ソードアート・オンライン ~幻剣と絶剣~ (紅風車)
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適当な設定のようなもの

キャラ設定が欲しいと言われていたため、とりあえずキャラ設定だけを。
幻想剣とか霊幻とかはそのうち多分書きます。
あれは裏設定多いので(確か)。
必要最低限ぐらいしか書いてないので無いような物です。
気が向いたら改竄していくかもですね。
ストーリー進めないと絶対ありえませんが。


雪宮 響夜(旧名:時崎 直人)

 

年齢18歳

 

 

本小説の主人公。

適当に考えられたキャラなのに結構気に入ったため、気合いが途中から入りました。

本小説でのチートキャラです。一番の。

身長約170~173cm。

黒髪で、目つきは鋭いです。

不機嫌だと最早常時睨み状態です。

(木綿季や神楽、和人など親しい相手には和らぐ様)

 

本小説でのオリジナルキャラで、作者のチート好きによりチートキャラに。

SAO、ALOでは自分の空想を具現化させるスキルを保持。

和人と同様SAOのクリアに導いた人物。

ゲームは和人並に得意であり、機械も同様。

またプログラミングに精通しており、一目見れば大体のプログラム処理がわかるんだとか。

勉学も目で流し読みや即暗記が出来るなど異様な瞬間記憶力を持つ。

 

ALO編では自身の体で発病した白血病にて、あまり出番なし。

木綿季達に隠していた事がばれてしまったがそんなこと関係無しと木綿季達は響夜に付き合った。

メディキュボイドが外れてからは数日の様子見後退院。

その後は木綿季と殆ど共に過ごしている。

木綿季とは親公認の関係でいうなれば許婚。

夜の関係まで進んでおり、しっかりと養えるようになったら子供も考えている様子。

怖がりな木綿季を時々弄ったりして楽しんでいたり?

お化け屋敷などで脅かす側の役に回ることが多いんだとか(木綿季限定で)

怖い系といったホラーは大の得意で弱点があまりない。

大きな弱点は恐らく神楽か木綿季を泣かせることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紺野 木綿季

 

年齢15歳

 

 

本小説のヒロイン。

恐らく作者が思うに二番目のチートキャラな気がします。

作者のお気に入りキャラなのか、謎の魔改造が時々あったりなかったり。

ほぼオリジナルといっていい程変わっているため詳細を。

身長は約142~146cm。

髪は黒色で腰まで届く長さ。

胸は原作よりはあります、具体的にはDカップほど。

 

原作では不治の病気でしたが、作者のお気に入りキャラで生存した木綿季を見てみたいという気持ちでこの小説が出来てしまったのです。

そのためこの小説での木綿季はすごい元気です。

とにかく元気で、病気とか殆どしてないです(たまに怪我で病院行く程度)。

また、木綿季の家族も病気患いではありません。

木綿季の目標は『響夜のお嫁さんになること』のようですよ。

結婚には女性は16歳、男性は18歳からなのです。

自分の親が響夜を認めて送り出してしまったのと響夜の親も木綿季を気に入っている事から両方の親公認である。

基本的に天真爛漫で元気いっぱいだが、案外怖がり。

お化けや幽霊などの心霊は苦手だが、ジェットコースター等は普通に好き。

中学時代色々あったようで、中学での関係による事は嫌い。

泣くことは我慢するが、響夜にばれたり諭されてしまうとすぐに大泣きする。

また響夜とも夜の関係を持ってしまったため、時々そういう気分になると直球で言ったりする。(響夜さんも大変)

自分のすべてを受け止めてくれる響夜に対して無意識に依存しており、響夜の前だけでのみ甘えたがりに変化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪宮 神楽(旧名:紺野 神楽)

 

年齢15歳

 

 

本小説のオリジナルキャラ。

響夜の妹ポジションとして登場し、まさかの三つ子設定により木綿季とも姉妹関係へと。

チートキャラぽくみえて実はそこまでチートじゃないんです。

何故かって?戦闘苦手な子だから。(戦闘シーンあまり描写してないのもそういう感じです)

身長はまさかの約136~140cm、圧倒的ちびっ子。

髪は木綿季と同等の黒髪ロング。

胸は木綿季より少し大きめです。(少なくともD以上らしい)

原作にいるわけがないのでその辺り省けますね。楽々。

作者的にこういう妹欲しいです。可愛いですよね。

 

響夜に看過されたのか機械を弄るように。

最も得意とするのはハッキング。

その気になれば国家の防衛システム等を潜り抜ける事すら。(ここまでいくと一種のプロである)

響夜と同じくゲーム好きで、FPSといったジャンルがよくプレイする。

ALOでは《夢弓》というスキルを保持、恐ろしい射撃能力を発揮する。

しかし戦闘は嫌いなのかあまり自主的には行かず、響夜等に誘われて行く程度。

本職は鍛治屋さんなので仕方ない気もするが。

 

 



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《番外ストーリー〉
番外編『もしものお話』第一話


友人の謎の推しにより、『もし響夜達が普通にSAO以前から知り合っていたら?』というお話です。

このお話はSAO事件後でALOの出来事が無いと思っていただければ。
結構無理矢理ですが楽しんでもらえれば幸いです。

また、作者の気まぐれで続きが決まりますので期待して続きを待つといつになるか分かりません。
更新は期待してはダメですよ。

それでは番外編『もしものお話』どうぞ。





 

 

『や、やめっ・・・』

 

『うっせーよ!ボクとかオカマだ!オーカーマー!』

 

『そーだそーだ!気持ち悪い!』

 

『うう・・・』

 

『てめぇら、なぁにしてだよ』

 

『げっ、雪宮だ!逃げろ!』

 

『うわー!』

 

『っち・・・大丈夫か?』

 

『う、うん・・・ありがとう・・・』

 

『木綿季ちゃんの為だからな!気にすんな!』

 

『えへへ・・・ありがとう・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だか懐かしい夢を見た。

今じゃ・・・昔の事だけど。

 

「ん・・・ふぐ・・・」

 

俺はベッドから起きて背伸びをすると時計を見た。

時間はどうやら朝の7時だったらしい。

普通なら学校に行く準備をすべきなのだが・・・俺は学校に行っていない。

 

小学校卒業してからだったか、俺は行かなくなった。

なにも虐めとかではない。

ただ行くのが面倒になっただけだ。

家族は殆ど家に居ないのと、家に居るのは妹一人。

しかしその妹は登校拒否のため問題なかった。

 

体を伸ばしていると呼び鈴が鳴り響いた。

今の時間は登校時間なのだが・・・俺にはいつも昔から迎えに来る奴がいる。

無論俺は学校に行く気が無いため基本無視だが。

 

「きょ・・・!い・・・いのー?」

 

かすかに聞き取れたがどうせ俺の事だろう。

ちなみに俺を呼んだのは【紺野木綿季】。

親絡みでの付き合いで、俺も小さいときは一緒によく遊んだものだ。

小学校も1~5年生までは一緒に登校していたが、6年生からは木綿季より早く登校して授業以外は姿を眩ませた。

その辺りからゲームにのめり込むようにもなった。

いつも俺は朝起きると朝ごはんを作る。

それをしないと妹の朝ごはんが無いのとやはりインスタント食品より手料理のが栄養もあって沢山食べれる。

 

「っと・・・ま、これで良いか」

 

軽く朝ごはんを作るとそれを二階へ持っていく。

二階には俺と妹の部屋があり、妹は部屋から出たがらないので持って行かなければならない。

俺は朝ごはんを持って妹の部屋の扉を軽く叩く。

 

「神楽ー、中入るぞ」

 

神楽というのは俺の妹の名だ。

俺と同じく学校に行かず、部屋によく篭る。

 

「ん・・・にぃに」

 

「おはよう。朝ごはん作ったぞ」

 

「ぁりがと・・・」

 

「食べ終わったら俺の部屋の扉叩くか、自分の部屋の扉の前に置いといてくれ。片付ける」

 

「ぁ・・・ぇと・・・」

 

「ん?」

 

「自分・・・で・・・やる」

 

「・・・そうか。なら頼むよ」

 

「ぅん・・・」

 

今日はどうやら何かがありそうな気がする。

神楽は自分の部屋から出たがらないが、時々こうして出るときがある。

俺としては手伝ってくれる時もあって楽な事もあるし気にはしない。

 

「さて・・・と。続きやるか」

 

俺は朝にいつもあることをしている。

それはプログラミングで、大まかにいえばゲームの自律プログラム。

自分で思考し、検証し、実行する物を俺は作ろうとしている。

もっともこれはほとんど出来ており、今は最後のチェックを済ませて終われば、とある人物に渡して終わりとなる。

もっともこのまま就職しないかと誘われるだろうが、それは断らないつもりだ。

俺は仮想現実と呼ばれる物をもっと進めたい。

以前世界を驚かせたフルダイブのソードアード・オンラインと呼ばれるゲーム。

これを踏まえて、仮想現実の物を現実世界に映し出せないかという研究が俺が協力している事でもある。

 

 

チェックを終わらせて完成し、休憩をしていると携帯が振動した。

恐らく電話だろうと思い、誰からなのか見た。

 

「・・・アルか」

 

アルというのは愛称で、本名は【七色・アルシャービン】。

僅か12歳で天才科学者となり、VR技術を大きく躍進させた。

ちなみに俺とは兄妹のような関係がある。

血は一切繋がっていないが、親絡みという奴だ。

正直木綿季よりも長く居ると思う。

 

「はいはい、どうした」

 

『どうしたもない!何コールかかってるの!』

 

「・・・誰かさんが頼んできたプログラムでくっそ時間かかるのに休憩時間にかけてきた阿呆が何をほざくかと思えば・・・」

 

『うぐ・・・そ、それは悪かったわ。でもあまり時間が無いのよ』

 

「そりゃあ分かってる。てかチェックも終わって基盤は完成してる」

 

『ほんと!?』

 

「おうよ・・・で、お前がこっちに来てからじゃないと続きは無いぞ」

 

『んー・・・分かったわ、お兄ちゃん。でもすぐには行けないから・・・そうね一週間ぐらいかしら』

 

「分かった」

 

『それと・・・学校に行かないの?』

 

まさかアルがこんなこと聞いてくるとはな・・・。

でも学校・・・か。

今更行っても・・・浮くだけだろ・・・。

 

『お兄ちゃんなら大丈夫よ。不登校だからって暗く考えたらダメ』

 

「・・・そういうもんかねぇ」

 

『ええ。それに友達居るんでしょ?』

 

「・・・最近顔合わせてねぇけどな」

 

『なら良いじゃない!頑張って行きなさい』

 

「はは・・・アルに言われて少し気力が出た」

 

『そう?なら良かったわ・・・じゃあ準備をしていかないとだから切るわね』

 

「あいよ。じゃあな、アル」

 

電話を切ると俺はクローゼットを開けた。

中には高校の制服が入っている。

 

「・・・新品だよなぁ」

 

入学式にすら出ていない俺が制服を使っているわけも無いので新品同然だった。

包装を剥がして制服を取り出すと、着替えた。

カッターシャツなどはもしもの為に母さんが買っておいてくれた。

 

「こうなるのを予想したのかね、母さんは」

 

俺の母さんは予想がもはや予言のような時があって怖いが、それと同時に用意周到とも言える。

学校指定の服装に着替えて、カバンにはとりあえず筆記用具を放り込んだ。

教科書は学校が預かっている間々なので持ち合わせていないし。

 

「さて・・・神楽に言うか」

 

俺は部屋を出ると神楽の部屋の扉を叩く。

 

「神楽、入るぞ」

 

「ん・・・どした・・・の?」

 

「アルに言われてな・・・学校に行けと言われてしまった」

 

「ふふ・・・アルらしいね」

 

「なので俺は今から行ってくる。まぁもしかしたらすぐに帰るかもな」

 

「ん・・・わかった」

 

「もし俺の帰りが遅くてご飯に間に合わなかった場合・・・作れるか?」

 

「だい・・・じょぶ」

 

「わかった。俺が行ってる間家を頼むぞ」

 

「任せて」

 

胸をはって神楽が言うため、頭を撫でてやると俺は部屋を出て外に置いてあるバイクに乗った。

このバイクは俺の気まぐれで免許を取った時に父さんが買ってくれた物だ。

幸いにも学校には自動車、バイクの登校は許可されていたためバイクで乗り込むことにした。

 

「さてと・・・行きますか」

 

数ヶ月ぶりにエンジンを吹かせると俺は不登校から脱却すべく動く事にした。

 

 

 




友人による行動によって書かれた今回。
続きが見たいという声が大きければ続きを書くかも・・・?
ですが所詮番外編なので気まぐれです。


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《ソードアート・オンライン》
デスゲームの始まり


SAO《ソードアート・オンライン》。

天才物理科学者『茅場晶彦』が作り出したVRMMO型オンラインゲーム。

俺、雪宮響夜はそのSAOのβテストに当選して今日の正式サービスを待っていた。

サービス開始日は2022年の11月6日。

 

「さて、やっかなぁ」

 

SAOをするには必要なものがあった。

それはナーヴギアと呼ばれる物。

これをヘルメットの要領で被る。

そして感覚を頭に集中していよいよSAOを始めた。

 

「そういえばあいつらも・・・やるんだっけか」

 

響夜はリアルでの友人を思い出した。

その友人もSAOをやると言ってたためもしかしたら会うかもしれない。

 

「まぁいいか・・・リンクスタート!」

 

それはまたその時考えれば良いと思いヒビキは言葉を言った。

これがSAOを開始するための言葉。

そしてしばらくすると、閉じた目から光が少し漏れる。

目を開けるとそこはβテストの時からあった最初の町《はじまりの街》だった。

ここでの自分の名前は『hibiki』。

全然ぱっと思いつかず適当に決めた結果である。

 

「久々だな、ここは」

 

最後に来たのはβテスト終了間近であるため期間が長かった。

そして確認のためメニュー画面を出し、自分のアイテムや武器などをβテストと変わらないか確認をした。

 

「あん時と変わんねぇか」

 

確認も終わって一度フィールドに出ようとしたところ。

 

「ねぇ、そこのきみー!」

 

少女に話し掛けられた。

見た目は10代ぐらいで紺色というか紫っぽい女の子だった。

 

「ん、何か用?」

 

「嫌じゃなければ何だけど、ボクに戦い方教えて欲しいんだ!」

 

「あー、俺も同じで手探り状態なんだ、だから教えれないかな・・・他の人に当たってみると良いよ」

 

「そっかぁ・・・ごめんね!それじゃあ!」

 

簡単に考えた嘘を信じ込んだのかすぐにどっか立ち去ったのを見て「元気だなぁ」と思いつつ、フィールドに出た。

実際はβテストで予習はしているためソードスキルも立ち回りも大体は分かっている。

しかし何故教えてないかと言えば、誰かとするのが嫌で嘘をついた。

あの少女には申し訳ない事をしたと思いつつ、敵モンスターを探しにフィールドを歩き回る。

 

 

 

ヒビキはフィールドで敵モンスターを見つけるとモーションを取った。

 

「さて、と・・・とぉぉりゃあああ!!」

 

SAOの攻撃は主にこのソードスキルと言われる技を使う。

基本攻撃も大事だがSAOでの魅力がソードスキルである。

ヒビキがさき放った物もソードスキルで《レイジスパイク》と呼ばれる片手剣の基本形スキルだ。

 

「しばらくここで斬っとくか」

 

そういうとヒビキは19時近くまで狩りを続けていた。

さすがに疲れたのかログアウトをしようと考えメニュー画面からログアウトをしようとしたが。

 

「・・・?ねぇな」

 

本来であればログアウトボタンがあったであろう位置は空白で消えている。

リリース当日にこんなバグをすると思えないが一応GMコールをヒビキはした。

すると遠くからゴーン、ゴーンと鐘の音がした。

その直後、テレポートが発動しはじまりの街に帰ってきた。

他のプレイヤーも同じなのかどんどんとテレポートされて来る。

中にはあの紫髪の女の子も居た。

そして空には赤い点滅物があった。

そこからどんどんと増え、液体のようなものが垂れて、赤いフードを被った何かが現れた。

 

「ようこそ、ソードアート・オンラインの世界へ。私はこの世界の創造者、茅場晶彦だ」

 

周りはGMの登場に驚くも言葉を待った。

 

「諸君らは恐らくもうメニュー画面からログアウトボタンが消失している事に気づいているだろう。しかしこれはバグではない」

 

「なっ・・・!」

 

「もう一度言おう、これはバグではなくソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

茅場晶彦はそういったのだ。

バグではない。

これがこのゲーム本来の仕様でこれからもそうであると。

 

「そしてまた、この世界では諸君らのHPは現実世界での命と言って等しいだろう。もし諸君らのHPが【0】になった瞬間、諸君らのアバターは永久消去され・・・ナーヴギアによる信号素子によって強電磁パルスによって諸君らの脳は破壊される」

 

そんな発言をする茅場にプレイヤーは批判、暴言など様々だった。

それはそうだ。

ログアウト出来ず、死ねば現実でも死ぬのに何も言わないわけがない。

 

「また、外部からの取り外しもありえない。すでに報道機関によってナーヴギアの取り外しを試みた者を含め。数百人がソードアート・オンライン及び現実世界からも永久退場している。故に今後ナーヴギアに対するネットワーク切断及び電源切断はありえないだろう」

 

例え外部・・・家族が気づきそれを試みた瞬間、自分達の脳は無関係で破壊される。

報道機関はそれを早く報道してるってことは・・・嘘ではないと茅場が提示している現実世界の映像が物語っている。

 

「さて・・・諸君らのプレゼントストレージに些細だがあるものを送らせてもらった。活用してくれたまえ」

 

茅場がそういうとヒビキはすぐに確認した。

そしてプレゼントストレージには『手鏡』が入っていた。

 

「手鏡・・・?」

 

それを取り出すとそこには自分のアバターが写っていた。

すると周りから悲鳴が聞こえた。

手鏡から発する光に包まれ、それはヒビキも例外ではなかった。

 

「なっ・・・!?」

 

 

しばらくし、光が収まると周りには太った者や痩せた者が居た。

ヒビキはすぐに自分の手鏡を覗き込んだ。

そこには現実世界での自分の姿が写っていた。

そして周りをもう一回見渡すとそこには自分の友人である桐ケ谷和人が居た。

 

「やっぱしてるんだな、あいつも」

 

後で会いに行こうと思い、茅場に向き合った。

 

「今後、あらゆる蘇生アイテムは機能しない。諸君らのHPが0になった瞬間、アバターが永久削除され、ナーヴギアによって脳は破壊される。生還する方法はただ一つ、アインクラッドの100層に居るボスモンスターを倒せば諸君らは現実世界に帰還出来る・・・以上でソードアート・オンラインの正式チュートリアルを終了する」

 

そういうと茅場は消えて何も無かったかのように消え去った。

その瞬間、周りは悲鳴を上げるものや暴言などを言った。

それのほとんどが現実世界に帰せなどと言うものだった。

ヒビキはそれを放置し、和人の所に行った。

 

「おーい!」

 

和人はそれに気づき、こちらに来いと手を動かす。

 

「何やってんだ?」

 

「・・・一応聞くぞ、名前は?」

 

「あー、こっちじゃヒビキって名前だ」

 

「俺はキリト、こいつはクラインだ」

 

「おう、俺はクラインって言うんだ・・・でこれはどういうことだ?」

 

赤いバンダナを付けた男性・・・クラインは俺達に質問をしてきた。

 

「どういうことって・・・そのまんまの意味じゃないか?」

 

「ほ、ほんとにこの世界で死んだら・・・マジで死ぬってか!?」

 

「だろうな、実際に現実世界での映像も見させられただろ?嘘は無い」

 

「・・・良く聞いてくれ、クライン、ヒビキ。俺はすぐに次の街に向かう。だからお前達も一緒に来るんだ」

 

「俺は・・・このゲームをダチと徹夜で並んで買ったんだ。まだあいつら広場に居る。放っておけねぇよ・・・」

 

「俺も少し大事な用事がある」

 

「そうか・・・なら頑張ってくれ」

 

「キリト、クライン、フレンドになっておこう」

 

俺はそういうと、キリトとクラインにフレンド申請を送った。

 

「ああ、よろしくな」

 

「おう、よろしく!ヒビキ」

 

俺のフレンドにキリトとクラインが追加され、俺らは別れた。

 

 

そしてキリトに言った通り大事な・・・用事でも無いが気になるのであるところに向かった。

そこは路地で少し暗め。

そこにはあの紫髪の少女が居た。

 

「何してんだ」

 

「だ、だって・・・あんなの・・・聞いたら・・・」

 

そういう少女は泣いていた。

普通の精神を持つ子はこうなのだろう。

あんな宣言をされて何も無いわけがない。

 

「はぁ・・・ったく泣き止むまで居てやるから存分に泣け」

 

「う、うわぁぁぁん!!!・・・」

 

少女がヒビキに飛びつき、泣く。

ヒビキもそれを見て頭を撫でて、背中を摩る。

 

 

しばらくすると落ち着いたのか、少女はヒビキから離れた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「別に、泣いてる奴ほっとくほど腐ってねぇし」

 

「名前・・・聞いても良い?」

 

「自分から名乗れよ・・・まぁ良いけど、俺はヒビキ」

 

「ボクはユウキだよ・・・その、一緒に狩りしたいんだけど・・・」

 

そういわれてヒビキは少し悩んだ。

元々ヒビキはソロが好きでどこのゲームでも大体ソロをしている。

パーティークエストのようなパーティー必須でもないかぎりはソロだ、それにパーティーが好きでない。

しかしこのユウキという子とは嫌気がしなかった。

少し考えた後答えを出した。

 

「良いよ、パーティー申請送るから待ってな」

 

ヒビキはメニュー画面からパーティー申請をユウキに送った。

 

「ありがとう、ヒビキ!」

 

そういうヒビキの満面の笑みを見て、自分も少し笑えた気がした。

 

 



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《第一層》攻略会議

あの宣言があってからはや1ヶ月ほどがたった。

未だに第一層は攻略出来ていない。

そして、今日その第一層攻略会議が設けられる事になった。

キリトやユウキも来ている。

 

「よっ、ヒビキ」

 

「おう、キリト」

 

キリトと久々に会うと隣にいるユウキが気になったのか聞いてきた。

 

「その子は?」

 

「ボクはユウキだよ!よろしく!」

 

元気良く自己紹介するため、キリトもそれで笑った。

 

「ユウキ・・・元気良いよなぁ」

 

「だってその方が良いでしょ?」

 

「まーな、っとキリト来たぞ」

 

雑談していると真ん中に立つ男性が居た。

 

「みんな、今回の攻略会議に参加してくれてありがとう!俺はディアベル!職業は・・・気分的にナイトやってます!」

 

ディアベルによる場を和ませる一言でこの攻略会議の重苦しい雰囲気は消えた。

 

「今回はこの第一層のボス討伐の攻略会議をするためにみんなに集まってもらった!みんな、道具屋で配布されてるガイドブックは持っている事前提で話していこう。このガイドブックによるとボスの名前は《イルファング・ザ・コボルド・ロード》そして周りに湧くのが《ルイン・コボルド・センチネル》が複数だ。まずみんなでレイドを組もう。6~7人のパーティーを作ってくれ!」

 

ディアベルが進行して、パーティー編成となったが、人数が足りない気がした。

 

「キリト、今パーティー組んでないよな?」

 

「ああ、組んでないよ」

 

「良いか?ユウキ」

 

「うん!良いよ」

 

ユウキにも一応許可を取り、キリトにパーティー申請を送る。

 

「ヒビキ、ユウキよろしくな」

 

「おう・・・んで、あぶれと思われるあの子・・・」

 

ヒビキが指したのはみんなから離れて座っているフードを被った子。

 

「なあ、パーティー入ってるか?」

 

「いいえ、入ってないわ」

 

「なら、良かったらだけど入ってもらっても良い・・・かな?」

 

「なんで?」

 

中々辛辣なお言葉をかけられたヒビキだが、怯まず勧誘を続けた。

 

「一応パーティー編成推奨だろうし、単独ってなるといざって時困る。指揮側としても困るだろうし、俺らのパーティー人数たんねぇから数合わせってことで」

 

「良いわ、どうすれば良いの?」

 

「パーティー申請送るから待ってて」

 

そういうとフードの子にパーティー申請を送った。

すぐに承諾され、パーティーメンバーの名前を見た。

YuuKi、Kirito、Asunaと書かれた3人の名前。

 

「アスナ・・・でいいよな、よろしく」

 

「こちらこそ・・・ってなんで私の名前知ってるの?」

 

「んと、左上見て・・・目線だけ動かして」

 

アスナは左上に目を動かす。

 

「ヒビキ・・・ユウキ・・・キリト・・・?」

 

「そうそう、それがパーティーメンバーの名前。俺はヒビキ」

 

そして自己紹介のため二人を呼んだ。

 

「アスナ・・・か、俺はキリト」

 

「ボクはユウキ!よろしくね、アスナ!」

 

アスナはユウキを見て少しほっとしていた。

やっぱ女の子が居ると安心するものなのだろう。

 

「みんなー!パーティーを組めたと思う!じゃあ、次は部隊について・・・・・・」

 

「ちょっと、まてい!」

 

大きな声を出し、ディアベルを制するものが居た。

 

「ワイの名はキバオウっちゅーもんや」

 

「キバオウさん、どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたもない!居るんやろ!この中に元βテスターが!」

 

キバオウがそういうとキリトと俺は動機がした。

しかし、ユウキがヒビキの手を握っていてくれたため少し収まった。

キリトも俺が適当に雑談をしたから収まったようだ。

 

「元βテスター共は、自分が美味しい狩り場を独占しよる!そのせいでビギナーは死んだ!その詫びがなければパーティーメンバーとして背中は預けられん!」

 

キバオウがそういいはると一人手を挙げた。

 

「発言良いか、このガイドブック、分かるか?」

 

そのものはとにかくでかい。

高い身長で肌が黒く、頭はバリカンかなにかで剃られて髪はない。

 

「知ってるわ、道具屋で無料配布されてるんやろ」

 

「これを作ったのは元βテスターだ、情報はあった。だがそれでも死ぬものは出た。この攻略会議もどういう対策を練るかを会議すると俺は思っていたんだがな」

 

キバオウはそれを聞いて、不満げな顔をして席についた。

その後、ディアベルは役割分担の部隊などを決め、その日の攻略会議を終わらせた。

ヒビキ達もそこから立ち去ってある程度離れた位置でご飯を食べた。

 

「ねぇ・・・それ、美味しいの?」

 

アスナが聞いてきたが、みんなして首を横に振る。

 

「全然・・・だけど工夫次第じゃないか?」

 

「ヒビキ、あれ出してー」

 

「はいはい・・・」

 

ユウキに言われ、アイテムストレージからあるものを出した。

小さな瓶でキリトとユウキはそれを使った。

 

「それは?」

 

「パンに使ってみるといいよ!」

 

ユウキに諭されアスナはアイテムを使ったあとヒビキ達の真似をするようにパンにつけた。

 

「・・・クリーム?」

 

「そっ、そのまんまじゃあれだけど、工夫次第じゃ美味しくはなるだろ?」

 

ユウキとアスナはすぐにパンを食べ切り、ヒビキとキリトもすぐに食べきった。

そしてヒビキはメッセージを見ると3人に言った。

 

「・・・少し離れていいか?用事が入った」

 

「何?用事って」

 

「知り合いに少し・・・」

 

「行ってこいよ、宿は後で知らせる」

 

「わりぃ」

 

ヒビキはそういうと走ってどこかに去った。

しかしユウキはしょんぼりしている。

 

「ユウキちゃん?どうしたの?」

 

「変だよ、ヒビキの知り合いなんて見たこと無い。1ヶ月ぐらい一緒に居るから居たら会ってると思うし」

 

「ふむ・・・変だな、偵察してみるか」

 

キリトが言うと二人は頷き、ヒビキの向かった先に行った。

 

 

 

 

 

一方、ヒビキは。

知り合い・・・黒髪の少女と会っていた。

 

「あー・・・んで何のよう?」

 

「ヒビキ、一応生きてるかの確認」

 

「フレンド機能も生きてるし、黒鉄宮行けば分かるだろ?」

 

「それでも、居なくなったら怖い」

 

「はいはい、お前にだけは負けるわ・・・」

 

そういうと少女はヒビキに抱きついた。

そしてそれを目撃する3人達。

 

「ヒビキ・・・」

 

ユウキは黒髪の少女を見つめる。

 

「カグラ、さすがに頻繁には出来ないんだからな」

 

「うん・・・でも怖い・・・ヒビキが居なくなったら・・・」

 

「バーカ、誰がお前を置いて先立つかよ・・・てか、お前らのぞき見やめろっての」

 

ヒビキはカグラにそういい、ついでのようにユウキ達に言う。

 

「いつから気づいてたの?」

 

「最初から、一応《索敵》スキルはあげてるし、普通に足音でバレバレ」

 

「うっ・・・ヒビキ、その子は?」

 

「あー、ちっと待ってろ・・・カグラ?・・・寝てるし」

 

ヒビキはカグラに呼び掛けるも寝てしまっており、ヒビキはそのまんまにした。

 

「寝てるし、さっさと言うわ・・・とりま、こいつ妹」

 

「そ、そうか・・・って、えぇぇぇぇ!?」

 

「・・・何その反応」

 

「だって、ヒビキだよ!?妹さん居るとは思えないもん!」

 

「ひでぇ」

 

キリトはヒビキに妹が居るのは知っていたがSAOに参加しているかまでは知らなかったユウキもヒビキにまず教えてもらっておらず、驚くのも無理ない。

 

「とりま、宿行くぞー・・・尾行してたなら宿決めてなさそうだし」

 

「わ、わるい」

 

「まっ、あそこの宿でいいだろ、すこし遠いけど」

 

ヒビキはそういうとカグラをおんぶしてしばらく歩いた。

するとそこは宿だったが、何故ここなのだろうとユウキ達は思った。

 

「この宿、他のとこよか少し高い分、飯は美味いし、風呂もあるからな」

 

ちなみにユウキとアスナはお風呂に入れることにとても喜んでいた。

俺とキリトも二人が入った後、入って寝た。

ベッドは3つしか無く、俺はキリトをベッドに寝かせた。

何故かって言えば、カグラがまだ俺に引っ付いてるからだ。

 

「カグラ・・・ごめんな、こんなことに巻き込んで・・・やっぱお前はこのゲームするべきじゃなかった。俺と違って普通何だから・・・」

 

そしてそれはたまたま目が覚めたユウキに聞かれてしまっていたが、ヒビキは気づかず、そのまま壁を背にして寝た。

 

(ヒビキは何か抱え込んでる・・・せめてボクでなんかで良かったら吐き出してくれても構わないのに・・・やっぱり心配されるからなのかな)

 

ユウキは心の中でそれを思ったが、すぐにまた眠気が来たので寝てしまった。

 

 



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ボス攻略戦とビーター

ディアベルさんは生存ルートで行きます。
出番はほとんど出しません。


夢を見た。

SAOの世界ではない。

自分達が本来居た現実世界だ。

そして自分はベッドで寝ていた。

しばらくすると誰かが入ってきた。

白衣を来ており、恐らく医者か何かだろう。

医者は自分の体に繋がれたケーブルやらチューブやらを確認し、機械を見ている。

 

(そういや・・・現実世界の俺は普通じゃなかったな、現に自分の家ではない・・・か。病院暮らしも・・・長くは出来ねぇな)

 

医者はこちらに話しかけるも声が聞こえず、そのまま部屋を出た。

自分は病気というか生まれつきの物を持って生まれた。

それのせいであまり体が強くない。

そしてそれを知るのは家族である両親と妹だけだ。

和人には教える気にならず、秘密にしている。

 

(ユウキ・・・か。あの子は・・・他の子とは違う何かがある。でも結局は同じだろうしな)

 

響夜はSAOで知り合った女の子、ユウキを思い返していた。

元気活発で一緒にいると雰囲気が明るくなる。

どこのパーティーでも明るく出来るだろうあの少女は自分とは違いすぎた。

だからだろうか、あの子なら別に大丈夫なんじゃないかとどこかで思ってしまう。

 

(ユウキなら・・・もしかしたら違うのかもしれない・・・な)

 

自分の事を家族以外に話したことはないし、元より話すつもりも無かった。

ただ、ユウキなら大丈夫なんじゃないかと思えた。

 

(でも現実世界は・・・俺はこんなだしな)

 

現実世界の響夜は・・・あまりにも普通とは掛け離れている。

普通に学校に行って、友達と遊んで・・・のような普通な事が響夜には出来ない。

 

(これが夢であってよかった・・・絶対こんなの見せれねぇし)

 

そう思うと夢から逃げるように意識を沈めた。

 

 

ヒビキが起きるとそこには心配した顔をしているキリト達が居た。

 

「んあ・・・お、おはよう」

 

「ああ、おはよう・・・何か見たのか?」

 

キリトはヒビキにそう聞いた。

ヒビキとしては普通の夢を見たと思っていたので何故か気になった。

 

「なんでだ?」

 

「ヒビキ・・・うなされてた、何か見たんだよね?」

 

「・・・見たとしてなんだ」

 

「何を見たのか気になって・・・」

 

「関係ねーだろ、ほっとけ」

 

「うっ・・・で、でも」

 

「これは俺の問題だ、お前らが首突っ込む物ではねぇし、心配されると逆に嫌気がさす」

 

「わるい・・・じゃあ、行くか」

 

「あいよ、カグラ・・・起きろ」

 

ヒビキは未だに自分に引っ付いて寝ているカグラを起こした。

まだ眠いのか目を擦っており、目はまだ完全には覚めていない。

 

「ほれ、起きてくれ・・・さすがに体が痛い」

 

「ん、ごめんヒビキ」

 

すぐに意味を理解したカグラは眠いながらも体を起こしてヒビキから離れた。

しかし眠いのか足元は覚束ない。

 

「アスナ、悪いんだがカグラを任せていいか?危なっかしい」

 

「分かったわ」

 

アスナにカグラを任せて、とりあえず一階に下りて食事を取った。

今日のボスのことや、《スイッチ》や《ポットローテ》などSAOでの基本技術などもヒビキとキリトはアスナ達に教えていた。

 

それからして、第一層迷宮区の最深部・・・ボス部屋の手前には今回のボス攻略に参加するものが集まっていた。

 

「みんな!俺から言うことは一つ・・・勝とうぜ!」

 

ディアベルがか活気良く言い、それによって士気も高まった。

それを見計らってディアベルはボス部屋の扉に手をかけて開けた。

 

「全員、突入ー!」

 

ディアベルが指揮すると全部隊はボス部屋に入った。

しかしどこを見てもボスが居なかった。

ヒビキはまだ見ていない上を見た。

 

「なっ・・・みんな!上だ!」

 

ヒビキに釣られて全員は上を見た。

するとそこには、第一層ボス《イルファング・ザ・コボルド・ロード》が居た。

それに合わせて取り巻きである《ルイン・コボルド・センチネル》が3体出現した。

ヒビキ達、F隊はその内の一体を相手することになる。

 

「全部隊、打ち合わせ通りに移動、随時戦闘開始!」

 

ディアベルの指揮により、各部隊はそれぞれに散らばった。

 

「だー、結構削れんなぁ・・・キリト!スイッチ!」

 

「了解だ!」

 

ヒビキがある程度戦闘し、HPが削れるとキリトと交代してその間に回復をしていた。

しかしヒビキはあることを思う。

 

(βテストの時はHPが1ゲージでタルワールに変えるが・・・何か嫌な予感がするな)

 

「・・・っ、アスナ、ユウキ」

 

「何?」「どうしたの?」

 

俺はこの嫌な予感が拭えず、二人を呼んだ。

 

「俺が合図したらボスにソードスキルを使ってくれ」

 

「でも、ボスはボス部隊が相手するんじゃないの?」

 

「そうだが・・・何か、嫌な予感がする。ボスが武器変更した際、ソードスキルを使おうとしたら止めてくれ」

 

「・・・良いわよ」「うん、分かった」

 

「悪いな・・・キリト!入るぞ!」

 

「ああ!頼む!」

 

ずっとキリトに任せていたため、回復のためにもキリトと交代した。

それを続けていると取り巻きはHPが無くなり消えた。

 

 

するとボスから雄叫びが聞こえた。

 

「グガァァァァァ!!」

 

コボルド王は持ち武器を捨て、武器変更をした。

それはタルワールではなく、野太刀だった。

そして、ディアベルは単独でコボルド王に突撃した。

 

(ここは全員で囲んで倒すのがセオリーなはず・・・それより!)

 

コボルド王はソードスキルを発動させて、ディアベルに目標を定めた。

 

(あの構えは・・・刀スキルの《浮舟》か!)

 

「アスナ、ユウキ!今だ!」

 

「了解!」「分かった!」

 

アスナとユウキはヒビキの合図通り、コボルド王のソードスキルを阻止するため、対抗した。

アスナが一撃目をソードスキルで止め、二撃目をユウキが防いだことで《浮舟》は成功することなく、終わった。

 

「キリト!ちゃっちゃとやるぞ!」

 

「分かった!」

 

キリトが片手剣スキル《レイジスパイク》でコボルド王の刀スキル《辻風》を相殺し、ヒビキは片手剣スキル《ソニックリープ》で突撃、コボルド王に大ダメージを与えた。

しかし、コボルド王はそれでは死に切らず、すぐに刀スキル《緋扇》を発動させてキリトとヒビキに攻撃しようとした。

 

「しまっ・・・!」

 

ヒビキ達はやらかしたと思い、目をつぶるがそれを防いだ者が居た。

 

「ここは俺達が防ぐ!いつまでもアタッカーに防衛させてたらタンクの名が廃る!」

 

「悪い!ヒビキ、一度引くぞ!」

 

ヒビキはそれに頷き、防いでくれたあの長身の黒人に感謝しつつ、引いた。

そして打開策をヒビキは考えた。

 

「キリト、一撃目を俺が退ける。お前があいつにトドメをさせ」

 

「分かった、タイミングは?」

 

「決まってんだろ、今からやるんだよ!」

 

ヒビキに合わせ、キリトも続いた。

コボルド王は一度退いたヒビキに《緋扇》を当てようとするもヒビキが《レイジスパイク》で相殺し、尚且つコボルド王に追撃を与えた。

キリトは追撃したヒビキに続いて《バーチカル・アーク》をコボルド王の肩から切り込み、下まで切りきった。

それが最後のトドメとなり、コボルド王はポリゴン片となって消えた。

 

「・・・Congratulationsか・・・勝ったぞ」

 

「だな・・・」

 

キリト達の活躍により、第一層を突破し新たな第二層が解放された。

他のものもCongratulationsという文字を見て喜び合った。

しかしその中、それを打ち払ったものが居た。

 

「なんでや!」

 

「キ、キバオウさん?」

 

「あんたらはボスが変えた武器のこと知ってたんやろ!それを教えていればディアベルはんは危険な目に合わずにすんだんや!」

 

キバオウが野太刀に対抗したヒビキ達を批判した。

しかしディアベルはそれを宥める。

 

「キバオウさん、確かに危ない目には合いましたが、それを救ってくれたのは彼らです。確かに文句があろうと強くは言えないんですよ」

 

「それでもや!あんたらβテスターやろ!」

 

ヒビキとキリトは悩んだが・・・キリトが言いたそうにしていた。

 

「くっくっくっ・・・あっははは」

 

「何がおかしいんや!」

 

「元βテスター?そんなやつらと同義にしないでくれよ。確かにβテスターは最初は同じだ。狩りの仕方も分からなかった、まだあんたらのがマシさ!・・・それにこいつらは俺が指示したからそれに動いただけだ」

 

「何やそれ!あれは明らかに分かっている動きやったぞ!」

 

「それは俺が散々刀を使うモンスターと戦ったからだ、それを俺はこいつらに教えた、それを覚えてたからあんなに動けたんだよ」

 

「そ、そんなんチートや!チーターやろ!そんなん!」

 

「こ、こいつ元βテスターだ!だからビーターだ!」

 

「ビーターか・・・良い呼び名だな、これからは元βテスター如きと一緒にしないでくれ」

 

キリトはそういった後、第二層の扉に向かった。

その際ヒビキが言った。

 

「キリト、メッセージ後で送る、そこで落ち合おう、ユウキ達は連れていかん」

 

「・・・分かった」

 

キリトは返事をしたのち、ボスのLAB《ラストアタックボーナス》である《コードオブミッドナイト》を装備した後、第二層に向かった。

 

 

この日から、『ビーター』という言葉が生まれた。

そして死亡者0で第一層ボス攻略は終わった。

 

 



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目標とβテスター

第一層攻略した後、キリトはパーティーから離脱しどこかに去った。

これはそのあとの光景。

 

「アスナ、お前はどうする?」

 

「どうするって何を?」

 

「このまま一緒に過ごすのか、抜けるのか」

 

ヒビキはアスナに問い、アスナは少し悩んだ後答えを出した。

 

「私はしばらくソロでやってみるわ、いつまでもパーティー頼りには出来ないもの」

 

「そうか・・・じゃあ、一つだけ言わせてくれ」

 

「なに?」

 

「もし信頼出来る人からの誘いは断るなよ」

 

「・・・分かったわ、それじゃあ」

 

「ああ、じゃあな」

 

「アスナ、またどっかでねー!」

 

こうしてアスナはパーティーから離脱してヒビキとユウキだけになった。

 

「アスナも行っちゃったね」

 

「俺も抜けるんだが」

 

「えっ!?なんで!?」

 

ヒビキが抜けることを言うとユウキは何故か焦っていた。

ユウキ自身は何故か分からなかったが抜けてほしくないと思った。

 

「んー、ある程度は一人でも出来るだろ?それに俺は第一層クリアしたら解散するつもりだったしな」

 

「で、でも・・・」

 

「でもじゃない、パーティー頼りになりすぎるのも良くないんだ、時にはソロでの経験が活きるときがある。それも兼ねて俺はしばらくソロで居るつもりだしな」

 

「分かったよ・・・」

 

ユウキはしょんぼりとして、パーティーから抜けた。

 

「んじゃあな、生きろよユウキ」

 

「うん、ヒビキも死んじゃ駄目だよ!」

 

ヒビキはユウキと別れて、キリトにメッセージを送った。

 

『キリト、居るか?』

 

すぐに返信がきて『ああ』と返ってきた。

 

『パーティー解散した。第二層の《クルガの宿》で落ち合おう』

 

『分かった、すぐに向かう』

 

キリトから返信が来て大丈夫そうなのでヒビキは指定した宿に向かった。

 

 

 

ヒビキと別れたユウキはとりあえず近くで休んだ。

何するにしてもヒビキと一緒だったユウキは何をしたら良いのか分からない。

だが何時もしていたのは自分の強化。

フィールドで狩りをしてレベルを上げたり、武器を新調や強化したりなど、とにかく生存を重点に置いていた。

 

「何したら・・・良いんだろ、ボクは・・・」

 

しかしそれはヒビキと二人でやっていたからこそある程度は出来ていた。

ユウキがもしミスればヒビキがフォローしてくれた。

ヒビキがミスればユウキがカバーしていた。

しかし、それももう出来ない。

だからこそ一人ではどうすれば良いのか分からなくなっていた。

 

「・・・ユウキさん」

 

そんな状態のユウキに話しかけたのはヒビキの妹でもあるカグラ。

カグラはヒビキに『ユウキを頼む』と言われていたため、心配になり来ていた。

 

「カグラちゃんか・・・ボク何したら良いんだろうね」

 

「ヒビキと別れたんですか?」

 

「そうだよ・・・何するにしても一緒過ぎてソロだと何すれば良いか分からないんだ・・・」

 

「キリトさんもヒビキも元々ソロでしたよ、私だってソロの時があります。ユウキさんにはそれが無いんでしょうね・・・」

 

「そうなんだろうね・・・」

 

ユウキは一緒過ぎた。

何処に行くにしてもヒビキに付いていって居たから。

だからこそ自分での判断が出来ていない。

ソロなんてほぼしていないユウキにはヒビキの言葉が絶望にしか聞こえていなかった。

 

「なら、目標を出して見てはどうですか?」

 

「目標・・・?」

 

「はい、私はヒビキのサポートが出来れば良いんです、ユウキさんは何か目標はありますか?」

 

ユウキは目標と言えるものが無かった。

キリトやヒビキ、アスナは早くSAOから帰還すること。

カグラはヒビキのサポート。

ユウキはただ引っ付いていただけ。

そしてユウキは今の状態から脱するべく、一つの目標を出した。

 

「ボクは・・・ヒビキと一緒の並べれるぐらい強くなる!」

 

「良い・・・目標ですね、ユウキさん」

 

「えへへ~、そうかな?」

 

「はい、立派な目標だと思いますよ」

 

「じゃあさっそく頑張ってみる!ありがとう、カグラ!」

 

「いえいえ・・・では、またね、です」

 

ユウキは目標のためにすぐに走り出した。

カグラはフィールドに出たユウキに手を振った。

カグラのおかげで目標を打ち出せた事に感謝しつつ、フィールドで剣を振るう。

 

(絶対にボクは並んでやる!待ってて、ヒビキ!)

 

ユウキは相対したモンスターをばんばんと倒して行き、ドンドンとモンスターをポリゴン片へと変えていった。

 

 

 

ヒビキはキリトが来るまで待ち、来た後宿で話をした。

 

「なあ、キリト」

 

「なんだ?」

 

「第一層のあれってさ、他のβテスターとかを守るために言ったんだろ?」

 

「・・・ああ、そうだよ」

 

「自分から必要悪に走らなくても良いとは思うけどな」

 

「でも、それじゃあβテスター達が迫害される。テスターだからって理由でのけ者にされて良いわけが無いんだ」

 

「確かにな・・・でも俺は嬉しかったぞ、キリトが言ってくれて」

 

「言いたかったから言っただけだよ、礼を言われるようなことじゃない」

 

「はは、そうだろうな・・・じゃ今日は寝るか」

 

「ああ、そうだな」

 

そうして《ビーター》と呼ばれるようになったキリトはその意味をヒビキに教えてくれた。

ヒビキも言ってくれたキリトに感謝して、その日を終えた。

 

 



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デュエルと新たな武器

ヒビキが今いるのは第22層。

キリト達と別れてもうかなりの月日が経った。

ヒビキが何故22層に居るのかはあるクエストをクリアするために居る。

現在最前線は25層だが、22層にしかないクエストも当然存在する。

その中には全SAOプレイヤーを含め1回のみクリア可能というクエストもあった。

ヒビキはそれにたまたま当たり、クリアしようとしている。

クエスト内容は『森林エリアの中で一際大きい巨木の茸を採取して渡す』という物だった。

特に危険なモンスター等も出ず、すぐにクリアが出来た。

 

「目的の物取ってきましたよ」

 

「おお!そうか、ありがとう。礼と言っては何だがこれをお主に託そう」

 

クリア報酬は『錆びた剣』と呼ばれる所謂ゴミアイテムだった。

しかし錆びていて使えないだけであり、錆びを取れば使える可能性はあるが・・・今までも同じようなクエストが各層にもあって報酬も一緒なのだが錆びを取っても店売りやゴミ武器など散々なアイテムでありゴミアイテムと言われても仕方が無かった。

ヒビキもそれを見て「はぁ・・・」とため息を出すほど。

とりあえずヒビキはフードを被って日の光りを避けるように深く被った。

 

「とりあえず、宿に行くかな・・・」

 

ヒビキはひとまず圏内エリアへ入り、宿を探していると。

 

「ちょっと!止めてよね!」

 

広場にて大声を出す人が居た。

女の子を男が3人で囲んでいる状況だ。

自分であれば傍観するが今回は場合が場合だった。

何故なら女の子は良くしっているユウキだったから。

 

「良いじゃんかよ~、一緒に俺達と狩ろうぜ?」

 

「そうだそうだー、パーティーのが安全だから!」

 

「いやーだ!ボクはパーティーに入らないって言ってるでしょ!」

 

「へぇ~君ボクっ子なんだ~、可愛いね~」

 

とユウキが男3人に囲まれパーティーの勧誘がされていた。

もしユウキが喜んで参加していたら何とも思わなかっただろう。

しかし嫌がっているユウキを無理矢理パーティーに入れようとする行為にヒビキは苛立っていた。

そしてヒビキはユウキを助けるべく男3人に話しかけた。

 

「なぁ、嫌がってんじゃん、それぐらいにしとけよ」

 

「あぁ?別に嫌じゃないだろ?な?」

 

「入らないって言ってるじゃんか!」

 

「ほら、嫌がってる、なっさけねぇな無理矢理じゃないと誘えないなんて」

 

「何だとぉ?てめぇ、やるか?ここで」

 

そういうとリーダー格の男はヒビキに対してデュエルを申請した。

SAOでのデュエルは3種類ある。

《初撃決着モード》《半減決着モード》《完全決着モード》とある。

SAO内で良く使われるのは《初撃決着モード》だ。

残り二つはデスゲーム開始後、HPを0にする可能性が出るようになり使われなくなった。

ヒビキは《初撃決着モード》を選択したのち、デュエルに承諾する。

そして回りのプレイヤーは見物だと思い集まって来る。

 

「ふん、くそガキがいきがんじゃねぇぞ!」

 

「黙ってろ、能無しが」

 

3、2、1とデュエルが開始され、BattleStartと表示され、ヒビキは即効で動いた。

相手の使う武器は片手剣で自分と違うのは盾を持っていること。

ならば真っ正面からは戦うだけ無駄と判断し、ヒビキは隙を伺っていた。

 

「ほれほれ、どうしたぁ!避けてるだけじゃ終わらねぇぞ!」

 

と男は片手剣を振り回すもヒビキには掠りもせず、それに苛立っていた。

ヒビキの狙いは相手の判断力を劣らせる事。

苛立てばその分冷静な判断が出来なくなるのを利用し、最大の隙で一気に終わらせるつもりだった。

 

「しゃらくせぇ!これで沈めぇ!」

 

と大きく斜め振りかぶったそれは片手剣スキル《スラント》だった。

ヒビキはここが勝機だと思い、《スラント》を弾くべくヒビキは《レイジスパイク》を発動させて男のソードスキルを弾き返した。

そしてすかさず第二撃を男の足に攻撃してデュエルの決着をつけた。

 

「何だ・・・と・・・この俺が負ける?」

 

「冷静な判断力を失ったお前の負けだ、潔く認めとけ」

 

「くそっ・・・おい、おまえら行くぞ」

 

そういうと男達はどこかに立ち去った。

ヒビキもこれで大丈夫だろうと思い、立ち去ろうとするも。

 

「ねえ!待って!」

 

「・・・なんだ」

 

「その・・・助けてくれて、ありがとう!」

 

「阿呆か、助けたいから助けただけだ・・・じゃあな、ユウキ」

 

ヒビキはその場に居るのが気まずくなりすぐに路地に移動した。

ユウキは最後の言葉でポカーンとしていたが、すぐにヒビキだと気づくと追い掛けた・・・が、ヒビキが入っていった路地には誰もおらずヒビキは居なかった。

 

(ヒビキ・・・だよね?今の・・・。ボクの名前を知ってる人なんてまだそんなに居ないし・・・)

 

ユウキはまたヒビキに会えて嬉しかったが、共にどこかに行ってしまったヒビキにしょんぼりとした。

 

 

 

一方ヒビキは、ユウキからすぐに逃げた後、カグラの元に来ていた。

カグラはヒビキ専門の鍛冶屋となっていた。

少なくともNPCよりは良いため、武器などもカグラに頼っていた。

そして今回カグラの所に来た理由がさきのクエストで手に入った『錆びた剣』の錆び取りのために来ている。

 

「カグラ、この武器の錆び取り出来るか?」

 

「うん、出来るよ。素材ある?」

 

「あー・・・ちなみに何が必要なんだ?」

 

ヒビキは実は初めて錆びた剣を入手するため、必要な素材が分からなかった。

それにより素材が分からずカグラに必要素材を聞いている。

 

「宝石・・・みたい」

 

「・・・ちなみに何の宝石」

 

「ルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、アメジスト、ダイヤモンドが5コずつないと出来ない・・・かな」

 

「あー、あるからやってくれ・・・痛いが」

 

ヒビキは渋りつつもカグラに必要素材を渡した。

SAOでの宝石は入手手段があまりない。

それに結婚指輪を作るときには必要となるのが大量の宝石なのであまり使いたがらない者が多いがヒビキはソロプレイヤーであり素材は腐るほど持っている。

 

「ヒビキ!これみて!」

 

錆び取りが終わったのかカグラははしゃぎ気味でヒビキに見せる。

 

「ん?何々」

 

「ヒビキが持ってきた奴、多分当たりだよ!」

 

「えっ・・・マジで?」

 

「うん!待っててね、武器鑑定してみる」

 

カグラは早速錆び取りが終えた武器を《鑑定》スキルで武器の情報を見てみた。

 

「この武器は『ファンタジア』・・・英語でFantasia。和訳で幻想曲って意味だね。フィンランド語でファンタジーって意味もあるよ」

 

「へえ・・・性能は?」

 

「少なくとも魔剣クラスの性能かな?ヒビキが持ってる武器より全然強いと思うよ」

 

というとカグラはヒビキに武器を渡し、ヒビキにも見せた。

ヒビキはそれをアイテムストレージから出して実際に手に持った。

 

「そんなにも重くもなく、軽くもないな・・・良い武器だな、これ」

 

「ほんと?なら良かったぁ~」

 

「なんでそんな安堵してんの」

 

「だってゴミ武器が出たら私のところ使ってくれないと思って・・・」

 

「バーカ、ずっと武具点検はお前にやらせてんだ、そんな程度で来なくなるわけないだろ」

 

とヒビキは言ってカグラの頭を撫でた。

カグラもその言葉を聞いて嬉しいのかニコニコしており、頭を撫でられて猫みたいになっている。

 

「んふ~、これからもご贔屓にね?ヒビキ」

 

「あいよ~、んじゃ俺はもう行くぞ」

 

「うん、頑張って来てね」

 

カグラから応援も貰ったヒビキは新たな武器『ファンタジア』を装備し、試し切りをしようと迷宮区に向かった。

しかしその道中、また見知った少女を見た。

ヒビキはユウキに見つかる前に早歩きをして25層の迷宮区に向かった。

 

 



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ユウキの目標

ユウキから逃げるように25層の迷宮区に来たヒビキ。

しかしここは最前線であるためもしかしたらユウキも来る可能性があるが仕方ないと思い、ヒビキは新たな武器である『ファンタジア』を振るって試し切りをしていた。

 

「ふー、案外使いやすいな・・・」

 

ヒビキはファンタジアを何度も振るって使い勝手を確認していた。

最前線25層モンスターを何体も相手にしているからかヒビキのレベルは安全マージンである35以上を超え、レベル49となっていた。

そして少し休憩を取っているとヒビキの《索敵》スキルにプレイヤーが引っ掛かった。

一応ヒビキは剣に手を掛けて警戒していたが杞憂に終わる。

 

「ヒビキ・・・?」

 

正体はキリトだった。

かなりの人数が他にも居た所からヒビキはキリトに問うた。

 

「ボス攻略・・・か」

 

「ああ、・・・ヒビキも参加するか?」

 

「いや、おれはしばらく攻略はやりたくねぇし任せるわ」

 

「そうか・・・なぁ、ヒビキ」

 

「んあ?」

 

「良い腕の鍛冶屋を知らないか?」

 

「何でまた」

 

「新しい武器を新調したいんだ」

 

キリトの頼みなら・・・と思い返すが自分が知る限り腕の立つ鍛冶屋は居なかった。カグラはなんでか他のプレイヤーの発注を断るためキリトも同じく返されると思った。

 

「・・・すまん、一応居るんだが俺以外のプレイヤーの武具発注を断ってる奴でな・・・悪いんだが紹介は出来なさそうだ」

 

「そうか・・・、悪かったな、手間取らせて」

 

「なーに、キリトの頼みだ、無下には出来んしな」

 

ヒビキはキリトに「頑張れよ」とエールを送った後、移動してモンスターを狩っていた。

 

 

 

そんなこともあり激戦の末、キリト達は25層のボスを突破し、未知なる第26層が解放された。

すぐにヒビキも26層に移動した。

だが一度カグラに会うべく22層に戻って来ていた。

しかし、そこでヒビキは会いたくない人物を見つけてしまう。

SAO初期に共に戦ったユウキが。

 

「ん・・・?ヒビキー!」

 

ヒビキはユウキを無視した。

ヒビキは個人的に会いたくない一番の相手に見つかったためどうしようか悩んでいた。

 

「ヒビキ、久しぶり!」

 

「・・・だな」

 

「どうしたの?なんか元気ないよ?」

 

「別に何でもねぇけど」

 

「でも・・・」

 

ユウキが何度も聞くためヒビキも苛立ち遂に我慢していた物が出てしまった。

 

「何でもねぇって言ってんだろうが!そういうのうぜぇんだよ!」

 

「ご、ごめん・・・」

 

「・・・謝んなら最初から言うんじゃねぇよ、うぜぇな」

 

「・・・」

 

「もう二度と俺のとこに来んな、目障り」

 

ヒビキはユウキに言いたいことを言うとすぐに立ち去った。

しかし後に後悔していた。

言いたかった事はあんなことではないとヒビキは後悔するもユウキとはもう無関係になったと考え、カグラの所に向かった。

 

 

一方ユウキは、さっきヒビキに言われた事がショックだった。

自分なりに心配して掛けた言葉がヒビキを怒らせた。

それのせいでヒビキと二度と会えなくなるのがユウキには何よりも嫌になっていた。

 

「ヒビキと離れたくない・・・ヒビキと一緒に戦う為に頑張ったのに・・・嫌だよぉ・・・」

 

ヒビキと並べれるぐらい強くなって一緒に戦うのがユウキの目標だった。

しかしヒビキはもう来るなと言った。

 

「もう・・・ボクはもう何も目指すもの・・・無いや・・・」

 

ユウキは足元が覚束ない足取りで宿屋で宿泊をした。

しかしユウキの目は何も捉えていない。

 

「ヒビキ・・・ごめん・・・」

 

ユウキはただただヒビキに謝ることしか出来なくなっていた。

そしてそれを見て述べるヒビキがいた。

 

「何してんだお前」

 

「・・・ぇ?」

 

「たかが俺に怒られた程度でそんな凹むか?」

 

「だ、だって・・・ボクはヒビキを目指して頑張って強くなったんだよ?」

 

「だからなんだ、それで終わりか?」

 

「・・・終わり・・・って?」

 

「俺を目指すのは構わん、だがそれで終わりなのかってことだ。例え強くなったとしてそのあとは?どうしていくのか決まってんのか」

 

「そ、それは・・・」

 

ユウキはヒビキの厳しい言葉に何も言えなかった。

ユウキはひたすら強くなるために戦った。

ヒビキの隣に立てるぐらいに強くなるため。

しかしヒビキはそのあとを聞いた。

例え強くなってヒビキと共に戦った後どうするのか。

ユウキにはそのあとが無かった。

ヒビキはゲームクリアという大きな目標があるからこそ頑張れる。

その後も帰還し、日常生活をする。

これがヒビキが抱く目標。

それに対してユウキはどうだろう?

