コンラくんのFGO (彼に幸あれ)
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序章 冬木邂逅編
始動


 

突然だが、俺は《転生者》だ。

 

 

転生の影響で、ところどころ記憶に穴が開いてるけど。元は日本に住む大学生だったのが、諸事情により死亡。

色々あって、神にもう一度生まれ変わらせてもらったのだ。

 

《転生特典》なるものをもらって。

 

 

 

そこまでは良いんだ。

俺も納得済みだし。

むしろもう一度人生をやり直す機会をくれた神には感謝している。

 

だけどーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

街が燃えていた。

骸骨の化物が徘徊していた。

女性が悲鳴を上げていた。

 

 

 

いきなりダークファンタジーとパニック映画が混ざったような場所に落とさなくてもいいと思うんだ!

取り敢えず女性を助けないとっ!

 

 

考えると同時に、体が反射的に動く。

戦い方は記憶が抜けていても体が覚えていた。

 

 

素早く近くの石を拾い、投石。

女性に斬りかかろうとしていた骸骨の剣を弾く。

その間に疾走、接近。

背負っていた剣で骸骨を両断し、女性を背に庇った。

 

 

 

 

 

 

「ーーーえっ?子ども・・!?」

 

「動かないで!離れられると守れないから。」

 

 

 

 

 

俺は尻もちをついたまま後退りする女性を引き止め、注意した。

敵はまだ山ほどいる。

たいして強くはないとはいえ、この多勢に無勢の状況で勝手に動き回られるとこちらの身も危ない。

 

 

さて、どうしようかな。

・・・というか、今この女の人。

俺のこと子供って言ったよな?

 

どうりで体が軽くてやけに周りが大きく感じると思った。

子供に転生したから、俺の方が小さくなって目線が低くなってたのか。

 

 

内心で納得しながら、襲いかかってくる骸骨を斬り伏せる。

それにしても本当にキリがないなぁ。

 

逃げるしかないか?

でも逃げるの、何でかすごく嫌な気持ちになるんだよなぁ。

 

 

 

戦いながら悩んでいると、すぐ横にいた骸骨の頭が急に吹き飛んだ。

振り返るとそこには指を銃のように構えたさっきの女性が。

 

 

「子供にばかり・・!戦わせ、られないわ!!」

 

 

 

涙声で、恐怖に顔を歪ませながら。

それでも女の人は俺の援護をしようと自分を奮い立たせていた。

 

 

その姿に胸の内が温かくなる。

俺は自分が今は子供だということを踏まえて、子供らしく振る舞うことにした。

まぁ、前世から子供っぽいってよく言われてたからほぼ素で大丈夫だろ!

 

 

 

 

「お姉さん!それ何?バンバン凄いね!」

 

「ひぃ!?こ、これ?これはガンドよ!」

 

「へぇー。カッコイイ!強いんだ!」

 

「ま、まあね!」

 

「ところでお姉さん立てる?もう少し戦いやすい所に移動しようと思うんだけど。」

 

「あっ!待って!」

 

 

 

 

 

俺の提案にお姉さんの顔が焦った表情になる。

どうしたんだろうか?

聞いてみると、腰が抜けて動けないそうだ。

何だ。そうだったのか。

 

 

 

「わかった!それじゃあこのまま援護してもらえる?あの骸骨全部倒しちゃうから。」

 

「・・置いてかないの?」

 

「え?何で?」

 

「だって、足手まといじゃない。」

 

 

 

この人は何を言ってるんだろう?

 

 

 

「全然足手まといなんかじゃないよ。

さっきもガンドで援護してもらって助かったし。

それに例え足手まといになったとしても、俺はお姉さんのこと置いてかないから安心して。」

 

「っ!!」

 

 

 

 

あれ?

お姉さんの顔が急に赤くなったぞ。

それになんか涙目になってるような?

 

 

お姉さんの様子に疑問を抱きながらも、骸骨が忙しなく襲ってくるので思考を切り替えた。

 

とにかく、さっさとこの骸骨お化けを退治するとしますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所長!無事ですかっ!」

 

お姉さんがガンドで敵を撃ち、出来た隙をついて俺がとどめを刺す。

即席にしてはなかなか良いチームワークで立ち回っていると、少しして女の子が2人駆けつけて来た。

 

 

 

 

「マシュ!お願いっ!」

 

「はい、マスター!

武装完了ーーーマシュ・キリエライト行きます!!」

 

 

 

 

大きな盾を構えた子がそのまま突っ込み、敵を弾き飛ばしていく。

どうやら味方みたいだ。

よし、このまま一気に畳み掛けるぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………

 

 

読んで頂きありがとうございます。

初投稿なので拙い部分が多いと思いますが、どうかご容赦ください。

 

 

そして未だ名前すら出ない主人公(笑)

 

 

 



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サーヴァント

 

 

 

「ーーーはぁ?記憶がないですって?」

 

「うん。気づいたらここにいたんだ。」

 

 

 

 

後から来た二人の協力で無事に骸骨達を倒した俺達は、お互いの持つ情報を擦りあわせていた。

 

 

最初に襲われていたお姉さんが所長ことオルガマリーさん。

オレンジ色の髪の子が立香ちゃん。

盾を振り回していた子がマシュちゃん。

なんかハイテク機器の向こうにいる男性がロマン。

ペットのフォウくん。

 

 

 

最後に俺が自己紹介する番になったのだが、あいにく俺はこの燃える街に来る以前の今世の記憶がないので素直にそのことを伝えてみた。

 

前世の話はしないでおいた。

きっと混乱させるだけだろうし。

 

 

 

「この子がサーヴァントであることは間違いないのよね?ロマ二。」

 

《うん。こっちで見たかぎり少し弱いけど英霊としての反応が出てる。彼は間違いなくサーヴァントだよ!》

 

「そう・・。」

 

 

 

 

 

所長は顎に指をあてて、なにやら難しい顔をしている。

俺はその間にマシュちゃんにサーヴァントとは何か聞いてみた。

そんなことも知らないのかという表情で驚かれたが、マシュちゃんはすぐに俺の疑問に答えてくれた。

簡単にいうと使い魔として召喚された過去の英雄達のことをそう呼ぶらしい。

 

 

 

 

・・・ん?

ということは今の俺は幽霊ってことか?

 

しかもこの世界で生きていた時、英雄だったってことになるよな?

この年で英雄とか俺は生前どんなスーパー小学生だったんだ?

 

 

 

 

「この特異点自体が正史から狂っているし、呼び出されたサーヴァントに異常があってもおかしくはない・・か。」

 

「?・・俺どこかおかしいの?」

 

「ッ!・・・いいえ、どこもおかしくないわ。

そういえばまだお礼を言っていなかったわね。

さっきは助けてくれてありがとう。」

 

 

《「「っ!!?」」》

 

 

「いいよ別に。

困っている人がいたら助けるのは当たり前だし。」

 

「当たり前、ね。

あなたは優しい子なのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの所長が・・・素直にお礼を言った?」

 

「自分の耳が信じられません。あの所長がっ!」

 

《まさか・・・開いてしまったのかい?

ショタコンという禁断の扉をーー!!》

 

「黙りなさいドルオタ。撃ち殺すわよ。」

 

《あ、はい。スミマセンデシタ。》

 

「ドクター・・。」

 

「ロマン弱っ!」

 

 

 

えっ?何これ(冷汗)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中微妙な空気になりつつも話は纏まり、この特異点の原因を調査することになった。

ロマンの指示に従って俺達は崩れた建物の間を進んでいく。

 

何回かまたあの骸骨達に襲われたけど、問題なく撃退する事ができた。

けれどーーー

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・」

 

「うぅっ・・もう・・・無理!」

 

「マシュ!所長!」

 

 

 

 

度重なる戦闘で、体力とメンタルを削られたマシュちゃんと所長が苦しそうだ。

二人を心配する立香ちゃんも顔色が悪い。

 

顔には出さないようにしてたけど、俺もかなりしんどかった。

なんかガリガリとHPみたいなのが少しずつ減ってる気がする。

 

 

 

 

「ねぇロマン!近くに休めそうな場所はない?」

 

《えっ?えーと・・・あ!学校らしき建物があるよ!燃えてないし、ここが良いんじゃないかな。》

 

「わかった!そこまで誘導してくれる?

二人ともあと少しだけ頑張って!!

キミも、悪いけど手伝ってもらえる?」

 

「うん!任せてっ!」

 

 

 

 

 

立香ちゃんの提案には俺も大賛成なので快く手伝わせてもらった。

まぁ、マシュちゃんの盾を運びつつ邪魔な敵を倒してただけだけど。

だんだん面倒くさくなって、盾をぶん投げてみたら敵を粉砕した後ブーメランみたいに戻ってきた。

 

 

それを見た所長は顔を引きつらせ、ロマンは何やらブツブツと俺の真名を考察し始めた。

マシュちゃんは「その手があったか!」みたいな顔してた。

立香ちゃんは素直に凄いって褒めてくれた。

 

 

ーーー嬉しい(照れ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

最後のマスターの名前は藤丸立香。

公式主人公にふさわしい体力と精神力の持ち主。

性格はお人好しで天然(の予定)。

 

サーヴァントより体力のあるマスターとは一体何なのか・・。

 



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人類最後のマスター

 

 

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

 

世の中って何が起こるかわからない。

それを今現在、私こと藤丸立香はリアルに体感していた。

 

 

カルデアに行ったら爆発が起きて。

この燃える街に強制レイシフトされて。

デミなんたらに変身したマシュのマスターになってた。

 

怒涛の展開に正直頭がついていかない。

けど、可愛い後輩を死なせたくないから頑張らないと!

こんな陰気な場所で死にたくないし!

 

 

 

 

 

 

 

 

話は変わるけれど。

私達は今、とある学校の保健室で休息をとっている。

外には骸骨みたいな化け物がウヨウヨしていて。

その骸骨との戦いで疲労困憊のマシュと、同じくレイシフトされた所長がベットに倒れている。

 

寝てはいないけれど、精魂尽き果てて立ち上がる気力もないみたい。

 

 

 

運動部入っててよかったな私。

体力だけは人一倍あったからなぁ。

何故か友達からはよく人間をやめてるって言われたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・それにしても遅い。

あの子、大丈夫かな?

 

私は食料がないか探してくると保健室から出て行った男の子に思いを馳せる。

止める間もなく一人で出て行っちゃったから心配だ。

 

 

所長を助けてくれたし、何度か一緒に戦ったから強いのは知ってるんだけど。

記憶喪失だからか、なんか危なっかしい感じがするんだよね。

 

不安を抱きながらそんなことを考えていると、ロマンが慌てて通信を繋いできた。

 

 

 

 

 

《みんな気をつけてくれ!

いま急に君達の近くにサーヴァント反応がーー》

 

「よっと!邪魔するぜ。」

 

 

 

 

ロマンの通信を遮って、窓から杖を持った男の人が入ってきた。

 

 

 

 

「ええぇっ!?どちら様ですかーっ!!?」

 

「俺か?俺はキャスターのクー・フーリンだ。

よろしくな嬢ちゃん。」

 

「あ、どうも。藤丸立香です。」

 

「何やってるんですか先輩!?

下がってください!」

 

「あんた何なの!?馬鹿なの!!?」

 

 

 

失礼な。

挨拶されたら返すのはマナーです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室に侵入してきたキャスターことクー・フーリン。

警戒しながらも話を聞くと、彼は味方だった。

 

彼いわく、この特異点ではもともと聖杯戦争を行なっていた。

しかし何の前触れもなく街は炎に包まれ、人は消え、化物が溢れだした。

残されたサーヴァントは彼とバーサーカーを除き、全てセイバーというサーヴァントの配下になってしまったという。

 

 

 

 

「セイバー、アーチャー、バーサーカー以外のヤツらはどうにか倒したんだが。

あいつらと殺り合うにはキャスタークラスは不利でな。

どうするか頭を悩ませていたところにーーー」

 

 

「私達が現れた、ということね。

なるほど・・・利害は一致するし、こちらとしてもアナタほどの英霊が味方になってくれるのなら心強いわ。」

 

 

「所長。それではーーー」

 

「ええ、協力関係を結びましょう。」

 

「やった!よろしくね、キャスター!」

 

「よろしくお願いします。キャスターさん。」

 

「おう。よろしく頼むぜ、マスターと嬢ちゃん!」

 

 

 

 

 

差し出した私の手を握りキャスターはニカリと笑った。

私はその笑顔に、ふとあの男の子を思い出した。

 

あれ?

キャスターってあの子になんか似てる気がする。

 

その事を当人に聞こうか迷っていると、彼が誰かを探すようにグルリと部屋の中を見回した。

 

 

 

 

 

「ところで・・・一緒にいた坊主はどこ行った?

霊体になってるわけじゃねぇみてぇだが。」

 

「えっ?キャスターはあの子のこと知ってるの?」

 

 

 

 

聞くと、私達の実力を測る為にここまでの道中を観察していたらしい。

 

 

えぇーー。

それってつまり、実力がなかったら見捨てるつもりだったってことだよね?

 

所長が青筋を浮かべて文句を言いたそうにしていたので、話がややこしくなる前にマシュに止めてもらった。

気持ちはわかるけど、今は我慢だよ所長!

 

 

 

 

 

「アイツは聖杯戦争には参加してなかったはずだ。何でこんな所にいやがる?」

 

「私達にもわからないんです。

彼も気づいたらこの街にいたと言っていました。」

 

《・・・もしかしたら、カウンターかもしれないね。》

 

「ロマニ?カウンターって、抑止力のこと?」

 

《うん。聖杯に関わっていないなら抑止力に喚ばれた可能性が高いと思う。

人理の危機にアレが動かないなんてことありえないし。》

 

「そうね。・・・あの子が記憶を失った事とも関係あるのかしら?」

 

《うーん。そこまではなんともーーー》

 

「おい。ちょっと待て。」

 

 

 

 

急にキャスターの纏っていた空気が変わった。

 

 

 

「キャスター?」

 

「・・・あんた。記憶がないって言ったか?」

 

「言ったけど、何なのよ急に。」

 

「つまりアイツは今、生前の事を何にも覚えてねぇってことか?」

 

「そうよ。私と出会った時にはすでに記憶を無くしていて。自分の名前もわからないって言ってたわ。」

 

「マジかよ・・くそ!

どうりで戦ってる時の動きがおかしいと思ったぜ!!」

 

 

 

 

 

 

キャスターは苛立たしげに頭を掻き、舌打ちした。

 

何だろう?

あの子の記憶がない事に、キャスターは酷くショックを受けているみたいだ。

でも、これで彼とあの子が顔見知りだということがわかった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、キャスター。

キャスターはあの子と知り合いなんだよね?

あの子は誰なの?」

 

「アイツはーーー」

 

 

 

 

 

その言葉の続きは、突然響いた爆発音によってかき消された。

校舎全体がガタガタと揺れ、棚から物が落ちる。

 

 

 

 

 

「ちょっとロマニッ!何が起こったの!?」

 

《あぁ!サーヴァント反応が新たに一つ!

校舎裏だ!話に夢中で気づかなかった!!》

 

「仕事してくださいドクターッ!!」

 

「ごめん!って、まずい!?

あの子が現れたサーヴァントと戦ってる!!」

 

 

「ーーーッ!!」

 

「あっ!キャスターッ!!」

 

 

 

 

ロマンの言葉に、キャスターは目を見開き弾かれように駆け出した。

私達も慌ててその後を追いかける。

 

 

 

お願い!

どうか無事でいてっ!!

 

私は全力で廊下を走りながら、あの子の無事を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

ようやくキャスニキの登場。

 

でもまだ会えない(苦笑)

 

 

 

 

※感想を下さった皆様、本当にありがとうございます。

 

 

そしてご察しの通り。

所長は今後、禁断の扉を開きます。

さらに、キャスニキは親バカとなる予定です。

楽しんで頂けたら幸いです。

 

 



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幽霊少女

 

 

 

 

俺はこの世界に来る前に、神から《転生特典》なるものを二つ与えられた。

 

ひとつは武器《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》。

なんか凄く強力な武器らしい。

必殺技的な感じで使えって言われた。

 

ふたつめは《妖精眼(グラムサイト)》。

普通の人には認識できない、妖精や幽霊等を視ることが出来る魔眼を貰った。

相手次第だけど対話することも可能らしい。

 

あと呪いがどうたら言ってたような気がするんだけど記憶が抜けてて思い出せない。

記憶喪失、予想以上に深刻かも。

 

 

ちなみにこの特典を選んだのは俺ではなく神だ。

絶対役に立つからと勧めてくるので有り難く頂いた。

いま思うと、俺の転生先が危険な場所だってわかってたんだろうなぁ。

それはそうと、食料を探しに出た俺がいきなりこんな話しを始めたのには理由がある。

それはーーー

 

 

 

 

 

 

『アナタ、私のことが視えるの?』

 

 

 

 

目の前に白い少女の幽霊が現れたからだ。

少女の名前はイリヤスフィール。

聞くと、この街で行っていた聖杯戦争の参加者だったらしい。

 

他の参加者と戦っている中、彼女はサーヴァントであるバーサーカーと引き離され。

身を隠すためにこの学校に逃げ込んだのだという。

しかし、別の参加者に見つかり殺されてしまった。

直後、異変が起こり街は炎に包まれる。

 

それ以来、誰かが結界を張ったこの学校の敷地内から出る事が出来ず。

バーサーカーが迎えに来てくれるのをずっと独りで待っているそうだ。

 

 

 

 

 

「うぅ・・苦労したんだね。ぐすっ・・!」

 

『なんでアナタが泣くのよ。』

 

 

 

 

イリヤちゃんが困惑した表情で見てくる。

だって・・・死ぬだけでも苦しいのに、死んでからも自由になれないとか酷すぎだよ!

 

 

 

 

 

「そっか。アナタも英霊だから死んでるのよね。」

 

「うん。」

 

 

 

 

記憶ないから今世の俺がどうやって死んだのかは知らないけど。

前世はーーーー。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

星空の下、頭を抑え苦しむ友人。

その顔は何故か、黒く塗り潰されていて見えない。

 

 

 

「頼む!コイツだけは!

コイツだけは見逃してやってくれ!!」

 

《ーーーーーーー。》

 

「う、グッ!?ーーーやめろ!!

逃げろ!■■ラ!!」

 

「ーーーえ?」

 

 

 

 

胸に走る衝撃。

吹き出す血しぶき。

友人へ伸ばした俺の手は空を切る。

ーーーその親指のつけ根には、生まれつきの指輪の形をした痣。

 

 

 

「ーーーーう″、あ″アアアッ!!!?

■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」

 

 

 

耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な声を上げる友人。

その手には俺の胸を穿いたーーー

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

『ねぇ!ちょっと、大丈夫?』

 

「ーーーあっ。うん。」

 

『いきなりどうしたの?ボーとして。』

 

「あーー。ごめん、ちょっと考え事してた。」

 

 

 

 

つい前世の死に際の事を思い出してしまった。

 

ふと、胸に鈍い痛みを感じた気がして。

俺は慌てて手で触れて傷がないか確認する。

 

そこには子供にしては筋肉がついた薄い胸板があるだけで、特に怪我らしきものはなかった。

ーーー落ち着け俺、今はイリヤちゃんの事を優先するべきだ。

俺は逃げるように、前世の記憶を振り払う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーっと。そうだっ!

いい事思いついたぞっ!!

 

 

 

「イリヤちゃん!

一緒にバーサーカーを探しに行こう!!」

 

「な、何よ。急にっ!?」

 

「会いたいんでしょ?

だったら待ってるだけじゃなくてこっちから探しに行かなくちゃっ!」

 

「話し聞いてた?この学校には結界が張られてて私は出られないの!」

 

「結界張ったのって魔術師なんだよね?なら、俺の友達も魔術師だからなんとかなるかもしれない!」

 

「え?・・というか、マスターじゃなくて友達なの?」

 

「うん!(英霊になって)はじめて出来た友達なんだ!」

 

「・・・そう。」

 

 

 

 

・・・ん?

イリヤちゃんが何故か哀れみのこもった眼差しで見てくるぞ。

俺、何かしたかな?

 

不思議に思っていると、イリヤちゃんにとりあえず仲間に会わせてほしいと言われた。

直接会ってから俺と一緒に行くか決めるとのこと。

 

 

 

 

 

「わかった!みんなは保健室にーーー」

 

『っ!伏せて!!』

 

「ーーーえ?」

 

 

 

 

 

次の瞬間、俺の視界を赤い炎が埋め尽くした。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 

 

「あれは・・・サーヴァントか?」

 

 

 

その男はビルの屋上から校舎にいるサーヴァントと思わしき少年を見ていた。

 

男の体には黒い靄が纏わりついている。

少年は一人にも関わらず、誰かと話しているかのような不審な動きをしていた。

そしてその口がある名前を紡いだ時、男の鷹のような眼差しが更に鋭さを増した。

 

 

 

「ーーーイリヤ、だと?」

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「ーーーキミは、イリヤスフィールのことを知っているのか?」

 

「いま俺の後ろにいるけど?」

 

『アーチャー!?

こいつは危険よ、逃げてっ!!』

 

 

 

 

校舎の壁を爆発でぶち破り、侵入して来た男はアーチャーというらしい。

 

危ないなぁ。

一歩間違ったら大怪我してたよ。

何で普通に話しかけられないかな?

イリヤちゃんの反応からして敵みたいだし。

あっ、敵だからか。

 

 

 

 

 

「嘘はつかない方がいい。彼女は死んだはずだ。」

 

「知ってるよ。本人に聞いたし。」

 

「なに?」

 

「信じられないだろうけど、俺の後ろに幽霊になった彼女がいるんだ。」

 

 

 

 

 

 

俺の言葉に、アーチャーの顔が険しいものになる。

そうだよね。

普通は幽霊が視えますとか言われても信じられないよな。

 

けれど、俺と俺の背後を交互に見比べていたアーチャーは何かに思い至ったようだ。

微かに目を見開いた後、どこか納得したというような表情で嗤った。

 

 

 

 

「ーーーなるほど、キミは珍しい眼を持っているようだ。その眼は彼女の役に立つ。

一緒に来てもらおうか?」

 

『ダメよ!逃げて!』

 

 

 

 

俺の特典、一発で看破されちゃったよ。

そんなに有名なのこの魔眼。

 

というか、アーチャーのヤツ実力行使する気満々なんだけど。

イリヤちゃんも切羽詰まった顔で訴えてくるし。

心配してくれてるのか、良い子だなぁ。

バーサーカーと会わせてあげたいな。

 

 

 

 

 

「返事はどうした?」

 

 

 

 

 

おっと、返事を返さないと。

俺はーーー

 

 

 

 

「知らない人には付いて行くなって言われてるんで。遠慮します!!」

 

 

 

 

 

もちろん冗談だけど!

そんでもって特典の必殺技を全力で発動!

先制攻撃だー!!

 

・・・あ、何かガッツリHP的なものが持ってかれた。

 

ツライ!(切実)

 

 

 

 

 

「 《穿く必勝の光槍(ブリューナク)!!!!》 」

 

 

 

 

 

宙から湧き出るように現れた輝く一本の槍が、五つの槍に分裂し光の速さでアーチャーへと殺到する。

 

 

 

 

「くっ!《投影 開始(トレース・オン)》!!!!」

 

 

 

 

それをアーチャーは両手に召喚した白黒の双剣で防ぎつつ、校舎裏へと飛び出した。

 

 

 

「イリヤちゃんはここで隠れててっ!!」

 

 

 

俺は目の前に来た一本の光槍を掴み、その後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

アーチャーは噛ませと化す。

申し訳ない。

 

 

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》は神から譲り受けた物。

これの本来の持ち主が誰かわかる方には、この時点で神が誰か想像がつくと思う。

そして前世で主人公を殺ったのは、ご想像のとおりです(遠い目)

 

 



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コンラ

 

 

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

 

私達が校舎裏に着くと、敵サーヴァントらしきアーチャーと彼が戦っていた。

宙を翔ける五つの光槍を巧みに操って善戦してるみたい。

 

 

 

「あれは親父の・・!」

 

 

 

キャスターは彼の武器に心当たりがあるみたいで、思わずといった風に呟いた。

でも一転して好戦的な笑みを浮かべると、すぐさま彼の助太刀に入る。

マシュもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

その後は言わずもがな。

 

彼の光の槍に穿かれ。

キャスターの炎の魔術に焼かれ。

マシュの投げた盾に吹き飛ばされ。

 

 

 

 

アーチャーはフルボッコされて消滅していった。

 

 

 

「セイバーッ!やつらは危険だっ!!

力になれず、すまないーーー」

 

 

 

 

消える間際に告げられたその言葉は虚しく戦場に響き。

あまりに一方的な戦いに呆けていた私は、思わず彼の為に涙した。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

喚び出した光槍を虚空に還し、俺は額に浮かんだ汗を腕で拭った。

 

 

ふーっ!無事に勝ててよかったっ!!

正直、HP的なのが減りすぎて危なかったんだ。

皆が来てくれて助かったよ。

一人だったら負けてたかも!

 

 

 

「大丈夫?ケガはない?」

 

 

 

心配して声をかけてくれた立香ちゃんに、俺は笑顔で頷く。

 

 

 

「うん、大丈夫だよ。

助けに来てくれてありがとう!」

 

 

 

そして、さっきから気になっていた事を尋ねることにした。

 

 

 

「えっと、立香ちゃん。その人は・・?」

 

 

 

 

立香ちゃんの後ろに佇む、杖を持った蒼い髪の男の人。

アーチャーを一緒に倒してくれたから味方なのはわかるんだけどさ。

誰だか教えてもらえないかな?

 

 

 

 

 

「・・・・。」

 

「彼はキャスターだよ。私達と一緒に戦ってくれる事になったの。」

 

「そうなんだ。よろしくキャスターッ!」

 

「ーーーあぁ。よろしくな、坊主。」

 

 

 

どこか憂いを帯びた表情のキャスターが俺の頭上に手を伸ばす。

数回躊躇うかのように手を彷徨わせた後、まるで壊れ物に触れるみたいに俺の頭を撫でた。

 

 

 

 

ーーー頭撫でられるのなんて、いつ以来だろう。

変な感じだ。

 

でも不思議と嫌な気持ちにはならない。

むしろ嬉しい、ような・・?

 

 

 

 

《そういえば、キャスターと彼は知り合いなんだよね?さっきは聞き損ねてしまったけど問題なければ教えてくれないかな?》

 

 

 

湧いてきた不可思議な感情に首を捻っていたのだけれど。

耳に入ったロマンの言葉に、俺は慌ててキャスターを見上げた。

 

 

キャスター、俺の生前の知り合いなの?

やった!

なら俺のこと教えてよ!

 

 

 

 

「ーーーこの坊主の名前はコンラだ。あとは言わなくてもわかんだろ?」

 

《えぇっ!?コンラッ!!?

じゃあこの子はキミのっ!》

 

「なるほど、理解しました。

親子だからお二人はどことなく似ていたんですね。」

 

 

「え?」←俺

 

「え?」←立香ちゃん

 

 

「あんたクー・フーリンの伝承ぐらい知っときなさいよ!!」

 

 

 

 

 

嘘だろっ!

まさかの父親だったっ!!

 

というか俺の名前、コンラなのか。

・・・カッコイイかも!

 

 

 

 

 

 

 

《あれ?でも伝承だとコンラくんは・・・》

 

「ロマニッ!!」

 

 

 

突然、所長が大きな声でロマンの言葉を遮った。

な、何ごと!?

 

 

 

 

 

「それ以上は当人を前に言うべきではないでしょう。」

 

《あっ・・・そうだね。ごめん。》

 

「感謝するぜ、嬢ちゃん。」

 

 

 

「「???」」

 

 

「先輩、あとで一緒に勉強しましょうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーねぇ、もう出ても平気なの?』

 

「あっ!イリヤちゃん!」

 

 

 

 

ごめんね!

ちょっと立て込んでてさ。

敵もいなくなったし、皆もいるし。

うん。もう大丈夫だろ!

 

 

 

「出て来ていいよーッ!」

 

 

 

校舎に空いた穴からこちらを覗き見ていたイリヤちゃんに、俺は急いで声をかけた。

 

 

 

 

 

「コンラくん?誰と話してるの?」

 

 

 

 

 

 

ハッ!そうか!

俺以外には視えないんだった。

 

えーと、実はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

やっと二人が会えました。

そしてようやく主人公の名前が判明。

 

 

 

 

※感想を下さる方々、本当に有り難うございます。

 

優しいお言葉に励まされています。

あと既にご察しの通り神の正体は太陽神ルーです。

クー・フーリンの父であり、コンラくんの祖父。

孫バカなので、今後の作中にも登場します。

 

 



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譲れないもの

 

 

 

キャスニキ視点

 

 

 

 

 

「えっと、立香ちゃん。その人は・・・?」

 

 

 

自分に向けられる無垢な瞳とその言葉に、槍で抉られたような鋭い痛みが胸に走る。

堪える為に強く奥歯を噛み締めたが、視線をその存在から外す事はしなかった。

 

 

 

ーーーあの日、殺した我が子が目の前にいた。

 

 

 

死に別れた時と何ひとつ変わらぬ姿に、かつて無いほどに心がかき乱される。

 

再び出会えた事への喜びと、殺めた事への罪悪感。

触れたいという欲求と、再び傷つけてしまう事への恐怖。

 

 

 

槍を振り回していた頃の若い自分だったならば、ここまで複雑な感情は抱かなかったかも知れない。

だが、生憎いまの自分はあの頃より年を重ねたキャスタークラスとして現界している。

落ち着いてしまった分、己の欲求に素直に従う事が出来なくなっていた。

 

 

 

 

「彼はキャスターだよ。私達と一緒に戦ってくれる事になったの。」

 

「そうなんだ。よろしくキャスターッ!」

 

「ーーーあぁ。よろしくな、坊主。」

 

 

 

 

我が子がーーーコンラが笑う。

自分へと笑いかける。

 

あの時の死を悟った顔ではなく、無邪気な子供らしい笑顔で。

 

 

 

気づけば俺は、湧いた衝動に突き動かされるまま己の手を伸ばしていた。

頭を撫でてやろうとして、脳裏を過ぎった記憶に手が止まる。

 

 

 

はじめてコンラに触れた時、俺の手はコイツを傷つけた。

また同じ事を繰り返すのではないかと。

どんな強大な敵と戦った時でも抱かなかった恐怖心に囚われ、俺はただ伸ばしたままの手を彷徨わせる事しか出来ない。

 

 

そんな不甲斐ない俺を、コンラはジッと見つめていた。

離れるでもなく、問いかけるでもなく。

まるで俺の覚悟が決まるのを待つように、その場に留まっていた。

その姿に促されるように。

できうる限り力を抜いて労るようにその小さな頭を撫でた。

 

 

 

瞬間、指先に感じた温かな体温に息を呑む。

胸に去来したのは言いようの無い幸福感だった。

屈強な敵を倒した際に感じる戦士としての達成感や喜びとはまったく違う。

惚れた女に抱いた男としての愛情とも違う。

 

ただただ、血を分けた我が子が傍にいる事が堪らなく心を満たした。

俺が撫でると、無意識にか眼を細めて嬉しそうに頬を緩ませるコンラが愛おしかった。

 

 

 

 

 

ーーー護らなければ。

父としての強烈な使命感に駆られた。

 

 

俺にはもうその資格はない。

それでも、せめてこの街にいる間だけでも。

コンラに父親らしい事をしてやりたかった。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「お願い!」

 

「ダメだ。」

 

「ダメよ。」

 

 

 

 

 

ぐぬぬ。

とりつく島もないとはこの事か。

 

イリヤちゃんの事を説明して、学校に張られてた結界をキャスターに解除してもらったまでは良かったんだ。

けど、アインツベルン城とかいう場所にいるバーサーカーの所までイリヤちゃんを送りたいって言ったら大反対された。

友達(バーサーカー)の所に送って帰るだけなのに何でこんなに反対するんだろう?

 

 

 

 

「わかってる?そのバーサーカーの真名はヘラクレスなのよ!強いの!危ないの!」

 

「戦わなければ平気じゃない?」

 

「こっちが戦いたくなくても向こうが襲ってくるのよ!!」

 

『バーサーカーは私のことを襲ったりしない!

戦わないよう私が言えば、あなた達にも危害を加えたりしないわ。』

 

「ーーって、イリヤちゃんは言ってるけど。」

 

 

 

 

 

俺以外に認識できないイリヤちゃんの言葉を通訳すると、所長が怖い顔で誰もいない場所を睨んだ。

 

 

 

 

「所長、イリヤちゃんはこっちだよ。」

 

「う、うるさいわね!」

 

 

 

所長は今度は顔を赤くして俺が示した方へ顔を向ける。

 

 

 

「確かに元マスターであるアナタなら襲われないでしょうけど。姿が見えなくちゃどうしようもないじゃない!」

 

 

 

あ、確かに。

イリヤちゃんの存在をバーサーカーが認識してくれなきゃ説得できないよね。

 

 

 

 

「イリヤちゃん、何とかできる?」

 

『うん。少し魔力を分けてもらえれば。』

 

 

 

 

その問題も解決できると所長に伝えた。

でも、所長は首を縦には振ってくれなかった。

 

・・・・仕方ない。

俺も無理強いはしたくないし。

 

 

 

 

「・・・わかった。」

 

「そう、やっとわかってくれたの。」

 

「うん。俺一人でイリヤちゃんを送ってくる!」

 

「何でそうなるのよ!?」

 

 

 

 

スパーンッ!と頭を叩かれた。

地味に痛い。

 

 

 

 

「だって、皆が行きたくないなら一人で行くしかないじゃん。」

 

「行くのを諦めなさいよ!」

 

「やだっ!」

 

「〜〜〜ッ!!!」

 

 

 

 

なにやら頭を抱えて唸りだした所長に代わるように、キャスターが口を開く。

 

 

 

 

 

「譲れねぇのか?」

 

「うん。」

 

「出会ったばかりの死んだ女の為に、どうしてそこまでする。まさか惚れたか?」

 

「違うよ。イリヤちゃんの為じゃない。

俺が、イリヤちゃんとバーサーカーを会わせたいんだ。」

 

 

 

 

そうだ。

これは俺が自分の為にしてる事なんだ。

だから、これ以上俺の我儘でみんなに迷惑をかけるわけにはいかない!

 

 

 

 

「俺、一人で行くよ。」

 

「・・・そうか。」

 

 

 

 

キャスターは静かに頷くと。

真っ直ぐに俺と合わせていた眼を伏せた。

そして数秒の後、何かを決意したように顔を上げて立香ちゃんに話しかける。

 

 

 

「マスター。アンタはどうしたい?」

 

「私は・・・コンラくんが一人で行くなら、私も一緒に行こうと思う。イリヤちゃんのことも出来るなら手助けしたい。」

 

「私も先輩と同じ気持ちです。」

 

「立香ちゃん・・マシュちゃん・・。」

 

「ちょっと!アンタ達自分が何言ってるかわかってんの!?死にに行くようなもんなのよ!」

 

「だろうな。今のままバーサーカーと戦うことになれば確実に全滅する。」

 

 

「「「ッ!!」」」

 

 

「だから、少しばかり俺が鍛えてやるよ。」

 

 

 

俺達三人から距離を取り、キャスターは杖を構えた。

 

 

 

「俺に勝てたら全員でバーサーカーの所へ行く、負けたら大人しく行くのを諦める。

どうだ?わかりやすいだろ。」

 

「キャスターッ!でも、俺は・・・」

 

「コンラ。お前はどう思ってるか知らねぇが、今の俺達にとってはお前も貴重な戦力の一人なんだ。我儘だって自覚があるなら折れることも覚えろ。」

 

「・・・。」

 

 

 

 

きっとキャスターの言ってることは正しい。

頭では理解してる。

だけどーーー

 

 

 

『コンラ・・。』

 

 

 

 

ずっと独りで。

会いたい人に会えなかった女の子を見捨てるなんてこと、出来ないよ。

 

俺は不安げなイリヤちゃんに笑いかける。

 

 

 

「安心して。俺、勝つから。」

 

 

 

盾を構えるマシュちゃんの横に並び、俺は剣をキャスターへと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

※誤字脱字等のご指摘ありがとうございます。

 

ステータスの件はご容赦を。

作中で理由は明かしますがコンラくんは《英霊もどき》なので正式なステータスはありません。

そして《英雄の座》が無いので英霊でありながら成長します。

 

 



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バーサーカー

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

 

イリヤちゃんとバーサーカーを会わせたいというコンラくんの願いを叶えるため。

私達三人はキャスターと戦った。

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・やっぱり槍がねぇと調子がでねぇな。」

 

 

 

コンラくんの光槍の刃を首に当てられた状態で、キャスターはぼやく。

 

 

 

「まぁ、負けは負けだ。敗者は勝者に従うぜ。」

 

「それじゃあ・・!」

 

「約束だからな。

行ってやるよ、アインツベルン城に。」

 

「ッ!」

 

 

 

 

その言葉にパアァ!とコンラくんは顔を輝かせた。

無邪気なその笑みに、緊張していた私とマシュの肩から自然と力が抜ける。

 

私達、キャスターに勝ったんだ!

 

 

 

 

 

 

 

「やったよイリヤちゃん!俺、勝った!」

 

「負けた。・・・私、死ぬのね。」

 

 

 

絶望した顔の所長を意に介さず、誰もいない場所にはしゃいだ様子で話しかけるコンラくん。

たぶん彼の魔眼にだけ映るイリヤちゃんに報告してるんだろうな。

 

そんな彼の姿を優しい眼差しで見つめているキャスター。

 

 

 

・・・これは、もしかして。

私はこっそりとキャスターに小声で話しかける。

 

 

 

 

 

「ねぇ、キャスター?」

 

「ん?何だ。」

 

「もしかして、わざと負けてくれた?」

 

「・・・・。」

 

 

 

 

あ、目をそらした。

どうやら私の予想は当たったみたいだ。

 

コンラくんの主張が通りやすい様うまく場を納める為と。

万が一に備えてマシュが宝具を使えるようにする為。

あえて自分が非を被るように仕向けたんだ。

 

 

 

 

「ありがとう。」

 

「ーーー礼はいらねぇ。俺も、俺がそうしたかったからやっただけだ。」

 

「そっか・・」

 

 

 

コンラくんを想うキャスターの親心を感じて、私は温かい気持ちになった。

この様子だと、きっとキャスターは生前良いお父さんだったんだろうな。

コンラくんの記憶がないのは残念だけど。

二人には生前と同じくらい仲の良い親子に戻ってほしいな。

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

第三者視点

 

 

 

 

 

 

 

ある狂戦士のテリトリーに侵入する者達がいた。

 

 

ソレはかつて英雄だった。

ソレは今は狂う獣だった。

 

ソレにはかつて子がいた。

ソレには今はマスターがいた。

 

ソレはかつて多くの偉業を成した。

ソレは今は己の使命を果たせずにいた。

 

 

 

 

「■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

 

 

ソレは幼い主の帰るべき城を、狂気に侵されながらも護っていた。

そんな忠義の狂戦士は侵入者を殲滅せんと敵に突撃し。

 

 

 

 

 

『バーサーカーッ!!』

 

 

 

 

 

探していた己のマスターの声を耳にした。

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

アインツベルン城に着いて早々、黒い巨人が城の屋根から飛び降りて来た。

轟音とともに目の前に現れた巨体に、所長が悲鳴を上げる。

 

確かにこれはキャスターと所長が反対するのもわかる。

場に居るだけで息をするのも苦しくなるぐらいの威圧感を放ってくるんだ。

戦ったらまず、勝ち目はないな。

 

 

 

『コンラッ!』

 

 

 

 

だけど、俺達は戦いに来たわけじゃない。

 

俺はイリヤちゃんの声に応え、差し出された手を握った。

すると、HP的なもの(魔力)を俺から吸い取ってイリヤちゃんは透けた状態ながらも一時的に現界した。

みんなにも視えるようになったみたいで、それぞれが驚いた顔をしている。

 

 

 

 

『バーサーカーッ!!』

 

 

 

イリヤちゃんは泣き笑いの表情で黒い巨人ことバーサーカーに駆け寄って行く。

 

 

 

「■■■・・。」

 

 

 

 

バーサーカーは振り上げようとしていた腕を降ろし、どこか優しい瞳でイリヤちゃんを迎えた。

 

 

 

「よかった。」

 

 

 

二人が再会出来た光景に、ポツリと口から心の声が漏れた。

嬉しそうなイリヤちゃんの笑顔につられて、俺の顔にも笑みが浮かぶ。

 

 

 

 

『ありがとう!コンラのおかげでバーサーカーに会えた。あのね、バーサーカー。

あの子が私をここまで連れて来てくれたのよ!』

 

 

 

どうやらバーサーカーに俺を紹介してくれるらしいので、二人の近くに行こうと俺は一歩足を踏み出した。

その瞬間ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、れ・・?」

 

 

 

急に体から力が抜けて。

成す術も無く地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

※作者はFGO未プレイ&にわか知識な為。

物語を補完する為に多少の捏造設定が入る時があります。

その際はあえて目を瞑って頂けると有り難いです。

ご容赦ください。

 

そして気づいた方はいるでしょうか?

コンラくんが契約していない事に。

 

 

 



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魔力供給イベントを期待して下さった方々。

申し訳ありません。

相手はキャスニキ(健全)です。

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「「コンラッ!?」」

 

「「コンラくんっ!?」」

 

 

 

何だこれ?

 

息が、苦しい。

高熱が出た時みたいにダルイのに、徐々に体が末端から冷えていく。

視界も昏くなって見えづらい。

 

 

「コンラッ!しっかりしろっ!」

 

 

キャスターが地面に倒れた俺を必死の形相で抱き起こす。

さっと俺の様子を観察して、驚いたように目を見開いた。

 

 

 

「マスターッ!

アンタ、まだコイツと契約してなかったのか!?」

 

「えっ?あっ!!」

 

 

 

キャスターの言葉に、立香ちゃんが「しまったっ!」という顔になる。

 

契約?

何それ、知らないんだけど。

 

 

 

 

「ちっ!魔力切れを起こしてやがる。

今から契約したんじゃ間に合わねぇか。」

 

「どうするのよ!?」

 

「キャスターさん!何か方法はないんですか!?」

 

 

 

俺を心配してくれる所長とマシュちゃんの声が聞こえた。

切羽詰まった雰囲気に冷や汗が流れる。

 

 

マジか。

魔力切れが何なのかは知らないけど、ヤバイ状態みたいだ。

 

俺、このまま死ぬのか?

二度目の人生(英霊生?)短かったな。

 

 

内心で半ば諦観していた俺の耳に、焦りを滲ませた低い声が届く。

 

 

「ーーー二度も喪ってたまるか。」

 

 

 

 

え?

二度、目・・?

 

 

 

疑問を抱く俺にかまわず、キャスターは俺の剣に手を伸ばす。

そして自分の手の平に刃を滑らした。

 

 

 

「キャスターッ!?」

 

 

 

立香ちゃんが驚きの声を上げた。

 

 

 

「血を媒介に俺の魔力をコイツに渡す。これでしばらく現界する分くらいは補えるはずだ。」

 

 

 

キャスターは俺の口元に手を近づけてきた。

こうしている間にも傷口から血が溢れ出している。

うう、痛そうだ。

 

 

 

「コンラ、聞いてただろう。飲め。」

 

「・・・・。」

 

 

 

正直言って、飲みたくない。

血を飲むとかはじめて出し、ぶっちゃけ不味そう。

でもーーー

 

 

 

俺はチラリとキャスターの表情を盗み見た。

すごく真剣で、どこか切実なものを感じた。

 

・・・・飲むか。

俺のせいで手の平まで斬らせちゃったし。

 

 

「うん。飲むよ。」

 

 

俺は大人しく出された手に口をつけた。

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

キャスターの血を飲んで魔力は補えたものの、コンラくんは意識を失ってしまった。

 

青褪めた幼い顔に浮かぶ汗をキャスターは手の甲で拭い、おもむろに顔を上げる。

そして怒りに燃える赤い眼で白い少女を射抜いた。

 

 

 

「オマエ、こいつに何しやがった?」

 

 

 

殺気を帯びた声と眼差しを向けられて、白い少女ことイリヤちゃんが怯えた顔になる。

その様子に反応したバーサーカーが彼女を護ろうと前に出た。

巨体から再び放たれる威圧感に私とマシュは思わず身構える。

 

 

 

『待って!バーサーカーだめっ!!』

 

 

そんな私達を彼女は慌てて止め、キャスターに申し訳無さそうな顔で向き直った。

 

 

『私の姿をバーサーカーに視えるようにする為にコンラの魔力を分けてもらったの。

まさか倒れるまで魔力を失ってしまうなんて思わなかった。

・・・ううん。私が彼の好意に甘え過ぎたのね。

ごめんなさい。』

 

 

素直に謝るイリヤちゃんにキャスターは毒気を抜かれたみたいだ。

大きなため息を吐いて殺気を消す。

 

 

 

「魔力の件はコイツの同意の上なんだな?」

 

『うん。』

 

「そうか・・ならいい。」

 

「キャスター。ごめん、私がちゃんとコンラくんと契約していれば・・」

 

「いや・・マスターのせいじゃねぇ。俺が確認を怠ったからだ。悪かったな、責めるようなこと言っちまって。」

 

「ううん。むしろ当然だと思うよ。」

 

 

自分の子供がいきなり倒れて、その原因になったかも知れない人が近くにいたら。

子を持つ親なら誰だって同じ事をすると思う。

 

 

「親として当然のこと、か。俺にはその資格はもうねぇと思ってたんだがな。」

 

「え?」

 

「先輩。キャスターさんとコンラくんは、生前ーー」

 

 

 

マシュが語ったのは、生前の二人を襲った悲劇。

今もなお伝承として語り継がれるクー・フーリンの子殺し。

 

 

「そっか、だから・・」

 

 

本人は隠そうとしてたみたいだけど。

キャスターがコンラくんを前にすると冷静でいられない事には、私も薄々気づいてた。

生前にそんな事があったんじゃ、動揺するのも仕方ないよね。

 

 

コンラくんに再会したあの時、キャスターはどんな気持ちだったんだろう。

その子が自分のことを覚えていなくて。

しかも、また目の前で消えかけたなんて。

 

キャスターの気持ちを考えると酷く胸が痛んだ。

 

 

 

「幸か不幸かわからねぇが、死んだ後にこうして会えたんだ。少しぐらいコイツに父親らしい事をしてやらねぇとな。」

 

「キャスターさん・・」

 

「・・・・。」

 

 

 

所長とマシュは痛ましいものを見るように二人を見ていた。

イリヤちゃんは何故か羨望の眼差しを二人に向けている。

 

 

 

「・・・キャスター。」

 

 

 

これは二人の生前の問題だ。

仮のマスターでしかない私にできることなんて何もないのだろう。

それでも今のキャスターは仮とはいえ私のサーヴァントで、コンラくんは所長の命の恩人だ。

 

 

 

「私に出来ることがあるなら言ってほしい。

マスターとしても魔術師としても未熟なのはわかってる。

それでも・・・私は二人の力になりたい。」

 

「先輩・・」

 

「マスター、ありがとな。

今はその気持ちだけで十分だ。

ーーーもしも何かの縁でまたあんたのサーヴァントになったら、その時は頼むわ。」

 

「うん。まかせて。」

 

 

 

私は決意を胸に力強く頷いた。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

※こちらにあったコンラくんの英霊化詳細は物語を解りやすくする為に設定を変更し、消去させて頂きました。

混乱させるような事をしてしまい申し訳ありませんでした。

 

 



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友と父

 

 

※急に不定期投稿になってしまい申し訳ありません。今までの投稿分の文章を一部修正・追加しました。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

いつの間にか気を失っていたらしい。

目を覚ましたらフォウくんのドアップで、危うく変な奇声を上げそうになった。

 

おのれ許さん。

後でモフモフの刑だ。

 

 

そんな事を考えながら、腹の上から降りたフォウくんを目で追った。

そういえばここは何処だろう?

俺は寝かされていた高そうなソファから起き上がった。

 

部屋の内装を見回し、窓を開けて外を確認する。

どうやらアインツベルン城の中みたいだ。

 

 

 

「目が覚めたか。」

 

「キャスター。」

 

 

フォウくんが出て行った開けっ放しのドアからキャスターが部屋に入ってきた。

みんなの所在を聞くと、別の部屋で休んでいるそうだ。

 

 

 

「もう体は平気か?」

 

「うん。キャスターこそ手の傷は大丈夫?」

 

「あぁ、治った。」

 

 

 

キャスターの答えにホッと俺は胸を撫で下ろす。

なんか俺、この人に迷惑かけてばっかだな。

 

この城に来るまでの道中、杖だけで数体の骸骨をあっさり倒してたし。

きっとワザと俺達との勝負に負けてくれたんだろう。

自惚れでなければ俺の我儘の為に。

 

 

・・・これが父親、か。

ふと、前世に想いを馳せる。

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

前世の時の両親は、俺が物心ついた時には既に死んでた。

だから父親のことは何にも覚えてないし、顔すらわからない。

 

死んだ両親に代わって俺を育ててくれた孤児院の人達は優しかったし。

親が遺してくれた遺産で一人暮らしを始めるまで一緒に育った。

同じような境遇の兄弟達とは仲良くやってたから特に寂しいと思った事はなかったけど。

正直、親という存在がどんなだったのか気にならなかったと言えば嘘になる。

まぁ、もう前世の俺は死んだからどうあがいても今更知りようがないんだけどな。

 

一瞬、前世の知人達の顔が脳裏を過ぎって、

二度と会えない事実に悲しい気持ちになった。

 

 

そして、やはり一番気になるのはーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《逃げろ!■■ラ!!》

 

 

 

俺を殺した友人の事だ。

あの時のアイツは明らかに様子がおかしかった。

いや、格好もいつものアロハシャツじゃなくて青いタイツ(?)みたいなのを着てた時点でおかしかったけど。

一瞬、知り合うきっかけになった港での釣りだけじゃなく。新たにコスプレにも目覚めたのかと思ったぐらいだ。

 

・・・って違う違う。

俺とアイツの趣味の釣りの話はどうでもよくて。

問題はあの、俺が殺された夜の事だ。

 

 

 

 

 

あの夜は確か、自作ルアーを作ってる最中に急に炭酸飲料が飲みたくなって。

近くのコンビニへ買いに出かけたんだよな。

深夜だったからちょっとビビりながら夜道を歩いてたら、いきなり近所から大きな爆発音がして。

最近テレビで何かと騒いでいるガス漏れ事故かと思って慌てて現場に向かったんだ。

 

そしたらそこには、コスプレみたいな格好をした集団と青タイツを着た友人がいて。

殺伐とした雰囲気に戸惑いながらも。

取り敢えず顔見知りのアイツに声をかけたら、めちゃくちゃ動揺されて。

 

 

俺がその反応に驚いてるうちに、アイツは急に頭を抑えて苦しみだした。

その苦しみようは、まるで何かに必死に抗っているみたいで。

尋常じゃない友人の苦しみ方に俺は急いで病院に連れて行こうとアイツに駆け寄って。

 

 

 

ーーーそして、アイツの握っていた朱い槍に胸を穿かれて死んだのだ。

 

 

 

 

 

 

《ーーーーう″、あ″アアアッ!!!?

■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!》

 

 

 

あの悲痛な声を思い出して、確信する。

やっぱりあの時のアイツは普通じゃなかったんだ。

 

逃げろって言ってたし。

何が起こったのかはよくわからないけど。

本人の意志に関係なく、友人は無理やり俺を殺させられたのだろう。

そうじゃなかったら、あんなこの世の終わりみたいな絶叫上げるわけないし。

 

 

はぁ・・心配だな。

俺を殺した罪悪感とかで自殺してたりしないよな?

 

アイツはどう思ってたから知らないけど、俺はあんなにも気の合う友人はアイツが初めだった。

はじめてあった気がしないというか。

変な安心感があるというか。

とにかく、ともに過ごした時間は短かったけど。

アイツは俺にとって友人の中でも一際特別な存在だったんだ。

 

だから、本人の意志じゃなかったのなら。

殺された事を俺は恨んでなんかいない。

 

むしろ、自分の意志に関係なく誰かに支配されてたっぽい友人が心配だ。

なんか出会った時から幸薄い感じがしてたし。

 

ーーーマジで自殺してないよな?(滝汗)

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

 

「ーーーコンラ?」

 

「ッ!」

 

 

 

ーーーまた同じ事をしてしまった。

 

俺は友人の身を案じ、思考にとらわれていた自分の意識を現実へと急いで引き戻す。

いつの間にか伏せていた顔を上げると、訝しげに俺を見下ろすキャスターと目が合った。

 

うわー。俺の馬鹿。

イリヤちゃんの時と同じ事繰り返してるよ。

これ以上、この人に気を使わせなくなかったのに。

俺は内心で自分の馬鹿さ加減に苛立ち覚えながらも、キャスターに謝る。

 

 

 

 

「ごめん、キャスター。

ちょっとボーッとしてた。」

 

「・・・そうか。」

 

 

 

キャスターは特に俺を責めるでもなく、相槌を打ち。

 

 

「ーーーえ?」

 

 

なんの前触れもなく、佇んでいた俺を軽々と抱え上げると。俺がさっきまで寝ていたソファーへと、再び俺を寝かせた。

 

 

「ん?え?あれ?」

 

 

目を白黒させる俺に、キャスターは自分の身に纏っていた外套を脱いでかけてくれた。

 

 

「オマエ自身は回復したと思っていても、実際のところまだ本調子じゃねぇんだろ。・・・まだ時間はある。もう少し大人しく寝てろ。」

 

 

「っ!」

 

 

 

ぶっきらぼうなセリフを口にしながらも、頭を撫でるキャスター指先からは労るような優しさを感じられた。

戸惑いながらも見上げたその瞳には。

確かに子を想う親の、慈愛に満ちた温かな光が宿っていて。

俺はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーごめん、なさい。」

 

 

俺はその瞳を見て、酷い罪悪感を覚えた。

この人は、俺の事をこんなにも気にかけてくれるのに。

息子として俺に愛情を注いでくれるのに。

俺は薄情にも、この優しい父親の事を忘れてしまったのだ。

なんて親不孝者なんだろう。

物凄い自己嫌悪に、俺はまた泣きそうになった。

 

 

ーーーなんか俺、涙もろくなったな。

身体に精神が引っ張られてるんだろうか?

 

 

辛うじて冷静な頭の一部が自分自身にツッコミを入れてくるが、今はそれどころではない。

弛みそうになる涙腺を抑えるだけで必死なのだ。

 

涙が出そうなのを体を震わせながらも根性で堪える俺。

そんな俺の様子に、キャスターは珍しく狼狽していた。

 

 

 

「おい。いきなり謝ってどうした?

 

ーーーっていうか泣きそうじゃねえか!?

どうした!?どっか痛いのかっ!!」

 

 

 

キャスターの切羽詰まった様子の問いを、俺は首を横に振って否定し。

問われるままポツリポツリと、小さな声で謝った理由を話した。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

はい、ご察しの通り。

生前の主人公を殺ったのは紛れもなく第五次聖杯戦争のランサー(ヤリニキ)です。

 

ヤリニキ、マジで申し訳ない。

ちなみに本作のキャスニキはこの時の記憶は座から引き継がれていない設定。

 

 



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親子

 

 

 

キャスニキ視点

 

 

 

 

 

「ーーーごめんなさい。」

 

「・・・・・。」

 

 

 

小さな体を震わせながら、泣きそうな顔で自分に謝る息子(コンラ)の姿に。

俺は少しの間、言葉を失った。

 

息子は俺の事を忘れてしまったと謝ってくる。

生前の記憶がないのは息子のせいではないのに。

俺と過ごした大切な時間を忘れてしまったと、自分自身を責めている。

 

 

ーーーともに過ごした時間など。

息子の考えているような穏やかなモノではなかったというのに。

 

 

お互いを殺す為に、槍を、剣を、拳を交えた。

殺伐とした戦いの記憶。

 

むしろ、息子がその忌まわしい記憶を失ってくれた事を喜んでいる自分がいるというのに。

どこまでも純粋な目の前の存在は、そんな俺の為に自ら心を傷つけている。

 

 

 

ーーーーあぁ、そうか。

コイツは戦士として生きるには、優しすぎたのか。

 

 

今ならわかる。

確かに生前のコンラは俺と戦っている時、何度か俺を殺せるチャンスがあったのをワザと見逃していた。

 

父親を殺したくないと、手加減していたのだ。

 

当時の俺はそれに気づかなかった。

気づいて、やれなかった。

 

 

ーーーくそっ!

謝るべきなのは、俺の方じゃねえか!!

 

 

 

胸に渦巻くあの時の自分への怒りに、視界が赤く染まったような気がした。

そんな俺の怒気に敏感に反応した息子は、怯えたように身を竦ませる。

 

 

 

「ーーーキャスター、怒った?」

 

 

 

どうやら俺が怒っているのは息子に対してだと勘違いさせてしまったようだ。

内心で自分自身に舌打ちしながら、俺はコンラへ違うのだと告げる。

 

 

 

「安心しろ。オマエに怒ってるわけじゃねぇ。」

 

「?、本当に?」

 

「あぁ。本当だ。」

 

「ーーーよかった。」

 

 

ホッとした安堵の表情で、息子は胸をなでおろす。

その自分の言動で一喜一憂する姿に。

愛おしさが込み上げた。

 

 

「コンラ。記憶がないのは誰のせいでもねぇ。オマエが気に病む必要はねぇんだ。」

 

「で、でも・・・」

 

「俺はな。死んだ後に、こうしてまたオマエと出会えただけで充分なんだ。」

 

 

 

俺は手を伸ばし、コンラの柔らかな頬に触れる。

身を竦ませた時に瞳から溢れた一筋の雫を、そっと指で拭ってやった。

 

 

 

「俺は失ったものより、今のこの時間を大事にしたい。ーーーわかるな?」

 

 

 

聖杯を護るセイバーを倒せば、恐らく俺もコイツも元の場所に還る事になる。

また会えるという保証はどこにもない。

いや、会えたとしてもマスターやクラスによっては再び殺し合いになる可能性もあるのだ。

 

 

こうして今、息子に何の障害もなく触れることが出来る現状が。

かつてないほどの幸運なのだ。

 

だからこそ、今を。

ともに過ごせるこの奇跡のような時間の全てを大切にしたかった。

記憶にしっかりと刻み込み。

けして摩耗しないよう座へと持ち帰りたかった。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「えっと・・」

 

 

俺は必死にキャスターの言わんとする事を考える。

ーーーつまり、生前の記憶がない事は気にしなくていい。

今から新たに親子としての思い出を作ってこうって事・・・かな?

 

頬に触れるキャスターの無骨な指の感触に。

零れた涙を拭う仕草に、俺は深い愛情を感じた。

同時に、自分の全てを委ねてしまいたいと思う程の途方もない安心感を抱く。

 

 

ーーー何だろ、胸がポカポカする。

心が満たされるというか。

落ち着くっていうか。

この人が傍いるだけで満足、みたいな?

 

 

はじめて感じる類の感情に、疑問を抱く。

これが血の繋がった父親から一心に愛情を受ける子供の気持ちなのだろうか?

両親の記憶がない俺にはわからないし。

比べようもないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーなんか幸せ、だな。

 

 

目の前のキャスターに。

今世の父親に愛情を注がれることを喜び。

幸福に感じている自分がいた。

抱いていた罪悪感や自己嫌悪は、いつの間にか溶けたように消えていた。

その心の変化を我ながら現金だなっと思いつつ。

俺はキャスターにーーー

 

 

 

「そう、だね。ありがとう。

ーーー父さん。」

 

 

「ーーーッ!」

 

 

 

自分の《父親》に笑いかけた。

 

前世で知ることの出来なかった親からの愛情というものを、俺に与えてくれたこの優しい父親の隣に。

ずっと、これからも共にいたいと願いなから。

俺は自分の思いを告げる。

 

 

 

「わかったよ。生前の分もーーーううん。

生前以上に!これからいっぱい二人で思い出を作ってこうね!!」

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

キャスニキ視点

 

 

 

 

 

「そう、だね。ありがとう。

ーーー父さん。」

 

 

 

コンラから笑顔と共にかけられた言葉に。

どうしようもないほどの衝撃を受ける。

 

ーーーコンラが、父と。

子を手にかけた、親である資格もない俺の事を。

父と、呼んでくれた。

自分の父親であると認めてくれた。

 

 

震えるほどの歓喜と愛情と慈しみが。

全身を駆け巡っていく。

 

 

目の前の存在が愛おしかった。

何モノにも代えがたい程に。

これまで己が大切だと思っていたモノ全てが、息子の前ではちっぽけな物の様に思えた。

 

 

 

ーーーずっと。すぐ側で。

この愛おしい存在と共に時を過ごせたのなら。

それはどんなに幸せなことだろうか。

 

だか、それは叶わない願いである事を俺は知っていた。

 

 

 

「わかったよ。生前の分もーーーううん。

生前以上に!これからいっぱい二人で思い出を作ってこうね!!」

 

 

 

何も知らず。

訪れることのない未来の話をする息子の姿に痛みを覚える。

ただ共にいたいという。

その無欲な願いすら自分は叶えてやれないのだ。

 

 

久しく感じたことのなかった無力感に。

俺はキツく己の手を握りしめながら。

 

 

 

 

 

「ーーーあぁ。」

 

 

 

肯定も否定も出来ず。

曖昧に言葉を濁すしかなかった。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

キャスニキの愛が重い。

そして鬱展開。

どうしたものか(頭抱え)

 

 

 



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第三者視点

 

 

 

「・・・・スゥ・・」

 

「・・・・。」

 

 

アインツベルン城の一室。

ソファに横たわり、己に促されるまま素直に眠りについた息子の姿をキャスターは静かに見つめていた。

寝息を立てる穏やかな寝顔に眼を細めると。

瞬きの間にその瞳は父親から智者の色へと変わる。

キャスターは己の中でシコリとなっている、

不可解な幾つかのピースを脳内に上げていく。

 

 

息子のイレギュラー召喚

記憶の喪失

本来持ち得ない宝具・魔眼

魔力切れによる意識の昏倒

 

そしてーーー

通常の英霊(サーヴァント)ならば必要としない睡眠。

 

 

「まさか・・疑似サーヴァントか?

ーーーとなると、コイツを召喚したのは。」

 

 

その可能性に至ったキャスターが、ポツリと誰にともなくこぼした時。

ソレは起こった。

 

 

〘さすがだな。〙

 

 

カタリッと、壁に立て掛けてあった息子の剣がひとりでに動いた。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

とっさに息子を庇うように前に出て、警戒するキャスター。

その間もカタリッカタリッと剣は生きているかの様に動き。

しばらくすると、その剣身から白い霧のようなモノが溢れ出てきた。

その霧はゆっくりと人の形に変化し、キャスターにとって見覚えのある姿に成った。

 

 

「あぁ・・・やっぱりアンタか。」

 

〘久しぶりだな。我が息子、セタンタよ。〙

 

 

 

そこにいたのは神。

その名は太陽神ルー。

 

 

「あの女といい、アンタといい。まったく・・・その名前は呼ぶなって言ってんだろクソ親父。」

 

 

キャスターにとっては己の父であり。

コンラにとっては祖父にあたる存在だった。

 

 

〘再会して早々、随分な言い草だな。〙

 

 

ルーは苦笑し、温かな眼差しでキャスターを見る。

奇しくもその表情は、先程までキャスターが浮かべていたものと同じ。

愛する息子へと父親が向ける慈愛に満ちた顔だった。

しかし、その肢体は透けており。

先ほどコンラが手助けした白い少女と同じ、一時的に視覚化できるよう現界したものであった。

 

神秘の薄いこの特異点では、完全な形で降り立つ事は高位神であるルーには出来なかったのだ。

 

だからこそ、己の意識の一部を送り込む為に孫の剣を利用した。

ルーは視線を己の触媒とした剣に移す。

 

 

それはコンラが生前に父親と戦った際、クー・フーリンの髪の一部を斬り落とした剣だった。

故に元は無名の剣であったソレは微かだが神秘を帯びていた。

そこにキャスターがコンラに魔力を供給する為、自ら手を斬り剣に血を与えた。

その結果、半神の血を受けた剣の神性は更に高まり。

キャスターと血の繋がりのあるルーが触媒として利用するのに最適なモノへと変化したのだった。

 

 

 

「ーーーそれで?これはどういうことだ?」

 

 

ルーはかけられた声に、視線をキャスターへと戻す。

 

 

「コイツを疑似サーヴァントにしてまで此処に送り込んだ理由は何だ?そんな姿になってまで降りて来たってことは、相当の理由があるんだろ?」

 

〘あぁ、その通りだ。だが、理由を話す前に確認しておかなければならない事がある。〙

 

「?、何だよ?」

 

〘セタンタ。お前はこの先、何があろうともコンラの傍にいる覚悟はあるか?〙

 

「ーーーどういう事だ?」

 

〘これから話すことは、お前にとってとても堪え難い事だろう。その子の傍にいる事を躊躇う程に。

それでも私はお前にーーーいや、父親であるお前にこそ。

その子の傍でその子を護り、鍛え、共にこれから始まる人理修復という旅を歩んで欲しいと思っている。〙

 

 

 

ルーの脳内に甦るのは己の千里眼で見た光景。

定礎が崩れた今、確実な未来と断言は出来ないが。

人類を救う為、最後のマスターと各特異点に召喚された多くの英霊(サーヴァント)達が協力し、強大な敵へと挑むかつてない規模の聖杯戦争。

その未来は確かに、ルーの眼に焼きついていた。

 

ーーーその戦いに、己の孫を参加させる。

何故ならそれが、二度も悲劇を繰り返し。

その結果、幻霊と化してしまった(コンラ)を救う唯一の道だからだ。

 

 

 

ルーの言葉からキャスターは息子(コンラ)を取り巻く事態の重さを感じ取り、思わず息を呑む。

 

己が息子の傍にいることを躊躇う程の理由とはいったい何なのか。

微かに心が揺らぎかけたが、背後にいるコンラの存在がキャスターに覚悟を決めさせた。

 

 

息子の傍にいられるのなら。

息子の為に己が何か出来るのなら。

先程まで不可能だと諦めていた、共にいたいというコンラの願いを叶える事が出来るのならば。

 

ルーの口から語られるものが何であっても、己は堪えられるとキャスターは思った。

 

 

「ーーーあぁ。コイツの為に何かできるなら、俺は喜んでコンラの傍にいるつもりだ。・・・何があってもな。」

 

〘そうか。・・・わかった。

ならば、全てを話そう。〙

 

 

神は語った。

己が傍観していた事柄、全てを。

救いたくとも神秘の薄れた時代故に介入することも出来ず。

孫が再び息子の手によって殺されるおぞましい光景をただ観ている事しか出来なかった、己の罪を。

 

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

お祖父ちゃん(ルー神)登場回でした。

そしてまた始まる鬱展開(遠い目)

 

 



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再会

 

第三者視点

 

 

 

 

クー・フーリンの息子、コンラ。

 

彼は生前、父親の放った《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》の呪いにより魔槍に心臓に穿かれ死んだ。

そして死したコンラの魂は、神の血を引く者としてその神性の高い魂ゆえに。

本来であれば輪廻の輪には加わらずケルトの神々の座に迎えられる筈であった。

しかし、コンラはそれを良しとしなかった。

彼はただの人間としての来世をルーに願ったのだ。

 

 

肉親に愛され

友と野を駆け

武器を握る事なく

父と殺し合う事のない

平凡で穏やかな一生

 

そんな人生をコンラは望んだ。

 

 

母に疎まれ

師に捨てられ

他者を傷つけ

父に殺されて死んだ彼にとって。

それは喉から手が出る程に欲しいモノであったのだ。

 

ルーはそんな孫を哀れみ。

その願いを聞き入れ、コンラを転生の輪へと送り出す。

 

そしてーーー転生した《コンラ》は《■■ラ》となった。

 

 

 

 

 

 

 

■■ラの人生は生前のコンラの望んだ通り穏やかなものであった。

生憎、両親の愛を得る事はできなかったが。

代わりに家族となってくれた優しい大人と沢山の兄弟達を得た。

争いのない土地で、気心の知れた友人達と何気ない事で笑い騒ぐ日々。

 

■■ラは幸せだった。

彼は幸せなまま歳を重ね、生を終え、輪廻の輪へと再び還る。

ーーーその筈だった。

 

運命のごとく、英霊(サーヴァント)となった父親と再会するまでは。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

その日、彼は趣味の釣りを楽しむべく。

釣り道具一式を手に通い慣れた釣り場へと向かった。

はりきって朝早く出て来たというのに、港には既に先客がいて釣り糸を海に垂らしていた。

 

 

ーーーこの時間に俺より早く来てる人がいるなんて珍しいな。

 

 

興味を抱き、声をかけようと彼はその人物に歩み寄る。そして近づいたその背に、強い既視感を覚えた。

 

ひとつに結われた蒼く長い髪。

スポーツでもしているのか広く逞しい背。

 

彼は、此処ではないどこかで。

ずっとこの男の背中を追い求めていたような気がした。

 

 

「ーーー俺に何かようか?」

 

「ッ!」

 

 

男に先に声をかけられ、慌てた彼は言葉を探して視線をさまよわせる。

彼は二十歳前にしては背が低く、顔も童顔だった為。

その姿はまるで親への言い訳を探す子供のようにも見えた。

 

 

「え、えっと・・あっ!」

 

「ん?」

 

「釣り!俺も釣りをしに来たんです!!」

 

 

自分の握っていた釣竿が視界に入ってようやく本来の目的を思い出した彼は、急いで男に返事を返す。

振り返り、彼の様子を訝しんでいた男はその答えに納得したのか。

鋭い眼光を放っていた瞳をゆるめ、ニカリと快活に笑った。

 

 

「おっ!そうだったか。

もしかしてこの場所はアンタの定位置だったか?悪りぃな横取りしちまって。」

 

「あ・・大丈夫です。俺は特に場所とかにこだわり無いんで。」

 

「へぇ・・。まぁ、こうして会ったのも何かの縁だ。獲物がかかるまで話でもしようぜ。」

 

「え?あーーはい。」

 

 

 

男に誘われるまま彼は男の横に腰を降ろし。

自分も準備を済ませ、釣り糸を海に垂らした。

それから二人は他愛ない話を交わしながら、魚がかかるのを待った。

だが、一時間以上経っても獲物がかかる気配は一向にない。

 

 

 

「いくら何でもコレはねぇだろ。何だ?

今日は厄日かなんかか?」

 

「俺もここまで何もかからないのは初めてですよ。」

 

「・・・仕方ねぇ、終いにするか。」

 

「そうですね・・。」

 

 

 

ため息をつき片付けを始める男に倣って。

彼もまた肩を落としながら釣り竿を収納し、家を出た時からはめていたフィッシンググローブを手から外した。

 

 

 

「ーーーッ!」

 

 

 

途端に強い視線を感じて、彼は顔を横に向ける。

すると驚愕の表情で男が彼の手を凝視していた。

 

正確には、彼の右手の親指のつけ根にある。

指輪のような形をした痣を。

 

 

 

「あぁ・・これ、気になります?

生まれつきの痣なんですよね。まるで指輪みたいな形してるから、小さい時はよく同級生にからかわれましたよ。」

 

「・・・・なぁ。」

 

「はい?」

 

「その痣。もっとよく見せてもらってもいいか?」

 

「ーーーえ?」

 

 

男の言葉に彼は驚く。

普段の彼であったなら、出会ったばかりの他人に痣を見せる事などしなかっただろう。

けれど、彼はその男にどこか郷愁にも似た感覚を抱いていた。

そしてあまりにも真剣な男の表情に気圧された事もあって、素直に自分の右手を差し出す。

 

男はその手を両手で受けると、微かに震える指先で何かを確かめるように痣の形をなぞった。

 

 

 

「ーーーあぁ。そうだったのか。」

 

 

 

そして深く深く、男は息を吐き出した。

まるで万感の思いをのせるかのように。

 

 

 

「ここで運を使い果たしてたんなら。獲物がかからねぇのも、幸運Eなのも納得だな。」

 

「え?魚がどうかしたんですか?それに幸運って・・?」

 

「あーー。こっちの話だ、気にすんな。

それよりまだ俺の名前教えてなかったな?」

 

「あっ、はい。」

 

「俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?」

 

「俺は■■ラです。」

 

「そうか。■■ラ・・・良い名前だな。」

 

「ッ!・・・あ、ありがとうございます。」

 

 

 

柔らかな笑みを浮かべ、名を呼ばれた事に彼は動揺する。

その男の表情には、声色には、自分を想う何か温かな感情が込められているような気がしたのだ。

 

男から自分へと向けられるその温かなモノが何なのかわからず。

狼狽える彼は、反射的に礼を述べる事しか出来なかった。

 

 

「それじゃ、俺はもう行く。また何処かでな。

ーーー■■ラ。」

 

「あっ・・。」

 

 

けれど、ただひとつだけ。

混乱する彼にもわかった事があった。

それはーーー

 

 

 

「あ、あの!」

 

「ッ!」

 

 

 

彼がこの男と、もっと同じ時を過ごしたいと思っている事だった。

何かに突き動かされるように、急かされるように、彼は必死に去ろうとする男を引き止める。

 

 

「俺、ほぼ毎日この時間は此処で釣りしてるんでっ!もしよかったら明日から一緒にどうですかっ!?」

 

「ーーー。」

 

 

思ってもいなかった誘いに、男が目を丸くする。

彼もその男の反応に冷静になったのか、気不味げに目を逸らした。

 

 

「ランサーさんが良かったら・・・何ですけど。」

 

 

言い訳じみた言葉をつけ足して、彼は黙る。

男は少しの逡巡の後、そんな彼に満面の笑みで答えた。

 

 

 

「願ってもねぇぜ。

明日からよろしくな、■■ラ!」

 

「ッ!ーーはい!」

 

 

 

彼もまた男の答えに喜び、無邪気に微笑った。

それが生前、死に別れた二人の再会であり。

 

二度目の悲劇に向けての序章だった。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

※毎回、短くて申し訳ありません。

そして中々進まない。

特異点Fを抜ければコンラくんのケルト蹂躙タイムが始まる筈なのに!(悶絶)

 

 



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罪過

 

 

誓約(ゲッシュ)のことを忘れていました。

他にも文章を一部追加・修正しました。

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

現世にて巡り会った二人は、それから毎日のように港で会い交流を深めた。

 

日を重ねるごとに、ぎこちなかった二人の雰囲気は親しいものへと変わり。

■■ラも敬語をやめ、素のままの自分を出すようになっていった。

 

いつしか■■ラは、ランサーの事を心を許せる一番の友人だと思うようになっていた。

ランサーもまた、かつての父親として複雑な感情を抱えながらも■■ラ(息子)が望むならと良き友人であろうとした。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

「ほら、オマエ甘い物好きだろ?食えよ。」

 

「・・へっ?」

 

 

■■ラはランサーから渡された紙袋を受け取り、困惑する。

毎朝の恒例と成りつつある釣りの最中に何の脈略もなく甘味を渡されたのだ。

彼のその反応は当然のものだった。

 

そして、男なのに甘い物か好物だという自分の味覚を恥ずかしいと感じていた彼は。

今まで周囲の人間(孤児院の皆は除く)にそのことを話してこなかった事も困惑に拍車をかけた。

 

 

「俺、ランサーにそんな話したっけ?」

 

「いや、聞いてねぇ。」

 

「なら何故わかったし。」

 

「お前がケーキ屋の前で不審者みてぇにウロウロしてるのを見かけたからだ。

あれだろ?入ろうか迷ってたんだろ?」

 

「う、え?アンタ見てたのか!

どこにいたんだよっ!?」

 

「近くに花屋があっただろ?

アレ、俺のバイトさき。」

 

「」←(絶句)

 

 

羞恥に悶える■■ラに、ランサーは呆れた視線を向ける。

 

 

「ケーキぐらい普通に買えよ。確かに女の方が多かったが店の中には男もいたぜ?」

 

「無理。俺はあんな大勢の女の人の中に突撃してケーキを買う猛者にはなれない。

スイーツ男子とか自分から名乗る奴はマジで勇者だと思う。」

 

「勇者って、オマエ・・」

 

「・・・ん?というか何でランサーが店の中の事まで知ってるんだ?」

 

「それを買ってきたからに決まってんだろ。」

 

 

手に抱えた紙袋の柄には、よく見るとこの前入るのを諦めたケーキ屋のロゴがプリントされていた。

つまりーーー

 

 

「ここにも勇者がいた!」

 

「(生前に)そう呼ばれることもあったな。」

 

「マジか!?

ランサーもスイーツ男子だったのか!」

 

「はっ?俺は別にそこまで甘い物は好きじゃ・・」

 

「いただきまーす!もぐもぐ。」

 

「聞いてねぇのかよ。」

 

 

さっそく袋を開けてケーキを頬張る■■ラの姿にランサーは苦笑する。

だが、その瞳は温かな色を帯びていた。

年齢に見合わない子供のような行動をよくする■■ラのことを彼は好ましく思っていたからだ。

 

 

生前、短いながらも言葉を交わしたコンラは実際の年齢に比べて大人びていた。

そうならざるおえない環境で育ったからだろう。

 

まるでその時を取り戻すかのように今の生を謳歌する■■ラ(息子)の姿は。

殺めてしまったランサー(父親)にとってはある意味、救いでもあった。

 

 

「ふぅ・・ご馳走様でした。

ありがとうランサー。めちゃくちゃ美味かった!

今度は新作の方をよろしくな!」

 

「おいおい。さっそく次の注文かよ。」

 

「頼む!代わりにランサー用のルアー作っとくから。それと交換で!」

 

「・・・まぁ、構わないけどよ。」

 

「やったー!!」

 

「はしゃぎ過ぎだろ!?」

 

 

喜ぶ(息子)の顔を隣で見守るランサーの顔は、本人の知らぬうちに父親の表情になっていた。

 

 

 

 

ーーーそんな二人のささやかな幸福を、運命は容赦なく叩き壊す。

 

ランサー(前世の父親)■■ラ(前世の息子)を再び殺させるという最悪の方法で。

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

 

「■■ラッ!!コンラッ!!

アああ″アアああぁッ!!!!」

 

 

満点の星空の下でランサーは(息子)の名を叫ぶ。

己が殺めた愛おしい同一の存在の亡骸を、両腕で掻き抱きながら。

何度も何度も繰り返し狂ったように、その名を呼び続けていた。

 

彼は狂ってしまいたかった。

認めたくなどなかった。

 

己が再び息子(コンラ)を手にかけてしまった事実など、受け入れられなかった。

そこにいたのは既にアイルランドの英雄でも光の御子でもなかった。

ただ愛する息子の死を嘆く、一人の父親だった。

 

 

《ーーーーー。》

 

 

そんな彼に、繋がった念話から愉しげな声が届く。

その声の持ち主こそ己に息子を殺させた元凶。

この悲劇を愉しむ人としての道を外れた者。

けして赦す事のできない、息子の仇。

 

 

ーーー殺シテヤル。

 

 

紅い瞳に、憤怒と抑えきれない程の殺意が宿る。

ランサーは■■ラの開いたままの虚ろな瞳を閉じさせてやり、血に濡れた槍を握り締めた。

 

 

「ラン、サー?」

 

 

その場に居合わせたセイバーとマスターの少年は、ランサーの普段からは想像もつかない取り乱し方に声をかけられずにいた。

しかしランサーが黙したことでようやく意を決することができたようだ。

 

気遣うように声をかけたお人好しの少年に、ランサーは絞りだすような声色で応える。

 

 

「坊主、頼みがある。」

 

「え?」

 

「俺はやらなくちゃならねぇ事が出来た。

だから俺の代わりに、コイツをこの時代のやり方で眠らせてやってくれねぇか?」

 

 

唐突な頼みに戸惑う少年の横で、静かに状況を見定めていたセイバーが口を開く。

 

 

「光の御子。コンラとは・・アナタのーー」

 

 

セイバーはそこで言葉を紡ぐのを止めた。

死んだ青年の親指にある指輪のような痣と、ランサーの先程の反応から。

セイバーの直感スキルが、事のあらましを全て彼女に悟らせたからだ。

 

 

「そんな・・まさか。

その青年はアナタの息子の・・!」

 

「あぁ・・コイツは。

■■ラは俺の息子の、生まれ変わりだった。」

 

 

「「ッ!」」

 

 

ランサーの答えに少年は驚き。

生前の逸話を知るセイバーは沈痛な面持ちで目を伏せた。

 

 

「ーーーわかった。任せてくれ。」

 

 

逸話を知らない少年であったが、転生した息子を手にかけたランサーの心境を思い。

力強く頷くと、その頼みを受けた。

 

 

「ありがとな、坊主。」

 

 

心の底からの感謝を少年に告げると、彼は立ち上がる。

(息子)の生気のない顔を目に焼き付ける様に見つめた後、何かを振り切るようにランサーは走りだした。

 

仇を討つべく、風を切って駆けるその姿はあっという間に見えなくなる。

青年の亡骸を託された二人はそれを見送り。

 

 

 

ーーーそして、目撃する。

青年の亡骸から薄い影のようなモノが滲み出し。

まるでランサーの後を追いかけるかのようにそのまま夜の闇に消えていくのを。

 

少年は茫然と、騎士は悲しげな眼差しで。

ただその影をーーー幻霊となったランサーの息子の魂を見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

 

■■ラのーーーいや、コンラの魂は。

 

一度目に心臓を穿かれた際に、魔槍に宿る魔力により魂にも目に見えぬ傷を負っていた。

それは転生を繰り返すうちに薄れ治るはずのものであった。

しかし、傷が治る前に彼の魂は再び同じ魔槍によって傷つけられる事になる。

 

同じ使い手、同じ魔槍、同じ場所。

 

不運にも三つの偶然が重なった事により。

二度目の魔槍の魔力はコンラの魂の弱った部分を、傷を上書きするかのごとく深く鋭く抉った。

それは彼が二度と転生出来なくなる程の、致命的な傷となった。

 

結果、コンラの魂は輪廻の輪に戻ることが出来なくなり。

彼は近い内に消滅するその時まで、現世をさ迷うだけの力無き幻霊へと成り果ててしまった。

それはかつて幼い少年だった魂が背負うにはあまりにも悲惨な結末だった。

神であるルーが目を逸らしたくなる程に。

 

 

だが、何の気まぐれか。

運命は彼等から幸福を奪い取ったその手で、彼に救いの道を授けた。

 

それは、人理焼却。

 

ルーは定礎が崩れ、時代という概念が揺らいだ瞬間を見逃さずに(コンラ)の魂を現世から救い出す。

そして思考を巡らせた。

孫を消滅から救う為の手段を必死に模索した。

 

 

 

ーーーそしてついに、ルーは一縷の希望を己の千里眼から見出す。

これから最期のマスター達が行う人理修復の旅には、多くの英霊達が関わってくる。

その英霊達の座に刻まれる記憶に、人理修復に挑むコンラの記録を残すのだ。

 

人理修復とは、それに加わるだけで大きな偉業となる。

それにより《父親に殺された英雄の息子》ではなく《人類を救う為に戦った幼い英雄》という概念を生み出すのだ。

その数多の英雄達の座の概念を基盤とし、ルーはコンラの座を創り出すことにした。

 

成功すれば、コンラは英霊となり消滅をまぬがれる。

だが、危険も大きい。

いくら非凡な才を与えられた孫であっても。

人理修復という過酷な旅では、途中で力尽きてしまう可能性もあった。

 

何より幻霊となってしまった孫を現世に送るには、己がコンラの概念を元に創りだした仮の肉体に魂を入れなければならない。

それは疑似サーヴァントと呼ばれる存在になる事を意味する。

 

疑似サーヴァントは、英霊としての力を振るえる以外は普通の人間と変わらない。

食事・睡眠等を必要とし、致命傷を負えばそのまま死に直結する。

リスクは高かったが、他に方法がない事も理解していたルーは孫を生き残らせる為に全力でそのサポートに回ることを決意した。

 

 

誓約(ゲッシュ)を廃し。

己の武器を授け。

魔眼を授け。

カルデアとの接触を計る為に息子のいる特異点へと送った。

 

ーーー孫の記憶の一部を意図的に封じたのは、愛する息子と孫に生前のしがらみを忘れ。

少しの間でも親子らしい時を過ごして欲しいというルーの親心からだった。

コンラ本人は、転生の影響で記憶を失っていると思い込んでいるようだったが。

 

 

 

これが全て。

ルーがコンラを特異点へと送り込んだ理由。

孫を救う為に、人類の救済をも利用した利己的な計画。

だが、愛する者を救いたいというルーの切実な願いが込められた計画でもあった。

 

 

「・・・・俺、は。」

 

 

そして、全てを聞き終え。

己の重ねた罪を知ったキャスター(父親)はーーー

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

※今回はキリのいい所までやろうと頑張りました。

おかげで最高文字数突破!

いつもこうならいいのに←

独自設定はスルーして頂けるとありがたいです。

 

そしてキャスニキとヤリニキには申し訳ない事をした。

外道神父はマジで自重するべきですね。

 

 



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適正

 

 

〘コンラ。体調はどうだ?すでに肉体と魂は馴染んでいるようだが、無理はするな。〙

 

「え?う、うん。」

 

 

眠って、目を覚ましたら今度は俺を転生させてくれた神が目の前にいた。

しかもイリヤちゃんみたいに体がスケスケだ。

意味がわからぬ。

 

 

「それじゃ、マスター達には要点だけ伝えればいいな?」

 

〘そうしてくれ。本来なら私が直に話すべきなのだが、これ以上はここに留まれないのでな。〙

 

 

キャスターこと父さんは(もうこの人は俺の中で父親と認定した)何やら親しげに神と話している。

 

え?何っ?

父さん、神と知り合いなの?

 

ポカンと二人の様子を眺めていると、話し合いを終えた神が俺の頭を撫でて微笑んだ。

 

んん?

神って・・もしかして父さんに似てないか?

 

首を捻る俺に慈愛に満ちた眼差しを注ぎながら、神は俺を鼓舞するように告げる。

 

 

〘我が孫コンラよ。

これより始まる長き旅は過酷なものとなるだろう。だが、お前なら無事にやり遂げると信じている。・・・武運を祈る。〙

 

 

ーーーはっ?

孫だ、と・・?(動揺)

 

 

神は動揺のあまり硬直する俺を置いて。

父さんに意味ありげに目配せすると、あっという間に姿を消してしまった。

 

おい。ちょっ、待てや!

神のやつ言い逃げかよ!?

孫とか旅とか訳のわからない事を言ってたけど。

もう、何が何だか・・。

 

俺は助けを求めて父さんを見る。

すると父さんは何故か苦しそうに顔を歪めた。

 

目が合っただけなのに何その反応!?

俺、知らないうちに苦しくなるような事したのか!?

 

「ご、ごごめん父さん!俺なんかしたっ!?」

 

焦ってどもる俺に、父さんは違うと首を横に振る。

 

「お前は何も悪くねぇ。

悪いのは・・・全部俺だ。」

 

「え?」

 

聞き返しても父さんは何も答えず。

ただ俺を見下ろすその瞳は、昏い色を帯びているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

それから父さんに色々説明してもらったところ。

俺は多くの勘違いをしていた事がわかった。

 

まず、俺は自分は別の世界からこの世界に転生してコンラとなり。

何かの理由で死んだ後、この燃える街に英霊として召喚されたと思ってた。

 

でも実際は元々俺はこの世界の人間で。

コンラとして生まれ、死んだ後に俺ーー■■ラに転生。

友人に殺された後、この街にコンラの姿(疑似サーヴァントというらしい)で召喚されたということらしい。

転生者は転生者でもだいぶ意味が違ったな。

 

 

しかも友人が俺を殺した時に魂も傷つけたせいで、これから始まる人理修復とかいうイベントに参加しないと俺は消滅してしまうとのこと。

 

アイツ、なんて事してくれたんだ。

恨んではいないけど、コレは一発殴らせてもらわないと割りに合わないな。

父さんに聞いたら、友人も実は英霊だったらしいので旅の途中で会ったら絶対殴ろうと思う。

(その話しをしたら、父さんの眼がめちゃくちゃ泳いでた。どうしたし。)

 

 

それにしても神ーー俺の爺ちゃんも雑だよな。

もっと詳しく説明してから俺を此処に送ってくれればいいのに。

そうすれば、俺も余計な勘違いをせずに済んだのにさ。

 

・・・いや、もしかして説明してくれてたのか?

相変わらず抜け落ちた記憶は戻らないからコンラだった時の記憶はないし。

友人の顔も何故か思い出せないし。

(ランサーはクラス名だった。本名だと思ってたのに!騙された!!)

 

父さんもわからないらしいから。

転生の影響じゃないとすると、擬似サーヴァント化したからか。

もしくは魂の傷が原因だろうな。

まぁ、思い出せないのは仕方ない。

友人もざっくり雰囲気は覚えてるから、会えばわかるだろ!

そして殴る!←

 

 

取り敢えず、立香ちゃん達の手助けをしつつ人類を救うのがこれから俺がやるべき事だ。

 

友達の助けになれるのは嬉しいし。

俺自身、何もせずに消滅するのは嫌だからな。

荷が重いけど頑張ろう。

心強いことに、父さんも手伝ってくれるみたいだし。

 

 

ーーーちなみに、父さんに体はコンラだけど中身はコンラの転生者の■■ラ()だって一応話した。(すでに爺ちゃんから聞いて知ってたみたいだけど)

そしたら・・・

 

 

「記憶がなかろうが、転生してようが関係ねえ。オマエは俺の息子だ。」

 

 

という男前な言葉を頂いた。

俺の父さんイケメン過ぎる。

心の広い男ってガチで憧れる!

 

何故かハイライトが消えた眼をしてたけど。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

借りていた外套を返して二人で俺が寝ていた部屋を出た。

父さんの背を追いかけつつ立香ちゃん達が待っている部屋へと入るとーーー

 

 

「コンラくん!」

 

『コンラッ!』

 

「もう大丈夫なんですか?」

 

「うん!心配かけてごめんね。」

 

《思ったより元気そうでよかったよ。》

 

「まったく。英霊とマスターが契約をし忘れるなんて前代未聞よ。」

 

 

皆が心配してすぐに声をかけてきてくれた。

所長も毒づきながらも俺の事を気にかけてくれてたみたいで。

どこか安堵した表情をしていた。

 

 

・・・・みんな優しいなぁ。

 

ジーンと感動していると、父さんが立香ちゃん達に俺が疑似サーヴァントだという事。

そして俺をカルデアに連れて行ってもらいたいという事を話し始めた。

(俺が召喚された理由や人理修復の旅が始まる事はまだ伏せておくそうだ。あまり未来の事をネタバレするのはマズイらしい。罪悪感が湧くけど、我慢だ。)

 

 

「カルデアにこの子が来るのは構わないけど。

疑似サーヴァントじゃ、うちのフェイトシステムでも召喚出来ないわよ?」

 

「その点は問題ねえ。あんた達はレイシフトってやつで此処にいるんだろ?

マスターとコンラが契約を結べば、繋がったパスを利用してコンラもカルデアへ行けるように親父が準備済みだ。」

 

「あんたの父親、チート過ぎでしょ。しかも過保護。」

 

「神ならこれぐらい普通だろ。あと親父は昔から身内には甘かったからな。」

 

「あっ!確かキャスターさんが沼にはまったり、敵の大群と数日にわたって戦った際に助けに来てくれたんですよね?」

 

「あぁ・・っていうか嬢ちゃん詳しいな。」

 

「はい!古今東西、一通りの伝承は読みましたから!」

 

「すげぇな。ただ・・あの事(コンラの死因)だけは黙っててくれよ?」

 

「あ、はい!大丈夫です。絶対話しません!」

 

「・・・身内に甘いのは遺伝なのかしら?」

 

《ははっ!もしかしたらそうかもね。

まぁ、ギリシャやインドの神に比べたらカワイイものだと思うよ。》

 

 

「「確かに。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ん?」」

 

「あれ?いま俺呼ばれた?」

 

「私も呼ばれた気がした。」

 

『気のせいじゃない?

それよりその子、もっと撫でさせて!』

 

「フォウ・・」

 

 

思いのほか長い父さんの説明に飽きた俺達三人(俺と立香ちゃんとイリヤちゃん)はフォウくんを絶賛もふもふ中である。

撫で回される本人は、暴れ疲れてぐったりしてる。

素早い動きのフォウくんを捕まえる為に、今は外で見張りをしてるバーサーカーにまで協力を頼んだんだ。

可哀想だけど、もう少しこのまま触り心地のいい毛並みを堪能させてもらおう。

(もちろん捕獲の際はバーサーカーにはかなり手加減してもらった。そうじゃないとフォウくんは肉塊になってしまう。)

 

 

 

「アンタ達遊んでんじゃないわよっ!!」

 

そして案の定、所長に叱られました。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

所長にお説教をされた後、立香ちゃんと契約する為に。

先に俺が倒れた理由である魔力切れや契約の詳細、その他最低限のマスターと英霊についての知識を教えてもらった。

 

俺は疑似サーヴァントだけど、魔力切れ=死に繋がるのは普通の人間と変わらないそうだ。

(さっきは父さんがいなかったらマジでやばかったらしい。危なかった!そして感謝っ!)

 

その代わり食事や睡眠で回復する魔力量は他の英霊(サーヴァント)に比べてかなり多いらしいから。

日常生活を送る分には何の問題もないとのこと。

 

・・・そう。日常生活を送る場合は、だ。

 

俺がこれから挑むイベントは激戦・死闘が必須の人理修復!

魔力が足りなくなるのは目に見えてる。

 

 

つまり俺も、誰かにマスターになってもらって魔力を分けてもらわないとすぐにデッドエンドというわけだ。

それはゴメンなので、言われるままに立香ちゃんと契約しようとして気がついた。

 

あれ?

立香ちゃん、俺とも契約したらサーヴァント三人になっちゃうよね?

魔力足りなくならないのかな。

それに所長も魔術師なんだよね?

どうして所長とは契約しちゃいけないんだろう。

 

 

「アンタ、人が触れてほしくない所に直球を叩き込んでくるの止めてくれる?」

 

 

物凄く嫌そうな顔で話してくれた所長いわく、マスターになるにはマスター適正ってのが必要らしい。立香ちゃんにはそれがあるけど、所長にはないと。

(立香ちゃんの魔力の件はカルデアのサポートがあるから大丈夫との事。よかった!)

 

ますます不機嫌になった所長の様子に自分が地雷を踏んだことを悟った。

 

うわぁ、やっちゃった。

 

 

「ごめん所長。でもほら!やってみたら意外と気合いで契約できちゃったり?」

 

「気合いでどうにかなるならとっくにやってるわよ!」

 

「え?でもマシュちゃんは気合いで宝具出せたし。」

 

「ハッ!そういえば!」

 

「どうなんですか?キャスターさん。」

 

「それとこれとは別だろ。」

 

 

ええ?じゃあダメなのか。

残念だなぁ。

立香ちゃんに不満があるわけじゃないんだけどさ。

 

「もしも出来たなら、俺は所長と契約したかったな。」

 

《「「え?」」》

 

「コンラ・・お前、趣味悪りぃな。」

 

「どういう意味よそれっ!?」

 

 

父さんに喰って掛かる所長の姿を見ながら俺は自分の胸のモヤモヤを再確認する。

 

うーん。やっぱり似てるんだよな。

誰かって言われると困るんだけど。

所長を見てると、こう・・なんか放っておけない気持ちになるんだよ。

 

何だコレ?

生前のコンラだった時か、■■ラだった時の知り合いに似てるのかな?

思い当たるフシはないけど。

コンラの時だったら記憶ないから思い出すのは絶望的だなー(遠い目)

幸薄い感じは友人と似てる。でも性別違うし。

うむむ。わからぬ!

 

・・・・まぁ、思い出せないならいいか←

マスターになって欲しい理由はそれだけじゃないし。

 

 

《子供にばかり・・!戦わせ、られないわ!!》

 

《ッ!・・・いいえ、どこもおかしくないわ。そういえばまだお礼を言っていなかったわね。さっきは助けてくれてありがとう。》

 

ーーーわかりにくいけど。

所長が優しい人だって事、知ってるからさ。

 

 

「もう!アンタが変なこと言うからよ!?」

 

「だって、ホントに所長にマスターになってほしかったから。」

 

「まだ言うか!?」

 

 

何故か顔を赤くした所長に、また頭をペシン!と叩かれた。

でも前より痛くない。

素直じゃないだけで、やっぱり優しいんだな。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

※キャスニキのSAN値がヤバイことに。

残念ながら所長と契約はできないので、次回に立香ちゃんと契約します。

 

 



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契約

 

 

「ーーー告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に!この意、この理に従うのなら、我に従え!ならばこの命運、汝が剣に預けよう!!」

 

 

立香ちゃんが契約の呪文を唱える。

俺もそれに応えて、教えてもらった通りに詠唱する。

 

 

「我は光の御子クー・フーリンが息子コンラ。

この名に懸けその誓いを受ける!そなたを我が主として認めよう。マスター、藤丸立香!」

 

 

 

重ねた手を通して、立香ちゃんとの間に何かが繋がるのがわかった。

これがパスが繋がったってことなのかな?

 

 

「どうやら無事に契約できたみたいだな。」

 

「うん。これからよろしくね、コンラくん。」

 

「俺の方こそよろしく立香ちゃ・・じゃなくて、マスター!」

 

 

俺は改めてマスターになってくれた立香ちゃんに挨拶を返す。

でも、立香ちゃんに困った顔をされてしまった。

 

 

「コンラくん。《立香ちゃん》でいいんだよ?」

 

「え?でも・・」

 

「契約したら必ずそう呼ばなくちゃいけないわけじゃないの。私は前の通り、名前で呼んでもらえた方が嬉しいな。」

 

「そうなの?」

 

「うん。」

 

「えっと・・・じゃあ、よろしく!

立香ちゃん!」

 

 

俺が笑うと、立香ちゃんも笑顔で応えてくれた。

 

うん。なんか凄く嬉しいぞコレ!

《サーヴァント》じゃなくて《俺》を認めてもらえた。そんな感じがする!

 

 

 

ほっこりする俺を余所に、所長と父さんがこの後の方針をこの場にいる全員に告げた。

 

まず、この燃える街ーー特異点F《冬木》の異変の原因はセイバーが護っている聖杯で間違いないとのこと。

その聖杯を回収すれば異変の原因が取り除かれ、立香ちゃん達はカルデアに戻れるそうだ。

(そして俺はそれについて行く。)

 

つまり、セイバーを倒して聖杯をゲットすれば良い。

だけどここで1つ、大きな問題が。

そのセイバーが物凄く強いらしい(戦慄)

 

父さんもキャスタークラスじゃ分が悪いと、俺達と会うまで戦闘を避けてたらしい。

(ちなみに、父さんのよく召喚されるクラスはランサークラスだそうだ。友人と同じだ!

そして父さんの眼がまた泳ぎまくってた。いったいどうしたし。)

 

 

そんな強敵に勝てるのか?ーーーと不安になっていたら思わぬ援軍が。

 

なんと!

イリヤちゃんとバーサーカーが打倒セイバーに協力してくれる事になったのだ!!

 

 

『バーサーカーにまた会えたのはコンラのおかげだもの。恩返しさせて!』

 

「■■、■ッ!!」

 

「イリヤちゃん、バーサーカー。

ありがとう!!」

 

 

「あのバーサーカーを味方につけるか。

息子ながら末恐ろしいぜ。」

 

「本人は無自覚でやってるんでしょうけど。

情けは人の為ならずってやつかしら?」

 

 

《でも、これでだいぶコチラの戦力は整ったんじゃないかな?》

 

「そうだな。油断は出来ねぇが。

後はセイバーのいる場所に向かう道すがら、マスター達に戦闘に慣れてもらうしかねぇか。」

 

「皆にうまく指示を出せるよう、私頑張るね!」

 

「私も先輩の足を引っ張らないよう全力を尽くします!」

 

「コンラ、お前はやっと自分のクラスがわかったんだ。これまでと違ってクラスを活かせるよう意識して戦えよ。」

 

「うん!わかった!」

 

 

父さんの言葉に頷き、そして俺は気がついた。

 

俺のクラス(父さんに教えてもらってわかった)ーーーランサークラスにとって大事なものを自分が持っていない事に。

(なんと俺もランサークラスだった!

友人と普段の父さんと同じ。偶然って凄い!!)

 

 

「あっ!でも俺、槍持ってない!」

 

「あーーそうだったな。」

 

 

無くはないけど、宝具の《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》を出しっぱにしてたらあっという間に魔力切れになってしまう。

仕方ないので、倒した骸骨の使ってた槍を拝借することにした。

 

 

「本当は俺と同じ、ちゃんとしたヤツを持たせてやりてぇが・・・あの女の作った槍をコイツに持たせるのは酷か。」

 

「? 父さん?」

 

「ーーー何でもねぇ。」

 

「???」

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

 

アインツベルン城を出発した俺達は、父さんの案内に従って聖杯のある洞窟を目指す。

 

燃える建物を視界の端に入れて歩きながら俺は小さくため息をついた。

ーーーそれにしても、ここが冬木(俺が住んでた街)だったとは。(並行世界とかで正確には違うみたいなんだけど。よくわからん。)

 

なーんか見たことある街並みだとは思ってたけど、まさかの大火事になってるんだもんな。

驚いた。

 

この分だと俺の家も燃えてるな。

友人(ランサー)用に作ってた自作ルアーもきっと炭になってる。

はぁ・・あと少しで完成だったのに(ガックリ)

 

内心で意気消沈しながらも、襲ってくる骸骨を倒しつつ皆と先を急ぎ。

ついに目的の場所、セイバーことアーサー王のいる洞窟へと俺達は辿り着いた。

 

 

 

 

 

警戒しながら奥へと進み。

着いた洞窟の最深部には、静かに佇む黒い騎士がいた。

 

こちらを見下ろす冷えきった眼差し。

小柄な体から放たれるプレッシャーはバーサーカーに負けるとも劣らない。

・・・いや、バーサーカーと違って感情が感じとれない分セイバーの方がよほど怖ろしく思えた。

 

 

「ーーッ!」

 

 

勝手に震えだした体を抑える為に槍を持つ手を強く握り、歯を喰いしばる。

 

怖がるな。

立香ちゃん達の方がずっと怖いんだぞ。

男だろ!根性見せろ俺!!

 

それでも体の震えは治まらない。

 

 

「く、そ・・・・ッ!?」

 

 

情けない気持ちになっていた俺の頭に、誰かが触れた。

 

 

「コンラ。」

 

 

目だけ向けると父さんがセイバーから視線を外さないまま俺の頭に手を置いていた。

落ち着かせるように撫でる手のひらの動きに、体の震えが小さくなっていく。

 

 

「大丈夫だ。お前は俺が護る・・・絶対にだ。」

 

「・・・とう、さん。」

 

 

父さんの言葉に、この手のひらに。

この街にいる間だけで俺は何度助けられて来たただろうか。

 

 

「「コンラくん。」」

 

「『コンラ。』」

 

 

 

立香ちゃんが、マシュちゃんが。

所長が、イリヤちゃんが。

 

俺を励ますように名前を呼んでくれる。

ーーーそうだ。何を一人で思い詰めていたんだろう。

俺には俺を支えてくれる、頼もしい父親と友達がすぐ傍にいてくれるのに。

体の震えはいつの間にか止まっていた。

 

 

「ありがとう。」

 

 

俺は皆に笑いかけると、覚悟を決めて前を向く。

睨みつけるように見上げた為、こちらを見下すセイバーと眼がかち合ったが反らしはしなかった。

 

 

「ーーー。」

 

 

その数秒だけ、セイバーの瞳が揺らいだ様な気がしたのはきっと気のせいだ。

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

※無事に立香ちゃんと契約完了!

次はVS黒セイバー戦ですね。

戦闘描写は苦手なのですが(遠い目)

 

 

 



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VS黒セイバー

 

 

「卑王鉄槌、極光は反転する。

光を呑め! 《約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!!!》」

 

 

振り下ろされたセイバーの剣から、黒い光の本流がほとばしる。

まっずくに俺達へと放たれたその黒い光の柱を見た立香ちゃんは、直ぐ様マシュちゃんに指示を出した。

 

 

「マシュ!」

 

「宝具展開します!

