も言わせなかった。

 

「よし。じゃあ果南ちゃんを尾行しよう!」

 

「尾行ずら?どうやってですか?」

 

いつもの千歌の謎のヒラメキ。あまり学力が良くない(本人談)のに、ここぞという時にこれほどのヒラメキが出来るのなら、本気で勉強すれば学年トップも夢ではないのかと、百香は思ってしまう。

 

「毎朝、ランニングしてるんだよ!だから朝集まって尾行するんだよ!」

 

「曜ちゃん達はどうするのよ。ランニングしてる早朝に内浦(こっち)に来るバスは無いでしょ?」

 

梨子が言った通り、早朝に内浦から沼津に行くバスはあるが、沼津から内浦に来るバスの便はない。始発に乗っても8時より前到着してしまい、恐らくその時間には果南のランニングは終わっているだろう。

 

「うーん・・・」

 

「じゃあ、お泊まりは?百香ちゃん、良いでしょ?」

 

「保護者の許可が下りればな」

 

また千歌が謎のヒラメキで意見を出した。やはり、アニメ通りに進んでいる。百香はそう思いながら千歌の問に答えた。

 

「お泊まりねぇ・・・。私は賛成であります!」

 

「お泊まり!?・・・これが充実したリアル・・・」

 

「マルは大丈夫ずら」

 

「ルビィも賛成です!」

 

「じゃあ、みんな許可と荷物取り、お願いね」

 

全員の許可が取れたため、明日の朝の尾行はほぼ決定事項となった。さてさて、6人の保護者からの許可は取れるだろうか。

 



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第46話 尾行


「状況を開始する」

『おい、今のはなんだ?状況ってなんだ!?』



 

2016年7月10日日曜日

午前5時14分

あわしまマリンパーク駐車場前

 

Aqours6人と百香はあわしまマリンパークの看板の後ろに隠れ、果南が淡島から来るのを待っていた。

 

結局、泊まりの許可は全員取れ、2年生組が千歌の部屋。といっても、内浦に住んでいない曜だけだったのだが。1年生組と百香は花丸の家に泊まらせてもらった。

 

唐突に決めた事なのに、全員の保護者が許可を出した。しかも渡辺家では二つ返事で許可を出したので、さすがの百香も母の回答に対し、困惑したのだった。普通に考えればありえない事なのだが、アニメ通りに進むためなら多少強引でも仕方ないのだろう。百香はそう考えた。

 

5時20分程になると水上バイクの音が聞こえ、その音はあわしまマリンパーク駐車場前で消えた。

 

桟橋から現れたのは練習着姿の果南だ。

 

「よし、現刻より作戦を開始する」

 

百香の一言でAqoursの尾行が始まった。果南は早朝で車通りが全くない県道を横断し、山側にある歩道に走りながら移動し、そこから南へと走っていった。Aqoursも走って果南を追う。

 

梨子が最初のカーブを曲がった時にふと、言った。

 

「ねえ・・・、こんな大人数で尾行したらバレるわ」

 

正しくそうだ。今、果南を尾行しているのはAqours6人と百香の計7人。見つかりやすいと思ってしまうのは最もである。

 

「だって、みんな来たいって言うし」

 

曜がそう言う通り、昨日尾行する人を決める時、全員立候補し、揉めたのだ。その時「じゃあ、みんなで行けばいいじゃん」という千歌の意見で、皆で追うことになったのだ。

 

「しっかし、速いね・・・」

 

「どこまで行くつもり・・・?」

 

果南は三津三差路を横断し、歩道のないトンネルを避けるためにもう一度県道を横切って伊豆・三津シーパラダイスの横の細い道を通り、県道の海側の歩道を走って行った。

 

「もう、かなり走ってるよね」

 

「マル・・・、もうダメずら・・・」

 

果南の高ペースにずっとついて行ったため、体力が1番少ない花丸がダウンしそうだ。だが、花丸の後ろに百香が着き、走り続けるようにずっとずっと背中を押し続けた。それに百香なら果南が向かう場所も分かるからだ。

 

「何か気持ちよさそうだね」

 

ふと、曜がそう言った。淡島から長井崎トンネル付近までずっと走ってきている果南の顔は清々しく、嫌なことや、抱えている悩みから解放されているようであった。

 

果南は長井崎トンネル前の十字路を右に曲がり、県道の旧道であり、浦女通学路でもある道へと進み始めた。

 

果南は浦の星女学院前の坂に通じている道をずっと進む訳ではなく、すぐに右の路地へと進んで行った。

 

その先にあったのは小さな小高い山。そこには階段があり、そこを登ると弁天神社がある。人気のない、静かな神社だ。

 

「ひえぇ・・・階段・・・。もう無理ずらぁ・・・」

 

花丸は、そこの階段を上る前に力尽きてしまった。他のAqoursメンバーも、果南の高ペースについて行っていたため、階段を登り始めてからすぐに力尽きてしまった。

 

果南の隠していることを知りたかった千歌は、最後の力を振り絞り、頂上にある弁天神社にどうにか辿り着いた。

 

果南は、既に頂上に着き終わって、少しだけの休憩を終えていた。そして、木の影から果南の姿を見た千歌の目に入った光景は──

 

 

 

 

 

 

「綺麗・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

果南が弁天神社の本堂前で踊っていた事であった。その時の果南は、何事からも解放されて大海原を自由自在に泳ぎ回るイルカのようであった。

 

「あの人は・・・」

 

その果南の踊りを見ていたのは千歌だけではなかった。浦の星女学院3年生兼浦の星女学院理事長、小原鞠莉。彼女は果南の目の前に堂々と姿を現し、果南のダンスに向けて拍手を送っていた。鞠莉は弁天神社の本殿の後ろに隠れていて、果南が踊り始めてから出てきた。そのため、果南は鞠莉に背を向けている状況である。

 

「復学届、提出したのね」

 

「まあね」

 

「やっと逃げるのを諦めた?」

 

「勘違いしないで。学校を休んでいたのは父さんの怪我が元で、それに、復学してもスクールアイドルはやらない」

 

果南はそう言うと、一切振り向かずに階段に向けて歩き出した。

 

この時既に階段を上りきっていたAqours一同と百香は、2人にバレないようにこの光景を木の影から見ていた。

 

「私が知っている果南は、どんな失敗をしても笑顔で次に向かって走り出していた。成功するまで諦めなかった」

 

「卒業まで、あと1年も無いんだよ」

 

果南は、一刻も早くこの話を終わりにしたかった様である。鞠莉の話に答えずに一方的に答えていく。

 

「それだけあれば充分。それに、今は後輩もいる」

 

鞠莉は果南を引き留めようとするが、果南はずっと歩き続けていた。

 

「だったら、千歌達に任せればいい」

 

「果南・・・」

 

果南は足を止め、ようやく鞠莉の方に顔だけを向けた。

 

「どうして戻って来たの?私は戻って来て欲しくなかった」

 

「果南・・・。相変わらず果南は頑固」「もうやめて。もう貴女の顔、見たくないの」

 

全身を向け、鞠莉に残酷な事を言いきった果南の顔はどこか切なく、悲しそうであった。それからの果南は鞠莉に一切顔を向けず、そのまま走って帰って行ってしまった。

 

先程までの鞠莉と果南の声が鮮明に聞こえていた時とは打って変わり、弁天神社の境内には木の葉をさわさわと鳴らす微風しか吹いていなかった。その風は、今の2人の心情を示しているかのように、止むことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弁天神社の境内にしばらく留まっていた鞠莉が帰宅したのを確認したAqours6人と百香は、とりあえず、話をまとめるために十千万に向けて歩き始めた。

 

弁天神社の参道から県道の旧道に出るまで、Aqoursは果南と鞠莉の先程の会話について相談していた。1年生組からは〝言い過ぎ〟〝流石に可哀想〟という意見が出ており、曜からは〝何かありそう〟という意見が出ていた。

 

「〝逃げるのを、諦めた〟か・・・」

 

その中で、果南と鞠莉の話の中で違和感を感じていたのは梨子だった。もしかしたら自分自身に重ねた部分もあったのだろう。

 

「多分、学校に来ないと解らないよね・・・」

 

「・・・そうだな。鞠莉と果南のあの性格なら必ず教室内で衝突するからな」

 

「・・・果南ちゃんはともかく、鞠莉さんのことはどこで知ったの?」

 

〝ヤバっ──〟

 

千歌が少し疑うような顔で百香の顔を見た事と、善子がギョッとしながら百香の顔を見ていた事を見て、百香は何を言ったかをすぐに自覚した。事情を知っている善子が居るため、どこか心が緩んでしまったのだろう。

 

「あ、ああ。結構書類出す時に頻繁に会ってるしな」

 

「・・・ふーん・・・なら、良いけど・・・」

 

百香の説明で千歌は、少しだけ納得していないような様子で頷き、そこからは千歌は何も詮索はしなかった。

 

「よし、まだ朝早いし、これからランニングでもするか!」

 

百香はドキドキしている心を誤魔化すために十千万に向かって走り出した。

果南を尾行して疲れていたAqoursから「もう走りたくないずらァ!百香ちゃんは畜生ずらぁ!」「鬼、悪魔、百香!」「ピギィ・・・」などとブーイングの声があがってきたが、百香は「置いてくぞ」と言い、Aqoursを置いて行ってしまい、Aqoursは百香の後を追いかけ始めたのだった。

 

Aqoursに隠し事をしている百香は、さっきまで気持ち良さそうに走っていた果南が複雑な顔になったときの気持ちが少し解ったような感じになったのだった。




遅れました。申し訳ございません。実家に帰るとやる気がなくなるんですよ。いや、本当に。大丈夫ですよ。次回分のストックはあります。次回はちゃんと更新出来ますよ!
次回更新予定日は9月25日です


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第47話 復学


申し訳ございません、投稿が1週間遅れました。理由は・・・しょうもない事です。

理由
結城友奈は勇者であるのゲーム始めた!たーのしー!

9月26日午前0時(木)

明日投稿しよ

スクスタリリース!たーのしー!

9月27日午前0時(金)

明日投稿しよ

親「家に泊まるで」

2日間投稿出来ず

よーし、親も帰ったし、パソコンで大学の履修登録したついでに投稿だ!

大学「履修登録は金曜日までやで(^^)」

ああああああああ!?(放心)

9月28日午前0時(月)

じゃあ、もう水曜日更新でいいや・・・

ということがありました・・・。履修登録?予備日でどうにかします。



 

2016年7月11日月曜日

午前8時05分

 

浦の星女学院はいつもの朝を迎え、校門から続々と徒歩通学の女子生徒達が学校の敷地内に入ってきている。

 

Aqoursの所属するスクールアイドル部は朝練をするために始発のバスで登校していたので、既に授業の準備を終えており、自由に過ごしていた。善子は、自分自身の机でスマホを弄っている百香を体育館裏に呼び出した。

 

百香は〝誰にも言えない話なのだろう〟と思い、善子の呼び出しに素直に「わかった」と答え、善子の後をついて行った。

 

百香と善子以外誰も居ない浦の星女学院体育館裏。整備はされているのだが、ほとんど人の出入りがない場所のため、雑草が砂利の隙間を縫って所々、地面から顔を出していた。体育館と校舎を結ぶ連絡通路や、校舎の窓から見えない場所に移動した善子は辺りに誰も居ないことを確認すると振り返り、百香の方向を向いた。

 

「百香。果南さんっていつから復学するってわかる?」

 

「いや、私にもわからない。私が知っているのはどう話が進むかで、日付に関してはそんなに詳しくないからな」

 

「ふーん」

 

「まあ、全てわかったら面白くないだろ?少しくらいわからないところがあった方が面白いだろ」

 

その後百香は善子に戻るぞと言い、2人で教室に戻る事にした。その際、誰にも怪しまれないように動画実況などの話をしながら教室に戻ったのだった。

 

 

 

 

1階の1年A組の教室に戻り、善子と別れると花丸とルビィが何やら2人で話をしていた。話の内容は本やスクールアイドルの話だった。百香は聞き耳を立てていた訳では無い。勝手に聞こえきただけなのだ。

 

騒がしくなり始めた朝の教室。名字が〝わ〟から始まるため、座席は一番端にある。百香はそこに座り、スマートフォンを出そうとポケットの中に手を突っ込んだ。

 

「ん?何だこれ」

 

百香の手には、無機質な感じの手触りをする何かが触れた。不思議に思いながらその物を出したところ、曜に渡してあるの家の玄関キーが出てきた。今朝、バスを降りる時に曜が落としたこの鍵を百香が拾ったのだ。

 

「あっ、危ねぇ危ねぇ。渡すの忘れるところだった」

 

百香は鍵をポケットに戻すと2階にある2年A組の教室に向かうこととなった。位置は1年A組の真上。飛べれば楽だが、そんな事できる訳が無い。大人しく階段を使って上に上がる。

 

 

 

 

 

「いい加減に、しろぉぉぉ!」

 

「!」

 

百香が1階から2階への踊り場に差し掛かった時、上から千歌の叫び声が聞こえた。場所は恐らく、いや、絶対2年A組の真上の3年A組だ。今日復学した果南と鞠莉の一歩も引かない喧嘩に千歌は業を煮やしたのだろう。

 

百香はアニメ通りならば曜と梨子も千歌と一緒に居るのだろうと思い、2階の2年生の教室を通り過ぎ、そのまま3年生の教室に直行した。

 

3年A組には既に騒ぎを聞きつけたのか、出入口の前に集まっている2年生と1年生10数人の姿があった。

 

百香はその人達をかき分け、3年A組の前の出入口にいる曜と梨子の2人と合流した。千歌の姿は既に3年生の教室の中、しかも喧嘩をしている果南と鞠莉にあり、説教をしていた。

 

「現状は?」

 

「見ればわかるわ」

 

「簡略化しスギィ!」

 

百香は梨子に説明を求めたのだが、適当に言葉を返されてしまった。ため息をついた百香は梨子の次に曜を見た。曜の両手には紫色のリボンがつけられ、襟には青色の線がはいった白色の衣装が握られていた。

 

あの衣装は1年の時、東京の大会で果南が着た衣装だ。何処から入手したのかわからないが鞠莉が学校に持ち出し、果南に渡したところ、3年A組よベランダから投げ捨てられたのだ。それをちょうど真下の2年A組前のベランダで立ち話をしていた2年生3人組の前にひらひらと落ちてきたのだ。

 

衣装は、普通人なら取れない位置を落ちており、普通ならば取れない。というか取らない。取ってしまったらそのまま地面への落下コースだ。

 

だが、制服好きという謎の趣味を持っている曜は、コンクリート製の手すりを飛び越えて、衣装を取ってしまった。千歌と梨子がとっさに曜の両足とお尻を掴み、どうにか落ちないようにできたが、次はどうなるかわからない。気をつけて欲しいと百香は思っているが、百香にも曜と同じ血が流れている。従姉妹である月も制服に飛びついてしまうため、百香も本能的に飛びつくかもしれない。

 

百香は、こんなことをしてしまい血が流れている自分と曜、そして従姉妹の月の今後を不安に思いながら曜から視線を外し、千歌に視線を移した。

 

「果南ちゃんも、ダイヤさんも、鞠莉さんも、3人揃って放課後、部室に来てください」

 

「でも」

 

「いいですね!?」

 

「「「はい・・・」」」

 

百香がそうこう考えているうちに、千歌は3年生3人に、しかも、3年生の教室で大声を出して怒っていた。常人ならば出来ない事だ。それが平然とできる千歌。そこにシビれる憧れるゥ!

 

「すごい千歌ちゃん」

 

「3年生に向かって・・・」

 

千歌の大声やそれ以前の騒ぎは既に1階の1年生達にも伝わっていたようであったのか、気づけば横にAqours1年生3人組のルビィ、花丸、善子の3人がいた。

 

1年生に伝わっているのなら、当然騒ぎに駆けつけてくる他の人物もいる。

 

「おいお前ら。どうした3年生の教室に集まって。もうすぐでHR始まるぞ。教室に戻れ戻れ」

 

そう、教師だ。学校内で騒ぎが発生した時には必ずと言ってもいいほど彼ら達は現れ、鎮圧しようと行動する。

 

もっとも、この場に崎教諭が現れた時には千歌が騒ぎの元凶である3年生3人のことを叱っており、場に集まっている他学年生を解散させるしかなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

とりあえず、その場は解散となり(というか崎教諭に解散させられたのだが)個々の教室に戻り、朝のHRとなった。

 

それからはどこか似ているがどこか違ういつも繰り返されるいつも通りの1日。そんな1日でも、その後に3年生3人の話し合いに参加するという避けて通れないイベントが発生した。

 

そんな日だが、昼休みはいつも通りに机を4つくっつけ、百香は1年生3人組と一緒に昼食を食べる変わらない1日。食べる時に話す話題は毎日違う。たわいのない話だったり、ただの世間話だったりだ。

 

今日の話題はただの世間話。タイムリーな3年生の話題は放課後に解決することであり、しかも、一番3年生と関わりのあるルビィもほとんど事情を知らないため4人はあえて話題を逸らし、その事は話す事も、話題に出ることも一切なかった。

 

その後の午後の授業も、SHLもいつも通り順調に進み、放課後になってしまった。

 

学校の授業が完全に終わった放課後は帰宅したり、部活に行ったりと各々別々の行動をし始める。普通、教室で自習する生徒は少なくともどの学校でも各クラス1人は居るのだが、1年A組は例外であり、教室から生徒が次々と出ていき、どんどん空になっていく。

 

最後に残ったのは教室の鍵閉め担当の日直とAqours1年生組3人と百香の5人だけだった。日直は通常、自習する生徒がいるならばその生徒に鍵を渡し、それから自由行動になるのが通常であるが、ここにいる4人から自習をする雰囲気は出ていないことは明らかであった。

 

「「「「・・・」」」」

 

誰も座っていない百香の机を囲むように4人で深刻な顔をして考え込んでいる。日直の生徒は後ろのドアと窓の鍵を閉め、あとは前のドアを施錠するだけであったが、4人が教室から出ないため、なかなか施錠できなかった。

 

「あのぉ・・・、そろそろ鍵閉めたいんだけど・・・」

 

それでも日直は仕事をしなければならない。そのため、百香とルビィの間に入ってきてびくびくしながら言ってきた。

 

「あ、ああ。すまない。今すぐ出るよ」

 

百香は、これ以上この教室に留まるのは出来ないと思い、罪滅ぼしになればいいなと日直の生徒の頭をわしゃわしゃと撫でると何やら不満そうにこちらを見てくるAqours1年生3人組を見ながら百香にとって今日は向かいたくないスクールアイドル部部室に向かったのだった。

 




次回更新予定日は10月16日です。まだ500文字しか書いていませんが・・・。


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第48話 取り調べ


久しぶりに定時投稿ができました。この調子で次回も投稿できたらなぁ・・・と思っています(執筆し終わっているとは言っていない)

そういえば、先日の台風はどうでしたか?私の住んでいた地区は川沿いだったので避難勧告が発令されました。避難所内で1日を過ごし、その間で当話を執筆しました。住んでいた市では特に被害はありませんでしたが、地元は川が氾濫して一部地域が沈みました。一刻も早い復旧を願っています。

話は変わりますが、次章に入る前に息抜きで書いた番外編を投稿しようと思います。



 

果南、鞠莉、ダイヤのAqours未加入組3人と現在のAqours加入組、千歌、曜、梨子、善子、花丸、ルビィの6人、そして、マネージャーの百香の計10人が集まっている体育館アリーナ横、そして本校舎との連絡通路横のスクールアイドル部部室。

 

男や、性転換をした元男なら、転生したしない関わらず、この狭い部室に自分自身を除き9人の女子達が集まっている事に歓喜し、シャンプーやリンス、ボディーソープなどでは到底出せることが出来ない女子特有の柔らかい香りが充満しているこの部屋の中で歓喜しているだろう。

 

果南と鞠莉が2つの折りたたみテーブルを挟んで言い争いをしており、部室の雰囲気が現在進行形で悪化しているという状況を無視できるならば、だ。

 

「だから、東京のイベントで歌えなくって」

 

「その話はダイヤさんから聞いた。けど、それで諦めるような果南ちゃんじゃないでしょ?」

 

千歌の返答で果南は、いつの間に話したんだと言わんばかりの目でダイヤを見た。ダイヤは、果南のことをAqoursに話したことを果南に言うのを忘れていたと思ったのか、目を合わせずにそっぽを向いた。そうしたダイヤの態度を見た果南はため息をつくとまた前を向いた。すると次は鞠莉と千歌の問い詰めが再開された。

 

「そうそう。千歌っちの言う通りよ!だから何度も言っているのに」

 

「何か事情があるんだよね?」

 

鞠莉が聞いても答えてくれないだろうと思った第三者である千歌が果南に理由を聞いても果南は全く答えなかった。いや、答えられる理由がなかった。

 

「ねっ?」

 

「そんなもの無いよ。さっき言った通り、私が歌えなっただけ」

 

果南の横に座っているダイヤは、そう言った果南の顔を少しだけ悲しそうにしながら見た。何やら理由を知っているみたいに・・・。

 

「んんー!イライラするぅー!」

 

「その気持ち、よーくわかるよ!ほんと腹たつよねコイツ」

 

頭を掻き毟る千歌に同意した鞠莉は、果南を指差した。千歌と鞠莉は2人の正面に立っているのにダイヤの顔の変化に気づけなかった。

 

「勝手に鞠莉がイライラしているだけでしょ」

 

「でも、この前弁天島で踊っていたような・・・」

 

「お、おいルビィ。その話は」

 

ルビィの一言でずっと強気な態度を取っていた果南の顔が真っ赤になった。一応、百香は怪しくないように、ルビィの事を止めるような素振りをした。最も、ストーリーに支障が出てしまう恐れがあったためか、彼女はルビィを止める気は更々無かった。

 

「おおー。赤くなってるー」

 

「うるさい」

 

「やっぱり未練あるんでしょー?」

 

真っ赤になった果南の顔を見た鞠莉は、ニヤニヤしながら果南の顔に自分自身の顔を近づけていた。そんな光景を横から見ていたダイヤは、2年前にも交わされたのだろうこうした光景を思い出していたのか、少し微笑んでいた。それに気づいたのは百香のみ。誰も気づかないのは元々アニメでの展開であったことのため、百香はあえて口に出さず、表情を見れていない他のAqoursメンバーの中に溶け込むためにダイヤの表情をあえて見ていないふりをした。

 

微笑ましい光景を見たいた百香を除く全員はこのまま果南と鞠莉の関係は改善すると思っていた。

 

「うるさい!未練なんてない!とにかく私は嫌になったの。スクールアイドルは、絶対にやらない」

 

いきなりパイプ椅子から立ち上がった果南は鞠莉にそう言い放つと、サッシ扉を乱雑に開け閉めし、部室から出て行った。果南の居なくなった部室内はただただ、佇んでいる鞠莉と、また悲しそうな顔をしたダイヤ、そして、この件の第三者であるAqours1、2年生組と百香だけが取り残された。

 

しばらく部室内が沈黙につつまれた後、不意に梨子が口を開いた。

 

「ダイヤさん。何か知ってますよね」

 

「ええ?私は何も・・・」

 

梨子の質問に、ダイヤははっきりとした答えを出さなかった。だが、ダイヤは彼女自身の顔にあるホクロを軽く掻いていた。彼女がホクロを搔くのは嘘をついている証だ。

 

「なら、どうして先ほど果南さんの肩を持ったんですか?」

 

この件の発端は果南にあった。普通、原因を作り出した人の肩を持つのは、何かしら理由がある。それに、果南は〝歌えなかった〟と言っていたが、人の背中を押す事が得意であり、簡単に諦めることが嫌い、という果南の性格からしてあの考えは不自然だ。何にかしら隠しているのは確実であった。

 

「そ、それは・・・」

 

その瞬間、ダイヤは部室から飛び出した。そこまでして話したくないことだ。仕方ない。

 

ダイヤから絶対に理由を聞きたい千歌は、善子に命令した。〝善子ちゃん〟と。その一言だけで善子は〝ダイヤさんを捕まえろ〟という事だと直ぐに理解し、直ぐにダイヤの後を追い、体育館と校舎を繋ぐ連絡通路に差し掛かる前に関節技をかけ、ダイヤを捕まえた。

 

その時、善子は千歌に善子ちゃんと呼ばれたためいつもの〝ヨハネだってばー!〟というツッコミを言いながらダイヤに関節技をかけていて、ダイヤは黒澤家の遺伝なのかわからないが、ルビィと同じ〝ピギャァー!〟という叫び声をあげていた。

 

その後、ダイヤの〝わかりましたわ!話します!話しますから離してください!〟という必死で、そして涙目で哀願したダイヤは千歌に離していいよという合図が出された後、善子の関節技から離され、そしていつの間にか後ろに立っていたなぜか妙に笑顔な千歌と梨子によって部室に連れ戻された。

 

「と、とりあえず、理由を話しますので、一旦(わたくし)の家に来ていただけませんか?」

 

後に続けて〝ここでは他の誰かに聞こえてしまいますので〟と言ったダイヤは、恐らく先程の関節技で首を痛めたのだろう。首を右手で押えていた。〝さすがにあの関節技はやりすぎだろう〟と百香は思い、後ほど善子に注意することにし、善子の注意に向いていた意識をダイヤと鞠莉のAqours3年生組2人にまた向けることにした。

 

「じゃあこれからダイヤさんの家に行こう。大丈夫かな?」

 

「大丈夫よ」

「ヨーソロー!」

「ずら」

「ギラン」

「大丈夫です」

「私は別に構わないぞ」

 

千歌の問いかけの答えはAqoursメンバー全員、そして百香も即OKだった。そのため、直ぐに黒澤家に向かう事となり、部室を閉める準備を開始した。ある者は製作途中の衣装を大急ぎで、なおかつ綺麗に畳んでスクールバッグの中にしまい、ある者は準備がほぼ終わっており、スクールバッグの中に入っているみかんを食べていたり、ある者は文庫本を、ある者は魔術の本を読んでいたり、ある者は紙袋を部室の棚から出していたりしており、各々出発するための準備を着々と進めていった。

 

 

 

 

5分もかからずに全員出発準備を終え、百香が部室の施錠をし、百香を除いた全員が校門に先に向かい、百香が鍵を職員室出入口横のキーボックスに戻しに向かった。

 

 

鍵返しも案外早く終わったので、校門で百香を待っていた8人と合流して黒澤家に向かい始めた。この時の空模様は雨が降りそうな黒い雲が高速で内浦の空を覆い尽くし始め、長浜に構える黒澤家の正面門に着く頃には空が真っ黒になり、その雲で辺りはいっそう暗くなり、辺りの道路照明が点灯し始めたのだが、雨が降りそうだという話題が出て少しだけ話した以外、その事については誰も特に気には止めなかった。

 

 

 




次回更新予定日は10月30日0時0分です


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第49話 仲直り

お待たせ致しました。第49話の公開です!


色々ありまして投稿が遅れましたことを、深くお詫び申し上げます。なお、次回以降から端末修復時まで投稿は不定期となりますが、端末修復費を捻出する余裕が無いため、誠に勝手でありますが、しばらくは不定期更新になると思われることを、お伝え致します。



 

沼津市内浦長浜に建つ一際目立つ邸宅、黒澤家。元々網元であったため、敷地中も辺りのいえと比べられないほど広い。そこの客間にAqours6人と百香、鞠莉、ダイヤの3人、計9人が集まり、ダイヤの話を聞くことになった。

 

客間には、ダイヤが座卓の前の座布団に座っており、その座卓を挟んだ反対側にダイヤと鞠莉を除く全員、鞠莉は縁側に立ちながら庭を見ていた。

 

しばらく沈黙に包まれ、雨がポツポツと窓と屋根にうちつけはじめた音が客間に響き始めた。

 

〝東京のイベントで果南さんが歌えなかったのでは無く、わざと歌わなかった〟

 

そう、ダイヤは言った。言いづらそうに。少し、下を向きながら、だ。

 

「どうして・・・」

 

拳を軽く握り、鞠莉はそう言った。その時、善子が闇の魔術やらなんやらと言い始めたため、花丸に口を抑えられ、そして百香の膝蹴りが腹に命中し、横の部屋で腹を抱えながら苦し悶えている。そんな善子を誰も気にとめない。こんな時にふざけていたからだ。仕方ない。

 

「貴女のためですわ。覚えていませんか?あの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょう?」

 

ダイヤの言う〝その日〟。それは現3年生の3人が1年生の時に活動していたスクールアイドルが、東京の大会に出場した時だった────

 

 

 

 

 

 

 

 

─────スポットライトでステージ上の3人が照らされ、熱狂した歓呼が、客席から絶え間なく響く。

そんな声に満たされた会場で、鞠莉は小さく声を出した。それは、歌詞でもなく、観客に向けた声ではない。ハードな練習で左足を痛め、その部分からの激痛によって出された声だった。

 

当然、ステージ上にいた2人には痛みに耐える鞠莉の声が聞こえた。

 

すぐにダイヤは鞠莉に駆け寄り、鞠莉の足の具合を確認した。鞠莉の足にはテーピングがぐるぐる巻きにされており、誰が見ても大事に至っていることは分かるような見た目だった。

 

「やっぱり、ダメでしたじゃないですか・・・」

 

ダイヤは悲憤した。鞠莉がこの足を捻ったのは数日前の大会前最終練習日の時であった。〝病院に行って〟という果南とダイヤの忠告を「大丈夫、大丈夫。1日経てば治るよ」と鞠莉は笑いながら返し、結局病院には向かわなかった。だが、足の状態は全く良くならず、かえって状態が悪化しているようにも思えた。

 

このまま歌ってしまえばどうなるか分からない。もしかしたらステージから落ち、大事になってしまうかもしれない。そうなれば、鞠莉の今後の人生までが危なくなってしまう。

 

ダイヤの頬に一筋の汗が流れた。

 

そして、なぜ果南は黙って客席の上方を見ているのか、ダイヤはその事についても気がかりだった。

 

客席の方向から聞こえてきた歓声はだんだん響きの声に変わっていく。チラリと舞台袖を見ると、大会スタッフ数人が困惑しながらこちらを見ていた。

 

そして果南は───

 

 

 

 

 

 

客席に向かって深々と礼をし、ダイヤと鞠莉の側に刻み足で寄って鞠莉に肩を貸し、ダイヤにも肩を貸すように促した。

 

ダイヤはそれを了承し、2人で鞠莉を抱えてステージ上から捌け始めた。ダイヤは客席側で鞠莉を支えていたが、彼女の両耳には2種類の声が聞こえてきた。

 

1つは、事態を飲み込めず「なぜ歌わないで戻るのか」と騒ぎ立てる声。そして、もう1つは───

 

 

 

 

 

 

 

「果南答えて!ねえ、なんで戻るの!?ダイヤ!答えて」

 

鞠莉の悲痛な叫び声だった。果南の表情は先程と全く変わらないが、先刻のダイヤの疑問はもう無かった。

 

〝果南は、鞠莉のために()()()()を選択した〟と──

 

「そんな・・・。私はそんな事して欲しいなんて一言も・・・」

 

「あのまま進めていたらどうなっていたとおもうんですの?怪我だけでなく、事故になってもおかしくなかった」

 

正論とも言えるダイヤの反論に、鞠莉は何も言えず、ただ唇を噛むしかなかった。

 

「だから・・・、逃げたわけじゃないって・・・」

 

ルビィは、ボソッとそう言った。ダイヤが言うには、果南は鞠莉には〝歌えなかった〟としか言っていなかった。そして、果南は東京で歌えなかったことからスクールアイドルを引退することとなったのだが、本当の理由は別にあった。

 

それは、大会が開催される数日前に遡る。それは果南が日直の日のことだった。教室の鍵と日誌を職員室に返しに行った時、鞠莉が職員室の中で担任の先生と何やら話をしていた。普段ならば、何も気にせず入っていたのだが、今日ばかりは入る気になれなかった。

 

「小原さん、イタリアの高校に留学してみない?」

 

それは、鞠莉の留学についての話だった。学校側だけでなく担任も、鞠莉の両親も鞠莉に留学をする事を勧めていたのだが鞠莉は「スクールアイドルを始めたから別にいい」と、一蹴していた。しかも果南はこの時の話で鞠莉が何回も留学の話を蹴り続けいたことも初めて知った。それを聞いてしまった果南は中に入る事を躊躇ってしまい、ドアにもたれかかることしかできなかった。

 

2分くらい経った時だった。あまりにも日誌と鍵を戻してくるのが遅すぎたのか、日直のペアのクラスメートが心配そうな顔をしてやって来た。果南は「ごめん、今は中に入れない」とクラスメートに言い、替わりに日誌と鍵を戻して来るように頼んだのだった。

 

それから帰宅しての数時間、果南はベッドの上に寝そべりながら考え込んだ。悩み事があれば体を動かすことで解決する果南にとってはらしくない事だったが、それは自分自身でもわかっていた。

 

辺り一面が暗くなり始め、内浦湾の海水に反射する光が果南の部屋に入らなくなった時、彼女はおもむろに机の上で充電されている自身のスマートフォンを手に取った。指紋認証でロックを解除し、ホーム画面がディスプレイに表示されると、すぐに電話帳を開き、〝黒澤ダイヤ〟と書かれた場所をタップし、信号音が出たスマホを耳に当てた。

 

『もしもし』

 

スマホの向こう側からダイヤの声が聞こえた。

 

「ダイヤ。話があるの」

 

『どうしたのですか?果南さんらしくありませんよ?』

 

ダイヤは、いつもと雰囲気の違う果南に困惑しながらも、その後に「話とは何なのか」と聞いてきた。

 

果南は、手で胸に触れなくても分かるくらい心拍数が上がった心臓と同じ場所をスマホを持っていない左手で抑えながら口を開いた。

 

「えっとね・・・

 

 

鞠莉の将来についての話があるんだ」

 

 

 

その瞬間、太陽が水平線の先に沈み、明かりをつけていない果南の部屋は闇に包まれた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイヤの話を聞いた鞠莉は、〝私のために果南はスクールアイドルを辞めた。しかも、私には嘘をついてまで無理にスクールアイドルを辞めさせた〟という解が出た。

 

「まさか・・・、それで・・・?」

 

小さく、ボソッと呟いた鞠莉は、〝果南が私に何も相談せずに勝手に自分の将来を決められた〟ということに段々腹が立ってきた。窓ガラスを触っている右手と何も触っていない左手は気づくと握りこぶしを作っていた。

 

果南に対する怒りからか、果南を一発殴りたくなり始めた。ここにいる人、いや、誰に聞いても殴りたい相手の居場所なんて十中八九答えてくれない。鞠莉は、頭をフルに回転し、今までの果南と過ごした時を思い出しながら果南の今居そうな居場所を考えた。

 

 

〝今の時間なら・・・、十中八九家だろう。今から行けば、夕食の買い出しに行く前に到着出来る〟

 

そして、鞠莉は走り出した。

 

「どこへ行くのです?」

 

玄関に向かい始めた鞠莉に対し、ダイヤは立ち上がって呼び止めた。

 

「一発───

 

 

 

 

 

一発果南をぶん殴る!」

 