ヒビキの隣に立てたとして、その後がない。

中途半端な目標しかユウキは持っていなかった。

 

「中途半端な思想しか持たん奴に前線は到底無理だ、俺の隣に立てたとしてその次をお前は持っていない。そこが俺やキリト達との違いだ」

 

「うっ・・・」

 

「聞いてやる、ユウキ。お前はもしゲームがクリアされた後どうするつもりだ?」

 

「今まで通りの生活・・・に戻る」

 

「そうだな、みんなそれを望んでいる。だがここは茅場が言った通りクリアまでは俺達のもう一つの現実世界とも言える。ならばまずこの世界でどう生きていくか・・・じゃないか?」

 

「そう・・・だね・・・」

 

「生きていく目標は自分で見つけろ、俺らが言える事ではない」

 

「えへへ・・・ありがとう、ヒビキ」

 

「別に、お前を放って置くと自殺してそうだったから止めに来ただけだ」

 

「それでも、嬉しいよ」

 

「んじゃ、俺はもう戻るぞ、用事終わってねぇし」

 

ヒビキはユウキに言うだけ言うと部屋を出ようとしたが、服を摘まれ止められた。

 

「・・・ボクも一緒じゃあ・・・駄目・・・かな?」

 

「ただの武具点検だぞ?それ終われば俺は寝るし」

 

「ううん、それでも行きたい」

 

「勝手にしろ」

 

ヒビキもさすがに自分で泣かせたからか強く断れず諦めた。

そして二人が向かうのは元々ヒビキの用事だったカグラの元に行くこととなった。

 

「ういー、カグラ」

 

「ん、いらっしゃい・・・お客さん?」

 

「ん・・・あぁ、ユウキだよ、連れだ連れ」

 

「ふーん・・・で用件は?」

 

「いつも通り武具点検で」

 

「はーい」

 

ヒビキはカグラに武具を渡し、点検をしてもらっている間、ユウキが話した。

 

「ねぇ、ヒビキのその武器って・・・」

 

「あーこれな、錆びた剣の当たり武器らしい」

 

「そっかぁ・・・良いなー・・・」

 

とユウキは自分の武器を見て羨ましそうにしていた。

それを見ていたカグラはあることを提案する。

 

「武器・・・作りましょうか?」

 

「えっ、良いの?」

 

「素材くれたら・・・仕上がりの質によってコルを貰う・・・けど」

 

「素材・・・あはは、嬉しいけど素材無いや・・・」

 

ユウキは作ってくれる人に申し訳なさを出して諦めたが・・・。

ヒビキはカグラにユウキにばれないようメッセージを送る。

 

【カグラ、これ使って武器作ってくれ】

 

【うん、分かった】

 

カグラはヒビキから素材を受け取り、裏に移動して武器を叩いた。

普通の武器作成では1~2分ほどなのが10分ほどして帰ってきた。

 

「ユウキさん、これどうぞ」

 

「へっ?」

 

カグラがユウキに渡したのは片手用直剣『マクアフィテル』と呼ばれる物。

生産限定武器で少なくとも現在のプレイヤーでは生産不可能な武器だった。

 

「ほわぁぁぁ・・・凄い・・・良いの?貰っても」

 

「お礼ならヒビキに言ってくださいね」

 

「ちょっ!?言うなよ、せっかくメッセージで言った意味ねーじゃん・・・」

 

「ヒビキー!ありがとう!」

 

「あー、まぁ喜んでくれてるなら良いや」

 

ユウキはヒビキとカグラのおかげもありユウキの新たな武器『マクアフィテル』が手に入った。

その後、カグラの元を後にした二人は宿屋に戻って来ていた。

 

「ふー・・・今日は良いことあったな~」

 

「左様で・・・まぁあんだけ喜んでくれるなら鍛冶屋としても本望だろ」

 

「えへへー・・・ねぇヒビキ」

 

「んあ?」

 

「また・・・一緒にパーティー組んでも良い?」

 

「そうだな・・・別にユウキが組むのは自由だぞ?」

 

「そ、それなら!」

 

「ただ俺とは組むのは止めな」

 

「なんで・・・?」

 

ユウキはヒビキに自由にしたらいいと言われヒビキと組もうとしたがヒビキは自分以外でと念を入れた。

 

「言ったろうが、俺はパーティーは好かん。ソロのがやりやすいし、いざって時動きやすい」

 

「でもソロだと危ないってことぐらいボクには分かるよ!」

 

自分は以前と違うんだーとユウキはヒビキにアピールするも元々の根っこの部分から違うためヒビキは困っていた。

 

「あのなぁ・・・はぁー今はまだ無理だ」

 

「今は?」

 

「そういうことだ、自分的にもパーティーを組みたいと思いはじめるのは40層ぐれーじゃねぇかな・・・それ以降からなら別に構わん、その時には色々整理がついてるだろ」

 

「そっかぁ・・・じゃあ、絶対にまた組もうね!」

 

「はいはい・・・お前は元気だな・・・」

 

とヒビキは元気なユウキを見て少し心が軽くなった気がした。

頭もついでに撫でるとされるがままにユウキは嬉しそうにしている。

 

「えへへ~」

 

「さて、もう寝るぞ、俺は眠い」

 

と寝はじめたヒビキに撫でていた手が離れて名残惜しそうにするものの、ヒビキが寝かけているのでそのまま二人は寝た。

 

ヒビキは珍しく良い夢を見れてユウキに感謝しつつ、ユウキを起こさないように宿屋から出た。

 

 



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《幻剣》と《絶剣》

階層は一気に50層にまで飛ばします。
またタイトルを【ソードアート・オンライン ~幻剣と絶剣~ 】に変更することにしました。


ユウキを置いて宿屋を出たヒビキは迷宮攻略に参加し、階層を解放していった。

そして自分で言った40層を超えて50層にまで攻略が進んでいた。

攻略スピードの早さはやはり25層での激戦に比べていくと辛くはなく、ボス攻略での死亡者は居なかった。

 

 

 

ヒビキはほとんどの迷宮攻略に参加しており、大体の前線攻略メンバーにはその顔を覚えられていた。

 

「・・・カグラ、眠い」

 

「そんな事言わない、私だってずっと引きこもりたい」

 

「ただの願望じゃねぇか・・・」

 

ヒビキはやることがなくカグラの元にいた。

50層というクォーターポイントで前線メンバーは準備を万端にするため攻略が止まっていた。

ヒビキもレベル上げに飽きたのかカグラの店がある22層で寛いで半分寝かけていた。

カグラも同じで暇を持て余していた。

 

「あー・・・そういえばエギルが50層の《アルゲート》に店構えたんだっけか・・・」

 

ヒビキが譫言のように言うとカグラが飛び起きた。

 

「ヒビキ!行ってみたい!」

 

「お、おう・・・んじゃ店じまいにして行くか」

 

「うん!」

 

カグラはすぐに店を閉めて転移門に向かった。

何故ここまでカグラはエギルの店に行きたがるかと言うと、カグラは一緒に居るだけで色々呼び込む謎の力がある。

現実世界でも同様、幸運を呼んだと思えば生命の危機に瀕する不運を呼んだり・・・と最早呪いなのじゃないかというぐらい色々とやってくる。

さらに恐ろしいのがそれを本人が自覚しておらずまた能力的な物では無いので制御も出来ないという。

キリトも同じく様々な出来事を呼び込むがカグラは最早別格だ。

そのため、カグラを知るものはこう言う《歩く天変地異》と。

 

 

それの切っ掛けがエギルとパーティーを組んだ時だ。

エギルがいきなりヒビキを呼んで来た。

 

「ヒビキ!カグラをどうにかしてくれ!」

 

「ど、どうなされたエギルよ」

 

「あの子が居ると不運しか来ねぇ!頼む引き取ってくれ!」

 

とあのエギルを困らせたあの出来事があってからはエギルはカグラを危険人物として見ているらしい。

カグラはそれを何故か理解し、エギルにちょっかいを掛けにいこうとしている。

 

 

 

そして場所は前線である50層《アルゲート》に到着した。

カグラは「早く早く行こーよ」とヒビキを急かしてエギルの店に向かった。

 

「ういー、エギル開店祝いに来てやったぞ」

 

そうしてカウンターには肌が黒く長身で印象に良く残る友人のエギルが居た。

 

「へい、らっしゃ・・・い・・・!?」

 

「エギルさん、こんにちは~」

 

「ヒビキ!何故連れてきた!?店が壊れる!」

 

エギルはカグラを破壊人物とでも思っているのだろうかとヒビキは思いつつ、エギルにニヤニヤと返した。

 

「だってカグラが来たいっていうしさぁ~、連れていこうかなぁ~と?」

 

「おめぇは鬼か!?」

 

「はいはい、鬼で結構・・・カグラこれぐらいにしてやれ」

 

「はーい、エギルさんまたね~」

 

とカグラはエギルに手を振って店を出た。

エギルは心底ほっとした感じでいつもの顔に戻った。

 

「次からまけてやるから連れてこないでくれ・・・」

 

「っしゃ、言質取ったぞ、まぁ加減はしてやる」

 

「ああ、で本当に開店祝いに来ただけなんだな」

 

「そりゃあな、友人が店持ったって言うしどんな感じか見に来るだろ」

 

「一応リアルじゃ店経営してんだ、こっちでもやりたくてな」

 

「納得。んでエギル早速良いもん売ってやる」

 

ヒビキはエギルにあるものを見せた。

第45層のレアモンスターから更に低確率ドロップの『リーパー・ザ・サイス』と呼ばれる鎌状の武器だった。

 

「お、おいおい・・・こりゃあレア武器じゃないか、良いのか?売っても」

 

「別に俺はこの武器あるしなぁ」

 

とヒビキは25層から使っている『ファンタジア』を見やった。

 

「その武器・・・記憶が正しけりゃ20層辺りから使っているだろ?性能不足なんじゃないのか?」

 

「なら鑑定してみりゃいいだろ」

 

エギルに言われヒビキはファンタジアをエギルに渡して性能を見せた。

すると鑑定が終わったエギルが凄い顔をしていた。

 

「な、なあ・・・これこうやって手に入れた?」

 

「錆びた剣の当たりだぞ、素材がきつかったが」

 

「素材?石ころ99個だったはずだぞ」

 

「・・・宝石各種5個消し飛んだ、必要素材は知らなかったから使っちまったけど」

 

「マジか・・・しかもこれまだまだ強くできるってのが恐ろしいな」

 

「んでだ、買い取るのか?鎌武器」

 

「そうだな・・・これぐらいでどうだ?」

 

とエギルが提示したのは5万コル。

しかしヒビキはもっと引き上げれると思い交渉タイムとなった。

 

 

最終的に12万コルでエギルに買い取らせてヒビキは店を後にした。

ヒビキは一度カグラの所に戻ろうと思い転移門に向かっていると広場で男女が言い合っていた。

男の方は見たことが無いが女は良く知るユウキだった。

ちなみにユウキはこれまでも同様な事があり、デュエルで何度も勝利をしていた。

他のプレイヤーはそんなユウキを《絶剣》と呼んでいた。

男プレイヤーはそんなユウキが欲しいのかパーティー勧誘をしており、ユウキはそれを断っていると見た。

ヒビキはそれに巻き込まれないよう近くのベンチで見物していた。

ヒビキもヒビキで攻略メンバー最強などと呼ばれていた時期もあり《幻剣》と持て囃されていた。

それを他プレイヤーに知られると何か言われるためフードを被って姿が見えないようにしていた。

 

 

「なあ、絶剣さん、一緒にパーティー入らない?」

 

「ごめんね、ボクそういうの断ってるんだ」

 

「良いじゃん?俺ら全然弱くないからさ!」

 

「ならデュエルで勝ったら好きにしたら良いよ」

 

「良いぜ!乗ってやる!」

 

ユウキは男3人にデュエルを申し込んだ。

男達はそれを承諾し、デュエル開始を待っていた。

 

(いくら何でも3人はきついんじゃねぇか?って言ってもあいつの戦闘どんなものか知らんしな)

 

とヒビキはユウキの戦いがどんなものか見物していた。

 

しかしそれはすぐに決着が付く。

デュエル開始した瞬間、ユウキが神速の如く動き、男3人の後ろに回り背中を斬って勝利を収めた。

 

「なっ・・・は、早すぎる」

 

「負けたからパーティーは無しだよ」

 

「・・・分かったよ、悪かったな」

 

というと男3人は転移門で転移していった。

ヒビキもそれを見てユウキを素直に褒めていた。

 

(へぇ・・・すげぇな、あんな強くなってたとはな・・・一戦ぐらいやってくんねーかな)

 

と思いヒビキはユウキにデュエルを申し込んだ。

 

「ん?君もやるの?」

 

「ああ、大丈夫か?」

 

「良いよー、ボクはユウキ!」

 

「俺はヒビキだ、よろしく」

 

と二人はデュエルを相互承諾した。

《半減決着モード》でヒビキは武器を抜刀した。

 

ユウキは先程と同じ用に後ろに回り斬ろうとしたが途中で手が止まった。

ヒビキはそれを見破ってユウキの剣を手で止めていた。

 

「えっ!?」

 

「同じ動き見せられて何もしないとでも思ってんのか」

 

ヒビキは剣を握ってユウキを引き寄せてソードスキルを発動させた。

片手剣スキル《シャープネイル》を発動させ、ユウキを3回切り付けたのち、足で蹴り飛ばした。

 

「えぐっ・・・」

 

「何だ絶剣もこんな程度か」

 

「ぐっ・・・舐めるなぁぁ!!」

 

ユウキは《レイジスパイク》を発動させて間合いを詰めるがそれがヒビキの狙った罠で《ソニックリープ》を発動、ユウキのソードスキルを弾いた。

しかしユウキはめげずに違うスキル《ホリゾンタル・スクエア》でヒビキを斬った。

その時フードにも当たり耐久の低いフードは消えてヒビキの姿があらわになった。

 

「えっ・・・ヒ、ヒビキ!?」

 

「結構やるけど・・・詰めが甘い」

 

「えっ・・・?」

 

ユウキの首元にはファンタジアが向けられており、事実上のユウキの敗北となった。

最後にユウキに放ったのはダミーの店売り武器を事前に出して一番の隙にそれで攻撃をする。

しかし相手は当然それを止めるため弾くためにダミーを攻撃する。

ヒビキはダミーが弾かれた後、本命であるファンタジアを自分のスピードを活かして回り込む。

これがヒビキが《幻剣》と呼ばれる由縁ともなった。

ダミー剣が幻で本命を2撃目にするヒビキの戦い方は対人でしか使えないがそれでも強力な攻撃手段と言える。

 

「ユウキの負け、んじゃあの」

 

「えっ、ま、待って!」

 

「・・・何?」

 

「え、えっと・・・」

 

「用あるんなら22層のカグラの店来い」

 

とユウキに伝えるとヒビキは転移門で22層に向かった。

その日、ニュースには『絶剣、幻剣とデュエルをし敗北か?』という見出しが出ていた。

 

 

 

ユウキはヒビキに言われた通りカグラの店に来ていた。

ユウキはずっとヒビキに言いたかった事をこの日に言おうと決め、カグラの店に来ていた。

 

「ん、来たのか」

 

「うん、来たよ」

 

「で、何の用だ?」

 

「22層の宿屋で言ったこと覚えてる?」

 

「さあな、知らん」

 

「ボクね、あんなこと言われて嬉しかったんだ、ボクのために真剣に怒ってくれて」

 

「別にほっとけないから言ったまでだ、俺以外でも言える事だろう?」

 

「それでもヒビキが言ってくれて嬉しかった・・・」

 

「そうか・・・」

 

ヒビキは泣いているユウキを見て、少し胸が痛くなった。

さすがに鈍感じゃないヒビキはそれを内に表に出さず隠していた。

しかしそれもここまで。

ヒビキはずっとユウキに言わなかった事を言おうと決めた。

 

「ユウキ、ちょっといいか?」

 

「あぅ・・・どうしたの?」

 

「ユウキと会ってもう結構月日経ったよな」

 

「うん・・・そうだね」

 

「結構感謝してる、一人じゃ何も出来なかったと思う」

 

「そんな・・・ボクだって同じだよ。何も分からなかったこのSAOの世界で生き残れたのはヒビキが教えてくれたからだよ」

 

「・・・ずっと言いたいことがあった」

 

「ボクも・・・ヒビキから言って?」

 

「あ、ああ・・・」

 

ヒビキは一度深呼吸をしてかた言った。

 

「ユウキ、好きだ!」

 

ヒビキが顔を真っ赤にしてユウキにずっと秘めてた想いを言った。

ユウキはそれを聞いてもっと泣き出してヒビキが焦った。

 

「大丈夫・・・嬉しいだけ・・・ボクだってヒビキの事大好き!」

 

「ほ、ほんと・・・?嘘・・・じゃないよな?」

 

「嘘じゃないもん!ヒビキの事大好きだよ!」

 

とユウキはヒビキにずっと言いたかった事をとうとう言った。

ヒビキも何度も好きと言われ恥ずかしいのかユウキに顔を見られないよう抱き寄せた。

 

「ふぇっ?・・・はわわわ・・・」

 

「こんな俺で良ければ付き合ってください」

 

「はい!喜んで!」

 

ヒビキとユウキはようやく言いたかった事を互いに言って恋人となった。

裏で聞いていたカグラも「ガンバレー」と密かに応援していたのは二人には気づかれる事はなかった。

 

「ユウキ、宿屋いこっか、何時までも此処にいれねぇし」

 

「うん!」

 

ユウキはヒビキの腕に引っ付いて離れなかった。

ヒビキは恥ずかしそうにするも嬉しいのか何も言わず宿屋に向かった。

 

 

それを見たプレイヤーは男はヒビキに嫉妬と恨みを向けて。

女は羨ましそうに見るのだった。

 

 



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本当の幻剣と二人の結婚

かなり今回は進めました。
そのため急展開が出来てしまい、他の部分を進めれてません。
一応主人公が回収できる範囲の原作で起きたことはやらせたいと思います。


二人が告白しあい、3ヶ月ほどたった。

ユウキとヒビキは同じ部屋で宿泊し、泊まっていた。

ヒビキはユウキより早く起きており、暇になっていた。

暇になりユウキを弄ろうと考え、ほっぺを突いていた。

 

「意外に・・・やわらけぇな」

 

「う~ん・・・ふにゃぁ・・・」

 

ユウキが寝言を言ってそれをヒビキが起きたと思い、一瞬で退いた。

寝ていると確認するとまた側に寄った。

 

「・・・わかりづらいな・・・心臓に悪い」

 

「ヒビキ・・・しゅきぃ・・・」

 

「俺も好きだよ、ユウキ」

 

ユウキが寝言でヒビキに恥ずかしげも無く好意を口に出す辺り本当にヒビキを好いているのが良く分かる。

一度ヒビキはある事で夢について調べたことがあった。

夢はその人の深層心理を表すと言われている。

無自覚に見るため、記憶にはなくともどこかしらでそれを経験しているか具現化してほしいなどの望みなども反映されたりする。

 

「最も・・・俺は良い夢なんて見れることのが無いな」

 

「ん・・・ぁ・・・ぅ・・・」

 

「ユウキ?起きたか?」

 

ヒビキは起きたユウキに声をかけるもまだ夢の中に居るらしく目はまだ据わっていた。

ユウキもまともな思考が出来ておらず何事も無いようにヒビキに抱き着いた。

 

「おはよぉ~・・・ヒビキぃ~」

 

「なぁ・・・!?ちょっ、ユウキ!今色々とやばいから!色々とまずいから!」

 

と今までにないほど慌てるヒビキ。

何故かと言えばヒビキが寝ている間にユウキが防具を外して居るため、簡単に言えば下着姿なのだ。

その状態のユウキに抱き着かれると恥ずかしいを通り越して何かしたんじゃないかという焦り等のがヒビキの考えだった。

 

「ユウキ!一回目を覚ませぇぇぇぇ!!」

 

「あ~う~、起きた!起きたってば!」

 

「じゃあ防具着てくれ!その姿じゃ・・・色々とまずい」

 

「え?・・・な、なんでぇぇぇぇ!?」

 

「知るかぁ!とにかく服を着ろぉぉぉ!」

 

と朝から騒がしい二人であった。

その後、ユウキはすぐに防具を装備してヒビキに謝った。

ヒビキも何も見なかったことにするから思い出させないでくれと言われたためこの事は不問となった。

 

「ごめんね・・・?」

 

「ん?あぁ、気にしてないし良いよ、見なかったことにするし」

 

「・・・別にヒビキなら良いのにな」

 

「ユウキー、何か言った?」

 

「何でもない!行くよ、ヒビキ!」

 

「お、おう?」

 

ユウキはその手の方に鈍感なヒビキに呆れつつ、手を引っ張って行った。

ヒビキを引っ張っていくユウキが頼もしく見えて、こいつがこれからの相棒になるんだなと改めて認識出来た。

 

「ユウキ」

 

「んー?どーしたの?」

 

「これからもよろしくな」

 

「う、うん!よろしくね、ヒビキ!」

 

そういったユウキは今までにないほど満面の笑みでヒビキに返した。

ヒビキもそれに釣られて笑った、ユウキに見られないように顔を伏せたが。

 

(いつかは離れ離れになるけど・・・それまではこいつと一緒に居てやろう。それがこの世界でユウキに出来る唯一の事だ)

 

「ヒビキ・・・?どうかしたの?」

 

「べーつに、何でもねぇよー・・・ほらちゃっちゃとどっか行くぞー」

 

「うん!」

 

そしてヒビキとユウキは転移門に向かおうとしたとき、あるプレイヤーが目についた。

そのプレイヤーは何か懇願しているような感じだが、他のプレイヤーには一蹴されていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「あ、あぁ・・・うちのギルドが潰されたんだ・・・」

 

「ユウキ・・・良いか?」

 

「うん、ボクも手伝えることあればするよ!」

 

プレイヤーの話をヒビキは聞いていた。

女性プレイヤー・・・ロザリアというプレイヤーがギルドに入ったがしばらくしてロザリア率いるギルドによって仲間がPKされた。

プレイヤーは僅かばかりの金品やコルを集めて回廊結晶を買ったそうだ。

 

「分かったよ、あんたの依頼引き受けよう」

 

「本当か!ありがとう!・・・」

 

「よし・・・ってユウキー?」

 

ヒビキが振り返るとそこにはユウキが居なかった。

さっきまで居たのにも関わらず。

少しヒビキは探したがどこにも居なかった。

 

 

その頃ユウキはあの時の男プレイヤー共と居た。

 

「絶剣様よぉ・・・あん時は世話になったぜぇ・・・」

 

「ボクに何か用かな、無いなら忙しいんだけど」

 

「今はあのガキが居ねぇからな、殺るなら今のうちってことだ・・・おい、おめぇら!やるぞ!」

 

とリーダー格のプレイヤーが言うとユウキは地面に倒れた。

一時的に行動不可にする麻痺毒だった。

 

「あ・・・れ・・・?」

 

「おめぇは早いってのがあん時に身に染みて覚えてるからな・・・対策ってわけだ」

 

「ぐっ・・・」

 

「そぉーれ!」

 

「あぁ!?・・・うわぁぁ・・・」

 

リーダー格は倒れて無防備なユウキの手に剣を刺した。

 

「ぐっ・・・あぅ・・・」

 

「そらそら!いてぇだろ!」

 

そういう間にもリーダー格は深々と指していく。

手の次には足。

その次は腹と指して行った。

満タンだったユウキのHPはイエローゾーンに入り、もうすぐレッドゾーンとなりかけていた。

 

「なぁ、どうだなんだ?死ぬってどういう気持ちなんだよ?」

 

「あぐっ・・・」

 

「いわねぇとしんぢまうぞ?まぁ生かす気もねぇけどな!」

 

(ヒビキ・・・!助けて・・・助けてよ・・・!)

 

「ちっ・・・もう壊れたか、なら死ね」

 

「ヒ・・・ビキ・・・た・・・すけ・・・て」

 

最後にヒビキの名を言ってもうすぐ来る死に身構えた。

しかしそれは待っても来なかった。

ユウキは恐る恐る目を開けるとそこには。

ユウキが一番会いたかったヒビキがいた。

それも鬼の形相であの男プレイヤーに攻撃をしていた。

 

「ユウキ!ヒール!・・・てんめぇ・・・俺のユウキに何しやがった・・・」

 

「なっ・・・またあん時の餓鬼か!」

 

「・・・言い残すことはそれだけか」

 

「ま、待て!謝る!謝るから!」

 

「おまえが最初の披露目にしてやる。その目に焼き付けて冥土の土産にでもしな」

 

ヒビキは見たことの無いソードスキルを発動させた。

男プレイヤーは近くに落ちていた武器を拾い、ヒビキに突撃するが。

 

「てめぇ如きに幻影剣を使うのも渋るが、ユウキをあんな目に合わせたんだ、生きて帰れるとでも思ったか!」

 

ヒビキがそのまま剣を振るうと半透明の剣が男プレイヤーの体に突き刺さった。

 

「ぐがぁ・・・!?なんだ・・・これ」

 

「誰がてめぇに教えるかよ、殺すのもめんどい、牢獄にでも行ってろ」

 

ヒビキは攻撃できなくなる事がわかったあと、回廊結晶を使い、あのプレイヤーを中に蹴り飛ばした。

 

「おい!そこでコソコソと隠れてる奴、ハリネズミになりたくなかったら自分から入れ」

 

他のプレイヤーも殺気立っているヒビキに逆らえば何されるか分からないと感じ自主的に中に入った。

ヒビキも周りに居ないと分かるとすぐにユウキに寄り添った。

 

「ユウキ!大丈夫か!」

 

「えへへ・・・大丈夫・・・だよ」

 

「ごめんな・・・目を離した隙に・・・」

 

「ううん、ボクが警戒してたらよかったんだよ・・・ヒビキは悪くない」

 

「とりあえずここじゃモンスターも来るかもしれん、一度・・・一緒に来てほしいとこがあるんだけど・・・良いか?」

 

「うん!ヒビキにお任せ・・・します」

 

とヒビキはユウキの許諾が取れ、ユウキをお姫様だっこした。

 

「ふぇ!?ちょ、ちょっとヒビキ!?」

 

「麻痺毒解けてるなら下ろすが、解けてないその身体で動けんのかよ」

 

「あ・・・う・・・ぅ・・・」

 

ヒビキに正論を言われユウキは恥ずかしさで頭がパンクした。

顔を真っ赤にして居るが口元が緩んでいる辺りが満更でも無いのだろう。

しかし街に入るにはヒビキも恥ずかしいのかユウキを下ろした。

 

「ご、ごめんね、ヒビキ。重かったでしょ・・・?」

 

「んあ?全然重くなかったけど、それに重かろうが気にしないし」

 

「そ、そっか!じゃあヒビキの行きたい所いこっか!」

 

「お、おう、ってまてーい!」

 

さっきのが何もなかったかのようにユウキはまた元気になっていた。

しかし元気になりすぎてすぐに走り去ったユウキを追い掛けるのは至難だとヒビキは思った。

 

 

そしてヒビキはユウキの手を握ってその階層を言った。

 

「転移!《コラム》」

 

と第22層に二人は転移した。

そしてユウキは何故此処に来たのか聞いた。

 

「ねー、ヒビキ。何で此処来たの?」

 

「まぁ待ってな」

 

「う、うん・・・ってへっ?」

 

ユウキはまた誰かに抱っこされていた。

それはヒビキにまたお姫様だっこをされており、さっきは意識しなかったが、近くにはヒビキの顔があった。

 

「ふわふ・・・わ・・・」

 

「ん、どうかした?」

 

「・・・えへへ・・・」

 

「はぁ・・・ったく、しっかり掴まれよ!」

 

自分の世界に入ったユウキを無視して一応掴まれとは忠告した。

ユウキもそれは聞いていたのかさっきよりがっちりと逆に離れまいとヒビキに引っ付いた。

 

「ユウキ、目つぶってろ」

 

「ふぇっ?う、うん」

 

ユウキはヒビキに言われ目をつぶった。

何かあるのかな?とユウキは思った。

しかしそれもすぐに分かることだった。

 

「よいしょっと・・・もういいぞ、目開けて」

 

ヒビキに言われ目を開けるとそこには木造の家があった。

ヒビキは先に扉を開けてユウキを手招いた。

 

「ど、どうしたの?これ」

 

「どうしたって・・・買った」

 

「へ?」

 

「だからこの家買ったんだよ」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

 

「いつまでも宿屋で暮らすわけにもいかんしな、それにそのうち必要なると思って少し大きめのを買った」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「・・・?お前も別に良いんだぞ?暮らしても」

 

とヒビキは思いをそのまま口にした。

ユウキからしたら嬉しい限りだがなんというか驚きもあいまって混乱していた。

 

「後・・・言いたいことあったんだ」

 

「な、なに?」

 

「・・・ユウキさん、俺と結婚してください」

 

その瞬間ユウキは泣き出した。

確かにいつかは・・・と思っていたがこんなに早くとは思っていなかった。

 

「い、嫌だったか?確かにまだ3ヶ月だしな・・・早かったかもなぁ・・・」

 

「ううん!いやぢゃない!嫌なもんかぁ・・・!」

 

ヒビキはそれを聞いて安堵し、ユウキを抱きしめた。

背中もさすって、早く落ち着つけてあげたかった。

しばらくしてユウキは泣き止んだが目は腫れていた。

 

「ヒ、ヒビキ・・・」

 

「な、なんだよ」

 

「ボ、ボクと・・・結婚して・・・くれます・・・か?」

 

「・・・バーカ、元よりそんな気が無かったらここにつれてこねーよ」

 

「えへへ・・・」

 

「ユウキ、好きだ」

 

「うん!ボクも大好きだよ、ヒビキ!」

 

ユウキが泣き止む頃には日は傾き始めていた。

さすがに今日は何もせずに一緒に居ようと思った。

 

「ユウキ、座ってろ、飯作る」

 

「ヒビキ・・・作れるの?」

 

「一応上げてはいるぞ、嫁さんに美味しい料理食わせたいしな」

 

嫁さんと言われユウキはまたしても顔が真っ赤になった。

ヒビキはその辺を自覚せず言うため恥ずかしがるのが自分だけなのだ。

早く冷まそうとしていたらヒビキがご飯を作り終わり持ってきた。

 

「まっ、適当にしたからまずいかもだが」

 

とヒビキは「いただきます」と言うと食べはじめた。

ユウキもそれに合わせて「い、いただきます」と言って料理を口の中に入れた。

 

「美味しい!ヒビキ、美味しいよ!」

 

「お、おう・・・ならよかった」

 

ユウキはいっぱい食べたいと思い、ヒビキにおかわりを請求するほど美味しかったようだ。

生憎おかわりは出来なかったが。

 

 

ユウキが家を改めて見ているとヒビキから声がかかった。

 

「ユウキー、眠たくなったら先に寝てて良いからなー」

 

「ヒビキはなんかするの?」

 

「気にしなさんな、近くに居るから」

 

と言うと家を出て行った。

ユウキも散歩かな?と思い、しばらく待ったが帰ってこなかった。

心配になり見に行くとすぐ近くにヒビキがいた。

 

「ヒビキー?」

 

と声をかけてみるも反応が無く、近寄ってみた。

するとヒビキは寝ていた。

 

「まったくー、ボクがお嫁さんになったんだからしっかりしてほしいよ・・・」

 

とヒビキの近くに居ると寝言が聞こえた。

 

「・・・やめ・・・ろ・・・くそっ・・・たれが・・・」

 

「ヒビキ?」

 

「・・・もう・・・何も・・・すん・・・じゃねぇ・・・」

 

「ヒビキ!起きて、ヒビキ!」

 

ユウキがうなされているヒビキを見てすぐにヒビキを揺すると起きた。

しかしヒビキの目からは涙が出ていた。

 

「んあ・・・おはよ・・・」

 

「ヒビキ・・・!」

 

「うぉ、ど、どした?」

 

いきなり自分に抱き着いてきたユウキにびっくりし、何かあったのかと思った。

 

「ヒビキ・・・うなされてた」

 

「そうか・・・」

 

「聞いちゃ・・・ダメ・・・かな?」

 

「聞いても良い話じゃない、それに話した所で変わりもしない」

 

「でも・・・嫌だよボク・・・あんなヒビキ見るの・・・」

 

「まだ・・・心の整理ってのが付いてないんだ。その時になったら・・・言うから」

 

「絶対・・・だよ?絶対」

 

「良いぞ、約束してやる」

 

いつか話すとユウキに約束するとさすがに眠気が襲ってきたのかユウキも眠そうにしていた。

ヒビキは「仕方ないな・・・」とユウキをおぶると寝室に運んで寝かせた。

そのままヒビキも同じく一緒に寝付いた。

 

その時に見たヒビキの夢は悪夢では無かった。

 

 



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竜使いの少女

身動きが出来ないと感じてヒビキは目を開けた。

するとそこには自分に抱き着いているユウキが居た。

 

「・・・あ?・・・えっ」

 

すぐに手を退かそうとするがそれはすぐに止める事となった。

 

「姉ちゃん・・・なんで・・・先に・・・」

 

「ユウキ・・・」

 

「やだよ・・・ボクを置いてかないで・・・」

 

「ユウキ、俺が居てやるから・・・」

 

ヒビキは逆にユウキを抱きしめた。

ユウキもそれに反応したのかさっきよりつよく抱き着いてきた。

 

(今は頼れる相手が居ないんだろうな・・・俺しか。でも俺だって何時までもユウキには居てやれない。長く無いし・・・な)

 

ヒビキは自分の現実境遇を思い返したあと、ユウキがおきるまで暇だったためまた寝付いた。

 

 

 

その後、ユウキが起きると身動きが取れず原因を見てみるとユウキに抱き着いたヒビキがいた。

かく言う自分もヒビキの背中に手を回していた。

 

「へっ・・・ボ、ボクまさか・・・」

 

「・・・は・・・ぅ・・・はわわぁ・・・」

 

その後を考えたときユウキの頭は処理出来ずパンクし、気絶した。

 

 

そしてお昼辺りになったときにヒビキはまた起床した。

ユウキも離れていたため何事もなく起きた。

 

「ん~、お昼まで寝てたとはなぁ・・・」

 

そしてユウキを見るとまだ夢の中なのか寝ていた。

その間にご飯を作りながらあるソードスキルを考えていた。

 

(幻影剣・・・あん時使っちまったけどばれてないよな・・・?)

 

幻影剣とはヒビキがユウキを助けるときに使ったソードスキルだ。

通常のソードスキルには無く特別な扱いとなっていた。

そんなことをしてご飯を作っていると寝室のドアが開いた。

ユウキが起きて来たようだ。

 

「ん、ユウキ。おはよう」

 

「おふぁよぉ~・・・」

 

まだ眠気が取れないのかユウキはまだ目が据わっていた。

お昼とはいえ寝過ぎてしまうと逆にずっと眠気が出る時があってしまうのが困りものだ。

そんな状態のユウキを見て少し苦笑いする。

 

「ユウキ、一回顔洗ってきな、目が覚めるだろ」

 

「ふぁ~い・・・」

 

ユウキは覚束ない足取りで洗面所へと向かった。

一応この家はヒビキが現実での家をある程度再現しているらしく、まさしくヒビキの家とほぼ同じなのだ。

もっともユウキはそんなことを知らないが。

 

 

少しするとユウキが戻って来ていた。

しっかりと眠気は取れたようで元気いっぱいである。

 

「えへへ~おはよ!ヒビキ」

 

「おう、二回目だけどおはよう、もうご飯出来たぞ」

 

「わーい!」

 

「あんまはしゃぐなっての・・・」

 

「ごめんごめん、ヒビキの料理おいしくてさ・・・」

 

「そうか?普通だろ」

 

「そんなことないもん!・・・じゃあ食べよっか」

 

「だな、いただきます」

 

「いっただきまーす!」

 

いつも通りご飯前に合掌をしたあと、二人はご飯を食べていた。

ユウキは天国に居るような顔でご飯を食べ進めておりヒビキはそれを見て少し笑っていた。

 

 

ご飯を食べ終わり、寛いでいるとキリトからメッセージが届いている事にヒビキは気づいた。

 

「ん?キリトからか・・・なになに」

 

用件は『ロザリアという女性プレイヤーに覚えはないか』というものだった。

ヒビキもそれに関してなら話し合いたいと思いキリトには『一度それについて話したい。どこかで落ち合おう』と返した。

すぐに返信が来て『35層の宿屋で良いか?転移門で待ってるから宿屋には案内する』と来たためそれで良いと思った。

そして今日の案件を伝えるべくユウキに話した。

 

「ユウキ、ちょっと良いか?」

 

「どーしたの?」

 

「キリトがなんか用事あるみたいでさ・・・今日キリトんこ行く」

 

「ボクも一緒に行っていい?」

 

「あー・・・うん、好きにしてくれ」

 

「わーい!じゃあついてくね?」

 

ユウキも一応来ることとなり、すぐに支度し35層に向かった。

35層につくとすぐにキリトは見るかり合流した。

 

「ん、ユウキも一緒なのか」

 

「あー・・・それはあとで言おう」

 

「?わかった・・・んじゃ人待たせてるから行くぞ」

 

「あいよ」

 

「はーい!」

 

キリトは二人を連れるとある宿屋で止まった。

そこはチーズケーキが美味しいと評判の店だった。

それを知るのは美味しい物好きのユウキだけだが。

 

「シリカー!今戻ったぞー」

 

「あ、キリトさん、おかえりなさい!」

 

キリトがその人物の名を言うとキリトはそこまで移動した。

二人も付いて行き、ユウキは少女の隣、ヒビキはキリトの隣に座った。

 

「さて、紹介するよ、この子はシリカ」

 

「え、えっとシリカです!少し前にキリトさんに助けて頂きました!」

 

「へぇ~・・・キリトが助けるとはねぇ・・・俺はヒビキ。気軽にヒビキって呼び捨てで構わん」

 

「ボクはユウキだよー!ヒビキと同じく呼び捨てで良いからね!」

 

ユウキが自己紹介し終えるとヒビキはキリトに話を切り出した。

 

「キリト、今回は何の用だ?」

 

「あ、ああ・・・実はシリカの手伝いをしてほしいんだ」

 

「シリカちゃんの?なんでまた、お前だけでも十分行けるんじゃねぇか?」

 

「詳しいことはまた言うが・・・頼む」

 

「ユウキ次第だな、ユウキが手伝いたいなら俺も手伝う」

 

「えっ?ボ、ボクは良いけど・・・」

 

「あ~良かったー・・・断られたら結構危険な可能性が出るからな・・・」

 

「・・・マジでお前何しようとしてんの」

 

キリトの大袈裟な反応にヒビキは苦笑いして解散し、宿屋に泊まった。

ユウキがお風呂に入っている間、ヒビキはキリトの部屋に向かった。

 

「キリト?良いか?」

 

「ああ、良いぞ」

 

ヒビキが中に入るとシリカがおり、テーブルにはプロジェクションマッピングみたいなものが映し出されていた。

 

「なんだそりゃ」

 

「シリカに明日行く47層の説明をしてたんだ」

 

「47層・・・プネウマの花か」

 

一応ヒビキは攻略組ではあるがレアアイテムには興味がありその一つがプネウマの花だった。

綺麗な花であり欲しいと思っていたが手に入らず・・・という47層の雑魚狩りをしただけのヒビキだった。

 

「確かにビーストテイマー居ないと無理だろ?・・・てことはシリカちゃんがそうなのか」

 

「はい・・・そうなんです。でもキリトさん達が付いてるから問題ないです!」

 

「ん、そかそか・・・?」

 

ヒビキはシリカの元気な姿を見て、頑張ってなという応援をしていると、扉の向こうから気配がした。

 

「・・・!?誰だ!」

 

ヒビキが開けるとそそくさと逃げて行ったプレイヤーがいた。

 

「っち、聞かれてたか」

 

「みたいだな・・・」

 

「えっと・・・宿屋ってノックしないと聞こえ無いんじゃ・・・?」

 

「そうでもない。《聞き耳》スキルを上げてる奴なら聞こえる。まぁそんな物好きはあんま居ないが」

 

「んじゃこれで解散。俺は明日に備えてもう寝るよ」

 

「はい!キリトさんにヒビキさん、ありがとうございました!」

 

「良いってことよ、んじゃあまた明日な」

 

ヒビキは二人と別れると自室に戻った。

そこには風呂上がりのユウキがいた。

まだほんのり頬は赤く、服も薄着だった。

 

「あ、ヒビキおかえりー」

 

「おう、戻ったぞ」

 

ヒビキはユウキの隣に座り、ユウキの頭を撫でた。

嬉しそうに顔を緩ませたユウキを独占したいという欲求が出ていたヒビキだが何とか耐えて、撫でるのを止めた。

 

「・・・ぁ・・・」

 

「何だその名残惜しそうな声は・・・いつでもしてやっから」

 

「うん!」

 

「もう寝るぞ、何か今日は眠い」

 

「わかったー、ボクも一緒に寝るー」

 

ユウキがベッドに入るともうヒビキは寝ており、寝顔を晒していた。

 

(ヒビキは・・・いつになったら言ってくれるのかな・・・?でもいつか言うって言ったからボクはそれを待たなきゃ・・・)

 

そんな事を考えているとユウキにも眠気が襲ってきて寝てしまった。

 

案の定、ヒビキはユウキに抱き着かれたため困り果てていたが。

幸せそうに眠るユウキを見ると怒る気にはならなかった。

 

(いつまで一緒に居てあげれるんだろうか・・・。多分・・・SAOが終わるまで・・・だよな・・・)

 

ヒビキは眠っているユウキを余所にSAOクリア後を少しだけ考えていた。

 

 



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勧誘と依頼完了

ヒビキは夢を見た。

悪夢ではない、謎の夢。

 

病院内に居る自分。

そのまま過ごしていると扉が開いた。

すると自分を見て、手を握って嬉しそうに泣き出した。

口は動いて何か喋っているのだろうが聞こえなかった。

しかし自分は考えた。

 

 

自分に家族は居たのか?と。

 

 

 

 

「・・・変な夢・・・だな」

 

ヒビキはさっきの夢を思い返していた。

さっき自分の手を握って泣いてた女性。

果して・・・自分には家族なんて居たのかと。

 

「うぅ~ん・・・」

 

「こいつは・・・相変わらずだな・・・」

 

しかしそんな考えはまだぐっすり寝ているユウキで掻き消された。

ヒビキは今何時だろうと時間を確認した。

その時間はまだ朝の3時。

普段起きるよりはかなり早くかといってまた寝るかと言えば眠気が無く全然寝れそうに無かった。

 

「やばい・・・暇だ」

 

「ヒ・・・ビキ・・・」

 

「ったく、自分は気持ちよく寝やがって・・・」

 

まだ夢に中にいるユウキを羨ましそうに思ったが起こす気も無く、ユウキの抱き着きホールドが来る前にベッドから出た。

慣れという物は恐ろしいものだ。

最初こそヒビキが焦っていたが今では一緒のベッドでなければ落ち着かない。

あの時のヒビキに比べるとかなり変わったと言えるだろう。

何者も拒んでいヒビキを変えたのはユウキだった。

少しずつ一緒に絡んでは楽しんで、時には一緒に戦って。

それが心地好いのを感じるのと同時にSAOクリア後の事を考えると辛くなる。

確実にヒビキとユウキが現実世界で一緒にいれるかと言えば分からない・・・というのがヒビキがずっと思っている考えだった。

ヒビキは普通の子とは違う。

SAOだからこそこういうふうに馬鹿騒ぎなども出来るが戻れば確実に出来なくなる。

それを考えるとクリアしたくないという気持ちも出来てしまう。

 

「・・・でもユウキを現実世界に帰さないと・・・駄目だもんな」

 

ヒビキはユウキには言っていないが必ずユウキを生かして現実世界に帰すことが今の目標となっていた。

ユウキには感謝しきれないほど変えられた。

その恩返しとして・・・という言い方は変だが絶対に帰すと心の中で思っていた。

 

「お前はもうちょっと寝とけよ」

 

ヒビキはユウキの頭を少し撫でた後、宿屋を出た。

一応攻略組であるヒビキはレベル上げを【ユウキに見つからないように】している。

何故見付かってはいけないかと言うとその戦い方がとても危ないものだった。

SAOの中では安全マージンという言わばその階層に+10したレベルが安全圏内と言われている。

しかし普段、ヒビキは自分のレベルと同等かそれ以上の相手と戦っていた。

他のMMORPGでも同じで、弱い敵を倒すより強い敵を倒した方が経験値も美味しい。

それも合わせて、《幻想剣》スキルの熟練も上げれるから一石二鳥・・・だと思えるが一歩間違えると死に直結する可能性は大いにある。

 

「ったく、ほんとつえーな・・・」

 

しかし今回は攻略がまだ終わっていない61層の迷宮区でしていたため、レベルは安全マージンである71を超えて、89となっていた。

そしてユウキが起きる時間帯である9時までには帰れる程度に狩りをするつもりだった。

ヒビキは時間帯に近づくと一度街に戻ろうと考え、来た道を引き返していた。

途中の雑魚も通り魔の如く薙ぎ払って倒していた。

 

 

少しすると主街区に到着し、転移門に向かった。

するとすごく見覚えのある子を見つけた。

どっからどうみても自分の嫁であるユウキがいた。

そしてユウキに突っ掛かる男プレイヤーもいた。

ヒビキはそれを見て意味の分からない怒りが沸いて来るが何とか抑え、話し掛けに行った。

 

「おい、あんた何してんだ」

 

「ふん、私はこのユウキ殿に《血盟騎士団》に加入して頂けないか聞いていただけだ」

 

「ヒビキ!?やっぱり居たんだね!?」

 

そういうユウキはかなり怒っていた。

それはそうだ、起きたら最愛の人がおらず、どこに居るか探せば前線層に居るのだから。

 

「わ、わるい・・・んで、ユウキに何しようとした?」

 

「貴様・・・ユウキ殿に纏わり付いている男が居ると聞いたが貴様の事だな?」

 

「だったらなんだ」

 

「ユウキ殿に纏わり付いてもらうのは止めていただきたい、《ストーカー》」

 

男プレイヤーがヒビキにその単語を言った瞬間、ヒビキの中で何かが切れた気がした。

ヒビキはユウキに「一旦下がれ」と言うと少し離れた位置で見ていた。

 

「てめぇ、俺にそんなこと言うだけの腕があるんだな・・・?」

 

「当然だ、ストーカー如きに負けるわけもありえまい」

 

「なら受けてくれるよなぁ!?そんだけ余裕があるってならよぉ・・・」

 

ヒビキは俺プレイヤーにデュエルを申請した。

《初撃決着モード》で相手も承諾した。

 

「ふん!ストーカーは地にはいつくばるがいい!」

 

「そのうるせぇ口を塞げよ、雑種以下が」

 

ヒビキはかなりマジギレしており、普段は口にしない言葉で相手を罵倒していた。

そしてカウントが始まり、3・2・1・・・とデュエルが始まった瞬間。

 

男プレイヤーがヒビキに両手剣スキルを発動させ当てて来ようとするがヒビキの爆発的な瞬発力と素早さで当たるわけもなく、男プレイヤーの後ろに回った。

男プレイヤーもそれに対抗すべく、後ろに剣を振りかぶるがすぐに止まった。

 

「はっ・・・?」

 

何故止まったか見るとなんと、ヒビキが片足で男プレイヤーの剣の先を踏んでいた。

基本両手剣を持つには筋力がかなり要求される。

だがヒビキは男プレイヤーより筋力ステータスが高かったため、片足で踏み付けていた。

 

「なっ、は、離せ!」

 

「はい、そうですかって話す阿保が居るとでも思ってんのかよ、てめぇには今までに無いほどいらついてんだ、手向けにでも受け取れよ」

 

ヒビキは男プレイヤーの横腹を蹴って横に飛ばした後、今度は腹を思いっきり上に蹴り飛ばした。

 

「ぐはぁ!・・・」

 

その後、ヒビキは男プレイヤーに《幻想剣》スキル『ディレベル・メテオ』というスキルを使った。

ヒビキはその場から動かずに男プレイヤーに当たらない武器を振っているだけだった。

しかしそれだけで十分だった。

男プレイヤーはどんどn切られて行き、HPが10分の1になるとデュエルが終了、ヒビキが勝利した。

 

 

しばらくし、周りからは拍手が飛び交ってきた。

みな見事としか良いようが無いほど男プレイヤーを完封しきっていたヒビキに多大な拍手が送られた。

中には『ユウキちゃん、愛してるー!』や『結婚してくれ、ユウキちゃんー!』などユウキに対する声もあった。

さすがにこの場でユウキと結婚していることがばれるとまずいため我慢したが、それを無に返そうとしている人が居た。

ヒビキに向かってユウキが飛びついてきた。

 

そう、公衆の前でユウキはヒビキに当然の如く抱き着いてきたのだ。

これではまるで二人は出来ているのでは・・・?というプレイヤーが増えた。

 

「ヒビキ、ありがとう!」

 

「んあ、別にいらっとしたからしただけだけど」

 

「ううん!それでも嬉しいよ、ボクは!」

 

「はいはい・・・んで、この状況どうするんだ」

 

「へっ?・・・あ」

 

「責任取ってくれよ?せっかく隠してたんだから」

 

「あうぅ・・・」

 

みなこの会話で理解した。

二人・・・幻剣ヒビキと絶剣ユウキは出来ていると。

そしてみんな各々二人を見た。

一応ヒビキはカッコイイ部類だ、本人は自覚していないが。

ユウキは最早言うまででもない程SAO女性プレイヤーの美少女ランキングに入るほど人気であり、ヒビキと行動していない時は求婚を申し込まれた時もあった。

ユウキはその求婚を全て断っていたが。

 

二人はこれ以上注目になるのはまずいと思い、キリト達が居るであろう47層に向かった。

 

 

 

二人が47層に向かうとキリト達がいた。

 

「遅いぞ・・・何してたんだ?」

 

「・・・色々と疲れた」

 

「ボクも・・・何か色々と・・・」

 

「本当に何があったんだ・・・」

 

キリトはそんなげんなりしている二人を見て呆れるがまぁ何かあってもすぐ解決出来そうと思いこれ以上触れない事にした。

 

「さて、シリカ準備は良いか?」

 

「はい!あの・・・お二人は・・・?」

 

「心配するなら早く行くぞ・・・家で寝たい」

 

「ボクも・・・」

 

と早く進行したいと言ったため、プネウマの花を求めて進んだ。

途中、花形モンスターがシリカの足を掴んでスカートの中が見えそうになったがヒビキはその光景を予想していたのか見ていなかった。

見たらヒビキの隣の人が処刑宣告を言い渡す事だろう。

 

 

そんなこともあり、かなり奥に進んだ4人はあるものを見つける。

 

「キリトさん!あれ!」

 

「ん?」

 

シリカが指差した奥には台座があった。

しかしそこには何も無いようにしか見えなかったが。

キリトとシリカは先に進んだがヒビキはユウキを引き止めた。

 

「ユウキ、少し良いか?」

 

「ん、どうしたの?」

 

「多分あれが来る。来たらシリカを任せるぞ」

 

「ボクも戦うよ!」

 

「いや・・・もしもの事があるかもしれん、キリトも俺と同じだろう。そうなるとシリカちゃんを守る奴が居ない。だからユウキにお願いしたいんだ」

 

「うぅ・・・そこまで言うなら・・・でも、無茶しないでね!」

 

「わぁーてるよ」

 

ヒビキは言うだけ言うとキリト達のところに急いだ。

その後、ペット蘇生アイテム『プネウマの花』を入手したシリカは来た道を引き返していた。

しかし、途中でヒビキとキリトが止まった。

 

「ヒビキ?」「キリトさん?」

 

「・・・のぞき見とか気持ちわりぃんで早く出てこいよ」

 

とヒビキが言うと木の影から人が出てきた。

 

「あら?あたしの《隠蔽》を見破るとはね。そこそこやるのね?剣士さん達?」

 

「ロ、ロザリアさん!?」

 

「その調子だと首尾よく入手出来たみたいね・・・じゃあそれ寄越してくれないかしら?」

 

「お前、少し前にギルド・・・《シルバーフラッグス》って所を襲ったな?」

 

「あぁ・・・あの貧乏ギルド・・・」

 

「転移門前で泣きながら懇願してたぞ、あんたらの仇討ちをして欲しいってな」

 

「ぷっ・・・あっははは・・・あんた馬鹿?・・・別にあたしはあんなギルド潰れようが関係ないわ、それにそんな正義心があたしにはうざいのよ!」

 

「キリト、ユウキ頼むぞ」

 

「・・・ああ」

 

キリトはヒビキに言われ、ユウキ達の前に立って武器を構えていた。

しかしヒビキは抜刀せずぞのまま立っていた。

 

「おい!あんたら!やっちまいな!」

 

ロザリアが号令すると他の木の影から他のプレイヤーも出てきた。

しかしヒビキの姿を見た瞬間一人のプレイヤーが言った。

 

「ロザリアさん!こ、こいつあの《幻剣》じゃあ・・・?なら後ろにいる紫の女は《絶剣》、こいつら攻略組ですよ!」

 

「そこの黒い服の奴は《黒の剣士》だ!何でこんなとこに・・・!」

 

「馬鹿言うんじゃないよ!攻略組がこんなところに居るわけないだろう!どうせ偽物に決まってるじゃない!」

 

「へへ・・・そうだよな、攻略組なら良いアイテムもってるかもしれねぇ」

 

と言うと8人プレイヤーはヒビキを切り付けた。

それでもヒビキは何もしなかった。

 

「ヒビキさん!?キリトさん、ヒビキさんが!」

 

「そうだよ、キリト!あのままじゃヒビキが!」

 

「よく見ろ、ヒビキのHP」

 

「へっ?」

 

「減って・・・ません」

 

「あれは《バトルヒーリング》スキルだよ。戦闘時に少しだけ自然回復させる」

 

キリトが何とか二人を止めてくれたおかげでヒビキも全力を出せるようになった。

 

「あんたら!何やってるんだい!」

 

「10秒の総ダメ800か・・・それがあんたらが俺に与えれるダメージ量だ、んで俺のレベルは89、HPは18600、自然回復量は1200だ、何時間しても倒せやしねーぞ」

 

「そ、そんなのありかよ・・・」

 

「MMORPGやってるなら分かるだろうが、レベル制はこんなもんだ」

 

「ふ、ふん!だからってあたしがあんたらに・・・!?」

 

「言うけどさぁ、俺元々ソロだからな、数日オレンジになろうが問題ねぇんだよ」

 

ロザリアはヒビキの威圧に負け、武器を落とし降参した。

その後、あのリーダーから受けとった回廊結晶で牢獄への道を作ったヒビキ。

しかし仲間の一人は諦めずにヒビキではなくキリトを欺いてユウキに攻撃した。

なぜならそれは以前ユウキに断られた相手であり、その時ヒビキに負かされた。

意味の分からない恨みをユウキに向けていた。

 

「ユウキ!避けろ!」

 

「へっ?」

 

ユウキが気づくにはもう遅かった。

キリトも駆け付けるが間に合わずにユウキに怪我をさせてしまうな・・・と負い目を感じるといきなり暴風が来た。

 

「てんめぇ・・・何してくれやがる・・・あぁ!?」

 

「ひ、ひぃぃ!?」

 

ヒビキがソードスキルでユウキに当たるであろう攻撃を弾き飛ばした。

そしてそのプレイヤーに殺気を向けていた。

 

「ったくがよ、さっさと入れよ」

 

すぐに殺気は収まったが以前機嫌はかなり悪い。

逆らえば殺されるんじゃないかと言われる位に。

その仲間は牢獄にはいっていき、ロザリアも入った。

 

「・・・コリドー、クローズ」

 

と言うと先ほどの牢獄への道は消え、ヒビキ達の依頼も終わったことになる。

 

「キリトすまんが、ユウキを少し頼んだ」

 

「え?ヒ、ヒビキどこ行くの!?」

 

「お、おい!」

 

ヒビキは転移結晶でどこかに行ってしまった。

それを何も出来ない間々見つめる事しか出来なかった事を誰も責めれないだろう。

 

 

なぜなら、ヒビキの目から涙が出て泣いていたのだから。

 

 




キリトさんはLv78ですが狩る量が少し異次元なヒビキはLv89という数字にしました。
ヒビキの戦闘狂を考えたら余裕でいってそうなので。


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幻の家族と現の孤独

修正
【ヒビキのLv80→Lv89】を入れました。
ユウキの台詞ミスを修正。


プネウマの花を入手し、シリカを宿屋に送り届けた後、キリトとユウキはヒビキを探していた。

あのあと追えたら良かったのだが、シリカを置いていくわけにもいかず、追えなかった。

 

「ねぇ!キリト、そっちは見つかった?」

 

「いや・・・こっちは居なかった」

 

「だぁ~も!いきなりどうしたのかな!ヒビキは!」

 

あの時からもう2ヶ月経っていた。

念のため生命の碑というプレイヤー名簿を見て生存を確認していた。

また、最近構ってもらう量が減ったユウキは少しイライラしていたが、八つ当たりするわけにも行かず、我慢していた。

二人は懸命に自分達のフレンドにも協力してもらったがそれでも見つからなかった。

 

「ヒビキの奴フレンド削除してるな・・・これじゃあ見つけるのが苦労する」

 

「ほんとだよ!全然見つからないもん!」

 

と二人はどうしたものか悩んでいるとある人物がやって来た。

 

「ん、お困りのごよーす」

 

「へっ・・・カグラ?」

 

「・・・誰だ?」

 

「カグラちゃんだよ。フード被ってるから姿見えにくいけど」

 

「カグラってヒビキの妹の?」

 

「そうだよ。キリトまさか忘れた・・・とかじゃないよね?」

 

「ソンナコトナイダロ」

 

怪しげな反応をするキリトにカグラは少しため息を付くがすぐに話を出した。

 

「ヒビキをお探し?」

 

「うん、知ってるの?」

 

「当然、フレンド切ってない」

 

「なら教えてほしいんだ」

 

ユウキが聞くもカグラは答えなかった。

それは何か悩んでいるような顔だった。

 

「どうしても?」

 

「ああ、どうしてもだ」

 

「ん・・・」

 

カグラが言い渋っているとキリトがメッセージを見ていた。

どうやらクラインから届いた物だった。

 

「ユウキ!大変だ、迷宮区の61層のボス部屋が占拠されてるらしい!」

 

「えぇ!?何で、あそこって最前線でしょ!?」

 

「61層・・・」

 

二人が驚いているとカグラは61層という単語に反応した。

そんな反応を見逃さないようにユウキは問い詰めた。

 

「居るんだね?そこに」

 

「う、ん・・・ヒビキは61層の迷宮区に向かった」

 

「そっか・・・ありがとう、カグラ!」

 

「あぁ、俺からも礼を言う、言ってくれてありがとう」

 

感謝され照れ臭そうにカグラは顔を隠した。

それでもヒビキを止めてくれる事にカグラが感謝していた。

 

「キリト!急いでいくよ!」

 

「あぁ!」

 

二人はすぐさま61層の迷宮区に向かった。

それを追い掛けるようにカグラもついていった。

 

 

 

その後、二人は迷宮区のボス部屋まで難無く到着した。

しかしそこには大人数のプレイヤーが居た。

 

「クライン!これは?」

 

「おぉ、キリトか。それがあそこで通せんぼしてる奴がよ、ボス部屋を通さねぇんだ」

 

「あいつらが?」

 

キリトはボス前で通せんぼしているプレイヤーを見た。

それは、《軍》と呼ばれるギルドの一人、キバオウが居た。

 

「ここはとおさへん!そういう依頼や!」

 

「しかし、キバオウさん・・・通しては駄目というだけで見せてはいけないというのは言われていません」

 

「それもそうやな・・・見せるぐらいならええやろ」

 

キバオウはそういうとボス部屋の扉に手をかけた。

するとボスと戦っているプレイヤーが居たが・・・人数は一人。

 

「ヒビキ!?」

 

「嘘だろ?何で・・・」

 

ユウキとキリトはその異常な光景を見てしまった。

 

 

 

ヒビキは別れた後、カグラの元に行っていた。

 

「カグラ・・・邪魔するぞ」

 

「ん、ご自由に」

 

「・・・さっきほとんどの奴のフレンドを消した。残してるのはお前だけだ」

 

「そう・・・」

 

「もしあの二人が来たら限界まで言うのを渋ってくれ」

 

「なんで」

 

「顔を見たくないって言えば分かるだろ?それに、目の色・・・気付きかけた奴も居た」

 

「わかった、ヒビキのお願いだから聞く・・・でもそんなに引き伸ばせないと思う、勘良いから」

 

「それでも良い、じゃあ行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

とカグラの店を出た後、軍の所へ向かった。

用があるのは軍の中で分割されて対立している一人、キバオウだった。

 

「なんや、こんなとこ呼出しよって」

 

「依頼だ、報酬は先払い。仮に失敗しても構わん」

 

「なんやその依頼」

 

「あんたの部下とあんた本人でボス前の扉を誰にも通さないようにしてくれ」

 

「・・・理由は?」

 

「別に言う必要はねぇだろ、で・・・やんのか?」

 

「ええわ、やったろうやないの、そのかわりしっかりと金は貰うからの!」

 

キバオウに依頼を受けてもらった後、報酬の金を先払いし、61層の迷宮区に向かった。

迷宮区自体の雑魚は弱いと言っても過言ではなかった。

安全マージンの71を超えて89となっているヒビキにはほぼ無意味だった。

 

「さて、やるか」

 

ヒビキはボスの扉に手をかけ、独りで戦った。

それを数時間も。

 

 

 

「ねぇ!キリト行こうよ!あのままじゃ死んじゃうってばぁ!」

 

「落ち着けユウキ、今の状態のヒビキに近寄れば一緒に処理される」

 

「でも・・・でもぉ!」

 

泣きながらユウキはヒビキの姿を見ることしか出来なかった。

誰も、中には入ろうとはしなかった。

なぜなら、ボス部屋の中でだけ限定だが辺りには武器が突き刺さっていた。

入ればあれの流れ弾を食らうことになりかねない。

それを見ていることしか出来ず、数時間たった。

 

 

数時間経つとヒビキは《幻想剣》スキル『ディレベル・メテオ』をボスに放った。

いくらボスと言えどスキルやアイテムなどで強化されたヒビキの筋力には敵わず、上に蹴り飛ばされた。

するとあの時の男プレイヤーよりも遥かに多い数をボスに与えていた。

 

そして、100連撃が全て決まった瞬間、ボスのHPは0になりポリゴン状となって消えた。

それを見ていたプレイヤーは状況を忘れ、喜んでいた。

しかし一人だけそれに混ざらずヒビキに突っ込んでいった。

 

「・・・ユウキか」

 

「あれ全部・・・ヒビキ一人でやったの・・・?」

 

「当然だろ、俺以外ボス部屋には入ってない」

 

「・・・なんでこんな危ないことしたの!」

 

ユウキはヒビキを心配していた。

それはもう胸が張り裂けそうなぐらいに。

あのままだと死ぬんじゃないか、自分を置いていってしまうんじゃないかと。

 

「おいおい・・・別に俺が好きでやったことだ、それで死ねるんなら本望だ」

 

「・・・っ!ボクがどれだけ心配したと思う!?あの時にいきなり消えてやっと見つかったと思ったら一人でボス討伐なんかして!それで死んだらどうするの!」

 

「何だよ、勝手にやってわりぃか?俺の命は俺のだ。誰かに縛られて生きてるわけじゃねぇ、それで死ねる方が後々良いんだよ」

 

「変だよ、最近・・・ヒビキの様子が」

 

「はぁ?たかが数ヶ月一緒に居ただけで俺のことなにもかも知ったつもりかよ・・・そういうのうざいんですけど」

 

「それはヒビキが何も教えてくれなかったからだよ!言えるときまで待っててほしいって言われたからボクは待ってたよ!何も言わなかったのはヒビキの方じゃん!」

 

「あーも、うるせぇ、うるせぇ・・・頭に響くから黙れよ・・・」

 

耳を塞ぎ、何も聞こえないふりをする。

その行為がまたユウキを怒らせた。

 

「そうやって逃げてるだけのくせに!結局ボクが言ったことは全部無視して人に心配かけさせて!迷惑かけて!ヒビキがやってるのはただの自己中だよ!」

 

「・・・もう好きに言ってろ、言葉でしか何も出来ねぇくせに」

 

呆れたようにヒビキは言い、62層の扉へと向かった。

 

「ヒビキ!」

 

ユウキが制止をかけるもそんなものは無視し、未知のエリアである62層へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ヒビキはカグラの所で寝泊まりしていた。

自分の家に帰ればユウキが居る可能性はありえる。

わざわざ自分から突き放すように言っておいて会ってしまったら意味がなくなる。

 

「ヒビキ、あれ気にしてるの?」

 

「そりゃあな、あのまま俺に依存されたらSAO帰還後あいつの精神が確実にもたねぇだろ」

 

「・・・話したの?」

 

「誰か話すかよ、あんな事」

 

「だって、どうする?」

 

カグラがそういうと裏方からユウキが出てきた。

 

「カグラ・・・お前謀ったか」

 

「私はヒビキの事思ってこうしただけ、謀ったと思ってないし元よりヒビキ側とは言ってない。私裏にいるね」

 

「はぁ・・・で?今更何のようだよユウキ」

 

「・・・」

 

ヒビキが尋ねるも黙った状態で何も言わないユウキ。

しかし、その顔からは確かに涙が出ていた。

 

「だんまりかよ、それなら俺は移動するぞ」

 

「・・・っ」

 

ヒビキが席から立ち上がろうとするとユウキが引き止めたと思ったがそのままそのまま身体をヒビキに預けた。

その行動にヒビキは少し驚くがすぐにいつもの表情になった。

 

「ヒ・・・ビキ、お願い・・・」

 

「あ?」

 

「もう独りに・・・しないで・・・」

 

そう言うユウキの顔はとても歪んでいた。

しかしユウキは寝てしまっており、寝息が聞こえた。

いくらヒビキでも寝ている女の子を放っては行かない。

 

「はぁ・・・自覚しての行動なら文句言うけど・・・こいつ寝てねぇな・・・」

 

「もう・・・独り・・・は・・・い・・や・・・」

 

「・・・ユウキには言うべきなのかねぇ・・・あのこと」

 

「ヒビ・・・キ・・・」

 

泣きながら自分に引っ付くユウキをどこか自分と重なるような感覚がした。

そしてこんな状態のユウキを置いていけないため、そのまま一緒に居ることにした。

 

「起きるまで居てやるからしっかり寝ろよ」

 

それに答えるようにヒビキを強く抱きしめた。

ヒビキも久しくユウキと寝ていなかったからかすぐに寝付いた。

 

カグラが一度見に来ると二人は幸せそうに寝ているのを見て微笑ましく思い、毛布を二人にかけてあげた。

 

 

 




ヒビキさんはソロで61層のフロアボスを倒しました。
自分で言っては何ですが強いですね・・・。

次回、ヒビキのお話メインです。


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ちょっとしたヒビキの過去話

またあの夢を見た。

また自分は病室の中にいる。

すると医者が入ってきた。

ケーブルで繋がれた機械を見て自分を観察している。

恐らく検診的な物なのだろう。

何もないと分かり医者は病室を出た。

 