仮想宝具:疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!!》」

 

 

マシュちゃんの盾から現れた光の壁が、俺達をセイバーの攻撃から護ってくれる。

黒い光が防がれ、消えたと同時に父さんとバーサーカーがマシュちゃんの後ろから飛び出し駆ける。

 

「お前はここにいろ!」

 

俺もそれに続こうとしたけれど、父さんに来るなと言われて二の足を踏んでしまう。

 

確かにさっきまでビビってたし。

二人に比べて戦闘経験もないけど。

覚悟を決めたんだ。

置いてきぼりはゴメンだ!

 

俺はその言葉に逆らって、遅れながらも二人の後を追った。

 

 

「フッ・・・面白いサーヴァントがもう一人。

貴様の事は常々不運だと思っていたが、ここまで凶運だったとはな。巡り廻って三度目か。喜べ、今度は父子ともに楽にしてやろう。」

 

「アンタ・・そうか。話は聞いてるぜ。

今の俺は座から記憶を引き継いでねぇが、世話になったみたいだな。

ーーーだが、アイツはもう死なせねぇ。アイツに害を成そうってんなら遠慮無く殺らせてもらうぜ。」

 

「抜かせ。槍のない貴様など相手にもならん。」

 

「んなことわかってる。でもよ、こっちにはコイツもいるんでな。」

 

 

「■■■■■■■ッ!!!」

 

「ちっ!バーサーカーか。」

 

 

何か真剣な話をしていた父さんとセイバーの間にバーサーカーが割り込み、拳を振るう。

杖を槍みたいに扱ってセイバーと斬り結んでいた父さんは素早く跳び退き、距離をとった。

俺はその父さんの傍に駆け寄る。

 

 

「父さん!」

 

「ーー来るなって言っただろうが。」

 

 

険しい表情の父さんに怯みかけるも、俺はキッパリと決意を口にする。

 

 

「俺も戦う!俺だって(疑似だけど)サーヴァントだ。立香ちゃんのーーーううん。みんなの役に立ちたいんだ。」

 

 

立香ちゃんはマスターとして的確な指示を出してくれた。

 

マシュちゃんは宝具で俺達を護ってくれた。

 

所長は怪我をしたら直ぐに回復できるよう準備してくれてる。

 

父さんは不利なクラスにも関わらずセイバーと戦ってる。

 

こうしてる間にもバーサーカーはセイバーと一進一退の攻防を繰り広げてる。

 

イリヤちゃんは・・・幽霊だから!

仕方ないから!!←

 

 

と、とにかく!

俺が言いたいのはーーー

 

「俺は俺に出来ることをやる。

護られてるだけなんて嫌なんだ。」

 

そうだ。

父さんの気持ちは嬉しいけど。

俺だって男なんだ。

護られてばかりじゃいられない!

俺も大好きな人達を護りたいんだ。

 

 

 

「・・・・無茶はすんな。

いざとなったら気絶させてでも退かせるからな。」

 

「う、うん。」

 

 

俺の真剣な気持ちが伝わったのか。

父さんはそれだけ言うと視線をセイバーへと戻す。

そのセリフに不穏なモノを感じながらも。

大人しく頷き、俺は父さんに倣って槍を構えた。

 

 

 

 

 

 

バーサーカーのおかげではじめは優勢だった戦局は、次第に劣勢へと傾いていく。

セイバーは聖杯のブーストを受けているらしく、致命傷ではない傷は直ぐに治ってしまい。

魔力も尽きることがないのだ。

 

俺の宝具《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》も全部直感スキルで躱されてしまった。(反則(チート)にも程があるだろ!)

 

父さんが炎の魔術でバーサーカーの援護をしてるけど。あまり効いてないみたいで苦い顔をしている。(対魔力まで備えてるとか・・もう勘弁して下さい!)

 

このままだとマズイ。

焦る俺達に、セイバーの二度目の宝具が放たれる。

 

「みんな下がって!

マシュ、もう一度お願い!!」

 

「はい!」

 

 

「 《約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!!!》」

 

 

「《仮想宝具:疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!!!》

ーーく、うっ!」

 

「マシュッ!?」

 

「マシュちゃん!」

 

 

二回目の攻撃を防ぎきったものの、相当な負荷がかかるのかマシュちゃんは膝をついてしまう。

それを嘲笑うかのように、セイバーは連続で宝具を使用しようと剣を振り上げた。

 

「させるか!」

 

俺はそれを見て、とっさに思いついた作戦を立香ちゃんに念話で伝えてセイバーへと走りだす。

 

 

「えぇ!?コンラくん!?」

 

「コンラッ!」

 

 

驚く立香ちゃんを尻目に。

止めようとした父さんの手をすり抜けて疾走、跳躍。

元々使っていた剣で、セイバーの剣が振り下ろされる前にその刃を受け止めた。

(槍は早々に折られたので捨てた。やっぱり借り物じゃダメだった。)

 

邪魔をされたセイバーは俺を見て興味深そうに眼を細める。

 

 

「私の剣を受け止めるか。ランサークラスでありながら剣の素質もあるとは・・・伝え聞く通り、芸達者なヤツだ。」

 

「それは・・どう、も・・!」

 

 

受け止めたは良いものの。

衝撃で痺れてしまった両腕を無理やり動かし、俺はセイバーの剣を弾き返す。

 

たぶん褒められたんだろうけど、状況が状況だから全然嬉しくない!

(というか、考えたら父さんもキャスターだけど杖で接近戦してるし。アーチャーも剣で戦ってたよな。クラスの定義が謎過ぎる。)

 

そして反撃される前に俺の宝具を放つ。

 

 

「行け!《穿く必勝の光槍(ブリューナク)!!!》」

 

 

空中に現れた光槍の1本を掴み、残りを操ってセイバーへと攻撃する。

けれど、4本全てが複雑な軌道を描いているにもかかわらず。

前と同じ様に次々と回避されてしまう。

しかも二回目だからか初見より余裕そうだ。

 

ーーーまぁ、こうなる事はわかってたんだけど。

 

ダメ押しとばかりに投げた手元の槍をセイバーは体を反らすだけで簡単に避けた。

 

 

「だが・・借り物ゆえか、肝心の宝具は使いこなせていない様だな。所有者に必ず勝利をもたらすと云われた神槍が憐れな事だ。」

 

「・・・俺が未熟な事なんて。俺自身が一番よくわかってるよ。だからーーー」

 

 

 

俺は首を傾け、セイバーの背後を確認してその言葉を続けた。

 

 

「あとはプロ(槍の達人)にまかせる事にするよ。」

 

「ーーーお前、本当に人の言うこと聞かねぇな!!」

 

 

そこには令呪でセイバーの背後へと転移し。

俺の投げた光槍を受け取った父さんの姿があった。(あれ?父さんめっちゃ怖い顔なんだけど。もしかして怒ってる?)

 

 

「何っ!?」

 

 

さすがにコレは予想外だったのか、反応が遅れたセイバーをルーン魔術で威力が底上げされた光槍が穿く。

光槍の効果で、体を内側から燃やされたセイバーが赤黒い血を吐き出した。

崩れるように膝を折る姿に、今までと違い確実にダメージを与えられた事を悟る。

 

 

『今よ!やっちゃえバーサーカー!!』

 

 

その隙を逃さず。

イリヤちゃんの指示を受けたバーサーカーがすべてを粉砕する豪腕をセイバーへと振るう。

(イリヤちゃんが予想外に容赦のない子だった。笑顔がコワイ。)

 

殴り飛ばされたセイバーは洞窟の壁に激突した。

 

 

「がはっ!」

 

 

苦痛の声と共に、その体は力なく地に伏した。

ーーー勝った、のか?

 

 

「くっ!・・・聖杯を守り通す気でいたが、己の執着に傾いた結果がこれだ。結局、私一人では同じ末路を迎えるということか。」

 

「どういう意味だそりゃあ。

テメェ、何を知っていやがる?」

 

 

「いずれあなたも知る。

アイルランドの光の御子。

そして宿業に翻弄されし憐れな子よ。

グランドオーダー・・・聖杯をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだということをな。」

 

 

その言葉を最後に、アーサー王は輝く光の粒となって消えていった。

 

ーーーすまぬセイバー。

かっこ良く消えたとこ悪いけど、その件だったらすでに(爺ちゃんのネタバレで)知ってる。

 

父さんも同じ事を思ったらしく、何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

「いい加減にしろよ、コンラ。」

 

「いひゃいいひゃいっ!!」

 

「俺は言ったよな?無茶するなって。

さっきのアレは無茶以外の何だってんだ?

言い訳があんなら言ってみろやコラ。」

 

「ひゃべれない!こみぇじゃひゃべれなひから!!」

 

 

キャスターに両頬を引っ張られ、お仕置きされているコンラくんは言葉にならない声を上げてジタバタしている。

 

 

うわー。

キャスターがご立腹だ。

笑顔なのに額に青筋が浮かんでる。(こわっ!)

 

でも、キャスターが怒る気持ちもわかる。

セイバーに勝てたとはいえ、さっきのコンラくんの戦い方はだいぶ危険だった。

何度ヒヤヒヤさせられたかわからないよ。

 

とっさにあんな奇襲法を考えつくんだから、歳に見合わず凄く頭が良いと思うんだけど。

コレと決めた事は頑なに譲らないというか。

頑固というか。

決めた事を果たす為なら多少自分の身が危険でも顧みないところがあるみたいなんだよね。

(アインツベルン城へ行く前のひと悶着がいい例だと思う。)

 

 

「で、でも・・俺は俺の出来る事をしただけだし。あの時はアレしか方法が思いつかなかったし。」

 

 

頬から手を離してもらえたコンラくんが涙目になりながらも反論する。

あー、ダメだよソレは。

火に油を注ぐだけだから。

 

案の定、キャスターの眼が据わった。

(というか、アインツベルン城あたりからキャスターの様子がおかしい。二人の間に何かあったみたい。

コンラくんの「父さん」呼びは喜ぶべき事だけど、キャスターがコンラくんを見る眼がたまに怖い時がある。・・・大丈夫かな?)

 

 

「そうか。まだ仕置が足りねぇみたいだな。

よし、顔を出せ。」

 

「や、やだよ!もう引っ張るのは勘弁して!

まだヒリヒリして痛いんだから!!」

 

「痛いようにしてんだから当たり前だろうが。」

 

「父さんのバカ!鬼畜!槍なし!!」

 

「・・・尻も叩いてやろうか?」

 

「ひぇっ!?それは(精神年齢二十歳前の人間には)色んな意味でイタイからマジでやだ!!」

 

 

 

ーーーお父さんは大変だな(苦笑)

 

でも・・良かった。

私は二人を見ながらしみじみと思う。

もうどこからどう見ても、二人は正真正銘の親子だった。

悪いこと(?)をした子供を親が叱る。

どこにでもある、日常のありふれた光景。

この光景に辿り着く為に二人が歩んできた道のりが、とても遠い回り道だった事を私は知った。

 

だからこそ、目の前の二人の姿が何よりも尊く幸せなモノに思えた。

 

 

 

「何よ。キャスターのやつ、なんだかんだで楽しそうじゃない。」

 

「ふふ、そうですね。」

 

 

呆れた様子の所長と微笑ましく笑うマシュに、私も同意して頷く。

けれどーーー

 

 

「あっ・・」

 

「ーーーもう、時間か。」

 

 

そんな温かな時間は長くは続かなかった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

※作者の戦闘シーンはこれが限界でした(白目)

とうとうキャスニキとお別れの時間です。

裏では外道レフ教授がスタンバっております。

 

 



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離別

 

 

 

「ーーーもう、時間か。」

 

 

父さんは光の粒子に変換され、薄れていく自分の手を見ながらそう呟いた。

セイバーを倒せば父さんとバーサーカーは座に強制送還される。

ここに来る前に話してもらってたから知ってはいた。

でも・・・

 

 

「ーーー。」

 

 

実際に目の前でその姿が消えていく光景を見ると、動揺せずにはいられなかった。

とっさに手を伸ばして引き止めるように外套の裾を掴む。

この後、カルデアでまた会えるってわかってはいるけど。

少しの間でも父さんと離れることに酷い寂しさと不安を感じた。

 

 

「・・・コンラ。これをマスターに渡しといてくれ。」

 

「ーーえ?いいの?」

 

 

渡されたのは、父さんがずっとこの特異点で使っていた杖だった。

 

 

「ああ。これを召喚の時の触媒にすれば、間違いなく俺はカルデアに行ける。

安心しろ・・・すぐに会いに行く。」

 

 

その言葉には、気落ちする俺を案じる父さんの想いが込められていて。

俺はその気持ちが嬉しくて。

じんわりと、沈んでいた自分の心が温かくなるのがわかった。

 

 

「・・うん。待ってるね。」

 

 

杖を受け取り、しっかりとそれを握りしめる。

父さんはそんな俺を見て、何かを決意したような顔で頭を撫でてくれた。

 

ーーー俺、父さんに頭を撫でられるの好きだな。

 

思わず浮かんだ笑みに、父さんも微笑い返してくれた。

その慈しみに満ちた眼差しに、俺は大きな安心感を得て思う。

父さんと一緒なら、俺はこれから始まる人理修復という旅を無事にやり遂げられる・・と。

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

キャスニキ視点

 

 

縋るように自分の外套を掴むコンラ。

その俺と同じ色の瞳は不安げに揺れている。

 

真実を知らず。

己を苦境へと追いやった(張本人)を信頼する姿に罪悪感と痛みを覚える。

だが、同時に父親として慕われている事実に心が震えた。

少しでも安心させてやれればと、触媒に使うよう渡した杖を。

小さな両手が大事そうに握りしめる。

その健気な姿に、護らなければと胸中で再度強い想いを抱いた。

 

 

ーーー必ず護る。

例え何を犠牲にしようとも。

 

二度も殺め、その魂さえも消滅させかけた俺が息子(コンラ)の為に出来ることは。

もうそれしか残されていないのだから。

 

 

「安心しろ・・・すぐに会いに行く。」

 

「・・うん。待ってるね。」

 

 

その純粋な色を宿す瞳に。

あの日(生前)のコンラの姿が思い起こされる。

 

 

あぁ、そうだったな。

お前はあの時、俺に会いに影の国からやって来たんだったな。

なら・・今度は俺がお前に会いに行く番だ。

 

 

撫でてやると、この特異点で初めて出会った時のように嬉しそうに笑うコンラ。

愛おしいその笑顔に、自然と自分の頬が緩む。

 

この一時の別れの後。

旅の終わりまでその傍にいてやれる事が、何よりも幸福だった。

 

 

ーーーそして、俺は座へと戻される。

 

これから始まる息子を救う為(人理修復)の旅が、この時点で早くも狂い始めるなど。

つゆほども想像せずに。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

『コンラ。』

 

 

父さんの杖を立香ちゃんに渡していた俺に。

バーサーカーとお別れを済ませたイリヤちゃんが歩み寄る。

俺と同じ様に、大切な人と離れ離れになったイリヤちゃんの表情は昏い。

 

・・・違う。同じじゃない。

俺はカルデアでまた父さんと会えることがわかってるけど。

イリヤちゃんはもう二度と、バーサーカーと会えないのだ。

なんと声をかけていいかわからず。

でも何もせずにいられなかった俺は、とっさにイリヤちゃんの華奢な手を両手で包む。

魔力で現界している状態では伝わりにくいかもしれないけれど。

少しでもイリヤちゃんの傷ついた心が慰められたらと思ったのだ。

 

 

『ーーー大丈夫。ちゃんとバーサーカーとはお別れできたから。それに・・・私も、もう行かないと。』

 

 

俺の手を柔らかく握り返し、イリヤちゃんは自分も輪廻の輪へと還ることを告げる。

 

ーーー輪廻の輪。

かつては俺もそこに加わり、今ではもう還ることの出来なくなった場所。

哀しみはないけれど、感慨深いものを感じた。

 

 

「そっか・・イリヤちゃんもいなくなっちゃうんだ。」

 

 

せっかく出来た友達の一人が去ってしまう事に。

仕方のない事だとわかっていても、俺は寂しさを抱く。

 

『うん。ごめんね。』

 

「ううん。」

 

『私、コンラに出会えて良かった。

私の為に泣いてくれたのはコンラが初めてだったから・・・嬉しかったの。出来れば生きている時に会いたかったな。』

 

「俺もイリヤちゃんともっと早く友達になりたかった。そしたら、イリヤちゃんを死なせずに済んだかもしれないのに。」

 

『その言葉だけで十分よ。ーーーありがとう。』

 

 

イリヤちゃんは穏やかに微笑むと、溶けるように消えてしまった。

俺の魔眼でも捉える事が出来なくなったので、もう現世から去ってしまったのだろう。

 

彼女が生前、どんな人生を歩んできたのか詳しくはわからない。

けれど、聖杯戦争なんていう殺し合いに参加していたのだから。おそらく幸福だとは言い難いものだったのだろう。

 

ーーー今度こそ、イリヤちゃんが幸せになれますように。

 

俺は心の中で、生まれ変わる彼女の幸せを願った。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

※キリのいいところまでにしたら予想以上に短くなってしまいました。

視点も今更ですが、コロコロ変わってしまって申し訳ありません。

この時点でキャスニキの中で人理修復<コンラの図式が出来上がっています。

この作品のキャスニキはマスターではなくコンラくんを導く者であろうとしているので仕方ないのです。

 

そして次回ようやくレフ教授の登場。

また鬱展開か・・。所長・・。

 

 



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共鳴

 

 

イリヤちゃんとお別れした後、聖杯を回収しようとした俺達の前に緑色の服を着た男が現れた。

いったい今までどこに居たんだろう?

もしかしてずっとこの洞窟内に隠れてたんだろうか?

 

ーーーいや、それ以前に。

アレは人間なんだろうか?

 

首の裏がチリチリして全身に鳥肌が立つ。

立香ちゃん達との会話から知り合いらしいけど、見ていると凄くイヤな感じがした。

(発言もなんか悪役っぽいし。)

 

その当人は警戒するマシュちゃんを見下し、次に俺を一瞥して忌々しげに舌打ちした。

 

 

「このような虫ケラ1匹の為に我が王の計画を利用しようと企むとは。たかだか神の一柱が大きく出たものだ。」

 

 

ん?早口でよく聞こえなかったけど。

たぶんアイツ俺の事ディスったぞ。

初対面でいきなり失礼な奴だな。

髪型も変だし。←

俺が内心でムカついていると、急にマシュちゃんの後ろにいた所長が前に飛び出した。

 

 

「レフッ!ああ、レフ。レフ。

生きていたのね!よかった!!」

 

「所長っ!?いけません!」

 

「待って所長っ!!」

 

 

悪い予感がして、俺は所長の手を慌てて掴んで引き止める。

けれどーー

 

 

「離しなさい!

私はレフに助けてもらわないといけないの!!」

 

その手は無情にも振り払われてしまった。

 

ガーンッ!!

手、振り払われた!

ショックで思わずOrzの格好になる。

 

そんな俺を置いて所長は変な髪型の男ーーレフに駆け寄り、色々と捲し立てていく。

 

 

「管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった!でもいいの、アナタがいれば何とかなるわよね?だって、今までそうだったもの。今回だって私を助けてくれるんでしょう?」

 

 

その姿はまるで、親へと助けを乞い縋りつく小さな子供のようだった。

この人なら自分を護ってくれる。

何があっても助けてくれる。

無垢な子供が親へと寄せる絶対の信頼。

それと似たものを所長はレフに抱いているようだった。

だが、その信頼は裏切られる。

 

 

「ああ、もちろんだとも。

本当に予想外のことばかりで頭にくる。

その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。

爆弾は君の足元に設置したのに、まさか生きているなんて。」

 

「ーーえ?」

 

 

レフは現状を理解できない所長に、残酷な真実を次々と明らかにしていく。

 

いわく、所長はすでに死んでいて。

その原因は爆弾を仕掛けたレフだという事。

今ここにいる所長は残留思念で。

カルデアに戻ると消滅してしまうという事。

 

ーーー何だよ、それ。

カルデアに帰るために所長は怖いのを我慢して、必死にここまで頑張って来たのに。

戻れないなんて・・そんなのおかしいだろ!

 

言葉を投げかけられる度に混乱し、顔色を悪くする所長。

その様子を愉しむかのように長々と自分の話を続けるレフに俺は苛立ちを覚えた。

 

 

「生涯をカルデアに捧げた君の為に、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう。」

 

 

いつの間にか聖杯を手にしたレフの背後の空間が歪み。そこから巨大な赤い地球儀のような物が出現する。

赤い地球儀を目にして、所長がそれを否定するように首を横に振った。

 

 

「な、なによあれ。

カルデアスが真っ赤になってる・・?

嘘よね?あれ、ただの虚像でしょう?レフ?」

 

 

未だにレフを信じようとする所長に、レフは本物だと告げる。

そして突き放すように、嘲りの言葉を所長へと浴びせかけた。

 

 

「ふざ、ふざけないで!私の責任じゃない!私は失敗していない!私は死んでなんかいない!!」

 

 

堪え切れず、衝動的に怒鳴り散らしてしまった所長へと向けるレフの眼差しは冷たい。

 

 

「まったくーー最期まで耳障りな小娘だったなぁ。君は。」

 

 

ふいに、所長の体が宙に浮いた。

どうやらレフが何かしているらしい。

そのまま所長を赤い地球儀ーーカルデアスに突っ込もうとしているようだった。

 

ーーーマズイ。助けないと!

俺は立ち上がり、所長を助けようと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

《安心しろ・・・すぐに会いに行く。》

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

 

「ッ!」

 

 

けれど、脳裏を過ぎった父さんの言葉に次の足を踏み出せなくなった。

薄情にも俺は、所長を助ける事を躊躇ったのだ。

あのレフという底の知れない敵と戦い、万が一敗れれば。

もう二度と父さんと会えなくなる。

それが何よりも怖かったのだ。

 

父さんと会えなくなる恐怖と所長を助けたいという想いに挟まれ。

俺は迷い、動けなくなる。

その間にも所長はカルデアスへと運ばれていく。

 

ーーーどうすればいい?どうすれば・・!

そんな俺の耳に、所長の悲痛な叫び声が飛び込んできた。

 

 

「いやーーいや、いや、助けて。誰か助けて!

わた、わたし、こんなところで死にたくない!

だってまだ褒められてない!誰も、私を認めてくれていないじゃない!

どうして!?どうしてこんな事ばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった!

みんな私を嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も!誰にも認めてもらえなかったのにーー!」

 

 

パキリッと、何かにヒビが入る音がした。

 

 

《どうしてだろう?母さんも、師匠も。

俺を通してクー・フーリンを見ている。

どんなに頑張っても、俺を認めてはくれない。

 

一度でいいから、(コンラ)を見てほしかった。

認めてほしかった。褒めてほしかった。

ーーー頭を、撫でてほしかった。》

 

 

その瞬間・・・胸の奥からどこか懐かしく、聞き覚えのある声が響き。

同時に呼吸するのが苦しくなる程の哀願の感情が湧き上がる。胸を押さえ、反射的に顔を上げると所長と目が合った。

助けを求め、俺へと泣きそうな顔で手を伸ばす。

その姿に、唐突に所長に感じていた既視感の正体を理解する。

 

そうか。所長は似ていたんだーーー生前の(コンラ)に。

だから放っておけなかった。

その心の痛みを、自分もまた痛い程によくわかっていたから。

記憶は戻ってはいない。

けど、不思議と俺はそれを確信していた。

 

ーーーそして、それ故に。

俺の中の迷いは吹き飛んでいた。

助けなければと。

自分と同じ痛みを抱え、苦しむ彼女を助けなければと。

ただそれだけが思考を埋め尽くす。

 

 

「《穿く必勝の光槍(ブリューナク)!!!!》」

 

 

宝具の連続使用に魔力残量が危なくなる。

でも、立香ちゃんとカルデアから魔力を分けてもらっているおかけで動けなくなるほどではなかった。重くなった体を叱咤し、光槍を操りながら駆ける。

 

 

「コンラッ!」

 

「所長っ!」

 

 

分裂した光槍を階段のように足場にしてジャンプし。伸ばされた所長の手を掴んだ。

 

 

「掴まえ、た!」

 

「ッ!」

 

 

希望を見出した眼で俺を見る所長。

俺はその眼差しに力強く頷き、余った光槍をレフへと放った。

しかし、聖杯か。それともレフ自身の魔術か。

光槍は見えない壁に弾かれてしまう。

 

 

「羽虫が!うっとおしい!!」

 

 

本性を曝け出した醜悪な顔で、レフは腕を振り上げ、下ろす。

すると、俺の体は見えない何かに引っ張られて地面へと叩きつけられた。

 

 

「ぐ、は・・!」

 

 

せっかく掴んだ手は、引き剥がされてしまった。

 

 

「いや!コンラ!助けーー!!」

 

 

叩きつけられた衝撃ですぐに動けない俺は、所長がカルデアスに呑み込まれるのを見ている事しか出来なかった。

所長の絶望に染まった顔が、赤く燃える太陽に呑まれ見えなくなる。

この世に存在する全ての痛みを体感し、吐き出したような悲鳴も・・途切れた。

 

 

「あ、あ・・・しょ、ちょう。」

 

 

ーーー助けられなかった。

あんな近くにいたのに。

確かに手を掴んだのに。

 

強烈な悔恨と無力感に襲われ、体から力が抜ける。膝をつき、項垂れる俺をレフは愉しげに見下しながら口を開く。

 

 

「君が気に病む必要はない。彼女は望み通りまだ死んでいないのだから。まぁ、あの中で死んだ方がマシだと思える様な地獄の苦痛を、消滅するその時まで生きたまま味わうことにはなるがね。」

 

「ーーーオマエッ!!」

 

 

レフの言葉に、激しい怒りが胸を満たす。

こんなにも激しい怒りを誰かに覚えたのは生まれて初めてだった。

許せないーーー衝動のままに握りしめた剣で、レフへと斬りかかる。

だが、再びわけのわからない力によって弾かれ、地面に転がされた。

それでも睨み上げる俺が気に触ったのか。

レフは俺の体も宙に浮かし、カルデアスへとーー

 

 

「させません!はぁっ!」

 

「なっ!ぐほぁっ!?」

 

 

カルデアスへと運ぼうとして、マシュちゃんの投げた盾に邪魔された。

俺に気を取られていたおかげか、盾は見事にレフの腹に直撃する。

掴む手が緩み、レフの手から離れた聖杯は宙を舞う。

カランッと音を立てて俺の目の前に落ちてきた。

 

ーーーそうだ!聖杯!

これがあれば所長を助けられる!!

俺は急いでソレを拾った。

 

 

「コンラくん、大丈夫!?」

 

「遅くなってすみません!」

 

 

駆け寄ってきた立香ちゃんが、令呪で俺の怪我を治してくれた。

マシュちゃんはそんな俺達を庇うように、返って来た盾を構えて前に立つ。

 

 

「立香ちゃん!これで、所長をーー!」

 

「ッ! わかった!」

 

 

俺の言わんとする事を理解した立香ちゃんが、聖杯に願う。

 

 

「お願い!所長を助けて!」

 

 

けれど、聖杯は何の動きも見せなかった。

 

 

「なんでっ!?」

 

 

困惑する俺達を、レフが嘲るように嗤う。

(さっきまで腹を押さえて転げ回ってたくせに!)

 

 

「く、は、はははッ!!

当たり前だろう!あの小娘は文字通り、次元が異なる領域にいるんだ!いくら聖杯でも、別の次元に干渉し願いを叶えることなど出来ない!!」

 

「そんな・・!」

 

「ーーー。」

 

 

立香ちゃんが、俺の隣で最後の望みが絶たれたような悲痛な声を漏らす。

その声色には、諦めの感情が滲んでいた。

でも、俺はレフのセリフを聞いて別の事を考えていた。

 

ーーーつまり、同じ次元にいればいいんだよな?

 

 

 

「立香ちゃん。俺が念話で合図したら、令呪で俺達をこちら側に呼び戻してくれる?」

 

「コンラくん?何を・・」

 

 

これから俺がする事は傍から見たら無謀で、かなり危険な事だと自分でも思う。

それでも、俺はーーー

 

 

「所長を助けてくるね。」

 

「ーーえ?」

 

 

どうしても、所長を助ける事を諦められないのだ。

 

 

「父さんには内緒だよ!

(知られたら今度こそ尻を叩かれる!)」

 

 

俺は立香ちゃんの手から聖杯を掠め取り。

驚く二人を余所に、そのまま脇目も振らず走り出した。

 

 

「コンラくん!ダメッ!!」

 

「コンラくん!」

 

「一体何を考えてーーーはっ?」

 

 

立香ちゃんとマシュちゃんの静止の声が。

俺のしようとしている事に気づいたレフの間の抜けた声が。俺の耳に届く。

けれど俺は振り返らない。

片手に聖杯を握り締め、誰にも邪魔されないように全力で走り。

 

 

ーーーカルデアスへと、自ら飛び込んだ。

 

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

所長を助けようとしたらコンラくんの生存率がヤバイことになった。

しまった。キャスニキのSAN値がゼロになる。

あと影の国姉妹の畜生レベルまで上がってしまった。

スカサハ師匠とオイフェ様には朱槍が飛んで来る前に土下座します。

 

 



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カルデアス

 

 

 

「ーーーーっ!!!!」

 

 

飛び込んだ瞬間、全身が分子レベルで分解されていく激痛に苛まれる。

 

イタイイタイイタイ。

クルシイクルシイクルシイ。

 

いっそ殺してくれと思う程の。

気が狂ってしまいそうな苦痛の嵐。

意識が混濁し、目的を見失いかける。

でも、握りしめた聖杯の感触がそれをかろうじて防いでくれた。

記憶の中の、所長の助けを求める眼差しが俺を正気に引き戻す。

 

 

ーーーしょちょう、は・・?

 

 

レフが言っていた通り。

完全に分解され、消滅するまで少しの猶予があるみたいだ。

このチャンスを逃すまいと、霞む目を必死に凝らして所長の姿を探す。

 

そして見つけた。

あまりの苦しみに意識を失い。

カルデアスの中を漂う彼女の姿を。

俺は脚に力を込め、水の中を進む様に所長の元へと向かう。

ほとんど分解され輪郭も曖昧になってしまった手を掴み。

今度こそ決して離すまいと。

壊されていく肢体を引き寄せ、強く抱きしめた。

この状態で冬木に戻ってもすぐに消えてしまうと判断した俺は、先に所長を生き返らす事にした。

 

 

「しょちょうを!いきかえらせてくれ!!」

 

 

聖杯は強い光を纏い輝くと、俺の手の中から消えていった。

代わりに抱きしめる所長の輪郭が明確になる。

どうやら聖杯は俺の願いを叶えてくれたみたいだ。

ホッとしつつ、俺も限界が近いので急いで立香ちゃんに念話を送る事にした。

 

 

《立香ちゃん。いまだよ、れいしゅをーーー》

 

《ーーこん、らーくーー!》

 

《ーーー立香、ちゃん?》

 

《ーーースが!まって!まだーーー》

 

 

瞬間、立香ちゃんとの念話が途切れ。

ブツリと、自分の中の何かが絶ち切られる感覚がした。

パスが、切れた。

切れてしまった。

立香ちゃんとの繋がりがもう、感じられない。

 

呆然としながらも、俺はパスが切れた理由に心当たりがあった。

カルデアスだ。

カルデアスの力によって俺と立香ちゃんを繋いでいたパスもまた、分解されてしまったのだ。

体の分解より先にパスが分解されてしまうなんて。油断した。俺の目測が甘かったのだ。

 

 

「う、あ・・。」

 

 

突然脱出の手段を奪われ、俺は何も出来なくなる。こうしている間にも、体も精神も分解されて考える事が出来なくなっていくというのに。

 

何も思いつかない。

助かる方法がない。

俺は何かをしなければとただ焦り。

無意味に時を無駄にする事しか出来なかった。

 

 

「ーーーーーーーッ!!!!」

 

 

そんな中、所長が意識を取り戻してしまう。

すぐ傍から聞こえる絶叫に。

俺の体にしがみつく手の強い力に。

体の痛み以上に心が痛くて張り裂けそうになる。

 

結局、俺のした事は所長の苦しみを長引かせるだけの行為で。

俺はこの人を助けられないのだ。

きっと俺は、心のどこかで慢心していた。

セイバーを倒せた事で、今回も何とかなると思い込んでいた。

そんな都合のいい事など有りはしないのに。

セイバーに勝てたのだって、皆の協力があったからなのに!

 

俺は自分の愚かさと情けなさに、眼から涙か溢れ落ちるのがわかった。

けれど、その涙もすぐに分解されてしまう。

 

 

「ーーしょ、ちょう・・、ごめ・・なさ、い!」

 

 

無力な俺に出来る事はもう、謝る事だけだった。

助けられなかった所長に。

特異点に置いてきてしまった立香ちゃんと、マシュちゃん。そしてフォウくんに。

こんな俺を助ける為に、色々と手を尽くしてくれた爺ちゃんに。

そしてーーー

 

 

「とう、さ・・ん・・」

 

 

俺を息子だと認めてくれた。

護ると言ってくれた。

会いに行くと言ってくれた人。

 

それなのに俺は、自ら死地へと飛び込んでこのまま消滅するのだ。

待っていると言ったのに。

自分から口にしたその約束を破るのだ。

俺は父さんの想いを裏切るんだ。

 

 

ーーーごめんなさい。

 

唇を動かす気力すら奪われた俺は心の中で謝り続ける。すると、ふいに俺を掴んでいた所長の手がゆるんだ。

その手はぎこちない手つきで。

まるで慰めるように俺の頭を撫でてくれた。

驚いて所長の顔を見上げると、所長は微笑っていた。

 

苦しい筈なのに。

痛い筈なのに。

初めて見る穏やかな表情で微笑み、俺を包むように抱きしめる。

 

 

「ーーーありがとう、コンラ。」

 

 

耳元で囁かれたその一言に、俺は俺の愚かさを赦されたような気がした。

そしてその赦しの言葉を最後に、抗う心とは裏腹に俺の精神は限界を迎え。

温かなぬくもりに包まれたまま、眠る様に意識は途切れた。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………

 

 

オルガマリー視点

 

 

 

意識を取り戻した途端、再び始まった地獄の責苦に私は悲鳴を上げた。

とっさに自分の近くにあるモノにしがみつき、少しでも苦痛を紛らわそうと力を込める。

 

くるしいくるしいしにたくない

やめてどうしてこんなことに

わたしばかりたすけてだれか

 

意味もない言葉の羅列が思考を埋め尽くす。

何故か正気に戻った意識が再び分解され、錯乱しかけた時。か細い声が壊れかけた私を引き止めた。

 

「ーーしょ、ちょう・・、ごめ・・なさ、い!」

 

 

その聞き覚えのある声に、私は私がしがみつくモノが何なのか気づく。

小さな体で必死に私を護ろうと、私を抱きしめる幼い子供。

 

ーーーコンラ。

 

どうしてここ(カルデアスの中)にいるのかと疑問に思うと同時に。

最後に私を助けようと、私の手を掴んだコンラの姿が思い起こされる。

 

まさか、この子は。

私を助ける為に、ここまで私を追いかけて来てくれたのだろうか?

その可能性に思い至った私の脳裏に。

燃える街で過ごしたコンラとの記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

《お姉さん!それ何?バンバン凄いね!》

 

《ひぃ!?こ、これ?これはガンドよ!》

 

《へぇー。カッコイイ!強いんだ!》

 

 

 

 

《・・置いてかないの?》

 

《え?何で?》

 

《だって、足手まといじゃない。》

 

《全然足手まといなんかじゃないよ。

さっきもガンドで援護してもらって助かったし。

それに例え足手まといになったとしても、俺はお姉さんのこと置いてかないから安心して。》

 

《ッ!!》

 

 

 

 

 

《もしも出来たなら、俺は所長と契約したかったな。》

 

 

 

 

《もう!アンタが変なこと言うからよ!?》

 

《だって、ホントに所長にマスターになってほしかったから。》

 

《まだ言うか!?》

 

 

 

 

《待って所長っ!!》

 

《離しなさい!

私はレフに助けてもらわないといけないの!!》

 

 

 

 

《掴まえ、た!》

 

《ッ!!》

 

 

 

 

 

ーーーそうだ。

どうして私はあの時、この子の手を振り払ってしまったのだろう?

 

この子は私を助けてくれた。

この子は私を褒めてくれた。

この子は私を認めてくれた。

私の欲しかったモノ、全てをこの子は私に与えてくれたのに。

 

 

コンラの瞳から零れ落ちた涙が、カルデアスに分解され消えていく。

その光景に、泣かないで欲しいと思った。

初めて会った時のように、無邪気に笑って欲しかった。

私に、笑いかけてほしかった。

 

体の痛みを堪え、私はコンラの頭を撫でる。

はじめて誰かの頭を撫でたのでぎこちない動きになってしまったけれど、彼の涙を止める事は出来た。

驚いて顔を上げたコンラに微笑み、その小さな体を抱きしめる。

激痛に苛まれているというのに、私の心は酷く穏やかで。かつてない程に満たされていた。

 

 

「ーーーありがとう、コンラ。」

 

 

ーーー私の心を救ってくれて。

命がけで私を助けようとしてくれて。

 

ここに至るまで、苦しくて哀しくて怖くて痛い事ばかりだったけれど。

最後にこんなにも満たされた、幸せな気持ちで消えれるのなら。

自分を唯一認めてくれた相手と一緒に死ねるのなら。それも悪くないと。

意識を失ったコンラを抱きながら私は想った。

 

死を覚悟した私は、素直に運命を受け入れて目を閉じる。

抱きしめる腕の中の温もりがあれば、もう何も恐ろしいモノなど無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〘ーーー残念だが。我が孫をお前と心中させるつもりも、見殺しにするつもりも私にはないぞ。〙

 

 

「ーーーえ?」

 

 

けれど、唐突に響いた声の主は私の覚悟をあっけなく払拭し。

カルデアスから私達を、何か大きな力によって救い上げた。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

※お爺ちゃんに頑張ってもらいました←

これで所長のショタコン化は確定ですね。

そしてキャスニキのハートブレイクも確定しました。鬱だ。

 



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瓦解

 

 

第三者視点

 

 

〘なんとか間に合ったか・・〙

 

 

ルーは目の前に横たわる二人ーーコンラとオルガマリーの分解されかけた体と精神を復元し。

その作業が一段落ついたところで、ようやく詰めていた息を吐き出した。

そして空中に浮かぶルーン文字と幾何学模様の羅列を指先でなぞり、発動していた術を消すと。

改めて発動した別の魔術を上書きし、書き換えていく。

 

宝具《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》は元は太陽神ルーの神器である。

故に、ルーが喚べば《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》は本来の所有者の元へと還ってくる。

 

それを利用し、カルデアスという別次元から一時的に己の創った仮の座へと二人を救出する事に成功したルーは、続けて己の光槍へと新たに術をかけた。

それは今後コンラのいる特異点の定礎が復元されしだい、次の特異点へとコンラが自動的に送られる様にする転移の術だった。

 

最後のマスターとのパスが切れ、カルデアの協力を得られなくなった今。

コンラが人理修復の旅を始め、続ける為にはどうしても必要となるモノだった。

 

 

〘それにしても自らカルデアス(死地)に飛び込むとは・・・この先、この子は命がいくつあっても足りぬな。〙

 

 

術をかけ終え、気を失っている孫の小さな体をオルガマリーから引き離しながらルーは深いため息をつく。

人理修復に挑む前からこの調子では、孫が旅を無事に終える事など不可能の様に思えたのだ。

 

しかもカルデアの援助もなく、おそらくアチラに召喚される事になるキャスタークラスの息子の協力も得られそうにない。

もはやスーパーハードモードと化したコンラの旅の生存率は絶望的だった。

だか、人理修復に挑む以外の選択肢はコンラには残されていない。

それは、挑まない=消滅する事を受け入れるという事だからである。

 

ーーー仕方がない。背に腹は変えられん。

 

ルーは労るように孫を優しく抱え上げ。

足元で気絶したまま何やらウンウン唸っているオルガマリーを見下ろしながら己の計画を変更する事を決めた。

それは目の前の魔術師の女と、孫を殺した魔槍を持つ息子(ランサー)をコンラの旅に同行させる事だった。

 

カルデアスに共に分解されかけた影響で、オルガマリーとコンラのパスは幸運にも繋がっている。

オルガマリーをコンラへ魔力を供給する相手(マスター)とし。孫が記憶を取り戻してしまいかねない為、あえて避けていたランサークラスの息子へと協力を頼む。

狂った計画を正すことが出来ないならば。

少しでもコンラが生き残れるよう手を回す事が、今のルーにとって最優先事項だった。

 

 

 

ーーーそれ故に、ルーはこの後。

カルデアに召喚される息子(キャスター)へとコンラの生存を伝え損ねる事になる。

 

それが息子(キャスター)に道を踏み外させる要因になる事など。この時のルーにはその千里眼を持ってしても観ることは叶わなかった。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「さっきぶりだな、マスター。」

 

「ーーーうん。そうだ、ね。」

 

 

予定通りカルデアに召喚されたキャスターは、己を喚んだ少女に軽く言葉をかけると。

すぐに周囲を見回し、約束を交わした息子の姿を探す。しかし、その姿はどこにも見当たらない。

 

代わりに視界に入ったデミ・サーヴァントの少女は、まるでキャスターを直視できないと言わんばかりに顔を伏せ。

マスターたる少女の傍らに寄り添うように佇むだけで、けして彼と目を合わせようとしなかった。

その様子に違和感を感じたキャスターは訝しげに眉を寄せ、己のマスターへと視線を戻す。

 

マスターである藤丸立香は、コンラの姿を探すキャスターの様子を沈痛な面持ちで見つめていたが。その視線が自らに向けられた事で。

彼女はキャスターが送還された後に起こった、事の次第すべてを彼に話すことにした。

 

彼女は自らが発する言葉がキャスターを酷く傷つけることをわかっていた。

けれど、それでも話さなければならないと彼女は思った。

あの少年の父親であるキャスターには、彼の最後の姿を知って欲しかったのだ。

 

最後の最後まで他者を助ける為に戦い、散った。

誰よりも優しく勇敢な少年の最後の勇姿を、藤丸立香はキャスターに伝えたかった。

 

 

「キャスター・・あのね。

コンラくんはーーー」

 

 

マスターの口から語られる話に、当初は黙って耳を傾けていたキャスターだったが。

しだいにその顔はこわばり、息子の死を告げられた瞬間。

その唇からは、掠れた声で否定の言葉が紡がれた。

 

 

「アイツが、コンラが・・死んだ?

ははっ・・冗談だろ?マスター?」

 

 

その問いには、本人も気づかぬうちに懇願の感情が滲んでいた。

 

ーーー冗談だと言ってくれ。

息子が死んだなど、嘘だと言ってくれ。

 

だが、マスターである少女は少年の死を否定せず。むしろ肯定する様にキャスターへと頭を下げ、謝った。

 

カルデアスへと飛び込んだ彼を止められなかった事を。

彼を助けられず、自分達だけカルデアへと戻って来てしまった事を。

 

彼女は涙声になりながらも、泣く資格は自分には無いと涙を堪え。

何度も頭を下げたまま少年の父親へと謝った。

もう一人の少女ーーマシュもまた、藤丸立香の横に並び。同じく頭を下げて謝る。

 

その二人の少女の行動によって、キャスターは受け入れたくもない事実を受け入れざる負えなくなった。

愛する息子の死が紛れもない事実である事を、彼は認めるしかなかった。

 

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

キャスニキ視点

 

 

 

「ーーーはっ。」

 

 

俺は自分に割り当てられた部屋の壁に背を預け、ズルズルと力が抜けるままにその場に座り込んだ。しばらく一人にして欲しいとマスター達には伝えてある。

案内されたこの部屋に近づく者は、当分の間は誰もいないだろう。

 

「ーーーははっ!」

 

だが、そんな事はどうでもいい。

勝手に口から漏れる乾いた嗤いは、無様な己への嘲笑だった。

 

 

「ーーーコン、ラ。」

 

 

 

 

コンラが死んだ。

 

 

何が護るだ。

何がずっと傍にいるだ。

 

護れなかった。

肝心な時に傍にいてやれなかった。

 

優しすぎる息子は他人を助ける為に死地へと飛び込み。跡形もなく消滅してしまった。

 

あの温かなぬくもりも。

愛おしい笑顔も。

まだこの手は覚えていると云うのに。

まぶたを閉じれば、鮮明に浮かび上がると云うのに。

もう二度と触れることも、見ることも叶わない。

 

 

「ーーー。」

 

 

俺はその事実に、かつて無いほどの絶望感と虚無感に襲われる。

かろうじて残っていた戦士としての誇りも、英霊としての義務感も、一欠片も残らず崩れ落ち。

最後に残された父親としての愛情さえ、行き場を喪った今では渇き朽ち果てていくだけだ。

 

人理修復など、人類の未来など、もうどうでもよかった。

元々この旅の真の目的は、コンラを救う事だったのだ。

その息子が死んだというのに、見ず知らずの人間を救う事に何の意味があるのか。

息子のいない世界になど、何の価値も見いだせなかった。

いっそ己ごと滅んでしまえばいいと。

英霊が本来であれば願ってはいけない望みを抱いた時。

 

 

渇き切った湖の底から湧き水が湧くように。

魂の奥底に眠っていたーーー黒く澱んだあの日(生前)の記憶が蘇った。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

※キャスニキはヤリニキにポディションを盗られたもよう。キャスニキの絶望がとどまるところを知らない。

ケルトを蹂躙する前にキャスニキのメンタルを蹂躙してしまった。マジで申し訳ない。

 



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『クー・フーリンの死』

 

 

 

第三者視点

 

 

 

アルスターの大地にて行われた父子の決闘は、父親の勝利によって決着が着いた。

 

心臓を魔槍に穿かれ、血に濡れた小さな子供の体を抱え起こした父親は。

その子供の親指に己が産まれる前の息子へと贈った、金の指輪がはめられている事に気づく。

そしてようやく、父親は己が殺した腕の中の幼子が己の子供ーーコンラである事を知った。

 

 

「ーーーーッ!!」

 

 

その残酷な現実は、アルスターの英雄たるクー・フーリンから一瞬にして正気を奪い去った。

 

 

「■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

天に向け、怒れる獣の如き咆哮を上げた父親は。

己の身が血に濡れる事も厭わず。

我が子の亡骸を抱きしめ、うずくまり、そのまま動かなくなった。

 

 

「い、いったいクー・フーリン殿はどうされたのでしょうか?フィン殿。」

 

「・・・わからん。だが、嫌な予感がする。」

 

 

その様子を、王の命で遠くから決闘の行く末を見守っていた二人の戦士は訝しんだ。

フィンと呼ばれた美丈夫は己の勘を信じ、親指の力を行使する。

そしてその力により、フィン・マックールは近いうちにアルスターにて起こる惨劇を誰よりも早く悟った。

彼は未だ動揺する己の部下であるコナン・マウルを急かし。全速力で馬を駆けさせ、王の元へと直ちに戻った。

 

海より来た異国の少年に脅威を抱いていた王は、自国の戦士であるクーフーリンの勝利の知らせを聞き喜んだ。

しかし、続いて発せられたフィンの言葉にその表情は凍りつく。

 

 

「王よ。王が殺すよう命じられた子供はクー・フーリンの実子でした。

我が子を自らの手で殺めた今のクー・フーリンは既に正気ではありません。

私の親指の力をもちいたところ。数日のうちにクー・フーリンは息子の仇を討つ為、我々を殺しにやって来るでしょう。」

 

 

にわかにはその進言を受け入れられなかったコンホヴァル王は、千里眼の力を持つお抱えのドルイドに己の近い未来を視させた。

 

その結果は、フィンの忠告通りであった。

ドルイドが告げたのは今より3日後。

王自身も城にいる全ての戦士達も、皆が一人残らず狂乱状態のクー・フーリンの手により虐殺されてしまうという怖ろしい未来であった。

 

最強の戦士に命を狙われ死の恐怖にかられる王に、フィンは己の考えたある策を提案する。

それは未だ息子を殺めたショックで動けぬクー・フーリンにドルイド達総出で幻術をかけ。

誰もいない遠き場所にその身を追放するというものだった。

死を逃れる為に二つ返事でその策を了承した王の命により、王に使える全てのドルイドが城を出た。

 

ドルイド達と己の部下達を引き連れ半日で戻ったフィンは。最後に見た姿のまま変わらぬクー・フーリンの姿に安堵を抱き、直ぐさま指示を出す。

彼らは迅速に準備を済ませ、石のようにピクリとも動かぬクー・フーリンへと幻術をかけた。

 

 

「フィン様・・クー・フーリンの身をバーラの海岸へと馬で運びますが。あの子供の亡骸はいかが致しましょうか?」

 

 

ドルイドの一人の問いに、フィンは父親の腕に抱かれる死んだ幼子を見る。

 

 

「クー・フーリン本人はもはやアルスターの敵となってしまったが。彼の子が偉大なる英雄の子である事に変わりはない。

・・・我々で丁重に葬ってやろう。」

 

 

フィンの命により、彼の部下達は幻術をかけられ意識が混濁している父親から子供の亡骸を引き離す。

 

 

そして彼らは人の居ない遠き地へと父親を追放し。子供の亡骸は墓を建て、アルスターの大地へと埋葬した。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

いないいないいない

たしかにこの腕に抱いていたのに

どこにもいない息子がいない

なぜだなぜだなぜだ

 

 

追放され、バーラの海岸へと独り残されたクー・フーリン。

彼は息子を殺めた日からちょうど3日後。

うずくまっていた体を起こし、己の空っぽの両腕を見下ろした。

狂乱状態の精神の上に幻術をかけられた彼は、もはや己が何者であったのかすら覚えてはいない。

 

だが、息子のことは覚えていた。

己が何かに対して激しい怒りを抱いている事も、覚えていた。

 

クー・フーリンは息子を探して顔を上げ、眼前に広がる海岸線を目にした。

どこまでも続く大海原からは次々と波が押し寄せ、浜辺へと波飛沫を上げながらその身を打ちつけている。

 

 

そうか、おまえたちか

おまえたちがオレから息子をうばったのか

 

 

それはただの波であった。

しかし、幻術をかけられた父親にはそうではなかった。

彼の眼には、波はすべて己へと襲いかかる敵兵として映っていた。

 

 

「ーーーカエセッ!!!」

 

 

息子を取り戻す為に、父親は居もしない敵へと憤怒の形相で戦いを挑む。

 

その終わりのない戦いは7日7晩続き。

最後の夜、力尽きたクー・フーリンは波間に倒れ。その亡骸は誰にも知られぬまま冷たく暗い海底へと沈んだ。

 

 

 

ーーーこれは、数多に存在する可能性のひとつ。

平行世界のクー・フーリンが迎えた、終焉の記憶だった。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

キャスター(クー・フーリン)は思い出した。

 

(クー・フーリン)(誇り高き戦士)である為に、無意識のうちに魂の奥底に沈め。

忘却していた狂乱の記憶を。

 

 

王に命じられ知らぬままに息子を殺め

仇も討てず

亡骸さえも引き離され

最後は幻術に惑わされて死んだ

愚かな父親としての己の記憶を。

 

 

 

「ーーーッ!!!!」

 

 

 

記憶を取り戻したキャスターの渇いた心をドス黒い感情が満たし、渦を巻く。

 

過去の(クー・フーリン)の絶望が、怒りが、後悔が、未練が、切望が、執着が。

息子を喪った今のキャスターの昏い感情と交じり合い、彼をさらに狂わせていく。

 

これがランサークラスや別のクラスのクー・フーリンであれば。

この時点で発狂しカルデア内を暴れ回り、マスターの令呪で何かしらの処置を受けていただろう。

だが、キャスタークラスとして現界した彼はクー・フーリンの全てのクラスの中で最も齢を重ね。精神的にも成熟していた。

それが功を奏し、彼は完全に狂い切ることはなかった。

 

ーーいや、カルデアや人類の未来を思うならば彼は此処で狂い切るべきだった。

狂い切る事の出来なかった半端な狂気は、キャスターの中で冷静な思考と共に定着する。

 

そう、彼は狂ったのだ。

たちの悪い事に、冷静に狂ってしまった。

そしてキャスターは狂った思考のままに、己の中である答えを導き出す。

 

 

「・・・俺は息子(コンラ)をまた奪われた。

ーーー今度こそ、必ずこの手に取り戻す。」

 

 

 

彼は決めた。

愛する息子を取り戻す事を。

その為にカルデアを利用し(裏切り)、人類を利用する(滅ぼす)事を。

 

 

「待ってろ、コンラ。大丈夫だ。

少し時間はかかるが、会いに行くって言っただろ?約束は必ず守るからな。」

 

 

彼は笑う、誰も居ない虚空に向けて。

彼の虚ろな眼にのみ映る最愛の息子へと笑いかける。

 

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

記憶の中の息子の言葉が、笑顔が、彼の狂った決意を後押しする。

 

そしてキャスターは動き出す。

英雄である事を辞め、戦士の誇りを捨て。

ただの父親となった彼は息子と再会する為に、自ら道を外れていく。

 

誰に知られる事もなく。

彼は息子を救う(人類を滅ぼす)為の旅をたった独りで始めたのだった。

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

※カルデア内部に爆弾が設置されました。

解除できるのはコンラくんのみ。

再会できなかった場合はもれなく人理再編ルートに突入します。

カルデアの皆さん・・マジですみません。

 

ちなみに上記の元ネタはアイルランドの民話『クー・フーリンの死』です。

フィンはディルムッドだけでなくアニキまで間接的に殺していたとは。

今回は正当防衛とはいえ、なんとも間の悪い人だ。

 

 



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彼だけのマスター

 

 

 

「見られた見られた見られた。違うの私はショタコンじゃないの。私はあの子だから死んでもいいと思ったの。違うの。私はコンラだからーー」

 

〘とりあえず落ち着け、魔術師の女。〙

 

「うるさいうるさいーーっていうかアンタだれよ?ここ何処よ?なに普通にコンラ抱っこしてるのよ。今すぐ代わりなさいよ、羨ましい。」

 

〘話ができんな。どうしたものか・・〙

 

 

何か体がぬくいなーとか思って目を開けたら爺ちゃんに抱っこされてた。

そして所長が座り込んだ姿勢のまま、両手で頭を抱えて錯乱してた。

 

うええ!?何だコレ!?

確か俺と所長は分解されて死んだ筈・・だよな。

何がどうなってこんな状況になってるんだ?

現状が呑み込めず、驚いて身じろいだ俺に。

気づいた爺ちゃんが安堵した表情で笑いかける。

 

 

〘気がついたか。早々に無茶をしたものだな、コンラ。〙

 

「あ・・もしかして。爺ちゃんが俺達を助けてくれたの?」

 

〘あぁ。オマエがカルデアスに飛び込むのを見た時は肝が冷えたぞ。〙

 

「う″っ・・ごめんなさい。でも、所長をどうしても助けたかったから。」

 

〘わかっている。〙

 

 

頷き、俺の気持ちに理解を示してくれる爺ちゃん。勝手な事して迷惑かけたのに、助けてくれた上に俺の想いまでくんでくれるなんて。

 

うぅ・・俺、もう爺ちゃんに頭上がらないよ!

父さんもだけど、爺ちゃんもイケメン過ぎる!

俺が抱っこされたままそんな事を考えていると・・

 

「ーーーコンラ?ハッ!私はいったい・・!?」

 

 

正気に戻った所長はオロオロと周りを見回し、俺の姿を視界に捉えるとホッとした表情になった。

でも、爺ちゃんの方に視線を移すと急に怖い顔になってコチラに詰め寄ってきた。

 

 

「ちょ、ちょっと!コンラを離しなさいよ。どこの誰だか知らないけど、気安くその子に触らないでよね!」

 

〘・・・驚いた。まさか自分の孫を甘やかして、他人に咎められる日が来ようとは。〙

 

「え?」

 

「あ、そっか!所長は爺ちゃんに会った事なかったね。」

 

「え″?」

 

 

爺ちゃんに腕から降ろしてもらって。

(何故か物凄く残念そうな顔をされた。)

所長に爺ちゃんの事、爺ちゃんが俺達を助けてくれた事を伝えた。

 

 

「そ、そうだったの。いきなり突っかかって悪かったわ。」

 

(コンラ)の身を案じての事だろう?気にするな。

それより魔術師の女。お前に提案がある。〙

 

「・・何よ?」

 

〘お前は、これからコンラのマスターとして人理修復に挑むつもりはないか?〙

 

「ーーは?」

 

 

驚く所長に、爺ちゃんは俺が人理修復に挑まなければならない理由を話した。

俺がこのままでは消滅してしまう事。

助かる為には人理修復と英霊達の記憶を利用して座を創り、俺を英霊にするしか方法がない事。

あと、そうなった理由を説明する為に俺が■■ラとして一度転生した事と、その記憶を持っている事も話した。

 

今まで内緒にしていたから、所長は怒るかなって覚悟してたんだけど。

全然そんなことは無くて、むしろ何でかガッツポーズして喜んでた。

(「精神的には合法」とか言ってたけど。何のことだろう?)

 

 

「あれ?でも所長はマスター適正がないんだよね?」

 

〘そのようだな。だが、カルデアスに共に分解された影響でお前達の魔術回路の一部が交じり合ったようだ。おかげでーーー皮肉なことだが。お前達の間にパスが通っている。〙

 

「そうなんだ・・。」

 

 

こういうの何て言うだっけ?

不幸中の幸い?

怪我の功名?

なんかそんな感じで運良く所長と俺の間にパスが繋がったらしい。

爺ちゃんの手助けがなければ所長を死なせるところだったし。

俺自身も死ぬところだったから、ちょっと複雑だけど。

結果的に所長と契約(?)出来たなら無茶したかいがあったのかな?

 

 

「し、信じられない。そんな・・都合の、良いこと。」

 

〘疑うなら、自分で確かめてみてはどうだ?〙

 

 

マスターになる事を諦めていたらしい所長は、なかなか信じられないみたいだ。

爺ちゃんに促されて、立香ちゃんと契約した時みたいに所長と手を重ねてみた。

 

 

「あ・・。」

 

 

ーーーうん。繋がってる。

この感覚、間違いないや。

 

俺は二人の間にパスが繋がっているのを確認して。所長にも一応間違いないか確かめようと、下ろしていた視線を上げた。

すると、なにやら所長は頬を赤くしてボーと重ね合わせている俺と自分の手を見つめていた。

 

 

「? 所長?」

 

「ッ!ーーな、なに!?」

 

「え?パスの事、だけど。・・もしかして、繋がってない?」

 

「あっ・・そ、そう!そうよね!パスよね!大丈夫よ。繋がってる!繋がってるから!!」

 

「?」

 

〘ーーーこの女。やはり・・。〙

 

 

顔を赤くして慌てふためいている所長。

そんな所長の姿を何か確信した様子で凝視している爺ちゃん。

うーん。

二人の様子がおかしいぞ。

俺が気絶している間に何かあったんだろうか?

 

不思議に思いつつも、所長がマスターになってくれるか返事を貰っていないので。

俺は改めて自分から頼んでみる事にした。

(自分の事だし。俺の旅に付きあわせちゃう形になるんだもんな。)

 

立香ちゃんには悪いけど。

俺が一番最初にマスターになって欲しいと思ったのは所長なんだよな。

だから不謹慎だけど・・今の状況を嬉しく想っている自分もいた。

 

 

「所長。所長を助けられなかった俺が言っても説得力が無いのはわかってる。けど、俺・・頑張るから。今度こそ所長を護りきってみせるから!

必ずカルデアに帰してみせるから!

だから、どうか俺のマスターになって下さい!!」

 

「ーーー。」

 

 

重ねた手をギュッと握りしめて。

俺の真剣な気持ちが伝わるように、真っ直ぐに所長の綺麗な山吹色の瞳を見上げた。

 

どうやら驚かせてしまったみたいで。

所長は目を丸くし、何か言葉を探すみたいに俺と目を合わせたまま唇を震わせた。

その瞳がしだいに濡れていくのに気づき、俺は焦って声をかけようと口を開く。

けど、所長が言葉を紡ぐ方がそれより早かった。

 

 

「いいわよ。カルデアに戻るには他に方法もないみたいだし。・・・私が、あなたのマスターになってあげる。」

 

 

合わせていた視線を外し、斜めを向きながら告げられた答えに。

俺は俺の心配していた事が杞憂であったことに胸を撫で下ろす。

(泣くほど嫌なのかと心配したけど、違ったみたいだ。よかった!)

代わりに受け入れてもらえた喜びが心を満たして、湧き上がった感情のままに笑いかける。

 

 

「ありがとう所長!ーーーううん。マスター!

これからよろしくね!」

 

「ッ!・・・えぇ。よろしくねコンラ。

ーーーこちらこそ、ありがとう。」

 

「え?」

 

 

所長ーー俺のマスターに、何でお礼を言われたのかわからず。俺はキョトンとしてしまう。

マスターはそんな俺を見て、困ったように苦笑した。

けれど、その瞳は優しくて。

父さんと同じ様で違う。何か温かな感情を宿している様な気がした。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

オルガマリー視点

 

 

 

 

「あ・・。」

 

 

触れ合った小さな手から伝わる温かなぬくもり。

穏やかで、まるで月明かりの様な優しい魔力。

繋がったパスから感じるその感覚に、私は自分の心がゆっくりと凪いでいくのがわかった。

 

繋がっている。

独りじゃない。

自分を認めくれたこの子と、間違いなく自分は生きて繋がっている。

 

その夢のような現実に。

思わず目の前の、自分の手と重ね合わせたコンラの手に見惚れてしまう。

 

ーーーこのまま、握ってもいいのかしら。

 

もっとコンラの心地の良い温もりを感じたいと、邪な想いが頭をもたげる。

けれど、こちらを見つめる無垢な瞳に気づいてその感情は霧散した。

 

 

「? 所長?」

 

「ッ!ーーな、なに!?」

 

「え?パスの事、だけど。・・もしかして、繋がってない?」

 

「あっ・・そ、そう!そうよね!パスよね!大丈夫よ。繋がってる!繋がってるから!!」

 

「?」

 

 

慌ててコンラの問いに応え。

続いて胸に湧いたのは、激しい羞恥心だった。

 

ーーーこ、こんな状況で何を考えてるのよ私は!

 

顔に熱が集まるのを必死に冷ましながら。

不思議そうなコンラと、どこか冷めた眼のルー神の視線から逃れる術を探す。

半ばルー神の提案は私の頭から吹き飛んでいた。

そんな(返事をなかなか返さない)私に不安を抱いたのか。

コンラはおもむろに私の手を握りしめて。

普段と違う真剣な表情で私をその茜色の瞳に映す。

 

 

「所長。所長を助けられなかった俺が言っても説得力が無いのはわかってる。けど、俺・・頑張るから。何があっても所長を護りきれるように全力を尽くすから!

所長を必ずカルデアに帰してみせるから!

だから、どうか俺のマスターになって下さい!!」

 

「ーーー。」

 

 

向けられる真摯な眼差しに。

掌から伝わる求めていた温かさに。

私を気遣いつつ願いを口にするコンラの言葉に。

心を何かに穿かれた様な衝撃と共に、その瞳から眼が離せなくなった。

 

 

ーーーマスター。

心の底から望んでいた。

けれど、どんなに望んでも得られなかった資格。

アニムスフィアの名を持ちながらも適正のない私を、魔術協会の魔術師達は嘲り嗤った。

 

私自身も自分の才のなさに絶望し。

それでも少しでも周りに認めてもらいたくて。

必死に尊大な態度を取り、所長という肩書にふさわしい人間になろうとした。

私事を全て捨てて、カルデアの所長で在ろうとした。それが正しいのだと思っていた。

でもーーー

 

 

《もしも出来たなら、俺は所長と契約したかったな。》

 

 

この子(コンラ)は肩書ではなく、私自身を。

オルガマリーを見てくれた。

私を選んでくれた。

私のサーヴァントになりたいと言ってくれた。

歓喜に唇が震え、瞳が潤む。

 

ーーーあぁ、また私はこの子に救われた。

 

泣き顔を見られるのが恥ずかしくて。

無理やり視線を外し、コンラの願いに応える。

 

 

「いいわよ。カルデアに戻るには他に方法もないみたいだし。・・・私が、あなたのマスターになってあげる。」

 

 

つい癖で強気な言い回しになってしまい、内心で慌てる私を余所に。コンラは特に気にした様子もなく。それどころか嬉しそうに笑いかけてくれた。

 

 

「ありがとう所長!ーーーううん。マスター!

これからよろしくね!」

 

「ッ!・・・えぇ。よろしくねコンラ。

ーーーこちらこそ、ありがとう。」

 

 

私をマスターにしてくれて。

私のサーヴァントになってくれて。

私の望みを叶えてくれて。

 

 

そんな想いを込めて伝えた私の感謝の言葉に。

コンラは驚いた様に目を瞬かせる。

自分が行った事が、どれだけ私の救いになっているのかまったく気づいていないのだ。

思わず私は苦笑してしまう。

 

そして、覚悟を決めた。

私を救ってくれたコンラを救う為に。

コンラのマスターとして人理修復に挑む事を。

不安も恐怖もある。

でも、目の前の存在の為ならば幾らでも堪えられた。

コンラを喪う事の方が、今では死ぬ事よりも何倍も恐ろしかった。

 

ーーー今度は私がこの子を助けてみせる。

あの特異点F(冬木)で悲鳴を上げる私をコンラが助けてくれた様に。

 

けしてこの子を喪うまいと。

決意を胸に。

私はコンラの小さな手を握り返した。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

※無事に所長がマスターになれました。

代わりに爺ちゃんの心配事が増えましたが←

キャスニキとのギャップが酷い。

 



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第一章 フランス邪竜再会編
旅立ち


 

 

第三者視点

 

 

 

コンラのマスターとなったオルガマリー。

その右手の甲にかざしていた手をルーが退けると、そこには赤い歪な傷痕ーーー3画の令呪が刻まれていた。

 

 

そちら(カルデア)の令呪と違い回復することはないから慎重に使え。あと《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》に転移の魔術をかけておいた。定礎が復元されしだい次の特異点に送られるから気を抜くな。〙

 

「わかった。ありがとう爺ちゃん!」

 

「色々ツッコミたいところだけど。我慢するわ。」

 

 

素直に感謝の言葉を述べるコンラに対し。

オルガマリーは再びとんでもない事を実行したルーのチートっぷりに諦観の表情を浮かべた。

 

 

〘セタンタもお前達の後をすぐに追うことになっている。少しの間、不安だろうが堪えてくれ。〙

 

「? セタンタってだれ?」

 

「セタンタっていうのはクー・フーリンの幼名のことよ。」

 

「えっ!?じゃあ、父さん来てくれるんだ!

やった!!」

 

 

尻尾があれば全力で振り回しているだろう勢いで喜ぶコンラの姿に。

ルーとオルガマリーは秘かに癒される。

そんな1柱と2人の耳に、バキバキという不穏な音が届いた。まるで、何かが壊れていく様な。

 

 

「な、何よこの音は?」

 

〘・・ふむ。見つかったか。

まぁ、アチラの方が千里眼の精度が上なのだから当然といえば当然か。〙

 

「爺ちゃん?」

 

 

ルーの言葉に疑問を抱き、問おうとした瞬間。

ルー神の仮の座の一部が大きく崩れ。

そこから赤い目玉が大量に生えた黒い化物達が侵入してきた。

 

 

「イヤーー!!!!何あれ!?何あれ!?気持ち悪い!!!」

 

「うわっ!目玉お化けがいっぱいだっ!!」

 

〘あれは魔神柱だ。人理焼却を行った黒幕の手下ーーーというか一部だな。〙

 

「なにそれ!?意味分かんないんだけど!!?」

 

〘問題ない。そのうち嫌でも知る事になる。〙

 

「イヤァアアアーー!!!知りたくないぃー!!!!」

 

「マスター!落ち着いて!!」

 

 

人理修復の旅に出る覚悟は決めたものの。

突破的な事態には未だ弱いオルガマリーのメンタルは、敵の急襲に早くもパニックを起こしかける。

コンラはそんな己のマスターを慌ててなだめた。

 

傍から見ると、小さな子供になだめられるダメな大人という図である。

その光景に、ルーは一刻も早くランサークラスの息子をこの二人に合流させなければと切実に思った。

 

 

〘コンラ。此処は私に任せて次の特異点へ行け。〙

 

「でも・・!」

 

〘案ずるな。我が身は太陽神、あの程度の雑魚に遅れはとらん。ーーーアラドヴァル。フラガラッハ。〙

 

 

ルーは両手を広げ、己の神器を喚ぶ。

すると、空気を焦がす様な熱風と灼熱の焔を纏った槍が。

ルーン文字が装飾の様に刻まれた鞘からひとりでに抜け、宙に浮かんだ長剣が。

それぞれ持ち主の左右の手に収まる。

どちらも強い神気を放つ武器にオルガマリーは息を呑んだ。

魔神柱達もその動きを止め、警戒するようにルーの出方を窺う。

 

ーーー凄い。

 

コンラは己の祖父の、計り知れない力の片鱗を目にし。感嘆の息を吐いた。

これが太陽神ルー。

人智を遥かに凌駕する神の力。

その圧倒的な力を見せつけられ、祖父の身の心配は不要なのだとコンラは理解した。

 

 

〘行け、コンラ。〙

 

「ーーーうん!

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》!!!」

 

 

マスターであるオルガマリーの手をとり、彼はルーから譲り受けた宝具を発動する。

宙に現れた光槍が眩い光を放つと、二人の身体は光の粒子に変換され。《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》へと吸い込まれていく。

 

 

「爺ちゃん!絶対にまた会おうね!

今度は父さんも一緒に!!」

 

〘ーーーあぁ、また会おう。〙

 

 

そしてコンラとオルガマリーは次の特異点へと転移し。それを見届けたルーは侵入者である魔神柱達へと顔を向けた。

 

 

〘待たせたな。〙

 

 

言葉と共に数十柱はいる魔神柱達の1柱ごとに彼は視線を巡らせた。まるで何かを確かめるかのように。

 

 

〘・・・残念だ。目的の者はいないのか。〙

 

【何の話をしている?】

 

 

しかし、目当ての者を見つけられなかった彼は微かに肩を落とす。

その様子に思わず疑問を投げかけた敵の1柱に、ルーは快く答えた。

 

 

〘実はな。お前達の仲間のレフーーーおそらく別の名もあるだろうがーーーが、我が孫を虫ケラ呼ばわりしてな。その報いを受けさせてやろうと思っていたのだ。〙

 

【【え。】】

 

〘だが、残念な事にそのクソやろーーゴホンッ!

その目的の者は来ていないのでな。

・・・・・代わりにお前達にその報いを受けてもらう事にした。〙

 

【【え″。】】

 

 

ルーは己の両手に馴染む神器の感触を確かめながら、久しぶりの戦いの高揚感に眼を細めた。

 

ーーーこうして戦うのは《クアルンゲの牛捕り》以来か。

 

遥か昔、息子の為にコノートの女王の軍勢と戦った事を思い出す。

湧いた懐かしさに導かれる様に、ルーは愛用の槍ーーーアラドヴァルの力を解放した。

途端に、焔の嵐が吹き荒れ。

あまりの熱量に魔神柱達の半数が蒸発した。

 

 

〘さて・・少しは楽しませてくれよ。〙

 

 

かつて《長腕のルー》と呼ばれた神は若き日を思い出し、獰猛な笑みを浮かべる。

その笑みを目撃した残りの魔神柱達は。

 

 

【【ーーー恨むぞ。フラウロス。】】

 

 

己の同胞への恨み言を呟き。

だが、自らの王と悲願の為にと。

憐れにも白目を向きながらルーへと特攻するのだった。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

次の特異点へと転移した俺とマスター。

光によって白く染められていた視界が戻り、俺達は状況を把握する為に周囲を見回した。

 

まず目にとまったのは大きな湖だ。

その周りを囲む様に鬱蒼とした森が広がっている。その森と湖の境目ーー湖岸に俺達は立っていた。

どうやら無事に新たな特異点に着いたみたいだ。

これからどうしようかと考えた時。

 

 

グーー。

キュルルル。

 

 

「「・・・。」」

 

 

俺とマスターのお腹が盛大に鳴った。

マスターは真っ赤になった顔を両手で覆う。

 

そういえば前の特異点(冬木)では何にも食べてなかったな。(食事どころじゃなかったんだけど。)

パッと見て異変らしきモノも見当たらないし。

魔力を回復する為にも今のうちに食べといた方がいいか。

 

 

「よし!ご飯にしよう!」

 

「うぅ・・穴があったら入りたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず枯れ葉や枝を集めて山にし。

地面に火のルーン文字を描いて、父さんのマネをしてみた。

 

「えーと。確かこんな感じでーーーアンサズ!」

 

「」←マスター

 

 

やった!ちっさいけど火が出た!

(ダメもとだったけどやってみてよかった。)

消えないうちに急いで枯れ葉を近づけて火を大きくした。これで焚き火の準備はOKだ。

 

 

「そうよね。あの神の孫だものね。4分の3は神の血だものね。」

 

 

遠い目をしてなにやらブツブツ呟いているマスターに火の番を任せ。(何かあったら念話ですぐ呼ぶようにお願いした。)

俺は食料調達もとい、魚を獲る為に湖へと向き直る。

どうせなら釣りで魚を捕まえたかったけど。

釣り道具を持っていないし、作るにしても時間がかかるので、今回は素潜りで行くことにした。

 

(モリ)の代わりになりそうな長い木の棒を手に。

靴と上半身だけ服を脱いで魚影の写る湖に入る。

(もちろん準備体操はちゃんとした。)

 

腰ぐらいまで浸かった辺りで大きく息を吸い、水中にダイブした。

湖の水はとっても澄んでいて。

綺麗だなと感動しながら水の中を泳ぐ。

泳いでいる魚は動きが速いので狙わず。

湖の底の岩陰に隠れている大きめの魚をターゲットに突く。

狙った魚がうまく棒の先に刺さったのを確認し、俺は浮上しようとした。

 

 

「ーー?」

 

 

そんな俺の視界の端を小さな黒い影が通り過ぎる。

眼で追うと、その影はUターンしてコチラに向かってきた。俺の捕まえた魚を狙っているらしい。

せっかくの獲物を盗られては困るので。

近づいて来たその影を片手で素早く鷲掴みにした。

そのまま急いで水面に向かって泳ぐ。

 

 

「ぷはっ!」

 

 

顔を出し、息を整えてから自分の手の中の生き物に視線を落とす。

 

ーーーそれは、カワウソだった。

ジタバタと俺の手から逃れようと暴れまくっている。野生のカワウソを見るのは初めてで、興味津々で観察していると。

カワウソとバチリと眼が合った。

 

 

《放せ小童!ジロジロと失礼な奴め。ワシは見世物ではないぞ!!》

 

「わっ!カワウソがしゃべった!?」

 

 

驚く俺に、今度はカワウソが驚く。

 

 

《小童。お主、ワシの言葉がわかるのか!?》

 

「う、うん。」

 

《この姿のワシの言葉がわかるとは・・。うん?もしやその眼。魔眼の一種か?》

 

「あ・・。」

 

 

そういえば俺の眼は《妖精眼(グラムサイト)》ていう魔眼だったっけ。

という事は、このカワウソ。

普通のカワウソじゃないのか。

幽霊ではないから、妖精か精霊の類かな?

(弱そうだから魔獣とかではないと思う。)

でもーーー

 

 

《いいだろう!小童の才に免じて年長者に対する無礼な行いは許してやる!だが、代わりに倍賞としてお主の獲った魚を寄越せ!ワシの腹がいっぱいになるぐらいにだ!》

 

 

こんな偉そうで意地汚い妖精(もしくは精霊)とか嫌だな。

俺の中のイメージが壊れる。

元はといえばコイツが人の獲った魚を奪おうとしたのが原因だし。

・・・うん。これは性格の悪いただのカワウソ。

当分はそれでいいや。

 

俺は水から上がり、丈夫そうな(つる)を見つけてカワウソをグルグル巻に拘束する。

マスターの身の安全の為に一応縛り上げたカワウソと、獲った魚をマスターに渡した。

 

 

「マスター、これ持ってて。」

 

「何これ。カワウソ?」

 

「うん。そこで捕まえた。お腹空いてみるみたいだから2人と1匹分、獲ってくるね。」

 

「わかったわ。気をつけるのよ?」

 

「うん!」

 

 

これ以上マスターを待たせないように、俺は急いで湖にとって返し。

大きな魚を数匹捕まえた。

 

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

・アラドヴァル←槍に太陽と同等の熱量が宿っている。伝承では都市が溶けるレベル。

・フラガラッハ←どんな鎧も鎖も斬れる剣。オート機能付き。この剣につけられた傷は治らない。

 

お爺ちゃんの魔神柱無双が始まりました。

カワウソはオリキャラです。

正体は・・・あの方の父親です。

 

 



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ご飯タイム

 

もぐもぐもぐ

 

 

「・・・はぁ。魚ってこんなに美味しいものだったのね。」

 

 

棒に刺し、火であぶって作った焼き魚をマスターと一緒に頬張る。

(カワウソの近くにも1匹置いたら、す巻きのまま凄い勢いで食べ始めた。賠償なんて言わずに素直に頼めばいいのに。)

塩味が足りない気がしたけど。

腹ペコの身には染みて、美味しかった。

 

マスターも相当お腹が空いてたみたいで、眼に薄っすら涙を浮かべて喜んでる。

心なしか顔色も良くなっていた。

 

思えばマスターは痩せすぎな気がする。

カルデアスの中で離れないよう抱きついた時も、腰に楽に腕が回っちゃったし。

もっと食べた方が良いんじゃないかな?

 

 

「マスター、足りなかったら言ってね?獲ってくるから。」

 

「ふふ。ありがとうコンラ。でも、もう十分よ。」

 

 

微笑うマスターの姿に心が温かくなる。

危うく助けそこねるところだった俺の事を、快く許してくれたマスターは本当に優しい人だ。

 

この優しい人にもっと微笑って欲しい。

俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終え、服と体が乾いたのを確認していると。(体を拭く時にマスターが貸してくれたハンカチも乾いてた。うん。やっぱり俺のマスターは優しい!)

カワウソが芋虫みたいな動きで近寄って来た。

 

 

《腹いっぱいではないが、それなりに満たされた。礼を言うぞ。》

 

「あ、どういたしまして。」

 

 

文句を言われるかと思ったらお礼を言われた。

このカワウソ、実はそこまで性格悪くないのか?

 

さすがに気が咎めてきたので拘束を外すと、カワウソはググッと猫みたいに伸びをした。

そして素早い動きで腕を駆け上がり、俺の肩に乗る。クンクンと何故か匂いを嗅がれた。

 

 

《小童、お主はちと変わったサーヴァントの様だな。魔力の流れからして・・そこの娘がマスターか。》

 

「え?そう、だけど・・。」

 

 

凄いなコイツ。

あっという間に色々と看破した。

ただのカワウソじゃないのは明白だけど、一体何者なんだ?

俺の問いに、カワウソはヒゲを撫でながら答える。

 

 

《ワシか?ワシはキャスタークラスの英霊だ。とある理由でカワウソに姿を変えているのだ。》

 

「へぇー。じゃあ、元は人間なんだ?」

 

《うむ。これでも生前は魔法使いの端くれだったのだぞ!》

 

 

コイツ、父さんと同じキャスタークラスなのか。

一気に親近感が湧いて。

好奇心から体を撫でようとしたら、ガブッと指に噛みつかれた。(手加減したみたいだけど痛かった!ちょっと血が出たぞ!)

牙をむいてシャーッと威嚇される。

 

 

《人間だと言っとるだろうがっ!人を愛玩動物(ペット)扱いするな!》

 

「だからって噛みつかなくてもいいじゃん!」

 

「・・・コンラ。そのカワウソって。」

 

 

ハッ!そうだった。

カワウソが何言ってるかわかるのは魔眼を持ってる俺だけなんだ。

マスターをのけ者にしてしてしまった!

俺は慌ててマスターに説明しようとして。

 

 

「ーーー人間の言葉をしゃべってない?」

 

「・・へ?」

 

《ほぉ・・》

 

 

その言葉に驚き、目を丸くした。

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

どうやら俺と魔術回路が交じり合っている影響で。マスターも《妖精眼(グラムサイト)》の力でカワウソ(自称キャスター)の声が聞こえるらしい。

 

 

「まさかカワウソと話す日が来るだなんて・・。」

 

《さっきも言ったが、外見はカワウソでも中身は人間だからな。》

 

 

こめかみを押さえるマスターに釘を差すカワウソ(自称キャスター)

事情を聞くと、この特異点(フランスだった)に抑止力によって召喚されたらしい。

でも早々にワイバーンの大群に襲われたので、この森に逃げ込み。

数日の間カワウソに変身して身を隠していたところ。魔力が足りなくなってきたので食事で補おうと魚を狙って湖に入ったら。

 

 

「俺と遭遇して捕まった、と。」

 

《うむ。その通りだ。》

 

「ワイバーンって・・何でフランスに竜種がいるのよ!?最悪じゃない!」

 

 

動揺するマスターいわく、ワイバーンは《竜種》ていう特別な種族で。

妖精とか魔獣の総称《幻想種》の中でもかなり強い力を持つ生き物らしい。

つまりその強いワイバーンがこの特異点には沢山いると。(これは確かにヤバイ)

 

 

「って云うことは、そのワイバーンがこの時代のフランスに異変を起こしてる原因なのかな?」

 

「まず間違いないでしょうけど・・ワイバーンが大量にいるって事は。きっとその生みの親のドラゴンもいるって事よね。ああもう!この特異点いきなりハードル高すぎっ!!」

 

《ワシにキレられても困るんだが。

というか、お主らこそ何者だ?この特異点という事は、他にもこの様な異変が起きている場所があるという事か?》

 

「あ、うん。実はね・・」

 

 

俺とマスターで人理焼却の事、カルデアの事、俺達が特異点を旅して人理修復をしようとしている事を説明した。(あと、俺達がカルデアと別行動している理由もざっくり話した。)

 

 

《神か・・。》

 

 

爺ちゃんの事を聞いた途端、忌々しげな口調になったカワウソもといマルちゃん(教えてもらった名前が呼びづらかったから略した)に俺は首を傾げる。

 

 

「もしかしてマルちゃん。爺ちゃんの知り合いだったりする?」

 

《マルちゃ!?・・・まぁ、いいか。

お主の祖父など知らん。ただ生前に神と少しばかり因縁があってな。》

 

「因縁?」

 

《息子を殺された。》

 

 

予想以上に重い内容に思わず口を閉ざす。

そんな俺に気にするなとマルちゃんは器用に肩を竦めてみせた。

 

 

《それ以来、神は嫌いだ。

だが、その神以上に生前のワシはクズだったのでな。神の孫であるお主に八つ当たりで害を成そうなど思っておらんから安心しろ。》

 

「いや、別にそんな心配はしてないけど。」

 

「さっきの名前、絶対に聞いた事あるわ!

くぅ・・でも思い出せない!マシュ。あの子が居れば一発なのに!!」

 

 

まさかの「自分クズでした」発言に戸惑う俺。

その横ではマスターがさっきからマルちゃんの名前を必死に脳内検索している。

マルちゃんはそんなマスターの様子を複雑そうに見て、次に俺に視線を戻した。

 

 

《ところで、お主らはこれからどうするつもりだ?》

 

「え?それはもちろん。聖杯を持ってるドラゴン(異変の原因)を倒しに行くつもりだけど。」

 

《そのドラゴンがどこにいるかわかるのか?》

 

「あ・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺と(脳内検索を中断した)マスターとで相談し。情報収集をする為に、森を抜けて人のいる場所へ行く事にした。

そしたらマルちゃんもついて来てくれる事になった。

 

 

「もう日も傾いてるし。暗い中、森を移動するのは危険だから今夜はここで野宿しましょう。

日が昇ったら出発よ。」

 

「うん。わかった!」

 

《ならば、ワシが見張りをしよう。》

 

 

生身のマスターと疑似サーヴァントである俺には睡眠が必要だ。

その俺達の事情を知るマルちゃんは自分から見張り&焚き火の番を申し出てくれた。

 

 

「ありがとうマルちゃん!」

 

《その代わりまた魚を獲ってきてくれんか。さっき補給した分の魔力がもう切れそうだ。》

 

「術を解いて人間に戻ればいいじゃない。多少は魔力の減りが抑えられる筈よ?」

 

《そうしたいのはやまやまだが。人間に戻ればワイバーンの大群がここに押し寄せてくるのでな。》

 

「・・どういうこと?」

 

《ヤツらにワシは嫌われておってな。人の姿だと匂いを感知して追いかけてくるのだ。》

 

「嫌われてるって・・・マルちゃん。なんかワイバーンに恨まれるような事したの?」

 

《ーーーまあ。そんなところだ。》

 

 

どこか自嘲を含んだ声色でマルちゃんは呟き、俺の肩から下りる。

もうこれ以上話すつもりはないらしい。

俺とマスターは顔を見合わせた。

 

 

「はぁ・・悪いけど。また獲ってきてくれる?」

 

「うん!任せて。」

 

 

マスターの言葉に俺は頷き。

本日二度目の素潜りの準備を始めた。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

※今回は魚を食べただけで終わりました。

そしてワイバーンにまで影響が出るとか。

マルちゃんはどんだけ息子に嫌われてるんだろうか・・。

 



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フレイズマル

 

 

第三者視点

 

 

 

暗い森と湖の間にて。

焚火に照らされるコンラとオルガマリーは体を冷やさぬよう身を寄せあって眠っていた。

 

その2人の傍らに座る1匹のカワウソは、そんな2人を呆れた眼差しで見つめる。

出会ったばかりの自分を信用し。

見張りを任せたマスターとそのサーヴァントの不用心さに呆れていたのだ。

 

ーーー生前のワシだったなら、とっくにおさらばしていただろうな。

 

コンラの獲ってきた大量の魚のおかげで、彼の尽きかけていた魔力は満ちていた。

クズだった頃なら魔獣に寝込みを襲われて2人が死のうが構わず。利用するだけ利用して、すでにこの場を離れていた事だろう。

 

 

《それにしても・・なんとも不運な子供だ。

ーーーオッテルを思い出す。》

 

 

思えばあやつも自分に似ずお人好しだったなと。

ワザと噛みつき、摂取したコンラの血を分析しながら想う。

 

コンラとオルガマリーに話した彼の英霊としての能力は、自身と指定した他者の姿を動物に変えることが出来るというものであった。

しかし、正確には血を摂取した生き物の遺伝子情報を分析し。その情報を元にその生き物(動物、人間、魔獣。血を有する者なら何でも)に姿を変えるというものだった。

分析する過程で、彼は遺伝子に組み込まれた血の持ち主の記憶を観る事も出来た。

 

そして知った。己の父親に殺される事になった不運なコンラの姿を。

彼は同じく不運から神に殺されてしまった己の息子と重ねた。

 

 

あの日、ワシが魚を獲らせに行かせなければ。

多くの魚が獲れるようにと、カワウソにあやつの姿を変えていなければ。

神々があの河の側を通らなければ。

 

息子(オッテル)は死なずに済んだ。

そして、その後に起こった醜い争いと死の連鎖も起こらなかったのだろう。

 

 

ーーーいや、違う。

あやつは関係ない。

ワシがあさましく、強欲であった。

それが全ての悲劇を招いたのだ。

 

 

死してようやく自分の愚かしさに気づいたと云うのに。未だに自身の罪から目を背けようとする己の性根に、彼は小さく舌打ちする。

 

彼は目を逸らすわけにはいかなかった。

己の代わりに《もう一つの罪》を被った《自分を殺した息子》に報いる為にも。

その息子にこれ以上、罪を重ねさせぬ為にも。

彼はけして逃げるわけにはいかなかった。

 

 

《ファヴニール。お主はワシがこの手で殺す。》

 

 

フレイズマル。

かつて人間であった邪竜ファヴニールの父親。

次男オッテルを神に殺され。

長男ファヴニールと三男レギンに裏切られ。

ファヴニールの手によって殺された男。

 

彼が覚悟と共に仰いだ夜空には。

見た事もない光の輪が輝き浮かんでいた。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

日が昇ると同時に湖の畔から出発し、俺達3人(2人と1匹)は森の中の獣道を進む。

邪魔な細い木や枝を剣で斬り落としながら、魔獣やワイバーンの襲撃を警戒しつつ歩いていく。

 

 

「あっ!あの木の枝先、実がなってる!食べれるかな?」

 

《むむ。アレはやめておけ。まだ熟していないうえに毒がある果実だ。》

 

「ふーん。詳しいのね。」

 

《生前は農夫でもあったからな。食用になる植物の知識には自信があるぞ。不作の時は自然の恵みに頼らざるおえなかったしな。》

 

 

俺の頭の上で胸を張るマルちゃん。

そうか。マルちゃんは生前、魔法使いで農夫だったのか・・・ん?

 

 

「ねぇ、マルちゃん。」

 

《何だ小童。》

 

「魔法使いだったなら。術で食べ物を出したり、農作物を成長させたりとかすれば良かったんじゃないの?」

 

《・・・。》

 

 

頭に浮かんだ何気ない疑問を口にしたら、急にマルちゃんが項垂れて元気がなくなった。

どうしたんだろう?

もしかして昨日(亡くなった息子さんの事)みたいに深刻な話題だったのかな。

 

 

「マルちゃん?」

 

《・・・ワシ、変身術以外の術はからっきしだったから。》

 

 

あ、別の意味で振っちゃいけない話題だった。

 

 

「で、でも動物に変身できるのって。俺、凄いと思うんだ!カワウソ可愛いし!撫でたい!!」

 

《それはお主の願望だろうが!慰める気ないだろう!?》

 

「コンラ。気持ちはわかるけどフォローになってないわ。」

 

 

ションボリするマルちゃんを頑張って励まそうとしたら怒られた。

何でだ。本当に動物になれるの凄いと思うのに。

いつでもモフモフし放題じゃないか!←

 

 

《ふぅ・・動物が好き、か。

そんなところまでアヤツ(オッテル)と同じか。》

 

「? 何か言った?」

 

《ーーーああ。

何度も人をペット扱いするなと言ったんだ!》

 

「ギャーッ!?痛い!頭に爪立てないで!!」

 

「コンラ!?あんたこの子を傷物にしたらガンドで蜂の巣にするわよ!」

 

《傷物て・・。随分とサーヴァント(使い魔)に甘いマスターだな。》

 

 

マスターが注意してくれたおかけでマルちゃんが立てていた爪を引っ込めてくれた。

うぅ・・痛かった。

もうマルちゃんは頭に乗るの禁止だ。

 

爪が喰い込んだ部分を涙目になりながら押さえていると。強い風が吹いて木々を揺らした。

嫌な気配を感じて、とっさに頭上に目を向ける。

激しく揺れる枝と重なった葉の隙間から、遠くに青空が見えた。

 

 

ーーーギャアアアッ!!!

 

 

その青空を、怖ろしい鳴き声と共に幾つかの大きな影が横切り通り過ぎて行く。

一瞬だったけど、羽ばたく羽根のような物が見えた。アレはーー

 

 

《ワイバーンか。》

 

 

俺の肩に移動したマルちゃんの呟きに、予想が当たった事を知る。

どうやら俺達は森の中にいたから見つからずに済んだらしい。

 

 

《ヤツら集団で同じ方向に移動していたな。もしやどこぞの街でも襲うつもりか?》

 

「え!?」

 

 

何だそれ。大変じゃないか!

早くワイバーンの後を追って止めないと!

 

 

「急ごうマスター!」

 

「え、ええ。」

 

 

俺は躊躇いながらも頷くマスターの手を引き、先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間に合わなかった。

森を抜け、俺達が街に辿り着いたのは事が終わった後だった。目にしたのは前の特異点(冬木)を連想させる地獄のような光景。

 

 

「ーーひどい。」

 

 

燃え、崩れ落ちた家々

地面に転がる黒い人型のモノ

鼻をつく異様な臭い。

 

前の特異的(冬木)では幸運にも人の亡骸を目にすることは無かった。けれど、今はより凄惨な姿で目の前に横たわっている。

 

直視してしまい俺は思わず吐きそうになった。

でも、唇を噛み締めてグッと我慢する。

そして俺と同じく顔を青褪めさせたマスターの傍に寄り。剣を構えて周囲を警戒した。

ワイバーンか、血の匂いに誘われた魔獣が近くにいるかもれないと思ったからだ。

 

 

《ッ!こっちだ!》

 

「マルちゃん!?」

 

 

鼻をひくつかせていたマルちゃんが、ふいに俺の肩から飛び降り走り出した。

瓦礫の隙間を縫う様に駆ける小さな姿を見失わないようマスターと一緒に追いかける。

 

 

「あれは・・!」

 

「マスター!人がいる!」

 

 

追いついた先には、大量の瓦礫に体が半分ほど埋まった男の人。

その傍らにマルちゃん。

亀と獣をミックスしたみたいな生き物。

十字架のような杖を持った女の人がいた。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

フレイズマルは人や物が燃えた臭いの中。

微かに己の知る匂いを嗅ぎとり走り出した。

 

 

ーーーこの血の匂いはアヤツ(ファヴニール)のものに酷似している。だが、違う。近いがまだ薄い。

これはもしや・・。

 

 

抑止力から与えられた知識により。

血の持ち主に見当をつけ、己の目的に必要な人物だと判断した彼は。

コンラ達とその人物を合流させるべく駆ける。

そして辿り着いた場所には瓦礫に埋まる瀕死の男ーーージークフリートがいた。

その傍らに立つのは聖女マルタと彼女に従う竜タラスク。

マルタは近づいて来る小動物がただのカワウソではないと一目で見抜き。

念の為に杖を向けつつ、背後のタラスクに指示を出す。

 

 

「ったく・・狂化の衝動を抑えるだけでもツライってのに。タラスク、彼をお願い。」

 

《了解っす、姐さん。》

 

 

指示を受け、タラスクはジークフリートの体から瓦礫を退かす作業に入る。

己を召喚し立ち去った竜の魔女の「ジークフリートにとどめを刺せ」という命令に逆らい。

強い精神力で正気を保ちながら《竜殺し》たる彼を彼女は救おうとしていた。

 

その様子に彼らが敵ではない事を理解したフレイズマルは、大人しく後ろの2人が追いつくのを待った。

 

 

「あなたは・・?」

 

 

カワウソの後から現れたコンラとオルガマリーにマルタは聖女として己の名を告げる。

 

 

「私はマルタ。ただのマルタです。」

 

「マルタ?まさか、あの悪竜タラスクを鎮めた聖女マルタ?」

 

「ええ。あなた達は?」

 

 

マルタの問いにオルガマリーは人理焼却の事。

自分達がいまフランスで起こっている異変を止める為に此処にいる事を話した。

話を聞き終えたマルタは目を閉じ、十字を切る。

 

 

「此処であなた達と会えたのは神の思し召しですね。神の愛に感謝を。」

 

「あ、神だって。この人は爺ちゃんの知り合いかなマスター?」

 

「そうよ・・って言ってあげたいけど違うわ。この人が言ってるのは別の神様よ。」

 

「そっか、残念。」

 

「え?爺ちゃん?え?」

 

 

とんでもない事(神の孫=《彼》の息子?)を聞いた気がして。

思わず聖女の仮面が外れるマルタ。

しかし、問題の少年の事情を簡単に説明してもらい。

ホッと彼女は安堵の息を吐く。

 

 

「あー、ビックリした!《彼》の隠し子かと思って焦ったじゃない。紛らわしい事言わないでよ。」

 

 

「「・・・。」」

 

 

《姐さん。思いっきり地が出てるっすよ。》

 

「ハッ!しまった!」

 

 

聖女モードと地の性格のギャップに驚き唖然とするコンラとオルガマリー。

そんな2人にマルタは誤魔化すように咳払いをすると。己の召喚された経緯を話し始めた。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

※今回でストックの残数が無くなりました。

一週間に一回投稿を目標にしているのですが、急に不定期になってしまったら申し訳ありません。

そしてついにマルタ、タラスク、ジークフリート(瀕死)が登場。

ヤリニキはまだ来ない!←

 



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魔法使いと竜殺し

 

 

ワイバーンの襲撃に遭い壊滅してしまった街。

そこで出会ったマルタさんの話によると、フランスに異変を起こしている元凶はドラゴンではなく。

そのドラゴンーー邪竜ファヴニールを召喚した竜の魔女ジャンヌ・ダルク。

そして彼女に協力するジル・ド・レェの2人らしい。

 

 

「本来なら私はあなた達側の英霊なのですが。

不運にも聖杯の力で彼女に喚び出されてしまった為、私自身が彼女を止めることは出来ません。

なので、せめてファヴニールを倒す切り札である彼を匿おうとしていた所なのです。」

 

「そういう事だったの。」

 

 

マスターとマルタさんの話を小耳に挟みつつ。

瓦礫に埋まった男の人ーージークフリートの救出作業に俺も加わる。

 

 

「手伝うよ!」

 

《おおっ!助かる。》

 

 

大きな瓦礫を亀っぽい竜ーータラスクが。

小さな瓦礫を俺が次々と退かしていく。

効率が良くなったおかげか、思ったより速くジークフリートを助ける事が出来た。

 

ジャンヌと彼女の召喚したバーサーク・サーヴァント(マルタさん除く)によって彼は呪いと重症を負わされてしまっていた。

その深い傷をマスターが治癒魔術で癒やす。

 

 

「グッ!・・話は聞いていた。迷惑をかけてすまない。」

 

 

先程まで話す事もままならない様子だったジークフリートは、傷の治療が終わると半身を起こして謝罪してきた。まだ呪いは解けてないけどだいぶ楽になったみたいだ。

 

 

「呪いの解呪は聖女の専門でしょう?マルタ、後はお願い。」

 

 

マスターの言葉にマルタさんは頷き、ジークフリートの体に触れ解呪を試みる。

でも、うまくいかないみたいで。

数分後には難しい顔をしながら手を離した。

 

 

「申し訳ないのですが、思った以上に彼にかけられた呪いは強力です。私一人の力では解呪は無理でしょう。」

 

「そう・・仕方ないわね。」

 

 

呪いを解くにはマルタさん以外の聖人の力も借りなくちゃいけないみたいだ。

ジークフリートには悪いけど、ここは我慢してもらって。一旦、この場を離れる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《竜の背中に竜殺しを乗せるとかマジ酷だわー。

これがちまたで噂のパワハラなんすね。》

 

「タラスク。あんまりゴチャゴチャ言ってると煮詰めてスープにするわよ?」

 

 

《ッ!?》←ガクブル

 

 

「タラスク・・だったか。

すまない。本当にすまない。」

 

「亀のスープ・・あぁ、スッポン的なアレね。」

 

 

タラスクの背中で不調のジークフリートには休んでもらい。俺達は燃え落ちた街から離れ平原を進む。

マルタさんいわく、ジャンヌはルーラークラスで。他のサーヴァントが何処にいるか感知できるから1箇所に長居しない方がいいとの事。

 

俺はジークフリートから預かった大剣(バルムンク)を背負い。その柄の部分に乗っているマルちゃんをやけに気にしている彼に声をかける。

 

 

「ジークフリート。マルちゃんがどうかしたの?」

 

「マルちゃん?ああ。そのカワウソの名か。」

 

 

聞くと、マルちゃんを見るとジークフリートの中の竜の因子がざわつくらしい。

(生前倒したファヴニールの血を浴び、口にした事で彼は体内に竜の因子を取り込んでしまったそうだ。)

困惑するジークフリートの言葉にマスターが

「あっ!」と声を上げる。

 

 

「そうよ!ファヴニール!!

やっと思い出したわ!」

 

《ようやくか・・。遅かったな。》

 

「うっさいわね!あんたの知名度が息子に比べて低いのが悪いのよ!フレイズマル!!」

 

「「ッ!?」」

 

 

何かに思い至ったらしいマスターがマルちゃんの名前を呼ぶ。

すると、名前を聞いたジークフリートとマルタさんが驚きの表情になった。

何で驚くのか解らず、俺が尋ねると。

なんとマルちゃんは敵である邪竜ファヴニールの父親だった事が判明した。

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

北の大地にて1人の男が3人の息子と暮していた。

男ーーフレイズマルは魔法という稀有な力を持ちながらも農夫として日々を過ごしていた。

 

長男 ファヴニールは家族を愛し、勇ましく武芸に優れ。

次男 オッテルは穏やかな気性で家畜を育てるのが上手く。

三男 レギンは賢く、鍛冶を得意とするほど手先が器用であった。

 

 

そんな平穏な毎日を送る彼らに、何の前触れもなく悲劇が振りかかる。

父親の頼みで河へと魚を獲りに出かけたオッテル。彼がカワウソに姿を変えている事を知らぬ神によって殺されてしまったのだ。

 

旅の途中、一晩の宿を求め彼らの家の扉を叩いた神達(ロキ・オーディン・ヘーニル)。

その手に無造作に掴まれる息子の変わり果てた姿に怒り。フレイズマルは2人の息子と共に油断した神々の隙をついてその身を拘束する。

縄をかけられ事情を聞いた神達は謝罪し、殺してしまった息子の命の分を黄金で賠償すると言った。

 

その言葉にファヴニールは激怒する。

愛する家族()の命はどんな黄金や財宝にも変えられるものではないと彼は想ったからだ。

ファヴニールは衝動のままに剣に手をかける。

しかし、フレイズマルはその手を止め神の申し出に応じた。

 

 

「何でだ親父!こいつらはオッテルを殺したんだぞ!」

 

「頭を冷やすのだファヴニール。確かにこやつらはオッテルを殺めた。だが、それは故意ではない。詫たいというこやつらの気持ちも汲むべきだ。」

 

「でもーーッ!!」

 

 

ファヴニールは父親の言葉に反論しようとした。

しかし、その言葉は彼の口から発せられる事はなかった。

彼は見てしまったのだ。

息子を殺され怒りに燃えていた筈の父の瞳が、今は黄金に眼が眩み欲に濡れている光景を。

 

己の父は愛する息子(オッテル)の仇を討つ事より黄金を選んだ。

それは家族を愛していたファヴニールにとって裏切り以外の何ものでもなかった。

そして父が賠償となる黄金の量を定める為に。

カワウソに変じたままの(オッテル)の亡骸にナイフを突き立て、その皮を剥いだ時。

彼の胸の内に宿った父への怒りは憎しみに変わった。

 

 

 

 

 

 

 

神々は賠償の黄金をフレイズマルへと渡し、彼らの家から早々に立ち去った。

次男の命と引き換えに得た黄金を前に喜びを顕にする父親。

彼はこの時、既に黄金と共に渡された呪いの腕輪の力により強欲の化身と化していた。

それを知らないファヴニールは冷めた眼で父親だった男を見つめ。

レギンはオッテルの死を忘れたかの様な父親の変貌ぶりに戸惑う。

 

 

「兄さん。父さんは一体どうしたんだ?」

 

「さあな。それよりあんた、その黄金はどうするんだ?もちろんオッテルの墓を建てるのに使うんだろ?」

 

「は?何を言っとるんだ?この黄金はすべてワシの物だ。そんなもったいない事に使う訳がないだろう?」

 

 

あまりにも非道なフレイズマルの台詞にファヴニールは激高し、レギンは絶句した。

 

 

「もったいないだと!?

その黄金が誰のおかげで今ここに有ると思ってるんだ!オッテルの犠牲で得たものだぞ!!せめてあいつの為に使ってやるべきだ!!」

 

「そうだよ、父さん!兄さんの言う通りだ!