「おやめなさい!」

 

すぐに走り出した鞠莉を、ダイヤが羽交い締めにし、ダイヤが鞠莉に果南の思いを話し始めた。このまま2人の仲がこれ以上悪くならないように、そして、また3()()でAqoursを続けられるように・・・。

 

「果南さんは鞠莉さんのことを誰よりも考えていましたわ」

 

「なんで言わなかったの?」

 

「ちゃんと言っていましたわよ。貴女が気づいてなかっただけ」

 

鞠莉は、「えっ?」と首を傾げたが、よくよく思い出してみると、果南が鞠莉に向けて言っていた言葉があった。そう、それは1年生の時の、淡島連絡船の中での会話だった。

 

 

 

 

 

 

「離れ離れになってもさ、私は鞠莉のこと忘れないから」

 

 

 

 

 

遠回しの表現だが、〝私達のことはどうでもいいから、海外に留学してきて〟と、確かに言っていた。だが、果南らしくないこんな遠回しの表現なんて、言われなければ気づかない。

 

「ちゃんと、考えていたのですわ。貴女のことを誰よりも」

 

鞠莉を羽交い締めにしていたダイヤは、ゆっくりと鞠莉を解放した。鞠莉は、もうダイヤに抵抗をしなくなっていた。

 

「行ってきなさい、部室へ。果南さんは私から呼んでおきますから」

 

鞠莉は、そのダイヤの言葉に頷いた鞠莉は、大雨が降る外に飛び出した。雨でびちゃびちゃに濡れ、制服が水分で重くなっても、躓いて転んでも、決して走る足を止めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

───雨が止んだ後、浦の星女学院スクールアイドル部部室に足を踏み入れた果南は、足元に違和感を感じた。

 

足元には水溜まり、その先には全身が雨でぐしょぐしょになっている鞠莉の背中・・・。ふざけている時とは違う弱々しい背中。

 

今はもう止んでいるが、少し前まではザアザアと音を立てながら雨が降っていた。その中を走っていたということは、誰が見てもわかる事だった。

 

「何?」

 

「いいかげん、話をつけようと思って。

 

 

どうして言ってくれなかったの?思ってることちゃんと話して。果南が私を思うように、私も果南のこと考えているんだから。将来や今はどうでもいいの。留学?全く興味なかった。当たり前じゃない。だって、果南が歌えなかったんだよ」

 

涙声でそう言ったあと、鞠莉は果南の方に顔を向けた。その鞠莉の目には、涙が溜まっていた。

 

「放っておけるはずない!」

 

果南が俯いた瞬間、〝パァン!〟という乾いた音が部室の中に響いた。果南の頬を鞠莉が叩いた。

 

「私が果南を思う気持ちを、甘く見ないで!」

 

「なら、素直にそう言ってよ!負けられないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」

 

「だよね・・・。だから・・・」

 

鞠莉は、そう言って自身の左頬を果南に向けて指でさした。〝さっき、私が果南を叩いたように私を叩いて〟ということだった。

 

果南は、鞠莉の頬を叩こうと、手を挙げた。鞠莉は、果南から叩かれることを覚悟し、身構えていた。そう、ビクビクしながら・・・。

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

この瞬間、鞠莉と初めて会った時のことが果南の頭の中に急に現れた。淡島のホテルオハラに忍び込んだ時、中庭で鞠莉と会った時、果南は咄嗟にハグをしようと提案し、そして、ハグをした事だった。

 

その時と同じように、果南は鞠莉に両腕を広げ、そして──

 

 

「ハグ・・・、しよ・・・?」

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!!」

 

鞠莉は、泣き声をあげながら抱きついた。鞠莉と果南の目からは大粒の涙が溢れ出していて、2人はいつまでも、いつまでも抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイヤさんって、本当に2人のことが好きなんですね」

 

千歌は、ニへへと笑いながら、校門から出てきたダイヤに向かってそう言った。ダイヤは、2人の仲直りの瞬間を見ていたのだろう。顔がなんだかスッキリしている。

 

「それより、2人を頼みましたわよ。ああ見えて2人とも繊細ですから」

 

「じゃあ、ダイヤさんも居てくれないと!」

 

「えっ?(わたくし)は生徒会長ですわよ!とてもそんな時間は・・・」

 

そう笑いながら千歌に言われ、ダイヤは千歌から目を逸らしながらホクロを右手で軽く搔いた。

 

「それなら大丈夫です。鞠莉さんと、果南ちゃんと・・・、

 

 

あと、7人もいるので」

 

千歌が振り返ると、校門の影から顔を出すAqours6人と、百香の姿があった。

 

百香は、小声でルビィにある指示を出すと、ルビィは茶色の紙袋を両手で抱えてダイヤの元に寄ってきた。

 

ルビィは、ダイヤの目の前で紙袋の中からある物を出した。

 

 

 

 

「これは・・・」

 

そう、出された物はダイヤのイメージカラーと同じ、赤色をベースにして作った衣装。普通ならこんな短時間で用意できない衣装だが、百香の提案により、前々から作られていたのだ。

 

「親愛なるお姉ちゃんへ。ようこそ、Aqoursへ!」

 

ルビィは、満面の笑みで、ダイヤに衣装を手渡したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aqoursか。懐かしいな」

 

「?」

「どういうこと?」

 

花火大会でのAqoursのステージが終わったあと、ふと、果南が呟いた。ルビィ、百香を除くAqours1、2年生は果南の言ったことにわからず、ただ、首を傾げただけ。

 

「いや、ね。私達のグループ名もAqoursだったんだよ」

 

「そうそう!」

 

果南と鞠莉が笑いながら答えた。

 

「嘘・・・」

「まさか、そんな偶然が・・・」

 

「みんな、乗せられたんだよ。誰かさんに」

 

Aqoursの中からざわめきが上がる中、果南はチラリと見た。Aqoursから目を逸らし、恥ずかしそうに腕を組んでいるダイヤを。

 




次回は12月中に更新予定です


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第50話 合宿

12月に更新すると言っていたのに結局1月に更新することとなりました。今後、三章は予定通りに第二週・第四週水曜日に投稿します。第四章はストックができ次第投稿します。どうでもいいことですが、スクスタのラブカスターっていう名前ってランカスター機長*1に似ていませんか?



*1
ブリティッシュエアウェイズ5390便の機長のメーデー民間での俗称。なぜタイタニック機長となったのかは検索すればわかる

鞠莉と果南の仲直りが済んで、早2週間以上が経過した。狩野川の花火大会も終わり、季節は夏本番を迎えていた。学校は花火大会よりも前に終業式を終えたため、今は夏休み。この学校の長期休暇中に通常授業は無いが、夏と冬の長期休暇の序盤には課外授業があり、希望した一部の生徒が参加している。

 

浦の星女学院スクールアイドル部はというと、理事長と生徒会長が所属しているため、全員強制参加となった。果南や部長の千歌、堕天使ヨハネ(笑)の善子など、一部から反対の声もあがったが、部長以上の権力者2名と事実上スクールアイドル部の顧問みたいになっている1名、計3名によって、反対意見は黙殺された。

 

そして、8月1日。課外授業4日目が終了した。スクールアイドル部部室の中で、千歌が「何故、授業のない日に授業を受けなければならないんだ・・・」と、文句を言いながら折りたたみ机に突っ伏していた。

 

「ほらほら、千歌姉。話し合い始まるんだから顔上げて」

 

「うーん・・・、わかった・・・」

 

百香が千歌の両肩を揺さぶると千歌はゆっくりと顔を上げ、目線の先にあるホワイトボードを見た。

 

「それでは、夏休み中の練習の話をしますわ!」

 

ホワイトボードの横に立っているのはダイヤとルビィ、そして、鞠莉の3人。それ以外は千歌のようにパイプ椅子に座っているか、折りたたみ机の横に立っていたりしている。

 

「まず、サマーバケーションと言えば?」

 

「はい!あなた!」

 

鞠莉とダイヤの息があった掛け声とともに、千歌に指を指した。どうやら答えろということらしい。

 

「やっぱり海だよね・・・」

 

「夏休みはパパが帰ってくるんだ!」

 

「マルは、おばあちゃんちに・・・」

 

「夏コミ!」

 

この返答を聞き、〝ここにいる連中はまともな考えができないのか〟とダイヤは思ったのか、両手に握りこぶしを作り、わなわなと震えだした。

 

千歌は、何かまずいことを言ったのかわからなかったが、この後のダイヤの発言に苦笑いしかできなくなることはまだ知らなかった。

 

「ぶっぶーですわ!あなたたち、それでもスクールアイドルなのです!?片腹痛い、片腹痛いですわ!」

 

「だったら、なんだって言うんです?」

 

ダイヤの発言に対し、鞠莉とルビイを除く全員が苦笑いし、ダイヤに問いかけた千歌でさえ少し苦笑いしていたのは言うまでもないだろう。

 

「いいですか!?みなさん。夏といえば?はい、ルビイ!」

 

「───・・・・・・、多分、ラブライブ!」

 

ルビイがダイヤの問いに答えたところ、ダイヤがルビイの頭を撫でだした。

 

「さすが我が妹、かわいいでちゅねぇ~。よくできまちた~」

 

「頑張ルビイ!」

 

ダイヤがルビイの頭をまだ撫でている。しかも、Aqoursが目前にいるのにまだ平気で撫で続けている。しかも、ダイヤの出している声は、いつもの凛々しいような声ではなく、甘々な、しかも、幼児に向けているような声だ。Aqoursの面々は、苦笑いの度合いを高めるしかなかった。

 

「何この姉妹コント・・・」

 

「コント言うな!」

 

しかも、善子のツッコミに対して言い返すということは、自覚なしということだ。千歌は、Aqoursのこれからに対し、色んな意味で少し心配してしまった。

 

〝あっ、コイツやべーやつだ〟

 

と。このことを口に出すことは無かったが、結果的にそれは正解であった。

 

「夏といえば、ラブライブ!その大会が開かれる季節なのです!ラブライブ!予選突破を目指して、Aqoursはこの特訓を行います!」

 

ダイヤは、自身のスクールバッグからどう見てもはみ出している紙を出すと、ホワイトボードに貼り付けた。

 

「これは、(わたくし)が独自ルートで手に入れたμ'sの合宿のスケジュールですわ!」

 

「すごいお姉ちゃん!」

 

そう、アニメ ラブライブ!を見た視聴者なら必ずどこかで見たと言うスケジュール表だ。はい。どう見ても園田海未が作った達成できなかったスケジュール表でしたありがとうございました。帰りましょー。

 

「百香さん、帰らないでくださいますか!?」

 

百香は、スクールバッグを持って帰ろうとし、ダイヤに止められた。

 

「いやだってマネージャーの仕事取りましたよね?」

 

「な、ななな、何のことでしょうか・・・」

 

「とぼけやがったこのポンコツ生徒会長が・・・」

 

「は?キレそう」

 

「キャラどうしたんだよ・・・」

 

こんな感じでもう原作とキャラ違うだろという百香の冷静な脳内ツッコミがされている時、スケジュールを見たAqoursの面々は1名を除き、どう考えても嫌そうな顔をしていた。

 

「遠泳10キロ・・・」

 

「ランニング15キロ・・・」

 

「こんなの無理だよ・・・」

 

「まっ、何とかなりそうね」

 

「「「えっ!?」」」

 

体力おばけの果南のみ、楽観的か顔をしていた。運動部所属の男子高校生よりも体力のある果南だ。こういうことを言うのも当たり前なのだろう。

 

「熱いハートがあればなんでも出来ますわ」

 

「ふんばルビィ!」

 

傍から見ると妹と息のあった漫才をしているように見えるダイヤ。この姿を見て梨子と曜が鞠莉になんでこうなったのかを聞いたところ、〝ずっと我慢してきただけに、今までの思いがシャイニーしたのかも〟と、2人が苦笑いするしかない答えが返ってきた。

 

「何をごちゃごちゃと。さあ、外に行って始めますわよ!」

 

「そーいえば千歌ちゃん。海の家の手伝いがあるって言ってなかった?」

 

「あっ!そうだ!そーだよ!自治体で出してる海の家の手伝いをするように言われているのです!」

 

ダイヤが今すぐにあのクソみたいなハードスケジュールを実行しようとしたため、曜と千歌がわざとらしく声をあげながらダイヤの立てたスケジュールに対し異議を唱えた。

 

このまま断行したら生徒会長の独裁政治になってしまう。まあ、理事長ここにいるけど。比較的常識人が多い2年生がブレーキ役になっている。1年生や3年生はいい意味でも悪い意味でも頭のネジが抜けている。鞠莉の根は真面目なのだが・・・。

 

「あ、私もだ」

 

「そんなぁー!特訓はどうするんですの?」

 

2人の意見ならハッタリの可能性があったのだが、体力おばけの果南までもが海の家の手伝いがあると言い出したため、ダイヤはこの海の家の手伝いについて蔑ろにはできなくなってしまった。

 

「残念ながら、そのスケジュールでは・・・」

 

「もちろん、サボりたい訳では・・・」

 

曜と千歌が言い訳を続ける。百香から見ればどう見ても、どう考えてもサボりたいという心が見えるがダイヤには見えないらしい。何故かって?坊やだからさ。(は?)

 

「じゃあ、昼間は海の家手伝って、涼しいmorning and eveningに練習ってことにすればいいんじゃない?」

 

「それ賛成ずら!」

 

「それでは練習時間が」

 

鞠莉の提案にダイヤが難色を示した。沼津市街から通う曜と善子の2人が朝早く来るのと夜遅く帰るのはバスの時間もあり、朝と夜に練習となると多くの時間を確保するのは厳しいからだ。

 

「じゃあ、夏休みだしうちで合宿にしない?」

 

「「「合宿?」」」

 

ダイヤが話をまた平行線に戻し、悩み始めたAqoursに千歌が提案をしたところ、空気が変わった。

 

「ほら、うち旅館でしょ?頼んでもらって一部屋借りればみんな泊まれるし」

 

「そっか!千歌ちゃんちの目の前は海だもんね!」

 

「三津にあるし、移動がないぶん早朝と夕方、時間とって練習できるもんね」

 

確かにその通りだ。拠点を海の家の近くにある千歌の家にすれば、移動時間はほぼ無いと言っても過言ではない。しかも、千歌の家は旅館でもあり、部屋も沢山ある。だが・・・

 

「でも、こんなに急に泊りに行っても大丈夫ずらか?」

 

「この時期だし、無理なんじゃないのか?」

 

そう。この時期、つまり、世間一般で言う夏休みの時期は繁忙期。こうした時に1つでも部屋を失うわけにはいかない。そうしたら断られる可能性が高くなってしまう。

 

「なんとかなるよ!じゃあ、決まり!」

 

その答えは、じつに曖昧とした事だった。この後の展開を知っている百香としては、この時の〝本当に大丈夫なのだろうか?〟という不安を簡単に取り除けたのだが。

 

「それでは、6日の朝4時、海の家集合ということで!」

 

そんなこんなで、何故かダイヤの暴走で4時集合ということとなり、この日の部活動は解散となった。

 

 

 

 

 

その次の日。屋上で練習中の百香は善子とペアになって柔軟をしていた。

 

「なあ、善子」

 

「何・・・よ」

 

百香が問いかけると柔軟体操で百香の下敷きになっている善子が苦しそうにしながら百香の方を向いた。

 

「お前、ダイヤさんの言う通り4時に行くか?」

 

「行くわけ・・・ないでしょ。バスも・・・ないし」

 

その答えを聞いた百香は、年甲斐もなく、満面の笑みでウキウキしているダイヤの顔をチラッと見てため息をついたのだった。




次回更新予定日は1月22日です。


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第51話 海の家を盛り上げろ!

お待たせいたしました。51話です。え?22日に更新できてないって?ちゃんと22日じゃないですかやだー。それに更新予定時刻は書いていませんでしたよ!決して更新を忘れたわけではないです!・・・忘れたわけではないです・・・。


8月6日午前3時30分。

日が昇るのが早い夏とはいえ、この時間では辺りはまだ暗闇に包まれている。

 

三津海水浴場に建てられた海の家の1つに花丸の姿があった。どう考えても沼津組は来れないのにあの時のダイヤの話を信じ、集合時間である朝4時前に来てしまった。

 

当然、誰も居ない。1番早く集合場所に着いた花丸は海の家の壁に寄りかかるような感じで座り込み、恐らく始発バスが来るまで来ないであろう残りのAqoursメンバーを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

5分経過しても誰も来ないため、花丸はバッグの中から今読み半端の文庫本を出し、日が昇るまで来ないだろうとと決まっているAqoursメンバーを待つことにした。

 

 

 

 

「おはようさん」

 

文庫本を読み始めてからおよそ20分後。花丸の耳に呼びかける声が聞こえてきたため、目線をページから海に向けたところ、百香が立っていた。

 

「も、百香ちゃん!?

 

嬉しいずら!百香ちゃんもちゃんと来たずらぁ・・・!」

 

花丸は、驚いたと同時に、嬉しくなり、百香に抱きついてきた。誰も来なかったことが心細かったのだろう。

 

「おーよしよし」

 

百香は、とりあえず花丸の気が落ち着くまで頭を撫で続けた。何度も、何度も。優しく、ゆっくりと。

 

落ち着いた後、花丸は顔を上げて百香の顔を見上げた。

 

「で、どうやって来たずら?」

 

「え?ああ、

 

 

・・・タクシーだよ」

 

百香は、額から冷や汗を流しながら答えた。まだ百香も花丸も15歳。車なんてまだ運転出来る年齢ではない。それだから百香は車を運転して来たなんて言わなかったのだ。花丸は、途中の間に疑問を感じながらも首を縦に振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

「おはよー」

 

ダイヤとルビィがやってきた。ルビィは何回か欠伸をしており、ダイヤに無理やり起こされたような感じであった。が、今の時間は午前7時。集合時間の3時間後だ。

 

「おせーよホセ。何時間待ったと思ってんだ」

 

「1年生が3年生にタメ語ですって!?ルビィ、処しますか?処しますか?」

 

「とりあえず、お姉ちゃんは重りつけて遠泳行ってこようか」

 

「ルビィが辛辣ですわ・・・」

 

「ざまみろずら」

 

ダイヤに辛辣な言葉が次々と飛んでいく。ルビィまで花丸のように畜生になりつつある。

 

「行かないの?お姉ちゃん」

 

「ルビィは(わたくし)を殺す気ですの!?」

 

「さあ、入ってくるずら」

 

「お姉ちゃんならできるよ!ルビィの大好きなお姉ちゃんだもん!」

 

「そうずら!ダイヤさんならできるずら!」

 

「頑張ってください!生徒会長!」

 

「そうよ!ダイヤのパウァーを見せるのよ!」

 

ダイヤは拒否していたが、ルビィ、花丸、百香、そしていきなり現れた鞠莉がダイヤの事をはやし立て始めた。そして・・・ダイヤは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、そこで伸びてると。自業自得じゃない?」

 

「そうだな。このくらい妥当だろ」

 

始発バス組と同時に来た果南が呆れながらレジャーシートに倒れ込んでいるダイヤを見ながら言った。結局、ダイヤは両足に漬物石をつけて海に向かって走って行ったのだが、海に入る前に躓いて転び、その反動で漬物石が頭にあたって気を失ってしまった。とんでもないピタゴラスイッチだったが、この程度で死んでいないのが不思議だ。

 

百香は、海岸を1度見渡してAqours9人全員がこの場に集まっていることを確認し、息を思いっきり吸い込んだ、

 

「よし、軽食堂の営業時間が10時半だ。10時まで自由時間となる!皆の者、遊べェ!」

 

百香の吐き出した大声によってダイヤを除く8人の声が内浦の中心地の三津海水浴場に響き、ボロい海の家の更衣室兼ロッカールームの中に消えて私服から水着に着替え始めた。

 

「しっかし、改めて見てもかなりボロいね。これ」

 

「仕方ないよー。昔から使ってるし」

 

「それに比べて隣は・・・」

 

私服から水着に着替え終わった果南、千歌、百香は海の家から出て横に建つ、真新しい海の家を見た。白のペンキで塗装された建物とウッドデッキを備えた海の家は、こちらの自治会のやっているボロ屋の海の家と比べると月とすっぽんである。

 

しかも人気もなければ人気もない。その証拠に、自治会の海の家の更衣室兼ロッカールームは閑古鳥が鳴いていた。

 

「こちらには人っ子一人居ませんわ・・・」

 

「このままでは都会の軍門に下るのデースか?私達はラブライブ!の決勝を目指しているのよ。あんなチャラチャラした店に負けるわけにはいかないわ!」

 

「鞠莉さんの言う通りですわぁー!」

 

ダイヤは、鞠莉の挑発的な言葉により刺激されたのか、海の家の屋根に登ってAqours8人と百香に指示を飛ばし始めた。

 

果南が驚いたような顔で鞠莉を見たところ、鞠莉は舌をペロッと出して笑っていた。この顔で果南は確信した。これは鞠莉が面白くなるようにわざとダイヤに火をつけたのだ。

 

「では、お2人共はこの看板を着けて道行く車に宣伝してください」

 

ダイヤは、千歌と梨子に海の家の宣伝が書かれたボックスを被らされた。罰ゲームだろコレという思いがダイヤを除く全員にあったのは黙っていて良かっただろう。

 

「果南さんは、そのグラぁーマラスな水着姿でお客をひきよせるのですわ。他の砂利どもでは女の魅力に欠けますので」

 

そして、他のAqoursメンバーを砂利扱いしたダイヤ。千歌が〝砂利ってなーにー?〟と梨子に聞いていたが、梨子は答えなかった。千歌は何も知らないそのピュアな姿のままでいて欲しい。っていうか、1番スタイル良いのって鞠莉のような・・・と、百香は思ったのだが、何も言わなかった。

 

「そして、鞠莉さん、曜さん、善子さん「ヨハネ!」には、料理を担当してもらいますわ!百香さんは(わたくし)と一緒に現場の総監督を!」

 

ダイヤが次々と指示を飛ばす。百香の呆れ顔なんて目に入っていない。

 

「さあ、これで客がドバドバと!」

 

ダイヤがこれで完璧と勝手に思い込み、客が来るもんだと思っていたが、全く来なかった。隣の海の家には行列が出来てるのにも関わらず。

 

「なんで来ないのですの!?」

 

「知らんがな」

 

俺に聞くな。と心の中で思った百香はため息をついた。

 

「こんにちはー」

 

「はーい」

 

「ここが千歌達が手伝っている海の家?」

 

ダイヤが他人向けの声を出しながら振り向いたところ、後ろにいたのは千歌が連絡した制服姿のクラスメイト6、7人。

 

「よ。百香。相変わらずいい体型し「〇ねっ!変態!」解せぬっ!」

 

千歌のクラスメイトの後ろからどこから情報を仕入れたのか知らないが、私服姿の八名が現れたのだが、百香に対してセクハラ発言されたため、八名の尻が犠牲となった。

 

この空間に八名をぶち込むと何されるか分かったもんじゃないため、百香が中に入り、八名の監視することにした。

 

こういった人が入るといった行動でこちらの海の家に1組、また1組、そしてまた1組と入っていく人が増え始めた。

 

「最初からこうすれば良かったんだね。ほーんと、ダイヤはおバカさん」

 

「本当、オ・バ・サ・ン」

 

果南と鞠莉の言った言葉でダイヤが怒りだし、千歌が着けていた看板を持ち、ブンブンと振り回しながら笑いながら走り回る2人を追いかけ始めた。

 

なお、午後の練習でダイヤと鞠莉がいち早くバテてしまい、ダイヤが〝μ'sはこんなに凄い練習をしていたのですか・・・!?〟と漏らしていたのだが、2人がいち早くバテた原因は行われなかったμ'sの練習内容ではなくこの追いかけっこだったのは黙っておこうと、追いかけられた果南と鞠莉は思ったのだった。

 




次回更新予定日は2月5日です。


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第52話 梨子の決意

お待たせしました!第3章最終話です。この次から4章に突入しますが、その前に番外編を挟みます。


合宿2日目。

 

昨日に比べ、自治会の海の家にも人が入り始めていた。昨日に比べ、正午前で昨日と同じ人数が入っている。看板による宣伝はあまり実を結ばないのだが。

 

「急に増えましたわね・・・」

 

「SNSで宣伝されたからな」

 

「本当ですの!?」

 

百香は、ダイヤに自身のスマートフォンの画面を見せた。そこには、昨日の()()()という名の千歌のクラスメイトと八名の食事をしている姿を見て海の家の中に入った人がかなり良いと評価し、宣伝していたのだ。

 

特に曜のヨキソバはかなりの高評価で昨日よりも早いスピードで注文されていっている。鞠莉のシャイ煮は値段の高さゆえに嫌厭され、堕天使の涙はなんだかわからずに注文されないことが多い。好奇心で注文した客は嫌な目にあっている。

 

実はこれでも鞠莉と善子は努力した方なのだ。昨日のシャイ煮の値段は10万。さすがに一般市民には買えない値段だったため、今日は1,000円に値下げされていたが、メニューに載っている写真でシャイ煮を見ると汁が不気味な色のため、注文する人が昨日よりも増えたが、それでも両手で数えられる程度だ。

 

堕天使の涙は辛い。とにかく辛い。タバスコ大量とか殺す気かと思うのだが、善子の舌には平気らしい。さすがに今日の分はタバスコの量を減らした。それでもかなり辛いのはどういうことだ。今日は罰ゲームで買わされることが多いが、昨日より売れているだけいいとされた。

 

だが、

 

 

 

結局・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「また売れ残ったね・・・」

 

昨日よりも少ないが、大量の在庫となったシャイ煮と堕天使の涙がテーブルの上に積み上げられていた。

このペースだと、明日も売れ残るだろうという空気が漂い始めたが、曜の一言で在庫となった2つに光が差し込んできた。

 

「シャイ煮と堕天使の涙をカレーにしてみました!」

 

そう。曜得意の料理で2つを混ぜたカレーを作り出したのだ。見た目はアレだが、多分美味しい。

 

「名付けて〝船乗りカレーwithシャイ煮と愉快な堕天使の涙達〟」

 

「ルビィ死んじゃうかも・・・」

 

「じゃあ、梨子ちゃんから召し上がれ」

 

昨日、堕天使の涙を食べたら辛すぎて海岸を走り回った事と、林間学校の際に物体Xを食べた苦い思い出を作らされたルビィは、食べるのを拒んだため、梨子に毒味を押し付けられた。

 

梨子は、恐る恐るスプーンを手にし、周りの全員が梨子の様子を見守る中、ゆっくりとカレーを口の中に運んだ。

 

「・・・美味しい。こんな特技あったんだ!」

 

結果は、美味。その梨子の答えで全員がスプーンを握り、カレーを食べ始めた。曜曰く〝パパから教わった船乗りカレーは何にでも合う〟らしい。シャイ煮と堕天使の涙を混ぜたカレーが美味しかったのなら、本当なのだろう。

 

「ん〜!Delicious!」

「これなら明日は完売ですわ・・・」

 

「おかわりずら!」

 

Aqoursの面々がカレーに飛びつき、頬張っていた。その様子を見ていた曜は、一向にカレーに手をつけない千歌を見つけた。

 

「どうしたの?」

 

「何でもないよ。ありがとう」

 

千歌は、平気そうにそう答えていたが、曜には誰かのことを考えていることがわかってしまっていた。曜が千歌の視線の先を見ると・・・、

 

 

 

 

カレーを食べて笑い合う梨子と百香の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜3時を越し、千歌の部屋の中からは寝言と寝息しか聞こえないほど静かになっていた。

 

千歌のベッドを除いて畳の上に敷いてある布団は5つで、そこには梨子が一人で、ダイヤとルビィ、果南と鞠莉、曜と百香が2人ずつ同じ布団で、天井から吊り下げているサメの寝袋には善子、ベッドには持ち主の千歌が寝ている。

 

布団のうちの一つがモゾモゾと動いた。曜と百香の布団だ。

 

「ん・・・、んん・・・?百香ちゃん・・・?」

 

「・・・トイレ」

 

「ん・・・」

 

百香に抱きついていた曜は、ゆっくりと腕を離し、百香は自由の身となった。

 

百香は再び寝た曜を起こさないように慎重に布団の外に出て立ち上がった。梨子は寝ており、千歌はおそらく寝ているふりをしているだろう。

 

足音を立てずに1階に降りた百香は、車のキーを出した。全員が寝ている部屋でガサゴソとキーを探すのは不審がられるため、前もって靴の中に隠しておいた。

 

外は夏とはいえ、陽があたらない深夜はかなり涼しかった。百香は、車のサイドシートにあらかじめ畳んでおいたサマーパーカーを出すと、それを寝巻きの上に羽織った。

 

百香がやるべき事は1つ。学校の正門の鍵を開けることだ。この時間帯、学校の正門と昇降口の鍵は閉まっている。

 

 

普通ならば入れないはず。

 

そう考えた百香は、話をストーリー通りに進めるために車を浦女まで走らせたのだった。

 

 

 

 

 

浦の星女学院に着いた百香は、車を正門から見えない位置の裏道に停めた。千歌と梨子に見られたら怪しい車扱いされるかもしれないからだ。

 

校門の南京錠に職員室のキーボックスから借りてきたマスターキー鍵を差し込み、蛇のように校門に縛りついている鎖を音を立てないように外し、〝校門が空いている〟と分かるように少しだけ隙間をあけて中に入った。

 

職員玄関に周り、時雨先生に借りた職員のカードキーで警備を解除してからドアを開け、中に入り、正面昇降口の鍵を開け、音楽室の音や会話が聞こえる音楽準備室に移動し、楽器の間に隠れた。

 

やってることは犯罪スレスレだが、バレなきゃ問題ない。この学校は、昼は警備員が警備、夜は機械警備をやっているのに防犯カメラが職員室の一部区域を除き未設置のため、警備は結構甘い。しかも防犯カメラは金庫を監視するためだけで、キーボックスは監視していないかなりのガバガバ仕様だ。私立高校の警備がこんなんでいいのかと思うが、元々がアニメの世界のため、仕方ないだろう。

 

音楽準備室で30分くらい待つと、梨子と千歌の声が音楽室から聞こえてきた。

 

梨子はこの時、ラブライブ!の県予選と被ったピアノのコンクールを辞退しようとしていた時であった。

 

千歌は、どうにか梨子に東京のピアノコンクールに出させたいと思っていた。千歌のためではなく、梨子自身のために。

 

百香は、行動する千歌に敬服するが、その話に直接行動するわけでなく、影で千歌本人にも知られることなくサポートすることに徹した。

 

彼女は、Aqoursの10人目ではなく、Aqoursを、観客席から見るただの、1ファンでいたいのだ。ただ、前と違い、Aqoursと関わる回数は格段に上がったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

10分ほど経つと、ピアノの音が止み、扉が開く音がした。千歌と梨子が音楽室から出た音だ。

 

百香は、千歌と梨子が学校から出る姿を見るとすぐに昇降口の鍵を閉めて、職員玄関から外に出て施錠した。きちんと機械警備のスイッチも入れておいた。これで大丈夫だろう。

 

百香は、正門を施錠し、校舎裏の市道に停めておいた車に乗りこみ、千歌や梨子が向かう場所に先回りすることにした。

 

深夜帯なら内浦を縦断する県道17号は車通りが全くない。先回りは可能だ。え?制限速度オーバーしてるって?あんなん免許取ったあとなら誰も守ってねーから!無問題!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌は、梨子を先導しながら早朝の内浦を縦断する県道を自転車で走っていた。

 

長浜城跡地付近に建つJAの直販所を過ぎたあたりで1台のスポーツカーが抜かして行った。

 

 

 

────百香ちゃん?

 

 

 

運転席に一瞬だけ見えたシルエットが百香に見えた気がした。

 

 

ありえない。

 

千歌はそう思うと首をブンブンと振った。百香はまだ15歳。車を運転できる年齢ではない。

 

「千歌ちゃん?」

 

「ううん。なんでもない」

 

後ろからの声に答えた千歌は、ハンドルをギュッと握ると、もう一度、グイッとペダルを踏み込んだ。

 

千歌は長浜の三の浦総合案内所の前まで来ると、自転車を防波堤横に停めて、防波堤の上に登り、ゆっくりと座った。梨子もそれに続く。

 

千歌の目線の先には海の水平線があった。青黒かった水平線は少しずつ明るくなり始めていた。もうすぐ朝になる予兆だ。

 

「いい曲だね」

 

「千歌ちゃん・・・」

 

「すっごくいい曲だよ。梨子ちゃんがいっぱい詰まった」

 

少し間をおいてから千歌の髪がふわっと揺れた。

 

「梨子ちゃん」

 

呼ばれた梨子は、千歌の顔を見た。夜明けで明るくなってきていたのだか、千歌の顔はまだ見えない。

 

「ピアノコンクール出てほしい」

 

千歌のこの一言で梨子には衝撃が走った。梨子はラブライブ!静岡県予選と期日が被った完全にピアノコンクールに出ることを諦め、ラブライブ!の県予選に出場するつもりでいたからだ。

 

「こんなこと言うの変だよね。めちゃくちゃだよね。スクールアイドルに誘ったのは私なのに。梨子ちゃん、Aqoursのほうが大切って言ってくれたのに・・・。でも、でもね!」

 

「私が一緒じゃ、嫌?」

 

当然、梨子の中にはこういった感情が芽生えた。〝私だからダメなんだ〟と。しかし、結果的に言うと、それはただの杞憂でしかなかった。

 

「違うよ!一緒が良いに決まってるよ!思い出したの。最初に梨子ちゃん誘った時のこと」

 

千歌は、昨日旅館で梨子の母が志満に梨子のピアノコンクールについて話していたことを立ち聞きして、梨子をスクールアイドルに誘った時のことを思い出したのだ。忘れてしまった、あの時のことを。

 

「あの時私、思ってた。スクールアイドル一緒に続けて、梨子ちゃんの中の何かが変わって、またピアノに前向きに取り組めたら素晴らしいなって。素敵だなって!そう思ってたって・・・」

 

「でも・・・」

 

立ち上がった千歌は梨子に手を差し出した。気づいた時には太陽が水平線上から顔を出し、千歌の顔ははっきり見えていた。

 

「この町や学校や、みんなが大切なのはわかるよ。私も同じだもん。でもね。梨子ちゃんにとってピアノは同じくらい大切なものだったんじゃないの?その気持ちに、答えを出してあげて。

 

私、待ってるから。どこにも行かないって、ここでみんなと一緒に待ってるって約束するから。だから・・・」

 

梨子は、千歌の差し出した手には握らず、代わりに千歌に抱き着いた。その梨子の眼には涙が浮かんでいた。

 

「ほんっと、変な人・・・」

 

 

 

 

 

「大好きだよ・・・」

 

千歌に抱き着いていた腕を解いた梨子は、そう言った。




次回はアンケートをとった番外編です。
更新予定日は2月19日です。










次章予告

夏が本番になり始めた時、百香のスマートフォンに一件の連絡が入る。

返答に困った百香は回答の猶予をもらった。

しかし、時は待ってはくれない。

想定外な言葉

突然の裏切り

穏やかな空間はたちまち怒号が飛び交う空間に変貌した。

だんだん追い詰められていく百香。

彼女が出した答えとは・・・

次章「海ハ澄ンデモ雨止マヌ」

狂った歯車は戻らない。


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特別編10 別次元のAqours?