 

しばらくすると病室の扉が叩かれた。

自分は反応して「どうぞー」と口を動かした。

するとまたあの時の女性が入ってきた。

そして自分に話しかけてきた。

 

「良かったぁ~・・・○○が生きて・・・」

 

何故自分の名前が聞こえないのだろう。

それどころか何となく聞き覚えのある声だった。

 

「病室って暑いね、って言ってもパーカー着てるからなんだけどね」

 

女性は「えへへ~」と笑い、自分と話していた。

あの声と喋り方は良く知っている。

所々抜けたとこがあり、それでいてSAOで頼りになった。

 

「ねぇ、体調は大丈夫?」

 

「ん、ああ・・・大丈夫だぞ」

 

「ボクが変わりに○○の病気受けれたらなぁ~・・・」

 

「馬鹿言うな、これは誰にも譲らん、自分で治すさ」

 

「うん!しっかり治してよね!・・・じゃボクはもう行くね」

 

「ああ・・・んじゃあな・・・ユウキ」

 

俺はそこで夢から覚めた。

 

 

目を開けるとそこにはまだヒビキに引っ付いて寝ているユウキがいた。

 

「こいつ・・・まだ寝てんのか」

 

「すぴ~・・・」

 

「・・・ほっぺでも弄ろう」

 

気持ち良く寝ているユウキに悪戯したくなったヒビキはユウキの頬を摘んで遊んでいた。

どんな人でもそんなことすれば起きる。

当然ユウキは目を擦りながらも起きた。

 

「んむ・・・」

 

「おはよう、ユウキ」

 

「ヒビキ・・・?」

 

「そうだけど?」

 

「本当に・・・?」

 

「・・・嘘ついてどうすんだ」

 

「ヒビキだぁ~!」

 

ヒビキだと分かるとユウキはヒビキにまた抱き着き、ソファーでユウキに押し倒された。

さすがにユウキもどういう体勢か分かったのかどんどん顔が赤くなっていった。

 

「・・・どいてくれるか?」

 

「ふぇ!?う、うん!」

 

「ったく・・・大事な話しようと思ったけど止めるか・・・」

 

「えぇ!?・・・聞く!聞きます!」

 

ユウキはすぐに聞く体勢になるとヒビキもそれにあわせて座り直した。

 

「・・・この話はカグラ以外知らない話だ、多分お前が初めてだろうな、他人に話すのは」

 

「うん」

 

「一応SAOが最期・・・って可能性出るかもしれないしユウキには教えておく」

 

「・・・」

 

ユウキは静かに頷くとヒビキは続けて言った。

 

「俺は親が居ないんだ、家族はカグラだけ」

 

「・・・そうなんだ」

 

「親父が母さんを捨てて他の女と過ごすようになって、そのショックで母さんは体調を崩しはじめた。ガキだった俺は何もしてやれずにそのまま母さんは死んだよ」

 

「お父さん・・・は?」

 

「交通事故。高速道路で衝突事故が起きたそうだ・・・詳しいことは知らんあんなくそ親父なんぞ」

 

「そっか・・・」

 

「確か・・・去年の6月辺りだな、結構大事故だったらしいからニュースでもトップで取り上げられてた」

 

「それボクも知ってるよ」

 

「そうか・・・それで、まぁ俺とカグラは親戚の家に引き取られた。だが・・・その親戚共が何も思わず引き取るとは思えんくてな、何か企んでると思って探したよ、家中な」

 

「まぁ良く有りがちな遺産目的ってのが分かって俺はカグラを連れて家出した。幸い信頼できる人は居たからそこで暮らしてる」

 

「そうなんだね・・・でも最後ってどういうことなの・・・?」

 

「多分このSAO事件を聞き付けて家出したとこの親戚が引き取る可能性が出る、まぁ俺は真っ平ごめんだが、そうなってしまうと帰還した後ユウキの元に行く事が厳しいと思う。親族共は俺とカグラの遺産目当てだからな、確実に狙う機会を伺うだろう。それに俺自身、元々持病持ちだしな」

 

「そっかぁ・・・」

 

「そんなしょんぼりすんなっての」

 

「だって・・・」

 

「しゃーねぇなぁ・・・寂しがりな嫁さんのために行ってやるよ、絶対にな」

 

「ほんと・・・?」

 

「あぁ、絶対に行ってやる。それに世話になってる所以外の親族に挨拶回りしねぇとだしな」

 

「やったぁ~!」

 

「ったく現金なやつめ」

 

ユウキはヒビキに笑っているとヒビキも一緒に笑った。

ヒビキはユウキを巻き込まないよう考えたつもりが逆に心配させる事となった。

ならばずっと一緒に居てやる事が今のヒビキにしてあげれることだろう。

 

「ユウキ、帰るぞ」

 

「ふぇ?どこに?」

 

「どこって家にだよ」

 

「・・・うん!」

 

ヒビキはユウキを連れて店を出た。

同じ22層にあるのが楽で良かったと思えた。

 

 

その後ユウキはヒビキがまた家に帰ってきたことに安心したのか寝てしまった。

 

「ごめんな、心配かけて・・・これからはずっと一緒に居てやるからな」

 

そうユウキに言ったヒビキの顔は大切な物を見つけたような顔をしていた。

 

(親族が何言ってきてもユウキんとこに行ってやる、それが現実世界に帰った後ユウキにしてやることだ)

 

ヒビキはそう心の中で決め、ユウキの頭を撫でた。

撫でられて嬉しいのかユウキが寝言を漏らした。

 

「ありあと・・・ヒビキ・・・」

 

「可愛いやつめ」

 

ヒビキはそういうとユウキの隣で一緒に寝付いた。

今日は良い夢が見れる。

そう思えたヒビキだった。

 

 



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家族とストーカー退治

ユウキはその日夢を見た。

そこはSAOの中でフロアボスの場所には自分が愛するヒビキがいた。

 

「ヒビキー!」

 

呼び掛けるが反応がなかった。

変だなと思い、近付いてみるとそこには。

 

 

あちこちから血を流し、愛剣を握るヒビキがいた。

 

「ヒ、ヒビキ?ど、どうしたの?」

 

「・・・」

 

ヒビキは何も答えず、ユウキに振り向いた。

そして武器を引きずり、近付いた。

ユウキはそれに恐怖を覚え、尻餅を付いた。

 

「ヒビキ・・・?どうしちゃったの・・・?」

 

「・・・」

 

何度も話しかけても声は帰ってこず、それどころか近づく度にどんどん嫌な予感がしていった。

ユウキもそれが怖くなり、後退りする。

 

「や、やめよ?怖いよ・・・?ヒビキ・・・」

 

「・・・」

 

とうとう壁に到着し、これ以上後退りが出来なくなった。

それに焦ったユウキはどこに逃げるか焦る。

しかしヒビキは冷酷な目で無慈悲な一撃をユウキに振りかざそうとした。

そこでユウキは夢から覚めた。

 

 

 

「・・・っ!・・・い、いまのって・・・」

 

ユウキは周りを見渡し、ヒビキの家だと確認した。

すると隣から声がした。

 

「うぅ~ん・・・んぁ・・・ユウキ?・・・」

 

「ヒビキ・・・?」

 

夢で見たヒビキは偽物だと分かると何故か涙が出てきていた。

それがいつものヒビキだったという安心からかわからなかったが。

 

「ヒビキぃ~!・・・うわぁ~ん・・・!」

 

「えっ、ちょっ、ユウキ!?ちょユウキさん!?どうしました!?」

 

「ひっぐ・・・」

 

いきなり自分を見て泣き出したユウキに驚くも、落ち着かせるため抱きしめて頭を撫でた。

すると段々と落ち着いてきたのかユウキからは泣き声がしなくなった。

 

「ユウキ?どうしたんだよ、いきなり泣き出して」

 

「何でも・・・ない・・・」

 

「あるだろ?いくらなんでも今の泣いてたユウキは異常だったぞ?明らかに何かあったに決まってるじゃねぇか」

 

「言わなきゃ・・・ダメ・・・?」

 

「ダーメ。何も知らない状態で何回も泣かれるとこっちの神経が削れるっての。それに泣いてるユウキなんて見たくないしな。何かあったなら一緒に背負ってやる。それが夫婦ってもんだろ?」

 

「うん・・・」

 

「もうしばらくこのまんまがいいか?」

 

「うん・・・」

 

いつになく元気が無くなっていたため、しばらくユウキと一緒に居ることにした。

ユウキもヒビキの言われたとおり抱き着いた間々少ししていると眠たくなり寝てしまった。

 

「ユウキ?・・・って寝てんのか・・・まぁあんだけ泣きゃ疲れるか」

 

「んむ・・・」

 

「今日は何も無いから近くにいるからな」

 

とユウキに言って少し頭を撫でた後、ご飯を作りに行った。

今日のユウキの状態を見てご飯もある程度考えて作っていた。

少しするとご飯が出来たため、ユウキが寝ている寝室にご飯を持って入った。

するとユウキが起きていた。

 

「ん、おはよう・・・もう大丈夫?」

 

「うん・・・大丈夫だよ」

 

「あんま無理すんなよ?別に我慢しなくて良いんだから」

 

「良いの・・・?」

 

「当たり前だろうが、お前はもう独りじゃないんだからな、我慢なんてしなくて良いからな」

 

そういうとヒビキはユウキの頭を撫でた。

その言葉によって色々我慢していた物が無くなったのかまた泣き出した。

 

「うん・・・!ありがとう・・・!」

 

「ったく、お前は何回泣きゃ済むんだか・・・」

 

と困り果てるヒビキはどこか嬉しそうにユウキを抱きしめた。

 

「ねぇ・・・ヒビキ」

 

「ん?」

 

「ボクね、家族が居ないんだ」

 

「なっ・・・」

 

ユウキがいきなりとんでもないことを話しに切り出した。

それもユウキには家族が居ないという物を。

 

「お父さんとお母さんは交通事故で死んじゃった」

 

「まさかその事故って・・・」

 

「うん・・・ヒビキのお父さんが巻き込まれた奴と一緒だと思うよ」

 

「そうか・・・」

 

ヒビキ自身は自分の父親を何とも思わなかったが、それに巻き込まれてしまったユウキの両親を惜しんだ。

 

「それとボクには双子の姉ちゃんが居たんだ」

 

「へぇ・・・ユウキのお姉さんか」

 

「うん・・・でもお母さん達が交通事故に合って親戚の人がボク達を引き取ったんだけど・・・ボクと姉ちゃんは別々の家に引き取られたんだ」

 

ユウキの話を聞いていると少し疑問に思った所があったためユウキに聞いた。

 

「なるほどな・・・さっきの家族が居ないってどういうことだ?親戚の人居るんだろ?」

 

「ヒビキと同じだよ、ボクは引き取ってくれた親戚の人には感謝してるけど信頼はしてない。他人から見たら家族に見えるように振る舞ってるけど本当の家族っていう意味で言えば居ないよ」

 

「そういうことか・・・ごめんな、変なこと聞いて」

 

「ううん、ヒビキには知ってて欲しかったから・・・」

 

「・・・俺が家族になってやっても良いけどな」

 

「何か言った?」

 

「ううん、何でも。それよりご飯作ってあるから食べよう?」

 

「うん!」

 

ユウキの家庭環境とかが自分とかなり似る物があった。

過程は違えど両親は居ないし、引取先の家庭を信頼していない。

だからこそ惹かれる所があったのかもしれない。

気づかない部分に。

 

ご飯を食べ終わった二人はその後ヒビキがあるものをユウキに渡した。

それは小さな箱だった。

 

「ヒビキ?これって?」

 

「ん・・・あぁ・・・うん、カグラに頼んでた物がようやく出来上がってな」

 

「そうなんだね・・・開けて見ても良い?」

 

「ん、良いぞ」

 

ユウキが箱を開けるとそこには指輪が挟まれていた。

 

「その・・・結婚指輪だよ、本当はあの時渡したかったけどまだ出来てなかったからな。ユウキのイメージカラーが紫だから使った宝石はアメジストに・・・」

 

「わぁぁ・・・!ありがとう!ヒビキ!」

 

「別に・・・渡すのが遅くなっちゃったし」

 

「ううん、そんな事は良いよ。こうしてちゃんと結婚してるって実感出来るなら」

 

「ったく、ほら付けてやるよ」

 

結婚指輪をユウキの左手の薬指に嵌めた。

ちゃっかりヒビキ自身も指輪を嵌めようとするとユウキがしたがっていたので渡して嵌めてもらっていた。

 

「もう隠せねぇけど・・・まぁ良いか、ユウキが一緒なら」

 

「だね、ヒビキと一緒なら何でも出来そう!」

 

「調子良いこと言うんじゃねーっての・・・ったく」

 

「えへへ~」

 

元気になったユウキが笑うと自分も元気になる、そんな感覚がした。

 

 

 

ユウキが「久々に戦いに行こうよー!」と提案し、ヒビキも断る用事がなかったため、前線になっている第74層に向かうことにした。

ユウキが用事がすこし出来たから先に行っててと言われ先に向かうことにした。

すると74層の転移門近くにはヒビキの親友キリトが居た。

 

「ん、キリトー!」

 

「ヒビキじゃないか、もう大丈夫なのか?」

 

「大丈夫じゃなかったらユウキに心配されまくるからな・・・」

 

「あはは・・・しかし久しぶりだな、最近見なかったからだろうけど」

 

「そうだな、キリトは誰か待ってる感じか?」

 

「ああ、アスナを待ってるんだよ・・・そういうヒビキは?」

 

「あー、ユウキ待ち。何か用事出来たとかで先行けと言われた」

 

「なるほどな」

 

二人して人を待っていると転移門が光った。

すると声がした。

 

「キリトくーん!避けてー!」

 

と言われるが反応出来ずキリトは誰かに押し倒される。

ヒビキは直感で危険だと警告されたような気がして事前に動いている。

 

「ん・・・なんだ?これ」

 

「ひゃあ!?キ、キリト君のエッチ!」

 

「うぐわぁ!?」

 

そういうアスナは胸元を押さえてキリトを睨んでいる。

恐らく胸でも揉んだのだろうとヒビキは思っているとまた転移門が光った。

 

「ヒ、ヒビキ!?よけて!よけてぇー!」

 

その光る正体はユウキだと分かり、避けるどころか飛んできたユウキを受け止めた。

 

「よっ・・・っと」

 

「避けて良かったのに・・・」

 

「バーカ、誰が避けるかよ」

 

ユウキの頭を撫でそういうとまた転移門が光った。

その瞬間、ユウキがヒビキの、アスナがキリトの後ろに隠れた。

 

「ん、どした」

 

「アスナ様!勝手な行動は困ります!」

 

「あの人!ボクをまた勧誘してきたんだよ!」

 

ユウキが言った相手は服装で一目瞭然であった。

SAO内の最強ギルド《血盟騎士団》の人員と分かった。

またユウキに話し掛けられるのも嫌だったヒビキは少し距離を取った。

 

「きょ、今日は何も無い日でしょ!?何で朝から私の家の前に居るのよ!」

 

「私の任務はアスナ様の護衛です!当然その任務にはご自宅も含まれますとも!」

 

そうおおらかに言うプレイヤーにアスナは「ふ、含まれないわよ、馬鹿」と言い返す。

するとキリトを無視してアスナの手を掴み連れていこうとする。

 

「アスナ様!ギルド本部に戻りましょう!」

 

「待てよ、あんたんとこの副団長様は今日一日貸出なんだ、しっかり俺が護衛するからあんた一人で帰ってくれ」

 

「この餓鬼!言わせておけば・・・!」

 

プレイヤーはメニューを操作するとキリトにデュエルを申し込んだ。

 

「貴様にアスナ様の護衛が務まるものか!」

 

キリトはそのデュエルを受ける。

すると周りのプレイヤーがデュエルに釣られたのかどんどn集まって行った。

モードは《初撃決着》、両者武器を出す。

 

3、2、1・・・とデュエルが開始した瞬間両者ともソードスキルを発動させた。

プレイヤーが使ったのは両手剣スキル《アバランシュ》、上位スキルで中々のスキルだがそれはモンスター相手なら。

それに対してキリトは片手剣スキル《ソニックリープ》。

プレイヤーはキリトに当たると確信しているとキリトの剣がプレイヤーの武器に当たった。

それによってプレイヤーの武器の刀身が折れて吹き飛んだ。

キリトがやったのは《武器破壊》と呼ばれる物だ。

武器と武器が相槌しあう時、起こす偶然的な物だがキリトがやったものは故意的だった。

武器の宝飾がある物はその部分が脆い。

その部位に攻撃を当てられると武器の耐久値が大きく減ることがある。

キリトのはそれを狙ったのだろう。

 

「まだやるなら相手するけど・・・もういいんじゃないかな」

 

「言わせておけば・・・!」

 

予備の武器を取り出しキリトに攻撃しようとするがアスナによってそれを止められる。

 

「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。今日を持って護衛任務から解雇。本部から別命が来るまで自宅待機とします」

 

クラディールはキリトを忌ま忌ましく見つめる。

するとヒビキの後ろに隠れているユウキを見つけ、近寄った。

 

「ひっ」

 

ユウキが怯えたように小さな声を漏らした。

 

「これはこれはユウキ殿。どうですかな、ギルドの参入は?」

 

「ボクは入らないって何回も言ったよね!?」

 

「一度入れば気が変わるかとおもいますよ、さあ体験入部として」

 

とユウキの手を掴もうとするとクラディールの首元にヒビキの剣が押し当てられた。

そのヒビキの目は汚物を見るような目でクラディールを睨む。

 

「何様で手ェ出してんだ」

 

「また貴様か・・・!いつもいつも私の勧誘を妨害しよって!」

 

「黙れ、入らないって言ってんだろうがぁ・・・?それで止めろよ」

 

「この糞餓鬼がぁ・・・!」

 

クラディールはさっきアスナに罰を与えられたのにも関わらず、ヒビキに食ってかかった。

ヒビキにデュエルを申し込み、ヒビキはそれを承諾した。

 

「ユウキ、キリトんとこ行っててくれ。被害及ばれたら困る」

 

「う、うん・・・絶対勝ってよ・・・?」

 

それに頷くとユウキはキリト達のところに走って行った。

するとクラディールは厭らしい目でユウキを見つめる。

それに気づいヒビキは武器を握る手に力が入った。

 

デュエルが開始されるとクラディールはすぐさまヒビキに突っ込んで武器を振りかぶった。

ヒビキはそれをただ右手を構えて待つのみだった。

 

「ヒビキ!?何してるの!」

 

ユウキが言って来るが無視し、クラディールの攻撃に構えた。

確実に当たると確信し、そのまま振りかざそうとするクラディール。

しかしそれは外れた、何故なら。

 

クラディールの武器を構えていた右手で掴み止めていたから。

 

「なっ!?」

 

「あ・・・?こんな程度か。よわっちぃ筋力なこった」

 

ヒビキはそう呟くと剣を振ってクラディールの腹を蹴って距離を取った。

すぐに体勢を直したクラディールはヒビキの攻撃を避けようとするが。

ヒビキはアイテムストレージから短剣を取り出し、クラディールに振りかぶった。

それを弾こうとクラディールは短剣を簡単に弾けた短剣に驚いたクラディール。

それでヒビキは勝利を確信し、飛ばされた短剣に目もくれずクラディールの背中に周り愛剣を首元にあてた。

 

「対して強くもねぇのに威張んな、そういうのうぜぇ」

 

事実上のクラディールの完全敗北だった。

リザインと呟くとクラディールはとぼとぼと転移門に向かい、姿を消した。

 

 

「ヒビキー!」

 

「うおっ、しっかりと勝ったぞ」

 

「うん!ちゃんと見てたよ!」

 

戦っている姿をしっかり見ていたユウキに照れ臭そうにするもヒビキは少し嬉しかった。

すぐにキリト達もやってくる。

 

「おつかれ。大丈夫だったか?」

 

「全然。てか弱すぎだわ、キリトのがまだ張り合いある」

 

「ごめんなさい、私のギルドが・・・」

 

「いや良い、どうせ来るだろうなって思ったし」

 

「そうなのか・・・なぁ、ヒビキも迷宮攻略来ないか?人数多い方が楽しいだろ?」

 

「ユウキは行くか?」

 

「ヒビキが行くならボクも行くよ!」

 

ユウキが行くと言い、ヒビキもそれに同意したため、キリトとアスナは二人をパーティーに入れた後、74層迷宮に向かった。

 

 



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《幻想剣》と《二刀流》

74層迷宮区。

そこのモンスターはほとんど狩り尽くされていた。

何故ならば。

 

湧いた瞬間すぐさま倒していく4人。

キリト、アスナ、ヒビキ、ユウキだった。

 

キリトとヒビキが前衛をし、交代でアスナとユウキが変わる。

ヒビキとユウキを誘ったため単純に効率2倍になっていた。

 

「ったく74層のモンスターにしては弱いな」

 

「ヒビキが強すぎるだけだよ・・・」

 

ユウキも呆れて言うしかなかった。

キリトとアスナもヒビキの戦闘をあまり見ないため、レベル的に大丈夫か聞いていた。

キリトは94、アスナは87、ユウキは85だった。

しかしヒビキのレベルは101。

いつの間にかレベル上げをしていたのかと気になるぐらいだ。

 

「ねぇヒビキ君」

 

「んあ?」

 

「どうやって上げたの?そんなに高く」

 

「単純にスキル熟練度上げでしてたらいつの間にかレベル上がってた。故意的に上げようとは思ってなかったし」

 

「そ、そうなのね・・・」

 

「てか・・・さすがに疲れた、休憩入れね?」

 

「だな、数時間はやってるし」

 

「ボクもさんせー!」

 

「じゃあご飯にしましょうか」

 

と戦闘を一旦止めて安全エリアにて休憩を取ることにした4人。

アスナがバゲットを出すと中には大量のサンドイッチがあった。

それに合わせてユウキもサンドイッチを出していた。

 

「ん、二人して料理スキル取ってたのか」

 

「ええ、簡略化されすぎてつまらないけどね」

 

「てかユウキはいつ練習したんだよ・・・」

 

「えっとぉ・・・あはは~・・・」

 

「まぁ良いや、そこまで気にしないし」

 

と言うとユウキからサンドイッチを受けとったヒビキは食べた。

キリトも同様にアスナから貰う。

 

「うん、アスナの料理は美味しいな!」

 

「美味しいぞ、ユウキ」

 

やはり料理人としても作ってくれた物を美味しく食べてくれると嬉しいのか二人して喜んでいた。

 

少しして4人はご飯を食べ終えるとキリトが何かに気づいた。

 

「誰か来る」

 

「人数は」

 

「結構いる」

 

キリトの《索敵》スキルによって誰かがこちらに来るのを伝えられ、4人は警戒する。

すると奥から人影があった。

 

「おっ、キリトにヒビキじゃないか!」

 

「なんだ、クラインか」「おめぇかよ、警戒して損したわ」

 

「なんだそのひっでぇはん・・・のう・・・?」

 

クラインがキリトとヒビキともう二人に目をやる。

すると驚愕した顔をし、キリトの肩を掴む。

 

「お、おい!キリトどういうこった!?」

 

「血盟騎士団副団長のアスナです、よろしくね?」

 

「ユウキだよー、よろしく!」

 

「こ、こ、これはどうも!俺はク、クラインとも、申します!り、リアルじゃ独身・・・ぐはぁ!?」

 

「人の嫁に何聞かせてんだ・・・」

 

とヒビキに腹に蹴りを入れられたクライン。

キリトもこの時だけは同情しなかった。

 

「ヒ、ヒビキ!その薬指・・・まさか!」

 

「ん?あぁ、ユウキと結婚してる」

 

「何だよー!教えてくれてもいいじゃねぇかー!」

 

「はいはい・・・ん、ちょと席外す」

 

そういうとヒビキは席を外した。

 

「ああ・・・悪い、アスナにユウキ。悪い奴じゃないんだが・・・」

 

「あはは・・・」

 

「良いよー、気にしてないから」

 

すると奥からまた人がきた。

服装から《軍》だと分かる。

 

「よし、休憩!」

 

と号令をかけると一気に座り、中から一人キリトに向かって歩いてきた。

 

「わたしはアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ」

 

「キリト、ソロだ」

 

「君達はこの先の探索は終わっているのか?」

 

「ああ、ボス部屋前まではマッピングしてある」

 

「ふむ・・・ならばそのマッピングデータを提供していただきたい」

 

「はぁ!?お前マッピングの苦労しらねぇのかよ!」

 

クラインの言うことはもっともだ。

迷宮攻略でマッピングデータはとても重要となる。

隠し部屋からボス部屋まで・・・その迷宮の地図とも言える。

 

「いいよ、クライン・・・分かった」

 

「おいおい、キリトそれは人が良すぎるぜ」

 

「マップデータで商売はしないよ・・・それに街に戻ったら公開しようと思ってた」

 

キリトはコーバッツと取引でマッピングデータを渡した。

 

「協力感謝する・・・立て!」

 

コーバッツは部下に号令をかけ立たせると先に進んだ。

それを見ていることしか出来なかった。

 

するとヒビキが戻って来る。

 

「ヒビキー、何してたの?」

 

「カグラがユウキに迷宮攻略終わったら来てくれだとさ」

 

「分かったー!」

 

すると聞いていたのかクラインが食いついてきた。

 

「ヒビキ!カグラってあのカグラか!?」

 

「お、おう?誰を指してるかしらんが・・・」

 

「22層に店構えてるあのカグラじゃねぇか!」

 

「ん・・・あぁ、あいつか・・・でそれがどうした?」

 

「あそこってお得意様だけだろ?俺らにも紹介してほしいんだ」

 

「聞いてみる」

 

ヒビキはカグラにメッセージを送った。

『なんかお前に武器作ってほしいらしいんだが・・・』

 

『絶対嫌』

と慈悲などかけず返ってきた。

 

「クライン、諦めろ。3文字で返ってきた」

 

「マジか・・・ちなみになんて?」

 

「絶対嫌・・・だとさ」

 

「マジかよぉぉぉ・・・」

 

確かにカグラの作る武器はマーケットにかけると数十万コルするぐらいの大業物だが、入手経路がとても厳しい。

まず素材は自己負担、経費は10万コルとあるのだが、一番厳しい物が、お得意様限定というカグラに気に入られたプレイヤーのしか作らない。

 

「ま、諦めな・・・と、ボス部屋行ってみるか」

 

とヒビキが行こうとすると止められた。

それも3人に。

 

「一人でか?」

 

「・・・一応どんなのか見るだけだからな?戦いは・・・多分しない」

 

「でも確かに見るだけ見ておいたのが良いかも?」

 

ユウキはヒビキの考えに賛同し、キリトとアスナも同様だった。

クラインのギルドも一緒に行くらしく、ボス部屋に向かった。

 

その途中で悲鳴がした。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ヒビキ!今の!」

 

「・・・走っていくからついて来いよ」

 

と言い残すとヒビキは走って行った。

ユウキもついて行き、それに合わせて全員ヒビキを追い掛けた。

 

 

ボス部屋の扉を開けると先ほどの軍が居た。

しかしさっきより人数が減っている。

 

「何してんだ!転移しろ!」

 

とヒビキが言うも兵士は首を横に振る。

 

「クリスタル無効空間・・・!?今までそんなの・・・」

 

「無かったよ、ここがボス部屋で最初だ」

 

ユウキとキリトが言うとボスは体勢を崩したプレイヤーに攻撃しようとした。

そして攻撃により扉に吹き飛ばされたプレイヤーがいた。

コーバッツだった。

そして頭の兜は割れ、顔があらわになるとコーバッツは涙を流した。

 

「あ、ありえ・・・ない・・・」

 

そう言った後コーバッツはポリゴン状となった。

それを見たアスナは細剣を抜き、中に走って行った。

 

「ダメ・・・ダメェェェェ!!」

 

「アスナ!・・・ヒビキ!」

 

「ったく、ここで倒すぞ!」

 

「おうよ!」

 

ヒビキの号令で全員中に入り、アスナを追った。

負傷した兵士を逃がし終えるとヒビキとキリトがボスを相手していた。

 

「出来るだけ攻撃は受け流さず避けろ!だいぶ持ってかれる!」

 

「わかった!」

 

「ユウキ!スイッチ!」

 

「うん!」

 

ヒビキが注意を流すと回復のためユウキと交代した。

だが、やはりボスの火力が高すぎる。

そしてキリトに耳打ちした。

 

「キリト、あれ使え」

 

「・・・でも」

 

「使い渋ったら・・・俺ら全員死ぬぞ」

 

「・・・分かった」

 

キリトは何か覚悟をすると、ボスを相手している三人に言った。

 

「クライン!ユウキ!アスナ!20秒稼いでくれ!」

 

「おうよ!」

 

「分かった!」

 

「了解!」

 

するとその時間にキリトはアイテムストレージを開きあるものを探し、見つけると装備欄の左手に装備した。

 

「良いぞ!・・・行くぞ、ヒビキ」

 

「あいよ」

 

キリトと交代した三人は目を見張った。

片手剣が2本、キリトの手には握られていた。

そしてヒビキも《幻想剣》スキルを発動させ、ボスの攻撃を受け止めた。

 

「キリト!やれ!」

 

「あぁ!」

 

完全に準備出来たキリトと交代したヒビキは念のためソードスキルを発動させ構えていた。

 

キリトは二つの片手剣でボスの攻撃をせき止めると、顎を殴った。

 

「スター・・・バースト・・・ストリーム・・・!」

 

キリトが技名を呟くとボスの身体にどんどん攻撃していった。

横、縦、クロス・・・とどんどんソードスキルを当てていく。

そして最後の一撃を与える。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

だが、ボスは僅かにHPを残し、すぐにキリトを攻撃しようとする。

 

「キリト君!」

 

「少し残してんじゃねーか・・・」

 

アスナが助けに入る前に前を通った者、ヒビキがソードスキルを発動させてボスとキリトの間に入ると、ボスの攻撃を剣で受け流すとボスの腹を上に向かって蹴り飛ばした。

 

「・・・グラドスキュワード」

 

グラドスキュワード。

《幻想剣》スキルで習得出来るソードスキルで、発動条件に相手が宙に浮いていることが条件となる。

スキュワードと書いてあるとおり刺々しくなった幻影剣を相手に串刺しのように攻撃していく。

それをボスに向かって、ヒビキは剣を振りかざす。

 

ヒビキがふりおわるとボスはポリゴン状となり、消えた。

そして《Congratulations》と表示され、第74層を突破した。

 

だが二人の体力は大分削れていた。

特にキリトはほぼHPが残っておらず死にかけである。

ヒビキはハイポーションをキリトの口の中に流し込む。

 

「ありがとう、ヒビキ」

 

「なーに、一応準備はしてたしな」

 

「キリト君!」

 

「あぁ・・・アスナか・・・」

 

「ヒビキー!」

 

しばらくし、アスナとユウキ達が近寄る。

無事だと分かるとほっとしていたが、二人の目には涙が溜まっていた。

 

「キリト君の馬鹿!死んじゃうと思ったじゃない!」

 

「ごめん・・・心配かけた」

 

「ヒビキもだよ!あと一発当たってたら死んでたかもしれないんだよ!?」

 

「あぁ・・・うん、すまん」

 

二人して怒られているとクラインがやってくる。

キリトはクラインに聞いた。

 

「クライン、何人だった」

 

「コーバッツの奴とあと6人死んだ」

 

「そうか・・・死者が出たのは67層以来だな」

 

「こんなのが攻略って言えるかよ・・・それよりもおめぇら!何ださっきの!」

 

「・・・言わなきゃダメか?」

 

「だろうな、ここまで公に出したんだ、隠す必要もねぇだろ」

 

クラインが先ほどボスのとどめにもなった攻撃に二人を問いただした。

 

「・・・《二刀流》スキルだよ」

 

「《幻想剣》スキル》」

 

「出現条件は?」

 

「分かってたら公開してる」

 

「情報屋にも載ってねぇ・・・それってお前達専用じゃねぇか!?」

 

「だろうな、公に出すとめんどいから出してなかったが」

 

「確かにネットゲーマーは嫉妬深いからなー、俺は人間が出来てるが、そりゃ嫉みとかあるだろ・・・ま、それも人生だと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

「はは、何だそりゃ」

 

クラインの言葉にじじくさいと思いつつ、クラインにアクティベートを任せ、各々解散した。

 

 

 

そしてヒビキは家で正座している。

そして目の前には怒ったユウキ。

 

「何か言うことは?」

 

「心配かけてごめん」

 

「ホントだよ!またあの時みたいに突っ走って!今回も生きてたから良かったけどもしかしたら死んでたかもしれないんだよ!?」

 

「・・・返す言葉もございません」

 

「まったく・・・それで、あのスキルはなんなの?」

 

「出たのはこの武器・・・ファンタジアを装備して1ヶ月ほどした辺りだな。名前は聞いたとおり《幻想剣》。ユニークスキル」

 

「だからって隠してたんだ」

 

「ユウキに教えて、ばれたときユウキにも疑いがかかるかもしれないからな・・・だからずっと黙ってた」

 

「むぅ~・・・ボクのためなのは分かるけど・・・それでも危なかったのは変わらないんだからね!」

 

「ホントにごめんな」

 

と怒ったユウキを座らせ、隣に座ると頭を撫でた。

怒ってても撫でられるのは好きなのかすぐに機嫌が良くなり、されるがままだった。

それを見たヒビキは少し撫でるのを荒くしてみた。

 

「ふにゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

「なんつー声出してんの」

 

「ヒビキが撫でるの荒くするからだよ!」

 

「はいはい、すんませんねー」

 

「ちゃんと謝れぇ~!」

 

「なら追いついてみるがいい!もっとも一度も捕まったことないがな!」

 

ヒビキがあえてユウキを挑発し、舞台は家から外で追い掛けっこが始まった。

ヒビキが大人気なく本気で走っていくがユウキが追いつける程度に距離を作る。

ユウキもおちょくられて怒るが、ヒビキなりに自分を元気づけようとしていると分かっている。

 

「もー!待てー!ヒビキー!」

 

ユウキはこれからもこの人にずっと付いていこう。

改めてそう思わされた。

 

 



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贈り物とレッドギルド

74層の苦戦から翌日、カグラに呼び出されていた居たためヒビキ達はカグラの店に向かった。

 

「でも何のようなんだろ?」

 

「知らん、だが何かしらあるんじゃね?」

 

とヒビキとユウキが話しているとそれをつけている者達が居た。

 

野武士ヅラのクラインとキリトだった。

 

キリトは面識があるがクラインは無いため泣く泣く引きずり出されたらしい。

ユウキは気づいていないがヒビキは当然の如く気づいており、どうしたものかと悩んでいた。

 

「・・・はぁ」

 

「どうしたの?」

 

「いや・・・何でもない」

 

「ホント?絶対何か考えてる」

 

「そう思うなら振り向かずに後ろの気配感じてみろ・・・」

 

と言われユウキは《索敵》スキルで後ろを索敵するとようやく気づいたらしい

 

「良いの?連れて来ても」

 

「絶対怒るぞ・・・」

 

「だよね・・・」

 

ストーカーのようにつけて来る二人に呆れつつカグラの店に向かった。

 

 

少ししてカグラの店に着いた二人はあえて後ろの馬鹿を無視し中に入った。

 

「カグラー、来たぞー」

 

「ボクも来たよー!」

 

「ん、いらっしゃい二人とも」

 

「それで用件はなんだ?」

 

「それより、不審者連れて来るの止めて」

 

「・・・ヒビキ、やっぱばれてるよ」

 

店前でうろうろしているクライン(不審者)とキリトに気づいているカグラはどうしたものかと考えていた。

 

「はぁ・・・良いよ、入れても」

 

「ごめんね、カグラちゃん」

 

「ユウキは悪くない、ヒビキが馬鹿」

 

「・・・ひでぇ」

 

カグラに軽く罵られた後店の扉を開けて二人を見つけた。

 

「そこの赤いバンダナを付けた不審者と黒ずくめは早く入れ」

 

「・・・クライン、やっぱばれてたぞ」

 

「嘘だろ!?《隠蔽》スキル一応取ってんのに」

 

「ごちゃごちゃと言わずにさっさと入らんかごらぁ!?」

 

「「はい!」」

 

さすがにイライラとしてきたのかヒビキが怒鳴ると二人は縮こまって中に入った。

二人が中に入ると黒いオーラを出したカグラが静かに椅子に座って寛いでいた。

 

「な、なぁヒビキよ、あれが・・・そうなのか?」

 

「・・・いらっしゃい」

 

「だから言ったろ・・・3文字で拒否られてんだから」

 

「そこのバンダナさん、用件はなに」

 

「え、えーっと!か、刀を作ってほしいんだ!」

 

カグラに諭されクラインが用件を言うもその声は震えていた。

それを聞いたユウキは笑いを抑えていたが。

 

「それだけじゃ、何も作れない」

 

「あー、カグラ。AGI型で作ってやれ。こいつ速さ優先だから」

 

「素材は?」

 

「こ、これで頼む!」

 

そういいアイテムストレージから出すのは黒紫のクリスタル。

《ブラックアメジストインゴット》と呼ばれる70層のレア素材だった。

それと代金の10万コルをカグラに渡した。

 

「作って来る、少し待って」

 

そういいカグラは裏部屋に移動した。

クラインも緊張が解れたのかぐったりしている。

 

「おいおい・・・あんなのとか聞いてないぜ・・・」

 

「ただたんにお前がアポなしで行くからだろ」

 

キリトの鋭い一撃がクラインに刺さる。

キリトは言ったのだ。

だがその制止を聞かずに来たクラインが悪い。

すると、カグラが戻ってきた。

 

「出来た。名前は『斬馬刀』、AGI特化型」

 

カグラが取り出したのは見事な日本刀だった。

 

「おお!これはすげぇ!ありがとよ!」

 

「別に・・・次から来るなら私に聞いてからにして、それ以外で来たら追い出すから」

 

「わ、わかった!んじゃ俺は一度ギルドに戻るぜ」

 

「ああ、じゃあなクライン」

 

「じゃあねー、クラインさん」

 

良い武器が手に入り店を出て行ったクラインに手を振ると、カグラが話を切り出した。

 

「ユウキ、ヒビキ。渡すものある」

 

「んあ?」

 

「なんだろ?」

 

カグラが二人に渡したのは装備。

ヒビキには『スカイナイトコート』と呼ばれる物だった。

ユウキには『ナイトリーコート』。

 

「ヒビキのは《幻想剣》スキルの事考えて、ある程度作った。ユウキは速度重視だからAGIが上がるのを作った」

 

二人ともつけている装備から貰った装備に切り替えた。

ヒビキはコートを基点に蒼と黒で色塗られている。

ユウキは紫色が基本で所々に赤色が入っていた。

 

「へぇ・・・良いじゃん」

 

「わぁ・・・!良いの?貰っちゃって」

 

「良い、二人のために作ったから」

 

「ありがとな、カグラ」

 

「カグラちゃんありがとう!」

 

予想以上に気に入ってくれた二人に嬉しかったからか少し笑った。

 

「じゃ、用件言うね」

 

「ん、これじゃなかったのか」

 

「ん、じゃないとキリト来る意味ない」

 

「意味なくここに来ないよ・・・」

 

そしてカグラはあるメッセージをヒビキ達に見せた。

そこには『67層、《笑う棺桶》、本拠地』と書かれていた。

 

「カグラ・・・これは誰から送られてきた」

 

「ん、《メテオクレスト》」

 

「ねぇ、笑う棺桶って・・・あの?」

 

「ああ、レッドギルド、殺人プレイヤーのな」

 

「・・・近々笑う棺桶の討伐作戦がある、ヒビキも行くのか?」

 

「決めてねぇよ」

 

「そうか・・・」

 

「カグラ、《メテオクレスト》の運営任せていいか?」

 

「元より任せきりなくせに、別にいいよ任せて」

 

「悪い・・・じゃ一旦家に戻る。考えたい」

 

「ん、分かった」

 

ヒビキに用件を言い終わり、ヒビキは一度22層のホームへと帰った。

ユウキはヒビキに付いて出た。

キリトも作戦会議に参加すると良い出た。

 

 

 

そして自宅に帰ったヒビキとユウキ。

ヒビキがココアを作り、ユウキに渡す。

 

「ありがとう、ヒビキ」

 

「いや・・・それで、ユウキは行くのか?」

 

「行くんでしょ・・・?ならボクも行くよ」

 

「ユウキはここで居てくれ」

 

「なんで?!もしかしたら死ぬかもしれないんだよ!相手はボスなんかじゃない、れっきとしたプレイヤーなんだから!」

 

「・・・分かってる、だけどユウキには参加してほしくない」

 

「ヒビキと比べてボクは弱いかもだけどそれでもボクはヒビキと一緒に行く!ヒビキが死んじゃったら・・・」

 

「・・・人を勝手に殺すな・・・ったくそんな簡単に死んでたまるかっての・・・そこまで言うなら俺はもう何も言わねぇけど」

 

「良いの・・・?」

 

「お前がそこまで一緒が良いなら来いよ」

 

「やったぁ!」

 

「ただし!討伐当日は俺は自分の相手で精一杯だからな、自分の命は自分で守れ、それは連れていく条件だ」

 

「うん!分かった!」

 

ヒビキを何とか説得しラフコフ掃討作戦に参加することにしたユウキは話を終えるとヒビキに抱き着いた。

 

「とぉ~!」

 

「えっ、ちょっ」

 

いきなり抱き着いて来るユウキに反応出来ず、そのまま倒れ込んだ。

 

「いってて・・・危ないだろうが」

 

「だってぇ・・・」

 

「もう夜なのか・・・」

 

ユウキを注意するとヒビキが時間を確認した。

その意味がわからずユウキは首を傾げる。

 

「さてと・・・おいしょっと」

 

「ふぇっ!?」

 

ユウキの背中と足に手をかけてお姫様だっこをされたユウキは何が何がわからず混乱する。

そしてヒビキは寝室にユウキを運んだ。

 

「さて・・・ユウキ」

 

「んっ」

 

ヒビキが名を呼ぶとユウキは目をつぶった。

それに合わせてヒビキは自分とユウキの唇を合わせた。

 

「はむっ・・・んっ・・・」

 

ユウキはされるがままヒビキにされ、終わる頃には頬が赤くなり、呂律も回らなくなっていた。

 

「ユウキ・・・良いか?」

 

とヒビキが聞くとユウキは静かに頷いた。

その目はどこか嬉しそうにしていた。

 

 

そして長い夜を過ごす二人だったのであった。

 

 




ヒビキの『スカイナイトコート』はSAOのキリトのコートを少し変えたものです。
ユウキのはマザロザの防具だと思ってください。

次はラフコフの作戦会議だと・・・良いな。


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《笑う棺桶》作戦会議

昨日の事後。

疲れ果てて眠った二人は、朝の時間になるとヒビキより早く起きたユウキ。

 

「ん~・・・ふぅ、もう朝かぁ」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「まだヒビキ寝てる・・・ふふ、たまにはボクが作ろうかな?」

 

いつもならヒビキが作り、ユウキがそれを食べるのが日常だったが、まだ寝ているヒビキを起こして作らすのもと思いユウキはご飯を作りに行った。

 

「昨日は・・・シチューだったから、軽めのを作ってみようかな?」

 

ユウキは簡単に作れてお腹が膨れる物を作ることにし、材料を揃えて作った。

 

ご飯を作っていると寝室から寝ぼけたヒビキが出てきた。

 

「んぁ・・・おはよー、ユウキ・・・」

 

「おはよっ、ご飯作ってるから待っててね」

 

「おう・・・」

 

目を擦りながら椅子に座ったヒビキはしばらくすると眠気が覚めてきていた。

 

「やっべぇ・・・昨日ので結構疲れたな・・・」

 

「もう・・・ほら、出来たよ」

 

「おっ、美味そうだな」

 

「えへへ~、頑張って作ってみたよ!」

 

「んじゃ・・・いただきます」

 

「いただきまーす!」

 

ヒビキとユウキが合掌するとヒビキが食べてみる。

スープとパン、サラダと軽めの朝食だがヒビキには作ってもらっただけで十分なほどなので足りないことは無く、味も現実世界に近づけたため美味しく仕上がっていた。

 

「ど、どう?」

 

「うん、美味い!」

 

「良かったぁ~」

 

ヒビキが美味しいと言うとユウキはほっとし、ユウキも食べはじめた。

 

「やっぱ自分で作るより誰かに作ってくれた料理のが美味いな」

 

「だね、ボクはヒビキのご飯好きだけどな~」

 

「ユウキと違って俺は戦闘メインだっつーの、ご飯はユウキが作ってくれた物を食べたいしな」

 

普段ヒビキの料理を食べていたためユウキからするといつも通りのヒビキの料理を食べたいがヒビキも同じなのである。

 

「じゃあ今日はユウキが作ったから明日俺が作る。その次の日にユウキが作ってくれないか?」

 

「うん、わかった!」

 

「よし・・・って、もうすぐ集合時間だな」

 

「だね、行く?」

 

「遅れるわけにもいかねぇし、行くか」

 

「はーい!」

 

集合時間に近づいているのに気付いたヒビキはユウキに伝え、用意をすると作戦会議の場所の第56層にある《聖竜連合》に向かった。

 

 

少し歩くと聖竜連合本部に到着し、門番にラフコフ討伐の作戦会議に参加するという旨を伝えると通してくれたため、そのまま二人は会議場に向かう。

すると道中で親友のキリトとアスナが居た。

 

「アスナ!」

 

「ユウキ!あなたも来ていたのね」

 

「うん!ヒビキを何とか説得して参加することにしたんだ!」

 

「ヒビキ・・・」

 

「何・・・真剣にしてる奴の頼みを無下にしたくないし、自分でやると言ってるから問題ないだろ」

 

「はぁ・・・そういうとこは俺と一緒だよなぁ」

 

「うっせ、尻に敷かれてる癖に何を言う」

 

「うぐっ・・・」

 

アスナとユウキが話しているとキリトも言ってくるがキリトも真剣にしている相手を無下にはしないため結局はヒビキと似ている。

違うといえばキリトは尻に敷かれている。

 

「さて、始まるぞ」

 

「ああ、ユウキとアスナは少し静かにしような」

 

「ご、ごめんなさい、ヒビキ君」

 

「ごめん・・・」

 

ヒビキがすこし注意すると聞いてくれたのかすぐに静かになり、ラフコフ討伐作戦会議が始まった。

 

 

「今日集まって貰ったのは他でもない、あのレッドギルドで悪名高い《笑う棺桶》の討伐作戦だ!今回の内容は如何に犠牲をださず相手を殲滅出来るかだ!」

 

聖竜連合所属のタンク隊のリーダー『シュミット』が言った。

それに反するようにヒビキが言う。

 

「シュミット、そういうが相手の居場所は割れてんのか?殲滅作戦は大事だが、相手の場所が分からなければ作戦の組み用がない」

 

「ヒビキ、それに関しては大丈夫だ。奴らの本拠地は割れている。67層迷宮区に奴らの本拠地があると分かった」

 

「シュミットさん、その情報は信用に値しますか?」

 

アスナは疑うようにシュミットに聞く。

確かに情報があってもその元が信用に値するかによっては変わる。

だがシュミットは言う。

 

「ああ、これは《鼠》からの情報だ」

 

「なるほど・・・あの人の情報なら信用出来るわね」

 

「そうだな、一応《メテオクレスト》もそう言ったからな」

 

ヒビキがそのギルド名を呟くと全員ヒビキに注目した。

その行動に理解できずヒビキは後ずさる。

 

「ねぇ、ヒビキ君。さっき何て言ったの?」

 

「え?だから《メテオクレスト》からもそう聞いてるって」

 

「まさか、あのギルド!?」

 

「そ、そうなんじゃねぇの?・・・よく分からんが」

 

「ヒビキよ!そのギルドに今回の作戦に参加してもらえないだろうか!?」

 

「えっ」

 

いきなりアスナとシュミットがヒビキに聞いて来るためヒビキは焦る。

 

「な、なぁ・・・《メテオクレスト》ってそこまで有名なのか?」

 

「有名なんてものじゃないわよ!メンバー数は不明だけど実力は攻略組の塊とも言われているのよ!」

 

「・・・はじめて知った・・・カグラ、お前は知ってたのか?」

 

初耳と聞いて二人は驚いた顔をし、ヒビキはそれの反応に困る。

だがヒビキだけが気付いたのか隣に居たカグラに聞く。

 

「初耳。ヒビキ基準にすると全員弱いと思う」

 

「「!?」」

 

いきなり現れたように感じる二人は驚く。

 

「カグラ、《隠蔽》使いながら来たのかよ」

 

「ん、門番めんどい」

 

「あ、はい」

 

ヒビキとカグラが話していると、アスナがヒビキに近づく。

 

「ヒビキ君・・・この子ってあのカグラちゃん?」

 

「多分な、何か有名らしいし」

 

アスナが確認すると他のプレイヤーが一気にカグラに群がった。

するとカグラが秒速でユウキの後ろに隠れる。

 

「カ、カグラちゃん?どうしたの?」

 

「うぅ・・・」

 

「・・・カグラ。きついなら店に戻っとけ、参加するならするで教えに行くから」

 

と普段と違うカグラを見たユウキは戸惑い、ヒビキは落ち着かせるため静かにだがカグラに伝わるように言った。

 

「だい、じょぶ・・・頑張る」

 

「・・・はぁ、ユウキ少し頼む」

 

「うん、任せて」

 

カグラをユウキに任せるとヒビキは群がってきたプレイヤーを散らしに行った。

その行動にシュミットとアスナも入ってくれたため、すぐにプレイヤーは散った。

 

 

「さて、少し騒ぎが起きたが会議を続ける。奴らが潜伏している情報は信用に値すると思ってくれただろう。そしてここからだが・・・、基本は捕縛し牢獄に投獄するものとするが、中でも幹部格である『ジョニー・ブラック』『赤眼のザザ』『PoH』は必ず捕縛する!しかし激しく抵抗をする者は・・・やむを得ないが我々の手で終わらせるしかない」

 

シュミットの言葉にその場にいたプレイヤーは全員息を飲んだ。

終わらせるしかない・・・つまりは自分達で殺すのだ。

だがそれぐらいの意気込みが無ければラフコフは倒せない。

 

そして簡単なパーティー編成を終えてその日の作戦会議は終了し解散した。

キリトとアスナも自分のホームへと戻り、ユウキとヒビキはカグラを連れて家へと帰った。

 

 

22層、ヒビキの家。

 

カグラを連れて帰った二人はユウキはヒビキに聞いた。

 

「ねぇ、ヒビキ」

 

「ん?何だ?」

 

「カグラちゃん・・・どうしたの?作戦会議からこんな感じだよ・・・?」

 

ユウキが聞いたのはカグラの事。

作戦会議からずっと半泣きでユウキにしがみついている。

さすがにユウキも変に思いヒビキに聞いた。

 

「・・・カグラはさ、人が苦手なんだよ」

 

「へっ?そ、そうなの?」

 

「ああ・・・だが一人二人・・・数人なら構わないんだがな、さっきみたいに大人数が来るとこんな状態になる」

 

「・・・そうなんだね」

 

「詳しいことは・・・またいつか話せたら話すよ。だけど今はユウキにしか頼めない。それだけユウキはカグラに信用されてるって事だしな」

 

ヒビキに訳を話されてユウキはカグラを見た。

普段の立ち振る舞いからは想像出来ないほど弱々しくユウキに引っ付いている。

 

「うん・・・分かったよ、カグラちゃんはボクに任せてね」

 

「悪いな」

 

「ううん、こうして見てたらカグラちゃんって小さくて・・・ボク達の子供・・・見たいだし」

 

「・・・元に戻った本人には言うなよ」

 

馬鹿なことを言うユウキに呆れつつヒビキはユウキの横に座り、ユウキに引っ付くカグラの頭を優しく撫でた。

 

 

その後カグラはずっとユウキと一緒に引っ付きその日は離れなかったため、そのまま一緒に三人は寝た。

 

その光景は仲の良い夫婦と子供が寝ていた。

 

 



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最悪の結果の結末

カグラちゃんの過去話です。
人によっては嫌な内容かもしれません・・・。


私、雪宮神楽は元々はお兄ちゃんとは血が繋がっていない。

元の名は紺野神楽でなんか色々あって雪宮という名字になった

父の連れ子だった私は父が離婚すると暴力を振るった。

当然幼かった私は何も出来ないまま、されつづけた。

 

ある日、父が再婚すると言い出した。

その人は優しそうな人で見ず知らずの私にも優しくしてくれた。

そしてもう一人私に優しくしてくれたのがお兄ちゃんだった。

お兄ちゃんは私を本当の妹みたいに接してくれた。

 

いざ再婚して引っ越しをした。

自分の部屋をもらえたけど狭い空間で過ごしていた私にはとても広く感じた。

だけど過ごしている内に段々となれてきて今じゃあの広さじゃないと落ち着かない。

 

入学手続きが終わり、学校を転校した。

だけど内気だった私は転校先で虐められた。

元々転校する前の学校でも虐められてたから何とも思わなかった。

ある日、一人の男子が私を呼び出した。

その子は唯一私に優しくしてくれた子で信頼していた。

だけどその日に違う男子・・・私を虐めていた男子達もやってきた。

 

「お前よくこんなのと話してられたよなぁ」

 

「だってどういう感じなのか知りたかったしな、まぁ楽しくはあったけどこれで終いだろ」

 

「えっ?・・・」

 

いきなり意味の分からない話をしだした男子達は私に近付くと刃物を出した。

子供でも何も思われない刃物・・・カッターナイフだった。

男子達は私にカッターを見せつけてきた。

 

「・・・なぁ、いい加減さ、目障りなんだよ。転校生とか俺ら関係ないから。だから・・・死んで?」

 

私はそれから逃げるように階段を昇って行った。

だけど屋上の扉に追い詰められて扉に手をかけた。

すると鍵はかかっておらずそのまま屋上に入れた。

 

男子達は屋上にまで来てもう逃げるところが無かった。

 

「何逃げてんの?死ぬの怖いとかじゃないよね?せっかく殺してもらえるんだから喜べよ」

 

「ひっ」

 

「あっはは!こいつ怖がってやんのー!」

 

口から漏れた悲鳴を聞かれ男子達はそれを笑った。

そしてどんどん近づいてきて、途中で後ろに下がれなくなった。

 

「あっ、そういや屋上かー!なら落ちてみろよ、それなら楽だからさ」

 

「い、いやっ」

 

「・・・何口答えしてんの?早く落ちろよ」

 

男子達は近付く。

すこしずつ。

すこしずつ。

私はもう下がれなくなっている事を良いことに近づいて来る。

そしてカッターを持った男子が私に向けた時、カッターが怖くなって後ろに下がった。

 

 

 

 

 

そこからは何も覚えていない。

死んでるのか死んでいないのか分からなかったけど、目を開けると眩しい光があった。

天井には蛍光灯が光っていた。

 

「・・・び・・・ん?」

 

声を出して分かった。

自分の声が全然聞こえない。

機械音は聞こえた。

じゃあ何故自分の声が聞こえないのだろう?