これじゃあオッテル兄さんが可哀想じゃないか!!」

 

「黙れ!黙れ!この黄金はワシの物だ!金貨一枚、誰にも渡しはせん!!」

 

 

口論は一日中続いても終わる事はなく。日が落ち、疲れ果てた3人は一時休息を挟む事にした。

この頃にはファヴニールは僅かに残っていた父親への情も失せ。

レギンも正気を失ったとしか思えない父親の言動に危機感を抱く様になっていた。

 

 

「もう父さんは父さんじゃ無くなってしまった。

オッテル兄さんも死んでしまった。これからどうすればいいんだ?」

 

 

頭を抱え苦悩するレギンの姿にファヴニールは唯一の家族となった弟の為、決意する。

 

 

「レギン・・あの男を殺そう。」

 

「兄さん!?」

 

「アイツはもうダメだ。黄金に心を奪われておかしくなってしまった。このままだと黄金を守る為に俺達を殺そうとするかもしれない。なら、その前に俺達の手でアイツを殺し、オッテルの為にあの黄金を使ってやろう。」

 

「・・っ!」

 

 

レギンは悩みに悩み。

空が白み始めた頃、首を縦に振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイズマルは初めて味わう類の恍惚感に浸っていた。黄金を見、触れているだけで得も知れぬ充実感に心が満たされる。それが呪いによる。まやかしの幸せだとは気づかず。

ズブズブと底なし沼に沈む様に逃れられなくなっていく。現に、黄金を盗まれるかもしれないと考えただけで。

彼の全身は計り知れない恐怖と喪失感に襲われた。

 

 

これはワシの物だ。ワシの物だ。

渡してたまるものか。

奪われてたまるものか。

盗人共め。

次にまたワシの宝を寄越せと言ったならば。

その時はーー

 

 

彼の中で、いつの間にか残された2人息子は盗人となっていた。狂人の如く黄金の傍らでブツブツと独り言を繰り返すフレイズマル。

そんな父親に恐る恐るレギンは声をかける。

 

 

「父さん。見てもらいたい物があるんだ。」

 

「・・・何だ?ここに持って来られんのか?」

 

「うん。外にあるんだ。」

 

「ファヴニールはどうした?」

 

「外で父さんを待ってるよ?ほら。」

 

 

フレイズマルは窓からファヴニールが間違いなく外にいる事を確かめ。

念の為にレギンに自分より先に外に出るよう告げた。それが黄金を自分に盗られない為だとわかったレギンは哀しげに顔を曇らせたが。

黙って父親の言うことをきき、扉を開けて外に出た。

フレイズマルもその後に続いて扉を潜り。

 

 

「ーー父さん、ごめん。」

 

「・・オッテルにちゃんと謝れよ。」

 

 

待ち構えまていたファヴニールの剣に斬られ。

父親(フレイズマル)息子(ファヴニール)に殺されて死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父親を殺めた後。

兄弟(オッテル)の為に黄金を使う筈だった2人は父親と同じく腕輪の呪いに囚われてしまう。

それまでが嘘のように黄金を巡っていがみ合い、己の物にしようと邪魔な互いの存在を罵倒する。

 

最後には呪いにより邪竜へと転じたファヴニールが、黄金をすべて奪いどこかへと飛び去ってしまった。

残されたレギンは奪われた黄金を必ず己の物にする事を誓い、我が家を後にする。

 

 

ーーー月日は流れ。

鍛冶の腕を活かし、とある王に仕えていたレギン。彼はその賢さから王の子の養育係に任命される。レギンはその王子をそそのかしファヴニールを殺させ、黄金を奪う計画を立てた。

 

彼はレギンの思惑通り、苦難の末に邪竜ファヴニールを倒し竜殺しとなる。

だが、王子を騙し討ちにしようとしたレギンは返り討ちにされ死んだ。

 

その王子の名はジークフリート。

邪竜ファヴニールを倒し。

養父レギンを殺めた男。

 

 

邪竜を生み出した者(フレイズマル)邪竜を殺した者(ジークフリート)

 

 

会う筈のない2人は因果に導かれ。

フランスの地にて出会ったのだった。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

※な、何とかいつもの時間に投稿出来ました!

間に合って良かったです。

ファヴニールの口調が公式と違っていたらすみません!!

 

 



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迫る影

 

 

第三者視点

 

 

召喚された際に抑止力から得た知識でフレイズマルは己の死後に起こった事柄を全て知った。

それは欲と愛憎に塗れた死の連鎖であった。

 

その悲劇の連鎖を引き起こした己の強欲の罪を知り。

彼は生前の己の行いを酷く悔いた。

そして呪いの腕輪の存在知った事で。

彼は己が息子に救われていた事に気づく。

 

あのままファヴニールに殺されていなければ。

自身が2人の息子を殺し、邪竜となり果てていただろう。

あの、満たされていながらも。

いつか来る黄金を奪われる日に怯え。

苦痛に苛まれ続ける日々を長い時の間過ごす事になっていただろう。

 

ファヴニール自身にその意思は無かったとしても。

フレイズマルは彼に殺される事で呪いから解き放たれたのだ。

しかし、その代わりにファヴニールがその過酷な運命を背負う事となった。

 

心を侵され。

人々に忌避され。

死してようやく得た筈の安息の時は召喚という形で破られ。

ワイバーンを生み出し、今もなおこの地で罪を重ねている。

 

 

「だからこそ、全ての原因となったワシがあやつを殺めなければならない。この地にて再び始まってしまったあやつの苦しみを、ワシの手で終わらせてやりたいのだ。」

 

 

それが己が息子に出来る唯一の罪滅ぼしなのだと、コンラーーの姿に変身したフレイズマルは心の内を明かした。

(変身した際ひと悶着合ったのだが。ここでは割愛する。)

その言葉には息子を想う父親の愛情が確かに滲んでいた。

 

 

「生前に身内の問題に巻き込んでしまったお主には悪いと思っている。だが、どうかあやつを倒すのに手を貸してはくれんだろうか?」

 

 

頭を下げるフレイズマルにジークフリートは僅かに返答を躊躇う。

ファヴニールを倒す事には彼とて異論はない。

けれど己が生前に目前の男の息子を2人も死に追いやった事を、彼は後ろ暗く思っていた。

 

 

「俺はあなたの息子のファヴニールと養父レギンを殺めた。あなたにとって俺は息子の仇といえる存在のはずだ。そんな俺が手を貸してもいいのか?」

 

「言ったはずだ。ワシは死して呪いから解放されたと。お主はワシの息子達を殺したが、同時に呪いから解き放ってくれた。恨んでなどおらんよ。」

 

「ーーーそう、なのか。」

 

 

フレイズマルの台詞に、ジークフリートは自身の心が僅かに軽くなるのを感じた。

例え利用され、命を奪われそうになったと云えど。

彼は己を育ててくれた養父(レギン)を殺めた事に罪悪感を抱いていた。

だが、それが養父の心を救う事に繋がっていたのだと知り。彼はその事実に少しだけ救われたような心地がした。

 

 

「わかった。ならば、俺は進んであなたの力になろう。呪われた身ですまないが。この地の人々がこれ以上犠牲にならないよう。そしてあなたの息子がこれ以上罪を重ね苦しむ事のないよう。俺は出来うる限りの力を尽くそう。」

 

「すまんな。・・礼を言う。」

 

 

ジークフリートの答えにフレイズマルは感謝を述べる。

こうして2人はファヴニールを倒す(解放する)という共通の目的の為に手を結んだのだった。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

ビックリした!

いきなりマルちゃんが俺そっくりに変身するんだもんな。

聞いたら、マルちゃんは動物だけじゃなく血を飲んだ生き物になら何でも姿を変えられるらしい。

(だからあの時噛みついたのか。今更だけど納得。)

 

マスターは初めのうちはマルちゃんが嘘ついたことを怒ってたけど。魔術に携わる者なら自分の術を隠すのは当然って感じの事を言われて言葉を詰まらせてた。

(あと、俺の姿だと本気で怒るに怒れないって悔しがってた。何でだろう?)

 

ジークフリートと話す為に俺に変身したマルちゃん。

マルちゃんは自分の息子を殺したいのだと言う。

その理由は自分の代わりに邪竜となった息子(ファヴニール)を呪いの苦しみから解放してやりたいというものだった。

俺の姿になったマルちゃんの紅い瞳に宿るのは贖罪の心と息子への想い。

 

 

 

 

 

 

《お前は何も悪くねぇ。

悪いのは・・・全部俺だ。》

 

 

《え?》

 

 

 

 

 

 

その瞳を見て。

俺は何故か、あの時アインツベルン城で俺を見下ろしていた父さんと同じ色の瞳だと思った。

 

でも、父さんが俺にそんな贖罪的な気持ちを抱く理由はないので気のせいだと思い直し。

どこか晴れやかな表情になったジークフリートに眼を移し、次に前を向いた。

 

すると前方に薄っすら街らしきものが見えた。

遠目だけどワイバーンに襲われている様子もないし、安全そうだ。

食事と睡眠が必要な俺とマスターの為に。

マルタさんの提案で一度この街に立ち寄って食料や寝床を確保する事になった。

 

 

「でも俺達、お金持ってないよ?」

 

「あ、そうよね。物々交換でいけるかしら?」

 

「物は試しと言いますし。交渉してみましょう。」

 

「っていうか。見た目はアレだけど(タラスク)が街に現れたら大騒ぎになるんじゃない?」

 

「亀の突然変異じゃダメ?」

 

「すまない。さすがにそれで誤魔化すのは厳しいと思う。」

 

《ちょっ!亀っ!?

いやいや俺、竜っすよ!これでもグレてた頃は悪竜とか言われて恐れられてたんすからね!姐さんの鉄拳制裁で改心しましたけど。》

 

「タラスク。シャラップ。」

 

 

《ーーッ!!!》←頭部に鉄拳制裁。

 

 

「あーー。そうだな。

ワシが術で牛にでも変身させるか?」

 

 

「「「じゃあ、それで。(お願いします。)」」」

 

 

 

ーーーというやり取りがあったんだけど。

まさかの無人だった。

人っ子一人いなかった!

 

どうやら街の人達は近隣の街がワイバーンに襲われたのを知って避難したもよう。

立ち寄ったのは危険を知らせる意味もあったから、避難してくれてたのは良かったけど。

残念ながら物資はゲット出来なかった。

 

仕方がないので、街外れの一軒を一晩だけ貸してもらい。この街で夜を明かす事になった。

(タラスクは家の扉を通れなかったので外で待機になった。)

 

此処に来るまでに捕まえておいた物々交換用の野兎を解体し。

井戸から水を汲んできて湯を沸かす。

庭先に転がってた芋を少し分けてもらって。

調理場を借りてマルタさんが肉と芋の煮込み料理を作ってくれた。 

 

皆は食事は必要ないとのことで。

申し訳なく思いつつ、マスターと2人で美味しく料理を頂いた。

マルタさん本人は謙遜してたけど、凄く美味しかったからあっという間に完食してしまった。

(なんか温かいというか。懐かしい味がした。■■ラの時、施設の兄妹達と食べた夕飯を思い出した。)

 

ご馳走様をして。

今後のことを話し合った。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

その頃、オルレアン城にて。

フランスを滅ぼそうとする竜の魔女はある異変を察知し、小さく舌打ちする。

ファヴニールの天敵ジークフリートを簡単に虫の息に出来た事で最後の詰めが甘くなったと。

己の手でとどめを刺さなかった事を悔やみながら彼女は生前からの臣下たる男を呼んだ。

 

男ーージル・ド・レェは己の聖処女たる魔女ーージャンヌの話に耳を疑う。

 

 

「あの竜殺し(ジークフリート)の反応が消えない?それはまことですかジャンヌ?」

 

「ええ。どうやらバーサーク・ライダー(マルタ)は狂化の影響を自力で抑え込んでいるようです。とんでもない精神力だわ。さすが信仰に殉じたイカれた聖女様ってところかしら?」

 

「貴女はフランスに罰を下すのに忙しい。この件は私に任せてください。」

 

「そう?じゃあ任せるわ。弱いけどマルタとは別に2つの反応も感じられるから。念の為にランサーとアサシンを連れて行きなさい。」

 

「オオオオオッ!!!!ジャンヌ!我が聖処女!

なんてお優しい!!そんな貴方の復讐の邪魔をする匹夫共は必ず!私が!この手で地獄に堕としてみせましょう!!!!」

 

 

「」←ドン引き

 

 

テンションの上がったジル・ド・レェの奇行と人外並の形相に思わず半歩引いて顔を引き攣らせる竜の魔女(ジャンヌ)

それに気づかず、彼は時が惜しいとばかりに直ぐ様バーサーク・ランサー(ウラド三世)バーサーク・アサシン(カーミラ)を連れ。

ワイバーンに跳び乗り暗い夜空へと飛び立った。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

※遅れてすみません!

次回、怪物組に襲撃されるコンラくん達。

今のメンバーだと苦戦必須なのですが・・。

どうしよう←

 



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聖なる怪物

 

 

話し合いの末、俺達はこのままフランス各地の街を回る事になった。

それはジークフリートの呪いを解ける聖人のサーヴァントを探す為と。その過程で立ち寄った街の人々に危険を知らせ避難させる為だ。

全員の了承を得たところで、マルタさんが笑顔でパンッと両手を叩く。

 

 

「それでは話も纏まった事ですし。出発まで各自交代で休息を取りましょうか。

あぁ、周囲の警戒は私達がしますので。貴女達は構わずゆっくり休んでくださいね。」

 

「ありがとうマルタ。助かるわ。」

 

 

マルタさんの気遣いにマスターと一緒に感謝し。

俺は何気なく窓から暗くなった外を確認した。

その瞬間ーー

 

 

《姐さん!来るっす!!》

 

「っ!みんな伏せて!」

 

 

1匹のワイバーンがコチラに向かって突っ込んで来る光景が眼に飛び込み。

俺はタラスクと同時に声を上げながら、とっさにマスターに飛びついていた。

 

 

「きゃあっ!」

 

「ごめんマスターッ!!」

 

 

マスターを床に押し倒し、その上に覆い被さって身を低くする。(思いの外近くなったマスターの顔は何故か真っ赤だった。)

すると頭上を破壊音と共にワイバーンがもの凄いスピードで通り過ぎるのがわかった。

横目で確認すると、幸いにも屋根はまるまるふっ飛んでいて壊された家屋の下敷きになるような事はなかった。

降り注ぐ細かい破片が止むのを待ってから顔を上げ、周りを見回す。

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!皆さん無事ですか?

今のワイバーンは一体・・?

まるで墜落して来たみたいに見えましたけど。」

 

「ワシの匂いに引き寄せられたか?いや、まだワシは小童に化けておるからそれはないか。」

 

「ワイバーンの背に何かいたような気がしたのだが。」

 

《あっ!俺も見やした!

なんか目玉が飛び出た気持ち悪いのがくっついてたっすよ。》

 

「まさか、ワイバーンに寄生する新種の魔獣が・・?」

 

 

よかった。みんなも無事だった。

各自が言葉を交わしながら体にかかった破片や埃を払い立ち上がる。

俺も身を起こし、なにやらワタワタと挙動不審な動きをするマスターを不思議に思いながら手を差し出す。

 

 

「マスター、立てる?」

 

「あ、うっ・・え、ええ。大丈夫よ。」

 

 

俺の手をしっかり握ったのを確かめてからマスターを引っ張り起こす。

そして立ち上がったマスターを背に庇い、墜落したらしいワイバーンの方へ剣先を向けた。

俺達が休ませてもらっていた家の上部を壊し。

更に数十メートル地面を抉りながら墜落したワイバーンは、今は見るも無惨な姿で平原に転がっている。

あの様子だとたぶん絶命しているだろう。

 

新種の魔獣がくっついていたそうなので。

俺達が油断せずに警戒しながら近づくと死んだ筈のワイバーンが微かに動いた。

いや、正確にはワイバーンの亡骸をずらして下敷きになっていた何かが出てきたのだ。

 

 

「ああ、私とした事が。つい興奮してワイバーンの操作を誤ってしまいました。」

 

 

這い出すようにして現れたのは奇抜なローブに身を包む1人の男。

その頭からは血がドクドクと流れだしているのにも関わらず、本人は気にした風もなく不気味に嗤っている。

半ば飛び出しているその眼は舐める様な眼差しで俺の事をガン見していた。

 

 

「フフフハハハハハッ!!!!

素晴らしい!アナタは実に素晴らしい!!

なんて神性な魂の輝き!幼い肢体から放たれる神気の強さ!アナタは神の恩寵を一身にその身に受けているのですね!

あああああっ!!その魂を!肉体を!穢し堕としたならばアナタはさぞや最高の神への冒涜の供物となり至高の傑作となることでしょう!!!」

 

 

両腕で宙を掻き、唾を飛ばして喚き散らす男は己の内なる狂気を月夜に叫ぶ。

その瞳は正気を失いながらも、どこか冷静に獲物として俺に狙いを定めていた。

 

ゾワッとかつてない程の身の危険を感じて背中に鳥肌が立つのがわかった。

俺の魂が、全身が、あの男は危険だと警鐘を鳴らす。(そうでなくとも生理的に気持ち悪くて無理だけど。)

いきなり現れた変態にロック・オンされて俺はちょっと泣きたくなった。

そんな俺を護るようにマルタさんとジークフリートが前に出る。

 

 

「はぁ?神への冒涜?供物?ざけんじゃないわよ!しかもこんな子供を狙うだなんてありえないわ!ーー跡形もなくぶっ潰す!!」

 

《あーあー、とうとう姐さんがあの頃に戻った。

狂化で自制がゆるんでたもんなー。》

 

 

憤怒の表情でマルタさんは聖杖を(どこか諦めた様子の)タラスクに投げ渡し、いつの間にか装着した籠手に覆われた拳を男に突きつける。

 

 

「子供に無体な行いをするのは見過ごせない。すまないが邪魔させてもらう。」

 

 

ジークフリートはまだ顔色は悪いものの、危なげなく大剣(バルムンク)を構え男に鋭い眼差しを向ける。

マスターがサッと俺の姿を男から見えないように体で隠してくれたおかげが、2人の姿を目にしたからか。

男の顔から狂気が抜け落ち真顔になった。

 

 

「おっと、また自分を抑えられなくなるところでした。良い素材を前にすると創作意欲が溢れて困りますね。さて・・応えぬ神に殉じる売女と我が聖処女の障害となる匹夫ですか。」

 

 

男はおもむろに懐から1冊の本を取り出す。

本が纏う禍々しい魔力にあの本がただの書物ではない事はすぐにわかった。

 

 

「気をつけて。アイツが例の魔女と一緒にフランスを襲っているジル・ド・レェよ。」

 

「えっ!あの変態が!?」

 

「変態ではありません。芸術家ですよ、坊や。」

 

「アンタこの子に話しかけるのやめてくれる?

コンラの耳が腐るじゃない。

子供を襲う芸術家とか。さっさと爆発して死ねばいいのに。」

 

 

まるでゴミを見る様な眼で変態ーージル・ド・レェを睨めつけるマスター。

はじめて聞く冷ややかな声に俺はギョッとした。

 

ど、どうしたんだろう。

マスターが何やら凄く怒ってる。

芸術家が嫌いなんだろうか?←

(というか俺、外見は子供だけど一応中身は20歳手前なんだが。もしかしてマスター忘れてる?)

 

内心で狼狽えている俺とは対象的に。

ジル・ド・レェはマスターの言葉を特に気にした様子もなくパラパラとページを捲っていく。

そしてあるページでその指先を止めた。

 

 

「まったく・・これだから芸術のわからぬ凡夫は。まあ、いいでしょう。

無理に理解する必要はありません。

ーーー貴方達は此処で海魔の餌となるのですから!!

 

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)!!!!》

 

 

・・・あ、でもそこの坊やは殺してはいけませんよ。極上の供物ですから捕まえるだけにしなさい。その後で私がゆっくり、時間をかけて・・・フフフフフッ!!」

 

 

あの本はやっぱり敵の宝具だったらしい。

本に纏わりついていた靄のような魔力はジル・ド・レェの声に応えるように揺らめき。

躍動したかと思うと不気味な怪物ーー海魔をこの場に召喚した。

(その後に何か言ってた気がするけど、俺は何も聞いてないよ?聞いてないったら聞いてないからね?←必死)

 

 

「■■■■■■■ッ!!!」

 

 

タコとヒトデが合体したみたいな怪物は召喚された事を悦ぶように。鋭い牙が並ぶ口から歓喜の鳴き声を上げた。

 

うわー。

目玉お化けの次はタコヒトデお化けか。

 

ワラワラと本から出てくる海魔達にデジャヴを感じながらも。意識を切り替え、マスターを襲ってきた1匹を剣で斬り伏せる。

 

 

「だああっ!ハレルヤアアァッ!!!」

 

 

マルタさんは自ら敵へと突撃し。

伸びてきた無数の触手を躱して渾身の一撃を海魔に叩き込む。

タラスクは口から火を吐いて援護しつつ、その背を護っていた。

 

 

「ギャーッ!!ワシ違うから!ニセモノだから!!」

 

「マルちゃん!!」

 

「こっちだフレイズマル!」

 

 

俺と誤認した海魔に追いかけられ、逃げ回るマルちゃん。

一緒にマスターを護ってくれていたジークフリートが見かねてマルちゃんをこちらに呼んだ。

 

 

《危なかった!危なかった!外見的にも年齢的にも触手プ○イはアウトだから!!》

 

「アンタのその発言の方がアウトよ!」

 

「え?触手がなに?」

 

「あっ!いいのよコンラ!気にしないで!!」

 

「???」

 

 

触手がどうのこうの言っていたみたいだけど、マルちゃんを追いかけて来た海魔を退治してたら聞き逃してしまった。

まぁ、マスターが気にしなくていいって言うならいいんだろう。

マルちゃんは追いかけ回されたのが相当嫌だったらしく。俺達の元に来るとすぐ様カワウソの姿に戻った。今は俺の足元でゼェゼェと息を整えている。

 

 

「ちっ!雑魚とはいえ多勢に無勢はキツイわね。

タラスク!!」

 

《了解っす!やっと俺の見せ場っすね!!》

 

 

前衛で戦っているマルタさんがタラスクの甲羅に触れ、魔力を渡す。

 

 

《「《愛知らぬ哀しき竜よ!!!!(タラスク)》」》

 

 

彼女の宝具であるタラスクは頭と手足を甲羅の中に引っ込め。自分が吐いた炎を纏い高速回転しながら海魔の群れへと突っ込む。

爆発したような衝撃と共に押し寄せた熱風に数秒目を瞑り。開くと海魔は全て綺麗に焼き払われていた。

 

 

「ナイスよタラスク!私とタラスクにかかればあんなヒトデもどき、敵じゃないっての!!」

 

 

見事に敵を一掃して胸を張るマルタさん。

タラスクも褒められたからかちょっと嬉しそうだ。

 

 

「忌々しい売女ですね。ですが、これで終わりではありませんよ!!」

 

「げっ!」

 

「嘘でしょ!?」

 

 

せっかくマルタさんが駆除してくれたのに。

海魔はジル・ド・レェが本を掲げただけで再び召喚されてしまった。

しかも明らかに前より多く召喚されている。

 

 

「この数で単騎は危険よ!マルタ!

いったんこっちに合流して!」

 

「ーーーそれが最善、か。」

 

 

マスターの注意を受け、マルタさんは口惜しげに前衛からタラスクを伴って俺達の元に後退した。

 

 

…………………………………………………………………………

 

※コンラくんはたぶん(ジャンヌを除いたら)青髭の旦那の好みドンピシャだと思ったので。

戦闘シーンがツライ!

 



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怪物達の夜

 

 

襲ってくる海魔を迎撃しながら退き、俺達は無人の街に戦いの場を移していた。

海魔の大群を相手にするには開けた場所より、コチラで市街戦に持ち込んだ方が有利だと考えたからだ。

 

 

「見たところ海魔を召喚する術式はあの本が展開しているようね。あの本を壊すか、術者の手から離せれば召喚を止められるかも。」

 

「問題は術者にどう近づくかだな。」

 

 

家の影に身を潜め、マスターの魔術で敵の目を欺きながら俺達は顔を突き合わす。

街には海魔達を引き連れ、獲物()を探して徘徊するジル・ド・レェの声が不気味に響いていた。

 

 

「フフフハハハハハハッ!!

どこですか坊やぁあっ!!?出てきなさぃい!!」

 

 

嫌だよ!(即答)

酷い目に合わされるってわかってて出て行くわけないじゃん!

俺は心の中で叫びつつ全力で自分の気配が悟られないように努める。

 

まさかリアル隠れ鬼をする日が来るとは思わなかった!

鬼は変態とタコヒトデお化け。

捕まったら(マスターいわく)とても口では言えない様な酷い目に合わされるらしい。

 

うん。

絶対に出て行かない。←(震え声)

 

 

俺はタラスクのたてがみをモシャモフさせてもらったり。

マルちゃんの毛並みをナデナデして(変態)への恐怖を紛らわす。

2人(匹?)とも同情してくれたのか、何も言わずに大人しく触らせてくれた。

 

 

「オルガマリー。ひとつ案があるのですが。」

 

「あっ。また聖女モードに戻ったのね。」

 

「ぐっ・・。ゴ、ゴホン!

なんのことでしょうか?」

 

《姐さん。あの姿を見られちまったんすから、

しらを切るのはもう無理だと思うんすけど。》

 

「そんなことないわ!

まだいける!まだい・・けると私は信じています。」

 

 

よくわからないけど、マルタさんにはマルタさんの何かこだわりがあるらしい。

バツが悪そうな顔をしながらも、聖女モードに戻った彼女はある提案をマスターに告げた。

その内容を聞いた俺達はーーー

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

「あぁ。こんなに時間がかかってしまうとは。

申し訳ありませんジャンヌ!ですが、あと少し。もう少しで・・!」

 

 

ジル・ド・レェは隠れた獲物と排除すべき匹夫達を探して、宵闇に包まれた街を海魔と共に練り歩く。獲物を炙り出す仕掛けを済ませ。

《その時》が来るのを己の信じる聖処女を想い待っていた。

しかし、そんな彼の前に予期せぬ人物が現れる。

 

 

「・・・・。」

 

「おや?誰ですか貴方は?」

 

 

ジル・ド・レェと海魔の行く手を阻む様に佇むのは壮年の1人の男。

黒い髪に金の瞳。

どこかやつれた印象を受けるが、よく見れば整った顔立ちをしていた。

男は問いには答えず。

逆に自ら聖なる怪物(ジル・ド・レェ)へと話しかける。

 

 

「お主、神が嫌いなんだろう?ワシもだ。」

 

「ほう!それはそれは・・では、貴方は私の同志という訳ですね!」

 

 

男の短い言葉から神への嫌悪を感じ取り、怪物(ジル・ド・レェ)は歓喜する。

 

 

「素晴らしい!!

最高の供物に出会えた夜に、こうして神を憎む同志とも出会えるとは!まさに今夜は涜神の夜!!

同志よ!ともに獲物を狩り!蹂躙し!

応えぬ神を呪い乏しましょう!!」

 

 

悦び、興奮するままに男を勧誘するジル・ド・レェだったが。

男はそんな彼を憐れみのこもった眼差しで見つめていた。

 

 

「そうか。お主・・神を心の底から信じておったのだな。」

 

「ーーー。」

 

「だから神が応えぬ事に失望し。裏切られたと怒り。狂うほどに憎悪した。深い信仰心があったからこそ、お主は転じて深い狂気に染まってしまったのだな。」

 

「ーーー貴方は、何が言いたいのですか?」

 

「いや・・ただ、お主のおかげでようやく気づけただけだ。」

 

 

天を仰ぎ、男は呟く。

その瞳には鋭い牙のような三日月が映り。

耳には月に似た鋭い牙を持つ怪物達の羽ばたきの音が聞こえていた。

ジル・ド・レェも迫るその音に気づき、訝しげに空を見上げる。

その時には既に星月の光は空を覆う怪物達に遮られ、漆黒の闇が広がるばかりだった。

 

 

ーーーギャアアアアアアッ!!!

 

 

「すまん、ファヴニール。お主はこんなにも激しい憎しみを抱くほどに。生前、ワシ()の事を信じ慕ってくれていたのだな。」

 

 

その信頼を裏切った己の罪を目に見える形で示され、

男ーー人の姿に戻ったフレイズマルは哀しげに嘲笑う。

そんな彼を殺そうと。

ファヴニールの竜の因子に刻まれた憎しみの感情に突き動かされるワイバーン達は。

臭いを頼りにこの無人の街の上空に集結した。

天を舞うワイバーンの大群に、海魔達も威嚇の鳴き声を上げる。

ジル・ド・レェはいつもの様に(聖杯のサポートで得た)魔術によってワイバーンを操り、場を収めようとするがそれは叶わなかった。

 

 

「馬鹿な!私の魔術をもってしても操れないとは!?いったい何をしたのですか!?」

 

 

まったく彼の魔術による精神操作を受け付けなくなったワイバーン達に驚愕し。

原因であろうフレイズマルに詰め寄るジル・ド・レェ。

 

 

「ワシは何もしておらんよ。」

 

 

しかし、フレイズマルの言う通り彼は何もしていなかった。

因子という本能に近い部分に刻まれた憎悪により、ワイバーン達は衝動のままフレイズマルを襲いに来たに過ぎないからだ。

いくら強力な魔術を使おうとも、幻想種の頂点たる竜種の本能を塗り変える事は出来なかったのだ。

 

 

ーーさて・・さっさと済ませるか。

 

 

フレイズマルは自ら近づいてきたジル・ド・レェの体に気づかれぬように触れ、己の血を付着させた。

そしてその血液を媒体とし自身の能力を行使する。

 

 

「怪物に怪物を退治させようなんて、とんでもない事を思いつく聖女もいたものだ。

お主もそう思わんか?

まぁ、ファヴニール(息子)の一件があるから同情はせんがな。

それにーーーお主にオッテル(息子)に似たあやつ(コンラ)を殺されるのは目覚めが悪い。」

 

「なーーーッ!!?」

 

 

次の瞬間、ジル・ド・レェの姿はフレイズマルとなり。

フレイズマルはカワウソの姿に変じていた。

 

 

《せいぜい頑張れよ!同志!》

 

 

聞こえぬ声で、フレイズマルは皮肉を込めて男を励ますと。

素早い動きで石畳を駆け、路地裏へと消えていった。

 

残されたのはフレイズマルの姿に容姿を変化させられ、彼の血という臭いを付けられたジル・ド・レェと海魔のみ。

ワイバーン達はそんな彼をフレイズマルと誤認し、本能のままに殺そうと殺到する。

 

 

「おのれっ!!おのれぇえええっ!!!!」

 

 

はめられた事を悟り、ジル・ド・レェは湧き上がる憤怒を吼える。

だが、もう襲い来るワイバーンを止める手立ては彼には無かった。

彼は敵の思惑通りだと理解しつつも海魔達に命じ、ワイバーンを迎え撃つ。

 

 

ーーーこの夜、フランスの小さな街でワイバーンVS海魔という世にも稀な怪物大戦が勃発した。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

※先週は投稿できず、すみませんでした!

一度書いた文章が納得いかずに書き直していました。そして書き直したら何故か青髭の旦那が大変な事になった。

今回は2話投稿します!

短い、ですが(汗)

 



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魔手

 

 

物量(怪物)には物量(怪物)で対抗するという奇策を思い付いたマルタさん。

(本人いわく天啓を受けたとの事)

その策の(かなめ)であるマルちゃんはマルタさんとマスターの説得により、渋りながらも1人で変態(ジル・ド・レェ)のところへ向かった。

 

・・やっぱり1人じゃ心配だ。

危ないと感じたら直ぐに逃げるって言ってたけど。今からでも追いかけた方がいいんじゃないかな?

(正直、アイツの前に出るのは凄く怖いけどマルちゃんだけ危険な目に合わせるのはイヤだ。)

 

この特異点(フランス)で初めて会って友達になったのがマルちゃんってこともあるけど。

(理由はわからないけど)マルちゃんと父さんの眼が似ていると感じてから。

俺はより、マルちゃんの事を他人だと思えなくなっていた。

 

 

「マスター。俺、マルちゃんのところに行ってくる!」

 

「なっ!?ダメよ!

あの変態の一番の狙いは貴方なんだから!!」

 

 

駆け出そうとした俺の手を慌てて掴んで、マスターは俺を引き止める。

 

 

「でも・・」

 

「彼女の言う通りだ。君は此処で時が来るまで待った方がいい。」

 

「ジークフリート。」

 

 

立ち塞がる様に俺の前に出たジークフリートは、静かな声で俺を諭す。

 

 

「彼なら逃亡の際に小回りがきく分、逃げおおせる可能性が高いが。君が行けば足手まといになる。2人とも敵に捕まる危険が高まるんだ。気持ちはわかる。だが、すまないが大人しくしていてくれ。」

 

「ーーーでも、俺。友達が危ないのに自分だけ安全な場所にいるの・・嫌なんだ。」

 

「コンラ・・。」

 

 

ジークフリートの正論に返す言葉が見つからない。

それでも胸に湧く焦燥は強くて。

俺は唇を噛み締めて走り出したい衝動を堪えた。

マスターはそんな俺の手を両手で包み、安心させるように優しく声をかけてくれた。

 

 

「大丈夫よ。アイツはそんな簡単にやられないわ。だって、アイツにはやらなくちゃならない事があるんだから。きっとどんな手を使ってでも目的を果たすまで生き延びるわよ。」

 

「あっ・・。」

 

 

そうだ。

最初はなんて意地汚いカワウソなんだと思ったけど。一緒に行動しているうちに、マルちゃんは意外としたたかで(本人は認めないけど)何だかんだで良い人だって事を俺は知ったのだ。

 

 

「・・そう、だね。マルちゃんなら。」

 

 

マルちゃんはファヴニール(息子)を呪いの苦しみから解放するまで、絶対に死んだりしない。

マスターの言葉にそう確信が持て。

俺は頷き、焦燥に駆られる心を静めてくれたマスターに笑いかける。

 

 

「ありがとうマスター。

マスターが俺のマスターで本当に良かった!」

 

「ッ!!」

 

「ジークフリートもありがとう。」

 

「俺は礼を言われる様な事はしていない。

むしろ、君の気持ちを無下にしてしまってすまなかった。」

 

「ううん。間違った事をしようとしたのは俺の方だから。」

 

 

前の特異点(冬木)では俺の勝手な行動で多くの人に迷惑をかけてしまった。

それからは同じ事がないように気をつけてたつもりなんだけど。

危うく感情のまま、また1人で暴走してしまうところだった。

間違いを繰り返す前に止めてくれたマスターと、諌めてくれたジークフリートには本当に感謝だ。

 

 

・・・ところで話は変わるけど。

ジークフリートは悪い事をしてないのに何でこんなに謝るんだろうか?口癖?

 

 

俺は頭に浮かんだ素朴な疑問を、思い切って当人に聞こうとした。

その時ーー

 

 

「うっ!ぐっ・・・彼が始めた、ようだ。」

 

「っ!!」

 

 

ジークフリートが呻き声を上げ、膝を付いた。

顔を歪めてファヴニールの因子の強烈な殺意を堪える。衝動に流されまいと彼は必死に理性を保っていた。

 

マルちゃんが術を解いて人の姿に戻ったんだ!

 

俺は慌てて(何故か頬を染めて硬直していた)マスターの体を揺すり、意識を戻す。

 

 

「マスターッ!マスターッ!

ワイバーンが来るよ。マルちゃんとの合流地点まで移動しよう!」

 

「ーーハッ!そ、そうね。」

 

 

これからマルちゃんの臭いに引き寄せられて、此処にワイバーンの大群が来る。

そのワイバーン達と海魔を戦わせ。

数が減ったところで隙をついて近づき、あの本を壊すというのがこの先のプラン(計画)だ。

 

俺はつらそうなジークフリートを支え、マルタさんとタラスクにも声をかける。

けれど、何故か返答はなかった。

(そういえば、さっきから2人とも反応がないような?どうしたんだろう?)

不思議に思い、振り返ると。

 

 

「ーーーー。」

 

《ーーーーっ。》

 

 

マルタさんがコチラを見つめ、一切の表情が抜け落ちた顔で立ち尽くしていた。

驚く俺達の前で、タラスクが苦しげな声でマルタさんを呼ぶ。

 

 

《ーーーねえ、さん!

こんな、のに。

負けちゃ・・ダメっす!》

 

「ーーーあっ。」

 

 

タラスクの呼びかけに、マルタさんの血の気が失せていた顔に僅かに生気が戻る。

虚ろだった瞳に理性の光が宿り、強く握り締めていた拳が解かれた。

片手で頭を抑え、マルタさんは絞り出すような声音で俺達に危機を伝える。

 

 

「お、ねがいっ!ーーー逃げてっ!!」

 

「っ!!」

 

 

その言葉に。

何かに必死に抗う彼女のその姿に。

■■ラとして死ぬ直前に見た光景が脳裏に蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

《逃げろ!■■ラ!!》

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーランサー。」

 

 

あの夜の友人(ランサー)と似通ったマルタさんの行動に、俺は悟る。

彼女はいま、あの時の友人と同じ様に何者かに支配されかけているのだと。

 

 

 

ーーーギャアアアアアアッ!!!

 

 

 

そして、そんな俺達の頭上を。

飛来したワイバーンの大群が夜空を覆い隠すように埋め尽くした。

 

 

………………………………………………………………………………

 

※遅まきながらUA5万ありがとうございます!

これからも面白い作品が書けるようがんばります!まずはコンラくんとヤリニキを再会させなければ。

 



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血を啜る者

 

 

第三者視点

 

 

聖女マルタ。

彼女は竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)によってバーサーク・ライダーとしてこのフランスに召喚された。

 

彼女は召喚主からジークフリートの殺害を命じられるも。その屈強な精神で狂化の衝動を耐え、命令にも逆らっていた。

彼女の精神力であれば、紙一重ながらもこのまま耐え切る事が可能であっただろう。

しかし、それはジル・ド・レェの策略により阻まれる。

 

ジル・ド・レェは街を歩き回りながら密かに己の魔力を街中に散布していた。

その魔力には精神を不安定にさせる《精神汚染》の効果が込められており。

通常の精神状態の英霊や人間には微々たる作用しか及ぼさないそれは。

辛うじてバランスを保っていたマルタの精神を崩すには十分な力を持っていた。

 

 

「ーーーー。」

 

 

ーーー竜殺しを殺さなければ。

そう、命じられたのだから。

 

 

精神のバランスが崩れ、正気が狂気に侵蝕される。

彼女はサーヴァント(使い魔)として。

己が召喚された目的を果たさなければならないという強い強迫観念に駆られた。

その押し寄せる流れに逆らえず。

流されるままに油断する仲間()を葬ろうと、震える手を彼女は拳の形にした。

 

 

《ーーーーっ。》

 

 

しかし、その拳は振り上げられる事はなく。

ダラリと力なく彼女の脇に下がったままだ。

 

 

《ーーーねえ、さん!

こんな、のに。

負けちゃ・・ダメっす!》

 

「ーーーあっ。」

 

 

聞き慣れた声が耳を打つと同時に、自分を押し流そうとする狂気が弛むのがわかった。

苦しげな声で自分を鼓舞するタラスクに、彼女は自身を苛む狂気が軽くなった理由を察する。

 

悪竜タラスク。

彼は英霊となった聖女マルタの宝具である。

故にその魂はマルタと座を共有し。

彼女の生前は守護竜として霊体の姿で常にその傍らにいた事から。

マルタの魂の一部と言っても過言ではない存在と化していた。

タラスクはその魂の深い繋がりを利用し、マルタを蝕む狂気の半分をその身に引き受けたのだ。

 

 

ーーータラスク。

 

 

精神を蝕まれる苦しみを、自分の為に自ら背負ったタラスクの献身にマルタは胸が締め付けられるような想いがした。

彼女は当初、(舎弟として)自分が彼の面倒をみているつもりでいた。

だが、共に修練を重ね長い時を過ごすうちに。

マルタにとってタラスクは家族にも似たかけがえのない存在になっていた。

 

 

ーーーそうよ。

こんなこと、で・・っ!

 

 

生涯をともに歩き、支え合ったタラスク(家族)の想いを無駄にしまいと。

マルタは拳を解き、混濁する意識と戦いながら仲間に警告する。

 

 

「お、ねがいっ!ーーー逃げてっ!!」

 

「っ!!」

 

 

異常を感じ取っていた少年(コンラ)は息を呑み。

すぐにオルガマリーとジークフリートを急かして2人から距離をとった。

その様子にマルタはひとまず緊急の危機は去ったと。心の中で安堵の息を吐く。

だが、タラスクが狂化の半分を肩代わりしていても今の彼女では衝動に流され彼らを襲ってしまう確率はゼロではなかった。

 

 

ーーージークフリートはファヴニールを倒す切り札。失うわけにはいかない。

・・この場を離れなくては。

 

 

殺害対象が目の前にいては命令の強制力が強まるばかりだと判断し。

マルタはタラスクを連れて仲間から離れる事を選んだ。

 

 

「・・タラスク、行くわよ。」

 

《ーーはいっす。》

 

 

たった一言。

その一言に対して、何も聞かずに彼女について行く意志を示したタラスク。

彼のその行動にマルタは小さく微笑った。

改めてタラスクが自分へと寄せる信頼を感じ取り。彼女はそれが嬉しくてたまらなかったのだ。

マルタは手を伸ばし、隣に寄り添うタラスクの甲羅を優しく撫でる。

 

 

ーーー1人では堪え切れぬ狂気も、2人で(タラスクと一緒)ならば持ち堪えられる。

 

 

そう、確信を抱きながら慈愛に満ちた眼差しを彼女はタラスクに向けた。

心から信頼し、慕うマルタに労るように撫でられ。喜びを感じたタラスクは彼女の顔をもっとよく見ようと頭を斜め上へ傾けた。

 

 

《姐さん・・》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)》」

 

 

そんな彼を。

彼の真下の地面から生えた無数の杭が、無慈悲に穿いた。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

「「タラスクッ!!!」」

 

 

マルタさんの上げた悲痛な声と。

俺の驚きの声が重なる。

 

唐突に地面から生えた複数の杭に。腹部を穿かれ、そのまま動かなくなったタラスク。

大量の血が巨体の下から流れだし、石畳を濡らしていく。

 

 

「タラスクッ!タラスクッ!

たーーーーあ、あ″。

ああアアああ″あぁッ!!!!」

 

 

膝を折り、動かないタラスクに必死に呼び掛けていたマルタさんの喉から絶叫が上がった。

両手で頭を抱え、苦しむ様に身をよじったかと思うと。ピタリとその動きは直ぐに止まった。

 

 

「・・・マルタ、さん?」

 

 

そして彼女はおもむろにコチラを振り返り、誰にともなく告げる。

その昏い瞳には無機質な殺意だけが映っていた。

 

 

「ーーー竜殺しを、殺ス。」

 

「ッ!すまないっ!!」

 

「え?わあっ!?」

 

「きゃっ!!」

 

 

地を蹴り、マルタさんは弾丸の様なスピードで俺達に襲いかかって来た。

ジークフリートはとっさに俺とマスターを突き飛ばし、振り下ろされた拳をクロスさせた腕で受ける。

 

 

「ーーーッ!!!」

 

 

けれど、衝撃を受けきれずに。

後方へと彼の体は吹き飛ばされた。

 

 

「ジークフリートッ!!」

 

 

民家の壁を突き破り、崩れた瓦礫と土煙でその姿が見えなくなる。

マルタさんはジークフリートを追撃する為、躊躇うことなくその土煙の中へ飛び込んでいった。

 

きっとマルタさんは《あの時》の友人(ランサー)みたいに。

ジークフリートを殺すよう強制されてるんだ。

マルタさんを止めて2人を助けないと!

 

《あの夜》の(■■ラ)とランサーみたいな目に2人を合わせたくないと思い。

俺は反射的に2人の後を追おうとした。

でも、再び地面から現れた杭が柵のように列なり。そんな俺の行く手を遮った。

 

 

「あやつらには殺し合ってもらった方が愉しめるのでな。邪魔しないでもらおうか、小僧。」

 

「コンラッ!避けて!」

 

「ッ!?」

 

 

続いて、俺めがけて足元から飛び出してきた杭をギリギリで躱す。

あ、危なっ!

マスターの一声がなかったら躱し切れなかったかも。

 

俺は冷や汗をかき、聞き覚えのない声がした方に顔を向ける。

すると、近くの民家の屋根の上に2つの人影が立っていた。

 

 

「あら、血の美味しそうな娘がいるじゃない。

あっちの子はーーー男なのね。

もったいないわ。せっかく可愛い顔をしているのに。」

 

 

あの男(ジル・ド・レェ)にワイバーンから振り落とされた時は、どうしてくれようかと思ったが。

面白い事になっているな。」

 

 

赤と黒のドレスを纏い仮面をつけた女の人に。

黒い貴族服を着た長髪の男。

空を飛び交うワイバーンに時折光を遮られ、明滅する月明かりの下。

俺とマスターを見て、2人の吸血鬼は嗤った。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

※また短くて申し訳ありません。

今回は吸血鬼の2人が登場。

興奮した変態(ジル・ド・レェ)に途中でワイバーンから振り落とされて、ようやく追いついてきた模様。

マルタさん、タラスク・・ごめんよ。

 



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2人の父親

 

 

第三者視点

 

 

 

「あの娘は私がもらっても?」

 

「構わない。余は小僧の方をもらおう。」

 

 

バーサーク・アサシン(カーミラ)バーサーク・ランサー(ウラド三世)は短い言葉を交わし。

お互いの血を啜る相手を決め、狩りを開始した。

 

 

「さぁ、私の美の糧になってちょうだい?」

 

「ーーえ?なっ!?」

 

 

カーミラは屋根から飛び降りると、己の杖の一部である鎖を魔力で操り。瞬時にオルガマリーの肢体を拘束した。

そしてズルズルと絡め取った獲物の体を己の元へと引き寄せる。

その先に待ち受けるのは、少女の姿が彫られた棺の様な拷問器具ーー《鉄の処女(アイアン・メイデン)》。

ゆっくりと開かれた棺の中身は隙間なく鋭い棘に覆われ、オルガマリーが入るのを待ち構えていた。

 

 

「ーーーッ!!!」

 

「マスターッ!!」

 

 

迫る死の恐怖に声も出ないオルガマリーを助けようと。コンラは剣を片手に己のマスターの元へ向かう。

そんな彼の前にウラド三世が立ち塞がった。

 

 

「貴様の相手は余だ。

気に入らぬ召喚主に望まぬ形で喚ばれたのだ。

少しぐらいこの余興を愉しませてくれ。」

 

「知らないよそんなこと!

邪魔すんな吸血鬼っ!!」

 

 

助けに行く事を邪魔され、焦りからウラド三世に暴言を吐くコンラ。

敵の吸血鬼のような容姿を見て、彼は見たままを言ったのだが。その言葉はウラド三世の怒りを買ってしまう。

 

 

「・・・いま、何と言った小僧。」

 

 

竜の魔女に召喚された今のウラド三世は、狂化の影響で身に宿る吸血鬼の能力を許容してはいるが。本来の彼は《吸血鬼》という汚名を注ぐ為に英霊となったルーマニアの王である。

そんな彼にとって《吸血鬼》と呼ばれる事は最大の屈辱であり侮辱であった。

禁句とも言えるその言葉を吐いたコンラに対し、ウラド三世は怒りから顔を歪ませる。

 

 

「余をその名称で呼ぶとは。

ーーー遊びはやめだ。死ね!」

 

 

石畳から、民家の壁から、数えきれない程の杭が出現し。コンラの全身を串刺しにしようと一斉に襲いかかる。彼に逃げ場はない。

 

 

「コンラッ!!」

 

 

自身に身体強化の魔術をかけ、カーミラの引く鎖に必死に抵抗していたオルガマリーは叫ぶ。

己にとって何よりも大切な存在(コンラ)を失うまいと、令呪をきろうとした。

しかし、それは本人に念話で止められる。

 

 

《大丈夫だよマスター。

安心して、すぐ助けるから!》

 

 

そして彼は己のマスター(オルガマリー)にかかる負担を考慮し、今まで使用を控えていた宝具を発動する。

 

 

「《穿く必勝の光槍(ブリューナク)!!!》」

 

 

コンラに喚ばれた5つの光槍が、今の主を護る為に迫る全ての杭を砕き、燃やし尽くす。

 

 

「なにっ!?」

 

 

強い輝きを放つ宝具が召喚され、とっさに眩しさから目の前に手をかざすウラド三世。

コンラはその隙に光槍の1本を操り、オルガマリーを拘束していたカーミラの鎖を断ち切った。

 

 

「ちっ!邪魔を・・(ブタ)のくせにっ!」

 

「《ガンドッ!》」

 

「っ!?・・くぅっ!!」

 

 

拘束から逃れたオルガマリーは自由になった腕を伸ばし、直ぐ様カーミラへとガンドを撃つ。

高い魔力密度から形成された赤い魔弾が彼女の白い腕を撃ち抜いた。

だが、彼女の反撃はこれで終わらない。

 

 

「天体は空洞。空洞は虚空。虚空には神ありき。

神に選ばれし少年(ガニメデス)よ。いまがその瓶を覆す時。」

 

 

オルガマリーが発動した魔術により、彼女の前にひとつの星座の図が展開する。

それは神話の時代、(ゼウス)に選ばれ神の給仕係となった少年の姿を象った星座。

 

 

「ーー浄化せよ《水瓶座(アクエリアス)!!!》」

 

 

少年の持つ水瓶が逆さになり、中から神々の美酒ーー地上の者にとっては《聖水》が水流となってカーミラを押し流す。

 

 

「ーーーッ!!!」

 

 

絹を裂くような悲鳴が彼女の喉からほとばしった。聖水は吸血鬼の弱点。

吸血鬼として現界している今の彼女にとってもそれは変わらない。

 

 

「あ、ぁあっ!そんな!

私の、わたしの肌が・・美がっ!」

 

 

聖水を浴びた肌が焼け爛れ、煙を上げるのを直視したカーミラは泣き叫ぶ。

己の美しさに死しても執着する彼女にとって、それはあまりにも残酷な光景だった。

そんな半狂乱の彼女を見、オルガマリーは良心の呵責を感じたが。

首を振り、罪悪感を払うとカーミラへとその指先を向ける。

 

 

「私はあの子(コンラ)のマスターなの。あの子(コンラ)の為に。貴女に殺されるわけにはいかない。」

 

 

彼女は己のただひとりのサーヴァントを想い。

彼の為に。彼のマスターとして。

冷静かつ、冷酷に人差し指の先に宿った魔弾を放った。

 

 

「あっ・・。」

 

 

カーミラは無抵抗のまま急所となる額と心臓を撃ち抜かれ、霊基を破壊される。

悲鳴は止み。

グラリと、細い体が傾き淡い光に包まれた。

 

 

「ーーーだから、怨まないでよね。」

 

 

弱気な言葉とは裏腹に。

消えるカーミラを見送ったオルガマリーの瞳には、強い意志が宿っていた。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

《・・今の音は。それに、この血の匂い。》

 

 

コンラ達との合流場所を目指して走っていたカワウソーーフレイズマルは。

異常を察知し、その脚を止めた。

路地裏から大通りへと出て、小さな鼻をひくつかせる。

覚えのある血の匂いと、嗅いだことのない人間の匂いを嗅ぎとり。

破壊音の聞こえた方向に彼は眼を向けた。

 

 

《まさか、新手か・・?》

 

 

フレイズマルの脳裏に真っ先に浮かんだのは次男(オッテル)に似た子供と三男(レギン)に育てられた青年の姿。

当初はただ長男(ファヴニール)を殺すという目的の為に2人を利用するつもりでいた彼は。

息子達を思い起こさせるコンラとジークフリートと接するうちに。

いつの間にか彼らに情を移すようになっていた。

故に、彼らの安否を気にしつつ。

フレイズマルは元来た道を急いで戻ろうとした。

その矢先。

 

 

「■■、■■、■ーーッ!」

 

《うげっ!》

 

 

運の悪いことに、ジル・ド・レェの支配下から逃れた1匹の海魔が彼のいる大通りを通りかかった。嫌な音を立てながらワイバーンの亡骸を咀嚼して移動していた海魔は。

フレイズマルに気がつくと、残りの亡骸を一口で飲み込み。

新たな獲物を求めて彼に襲いかかってきた。

 

 

《ギャーーッ!!!》

 

 

フレイズマルは今夜2度目となる絶叫を上げながら、海魔の反対方向へと全力で走り出した。

しかし、カワウソの姿の彼ではスピードはあっても歩幅が完全に相手に負けていた。

しだいに距離を詰められてしまう。

 

フレイズマルはいっそ鳥に変化して空へ逃げようかと思考を巡らせ、走りながら術を行使しようとした。その時ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!》」

 

《っ!?》

 

 

逃げる彼の頭上を1本の朱い槍が音速で通り過ぎ。背後に迫っていた海魔を穿いた。

 

見覚えのある(コンラの血の遺伝子情報を分析する際に、彼の記憶に映っていた)朱槍に。

フレイズマルは「まさか」と眼を見開き、槍の飛んできた方へ顔を向ける。

 

 

「アンタ、ただのカワウソじゃねぇな。

・・・英霊か?」

 

 

その男は思いの外近くにいた。

手元に戻ってきた魔槍を慣れた動作で肩に乗せ。

ゆうゆうとフレイズマルの前まで石畳を歩いてくる。

 

 

「色々と聞きてえ事はあるが。

とりあえず、ひとつだけいいか?」

 

 

あと数歩という所で立ち止まり。

海魔が完全に消滅したのを確認してから。

男は視線をフレイズマルに近付けるようにしゃがみ、問う。

 

 

「金髪の坊主と白髪の嬢ちゃんのふたり連れを見てねぇか?探してんだ。」

 

《ーーーッ!》

 

 

間違いないと、彼は確信する。

目の前の男があの子供(コンラ)の父親である事を。

 

そして同時に、助けられたにも関わらず。

フレイズマルの胸の内に(クー・フーリン)への激しい嫌悪感が湧き上がる。

それは2人が息子を持つ父であり。

2人が同じく我が子を苦しめる罪を犯した罪人であった事からくる《同族嫌悪》であった。

 

フレイズマルは欲に目が眩み息子(ファヴニール)を邪竜へと転じさせてしまった。

クー・フーリンはその手で2度も息子(コンラ)を殺し魂すら幻霊にしてしまった。

 

息子に殺された父親(フレイズマル)息子を殺した父親(クー・フーリン)

 

真逆の立場でありながらも、息子への贖罪という同じ目的の為にフランス(この特異点)に降り立った2人の父親は。

こうして混沌と化した街中で出会ったのだった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

※所長にオリジナル魔術を使わせてしまった。

公式で天体に関する魔術を使っていたので、星座くらいいけるかなっと。

いける筈だ・・腹をくくった所長なら、きっと。

最後にヤリニキがやっと来ました。

コンラくんとの再会までもう少し!

 



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守護竜タラスク

 

 

第三者視点

 

 

 

ルー神から事の次第を聞き。

この特異点(フランス)へとランサークラスとして召喚されたクー・フーリン。

だが、彼はコンラと過ごした特異点F(キャスタークラスの時)の記憶を引き継ぐ事は出来なかった。

 

当初はルー神から伝え聞いた情報だけを頼りに。

宛もなく聞き込みでコンラとそのマスターの行方を探していたランサーだったが。

交戦中のワイバーンの突然の奇行に疑問を抱き。

その後を追いかけ、ワイバーン達が集結する街ーーコンラ達のいるこの街へと辿り着いたのだった。

 

情報を得るため、海魔に追いかけられていた(おそらく)カワウソの姿をした英霊を助けたランサーは。

己の問いに答えず、睨む様にコチラを見上げる相手にどうしたものかと頭を悩ませる。

 

 

ーーーもしかして。喋れねぇのか?

 

 

そう思い至った彼は(情報が得られないならば)と立ち上がり。歩を進めてカワウソーーフレイズマルの横を通り過ぎる。

彼は自らの眼でこの街の状況を確かめる事にしたのだ。

 

 

「ーー待て。」

 

 

ふいに、そんなランサーを呼び止める声がした。

酷く懐かしい、聞き覚えのある幼い声音。

忘れられる筈もない。

生前に己が殺めた、息子(コンラ)の声。

 

驚き、弾かれたように彼は振り返る。

その眼に飛び込んで来たのは、初めて会った時のままの幼いコンラの姿。

 

 

「ッ!コン、ラ・・じゃ、ねぇな。」

 

 

しかし、その瞳に渦巻く昏い鬱々とした感情の色と。ルー神が創造した器にも関わらず神気をまったく感じない肢体に。

彼は目の前の存在が息子とは別人である事を一目で見抜く。

 

 

「てめぇ、その姿はどういう事だ。

答えによっちゃ容赦しねぇぞ。」

 

 

コンラの姿に変じたフレイズマルに。

息子の身を案じ、思わず殺意を滲ませるランサー。

そんな彼に対し、フンッと不機嫌そうにフレイズマルは鼻を鳴らした。

 

 

「早とちりするな。ワシはお主の息子の味方だ。

あやつに会いたければ黙ってワシについて来い。」

 

 

一方的にそれだけを告げ。

フレイズマルは時間が惜しいとばかりに、返答も待たずに駆け出した。

ランサーは相手のその態度に眉をひそめるも。

深いため息を吐き、大人しく彼の後を追いかける。

 

 

ーーーあぁ、くそっ!

分けわかんねぇぜ。

 

 

息子に会う為に、息子(の姿をした別人)の背を追いかけるという奇妙な状況に頭痛を覚えながら。

ランサーは自らコンラのいる火中へと身を投じるのだった。

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

「ここまでか・・。」

 

 

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》に腹部を穿かれ、身の内を焼かれながらも立ち続ける男は。

誰にともなくそう呟くと、俺に向けていた銀の槍の矛先を下ろした。

どうやらもう戦う意思はないみたいだ。

勝負が着いたのを確信し、俺も光槍を送還する。

 

 

「小僧。まだ甘いが、良い槍さばきであった。

この(狂化された)状態で武人の血が騒ぐとは思わなかったぞ。

ーーそして問おう。あの槍からは神の気が放たれていたが。もしや貴様は神に関わりのある者か?」

 

「あ、うん。爺ちゃんが神様なんだ。」

 

「やはりそうか。悪魔()の息子が神の血筋に滅ぼされるのは道理。ふっ・・この結末は当然だったか。」

 

 

俺の答えに何やら納得した様子で自嘲した後。

男は光の粒子に姿を変え、静かに消えていった。

 

 

ーーさっきまで凄く怒ってたのに。

急に褒めたり、納得したり。

よくわからない敵だったな。

 

 

敵の変化に疑問を覚えたけれど。

それよりも気がかりなタラスクの容体を聞きに、俺はマスターに駆け寄った。

(先にもう1人の敵を倒したマスターには、俺の援護ではなくタラスクの治療を優先してもらったのだ。)

 

 

「マスター!タラスクは?」

 

 

俺の問いにマスターは目を伏せ、首を横に振る。

 

 

「残念だけど・・持ってあと数分ね。」

 

「そんな・・」

 

 

俺は自分の声が震えるのがわかった。

タラスクが、友達が消えてしまう。

正しくはマルタさんの座に還るらしいけど。

また今回みたいに俺がタラスクと会える保証はどこにもない。

これが今生の別れになるなら、それは死別と変わらないのだ。

消えゆくタラスクを、何も出来ずにただ見送る。

そんなことしか出来ない自分が酷く歯がゆかった。

せめてその温もりを忘れまいと。

光に変換されていくタラスクの頭部をそっと撫でた。

 

 

《・・・ね、えさん。》

 

「っ!」

 

 

すると、タラスクの閉じられていた目蓋が持ち上がり。その瞳にゆっくりと俺の姿を捉えた。

そして足掻くように力なく垂れていた四肢を動かすと。

急に首を上げ、ワイバーンが飛び交う夜空へと話しかける。

 

 

《ーーーあと、は。たのむっす・・よ。》

 

「え・・っ!?」

 

「ちょ!何なの!?」

 

 

次の瞬間、タラスクはいきなり口から焔を吐き出し。自分の体をその焔で包んでしまった。

(寸前で手を引こっ込めたから火傷はしなかったけど。かなり驚いた。)

 

半ば光と化し消えかけていた巨体は、業火にも灼かれた事で。あっという間に焔と共に跡形もなく消えてしまった。

後に残された俺とマスターはタラスクの行動の意味がわからず。ただ戸惑い、彼の最後をなぞる様に夜空を見上げる。

 

 

「・・あれ?」

 

 

そして、気づいた。

 

 

「ーーねぇ、コンラ。」

 

「ーーなに?マスター。」

 

「集まったワイバーンって。

・・・こんなに少なかったかしら?」

 

「・・俺も、同じ事考えてた。」

 

 

空を飛ぶワイバーンがあまりにも少ない事に。

夜空を覆い尽くす勢いだったのが。

いつの間にか、まばらな数になってしまっている。

しかも、ファヴニールの因子の影響で殺る気MAXでジル・ド・レェに襲いかかっていた筈のワイバーン達は。

今ではまるで何かに怯え、逃げ惑うような動きをしている。

 

ーー何だろう。

不吉な、予感が・・。

 

じわじわと背を這い上ってくるイヤな予感に。

俺は周囲への警戒を高めた。

マスターも身構え、不測の事態に備える。

そんな俺とマスターの目の前で。

 

 

「「ッ!!」」

 

 

突如、地上から天に向かって巨大な光の柱が放たれた。

よく見ると、柱は魔法陣の形を描いている。

 

 

「マスター!これって・・!」

 

 

あの変態(ジル・ド・レェ)がまた何か喚び出そうとしているのではないかと、俺はマスターに話しかけ。

 

 

ーーーギャアッ!ギャアアッ!!

 

 

「「ーーえ?」」

 

 

空を飛んでいた1匹のワイバーンが、悲鳴のような鳴き声を上げながら。

その体を光の柱から突き出た巨大な触手ーー海魔の足に絡め取られる光景を目撃し。

続く言葉が出なくなった。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

己の頭を撫でる心地の良い温もりを感じ。

タラスクの沈んでいた意識は痛みと共に暗闇から浮上した。

 

 

《・・・ね、えさん。》

 

 

真っ先に思い描いたマルタの名を呼びながら、鉛のように重い目蓋を持ち上げる。

しかし、そこに居たのは己が慕う聖女(マルタ)ではなく。

己に近い境遇の幼い少年(コンラ)だった。

 

 

 

 

 

 

生前、タラスクが産まれてすぐの事。

母であるリヴァイアサンは、薄れる世界の神秘を危惧し1人世界の裏側へと去ってしまった。

産まれたばかりで、ついて行く力を持たぬ彼を置き去りにして。

 

自分は母に捨てられたのだ。

そう、理解し。絶望し。彼は周りのモノ全てを憎んだ。

 

胸にポッカリと空いた穴から湧き立つ、黒く淀んだ激情のままに。

タラスクは水辺の街を襲い、船を砕き、人を燃やす。

だが、どんなに世界の一部を壊し、沈め、灰にしても彼の気が晴れることはなかった。

そんな、いつものように彼が街で暴れまわっていたある日。

彼は1人の旅の女と対峙する。

 

それこそがタラスクにとって運命とも云える聖女ーーマルタとの出会いだった。

 

 

 

その後は言わずもがな。

タラスクはマルタの説法(物理)により改心する事になる。

街と人を襲った償いとして。

人々に残虐な方法で殺される運命にあったタラスクの魂を、マルタは肉体から切り離し。

襲い来る死の苦痛から救い上げた。

 

 

「人様に迷惑かけた償いはこれで果たしたでしょう。タラスク、貴方はこの後どうしたいの?」

 

 

空っぽの肉体を街の人々に渡し。

再開した旅の道中、自らの体に憑かせたタラスクへと尋ねるマルタ。

彼は言い淀みながらも、殴られた事で覚めた眼で己の心を見つめ直し。

その望みを口にする。

 

 

《俺は・・母さんに会って。文句を言いたいっす。》

 

「そう・・いいんじゃない?

なら、しっかり徳を積んで世界の裏側に行けるようにならなきゃね。」

 

《・・・いいんすか?》

 

「? 何が?」

 

《俺を憑かせたままで。こう見えても俺、竜っすから。アンタの信仰に反するんじゃあ。》

 

 

マルタの信仰する教会の教えの中で、竜は=悪魔とされ。邪悪な滅すべき存在とされていた。

出会って間もない自分の心配をするタラスクに。

やっぱり根は善良なのだと。温かな気持ちに胸が満たされるのを感じながら、彼女は微笑う。

 

 

「心配しなくても大丈夫よ。

例え竜であっても、迷える子を導くことを主が咎めるはずはないわ。それに・・今更放り出すなんて私自身も嫌だしね。最後まで面倒みるから、大船に乗ったつもりでいなさい。」

 

《ーーー。》

 

 

タラスクはそんなマルタの生き方に衝撃を受けた。

我が身可愛さに血の繋がった子を捨てる母親がいる一方で。こんなにも他人の為に心を砕ける人間がいるのかと。

 

この人間(マルタ)の事をもっと知りたい。

 

この人間(マルタ)の力になりたい。

 

タラスクは生まれて初めて、自分と違う生き物に好意を持った。

 

 

《・・姐さん。》

 

「え?」

 

《姐さんって呼んでもいいっすか?》

 

「・・ふふ。いいわよ。

これからよろしくね、タラスク。」

 

《はいっす、姐さん。》

 

 

そしてこの後。

タラスクはマルタが生涯を終えるその時まで。

その傍らであらゆる迫害から彼女を護る守護竜となった。

彼は己を捨てた母に会う事より、傍にいてくれたマルタと同じ路を歩む事を選んだのだ。

 

マルタと共に現世から旅立つ時。

タラスクの心に空いた暗い穴はとうに塞がっており。彼女と過ごした温かな思い出が、彼の心を穏やかに満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーやっぱり。

放って、おけないっす。

 

目の前の少年(コンラ)を視界に捉えながら、タラスクは思う。自らと同じく、母に愛されずにその生涯を終えたコンラを。タラスクは密かに気遣っていた。

 

母から愛情を得られなかったあの苦しみを、寂しさを。彼は今でも覚えている。

けれど己にはマルタが居た。

その拳で、言葉で、優しさで。

絶望と増悪の沼に囚われた己へと手を伸ばし、救ってくれた。

 

だが、目の前の少年(コンラ)には誰も居なかった。

この哀れな程に優しい子供へと手を差し伸べてくれる存在は。生前、誰一人として居ず。

彼は孤独なまま父の手によって屠られたのだ。

それはまるで、マルタと出会えなかった己の末路を見ているようで・・・。

 

 

ーーー俺は、もう。

見届けられないっすけど。

 

 

コンラの口から、英霊となった父が彼を探しにこの地に来ていると耳にした時。

タラスクは強く、コンラとその父親を会わせてやりたいと想った。

死後にようやく。

彼にも手を差し伸べてくれる者が現れたのだと思うと嬉しかった。

 

しかし、致命傷を負った己はもうすぐこの現世から消えてしまう。

少年の力になる事も。

2人の再会を見届ける事もできない。

だから・・・。

 

 

ーーー姐さん。

姐さんを苦しめるコレは全部俺が持って行きやす。だから、お願いっす。

この坊やを助けてやってください。

 

 

タラスクはマルタの魂に語りかけると。

彼女を苛む狂気を己の精神へと全て移し取った。

 

 

ーーータラスクッ!!

 

 

《ーーーあと、は。たのむっす・・よ。》

 

 

正気に戻った、誰よりも信頼する聖女(マルタ)の魂の声に。

夜空を見上げ、最後の願いを託し。

タラスクは力を貸したいと想った少年(コンラ)に狂った自身が危害を加えぬよう。

直ぐ様、己自身を自らの業火で灼き尽くす。

 

彼にとってその父親(クー・フーリン)が。

己にとってのマルタのような存在になることを信じて。

 

 

守護竜タラスクはフランスの地を去り。

己の唯一たる聖女(マルタ)の座へと還った。

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

※今回はタラスクが頑張った!お疲れ様です!

これでマルタさんの狂化は解けたので。

心置きなく敵を殴れます←

そしてヤリニキに苦労人ポディションの予感が・・。

 



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白馬の聖人

 

 

第三者視点

 

 

 

「ーー殺スッ!」

 

「ぐっ!!」

 

 

正気を失い、己へと猛攻を加えるマルタの拳を。

ジークフリートは時には避け、受け流し、1人堪え続ける。

マルタが望んで己を殺そうといている訳ではないと理解しているが故に。

彼は彼女に危害を加える事が出来ず。

護りに徹するしかなかった。

 

幸いにも(同時に不穏さも感じたが)身の内で暴れていたファヴニールの因子は先程から静まっており。

マルタとの交戦を始めた当初に比べれば、少しは思った通りに彼も体を動かせるようになっていた。

 

狂化の影響で精彩を欠いた攻撃を見切り。

眼前を薙いだ腕をジークフリートはその手で掴む。

 

 

「マルタ!俺は君を傷つけたくはない。

攻撃をやめてくれ!」

 

 

己の声は届かないと知りつつも。

諦めきれず、狂気に呑まれた彼女へと訴える。

しかし、そんな彼の想いを打ち砕くように。

自由なもう片方の腕を振り上げ。

マルタは至近距離でジークフリートに重い一撃を加えようとし。

 

 

「ーーッ!」

 

 

あと数センチという所で、その動きを止めた。

 

 

「ーータラスク。」

 

 

ポツリと、己の守護竜(家族)の名を紡ぎ。

導かれる様に彼女は夜空を見上げる。

常に傍らにあった彼の魂が消えた事に、酷い喪失感と淋しさを覚え。

マルタは光が戻ったその瞳から、一筋の涙を零す。

 

 

「・・ええ。ええ。わかったわ。

あの子のことは任せなさい。

だから、アナタは安心して座で待ってるのよ。」

 

 

既にこの地(フランス)にはいない。

己の為にその身を犠牲にしたタラスク(家族)へと彼女は語りかけ。

彼から託された願いを、必ず果たす事を誓い。

自分の頬を濡らす涙を乱暴に拭った。

 

 

「・・よかった。正気に戻ったのか。」

 

 

その彼女の様子から、狂化が解けたことを悟り。

ジークフリートは掴んでいたマルタの手を放し、安堵の言葉を溢す。

張り詰めていた緊張が弛んだせいで思わず脚の力が抜けてしまい。

拳を受けたダメージもあって。

彼は倒れるようにその場に腰を下ろしてしまう。

 

そんなジークフリートに、自身が彼へと行った暴挙を察したマルタは顔を青褪めさせ。

必死に彼へと謝罪する。

 

 

「わ、私ったら何てことを!?

ごめんなさいごめんなさい!!」

 

「いや、君は悪くない。

傷も大したものはないから、気にしないでくれ。」

 

「で、でも・・あっ!」

 

「ん?」

 

「そうだわ!私の奇跡の力で傷を治せばいいのよ。それがいいわ。そうしましょう!

さあ、ジークフリート。今すぐ傷を見せなさい!!」

 

「あ、いや・・このくらいのかすり傷なら少し休めばーーーーって。何故キミは鎧を脱がそうとしているんだっ!?」

 

 

(傷の治療の為に)鎧を脱がそうとするマルタと。驚き、それに抗うジークフリート。

 

彼の妻たるクリームヒルトか。

彼を己の「愛しい人(シグルド)」に似ているという理由で()そうとするブリュンヒルデが目にすれば。

間違いなく修羅場確定の光景である。

 

だが、幸運な事に。

彼女達はこの特異点(フランス)には召喚されていなかった。

代わりに既に召喚されていた。

とある聖人がその光景を目撃する事になる。

 

 

「ーーーオホンッ!

お取り込み中に失礼します。」

 

「「ッ!!」」

 

 

唐突に話しかけられ。

2人は声のした方へ、バッと顔を向ける。

 

そこには白馬を連れた、長髪の騎士がいた。

ランサー(クー・フーリン)と同じく。

ワイバーンを追いかけ、この街へと行き着いた騎士ーーゲオルギウスは。

愛馬であるベイヤードの顔をさりげなくマルタ達から背けさせ。神妙な顔で忠告する。

 

 

「人が人を愛するのは素晴らしい事であり。

男女の事柄に他者が口を挟むのはどうかと思わないでもないですが。さずかに野外で、しかもこの様な安全とは言えない場所で事に及ぶのは。いささか不用心が過ぎるのではないかと。」

 

 

完全にマルタとジークフリートの関係を誤解しての発言に、2人は眼を丸くする。

しかし、ゲオルギウスの言わんとする事と。

自分達の今の状況(マルタがジークフリートに馬乗りになり。衣服に手をかけている。)に。

2人は全てを察した。

 

 

「」

 

 

ジークフリートは言葉も出せずに片手で顔を覆い。マルタは青褪めていた顔を一気に赤らめ。

力の限り叫ぶ。

 

 

「ち、違うの!誤解なのよーーッ!!!」

 

 

地上から天に向かって。

召喚の光が放たれたのはその直後のことだった。

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

光の柱が掻き消え、コンラとオルガマリーの前に姿を現したのは。1匹の巨大な海魔だった。

 

高層ビル並の大きさの大海魔は。

捕らえたワイバーンを口へと放り込み、ゴクリと丸呑みにしてしまう。

そして手当たりしだいに、近くにいる獲物(主にワイバーン)を次々と捕食し始めた。

その様子にコンラは呆然とし。

オルガマリーは顔を青ざめさせる。

 

 

「タコヒトデお化けが巨大化した・・。」

 

「なんてモノ召喚してんのよあの変態っ!?

明らかに制御出来てないじゃないっ!!」

 

 

動揺する2人は。

思わず目の前の巨大怪物の暴走に目を奪われてしまう。

 

 

「ーーーやっと、見つけましたよ。」

 

「っ!?」

 

「なっ!ーーうわっ!?」

 

 

そんな周囲への警戒が薄れた、僅かな隙をつくように。上空から2人に向かって大量の海魔が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

全身がワイバーンと海魔の血に濡れた事で。

フレイズマルの術の媒体となっていた血液が流され、元の姿へと戻ったジル・ド・レェ。

彼は頭から血を浴びた事で、失っていた冷静さも取り戻していた。

 

大海魔を囮として召喚し。

精神操作の術が再び効くようになったワイバーンに乗って空から獲物(コンラ)の姿を捜す。

 

案の定、大海魔の出現に気を取られていたコンラとオルガマリーを発見した彼は。

2人のいる地点の上空で新たに海魔を召喚し。

首尾よく奇襲を加えることに成功した。

 

 

「フフフッ!手こずらせてくれましたね、坊や。ですが、これでもう逃げる事も隠れる事も出来ませんよ。ーーー大人しく供物となる運命を受け入れなさい。」

 

 

突然の奇襲と、連戦の疲労もあり。

海魔の触手に捕まってしまった2人の前へと。

ジル・ド・レェは血塗れのままワイバーンから降り立つ。

その台詞と外見は、まごう事無く猟奇殺人犯(ガチ)である。

 

 

「んーっ!んーっ!(マスターを放せ!この変態芸術家!)」

 

「んんーっ!んんっ!んーんーっ!!(んな運命あってたまるか!こっち来ないでよ!コンラに近づかないで!!)」

 

 

両手足を拘束されただけでなく。

口も塞がれてしまった2人は言葉にならない声を上げる。

そんな抗議の声を無視しながら、ジル・ド・レェはコンラの目前まで歩み寄った。

膝を折って目線を合わせ。

素材をどう加工するか思案するように、骨張ったその指で少年の顔の輪郭をなぞる。

 

 

《ーーッ!コンラッ!宝具を使って逃げてっ!!》

 

《けどっ!これ以上《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》を喚んだらマスターがっ!》

 

《私のことはいいから!早く!》

 

 

オルガマリーに念話での指示を受けながらも、コンラは宝具の使用を躊躇う。

護るべきマスターを己の宝具にかかる大量の魔力消費によって危険に晒してしまう事を、彼は怖れたのだ。

未だ宝具を使いこなせない自身へと(タラスクの件もあって)不甲斐なさを強く抱き。彼は悔しさから涙が込み上げるのを感じた。

 

己への悔恨と、顔に触れる恐怖の権化(ジル・ド・レェ)のせいで。

涙に濡れたコンラの紅い瞳に、彼は感嘆の息を漏らす。

 

 

「あぁーーいいですね。

実に美しい鮮血の色です。ふむ・・傷がつくのは惜しい。先に眼だけ取り外しておく事にしましょう。」

 

「っ!?んー!?んー?んんんーー!!?

(え。ちょっ!?取り外す!?眼を?いま取り外すって言った!!?)」

 

「んーーっ!!!んー!んー!んんーーっ!!(イヤーーッ!!!逃げて!逃げて!コンラ超逃げてっ!!)」

 

 

愉しげなジル・ド・レェの耳を疑う「眼を取る」発言に戦慄し。恐慌状態に陥る2人。

彼はその反応をも愉快だという様に不気味な笑みを浮かべ。

怯える少年(獲物)の目元に指先を移動し、ゆっくりと力を加えーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーそいつに!汚え手で!

触んじゃねぇええええ!!!!」

 

 

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!!》

 

 

 

 

ーーようとしたが。

大気を震わせる怒号と共に。

数えきれぬ程に分裂し、朱い豪雨と化した魔槍が海魔とジル・ド・レェに襲いかかり。

 

彼のコンラへの凶行は阻まれる事となった。

 

 

……………………………………………………………………………

 

※マルタさんとジークフリートにあらぬ噂が。

何てことだ。前回のシリアスは何処へいった。

そしてヤリニキは変態の魔の手から息子(友人)を護れました。良かった。本当に良かった。

 



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真実

 

 

第三者視点

 

 

燃える燃える燃える燃える。

星屑の散る夜空の下で。

 

教会が、息子()の仇が、己の体が。

灼熱の業火に呑まれ、朽ちていく。

 

 

「ハ、ハハッ!■■ラ・・コンラッ!!」

 

 

仇であるマスター(神父)の令呪により。

朱槍で自らの心臓を穿き、自害させられながらも。消滅する事なく現界し続け。

息子()の仇を激闘の果てに討ち滅ぼしたランサー(クー・フーリン)は。

 

自身が放った地獄の焔に囲まれ、その身を灼かれながら。再び殺めてしまった息子に向け。

火の粉の舞う宙へと吼える。

 

 

「ーーーオレは!今度こそ!

オマエの仇を討ったぞっ!!コンラッ!!」

 

 

生前の、とある平行世界にて。

知らず息子を殺めてしまったクー・フーリンは狂い。

息子を殺すよう命じた己の王を仇とし。

王を護る戦士共々、皆殺し尽くそうとした。

しかし、それはフィン・マックールの王への助言により叶う事は無かった。

 

その時の無念を転生した息子(■■ラ)を手にかけた事で思い出し。此度(こたび)は仇を討ち取ったランサー。

彼はひとしきり息子の名を呼びながら狂笑し続けた後。ふいに先程までの狂乱が嘘のように黙した。

 

仇を討ち果たした事で。

蘇った生前の狂気が薄れ普段の(ランサー)の精神状態に近づいたクー・フーリンの脳裏を廻るのは。

この冬木で過ごした■■ラ(息子)との記憶。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

《え、えっと・・あっ!》

 

《ん?》

 

《釣り!俺も釣りをしに来たんです!!》

 

 

 

釣り道具を握り締め。

どこか狼狽えた様子で己の問いに答える青年。

何故かその気配を懐かしいと感じた理由を。

ランサーはこの後すぐに知ることになる。

 

 

 

《あーー。こっちの話だ、気にすんな。

それよりまだ俺の名前教えてなかったな?》

 

《あっ、はい。》

 

《俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?》

 

《俺は■■ラです。》

 

《そうか。■■ラ・・・良い名前だな。》

 

《ッ!・・・あ、ありがとうございます。》

 

 

 

困惑しながらも礼を述べる、転生した息子ーー■■ラ。

その名が、己が生前に与えた名と似通っている事に。その親指に、生まれ変わってもなお己が贈った指輪がはめられている事に。

彼はかつての父として、喜びを抱いてしまう。

 

この瞬間。

■■ラ(息子)の前でのみ。

ランサー(クー・フーリン)は戦士ではなく、一人の父親になった。

 

 

 

《俺、ほぼ毎日この時間は此処で釣りしてるんでっ!もしよかったら明日から一緒にどうですかっ!?》

 

《ーーー願ってもねぇぜ。

明日からよろしくな、■■ラ!》

 

《ッ!ーーはい!》

 

 

 

己はもう関わるべきではないと。

その場を早々に去ろうとしたランサーを■■ラは呼び止める。

その■■ラの発した提案は。

本心では離れがたく思っていたランサーにとって、あまりにも魅力的で。

彼はその提案を快く受け入れてしまう。

 

・・・この時。断り。

二度と■■ラ(息子)の前に姿を現さなければ。

この後に降りかかる悲劇を、彼は防ぐ事が出来たのかもしれない。

 

 

 

《ふぅ・・ご馳走様でした。

ありがとうランサー。めちゃくちゃ美味かった!

今度は新作の方をよろしくな!》

 

《おいおい。さっそく次の注文かよ。》

 

《頼む!代わりにランサー用のルアー作っとくから。それと交換で!》

 

《・・・まぁ、構わないけどよ。》

 

《やったー!!》

 

《はしゃぎ過ぎだろ!?》

 

 

 

心を開き、素のままの自分を見せる■■ラ。

ランサーは寄せられるその信頼が心地よく。

向けられる無邪気な笑顔が愛おしかった。

 

甘味(ケーキ)を買ってやると約束しただけで、子供のようにはしゃぐ姿に。

前世のような影のある様子は微塵も見受けられない。

今世の息子は間違いなく幸福な人生を歩んでいるのだと。彼は安堵し、心の底からその事実を喜ばしく想った。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

記憶の中の息子()は笑う。

無邪気に。楽しげに。己へと。

 

前世の記憶もなく、容姿も変わり。

それでも己の息子だと云う(指輪)はそのままに。

 

幸福な今世を送るその姿を。

ただその傍らで、短い時間でも。

見ていられればそれで良かった。

 

だからこそ。

あえて己の真名も、聖杯戦争の事も告げず。

魔術という危険な領域に関わらせまいとしていたというのに。

 

 

 

《■■ラッ!!コンラッ!!

アああ″アアぁッ!!!!》

 

 

 

結局、今世も。

そんな息子()の命を奪ったのは己だった。

 

 

「ち、くしょう・・何で。

オレは、オマエを・・!」

 

 

ランサーは血を吐くような声音で。

呻くように独り呟く。

 

 

護りたかった。

(再び殺めてしまった。)

 

今世こそ幸福な生涯を送って欲しかった。

(その未来を奪ってしまった。)

 

 

自身の願いとは裏腹に。

息子を殺し、幸福を奪う事しか出来なかった己に。ランサーは心を掻きむしられる様な激しい痛みを覚える。

己は息子を不幸にする事しか出来ないのかも知れない。己が関わらない方が息子は幸せなのかも知れない。けれど、それでも・・。

 

 

「バカかオレは。

ーーーまた会いてぇ。だ、なんて。」

 

 

己には過ぎた願いだと理解しつつも。

彼は再度、息子に会うことを望んでしまう。

それ程までにランサーにとって■■ラ(息子)と過ごした冬木での時間は。

短くも、かけがえのないものになっていた。

 

 

「未練なんて、無かったのによ。

・・・死んでから出来ちまったぜ。」

 

 

自身の魔槍によって、傷ついた息子の魂が幻霊と化したことを知らぬ彼は。

重ねた罪に気づかぬまま。

 

生まれてしまった《息子との再会》という聖杯への願いを胸に。

第五次聖杯戦争の舞台を後にする。

 

 

ーーーそして。

まったく彼の予想とは違った形で。

ランサー(クー・フーリン)のその願いは叶えられる事となる。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

フレイズマルの後を追い。

辿り着いた先でランサーが眼にしたのは、海魔の群れに捕らわれた息子とそのマスターの姿。

全身血塗れの男が、護るべき息子の眼を抉ろうとしている光景に。

ランサーは激昂し。衝動のままに宝具を放つ。

 

 

「ーーー汚え手で!そいつに!

触んじゃねぇえええ!!!!」

 

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!!》

 

 

瞬間、コンラとオルガマリーを傷つけぬよう放たれた朱槍の雨が。

敵に容赦なく降り注ぐ。

 

 

「ぷはっ!この槍って・・!」

 

「来るのが遅い!でも、助かったわ!!」

 

 

海魔の拘束から解放され。

見覚えのある槍に戸惑うコンラと。

クー・フーリンが来た事を察し、ぼやきながらも歓喜の声を上げるオルガマリー。

そんな2人に。

ジークフリートーーに変じたフレイズマルが槍の雨を縫うように走り寄る。

 

 

「変態はあやつに任せて。とっとと逃げるぞ!」

 

「えっ!?マルちゃん!?」

 

「アンタいつの間にジークフリートの血飲んだのよ!?」

 

「こっちにもこっちの都合があるのでな。

詳しい事は後で話すっ!」

 

 

オルガマリーの問いを後回しにし。

素早くコンラを右脇に、オルガマリーを左肩に担ぐと。力強く地を蹴り、近くの民家の屋根上へと飛び上がった。

着地すると、フレイズマルはそのまま屋根の上を駆け。次々と屋根を飛び移りながら元いた場所から離れていく。

そんな了承も得ず逃亡をはかったフレイズマルに。コンラは慌ててストップをかける。

 

 

「待ってマルちゃん!今のたぶんランサー(友人)だった!ランサーも此処(フランス)に喚ばれてたんだ!

あいつだけ置いてけないよ!!」

 

「は?ランサー(友人)?」

 

 

ランサー(友人)クー・フーリン(父親)だという事実を知らないコンラは。

眼にした朱槍から、自分とオルガマリーを助けたのは友人であるランサーだと当たりを付け。

 

例え(■■ラの時の)自分を殺した相手でも、特別な友人ーーー親友とも云える存在を。

独り変態(ジル・ド・レェ)の前に残して逃げる事は出来ないと、抗議する。

 

そんな複雑な背景を知らないフレイズマルは。

コンラの発言を訝しみ。特異点Fで皆が揃えて口を噤んでいたその《真実》を口にしてしまう。

 

 

「何を言っとるんだ。

あやつは・・クー・フーリンはお主を殺めた父親だろう?」

 

「ーーえ?」

 

「ーーッ!!」

 

 

フレイズマルの発した言葉にコンラは眼を見開き、驚きを顕わにする。

 

 

「ランサーが・・クー・フーリン(父さん)

ち、違うよマルちゃん。

だって、父さんはキャスタークラスで・・」

 

 

《今は違うが。ランサークラスが俺がよく喚ばれるクラスだな。》

 

 

(■■ラ)を、殺したのは・・ランサー(親友)で・・」

 

 

《お前は何も悪くねぇ。

悪いのは・・・全部俺だ。》

 

 

「ーーーー。」

 

 

否定する想いに反して、記憶の中の父親の言動から。彼はいくつかの思い当たるフシを見つけてしまう。

 

 

「マスター、違う・・よね?

父さんは・・ランサーは・・」

 

 

それでも違うと。

父親と親友は別人だと。

父親が自分を手にかけてなどいないと。

 

フレイズマルの言葉を否定したいコンラは、思わず己のマスターに縋るような眼差しを向けてしまう。

 

 

「・・・コンラ。

今まで黙ってて、ごめんなさい。」

 

「ッ!!」

 

 

けれど、オルガマリーが苦しげに告げたのは。

肯定を意味する謝罪の言葉だった。

その言葉にコンラは、何の前触れもなく目前に突きつけられた事実が。

間違い無く真実であることを知る。

 

 

「そ、んな・・・」

 

 

ランサー(親友)クー・フーリン(父親)であり。

 

クー・フーリン(父親)自分(■■ラ)を殺していた。

 

 

彼はその残酷な真実を理解してしまう。

認めてしまう。

そして、この時を待っていたかのように。

 

 

「あ・・。」

 

 

記憶の中のランサー(親友)の顔を覆っていた黒い靄が晴れ。今までいくら思い出そうとしても思い出せなかった、その顔が(あらわ)になる。

 

 

 

《俺はクー・・・いや、ランサーだ。アンタは?》

 

《俺は■■ラです。》

 

《そうか。■■ラ・・・良い名前だな。》

 

 

 

 

 

「父、さん・・」

 

 

その顔は(少し若いが)父親と瓜二つで。

ランサー(親友)クー・フーリン(父親)という図式を、彼の中で決定づけるものとなった。

 

コンラは押し寄せる事実を受け止めきれず。

乱された心を持て余し。

俯き、感情のままに涙を零してしまう。

 

 

ーーーわからない。わからない。

父さんとランサーが同じクー・フーリンで。

父さんが(■■ラ)を殺していて。

それをずっと俺に黙っていて。

マスターも、立香ちゃんも、マシュちゃんも。

皆、誰も、俺にその事を教えてくれなくて。

 

 

彼は自身(■■ラ)父親(ランサー)に殺されていた事実にもショックを受けたが。

それ以上に父親が、マスターが、皆がその事実を己に黙っていた事に傷ついた。

まるで、自分1人だけが除け者にされたようで。

強い孤独感に襲われた。

 

 

ーーーどうしたらいい?

どうしたらいいんだろう?

父さんにも、ランサーにも、マスターにも。

もう、どう接したらいいのか。

どんな顔をすればいいのか・・わからない。

 

 

「コンラ・・?」

 

「むっ。どうした?」

 

「ちょっと止まってフレイズマル!

コンラの様子がおかしいのっ!!」

 

 

己のサーヴァントの異常に気づいたオルガマリーが。走り続けていたフレイズマルに急ぎ止まるよう声をかける。

 

 

ーーー苦しい。淋しい。哀しい。怖い。

胸を何かに抉られているみたいに。

心が、心臓が痛くてたまらない。

 

こんな。

こんなに苦しい想いをするぐらいならーー

 

 

 

「ーーー何も。

知らないままでいたかった・・」

 

 

《ーーーそう、だね。

全部、忘れてしまおう。》

 

 

 

我を忘れたまま唇から吐露された台詞に。

コンラの頭の中で、誰かが優しくも哀しげな声音で応えた。

途端、彼の心臓に。

それまでとは桁違いの激痛が走った。

 

 

「ーーーーッ!!!」

 

 

断末魔に近い悲鳴を上げ。

コンラは胸を押さえて、狂った様に身をよじる。

 

 

「コンラッ!コンラッ!」

 

「おいっ!?しっかりするんだっ!!」

 

 

オルガマリーとフレイズマルの必死の呼びかけも虚しく。激痛に苛まれるコンラには届かない。

彼の意識は何かに引っ張られるかの様に。

現実から引き離され、深く自身の内側へと沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、れ・・?」

 

そして、唐突に。

心臓を蝕んでいた激しい痛みも苦しみも、嘘のように消え失せた。

己のマスターの声も、フレイズマルの声も聞こえない。代わりに聞こえてきたのは・・。

 

 

「ーーーう、み?」

 

 

心地のいい波の音。

潮の香りのする柔らかな風。

温かな太陽の日差し。

 

それらに失っていた平常心を取り戻し。

大きく息を吐いてから、覚悟を決め。

強く閉じていた目蓋を恐る恐るコンラは開く。

そこには・・・

 

 

「・・おはよう。」

 

 

金の髪に、紅い瞳の幼い少年がいた。

 

 

「え・・(コンラ)?」

 

「そうだよ、オレ(■■ラ)

はじめまして・・かな。」

 

 

その少年は(■■ラ)に向け。

大人びた様子で穏やかに微笑んだ。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

※とうとうヤリニキとキャスニキが同一人物だと知ったコンラくん。

次回は自分の過去と向き合います。

気づいたら怒涛の急展開になってしまった。

分かりづらかったらすみません!

 



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追憶の少年

 

 

第三者視点

 

 

 

少年は独りだった。

 

 

「お前の顔を見ていると。

私に屈辱を与えたあの男を思い出す。

ーーー不必要に私の前にその顔を見せるな。いいな?」

 

 

物心ついた時には、コンラは己の母ーーアイフェに疎まれていた。

 

長年、彼女は不仲である己の姉ーースカサハから隣国の地にて領地を奪おうとしていたが。

スカサハの代理として立ちはだかったクー・フーリンとの一騎打ちに敗れた事で、その機会を永遠に失ってしまう。

更に、負ければクー・フーリンの子を産むという約束を戦う前に交わしていた為。

アイフェは戦士としての己に敗北を味あわせた、憎らしい男の子を孕む事となった。

 

そこには愛などなく。

代わりにクー・フーリンへの憎悪と劣等感が彼女の中で腹と共に膨らんでいった。

せめて産まれて来た息子ーーコンラの容姿がクー・フーリンではなく。

アイフェに似ていれば彼女も息子のことを愛せたかも知れなかった。

戦士ではなく、母になれたかも知れなかった。

 

現に、コンラが産まれたばかりの赤子の頃は。

アイフェもそれなりに母らしい行動をとっていた。しかし、産まれた子の目鼻立ちがしっかりとし。

日を追うごとに、その顔が父親の顔立ちと似通っていくと。

彼女の中で大きくなっていたクー・フーリンへの恨みは。

コンラに対して芽生え始めていたアイフェの母性を殺してしまった。

 

彼女は己の息子(コンラ)を愛せなくなってしまった。

そこからアイフェは、物心ついた憎い男の息子(コンラ)を冷遇し始める。

 

 

呼ぶ声に応えず。

向けられる笑顔を黙殺し。

伸ばされた手を冷たく振り払った。

愛を求める幼子の全てを拒否し続けた。

 

 

(母さんは父さんに似ているオレの事が嫌いなんだ。父さんに敗れて、オレを産んだから。

なら・・・オレが父さんーークー・フーリンに勝てば母さんはオレの事を見てくれるかもしれない。認めてくれるかもしれない。オレを産んで良かったって、笑いかけてくれるかもしれない。)

 

 

何度拒否されても母の愛を諦めきれなかったコンラは。5歳になった頃、父であるクー・フーリンを倒す決心をする。

それから1年の時をかけて独学で体を鍛え。

生まれ持った非凡の才から。

彼はその僅かな期間で国の中でも、母を除いて並ぶ者のいない強さを手に入れてしまう。

それが皮肉にも。

愛を求める母の劣等感を煽る形になると知りもせず。

 

 

「コンラ。

お前に勝てる者はもうこの国には私以外いないだろう。しかし、クー・フーリンは強い。

今のままのお前では敵わない事は明白だ。」

 

「・・うん。」

 

「よって、私の姉であるスカサハの所へ行き。教えを乞うといい。お前は誓約(ゲッシュ)で名を名乗れないからな。書状を持たせてやろう。」

 

「ッ!あ、ありがとう母さん!

オレ、頑張るよ。頑張ってクー・フーリンに勝つからね!」

 

「あぁ、期待しているよ。」

 

 

コンラは母が己の事を考え。

気に掛けてくれた事を素直に喜んだ。

 

しかし、不仲である(スカサハ)の所へコンラが訪ねたところで。彼が歓迎されないことはアイフェにもわかっていた。

 

容赦のない姉に追い返され、怪我を負うかもしれない。

最悪、クー・フーリンに傾倒している姉は。

自身()と愛する男の息子であるコンラを殺してしまうかも知れなかった。

だが、それでも構わないとアイフェは思った。

 

たった6歳にして己に迫る力を身につけたコンラに。

彼女は戦士として嫉妬し、一刻も早く眼の前から消えて欲しかったからだ。

この時すでにコンラは母に憎まれ、亡き者となる事を望まれていたのである。

 

 

 

 

 

母に死を望まれている事を知らぬコンラは、誰に見送られることもなく故郷を旅立ち。

約半月の後、影の国へと足を踏み入れた。

 

 

「ほぉ・・・お前が、あの男の。」

 

 

まだ幼い少年から渡された書状には。

端的な事柄と少年ーーコンラの名と出生が記されいるだけであった。

その書状とは名ばかりな紙に眼を通したスカサハは思考を巡らせる。

 

はっきり言って、彼女にとってコンラはあまり歓迎できる客ではなかった。

何度も己と領地をめぐって争った疎ましい妹と。

己の全てを注いで育て上げた愛する(弟子)との間に出来た子供である。

 

クー・フーリンの面影を持つ容姿から。

さすがに命を奪う事は躊躇われ、追い返そうという想いが頭をもたげた。

しかし、スカサハの他者の素質と気質を見抜く瞳がコンラをこのまま返してしまうには惜しいと彼女の心に訴えた。

 

アルスターの英雄クー・フーリンとアイフェ。

2人の血を合わせ持ったコンラに引き継がれた才は、それほどまでに破格級のモノだったのである。

その才能にスカサハの中の(才ある者に教授せずにはいられない)癖が疼き。

彼女はアイフェの予想に反してコンラを弟子とする事にした。

 

『母に愛される為』に強くなろうとしているコンラの心根も察してはいたが。

これから体と共にその弱い心も鍛えていけば良いと《この時》のスカサハは考えていた。

 

 

 

 

 

 

それから半年ほどの月日が立ち。

コンラは7歳になった。

 

コンラの才はスカサハの見立て通り素晴らしく。

彼女の苛烈な修行にも耐え。

父であるクー・フーリンを超えるスピードで技を吸収していき。後は最後の技である

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》を教授するのみとなっていた。

だが、彼女はその奥義を伝える事なく。

コンラへとある『使い』を頼む。

 

 

「コンラ。アルスターにいるお前の父ーークー・フーリンに会って影の国に来るよう呼んでこい。」

 

「え?」

 

 

唐突な使いの指示にコンラは戸惑った。

しかし、彼に師であるスカサハに逆らう意思は毛頭なく。

言われるがまま、コンラは師の使いを果たす為アルスターへと向かった。

 

 

「・・・・。」

 

 

そんな影の国を去る弟子の小さな背を。

スカサハは静かな瞳で見送った。

 

 

 

 

 

 

小舟を大海へと出し。

独り海を渡り。(その途中で海鳥相手に技の修練をしたりしながら。)

コンラは無事、父のいる大地へと辿り着いた。

 

 

(ここにクー・フーリン

ーーオレの、父さんがいるんだ。

光の御子。アルスターの英雄。

・・・いったいどんな人だろう?)

 

 

彼は父を倒す為、この数年全力で修行に励んできたが。実はその父の事をほとんど知らなかった。

父の事を憎む母に直接尋ねるわけにもいかず。

その母に似た面立ちの師に聞くことも躊躇われ。

人づてにその武勇を耳にするだけであった。

 

その為、父という存在はコンラにとって『母に認められる』為の目標であり。

倒す事は手段でしかなかった。

けれど、師の使いにより彼の中のその認識は揺らぐ。

 

 

(オレの倒すべき相手・・だけど。

まだオレは戦士として一人前だと認めてもらっていないし。

『呼んで来い』ていう師匠の使いもある。

ーーー今はまだ戦うべき時じゃない、のか。)

 

 

彼は愛に飢えていた。

才に満ち溢れる肉体と反比例するかの様に。

その心は空洞で。

一度として満たされた事はなかった。

 

愛して欲しい。

認めて欲しい。

旅の道中で見かけた両親に連れられる子の様に、己も頭を撫でて欲しかった。

どんなに大人びていようとも。

彼はまだたった7才の子供なのだから。

 

そんな愛を欲する彼に。

もう片割れの肉親である(クー・フーリン)と戦わずして会う機会が与えられた。

彼は自身を律しようと努めながらも。

この好機を嬉しく思ってしまう。

 

 

(もしかしたら。

父さんは、オレのことを・・。)

 

 

コンラは己の親指にある金の輪に触れ。

湧き上がる期待を抑え切れずに口元を綻ばせた。

 

この金の指輪を。

3つの誓約(ゲッシュ)を。

授けてくれた父ならば。

自分の事を愛してくれるかもしれないと彼は想ったのだ。

 

きっと、愛してくれる。

笑いかけてくれる。

頭を撫でてくれる。

 

まだ見ぬ父親へ。

愛を乞うあまりコンラはそんな幻想を抱いてしまう。母への罪悪感もあったが。

父への期待がそれを上回った。

 

 

(早く会いたい。会ってたくさん話をしたい。

父さんの事を知りたい。オレの事も知ってほしい。)

 

 

心に芽生えた強い願いに急かされる様に。

自然と彼の歩みは速くなる。

 

途中、幾度か行く手を阻むように現れた戦士達に道を引き返すよう説得されたが。

父への想いと。

授けられた誓約(ゲッシュ)が彼にそれらを断らせた。

断ると、実力行使で追い返そうとしてきたので。

その戦士達を(命を奪わないよう手加減して)倒し。

彼は再び脚を進める。

そしてーー。

 

 

 

「王から聞いてはいたが。

本当にこんな子供(ガキ)だったとはな。」

 

 

コンラはついに、アルスターの地にて父親と対面した。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

強者の空気を纏う戦士が現れ。

コンラはその姿に無意識に息を呑む。

 

風に揺れる蒼い髪。

敵意を宿した紅い瞳。

手に持つのは師と同じ朱色の魔槍。

 

 

クー・フーリン(父さん)・・ッ!)

 

 

頭の中で何度も思い描いた父が、そこにいた。

焦がれた父の姿に彼の心は歓喜に震えた。

しかし、事態はコンラの望みとは裏腹に。

悲劇的な結末へと転じ始める。

 

 

「俺は王からお前を殺すよう命じられている。だが、いくら王命でも俺も好き好んで子供(ガキ)を殺したくはねぇ。・・・お前が今すぐ引き返し、この場を去るなら見逃してやってもいい。」

 

「ッ!」

 

 

父から告げられた。

彼なりの譲歩であり、最後通告の言葉に。

コンラは唇を開きーー数拍の後、苦しげに閉じる。

 

 

《誰にも名乗ってはならない。》

 

《進む道を変えてはならない。》

 

 

父に授けられた2つの誓約(ゲッシュ)が。

コンラが道を引き返すことを。

息子だと、名乗ることを阻んだ。

 

そんな彼の苦渋の沈黙を。

先ほどの通告への拒否とクー・フーリンは受け取ってしまう。

 

 

「そうか。なら、仕方ねぇな。

ーーー殺り合おうぜ。」

 

 

父の瞳に宿っていた敵意が、冷えきった殺意へと変わる。コンラ(息子)を殺す為に。

戦士として愛槍を構え、戦いを挑むクー・フーリン(父親)

 

 

「ーーーはい。」

 

 

《いかなる挑戦にも応えねばならない。》

 

 

その父の行動により。

課せられた3つ目の誓約(ゲッシュ)で。

コンラは戦いを拒む術さえ奪われてしまった。

 

冷たく鋭利な眼差しが。

槍と共に向けられる殺意が。

コンラの心に芽生えた希望を。幻想を踏み潰し。

温もりを求める幼い心を深く傷つける。

 

 

(確かにオレは父さんと闘う事を望んでいた。

父さんを倒し、母さんに認められる事を願っていた。

でもーーーそれは《今》じゃない!

こんな《殺し合い》でじゃない!)

 

 

誰にともなく。

彼は望まぬ父との戦い(殺し合い)に抗議し。

表に出す事の出来ない悲痛な叫びを心中で上げる。

 

それでもコンラの体は突き刺さる殺気に反応し、勝手に父へと剣を構えてしまう。

彼の想いを置き去りに。

師によって鍛えられ、戦う為の技が染み付いた体は。

彼自身の意志に反して己の身を護る為、自然と()を迎え撃つ姿勢になる。

 

 

ーーーこうして。

とある女によって企てられた父子の対決は。

その戦いの火蓋を切って落とされたのだった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

 

 

それから始まった父との死闘は。

コンラにとって、さながら地獄の様だった。

 

 

己の剣が、拳が、父を傷つけ。

父の槍が、拳が、己を傷つける。

 

 

望まぬ戦いにより。

肉親を傷つけ、傷つけられる事が。

こんなにも心身に痛みをもたらすのかと。

コンラは安易に『父を倒す』と決意した、過去の己の甘さを悔いた。

 

 

 

いたいごめんなさいいやだたたかいたくない

ころされたくないいやだころしたくない

きづいてとうさんおねがいもういやだかあさん

ししょうどうしてごめんなさいいたいいやだ

くるしいさびしいいたいかなしいこわいたすけてだれか

 

 

剣と槍を交えながら、慟哭のような言葉の羅列が。苦痛に堪えるコンラの脳裏を駆け巡る。

 

それでも彼はまだ諦めてはいなかった。

一縷の光を見つけ、縋りつくようにその可能性にしがみつき。不可視の大きな流れに抗おうとした。

 

彼は父親が己の指輪に気づき。

戦いの手を止めてくれる事を信じたのだ。

 

その為に多くの時間をつくろうと。

彼は父の猛攻を紙一重で防ぎつつ。

可能な限り手加減を繰り返した。

けれど・・・。

 

 

「ぐっ!!