更新が遅れたことをお詫び申し上げます。

一応、理由としては、前回の話の予約投稿を忘れ、さらに、旅行に行っていた関係で、投稿出来ていたかどうかの確認をすることができなかったからです。
(ただの言い訳)


秋。私が今着ている冬服ももうすぐでカーディガンを着てもいいくらいの過ごしやすい気候になっていた。

 

「くっくっくっ・・・」

 

善子が白線引きで校庭に魔法陣を描き、完成後に何やら呪文を唱えているが、周りの生徒は気にせず素通りして帰宅したり、各自の所属する部室へと向かっていた。そんな光景を浦の星女学院校舎2階で曜と共に眺めていた。

 

「善子ちゃんはいつも通りだね」

 

「ああ」

 

私は何も変わりもない日常を過ごせることを嬉しく感じ、少しだけ微笑んでいた。

 

「百香ちゃん、そろそろ部室行こうか」

 

「そうだな」

 

曜と共に校舎内に戻った瞬間に急に風がびゅおっと吹き、善子の悲鳴が聞こえていた。なんだなんだと曜と一緒にもう一度ベランダに飛び出て校庭を確認すると風で砂埃があがり、善子の描いた魔法陣が消されてしまった。苦労して描いた魔法陣が完成5分足らずで風の力で消された。ご愁傷さま。

 

「・・・なーんだ、いつもの事か。行こ。百香ちゃん」

 

「・・・あ、ああ」

 

今に始まったことでは無いが、善子に対する曜の態度が酷い。

 

あまりにも善子が可哀想なので校庭を見ると、善子は消え去った魔法陣の前で頭を抱えながら膝まづいていた。どーしてなのよー!という叫び声が聞こえてくるが周りの生徒や教師達は気にしていないまま素通りしている。無情すぎる。

 

そろそろ部室に向かわないと曜が怒りそうになってきたため、教室に戻り、曜の机に置いた私のスクールバッグを持ち、階段に向かった。

 

「おっ!」

 

「曜さんに百香さん」

 

「奇遇ねぇー」

 

階段では部室に向かう途中である3年生の3人と合流した。3年生3人は学校内ではほとんど一緒にいると言っても過言ではないくらい仲良しだ。そこからは3年生とたわいない話をしながら1階に降り、1階では1年生3人組と合流した。1年生3人組は3年生3人組と違い、あまり3人組にならない。私が入って4人組になるからだ。

 

「せっかく描いたのに・・・」

 

「運悪いからね。堕天使善子ちゃんは。ね」

 

「ずら」

 

「笑うな!それに私は善子じゃなくてヨ・ハ・ネ!」

 

しょんぼりと落ち込んでいた善子を見てくすくすと笑うルビィと花丸はまさに鬼、そして、畜生であった。

 

そこからはワイワイとこの後の活動について8人で話し合いながら歩き、体育館通路側の部室入口のサッシ扉の前に着くと、サッシ扉の前でこそこそと部室内の音を聞いている千歌と梨子の姿があった。

 

一体何やっているんだ・・・

 

私ははぁ・・・とため息をついた。一体何をしているのか私には全く検討がつかなかったが、とりあえずこそこそとしている行為を止めさせようとした。

 

「おいっムグッ!?」

 

「しーっ!百香ちゃんしーっ!」

 

声を出した瞬間、千歌に口を手で押えられた。千歌が少し困惑している表情だったため、とりあえず千歌の話を聞くことにした。

 

「何か開けちゃダメなような気がするから・・・」

 

「・・・?」

 

千歌はそう言いながら部室の中を見ているが、部室のサッシ扉はカーテンで覆われており、部室の中は完全に見えなかった。

 

私が耳をすましてみると、中からは9人ほどの話し声がする。もしかしたらAqoursの誰かと誰かが中で話しているのかと思い、本校舎と体育館の連絡通路を見たのだが、Aqoursは全員連絡通路にいる。じゃあ、中にいるのは誰なんだ・・・。

 

「ええい、儘よ!」

 

「あっ!」

 

千歌が私を止めようとしたが、私はそれを振り切った。第一、部屋の電気をつけている怪しい人なんて居ない。ましてや警備員が巡回している私立女子高なら尚更だ。そして、怪しい人なら私が倒せるかもしれないし、転生前の年齢を合わせると私が1番年上であり、こういうことは年上の人が行動するのが良いからだ。

 

「こんにちわァー!」

 

サッシ扉とカーテンを開け、とりあえず挨拶からはじめた。怪しい人には挨拶が一番効くって古事記にも書いてある。

 

「「「こんにちはー」」」

 

「「「「こ、こんにちは」」」」

 

「「こんにちは」」

 

部室の中のパイプ椅子に座っていたり、立っていたりしていたAqours9人から挨拶を返され、その中では千歌が代表なのか、立ち上がってこっちに歩いてきた。

 

「どうしたのー?」

 

妙によそよそしい態度の千歌が学年確認をするため、一瞬胸元のリボンを見た後、少し首をかしげながらこちらにとてとてと歩いてきた。とりあえず私は───

 

 

 

 

 

「すみません、部室間違えました」

 

そう言ってカーテンとサッシ扉を閉じた。とりあえず、横を見た。

 

「何を見たの?」

 

「・・・え?」

 

横には千歌が居て、後ろには残りのAqoursメンバー全員が立っている。さっき部室の中に居た千歌は一体何だ。しかも私を除いたAqoursメンバー全員が部室の中に居た。Aqoursが2つ・・・。

 

 

 

 

 

 

えっ?

 

「どうなってんだよこれ・・・」

 

「どーなってんのてどーゆーこと?」

 

千歌が私の顔を覗いてくる。さっきの千歌のようなよそよそしさはない。中からもAqoursの話し声が聞こえてくる。曜に似てるだの、背が高いだの、と。

 

私はこの情報から仮説を立てた。中にいるAqoursはもしかして私が存在しない並行の別世界から来たのではないのかと。

 

 

 

・・・これは会わない方が良いだろう。

 

「き、今日は帰ろうか」

 

私はぎこちない笑顔で連絡通路に待機している9人に言ったところ、全員が不満そうな顔をしだした。

 

「百香ちゃんらしくないねー。何私達に隠してるの?」

 

千歌が頬をふくらませながら私に言ってきた。理由も無しに部活を休みにさせるのは私らしくないが、今のこの状況信じられない私にとって帰るのが1番冷静な答えのつもりだった。

 

だが、その答えがAqoursに不信感を与えてしまった。過去の私の行動も原因だっただろう。もう、サッシ扉を開けるしか手段はない。

 

「ねーえー!おーしーえーてー!」

 

千歌の膨れている顔ががずいっと私の顔に近づいた。

 

「お、おい!千歌、声がデカい!」

 

「何だ、まだ居るじゃん。どうしたの?1年生ちゃん。ここに居るなら何か用が・・・えっ?」

 

千歌の声が大きかったためか、カーテンとサッシ扉が開いて、中から千歌が出てきた。

 

「あっ・・・」

 

「えっ・・・?」

 

「嘘・・・」

 

「千歌ちゃんが2人・・・?」

 

「Oh・・・」

 

「千歌が2人・・・、来るわよずら丸!」

 

「何がずら・・・」

 

目と目があってしまった。私と千歌の目では無い。千歌と千歌の目がだ。あうはずのない目があってしまい、黙り込んでしまった。

 

やっぱり、同じ顔、同じ声、同じ体の人が会うとどうすれば良いのか分からなくなるのだろう。

 

そう思っていたところ・・・

 

「「き・・・」」

 

「き?」

 

「「・・・」」

 

 

 

 

 

 

「「き、奇跡だよぉー!」」

 

2人の千歌が両手を合わせてぴょんぴょん飛び始め、そしてひしっと抱き合った。さすが新生Aqoursの発起人なだけある。もう1人の自分自身に会ってもすぐに打ち解けている。部室の中にいたもう1人の千歌と部室の前で中の様子を聞いていた千歌。前者が別千歌、後者を千歌とし、とりあえず心の中だけで区別することにする。

 

「ささ、中に入って入ってー」

 

「うん!他のみんなと交流会だぁー」

 

別千歌は千歌を部室の中に招き入れ(?)、その後を追うように私とAqoursの残りのメンバーは部室の中に入った。

 

ただし、現状に対応出来ているのは私を除き、千歌だけ。そのような状況でAqours全員が部室の中に入ると・・・

 

 

 

 

 

「私が2人・・・!?」

 

「千歌ちゃんが・・・、私が2人!?」

 

「ピギッ!?ルビィが2人居る!?」

 

「な、何が起こっているの!?」

 

「まさか・・・、まさか・・・、ドッペルゲンガー!?」

 

 

 

 

 

部室内はほぼ混乱状態に陥った。とりあえず、この場を落ち着かせなければならない。

 

「とりあえず、全員落ち着け。現段階での状況を確認するから」

 

「教えてくれるのなら、ねぇ・・・?」

 

「そうだよねぇ・・・」

 

「これは・・・、もしかして異なる時空同士の会合・・・?」

 

別鞠莉と別曜が互いに目を見て頷き、そして別世界でもいつも通りの別善子は堕天使のポーズをとっていた。

 

「善子さん。ふざけないでくださいますか?」

 

別ダイヤがいつも通りである別善子を注意するが、今善子の言っていることがこの現象を説明できていた。

 

「いや、今回ばかりは善子の言ってる事が正しい」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

その事を両Aqoursに伝えると、どちらも首を傾げながら私を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・。ここに居るのは並行世界のAqoursで、なんでここに来たのかはわからないと・・・」

 

善子がボソッと呟き、なるほどと頷く。

 

「並行世界ね・・・そんなファンタジーみたいな事起こり得るわけが・・・」

 

「現時点で発生してるじゃねーか。それに私の存在がある時点でファンタジーもクソもねーだろ」

 

イマイチ納得出来ていない梨子の意見に私が反論し、その意見に確かに・・・と思ったのか、こちら側のAqoursは首を縦に振っているが、私の言った事がわからない別Aqoursの面々は首を傾げたままだ。

 

「それ、どういうこと?それに貴女は?」

 

私の言ったことで新たな疑問が発生した別Aqoursの代表で別果南が聞いてきた。仕方ないだろう。私の存在自体はイレギュラー。しかも、私の事を説明していない時点でこういった疑問が発生することは必然であった。

 

私は、とりあえず先頭に立っている千歌の横まで移動し、自己紹介を開始する事にした。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。浦の星女学院1年A組13番、スクールアイドル兼マネージャーの渡辺百香だ。まあ、ファンタジーとかそういうのは、前世の記憶があるってことだ」

 

「百香ちゃんについては結構複雑だから深くは聞かないでね」

 

急に曜が私の前に割り込んできてそう言った後、私の耳元にボソッと〝浦女のこと言えるわけないでしょ〟と言った後、私に抱きついてきた。

 

「それに、私の可愛い妹なんだ!」

 

そう、別Aqoursに言っているのだが、心無しか別Aqoursに向けてではなく、私に抱きついているルビィに言っているように思えた。

 

「・・・ケッ。告白も出来ないヘタレが」

 

「えっ・・・?」

 

曜に向かって吐き捨てるように言ったルビィに対し、別ルビィが驚いた顔をしながらルビィを見た。

 

「ル・ビ・ィちゃん。さっき何言った?」

 

「いえ何も?」

 

「言ったよな?なんて言ったんだ」

 

「〝告白も出来ないヘタレだ〟って言ったんだよヘタレ」

 

「あ?この姉離れ出来ないシスコンが」

 

「その言葉そっくりそのまま返すよ妹離れ出来ないシスコンお姉さん」

 

私の体の横では曜とルビィの静かな言い争いが始まっていた。別世界の曜とルビィがこちらの世界の曜とルビィを見てドン引きしている。というか、この2人の暴走を止めなければならない。

 

「そちらのダイヤさん。あの2人、どうすればいいの?」

 

「まあ、2人は置いときましょう」

 

「そだね」

 

別梨子がダイヤに聞くと、すぐに放置することに決まり、千歌も賛成した。〝マジかよコイツら〟と、別世界のAqoursがこちらのAqours達を見ているが、このようなことは日常茶飯事なので、こっちの世界は誰も気にしない。いや、最初は気にしていた人も何人かいたのだが、今はもう誰も気にしなくなった。

 

「で、これからどうする?行く宛てもないだろ?」

 

百香は、パイプ椅子に腰を下ろして別Aqoursのメンバーを見渡しながら言った。後ろでは相変わらず曜とルビィの乱闘が行われているが、気にしない。

 

「うーん、とりあえず各々の家に帰ることにした方が・・・」

 

「家族が混乱しない?」

 

梨子の提案に別梨子が疑問を出した。文字通り自問自答なのだが、こうして見てみると、なかなかカオスだ。

 

「そちらの千歌ちゃんちに泊まったらどうかな」

 

「えっ、うち!?大丈夫かなぁ・・・」

 

別曜の提案で千歌が頭を抱え始めた。向こうの世界でもこちらの世界でも千歌の家が旅館なのは変わらないのだが、今日いきなり泊まるのは如何なものかと千歌は感じていた。

 

「うーん、でも、そっちの千歌も泊まるとなると志満姉と美渡姉が混乱しないかなぁ・・・」

 

「そっか!千歌も2人居るのか!」

 

千歌の言ったことで別千歌がなるほど!という動作である、手をポンとうつ動作をし、また別の案を考えはじめた。

 

〝うーん〟と、しばらく考えていた時、私はピン!とあることを思いついた。

 

「そうだ!ピン留めとかで区別すればいいんじゃないか?」

 

ピン留め有る無しだけで結構雰囲気は変わる。これならば簡単に区別をつけやすい。

 

「今、そんなに一杯持っている人って・・・」

 

千歌の言う通り、普通はいない。しかし、今、何故か私は運良く大量のピン留め、ヘアゴム、シュシュなどのアクセサリーを持っていた。

 

とりあえず、持っているアクセサリーを全て出した。その数50を越す。ある物は福袋出ててきていらなかった物。ある物はいつも使っているアクセサリーの予備、ある物は買った物についてきたオマケとかだ。

 

「おおお・・・」

 

「じゃあ、別世界のみんなは区別のために好きな物着けて。なんだったら記念としてあげるよ」

 

百香のその言葉で別世界のAqoursはアクセサリーを個別に取り始めた。

 

千歌は緑、白、赤に塗られた四角形のピン留め。梨子は白のピン留め2本。曜は赤色のリボン。ルビィは白のピン留め1本。善子は白のピン留め3本、花丸は赤い花のヘアゴム。鞠莉はピンクのピン留め、ダイヤは桜のピン留め2本、果南は白のシュシュを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお・・・。結構印象変わるな・・・」

 

アクセサリーを身につけた別世界のAqoursを見た私は思わず声を漏らした。ちなみに、千歌だけアクセサリーだけでも区別がつかない可能性が高い(特に十千万旅館内)ため、アクセサリーだけでなくヘアゴムで髪を後ろにまとめていた。

 

「じゃあ、志満姉と美渡姉には事情を話したから、今から行こう!」

 

千歌がいつの間にか話を通したらしい。行動が早すぎる・・・。ちなみに千歌が百香を除いてみんな2人ずついると言ったら頭おかしくなったんじゃないかと美渡に言われたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ・・・。本当に2人いる・・・」

 

「開口一番がそれ?」

 

「こっちの美渡姉も変わらないんだね・・・」

 

美渡が驚きながら2人の千歌を見て、頬を抓ってこれが幻覚か夢じゃないのかと確かめていた。やっぱり痛い?これが現実だ。諦めなよ。

 

「じゃあ、部屋に案内するから着いてきて」

 

美渡は、2人ずついるAqoursを見てありえないものを見た顔をしながら部屋に案内した。

 

案内された部屋は今日空いていた大部屋。19人でも余裕を持って寝られる部屋だ。しかも位置は他のお客様の目に届かない一番奥の部屋。よくここが空いていたなと思ったのだが、こんな大部屋使う団体が居るのかという疑問が出たのだが、そんなこと聞けるわけないため考えることをやめた。

 

「じゃあ、布団はここに置いておくからあんたたちで敷いてねー。騒ぐんじゃないよ」

 

「はーい」

 

美渡は、布団を置いていくと直ぐに出ていった。美渡にもう少し居たらどうかと聞いたら頭がまだ理解出来ていから混乱している・・・と言っていた。いきなり2人ずついるのを見たら普通の人は混乱するから、この反応でも仕方ない。

 

「じゃあ、せっかくだし、記念撮影しようよ!」

 

「いいねいいね!さすが私!」

 

それなのに千歌達はすでに記念撮影の計画を始めている。デジタルカメラとかスマートフォンなら直ぐに印刷できるだろうけど、他の人がみたらコラ画像に見られそうだ。

 

千歌が三脚とデジカメをどこからか取ってきて部屋の中に組み立て始めた。

 

「ほらほら、みんな寄って寄って!」

 

一ヵ所にひしめき合った千歌を除く両世界のAqoursと百香。千歌は、三脚にデジカメを固定し終わり、撮影するためにタイマー機能を使って、シャッターを押し、みんなのもとへと走り出した。

 

「はいっ、チーズ!」

 

結局、別世界のAqoursは2日間こちらの世界にいた。学校の授業の進行具合は向こうの世界と変わらないため、こちらの世界でも授業に出たのだが、その時、教師陣とクラスメイトが困惑したのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年3月某日。

 

日本海上空の青空の中、アリタリア航空785便は、成田を離陸して50分ほど経過した頃であった。

 

尾翼の赤い三角印と、三角印を囲み、真っ白なボディ横に引かれた緑色の線。アリタリア航空特有の塗装が施されたワイドボディのアメリカ・ボーイング社製B777-200ERは、成田からローマに毎日向かう便の1つだった。

 

Aqoursの2年生3人と1年生組3人、そして付き添いで来た曜の従妹の月を入れた計7人は、行方不明となった3年生を探しに、この機体に乗っていた。2年生と月が4列シートに、1年生は3列シートに座っていた。

 

ローマに着いてからの予定は、到着時間が遅いためローマで1泊し、次の日にヴェネツィアに移動する・・・ということになっている。

 

「曜ちゃん。そのリボンかわいいね!買ったの?」

 

曜の横の席に座っていた月がふと、聞いた。いつもの曜の髪型とは違い、赤いリボンがあったからだ。

 

「あ、このリボン?へへ。大切な人からもらったんだ」

 

「おっ!?ついに曜ちゃんも色恋沙汰の話が!?もしかして千・・・ぐほっ!?」

 

曜のチョップが月の脳天に直撃した。容赦なくチョップを喰らわせるあたり、かなり向こうの曜に毒されてしまった。曜自身、たった3日一緒にいただけでこんなに影響があるなんて思っていなかった。

 

頭を抱えている月は「酷いよ。結構容赦なくなったね・・・」と言いながら曜の顔を見てみると曜はにっこりとした笑みで月を見ていた。

 

「怒った?」

 

「・・・どう見える?」

 

「ごめん」

 

「いや、怒ってないよ」

 

笑いながら答えた曜の顔を見た月は、ただの演技だったことに気づき、胸をなでおろした。

 

「結局、そのリボンは誰から貰ったの?」

 

「これはね・・・」

 

頭の赤いリボンにあてた右手と曜の顔を月は交互に見ながらどんどん曜の顔に近づけていった。

 

「やっぱやめた!」

 

「えー!?」

 

月は、不満そうに声を上げたが、曜はえへへと笑いながら頬を搔くだけだ。

 

「強いて言うなら、家族のように大切な人・・・かな」

 

「えー!教えてよー!」

 

狭い機内に、月の声が響いた。




ちなみに、この話は物足りないと思っているので、そのうち続編を書きたいと思っています。


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第4章 海ハ澄ンデモ雨止マズ
第53話(プロローグ)


お久しぶりです。前回の投稿からから約4か月が経ちました。あれからかなり情勢が変わってしまい、生活もバタバタしてしまったため、投稿が遅れてしまいました。ちなみに、この章は7~8割ほど完成しているため、週一で投稿できます。
そのため、しばらくは週一で投稿いたします。



大変長らくお待たせいたしました。5か月半ぶりの本編をお楽しみください。

コラボやりたいです。誰か提案してきてくれませんかね?(人任せ)


2016年8月8日。

 

百香は自室の窓から外に出てベランダの欄干に両手を置き、夜空を見ながらついさっき担任の佐藤先生から電話で聞かれた事についての考え事をしていた。それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新静岡に編入する気、ない?』

 

「編入・・・、ですか・・・?」

 

────浦の星女学院から私立・国公立合わせて県内一の進学校、新静岡高校に編入しないかという話だった。

 

『そう。今さっき新静岡から連絡があってね。夏休みが終わってから編入してみないか─って』

 

その後、担任は向こうはゴリ押しのように言ってきたけど私は反対だよ。と、苦笑いしているかのように言っていた。

 

 

しかし・・・、入学辞退した学校からそんなに強く入学を薦めてくるという事はあるのだろうか。確かに、入試時で百香は学年首席だった。だが、上位の1人や2人辞退しただけでそんなにムキになるようにその生徒を集めるのだろうか。

 

今の百香はまだ子供であり、そして保護者の相談無しで決めてしまうのはどうかと思い、母親に一応意見を聞いた。

 

そんな母の答えは、貴女自身が決めなさいというものだった。百香はどうすべきかわからず、ため息しか出なかった。

 

 

 

第4章

海ハ澄ンデモ雨止マズ

プロローグ(第53話)

──雲行キガ怪シクナル

 

 

 

 

ため息をついてから数分が経過し、気が少し落ち着いたと思い、部屋の中に戻ろうとすると、百香のスマホがバイブを出して震えた。発信者は〝東條希〟

 

沢木さん経由で知り合ったμ'sのメンバーである。彼女自身と電話番号の交換は百香が中学1年、μ's2年生組と同級生の沢木さんが高校2年、つまり希がμ'sに所属していた時に百香と知り合った。

 

もちろん、希には百香自身の事を話していない。が、彼女自身カンが強いのか、それとも趣味の占いで占ったのか希は百香について何か気づいているようであった。百香は何時「君は何者なのか?」と聞かれるのかビクビクしていたのだが、希自身が気遣ってくれたのか、結局何も言われなかった。

 

百香は画面に表示されている通話ボタンを押し、電話に出た。

 

「はい、渡辺ですが・・・」

 

『久しぶりやね』

 

「・・・3()()()()ですね。

 

 

 

 

 

──何かあったんですか?」

 

百香は声のトーンを落として希に聞いた。過去、希からの電話の用件は全て悪い占いで悪い結果が出ているから気をつけてとの事であった。

 

希の占いの結果は良く当たる。そのためいつも占った時だけ個人チャットで送ってきてくれている。だが、思いがけない結果が出た時には電話で報告してきている。

 

3年前、中学1年生の時の秋も、そうだった。

 

『もしかしたらと思って』

 

「もしかしたらって・・・。ずいぶん曖昧ですね」

 

『完全に未来を予測できる人なんて居ないんよ。・・・居たら会ってみたいけど』

 

遠回しに、百香に言っているのではないのか錯覚させられる、少しだけ置いた間に、百香は少しだけハラハラした。こういうのは結構気分が良くない。

 

「・・・で、結果はどうだったんですか?」

 

「女教皇。カードはそう告げてるやんね」

 

大アルカナの女教皇。

正位置の意味は、知性、教養、直感、変化、未来、理解、予感・・・など。

逆位置の意味は、不安定、ヒステリック、うぬぼれ、思慮不足、予測不可・・・など、だ。

 

「正位置と逆位置、どっちなんですか?それによっては・・・」

 

「ふふふ。どうなんやろね。未来が分かるのは面白くないやん?」

 

「───っ。そうですね」

 

望は、絶対に百香のことに気付いている。教えてはくれなかったが、今回の場合、意味は十中八九後者を指すだろう。背中に冷や汗が流れる感覚を感じながらも、しばらく望への返答を考えた───

 

「わかりました。ありがとうございます───」

 

が、結局これしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎ、夜が明け、8月9日。さんさんと太陽が照り付けるアツアツのコンクリートの上。県予選に向けて練習に打ち込んでいるAqoursの姿があった。しかし、そこに百香の姿は見えない。

 

同刻、浦の星女学院理事長室応接スペース。新静岡高校の書類の束が置かれている座卓の上座側には百香、下座側には沢木さんが座っていた。もちろん、話は重要なことなので、沢木の黒服や使用人、浦女の職員、生徒は全員退室済みだった。

 

「やっぱり、あなたの差し金でしたか・・・」

 

先月の件(扶桑航空爆破事件)があったからな・・・」

 

新静岡高校に百香を編入する話は、機内爆発事件で記者が殺害されたことにより、当該記者に関わっていた百香のことを心配した沢木が裏から手をまわしたことにより発生した話だった。

 

「この話は強制じゃない。もちろん、この件は拒否しても一向に構わない」

 

「・・・拒否するとどうなるんです?」

 

この質問をした意図は、好奇心なのか、それとも、本心なのかは百香自身にしか分からない。

 

「私が派遣したボディーガードをつけることになる」

 

「なぜそこまで?確かに、あなたと私は元上官と部下でありました。でも今は違います」

 

確かに、前世と今を合わせてだが、百香と沢木は知り合って20年以上たっており、考えていることは全部ではないがある程度はわかるようになっていた。そうした関係は、百香と神田、前世で言う町田と八名とは違った信頼関係であったが、〝はくう〟という、同じ境遇に置かされたことで確かに固い絆で結ばれていた。しかし、それはあくまで前世の話。この世界では百香と沢木の間に信頼関係ではとても言い表せない大きな壁ができていた。

 

「確かにそうだな」

 

百香は一般市民なのに対し、沢木は国際的大企業、沢木グループの令嬢。これだけでも大きな壁になるのは十分な要件だった。こうした大きな壁を越えて一般市民に何かするのには、百香を大切に思っている沢木が家族内で大きな力を持ち、沢木グループ総帥さえ動かせたから守るのか、それとも、百香が手に掛かられたとき、沢木財閥に不利益が生じるからなのか・・・。それは、沢木本人に聞いてみないとわからなかった。

 

「・・・で、答えは、なんです?」

 

「答えは、君の想像に任せるよ」

 

沢木は、そう言うと軽く微笑み、話し合う前に退室した沢木の使用人が淹れたストレートティーを一口飲んだ。

 

 

 

「───で、答えはいつまでに貰えるかな」

 

ティーカップを置いた後、沢木は答えをド直球ストレートに聞いてきた。

 

コォォォ・・・と、しばらくクーラーが冷風を出す音、そして、閉じられたカーテン越しに聞こえるセミの鳴き声のみが静まり返った理事長室に響きわたった。

 

百香のこの決断は、分水嶺となる。これからどうなるか、この選択で決まる。「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪」という安直な方法で決めてはならない。

 

しかも、この数分や数日で答えを出すなど不可能に近い。

 

「・・・最低でも、1週間は貰えますか?」

 

「わかった。じゃあ17日までに私の携帯に連絡してくれ」

 

その点も沢木は把握していたのだろう。沢木の返答は意外とあっさりとしたものだった。

 

「君の返事を待ってるよ」

 

沢木は立ち上がりながらそう言うと、ソファーの上に置いてあったブランド物のバッグも持ち、理事長室の扉に手をかけた時、振り返って、こう言った。

 

「ちなみに、この件は経済産業省(経産省)、防衛省、国土交通省(国交省)などの公的機関も一枚かんでることも忘れないようにな」

 

唖然とする百香を残し、沢木は退出した。座卓の上には、ほぼ決定事項だと言わんばかりに新静岡高校の案内パンフレットと、ほぼ手続きが終わり、残りは『渡辺』の印鑑のみである編入書類がきれいに山積みにされていた。

 

「・・・どうすればいいんだよ」

 

百香のつぶやきは、誰もいない理事長室に響いたのだった。

 



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第54話(第1話)

一週間ぶりですね!私はバイトと課題に追われている毎日です。

レポート3000字以上とか私を殺す気ですか・・・。

とりあえず、忙しくて感想に返信すらできていません。大丈夫です!ちゃんとみなさんの感想は読んでいますよ!感想は次回を書くいい燃料になりますから。

さあ、どんどん感想を書くのです!


「あっれー?みんなどこに行ったんだ?」

 

沢木さんとの話し合いが終わった百香は、Aqoursが練習していると思われている屋上に行ったのだが、屋上には誰もいないし、床に汗の跡が残っていないということは、最低でも2時間以上前に練習を終えたようだ。

 

「スマホに連絡入ってっかな・・・」

 

一応、スクールバックの中にしまってあったスマホを確認したところ、曜から一件のメッセージが入っていた。

 

「そっか・・・。今日はプール掃除の回だったか」

 

プール掃除の回。ポンコツ生徒会長のダイヤがプール掃除を行う業者への依頼を忘れていたため、その尻拭いとしてスクールアイドル部にプール掃除をさせるという回だ。完璧ではなく、ポンコツだからこそダイヤ様はかわいい。異論は認めない。

 

 

百香は更衣室で体操着に着替えると、掃除用具入れからデッキブラシを一本持ち、プールに向かった。

 

 

 

 

 

第1話(第54話)

 

雲ハ空ヲ覆イダス

 

 

 

 

 

 

 

プールには、梨子とダイヤを除く7人がすでにプールの大部分の清掃を終えていた。

 

梨子はというと、今朝、東京のピアノコンクールに向けて百香を含む9人に見送られながら沼津を発ったので、この場には居ない。ダイヤはと言うと、プールサイドに立ち、掃除をしているメンバーに「この調子ではやくプール掃除を終わらせますわよ!」と、デッキブラシ片手に叫んでいた。

 

 

 

・・・いや、手伝えよ。

 

 

 

「おまちどぉー」

 

「百香ちゃん遅いよー。もうお昼過ぎてるんだからねー!」

 

「すまんすまん。結構話が長引いちまったもんでね」

 

両手でデッキブラシの柄の上の部分に顎を乗せ、頬を膨らませている千歌をプールサイドから見た百香は「仕方ないなぁ・・・」と言わんばかりの顔で笑った。

 

プールサイドの片隅にプール全体から見えるように建ててある時計は、真夏の日差しにさらされて触れないほど熱くなりながら短い針は13時の文字盤を指していた。

 

結局、昼食も千歌達とは取れず仕舞いであったが、百香にとっては仕方ないことだった。

 

「もうほとんど終わっちゃったよー」

 

「じゃあ私は要らないな」

 

百香はプールにはしごで降りたのだが、千歌未だに頬をぷくーと膨らませて不満を言ってきていたため、百香はすぐに背を向けてプールサイドに上るはしごに向かおうとした。

 

「いかないでよ!手伝ってー!」

 

「嘘だよ」

 

「なーんだ。よかった」

 

結果的に、百香はプール掃除に参加することになったため、千歌は安堵のため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奇麗になったね」

 

「ピッカピカずら!」

 

「ほら見なさい!やってやれないことは無いですわ!」

 

「「「「ええええーーー!」」」」

 

一切手伝わなかったダイヤがドヤ顔でこんなことを言いやがったため、Aqoursのメンバーからはブーイングが続出。残当(残念でもないし当然)である。

 

「そうだ!ここでダンス練習してみない?」

 

「Oh!面白そうデース!」

 

「滑ってケガしないでよ?」

 

果南の提案に、鞠莉はノリノリであった。ダイヤの注意も、「ちゃんと掃除したんだし、平気よ!」といった謎理論でねじ伏せた。

 

「じゃあ、みんなも位置について」

 

果南の掛け声でAqoursの全員がライブの時の定位置につき百香はプールサイドからAqoursの練習を見る、ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───あれ?」

 

全員がポジションにつき、いざ、練習開始となったところ、千歌が違和感を感じた。

 

「そっか。梨子ちゃんがいないんだよね」

 

果南がそう言うように、梨子のポジションは誰もいない空いた空間になってしまっている。これではライブの見栄えが悪くなってしまう。

 

「位置を変えるずら?」

 

「それとも・・・、梨子ちゃんの位置に代わりに入るか・・・」

 

「代役って言ってもねぇ・・・。百香は千歌っちとの身長差が凄いし・・・」

 

果南と鞠莉が、梨子の代わりの人を見つけるのに考え出していた。百香は、もしかしたら自分が選ばれるのではないのかとひやひやしたのだが、鞠莉に速攻で却下され、心の中で、胸をなでおろした。

 

「身長も近くて、千歌ともコミュニケーションが取りやすい人と言えば・・・」

 

果南のこの言葉とともに、視線がある人物に向けられた。

 

「へ?え?わ、私!?」

 

そう、渡辺曜だ。当たり前っちゃ当たり前だ。千歌とも仲がいいし、身長も同じだし、アニメ上での正しい動きだし。百香は、この場では、踊るメンバーにはもう選ばれることは無いと確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、曜のポジションには百香が入りなよ」

 

「え?」

 

が、予想外の出来事が起きた。果南が曜のポジションが空くため、そこに入れと言ってきたのだ。

 

「いや、なんで驚いてんの?」

 

「だって、私マネージャーだし、もともとこのダンスは8人でも成り立つように作っていたし、それに背も大きいし・・・」

 

「?梨子ちゃんが抜けること、知ってたの?」

 

「っ!?」

 

藪蛇だった。まさかルビィにこんなことを聞かれるとは百香も思っては無かったので、内心焦りながら、頭をフル回転させ、答えをすぐに考えた。

 

「いや、ケガとかしちゃって抜けることになっちゃった時のために対策をしていたんだよ」

 

「なるほど・・・。凄いね!百香ちゃん!」

 

「でも、一応百香も踊れるでしょ?この際、踊っちゃえばいいのに」

 

ルビィはどうにか納得したのだが、果南は納得する様子が無かった。

 

「いやでも、エントリーには私の名前書いてないでしょ?だから無理だろ?」

 

「え?百香ちゃんの名前、もしものために書いちゃったよ?」

 

「千歌ぁぁぁ!」

 

「うわぁ!?どうしたの?そんなに嫌だったの?」

 

「いや、そうじゃないけど、そうじゃないけど!」

 

千歌が少し申し訳ないような表情をしながら頭を抱えた百香の顔を覗き込んだ。

 

踊れない理由なんて面と向かって言えるわけがない。百香はそう思っていた。

 

「もう、仕方ないなあ。じゃあ、明日までに決めておいてね。曜のほうは大丈夫?」

 

「え?あ、うん」

 

「じゃあ、屋上で梨子ちゃんのところに曜を入れて練習してみよっか」

 

果南がようやく折れてくれたので、とりあえず梨子のポジションに曜を入れて梨子と千歌が動くところを屋上で練習することとなった。

 

「1,2,3,4,5,6,7,8,1,2,3,4,5,6,7,8」

 

「うわぁ!?」

 

「ごめん、千歌ちゃん・・・」

 

「これで10回目ですわ・・・」

 

だが、何回練習しても、曜と千歌はぶつかり合ってしまう。この後数十回練習したが、結局ぶつかり合ってしまうということには変わりなかった。

 