簡単だった。

声帯が使えなくなっていた。

自分の声が。

もう二度と聞けないと思った。

 

「・・・」

 

いくら口を動かしても自分の声は聞こえない。

それが何故か悲しかった。

日常的に聞いていた自分の声がもう聞けない事が分かると悲しくなった。

 

 

だけど悲しんでいても何も始まらないと思って枕の近くにあるナースコールを押した。

ピーと音がしてしばらくすると看護師さんが来た。

 

「はいはーい!って、お目覚めになられたんですね、どこか痛いとこは無いですか?」

 

看護師さんはどこか痛いとこが無いか聞いてきた。

自分の声が使えないと思われたくなかったのか、首ふりで答えた。

 

「高所から転落したのに痛みが無いんですか・・・また後日に骨の検診してみましょうか」

 

「・・・」

 

私は首をふって答えた。

すると看護師さんはご家族が来ていると言ってくれたので入れてもらった。

 

「神楽ー!」

 

「・・・」

 

「大丈夫か?!どこか痛いとことか!」

 

親バカみたいに聞いてくるお兄ちゃんには心配かけさせたくない。

だから私は首をふって何も無いと合図した。

 

「・・・隠し事は良くない。それぐらい声だせば良いだろ?首を動かすのはまだ痛みが出るはずだ」

 

図星だった。

すこししか一緒に居ないお兄ちゃんには隠せないと思った。

だから私はあえて口を動かして声をだそうとした。

 

「・・・ぁ・・・ぅ・・・ぁ」

 

「・・・もういい、何も喋んなくていい」

 

そう言ったお兄ちゃんの顔は見えなかったけど、少し泣いている声がした。

お兄ちゃんに心配かけさせた。

お兄ちゃんを悲しませた。

それだけで私の何かが壊れるのは充分だった。

 

 

 

骨も元通り・・・とはいかなくても退院しても大丈夫なぐらいに戻った私は先生に退院したいと執筆で伝えた。

すぐに許可が下りて私は退院出来た。

お兄ちゃんもバイクを乗って迎えに来てくれた。

 

「・・・迎えに・・・来たぞ」

 

「・・・」

 

「荷物・・・貸しな」

 

どこかお兄ちゃんは悲しそうな表情で言ってきた。

私はそんな顔を見たくて退院したんじゃなかった。

早く退院して喜ぶお兄ちゃんの顔が見たかった。

 

荷物をお兄ちゃんに渡して私はお兄ちゃんの後ろに乗るとヘルメットを渡されてそれを被った。

 

「吹き飛ばされたら危ないからしっかり捕まっとけよ」

 

お兄ちゃんにそう言われて背中にがっちり引っ付いて吹き飛ばされないようにした。

 

 

少しすると家に着いて、久々に帰った。

だけど家は静かでまるで誰も居ないような感じになっていた。

 

「神楽、後で俺の部屋来てくれ」

 

お兄ちゃんがそう言い、2階に上がった。

私の部屋も2階にあるので一緒に上がって服を着替えた後、言われたとおりお兄ちゃんの部屋に入った。

 

久々に入るお兄ちゃんの部屋は明かりを拒むように遮光カーテンで日光を遮断し、パソコンの電子的な明かりだけがあった。

 

「・・・来たか」

 

「・・・」

 

「良いか、これは・・・事実だ、もう変えようのない事実」

 

「・・・」

 

「あの糞親父が・・・母さんを捨ててどっか行った。母さんも・・・そのショックで体調崩して去年・・・死んだ」

 

「・・・ぇ・・・」

 

ほとんど声の出ない私が漏らすほど衝撃的だった。

仲の良かった母と父が突如私の前から消えた。

私はペタンと床に膝を付いた。

 

「糞親父は交通事故で死んだ。遺産は全て俺と神楽に宛てられるらしい」

 

「・・・」

 

「俺はどうにかして金を稼ぐ。遺産には極力頼らないようにしないと絶対に生きていけない」

 

「・・・」

 

「神楽、俺は絶対にお前を一人にしない。お前みたいな子を放ってなんかおけない」

 

泣いている私を後ろからお兄ちゃんが優しく抱きしめて撫でてくれた。

それだけで今まで頑張って我慢していた物も一緒に出した気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキは早めに起きて家を出て風に当たっていた。

何となくではなくカグラの事を考えていた。

 

「あいつが・・・あんなになる・・・か」

 

昨日のカグラの様子。

あれが異常でしか無い事を知るヒビキはそこまで時間が無いと思っていた。

あのまま続けば・・・いつかカグラの精神が壊れる。

そう思ってならないヒビキはどうにしかして考えていた。

 

「恐らく現実世界じゃあの先生が俺らの担当医になってる・・・カグラの事もあまり気にはかからないと思ってはいたが・・・」

 

現実世界での神楽の担当医であった倉橋という医師だ。

人間不信になっていた神楽に何とか入り込み、治療を唯一行うことが出来ていた。

それゆえに恐らく確実に神楽の担当医は倉橋だとヒビキは踏んでいる。

 

「あの先生なら・・・カグラを任せれるが・・・今のカグラが持つ訳が無い。絶対に壊れてしまう」

 

カグラの事を考えていると時間は7時になった。

討伐作戦は11時決行なので朝ご飯を作ろうと、ヒビキは台所に向かって行った。

 

 

 

ユウキとカグラを起こしてご飯を食べさせた後、カグラをどうするか悩んでいた。

 

「ねぇ・・・ヒビキ」

 

「ん」

 

「カグラちゃん・・・どうするの?」

 

「どうするって・・・置いて行くしか無いしな・・・」

 

「でも・・・一人だと何かあったら・・・それにこんな状態だよ・・・?」

 

カグラの精神状態は未だに弱々しい物だった。

普段であれは一日寝ていれば元に戻ったがまだ怯えているような状態だった。

 

「はぁ・・・カグラ。絶対にここに戻って来るからこの家でお留守番出来るか?」

 

「・・・ゃ」

 

「・・・俺とユウキが行くとこはカグラにはとっても危ない所なんだよ、正直カグラを連れてはいけない。だからここで俺達が帰ってくる家を守っててほしいんだ」

 

ヒビキが上手いこと言葉でカグラを言いくるめてなんとか家に待機させることに成功し、カグラは寝室に戻って行った。

ユウキもさすがにずっと引っ付かれて疲れたのかぐったりしていた。

 

「すごいね・・・あんな言い方出来るなんて」

 

「そうか?適当に思ったことを考えて繋げるだけだろ」

 

「それが凄いんだよ・・・」

 

「ふーん・・・ってもう10時半だ!そろそろ集合時間だぞ!」

 

「へっ、うそ!?急がなきゃ!」

 

時間の事をすっかり忘れていた二人は急いで家を出て67層に向かった。

 

 

 

67層に着く頃には時間は10時50分。

集合場所は迷宮区前なのでこのままだと間に合わないと感じたヒビキ。

 

「ユウキ!このままじゃ間に合わねぇから俺の背中に乗れ!」

 

「へっ!?ボク走るから大丈夫だよ?!」

 

「なら追いつけよ!」

 

と言うとヒビキはアイテムブーストを使って移動速度を大幅に上げて全速力で向かった。

ユウキも何とか走ってヒビキを追い掛ける。

 

「待ってぇぇ!ヒビキぃー!」

 

 

 

 

10時58分に何とか着いた二人は息を切らして座り込んでいた。

その二人に気付いてキリトとアスナもやってきた。

 

「おはよう」

 

「お、おはよう・・・」

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫・・・だよ・・・」

 

これから討伐作戦を行うというのに疲れ果てた二人のおかげで緊迫した緊張感はある程度取れた。

 

 

そして決行時間になり、67層の本拠地に乗り込んだ。

その場所はすぐにそれらしき場所があり、一斉に乗り込む。

しかしラフコフの一人もおらず、全員は警戒をするが。

 

 

突然一人が攻撃される。

そこには10人ほどのフードを被ったプレイヤー。

そして討伐隊を囲むように40人ほど現れた。

その中には幹部の『ジョニーブラック』と『赤眼のザザ』も居た。

 

「あれぇ~?黒の剣士じゃんかぁ~!」

 

「幻剣。それと絶剣がいる」

 

いきなり50人と幹部2人が出てきた事によりプレイヤー達は警戒を強める。

 

 

そして一人のプレイヤーが戦闘を開始した同時に他のプレイヤーも戦闘を開始した。

 

「やっほ~?黒の剣士~?」

 

「ぐっ・・・!」

 

 

「幻剣」

 

「あ?」

 

ジョニーブラックはキリトに。

ザザはヒビキと戦闘をする。

だがキリトはジョニーに押されていた。

今回の討伐作戦は出来るかぎり捕縛が望ましい。

殺す行為はプレイヤーには辛いものだから。

 

 

だからこそジョニーやザザ等のラフコフは心置きなく殺しに行けると思っていた。

だが、一人のプレイヤーによってそれは覆される。

ザザがヒビキと戦っていると。

 

「へっ、こんな程度かぁ!!案外よえぇなぁ!?」

 

「・・・くっ」

 

ザザはヒビキに押されていた。

全プレイヤー中最高レベルであり、いつどこから攻撃が来るか分からない《幻想剣》スキルによりザザは後退するのみだった。

ヒビキだけを相手していればいつのまにかあの半透明の剣が準備され自分から刺さると考えていたザザは自分の周りを警戒しながらヒビキと戦っている。

 

「ほら、ほら、ほら、ほらぁ!たかが片手にレイピアが負けるとはなぁ!?」

 

「ぐっ・・・くそっ」

 

段々とラフコフメンバーは捕縛されていき、人数もかなり減った。

 

そしてザザはある判断をする。

それは、仲間であるジョニーを置いて自分だけ逃げるというものだった。

 

「・・・っ、転移・・・」

 

「あぁ!?」

 

ヒビキが阻止しようと転移結晶を持つ手を斬ろうとするが間に合わずザザを逃がしてしまう。

 

 

その瞬間、キリトが押され切られ、ジョニーはその瞬間適当なプレイヤーを麻痺にして捕まえる。

 

「きゃっ!?」

 

そのプレイヤーはヒビキの妻であるユウキだった。

残ったプレイヤーに集中し過ぎていたユウキはジョニーの一瞬な《隠蔽》に対応出来ず、麻痺状態にされ捕まえられてしまう。

 

「へへ!こっち来たらこの女殺すよ~?!」

 

ジョニーからすればザザに見捨てられ、仲間も減っているこの状況は不利過ぎた。

だからこそ麻痺状態にし人質を取れば容易には攻撃出来ないと踏んでいた。

 

「てめぇ・・・そのきたねぇ手を今から離せよぉ・・・」

 

「離す奴が居ると思ってんの~?有力プレイヤーであの絶剣を殺せるんだよ~?こんな美味しいチャンス逃す訳ないじゃんかぁ~!」

 

ジョニーがユウキを捕縛し、どこからでも盾に出来るようユウキを動かしていたためヒビキも容易に動けなかった。

 

「・・・よし、転移・・・!」

 

その時間でジョニーは転移結晶で逃げた。

 

 

 

ラフコフ討伐作戦は失敗に終わった。

討伐隊からは11名。

ラフコフ捕縛者は41名。

取り逃がした人数は9名、内2名はジョニーとザザ。

 

そしてユウキが連れ去られるという結果となった。

 

 

討伐作戦終了後、ヒビキは家に帰った。

しかしその足取りはどこかふらふらとしていた。

 

「おかえり、なさい」

 

「あぁ・・・ただいま・・・」

 

「・・・?何か・・・あった?」

 

「ユウキが・・・連れられた」

 

「・・・ぇ・・・?」

 

ヒビキは家で待っていたカグラに全てを話した。

そして話し終わった後、カグラを寝かせてヒビキは外に出ていつもの木に向かった。

 

「くそっ・・・くそっ・・・」

 

ヒビキは木に向かって素手で殴る。

何度も何度も。

 

「くっそがぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

その日、ユウキが《笑う棺桶》により連れ去られ、討伐作戦は失敗に終わり、ヒビキは虚しい声を上げた。

 

 

 

 



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連れ去られた者の居場所

前編的な感じです。
内容全然薄いので注意。


ユウキが連れ去られて1週間が経過した。

ヒビキはその間全力で探したが、見つかることはなかった。

フレンドも全員消されているらしく、唯一分かるのはまだ生きているという事だけ。

ヒビキとユウキは婚約しているため共通化ストレージ機能がある。

片方が死ぬと生きているもう片方にアイテムが全て委譲されるためユウキが生きている限り共通化ストレージは消えない。

 

「・・・くそっ、どこにいんだよ、あの糞野郎」

 

ヒビキはその間探しつづけ、キリト達にも協力を仰いでいるが見つからなかった。

 

「お兄ちゃん、焦りは駄目」

 

「分かってるよ、だけどユウキの事考えたらいてもたっても居られねぇ」

 

「・・・!もしかしたら・・・」

 

「宛てがあるのか!?」

 

「《メテオクレスト》が・・・怪しいプレイヤーを見つけた。人数は10人で一人は担がれてるって」

 

「・・・場所は」

 

「キリト達にも送った。場所は47層」

 

カグラが場所を言うとそこにはヒビキは居なかった。

それほどまでユウキの事を考えている証拠だが一人では相手しきれるのか分からないと思い、カグラも向かうことにした。

 

 

カグラに言われ47層に来たヒビキは目視でジョニーを探していた。

 

「どこだよ!・・・ったく」

 

ヒビキとて結局は人間であることには変わりは無い。

見つけるにも焦れば見落としは出来る。

すると後ろから声が来た。

 

「おーい!ヒビキ」

 

「ヒビキ君!」

 

「おう、ヒビキ!」

 

「おめぇらか・・・何しに来た」

 

「何ってそりゃあユウキちゃんを探すんだろうがよぉ!」

 

クラインが言うとさらに後ろからもう一人来た。

それは先程居たカグラだった。

 

「ヒビキ一人じゃ探しきれないと思った。みんなユウキの事考えてくれてる。だからみんなで探そう?」

 

「・・・あぁ、そうだな。焦りすぎた」

 

カグラが落ち着いた感じでヒビキを冷静にさせ、みんなで捜索する事になった。

 

 

 

その頃、ユウキは。

 

「んー、んー!」

 

声が出せないように口を塞がれ、目も隠されていた。

だがその声は震え、目隠しからは涙の跡があった。

そして近くには、飢えに耐え兼ねている狂った竜が捕らえられていた。

 

 

 

 

「見つからねぇ、となるとあそこか・・・?」

 

ヒビキはフローリア全体を探すも見つからずある一つの場所を考えた。

 

「その場所って?」

 

「位置的には47層と46層の間にあるダンジョンがある。挑戦には特殊な鍵がいるみたいで出来なかったんだが・・・もしあいつらがそこを通ったなら鍵は消えてるはずだ」

 

「間にあるダンジョン?そんなの初耳だぞ」

 

「当たり前だ、そこはアルゴですら危ういからな。情報収集の前に弔いをしないとならんくなるぞ」

 

「そ、そんなに強いの?」

 

「何でも最深部には狂暴な竜が居るらしくてな、確実に討伐不可らしい」

 

「ならどうするんだ?」

 

「ビーストテイマーが居ればその竜を手なずけれるらしい。だが《テイミング》が1000以上じゃないと無理だろうな、そんな竜を懐かせるなんぞ」

 

ヒビキのビーストテイマーに心当たりが無いでも無いキリトはある人物に協力を依頼した。

 

「待っててくれ、ビーストテイマーなら心当たりがある。それも熟練度1000以上の」

 

「・・・なるほどな、あの子か」

 

「あぁ、今呼んでるから少し待とう」

 

キリトはその人物にメッセージを送るとすぐに行くとの返信が来たためしばらく待った。

 

 

少しすると転移門が光り、人が来た。

その人物は中層プレイヤーなら知らぬ者はおらず、また竜使いとしても名を馳せているシリカだった。

 

「キリトさーん!」

 

「お、シリカ」

 

「どうしたんですか?急に来てほしいだなんて」

 

「あぁ・・・実はな君の力が必要なんだ」

 

「へっ?私のですか?」

 

「ああ、ビーストテイマーである君じゃないと頼めない」

 

「よくわかりませんけど、わ、わかりました!」

 

キリトの説得により、パーティーにシリカが加わり、今回の事を話した。

 

「ユウキさんが!?そ、そんな大変じゃないですか!」

 

「シリカ・・・頼む、静かにしてくれ」

 

少し煩かったのかヒビキはむすっとした顔でシリカに言う。

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「で、今回の目的はユウキの奪還だが、46.5層はある意味高難易度以上だ。推定レベルは100。だが道中はなりふり構わず俺が掃除しよう。だが深部には狂暴な竜がいる。それをシリカ、お前がテイムしてくれ」

 

「えっ、えぇぇぇぇぇ!?」

 

驚くのも無理はない。

シリカのレベルは85。

それに対して挑むダンジョンの推定レベルは100なのだ。

しかも狂暴な竜をテイミングしてほしいという物が難しい物だった。

 

「そ、そんなの無理ですよ!私まだ85ですし、竜なんて・・・!」

 

「・・・なぁその隣に飛んでる奴・・・竜だよな」

 

ヒビキがピナを指すとシリカはすぐに静かになった。

何とか渋々了承してくれたため、このままダンジョンへと向かうことにした。

 

 

だがこれはあっさりと終わる事とは誰も知らなかった。

 

 




次、ユウキ奪還作戦


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辛い重荷の代償

いざ、隠しダンジョンの46.5層に向かうヒビキ達。

だがヒビキを除いて他のものはのんびりとしていた。

理由は簡単だ。

 

ここ戦闘という戦闘をしていなかったヒビキはここぞとばかりに無双しており、キリト達が戦闘する必要性がほとんど無いのだ。

 

「それ、それ、それぇ!」

 

「キリトさん・・・あれは・・・」

 

「良いか、あの状態のヒビキを邪魔したら一緒に掃除されちゃうからな」

 

「えっ」

 

キリトの忠告にみんなは無双中のヒビキに話しかける事は無くなる。

またヒビキは《幻想剣》スキル『幻影剣』をあちらこちらに飛ばすため、ヒビキの正面に居るものは基本見つかればすぐさま綺麗さっぱり掃除されていく。

 

 

中に入って20分ほどするとヒビキが途中で止まる。

 

「どうしたの?ヒビキ君」

 

「・・・プレイヤー、総数10」

 

「なっ・・・」

 

「恐らく生き残った人数を徴集したんだろ、あと・・・この真下に件の竜がいる」

 

「この下に・・・ですか?」

 

「明らかに放っているオーラのような物が違いすぎる。俺の《索敵》で分からない辺り90層辺りの奴と見て良いだろ」

 

ヒビキの発言に全員は息を飲んだ。

ヒビキは攻略組の中でもトッププレイヤーでありそのレベルは誰よりも高い。

自身のレベルと熟練度依存の《索敵》スキルはヒビキだけが頼りとも言える。

だがそのヒビキが分からないと言う辺り、狂暴な竜の規格外さが物語る。

 

「幸い、ここは結晶無効エリアじゃねぇから一応何かあっても良いように転移結晶を用意しておこう」

 

「わ、わかった」

 

「それじゃ・・・キリトと俺が前に、アスナとクラインが後ろ、シリカは主に竜のテイム」

 

「カグラちゃんはどうするの?」

 

「こいつの《隠蔽》はラフコフより高い。それを活かしてユウキの所に行ってもらうが、ある程度距離を詰めてからになるな」

 

「ん、わかった」

 

「それじゃさっき言った布陣で・・・戦闘は自己判断で行く」

 

「オーケー」

 

「了解!」

 

「おうよ!」

 

「さて、行くか」

 

ヒビキとキリトが先に進むとそれに続いてアスナ達も後ろを警戒する。

 

 

するとこの46.5層の長とも言えるモンスターが飛来してきた。

 

「グラァァァァ!!」

 

「・・・スターヴィングドラゴン、推定レベルは・・・120」

 

「なっ!?」

 

ドラゴンの推定レベルを聞き、みんなはドラゴンの警戒をする。

だが一人だけドラゴンに近付く者が居た。

ビーストテイマーのシリカだった。

 

「こ、怖くないもん!え、えっと・・・どうすれば良いんでしょうか・・・」

 

「ゴガァァァァ!!」

 

「ひぃぃ!こ、怖いけど・・・頑張らなきゃ・・・!」

 

シリカは駄目元で《テイミング》スキルをドラゴンに使う。

するとなんと一発でテイムが出来た。

 

「へっ・・・?こ、これって・・・テイム成功・・・?」

 

「グルル・・・」

 

あんなに威嚇し吠えていたドラゴンがシリカに頭を垂れる。

それを見たヒビキは安堵したがすぐに《索敵》に誰かが引っ掛かり、幻影剣をその場所に飛ばす。

 

「っち、逃げ足だけははえぇな」

 

するとヒビキの目の前にはフードを被るプレイヤーが10人居た。

そして一人のプレイヤーが喋る。

 

「あれれ~?せっかくドラゴン用意したのにあれで終わっちゃうんだよ~?それじゃあ楽しくないじゃんかぁ~!」

 

「うっせ、黙れ」

 

ヒビキは幻影剣をそのプレイヤーに飛ばすが当たらなかった。

 

「そんな遅いの当たるわけないでしょ?馬鹿なの?」

 

「・・・」

 

プレイヤーはヒビキを煽っているのだろうが知るものは知る。

ヒビキを怒らせると取り返しがつかない。

キリトもそれに気付き邪魔だと判断してヒビキから離れる。

 

「へぇ・・・言ってくれるねぇ」

 

「みんなシリカの所固まって。巻き込まれる」

 

カグラの忠告をすんなりと聞き入れたキリト達はヒビキを残してシリカの近くに固まる。

 

「カグラちゃん、大丈夫なの?置いてても」

 

「逆に死なないようにしてほしい・・・」

 

「殺しはしねぇよ!あん中放り込むからそれの準備だけしとけ」

 

カグラは回廊結晶を取り出し、それを開いた。

 

「これは・・・?」

 

「黒鉄宮行きの片道結晶」

 

その言葉でその場にいるプレイヤーはヒビキを見る。

 

 

 

その間ヒビキはどうするか悩む。

確実に逃亡者が出るためそれを防ぐ術を。

そして自身の《幻想剣》の一つを使う事にした。

 

「さて・・・と、こいやおらぁ!」

 

ヒビキはまずジョニーだと思われるジョニーを無視し、他の取り巻きを処理しに行った。

抵抗するも戦闘狂いのヒビキを見て恐ろしくなり大人しく、カグラが開いた黒鉄宮行きの回廊に放り込んだ。

その光景を見ていたジョニーは舌打ちしながらヒビキと戦闘する。

しかしヒビキが石ころに躓きこけた。

 

「しまっ・・・!」

 

「バーカ!それとバイバイー!」

 

 

ジョニーはそれを絶好のチャンスだと思い急所である右胸にナイフを突き立て、思い切り刺した。

 

「ヒビキ!」

 

キリトがヒビキに声をかけるが反応がない。

そして奥の扉が開く。

 

「・・・ぇ?」

 

その瞬間ポリゴン状の破片が飛び散った。

ヒビキの仮想体が消えた。

 

 

 

 

一方ユウキは、どうにかして脱出出来ないかと思考していた。

いきなりあのフード達がどこかに行ったためチャンスと思い、閉じ込められた部屋を探す。

拘束されていた物はフード達が居ない時ならば簡単に外せた。

するとあのメンバーが置いて行ったのか鍵らしき物が落ちており、それを扉に使うと開いた。

 

 

早くヒビキに会いたい一心で扉を開けた先には。

ジョニーに右胸を刺されたヒビキの姿があった。

 

「・・・ぇ?」

 

そしてヒビキはポリゴン状となり消えた。

ユウキの前から。

 

「ヒ、ビキ・・・?」

 

「あれぇ~?何で出てこれたの?おかしいなぁ鍵かけたあったはずなのに」

 

ジョニーは消えたヒビキの事など知らずにユウキに近付く。

 

「後であいつと同じ所送ってあげるからね~、だから抵抗しないでよ?」

 

ユウキが力が抜けたように床に落ちる。

ジョニーは少しずつ、少しずつユウキに近付く。

 

「ユウキ!離れるんだ!」

 

「ユウキ!」

 

キリトとアスナが呼び掛けるもユウキにはもう聞こえなかった。

そしてジョニーはユウキにナイフを振りかざそうとする。

 

「何か言いたいことある~?」

 

「・・・」

 

「無いんだぁ~、それじゃあ・・・ばいばい!」

 

何も言わないユウキにジョニーはナイフを振り下ろそうとした瞬間。

 

 

何者かにジョニーは蹴り飛ばされた。

 

「・・・」

 

「ユウキになぁに手ぇ出そうとしてんだ、クズが」

 

蹴り飛ばした者はさっきジョニーに刺され殺されたヒビキだった。

 

「なんで生きてるの?おかしいなぁ、さっき殺したのに」

 

「下調べ不足なくせに勝負吹っ掛けるからじゃねぇの?」

 

「くそっ!・・・ぐっ」

 

ヒビキは武器を取り出してジョニーと相対する。

ジョニーからしたら死んだはずの相手が生きているというイレギュラーに対応出来なかった。

だからこそヒビキはそこを突いてジョニーに自分が出せる限りの早さで近づき手足を切り落とした。

 

「これなら転移結晶も使えないし、歩けもしないだろ」

 

「・・・」

 

「何もいわねぇのかよ・・・つまんねぇな、死ぬか?」

 

「・・・!」

 

何も言わないジョニーにヒビキはイライラし始めるとある言葉に反応した。

 

「死にたくねぇってか?甘ったれてんなぁ」

 

ヒビキはジョニーの腹を上に蹴り飛ばす。

そしてソードスキルを発動させる。

 

「ヒビキ!それは駄目だ!」

 

「そうよ!そのまま牢獄に送れば良いわ!」

 

「・・・悪い」

 

キリトとアスナの制止を聞かず、ヒビキは『ディレベル・メテオ』を発動しジョニーに振りかざした。

 

 

 

ヒビキが振り終わるとそこには何も居ない。

ジョニーブラックは死んだ。

 

「・・・」

 

「ヒビキ」

 

「・・・殴るなら殴っていい、自分の怒りのまま動いただけだ」

 

ヒビキの言葉に誰も動かなかった。

誰もヒビキを怒りは出来なかった。

プレイヤーを殺したのにも関わらず。

 

その場に居た者はヒビキに重荷を背負わせたという責任から、誰も叱れなかった。

 

「もう・・・帰る、今日はありがとうな、手伝ってくれて」

 

「ああ・・・」

 

ヒビキは気を失ったユウキを抱っこして出口に向かった。

 

 

「キリト君・・・私・・・背負わせちゃったよ・・・」

 

「ああ、俺もだよ・・・ヒビキに・・・」

 

「くそう・・・ヒビキの野郎・・・!」

 

「ヒビキさん・・・」

 

4人はヒビキに辛い物を背負わせたという事実に何も言えなかった。

それが何よりも辛かった。

ユウキを助けたいという気持ちで集まり、助けに行った。

結果としてユウキを救出出来たがヒビキには辛く重い物を背負わせてしまった事となった。

 

「ヒビキは・・・気にしないよ、背負わせたことを気にしてたらうざがられるから。だからまたみんなでパーティー組もう?」

 

「ああ、分かった・・・」

 

カグラはそう言った後ヒビキの後を追いに行った。

 

 

 

 

 

ヒビキは家に戻り、ユウキをベッドに寝かせた。

まだユウキは目をつぶっており寝てしまったのだと思った。

すると一気に張り詰めていた物が取れたのかヒビキも一緒に寝てしまった。

 

少しするとカグラも帰ってきて二人を見た。

ユウキの手を繋ぐヒビキはどこか泣いているように見えた。

 

 

 



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盾と剣の鎚迫り合い

SAO・・・ソードアート・オンラインのデスゲームが始まった時ボクは何も出来なかった。

ただただ建物の影で泣くことしか。

戦って死ねば現実世界でも死ぬ。

なんでかボクは死にたくなかった。

意味もなく過ごしていたボクが何でか死にたくないと思った。

 

 

それは・・・ある一人の男の子に会うまでは。

そのプレイヤーに最初ボクは話しかけた。

SAOでの戦い方を教えてもらおうと思って話しかけた。

だけどその子も初心者だと言い断られたから他の人に聞こうと思った。

優しい人が多いからか戦い方を教えてくれたからこのままなら問題ないと思った。

 

 

鐘の音が鳴るとボクは最初居た街に戻されてゲームマスターが現れた。

その人物が言ったことは『この世界からの帰還方法はゲームクリアをするまで出来ず、死ねば現実世界でも死ぬ』という物だった。

気軽にはじめたゲームがまさかデスゲームだと思わなかったボクは何が何が分からず、建物の影に移動した。

一人で泣いてるとあの男の子がやってきた。

泣いているところを見られた事が恥ずかしかったけど男の子は気の済むまで泣いていいって言ってくれた。

 

そこからなのかな・・・。

ボクがこの男の子に対して特別な感情を持ちはじめたのは。

 

 

ボクはヒビキが居れば何でも出来るような気がした。

どんなに辛くても悲しくてもヒビキが居れば頑張れる気がした。

 

だけどあの時ヒビキは右胸にナイフを立てられて死んじゃった。

ボクを一人にしないって言ってくれたのに。

絶対に守ってやるって言ってくれたのに。

そこからボクはヒビキが居ない世界なんてもう意味ないと思った。

殺される状況でもヒビキが居ないのなら生きる意味なんてない。

だからボクは目をつぶって殺されるのを待った。

それはいつまでも来なくて目を開けたらヒビキが居た。

それが幻でもボクは嬉しかった。

またヒビキに会えたから。

そこからはボクは覚えていない。

 

 

ユウキが目を開けるとヒビキの家に居た。

 

「何で・・・?」

 

「おはよう、ユウキ」

 

声がして振り向くとユウキを見ているカグラがいた。

 

「カグラ・・・ちゃん?」

 

「ん、そう」

 

「ヒビキ・・・は?」

 

ユウキはカグラにヒビキがどこにいるか聞くと椅子を指した。

そこには椅子に座って寝ているヒビキの姿があった。

 

「ヒビキ・・・生きてるんだよね・・・?」

 

「うん、生きてるよ。幻覚じゃない」

 

「そう・・・なんだぁ・・・良かったぁ・・・」

 

もう会えないと思っていたヒビキがちゃんと居てくれた事にユウキは泣き出しそうになる。

すると会話で起きたのかヒビキが起きる。

カグラはこっそりと部屋から出て二人きりにする。

 

「んぁ・・・ふわぁ~・・・ねむ・・・」

 

「ヒビキぃー!」

 

「どわぁー!?」

 

起きはじめたヒビキにユウキは飛びついた。

寝起きで反応が遅くなっているためヒビキは受け止め切れずそのまま後ろに倒れる。

 

「いってて・・・ユウキ、あぶねぇっての」

 

「だってあの時ヒビキが死んじゃったと思って・・・!こうして居られてるのが嬉しいだもん・・・」

 

「人を勝手に殺すなっての・・・」

 

「ぶぅ~」

 

「はいはい・・・」

 

猫みたいにすりすりしてくるユウキに負けてヒビキはされるがまま弄ばれていた。

すると満足したのか離れていった。

 

「よしっ!成分確保~」

 

「なんだそりゃ・・・」

 

「えへへ~、だって一週間も会えなかったから寂しかったもん・・・」

 

そうユウキが言うと少ししょんぼりする。

そんな姿にヒビキは申し訳ないように言う。

 

「・・・ごめん、あの時助けれなくて」

 

「良いよ、こうして会えた事で嬉しいから」

 

「それに・・・怖かったろ?」

 

「うん・・・でも絶対に助けに来るって思ってたから頑張ったよ」

 

「ユウキは強いな。俺なんかより強い」

 

「えぇ!?ヒビキのが強いじゃんかぁ!」

 

「・・・そういうことにしとくか。さて今日も忙しいぞ!」

 

「うん!」

 

「それと、ユウキ。おかえり」

 

「ただいま、ヒビキ!」

 

二人はそう言うと寝室から出てご飯を食べはじめる。

カグラがひっそりと作っていたため二人はびっくりするがカグラなりに元気づけようとしているのを分かり、三人で料理を食べた。

 

 

 

 

ご飯を食べ終えるとカグラは店に戻ると言ったため二人だけになった。

 

「さて・・・ユウキ、実は今日75層の攻略会議が行われるんだが・・・来るか?」

 

「もちろん、行くよ」

 

「なら今から行くぞ、もうすぐ始まるからな」

 

「はーい!」

 

そうして準備を済ませ家を出ると攻略会議がある55層に向かった。

 

 

55層《血盟騎士団》の本部に着いた二人は中に入り会議室に向かった。

すると会議は始まっており中には100人近い人数が集まっていた。

 

「今回75層の攻略ですが、3つ目のクォーターポイントです。25層・50層のボスは苦戦を強いられ激戦を繰り広げました。なので今回も今までの強さとは違うと思われます」

 

会議の作戦を立てているのは血盟騎士団の副団長アスナだった。

そしてヒビキはアスナにある情報を伝えた。

 

「アスナ、少し情報がある」

 

「何ですか?」

 

「《メテオクレスト》の偵察部隊が辛うじて持ってきた情報何だが・・・転移結晶が使えなかったらしい」

 

ヒビキの一言でその場に居る者は驚く。

これまでのボス部屋では保険に転移結晶による離脱が出来るようにしていたのだが、75層のボス部屋では使えないとなっていた。

それはつまり《クリスタル無効化エリア》と呼ばれる物であらゆるクリスタル・・・回復結晶や解毒結晶、転移結晶などが封じられる。

大きな回復手段である回復結晶は使えば瀕死でもHPを全回復し、さらにクールタイムがない。

基本的な回復はポーションなどが挙げられるがこれらはクールタイムという言わば連続使用を防ぐ策があるため一気に回復は難しい。

 

「では回復手段の一つである回復結晶が封じられますね・・・それに転移結晶も使えないとなると・・・」

 

「タンク隊が攻略の要になると俺は思う。逃げの一手が封じられるのならばタンクがかなり重要になるだろう」

 

「なるほど・・・では攻撃二人にタンク一人の割合で組みましょう。それでレイドを組んでとにかく生存を第一に考えましょう」

 

「「「了解!」」」

 

アスナの作戦に賛同し、これで作戦会議は解散する。

75層攻略は明後日に行うとの事なのでそれまでに準備をすることにしようとしたヒビキ。

しかしあるプレイヤーに呼び止められる。

 

「ヒビキ君・・・だったかな?」

 

「ヒースクリフさんか・・・ユウキ先行っててくれ」

 

「うん、わかった」

 

ユウキはヒビキに言われ先に進んだ。

そしてヒビキはヒースクリフに向き合う。

 

「君とは初めて会うと思ってね」

 

「そうですか・・・ヒースクリフさん、一度デュエルをしてくれませんか?」

 

「ほう・・・?それは何故か聞かせてもらって良いかな?」

 

「個人的に戦いたいだけですよ、攻防の《神聖剣》スキルがどんなのかみたいですから」

 

「良いだろう、明日の75層の主街区にて君を待とう」

 

「負けたから入団・・・なんて事はしませんからね」

 

「はは、ばれていたか・・・だがそんなことはしないよ」

 

「・・・では」

 

ヒビキはヒースクリフにデュエルの申し込みを入れた後、門前に居るユウキを連れて家に戻った。

 

「ヒビキ、あの人と何話してたの?」

 

「あぁ・・・まぁちょっとな」

 

「ちょっとってなんだぁ~!教えろぉ~!」

 

「誰が教えるか!教えたらお前止めるだろうが!」

 

「そ、そんなことないもん!だから教えろー!」

 

何か隠すヒビキにユウキは追いかけて聞きだそうとしていた。

そんなのを続けていたら22層の家に着いており、さすがにヒビキは観念しユウキに教えた。

 

「ヒビキの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」

 

「・・・はい、返すお言葉もございません」

 

「なんで勝手にそういうの決めちゃうかなあ!?」

 

「・・・はい」

 

「まったく・・・!いつやるのさ!」

 

「・・・明日です」

 

「そんなに自信満々にデュエル申し込んだなら絶対に勝ってよね!負けたらご飯抜きだから!」

 

「・・・はい、勝ちます」

 

「もうっ・・・」

 

珍しく怒るユウキの勢いにヒビキはただただ怒られているだけだった。

それだけユウキが怒っている事なので何か反論すると火に油を注ぐだけと分かっていたためヒビキは怒られていた。

 

「明日勝たないとダメなんだからね!」

 

「・・・あったりまえだ、俺から吹っかけたデュエルで負けたくねぇし」

 

「どこからそういう自信は来るんだか・・・」

 

ヒビキの謎の勝ち気な様子にユウキは呆れる。

 

 

 

そしてデュエル当日、決闘闘技場には大勢のプレイヤーが来ていた。

 

「ユウキ・・・帰りたい」

 

「あはは・・・でも、あんだけ自信あったんだから勝ってよね!」

 

「だよなぁ・・・でも人が多過ぎだぞ・・・」

 

あのあとヒースクリフはうっかりそれを経理係に話してしまい、それを利用して見学料金を集めるという物だった。

最強ギルドの創設者であり生ける伝説ヒースクリフと対人最強とも言われる幻剣ヒビキのデュエルは人をかなり呼んだ。

 

「さて・・・行きますかね・・・」

 

「ヒビキ君、すまないね」

 

「何がですか・・・そんな毛頭無いでしょう」

 

「はは、しかしこれほどの人数はキリト君以来だね」

 

「キリトとともしたんですか」

 

「ああ、二刀流の彼を何とか負かせれたがね」

 

(・・・勝てるのか怪しくなってきた)

 

二刀流のキリトを負かせた事にヒビキは負ける気しかしなくなっていたがユウキのご飯抜きを思い出す。

 

(今日ってユウキのご飯当番・・・いや負けたらユウキの料理が食べれなくなる!それは駄目だ)

 

ユウキの料理を食べるためにヒビキは意味の分からないやる気を引き出す。

 

「やる気だね、ヒビキ君」

 

「ええ、ある物のために勝たないと駄目何ですよ」

 

「ほう・・・何かのために戦う力は強いものを生み出す。さあ、私にそれをぶつけてみたまえ!」

 

ヒースクリフはヒビキにデュエルを申請する。

《初撃決着モード》を選択し、両者は60秒のカウントダウンが始まる。

 

ヒビキはあるものを事前に発動させておく。

そして60秒が経過すると両者は互いに動いた。

 

ヒビキの一撃はヒースクリフの盾に防がれさらに盾によって攻撃される。

 

(なっ、盾にも攻撃判定あんのかよ)

 

盾に攻撃判定がある事が予想外だったヒビキはその一撃をもらってしまう。

しかしすぐに体勢を立て直しもう一度攻撃を仕掛ける。

 

「何度やっても結果は変わらんぞ、ヒビキ君!」

 

「へっ、言ってろ」

 

今度は盾に攻撃をあえて当てる。

するとヒースクリフの盾があるところががら空きになりそこにヒビキは蹴りを入れた。

 

「ぐっ・・・!」

 

「あれの反応は出来ない・・・と」

 

ヒースクリフの対応を少しずつ観察していくヒビキ。

するとヒースクリフの雰囲気が変わる。

 

「なるほど、それが本気ってわけか」

 

「プレイヤー相手には使いたくは無かったが、私としても簡単には負けるわけにはいかないからね」

 

ヒースクリフの持つ武器と盾が白く光る。

それを見てヒビキは警戒を高める。

 

「ふっ・・・!」

 

(・・・!?いつの間に!)

 

ヒースクリフが向かった瞬間、すぐさま移動しヒビキの目の前に来た。

それに反射的に反応したヒビキはヒースクリフに足払いをかける。

しかしヒースクリフはそれを察知し後ろに引く。

 

「なっ・・・!」

 

「タンクかぁ?早すぎだろ・・・」

 

「君こそ先ほどの足払いは早すぎる思うがね」

 

「仕方ねぇな、こっちも本気で行くぞ!」

 

「ああ、来たまえ!」

 

盾を構え防御の体勢を取るヒースクリフを突破するため、ヒビキはある案を考え実行する。

 

弾丸の如くヒースクリフに一直線に向かい、まずヒースクリフの盾をまた狙う。

ヒビキのソードスキルはヒースクリフの盾に当たり、また腹が空くがそれを無視し、またしても盾に攻撃する。

 

「ぐっ・・・」

 

盾を何度も攻撃され退けるヒースクリフには見向きもせず重しになる盾から今度は右手に握られた武器を狙う。

だがヒースクリフも対抗し、同じくソードスキルを発動させる。

相殺仕切れなかったヒビキは武器が飛んでいき、何も武器が無くなる。

 

「ちっ」

 

「これでおしまいだろう、楽しかったよ」

 

武器がなくなりソードスキルが使えないヒビキに攻撃を当てる。

するとヒビキはポリゴン状となり消える。

 

「なっ・・・!?」

 

自分の手でヒビキを貫いた事に驚くヒースクリフ。

それが隙となり首元にはヒビキの幻影剣が向けられていた。

 

「驚いたろ?この作戦中々相手をヒヤッとさせるがな」

 

「ああ、驚いたよ」

 

「・・・その状況から抜け出せるか?」

 

「無理だろう、動けばこの半透明の剣が恐らく私の首を飛ばすだろう」

 

そういってヒースクリフはリザインと言い、敗北した。

その瞬間喝采が飛び交い、神聖剣ヒースクリフと幻剣ヒビキの決闘はヒビキの勝利で終わった。

 

 

決闘が終わると控え室に戻るヒビキ。

すると一目散に飛びついて来るユウキがいた。

 

「ヒビキー!」

 

飛びついて来るユウキをしっかり受け止めたヒビキはユウキの頭を撫でた。

 

「勝ったぞ、ヒースクリフに」

 

「ホントに!?」

 

「おう、お前の料理を何としてでも食べるために頑張った」

 

「もうっ・・・でも、お疲れ様!」

 

決闘場を出ると一気に観戦プレイヤーがやってきて感想などを求められたが早くユウキの料理を食べたいヒビキはユウキを抱えて猛ダッシュした。

その後、顔が赤くなったユウキに怒られるも料理を作ってもらったヒビキはそれを食べた。

 

 

そして明日の75層攻略に備えて寝付いたが、ヒビキはすぐに起きて軽く風に当たりに行った。

 

(あの時のヒースクリフの動き・・・一回だけ異常な程早過ぎた。限界的な早さを超えていたよな・・・)

 

ヒビキは今日の決闘のヒースクリフとの戦いを振り返っていた。

 

(それにキリトから聞いたが一度もイエローゾーンに入ったことを誰も見たことが無い・・・か、まさか・・・)

 

ヒビキはある一つの考えを出すと明日、攻略した後やってみようと思った後、ベッドに入ってユウキの隣に行った。

ユウキは幸せそうに寝ており、見ているこちらも移りそうなぐらいだった。

そんな無防備なユウキの唇と自分のを重ねた後、ヒビキは寝付いた。

 

 



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思想の末に行き着いた夢物語

ソードアート・オンライン《アインクラッド編》最終話です。


75層の攻略当日。

主街区にて集合となっていたそこには攻略組などが集っていた。

中にはキリト、アスナ、エギル、ヒビキ、ユウキ。

ギルドの《風林火山》や《血盟騎士団》が居た。

 

「ふむ・・・時間だ。行こうか」

 

ヒースクリフが言うと回廊結晶を取り出し、ボス部屋前までの道を作り、そこに入って行った。

 

 

 

 

 

ボス部屋前まで移動した今回の攻略部隊はもう一度自身の準備等の最終確認をしていた。

 

「アスナー!」

 

「ユウキ!今日は遅れてないね」

 

「そんな毎回遅れてると思わないでよ!大体はヒビキのせいなんだから!」

 

「誰かの寝る時間が長いせいで遅くなるんだろうが」

 

「むぅ~・・・」

 

「キリト、そっちはどうだ?」

 

「俺が出来るかぎりの準備はしてきたつもりだよ、パーティーも知ってる奴が多いから連携も取りやすいと思う」

 

「だな、あと・・・初っ端から使うしか無いぞ、隠す必要も無いし使わずに死ぬなら使って死ぬほうがいい」

 

「ああ、分かってる」

 

ヒビキとキリトが話しているとユウキがヒビキに飛びついて来る。

 

「とぉ~!」

 

しかし受け止めず、あえて避けたためユウキはそのままからぶる。

 

「なんでよけるのさ~!」

 

「なんでわざわざこんな人が多いとこでいちゃつく必要があんだよ、恥ずいわ」

 

「って言いながら恥ずかしがって無いじゃんかぁ~!」

 

とユウキが反論していると頭にチョップが入る。

 

「あぅ!?」

 

「せめてやるなら家でやれ、俺がここでしたくないっての」

 

「む~・・・」

 

「仲良いな二人は」

 

「まぁな、そういうキリトもアスナと仲良いだろうが」

 

「ぐっ・・・」

 

仲の良さを見られていたヒビキはキリトに反論する。

キリトも図星なのか顔を背けるが、バレバレであった。

 

「っと、もうすぐじゃねぇかな、突入は」

 

「だな」

 

ヒビキが時間を見るともうすぐな感じの時間が経っていたためキリトに伝える。

するとヒースクリフが準備は良いかと聞いており、準備万端なのか全員は声を挙げた。

 

「ふむ・・・では突入する!」

 

「「「「「おおー!!」」」」」

 

ヒースクリフの号令に続いて他のプレイヤーも問題なしと答える。

そしてヒースクリフが75層の扉を開けると一気にプレイヤー達は中に入った。

 

 

しかし、ボスはどこにもおらず、困惑していたが・・・。

 

「おい、てめぇら!上だ!」

 

ヒビキの声に反応し見上げるとそこには、白い長いものがヒビキ達を覗いていた。

 

「・・・ザ・スカル・リーパー・・・」

 

「相手の攻撃手段見ないと全然わかんねぇな」

 

天井にはザ・スカル・リーパーと言う巨大な骨のムカデが張り付いており、見つかると壁を伝っておりてくる。

 

「全員散らばって、タンクはディーラーを防衛!」

 

アスナの指揮で全員は動く。

しかし、3人遅れてしまいボスの標的となった。

 

「逃げろ、お前ら!」

 

ヒビキが催促するも無慈悲な一撃をボスが与える。

HPがMAXまであったさっきのプレイヤーのHPが一気に0になり消えた。

 

「なっ・・・一撃だぁ!?」

 

「う、うそ・・・」

 

さっきのプレイヤーとて実力がある攻略組だった。

そのプレイヤーのHPを一気に刈り取ったボスの攻撃力に全員は後退りする。

 

「私が防ごう!君達はその間に相手の攻撃を見極めてチャンスを作ってくれたまえ!」

 

ヒースクリフが後退りしたプレイヤーに活気を入れるため、ボスの両手にある鎌の片手を防いだ。

それによって打開策を見つけるべくみんなはボスにダメージを与えていく。

そしてあることに気づいたヒビキはある考えヒースクリフに言う

 

「こいつの足・・・これだけの数があるっていう最初の迫力があるが、逆にいえばこれだけの足が無ければ体支えれないんじゃねぇか?」

 

「ふむ・・・ならば、どうするのだ?」

 

「・・・俺とキリトで足だけを集中狙いする。それで体勢を崩したら一気に畳み掛ける。その号令をヒースクリフ、あなたが言ってくれ」

 

「良いだろう、君の考えを信じてみよう」

 

ヒースクリフがまた防御に回ると、キリトと呼んだ。

 

「キリト!ちょっとこっちこい!」

 

「なんだ!」

 

「あいつの足の一本を俺が狙うからキリトはそれに続いて攻撃してくれ」

 

「何か意味が?」

 

「俺の考えが正しければ大きな一手が出来る」

 

「分かった!」

 

キリトに考えを言い、ヒビキは《幻想剣》スキルを発動させる。

 

「ふぅ~・・・!」

 

ヒビキは《幻想剣》スキルの一つ『ディレイク』を発動する。

 

「行くぞ、キリト!」

 

「ああ!」

 

「・・・燕返し!」

 

ヒビキはボスの数ある足の内、一本だけにソードスキルを使う。

使ったソードスキルは《幻想剣》スキル『燕返し』。

一つの剣から3つの斬撃を繰り出す。

それが全て当たるとボスは悲鳴をあげた。

 

「ギュアアアアア!!!」

 

そしてキリトが追撃に《二刀流》スキル『スターバースト・ストリーム』を当てる。

するとボスは体勢を崩す。

そしてヒースクリフはここだと思いヒビキに言われた通りに号令をかけた。

 

「ボスの足を狙うのだ!それが活路になる!」

 

ヒースクリフの言葉を信じ、プレイヤー達はボスの足を狙う。

それでも抵抗して来るボスの攻撃をタンク隊が全力で防ぎ、攻撃隊を防衛する。

 

 

そしてボスの足がどんどんと攻撃されていき、体勢を大きく崩した。

更なる隙だと感じ、ヒビキは3人を呼ぶ。

 

「キリト、アスナ、ユウキやれ!」

 

「ああ!」

 

「了解!」

 

「分かった!」

 

一気に3人がソードスキルを発動させ、ダメージを蓄積していく。

その間にヒビキはボスの頭に走って移動する。

 

「ボス・・・骨だろうが弱点は変わんねぇだろ!」

 

急所である頭は骨になっても変わらないと思い、攻撃が来る可能性が高い頭に移動する。

ユウキはそれを止めようとしたが無視し『幻影剣』を飛ばし少しでもダメージを稼ぎながら移動していた。

 

「ヒビキ君!?ここに来てどうしたのだ!?」

 

「奥義級スキルは急所に当てるもんだろ?」

 

ヒビキがいきなりやってきたことに驚くヒースクリフだがヒビキの言葉の意味を理解するもボスの攻撃が激しいのは変わりない。

 

「ここは危険だ、別のところにしたまえ!」

 

「そういう臆病なことしてたらおもんねぇからな、それは無理なこった!」

 

ヒビキはまた『ディレイク』を発動し、ボスの頭まで跳躍する。

そしてソードスキルを発動させる。

 

「さぁてぇ・・・てめぇの時間はもう終わりだぁ!」

 

ヒビキが《幻想剣》スキル『偽影・時空斬』をボスの頭に当てる。

1撃目を頭に突き、2撃目でそこから1回転するように切り込み、3撃目で上から叩き切る。

するとラッシュによって減っていた残り1ゲージのボスのHPを一気に全て削りきった。

 

「どぉぉぉらぁぁぁぁ!!」

 

「ギュアァァァァ!!!」

 

最後に悲鳴を挙げて、HPが無くなると力尽きたように地面に倒れ伏せ、ポリゴン状となって消えた。

そしてフロアには《Congratulations》と表示され、攻略が終わった。

 

 

 

攻略が終わり、疲弊するヒビキ達。

するとクラインが言う。

 

「何人・・・死んだ」

 

「・・・12人だ」

 

「嘘・・・だろ・・・」

 

「俺達・・・こんな調子でクリア出来るのかよ・・・」

 

キリトが答える。

しかし75層攻略にはあまりにも犠牲を出し過ぎた。

そして強い疲労感を全員に襲う。

ただ一人のプレイヤーを除いて。

 

(ヒースクリフの奴・・・あんなに平然と佇んでやがんのかよ)

 

ヒビキは未だに覇気を漂わせるヒースクリフに疑問を持っていた。

周りのプレイヤーと違い、まるで疲弊をしていない。

そしてヒースクリフのHP。

他のタンク隊のHPはイエローゾーンに入っている者が多いにも関わらずヒースクリフのHPはグリーンゾーンだった。

そしてある考えに至る。

 

「・・・キリト、ヒースクリフに対する疑問が出た」

 

「そうか・・・実は俺もだ」

 

「俺が試してそれが明るみになれば・・・」

 

「ああ、恐らく」

 

キリトも薄々感づいているらしく考えは一緒だった。

そしてヒースクリフがこちらを見ていない時にヒビキは《幻想剣》スキル『幻影剣』をいつでも発動出来るようにした。

 

「ユウキ」

 

「な、なに・・・」

 

「ちょっと・・・いってくる」

 

「えっ・・・?」

 

「アスナ、俺もいってくる」

 

「キリト君・・・?」

 

キリトとヒビキはお互いの相手に言うとヒビキに向かってキリトは頷く。

そしてヒビキは静かに剣を振るいヒースクリフに『幻影剣』を飛ばした。

 

「なっ・・・!?」

 

「ヒビキ?何してるのさ!?」

 

ユウキがヒビキに聞くとそれはすぐに理解した。

いや、理解させられてしまった。

 

「やっぱか・・・ヒースクリフ」

 

ヒビキとキリトはヒースクリフと向き合う。

そして『幻影剣』が当たるべきだったそこには《Immortal Object》と書かれたシステムウィンドウが表示された。

 

「なっ・・・団長、これは!?」

 

アスナがヒースクリフに問うがキリトは言った。

 

「この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあったんだ。あいつは今どこで俺達を観察し、世界を調整してるんだろうって」

 

「だが、単純な心理を忘れていたよ。他人のやっているRPGを傍らから眺めるほどつまらないことはない。そうだろう・・・茅場晶彦」

 

キリトの言葉にその場のプレイヤーは目を疑った。

最強プレイヤーとも言われたヒースクリフがこのデスゲームの創造者、茅場晶彦なのだから。

 

「参考までに聞かせてもらえるかな?」

 

「デュエルの時だ、あの時あんたはあまりにも早過ぎた」

 

「やはりか・・・キリト君。あの時、君の動きに翻弄されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった」

 

「へぇ・・・てことはあの時の動きも使ってんのか」

 

「ああ・・・あの時もだ。君との戦いがあまりにも楽しくてね・・・だがそれをも君は突破したがね」

 

「最強のプレイヤーが一転、ゲームのラスボスとはな」

 

「私的には良いストーリーだと思ったのだがね」

 

すると一人の血盟騎士団のプレイヤーがヒースクリフに攻撃してきた。

 

「こ、この・・・お、俺達の忠誠をー!」

 

するとヒースクリフはメニューウィンドウを弄り、そのプレイヤーを麻痺にする。

そして周りにもいるプレイヤーにも麻痺を与えた。

 

「ふぇっ・・・?」

 

「ユウキ!」

 

立っていたユウキとアスナにも麻痺が付与され、さらにヒビキにまで麻痺が付与された。

 

「・・・ここで見つかったから口封じでもすんのか?」

 

「まさか・・・そんなことはしない。100層までの対抗勢力として育ててきた血盟騎士団や攻略組を捨てるのは惜しいが・・・私は100層の紅玉宮にて君達を待とう。・・・だがヒビキ君、キリト君。君達には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな。」

 

キリトとヒビキはヒースクリフの言葉を聞く。

そしてヒースクリフは続きを言う。

 

「チャンスを上げよう。今この場で私とキリト君で戦う。当然、不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。どうかな?」

 

「キリト君!駄目よ、ここは退いて!」

 

「・・・キリト」

 

ヒースクリフの条件にキリトは唇を噛み締める。

そしてアスナをヒビキに預けるとキリトは剣を抜いた。

 

「悪い、ここで逃げるわけにはいかないんだ」

 

「死ぬつもりじゃねぇんだろうな?」

 

「あぁ、必ず勝つ。勝ってこの世界を終わらせる」

 

「分かった、信じてるよ、キリトくん」

 

そしてキリトはヒースクリフに向かった。

 

「キリト!」

 

「キリトー!」

 

するとキリトを二人が呼んだ。

クラインとエギルだった。

 

「エギル。今まで、剣士達のサポート、サンキューな。知ってたんだ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンのプレイヤーの育成につぎ込んでたこと」

 

それを聞いてエギルは目を見開く。

そしてキリトはクラインにも言った。

 

「クライン。あの時、お前を置いていって悪かった」

 

するとクラインが泣きながら言う。

 

「てめぇ、キリトよぉ。謝ってんじゃねぇ!今謝るんじゃねぇよ!許さねぇぞ!ちゃんと、向こうでメシの一つも、奢ってからじゃねぇと絶対ゆるさねぇからなぁ!」

 

クラインが言うとキリトは少し笑って、ヒースクリフと向き合った。

そしてダークリパルサーを引き抜く。

 

 

ヒースクリフが不死属性を解除したのを見ると、キリトは攻撃した。

 

(二刀流スキルを設計したのはこいつ自身だ。ならば二刀流スキルを使わずに倒すしかない!)

 

キリトはソードスキルを一切使わずに自分の早さだけでヒースクリフと戦う。

ヒースクリフはキリトの一撃一撃を的確に盾で防いでいく。

 

(早く、もっと早く!)

 

キリトはどんどん早さを上げていく。

その勢いで二刀流スキルを発動してしまった。

するとヒースクリフは口元を上げるとキリトはソードスキルをヒースクリフに当てた。

《二刀流》スキル『ジ・イクリプス』の27連撃を当てていくがそれを全て的確に防がれ、最後の一撃を当てる。

すると、その一撃が盾にも当たった瞬間。

ダークリパルサーの剣先が折れた。

 

「なっ・・・!?」

 

「さらばだ、キリト君」

 

ヒースクリフはキリトの硬直時間の発生を狙い、ソードスキルで斬ろうとする。

 

 

 

しかしそれは何者かに弾かれ、当たる事は無かった。

 

「・・・確信の笑みは良いが油断ってのは駄目だなぁ!?」

 

「ヒビキ!」

 

「へっ、麻痺状態なんぞ俺にはきかねぇよ」

 

「君のスキルは私も内容を知らない未知の物だ。なぜこのようなスキルが存在しているのか不思議だがね」

 

「・・・キリト、ここは・・・任せてもらって良いか?」

 

「勝てるんだな?」

 

「誰が負けると思ってんだ」

 

「・・・任せるぞ、ヒビキ」

 

キリトは最後をヒビキに託し、倒れる。

 

「キリト君!」

 

「・・・ただの疲労だろ、ほっとけ」

 

ヒビキがアスナに言うとヒースクリフと向き合う。

だが後ろからヒビキを呼ぶ声があった。

 

「ヒビキー!」

 

「・・・」

 

「絶対、絶対勝って!勝たないと許さない!許さないんだからね!」

 

「・・・大人しく待ってな、お転婆娘が」

 

ヒビキのふざけた返答にユウキはいらっとするが、それでもヒビキを信じることにした。

これが本当に最後の戦いになると思ったから。

 

「さて、ヒースクリフ。舞台はこれで良いだろ、さっさとけりつけようぜ」

 

「ああ、あの時の続きをしようじゃないか!」

 

そして両者は互いに剣と盾を鎚迫り合わせる。

心地好い音がフロア内に響き渡り、何度も重ね合わせる。

 

「・・・はっ!」

 

「なっ・・・!」

 

ヒビキが足に力を入れると一気に距離を詰め、ヒースクリフの目の前に現れた。

それに驚くヒースクリフは【反射的に】剣を振る。

ヒビキはその腰に付けていた短剣を振るい武器を対処する。

武器を弾かれたヒースクリフは今度は盾で防御しようとする。

ヒビキの予想通りに動くヒースクリフにヒビキは思わず口元を上げる。

それを見たヒースクリフは一種の恐怖を覚えるが、盾を構えた。

 

「ヒースクリフ。もうおしまいだ」

 

「・・・」

 

ヒビキは《幻想剣》スキル『ディレイク』を発動し、次にあえて片手剣スキルの『バーチカル・スクエア』でヒースクリフの盾を狙う。

ヒースクリフはソードスキルを使った硬直時間を狙って反撃に出ようとしたが、ヒビキは硬直時間を無視しヒースクリフの武器を『スラント』で武器を弾き飛ばした。

 

「なっ・・・!」

 

「言ったろ?終わりだってな」

 

そして、ヒビキは短剣を持ちヒースクリフを攻撃する。

そしてそれを盾で防ごうとし、短剣を防ごうとするもヒースクリフが見たのは持ち主を失った短剣。

そして後ろに気配を感じて盾を振りかざすと、盾を持つ腕をヒビキに切断された。

《部位破壊》と呼ばれるものでその部位が破壊されると一時的にその部位は使えなくなる。

 

 

武器を弾かれ、自身を守る盾を失ったヒースクリフ。

それは事実上の完全な敗北と言える。

 

「・・・私の負けだ、やりたまえヒビキ君」

 

「・・・俺の勝ちだ、ヒースクリフ」

 

最後に言い残したヒースクリフに敬意をはらい、ヒビキは愛剣『ファンタジア』をヒースクリフの右胸に突き刺した。

するとヒースクリフのHPはみるみる減っていき死亡時の効果音が鳴り響いた。

 

「・・・素晴らしい決闘だった、ヒビキ君」

 

「言ってろ・・・ったく」

 

そしてヒースクリフの体は光り輝き、ポリゴン状となってアインクラッド中に舞い散った。

 

 

『11月7日14時55分。ゲームはクリアされました。ゲームはクリア・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが目を開けるとそこは広大な空が広がっていた。

 

「・・・絶景だな」

 

ヒビキが漏らした感想に応える者が居た。

 

「そうだね。綺麗だよ」

 

ヒビキはその人物に驚く。

その人物はヒビキが愛した人物・・・ユウキだった。

 

「ユウキ・・・」

 

「気がついたらボクもここに居たんだ」

 

「そうか・・・」

 

「ヒビキ、もう・・・終わっちゃったね」

 

「だな・・・」

 

ヒビキとユウキが空を見続けていると下で崩落する浮遊城を見つける。

するとユウキが少し顔を伏せて言う。

 

「もう・・・ヒビキとの関わりって終わっちゃうのかな・・・?」

 

「・・・」

 

「ボク嫌だよ・・・ヒビキともっと一緒に居たかったよ・・・」

 

「俺だって嫌だ、だけどSAOが終わってそれで終わる関係だったのか?俺達は」

 

「ううん!そんなことはない!」

 

「なら、心配ないだろ」

 

「そうだよね・・・えへへ・・・良かったぁ・・・」

 

顔を伏せていたユウキが上げると泣いては居たが眩しいぐらいの笑顔でヒビキを見上げた。

ユウキは太陽の光で照らされ、紫色の髪が風になびきながらも妖しく輝いた。

年に似合わない色気を少し出したユウキにヒビキは顔を赤くし、ユウキに見られないように隠した。

 

「ヒビキ・・・?どうしたの?」

 

「い、いや・・・何でも・・・」

 

「むぅ・・・教えろぉ~!」

 

あからさまに隠したためユウキには当然ばれているため、観念して言った。

 

「いや・・・その・・・ユウキが色っぽく見えてさ・・・」

 

「ふぇっ!?」

 

「そ、その・・・凄く・・・可愛かったんだよ・・・さっきのユウキが」

 

「そ、そうなの・・・?」

 

「そうだよ・・・」

 

「え、えへへ・・・」

 

ヒビキに色っぽいとか可愛いと言われ、ユウキは照れながらも嬉しそうにしていた。

 

 

そして二人は崩壊していく浮遊城を見ていると後ろから声がした。

 

「ヒビキにユウキか・・・?」

 

「キリトか」

 

その声は《二刀流》スキルを保持しアスナの婚約者であるキリトだった。

その隣にはアスナもいた。

 

「ヒビキにユウキ。ここは・・・?」

 

「わからん、気がつけばここにいたからな」

 

「そうか・・・」

 

キリトとアスナも隣に座り込み、崩れ行く浮遊城を見ていた。

すると横から声がする。

 

「中々に絶景だな」

 

「茅場晶彦か」

 

「現在アーガス本社の地下五階SAOメインフレームでデータの完全削除が行われている。生き残った全プレイヤー6147人がログアウトを完了している」

 

「これまで・・・死んだプレイヤー達はどうなったんですか?」

 

「死んだプレイヤーはどうしようと帰ってくる事はない。死因を調べれば脳の焼却死亡が挙がる事だろう。

いくら頑張っても死んだものは戻って来ないのだよ」

 

プレイヤーの事を言った茅場はアスナの質問にも答えた。

そしてヒビキは茅場に聞いた。

 

「何故俺達はここに?」

 

「君達とは特別にこの時間を設けさせて貰ったよ」

 

「そうか」

 

「えっと・・・茅場晶彦さん?ですよね・・・貴方は何でこの世界を作ったんですか?」

 

ユウキは茅場に問う。

この世界を作った意味を知るため。

 

「空に浮かぶ鋼鉄の城の空想に取り付かれたのは、何歳の頃だったかな。この地表から飛び立って、あの城に行きたい。長い長い間、それが私の唯一の欲求だった。私はね、まだ信じているのだよ。どこか別の世界には本当にあの城が存在するのだと」

 

茅場はユウキ・・・いやその場にいるヒビキ達に逆に問う様に言った。

その意味を理解できなかったがヒビキだけは答えた。

 

「存在していただろう?現に崩壊はするがさっきまで居たあの世界。あれこそがお前が求めた世界であり夢物語だ。」

 

「ふっ・・・そうだな、確かに私の信じた世界は。夢は浮遊城はここに存在していたのだな」

 

「いい忘れていたな。ゲームクリアおめでとう。キリト君、アスナ君にヒビキ君。ユウキ君。さて、私はそろそろ行くよ」

 

そういうと茅場はどこかに行ってしまった。

そして4人はまた崩れる浮遊城を見る。

 

「・・・さて、もうすぐ帰れるな」

 

「ああ・・・そうだな」

 

「・・・うん」

 

「最後にお前らの本名教えろよ」

 

「ヒビキ・・・?自分から名乗る物じゃないの?それは」

 

ユウキに怒られヒビキはあの時の事を思い出す。

 

「覚えてたのかよ・・・まぁ良い。俺は雪宮響夜だ。18歳だな」

 

「響夜かぁ・・・ボクは紺野木綿季。15歳・・・かな?」

 

「私は結城明日奈。17歳です」

 

「アスナって年上だったんだな・・・俺は桐ケ谷和人。多分先月で16歳」

 

全員現実世界での名前を言い合った。

するとヒビキとユウキが居るのにも関わらず、キリトとアスナは抱き合い、キスをした。

それを見てヒビキとユウキも顔を赤くする。

 

「・・・ユウキ」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

「こっち向け」

 

「へっ?・・・んっ」

 

ヒビキに言われ、ユウキが振り向くといきなり抱き寄せられて唇を奪われた。

それに驚くもユウキはそのままヒビキに身を委ねてキスをした。

 

 

そして浮遊城が完全に崩れ終わり、世界が一気に光に飲み込まれた。

その日、SAOはゲームクリアされ、生存プレイヤーは現実世界へと帰還された。

 

 

長らく閉じていた瞼から漏れる光に反応した、響夜は目を開けた。

天井には無機質な明かりを出す蛍光灯。

そして自分の右手を目に映す。

 

「・・・帰って・・・来た・・・んだな」

 

すると響夜が愛した人物・・・ユウキの事が頭をよぎった。

 

「ユウキ・・・」

 

響夜は現実世界に帰還しているはずのユウキの所へ向かう。

自分の腕に繋がれているチューブを外して、唯一栄養を送るチューブだけを残し、その鉄棒を支えにして病室を出た。

そしてナースサービスに向かうと看護師が響夜を見て驚愕し、部屋に連れ戻そうとする。

 

「まだ歩ける状態ではないんです!お部屋にお戻りになってください!」

 

「それは・・・無理です・・・ある人に会うまでは・・・!」

 

響夜の真剣さに根負けした看護師は渋々ある人の病室へと連れていった。

そこは0523室と書かれ、下には『紺野木綿季』と書かれた札があった。

 

「ここまでで・・・良いです・・・」

 

「わ、わかりました。何かあればすぐにナースコールを押してください」

 

と言うと看護師は響夜から離れた。

一度深呼吸を置いて0523室のドアをノックした。

 

「・・・は、い」

 

「・・・!」

 

声がし、響夜は中に入る。

そこにはまだベッドに横たわりながらも入ってきた響夜を見つめる木綿季がいた。

 

「・・・やっと・・・会えたな・・・」

 

「・・・だ、ね。ごめ、ん・・・ま、だ。うまく、こ、えが・・・」

 

「それ以上・・・言わなくて・・・良い」

 

響夜に言うも木綿季の声はたどたどしく、上手く喋れていなかった。

だが、それだけを聞き響夜は制止する。

 

「初め・・・まして、俺は・・・雪宮、響夜」

 

「はじ、め・・・まして、ボク、はこん、の・・・ゆ、うき」

 

二人は自己紹介すると、ベッドから動けない木綿季を考え、響夜は少しずつ近付いて横に座る。

そして二度と離さないぐらいに出せるかぎりの力で木綿季を抱きしめた。

 

 

「ただいま・・・」

 

「おか、えり・・・なさ、い・・・!」

 

 

 




ということで《アインクラッド編》が終了致しました。
ここまでの投稿は何と一週間という馬鹿みたいな早さで書きましたが内容が薄かったですね・・・。

これ以上は活動報告にでも書きますが、読んでくださった読者の皆様方、ありがとうございました。

勿論この続きである《アルヴヘイム・オンライン編》も書いていきますので引き続き読んでくだされば有り難いかぎりです。


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《アルヴヘイム・オンライン》
帰還後の療養


はい、数時間前にSAO編完結しましたが関係なしにALO編出していきますよ!
ということでこの話からALO編突入です。


SAOから帰還した響夜は最初に待っていたのはリハビリの毎日だった。

栄養補給だけは出来ていても運動が出来ていないため筋肉が衰えていた。

まずは筋肉を元に戻すためリハビリをして最低限の筋肉を付けなければならなかった。

 

そして響夜の部屋0612室のドアをノックする女性が居た。

 

「響夜?入るわよ?」

 

反応が無いため、入ると中には誰も居なかった。

 

「あら?」

 

女性は響夜がおらず首を傾げる。

すると医師がやってきた。

 

「お見舞いですか?」

 

「はい、そうなんですが居なくて・・・」

 

「では、あそこだと思いますよ」

 

「あそこ・・・?」

 

「案内しますよ」

 

「ありがとうございます」

 

響夜の場所に見当が付いている医師はある場所に女性を案内する。

そこは0523室と書かれた場所だった。

 

「木綿季君、入りますよ」

 

「はーい!」

 

医師が中に入ると女の子と男の子がいた。

女の子はここ0523室の患者である紺野木綿季だった。

そして木綿季と楽しく話している男の子、雪宮響夜が居た。

 

「倉橋先生と・・・?」

 

「ん、誰かきてんの?」

 

「・・・響夜、病室に居ないと・・・」

 

「何だ、母さんか」

 

「へっ、この人が響夜のお母さん?」

 

「そうだよ、俺の母さん」

 

「初めまして、響夜の母親の雪宮神菜です」

 

「は、初めまして!紺野木綿季です!」

 

「・・・緊張し過ぎだろ、木綿季」

 

「だ、だってぇ・・・」

 

いきなり響夜の母が来たことに木綿季は緊張する。

それを見た響夜が言うが仕方ないと思い、諦めた。

 

「ふぅん・・・響夜、この子なの?」

 

「そうだよ」

 

「木綿季ちゃん・・・だったかしら?」

 

「は、はい!」

 

「響夜をよろしくね、この子一人にするとすぐに無理するから」

 

「それは嫌になるほど見てますから大丈夫です!」

 