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!!!》」

 

 

ついぞ、クー・フーリンはコンラが己の息子である事に気づくことなく。

必殺必中の一撃を放ってしまう。

 

 

「ッ!!?ーーーあ″っ。」

 

 

胸を、心臓を。

父の魔槍に穿かれたコンラは。

握りしめていた剣を落とし。

血を吐き、その場に崩れるように倒れた。

 

 

(あぁ・・気づいて、もらえなかった。)

 

 

血だまりの中で、青い空を仰ぎながら。

死に際にコンラはその事実を哀しく想う。

そして鈍くなる五感とは逆に、冴えていく思考の中で悟った。

 

 

 

《お前の顔を見ていると。

私に屈辱を与えたあの男を思い出す。

ーーー不必要に私の前にその顔を見せるな。いいな?》

 

 

母に疎まれ

 

 

《コンラ。アルスターにいるお前の父ーークー・フーリンに会って影の国に来るよう呼んでこい。》

 

 

師に捨てられ

 

 

《そうか。なら、仕方ねぇな。

ーーー殺り合おうぜ。》

 

 

父に忘れ去られた自分は・・。

 

 

(そう、だったのか。

オレはーーー《要らなかった》のか。)

 

 

 

クー・フーリンが指輪に気づかなかったのは。

戦いに全てを集中せざる負えないほど、コンラの武芸が優れていたからである。

 

しかし、父に気づいて貰えなかった事を。

指輪を与えた息子の存在など忘れ。

気にも留めていないのだと思い違いをしたコンラは。

そんな、誤った結論へと至ってしまう。

 

 

(なら・・もう、いいや。

誰にも必要とされていないのに。

望まれていないのに。

こんな痛い想いをし続けるなんてーー嫌だ。)

 

 

微かにあった生への執着をコンラは自ら手放し。

死を受け入れ、穏やかに微笑った。

 

 

(忘れてしまおう。全部。

今まであった苦しいこと、全て。

そうすれば・・・・きっと楽になれる。)

 

 

両親の愛を諦め。

己の無意味な一生を忘却する事を決めた彼は。

身の内の空虚な心から目を逸らす様に、その瞳を閉じる。

そしてーー光の御子の息子(コンラ)は父に討たれ、死んだ。

 

人の温もりを知らず。

他者に手を差し伸べられる事もなく。

誰にも愛されていないのだと誤った認識に囚われたまま。

愛を乞うたクー・フーリン(父親)の手によって殺められたコンラ(息子)の魂は。

振り返ることなく現世を飛び立つ。

 

後の世に語られる《クー・フーリンの子殺し》は。

石が坂を転がり落ちるかの様に止めようの無い運命に流され。こうして終局を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーコン、ラ?」

 

 

己が殺めたのが遠き地にいる筈の愛する息子であったと。気づいてしまった、憐れな父親を独り置き去りにして。

 

 

「ア″、あァーーー■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

全てが手遅れだと理解しながらも。

父親は空蝉となった子の亡骸を抱き。

現世を去ってしまった息子の魂を引き留めるかのように天へと叫ぶ。

 

息子(コンラ)へと牙を剥いた運命は。

続いて父親(クー・フーリン)へとその鋭い牙を向けた。

 

それは後の世で語られる『クー・フーリンの死』。

狂った父親は非情な運命に翻弄され。

息子と同じく悲劇的な結末を迎える。

 

 

「コン、ら・・おれハーーー」

 

 

空の彼方へと消えた息子を求め。

幻影の戦士達と戦い続けたクー・フーリン。

力尽き、海の底へと沈む彼が最後に何を想ったのかは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスター。

もうすぐ特異点にレイシフトする準備が整うみたいだけど。本当に一緒に行くの?」

 

 

「私も先輩もキャスターさんが一緒に来てくださるのは心強いですが。ショックも大きいでしょうし。今回は休まれては?」

 

 

「何言ってんだ。ただでさえ人手が足りねぇってのに俺だけ引き篭もってられるかよ。

それに言っただろマスター?この戦い(人理修復)はアイツのーーコンラへの弔い合戦だってよ。なおさら休んでなんて要られねぇ。」

 

 

「あっ。ーーーうん、わかった。

なら、もう止めないよ。

次の特異点も頼りにしてるよ。キャスター!」

 

 

「でも、やっぱり心配なので。

無理はしないでくださいね。」

 

 

「ありがとよ、嬢ちゃん。

マスターも任せときな!

正式なアンタのサーヴァントになったんだ。

期待以上の働きを約束するぜ。

 

 

ーーー《今》は、な。」

 

 

 

その記憶を有する狂気に侵された父親(クー・フーリン)にしか、わからない。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

※先週、投稿出来ずすみませんでした。

思った以上に回想編に苦戦しました。

そして捏造多々すみません!

公式だとオイフェではなくアイフェだった事に今更気づいてすみません!←

話の都合上、アイフェ様はクー・フーリンが嫌いという事に(白眼)

 



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甘露なる死

 

 

第三者視点

 

 

白い雲がまばらに浮かぶ青空の下。

広がる水平線のどこにも島影など見えない大海原に。

1艘の小舟が浮かんでいる。

乗っている人影は2人。

 

金髪紅眼の少年(コンラ)黒髪黒眼の青年(■■ラ)

 

眼を開き。

驚愕の表情でこちらを凝視する(転生し冬木で暮らしていた時の容姿の)■■ラに。

コンラは目を細め、声をかける。

 

 

「・・おはよう。」

 

「え・・(コンラ)?」

 

「そうだよ、オレ(■■ラ)

はじめまして・・かな。」

 

 

コンラは己の内側(精神世界)へと呼び込んだ。

自身の半身ともいえる転生後の人格ーー■■ラへと笑い掛けた。

 

 

「いきなり呼び出してごめん。

でも、これ以外にオレ達が会える方法がなかったから。」

 

 

乱暴な形で呼んだ事を謝罪し。

此処が自分達の心の中なのだと彼は告げる。

 

 

「ここが。俺のーー俺達の心の中。」

 

 

■■ラはキョロキョロと物珍しげに周りを見回し。ふと、首を傾げた。

予期せぬ出来事の連続で、戸惑いながらも。

なんとか平静を取り戻した彼は浮かんだ疑問を尋ねる。

 

 

「呼んだって事は。俺に用があったんだよね?」

 

「うん。それはね・・・

 

オレと一緒に死んで(消滅して)欲しいんだ。」

 

「ーーえ?」

 

 

半身の口から発せられた耳を疑う言葉に。

静まった筈の■■ラの心は、再び激しく揺さぶられる事となった。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

ルー神が疑似サーヴァントの器に幻霊と化した(コンラ)の魂を入れた際。

 

予期せぬ事に。

コンラの魂は生前の記憶を有する《コンラ》と。

転生後の記憶を有する《■■ラ》の2つの人格に分かれた。

しかし、《コンラ》の人格はルー神が記憶の封印を施した為。目覚めることなくその封印の内側で眠りにつき。

《■■ラ》が(肉体)の主人格となった。

 

本来であれば別人格となった《コンラ》はそのまま二度と目覚めず。

死に際に望んだ様に。

彼は深い眠りについたまま、優しい忘却に抱かれて要られたかもしれなかった。

けれど、運命はそれを許さない。

 

 

 

《いやーーいや、いや、助けて。誰か助けて!

わた、わたし、こんなところで死にたくない!

だってまだ褒められてない!誰も、私を認めてくれていないじゃない!

どうして!?どうしてこんな事ばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった!

みんな私を嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も!誰にも認めてもらえなかったのにーー!》

 

 

【どうしてだろう?

母さんも、師匠も。

オレを通してクー・フーリンを見ている。

どんなに頑張っても、オレを認めてはくれない。

一度でいいから、オレ(コンラ)を見てほしかった。

認めてほしかった。褒めてほしかった。

ーーー頭を、撫でてほしかった。】

 

 

 

外部からの共鳴による干渉が封印に小さなヒビを入れ。《コンラ》の眠りを妨げ。

忘れようとしていた、彼の痛みを伴う記憶を引きずり出す。

 

 

 

《所長を助けてくるね。》

 

《ーーーえ?》

 

 

 

カルデアスに分解されかけた影響により。

封印のヒビが更に大きく広がり。

時折、《■■ラ》の感情と記憶の一部が《コンラ》の元へと流れ込んでくる様になった。

これによって、彼は自身と半身の現状を知る。

 

 

 

《苦しい。淋しい。哀しい。怖い。

胸を何かに抉られているみたいに。

心が、心臓が痛くてたまらない。》

 

 

 

そして、新たに流れ込んできた《■■ラ》の感情は。

心を開いていた友が父であり。

その父に殺されていたという真実と。

信頼を寄せていた人々にその真実を隠されていた事実に。苦痛を感じ、酷い孤独感に襲われ。

悲鳴を上げているモノだった。

《コンラ》はその半身の想いに。嗚咽に。

自身の最後を重ねてしまう。

 

《■■ラ》が。己の半身が。

『あの時』の自身と同じ苦しみに苛まれている。

 

同じ苦しみを、痛みを知る《コンラ》は。

《■■ラ》を助けたいと強い想いを抱いた。

『あの時』誰も自分を助けてはくれなかった。

だからこそ、半身である彼は自分が助けなければと。《コンラ》は切実に想ったのだ。

 

彼は《■■ラ》を救う為に。

封印の内側で思考し、ある結論に至る。

《■■ラ》を救う方法。

それは自身が唯一救われた時の再現。

 

 

【そうだ。またーー死ねばいいんだ。】

 

 

《コンラ》はそんな怖ろしい結論に至る。

けれど、彼は『それ』しか知らなかった。

生前の《コンラ》は『死』でもってしか救われた事がなかったのだから。

彼がこの解決法しか思い付かなかったのは、ある意味仕方のない事だった。

 

 

《こんな。こんなに苦しい想いをするぐらいなら

ーーー何も。

知らないままでいたかった・・》

 

【ーーーそう、だね。

全部、忘れてしまおう。】

 

 

《コンラ》は《■■ラ》の言葉に頷き。

半身たる彼を喪う事を哀しく思いながらも。

優しく応えた。

 

 

【《■■ラ》。忘れて。

死んで(消滅して)。楽になって。】

 

 

《コンラ》は《■■ラ》を救う(殺す)為。

ヒビ割れていた封印を内側から無理やり破壊し。

続いて《■■ラ》を精神世界へと呼ぶ。

そして彼は目前に現れた苦しげな半身を眼にし。

彼にとって重大なある事に気づく。

 

 

【でもーーー独りで死ぬのは淋しいよね。

オレが、そうだったから。

《■■ラ》にあの淋しさを味合わせるのはイヤだな。なら・・・】

 

 

独りは淋しい。独りは哀しい。

独りは苦しい。独りは怖い。

《コンラ》はその『孤独』を嫌という程に知っていた。それ故に・・。

 

 

 

「大丈夫だよ《■■ラ》。

 

オレが死んだ時は独りで淋しかったけど。

今度はオレが一緒だから。

2人なら淋しくない。

だから・・一緒に死のう(消滅しよう)

そうすればもう、痛くないし苦しくない。」

 

 

 

《コンラ》は《■■ラ》のことを想い。

自分も共に消える事を決意する。

それが最悪の結果ーー主人格と別人格の消滅による精神崩壊ーーに繋がるとは(つゆ)程も知らずに。

 

彼は《■■ラ》へと。

慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら。

(救い)へと誘うその小さな手を差し出した。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

 

「ーーー。」

 

 

《■■ラ》は混乱し、座り込んだ姿勢のままで。

そんな半身(コンラ)の姿を言葉もなく見つめる。

 

普段の彼であったなら。

迷う事なくその手を拒否していただろう。

けれど、今の《■■ラ》の精神()は弱っていた。

 

 

親友だと思っていた者に。

父だと慕っていた者に。

マスターだと。

仲間だと信頼していた者達に。

真実を偽られ。黙され。

 

冷静な部分では何か理由があったのだろうーーなどと考えつつも。

彼の心は裏切りにも似た衝撃を受け、傷を負った。

その傷が発する激痛を。

信を置く支えを失った孤独感と苦しみを。

先程まで味わい。のたうち。知った《■■ラ》には。

 

目の前に差し伸べられた《コンラ》の手が酷く得難く。眩しいものに映ったのだ。

 

 

優しい眼差しに。

慈愛に満ちた笑み。

己の身を案じる温もりの篭った言葉。

 

甘露のようなその全てに。

《■■ラ》の衰弱した心は惹かれ。

なりふり構わず縋りつきたくなった。

 

甘い甘い。

無知なる善意の毒が。

彼の心を蝕んでいく。

 

 

「・・・死ねば。

もう、さっきみたいに痛くないし。苦しくない?」

 

「うん。楽になれるよ。」

 

 

その肯定の言葉に。

《■■ラ》は誘われる様に手をゆるゆると持ち上げ、伸ばす。

もうあの苦痛と孤独を感じなくて済むのならばと。

《コンラ》の甘言を受け入れ。

差し出された救い()へと手を重ねようとしーー。

 

 

刹那、彼の脳裏を掠めたのは紅と山吹の色の瞳だった。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

※危なかった!

一歩間違えたら自分と心中ルートでした。

精神が死んで。身体だけ生きてるとか。

ヤリニキまで危うくハートブレイクさせるとこでした。マルちゃんの失言の罪は重い←

 



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愛述べる残像

 

 

第三者視点

 

 

 

 

《安心しろ・・・すぐに会いに行く。》

 

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

 

大きな手で労るように己の頭を撫で。

慈しみの滲む紅い瞳を細めるキャスター(父親)

 

 

 

《所長。所長を助けられなかった俺が言っても説得力が無いのはわかってる。

けど、俺・・頑張るから。今度こそ所長を護りきってみせるから!

必ずカルデアに帰してみせるから!だから、どうか俺のマスターになって下さい!!》

 

 

《いいわよ。カルデアに戻るには他に方法もないみたいだし。・・・私が、あなたのマスターになってあげる。》

 

 

《ありがとう所長!ーーーううん。マスター!

これからよろしくね!》

 

 

《ッ!・・・えぇ。よろしくねコンラ。

ーーーこちらこそ、ありがとう。》

 

 

 

細い指で重ねた手を優しく握り返し。

山吹色の瞳を濡らしながらも微笑むオルガマリー(己のマスター)

 

 

鮮やかに耳の奥で蘇った言の葉に。

手のひらの温度に。

己へと笑いかける2色の瞳に。

《■■ラ》は混乱のあまり記憶の片隅へと追いやられていた。何よりも大切な事柄を思い出し。

頭を殴られたような衝撃を受け、息を詰める。

 

 

ーーーなに・・やってるんだ、俺。

 

 

半身の手へと重ねかけた右手を引き。

彼は震えるその手を凝視する。

いま、自身が行おうとした行為が信じられなかった。

 

 

ーーーなにやって、るんだ。

何やってるんだ。何やってるんだよ、俺っ!!

 

 

思い出した温もりを失うまいと。

右手を左手で包み。己の胸元に引き寄せ。

身の内で自身への憤りを叫ぶ。

 

 

ーーー約束、したじゃないか!!

父さんと!マスターと!

また会おうって。護るって。帰すって。

 

それなのに。それなのに。それなのに。

俺は自分が楽になりたくて。

苦しみたくなくて。

その約束を放り出そうとした!

皆が護ってくれた『命』を自分から捨てようとした!!

 

 

彼は一時でも約束を忘れ。

己を護ってくれた父や祖父の想いも。

己を信じてくれたオルガマリーや仲間の想いも。

全てを投げ出し。捨て去り。

逃げる道を選びかけた自分が許せなかった。

 

そして脳裏に続いて蘇った燃える街での皆との記憶から。

彼は何故、父が。マスターが。仲間が。

自身に真実を隠していたのかを悟る。

 

 

ーーー俺の為、だ。

 

 

あの特異点(冬木)に爺ちゃんによって送られたばかりの俺は。

記憶も曖昧で、宝具もうまく使えない。

不安定な状態だった。

 

そんな俺を気遣って。

皆はあえて真実を隠してくれてたんだ。

少し考えればわかるのに。

心のどこかでわかってたのに。

 

勝手に裏切られた気持ちになって。

自分で自分を孤独にして。

苦しんで痛がってたんだ。

俺は・・どうしようもないバカだっ!!

 

 

奥歯を強く噛み締め。

爪が喰い込む程に手を握り締め。

魂に直接訴えてくる様な誘惑を断ち切り。

《■■ラ》は立ち上がる。

 

 

「■■ラ・・?」

 

 

なかなか手を取らない半身に対し。

不思議そうに目を瞬かせる《コンラ》。

そんな彼に《■■ラ》は大きく息を吸い。

キッパリと告げた。

 

 

「ごめん、コンラ。

俺はーー死ねない。」

 

 

一度破ってしまった約束を果たす為に。

新たに交わした約束を守る為に。

自分の『生』を望む人達の為に。

彼は決意したのだ。

 

この先、どんなに苦しく痛みを伴う事があろうとも。

もう二度と逃げないと。

がむしゃらに前へと進み。

安楽の『死』を選ばず。

苦難の『生』を選ぶと。

 

故に・・彼は半身(コンラ)の手を取らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、んで・・?」

 

 

その返答に《コンラ》は信じられないとばかりに眼を見開き。声を戦慄かせ。

次の瞬間ーー感情を爆発させた。

 

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでっ!!?

 

何で■■ラまでオレを拒絶するんだよっ!?

オマエはオレの半身だろっ!?

元は同じ存在(コンラ)だろっ!?

なのにーーー何で母さんみたいにオレを拒むんだっ!!!!」

 

 

己が己を拒む事はないと、信じきっていた《コンラ》は。《■■ラ》に拒まれた事で。

己を初めて拒んだ時の母の手を思い出してしまう。

 

それをきっかけに。

生前から心の奥底に少しずつ降り積もり、沈殿していた。

他者にけして見せる事の無かった。

己ですら知覚していなかった。

粘度の高いマグマの様な昏い激情が溢れだす。

 

 

「疎むならっ!!

産んですぐに殺せばよかったじゃないかっ!?

 

捨てるならっ!!

はじめから弟子になんてしなければよかったじゃないかっ!?

 

忘れてしまうならっ!!

どうしてオレを産む約束を母さんに課したんだよっ!?

 

要らないのに!要らないのに!要らないのに!要らないのに!要らないのに!要らないのに!」

 

 

母へ、師へ、父へ。

目覚め、封印の内側で抱いたその疑問を。

不満を。怒りを。

彼は己の半身へと訴え、叩きつける。

その瞬間ーー《■■ラ》の中に《コンラ》の記憶の一部が流れ込んだ。

 

 

 

【そう、だったのか。

オレはーーー《要らなかった》のか。】

 

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

それは母に疎まれ。師に捨てられ。

父に忘れ去られた・・・と誤解してしまった。

不運な少年の死に際の記憶。

 

 

「なんでっ!?どうしてっ!?

オレはっ!オレはーーっ!!!」

 

 

何故、自分はあんなにも無意味な生の中で。

苦痛にもがき。孤独に苛まれ。

愛を求めた父に殺されなければならなかったのかと。

 

出ないとわかっている答えを求め。

泣き喚き。嗚咽を上げながら。

自分とは違う道をーーー『死』ではなく『生』をーーー選んだ半身に詰め寄る《コンラ》。

その半身の姿に、記憶を見た《■■ラ》は・・。

 

 

「俺達はーーー要らなくなんてなかったよ。

コンラ。」

 

 

《■■ラ》は一筋の涙を頬に伝わせ。膝をつき。

青年となった己の両腕で、その幼い自分を抱き締めた。あの特異点(冬木)で父がしてくれたように。

そっと、小さな頭を労りを込めて撫でる。

 

 

「ーーッ!」

 

 

初めて感じる他者の温もりに。優しい手のひらの感触に。《コンラ》は戸惑い。言葉を失った。

 

ずっとずっと求めていたモノを与えられ。

荒波のように乱れ、煮え滾っていた心が。

ゆっくりと凪ぎ、しだいに落ち着きを取り戻していく。

 

 

「う、うく・・うぅ、うーー。」

 

 

撫でる度に、強張っていた体から力が抜け。

半身に寄り掛かり、体重を預け。

ようやく得た温もりから離れまいと、しゃくりあげながら。震える指で《■■ラ》の服にしがみつく《コンラ》。

その姿に、先程までの半身を救おうとしていた大人びた様子はどこにも見受けられない。

 

まるで迷子の幼子のような歳相応のその振る舞いに。

やっぱり無理していたのだと。

生前の分も泣くかのように。

未だ涙の止まらない半身(コンラ)の背に手を移し。撫でながら《■■ラ》は哀しく想った。

 

そして、そんな半身に。

何よりも大切な事を伝える為。

生前からの誤解を解く為。

彼は諭す様に言葉を紡ぐ。

 

 

「コンラ。父さんは・・・気づいてくれたよ。」

 

「ーー?なに、言って・・?」

 

「気づいてくれたんだ。

生まれ変わって。姿だってこんなに全然違うのに。俺が《コンラ(息子)》だって、気づいてくれたんだ。」

 

「え・・。」

 

 

俯いていた顔をバッと勢い良く上げ。

《コンラ》は《■■ラ》の黒い瞳を。

泣き腫らしたその紅い瞳で見つめ、呟く。

 

 

「ーーうそ。嘘、だ。

だって!だって!

父さんは『あの時』オレを殺した!

オレが《コンラ(息子)》だって気づいてくれなかった!オレを忘れたからだっ!!」

 

 

己の言葉を否定する半身に。

《■■ラ》は苦笑し、自分の親指にある痣に視線を落とす。

 

 

「・・そうだね。

『あの時』は気づかなかったみたいだ。

でも、忘れたわけじゃないと思う。

忘れてたら『コレ』を見て、あんな反応する筈ないから。」

 

「あっ・・それ。」

 

「うん。生まれ変わっても。

『この指輪』は変わらず俺の指にあった。」

 

 

見やすいようにと。

半身の目前に右手を下げる《■■ラ》。

 

《コンラ》はその親指の痣に。

何かに導かれるかのように手を伸ばし。

自分の親指のーー金の指輪を重ねた。

 

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

 

《ーーッ!》

 

 

《あぁ・・これ、気になります?

生まれつきの痣なんですよね。まるで指輪みたいな形してるから、小さい時はよく同級生にからかわれましたよ。》

 

 

《・・・・なぁ。》

 

 

《はい?》

 

 

《その痣。もっとよく見せてもらってもいいか?》

 

 

《ーーえ?》

 

 

 

 

 

《ーーーあぁ。そうだったのか。》

 

 

 

 

 

《ほら、オマエ甘い物好きだろ?食えよ。》

 

 

《・・へっ?》

 

 

《俺、ランサーにそんな話したっけ?》

 

 

《いや、聞いてねぇ。》

 

 

《なら何故わかったし。》

 

 

《お前がケーキ屋の前で不審者みてぇにウロウロしてるのを見かけたからだ。あれだろ?入ろうか迷ってたんだろ?》

 

 

《う、え?アンタ見てたのか!

どこにいたんだよっ!?》

 

 

《近くに花屋があっただろ?アレ、俺のバイトさき。》

 

 

 

 

 

逆流するかの様に。

今度は《■■ラ》から《コンラ》へと流れ込む記憶。

そこに映っていたのは、紛れもなく父親(クー・フーリン)で。

 

名を明かす事はなかったけれど。

それでも父は《■■ラ(転生した自分)》が《コンラ(生前の息子)》だと気づいてくれた。

傍で見守り。心を砕いてくれた。

自分へと笑いかけるその瞳には。

紛れもなく温かな愛情が宿っていて。

 

 

「とう、さん・・。」

 

 

ーーー自分は、父親に忘れられてなどいなかった。

 

 

その事実を眼にし。理解し。

《コンラ》は先程までとは違う感情によって。

再び涙が頬を濡らすのがわかった。

 

父は、覚えていてくれた。

気づいてくれた。

愛情を向けてくれた。

それはつまりーー。

 

 

「■■ラ。オレ・・オレ達っ!

《要らなく》なかったっ!!」

 

「ーーうん。そうだよ。」

 

 

存在を認められ。

必要とされ。

父に愛されていたという事実を知った《コンラ》は。

湧き上がる歓びに心を震わせ、小さく歓喜の声を漏らした。

そして同意し、頷いた半身へと。

事実を知った事で生まれた、新たな願いを告げる。

 

 

「オレーー死にたくないっ!

生きて。父さんに会いたいっ!!」

 

 

父親に今一度会う為に。

■■ラ(半身)》と同じく。

『死』ではなく『生』を選び、望んだ《コンラ》。

 

重ねられた自らの指が。

強く、しっかりと小さな手に握られる感触に。

《■■ラ》は半身たる《コンラ》も生きる希望を見出してくれた事を嬉しく想い、安堵する。

 

《コンラ》の死に際の記憶を見て。

彼は半身ばかりがつらく苦しい思い出を持ち。

自分だけが、冬木で暮らしていた時の。

大勢の家族や友人に囲まれ。

(ランサー)に出会った。

(結果、殺されてしまったけれど。)

 

楽しく、喜びに満ち。

愛情を与え、与えられた。

幸福な思い出を持っている事に。

申し訳なさを感じていたのだ。

 

 

「俺もだよ。

俺もーー父さんに会いたい。」

 

 

半身の小さな手を握り返し。

ともに立ち上がり。

《■■ラ》は《コンラ》と同じ望みを願い。

その言葉を口にする。

 

 

「だから・・・一緒に生きよう(会いに行こう)っ!

コンラッ!!」

 

「っ!ーーうんっ!!」

 

 

その直後、2人の体は光に包まれ1羽の海鳥となった。

 

別々の記憶を有していた2つの人格は。

隔てていた(封印)が砕かれ。

同じ『目的(生きる希望)』を得た事で。

同化し、1つの人格へと統合された。

 

《コンラ》と《■■ラ》。

2枚の羽は両翼となり。

飛ぶことの出来なかった海鳥(コンラ)に空を翔ける力を授ける。

海鳥は顔を上げ、大きく翼を広げると。

小舟から飛び立ち、勢いよく上空へと昇っていく。

父に会う為に。交わした約束を果たす為に。

生きる為に。

 

(コンラ)はこうして己の精神世界から抜け出し、現実へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・。」

 

 

力強く翼を羽ばたかせ。

遠ざかっていく海鳥を見送る、1人の女がいた。

女は海面に立ち、その肢体は透けている。

 

 

「ーーー生きろ、(アキラ)。」

 

 

祈るように、そう呟くと。

瞬く間に女は(かすみ)の如く消え去った。

後に遺されたのは。

波に揺られる、誰もいない小舟が1艘のみ。

 

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

※実は作中できちんと区別をつける為に、あえて転生後の名前を伏せ字にしていました。

 

《■■ラ》のフルネームは

 

天月(あまつき) (あきら)です。

 

漢字を見て頂ければ何故この名前にしたかは一目瞭然。←

 

 



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目覚め

 

 

俺と《オレ(半身)》の記憶がひとつになっていく。

交差し、融けて、混ざり合う。

 

 

 

 

【コンラ】

 

 

幼い俺を射抜く。

母の冷徹な眼差しと言葉。

眼下に広がる魔獣の群れに俺を突き落とした。

師の無慈悲な手。

殺意を纏った父の朱槍が。

激痛を伴って心臓を穿いた時の悲哀と諦観。

 

 

 

氷水のような痛みを含んだ冷たい記憶が流れ込み。

それに翻弄され、俺の心は凍えていく。

けれど、すぐに別の記憶がその冷えた流れを断つように蘇り。

冷え切った俺の心を温もりで満たす。

 

 

 

 

《アキラ》

 

 

隣に座るランサー(親友)がニカリと快活に笑う。

肩を並べて、海へと糸を垂らし。

何気ない話で盛り上がり。

時には冗談を言い。

ふと、寂しげな様子を見せながらも。

 

親友()は優しい色が滲む瞳で俺を見る。

 

 

 

 

《コンラ》

 

 

キャスター()が俺の頭を躊躇いがちに撫でる。

俺の意思を尊重し。

俺を助ける為に自らを傷つけ。

名を呼び、励まし。

傍にいると、護ると告げ。

再会の約束を交わしてくれた。

時おり昏い色を混じらせながらも。

 

父は慈愛に満ちた瞳で俺を見、笑う。

 

 

 

 

《ありがとう、コンラ》

 

 

カルデアスの中で。

激痛を堪えながらマスターは穏やかに微笑い。

俺を包むように抱き締める。

 

イリヤちゃんがバーサーカーの隣で。

涙を瞳の端に浮かべながらも。

嬉しそうに笑う。

 

 

 

《コンラくん》

 

 

『マスター』ではなく名前で呼んで欲しいと。

サーヴァント(使い魔)ではなく(コンラ)を見てくれた立香ちゃん。

 

戦いのさなか、何度も盾で護ってくれた。

俺を助ける為に未知の力を持つ(レフ)へ立ち向かい。その華奢な背で庇ってくれたマシュちゃん。

 

遠い場所(カルデア)にいながらも。

俺達を助けようと尽力してくれた、Dr.ロマン。

 

モフモフという癒やしをくれたフォウくん←

 

 

新たな特異点(フランス)で出会った。

マルちゃん、マルタさん、タラスク、ジークフリート。

 

 

 

オレの空虚だった心が温かな記憶で溢れ。

深く刻まれた傷が癒えていく。

 

 

ーーもう、十分だよ (オレが告げる。)

 

ーーもう、大丈夫だね (俺は頷く。)

 

 

帰ろう (皆の元へ)

戻ろう (マスターの元へ)

会いに行こう (父さんの元へ)

 

そして《俺》と《オレ》は混ざり合い。

完全にひとつになり。

 

(コンラ)》になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーという感じで新生《コンラ》として無事に精神世界から帰って来たわけだけど。

ぶっちゃけ人格統合する前とあんまり変わってなかった←(台無し感)

 

強いて言うなら封印されてた記憶が戻って。

靄がかってた頭の片隅がクリアになったぐらい。

(そう云えば記憶の封印とか初耳だぞ爺ちゃん。

《オレ》を輪廻の輪に送り出してくれた時も、名乗らなかったから《名も知らぬ親切な神》だと思ってたし。前々から気づいてたけど。

 

爺ちゃん、言葉(説明)が足りないっ!!)

 

 

どうやら主人格の《俺》に、別人格の《オレ》の記憶がインストールされたみたいだ。

 

まぁ、確かに7歳のオレに約20年分の俺の記憶を入れるより。約20歳の俺に7年分の記憶を入れた方が精神面の負担は少ないもんな。

きっと無意識に自己防衛が働いてこの方法を取ったんだろう。

(でも、ちゃんと《オレ(生前のコンラ)》の記憶も感情も色褪せることなく覚えてる。よかった。)

 

 

・・うん。

頭もスッキリしたし。

体も、もうどこも痛くない。

問題なさそうだ。

 

眼を閉じてるから詳しくは分からないけど。

何か周りが騒がしい気もするし。

いい加減起きようっ!

 

俺は深く沈んでいた思考を切り上げ。

意気込みと共に(まぶた)を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

クー・フーリン(父親)と合流したら折を見て打ち明けるつもりだったのに!あの子が落ち着いてから話そうと思ってたのに!

よくもバラしてくれたわね!!

このクズッ!KYっ!ダメ親父っ!還れっ!!」

 

 

「悪かったっ!ワシが悪かった!

反省してる!謝る!

だから人差し指をこっちに向けるなっ!

ワシを撃ち殺そうとするのをやめろ!!」

 

 

意気込んで眼を開けたら。

マスターが《ガンド》で(ジークフリートに変じた)マルちゃんを撃ち殺そうとしているショッキングな光景が飛び込んできた。

 

ご、ご乱心だーっ!!(混乱)

 

 

「マスターッ!ストップ!ストープッ!!」

 

 

俺は慌てて横たえられていたベッドから飛び降り。止めようとマスターとマルちゃんの間に割って入る。

(そう云えばいつの間にか屋内にいた。

きっと2人が運んでくれたんだ。)

 

 

「っ!コンラッ!!」

 

「おおっ!気がついたかっ!!

(助かったっ!)←心の声」

 

 

マスターは俺の姿を視界に捉えると指先に凝縮していた魔力を消し。

すぐさま俺をその両腕で引き寄せる。

 

 

「ああっ!よかったっ!!

急に苦しみ出すし。いくら呼びかけても反応がないし。もうこのまま、アナタが眼を覚まさなかったら!死んじゃったらどうしようって!私、私・・っ!!」

 

 

ギュウギュウと俺を強く抱き締めながら。

涙声で言葉を紡ぐマスター。

(ん?頭に何か柔らかいものが当たっているような・・?)

 

頭をずらして見上げた顔は、今にも泣き出しそうで。

俺がどれだけ彼女に心配をかけてしまったのか。

すぐに想像がついた。

 

 

「ごめんね、マスター。

でも、もう大丈夫だから。」

 

 

取り乱す程に俺の身を案じてくれたマスターの姿に。後ろめたさを抱きつつも。

此処にいて良いのだと。必要なのだと。

言外に示されている様な気がして。

 

俺は自分の胸が熱くなり。

心が喜びで満たされるのを感じた。

 

同時に、そのマスターを一度でも見捨て。

楽になる為に『死』を選びかけた自分を改めて叱咤する。

 

俺は前にマスターに『もっと微笑って欲しい』と想った。でも、今はそれだけじゃなく『泣いて欲しくない』とも想う。

前以上に、強くマスターの事(この大切な人)を護りたいと想う。

 

それには体だけじゃなくて。

優しいマスターの心も護れなくちゃいけない。

 

 

「マスター、泣かないで。

俺、マスターの笑った顔が好きなんだ。」

 

「え?す、好き・・?」

 

「うん。」

 

「っ!!(コンラに好きって言われた!好きって言われた!好きって言われた!好きっ(ry)」

 

 

その為には強くならないと。

今の俺は弱すぎる。

精神も肉体も鍛えて、もっともっと強くなって。

約束だけじゃなく。マスター自身も護るんだ。

だって、俺はマスター(オルガマリー)のサーヴァントなんだからっ!

 

自分の成すべきことを再度、胸に刻み。

 

俺はマスターの不安を拭う為に。

その背に手を回し、抱きしめ返す。

(触れ合う体から聞こえる乱れた心音が、未だにマスターが不安を感じている事を伝えてきたからだ。)

 

 

「マスター。俺は生きて此処にいるから安心して。マスターが望む限り、傍にいて。護るから。」

 

「っ!!?(コンラが抱き締めてくれた。抱き締めてくれた。抱き締めてくれ(ry)」

 

 

あ、あれ?

何故か心音が更に激しくなったぞ。

まさか余計に不安にさせちゃったのか?

体温も高くなった気がするし。

どうしよう!?

 

俺が予想外の事態に困惑していると。

マルちゃんが驚いた表情で俺の首根っこ掴み、マスターから引き剥がした。

 

俺と離れたマスターはフラフラとおぼつかない足取りでベッドまで歩き。

倒れこむようにシーツに顔を埋めた。

(んん?耳が赤いような・・?)

 

 

あっ!そうか眠かったのか!

夜中だし、眠いと体温が上がるらしいし。

 

でも、眠れるって事はもう不安は感じてないんだな。

ふぅ・・良かった。

このままゆっくり寝て休んでもらおう。

 

 

「それでマルちゃん。急にどうしたの?」

 

「いやいや、それはこっちのセリフだから。

目覚めて早々にナニやっておるんだ、お主。

女を口説くにはちと早熟過ぎるだろ。」

 

「くど・・え?

俺はただ、マスターの不安を取り除こうとしてただけだよ?」

 

 

いきなり引き剥がされたから何事かと思ったら。

変な事をマルちゃんが言い出した。

不安な時は人肌が傍にあると落ち着くって聞いた事があったから、実行してみただけなんだけど。

もしかして間違ってたのかな?

 

 

「あながち間違いとは言えないが。

アレは、どう見ても・・。」

 

「?」

 

「ーーあぁ、なるほどの。

血は争えないと云うやつか。」

 

「???」

 

 

遠い目をしてブツブツ呟いていたと思ったら。

何やら俺を見てウンウンと頷くマルちゃん。

一体どうしたんだろうか?

 

マスターもベッドの上でゴロゴロ転がり出すし。

(すごい激しい。寝相悪かったんだ。)

 

俺はとても大切な事を思い出すまで。

2人の不思議な行動に首を捻るばかりだった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

※諸事情により、いつもより早く投稿させて頂きました。気づけばUA6万突破っ!!

皆様、本当にありがとうございます!

 

色々あったのとショッキング映像のせいで早速ヤリニキの事をど忘れしたコンラくん。

無意識に所長を口説いてる場合じゃないぞっ!

久々のギャグ(?)パートで作者はノリが分からなくなりました。(頭抱え)

 

 



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呪いの聖剣

 

第三者視点

 

 

 

「■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 

轟音と共に周囲の民家を破壊しながら襲い来る、巨大な触手。

それをマルタは俊敏な動きで避け。宙を舞い。

その触手に着地して足場にすると、次々と近くの触手に飛び移り巨大海魔を翻弄する。

 

 

「はっ!見た目だけで大した事ないわね。

(のろ)いのよ、ヒトデもどきっ!!」

 

 

精神を蝕んでいた狂化が解かれ、本来の力を取り戻した彼女は。

持ち前の身体能力を活かし巨大海魔相手に1人で大立ち回りを演じていた。

 

今はマルタの座にいるタラスクがこの場にいたならば「姐さん!自重っ!自重してくださいっ!!」と。

彼女の聖女としての風評やら身の危険やらを心配して絶叫していただろう。

いや、(魂の繋がり的なもので察知し)現在進行形でしているかもしれない。

 

そんなタラスクの(うれ)いを知らず。

己を薙ぎ払おうと振り降ろされた触手の1本を。

渾身の力で下段から殴り、跳ね上げたマルタ。

その触手の下を潜り、駆ける長髪の騎士ーーゲオルギウスは。

剣を構え、己の宝具を発動する。

 

 

「これこそがアスカロンの真実。

汝は竜、罪ありき!

力屠る祝福の剣ッ!!!(アスカロン)》」

 

 

神聖な光を纏う剣から輝く十字の斬撃が放たれ。

真っ直ぐに巨大海魔へと飛んだそれは、巨体から触手を1本斬り落とす。

 

 

「■■■■、■■ッ!!!」

 

 

しかし、その程度の攻撃は敵の驚異的な再生能力の前では無意味だった。数秒で失った触手は生え、元に戻ってしまう。

海魔の死角へと一時後退したゲオルギウスは、愛馬の傍らで待機していたジークフリートへと声をかける。

 

 

「やはり本体に再生不能のダメージを一撃で与えるしかなさそうです。

ジークフリート。私のアスカロン(宝具)の力であの巨大海魔はいま『竜』です。

貴方の竜殺しの力の見せ所。頼みましたよ。」

 

「ああ。それは構わないが。

ーーーアレは、海魔だろう?」

 

 

ゲオルギウスの《力屠る祝福の剣(アスカロン)》の能力は。

敵にダメージを与えるだけでなく。

攻撃を受けた敵の属性を強制的に『竜』へと転じさせる効果があった。

けれど、外見上は何の変化もないため。

タラスクという前例がいれども。

ジークフリートが思わず疑問を抱き、尋ねてしまうのも無理はなかった。

 

 

「・・いえ、『竜』です。」

 

「だ、だがーー」

 

「『竜』です。」

 

「・・・・。」←(滝汗)

 

 

だが、彼が尋ねた相手は『聖ジョージ』として名高いかの聖ゲオルギウス。

生前に信仰を棄てるよう幾度となく迫られ。

陰湿にて苛烈な拷問をその身に受けようとも。

けして屈することなく最後まで教えに殉じた、ダイヤモンドメンタルの聖人である。

 

彼の一切動じることのない微笑みと、そこから放たれる謎の圧力(プレッシャー)に。

他者に()われるままその願いを叶えてきた。ある意味流され体質といえるジークフリートがそれ以上、異を唱える事は不可能であった。

 

 

「・・わ、わかった。」

 

 

何とか自身を納得させ、彼は了承の意をゲオルギウスに示す。そして、聖人2人の解呪ーー『洗礼詠唱』により。

かけられていた多重の(強力な)呪いから解き放たれたジークフリートは。

大剣(バルムンク)を握り締め、柄に納まる青い宝玉から神代の魔力を引き出し。練り上げる。

抜き身の刃に魔力を宿らせた呪いの聖剣は、黄昏の色に輝く。

 

 

「いつでも放てる。

すまないが、彼女(マルタ)をーー」

 

「ジークフリートッ!

一発ぶちかましてやんなさいっ!!」

 

 

「」←ジークフリート

 

 

「さすがですね。

どうやら彼女の心配は無用のようです。」

 

 

マルタを宝具(バルムンク)の攻撃範囲から離脱させるよう、ゲオルギウスに伝えようとしたジークフリートだったが。

高濃度の魔力を感知したマルタは。

先を読んで、既にバルムンクの攻撃範囲外に脱していた。

そんな戦闘技術の高すぎる聖人仲間に、素直に尊敬の念を覚えるゲオルギウス。

そのメンタルは当然の如く、揺らぐことは無い。

 

 

「・・そ、そうか。なら、良いんだ。」

 

 

逆にジークフリートは気の毒な程に聖人2人に翻弄されっぱなしである。

動揺から言葉を濁しながらも。

そこは彼もかつて『王』であり『英雄』と呼ばれる男。

短い時間で精神を立て直し、『竜殺し』として強い意志の光る瞳で巨大海魔を見据える。

 

 

「すまないがーーー覚悟を決めてくれ。」

 

 

続いてジークフリートは自身の宝具を発動。

剣に宿る高濃度の魔力を、黄昏色の剣気として撃ち出す。

 

 

「《幻想大剣・天魔失墜ッ!!!(バルムンク)》」

 

 

弧を描き、振り下ろされた刃から放たれた半円形の輝く斬撃は夜空を分かつように宙を翔け。

巨大海魔()を一撃で真っ二つに斬り裂いた。

 

 

「■、■、■■■■ーー」

 

 

再生不能のダメージを喰らわされた巨大海魔は恨めしげに鳴き声を漏らすが。

間もなく、その巨体は消滅していく。

 

 

「ゲオルギウスッ!ジークフリートッ!

悪いけど、あの子達が心配だから先に行くわねっ!!」

 

 

マルタは巨大な怪物が消えていく光景を最後まで見届けずに修道服を翻し。2人に声をかけると。

元々、フレイズマルとの集合場所に指定していた街外れの広場へと急ぐ。

 

思いがけない事態が連続で起こり、バラバラになってしまったが。

無事であれば皆、合流する為にソコを目指すだろうと彼女は当たりをつけたのだった。

 

 

 

マルタが目指す街外れーー東の方角の空は。

僅かに白み始めている。

 

長い夜が明けようとしていた。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

その頃、同じ街の一角で。

両断され消えていく巨大海魔を眼にし、笑う男がいた。

 

 

「おーっ。すげぇのぶっ放してる奴がいんな。」

 

 

状況が違えばあの巨大な怪物を斬った猛者と一戦交えたかった、と。

ランサー(クー・フーリン)は胸中でぼやきつつ。

敵に突き刺していた己の槍を乱暴に引き抜いた。

 

 

「グアぁっ!?この、匹夫めがぁああっ!!!!」

 

「ひんぷひんぷ、うるせぇな。

タコ?ヒトデ・・か?

とにかく気持ちわりぃもん無駄撃ちしやがって。

おかげでアイツらを見失っちまったじゃねぇか。」

 

 

ジル・ド・レェの肩に刺さっていた朱槍を抜いた彼は、非情に吐き捨てる。

 

ランサーは己の父(ルー神)からこの聖杯戦争(人理修復)の事を聞き。息子を助ける為、その戦いに参加すると決意した瞬間から。

息子(コンラ)に害を成す者は容赦なく排除すると心を定めていた。

 

故に、今の彼は本来の面倒見のいい兄貴肌から一転。仕事モードの冷めた表情と眼差しで、息子の眼を抉ろうとした男を蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされた本人は石畳を転がり、ランサーに屠られた大量の海魔の亡骸にぶつかって止まった。

血が流れ出す傷を片手で押さえ。

手の届かぬ場所に落ちた己の宝具()を口惜しげに

見る。

 

 

ーーーアァアアアア″ア″ッ!!!!

何てことだっ!何てことにっ!?

 

 

丸腰の状態でうずくまるジル・ド・レェは、己の覆しようのない敗北を身を持って感じていた。

傑作を生み出す作業を邪魔された怒りのままに。

海魔を更に召喚し、優勢に立ったものの・・・それは一時のみ。

瞬く間に敵の槍に海魔は殺し尽くされ。

自身もまたその朱槍に穿かれ、無様な姿を晒していた。

 

 

ーーー私は、私はっ!

こんな・・ところで消えるわけにはっ!!

まだ彼女の復讐を!フランスへの罰を!

始めたばかりだと云うのにっ!!

あああああっ!!

尊く愛しき我が聖処女(ジャンヌ)っ!!!!

 

 

自身の無力さ、愚かしさに。

後悔と狂気に呑まれかけるジル・ド・レェ。

しかし、己の聖処女への強い想いが。執着が。

狂いかけた精神を正気に繋ぎ止め、ある策を講じさせる。

彼はたったひとつ残された、己が最後に出来る事をなす為に。

その血濡れの顔を歪めーーー嗤った。

 

 

「く、ひっ、ふふふっ!フハッ!

ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

 

 

嗤う、嗤う。

彼は嗤う。

まるでランサーを嘲る様に、蔑む様に。

それに気づいたランサーは眉をひそめ、不快げに槍を男の喉元に近づけた。

 

 

「なに笑ってやがる。」

 

「フフフフッ!!

あぁ・・いえ、すみませんねぇ。

あまりにも滑稽だったもので。

我慢が出来ませんでした。」

 

「あ″っ?何の事だ?」

 

「気づいていないのですか?

それとも気づきたくないのですか?

魔槍(ゲイ・ボルク)使いのランサー・・・クー・フーリンッ!

貴方の犯した『子殺し』の罪は、今更息子の窮地を救ったところで赦されなどしないっ!!」

 

 

マスターらしき女が呼んでいた供物(子供)の名と、目前の男の魔槍から。

かつてケルト神話を題材とした美術品も収集していたジル・ド・レェは2人の関係性を見抜き。ランサーへとその罪を突きつける。

 

 

「あの坊やは生前、さぞ貴方の事を怨んで死んでいったのでしょうねぇ。異国から会いに来た実の息子を誤って殺してしまった。愚かな父親の事を今も憎んでいるでしょうねぇ。」

 

「っ!」

 

 

ランサーは思わず息を詰める。

それはジル・ド・レェの口にした言葉が、彼が最も恐れる可能性を指摘したものであったからだ。

 

 

男の言う通り。

ランサーは生前、息子とは気づかずコンラを殺めてしまった。それは己が贈った誓約(ゲッシュ)が原因でもあり。その苦い事実は長い間、彼の心に影を落とし続けてきた。

そして運命とも云える『冬木』での再会。

 

英霊(ランサー)と成った自身が転生した息子(アキラ)の命を、令呪に逆らえず奪うという。

彼にとってあまりにも忌まわしい出来事。

 

二度にわたり息子の命を奪ったという罪の呵責から、ランサーの心に巣食う影はより暗さを増し濃くなっていった。

ほどなくして『ある疑問』が、そんな彼の中で頭をもたげ始める。

 

 

ーーー息子(コンラ)は自分の事を恨んでいるのではないか?

 

 

一度ならず二度までもその命を刈り取り。

求めた平凡(幸福)人生(未来)を踏み砕き。

(後に知る事となったが)魂すら滅しかけた己の事を憎んでいるのではないか?

 

直視することを躊躇う程の激しい痛みを心に走らせる。望まぬ可能性。

けれど自らが息子へと行った蛮行を思えば。

怖ろしくも当然の可能性。

 

それはフランス(この特異点)へと召喚された時からランサーの脳裏の端に居座り続けていた。

 

 

「貴方がどんなに赦しを乞おうとも、おそらく彼は首を縦には振らないでしょう。当然ですっ!

罪は罰を持ってしか償えないっ!!

命を奪った贖罪は命でしかあがなえないっ!!!!」

 

「ーーーーせぇ。」

 

 

ランサーはジル・ド・レェの糾弾を否定出来ない。自身が息子を殺したのは、動かしようのない事実だからだ。

 

 

「そして貴方達はこの地で再び殺し合うっ!!

ああっ!素晴らしいっ!私が手を下すまでも無く。あの子供は貴方という存在(父親)と出会うだけで憎悪に穢れ、悪鬼へと自ら堕ちていくのです。その様を是非この眼で観たかったっ!!!」

 

「ーーーうるせえっ!!!」

 

 

だが、《それ》はランサー自身が一番よくわかっていた。ジル・ド・レェに言及されるまでもなく。自らが犯した罪の重さを彼は誰よりも自覚し、認めていた。

息子が望むのなら、その手にかかる事も厭わないと思い詰めるほどに。

だからこそ・・・

 

 

「アイツを殺そうとしたヤツがっ!

アイツの事を全部わかった風に言うんじゃねぇよっ!これはオレとアイツの問題だ。

部外者のテメェが口出しすんなっ!!」

 

 

ただの敵である男が、自分達の全てを知ている様な顔で。軽々しく口を挟んできた事に。

冷めていたランサーの心は嫌悪と怒りに黒く燃え上がる。

業火の様な激情のままに繰り出された朱槍はジル・ド・レェの首を穿き。

噴き出す血飛沫に惑わされることなく。

追って出された矛先はその心臓を正確に穿いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってっ!コンラッ!!」

 

「ッ!?」

 

 

敵にとどめを刺した直後。

思いもよらず、背後から耳に飛び込んできた息子の名に。ランサーが乱れた心のまま振り返れば、コチラに駆けてくる息子の姿が眼に入った。

今の彼にはその姿が酷く愛おしくーーー同時に恐ろしく映った。

 

 

ーーーあぁ、待っていました。

この瞬間をっ!!

 

 

そして、そんな父親の動揺を今か今かと待ちわびていた男が1人。

 

 

「ジャンヌ″ゥウ″ウ″ウ″ウ″ウウッ!!!!!」

 

「「っ!?」」

 

 

ランサーに『子殺し』の話を振ったのも。

ワザと挑発し、怒りを買ったのも。

全ては敵に冷静さを欠かせ、この一瞬の隙を生み出す為。

ジル・ド・レェはランサーの意識が己から逸れた、この千載一遇のチャンスを逃さず。

 

破れた喉で雄叫びを上げ、心臓を穿かれたまま最後の力を振り絞り。

己が身に秘かに宿していた『聖杯』をジャンヌの元へと転移した。追い詰められた彼が唯一最後に出来る事、それは。

『聖杯』を、己がその力で生み出した竜の魔女(ジャンヌ)に託す事だった。

 

 

ーーージャンヌッ!ジャンヌッ!!

我が復讐を体現せし聖処女よっ!

どうか貴女の心の赴くまま。

憎悪と憤怒のままに。

このフランス(愚かな国)に罰をっ!

その麗しき身にて神罰をっ!!

 

 

己の願いを『聖杯』へと込め。

力尽き、消滅するジル・ド・レェ。

彼の肉体が消えたことで顕になった宙に浮く『聖杯』に。ランサーとオルガマリー達は目を剥く。

 

 

「なっ!?聖杯だとっ!?」

 

「何で!?え?まさかーー」

 

 

とっさにランサーは『聖杯』を確保しようと手を伸ばすも。数秒遅かった。

『聖杯』はオルレアン城へと転移され、跡形も無く消え去る。

 

 

「ちっ!」

 

 

何も掴めなかった己の手に。

敵の挑発にまんまと乗ってしまった己の迂闊さに。苛立ち、舌打ちするランサー。

そんな彼に、どこか不安げな様子で近づく幼い子供。

 

 

「とう、さん・・。」

 

「ッ!ーーーコンラ。」

 

 

 

初めて出会ったのは生前。

2度目に出会ったのは『冬木』。

3度目に出会ったのは『特異点F』。

 

数奇な運命に翻弄され。

出会いと別れを幾度も繰り返した父子は。

この夜、フランスの地にて4度目の再会を果たした。

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

※場を引っ掻き回すだけ回して旦那(原作ラスボス)は退場。

お疲れ様です。

残されたジャンヌ・オルタは真実を知ってしまうので不憫な事になりそう。

が、がんばれっ!←

 

そしてようやくヤリニキとコンラくんが顔を合わせられました。よかった・・のか?←

 

 



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夜明け

 

 

反対するマスターとマルちゃんをどうにか説得し。

俺は身を隠していた民家から急いで父さん(ランサー)に助けてもらった辺りへと戻ってきた。

 

もうこの付近から移動してしまったのではと不安だったけれど。

目を凝らしながら周囲を見回していたら、運良く父さんの姿を見つける事が出来た。

 

 

ーー父さんっ!

 

 

再会を強く願った父の。

その焦がれた背中を眼にした途端、頭が真っ白になって。

気づけば一緒について来てくれた2人を置いて全速力で駆け出していた。

 

 

「待ってっ!コンラッ!!」

 

「ーーッ!」

 

 

マスターの俺を呼び止める声で冷静さを取り戻し、周りの様子が見える様になった時には。

宙に浮く『聖杯』が消え、父さんが苛立たしげに舌打ちしている光景が目前に広がっていた。

 

 

ーーえっ?ええぇっ!?

い、今の聖杯だったよね?

いったい何処から来たっ!?

そして何処へ行ったっ!?

 

 

異変の原因である筈の『聖杯』が唐突に現れ、消えた事に俺は戸惑う。

父さんの苛立った表情に、自分が知らぬうちに何かまずい事をやらかしてしまったのではと不安に駆られた。

それでもその瞳に俺を映して欲しくて。

緊張から震える脚を動かし、おぼつかない足取りで近づきながら。

上手く回らない舌で、どうにか言葉を紡ぐ。

 

 

「とう、さん・・。」

 

「ッ!ーーーコンラ。」

 

 

ろれつが回らず、声も小さくなってしまって。

随分と聞き取り難くなっていただろう俺の声を。

それでも聞き逃すこと無く父さんは拾い、応えてくれた。

その紅い瞳に俺が映っていた。

その口は俺の名を呼んでくれた。

 

 

「ーーーぅ、ぅ″。」

 

 

それらを認識した直後。

俺の魂は喜びに芯から満たされた。

鼻の奥がツンとして、喉から嗚咽が漏れそうになる。

 

嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。

この瞬間、《俺達(コンラ)》の願いは叶ったのだ。

『会いたい』と願った父が眼の前にいるのだ。

 

俺は今すぐにでもその腕にしがみつき。

生前に我慢した分、思いきり甘えてしまいたい誘惑に駆られた。

でも、必死にその衝動に抗い。

かろうじて踏み止まることに成功する。

 

把握出来ていない現状への危惧。

精神的な年齢からくる羞恥心。

そして何より《護るべき人(マスター)》に、父親に甘える自分の姿を(何故か無性に)見られたくなかったのだ。

 

自分でも処理しきれない複雑な感情の波に襲われながらも。

せっかく会えた父さんに泣き顔を見せたくないと。

俺は唇を噛んで込み上げる涙を呑み込み。

代わりに今できる最高の笑顔を浮かべて。

生前に言いたくても言えなかった、その言葉を口にした。

 

 

「父さんーー会いたかった。」

 

「ッ!!」

 

 

父さんの眼が驚愕に見開かれるのを不思議に想いながらも。一度吐き出した想いは止まらず。

溢れるままに、唇から勝手に言葉となって零れていく。

 

 

「ずっと会いたかったんだ。

はじめは母さんに認められたくて、勝負して勝つ為だったけど。噂を聞いて。

凄い武勇ばっかりで。

とてつもなく強い人なんだなって。

そんな人に勝てるのかって不安にも思ったけど。

少しだけ・・誇らしくて。

師匠に使いを頼まれた時も。

まだ修行が終わってなかったから、どうしようって想ったけど。

父さんに闘わないで会えるって考えたら、嬉しくて。早く会って、いっぱい話をしたいって・・」

 

 

感情のままにとりとめもなく吐き出される言葉達。

それは生前に『父さんに自分の事を知って欲しい』と望んだ俺の想いが、今になって表に現れたものだった。つたなくて、デタラメな。

文章にもならない酷い短文の羅列を重ねながら。

俺は《俺達(コンラ)》の、此処に至るまでに感じた思いの丈を明かしていく。

 

 

父さん(ランサー)と初めて港で会った時。

俺はこの人を知ってるって思った。

すごく懐かしい感じがしたんだ。

もっと一緒に居たくて、離れたくなくて。

必死に引き止めてた。

朝に釣りをするようになってからは、前の日にあった事とかを父さんと話すのが楽しくて。気づいたらそれが釣りに行く目的になってた。」

 

 

父さんは黙って、ただ静かに俺の話に耳を傾けてくれている。雲が月にかかったせいで。

月光が遮られ、陰ったその顔がどんな表情を浮かべているのかは(うかが)えない。

 

 

「キャスターの父さんに初めて頭を撫でてもらった時は不思議と嬉しかった。

記憶が無かったから、あの時はわからなかったけど。

生前の『頭を撫でて欲しい』って願いを父さんは叶えてくれてたんだね。

何度も助けてくれて、何度も励ましてくれた。

息子だって認めてくれた。護るって言ってくれた。たくさん愛情を注いでもらえて俺、すごく嬉しくて。

父さんが俺の『父さん』で良かったって。

父さんの息子に生まれてーーー幸せだって想ったんだ。」

 

「ーーッ!」

 

 

唐突に、父さんが息を呑む気配がした。

その気配にハッと反射的に口を閉じる。

 

思えば、目の前にいる父さんは《どちら》の父さんなんだろうか。

《ランサー》と《キャスター》。

どちらも《父さん》である事に変わりないけど。

目の前の父さんが両方の記憶を持ってるとは限らない。身に覚えのない思い出話しを聞かされて。

困らせてしまったのではと。

 

俺は恐る恐る父さんの様子をうかがった。

その表情は相変わらず暗くてわからない。

でも、俺が言った台詞に何か思うところがあったようで。

数回躊躇うような動きの後に、重々しくその唇を開いた。

 

 

「お前はーーそれでいいのか?」

 

「え・・?」

 

「オレはーーお前をこの手で殺した。

1度だけじゃない、2度もだ。

転生して何もかも忘れ。

新たな幸せを掴もうとしていたお前の未来を奪った。オレはお前から命を、未来を、幸福を奪い続けてきた。

そんなクソみてぇな男の息子で良かっただなんて・・・本気で言ってんのか?」

 

 

その声色には深い苦悩と後悔と疑念の感情が滲んでいた。そこでようやく俺は気づく。

息子を手に掛けてしまった後、父さんが『子殺し』という罪を背負って生きた。

殺した側(生き残った側)の苦しみに。

 

早々に楽な『死』へと逃げ、全てを忘れた俺と違って。

父さんは苦しみながらも胸を張って『生』を生き抜き。死後も俺のことを忘れず覚えていてくれた。

 

その《精神(こころ)の強さ》に。

改めて父さんへの尊敬と憧れの念が、俺の胸の奥から湧き上がる。

 

 

「ーーー確かに、不満に思った事もあったよ。

生前に気づいてもらえなかった時は、忘れられてると思ったし。

父さんが《ランサー(親友)》だったって。

俺を殺したんだって知った時も、ショックだった。

裏切られたような気がして。

心が抉られてるみたいに痛くてーーー死のうと想った。」

 

「ーーッ。」

 

「でも・・俺は生きる道を選んだ。

生きるのは苦しくて痛いけど。

その分、楽しくて幸せな事に出会えるって。

父さんとマスターが俺に《約束》を通して気づかせてくれたから。」

 

 

2人と交わした《約束》が、俺をギリギリで留まらせてくれた。

その《約束》は生きる目的となって。

皆の隠された優しさに、俺が気づくキッカケになった。

そして記憶の中の、父さんの温かな愛情は。

俺に生きる希望を与えてくれた。

つまり、あの精神世界で俺は父さんにーーー救われたのだ。

 

 

「だからね、父さん。

もうーーー自分を責めないでよ。」

 

 

そんな俺に、父さんを憎む気持ちなんて微塵も有りはしなかった。

元々、殺されたことに対して父さんを恨む想いは無かったんだ。

 

 

「なに・・言ってんだコンラ。

オレを責めるのはオレじゃなくてお前だろ?

お前はオレを恨んで当然なんだ。

なのに、責めるなとかーー意味がわからねぇ。」

 

 

動揺に乱れ、掠れた声が耳に届く。

俺はそんな父さんに更に歩み寄り。

嘘偽りのない心の内を自ら晒した。

 

 

「俺は、父さんの事を恨んでなんていないよ。」

 

 

1度目は王命で。

2度目は(おそらく)令呪で。

 

どちらも父さんの本意じゃなかったんだ。

父さんは悪くない。

悪いのは星の巡りだったのだと。

全てを思い出した今の(コンラ)は、そう想っている。

 

 

「だって、俺は父さんの事がーー大好きだから。」

 

「ッ!?」

 

 

あの悲劇(子殺し)』の後に出会った父さんは。

いつだって優しくて、強くて、温かくて、かっこ良かった。

俺の尊敬できる憧れの《英雄(父親)》クー・フーリン。そんな男の息子に生まれた事を。

俺は今ーー心の底から誇らしく想うんだ。

 

雲が通り過ぎたのか。

月明かりが戻り、父さんの顔が柔らかな光に照らされる。その顔はどこか呆然と。

信じられないモノを見る様な眼差しを俺に向けていて。

 

 

「父さん。俺は誰に何と言われようと。

父さん自身に否定されても。

クー・フーリンの息子に生まれて良かったと想う。父さんは俺の憧れで。父さんみたいな強い男になりたいから。

これだけはーー絶対に譲れない。」

 

「ッーーいい、のか?オレが、父親で。」

 

「うん。」

 

「そう、か・・」

 

「むしろ、父さん(クー・フーリン)が『父さん』じゃなきゃヤダ。」

 

「ッ!!ーーーは、ははっ!

そうか!そうか!!」

 

 

力なく言葉を発していた父さんの声に覇気が戻り。その顔は一瞬、泣き笑いに似た表情に歪んだかと思うと。

瞬く間に満面の笑みへと変わった。

 

 

「《アキラ》だった頃から薄々気づいてはいたけどよ。お前にはホント・・敵わねぇなあ。」

 

「?、何のこと?」

 

「あぁ、何でもねぇよ。

それよりほらっ。もっとこっち来いっ!」

 

「わっ!」

 

 

いきなり肩を掴まれて、グイッと力強い腕に引き寄せられる。数歩分、離れていた父さんとの距離は詰められ。

驚いている間に大きな掌にワシャワシャと頭を撫でられた。思わず、俺は目を丸くしてしまう。

キャスターの父さんよりも乱暴な撫で方に少し焦ったけど。すぐに力加減は違うけど同じ撫で方だと気づいて。

俺はホッと無意識に強張っていた肩の力が抜けるのを感じた。

 

ーーあぁ、父さんだ。

 

大きな安堵感が胸を満たし。

 

ーー撫でられるくらいならいいよな。

 

と、よくわからない言い訳を自分に呟きながら。

俺は撫でられる心地良さにゆっくりと身を委ね、目を閉じる。

出来る事なら、ずっとずっと。

この時間が続いて欲しかった。

けど、いつまでもこうしてはいられない。

人理修復やカルデア側との合流など。

俺達にはやらなければならない事が沢山あるのだから。

 

それでもーーあと少しだけ。

あと数分だけ待って欲しい。

生前からの願いが、長い時の果てに。

ようやく叶ったのだから。

もう少しだけ、この幸福な時間を味あわせて欲しかった。

 

 

 

(まぶた)の裏に、強い光を感じる。

ようやく夜がーー明けたようだった。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

※またもや遅刻してしまい申し訳ありません!

どうしてもヤリニキ視点と同時投稿したかったもので遅くなってしまいました。

 

コンラくんは記憶統合したことでクー・フーリンへの好感度がMAXを突破。

『ファザコン』と化した模様。

良かったねヤリニキ!

 

でも、コンラくんを狙う『マスター(所長)』が嫉妬で内心ハンカチを噛み締めているので注意が必要だ←

 

 



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ブルーモーメント

 

ヤリニキ視点

 

 

 

「とう、さん・・。」

 

「ッ!ーーーコンラ。」

 

 

不安げな顔で、脚を震わせながらオレへと歩み寄るコンラ。

追い求めた存在(息子)の姿に。

胸を突く愛おしさと、処刑台に立つ罪人に似た心境を味わいながら。

聴き逃してしまいそうな程に微かな、オレを呼ぶ息子の声に応えた。

 

 

「ーーーぅ、ぅ″。」

 

 

途端、(うめ)き声を零したコンラに肝を冷やす。

オレに名を呼ばれた事で、息子が苦しんでいた。

 

 

ーーそう、だよな。

今のコイツは記憶がねぇんだ。

『冬木』で《ランサー》として会ったオレの顔も。親父は真相を気取られないよう封じてた筈だ。

それが、こうして《父親(キャスター)》と同じ顔をした《友人(ランサー)》がいきなり目の前に現れたんだ。混乱するのも無理ねぇか。

 

 

ようやく会えた息子の記憶が無い事に。

安堵と淋しさを。

どう足掻いても息子を苦しめる自分に。

憤りと虚無感を。

混じり合う相反する感情の矛盾に苛まれながら。

オレはこれからコンラが寄こすだろう問いに、全て偽りなく答える心づもりで。

無言のまま、次にその口から発せられる言葉を待つ。

 

問いを終えた時、コンラがオレへと向けるのは。

騙されていた事への怒りか。

殺された事への憎しみか。

 

何にしろ、今までのような《友人》や《父親》として接することは出来なくなるだろう。

 

 

ーーそれでも、構わねぇ。

キャスターのオレはどうするつもりだったか知らねぇが。

コイツは全てを知って、封じられた記憶を解き放たないかぎり。この人理修復の旅を生き残れねぇ。

 

 

カルデアという『安全地帯』に行く術を失ったコンラに。この幾つもの特異点を巡り続ける旅は過酷すぎる。(親父の気遣いを無下にしちまうが)無理矢理にでも記憶の蓋をこじ開け。

せめて、師匠(スカサハ)じこみの武芸を思い出せれば、少しはマシになると考えたのだ。

 

無事にコンラが《座》を得られたあかつきには。

祝い代わりに殺されてやるのも悪くないと。

未だに一部が《狂って(変質して)》いるとは云え、

らしくない自分の薄暗い思考に自嘲し。

オレは息子からの糾弾を待ち受けた。

 

 

「父さんーー会いたかった。」

 

「ッ!!」

 

 

だが、コンラの口から出たのは詰問ではなく。

オレとの再会を心から喜ぶ。

純粋な歓喜が込められた言葉だった。

 

濡れた瞳は、最後に死に別れた時と何ら変わらず無垢なままで。

向けられる眩しい笑顔に、昏い陰りは微塵も見受けられない。

 

予想とかけ離れた息子の言動に驚きを隠せず。

動揺から思考は停止し、『何故』という単語ばかりが頭の中を埋め尽くす。

そんなみっともなく狼狽えるオレの前で。

コンラは更にオレが耳を疑う話を、つたなくも語り始めた。

 

 

それは生前の《コンラ(息子)》の想い。

それは冬木での《アキラ(息子)》の想い。

それは特異点Fでの《コンラ/アキラ(息子)》の想い。

 

 

まるで生前から今に至るまでを、もう一度歩み直すかのように。

コンラはオレに、胸に秘めていた数々の想いを打ち明けていく。

そして伝えられるその内容は、雄弁に《ある事実》をオレに示していた。

 

 

ーーお前。

もう、全部『思い出した』のか。

 

 

何があったかはわからないが。

息子は既に記憶の封印を解いていた。

 

 

ーーなら、余計にわからねぇ。

何でお前は。

そんなふうにオレに笑える?

嬉々として話しかけられる?

 

『思い出した』なら。

オレが重ねた罪を、犯した許し難い行いを。

コイツは身をもって知っている筈だ。

それなのにーー

 

 

「父さんが俺の『父さん』で良かったって。

父さんの息子に生まれてーーー幸せだって想ったんだ。」

 

「ーーッ!」

 

 

ーーどうして。

当たり前のように。

お前はそんな言葉が言えるんだ。

 

 

理解できない台詞を続けて聞かされ。

オレは愕然とする。

その心意を知りたいと。

渇ききった重い口を動かし、躊躇しながらも。

コンラへとオレは自ら問いかけていた。

 

 

「お前はーーそれでいいのか?」

 

「え・・?」

 

「オレはーーお前をこの手で殺した。

1度だけじゃない、2度もだ。

転生して何もかも忘れ。

新たな幸せを掴もうとしていたお前の未来を奪った。オレはお前から命を、未来を、幸福を奪い続けてきた。

そんなクソみてぇな男の息子で良かっただなんて・・・本気で言ってんのか?」

 

 

聞くまでもない。

コンラはーー《本気》で言っている。

 

姿は違くとも《アキラ》を『冬木』で。

すぐ近くで見守っていたのだ。

その瞳を、表情を見れば。

息子が嘘をついていないことは一目でわかった。

 

 

ーーでもよ。

それじゃ『ダメ』だろ。

『良く』ねぇだろ。

 

 

 

「ーーー確かに、不満に思った事もあったよ。

生前に気づいてもらえなかった時は、忘れられてると思ったし。

父さんが《ランサー(親友)》だったって。

俺を殺したんだって知った時も、ショックだった。裏切られたような気がして。

心が抉られてるみたいに痛くてーー」

 

 

責めるような息子の言葉に。

鉛を飲んだ様な苦しみと。

背負ってきた罪が僅かに軽くなる感覚を覚える。

 

 

ーーそうだ。

《罪を犯した》オレを。

オマエは《罰する》べきなんだ。

 

 

オレはコンラに罰を与えられる事を望んでいた。

罰を受けた分だけ、犯した罪が軽くなるような。

そんなありもしない錯覚に《この時》のオレは陥っていたのだ。

 

 

「ーー死のうと想った。」

 

「ーーッ。」

 

 

しかし、刹那の時間で。

他ならぬ息子によって。

それがただの錯覚だと思い知る。

 

 

ーーオレがとった行動は。

自ら死を願う程に。

コイツの心を傷つけたのか。

 

 

《死》を望んだという。

コンラの言葉にゾッと背筋が寒くなった。

一歩間違えば、オレはこうして再会する事も叶わず。永遠に息子を喪っていたのだ。

 

迎えかけた怖ろしい結末にオレの曇った眼は覚め。罰せられれば罪が雪がれるという身勝手な幻影は跡形もなく消え失せた。

 

 

ーー何をわかった気でいたんだ、俺は。

コイツはオレが想っていた以上に。

脆く、繊細で。

 

 

 

「でも・・俺は生きる道を選んだ。

生きるのは苦しくて痛いけど。

その分、楽しくて幸せな事に出会えるって。

父さんとマスターが俺に《約束》を通して気づかせてくれたから。」

 

 

「だからね、父さん。

もうーーー自分を責めないでよ。」

 

 

 

ーー想っていた以上に。

危うくも強く。

どこまでも優しかった。

 

 

「なに・・言ってんだコンラ。

オレを責めるのはオレじゃなくてお前だろ?

お前はオレを恨んで当然なんだ。

なのに、責めるなとかーー意味がわからねぇ。」

 

 

わからない。

わからない。

愛する我が子の事がわからない。

 

オレの心は面白いほどに。

息子の言葉ひとつで激しくかき乱される。

名を馳せたアルスターの戦士が情けないと思いつつも。

この子供(コンラ)》相手では仕方がないと、納得している自分もいた。

 

 

「俺は、父さんの事を恨んでなんていないよ。」

 

 

ーー何でだ。

2度も理不尽に殺されたんだぞ?

存在()そのもの消されかけたんだぞ?

どうして恨まない。憎まない。

どうして、お前はオレを・・。

 

 

「だって、俺は父さんの事がーー大好きだから。」

 

「ッ!?」

 

 

コンラはオレの事がーー父親の事が『好き』だから恨まないと言う。

ただそれだけの理由で。

数えきれない程の苦痛を与え。

死後も苛酷な道を歩む運命(さだめ)を負わせた。

オレ(父親)を『赦す』と言外に告げるのだ。

 

姿を現した欠けた月が。

言葉もないオレと、信じられぬ告白をしたコンラを。その光で平等に照らし出す。

 

 

「父さん。俺は誰に何と言われようと。

父さん自身に否定されても。

クー・フーリンの息子に生まれて良かったと想う。父さんは俺の憧れで。父さんみたいな強い男になりたいから。

これだけはーー絶対に譲れない。」

 

 

月光の下に映し出された息子の瞳は。

偽りのない澄み切った眼差しをしていて。

その表情からは、けして譲らないと云う強固な意志も読み取れた。

 

こんなオレを。

《父》と慕う息子に。

こんな男の。

《息子》で幸せだと。

微笑うコンラに。

 

その資格はないと。

幾度も諦め、打ち消してきた。

変わらず《コンラ》の《父親》で在りたいという欲求が魂の根底から湧き上がる。

 

 

「ッーーいい、のか?オレが、父親で。」

 

「うん。」

 

「そう、か・・」

 

 

迷いなく返された息子の答え。

それに『変質した(狂った)』オレの魂の一部が、狂喜するのを感じた。

 

 

ーーお前が望むのは。

オレ(クー・フーリン)の『命』じゃなく。

オレ(クー・フーリン)という『父親』なのか。

 

 

悦びにオレの口端は自然と上がり、目頭が熱くなる。しかし、息子に情けない顔は見せられないと。求められ、認められた《父親》としてのプライドで。

出口を求め暴れる激情を内側で押しとどめていたのだが。

 

 

「むしろ、父さん(クー・フーリン)が『父さん』じゃなきゃヤダ。」

 

 

コンラがこちらの努力も知らず。

オレが喜ぶ言葉をサラリとのたまってきたものだから。オレはたまったものではなかった。

 

 

「ッ!!ーーーは、ははっ!

そうか!そうか!!」

 

 

止められずに瞳から落ちた雫をバレぬように(はら)い。歓喜に弾み、浮かれる心のまま。

溢れだした喜悦に逆らわず笑う。

 

 

「《アキラ》だった頃から薄々気づいてはいたけどよ。お前にはホント・・敵わねぇなあ。」

 

「?、何のこと?」

 

「あぁ、何でもねぇよ。

それよりほらっ。もっとこっち来いっ!」

 

「わっ!」

 

 

開いた数歩の距離がもどかしく。

細い肩を掴んでコチラへと引き寄せる。

友人として接していた《息子(アキラ)》に出来なかった分。思い切り小さな頭を撫で回してやった。

 

コンラは突然の事に眼をパチパチと瞬かせていたが。程なくして、安心したように体から力を抜き。

まろやかな頬を弛めて瞳を閉じる。

 

自分を殺した《父親》に何の抵抗もなく、無防備に身を委ねていた。

その姿に、絶対の信頼を寄せられている事を理解し。狂おしい程の愛おしさから胸が詰まる思いがした。

まるで仔犬が親に甘える様な動作で掌へと擦り寄る息子に。

乱雑だった指の動きを止め。

細く柔らかな金糸を、梳くように撫でてやる。

 

 

 

 

ふと、視界の隅に入った『青』に顔を上げれば。

白む東の空を除いて。

辺り一面が青く染まっていた。

 

 

夜明けの青(ブルーモーメント)

 

 

どこぞの聖杯戦争で得た知識を掘り起こし。

夜明けが近いことを知る。

 

 

《あの日》は太陽が輝く晴れ渡った空の下で。

冷えていく温もりを感じながら。

赤く染まった息子を抱いていた。

 

《今》は欠けた月が浮かぶ空の下で。

あたたかな温もりを感じながら。

青に染まる息子の頭を撫でている。

 

 

同じ『青い空』であるのに。

眼の前の情景は驚くほど《生前》と対照的で。

 

《あの時》とは違う、その事実を。

息子と再会し、赦され、父として隣に佇む奇跡のような現状を。

オレは強く強く噛み締めた。

 

 

ーーもう『同じ結末(悲劇)』は迎えねぇ。

コイツを必ず『英雄』にして(救って)みせる。

 

 

そう己に誓いを立て。

『青』を追い払い。

昇りはじめた太陽に眼を細める。

 

 

 

深海にも似た暗い夜がーー明けた。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

※これでようやく2人が無事に再会&和解できました。

ヤリニキは『父親』ポディションをGET。

一緒に旅をして、隣にも居られるので完全に勝ち組ですね。

キャスニキは・・・うん。マジですまぬ←

 

 



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邪竜と魔女

 

 

第三者視点

 

 

 

「いい?アンタはその子の『父親』だけど。

私はその子の『マスター』なんだからねっ!」

 

「?、ああ。

それは親父から聞いて知ってる。

それがどうしーー」

 

「その子に『大好き』て言ってもらえたからって!甘えてもらえてるからってっ!

調子に乗らないでよねっ!!」

 

「・・・は?おい。ちょ、ちょっと待て。

アンタ、まさかホントに親父の言ってた通りーーー」

 

「私だって私だって私だって私だって私だって私だってっ!!!」

 

「ーーーマジか。」

 

 

事前に決めていた、仲間との待ち合わせ場所である『街外れの広場』へ向かう道すがら。

疲労と、心から安堵したせいか。

糸が切れたように眠ってしまった息子(コンラ)を背負い歩いていたランサーは。

息子のマスターであるオルガマリーの発した嫉妬のこもった台詞に、思わず顔を引き攣らせた。

 

彼は父親(ルー神)から彼女がコンラに対し、淡い恋心を抱いている事は聞いていた。

だが、中身(精神年齢)は別として。

息子の外見は7歳の幼子である。

 

さすがに何かの間違いだろうと一蹴していたのだが。現在進行形で己を睨み上げるオルガマリーの瞳は、表情は。見覚えのある『恋する女』の嫉妬が強く滲み出たものであった為。

ランサーはルー神の言葉が、思い過ごしではない事実であった事を己の眼で知ることとなった。

 

しかもその両眼には、嫉妬の鮮烈な炎が燃えているだけでなく。依存にも似たドロリとした昏い感情も垣間見えており。

 

 

ーーおいおい。

この女がマスターで大丈夫なのかよ。

 

 

再会して早々、これから続く旅路での。

息子の身の安全に一抹の不安を覚えたランサーであった。

 

一方、嫉妬に身を焦がすオルガマリー。

彼女はランサー(クー・フーリン)に対して一言では表せぬ感情を抱いていた。

 

コンラにとって《父親(クー・フーリン)》という存在が、いかに『特別』な存在なのかは彼女も理解していた。けれど、いざ目の前でその事実を突きつけられて平静でいられるほど。

オルガマリーのコンラに対する想いは軽くはなかった。

 

彼女にとって(コンラ)は。

自身を認め、救ってくれた唯一無二の存在であり。この世で最初で最期の、たった1人の己のサーヴァントなのである。

そんな相手が一度として自分には向けた事のない幼い表情で父親へと甘え。

今もその背で、安心しきった穏やかな顔で眠りについている。

 

コンラの見た目(外見年齢)から、恋心を認める事を躊躇(ちゅうちょ)してはいるが。自身にとって『特別』な相手(コンラ)のそんな幸せそうな姿に。

慈愛の様な喜びと、自分がその『特別』ではない事への嫉妬と不安の想いが胸中でせめぎ合う。

 

この特異点(フランス)に来てから。

自分にだけ注がれていた大切な子供(コンラ)の温かな眼差しが。後から現れた父親(ランサー)に簡単に奪われてしまった様で。

強い淋しさと不安からくる焦燥に駆られ、オルガマリーはランサーへと食ってかからずにはいられなかったのだ。

 

 

ーー私だって私だってっ!

コンラに『好き』て言われたし。

だ、だだ抱き締められたし!

こんな槍男になんか負けてたまるもんですかっ!!

 

 

嫉妬と不安の感情は転じて。

心の均衡を保つために激しい対抗意識へと変わる。

 

 

「コンラは『マスター』の私が護るんだから!

アンタは引っ込んでなさいよ!!」

 

「いや。普通逆だろ。

護られるのは『マスター』の方だからな。

あと、アンタが何を考えてんのか知らねぇが。

コイツの事でオレ(父親)に対抗しても意味ねぇだろ。

そう云うのは当人同士でだな・・」

 

「な、何よそれっ!もう勝ったつもり!?

寝るのも。ご飯を食べるのも。戦うのも。

全部コンラの隣は私のなんだからっ!

アンタには渡さないっ!!!」

 

「ーーーハァ。面倒くせぇ。」

 

 

自分の助言に何故か更に対抗心を燃え上がらせたオルガマリーに。ランサーは疲れた表情で辟易(へきえき)する。普段であれば、もう少し諦めずに粘り説得を試みたであろうが。

この面倒くさいタイプの女は経験上ーー生前、破滅させられたのでーーどんな言葉を投げかけても効果は無いことを知っていた為。

彼はさっさと(さじ)の方を投げたのだった。

 

 

ランサー(父親)オルガマリー(マスター)

2人は『コンラを護る』という同一の目的を持っていながらも。

出会ってすぐにお互いの好感度は急降下し。

マイナスへと今にも突入しそうな勢いである。

 

 

「・・・・。」

 

 

そしてそんな2人の後ろを。

面倒事に巻き込まれまいと、全力で空気に徹するジークフリートーーの姿をしたフレイズマルが無言でついていく。

 

彼は間に挟まれて苦労するであろうコンラの行く末に同情しつつ。

その父親に背負われる幼子の姿に。

かつて自分も同じ様に息子(ファヴニール)をおぶっていた頃を思い出す。

 

 

あの頃の自分は妻に多少矯正されてはいたが。

変わらず自他共に認めるクズで。

それでも背に感じた、子供の驚くほど軽い体と温かな体温に。

その時はひとりの父親として。

クズなりに息子の事を護りたいと想っていたのだった。

 

 

ーーその結末が『コレ』か。

 

 

苦しみから解放する為とは云え。

息子(ファヴニール)を護るどころか殺そうとしている現状に。

フレイズマルは欲に走った生前の自身を呪わずにはいられない。

それでもその手を息子の血で濡らす決意を、他ならぬ息子の為に覆すわけにはいかず。

彼は息子(コンラ)に『赦された』父親(ランサー)の後ろ姿を、羨望と妬みの眼差しでしばし見つめた。

 

 

「ーーーファヴニール。」

 

 

後悔と懺悔に満ちた声で、彼は息子の名を呟く。

それは誰に気付かれる事もなく宙に溶け・・消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ーーー。】

 

 

オルレアン城の傍らでワイバーンを生み出しながら眠りについていた。

ファヴニール(邪竜)本人を除いて。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

酷く懐かしく、(おぞ)ましい程に憎い匂いと気配が。『彼』の《魂》の根本を揺さぶり。

眠りについていた漆黒の邪竜ーーファヴニールの意識を浮上させた。

 

 

【ーーー。】

 

 

眠気を振り払うように頭を振り。

開いたその金の瞳で、遠い夜明けの空を見据える。大きく息を吸い込み、周囲の匂いを確かめるが。

オルレアン城から離れた街にいるフレイズマルの匂いは、既に跡形もなく消え去った後であった。

 

 

ーー気のせいか。

 

 

しかし、えもしれぬ強烈な不安に襲われた彼は巨大な腕を動かし。

生前に比べて数はだいぶ少ないが、己の黄金ーーオルレアン城にあったものーーを奪われぬよう手元に引き寄せた。

 

彼は命を落とし、この特異点(フランス)に召喚されてなお。

未だに『呪いの腕輪』の力に囚われていた。

故に今の彼の目的はただひとつ。

フランスの人間どもに《奪われた》黄金すべてを奪い返す事であった。

 

 

ーーよくも俺の黄金を。宝を。

盗人共が。必ず全員焼き殺し。

全ての宝をもう一度、この手に。

 

 

己の所持していた黄金を、召喚された先であるフランスの民に奪われたと誤った知識を与えられたファヴニールは。

黄金の献上を条件に。

請われるまま召喚主である竜の魔女(ジャンヌ・オルタ)へと協力し、力を貸していた。

 

 

「ーーーーーッ!!!!」

 

 

だが、不意に耳に届いたその召喚主の悲痛な叫びに。ファヴニールは彼方へと向けていた眼差しを、オルレアン城へと移す。

 

そして豪華に装飾された窓から覗き見えた光景は。『聖杯』を手に取り乱す、憐れな『贋作英霊(ジャンヌ・オルタ)』の姿であった。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

「そんなっ!ジルが殺られるだなんてっ!!」

 

 

ルーラーの能力により。

ジル・ド・レェの反応が消えたことを察知し、心を乱すジャンヌ・オルタ。

けれど、今際(いまわ)のきわにジル・ド・レェが転送した『聖杯』が目の前に現れた事で。

彼女はかろうじて冷静さを取り戻す。

 

 

「そ、そうよ。慌てる事ないわ。

ジルは今は英霊なんだから、また喚べばいいのよ。」

 

 

彼女は記憶の中の。

例えどんなに苦しい戦の最中であろうと。

共に戦場を駆け、いつでも己の味方であった臣下(ジル・ド・レェ)へと想いを馳せる。

 

だが、それらは全て『創造主(ジル・ド・レェ)』が《本物を模して創った》偽りの記憶であり。

その『信頼』も『友愛』も。

『創造主』が身勝手に植え付けたモノである事を。ジャンヌ・オルタは知らない。

ーーー知らない方が、彼女は幸せだった。

 

 

「まったく・・私の手を煩わせるなんて。

随分と偉くなったものーーああ。

そういえば『元師』だったわね。」

 

 

彼女は消滅したジル・ド・レェを再度召喚しようと。微笑みながら、光を纏い宙に浮く『聖杯』へと手を伸ばし。

 

 

ーーあれ?

 

 

その指が『聖杯』に触れた瞬間。

ふと、彼女の脳裏にある疑問が湧いた。

 

 

ーーでも、何でジルが『聖杯』を持っていたのかしら?

私が彼ら(バサーク・サーヴァント)を召喚した後に彼に預けたんだったっけ?

そもそも・・私はいつジルを喚んだのだったかしら。

 

 

彼女は処刑され、再びこのフランスの地に蘇った時の記憶を思い起こそうとするが。

どうにも頭に靄がかかったようで、いくら遡っても思い出すことが出来ない。

意識がはっきりした時にはすでに、ジル・ド・レェは歓喜の涙を流して己の目の前に居たのである。

 

 

「ーー何で?ジル。」

 

 

自身では答えの出ない疑問に困惑するジャンヌ・オルタ。意図せず零れた、彼女の臣下への問いには。

代わりに触れたままでいた『聖杯』が、答えを返す事となった。

 

聖杯は彼女の無意識の望みをその膨大な魔力で叶え、答えた。

そのあまりにも残酷な『真実』を。

当事者たる彼女に『ジル・ド・レェの記憶』の一部を見せるという方法によって。

 

 

「ーーーーーッ!!!!」

 

 

ジャンヌ・オルタは『聖杯』から流れ込んできたジル・ド・レェのーーこの地に降り立ってからのーー記憶を目にし、堪らず悲鳴を上げた。

 

彼女は知ってしまったのだ。

自身が『本物(ジャンヌ・ダルク)』の『贋作(偽物)』である事を。

 

 

「ーーうそ。ウソ、嘘よこんなのっ!!

嘘でしょ!?嘘だって言ってよジルゥウッ!!?」

 

 

己という存在が、足元から音を立てて崩れていく感覚。

自分を形作っていた『名』も『記憶』も。

自分のものではなく『本物(ジャンヌ・ダルク)』のものーー偽りだったのだ。

 

ならば、己は何者なのかと。

膝をつき、髪を掻きむしり。

彼女は己の存在する『意味』を求め、もがき苦しむ。

 

 

ーー嫌だ。嫌だ。

贋作(偽物)』として創られ。

ジルの復讐の為に『贋作(偽物)』として良いように使われるなんて。

そんなの絶対に嫌だっ!

私は『私』だっ!

本物(ジャンヌ・ダルク)』の代わりなんかじゃないっ!!

 

 

自分が『聖女(ジャンヌ・ダルク)』ではないと知った今。

彼女にフランスに復讐する理由はない。しかし、彼女が創造されたのは『フランスへの復讐』の為であった。

 

己の存在理由の『復讐』と。

それを否定したい『自我』との狭間で彼女の心は激しく揺れ動く。

そんな彼女に光を与えたのはーーー

 

 

【どうした、魔女。】

 

 

意外にも、彼女が利用する為に召喚した邪竜ファヴニールであった。

 

 

「ーーーま、じょ?」

 

 

かけられた声に伏せていた顔を上げれば。

窓の向こうから、巨大な竜の金の瞳が彼女を見つめていた。彼は奪われた黄金を取り返す前に。

(原因はわからないが)錯乱した召喚主に誤って送還されては堪らないと。

利己的な理由で声をかけたのだった。

 

 

「わたしがーー魔女?」

 

【オマエ以外に誰がいる。

燃やした盗人共がオマエを見てそう叫んでいただろう。ーーー『竜の魔女だ』と。】

 

「ッ!!」

 

 

その邪竜の言葉に、彼女は自身が『何者』なのかを見出した。

 

 

「ふ、ふふふ。

そうよ。その通りよ。

私は竜を従えフランスを滅ぼす『竜の魔女(ジャンヌ)』。

救国の聖女(ジャンヌ)』じゃないっ!!」

 

 

彼女は立ち上がり。

握りしめた『聖杯』を頭上へと掲げ。

新たなる《バーサーク・サーヴァント》を己の元へと喚ぶ。

 

 

「ーーー来なさい。」

 

 

『聖杯』の光が眩いほどに強まり、静まった時には。彼女の前に新たなサーヴァント達が召喚されていた。

 

 

 

「Arrrrrrrッ!!!!」

 

「ウゥ″ッ!マリーさ、ま・・。」

 

 

《バーサーク・セイバー》

ーー裏切りの騎士ランスロット。

ーー白百合の騎士シュヴァリエ・デオン。

 

 

「ーーマリー。あぁ、マリア。」

 

「クリスティーヌ・・。」

 

 

《バーサーク・アサシン》

ーー処刑人シャルル=アンリ・サンソン。

ーーオペラ座の怪人ファントム。

 

 

「殺してやるっ!

誰も彼も、この矢の前で散るがいいっ!!」

 

 

《バーサーク・アーチャー》

ーー純潔の狩人アタランテ。

 

 

 

狂化され、正気を失ったサーヴァント達を一瞥し。竜の魔女は彼らにある命令を下す。

 

 

「各自、ワイバーンを(ともな)い。

この国中の街も村も燃やし、民を殺し灰にしなさい。『聖女』がいた痕跡を『フランス』ごと跡形もなく消し尽くすのよ。」

 

 

彼女はフランスを滅ぼす事で

フランスを救った聖女(本物)』の概念を消し。

フランスを滅ぼした魔女(偽物の己)』が

ジャンヌ・ダルク(本物)》に成り代わる事にしたのだ。

 

『復讐』の為ではなく、自身が『本物』と成る為に。彼女はフランスを利用し、史実を塗り潰し、その身に内包する怨嗟の炎をもちいて灼き滅ぼす。

 

 

「あははっ!良かったわねジル。

貴方の望んだ通りに、この国は滅びるわよ!

大好きな本物の聖処女様も消えるけどねっ!!」

 

 

竜の魔女はサーヴァント達が城から全員去るのを見届けた後。

あえて喚ばなかったジル・ド・レェ(創造主)へと嘲笑と共に。『偽りの記憶』の『信頼』を裏切られた怒りと恨みを込め、皮肉を吼える。

 

信じていた者(生みの親)』に裏切られ。

憤怒と憎しみを(あらわ)にするその姿は。

 

 

 

 

【・・・・。】

 

 

《何でだ親父!

こいつらはオッテルを殺したんだぞ!!》

 

 

 

 

遥か昔、彼がまだ人間であった頃の想いを。

呪いに囚われた邪竜(ファヴニール)の心に呼び起こさせた。

 

 

ーーいつの時代も。

《子》は《親》を選べないか。

 

 

(フレイズマル)》に信頼を裏切られ、怒り、憎み、自らの剣で殺した。

人であった頃の感情が蘇った彼は。

黄金にのみ向いていた執着が微かに薄れ。

知らず生前の己に似た召喚主へと情をかけはじめる。

 

似通った傷を心に負った《邪竜(ファヴニール)》と《魔女(ジャンヌ・オルタ)》は。抱いた傷の深さを目に見える形で示すかの様に。

無情な世界を壊し、紅蓮に包む。

 

 

ーーー魔女の放った下僕(しもべ)達の手によって。

蹂躙される無辜(むこ)の民達の悲鳴が。

フランス各地で上がり始めた。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

※またもや遅刻してしまいましたっ!

申し訳ありませんーーっ!!!

もうコレは不定期更新表示にした方がいいのかもしれない(白目)

 

そして原作崩壊が留まるところを知らない。

フランス国民の皆様が大変な事になってしまった。

早くカルデア組をレイシフトさせなければ!

それにしても我が家のコンラくんはすぐに気絶してしまう・・何故だ←

 



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巡り会う者達

 

 

 

第三者視点

 

 

 

待ち合わせ場所である『街外れの広場』に到着したコンラ達一行は。敵に分断されてしまったマルタとジークフリートと無事に合流。

お互いの安否を喜びつつ、現在の状況を報告し合った。

その最中に大勢の人の気配で目を覚ましたコンラは。

よほど深い眠りだったのか、珍しく寝ぼけながらもランサー(クー・フーリン)の背から滑るようにして降りる。

 

 

「ふぁあっ・・、とーさん。」

 

「ん?どうした?」

 

 

襲ってくる眠気に負け、うっかり引っくり返ってしまいそうな息子の背を片手で支え。

内心で『ちくしょう。俺の息子クソかわいいな。』などと親バカな事を考えつつ相槌を打つランサー。

本人は気づいていないが、その顔はニヤけている。

 

それを目撃したオルガマリーは嫉妬に駆られた形相でギリィッ!と、ランサーを睨めつけ。

彼女と話していたマルタ達(フレイズマル除く)は。突然豹変したオルガマリーの様子にギョッとした。

 

 

「じーちゃんが夢のなかの。へんな空間で。めだまお化けと戦ってた・・」

 

「目玉おばーーああ。確か『魔神柱』とか云うやつか。」

 

「うん。それでね、とーさんに伝えてくれって・・」

 

 

どうやらルー神が夢を(かい)してメッセージを送ってきたらしい。

コンラの今の(肉体)はルー神が創造したものなので、論理的には可能であったが。

魔神柱との戦闘中にややこしい術を発動して伝言を送ってきた父親に。

相変わらず無駄に器用だなとランサーは感心する。

《百芸のルー》の名もまた、伊達ではなかったようだ。

ちなみに、睡魔と戦うコンラから伝え聞いた内容は以下の通りである。

 

 

〘すまない、セタンタ。

黒幕に私の存在が気取られたせいで魔神柱共との無限バトルを強いられている。

そのせいでカルデアに召喚されたキャスターのお前にコンラの生存を伝えられなかった。カルデアの者達はコンラとマスターの女が生きている事を知らない。

難しいと思うが、上手く彼ら(カルデア側)と合流してくれ。

私も隙を見て、この包囲網を突破しそちらに向かう。

 

ーーーというか、しつこいなオマエ等っ!!

正直飽きたし。早く息子と孫の顔を直接見たいんだ私はっ!!生前の《使い魔》くらいキチンと(しつけ)てから死ねやドルオタァアアアッ!!!!〙

 

 

ーーー色々ツッコミどころ満載だが、上記のような感じである。

 

 

「・・・親父のやつ。

久々の戦で上がりまくってんな。」

 

「え?なに?黒幕ってドルオタなの?

ロマニと同じで?」

 

 

伝言を聞いたランサーは父親の後半本音ダダ漏れな台詞に呆れ。

オルガマリーは人類の敵(黒幕)の趣味がまさかの知人(部下)と同じと云う事実ーー微妙に誤りなのだがーーに驚く。

 

更に、てっきり済んでいると思っていたカルデアへの生存連絡がまだだった事に頭痛を覚えた。

おそらく・・いや、確実に。

自分とコンラは死亡したと、アチラに誤認されている事を悟ったからだ。

 

 

「あーもうっ!絶対に死んだと思われてるわっ!!ロマニが司令官とか不安しかないんだけどっ!ドルオタだしっ!」

 

「アンタ・・ドルオタに何か恨みでもあんのか?

あと、そいつもショタコンのアンタには言われたくねぇと思うぞ。」

 

「な、なななな何言ってんのよっ!!

私はショタコンじゃないっ!私は子供が好きなんじゃないっ!私が、好きなのはーーー(チラッ)」

 

「んー?どうしたの?ますたー。」

 

 

寝ぼけ(まなこ)を擦りながら、己の手を握ってきたコンラに。彼女の乙女心は激しく高鳴り、ときめいた。

 

 

「はうっ!カワイイ・・私のサーヴァントまじ天使っ!!」

 

「おい。キャラ変わってんぞ。」

 

 

オルガマリーの息子への溺愛っぷりに思わずツッコミを入れるランサー。

しかし、彼も少し前に似たような事を考えていた為あまり人の事は言えない。

そして、何時しかコンラを中心とした3人の世界と化した彼らに困惑の眼差しを送る他のメンバー達。

 

 

「フレイズマル。彼女に何かあったのですか?

別れる前とまるで別人のようなのですが・・。」

 

「マルタ。貴女も先程までとは別じーーーもがっ。」

 

「すまないゲオルギウス。ここは堪えてくれ、頼む。」

 

 

理由を知っていそうなフレイズマルに問うたマルタに。『貴女も先程までとは別人のようですよ?』と、とんでもない台詞を吐きかけたゲオルギウスの口を。

話の腰を折らせない為、とっさに空気を読んで塞いだジークフリート。

 

翻弄され続けたせいか、彼は着々と《聖人》の対処法を身に着けつつあるようだ。

さすが《竜殺し》、ただでは起きない男である。

 

 

「あーーまぁの。色々とあってな。」

 

 

フレイズマルはそんなジークフリートと(変化しているので)瓜二つの疲れた顔をしながらも。

事のあらましを彼らに説明したのだった。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「竜の魔女ではなく、ジル・ド・レェが『聖杯』を持っていたのですか?」

 

「ああ、消える変態(ジル・ド・レェ)の体の中から現れたのをこの眼で見たからな。間違いないぞ。」

 

「そうですか・・」

 

 

フレイズマルから詳細を聞き、竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)の協力者である魔術師(バーサーク・サーヴァント)が『聖杯』を所持していた事に違和感を覚えるマルタ。

 

いくら相手が生前の腹心の部下とはいえ。

力の源たる『聖杯』を安易に手放し、敵地へと向かう使い魔(サーヴァント)に預けるなど。

リスクが高すぎる采配を敵が行うとは、彼女はとても思えなかったのだ。

 

 

「ーーーならば。

その前提が間違っているのかも知れませんね。」

 

「?、どういう事ですか?」

 

 

訝しむマルタへと、ゲオルギウスは自身の脳裏に浮かんだ『ある仮説』を述べた。

 

 

「そのジル・ド・レェなる魔術師が『聖杯』を《預かった》のではなく。《始めから所持していた》と考えたらどうですか?」

 

「ッ!ーーそれは、つまり・・」

 

「ええ。この特異点(フランス)の地を混乱に陥れた主犯は、《竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)》ではなく《魔術師(ジル・ド・レェ)》だったという事です。」

 

ゲオルギウスの予期せぬ『仮説』に一同は驚くも。

ジル・ド・レェが行使していた多彩な魔術を思い出し、納得する。

 

召喚の際に得た知識で彼らが知るジル・ド・レェという男は、生前。

悪魔召喚の為に魔道に堕ちたが。

それは正式な魔術を学んで至ったわけではなく、自らの独学であった。

つまり所詮は素人の範疇を出ないのだ。

 

本人の力量と才がなければ《キャスタークラス》として現界していようとも、精神操作などのーーしかも対象はワイバーンという『竜種』に影響を及ぼす程のーー強力な魔術を使うことは不可能。

そう・・『聖杯』という例外的なサポートがない限りは。

 

 

「なるほど・・《竜の魔女》は隠れ蓑だったと云うわけか。」

 

「くうぅっ!騙されたわっ!!」

 

 

納得を示すジークフリートの傍らで、マルタは両手で拳をつくり歯噛みする。

彼女は敵に騙された自身の未熟さが許せなかったのだ。

もしも早くにその事実を見抜き。

何か対策を取れていれば、タラスクを犠牲にせずに異変を治められていたかもしれないと想うと。

余計に苦い気持ちがマルタの胸を満たした。

 

 

「しかも『聖杯』は魔女の手に渡ってしまったしの・・・振り出しに戻ったわけだ。」

 

「まぁ、過ぎてしまった事を悔いても何も始まりません。この経験を次の機会に活かしましょう。

ーーー貴女もあまり自身を責めないでください、マルタ。貴女の守護竜たるタラスクは己の成すべき事を見極め、果たした善良なる竜。

私が言うまでもないでしょうが。その行いに報いる為、貴女もまた悔いるのではなく。己の成す事を見極め、果たすべきでは?」

 

「・・ええ、そうね。

わかってるわ。

わかっていてもーーついね。

ありがとう、ゲオルギウス。

おかげで踏ん切りがついたわ。」

 

 

『後ろではなく前を向け』と促すゲオルギウスの言葉に。沈んでいた気持ちを切り替え、彼女はタラスクが気遣い任せた《少年(コンラ)》へと視線を移す。

 

そこには(寝ぼけている)コンラの背をしっかりと支える《父親(クー・フーリン)》姿があり。

その表情や仕草から、子供への慈愛の感情を感じ取ったマルタは。

己の守護竜(家族)が身を案じていた少年が、無事に父親と再会を果たした事を心の内で喜び。

遠き自身の『座』へと目の前の光景を伝える。

 

 

 

ーーー良かったわね、タラスク。

あの子はもう《独り》じゃないわ。

 

 

マルタの声を受け取ったタラスクは『座』にて心の底から父子の再会を喜び、安堵した。

 

 

ーーー姐さん、ありがとうっす。

坊やが父親と会えて安心しやした。

 

 

ーーー後はこの異変が治まるまで、あの子の身はしっかり護るから安心しなさい。

 

 

ーーーえ?あ、はいっす!

『助けて』って『お願い』しやしたもんね。

でも姐さん。気持ちは嬉しいっすけど無茶はほどほどに・・。

 

 

ーーー邪竜をぶん殴って。あの魔女をとっ捕まえて。『聖杯』をあの子達に渡せばいいのよね?

争いは好きじゃないのだけれど・・これは不可抗力。きっと主もお赦しになる筈。

 

 

ーーーあ、あれ?姐さん?姐さーんっ!

もしかして俺の声、聞こえてない・・?

 

 

ーーーヤコブ様、モーセ様。

お許しください。

暴力に苦しむこの地の人々を救う為。

託された願いを果たす為。

・・・マルタ、拳を解禁します。

 

 

ーーーはっ!?ちょっ!?

マジでこれ一方通行なんすかっ!!?

姐さん早まらないでくださいっ!!

ストップ!ストップーーッ!!

 

 

ーーーよくもうちのタラスクを殺ってくれたわねっ!シャバ僧どもがっ!この借りは必ず返す。

首を洗って待ってなさいっ!!

 

 

ーーー誰かーっ!!

姐さんをっ!姐さんを止めて下さぃいっ!!!