その後、このままでは埒が明かないと思った果南により、別の練習をすることとなり、学校での練習終了後に自主練をし、その練習でどうにかするしかないという結果になった。

 

「じゃあ、今日の練習はここまでだ。各自体をほぐしておくように。以上、解散!」

 

「はいはい。分かってるって。それよりも百香、踊るかどうか、明日までに決めておいてね」

 

「・・・わかったよ」

 

数時間後、屋上での全体練習は終わり、百香の掛け声でAqoursのメンバー全員の力が抜け、リラックスしたような感じになったのだが、果南がプールで言ったことを忘れていなかったようで、百香に釘を刺した。

 

その後はそのまま帰宅したり、三津中心部のコンビニ裏でダンスの自主練習をしたり、コンビニに涼みに行ったりと、各々自由に行動しながら帰路についた。

 

ちなみに、千歌と曜のダンス練習はコンビニ裏で行った時は衝突しなかった。曜が梨子の動きの真似をしたため、成功したのだった。なお、それで曜自身が満足しているかどうかはまた別の問題であったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

東海バス、最終沼津駅行。

 

駿河湾に沈みかけている夕日に照らされている車内には、曜、善子、百香、そしてバスの運転手を除いた人の姿はない。3年生3人とと花丸、ルビィ、千歌は歩いて帰った。

 

バスは、静浦の海岸線を貫く国道を沼津市街方面に向かって走行していた。

 

この時、一番後ろの席に座り、善子と2人で話していた曜は、異様に静かであった、善子の横に座る百香に違和感を覚えた。

 

百香は、何も話さない。寝ているわけではないが、2人共何かを考えているようだった。

 

「百香ちゃん・・・。もしかして、踊ること、まだ悩んでるの?」

 

「それもあるが、少しな・・・」

 

聞いてみても、百香はあいまいな答えしか出さなかった。

 

その百香の様子を表すかのように、バスの車内は少しずつ暗くなり始めた・・・。



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第55話(第2話)

虹ヶ先メンバーに栞子が追加されました!まさか栞子がスクールアイドル同好会に入るなんて思ってませんでした。

そして、千歌ちゃんのソロアルバム。あれ最高ですよ!聞いたとき、ベッドの上で悶えましたよ!これ全員分聞いたら私、死ぬんじゃないかなって思います。


2016年8月9日、夜。

 

私、高海千歌は、梨子ちゃんの部屋の前ではないほうの窓の窓枠に肘をつきながら考え事をしていた。考えている事は曜ちゃんや梨子ちゃんの事ではなく、百香ちゃんの事だった。

 

彼女(百香)は怪しい。私の直感がそう訴えかけていた。こう思い始めたのは、浦女の入学式の時からだった。

 

まず一つ、私が最初にスクールアイドル部に勧誘した時、答えをなかなか返さなかったことは、百香ちゃんはあまりスクールアイドル部に入部するのには乗り気ではなかったと考えられる。しかし、彼女は勧誘の次の日に自ら進んでマネージャーになった。理由は聞いていないが、「心代わりして入部した」と考えるのならばそれはおかしすぎる。

 

二つ、ファーストライブの前日、終バスを逃した曜ちゃんと百香ちゃん姉妹は、2人の母親の運転する車に乗って帰宅した。しかし、その後、2人の母親から「送ってくれてありがとう」という電話が来た。電話を受けたのは私で、その時は〝?〟としか思わなかったが、通話が切れた後、よくよく考えたら母親が迎えに来たのにお礼の電話をするなんておかしいことだ。このことは志満姉や美渡姉には話さなかったが、このことに関して百香ちゃんが何か隠していることは確実だろう。

 

三つ、ファーストライブの日、百香ちゃんは「事故でバスが渋滞にはまった」と言っていたが、なぜ電話をしたのだろう。普通、公共交通機関のバスの中では通話はしてはいけない。このことは一般常識だ。そそして、百香ちゃんに限って、バスの電話をすることは絶対ない。なのに、なぜ電話できたのだろうか。もしかしたら、あの時、私たちの自転車を抜かしていった自動車って───

 

・・・そして四つ。それは───

 

 

 

第2話(第55話)

─空ハ雲ニ覆ワレル

 

 

 

「ねえ、百香ちゃんについてどう思う?」

 

千歌は、梨子、善子、曜と百香以外のメンバーが集まっている部室の中でふと呟いた。梨子はピアノコンクールに向けて東京に行ってしまったし、善子、曜、百香の3人はこの後到着するバスで来るため、まだこの場に居ない。

 

「え?どうって言われても・・・私からするとただの幼馴染だよ?」

 

「ルビィは・・・頼りになる人かな・・・?」

 

「マルは・・・仲のいい友達ずら」

 

「そうじゃなくて。何か違和感、感じない?」

 

思い思いの事を言ったAqoursメンバーに対し、千歌は、そう呟いた。今の部室の中の空気は3年生の過去を探し出す時と似ていた。ただ、その時の空気とは少しだけ違和感があった。

 

「違和感・・・ずら?」

 

「そう」

 

千歌は、立ち上がると部室の真ん中壁寄りに置いてあるホワイトボードに向かった。

 

「まず、最初に私が感じたのは東京でライブがあった時」

 

「東京・・・ですか・・・?ただ、悔しかったとしか思いませんでしたよ?ルビィも、ほかの皆も・・・」

 

ルビィは、首をかしげながら思ったことを口に出す。

 

「そこだよ。百香ちゃんは確かに悔しそうな顔をしていた。でも、何故か演技っぽく見えた」

 

「演技?」

 

「そう。百香ちゃんは前から知っているような感じだった」

 

千歌は、そう言いながらペンを持ち、ホワイトボードに〝知っているような感じ〟と書き込み、そして、丸で囲んだ。千歌がペンを元の位置に戻すと、沈黙に変わってしまった部室内にカチッと言うキャップをペンに指す音と、ペンを置く音が響く。果南と花丸は思い当たる節があったのか、少し暗い顔をしていた。

 

「何か思い当たる事があるんだね」

 

「4月、千歌が、私をスクールアイドルに勧誘したでしょ?その時、百香が勧誘されないようにフォローしたってこと」

 

「それって、その時の表情を読んだ百香さんが、千歌さん自身が地雷を踏まないように考えてくれてたんじゃありませんの?」

 

「それに、私、誰にも話してないのに、何故か百香は何か知ってそうな素振りを見せてた」

 

〝ちなみにこれはカマかけたから仮定から確信になった〟と、果南は後に続けた。

 

そう、千歌が何回か果南をスクールアイドルに勧誘した時、百香が千歌のことを止めていた。しかもその後、果南に理由を尋ねられたとき、適当にはぐらかしていたから、果南は怪しく思っていた。そして、昨日の踊ることの拒否。このことも、果南から百香への不信感が強まった。果南自身、幼馴染の百香を疑いたくなかったのだが、これまでの百香の行動は、この感情以上に不信感を募らせる結果となってしまった。

 

「なるほど・・・。花丸ちゃんは?」

 

「マルは、善子ちゃんを追いかけた時ずら・・・。あの時、善子ちゃんがどこに行くか分からなかったのに、タクシーに乗った時、行き先を深海水族館にしていた。もしかしたら、行き先を知っていたのかもしれないずら」

 

「やっぱり、百香ちゃんは何か知ってる」

 

千歌のこの言葉は、百香に向けていた疑問を確信に変えたことを決定づけていた。

 

「チカッチはどうするの?このまま百香に聞くの?」

 

珍しく鞠莉が神妙な顔で千歌に聞いた。鞠莉が言うのには、大会が近く、さらに、今のままでもいいのではないのか、そして、この件については聞いてはいけないかもと思っていたため、聞くことには消極的だった。

 

「私は聞いたほうがいいと思う。梨子ちゃんが東京に行ったように、ちゃんと百香ちゃんの心の中を聞いたほうがいい。百香ちゃんがAqoursをどう思ってるのか、浦女にどうなってほしいのか・・・」

 

「なるほど・・・。チカッチがそう言うなら、私は止めない」

 

鞠莉は、組んでいた腕を解き、納得したような表情をした。これから千歌が百香に何を言おうと、鞠莉は止める気はないのだろう。部室にいるメンバーはそれを悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはヨーソロー!!!」

「おはヨーソロー」

「おはよう」

 

それから十数分後、曜、百香、善子の三人が部室に現れた。

 

「お?どうした?皆して暗い顔して」

 

「そうだよ!そんな顔みんなに似合わないよ!」

 

「それもそうね」

 

この言葉にもにある通り、3人は部室に入った瞬間、同じようなことを思っていた。それほど、この部室内にいるメンバーは深刻そうな顔をしていた。

 

「百香ちゃん、聞きたいことがあるの」

 

「お、何だ?」

 

深刻そうな顔をした千歌と対になるように、百香は少し笑いながら千歌に聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百香ちゃん、あなたは何を知ってるの?」

 

「何がだ?」

 

百香の顔はまだ笑顔。

 

「東京の時の顔。演技のように見えた。まるで知っていたことみたいに?」

 

「演技?何言ってるんだ?」

 

少し変な顔をしているが、百香の表情からするに、まだ余裕があると思われる。

 

「善子ちゃんを追った時、何故か行き先を知っていた」

 

「あ、ああ、勘だよ、勘」

 

暑さからか、それとも緊迫からか、百香の顔に一筋の汗が流れるが、まだ表情を崩さない。

 

「それに、なんで踊らないの?」

 

「昨日言っただろ?身長が大きいし、それに、俺はマネージメントだし」

 

「〝俺〟?」

 

「あ、いや、私はマネージャーだし・・・」

 

ずいずいと千歌が百香に迫ってくるため、百香は少しだけ後ずさりした。この光景を曜は不思議そうに眺めているだけであり、善子はこの状況を何か考えながら見ていた。

 

「百香ちゃん、正直に答えて」

 

「あ、ちょっと、私、用事を思い出した」

 

「待ちなさいよ」

 

「・・・善子」

 

ついに、百香の余裕がなくなってきたのか、千歌に背を向けて部室から出ようとしたが、ドアを塞ぐ感じで善子が立ち、百香を部室から出さないようにしていた。

 

「もうこの際、話したら?」

 

「言える訳ないだろ」

 

ついに、百香の顔の余裕が無くなった。

 

「言えばいいのに。貴女が「言うな!」百香がAqoursのこの先を知っている転生者だって!」

 

善子は、百香の制止も聞かずに話を続けていく。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「善子ォ!!!」

 

スクールアイドル部の部室に百香の怒号が響いた。



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第56話(第3話)

栞子がスクスタで配信されたので、近未来ハッピーエンドや恋になりたいAquarium、その他ソロ曲を躍らせたりしています。そのため今は栞子がスクスタ内でオモチャになっています。

楽しいですよ。栞子にいろいろ躍らせるの。正直草を生やすのが禁じえないです。

絵里しかり、ダイヤしかり・・・、せつ菜しかり・・・。どうして生徒会長はみんなポンコツなんだろう・・・。ということは・・・、栞子も・・・。

生徒会長はどうせみんなポンコツになる(酷い偏見)


第3話(第56話)

─雨ハ降リダス

 

 

 

 

 

 

「なぜ話した!言え!善子!」

 

百香は善子の胸ぐらをつかみ、大声で怒鳴った。

 

「ちょっと!百香ちゃん、やめなよ!」

 

「うるせえ!今は善子に聞いてるんだ!」

 

曜が百香に胸ぐらをつかむのを止めさせようとするが、百香は聞く耳を持たない。

 

「なんで話したんだ!善子!」

 

「だって、百香、言うなって言ってなかったじゃない!」

 

「何だと!?」

 

善子も百香に負けじと、声を出す。善子のセーラー服を掴む百香の力が強くなる。

 

「あの時〝教えたら、傍観者になってしまう〟としか言ってなかったじゃない!」

 

〝はっ〟と、百香は急に冷静になった。それと同時に、あの時善子に釘を刺し忘れていたことを思い出した。彼女にとっての誤算であった。

 

そして、ここで善子に手を上げてしまっては、それこそ取り返しのつかないことになってしまう。

 

「頭に血が上りすぎてるわよ。少しは冷静になりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すまなかった」

 

善子は、自身の胸ぐらを掴んでいる百香の手を右手でゆっくりと離した。百香と善子はおよそ20㎝も身長差があるため、百香に胸ぐらを掴まれていた時、善子は少し宙に浮いていたが、手を離したときに床に着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく、部室内は静寂に包まれた。誰もこの状況を進めようとすることが恐怖だったのだ。下手すると、また百香の逆鱗に触れてしまう。ついさっきの善子の時はどうにか百香を冷静にできたが、次はどうなるか分からない。

 

そして、その静寂を壊した人がいた。

 

「百香ちゃん、教えて」

 

「ち、千歌さん!」

 

それは、千歌であった。ダイヤに制止されたが、それも振り切り、百香の下へと移動した。

 

「知ってるんでしょ?Aqoursの、浦女の未来を」

 

千歌の声は子どもに語り掛けるように優しかった。

 

「言える訳がない。怖いんだ。俺は・・・」

 

「怖いって・・・、私たちがそのことを知ってしまうことが・・・?」

 

「言ったことにより、未来が変わって最悪な結果になる。俺は、そうなってしまうことが怖いんだ・・・」

 

さっきまで怒号を飛ばしていた姿とは打って変わり、声は震え、今にも泣きそうになっていた。

 

「もしかして、百香ちゃんが踊ろうとしなかったのも・・・」

 

「そうだよ。未来が変わるのが怖かったんだよ、俺は」

 

「未来・・・」

 

百香の回答を聞いた千歌は、しばらく考えた。また、部室内は沈黙に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百香ちゃん、未来を教えて。私たちが辿る未来を・・・」

 

「「「「!!!」」」」

 

千歌のその言葉で、部室内には衝撃が走った。

 

「え、ちょっと!この状況で聞くの!?」

 

果南が珍しく焦っている。果南もこの状況はマズいと感じたのだ。しかし、千歌は聞くことを止めない。

 

「だって、いつ聞くの?後に聞いたらうやむやにされるかもしれない」

 

「それはそうだけど・・・」

 

「聞くなら今しかない。教えて・・・、百香ちゃん」

 

焦る果南を横目に、千歌は百香に優しく語り掛けた。

 

「私は知りたいの。この後Aqoursのがどうなるのか、浦女がどうなるのか・・・」

 

視線が、百香に集中する。その百香は下を向き、何か考えているような感じであった。

 

しばらくすると、百香に向けられている視線は少しずつ千歌にも向けられるようにもなった。千歌は、しばらく考えている百香を見て、〝言おうか、言わないか迷っているかもしれない〟と思っていた。しかし、その予想は間違っていた。確かに、百香は考え、悩んでいた。しかし、悩んでいる事は、千歌の考えとは、全く別のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───そして、答えが出た。

 

 

 

 

 

「・・・わかった。千歌がその気なら、俺は最後まで抗ってやる」

 

百香は、自身のスクールバックから退部届を出し、折りたたみ机の上に置いた。

 

「「「「!?」」」」

 

部室内に動揺が走った。この流れなら、普通は話すだろうとこの場に居るみんな思っていたからだ。

 

「俺は、話す気はない。Aqoursの未来も、浦女の未来もだ」

 

「何で・・・」

 

「未来を変える権利なんて、ないからだ」

 

そう言い放つと、百香は千歌に深々とお辞儀をした。

 

「千歌姉。およそ16年間、ありがとう。果南も、鞠莉も、ダイヤも、梨子姉も、曜姉も、善子も、ルビィも、花丸も、今までありがとうな。今まで楽しかったよ。いろいろ世話になった」

 

「百香!それってどういうこと!?」

 

百香の言葉で8人があっけに取られていたが、すぐに善子が百香に聞いてきた。普通に考えて、百香の言葉はおかしかった。〝今までありがとう〟ということは、部活を辞める以外に、学校も辞めることだ。1クラスしかなく、なおかつ、少人数の学校での別れの言葉は、そういったことを意味していた。

 

「鞠莉にでも聞いた見たら?理事長ならこの話は知ってるだろうし」

 

百香は軽い口調で話しながら、部室内にある百香自身の私物をスクールバックに詰めていた。

 

「もうここに来る事はないでしょう。さようなら」

 

詰め終わった後にそう言うと、傍観者になっているメンバーを見ながら、百香は、部室を後にした。

 

 

 

 

「鞠莉ちゃん、どういうこと?教えてくれる?」

 

百香が部室を去った後、千歌が鞠莉に尋ねた。鞠莉は、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、話し始めた。

 

「百香には、新静岡高校からの転入の誘いが来ていたの」

 

「転入って、この時期にですか?」

 

「そうよ。私には理由は分からないけど、何らかの力が働いてると思うわ」

 

ダイヤが、首を傾げた。ふつう、転入は引っ越しなどをすることによって、今いる学校に通えなくなった時にすることだ。しかし、向こうから転入のお願いをされることなどあるだろうか。このような怪しいことだったため、理由は聞かされなかった鞠莉は怪しく思っていたのだ。

 

どうしてこうなってしまったのかと、ため息をついた曜は窓の外を見た。さっきまで澄んだ水色で着色されていた空は、灰色に覆われていて、今にも雨が降り出しそうな感じだ。

 

「・・・今日はもう帰らない?練習できる雰囲気ではないでしょ」

 

「それもそうずらね」

 

「仕方ないか」

 

善子の提案で、とりあえず今日は解散することにした。このような暗い状態で練習なんてできるはずがない。それが全員の総意だった。

 

「じゃあ、今日はとりあえず帰って身体を休めておこうか。百香ちゃんの話はまた今度で。じゃあ、解散」

 

Aqoursはとりあえず今日は解散として、今日は帰ることにした。千歌の声の後に、各々が帰る準備を始めた。部室の中は各々が動く音を出す以外は静寂に包まれており、誰も言葉を発していなかった。

 

 

5分ほどで全員帰る準備を終え、全員で部室を出ることになった。誰も話さなくても、毎日全員でバス停まで一緒に帰るというのが勝手に決まっていたので、全員で動くことはほとんど日常になっていた。

 

「あ・・・、鍵・・・」

 

「そっか・・・、いつも百香ちゃんが・・・」

 

帰るときになって、誰もカギを閉めていないことにルビイが気づいた。スクールアイドル部のカギはいつも百香が閉めていたのだ。

 

結局、一応部長である千歌がスクールアイドル部のカギを閉め、職員室のキーボックスにカギを返してきて、帰宅することになった。

 

昇降口ではAqoursメンバー8人が千歌を待っていた。しかし、待っている8人が話すことはなく、千歌の〝お待たせ〟と言う言葉だけであった。

 

その後も発する言葉はなく、全員が沈黙したまま昇降口で上履きから下駄箱の中に入っているローファーに履き替えた。

 

 

 

 

 

「あっ、雨───」

 

昇降口から校舎外に出た時、誰かがふと、そう言った。

 

その言葉を聞いた誰もが空を見上げると、空から水滴が落ちてきた。

 

そう、雨だ。

 

雨は段々と強くなり、暑い夏の沼津は段々と冷えていった。



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第57話(第4話)

57話です。
今回からアンケートを追加しました。第三章が終了後に行うコラボ回の前後に投稿する番外編のストーリーを一つ決めてほしいです。


およそ一か月ぶりの白い空間で、百香、いや、百香の姿の慶喜は立っていた。

 

向かい側にいるのは、やはり、百香だった。

 

百香(慶喜)は、最初、ドッペルゲンガーだと思っていたが、今となっては、全く別ではないが、同じ人ではない別の人だと感じ取っていた。

 

この空間は、二、三ヵ月ほど前から睡眠時に見る夢だ。夢と言っても、起床後に記憶が消えるわけではなく、はっきりと残っている。

 

そういった異常な空間に百香(慶喜)達は居た。

 

「どうやら、貴女のことがバレたみたいだね」

 

「あれはお前の企みか!?」

 

軽い口調で百香が百香(慶喜)に言ったため、百香(慶喜)は百香に詰め寄った。

 

「まさか。私はこの空間の主。それ以上でもそれ以下でもない。貴女のいる現実に影響を与えるなら、それ相応の対価を支払わなければならないしね。それを払う余裕すらも、この世界、そして、私にはない」

 

良く事情が解っていない百香(慶喜)を横目に、百香はため息をつき〝最も〟と続けた。

 

「貴女の行動で世界は変えられる。現実に生きているのだから」

 

「それってどういう事だ」

 

百香(慶喜)がさらに百香に詰め寄るが、それを無視して百香は話を続けていく。

 

「もう貴女の身体が夢から覚める。また会いましょう」

 

「おい!ちょっと待て!」

 

「さようなら」

 

百香の後ろから空間は暗闇に包まれ、百香の姿を完全に闇に包みこみ、そして、百香(慶喜)自身も、暗闇に包まれた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4話(第57話)

 

─雨ハ振リ続ク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月11日。

 

昨日の朝から降り始めた雨は、今も止むことなくざあざあと降り続けていた。

 

『昨日から東部地方で降り始めた雨は今も止むことなく、今も降り続けています。今現在の狩野川の水位は平常時と変わらず───』

 

無人のリビングに置かれているテレビから流れているローカルTV局のニュース番組は、何も言葉が発せられない渡辺家のリビングの中で、唯一言葉を発し続けた。

 

それ以外で屋内で出されている雑音は、百香の部屋の中から出てくる大きな物音だけだった。

 

 

 

 

「これは、置いていく・・・、これは持っていく」

 

今現在、百香は部屋の中で引っ越しの準備をしていた。

 

明日にはここを発つことになっていた。

 

急な話なのかもしれないが、もともと母が新静岡高校を選択したときの場合を考えて静岡市に住む親戚に話を通していたため、すぐに出発することになったのだ。

 

もちろん、母や曜は今までと同じくこのまま沼津市の今現在の自宅に住むことになる。そのため、不要なものはこの部屋に置いていくことができる。

 

しかし、沼津に来るとなると、曜を含むAqoursメンバーに会ってしまう可能性もあるため、軽々しく帰ってくることはできない。しかも、百香は曜譲りの性格を受け継いでしまったらしく、部屋にある私物は多く、収納はキャパオーバーギリギリ。百香が静岡の親戚の家に住むということは、自分の部屋が2つになるということでもあり、すべての荷物を持っていかなくていいという点では助かった。

 

「あとは、服と筆記用具、教科書か・・・。教科書は───

 

 

 

 

持ってかなくてもいいか。新静岡(あっち)で使う教科書を買えばいいし」

 

本棚から教科書を出そうとしたが、浦女と新静岡では使う教科書が違うため、持っていく必要はなかった。そのため、百香は本棚を素通りし、自身の部屋のクローゼットから私服を出し始めた。

 

下香貫のジャンボエンチョーで購入した真新しい無地の段ボールにまず冬服を仕舞い始めた。

 

「危ねえ・・・。これを置いていったらヤバいことになってたな」

 

百香がクローゼット内で見つけたものは、今まで書いたおよそ10冊の日記帳だった。この日記帳の中には、今後のAqoursのことも書かれている。百香の秘密をもっと知ろうとした千歌達がこれを見つけてしまったら・・・。

 

 

 

 

百香は考えたくもなかった。

 

 

 

百香はクローゼットの中の冬服を一通り段ボールに入れ終わったとき、クローゼットのハンガーに引っ掛けてある、クリーニング店のタグが付いたままの制服を見つけた。

 

「浦女の冬服・・・」

 

そう、1年生である証である黄色のリボンタイがついた浦女の冬服だった。

 

「・・・記念として持ってくか」

 

ハンガーに掛かっている浦女の冬服を手にした百香は、丁寧に折りたたんで段ボールに仕舞った。

 

彼女にとっての浦女にいたという思い出。2年生の赤いリボンタイと3年生の青緑色のスカーフタイはその学年にならないと支給されないため、少し残念だな。と思ったが、あの世界でラブライバーであった百香自身が浦女に通学できたことだけでも奇跡に近いと思ったため、仕方ないか。と思うこともできた。

 

 

 

30分くらいたち、すべての冬服を段ボールの中に入れ終わったため、次は夏服を段ボールの中に入れることになった。

 

「んぉ?」

 

ちょうど、1着目を段ボールの中に入れ始めた時、床に置かれているスマートフォンから音楽が鳴り始めた。

 

発信者は〝神田 大智〟 百香からは前世の名である八名という名で呼んでいる石川県加賀市の男子高校生だ。

 

「なんだ、八名。どうしたんだ?」

 

『ああ、それがな・・・、てかお前、けっこう機嫌悪いじゃないか。何かあったのか?』

 

「あぁ?ああ、いろいろな。で、要件は何だ」

 

『今度、盆休みが終わった後に沼津(そっち)に行くことになったからな。それを知らせるために連絡したんだ』

 

そう言った後、八名は嬉々とした声で「善子とまたゲームするんだ」と言っていたが、百香はため息をつき、残念そうに返答した。

 

「すまん。沼津に来るのは良いが、私は居ないからな?」

 

『え?何でだよ』

 

八名が聞いてきたため、百香は昨日のことをすべて話した。

 

・千歌達が百香の疑問に思っていたことを問い詰めてきたこと

 

・善子が百香自身のことを話したことでAqoursメンバー9人全てに前世がバレたこと

 

・千歌に未来を問いただされたこと

 

・艦長から提案された新静岡高校への転入を承諾したこと

 

・明日、沼津を発ち静岡に向かうこと

 

を話した。八名はしばらく考え、

 

 

 

 

 

『慶喜。お前、それでいいのか?』

 

 

 

 

 

そう百香に聞いてきた。

 

 

 

百香は、段ボールに仕舞おうとしていた1着の白のブラウスを床に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前のその声、後悔しているように聞こえるが───』

 

 

 

 

 

 

 

「後悔なんかしてない。これでいいんだ。これで」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時の百香の声は、後悔しているような、とても暗い声だった。この時のこの感情は、百香自身には分からなかった。

 

心なしか、降り続く雨が強くなったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百香からの電話が切れた後、八名はリビングの中心に置いてあるソファーにどっしりと座った。

 

ソファーの向かい側にあるローテーブルには、八名のスマートフォンが、電源がつけられたまま置かれており、画面には電話帳を表示していた。

 

「善子が話した・・・、か・・・」

 

八名は、百香からの報告を思い出しながら、そう呟いた。

 

八名は、この場所で百香と話したとき、善子は口が堅いと言っていた。たしかに、アニメなどを見れば善子は口は堅いのかもしれない。

 

だがこれは現実だ。

 

そのアニメでは描写しきれない部分もある。

 

善子が百香のことを話したのは、言い訳ができないほど百香が追い詰められたのか、それとも、八名達が知らなかっただけで本当は何でも話してしまう愚か者だったのか。

 

それとも、ふとした拍子で善子がぼろを出してしまったのか───

 

 

 

 

 

 

 

当事者ではない八名には何があったのかはどうしてもわからない。

 

「どうすればいいんだ・・・」

 

直接会って話をしなければ、百香は本音を話してはくれない。過去もそうであった。

 

一番効果的なのは、こんな文明の利器で話し合うのではなく、百香やその時の当事者に面と面で向かい合って話を聞くことだ。

 

しかし、護衛艦という狭い空間に165名も居た過去のあの時とは全く違う。

 

本人に会おうとしても加賀市と沼津市は日本列島の反対側。移動だけで1日を使ってしまうため、易々と行けるわけもない。

 

沼津に比較的近いところに住んでいる林や艦長にこのことを任せようとも思ったが、林は八名と同じくらい百香と仲が良かったわけでもない。

 

林と百香はラブライブ!という共通の話題があること以外は、ただの上官と部下という関係であり、昔よりも仲が良くなったとはいえ、まだ百香とは付き合いが浅く、完全に仲が良くなっているとは言えない。そんな彼女に百香を託すのは危険だと八名は感じた。

 

艦長は、百香のことを八名と同じくらい知っている。しかし、艦長は沢木グループの令嬢であることに加え、今は百香の新静岡高校への転入手続きについての関係各所への手回しをしているらしい。八名は、そんな艦長にこのことを託すのはさすがに気が引けた。

 

しかも、この件は八名を含め、詳細を知らない。八名は百香自身から話を聞いたが、実際に見たわけでもないため、百香からの話に疑問符をつけていた。

 

「となると、この件を任せるのは・・・」

 

八名はソファーから身を乗り出し、ローテーブルの上に置かれているスマートフォンの画面を見た。ディスプレイに映された電話帳には高校の友人、中学の友人、小学校の友人などの八名の身近な人物が載っていた。

 

「まあ、博打になるが、やってみるしかないか・・・」

 

覚悟を決めた八名は、ソファーから立ち上がると、ある一件の電話番号をタップした。

 

 

 

 

〝蝶なんてどうでもいい。慶喜の悲しい姿なんて見たくない〟

 

 

 

左耳に聞こえる信号音を聞き漏らせまいと神経を集中しながら、雲一つない加賀市の青空を眺めていた。



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第58話(第5話)

どうも。一週間ぶりでございます。

ドームツアーが開催できなかったのは、誠に遺憾だと思います。本当にコロナ〇ね。

そして、Aqoursclubの予約ができていなかったのか、それとも取り消されたのか、予約がなかったんですよね・・・。そしてバイトのシフト表で自分だけ名前消されてるし、バス乗り遅れたり、電車乗り遅れたり。なんか、私運悪くない?善子かな?


8月12日午前9時

 

静岡県沼津市───

 

10日から降り続く雨は、一向に止む気配はない。発達した雨雲が沼津近辺に留まり、一度も止むどころか弱くなることが無かったため、これを異常事態だと考えた気象庁は調査を開始したと今朝の全国系のテレビニュースで放送された。

 

沼津市一帯は、この話題で持ちきりだ。

 

この雨が続けば、市街地は水没するだの、川が氾濫するだの、根拠のない話題さえ飛び交っていた。

 

事実、沼津市街地を東西に横切っている東海道線。その下を潜る3つのアンダーパスは水没しそうになり、通行止めの措置が取られ、沼津市近辺の交通に混乱をきたしていた。

 

だが、アンダーパスが水没しようがしまいが、地上を走る東海道線には関係のないこと。そのため、百香は静岡に向かうのに異常はないと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話(第58話)

 

─雨ハ止マナイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渡辺家では、もうすでに百香が引っ越しの準備を終え、スーツケースを玄関に置いて、時間までリビングにある椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた。

 

その百香の斜め向かい側には、アイスココアが入ったコップを手にした曜が座っていた。

 

コップの中を見つめながら曜は、百香に聞いた。

 

「百香ちゃん、本当に新静岡に行くの?」

 

「ああ」

 

コーヒーを飲みながら百香は答えた。だが、百香の視線はリビングの片隅にある液晶テレビに向けられており、曜の視線はコップの中に向けられたままだった。

 

「そっか・・・」

 

曜のその言葉を最後に、リビングに聞こえる音は、テレビの音と飲み物を飲む音と、雨音に混じった小さな雑音だけだった。

 

「百香。行くわよ」

 

「ちょっと待って。今飲み干すから」

 

階段からやって来た母親が、百香にもう出発する旨を伝えた。それに答えた百香は一気にコーヒーを飲み干し、椅子から立ち上がるとキッチンにコップを置いた。

 

「もう、行っちゃうの?」

 

ずっとコップばかり見ていた曜が顔を上げ、リビングを出ようとしていた百香のほうを向きながら、少し悲しそうであり寂しそうでもある顔をしながら聞いてきた。

 

それに対し、百香はあっけらかんとした声で〝ああ〟と答えると、一度だけ曜のほうに振り向いた。

 

「・・・じゃあな」

 

それが、リビングを出る時に言った言葉だった。その時だけ、百香と曜と目があった。

 

その時の百香の顔は、未練がましい顔であった。

 

ただ、座っているだけしかできなかった曜のスマホがバイブレーションを出し始めた───

 

 

 

 

 

 

 

 

下河原町にある渡辺家から沼津駅南口までのおよそ10分のドライブ。

 

字面からすると普通のドライブのように思えるのだが、百香にとっては家に戻ることのない片道のドライブであった。

 

「ねえ、百香。本当に良かったの?浦女から新静岡に転校して」

 

ハンドルを握る母が、そう言いながらチラリと百香の顔を見てきた。

 

「ああ」

 

百香の返答はこれだけだった。

 

母親は、この回答を聞いた後、何か言いたそうな顔をしていたが、「百香自身が決めたことなら、私がとやかく言う筋合いはないわ」と言った。

 

進学先に関しては〝自分自身が堅く決めたことには何も口出ししない〟これが渡辺家の昔からの教育法だった。

 

これは、(他人)が決めたこと、つまり、自分の責任で決めなかったことで誰かのせいにし、自分自身をつらくしてしまう。そういうことを避けるためにこういったことを行ってきた。

 

それは、曜も、百香も進学先の高校を決めるために行ってきたことであった。曜は、静真高校か浦女か、百香は新静岡か浦女か。で進学先という名の選択してきていた。

 

新静岡に行くということで、もともと通っていた浦女から転校してしまうということは、通常、親から咎められるはずのことだ。

 

住む場所も、学費も、教科書も、人間関係も。すべてが違うところにたった半年で移動してしまうことだからだ。しかも、新静岡側から呼ばれたとはいえ、転入する時に、いくらか転入費用がかかってしまう。

 

こうしたことがあるのに、母や父は全く百香を咎めることはしなかった。家が比較的裕福であることにも加え、上記のような教育法も関係しているのかもしれない。

 

 

ただ、百香にとっては申し訳なさでいっぱいだった。沢木さんが手を尽くしてくれたとはいえ、百香は一般生で新静岡に転入する。浦女では特待生、新静岡でも、入試時では特待生であり、どちらも入学金・授業料を免除されるということであったのだが、一般生はかなりの学費が要求される。高校を変えるだけでも親の負担が増えるめ、それだけでも申し訳ない気持ちはあったのだが、一般生であることでかなりの学費を要求されることもあり、私立の学費の高さを知っており、前世の時、娘の受験で目を疑った記憶も鮮明に残っていることから、親に顔向けできないほどであった。

 

 

 

そのまま会話は続かないまま、母の運転する白の軽自動車は沼津駅南口ロータリーの一般車乗降場に止まった。

 

母は百香より先に車から降り、スーツケースが入っているトランクを開け、トランクを出した。

 

「ありがとう」

 

百香が母にお礼を言うと、少し寂しそうに微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───もう、行っちゃうのね。百香」

 

母は、開けられたトランクのドアの下で優しく百香の頭を優しく撫でた。どこか暖かく、そして、切なくなってしまう撫で方であった。

 

「ああ。もうすぐで時間だ」

 

乗降場から見える沼津駅南口駅舎の時計は、10時25分頃を指していた。百香の乗る普通電車島田行は10時36分に沼津駅を出る予定で、53分後の11時29分に静岡駅に着く予定である。

 

「静岡に行っても、頑張ってね」

 

「ああ」

 

泣きそうな顔で母が言ってきたので、百香は力強く頷いた。

 

母は、トランクのドアを閉めてから運転席に戻っていき、百香は雨の降る中、右手に傘、左手でスーツケースをゴロゴロと音を立てながら動かして南口改札に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