神菜の頼みに木綿季は自信満々に言う。

それを聞いていた響夜はそっぽ向く。

 

「あらあら・・・響夜もしっかりしなさいよ?」

 

「わーってるよ!・・・ったく」

 

「それじゃあ、荷物替えておくから早く退院しなさいね?木綿季ちゃんの為にも」

 

「・・・あいよ」

 

と言うと神菜は病室を出て行った。

倉橋もあることを響夜に伝えるとすぐに出た。

 

「あれが響夜のお母さんなんだね」

 

「・・・まぁな。血は繋がってないけど本当の母さんだと思ってるよ」

 

「そうなんだね・・・」

 

「さて、もうすぐリハビリの時間だから行くよ」

 

「うん、頑張ってね」

 

「おう!」

 

木綿季にリハビリだと伝えて響夜は病室を後にする。

そんなのを2ヶ月近く、続けた。

 

 

2ヶ月もリハビリすればさすがに歩けるようになり、響夜と神楽は退院していた。

神楽は他の病室と違い、セキュリティが強くされていたため出ることが出来ず木綿季とは会っていない。

 

「神楽、用意できたか?」

 

「・・・」コクン

 

「よし、んじゃ車の後ろに乗りな」

 

響夜に言われ神楽は車の後ろに乗る。

一応18歳になった響夜は車の免許を取って、父親から車を一日限りだが借りることにして今日退院する木綿季の迎えに行った。

 

「母さんー!病院行ってくるー!」

 

「ええ、行ってらっしゃい、木綿季ちゃんのお迎えでしょう?」

 

「そうだよ、今日退院らしいからさ」

 

「なら家に連れて来ても良いわよ?」

 

「・・・母さん、考えが見え見え何だけど」

 

「あら・・・ふふ、それじゃ行ってきなさい」

 

「ああ、行ってきます」

 

母さんに言った後響夜は車の操縦席に座り、車のエンジンをかけた。

 

「神楽、シートベルトしたな?」

 

「・・・」コクン

 

「んじゃ行くぞ」

 

シートベルトをしたか神楽に聞いた後、響夜は車を操縦し、病院に向かった。

そこは響夜達も入院していた横浜港北総合病院だった。

響夜の家からはそう時間はかからず、車で10分ほどで到着する。

 

「さて、着いたぞ」

 

「・・・」

 

「ここで待っとくか?」

 

「・・・」フリフリ

 

「んじゃ一緒に行くぞ」

 

神楽を連れて響夜は病院内に入る。

そして響夜は受付の看護師さんに言う。

 

「面会を希望したいんですが」

 

「はい、面会希望者を言ってください」

 

「紺野木綿季です」

 

「・・・はい、分かりました、担当医がこちらに来るまでお待ちください」

 

「分かりました」

 

担当医・・・倉橋を待つように言われ、エントランスで二人は待つことにした。

 

少し待つと倉橋がやってくる。

 

「お待たせしました・・・久しぶりですね、響夜君、神楽君」

 

「久しぶりって言っても何回も来てるじゃないですか、それに神楽に至っては専属レベルですし」

 

「それは神楽君が私以外の診察を強く拒むからですよ・・・過去に何があったかまでは聞きませんが、これでは私が診察出来ない時困りますね・・・」

 

「まぁ、そうですよね・・・でも当分無理ですよ、倉橋先生だからこそ神楽は心を開いてくれたんだと思いますから」

 

「そうなのかもしれないですね、これからも神楽君の診察は任せてください。できるかぎりの事をやりますよ」

 

「ええ、お願いします」

 

そうして話していると0523室に到着する。

そして倉橋はドアをノックする。

 

「はーい!」

 

元気な声が聞こえ、倉橋はドアを開ける。

そこには荷物も詰め終わり準備が終わって待っている木綿季が居た。

 

「倉橋先生と響夜だ~」

 

「木綿季君、体の調子はどうですか?」

 

「全然大丈夫だよ!もう満足に歩ける様になったもん!」

 

「そうですか・・・今日で退院ですが、くれぐれも無茶はしてはいけませんよ。長い距離を歩ける程には治っていませんから」

 

「はーい」

 

「では、響夜君。木綿季君を任せましたよ」

 

「ええ、倉橋先生ありがとうございます」

 

「いえいえ・・・では」

 

木綿季に最後の問診をすると倉橋は病室を出て、3人だけになった。

 

「ねぇ、響夜の後ろの子は誰?」

 

「あぁ、こいつが神楽だよ。俺の妹」

 

「へぇ~・・・木綿季だよ、こっちでもよろしくね神楽ちゃん!」

 

「・・・」コクリ

 

「やっぱり・・・」

 

「ああ・・・でも気にしてやるな、本人はもう良いと言ってる。見切りを付けてるんだ、あまり言ってやるな」

 

「うん・・・」

 

神楽はあることを切っ掛けに声が出なくなっていた。

それが原因で喋ることが出来ない。

倉橋は精神的な物で治りはするが本人の意思が無ければ絶対治る事はないと言われている。

しかし神楽は治療を受けず、今の様に顔を動かして相手に伝えている。

 

「なぁ、木綿季」

 

「ん、どうかした?」

 

「家に来るか?今日じゃなくても良いけど」

 

「へっ?い、いやいきなりは・・・」

 

「母さんは構わないってさ。木綿季が良ければでいいけど・・・」

 

「ちょ、ちょっとまってね」

 

少し待ってもらうよう木綿季は言うと、携帯を操作して電話をかける。

かけた先は自分の家。

すぐに電話は繋がった。

 

『はい、紺野ですが』

 

「お母さん?」

 

『木綿季、どうしたの?』

 

「今日お泊りしても・・・良いかな?」

 

『今日退院でしょ?それに相手の子は大丈夫なの?』

 

「うん、相手の子は全然大丈夫って言ってる」

 

『その子、今変われるかしら?』

 

「う、うん・・・変わるね」

 

そういい、木綿季は電話を響夜に渡す。

 

「お電話変わりました」

 

『あなたが木綿季を泊まらせたいって言う子?』

 

「はい、そうです」

 

『今日は木綿季の退院なの。それにお宅の事をこちらは知らないの』

 

「それは分かっています。なので・・・今日娘さんをお家に帰す時に話せないでしょうか?」

 

『・・・分かったわ』

 

それを最後に電話は切れた。

携帯電話を木綿季に返す。

 

「何て言ってた・・・?」

 

「一度木綿季の家行くことになった」

 

「そうなんだ・・・ごめんね、お母さんが」

 

「良いよ、それにどんな人か会ってみたかったから・・・神楽も一緒に行くか?」

 

「・・・」コクン

 

「それじゃボクは準備できてるから行こうっか?」

 

「あいよ、木綿季荷物貸せ」

 

荷物を持とうとした木綿季だが、重そうにしていたのを気づき、響夜はそれを持って病院を出た。

車のロックを外し、後ろの席に荷物を入れて神楽を乗せる。

 

「木綿季は助手席座っても良いけど・・・どっちが良い?」

 

「じゃあ、助手席座るね」

 

響夜が助手席のロックを外すと木綿季を入れる。

そしてエンジンをかけて、木綿季の家に向かった。

 

 

 

 

車を走らせること5分ほど、木綿季が大きい建物を指差す。

 

「あの大きい家がボクの家だよ」

 

「でけぇ和風建築だな・・・」

 

「中も迷路みたいで迷うんだよー」

 

「きっつ・・・」

 

響夜が近くの駐車場に車を止めると木綿季の荷物を持って木綿季に着いていく。

 

「ただいま帰りましたー!」

 

木綿季が玄関で言うと奥から女性が来る。

 

「いらっしゃい。あなたが電話で言ってきた子ね」

 

「はい。雪宮響夜と申します」

 

「・・・入りなさい」

 

「はい・・・おじゃまします」

 

そう言われ響夜と神楽は家に上がらせて貰い、木綿季に着いていく。

そして先ほどの女性が座っている所に案内される。

 

「木綿季、座りなさい。お二人も」

 

女性に言われ、女性の前になるように座る。

 

「私は紺野裕子。この子の母親です」

 

「さっき言いましたが・・・雪宮響夜です。この子は妹の雪宮神楽です」

 

「なるほどね・・・で?木綿季、何で泊まりたいの?」

 

「ボク、SAO事件でね、この人に色々救われたんだ。ゲーム内ではあるけど結婚もして・・・それで泊まりに来るかって聞かれたからそれで・・・」

 

「響夜・・・君だったかしら?木綿季の言葉は本当でしょうね?」

 

「ええ、嘘ではありません」

 

「・・・響夜君と木綿季がどんな関係だったか私は知らないけれどここはゲームの世界じゃないの。れっきとした人間関係の積み重ねなの」

 

「お、お母さん・・・」

 

「木綿季、少し静かにしていなさい」

 

「は、はい・・・」

 

「それでね、響夜君。貴方に木綿季を本当に任せきれるか分からないの。君のことを私は全然知らないし、今初めて会うから信頼関係もない」

 

「・・・そうですね」

 

「だけど響夜君。君がどれだけ本気なのか聞きたい。生半可な気持ちで木綿季と関わっているのなら止めてちょうだい」

 

「・・・おっしゃること、反論は出来ません。ですが娘さんへの気持ちは本気です。段々一緒に居る内に彼女への想いは募っていきました。自分は、死にかけた場面がありました。ですが彼女を置いて逝けないという気持ちだけでSAO事件をかい潜りました。その気持ちは誰にも負けない・・・負けたくはありません」

 

「ふぅん・・・確かに君の想いは分かった。どれだけ木綿季の事を思っているかをね・・・。木綿季良かったわね、いい人が見つかって」

 

裕子に言われ木綿季の顔はさらに赤くなる。

湯気が出るんじゃないかというぐらい赤くなっている。

 

「・・・ぷしゅ~・・・」

 

「「「・・・」」」

 

「あ、あの裕子さん・・・」

 

「木綿季と泊まりたいのよね?なら良いわ、連れていきなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

「こんな木綿季を見れば響夜君への想いなんて丸分かりね」

 

「あはは・・・」

 

「それはそうとして・・・その子は何も言わないのね?」

 

木綿季の話を終えるとずっと黙っている神楽に疑問を持ったのか裕子は響夜に言う。

 

「神楽は喋れないんです。ある事件で声を失いました」

 

「そう・・・嫌なこと聞いたわね」

 

「いいえ、本人はそこまで気にしてない様子ですので」

 

「さて、私は仕事があるから家を出るわ。木綿季をお願いするわよ響夜君」

 

「はい、お願いされました」

 

響夜の返しの対応に裕子は少し笑うと、響夜は木綿季を抱いて移動する。

 

「それでは」

 

「木綿季、行ってらっしゃい」

 

「ひ、ひゃい、いってきまひゅ」

 

「・・・木綿季、まだパンクしてんのか・・・」

 

まだ頭の暴走が冷めていない木綿季の呂律は回っておらず噛みまくる。

その光景を微笑ましく裕子は見ていた。

 

 

パンクした木綿季を助手席に乗せると、裕子があるものを響夜に渡す。

 

「これは・・・?」

 

「何日泊まるか聞いていないからとりあえず一週間分の着替えとかのバッグよ。もっと泊まりたいと木綿季が言ったら気兼ねなくいらっしゃい」

 

「分かりました」

 

神楽も後部座席に座りシートベルトをしているのを確認した後、車のエンジンをかける。

そして響夜は自身の家に向かって車を走らせた。

 

 

 

 

 

そこまで遠くない距離だったため、10分ほどで家に着くと車を止めた。

 

「木綿季、着いたぞ」

 

「ここが響夜のお家・・・?」

 

「木綿季の家と比べると小さいけどな」

 

「ううん、充分大きいと思うよ」

 

「さて、神楽も下りてドア開けてくれ、両手塞がってんだ」

 

響夜に言われ神楽はドアを開けようとする。

しかし鍵がかかっているのか開けれずにいた。

 

「あー、鍵か・・・木綿季、悪いんだが開けてもらって良いかな?」

 

「うん、鍵穴二つ両方だよね?」

 

「おう」

 

自分の家と違うドアで一応聞いた木綿季は合っていたため、そのままドアの鍵を開ける。

 

「ただいまー、母さんー」

 

「おかえりー、ご飯できてるわよー」

 

「・・・木綿季、入って良いからな」

 

「う、うん。お邪魔しまーす」

 

木綿季が家に入ると神菜が気づいたのか聞いてくる。

 

「木綿季ちゃん来てるのー?」

 

「そうだよ、木綿季の家に行って承諾してもらってきた」

 

「ふふ、そうなのね」

 

荷物を置きに響夜は2階にあがる。

するとその間に神菜が木綿季に聞く。

 

「急でごめんなさいね」

 

「い、いえ!逆に嬉しかったというか・・・!」

 

「あら、それは良かったわ」

 

「は!はうぅ・・・」

 

神菜の誘導尋問的な事を聞かれ自分で自爆した木綿季は顔を伏せていた。

すると2階から戻ってきた響夜は料理を持っていく。

 

「ほら、照れてないで起きろ」

 

「う~」

 

「うーじゃねぇよ、勝手に自爆したくせに」

 

「えっ、聞こえてたの!?」

 

「そりゃあな、なぁ、神楽?」

 

「・・・」コクコク

 

響夜に聞かれ首を振る神楽。

それによってさらに木綿季を沈めた。

 

「ほら、もう用意できたから食べるぞ」

 

「う、うん」

 

「それじゃ」

 

「「「「いただきます」」」」

 

木綿季達が料理を食べた。

 

「美味しい!神菜さん、美味しいです!」

 

「あら、良かったわぁ」

 

「うめぇな、やっぱ久々に自分以外の手料理食うと美味い」

 

そうして4人はご飯を食べて終わると木綿季は皿洗いをしていた。

一応神菜が大丈夫と言ったのだが「木綿季がこれぐらいさせてください」と言って聞かなかったので根負けして木綿季がしている。

 

「~♪~♪」

 

機嫌が良いのか鼻歌まで歌いはじめる木綿季。

それをすべて響夜に聞かれていると知らずに。

そして食器洗いが終わると響夜が言う。

 

「随分と機嫌良いな」

 

「そうかな?」

 

「鼻歌歌ってたぞ」

 

「ふぇっ!?ほ、ほんと?」

 

「ホントだぞ、しかもノリノリで」

 

「あうぅ・・・」

 

無意識に歌っていた木綿季は知らず知らずの内に響夜に全て聞かれていた事が恥ずかしくなる。

 

「さて、木綿季の部屋何だが、実は部屋がねぇんだよなぁ・・・だから俺か神楽の部屋どっちかになるんだが、俺の方でも良いか?」

 

「うん、良いよ」

 

「んじゃおいで」

 

響夜に手を引かれ木綿季は2階にあがる。

そして響夜の部屋に入るとそこには暗い部屋だった。

 

「・・・やべ、電気切れてる・・・ちょっと待ってて、電気替えて来る」

 

「わかったー」

 

響夜は部屋の電気を取り替えている間、中に入った。

すると床にはコードが引かれており床と言っても差し支えがなかった。

そして部屋の電気を変え終わった響夜が電気を付ける。

 

「よし・・・って部屋もそのまんまか・・・悪い」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

響夜はぱぱっとコードを纏めると部屋は一気にすっきりし、綺麗だった。

 

「あのコードさえ無ければ綺麗だろ?コードさえ無ければ」

 

「だね・・・でも良いけどね」

 

「ったく・・・」

 

「ねぇ・・・響夜」

 

「ん、何だ?」

 

「良い・・・かな?」

 

「・・・もう我慢出来ねぇのかよ・・・良いよ」

 

木綿季が我慢出来ずにしていたため響夜は折れて木綿季の唇を重ねる。

 

「んっ・・・はむっ・・・」

 

されるがままにされている木綿季。

 

「んぅ・・・」

 

そして離れた頃には頬は赤く染まり、目はトロンとしていた。

 

「ふにゃぁ・・・」

 

「今はここまでしか出来ねぇっての」

 

「ボクが16歳になったら・・・?」

 

「それはそん時考える。今はまだ考える必要はないだろ?」

 

「・・・うん」

 

響夜に言われた後、体を楽にする。

そして木綿季の隣に響夜が入り、密着した形で二人はそのままぐっすりと夢の中へと入った。

 

 



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捕われた檻の中

響夜は起きると必ず朝に家事をする。

神菜は研究職で中々家に帰れず、家事は基本響夜がしていた。

SAO事件前も同じだが、最低限しか家を出なかった部分が今と違う所だろう。

 

そして響夜は自分の目からカラーコンタクトを外す。

 

「・・・変な目・・・だよなぁ」

 

鏡に写る響夜の目は金色に輝いていた。

生まれつきらしく、神楽には無かったが響夜だけが金色の目をしていた。

 

「はぁ・・・」

 

ため息を付いているとベッドから声がする。

昨日退院し、泊まりに来た木綿季だった。

SAOで散々下着姿で寝ていたので見慣れてしまったと思っていたが現実世界ではそうはいかないようですぐに目を逸らす。

 

「木綿季は無防備すぎだろ・・・」

 

「・・・んむ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

するとパソコンのメールに1件の通達があった。

何だろうと思い響夜はそれを開く。

 

差出人はエギルからだった。

そして内容には添付された画像ファイル。

それを開くと一つの画像が表示される。

 

「随分と画質が荒いな・・・ちょっとぐらいはあげれねぇかな?」

 

自分の編集技術で荒い画像を何とか見られるレベルにまでにした。

そしてそこに写っていたのは鳥かごと一人のプレイヤー。

 

「・・・こいつは・・・アスナか?」

 

そして添付ファイルの下には文章があり、「この住所に来てほしい」との文章があった。

 

「・・・なるほどな」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「木綿季、朝だぞ起きろー」

 

「んむ・・・もう朝ぁ・・・?」

 

「そうだぞ、飯食ったら俺少し出掛けるからな」

 

「ん・・・どこ行くの・・・?」

 

「エギルに呼ばれたからそこに行く」

 

「ボクも・・・行く・・・」

 

「ならまず顔洗って来い、ご飯食べたら用意するからな」

 

「ふぁい・・・」

 

響夜は木綿季を起こし、顔を洗いに行かせると1階に下りてご飯を作る。

神楽はもう起きていたようで皿の用意などをする。

 

「ありがとう、神楽」

 

「・・・」コクコク

 

少しすると木綿季も完全に目が覚めたようで椅子に座ってご飯を食べる。

すると響夜の様子がおかしいことに気づく。

 

「ん・・・?響夜、目隠してどうしたの?」

 

「んあ?あ・・・」

 

カラーコンタクトを入れ忘れていた響夜の目は黒色ではない。

それを木綿季に見られない様にしていたがばれたため仕方なく言う。

 

「黒じゃないんだよ、俺の目は」

 

「わぁ・・・満月みたいで綺麗だね」

 

「・・・褒め言葉として受け取っとく」

 

初めて自分の目を褒められ、顔が赤くなるのを感じた響夜は顔を逸らす。

そんなことをしているとご飯を食べ終わり、食器洗いを済ませた響夜は木綿季と神楽を待っていた。

 

少ししたら下りて来たため、そのまま家を出て鍵をかける。

そして合鍵を木綿季に渡す。

 

「鍵・・・?」

 

「この家の合鍵。俺が帰るの遅いときとか家入れなくなるからな。くれてやるよ」

 

「ありがとう、響夜」

 

そして響夜は自宅の自転車置場の隣に置いているバイクに鍵をかけるとエンジンを吹かせた。

 

「ん、大丈夫そうだな」

 

「これ響夜のバイク?」

 

「そうだぞ。車は父さんのを借りてただけで元々はバイク乗ってたし」

 

木綿季達にヘルメットを渡すと木綿季と神楽を乗せて出発する。

そして指定された住所・・・看板『Dicey Cafe』と書かれ、喫茶店のような所へと到着する。

 

「ここか・・・」

 

響夜はそのまま扉を開けると広々とした空間が広がっていた。

するとカウンターの所にエギル(本名アンドリュー・ギルバード・ミルズ)が居た。

 

「なんだおまえの店か」

 

「ああ、SAOん時でも言ってたろ?こっちでも店経営してるってな」

 

「そうだな・・・っと」

 

響夜はカウンター席に座ると神楽を持ち上げて席に乗せる。

木綿季も響夜の隣に座る。

 

「ん、この二人は・・・カグラとユウキか」

 

「・・・」コクコク

 

「そうだよー、こっちじゃ紺野木綿季って言うんだ」

 

二人が言うとまた扉が開き入ってくる。

 

「エギル、いつもながら寂れた店だな」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛してんだ」

 

「・・・和人か」

 

「ああ、エギルに言われて来たんだ」

 

「俺らも同じ」

 

来たのは響夜の親友、桐ヶ谷和人。

SAOでは《黒の剣士》と言われた攻略組の一人だった。

 

そしてエギルは胸元のポケットから一つの写真を出す。

 

「お前達はこれをどうみる?」

 

「うーん・・・アスナかな?」

 

「木綿季の言う通りこれはアスナだ」

 

「確証はあるのか?」

 

響夜の確定に和人が疑問を持ち聞く。

すると持ってきたバッグから一つのファイルを取り出し、カウンターに置く。

 

「これはエギルから送られてきた画像を出来る限り解像度を再構成した物だ。この姿を見て俺が知る限りアスナ以外分からん」

 

響夜が取り出した紙には綺麗に拡大された画像があった。

それはアスナにとても似ており、確証と言っていい。

 

「これは・・・どこなんだ?」

 

和人が言うと神楽が持ってきた鞄からあるものを取り出した。

 

「・・・」

 

「アルフヘイム・・・?」

 

「それはアルヴヘイムって発音するんだ」

 

エギルが発音良く言い直すそれは《ALfheim Online》と言われるゲームソフトだった。

 

「どんなゲームなんだ?」

 

「SAOと違って、完全にスキル制で自身の運動能力も影響するらしい」

 

「それじゃあSAOとあまり変わらないんじゃないか?」

 

「それが爆発的に売れてるんだ・・・それの理由は飛べるかららしい」

 

「飛ぶ・・・?」

 

「何でもフライトエンジン機能を付けてるんだとかで飛べるらしい、それとPVP推奨だとな」

 

エギルがPVP推奨と言うと響夜が興味を持ちはじめた。

響夜の戦闘狂はSAOで唯一LV100以上のプレイヤーとして象徴している。

 

「へぇ・・・エギル、プレイ機器は?」

 

「本来はアミュスフィアという物でやるらしいがナーヴギアでも動く。あれはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

そしてエギルはカウンター下からソフトを用意する。

和人はそれを受け取ると店を出て行った。

 

「俺もやってみっかな」

 

「なら二つともやろう、どうせやるんだろう?」

 

「まあな、PVP推奨とか面白そうだし」

 

「響夜・・・程々にね・・・?」

 

「はいはい、んじゃあな」

 

エギルの店を出ると車に乗って家に帰った。

 

 

そしてやることを終えると神楽は自分の部屋に入り、響夜は押し入れの中から二つの段ボールを取り出す。

 

「響夜、それは?」

 

「ん、父さんが送ってきたんだよ、アミュスフィア」

 

響夜が段ボールを開けると中からはアミュスフィアが取り出される。

もう一つのも開けると同じくアミュスフィアが出てくる。

 

「ほら、一個はお前のだ」

 

「へ?」

 

「父さんが俺と木綿季にって送ってきたんだよ、まさか本当に使うことになるとは思わなかったけどな」

 

「すごいね・・・響夜のお父さんは」

 

「あんなのただの親バカだろうが・・・まぁ嫌じゃねぇけど」

 

「ふふ、んじゃやってみよっか?」

 

「・・・少しそれ貸してくれ」

 

響夜に言われ木綿季はアミュスフィアを響夜に渡すと、ケーブルをパソコンと繋ぎ何かを弄る。

それが終わると自分のにも同じ事をして、木綿季に返す。

 

「何したの?」

 

「ん、少しな。まぁ見ればわかるようにしてある」

 

「・・・?わかった」

 

二人はベッドで横たわると手を繋いでお互いを見やる。

アミュスフィアのダウンロードが終わり、起動可能状態になるとあの言葉を口にする。

 

「「リンクスタート!」」

 

 

 




響夜はゲームに対する知恵だけは働きやすいためアミュスフィアにある細工をしています。
それは次話に明かされますが・・・。

次回はようやくALO編に本格的に入っていきます。


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《アルヴヘイム・オンライン》

響夜はアミュスフィアを装置しあの言葉を口に出す。

 

「リンクスタート!」

 

するとキャラクター設定と表示され、案内用の説明が始まる。

 

『ようこそ、アルヴヘイム・オンラインへ。ここではまずあなたのアバターの元となる種族を選択します』

 

そして表示されたのは9つの種族。

風妖精族 シルフ

火妖精族 サラマンダー

影妖精族 スプリガン

猫妖精族 ケットシー

水妖精族 ウンディーネ

土妖精族 ノーム

工匠妖精族 レプラコーン

闇妖精族 インプ

音楽妖精族 プーカ

 

 

「結構色んな種族あるな・・・幻惑魔法・・・ふむ、これにしよう」

 

響夜は幻惑魔法に惹かれ、影妖精であるスプリガンを選択する。

 

『この種族ですね、では次にお名前を決めてください』

 

名前はSAOでも使っていた『hibiki』と入れる。

 

『これでキャラクター設定は終了します。初期地は自領土に転送します。それでは妖精達の世界を存分にお楽しみください』

 

チュートリアルが終わると目の前が光り、気がつくと。

 

 

空にほうり出されていた。

 

「・・・え?」

 

それも超高度からの場所のため、地面が迫る。

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

そのまま抗えず落下するヒビキ。

そこには落ちた跡があり、大穴が空いていた。

 

「・・・幸先不安だ」

 

そしてユウキがまだ来ないため、のんびりと待っている間、システムウィンドウを出す。

右手ではなく左手で出すなどSAOとは違う部分があるようでヒビキは戸惑うが事前に仕込んだ物を確認する。

 

「出来てっかな」

 

ヒビキはアイテムストレージをどんどん漁る。

文字化けして使えないものや壊れている物があるがそれよりも優先的に見つけるものがあった。

 

そしてそれを見つける。

SAOにヒビキが使っていた『スカイナイトコート』と『ファンタジア』だった。

 

事前に仕込んでいたのはこの二つのデータをナーヴギア本体のデータベースに保存しており、それをパソコンを経由してアミュスフィアに送ってALOでも使えるようにしていた。

SAOのデータベースと違う部分があり手こずるが何とかALOのデータベースに書き換えたのだ。

 

「一応クイック装備に登録しとこう、今見られたらなんか嫌だし」

 

システムのクイック装備機能にそれを登録すると上から声がする。

 

「そこの人、どいてくださぁぁぁぁぁぁいいい!!!」

 

上から自分と同じ様に振ってきたプレイヤーが居たため、それを受け止めた。

筋力が異常なほど高いヒビキには問題なく受け止めれた。

 

「あ、いてて・・・ご、ごめんなさい!」

 

「いや・・・?なんか・・・」

 

「えっと・・・ボクに何か?」

 

そして一人称の言い方で察した。

このプレイヤーはユウキだと。

アバターもSAO時代と似ているため見間違うことが無かった。

 

「俺だよ、響夜だ」

 

「へっ?響夜?」

 

「そーだぞ、木綿季」

 

「やったぁ!すぐ近くに居た!」

 

自領土に送られると思っていた木綿季は響夜と会うのに時間かかると思っていたのだが落下先に居たためすぐに会えて喜んでいた。

 

「ったく、はしゃぎすぎな」

 

「えへへ~」

 

「さて、仕込みの説明をするからシステムウィンドウ開いてくれ」

 

響夜に言われシステムウィンドウを出そうとするが、右手で行っていた。

「左手で出せる」と言うと左手を振るとウィンドウが出て来る。

 

「次にアイテムストレージの中に文字化けがしていないものを探せ」

 

「うん、わかった」

 

次にアイテムストレージを開き、文字化けしていないアイテムを探す。

すると中に二つちゃんとした文字で書かれている物があった。

ユウキの装備である『マクアフィテル』と『ナイトリーコート』だった。

 

「あ、あれ?SAOで使ってた装備があるよ?」

 

「それが仕込みの結果。SAOのデータをALOに対応させたんだよ。その二つはユウキも気に入ってたろ?」

 

「うん、カグラちゃんに作ってもらった物だもん」

 

「次に俺も驚いたのがスキル情報なんだよ」

 

ヒビキが自分のスキルウィンドウを可視化してユウキに見せる。

そこにはSAO時代に使っていたスキルがあり、熟練度も同じだった。

 

「多分SAOの武具データを移植したとき、一気にコピーしたからそれでこの数値ぽい。この世界でも使えてる辺り、データベース自体は似ているみたいだな」

 

「そうなんだ・・・ボクのも同じだよ・・・でも見たことないスキルがある」

 

「どんなのだ?」

 

ユウキがヒビキに見せるとそこには《絶剣》スキルとかかれた項目があった。

 

「絶剣・・・SAOで言われてたユウキの二つ名だな。でもスキルとして出てるのか」

 

「うん・・・でも何も書いてなくてまだ使えないみたいなんだ」

 

「ならそれは一度置いておこう。そのうち使えるんだと思うからな」

 

「うん、わかった」

 

こうして互いの違いの確認等をすると、ヒビキはパーティーを申請する。

断る理由もないユウキは当然承認する。

 

「さて、この世界がどういう感じか見たいが・・・そういえば飛べるんだっけな」

 

「飛ぶ感じかぁ・・・」

 

「・・・飛ぶね、本来は虫とかって羽に骨があるらしいからそれをイメージするのかもな。背中に羽があると思い込んで」

 

「一度やってみるね!」

 

ユウキが羽を出すと、カサカサと動き出す。

しかし一向に飛ばないのを見てヒビキは背中を軽く押す。

するとユウキは落ちずにそのまま上昇して行った。

 

「ヒビキー!?」

 

「・・・大体わかった。ユウキ!自分には羽が生えていると仮定して背中を動かしてみろ!」

 

「わ、わかった!」

 

ヒビキに言われ、ユウキは羽のコントロールを試みる。

すると感覚を掴んできたのか上昇が止まり降下して行った。

 

「とぉ!」

 

「おぉ~、上手い上手い」

 

「でしょ~!今度はヒビキの番だよ!」

 

「あいよ、ユウキのを見て結構楽そうだったからな、すぐ終わるだろ」

 

ヒビキも羽を出すと背中の羽をイメージする。

すると動きだし、ヒビキは地面を蹴る。

 

「わぁぁ・・・!ヒビキすごーい!」

 

「言ったろ?すぐ終わるって」

 

すぐに羽の制御法を覚えた二人。

すると上に数人飛んでいくのを見つける。

 

「・・・ありゃシルフ族とサラマンダー族か。1対4って辺りシルフ族が劣勢ぽいな」

 

「ヒビキ・・・」

 

「助けたいんだろ?ならやることは一つだろうが!」

 

そういうとヒビキは一気に先ほどのプレイヤー達を追う。

それに続くようにユウキも着いていく。

 

 

 

ヒビキ達が着くとサラマンダー族が4人でシルフ族を囲っていた。

すると黒い服のプレイヤー、ヒビキと同じスプリガン族がいた。

 

「重戦士4人で女の子一人を襲うのは、ちょっとカッコよくないなぁ」

 

「あぁ?ビギナーが何の用だ?さっさと帰れ!」

 

4人のうち、リーダー格であろう人物が言う。

そして一人がスプリガンにランスで攻撃するが右手での先を掴む。

 

そしてヒビキ達も着地し、スプリガンの前に出る。

 

「囲まないと女一人も落とせねぇんのかよ、ビビりかなんかか?」

 

「ええい、ビギナーが意気がるなよ!お前らやれ!」

 

「そこのシルフの子、これって斬って良いんだっけ?」

 

ヒビキはシルフ族の女の子に聞く。

すると頷き、ヒビキは初期装備の武器を取り出す。

 

「・・・軽いが、まぁ良いだろ」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

ヒビキに突撃する一人のプレイヤーの攻撃をヒビキは受け流す。

それによって出来た隙で地面に蹴り落として叩き切る。

 

もう一人のスプリガンもそれに合わせて武器を抜いたと同時に一人を切る。

 

残り二人になった内、一人はユウキに狙いを定めると攻撃しようとするもユウキも武器を抜いて迎撃する。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

そうして一気に4人から1人になったサラマンダーにヒビキが言う。

 

「さて、まだやんの?」

 

「い、いや止めておくよ。もうすぐで魔法が900になるんだ、デスペナルティが惜しい」

 

「随分と素直だね」

 

「では、失礼するよ・・・!」

 

サラマンダーのリーダーはそのままどこかに逃げて行った。

すると全員武器を納めてシルフ族に話し掛ける。

 

「大丈夫?」

 

「え、ええ。大丈夫だけど・・・私はどうすれば良いの?あなたたちと戦えばいいの?」

 

「なんでわざわざ助けた方を襲うんだよ、それならサラマンダーに付くっての」

 

「それもそうね・・・私はリーファよ」

 

「俺はヒビキ」

 

「ボクはユウキだよ」

 

「キリトだ、よろしくリーファ」

 

自己紹介をし終えるとリーファはお礼がしたいと良い、シルフ領のスイルベーンに向かうことになった。

 

「君達さっきの凄いね、全然見えなかったよ。特にキリト君は」

 

「まぁ動き方次第じゃないか?どう動くか・・・っていう」

 

リーファとキリトが話しているキリトのポケットから小さい何かが出てくる。

 

「それはパパ自身の運動能力ですよ、このゲームは運動能力が重視されているのか、運動時の電気信号量を利用しています」

 

「へぇ、そうなのかユイ」

 

「き、キリト君?それって・・・?」

 

「ユイだよ、一応ナビゲーションピクシー?ってのに分類されてるらしい」

 

「はい!私はパパの子供何です!」

 

ユイと言う妖精がとんでもない爆弾発言を投下した。

リーファもそれに対応仕切れず、口をパクパクしている。

 

「ヒビキ・・・、このゲームって作れるの?」

 

「ユウキ。一つ言うが作れないからな。あの黒色の餓鬼が異常なだけだ」

 

「聞こえてるぞ・・・ヒビキ」

 

そんなとんでもない爆弾話題があったりして、シルフ領に到着する。

 

 

時間帯的にも現実世界は夜のため、全員宿屋でログアウトすることになり、宿屋に宿泊した。

事前にパーティーとフレンド申請は終わらせたため、いつでも連絡できる様にし、ログアウトする。

 

「んじゃあまた明日にでもな、リーファ、キリト」

 

「うん、じゃあね」

 

「ああ、じゃあな」

 

そういうとリーファとキリトはログアウトする。

ユイもヒビキとユウキに手を振って消えた。

 

「ユウキ、俺らも落ちるか」

 

「だね、お腹ペコペコだよ~」

 

「はは、ユウキはいつでもお腹すいてるだろ?」

 

「そんなことないもーん!」

 

とヒビキはこっそりログアウト準備をし、ユウキをからかうとログアウトした。

 

ユウキもそれに気づくと急いでログアウトした。

 

 

 

響夜が目を開けて携帯を見ると時間は22時。

晩御飯を食べて居ないためお腹が空くのは当然だと思った。

そしてバッグの中に入れていたファイルを見る。

それは響夜の診断結果だった。

 

「・・・これは、どうしたものか」

 

そこに書かれていたのは

 

 

 

『慢性骨髄性白血病(CML)』と診断されていた。

 

 

 



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シルフ領から洞窟へと

全然内容が思いつかず、止まりかけましたが自分は元気です。


定期的に診断を受けに行っていた響夜。

その時、倉橋からある結果を聞くことになる。

 

「響夜君、君には言わなければならないとこがありまぢ」

 

「なんですか?」

 

「率直に言うとだね、君からは病気が見つかりました」

 

「・・・何のですか」

 

そして倉橋は診断結果を響夜に渡す。

 

「CML・・・慢性骨髄性白血病です」

 

「白血病・・・ですか」

 

「治療は出来ます。また君のは慢性期ですが時間は限られていると言って良いでしょう」

 

「・・・そうですか」

 

「治療をするかは君が決めてください。僕たちには強制する事は出来ません。充分ご家族と話し合ってからにしてください」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「いえいえ」

 

響夜は診断結果をバッグにいれると部屋を出る。

だがその表情はどこか暗かった。

 

 

 

 

 

響夜は診断結果を机に仕舞うとご飯を作りに行った。

 

少しすると木綿季と神楽も下りてきていたためご飯をすぐに作ると洗濯物などを回しに行く。

 

「主婦だね、やってること」

 

「仕方ないだろ、洗濯回さないと溜まってるんだから」

 

「ボクにも何かやらせてよー」

 

「なら洗濯物をお前と神楽の分干しとけ」

 

「わかったー」

 

 

 

皿洗いと洗濯物を終えた響夜はベッドでぐったりとしていた。

 

「あー・・・疲れた」

 

「お疲れ様、響夜」

 

「おう・・・」

 

疲れ果てた響夜はベッドにいると木綿季がお疲れ様という。

一応時間はまだ余っており集合時間にも早かったが響夜はアミュスフィアを手に取る。

 

「もうやるの?」

 

「ああ、暇だしな」

 

「ボクもやるー」

 

木綿季もやると言ったため木綿季の分のアミュスフィアを渡す。

二人は顔につけるとベッドに横たわり、仮装世界へと入り込んだ。

 

 

 

ALOにきたヒビキとユウキ。

それと同時にリーファとキリトもやってきた。

 

「ん、そっちも来たのか」

 

「うん、ご飯食べ終わって暇だからね」

 

「さて・・・まずあそこ目指すか」

 

「どこを目指してるの?」

 

リーファが聞くとヒビキはあるところを言う。

 

「世界樹だよ、俺とキリトとユウキはそこを目指してるんだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ」

 

「そーだよ」

 

ヒビキ達に確認するリーファ。

それを聞き、何かを決心した様な表情を見せる。

 

「なら私も着いていく!何か目的があるんでしょ?」

 

自分も着いていくと言い出すリーファに3人は驚く。

だがここまでしてもらって良いのかと思うキリト。

 

「世界樹に行きたいんでしょ?私ならこのゲーム結構古参だから場所とかも分かるし」

 

「・・・連れていっても良いか?」

 

「俺はキリトに任せる」

 

「ボクも任せるよ、人数多い方が楽しいし」

 

肯定的な返答にキリトはリーファをパーティーに入れることにした。

 

「ありがとう、リーファ」

 

「こちらこそ、よろしくねみんな」

 

「よろしくリーファ!」

 

そうしてリーファも連れていくことになり、世界樹へ向かうべくまずは中央街のアルンを目指すことになった。

 

宿屋を出た4人。

まずキリトの武器選びのため、武器屋に向かう事になり武器を選ぶのだが。

 

「・・・軽いな、もっと重いの」

 

「・・・軽いな、もっと重いの」

 

これが延々と続き、キリトが納得する重みの剣まで何回も変えていた。

さすがにそれだけの重い武器になると大きいのか地面つきそうなぐらいだった。

 

「キリト君・・・それでいいの?」

 

「ああ、この重さでいいよ、リーファこそ払ってもらって良いのか?」

 

「良いよ、初めての餞別ってことで」

 

そういうとリーファはキリトの武器を買うとキリトに渡した。

 

「次はヒビキ君とユウキちゃんの分だね」

 

「ん・・・あぁ俺とユウキは持ってるから良いよ」

 

「どんなの?」

 

そういうとヒビキとユウキはクイック装備に登録していた装備に変更する。

 

「それってどこで買えたの?私昔からしてるけどそんなの見たことないよ」

 

「あぁ、これ作ってもらったんだ、オーダーメイドの」

 

ヒビキが説明しリーファも分かると奥から大柄なプレイヤーがリーファに話し掛ける。

 

「リーファ、パーティーはどうした?」

 

「シグルド・・・しばらくこの人達と組むことにしたから、パーティーは抜けたわ」

 

そういうとシグルドはキリトを見る。

 

「ふん、こんなプレイヤーと組むとはお前も落ちたな」

 

「元々パーティに参加するのは都合のつくときだけでいつでも抜けていいってことだったでしょ!」

 

「だがお前は、俺のパーティーの一員として既に名が通っている。理由もなく抜けられてはこちらのメンツにかかわる」

 

シグルドもリーファに言うとヒビキが見ていられないのか口を出す。

 

「パーティーってことに文句は言わねぇけど仲間を自分のファッションみたいに扱ってんなら止めとけ」

 

「貴様・・・小虫が這い回るぐらいは捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎたな!のこのこと多種族の領地まで入ってくるからには、斬られても文句は言わんのだろうな!」

 

と言うとシグルドは武器に手をかけ抜刀する。

だがヒビキはそんな物を気にかけずに言う。

 

「ここ一応領地だぞ?いくらお前でも無抵抗の相手を殺せば何かしら言われるとは思うけどな」

 

「そうだよ、そんな方法じゃないと相手を見下せないなんて馬鹿みたい」

 

ヒビキとユウキによってシグルドは忌ま忌ましく見つめた後、剣を納める。

 

「せいぜい外では逃げ隠れることだな、リーファ。いま俺を裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ」

 

そういうとシグルドはどこかに去って行った。

リーファは3人に向かうと頭を下げる。

 

「ごめんね、3人とも・・・」

 

「いや気にしてねーし良いよ」

 

「俺も気にしてないからいいよ」

 

「ボクも気にしないからさ、頭上げて?」

 

ユウキに言われリーファは下げていた頭をあげる。

 

「申し訳ないと思ってんならさっさと連れていけ」

 

「わ、わかったわ。んじゃあ一度この塔の上に行きましょう」

 

ヒビキに言われリーファは3人を連れていくべくシルフ領の1番高い塔に昇る。

 

「なんで上に行くの?」

 

「普通に考えても飛距離を稼ぐなら高いところからのが少しでも飛べるからだろ?」

 

「うん、ヒビキ君の言うとおり高いところからなら遠くに飛べるからだね」

 

リーファが塔に行こうとするとまたリーファに声をかける物が居た。

 

「リーファちゃーん!」

 

「うげ・・・レコン・・・」

 

その人物に声をかけられあからさまに嫌そうな顔をするリーファ。

 

「リーファちゃん、あのあと大丈夫だ・・・った・・・?」

 

レコンはキリト達を見るや否や武器を抜いてリーファの前に出る。

 

「な、なんでスプリガンとインプが・・・?」

 

「ちょレコン!この人達は私を助けてくれたの!危害加えたら承知しないんだからね!」

 

「へっ・・・?この人達が?」

 

そういうとレコンはキリトとヒビキを見る。

キリトは普通にしていたが、見られるのが苦手なヒビキは少しいらっとしている。

するとレコンは武器を納めるとキリト達に向かって謝った。

 

「ご、ごめんなさい!疑ってしまって!」

 

「別にいいよ、リーファの事考えてだろ?」

 

「は、はい・・・」

 

「ちょレコン!?キリト君違うからね?全然そんなことないからー!」

 

レコンの発言でキリトとユウキはニヤニヤとリーファを見る。

それを全力で否定するリーファだが反応で大体察したのであった。

 

 

 

 

塔から飛んでいる4人。

リーファの飛行速度に当然の如く追いつく3人にリーファは驚くも限界の早さまでで飛んでいた。

 

「一旦あそこの森に着陸しよう!」

 

「あいよ」

 

リーファが下に降下するとそれに続いて3人も下りる。

 

「時間的には・・・夜か」

 

「うん、だから一度ローテしようかなって」

 

「ローテ?」

 

リーファから初めて聞く単語に2人は困惑する。

 

「キリト・・・お前一応廃人ゲーマーだろうが、なんで知らねぇんだよ・・・」

 

「ヒビキは分かるの?」

 

「そりゃあな。俺がやってたゲームじゃ一人が戦って一人が回復みたいな事をしてたし。ALOでは中立マップは完全にログアウト出来ないんだろ?」

 

「ヒビキ君の考えで大体あってるよ。ここじゃログアウトすると中身が抜けてアバターが残っちゃうからそれを守るためにログアウトローテをするの」

 

「へぇ・・・んじゃ先にリーファがしてきたらどうだ?」

 

「じゃあお先に失礼するね」

 

そういうとリーファはログアウトし、抜け殻のアバターが残された。

 

「俺も飯作るから一旦出るわ」

 

「ああ、わかった」

 

その後ヒビキもログアウトし、キリトとユウキが残された。

 

「ねー、キリト」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「ヒビキの目って見た?」

 

「目?黒色じゃないのか?」

 

「んー、見てみたら分かるよ、ALOでも一緒みたいだから」

 

「そうか、今度見てみるよ」

 

そんな他愛もない話を二人が帰ってくるまでしていた。

 

 

 

 

「んあ・・・ねっむ」

 

響夜が戻ると時間は8時だった。

 

「・・・やば」

 

急いで台所に下りると机にご飯が置かれていた。

そして置き手紙があり、そこには。

 

『あんまりやり過ぎたら駄目だよ。あと私はしばらくソロでのんびりしてるからユウキと二人で頑張ってね』

 

と神楽が書き残していた。

 

「・・・またお礼言っとこう」

 

そういうと作ってくれていたご飯に手をかけ、食べる。

しばらく神楽のご飯を食べていなかった響夜は意外にも美味しかったからかすぐに食べ終わると食器を片付けてまたアミュスフィアを付ける。

 

「はー・・・、リンクスタート!」

 

 

 

 

 

ユウキとキリトが話しているとリーファが戻ってきたようだった。

 

「ただいま」

 

「おかえりー!」

 

「おかえり。んじゃ俺も食べて来る」

 

リーファと入れ代わりで今度はキリトがログアウトする。

そしてヒビキも返ってきていた。

 

「ういー」

 

「おかえり、早かったね」

 

「ん、妹が作ってたからな。ユウキも食べてこいよ」

 

「んじゃボクも食べて来るねー」

 

そういうとユウキがログアウトし、アバターが倒れそうになるのをヒビキが受け止めた。

 

「ねぇ、ヒビキ君」

 

「ん?」

 

「ユウキちゃんとは・・・どういう関係なの?他人から見ても普通・・・って感じじゃないし・・・」

 

「ん~、ユウキとねぇ・・・」

 

リーファに言われヒビキは思い返していた。

初めてユウキと会ったのはあのデスゲームの初日。

死ねば現実世界でも死ぬと言われた時、ユウキは影で泣いていた。

思えばあの時に話しかけなかったら今の関係は無かったのだろうと思っている。

 

「少なくとも言えるのは大事な人・・・だな、誰にも変えられない存在・・・って感じだ」

 

ヒビキからの話をリーファは興味深そうに聞いていた。

 

「そ、そうなんだ・・・じゃあユウキちゃんの事って・・・」

 

「好きだぞ?」

 

ストレートに言ったヒビキにリーファは顔が赤くなるのを感じた。

自分に言われているわけでもないのにも関わらず。

 

「す、すごいね・・・そんなに直球で言えるのって」

 

「それだけユウキには感謝もしてるんだ」

 

「感謝・・・かぁ・・・」

 

「そういうリーファはどうなんだ?」

 

「へっ?」

 

ヒビキにいきなり聞かれ変な声を出すリーファ。

 

「リーファは居ないのか?そういう人は」

 

「うーん・・・」

 

「何を話しているのですか?」

 

リーファが言い悩んでいるとキリトのポケットから小さな妖精が出てきた。

ナビゲーションピクシーのユイだった。

 

「ああ、好きな人はいるのかって聞いてた」

 

「なるほどです、ヒビキさんは居るんですか?」

 

「ん、居るぞ?」

 

隠しもせず素直に言うヒビキを羨ましがるリーファ。

そしてユイはあることを聞く。

 

「ヒビキさん、好きっていうのってどういう感じなのですか?」

 

「んあ・・・好きっていうのかぁ」

 

まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったヒビキ。

それを察してリーファが言う。

 

「好きって言うのはね。いつでも一緒にいたい、一緒にいるとドキドキしたり、ワクワクする、そんな感じかな?」

 

「うーん・・・ユイには難しいのです・・・」

 

リーファの答えにユイは良く分からなかった。

だがある行動で示した。

もぬけの殻になっているキリトの頬にキスをした。

 

「好きという感情は良くわかりませんでしたが、一緒に居たいやドキドキワクワクは何となくですが分かります。でも私は単純かつ簡単な方法で伝えれば良いのです」

 

ユイの突然の行動にリーファは顔を赤くする。

ヒビキもそんなものを見ていると目を閉じたユウキの頭を少し撫でた。

 

 

そうして話しているとキリトのアバターが動いた。

どうやら帰ってきたようだった。

 

「キリト早いな」

 

「ああ、家族が作ってくれてたんだ」

 

「たっだいまー!」

 

「あがっ・・・」

 

ユウキが戻って体を起こすとヒビキの顎にクリーンヒットした。

一応ユウキはヒビキに受け止められていたため、体を起こせばヒビキに当たるような感じだったのだ。

それを知らないユウキはヒビキに当たってしまった。

 

「ヒ、ヒビキ!?ごめん・・・」

 

「だ、大丈夫・・・大丈夫だから・・・」

 

何とかユウキを静めたヒビキ。

その後の行動をリーファに聞いた。

 

「リーファ、次はどうするんだ?」

 

「次はこの洞窟を抜けるんだけど・・・」

 

「飛んじゃダメなの?」

 

「この山が飛行の限界高度以上にあるから飛んでは行けないかな・・・」

 

「じゃ、入れば良いか」

 

リーファが飛んでいけない事を言うとヒビキは全速力で洞窟の中へと入る。

 

「ちょ、ヒビキ君!?」

 

「ヒビキ、待ってー!」

 

「はぁ・・・」

 

自由なヒビキに3人はヒビキを追い掛けるべく洞窟の中へと入って行った。

 

 

 

 

だが先に進んだヒビキの表情はどこか暗い表情をしていた。

 

 

 

 



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戦闘狂は火妖精を蹴散らす

UA5000を突破しました。
閲覧してくださった方、ありがとうございます。
これからもご愛読よろしくおねがいします。


「はぁぁぁ!!」

 

3人を置いて先に進むヒビキ。

途中モンスターもいたが通り魔の如く切り裂いて突き進む。

すると誰かに見られている感覚がした。

 

「・・・ち、気味わりぃな」

 

ヒビキは回りに何かいないか探すと天井に赤い蝙蝠がいた。

 

「・・・一応斬っとこう、嫌な感じがする」

 

情けの一つもかけずに赤い蝙蝠を切り裂いたヒビキ。

すると3人が追いついたのか声が聞こえる。

 

「ヒビキー!」

 

「ん・・・ユウキか」

 

声の主はユウキだった。

全速力のヒビキの早さはユウキが1番分かっておりそれはSAOからの付き合い。

キリトやリーファなんかよりもいち早くヒビキの元に向かっていた。

 

「置いてっちゃうなんて酷いよ!」

 

「あはは、悪い悪い」

 

「むぅー!」

 

あらかさまに怒ってますという感じを出すユウキだがヒビキはそれを気にかけず、ユウキの頭を撫でる。

 

「よしよし」

 

「ふへへ・・・」

 

だらしのない声をあげたユウキだが、ヒビキが何かに気づくと止めて先の通路を警戒する。

 

「・・・やっぱ何かあるな」

 

「・・・?」

 

ヒビキが警戒しているとユウキの後ろから声がする。

足音的にも二人でキリトとリーファだろうとヒビキは思った。

 

「ヒビキ君ー!」

 

「ヒビキー!」

 

「ん、やっと来たんだね二人とも」

 

「ユウキが早すぎるだけだ・・・」

 

「そ、そうだよ・・・二人とも早すぎ・・・」

 

ユウキとヒビキを追い掛けた二人だが息を荒くしていた。

それだけ走っていたのだろう。

 

「リーファ、さっき妙なものを斬った」

 

「え?・・・一応聞くけどどんなの?」

 

「赤色の蝙蝠」

 

「それってサーチャーだよ!赤色ってことはサラマンダーの追跡魔法ってことになる!」

 

「なるほどな・・・てことはここじゃ場所が悪い、先に進んでみるか」

 

リーファが教えてくれるとヒビキはまたもや先に進もうとする。

だがユウキが肩をがっしり掴んでいた。

 

「ヒビキ・・・?先に進まないでみんなで行こう?」

 

「・・・だって戦えねぇじゃん」

 

ヒビキが先に進んだ理由は主にモンスターと戦いたいというだけで全速力で進んでいた。

その返答に3人とも苦笑いする。

 

「てことで、先進むわ」

 

「って待ってよヒビキー!」

 

全速力でまたもや走って行ったヒビキをユウキがまた追い掛けて行った。

キリトとリーファはまた走って疲れるのだろうと思ったらしい。

 

 

 

 

ヒビキが突き進んでいると広い空間に出た。

 

「んあ・・・ここがルグルー回廊ってとこか?」

 

「ヒビキ・・・早いってばぁ・・・」

 

「別にキリト達と一緒に行けば良いだろうに・・・」

 

「それだとヒビキ絶対無茶するじゃんか!」

 

「・・・はいはい、分かりましたよー・・・」

 

ユウキの言い分に思い当たることしかないヒビキは渋々ユウキの事を聞いた。

 

「ん・・・?」

 

「どうかしたの?」

 

「・・・ユウキ、俺の後ろ下がれ」

 

「へ・・・?う、うん」

 

ヒビキに言われ後ろに下がるとヒビキが武器を持っている反対の左手を挙げた。

すると武器が少し淡く光る。

 

「ヒ、ヒビキ・・・?」

 

するとヒビキの近くに半透明の剣が出てくる。

SAO時代に使っていたユニークスキルの《幻想剣》だった。

 

「こそこそと・・・うっぜぇんだ、さっさと出てこいよ!」

 

ヒビキが少し切れ気味に言うと空から赤い服を着たプレイヤー・・・サラマンダーの部隊が下りて来る。

 

「ふん、俺らの《隠蔽》を見破るとは良い索敵だな」

 

「うっせ・・・で?何の用だよ」

 

「アイテムと装備全部置いていけ。それなら危害は加えないで居てやろう」

 

偉そうに踏ん反り返っているサラマンダーのリーダー格がヒビキ達に言う。

それが少し怖かったのかユウキはヒビキの服を摘む。

 

「ヒビキ・・・」

 

「大丈夫、おとなしく見てな」

 

「う、うん」

 

ユウキを安心させるべく、落ち着いた声で言うとサラマンダー達を警戒する。

するとキリト達も追いついたようだった。

 

「ヒビキ、ユウキー!」

 

「って、キリト君それ以上は!」

 

サラマンダーの事を気づいていなかったキリトは全速力でサラマンダーの部隊に突っ込む。

 

「・・・小僧、死にたいらしいな」

 

それがカンに障ったのかリーダー格がキリトとリーファにも敵意を向ける。

 

「キリト!裏取りしっかりやれよ?失敗したらあらぬ事を嫁さんに言い付けてやるからな!」

 

「はぁぁ!?駄目に決まってんだろう!」

 

それが合図となったのか二人が一気に部隊へと突っ込む。

だが、キリト側にタンクが固まって居たのか盾に阻まれていた。

攻撃が盾に阻まれ隙が出来たキリトに火属性の魔法を当てていく。

 

「キリト君!今、回復するね!」

 

リーファはキリトに回復呪文を唱えるとキリトのHPが回復する。

するとキリトはリーファのあることを言う。

 

「リーファ、君の腕を疑っているわけじゃないんだけど、ここは俺だけに任せてくれないか?出来れば回復とかに回ってくれると俺も全力で戦える」

 

「・・・わ、わかった。私はキリト君のサポートの回るね」

 

サポートに回ってもらったキリトはまた相手にへと立ち向かって行った。

 

 

その頃ヒビキは予めだしていた幻影剣を上に向かわせて相手に気づかれないようにしていた。

 

「さて、と・・・ちゃっちゃとやりますか」

 

《隠蔽》を最大限にし、近づける所まで近づくと隠蔽を解除する。

相手からするといきなり現れた様に見えたらしく、驚いて尻餅をついた。

 

「・・・根性ねー奴」

 

そういうと無慈悲に体制を崩したプレイヤーを斬ると一気に突っ込む。

だが、タンクが居たのかそれに阻まれ、止まってしまう。

 

「・・・意外にも固いな、お前さん」

 

「そういうあんたも中々だな!」

 

「しゃーねぇなぁ・・・あんま使いたくはないが・・・」

 

ヒビキは腰に装置していた短剣を取り出すと片手剣を納めた。

そして全速力で相手の目の前に移動すると短剣を思いっきり振る。

 

「ひっ・・・!」

 

それに怖じけづいたプレイヤーは盾で短剣を防いでしまう。

それの隙を見逃さなかったヒビキは後ろに回ると片手剣を刀の様に使い、抜刀して切り倒す。

 

ヒビキ側が粗方片付くとキリト達が終わるのを見ていた。

キリトもキリトで戦いは好きな方なのを知っていたヒビキは邪魔をせずに見ていた。

 

「盾5人も回ってんのか・・・そりゃあキリトでも苦戦してるわけだな」

 

ヒビキ側にはタンク3人、メイジ2人と随分舐められていたためか、あっさりと終わってしまっていた。

 

 

キリトは苦戦を強いられ、HPが削れるとリーファに回復してもらう・・・これの繰り返しだった。

 

「くっそ・・・何か、何か手があれば・・・!」

 

「もういいよ、キリト君!一回死んでまた来たら良いから!」

 

「駄目だ!」

 

「っ!」

 

キリトが強く言うとリーファは黙った。

キリトはSAOから変わっていなかった。

SAOのデスゲームは死ねば現実でも死ぬというゲームではあるがゲームではないという所がキリトを変えた。

キリトの信念はパーティーメンバーを誰一人として殺させない。

それはあることが起きてからずっと変えずに押し通していた物だった。

 

だが、劣勢であることに変わりはなく、キリトはこの状況をどうにか打破出来ないか考えていた。

そして何を思ったのかヒビキの方を見るとあるものを示していた。

 

(魔法・・・?)