 

 

 

マルタの(昨晩、散々殴ったので実は遅すぎる)解禁宣言に(おのの)くタラスク。

彼の全身全霊の嘆願は哀しい事に。

誰に聞かれることもなく『座』にて虚しく響くのみであったーーー合掌。

 

 

 

……………………………………………………………………………

 

 

 

同日、太陽が昇りきり空の中央に差し掛かる頃。

オルレアン城から東に存在する(ヴォークルール)にて。

 

 

「弓兵部隊っ!構えっ!

ーーー()てぇええっ!!!」

 

 

眼下へと迫り来る骸骨兵とワイバーン達へ。

砦の射場(いば)に立ち、号令を合図に矢を射かけるフランス兵士達。

空を鉄矢の雨が覆い尽くし、異形の敵へと降りかかる。

 

しかし、骸骨兵の前へと躍り出たワイバーン達は炎を吐き。あるいはその強固な(うろこ)で弾き。

放った矢を次々と無意(むい)にしていく。

 

 

「ヒィッ!魔女がっ!魔女の手下がああっ!!」

 

「くそっ!やっぱり効かねぇかっ!

化物どもめっ!!」

 

「これ以上は危険だっ!一度、中へ戻れっ!!」

 

「空からも来るぞっ!炎だっ!水を準備しろおっ!!」

 

 

敵との距離を測り、ワイバーンの炎の射程範囲に入る前に兵士達は砦の中へと撤退。

分厚い鉄の扉や即席で造った鉄板で出入り口を全て塞ぎ、怪物の灼熱の炎から身を守る。

 

オルレアン城が魔女に落とされてからというもの、この砦も他の街と同様に幾度となく攻め込まれてきた。

だが、幸運にも優秀な指揮官が砦を訪れていた為に現在まで持ち堪える事が出来ていたのだった。

 

その指揮官ーーー生身の人間である『元師』ジル・ド・レェは内部に戻ってきた兵士の1人へと足早に近づき、問う。

 

 

「どうでしたか?」

 

「残念ながら・・手を加えた鉄の矢でも歯が立ちませんでした。(やじり)に塗り込めた毒も、あの鱗を貫けないのではーー。」

 

「ーーそうですか。皆を危険に晒してしまい、すみませんでした。負傷した者は?」

 

「幸いにもおりません。元師殿の的確なご指示の賜物です。貴方が居なければ我々はとっくに奴らの胃袋の中か、炭になっていた事でしょう。」

 

 

兵士の賛辞(さんじ)に難しい顔で首を横に振るジル・ド・レェ。

この兵士の述べた通り、彼の素早い怪物への対策と的確な指示により。兵士達への被害は最小限に抑えられていた。

しかし、敵に周りを包囲された籠城戦には限界がある。現に主戦力であった砲弾は底をつき、砦の食料は残り僅かとなっていた。

故に、危険を犯してでも彼らは砦からの脱出の機会を探っていたのだった。

 

 

ーーーそれにしても・・今日は一段と攻めの手が激しい。敵方に何かあったのだろうか?

 

 

今までと違い、今朝から続く猛攻にジル・ド・レェは疑問を抱く。それが何か突破口へと繋げられないかと模索する彼の耳に突如、部下の焦った声が飛び込んできた。

 

 

「元師殿っ!怪物達の近くに複数の人影がっ!!」

 

「何っ!?」

 

 

街を追われた民間人かと。

偵察用の壁穴から部下と共に彼は外を確認する。

その瞳に映ったのはーーー彼の予想を裏切り。

あまりにも個性的すぎる姿形(すがたかたち)をした一団だった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

「ヴィヴ・ラ・フランス♪

また会えて嬉しいわ!

デオンッ!サンソンッ!」

 

 

美しいガラスの馬を連れ、こぼれるような笑顔を浮かべる少女ーーマリー・アントワネットは。

再び巡り会う事の出来た旧知の仲であるデオンとサンソンへ笑いかける。

 

 

「そんなっ!マリーさま・・ダメです。

こちらに来て、わ・・っ!」

 

 

その姿に動揺を(あらわ)にするのは、羽帽子を被った可憐な剣士ーーシュヴァリエ・デオン。

彼(?)は狂化された己が、守護するべきフランス王家の象徴たるマリーを害する事を怖れ、数歩後ずさる。

 

 

「マリーッ!マリーッ!マリアッ!!

やはり君と僕は、宿業で結ばれているようだっ!

それが僕には堪らなくっ!嬉しいっ!!」

 

 

逆に興奮した様子で距離を詰め、何度も少女の名を呼ぶ青年はシャルル=アンリ・サンソン。

かつて最も敬愛し、激動の時代の波に逆らえずその手で処刑した王妃へと己の感情を爆発させる。

 

 

「うう″ぅ・・黙ってくれないかなサンソン。

君のハイテンションな声が頭に響く。少し前に音楽の神への冒涜としか思えない歌を聞かされたばかりなんだ。耳がっ!耳が、死ぬ・・っ!」

 

 

力無く耳を押さえ、ガラスの馬の背にうつ伏せに乗る黒服の男の名はーーヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。

彼はうめき声を漏らしながら、サンソンへと恨めしげな眼差しを送る。

 

刃物の街(ティエール)で出会った、とある『自称アイドル』の歌が。アマデウスの音楽の神に愛された優れた聴覚を余すこと無く蹂躙し、彼の心身に深刻なダメージをもたらしていた。

 

 

「ちょっと!ちょっと!

失礼にもほどがあるわよアンタッ!!

有名な音楽家だか何だか知らないけど。

私の歌の凄さは次元が違いすぎてわからなかったみたいねっ!!」

 

 

天才音楽家の評価に異を唱えるのは、事の『元凶』であり『自称アイドル』。

フリルの付いた可愛らしいスカートの下から、竜の尾を生やした少女ーーエリザベート=バートリーである。

彼女は自分に強烈なダメ出しをした音楽家(アマデウス)生まれながらのアイドル(マリー)への反骨精神から。ティエールで出会って以降、2人と行動を共にしていた。

 

 

「確かに次元が違いましたね。

わたくしも未だに耳が不調を訴えています。

不本意ですが、安珍様が此処におられなくて良かった。あんな汚らわしい騒音をお聞きになられたらお体に触りますもの。

ーーーああ、安珍様・・あなた様はいったい何処におられるのですか?」

 

 

憂い気な表情で想い人の身を案じるのは。

白拍子に似た服に身を包み緑髪の頭部に二つの角を生やした少女ーー清姫。

 

彼女はウマの合わないエリザベートとの喧嘩を仲裁してくれた2人に感謝し、行動を共にしているーーーわけではなく。

己の愛し、執着する安珍を探す際に用いる『安珍追跡センサー』が働き。

それが彼らの目指す方向と偶然にも同じであった為、3人と足並みを揃えていただけであった。

何事も『安珍様』を主軸として動く、それが清姫という(一方的な)愛に狂った少女(凶蛇)の在り方なのである。

 

 

「はああ?何言ってんの?

耳が腐ってんじゃないの、この『泥沼ストーカー』。」

 

 

自慢気に胸を張っていたエリザベートは。

自身の歌にケチをつける清姫の台詞にカチンとし、不愉快そうに顔を歪める。

それに対し『ストーカー』呼ばわりされた本人は、涼しい顔でサラリと暴言をお返しした。

 

 

「『血液拷問フェチ』のド変態に言われたくありませんね。あと、ストーカーではありません。

『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。」

 

「うわぁっ。

アンタの《愛》、人権侵害すぎ。」

 

 

清姫の反論に、根は庶民的な性格の為ドン引きするエリザベート。

だが、彼女も生前は少女の生き血を浴びたり。

拷問したりと、色々やらかしている事を忘れてはいけない。

この調子で『はぐれサーヴァント』として、この地(フランス)に召喚されて以来。

彼女達は所構わず(いが)み合っていた。

 

 

フランスに関わる4人のサーヴァントと、竜に関わる2人の異形の少女。

そして砦の内部で彼らの様子を困惑気味に窺う《元師》。

 

 

フランスの大地にて6人が巡り会った事により。

この特異点の異変は、終息(しゅうそく)へと静かに加速を始めた。

 

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

※またもや遅くなってしまい、すみません!

今回は予期せずギャグ寄りな内容になってしまい作者も困惑気味です。

タラスク、アマデウス・・どんまい←

 

ここに来てようやく原作のメインメンバーが揃い始めました。

次回はカルデア組が登場するーー筈です←

 

 



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天啓の地にて

 

藤丸立香視点

 

 

 

《ーーハッ!今、誰かにいわれのない中傷を受けた気がしたっ!!》

 

 

マシュとキャスター(クー・フーリン)と一緒に、西暦1431年のフランスに降り立った私ーー藤丸立香は。

レイシフトして早々、管制室のロマンが上げた悲鳴に首を傾げた。

「どうしたの?」と問おうとしたけれど。それより早くダヴィンチちゃんの笑い声が通信先から聞こえてきた。

 

 

《あははっ!いまさら何言ってるんだいロマニ。

君が人に(そし)られるのは、いつもの事じゃないかっ!》

 

《え″。》

 

「え?そうなの?」

 

 

ダウィンチちゃんがサラッと言ってのけたとんでも発言に、私は目を丸くする。

ロマン。いつも悪口言われてるんだ・・。

仕事はサボるけど、悪い人じゃないのに。

 

 

「そう云えば、キャスターさんも前の特異点でドクターの事を『軟弱男』と言っていたような・・。」

 

 

大きな盾を持ち、肩にフォウを乗せながらポツリとこぼす後輩(マシュ)に私も記憶を(さかのぼ)る。

マシュの言う通り、保健室にキャスターが乱入してきた後。お互いの経緯を話している時にそんな事を言っていたかもしれない。

 

ーーー同時に、脳裏に今は居ない少年と所長の姿が蘇り。湧いた喪失感にズキリッと胸が痛んだ。

 

 

「よくわからねぇが、あの時は声を聞いてすぐにそう思ったんだよな。まぁ、あながち外れてはなかったが。」

 

 

息子(コンラくん)を喪った事で、一時は酷く取り乱していたけれど(本人いわく既に心の整理はついたそうで)。

今は出会った当初と変わらない様子で「想像通りの腑抜けたツラだった」と、笑うキャスター。

その姿に安堵と罪悪感を抱く。

 

キャスターが(私の未熟さが原因だから、思う資格は無いのかも知れないけれど)コンラくんの死から立ち直ってくれた事は素直に嬉しい。

私の事を恨んでもいいのに、恨むどころか私達(カルデア)に積極的に手を貸してくれる事も。

戦いに不慣れな私とマシュにとっては凄く心強くて、有難かった。

 

でも・・・彼はーーコンラくんは。

キャスターにとって、こんなにも早く心の整理をつけられるような。

その程度の『存在』ではなかったと私は思うのだ。

 

生前の自分はコンラくん(息子)に父親らしい事を何もしてやれなかったと。その命を自らの手で奪ってしまったと。

酷く悔いて、キャスターは『特異点F』で必死にコンラくんの身を護ろうとしていた。

 

そんな『特別な存在』を喪ったのに、こんなにも早く人は心を切り替えられるわけがない。

きっと、この戦い(人理修復)をコンラくんの『弔い合戦』だと定める事で弱った精神(こころ)を保っているんだと思う。

 

本当は無理をしないで休んでいてもらいたい。

けど、私達を取り巻く事態はそれを許さなくて。

父親として息子の為に戦うことで、彼が少しは楽になるならと想った事もあり。

私はあの時、キャスターのレイシフトを承諾してしまったけれど。

今はその判断を・・少し後悔していた。

 

マシュと談笑するキャスターの背を見ながら、その身を改めて案じていると。

ふいにロマンのショックを受けた様な、沈んだ声が耳に届いた。

 

 

《知らなかった。ボク、そんなに陰口言われてたのか・・。ううっ。ひどいっ!

もう誰も信じられないっ!!》

 

「そんなことよりドクター。

空に謎の『光の輪』が見えます。そちらでも確認できますか?」

 

《そんなことっ!?》

 

「嬢ちゃん。見た目によらず意外と言うな。」

 

「あっ、ホントだ。何か光ってるっ!」

 

 

胸中のわだかまりを一旦後回しにし。

空を見上げるマシュに(なら)って、私も日が昇ったばかりの澄んだ大空に視線を向ける。

そこには確かに巨大な『光の輪』が輝いていた。

 

 

「へぇ・・何かの魔術式みてぇだな。」

 

《魔術式だって!?》

 

《ははあ。これはまた・・随分とスケールの大きな事を考える(やから)がいたものだね。》

 

 

ダヴィンチちゃんとロマンいわく。

この規模(サイズ)の魔術式を組み立てるには、どんなに優れた魔術師でも相応の時間と膨大な魔力が必要だそうで。

今回の『人理焼却(事件)』に何かしらの関係が有りそうだと云う。

 

 

《その『魔術式』はこちらで調査するから。

君達は特異点を修復する事を優先してほしい。そこから南に進めば、村があるみたいなんだ。》

 

 

先程までとは打って変わって真面目なトーンで話すロマンの指示に私達は頷き合い。

周囲の探索をしながら。

情報を得る為、その『南にある村』を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどかな場所ですね、先輩。」

 

 

青い草を踏みしめながら、眼前に広がる草原を3人と1匹で歩く。

吹いた心地のいい風が髪を揺らし。

気を抜くと、ピクニックに来ているような錯覚に陥りそうになる。

 

 

「そうだね。思わず走りたくなっちゃうよ。

マシュは外出するのは初めてなんだよね?」

 

「はい。なので不謹慎ながら実はワクワクしています。」

 

 

頬をうっすら上気させて笑うマシュに『守りたいこの笑顔』というフレーズが頭の中でこだまする。

私の後輩が可愛すぎていけない←

 

 

「走るといえば、先輩は確か運動部に所属していたそうですね。もしかして『陸上部』ですか?」

 

「うん。もともと体を動かすのが好きなんだけど。走るのはもっと好きだったから、迷わず入部したんだ。」

 

 

部活中は皆に呆れられるぐらい、暇さえあれば走っていた事を思い返す。

そのおかげで人並み以上の体力がついたのは、現状を考えると幸運だったと思う。

 

戦闘では指示くらいしか今の私に出来る事はないけど。いざとなったらマシュを抱えて逃げるくらいは出来るはずだ。(さすがに2人は無理なのでキャスターには自力で走ってもらおう。)

 

うん・・私も私に出来る事を精一杯やらなくちゃ。いつだって誰かの為に全力を尽くしていた《(コンラくん)》を見習って。

 

私は先をゆくキャスターの姿を視界に捉えながら。そう、心に新たな決意を刻むのだった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

第三者視点

 

 

 

己のマスターの前をゆくキャスター(クー・フーリン)は。気づかれぬよう視線を空の『光の輪』に向け。

先程は知らぬふりをした『魔術式』に内心で得心(とくしん)する。

 

 

ーーーアレが例の術式か。

・・・・使えるな。

 

 

輪を形造る光帯一本一本に込められた膨大な熱量(魔力)の気配を察知し。そこに利用価値を見出した彼は、満足気に眼を細める。

 

キャスターは喪った息子(コンラ)を取り戻すと心を定めてから。その方法を密かに模索していた。

 

まず真っ先に思い描いたのは『聖杯』に願うことであったが。

カルデアスに跡形もなく魂を分解されてしまった息子を蘇らせる事は『聖杯』の力を持ってしても不可能だった。

『子殺し』の逸話の概念を利用し、そっくりな存在を創りだす事は可能だろう。

しかし、それはもう『息子(コンラ)』ではない。

魂が違うならば、それはただ似ているだけの別人なのだ。キャスターが取り戻したいのは『本物の息子(コンラ)』であり、『息子に似た別人(偽物)』ではなかった。

 

故に、彼はその方法を即座に切り捨て次の手を考える。その手とは『人理焼却』を利用した『人理再編』。

人類史すべてが燃え尽き、定礎が壊れた今だからこそ出来る策。

 

忌まわしい《あの日》に戻り(帰り)

愚かな己が起こした《過ち》を正す(再編する)

 

そう、彼は望んだのだ。

生前のーー息子を殺めてしまったーー《あの日》をやり直すことを。

 

それはコンラ(息子)の歩んだ道程を無に帰す行為だった。コンラ自身が望んだ『アキラ』としての人生を完全に否定する行いであった。

しかし、それでもキャスターはこの策を選ぶ。

 

彼は、はるばる遠き地から自分に会いに来た《あの日》のコンラを。

今度こそ『よく来た』と笑顔で迎えてやりたかった。

小さなその身を傷つけるのではなく。

今度こそ抱きしめ、頭を撫で。

息子の望むままに、思い切り甘やかしてやりたかった。

 

コンラが味わった苦痛も傷も全て。

取り戻したあかつきには、もう二度と息子には負わせたくないと。『父親』としての愛情ゆえに、キャスターは《不要なモノ》として拒絶する。

 

 

彼は戦士の誇りを捨て、カルデアを裏切り。

英霊の義務を棄て、《生き残った》人類を滅ぼす(贄にする)だけでなく。

コンラ(息子)』を取り戻す為に『アキラ(息子)』を否定し。

愛するが故に息子の辿った道(選んだ人生)を拒絶する。

 

例え自分を救う為だとしても。

そんな『クー・フーリン(人の道を外れた父親)』の姿を『コンラ(彼の息子)』が望む筈はないと云うのに。

 

その当然の『事実』にキャスター(父親)は気づけない。狂気に侵された盲目(もうもく)精神(こころ)では、息子に対する己の行いの『矛盾』さえも認識できない。

 

 

ーーーなら、あいつらの隙を見て。

何処かに上手く『仕掛け』をしとかねぇとな。

 

 

彼は早速、狂った思考を回転させ。

自身の策を実行に移す為の下準備に入る。

《冷静な狂人》として、着々とマスターたる少女達への『裏切り』となる行為を。何喰わぬ顔で進めて行く。

 

完璧に隠されたキャスター(クー・フーリン)の《狂気》に気づく『人間』は。

この時点では誰ひとりとして居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって・・煙?」

 

 

草原を南下し始めて1時間程経った頃。

藤丸立香は遠くに上空へと昇る黒い筋を発見し、目を凝らした。

同時に、ロマンから緊急を知らせる通信が入る。

 

それは彼らが目指している村が、飛竜(ワイバーン)の群れに襲われていると云うものだった。

 

 

「村の人達を助けないとっ!!

行こう、マシュ!キャスター!」

 

「はいっ!」

 

「ああ。それにしても竜と殺り合うなんて久しぶりだぜ。」

 

 

襲われている村人達を助けようと3人は走りだし。紅蓮の炎に包まれる村へと到着する。

そしてーーー

 

 

「これ以上、私の故郷に!護るべき人々に!

手を出す事は赦しませんっ!!」

 

 

逃げ遅れた村人達を背に庇い。

数多の飛竜に囲まれながら。

それでもたった1人、旗を手に孤立奮闘する少女と彼らは出会う。

 

少女の名は、ジャンヌ・ダルク。

燃える村の名は、ドンレミ。

 

 

《救国の聖処女》が生誕し、天啓を受けし地にて。

聖処女(ジャンヌ)最後のマスター(藤丸立香)は出会った。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

※遅くなりましたが、UA7万突破ありがとうございます!!

なんとか予定通りにカルデア組を出せました。

早送り感が否めませんが、ジャンヌもようやく登場。

この勢いで早く第一特異点を終わらせたい。

まさかこんなに長引くとは←

それにしてもキャスニキがカルデアを裏切る気満々過ぎるっ!

 



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第三者視点

 

 

窮地のジャンヌ・ダルクの加勢に入るカルデア一行。

仲間と共に襲い来るワイバーン達を倒し、追い払った藤丸立香は。

助けられたにもかかわらずジャンヌを《魔女》と罵り。あるいは怯え、脇目も振らず逃げていく村人達の様子に不満と憤りを覚えた。

 

しかし、抗議の言葉はその当事者たる少女により止められる。

 

 

「彼らが私を《魔女》と呼ぶのは仕方がありません。ワイバーンにこの国の人々を襲わせている張本人は、どうやら《私》らしいのです。」

 

「? それは一体・・?」

 

「ーーーここでは落ち着いて話が出来ませんね。

少し南に行った所に森があります。

そこで詳しく話しましょう。

一緒に来てもらえますか?」

 

「うん。構わないよね?2人とも。」

 

 

仲間に確認を取り。

了承の意を示した少女に、ジャンヌは感謝を述べ

る。そして自身の後をついてくるように促しーー

 

 

「ーーー。」

 

「ジャンヌ?」

 

「あっ・・・いえ、何でもありません。

こちらです。」

 

 

ーーー促したが、一度だけ振り返り。

彼女は変わり果てた己の故郷へと寂しげな眼差しを送る。

けれど、未練を断ち切るように首を振った後は。

もう二度と振り返る事はなく、聖処女はカルデアの者達と共にその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなってしまいましたが。

先程は助けていただき、ありがとうございました。」

 

 

(ジュラ)につき、休める場所を確保した一行はジャンヌから事の次第を聞く。

 

それは目の前にいる《ジャンヌ・ダルク(聖処女)》とは別の《ジャンヌ・ダルク(竜の魔女)》が。

処刑された怨みを晴らすべく、竜を操りフランスを滅ぼそうとしていると云うものだった。

 

その異変に『聖杯』の影を感じつつ、ある異常に気づいたロマンがジャンヌへと問いかける。

 

 

《こんなこと聞くのは失礼かもしれないけど・・君は間違いなくサーヴァントなんだよね?》

 

「? はい。」

 

「ドクター?何かありましたか?」

 

《ああ、うん。何でか彼女のサーヴァント反応が弱いんだ。まるで『疑似サーヴァント』だったコンラくんみたいにーー》

 

「ーーー。」

 

《あ・・。》

 

 

つい零れ落ちた失言に慌てて口を閉じるも、遅すぎた。口から出た言葉は戻らない。

 

 

《・・ご、ごめん。》

 

「ーーー私、何でロマンが悪口言われるか。

わかった気がする。」

 

「Dr.ロマン、最低です。」

 

《グハッ!!》

 

 

急いで謝罪するも、少女2人のトゲのある台詞にガラスのハートを砕かれるロマン。

通信先で崩れ落ちた彼を心配するカルデアスタッフ達の声が聞こえたが、無視である。

 

 

「アンタ、その件については心当たりねぇのか?」

 

「正直、私自身にもわかりません。

ただ力を使いづらいという自覚はありました。」

 

 

漂う微妙な空気を払拭するように自ら声をかけたキャスターに。

ジャンヌはロマンの発言で空気が変わった事を疑問に思いながらも応える。

 

そしてこの後の動向を問われ、過ちを犯すもう一人の自分(ジャンヌ)を止める為にオルレアン城へ向かう事を告げた。

しかし、竜に(おびや)かされる母国を救う為。

独り敵地へ乗り込むという無謀な少女にキャスターは待ったをかける。

 

 

「馬鹿かアンタ。

その心意気は大したもんだが、ただの無駄死になるぜ。」

 

「ですが、もう私1人に出来るのはそれしかーーー」

 

「1人じゃないよ。」

 

「ーーえ?」

 

 

目を瞬かせる聖処女に、最後のマスターは笑顔で自らを指し示す。

 

 

「大丈夫。私達が一緒に戦うから、ジャンヌは1人じゃないよ。」

 

「はいっ!先輩の言う通りです。

なので、焦らずに確実な方法を探しましょう?」

 

「あ・・。」

 

 

マシュの言葉に自身が無意識に焦っていた事を自覚し、ジャンヌは羞恥に頬を染める。

 

心を落ち着けようと大きく息を吸い、吐いた後。

彼女はおもむろに問うた。

 

 

「共に・・戦ってくれるのですか?」

 

「うん。私達が此処に来たのも、この異変を止める為だし。目的は同じだもんね。」

 

「しかし、今の私はサーヴァントとしての力を使いこなせてはいません。あなた達の足を引っ張る事になるのでは・・」

 

「それは私も一緒です。実は私もつい最近サーヴァントになったばかりで。不安がないと言ったら嘘になります。」

 

「貴女も・・」

 

「はい。でも、先輩とキャスターさん。

そしていま此処にはいない人達の協力のおかげで私は前の『特異点』から帰還する事が出来ました。1人では絶対に無理だったと思います。

皆さんが助けてくれたからーー私は今もこうして生きている。

だから、ジャンヌさんも遠慮せずに私達を頼ってください。共に協力してこの国(フランス)の人々を助けましょう。」

 

 

後輩のセリフに藤丸立香もまた同意し、力強く頷いた。

 

2人の真摯な言葉と眼差しを受け止め。

ジャンヌは己の胸に、懐かしい想い出が去来するのを感じた。

それは自身が《魔女》として処刑される前。

傍らにいた『戦友(ジル・ド・レェ)』と『仲間(兵士達)』と共に。

母国(フランス)を護る』と云う同じ(こころざし)の元。

心をひとつに戦場を駆けた過去の記憶。

 

自身と彼らの手は敵の血に濡れ、穢れていた。

けれど、『愛する者を護りたい』と死と隣り合わせの戦場へ自らその身を晒した彼ら(兵士達)の想いはどこまでも尊く美しく。

聖処女(ジャンヌ)戦友達(彼ら)との間に結ばれた信頼と親愛の《絆》は温かく輝かしいモノだった。

 

 

「そう・・ですね。

ではーーーこちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 

今は遠く感じる眩しい記憶に彼女は小さく微笑み。

 

この地に召喚されて以来。

出会う者達皆に罵倒され、怯えた眼差しを向けられ。

知らず『孤独感』を深めていた自身に。

『仲間と共にあった頃の記憶』を思い起こさせてくれた少女達へと。

 

ジャンヌは幾日かぶりに温かく満ちた心を抱きながら、自らも協力を願い出るのだった。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

 

「えーと。霊脈、霊脈・・」

 

「マスター。霊脈ってのは肉眼で見つかるもんじゃねぇ。ちょっとどいてな。」

 

「えっ!そうなの!?」

 

「先輩、もう少し後ろに。ジャンヌさんもコチラへ。」

 

 

ベースキャンプとなる『召喚サークル』を設置する為に霊脈を探す一同であったが。

まるで落し物を探すかの様に下を向き、地面を見回す己のマスターに。

キャスターは場所を明け渡すよう促し、しゃがむと地へと自身の手の平をつけた。

続いて探索のルーン魔術を発動する。

 

徐々に範囲を広げ、地中の霊脈と思わしき反応のある場所を特定し。指し示した。

 

 

「あの大木の辺りが強い反応を示してるな。」

 

「了解です。あの辺りに設置しますね。」

 

「さすがキャスター!頼りになるなぁ。」

 

「おいおい。褒めても何も出ねぇぜ。

・・・ついでに周囲の見回りもして来てやるよ。」

 

「うん。ありがとう!」

 

《あれ?キャスターくん。

何げに立香ちゃんにうまく使われてる・・?》

 

 

言葉とは裏腹に嬉々として面倒事を引き受けたキャスターに。ロマンは藤丸立香の恐ろしい人心掌握の才能を垣間見、戦慄する。

 

しかし、無自覚な当の本人はマシュと共に盾を設置しながら。不思議がるジャンヌに簡単な説明をしていた。

召喚サークルについて説明を受けた聖処女は、感心したように溜息をつく。

 

 

「つまりこの盾を霊脈に設置し使用すれば《カルデア》という離れた地から、支援を受ける事が出来るというわけですね。・・スゴイ技術です。」

 

「そうだよね。まるで『どこで○ドア』か『とり○せバッグ』みたいで便利ーー」

 

「先輩っ!いけません!

それ以上は危険ですっ!!」

 

《例えは間違ってはいない!いないけど、色んな意味で危ないワードだから!ギリギリセーフだからっ!!》

 

 

危うく某猫形ロボットの秘密道具の名を口にしかけた彼女に。慌ててストップをかけるマシュとロマン。

天然なところのある己のマスター兼先輩に。

マシュは自分がシッカリしなければと改めて気を引き締める。

 

ロマンは管制室で心労から息切れしながら。

心の安定を保とうと『マギ☆マリ』へと投稿を開始した。

 

・・・そんなドタバタな状況に陥った彼らは。

見回りに出たキャスターの他に、1匹の『獣』がいつの間にか姿を消している事には気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・。」

 

 

深い森の中を『見回り』と云う名目(めいもく)で進むキャスター(クー・フーリン)は、ある地点で脚を止める。

身を屈め、片膝を着くと。

幾つものルーン文字が描かれた《呪符》を懐から取り出した。

 

 

「■■■■■■■」

 

 

詠唱と共にその符に己の血を垂らし。

先程マスター達へ伝えたモノとは別の『霊脈』の上へと置く。

すると、『呪符』はまるで吸い込まれるかの様にひとりでに地へと潜り。姿を消した。

 

 

ーーー術式設置完了。

干渉、流転、隠匿・・問題なし。

 

 

 

「ーーまっ、こんなもんか。」

 

 

キャスターは無事に『仕掛け』が済んだ事を確かめ、詰めていた息を吐き出す。

顔にかかる邪魔な蒼い髪を乱暴に掻き上げ、立ち上がると。怪しまれぬよう、中断していた『見回り』に素知らぬ顔で戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーフォウ。」

 

 

そんな『裏切り者』の姿を。

気配を完全に遮断した1匹の『獣』は、高い樹の枝先から静かに見下ろしていた。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

※キリのいい所までと思ったら短くなってしまった!しかも意図せず『フォウくんは見たっ!』状態に。

 

ドラ○もんネタはスルーでお願いします←

もしかしたら作中のジャンヌさんは公式よりメンタルが弱いかも。

さすがに故郷の人達にまでディスられたら『城塞の如き女』と云われる彼女も精神的に弱る・・筈だ。

ロマンはすまぬ←

 

次回は例の騎士が登場予定です。

 

 



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裏切りの騎士

 

第三者視点

 

 

 

戻ったキャスター(クー・フーリン)と合流し、『召喚サークル』から送ってもらった携帯食料で簡単に昼食を済ませた藤丸立香達(キャスター除く)は。

彼らがいる(ジュラ)から西の方角にある(ラ・シャリテ)へ向かうと方針を決め、移動を始めた。

 

(本来なら必要ないのだが)ちゃっかり未来の携帯食料を分けて貰い。

予想以上に美味しかったカロ○ーメイトの味に機嫌良く先頭を進む《救国の聖処女(ジャンヌ)》。

彼女は道を塞ぐ邪魔な草木を、軽快に旗でバッサバッサと薙ぎ払っていく。

その様に『え?旗の使い方間違ってない?』と聞く己のマスターとなった少女に、笑顔でジャンヌは応えた。

 

 

「はい。旗とはこう云う使い方も出来る武器なのですよ。」

 

「へぇー。知らなかった!」

 

「」←たまに盾をブーメランの如く投げて攻撃する少女。

 

「」←杖を槍のように扱って戦う魔術師。

 

 

他人(ひと)の事をあまり言えないと自覚している為。

マスターと聖処女の会話にツッコミたくとも口を挟めないサーヴァント2騎。

普段のツッコミ担当ロマンも『マギ☆マリ』による精神回復の真っ最中なので頼りには出来そうもなかったーーー肝心な時に使えない男である←

 

武器の使用方法に思う所はあれど、ジャンヌのおかげで通りやすくなった獣道を進み。

彼らは順調に夕刻には(ジュラ)の出口へと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めてお会いした時から思っていたのですが。

ジャンヌさんはアーサー王に似ていますね。」

 

「私がアーサー王にですか?」

 

 

ワイバーンによる上空からの奇襲を警戒し。

森の出口付近で夜を明かす事を決めた彼らは、テントを張り。今は皆で焚き火を囲んでいた。

 

そんな最中、マシュの発した言葉に藤丸立香とキャスターはそれぞれ視線を。

(再びゲットした)携帯食料を片手にキョトンとするジャンヌへと向けるーーー本来必要な人物より彼女の方が消費しているような気がするのは気のせいだろうか。

 

 

「あっ・・雰囲気は全然違うけど。

言われてみればそうかも。」

 

 

《特異点F》で戦ったセイバー(アーサー王)の青白く人形の様な表情を思い出し。

纏う雰囲気はまったく違うが顔のパーツは似通っている事実に気づく藤丸立香。

 

 

「・・そうか?だいぶ違うと思うがな。」

 

 

その隣でジャンヌの顔ーーではなく。

更に下の豊かな胸部に視線を落とし、セイバーとは別格だと否定するキャスター。

アーサー王本人がこの場に居れば、下半身への《約束された勝利の剣(エクスカリバー)》は免れ無い恐ろしい発言である。

 

 

「キャスターさん!見てる場所が違います!

失礼ですよっ!?」

 

「そ、そうだよ!

キャスターのエッチ!!」

 

「確かに、その・・そちらは似ていないと思いますけどっ!!」

 

「マシュッ!?」

 

「フォウッ!?」

 

「私が言いたいのは容姿もなのですが!

魂が、2人の魂のあり方が似ているような気がしましてっ!!」

 

 

あまりそう云った話題に免疫がないのか。

顔を赤らめながらキャスターを諌めようとするマシュ。

けれど、その意図は空回りし。

(彼女自身は気付いていないが)何故か逆に彼の台詞を肯定してしまっていた。

 

藤丸立香はつられて頬を染めながらキャスターに抗議の声を上げたが。

まさかの肯定のセリフに驚き、マシュへと勢いよく顔を向ける。

フォウも思わず反応し『この子、言っちゃったよっ!!』的な鳴き声を上げた。

 

その間、渦中の人であるジャンヌは照れ隠しなのか。頬を染めながらも一心不乱に未来の携帯食料(カロ○ーメイト)を囓っていた。

ーーいや、単に彼女の食い意地が張っているだけかもしれない。

 

(はた)から見れば、この場に居るのは顔を赤らめた女子3人に男1人。そして(ペット)1匹だけ。

まるでハーレムか恋愛ドラマの様な状況だが、残念ながらその主人公となるべき(キャスター)の頭の中は息子(コンラ)の事で一杯なのでフラグが立つことはない。

 

彼が通常の精神状態か、あるいはランサークラスであれば状況は変わっていたかも知れない。

しかし、ランサークラスのクー・フーリンは現在マスターの女(オルガマリー)に威嚇されつつも息子との親子タイムを満喫中である。

ーー幸運Eサーヴァントは(ランサー)の代名詞だった筈なのだが・・。

 

 

そして、キャスターのそんな(本人すら知らない)裏事情をよそに。

己の王に似た聖処女(ジャンヌ)の魂を嗅ぎ取ったのか。

はたまたデミ・サーヴァントの少女(マシュ)に宿る息子の霊基に惹かれたのか。

 

彼らの間に満ちた初々しい(?)空気を吹き飛ばすかの如く、夜の闇にとある騎士の咆哮が上がる。

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

 

《サーヴァントらしき反応を一騎確認っ!

凄いスピードで西からそちらに接近してる!

みんな、気をつけてくれっ!!》

 

 

「「「「っ!!」」」」

 

 

咆哮とロマンの通信に4人は素早く立ち上がり。

暗く、濃い闇が広がるばかりの西の方角へと警戒を強めた。マシュはマスターたる藤丸立香の傍らで盾を構え。

キャスターとジャンヌは己の得物(えもの)を手に2人の前へと出る。

ピンと張り詰めた空間を、冷たい風が通り過ぎ。

焚火の明かりに照らされた草木が自らの影と共に揺れ。ざわざわと音を立てた。

 

 

「ーーー来ますっ!左です!」

 

「マスターッ!嬢ちゃん!左だっ!!」

 

「はいっ!」

 

「うん!わかったーーて。わわっ!?」

 

 

(弱体化しているが)ルーラーの能力で敵の位置を感知したジャンヌと、歴戦の《勘》で敵の攻撃を予測したキャスターは。

同時に迫る危険を後方のマシュとマスターへと告げる。

その忠告に従い、左へと盾を向けながら藤丸立香と共に右へと飛び退るマシュ。

次の瞬間、2人のいた場所に遠くから投げられた《武器(丸太)》が突き刺さった。

 

 

「・・・え?丸太?」

 

「え?何で、丸太?」

 

「ざ、斬新な武器ですね。」

 

「この感じは宝具か?それにしてはーー」

 

 

まさかの《武器(丸太)》による遠距離攻撃に困惑する一同。

そんな彼らの思いとは裏腹に、黒い甲冑を身に纏う騎士は闇から抜け出すかの様にその姿を月下に晒す。

 

 

「Shrrrrrr・・ッ」

 

 

両腕に己の宝具『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』により『擬似宝具』と化した、《更に凶悪な武器(ガトリング砲)》を抱えて。

 

 

「えええっ!?あれ現代の銃器だよねっ!?

ここ中世のフランスだよねっ!?

何であるのっ!?

何で《英霊(サーヴァント)》が持ってるのっ!!?」

 

「意味がわかりませんっ!!」

 

 

驚愕する面々を意に介さず。

騎士ーーランスロットは迷いなく引き金を引く。

その銃口は寸分違わずアーサー王ーーと誤認しているジャンヌ・ダルクへと狙いを定めていた。

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!」

 

「ッ!ーー主の御業をここにっ!!

我が旗よ、我が同胞を守りたまえっ! 

我が神はここにありてっ!!!(リュミノジテ・エテルネッル)》」

 

 

火を吹くガトリング砲。

容赦なく迫る凶弾の連射に対し、自身の旗を中心とした結界をとっさに張る聖処女。

天使の加護を得た浄き光の防護壁が己と、危うく巻き込まれかけた仲間の身を盾となり護った。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

藤丸立香視点

 

 

 

ジャンヌが張ってくれた光の結界の内側。

そこで外にある木々が見る間に蜂の巣にされていく光景を眼にし、私の背筋に冷たいものが走った。

 

セ、セーフッ!!

危うく穴だらけになるとこだった。

護ってくれてありがとう!ジャンヌッ!

 

 

「ちっ!この威力・・アレも宝具みてぇだな。」

 

 

胸中でジャンヌに感謝する私の斜め前で。

苦い顔で舌打ちするキャスターの呟きに、ロマンが驚愕の声を上げる。

 

 

《ええっ!?宝具っ!?

ガトリング砲をぶっ放すデタラメ騎士なんて逸話、ボクは聞いたことないぞっ!?》

 

 

安心してロマンッ!私も聞いた事ないからっ!

まあ。私は歴史上の偉人も世界の有名な物語も、何でかほとんど覚えてないんだけどねっ!←

(マシュのお墨付きである。)

 

それにしても、あの人ーーー

 

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!」

 

 

ーーードドドドドドッ!!!!(銃声)

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!」

 

 

ーーーダダダダダダッ!!!!(銃声)

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!」

 

 

ーーーガガガガガガッ!!!!(銃声)

 

 

「くっ!」←ジャンヌ

 

 

 

ーー何かジャンヌの事をガン見しながら、ずっと『アーサーアーサー』叫んで撃って来るけど。

もしかして・・ジャンヌの知り合い?

『アーサー』っていう名前の人なのかな?

 

 

《『自分はアーサーです。』って全力で名乗りながら銃撃してくる知人なんて嫌だよっ!?

ーーーって。アーサーッ!!?》

 

「おいおい。まさかさっき話題に上がってた『アーサー王』のことじゃねぇだろうな。」

 

「え?え?つまりあの人が『アーサー』なんじゃなくて。ジャンヌの事を『アーサー王』と勘違いしてそう呼んでるってこと?」

 

《たぶんそうだよ!マシュもさっき彼女(ジャンヌ)は『アーサー王』に似てるって言ってたし。

ーーーなら、もう『彼』が何者なのかは明白だっ!》

 

 

通信先から聞こえる何時になく自信に満ちた声音。それにロマンの事を(秘かに)見直しつつ、私は先を促す。

 

 

「教えて名探偵ロマンっ!『彼』は誰なの?」

 

《フッフッフッ!!

聞かれたならば教えてあげようっ!

アーサー王の関係者で、アーサー王を強く憎む騎士。それは円卓の騎士の1人っ!》

 

旗の嬢ちゃん(ジャンヌ)のおかけで安全とは云え。コイツら攻撃されてんのに余裕だな。)

 

 

「ーーーあの人、は。」

 

「・・?嬢ちゃん(マシュ)、どうかしたか?」

 

《叛逆の騎士モードれーー》

 

 

 

 

 

 

「ランスロットです。」

 

 

 

 

 

 

 

「《ーーえっ?》」←私&ロマン

 

「ん?」←キャスター

 

 

唐突にロマンの推理ショー(?)を遮ったマシュの言葉に、私は思わず問い返す。

 

 

「ランスロット?

あの人、ランスロットっていうの?」

 

《モードレッドじゃなくてかいっ!?》

 

「はい。『彼』はランスロット卿です。

理由は解りませんが、私の中の《霊基》が間違いないと言っています。」

 

《君の中の『彼』の《霊基》が・・。

それはーー間違いようがないね。》

 

「え?マシュはあの人ーーランスロットと知り合いなの?」

 

 

聞くと、マシュに《霊基》をくれた《(英霊)》は。ランスロットと同じアーサー王に仕える『円卓の騎士』の一人だったらしい。

なるほど、生前の同僚なら確かに間違いようがないねっ!(そしてこの事実によりロマンが《迷》探偵であることが決定した。やっぱりロマンはロマンだった←)

 

 

《同僚・・。それだけじゃないんだけど、今の『(ランスロット卿)』は敵だし・・やめておこうか。》

 

「?」

 

 

何やら言葉を濁したロマンに首を捻っていると。

マシュが視線を、未だにガトリング砲を乱射し続けるーーおそらくバーサーカークラスのーーランスロット。

そして、その勢いに若干圧されつつも(かなめ)となる旗をしっかり両手で握りしめ。

結界を保ち続けてくれているジャンヌへと順番に移した。(あっ!ジャンヌ、任せっきりにしてごめんっ!)

 

 

「ーーー。」

 

 

・・・あれ?マシュ?

なんかーー眼が据わった?(汗)

 

 

「何故でしょうか。あの光景を見ているとーーー無性にあの《穀潰し(ランスロット卿)》をこの盾で殴打(おうだ)したくなります。」

 

「マシュッ!?

いきなり怖いこと言い出してどうしたのっ!!?」

 

《そんな言葉いったい何処で覚えたんだいっ!?》

 

 

後輩の突然の《穀潰(ごくつぶ)し》発言に私は焦る。

マシュが怒ってる?怒ってるよね!?

可愛い顔に何故か般若のお面がダブって見えるんですけどっ!?

いや、確かに《人違い》で銃撃してくるランスロットに思う所はある・・けど。

それだけで温厚なマシュがこんなに怒るはずないし。

 

 

「ハッ!まさかマシュの『霊基』の『彼』が、ランスロットの事を(殴りたいぐらい)嫌いだとかっ!?」

 

《あ、あり得るっ!

生前の2人の関係を考慮すれば十分あり得るよっ!!》

 

 

あわわっ!

当たって(?)しまった!

《名》探偵は私だったの!?(混乱)

 

 

「落ち着けマスター。

あの『(黒騎士)』と盾の嬢ちゃん(マシュ)との間に因縁があるのはわかった。

けどよ、アッチか殺る気で向かってくるなら。

俺らのやるべきことはーーーひとつだろ?」

 

「ッ!」

 

 

告げられたキャスターの冷静な助言に、私の混乱した思考は停止し。

数秒の時を経て、少しずつ落ち着きを取り戻す。

 

・・・キャスターの言う通りだ。

ランスロットが敵であり、ジャンヌや私達にその銃口を向けるなら。

例え生前の知人(同僚)であっても、私達のやるべき事はひとつしかない。

《人理修復》の妨げとなる彼と戦いーー倒す。

 

 

「マスターッ!悔しいですが、通常よりも魔力の出力が下がっているせいか結界が保ちません。

そろそろ限界ですっ!迎撃の準備をっ!」

 

 

口惜しげなジャンヌの警告を皮切りに。

私は決意を固め、眼の前の『敵』を見据える。

どんな事態が起こっても的確な指示(サポート)が出来るよう、気を引き締めながら。

甲に《令呪》が刻まれた右手をギュッと強く握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・。」

 

「(っ!ーーあれ?

いま一瞬、右手に視線を感じたような?)」

 

 

瞬きの間、鋭い視線が肌に刺さるような感覚を覚え。私はとっさに周囲に視線を巡らせる。

 

けれど、マシュとキャスターはランスロット()を警戒して前方を見。

ジャンヌも結界の維持に全神経を集中していた。

ランスロットもまた(アーサー王と勘違いしている)ジャンヌにのみ意識を向けていて。

周りに私達以外の人の気配はないようだった。

(フォウは珍しく私の肩に乗っている)

 

 

「フォーゥ・・」

 

「? 気のせい・・かな?」

 

「ーーーどうした?

問題でも起こったか?」

 

「先輩?」

 

「あっ、ううん。何でもないよ。」

 

 

私の異変に気づき、気遣ってくれたキャスターに問題が無いことを告げ。

振り返ったマシュに『大丈夫』だと笑いかける。

 

そして感じた《正体不明の視線》を『今は気にしている時ではない』と頭の隅に追いやり。

私は改めて、ランスロットを皆と共に迎え撃つべく身構えた。

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

※不貞の騎士は次回、子供(息子?娘?)に殴られるようです。

がんばれランスロットッ!

でも生前の自分がやらかした諸々のせいだから仕方ない(遠い目)

 

そして今更ながら、コンラくんにヤリニキを殴らせそこねた事実に気づく作者。

ふむ・・いつ殴らせようか←(外道)

 



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ギャラハッド

 

 

第三者視点

 

 

 

ーーーパリンッ!!

 

 

本来の力を発揮できず、脆くも砕けた光の結界。

その欠片が舞い散る中。

かつて《理想の騎士》と讃えられた『裏切りの騎士(ランスロット)』と《魔女》として処刑された『救国の聖処女(ジャンヌ)』は相対する。

 

 

「Arrrthurrrrrッ!!!!」

 

 

狂気に囚われた黒騎士は、求めた己の王(アーサー王)の幻を似た魂を持つジャンヌに重ね。抱えていた『擬似宝具(ガトリング砲)』を投げ捨て、彼が生前から所持している愛剣ーー『無毀なる湖光(アロンダイト)』を手に彼女へと斬りかかる。

 

 

「っ!!」

 

 

ジャンヌはその凶刃を己の旗をもって受け止めようとしたが。それより速く彼女の前へと飛び出し、防ぐひとつの影。

 

 

「女ばかり狙うなんざ、さすがに男としてどうかと思うぜ。

ーーーちょっくら俺にも付き合えよ。」

 

「キャスターッ!」

 

「ッ!?GAaaッ!!」

 

 

卓越した槍術(そうじゅつ)でランスロットの剣をいなし、弾いたキャスター(クー・フーリン)

クラスの筋力不足を補う為、自身にルーン魔術による《身体強化》を。

 

《聖なる樹木》あるいは《不死の象徴》として信仰されてきた『イチイ』の樹を素材として造られた愛杖には、耐久性を向上させる為の《物体強化》の魔術を。

 

2つの《強化魔術》を同時に発動させながら、槍の代わりに杖を用いて『円卓最強の騎士』と渡り合う『アルスター最強の戦士』。

生前に極められた剣術と槍術が両者の間でぶつかり合い。よら相手より強者たろうと競い合う。

 

 

《あのランスロット卿と互角っ!?

しかも《強化魔術》で不利な部分を補いながらっ!

ーーー強いっ!さすがクー・フーリンッ!!》

 

「がんばれっ!キャスターッ!」

 

「ふぅっ・・正直、助かりました。

今の私では(ランスロット卿)との戦闘は荷が重かったので。それにしてもーー(キャスター)が味方だと心強いですね。」

 

「はいっ!・・・私も同じ先輩のサーヴァントとして、見習わないと。」

 

 

2人の勇士がおりなす攻防の激しさに臆しかけた自身の心を。尊敬する先輩サーヴァント(キャスター)の奮闘を眼にし、奮い立たせるマシュ。

 

彼女は己の胸の奥ーー『彼』の《霊基》ーーから湧き上がる感情にも後押しされ。

キャスターの加勢に入りたいと、自ら前衛に出ることを藤丸立香に願い出る。

 

 

「マシュ・・もしかしてだけど。

マシュがあそこに行きたいのは《ランスロットが嫌い》だっていう『彼』の感情に流されてるから?」

 

「それは・・」

 

 

戦いを好まない後輩らしからぬ発言に、彼女は浮かんだ疑念を当人へと問う。

 

 

「もしもそうなら、私はマシュをランスロットの所へは行かせられないよ。『彼』には悪いけど・・・『彼』の《私怨》の為にマシュの身を危険には晒せないから。」

 

「先輩・・」

 

 

マスターとして、仲間(先輩)として。

自分の身を案じてくれた藤丸立香に、マシュは己の性急な行いを恥じた。

 

何故なら彼女ーーマシュのクラスは《シールダー》。

マスターを護るべき《シールダー()》がマスターの傍を離れ、前衛に出るなど。

本末転倒も甚だしい行いだからである。

 

彼女はこのままこの場に待機し、マスターとジャンヌを護ることが最善であった。

 

 

「・・・ごめんなさい、先輩。

私は先輩の言う通り《霊基》に残る『彼』の感情に突き動かされて、ランスロット卿の所へ行こうとしました。でも・・それは《私怨》からではありません。」

 

 

けれど、彼女はーーーそれを理解していながらも行かずにはいられない。

 

 

「え?・・ランスロットのこと、嫌いじゃないの?」

 

「嫌いです。」(即答)

 

「ええっ!?どっち!?」

 

「あっ!すみません!

嫌いですけど。嫌いだから、隙あらばと殴りに行きたいわけではなく。」

 

 

(・・『嫌い』なのは譲らないんですね。)

 

《(マシュにここまで言わせるなんて・・これは想像以上に(ランスロット)の事を嫌ってるなぁ。)》

 

 

「私の中の『彼』の《霊基》はランスロット卿のあの姿を『見たくない』と。彼を『止めたい』と。そう、私に訴えてくるんです。」

 

 

何故なら生前、不和のまま死に別れたと云えど。

(ギャラハッド)』とランスロットは、血の繋がった《父子》なのだから。

 

ギャラハッドは彼の母が行った計略により、父が望まぬ形で結ばれ産まれた『不貞の子』であり。

父の手によって物心つく前に修道院へと預けられた(捨てられた)『捨て子』であった。

故に、彼はランスロットの事を《親》ではないと拒絶し続けてきた。

 

奇しくも円卓の『同僚』となってからは。

暇さえあればコチラを気にかけてくる彼のことを『今さら《父親づら》するな』とすら彼は思っていた。

 

しかし、狂気に呑まれ憎悪と殺意に囚われた黒騎士の姿を。此度、デミ・サーヴァントの少女の瞳を通して目撃した『彼』の《霊基》は。

残された己の感情をかつて無いほどに激しく(たかぶ)らせる。

 

 

ーーー何をやってるんだこの男はっ!

 

 

それを一言で言い表すならば『怒り』。

 

幼い頃、無知な己が憧れた『父親』が。

《湖の騎士》と謳われ、精霊にすら祝福された『同僚』が。見るに耐えない姿で眼前に現れた事に、ギャラハッドは憤慨(ふんがい)する。

 

彼はーーけして本人は認めないだろうがーーランスロットの事を《父親》としては嫌っていたが、《騎士》としては一目置いていた。

 

その武勇を、騎士道精神を。

同じ《円卓の騎士》として誇らしく想っていた。

それなのに・・・

 

男は『王』を裏切り、情を交わした王妃を連れキャメロットから逃亡した。

仲間を殺し、円卓を割り、ブリテンを滅ぼす引き金となった。

さらに英霊となった今は、狂戦士(バーサーカー)などという醜悪な姿で『王』をつけ狙う始末。

ーーー結果、現在進行形で他国の人々に多大な迷惑をかけている。

 

ギャラハッドの《霊基》は《騎士》として。

国を救わんと奮い立つ清廉(せいれん)なる『聖処女』を。抗う力を持たぬ弱き他国の民達を。

ランスロットの、振るう先を間違えたその凶刃から護りたいと想う。

 

また、《同僚》として。

苦悩の果てに自ら狂い、淀み歪んでしまった。

生前の《理想の騎士》の見る影もないその姿を、これ以上『見たくない』とも想う。

 

己の手で、(ランスロット)の蛮行を『止めたい』と。『(ギャラハッド)』の《霊基》は少女の中で、愛憎入り乱れる己の激情を訴える。

 

その譲れぬ想いを受け取ったマシュは、マスターたる少女へと再度願い出た。

『私怨』からではなく、狂えるランスロットを『止める為』に前衛に行きたいと。

 

 

「お願いです。行かせてください。

私はどうしても、あそこへ行かなければならないんです。」

 

「マシュ・・。」

 

 

常は自身より他者の意見を優先することが多い後輩の、揺らぐ事のない強固な意志が滲む台詞に。

自分へと真っ直ぐに向けられる、迷いの無い凛とした瞳に。

藤丸立香は《特異点F》で幽霊の少女(イリヤちゃん)の為、決して己の意志を曲げなかった幼い少年の姿を幻視する。

 

 

ーーーそっか。

これ()が、マシュにとっての《譲れないもの()》なんだ。

 

 

「・・うん、わかったよ。」

 

 

ならばと、彼女はマシュの意を汲みその願いを聞き入れた。

 

 

「先輩っ!ありがとうございますっ!」

 

 

しかし、素直に喜び微笑う後輩へと。

彼女は続けて誰も予期せぬ『ある条件』を告げる。

 

 

「ーーーけど、私も一緒に行くからね。」

 

「「《え。》」」

 

 

残念ながら藤丸立香という少女は。

可愛い後輩を1人危険地帯に送り出し、その後ろで平気な顔をして護られていられる程。

情が薄くもなければ、聞き分けのいいマスターでもなかった。

それ故の、堂々たる『私も一緒に前衛で戦うよ』宣言。

 

 

「ジャンヌは、動くとランスロットが何を仕出かすかわからないから此処で待っててね。」

 

「で、ですがマスターッ!」

 

「はいっ。フォウをよろしくね。」

 

「あっ、はい。ーーって聞いてくださいよ!!」

 

 

彼女は早速。

肩のフォウをーー藤丸立香の指示にも一理あり、マシュの想いも汲みたいが故に強く引き止められずーー狼狽えるジャンヌに預ける。

 

リス、あるいは猫のような白い生き物をマスターから思わず受け取りながらも。

ジャンヌはオルレアン城へ向かおうとした無謀な己を止めてくれた2人を、今度は自身が踏み留まらせようと声を張った。

けれど・・・

 

 

 

 

 

〘だが!それでは私が堕ち、穢した魂が浮かばれない!承知の通り、私は殺した!消費して、消費して、消費した!人類を救済しなければ、私は罪を償えない!〙

 

 

〘償いを人類の救済に求めるのは止めなさい、ジルッ!貴方の罪は貴方だけのもの。償えないとしても、その絶望はやはり貴方だけのもの。貴方は他者にその悪の償いを押しつけるのですか!?

私も貴方も罪人であり、犠牲となった者達に償う方法など存在しない!

その苦悩を、その絶望を抱え続けるしかない。やり直しはできない。〙

 

 

〘ーー私は、許されないのですか?〙

 

 

〘神は全てを許すでしょうし、貴方が殺した子供たちは全てを許さないでしょう。その罪、その罪悪感、それは永遠に背負うべき罰です。・・・・大丈夫です、肩は貸して上げます。〙

 

 

(かしこ)まりました、ジャンヌ。

・・・わずかではありますが、また貴女と語らえたことを幸福に思います。〙

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

突如。

脳裏に蘇った『平行世界の聖杯戦争』の記憶に、続ける筈であった《静止》の言葉を彼女は呑み込んだ。

 

かつて『人類の救済』ーーー万人が善性であり、万人が幸福である世界。あらゆる悪が駆逐された『この世すべての善』の実現ーーーと云う他者の願いに。

己の生前に犯した悪業の《贖罪》を委ねたジル・ド・レェへと、ジャンヌはその行いが間違いである事を諭した。

 

罪の呵責に苦しみ、救いを求めた『戦友』へ。

あの時、自身が告げた残酷な言葉を『聖処女』は後悔してはいない。

 

彼女の中で、《罪》とは(『神』を除いて)赦されるモノではなく。

手にかけた幼子達の《悲惨な死》は『人類の救済』に至るに必要な《経緯》だったのだと。

己の《罪》を別のモノに擦り付け。

己の中の《罪悪感》から逃れようとしたジル・ド・レェを、彼女は容認する事が出来なかったからである。

 

また《今》を生きる者達を。いずれ自らの力で悪を駆逐するに至る《未来》の人々を。

《過去》に死んだ者達ーー『英霊(サーヴァント)』が身勝手に『救済する』ことなど、けしてあってはならない事だと。

ジャンヌは敵対した《ルーラー()》のその偉業を自身が阻んだ事に対しても、微塵も後悔はしていなかった。

 

 

ーーーしかし、狂える生前の《同僚(仲間)》が。

これから成そうとする悪業を、その身を危険に晒してでも止めようとするマシュの澄んだ瞳を眼にし。ジャンヌは《もしも》の可能性を考えてしまった。

 

それは有り得ない事である。

それは有ってはならない事である。

 

けれど、もしもーーー『戦友(ジル・ド・レェ)』が子供達の血でその手を穢すその前に。

己が《その場》に居合わせる事が出来たならば・・。

 

 

(私もきっと・・・彼女(マシュ)と同じ様に。

危険を顧みず、この身を犠牲にしてでも。

ジルを、止めたのでしょうね。)

 

 

誉れ高い『元師』であった彼が『青髭』という殺人鬼に成り果てた事を、誰よりも悲しく想っていたジャンヌは。

マシュの譲れぬ想いを理解し、共感してしまう。

それ故にーー

 

 

「なに?ジャンヌ?」

 

「ジャンヌさん・・?」

 

「ーーー。」

 

 

彼女は、2人を引き留める言葉を紡ぐことが出来なかった。

 

 

「・・・いえ、何でもありません。

この子(フォウ)の事は任せてください。

どうかーーお気をつけて。」

 

「?、うん。わかったっ!」

 

「ありがとうございます、ジャンヌさん。

・・・行ってきますっ!」

 

《ちょっ!?ホントに行くのかいっ!!?》

 

 

かくして最後のマスターとデミ・サーヴァントの少女は前衛へと向かう。

その背に聖女の祈りと、ロマンの動揺に満ちた声を受けながら。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

※大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした!

私事で時間が取れなかったのと、物語の方向性に一時的に煮詰まってしまいまして。

結局、今回はランスロットを殴れなかった・・orz

 

それにしても《青髭》になる直前の旦那とジャンヌが再会したらかぁ・・。

きっと子供そっちのけで雄叫びを上げながら『死したジャンヌが復活をっ!これこそ奇跡っ!神は実在したっ!!』とか言って大喜びするんでしょうね。

そしてジャンヌが落ち着かせる為に旦那に目潰しするんだ←

ジルは《綺麗な旦那》に戻って。子供達は酷い目にあわない。最高ですねっ!

後は『抑止力』が歴史の改変を許してくれるかどうか・・・相手が相手だから微妙(白眼)

 

 



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聖盾の鉄槌

 

第三者視点

 

 

 

狂える黒騎士(ランスロット)は苛立っていた。

 

 

「GAaaaaaaaッ!!!」

 

 

追い求めた己の『王』の元へ、あと少しで辿り着くと云うのに。

その念願の相手との間に割り込み、立ち塞がった(キャスター)へと彼は怒りのままに咆哮を上げる。

同時に邪魔者を排除しようと振るわれたのは。

獣の如き振る舞いとは対照的な研ぎ澄まされた剣舞。

 

狂化されながらも身体に染み付いた剣の腕は鈍ることなく。キャスターの杖にて振るわれる槍術と、互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

(ーーこいつ。)

 

 

一方、隙を見せれば斬り伏せられかねない状況の中。キャスター(クー・フーリン)はランスロットに己と似た何かを感じ取っていた。

 

それは彼らが同じく『ただ1人』を求め狂い。

己の目的の為に、武人としての《誇り》と《善性》をも自ら捨て去った『狂人』だからであった。だが、同類であろうと彼の攻撃が弛むことはない。

むしろ相手にも譲れないモノがあると理解した事で、キャスターの殺意は膨れ上がる。

 

 

(こいつは・・やべぇな。

一秒でも早く殺らねぇと、こっちが危ねぇ。)

 

 

目的の為ならば手段を選ばない事を自負しているが故に。相手もまた同じく、手段を選ばない方法で新たな手を打ってくるのではないか。

彼はその可能性を危惧し、己の宝具《灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》を発動する事を検討する。

 

 

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》。

これにより喚び出される木々の巨人は、神々への《生贄》を求め荒れ狂い。その巨体と身に纏う焔で自らの周囲を破壊し、燃やし尽くす《対軍宝具》である。

 

その攻撃範囲の広さと周囲への損害を考え、キャスターは『特異点F(冬木)』での《洞窟内》での使用を。この『第一特異点(フランス)』での現在の《森》での使用を控えてきた。

しかし、出し惜しみをして殺されては堪らないと。キャスターは宝具を開放するべく、発動していた《強化魔術》を消し新たに魔力を練る。

 

おそらく《灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》を放てばこの森は燃え、森に住む生き物達は皆焼け死ぬ。

風向きが悪ければ近くの村や街にも火は回り、最悪の場合は何人もの人間が命を落とす。

けれどーー

 

 

(ーーそれがどうした。)

 

 

《今》のキャスターにとって『そんな事』は些細な問題であった。

彼の今の優先事項は《息子(コンラ)》を取り戻す為に『人理再編』を成すこと。

その為には『各特異点』を巡る必要があった。

故に、彼は己と(利用価値のある)カルデアの者達の生存を優先する。

 

優先した結果が、多くの生命(せいめい)の命を奪う行いに繋がろうとも。

キャスターは躊躇わない。

そんな生温い感情は、最愛の息子(コンラ)を喪った時に切り捨てた。

そして、これからーー不要になった時点でーー己の《マスター》すらも切り棄てるのだから。

 

 

「アンサズッ!」

 

「AGaッ!?Uaaッ!!?」

 

 

目くらまし代わりに小規模の火炎をランスロットの兜に放ち。

敵との距離を開けたキャスターは身の内の魔力を解放する。

 

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。

因果応報、人事の厄を清める社。

倒壊するはーー」

 

 

杖に魔力が宿り、彼の悲壮な覚悟に応えるように静かに揺らめいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスターッ!どいてえええぇっ!!!」

 

「ッ!?」

 

 

しかし、背後から迫る藤丸立香の声にタイミングを逸し。キャスターは宝具を発動する事は叶わなかった。

彼は反射的に振り向き、飛び込んで来た光景に眼を見開く。

 

 

「何やってんだマスターッ!?

嬢ちゃんまでっ!?」

 

 

そこには盾を正面に構えたマシュを両腕で抱えーー正確には《お姫様だっこ(プリンセスホールド)》してーーキャスターの元へと全力疾走する藤丸立香の姿があった。

 

 

「すみませんキャスターさんっ!

とりあえず退いてくださいっ!!」

 

「ッ!ーーくそっ。」

 

 

どうやらランスロットの元へ向かうのに自分が道を塞いでいる状況だと察したキャスターは。

不満を抱きつつも素早く身を翻し、衝突しないようマスターの走るコースから外れた。

 

 

「GAッ?」

 

 

よって、マシュと藤丸立香は未だ距離はあるものの。当然の様にランスロットと対峙する事となる。

 

 

「マシュ、準備はいい?」

 

「魔力出力を微調整。クリア。

問題ありませんマスターッ!

ーーーいつでも行けますっ!指示をっ!」

 

「OK!(ランスロット(バーサーカー)を)やっちゃおうマシュッ!!」

 

「はいっ!宝具展開。

仮想宝具:疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!!!!》」

 

 

走る己のマスターに抱えられた状態で、マシュは宝具を発動。

盾から聖なる十字架が浮かび上がり、それを中心に2人の背丈を超える輝く光の盾が形成される。

 

 

「ーーッ!!」

 

 

その穢れなき輝きを。

光を纏う《聖盾》を眼にしたランスロット。

 

彼は直前までの洗練された動きが嘘のように。

唐突にギシリと固まり、その盾とーーマスターに抱えられる少女を凝視する。

 

 

「Gala・・had・・?」

 

 

光の盾から放たれる覚えのある魔力と。

かつて死に別れた息子(ギャラハッド)の面影を持つ少女の出現に。

狂気の渦の中、かろうじて残された正気の欠片がランスロットに息子の名を呼ばせる。

 

『王』を渇望する心は、一時の間。

混乱から目的を見失い沈静化し。

彼の体から溢れ出る殺意と憎悪を弱めた。

 

 

「ーーGalahadッ!」

 

 

ランスロットは愛剣(アロンダイト)の剣先を下ろし、空いた手を《少女(息子)》へと伸ばす。

 

 

 

 

 

ーーー探索を失敗しても構わない。

無事に・・帰って来てくれ。

 

 

それは生前、《理想の騎士》であるが故に。

『聖杯探索』へと(おもむ)く息子へ彼が《父親》として告げられなかった言葉。

 

旅立つ少年にこの言葉を伝えていれば。

ギャラハッドは『聖杯』と共に昇天せず、キャメロットに帰って来たのではないか。

少しでも息子を現世に引き止める《未練》に成り得たのではないか。

 

『聖杯探索』の仲間であったパーシヴァルから息子の死を告げられたその時。

彼は《父親》として、そんな後悔を抱いた。

 

 

《騎士》として。

誰にも打ち明ける事が出来ぬ《父親》としての後悔を胸に秘めたランスロット。

 

そして《王妃》として。

誰とも共有する事が出来ぬ『王』の秘密を抱え、その重圧と孤独に苛まれていたギネヴィア。

 

どこか似通った《不自由》さと《痛み》を抱いていた彼らが惹かれ合い、許されぬ恋に落ちたのは。

ブリテンにとって残酷な必然だった。

 

 

「Gala・・hadッ!」

 

 

ランスロット(父親)ギャラハッド(息子)との思わぬ再会を果たせた喜びに。

彼の《霊基》を持つ少女騎士(マシュ)へと唸るような声音で、その名を幾度も呼ぶ。

 

 

「サー・ランスロット・・」

 

 

そんな『同僚(父親)』の呼びかけに、姿に。

狂気の底から絞り出された(ランスロット)の想いに応えるよう。マシュもまた新たに湧き上がった(ギャラハッド)の想いを代弁(だいべん)し、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬱陶しいので黙ってください《不貞の騎士》っ!!」

 

「ッ?!!」

 

「マシュウゥッ!?」

 

「《父親づら》するのはやめてください。

不快です。

あと、そのみっともない姿は何ですかっ?

生前だけでは飽きたらず、死後まで『王』にご迷惑をお掛けするつもりですかっ!?

恥を知れっ!この《穀潰(ごくつぶ)し》がっ!!!」

 

「ッ!?!?」

 

「えっ!?・・父親っ?ええっ!?」

 

 

息子(少女騎士)に罵倒され、図らずもフリーズする黒騎士。

後輩のまさかの『父親』発言に動揺しながらも、脚は止めず距離を詰めたマスターの両腕の上から。

マシュは宝具を展開したまま、『(ギャラハッド)』の《感情(怒り)》を体現するように聖盾を大きく振りかぶりーー

 

 

「やああああああっ!!!!」

 

「ッ!!!」

 

 

動けぬランスロットの無防備な脳天へ、躊躇いなく振り下ろした。

彼女の盾はドゴォォンッ!!!という重く鈍い音と共に『鈍器』としての役割を見事に果たす。

 

 

この夜、ランスロット(父親)ギャラハッド(息子)の《霊基》を宿す少女の手により。

生前の報いを受けるかの如く、己が割った『円卓(聖盾)』の一撃(鉄槌)を喰らい地に沈んだのだった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

※更新不定期な中、8万UA突破ありがとうございますっ!!!

今回は宣言通り無事にランスロットを殴れました!←

 

そして宝具発動中のマシュは動けないイメージだったので、立香ちゃんに姫抱きで移動してもらいました。

マスターの人間離れが着々と進む・・っ!

 



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追跡者

 

藤丸立香視点

 

 

 

「治療して頂き感謝いたします。

『我が王』に(一部を除いて)よく似た美しき方。先程はいきなり襲い掛かってしまい、申し訳ありませんでした。お怪我はされませんでしたか?」

 

「えっ?は、はい。」

 

「それは良かった。心より安堵いたしました。

・・・どうか、誤解しないで頂きたい。

私が貴女を襲ったのはけして貴女自身が憎いからでも。不純な想い(やましい気持ち)があったからでもなく。

すべては《狂化》。

そう、《狂化》のせいなのでーーー」

 

「どこを見ながら話しているんですか?

ジャンヌさんの手が穢れる。

今すぐ放せ《ミミズの騎士》。」

 

「ーーーぶべしっ!!」

 

 

ジャンヌの手を(うやうや)しく取り、自分の行いをーー彼女の胸部をチラ見しながらーー謝罪する長髪のイケメン騎士。

それに気づき、青筋を立てながら盾で《ミミズ()の騎士》ことランスロットの右頬を殴打するマシュ。

どうやらマシュの中の『(ギャラハッド)』は相当、お(かんむり)みたいだ。

 

 

 

 

数十分前、頭上からのマシュの《会心(怒り)の一撃》を無防備な後頭部に受け。

瀕死の重傷を負い、地に伏すーーどころかめり込んだ黒騎士(ランスロット)

 

マシュの発言から、彼が後輩の《父親》ーー正しくはギャラハッドのだったーーではないかと思い至った私は。

殴られる直前のランスロットがマシュの姿を眼にして動揺し。向けていた敵意を弛めた事もあり。

 

トドメを刺そうとするキャスターと、撲殺しようとするマシュを全力で(なだ)めた。

 

彼が私達に問答無用で銃口を向けるなら、倒すしかないと覚悟した。

でも、彼と話し合いの余地(戦わずに済む方法)があるのなら。

その可能性を切り捨てず、活かしたいと私は想ったのだ。

 

 

なので、まずは出来たばかりのクレーターの中心に。大の字(うつ伏せ)で倒れるランスロットを(やや不満気な)キャスターの魔術で暴れないよう拘束し、めり込んだ地面から救出。

 

次に(かなり不満気ながらもーーたぶんーー諦めてくれた)マシュにジャンヌを呼んで来てもらい。

直接攻撃を受けた頭部に治療を施そうと、兜の長い毛(?)の部分を掴んで引っ張り、無理やり脱がしたところ・・・

 

 

「まさか下からロングヘアーイケメン(中身は残念)が現れるとは思ってなかったから、ビックリしたなぁ。」

 

《ハハッ・・そうだね。

しかも《狂化》が主に『兜』の方にかかってたから。『兜』を脱いじゃえば、ほぼ《素面(しらふ)》とか・・》

 

 

私の呟きに同意し、荒ぶるマシュの様子に乾いた笑いを漏らすロマン。

彼の言う通り、《狂化》の作用が何故か『兜』の方に重点的に付与されていて。

脱がせて素顔を晒した状態であれば、普通に会話ができた。

その時に、ロマンとランスロットの口から。

マシュの《霊基》の『彼』が、《ギャラハッド》というランスロットの『息子』であることが明かされた。

(この時、ロマンが『伏せた意味なかった』とぼやいてたけど。何の事だろ?)

 

 

『息子』であり『同僚』である2人には、昼ドラ的な複雑な事情があるらしく。

マシューーというか中の『ギャラハッド』の《霊基》ーーは一貫して『他人』だと親子関係を全否定。

その事に落ち込んでいたかと思えば、治療を終えたジャンヌへの色々とアレなお礼と謝罪。

 

・・・マシュ(ギャラハッド)が怒るのも無理ないね、コレ。

(納得)

 

 

「ギャラはーーゴホンッ!失礼。

マシュ、間違っていますよ。

私の生前の異名は『湖の騎士』、けして『ミミズ』では・・」

 

「気安く 名前を 呼ばないでください。」

(盾を上段に構え)

 

「う″っ・・!」

 

「それに、間違いではありません。

王妃と不倫した分際で、『王』の下した処罰に不満を抱き。身勝手な恨みをも抱いたあげく。改めて裁いて頂こうと『王』をストーカーの如くつけ狙おうとした。ミミズと同等ーーいえ、それ以下の《不忠の騎士》の事をそう呼んだんです。」

 

「ーーガハッ!!」(吐血)

 

「ランスロットーーッ!!?」

 

 

ランスロットがマシュ(ギャラハッド)猛攻(毒舌)に堪え切れず、吐血した。けっこうな量の出血に焦る私とジャンヌとは対照的に。

赤い水溜り(もやはホラー)の中で片膝を着くランスロットへと、マシュが向ける視線は冷ややかだ。

 

いっそこのまま《座》に還れと言わんばかりの絶対零度な眼差しである。

そんな後輩の酷な対応を眼にしながら、ふと私の中である疑問が湧いた。

 

 

「・・あれ?そういえばランスロット。

自分から望んで《バーサーカークラス》で此処(フランス)に召喚されたって言ってたよね?」

 

「っ!・・ええ、その通りです。」

 

 

血で濡れた口元を手の甲で拭い、危なげなく立ち上がるランスロット。

(たたず)まいを直しながらも、その表情はどこか昏い。

 

 

彼女(マシュ)の言う事は正しい。

私は生涯仕えたいと望んだ『王』を自ら裏切り、護りたいと願った『国』を滅びに導いた《裏切りの騎士》。そんな私が《英雄(セイバー)》として召喚されるなど滑稽ではないですか。

故に、私は自ら《狂化》を受け入れ。

喚ばれるまま《狂戦士(バーサーカー)》としてこの地(フランス)に来ました。全ては『王』に会い、私の罪を罰して頂く為に。」

 

「ーーー。」

 

 

自嘲的に嗤う彼に、マシュの顔が僅かに曇る。

嫌ってはいるけど、完全に見限ってるわけじゃないみたい。

何だかんだ厳しい態度をとってはいても。

そのじつマシュ(ギャラハッド)もランスロットの事が心配なんだ。

 

生前の事情せいで、せっかく会えたのに仲良く出来ない2人の様子に。

私はじれったいモノを感じた。

 

 

「ーーそれで、私が自ら《バーサーカー》となった事がどうか致しましたか?

可憐なマスターのお嬢さん。」

 

「」←私

 

「この、男は・・っ!

ジャンヌさんだけでなく先輩にまでっ!!」

 

 

いや・・うん。

褒めてくれたのは嬉しいけど。

さっきのシリアスからの変わり身、早すぎじゃないかな?

 

マシュが今度はランスロットの左頬をフルスイングで殴るのを眺めながら、私は気づいた。

ランスロットの女性への態度を改めさせない限り、この親子(?)は和解できないと。

 

 

「こいつ、女を口説かないといられねぇ病気にでもかかってんのか?」

 

《キャスターくん。もっともな意見だけどさ。

キミの生前の(女性関係の)武勇伝を(かえり)みると、人のこと言えなーー》

 

「軟弱モヤシ野郎は黙ってろ。」

 

《また軟弱って言われたーっ!!?

しかも今度はモヤシまでプラスされたっ!!》

 

「ねぇ、キャスター。

彼の病気、契約すれば《令呪》で治せるかな?」

 

「やめとけ《令呪》と《魔力》の無駄だ。

第一こいつのマスターはまだ『竜の魔女』だろ?

そっちの契約が破棄されねぇと、いくらアンタらが望んでも主従契約は不可能だ。」

 

《くそぅ!これは心身ともに鍛えるしかないのか!?でも、そんな事をしてたらただでさえ短い『マギ☆マリ』との至福の時間が減ってしまう!!》

 

「ところでマスター。

何か気になる事があったんじゃねぇのか?」

 

「あっ!そうだったっ!」

 

《僕はそんなの耐えられないっ!

どうしたら良いか教えてくれ『マギ☆マリ』ッ!!》

 

 

通信先で何やら葛藤しているロマンを余所に。

私はキャスターのおかけで思い出した疑問を、ランスロットへと投げかける。

 

 

あの(狂化された)状態でアーサー王と、どうやって話すつもりだったのかなって思って。」

 

「・・え″。」

 

 

長髪イケメン騎士の表情が凍りついた。

 

 

「だって、罰してもらうにしても。

まずは事情を話さないと、王様だって罰しようがないと思うんだ。」

 

「言われてみれば・・そうですね。

先程のように突然襲撃されても、何故襲われたかわかりませんし。

今回はマシュのおかげで貴方が何者かわかりましが。その兜を被った状態では、アーサー王も貴方が誰かわからないのでは?」

 

「そ、それは・・ほら。アレです。

言葉を交わさずとも。

追いかけて襲い続ければ、『王』も私を攻撃せずにはいられない。その時『王』の手で葬って頂ければ、それが私への『断罪』となーーー」

 

「なるわけ無いでしょう《ストーカー騎士》。

それじゃあ『王』にとっては、ただ見ず知らずのストーカー(変態)を撃退しただけじゃないですか。

トリスタン卿に負けず劣らずの思慮の足りない自己陶酔具合いですね、この《ナルシスト騎士》が。」

 

「ゲフッ!!」(吐血)

 

 

眼を泳がせ、冷や汗をかきながら弁明(べんめい)していたランスロットは。

マシュの言葉に打ちのめされ、吐血(2回目)をし堪らずOrzのポーズになる。

それにしても次々と不名誉な異名が追加されていくなぁ。

 

 

「な、ならば。私はどうすればーーッ!!」

 

「正気のまま普通に生前のこと謝って。

『納得行かないから、改めて罰してください』って普通にお願いすれば良いんじゃないかな?」

 

「そんなっ!『王』に合わせる顔などないというのに。そのような厚顔無恥な所業、私にはとても出来ないっ!!せめて、せめて『兜』を被らせてほしいっ!」

 

 

懇願の表情で私が(安全の為に)預かっている『兜』に熱い視線を送るランスロット。

その眼差しに危ないモノを感じて。

私はとっさに両手で持っていた『兜』を背後に隠し、彼の視線から外した。

 

 

「えっと・・それだと《狂化》が強くなるからマトモに会話できないよね?『兜』で顔を隠しても、事態が悪化するだけだよ?」

 

 

だから、そんな顔をしても絶対にコレ()は渡さないっ!かわいい子(マシュ)ならまだしも、イケメンの上目遣いじゃ私は揺るがないのだ←

 

 

「くっ!なんてことだ。

『王』よ、私はどうすればっ!!」

 

「先輩の言う通り素面(しらふ)のまま土下座して、ひたすら謝ればいいんですよ。」

 

 

んん?

私、土下座までするように言ったっけ?

・・というか。

追いかけ回すのは良くて、直接顔を合わせて話をするのはダメってどういう事なんだろう。

いまいちランスロットの中の良識が解らない(困惑)

 

 

「と、とにかく。もう夜も明けますし、マスターは少しでも休息をとってください。

(ランスロット)も、もう争う意思はないようですし。」

 

 

ジャンヌの提案に顔を上に向ければ、木々の隙間から微かに白み始めた空が見えた。

本当だ、もう朝なんだ。

 

 

「それじゃあ、お言葉に甘えようかな・・。」

 

 

これから(ラ・シャリテ)まで歩き通しになるみたいだし。

少し横になって体力を回復させてもらおう。

そう思い、私はテントを張ったあたりに視線を向けーー

 

 

「あっ。」

 

「こ、これは・・」

 

「まぁ、あれだけ景気良くぶっ放してりゃこうなるわな。」

 

「(キッ!)」←マシュ

 

「(滝汗)」←ランスロット

 

 

ボロ布と化したテントの残骸を目の当たりにし、頭を抱えた。

 

あー、うん。そうだよね。

ランスロットのあのガトリング砲の嵐の中、テントだけ無事な筈ないよね。

 

私は穴だらけの布切れの端を指先で摘みながら。

またカルデアから新しいテントを送ってもらうのは気が引けるし、この上で寝るしかないか・・と思案する。

 

土を払ってうまく折り畳めば、ひと1人が寝そべるくらいのスペースは確保できそう。

あとは枕代わりになるモノがあると助かるんだけど。

うーん。枕、マクラ、まくら・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば、わたくしの膝枕をどうぞ。

安珍様(ハート)」

 

 

「「「「・・・はっ?」」」」

 

 

いつの間にか私の傍らで正座をしていた緑色の髪の女の子。彼女は私を自身の膝に招くようにその白い両腕を広げ、ニコリと微笑んだ。

 

えっ?えええぇーーっ!?

 

 

「どちら様でございますかーっ!!?」

 

 

若干のデジャヴを覚えながら、私は反射的に女の子に尋ねる。

すると女の子はショックを受けた様に眼を見開き、続いて悲しげに目を伏せた。

 

 

「そんなっ!わたくしの事をお忘れになったのですか?あなたの最愛の妻、清姫ですっ!!」

 

 

妻だ、と・・?

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

※毎度更新が遅くてすみません。

気づいたらマシュがランスロット(狂)をボコボコにしていた。解せぬ←

 

そしてランスロット以上の最凶のストーカーが登場。想い人(?)の危機を察知し、フランス組のところから走って追いついて来た模様。

安珍追跡センサー、恐るべし(ガクブル)

 

 



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集結の地は

 

第三者視点

 

 

 

ーーとある愛に狂った凶蛇(清姫)最後のマスター(藤丸立香)に膝枕を勧めているのと、ほぼ同時刻。

(ヴォークルール)から出発し(ラ・シャリテ)へと急ぎ向かう一団がいた。

 

先頭で馬を駆るのは指揮官たる元師(ジル・ド・レェ)

それに並走するのは白百合の王妃(マリー・アントワネット)天才音楽家(アマデウス)

 

昨日、望まずながら敵対した処刑人(サンソン)騎士(デオン)を倒し。砦を襲う怪物達を蹴散らしたマリー達は、砦内部のジル・ド・レェ達と合流。

夜の内にお互いの事情を打ち明け、しばらくは行動を共にする事にしたのだった。

 

 

《あぁ・・そうだねマリー。

無実の君を僕は処刑したんだ。

こうなるのはーー当然の因果だね。》

 

《お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした王妃。ですが、私もマリー様とこうして再び相まみえる事ができたことを嬉しく想います。》

 

 

「・・・・。」

 

 

アマデウスは(完全に自分をスルーして)良い顔をして消えっていった知人達を。

初恋の少女の馬にーー騎乗スキルがないのでーー相乗りしながら思い返す。

 

 

(サンソンの奴はともかく。

デオンは戦力的にこっち側に来てほしかったな。)

 

 

窮地のフランス国民をマリーが放って置く事など出来ないと初めから予測していた為。

彼は足手まとい(兵士)達が同行する覚悟は出来ていた。しかし、夜に突然の奇声を発して森へと走り去ったバーサーカーの少女(清姫)の離脱は痛い損失だった。

 

おかげで今の彼らの戦力はライダーとキャスターとランサーの3人だけとなってしまった。

しかもランサーことエリザベートの出す破壊音波はたやすく自身を行動不能にする恐ろしいデメリット付きである。

正直な話、今後の戦闘には不安しかない状況であった。

 

 

(ハァ・・こんなの僕のガラじゃないんだけど。

また彼女(マリア)を死なせるのだけは勘弁願いたいからね。今回はーーー本気で行こう。)

 

 

生前は己が急逝した為、何も出来ず死なせてしまった少女を。此度はなんとしても護ろうと模索するアマデウス。

 

 

(アマデウス・・ごめんなさいね。)

 

 

そんな初恋の彼の想いに薄々気づきながらも、フランス王妃としてーー民の幸せを第一に考えると云うーー己の信念を曲げられぬマリー。

彼女は背後で頭を悩ませるアマデウスに申し訳なく思いつつ、隣の白銀の騎士と言葉を交わす。

 

 

「元師さん。

このまま行けば今日中には目的の街に着けるかしら?」

 

「ええ。道中、このまま怪物達と遭遇しなければ日が落ちる前に着けるでしょう。

・・・貴女達には命を救われ、馬を用意して頂き。更に今もこうして助力して頂いている。

なんとお礼を言ったらいいか。」

 

 

ジル・ド・レェは後ろを振り返り、マリーの召喚したガラスの馬達に乗る兵士らを視界に捉える。

 

砦を脱出する際にわかったのだが、兵士達の人数に対して馬の頭数が僅かに足りなかったのだ。

馬に乗れない兵士は徒歩となるが、それに合わせて進んでいては街に至るのに数日はかかる。

かといって砦に置いていくことは彼らに『死ね』と言っているのと同義であった。

 

そんな彼らに快くマリーは自ら喚んだガラスの馬を貸し、無事にこの件は事なきを得たのであった。

 

 

「彼らを置き去りにせずに済んだのは貴女のおかげです。改めて心から感謝致します。

未来の王妃殿。」

 

「まあっ!この時代の人にそう呼んでもらえるなんて。ふふっ・・でも、そんなに畏まらなくていいのよ?

気軽にマリーって呼んでちょうだい!」

 

「え?あっ、いや。さすがにそれは・・・」

 

 

天真爛漫なマリーの発言に戸惑い、言葉を濁すジル・ド・レェ。

彼とて恩人である少女の可愛らしい《お願い》に応えてあげたいという想いが無いわけではない。

けれど、仮にも未来の自国の王妃を呼び捨てというのは。軍人である彼には《不敬》に感じられ、どうしてもその《お願い》を了承する事は出来なかったのであった。

 

 

「ちょっと!アンタ達!

人が頑張って空から敵がいないか見回ってるって云うのに。頼んだ当の本人達が楽しくお喋り(サボリ)してるってどういう事よっ!!」

 

 

そんな彼らに一団の頭上から異を唱えたのは竜の翼を背から生やした少女ーーエリザベート。

 

彼女はアマデウスの口車にまんまと乗せられ、上空からの周囲の警戒を1人任されていたのだった。

だが、そんな中(本人いわく)健気に働く自分を放って楽しく会話に花を咲かせる眼下のマリー達に彼女は不満を覚え。ついに我慢できず抗議の声を上げたのだった。

 

怒りのまま竜骨槍をブンブンと振り回し、急降下してきたエリザベートに思わず仰け反るアマデウス。

 

 

「あっ、ぶないなあっ!

危険なのはその壊滅的な歌のセンスだけにしてくれよ。まったく・・マリアに当たったらどうするんだ。」

 

「ぐぬぬ・・何よっ!

どいつもこいつもマリア!マリー様って!

ロイヤルだかアントワネットだか知らないけど。

私だって、私だってがんばってるんだからっ!!」

 

 

呆れ顔のアマデウスにエリザベートは泣きそうな表情で愚痴を漏らす。

アイドルの頂点ともいえる少女(マリー)への反骨精神でここ迄やってきたが。

敵すらも(ファン)にーーエリザベートにはサンソン達がそう見えたーーする白百合の王妃のカリスマ性をまざまざと見せつけられ、さすがの彼女も自信を失いかけていた。

 

頂点への道を挫折しかける少女。

夢を諦めそうな彼女へと輝きを形にしたかのようなアイドルの少女は優しく声をかける。

 

 

「あらあら、エリちゃんったら。

寂しかったの?仲間はずれにしてしまってごめんなさいね。」

 

「はあっ!?ベベ別に寂しくなんてないし!

それにエリちゃんって何よっ!?」

 

「お友達は愛称で呼ぶものでしょう?

だからエリちゃん♪

大丈夫。エリちゃんが頑張ってるのはちゃーんとわかってるわ。よしよーし。」

 

「な、何言ってんのよ!?友達っ!?

って、勝手に触ろうとしないでよ!!」

 

 

まさかの目標(マリー)からの《友達》発言と慰めの言葉にエリザベートは焦る。

頬を染めながらも、最後の意地で頭を撫でようとする彼女の手を回避した。

 

 

(しっかりするのよエリザッ!

あの女は私のいずれ越えるべき壁。

打倒すべき目標。

と、友達だなんて慣れ合う関係じゃないのよっ!!)

 

 

クラリと魅了されかけた己の精神を奮起させ。

彼女はビシリッとマリーへ人差し指を突き付け、宣戦布告する。

 

 

「私は貴女の友達になんて絶対ならないわ!

そうやって誰も彼も惑わして意のままに懐柔できると思ったら大間違いよっ!!」

 

「?・・ああっ!

エリちゃんは恥ずかしがり屋さんなのね。」

 

「違ーーうっ!!

ああもう見てなさい!

必ずトップアイドルの座に登り詰めて吠え面かかせてやるんだから!!」

 

 

直前の落ち込みようが嘘のように元気に捨て台詞を吐き、上空へと戻るエリザベート。

その様子をマリーは元気になって良かったと笑顔で見送り。

ジル・ド・レェは見守っていた少女達の一連のやり取りを微笑ましく思い。

アマデウスはーーー

 

 

「素直じゃない・・。」

 

 

どこぞの嫌いな処刑人を脳裏に思い浮かべながら、苦笑の後にそっと溜息を溢したのだった。

 

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

 

ーーーそして場面は最後のマスター達のもとへと舞い戻り、当の藤丸立香は。

 

 

「おのれええええぇぇっ!!!!

安珍っ!!この大嘘つきめぇええっ!!!」

 

 

怒れる清姫からの逃走真っ最中であった。

夜のランスロットの襲撃から続いてこの状況、悲惨である。

 

 

「だから私、嘘ついてないよ!!

ホントに貴女の旦那様じゃないし!

安珍って人でもないんだって!!」

 

 

疾走しながら藤丸立香は背後の恐ろしい形相の少女へと何度目かの無実を訴える。

 

彼女のその言葉は真実であった。

しかし、その真実をーーー藤丸立香が安珍(想い人)の生まれ変わりであると思い込んだーーー狂える凶蛇は歪んだ形でしか受け取る事ができない。

 

 

「ああああ″ああああ″あっ!!!!

またわたくしを(たばか)ろうというのですね!!?

またわたくしから逃げようというのですね!!!

ひどいひどいひどいひどい憎い憎い憎いにーー憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎ッ!!!!!」

 

《ヒィイッ!?立香ちゃん!

何を言っても今の彼女には無駄だよっ!!

むしろ逆効果で火に油を注いじゃってるから!!

ヤバさがヒートアップしちゃったから!!》

 

「じゃあ、どうすればいいの!?」

 

《もう少しそのまま粘れるかい?

後ろのマシュ達と急いで相談するから。

苦しいだろうけど、必ず何とかするから後少しだけーー》

 

「このまま走って逃げてればいいの?

うん、わかった!」

 

《がんばってーーーって。えっ、ええっ?

立香ちゃん息とか苦しくないの!?

けっこうな距離走ってる筈だけど。》

 

「?、大丈夫だよ?

ちょっと疲れたけど、まだまだ余裕っ!」

 

《あっ、うん。そっか・・・ごめん。

君のスタミナ舐めてたよ。》

 

 

体力お化けの本領を発揮する藤丸立香に、度肝を抜かれるロマン。

思わず謝罪するも当の本人はその謝罪の意味が解らず、軽快に脚を動かしながら首を傾げるばかりであった。

 

未だ息をほとんど切らさず、背後から迫る嘘つき焼き殺すガール(ストーカー)から余裕で逃げる最後のマスター(プロランナー)

反対にそのサーヴァント達は、必死の体で清姫の背を追いかけていた。

 

 

「くぅ!全然追いつけません!

先輩、脚が遅いサーヴァントですみません!!」

 

「魔術で《身体強化》している私達より速いなんてっ!マスターは本当に生身の人間なんですかキャスターッ!?」

 

「ああ。その筈、なんだがなぁ・・」(遠い目)

 

「いやー。あんなにも熱烈なラブコールを女性からされるなんて、彼女も隅に置けない。さすがギャラハッドが認めたマスターだ。」

 

「黙れ《KY騎士》。

そんなに下のモノが要らないなら去勢して身軽にしてあげましょうか?」

 

「」←ランスロット

 

 

殺意を滲ませた少女(息子)の辛辣な台詞に、身の危険を感じ大人しくお口にチャックをしたランスロット。

彼は「マシュ(息子)のあの眼は、あと一言でも言葉を発していたら確実に潰す気だった。」とこの時の事を後に円卓の同僚に語ったと云う。

 

 

 

・・・それはさておき。

藤丸立香、清姫、マシュ達という順番で無人の平原で追いかけっこを続ける一同。

この状況を打破しようとするロマンの通信が彼らに入る。

 

 

《マシュッ!キャスターくんっ!》

 

「おっ、やっと来たか。」

 

「ドクターッ!先輩の様子はどうでしたか!?」

 

《『まだまだ余裕』だってっ!!》

 

「「「マジ(です)かっ!!?」」」

 

 

およそ人間離れしたマスターの体力に、サーヴァントたる彼らもまた驚きを隠せない。

しかし、ロマンはそれでも藤丸立香が一般人より身体能力が優れているだけの《ただの人間》である事を理解していた。

 

 

《僕も驚いたよっ!

でも、彼女のスタミナ(体力)も無尽蔵ではないし。

いつまでもこうしては要られない。

急いで何か打開策を考えないとっ!》

 

「策、ですか・・。」

 

 

通信先のロマンの台詞にマシュ達は頭を悩ませる。

 

 

「ッ!!(サッ!)」←ランスロット挙手

 

 

良い案を思いついたのか、自信に満ちた表情で勢い良く手を上げる黒騎士。

マシュ(息子)に「黙れ」と言われたので律儀に言葉を発しないあたり、真面目である。

 

 

「とにかくあの蛇の嬢ちゃんを止めねぇ事には話になんねぇな。」

 

「・・誰かが足止めをするしかないと?」

 

 

だが、華麗に皆に無視されるランスロット。

ーーー酷な扱いである。

 

 

「っ!!(サッ!)」←ランスロット挙手

 

 

それでも彼は諦めない。

再度マシュ(息子)が絶対に見える位置に移動しチャレンジ。

 

 

「いや、誰かじゃねぇーーー俺が行く。」

 

「「っ!!」」

 

 

けれど、非情にも彼の主張は再び無視される。

ーーー不憫すぎる扱いである。

 

 

「《令呪》でマスターと(蛇の)嬢ちゃんの間に俺を転移してもらえれば、後はこっちで上手くやる。

『主君と女は殺さない』主義だからな。

倒せはしねぇが、足止めの役割ぐらいはきちんと果たせるぜ。」

 

「ですが、それだとキャスターさんがっ!」

 

「そんな策は駄目ですキャスターッ!」

 

「心配すんな。俺の実力は嬢ちゃん達も知ってんだろ?」

 

「それはーー」

 

「ッ!ッ!(サッ!サッ!)」←ランスロット挙手

 

 

シリアスに交わされる会話にも負けず。

ついに、これが最後と言わんばかりの連続挙手。

ーーーこれは無視を続けていたマシュ(息子)もスルー出来なかった。

 

 

「もうっ!

さっきから何なんですかランスロット卿っ!!

喋っていいので意見があるなら早く言ってくださいっ!!」

 

「っ!許しが出たかっ!

ならば私の考えた策をまず聞いほしい。」

 

 

マシュ(息子)からのお許しを得たランスロットは実に嬉しそうに。己に良い策があると宣言する。

その様は我が子に良い所を見せたいと、一心にはりきる父親そのものであった。

 

 

「俺のより良い策があるって・・?」

 

 

そんなランスロットに対し、己の策を否定されたも同然なキャスターの顔に若干の苛立ちが浮かぶ。

それに気づいたランスロットは、真摯に彼へ謝罪の意を述べた。

 

 

「ああ、すまない。

君にケチをつけるつもりではなかったんだ。

ただ、私の策の方が誰が一人を危険に晒す必要がない。それだけで・・。

君の策を実行するかは、私の話を聞いてから決めてほしい。それからでも遅くはないだろう?

キャスター。」

 

「・・・・まあな。わかった。

そこまで言うなら聞いてやるよ。」

 

「ありがとう。それでは話そうか。

私の考えた策はーーーー」

 

 

キャスターの了承も得たランスロットは、おもむろに己の考えた策を皆の前で公言する。

それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の持つ《擬似宝具》ーーーF-15J戦闘機の背部に全員でしがみつき。彼女(清姫)の追跡を振り切ると云うものなのだが。どうだろうか?」

 

《それ本気で言ってるのかい!?

冗談じゃなくてっ!!?》

 

「アンタ。頭、大丈夫か?」

 

「あっ。忘れかけていましたが、彼もバーサーカークラスでしたね。」

 

「もう二度と口を開かないでください。

サー・ランスロット。」

 

 

体力的な疲労とは別の理由で3人のサーヴァントは頭痛を覚え。ロマンは管制室で唸りながら頭を抱えたのだった。

 

 

ーーーこうしている間にも彼らは走る。

平原を西へと向かい。駆ける。駆ける。

その先にあるは・・・奇しくも目的の街(ラ・シャリテ)

 

かくして彼らの集結の地は決まった。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

※いったい何日ぶりの投稿なのか(白眼)

本当にいつも遅くてすみません。

今後も公私ともに慌ただしくなりそうなので、亀更新表記にします。

お待たせしてしまって読者様達には申し訳ないです。

 

えー、話は変わりますが(おい)←

F-15J戦闘機の最大速度はマッハ2.5。

瞬間最大速度に至ってはマッハ2.7。

ちなみにクー・フーリンの投擲する《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》の速度はマッハ2。

 

キャスニキいわく「俺の投げる槍より速いもんに生身の人間が(体力お化けなマスターでも)しがみつけるかっ!」との事。

・・・・・出来ない、よね?(震え声)

 

ランスロットの策は一人だけじゃなく、皆を危険に晒すとんでもない(バーサーカーな)モノだった。

と云うオチでした。

次回は魔女と邪竜のハートフルストーリーになる、はずですっ!

 



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大嘘つきVS正直者

第三者視点

 

 

清姫からの逃走を続ける中、ロマンからキャスター(クー・フーリン)の策を伝え聞いた藤丸立香。

(ランスロットのアレな策はもちろん却下である。)

 

始めは彼女もその策を拒んでいたが、他に手がない事と最後には彼への信頼が勝り。ついにキャスターの策を承諾。

迷いを振り切るように己の右手を掲げ、最後のマスターはそこに宿る《令呪》を切った。

 

 

「来てっ!キャスターッ!!」

 

 

(こう)に刻まれた1画の赤い傷跡が消え失せ、引き換えに蒼い髪の魔術師が彼女と清姫の間に姿を現す。

 

 

「おうよ!焼き尽くせ木々の巨人ーー」

 

 

作戦通り転移に成功したキャスターは、寸前まで練り上げていた自身の魔力を解放。

数刻前に不発となった己の宝具を、此度は邪魔されることなく発動した。

 

 

「《灼き尽くす炎の檻ッ!!!!(ウィッカーマン)》」

 

 

地面に赤光の線が幾つも走り、瞬時に魔法陣が描かれる。

そこから熱風と共に、燃える樹の巨人が出現しーーー藤丸立香(想い人)へと追いすがる狂える少女に襲いかかった。

 

 

「ッ!?ああっ!!」

 

 

おろされた巨腕の直撃はーーキャスターがあえて外した為ーーまぬがれたものの。

生じた灼熱の突風に小柄な少女の身は耐え切れず。彼女は小さな悲鳴を上げて後方へと吹き飛ばされる。

 

事前に先制攻撃をキャスターから知らされていたマシュ達は。巻き込まれぬよう一時、左右に別れて熱風をやり過ごすと。

そのまま清姫とキャスターを追い抜き、己のマスターとようやく合流を果たした。

 

 

「先輩っ!」

 

「マシュ!みんな!」

 

 

再び合流出来たことに安堵の息を吐く面々。

しかし、未だ藤丸立香の身に差し迫る危機が去ったわけではない。

キャスターは走る速度をゆるめた彼らを、追い立てるかの様に(ラ・シャリテ)へと急かす。

 

 

「安心するのは早いぜマスター。

殿(しんがり)は俺に任せて、さっさと先へ進みな。」

 

「・・キャスター。」

 

 

苦渋の決断を既に下した彼女は、唇を一度キツく噛みしめた後。

1人足を止めた為に、後方へと徐々に遠ざかる彼へと走り続けたまま振り返り。叫ぶ。

 

 

「キャスターッ!皆と街で待ってるから。

その子を落ち着かせたら必ず来てねーーっ!!!」

 

「ーーッ!」

 

 

それは《足止め》の為に1人残ったキャスターへ、藤丸立香がかけた激励と信頼の言葉。

そこに含まれるのは《足止め》ではなく《勝利》を求める彼女の意思。

彼ならば相手を殺めずとも《勝利》し、《追いついて来れる》という確固とした信頼。

 

一見、身勝手とも取れるその台詞の意図を察し、キャスターは小さく笑むと。

背を向け『了解だ、マスター。』とでも云う様に、己のマスターへとヒラリと左手を上げ振ってみせた。

 

その行動を視界に捉えた藤丸立香は、彼に応えるように大きく頷き。

共に駆ける仲間達へと笑顔で声をかける。

 

 

「キャスターなら大丈夫。

ーーー急ごう、みんなっ!」

 

「はい!」

 

「行きましょう、マスター。」

 

「( ゝω・)bグッ!」←ランスロット

 

《(あっ、ランスロットくん。

まだマシュの『口を開くな』って言い付けキチンと守ってるんだ。)》

 

 

 

ーーーこうして藤丸立香達はキャスターと一時の間別れ、(ラ・シャテリ)へと4人で先行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ーーー邪魔(ランスロット)が入っちまったが、おおよそ順調だな。)

 

 

遠ざかる藤丸立香らの気配を背に感じつつ。

上げた左手を下ろし、キャスターは胸中でポツリとぼやく。

彼は思惑通り、自身がマスター達の強い《信頼》を勝ち得ている事実に。

息子(コンラ)を取り戻す為の道程が一歩縮まった』と。悦びから、口元に浮かんだ笑みを歪なモノへと更に深めた。

 

 

(まだ油断はならねぇが。

この調子でいけば、まず間違いなく『適時』に《令呪》と《命》をマスターから奪える。)

 

 

ランスロットとの戦闘中に《令呪》に向けた己の一瞬の《視線》に気づいた勘の良さ。

《人》の域を逸脱しつつある驚異的な身体能力など。

不可解な点のある己のマスターに対して、警戒すべき事柄は多々あるが。

彼女と揺るがぬ《信頼》さえ築けていれば、それ等はどうとでもなるのだ。

 

 

長く過酷な《人理修復》の旅路の果て。

全てを終わらせ、人類を救った藤丸立香(最後のマスター)は必ず油断するだろう。

大いなる使命を自身は無事に果たせたのだと安堵し、致命的な隙を生むだろう。

 

傍らに、心の底から信を置く。

『主君と女は殺さない』と自ら確言(かくげん)したサーヴァントが居れば、それは尚更だ・・しかし。

 

 

ーーその次の瞬間、キャスター(父性に狂う男)マスター(善良なる少女)を裏切るのだ。

 

 

《令呪》を奪い。

《命》を奪い。

《成した偉業》を奪い、《無》に帰す。

 

 

かくして(光の御子であった男)は、新たな偉業ーー《人理再編》を成し。

喪われた最愛の息子(コンラ)を取り戻すのだ。

 

 

(大丈夫だ。待ってろ。

必ず迎えに行く。必ず助けてやる。

今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ。

何があろうと、絶対に。

俺がオマエをーーー)

 

 

弔い合戦?

見回り?

主君と女は殺さない?

 

 

ーーー変質した今のキャスターにとっては(変質する前のクー・フーリンにとっては)、全て『大嘘(真実)』だ。

 

 

『嘘』に『真実』を織り交ぜながら、キャスターは周囲の者達をこれまで巧妙に騙してきた。

 

息子(目的)の為に棄てた《本来の己(戦士としてのクー・フーリン)》の在り方を利用し。悟られぬよう《冷静な狂人》と化した本心を隠し。

計画(人理再編)》への下準備を(父親)はこれからも秘かに進めていくだろう。

 

全ては求める『たった一人(コンラ)』を救う為。

その為にーーー父親は『息子の友(藤丸立香)』を旅路の果て、その手にかけるのだ。

けれど、(人理修復)が始まったばかりの《今》はーー

 

 

「・・あぁ、そんな。

安珍様がまた・・遠くに。」

 

「ーーー。」

 

 

ーーキャスターは己のマスター(最後には殺す相手)を護らなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターは亡き息子へと向けていた意識を、眼の前の倒すべき敵へと戻した。

 

彼の目先の敵こと、清姫は。

熱風で少し焦げついた着物を気にした風もなく、ゆらりと倒れた身を起こす。

その狂気の渦巻く淀んだ瞳は、キャスターの事など眼中にはなく。

ただ藤丸立香達が走り去った方角、一点だけを見つめていた。

 

 

「どうして、逃げるのですか・・安珍様?

