Aidez-moi, s'il vous plait. (ラビリンス・ペンギン)
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俺の名前は南雲蓮!

ぬ~べ~を書いてみたかったので始めてみました。
駄作ですので、嫌な予感がした方や不快な思いをされた方は速やかにバックしていただくことを推奨いたします。
また、批判的コメントは受け付けておりません。




あくまでも自己満足です。捏造がございます。



先の展開などのネタバレにならぬように隠しております。また、伏線を散らばせるタイプですので、お気をつけください。

それでは、よろしくお願い致します。

今回は短めです。


俺の名前は南雲(なぐも)(れん)

性別は女。普通の小学校に通う、ごくごく普通の小学生だ。

 

父は、江戸時代以前から続く老舗の料理店を経営している。

母は俺を産んですぐ亡くなったらしく、顔も見たことがない。だから、俺は母の代わりに祖母に育てられた。

…男として。

 

 

 

その理由だが、…この家には不思議な言い伝えがあった。

 

俺は信じるつもりはないんだが、

 

〝この家に産まれた女は、20を迎えるまで男の姿をしなければならない。〟

 

というもの。

過去にそれを破った女性は、それから3日と経たずに亡くなったそうだ。

だから、俺は男物の服を身につけ過ごしていた。当然だが下着は男物で、胸もさらしを巻き付けなければならないという、成長期にはよろしくない上、裸というのも女の格好とカウントされないように急ぐため、風呂もゆっくり入ってられない。そして、その生活をあと約10年も続けなければならない。

この言い伝えで得をしたことはあまりないと思う。

 

 

 

突然だが、俺には前世の記憶というものがある。

和菓子職人だった両親の跡を継ぎたくなく、でも人を食べ物で幸せにしたかった俺は、パティシエになることを決意し、本場のフランスで学ぶ許可を両親からもぎ取った。

そして、数年間修行して一人前と認められた俺は、日本へ帰ろうと空港行きのバスに乗り…死んだ。

 

そして、気が付いた時には、今の俺である南雲蓮になっていた。

 

それから、俺は物静かな子を演じるようになっていた。

はっきり言うと、小学生のノリについていけないからだが、今じゃ演技じゃなくてもそんな風な態度になるまでに成長した。…そのことは置いておこう。

 

前世は男だった分、男のフリをするのはそこまで苦痛ではなかった。だが、兄は違ったらしく…俺が男として生きることを良しとしてはいなかった。何度俺は満足してると言っても信じてもらえず、気が付くと民俗学で狐の伝承について調査をするようになっていた。兄は、この俺が男のふりをしなければならないいう伝承には狐が絡んでいるだろうと言っていた。きっと、俺の言葉を信じてもらえなかったのは、俺が物静かな子を演じていたことも関係しているだろうな。

 

兄は家業を継ぐことを条件に調査に出かけたが、最後にただ一言、「解決法を必ず見付け出してくる。」とだけ言ってから出て行き、どれだけの月日が流れたのだろうか…兄はまだ帰ってこない。今はどこで何をしているのか、分からないということが辛いとは思っていなかった。

 

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

俺の朝は早い。

朝起きてやることは、食事作りだったりする。

と言っても、当たり前だが客の朝食ではなく、俺と父の分だ。前までは祖母が作っていたのだが、高齢のために兄が調査で家を出る数年前に亡くなり、それ以来、俺が作ることとなった。

学校が遠いために仕方がないとはいえ、始めた頃はなかなか起きることができずに大変だった。

前世の頃ならまだしも、今の俺は小学生で、早寝早起き朝御飯を続けていたが、流石に早すぎる朝は馴染むのに一苦労だった。…もし家業の仕事もするようになったらどうなるんだろう…。

 

 

簡単な味噌汁に卵焼きと大根おろし、ご飯を炊いて、沢庵に白菜のお浸し。昨日は焼き魚だったし、明日はちょっとした肉料理も良いかもしれない。

 

そう考えながら、朝食を作った。

が、そろそろ準備しないと俺が遅刻する。

 

俺は、テーブルに食事を並べると、先に食べて家を出た。この家は山の方にあるために学校は遠いが、通えない距離ではない。

本当に遅刻しそうなときはバスを使うが、今日はそうでもないから助かった。

 

 