 

SAOと違いALOは魔法が使える。

スプリガンの得意魔法は幻惑と言った物を得意とする。

するとキリトはリーファに言われ一つだけ辛うじて覚えていた魔法を一か八か使って見ることにした。

 

「リーファ!少しだけ時間を稼いでくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

キリトと入れ代わったリーファは何か思いついたのだろうと思い、キリトを信じた。

するとユイがポケットからキリトに合図をしていた。

 

「パパ!今です!」

 

キリトがそれに合わせて魔法を唱え終わると巨大なモンスターへと姿を変えた。

見た目は巻き角を持ったバフォメットもどきだった。

 

「へぇ・・・自分の姿を偽る魔法か。まぁ俺には何故か効いてねぇけど」

 

ヒビキからみるとただキリトが何かしているとしか思えてなかったが、サラマンダー達には効果的だったようで、化けたキリトを見ると否や逃げ出して行った。

だがそれを許すキリトではなかったため、逃げようとする者から倒して行った。

 

「キリトー!一人は残せ!」

 

ヒビキの言葉が理解できたのか、最後の一人だけを残すと残りは全て倒して行った。

 

 

魔法が解けるといつものキリトに戻った。

 

「キリト君・・・今の何?」

 

「・・・なんか適当に考えてたら出来た」

 

「へ、へぇー・・・」

 

すごい姿に変わったキリトに何とも言えなかったリーファ。

そして一人だけ残されたサラマンダーはヒビキに捕縛されていた。

 

「さて・・・お前様よ」

 

「な、なんだ!」

 

「・・・取引をしないか?」

 

ヒビキの行動に2人は首を傾げる。

一体なんの取引をしようとしているのかと。

 

「さっきの戦闘で手に入ったのを全部流してやるからなんでこんなことしたか言え」

 

「ほ、ほんとにくれるんだな?」

 

「あぁ・・・取引に嘘は言わん」

 

そういうヒビキは悪いことを考えていると丸分かりだった。

それを見ていたユウキ達は思う。

男は身も蓋も無いと。

そしてこの事を分かるかぎり教えてくれたため、入手したアイテム等を全て渡すとどこかへ去って行った。

 

「よし、ある程度搾ったし続き行くか」

 

ヒビキとキリトはやり遂げたような爽やかな顔で言う。

それを見ていた二人はやっぱ身も蓋も無いと思っていると、リーファがメッセージを受け取る。

 

「ん、メッセージ・・・?誰からだろう」

 

メッセージを確認していたリーファは読んでいると段々と険しい表情となる。

 

「・・・何かあったらしいな」

 

「ふぇっ!?な、なんで分かったの?」

 

「険しい表情になっていたのと、ダチが興味深い物を伝達してくれたからな」

 

ヒビキの言うことにリーファは合っていた。

送られてきたメッセージには、シルフ領主とケットシー領主が同盟を組む物だが、そこにサラマンダーの大軍が迫っているとのこと。

 

「・・・私少し用事が出来ちゃったから・・・世界樹には着いて行けない・・・」

 

「ヒビキ、ユウキ良いか?」

 

「ああ、手間が一つ増えただけだしな」

 

「ヒビキが行くならボクも行くよ」

 

「なら決まりだ、リーファ」

 

「・・・え?」

 

「俺らも着いてくってことだ、どちらにせよリーファには恩があんだ、返させろってことにしろ」

 

「分かった、一応言うね・・・さっき、メッセージでシルフ領主とケットシー領主が秘密裏に世界樹攻略の同盟を組むみたいなんだけど、それを妨害しようとサラマンダーの大軍が来ているみたいなの。だから、私は世界樹には行けない」

 

一緒に行けない事に申し訳なくしているリーファ。

だが、3人は既に手伝うことを決めていた。

 

「だったら俺らも行くよ、リーファ的には妨害されたくねぇんだろ?」

 

「う、うん。領主が討たれるとね、領主下に蓄積されている資金の3割を入手できて十日間街を占領して自由に税金をかけられるの。だから領主を討つメリットは大いにあるの」

 

「だったら早く行かないと間に合わないかもだよ!」

 

ユウキの言葉は合っており、早く行かなければ領主が討たれる可能性が出てしまう。

それを思ったのかヒビキはキリトに目で合図する。

 

「リーファ、手を」

 

「へ?う、うん」

 

「ユウキも」

 

「わ、わかった」

 

キリトはリーファ、ヒビキはユウキの手を取るとキリトが先に突っ込んだ。

 

キリトはリーファの手を取るとこいのぼりのようになびかれながら進み、ヒビキもユウキをお姫様抱っこするとキリトに続く。

 

「ヒ、ヒビキ!?」

 

「大人しくしてろ、落ちても知らんぞ」

 

「あ、うぅ・・・」

 

ヒビキに言われ大人しくしたユウキだが、女の子としては憧れのお姫様抱っこをされ、顔を隠し恥ずかしがっていた。

 

 

洞窟を数分で駆け抜けるとそのまま飛行して場所へと急ぐ。

 

「き、キリト君、ここからは自分でも飛べるから・・・!」

 

「ん、そうか。んじゃ下ろすぞ」

 

リーファが羽を出したのを見るとリーファを下ろす。

ユウキも降ろしてほしいと言っていたが、ヒビキからすれば遅いと思っており、すぐさま却下された。

 

 

 

 

少しするとサラマンダーの大軍が見えてきた4人。

それを見たリーファはシルフの領主へと飛んでいく。

それに続くように3人も追った。

 

「サクヤ!」

 

「リーファ!何故ここに?それにその3人は・・・?」

 

「今は説明してる暇がないから簡単に言うとこの調印式はこの人達にかかってる」

 

シルフの領主であるサクヤはリーファとともにきた3人を見る。

そしてユウキを降ろすとヒビキが大声でサラマンダーに言う。

 

「双方、剣を引け!」

 

ヒビキの声で全員は剣を一度静める。

するとキリトがサラマンダーに向かって言う。

 

「この大軍の指揮者と話がしたい!」

 

「・・・後は頑張りな」

 

「ああ、任せろ」

 

ヒビキはキリトに小声で言うと後ろに下がり見ていた。

そして大軍の中から一人のプレイヤーが前に出てくる。

 

「あれは・・・ユージーン将軍・・・!」

 

「ユージーンってあのALO最強の!?」

 

「小僧、俺と話があると?」

 

「ああ!俺はスプリガン・ウンディーネ同盟の大使だ!今ここで俺達と戦うとウンディーネをも敵に回すことになるぞ!」

 

キリトはそういうが、これはまったくの嘘であり、相手の交渉として使うため嘘をついたのだ。

 

「貴様が大使だと・・・?その割にはウンディーネは居ないようだな」

 

「なんならインプとも一戦交えるか?」

 

ヒビキはユウキがインプ族なのを利用した。

さすがにインプがいることが決定打となったのか二人を鋭い眼光で見つめる。

 

「・・・黒のスプリガンよ、貴様が大使だと言うのなら30秒間俺の攻撃を耐えてみろ」

 

「ああ、分かった!」

 

キリトが言うとユージーンは武器を抜く。

その武器を見てサクヤが驚愕する。

 

「あ、あれは魔剣グラム・・・!」

 

「魔剣!?」

 

そんなことお構いなしにユージーンはキリトを切ろうとする。

キリトも武器で防ごうとするが武器がすり抜ける。

魔剣グラムの《エクストラスキル》『エセリアルシフト』と呼ばれる効果だった。

武器や盾で攻撃を防ごうとするとグラムが透過するという凶悪じみた性能だった。

 

「ぐっ・・・!」

 

それを見ていたヒビキ。

そして自分の武器を抜く。

 

「ヒビキ・・・?どうしたの?」

 

「なぁに・・・キリト!」

 

ヒビキに呼ばれキリトは煙幕魔法を焚く。

そしてヒビキから武器を受け取ったキリト。

ユージーンは武器を振るうと煙は晴れるが、キリトの武器を見る。

 

「ほう・・・」

 

ユージーンはまたもやキリトを切ろうとする。

キリトはそれを武器で防ぐが、1本目が通り抜けるが、ヒビキから借りた武器は問題なく受け止めた。

 

「なっ・・・!」

 

「さぁ、ここからだ!」

 

そこからはユージーンが劣勢となっていき、キリトはあの技を繰り出した。

 

「・・・二刀流か、模写でも凄い再現度だな」

 

「あれが二刀流・・・?でもソードスキルはないんじゃ?」

 

「あれはただ二刀流を真似ているだけだな、体に染み付いてるんだろ、二刀流の動きを」

 

キリトはSAOで使っていた《二刀流》スキルの上位スキル『スターバーストストリーム』をただあの時のように自分の技術で再現した。

その勢いでユージーンをどんどん攻撃していくと、最後の一撃でユージーンを倒し斬る。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐおぉぉぉぉ・・・!?」

 

サラマンダーの大軍もユージーンがやられたことに驚きと困惑を隠せていなかった。

そしてキリトは終わるとヒビキに武器を返した。

 

「ヒビキ、ありがとう」

 

「なーに、二刀流じゃないとやりづらそうだったからな」

 

「ああ、じゃなければ負けていた」

 

それを見ていた領主二人。

 

「見事、見事!」

 

「すごいね、ナイスファイトだよ!」

 

そしてユージーンを復活させると、今度はヒビキに向き直る。

 

「小僧、お前にも相手をしてもらいたい」

 

「・・・へぇ?俺に相手をしろってか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「条件として空中戦は禁止だ、あとこっちは持てる手段全て使うぞ?」

 

「良いだろう」

 

ヒビキの条件を飲んだユージーンは少し距離を取る。

そしてヒビキも離れるように言うと、武器を抜かずにいた。

 

「じゃあ、このコインが落ちたら始まりな」

 

ユージーンが頷くと、ヒビキはコインを上に弾く。

そしてそれを見ていた回りのプレイヤーは息を飲む。

これからいったいどんな決闘が始まるのだろうと。

 

「ヒビキ、勝ってね!」

 

「とーぜん」

 

ユウキの応援にヒビキは更にやる気が出たようで、コインが落ちるのを見ていた。

 

 

そしてコインが地面に落ちた瞬間、ヒビキはユージーンの目の前から消える。

 

「むっ・・・どこだ・・・」

 

「さあな、どこだと思う」

 

「・・・!?」

 

ユージーンが気がつくと自分の後ろに回っていたヒビキに驚き、武器を振るう。

 

「良い反応だな、面白そうだ」

 

ヒビキは内心ユージーンとの戦いを楽しんでおり、武器を抜かないのは相手の手の内を探る事だった。

どういう攻撃を繰り出すかを如何に観察して見切ることがSAOでのヒビキを対人最強の繋がりでもあった。

 

「さて、俺も武器を出すか・・・」

 

大体の動きを覚えたヒビキは自分の愛剣『ファンタジア』を取り出すとユージーンの攻撃を受け止めた。

 

「なっ・・・!?」

 

「エセリアルシフトだっけか?俺の武器にはそういう効果消し飛ばすから意味ねぇな」

 

「なるほど・・・それは面白い武器だな」

 

「だろ?これ以上にすげぇのあるけどなぁ!」

 

ヒビキはあの戦法を出し惜しみをせず使う。

腰の短剣を片手剣と入れ替えると、ユージーンから距離と取る。

それを警戒するユージーンに向かって目の前に現れる。

 

「またその方法か!」

 

「だといいな」

 

そして短剣を思いっきりユージーンの顔に向けると1本は通り抜ける。

しかしグラムが止まった。

 

「2本目入れてあんだよ、その武器って武器を1本しか持たない相手には有効だが効果が分かってんだ、対処するだろ?」

 

「ふん!・・・」

 

ユージーンが短剣を弾くと短剣から手を離し、ヒビキはがら空きのユージーンの腹を上に向かって蹴り飛ばす。

 

「ぐはぁ・・・!」

 

「てめぇがこの世界で初めて使う相手だ、しっかり沈めよ!」

 

ヒビキが言うと、ファンタジアを引き抜いて《幻想剣》スキルを発動させる。

そして100連撃『ディレベル・メテオ』をユージーンに向かって武器を振りつづける。

それだけで不可視の攻撃でユージーンのHPを削る。

そして70連撃辺りでHPが0になり、ユージーンが炎の様な状態となる。

それを確認したヒビキは、武器を改めて振ると鞘に納めた。

 

「見事、見事だ!」

 

最初に声を挙げたのはシルフ領主のサクヤだった。

それに続くようにサラマンダーからも拍手や喝采などが来る。

 

「・・・知れてるだろあんな決闘」

 

「ううん、そんなことないよ!ヒビキすっごくかっこよかった!」

 

「・・・ならいいけど」

 

ユウキにかっこいいと言われ照れるヒビキ。

そしてケットシーの領主がやってくる。

 

「凄いよ!ユージーン将軍をあんなにあっさりと倒しちゃうなんて!」

 

「まぁ、弱くはなかったしな・・・良い相手だった」

 

ヒビキが言うとユージーンがまた形を現わす。

復活がされたようで、武器を納めていた。

するとサラマンダーの一人がユージーンに言う。

 

「・・・ほう、そういうことにしておこう」

 

そのサラマンダーはリーファを見た後、ユージーン達はどこかへと飛び去って行った。

 

 

 

そしてキリト達。

 

「いやはや・・・凄いな君達は」

 

「ねぇキミ、スプリガンとウンディーネの大使ってホントなの?」

 

「もちろん大嘘だ!ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション。手札がしょぼい時はとりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」

 

とキリトは先ほどの大使だということを嘘だと伝えるとヒビキも同じく言った。

そしてサクヤがケットシーの領主にあることを頼んだ。

 

「アリシャ、月光鏡をお願いできるか?」

 

「今は夜じゃないから長くは出来ないよー?」

 

アリシャと呼ばれたケットシー領主は魔法を唱えると鏡のようなものが現れた。

そしてそこに写し出されたのは昨日の夜リーファ達を忌ま忌ましく見ていたシグルドだった。

 

「やあ、シグルド」

 

「なっ、サクヤ・・・!生きて居たのか」

 

「ああ、元気に生きているよ。それと君にユージーン将軍がよろしく・・・と言っていたよ」

 

「ぐ・・・」

 

「そんなにシルフ族でいるのが耐えられないなら、その望みをかなえてやることにしたよ」

 

サクヤはウィンドウを操作する。

それをシグルドが抗議していたが無視し、シグルドのシルフ権限を消し去る。

 

「そのままレネゲイドとしてさまようといい。そこに新たな楽しみが見つかると事を祈るよ」

 

そう言い残すとアリシャに「もう大丈夫だ」と言い月光鏡を閉じた。

そしてサクヤはキリトの腕に抱き着く。

 

「キリト君・・・と言ったかな、どうだい?うちのところで働くのは」

 

そしてヒビキにはアリシャが抱き着く。

 

「君の腕を見込んでうちの傭兵をしてくれないかな?給料は3食おやつ付きだよ!」

 

「あ、あぁ・・・でもせっかくのお誘いは有り難いけど俺には相手がいるから無理だ、悪い」

 

「そっかぁ・・・いつでも募集してるからね!」

 

そんなアリシャとヒビキの会話を聞いていたユウキは顔を伏せていた。

それに気付いたヒビキはユウキの頭を撫でながら耳打ちする。

 

「後でリアルでな?」

 

「・・・っ??」

 

その意味を理解できなかったユウキは困惑するがヒビキは移動しており聞けなかった。

そしてリーファがサクヤにあることを聞く。

 

「ねぇサクヤ、世界樹攻略に私達も参加させてほしいの」

 

「それは・・・願ってもない事だが・・・良いのか?せっかくの自由なのに」

 

「今はこの人達を手伝うことにしてるから、それには世界樹攻略が不可欠なの」

 

「ん~でも、まだまだお金が足りなくて準備には時間が・・・」

 

アリシャが言うと目の前に大きな袋が出現する。

 

「そんだけ金ありゃ足りるだろ」

 

それはヒビキが必要最低限の金額を残し全て出したお金だった。

金額は25万ユルドで充分過ぎる量だった。

 

「い、良いのか?」

 

「今は必要ねぇし、要るときは集めりゃ良いだけだろ」

 

「うん、これだけあれば充分準備が出来るよ!」

 

アリシャが見繕い、金額に足りると言ったため、早速準備を行うらしい。

 

「さて、3人とも!今日中にアルンに向かうよ!」

 

「うーい」

 

「分かったー!」

 

リーファに言われ3人は羽を出す。

そしてリーファも出すとサクヤにお礼を言うと世界樹の下に広がる街、アルンへと向かって行った。

 

 

 



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見つけれないモノの結末

アルンに着いたキリトとリーファは宿屋でログアウトしていた。

しかしヒビキとユウキはまだ宿屋の中でにいる。

 

「・・・はぁ」

 

「どうかしたの?」

 

「ん・・・まぁ、色々な」

 

「ん~、何か隠してる?」

 

「だったらなんだ・・・」

 

「ボクに教えてくれない事だと・・・何か言いづらくて大事なことかな?」

 

ユウキの謎の勘の良さにびっくりするヒビキ。

だが言い悩んでいた。

このままあれを言ってしまっても大丈夫なのだろうかと。

 

「無理には聞かないよ。だけどいつか話してほしいな」

 

「ああ・・・ごめんな、ユウキ」

 

「ううん・・・でも何かあれば言ってね?ボクはヒビキのお嫁さんなんだから!」

 

「・・・おう」

 

ユウキに励まされ、改めてユウキの存在を確認したヒビキ。

だがその顔はどこか浮かない顔をしていた。

それにユウキは気付いていたのだろうか。

 

 

 

キリトとリーファが戻って来ると、リーファは少し泣いていた。

キリトが泣かしたのかヒビキが問い詰めていたが全力で否定していたのを見て、ユウキを連れてキリトとリーファだけにした。

 

「ヒビキ?良いの?」

 

「ああ、あれはキリトじゃないとダメだろうな」

 

ヒビキに言われユウキはただ扉の向こうにいる二人を見つめていた。

それを見ていたヒビキはユウキを優しく抱きしめた。

 

「・・・ヒビキ?」

 

「今回の騒動が終わったら・・・大事な話をする、その時が・・・」

 

「その時が・・・?」

 

「いや今はまだいい・・・ただ今はこうしていられることを感じておきたい」

 

「う、うん・・・」

 

いつになくユウキを抱きしめていたヒビキは少し震えていた。

何かに怯えるように。

それを解消出来なかったユウキは自分の無力さを思い知らされた。

 

 

少しするとキリトが扉を開けてきた。

それに合わすようにヒビキも手を解く。

 

「終わったか?」

 

「ああ・・・ありがとう、ヒビキ」

 

「なーに、お前にしか出来なそうだったしな」

 

すると奥からリーファが来る。

しかしその瞼は赤く腫れており、泣いていたと教えていた。

 

「んじゃいこっか・・・!」

 

「だな」

 

宿屋を出てアルンの町並みを見ていると、ユイが何かに反応して空を見ていた。

 

「ユイ?」

 

「これは・・・?」

 

「・・・上か」

 

「まさか・・・!?」

 

ユイの行動が分かったヒビキはキリトに目で合図した。

すると羽を出して全速力で上に飛んでいく。

 

「ちょ、キリト君!?」

 

「はぁ・・・俺らも一応行くぞ」

 

「うん!」

 

リーファも飛んで行ったため、ヒビキ達も着いて行った。

速度を上げて上に飛んでいるとキリトが見える。

そして上に向かって大声を出して。

 

「アスナー!!」

 

「ママァー!」

 

それを3人は見ていた。

するとヒビキが空に何かを見つけた。

 

「・・・?何だありゃ」

 

気になったヒビキはそれを掴む。

それはカードのような物だった。

 

「ヒビキ、それは?」

 

「カード・・・アイテムじゃないところを見るとGM権限系か」

 

ヒビキは予測を付けるとカードをキリトに渡す。

キリトも意味を理解するとカードを大事そうに持つ。

 

「キリト、このカードは多分GM権限のカードだ。だからもし何かがあればお前が使え、俺はその頃には一緒には行けねぇから」

 

「・・・分かった、ありがとう」

 

「多分お前の声が届いたんだろう、警告モードで声を出してたからな。アスナがそれに気付いて落としたと見ていい」

 

ヒビキの予想にキリトはカードを持つ手に力が入る。

これはアスナが託した物だと。

一刻も早く助けなければならないという使命感が渦巻いていた。

カードを手に入れると4人は下に降りる。

するとヒビキがウィンドウを開いた。

 

「・・・なるほどな」

 

「どうしたの?ヒビキ君」

 

「ちと寄る所出来たから単独行動するわ」

 

「俺らも行くよ、まだ時間はある」

 

「いや、俺一人で良いよ」

 

そういうとヒビキはどこかに飛んで行った。

ユウキも追い掛けようとするがヒビキが来るなと合図したからか途中で止めてしまう。

 

「ヒビキ・・・」

 

「すぐに戻って来るよ」

 

「うん・・・」

 

キリトが落ち込んだユウキを励ます。

リーファも同じくユウキに声をかけていた。

 

 

 

 

その頃ヒビキを呼び出していた相手のところへと向かっていた。

 

「ったく、何のようだよ・・・」

 

その場所は世界樹の近くの店だった。

店名は『不通の武具店』というプレイヤー店舗だった。

ヒビキはそこに入ると一人のプレイヤーを見つける。

 

「何の用だ?」

 

「ん、あるもの見たから確証を得るために」

 

「はぁ・・・で?何を聞きたいんだ」

 

「お兄ちゃんの机の引き出し。中に診断結果の紙があった」

 

「・・・勝手に開けたのか」

 

「うん。勝手に開けたのはごめんなさい」

 

「はぁ・・・」

 

隠していた病気が神楽にばれたため、どうしようかヒビキは考えていた。

すると神楽は響夜を椅子に座らす。

 

「病気。治すの?」

 

「治すよ、治療法も聞いてある」

 

「そっか。いつ頃?」

 

「今はアスナ救出が優先だ、それが終わったら・・・入院する」

 

「ん・・・着替えとかは?」

 

「この際だ、神楽。お願いしていいか?」

 

「ん、お任せあれ」

 

響夜はいつもみたいに神楽を膝に乗せると頭を撫でる。

神楽はされるがまま撫でられて嬉しそうにする。

 

「ん・・・にへへ・・・」

 

「ありがとうな、神楽」

 

「ん、お兄ちゃんの為なら頑張る」

 

「さて、俺もそろそろ行くよ」

 

そういい、カグラを降ろすと扉に行く。

 

「気をつけてね、ヒビキ」

 

「ああ、行ってきます」

 

扉を開けて外に出て行ったヒビキ。

それを手を振って見送るカグラ。

 

「・・・いつか、この想いが言えたら・・・良いな」

 

「そろそろ・・・お店の準備、しよ」

 

そういってカグラは店の裏側へと入って行った。

 

 

 

 

キリト達はその間、世界樹攻略クエストである『グランド・クエスト』に挑戦していた。

 

「未だ天の高みを知らぬものよ。王の城へと至らんと欲するか」

 

キリトは『はい』と選択すると門番の武器が退かれ、扉が開く。

 

「よし、行くぞ!」

 

「うん!」

 

「わかった!」

 

リーファとユウキもキリトに続く。

中に入ると大きな空洞に繋がっており、壁にある鏡のような物からどんどんとモンスターが湧いていた。

キリトとユウキが前衛を務め、リーファが回復をするという形で倒していく。

 

「もうすぐだ・・・!もうすぐ・・・!」

 

「キリト・・・」

 

もうすぐアスナの所に行けると信じ戦い続けたキリト。

しかし後すこしの所で大量のモンスターが壁となりキリトの行く手を阻む。

 

「なんでっ・・・!もうすぐなのに!」

 

「キリト!一旦退こう!」

 

ユウキの言葉を無視しキリトは突っ込んでいく。

だが弓兵に狙われどんどん的となって行った。

 

「くそっ、くそっ・・・」

 

《You Are Dred》と表示されたキリト。

それは魂となり数秒間残るためそれをユウキが回収すると出口へと撤退する。

だがモンスターがそれを遮り、逃がそうとしなかった。

 

「まずい・・・!」

 

反射的に目をつぶってしまったユウキだが、その攻撃は一つも来なかった。

恐る恐る目を開けると目の前には半透明の剣がクルクルと回っていた。

そして出入口から声がする。

 

「人の嫁に手ェ出すとは良い度胸だなぁ!?」

 

その声はユウキの夫であるヒビキだった。

だがいつものヒビキでは無く、どこか怒りを持っていた。

 

「リーファ!ユウキ連れてさっさと出ろ!」

 

「わ、わかった!」

 

ヒビキは『幻影剣』を出すと逃げるときの邪魔になるモンスターに容赦なく刺して行った。

そのおかげか、ユウキの逃げ道にモンスターが居なくなりリーファも来ていた。

 

「ユウキちゃん、今のうちに!」

 

「う、うん!」

 

リーファもモンスターが近づくと武器で切っていたため、ユウキはすぐさま脱出した。

リーファも一緒に脱出したが、ヒビキだけはそこに残った。

 

「はぁはぁ・・・」

 

「えっと・・・確かこれが・・・」

 

リーファがあるアイテムを魂となったキリトに使うと魂から人へと形を成す。

 

「・・・ありがとう、二人とも」

 

「良いよ・・・別に」

 

「ううん、キリト君のためにしたから・・・」

 

キリトはまた立ち上がると扉の前まで移動する。

 

「キリト君!また行くの!?さっきあんな目にあって一人じゃ出来ない事分かったでしょ!」

 

「ありがとう、リーファ。でももうあんな無茶はしないでくれ、俺は大丈夫だからさ、これ以上迷惑はかけたくないんだよ」

 

「キリトでも無理な事分かってるんでしょ?ならみんなで行こうよ、それのが確実だってば!」

 

リーファとユウキがキリトを止めようとするが、キリトは頑なにやめなかった。

 

「リーファ、ユウキごめん。あそこに行かないと何も終わらないし、何も始まらないんだ。会わなきゃいけないんだ。もう一度・・・もう一度アスナの所に行かないと」

 

「キリト君・・・探している人って・・・」

 

「アスナ、それが俺の探している人の名前だよ」

 

それを聞いたリーファは驚いた後、涙を流す。

ポロポロと大粒の涙を。

 

「だって・・・だって・・・その人は・・・酷いよ・・・あんまりだよ・・・」

 

リーファがそういうとメニューを弄り、設定からログアウトを押す。

 

「リーファ!」

 

キリトがリーファを呼ぶ頃にはリーファはもう姿を消していた。

 

「リーファって・・・キリトの知り合いなんだね」

 

「・・・ああ、そうだな」

 

「行ってあげなよ、キリトにしか出来ないことだから」

 

「ごめん、ユウキ・・・行ってくる」

 

キリトもログアウトしたリーファに真実を聞くべく、ログアウトした。

すると扉が開き、プレイヤーが出てくる。

 

「・・・ヒビキ!」

 

そのプレイヤーはヒビキだったが、体には弓矢や剣が刺さり無事とは言えなかった。

 

「・・・ユウキか」

 

「うん、ってどうしたの、それ!」

 

「それって・・・グランドクエストだけど」

 

「なんで一緒に出なかったの・・・?」

 

「これが最後になりそうだったからな」

 

「・・・ぇ?最後って・・・?」

 

ヒビキがよくわからない事を言ったユウキは意味を理解出来なかった。

いや、理解したくなかったのだろう。

 

「ユウキ、約束してくれ」

 

「なにを・・・?」

 

「もし俺が死んでもお前だけは幸せに生きてほしい。例え会えなくなったとしても」

 

「や、やめようよ。そんな事言うの・・・。ヒビキらしくないよ?」

 

「仕方ねぇだろ、そろそろ時間が限られてんだ」

 

「時間って・・・」

 

そう言ったヒビキの体は薄く光っていた。

そしてユウキがヒビキに触れようとしても通り抜ける。

 

「ヒビキ・・・これって」

 

「時間らしい、詳しいことは神楽に聞け」

 

「やだよ!どこにも行かないで!」

 

「俺はお前を捨てたりもしないよ。ただ・・・少し旅をするだけ」

 

「ならボクも・・・ボクも行くからぁ!」

 

「ダメだ。お前は一緒には行けない」

 

「いやだぁ!やだぁってばぁ!」

 

「我が儘言うんじゃないっての・・・」

 

ヒビキはそういうもユウキは駄々をコネるように泣きじゃくる。

 

「事の顛末は全部カグラに言った。だから俺のことが聞きたいならカグラを見つけるんだ」

 

「ひっぐ・・・行かないでよぉ・・・」

 

「・・・それじゃあな、ユウキ」

 

ヒビキは最後に言い残すと、ログアウトしたように消えていった。

ユウキはそれをただ泣いて見ていることしか出来なかった。

 

「やだよぉ・・・!独りにしないでよ・・・」

 

 

 

 

 

 

その日、ヒビキを知るALOプレイヤーからのフレンドリストから『ヒビキ』というプレイヤー名は消えた。

 

それと同時に現実世界からも雪宮響夜が行方を眩ませた。

 

 

 




これにて、原作のALO編のストーリーは終わりにしたいと思います。
一応話としては出ますが、ここからはオリジナルストーリーとして出していきます。


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喪ってしまったモノの過去

響夜の過去話編です。
内容に嫌な部分がありますので注意。




俺、雪宮響夜は持病を抱えていた。

その病名は『慢性骨髄性白血病(CML)』呼ばれる物だった。

原因は染色体による白血病の元となる成分が作られていたからだ。

 

先程までALOをしていたが、神楽に大体の事を託すると俺はすぐに姿を眩ませた。

捜索願なども出たらしいが成果は出なかったらしい。

 

(警察に見つかるほど甘くねぇんだよ、俺は)

 

元不良だった響夜にとって警察は見慣れていた。

事件ばかり起こしては警察の世話になる。

これがずっと続いていくと、そう思っていた。

 

 

ある日の夜、遅くに家に帰った。

この時は名前は時崎直人という名前だった。

いつもなら居間から両親の会話やテレビの音が聞こえていた。

だが、その日だけは会話やテレビも聞こえなかった。

 

「・・・妙だな、母さんー、父さんー」

 

直人は家中を探すが、母親も父親も見つからなかった。

その時、神楽は病院に入院していた。

探しても誰も見つからない事を怪訝に思った直人は母親に電話をした。

数コールしたのち、相手は出た。

 

「母さん?いまどこだ?」

 

『・・・』

 

「・・・母さん?」

 

『ごめんなさい・・・』

 

「!?母さんいまどこだ!」

 

『大見駅にいるわ・・・』

 

場所を聞くとバイクに乗って母親がいるであろう大見駅に向かった。

 

何分かバイクを走らせた後、大見駅に着くと母親を探した。

少しすると花壇の縁に座っている母親が居た。

 

「母さん!」

 

「直人・・・」

 

「何してんだよ、もう遅いから帰ろう」

 

「・・・ええ、そうね・・・」

 

母親をバイクの後ろに乗せると、直人はまたバイクを走らせ、自分の家へと帰った。

 

家に着くと母親は直人を連れて居間に座らせる。

 

「母さん、なんであんなとこいたんだ」

 

「・・・お父さんとは離婚・・・したの」

 

「はぁぁ!?なんでだよ!」

 

「捨てられたのよ・・・私達は」

 

「あんのクソ親父が!」

 

母親のいきなりの言葉に直人は驚きが無かったが自分達を捨てた父親に腹が立っていた。

だが、父親に喧嘩を売りに行けば母親を悲しませる事になる、それだけは分かっていた。

 

「・・・直人。もし母さんが死んだら・・・神楽をお願いね」

 

「そんな縁起でも無いこと言うんじゃねぇよ」

 

「それでもよ・・・」

 

「良いよ、神楽の事は俺が見とく」

 

「お願いね・・・」

 

母親は直人に入院している神楽を任せた後、寝室へと入って行った。

 

 

これが、直人と母親との最後の会話になった。

 

 

 

翌日、直人は起きて来ない母親を起こしに行った。

 

「母さんー、朝だぞー」

 

しかし反応が無いため扉を開けた。

そこには、天井から吊り下がるように母親がぶら下がっていた。

 

「母さん!?」

 

直人は急いで吊り下げてる紐を解くと母親を横たわらせた。

手に触れるもその温度は氷のように冷えていた。

 

「・・・マジかよ」

 

直人はポケットから携帯を出すと、警察に電話した。

 

「・・・直人っす」

 

『直人君か、また何か問題を起こしたのかい?』

 

「・・・」

 

『直人君?』

 

何も喋らない直人に警官は心配そうに聞く。

すると直人は何かを我慢するようにしたが警官に聞かれていた。

 

「・・・くそっ・・・」

 

『・・・今から君の家に向かう。それまでそこに居てくれ』

 

その後電話は切れ、直人は泣き崩れた。

 

「くっそがぁぁぁぁ!!・・・」

 

しばらくすると警官は呼び鈴を押すも反応が無かったため、扉に手をかけると開いていた。

開けて中に入ると奥から泣く声がし、警官は急いで向かった。

 

「直人君・・・!」

 

「上村さん・・・」

 

上村と言われた警官は直人の視線の先を見た。

そこには切られているも天井と母親には紐があり、ぶら下がったのだと分かった。

 

「・・・ここからは僕たちが処理しよう、だから君は信頼出来る家に行くんだ」

 

そこからは上村が同僚を呼び、自殺と事件を処理した。

だが直人には神楽がいる。

だからこそあの家を手放す訳には行かなかった。

 

 

 

 

中学を卒業し、高校試験に合格した直人はアルバイトをして自分と神楽が暮らせるぐらいにお金を稼いだ。

その時から響夜は一人を好むようになり、アルバイト以外では極力人と関わらなかった。

学校でも同じ様にしていたが、一人の女子が直人に話しかけていた。

その女子の名前は紺野木綿季。

いずれのSAO事件に巻き込まれ後に直人と結婚する相手だった。

 

「ねー、直人君」

 

「ん、何」

 

「いつも本読んでるけど楽しいの?」

 

「ん、そこそこ」

 

「ならボクの暇潰しの相手になってよ!」

 

こういった会話を何回も直人は続けている。

それに折れた直人は渋々頷く。

 

「良いよ」

 

「ほんと?やったー!」

 

木綿季が喜んでいると直人の後ろの席から丸めた紙が飛んで来る。

木綿季に見えないようにそれを広げてみると中には。

『ちょーし乗んな、根暗が。俺の木綿季に気安く話しかけるんじゃねぇよ』

と書かれていた。

さすがに内容にイラッとしたのか紙をまたくしゃくしゃに丸めるとごみ箱に投げ捨てる。

 

「・・・?何捨てたの?」

 

「気にしなくて良いよ」

 

直人はそういうも木綿季は気になったのか紙を見つけて拾って広げて内容を見る。

木綿季も内容の酷さに怒っていたようだった。

 

「ちょっと!誰、直人君の悪口書いたの!」

 

木綿季は教室全体に大声で言うため、直人はめんどくさそうにしていた。

すると一人の男子生徒が立ち上がり、木綿季の目の前に立つ。

 

「おい木綿季、そんな奴と関わるなって言っただろ?なんで関わってんだよ」

 

「いくらなんでもこれは酷いよ!」

 

「酷かろうが事実だろ?俺には木綿季が汚れてほしくないんだよ」

 

「事実って・・・!しかもボクは君とそういう関係になってないからね!」

 

この男子生徒は木綿季に心底惚れている様で何度も木綿季に告白しては振られている。

しかしめげずに何度も言って来るため木綿季も嫌がっているのが分かりきっていた。

 

「ボクは直人君みたいな人のが良い!」

 

「・・・あ?」

 

木綿季がとんでもないことを言い、男子生徒が直人に近づく。

 

「おい、木綿季に何した」

 

「何もしてないです」

 

「したんじゃねぇのかぁ!あぁ!?」

 

そういうと男子生徒は直人の顔を殴る。

殴られた反動で直人は吹き飛ぶも男子生徒は何度も殴りつづける。

 

「てめぇのせいで!木綿季が振り向いてくんねぇんだよ!」

 

男子生徒の言葉一つ一つにイライラし始めていた直人は我慢が出来なくなり、ため息をつく。

 

「なぁにため息ついてんだ、ごらぁ!」

 

ため息をつかれたことにムカついたのか顔面を殴ろうとするが、直人によって止められる。

 

「殴られ続けるのも癪に障る。一辺お前が痛い目にでもあってろ」

 

直人の力に抗えなかった男子生徒は逆に尻餅をついた。

 

「大した力もねぇのに喧嘩なんて良い度胸してんなぁ!?」

 

普段の直人からはありえないぐらいの声で男子生徒にぶつける。

その迫力に怖じけづいたのか男子生徒は立ち上がって走ろうとするも、直人が横腹を蹴って止める。

 

「どこ行こうとしてんだ、少しぐらい待てよ」

 

「ひっ、や、やめ」

 

「黙れ糞野郎」

 

横腹を蹴られ横たわっていた男子生徒の首元に手を近づけると思いっ切り叩いた。

手刀だったそれは一瞬で男子生徒の意識を刈り取る。

 

「・・・興ざめ過ぎる、もっと強い相手のが良い」

 

「直人・・・君・・・?」

 

「・・・もう近付かない方がいい、君にまで悪い噂が流れたら困る」

 

木綿季の頭に手を当てて言うと、チャイムが鳴り響く。

それは下校チャイムだったので直人は鞄を取るとそのまま教室を出て行った。

 

その日からは直人は学校には行くも、屋上でずっと寛いでいた。

 

「・・・ねみ」

 

眠気がしてきた直人は携帯で時間を見るとまだ朝の9時だった。

鞄を枕にして寝ることにした直人はそのまま寝付いた。

 

 

その頃木綿季は、あの日から教室に来なくなっていた直人を探していた。

休み時間内に探さなければならなかったため、遠いところはお昼休みに探すことにしていた。

ほとんどの所を探し居なかったため、残る屋上へと向かっていると人だかりが出来ていた。

 

「?なんだろう」

 

気になったのか木綿季は屋上の扉の窓を見ると一人の男子生徒が見えた。

その男子生徒は木綿季が探していた人物、直人だった。

 

「見つけた!」

 

木綿季は屋上の扉を開けようとするも押しても引いても開かなかった。

元々屋上は封鎖されており、鍵が無ければ入ることは出来ない。

直人の場合は屋上の鍵のスペアを担任から受け取っていたため簡単に入れた。

 

「どうしよう・・・ここが開かないと・・・」

 

どうしようか悩んでいるとさすがに人だかりで煩かったのか直人が体を起こして伸ばしていた。

 

 

 

 

 

屋上の扉から声がして煩かった直人は一度起きて体を伸ばす。

そして携帯を取り出して時間を見るとお昼休みの時間だった。

 

「・・・お昼か。ここいても暇だし帰っかな」

 

鞄を持って鍵を閉めていた屋上の扉を開けようとすると生徒が一気に道を作りはじめる。

あんな騒動を起こして何も起きない訳がないと思っていた直人だが、さすがにこんな感じだと悲しくなる。

 

「はぁ・・・」

 

道が空いているのだから、そのまま進むが一人の生徒にぶつかって床に倒れる。

 

「・・・!悪い」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「ほれ、手貸してやるから立ちな」

 

「あ、ありがとう」

 

直人の手を掴んだ生徒は騒動が起きる前はよく話しかけていた木綿季だった。

だが、これ以上面倒事を起こすのも嫌だった直人は立ち上がらせると手を離そうとする。

しかし木綿季はそれをがっしりと掴んで離さなかった。

 

「・・・まだなんかあんのか」

 

「ふぇっ、えっと・・・」

 

「ねぇなら帰る」

 

何も言わない木綿季の手を振りほどくとそのまま階段を下りて行く。

 

「あっ・・・」

 

その背中をただ見ていることしか木綿季には出来なかった。

 

 

毎日屋上で寛ぐのが日課になっていた直人は今日はどうしようかと考えていた。

今、直人には入院している神楽しか家族が居ない。

だからこそ家事は全て直人がしているのだがご飯のメニューを何にするか悩むという主夫の考えだった。

 

すると下の教室がいつもに比べて騒がしかった。

 

「ん・・・妙に騒がしいな」

 

直人は呑気に思っているといつもなら見ているだけの生徒達が慌てたように駆け上がってきて扉を叩く。

何事かと聞こうと思い扉を開ける。

開けるとそこには一人の女子生徒がいた。

 

「うるせぇ、何事だよ」

 

「時崎先輩・・・ですよね!?」

 

「ん・・・そうだけど」

 

「4階に男子の先輩が女子を人質にしてるんです!」

 

「くっだらねぇ、何のためにだよ」

 

「用件は時崎先輩にあるって・・・!」

 

それを聞くと鞄を持って、屋上から降りる。

女子生徒も置いて行かれないように着いて行った。

 

 

4階に降りると女子生徒が場所を案内してくれた。

それに直人は着いていくと段々と声が大きくなっていくのが分かった。

 

「さっさと呼べやぁ!?いつまで時間かかってんだよ!」

 

声を荒げている生徒はあの時直人を殴って、蹴り返された男子生徒だった。

人質に木綿季が捕られており、首元にはナイフを当てている。

 

「・・・あん時の奴か」

 

「は、はい!」

 

「めんど、なんで俺が相手しないといけねぇんだよ」

 

そう言いつつもしっかりと男子生徒に近づく。

 

「ほれ、来てやったぞ、何の用だよ」

 

「やっときやがったなぁ!時崎!」

 

「・・・今なら半殺しで済ましてやるからその女子離せよ」

 

「はっ!お前を殺すまで無理に決まってんだろうぁ!」

 

一応の通告をした直人はため息をつく。

それにイラッとする男子生徒。

 

「大人しくしてねぇと・・・死ぬぞ」

 

「・・・!?」

 

直人は鞄から折りたたみナイフを取り出すとそれを男子生徒の右足に目掛けて投げた。

所詮度胸も知れている男子生徒にそれは刺さる。

 

「ひっ、ぐあぁぁぁ!?」

 

「おめぇごときにわざわざ体力使うのも馬鹿らしいわ」

 

直人が投げたナイフは男子生徒に刺さるも当たり場所が良かったためすぐに治るものだった。

だが、男子生徒は最後のあがきに直人ではなく木綿季にナイフを振るう。

 

「死ねやごらぁぁぁ!!」

 

「・・・ぁ・・・」

 

木綿季は迫って来る事に目をつぶる。

だがそれはいつまでも来なかった。

目を開けると、足元には血があり、直人を見ると。

左手でナイフを掴んでいた直人がいた。

 

「・・・しばらくくたばれ」

 

左手の痛みなど元から無いように直人は男子生徒の腹を蹴り飛ばす。

 

「ぐ、ああ・・・」

 

蹴られた痛みによって男子生徒は意識を失う。

だが、左手が血だらけになった直人が居た。

 

「・・・もういいだろ、疲れた」

 

そういうと、直人は血を出した間々どこかに行こうとする。

しかしそれを木綿季が止めた。

 

「何だよ」

 

「その・・・あ、ありがとう・・・」

 

「別に、ご指名だったから相手した。そのついでで助けただけ、お礼言われる事なんぞしてねぇよ」

 

「う・・・で、でも・・・」

 

「・・・じゃあ俺行くから」

 

直人は鞄からタオルを二つだして、一つは左手を縛って、もう一つは直人のナイフを包んだ。

そのまま帰るかと思われた直人だが、生徒玄関とは違う道・・・保健室がある道に向かって行った。

 

 

 

あのあと、男子生徒は傷害事件として処理され、数ヶ月は刑務所に入ること、高校退学となっていた。

直人はナイフを男子生徒に投げるも事態を最小限にするための手段と処理され、正当防衛と女子生徒を守った事から慰謝料・治療費等が支払われることになった。

 

 

それからもいつも通り屋上で寛ぐ直人を見る生徒は多かった。

その半数以上は女子生徒で、中には木綿季も居た。

 

木綿季はいつも通り屋上に居ると思われる直人を見るため、階段を昇っていた。

しかし屋上に行く途中にトイレから直人が出てきていた。

 

(直人君だ・・・トイレ行ってたのかな・・・?)

 

直人は携帯を弄りながら階段を上がっていたため木綿季に気付かなかった。

そのまま屋上の扉も開けると手を掴まれていた。

 

「ん・・・何だ」

 

「えっと・・・ボクも屋上行きたいなって」

 

「ご自由に」

 

木綿季に屋上の鍵を渡すと直人は屋上には行かずに降りて行く。

 

「ぁ・・・」

 

その寂しそうな声が聞こえたのか直人は降りる足を止めて180度振り返ると木綿季の手を掴む。

 

「・・・んな寂しそうな声すんじゃねーの」

 

「ごめんなさい・・・」

 

謝って来る木綿季だがその手は少し震えており、そのまま放っておけないからか、直人はそのまま手を引く。

 

「・・・?」

 

「ちと付き合え。どうせ下校だろ?」

 

「う、うん・・・」

 

「なら教室まで着いていってやるから帰る用意しろよ」

 

直人は木綿季の教室まで着いていくと教室の中に入れる。

直人自身は教室に入るのが嫌だったため、廊下で待っていた。

だがあの事が起きてからは直人は良い意味でも悪い意味でも有名になっていた。

それに加え直人はスタイルが良く、暴力沙汰になろうと直人に好意を抱く人物は少なからず居た。

 

「あ、あの・・・!」

 

「あ?」

 

「え、えっと・・・時崎さん・・・ですよね!?」

 

「そうだけど、何」

 

「サ、サインくれませんか・・・?」

 

まさかのサイン要求にびっくりした直人。

しかし木綿季を待っている以上、逆に待たせるのは悪いと思い断った。

 

「悪いけどサインとか書かねぇから。それに俺はそんな境遇求めてねぇし」

 

「そ、そうですか・・・ご、ごめんなさい」

 

「俺と居ると悪い噂流れっからどっか行ってな」

 

直人に言われ、女子生徒はどこかに立ち去った。

少しすると帰る用意が出来たのか木綿季が教室から出てくる。

教室から見える生徒はそもそも直人が居ることに驚愕していたが直人はそんなことに興味無く、生徒玄関に向かった。

 

 

外靴に履き変えると直人はあることを聞いた。

 

「木綿季は徒歩か?」

 

帰宅方法を聞くと木綿季は頷く。

直人はバイクで来ているため自転車の場合、ある程度早さを合わせなければならなかった。

木綿季の手を引いて連れていくと直人のバイクの所に着く。

 

「ヘルメット、被れ。検問引っ掛かる」

 

「う、うん」

 

木綿季はヘルメットを被るが固定が出来ずにいた。

それを見た直人は手をどかして固定させる。

 

(わっ・・・か、かお・・・近い・・・)

 

もう一度言うが直人のスタイルは良い。

何度かモデルのスカウトを受ける位には良いため木綿季からすると恥ずかしい物があった。

 

「ん・・・あぁ、悪い。近かったな」

 

「い、いえ!そんなことは・・・」

 

「・・・?まぁ良いや、乗りな」

 

急いで乗ろうとするが身長が平均より低い木綿季にはバイクが高く、中々乗れなかった。

直人は木綿季を持ち上げるとバイクの後ろに乗せて直人も足をかける。

 

「吹き飛ばされねぇようにしっかり掴んどけよ」

 

「う、うん」

 

「掴まり方は好きにしてろ、飛ばされないのならなんでも良い」

 

それを聞いて木綿季は直人に抱き着く。

 

「ん・・・まぁ好きにしろって言ったし良いか」

 

抱き着いている木綿季の頭を少し撫でるとバイクの鍵を回す。

アクセルで吹かすとそのまま学校の校門を出る。

 

それを見ていた女子生徒は木綿季に羨みと妬みの視線で見ていた。

 

 

 

しばらくバイクを走らすとある病院に止まる。

そこは横浜総合病院だった。

 

「病院・・・?」

 

「見舞いだよ、家族の」

 

「ボクも行って良いの・・・?」

 

「好きにしろ」

 

バイクを止めて、中に入る直人を追い掛ける。

受付で話し終わるとエレベーターに入る。

木綿季もそこに入って行き、4階に着くとまた歩き出す。

 

そしてある病室で足を止めた。

号室は0311で下には『時崎神楽』とあった。

 

「入るぞ」

 

直人が扉を開けるとベッドから体を起こして手を振っていた。

 

「神楽、見舞いに来たぞ」

 

神楽と呼ばれた女の子は直人を見てニコニコとしていた。

見舞いに来てくれたことが嬉しいようだった。

すると木綿季に気付いたのか興味津々に見つめる。

 

「そこの女子は木綿季。物好きで俺によく話しかけるんだよ」

 

「ゆ、木綿季です・・・。直人君この子は・・・妹さん?」

 

「そうだよ、義妹だけどな。今じゃ唯一の家族」

 

「そうなんだ・・・」

 

神楽は直人以外にも見舞いに来てくれたことが嬉しいのか木綿季とも打ち解けていた。

しかし面会の時間は早く、検診の関係で30分ほどで切り上げた。

 

「んじゃまた来るからな」

 

「またね、神楽ちゃん」

 

 

 

 

病院を後にした直人はバイクにまた乗る。

 

「俺もう帰るけど、お前どうすんの」

 

「そろそろ帰らなきゃ・・・」

 

「ん、なら送るから家教えてくれ」

 

木綿季をバイクに乗せたあと、大まかな場所を教えてもらい、直人はその場所を目指して走らせる。

 

 

病院から10分ほどで到着し、木綿季を降ろす。

 

「んじゃあな」

 

「ぁ・・・」

 

「まーた寂しそうな声出すんじゃねーよ・・・で?何だよ」

 

「お昼休み・・・一緒に居ていい?」

 

「勝手にしろ、鍵は渡してあんだから」

 

「じゃあ、明日行くね!」

 

一緒にいれると分かると元気になった木綿季を見て直人も少し笑う。

すると玄関が開いて一人の女性が出てくる。

 

「木綿季、玄関で何してるの?」

 

「お母さん、少し話してたんだ」

 

「あら・・・送ってくれたのかしら?」

 

「ええ、じゃ自分は帰るので」

 

「お茶の一つでもお出ししようと思ったのだけれど」

 

「お気遣いは有り難いですけど、用事があるので」

 

「そう・・・」

 

直人はバイクのアクセルを吹かす。

横に居た木綿季が寂しそうな顔をしていたのに気がついた直人は頭を少し撫でて微笑んだ。

 

「じゃあな、木綿季」

 

「うん・・・またね、直人君」

 

住宅街ともあり、速度をいつもより遅くして直人は木綿季の家を後にした。

 

「いい人じゃない、木綿季」

 

「そんなんじゃないって!それに直人君はそんな気ないと思うし・・・」

 

「分からないわよ、気があるかもしれないんだから」

 

「も~、からかうなぁ~!」

 

 

 

 

直人は公道に出ると法定速度ぎりぎりでスーパーに行くと買い物を済ませ、家に帰った。

ご飯を作って洗濯物を出すと、疲れたのか寝てしまっていた。

 

 

 



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絶望の淵の未来

9/26 誤字修正しました


昨日ばったりと疲れて寝ていた直人。

普段と比べてぐっすりと寝れたためか時間帯はお昼の1時だった。

 

「あ~・・・休むか」

 

今から行っても対して寛げないと思い、そのまま学校を休むことにした直人は携帯を取るとある人物に電話をかけた。

 

『はい、雪宮です』

 

「神菜さんすか」

 

『あら直人君、どうしたの?』

 

「少し・・・話がしたいんです、時間ありますか?」

 

『ええ、今からそっちに行くわ』

 

「わかりました」

 

電話を切ると、直人は机の引き出しからファイルを出して一階に降りた。

 

少しすると玄関が開いて神菜が入ってくる。

 

「来たわよ直人君。何の用だった?」

 

「・・・これです」

 

そういって直人は引き出しから出したファイルを見せる。

それは養子縁組の書類で、養子先は雪宮家となっていた。

 

「・・・もう良いの?」

 

「まだ署名はしないですけど、近々に言おうと思っていたので・・・」

 

「ふぅん・・・神楽ちゃんが退院したらかな?」

 

「そうですね」

 

「分かったわ、この書類は私が持っておく。神楽ちゃんには貴方から言わないとダメよ」

 

「わかりました・・・」

 

少し暗い雰囲気を纏う直人を優しく抱きしめた。

神菜にとっては直人は小さい頃から見ていたからか、本当の親のように接していた。

 

「神菜さん・・・」

 

「神楽ちゃんが退院したらいつでも家に来なさい。まだ養子じゃないからって壁を作る必要は無いわ」

 

「そう・・・っすね」

 

「確かに本当の両親ではないけれど、それでも私は貴方を本当の子供のように思ってる」

 

「・・・はい」

 

「神楽ちゃんもうすぐ退院でしょ?ならいつでも行けるように準備はしておきなさい。お迎えに行ってあげる」

 

「はい・・・」

 

直人から離れると、神菜は書類に署名をする。

事前に養子先の経済力調査は終わっており、後は直人と神楽が署名して市役所に出すだけで家族になれるようにしてあった。

 

「それじゃ私は仕事もあるから行くけど・・・ちゃんと体に良いご飯を食べなさいね」

 

「はい・・・」

 

「んじゃあね、直人君」

 

そういい神菜は家を出る。

直人はもうすぐ退院する神楽に何と言おうか悩んでいた。

率直に言うべきなのか濁して言うべきなのか。

その決断は神楽の退院日である2日後までに決め悩む事となる。

 

「まずは・・・学校にしばらく休むの言わねぇとだな、一回学校行くか」

 

直人は学生服を着ると家を出て鍵をした後、バイクのエンジンをかけた。

 

 

3分ほどで学校に着くと時間帯は3時でもうすぐ授業が終わる頃だった。

駐輪場にバイクを止めると、鞄を持って校舎の2階にある職員室へと向かった。

向かう途中、授業が終わるチャイムが鳴り響き、教室から生徒がちらほらと見えていた。

 

「あー・・・まぁ良いや、さっさと行こ」

 

 

 

職員室に着くと、ノックを3回した。

 

「失礼しまーす、2年A組の時崎です。桜先生居ますか」

 

普段であれば来ることがない直人に職員室からは驚きの声がする。

そして担任の先生である桜先生が来る。

 

「え、えっと時崎君ですよね。今日はどうしたんですか?」

 

「しばらく学校休むんで、ついでで寄りました」

 

「えっ?休むってなんでですか?」

 

「家庭事情っすよ、落ち着いたら改めて来るんで」

 

「な、なるほど・・・わかりました。休学届を出しておきますね」

 

「わかりました、では失礼します」

 

用件を伝え終わり、今度は自教室へと向かう。

帰りのHRも終わっている頃なのでお咎めを食らうことはない。

教室に入ると一番に一部の人以外は驚愕する顔をする。

今まで入ってこなかった直人にびっくりしていた。

 

「・・・居心地わりぃなぁ、やっぱ」

 

騒動ばかり起こしていた直人に全員が少し距離を取って、こそこそと話していた。

ほとんどの話が悪口ではなく、直人への憧れ的な物だったが。

そして放って置かれていた教科書等を回収するとふとある席が気になった。

そこは木綿季の席だった。

 

「・・・なんで鞄だけ?しかもちょっと荒れてんな」

 

椅子の場所、机や机の中などの荒れ具合から普通の立ち方ではないと思い、近くの女子に聞いた。

 

「なぁ、ここの席の子ってどこ居るか分かる?」

 

「え、えっと!上級生の女子に呼ばれて行きました!」

 

「場所は?」

 

「わかりません・・・」

 

「ん、そうか。ありがとう」

 

女子生徒に礼を言うと、申し訳ないと思いつつ木綿季の鞄と教科書や筆箱を仕舞って持っていく。

すると電話がかかり、それに出る。

 

「はい、時崎っすけど」

 

「・・・」

 

「あのー?もしもし?」

 

かかってきて何も反応がない事にイラッとして切ろうとする。

 

「ドタドタドタ・・・ドサッ!」

 

謎の音がしたのが気になり、かかってきた番号を見た。

それは非通知でかけられており誰か分からなかったが、足音的にタイルのような音がした。

 

「・・・まさかっ!?」

 

一つの予想を立てた直人は急いで教室を出ると使われていない旧校舎へと走った。

すると本来開いていないはずの旧校舎の扉が開いており、埃が消えたように足跡があった。

 

「くそったれが!」

 

その足跡を追っていくと段々と音が聞こえて来る。

音の場所を探すとある場所に着く。

 

「第一科学実験室・・・」

 

そこの扉は開いており、中に入ると真っ暗で何も見えなかった。

 

「・・・くれぇな、携帯で照らすか」

 

携帯で照らすと足がぶつかった衝撃があった。

その場所を見失わないように足元を照らしながらしゃがみこむ。

そしてそれを照らしていく。

 

「・・・木綿季」

 

「・・・」

 

木綿季だと分かると声をかけるが反応がなかった。

念のため首元に手を当てると脈があり、息もしていた。

だが、足と手は縛られて口には布が押し込まれていた。

 

「ちっ、待ってろよ。解いてやるから」

 

すぐに手足を解き、口の布を取ると血がついていた。

姿を一度全体で見てみると、殴られたような後が服に付いており、それが原因と見ていた。

自分の学生服を木綿季に被せて、気を失っている木綿季を背負うと第一科学実験室から出る。

すると誰かの声がしたため、第二科学実験室姿を隠した。

 

「それでさー?直人君に纏わり付くゴミ排除してたらあの長い黒髪の女子いるっしょ?」

 

「なんだっけ、紺野木綿季とかいう下級生?」

 

「そうそう!それ捕まえたから色々しようと思ってんのー」

 

声色から女子生徒、下級生という言葉から上級生女子だと判断した直人はいますぐにでも蹴り飛ばしたくなるが、木綿季を巻き込んでしまうため上級生から出来るだけ離れ、本校舎へと急いだ。

すると居なくなった木綿季に気付いたのか上級生二人が出てくる。

 

「あんのくそあま!どこ行きやがった!」

 

「うち右探してみる!」

 

二手に別れた二人の内、左の上級生に見つかる。

 

「おい!その女子をこっちに返してくんない?」

 

「やーだね!お断りだ!」

 

幸い木綿季に被せていた学生服で直人だとばれていなかったため、出来るだけ早く走った。

しかし相手の早さが絶望的だったためか背負っている直人にすら追いつけていなかった。

 

「待てよ!」

 

「やーだよ」

 

そのまま逃げるように本校舎に戻ると急いで生徒玄関へと向かい、木綿季の靴を変える。

自分の靴も変えた直人は駐輪場に止めてあるバイクに乗ると、木綿季も乗せてヘルメットを被せた。

すると非常口の扉が開き上級生二人が出てきた。

 

「まちやがれ!」

 

「そーだよ!待ってってば!」

 

「すまんがお断りだっての」

 

エンジンがかかったバイクは一気に加速し、学校を出た。

そのまま木綿季の家に法定速度ぎりぎりで走らせ、着くと止めた。

そして家のインターホンを押すと木綿季の母親が出てくる。

 

「はいはい、今出ますよ」

 

「木綿季のお母さん!」

 

「あら・・・君は」

 

「直人です!それより部屋貸してくれませんか!?」

 

かなり慌てる直人に木綿季の母親は家にいれると、居間に案内した。

そして学生服を取ると怪我をした木綿季に母親は目を疑った。

 

「こ、これって・・・!」

 

「・・・俺の・・・せいです」

 

「直人君が・・・したの?」

 

「そうです・・・」

 

「本当なのね?」

 

「はい・・・俺がやりました」

 

「・・・なら、何故連れてきたの?」

 

「それは・・・」

 

「君がやったのなら連れて来ないでしょう?」

 

「・・・もう帰ります、痣は氷を当てれば引いてくると思いますけど一応・・・病院行ったのが良いです」

 

「直人君・・・!」

 

母親が呼び止めようとするも直人はそれを無視し、家を出た。

そしてバイクに乗ると家に帰った。

 

 

 

 

木綿季が襲われた日から二日経った。

あの後、学校には休学届を出したため行っていない。

木綿季の家にもあの日から行っていなかった。

そして、今日は神楽の退院する日だった。

 

「・・・はぁ、行くか」

 

いつものように鍵をしめてバイクに乗るとアクセルを押し込むとそのまま病院へと向かった。

 

 

退院の手続きを済ませ、帰る用意が出来ていた神楽はそのまま直人の着いていく。

 

「・・・」

 

「荷物・・・貸しな」

 

神楽は荷物を直人に渡すとバイクに乗せられヘルメットを被る。

直人もバイクに跨がるとそのまま走らせようとしたとき。

 

「直人君?」

 

「・・・」

 

木綿季の母親と木綿季が居た。

だが直人は顔を伏せる。

 

「直人・・・君だよね・・・?」

 

「だったらなんだ」

 

「学校・・・来ないの?」

 

「・・・もういかねぇよ」

 

「・・・ぇ?」

 

「もう良いか、家帰らねぇとなんだ」

 

直人は何も言わなかった事を肯定と受け取るとバイクを走らせようとする。

 

「直人君!なんで・・・あんなこと言ったの!」

 

「そりゃあ・・・自分のせいですから」

 

木綿季の母親にニッコリと返すと、加速させ病院から、木綿季達から離れて行った。

 

 

それを母親は見ていることしか出来なかった。

 

「・・・なおと・・・」

 

「・・・木綿季。もう諦めなさい」

 

「ひっぐ・・・」

 

走り去った直人の方向を見つめながら泣く木綿季の姿に何も言えなかった母親はただ己の無力さを呪った。

 

 

 

家に到着した直人は神楽を降ろすとバイクを止めて家に入った。

家に入るといつものように物静かな空間があった。

 

「神楽、後で俺の部屋来てくれ」

 

神楽にそう伝えると直人は自室に向かう。

少しすると神楽も入ってきた。

 

「・・・来たか」

 

「・・・」

 

「良いか、これは・・・事実だ、もう変えようのない事実」

 

「・・・」

 

「あの糞親父が・・・母さんを捨ててどっか行った。母さんも・・・そのショックで体調崩して去年・・・死んだ」

 

「・・・ぇ・・・」

 

声を失った神楽から小さいものだったが声が漏れた。

それだけ衝撃的な物だったのだろう。

そして神楽は力が抜けたのか床にペタンと座る。

 

「糞親父は交通事故で死んだ。遺産は全て俺と神楽に宛てられるらしい」

 

「・・・」

 

「俺はどうにかして金を稼ぐ。遺産には極力頼らないようにしないと絶対に生きていけない」

 

「・・・」

 

「神楽、俺は絶対にお前を一人にしない。お前みたいな子を放ってなんかおけない」

 

泣いていた神楽を直人は優しく抱きしめた。

いつかの直人がやってもらったように。

するとタガが外れたのか神楽は寝てしまうまで泣いていた。

 

 

神楽が寝た次の日、直人は電話で神菜にかけた。

 

『直人君、おはよう』

 

「おはようございます、今・・・来れますか?出来ればお父さんも」

 

『ええ、分かったわ』

 

電話の旨を伝えて切ると、神楽を起こした。

 

「神楽、起きろよ」

 

「・・・」

 

目を擦りながらも起きた神楽は直人を見る。

 

「どうした?・・・もうすぐ大事な話があるから顔洗ってきな」

 

「・・・」

 

寝ぼけながらも頷いた神楽は洗面所へと向かう。

するとインターホンが鳴り、玄関を開ける。

 

「おはようございます、神菜さん、拓也さん」

 

玄関に居たのは養子先の親となる神菜と拓也だった。

 

「おはよう、直人君」

 

「朝早くからすみません・・・」

 

「良いんだよ、もう言ったのだろう?」

 

「はい、もうすぐ降りてきます」

 

二人を中にいれると神楽が降りて来るまで待った。

 

 

 

「神楽、大事な話っていうのはな」

 

「・・・」

 

「俺達には親が居ない。金銭的には問題無いんだけど神楽の将来を考えると俺だけじゃ絶対に難しくなる。神楽が入院している間ずっと考え抜いた末の結果なんだけど・・・神菜さんと拓也さんの養子になろうと思ってる」

 

「・・・」

 

「でも神楽が嫌って言うならこの話は無くなるし、良いならこのまま市役所に出せば神菜さん達が俺らの親になる・・・神楽としてどう思うか聞きたいんだ、紙でも良い、書いてくれないかな?」

 

神楽に今までの事を言った直人は顔を伏せながら神楽の話を待った。

すると書く動作を示したため、紙とペンを渡した。

そして紙にどんどん文字が書かれていく。

それを神菜と拓也に見せた。

 

【私は大丈夫です。本当の親じゃなくても神菜さんと拓也さんの子供なら嫌じゃないです】

 

「・・・神菜ちゃん、良いんだな?」

 

【じゃあ・・・逆に私達の両親になってください】

 

「あらあら・・・こんな頼まれ方されたら断れないわね」

 

「なら、話は早い。証人に祖父母夫妻になってもらおう。今から行くかい?」

 

「俺は大丈夫ですけど、神楽は着替えないとですね」

 

「なら着替えてきなさい、神楽ちゃん。市役所までは車で行きますからね」

 

神楽は2階に行くと直人はあることを頼んだ。

 

「・・・市役所の時、名前も変えれますかね」

 

「どうしてだい?」

 

「もう今の名前で居るとまだ両親との繋がりがあってならないんです。自分的に区切りを付けるために名前を変えたいんです」

 

「・・・分かったわ。でも名前は自分で考えなさい」

 

「ありがとうございます!」

 

まさか良いと言ってくれると思わなかった直人は二人に感謝する。

そして前々から考えていた名前にしようと決めようと思っていた。

 

 

 

 

 

市役所に着くと、二人は早速書類を出し、手続きを進めた。

事前に話は済んでいたため最終の確認と祖父母の証人、そして直人と神楽の自筆で書類は受理された。

 

その後、直人は名前の変更手続きをした。

保護者として神菜と拓也が出て、変更手続きを済ませていく。

 

「では、変更後の名前をご記入ください」

 

役人に名前を書けと言われた直人は迷いなく、名前を書く。

そこには『雪宮 響夜』と書かれていた。

 

「雪宮 響夜・・・ですね、分かりました。もうしばらくお待ちください」

 

少しまつと数枚の書類を響夜に渡す。

それは変更した証明書と、住民票などがあった。

 

「ありがとうございます」

 

 

 

その日から響夜と神楽は雪宮家の養子となった。

拓也は二人の部屋がなかったため、大急ぎで増築工事をして一人で過ごすには少し大きい8畳の部屋を二つ用意し、家具なども買い揃えていた。

その行動力に響夜は苦笑いしていたが、内心喜んでいた。

 

 

「さて・・・神楽、もう行くぞ」

 

「・・・」

 

「ちと名残惜しいけど、新しい家族が待ってる。いつまでも過去に縋ってたら前には進めねぇよ」

 

「・・・ぅ・・・ん・・・」

 

久しく神楽の声を聞いていなかった響夜は久々に聞く声に少し嬉しくなった。

家は売り払って、通帳に保管した。

 

 

そして新しい家に着いた二人。

神楽は何ともなさそうだが響夜は緊張したのか深呼吸をしてから玄関を開けた。

 

「ただいま、母さん、父さん」

 

「た・・・だ・・・ぃま」

 

「おかえりなさい、響夜、神楽」

 

「おかえり。二人とも」

 

 



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幻想の果ての理想

神菜と拓也の養子となり数ヶ月が経った。

二人の対応の仕方などもあり、隔てる壁が無くなり本当の家族として過ごしていた。

 

 

そして響夜はある少女の事を思い出した。

自分がまだ『時崎直人』としての頃。

根暗っぽく過ごして、目立たない様にしていた自分によく話してくれた女子生徒の事を。

 

今思えば最低限以上に話したのはその女子生徒以外居なかった。

家族・・・神楽の見舞いにも、バイクにすら乗せたのも初めてだった。

だがもう戻れない所まで自分から突き放した。

また他人同士の関係にした。

それに後悔はなかった。

 

 

 

 

ある日、定期検診で診察を受けるといつもお世話になる先生・・・倉橋に呼ばれた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「君には伝えなければならない事がある」

 

倉橋はファイルから一つの紙を出した。

それは響夜の診察結果で、ある物が書いてあった。

 

「君の体からはCML・・・慢性骨髄性白血病が見つかった」

 

「白血病・・・ですか。治療法は?」

 

「完全な治療は造血幹細胞を移植をする方法以外今の医学では無いんだ。症状を抑える分子標的治療薬という薬物療法の二つがある」

 

「そうですか・・・」

 