夏休みの昼間であるのにもかかわらず、車社会が進んでいるのか、それとも、雨が降り続いているのか、沼津駅南口駅舎内の改札前のコンコースにいる人の姿はまばらであった。

 

駅事務室と駅ビルが合わさった南口駅舎内コンコースの吹き抜け。見上げると、2階にある大手百円ショップの店舗名が書かれた窓ガラスがある。

 

初めて沼津に来たときは、電車で来たためこの駅舎が沼津に足を踏み入れた初めての地であった。あの頃の百香、いや、慶喜は、この駅舎に降り立つだけで興奮したものだった。

 

しかし、百香になってから早15年半。この沼津駅、いや、沼津自体が百香にとっての日常になっており、無意識的に()()()()()()()と勝手に思い込んでいた。

 

「そっか・・・」

 

しかし、沼津を離れる時である今、百香は気づいてしまった。当たり前で、そして日常であったこの街は、百香の一部に()()()()()()()いた。

 

島田行きの電車が到着する時間が近づき、もうそろそろ改札口を通らなければならないと百香は思い、スカートの右ポケットに入っている関東・東北地方の交通系ICが内蔵されたスマートフォンを出した。

 

 

 

 

 

「・・・っ」

 

改札口を抜けようとしたとき、不意に右手が震えた。

 

覚悟は決めていた。しかし、頭ではわかっていても、カラダでは納得できていなかった。

 

「行くしかないんだ・・・」

 

小声でそう呟くと、震える右手を抑えながら、改札口を通過した。

 

そのまま左に行くと、ホームに続く跨線橋の階段がある。

 

跨線橋の階段はいつもより長く感じ、階段を上る気力が削がれてしまうように感じてしまう。

 

幸い、隣にはエレベーターがあるので、エレベーターを使うことにした。

 

 

跨線橋を渡り終わり、静岡方面の1、2番ホームにたどり着いた。ホームには、島田行の電車が1番線に到着するアナウンスが鳴り始めていた。

 

三島・熱海寄りの線路から、国鉄時代に設計されて民営化後に製造された3両の車両と10年前ほどに製造された3両の車両、計6両の電車がホームに滑り込んできた。

 

ゆっくりと車体を揺らしながら、百香の立っている乗車位置にドアを合わせようと、停止し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に電車が停止し、ドアが開いた。

 

「百香ちゃん」

 

乗り込もうとしたとき、後ろから声がした。



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第59話(第6話)

スクスタのキズナエピソード読んだら、あなたちゃんがかなりみんなに好かれていることがわかりました。

これ下手すると28人ハーレムじゃね?そのうち歩夢に刺されるぞ・・・あなたちゃん・・・


「百香ちゃん」

 

百香が電車に乗り込もうとしたとき、後ろから声がした。

 

 

 

 

 

振り返ると、千歌、ルビィ、花丸、善子、鞠莉、ダイヤ、果南、そして、曜が立っていた。

 

そう、梨子を除いたAqours全員がこの場に集まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千歌の声に答える形で、ドアから車両内に入ろうとしていた百香は足を止めた。

 

「・・・何しに来た」

 

「百香ちゃんを連れ戻しに来たんだよ」

 

千歌は、真剣な顔をしながら百香を見つめていたが、百香は自嘲するような顔で薄笑いした。

 

「連れ戻す?何で?」

 

「百香ちゃんには居てほしいの、Aqoursに!」

 

「そんなことはできない」

 

千歌が強く百香に進言するが、百香の表情は変わらない。

 

「なんで?」

 

「俺はAqoursに居なかった存在。あの世界のAqoursとは条件が違っているんだ。条件が違えば、進むべき未来も、その通りに進まなくなってしまうかもしれないからだ」

 

「たしかに、百香ちゃんが前いた世界のAqoursでは百香ちゃんは居なかった。でもね、百香ちゃんは今、ここに居るじゃん。ということは、もうここは別世界なんじゃない?」

 

「・・・どういう事だ」

 

百香の頭は少し混乱していた。この場にAqours全員が来ることが想定外であったし、今起きている現実を受け入れられていなかった。

 

「だって、善子ちゃんが言ってたけど、百香ちゃんが元居た世界のAqoursには、百香ちゃんの存在、いや、曜ちゃんの妹すらいなかった。そうでしょ?」

 

「確かにそうだか・・・」

 

確かに、現実世界のAqoursは9人。そして、曜は一人っ子で妹は居なかった。

 

「百香。貴女、他にAqoursに関する何か持ってるでしょ?前世から持ってきた貴女の車があるなら必ずあるわよね」

 

「・・・他に、アニメ、映画、ライブのBlu-rayがある」

 

鞠莉が、チラリと善子を見ながら百香に聞いた。鞠莉が前世の車がここの世界にあるのをを知っているのは、鞠莉の目線から考えて、おそらく善子から聞いたのだろう。

 

「その中身、必ず百香はこの世界に来てから一回以上は見てるはずるはず」

 

「ああ。もう軽く10回以上は見ているが・・・」

 

「おそらく、百香の知ってるAqoursのアニメでは、この引き留めのシーンは無いはずよ」

 

「何が言いたい」

 

百香は、嫌な予感がした。この後、鞠莉の口から放たれる言葉は、百香が何度か考えたことのある選択肢であったが、決してそうであると考えたくなかったことであった。

 

「百香の記憶や、持っているAqoursの資料に変化がないのは、もう、百香の知っている世界とは別の世界が動き出しているということよ」

 

「つまり・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界のAqoursは、百香の知るAqoursとは、別の道を歩むことになる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺の見てきた世界はなんだ?」

 

「あの世界は、百香が産まれなかった世界。つまり、もう、貴女、百香が産まれた時点でこの世界は別世界になっていたのよ」

 

鞠莉の言う通り、この世界は、アニメの世界とは全く別物に変わっていた。

 

「じゃあ、俺は、俺たちはいったい、今まで何を・・・」

 

「全部、無駄だったんだよ。百香ちゃんがしてきたことは。

 

もう、15年以上も過ぎちゃってる。後戻りはできないんだよ。もう、百香ちゃんの望む世界は来ない」

 

千歌が残酷にも、現実を百香に突きつけた。

 

「世界をつくるのは神様じゃない。今ここに居る人間なの。私たちと一緒にAqoursの、浦の星の歴史をつくろうよ。記憶の有り無しなんて関係ない」

 

千歌が、真剣な顔で百香の顔をじっと見つめながら言った。

 

「何だよ。いろいろ黙っていて、今まで勝手に一人でいろいろ悩んでいた俺が馬鹿らしいじゃん・・・」

 

 

 

 

千歌の言葉が終わると同時に、百香の前に梨子を除いたAqoursメンバーが千歌の横に並んだ。その中でも、曜の手には紙袋が握られていた。

 

「俺は、もともと男だったんだぞ?しかも中身は中年のおっさんだ」

 

「そんなの気にしませんわ」

 

最初の言葉にはダイヤが

 

「もしかしたら、嫌らしい目で見ていたかもしれないんだぞ?」

 

「そんなの、鞠莉に比べたら全然ましだし、それに百香なら誰も気にしないよ」

 

次に果南が

 

「お前らの秘密も知ってるんだ」

 

「マル達の秘密を知られるのは少し恥ずかしいけど、百香ちゃんなら心配ないずら」

 

その次に花丸が

 

「もしかしたら、世界が変わっていないのかもしれない」

 

「それはそれで百香がそのアニメの世界に取り込まれたってことになるでしょ?それなら結果オーライじゃない?」

 

と鞠莉が

 

「本当に俺を受け入れてくれるのか?」

 

「当たり前でしょ?」

 

と善子が

 

「林間学校の時、〝踊る資格なんて無い〟って言ってたけど、そんなことないよ!踊るときの、笑顔。あの笑顔をまた見せてよ!」

 

「ああ」

 

とルビイが

 

「同じステージで一緒に踊ろうよ。百香ちゃん」

 

「・・・ああ」

 

衣装が入った紙袋を差し出しながら曜が

 

「それでは、改めてAqoursにようこそ。百香ちゃん!」

 

最後に、一歩百香に近づいた千歌が、満面の笑みで語り掛けた。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、悩まなくてもいいんだよ」

 

満面の笑みの後に、柔らかな笑顔でそう言ったのだった。

 

「私は・・・、私は・・・!!!」

 

百香はその場に崩れ、そんな様子を見た千歌は百香を優しく抱きしめた。

 

百香の後ろからは、止まった時間が動き出すみたいに、島田行きの6両編成の電車がゆっくりと動き出す。

 

「もう、悩まなくてもいいんだよ」

 

「うん・・・」

 

「私たちと、新しいAqoursをつくっていこうよ」

 

「うんっ・・・」

 

「もう、一人じゃないよ」

 

「ううっ・・・、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───!」

 

沼津駅のホームに、今までの彼女からの性格からは考えられない弱々しいなき声が響いた。

 

「我慢しないで、良いんだよ」

 

千歌は、胸の中で少女のように泣きじゃくる百香をもう一度ゆっくりと抱きしめた。

 

それに続くように、1人、また1人と、百香を抱きしめ始め、最後には、9人で抱き合っていた。

 

 

 

 

 

止む気配もなく、何日も降り続いた雨はいつの間にか止んでおり、雲が消えた真っ青の青空には、9()()で彩られた、市街地を横断するような大きな虹がかかっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話(第59話)

 

雨ハ止ム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり雨が止んだ沼津市内。仲見世商店街のアーケード下を、Aqours9人が歩いていた。

 

「なあ、どうして今日出発するって知ったんだ?曜を含めて全員には教えなかったのに」

 

「ああ、それずらね。善子ちゃんが教えてk「うにゃあぁぁぁぁぁ!」むーっ!むーっ!」

 

「アハハ!善子が?」

 

何故か花丸が得意げに百香に説明し、善子は恥ずかしそうに花丸の口を押さえていた。

 

そんな様子を見た百香は、〝善子のくせに〟と言いながらケラケラと笑った。

 

善子はしばらく恥ずかしそうに花丸の口を押えていたが、自身の腹を抱えて笑い続けているいつも通りの百香を見た

 

「確かに、全員に百香のことを言ったのは私だけど、私はただ、橋渡しをしただけよ」

 

「橋渡し?」

 

「そうよ。私は、大智の代わりに頼まれただけ」

 

「そうなのか?」

 

「そうよ。昨日、大智に〝百香は浦女から転校したくないような雰囲気がしていたから、止めてほしい〟って言われたのよ」

 

何考えるように〝そうなのか・・・〟と百香が答えた後、善子は小さな声で〝まあ、新静岡に行ってほしくなかったのは私も一緒だったけどね・・・〟と呟いたのだが、百香には聞こえなかった。

 

 

 

「ははっ・・・。結局、変に悩んでいたのは私だけだったんだな」

 

百香は、自身にあきれるように笑った。

 

「まさか、あいつがあんなことをするなんてな。私もまだまだだ」

 

百香と八名は親友だったが、このようなことをするのは百香の予想外だった。でも、不思議と百香の心はスッキリしていた。

 

 

 

Aqoursの思いは一つになりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

百香の後ろで歩きながら、周りに気付かれないように少し暗くなっている一名を除いて。



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第60話(第7話)

どうでもいいことなんですが、かすみとしずくの二人でお笑いコンビ作れると思います。その名も、オードリー。ちなみにピンクのベストを着るのはかすみです。「かすみんの横、空いてますよ」


8月13日朝。富士山の麓の市街地に、朝日が差し込んできた。

 

街灯が消え、ビルとビルの隙間が明るく照らされ、昨日まで濁流がゴウゴウと音を立てて流れていた狩野川は、照り付ける朝日を反射するまで、青く透き通っていた。

 

 

 

「んんっ、ああ・・・」

 

渡辺家2階のベランダで、百香は朝日を浴びながら伸びをし、眠たい目をこする。

 

「結局、ここに戻って来ちまったなあ・・・」

 

そう言いながら百香がベランダの欄干に肘を置き、堤防の先に少しだけ見える狩野川の水面を見た。

 

「でも、嬉しそうじゃん」

 

「曜。起きてたのか」

 

いつの間にか百香の横に来ていた曜は、百香と同じポーズをしながら百香の横顔を見ていた。

 

「うん。ベランダに百香ちゃんの姿が見えたから出てきちゃった」

 

そう言いながら〝にへへ・・・〟と笑う曜の顔を見ると、自然と百香の顔にも笑みがうまれていた。

 

「でも良かった。浦女に戻ってこれて」

 

「確かにな」

 

あれから、いろいろと大変であった。静岡の親戚の家に送ってしまった荷物は宅急便会社に連絡をとり、その日のうちに戻してもらったり(送料が倍になってしまったが)、沢木さんに〝やっぱり浦女に戻る〟と言い、新静岡高校と浦の星女学院両校に送る予定であった書類を止めてもらったり、居候する予定であった親戚に連絡を取ったりと、ここまでしてくれた母と沢木さんに、百香は頭が上がらなかった。

 

「百香ちゃんが抜けたAqoursじゃ、もうそれはAqoursじゃないもん」

 

「そこまで私はAqoursの一部になってたのか・・・」

 

「4月、入部届を出したときから私や千歌ちゃんは百香ちゃんのこと、Aqoursの一員だと思ってたけど?」

 

「かなわないな。曜姉も、千歌姉も」

 

〝ははっ〟と、軽く百香が笑うと、少し塩気が混じった海風が百香の髪をなびいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、母さん。学校行ってくるから」

 

「行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。あ、百香。少し待って」

 

「?」

 

百香と曜は、部活の練習をしに家を出ようとし、リビングのソファーに座っていた母に挨拶をしたところ、百香だけが呼び止められた。

 

「曜、先に行っていて」

 

「リョーかいヨーソロー!」

 

曜が先に玄関から外に飛び出すように出ていくと、リビングには百香と母の2人の姿だけであった。

 

「それで、母さん。何だい?」

 

「みんなに受け入れられたのねって思っただけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

 

「母さん・・・。どこでその名前を・・・」

 

母は、意味ありげな顔をしながら前世の名前を言われて驚いた顔をしている百香を見ていた。

 

「母は、なんでも知っているのよ」

 

「ははは・・・。母さんにはかなわないや・・・」

 

母親は強い。それは、どの世界でも、どの時代でも共通のことであった。

 

「呼び止めて悪かったわね。ほら、学校行ってきなさい」

 

「あ、ああ。行ってきます!」

 

百香は、母に背中を押され、玄関から飛び出していった。

 

生暖かい海風は、今だけ不思議と心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7話(第60話)

 

雲ハ晴レナイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月はもうすぐ中旬から下旬に差し掛かる前までになっており、中部ブロック静岡県予選まで残り1週間ほどとなっていた。ダンスレッスンをしているAqoursの中には百香の姿もあり、夏の暑い日差しと温度で熱された屋上で汗水を垂らしていた。最初はぎこちなかった百香の動きは、たった1日でもうすでに周りのAqoursメンバーに合わせられるほどになっており、ほとんどの形は完成したように思われている。

 

練習は午前と午後に合わせて行われ、夕方3時50分には練習を終了した。バスで帰る渡辺姉妹と善子のために、午後4時30分に浦女の前を通過するバスに合わせるためだ。

 

「じゃあ、この後で解散となるけど、鞠莉たち3年はどうするよ」

 

「私たちは事務処理が残ってるから残るわ」

 

練習着から制服に着替えながら百香が鞠莉に聞くと、鞠莉は軽く返した。この更衣室の中にいるのは百香と鞠莉だけであり、他のAqoursメンバーはもうすでに着替えを終えて更衣室の外に出ていた。

 

「わかった。じゃあ、私たちは先に帰るわ。

 

 

 

 

あ・・・」

 

「?」

 

百香が先に着替え終わり、更衣室から出ようとドアノブに手をかけたとき、百香は何か思い出したように振り返った。

 

「その・・・、すまなかった。いろいろ事務処理ふやしてしまって」

 

「いーのいーの。結局百香は浦女に戻ってきた。それだけで充分じゃない。それに、私は気にしてないわよ」

 

百香は申し訳なさそうに鞠莉に謝ったが、鞠莉は気にせずからからと笑うだけだ。

 

「ありがとう」

 

百香はそう鞠莉に言うと、鞠莉は先ほどの顔とは打って変わってやわらかい笑顔になった。

 

「あ、あとちゃんと寝なさいよ。夜更かしはノーよ」

 

「ばれちまったか。じゃあ、また明日」

 

「そうね。またね」

 

百香と鞠莉はクスっと笑いあった後に小さく手を振りあい、百香は更衣室から出て先に更衣室を出た曜と善子の後姿を追ったのだった。

 

 

「全く・・・。Aqoursって一癖も二癖もある面倒くさい人が多いわね。まあ、私もだけどね」

 

鞠莉は、百香が完全に更衣室から出た後、誰にも聞こえないような声でつぶやき、小さく微笑み、その後に気を引き締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鞠莉は理事長室に着くと、スクールバッグをソファーの横に荒々しく投げ出し、事務処理を始めた。

 

「どうしたんですか鞠莉さん」

 

「いえ、なんでもないの」

 

「そう言ってるけど、結構焦ってるよ?」

 

先に理事長室のソファーに座りながら座卓で事務処理を始めていたダイヤと果南が、鞠莉の異常さに気づいていた。

 

「そうかな?アハハ」

 

鞠莉はそう言いながら事務処理を始めていく。だが、笑いながらもいつものふざけたような日本人が想像する外国人の話し方をしていない。

 

「ちゃっちゃっと今日の分を終わらせましょう」

 

「はーい」

 

鞠莉はにっこり笑いながらダイヤと果南を見たため、果南は返事をするだけにした。そう返したのは〝今の鞠莉には余裕がない〟と、そう判断した果南の心遣いだろう。

 

いつもは雑談をしながら事務処理を行うのだが、今日の鞠莉は雑談どころかカップに注がれたコーヒーすら飲まないで事務処理を進めている。

 

そのためか、理事長室の机に積み上げられた期限が今日までの書類は30分程度で片付いでしまった。

 

「じゃあ、これから用事あるから私は先に帰るわね」

 

「え、ええ。わかりましたわ」

 

「気をつけてねー」

 

床に放り投げてあった自身のスクールバッグを拾うと、鞠莉はスマートフォンで誰かを呼び出しながら理事長室を出ていった。

 

そんな様子を見たダイヤと果南はいったん事務処理を行う手を止めて理事長の机の上に置かれている一枚の紙を見た。

 

「やっぱり、これだよね」

 

「これしかありませんわよ」

 

机の上に置かれていたのは、水に濡れた部活申請書であった。そう、これは千歌、曜、百香が一番初めにスクールアイドル部を申請したときの書類だ。この書類を鞠莉が見つけたのは昨日のことであった。

 

百香が転出するための書類を廃棄した後、ダイヤの生徒会の仕事の手伝いをしに生徒会室に向かった。その時、ダイヤがこの申請書を懐かしく眺めていたことから、鞠莉は最初にスクールアイドル部を作ろうとしたのがこの3人だと知ったのだった。

 

鞠莉にとって〝千歌と梨子が最初の創設メンバーだ〟そう思い込んでいたため、このことを知って驚いた。

 

ここである一つの疑問が生じる。なぜ鞠莉はあんなに焦っていたのか。その答えは一つである。

 

あの百香の姉だからだ。

 

日常では百香と正反対のような性格であるが、ところどころ似ているところがある。今も、もしかしたら不満をため込んでいる可能性が高い。その不満が爆発してしまうと、百香と同じ状況になってしまうことが考えられてしまう。

 

再びそのようなことになってしまうことが鞠莉にとって恐ろしいことだった。あのようなことが起きてしまうことは防がなくてはならない。

 

不穏な空気は、まだ払拭できていない。



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第61話(第8話)

虹ヶ咲学園のアニメの予告見ました。

特に印象だったのは、あなたちゃんが話していることと、






・・・



虹学のジャージ、ダサくね?

音ノ木と浦女のジャージもチョイとアレですけど、胸元に校章じゃなくて、〝虹〟って・・・。


曜は、西日に照らされている狩野川沿いを自宅に向けて歩いていた。

 

しかし、その足取りは重い。

 

「はあ・・・」

 

本人は気づいてないようだが、曜は千歌が梨子と仲良くしていることに嫉妬をしていた。だが、気づいていても曜は言い出せないだろう。

 

千歌との関係性をよりよく保つために、思っていることを言い出さない。これが曜の決めたことだった。

 

もし、百香ちゃんのようになったらどうしよう。

 

皮肉にも、こうした考えが曜を秘密主義に変えてしまうトリガーとなってしまった。プラス思考に見える曜も、実は結構マイナス思考である面も多々あり、性格的に正反対に見えてしまう百香と血が繫がっている姉であると自身でも実感できてしまう。

 

「多分、百香ちゃんは知ってるよね・・・」

 

曜は、無性に帰りたくない気分になった。もちろん、百香が嫌いなわけではない。だが、この心の中を見透かされているような感じがして、なんとなく嫌な気分になってしまった。

 

「!?」

 

「Oh~!これは果南にも劣らない!?」

 

そう考えていた瞬間、曜の胸が何者かによって揉まれた。

 

痴漢か、変質者か。

 

とりあえず、聞いた声が耳元で聞こえていてもそんなことは気にせず無心で背負い投げをした。

 

「あれ!?鞠莉ちゃん!?」

 

背負い投げをしたのは鞠莉であった。理事長が生徒にこんな行為をしたら逮捕どころの話ではないが、鞠莉は浦女の生徒でもあるため、そしてAqoursの一員であったため、特に大事にはならずに済んだ。

 

「とりあえず、曜。私と一緒に来てくれない?」

 

「え?あ、うん・・・」

 

とりあえず、鞠莉はアスファルトに強く打ち付けた尻を撫でながら立ち上がり、曜を別の場所に移動させたのだった。

 

 

 

 

 

第8話(第61話)

 

雨ハマタ降ル──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沼津港大型展望水門〝びゅうお〟

 

沼津市街、駿河湾、富士山を一望できるこの展望台は、たかが100円だろうと、お金がかかるからか全く人がいない。鞠莉はそれを知っていたため、曜との話し合いにこの場所を選んだ。ここなら景色を見ながら話し合いもできるだけでなく、曜の家も近い。まさにいいロケーションであった。

 

「それで、どうしたの。鞠莉ちゃん」

 

「んー、それはね、最近曜がチカッチとうまくいってないと思って」

 

「ん?あ、ああ。それなら大丈夫。あの後二人で練習してうまくいったから」

 

「いいえ。ダンスではなく、私が言いたいのは、チカッチとの関係よ」

 

鞠莉のその言葉で、曜の頭には疑問符が浮かび上がった。曜が鞠莉に言われることで想像していたことは、千歌とのダンスでなかなか合わなかったところだと思い込んでいたからだった。

 

「チカッチを梨子に取られてちょっぴり嫉妬ファイヤー!が燃え上がっちゃったんじゃないの?」

 

「えっ!?嫉妬!?ま、まさかそんなこと・・・」

 

図星だったのか、曜は頬をポリポリと掻いた。すると鞠莉は、なかなか本心を出さなかった曜の両頬を引き伸ばし始めた。

 

「ぶっちゃけトークをする場ですよ。ここは」

 

「鞠莉ちゃん・・・」

 

「チカッチや梨子には話せないでしょ?ほら」

 

鞠莉は、通路の真ん中に置いてある木製のベンチの左端に座ると、空いた右側を左手でぽんぽんと叩いた。

 

「いや、いいよ」

 

「どうして?」

 

「あんなに荒れたのに、今更面倒ごとを持ち込めないでしょ?」

 

しかし、曜は話すことを拒み、困り顔のような顔をしながら座っている鞠莉を見た。

 

「いいから、話しなさいよ」

 

「いや、いいよ」

 

二人とも譲り合うことはせず、お互いにぶつけあったため、少しずつ場の空気が悪くなり始めた。

 

「話して」

 

「嫌」

 

焦りで早く事態の収拾をしようとする鞠莉と心の中をなかなか打ち明けない曜の互いの衝突はやがて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話しなさい!!!」

 

「うるさい!!!」

 

大きな衝突に変化する。

 

一瞬にしてこの場の暑くなっていた空気の温度が下がった。両者とも一杯一杯で余裕がなかったため、頭から繰り出す言葉の選択に頭脳の区画を裂けなかった。

 

 

「曜・・・」

 

「───ごめん」

 

曜は、鞠莉に顔を向けないまま港口公園方向側のエレベーターに駆け込んでいった。

 

 

「曜───」

 

びゅうおの展望通路にはただ、曜を呼び止めることもできなかった鞠莉がただ、佇んでるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おかえり、曜。遅かったじゃないか」

 

「ただいま・・・」

 

また黒い雲が沼津近郊を覆い始めた時、元気のない返事をしながら曜が渡辺家に帰宅した。ちょうどリビングには自身のノートパソコンを操作している百香の姿があり、リビングに入ってきた曜の姿を視認した。

 

「ん?どうした?なんか機嫌が悪そうだが」

 

「何でもないよ、何でも」

 

当然、長年一緒に暮らしている百香は帰宅してきたときの曜の異常に気付いた。しかし、曜はなかなか話してくれない。

 

「そんなわけがないだろ。話してみろよ」

 

「うるせえ、百香。少し黙ったら?」

 

迷惑をかけてしまった百香は、〝次はみんなの力になろう〟と決意し、元気がなさそうであった曜に対して百香が心配そうに話しかけるが、曜はそれを睨みながら冷淡な言葉を浴びせ、すぐにリビングを出て二階の自室に向かってしまった。

 

その時の呼び捨ての言葉は、曜の機嫌が本当に悪い時にしか使わない。基本的に曜は、みんなを〝〇〇ちゃん〟と呼び、言葉遣いは百香と比べ物にならないくらい丁寧だ。しかし、渡辺姉妹の中で最初に話し方を確立したのは百香であり、その話し方は男の子の様であった。もちろん、曜の話し方も百香にかなりの影響を受けていたが、日常生活の中で自分はもっと丁寧な言葉を使うのが良いと気づいたのだろう。

 

気づけば、曜の話し方はかなり丁寧なもとのなっており、曜はよく百香と対比されていたが、百香と長年一緒にいたことにより染みついた癖はなかなか治らないものであった。自分を制御できなくなると、ああいった言葉使いになってしまう。

 

もっとも、百香が曜の言葉使いが乱雑になるのは今までで数回しかなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・。これも私が原因かなぁ・・・」

 

百香は、リビングの窓から黒い雲を眺めていた。

 

あの後、結局百香はアニメ一期と二期のブルーレイを見なおしてしまった。もちろん、全部見ることはできず、二期を見始めてすぐのところで朝を迎えてしまった。

 

アニメを見返したのは、この後の未来をAqoursにかいつまんで教えようと思ったからっだった。いろいろ矛盾が生じているかもしれないが、百香は知っている情報を全て教えることで、百香と同じ認識を持ってほしかった。だから、拒否されない限り、この後のことを聞かせようと思った。

 

それが、知るものとしての決意だった。

 

アニメの世界だと、曜があんな風に怒るのはなかった。というか、アニメ内に曜が怒るシーンなんてなかった。

 

十中八九、百香がこの世界で生きていることで世界が変化してきている。

 

おそらく、曜はもともと本心をなかなか言えない性格だったのだろう。そして、百香の存在。百香がいることによって、曜は一人っ子から姉になる。

姉になると、甘やかされていた生活から一気に変わる。妹が甘やかされ、姉は〝お姉ちゃんなんだがら〟と言われ、甘やかされるのは少なくなり、我慢するのが増える。

 

おそらく極めつけとなったのが、百香の一件だ。

 

血が繫がっていない仲間から問題が出たのならば、まあ、まだ良かった。しかし、同じ渡辺家、しかも妹から出してしまったという状況下、曜は面倒ごとを増やしたくないと思ったのだろう。

 

だが、鞠莉がそんな曜の悩みを聞こうとして曜が鞠莉と対立。結果、曜はかなり機嫌が悪くなってしまっていた。

 

そんな曜に一番近く、多くの同じ時間を過ごしてきた百香には、ため込んできたいろいろな思いが爆発する曜の兆候に気づくことができなかった。

 

「曜のことに気付けなかったなぁ・・・。家族なのに・・・」

 

百香は、カーテンを開けて黒い雲に隠れ始めた西日を眺めた。

 

せっかく止んだ雨は、黒い雲の隙間から降り注いできていた。風によって流された水滴が窓に打ち付け、滴り落ち始める。

 

 

今朝と同じ天気になってしまう。

 

「ん・・・?」

 

そんな時、テーブルの上に置かれた百香のスマートフォンからバイブレーションが発せられていた。

 

雨夜はまだ始まったばかり───



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第62話(第9話)

かなりの突貫工事で今回の回は執筆しました。なので、けっこうおかしいところがあるかもしれませんが、まあ、そこは・・・、ね?


あ、話は変わりますが、友人と沼津に行った時、私が車を運転したんですが、〝運転が荒い〟と言われてしまいました。茨城出るまで速度制限+20Km/hが常識だと思ってました。運転、丁寧にしないとなぁ・・・


「私、鞠莉ちゃんにあんなこと言っちゃった・・・。どうしよう・・・。私、最低だ・・・」

 

曜の自室では、頭を冷やした曜が自身のベッドの中に潜り込んでいた。部屋の中は電気がつけられておらず、カーテンが閉められた暗い部屋の中に響く音は、曜のすすり泣く声とそれをかき消さんばかりの大きな雨音だけだった。

 

曜の心の中では〝新たな問題を作ってたまるか〟と思っていた。曜の妹の百香が問題を起こしてしまった。部内をかき回し、転校を決断するまでに至った。結局は、千歌と善子、そして百香の旧友のおかげで百香は転校をやめ、問題は終結した。

 

しかし、皮肉にも、新たな問題を作らないためにしたことにより問題を作り出してしまっていた。今、この問題についてを知っているのは曜の中では鞠莉だけだと思っているが、直に全員にばれてしまうのも時間の問題であった。

 

「もう、私、Aqoursに戻れないかも・・・」

 

〝喧嘩したことが千歌にばれてしまうことで幻滅されてしまうかもしれない〟

 

もちろん、千歌がそういった性格でもなく、そういったことも曜に言ったことは全くなかった。

 

曜の中ではそういった意識が勝手に根付いていた。

 

姉であること、そして、妹が姉である曜より早く自立し、百香があまり家族に甘えなくなったことで曜は家族に甘えられない。仲の良い友人さえも、本心を打ち明けて仲が悪化することを恐れてしまっていた。

 

そうしたことで、曜は悩みを話せる人がいなくなってしまっていた。

 

「これからどうすれば・・・」

 

曜は、布団の中でただ泣くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第9話(第62話)

 

雨ハ強クナル──

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻

 

沼津港・堤防脇 市道0241号

 

沼津港のメインである通りから駿河湾沿いと狩野川沿いを通り、港大橋の橋台まで通じているこの道は、沼津港から1、2本目の通りが交差するまでは比較的交通量があるが、そこから先は地元住民以外の車はほとんど通過しない。

そんな道に、R33が停車していた。車体には雨が激しく打ち付けており、フロントガラスから外は完全に見えなかった。

 

 

車内には、鞠莉と百香の二人が乗っていたが、二人とも浮かない顔をしていた。

 

「ごめんなさい・・・」

 

「鞠莉は悪くない」

 

百香はハンドルに両腕を乗せてその上に顎を置き、泣きそうな目でシートベルトを握りしめて俯きながら隣の助手席に座っている鞠莉を目線だけで見た。

 

「私のせいだ。私がもっと早くAqoursに・・・」

 

「百香のせいじゃない!私のせいよ!」

 

打ち付ける雨音をかき消さないばかりの声で鞠莉は叫んだ。この原因を作ったのは鞠莉だと言いたいらしい。

 

「私が、曜のことを過去の私と照らし合わせて、曜が拒否してたのに、無理やり聞き出そうとしたから・・・」

 

「本来は、そこで曜が話し出すんだがなぁ・・・」

 

「そうなの・・・?」

 

「恐らく、姉になったことで周りに甘えにくくなったんだろう。それに曜は仲良くなった相手には何も言えなくなるんだ。」

 

百香は、アニメを見た視点からの考えを聞かせた。鞠莉はほとんど黙って聞いていただけだった。

 

「そうなの?そうは見えないけど・・・」

 

「あいつは想像以上に弱い人間だと思うんだ。何か言いだすことで今の良い関係が壊れてしまうことを想像以上に怖がっている」

 

鞠莉は〝なるほど〟と感心しながら聞いていたが、これはアニメを見た側、そして15年も同じ屋根の下で生活してきた百香の想像であった。本当の性格はどうだかわからない。

 

「そして、私の荒い性格に私がいろいろやらかして、それのせいで曜に負担を増やした。それが混じって今回の件になったと思う」

 

「結果として、私が着火剤になっちゃった訳ね・・・」

 

「言い方が悪いが、そうなってしまうな」

 

「いったい、どうすれば・・・」

 

百香と鞠莉は二人して頭を抱えだしてしまった。

 

 

 

そんな暗い雰囲気になったスポーツカーの横を、白の小型車が追い越していった。

 

「──私が聞いても逆効果になるかもしれない」

 

「それもそうね・・・」

 

「千歌あたりがどうにかしてくれれば一番いいと思うが・・・」

 

百香は、曜のことを千歌に任せようとした。もちろん、面倒くさい問題を千歌に放り投げようとしてはいない。

 

〝この中で一番曜の話を聞けるのは千歌しかいない〟

 

百香はそう思っていた。仮に百香に話を聞かせてしまうと、おそらく曜にある姉としてのプライドをズタズタにしてしまう。それだけは防ぎたかった。

 

「とりあえず、千歌に話をつけておく」

 

「チカッチに任せても大丈夫なの?原因はチカッチなのでしょ?」

 

〝確かにその通りだ〟

 

百香はそう感じた。曜がこうなった原因は曜と千歌、そして梨子の関係性から発展したことだったからだ。百香は居ても居なくても結局は同じ結果になっていた。ただ、問題の解決方法が問題になった。

 

気づかぬうちに曜は巨大な爆弾を抱えてしまっていた。 全てとは言わないが、大体がアニメ通りに進んだ結果、それを爆発させてしまったのが本来では話を聞く立場であった鞠莉となってしまった。

 

「だからこそだよ」

 

「?」

 

百香はハンドルに載せていた腕に顎を置くような姿から、伸ばしたシートベルトを戻すようにシートにもたれかかるように身体を戻した。鞠莉はどんなことか気づいていないようだ。

 

「大本の原因が千歌と梨子の関係なんだよ。曜は、千歌と梨子の関係に嫉妬しているんだ」

 

梨子が来たことにより、曜は千歌にいらない子にされたのではないのか。そう勝手に思ってしまっていた。

 

「だから、そのような考えを打ち砕くにゃぁ、千歌の力が必要なんだ。それに・・・」

 

「それに・・・?」

 

百香は腕を組みながら一通り泣いた後の赤い目でこちらを首をかしげて見てくる鞠莉を横目で見た。

 

「千歌なら多分、もう気づいてるかもしれないぞ」

 

「え?」

 

気が抜けたような間抜け顔をしながら視線を百香に向けている鞠莉を横目に百香はブレーキを踏みながら、キーシリンダーに刺さっているキーを回した。

 