父は忙しい人であり、顔をあわせることは滅多にないが、その分お小遣いははずんでいる。いくら忙しくても、俺が準備した朝食をしっかり食べてくれて、そのご飯の評価した紙をテーブルの上に置いていてくれるというのが嬉しい。まぁ、評価があった方が分かりやすいし、お互い美味しいものが食べれるようになっていいだろう。

俺は亡くなった母にそっくりな顔立ちをしている(らしい)というのも、お小遣いがはずむ理由の一つとしてあげられるのだろう。

だから、バス代はお小遣いがあればなんとかなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ学校だというところまで歩いたところで、誰かが工事中の溝から這い上がってくるのを見た。

 

いや、誰かと表現したが、俺はその人物が何者かわかっているのだから、心のどこかで他人のフリをしたかったようだ…。

 

 

「先生、何しているんですか?」

 

「お!蓮か…悪いが手を貸してくれないか?」

 

「構いませんが、その格好で学校へ行くつもりですか?」

 

 

伸ばされた手を掴み踏ん張る。

なんとか出ることができた先生…鵺野鳴介先生は照れたように着替えてから行くと言うと、急いで走っていった。

きっと、その走っていった方向に自宅があるのだろう。後を追いたいが時間は待ってくれない。このままでは遅刻確定になる。先生は先生で何とかするだろう。

 

そう結論付けて、俺は学校へと走った。




南雲蓮 Nagumo Ren

童守小学校に通う男装少女。
転生前は男。転生後は女。
祖母と父と兄の4人暮らしだったが、祖母が他界し兄は行方知れず。
父は老舗料理店を経営。その他の業界でも実績をあげている。
母親似の女顔。

黒紫色のナチュラルストレートヘア

身長142㎝

体重38.3㎏


特技
料理や菓子作り

好きなこと(もの)
散歩

嫌いなこと(もの)



※3/16訂正いたしました。


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転校生は不良?【九十九の足の蟲の巻】

誤字脱字報告、よろしくお願い致します。

文才はございません。完全自己満足で書いております。
捏造ありますので、お気をつけください。
更新ペースはかなり亀です。

上記が大丈夫な方はどうぞ。


「南無大慈大悲 救苦救難広大霊感!はァーーっ!悪霊退散ーーーー!」

 

 

今日もまた、鵺野先生の霊退治が始まった。

いい人なのだが、先生がこの学校に赴任してきてから今日まで、この類いが成功した姿を見たことがないために、またやっているのかと呆れ半分好奇心半分だ。

 

 

「聞け~い!音楽室の肖像画にとりつきし悪霊よ!夜になるとギョロギョロと目玉を動かし、低学年の子供たちをびびらせているようだなぁ!このぬ~べ~先生が退治してくれる!」

 

 

 

そう言って悪霊退散!と威勢良く声を張り上げる鵺野先生だが…ちょっと待ってほしい。

俺の感覚が正しければ、何故夜に学校にいることに突っ込みをしないのかが不思議だ。

普通なら夜中まで学校にいれば怒られる。そのことを失念しているのか…?

低学年の保護者からクレームが来ないことを祈るが…、この先生になら既にクレーム入ってそうで怖いな。

まぁ、この場合は先生もだが親もアレだとは思うけど…このご時世、何があってもおかしくないからな。そのうち後ろ指差されてひそひそ話が…そういや既に始まってたな。

 

閑話休題。先生の家に3億年前から伝わるという霊水晶を取り出し御払いをしようとして肝心の目を焼いてしまうというハプニング(?)が起きた。

ちなみに、誰もが一度は見たことがあるであろう1770~1827年に生き、難聴だったというあの人の肖像画だが…徐霊を頼んだ児童は端から頼りになどしていなかったようで、失敗したことをネタに笑いながら鵺野先生を追いかけている。

………なんか、校長先生が見てたけど大丈夫なのかな…?

 

あれ、給料から引かれて新しく買うことになるとかそんなんじゃないことを祈る。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

 

 

「と、ゆーわけで、転校生の立野広くんだ!」

 

「広と呼んでくれ!よろしく!」

 

 

 

 

どうやら今日は転校生がいるらしく、活発そうな雰囲気の男子が新しくクラスのメンバーに加わった。

クラスメートが増えるのは純粋に嬉しいのだが、

 

 

「ちなみに、俺はご存じ鵺野鳴介。ぬ~べ~と呼んでくれ!よろしく!」

 

「先生が転校生より目立ってどうすんじゃい。」

 

 