こんなに、わたくしはアナタ様を愛してるのに。愛してるのに。愛してるのに。愛してるのに。愛してるのにっ!!

本当に心の底から愛しているのにっ!!?」

 

 

彼女の喉から(ほとばし)る悲痛な愛憎の叫びに呼応するように。

突如、細い身体から炎が吹き出し。

その身を瞬きの間に包み込んだ。

 

ひるがえる髪と着物は青き炎へ。

白い肌は爬虫類の如き鱗へ。

女人の形は異形の姿へ。

 

 

「逃さなぃいい″いい″っ!!!!

 

転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)ッ!!!!》」

 

 

現れたのは、青き炎を纏う白き大蛇。

生前と同じく《火を吐く大蛇()》に転じた彼女は、想い人を再び追いかけ(追い詰め)ようと。

爛々と昏い(まなこ)を輝かせながら高熱の炎を口から吐き出した。

だが、そんな彼女の前にキャスター(同じく狂った者)が立ちはだかる。

 

 

「悪りぃな嬢ちゃん。

まだマスターには死なれちゃ困るんでな。

邪魔させてもらうぜーーーそらよっ!」

 

 

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》の赤く燃え盛る両腕が。今度は一切の容赦なく大蛇(清姫)へと振るわれる。

 

 

「シャアアアアアッ!!!」

 

 

しかし、転身した清姫も先程とは一味違う。

素早く身をくねらせ攻撃を躱すと、燃える樹の巨人へとその長い胴体を巻き付かせた。

 

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》の元々の役目はドルイドの祭事にて。

胸部の檻に生贄を閉じ込めて火を放ち、神々へ捧げるという人身御供の道具である。

よって、《宝具化》していようともその耐久性は実質あまり高くなく。

清姫の『巻きつく』攻撃によりアッサリと巨人はバラバラに壊され、無残な姿で地面へと転がった。

 

 

「・・・・。」

 

 

その光景を動じることなく、無言で見届けるキャスター。紅い瞳の眼差しは、壊された巨人の残骸へと静かに注がれている。

そんな無防備な彼の肢体に、頭上からスッと大きな影がさした。

 

 

「あんちん様と、わたくしの仲を裂く(やから)はーーーユルサナイ。」

 

 

なんと、彼女のバーサーカーな脳内では2人はいつの間にか復縁していたらしい。

愛し合う2人の仲を邪魔する『敵』と認定されたキャスターに。

狂える大蛇の口内から放たれた、青い火炎が迫る。

 

 

「・・・はぁ。

やっぱりバーサーカー相手に無謀だったか。」

 

 

右手の掌から力を抜き、溜息を吐きつつ愛杖を地へと落とすケルトの魔術師(ドルイド)

その顔には有り有りと諦めの感情が滲んでいた。

 

・・・・こうして。

大嘘つき(キャスター)』と『正直者(清姫)』の戦いは早過ぎる決着を迎えた。

 

当然この戦いの勝者は、清姫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー《キャスター》のままで、勝つのは。」

 

 

・・・とは、ならなかった。

 

骨1つ残さず焼き尽くさんと迫る業火を、展開した防壁のルーン魔術でやり過ごすキャスター。

同時に《認識妨害(ジャミング)》の魔術を彼は辺り一帯に発動する。

 

 

「ーーー来いっ!!」

 

 

続いて、彼が《灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)》の残骸に向けて右手を伸ばすと。

壊された巨人の檻の奥に潜んでいた『黒い水(何か)』が。解き放たれた事を歓喜するように折れた鉄格子から飛び出し、キャスターの伸ばされた腕に絡みついた。

黒い水(何か)』は僅かの時、腕の表面で不気味に蠢いていたが。

すぐに染みこむ様にその身と同化する。

 

そして・・フランスの地にて一刻の間。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」

 

 

 

(父親)は《魔術師(キャスター)》から転じ《狂戦士(バーサーカー)》として現界した。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

※ハートフルストーリーの前に、キャスニキVS清姫だけで今回は終わってしまった(白眼)

くっ!次こそはっ!!←

 

そして新たな事実・・というか独自設定が判明。

作中では分かりづらいですが、実はキャスニキの《今》のクラスは。

 

《クー・フーリン/オルタ(キャスター)》ではなく。

《クー・フーリン/(キャスター&バーサーカー)》という『ダブルクラス』となっています。

 

普段はカルデアの眼を誤魔化す為に《宝具(ウィッカーマン)》に殆どの《バーサーカーの霊基》を封じていますが、一定条件下の本人の承諾で解放。

その場合はキャスターの時の9:1の『霊基』の割合が逆転し、1:9へ。

つまりほぼ(オルタな本人いわく「世界最高にロクでもない代物」な) バーサーカーに変転します。

ちなみに残った1割の理性は息子(コンラ)への愛情(父性)です。

 

きよひー、ごめんよ。

話の都合上、君がカルデアに来ると色々めんど・・ではなく問題が(冷汗)

キャスニキ(バサニキ(?))の手により潔く散って頂きます!

次回こそ予定通りハートフルストーリーをっ!

 



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美しく輝くモノ

 

第三者視点

 

 

 

キラキラ。キラキラ。

 

 

太陽の光を反射しながら、金色の輝きがオルレアン城の近くに降り注ぐ。

 

 

キラキラ。キラキラ。

 

 

まるで光の雨のように降る美しいそれらの正体は黄金。フランス中から集められた金、もしくは金で装飾された美術品の(たぐ)いだった。

 

 

「アハハハハハハハハッ!!!」

 

 

次々と国中に散らばったワイバーン達が、回収し(奪っ)た黄金を空から落としていくのを眺めながら。

竜の魔女(ジャンヌ・ダルク・オルタ)漆黒の邪竜(ファヴニール)の傍らで高らかに嗤った。

 

 

「アハハッ!見てよファヴニールッ!!

この光景、まるで()の祝福の光を私達が受けているみたいじゃない?」

 

【・・・・。】

 

 

人の背丈をとうに超え、重なり合い。

まるで山のように積み上がった黄金の数々。

その黄金の数に比例するように。

フランスの民達は血を流し、焼かれ、無残な屍となった事は言うまでもないだろう。

 

怨嗟で穢れしその金の光が、傍からは神聖な主の光に見える光景を。魔女は滑稽だと嘲笑う。

そして、その悲劇の分だけ己が《本物》へと近づいたと想うと彼女の心は歓喜に震えた。

 

 

「もっと!もっとよっ!

もっと街を、人を燃やし尽くしなさい。

黄金を奪って来なさいっ!」

 

【ーーー魔女。】

 

「ファヴニール、貴方も喜びなさい。

貴方の大事な黄金がこうして戻ってきているのよ?奪われた貴方の宝を取り戻す度に、私も《本物》に近づいていく・・・素晴らしいことです。」

 

 

ジャンヌ・オルタは召喚した際に己の邪竜に告げたーー『フランスの民がファヴニールの黄金を奪った』というーー偽りの言葉を(もと)に。

己を《聖女(贋作)》ではなく《魔女(本物)》と呼んでくれた彼と、悦びを分かち合おうと声をかける。

彼女の伸ばした小さな手は、慈しみをもって黒き巨竜の鱗を撫でた。

 

 

「ファヴニール・・愛しい私の竜。

貴方だけが私の味方・・。」

 

 

魔女は《贋作》たる自身の存在を肯定してくれた邪竜に、短い期間で深く依存していた。

彼と言葉を交わし、触れ合い、心を通わすことで彼女は己の形を知り得(認識す)る。

彼と共にある事で、己は《竜の魔女》であると云う揺るがぬ確証(自信)を得ることが出来る。

 

ジャンヌ・オルタ(魔女)にとって、ファヴニール(邪竜)はもはや召喚獣(使い魔)などではない。

己が己たるのに必要不可欠な唯一無二の存在と化していた。

だがーーーいや、だからこそ。

 

 

(絶対に、絶対に。

気取らるわけにはいかない!

この黄金が彼の宝じゃないだなんて。

あの言葉が嘘だったなんて。

ファヴニールだけには、知られるわけにはーっ!!)

 

 

傾倒する邪竜に『黄金に関する真実』を知られる事を、魔女は何よりも恐れた。

己の本来所有する宝が此処には無いと知れば、彼はこの地を早々に去るだろう。

虚偽をついた己を見限り、彼は主従契約の破棄を求めるだろう。

 

ファヴニールの存在に執着する今のジャンヌ・オルタにとって。

彼が自身の前から居なくなる事はとても耐えられるものではなかった。

 

それ故に彼女は嘘を貫く、貫き続ける。

暗闇で迷う幼子が差した一筋の光を必死に追い求めるかの如く。足元で蠢く蟲達を踏み潰しながらも我武者羅に。

傍にいて欲しいと強く乞い願う()を引き留める為、魔女(彼女)は唯一の味方である筈の邪竜()を偽り続ける。

 

 

【ーーー。】

 

 

触れる巨竜に比べて小さ過ぎる手を震わせ。

どこか縋り付くような眼差しで己を見上げる魔女。

そんなジャンヌ・オルタの姿を。

真相を知らぬ(偽られている)筈のファヴニールは不可解な事に、慈愛のこもった瞳で見下ろしていた。

 

・・実のところ、ジャンヌ・オルタの必死の想いも虚しく。邪竜は薄々、己の元へと集まる黄金が自身が生前から所有する《己の(黄金)》ではないと勘付いていた。

 

それは己と似た境遇のーー生みの親に信頼を裏切られたーー魔女に情を寄せた事で。

彼の中の黄金()への異常なまでの執着が薄まり。それ以外のもの・・つまり周囲や他人へとしっかりと意識を向けられる程に正気を取り戻しつつあったからだった。

元々、彼の心を狂わせていた《呪いの腕輪》は生前にジークフリートとの戦いの際に《呪いの聖剣(バルムンク)》により破壊されていた。

死後のファヴニールはその呪いの残滓に囚われていた為、キッカケさえあれば彼は何時でも《強欲の呪い》から解放される身ではあったのだ。

一度《邪竜》と化したその肉体は、二度と《人》の姿に戻る事は叶わないが・・。

 

そう云った経緯により、ファヴニールはジャンヌ・オルタの嘘に程なくして気づいた。

 

しかし、彼は魔女の危惧した予想を裏切り。

ジャンヌ・オルタとの契約を破棄しようとはしなかった。それどころか彼女の嘘を黙認し、《贋作》たる彼女が《本物》に至れるよう進んで助力する腹積もりでいた。

 

ーー何故、彼はこの様な行動に出たのか?

 

呪いに囚われし彼の心の琴線に触れた召喚主の叫び。

理不尽な世界への憤怒に燃え立つ(同色)の瞳。

底知れぬ憎悪を内包した魔女の狂笑。

 

ーーまず彼がそれらに覚えたのは『共感』、『同情』、『理解』。

続いて魔女の嘘に気づいた時、抱いたのは『怒り』と『失望』。

けれど、魔女に対するそんな《負の感情》は彼の内から程なくして消え失せた。

 

己の名を嬉しそうに呼ぶ魔女の弾む声が。

縋るように鱗に触れる温かな小さな手が。

ふとした瞬間に、向けられる彼女の微笑みが。

 

ファヴニールの胸の奥で暗闇に沈んでいた。

人であった頃(彼本来)の愛情深い人格を揺り動かし、目覚めさせたからだった。

邪竜の身の内に蘇ったのは『庇護欲』、『親近感』、『慈愛』。

 

湧いたそれらの想いは《負の感情》を簡単に吹き飛ばし。

全て、今の彼にとって唯一の身近な存在である魔女(召喚主)へと凝縮された。

 

ーー結果、ファヴニールはジャンヌ・オルタに対し『家族』や『兄妹』に似た身内の様な愛情を抱くようになっていたのだった。

 

それ故に、《邪竜()》はいつしか《黄金()》ではなく《魔女()》の為に。

その呪われた異形の身を自ら望んで行使する。

 

 

【ーーああ、その通りだ。

安心するがいい魔女。

俺は・・オマエの味方だ。】

 

「ファヴニールッ!」

 

 

己の竜の応えに喜び、抑え切れぬ笑みを溢す《竜の魔女(ジャンヌ・オルタ)》。

邪竜は白い頬を淡く染めた、己の魔女の輝くような微笑みを目にし。

自身が所有する《黄金()》の輝きよりも、よほどコチラの方が美しいと想った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその《黄金()》は誰の為に使うつもりだったのか。

誰の犠牲をもって手に入れたのか。

誰の為に己の《(フレイズマル)》を殺めたのか。

 

実の弟を忘却の海に沈め、置き去りにし。

未だ《己の犯した真の罪(オッテル)》を彼は思い出せぬままに。

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

ーー時は狂える父親(キャスター)凶蛇(清姫)と激闘を繰り広げる2日前。

コンラが父親(ランサー)祖父(ルー神)の伝言を伝えてから、数時間経過した頃に遡る。

 

昨晩、異形の怪物達が我が物顔で闊歩したとは思えぬほど街は静寂に満ちていた。

しかし、空高く昇った日の光の下。

壊された家屋や街中に残る戦いの痕跡が、彼らに昨夜の出来事が一夜の悪夢では無かった事をはっきりと示していた。

その街の外れにある東の広場にて、1人の男と1人の女は険悪な雰囲気で向かい合っていた。

 

 

「私は反対よ。

今後、コンラを積極的に戦闘に参加させるなんて!」

 

 

女ーーコンラのマスターたるオルガマリーは、怒りを滲ませた表情で。

己のサーヴァントたる少年の父親であるランサー(クー・フーリン)へと非難の声を上げた。

彼女は護るべき対象である息子(コンラ)を、生死の境である戦場へ進んで置こうとするランサーの発言が信じられなかったのだ。

 

 

「アンタ。あの子を助けに来たんでしょう?

死なせたくないから護りに来たんでしょう?

それなのに、わざわざ危険な目に合わせようとするなんて・・何考えてるのよ!?」

 

 

思わず湧いた不信感から、山吹色の瞳で敵意を(あら)わに相手を睨めつけるオルガマリー。

そんな彼女へと、ランサーは少しばかり面倒くさげな様子で頭を掻き。理由(わけ)を説明する。

 

 

「死なせたくねぇから、オレ達が手助けできる今のうちにアイツを強くしてぇんだよ。」

 

「?、どういう意味よ?」

 

「わかんねぇのか?

此処はまだ《第一特異点》だ。

此処の定礎が上手く復元出来たとしても、アイツの旅はまだ続く。

その旅の終わりまでの長い道中、オレ達が必ずコンラの傍に居続けられるとは限らねぇだろうが。」

 

「ーーッ!」

 

 

その言葉に、オルガマリーは彼の言わんとする事を察し。ハッと息を呑んだ。

彼女の脳裏に思い起こされるのは昨夜の出来事。

敵の策略により、分断されてしまった仲間達。

この先、同じ事が起こらないとは決して断言出来ない。

 

不慮の事故か、あるいはまた敵の手によって。

彼ら3人がバラバラになってしまった場合、独りになってしまったコンラを護れるのはコンラ自身しかいないのだ。

だからランサーは息子が不測の事態に自らの身を護れるよう。自分の眼が届く今のうちに戦闘の経験を少しでも多くコンラに積ませたかった。

コンラが強くなる=コンラの生存確率が上がるという事に直結するのだから。

 

 

「オレだって出来ればコンラをもう戦場には立たせたくねぇ。アイツは・・優し過ぎるからな。

でも、今のオレ達の状況じゃ危険から遠ざけるだけじゃアイツを護れねぇ。

ならーーこの方法しかねぇだろう。」

 

「・・・・それ、は。」

 

 

オルガマリーの胸中に湧いた怒りはランサーの意図を理解した事で沈静化した。

しかし、代わりに敗北感のような苦い感情が彼女の胸を満たす。

彼女にとってコンラは『特別』で。

そんな大切な彼を『取られたくない』と、ランサーに対してオルガマリーは強い対抗意識を抱いていたのだが。

 

息子の先の事までを考え、的確な方針を打ち出した父親に比べて。

目先の事しか見えず、自身の『コンラを失いたくない』という想いを優先させてしまった己が。

酷く情けなく、ちっぽけで卑しい存在の様に彼女は思えて・・。

 

 

(こんな私が、あの子のマスターでいいのかしら?)

 

 

(つの)る不安が、オルガマリーの僅かばかりあった自信を大きく揺るがす。

 

昨夜の戦いの最中。

自分はすぐ側に居ながらも何も出来ず、コンラを2度も眼前で喪いかけた事実が。

朝日に照らされる。

父親に頭を撫でられ、嬉しそうに笑い甘えるコンラの姿が。

 

彼女の心をより昏くさせ、追い詰める。

 

 

(私、は・・この男に勝てない?)

 

 

コンラの《父親》であり、偉大な《英雄》であるクー・フーリン。

対して、自分は代わりのきく《マスター》で《カルデア所長》程度の肩書しか持たない女。

 

はじめから勝負はついていた。

いや、勝負にすらなっていなかった。

 

 

(ーーあぁ。きっと、私なんかより。

あの子に必要なのは・・コイツなんだわ。)

 

 

そう思い至ったオルガマリーは、ズキリッと痛む胸を押さえ。苦痛に歪む顔を伏せた。

本人達は気づいていないが、彼女とコンラは根本的な性質が似通っていた。

 

それは強い《承認欲求》を持っているという事。

誰かに認めてもらいたい。

誰かに必要として欲しい。

誰かに・・・愛して欲しい。

 

そんな彼女の切なる願いに応えたのが、同じ想いを持つコンラだったのは偶然なのか。

はたまた必然だったのか・・。

 

ランサーの出現により、その相手を奪われたも同然なオルガマリーの心は。

喪失の痛みに軋み、悲鳴を上げる。

それでも、大切なーー淡い恋心を抱く少年の為に必要ならばと。

彼女は手を痛い程に握り締め、その胸の激痛を受け入れようとした。

 

 

「父さんっ!マスターッ!」

 

 

だが、そんな彼女の昏い決意を踏み止まらせたのもまた。当事者たる少年ーーコンラだった。

 

……………………………………………………………………………………………………

 

 

※ハートフルストーリーって何でしたっけ?(白眼)

ジャンヌ・オルタは青髭の旦那の代わりに邪竜に依存してしまいました。

きっと原作よりも反抗期が酷い事になる。

再会したら、彼女の旗が唸りを上げてお父さん(ジル・ド・レェ)に襲いかかりますね。

そしてファヴニールこと《長男》はジャンヌ・オルタを《末の妹》に認定。

これは・・甘やかすぞ(確信)

 

話は変わりますが。

UA9万突破、誠にありがとうございます!

亀更新になってしまいましたが、がんばって引き続きコンラくんの人理修復の旅を書いていきますので。今後もどうぞ宜しくお願い致します!!

 



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ドラゴンライダー

 

第三者視点

 

 

 

「父さんっ!マスターッ!」

 

 

突如、頭上からーー彼らが聞き間違える筈のないーー少年の声に呼ばれ。

ランサー(クー・フーリン)とオルガマリーは、ハッと反射的に顔を上空へと向けた。

そして眼に飛び込んで来た光景に唖然とする。

 

 

「見て見てっ!ドラゴンライダーッ!!」

 

 

なにせ2人の話題の主が。

空を飛ぶワイバーンの背に乗った状態で『シャキーンッ!』と決めポーズをとり《竜騎士(ドラゴンライダー)コンラ》と化していたのである。

ーーーどうしてそうなった。

 

 

「待て待て待て待てっ!!

お前どこで『ソレ』拾ってきたっ!?」

 

「コンラッ!?

危ないっ!危ないからぁあっ!!」

 

 

どこぞから拾ってきたワイバーンを手懐け、乗りこなしているらしい息子に。

『こいつライダークラスの適性もあったのか』と内心で戦慄しつつ、思わず疑問を投げかけるランサー。

封じられていた《生前(コンラの時)の記憶》を取り戻した今の息子の実力ならば。いくら相手が《竜種》でも、ワイバーン程度に遅れはとるまいと。彼はコンラの身の心配はあまりしていなかった。

 

対して、生前のコンラの実力を知らぬオルガマリーは。危険生物に乗って上空を飛ぶ《想い人》の姿に衝撃を受け、慌てふためく。

数秒前までの苦痛をともなう昏い想いや決意など、今や彼女の頭の中から消え失せ。

代わりに脳内を埋め尽くすのは『もしもワイバーンに襲われたらっ!』、『もしも振り落とされたらっ!』と。

己のサーヴァントの身を心配する単語ばかりであった。

 

そんな眼下の保護者達の思いなど露知らず。

金の髪や服を風にはためかせ、楽しげに《ドラゴンライダー》の気分を味わうコンラ。

彼は自分の『カッコイイ姿(渾身の決めポーズ)』を大好きな2人に見てもらえた事を喜んだが。

それだけでは飽き足らず、騎乗するワイバーンへと笑顔で更に強請(ねだ)った。

 

 

「マルちゃん!

もっと高く!もっと速く飛んでっ!!」

 

《こやつ、また無茶な注文を・・っ!》

 

 

ワイバーン改め。

死したワイバーンの亡骸から血を摂取し、ワイバーンへと変化したフレイズマル。

彼は背に乗るコンラの無邪気なお願い(ねだり)に頭を抱えたくなった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

2人で話したい事があるという、ランサーとオルガマリーを広場に残し。

海魔やワイバーンの討ち漏らしが居ないか、街を見回る事にしたゲオルギウス達。

それにフレイズマルと共に付いて行ったコンラは。

石畳に転がるワイバーンの亡骸にガブリと噛みつき、直接血を飲み始めたカワウソ(フレイズマル)の姿に顔をサッと青褪めさせた。

 

 

「きゅ、吸血カワウソ・・可愛くない。

いつの間にあの《吸血鬼男》に噛まれたの?

マルちゃん。」

 

《何だその珍獣だか幻想種だかわからん生き物っ!?どこも噛まれとらんわっ!!》

 

「えっ?じゃあ、どうして・・」

 

《こんなクソマズイもの、ワシだって好き好んで飲んどるわけではない。これは魔力補給の為に仕方なく飲んどるんだ。

ーーーまぁ、それだけと云うわけでもないが。》

 

 

てっきり昨夜の敵であった《吸血鬼男(ウラド三世)》に血を吸われ、《吸血鬼化》してしまったのかとコンラは危惧したが。それは彼の杞憂(きゆう)であったようだ。

 

 

「そっか。なら良かった!」

 

《・・・・。》

 

 

フレイズマルが最後に零した呟きには気づかず、素直に安堵の笑みを浮かべるコンラ。

その笑顔に亡くした次男(オッテル)を重ね、複雑な心境になる邪竜の父親であったが。

付近の見回りが済んだのか。

こちらへと歩み寄って来る《聖人》2人の姿を目にし。彼はカワウソから少年(コンラ)の姿へと瞬時にその身を変えた。

 

 

「おやっ・・撮影タイムは終わりですか。

吸血カワウソなど珍しいので、ぜひ記念に撮りたかったのですが。」

 

「きゅうけーーーお主もか。」

 

 

構えていたカメラを残念そうに下ろすゲオルギウスに。フレイズマルは呆れ、思わず脱力する。

 

 

「・・というか、ゲオルギウス。

貴方そのカメラどこで手に入れたのよ?」

 

 

時代的に所持している筈ない品物を手にしている聖人仲間に、マルタが訝しげに問えば。

彼は顔を綻ばせながら快く答えた。

 

 

「このカメラですか?

コレはこの地(フランス)に召喚された時から何故か持っていまして。此処に辿り着くまでの間、記念にと心の(おもむ)くままシャッターを切ってきたのですが・・・良ければ見ますか?」

 

「いいの?見たい!」

 

「へえー。少し興味あるわね。」

 

「ワシは遠慮する。」

 

 

辞退し、血を頂いたワイバーンの亡骸から離れて瓦礫に腰を降ろすフレイズマル。

そんな彼を余所に、ゲオルギウスは撮影した画像をカメラの背面モニターでコンラとマルタに見せる。小さな四角の枠の中に次々と映っては消えるのは。

中世フランスの自然豊かな風景や、彼の愛馬であるベイヤード。そして・・。

 

 

「あっ!マルタさんだ!」

 

「」←マルタ

 

 

巨大な海魔相手に拳を振るう、勇ましい聖女の姿だった。

ーーーゲオルギウス先生。無許可の撮影は犯罪ですよ?

 

 

「すごい!マルタさんカッコイイ!」

 

「ここ、これ!?これ何っ!?

いつの間にっ!!?」

 

「ああ。それは貴女の昨夜の戦いがあまりにも見事だったもので。同じ聖人として、この勇姿をぜひ写真に収めたいと思い。ついーーパシャリと。」

 

「ついーーパシャリと、じゃないわよ!

消して。すぐ消して!今すぐ消しなさい!!」

 

 

彼女の世間での聖女像を粉々に砕きかねない画像の出現に。必死の体でカメラに手を伸ばすマルタ。

その気迫は撮影機器(デジカメ)ごと問題の(画像)データを粉砕する勢いで。

これにはお気に入りのカメラを壊されては堪らないと、ゲオルギウスも少しばかり本気にならざる負えなかった。

彼は素早く身をひるがえし、マルタの手を躱すと。大人しく傍らに控えていた賢い愛馬の背に颯爽(さっそう)と跨った。

 

 

「ふむ・・これは仕方ありませんね。

彼女が冷静になるまで間、もう一度この近くを散策して来ます。少年は任せましたよ、フレイズマル。」

 

「いやいやいや。ワシ、キャスタークラスだし。

ぶっちゃけ変身術しか使えないから戦力外なんだがーー」

 

「全速力で行きますよベイヤード。ハッ!!」

 

「消せって言ってんでしょうがぁあああっ!!!!」

 

「ーーー聞いとらんな。」

 

 

ヒヒーンッ!と(いなな)き、美しい(たてがみ)をなびかせながら走り去る白馬。

その背に乗るゲオルギウスーーのカメラを狙い。

荒れ狂う聖女もまた、彼を追って走り出す。

 

あとに残されたのは、ポカーンと突然の事態に目を丸くするコンラ。

聖人達のフリーダムさに、疲れた顔で溜息をつくフレイズマル。

 

 

「ーーすまない。

今そこでゲオルギウスとマルタとすれ違ったのだが。彼らに何かあったのか?」

 

 

最後に、1人別行動で行っていた見回りから戻って来た。《竜殺し(ドラゴンスレイヤー)》こと、ジークフリートの3人となった。

 

 

「あー、少しの。

たいした問題ではないから気にするな。

それよりその様子だと、そちらも討ち漏らしは居なかったようだな。」

 

「ああ。ワイバーンは死骸のみ。

海魔にいたっては《宝具》から召喚されたからか、死体すら残っていなかった。」

 

「そうか・・ご苦労じゃったな。ほれっ。」

 

 

フレイズマルは労いの言葉と共に、手の中にあった小さな丸い『何か』をジークフリートへ投げ渡す。

反射的にその『何か』を受け取った彼が、握った自らの手をそっと広げれば。現れたのは瑞々(みずみず)しい1つの『果実』だった。

 

 

「?、これは・・」

 

プラム(西洋すもも)だ。

此処に来る途中、民家の傍の木になっておった。

熟しているから美味いぞ?」

 

「無断で採っていいのか?」

 

「どうせそのままにして置いても腐って落ちるだけだ。なら、ワシらが食ったとて問題はないだろう?」

 

(・・そういうものか。)

 

 

フレイズマルの言い分にも一理あると。

若干(じゃっかん)気が引けつつも、有難くプラムを受け取る事にしたジークフリート。

簡単に言いくるめられてしまうあたり、彼の流され体質はやはり筋金入りのようである。

 

 

「ジーーー。」(ウズウズ)

 

「・・お主の分もちゃんとあるわ。ほれ。」

 

「っ!ありがとうマルちゃん!」

 

 

隣から向けられる物欲しそうな視線に。

視線の正体である少年へと、フレイズマルは苦笑と共に果実を数個分けてやる。

コンラはパァアッ!と破顔しその実を嬉しそうに受け取った。

ーーどうやら邪竜の父親は(息子達に似た)2人にはどうしても甘くなってしまうらしい。

 

それからーー左からフレイズマル、コンラ、ジークフリートの順にーー3人並んで瓦礫に腰掛け、彼らはモシャモシャとプラムを味わう。

久しぶりに甘い物を口にし、甘味大好き少年コンラは夢中で熟した丸い実に齧りつく。

そんな彼の様子を温かい眼差しでジークフリートとフレイズマルは眺めていたが。

ふいに、脇に転がるワイバーンの死骸が目に入り。竜殺しは気遣わしげに、双子の如くコンラと瓜二つの姿の男へと声をかけた。

 

 

「フレイズマル・・また《血》を飲んだのか?」

 

「あぁ。魔力補給の為にな。」

 

「《竜種》の血に含まれる豊富な魔力(マナ)は確かに魔力の補給には効率的だがーーもう止めた方がいい。

貴方は俺の《血》も摂取したんだ。

これ以上は何かしら影響が出かねない。」

 

「言われずともわかっとる。

・・というか《ソレ》を狙って飲んどる。」

 

「っ!?」

 

「苦肉の策だが。

非力で1つの術しか使えぬキャスタークラスのワシが、邪竜と化したあやつを殺すには《コレ》以外に手がないのでな。

お主のおかげでファヴニールの《竜の因子》の分析は済んでおるし、さっき摂取した《血》で必要な《因子量》は得た。

あとは機を見て術を行使すればいい。」

 

「それは・・だが、それでは貴方はっ。」

 

「すべて覚悟の上だ。

どこぞの幸運な父親(ランサー)と違って。ワシにはもう、罪滅ぼしの手段が他には無いのでな。」

 

「・・・・。」

 

「ワシはーー《人》を棄て《竜》になる。」

 

 

フレイズマルの瞳に宿る、揺るぎない強固な意志に。

彼の覚悟が折れぬ事を読み取ったジークフリートは、説得を試みようと開いた唇を静かに閉じる。

 

彼は知っていたからだ。

誰の中にでも、けして《譲れぬモノ》が在ると云う事を。

サーヴァントとなった今の彼が、死に際に望んだ『自らの信じるものの為に戦う者(正義の味方)』で在ろうとしているように。

 

 

(ーー?、竜?)

 

 

邪竜に至る可能性のあった者(ジークフリート)と、自ら邪竜に堕ちることを選んだ者(フレイズマル)

 

彼らが頭上で交わすシリアスな会話に。

コンラはプラムを食べ終わった事でようやく意識を向ける事が出来た。

食べる事に集中するあまり、2人の話をほとんど聞いてはいなかったが。

かろうじて耳に届いた単語に疑問を覚え、彼は指についた果汁を舐めとりながら考える。

 

 

(マルちゃん。竜になるんだ・・ん?

でも、どうやって?)

 

 

しかし、その答えは彼のすぐ側に転がっていた。フレイズマルに血を摂取されたワイバーンの亡骸。それを眼にした少年の脳裏にパッと閃くものがあった。

 

 

(そういえばワイバーンも《竜種》なんだよな。そうか。マルちゃんは《飛竜(ワイバーン)》に自分が変身する事を、《竜》になるって言ったのか。)

 

 

残念ながらコンラの閃きは、フレイズマルの真意とは異なっていた。

けれど、《飛竜(ワイバーン)》の血を飲んだ今の彼が《ワイバーン》へと姿を変えられることは事実な為。

あながち的外れというわけでもなかった。

 

 

(ワイバーン・・ドラゴン・・ドラゴンライダー・・。)

 

 

友達(フレイズマル)が《(ワイバーン)》になれると知ったコンラの脳内に。《生前(アキラの時)》に観たファンタジー映画の映像が再生される。

 

心を通わせた《(ドラゴン)》の背に跨がり、雄々しく蒼穹を翔ける《槍兵(ドラゴンライダー)》。

 

施設のテレビ画面で幼い頃に観たあの時の衝撃が。感動が。目の前に期せずして訪れたチャンスに、心の内で蘇る。

 

 

「マルちゃん・・」

 

「む?どうした?」

 

 

ゴクリと唾をのみ、コンラは真剣な面持ちでフレイズマルに向き直る。

この機会を逃せばもう二度と今回のような好機は訪れないかも知れない。

そう思い至った彼は、決しの覚悟で頼み事を口にする。

 

緊張で肩を強張らせた少年が告げた願い。

それは・・。

 

 

「俺を《ドラゴンライダー》にしてくださいっ!!」

 

「ーーはっ?」

 

 

幼い(アキラ)が憧れ。

夢見。諦めた。

ドラゴンライダーになる(竜の背に乗って空を翔びたい)。』という、生前では絶対に叶わぬ《(願い)》だった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

「マルちゃん!

もっと高く!もっと速く飛んでっ!!」

 

《こやつ、また無茶な注文を・・っ!》

 

 

ーーそして時は、冒頭へと戻る。

 

 

コンラの切実なお願い(ねだり)を、彼に甘いフレイズマルが断れる筈もなく。

渋りながらもワイバーンへと姿を変え。

数十分前の彼はその背に小柄な体を乗せて、大空を舞った。だが、そこでフレイズマルにとって予想外の事態が起こる。

 

 

「マルちゃんっ!

父さんとマスターの所まで飛んでっ!」

 

《おい。この辺りをちょっと飛ぶだけと云う話じゃなかったーー》

 

「行って!お願いっ!」

 

《》←フレイズマル

 

 

諦めた夢が叶い、テンションがMAXを振り切れたコンラがまさかの暴走を始めたのだ。

彼は《我儘(わがまま)ボーイ》と化した少年に逆らえず、少年の保護者達の元へ飛んで来たはいいが。更なる追加注文を言い渡され、ジクジクと胃に痛みを覚えた。

 

チラリと眼下に視線を移せば。

こちらを見上げる青い髪のランサーと、挙動不審な過保護なマスターの姿が視界に入る。

(背にコンラが居るので可能性は低いが)迂闊なことをすれば朱槍と赤い魔弾が下から飛んで来そうで。

彼は内心で戦々恐々した。

 

 

《も、もういいだろう。コンラ?

ワシ疲れたし。お主のマスター達も心配して・・》

 

「やだっ!!」

 

《》←フレイズ(ry

 

「マルちゃんがもっと飛んでくれるまで。

俺、降りないからねっ!」

 

《〜〜〜っ!!》

 

 

聞く耳をまったく持たないコンラに。

元々忍耐強い方ではないフレイズマルの堪忍袋の緒は、ブチリと切れた。

 

 

《よーし!いいぞ。

お望み通りやってやろうではないかっ!

泣いても漏らしても止めないから覚悟しろよ、お主っ!!》

 

 

半ばヤケクソでそう吐き捨て。

両翼を力強く動かし、フレイズマルはコンラの望み通りに急上昇を始める。

そして十分な高さまで到達すると、今度は頭部を下に向け。加速しながら一気に急降下。

しかも、ただ降下するのではなく、時おり一回転したり。左右にカーブしたりと。

それはさながら某テーマパークのジェットコースターの如く。

 

 

「あはははははっ!!わーいっ!!

ひゃっほーーっ!!!!」

 

「だめぇっ!!止めてぇえええっ!!!」

 

「ーー。」

 

 

安全装置無しジェットコースターを全力で楽しむコンラ。

その光景に絶叫するオルガマリー。

さすがにコレは不味いかと、焦りはじめるランサー。

 

そんな混沌とした状況の中。

当事者2名(コンラとフレイズマル)以外の誰もが想像していた悲劇が、ついに起こる。

 

 

《うぷっ・・・酔った。》

 

「えっ?」

 

 

初めてのワイバーンの姿での飛行に加え。

慣れぬ急激な上下左右への連続運動。

フレイズマルの三半規管(さんはんきかん)はその激しい動きについていけなかった。

彼は重度の乗り物酔いに似た症状に見舞われ、目を回しーー結果。

 

 

《うぐっ、すまぬ。

もう・・げんかい、だ。》

 

「え、えっ?

マルちゃーーーあっ。」

 

 

地上から遥かに離れた上空にて。

ワイバーンの姿を保てずに、(人の姿の次に)最も魔力の消費が少ないカワウソの姿へと戻ってしまった。

 

 

「いやぁあああああっ!!!!」

 

「コンラッ!!」

 

 

宙へと放り出された少年の姿に。

幾度目かのオルガマリーの悲鳴が辺りに響く。

 

ランサーは瞬時に地を蹴ると。

またたく間に屋根に飛び乗り、息子の元へと一直線に駆ける。

視界の端に銀色が映り、一瞬だけ眼をそちらに向ければ。同じく落下するコンラを助けようと屋根上を疾走するジークフリートの姿があった。

しかしーー

 

 

(ーーー間に、合わねぇっ!!)

 

 

どちらも、少年が落下するだろう地点から距離が離れ過ぎていた。

 

間に合わない。

息子を助けられない。

また・・血に濡れた息子の(むくろ)を見る事になるのか。

 

ランサーは絶望に襲われながらも。

足掻くように届かないと分かっている手を伸ばす。

 

 

(届けっ!届けっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!とどけっ!)

 

 

けれど、あと少しの距離を父親は埋められない。

たった数秒の(とき)が縮まらない。

そして・・。

 

 

「ーーーコンラ。」

 

 

彼は息子を助ける事は叶わなかった。

だが、それは当然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、父さん・・。」

 

 

コンラ自身が自ら喚んだらしい《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》に両脚の膝裏を引っ掛け、空中に浮いていたのだから。

 

1メートルほど斜め上の場所で。

両手に目を回したカワウソを掴み、逆さまの状態でコチラを見る息子。

その姿にひとまず安堵し、続いて胸の内から湧き上がるフツフツとした怒りに。ランサーは己の目を吊り上げた。

 

 

「コンラ。おまえ・・わかってるな?」

 

「ひいっ!ご、ごめんなさい・・。」

 

 

ドスの効いた父親の声と剣幕に、身を縮こまらせる少年。その少年をーーなんとか届く事が出来た手でーー掴み。光槍から降ろすと。

ランサーは凄みのある笑顔で息子へとその言葉を告げた。

 

 

「仕置だ。今すぐ尻を出せ。」

 

「」←コンラ

 

 

かくして、フランスのとある街にて。

少年の悲鳴と《尻叩きの刑》の音が響き渡った。

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

※コンラくん。オシリペンペンの刑をくらうの回でした←

今回はランサーが怒るのも無理ないですね。

フレイズマルはおそらく所長に酷い目にあわされるでしょう。

・・すまぬ。作者が《竜騎士コンラ》という願望を叶えたかったばかりにっ!←

それにしても光の御子の息子はすぐにデッドラインを越えようとする。ヤリニキの胃は保つだろうか・・。

 



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自我ありしモノ

 

 

ぐぬおおおおっ!!

お尻がっ!痛ぃいっ!

 

 

俺は父さんに叩かれた尻を片手で押さえ、(うずくま)る。

さすがランサークラス(筋力B)

キャスタークラス(筋力E)の父さんより力が強いだけあって、なかなか局部の痛みが引かない。

これで手加減してるとか・・マジか。

 

 

「これに懲りたら2度とあんな事すんじゃねぇぞ。こっちがどんだけ肝を冷やしたと思ってんだ。」

 

「Yes、Father・・」

 

 

前回の(特異点Fで)頬を引っ張られたのが可愛く思える『仕置き』にビビリ。

俺は父さんの注意に素直に頷く事にした。

まぁ、今回は調子に乗った俺が全面的に悪いしな。

猛省せねば。

 

ーーーでも、楽しかったなぁ。←

ホントに楽しかったし、嬉しかった。

まさか前世で(アキラの時に)諦めた夢がこんな所で叶うだなんて。

父さんにも会えて、《人理修復》の旅の最中も一緒に居られるし。優しいマスターも居るし。新しい友達もいっぱい出来たし。

《疑似サーヴァント》になってからの俺は、過ぎるぐらい恵まれてるなぁ。

 

(ちょこちょこ文句を言いながらも)この機会をくれた爺ちゃん(ルー神)に俺がシミジミ感謝していると。

マルちゃんを連れて何処かに消えていたマスターが1人で戻って来た。

(なにやら心配げな様子で2人の後を追ったジークフリートの姿もない。どうかしたんだろうか。)

 

 

「っ!?ーーコンラッ!」

 

 

そして(うずくま)る俺の姿を見て、驚いた顔で駆け寄って来てくれた。

痛むなら『治癒魔術』で治してくれると言われたけど、俺はそれを慌てて辞退する。

 

この痛みは『仕置き』だし。

お尻を見せるのは・・ほら、恥ずかしいし。

なによりーー。

 

 

(マスターに、カッコ悪いところをこれ以上見せられないっ!)

 

 

俺は脚に力を込め、気合いで立ち上がる。

ーーうん。

さっきより痛みもだいぶマシになった。

ゆっくり歩く分には問題なさそうだ。

 

 

「大丈夫だよマスター。

心配かけてばっかりで、ごめんね。」

 

「この子は無茶ばかりして。

仕様(しょう)がないんだから、もう・・。」

 

 

マスターは困ったような表情を浮かべながらも、優しく頭を撫でて許してくれた。

あーー、俺。

マスターに頭を撫でられるのも好きだ。

 

へニャリと頬が緩むのも気にせず髪を撫でてくれる指先を堪能していると、父さんが『へぇ』と感心した様な声を漏らした。

 

 

「随分懐いてるな。

《あの女》に似てるから一時は不安だったが・・。思ったより相性が良かったか。」

 

「?、父さん?」

 

 

唐突な父さんの呟きに尋ねたところ。

父さんいわくマスターが因縁のある《敵国の女王(メイヴ)》に似ているから、俺の身を案じてくれていたそうだ。

俺はその発言にーー心配してくれたのは有り難いけどーームッとして抗議する。

 

 

「父さんっ!

マスターとその女王様を一緒にするのは失礼だよ!マスターはすっごくすっごーーく優しいんだ。

 

その女王様みたいに、牡牛やら男の人が食べたいからって他国に攻め入ったりする悪いヒトとは全然違うんだっ!!

 

俺は・・そんなマスターが大好きだから。

例え相手が父さんでも、マスターの事を悪く言うなら怒るからねっ!」

 

「こ、こんら・・っ」

 

「おまえ・・。」

 

 

キッパリと俺の気持ちを伝えれば、何故かマスターと父さんに酷く驚かれた。

変だな。俺、まさかまたマズイ事を言ってしまったのだろうか。

でも、コレは俺の中で譲れないことだから。

ちゃんと言っておくべきだと思ったんだ。

 

 

「ーーす、好きっ!」

 

「?、うん。俺もだよ?」

 

 

急にマスターが感極まった様子で俺の事を抱き締めてきた。

よく解らないけどマスターが幸せそうなので、俺も嬉しくなって応える。

 

 

「好きぃいいいいっ!!!」

 

 

すると叫びながら更に強く抱きしめられた。

解せぬ。

うーむ。少し苦しいけど・・このまま我慢しよう。

喜んでるマスターの邪魔をしたくないし。

思えば前からよく抱き締めてくるから、もしかしたら俺の抱き心地が良いのかもしれない。

 

 

「はぁ・・余計に拗らせちまって。

マスターとの仲が良好なのは良い事なんだが。」

 

 

父さんの疲労感の滲む声が耳に届き。

俺はその状態のまま、顔だけずらして隣を見上げる。

 

 

「ーーまぁ、どうにかなるか。

メイヴのやつに比べれば『善人』の部類だしな。」

 

「?、マスターは『良い人』だよ?」

 

「・・・ああ。そうだな。」

 

 

傍らに立つ父さんが《当たり前のこと》を口にしたので、不思議に思いながらも告げると。

父さんは一瞬、複雑そうな表情を浮かべて。

けれどーー何かを思案するように数秒目を伏せた後はーー何処か嬉々とした様子でパッと破顔した。

 

 

「兎にも角にも、オレはお前がようやく《男》になってくれて嬉しいぜ。

よし!これは祝杯を上げるしかねぇな。

コンラ、酒はどこだ?一杯やろうぜ。」

 

「えっ。こんな真っ昼間から飲むのっ!?」

 

「ちょっ!?アンタこんな子供に酒飲ませるつもり!!?」

 

 

ーーというか、俺は産まれてからずっと性別《()》なんだけど。

父さんはいったい何を喜んでいるんだろうか。

謎だ。

そして、マスターはやっぱり俺の『精神年齢』が成人を突破している事を忘れているらしい。

なんてことだ。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

第三者視点

 

 

 

子供(ガキ)子供(ガキ)だと思ってりゃあ、一端(いっぱし)の顔も出来るじゃねぇか。)

 

 

てっきりオルガマリーに『母性』を求めているのかと思いきや、『サーヴァント』としての使命感とーー本人はおそらく無自覚だろうがーー僅かに『男』の面を覗かせたコンラ。

ランサー(クー・フーリン)は知らぬ間に成長していた息子のその姿に、父親としての喜びと秘かな安堵を抱く。

 

何せ生前(アキラの時)に《友人》として接していた間。

息子の口から出る話には女の『お』の字すら感じられないほど、浮いた話題が無かったのである。

 

一度だけ直球で尋ねてみたところ。

(一般教養は身に着けている為)知識が無いわけではないのだが、そっちの話に疎いというか。鈍いというか。

ぶっちゃけた話ーーまったく彼はソチラの方面に対して興味が無かったのである。

青年期に入った男がそれで良いのかと、真剣にランサーが危惧するレベルで。

 

 

 

 

 

《いや、お前。顔が悪いわけでもねぇし。

その歳なら女の方から寄って来た事もあっただろ?1度もそういう関係になったことねぇのかよっ!?》

 

《うん。》

 

《それ以前にこう・・ムラッとしたことねぇのかっ!?》

 

《うん。》

 

《淡白にも限度ってもんがあんぞっ!!?

病気じゃねぇのか!?意味わかんねぇよ!!》

 

《俺はランサーが俺の女性関係にやけに喰い付いてくる事の方が意味がわからん。》

 

 

 

 

 

懐かしい冬木での日々を回想し。

息子にも『惚れた相手』が出来た事を嬉しく想う。

 

(そうかそうか。あのアキ・・コンラがなぁ。)

 

惚れた相手(オルガマリー)』に思うところが無い訳ではない。

なにせ相手はコンラが『良い人(善人)』と断言しようともーー道徳心が欠け、非人道的な行いをする事に定評のあるーー『魔術師』である。

しかし、当人のここ数時間の言動から、彼女の息子への惚れ具合と根っ子にある《真摯さ》を感じ取っていたランサー。

初見で抱いた不安は、今はだいぶ払拭されつつあった。

 

ならば、今後の彼が成すべきことは『息子の恋路』をーー時折、ちょっかいを出しながらーー暖かく見守ってゆく事である。

 

 

「兎にも角にも、オレはお前がようやく《男》になってくれて嬉しいぜ。

よし!これは祝杯を上げるしかねぇな。

コンラ、酒はどこだ?一杯やろうぜ。」

 

「えっ。こんな真っ昼間から飲むのっ!?」

 

 

息子の成長に対する《喜び》と。

まっとうな『男』となる第一歩を踏み出した彼への《激励》の意味を込めて、ランサーはコンラと酒を飲み交わそうと声をかける。

 

だが、それは息子の《想い人》であるオルガマリーによって制止された。

 

 

「ちょっ!?アンタこんな子供に酒飲ませるつもり!?」

 

 

いまだ両腕の中に収めている幼い少年を。

ランサーの飲酒の誘惑から護る為、シャーッ!と子を護る母猫さながらに威嚇するオルガマリー。

外見に反し、その胸中は『恋する乙女』そのものであった。

 

何故ならばーー『竜騎士(ドラゴンライダー)コンラ事件』により一時失念したがーー彼女の抱える《苦悩》。

それを当事者である少年の発した言葉が、アッサリと取り除いてしまったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《父さんっ!

マスターとその女王様を一緒にするのは失礼だよ!マスターはすっごくすっごーーく優しいんだ。

 

その女王様みたいに、牡牛やら男の人が食べたいからって他国に攻め入ったりする悪いヒトとは全然違うんだっ!!

 

俺は・・そんなマスターが大好きだから。

例え相手が父さんでも、マスターの事を悪く言うなら怒るからねっ!》

 

《こ、こんら・・っ》

 

 

彼の『大好き』という飾らない、幼く愚直なーーだからそこ心に直接響くーー『好意』の言葉が。

彼女(オルガマリー)の喪失感で凍えた心を、温もりで満たす。

 

彼の『マスター(オルガマリー)の為に、己の大好きな父親に怒る』という行為が。彼女の劣等感で荒んだ心を、労るように癒やす。

 

そしてーーオルガマリーは気づいた。

少年が自分と父親に『順位』などつけていない事に。

 

 

(ああ。ああ。コンラ。

貴方はそうやって、いつも私を救ってくれる。

当たり前のように助けくれる。

大切な事に・・気付かせてくれるっ。)

 

 

はじめから勝負はついていた。

ーー違う。

勝負にすらなっていなかった。

ーー違う。

 

勝負する(競う)こと』そのものが無意味だったのだ。

ーー1人の人間の《特別》が『勝者(たった1人)』だけだとは決まっていないのだから。

 

 

(貴方にとってランサーは『父親』として《特別》で。私もーーきっと『マスター』としてーー《特別》なのね。)

 

 

例えるならば、『両親』と『恋人』

例えるならば、『兄弟』と『友人』

 

それらに優劣などつけようがない。

それぞれの意味で、皆がひとり人間の・・複数の《特別》なのだ。

 

 

(ありがとう、コンラ。

私、わたし、貴方のことがーーー)

 

 

オルガマリーは己の中の《苦悩》が春雪のように溶け。

代わりに胸が《感謝》と《愛しさ》で熱く焦がれるのを感じた。

衝動に導かれるように少年を抱きしめ。

内から溢れ出る想いを言葉に変え、吐き出す。

 

 

「ーーす、好きっ!」

 

「?、うん。俺もだよ?」

 

 

(ーーきっとこの子の『好き』は、私の『好き』とは違う。けど、それでも・・それでもっ!)

 

 

交わす言葉は同じ。けれど、宿る想いは違う。

その事実を理解しながらも。

好意を抱く少年の告白に、彼女の頬は赤く色味を増す。

心臓は早鐘を打ち、喜びの鼓動を刻む。

 

彼女の中で淡く(ほころ)んでいた小さな『恋』の蕾は。こうしてついに花開き、大輪の花を咲かせた。

 

 

「好きぃいいいいっ!!!」

 

 

オルガマリーは胸の奥底から再度、湧き上がった彼への『愛しさ』を。吼えるように、高らかに大空へと叫んだのだった。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

「良いじゃねぇか、少しぐれぇ。

アンタも飲めばいいだろ?」

 

「飲まないし。許可しません。」

 

「あの、マスター。俺・・」

 

「固いこと言うなよ。

《つまみ》ならそこら中に転がってんだ。

家人も居ねぇし、酒の1本くらい貰っても構わねぇだろ。」

 

「そういう問題じゃなーーーって。

ちょっと待って。《つまみ》?」

 

「俺、あの・・」

 

「転がってんだろ。ほら、そことか。」

 

「ーーはぁっ!?あれ、ワイバーンよっ!?

アンタ《竜種》を食べるつもり!?」

 

「ま、ますた・・」

 

「オレらの生きてた時代では《竜種(ワイバーン)》はけっこうそこら辺を飛び回っててな。

食うに困った時はよく《非常食》代わりに狩ってたぜ。

そうだな、現代の食い物に例えるならーー《チキン(ニワトリ)》が近いな。焼くと旨ぇんだよ。

まぁ、その前の血抜きとか下処理がかなり面倒くさいんだが・・。」

 

「えっ。アンタ達(ケルト人)にとって《ワイバーン》と《ニワトリ》って同列なの?何それ。おかしくない?」

 

「・・・・。」

 

 

コンラの飲酒に関して押し問答を繰り返していたランサーとオルガマリーだったが。

ランサーの『ワイバーン(竜種)食べるもの(非常食)』発言に現代との《神秘の濃さの違い(ジェネレーションギャップ)》を感じ、衝撃を受けるオルガマリー。

 

彼らの生きていた時代は、現代の野鳥や野良猫が近所を彷徨(うろつ)いている感覚で《竜種》やら《魔獣》やらがいた為。彼女が驚くのも無理はなかった。

ーーー生粋のケルト人(モンスターハンター)達はともかく、現代人にはデンジャラス過ぎる時代である。

 

一方、己のマスターに『自分が(精神年齢的には)成人済みであること』を伝えようと機会を伺っていたコンラ。

白熱する2人の会話になかなか口を挟めず、幾度目かの挑戦の後。

ついに彼は『また今度話そう』と話を先送りにする事を決め、肩を落とした。

 

 

(それにしても・・俺はいったい何時までマスターに抱き締められていればいいんだろうか?)

 

 

嫌なわけではないのたが。

同じ体制でいる事に、さすがに飽きてきたコンラ少年。

彼は何かないかと眼だけを動かし、見える範囲で辺りを見回す。

そして《あるモノ》が視界に入りーー『あれ?』と疑問を抱いた。

 

 

(何で・・まだ還ってないんだろう?)

 

 

それは未だ宙に在る1本の光槍。

淡い輝きを放ちながら、そのーーよく見れば、穂先(ほさき)が5つに分かれているーー槍は何処か所在なさげに浮かんでいた。

 

 

(あっ、そうか。

俺がまだ還っていいって言ってないからーーん?待てよ。)

 

 

コンラはそこで、ある重大な事実に気がつく。

 

 

(俺、《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》喚んだっけ?)

 

 

そう。落下する最中、フレイズマルを助け(キャッチす)る事に必死になっていた彼はーーなんと。

実に恐ろしいことに、己の《宝具》を喚ぶ事を忘れていたである。

ーーーうっかりでは済まされない。

ランサーに知れれば2回目の『仕置き』確定の事案である。

 

つまり《今の主(コンラ)》の命の危機を察した《宝具(ブリューナク)》が、何時まで経っても喚ばれない事に焦り。自己判断で出てきたところ。

タイミングよく、生存本能で動いたコンラが光槍の柄の部分に脚を引っ掛けて事無き終えたというのが。

今回の『竜騎士(ドラゴンライダー)コンラ、墜落死未遂事件』の真相だったわけである。

ーーーコンラ少年、ガチで猛省せよ。

 

 

(そう云えばマスターが、通説では《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》には『自我』があるって言ってような・・。

なるほど、俺を助ける為に喚んでないのに来てくれたのか。)

 

 

己の《宝具》に助けられた事を理解したコンラは。命の恩人である光槍へと手を伸ばし、『おいで』と呼ぶ。

光槍はその(めい)に従い、フヨフヨと少年の側へと寄った。

 

 

「助けてくれて、ありがとう。」

 

 

彼は、未熟な主である己をーー今回だけでなくーー幾度も助けてくれた《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》へ。

感謝を述べつつ、にぱっと笑み。

その柄の部分を優しく撫でた。

すると、光槍は小刻みにその身を震わせーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〘あ、危ねぇー。ちょー危ねぇー。

お孫様マジおそろしや。

あやうく開いちゃいけねぇ扉が開くとこでしたわー。カワイイは正義ならぬ、対精神兵器とオイラ学んだ。

これは《ショタコン(オルガマリー)》がショタコン化するのも無理ない。仕方ない。是非も無し。

あと、ご子息様の《親バカ》っぷりマジワロスー☆〙

 

 

「・・へっ?」

 

「あ"っ!?」

 

「はぁっ!?」

 

〘おっと!

そう云えば《リミッター(制限)》解除されてたんでした。しっけいしっけい☆〙

 

 

ーーーあまりにも軽すぎる口調で、いきなりベラベラと話し始めた。

突然ディスられ、反射的に怒りの声を上げたランサーとオルガマリーに臆する様子も微塵もない。

ある意味、肝が座っている槍である。

 

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》が極東の島国(日本)で概念として誕生する際に(みなもと)となった5つの伝承。

その内のひとつーー《クアルンゲの牛捕り》のおりにルー神が携えていた『五尖槍』。

その逸話から生まれた人格ならぬ槍格《ソウェイル》は、唖然とするコンラの手に甘えるようにグリグリと柄を擦りつけながら。

軽快に自己紹介を始めた。

 

 

〘改めて初めまして☆

お孫様に、ご子息様。

あとショタコンッ!〙

 

「今度は・・槍が喋ったっ!」

 

「ちょっ、またなの!?

だから私はショタコンじゃないってばっ!!」

 

〘オイラの名前は《ソウェイル》ッ!

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》の5本槍が内の1槍

ーー『光』のソウェイルだよん。

以後、よろしくお願いしマスマス☆〙

 

「スルーッ!?」

 

「あぁ・・また面倒くさそうなのが出てきやがった。」(チラッ)

 

「はっ!アンタいま私のこと見なかったっ!?」

 

「・・・・・気のせいだろ。」

 

「その《間》は何なのよっ!!」

 

 

息子のーー元は父親のだがーー《宝具()》がいきなり話し始めた上に、その口調から一癖ありそうな匂いを感じ取ったランサー。

思わず彼が同じ《面倒くさい系》の女に眼差しを向ければ。その視線に気づいたオルガマリーは、激しく抗議の声を上げる。

ーーー彼らが揉めるのは、もはや恒例と化しつつあった。

 

 

「よろしくお願いしマスマスッ!」

 

〘おっ。お孫様ノリがわかるねー。

ノリは大事だよー。戦も恋も時代も。

いつだってビッグウェーブにノらないと生き残れないからねー。置いてかれたら《死》あるのみさー☆〙

 

 

そんな保護者2名をよそに、己の《宝具》と交流を深めるコンラ。何だかんだで適応能力が早いのが彼の『長所』である。

 

 

〘さてさて☆・・そいじゃあ。

どっから話しましょうかねー。〙

 

 

コンラの《記憶の封印》が砕かれた際。

ルー神が施した《意思表示の制限》が強制解除された《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》。

その一槍である《ソウェイル》は、悩むように穂先を左右にユラユラと揺らす。

そしてーー

 

 

〘とりあえず《クアルンゲの牛捕り》でのオイラの大活躍と。ついでで、ご子息様の(戦の)武勇伝の話をしましょーか☆〙

 

「・・オレはついでか。」

 

「仮にも(あるじ)の身内なのに、随分と失礼なやつね。」

 

「ーーお願いします!

主に父さんの武勇伝の方を重点的にっ!」

 

「ーー。」←(ちょっと嬉しい)

 

「・・ふん。」←(わかってはいても、やっぱり気に入らない)

 

 

父親の武勇伝を聞けると聞いて、コンラは若干喰い気味にソウェイルの話に飛びつく。

その姿に、少しの照れ臭さと・・喜びを感じ。

ランサーは無意識に目元を柔らかく緩ませる。

 

オルガマリーは《仕方のない事》だとわかっていても、己の内の『嫉妬』の感情を完全には割り切れず。

ギュッと少年の背に回した手に力を込め、不満気な声を小さく漏らしたのだった。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

※遅くなりましたー!!(土下座)

今回はコンラくんだけでなく、ヤリニキと所長の心情の変化にもスポットを当てた回でした。

 

○コンラくん

 ↓

ヤリニキ・・大好きなお父さんで。元親友。

憧れの強くて優しいヒーロー(英雄)

俺の父さんは最強(の戦士)なんだっ!

 

所長・・大好きなマスターで。

無自覚で恋心を抱き中。

いつも微笑っていて欲しい、絶対に護りたい人。

俺のマスターは世界一(優しい人)なんだっ!

 

○ヤリニキ

 ↓

コンラ・・2度も殺してしまった愛息子。無自覚な親バカ。護りつつも、今後は心を鬼にして息子を鍛えてゆくつもり。

 

所長・・息子の現マスター。敵国の女王似のショタコン。魔術師として一流だし、息子が惚れてるし。男として一皮むけるなら交際OK。

でも泣かせたら必要なくなった時点でゲイ・ボルク。

 

○所長

 ↓

コンラ・・命の恩人で、生涯唯一の自分のサーヴァント。マジで惚れた護りたい相手。好き好き大好き可愛いハアハア。

一応良識はあるからヤンデレにはならない・・たぶん。

 

ヤリニキ・・惚れた少年の父親。未来のお義父さん(仮)。実力は認めるけど、ある意味1番のライバルで最大の壁。

邪魔だわランサーに使える令呪欲しいホットドッグ食べる?

 

 

まとめると今の3人の心境は上記の感じですかね。保護者2人の秘かな殺意がヤバイ(白眼)

 

あと、作中でのコンラくんの敵国の女王様に対する認識は間違っていて。

生前に風の噂で聞いた『牡牛を欲しがって他国に攻め入った』と『毎夜寝室に男を連れ込んで美味しく食べている(意味深)』が合体した結果。

何故か『牡牛と男の人を食べたい(捕食的な意味で)から他国に攻め入った、謀略を巡らすズル賢いヒト(魔物)』となってしまっています。

そして『そんな恐ろしい人喰い魔物と戦った父さん凄いっ!』と知らず株が上がっていたヤリニキ。メイヴ様・・どんまい←

 

 

えー。ぐだぐだと後書きが長くなってしまい申し訳ないです。

次回は新たなオリキャラ『ソウェイル』が出張りつつ。とある「クリスティーヌ」な怪人が現れる予定です。

乱文ですが、宜しくお願い致します!

 

 



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唄う怪人

 

 

第三者視点

 

 

コンラの『記憶の封印』。

それは前述の通り、《人理修復》に挑む孫が旅の間の拠点となるカルデアで。

共に過ごす事となる父親(キャスター/クー・フーリン)と新たな良き関係を築けるよう。

ルー神の心遣い(こころづかい)により(ほどこ)されたものであった。

 

しかし、孫に《宝具》として譲った《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》ーー本来の名は《轟く五星(ブリューナク)》であり。コンラが扱い易いよう、あえて格落ちさせたのだがーーその神槍には5つの()格が宿っていた。

彼らが一癖も二癖もある性格である事を知っていたルー神はーーもちろん当()達の了承を得てからーー光槍達の口からうっかり生前の事柄が孫にネタバレされぬよう。

穿く必勝の光槍(ブリューナク)》へも術で『意思表示の制限(リミッター)』をかけた。

 

だが、そんな彼の配慮も虚しく。

その『制限(リミッター)』は当事者であるコンラが自ら『記憶の封印』を破った際、その余波で『強制解除』されてしまったのだった。

 

ーーーそういった経緯により。

今の主(コンラ)の《宝具》と化してから初めて言葉を交わす自由を得た。《穿く必勝の光槍(ブリューナク)》の1槍、『光』の力を身に宿すソウェイル。

彼はいま現在、(ルー神の計画を見事に瓦解させた)無自覚お爺ちゃん泣かせな孫・・コンラに対し。

 

 

 

 

 

 

 

〘ーーそして、敵の大軍相手にたった1人。

幾日も決闘を繰り返し、自国への侵攻を防いでいたご子息様は。日毎に増える傷に力尽き、とうとう膝を折ったんすよー☆〙

 

「そんな・・父さんっ!」(ハラハラッ)

 

「」←ランサー

 

 

宣言通り《クアルンゲの牛捕り》の話を。フワフヨと宙に浮いた状態で、嬉々として語っていた。リクエストのあった父親(クー・フーリン)の武勇伝も多少つけ加えながら。

 

瓦礫に座り、対面で聞き手に徹するコンラはと云えば。ソウェイルが紡ぐ物語に熱中し、話のところどころで一喜一憂していた。

ーーーとても楽しそうで何よりである。

 

そして話に夢中で聞き入る少年の後ろ。

佇む、《クアルンゲの牛捕り》の主人公と言っても過言ではない少年の父親(ランサー/クー・フーリン)は。

自分の『武勇伝』を聞いて、はしゃぐ息子の姿にーー羞恥やら喜びやら誇らしさやら慈しみやらーーとても一言では言い表せない複雑な感情を込み上がらせながら。

 

それでも、息子のコロコロと目まぐるしく変わる子供らしい反応を愛おしく想い。

彼は慈愛の滲む優しい表情で、その小さな背を見守っていた。

ーーー彼もなんだかんだで幸せそうで何よりである。

キャスタークラスのクー・フーリン()が目撃すれば、即座に真顔で『そこ代われ』と異を唱えること間違い無しの光景だが。

 

 

〘しかし。しかーしっ!

そんなご子息様の前に、金髪のイケメンな戦士が姿を現すんですよー☆

その手には穂先が5つに鋭く分かれた光り輝くゴージャスでビューティフルな最高の槍が1本っ!!!〙

 

「おおおっ!!」(テンション↑)

 

(あああああっ。

コンラったら、そんなに眼をキラキラさせて。頬を上気させて、満面の笑顔まで浮かべちゃって。

可愛い可愛い可愛い可愛いかわいいかわいい可愛すぎるっ!!

この子、天使?天使なの?ハァハァッ!

 

ーーーそれにしても。

この槍、絶対に自分のところだけ話を盛ってるわよね。

まぁ、どうでも良いんだけど。)

 

 

少年の横で、同じく瓦礫に腰を下ろしてソウェイルの話に耳を傾けるのは。コンラのマスターであるオルガマリー。

彼女はコンラの無邪気な姿と笑顔を至近距離で眺めて大興ふーーゴホンッ。ではなく。

大いに心を癒やされつつ、一部(己のところ)の話を盛りまくる光槍に。初見から悪かった印象を更に一段階悪化させる。

 

当人いわく、彼女はショタコンではない。

己の好きになった相手がショタ(幼子)だった。

ただそれだけの事なのだ←

 

ちなみに、後ろの《父性全開》な気配のするランサーはーー(しず)まった対抗(ライバル)心が蘇りそうなのでーー敢えて意識しないよう努めていた。

ーーーショタコ・・ゴホンッゴホンッ。ではなく。

暴走する《恋する乙女》と化した彼女も、何だかんだで幸せそうで何よりである←

 

 

〘その戦士の正体はなんと・・・☆

我らがボス()ーー太陽神ルーッ!!!〙

 

「爺ちゃあああんーっ!!!!」

(テンション↑↑)

 

〘ボスは傷つき、疲弊したご子息様に優しく声をかけやした。

「お前のアルスターへの忠誠心は見事だ、息子よ。だが、その傷ではもう戦えまい。

傷が癒えるまでの間は、私がお前の決闘を代わりに引き受けよう。ゆっくりと体を休めるがいい。」てな感じで。

そんでもって、ご子息様はボスの癒やしの魔術と薬の力で3日3晩の休眠状態に入りましたー。

お休み☆〙

 

「うん。父さん・・ゆっくり寝て元気になってね。」(しんみり)

 

「」←ランサー

 

〘さてさて。次の日、決闘を挑みにノコノコやって来たコノートの戦士くん。

なんとその野郎は、ご子息様の代わりに現れたボスを見て鼻で笑いやがったんすよー。

ご子息様が逃げ出した、とか。

相手がご子息様じゃなきゃ勝てる、とか。

そんな感じの事を考えてたんじゃないんすかねー。マジで脳筋もホドホドにしろ☆〙

 

「むむむっ。

父さんと爺ちゃんを馬鹿にするなんて。

そいつ・・絶対に許さんっ!!」(プンスカッ)

 

(や、やだっ。どうしようっ!

怒った顔も・・可愛いっ!!)←

 

〘でも、そこは我らが偉大なるボス。

ボスは怒るどころか脳筋野郎に慈悲をかけやしたー。

「私とお前の力の差は歴然だ。

今のうちに負けを認めるならば、命までは奪わない。」ってね☆

まっ、相手は侮辱されたと勘違いして逆ギレしてましたどー。〙

 

「爺ちゃん・・優しいっ!」(感動)

 

(可愛い可愛い可愛い可愛いコンラ可愛い可愛い可愛いかわいいかわい(ry))

 

〘そんなこんなで、決闘の火蓋は切って落とされやした☆怒り心頭で大剣を構え襲いかかる脳筋。

そんな身の程知らずに、ボスは静かに穂先が5つに鋭く分かれた光り輝くゴージャスでビューティフルな最高の槍を向けてーー。

 

あっ、話は変わるんすけど。

実はオイラの5つの穂先からは《光》を魔力に変換したビーム(光線)がそれぞれ出るんすよね☆〙

 

「ビームッ!?カッコイイッ!!」

(テンション再び↑↑)

 

(可愛い可愛い可愛い可愛い食べちゃいたいぐらい可愛いでもダメよコンラはまだ子供でも可愛い可愛いかわいいかわい(ry))

 

「・・ん?」←目敏く不穏な気配に気づくランサー。

 

〘でしょでしょ☆

そいで、その5本のビーム(光線)を1つに収束した。

《ハイパー・デンジャラス・ソーラー・ビッグビーム》(最大威力の極太光線)で、ボスは野郎を跡形もなく地上から抹消しやした。

ーー脳筋グッドラック☆〙

 

「へ?・・あ、あれ?

爺ちゃん?抹消って・・えっ?」(動揺)

 

(可愛い可愛い可愛いダメダメ可愛いまだダメよ可愛いああでもホントに可愛い食べちゃいたい可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いかわいいかわい(ry)

 

「ーー。」←察したランサー。

 

 

優しい祖父の、まさかの行いに狼狽えるコンラ少年。そんな顔も可愛いハァハァッ!と、想い人の様々な表情が見れて心底大興ふーーゴホンッゲフンッ。ではなく。

口には出さないものの、内心では大喜びのオルガマリー(暴走する恋する乙女)

彼女の息子に対する不穏な気配(行き過ぎた好意)を目敏く察知し、コンラの(貞操)が若干心配になるランサー(お父さん)

 

(ランサー)は思った。

息子とオルガマリーがお互いに好意を抱いているなら、これは自分が口出しする事柄ではないと。

けれど、思わずには要られなかった。

頼むからーー息子に手を出すのはせめて、カルデアに辿り着いてからにしてくれーーと。

 

多くの武勇伝(女性遍歴)を持つ、かのアルスターの英雄クー・フーリンといえど。

可愛い息子が敵国の女王似の女に喰われる(意味深)ところなど、目撃したくはないのである。

ーーというか。その場に遭遇したならば、彼は間違いなく大量出血でショック死する自信があった。

死因『吐血』である←

 

 

〘驚くことないさー☆

神に喧嘩売ったんだから当然の報い報い。

もともとボスの基本スタンスは身内に『だけ』甘くて、それ以外には容赦なしだしー?

どうせ自分と敵の力量の差すら見抜けない実力じゃあ、野郎も長生きしなかったろうしねー☆

すべては因果応報。諸行は無常なりー。〙

 

「そ、そうなんだ・・。

ハッ!ーーという事は、俺もその凄いビーム出せるんじゃ。」(ゴクリッ)

 

〘全てはお孫様の努力しだいっすかねー?

ガンバ☆〙

 

「うん!俺、がんばるっ!!」(キリッ)

 

〘頼みやすよー。

オイラも早くあの頃みたいにヒャッハーッ!!(大暴れ)したいんで☆〙

 

 

すぐ隣のマスターの胸に秘めたる(よこしま)な想いや。

背後の父親の胃をジワジワと攻め立てつつある心労など露知らず。

少年は屈託のない笑みを浮かべながら、必殺技的なビームについて光槍と語り合う。

ーーー『ハイパー・デンジャラス・ソーラー・ビッグビーム』という酷いネーミングについてのツッコミは、誰からも無いようである。

この場にDr.ロマン(ツッコミ役)が居ない事が実に惜しまれる←

 

 

・・・・さて。

上記のように、コンラ少年が《宝具(ソウェイル)》との話に熱中し。保護者2人が、胸中でそれぞれ悩み葛藤している頃。

姿を消したフレイズマルとジークフリートは、どうしているかというとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・無事か?フレイズマル。」

 

《ショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコンこわ(ry》

 

「無事ではなかったか・・すまない。」

 

 

ーー街の西側。

2人(1人と1匹)は全身ずぶ濡れの状態で。

仲良く石畳の上に並んで倒れ、フランスの澄んだ空を(あお)いでいた。いわゆる『青天(アオテン)』というやつである。

彼らがこのような無残(むざん)な姿に至った経緯は、己のサーヴァントを溺愛するオルガマリーの《制裁》を受けた。その一言に尽きる。

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

 

《ぐおあああ"あ"あっ!!!

すまぬっ!すまんかったーっ!!》

 

 

竜騎士(ドラゴンライダー)コンラ、墜落死未遂事件』の後。

少年が墜落死しかけた原因であるフレイズマルは。怒れる少年のマスター(オルガマリー)に民家の影に強制連行され。

彼女の履く高いヒールの靴に、容赦なくその身を踏み潰されていた。

フレイズマルは未だカワウソの姿に変化している為。傍から見れば、その様子は完全に動物虐待の図である。

 

 

「はあっ?謝れば許されると思ってんの?

アンタがあの子を危険な目に合わせたの、これで2度目よ?2度目。

ふざけんじゃないわよ。

まさかワザやってんじゃないでしょうね?

ーー殺すわよ。」

 

 

昨晩に続いて繰り返されたフレイズマルの失態(うっかり)に、怒り心頭なオルガマリーは。

足下からの謝罪に耳を貸すことはなく、むしろそれに煽られたように青筋を立て。

好意を寄せる少年には決して見せない怖ろしい形相で。踏みつける足により強い力を加えた。

 

 

《違うっ!

あやつに害がおよぶのはワシも望まんーーって。

ギャアアアアッ!!

ヒールが、腹に食いこっ!?

グホァッ!死ぬ"っ!出る"うっ!

内臓的なものが出る"ぅううっ!!》

 

 

煮え滾る激情のままに、カワウソの腹部をグリグリと一切の手加減なく深く抉る鋭いヒール。

人理が焼却されていなければ、愛護団体への通報まった無しの光景である。

 

 

「待ってくれオルガマリーッ!」

 

 

そんな彼女を止めようと声をかけたのは。

嫌な予感を覚え、2人の後を追いかけた竜殺しーージークフリート。

彼は今回の件は、己にも否があったと頭を下げる。

 

 

「すまない。例え(コンラ)望み(願い)であろうと。

あの時そばにいた俺が、2人を止めるべきだった。そうすれば少年が危険な目に合うことは避けられた。

だから・・どうか、フレイズマルだけを責めるのはやめてほしい。

罰ならば、俺もこの身をもって受けよう。

許されるとは思わない。

だが、それで君の中の『大切な者を喪い(奪われ)かけた怒り』が。少しでも収まるなら、幸いだ。」

 

「・・・。」

 

《お、お主・・っ!》

 

 

竜殺しが告げた真摯な言葉に。

胸中で燃え上がっていた憤怒の焔が、いささか勢いを失うオルガマリー。

 

彼女は自分の靴の下で(息子(レギン)と重ねている)ジークフリートの。

己を庇う様な台詞に感激しているフレイズマル(ダメ親父)を一瞥し。小さく溜息を吐いた後、足をカワウソの上から退けた。

 

 

「ふぅっ・・まったく。

貴方って、損な性格をしているわね。」

 

《ゲホッ!ゴホッ!ううっ。

た、たすかった・・》

 

 

自分の体を石畳にプレスしていた靴底と、腹に食い込むヒール(凶器)が無くなり。

ようやく拷問のような責苦から解放されたフレイズマルは、激しく咳き込む。

そして一刻も早く怖い女(オルガマリー)の傍から離れようと。

彼は痛む体を押して、ズリズリと石畳を這い進んだ。

 

 

「オルガマリー、すまない。

・・・ありがとう。」

 

 

その一連の行動を見たジークフリートは、(ひとまず自分達を許してくれたらしい)彼女の寛大な心に感謝し。

傷だらけの身で必死の逃走をはかる、弱ったカワウソの痛々しい姿を見ていられず。

彼は地に片膝をつき、助け起こそうとフレイズマルへその手を伸ばした。

 

 

「いいえ。お礼なんて要らないわ、ジークフリート。だって・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方には望み通り。

これからフレイズマルと一緒に『罰』を受けてもらいますから。」

 

「《・・えっ。》」

 

「術式展開ーー《水瓶座(アクエリアス)》。」

 

 

まさかの事態(フェイント)に呆然とする竜殺しと瀕死のカワウソ。固まる彼らを余所に、オルガマリーは己の魔力を用いて『星図魔術』を発動させる。

すると、瞬く間に星座が宙に描かれ。

『水瓶座』の逸話の概念から生まれた虚像の少年ーーガニメデスが、(ゼウス)から与えられた水瓶を手に姿を現した。

 

 

「やりなさい。」

 

 

彼女の口から発せられた、短くも無慈悲な(めい)に。神の給仕係たる少年はーー虚像なのだが、どこか物凄く申し訳無さそうな表情でーーその水瓶を逆さにし。

『聖水』の激流を生み出し、彼らへと放った。

 

 

「ぐうっ!!」

 

《ギャーーッ!!?

ごバ、ぐぼばごボゴボボッ!!!》

 

 

放たれた聖なる水流に、成す術もなく呑まれる2人(1人と1匹)。

彼らはその水の勢いのまま一直線に押し流され。

その時に居た街の東側から。

いま現在彼らが居る、街の西側へと無理やり移動させられたのだった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

流れのあまりの激しさに何度か溺れかけながらも。(泳ぐ体力すら残っておらず)溺れるカワウソを救助し。

激流が収まるまで、水の中を耐え抜いたジークフリート。

 

 

「・・・無事か?フレイズマル。」

 

 

力を使い切り、身を起こす事も出来ず。グッタリと横たわりながら。

青い顔で、隣に居るフレイズマルに彼が安否を問えば。

 

 

《ショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコン怖いショタコンこわ(ry》

 

 

今回の件がトラウマになったのか。ガタガタと震えながら白目を剥き。

オルガマリー(ショタコン)への恐怖を繰り返し呟くという。

まるで精神病患者のような返答が、《念話》を通して返って来た。

 

 

「無事ではなかったか・・すまない。」

 

 

そのフレイズマルの酷い様子に、ジークフリートは思わず顔を覆いたくなった。

かの《竜殺し》をここまで追い詰めるとは・・・オルガマリー、本気で怒らせると怖い女である←

 

そんな疲労困憊な中。

それでも一刻も早く、フレイズマルを連れて仲間達の元へ戻らなければと。

彼は持ち前の精神力で弱った心を立て直し。最優先事項である体力の回復に努めようとした。

だが、その矢先ーー

 

 

「クリスティーヌゥウウウウッ!!!!」

 

「」←ジークフリート

 

 

仰向けで倒れる彼の頭上ーーというより眼の前を。黒いマントを身に纏う細身の男が一瞬で横切り、隣の民家に激突。

壁に大穴を開けて見えなくなった。

 

ーーー竜殺しは思った。

何を見たのか。何が起こったのか。

よく分からないが、何故か凄く既視感を覚えると。

 

ジークフリートが謎のデジャヴに囚われている中。彼の耳に、ふいに人の足音と馬の蹄の音が届く。顔をそちらに向ければ、見知った者達が自分達の元へ駆けてくる姿が眼に映った。

 

 

「どうしたのよ貴方達っ!?

ボロボロじゃない!」

 

「先ほど少年のものらしき悲鳴が聞こえたのですが。そちらにも敵襲があったのですか?」

 

 

修道服を翻し、走る聖女ーーマルタ。

白馬に乗る聖人ーーゲオルギウス。

 

マルタは急いでジークフリートに駆け寄ると。

彼女の《奇跡》の力を使い、彼の傷の治療にあたった。

 

 

「すまないマルタ。

だが、俺よりもフレイズマルを先にーー」

 

「貴方が終わったら、すぐに彼も看ます。

怪我人は黙って治癒されてなさい。」

 

「彼女の言う通りですよ、ジークフリート。

それに貴方が先に戦力として復帰して貰えた方が心強い。まぁ・・負けるつもりは毛頭ありませんが。」

 

「っ!」

 

 

愛馬(ベイヤード)から降りたゲオルギウスの台詞と、壊れた民家へ注がれたまま外れぬ視線に。

ハッと『ある事』に思い至る竜殺し。

白馬の聖人は先ほど『そちらにも敵襲があったのですか?』と聞いた。

それはつまり・・。

 

 

「敵か。」

 

「ええ。」

 

 

大剣の柄を握り、問うたジークフリートにゲオルギウスは頷く。

マルタはかざした掌から癒やしの力を送りながら。ポツリと小言を漏らした。

 

 

「あの黒マント男。

やっと(画像)データを消せたと思ったら。

何処からともなく現れて、いきなり襲い掛かって来たのよ。

驚いて反射的にぶん殴ったから、手加減できずに此処まで吹っ飛ばしちゃたわ。」

 

「ーー。」

 

 

竜殺しは彼女のその言葉で既視感の正体を理解した。そう。黒マントの男もまた、彼と同じくステゴロ聖女に殴られた被害者だったのである。

 

 

(彼女の拳は・・痛かったな。)

 

 

昨夜の、狂化された聖女に殴られた時の事を思い出し。ジークフリートはほんの少し、敵である男に同情した。

 

 

「ああ"あ・・クリスティーヌ。

クリスティーヌ。クリスティーヌッ!

クリスティーヌッ!!

よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもっ!!!」

 

 

しかし、そんな竜殺しの想い(優しさ)など微塵も知らず。そして知る理性も無いバーサーク・アサシンーー《オペラ座の怪人》ファントムは。

壊れた壁の向こうで、瓦礫を踏みしめ立ち上がると。右半分が髑髏の仮面に覆われた美しい顔を歪め、愛する彼の歌姫の名を呼びながら憤怒を叫んだ。

 

 

「ーーよくも我が愛しの歌姫に悲鳴を上げさせたなっ!我が天使に痛みを与えたなっ!

お前達を私は許さぬ。

決して許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬ許さぬっ!!」

 

 

狂気と怒りと殺意に染まった昏い紅眼で、ゲオルギウス達を睨めつけ。

己の最愛の歌姫(クリスティーヌ)』を苦しめたと彼らを糾弾する、狂える怪人。

その身に覚えのない罪状に、マルタは慌てて抗議の声を上げた。

 

 

「はっ?えっ、ちょっと。

クリスティーヌって誰よっ!?

知らないわよっ!!」

 

「ふむ、悲鳴ですか・・。

私は少年らしき声しか耳にしていませんが。

ジークフリートは心当たりはありますか?」

 

「いや・・すまない。

女性の悲鳴も、少年の声も聞いていない。

おそらく俺とフレイズマルが水流に呑まれている時だったのだろう。」

 

 

真っ先に『冤罪』を訴える聖女。

そして、お互いに『女性(クリスティーヌ)の悲鳴』を聞いていない事を確かめ合う聖人と竜殺し。

けれど、ファントムは彼らの言葉を否定する様に。(彼にとっては絶対の)根拠を唄うように語る。

 

 

「私は聞いた、ココではない場所で。

彼女の苦痛を帯びた悲鳴を。

私は聞き間違えない、どんなに遠く離れていようとも。彼女の美しい声音を。

だから私はココに来た。

我が歌姫に会いにココに居る。

だからーーココに居たお前達はクリスティーヌの敵だ。」

 

「なるほど・・彼は《狂化》の影響が強すぎて、他者との意思疎通が難しいようですね。

さて、どうしましょうか。」

 

「どうもこうも。向こうが殺る気なら、倒すしかないんじゃない?」

 

「何か考えがあるのか?

ゲオルギウス。」

 

 

ジークフリートの治癒を急ぎ終えた聖女は。

フレイズマルの治療に取りかかりながら、言葉を返す。

そんな彼女に礼を述べた後、竜殺しが尋ねれば。

ゲオルギウスは(《狂化》のせいで得るモノは少ないかも知れないが)『敵の情報を聞き出す為、ファントムを捕らえたい』と2人に告げた。

 

彼が、バーサーク・アサシンとして《竜の魔女(ジャンヌ)》に召喚されたのではないかと推測した聖人は。

近い内に行われるだろう決戦に向けて、少しでも有益な情報を集めたかったのだ。

 

 

《竜殺し》ジークフリート。

 

《聖女》マルタ。

 

《白馬の聖人》ゲオルギウス。

 

《強欲なる者》フレイズマル。

 

《光の御子の息子》コンラ。

 

《アルスターの英雄》クー・フーリン。

 

《星見の魔術師》オルガマリー。

 

 

彼らの戦力は意図せずも整いつつあった。

そして、この《特異点(フランス)》で生きる。今もワイバーンやバーサーク・サーヴァント達に蹂躙されるフランス国民達の事を想うならば。

被害を抑える為に、彼らは出来るだけ早く行動を起こさなければならなかった。

 

 

「ーーそうね。

私もそれが良いと思うわ。」

 

「俺も異論はない。」

 

「ああ・・クリスティーヌ。

美しき我が歌姫。

君の声はどんな形でも美しい・・。

痛みに侵されようとも、天使の如き愛しい調べ。

けれど、私はそれを望まない。

けれど、私はそれを喝采できぬ。

君には喜びの歌がふさわしいのだから・・。」

 

 

ゲオルギウスの提案に同意する聖女と竜殺し。

その間にも、ココには居ない歌姫へと己の揺るがぬ想い()を吐露するファントム。

虚ろに揺らいでいた瞳は、次の瞬間には再び狂乱の色を帯びる。

 

 

「ーーー君を傷つけた彼らを殺し。

私は君を喜ばそう。クリスティーヌ。」

 

 

男の背後で、黒いマントは生き物ように蠢きうねり。白い手袋を脱ぎ捨てた彼の両手は、異形の鋭い鉤爪を日の下に晒す。

 

 

「私は醜い。私は呪われている。

君は美しい。君は祝福されている。

私は、君は、私は君は私はーー

あああああああああ"あ"あ"あ"っ!!!」

 

 

狂い果てた怪人は、愛しい歌姫の為に。

彼女の敵たる存在を葬ろうと。

両手の指から生える凶刃を大きく振りかぶり、ジークフリート達へと襲いかかった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

※GWが公私共に忙し過ぎて大幅に更新遅れました。令和初日に投稿したかったのに・・誠にすみません←

 

どうやら前回の件で、コンラくんへの所長の溺愛度が上限突破したようです。

当人に嫌われたくないので自重して色々セーブしていますが、好意をすべて我慢せず表に出した場合。彼女はガチで(今は焼却されてますが)警察に捕まります。

ほら・・心は大人(成人済み)でも、体は子供(未成年)だから←

 

そしてヤリニキ(お父さん)の胃は今後、多方面から襲撃される模様。誰か、彼に胃薬を・・っ!

 

ちなみに今回のジークフリートとフレイズマルの悲劇は完全に作者の願望のとばっちりです。

2人共すまぬ。

 

あ、あと前回と同じく作中の説明となってしまいますが。ジークフリートとフレイズマルが何故『念話』で会話できるように成ったのかと言いますと。

一言で云えば、フレイズマルがジークフリートの血を摂取した事が要因です。

 

ジークフリートは邪竜の血を浴び、口にした事で体内にファヴニールの(因子)を生前に取り込み。

フレイズマルは邪竜に転じたファヴニールの《血》の繋がった実の父親(肉親)

元々、血縁関係の近い共通の存在の《血》を体内に持っていたところに。ジークフリート本人の血をーー邪竜の《(因子)》と共にーーフレイズマルが直接飲んだ。

よって、この2人の間に《邪竜(ファヴニール)》の《(因子)》を(かい)して、強い《繋がり()》が結ばれたから・・という独自設定です。

まぁ、サラッと流してカワウソ姿の(フレイズマル)の話し相手がコンラくんと所長以外に1人増えたと覚えてもらえれば幸いです。

むしろ作者はスルーしてもらえた方が嬉しい←(おい)

 

最後に・・すでにご察しの方もいるのではないかと思いますが。

ファントムが『誰』の声をクリスティーヌ嬢と誤認しているかーーお分かりですよね?

がんばれ、ヤリニキ(お父さん)(遠い眼)

 



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魔女は嗤う

 

 

 

〘んん?おやおやー☆

お孫様、後ろ見てくだせぇ。

どうやらお仲間が戻って来たみたいっすよー?〙

 

「え?・・あっ、マルタさん達だ!」

 

 

父さん(と爺ちゃん)の武勇伝(クアルンゲの牛捕り)を真剣に聞いていた俺は。急に話を止めたソウェイルに促され、(中断された事を残念に思いながらも)渋々と後ろを振り返る。

すると、数時間前に唐突に走り去ったゲオルギウスとマルタさん。

何やら縄でグルグル巻きにした黒い荷物らしきモノを、背に乗せた白馬(ベイヤード)

そして姿の見えなかったマルちゃんとジークフリート。皆が揃って此方へと歩いてくる光景が目に入った。

(カワウソ姿のマルちゃんはジークフリートの肩に乗ってるんだけど。)

 

いきなり居なくなったからどうしたのかと思ったけど。この様子だと、どうやらマルちゃんとジークフリートはマスターと別れた後。マルタさん達の見回りの手伝いに行ってたんだな!

 

・・ん?

という事は。

最後までちゃんと見回りしてないの、俺だけ?

(プラム食べて、ドラゴンライダーして、武勇伝聞いて・・やばい。やばいぞっ!

つい楽しくて夢中になり過ぎたーっ!!)

 

自分だけ途中からサボっていた事実に気づいた俺は。罪悪感に駆られ、大慌てて皆を迎えに走る。

 

 

「お、おかえりなさいっ!」

 

 

怒られるか。

もしくは一言文句を言われる事を覚悟しながら駆け寄れば。

何故か皆にホッとした安堵の表情をされた。

(あれ?いま黒い荷物らしきモノがちょっと動いたような・・?)

 

不思議に思って聞くと。

なんと父さんに『仕置き』された時の俺の悲鳴は、街の反対側の端の方にまで届いていたみたいで。

(そんなに響いてたの俺の声っ!?自業自得とは云え、恥ずかしいなぁ。)

 

その悲鳴を聞いたゲオルギウス達は(距離があったから、しっかりとは聞こえなくて。《俺の声》という確証はなかったけど。)俺に何かあったのではないかと心配してくれていたらしい。

 

・・うう。

父さんと、マスターに続いて皆にまで。

俺はどれだけ周りに心配をかけているんだろうか。これは、今後からちゃんと気を引き締めないとっ!

 

 

「ーーお疲れ様。

思ったより遅かったわね。」

 

 

俺の後ろから、ゆっくりとした足取りで歩いて来たマスターが皆に労いの言葉を笑顔でかける。

すると、何故かマルちゃんが変な奇声を上げてジークフリート背中に隠れ。ジークフリートも顔色を悪くさせて数歩、後退った。

 

マスターは労っただけだというのに。

いったいどうしたし。

 

俺と同じくマルタさんは訝しむような顔で2人(1人と1匹?)を見つめ。

ゲオルギウスは何かに納得したように『ああ。もしや・・なるほど、それで。』と1人呟き、頷いていた。

 

ううむ・・まったくわからんっ!

 

俺が困惑しながらも、皆の顔をキョロキョロと下から見回していると。

(父さんは俺達から離れた所で、ソウェイルと2人ーー1人と1槍?ーー真剣な顔で話し込んでいる。)

 

ふいに、何処からともなく強い視線を感じた。

 

 

「オルガマリー。

実は・・少しばかりトラブルに見舞われまして。」

 

「トラブル?」

 

 

マルタさんとマスターが話している間に。その視線が気になった俺は、周囲に目を走らせ視線の主を探す。

 

 

「ブルルルッ」

 

「ーーあれ?」

 

 

視線が来る方向を見定め、そちらに眼を向けると。そこに居たのは1頭の白馬ーーベイヤード。

俺はまさかのお馬さんからの熱い眼差しに驚きながらも。嬉しくて自分の心が浮足立つのがわかった。

 

今まで、主人のゲオルギウスに許可を得ず。

勝手に触ってはいけないと思って我慢してたけど。これはあれだよね?

『さあ!私の自慢の美しい(たてがみ)を早く撫でてくれ!アニマルスキー(動物好きな人間)よっ!!』っていうあの子からのアピール(お誘い)だよね?

 

ベイヤードのサラッサラッなストレートヘアー。

もとい綺麗な鬣に触りたくて内心ウズウズしていた俺は。願ったり叶ったりな、お馬さんからのお誘いに大喜びでベイヤードに近づく。

そして・・・。

 

わぁあっ!!指通りがすごいっ!

サラサラキレイだっ!

撫で心地もサイコーッ!!

これはフォウくんのふわふわ毛並みに全然負けてないぞ。むしろサラサラ毛並み部門で一等賞とれるんじゃないかっ!?

 

俺は期待を裏切らない素晴らしい鬣の手触りを。頑張って背伸びしながら、両手を限界まで伸ばした状態で存分に堪能した。

(ナデモフする為ならば、この程度の苦労たいした事ではないのだっ!)←

よく分からないけど。ベイヤード自身はなにやら酷く動揺したように、何度も。

俺→ゲオルギウス→背中の黒い荷物、と顔を忙しなく動かしては。何かを訴えるような真っ直ぐな瞳で俺を見つめてくる。

 

・・・・ふむ。

なるほど、わかったぞっ!

 

 

「『もっともっと私の美しい鬣を撫でて、褒めってくれ』って?大丈夫だよー。

そんなに急かさなくても、君の鬣が綺麗で凄いのは。俺、もう充分わかってるからねっ!」

 

「ブルッ!?」

 

 

お馬さん自身からの催促が嬉しくて。

俺は頬を緩めながら、一心不乱にナデナデをし続ける。

これぞアニマルスキー(動物好き)の本懐といわんばかりの状況に(伸ばした両手足がプルプル震えてきたけど。大丈夫だ、まだいけるっ!)至福に浸る俺はーーだから。

 

 

「むむぐ?むぐ。むぐむぐ・・む"むぐっ!

(鬣?違う。美しいのは・・君の声っ!)」

 

「・・・へ?」

 

 

気づくのが遅れてしまった。

すぐ側にあるモノが、ただの荷物ではなく。

口と四肢を縛られ、厳重に拘束された黒い服の男だという事に。

そして、熱い眼差しを俺に送って来ていたのはお馬さん(ベイヤード)ではなく。その背に乗せられていた、この黒服の男の方だったという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲオルギウス達を襲ったトラブルーー黒いマントに、顔半分に不気味な仮面をつけた(素顔の部分は、何故か赤く腫れあがっている。まるで殴られた痕みたいだ。)男の人は。

名前を《ファントム》という、生前『オペラ座』の地下迷宮に棲んでいた怪人だそうだ。

 

《竜の魔女》が新たに召喚した《バーサーク・サーヴァント》ではないかと云うことで。

敵の情報をGETする為に、《座》には還さず捕虜にしたらしいんだけど・・。

 

 

「クリスティーヌ・・ああっ!

君の声は、まさにクリスティーヌ。

我が愛しき歌姫のそれ・・っ!」

 

「うぇ!?くりす?えっ?・・だれ?」

 

「なん、ですってっ!?」

 

「・・・・マジか。」

 

〘わーお☆〙

 

 

どうしてか、この怪人。

生前に想いを寄せていた《クリスティーヌ》という歌姫さんと、俺を。いつの間にか同一人物だと勘違いしていたのだった。

 

いやいやいや。

ちょっと待とう!

今の俺の声は、子供特有のソプラノボイスだから女性の声と聞き間違えても仕方ないのかも知れない。けどさ・・。

 

 

「よく見てよ!

俺、男だよ!?子供だよ!?」

 

 

おそらく彼の知るクリスティーヌさんとは似ても似つかないだろう俺の容姿を。変に思わないのかと、俺は怪人ファントムに訴える。しかし・・。

 

 

「姿は違う。

けれど、その美しき声音は間違いなくクリスティーヌのもの。君こそ歌姫。

生まれ変わった。今を生きるクリスティーヌッ!」

 

 

一切の迷い無く、俺は歌姫さんの《生まれ変わり》だと返されてしまった。

 

た、確かに。俺、生まれ変わった事あるけどさ。

それは《アキラ》としてだからね!

しかも、もう死んで生前の《コンラ》にまた戻ってるから!

一貫してずっと《()》で、1度もクリスティーヌさんっていう《女性()》になった覚えないからっ!!

 

 

「ーーだからっ!

俺は《クリスティーヌさん》じゃなくて。

《コンラ》なんだってっ!!」

 

「あぁ・・ようやく、ようやく。

美しい声の君に、再び出逢えた・・クリスティーヌ。麗しき我が天使。」

 

 

だ、ダメだぁ。

この怪人、俺の『歌姫さんとは別人だよっ!』アピールをものともしない。

《狂化》の影響か何なのかわからないけど。

思い込みが凄すぎて、彼の中の《俺=クリスティーヌさん》が不動のものと化していて崩せないっ!

 

縛られ拘束されている自分の状況がわかっていないのか。俺の事をひたすらガン見しながら、ウットリした表情で俺の声に聞き入っている怪人。

変態芸術家(ジル・ド・レェ)ほどの恐怖は感じないけど・・なんだか嫌だなぁ。)

 

だから、何度も言うけどさ。

俺は貴方の大好きな歌姫さんではないんです(泣)

 

 

「ちょっと!勝手なこと言わないで!」

 

 

困り果て、俺が内心で泣きそうになっていると。

急にマスターが語気を荒げて俺を自分の後ろに押しやり。ファントムの視線を遮る様に自ら前に出た。

 

ええっ!?

相手は拘束されてるとはいえ敵だよ!?

危ないよマスターッ!!

 

驚いて、下がるよう声をかけようとしたけれど。

それより早くマスターが口を開く。

 

 

「誰がアンタの天使ですって?

違うわ!この子は、コンラはーー『私の』天使なんだからっ!!」

 

 

・・・へ?てんし?

 

 

「マスター?」

 

「ハッ!ご、ごほんっ!

ーーー間違えました。

コンラは私の・・かけがえのない大切なサーヴァント。これ以上、邪な眼で見ることは許しませんっ!」

 

「ッ!マスターッ!」

 

「邪な眼って・・お前がソレを言うのかよ。」

 

〘ひゃははははっ!!

ドラゴンライダーの次は歌姫にエンジェル☆

お孫様もお忙しい事でー。〙

 

 

一瞬、変な単語が聞こえた気がしたけど。

マスターが俺を《大切》だと言って。

俺の身を案じ怪人に怒ってくれた事が嬉しくて。そんな些細な出来事はどうでも良くなってしまった。

(なにやら父さんが呆れ顔でマスターを見つめ。ソウェイルは笑いながらクルクルと独楽(こま)のように回っていた・・解せぬ。)

 

こんなにも《サーヴァント》を想ってくれる、優しい《マスター》はきっと他には居ない。

俺は改めて、俺の《マスター》がマスター(オルガマリー)で良かった・・と。

ポカポカと胸の中心が温かくなるのを感じながら。マスターと《契約》できた、今すぐ傍らにある自分の幸福を。深く深く噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターが怒って抗議してくれたものの、ファントムの不屈の思い込み(俺=クリスティーヌさん)は正す事ができず。

最終的には放置して、当初の目的どおり敵の情報を得る為の尋問タイムが始まった。

 

拘束されたファントムの前に立つのはゲオルギウスとマルタさん。後ろには一応、逃亡を防ぐ為にジークフリートが待機し。

その肩には相変わらず(何故か怯えた様子で)マスターの動向を伺うマルちゃんが乗っていた。

 

そのマルちゃんの姿に(何かを察したような顔で)憐れみの眼差しを送る父さんと。またもや爆笑しているソウェイルに俺は首を傾げ。

 

とりあえず怪人から十分に距離をとった安全な場所でーー今度はゲオルギウスの了承をちゃんと得てからーーベイヤードを撫でさせてもらっていた。

 

一緒に鬣を愛でているマスターは、最高の手触りによほど感動しているのか頬を染めながら。

ポツリポツリと独り言を呟いている。

(馬と戯れる姿もっ!とか。

そういえばこの子、王子様なのよね?

王子ーー私の、白馬の王子様っ!!とか。よく意味の分からない言葉が聞こえたけど・・きっと何かベイヤードに対する賞賛の言葉なんだろうな!←)

 

 

「マスターに褒めてもらえて、良かったねベイヤード。」

 

「ぶるっ!?ーーーブルルッ」

 

 

俺が撫でやすいよう、頭を下げてくれていた賢いベイヤードの鬣から手を離し。今度は首筋を優しく撫でながら、笑顔で話しかける。

 

すると、ベイヤードは信じられない物を見るような眼差しで俺を凝視し。数秒後には、どこか困った様な色をその瞳に宿して小さく鳴いた。

(ーーあれ?

この眼・・俺が何か失敗したり、無茶した後で。父さんやマスターがよくする眼に似てるような・・?)

 

 

「答えてください、ファントム。

貴方をこの地に喚んだのは《竜の魔女》ジャンヌ・ダルクですね?」

 

 

意図せずベイヤードと見つめ合いながら。

過去の記憶を掘り起こそうとした俺の耳に、ゲオルギウスの真剣な声が届く。

 

あっ、始まった。

俺もちゃんと聞かないとな。

 

思考を中断し、ベイヤードを撫でる手だけはそのままに。視線をゲオルギウスとマルタさんの背越しのファントムに移した俺は。

緩んでいた表情を正して、彼らの会話に耳を傾ける。

 

 

「ああ、クリスティーヌ。

君の声を私は聞きたい・・。」

 

「ーーでは、他の質問にしましょう。

貴方の他に喚び出されたサーヴァントは、何人ですか?」

 

「ああ、クリスティーヌ。

君の唄が私は聞きたい・・。」

 

「ーーーーーでは。

1人でも構いません。

そのサーヴァント達の中に《真名》がわかる者はいましたか?」

 

「ああ、ああ、クリスティーヌッ!

どうかクリスティーヌッ!唄ってっ!!」

 

 

「」←ゲオルギウス

 

「」←マルタさん

 

 

おおぅ・・。

あの怪人、まるでゲオルギウスの声が聞こえてないや。しかも2人が透明人間になったかのようにスルーしつつ、俺に執拗に唄の催促をしてくる。

(俺、歌とかあんまり得意じゃないんですけど・・)

 

 

「ーーーゲオルギウス。どうするのこれ?」

 

「ふむ・・仕方がありませんね。

少年、悪いのですが簡単な歌を1曲唄って頂けますか?」

 

「えっ。」

 

 

まずは((歌姫さん)の声と唄に飢えている)怪人の欲求を満たし、狂える精神を少しは落ち着かせたいというゲオルギウス。

まぁ・・確かにこのままじゃあ、情報を聞き出すどころじゃないもんな。(それ以前に会話にすらなってないし。)

 

それにしても歌かぁ・・音痴ではないと思うんだけど。知ってる曲自体が多くないんだよな。

それで全部の歌詞を憶えてるのとなるとーーううん(悩み)

 

 

「短くてもいい?ゲオルーー」

 

「クリスティーヌッ!君が唄ってくれるなら!」

 

「・・・・問題ないようですね。」

 

「ーーーうん。」

 

 

ゲオルギウスに聞こうとしたら、言い終わる前に本人が速攻でOKを出してきた。

どれだけ俺に歌を唄って欲しいんだろうか。

(何だろう・・だんだんこの怪人がオヤツを前にした黒い大型犬に見えてきた。うん・・大丈夫。それ()なら怖くない!←)

 

 

「コンラの、生唄(なまうた)・・っ!」

 

「(歌か・・・生前のケルト音楽系か?)」

 

 

ーーよし!

ファントム本人からの了承も得た事だし、人前で唄う覚悟も出来た。俺は腹をくくって、一歩大きく前に出る。

歌うぞ!せーのっ!!

 

 

「俺の2つ目の母国の国歌ーーー『君が○』、いきます!!」

 

「まさかの極東の島国チョイス!?」

 

「なんでお前、それを選択したっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌を唄っている最中、父さんやマスター達が何故かざわついていたけど。俺はちゃんと最後まで唄い切ったぞ!

そして、肝心のファントムはというとーー。

 

 

「ううぐ・・美じい!グスッ!