エンジン始動と同時に止まっていたカーナビとワイパーが動き出し、それを確認したと同時に百香はクラッチを踏みながらギアをニュートラルからローギアにシフトレバーを動かし、サイドブレーキを下ろした。

 

「シートベルトはそのまま締めておけよ」

 

R33は降り付ける雨の中、内浦に向けて走り出した。



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第63話(第10話)

三週間ぶりでございます。

今回は、皆様に謝らなければならないことがあります。

今回をもって、しばらく不定期更新になりそうなことです。四章は週一で更新するなんてほざき、コラボや番外編もやるなんて言ったのにこのザマです。

一応、理由はあります
・就活の本格化
・授業やその課題
・バイト
など・・・
です。一応、四章とコラボを終えてから、就活が終わるまでは更新を休止、または番外編の更新のみを行いたいと思います。


「ちょっ!?運転荒くない?」

 

「急いでるからな。それに、私の前世の地元では普通だったぞ!」

 

「も、もっと丁寧に運転して!」

 

百香の運転するR33は、前を行く車を追い越すということはしなかったが、静浦の海沿いの道を爆走し、国道414号を走る車を何台か追い越してはいた。そんな運転をしていたためか、車内はかなり揺れており、鞠莉の目には先ほどとは違った意味で涙が浮かんでいた。

 

「曲がるぞ、掴まれ!」

 

「ちょっ!?い、嫌ぁぁぁぁ!」

 

黄色信号に変わった口野放水路交差点をアクセル全開で国道414号から県道17号に車体を揺らせながら曲がり、鞠莉の声にならない悲鳴が車内に響く。しかし、百香は気にすることはあっても、速度を緩めることは決してしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話(第63話)

──雲ハ動キ出ス

 

 

 

 

 

 

百香の運転するR33は三津三差路に差し掛かかるころになると、車に打ち付けていた雨はかなり弱くなっており、ザアザアと立てていた音もすっかり落ち着いていた。

 

「だいぶ弱くなったな」

 

「そんな・・・、ことより・・・、運転・・・、荒すぎるわよ・・・」

 

「? そうか?」

 

ケロッとした顔でハンドルを握りながら鞠莉を見る百香とは対照的に、鞠莉は先程とは違った理由で目に涙を浮かべていた。

 

この様子を見た百香は〝さっきは悲しそうな顔をしていたのに、今は何かを叫んでる。表情がコロコロ変わる忙しい子だな〟と、思っており、自分自身に原因があることなど全く分かっていなかった。

 

そんなことが車内でありながらも、ジャリジャリと4つのタイヤが地面に敷かれた砂利を踏む音が車内に響き、車は無事に十千万に着いた。

 

「鞠莉、後ろに移動していてくれ」

 

「わ、分かったわ・・・」

 

ドアを開けながら百香は鞠莉にそう言い、それを了承した鞠莉は助手席のシートを倒し、後部座席に移りだした。R33はセダンタイプのみ4つドアであり、後部ドアもあるのだが、百香のクーペタイプは運転席と助手席にしかドアがないタイプであったため、鞠莉は座席を倒して後部座席に移動する必要があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「千歌姉ー。居るかー?千歌ー?」

 

車を降りた百香は十千万の中に移動し、玄関で千歌を呼んだ。しかし、屋内から千歌の声は聞こえてこない。

 

「千歌ちゃんはついさっき、外に飛び出していったけど」

 

「そうか。

 

ありがとう、志満姉」

 

百香はロビーの喫茶カウンターに居る志満にお礼を言うと、十千万を飛び出して車庫に向かった。百香の直感では千歌が向かうのは、車庫しかないと思ったからだ。

 

 

 

十千万母屋横にある車庫に駆け込むと、送迎用の黒いワンボックスカー、ノアの横に千歌の姿があった。千歌は、自分の自転車のハンドルを握りながら走り出そうとしていたところであった。

 

〝やっぱりか──〟

 

車庫に入った百香はすぐに千歌の考えを感じ取っていた。

 

「千歌!」

 

「百香ちゃん・・・」

 

「今から来れるか?」

 

「・・・。

 

えっと・・・それは・・・

 

今は・・・」

 

百香の提案に、千歌は歯切れの悪い回答をし、自転車のハンドルを握りながら目をそらした。

 

様子から察するに、どうやら行きたくないらしい。

 

千歌は何か勘違いをしていた。今の百香は重荷が降りたことで何処かに買い物などに行こうとしているのではないのか。と考えているようであった。

 

「なんか勘違いしてないか?今から曜のところに連れていくところなんだが・・・」

 

百香の言ったことは、千歌の要望通りの場所だったのか、自転車のハンドルを手放した。

 

 

 

〝ガシャン──〟

 

 

 

所有者が居なくなった自転車は、大きな音を立ててながら車庫に敷かれているコンクリートの地面に叩きつけられた。

 

「行く!連れてって!」

 

「あ、ああ。じゃあ、車に乗ってくれ」

 

千歌が百香の両肩に手を置き、それと同時に百香の顔にずいっと顔を近づけ、必死そうな顔をして百香に訴え始めた。

 

その様子を見た百香は、千歌の行動に驚きながらも正面玄関前に止められている自身の車を指さした。

 

「わかった!」

 

千歌は、自転車をコンクリートに叩きつけられたまま放置し、百香の車に走って行った。

 

「お、おい!自転車!

 

行っちまった・・・」

 

百香は「仕方ない・・・」と、呟きながら自転車を起こし、車庫の中に戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いよ!」

 

「千歌が自転車倒したまま車に飛び乗ったからだろ?」

 

助手席で頬をプクーと膨らませている千歌に対し、百香は呆れながら運転席に座り込んで、シートベルトを締めた。

 

「さあ、早く行きましょう。曜をあのままにするわけにはいかないでしょ?」

 

「それもそうだな」

 

後部座席から身を乗り出してきながら百香に提案してきた鞠莉に同意し、ハンドブレーキを下ろしてギアをリバースレンジに入れた。

 

「よし、じゃあ行くぞ。つかまってろよ」

 

「泣かないようにネ」

 

「それは鞠莉が勝手に泣いたんだろ?」

 

「それは百香の運転が荒かったからよ!あんな運転なんて普通しないわよ!」

 

「・・・あ、あははは・・・」

 

動きだす前に鞠莉が言った一言により、百香と鞠莉の間で言い争いが発生し、千歌はただ力なく笑って見ているしかなかった。この言い争いは不仲であることから発生したことではなく、仲がいいことから発生したことであり、そして、ただ、からかい合っているだけでもあった。

 

「いつか、曜ともこんなふうにからかい合えればいいのにね・・・」

 

「っ──

 

・・・そうだな」

 

「・・・」

 

騒がしかった車内は、鞠莉の一言で一瞬にして通夜と化してしまった。

 

「これ以上ここで時間も浪費するわけにもいかない。出発するぞ」

 

百香は、ルームミラーで鞠莉と千歌の姿が見えないように調節し、車をバックし始めたのだった。



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第64話(第11話)

お久しぶりです。私事が忙しく、執筆がかなり遅くなっいています。申し訳ございません。失踪はしないつもりです。なので許してください。なんでもしますから!(なんでもするとは言っていない)


百香が運転するR33は、行きと同じような運転をしながら渡辺家の駐車場に停車した。

 

帰りも鞠莉が声にならないような悲鳴をあげていたが、千歌は姉である美渡の運転も似たようなものであったのか、全く悲鳴をあげること、そして、呻き声や驚いた声すらも出さなかった。

 

「よし、着いたぞ」

 

百香は、車のエンジンを切ると、玄関に移動して外出時に使っているトートバッグの中から玄関のカギを取り出して、防犯のために掛かっていた玄関のカギを開けた。

 

「お邪魔しまーす・・・」

 

千歌が恐る恐る玄関から屋内に入ると、屋内は車の音が聞こえる屋外に比べ、しんとしていた。

 

「かなり静かね。いつもこうなの?」

 

「まあ、いつもはな。でも、千歌にとっては違うんだろ?」

 

「そうだね・・・。私が来るときは、いつも曜ちゃんが出迎えてくれるから・・・」

 

千歌は、靴を脱いでいるところに、千歌用のスリッパを用意しながら問いかけてくる百香にそう答えた。

 

「そう。チカッチにとって、この光景は異常なのね・・・」

 

「少なくとも、今のところはそうだね」

 

来客用のスリッパに履き替えている鞠莉を横目に、すでにスリッパに履き替えていた千歌はそう答えた。

 

千歌の目線は、閉じられた玄関ドアに向けられていたが、頭は別の場所に向けられているような感じであった。そのことは、百香も、鞠莉も薄々感づいていた。

 

 

 

 

 

 

第11話(64話)

──雲ヲ晴ラス

 

 

 

 

 

「じゃあ、これから曜の部屋に向かうぞ。準備はいいか?」

 

階段横の壁に手を付けながら百香は千歌と鞠莉の顔を見た。

 

千歌も、鞠莉も覚悟を決めた目をしていた。準備は完了だ。

 

 

 

 

よし──

 

 

 

百香は覚悟を決めて階段を上り、一番最初のドアの前に立った。そう、曜の部屋の前だ。

 

「曜姉、曜姉」

 

コンコン、と軽くドアを叩くが、中からの応答は無い。

 

「曜。居るんだろ?居ないなら開けるぞ」

 

百香は一度中に誰もいないことを確認してからドアを開けようとしたが、ドアにはカギが掛けられており、曜の部屋の中に入ることができなかった。

 

その後も、何回か木目調のシールが張り付けてあるベニヤ製のドアをドアノブでガチャガチャと動かしたが、カギが引っ掛かり、結局ドアは開かなかった。

 

「クソっ。カギを掛けてやがる」

 

「カギとかは無いの?」

 

「これは完全な内鍵だ。外に鍵穴はねえ・・・」

 

百香は〝クソっ〟といった顔をしながら千歌と鞠莉の顔を見た。

 

内側からカギがかかっているということは、間違いなく曜はこの部屋の中にいる。だが、どうやって曜の部屋の中に入ればいいのか、皆目見当がつかなかった。

 

「さすがにドアを破るのはやりたくないな・・・」

 

「ちょっといい?」

 

「え?ああ・・・」

 

百香がドアに手をついたところ、千歌が百香にある提案をしてきた。

 

「私が曜ちゃんを説得してみる。それで無理だったら、ドア、破ってもいい?」

 

「え・・・?」

 

「破ってもいい?」

 

「あ、ああ・・・」

 

千歌が百香に最終手段としてドアを破っていいか聞いてきた。しかし、聞いてきたとは名ばかりで、千歌は最終手段としてドアを破る気満々であった。

その時の千歌の顔が気迫に満ちた表情であったため、百香は押されてそれを承諾するしかなかった。

 

だが、それを承諾しても、流石にドアを破ることはしないだろうと百香は高を括っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「曜ちゃん?部屋に引きこもってどうしたの?私に話してみてよ」

 

千歌は、〝コンコン〟とドアを叩いた手をドアにつけ、優しい声で部屋の中にいるであろう曜に話しかけた。

 

「曜ちゃん。大丈夫だから・・・、ね・・・?」

 

「無理だよ・・・」

 

千歌の2回目の呼びかけで曜はようやく返事をした。その声はとても弱弱しく、いつものような元気いっぱいな曜とはかけ離れていた。

 

「何で?」

 

「私、鞠莉ちゃんに酷いこと言っちゃった・・・。私、鞠莉ちゃんに顔向けできない・・・。私のことを心配してくれたのに・・・」

 

「ちゃんと謝れば大丈夫だよ!鞠莉ちゃんも曜ちゃんの事情わかってくれるよ!」

 

 

 

「無理だ!そんなこと!」

 

 

 

ドア越しに、曜の悲痛な叫び声が聞こえた。

 

それは、百香が過去に一度しか聞いたことのない、叫び声だった。百香がその声を聴いたのも、百香が無理をしたことによってケガをしたことで曜が怒ったときにしか聞いていなかった。

 

そう、叫び声を聞いたのはそれっきりだったのだ。それほど、曜は追い詰められていたのだ。

 

「そんな簡単にあきらめないでよ!」

 

「無理だよ・・・。もう一杯一杯だよ・・・」

 

また曜の声は弱弱しいものに戻っており、先ほどからの叫び声からは想像できない声になっていた。

 

「百香ちゃんのことも、千歌ちゃんとのことも、鞠莉ちゃんとのことも──

 

 

 

本心で話すことが怖い。相手がどう思っているのか、私のことをどう感じているのも、知るのが怖い・・・。もしかしたら、梨子ちゃんが居る千歌ちゃんにとって、私はいらない子なんじゃないのかって・・・。

 

でも、そんなことは言えなかった。怖いんだ。今の人間関係が壊れるのが・・・」

 

「そんなことないよ!私と曜ちゃんとの関係はそんなことで崩れたりはしないよ!」

 

どんどん小さくなっていく曜の声に対し、千歌はドアをドンドン叩き、曜を部屋の中から出そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

「もうダメ。我慢できない・・・」

 

5分から10分ほどドアを叩き続けた千歌は、ため息をついてドアから離れた。

 

「百香ちゃん。ドア、破るよ」

 

「あ、ああ」

 

百香は少し困惑しながらも、千歌にドアを破る許可を出した。なお、壊した後、怒られるのは百香と曜なのだが。

 

 

 

 

「ふっ!」

 

千歌は、百香が持ってきた洗ってから外に出していないシューズを履くと、思いっきりドアを蹴った。

 

〝バキッ〟

 

ドアが大きな音を立てた。

 

ドアは、頑丈なもので作られていると思われがちだが、一般家庭につけられている屋内ドアはたいていが木製の枠組みにベニヤ板を打ち付け、それに木目調のシールを張り付けただけの、所謂ハリボテ。

 

こんなものが蹴りに耐えられるわけもなく、すぐにドアにヒビができ、小さな穴が開いた。正直、蝶番を壊せば部屋に入れると思っていたのだが、ドアが壊れてしまうのは、百香の斜め上的な結果であった。

 

「もう一発、行くよ!」

 

ドアが壊れるとは思っておらず、驚きながら立ち尽くしている百香と鞠莉の横で、ドアを壊すために千歌は構えのポーズをとった。

 

 

 

 

「せいやッ!」

 

もう一発、蹴りがドアに直撃し、向こう側が見えるような小さな穴が開いた。

 

「開いた!」

 

「千歌!カギを開けろ!」

 

「りょーかい!」

 

百香の指示とともに、千歌は向こう側を覗けるような小さな穴を無理矢理こじ開け、向こう側に腕を通せる程まで穴を広げた。

 

「千歌。変われ」

 

「うん」

 

百香はドアのカギの位置を知っているため、千歌と位置を交換した。この時、百香は立ち位置交換と同時に鞠莉にも指示を出していた。

 

その指示は、

 

〝隠れていろ〟

 

という、指示合図だった。

 

この合図を出したら隠れていろという指示を鞠莉は守り、鞠莉はそっと百香の部屋のドアを開け、中に隠れていった。

 

ちなみに、鞠莉が2階に上がった時からずっと話さなかったのは、曜に鞠莉が居ることを感づかれないようにするためだった。もし仮に、曜がドアを開けたようと思った時、鞠莉が居ると分かっていたら、気まずさから、開けるのを躊躇するかと思ったからだ。

 

「開けるぞ」

 

小声で千歌に言うと、こくりと頷き、腕をドアから抜いて百香にドア前を譲り、後ろに下がった。

 

百香は右腕をすぐさまドアの穴の中に入れると、手探りで内鍵を開けた。それは手元が見えなくても、数秒もかかっていないくらい早かった。

 

「行くぞ」

 

ドアを開けた百香は、千歌とともに暗い曜の自室へ吸い込まれていったのだった。



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第65話(12話)

お久しぶりでございます。

かなり久しぶりの投稿です。

久しぶりの投稿なのに今回の話は2千字という体たらく。

しかも連載始まって3年以上経つのにまだ作内では半年も経っていない!?うっそだろお前。時間経過がほぼ名探偵コナンになってるじゃねーか。

まあ、そんなこんなであけましておめでとうございますです。2021年もよろしくお願いします。


「おい、曜!」

 

部屋に入ると、百香はすかさず部屋の明かりをつけて暗闇で包まれていた部屋を明るくした。

 

カーテンが完全に締め切っている部屋の床にはスクールバッグが投げ出されており、中身が多少見えている。

 

中身を踏まないように慎重に進み、ベッドの上でタオルケットにくるまっていた曜の前まで移動し、千歌もそれに続いた。

 

「なぁ、曜。お前はそれでいいのか?」

 

百香は、曜の枕元にしゃがみ込み、そう言った。

 

「え?」

 

「逃げることばかり選択して、曜ちゃんは本当にそれでいいの?」

 

千歌の言葉に、曜はタオルケットから少しだけ顔を出し、千歌の顔を見た。その時の曜の顔は、目が赤くはれていて、とても周りには見せられないような顔であった。

 

「逃げた先には何が待っているの?何かいいことでもあるの?」

 

「それは・・・」

 

千歌の問いに、曜は口を噤ませた。実際、曜は話すことから逃げた。その結果がこれであった。

 

「もちろん、逃げが必要な時もあるよ。でもね、逃げちゃいけない時だってあるんだよ。今日のことみたいにね」

 

千歌の言葉で、曜は唇をかみしめた。逃げてはいけない時に曜は逃げ出したことを知っていた。逃げ出したことの影響は計り知れない。もしかしたら千歌以上に鞠莉との関係が改善することが無いのではないか──

 

そうした恐怖が生まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

第12話(65話)

雲ヨハケ──

 

 

 

 

 

 

「・・・千歌ちゃん。

 

私はどうすればいい・・・?」

 

一分ほど口を噤んでいた曜が言った言葉はこれであった。

 

鞠莉と喧嘩のような言い争いをした曜は、鞠莉との関係修復を望んでいた。まだ言い争いをしてから一日も経っていない。両者の合意があれば関係修復には早ければ早いに越したことはない。

 

「とりあえず、鞠莉ちゃんと話し合おうよ」

 

曜の枕元に座っていた千歌が立ち上がると、曜は千歌の服の裾をつかんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「千歌ちゃん・・・、怖い・・・。

 

怖いよぉ・・・」

 

その後に生み出された声はとても小さく、少しの雑音でかき消されてしまうような声であった。

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・千歌ちゃん?」

 

そんな曜の様子を見た千歌は、無言で曜を抱き寄せて強く抱きしめた。

 

「大丈夫。千歌が、私がついてるから」

 

「千歌ちゃん・・・」

 

「大丈夫。大丈夫・・・」

 

「千歌ちゃん・・・、千歌ちゃん・・・!」

 

ゆっくり、ゆっくりと曜の背中をさすると、曜は千歌が抱きしめる力よりも力強い力で千歌を力強く抱きしめた。

 

「できるよ、曜ちゃんなら・・・できるよ・・・」

 

「うん・・・」

 

「曜ちゃんのことは、私が一番知っているんだから・・・。私の隣は、曜ちゃんの特等席だよ」

 

「うん・・・、うん・・・」

 

「大丈夫。私がついているから。ずっと、ね・・・」

 

「こんな私でもいいの・・・」

 

「良いんだよ。それが曜ちゃんの個性だもん」

 

千歌は、曜の顔を見ながら曜の両手を手に取った。

 

「ありのままの曜ちゃんを見せてよ。私はありのままの曜ちゃんが好きだから」

 

「うん・・・」

 

「ありのままの曜ちゃんを、これから私に、高海千歌にもっと見せてくれますか?」

 

「うん・・・、うん・・・!」

 

曜は千歌の言葉の後、千歌の肩に顔を埋めた。千歌の身体で隠れてしまったため周りから曜の顔は見えなかったが、千歌がゆっくりと曜の頭を撫でていることを見るに泣いているのだろう。

 

「安心して・・・、ね・・・」

 

千歌が曜の背中をゆっくりと撫でると、曜の背中が震え始め嗚咽を漏らし始めた。

 

「・・・わたし、鞠莉ちゃんに謝ってくる・・・」

 

「うん、うん・・・」

 

曜は、千歌の身体から離れると流していた涙を拭いた。

 

「鞠莉は廊下に居るからな」

 

「うん。ありがとう百香ちゃん。行ってくる」

 

曜は立ち上がり、部屋の外へと向かった。外に向かう曜の目は覚悟が決まった顔であった。

 

「曜ちゃん、頑張って・・・!」

 

その様子を見ていた千歌は、握りこぶしを作ってその後ろ姿をじっと見つめていた。

 

 

閉められたカーテンの隙間から今まで雲に覆われていた西日が差し始め、暗かった部屋に明かりを差し込ませてきた。

 

曜の背中がその朱色の西日によって照らされる。

 

短かったようで長かった五日間は、もうすぐ終わろうとしていた。

 

マンガの世界、雑誌の世界、アニメの世界、スクールアイドルフェスティバルの世界、スクールアイドルオールスターズの世界。全ての世界線上に全く存在していない、渡辺曜の妹、渡辺百香を合わせた、10人の新たなAqoursの誕生である────



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第66話(エピローグ)

投稿が一話だけかと思ったか!?ワカメ☆!二話連続投稿だ!

はい。流石に文字数が少なすぎたので、二話連続投稿で合計4千文字以上にしてお茶を濁すようなことをしていますが、許してください!何でもしませんから!

今回で第4章は終了です。長かったです。

コラボ回やオマケも執筆中なので楽しみに待っていてください。


エピローグ(66話)

雲ハナイ──

 

2016年8月21日、日曜日。沼津市民文化センター。

 

今日この時、ラブライブ!中部ブロック静岡県予選が開催されるこの地には、静岡県各校のスクールアイドルが集まっていた。当然、Aqoursもこの中の一組である。

 

2016年8月現在、静岡県内の高等学校は公私・本校分校合わせて138校。この中でどれほどの学校にスクールアイドルがいるのかはわからないが、作詞作曲ダンス。最悪全て一人でこなすことができれば誰でも出場できるため約50校近い高校のスクールアイドルが参加していた。

 

多数のグループの中で中部地区大会に進むことができるのはたった5組であり、かなり狭き門である。この門をAqoursは突破しなければならない。

 

「あ、あの人たちは、〝カミーガールズ!〟」

 

会場の大ホールのホワイエに入ると、ルビイがあるスクールアイドルグループを見つけた。浜松市南区にある可美高校のスクールアイドル〝カミーガールズ〟だ。〝可美(かみ)〟高校のスクールアイドルだから〝カミーガールズ〟

『安直なネーミング』や『ネーミングセンスがない』だとかは言ってはいけない。心に来る。

 

「浜松からも来てるんだね・・・。浜松、遠いなあ・・・」

 

「浜松から電車で二時間でしょ?なんで会場が沼津なの?中間の静岡にすればいいのに」

 

「会場は年度毎に区切られている地区でやるんだって。ちなみに前回は中部だったから焼津だったんだって」

 

上から順に曜、善子、ルビイである。

 

静岡県は三分割すると、県内一番の人口を有する政令市、浜松市を軸とする西部。県都であり、浜松に次ぐ政令市である静岡市を軸とする中部。富士市・沼津市・三島市の三市を中心とする東部に分けられる。その他にも藤枝市や磐田市といった地域内で中心的な役割を担う中小規模の都市もあるため、かなり静岡県は地域が広い。そんな広い地域から来る人の負担を減らすために毎年会場を変えていた。

 

ちなみに前々回の会場は静岡であったし、その前は浜北、それよりも前は御前崎であった。ちなみに次回はアニメ通りにいけば伊豆市の奥の奥の狩野ドームで行われるだろう。最寄りの〝JA狩野支店〟のバス停は、バスが1時間に2、3本来るとはいえ、修善寺駅からバスで20分くらいかかる場所にある小さなホールのため、交通の便は『お察しください』状態だ。「よくこれで運営がOKを出したな」と思うかもしれないが、アニメに突っ込むだけ野暮である。

 

なお、御前崎市の市民会館で行った回は交通の便の意味で最悪であったらしい。負担を減らすつもりだったのに負担を増やすとか本末転倒じゃないですかやだー。

 

「そうだ、みんな!梨子ちゃんからシュシュが届いたんだよ!」

 

千歌が思い出したように言い出し、カバンの中を漁りだした。カバンの中から出てきたのは、各々のメンバーカラーをベースとした水玉模様の9つのシュシュであった。

 

「うわぁー!可愛いー!着けてもいい?」

 

「いいよー」

 

曜は、曜の分である水色のシュシュを千歌から受け取り、左腕にはめた。

 

「どう?似合ってる?」

 

「Oh~。似合ってるわ~曜」

 

最初に曜が身に着けたシュシュをAqoursメンバーに見せると、真っ先に鞠莉が反応した。この前のような険悪な雰囲気から抜け出せたらしく、変な空気はない。そして、曜がシュシュを身に着けた直後から、曜と千歌の周りには自身のシュシュを貰おうと、Aqoursメンバーが群がり始めた。

 

「梨子ちゃん、これを着けて演奏するって!」

 

「じゃあ、私たちも着けようよ!」

 

「良いですわね!」

 

「賛成!」

 

曜が本番でもシュシュを着けて踊ろうと提案し、ダイヤやルビイが賛成の声を上げ、その後も出た意見は全て全員肯定的であり、すぐにつけて踊るということは決定事項となった。

 

「盛り上がってるね」

 

時雨(ときさめ)先生!」

 

その時、Aqours9人の集団にひょこっと顔を出してきた人がいた。百香に半分の仕事を押し付けている形式上の顧問と化している時雨(ときさめ) 優樹菜(ゆきな)である。決して時雨(しぐれ)ではない。

 

「どうしたんですか?Aqoursのステージ、見に来たんですか?」

 

「ん?いや、様子を見に来ただけだよ」

 

「見ていけばいいのに」

 

手を振りながら、時雨先生は駐車場に向かう。そのような様子を見ながら副顧問の崎が〝昔はあんな感じではなかった〟とボソッと呟いた。

 

その言葉を聞いた百香がもう一度時雨先生を見ると、駐車場に向かっていく彼女の背中は心なしか哀愁が漂っているような感じがした。

 

「時雨先生・・・」

 

「見てくれないなら気にする必要ないよ。もう少しでステージ始まるから、控室に行こ」

 

「え?あ、ああ」

 

呆れかえった顔をした曜に手を引かれながら促され、ステージ裏の控室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

Aqoursのステージの一組前。

 

一組前のグループがステージ上で踊っているのを百香を含めたAqoursメンバーは、舞台袖で眺めていた。

 

「もうすぐだね・・・」

 

「ううっ・・・。緊張する・・・」

 

「大丈夫だよ」

 

舞台袖で、もう少しで出番が来ると分かって緊張している百香を見た千歌は、やさしく百香の両手を手に取った後、百香の右手首につけられているシュシュをゆっくりと撫でた。

 

「梨子ちゃんも頑張ってるし、そして──」

 

千歌はやわらかく百香に言い、後ろを振り返った。

 

百香も続いて振り返ると、後ろには待機していた梨子を除くAqoursメンバーが全員、笑顔で百香を見ていた。

 

「Aqoursのみんなも居るから──」

 

「うん・・・!」

 

百香が力強く頷くと、ステージ上が暗転した。どうやら前のグループのステージが終わったようだ。

 

「Aqoursの皆さんお願いします」

 

「あ、はーい」

 

スタッフが小声で千歌に声を掛けると、小声で返答した。

 

「よし、じゃあ行くよ。

 

ラブライブ!に向けて、私たちの第一歩に向けて。全力で輝こう!」

 

千歌の小さな掛け声で百香を含む8人は大きく頷き、円を作ってシュシュを着けている右手を円の中央部に差し出した。

 

「Aqours!」

 

「「「「サーン、シャイーン!」」」」

 

 

 

 

 

 

──さあ、新たなAqoursの誕生だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ上。足元に引かれた、Aqoursと黒いペンで書かれていた蓄光テープの上に各々が開始時のポーズを取り、照明が点くのを待つ。

 

〝パッ〟

 

心なしか、そのような音が鳴ったような気がした。

 

それと同時に照明が点き、スピーカーから音楽が流れ始めた。

 

曲名は

 

〝想いよひとつになれ〟

 

想いが一つになった新生Aqoursにはぴったりな曲名であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────想いよひとつになれ

 

 

 

 

 

 

 

────どこにいても

 

 

 

 

────同じ明日を信じてる

 

 

 

 

ダンスでAqours9人が一斉に指をさした場所。それは梨子の居る場所。すなわち、東京のある方角であった。

 

 

 

その後すぐにダンスは終了し、Aqoursの面々は舞台袖の奥に移動することになった。おそらく梨子も、東京のコンサートホールでピアノを弾き終えた頃であろう。

 

「梨子ちゃん、ピアノ弾けてるといいね」

 

「弾けてるよ。絶対」

 

舞台裏で梨子の心配をしていた千歌の様子を見ていた百香はフフッと笑った。

 

「それは信頼から?それとも──」

 

「うるせー。前者にきまってんだろこのいい子よい子善子」

 

「芸人みたいに言うなー!」

 

カッコいいことを言おうとしても、結局最後まで締まらないのがいつものAqoursであった。

 

なお、善子はこの後花丸に脳天にチョップを食らわされていたのは言うまでもないだろう。



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特別編11 ロリ辺百香(上)

良いですか?落ち着いて聞いてください。
この作品が更新されなかった2年半以上の間にスクスタとスクフェスがサービス終了し、ラブライブ!シリーズは2作品新たにスタートしました。

───皆様お久しぶりでございます。
いや、申し訳ございません。

就活とその後の就職で死んでました・・・。
これが社会人になるってことだ・・・

安心してください。ストックは週一投稿で2ヶ月分あります。

・・・これ生きているうちに連載終わるのか?


さて、幼児化とはご存知だろうか。大人が子どもになってしまうよくアニメやマンガとかであるアレだ。

 

私、津島善子もまさか、まさか現実で幼児化が起こるとは思ってもいなかった。

 

「おねえさん、だぁれ?」

 

「ウッソ・・・」

 

私の目の前には、私が着てもぶかぶかになってしまう制服を着た小さくなった渡辺百香が座っているのだ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること15分前。

 

いつもの昼休み。昼食をいち早く食べ終えた私はいつも通り屋上で魔法陣を描いていた。

 

「よし、これで完成よ!」

 

チョークを魔法陣の外に置き、ロウソクやハンカチなど、詠唱セットを配置すると善子は何やら呪文を唱える。コレがいつものルーティン。

 

短いのか長いのかよく分からない呪文を言い終わると同時に屋上には百香の姿が現れた。

 

「おい!善子ォ!」

 

どうやら御立腹な模様。

 

「お前、またロシアンマフィンやりやがったな!?ジョロキアは口ん中死ぬわ!」

 

〝あっ、やっべ〟

 

私は咄嗟にそう感じた。実は、前にも手作りお菓子を持ってきた時、百香に渡したものだけ自分用のめちゃくちゃ辛いお菓子だった。

 

その後どうなったのかは言うまでもない。

 

「絶対に許早苗!」

 

百香がそんな事を言いながらこちらに早歩きで来る。少しふざけているため、コレは本気の怒りでは無い。もちろん───

 

粉バナナ(これは罠だ)!ズラ丸が私を陥れるために仕組んだ罠だ!」

 

私もふざけ出す。ネットのネタにはネットのネタをぶつけるだけだ。

 

百香の後ろには花丸とルビィがついてきていた。2人は善子が絞められたらどうしようと思っていたのだが、ふざけ出してる2人をみて呆れ顔となった。

 

ここからはもう2人だけの劇だ。

 

しかも、百香はどっから持ってきたのかおもちゃの銃を取り出して来た。何故持ってるし。楽しいから良いけど。

 

そして寸劇はクライマックス。私が百香の撃った銃に撃たれた体で床に倒れ、それを百香が撃つシーン。

 

黒酢(殺す)☆コイツは黒酢アイスを食べたぁ(殺さないとダメだぁ)────!」

 

おもちゃの銃を持ちながら百香は走りながら近寄ってきて────

 

 

 

思いっきり魔法陣を踏んだ

 

 

「え?」

 

魔法陣を踏んだ瞬間、光だして百香は光に包まれてしまった────

 

 

 

 

 

 

コレが幼児化した経緯だ。私のせいじゃねーか。

 

「善子ちゃん。どうするずら?」

 

どうすると言われても、私がどうにかできるのかどうかは検討がつかない。しかも記憶まで幼児化してるし、何故か転生した記憶が全部消えている。

 

助かったのは、今日が午前中授業の日だった事だ。もう授業は無いから先生に怪しまれることもない。

 

「とりあえず、曜呼ぶ?」

 

私が提案したら、2人は首を縦に振る。餅は餅屋。妹には姉だ。

 

とりあえず、チャットで連絡をとって少し待つことにしよう。しかし、百香が不安がっている。どうしよう・・・。

 

「はじめまして。私は花丸っていうんだ」

 

「はなまる・・・?」

 

花丸が小さくなった百香に目線を合わせるようにしてしゃがんだ。こーゆーところ、花丸は得意なのだろうか?

 

「うん!」

 

「はなまる・・・おねえちゃん・・・?」

 

「そうずらよ!」

 

「はなまるおねえちゃん!」

 

「そうそう!よくできたね!」

 

百香と直ぐに打ち解けている。やはりこういうことは得意なのか?いや、コミュ障の花丸だ。中身が百香だから普通に話せているだけなのかもしれない。

 

「ルb・・・じゃなくて、私、ルビィっていうんだ」

 

「るびぃおねえちゃん?」

 

「そうだよ!ルビィお姉ちゃん!」

 

ルビィも百香と打ち解けられている。これはやはり後者なのだろう。

 

「はぁ〜、可愛いずらぁ〜。もうこのまま戻らなければいいのに〜」

 

おいコラ畜生丸が。

 

「うりうり〜」

 

「きゃはきゃは!やめて〜」

 

花丸が百香に頬を擦り寄せ、百香も笑って答える。ってか百香ってこんな感じだったっけ?私の記憶ではこんな様子の百香を1度も見た事がない。

 

こんなこんなしているうちに、屋上に本物の姉である曜が現れた。

 

「善子ちゃん!百香ちゃんが小さくなったって来たけど、ついに頭おかしくなった?」

 

にこにこしながら現れるなりコレだよ。ちょっと辛辣すぎませんかねぇ?

 

そして、そんな曜の視界に小さくなった百香の姿が入る。その瞬間、にこにこ笑顔が固まったと思ったらすぐに先程以上のにっこにこな笑顔(ご満悦レズスマイル)になった。心做しかヨダレが垂れているような気が・・・。

 

「よう、おねえちゃん?

 

ママ・・・?」

 

そんな曜の姿を見た百香は、曜と母親を間違えている。仕方ない。この時の百香にとって見慣れている曜は彼女のように小さかったからだ。

 

「曜お姉ちゃんだよ〜!」

 

「よう・・・、おねえちゃん・・・?」

 

曜が百香の頭を撫でるが、百香は未だに本当に曜なのか疑問に思っている。

 

「よう・・・、おねえちゃん・・・!」

 

が、曜が抱きついた瞬間、匂いで直ぐに曜だと気づいたのか、直ぐに満面の笑みで曜に抱きついた。

 

「お姉ちゃんだよぉ・・・!」

 

「や、やめてよぉ〜」

 

曜は嬉しくなったのか、百香と頬擦りをする。

あれ?デジャブ感じない?