鵺野先生のこのノリはまだ慣れない。貶したい訳じゃないが、まだこの先生に馴染めないんだよなぁ…。そして立野くん、ナイスだ。こういうことは、誰かがツッコミをしねぇと先生がただただ可哀想なだけだからな。

ちなみに俺はぬ~べ~と呼ぶことに抵抗感があるため、鵺野先生または先生と呼んでいる。

 

 

 

 

「ときに先生、今朝の騒ぎはなんだったの?!」

 

 

 

話が落ち着いたところで立野くんが先生に質問する。…そりゃそうだよな、転校初日に朝っぱらから不思議な先生を見て、その不思議な先生が担任だったのなら聞きたくもなる。俺だったら見なかったふりしそうな気がするけど…うん。いや、絶対見なかったふりする。っていうかしてやる。

 

 

「あー、あれはな」

 

「霊能力よ!…先生は日本でただ一人の霊能力教師なのよ!」

 

 

気が付くと、クラスメートの稲葉さんが鵺野先生について語りだした。…左手に鬼の手。それは、いつも稲葉さんが言うことだが、もしもそれが本当だった場合、毛穴の有無や汗をかいたときにどうなるかがとてつもなく気になる俺は悪くないと思う。

鬼なんて見ることないし、ずっと手袋してるし、気になってもいい事案だと俺は勝手に思ってる。

というか、気にしたい。まぁ、鵺野先生が鬼の手を持っているっていうのは有名な話だ。それを聞くたびに気になってるんだけど、いつも聞くタイミング逃しちゃうんだよなぁ…。

 

 

「はははっ、まぁ信じる信じないは個人の自由だしー。」

 

「よかないわよ!クラスに一人でも信じてない人がいるなんて!」

 

 

信じていない様子の立野くんに、稲葉さんがキレる。さして、それを笑って誤魔化そうとした鵺野先生にキレる。若いうちから苦労してるなぁ…。いや、若いからこそ苦労してるのか?

 

ちょっとくだらない思考の渦に入りかけたところで、稲葉さんの声がクラス中に響いた。

 

 

「それじゃあ多数決で決めましょう!先生の霊能力を信じる人はこっち!信じない人はあっち!さぁ、別れて!!」

 

 

教卓を挟んで右が信じる、左が信じないという風に別れることになったが、俺は左に足を動かした。…俺の他に動いた奴等は全員左へ足を動かした。右へいるのは稲葉さんただ一人。

悪いな、俺は自分の目で見たことしか信じないんだ。

 

やはりというかそれは皆も同じだったらしく、徐霊が成功したところを1度も見ていないという理由で左に足を進めた児童も少なくなかった。

 

たしかに、面白い先生という部分では俺も好きだし、流石に嘘はついていないとは思うが…ちょっと、俺が信じるにはまだ足りない。

 

 

その様子に顔を歪ませつつ笑顔を保つ鵺野先生は、転校生に特技を見せるようにと言った。

…先生の顔にデカデカと「お前も恥をかけ」という字がかかれている気がするが…、気のせいか?なんかそんな顔してる。俺は、先生の顔を見なかったことにして立野くんを見ると、どこからともなくサッカーボールが!

 

 

 

なるほど!特技は手品か!…活発少年だからこそサッカーボールが出現。うん、俺は結構好きだぞ。…そう思ったのも束の間で、華麗なリフティングが始まった。

どうやら、特技は手品ではなくリフティングだったらしい。…クソ!ボールは、綺麗な弧を描き掃除用バケツに納まった。教室の端から端でのボールさばきは見事という他ない。

………なんで上から目線で話してんだ?

やっぱ、年齢的なものが関係してんだろうか…?気を付けねぇと。

それにしても、サッカーボールを出す手品はどうやったのか…リフティングより気になるわ。

いや、だってさ、あれが出来るようになれば、役に立つかも知れねぇし?

 

立野くんのリフティングの上手さに、クラスの奴等はテンションが上がったらしく矢継ぎ早に褒め称える。…俺も

スゴいと思ったんだが、立野くんの様子がおかしいために声を掛けるべきか悩んだ。

掛けたくないわけじゃないけど、嬉しそうにして言葉を受け取っていた立野くんが、サッカー部に入ることを否定してから様子がおかしいんだ。

 

 

「なんでだよ、そんなに上手いのに!」

 

「そうよ!もったいないわよ!!」

 

「絶対入るべきだよ!入らなきゃダメだ!」

 

「う…」

 

 

あ、ヤバい…止めねぇと!