ぎみのごえは、うだはーーうつぐじすぎるっ!!」

 

 

俺の歌声にめちゃくちゃ感動して号泣していた。

こんなにも褒めて貰えるとは思ってなかったから、嬉しいような照れるような・・・うまく言えないけど。

とにかく怪人の反応がーー戸惑いなからもーー嬉しく思えて。

(うん・・もう怖くないや。)

 

俺は恐る恐る、数歩足を進めて怪人に近づき。

笑顔でお礼を述べ、俺達への協力(情報提供)を頼む事にした。

 

 

「俺は歌姫さんじゃないけど・・唄を褒めてくれてありがとう。」

 

「ッ!ク"リステ"ィーヌ"ッ!!」

 

「あのさ・・無理やり縛っておいて言うのも何だけど。俺達に《竜の魔女》達の事を教えてくれないかな?

とっても大切で必要なことなんだ。

だから・・お願い!」

 

「ク"リステ"ィーヌ"ゥウッ!!

ーーーぎみが、のぞむならぁあ"あ"あっ!!!」

 

 

「「「《早いっ!!?》」」」

 

 

おおっ!

試しにお願いしたら、即決で(泣きながら)協力OKを貰えた。やっぱり先に本人の望むモノ(俺(歌姫さん)の歌声)をあげたのが良かったんだろうな。

相手の心理を読んでいる、さすがだゲオルギウス先生っ!

 

 

〘怪人即落ち☆お孫様マジ恐ろしやー!!〙

 

「コンラの生唄。コンラの生唄。

なんで肝心な時に撮影機器が無いの!?

代わりにしっかり脳内保存しておかなくちゃ!!」

 

「(コンラのやつ・・変なのにばっかり懐かれやがんな。)」

 

 

なにやら胃の辺りを手で押さえている父さんが遠目に見え、不思議に思ったけれど。(お腹が空いたんだろうか?あれ?でも普通のサーヴァントはお腹減らないんだよな・・あれ?)

 

ゲオルギウスとマルタさんに促されるままーー今度は俺も一緒にーーファントムへの質問を俺達は再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オペラ座の怪人ーーファントムから敵である《竜の魔女》達の情報を得て。

更に俺達・・というかゲオルギウスと父さんの持っていた情報と色々照らし合わせたところ、新たな事実が幾つかわかった。

 

まず、俺達の今いるこの街の名は『ボルドー』というらしく。なんでもワインの生産が盛んな街らしい。

(そういえば父さんがどっかからワインを見つけて、また『飲もうぜっ!』って誘って来たっけ。気づいたマスターにあっという間に取り上げられてたけど。)

 

ファントムから聞いた話だと、此処から北東に進んだ先にある『オルレアン城』を《竜の魔女》達は根城にしているとのこと。

 

《竜の魔女》ーージャンヌ・ダルクはあの変態芸術家(ジル・ド・レェ)を父さんが倒した後。

ファントム達、《バーサーク・サーヴァント》を複数人喚び出し。この《フランス》という国も、国民達も跡形もなく滅ぼすよう命じたらしい。

(なんて酷い命令をするんだっ!)

 

 

「そんな酷い事しちゃダメだよ!」

 

「ーーークリスティーヌ。

君がそう望むなら、私はその願いに従おう・・。」

 

 

もうフランスの人達に酷い事をしないで欲しくて、ファントムに注意したら。快く、もうこの国の人達を襲わないと約束してくれた。

(きっと・・この人、ホントはそんなに悪い人じゃないんだ。)

 

 

〘この怪人、ちょろいんっすね☆ひゃは!〙

 

「お前・・ちょっと黙ってろ。」

 

「ーーー驚いたわ。召喚主(マスター)の命に逆らうのは、とても難しい事なのに。どうやら(ファントム)の中の優先順位は召喚主(竜の魔女)よりクリスティーヌ(コンラ)の方が上位になっているみたいね。」

 

「《オペラ座の怪人》という概念じたいが、己の歌姫への愛の為に狂い。手を血で染めた男の物語。よく考えれば彼が愛する歌姫(クリスティーヌ)より優先するべきモノなど、この世に存在する筈がありませんでしたね。」

 

「尋問の件も含めて。(コンラ)が怪人の執着する歌姫(クリスティーヌ)と勘違いされたのは、俺達にとって幸運だったな。・・・誤認されている当人には、本当にすまないが。」

 

「・・・あら?この状況。

敵を味方にーー前の特異点(冬木)でも、こんな事があったような?」

 

《(何故、誰も槍が宙に浮いて喋っていることにツッコまんのだ!?)》←

 

 

他にも《竜の魔女》は金品をワイバーンに強奪させ、城に集めているようで。そんなにお金や美術品を集めて何に使うのかと疑問に思っていたところ。

マルちゃんから《ファヴニール(邪竜)》の黄金を求める欲求(強欲の呪い)を満たす為ではないかと告げられた。

 

 

《あやつにかけられた『呪いの腕輪』の力が『聖杯』の影響で悪い方に転じ。呪いが悪化してしまっているのやもしれん。》

 

 

『あくまで可能性だが・・』と最後に零し、重い口を閉ざしたマルちゃん。

(ーーーきっとファヴニール(息子さん)のこと。

心配してるんだな。)

 

 

・・・・そういった流れで。

新たに《オペラ座の怪人》ファントムを仲間に加え。『聖杯』を持つ《竜の魔女》の居場所を掴んだ俺達は、現在ーー。

 

 

 

 

 

「来い、コンラッ!

《手合わせ》だからって気を抜くんじゃねぇぞっ!」

 

「うん!わかった!」

 

 

ーー昨日まで居た(ボルドー)を出て、北にある広い森の中に居た。

《バーサーク・サーヴァント》達がフランス中に散り、城に居るのは《竜の魔女》と《邪竜》のみ。敵の戦力が分散している今が好機と。俺達一行は『オルレアン城』を目指し、真っ直ぐ北東へ進んでいた。

 

昨夜は辿り着いたこの森の入り口でーー睡眠が必要な俺とマスターの為にーー夜を明かし。

早朝から森の中を歩き続け、今は少し拓けた所で《食事&休息タイム》の最中だ。

(ソウェイルには申し訳ないけど、魔力節減の為に昨夜のうちに還ってもらった。本(槍?)も、夜だと充電がどうこう言って進んで戻ってったけど。何のことだろう?)

 

途中で襲って来た《魔猪》を返り討ちにして(生前も旅の途中でよく狩って食べたな。懐かしいや。)マスターと脂ののった肉を焼いて食べ。

腹ごなしに父さんが、《疑似サーヴァント》になった今の俺の『武術の腕前(実力)』をみてくれるというので、喜んで俺は手合わせを願ったのだった。

 

朱槍はーー万が一があった場合。父さん達のような《通常》サーヴァントと違う《疑似》サーヴァントな俺は、デッドエンド直行なのでーー危ないので使わず。

そこら辺に落ちていた手頃な棒で代用。

俺も同じよう(生前からの)愛用の剣を脇に置き、代わりに木の棒を構える。

 

 

「クリスティーヌ、危ない・・。

君を傷つけるモノはーー私が排除しようっ!」

 

 

さあ行くぞっ!と思いきや、まさかの乱入。

俺は慌てて、父さんに襲いかかろうとするファントムを止めた。

 

 

「ちょ、ちょっと待った!

これは模擬戦(もぎせん)だから大丈夫だよ。

それにこの人は俺の父さんだから、排除したら絶対ダメだっ!」

 

「っ!!?ーーークリスティーヌの、父親?」

 

「うん、そうなんだ。だから酷い事しないでね?」

 

「・・・・・・。」

 

 

良かった。無言だけど手袋の中に鋭い鉤爪を仕舞ってくれた。とりあえず襲う気は無くなったみたいだ。

(それにしてもあの長い爪が入るのに破れないなんて。あの白い手袋には一体どんな魔術がかけられているんだ?)

 

 

「・・・・オマエはクリスティーヌの、父親。」

 

「ーーあ"?ちげぇよ。

俺はこいつ(コンラ)の父親だ。」

 

「・・・そうか。

オマエはクリスティーヌの父親、なのか。」

 

「はぁ・・。わかってはいたが、とんでもなくバーサーカーな脳味噌してんなアンタ。」

 

 

ん?どうしてかファントムが珍しく、(歌姫さん)(歌姫さん)の敵以外の人に興味を持ったみたいだ。これは・・もしや《狂化》が解ける兆しではっ!?

 

ワクワクと期待して2人の遣り取りをそのまま見守っていると、ファントムは優雅な動作でペコリと頭を下げた。

うおおっ!これは、ついにーーっ!?

 

 

「はじめまして・・・・・お義父さん?」

 

「てめぇ殺すぞゴラァ!!」

 

「協力するわランサーッ!!」

 

「ええ!?何でっ!?」

 

 

期待は残念ながら外れてしまったけど。

それよりもファントムが『お父さん』と言っただけで激怒した父さんとマスターに俺は驚く。

(父さんは俺の『お父さん』だ。間違ってないのに。それとも、ファントムのお父さんだと周りに思われるのが嫌だったのかな?でも、そうなるとマスターは何故に?)

 

 

「おや。愛される(人気のある)息子を持つと父親は大変ですね。」

 

「少し過保護がすぎる気もするが・・」

 

「あの子が相手じゃ過保護にならざる負えないでしょ。・・・あと、私はオルガマリーが道を踏み外さないかが気掛りです。」

 

《あれは、もう手遅れだと思うぞ・・。》(震え声)

 

 

怒りの形相で怪人に(棒を槍のように扱って)殴りかかる父さん。

人差し指を構え《ガンド》を乱射するマスター。

それらを躱しながら、俺が『排除したらダメ』と言ったのを忠実に守り反撃しないファントム。

 

ま、まずいっ!

止める間もなく戦闘状態に入ってしまった。

3人を止めないと!!

 

何かを話しながら、コチラを暖かい眼差しで見ていたジークフリートやゲオルギウス達に。俺は急いで『手助け』を求める。

(さすがに3人一遍(いっぺん)に止めるのは俺1人では不可能だ。)

 

 

 

ーーーそして結局。

皆に手伝ってもらって戦う3人を止め。

俺が父さんと《手合わせ》を再開する事が出来たのは、それから1時間ほど経った後だった。

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

第三者視点

 

 

 

 

同時刻、コンラ一行が目指す『オルレアン城』の傍らにて。

 

 

「ーーーーえ?」

 

 

邪竜(ファヴニール)》の漆黒の広い背に座り、彼との何気ない会話を楽しんでいた《竜の魔女(ジャンヌ・オルタ)》。

彼女はふいに、己の『ルーラー』の力が《とある英霊》の《霊基》を感知し。思わず驚愕の声を漏らした。

 

 

「嘘・・でしょう?でも、この《霊基》は・・反応は小さいけれど。間違いなくーー」

 

【?、魔女。東の方角に何かあるのか?】

 

「ーーーふふふっ!

そう。そういう事なの・・下手な小細工をせず、正々堂々自分の力で勝ち取れっていうのね?

常は傍観者気取りの()も、偶には気の利いた事をするじゃないっ!!」

 

【・・・魔女?】

 

 

唐突に彼方を睨めつけたかと思えば。

1人呟き、嗤い始めたジャンヌ・オルタ。

その不可解な行動に己の魔女の身を案じ、声をかける邪竜であったが。続いて、彼女が彼へと発した台詞によりファヴニールは魔女の真意を知る事となった。

 

 

「・・ねぇ、聞いてよファヴニール。」

 

 

おもむろに邪竜を見上げ、視線を交わした彼女の黄金の瞳に灯るのは。

激しい殺意と破壊衝動の危うい()

 

 

「『聖処女(本物の)』ジャンヌ・ダルクが今。

この近くに来ているわ。」

 

 

好戦的な笑みを描く《竜の魔女》の唇は。

どこか愉しげな声音で、その事実を吐き出した。

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

※ようやく物語がオルレアン最終決戦に向けて大きく動き出しました。長かった・・こんなに長くなるとは作者も思いもよらなかったです。もっと上手く話を巻いていかないとっ!←

 

コンラくんがヤリニキの予想に反してケルト音楽を唄わなかったのは、単純に知らなかったからです。

生前のケルト時代は歌ってくれる親しい人も居なかったし。母親のアイフェ様に子守唄とか歌ってもらえる状態じゃなかったので。

冬木で暮らしていた頃も歌自体あまり興味がなく、他の趣味(釣りとか、甘味巡りとか、動物を愛でるのとか)に全力投球していた為。学校行事で恒例の《例の国歌》を選曲することに・・。それにしても極東の島国の国歌を聞いて感涙するフランス国民ーーしかもオペラ歌手ーーとはいったい(白眼)

 

そして加速する所長のキャラ崩壊とヤリニキの心労。お父さんが血を吐く日は近い(意味深)←

 

 



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狩人は去りて

第三者視点

 

 

中世フランスのとある森の中。

翠緑の衣装を身に纏う狩人の少女が、己の弓を引き絞っていた。

キリキリ、キリキリ。

強く、より強くと引き絞られていく天穹の弓(タウロポロス)

その矢の狙いは、父親と鍛錬に励む幼い少年ーーコンラへと定められていた。

 

彼女は離れた高い木の上におり、地上の少年との距離は遠い。

さらに場が森林ゆえに無数の枝や葉が邪魔をし、少年の姿を目視する事は難しい。

けれど、少女ーー《純潔の狩人》アタランテにとってそれらは障害には成り得なかった。

 

神域の弓術の使い手たる彼女の腕であれば。

射る対象が見えずとも、少年が野生の小動物のように俊敏な動きをしていようとも、決して狙いを外す事はないのだ。

必中の腕前を持つ、ギリシャ神話最高の狩人に狙われた少年の命は風前の灯火であった。

しかし・・・

 

 

「ぐ、う"ううう"ううっ!!!」

 

 

その死をもたらす矢は未だ放たれず。

狩人の顔に浮かぶのは勝利を確信した優越の笑みではなく。

何かに抗う苦悶の表情であった。

 

 

(ダメだダメだダメだダメだダメだっ!!

子供を手にかける事だけは!

子供の命を奪う事だけは!)

 

 

アタランテーー彼女はかつて、男児を望む父親に疎まれ森へと捨てられた捨て子であった。

女神アルテミスの慈悲により、聖なる雌熊に育てられ当時赤子であった彼女の命は救われた。

そして、少女はその出自から『ある願い』を抱くようになる。

 

それはーー『この世全ての子供たちが愛される世界』の実現。

世界の不条理により、何の罪もない子供達が与えられるべき愛を失い。

得るべきだった幸福を奪われる現実を、彼女は容認する事が出来なかったのだ。

 

彼女にとって全ての子供は《救われ》、《愛され》るべき存在であり。

《幸福》を享受するべき存在であった。

・・・だがらこそ。

 

 

(私は、私はあの子を殺さない!

殺してなるものか!!!)

 

 

己と同じ不幸な境遇の子供を無くそうとする、心優しき狩人の少女は身の内の狂気に抗う。

付与された《狂化》に理性を蝕まれながらも。

魔女の《命令》により、今にも暴れ回らんとする破壊衝動を抑えつけ。きつく歯を食いしばり。

己の《願い》とは真逆の、子供を害そうとする自身の体を静止しようとする。

 

 

「うヴ、ううヴヴうっ!!

うぐ、ぐっーーーッ!!!?」

 

 

だが、少女の抵抗も虚しく。

彼女の震える指は、弓につがえていた矢から離れてしまった。

 

少年へと放たれる必中の矢。

見開かれる狩人の瞳。

唇から漏れるのは悲鳴に似た掠れた声。

 

アタランテは、子供の命をまごう事なく狩り取るだろう一撃を放った己に。

その刹那、怒り。絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスティーヌを、私は護る。」

 

「っ!!?」

 

 

そんな彼女(アタランテ)を、そして子供(コンラ)を救ったのはーーー誰が予測したであろう。

歌姫(クリスティーヌ)への愛故に狂ったオペラ座の怪人《ファントム》であった。

 

己の《気配遮断》のスキルをもちい。

アタランテに気付かれる事なく、接近していたファントム。

彼は両手の鋭い鉤爪で少年(歌姫)へと放たれた矢を弾き、斬り刻む。

さらに、《狂化》に抵抗し不安定な精神状態であった為。心身ともに常より遥かに反応が遅れ、動けぬ狩人へと怪人は間を置かず肉薄する。

 

 

「我が歌姫を害する者よ。

お前を、私は許さぬっ!!」

 

「ーーッ!!」

 

 

狂気に染まる赤と、狂気に抗う緑の視線が数秒交わり。次の瞬間・・・・狩人の少女は無抵抗にファントムの凶刃に胸を貫かれていた。

 

 

「ゴホッ!ア、がっーーーふ、ふっ。

(あぁ・・よかった。これであの子を殺さずに済む。)」

 

 

あえて弓を構えず、大人しく殺される事を受け入れた少女は。血を吐きながらも、安堵したように小さく笑みをこぼす。

彼女は何故、怪人が少年を助けたのかを知らない。

けれど彼女にとって、少年を殺そうとする己を殺めてくれたファントムの出現は幸いであった。

 

『霊基』を破壊され、消えていく体。

バランスを保てず足場の枝から滑り落ちた彼女の、優れた瞳に最期に映ったのは。

 

 

 

「父さんっ!」

 

 

 

輝くような笑顔で、父親へと駆け寄る少年。

そんな少年を慈愛の滲む表情で見、受け入れる父親。

 

そこには『親に愛を与えられる子供』がいた。

そこには『得るべき幸せを受ける子供』がいた。

狩人の少女が《願い》、《望む》光景がーーそこにはあった。

 

 

(感謝するぞ、ファントム。

おかげで・・この光景を己の手で壊さずに済んだ。)

 

 

《純潔の狩人》アタランテ。

彼女は己の『願い』を体現するかの様な父子の光景を。その澄んだ瞳に、胸に刻みつけ。

自らの意思をもって、このフランス(第一特異点)より《座》へと還る。

重力に従い落下する彼女の体は、大地へぶつかるより早く消え去った。

跡形も無く、解けるように。

まるで、降り始めたばかりの新雪のように。

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「父さんっ!」

 

 

己の命がバーサーク・アーチャー(アタランテ)に狙われていた事など、露知(つゆし)らぬ少年ーーコンラ。

彼はつい先程まで、模擬戦のような形で父親と修練を行い、一心不乱に打ち込んでいたのだが。

ふいに、得物代わりの棒を降ろし。

ランサー(クー・フーリン)の元へと荒い息を整える間もなく走り寄った。

そして満面の笑顔で鍛錬の成果を尋ねる。

 

 

「父さん。俺の今の動きどうだった?」

 

「あーー。そうだな。」

 

 

対照的に、ほとんど息を乱していないランサー。

彼は息子の問いに、長い棒をトンッと己の肩に軽く乗せながら何と答えるべきか思考を巡らせる。

 

実を言うと、得物()を交え始めた当初のコンラの動きは(ランサーから見て)とても酷いものであった。

どうやら思い出した《生前(ケルト時代)の記憶》が、彼の思惑に反し悪い方向に息子に働いてしまったらしい。

それは《過去の肉体の記憶》と《現在の肉体》の動きのズレ。

 

かつて《赤枝の騎士団》の猛者達を容易(たやす)く地へと沈め。

アルスターの英雄と謳われたランサーに、奥の手である《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》を使わせるまで追い込んだコンラ。

その幼い肉体は成長途中であるにも関わらず。

身に付けた武芸と同様に、7歳とは思えぬほど洗練されていた。

僅か半年とはいえ(思うところも聞きたい事も山ほどある相手だが)あの(スカサハ)に教えを受けた息子の実力は。

当時のランサーの目から見ても抜きん出たものであったのだ。

 

しかし、《疑似サーヴァント》となった今のコンラの《肉体()》は昔とは異なる。

 

そもそもが《コンラ(光の御子の息子)》の概念を基に祖父であるルー(太陽)神が創り出した仮の肉体であり。

まったく戦や神秘に触れず生涯を終えた『2度目(アキラとして)の人生』という魂のブランクに合わせ、意図的に格落ちもさせているのだ。

詰まるところ、《現在の肉体》が《過去の肉体》に劣ってしまうのは当然なのである。

 

それを考慮し、ルー神は父親であるキャスター(クー・フーリン)のいる『第一特異点』に孫を送ったり。

カルデアの面々と会わせたりと色々手を回して可愛い孫の生存率を上げようと頑張っていたのだか・・・前にも述べた通り、すべて当事者に台無しにされてしまったのだった。

お爺ちゃんの努力は孫のカルデアス・ダイブにより水泡に帰したのであるーードンマイ←

 

・・・話を戻そう。

上記のとおり、コンラの《現在の肉体》は《過去の肉体》と比べて劣化している。

よってソコから生まれるのは《記憶》と《肉体》のズレだ。

 

つまり頭の中のイメージした動作に、体の方が追いつかないのである。

そのズレは1秒にも満たない短いもので、日常的な動作では少し違和感を覚える程度であった。

だが、戦闘の際はそのズレは顕著になり致命的なロスとなる。

同時に、遅れる四肢の動きは生前に身に付けた武芸の鋭いキレさえ奪う。

 

結果的に、《生前の記憶》を思い出した事でコンラは思い出す前よりーーー弱くなってしまったのだった。

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

《ーーーッ。》

 

《・・コンラ。》

 

 

父親との手合わせで初めて発覚したその事実に、コンラはショックを受け。しばし呆然としていた。

そんな息子の姿を痛ましく思い、ランサーは続けて声をかけようとしたが。

 

 

《・・父さん、良ければなんだけど。

もう少しこのまま俺に付き合ってもらってもいい?》

 

《っ!ああ、構わねぇが。》

 

 

それより早く、心を持ち直したコンラがランサーへ鍛錬の続行を頼んだ事で。父親の口から励ましの言葉は出ることは無かった。

 

 

《大丈夫か?》

 

《うんっ!》

 

 

自分を気遣うランサーの言葉に大きく頷くコンラ。少年の瞳には、強い決意と意志の光が宿っている。

 

 

《弱くなったのには驚いたけど。

その分、いっぱい努力して強くなるから大丈夫っ!》

 

《・・そうか。》

 

《うん、強くなるよ。前と同じ・・ううん。

前を超えるくらい強くなってーーー護るんだ。》

 

 

己の確固たる決意を吐露しながら、横を向く息子。

その視線を辿れば、父子の鍛錬の邪魔にならないよう離れた所で。

コンラの身を案じ、仲間達と共にコチラを心配そうに(うかが)彼のマスター(オルガマリー)の姿があった。

 

 

《(ーーなるほどな。)》

 

 

一連の息子の様子に、オルガマリーの存在がコンラの心の支えになっている事を確信するランサー。

彼は息子の成長を喜ぶ傍ら、進みゆく親離れをちょっぴり寂しく思った。

 

・・・・息子の心の支えに《オルガマリー(護るべき存在)》だけではなく《(頼れる父親の存在)》も含まれている事など、当の本人は思いもよらぬのだった。

ーーランサーよ、そう云うところだぞ。

 

兎にも角にも、父親は息子の頼みに快く応え。

お互いが降ろしていた得物()を、おもむろに相手に向けて構える。

そして鍛錬を再開し・・・・この後に。

ランサーは我が子のぶっ飛んだ『才』に改めて度肝を抜かれる事となったのだった。

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「父さん。俺の今の動きどうだった?」

 

「あーー。そうだな。」

 

「自分で言うのもなんだけど。

けっこうイイ感じだったと思うんだっ!」

 

「ーーー。」

 

 

耳に入った息子のその無邪気な発言に、フッと父親の眼は思わず遠くなった。

 

 

(イイ感じ・・どころの話じゃねぇわな。

この短い時間でよくもまあ、ココまで動けるようになったもんだ。)

 

 

そう。ランサーが反射的に現実逃避し、内心でぼやく程。

コンラは驚くべき短時間でーー《生前(ケルト時代)の記憶》を思い出す前に近いーー肉体のキレをその身に取り戻したのだった。

 

どうやら《過去に積んだ武術の記憶》を《今の劣化した肉体》に合うよう脳内シュミレーションで格落ちさせ。

その動きを鍛錬しながら徐々に『今の体』に覚えさせ、慣れさせていったらしい。

 

確かにこの方法なら、劣化した体を生前(ケルト時代)の優れた肉体に戻す為に1から鍛えるーーなどという。

正攻法(せいこうほう)だが時間のかかる(すべ)より、遥かに早く実戦で戦える体に己を戻す事が出来る。

 

誰に教えられるでもなく。

自ら効率的なこの打開策を思いつき、すぐさま行動に移したコンラ。

それはさながら、極限状態で生き抜く野生動物の本能にも似た順応力であった。

 

たった小1時間で武術の腕を(ランサー基準で)『下の下』から『上の中』に上げた息子にーー生前の実力を身を持って知っていたーーランサーでさえも驚愕せずにはいられなかった。

さすがアルスター最強の大人(父親)を手加減しながらボコボコにした子供(息子)である。←

 

目撃したコンラの飛び抜けた才能に、強い相手と今後槍を交えられる事を喜ぶ《戦士》としての想いと。

近い未来《父親》としての威厳がなくなる事を危惧する想いが胸中に同時に湧き上がり。

何とも言えぬ複雑な気持ちに囚われるランサー。

 

 

「・・父さん?」

 

 

だが、反応の薄い父親の様子に不安を覚え、顔を曇らせ始めた息子と眼が合い。

彼はそれらの雑念を払うように首をゆるく振り、ガシガシと空いた手で頭を掻く。

 

 

(まあ・・何だ?

とにかくそれだけコイツはーー頑張った、て事だよな。)

 

 

ならば、褒めてやるべきだと。

ランサーは片手を伸ばし、汗で額に張り付いた息子の前髪をサッと払い。そのまま労るように小さな頭を撫でてやる。

 

 

「ああ。さっきのは今までで1番良い動きだったぜ。よくやったな、コンラッ!」

 

「っ!」

 

 

ランサーが笑みと共に返した言葉に、パアッ!と顔を綻ばせるコンラ。

大好きな父親に《手合わせ(鍛錬)》に付き合ってもらえた上に、手ずから褒められたのだ。

彼の喜びと興奮メーターはこの瞬間ーーー振り切れた。

少年は握っていた棒をポーンッ!と投げる様に放り出し、これまた大好きな己のマスターの元にダッシュで報告に走る。

 

 

「マスターッ!マスターッ!

父さんに褒められたよ!!

いま俺、父さんに褒められた!!!」

 

 

その姿はさながら飼い主に全力でじゃれつく子犬のよう。

ピョンピョングルグルとオルガマリーの周りを跳ね回りながら、溢れんばかりの喜びを体現する少年。

 

彼の頭部に生える犬の耳と、興奮気味にブンブンと揺れる尻尾の幻が見え。思わず聖人2人と邪竜に近しい2名は己の目を擦った。

わんわんっ!わおーーんっ!!と今にも元気な子犬の鳴き声が聞こえてきそうな光景である。

 

 

「ふふっ・・良かったわね。

でも少しだけ止まって、コンラ。」

 

「?、うん!」

 

 

そんな少年の様子に目元を優しく緩ませながら。

オルガマリーはコンラを柔らかく静止し。自ら膝を折り、目線を合わせる。

そしてハンカチで少年の顔を伝う汗や、付いてしまった土片を甲斐甲斐しく拭い始めた。

 

 

「こんなに汚れて・・怪我はない?」

 

「うん!してないよ。

ありがとうマスターッ!」

 

 

彼女の行動に『俺のマスターは、やっぱり世界一優しいっ!』と幾度目かの感動を覚えるコンラ。

おかげで興奮は少しばかり治まり、紅潮した頬は喜びと感動でふにゃふにゃと緩みっぱなしである。

 

対してオルガマリーの方は落ち着いているように見えるが。

その内心は絶賛『コンラ(いと)し、ランサー(ねた)まし』の感情が嵐のように吹き荒れている真っ最中である。

 

飼い主とペット(子犬)

あるいは若い母親と子供。

傍から見ればそうとしか形容し得ない2人の様子に、彼らの(片方は無自覚な)恋心を知っているランサーは苦笑するしかない。

 

 

(あいつ等の背は後で押してやるとして・・。

これで、気掛かりだったコンラの戦闘面での不安はひとまず無くなったな。)

 

 

ワイバーン程度であれば余裕で倒せる力を、再び取り戻した息子に安堵しつつ。

無理を言って長らく待たせてしまった他のメンバーに一声かけるかと。彼は肩に乗せたままだった得物()を降ろし、歩き出したーーー瞬間。

 

 

 

 

 

【■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!】

 

 

「ーーーーーグッ!!?」

 

 

 

 

彼の頭の中で突如上がったのは、獣の咆哮。

続いて(霊基)の奥底で大人しく微睡んでいた《モノ(狂気)》を(かい)し、直接叩き込まれてくる『誰か』の声。

 

 

 

【■■■だ。待■■■。

 

必ず■■■■■■■■■■てやる。

 

■■■そ今度こ■今■こそ■■■そ。

 

何が■■■■、■■に。

 

■が■■■をーーー】

 

 

 

脳髄に流れ込むのは耳鳴りのような雑音越しの言葉の羅列。グニャリと世界が歪み、紅く染まる。

 

 

(なん、だ・・・これは?)

 

 

全てを聞き取る事ができず、言葉の意味はわからない。

けれど、ランサーは不思議と其処に含まれる譲れぬ想い(感情)だけは理解できるような気がした。

覚えがあるような気がした。

 

 

 

トリモドセトリモドセトリモドセトリモドセトリモドセステテコワシテコロシテクラッテケシテナオシテモウイチドマモルヤクソクマッテロムカエニイクマモルコンドコソオマエヲシアワセニノゾミヲカナエテヤル

 

 

喪失、憤怒、哀惜、絶望、悔恨、憎悪、殺意、切望、執着、決意。

 

段々と『誰か』の想い(感情)が鮮明になり、形を成していく。

ふと、目を開けているのか閉じているのかもわからない赤い歪な世界の中に。黒い何かが不気味に蠢いているのが見えた。

 

ずるり、ずるり、と。

液体のようであった《ソレ》は、次第に『(誰か)』の姿を(かたど)っていく。

 

 

(誰だ、てめぇっ!)

 

 

己の異変の原因らしき《ソレ》に衝動的にーー口がどうしても動かず、心の中でーー彼は怒鳴る。

 

 

【・・・おまエこソ、誰ダ?】

 

「ッ!!?」

 

 

すると、応えが《ソレ》から返ってきた。

聞こえたその声にランサーは驚きを露わにする。

 

届かぬ筈の問いに、思いがけず答えが返ってきた・・からではない。

《ソレ》の声に、聞き覚えがあったからだ。

ついに完全な人の形になった《ソレ》が何者なのか、否が応にもわかってしまったからだ。

 

ドルイドの服を身に纏う《ソレ》は、長い蒼髪を揺らし。今まで背を向けていたコチラ(ランサーの方)へ振り返る。

 

血に染まったかの様な世界にも紛れぬ、ひときわ異質な。

深く暗い。どこまでも底がみえない。

深海に似た光無き紅瞳が、彼の姿を捉えーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーーガッ!!!!

 

 

「ーーーっ!!」

 

 

 

ーーーる前に、ランサーは自らの頬を殴り。

赤い世界に囚われていた己の意識を『痛み』で強制的に現実へ引き戻した。

 

 

(あっ・・ぶねぇ!

もう少しで『引き摺られる』ところだったぜ。)

 

 

手加減なしで殴った為に、口の中が切れ血の味が口内に広がる。だが、そんな事は今のランサーにとっては些細な事であった。

彼が先ほど見た《アレ》は、紛れもなく。

 

 

(間違いねぇ。

あれは・・《オレ(クー・フーリン)》だった。)

 

 

《ダブルクラス》には成り得ぬ《三大騎士(ランサー)クラス》でなければ、抵抗する間もなく向こうの《狂気》に引き摺られ呑まれ(バーサーカー化し)ていたかもしれないと。彼は人知れず背にイヤな汗をかいた。

 

前世の息子であり、友である『アキラ』を殺めた《冬木の一件》以来。

ランサーは、その記憶を有する己の中に《狂気》が残留している事を自覚してた。

しかし、それは十分彼自身の意思で制御できるものであり。

今までも特に問題はなかった。

それが此処に来て、異様な暴走を起こしたのは・・。

 

 

(どう考えても、あのドルイド衣装のオレが何かしら絡んでるとしか思えねぇ・・)

 

 

しかも流れ込んで来たあの自分(クー・フーリン)の一部の《思考》や《感情》から察するに。

相当アッチの己はイカれているらしい。

 

 

(それにしてもドルイドの格好ってことは、あのオレは《キャスタークラス(魔術師)》で召喚されてるって事だよな?

ーーーん?ちょっと待て。

キャスタークラスの、オレ(クー・フーリン)?)

 

 

ランサーは思った。

そのオレ、知ってると。

物凄く心当たりがあると。

 

記憶を(さかのぼ)れば、父親(ルー神)息子(コンラ)の口からも彼は【その存在】について幾度も語られていた。

 

 

《すまない、セタンタ。

黒幕に私の存在が気取られたせいで魔神柱共との無限バトルを強いられている。

そのせいでカルデアに召喚された【キャスターのお前】にコンラの生存を伝えられなかった。カルデアの者達はコンラとマスターの女が生きている事を知らなーーー》

 

 

《【キャスターの父さん】に初めて頭を撫でてもらった時は不思議と嬉しかった。

記憶が無かったから、あの時はわからなかったけど。生前の『頭を撫でて欲しい』って願いを父さんは叶えてくれてたんだねーーー》

 

 

 

(おいおいおい。嘘だろ?)

 

 

 

ランサーは気づいた。

元は同じ人物(クー・フーリン)であるが故に。

とある獣以外、誰一人気付いていない。

もう1人の()異常(狂気)に。

 

 

(あのイカれた(キャスターの)オレは、『カルデア』に居るヤツかっ!!)

 

 

自分達が(合流の為)目指している場所に、マトモではない(狂った)己が居る。

それは彼に、強い警戒心を抱かせた。

 

 

(直接ヤツと顔を合わせる前に、どうにかしてアッチの様子を探れねぇもんか・・。)

 

 

例え同じ《モノ(狂気)》を『霊基』に宿し、干渉しやすくなっているとしても。別の場所(次元)にいる相手にまで影響を及ぼすことは難しい。

その事から、あちら(カルデア)側の己も今はこの《特異点(フランス)》に居るとランサーは考え。

息子(とそのマスター)の安全を考慮し。

合流する前に、どうにかしてカルデア側の様子を偵察出来ないかと頭を悩ませる。

 

 

「ーーーーーーヌ。」

 

「うわあっ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

「っ!!」

 

 

 

そんな彼の思考を、唐突に上がったコンラとオルガマリーの悲鳴が遮った。

ランサーはとっさに地に置いた朱槍を蹴り上げ、掴むと。そのまま流れるような動きで矛先を声の方に向ける。しかし・・

 

 

「クリスティーヌ・・。」

 

「あ、何だ。ファントムかぁ。」

 

 

そこに居たのは敵ではなく。

少し前から姿を消していたオペラ座の怪人ーーファントムであった。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

「クリスティーヌ・・。」

 

「あ、何だ。ファントムかぁ。」

 

 

向き合う俺とマスターが横を向いて、2歩ほど足を進めればぶつかってしまう近場に。仮面をつけた黒い怪人が佇んでいた。

その姿に声をかけてきたのがファントムだとわかり、俺はホッと強張っていた肩の力を抜く。

 

さっきは何の気配もないところから急に(歌姫さんの名前でだけど)呼ばれたから。驚いて飛び上がってしまった。

マスターもかなり驚いたみたいで、胸に両手を当てながら息を整えている。

こんなに近づいても、声をかけられるまで気付けないなんて。

ファントムの『気配遮断(スキル)』は凄いなぁ。

(これならどんな動物でも気取られずにモフナデし放題で羨まし・・・あっ、でもさすがに触ったらバレちゃうかな?

いやいや!諦めるのはまだ早いぞ。

バレないよう上手く撫でればなんとかっ!)

 

 

「クリスティーヌ。

君の敵を、葬ってきた。」

 

「・・へ?」

 

 

自分には無いファントムの『気配遮断』スキルに感心して(&羨ましく思って)いたところ。

何の前触れもなく告げられた言葉に、俺の目は点になる。

俺の敵?エネミー?

あの変態芸術家(ジル・ド・レェ)生きてたの?(混乱中)

 

 

「て、敵って。えーと・・どんな人?魔獣?」

 

「《バーサク・アーチャー》。」

 

「そっか。《バーサク・アーチャー》かぁ。」

 

 

《竜の魔女》が召喚した《バーサク・アーチャー》なら確かに俺(達)の敵だね。

それなら納得だ。

変態芸術家(ジル・ド・レェ)が生きてたわけじゃないんだ。良かった!本当に良かった!←)

 

そうか。《バーサク・アーチャー》をファントムは倒してきてくれたのか。

そうかぁ・・って。えっ?

 

 

《バーサク・アーチャー》・・?

 

 

うええええ"え"ぇぇーーっ!!!!?

 

 

 

「アンタ、なにサラッと敵の戦力削ってんのよ!?」

 

「倒したの!?ファントム、《バーサク・アーチャー》倒したの!?1人でっ!?

強い!すごい!」

 

 

思わず長い黒マントをグイグイと引っ張りながら問い詰めれば。何故か嬉しそうな顔でファントムは背を屈め、俺の頬に白い手袋に包まれた手を添えながら囁いた。

 

 

「クリスティーヌ・・すべては愛しい君の為に。」

 

「oh・・・」

 

 

・・・・す、凄まじい殺し文句だった。

俺が女の人だったら確実に心を奪われていたと思う。

(父さんには負けるけど)ファントムもイケメンだしな。

イケメン、恐るべし←

 

そして(いくら勘違いしてるは云え)決して男の、しかも子供な俺に言うべきセリフではない。

なんかごめん。ファントム、歌姫(クリスティーヌ)さん。

 

 

「ちょっとぉおおおおっ!!?

人のサーヴァントを口説くの止めなさいよぉおおっ!!!!」

 

 

衝撃のあまり固まり、明後日の方に意識を飛ばしていた俺を。

ベリッ!と音がしそうな勢いでファントムから引き剥がし、抱き締めるマスター。

 

 

「うう・・何なのよもう!油断も隙もないわ。

何で世の中こんなに変態ばっかりなの?」

 

 

これまで何度か似たような事があったけど。

今回は今まで以上に強い力で胸元に押し付けられ、かなり息苦しい。

でも、聞こえてくるマスターの声は不安気に震えていて。

そんなマスターに、どうしても離れて欲しいと訴えられず。

俺は大人しくされるがままになる。

(あっ・・でも何か、ヤバイかも。頭がボーとしてきた。)

 

 

「アンタも十分、その(変態の内の)1人だけどな。」

 

 

視界ゼロ+意識が朦朧とする俺の耳に、呆れたような父さんの声がやけにはっきりと届いた。

 

 

「ど、どういう意味よ!?」

 

「そのまんまの意味だ。

それより早く離してやれよ。

コンラのやつ窒息死しちまうぜ。」

 

「え?」

 

「っ!、っ!」←(窒息寸前)

 

「いやぁあああっ!!コンラーーッ!!」

 

「クリスティーヌッ!!」

 

 

背中に回っていた両腕が慌てて解かれ。

自由を得た俺は「ぷはっ!」と大きく口を開き、新鮮な空気を肺に取り込む。

 

危ない危ない。

まさかマスターに窒息死させられそうになるだなんてっ!

 

 

「父さん。危険って、何処にでも潜んでるものなんだね。」

 

「その通りだな。・・けどよ。

今回の件はお前がその嬢ちゃんに甘過ぎるだけだろ。」

 

「コンラーッ!ごめんね!ごめんね!」

 

「(俺がマスターに?・・そうかな?普通だと思うけど。)」

 

 

半泣きで何度も謝ってくるマスターを、『大丈夫だよ!怒ってないよ!』と繰り返し声をかけながら慰める。

 

後ろで不審な動きをーー手袋を外そうとーーしたファントムは、軽く殺気を飛ばして牽制した。

いくら仲間(ファントム)でも、マスターに危害を加えるなら容赦はしない(怒)

 

警戒しながら取り乱すマスターを落ち着かせていると。

父さんは(どこかショボンとした様子の)ファントムの横を素通りし、待っていてくれたゲオルギウス達に話しかける。

 

あれ?見間違いかな。

父さんの片側の頬が赤く腫れてたような・・?

 

 

 

「こっちの都合で待たせて悪かったな。」

 

「いえいえ、気になさらずに。

それより彼の剣の腕が戻ったようで何よりです。」

 

「そうね。

これから《竜の魔女》と一戦交えるんだもの。」

 

「・・・ところで、その顔の怪我はどうしました?先ほど、自分で殴っていたように見えましたが?」

 

「げっ!やっぱ気づかれてたか。」

 

「この距離ですから。

もしや、ランサー。貴方はーーー」

 

「・・・・・。」

 

「ーーそう云った特殊な嗜好(しこう)をお持ちで?」

 

「はぁあっ!?もってねぇよっ!!」

 

《ショタコンなマスターに。

父親が特殊な性癖持ちか・・あやつも苦労する。》

 

「ラ、ランサー。好みは人それぞれだから止めろとは言わないけれど。あの子(子供)が居る前でやるのは、さすがに控えるべきだと思うわ・・ほら。

倫理的に、ね?」

 

「『ね?』じゃねぇよ!!

恥じらいながらとんでもねぇ爆弾発言かましたな!?

アンタたしか聖女だったよなっ!?

そのくせ人を特殊嗜好者扱いすんのヤメロッ!!」

 

「すまない!ランサー、本当にすまない!」

 

 

 

んん?

何やら急に父さん達の方が騒がしくなったぞ。

 

マスターからチラリと視線を移せば、柔和な笑みを浮かべるゲオルギウス。頬を淡く染めたマルタさん。

何か語気を荒げて喋っている父さん。

申し訳無さそうな表情のジークフリートと、その肩に乗るマルちゃん。

・・という(揉めている?ような)皆の姿が視界に入った。

 

どうしたんだろう?

問題でも起こったのかな?

 

マスターが落ち着いたのを確認した後。

その手を引いて、俺は父さん達の元にトコトコと向かう。

 

 

「(私があんな事をしてしまったのに。

笑って許してくれた!また手を握ってくれた!

嬉しいっ!優しいっ!コンラ大好きぃいっ!!!)」

 

「父さん。何かあったの?」

 

「あぁ・・あった。

(おも)に俺の沽券(こけん)に関わることでな。」

 

古剣(こけん)

父さん、古い剣なんか持ってたっけ?

・・・はっ!もしかして噂で聞いたあの《クルージーン(名剣)》のこと!?

何処にあるの?見たいっ!!」

 

「ーーーーそう来たか。」

 

 

俺のお願いに、父さんは何でか疲れた様子で苦笑し。

『悪い、今は持ってねぇんだ。セイバークラスで召喚されたらな。』と応えてくれた。

どうやら《セイバークラス》の父さんしか《光り輝く剣クルージーン》は所持していないらしい。

ちょっと残念だ。

 

・・・・それにしても。

こうして改めて考えると、父さん(クー・フーリン)は色んな《クラス》の適正があるんだな。

 

生前(ケルト時代)に聞いた噂を基にすると《ランサー》と《キャスター》の父さんの他に。

《セイバー》、《ライダー》、《バーサーカー》か。

あっ!《アサシン》と《アーチャー》の2クラス以外全部だ!

さすが父さんっ!!

もしかしたら、《人理修復()》の途中で他のクラスの父さんとも会えるかもしれないっ!

 

 

「運良く適正クラス全員が集まったら、俺と父さん(クー・フーリン)だけで3対3のストリートバスケができるね!」

 

「(キャスターは知ってるからまだしも)

あと3人も増えるわけ!?

あ、悪夢だわ・・。」

 

「うげっ・・!

(バーサーカーのオレが召喚された時点でバスケどころじゃなくなるぞ、おい。)」

 

 

きっと楽しい試合(闘い)になると、ワクワクしながら同意を求めれば。予想に反してマスターは顔を引き攣らせ身震いした。

父さんも心底イヤそうに眉を顰めている。

ええっ!?変だな?

疑問に思った俺は直接理由を尋ねようとした・・のだけれど。

 

 

 

《む?》

 

「っ!!」

 

「おや?」

 

「あっ!」

 

 

 

マルちゃん、ジークフリート、ゲオルギウス、マルタさんの4人(3人と1匹?)が一斉にバッ!と北東の方角に顔を向けた事に驚いて。言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。

まるで始めから示し合わせていたかのような、一糸乱れぬ見事な揃い方だった。

 

 

「今のは・・」

 

「ええ。」

 

「間違いないでしょう。」

 

《気取られたかもしれぬな。》

 

 

そのままジークフリート達はお互いの顔を見、何かを確信したように頷き合う。な、何ごと?

俺達だけ『蚊帳の外』状態なんだが・・。

 

 

「おい。コントを始めるなら先に一言言ってくれや。ついてけねぇだろうが。」

 

「コントッ!?」

 

「すまない。そうではないんだ。」

 

「むしろ、コントで済めば幸いだったのですが・・。」

 

 

湛えていた微笑みを消し、難しい表情になったゲオルギウスはおもむろに口を開く。

告げられた予期せぬその内容に、俺は自分の耳を疑い。

マスターは呆気に取られた様に小さな声を漏らした。

 

 

「さきほど《邪竜》が動きました。

どうやら私達が向かっているオルレアン城は、すでに『もぬけの殻』のようです。」

 

「・・・は?」

 

 

えっ・・《竜の魔女(ジャンヌ・ダルク)》と《邪竜(ファヴニール)》。

お城に居ないの?

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

※大変、大変遅くなりました。

スランプと公私の忙しさで手が止まってしまい。 

なかなか更新を再開する事が出来ませんでした・・・申し訳ありません。

気づけばUAも10万突破しており、続きを待っていて下さった皆様には感謝の想いばかりです。

 

ありがとうございます!(泣)

ありがとうございます!(泣)

 

 

 

つ、続きまして。文章の話になりますが。

文中で説明不足な部分が幾つかあったので、付け加えさせて頂きます。

 

 

▼《光り輝く剣クルージーン》とは?

 

クー・フーリンが生前に使用していた名剣。

鉄の館の外壁に柄まで深々と突き刺さった上、隣接する木造建築の館2軒を貫通する威力をもつ。

(コレたぶん、斬撃的なものを飛ばしてますよね?)

 

水に浮かべた毛髪が触れただけで切れ、両断された人が暫し斬られた事に気付かぬ程の鋭い切れ味。

(オマエはもう、死んでいるっ!)←

 

にも関わらず、刃を折り返してくっつけられるほど柔軟な造りで。その状態で手を放せば、しなりながら直ぐにピンっと真っ直ぐ元通りになるとの事。

(素材が何なのか気になるぅ・・!)

 

 

 

▼その他の伝承に登場する武具は?

 

 

・《鏖殺戦馬セングレン》

 

公式認定のライダークラス時の騎乗馬。

黒毛のお馬さんで、実はマハという灰色の毛のお馬さんと一緒に兄貴のトンデモ戦車を引っ張っていたそうな。

でもマハの方は非公式。なんでさ←

 

 

・《恐槍ドゥヴシェフ》

 

ゲイ・ボルグとは別の槍。非公式。

頑張れば師匠と同じ二槍流になれる可能性があるかも?

 

 

・《空幻魔杖デル・フリス》

 

妙技を見せる投げ矢、または早業の杖。非公式。

重要なのは『投げ矢』の部分。

つまりアーチャークラスもイケるという事ですね。

 

 

・《Duban という名の盾》

 

コンホヴァル王の庇護下にいた、と或る盾職人を脅して作らせたもの。非公式。

ヤのつく職業の取り立てじゃあるまいし、何やってるの兄貴(困惑)

 

 

・《隠れ蓑》

 

ティール・タリンギレ(約束の土地)産の生地でこしらえたマント。養父からの贈り物。非公式。

フェルグス叔父貴ぃいいっ!!早く会いたいよ叔父貴ーっ!!

 

 

・《喋る剣》

 

人語を話す以外詳細不明の剣。非公式。

わかります。

槍が喋るなら、剣も喋らない道理はありませんしね←

 

 

以上になります。

そして今になって重大なミスが発覚。

 

 

▼クー・フーリンが自ら「俺には3人、いや。4人の女がいてなーーうんぬん。」とFGO内で語った4人の女性について。

 

 

《槍の師匠》←言わずと知れた影の国の女王スカサハ。

 

《姫さん》←海神の奥さんとのW不倫現場に武装した50人の侍女を引き連れ突☆撃!本妻エメル。

 

《死の女神》←おのれクー・フーリン憎し!影の国の隣国の領主アイフェ・・ではなく、戦女神でもあるモルガン。あれ?

 

《敵国の女王》←スーパーケルト○ッチで名高いメイヴ・・ではなく、こっちがコンラくんの母様アイフェ。

やってしまいました(白眼)

 

 

すでにお分かりの通り。

《死の女神》=アイフェと作者が間違った認識をしていた事が判明。なので、急ぎ前の文章の一部を加筆修正・削除しました。他にもおかしな部分が見つかりしだい修正していきます。

ファンの皆様、にわか知識でスミマセンッ!!←

 

次回は場面がコンラくん達からカルデア組に移る予定です。

ついに救国の聖女と元師が母国で再会を果たす時が、来たっ!!

 



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戦友

※2020/2/25、加筆修正致しました。
 2020/6/27、一部修正致しました。



 

第三者視点

 

 

ゲオルギウスとマルタは竜と(えにし)を持つ聖人である事から。ジークフリートとフレイズマルは邪竜(ファヴニール)(因子)を体内に持ち、一種の共感関係が成立している事から。

彼ら4人(3人と1匹?)が上記の理由で邪竜(ファヴニール)の動きを感知し、コンラ達へと伝えていた頃・・。

 

 

 

「なに、これ・・?」

 

「っ!!」

 

「・・・・。」

 

「そんな・・これを『私』がやったというのですか!?」

 

 

 

同じ空の下。

最後のマスターたる藤丸立香達は、焼け落ちた街ーーラ・シャリテへと足を踏み入れていた。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

藤丸立香視点

 

 

キャスター(クー・フーリン)あの女の子(清姫)を足止めしてくれたおかげで、私達は無事に目指していた(ラ・シャリテ)へと着くことが出来た。

けれど、そこで待っていたのは目を疑うような悲惨な光景。

《特異点F》や《ドンレミ》で、私は人が『人ならざる者達』に襲われたり。

街が燃え、家屋が燃やされている所を何度もこの眼で見てきた。

だから自分でも、少しは『こういったモノ』に耐性が出来たと思っていたんだけど・・・それはどうやら間違いだったらしい。

視界に入った黒い物体が、人の形をしているのを頭が理解した瞬間。

ガクリッと、此処まで酷使していた脚から力が抜け。地面に両膝をついてしまった。

 

 

「っ!?」

 

「先輩っ!?」

 

「マスターッ!」

 

 

思えば、自分が《人理修復》を行うキッカケとなった、カルデアでのレフによる爆破事件。

あの時は炎に囲まれた中。

重症を負ったマシュの手を握る事に必死で、周りに居ただろう息絶えた人々の事を気にする余裕は無かった。

 

《特異点F》では、コンラくんと所長を喪い。

親しい人と死に別れる痛みを味わったものの、彼らの亡骸を目にする事は無かった。

 

それが、この街には有った。

すぐそこに、居る。

変わり果てた姿で道端に横たわっている。

私はこの時、この世に産まれて初めてーーー他者に命を奪われた、人間の死体を直視したのだ。

 

 

「あ・・。」

 

 

ガクガクと四肢が震え。

嗅いだことの無い異臭が鼻を刺す。

口の中が渇き。

全身から血の気が引いていくのを感じた。

かつて無いほど、すぐ傍に自分の『死』の気配を感じた。

 

怖い怖い怖い。

死にたくない。

出来る事なら逃げ出してしまいたい。

安全な場所へ。

少しでも『死』から遠い所へとーー

 

 

 

 

 

《いやーーいや、いや、助けて。誰か助けて!

わた、わたし、こんなところで死にたくない!》

 

《所長を助けてくるね。》

 

《アイツが、コンラが・・死んだ?

ははっ・・冗談だろ?マスター?》

 

 

 

 

ーーでも。

私の脳裏を、家族や友人。

所長とコンラくん。

そしてキャスターの顔がよぎる。

 

 

 

「ーーー。」

 

 

 

・・・無理だ。

逃げるなんて、出来ない。

許される筈が、ない。

 

 

「大丈夫です、先輩。」

 

 

ふいに、私の冷えた手に触れる温かい感触と言葉。

恐る恐る隣に視線を移せば、私を安心させようと微笑むマシュが居た。

 

 

「私が先輩を護りますから、大丈夫ですっ!」

 

「マシュ・・」

 

 

マシュは包み込むように、その柔らかな両手で私の左手を優しく握ってくれる。

・・・彼女もまた、酷く青褪めた顔をしているのに。

 

きっと、マシュも私と同じで人の亡骸を直接眼にしたのは初めてなんだ。

怖い筈なのに。

私よりもずっと『死』というものを身近に感じた経験がある筈なのに。

それでも私の事を気遣って、気丈にも励ましの言葉をかけてくれている。

 

 

ーーーああ、私ったらダメな先輩だなぁ。

可愛い後輩に心配をかけて、こんな台詞を言わせちゃうなんて。

 

 

背負うもの(人理修復)に対する責任感や。

あの特異点F(冬木)から生き残った者としての罪悪感や義務感だけでなく。

マシュの健気なほどの優しさに後押しされて、挫けかけた私の心は奮い立つ。

こんな事ではいけないと自分を叱咤し。

グッと体の震えを無理やり抑え込み、立ち上がる。

 

 

「ありがとう、マシュ。

マシュのおかげで元気でたっ!」

 

「先輩っ!」

 

 

今の私に出来る精一杯の笑顔でニッコリと笑い。

喜びの色を瞳に瞬かせたマシュの手を握り返す。

 

そのまま手を引き、私に合わせてしゃがんでくれていた彼女を立ち上がらせると。

私は胸に湧いた熱い想いのままに、ギュッと後輩の細い身体を抱きしめた。

 

 

「ッ!?せせせせ、せんぱいっ!!?」

 

「ーーでもね、マシュ。

私は護られてるだけじゃ嫌なんだ。」

 

「・・え?」

 

「まだまだ私は頼りない先輩だけど。

マシュは私にとって大事な後輩だから。

私もマシュのこと・・護りたいんだ。」

 

「せん、ぱい・・」

 

「だから、だからね。マシュ。

さっきのお返しに・・。

今度は私がマシュのことをーーー元気にするね!」

 

「ふえっ?」

 

 

私は抱き締めたマシュの体を、両腕に力を込めて更に自分と密着させ。

柔らかな彼女の頬に自分の頬を合わせて、グリグリグリーッ!と頬擦りした。

 

 

「大丈夫だよー!もう怖くないよー!

お姉ちゃんがついてるからねー!!」

 

「ッ!!?」

 

 

昔、悪夢をみて夜中に起きた幼い兄妹にコレをすると。怯えていたのが嘘のように無邪気な笑顔を見せてくれたのだ。

たぶん触れる人肌と伝わる体温が、あの子達に安心感を与えてくれていたんだと思う。

 

だから、マシュが私を励ましてくれたお返しに。私もマシュを安心させ、元気づけようとしたのだ。けれど・・。

 

 

「ひうぅ!・・先輩っ。もう十分です!

十分過ぎですーーっ!!」

 

 

予想以上に早く、マシュから静止の声がかかってしまった。

 

 

「えー。早いよ、マシュ!

私まだ物足りない。」

 

「ものたっ!?

だ、ダメです!ダメです!

これ以上は無理です!近すぎです!

心臓が保ちませんーっ!!」

 

 

 

 

「お姉ちゃん・・」

↑(羨望の眼差しを送る、実は妹が欲しかった聖処女。)

 

 

「(くっ!なんて美しい主従愛だ・・っ!)」

↑(目頭を押さえる、バーサーカーな元《理想の騎士》。)

 

 

 

アワアワと慌てるマシュを不思議に思いながらも。あまりに必死な様子に、渋々回していた腕を解いて後輩の体から離れる。

 

距離を取った事でよく見えるようなった彼女の顔は、先程より血色がかなり良くなっていた。

(何でか涙目で、息も上がってたけど)

よかった。

短すぎないかと心配したけど、少しはマシュを安心させられたみたい。

やっぱりあのスキンシップの効果は絶大だね!

(私も幼い時にお世話になったし!)

 

 

 

 

ーーーまだ私の中にある《死》への恐怖は、消え去ってはいない。ううん。生き物である以上、きっとこの恐怖が消える事は絶対に無いんだと思う。

 

それでも・・・この感情(恐怖)にばかり囚われていたら、前に進む事は出来ないから。すぐ隣にある、大切なモノ()達を見失ってしまうから。

 

私は・・逃げずに。臆さずに。

この《感情(恐怖)》を胸の奥に抱えたまま歩いて行こう。

大切な後輩と、お互いを支え(護り)合いながら。

《人理修復》という重過ぎる使命を成し遂げるその時までーーー真っ直ぐに。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

お互いを励まし合い、動揺から立ち直った私とマシュ。

この街(ラ・シャリテ)に着く前に唐突に途切れたカルデアとの通信は今だ繋がらず。

何度呼びかけてもロマンとの連絡は取れないままだ。

 

キャスターが来るまで此処で待つと決めていた私は。ひとまず皆と話し合い。(希望は薄いと言われたけれど)

生存者が居ないか街中を探索することにした。

敵が居るかもしれないので、警戒しながら私達は死者の街を慎重に進んでいく。

 

 

歩く歩く歩く歩く。

燃え落ち、崩れた民家の側を。

黒炭と化した死者達の傍らを。

 

 

「信じられません。本当に・・これを《私》が?」

 

 

ジャンヌがどこか困惑が滲む声音で、ポツリと呟いた。

聞くと、ジャンヌはもう1人の自分(竜の魔女)が何故同郷の者達にこんな非道を行えるのか理解できないらしい。

 

 

「ーーしかし。国を救った貴女を、その同郷の者達は《魔女》と貶め処刑した。貴女が彼らに憎しみや恨みを抱くのは必然だと私は思いますが・・」

 

「ランスロット卿ッ!」

 

 

(ようやくお喋りを解禁された)ランスロットの早々の無遠慮な発言に、マシュが咎めるように声を荒げる。

けれど、ジャンヌの方は特に気にした様子もなく。むしろケロリとした顔でランスロットの疑問に応えた。

 

 

「それはあり得ません。

私は彼らの事を少しも憎いとも、恨めしいとも思っていませんので。」

 

「・・・(まこと)ですか?」

 

「はい。私は主の嘆きを聞き、フランス(母国)を救おうと立ち上がりました。しかし、それは誰かに強制されたわけではなく己の意思で決めた事。火刑に処されたのもまた、己の意思を貫くと選んだ故の結末。誰かを、彼らを恨むのは筋違いです。それに・・・」

 

「?」

 

「薄々、気づいてはいたのです。

フランスを救う事が私の役割であり、天命だと。

その使命を果たし、倒れた私の屍の先が・・・争いの無い『戦友』達の未来へ繋がるのなら。

それで私は満足だった。それだけで良かったのです。」

 

 

彼女が穏やかな微笑みと共に語るのは、生前から変わらぬ母国と戦友達への《想い()》。

そこには暗い感情の影は見えず。

その言葉がジャンヌの嘘偽りの無い本心であることがわかった。

 

 

「ーーーー。」

 

 

彼女のそんな姿を、ランスロットは何処か追想と憧憬のこもった眼差しで見つめていてーーー彼の唇が『王』と小さく動くのを、確かに私は見た。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーガラッ!!

 

「ジャンヌ・・」

 

 

 

 

 

 

「「「ッ!!!」」」

 

「誰ですかっ!?」

 

 

唐突に瓦礫が崩れる音と共に、耳に届いたのは人の声。

とっさに身構える私達の前に。

燃え残った民家の後ろから、ふらりと1つの人影が姿を現した。

 

肩まである黒い髪に、白銀の甲冑を身に纏う騎士。

彼はその両眼からボロボロと大粒の涙を零しながらコチラへと歩み寄る。

 

 

「ジルッ!?どうして貴方が此処にっ!!」

 

「えっ?ジャンヌの知り合い?」

 

「はい。彼は私の生前の副官であり、長らく私を支えてくれた戦友(とも)です。」

 

 

ジャンヌの言葉に彼が敵ではない事がわかり、私達は警戒をゆるめた。

・・・それにしても、本当に何でこんな危険な場所に?

 

 

「ハッ!まさかこの街の生存者っ!?」

 

「だとしても、無傷というのは可怪しいのでは・・?」

 

「ランスロット卿にしては珍しくまともな意見ですね。

先輩。おそらくあの方も、私達と同じく他の場所からこの街に辿り着いたのではないでしょうか。」

 

「( ´ー`)」←ランスロット

 

 

私はランスロットの指摘とマシュの予想に『なるほど』と納得する。

なら、別々の場所に居た私達と(えーと。ジルさんだよね?)眼の前のジルさんが、此処で偶然にも出会えたのは凄いラッキーだっ!なんて事を考えていたら・・。

 

 

「おおっ!そんな、ジャンヌ・・っ!!

貴女の処刑を止めるどころか、その場に駆けつける事さえ出来なかった私を、まだ戦友(とも)とっ!

それに・・先程のあの言葉っ!

ジャンヌ。貴女はなんて、なんてーーお優しいのかっ!!」

 

 

その当人は感極まったように膝から崩れ落ちると。天を仰ぎ、滝のように涙を流して号泣し始めた。

興奮のあまりか、彼の両眼は大きく見開かれ。

眼球が今にも飛び出しそうになっていた。

 

 

恐ぁっ!!?

え?ちょ、大丈夫かなコレ?

落ちない?目玉落っこちちゃったりしない!?

 

 

脳裏にどこぞのゾンビ映画のクリーチャーの姿を描きながら。(泣いている相手に対して失礼だと思いつつも)私は焼死体からの連続スプラッタは勘弁して欲しいと心底震え上がった。

 

 

「先輩っ!こっちですっ!!」

 

 

そんな私を再び救ったのは、私の可愛い後輩ーーマシュだった。

あれ?一瞬マシュが天使な王子様に見えた。私はいつ誰に幻術をかけられたんだろうか?(混乱)

 

 

「ッ!?」←ランスロット

 

 

謎の幻覚にゴシゴシと目元を擦っていると。

その間にマシュに片方の手を引かれ、一緒にランスロットの後ろへと回り込んでいた。

ジルさんとの距離が空いたことで、失っていた冷静さを少し取り戻す。

ランスロットを見るとコチラに背を向けたまま、ピクリとも微動だにしない。

どうやらこのまま私達をジルさんの(顔面の)脅威から庇ってくれるつもりらしい。

 

(それにしてもアレを見てまったく動揺していない、だと?

さすがマシュのお父さんーーーやりおる←)

 

マシュの判断と彼の善意に感謝しつつ、1人残されたジャンヌが心配で。

そっと、ランスロットの肩越しに様子を覗うとーー。

 

 

 

「変わりませんね、ジル。

少し安心しました。

ーーーーえいっ☆」

 

「ぐあああああーーっ!!!!」

 

「ええ"ぇーーっ!!?」

 

「ジャンヌさんっ!!?」

 

 

ジャンヌはまったく動じておらず。

それどころが懐かしそうに顔を綻ばせてーーージルさんの飛び出しかけた両眼を、一切の躊躇なく二本の指で『ぶすぅっ!!』と突いたのだった。

 

な、なにやってるのこの聖女ーーっ!!!?

 

 

「ジャ、ジャンヌッ!?

いま目をっ!目を突いたよねっ!!?

彼、大丈夫なの!?」

 

「はい。大丈夫ですよ。

ちゃんと手加減していますから。」

 

 

『目がーっ!目がーっ!』と。

どこかの某悪役のようなセリフを上げながら両手で眼を押さえ、ゴロゴロと転がる被害者を横目に問えば。

ジャンヌが彼の眼は昔から飛び出しがちで、出る度に先程のように指で突いて押し戻していた事を教えてくれた。

 

彼女にとって、ジルさんのこの一連の奇行は見慣れた光景らしい。そ、そうなんだ。

よくある事なんだ。

そっかぁ・・斬新な目の治療法だなぁー。

 

 

「アマデウス、今の見まして?

聖女様が元師さんの眼を突きましたわ!

あれがこの時代のスキンシップ法なのかしら?」

 

「絶対に違うと思うから、さり気なく二本指を立てて僕に迫るのはよしてくれないかな。マリア。

いくら君の頼みでも、それだけは断固拒否するよ。」

 

 

あまりの出来事に思考を明後日に飛ばしていた私の耳に、聞き覚えのない声が飛び込んできた。

今度は反対の肩越しに声のした方を見ると。

さっきジルさんが現れた民家の残骸あたりに2人の男女が佇んでいた。

楽しそうにはしゃぐ、大きな帽子を被った少女。

そして頬を引きつらせて少女から後退る、黒服の青年だ。

 

 

「あれは・・誰でしょうか?」

 

「ジルさんの知り合いかな?」

 

「(マシュが私の後ろにっ!

頼ってくれたっ!

『父』として私を頼ってっ!!)」←感動

 

 

いつの間にか、両手でWガッツポーズを決めながら小刻みに震えていたランスロット。

 

『改めて見ると、髪が長くて邪魔そうだなぁ。あとで縛ってあげようっ!』なんて事を頭の片隅で考えながら、彼女達を眺めているとーーーパチリと帽子少女と目が合った。

 

 

「わっ!」

 

 

驚いて小さく声を漏らした私に、彼女はふわりっと花の様な笑みを浮かべ。

どこか踊るような足取りで青年を伴い、私達の元へとやって来た。

 

 

「うふふっ、御機嫌よう!

私はマリーよ。よろしくね。

ヴィヴ・ラ・フランスッ!」

 

「ご、御機嫌よう。私は藤丸立香っ!

ゔぃ、ゔぃら、ゔぃ・・?」

 

「先輩。《ヴィヴ・ラ・フランス》は《フランス万歳》という意味ですよ。」

 

「あっ、そうなんだ。

ありがとうマシュ。」

 

 

聞き慣れない単語に慌てていると、頼りになる後輩が助け舟を出してくれた。

助けられてばっかりな現状に、ちょっぴりへこんでしまったけれど。

『先輩のお役に立てて嬉しいです!』と頬を染めて手放して喜ぶマシュの姿に。『これから挽回すればいい!』と気合を入れ直す。

 

可愛い。私の後輩はすごく可愛い。

可愛くて健気で頼りになるマシュは良妻確実だと思う。

・・・・・結婚しようかな←

 

 

 

 

 

ーーーーそれから。

(ジルさんが復活した後)私達は彼らの仲間が待機している場所を目指しつつ、お互いの事情を打ち明け合った。

 

まず、帽子を被った少女マリーは《マリー・アントワネット》という今(西暦1431年)から(未来)の時代のフランス王妃様で。

黒服の青年アマデウスは《ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト》という音楽家だった。

2人とも《サーヴァント》で、ジャンヌと同じくこの特異点に《召喚主なし》で喚ばれたのだそうだ。

 

(聞かれたので、マリーの名前もアマデウス(モーツァルト)の曲も『知らない』と正直に答えたら。『君、本当に文明人かい?どこぞの秘境のジャングルで猿と暮らしてたんじゃないのか?』という暴言と共に、まるで珍獣を見るような眼差しをアマデウスに向けられてしまった。実に遺憾である。私はれっきとした文明人なのにっ!・・・何故か《そっち(歴史や美術)》関係の知識はないんだけどっ!)

 

 

彼らの話をざっくり纏めると、3人は《ヴォークルール》という砦で偶然にも出会い。その後、一緒に行動する事に。

それから仲間(ジルさんの部下の兵士達+エリちゃん?)と共に、この街《ラ・シャリテ》まで移動。

 

けれど、ようやく辿り着いた街は敵に蹂躙され尽くした酷い状態で。

しかも何やら風変わりな音律(メロディー)達がーーアマデウスの能力で感知したらしいーー聞こえてきた為。

彼ら3人だけが偵察として先行し、こうして私達と出会った・・・とのこと。

 

 

「しばらく隠れて君達の様子を覗うはずだったんだけど。

どこぞの元師様がそこの聖女様の話を耳にした途端、勝手に飛び出してくれてね。」

 

「ぐっ・・面目(めんぼく)ない!」

 

「ふふふっ。許してあげてアマデウス。

元師さんが聖女様のことが大好きなのは、沢山お話しして貰ったから知っているでしょう?

そんな相手に出逢えたら、嬉しくて飛び出してしまうのも仕方がないと思うわ。」

 

「話?・・ああ。

あの、ストーカー紛いのアレ(熱弁)のことか。」

 

 

《ラ・シャリテ》を目指して移動中の馬上で、マリーが尊敬する聖女様ーージャンヌのことーーをジルさんに尋ねたところ。

彼らは聖女様(ジャンヌ)の素晴らしさを、数時間ノンストップで聞かされ続けたらしい。

 

その時の事を思い出したのか、げんなりした表情をアマデウスは浮かべ。反対にマリーは、楽しいお話しだったと無邪気にはしゃいでいる。

 

当事者であるジャンヌ本人は『ジル。どういう事ですか?彼らに何を話したのですか?事と次第によっては・・』と、凄みのある笑顔でジルさんに詰め寄っていた。

静かに怒るジャンヌのプレッシャーに、ジルさんは道中タジタジだったーーー聖女怖ぃ。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

 

 

第三者視点

 

 

 

場所は《ラ・シャリテ》の街のすぐ傍らの平原。

上官であるジル・ド・レェにより待機を命じられたフランス兵士達は。

警戒を怠らぬよう交代で見張りを立てながらも。

各自が思い思いに小休憩をとっていた。

 

水や干し肉で軽い食事を取る者。

走り通しだった愛馬を労う者。

街の惨状を目の当たりにし、どうしても下がってしまう士気を留めようと。他愛ない談笑に興じる者達。

 

 

「・・・っ!」

 

 

そんな彼らの元へと近づく複数の人影。

気づいた見張り番の1人が目を凝らすと、そこには見知った人物達の姿があった。

 

 

「元師殿っ!」

 

 

狼狽(ろうばい)するばかりの己達を此処まで導いてくれた尊敬する上官。

そして砦から脱出する際、力を貸してくれた恩人達。

他にも数名、顔を知らぬ者達が増えていたが。

上官達と彼らが親しげに接している様子から、敵ではないとその若い兵士は判断した。

 

 

「おい!元師殿と恩人達が戻られたぞっ!」

 

「ん?おお、そうか。

おーいっ!上官達のお帰りだとよーっ!!」

 

 

周りの兵士達にも帰還を伝え、彼は真っ先に彼らを出迎えようと歩調を速めた・・のだが。

 

 

 

「おっっそーーーーい!!!!」

 

 

 

急ぐフランス兵士の頭上を高速で翔け抜け。

一番乗りで兵士達の上官ーー『元師』ジル・ド・レェ達を出迎え(に不満をぶち撒け)たのは。

先行した彼らに置いてけぼりをくった、『自称アイドル』少女ーーエリザベート・バートリーだった。

 

彼女は背から生やした両翼をバサッ!と苛立たしげに羽ばたかせ。自分を置いて行った者達の前へと降り立つと。

その(つつ)ましやかな胸から湧き上がる鬱憤を、躊躇うことなく吐き出した。

 

 

「遅いわよーーっ!!

勝手に人を置いてってーーっ!!

しかもブタどものお守りまで押し付けてーーっ!!

私は豚の飼育係じゃないのよっ!?

バカバカバカバカバカーーッ!!!!」

 

 

「あらあらあら。」

 

「あー、イヤだイヤだ。

何だってこう雑音ばっかり生み出すかな、この色々小さいのは。」

 

「えっ?えっ?

何で怒ってるのこの娘?それにブタって?」

 

 

癇癪を起こして喚くエリザベートに対し、苦笑する未来のフランス王妃と頭痛を覚え眉をひそめる音楽家。

彼女と面識のない最後のマスター達は状況が呑み込めず、困惑するばかりだ。

 

 

「ぶ、ぶた・・」

 

「俺ら、豚なのか・・」

 

「き、気にしない方がいい。

彼女はおそらく、他人に変わった愛称をつけるのが趣味なのだろう。」

 

 

一方、年端もいかない少女に『豚』呼ばわりされたフランス兵士達は。(幸運にもそういった事に悦ぶ嗜好の者は居なかったようで)怒ればいいのか、嘆けばいいのかわからず。

何とも言えぬ微妙な表情で頬を引き攣らせていた。

 

そんな部下達へ素早くフォロー(?)を入れるのを忘れない。

上官の(かがみ)、ジル・ド・レェ。

どうか魔導に堕ちず、そのままの『綺麗な旦那』でいて欲しいものである。

 

(プレラーティ)からの手紙?

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)

ーーーーどんな手を使ってでも燃やせ。塵一つ残さずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

兎にも角にも、待機していたフランス兵士達&エリザベートと合流を果たした一同。

 

 

「べ、別に食べ物に吊られたわけじゃ無いんだからね!

子ジカがどうしてもって勧めるから。

ファンからの貢物(プレゼント)を断るのはアイドルとしてどうかなー?って思ったから、受け取ってあげるだけなんだからね!?私の優しさに感謝しなさい!!」

 

「うんうん。そうだねー。

何で私のニックネームが子ジカになったか分からないけど、分かったよー。

ところでその携帯食料(カ○リーメイト)

チョコレート味の他にフルーツ味もあるんだけど、食べる?」

 

「もぐもぐ。しょうが無いわね、もぐもぐ。

貰ってあげる!もぐもぐ。」

 

 

荒ぶる鮮血魔嬢(エリザベート)の怒りは、藤丸立香の見事な説得(餌付け)によって鎮められ。

ジャンヌと対面したフランス兵士達はと云うと・・。

 

 

「ジャンヌ様っ!聖女様っ!」

 

「ジャンヌ様っ!!」

 

「ああっ!我らの聖女様が生きておられた!

我らの元に帰ってこられたっ!!」

 

「え?・・まさか、貴方達はっ!」

 

 

彼らの輪の中から、一部の兵士達が我先にと飛び出し。満面の笑顔でジャンヌを迎えたのだった。

 

その兵士達の顔ぶれを目にしたジャンヌは、驚き。だが、すぐに彼女も破顔し。

懐かしいーーかつて戦場を共にした《戦友》達の傍らへと駆け寄った。

 

 

「良かった。貴方達も無事だったのですね!」

 

「はいっ!」

 

「お久しぶりですジャンヌ様っ!

こうしてまたお会い出来る日が来るだなんて!!」

 

「上官も、俺らも信じてましたよっ!

ジャンヌ様が《魔女》になる筈なんてないってっ!」

 

「上官っ!ひとりだけ抜け駆けなんて狡いですぜっ!」

 

「い、いや。私はけして抜け駆けした訳ではなく。彼女と会えたのは偶然で・・」

 

「へぇー、どうだか?

上官は聖女様のことになると、人が変わりますからねぇ?」

 

 

まるで子供の様な邪気の無い顔で笑い合い、少女を中心に大の大人達ーーしかも体格のいい戦歴のある兵士達ーーがはしゃぎ回る光景は異様であった。

(現に、ジャンヌと戦場を共にした事のない若い兵士達などは唖然としている。)

 

しかし、絶望的な戦況の中。

常に旗を振り、己達を鼓舞し続けてくれた少女の存在は。

それだけ兵士達にとってかけがえのない《希望()》そのモノであったのだ。

 

そんな彼らから寄せられる、揺るぎない『信頼』に。

変わらぬその『親愛』の温かさに。

聖女たる少女の胸は、震えるほどの想い(喜び)に満たされる。

 

《竜の魔女》が自らを『ジャンヌ・ダルク』と名乗った事を彼らは既に知っていた。

その命を何度も《魔女》の放った手下(怪物)に脅かされ。

その手下(怪物)達により、街が滅びたのを彼らは眼にした。

 

故に少女は疑われ、恐れられ、憎まれ。

出会い頭に彼らに罵倒を受けても仕方がない状況だった。

 

けれど、兵士達はそれでも『ジャンヌ・ダルク』が《竜の魔女》ではないと信じた。

彼らの《聖女()》を、そして《聖女》を信じる《上官(戦友)》を。

疑わず、迷う事なく、一身に信じ抜いたのだ。

肩を並べ戦場を駆けた、かの時のように。

 

 

(ああ、私はなんて果報者なのでしょうか・・。)

 

 

幸多き未来を願った、戦友達から注がれる。

生前と変わらぬ温かな言葉と笑顔と信頼(親愛)

 

彼女はその全てが嬉しく、とても愛おしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーだが。

聖女のその幸福な時間は、非情にも長くは続かなかった。

 

 

「ッ!?、この音はーーーくっ、間に合わないかっ!」

 

「皆さん、気をつけて下さいっ!

何かとてつもないモノが此方に向かって来ますっ!!」

 

 

「「「っ!!!?」」」

 

 

 

アマデウスの聴覚が異様な生体音を(とら)え。

ジャンヌのルーラーの能力が、彼女達の元へと高速で迫る巨大な生物の反応を感知した。

 

逃走の時間が無いと判断したジャンヌは、皆に警戒を促し。

旗を手に、先頭に立って襲い来る未知の存在を迎え撃つ。

聖女の声を聞いた者達も彼女に(なら)い、それぞれが武器を構えた。

ーーそして数分も経たず。

《ラ・シャリテ》の街は巨影に覆い隠され。

一時(ひととき)の間、夜と化す。

 

 

「な、何なのよコレっ!?

子ジカッ!何で急に暗くなったのよっ!?」

 

 

動揺のままに傍に居た藤丸立香の腕を掴み、ガクガクと揺らすエリザベート。

そんな彼女を『どうどう』と落ち着かせながら、最後のマスターは空を見上げた。

まずい事態になっている事を肌で感じながらも、取り敢えず頭に浮かんだ1番楽観的な現象を言葉として吐き出す。

 

 

「うーん。日蝕かな?というか日蝕であって欲しい。」

 

「残念ながら、自然現象ではなさそうです・・原因は上空に居る何者かで間違いなさそうですがーー。お嬢さん方。

一旦、私の後ろに下ってください。」

 

「え?でも・・・」

 

「ここは従いましょう、先輩。

自ら私達の『壁』になると申し出たサー・ランスロットの好意に甘えるべきです!

散っても骨を拾う気はカケラもありませんが!」

 

「なっ。か、壁・・!?」

 

 

『父』としてではなく『壁』として扱われていたーー少女騎士(息子)の放った苦すぎる真実。

そして笑顔で告げられた辛辣な言葉のWパンチに、黒騎士(父親)が1人衝撃を受ける中。

陽の光を遮っていたモノが巨大な翼で突風を生み出しながら。

遥か上空より最後のマスター達の前に舞い降りた。

 

 

 

ーーーーーグゥオ"オ"オ"オ"オ"オォッ!!!!

 

 

 

強固な鱗に覆われた闇色の巨体。

かつて執着した黄金を溶かし、造ったかのような金の両眼。

周囲に轟く咆哮はその場にいる者すべてに。

遠い過去、被食者であった頃の潜在的な恐怖を思い起こさせる。

 

 

「ーーー黒い、ドラゴン。」

 

 

そう。天より飛来したのは漆黒の巨竜(ドラゴン)

『幻想種の頂点』にして『最上級の竜種』たる存在。『強欲』の体現者。

 

彼の名はーーー《邪竜》ファヴニール。

 

 

「ああっ!ーーなんてこと。

まさか、まさか《こんな事》が起こるなんて・・!」

 

 

予期せぬ邪竜の襲来に一同が絶句する中。

堪え切れぬとばかりに声を漏らしたのは、この《特異点(フランス)》に災厄を振り撒く《竜の魔女(元凶)》ーーージャンヌ・ダルク・オルタ。

 

竜の背から見下ろした想定外の光景に《魔女》の相貌は狂気じみた笑みを形どる。

 

 

「見てよファヴニールッ!!

《聖処女》だけでなく《裏切り者(ジル・ド・レェ)》まで居るわっ!それと《植え付けられた記憶》にある見知った顔もチラホラと。

ふふふふっ。

アハハハハハハハハハハハッ!!!!

主は、全ての決着を此処でつける事をお望みのようねっ!!」

 

「っ!?、貴女は・・っ!」

 

「なっ!ジャンヌ様がもう1人っ!?」

 

「まさか、あれがーー?」

 

 

黒き鎧を身に付けたーー《聖女(ジャンヌ)》と鏡合わせの様な容姿のーー少女の出現に、兵士達の間に更に動揺が走る。

 

もう1人のジャンヌ・ダルクの存在を知っていた者達は平静を保ったが。《魔女》の纏うあまりに禍々しい気配に息を呑んだ。

これが、眼前の清廉な少女と同一の存在なのか?・・と疑念を覚えながら。

 

 

「ハハッ・・・良いわ。

なら、見せつけてやりましょう。

 

あの女共が私と貴方の焔で1人残らず灼き尽くされ。竜達に喰い荒らされたフランスが不毛の地となり。この世界が破綻という完結を迎えるーーーその道程を。」

 

「ーーっ!!」

 

 

 

かくして、2人のジャンヌーー《救国の聖処女(真作)》と《竜の魔女(贋作)》は相見(あいまみ)え。

 

《第一特異点》の行く末を決定する『聖杯戦争』の火蓋は切られたのだった。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………

 

 

※皆様、明けましておめでとうございます←(大遅刻)

筆の進みが遅すぎる作者ですが、今年も何とぞ宜しくお願いします!

 

 

▼作中の《(プレラーティ)からの手紙》とは?

 

その名の通り『フランソワ・プレラーティ』という人物が親友であるジル・ド・レェ宛に送った手紙。だがその内容は、聖女()を喪ってもなお。神の存在を信じる友への歪な親愛を臭わせる不気味で狂気じみたもの。

手紙の最後の一文は『ようこそ、悪夢と恐怖の食堂に』。

ーーーお勧めメニューは海魔の活造りデスカ?(震え声)

 

 

▼フランソワ・プレラーティとは何者か?

 

元は教会に仕える僧侶であったが、とある医師にして魔術師である人物との出会いにより魔術師に転職。

その後、ジャンヌが処刑されて自暴自棄になっていた旦那に近づき。幼い子供達を使った凄惨な魔術儀式を行うよう(そそのか)して、共に死体の山を築き上げたヤベー奴。

つまりジル・ド・レェ(国家元師)殺人鬼(青ひげ)に堕とした張本人である。友達は選ぼうぜ、旦那っ!

ーーーちなみにその容姿は『どこか病んだ目の美少年』(公式)。ジルさんは彼の容姿が好みだった為、自分のお抱え魔術師にしたとの事。

旦那ァ・・。

 

 

▼ついでに螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)も。

 

言わずと知れた《キャスター》クラス時のジル・ド・レェの宝具。人間の皮で装填された魔道書。海魔無限召喚機。

《セイバー》クラス時の綺麗な旦那がこの宝具を使用した場合、強制的にクラスが《キャスター》へと転じてしまうそう。

製作者はプレラーティ本人であり、後に彼が旦那へとプレゼントした。(この時点で嫌な予感しかしない。)

またの名を、クトゥルフ神話にて『ルルイエ異本』と呼ばれる教本。

ーーー人間を容易く発狂させる邪神達の教典を手にし読んだ旦那・・なるほど。狂人フラグ回避不可ですね(絶望感)

 

 

さて、とうとうオルレアン最終決戦が開幕します。

今回《竜の魔女》にアウトオブ眼中され、マシュ(息子)からの毒舌に晒されたランスロット狂が次回は活躍する・・筈だ←

 

 



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交差する願い

 

第三者視点

 

 

 

(ああっ!気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない気に入らないっ!!!)

 

 

竜の魔女ーージャンヌ・ダルク・オルタは。

邪竜の背から下方に視線を送り、群れる小さな蟲のような人間達に苛立ちを覚えた。

 

脆弱な霊基を宿す、ネズミの如く力無き聖処女。

そんなネズミ(聖処女)を慕い、敵対者の手から護ろうと周りを囲む裏切者と虫ケラ(元師とフランス兵士)達。

 

 

 

 

《ジャンヌ様ッ!》

 

《聖女様っ!》

 

 

 

 

 

「ーーーー。」

 

 

創造主に植え付けられた『偽りの記憶』にて、己に注がれていた彼らの《親愛》と《信頼》の眼差しは全て《聖処女(本物)》へと与えら(奪わ)れ。

竜の魔女(贋作)》たる己に虚構ではない現実の彼らが向けるのは、《憤怒》や《憎悪》。

全て《敵意》の篭った眼差しだけだ。

 

 

(わかってた!こうなる事はわかってた!!

この記憶は全て作り物で、偽物だから。

彼らが敵である私に《負》以外の感情を向ける事はありえないと理解していたっ!!

でも、それでもーーーっ!!!)

 

 

まるで《本物(聖処女)》を受け入れ《贋作()》を拒絶し、否定するかのような目の前の光景は。

未だ穢れぬ、魔女の白く柔らかな内なる部分を傷つけた。

その裂傷は間を置かずに膿み、《竜の魔女》の心をさらに暗色に染め上げる。

 

 

(・・・そう。そんなに《本物》が良いの?

《本物》が大好きなの?

そんなちっぽけで大した力も持たない聖女様が良いの?ならーーー)

 

 

ジリジリとチリチリと音がする。

それは彼女の心を灼く烈火の音だ。

《贋作》の痛みと嘆きを薪に燃え上がる、《魔女》の憤怒と憎悪を宿した黒炎の音色だ。

 

 

(オマエ達など全員。愛する聖女に得られぬ救済を()い願い、泣き叫びながらーーー無様に地をのた打ち回り、死に絶えて逝けっ!!)

 

 

「ファヴニール、予定を変更するわ。

あの女を殺すのは最後。

先に目障りな周りの蟲どもを片付けましょう。

・・・ワイバーンを、お願いできる?」

 

【ああ。任せろ魔女。

オマエが望むなら、俺はいくらでもオマエに力を貸そう。】

 

 

魔女の願いに応え、再び咆哮を上げる邪竜。轟音と共に放たれた彼の(めい)は、空気の振動に乗り広大な範囲へ拡散。フランス中の飛竜へと伝えられた。

 

 

「ファヴニール・・。

ふふっ、そうよね。最初から解ってたのに。

私の味方は、貴方だけだって。

それなのにーーーバカみたいだわ。」

 

【魔女?・・苦しいのか?】

 

 

ジャンヌ・オルタの異変を敏感に嗅ぎとり、気遣う邪竜。彼のそんな優しさに、心を苛む黒炎の勢いがいくばくか収まるのを彼女は感じた。

 

知らず浮かんでいた自嘲の笑みは崩れ。

狂気をはらんだ瞳は、緩やかに正気の色を取り戻す。

 

 

「いいえ。苦しくなんてないわ。

ただ、やっと目が醒めただけ。

往生際が悪く頭の中にこびり付いていた幻影から、ようやく完全に抜け出せたの。」

 

 

されど、その奥の黒炎はそのまま鎮火する事はなく。静かに燃え続け。

 

 

「ファヴニール。ファヴニール。

今日は素晴らしい日になるわ!

私が《贋作》から《真作》へと生まれ変わる記念すべき日。全てが終わったら、私の誕生日を貴方も祝ってちょうだい!」

 

 

己を慕う者達を力無き故に見殺しにし。

数多の骸に囲まれ。

穢れなき身を焔に抱かれ。

 

絶望を孕んだ堕ちた聖女(本物)の、その血に染まった腹を内側から突き破り。

魔女(贋作)は己が《真作》としての『新たな生』を授かる事を宣言する。

 

 

【当然だな。・・ん?ならば魔女よ。

バースデーケーキを用意するべきか?】

 

「あらっ!素敵ね。

聖杯の力で準備しましょうか。

ロウソクの火は貴方が担当よ?」

 

【むっ。そうか・・せっかくのケーキを焦がさないよう、細心の注意を払わなければならないな。】

 

「あはっ、あはははははははっ!!!

ファヴニールっ!

貴方、最高だわ!!」

 

 

己の《魔女(家族)》の誕生日祝いを台無しにしては成らないと、真剣に頭を悩ませる邪竜に。

魔女は笑いが止まらなかった。

 

けれどそれは、先程の様な自嘲の感情からでは無い。胸の奥から溢れ出る喜びが抑えきれずに上げた、彼女の純粋な笑い声だった。

 

世界中でたった1人だけでも、自身の誕生を祝福してくれる存在が居る事がーーー魔女はこの上なく嬉しくて堪らなかったのだ。

 

 

「ははははっ!・・・ふぅ。

どうやら、楽しいお喋りの時間はココまでのようね。」

 

【ーーああ。そのようだ。】

 

 

国中のワイバーン達が(つど)い。群れとなって遥か遠くからコチラに押し寄せて来るのを感知した魔女と邪竜。

 

邪竜は無駄に足掻くよう、不可思議な動きをみせる人間達の集団へ向け一気に降下する。

 

激しい地響きと土煙を立て。《ラ・シャリテ》の残骸を踏み潰し。大地に降り立った巨竜の背から、魔女は唄うようにその言ノ葉を呟いた。

 

 

「さあ・・蹂躙を始めましょうか。」

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

 

ーーー少しばかり時は戻り。

魔女と邪竜が最後のマスター達の前に姿を現したのと同時刻。

 

 

「わああああああっ!!!!

立香ちゃん!マシュちゃん!」

 

「嘘でしょ!?

何やってるのあの子達っ!!」

 

「あーー。これはまた、マズイ事になってんな。」

 

 

《ラ・シャリテ》から遠く離れた森の中。

コンラ、オルガマリー、ランサー(クー・フーリン)の3人は《遠見の魔術》を使い、バッチリその場面を目撃していた。

 

ゲオルギウス達の助言に従い、邪竜の反応を追いかけ。

偵察がてら魔術を行使したは良いものの。

眼に飛び込んで来た光景が、まさかの『いきなりラスボス戦』状態に彼らはド肝を抜かれたのだった。

 

オルガマリーは見知った少女2人の他に、彼女達の味方らしき《サーヴァント》達の姿を複数確認出来たが。それ以上に現地民らしき兵士達の数が多い事に眉を顰める。

 

普通の人間が相手の戦闘なら、彼らフランス兵士達も立派な戦力と成り得ただろう。

しかし、今の彼らの敵は《最上級の竜種(邪竜)》と《サーヴァント(竜の魔女)》。

人の領域を超えた者達の争いにて、《ただの人間》である彼らは戦力には成り得なかった。

それどころか、その人数の多さは足で纏いと言っても過言ではない負担を兵士達を護る味方側に強いる事となっていた。

 

 

「マルタッ!ゲオルギウスッ!ジークフリートッ!緊急事態よ!!」

 

 

カルデア側の知人達の劣勢を、直ぐ様理解したオルガマリー。彼女は慌てて近くにいる仲間に声をかけ、その状況を伝える。

 

そんな中、父親と同じくルーン魔術で遠見をしているコンラ少年はというと・・。

 

 

(うああ!どうしよう!?

どうしよう!?

どうしーーーーっ!!)

 

 

彼の瞳に映るのは、黒く強大な巨竜(ファヴニール)に今にも襲われんとする友人達。

彼女達の身を案じ狼狽える少年であったが、その脳裏を1人の男の姿が過ぎった事により。彼は『はっ!』と平静さを取り戻す。

 

 

(そうだ!立香ちゃん達がこの特異点(フランス)に来てるならーーーキャスターの父さんも此処に来てる筈っ!)

 

 

特異点F(冬木)で幾度も助けてくれた頼れる父親(キャスター)との記憶(思い出)が、彼に希望と安堵を与えてくれる。

 

 

(良かった。父さんが居れば安心だ!

父さんならきっと、この状況も何とかしてくれる!!)

 

 

どこか盲目的にも思える父親(キャスター)への信頼によって心の平穏を得たコンラ。

彼は大きく息を吐き出しーー続いて。

胸に込み上げてきた別の想いに従い、その父親の姿を求め忙しなく視線を巡らせる。

 

 

(父さん!父さん、どこっ!?)

 

 

少年の傍らには、すでに父親(ランサー)が居る。

けれど、ランサーは転生後の自身(アキラ)と過した時間の記憶を持ってはいたが。特異点F(冬木)で自身と過した時間の記憶を有してはいなかった。

 

《ランサー》と《キャスター》。

クラス違いの、2人の《クー・フーリン》。

どちらも少年にとっては大好きな《父親》である事に変わりは無い、だがーー。

 

 

 

 

《ああ。これを召喚の時の触媒にすれば、間違いなく俺はカルデアに行ける。

安心しろ・・・すぐに会いに行く。》

 

《・・うん。待ってるね。》

 

 

 

 

 

(ーーー父さんに、会いたい!

約束を破ってごめんなさいって、会ってちゃんと謝りたい!!)

 

 

特異点F(冬木)で交わし、自身の力不足により果たせなかった、あの約束。

その大切な約束の記憶を持つ《父親(キャスター)》に。少年は会い、直接その事を謝りたかった。

 

コンラは自分を突き動かす想いに急かされるまま、《遠見の魔術》を駆使してキャスター(父親)を探し回る。

だが、数分後にはその顔色は青褪め。

彼の背をドッと冷や汗が流れ落ちていた。

それは・・。

 

 

(うっ?えっ?あ、あれ?可怪しいな・・?

父さんーーーー居なくない?)

 

 

探し求める父親(キャスター)の姿が、友人2人の周囲の何処にも見当たらなかったからである。

 

 

(そ、そんなっ!何で!?

あの優しい父さんが、立香ちゃん達だけを特異点(危険な場所)に行かせる筈ないから。絶対一緒に居ると思ったのに!?まさか父さんの身に・・何か、あった?)

 

 

所在不明の父親と、その信頼する父親が共に居ない友人達。

眼の前に改めて突き付けられた最悪の現状に、少年の内にあった安堵は消え失せ。代わりに倍増した不安と恐怖が彼の心を掻き乱す。

 

このままでは彼女達が殺されてしまう。

大切な友人達を喪ってしまう、と。

もしかしたら、もしかしたら。

父親(キャスター)をもーーー。

 

 

 

 

 

「おい。しっかりしろ、コンラ。」

 

「っ!?」

 

 

焦燥に駆られ、苦しげに己の胸元を掴む少年。

そんな我が子の頭を、父親(ランサー)は手の甲で軽く小突いた。

 

 

「へ?・・えっ?」

 

 

突然の事にポカンと小突かれた頭部を押さえ、もう1人の父親を見上げるコンラ。

発動していたルーン(遠見の)魔術をいつの間にか解き、息子の『とある奇行』からその様子をうかがっていたランサーは。

訳が分からず目を白黒させている息子に、溜め息混じりの苦言をこぼす。

 

 

「お前、『父さんが居ない。父さんが居ない。』ってさっきから隣でうるせぇぞ。」

 

「ーーッ!!」

 

 

それは少年にとって、もう1人の父親(ランサー)に決して聞かれてはいけない台詞であった。

本人にその意図は無くとも。

聞く者によっては父親たる《ランサー》を否定し。

もう1人の父親(キャスター)のみを肯定する様にも捉えられる発言だったからだ。

 

 

「と、父さん!違うんだ。俺、俺ーーっ!」

 

 

瞬時にその事を悟り。

コンラは自身が知らず漏らした言葉で、傷つけてしまったであろう父親(ランサー)に急いで謝罪と真意を述べようとした・・・しかし。

 

 

「ああ、そんな顔すんな。

別に怒ってねぇし、お前を責めるつもりもねぇよ。」

 

 

泣きそうに顔を曇らせた息子の頭をワシャワシャと撫でてやり。ランサーは『余計なこと言っちまったな。』と胸中でぼやく。

 

彼はコンラが(ランサー)も、もう1人の己(キャスター)も。等しく《父親》として慕ってくれている事を理解していた。

息子に己が犯した蛮行を想えば、それはランサーにとって過ぎた幸福で。

故に、彼はコンラの発言に対して傷心などする筈が無かった。

 

そして父親は、彼が本当に告げたかった事柄を少年へと知らせる。

 

 

「心配しなくて大丈夫だ。

お前の探してるキャスターの方のオレは、ちゃんと此処(フランス)に居るぜ。」

 

「えっ!?」

 

「邪竜とあの嬢ちゃん達が居る場所から、東の方に魔術で《認識妨害(ジャミング)》がかかってる場所があっただろ?

おそらくだがーーあそこにオレは居る。」

 

 

使用されている術がルーン系統であり、覚えもある魔術であった為。(他に《霊基》にいきなり《狂った思考》をぶち込まれた一件で、同じ『特異点(フランス)』に居ると確信していたのもあり。)

 

おおよその見当をつけ、息子が必死に探すもう1人の己(キャスター)の居場所を教えるランサー。

 

 

「何で《認識妨害(ジャミング)》を掛けてんのかは知らねぇが。状況から見て、あそこで敵が嬢ちゃん達の所へ向かうのを喰い止めてる・・ってところか?」

 

「っ!!・・そっ、か。

父さん、あそこに居るんだ・・。」

 

 

目を凝らす様に細め、魔術が展開している方角を見つめるコンラ。その強ばった表情が、ふっと緩むのを。少年の父親は黙して見守っていた。

 

だが、息子の横顔が決意の感情を滲ませ。

コチラを向き、口を開いた瞬間。

 

 

「父さ」

 

「ダメだ。」

 

「(°口°๑)」←コンラ

 

 

『父さん!俺、キャスターの父さんの援護に行きたい!!』と続けて発せられる筈だったセリフを。

先に予測していたランサーは、息子の口から全て出終える前に一切の容赦なく切り捨てた。

 

自身の頼みを、取り付く島もなく一刀両断っ!どころか。神速で即殺された事に、コンラは文字通り開いた口が塞がらない。

そんな少年へ。今が好機とばかりにランサーは言葉を紡ぎ、畳み掛ける。

 

 

「コンラ。確かにキャスタークラスのオレは朱槍も持ってねぇし。クラスの問題でオレ(ランサークラス)より劣ってる部分もあるだろう。

けどよーーーお前の知る《オレ(クー・フーリン)》の実力は、その程度なのか?」

 

「ーーーえっ?」

 

「誰かの助けがなきゃ『足止め』も出来ねぇような弱っちい男かのか?《お前の父親(キャスター)》は。」

 

「っ!!?ーーー違うっ!!!」

 

 

男の問いに、少年は反射的に語気を荒げて答えていた。

 

 

「違う!違う!

俺の知ってる父さん(キャスター)は!

クー・フーリンは!

誰よりも強くて!!

誇り高い最強の戦士でーーっ!!」

 

 

例え相手が《父親本人(ランサー)》であろうとも。

誰よりも尊敬する《父》であり《戦士》である《クー・フーリン》を乏しめるかの様な言い草に。

コンラは憤りを覚えずにはいられない。

頬を赤く染め、激情を露わにする息子を前に父親はーー

 

 

「ふはっ!わかってんじゃねぇか。」

 

 

ーーーまったく動じる事なく。ニカッと快活に笑った。息子が己の言葉を否定した事に、満足気な様子で。

 

 

「へっ?」

 

「オレは強い。そうだろ?」

 

「あっ。う、うんっ!!」

 

「なら、援護なんていらねぇよな?」

 

「うんっ!ーーーーあっ。」

 

 

少年はそこでハタと気付いた。

己がうまく父親に()められた事に。

 

父親(キャスター)の援護に行きたい』と言おうとしたその口で、『父親(キャスター)に援護は必要ない』と断言してしまったのだ。

 

 

(俺のバカッ!!俺のバカァアッ!!!)

 

 

行くことを許してくれなかった父親(ランサー)に対してや。

あっさり言質をとられた己の単純さ。

更には父親(ランサー)に問われて気づいた。

『援護という名目で、父親に会いに行きたかっただけ』という己の利己的な本心など。

 

悔しいやら、腹立たしいやら、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで。少年の心中は様々な感情が入り乱れ、彼は頭を抱えずにはいられなかった。

 

 

「ううぅ・・。父さん、意地悪だ。」

 

 

父は正しく、己に否がある事は明白だった。

それでも我慢できず。つい漏らした子供染みた呟き。

 

 

「何言ってんだ。

最初にオレをダシにしたのはお前の方だろうが。

・・まっ、これが最後のチャンスってわけじゃねぇ。今回はあっちのオレと会うのはお預けだな。」

 

 

拗ねたような声色のソレに返されたのは、まさしく正論で。やはり父親には自分の本意が見抜かれていた事実に、少年は後ろめたさを感じ身を縮こまらせる。

 

父親がそんな彼の心境を察してか。

努めて明るく、微笑いながら返したのがせめてもの救いだった。

 

 

 

 

 

「ちょっと!何やってるのよランサーッ!!」

 

 

ランサーとコンラの2人を余所に。

先に作戦会議を開いていたオルガマリー達。

 

緊急事態にも関わらず。

なかなか輪に加わらない彼らに、さすがに彼女も堪忍袋の緒が切れたようである。

 

 

「あっ!ごめんマスター。すぐ行くね!」

 

「えっ!?ち、違うのよコンラッ!

コンラには怒ってないの。

悪いのはそこのランサーだから、貴方は謝らなくていいの!」

 

「おい。」

 

 

息子に甘すぎるマスターの、あんまりにもあんまりな発言に。堪え切れず、ヒクリと頬を引き攣らせるランサー。

 

見るからに機嫌を降下させた己とオルガマリーを、オロオロと交互に見る息子に。

父親が苦笑と共にジェスチャーで早く行けと促せば。

少年は大きく頷き、自身の護るべきマスターの元へと軽やかに走りだす。

 

 

(父さん・・凄いな。

俺も、父さんみたいな(うつわ)の大きい男になりたいっ!)

 

 

己の失言や我侭を、咎めることなく赦してくれた父親(ランサー)。その寛大さに、改めて尊敬の念を深めながら。

彼は脳裏に浮かぶもう1人の父親(キャスター)へ、再会が遅れてしまう事を謝罪する。

 

 

(ごめん、父さん。

でも、必ず!必ず会いに行くから!!)

 

 

再会の約束を固く誓い。

コンラは意識を目前のオルガマリーと、危機に瀕している友人達へと集中する。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・。」

 

 

そして、仲間の輪に加わった息子の背を追い。

けれども急く事はなく、マイペースに向かうランサー。

ふと、彼は振り向き。

警戒の色を灯した眼差しを、もう1人の己(キャスター)が居る辺りへと注ぐ。

 

認識妨害(ジャミング)》の魔術を用い、《遠見の魔術》をもってしても(うかが)えないあの不可視の空間でーーー狂った己は何をしているのか。

男のキャスターへの不信感は積り続けるばかりだ。

 

息子に余計な心配をかけまいと『敵を喰い止めている』等と言ったが。

それだけならワザワザ《認識妨害(ジャミング)》を使う必要などない。

 

見られたくないコトをしているのか?

もしくは見られたくないモノがあるのか?