「白血病自体は進行度的にまだ慢性期だから薬物療法でも十分効果はある」

 

「なら、それでお願いします。移植は・・・まだ決心が付くまでは」

 

倉橋は響夜に薬物が入った袋を渡す。

中には数種類の薬物が入っていた。

 

「これは?」

 

「それが進行を抑える薬だよ。君の決心が付くまではそれで進行を抑えるしかない。移植以外には完治出来ないんだ」

 

「分かりました。倉橋先生ありがとうございます」

 

「・・・いつでも来なさい。相談にも乗ろう」

 

倉橋の言葉に響夜は少し嬉しくなり、また来ようと思い病院を後にした。

 

 

白血病の事はしばらく隠そうと思い、机の引き出しに入れた。

そしてベットの下からある物を取り出す。

それはナーヴギアと呼ばれるフルダイブマシンだった。

 

「もうすぐ時間か」

 

ナーヴギアを使ってやるのはVRMMOのSAOというゲームだった。

βテスターとしても活動していた響夜は正式サービスを待つのみだった。

 

それは今日、ナーヴギアを被る。

そして仮装世界へと入るための言葉を言った。

 

「リンク・スタート!」

 

それが死のデスゲームとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デスゲームだったソードアート・オンラインをクリアした響夜は何故また死を連想させるALOをするに至ったのだろう。

SAOで痛いほど分からされたのにも関わらず。

それでも彼は恐怖を抱かず逆に好奇心を持っていたと言える。

 

響夜はその名を付けた日からずっと探しつづけた。

自分の空想でも構わない幻想を求めて。

自分の幻想とは一体何か。

幻想という物はどんな物なのかを。

 

それを具現化したのがナーヴギアによる仮装世界だったのだろう。

ゲームのような世界観。

現実には有り得ないモンスター。

夢としか思えない人物。

実際に着ているような感覚があった武具。

それだけで響夜の幻想の答えが出かけていたのかもしれない。

それを。

それを極地に至るまで自分だけの幻想を追い求めた。

 

 

それがソードアート・オンラインの中だけではあったが発現した。

《幻想剣》というユニークスキル。

響夜のみが使用を許され、唯一扱い切れた。

自分だけの空想を、幻想をゲームの中だけとは言え、具現化した。

響夜の幻想が途切れないかぎり《幻想剣》は存在し続け、誰かのために振るわれた。

 

ゲーム内でだけでも信頼でき、愛し合ったユウキ。

彼女に危険があればその幻想を具現化する。

それが例え響夜を不幸にするとなってもユウキの為に響夜はただただ幻想を想い起こした。

 

 

 

 

 

その結果として、最終的にはユウキを置いていくという結末になった。

神楽には伝達を任せ響夜はALOと現実からも姿を消した。

 

「ユウキ、プレゼント」

 

「ふぇ・・・」

 

カグラから渡された記録結晶。

ユウキはそれを恐る恐るそれに触れる。

 

『えー、まぁこれ聞いてるって事は俺はもうALOとリアルからも居ないんだろうが言っておくと、ちょっとした長旅をしようと思う。それは木綿季を連れていけないし、一人でやるべきだと思ってる。俺的には忘れて新しい人を見つけな。だけどもし、本当に心の底から会いたいと願うなら、誰よりも強く、誰にも負けないぐらい強くなれ。それが俺を呼び寄せる可能性かもしれないな。

 

 

最後に、こんな別れ方でごめん。

 

それじゃ、じゃあな。ユウキ』

 

「あ・・・あぁ・・・うわぁぁぁぁぁん・・・」

 

泣き崩れたユウキにカグラはただ頭を撫でることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行方を完全に眩ませた響夜は、木綿季が帰ったと確信出来たときに家に帰還した。

 

「・・・ただいま」

 

帰ってきた響夜を見に来たのは母親の神菜だった。

その表情は心配と不安が見える。

 

「響夜、どこに居たの」

 

「・・・何処でも・・・って訳じゃない、大事な話をしたいんだ、父さんは・・・居るか?」

 

「居るわ」

 

響夜は家に上がると居間に行く。

居間には険しい表情を浮かべた父親の拓也が居た。

 

「ただいま、父さん」

 

「響夜。今までどこに居たんだ」

 

「それは後で言う。知り合いには教えたくなかった」

 

拓也に言うと一度自分の部屋に向かった。

部屋に入ると中には神楽がおり、手にはファイルがあった。

 

「神楽、もう言ったのか?」

 

「・・・」ブンブンブン

 

「ん、そうか。なら一緒に来てくれ」

 

「・・・」コクコク

 

神楽を部屋から出して居間に連れていく。

居間には家族全員が集まっていた。

そして、響夜は両親にファイルを差し出す。

 

「響夜、これは?」

 

「・・・見れば分かる」

 

神菜はファイルを受け取り、中の紙を取り出した。

それは響夜の診断結果が書いてあった、無論CMLの事も。

 

「・・・CML・・・?」

 

「慢性骨髄性白血病、俺のはもう移行期って段階でもう数ヶ月したら急性転化期って状態になる」

 

「急性転化期になると・・・どうなるの?」

 

「急性白血病っていうのになって、死ぬ」

 

響夜から放たれた一言に二人は目を見開く。

今までそんな事を見せなかった分、驚きもあった。

 

「今までは薬物療法で抑えてたけど、そろそろ効きづらくなってる。もし薬物療法が出来なくなると移植手術以外無いと思って良い」

 

「・・・移植手術やらないんでしょう?」

 

「それを聞きたいためにこうして帰ってきたんだよ、じゃなきゃ行方眩ませた間々だっての」

 

「移植手術・・・ドナーは居るの?」

 

「一応居る。前準備とかを終わらせたらいつでも手術出来る用意はしてる」

 

「そう・・・木綿季ちゃんには?」

 

「言ってない、来るべき時まで言わないつもり」

 

「なら、貴方の親として言うわね。・・・貴方には生きていて欲しい。手術だって受けてほしい」

 

「俺も神菜と同じで生きてもらいたい。響夜君はまだ若い。何より木綿季ちゃんを一人にさせてしまうことになるよ」

 

「そっか・・・分かった」

 

その言葉に神菜と拓也は嬉しそうな顔をする。

そして二人にある紙を渡した。

それは『メディキュボイド』と呼ばれる物の被験者書類だった。

 

「メディキュボイド・・・?これは何なの?」

 

「ナーヴギア、アミュスフィア等フルダイブ技術を使って医療用に作られたのがこのメディキュボイドって言うものだよ、世界でも1台しかまだ無くて使うにはある人の許可がいる」

 

「許可の一つに親族が要るんでしょ?」

 

「そういうこと。もう一人の人には既にもらってある。かなり苦労したけどね」

 

響夜はその書類の下を指差す。

そこには『七色・アルジャービン博士』と書かれていた。

七色・アルジャービンとは茅場晶彦と同じフルダイブ技術の研究者の一人で茅場が闇なら七色は光と対立していた。

メディキュボイドの開発に一躍買っていたため、使用許可には彼女の許可が必要だった。

どうやってコンタクトを取ったのかは不明だが、響夜はどうにかして許可を取っていた。

その設置場所も知っている。

 

「・・・響夜。ここまで用意してるんなら一つよ。絶対に治してきなさい」

 

「俺からもだ。治さないと木綿季ちゃんとの結婚は認めないぞ!」

 

「はは、そりゃあ困るねぇ」

 

メディキュボイドの親族許可も書いてもらった響夜は、病院の場所も教えた。

知り合いについては神楽を経由して言ってもらう事となったが、病院は教えるなとの事だった。

 

 

 

 

 

メディキュボイドの設置場所である『横浜総合病院』に着くと受付の人に倉橋を呼んでもらった。

 

「どうしたんですか、響夜君」

 

「倉橋先生、これ」

 

響夜は倉橋に入院手続き、移植手術、被験者等の書類全てを出した。

 

「これは・・・」

 

「白血病、治しますよ。移植手術でね」

 

「移植手術の負荷をメディキュボイドで軽減出来るか等の実験も兼ねてるのですか」

 

「俺が入院してメディキュボイドの被験者としてこき使われてる間は白血病の負荷を減らせると思ったんです。七色博士には許可を貰っていますから稼動キーも」

 

そういう響夜の手にはメディキュボイドを起動させるための稼動キーがあった。

倉橋も初めて見るのか少し眺めていた。

 

「・・・分かりました。今日から入院をしましょう。白血病がいつ悪化しても良いように無菌室で行います。君の体の白血球はほとんど機能していないような物ですからね」

 

「あはは・・・そうですね」

 

 

書類も全て確認が終わり、その日から響夜は白血球治療に臨む事となり、メディキュボイドの初の被験者にもなることになった。

 

メディキュボイドは元はフルダイブ技術の応用の為、ALOが出来る為、消灯時間までならやっていても構わないと聞いたので早速やって見ることにした。

 

 

アカウントはALOで使っていた『hibiki』を入力。

そして、フレンド等、知り合いにばれるものを全て消去し、姿は布のローブを被って隠した。

ギルドも一時的に神楽に全て委ねてヒビキは本当にソロとなった。

 

「久しぶりのALOだな」

 

出来るだけのんびりと過ごすことにした響夜はALOの中でお気に入りの場所へと足を運んだ。

 

 

 

響夜がその場所に着くと、人だかりが出来ていた。

 

「ん・・・何かやってんのか」

 

《隠蔽》を最大にして見てみるとそこには紺色の長い髪で夜を体現した服を着たプレイヤーがいた。

見間違える必要がない、ヒビキの妻だったユウキだ。

 

「・・・もう関係ねぇしな、木の上に登ろう」

 

関係ないと言い聞かせ、ヒビキは木の上に乗って横になる。

これがALOで暇なときのヒビキの寛ぎ方だった。

 

 

 

移植をするにはまず放射線投下と抗がん剤を投薬し、同じ白血球の型の輸血を行う。

移植と言いつつ、治療は他人のリンパ球の力で白血病細胞を駆逐するだけなのだ。

だが、放射線や抗がん剤の副作用が辛い。

また白血病細胞がいつ消滅仕切るかも分からないため治る期間は不明だった。

 

 

治療を開始して2ヶ月が経過した。

最初の白血病細胞に比べ減ったとはいえ、まだ殲滅仕切っていないため治療は続く。

それに伴い、キリト達にもヒビキの病状が教えられた。

だが、入院先までは教えないという約束をカグラは守っていたため特定できなかったようだ。

 

「ねみぃ~・・・」

 

すっかり環境に慣れたヒビキは退屈しきっていたため、上空にある鋼鉄の城を見上げた。

大型アップデートによる新生ALOとなった。

それまでは須郷信之による人体実験のALOだったが、しっかりと見直され新生ALOとして帰ってきていた。

鋼鉄の城・・・アインクラッドは現在第16層まで攻略が進んでいる。

SAOと違いモンスターの強さが桁違いらしいので16層でも60~70層クラスだった。

そして、もう一つ《幻想剣》スキルの下に新たなスキルが出ていた。

 

「・・・これを試すのに行くのも悪くねぇな」

 

ヒビキは羽を出すとアインクラッドへと向かおうとするも後ろには妹のカグラがこっそりと着いてきているのに気付いており、一度街に行くことにした。

 

「カグラ、何の用だ?」

 

「アインクラッド攻略一緒にしたい」

 

「んー、構わんが・・・良いのか?キリト達とか」

 

「知らない」

 

「あ、はい」

 

キリト達の事など無視されたカグラはヒビキと共に入院していても家族の絆を保ちつづけた。

今は入院しているヒビキだが、帰ってきたら目一杯甘えようと思うカグラだったのであった。

 

「・・・どうした?カグラ」

 

「ううん、なんでもない」

 

「そうか・・・んじゃ行くぞ!」

 

「うん!」

 

上空には蒼と白の流れ星が空を描く。

それをユウキは見て、願い事をするのだった。

 

「・・・帰ってきますように」

 

その左手の薬指にはSAOで交わした約束が付けられていた。

 

 




一先ず過去編は多分終わり・・・だと思います。
ここからは新生ALOの話を少し入れつつ、待ち続けるユウキと入院するヒビキの話と、GGO編にも繋がっていきます。
GGOはまだもう少し先かな?


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姿現し幻想の夢追い人

ヒビキとカグラは今、新生ALOのダンジョンの一つである浮遊城アインクラッドにいる。

目的は暇潰しのために攻略をするため。

ボス部屋まではマッピングが終わっていたため、ボス部屋前に行くと数人ほどプレイヤーがいた。

 

「んじゃ、行こ?ユウキ」

 

「うん、みんな張り切って行くよー!」

 

「「おおー!」」

 

水色の髪を持ち、細剣を扱うプレイヤーのアスナとユウキ。

そして恐らくユウキのギルドメンバー等がいた。

 

「へぇ・・・ギルド作ってんのな」

 

「うん、みんな強いよ」

 

「なら、対立してみるか」

 

先に入って行ったユウキ達から少し待ってからヒビキカグラも入った。

勿論フードを被って姿は見えなくしてある。

ボスは飛行系モンスターで近接には厳しい相手だったようで時間がかかっていた。

 

「隠蔽スキル様々だな、誰も気付いてねぇ」

 

「タイミングは?」

 

「そんなもん勘で気づけ」

 

 

 

 

ユウキ達は苦戦を強いられていた。

ほとんどが近距離だったため飛行するボスに有効な一撃を与えれていなかった。

打開策を模索しているといきなりボスが悲鳴をあげはじめた。

 

「キィィィ!?」

 

そして周りを見渡すと入るときには居なかった二人のプレイヤーがいた。

そして一人のプレイヤーが武器を持つとボスの羽に向かって投げた。

完全に羽にヒットし、ボスは飛行能力を落とす。

 

「・・・元々てめぇらのだろ、倒さねぇならLAB貰っちまうぞ」

 

「・・・シウネー!バックアップお願い!」

 

「はい、お任せください」

 

シウネーと呼ばれたウンディーネはユウキとアスナ等の前衛のサポートをした。

飛行能力を失って抵抗をはじめたボスは超音波によってユウキ達の動きを止める。

 

「あーあー、うっせぇなぁ」

 

「ん、もうやる?」

 

「良いんじゃね、LABも必要なければそこの奴らに渡せば良いだろ」

 

「ん、りょーかい」

 

バインドボイスの効果を受けなかった二人はソードスキルを発動させる。

ヒビキは《霊幻》スキル『幻炎爆夜』を。

カグラは《夢弓》スキル『トライデントアロー』を発動させた。

規格外にもなった二人のスキルによってボスのHPはどどん削れていき、あっという間にHPが0になった。

 

「す、すごい・・・」

 

ボスのLABは『霊羅鉄鋼』という素材アイテムだったため、ヒビキはそのまま持ち帰ることにした。

そして倒し終えたと同時に動ける様になっていたユウキ達は二人を引き止めた。

 

「ねぇ!」

 

「・・・あ?」

 

まさか止まると思っていなかったユウキはそのまま黙ってしまう。

 

「何もねぇなら先行くぞ」

 

ヒビキはカグラを連れて17層の扉を解放しに向かった。

 

 

 

 

 

ユウキ達はいきなり現れた二人のプレイヤーを見続けた。

自分達の行動を妨害した咆哮を物ともしなかった二人にその場に居た全員が興味を持つ。

 

「リーダー、さっきの二人は誰!?」

 

「分からない・・・でも少なくともボク達なんかより全然強い人達だとしか・・・」

 

サラマンダーのプレイヤーであるジュンはユウキに聞くも分からないと言われ肩を落とす。

すると扉の先から爆音が響いた。

そして扉の向こうからこちらに向かって来るプレイヤーを見た。

それはさっきボスを圧倒した二人だった。

 

「まずい!あいつらまだ移動してねぇぞ!」

 

「だったら防衛戦するまで」

 

「はいはい・・・フォロー頼むぞ」

 

奥から二人を追い掛ける大量のモンスターを見つけた。

その数は百を超え、レベルも90となっていた。

 

「てめぇら、そこどけぇぇ!」

 

「っ・・・一旦引くよ!」

 

「分かったわ!」

 

ボス部屋から出たユウキ達は先ほどの二人のプレイヤーが来るのを待った。

だがいつまでも来なかったため、部屋を見るとそこには。

 

 

半透明の武器を天井近くから床に向かって射出して、その手に持つ武器で敵を薙ぎ払うプレイヤー。

 

蒼色を放つ弓で前にいるプレイヤーをフォローしているプレイヤーがいた。

 

 

「リーダー、あれって!」

 

「・・・みんな」

 

ユウキの意思にみんな同意したのか、目を配る。

そしてアスナとユウキが突入したのと同時にジュン達も特攻する。

 

「殲滅手伝うよ!」

 

ユウキの協力に思いもしなかったヒビキは一瞬ユウキに気を回した。

その隙をつかれ、一気にモンスターがヒビキを狙う。

 

「しまっ・・・!」

 

だがそれはユウキ、アスナ達によって攻撃される事はなかった。

 

「大丈夫!?」

 

「悪い・・・」

 

ヒビキは一度戦線から離脱するとクイック装備に登録してあった装備に変更する。

ローブもその時解除されてしまうが状況的に仕方なかった。

 

「さぁてぇ・・・てめぇらは何分持ってくれるよ?」

 

ヒビキは《霊幻》スキル『現象爆閃』を発動するとおもいっきり地面に突き刺した。

すると一気にボス部屋全体が爆発を起こし、モンスターを一気に減らした。

 

「カグラ!」

 

「ん・・・」

 

ヒビキの攻撃に合わせてカグラは《夢弓》スキル『エンジェルフェザー』を発動させるとユウキ達にそれを散布した。

 

「ユウキ、行くよ!」

 

「うん!みんなもお願い!」

 

「ああ!」

 

「任せな、リーダー!」

 

ユウキ達は一気に減ったモンスターで残る分を攻撃していく。

ユウキとアスナが攻撃するとジュンとスプリガンのノリが追撃する。

その後、向かってきた攻撃はタンクのテッチが受け止め、壁となった。

 

 

10分ほどボス部屋で戦いつづけるとようやくモンスターを殲滅し終え、ヒビキとカグラ以外は床に座り込む。

 

「・・・悪い、モンスター持ってきて」

 

「ごめんなさい」

 

「逆に君達が居なかったら私達が死んでたからお互い様よ」

 

「そ、そうです!」

 

「ん、そうか・・・」

 

ヒビキとカグラは手伝ってくれたユウキ達に感謝すると17層へとまた向かおうとする。

しかしユウキが大声をあげて止めた。

 

「ヒビキ!」

 

「・・・」

 

「ヒビキでしょ?!そうなんでしょ!」

 

「・・・人違いだろ」

 

ユウキは立ち上がるとヒビキに向かって走り出す。

それから逃げるようにヒビキはカグラを抱えると走り出した。

 

「・・・」

 

「ユウキ・・・」

 

「ヒビキだったよ・・・あの半透明の武器・・・」

 

「リーダー?どうしたんだよ、大声あげて」

 

「うぅ・・・」

 

「り、リーダー?」

 

「なんで・・・」

 

憑き物が取れたようにユウキは座り込むと涙を流す。

その様子を見てシウネー達はただ慰める事しか出来なかった。

 

 

泣き止んだユウキを連れてアスナ達は『スリーピング・ナイツ』のギルドホームに向かった。

その途中、掲示板に人だかりが出来ておりシウネーは気になり見に行った。

 

「ゲリラ的に出てくる謎のプレイヤー・・・?」

 

「何その情報?」

 

「分からないです、書いてあったので・・・」

 

ユウキ達が一度ホームに戻るとする途中、フードを被ったプレイヤーが扉前に居た。

メンバーは全員出ていたため、反応がなく、移動しようとする。

 

「ねぇ、そこの女の子ー!」

 

「・・・?」

 

「あたし達に何か用事ある?ここあたし達のギルドホームなんだけど」

 

「はい・・・どちらかというとユウキさんとアスナさんにですが」

 

「ボクに・・・?分かった、一回中に入れよう?」

 

ユウキが言ったため全員はそのプレイヤーも一緒にホームへと入る。

ホームの扉を閉めたのを確認するとフードを取り払った。

 

「えっ・・・カグラちゃん?」

 

「そうですよ、アスナさん」

 

「知り合い・・・なんですか?」

 

「うん、SAOからだよ」

 

「まずはそこからお話しましょうか、分かっていれば後々理解しやすいので」

 

カグラはそういうとSAO事件やSAOでのユウキなど、カグラが分かるかぎりの事を説明した。

 

「ふむふむ・・・それで、カグラさんは何故ここに?」

 

「ユウキさんに伝達があったので、それを」

 

「ボクに・・・?誰から?」

 

「ヒビキからですよ」

 

カグラがその名を出すとユウキの表情が変わった。

その変化にギルドメンバー達も驚いていた。

 

「蝶の谷・・・ユウキさんが辻決闘をしていたように、ヒビキもしているときがあります。明日、するそうなので一応教えに来たのです」

 

「ヒビキが・・・?」

 

「そうですよ、ですがヒビキとの辻決闘がいつ終わるかは・・・」

 

「・・・みんな、明日ギルドお休みしても良いかな・・・」

 

ユウキがみんなに申し訳ない表情で言うと、シウネー達は手を出した。

 

「リーダー。私達もそれを見届ける事にします。それだけ大事な用事なのであれば」

 

「シウネー・・・」

 

「そうだぜ、リーダーは元気なのが一番なんだ!」

 

「あたしも着いていくよ!予定は開ける!」

 

「じ、自分も!」

 

「当然私もね」

 

「ありがとう・・・みんな・・・」

 

メンバーの言葉にユウキは感謝しか言えなかった。

それだけユウキは慕われている。

カグラもそれを見るとホッコリとしており、笑っていた。

 

「それでは私は用事があるので落ちますね」

 

「う、うん!ありがとうカグラ!」

 

「まったく・・・困った兄姉ですね」

 

「カグラ!?」

 

「ふふ、それではまたねです」

 

最後に言い残したカグラの言葉にその場に居た物がユウキを問い詰めるもユウキは頑なに言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ALO内の掲示板、ニュースにはでかでかと表示された記事があった。

 

『ゲリラ的辻決闘を行う謎のプレイヤーが蝶の谷にて君臨!決闘に勝った物はOSSが贈られるぞ!』

 

「・・・さて、人来るのかねー」

 

「気長に待てば来るよ」

 

「人来たら言ってくれ。それまで寝る」

 

「うん、分かった」

 

ヒビキは記事を見た後、人が来るまで一眠りすることにした。

 

 

カグラにおこされる頃には挑戦者は100人を超えており、面倒臭そうにしていた。

 

「多くね・・・」

 

「みんなOSS欲しいんだよ」

 

「なるほどね」

 

ヒビキは木の上から降りると目でまず相手を観察する。

ヒビキの索敵スキルはLv150以上も相手でなければ見定めれるぐらいだったため、強そうな相手を見定めていた。

そして数人を呼ぶ。

 

「二刀流のスプリガンと隣のウンディーネ、インプにしようと思う。見物ってだけなら棄権していいぞー」

 

舐めた口調で特定の人物を呼び出した。

二刀流保持のキリト。

閃光の早さを持つアスナ。

ALO最強プレイヤーのユウキ。

 

 

 

キリトは呼ばれたため前に出ると相手を見る。

しかし自分の索敵が足りないからか強さなどが分からなかった。

 

「久しぶりだな、キリト」

 

「・・・?会ったことあるか?」

 

「ああ、フード付けてる間々か」

 

ヒビキがウィンドウを操作すると姿を隠していたフードが消える。

その姿はかつて共に共闘したヒビキだったことにキリトは驚く。

 

「ヒビキ・・・か?」

 

「そうだな、まぁ終わったら教えてやる」

 

「わかった」

 

 

 

決闘は《全損決着》。

飛行、ユニークスキル有り。

魔法有りのなんでもありな決闘ルールになった。

お互い申し込むと、60秒間の待ち時間があった。

ヒビキは本気で勝つためにユニークスキルをも解放した。

そして『ファンタジア』ともう一つの武器である『夢陽炎』を装備する。

防具もSAOの時に使っていたスカイナイトコート。

 

「キリト、手加減無しだ」

 

「そっちこそな!」

 

60秒経過するとその戦いの火蓋は開かれた。

 

SAOの最強プレイヤーとも言われた。

二刀流のキリト。

幻剣のヒビキ。

 

何度目か分からない決闘がまた始まった。

 

 

 



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闘いの末に導き出された答え

ヒビキとキリトは元SAOサイバーで、リアルでも実際に会ったことはないが親しい間柄であると言えた。

他のMMOゲームでも二人は一緒にやっては対立したりと色々喧嘩が多かった。

 

だが、今回は違う。

単純に気を抜けばヒビキにやられる。

キリトの勘がそう言っており、索敵が機能していない事からヒビキのがLVが高いと言うことになる。

だからこそいつもより警戒をした。

普段なら使うことを渋る《二刀流》を出してまで。

 

「《二刀流》を使うってことは本気だなぁ」

 

「そりゃあお前相手だからな」

 

「なら、こっちもお前に初のスキルを披露してやらぁ!」

 

ヒビキのスキルはキリトが知るかぎり《幻想剣》しか知らない。

だからこそ初見スキルは警戒を高めなければならなかった。

 

「俺の幻想、受けてみるか?」

 

「ああ、受け止める!」

 

「なら、受け流すんじゃねぇぞ!」

 

キリトが《二刀流》防御スキルで受け止める構えを作る。

ヒビキもそれを見て本気で攻撃をする。

ヒビキも同じくスキルではないものの、二刀装備のため連続攻撃を何度も繰り出す。

斜め、横、下、交差、十字・・・二刀で出来る攻撃を続けて繰り出す。

 

「せぇあぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐっ・・・!」

 

そして二刀流で防ぎ、隙を見つけたキリトはそこを狙ってヒビキを斬る。

だが、それがヒビキの狙いであったことに気づかず『スターバースト・ストリーム』を放つ。

ヒビキもそれに対抗するように《幻想剣》『三傘気影』で相殺する。

 

「初めて見る技だな・・・」

 

「そうだろうよ」

 

「次で終わらせてやる」

 

「ならこっちも」

 

キリトは姿勢を低くし、ヒビキも片手剣から刀に持ち替える。

そして両者ともソードスキルを発動させると一気に前方へ加速する。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「うおぉぉぉ!!」

 

二人がぶつかると一気に爆発を起こす。

その爆風は強く、近くに居たカグラが飛ばされかけていた。

見物人がどっちが勝ったのか煙が収まるのを待つとウィナー表示が出る。

そして晴れると床に倒れたプレイヤーがいた。

 

ソードスキルによる爆発的加速の恩恵を受けていたヒビキはキリトより早く突進し、キリトの攻撃を相殺する。

そこからすかさず左手で片手剣を抜刀、キリトを切り付けた。

 

「今日も俺の勝ちだ」

 

「だな・・・」

 

 

 

 

 

この次の対戦相手は本来アスナになる予定だったが、どうあがいても勝てないと察して棄権することになった。

 

「良いのか、アスナ」

 

「うん、キリト君が二刀流で負けるんだよ?私じゃ絶対勝てないって分かるよ」

 

「はは、そりゃあ悪いな」

 

「んじゃ俺は最後のを待つかね」

 

ヒビキは一回二人と別れると3人目を待った。

装備などももう準備出来ていたヒビキはただユウキを待つのみだった。

 

 

その頃ユウキは、ヒビキに対する対策を考えていた。

圧倒的な火力と加速力を持つヒビキにどう対抗すべきかと。

 

「うーん・・・どうしたらいいんだろう」

 

「あの剣士の方の対策ですか?」

 

「うん、言いたいことはいっぱいあるけどまず勝たなきゃダメだから・・・」

 

「自分の想いをぶつけてみる・・・というのはどうですか?」

 

「想いか・・・わかった、やってみるよシウネー」

 

「頑張って下さいね、勝っても負けてもリーダーが満足なら良いんですから」

 

シウネーに応援されたユウキは気合いを入れる。

しかし相手はSAOで対人最強とも言われたヒビキ。

まだ自分が見ぬ技を確実に使うと見ていた。

だからこそせめて自分の想いは絶対に伝える。

例え負けても言いたいことが言えたら満足だからだ。

 

「絶対に勝つからね、ヒビキ」

 

「言ってろお転婆娘」

 

「むー、バカにしてる!」

 

「え、当然だろ」

 

さりげなくバカにされたユウキはプンプンと怒るがヒビキはそれを何事もなく避ける。

そしてヒビキは《全損決着》で決闘を申し込む。

当然受けたユウキは60秒の準備時間が待ち遠しかった。

 

 

 

そして60秒が経過するとヒビキはユウキの視界から消える。

見物人は慌てるがユウキはそれに慌てず周りを警戒する。

 

「冷静だな」

 

いつの間にか後ろに居たヒビキにユウキは剣を振る。

それを簡単に避けられ、距離を取った。

 

「お前とは今までまともに戦った事ねぇから楽しみなんだよな」

 

「・・・ボクと戦いたいから決闘してるの?」

 

「さあな、いつかは戦ってみたいってのはあった」

 

ユウキは持ち前の瞬発力で加速し、ヒビキの前に出るとソードスキルを発動させる。

しかしヒビキはそれをものともせずに軽くあしらう。

 

「うぅ・・・やっぱ出鱈目だ・・・」

 

「さりげなくひでぇこというな」

 

「ヒビキのスキルも見せてよ」

 

「ほぅ・・・?なら死なないよう頑張れよ?」

 

ユウキはヒビキに言われたとおり防御の構えを取るとヒビキの行動一つ一つを警戒する。

そしてヒビキは『夢陽炎』に持ち替えると、《霊幻》スキルを発動させた。

 

「これ喰らって生きてたら大人しく斬られてやる」

 

「えっ?」

 

まさかの一撃勝負に出ると思わなかったユウキはその動揺で防御を緩めてしまう。

その隙を逃さなかったヒビキは一気にユウキの目の前に出る。

ヒビキはユウキの防御を完全に崩すため抜刀して一撃目を与える。

それによってのけ反ったユウキのお腹を蹴り飛ばすとその勢いの間々、ヒビキはあるものを組み立てる。

 

「霊弓・・・一閃!」

 

どこから取り出したか分からなかったユウキはそのままヒビキの攻撃を受け、HPを全て削られ敗北する。

 

(ヒビキに勝てなかったな・・・言いたいこいっぱいあったのに・・・)

 

そのまま負けたユウキは目を閉じる。

ヒビキはユウキを復活させると担いでギルドメンバーに預ける。

 

「ほれ、お前さんらのリーダーだろ?」

 

「え、ええ・・・」

 

ユウキをシウネー達に預けると決闘を終わらせた。

見物人もそれが終わるとどこかに去って行ったため、ヒビキはいつもの木の上に登る。

 

「あー・・・つっかれたぁ」

 

「お疲れ、ヒビキ」

 

「お疲れ様、ヒビキ君」

 

「ん、お前らまだ居たのか」

 

「久々に会ったんだ、そう易々と置いて行けるか」

 

キリトはそういうと木の近くで座り込む。

アスナも同じく座るとヒビキはユウキ達を見る。

どうやら気がついたのかユウキは起きていた

 

「お前らはどうすんだ、帰るのか?」

 

「ボクはまだいるよ」

 

「私達も居たいのですが時間がありますので・・・」

 

そういうとシウネー達はユウキを残してログアウトしていく。

それもそのはず、時間は現実に表すと夜中の8時を超えていた。

シウネー達はずっと見続けていたためご飯等もまだ食べていないのだろう。

 

「さて・・・まずはどこから話せばいいのやら」

 

「ん、別れたあと言えば良いと思う」

 

「んじゃそっから言うか・・・」

 

ヒビキはそこから、あの時キリト達と別れたあとの事を言った。

キリト達もそれを真剣に聞いていたためヒビキはそのまま続ける。

 

「ヒビキ、病気は・・・治ったの?」

 

「正直言えばまだ治ってはないと思う。こればかりは担当医に聞かんとわかんねぇし」

 

「そうなんだ・・・でも何でこうしてALOが出来てるの?」

 

「キリト、お前ならある程度分かってるだろ」

 

「・・・医療用のアミュスフィアか?」

 

「大体は合ってる。正式にはメディキュボイド。世界にも1台しかまだ存在してない」

 

「そんなのどうやって使ったんだ?」

 

「七色・アルジャービン博士にわざわざ許可取りに行った。まだ被験者が居なかったから実用化出来なくてな。俺が被験者にもなると言ったら担当医も頷いた」

 

「ヒビキ君、今どこに入院しているの?」

 

「さあ?俺からは教えん」

 

その場のノリで教えてくれると思った為にキリト達は呆れる。

 

「それに基本面会拒絶にしてるからな、親族以外無理だ」

 

「じゃあ・・・ヒビキには会えないの・・・?」

 

「せめてメディキュボイドが外れたら教えてやらんこともねぇけど」

 

「う~・・・」

 

「んな寂しそうな声出すんじゃねぇの、もうすぐ治ると前に聞いたし明日にでも聞く」

 

「ヒビキ、時間・・・大丈夫?」

 

カグラがヒビキの消灯時間の事を考え、言うとヒビキは焦っていた。

消灯時間は21時で、現在の時刻は恐らく20時55分だった。

 

「やべえ、そろそろ落ちねぇとだわ」

 

「そっか・・・」

 

「そのうちまたやってるからそん時来な」

 

「ああ、すぐに行ってやる」

 

「それじゃあね、ヒビキ君」

 

「ん、じゃあな」

 

そういうとヒビキはログアウトし、ALOから仮装空間へと移る。

仮装空間が今の響夜の家となる。

そして時間的に暇になったため寝ることにした。

 

 

 

 

響夜が起きると時間は朝の8時だった。

そしてコールを押して担当医である倉橋を呼び出す。

数分した後、倉橋が仮装空間にやってくる。

 

「おはようございます、響夜君」

 

「おはようございます」

 

「どうしたんですか?今日は」

 

「病気どうなったのか聞きたいと思ったんですよ、早く面会したいと煩いんで」

 

「なるほど・・・私が昨日お伝えすれば良かったのですが、響夜君の病気はもう治っていると言って良いでしょう、白血病細胞はほぼ死滅しています。ですがもう少し様子を見て完全に完治したかを確認しなければ再発する可能性があります」

 

「じゃあ俺の病気はまだ完全に確認出来てないってことで?」

 

「そうですね、数日後には結果が出るので結果次第ではこのメディキュボイドも終わります」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「いえいえ・・・それでは」

 

倉橋は仮装空間から出ると響夜一人になった。

その間暇になり、左手でウィンドウを出すとALOを開く。

 

 

 

ALOに入ったヒビキはいつもの木の上で寛いでいる。

そして自分のスキルを見ていく。

《索敵》《隠蔽》《戦闘時回復》《片手剣》《刀》。

そして1番下にある《幻想剣》《霊幻》。

《幻想剣》はSAOから使っていたが《霊幻》は最近に解放されていた。

 

「このスキル・・・どうにもまだ解放仕切れてない感じがするな」

 

そういうのも《霊幻》スキルはスキル量が他に比べかなり少なく、スキル一覧として開いても空きがあった。

 

「そういやあのLABの金属・・・カグラに打ってもらうか」

 

16層のLABで手に入った『霊羅鉄鋼』をカグラに打ってもらうべく、カグラの店に向かった。

 

 

場所自体はそう遠くもなく、到着するが見知った人物がいた。

キリトとアスナ、クラインが店の前で立っている。

 

「・・・なんで立ってんだ」

 

「ん・・・ヒビキ、朝から早いな」

 

「お前らこそカグラの店の前で何してんだ」

 

「その声・・・ヒビキか!?久しぶりだな!」

 

「うっせ・・・で、何してんだ」

 

「扉が開かなくてどうしようかなって思ってたの、キリト君でも開けれないって言うし・・・」

 

アスナは閉ざされたカグラの店扉を見やる。

するとヒビキは『夢陽炎』を取り出すとキリト達をどかす。

 

「簡単だろうが、斬ればいい」

 

まさかの発想にキリト達は驚く。

ヒビキはそんなことお構いなしに扉を攻撃する。

すると破壊された扉は新しく建造され、綺麗になる。

 

「なるほど、ただのダミーか」

 

「どういうこと?」

 

「人嫌いのあいつが易々と中には入れないってことだ、後でシバいておく」

 

シバかれることが決定したカグラに同情しつつも、ヒビキ達は中にはいる。

すると眠くなったのか寝ていたカグラがいた。

 

「て、寝てんじゃん、そりゃあ開けないわ」

 

「お、おう・・・どうすんだ?マスタースミスの宛が無くなっちまったが」

 

「ん、何かあんのか?」

 

「これだよ」

 

キリトが画面を操作すると一つの金属を出す。

それは『ブラッククリスタルインゴット』という金属で最上級系金属に分類される。

 

「黒水晶じゃねぇか・・・なるほどマスタースミスじゃねぇと扱えねぇわ」

 

ヒビキはそれを見た後眠りこけているカグラをシバき起こす。

それによって起きたカグラは寝ぼけながらヒビキ達を見る。

 

「・・・おふぁよ~」

 

「おはよう、カグラ。早速仕事だ、働け」

 

無慈悲な起床をさせられたカグラだがヒビキの事はすぐに聞き、ヒビキは『霊羅鉄鋼』と『夢陽炎』を渡す。

 

「完成品同士でまた打ってくれ、二本も刀いらねぇし」

 

「ん・・・はぁい・・・」

 

そういうとカグラは炉に鉄鋼と刀を入れて熱していた。

 

「カグラ、俺のもお願いしていいか?」

 

「ん・・・物は?」

 

「黒水晶なんだけど・・・片手剣でお願いする」

 

キリトから黒水晶を受け取るとそれも炉に放り込む。

しばらくしてヒビキのが先に温まり、鉄を打つ。

通常ならば200~300回を1000回以上叩いていた。

 

「出来た、銘は『霊鼬』。このまま合成するの?」

 

「ああ、一思いにやっちまえ」

 

「ヒビキ君、合成ってどういうこと?」

 

「カグラだけが持つ《武具合成》スキル。同じ武具種なら合成出来るんだよ。それで作られた武具はバカみたいに強い」

 

「そんなのが・・・でもリズは持ってなかったし・・・」

 

「多分解放条件があるんだろうな、カグラはSAOの初期から鍛冶してるから鍛冶関係クエは興味かなり持つ」

 

そんなことを話していると二つの刀が互いに溶け合い、混ざる。

するとそこからまた数千回叩きはじめる。

何度か休憩も入れつつ、ようやく叩き終わると新たな刀が創られる。

 

「『霊想刀・焔凍』・・・初めてみる刀」

 

カグラはそれを持ち上げようとするが一つも動かなかった。

それをヒビキは軽々と持ち上げて鞘から引き抜く。

 

「・・・良い刀だな、装飾が最低限なのにどこか妖しい感じを醸し出してる」

 

「すっげぇ・・・なあ、ヒビキ。それ俺に・・・」

 

「誰がくれてやるか、俺のために打ってくれたんだ、少なくともあげる気はない」

 

「だよなあ・・・」

 

クラインは落ち込むとヒビキはある刀をクラインに渡す。

それは邪神級モンスターからの超低確率ドロップの魔剣クラスだった。

 

「こ、これって・・・」

 

「妖刀ムラマサ。2本あったからくれてやる」

 

「ま、まじか!ありがとよ、ヒビキ!」

 

クラインはまさか貰えると思っていなかったため大喜びする。

ヒビキは簡単に渡したが実は邪神級モンスターは他のモンスターに比べ規格外の強さを持つ。

パーティーでも時間がかかる物をヒビキは単独で行っていたためその規格外さを知れる。

また低確率ドロップとなると数百以上狩る事になり、狙うことすらバカらしいレベルだった。

 

「あと、キリトにアスナ。良いもんくれてやる」

 

キリトに渡したのはキリトがかつてSAOで愛用していた魔剣クラスの片手武器『エリュシデータ』だった。

アスナには細剣『ランベルトライト』を渡す。

 

「こ、これはSAOの時の・・・!」

 

「私のもだ・・・」

 

「邪神マップの10階層からのドロップ品。名前一緒だったし俺は使わんからやるよ」

 

「そうか・・・ありがとう、ヒビキ」

 

「ありがとうね、ヒビキ君」

 

「それは良いが・・・カグラ、お前はいつまで叩いてるんだ」

 

ヒビキは後ろで必死に黒水晶を叩くカグラを見る。

黒水晶とはいえ数百で良いと思うのだが数千以上叩いていた。

 

「なんか・・・しっくり来ない」

 

「そか、満足するまで叩けば良い」

 

「そんなに鍛冶詳しくないけどさ・・・叩く回数って関係するのか?」

 

「正直そこまで関係はない。一応最低限叩かないといけない関係はあるがそれを超えたら終わりで良いんだ。カグラぐらいじゃないか?規定数以上叩くのは」

 

「そうなのか・・・」

 

キリトは未だ叩きつづけるカグラを見る。

まだ年齢的にも幼いであろう彼女が必死に作る武器は確かに意思が篭っていそうでそれが強力な武具を生み出すのだろう。

するとカグラがハンマーを置いて金属を成形させる。

 

「出来た・・・『暗闇剣アウト・ソルス』。聖剣エクスキャリバーに劣らない性能」

 

キリトが持ち上げようとするとまったく持ち上がらなかった。

それを見たヒビキも持つが辛うじて持てる程度でこれを振るのは無理だった。

 

「なんっ・・・だ?!おもすぎる・・・!」

 

「ダメだわ俺でもこれは振るのは無理過ぎる」

 

「あぅ・・・ごめんなさい・・・」

 

持ち上げられない武器を作ってしまった事にカグラはキリトに謝る。

だがキリトはカグラの頭を優しく撫でた。

 

「謝らなくて良いよ、持ち上げられないのは俺が悪いし。それにせっかく打ってもらった記念にも出来るからな」

 

「カグラ、相手が持てない武器を打った事は悪くないことだ。何故かってその武器の装備を目指せるからな、目標を持たせれる」

 

「ぅん・・・ぁりがと・・・」

 

カグラは慰められた後、武器を仕舞いキリトにトレードで渡す。この方法でないと相手に渡せなかった。

またキリトとヒビキからは本来の金額の3分の1の金額を受けとった。

曰く「満足した武器打てたから」だそうだ。

 

「んじゃ、俺ソロで暇潰すからまたな」

 

「ああ、またなヒビキ」

 

「またね、ヒビキ君」

 

「じゃあな、ヒビキ!」

 

ヒビキはカグラの店を出るとアインクラッドに向かった。

そして打ってもらった『霊想刀・焔凍』を装備するとピロンと音がする。

 

「ん、スキル解放?」

 

そこには恐ろしい程の物がヒビキに写し出されていた。

 

 

 



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夢想は事を忘れる

ヒビキが『霊想刀・焔凍』を装備するとスキルが解放され、それを見る。

すると今までの物から考えてとてつもないほどのスキルがあった。

 

「んだ、これ・・・バグってレベルじゃねぇんだけど」

 

そこには《霊幻》スキルの一覧があった。

・全ステータス20%上昇

・全ソードスキル使用後の硬直消滅

・全ソードスキル威力20%上昇

・全武器熟練度1000固定

・《幻想剣》スキル強化

・属性攻撃半減

・与ダメージ倍加

・被ダメージ軽減

・自然回復量上昇

・飛行速度上昇

・即死攻撃25%無効化

・致死攻撃50%無効化

というゲームバランス崩壊の《パッシブスキル》が付与されていた。

しかもソードスキルでなくてこれだったため、本命は更に強いと言って良いだろう。

 

「・・・チーターじゃないすか、俺」

 

ヒビキは突然の強化に戸惑うも、とりあえず使って見ることにした。

最初は《幻想剣》スキルを使うことにしたが説明文が変更されていた。

 

「これ《幻想剣》も強化されてんのかよ」

 

手始めに17層のモンスターを斬るがソードスキルを使わずとも削りきれる辺りがステータス強化の恩恵が高かった。

 

「んと・・・これ使ってみるか」

 

《幻想剣》スキル『バーンメテオ』をモンスターに放つ。

ヒビキはそのモーションに従うように放つ。

十字に切り付け、交差に切り上げた後に中心に突きを放った。

 

「・・・普通に最上級スキル並の火力あんだけど・・・こわっ」

 

5連撃だけとはいえ高火力を出せるのは後々に大事になる。

全て解放されたスキルを全て使うのは至難だと思い、気に入ったスキルだけを今後使うことにした。

 

「とりあえずしばらくはこれで安定なんだろうが・・・確実に装備自体変えたのが良いよなぁ・・・」

 

ヒビキの武器は強力と言っても過言ではないほど強い。

 

SAO時代から使っている『ファンタジア』は強化素材が厳しい分、強化回数の制限が無い。

また一つ上のランク武器を10本用意してカグラに合成してもらえば『ファンタジア』の武器ランクもあげれる。

そんなことをしていたため、『ファンタジア』は最高ランクであるレア度20で【レジェンド】級になっている。

 

さきほど作ってもらった『霊想刀・焔凍』もレア度は20で特殊効果付きだった。

効果は【死霊モンスターからの被ダメージ半減、与ダメージ倍加】という死霊モンスター特効武器だった。

『妖刀ムラマサ』も強力だがヒビキの求めている武器本来の質量的に使わなかった。

 

 

しかしヒビキが懸念しているのは装備品が武器の強さに合っていなかった。

今まで集めた装備品は全て倉庫に放り込んでいるため漁れば良いのだがヒビキはそれが面倒だった。

 

「倉庫・・・漁んのめんどいしなぁ・・・まぁなんか見つけたら性能見ることにするか・・・」

 

ひとまずこのままで過ごすことにしたヒビキはアインクラッドの攻略をしていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインクラッドの攻略に夢中になっていたヒビキは身体結果の事を忘れていたため、思い出したのは結果が出た次の日だった。

 

「・・・さて、完全に聞くの忘れてたわけだが・・・時間帯的に聞くか・・・」

 

ヒビキは仮装世界でコールを押して倉橋を呼び出した。

少しするとあの時の様に倉橋がやってくる。

 

「こんにちは、響夜君」

 

「こんにちは・・・倉橋先生、診断結果はどうでした?」

 

「結果は良好で、もう治療自体は終わっています。それでなのですが、一度メディキュボイドを止めようと思います」

 

「はあ・・・わかりました」

 

「メディキュボイドを止めたらとにかくどんなことでも良いので私たちに分かるような行動を起こしてください」

 

「わかりました」

 

倉橋は仮装世界から出ると、病室のメディキュボイドを止めた。

響夜もそれに合わせて現実世界へと戻る。

 

「響夜君、倉橋です。聞こえますか?」

 

「・・・はい」

 

「五感に何か異常はありますか?」

 

「今のところは・・・無いですね、使用期間にも寄るかと」

 

「なるほど・・・それでは、機材等を仕舞います。運動能力にも異常がなければ数日程で退院出来ますよ」

 

「運動能力が衰えてるとリハビリですか・・・」

 

「そうですね、ですが響夜君ほどの若者ならすぐに元通りでしょう」

 

「わかりました」

 

倉橋は諸々の書類を看護師に渡すと、メディキュボイド等が運び込まれていく。

一応これからのことを聞いたが、数日は様子見をしてリハビリが必要そうならばリハビリの日数を追加することになった。

ゲーム自体は消灯時間厳守ならやってて良いと聞いた。

 

「・・・退院まで寝ることにしよう、ALOもその時にすればいいや」

 

響夜は退院までゲームを我慢することにし、寝ることにした。

今までの睡眠を取り返すように寝続けれたため、日数はあまり気にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、自主的な運動を少しして、リハビリが必要か倉橋に見てもらっていた。

 

「リハビリは必要なさそうですね、入院期間が短かったのもあるのでしょう」

 

「家族には連絡してもらっていいですか?退院日の迎えで」

 

「ええ、私からしておきますね」

 

倉橋はそういうと響夜に退院手続きの書類を渡す。

そしてもう一つ重要な物があった。

響夜は普通に使っていたがメディキュボイドは本来まだ実用化されていない。

響夜の場合は被験者として受けたためその報奨金が出ていた。

 

「わぁお・・・なんだこの報奨金」

 

報奨金は通帳に振り込まれていた。

金額は少なくともSAOクリア時以上の額があった。

 

「では私は仕事もあるので失礼しますよ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

響夜は倉橋に礼を言うと書いておかなければならない書類をさっさと記入した。

それを書き終わるとまた眠りにつく。

 

そんな事をメディキュボイドを外して2週間。

この日は響夜が待ち望んだ退院日だった。

そして病室で荷物を纏めていると神楽が入ってくる。

 

「ん、おはよう神楽」

 

「おは・・・ょ、ぅ・・・」

 

「声出せてる・・・うん、綺麗な声だぞ」

 

「え、へへ・・・」

 

今まで頑なにその声を出さなかった神楽もSAO事件から変わりはじめていた。

その一歩が声を出していくということ。

SAO、ALOでは普通に声を出していた辺り現実世界の声を出すのが怖かったのかもしれない。

それを周りは支えてくれていたため、神楽はちょっとずつでも出そうと頑張ったのだろう。

 

「神楽、声出すのは良いけど無理はしなくて良いからな。無理して出して喉痛めても駄目だから」

 

「ぅ、ん・・・ぁりがと・・・」

 

「んじゃ、さっさと母さんと父さんに会いに行くか」

 

「ぅん!」

 

響夜も荷物を纏め終わり、神楽と共に病室を出ていく。

看護師に仲の良い兄妹にしか見えなかったからか、よく話し掛けられていた。

 

「母さん、父さん」

 

「響夜、退院おめでとう」

 

「おめでとう、響夜」

 

「さっさと帰ろうぜ、母さんの料理が食いたくなってきた」

 

「あらあら・・・今日は退院祝いに振る舞うわね」

 

「やったぜ・・・んじゃ、倉橋先生」

 

響夜は後ろを振り返るとこれからもお世話になるであろう倉橋と話をした。

メディキュボイドの事、病気の事、神楽の事・・・色々と倉橋には世話になっていた。

もっとも神楽の事は倉橋以外に任せれないが。

 

「それでは、お世話になりました」

 

「まだまだ神楽君の事を考えたら早いですよ?」

 

「あはは、そうですね」

 

「それでも、響夜君。退院おめでとうございます」

 

「ありがとうございます、倉橋先生」

 

響夜は倉橋と握手した後、病院を後にした。

迎えは拓也の車で帰ることになり、そのまま久方振りの家に到着する。

 

「久しぶりだな、帰ってくるの」

 

「そう、だね・・・」

 

「それに懐かしい、この状況が」

 

「・・・?」

 

響夜の言うことに神楽は理解できなかったがすぐに分かることとなった。

それはかつて自分達を養子に入れてくれた時と同じ様に神菜と拓也が玄関で待っていた。

 

「ったく、これ2回目だぞ?」

 

「良いじゃないか、思い出なんだよ」

 

「そうよ?二人が初めて来たときのことは未だに覚えてるもの」

 

「まったく・・・」

 

響夜はいつも通りの二人の行動に呆れるも嫌ではなかった。

そしてそれをまた再現すべく、神楽の手を持って玄関に上がる。

 

「ただいま、母さん、父さん」

 

「ただ、ぃま・・・」

 

「おかえりなさい、響夜、神楽」

 

「おかえり、二人とも」

 

今度は何も起こらない。

響夜の病気は治ったから、響夜が思い詰めたことなんてもうほとんど無いのだろう。

 

「ああ、ただいま」

 

 

 



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洒落た喫茶店は人を呼ぶ

白血病を治し、普通の生活に戻った響夜は自分の部屋を弄っていた。

押し入れの奥の方にある段ボール箱を取り出して開けてみる。

 

「・・・懐かしいな」

 

中にあったのはクラス写真。

それは響夜がまだ『時崎直人』だった時。

担任が最後だからとクラス全員を説得し、木綿季を伝って直人を連れ出してようやく撮れた一枚。

 

「たまには・・・顔を出しにでも行ってやるか」

 

響夜はそう思い、中にあった制服を着る。

それは高校指定服で、気分的に置いていた物だった。

制服を着てバイクの鍵を持って家を出る。

 

「神楽、ちょっと外出てくる」

 

「わか、った・・・いって、らっし、ゃい・・・」

 

「ん、行ってきます」

 

神楽を家に置いていくと響夜はバイクに乗ると高校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほどなくして到着し、いつもの駐輪場にバイクを止めると毎日寛いでいた屋上に向かう。

 

「未だに鍵返してねぇわ、まぁ良いけど」

 

鍵を返し忘れていたため、屋上には難無く入れるのだが向かう途中生徒に会ってしまう。

その生徒からすると見知らぬ男子生徒が入っていて驚いたのだろう。

 

「あ、あなた誰ですか!」

 

「・・・おかしいな、制服着てんだが」

 

「私の記憶には貴方みたいな男子は居ません!」

 

「は、はぁ・・・じゃあ桜先生どこにいる?」

 

「桜先生・・・?職員室に居ますけど・・・?」

 

「ん、なら職員室向かうか」

 

女子生徒からかつての担任の場所を聞き、その場所にいるであろう桜の所に向かった。

響夜をつけるように女子生徒は後ろからひっそりとついていく。

 

「さぁ~て・・・ふぅ~」

 

 

「失礼しまーす、元2年A組の時崎です、桜先生いますか」

 

元という言い方に職員室内はざわめき、中から担任だった桜がやってくる。

 

「時崎君?」

 

「久しぶりですね、先生」

 

「え、えぇ・・・」

 

「落ち着いたんで内容教えに来たんですけど」

 

「じゃ、じゃあそこに座って?」

 

桜に促され響夜は近くの椅子に座る。

女子生徒はどうやら生徒会長らしく、記憶力が異常なほど良いため初めてみた響夜に怪しんだらしい。

 

「とりあえずまず家庭事情で、大きな事があったんですよ」

 

「確か・・・時崎君のご両親は居ないんですよね?」

 

「そうですね、信頼できる親戚に養子として引き取ってもらいました。名前もその時変えましたし」

 

「今の名前は?」

 

「雪宮響夜ですよ」

 

「なるほど・・・それで何でここに?」

 

「えっ、だからあの時に言った様に落ち着いたのと、まだ俺ここの高校在学中になってるんで、中退しようかなと」

 

「中退・・・」

 

響夜が高校を止めると思い桜は言葉を詰まらせた。

桜にとっても響夜は問題児だったがその分の事をしていたと思っていた。

 

「SAO事件・・・俺も参加してたんですよ。それでSAO事件被害者とかが入れる支援学校に入る予定です」

 

「あの事件に・・・?大丈夫だったんですか?」

 

「ええ、逆に大事な物を見つけれましたから」

 

「そうですか・・・」

 

「高校自体はもう一回学校が違いますけど入りますし、仲間も多いんであの時みたいな事は起きませんって」

 

「なら、良いんです・・・あの時私が何も出来なかった事で・・・」

 

「いいんすよ、俺が勝手に騒いで起こした問題ですから。桜先生が気に病む事はないです」

 

「ありがとう、時崎君」

 

「いえいえ・・・っと、時間やば」

 

響夜が時間を見ると12時を超えていた。

1時から予定があるため、そろそろ出なければならなかった。

 

「もう行ってください。私だって忙しいんですからね?」

 

「そうすね、それではまた」

 

「はい、またです」

 

予定がある事を察し桜は話を終わらせて響夜を帰らせた。

その途中、視線が気になり辺りを見回すと一人の女子生徒が響夜を見ていた。

その生徒は眼鏡をかけていて響夜も知っている人物だった。

 

「・・・直人君?」

 

だが急いでいる今構ってやれないのですぐにその場を後にして急いで下に降りるとバイクを乗る。

 

「なんであいつが・・・今頃になって俺の前に出るんじゃねぇよ・・・」

 

響夜は先程の女子生徒を思い出すがすぐに頭を振って思考を止める。

そしてその場から、学校から逃げるようにバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った後、神楽を連れて行かなければならないため、外に行けるように用意させる。

 

「神楽、用意出来たか?」

 

「うん、できた」

 

「んじゃバイクに乗りな」

 

「うん」

 

バイクに乗ろうとするが届かないのか飛んで乗ろうとするも届かず響夜が持ち上げて後ろに乗せる。

響夜も乗るとバイクを吹かして、目的の場所へと向かった。

 

 

25分ほど時間がかかったがその場所に到着する。

それは古めかしい感じがする喫茶店だった。

 

「ダイシー・カフェ?」

 

「この場所に用があるんだよ」

 

神楽の手を引くと響夜は扉を引いて中に入る。

中は広く、隠れ家的な雰囲気を出していた。

 

「いらっしゃい」

 

「わざわざ来てやったんだ、もうちょいなんか言えよ」

 

「・・・?初めてだろう?」

 

「きょー、見た目違うよ」

 

「あー・・・マジか」

 

マスターを勤めているのは『アンドリュー・ギルバート・ミルズ』。

SAO、ALOでは『エギル』という名前でキリト達と関わっていた人物だ。

 

「ヒビキだよ、見た目ちげぇけど」

 

「全然雰囲気違うじゃねぇか、ぱっと見分からないぞ」

 

「だろうなぁ・・・あ、アイスコーヒーとホットミルク頼む」

 

響夜はエギルに飲み物を注文する。

アイスコーヒーは響夜でホットミルクは神楽の分だった。

 

「ほらよ・・・で、今まで顔を見せなかったのはどういう了見だ?」

 

「さんきゅ・・・SAO攻略してALOにも居たけど途中で入院することになってな。だから行きたくても行けなかったって感じだ」

 

「入院って・・・何のためだ?」

 

「CML・・・慢性骨髄性白血病だ。まぁ数日前に治ったけど」

 

「なるほどな・・・っと、もうすぐキリト達が来るぞ」

 

「なら俺はこのままの姿で居よう、面白そうだし」

 

響夜の姿はSAOの時と違い髪の毛が少し伸びていた。

それだけでエギルを勘違いさせたのだから気づく可能性は低いと思った。

 

 

少しすると扉が開いて3人が入ってカウンターに座る。

 

「よっ、エギル」

 

「こんにちは、エギルさん」

 

「こんにちは~」

 

和人、明日奈、木綿季がカウンターに座ってエギルに言う。

そして近くに座っている響夜と神楽を3人はちらっと見るが分からなかったようで気づいていない。

 

そしてまた扉が開いた。

その人物は見た目は10歳ぐらいで銀髪を持つ少女だった。

 

「・・・面倒な奴が来やがった・・・」

 

「面倒?」

 

その少女が来ると喫茶店はざわめく。

そして響夜を見つけると一目散に飛びつく。

 

「ひびき~!」

 

「だー!うるっせぇ!」

 

「プリヴィエート!やっと見つけたわ!」

 

「・・・逃げたい」

 

「きょー、この子は?」

 

神楽はいきなり響夜に飛びついた少女の事を聞きたかったが隣の3人に思いっきり聞かれたであろう。

 

「ヒビキ・・・?」

 

「・・・エギル、帰っていいか」

 

「諦めろ」

 

「ちくしょう・・・」

 

エギルに助けを求めるも諦めろと言われ響夜は頭を抱える。

まず銀髪少女の事と、和人達で対応が疲れていた。

 

「とりあえず、久しぶりだな」

 

「響夜だよね?」

 

「お、おう、そうだけど」

 

いきなり木綿季が響夜の目の前まで近づく。

響夜もさすがに恥ずかしいのか目を逸らして離れさす。

 

「ちけぇから離れろ・・・」

 

「ぶ~」

 

「ヒビキ君だよね?」

 

「ん、まぁな。本名は雪宮響夜・・・まぁそこの真っ黒に聞けば教えてくれると思うけど」

 

「えっ?そうなの?」

 

「だって結構長い付き合いだし。SAO以前からな」

 

「あはは・・・で、響夜。その女の子は?」

 

和人は苦笑いするも、響夜に近寄ろうとして止められている銀髪少女が気になった。

 

「・・・アル、自分で自己紹介ぐらいしろ、めんどい」

 

「ちょっと、それはひどいんじゃない!?」

 

「良いからさっさとしろ・・・」

 

「む~・・・まぁ、良いわ。私は七色・アルジャービン。VRMMOではセブンって名前で遊んでます」

 

「七色ってあの!?」

 

「多分?」

 

七色の自己紹介に4人は驚く。

何故かと言えば、この少女『七色・アルジャービン』はVR技術の研究者で茅場晶彦と並ぶ知能を有する。

茅場が闇ならば、七色は光の科学者と言える。

そして年齢は弱冠12階で天才科学者だったために世界的にもその名は有名だった。

 

「きょー、なんで知ってるの?」

 

「元々メディキュボイドはまだ実用化されてないんだよ。使うには被験者としてじゃないと使えない。その許可でアルに貰いにも行ったし、昔から知ってたからな」

 

「そうなんだ」

 

「で、アル。お前は何しに来たんだ」

 

「メディキュボイドの被験者になった響は政府から報奨金が出るのは知ってるでしょ?」

 

「ん、ああ。そうだな」

 

「報奨金自体が振り込まれてる通帳を直々に私に来たのよ!」

 

「あ、はい。さっさと渡してお前は仕事しに行け」

 

響夜の冷たい対応に七色はいじけるも通帳を渡す。

外にはワゴン車がある辺り仕事の休憩時間に来たのだろう。

 

「仕方ないわねー、ダスヴィダーニャ、響」

 

「ダスヴィダーニャ、アル」

 

七色はそのまま嵐のように車に乗ると去って行った。

そこからは今度は木綿季と和人と明日奈が七色との関係を根掘り葉掘り聞いてきた。

 

「ねえ!あの子とどういう関係?!」

 

「親同士の絡みで昔から知ってんだよ!ていうかちけぇから!」

 

「それにしてはやけに仲良かったじゃないか」

 

「仲悪かったら俺死んでるからな」

 

怒涛の勢いで聞いてくる3人に答えていると終わる頃には疲れ果てていた。

 

「響夜、退院おめでとう!」

 

「木綿季、遅い」

 

「えへへー、ごめんね?」

 

「悪びれてねぇだろ!?」

 

「ふふんー」

 

和人と明日奈も木綿季に続いて言うと木綿季のペースに響夜は飲まれていた。

それを嫌と思わなくなった辺り、過去と変わったのだろう。

いつかは言わなければならないのにも関わらず。

 

「さて、そろそろ帰るわ」

 

「えー、まだ話してたいー」

 

「腹減った、眠い、しんどい」

 

響夜の3連続返答に木綿季は黙るほかなかった。

元々留めさせたのは自分達と分かっていたからだ。

 

「あ、あとな。しばらくALOにログインしないから」

 

「「「えっ!?」」」

 

「GGO・・・ガンゲイル・オンラインをやってみたくなったんだよ。神楽もやりたいらしいから」

 

「響夜、それ俺もなんだよ」

 

「お前の場合どうせ役人さんにこき使われてるだけだろ」

 

和人も行くと言うと明日奈は驚いていた。

明日奈に言っていなかったのだろう、後に説教されると響夜は思った。

 

「とりあえずそろそろ帰るわ、ご飯作らないとだし」

 

「そうか、それじゃあな」

 

「またね、響夜君」

 

和人達と別れてバイクに乗るとここに来るときより重かった。

 

「・・・木綿季、お前は何故乗ってる」

 

「え?響夜のご飯を食べに行こうかなーと」

 

「お前絶対そのまま泊まるだろ・・・」

 

「駄目?」

 

「せめて親に泊まっていいか聞け」

 

響夜が言うと木綿季は携帯を操作して電話をかける。

 

『紺野です』

 

「お母さん?ボクだけど」

 

『どうしたの?』

 

「響夜の家に泊まっていい?」

 

『響夜君が嫌じゃないのなら良いわよ、それと変わってもらえる?』

 

「うん・・・響夜、変わってだって」

 

「変わりました、響夜です」

 

『響夜君、以前失踪したって聞いたけど・・・何があったのか聞かせてもらえる?』

 

「長くなるんで簡単に言ったら自分の病気の事を知られたくなかったんですよ、結局はばらしましたけど」

 

『そう・・・あまり思い詰めないことよ。木綿季と響夜君はお互いに支え合えると私は思っている』

 

「・・・そうですね。すみません、木綿季を放ってしまって」

 

『あら、その自覚があるなら木綿季をお願いしようかしら?』

 

「洒落にならないんでやめてください。しかもまだ16じゃないんですから」

 

『16になったら貰ってあげてね』

 

「・・・良いですよ、それじゃ切りますね」

 

『ええ、木綿季によろしく』

 

そういって裕子は響夜との電話を終えて、響夜は携帯を返す。

 

「お母さん何て言ってた?」

 

「んー、秘密だ。そのうち教えてやる」

 

「仕方ないなぁ・・・」

 

木綿季と神楽を乗せると響夜はバイクを発進させた。

いつもと違い2人も乗っているため安全運転で家に向かった。

家に着くと神楽は疲れたのか自分の部屋に入っていった。

疲れていたため眠たいのだろうと響夜は思う。

木綿季も家に入れると荷物を部屋に置きに行く。

 

「木綿季」

 

「ん?どうしたの?」

 

「16になったら挨拶しに行かないとな」

 

「ふぇ?」

 

「知ってるか?日本じゃ女性は16歳で結婚出来るんだぞ」

 

「・・・はわわ・・・」

 

響夜がいきなり言うため木綿季の頭は処理が出来ずにショートする。

ポンッと頭を爆発させると木綿季はそのまま力が抜けて倒れる。

 

「ちょ、木綿季」

 

「ボクと響夜が結婚・・・えへへ・・・」

 

「・・・しばらく寝かしとこう」

 

自分の世界に入った木綿季をベットに寝かせると響夜も眠たくなったのか椅子に腰掛けて眠ることにした。

一応アラームもかけて。

 

 

「おやすみ、木綿季」

 

 




ひとまず、これでALO編のストーリーが完結しました。
次は日常編を書いていきます。
その中でGGOの事も入れていきますが最初のメインは日常編となります。
また、高校の話に出ていた眼鏡をかけた女子生徒はGGO編でも重要人物になります。


それでは、ALO編を読んでいただきありがとうございました!