 

そう思ったが、俺が止めるよりも早く、立野くんの表情が更に変わった。

 

 

「…っせーな!俺の勝手だろーが!!」

 

 

近くにあったロッカーに思いきり拳を叩きつけ、凹ませる。その衝撃にロッカーが激しい音をたて、さっきまで騒いでいたクラスメート達は一斉に静かになった。

 

……それにしても、見事なもんだよ、俺にはできない。…くっきりと分かるくらいにロッカー凹ませるとか、流石動いてるだけある。ただ、肩とか手とか痛めてねぇと良いけど、見る限りそんな様子はなくて安心した。

 

 

「い、いやその…俺、実は膝痛めててさ…。治ったら…入るつもりだから…うん。」

 

 

気まずそうに言う立野くんに、皆がどう反応すれば良いか分からなくなり静かになった時、図ったかのようにチャイムが鳴った。

 

 

 

「あっ、休み時間だ。」

 

「よーっし!じゃ、今日は広くんの歓迎ドッジ大会といこうか!」

 

「賛成!」

 

「行こ行こー!」

 

 

先程までの気まずさはなんだったのかと言いたくなるような変わり身の早さでボールを持って駆け出すが、俺はいつも参加せずに本を読んでいた。球技が苦手ということもあり、今日も本を読もうと、机の中から仕舞っていた本を取り出す。…だが、今日は違った。

 

 

「なぁ、一緒にやろうぜ。」

 

 

 

転校してきたばかりの立野くんが俺に声をかけてきた。そうか、俺がいつも参加してないことを知らないのか。

 

 

「え、いや…でも、」

 

「広、早く行こうぜ。…蓮はいつもそんなんだからよ、おどおどしてて、何考えてるかわかんねぇから。」

 

「それに、ソイツはボール苦手だし、ツマンネェよ。」

 

 

そう。ノリについて行きにくくて物静かな子を演じているうちに、いつのまにかそれが板についちまって気がつけば俺はハブられキャラになってたんだよな。今まで気にしてなかったが、そういえば女子がちょくちょく俺のこと誘ってたが、それも原因に含まれてるかもしんねぇ。最近の小学生がませすぎてる件についてで小論文書けそうな勢いだ、書かねぇけど。

 

 

「俺はいいよ…その、俺がいても楽しくないだろうし。」

 

「何言ってんだよ、やろうぜ?な?」

 

「そうよ!行きましょう?」

 

 

それからも女子から誘いの声が多くかかり、男子からもチラホラと声がかかる。流石に貴重な休み時間を俺のせいで奪うわけにもいかず、俺はついていくことにした。

 

ボールは本当に苦手なんだ。どう苦手かと聞かれると困るが、とにかく狙いが定まらない。ボールを取るのに顔面キャッチは当たり前だ。…球技以外なら出来るが、なんでこんなに壊滅しているのか不思議で仕方がない。ちなみに、兄も球技は苦手だったがそこまでではなかったし、父に至っては学生時代にバレーボールをしていた写真とトロフィーが家に飾られていた。…母か?母が壊滅していたのか?

 

 

閑話休題。

チームも分けて早速試合!というところで先程スゴい足技を見せてくれて俺を誘ってくれた立野くんの活躍が凄かった。自分だけでやる訳じゃなく、ちゃんとボールは他の奴に渡したりしていながら、自分が投げるときは相手チームに次々に当てていく。それに比べて俺は…

 

 

 

「ふぎゃ!」

 

「うお……あ!!」

 

「グェッ…。」

 

 

顔面キャッチを続けていた。

鼻血が出ていないことが唯一の救いだ。めっちゃしんどいけど、一応顔面から落ちてきたボールは掴んでるからセーフだ。…しんどいけど!ホントにヤバいけど!…こんなことなら見学にすればよかった…。

 

 

「お、おい大丈夫か?」

 

「顔赤いぞ?…というよりも、何で腹付近に向かったボールを顔で受けとるんだよ!」

 

「わ、悪い、俺もわかんない。」

 

 

 

俺だけいろいろ大変なことになってはいるが、他の奴らの活躍によってこのままいけば勝てるんじゃないかと思ったとき、事件が起こった……。

 

 

「ぐっ!」

 

「何すんのよいきなり!」

 

 

「へっへっへっ、この場所は俺ら6年の指定席なんだよ!」

 

「5年はどっか隅っこでやってな!」

 

 

誰が考えるだろうか、突然現れた6年生が立野くんの顔をぶん殴るなんて…ってかこの学校の6年生さ、いきなり成長しすぎじゃね?中学目前で肉体改造したのかってくらいに体つきが半端ない。ラグビーやってるって言われた方が納得するような体型だけど、それで後輩殴るのはどうなんだ…?