 

 

(どちらにしろ。ロクなもんじゃねぇ。)

 

 

ランサーは息子やオルガマリーに、キャスター(狂った己)の異変を告げるつもりは毛頭なかった。

己の不始末(ケツ)は己でつける(拭く)

それが《アルスターの戦士》として生き、死んだ男の。

譲れぬ矜持(きょうじ)だからだ。

 

もしも最悪の事態が起ころうものなら。

息子とその想い人(オルガマリー)の身を護るため。

躊躇いなくキャスター(もう1人の己)心臓(霊基)を穿く覚悟を固め、ランサーは朱槍を握る手に力を込める。

 

 

(それにしてもーーーはぁ。くそっ。

何だってこう、オレは何時も・・)

 

 

ただその結末を迎えた時。

父親(キャスター)を慕う息子の心を傷つけ、悲しませてしまうだろう事だけが酷く気掛かりで。

彼は己の呪われているとしか思えない役回りに。

憂鬱な心を抱えたまま、人知れず肩を落としたのだった。

 

 

…………………………………………………………………………

 

 

ーーーー同時刻。

異形の巨人(キャスター)火を吐く大蛇(清姫)

狂える者達の死闘は、ついに終局を迎えていた。

 

 

「ぁ"、ァ・・。」

 

 

焼け焦げた大地に伏せるは、1匹の巨大な白蛇。

その長き胴体は、ところどころの鱗が剥がれ。引き裂かれ。彼等が先程まで行っていた『殺し合い』の激しさを物語っていた。

 

 

「ーーーオワリ、ダ。」

 

 

力尽き、凄惨な姿を晒す凶蛇(清姫)に近づく巨体。

それは《バーサーカー》クラスに転じた事で、怪物と見間違う容姿に変異した。とある少年の父親・・《キャスター(クー・フーリン)》だった。

 

男は敵である少女の息の根を完全に止める為。

《バーサーカー》クラス時の得物である『恐槍ドゥヴシェフ』を振り上げーーー躊躇いなく、その矛先を蛇の頭部に突き刺した。

 

 

「■■■■■■■■■ーーッ!!!!」

 

 

響く、蛇と少女の悲鳴が交じり合う断末魔。

地面に縫いつけられた大蛇の脳天から飛び散る血液。悍ましき大槍とその身を返り血で濡らす男の様は、まさに(ケダモノ)

 

彼が全てを棄てでも救おうとしている少年(息子)の脳内とは、あまりにもかけ離れた非情な父親(クー・フーリン)の姿であった。

 

 

「ーーーーッ!!」

 

 

ふいに、男の巨体がふらつき膝が折れる。

恐槍から手を離し、体を支える為に掌を地に着くが。それでも堪え切れず、キャスターは大蛇の隣に倒れ込んだ。

バーサーカー(狂える者)》同士の争い、彼もまた無傷では要られなかったようである。

 

負傷と魔力残量が限界に近づいた事で。

息子(コンラ)を救うまで還る(死ぬ)ことは出来ない』という、僅かに残された理性(父性)が働き。

《治癒魔術》が使え、魔力消費も少ない《キャスター》クラスへと男の『霊基』は戻される。

 

 

「ぐっ・・!」

 

 

見る間に巨大な四肢は縮み。

ドルイド衣装に身を包んだ蒼髪の男が現れた。

 

荒い息を整えながら、キャスターは得意の《ルーン魔術》を発動。清姫に負わされた無数の傷を塞ぎにかかった。

 

 

「ーーーーさ、ま。」

 

 

そんな彼の耳に届いた、か細い声音。

視線を動かし、出処(でどころ)を見遣れば。

 

虚ろな瞳から、ホロホロと涙を零す。

死に逝く蛇。

 

 

「あんちん、さま・・。

やくそく・・守れ、なくて・・・ごめんな、さい・・」

 

 

頭部の《霊基》を槍に穿たれた事で、彼女の人ならざる体は輝く粒子となって消えていく。

その最中、大蛇の赤い口から漏れ出るのは謝罪の言葉だ。

 

かつて一目で心を奪われ、愛し、偽られ、憎み殺めた『安珍(執着する男)』へ。

狂気に囚われた、憐れな少女は陳謝(ちんしゃ)を繰り返す。

 

その『約束』を先に反故(ほご)にした相手(大嘘つき)へと。

生前、己が隠れた鐘もろとも焼き殺した相手(愛し憎んだ男)へと。

 

当時と変わらぬ狂うほどの深い《愛》を、その胸に抱いたまま。彼女は消滅しきる最後の瞬間まで、『ごめんなさい』と謝り続けたのだった。

 

 

「ーーーー。」

 

 

清姫の最期を見届けたキャスター。

経緯は違えど、己と同じく《愛する者》を追い求め。《約束》を果たせず散った少女。

その哀れな死に様を眼にし、父親の胸にとある感情が去来する。

それは『同情』ーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・やっと、死んだか。」

 

 

ーーーなどと云うを生温いモノではなく。

ようやく厄介な敵が居なくなった事を喜ぶ、『安堵』の想いだった。さすが《父性》に極振りした『冷静な狂人』。

愛息子(コンラ)以外には実に冷淡である。

 

 

 

ーーーーーオオオォッ!!!!!

 

 

 

「ッ!!」

 

 

そんな男の耳を、最後のマスター達を襲う《邪竜》の雄叫びが貫いた。

西の方角から轟いた恐ろしい咆哮に、(ラ・シャリテ)へと向かった少女達の姿が彼の脳裏に思い起こされる。

 

彼女達の危機を察したキャスターは。

おおよその傷口を塞ぎ終えると、別に発動していた《認識妨害(ジャミング)》の術も解除。

急ぎ立ち上がろうと手足に力を入れ、上体を起こした。しかし・・。

 

 

「グッ!ーーく、そっ・・!」

 

 

視界がグルリと回り、再び無様に地に突っ伏す形となってしまった。

理性がほとんど働かない《バーサーカー》クラス時に。(他に選択肢がなかったとは云え)予想以上の魔力を消費してしまった愚行を悔やみ、キャスターは歯噛みする。

 

認識妨害(ジャミング)》を切った事で、一時的に途絶えていたカルデアからの《魔力供給》が再開された為。このまま大人しく、少しの間休んでいれば。

彼は『魔力切れ』によって死ぬ(還る)といった望まぬ結末を迎える事はないだろう。

 

だが、彼は一刻も早く戻らなければならなかった。護るべき己のマスター、藤丸立香の元へ。

息子を取り戻す『計画』の為に、彼女に《こんな所で》死なれては困るのだ。

 

 

「・・、・・っ!」

 

 

されど、父親の(はや)る想いとは裏腹に。

キャスターの意識は抵抗虚しく、徐々に薄れていく。

 

 

「ーーーーコン、ラッ。」

 

 

最後の足掻きのように、喪ったーーと思い込んでいるーー息子の名を呟き。男はついに気を失った。そんな彼を・・。

 

 

 

 

 

「フォーウ・・」

 

 

白き『(けもの)』が1匹、ジッと見つめていた。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

藤丸立香達とキャスターが清姫の襲撃により一時別離した際。

『獣』は心を砕く少女達から秘かに離れ。足止めの為に1人残った男と共に、この場に留まっていた。

 

 

「フォーウ・・」

 

 

『獣』は倒れるキャスターの様子を(うかが)った後。その傍らまでトテトテと歩み寄る。

 

愛らしい姿からは想像もつかない《膨大な魔力》を小さき身に有する『獣』は。

その《規格外の能力》で、眼の前の男がとうに狂い。《裏切り者》と化した事にすでに気付いていた。

 

そして男の《霊基》から滲み出る微かな『同類』の匂い(魔力)に。グルルッと、反射的に唸る。

 

 

この男はーーー息子への愛故に狂った父親(キャスター・クー・フーリン)は。

 

『獣』の眼から見て、まかれた『種』から発芽したばかりの『新芽』だ。

その力は今だ《サーヴァント》の域を出ていないが、(聖杯探索)を続ける中で力をつけ。

終いには『大樹』と成り、カルデアの者達に大いなる災いをもたらす事は明白であった。

 

 

「フォウ。フォフォウ・・。(さて。どうするか・・。)」

 

 

無害な小動物として生きることを望む『獣』は思案する。眼の前の、いずれ必ず『人類悪』に至る(父親)の処遇を。

 

『今』ならば、『獣』は容易く男の《仮初めの命(霊基)》を刈り取ることが出来た。

ほんの少し強めの《魔力》を流せば、『新芽』ごと跡形も無く《霊基》を破壊できる。

 

さすれば、キャスター(クー・フーリン)の《霊基》は改めてカルデアで再構築され。

『英霊』として、『サーヴァント』として。

正常な状態で甦ることと成るだろう。

 

特殊な《バーサーカー》クラスも。

そのクラスを得る原因となった《息子との思い出(特異点Fの記憶)》も失った状態で。

 

 

「・・・・フォウ。」

 

 

ソレが『獣』に『同類』を屠ることを躊躇わせた。

男が『英霊』としての全てを棄てでも、救済を願った愛する息子とのーーー生前では叶わなかったーーー何ものにも代えがたい《唯一無二》の思い出を。

 

永遠に、この『父親』から奪ってしまう事を『獣』は心苦しく思ったのだ。

赤き球体の中へ消え、他者の為に命を散らした《善良》な少年の背を。

『獣』は明瞭(めいりょう)(おぼ)えている。

 

 

「フォウ。フォ・・フォウ。(気が進まないが。仕方がない・・か。)」

 

 

けれど、心地の良い《善性》を宿す少女達の死が。

カルデアの善き人々を襲う悲劇が。

《確定》する事を『獣』は望まない。

 

『獣』が逡巡する間に、その上空を数多の影が飛び去っていく。どうやら邪竜の命令を受けた、フランス全土のワイバーン達が集まり始めたようだ。

 

見る間に数を増やしていく飛竜達。

迷っている時間はーーーもう無かった。

 

ポフリッと、小さな前足を無抵抗な男の頭に乗せ。『獣』は身の内に眠る《魔力》を呼び起こす。続いて、その破壊を目的とした《力》を『同類』に送る。

 

 

 

 

 

 

 

「フォウッ!!?」

 

 

ーーー前に。『獣』の鋭い《感知能力》が、覚えのある《魔力》を捉えた。

 

それは此処にある筈のない《魔力》だった。

その《魔力》の持ち主は此処に居る筈がない者だった。

 

何かの間違いかと。

『獣』は破壊に使おうとした《力》を感知に回し、その《魔力》の正体と在処(ありか)を探る。

 

そしてーーー『獣』は、とある父子に(もたら)された《運命の悪戯》を知る。

 

 

「ファー、フォフォフォウ。(そうか。《結末(未来)》はまだ、決まっていないのか。)」

 

 

『獣』は乗せていた足を下ろし。

見逃すことにした『同類』に、毛量豊かな尾を向ける。

『獣』は決めたのだ。

この父子の行く末を、最後まで見届けることを。

 

 

雪花の少女に『フォウ』の名を与えられし『獣』。

またの名を《比較》を司る災厄の獣ーー『ビーストⅣ』は。

 

《確定》されつつある《悲劇的な結末(未来)》を《善良》なる少年が覆すことを願い。

 

 

アメジスト色の丸い瞳で、遥か彼方の空を見る。

そこに()る豆粒にもみたない小さな点を。

 

戦場と化した街(ラ・シャリテ)に向かう『1匹のワイバーンとその背に乗る人影』を・・・『獣』は見送った。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

※皆様お久しぶりです。

世の中とんでもない事になってますね。

作者も新型肺炎の影響で公私共にゴチャゴチャしています。皆様もどうかご自愛ください。

 

ああ。どこぞの『ビーストⅠ』よ、自作の《聖杯》の力でどうにかしてく・・・れないですよね(泣)

 

今回また《独自設定》の一部が公開されましたが。

この作中の『キャスター/クー・フーリン』は、現在は『ビースト』の云わば『幼体』。

このまま《人理再編》を成功させると、完全な『成体』となります。

 

公式ビーストは《クリフォトの樹》を基にしているという情報から。キャスニキビーストは以下の設定に。

 

 

 

【ビーストⅥ】クー・フーリン

 

原罪のⅥ『排他』

L(ラプス)/拒絶

固有スキル:ネガ・ウォーリア

 

『人類史で最も大いなる偉業を強奪せし、(ただ1人の)人類を救う為の大災害。』

 

 

ーーー其は愛する息子を護れなかった父親の成れの果て。

 

かつて己に我が子を(ほふ)らせ、二度にわたり奪った冷酷な運命を拒絶するモノ。

息子(コンラ)以外の人間を《人類》という枠組みから『排他』し『人理再編』を起こした裏切りの英霊。

我が子(ただ1人の人類)を幸福にする為だけに(現存する)全人類を贄とした大災害。

 

我が子の死を拒絶し。

宿業を拒絶し。

戦士たる己を拒絶し。

倫理を拒絶し。

息子以外の全てを排他した。

望まぬ運命と己への憤怒に駆られる父性に狂うモノ。

 

光の御子なぞ偽りの名。 

その正体は七つの人類悪“排他”の片割れ。

“拒絶”の理を持つ獣。 

 

ーーーその根本にあるのは、己が殺めた息子への"慈愛"である。

 

 

以上っ!!

 

 

フォウさん「フォウフォフォウッ!!フォーッ!!(とんでもねぇ親バカビーストを爆誕させやがったな!コノヤローッ!!)」

 

 

大捏造申し訳ねえぇ・・。

クー・フーリン親子に夢を見過ぎました←

公式でのビーストⅥに対する騎士王(♂)のアレコレはスルーの方向でお願いします!(土下座)

 

ちなみに、対になる『R(ラプチャー)/愚鈍』は平行世界のコンラくんに適性があるという隠し設定もあったのですが・・・やめました←

ややこしくなりますからね。うん。

 

そして色々詰め込んでたらランスロット活躍回までいかなかった・・。

次回に持ち越しです。

もう少し待っててくれ狂スロットッ!

 

 



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ドラゴンスレイヤーズ

 

藤丸立香視点

 

 

邪竜の巨体が地に降り立った衝撃で、地震の様に足元が激しく揺れる。同時に発生した土煙の壁がこちらへと押し寄せ。

私は顔の前で片腕を曲げ、盾のようにして両眼を庇う。

砂塵を吸い込まない為に出来るだけ呼吸を抑えて、土色の突風が過ぎ去るのを待った。

 

 

「さあ・・蹂躙を始めましょうか。」

 

「ッ!!」

 

ーーーゾワッ!

 

 

どこか唄うような、愉しげな魔女の声が耳をうち。立ち込める砂煙の隙間から垣間見えた金の輝きに、肌が粟立った。

私はこの感覚を知っている。

この人理修復の旅を始めてから幾度も味わったーーー殺気だ。

 

明確な殺意を私達へと向ける竜の魔女ーー黒いジャンヌは己の胸元に手をあて。何かを囁く。

すると彼女の肢体が魔力の輝きを帯び、次いで虚空から現れたのは複数の黒き人型。

数はざっと見積って10〜20体ぐらいだろうか。

 

全身を影に覆われて正体を窺えない彼らには『特異点F』で既に出会っていた。

彼らは《シャドウ・サーヴァント》。

サーヴァントの残留霊基。

あるいは成り損ないの存在。

 

 

「さあっ!そこの蟲共を好きなだけ痛ぶり殺しなさい!」

 

 

《聖杯》の力で召還したらしい彼らを、魔女はけしかける。命令に従い、影のサーヴァント達が一斉に動き出した。

 

 

「先輩、指示をっ!」

 

 

マシュの澄んだ眼差しが、真っ直ぐに私を捉える。語らずとも雄弁に、彼女の瞳は私への『全幅の信頼』を伝えてきてくれて。

その想いに応えたいと、私もまた自分を奮起させ。大きく息を吸って乱れた心を落ち着かせた。

 

そして、冷静さを取り戻した思考をフル回転させる。素早く周囲を確認し。

合流してから教えてもらった、マリー達の能力を思い出しつつ指示を飛ばす。

 

 

「マシュとジャンヌは、防衛に専念して!」

 

「はい!マスターッ!」

 

「お任せを!ーーーそう云うことですジル。

皆さん。この場は聞き分けて、大人しく下ってください。」

 

「しかし!ジャンヌッ!!」

 

「聖女様っ!我らも戦います!」

 

 

2人とも大きく頷き。

勇むジル・ド・レェと兵士達を宥め、後方へとどうにか下がらせる。

 

 

「マリーとアマデウスは敵を迎え討ちつつ、攻守のサポートをお願い!」

 

「まっかせて〜!」

 

「他人の指揮で曲を奏でるのは不本意だけど。

マリアの前だ、ちゃんと仕事はこなすよ。」

 

 

元気に片手を上げながら硝子の馬を喚び出すマリー。アマデウスはやれやれと肩を竦めつつも、懐から指揮棒を取り出した。あとは・・。

 

 

「ランスロット。貴方はーー」

 

「皆まで言わずとも、解っています。」

 

 

ランスロットは身の内の狂気を感じさせない、穏やかな笑みを浮かべながら言葉を重ねる。

私が頼みづらく感じているのを察してくれたようだ。

 

 

「ごめんね。危険だけど、ランスロットにしか頼めないから。」

 

「光栄ですよ、ギャラハッドが認めたマスター。

・・・・いえ、藤丸立香殿。

時には非情な決断を下す事も、将には必要です。」

 

「っ!ーーお願い。

少しの間、邪竜と魔女の注意を引いて欲しいの。」

 

 

シャドウ・サーヴァントだけでなく、このまま邪竜にまで襲いかかられたら。間違いなく私達は全滅する。

だからほんの少しの時間で構わない。

打開策を練り出す時間を、私は稼ぎたかった。

 

 

「はい。貴女の信頼に必ず応えてみせましょう!」

 

 

ランスロットは毅然とした態度で私の頼みを受けると。

素早く身を翻し、地を蹴る。

黒騎士の姿は、あっという間に黒い人型達の間に消えた。

 

ーーーこれで少しは持ち堪えられる筈。

けど、シャドウ・サーヴァントはまだしも。

あの邪竜を倒すとなると・・。

 

 

「ねえ、ちょっと・・」

 

「ん?」

 

「私は?私は何をすればいいのかしら?」

 

「あっ。」

 

 

服の裾をクイクイと引かれ、見ればどこか期待を含んだ眼差しで私を見上げるエリザベート。

しまった・・うっかり忘れてた←

 

 

「ふふん。私を最後(トリ)に残すだなんて、アナタわかってるじゃない。マネージャーの素質あるわね!」

 

「まねーじゃー・・」

 

「これはつまりアレでしょ?

鮮血魔嬢アイドル★エリザベート・バートリーの歌声でこのステージ(戦場)を満たして、敵も味方も虜にしろってことなんでしょ?任せなさい。このフランスコンサート、大成功に導いてみせるわ!!」

 

「ふらんすこんさーと・・」

 

 

 

ーーー何だろう。

エリザベートの口にした『マネージャー』・『歌声』・『ステージ』・『コンサート』等のキーワードを耳にした途端。

私の第六感ともいうべき部分が物凄い警鐘を鳴らし始めた。

魔女の殺気を受けた時以上の危機感が、体の芯からジワジワと這い上がってくる。

 

ふと、視界に入ったアマデウスがマリーと一緒に乗る硝子の馬の背から。

見たことの無い形相と必死のジェスチャーで、コチラに何事かを訴えているのが見えた。

 

えーと。なになに?

 

 

 

【   そいつには  

 

    殺してでも  

 

    歌を  

 

    唄わせるなっ!!!!  】

 

 

 

ーーーーごくり。

どうやら私の直感は間違っていなかったらしい。

OK、アマデウス。任せて。

 

私は親指を立ててアマデウスに了承の意を伝え。

期待に胸をふくらませるエリザベートへ向き直った。告げるべき言葉は決まっている。

 

 

「全力待機でっ!!!!」

 

「はああっ!?何でよマネージャー!!」

 

 

『子ジカ』から『マネージャー』に昇格ーー昇格だよね?ーーした事は嬉しいけど。この娘を歌わせたら一大事になる予感がしたので、私は彼女に大人しくしてもらう事にした。

 

不満を隠すこと無く。

怒りに尻尾を跳ね上げ、抗議の声を上げるエリザベート。彼女をどうにか説得しようと、携帯している非常食(カロ○ーメイト)に何度目かの手を伸ばした時・・。

 

 

《ーーーーザッ!ガガッ!ザッッ!!》

 

「ッ!!」

 

《聞こえるかい!?立香ちゃん!!》

 

「ロマンッ!?」

 

《や、やったあああっ!!!!

繋がった!やっと繋がったぞぉおおおっ!!》

 

「えっ!?何このブタ()の声?誰?どこ?

もしかして幽霊!?ゴーストなの!?」

 

 

数時間ぶりに聞いたロマンの声に応えると。

ロマンが大喜びする気配が通信先から伝わってきた。どうやら謎の通信障害は直ったみたいだ。

 

エリザベートは始めて聞くカルデアからの通信に驚き。誰も居ないのに聞こえるロマンの声に、幽霊かと怯え始める。

 

・・・・女の子を怯えさせるなんて。

ロマン、見損なったよ。

 

 

《ちょっ!いきなりそれは無いんじゃないかな!?っていうかその娘、いま僕のことブタ呼ばわりしなかった!?》

 

「気のせいだよ気のせい。

それよりロマン。いま大変な事になってて・・」

 

《あ、うん。わかってる。

通信が繋がらなくなった時は焦ったけど『シバ』本体の観測性能に問題はなかったから。》

 

 

聞くと、通信が途切れてお互い連絡が取れなくなったものの。《霊基》や私の《生体反応》は問題なく観測出来ていたから私達のこれまでの動きは全部観ていて知っているとの事。

と云うことは・・。

 

 

「ロマンッ!キャスターは?

キャスターは無事なのっ!?」

 

 

置いてきてしまったキャスターが心配で尋ねれば、ロマンから明るい声が返ってきた。

 

 

《だいぶ霊基が弱ってるけど、無事みたいだ。

立香ちゃん達と別れた辺りに居るよ!》

 

「よ、良かった・・。」

 

 

私はキャスターの無事を聞いて胸を撫で下ろす。

信じてはいたけど、やっぱり心配なものは心配なのだ。

 

 

《あれ?・・・この辺って。

しかもこの反応はーー》

 

「?、どうかしたのロマン?」

 

《ーーーーいや。何でも無いよ。

それより、この状況を・・・・っ!?》

 

 

何かを言い淀んだロマン。

でも私がそれに疑問を抱く前に、彼は息を呑み。

慌てた様子で声を荒げ始めた。

 

 

《あああっ!!まずい!

コレはまずい!嘘だろ!?》

 

「えっ!なに!?」

 

《最悪だっ!ワイバーンだ!!

数え切れない数のワイバーンの大群が、こっちに向かって来る!!》

 

「ーーーッ!!」

 

 

知らされたその絶望的な内容に血の気が引いた。

ただでさえ劣勢なこの状況で、さらに敵のワイバーンの援軍。

無理だ。このままだと負ける。負けてしまう。

みんな殺されてしまう。そんなのーーダメだっ!

 

 

「どう、すれば・・っ!」

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

???視点

 

 

 

「ねぇ、遅いわよ!もっとスピードでないの?」

 

 

《ゼェッ・・ゼェッ・・!》

 

 

「重量オーバーですから仕方がありませんよ。

それにしても竜の背に乗って飛ぶのは初めてなのですが。なかなかに心地良いものですね。」

 

 

《ゼェッ・・ハァッ・・!》

 

 

「乗り心地はコッチの方が良いのは認めるけど・・。速さは断然、タラスクの方が上ね!」

 

 

《グヌオオオッ!!!!

このっ!人が必死に飛んどる上でコヤツら好き勝手にぃいいっ!!》

 

 

「す、すまない。

あと少しなんだ。もう少しだけ(こら)えてほしい。」

 

 

《ッ!ーーくっ、ウオオオオオォッ!!!!》

 

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

第三者視点

 

 

 

「えーいっ!突撃〜〜♪」

 

 

キラキラと光を反射する硝子の盾と剣を見事に操り。シャドウ・サーヴァントと渡り合う勇ましきフランス王妃。

護るべき国民と、敬愛する聖女達へ襲いかかろうとする複数の敵を。戦場を馬で始終駆け回り、果敢に食い止めていた。

 

 

「よっと!フォルテッシモッ!」

 

 

一方、彼女の背後でサポートに専念する音楽家は。指揮棒から次々と光弾を放ち。

討ち漏れた敵を。または死角から襲い来る敵を、的確に屠っていく。

 

彼の瞳には『此度こそ初恋の少女(マリア)を死なせはしない』と云う、固い決意が宿っていた。

 

 

 

 

・・・そんな彼らの攻防の先。

行く手を阻むシャドウ・サーヴァントを数体、苦もなく還した黒騎士は。

静かな足取りで、己より遥かに巨大な竜とその背に乗る魔女の前に歩み出た。

 

 

「あら、貴方なんで此処に居るのかしら?

異名に違わず、向こうに寝返ったものだとばかり思っていたのだけれど・・・今更許しを乞いにでも来たわけ?」

 

 

己の命に背き、忌々しい《聖女側》についた《バーサーク・セイバー》ーーランスロットへと。

彼の召喚主たるジャンヌ・オルタは冷笑を浮かべながら問う。

言外に《裏切り者》とそしられた彼は、しかし事実ゆえ弁解はせず。淡々と己の想いのみを口にする。

 

 

「その件に関しては何も言えませんが・・。

私が許しを乞うのはただ1人。《我が(アーサー)王》のみ。貴女にではありません。」

 

「はっ!なら何をしに?

まさか、わざわざ自分から進んで殺されに来たの?」

 

 

魔女は己の優位を確信していた。

《聖杯》をその身に宿し。

心を寄せる《邪竜》を味方とし。

今の己を脅かす存在は『此処』には居ないと。

『それら』は聖女を消し去り、《真作》の座を奪ってからゆっくり始末すれば良いと考えていた。

 

だからこそ、眼の前で行われる戦いも。

一方的に己が聖女達を蹂躙し尽くして終わるものだと思い込んでいた。

それ故に、彼女は失念していた。

 

 

「いえ、私はーーー貴女達を倒しに来ました。」

 

「は?」

 

 

己の喚んだ男が、かつて数多の魔獣を討伐し。

名だたる円卓の騎士の中でも、最強と謳われる武技を有していることを。

 

 

「お覚悟を!」

 

 

そして彼女は知らなかった。

バーサーカークラスの彼が平行世界の(えにし)から、とんでもない《隠し玉》を幾つも持っていたことを。

 

気付けば黒騎士の両手には2(ちょう)の短機関銃ーー俗に言う『サブマシンガン』が握られており。

躊躇いなくその引き金は引かれ。

銃口からは魔力で強化された凶弾が連射される。

 

 

【ッ!!ーー魔女っ!捕まれっ!!】

 

「きゃあっ!!」

 

 

とっさに体を傾け、銃の弾道から魔女を逃がす邪竜。代わりにファヴニールが弾丸を受けることとなかったが、彼の強靭な鱗は傷一つ付くことは無かった。

 

 

「なっ!なな、何よそれっ!?」

 

 

邪竜に救われた魔女は、しかし未だ動揺から立ち直れない。

なにせ剣やら槍やら盾やら馬やらが主流の旧時代の《英霊》が、サブマシンガンなる『近代兵器』を何喰わぬ顔で自分にぶっ放して来たのだ。

動揺するなと云うのは酷である。

 

 

「この弾丸も効きませんか・・ならばっ!」

 

 

そんな魔女に構わず。

黒騎士はサブマシンガンが通じないと判断すると、間を置かず新たな手を繰り出した。

彼は攻撃の手を緩めない。

 

息子の霊基を宿す少女(マシュ)と。

息子が認めたマスター(藤丸立香)

さらに己の王に似た聖処女(ジャンヌ・ダルク)を。

ランスロットは全力を賭して護り抜くと、心に決めているのだから。

 

故に、彼は始めから注意を引く(時間稼ぎ)だけで終わらせるつもりは無かった。

魔女と邪竜を、刺し違えてでも倒すつもりでいたのだ。

その覚悟ゆえにーーー黒騎士はついに『アレ』を喚び出した。

 

太陽光を受け、鈍く輝く鋼鉄のボディ。

速く、より速く飛ぶ事を望まれ生まれた矢尻の様な形状。

搭載された近代兵器の数々は『うわぁっ・・あれ良いの?OKなの?反則じゃない?』と。

最後のマスターが目撃すれば呟かずには要られないほど、エグい火力の品々。

 

その正体はーー『F―15J戦闘機』。

 

これが『コストを度外視した最強の制空戦闘機』をコンセプトに開発された。20世紀最高の戦闘機が中世フランスに出現した瞬間であった。

ーーーーこの騎士、もはや『何でもあり』である。

 

 

「うそっ!?ちょっ!?はああっ!!?」

 

【ーーーッ!!】

 

 

サブマシンガンに続いて同じ近代兵器のーーいや。よりパワーアップした『戦争兵器』の登場に魔女は動揺のあまり叫び。邪竜もまたその恐るべき火力を察し、眼を見開く。

 

驚愕する敵を尻目に、ランスロットは戦闘機の背部にしがみつくと。己の魔力を機体全体に行き渡らせ、エンジンを稼働させる。

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?今、誰か『アーサー』さんのこと呼ばなかった?」←藤丸立香

 

「(# ゚Д゚)」←マシュ

 

 

黒騎士は王の名を(おそらく気合いを入れる為に)咆哮の如く呼びながら空へと飛び立つ。

ーーーこの父親。せっかくの見せ場で何故息子(娘?)の神経を逆撫でする様なことをしてしまうのか・・。

(まこと)に残念なイケメンである。

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

【ーーーグッ!?】

 

「ファヴニールッ!!」

 

 

《聖杯》のブーストを受ける魔女に、攻撃・防御面での《強化》を与えられているファヴニールの漆黒の鱗は。

『天敵』か『同等に近い力を持つ竜種』。

もしくはそれらを超える『規格外の威力の武器』を有する者にしか砕けない。

 

けれど、ノーダメージとはいえ。

顔の側面にミサイルの直撃を喰らえば、さしもの邪竜といえど怯みはする。

邪竜の上げた苦悶の声に、魔女は怒りを露わに黒騎士を睨みつけた。

 

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

「アンタッ!調子にの」

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

「うるさっ!?『アーサーアーサー』うるさいのよ!このイカレ騎士っ!!!」

 

「Arrrthurrrrrrッ!!!!」

 

 

このまま制空権を奪われ。

一方的に攻撃の的になってなるものかと、魔女と邪竜は再び大空へと戻る。

 

・・・・こうして。

誰も予想だにしなかった。

ドラゴン(幻想種)》VS《戦闘機(近代兵器)》と云う。前代未聞の異種(?)空中戦が勃発したのであった。

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

 

《ははっ・・相変わらず無茶苦茶だなぁ。

ランスロットくんは。》

 

「(#^ω^)ピキピキ」←マシュ

 

「マシュ、落ち着いて。深呼吸だよ!深呼吸っ!」

 

 

場面は最後のマスター達の元へ戻り。

 

性懲りも無く、気安く《王》の名を連呼する《穀潰し》に怒り心頭なマシューーーの中のギャラハッド(の霊基)。

『状況が状況じゃなければ、戦闘機ごと頭から地面にメリ込ませて強制逆立ち(犬神家に)させてやんよ!!』と言わんばかりに、ブンブンと盾を振り回している。

ーーーー手を離せばそのままランスロットへ飛んで行きそうな良いスイングである。

 

そのフォームでも、キチンと敵の遠距離攻撃を防いでいるのはさすが《シールダー》クラスと言わざる負えない。

 

ちなみに藤丸立香が後輩の怒気を鎮めようと努め、ロマンが乾いた笑いを溢す傍で。

 

同じく防衛に専念するジャンヌだけは『素晴らしい兵器ですね!もしや他に戦艦とか戦車とかもあるのでは?』と手放しにランスロットの《擬似宝具(F―15J戦闘機)》を褒めていた。ついでに別の《高火力戦争兵器》へも思いを馳せていた。・・・・持っていたらどうするつもりなのだろうか、この聖処女。

 

黒騎士の操る戦闘機は、音速で縦横無尽に空を飛び回り。多彩な兵器の火力で邪竜を翻弄する。

その様は一見、善戦しているように見えた。

 

しかし、迫る敵の援軍ーーワイバーンの群れの存在が。彼女らの抱きかけた希望を虚しく萎ませる。

 

 

 

ーーーーーギャアアッ!ギャアアアッ!!!

 

 

 

「っ!!」

 

「き、来たわよ!マネージャーッ!!」

 

 

そうこうしているうちに。

遂に群れの先頭集団が彼女達の上空へと到達してしまう。

『邪竜の元へ集う』と云うファヴニールから受けた命を果たした為か。

己の意思を取り戻した飛竜達は各自、自由に行動し始める。

闘争本能のままに、視界に入った戦闘機ーーもといランスロットへと襲いかかるモノ達。

あるいは飢えを満たす為、都合よく眼下に群れる餌ーー藤丸立香達へと狙いを定めるモノ達。

 

捕食者にふさわしい鋭い牙を剥き出しにし。

舌舐めずりするかのごとく長い舌で口を舐めるワイバーン。その両翼が獲物へと急降下する為に、大きく広げられた時・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「  黄金の夢から醒め  」

 

 

ワイバーンの群れの中に唐突に発生した高濃度の魔力。

 

 

「  揺籃から解き放たれよ  」

 

 

蒼天を黄昏へと染め上げる眩い輝き。

 

 

「  《幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)ッ!!!》  」

 

 

 

《竜殺し》により横薙ぎに放たれた必殺の剣気は。その特性をもって、空に居る《彼ら》の周囲を飛び交う《竜種》達を、一撃にて葬り去った。

 

 

「っ!?ワイバーンがっ!!?」

 

《す、凄いっ!

今ので20匹以上のワイバーンの反応が消失!!

何者なんだっ!?》

 

 

驚き、上空を見上げる藤丸立香達を目視した《彼ら》は。乗っていたワイバーンーーーもとい、変化したフレイズマルから飛び降りる。

 

 

「ひゃあっ!!」

 

「マスターッ!退がってください!!」

 

「先輩っ!」

 

 

『シュタッ!』と危なげなく着地した人影達に飛び上がり。藤丸立香の背後へと隠れるエリザベート。

警戒を促すジャンヌとマシュの声を聞きながら。

彼女は眼の前に現れた人物達を、臆することなく見据えた。

 

不思議なことに、彼女は彼らを脅威とは感じなかった。

むしろ心の何処かで『彼らが来てくれたのなら、もう大丈夫だ。』と云う、奇妙な安堵感を覚えていた。

 

彼らは短い言葉を交わすと。

大剣を手にした青年ーージークフリート。

そして修道服の女性ーーマルタの2人が。

マリーとアマデウスを援護する為、シャドウ・サーヴァント達と交戦を始める。

 

その姿を見送り、1人残った男は最後のマスターたる少女へと向き直り、確かめるように問いかけた。

 

 

「貴女が『彼ら』が言っていた『カルデアの藤丸立香』殿で間違いありませんか?」

 

「え?そう、ですけど・・」

 

 

思わず敬語になりながらも肯定すれば、長髪の騎士ーーゲオルギウスはにこやかに微笑む。

 

 

「間に合って良かった。私の名はゲオルギウス。

貴女達《カルデア》の加勢に参りました。」

 

《ゲオルギウスッ!?

あのドラゴン退治で有名な聖人のかい!?》

 

「はい。ああ、あと私と共に来た彼らは《マルタ》と《ジークフリート》です。」

 

《えええええぇーっ!!!?》

 

「?、そんなに有名な人達なの?マシュ。」

 

「あっ、はい!この方々はですねーーー」

 

 

ゲオルギウス達の逸話を知らないマスターに、マシュはかいつまんで彼らが『ドラゴン退治のプロ』であることを説明する。

 

どごぞの特撮ヒーローものを思わせるナイスタイミングで登場したドラゴンスレイヤー達に、カルデア側の士気は大いに上がる事となった。

 

 

………………………………………………………………………………………

 

 

鼻を突く火薬の臭い。

全身に感じる爆風。

 

砕け散るのは燃える金属片。

飛び散るのは赤い肉片。

 

己と同じ姿のワイバーン達が、戦闘機にしがみつく頭のオカシイ騎士に片っ端から『爆散ッ!!』『撃墜ッ!!』されていく。

 

 

《・・・・帰りたい。》

 

 

その光景に、フレイズマルは恐怖のあまり慄いた。とにかく身の安全を確保する為。

青空に血生臭い花火を咲かす、ミサイルやらフレアディスペンサーやらの攻撃に巻き込まれぬよう距離を取る。

 

 

《こんな物騒な奴が居るとか聞いておらんのだが・・》

 

 

怖気づいたフレイズマルの心に『もう逃げても良いよな?ワシけっこう頑張ったし?アヤツら送り届けたし?もうファヴニールと殺り合うとかメッチャ痛い事しなくてよくね?』と云う、邪な考えが浮かぶ。

 

しかし、そんな彼の脳裏に(まるでテレパシーを受信したかのように)次男ーーオッテルの姿が映しだされた。

 

 

懐かしい故郷の森。

懐かしい我が家。

生前と変わらぬ、人間の姿のオッテルは。

こちらを振り返ると笑顔でーーーーボディーブローの練習を始めた。おいおい、マジか。

 

その腕の動きは鋭く、速く。

喰らえばまるで、腹をナイフで刺された様な激痛を感じることだろう。

 

よく見れば、オッテルの背後では大量のカワウソに押し潰されて死ーーーではなく。

埋もれて泡をふき、気絶しているレギンが倒れている。

音声は無いが、次男から放たれる無言の圧力により。彼は悟った。

 

 

《(・・・あっ、これ真面目にやらんとアカンやつだ。)》

 

 

『今更逃げるとか許さないぞ、クズ親父★』

彼の(黒い)笑顔は、そう言っていた。

 

 

《ハァ・・結局、ワシは最後の最期までクズのままだの。》

 

 

ここまで来て。直ぐそこに目的の長男が居るというのに。

それでも決めた覚悟が簡単に揺らいでしまった。

もはや己の腐った、自分本位な性根は永遠に治ることはないのだろうと。フレイズマルは自嘲する。

 

だが、こんなクズな父親を見限らず。

父のせいで死んだ息子は、発破をかけてくれた。

いまの映像が幻でなければ。

父がその皮を剥いだ息子は、今もなお何処かから見てくれている。

 

ならばーーー例えクズであろうとも。

父親である以上、最期までやり遂げてその責を果たさなければならない。

 

 

「ーーー行くか。」

 

 

彼の覚悟はもう2度と、揺らぐことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着した飛竜達が横槍を入れてくれたおかげで、ようやくバーサーカーな黒騎士の爆撃から逃れられた邪竜と魔女。一息つけたかと思いきや。

魔女はファヴニールの様子が、先程からおかしい事に気がついていた。

 

 

「どうかしたの?ファヴニール。」

 

【ーーーー。】

 

 

ジャンヌ・オルタが尋ねても反応はない。

いつものように、穏やかな声が返って来ることはない。

 

不安を覚えた魔女は邪竜が一心に凝視する方向へと、己も視線を向ける。

そこには1匹の、見慣れたワイバーンの姿があった。

 

ファヴニールがフランスに召喚されてから生み出した。

現在進行形でその辺りを飛び回っている、大量の飛竜の内の1匹。他と何も変わらない、取るに足らない存在。

邪竜が注視するワイバーンを、魔女はそのように捉えた。

 

だが、ファヴニールは違った。

彼は本能で《ソレ》が何者なのか感じ取っていた

その《(繋がり)》の濃さ故に、悟ってしまっていた。

 

 

【そんな訳が、ないっ!!

あの男は俺が・・!この地に居るわけがっ!】

 

 

邪竜が現状を否定しようと足掻く間に、件のワイバーンは彼らと距離を詰め。真っ正面を陣取った。

 

爆発やワイバーンの断末魔など、周囲の戦闘音に掻き消されることなく。

《念話》を通して聞こえてきたのは、遥か昔に彼がその手にかけた父の声。

 

 

《久しぶりだのう。

その様子だと元気そうだな?

・・・ファヴニール。》

 

【ッ!!ーーフレイズマルッ!!

貴様っ!きさまぁあああああアアアアアアッ!!!!】

 

 

魔女との交流によって凪いでいた邪竜の心が、怨敵の出現により烈火に呑まれる。

魂に刻まれ因子に宿るほどの、遠き過去から今尚抱き続ける憎悪が、憤怒が、殺意が。

それら昏き激情が彼の内で息を吹き返し、濁流のように溢れだす。

 

 

【ヨクモぬけぬけと俺の前二また現レタナッ!!

ヒトの皮を被ッタけだものガッ!!

家族ヨリ黄金を選ンだ畜生ガッ!!

殺シテヤル!殺シテヤル!殺シテヤル!殺シテヤル!殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤルッ!!!!】

 

《おお"ぅ・・。》

 

 

長男から浴びせられる怨嗟の声に『こうなる予測はしておったが、(じか)に罵られるとクルものがあるわー。あと殺意バリバリすぎて泣きたい。』と、ちょっぴり傷心するフレイズマル。

生前の行いによる自業自得なので、粛々と息子からの罵倒を受け入れるしかない。

ーーーがんばれクズ親父★(次男式応援)

 

 

【キサマのせいデ!!

レギンと俺ハ!俺タチ兄弟ハ!家族ハ!

不幸にナッタんだ!!

キサマが奴らカラ黄金ナド受け取らナケレばっ!!

殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤル殺シテヤルッ!!!】

 

《ーーーむ?》

 

 

爬虫類系の瞳に諦観を滲ませ、息子の『殺シテヤル』リピートを聞いていたフレイズマルは。

ふと、ある違和感に気づく。

 

 

《(もしやコヤツ・・呪いが解けとらんか?)》

 

 

神々から賠償として受け取った《黄金》を。

長男は確かに『黄金《など》』と言った。

《強欲の呪い》にかかっている状態では、けして口に出来無いセリフである。

そしてもう1つ、気になった違和感。

それは・・。

 

 

《のう、ファヴニール。

おぬし生前は親子の縁を切るほど怒り狂っていたと云うのに・・・今は『オッテル』に関することについて、何も言わんのだな?》

 

【・・・・ア“?お、テル?】

 

 

次男『オッテル』に関する言葉を、ファヴニールが一言も発さない事であった。

フレイズマルが死した次男に行った非道を、最も許し難いと憎悪し憤慨していたのは兄であるファヴニールである。

その彼が愛する家族であり、3兄弟の1人であるオッテルについて何も言及しないのは、あまりにも不自然だった。

 

だからこそ、疑問を抱いた父が何気なく投げかけた問い。

それは・・・またもやウッカリと。

長男が無意識に自覚する事を拒んでいた、とある《核心》に触れるものであった。

ーーーー所長っ!このクズまたやらかしましたっ!!←

 

 

 

【おっ、テル・・】

 

 

〚何でだ親父!こいつらはオッテルを殺したんだぞ!〛

 

 

ファヴニールの脳内に蘇るのは、彼が愛する家族を失った(喪った)忌まわしき日の記憶。

 

 

〚その黄金はどうするんだ?

もちろんオッテルの墓を建てるのに使うんだろ?〛

 

〚その黄金が誰のおかげで今ここに有ると思ってるんだ!オッテルの犠牲で得たものだぞ!!

せめてあいつの為に使ってやるべきだ!!〛

 

 

 

【オッテ、る・・オッ、テル。】

 

 

 

〚アイツはもうダメだ。

黄金に心を奪われておかしくなってしまった。

このままだと黄金を守る為に俺達を殺そうとするかもしれない。

なら、その前に俺達の手でアイツを殺し、オッテルの為にあの黄金を使ってやろう。〛

 

 

〚・・オッテルにちゃんと謝れよ。〛

 

 

 

 

【ーーーオッテル。】

 

〚 ファヴニール兄さんっ! 〛

 

 

 

幼い頃から心根の優しい、歳の近い弟は。

彼の記憶の中でーーー無邪気に笑った。

 

 

 

【あ"、あ"あアっ!?

アアアア"ア"ア"アッ!!!!

オッテル!オッテル!オッテル!オッテル!!!】

 

 

 

邪竜と化した兄は思い出した。

《強欲の呪い》から解き放たれ。正気を取り戻す際に。

見たくないと、受け入れたくないと。

無意識に目を逸らし、思考の外へ放棄し。

忘却の海へ沈めてしまった。

 

《己の犯した真の罪》を。

その罪に深く関わる愛するもう1人の家族(オッテル)の存在を。

 

 

ーーー神々から得た《黄金》は、誰の為に使うつもりだった?

 

オッテルの墓を建て弔ってやる為に。

 

 

ーーーその《黄金》は誰の犠牲をもって手に入れた?

 

オッテルの命と死後の尊厳を犠牲に。

 

 

ーーー誰の為に《フレイズマル()》を殺めた?

 

オッテルとレギン(家族)の為に。

 

 

 

【(そうだっ!

俺は、オッテルを弔う為に。

レギンを護る為に。

この手をあの男の血で汚した!

それなのにーー)】

 

 

 

ーーー墓を建てるどころか、弔いすらしなかった。

 

ーーー護るどころか、憎み合い。

お互いが非業の死を遂げる結末となってしまった。

 

 

【(俺は何も!何も弟達にしてやれなかった!

弟達の為にと、口にした事を何ひとつ果たせなかった!

これじゃあ、俺がした事は。

俺があの男を殺したのはーー)】

 

 

 

〚黙れ!黙れ!この黄金はワシの物だ!

金貨一枚、誰にも渡しはせん!!〛

 

〚よくも俺の黄金を。宝を。

盗人共が。必ず全員焼き殺し。

全ての宝をもう一度、この手に。〛

 

 

 

ーーーーまるで、始めから《黄金》を独り占めする為みたいじゃないかっ!!

 

 

 

【ーーーーーッ!!!!

ああああ"あ"っ!!オッテルッ!レギンッ!

そうじゃない!違うんだ!

俺は、俺はそんなつもりじゃなかったっ!!】

 

 

彼が直視した己の《真の罪》ーーーそれは父親を殺め、《黄金》を手にしながらも。愛する弟達の為に『何もしなかった(出来なかった)』と云う事実。

《強欲の呪い》が原因とはいえ。

その覆しようの無い生前の過ちに、ファヴニールは慟哭する。

 

弟達の為に、と彼が犯した《父親殺し》は。

今や、ただの《黄金の強奪》と化し。

 

弟達を想って口にした彼の言葉は。

今や、ただの《黄金を我が物にする為についた嘘》でしかない。

 

ファヴニール本人の真意を捨て置き。

傍から見た彼の一連の行動は。

彼が最も憎むフレイズマル(父親)と同等の、人道に反する醜い行為でしかなかったのだ。

 

 

【自分の物にするつもりなんてなかった!

あの言葉は嘘じゃなかった!

信じてくれ!頼む!

俺を信じてくれぇえええーーーっ!!!!】

 

「ファヴニール!ファヴニール!

私の声が聞こえないの!?」

 

 

自覚した己の罪と悔恨により、過去に囚われてしまった邪竜の心に。魔女の必死の呼びかけは届かない。

 

我武者羅に此処には居ない弟達へ。

己の本心を伝えようと吼え狂う姿は、酷く痛々しいものであった。

 

 

《ファヴニール・・お主は。》

 

 

『強欲の呪い』から解き放たれていた長男を、再び痛みを伴う苦悩の渦に叩き落としてしまったフレイズマル。

 

心を通わせた魔女の声が届かぬのに、憎悪する父親の声が届く筈もなく。

 

己の不用意な発言が引き金となって起こった出来事に、彼が息子へしてやれる事は。

苦しむ息子を救う為にできる、残された事はーーーー1つしかなかった。

 

 

《ワシがお主の悪夢を終わらせよう。

だからもう苦しまんでくれ・・ファヴニール。》

 

 

皮肉にも、それは父親が息子に救われた方法と同じもので。

 

 

《(・・・すまんの。

ワシがお主の為に出来ることは、こんな事しかないのだ。)》

 

 

フレイズマルは、暗い渦底に居る息子を救い上げる為。

此処に来るまでに下準備を重ねてきた『切り札』となる術を発動した。

 

 

《目覚めろ。我が身に潜みし『強欲の呪い』。

我こそが黄金と死の連鎖の起源。》

 

 

その身に集めたファヴニールの『竜の因子』を呼び水に。《霊基》に交じる『強欲の呪い』の残滓を呼び起こす。

 

《邪竜の因子》は元は《強欲の呪い》より生まれ出た物。血濡れの鎖を遡り、目覚めさせた恐ろしき《呪い》。フレイズマルはその『繋がり』を此度は利用する。

 

 

《思い出せ。己に架せられた怨讐を。

我が『黄金』の正当な所有者。

しかし、我の手に『黄金』は在らず。》

 

 

かつて己を支配し、狂わせた元凶に干渉。

《呪い》を自身の制御下に置き『黄金を奪われた』と誤認させる。

さらに体内の《邪竜の因子》と接続。

これにより、彼が辿るべき末路は定まった。

 

 

《『黄金』を奪われし我に力を与えよ。

 

呪われし強欲の血脈(グリード・ブラッドライン)ッ!!!』》

 

 

 

遠き過去にファヴニール(息子)より齎された救済を覆し。フレイズマル(父親)は人を棄て。

己もまた戻れぬ深き渦底へと・・・堕ちる。

 

 

【ガッ、あ"っ!!

グヴオオオオオオォーーッ!!!!】

 

「なっ!?」

 

 

骨が曲がり、関節が伸び、筋肉が膨れ上がる。

翼は広がり、口が裂ける。

 

バキゴキグキッ!と、不快な音を立てながら。

ワイバーンは魔女の前で異常な変貌を遂げていく。

そして、その肉体の変化が止まった時。

 

 

「何なのよ・・アンタ。」

 

【ーーグルルルルッ!!】

 

「何なのよっ!?」

 

 

 

ーーー新たな《邪竜》がこの世界に誕生した。

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

※皆様お待たせしました。

今回ようやく戦闘機ロット(戦闘機をしがみついて操縦するランスロットの略)を活躍させられました!

代償としてマシュの好感度は更に下がってしまいましたが!←(おい)

 

そしてカルデア組の援軍に参上したのは、戦力を優先した結果ドラゴンスレイヤー達となりました。

残念ながらコンラくん達がカルデアと合流できるのはまだまだ先ですね・・・がんばれ!!←

 

 

▼(改めて)オッテルについて

 

フレイズマルの息子で、ファヴニールの弟。

3兄弟の次男坊。

父親に頼まれカワウソ姿で()を獲っていたら、運悪く通りがかりの神に投石で殺された。

おのれロキ。

その上、賠償金に目が眩んだ父親に(カワウソ状態の)死体の皮を剥かれ、黄金の入れ物袋にされた。おのれクズ親父。

 

死後は残された家族が心配過ぎて《輪廻の輪》に加われず。その手前の辺りで自分の仮の《座》もどきの空間を創って現世を観ていた。(一応魔術師の息子だったので、そっち方面の才能はあった。)

 

兄と弟のやらかした諸々に関しては、自分の死が原因なので申し訳なく思っている。

どこぞの王子様!迷惑かけた皆々様!

ごめんんんんっ!!!

だが親父、テメェは別だ←

 

レギンは死後、魂をオッテルが《座(仮)》に招いたのだが。不幸な死に方をしてしまった可愛い弟を慰めようと、善意で(癒やそうと)カワウソ部隊を突撃させたら。三男のトラウマ・ドストライクだったらしく、意図せず気絶させてしまった。なんて事だ←

 

まだ完全には許せないが、改心して兄を救おうと努力している父親を温かく(時に厳しく)見守り中。

 

ーーー以上です!

 

 

次回はうっかり長男のSAN値をゼロにした父親が親子喧嘩(死闘)を繰り広げる模様。

戦闘描写が上手くなりたい・・(泣)

 



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錯綜

 

 

第三者視点

 

 

 

時は遡り、場面はとある森の中。

 

 

その男は、歌姫(クリスティーヌ)を愛していた。

醜い肉体に命の火が灯っていた頃も。

仮初の肉体に魂が囚われている今も。

 

変わらず、一途に。

己の歌姫を愛していた。

 

 

「ファントム。」

 

 

そんな男に躊躇いがちに声をかける幼い少年。

男にとって、少年はクリスティーヌの生まれ変わり。今を生きるクリスティーヌであった。

 

少年はヘニョリと眉を下げ。

いつもの明るい笑顔は何処へやら、浮かない顔だ。

 

 

「えっと・・あの。

さっきはーー怒って、ごめんね。」

 

 

おずおずと彼が紡いだのは謝罪の言葉。

 

 

「よく、考えてみたらさ。わかったんだ。

ファントムがあんな行動に出たのは・・・俺のことを、護ろうとしてくれたからなんだって。」

 

「クリスティーヌ。」

 

「でも、マスターは俺にとって本当に、本当に大切な人で。ファントムにとってのクリスティーヌさんみたいな人で。だから、傷つけようとしたのがどうしても許せなくて。こう、カッ!て頭に血が上って思わず殺気を飛ばし、まし、た。」

 

「・・・・・。」

 

 

男は何も応えず、見定めるようにジッと少年を見つめている。

・・・・違う。少年の声に夢中で聞き入っているのだ。

ぶれない。実にぶれない男である。

この様子だと殺気を飛ばされた(怒られた)事など、既に忘れていそうだ。気に病む必要など無かったぞ、少年。

 

 

「ーーーごめん。言い訳、だね。

それでも、ファントムに謝りたくてさ。

あと、その、護ろうとしてくれて・・ありがとう。人違いでも、嬉しかったから。」

 

 

話の内容が、ほぼ男の耳を素通りしているとは知らぬ少年は。申し訳なさそうに。

それでも、照れた様子で、ふと緩んだ頬を掻いた。

 

 

「クリスティーヌ・・。」

 

 

男は、思った。

我が歌姫(クリスティーヌ)は美しい、と。

 

容姿が変わろうとも、美しき声音は顕在で。

生前の己を救った、穢れなき心も変りなく。

 

この美しい歌姫(クリスティーヌ)を、害となる全てのモノから護らなければならない。

男は、魂を揺がす衝動に駆られた。

 

飛竜が空を、魔獣が地を。

我が物顔で飛び這い回るこの国では、少年(非力な歌姫)は常に危険に晒されているも同然。

狂気に侵された男はその様に考えた。

 

実際は、飛竜も魔獣も非常食にし。

影の国やアルスターへ1人旅した強者(つわもの)なのだが。

恋は盲目、バーサーカーも盲目なのである。

 

 

「ーーークリスティーヌ、耳をこちらへ。」

 

「?、うん。」

 

 

少年は生来の素直さと、男への負い目もあり。

請われるまま体を寄せ、利き耳を向ける。

 

仮面黒マントの男と幼子がナイショ話をしているの図。

危ない。危ない匂いしかしない。

公共の場ならお巡りさんに通報されそうだ。

 

・・・それはさておき。

無警戒に耳を傾ける少年に、男は口を寄せそっと囁いた。

 

 

「愛しき我が歌姫。私が、君をーーーーー」

 

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

 

 

ワイバーンに変化したフレイズマルが、ジークフリート達を背に乗せ飛び立った後。

残された者達は、地上から藤丸立香達の元へ向かう為、急ぎ動いた。

 

ランサー(クー・フーリン)はゲオルギウスに託された白馬ーーベイヤードに跨がると。オルガマリーに手を貸し、馬上へ軽々と引っ張り上げる。

 

イケメンにエスコートされて、白馬に乗馬ーーープリンセスに憧れる乙女なら胸をときめかせ頬を染める状況だ。

 

しかしながら、プリンセス役のオルガマリーの顔は赤くなるどころか、むすっと仏頂面である。

隠すことなく、ランサーと相乗りするこの状況が心底不満だと訴えていた。

 

 

「あんた・・餓鬼じゃねぇんだ。いい加減その(つら)なんとかしろや。」

 

「う、うるさいわね。ほっといてよ!」

 

 

オルガマリーとて、自身の態度が子供染みていることは百も承知である。

だが、彼女はコンラ(王子様)と白馬に乗りたかったのである。

それが何で父親(王様)と乗らなければならないのか。

 

 

 

 

〚マスター、お城で一緒に暮らそう。

必ず幸せにするよ・・俺のプリンセス。〛

 

〚こんら・・(キュンッ)〛

 

 

 

 

白馬に乗ると耳にした際、彼女の脳内を瞬く間に染め上げた恋する乙女の夢想(妄想)

現実では有り得ないとわかっている。

それでも、恋心を抱く少年と共に乗馬している間くらいは一時の夢を見たい。

オルガマリーは、そんないじらしい願いを抱いた。けれどーー

 

 

 

 

《コ、コンラ。あああ、あのね!

誰が馬に乗るかって事なんだけど、良かったら、わ、わたし、と・・》

 

《あっ!マスター、その事なんだけど。

父さんと一緒に乗ってもらった方が良いと思うんだ!》

 

《・・・・・ぇ”?》

 

 

 

 

もちろん少年に他意はなく。

この発言は、純粋にマスターの身を案じての事である。

 

ベイヤードがいくら賢い馬でも、落馬の危険はゼロではない。ならば、生前に戦車(馬が引くタイプ)を乗り回していた、乗馬経験豊かな父親に任せた方が安全だ。

 

コンラはそう思い至り、乗馬未経験のオルガマリーにランサーとの相乗りを勧めたのだった。

 

ちなみに『オルガマリーをベイヤードに乗せない』。『ファントムと相乗り』という選択肢は始めから除外である。

 

予想外にも、想い人によって打ち砕かれたオルガマリーの小さな願望()

 

彼女は思った。

コンラの気遣いは嬉しい。

状況的にも仕方がないのは理解している。

ランサーに、否が無いことも。

 

でも、やっぱり。やっぱり!!

コンラと一緒に白馬に乗りたかったぁあああっ!!!!(号泣)

 

 

そんな多彩な感情が入り混じる葛藤から。

オルガマリーはついつい胸中の不満を(取り繕う気の一切ない相手である)ランサーの前で、態度に表してしまうのだった。

 

ーーー息子の『お願い』を快く引き受けただけの父親にとっては。八つ当たり以外の何物でもない、迷惑極まりない事であったが・・。

 

正直、息子のマスターに思うところは多いに在るものの。渋い顔をしながらも、それ以上口には出さず。ランサーはオルガマリーを落下防止の為、己の前方に乗せた。

 

 

「短い間だが、頼んだぜ。」

 

「ブルルルッ!」

 

 

挨拶代わりにベイヤードの逞しい首元を撫でると。慣れた動作で手綱を引き、馬体を動かす。

少しばかり離れた所で、ファントムと何か話している息子に声をかける為だ。しかし。

 

 

「ーーーあ?」

 

「えっ・・?」

 

 

 

『そこ』には誰も居なかった。

ほんの1、2分。目を離しただけで。

『そこ』に居た筈の息子も、仮面の男も、影も形もなく消え失せていた。

 

唖然とする2人と1頭。

だが、彼らはすぐにその原因を知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛に狂った(ヤンデレ)って言えば何でも許されると思ってんじゃねぇぞ☆

お孫様放せやクラァアア”ア”アッ!!!!〙

 

 

突如として森の中に生じた眩い光(フラッシュ)

響き渡る、聞き覚えのある怒声。

 

とっさに声の方角に顔を向け目を凝らせば、木々の合間から上空を目指して細い光線(ビーム)が次々と放たれている。

まるで誰かに見つけてもらう為の、目印の様に。

その目印は少しずつ、ランサー達の元から遠ざかって行く。

 

ーーーここまでくれば、誰もが察したのではなかろうか。コンラとファントム、2人が失踪した経緯(いきさつ)を。

 

 

〘ご子息様ぁああっ!!

ヘルプ☆ヘルプーーッ!!!!〙

 

「あの、野郎っ!やりやがったなっ!!」

 

「えっ!?まさか!まさか!

イ、イヤァァアアアアーーーッ!!!!」

 

 

 

『誘拐事件』発生である。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

 

 

時と場所は、戦場へと戻る。

 

 

全身を余すところなく駆け回る、例えようの無い苛烈なイタミ。

思考を焼き焦がす激痛。

己の内側の何かが断ち切られ、繋がり、混じり合う不快な違和感。

己が『己ではないモノ』へと変化していく感覚。

 

ーーーふと、遠くなっていた意識が戻り。

フレイズマルが知らず閉じていた瞼を開けば、真っ先に視界にうつるは竜の両腕。

それは瞼の裏と同じ色をしていた。

 

痛みに堪える為か無意識に丸まっていた体を伸ばし。視線を巡らせ、己の肢体を確認する。

 

両翼とは分離した(かいな)

ワイバーンよりも数倍巨体化した(からだ)

心臓より流れ出し肉体に満ちる魔力(マナ)

 

どうやら『術』は成功したらしい、と《邪竜フレイズマル》は安堵の息を吐いた。

 

 

【ーーグルルルルッ!!】

 

「何なのよっ!?」

 

 

零れた息と共に出た、不本意な唸り声。

それに応えるよう、投げかけられた女の声に出どころである前方へ目線を上げる。

 

そこには未だ錯乱する息子(ファヴニール)と、その背に乗る魔女(ジャンヌ・オルタ)の姿があった。

魔女は怒りの形相でフレイズマルを睨めつけてくる。

 

 

(人の息子を勝手に召喚して、こき使いおって。怒りたいのはコチラの方なのだが・・まあいい。)

 

 

息子と魔女の間に、特殊な絆が結ばれているなど思いもよらぬ父親は、ジリジリと胃の腑を焼くような憤りを覚える。

 

それはファヴニールが《強欲の呪い》から解放されているならば、魔女に従うのは『聖杯』の力で強制的に従わされているからだと誤解したからだった。

 

しかし、フレイズマルも一時の感情に流されるほど青くはなく。生前の齢を重ねた魔術師としての経験から頭を冷やし。己の果たすべき事を成すため、彼は行動を起こす。

 

改新された心臓にてーー魔力を高速生成。

炎エネルギーへ変換。

喉奥で溜めたその火焔を、おもむろに口を開き・・・息子と魔女目がけて一気に放出した。

 

 

「ッ!?」

 

 

彼らに迫るは、真っ赤に燃え滾る灼熱のブレス。

相手がただの人間ならば、骨すら残さず灼き尽くされる威力だ。

 

 

「ーーさせるものか!!

吼え立てよ、我が憤怒!!!(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)》」

 

 

襲いかかる邪竜の猛火。

それを防ぐのもまた、炎。

 

正気を失い、対抗する術のないファヴニールに代わり。

魔女が己の『宝具』を解放した。

 

彼女の所持する呪いの旗。

そこに描かれた黒き竜の紋章が昏い輝きを宿すと、持ち主と周囲の怨念を魔力として吸収。それを糧に生み出された憎悪と憤怒の業火をーー撃つ。

 

 

「くうっ!」

 

【ヌ”ッ!!】

 

 

2つの豪火が宙でぶつかり合い、相殺される。周囲を熱風が吹き荒れ、治まると煙幕の様に残り火が両者の間に広がった。

 

 

【オレを、オレは、オレ、ハーーーー】

 

(ファヴニールは無事ね。でも・・)

 

 

生まれた僅かな停滞に、真っ先に己の邪竜の安否を確かめるジャンヌ・オルタ。だが、無傷ながらも苦しげなファヴニールの様子に、綻んだ顔をすぐに曇らせる。

 

『一刻も早く彼の正気を取り戻さなければ』と、焦燥に突き動かされるまま。

《聖杯》の力を行使する為、魔女は意識を集中させる。

 

 

ーーーこの時、過ぎたのは数秒程度の短い時間。

けれど、それは彼女がフレイズマルから注意を逸らしてしまった時間であり。

彼女とファヴニールの命運を左右する、決定的なモノとなった。

 

 

 

 

【オオオオオ”オ”ォ”ォーーッ!!!!】

 

「なっ!?」

 

 

壁のごとく両者を隔てていた焔の残滓を突き破り、姿を現したフレイズマル。彼は飛ぶスピードを緩めることなく、そのままファヴニールへと渾身のタックルを決める。

 

 

【ーーッ!!?】

 

「きゃああっ!?」

 

 

虚を衝かれたジャンヌ・オルタに反撃の余地はなく。ファヴニールの背にしがみつくしかない。

2匹の邪竜は衝突した勢いのまま、上下左右もわからぬほど揉みくちゃに空中で回り回る。

・・・その結果。

 

 

「ッ!?、しまっ」

 

 

しがみついていた魔女の手はついに離れ、彼女はファヴニールから振り落とされてしまった。

 

大空に放り出され、落下していく最中。

バチリと、フレイズマルの冷静な瞳と目が合い、ようやく彼女は気付く。

 

 

(ーーーあいつ!!

これが狙いだったのっ!?)

 

 

そう。フレイズマルの狙いは始めから『魔女(ジャンヌ・オルタ)邪竜(息子)を引き離す事』だった。

 

いくら邪竜にその身を転じ、力を得ようとも。《聖杯》のブーストを受ける魔女に息子の援護に回られては、勝ちようがない事を父親はわかっていた。

 

それ故に炎を吐い(フェイントをかけ)たり、不得手な肉弾戦を仕掛け(タックルをかまし)たりと策を講じたのだ。

 

 

「ファヴニールッ!!」

 

 

敵の思惑に気づいたジャンヌ・オルタ。

しかし、遅すぎた。

 

彼女の邪竜はフレイズマルと肉薄した状態で今なお戦っており。とてもではないが、落下する魔女を助けには行けそうもなかった。

いや、錯乱している今の状態では彼女が落ちた事に気付くどころか。背に乗っていた事すら覚えていないかも知れなかった。

 

 

「ーーーっ!!」

 

 

魔女は声にならない、悲痛な叫びを唇から漏らす。

このまま墜ちても、サーヴァントであるジャンヌ・オルタが死ぬことは無い。

だが、彼女は恐ろしかった。

 

ファヴニールから離され、1人になることが。

ファヴニールに忘れられ、独りになることが。

ファヴニールだけがーー『贋作』である彼女の味方だったから。

 

孤独の恐怖に苛まれる魔女。

そんな彼女を星の重力は無慈悲に大地へと引き寄せる。

 

 

  墜ちる。

 

  落ちる。

 

  おちる。

 

  オチル。

 

 

その先で、待ち受けるのはーー

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?また誰か落ちて来る!?」

 

「おや。あれは・・・彼も考えましたね。」

 

「戦局が変わったようですね、ジャンヌ。」

 

「ええ。・・マスター。

彼女の相手は私が。

聞きたい事も、ありますので。」

 

 

 

ーーー彼女が最も憎悪し、疎む。

聖処女(真作)』と『元師(裏切者)』達だった。

 

 

…………………………………………………………………………………………

 

 

邪魔になるジャンヌ・オルタを息子の背から振り落とす事に成功したフレイズマル。

 

けれど、まだ足りない。

魔女の与えた《強化》の効力を弱めるには、まだまだ彼らを引き離す必要があった。

父親は一旦、息子にしがみついていた両腕を解き。

後方へと逃れ、体勢を立て直す。

 

 

【ーーーっ、ファヴニールッ!!】

 

 

息子(オッテル)に似た少年のおかげで得た、ファントムからの情報を思い起こし。彼は更なる策を仕掛ける。

 

 

【お主、確かオルレアン城とかいう場所にこの国中の宝を集めているそうだな?

それを使えば、オッテルの墓ぐらい余裕で建てられるのではないか?】

 

【ーーーー。】

 

 

『オッテルの墓』ーーその言葉に。

濁ったファヴニールの眼が、微かな理性の光を取り戻した。

 

 

(まだ・・間に合うのか?

こんな俺にも、まだ弟達の為にしてやれる事がーーー残っているのか?)

 

 

暗い昏い渦底に、零れ落ちてきた小さな『輝き(希望)』。長男は導かれるように、縋るようにその『輝き』へと手を伸ばす。

 

 

(ああ、ああ、そうだ。

まだ間に合う!

あの宝を使ってオッテルの墓を。

レギンの墓を、建てよう。

隣同士がいい。

家族なのに別々に葬られて、2人共さぞ寂しかっただろう。俺が、俺が、今度こそちゃんと弔ってーーっ!)

 

 

憎悪する父親から施されたそれが。

己に残された。

弟達への、唯一の《贖罪》の術だと、愚かにもファヴニールは信じてしまった。

信じたいと、願ってしまった。

 

 

(ファヴニール、赦してくれとは言えぬ。ただひとつ、今のワシがお主に求めるのはーー)

 

 

 

【おっと、だが此処に居もしない死人の為に使うには勿体ないの。ワシの黄金はお主に盗られてしまった事だし・・・代わりにその宝を貰うとするか。】

 

【ッ!!?】

 

 

 

(ーーーワシに怒り、憎み。

追い掛けて来てくれる事だけだ。)

 

 

 

その輝き(希望)は・・『釣り餌』でしかないと云うのに。

 

 

 

【き、さま。何を・・】

 

【構わんだろう?

生前と同じだ。あの宝は、お主がワシを殺め。黄金を奪った賠償金として、ワシがいただく。

さてーーー城はアチラの方角だったか?】

 

【フレイズマルッ!!

きさまっ!キサマッ!

この恥知らずがぁあああああっ!!!!】

 

 

漆黒の両翼を羽ばたかせ。

オルレアン城を目指し、飛び去る憎き父親だった男。

 

激昂し、戻りつつあった理性をかなぐり捨てたファヴニールは。膨れ上がった殺意に流されるまま、その後を追う。

 

 

・・・・一瞬、ほんの少しだけ。

大切な『何か(誰か)』を、忘れているような。

後ろ髪を引かれるような。

この場を離れる事を躊躇するような想いに彼は駆られたが。

 

そんな些細な感覚は。

弟達への強い贖罪の念と、フレイズマルに向ける巨大な負の感情に塗り潰され。

すぐにわからなくなってしまった。

 

父親の思惑どおり、ファヴニールはフレイズマルを追い掛け。

戦場と化した《ラ・シャリテ》の街から。

ジャンヌ・オルタから、離れていく。

 

 

生涯を《強欲の呪い》に翻弄され、邪竜に堕ちし父と息子。

彼らの因縁の決着はーーー宝の山の傍らに佇む、オルレアン城にて。

 

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

※お、お久しぶりでございます(震え声)

此度も大遅刻して申し訳ない。

頑張りましたが、これが作者の戦闘描写の限界でした(白眼)

そして邪ンヌには可哀想な事をしてしまった。

すまねぇ。本当にすまねぇ!

 

更にやらかしまくってしまった輩が2名。

・・・弁明があるなら、聞くが?←

 

 

 

誘拐犯F「クリスティーヌを安全な場所に保護する為に行った事。弁明の必要など無い。この後は、彼女を陽の光など思い出さぬほど、深く堅く閉ざされた。石と鎖と革の部屋に招待する。

おおっ、おおっ!我が歌姫っ!!

その歌声を命果てるまで、私にっ!!!」

 

 

被害者K「」←(絶句)

 

 

 

(偽)窃盗犯F「ーーーああ。まあ、アレだ。悪いとは思うが、アヤツにこれ以上手を汚させない為にした事だからな。弁明はせんよ。どこぞで見ている息子達が、どう思っているかは少しだけ気がかりーーーうむ。嘘だ。それなりに・・いや。かなり。おおいに。気に、なる、の・・。」

 

 

次男O「( 無 )」

 

三男R「ガハァッ!!」←(吐血)

 

 

 

ダメだこいつら、早く何とかし(て座に還さ)ないと。

 



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夢幻泡影

 

 

第三者視点

 

 

 

中世フランスの大地を、仮面の男が駆けてゆく。

その両腕に、己の(魔力をのせた)声で眠らせた。愛する歌姫(クリスティーヌ)の生まれ変わりである(と思い込んでいる)少年ーーコンラを抱えながら。

 

しつこく追ってくる邪魔者達を、召喚した《落とし穴》や《頭上落下シャンデリア》といった罠で妨害しつつ。深き森を抜け。続く平原をも彼は走り抜ける。

 

そして・・・遂に辿り着いた。

仮面の男ーーファントムの知る中で。

この地にて最も『か弱きクリスティーヌを保護できる堅牢な場所』であり。『麗しきクリスティーヌに相応しい装飾と設備の整った場所』であるーーーー《オルレアン城》へと。

 

 

 

 

 

 

「あぁっ・・クリスティーヌッ!

クリスティーヌッ!!」

 

 

そびえ立つ巨城を仰ぎ見て、男は大いなる歓びと興奮に打ち震えた。

 

これで己は愛する歌姫を、悍ましきモノ達の手から永久に護れるのだ!!

これで己は愛する歌姫の、天上の声音を命尽きる時まで我が物と出来るのだ!!

 

 

「目覚めたならば。もう1度、もう1度。

私と唄おう、クリスティーヌ。

かつてのあの日々のように・・」

 

 

愛しき彼女が『歌姫』へ羽化する前。

醜悪な己が、彼女にまだ『天使』と呼ばれ唄の指導を行っていたーーー懐かしきオペラ座での、あの頃のように。

 

 

「また互いの声を重ね、交せ合い。

2人で美しい唄を奏でよう・・クリスティーヌ。」

 

 

(まばゆ)い過去の想い出を昏く澱んだその赤眼に幻視しながら。ファントムは夢見心地で歩を進める。

一歩、一歩、着実に。

己の行いが最愛の歌姫(少年)(さいわ)いに成ると、欠片も疑う事なく。

 

城の傍らに山のように積まれた黄金の品々には目もくれず。横を素通りし。

無防備に開け放たれた城門を、くぐった。

 

 

 

 

 

 

 

「天体は空洞。空洞は虚空。虚空には神ありき。

女神に(たた)えられし、勇猛なる獅子よ。

数多の勇者を屠ったその(あぎと)を今一度開け。」

 

「ッ!?」

 

「ーーー我が敵を噛み砕け《獅子座!!!(リオ)》」

 

 

唐突に紡がれ響く、凛とした女の声。

次の瞬間、男の行く手を遮るように星座がひとつ宙へと描かれる。

それは神話の時代。

英雄ヘラクレスに討たれた、ネメアの森の人喰い獅子(ライオン)を象った星々。

 

 

《グルルルッ、ガアァ!!》

 

 

首元に広がるは雄々しい(たてがみ)

血肉を求め爛々と輝く、飢えた獣の瞳。

生まれながらの捕食者に相応しい、鋭い牙と爪。

 

実体化した神代(かみしろ)の百獣の王は、ストンと身軽な動作で地に降り立つ。

 

そしてーーーファントムの張った数々の罠をどうにか潜り抜け。気取られぬよう魔術で姿を隠しながら追跡し、ようやく追いついたーーー召喚主(オルガマリー)の命に従い主の敵(ファントム)へと襲いかかった。

 

とっさに歌姫たる少年を庇い、小柄な体を左腕に抱くと。逆の腕を振りかぶり。

長く鋭利な己の鉤爪で、獅子の首を狙うファントム。怪人の異形の凶器が、目にも止まらぬ速さで振り下ろされる。

 

 

ーーーーバキンッ!!

 

 

「ッ!!?」

 

 

しかし、男の禍々しい爪は獅子の首を切り裂くことはできず。半ばから折れ、砕かれてしまった。

 

それはこの獅子が、生前に勇者達のあらゆる武器を防いだ強固な毛皮を持っていたからだった。

かの英雄ヘラクレスもこの硬すぎる毛皮のせいで苦戦を強いられ。3日3晩の格闘のすえ、絞殺にてようやく退治する事ができたのだ。

 

特殊な神器や呪具ならまだしも。

『無辜の怪物』によって生じた、異形の鉤爪では太刀打ちなど出来る筈がなかった。

 

男は凶器を砕かれた反動で体制を崩す。

応戦できそうなもう片方の鉤爪は、抱く歌姫(少年)の存在が使用を許さない。

もはやファントムがこの獅子に抗う術は、無かった。

 

 

ーーータンッ、タンッ。ダンッ!!

 

 

まさに『野生の獣』といった俊敏さで。敵に生じた隙を逃さず、一気に距離を詰める獅子。

 

迫る、大きく開かれた口から伸びるのは。

まるで(つるぎ)のような鋼鉄の牙。

敗れた勇者達の血に染まった、真っ赤な舌。

鼻孔に押し寄せる、獣と死の匂い。

 

 

《・・・エリック。》

 

 

「クリす、てぃーーー」

 

 

ネメアの獅子は。

憐れなほど一途に、歌姫への愛に狂い果てた男の頭部を。彼の抱いた叶わぬ幻想ごと。

 

 

ーーーーグシャリッ

 

 

躊躇いなく、無慈悲に噛み砕いた。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

ネメアの獅子に敗れ、霧散するファントムの肉体。

消えゆくその腕から落ち、背から地面にぶつかりかけた息子の腕を。ランサー(クー・フーリン)はギリギリで掴み、引き寄せる。

 

 

「よっ、と。・・たく、おまえは何だってこう面倒事に巻き込まれるんだ?」

 

 

ぽふり。

小さなコンラの身体は、容易(たやす)く父親の逞しい腕に受け止められ。軽々と抱えられた。

 

 

「コンラッ!」

 

 

ランサーに出遅れてしまったものの、同じくベイヤードの背から飛び降りたオルガマリーが2人の元に駆け寄る。

 

想い人である己のサーヴァントの身が心配過ぎて。

すぐ傍らで『命令どおり敵を倒したぜ主!仕事早いオレ凄くね?優秀じゃね?褒め称えてもいいんだぜ!というか褒めろ!!』とドヤ顔をしているライオンはスルーである。哀れ。

 

 

「コンラッ!コンラッ!」

 

「う、ん。ううーん。」

 

 

何度呼びかけても眠ったまま目覚めないコンラに、オルガマリーが焦りを募らせていると。

 

ファントムの罠に遅れを取り、結局は保護者達と共に誘拐犯を追い掛けることになった光槍ーーソウェイルが横からヒョイと割り込み。コンラの顔を覗き込んだ。

 

 

〘ありゃりゃー。

これはけっこう強力な睡眠誘導系の術をかけられてるっぽい☆まぁ、術者本人は消滅しやしたし。もう少しすれば自然と起きやすよー。〙

 

 

アッサリと今の主にかけられている魔術の種類を看破し、言外に心配は無用だと告げるソウェイル。

常の言動は『いい加減でチャラい』ものだが。主であるコンラを守護しようとする気持ちは、キチンと持ち合わせているらしい。

 

 

(ファントムに拐われた時も、私達に知らせてくれたし。思えばこの槍。コンラの命の恩人なのよね。)

 

 

前の街(ボルドー)で墜落死しかけたコンラを、光槍が自主的に現界して救った記憶がオルガマリーの脳裏に蘇る。

 

(変な槍だけど・・案外ちゃんとしてるのかも。)

 

今回の件で、彼女の中のソウェイルの好感度が少しばかり改善された瞬間であった。やったね☆←

 

 

 

それはさておき。

カルデア一行がいる戦場(ラ・シャリテ)へ向かう筈が、まさかのオルレアン城へ到着してしまったランサー達。

 

いつまで経っても褒めてくれない召喚主に痺れを切らしたライオンが、すね気味に還った後。

 

2人の人間を乗せた状態で長距離を全力疾走し、流石に疲弊したベイヤードを休ませながら。彼らはこの後の方針を話し合う。

 

本来ならすぐにでも、現在進行形で戦っている仲間達の所へ向かうべきであった。しかし。

 

 

「うーん・・エヘへー。フワフワー」

 

 

術のせいで爆睡しているコンラを連れて戦場に赴くのは、あまりにリスクが高かった。

オルガマリーに膝枕され、幸せそうに寝言を呟く息子に。ランサーは『どんな夢みてんだ?』と微妙な顔になる。

 

 

〘どーせお孫様が起きないとオイラうまく力出せないしー☆『ヒャッハーー!!』出来ないしー☆

もう此処でサボればいいんじゃないっすかー?

あの《ドラゴンバスターズ(竜殺し&聖人2名)》が加勢したんすから、まず負けませんってー。〙

 

 

一方、戦場に行ってもまともに戦えない状態のソウェイルは。不貞腐れて地面に寝転がっていた。

文字通りゴロゴロと転がっていた。

 

そんな《神槍》の威厳がまったく無い槍を見て、今度はオルガマリーが微妙な顔になる。

やめろソウェイル!

せっかく上がってきた好感度がまた下がるぞ!?←

 

やる気のない光槍の発言はアレだが。

眠る少年が目覚めない事には動きようがないのは事実。

 

彼らはコンラが起きるまで『この場(オルレアン城の近く)』に留まり。その後、すぐに『戦場(ラ・シャリテ)』へ移動する事で話し合いの決着をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、それは杞憂となる。

何故ならば・・・

 

 

【 グォオオオ“オ“オオーーーッ!!!! 】

 

 

「「ッ!!?」」

 

 

〘ゲエエッ!!!

なんかヤッベー☆感じのが2つもコッチに来やがるんですけどぉおおっ!!?〙

 

 

 

『戦場』の方が、彼らのところへ飛んで来たからである。

 

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 

コンラ視点

 

 

 

気がつくと、俺はどこかの海辺に1人で立っていた。

 

 

「?、此処は・・?」

 

(おかしいな?

さっきまでファントムと話してた筈なのに。)

 

 

キョロキョロと周りを見回したけど。ファントムだけじゃなく。近くにいた父さん、マスター、ベイヤードの姿もない。

 

眼に映るのは、何処までも続く白い砂浜。

綺麗な瑠璃色の海。

突き抜けるような晴天の空だ。

 

 

(いつの間に森の中から海岸に移動したんだろう・・・謎だ。)

 

 

本当なら『敵の策略で転移させられた』とか。

『敵に幻術をかけられている』とか。

悪い方の可能性を考えて焦る場面なんだろう。

けどーー

 

 

(・・・何だろう。

大丈夫な、気がする。)

 

 

不思議な事に『此処には自分に危害を加えるモノは存在しない』。そんな根拠もない確信を、俺はハッキリと胸に抱いていたのだった。

 

 

(うーん。よく分からないけど、悩んでても仕方ないし。とにかく帰り道か、帰る方法を探そう!)

 

 

俺はひとまず、美しい浜辺を海沿いに進む事にした。

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

途中で、どうせならと靴を脱ぎ、素足になる。

柔らかな砂と、押しては引く冷たい波の感触が心地良い。

 

 

「〜〜♪〜♪」

 

 

自然と鼻歌を口ずさみながら、俺は歩を進めていく。

 

 

《クゥー。》

 

「?」

 

 

ふと、耳に届いた鳴き声に空を仰いだ。

見ると1匹の海鳥が、高い蒼空をのびのびと飛んでいた。

 

 

《クゥー。クゥー。》

 

 

その海鳥は俺の頭上を数度旋回し、何故か高度を下げると・・。

 

 

「えっ?・・わ、わわっ!!」

 

 

バサリッ!と羽音を立てて。俺の肩に止まったのだった。驚いて思わず目を丸くし、立ち止まってしまう。

 

そんな俺を余所に、海鳥はまったく警戒せず。

むしろリラックスした様子で翼に嘴を突っ込み、せっせと羽繕いをし始めた。

 

 

(おお、落ち着けっ!落ち着くんだ俺っ!!

これはもしかして・・いや、もしかしなくとも!

『チャンス』なんじゃないかっ!!?)

 

 

突然の出来事に戸惑いつつも。俺は今の状況が『アニマルスキー(動物好き)』にとって、千載一遇の好機である事に気がついた。

 

天から与えられし《もふもふ☆撫で撫でタイム》の到来だ。この機会を逃すなど、あってはならないっ!!!←(使命感)

 

 

「撫でさせて・・もらうね?」

 

 

俺は海鳥を(おど)かさない様に。

そーと、そーと、手を伸ばし。

指先で、見るからに柔らかそうな羽毛に触れようとした・・・その時。

 

 

《クゥー?》

 

「ッ!!!?」

 

 

な、なななんとっ!!

海鳥がまるで甘えるように、自分から俺の指に頭を擦りつけて来てくれたのだ!

しかもそれだけじゃない!

指先を甘噛みしたり、体を存分に撫でさせてくれたりと出血大サービスだっ!!!

 

 

(うわあああああぁっ!!!

可愛いいよぉおおおーーっ!!!!

《アニサ》ありがとうございますぅうううっ!!!)←大感激

 

 

「えええと、えっと。

君が良ければ、なんだけど。

帰り道がわかるまで。

このまま俺と一緒に、行かない?」

 

 

興奮し過ぎてちょっと、どもってしまったけれど。海鳥とせっかく仲良くなれたのに。すぐお別れするのが残念で、イチかバチかお願いしてみたところ。

 

 

《クゥ!ククゥーッ!》

 

 

海鳥は快く頷いてくれた。

 

 

(や、やったーっ!!)

 

 

俺は嬉しくて嬉しくて。

肩に海鳥が居なければ、危うくバンザイしながらそこら中を走り回るところだった。

 

 

(エヘへー。人間の言葉がわかるなんて、とっても賢い子だなぁ。人懐っこいし、もしかして誰かの飼い鳥ちゃんなのかも?

羽根の撫で心地もフワフワで最高だったし。

たぶん飼い主さんに、こまめにお手入れして貰ってるんだろうな。)

 

 

「君の飼い主さん、優しい人なんだね。

海鳥ちゃん。」

 

《クゥーー!》

 

 

惜しげもなく振り撒かれる可愛さに、フニャフニャと頬をゆるませながら。

俺は同行してくれる《海鳥》もとい《海鳥ちゃん》と共に、再び砂浜を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

サクサク、サクサク。

 

サクサク、サクサク。

 

 

 

ーーーーどれほど脚を動かし続けただろう。

長い距離を、休むことなく歩いて来たというのに。俺は体に少しも疲労を感じていなかった。

 

天空に輝く太陽の位置も。

数刻前と変わっていないように思える。

 

 

(これは。此処はーーー『現実』じゃないのか。)

 

 

認識した違和感に。薄々感じていた予感が、明確なものとなっていく。

 

 

(それと・・なんだろう。

この場所、この景色。

どこかで見覚えがあるような?)

 

 

さらに、自分が今いる場所に漠然とした既視感を覚えた俺は。足を止め、その正体を探るために。

手掛かりになるモノを求めて注意深く自分の周囲を見渡した。すると・・

 

 

《クゥー!!》

 

「あっ!海鳥ちゃん!!」

 

 

何の前触れもなく、俺の肩を『止まり木』にしていた海鳥ちゃんが飛び立った。反射的にその姿を目で追う。

海鳥ちゃんは高度を上げる事なく、真っ直ぐ水平に飛んで行き。

 

 

《クゥ!クゥー。》

 

《ーーー何だ。また来たのか。》

 

 

慣れた動作で差し出された。

女性のすらりとした白い二の腕に、止まった。

 

 

《私のような者の所へ好んで来るとは。

お前もつくづく物好きな奴だな。》

 

 

長い黒髪が、吹いた潮風にフワリと舞った。

歪な石の塊の隣に、女性は1人佇んでいて。

 

初めて会う筈なのに。

その女性の横顔は、どうしてか酷く懐かしい感覚がして。

 

海鳥ちゃんへと注がれる眼差しには。

呆れを含みつつも。慈しむような、温かな感情が込められているのが垣間見えて・・。

 

 

「ーーーーッ!」

 

 

俺はその光景に。

ギュウッと胸が締め付けられるような切なさを覚えた。

 

 

(海鳥ちゃんが羨ましい。

お願いだから、俺も。俺を。

俺をーーーーその瞳に映して欲しい。)

 

 

そんな強い懇願の想いが、魂の奥底から溢れて。

激流のように押し寄せてくる。

 

 

《クゥー!クゥー!》

 

《?、珍しいな。

どうした。何を興奮して・・・》

 

 

堰を切ったように溢れ出た。不可思議な自分の感情を持て余し、動揺している間に。

 

女性は海鳥ちゃんに促され。

顔を横へ、俺の方へと向けーー

 

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?》

 

「え”っ。」

 

 

俺の姿を視界に捉えてーーーーピシリッと固まった。

 

 

《・・・・・・・・・・。》

 

「・・・・・・・・・・。」

 

《クゥー?》

 

 

春のように穏やかな、ポカポカとした温かな日射しをもたらす太陽の下。

お互いを見つめ合ったまま。石像のごとく微動打にしない、俺と謎の女性。

その間を、海の香りを乗せた柔らかな風が通り過ぎていく。

 

海鳥ちゃんが動かない俺と彼女を交互に見て、不思議そうに首を傾げた・・・うん。海鳥ちゃんの可愛さプライスレス!←(混乱中)

 

 

(ど、どうしよう・・。

見て欲しいと思ったけどっ!

見てくれたけどもっ!!)

 

 

まるで幽霊を目撃したかの様な表情で。

両眼をカッ!と見開き、ひたすら俺を凝視してくる女性。

 

なにやら凄く驚いているらしい相手の反応に。俺もどうするべきか迷って。ただ見つめ返すだけで、動けないでいた。

 

 

《・・・・・・お前、なぜ『此処』にいる。》

 

「っ!」

 

 

けれど、彼女の発したその一言により。

静寂と停滞は破られ、事態は急激に動き出した。

 

 

「あっ。それは、その、おれーーー」

 

《帰れ。》

 

「えっ?」

 

《帰れっ!!》

 

 

どう説明すべきかまごついていると。

女性は急に声を荒げ、俺を射抜くように鋭く睨んだ。驚いた海鳥ちゃんが、彼女の腕から慌ただしく飛び立つ。

 

少し前まで、温かな感情を滲ませていた相手の表情は一変し。今や眉を吊り上げた恐ろしい形相だ。女性の夜色の瞳の奥では、ゴウゴウと激しい炎が燃え上がっている。

 

・・・お、怒っていらっしゃる。

何故かわからないけど。

彼女は俺に対して、もの凄く怒っていた。

 

 

(えええええぇーーーっ!!!?

俺は何か、彼女を怒らせるような事をしでかしてしまったのかっ!!?)

 

 

「ご、ごめ」

 

《謝るな。そんな事より帰れ、一刻も早く帰れ。》

 

「えっ?えっ?でもーー」

 

《モタモタするな!早くしろ!》

 

 

有無を言わせぬ態度に困惑する俺へ。

バシャバシャと派手に水飛沫をあげながら女性は近づいてくる。そのあまりの勢いに気圧されて、思わず深い方へ後退ってしまった。

 

 

《クゥー!クゥー!》

 

 

そんな俺の頭上で、海鳥ちゃんが女性へ何か訴えるようにしきりに鳴く。

その鳴き声がどこか非難めいて聞こえるのは、俺の気のせいだろうか?

 

 

《っ!、黙れっ!!

本来であれば、お前が追い返すべきものを!》

 

《クゥー!クゥゥ!クゥーッ!!》

 

《余計なお世話だ!この愚か者がっ!!》

 

 

どうやら彼女は海鳥ちゃんと話せるみたいだ。

 

海鳥ちゃんの発した言葉の内容は俺には分からなかったけど。

それは彼女を煽ってしまったみたいで。

女性は怒りの矛先を変え、激情を露わに海鳥ちゃんと口論を始めた。

 

 

(何だ?何が起こってるんだっ!?

俺は一体どうすればいいんだっ!?

帰れって言われても、帰り方わからないし・・。)

 

 

怒涛の展開に付いていけず。

俺はひたすら狼狽えまくるしかない。

 

それでも、動物好き(アニマルスキー)として。

海鳥ちゃん(ペット)女性(飼い主(?))が喧嘩しているのを放っては置けないと腹を決める。

 

 

「あのっ!!」

 

 

2人(1人と1羽)の声量に負けないよう。

声を張り上げ、俺は仲裁に入ろうとした。

 

 

 

 

《〜〜〜ッ!!、とにかくっ!!》

 

 

ーーーーガシィッ!!!

 

 

「っ!!?!」

 

 

・・・・のだけれど。

女性の細腕からは想像できない、強い力で肩を掴まれ。その不意打ちにギョッとした俺は、頭が真っ白になってしまった。

 

 

《お前は二度と来るなっ!!!!》

 

 

思考がフリーズし。反射的に身を強張らせていた俺の体を。彼女はドンッ!と乱暴に突き飛ばす。

 

 

「ッ!? わ、あっ!!」

 

 

正気に戻り、慌てて踏ん張ろうと足に力を込めた。でも、膝下まで海に浸かった今の状態では上手くいかなくて。

海水の浮力に脚を取られ、俺は為す術もなく背後へ倒れる。

 

 

「っ、ごめんなさい! 『■■■■っ!!』」

 

 

《ッ!!?》

 

 

背中から浅瀬にダイブする事を悟り。

俺は『無意識に何かを口走った』あと。

とっさに海水が入らないよう瞼と口をキツく閉ざして、受け身をとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーードボンッ!!!!!

 

 

 

《・・・・・。》

 

《クゥー。》

 

《・・・・・・なぜ。》

 

《クゥー、クゥ。》

 

(アキラ)っ。お前は・・・》

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………

 

※お、お久しぶりでごさいます。

昨年中に第一特異点を終わらせる筈がまたもや大遅刻。

巻かないと!もっと巻かないと!!(切実)

 

 

 

▽コンラくん視点の補足

 

《謎の海辺》・・本人に自覚はないが、コンラくんの深層心理の片隅。そして同時に謎の女性のテリトリー。ふつうは此処まで来れない。でも誘拐犯Fの魔声で強制睡眠させられたら、うっかり潜って来てしまった。マジかよ←

 

《謎の女性》・・コンラくんと深い縁のある女性。見た目は黒髪黒瞳で東洋人っぽい。彼女がコンラくんに怒ったのは、あまり長いこと彼女のテリトリーに居ると現実に戻れ(目覚められ)なくなる可能性があったから。

おまっ!おまっ!このっ!!すぐに死亡フラグ立てるのやめろぉおおお!!!!←(ド怒り)

 

《謎の海鳥》・・こちらもコンラくんと縁のある子。実は女性は飼い主ではなく同居人。でも(素直じゃないけど)優しいから好き。彼女に良かれと思って連れて来たら怒られた。解せぬ。

 

 

ーーー以上ですっ!!!

 

 

あと、作中で出ました『アニサ』とは『動物好きな人間へのサービス(アニマルスキー・サービス)』の略です。

はい、捏造用語なのでご安心(?)を。

 

次回、ついに邪竜親子の戦いに決着がつく・・・筈だ←

 

 

 

▼オマケ{誘拐犯F追跡中の1コマ}

 

所長「(ファントムを)殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃっ!!!!!」

 

ヤリニキ「」←(遠い眼)

 

光槍〘ヤベ☆〙

 

 



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邪竜VS邪竜

第三者視点

 

 

 

講じた策がうまくいき、どうにかファヴニールを魔女(ジャンヌ・オルタ)から遠く引き離す事に成功したフレイズマル。

『絶★殺ッ!!!!』と激昂する長男を後ろに引き連れ、全力で空を翔け(逃げ)ていた彼の瞳に。ついに巨城と、山となった黄金の数々が映る。

 

此度の策で『餌』として利用した《黄金の山》は、陽の光を反射して不気味なほど美しく輝いていた。

 

 

【(ーーー着いたか。

さて・・・・っ!?、はっ!!?)】

 

 

その眩しさに僅かに眼を逸らしたフレイズマルは。意図せず、『此処に居るはずのない者達』を視界に入れ瞠目(どうもく)した。

 

 

【(何であやつらがこんな所にっ!?)】

 

 

先行した己とジークフリート達の後を追って。地上から戦場(ラ・シャリテ)へと向かっている筈のコンラ達が、何故かオルレアン城の傍らに居る。

意味がわからない←

 

 

【(くっ!今から場所を変えるのは無理か・・・やむを得んっ。)】

 

 

フレイズマルは苦渋ながらも。

最悪、彼らを『己と息子の戦い』に巻き込んでしまう事を覚悟した。

 

 

【ーーーふんっ!!】

 

 

グルンッ!!!

突如、猛スピードで翔んでいた邪竜(フレイズマル)の巨体が前転した。天地が逆さまになった姿勢で、彼は懐に飛び込んで来るファヴニールを迎え討つ。

 

 

【フレイズマルゥウ”ウ”ウッ!!!!】

 

【うおおお”おお”おおおおっ!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、城の上空に飛来した2匹の邪竜に眼を疑うオルガマリー達。警戒しながらも相手の出方を窺っていると。

争い始めた双竜の片割れが、溢れんばかりの憤怒と憎悪を込めて《とある名》を咆哮する。

 

その《名》に覚えがあった彼らは。

今度は別の意味で驚愕の眼差しを2匹の邪竜の片方ーーーフレイズマルへと向けた。

 

 

「えっ!?フレイズマル?

あれフレイズマルなのっ!!?」

 

〘ヒュ〜☆ただの弱ぇクズかと思いきや。

やるっすねカワウソのオッサンッ!!〙

 

「うう"・・ごめ、ううん"っ。」←((うな)され中)

 

「・・・まっ、腹くくったんだろうよ。」

 

 

息子を殺す(救う)為に、自ら人である事をやめ(邪竜へ堕ち)た父親。胸の内に息子達への愛情と償いの念を秘めた、その悍ましく呪われた巨体を。

 

ある者は、ただただ驚き。

あるモノは、『見直した』と賞賛し。

ある者は急に魘されはじめた、眠る息子を一瞥した後。その決死の想いに《理解》を示しながら、見やる。

 

 

その間にも、邪竜の父子はまさしく命を削り合って戦っていた。

鋭い牙が、爪が、黒き鱗に喰い込み、骨肉を断つ。

繰り出した万力の拳は、(はらわた)を突き鱗を剥ぐ。

吐いた灼熱の炎は、鱗に護られぬ弱き部位を焼き焦がす。

両者から流れ出た血は互いの躰を濡らすだけでは留まらず、下方に血の雨を降らせた。

 

天空で演じられる。

凄惨で、醜悪な、邪竜(肉親)同士の殺し合い。

まるで彼らの生前の行いを繰り返すかのような光景。そして勝利の天秤は、かつてと同じ結末を目指す様にーーー

 

 

【グアああぁあ"ア"ァッ!!!?】

 

「フレイズマルッ!!」

 

 

少しずつ、少しずつ。

長男たる邪竜(ファヴニール)(がわ)へと傾き始める。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

ふわり、ふわり。

 

 

 

(ーーーーー。)

 

 

深海から海面へ浮上するかの如く。

夢の淵を彷徨っていた少年の意識は、ゆっくりと覚醒していく。

 

 

(ーーーーーぁ。)

 

 

彼が体験した『夢の中の出来事』を。

ポロポロと、その小さな掌から零れ落としながら。

 

 

(ーーーーまって。)

 

 

(ーーーーいっちゃ、やだ。)

 

 

 

離れていく『記憶の欠片』を引き留めようと伸ばされた手は、無意味に宙を掻くばかりで届かない。

 

 

 

(ーーーーうみどりちゃんっ、■■■■っ。)

 

 

 

悲しみに彩られた音無き声が、微睡みの世界に響く。

 

 

 

 

《・・・・・。》

 

 

 

ふと、その声に応えるように。

まるで(かげ)る少年の心を慰めるかのように。

 

『誰か』が彼の頭を不器用に撫で。

少年の両眼をそっと両の手で覆い、瞼を閉じさせる。

 

 

 

《この程度の事でメソメソするな、痴れ者が。

・・・・・・案ずる必要はない。

『私達』は常にオマエのすぐ傍に居る。》

 

 

 

そう囁いた『どこか聞き覚えのある声』を耳にしたのを最後に。彼の意識は夢から醒め。

零れた記憶は、水泡のように弾け儚く消えた。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

「ぅ・・、あっ。」

 

 

パチリと、少年ーーコンラの閉じられていた瞼が開く。彼は眠りから覚めて早々。

憶えの無い喪失感と安堵感、そして喜びを抱いている自分に戸惑った。

 

 

(?、誰かと話してて・・何だっけ。)

 

 

いまだ少しばかり寝ぼけながら、僅かに残る『夢の記憶』を手繰り寄せる。

 

 

(怒られて。でも、励ましてもらった・・ような?うぅ、ダメだ。これ以上覚えてないや。)

 

 

薄っすらとしか思い出せない『夢の記憶』を、コンラは惜しく思う。何故かは解らないが。夢の中で話した『誰か』に励まされた事が、彼はとても嬉しかったのだ。

 

ずっとずっと『自分を見て欲しい』と乞い願い続けた相手が、思いがけず振り向いてくれた様な。そんな心地だった。

 

 

(いったい誰だったんだろう・・・って、あれ?

そういえば何で俺、寝てたんだ?)

 

 

ここに来てようやく、コンラは自分の現状に違和感を抱いた。それもその筈。

彼にしてみれば、キチンと憶えている記憶は『ファントムとの森でお話タイム』が最後。

まさかその話し相手(ファントム)に眠らされ、誘拐され。さらに監禁されかけたなど、思いも寄らないのであった。

ーーー誘拐監禁。ダメ、絶対ッ!!!!←

 

兎にも角にも。

やっと夢の残滓から抜け出し、眼が冴えたコンラ少年。彼は周囲を確認して、まずマスター(オルガマリー)に膝枕されている自分の体勢に驚き。

 

そして空を見上げる彼女の顔の、さらに先。

蒼穹に居る2匹の黒竜の姿を視界に捉えーーー

 

 

 

 

 

【グアああぁあ"ア"ァッ!!!?】

 

「フレイズマルッ!!」

 

 

 

「ーーッ!!?」

 

 

その片割れが、もう一方の首を喰いちぎる光景を目撃し、驚愕に眼を見開いた。

 

 

 

《だからこそ、全ての原因となったワシがあやつを殺めなければならない。この地にて再び始まってしまったあやつの苦しみを、ワシの手で終わらせてやりたいのだ。》

 

 

《ワシはーー『人』を棄て『竜』になる。》

 

 

 

数日前に聞いたフレイズマルの言葉達。

マスターが焦りを滲ませて叫んだ《名》。

 

それらの情報がコンラの脳内を素早く巡り。

彼は眼の前で起こっている出来事を、瞬時に理解した。

 

 

(マルちゃんがーーー危ないっ!!!)

 

 

「マルちゃんっ!!!!」

 

 

(フレイズマル)の危機を察したコンラは。

オルガマリーの膝から跳ね起きると、近くに浮いていたソウェイルを引っ掴み。ランサー達が止める間もなく走り出す。

 

 

〘ぐふえっ☆〙

 

「おい!?くっそ、またかっ!!」

 

「コンラッ!?待って!」

 

「ブルルッ!?」

 

 

上空の戦いに気を取られ、反応が遅れてしまった保護者2名と白馬であったが。彼らも直ぐさま火中に飛び込む少年の背を追いかける。

 

ーーー第一特異点(フランス)にて繰り広げられる戦いの1つが、終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 

 

【(ぬぐぅ!?これは・・まずいっ!!)】

 

 

明滅する視界の中。

己の首から滝のように噴き出す血液を認識し。その出血量にフレイズマルは焦燥を抱く。

 

いくら《幻想種》の頂点と云われる強き存在ーー《竜種》であろうとも。

生物である以上、一度に大量の血液を失えば肉体に支障がでるのは当然の事象。現に彼は、自らの四肢の動きが著しく鈍ったのを自覚した。

 

 

【(くっ!やはり血を多く流し過ぎたか!!

ーーーーーならばっ!!)】

 

 

どうにか保たれていた、息子との力の均衡が崩れたことを悟ったフレイズマル。彼は空中戦は不利と判断し、いち早く戦いの場を地上へと移す。

 

 

ーーーーズシンッ!!!

半ば墜落するように不時着し、巨大な足で赤く泥濘(ぬかる)んだ大地を踏み締める。

 

喰いちぎられた首の傷は徐々に塞がりつつあるが、他の傷に比べて治りが数倍遅い。

急所への損傷は、回復にだいぶ時間がかかりそうだった。

いまだ傷口からドクドクと流れ出る血。

その赤い液体と共に、フレイズマルの体力と魔力は失われていく。

 

 

【グルルルル・・ッ!】

 

 

対して。憎き父親を追い、同じく血濡れの大地に足を着けたファヴニール。

こちらもまた体中に手傷を負ってはいるが、傷自体は深くなく。すでに血は止まり、ほぼ全ての傷が塞がりかけてた。

 

遠く離れ、弱まろうとも。ファヴニールに施された《魔女》の守護(強化)は消え失せる事はなく。

戦いが長引く程に、その《付与》の差は顕著になっているようだった。

 

 

【殺スッ!殺スッ!コロスッ!!!!】

 

 

彼は殺意に眼をギラつかせながら。ジリジリとフレイズマルとの距離を狭めていく。

次の攻撃で一気にトドメを刺し、決着を着けるつもりなのだろう。

父親もその意図を察し、身構えるが。

この状況ではファヴニールに部がある事は明らかだった。

 

 

【(っ、ーーーまだだっ!!

まだ殺される訳にはいかぬ。

なんとしても、ワシはお主をっ!!!)】

 

 

それでも諦めず、反撃の手段を模索するフレイズマル。足掻く彼は、時間を稼ごうと一歩後退り。

ブレスをいつでも放てるよう大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………

 

 

※一度は投稿したものの、納得がいかず書き直し中。

お待たせして大変申し訳ありません!!

続きが出来しだい、すぐにUP致します!(スライディング土下座)

 

 

 

 



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