 

そう思う私を横目に、曜はずっと百香に頬擦りをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎ、午後。

 

スクールアイドル部部室。

 

 

時は過ぎ、午後。

 

サイズがデカすぎる制服では産まれたままの姿となってしまう百香にはピンク色のスモックが着せられ、曜と手を繋いでスクールアイドル部の部室に現れた。

 

小さくなった百香を見た花丸とルビィ、そして私を除いたAqours一同は固まる。当たり前といえば当たり前である。

 

「曜・・・、その子は・・・?」

 

果南が恐る恐る聞いてくる。

 

「実は・・・、千歌ちゃんとの間にできた子なんだ・・・」

 

曜が顔を赤め、果南が〝マジか〟と小声でつぶやく。そうはならんやろ。

 

その瞬間だった。鞠莉が曜のスカートを捲った。

 

「ひに゛ゃっ!?」

 

「やっぱりついてないわね〜」

 

鞠莉はしゃがみながら曜のスカートの中を覗く。うん、薄ピンク色か。曜にしては派手なのでは?

 

・・・何考えてるんだろう私。

 

「ちょっ!?何するの!?」

 

「いや、てっきり曜に生えたのかなって」

 

曜が顔を真っ赤にして鞠莉に抗議すると、鞠莉は何食わぬ顔で答えた。

 

「これはちかっちに生えたのね・・・」

 

「生えたって何ずら?」

 

ほら、鞠莉が変な事言うからまたしても何も知らないずら丸が聞きに来てしまうじゃない。

 

「そりゃー、子どもがいる時には決まってるでしょ?おちんち──」

 

その瞬間鞠莉はダイヤに蹴り飛ばされた。そういうとこよ鞠莉。

 

「何するのダイヤ!」

 

「次言ったら顔面ですわよ」

 

「アッハイ」

 

さすがの鞠莉も鬼の形相のダイヤには言い返せない。まあ、無垢な子が多いAqoursには悪いことだからね。

 

ただ、ダイヤの一番無垢で居させるべきのルビィはこの話を聞きながら〝やれやれ〟といった感じをしていたからダイヤにとっては無駄になってしまってるかもしれない。哀れ、ダイヤ。

 

「で、その子は一体何ですの?」

 

「実は───」

 

さすがにこのままでは誤解しか産まないし、曜も鞠莉もほぼ暴走状態のため、私は大人しく周りに百香の現状を説明した。

 

「「「百香(ちゃん)が小さくなった!?」」」

 

何も知らなかったAqoursメンバーは説明に驚く。そんなメンバー達を横目に百香は曜と花丸の3人で遊んでいる。呑気ね、子どもだし。

 

「善子さん。また変なことしましたのね」

 

「変なことって何よ!それに善子じゃなくてヨハネ!」

 

ダイヤがため息をついているが、後にも先にもこのようなことは起こりえない。安心して欲しい(フラグ)

 

「しかし、よくスモックなんて持ってましたのね、ルビィ」

 

「百香ちゃんに着せたくて・・・、百香ちゃんサイズを作る参考資料として持ってたんだ」

 

「さすがルビィ!用意周到ですわね〜」

 

ダイヤがルビィの頭を何度も撫でるけど、普通ここで〝百香に着せる〟という点で疑問が出ないのはおかしい。

 

周りを見渡すと、果南と梨子が怪訝そうな顔でルビィとダイヤを見つめていた。良かった・・・。まともな感性を持った人がここにもいた!

 

「それより曜、どうするの?百香、家に連れて帰るの?」

 

「一応、今日はお母さんだけだし、説明すればなんとかなるかな・・・」

 

果南に指摘された曜は、そう答える。

 

いや、母親納得させられるのかよ。

 

「本当に大丈夫なの・・・、よね・・・?」

 

「大丈夫!百香ちゃんの中の人のことだって中学くらいから知ってるから大丈夫!」

 

梨子の不安そうな声とは裏腹に、曜は気にする素振りすらない。というか、私達が気づく前に曜の母親は気づいてたのかよ。スゲーなオイ。

 

「じゃあ、曜に任せて大丈夫だね」

 

「そのようね」

 

果南が安心しきった顔で納得していたので、私もついでに納得してこの話題を終わらせて帰ろうとした。もちろん、百香がこうなってしまったので今日の部活は休みだ。

 

今日の部活は終わり。小さくなった百香も曜に押し付け・・・、もとい任せられたから気兼ねなく帰れる。

 

バッグを持ち、果南達数人と部室を出ようとした時、ダイヤさんに呼び止められた。

 

「お待ちなさい」

 

「やっぱ、ダメっすよね」

 

やっぱり元凶の私は帰ってはダメだったらしい。ちくせう・・・

 

「じゃあ、私達は帰るね」

 

「おねえちゃん達、ばいばーい!」

 

百香は、他の部員達に曜の手と繋がっていない方の手をブンブンと振る。

 

それからは百香が幼児化した要因を調べてみたのだが、全くわからなかった。その間も曜と百香、花丸、ルビィの4人で遊んでいたのだが、夕方になったため、解散することとなった。

 

「善子ちゃん行くよ」

 

「よしこ!行くよ!」

 

おい、私だけタメかい。そこ、笑うな花丸ルビィ。

 

前途多難ね、これは・・・。

 

笑う渡辺姉妹を見ながら私は頭をポリポリと掻くしかなかった。



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特別編11 ロリ辺百香(下)

しばらくは週一投稿になります。安心してください、少なくとも2ヶ月は確定です。


結局、私こと津島善子は小さくなった百香を元に戻す手がかりを少しでも見つけるために、渡辺家に一泊することとなった。

 

原因を見つけよ!というダイヤさんからの命令のためだ。

 

帰宅後、事の顛末を曜の母親に知らせ、百香を見せたところ───

 

 

 

「まあ───!可愛い!百香ちゃん可愛いよぉ───!」

 

「お母さん、うるさい」

 

母親もおかしくなった。遺伝か?

 

「実の母なのに辛辣ぅ!でもでも、こんなに小さな百香がいるなんておかしくなりそう!」

 

「気持ちはわかる」

 

わかるのかよ。先行き不安ね・・・

 

「さて、みんなが帰ってきたことだし、お夕飯にしようか」

 

「さんせーい!」

 

「ママ!今日のご飯は何?」

 

百香の質問に、母親は〝よくぞ聞いてくれた〟というような表情をした。

 

「それって・・・、百香ちゃんの好物の・・・」

 

そこから大体を察したのか、曜は少し嫌そうな顔をする。

 

「刺身よ!」

 

「わぁい!」

「・・・」

 

百香は諸手を挙げて喜んでいたが、曜は〝あー、やっぱりな〟という表情だ。それもそのはず。百香の好物は刺身、曜の苦手なものは刺身だからだ。なお、アレルギーに在らずのため、そこらは無問題だ。

 

というか、刺身好きな記憶は引き継いでいるのは意外であった。とりあえず、メモをしておこう。

 

「善子ちゃんも食べて大丈夫だよ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

もちろん、私も食べることになった。

 

 

 

 

 

「お刺身おいしい!」

 

「本当ね!おいしいわね!」

 

「今日はお刺身にした甲斐があったわね!」

 

刺身を食べた百香と私、そして母親が笑いあっている。曜はと言うと、刺身を少しずつ口の中に入れ、そしてすぐに飲み込んでいた。

 

その光景をみた百香は曜にぽつりと言った。

 

「ようおねえちゃんは、お刺身キライなの・・・?」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

小さくなった百香にとって、自身の好物で曜が悲しくなるところは見たくなかったらしい。すぐに涙目になり、泣きそうになっている。

 

そんな姿の百香をみた曜は、あまり口にしなかった刺身を美味しそうに食べ始めた。

 

「うん!とってもおいしい!」

 

「ほんとう!?」

 

曜の笑顔を見た百香の表情は、ぱあっと笑顔に変わる。

 

「本当本当!」

 

自分自身の分の刺身を食べ終えた曜は、百香の頭を撫でる。曜、無理してない?これが姉の風格ってヤツ?それは紛れもなくヤツか?

 

 

 

 

コブラじゃないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食後、百香と曜が2人で入浴し始めた時、リビングには私と曜達の母親の2人だけになった。

 

テレビがcmに移った時、ふと私が話し出した。

 

「その・・・、今回はすみませんでした。百香さんを小さくしてしまいまして・・・」

 

「大丈夫大丈夫。気にしてないよ。でも、ああいった百香を見るのは新鮮で良いね」

 

私の謝罪に対し、彼女はからからと笑いながら答える。なんだか拍子抜けだ。

 

「百香の小さい頃ってどんな感じだったんですか?」

 

「本当に手のかからない子だった。オムツも直ぐに取れたし、物事の分別もすぐに理解してた」

 

事情を知った今ならこうなっていたのは仕方ないが、何も知らなかった当時は曜の時と比べた時のギャップが物凄かったと、母親は笑いながら言った。

 

「こんな百香、見られることは1度もなかったからね。むしろ善子ちゃんに感謝してるって言っても過言じゃないよ」

 

「ええ!?そうなんですか!?」

 

驚きだ。私の想像では、百香を勝手に小さくしたことに対して少なくとも困惑するのではないのかと考えていた。

 

まさか感謝されるとは微塵も思っては居なかった。

 

「たまにね、考えちゃってね。もしも百香が普通に産まれたら、ってね」

 

「・・・」

 

私は、何も言えなかった。私にはどちらが正しいか、決められない。

 

「でも大丈夫。今回だけで満足だから。いつもの百香は、あの百香だから・・・」

 

「そう、ですね・・・」

 

やはり、落ち着いていなかったらしい。

 

「早く戻してあげてね。百香ちゃん、この事知ったら多分、またベランダから飛び降りるから」

 

「は?」

 

恥ずかしいことがあったら飛び降りようとするの?百香って・・・。いや、待てよ・・・。自己紹介の時スベりまくって飛び降り未遂した事があったよね・・・?

 

これは教えてはならない。墓場まで持っていくしかない・・・。

 

「お風呂上がったよー」

 

「あがったよー!」

 

そうこうしているうちに、曜と百香が風呂から出てきた。母親が言うには、百香の服は曜や百香が小さい時に着ていた水色の寝間着との事。

 

なぜ残っているのか・・・

 

 

風呂から出てきた2人を見ると、どちらも髪が濡れている。ドライヤーで髪を乾かさずにタオルで軽く拭いただけなのだろう。

 

「ちょっと2人共!髪乾かしてないでしょ!ちょっとこっち来なさい!善子ちゃんは曜をよろしくね」

 

「あ、はい」

 

それを見た母親はドライヤーを脱衣場から2つ持ってきた。百香の髪を母親が、曜の髪を何故か私がドライヤーで乾かすこととなった。

 

え?大丈夫?ドライヤー2つも繋いでブレーカー落ちたりしない?

 

そんな不安とは裏腹にドライヤーは問題なく動き、私は曜の髪を、母親が百香の髪を乾かしていく。

 

「「くすぐったーい」」

 

「もう、髪の毛くらい乾かしたらどうなの?」

 

「え〜?だって面倒くさいじゃん」

 

「めんどうくさいじゃーん!」

 

これである。せっかく2人とも可愛いのに台無しだ。

 

「百香が真似したらどうするの?」

 

「それはイカンでありますな」

 

そして曜の手のひらクルクル様よ。

 

「百香ちゃん、ちゃんと髪の毛は乾かそうね!曜お姉ちゃんとの約束!」

 

「ようおねえちゃんとやくそくー!」

 

髪を乾かせられながら曜と百香は指切りげんまんをしていた。

 

さっきまでお前は何を言っていた?

 

 

 

髪を乾かし終わると、百香は曜と遊び始めた。その隙に私は入浴を済まし、脱衣場から出てくると百香がソファーでうとうととしていた。

 

「百香ちゃん、眠い?」

 

「眠くない・・・、眠くないもん・・・!」

 

曜が百香に聞くが、百香は眠くないと言い張って首を縦に振らない。でも顔を見るととても眠そう。

 

「じゃあ、お姉ちゃん達と寝ようか」

 

「うん・・・」

 

うん?今、お姉ちゃん()って言った?もしかして私も含まれている?私は百香を元に戻すのを調べないといけないのに・・・。

 

「じゃあ善子ちゃん。一緒に寝よっか。調べるのは明日でもいいから」

 

ですよね。もしかしてこの状況楽しんでる?

 

 

 

 

 

曜に連れられ、客間に行く。普通なら個々の部屋で寝るのが普通なのだが、今日は異例の事態のため客間に布団を2つ敷いて右に善子、左に曜、中央に百香という川の字の体勢で寝ることになった。

 

百香は、布団に入り始めた頃はよく話していたのだが少しずつ口数が少なくなってきた。

 

身体が小さくなったからなのか、もう百香は眠気に支配されているらしい。

 

「ようおねえちゃん、よしこおねえちゃん。また、あした・・・、あそ・・・ぼう・・・」

 

「うん、また明日ね」

 

眠気に勝てなくなった百香はすぐに寝息を立てはじめる。私は、この後こっそり布団を抜け出して原因を見つけようとしたが、ゲームばかりして夜遅くに寝ていた弊害で眠気に負けた。

 

布団には勝てなかったよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃぁ────!」

 

朝5時。まだまだ辺りは少し薄暗い時間。客間に百香の叫び声が響きわたり、私は目を覚ました。

 

曜もさっきの叫び声で目を覚ましたらしく、目を見開いていた。

 

そう、布団の中央には、元の姿に戻った百香がいた。

 

ただ、着ていた寝巻きや下着類は布団の外に脱ぎ捨ててあって、今の百香は一糸まとわぬ姿だった。

 

この場に神田が居たら間違いなく3人の蹴りが飛んでただろう。神田はそういう役割だから仕方ない。

 

「何で私全裸なんだよ!」

 

百香は〝しかも家だし、学校に居たはず〟と続けた。どうやら、小さくなった時の記憶は無いらしい。

 

「辛すぎて倒れた後、無意識に脱いじゃったのよ!」

 

「はあ!?」

 

昨日の適当に誤魔化すと、百香が怒り出した。まあ、倒れたと知ったら誰でも怒る。私だって怒るし、ルビィや花丸だって怒るだろう。

 

「それよりもさ、服、着たら?」

 

「あっ・・・」

 

曜のその一言で、怒りで真っ赤だった顔が恥ずかしさで真っ赤に変わった。

 

「着替えっからあっち向け・・・」

 

そう言いながら百香は背を向ける。

 

乙女かよ。乙女だわ。中身おっさんだけど。

 

 

 

百香はその後、もし戻った為に用意していた着替えに着替え、今日は活動日であるため、部室に行くことになった。

 

本来であれば休みにするはずだが、もし百香が元の姿に戻った時のために今日の予定は未定にして辻褄を合わせることにした。

 

ただ、家を出る前の母親が少し悲しそうな顔をしていたのは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

「あー、もうお嫁に行けねぇ・・・」

 

部室に着くなり、テーブルに突っ伏した百香はボソリと呟く。部室には、私と百香と曜の3人しかいない。

 

ちなみに、ロシアンマフィンについては怒りよりも裸になった羞恥心により忘れてしまったのか、私は許された。やったぜ。

 

「裸なんて私達見慣れてるから大丈夫なのに」

 

「そういう問題じゃねーよ・・・」

 

大した問題ではないと私達は思っているが、百香にとっては重大な問題らしい。

 

私は、苦笑いしながら百香の横に座ると、サッシ扉を開けて花丸が入ってきた。

 

「百香ちゃん、どうしたずら?」

 

「ん?ああ」

 

突っ伏していた百香が顔を上げて入ってきたのが花丸だと確認した時───

 

()()()()()()()か」

 

この一言を放った。当然、みんな驚いて一斉に百香を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

「───ずら?」

 

「いや、何でもない!ちょっと頭冷やしてくる」

 

しばらく全員呆気にとられていたが、はっとした百香は小声で〝あれ?何でだ?〟と首を傾げながら外に出て行った。

 

「もしかして、記憶の奥底には残っているのかもね」

 

曜は、私にポロリとこぼした。確かにそうかもしれない。もう一度試してみたい気も起きてくる。

 

「善子ちゃん。次は無いずら」

 

「アッハイ。

すみません、もうしません・・・」

 

そう言いながらも、また別の魔法陣を試してみようと私は考えていたのだった。



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第5章 浦女の過去
第67話 在りし日の記憶


夏休みの体育館。

 

窓を全て開放しても、ジメジメとした熱気は完全に払えず、汗が流れ落ち、シミを作る。そんな暑苦しい熱気すらも感じてはいるが、それを感じさせないほどアリーナで行われているバスケ部の交流試合は白熱していた。浦の星女学院女子バスケットボール部は、創立以来、類を見ない快進撃を見せていた。噂では、冬のインターハイにも出場できるのではないかとまでも言われている。

 

「いけー!浦女ー!」

 

相手は県大会常連、中部大会にも多数出場、全国大会出場も経験している県立由比高校*1。そんな強豪の一軍相手に浦の星女学院女子バスケ部は善戦どころか、ほぼ互角、もしくはそれ以上といった戦いを繰り広げていた。第4Qの残りタイムは2分に対し、点差は同点だが、急激に追いついてきた浦女側が流れ的には優勢。浦女側には少しであるが余裕が、由比側には焦りが見え始めていた。ボールが、増田(ますだ) 乃愛(のあ)からフリースローライン手前まで移動したキャプテンの後藤(ごとう) みどりに渡る。逆転を阻止するために由比の選手達はゴールさせまいとブロックしていた。時間が刻々と減っていく。気づけば、残りタイムは5秒になっている。そんな中、由比側の一瞬の隙を見逃すはずは無かった。

 

「みどり、シュート!」

 

この瞬間、たった数秒の動作がまるでスローモーションのように見えていた。人一倍飛び上がったみどりの手から射出されたボールは上へ上へと動き、やがて静止したと思えばゴールへと向かって落下し始める。まるで意志を持っているがごとく、ゴールリングに向かう。ゴールしてしまったら、由比側の敗北は決定。ゴールするのは絶対に阻止せなければならない。

 

由比側の175cm以上の高身長を持っているであろう選手が飛び立った。持ち前の跳躍力と高身長でゴールを阻止するつもりだ。ボール以上の速度で手は徐々にゴールリング上へと近づいていく。届くか、届かないか────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届かない!?」

 

指先を、ボールがかすりもしなかった瞬間、由比の監督の表情が一気に変わる。先程まで笑顔でガッツポーズをしていたが、今ではそのポーズのまま口をあんぐりと空けている。由比の選手の目が開き始める。()()()()がタイマーに向かう。僕の心の中では、ゴールするのはもう確定事項であった。あとは、タイムがどうか。

 

 

 

 

 

3秒、、

 

 

 

 

 

 

2秒、、

 

 

 

 

 

 

 

 

1秒、、

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬で静寂に包まれたコートに、ボールがバウンドする音が木霊する。

 

 

 

 

 

ピ──────ッ!

 

 

 

 

その後にタイマーから発せられる電子ホイッスル。

 

「やったぁぁぁぁぁ!」

 

浦女側で歓声が上がると同時に、いつの間にか口を閉じた由比の監督が腕を組みながらパイプ椅子の背もたれに寄っかかった。勝利は、浦の星女学院女子バスケットボール部。練習試合であるが、強豪校の一軍に勝利した瞬間であった。

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

両校の挨拶後、由比の顧問は、少しぽっちゃりとした身体には酷であろう空間でタオルで顔の汗を拭きながらこちら側へとやって来る。汗がダラダラで髪の毛も薄い、いかにも駅前の飲み屋街やオフィス街、特に新橋に居そうな面構えのオッサンだが、目は強豪校の監督のソレである。つい、背筋が伸びてしまう。

 

「凄いですなぁ。たった半年でここまで・・・。一体どんな練習をしたんですか・・・?」

 

「いえ、特に僕は何も。彼女達の実力だと思いますが・・・」

 

「そんな事ないですよ。初対面の体調も、得手不得手も、試合の状況も見ただけでわかるそうじゃないですか!」

 

今回の試合もそれでメンバーを決めたのでしょ、と由比の監督は聞いてくる。そこまでしなければ、初戦敗退がほぼ確定していた弱小校が練習試合ではあるが強豪校に勝利してしまうことはなかったはずだと思っているのだろう。だが、僕はただ彼女達を補助しただけだ。ここまで来たのは彼女達の努力のおかげだろう。

 

「いやぁ、本当に僕は何も・・・」

 

「自分の才能に気づいてらっしゃらないのですか?もったいない・・・」

 

由比の監督は、そう言ってまた汗を拭く。彼によると、僕は一流の監督にも劣らない才能を持っているらしく、本当に強い選手を育てれば全国どころか世界も狙えるらしい。

 

「もし、良ければ特別指定選手の監督をやってみてはいかがですか・・・?」

 

彼は、名刺を出してきた。彼の名刺ではない。特別指定選手を取り纏めている組織の代表が書かれた名刺だ。どうやら彼は本気のようだ。

 

「ありがとうございます。でも、僕には彼女達がいます。僕は、彼女達を勝たせたい。彼女達の希望を叶えたい。だから、この話は受けられません」

 

「わかりました。でも、気が変わったらそこに連絡してください」

 

名刺を返そうとしたが、彼はすぐに背を向けて由比の選手の方へと歩いていった。彼は、日本の女子バスケットボールを勝たせたくてこの名刺を僕に渡したのだろうが、僕にとってはこの子達を勝たせるだけで充分であった。この名刺は後にシュレッダー直行便になるだろう。

 

 

 

「せんせーい!やりましたよ!勝ちましたよ!」

 

名刺を片手に立ち尽くしていた僕に、ロブで元気いっぱいな子が抱きついてきた。終盤でみどりにパスを出した乃愛だ。

 

「ちょっ!?汗凄っ!?びちゃびちゃじゃん!」

 

「えっ?あーっ!本当だー!ごめんなさーい!」

 

レディーススーツを汗まみれにした乃愛は、悪びれることも無く舌を出しながら頭をエヘヘと掻く。ため息が出そうな態度だが、頑張った彼女たちに免じて軽く怒るだけにした。そう───

 

「ふふふ。皆にアイス買おうと思ったけど、乃愛だけアイス抜きね」

 

「ええええええ!?何で!?」

 

アイス抜きが確定した乃愛は再び抱きついてきた。先程のような笑顔ではなく、泣き顔だ。

 

「ちょっ、汗で濡れる!離れて!」

 

「先生ー、酷いよぉぉぉ!後生だからアイス買ってよぉぉぉぉ!」

 

腕に蝉のように張り付いた乃愛を離そうとブンブンと腕を振るが、なかなか外れない。その光景を見て、笑いながらであるが、浦女女子バスケ部メンバーがゾロゾロと僕の周りに集合し始める。由比側も選手含め全員が監督の周りに集まっている。向こうはもうすぐ撤収だろう。

 

「わかった、わかった。由比が帰ってからだからね」

 

「やったー!」

 

アイスが乃愛の手にも渡ることがわかった瞬間、乃愛は諸手を挙げて喜んだ。僕やメンバーはもっと喜ぶべきことがあるではないかと、苦笑いをするしかなかったが、コレが乃愛のいいところなのであろう。そうこうしているうちに、由比の監督の総括が終わり、帰校しようとしているところであるのか、監督、選手、部員全員がこちらに歩いてくる。

 

「今日は、お世話になりました」

 

「こちらこそ、今日はありがとうございました」

 

先程まで纏っていた雰囲気を取り払い、由比側も浦女側もお互いに礼をし合う。お互いの礼の後、両校の監督は数歩前に歩き出た。

 

互いに向き合うと、彼の方が僕のほうを見下ろしているため、さっき以上に身長差がはっきりと分かる。

 

「次はどこと戦う予定ですか?」

 

それは、彼の好奇心か、それとも親切心か、それともそれとも、ただの野次馬根性か──

 

現状の僕にはわからなかったが、とりあえず答えておいて損は無いだろう。

 

「次は、当目高校です。その次に浜名湖学園」

 

「当目に浜学ですか・・・」

 

僕の言葉を聞いた彼は、少し黙り込んだ。少しの沈黙の後にどのような言葉が出るのかが気になった。現状、浦女女子バスケ部は未だ弱小校。焼津市の当目*2にある県立当目高校と浜松市西区、の弁天島*3にある私立浜名湖学園は、両校とも強豪校。浜学に至っては全国大会出場記録もあるほどの強さの強豪校だ。立て続けに強豪校と練習試合を組んでいるのはあまりに狂気の沙汰に見えたのかもしれない。

 

「彼女達は私たちと同等、いえ、それ以上に強いですよ」

 

どんな言葉が紡ぎ出されるか不安であったが、彼から発せられた言葉は、それだけだった。

 

「頑張ってくださいね。貴女がたはもう、強豪校の一員になっていますから・・・」

 

最後に笑顔を見せながら汗を拭くと、彼は部員達を連れてアリーナから出て行った。しばらくその後ろ姿を見ながら、返答に拍子抜けしていた。5分くらいして、正門からバスの走り去る音が聞こえてきた。おそらく、彼らが由比高校に戻って行ったのだろう。

 

それから5分ほど経過した。

 

「買い出し行くよ」

 

僕の合図でほぼ全員が手を挙げた。この部の方針で、買い出しについて行く人は挙手制、さらに、希望者が多数だった場合はジャンケンで決めるか、先生の指名制になっている。挙手をしている人に目を向けると、その中には乃愛とみどりの姿もいた。乃愛に到っては、1番目立つように両手を上げながら大声で声を出していた。先の程の激戦の疲れなんか感じさせないようである。

この状況で指名するのはさすがに気が引けた。

 

「じゃあ、ジャンケンで決めて」

 

その瞬間、挙手をしていた人は一瞬にして円になる。この変な団結力がこのチームを強くしたのだろうか。頭にははてなマークしか思いつかない。

 

「じゃあ行くよー!」

 

勝手に仕切り始めた乃愛の掛け声とともにジャンケンが始まった。助手席に座るのは誰になるのか少しだけ気になりながら、真剣な戦い後のくだらない戦いの行方を見守る。最も、このくだらない戦いでも彼女たちは大真面目でジャンケンをしているのだが。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへ」

 

結局相方は乃愛に決まった。

 

彼女は、にこやかに僕の車の助手席に座る。

 

エンジンをかけると、カーステレオからは事故米の処分状況に問題があった会社のニュースが流されていた。正直、この問題については今現在はどうでもよかった。

それほど、充実していたのだろう。

 

「どこのコンビニします? 」

 

「今日は淡島側のコンビニにしようか」

 

車をゆっくり走らせながら相談するが、乃愛は〝今日もじゃないですかー!〟と不満を漏らす。実際のところ、三津三差路のコンビニは駐車場が狭い、なおかつ釣り客の車が多いことが多々あるためこのレガシィでは入りにくい。そのため、行き先はほぼ淡島側、小海のコンビニと決まっていた。

 

助手席では、乃愛が不満げに頬を膨らませている。

 

そんな乃愛の様子を見た僕は、農産物直売所の先にある車一台分の横幅がある路肩に車を止め、ガラケーで写真を撮る。

 

「何で撮るんですか──!」

 

しばらく乃愛は抗議の声を上げていたが、車を走らせはじめて富士見トンネルを抜け、三津の中心部へと向かう。

 

 

 

 

「先生」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

ふと、彼女が僕の方を向き、言い始めた。

 

「今、どうですか?」

 

急に出された彼女からの質問。質問の意図がわからず、ただ首を傾げることしか出来ない。そんな僕の様子を見た乃愛は、にこりと微笑む。

 

「私はですね、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、すごく楽しいです────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

布団から飛び起きた僕の目の前に額縁に入った写真と卓上カレンダーが見える。年月は2016年8月。

 

 

 

 

 

 

 

ただの夢だった───

 

 

 

 

 

 

そう思いながら時間と日付の確認を行うためにベッド脇に置いていた自身のスマホの画面をつける。日付が分かった瞬間吐き気。今日は忘れたくても忘れられないあの日だった。

 

込み上げてくるものを押し込むように念じながら口を押え、トイレに駆け込む。

 

──ああ、クソ

 

同じ月日が来ると毎年同じことになる。もううんざりだ──

 

便器の中に昨日の夕食であっただろう何かを吐き出しながら悪態をつく。僕の体はこの日に抗えなかった。

 

歯を磨いて顔を洗う。ボサついたセミロングの髪をとかし、三つ編みにして先にリボンを括りつける。そして、服に着替え朝食──といきたいところだが、生憎今は夢の影響で全く食欲が無い。

 

「しょうがない。行くしかないか・・・」

 

部屋の中央部に置かれた丸テーブルの上に置かれた車のキーを手にすると、曇り空の外に繰り出した──

*1
由比

静岡市清水区に位置する。2008年までは庵原郡由比町。

サクラエビとシラスで有名

東名高速由比PA下りから見る景色は絶景

*2
当目

焼津市東益津に位置する

当目地区(実際には当目という地区名は無く、浜当目と岡当目という地区名となっている)にある当目砦は、武田信玄が築いたと言われている

*3
弁天島

海水と淡水が交わる汽水湖である浜名湖の河口にある島

人口は約3000人



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第68話 偶然の再開

2016年8月某日──

 

海沿いを沿って走る県道を焼津方面に向けて、僕は1台のハイブリッドカーを走らせていた。この白のセダンは、購入時期にちょうどマイナーチェンジをしたこと、ハイブリッドであることによる燃費の良さ、そして、前の車、青のステーションワゴンに染み付いた思い出を、乗り換えることで完全に忘れ去りたかったからだったからだ。

 

しかし、向かっている先は僕が愛した彼女達の最期の地。こうして車を走らせているということは、僕は忘れることができていないということだ。忘れたい過去は、いくら自分自身から切り離そうとしても金魚のフンみたいにずっとくっついてくるのだ。

 

以前、国道であったという面影も全く感じられない車通りの少ない県道。しばらく車を走らせていくと、大きく口を開けているトンネルがある。浜当目トンネルだ。ここを抜ければ焼津市街地までかなり近づくが、そんなことは今は関係ない。車をトンネルではなく、横の側道へと突っ込ませる。側道へ入った直後はに聳え立つフェンスゲート。車はここまでだ。

 

車を降り、フェンスゲートを乗り越える。道一杯に広がり、なおかつ扉は施錠されている。はたから見れば来るものを拒んでいるように見えるが、上は有刺鉄線すらないがら空き様。すぐに乗り越えてゲートの先に進む。

 

ゲートの先。それは、トンネルを通る県道の旧道だ。季節はもうすぐ秋だが、車1台すら通らない放棄されたこの道路には、踏みつぶされることを忘れた雑草が青々と茂っている。法的には立ち入り禁止区域になっているはずだが、このような廃道に立ち入っても誰も監視なんてするはずがない。

 

しばらく歩くと、〝416〟と書かれた青色の県道標識が立っていた。廃道になってもう8年程経つのに、この標識は未だに撤去されない。後ろにあった赤色の仮設ロックシェッドは姿かたちも無いのに、なぜこの標識は撤去されないのだろう。

 

疑問に思いながらも先に進む。路肩を拡張するためだけに架けられた唐沢桟道橋を渡り、もはや機能しているのか不明の3つの木製A型バリケードを越えると、法面に衝突痕が残っているという、土砂崩れだけが発生したと言うのにはいささか不自然に崩落した現場が現れる。

 

ガードレールは宙に浮き、路面のアスファルトは亀裂が走り、所々が崩落しているどころか、ほぼ道路が残っていおらず、法面のコンクリートだけという区間すらあり、対岸に渡るのはほぼ至難の業となっている。

 

この場所で彼女達は最後を迎えたのだ。崖下を見下ろすと、崩落して海に落ちそうになっているアスファルトに、あの日のマイクロバスがそこにあるように見える。

 

幻覚だとわかっているが、どうしてもそこに行きたかった。彼女達がそこで待っているかもしれないからだ。だが、怖さで足が竦んで向かえない。今回も、花束を現場に手向けることしか出来なかった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞いた話によると、あの日、スリップして法面に衝突した衝撃でバスの助手席から後方の路面に投げ出された僕は、上から押し寄せる土砂に巻き込まれずに済んだ。だが、バスに乗っていた彼女達と運転手は投げ出されずにバス車内に残ってしまったらしい。

 

事故の衝撃からなのか、彼女達は気を失ったらしく、上から落ちてくる土砂に反応することは出来なかったらしい。僕も同じく投げ出された時に気を失ってしまったらしく、後続のドライバーから揺さぶられるまで目を覚まさなかったらしい。あの時の記憶は酷く曖昧でその確証も無く、この記憶はほとんどテレビや新聞の媒体で知ったものであるのだが。

 

胸ポケットからタバコを1本出そうとし、思いとどまり手の動きを止める。

 

「チッ・・・」

 

こんな場所でタバコを吸おうとした自分自身に嫌悪感を感じ、舌打ちをする。

 

何時からこうなってしまったのか───

 

そう思いながら、崖の前に手向けられた花の前に腰を浮かせながら座り込む。

 

「あれ?あなた、あの時の──」

 

急に声を掛けられた。

 

こんな場所で声を掛けてくる。もしかしたら道路管理者か警察官かもしれない。〝不法侵入している人がいました〟と通報されたのか──

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向くと、そんな感じの全くない中年男性。格好も、長袖のシャツとベージュのパンツで至って普通。

 

この出会いは偶然であったが彼女の未来を決定づけた再開でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程とは場所は変わり、夫婦が営む隠れ家的な小さな喫茶店。先程の場所とは崩落現場の手前に位置している。小さな駐車スペースに沼津ナンバーのセダンと、仙台ナンバーのコンパクトハイブリッドカーが止まっている光景は些か違和感をかんじる。

 

そこの窓際のテーブル席に僕と先程の男性は腰を掛けている。

 

「いやぁ、まさか当事者に会えるとは思ってませんでした」

 

「それは私もですよ」

 

そう言いながら、僕は吐きそうな気持ちを抑えながらアイスコーヒーを1口飲んだ。

 

「すみません、こんな事を聞くのアレなのですが、あの時の記憶とか残っていますか?」

 

「あの時のですか・・・?」

 

男は、僕の言葉を聞きながら怪訝な顔をした。無理もない。深刻な事故は心に傷を負っているケースが多く、事故の状況について話したくないことが多いからだ。実際、話を聞いている僕自身、今朝全て出したはずなのに胃の中から何かが込み上げてくる違和感を感じが止まらない。

 

「はい。そうです」

 

「・・・。わかりました」

 

僕の覚悟の決まった目を見たのか、彼は彼自身の記憶を語り出した。

 

「あの時の私は、ちょうど静岡を旅行中でした────

 

 

 

8月も既に末日。秋に向けて季節が移り変わる9月を迎えそうになっていても、まだまだ暑い日が続いていた。

 

そんな日差しに照らされながら、1台の黒い車が赤信号で停車していた。

 