 

取り敢えず、立野くん用に保健室で氷嚢をもらってこようとしたが…

 

 

「何よ!あたしたちが先にとったのよ!」

 

「うるせぇ!女がでしゃばんじゃねぇよ!」

 

「────危ない!」

 

 

稲葉さんが次の標的としてロックオンされたことに気付き、俺は咄嗟に駆け出した。

 

…これで俺が男だったらラブコメ的展開がきたかもしんねぇのに勿体ねぇ…。

そう考えた瞬間、後頭部に激痛が走る。…それでも、俺は精神年齢だけならこの場にいる誰よりも上なんだ。意識を失いそうになったのをグッとこらえて稲葉さんから絶対に離れない。

 

 

「……ッ、グアッ!……!!」

 

「殴れ殴れ!」

 

「んだよ、いっちょ前に女庇ってんのかよ!もっとやれ!」

 

 

殴られ蹴られ、髪の毛を引っ張られても、稲葉さんが被害を受けないように隠すように覆い被さりながら離れないでいた。セクハラじゃねぇからな、そこんとこヨロシク!

そろそろヤバいかと力がゆるんだ時、何かが倒れる音が聞こえた。

 

 

「え…?」

 

 

それと同時に攻撃が止み、何が起きたのかとその方向を見ると、立野くんが6年の奴等を殴っていた。

 

 

「何が6年だふざけやがって!たった1年早く生まれたのがそんなに偉いのか!」

 

 

6年生が反撃できないほどの勢いで拳を振るう姿は、俺に声をかけてくれた人とは別人のようだった。

 

それは先生が駆け付けて立野くんを正気に戻すまで続いた。

 

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

 

「蓮くん、その…ありがとう。」

 

「稲葉さん…いや、俺の方こそ、勝手に触って…その、えっと…悪い。」

 

 

 

あの後、頭を殴られたために検査を受けることとなった俺は、6年の奴等と一緒に救急搬送された。

今はその検査も終わり、検査入院を断って帰るところだった。付き添いは鵺野先生がしてくれるそうだが、稲葉さんが残っていたのは驚いた。

夜も更けてるし、流石に女子児童がうろついて良い時間じゃないだろう。

 

 

「よし!じゃあ行こうか。」

 

 

俺に気づいたらしい先生が話し掛けてきたが、稲葉さんの家族がいるとは思えなかった。

 

 

「鵺野先生、…えっと、先に稲葉さんを送ってからでも良いですか?……あ、疚しい気持ち、とかじゃなくって…えっと、流石に危ないかなって…。」

 

 

女子供が外を出歩く際には大人の男がいた方がいいのは前世を通しても知っている。…ってか、一応病院の人には事情話して男のふりしてることは内密にって言ったけど、バレてねぇよな?…様子を見る限りばれてねぇっぽいけど、用心するに越したことはない。

 

 

「あ、あぁ…そうだな。」

 

 

先生は外を見ると、俺の言いたかったことに気づいてくれたらしく、3人で帰ることになった。

 

 

「そう言えば、蓮くんの家ってどこにあるの?」

 

「えっと、童守高校の近くの山の麓。」

 

「ってことは駅を越えるんだね。…って、反対方向じゃない!?良いの!?」

 

「あ、その…俺は良いけど、先生が……。」

 

 

他愛のない話をしながら稲葉さんの家に向かう途中、そう聞かれたが、仕方ねぇだろ、危ないし。これで何かあったら俺が死んでも死にきれねぇ…!って、1回死んでたわ。

 

そう考えながら先生の方を見ると、反対方向と聞いてからお腹を押さえている。…そしてすぐに鳴った音に、お腹が空いていたのだと判明したってか分かりやす!!児童の前でくらい誤魔化そうぜ!?いや、確かに俺も減ってるけどよ!!

俺は噴き出すだけだったが、稲葉さんなんて腹抱えて大笑いしてるぞ!?

そんなこんなで、最近は感じなかった楽しい下校だった。あ、下院か。病院から帰るんだし、下校気分だし。

稲葉さんの家につき別れた後、俺の家へ向かう途中にもう一度鳴った腹の音。

 

 

「先生、お礼に…その、家に帰ったらご馳走します。」

 

「え、いや…でも──」

 

「一人で食べるのはつまらない、から。」

 

 

 

そう言うと、鵺野先生ははっとしたような顔をしていた。

本当なら、俺のことは親が迎えに来るはずだった。でも、父はまだ仕事中で、いくら子供が病院に行くような怪我をしたとしても俺の迎えに来れるほどの時間はとれなかった。

当たり前だ。俺は跡継ぎじゃねぇし、俺にかまけて売り上げが落ちたりしたら生活が危ういんだから。

 

 

 

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。」

 

「ありがとう。」

 

 

そうして、俺の住む家を見て先生が口をあんぐりと開けていたりしていたが、無事に夕食をとった俺達だった。

ってか、先生が口あんぐり開けちゃう気持ちがわかるわ…日本家屋の大豪邸と言っても良いような家に二人で住んでるんだからな。そのわりには使用人とか雇わないから俺の負担がただただ大きいし、維持費用も半端じゃないし。…最初、この建物見たときは先生と同じような反応した気がするけど、ちょっとでかすぎるんだよな…。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

「怪我、大丈夫か?」

 

「あ、おう、それより…立野くんは手、大丈夫か?」

 

「おう!この通り!」

 

 

 

朝、登校すると立野くんが話しかけてきた。やっぱ昨日6年を殴っていたときとは人が違う…二重人格か?

とにかく、俺も頭に包帯を巻いたりして重症っぽくしてるけど、出血が多かっただけでそこまで酷い訳じゃなかったし、立野くんも大丈夫そうなら良かった。

教室で話していたが、そろそろ予鈴が鳴る時間だからと席に着こうとしたが、それよりも先に言葉が紡がれ……

 

 

 

 

 

 

「にしても、ごめん…女の子なのに顔に怪我させちまって…。」

 

 

 

 

 

空気が凍った。

え、まさかバレた?…いやいやまっさかぁ~バレるとしたら昨日抱きついてた(庇うため)稲葉さんにバレるならわかるけど…え?

 

 

「ちょ、失礼よ!蓮くんは男の子!」

 

「ぅえっ!?」

 

「まぁ、確かに女っぽいから気持ちはわかるけどな。」

 

「確かに、女の子だと思ってたのだ。」

 

 

 

おいこらテメェ等!!仕方ねぇだろ!俺は母似なんだよ!兄が父似になっちまったんだから誤魔化すのきついんだよ悪かったな!

次々に俺も俺もと名乗り出てくる奴等を忘れないように頭の中のメモ帳にインプットしていく。…ったく、まあ、どうやらバレた訳じゃないらしいしいいか。

 

 

「まぁ、よく言われるから。」

 

 

 

とにかく、笑って許した俺って、何て優しい子なんだろう。やっぱ普通なら男が女に間違われるのって嫌だろ?男でいたいときは。これが女のふりとか女になりたいとか思ってる訳じゃなければしんどいだけだ。

 

 

「そ、そっか…。」

 

 

何なんだその残念そうな顔は…!!俺を介して女子と話すつもりだったのか!?残念だが俺は昨日やっと稲葉さんと話したところで紹介できる女子なんかいねぇぞ!!

 

 

 

「おーい席に着け~チャイム鳴ったぞ~。」

 

 

とりあえず、先生が教室に現れたから今回は見逃してやるが…さっき脳内でカウントした奴等!後で覚えてろよ!

…なんか俺の方が悪役みたいだけど、悪役じゃない…はずだ!

 

 

「広、放課後に俺の所へ来てくれないか?」

 

 

最後の礼まで済ませたところでそう言う鵺野先生。俺は、昨日のことかと思ったが、様子を見る限りそうじゃないようだった。

 

不思議に思った俺を含めたクラスメイト達は、その様子を静かに見ていた。

中には気にするなと怒られることを前提として励ましている奴もいたが、立野くんは笑う。…そこで笑えるのはスゴいよな。俺だったら精神年齢のわりに凹むわ…。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

「ちくしょう、どうしてこうなんだ…一生懸命努力してるのに…頭に血がのぼると、もう何もわからなくなって…。────どうにでもなれ!俺みたいな暴力男は、どうせそのうち人を殺して、刑務所で死刑になる運命なんだ!」

 

 