「暑いなぁ・・・」

 

燃費を良くするために最大限弱くした冷房では涼しくなりきらない。そんな男の車の前にジャージ姿の女子学生を一杯に乗せた1台のマイクロバスが現れ、男の車の前を進行方向と同じ方向に曲がって行った。

 

「お、何かの大会かな?」

 

男は頑張れよーと小さく言い、青になった信号を合図にアクセルを軽く踏んだ。

 

車は東海道本線と併走後、橋で駿河湾上を少し走行した後にトンネルが多く位置する海岸沿いの道に出た。

 

男はカーエアコンを止めると、車内の窓を全て全開に開けた。

 

「やっぱり海沿いはコレだよなぁ!」

 

そのまま車は順調に走り、先程の信号で前に出たマイクロバスの後ろ姿が見えるようになるまで近づいた。

 

少し速度を落とすか───

 

男がそう考えた瞬間、ドン!という音が響き渡った。

 

「な、何だ!?」

 

音と同時に振動。男はハンドルを取られそうになり、咄嗟にブレーキを強く踏む。

 

ガードレールスレスレになりながら必死にハンドルを操作し、どうにか車を擦らずに止めた。

 

「と、止まった・・・」

 

男は、息を切らしながらハンドルに顔を埋め、呼吸を整えた。

 

ハンドルから顔を上げた男の先には、先程まで前を走っていたマイクロバスは土砂に乗り上げた後に何回か回転したのか、全体がグシャグシャの状態でガードレールにぶつかって停車していた。

 

男はすかさず車を飛び降り、マイクロバスに駆け寄った。

 

後部座席のドアは歪み、開かない。前も同様だ。

 

「開かない・・・!!!」

 

中でぐったりしている少女達の姿を見た男に焦りが募る。

 

「バール使いますか!?」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

ちょうど男の車の後ろに工務店のバンが止まっていた。工務店に乗っていた男性は車に載っていたバールを持ってきていたため、男は借りることにした。

 

ドアと車体の隙間にバールを入れ、力を込める。メキメキ・・・と音を立て、助手席が開いた。

 

「開いたっ・・・!」

 

車内に乗り込み、助手席に座っている女性を引きずり出そうとしたが、シートベルトが絡まって外せない。

 

男は直ぐに男性からハサミを借り、シートベルトを切った。

 

「よし、出しますよ!」

 

「「せーのっ!!!」」

 

バリバリバリ・・・

 

男たちが力を合わせると聞くに絶えない音を出しながらドアは空いた。かろうじて空いたドアから女性を出し、男の車と工務店の車の間まで連れて行った。女性をゆっくりと道路に下ろし終えた時、男はある事を思い出した。

 

「あ、救急車!」

 

「あっ・・・!忘れてた・・・」

 

そう、2人共警察消防に連絡するのを忘れていたのである。これでは、いつまで経っても警察消防は来るはずない。男の携帯電話は車の中であり、何度もポッケを触っても中に携帯電話など無い。

 

「俺が電話します」

 

「よろしくお願いします!」

 

だが幸い、男性のポケットには携帯電話があった。男は男性に連絡を任せ、次の人を救助に向かおうとした。

 

 

 

 

が────

 

 

 

 

ドン、ドドン────

 

3回の破裂音が県道に響き渡った──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「破裂音───」

 

「はい。その破裂音の後に、地面が崩れて土砂と一緒にバスが───」

 

そう言い、男は目を背けた。しばらくすると男は突然立ち上がり、泣きながら土下座を始めて喚き始めた。僕は困惑した。

 

「俺があの時、海に飛び込んでいればもっと助かった!俺はあの時飛び込む勇気がなかった・・・!ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・」

 

最後の方はもう、絞り出すような声だった。涙がポタリ、ポタリと床に滴り、小さな水溜まりを作る。

 

「あ、貴方のせいじゃないですよ!」

 

僕は男の前に座り込むと、男の顔を上げる。この言葉は本心だ。男のせいにしようとは微塵も思っていない。彼は命の恩人なのであり、事故の本当の詳細を教えてくれたのだから───

 

「それより───」

 

この言葉に男は顔を上げる。

 

「その破裂音のこと、詳しく聞かせてください」

 

にこりと、僕は男に微笑んだ。



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第69話 鎮魂祭

2016年8月30日

 

浦の星女学院体育館アリーナ。

 

数多くの運動部が活動し、授業や休み時間でも騒がしいことの多いこの場所は沈黙に包まれていた。全校生徒はこの場に集合しているのだが、教師陣の悲しそうな顔を見て何かを察したのだろう。彼女達は何も話さなかった。

 

当然、百香もこの場にいるが、何故こんなに静かなのか皆目見当もつかなかった。今この状況はアニメに無かったからだ。

 

暗い雰囲気の中、理事長である鞠莉はゆっくりと壇上に立ち、口を開いた。

 

「皆さんは知っていますでしょうか。8年前の今日、15人もの生徒が命を落としたのを」

 

鞠莉にしては珍しく、声のトーンが低い。ふざけ通すつもりは毛頭ないらしい。

 

「残暑が続く日でした。不幸にも練習試合に向かうマイクロバスが断続的な土砂崩れにあいました。

 

バスは海に落ち、最初に救助された1名を除き、助けられませんでした。

 

私は一生徒でもあり、理事長の身でもあります。同級生、上級生、下級生、教え子を失う悲しみ、当事者でなくとも痛いほどよくわかります。」

 

教職員の中からすすり泣く声が聞こえてくる。鞠莉が語っている事故で教え子を無くしたのだろう。

 

「今日、この集会はこの悲劇を、皆さんに知って頂きたいたいため、開かれました。皆さん、この日を忘れないでください。

 

浦の星女学院最大の悲劇を──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浦女最大の悲劇か・・・」

 

数時間後、国道1号を走る2台のバスの車列の先頭1号車。その中に居た百香は窓の外を眺めながらボソッと呟いた。

 

「それってアンタの世界じゃ起こっていなかったってこと?」

 

「ああそうだ」

 

善子の反応にそう言いながら百香は頭を搔く。百香の席は善子と隣り合わせであり、ルビィと花丸は1つ後ろの席に座っている。席順は4人の中で決めたがひと悶着あったのは言うまでもない。

 

「それにな善子、普通のスポコン漫画みたいな世界で過去に部員全滅とか有り得んからな」

 

「た、確かに・・・」

 

最後に百香は1人2人ならまだしもな、と付け加えた。

 

「ってか、もし仮にそんなことが起こりうる世界なんて話の主軸は部活以外の何かだ」

 

「それもそうよね・・・」

 

そうだ。そんなことが起こる世界にとって、部活はサブになる。メインは何かの陰謀や怪奇現象にしかない。

 

「それにしても気がかりだ。アニメには出てこなかった黒い過去がゴロゴロある。何かしら外部要因があるのかもしれん・・・」

 

「外部要因・・・?」

 

()()()()()()()だ」

 

窓枠に頬杖をつきながら百香は答えた。百香が恐れている事、それは百香と同じ転生者が何らかの意志を持ってこの世界に悪影響を与えているかもしれないということだ。

 

元の世界の作品に記されていなかった、と言えばそれまでだが、今現在、自分自身を含め、八名、林、高田、三浦の5人の転生者が居るが、この5人全員しか転生者が居ないとは限らない。

 

もし、この5人以外に知識を持った転生者が居て、この世界に悪影響を与えているとしたら・・・。

 

充分にありえる話だ。

 

「転生者の全部が全部、善人だと思うなよ。前世で得た知識を使って悪事を働くこともある」

 

少し違うが、太平洋戦争に現代のイージス艦がタイムスリップしたマンガが良い例である。日本が甚大な被害を被り、負けるという未来の歴史を当時の軍人に見せてしまい、未来を変えようと手段を選ばずに暴走する。これは未来の歴史を知った故に発生した暴走のいい例だ。

 

「私が曜の妹になって快く思ってない人もいるかもしれない」

 

ただでさえ、アニメキャラクターとファンの距離は一千光年より遥かに遠い。その距離をわずか数センチにまで縮めたどころか自分自身も組み込まれてしまっている。そんな百香のことを憎く思っている人だって中にはいる筈だろう。

 

「これは公になってない事だが、私とルビィが昔誘拐されたことがある」

 

「えっ・・・?それって───」

 

「性癖を抑えきれなくなったクソ野郎か、イレギュラーである私が目的だったか───」

 

口には出さなかったが、十中八九後者である。

 

事実、百香の記憶の中での犯人達の会話では私の誘拐が目的であることを話していた。ルビィは誘拐現場を見られたからついでに───と、いう訳らしい。

 

ルビィ、とばっちりすぎる・・・。

 

「ま、今なってはどうでもいいことだけどな」

 

そう言って笑ったが、実際はそんな訳ない。本私だけならともかく、ルビィにまで手を出したからだ。心では腸が煮えくり返っているほどだ。

 

沢木さんが秘密裏に調べたところ、首謀者は上条財閥の重要人物ということがわかった。しかし、裏を返せば、それしか分からなかった。ということだ。

 

これ以上調べようと思ったが、調査員が消されるのは避けたかったため、ここまでしかわからなかった。と、沢木さんは後に語っていた。

 

この情報は知りすぎては危険である。危険な目にあうのは百香自身だけという考えであり、適当に誤魔化したのはあまり善子に興味を持たせないようにするためだった。

 

「ほら、もうすぐで着くぞ」

 

善子に返答の時間を与えず、直ぐに窓の外を指さす。

 

窓の外には穏やかでも何時人を飲み込むか分からない大崩海岸の海原が広がっていた。

 

バスは、現場に向けて走り続けている───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浜当目トンネル入口横路肩───

 

バスが1.5台ほど停められるこのスペースには百香達を乗せた観光バスが頭から突っ込んで停車している。

 

路肩の奥には、銀色のフェンスが立っている。フェンスの下には消えかかっているオレンジ色の線───

 

昔、ここが道として使われていた名残だ。

 

そして、フェンスの横には慰霊碑が立てられており、花束やお供え物が多数備えられていた。

 

「あれ・・・?ここ、どこかで・・・」

 

百香は、この場所に既視感を覚えたが、その慰霊碑にバスに乗っていた浦女の生徒達が次々に手を合わせ始めたため、百香も気持ちを切りかえて慰霊碑に手を合わせた。

 

「悔しかっただろうなぁ・・・」

 

「そりゃそうよ。先輩達は挑戦できずに亡くなったんだから・・・」

 

良いところまで行った先輩達。全国まで行けるかもしれないと、内浦中が活気立った矢先の出来事だった。

 

それからずっと、浦の星女学院から予選通過をする部活動は無かった。が、〝想いよ一つになれ〟を踊ったAqoursが地方大会を1位通過。そのまま中部地区大会に出ることになり、またもや内浦中が活気立つ事となった。

 

結論から言うと、Aqoursは力及ばず中部地区大会で敗退した。全国大会進出のグループとあと数票足りなかった。

 

それでも、内浦の人達は応援を続けてくれている。嬉しい限りだ。だが、内浦を歩くと色々おすそ分けされる事が多くなり、家に物が溢れ始めているのが悩みになりつつあった。

 

確かに負けたのは悔しかったが、次挑戦できるチャンスがある。今この瞬間、しみじみと感じる。こう思っては彼女達に失礼なのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

しばらく手を合わせていた百香はふと気づいた。

 

あれ、時雨先生どこ行ったんだ、と─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

慰霊行事の最中、辺りを見渡しても学年主任の時雨教諭の姿は見えなかった。

 

行事が終了し、バスが浦の星女学院に帰校した時に担任と副担任に確認したところ、ただ単に体調不良だと判明した。夏バテらしい・・・。

 

このような日に部活動はどこも活動は自粛しており、当然、理事長である鞠莉が所属しているスクールアイドル部ももちろんら休みであった。

 

もちろん、2学期が始まる前の登校日のためなのか、午前中に実施した慰霊行事のみ。

 

そのため、百香はSHR終了直後のバスに乗り、帰宅する事とした。

 

「結構急いでるわね」

 

「一分一秒も惜しいからな」

 

バスの横には何故か善子も乗っていた。

 

「今日の件について調べるんでしょ?」

 

この善子の返答については、予想がついていた。バスの中であの話をしたのは善子だけ。そして、あの話の後に急ぐ百香の姿を見てこの返答が来ると予想できるのは善子だけだったからだ。

 

「私も手伝うわよ」

 

今日暇だし──と、善子は続ける。

 

「ありがとう。恩に着る」

 

正直、百香は驚いた。が、手伝ってくれるならありがたい。

 

バスは沼津市街へ向かって行く────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。市立図書館の駐車場に1台の白いGTRが止まった。中からは私服姿の百香と善子が現れる。

 

「何で調べるの?」

 

「新聞かな・・・」

 

善子は百香に歩きながら確認をとり、一生に図書館内に進み、新聞のアーカイブに向かう。

 

「とりあえず、事故日以降の新聞、置いてあるやつ全部確認するぞ」

 

「わかったわ」

 

全国紙、ブロック紙、県紙、地方紙、ローカル紙───

 

「週刊誌も入れるの・・・?」

 

デスクの上には新聞と呼ばれるもの全部と集められるだけ集められた週刊誌の束が積み上げられている。

 

「週刊誌ってあることないこと書いてあることが多いんでしょ?」

 

善子の言うことは最もだ。週刊誌は読者が惹かれるような題材を記事に選ぶ。もちろん、脚色しすぎて事実無根のような物になったり、完全に嘘ということも有り得る。だが───

 

「善子。情報っていうのは思いがけないところに転がっているんだ」

 

「ってことは・・・」

 

善子は週刊誌の山をちらりと見る。

 

「この中にも何か重要な情報があるかも知れないだろ?」

 

「ひえぇ・・・」

 

どう考えても善子は卒倒しそうになる。この反応を見るに、1~2時間程で終わると思っていたらしい。残念だったな。

 

「時間はたっぷりある。砂の中から砂金を探すとしますか!」

 

げんなりとした様子の善子を横目で見ながら資料探しの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、これって本当に関係あるの・・・?」

 

2時間ほど週刊誌とにらめっこしていた善子がため息をついた。善子からすれば、こんな嘘八百の記事にヒントとなるような情報などないと、思い込んでいる。

 

「文句なら最後聞くから、今は記事を読み進めろよ」

 

「はぁーい・・・」

 

善子はやる気が出てないようだ。仕方ない。あの方法を使うしかない。

 

「あと、終わったらスタバ奢るからな」

 

「!!!スタバ!!!リア充の響き!!!」

 

まだ行ったことがないのか、〝スタバ〟という言葉に善子は直ぐに反応し、目を輝かせながら文書を読み始めた。

 

そもそも、リア充ではなくてもスタバは行くのでは?百香は訝しんだ。

 

そんなこともありながらも閉館時間ギリギリまで資料集めをした百香と善子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、目的の記事はあったの?」

 

「いや、微妙だな」

 

善子の問いかけに、ハンドルを握る百香はため息をつきながら答えた。

 

が、微妙とは言い難い何かが、百香の中に宿っていた。実際、1面トップニュースにも劣らないほどの被害の事故であったのにも関わらず、記事は2面や3面の小さなスペースにちょこりと書いてあるだけだ。

 

「これは何やらきな臭いぞ・・・」

 

善子に聞こえない声で、ボソリと呟いた。



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第70話 資料室

2016年8月31日9時56分

沼津市東椎路地区

(株)静岡東部自動車サービス本社・新沼津営業所

 

沼津市の中心部にあり、手狭になった沼津中央営業所から移ってきた本社と敷地内に営業所新設により一部路線の移管がされた新沼津営業所。数年前にできただけあり、まだまだ社屋は汚れが少なく、ところどころに光沢が見られる。

 

そんな本社内の資料室に、浦女の夏服を身にまとった百香の姿があった。

 

「おっ、あったあったー。こんな奥深くにあるとは・・・」

 

狭い資料室でもさらに一際奥にある埃かぶっている数箱のダンボール箱を、周りのダンボールにぶつけないように配慮して出した。

 

百香が探しているのは、東部自動車サービスが2008年に統合した(有)狩野川交通の資料だった。

 

狩野川交通は、ある事故の後直ぐに東部自動車に合併された貸切バス会社だった。

 

ある事故。

 

そう、女子バスケ部が土砂災害にあったあの事故だ。この時のバスの運行会社が狩野川交通。

 

当時の新聞には運行会社がこの事故の対応の悪さにより吸収合併されたと書かれていた。

 

 

 

───対応の悪さ。

 

新聞にはそう書かれているが、目立った事がほとんど無かった。しかも、書かれていたのは社長からの死者へ対しての冒涜の言葉であった。さてはコイツ、人間の心捨ててるな?

 

しかし、2008年当時であれば記者会見の様子なども動画サイトに掲載されているはず。事実、過去の記者会見である乳製品製造会社の「私は寝てないんだ」発言、証券会社の「社員は悪くありませんので」発言、老舗料亭の囁き女将など、印象に強く残る記者会見は動画サイトに投稿されている。

 

が、この会社の記者会見は1つも残されていない。昨晩、日本国内で視聴できる(海外も含む)動画サイトを片っ端から確認したが、1つもそれらしきものは無かったのだ。

 

もうこの時点で昨日以上のきな臭さは大きく感じていた。

 

インターネットではこれ以上の情報収集は期待できないと考えた百香は、今日の営業開始と共に社長にアポを取り、合併された会社である東部自動車サービスの本社に資料を探しに来たのだ。

 

「さてさて、何か収穫はあるかな・・・?」

 

事故に関係あるような資料は片っ端から確認し始めた。

 

しかし、今日の百香にはあまり時間が無い。今日はラブライブ!の中部地区大会が開催される日。

 

Aqoursの順番が午後3時程からであるため、その合間を縫って資料を探しに来れたのだが、12時20分くらいに三島を出る新幹線に飛び乗ることになっている。そのため、探せるのは頑張っても2時間は確保できるか怪しかった。制服で来たのは少しでも時間を短縮したかったからだ。

 

明日以降になると、学校が始まってしまう。学校が始まると平日日中は授業、夕方は部活。休日は部活があるし、そもそも本社機能は休みになる。

 

社長と顔見知りではあるが、休日に本社を開けるように要求するという行為をする事はさすがに気が引けた。だから今日にしたのだ。

 

しばらく資料を漁ると、それらしき資料がいくつか出てきた。それらの資料をダンボールの中から引き出すと、テーブルの上にドサッと置く。

 

百香が腕時計を見ると、時間は10時15分を越していた。これ以上の捜索は時間がかかるし、電車に乗り遅れるリスクもある。

 

捜索はここで一旦終わりにして中を確認することとした。

 

たかが数冊の資料。コレだけでも、何か手がかりが見つかれば大きく前進することとなる。たかが数冊、されど数冊。情報はどこに転がっているか分からないため、案外侮れないのだ。

 

百香が取り出した資料は、会社要項、事故報告書、当該便の運行計画書だ。もしかしたら破棄されてるかもしれないと思ったのだが、とんだ取り越し苦労だったようだ。

 

運行計画書を見て、まず最初に気づいたのは、通るルートが最初から大崩海岸を通るルートだったということだ。

 

沼津から掛川に向かうのならば東名か国道1号だ。通ったからといって特に何も無い道だ。わざわざ遠回りして向かうほどでもない。そして、この道は国道150号の旧道。なぜ通ったと疑問に思うほどの道だ。

 

さらに、同じ方面に向かっている他の運行計画書を見てみると当該便を除いて大崩海岸を通るバスは1本も無かった。

 

そして、会社要項と第三者委員会による事故報告書を読んだ時、百香の中ではこれは仕組まれたことではないか、という考えが生まれていたのだった───

 

 

 

 

 

 

 

 

第三者委員会による事故報告書。ここには、崩れた道路は崩落一週間前に法面工事が終わったところであった。工事を施工したのは上条コントラクトという上条グループに所属している上条組の子会社だ。そして、この会社は崩落の事件後から経営難になり、今では組織解散している。

 

そして、狩野川交通の会社要項。会社要項には、狩野川交通は上条グループである北武蔵急行という大手私鉄の子会社である、北武蔵バスの子会社だ。

 

つまり、狩野川交通は北武蔵急行の孫会社。上条グループからすると曾孫会社である。

 

 

上条コントラクトと狩野川交通。どちらも上条財閥が関わっている。唯一の救いは狩野川交通が東部自動車に吸収されたことだろう。

 

東部自動車は沢木グループの一員でもあり、さらに上条グループと全く関係のない他社に吸収されたことで資料が全て東部自動車に移籍されたことでこの資料が残っていたのだろう。

 

上条コントラクトのように組織解散してしまったらおそらく、上条グループに証拠隠滅されていた可能性もあった。

 

何故この会社を吸収したのか疑問に思うが、今は素直に社長(おやっさん)に感謝しようではないか。心の中だけどな。

 

資料を一通り見た百香の前に、一人の中年男性が現れた。

 

「よお、どうだ?渡辺の嬢ちゃん。目的の物は見つかったか?」

 

社長(おやっさん)・・・」

 

無常髭と少し汚れたツナギ姿からは想像できないが、彼が東部自動車の社長、その人であった。

 

「なあ、何で何も聞かずに資料室を解放したんだ?」

 

今回の資料室解放。社長は理由を何も聞かずに二つ返事で了承してくれた。理由を何も聞かなかったのは百香にとってはありがたかったが、何故今回も理由を聞かなかったのか、彼女はその訳が知りたかった。彼女の車の整備をしているのも彼の会社の自動車工場。車を制服姿で持ち込んでも、「整備を依頼されたらやるだけだ」と、何も聞かずに整備してくれた。今も整備は彼の工場に持ち込んでいる。今更教えてくれる希望もなかったが、ダメ元で尋ねた。

 

「お前が知りたいって言ったからだ。それだけだ」

 

「すまない・・・。恩に着る・・・」

 

今回も、同じ理由であった。同じ理由であったことに安堵した彼女はもう一歩踏み込んだ質問を彼に問いかけた。

 

「あと、なぜ狩野川交通を吸収したのか、差し支えなければ教えてほしい」

 

一歩間違えれば大事になってしまう質問。だが、彼は嫌な顔せずに答えた。

 

「他会社とはいえ、倒産したら無職になる。そうならないために買収した。これは、社員の家族を守るためさ。それ以上でもそれ以下でもない───」

 

その時の彼は、無常髭とツナギ姿には似つかわない社長の風格のある顔をしていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それよりも、新幹線の時間は大丈夫なのか?」

 

「あっ、やっべ」

 

彼の言葉で、時計を見た百香はもうすぐでタイムリミットの時間に迫っていることに気付いた。

 

「ありがとうな、社長(おやっさん)!」

 

百香は資料をすぐにコピー機で資料を全てコピーした後にスクールバックに押し込んだ。

 

「運転、気をつけろよな」

 

「ああ!」

 

彼女はスクールバッグを持ち、資料室を飛び出した。



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第71話 新たな未来へ

東海道新幹線下り新大阪行こだま649号

 

どうにか一本前のこだま号に乗れた百香は16両編成の中間に位置するグリーン車の6号車の最後部に座り、パソコンを広げている。

 

高校制服姿の百香がグリーン車に座る光景は、いささか違和感を感じてしまう。

 

百香が高くて快適だけど時間は死ぬほどかかるこだま号でグリーン車の1番後ろを選んだのには訳があった。

 

まず、混雑。指定席車ですらガラガラのこだま号である。グリーン車なんて1両に数人居るかどうか。

 

次に場所。1番後ろなら後ろから覗き見される危険性は皆無に等しい。

 

最後に車両だ。車両は近い未来に引退する700系。引退するロートルに防犯カメラなんて未来ずら〜な物はついていないし、つける金ももったいないため、カメラのハッキングで盗み見することはできない。

 

この3点から、百香はグリーン車に乗ることにした。

 

鞠莉から指定席券は貰っていたが、乗車変更をかけて乗る電車の変更とグリーン車にアップグレードした。

 

差額を支払うだけでも、一高校生にはキツい額であるが、背に腹はかえられなかった。なお、窓口の職員に変な目で見られたのは言うまでもない。

 

途中、のぞみやひかりに追い越されていくが、流石にグリーン車。快適さは保証されている。快適な環境で、百香は資料作成に取り掛かることが出来た。

 

 

 

 

13時46分。名古屋駅に定刻通りに到着したこだま649号。百香はグリーン車から降り立つとむわりとくる大都市特有の熱気に嫌気をさしながらも在来線ホームを目指し、新幹線ホームから改札内通路に移動する。

 

新幹線乗り換え改札を通過した時、ふと思い出した。

 

〝昼まだ食べてねぇ・・・〟

 

思い出した途端、腹がくぅ〜と、可愛らしい音を鳴らす。多分、我慢すると曜達に怒られるし、一部にはイジられそうなため、とりあえず何か食べることにした。

 

 

 

改札内通路をしばらく歩いた百香。しかし、在来線改札内にあるのホームにある立ち食いきしめんとキオスクのみ。新幹線側も待合室にある売店とキオスク、立ち食いきしめんくらいしかない。

 

 

 

 

 

・・・これが三大都市圏の一つである名古屋の中心駅の姿かこれ?

 

百香には三島駅の駅ナカの方がマシと思ってしまう程、名古屋の改札内は店が無かった。改札内では駅そばしか選択肢はなく、改札外に出たくても百香のきっぷは名古屋市内下車前途無効。つまり、名古屋市内の駅で1回降りるときっぷが回収されてしまう。

 

「仕方ないなぁ・・・」

 

百香はそう呟くとホームにあがり、駅そば屋で腹を満たすことにした。

 

食券を買い、店の中へ。そばときしめん選べたのだが、百香は迷わずきしめんを選ぶ。やはり、ご当地の物があるならそれにすべきだろう。

 

食券を出すと、数分しないうちにきしめんが出てくる。

 

「いただきます───」

 

呟くように言うと、きしめんを啜り始める。

 

美味しい。

 

駅そばだからといって舐めてはいけない。駅によって出汁やメニューが違ったりするし、駅そば自体がその駅に観光客を呼び込む観光地になっていたりするのだ。我孫子の唐揚げそばなどがいい例だ。

 

「・・・」

 

しかし、少し視線を感じる。

 

制服姿の女子高生が1人で入る場所では無いのだろう。百香自身、1回も見たことがない。

 

「ごちそうさまでした」

 

手早く食べ終わると、快速電車の次に滑り込んできた大府行き普通電車に乗り込んだ。早く出る快速に乗らないのは、最寄り駅に快速は止まらないからだ。

 

時刻は14時19分。どうにかAqoursの開演時刻である15時には間に合いそうだ。

 

 

 

電車は遅れもなく、定刻の14時30分に笠寺駅に着く。

 

笠寺駅はラブライブ!の中部地区大会の開催地であるためか、混雑していた。電光掲示板には、普通では映し出されるはずのない快速系統の時刻が映し出されていた。

 

「快速に乗れば早くついたじゃねーか・・・」

 

そう、イベント時によくある臨時停車だ。

 

過ぎたことを後悔しても仕方ないため、改札を抜けてとりあえず会場に向かうことにした。

 

会場に到着すると、通常の入場口では無く横の関係者口から入る。

 

制服姿だし関係者証も持っているため、特に怪しまれることも無く入場し、真っ直ぐAqoursの楽屋に向かう。

 

「あ!遅いよ百香ちゃん!」

 

「どれだけ待たせるつもりですの?」

 

「HUNT○R × HU○TERが完結するかと思ったわ」

 

「すまんすまん」

 

遅れること楽屋に入った百香に、既に衣装に着替え終わっているAqoursメンバーから色々に言葉が飛び交ってくる。

 

〝ああ、これがAqoursだ───〟

 

ついにここまで来た。ついにあの曲を聞ける。こう思えるだけで百香は幸せだった。

 

「前みたいに百香ちゃんは踊らないの?」

 

横に来た曜が、ぽつりと問いかけた。

 

「ん?ああ。前は梨子姉の代理だったしな。それに、あの1回で満足だったし」

 

「そうなんだ・・・」

 

曜は少し寂しそうに微笑んだ。でも、百香自身は梨子の代理とはいえ、Aqoursの曲で歌えてAqoursとして踊れただけで満足だった。ただ、梨子が居なかった事が心残りだったが、それよりも満足感が勝っていた。

 

「Aqoursの皆さん、時間です」

 

「よし、みんな行ってこい!」

 

「うん!」

 

ついにあと1組でAqoursの出番となり、ステージ裏で待機することとなった。

 

アニメでは、Aqoursはここで敗退する。でも、百香の存在で変わるかもしれないし、このままかもしれない。それは、誰にも分からない。

 

ひとつ言えることは、どちらに転んでも百香は受け入れるということだ。

 

「行ってこい─────」

 

百香は、ステージに歩いていくAqours9人の姿を見てニコリと笑ったのだった。



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第72話 転入生

 

「もう少しだったのにね」

 

帰りの新幹線、誰かがポツリと呟いた。

 

そう、Aqoursは3位だった。勝ち進めるのは2位まで。予選敗退。

 

「でも、次もあるよ」

 

その言葉にAqoursは賛同する。しかし、百香にとってはこの後に待ち構える〝廃校〟という試練にAqours全員で立ち向かわなければならないと思い、あまり楽観視はできなかった。

 

もし、ここでAqoursが決勝まで行けていたら───

 

いや、過ぎたことを悩んでも仕方ない。今現在でも問題は山積みなのだ。将来像が浮かばない百香は、ため息をついた。

 

そんな中、百香のスマートフォンがバイブレーションを発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、百香は自室のベランダで沢木と通話していた。新幹線で発したバイブレーション、それは沢木からの〝電話をするように〟との呼び出しだった。

 

しばらくたわいもない世間話をした後、ボディーガードの話になった。百香が新静岡行きを辞めたことでボディーガードを百香の近辺に常駐させるという話となった。

 

もちろん、怪しまれるためホームステイする留学生という名目で来るらしいが。

 

『受け入れ、大丈夫か?』

 

「かなり前から母に話していたので大丈夫です。それよりも──」

 

『来るのは誰かって?』

 

「っ・・・!」

 

百香が一番気になっていたことはそこだった。が、沢木もそれには気づいていたのか間髪入れずに答えた。

 

『信頼できるヤツだ』

 

安心しろ──

 

沢木はそう言い、終話した。

 

誰が来るのか、不安に思いながらも百香は就寝したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年9月1日8時10分

浦の星女学院校長室。

 

始業式の最中、百香は校長室に呼び出されていた。生徒ではほぼ入ることの無いこの部屋。訪れる生徒は大抵何かやらかした人が来るのだが、ももの場合はなにかやらかした訳では無いから安心して欲しい。

 

百香が入室したのを確認した校長、志田川は椅子から立ち上がり、百香に歩み寄ってきた。

 

「ごめんね、急に呼び出して」

 

「いえ。それで話って何です?」

 

「今日から留学生が来るでしょ?」

 

「ああ、はい」

 

〝なんだ、そんなことか〟と、百香は思った。

 

留学生が来るかもしれないことは終業式の時に話があったし、百香自身には夏休み中に新静岡行きの話と一緒に来た話であり、既に周知のことだった。

 

しかし、志田川が呼び出したのはそのような事ではないらしい。志田川は、自身のデスクから封筒を出して百香に手渡した。

 

「これは・・・」

 

赤色の富士山と白抜きのQマークが描かれている茶封筒。どう見ても重要そうなものには見えない。

 

「その留学生のホームステイ先として渡辺さん宅を使わせていただいたからそのお礼」

 

中を確認すると、山梨にある絶叫系のアトラクションが多い遊園地のチケットが10数枚入っていた。

 

「良いんですか?」

 

「いいのいいの。急に決まったのに受け入れてくれたから・・・。それに、ここの職員全員絶叫系苦手だからね」

 

「ありがとう、ございます」

 

最初は申し訳なく思い、あまり受け取る気にはならなかったのだが、からからと笑う志田川を見た百香は、半ば諦めた感じで受け取った。

 

「他の生徒には内緒ね」と、志田川は笑いながら言った。もしかして〝Aqoursの全員と留学生で行ってこい〟ということなのだろうか。

 

 

 

「しかし、よく廃校になる学校に留学しに来るねぇ」

 

「物好きも居るんですね」

 

志田川の呆れたような態度に、百香は内心怒りを覚えながらも賛同するような意見を言う。

 

ここからも話が続きそうな感じがしたのだが、運悪く予鈴が鳴り、会話は終了となり百香は自身の教室に戻ることになった。

 

校長室の戸を開けようとした時、ふと百香は何か思い出したかのように振り返った。

 

「あ、私達Aqoursは浦女を廃校なんかにさせませんよ。絶対に阻止してみせます」

 

そう言い放つと、百香は戸を閉めて自身の教室に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

1年A組教室───

 

百香が中に入ると、百香の席の横にもう1つ座席が用意されていた。

 

教室の中は留学生の話で持ち切りである。

 

「あ、百香!」

 

「校長に呼ばれたんだって?」

 

「何やらかしたぁ?」

 

そんな中、数人のクラスメイトが百香に気づき、近づいてきた。校長に呼ばれた事も、また話題として上がっていたらしい。

 

百香は、志田川から受け取った封筒を見つからないように隠した。

 

「いや?留学生ウチに来るからその話」

 

「え?マジで?」

 

「金髪巨乳美少女が!?」

 

「毎日揉み放題じゃん!」

 

1人変態が紛れ込んでいる。

 

「誰だ揉むとか言った奴。スカイウォークに吊るすぞ」

 

百香のこの言葉に〝ちえっ〟という声が聞こえてきた。変態な同級生に頭を抱えそうになったが、その瞬間、手が百香の胸に伸びてきた。

 

「痛ったァ!?」

 

「当たり前だバカ」

 

百香は、胸を揉もうとしてきたクラスメイトの手を叩き落とした。留学生を揉めないなら目の前の百香を揉もうという算段だろう。

 

渡辺山脈に登らせてくれてもいいのに・・・と言いながら百香の横を通り過ぎて行った。

 

ようやく済んだか、とホッとしたが───

 

「スキあり!」

 

またもや揉もうとしてきたため、直ぐに横に避けて腕を叩いた。

 

「二度も叩いた!親父にもぶたれたことがないのに!」

 

「お前何歳だよ」

 

「はいはい、席ついて──」

 

そんなこんなしていたら、担任が教室に入ってきた。どうやらSHRの時間らしい。これにてお胸騒動は終わりを迎えた。

 

 

 

 

「えー、始業式でもあった通り、このクラスにアメリカからの留学生が来ます」

 

担任のその言葉の後に、廊下から浦女の夏制服を着た留学生が姿を現した。留学生の姿を見た瞬間、どこかで見たような違和感を感じた。

 

「ん?」

 

「どうしたずら?」

 

「いや、まさかな・・・」

 

花丸に心配されたが、百香は知り合いなんかが来るわけが無い、他人の空似だろうと思い、もう一度教卓を見た。

 

 

 

 

 

 

───やっぱりどこかで見たことがある。

 

はじめまして。シャーロット・ガルリアです。よろしくお願いします!

 

自己紹介、名前でピンと来た。いや、ピンと来てしまった。

 

「あ───────っ!」

 

百香の叫びが脳内にこだました。



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