サッカー部から追い出された立野くんを追いかけたは良いものの、どうすれば良いかわからないまま声すらかけられずに見ているだけだった。

ぼっち化した俺を救ってくれた(かもしれない)男子だ。放ってはおけない。だが、こんなことに対面した経験がねぇからどうすれば良いのかがわからない。

ほんっと俺って使えない奴だとつくづく思う。

影からこっそり覗くその姿は端から見ればストーカーみたいなつ奴だろうけど、周りには誰もいない。

俺は、意を決して立野くんの元へ飛び出した。

 

 

「それは違うよ!…えっと、あの…う、うまく言えない、けど……今回、のは立野くんは悪くなかった、っていうかサッカー部の先生とか、チームメイト、が悪かったんだよ。…だって、さ…?立野くん、ちゃんと自分が何しちゃったのか、わかってるでしょ?……普通に暴力振るうだけの人、反省する人少ない、から───」

 

 

勢いで飛び出したはいいものの、言う言葉なんて浮かんですらいなかった俺は、思い付くままを言う。それでも、あんまり人と話すなんてことをしなかった俺のこのうじうじとしたものも相まって、かなりオドオドした話し方になったが、それでも俺の思いを伝えて、何て言えばいいかこれ以上わからない、そう思ったときだった。

 

 

 

「そうだな蓮、ありがとう。…広、お前には悪霊がついている!そいつが感情のコントロールを失わせているんだ!」

 

 

 

俺の背後からのっそりと鵺野先生が現れて、そう話し始めた。にわかには信じられねぇ話だが、それは立野くんも同じなようで、インチキだと捲し立てる。

それでも、先生は動じなかった。

後から駆け付けたらしい稲葉さんが鬼の手について力説しているが、それでも何も言わないのかと思いきや、徐に外す片手の手袋。

 

 

「…先生、その手は──?」

 

 

 

俺が口からぽっかり漏れたその問いに、嫌な顔一つせずに答えた先生によると、鵺野先生が昔鬼を封じ込めた際にその手は霊障となり、見えなくなったらしい。

確かに、それなら出し惜しみとかなしに手袋をつけてねぇと手がないのに物が触れちゃう系人間っていう、生徒から恐怖と好奇心を一身に受ける先生になりそうだ。

 

俺は、少しだけ…ほんっの少しだけだが先生を信じてみようと思う。

 

 

 

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─

 

 

「いいか、除霊をするとき大切なのは、何より悪霊に負けない強い意志だ。どんなことがあっても、決して取り乱すんじゃないぞ。」

 

 

雷が窓の外を明るく照らす、天気の悪い頃。

俺と稲葉さんは、立野くんにとりついているらしい霊を祓うソレの見学に来ていた。

不安しかないが、それでも先生の目は本気だし…でも、それは俺だけじゃなかった。

 

 

「俺、まだ半信半疑なんだよ…そんな霊なんてものがいるなんて…。」

 

 

立野くんも、不安に感じている存在の一人だった。

あたしは信じてるよ、なんて稲葉さんは言うが、先生が過去にどんな感じだったのかとか知らない俺達にとって、それは気休めにもならない。

だが…

 

 

「かまわない。戦う意思さえあればね。さあ、始めるぞ。」

 

 

なんとなく、本当になんとなくだが、先生を見るとなんとかしてくれるんじゃないかって気になった。

 

 

 

 

「南無大慈大悲 救苦救難 広大霊感 白衣観世音…立野広にとりつきし悪霊よ、我が前にその姿を見せよ。

南無大慈大悲 救苦救難───」

 

 

 

 

先生の声のみが聞こえていたが、少しずつ立野くんの様子が変わる。

…手のひらからにょろにょろと出てくる虫。

 

……そのあまりの気持ち悪さに、俺は一瞬吐きそうになったが堪える。

いや、あれは気持ち悪いって!!何だよアレ!

 

 

「───広大霊感 白衣観世音…悪霊よ!その姿を見せよーっ!!」

 

 

 

少しずつにょろにょろと現れていただけだった虫は、太く大きく、そして、勢いよく手から飛び出してきた。

出てきたのは、俺が何人分になるかと言うほどのサイズ。

 

 

「おえっ…気持ち悪ッ!!」

 

 

実はにょろにょろ系が苦手な俺はその姿についに吐き気を堪えきれなくなったが、汚い話で喉まで這い上がってきたものを飲み込んだ。

 

 

 

「衷妖…九十九の蟲が成長し、巨大化した姿だ…。これほど巨大なものは始めてみた!」

 

 

そんなことはいいから退治できるなら退治してくれ!!

 

それが俺の心からの叫びだった。

驚くだとかなんだとかの前に、気持ち悪い…。とにかく気持ち悪いしか言えない俺は、きっと此処にいるには一番にあわない存在だと思う。

 

 

「ククク…誰だ誰だ、俺様を呼び出した奴は?身の程知らずの生臭坊主か?」

 

 

腹の奥底から響くような気持ち悪い声に、俺はまた吐き気がするが流石に他の奴等が目の前のにょろにょろに恐れ戦きながらも逃げてないってのに俺がここでギャーギャーするのは恥ずかしいために我慢する。

何だかんだで、男ってのはプライドの塊だ。

どれだけ自分が嫌だろうと立ち向かわなければならないこともある…ホント、女に生まれても男は男だからな。

 

 

「霊能力者、鵺野鳴介!立野広の担任だ!…貴様に命令する!広から離れておとなしくあの世へ帰るんだ!」

 

「ケケケ…冗談じゃない、誰が帰るものか!その子の体は住み心地がいい…気が満ち溢れているからな。」

 

「ふん…ならば力ずくで除霊してやろう。」

 

「ククク…除霊するだとォ?貴様のような青二才が…この衷妖様を…ククク…。ふざけるな!!」

 

 

にょろにょろと先生との言葉の応酬が続いたが、それもにょろにょろが先生を攻撃したことにより終わりを告げた。

 

 

「先生!」

 

「大丈夫、かすり傷だ。」

 

 

…かすり傷でも腕から大量に流れる血。

実は俺、自分の血は大丈夫だが他人の血は大の苦手だったりする。

なんてことだ!!偶然立野くんに声をかけたことによって此処にいることになったが、既ににょろにょろと血の2コンボによって俺の精神がガリガリと削られていく…!!

 

そして、更に巻き起こる騒霊(ポルターガイスト)現象にガリガリどころかバリバリと剥がれ落ちていく俺の精神。

good bye…俺の精神の平穏!come on 精神の平穏!

 

 

「に、逃げよう!あんなの相手に戦えるわけないよ!」

 

「警察を…いや、自衛隊を呼ぼう!!」

 

「神父でもシスターでも住職さんでも連れて…。」

 

 

二人が先生に向かって言うことに便乗してさりげなく言ったが、先生は俺が倒すと言って聞かなかった。

でも、その次の行動でその理由がわかった。

 

 

俺達は忘れていたんだ。

 

 

見せてもらったばかりの、俺達の目には普段は見えない手の存在を…

 

 

 

 

鬼の力を──────

 

 

 

 

 

 

 

「南無大慈 大悲救苦救難 広大霊感 白衣観世音…我が左手に封じられし“鬼”よ!!今こそその力を…示せ!!」

 

 

 

 

 

その言葉に、手袋のはずされた左手は眩いほどに光を放つ。

心臓がドクドクと音が鳴って…人間の手とは明らかに違う、紫ともピンクとも言えない色の、初めて見るタイプの手が現れた。

 

 

 

 

これが、噂の鬼の手…

 

信じられなかった。本当にこんなものがあるとは思わなかった。

でも、実際に見てしまえば…妖怪が倒されるのを見てしまえば信じるしかなくて…

 

 

俺は、今までの先生の認識を改めた。

 

 

 

「あ、あれが…ぬ~べ~先生の本当の…。」

 

「そうよ!私たちの先生よ!」

 

 

 

稲葉さんと立野くんが何か言っているが、そんなの耳に入らない。ただ、

 

 

「あれが、先生の本当の姿…。」

 

 

ただ、純粋に先生の姿に見惚れていた。カッコ良かった。

 

これからは先生のことを尊敬しようと思った俺だったが、その翌日、立野くんをサッカー部に入部させるために、あのにょろにょろがとり憑いたせいで暴力を振るった相手にやり返せと言わんばかりに立野くんに向けて暴力を振るわせた鵺野先生に、俺の中での先生の評価が、認識が、格段に下がったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、蓮!ありがとな!」

 

「いや、俺の方、こそ…。ありがとう。

 

 

サッカーが終わった後、俺は立野くんと話した。

その表情は、少し前とは違って前よりも明るくなったように感じた…。




1/14(日)脱字を訂正いたしました。


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