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《手に入れた日常生活》
新たな日常の始まり


久々に昔の夢をみた。

あん時の俺は・・・『時崎直人』の頃だ。

まだ高校に入る前。

木綿季以外にも好きになった女子はいた。

その女子は幼なじみで小さい頃からよく遊んでいた。

 

「おーい、置いてくぞ~」

 

「ま、待って・・・早い・・・」

 

「ったく・・・おぶっていくから乗りな」

 

俺はあくまで親切心で言った。

その日から、その女子とは段々関わらなくなった。

 

「直人君?」

 

「・・・」

 

「無視しないでよ・・・」

 

「頭痛いから・・・帰るわ」

 

「あっ・・・」

 

一緒に居ると迷惑がかかる。

そんなのは俺でも分かってた。

だから俺は突き放した。

初めて会った時から好きだった子を。

 

「あーあ、幼なじみとかってめんどくせー」

 

俺の独り言は空に吸い込まれるように消えた。

幼なじみだからって何なのだろう。

家が近いから?仲が良いから?

それは確かにあったのだろう。

 

「直人君、授業は?」

 

「・・・いかねーよ、どうせ浮くだけだ」

 

「行こうよ・・・」

 

「いかねぇよ、お前こそ行けよ」

 

「直人君が行くまで私も行かない」

 

「はぁ?お前馬鹿なの?」

 

「そうでもしないと授業追いつけないよ・・・?」

 

「・・・機嫌わりぃんだ、どっか行っててくれ」

 

俺は関わらせたくなかった。

もしこの子を巻き込んで何かあれば責任は俺に来る。

そんな責任をまだ背負えない以上、巻き込むわけには行かなかった。

さすがに機嫌が悪いと分かったのかトボトボと帰っていく。

 

「もう・・・あの時みたいには居られねぇんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校出る前にあの時、確かに俺の顔を見ていた。

だがばれていたとは限らない。

例え聞かれても人違いで通せば良い。

だってそれは『時崎直人』の幼なじみであって『雪宮響夜』の幼なじみではないのだから。

 

「懐かしいな、あんなのを見たのは久々だ」

 

久々に見た夢を思い出していた。

昔は好きだった。

だが今の俺には木綿季がいる。

それだけで・・・十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が時間を見ると朝の7時だった。

この日からSAO被害者の為に作られた学校に転校することになっている。

勿論和人や木綿季達は知らない。

 

「えーと、制服着て、鞄持って、バイクの鍵持って・・・っと、こんなもんで良いでしょう」

 

木綿季は既に学校に行っており、家には居なかった。

神楽も同じく学校に一緒に入ることになっている。

 

「神楽ー!準備できたかー?」

 

「出来た」

 

「よし、んじゃ行くぞ」

 

「うん」

 

一通りの家事は終わらせてあるため、帰って疲れて寝ても問題ないようにしていた。

響夜は神楽が出た後、鍵を閉めるとバイクに乗せる。

 

「ほれ、ヘルメットは被れ」

 

「ん」

 

神楽にヘルメットを渡すと響夜はバイクに鍵をかける。

 

「掴まれよ?すぐに速度だすからな」

 

「わかった」

 

一応神楽に忠告すると、響夜はアクセルを捻ってバイクを走らせる。

事前に学校の場所はロケ済みだったため迷うことはなかった。

さすがに道中に見知った顔が居たような気がしなくもない響夜だったが。

 

 

10分程走らせると目的の学校に到着した響夜は駐輪場にバイクを止めに行った。

基本的に自転車で通学する生徒が多かったからかバイクで来ていた響夜は一部の生徒に注目されていた。

 

「まぁ分かってたけどさぁ・・・」

 

「仕方、ないよ」

 

「職員室に行くぞ、担任は・・・知り合いだからな」

 

「信用、出来るの?」

 

「今までの担任とかよりは確実に信頼出来る」

 

「ん、そっか」

 

「おう」

 

職員室にそそくさと足早に向かう。

その道中に和人達に会わなかったことに響夜は安堵し、職員室に着くと担任になる先生がやってくる。

 

「おはようございます、響夜君・・・その子が?」

 

「おはようっす、桜先生。こいつが妹の神楽です」

 

「おはよう、ございます」

 

「・・・?」

 

「学校じゃ声が出せないって方向にします。声が出るようになったのは結構最近なんで」

 

「そ、そうなんですね・・・えっと神楽さん。私は響夜君の前の高校の担任だった淡咲桜です、お二人のクラスの担任教師なので困ったことがあれば言ってくださいね」

 

「桜先生は他の人より全然信用出来る人だからな。基本桜先生に頼りな」

 

「うん」

 

響夜の補足もあって神楽はとりあえず桜を信用することにし、校内地図と教科とその教室などを教えてもらっていた。

そして入るタイミングは朝のSHRが始まる時に紹介するとのこと。

 

 

「はーい、みなさーん!朝のHRを始めますー!」

 

桜が教室に入るとそれまで騒がしかったのが嘘のように静かになった。

 

「まず、最初に転校生がこの学校に来ることになりました!」

 

「ホントか!?」

 

「誰?誰?」

 

「女子か!?男子か!?」

 

転校生というワードに生徒たちはざわめく。

そして桜がそれを静める。

 

「皆さん落ち着いてください・・・とりあえず、まずは入ってもらいましょう!・・・良いですよー!」

 

桜が響夜達に合図すると教室の扉をスライドさせようとするが何故か開かなかった。

 

「あぁ・・・?なんであかねぇの!?」

 

「後ろ、空いてるよ」

 

「仕方ねぇなぁ・・・後ろから行くか」

 

前の扉が開かなかったため、渋々後ろの扉から行くことにした。

そして中に入ると見知った顔が響夜達を見ていた。

 

「このお二人が転校生です」

 

「転校してきた雪宮響夜です。このちっこいのが妹の神楽っす」

 

前の扉から出てこなかったため、驚くがそれよりも二人に注目していた。

響夜はルックスが良い方で本人は気付かないがかなりモテる。

前の高校でも誰もが言わなかっただけで女子生徒が見に来るぐらいだった。

神楽は身長が低く、また危なっかしい感じを出すため庇護欲をかきたてられる。

それに信用している相手の前ではまた違った一面を出すため、それが男子に出されると一撃で堕とされるだろう。

 

現に周りからは格好良いや可愛いなど聞こえている。

神楽は何とも思わないが響夜はそういうことを言われるのは嫌う質があった。

 

「転校生が来て嬉しいのは分かりますがSHRが終わってからにしてください!」

 

桜もさすがに我慢できなくなり無理矢理止めると響夜と神楽に席を教えた。

その場所は明日奈の席近くだった。

 

「よっ、明日奈」

 

「響夜君と神楽ちゃんも入ってきたんだね」

 

「前の高校よりここのが居心地良さそうだしな、それに神楽を学校に行かせたかった」

 

「ふふ、良いお兄ちゃんなこと」

 

「うっせ」

 

SHRが程なくして終わると一気に響夜と神楽に人がたかる。

神楽を守るように明日奈が前に出てくれたため、パニック状態にはならなかったようだが。

 

「あの神楽ちゃん・・・?」

 

「・・・」

 

「転校してきたのは良いが・・・すげぇねむい」

 

「ねぇねぇ、雪宮君って何かゲームとかしてるの?」

 

「んあ、してるぞ。SAOとかALOとか」

 

「嘘だろ?!SAOやってたのかよ!」

 

「幻剣って言われてたのが懐かしいけど」

 

「雪宮さんってあの攻略組の筆頭・・・!?」

 

響夜の事を根掘り葉掘り聞いてくるため受け答えしていった。

解放されたのはお昼休みになってからで、ぐったりと疲れ果てている。

 

「・・・」

 

「ん、どうした?」

 

【大丈夫?】

 

「大丈夫だっての。さて、木綿季はどこかなっと」

 

「木綿季なら今日休みだぞ」

 

響夜が愛しの木綿季を探すも見つからず、和人が休みだという。

しかし木綿季は響夜の家に泊まっており家には居なかった。

 

「休みだぁ?家居なかったぞ」

 

「なんだと?」

 

「ちと待ってろ、電話してみる」

 

響夜は心配になり木綿季に電話をかける。

程なくして繋がったためどこにいるか聞いていた。

 

「木綿季、今どこにいる?」

 

『今ね、姉ちゃんと居るんだ~』

 

「そういやお姉さんが居るんだっけ」

 

『うん~、言うの忘れてて・・・ごめんね?』

 

「いやいい、邪魔したな」

 

『ううん~、それじゃあね~』

 

響夜は木綿季との電話を切るとお昼を食べるべく弁当を取り出す。

それを見ていた女子生徒が興味津々に見つめる。

 

「・・・近いんすけど」

 

「わわっ、ごめん!・・・男子がお弁当持ってくるなんて・・・親が作ったの?」

 

「んいや、自分で作った」

 

「どんなのか見ても良い?」

 

「良いけど・・・」

 

響夜が弁当の風呂敷を取ると2段弁当だった。

そして二つとも開けると響夜の席近くには料理の良い匂いがしていた。

 

「わぁぁ・・・!美味しそう!」

 

「全部即興で作ったからなぁ・・・」

 

「一個ちょうだい!」

 

「やらん、俺の飯が減る!」

 

「良いじゃんー!雪宮君!」

 

「おい、めっちゃ良い匂いすんぞ!・・・雪宮の弁当からだ!」

 

「なんだと!?奪え奪えー!」

 

響夜の弁当はそれだけ美味しい物で出来ており、それを食べてみたい生徒は響夜の弁当を狙う。

神楽も響夜に作ってもらった弁当を食べているが、それは外の木の下でひっそりと弁当を食べていたからだった。

 

「ん・・・おいしい♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜はようやく追っ手を振り切って弁当を食べ終わり、教室に戻っていた。

神楽も弁当が美味しかったのか機嫌がすこぶる良い。

 

「美味しかったか?」

 

「・・・」コクコク

 

「なら良かった、弁当は家に帰ったら流しに出しといてくれ」

 

「・・・」コク

 

 

響夜は久々にこんなやり取りをしていた。

今まではぶられ、クラスで浮いていた響夜はこんなやり取りをするのがとても楽しかった。

クラスの奴とわいわいと騒ぎまくるのが響夜は好きだった。

 

「この学校来て良かったな」

 

「・・・そう、だね」

 

「少し寝るわ、時間なったら起こしてくれ」

 

「ん」

 

久々に心地好い感覚を覚えた響夜はそれに浸るように居眠りをした。

授業内容は神楽からにでも聞けるため響夜はそれに甘えることにしたのだ。

 

 

SAOでの響夜は誰にも頼ろうとは思わなかったのに、今ではその好意に甘えている。

和人や木綿季などの周りの人が響夜を変えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下校時刻になり、響夜は神楽と和人に起こされる。

 

「響夜、起きろー」

 

「ぐぇ・・・もう終わったのか」

 

「よく寝ていられるな・・・」

 

「まぁこれでも成績トップだったしな」

 

「・・・」グイ

 

「っと、そろそろ帰るわ。木綿季待たせてるし」

 

「甘々だなー」

 

「おめぇもだろうが、昼休みいちゃつきやがって」

 

「なぁっ!?」

 

響夜に見られていた事に和人は赤面する。

それを見ていた響夜は良い弄りネタを見つけたようにニヤニヤしていた。

 

「良いネタ・・・発見だな」

 

「ちくしょぉ・・・」

 

「まっ、帰るわ。また明日な」

 

「ああ、明日な」

 

響夜は和人と別れると神楽と一緒に下校する。

靴を履き変えて駐輪場に止めてあるバイクのところへ向かった。

 

「ヘルメット被ったな?なら帰るぞ」

 

「うん」

 

バイクの後ろに乗った神楽は響夜にしがみつき、響夜もバイクを走らせた。

10分ほどで家に着くと玄関が開いていた。

 

「ただいまー」

 

「おかえり~!」

 

「うぉわぁ!?」

 

響夜が玄関を開けて中に入ると木綿季が響夜に抱き着く。

神楽も微笑ましそうにその光景を見ていたため響夜は恥ずかしくなる。

 

「学校行ってきたんだ?」

 

「おう、神楽も一緒だしな」

 

「一緒の学校が良かったな~・・・」

 

「仕方ねーだろ、特にお前はまず家に帰ったのか?」

 

「帰ったよ、ついでにまた泊まりに来た!」

 

「はいはい・・・母さんも確信したように許可してるのが怖いわ」

 

「早く16にならないかな・・・」

 

木綿季がボソッと呟いた声は響夜には届かなかったが、響夜自身早く木綿季と一緒に暮らしたいと思っている。

泊まるとかではなく本当に家族として暮らしたいと思っているのだ。

 

「お前が16なったらな、嫁にでも貰ってやらぁ」

 

「ふぇっ?!」

 

「裕子さんは結構乗り気だからな、母さんと父さんも早く孫の顔が見たいとか言い出すし」

 

「ふぇぇ・・・」

 

響夜の口からどんどん木綿季からすると恥ずかしい以外何物でもない言葉が出てきたからかどんどん赤くなっていく。

最終的には木綿季の頭が処理を超えてパンクするのだが。

 

「ぷしゅー・・・」

 

「ゆ、木綿季!?」

 

「恥ずかしい、から頭が、パンクしただけ」

 

「・・・部屋に寝かせて来るわ、ついでに俺も寝る」

 

響夜は木綿季をお姫様抱っこすると自分の部屋に運び込んだ。

ベッドに寝かせて響夜も制服が皺くちゃにならないよう普段着に着替えると木綿季と一緒にベッドに入る。

 

「きょ・・・や・・・らい・・・しゅき・・・」

 

「何だこの可愛い生き物」

 

木綿季の頭の中がどんな感じなのか一瞬で分かってしまったが、響夜もそれを嬉しく思う。

人の夢というのはその人の深層心理を映すという。

本当に好きな人を想っていると夢にまで現れるのかもしれないと響夜は思った。

 

「こやつめ」

 

スヤスヤと寝ている木綿季の頬を突くと唸り声を出して響夜に抱き着く。

 

「うぅ~ん・・・」

 

「えっ、ちょっ」

 

響夜のすぐ目の前には木綿季の寝顔と無防備な姿だった。

響夜とて好きな人にこんな状態にされて内心心臓がバクバクだった。

 

(やべえ、恥ずかしいを通り越して木綿季を襲いそうだ・・・しかし、木綿季も満更でもないしな・・・)

 

響夜の頭の中では煩悩と理性が渦巻いていたが木綿季の漏らす声で吹っ飛ぶ事となる。

 

「もっと・・・シて・・・」

 

(このお転婆娘は夢ん中で何してんだ・・・)

 

木綿季の夢の中が本気で心配になる響夜だが、それほどまでに響夜を好いている事にもなった。

 

「ったく・・・無防備で可愛すぎるお前が駄目何だからな」

 

寝ている木綿季の唇と自分のと重ねると口の中にまで絡ませる。

木綿季も段々声が変わってきていた。

 

「んっ・・・」

 

「はふ・・・きょ、響夜・・・?」

 

「・・・木綿季、今日は覚悟しろよ」

 

「ふぇ・・・?」

 

状況が飲み込めていない木綿季を置いて響夜はどんどん木綿季を弄ぶ。

夢の中で連想していた事が現実で起きていた木綿季からすると混乱しそうだが、それよりもずっと想っていた事が叶ったのか嬉しそうにしていた。

 

「ボクの事、貰って?」

 

「元からそのつもりだっての」

 

 

 

その夜、二人はお互いに重ね合った。

絶対に今日の事を忘れないよう、刻み付けるように。

 

神楽はそれをこっそり聞いており、顔は嬉しそうにしていた。

 

「木綿季お姉ちゃん、なら・・・良いかな・・・」

 

響夜の事を木綿季に任せた神楽はこれ以上盗み聞きは邪魔になりそうと思い部屋に入って寝付いた。

 

 

 



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学校で過ごした昼餐

あの夜からの翌日。

俺は学校が終わった後に神楽と一緒にGGOをすることにした。

 

「あー・・・眠い」

 

「まだ、お家だよ」

 

「それは分かってんだけどさ、家から出たくねぇ」

 

「む、なら私一人で行くよ?」

 

「駄目だ駄目だ、連れていくからもう少し待ってろ」

 

響夜はここま止めるのは理由があった。

神楽は一人にするとろくなことがない。

過去に一人で登校させて事件を引き起こすというミラクルを起こしていた。

 

「よし、用意できたし行くぞー」

 

「うん」

 

用意が出来た響夜は神楽をバイクに乗せると昨日も行った学校に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に到着すると周りが騒がしくなっていた。

 

「なんか・・・騒がしいな」

 

「なん、だろ?」

 

「とりあえず教室行くか」

 

「うん」

 

響夜達が教室に入ろうと扉に手をかけると中から自分の同級生の声ではない声がした。

 

「ねぇねぇ、一緒に俺らとどっかいかねー?」

 

「ボクは遠慮しとくよ」

 

「ボクだってさ!ちょー可愛いんだけど!」

 

「めんどくせぇ、無理矢理連れてくか」

 

響夜は誰が被害者か見当がついていた。

同級生でボクなんていう一人称は木綿季以外ありえなかった。

 

「まーた何か絡まれてるのかよ・・・」

 

「和人、と同じ、ぐらい?」

 

「ホントそれぐらいだろ」

 

教室の扉が開くと同時に上級生である男子生徒が木綿季を無理矢理引っ張っていた。

響夜は目の前に堂々と現れた男子生徒の一人の顔に蹴りを入れる。

 

「おら」

 

「ふっぐぁぁぁ!?」

 

「え、あれ止めれないのかよ、だっせぇ」

 

「て、てめぇ!」

 

男子生徒の二人がリーダーを蹴られ逆上したのか響夜に殴り掛かろうとする。

喧嘩が苦手ではある物の軌道が丸分かりだったため、響夜はそれをかわしたのち、首元を掴んで互いの顔をぶつけえる。

 

「弱い、遅い、とろい」

 

「なっ?!」

 

「くそが!」

 

「てめぇらが大人しくくたばってろ!」

 

「「あぐぁああ!!」」

 

「・・・こんな程度で木綿季に触れるとか良い度胸だわ」

 

「・・・やりすぎ」

 

「知らん、木綿季を泣かせた罰だ、生きてるだけマシだろ」

 

木綿季はゲーム内では無類の強さを誇るが現実ではか弱い女子だ。

自分の身を守ろうにもその腕がない木綿季にとって先程の男子生徒は怖かったようだ。

 

「大丈夫か?木綿季」

 

「響夜・・・?」

 

「そーだぞ?響夜さんだ」

 

「きょうやあぁぁぁぁあ!!」

 

響夜に泣きながら抱き着いた木綿季はわんわんと泣きつづけていた。

さすがに周りの目も気になった響夜だが今は何言っても無駄だと思い、泣き止むまで木綿季の頭を優しく撫でつづけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1~2分ほどで怖く無くなったのか顔を上げた。

しかし木綿季の目は腫れており、少しでもまた刺激すれば泣きそうな表情だった。

 

「よしよし、もう大丈夫だからな」

 

「うん・・・うん・・・」

 

程なくして騒動にかけつけた桜が事態を収拾つけた。

なんでも先程の男子生徒三人組は木綿季に纏わり付いていたらしく、何度もアプローチしていたという。

木綿季からすれば響夜が居るためそんなのを無視していたが今日になって強攻策を実施、今に至った。

 

「・・・とりあえず絞めて来る」

 

「響夜君!?冷静になってください!」

 

「離せー!俺はあの三人組の顔をもう一度蹴り飛ばすんだぁー!」

 

「響夜もう大丈夫だから・・・あんなのよりボクに構ってよ・・・」

 

「ぐっ・・・仕方ないな、分かったよ」

 

さすがの響夜も泣きそうな表情に上目遣いで頼まれたら自制するしかなかったようだ。

そして響夜は気付いていなかったが、木綿季と響夜が付き合っていることを一部を除いて殆どが知らない。

そして先程の木綿季の行動や響夜の慣れた手付きで男子生徒と女子生徒が二人に駆け寄る。

 

「雪宮君!木綿季ちゃんとどんな関係!?」

 

「そうだぞ!紺野さんとどんな関係なんだよ!」

 

「い、いやー・・・あはは」

 

「ごまかしても意味ねーっての・・・木綿季は俺の嫁。家公認。以上」

 

響夜はそれを言った後教室を出ようとするが同級生に首元を掴まれ更なる情報を引き出された。

 

 

 

「・・・疲れた」

 

「あはは、ごめんね?ボクがあんなことしちゃって」

 

「ん、別に構わんけどな、ついでに良いお灸にもなったろあいつらにも」

 

「・・・?どういうこと?」

 

「もう一回木綿季に同じ事をすればお前らを縛り上げた後に下をもぎ取る・・・って言ったから大丈夫」

 

「・・・?」

 

響夜のお灸がよく分からなかった木綿季だが、分からないほうのが良いことだと感じ、その話は終わった。

そんなことをしているとお昼休みになり、弁当を出した。

 

「でかっ!?」

 

「雪宮の弁当でかくね?!」

 

響夜の弁当は大きい箱が4つ出されており、一体どこから用意したのかというぐらいでかかった。

そして持ってきた意味はすぐに明かされる。

 

「和人、明日奈ー!」

 

「ん、どうしたんだ?」

 

「どうしたの?響夜君」

 

「珪子と里香達に弁当持ってきたって言ってきてくれ。俺教室しらねぇし」

 

「俺が呼んで来るよ。場所は何処にするんだ?」

 

「神楽が良く食べてる場所にする。場所は木の下だから回っとけば見つかる」

 

「分かった」

 

和人は教室を出ると響夜は木綿季の手を引っ張って和人とは違う方向に向かった。

 

 

 

 

程なくして到着したのはよく神楽が過ごしている大きな木の下だった。

またそこは猫達のたまり場のようで神楽の周りには猫が3匹いた。

 

「神楽ー!」

 

「ん」

 

響夜の声に反応した神楽は抱いていた猫をゆっくり降ろすと響夜に近付いた。

 

「へー、猫のたまり場なのな」

 

「うん、猫可愛い」

 

「そうかそうか・・・木綿季、レジャーシート敷いてもらって良いか?」

 

「まっかせて~」

 

木綿季にレジャーシートを渡すと手際よく広げて持ってきた巨大弁当を置く。

それにあわせて和人達も来たようでこちらに来ていた。

 

「響夜ー、呼んできたぞー」

 

「さんきゅ、お前らの弁当分もあるから食っていけー」

 

「ありがとう!響夜」

 

「ありがとうございます、響夜さん!」

 

「んじゃ風呂敷きを解いてっと・・・」

 

響夜が弁当を包んでいた風呂敷きを外すと3段の弁当が出てきた。

それを一つずつに降ろしていくと蓋を開ける。

 

「わぁぁぁ・・・!」

 

「凄いな・・・響夜一人でよく作れるよ」

 

「お前は明日奈の手料理食えるからだろうが・・・」

 

「えっ、これ全部響夜さん一人で作ったんですか!?」

 

「おう、食材は近所付き合いで毎朝おすそ分けしてもらってるから食費全然かかんないんだよ。しかも使いきれなかったら余って腐らせるしな。だからこういう感じで有効活用したんだ」

 

料理が出来ることを初めて知った里香と珪子は愕然とした。

響夜は料理出来なさそうなイメージしかないからだろう。

 

「とりあえず食え食え、まだまだ一杯あんだ」

 

「うん!じゃあ・・・」

 

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 

「え、と・・・い、いただきます」

 

 

「美味しい・・・!」

 

「ああ、いくらでも食えそうだ!」

 

「神楽ももっと食べて良いからな。遠慮してると好きな物が盗られるぞ」

 

「!?それは嫌!」

 

響夜のご飯が好きな神楽はたきつけられるとご飯を一杯食べる。

明日奈は今後の料理研究のためにか味などをしっかりと味わっていた。

木綿季に至っては木綿季専用の別弁当を用意させてある。

それだけ食い意地があり、食べきれるとわかっているのだ。

 

「木綿季、あんたそれ一人で食べるの!?」

 

「うん、そうだよ?」

 

「木綿季ちゃんは良く食べるもんね・・・」

 

「えへへ~、響夜のご飯なら一杯食べれるよ!」

 

「飲み物は水筒に全て入れてあるから好きに飲んでな」

 

「響夜は食べないの?」

 

「俺はお前と同じ弁当別だ」

 

響夜はそういうと裏から風呂敷きに包まれた弁当を取り出した。

蓋を開けると中にはみんなが食べている弁当よりもおかずとご飯がぎっしりと詰まっていた。

 

「んじゃ、俺もいただきます」

 

 

 

響夜が食べるご飯を木綿季が奪い、和人と明日奈はお互いに食べさせあったり、神楽と珪子と里香は女子トークをしたり。

 

その光景は良い光景だったのだろう。

みんなが笑いあい、楽しくご飯を食べている風景は他のよりも大切な思い出になった。

 

 



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銃の世界での偶然

下校時刻になり、響夜達は用意をして下校している。

神楽も早く帰りたいのか響夜を珍しく急かしている。

 

「分かったから、ちょっとは待ちな」

 

「うん」

 

響夜は和人達と別れると帰るとこが一緒である木綿季も連れていく。

木綿季を後ろに載せて神楽を前に乗せる。

響夜はその真ん中で挟まれる形でバイクに乗る。

 

「ちゃんと乗ったな?」

 

「乗ったよー」

 

「うん」

 

「ならしっかりつかまっとけよ」

 

「はーい」

 

バイクを走らせて響夜はいつもより安全に家に帰った。

 

「木綿季、俺と神楽はGGOするわ」

 

「うん、分かった」

 

「また構ってやるからその時にな?」

 

「う、うん・・・」

 

響夜は木綿季にそういうと部屋に入ってアミュスフィアを装着した。

事前にGGOはダウンロードしてあるのでいつでも起動可能にしていた。

 

「リンク・スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が目を開けると見たことの世界が広がっていた。

全体的に古錆びたよう感じで雰囲気も独特だった。

 

「これがGGOかぁ・・・」

 

「ん、ヒビキ?」

 

「んあ?」

 

自分の名前を呼ばれ振り向くとそこには超が付くほどの美少女が立っていた。

長い白髪にくりっとした蒼い目。

それでいて幼さが残る顔の少女がいた。

 

「・・・カグラか?」

 

「うん」

 

「確かアバターってランダム生成なんだっけか・・・お前めっちゃ可愛いぞ」

 

「か、かわっ・・・!?」

 

いきなり可愛いと褒められカグラは顔を真っ赤にする。

すると奥から男性プレイヤーが向かってきた。

 

「ん・・・?こりゃすごい!」

 

「なんだ?」

 

「そこのお嬢ちゃん、そのアバターを譲ってくれないか!?2千・・・いや4千は出す!」

 

「え、えと・・・」

 

「すまんがこいつはアバターを売りはしないんだ。本人も気に入ってるから悪いんだが・・・」

 

「そうか・・・もし、気が変わったら声をかけてくれよな!」

 

そういうと男性プレイヤーはどこかに行った。

それだけカグラのアバターは美少女で、男性に100人に聞けば100人が可愛いと言うぐらいだった。

 

「ヒビキも・・・恰好良いよ?」

 

「・・・お世辞と受け取る」

 

「本当なのに」

 

「うっせ・・・さて銃の店を探してみるか?」

 

「うん」

 

ヒビキとカグラはマップの道を辿ってGGOの世界を探索しつつ。GGOのメイン武器である銃店を探すことにした。

だが、いくら歩いても見つからず迷っていると女性プレイヤーがやってくる。

 

「あんた達、初めて?」

 

「ん、ああ。初めてなんだ」

 

「なら・・・お店を探してるんでしょ?」

 

「そうなんだが・・・図々しいのは承知だけど教えてくれないか?」

 

「ん・・・まぁ良いわよ、そこの子も一緒?」

 

「ああ・・・っと名前言ってなかったな。俺はヒビキ。このちっこいのはカグラ」

 

「・・・ちっちゃくない」

 

「仲良いのね。私はシノンよ」

 

「じゃあ案内よろしく頼む。シノン」

 

ヒビキはシノンの言い方に少し違和感を感じるが気のせいと思い、シノンに付いていく。

その途中カグラの姿を見た男性プレイヤーが下心丸出しで見ていたためかカグラがシノンに引っ付く。

 

「ちょ、ちょっと?」

 

「・・・悪い、カグラはリアルでも・・・ちょっと訳ありなんだ。特に視線が集まるのを嫌う」

 

「そういうこと。確かにこんなアバターじゃ注目されるわね」

 

「普通のアバターで良かったよ」

 

「それはそうと・・・お金はあるの?なかったら買えないわよ」

 

「金か・・・一応コンバートしたから受け継いでる気がする」

 

シノンに聞かれヒビキはメニューを出して所持金を確認した。

するとヒビキは目を疑った。

そこには100万クレジットと表示されていた。

GGOでの通貨はクレジット単位となる。

 

「・・・100万クレジットある。コンバートしたからか?」

 

「す、すごいわね・・・でもそれだけあれば良いのが買えると思うわ」

 

「なら良かった。GGOに興味があるのは俺じゃなくカグラだったからな」

 

「そうなの?」

 

「天性の才能だろうな」

 

「?」

 

ヒビキの言い回しを理解できなかったシノンはその話題を置いて銃店へと足を運んだ。

 

「ここが基本的な銃専門店よ。だいたいがここで売買すると思うわ」

 

「へぇ・・・」

 

「大きいね」

 

それはスーパーぐらいに大きい建物で多くの人が中に居た。

確かにここならば品揃えも良いのだろう。

 

「それで、あんた達はどんな銃を使うの?」

 

「その場で決めるが・・・カグラは決めてるな」

 

「狙撃銃」

 

「狙撃銃かぁ・・・私もよく使う武器だから色んなのを教えれるわね」

 

「銃まで教えてくれるのか?」

 

「ここまでしておいて放って置けないわよ」

 

「すまんな」

 

シノンの好意を有り難く受け取るとヒビキ達は中に入る。

武器ケースに飾られた銃がずらりと並んでおり、性能なども細かに書いてある。

 

「こ、これは・・・俺にはさっぱりだ」

 

「ん・・・」

 

カグラの付き添いでGGOをやっているヒビキにはさっぱりだったようだが、カグラは様々な銃を見つめている。

 

「微妙・・・」

 

「どうかしたのかしら?」

 

「なんか微妙なのしかない」

 

「最初はそんなものよ。性能の良い銃ほど良い腕が無いと撃てないから」

 

「む~・・・」

 

「そんなに良い銃が撃ちたいなら私のを撃たせて上げても良いけれど」

 

「ほんと?!」

 

「え、ええ」

 

「撃たせて!」

 

「・・・こっちに来なさい」

 

カグラを連れて店舗の地下へとシノンとヒビキは向かう。

するとそこは訓練所のようでためし撃ちが出来る場所だった。

 

「すまん、カグラの我が儘に」

 

「良いわよ、こんなに興味持つ子そうそう居ないもの」

 

シノンはカグラを見る。

カグラが今持っているのはシノンが使う狙撃銃『PGM ヘカートⅡ』という銃だ。

シノンによるとGGOでの銃はまずトリガーに手をかけると赤い円が出る。

その円は焦ったり興奮したりすると大きくなり、冷静なほど小さくなる。

弾丸はこの円のどこかに発射される仕組みなのだ。

 

「ん・・・」

 

カグラがトリガーに指をかけるとすぐさま発砲した。

するとシノンが驚いた顔をしている。

 

「・・・嘘でしょ」

 

「?」

 

「GGOでの銃って初心者には難しいの。狙撃銃なんて特にね。でもこの子はそれをたった一発で的の中心を撃ってる。それにトリガーに指をかけて数秒も経ってない」

 

「言ったろ?これがカグラの無駄な才能だって」

 

「え、ええ・・・確かに凄い才能ね・・・」

 

「シノン、もっと撃っても、良い?」

 

「ええ、良いわよ」

 

シノンはカグラの撃つ姿をずっと見続けていた。

その間ヒビキはある説を立てる。

 

(なんか喋り方が朝田に似てんだよな。髪の直す癖も似てる。ちょっとカマでもかけてみるか)

 

「カグラ、あん時と比べるとどんな感じだ?」

 

「ん、実際と違う、けど重みは、同じぐらい?」

 

「実際・・・?あなたたちリアルでも持ったことがあるの?」

 

「俺じゃなくカグラがな。ある強盗事件でちょいとな」

 

「強盗・・・事件・・・」

 

ヒビキがその単語を出すとシノンの表情が暗くなる。

それをヒビキは見逃さなかった。

 

「シノン、ちょっと・・・良いか?」

 

「え、ええ」

 

「カグラ、ちょっとシノンと話してくる」

 

「ん、分かった」

 

カグラを置いてシノンとヒビキは個室部屋に入る。

そしてシノンの肩を持つ。

 

「・・・こうしてみると似てるな」

 

「な、何がよ」

 

「リアルでもお前は似てるってことだ」

 

「・・・!?」

 

「なんで?って感じだろうな。まぁ素性も晒してねぇ奴にリアルがばれたらそりゃあ怖いわな」

 

「あ、あなた、誰よ」

 

「ん、俺か?リアルじゃ昔は『時崎直人』って名乗ってた。今は違うけど」

 

「・・・直人・・・君?」

 

「久しぶり・・・って感じだな。高校ん時は全然顔合わせなかったし」

 

「そうだね・・・」

 

「・・・まだ昔の事引きずってんのな」

 

「・・・」

 

「まぁ怖かったもんな。俺がやったとはいえ詩乃が被害に遭ったし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜と詩乃は幼なじみで小さい頃から関わりがあった。

その時もたまたま一緒に付き添ってただけ。

 

「詩乃、お母さんはどうだ?」

 

「まぁまぁ・・・かな」

 

「そうか」

 

俺は詩乃の事が好きだったんだろう。

だからこそ用事がなくとも詩乃と一緒に郵便局に付き添った。

詩乃のお母さんも彼氏が出来たと思い詩乃を応援していたっけな。

その時、役人に銃を向けている男がいた。

40代ぐらいの男で何か焦ってる感じだった。

 

「金を出せ!」

 

「は、はい!」

 

ただ役人の一人が警察に電話しようとした。

それを見た男が逆上し、その役人を撃った。

弾丸は頭に直撃し、即死した。

 

「くそが、早く入れろ!」

 

「じゃねぇとこの女殺すぞ!」

 

男は近くに居た女性を捕まえると頭に銃を当てた。

女性は涙を流して助けを求めていた。

そして女性のお腹が膨らんでいた。

 

「妊婦さんか・・・?」

 

「な、直人君・・・」

 

「・・・詩乃。大人しくしててな」

 

「え・・・?」

 

俺は詩乃に大人しくしててもらうと持っていた鞄からナイフを取り出すと男の足に投げた。

男は気付いている様子がなかったため、そのまま足に刺さると体勢を崩した。

 

「・・・強盗の癖に考えなしか」

 

「ガキの癖に・・・!」

 

俺は男の銃を持っている手を踏み付けると男は痛みで銃を手放した。

だが、男は銃を隠し持っていたのかもう一つの手で銃を取り出すと辺りに撃ちまくる。

その一発が俺の手に当たり、左手から血が出る。

 

「・・・もう黙ってろ」

 

「や、やめっ」

 

俺は男の足に銃を当てると零距離射撃をした。

そして銃を持っている手を足で蹴り飛ばすとそのまま女性を避難させて、手を拘束する。

 

「頭に撃ってやらなかっただけ良かったと思っとけ」

 

「くそ・・・離せガキが・・・!」

 

「黙れ」

 

抵抗を続ける男の顔を地面に押し付けると俺は役人に電話するよう伝えた。

しばらくして警察がやってきて事態は収拾。

男は役人を殺したことで殺人罪に当てはまり、重い処罰が下った。

俺は未成年で銃を使った銃刀法違反に反したが犯人を制圧した等の手柄で打ち消された。

まぁ事情聴取で時間を取られたが。

 

あの事件以降詩乃とは会っていない。

何故なら、詩乃のお母さんが悍ましい物を見るような目で俺を見ていたから。

あんな事をして堂々と詩乃の前に出れる自信が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩乃はどうだったんだ」

 

「へ・・・?」

 

「俺は後悔してない。あのまま動かなければ犠牲者が出たかも知れないし、詩乃にも被害が出たら嫌だったからな」

 

「私は・・・寂しかった。ずっと一緒だった子と離れ離れになっちゃったから・・・」

 

そういう詩乃は目に涙が出ていた。

響夜は頭を撫でながら抱きしめる。

 

「悪かった・・・でもあの時はどんな顔で会いに行けば良いか分からなかった。行ったとしても詩乃のお母さんが俺を追い払ったと思う」

 

「そっか・・・」

 

「・・・そろそろ時間か」

 

「だね・・・」

 

「カグラは恐らく時々GGOをやるだろうが俺は今日だけだ。元々付き添いだしな」

 

「分かった」

 

「まーもし会いたいならALOっていうゲームをやってみりゃいい。俺が通う学校は校長にでも聞けば教えてくれるはずだから」

 

「うん・・・」

 

「んじゃ俺はカグラに言った後落ちるからな」

 

「うん、分かった」

 

ヒビキは部屋を出てカグラと少し話をした後、ログアウトした。

カグラはまだしていない。

 

「あんたは・・・しないの?」

 

「まだ銃返してないから」

 

「ああ・・・」

 

「・・・ヒビキの住所、メッセージで送ったよ。リアルで会いたいならそこに行けばいるから・・・それじゃあね、シノン」

 

「えっ、ちょっと!」

 

シノンはメッセージ内容をカグラに聞こうとするがカグラはログアウトして消えてしまった。

メッセージを開くと現実での住所が書かれており、細かに地図もあった。

 

「・・・明日、いってみようかな」

 

シノンはそう思うとログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、眠い」

 

「どうしたの?響夜」

 

「幼なじみと久しぶりに喋った。多分明日来そう」

 

「・・・その人って女の人?」

 

「・・・ああ。もう諦めたから問題ないけど」

 

「好きだったんだね、その人」

 

「小さいから一緒だったからな・・・」

 

響夜は懐かしむような顔で言う。

木綿季も小さい頃の響夜を知りたくなる。

 

「ボクも会って良いかな・・・?」

 

「好きにすれば良い」

 

「ありがとう、響夜」

 

響夜は木綿季の頭を優しく撫でた。

木綿季はいきなりの行動に戸惑う。

 

「どうしたの?」

 

「・・・木綿季。これからもよろしくな」

 

「う、うん!ボクは響夜のお嫁さんだからね!」

 

「ばーか、まだ結婚してねぇだろ」

 

「16になったら響夜とするんだもんー!」

 

木綿季は顔を真っ赤にしながらも言うため響夜は微笑みながら撫でる。

 

「好きだ、木綿季」

 

「ボクも好きだよ、響夜」

 

 

 

 




えー、GGO編ですが。
ほとんど中身がありません。
死銃事件はキリトさんに一任してしまうため響夜達はほとんど関係が無いのです。
なのでGGO編と謡いつつ日常編と思っていただいて結構です。

自分の作画力がなさすぎて書けないというのもあったりします・・・。


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幼馴染との再会

まだ響夜が直人だったとき。

 

 

幼い頃から一緒にいた女の子がいた。

名前は朝田詩乃。

ご近所付き合いで家同士も仲が良かった。

だが、ある日を境にそれは変わっていく。

郵便強盗事件以降、俺は詩乃の前から消えた。

あの事件で郵便局役員が一人射殺された。

確かに俺は犯人を止めたが、詩乃の前で躊躇いもなく銃を使った。

詩乃の母親は俺を恐怖、軽蔑の目を俺に向け、詩乃は・・・泣いていたのだろうな。

 

学校を簡単に転校出来なかった俺は渋々中学にも行った。

まぁ屋上で寝転んでるだけだったが。

時々誰かが屋上を開けようとする時があった。

大方詩乃だろうと思ってた俺はそのまま放置する。

 

「直人君」

 

「・・・何の用だ」

 

「授業・・・受けないの」

 

「受けねぇ、どうせ内容も知れてる」

 

「そう・・・」

 

詩乃は名残惜しそうに言葉を残すと屋上から出ようとする。

その時詩乃の首元が変色していた。

紫色が見えた辺り締め付けによる物だろうと俺は思った。

 

「詩乃」

 

「なに」

 

「虐められてるなら・・・言えよ。助けてやる」

 

「・・・」

 

表情が少し変わっていたのを俺は見逃さなかったがまだ確証に至った訳ではない。

まだ・・・まだ、本人からかその現場を見なければ決定的な証拠となり得ない。

 

「ありがとう。私もう行くわ」

 

「ああ」

 

少し表情が柔らかくなった感じがしていた。

不安を少しでも除けたら良いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虐めは俺は好きではない。

確かに人が悶えている所を見て嘲笑う時はあるが程度は弁えている。

やり過ぎの場合なら俺は止める。

 

だからこそ思う。

虐めは糞だと。

現に俺の目に入る所で虐めが現在進行形で行われている。

 

「なあ、朝田。お金ないから貸してくれない?」

 

「私もう無いんだけど」

 

「財布貸してみなよ、それで判別するから」

 

「嫌」

 

詩乃に金をたかる女子は詩乃を殴ると無理矢理財布を奪い取る。

決定的な現場をあえて録画したから逃れは出来んぞ。

 

「なら俺のをくれてやろうか?不良共」

 

「なっ・・・!」

 

「と、時崎?」

 

「へぇ・・・俺の名前知ってんだ。なら言いたいことわかるだろ?」

 

「根暗がいきんな!」

 

まぁ俺は根暗と言われようが構わない、その通りだし。

だが自分と相手の実力を見極めきれない奴は総じて弱い。

ちょっとした殺気を当てるだけで怖じけづく。

 

「実力も測れない奴がいきんじゃねぇよ」

 

「ひっ・・・」

 

ほら、殺気を少し出しただけですぐに怯える顔をする。

生憎俺は男女平等に手加減はしない主義だ。

男にも女にも同じ力で殴れる。

 

「ご、ごめんなさいでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「・・・弱虫が」

 

女子生徒はすぐにどこかに逃げ出すと詩乃の元に行く。

殴られた痛みで気を失ってるのか反応がない。

 

「ごめん、もっと早く行けたら良かった」

 

詩乃を背負うと俺は保健室に詩乃を運び込む。

その場を後にしようとするが詩乃の手が俺の服を摘む。

 

「・・・しゃーねぇなぁ、ちょっとだけだぞ」

 

仕方なく俺は近くの椅子を持ってくると座って俺は寝た。

近くに俺がいることで安心したのか詩乃はぐっすりと寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「懐かしい物を見たもんだ」

 

懐かしい事を夢で出てきて昔を懐かしむ。

近くには響夜に抱き着いて寝ている木綿季がいた。

 

「こいつ、人を抱き枕みたいに・・・」

 

「むにゃ・・・」

 

「・・・はぁ、怒る気が無くなる」

 

嬉しそうな表情をする木綿季に響夜はどんな夢を見ているか気になったが時間を見るとそれも無くなる。

 

「7時か。飯作るか」

 

響夜は木綿季を起こさないように手を離していくとベッドから脱出する。

木綿季のホールドの包容力には底無しだと思いつつ今日の朝ご飯を考える。

 

「何にしよう。昨日は和食だったしなぁ」

 

響夜が朝ご飯を考えているとインターホンが鳴り響く。

 

「ん、誰だ?」

 

響夜が玄関を開けるとそこには。

久方振りに見た詩乃だった。

 

「・・・」

 

響夜は無言で玄関の扉を閉めようとするが詩乃は足を入れてそれを防ぐ。

 

「・・・見間違いじゃないな」

 

「当たり前でしょ!?」

 

「まぁ、とりあえず入ってくれ」

 

「え、ええ」

 

まだ朝食を作っていないため長話をしても良いが季節は冬まっしぐら、響夜としても女子を寒い外に放っては置けない。

 

「久しぶりだな」

 

「・・・そうね」

 

「何話せば良いのかねぇ」

 

「本当ね」

 

「・・・学校はどうだ」

 

「特に変わらないわね・・・」

 

「そうか・・・俺は学校変えたしな」

 

「学校・・・どこなの?」

 

「場所ねぇ・・・」

 

響夜は話すべきか悩んだ。

詩乃には黙って転校したため、詩乃からすると心配なのだろう。

だが、響夜の学校はSAO被害者が主な生徒。

そのほか、家庭事情などでも入れるが詩乃は十分今の高校でも問題なかった。

 

「詩乃、お前は今の学校が嫌か?」

 

「正直言えば嫌ね。あんたがいないもの」

 

「なんだそりゃ・・・」

 

「・・・やー」

 

「「・・・」」

 

「誰の声?」

 

二階からした声は確実に木綿季の物だった。

詩乃には言っていないが同棲に近いことをしている響夜はこの場をどうするか考え悩む。

 

「はぁ・・・隠すことでもねぇし、言うか・・・」

 

「何を?」

 

「好きな相手がいるんだよ、この家に」

 

「・・・え?」

 

「だーかーら、同棲してんだよ!」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「響夜ー、誰かいるのー?」

 

大声をあげた詩乃は二階にも響き、階段から木綿季と神楽が下りて来る。

神楽は事情を知っているので驚きはしていないが木綿季は固まっていた。

 

「き、響夜・・・?」

 

「木綿季、一応言うぞ。浮気してねぇから」

 

「ほ、ほんと?」

 

「・・・昨日言ったろうが・・・」

 

早くも修羅場になりつつある家で響夜は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木綿季の誤解を解いた響夜は詩乃を紹介した。

詩乃にも同様に木綿季と神楽を。

 

「朝田さんが響夜の幼なじみかぁ・・・」

 

「・・・ええ」

 

「そういや詩乃って改名した俺の名前教えたっけ」

 

「知らないわよ、教えられて無いもの」

 

「雪宮響夜だ。雪宮は親の名字」

 

「じゃあ響夜って呼ぶわよ」

 

「お好きに」

 

「響夜ー、お腹すいた」

 

「はいはい、作るから待ってろ」

 

お腹の音を鳴らす木綿季は響夜に抗議し、響夜は朝ご飯を作る。

 

「詩乃、朝飯食ったか?」

 

「あ・・・」

 

「・・・和食と洋食どっちがいい」

 

「よ、洋食で・・・」

 

注文を承った響夜は冷蔵庫の材料をまず確認する。

野菜室、冷凍室の中にある材料を見て簡単でありながらそこそこお腹を満たせる物を考えつく。

戸棚からホットケーキミックスを取り出すと慣れた手つきで卵と牛乳を放り込む。

 

「慣れてるのね」

 

「両親が研究職で家にあまりいないからな。家事は自然と身についた」

 

「そうなの」

 

「響夜が作るご飯は凄く美味しいんだよー」

 

「へぇ・・・?」

 

詩乃は響夜のご飯に期待をしつつ、木綿季と話をし始める。

響夜もそれを見て姉妹みたいだなと思いつつホットケーキを作る。

神楽が率先して手伝いをしてくれるため、焼けてすぐに皿に移せていた。

 

「木綿季、せめて少しは神楽を見習おうな」

 

「うっ・・・」

 

「ほんとよ?」

 

「だって神楽のが動くの早いんだもん・・・」

 

「それは詩乃と話してるから神楽が気を利かしてるだけだ」

 

「う~」

 

「とりあえず出来たから二人とも食べとけ。もっといるなら枚数を言え」

 

「私はあと1枚ぐらい」

 

「ボクは3枚!」

 

「詩乃と、同じぐらい」

 

「はいはい」

 

本当に主夫となっている響夜は注文を受けてホットケーキをどんどん焼いていく。

響夜が食べれるのは詩乃達のホットケーキを焼き終えた時だった。

 

 

 

木綿季は合計4枚のホットケーキを食べ尽くしていた。

そこそこ大きめのを焼いたのだが美味しそうに全て食べ切る。

 

「よく食べるよなぁ」

 

「ふふん!」

 

「そこ自信はることじゃないわよ」

 

「お前ら話はもう大丈夫か?」

 

「ええ、聞きがいのある話だったわ」

 

「ボクも響夜の昔を聞けて満足だよ~」

 

「そうですかい・・・んで詩乃はどうするんだ?」

 

「え?」

 

「一応耳には入ってたからな。俺んとこの学校に来たいんだろ?」

 

「・・・そうね。響夜がいる方がまだ楽しいもの」

 

響夜はそれを聞くと携帯を取り出し、電話をかけた。

 

「母さん、響夜だけど」

 

『あら、響夜。どうしたの?』

 

「母さんって理事長だよな?俺が通う学校の」

 

『そうだけれども・・・誰か入れたいの?』

 

「ちょっと訳ありな子でな。クラス指定まではしないから入学出来るようにできない?」

 

『知ってるでしょ?あの学校はSAO事件に関わった未成年や家庭事情など普通の学校に通うのが難しい子が入学出来るって』

 

「そりゃーわかってる。だからこそだ」

 

『・・・仕方ないわね。馴染みのある子なんでしょ?』

 

「ああ、詩乃っていう女の子。幼なじみなんだよ。訳は・・・また言う」

 

『わかったわ。だけどすぐには出来ないから一度その詩乃さんに会わせてね」

 

「さんきゅ。んじゃ切るぞ」

 

『ええ、良い新婚生活を楽しみなさい』

 

洒落にならない冗談をぶちかましてきた母親にすぐに電話を切ると詩乃に話を切り出す。

 

「詩乃、とりあえず掛け合ってはくれるが事情がなければ余程の事が無いかぎり俺の学校は無理だ」

 

「・・・ええ」

 

「元より俺の通う学校はSAO被害にあった未成年や家庭的な事情によって学校が難しい子が通うとこでな。恐らくお前が入るならあのことは言わないとダメだ」

 

「・・・」

 

「大丈夫だよ、ボクと神楽と響夜もいる。それに響夜も一緒だったなら言いにくいことは言ってもらえば大丈夫だから」

 

「・・・ありがとう」

 

木綿季と詩乃はすっかり仲良くなり、詩乃も安心しているのか結構無防備になりつつある。

響夜としては襲う気は無いし、するとしても木綿季以外有り得ない。

 

「詩乃、お前家はどうすんだ?」

 

「一人暮らしだし、明日は日曜だから・・・」

 

「寝るときは二階の俺の部屋使っとけ。木綿季も同じ」

 

「えー、一緒で良いじゃん」

 

「詩乃がいるだろうが・・・」

 

「まさか・・・一緒に寝てるの?」

 

「そうだよ?響夜って抱き心地が良いんだ~」

 

木綿季が爆弾発言を投下し詩乃は絶句する。

 

「・・・お前らは一緒に寝ておけ。俺は下で寝る」

 

「わ、私は・・・良いわよ?」

 

「ほら、詩乃もこう言ってるよ!」

 

「お前らの頭の中はピンク色か!ごたごた言わずに二人で寝ろー!」

 

まさかの三人一緒にベッド宣言をする詩乃と木綿季をなんとか説得した。

 

寝ること以外は普通に過ごしていたため、女子組が仲良く話していた。

響夜は家事に追われていたが。

 

 

ベッドは響夜の部屋に詩乃と木綿季が仲良く寝ていた。

響夜は一階のソファで毛布を被っていた。

だが、誰かが一階におりてくる。

 

「・・・響夜」

 

「木綿季、寝ないのか?」

 

「ん・・・ちょっと・・・ね」

 

「毎日一緒に寝てるだろ?」

 

「それでも・・・寂しい」

 

「仕方ないな・・・ベッドには入らんが近くで寝るよ」

 

「ありがと・・・」

 

木綿季の頭を優しく撫でると二人は二階へと上がる。

部屋に入ると詩乃はまだ寝ていた。

 

「木綿季、おいで」

 

「ん・・・あむ・・・」

 

木綿季を抱き寄せて1分ではあるが唇を重ねた。

それだけで木綿季の顔は蕩けている。

 

「これで良いだろ?またいつか続きしてやるから今日はもう寝なさい」

 

「はぁい・・・」

 

近くで寝ている事が分かって木綿季は響夜の手を握る。

響夜からすると少し寝ずらかったのでベッドに顔を乗っけて寝ることにした。

 

「木綿季、おやすみ」

 

「おや・・・しゅみ・・・」

 

 

 



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我慢強さも夫婦には必要

お気に入り100人超えがいつの間にか達成していました。
お気に入り登録をしてくれた人、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いしますね!


響夜が目を覚ますと時間は7時。

学校は日曜で休みだったのでとりあえずご飯を作ることにした響夜。

 

「ん・・・7時か・・・そろそろ作らねぇと・・・」

 

「・・・ぁ・・・ぅ・・・」

 

響夜が動こうとすると木綿季が響夜の手をしっかり抱きしめていた。

動こうとすると木綿季を確実に起こしてしまうだろう。

 

「・・・動けぬ」

 

「んゅ・・・」

 

「はぁ・・・木綿季、起きろよー」

 

「あぅ・・・?」

 

「朝だぞ、起きなさい」

 

「おはよ・・・」

 

木綿季は起きるもまだ眠たいのかぼ~っとしている。

響夜としては手を離してくれなければご飯が作れないのでどうにかして離してもらえないか言うも聞かなかった。

 

「手離せ」

 

「やぁだぁ~」

 

「・・・はぁ、ならご飯作ったあとなら良いから今は離せ」

 

「む~・・・分かったぁ~」

 

何とか手を離してもらえた響夜は詩乃に両手を合わせると部屋を出る。

木綿季は寂しくなった手を紛らすため、詩乃に抱き着く。

詩乃としては嫌ではなかったからかすんなりと受け入れていたが。

 

「さて・・・さっさと作るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手早くご飯を作って木綿季達に食べさせると響夜は部屋に戻っていた。

 

「母さん、もうすぐ帰る感じか?」

 

『ええ、もうすぐというよりあと数十分ほどよ』

 

「なら詩乃を家に置いとくからな」

 

『あら、詩乃ちゃん来てたの?』

 

「ん、まぁな。一人暮らしらしいし、昨日の帰る時間帯的に一人は危ない」

 

『木綿季ちゃんと過ごすうちに変わったわね』

 

「うっせ、んじゃ切るぞ」

 

響夜は電話を切ると机の引き出しから転校手続きの書類を取り出す。

響夜の母親・・・神菜はこういう書類をすぐに無くすので響夜が管理していた。

 

「んとこの書類で良いだろ」

 

響夜は数ある中から重要な物を持ち出す。

 

 

 

 

響夜が下りると同時に玄関が開いて神菜が帰ってくる。

 

「たっだいま~!」

 

「おかえりなさい、神菜さん」

 

「おかえり、母さん」

 

「・・・その子は?」

 

神菜は見慣れない人物・・・詩乃に気付く。

 

「紹介するよ。俺の幼馴染の詩乃」

 

「朝田詩乃と言います」

 

「そう・・・私は雪宮神菜よ、よろしくね詩乃ちゃん」

 

「は、はい」

 

神菜が上がると服を脱がずにそのまま椅子に座る。

響夜もお茶をいれて各々に渡して書類をテーブルに置いた。

 

「とりあえず転校手続きの紙はこれ。んで一応母さんがあの学校の理事長」

 

「さて・・・詩乃ちゃん。この学校に入りたいんだよね?」

 

「は、はい」

 

「・・・なら良いよ?」

 

「「・・・え?」」

 

「別に駄目なんて言ってないもの。まだ席が残ってるから希望者はあ程度受け入れれるわ」

 

まさかの即OKが出ると思わなかった詩乃は固まっている。

響夜もこんな早く終わるとは思っていなかったようだ。

 

「ま、まぁ母さんが言うなら文句はないけど・・・」

 

「良いんですか・・・?」

 

「ええ・・・だけれど学校でもし何かあれば誰か頼りなさい。幸いにも信頼できる相手がここに居るでしょう?」

 

「・・・はい」

 

「それに詩乃ちゃんが良かったらうちに遊びに来なさい。ご飯は響夜にでもねだれば作ってくれるわ」

 

「おい」

 

「・・・でもそろそろ増築を考えなきゃね」

 

「あー、木綿季がここに泊まるという名の住み付きはじめてるからな」

 

「うっ」

 

響夜に図星を言われた木綿季は顔を伏せる。

木綿季は響夜が帰ってきてからほとんど響夜の家に泊まりに来ている。

 

「そうなのよ、部屋を作らなきゃでしょう?」

 

「増築ねぇ・・・どうせそのうち進めてるだろうから俺らが気にしなくて良いだろ」

 

「まぁ耳には入れておくべきだと思ってね。木綿季ちゃん、どれぐらいの部屋が良い?」

 

「ふぇっ?ぼ、ボクは一緒の部屋でも・・・」

 

「・・・」

 

「あ・・・ぅ・・・」

 

「自爆したな」

 

「自爆したわね」

 

「お熱いわね~」

 

盛大に自爆した木綿季は顔を真っ赤にして机に伏せる。

二人からからかわれ、神菜にいたっては微笑ましく見つめる。

この様子では木綿季が一番下の子の図だろう。

 

「ま、母さんの好きなようにやりなよ。俺はそれに合わせる」

 

「分かったわ。それと転校手続きに関しても進めておくからね」

 

「は、はい。お願いします」

 

「それと・・・詩乃ちゃん、まだこの家に泊まるなら自由にね?生憎私とお父さんは中々帰れないけれども・・・」

 

「わ、わかりました」

 

「それじゃ、私は戻るわね」

 

「ああ、ありがとう母さん」

 

「息子の久々のお願いだもの。少しぐらい聞いてあげないとね」

 

神菜はいたずらっぽく言うと家を出て行った。

家には響夜と木綿季と詩乃と神楽が残る。

神楽は部屋で引きこもってGGOをしているだろうと響夜は考えているが。

 

「詩乃も一回家戻れ。さすがに着替え的にやばい」

 

「そ、そうね。一度家に帰るわ」

 

「またおいでね~詩乃」

 

「母さんも言った通り、いつでも来たら良いよ。嫌ではないから」

 

「ボクも時々で良いから来てほしいな。詩乃と話すの楽しいし!」

 

「ふふ。響夜君、木綿季ありがとうね。それじゃあ」

 

「じゃあね、詩乃」

 

「気ぃつけて帰れよ~」

 

詩乃も家を出ていくと家には響夜と木綿季だけとなった。

すると木綿季がもじもじしだす。

 

「・・・どうした?」

 

「ぁ・・・ぇと・・・」

 

「相手してほしいんだろ?朝っぱらからとか盛り過ぎだ」

 

「う~・・・」

 

「木綿季が16になれば・・・そうだな、2人ぐらいは欲しいな」

 

「響夜との子供なら・・・いっぱい産むよ?」

 

「まだ15のガキが。ませすぎだ」

 

「ぐぬぬ・・・3歳も離れてる・・・」

 

木綿季は15、響夜は18だった。

日本の法律上結婚する場合は女性は16、男性は18で結婚が認められる。

木綿季と響夜が結婚する場合、木綿季が16にならなければ出来ない。

 

「木綿季、ちと量が多いから洗濯物干してもらって良いか?」

 

「うん、喜んで!」

 

「その間に皿洗いと掃除機かけねぇとな・・・」

 

木綿季は洗面所に向かうと洗濯機から洗濯物を取り出し、外に出て行った。

響夜も台所で食器を洗いながら洗濯物を干す木綿季を時々見る。

 

「意外にも家事出来るんだっけか・・・」

 

木綿季の家はかなり大きく、厳しい家に見える。

木綿季の母親である裕子は誰かに嫁ぐ時、恥をかかないように家事全般は詰め込ませたのだろう。

 

「って言ってもいきなり家事やらすのは辛いだろうし、少しずつやらすか」

 

木綿季にどんな仕事をしてもらうか考えながら食器を洗う響夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が家事を終えたあたり木綿季も中に戻って来る。

 

「全部干し終えたよ~」

 

「ん、ありがとな木綿季」

 

響夜は木綿季の頭を撫でて言うと木綿季は嬉しそうに笑う。

 

「ん~♪響夜に撫でてもらうの好き~」

 

「そうか?一緒だと思うけど」

 

「響夜のは特別なの~」

 

「ん、そうか・・・っとメール来た」

 

響夜はソファに座って携帯を取り出すとメールを見た。

和人からのメールのようだった。

 

【ALOの新アップデートでエクスキャリバーが入手出来るらしいんだ。響夜と木綿季も一緒に来ないか?】

 

「ALOねぇ・・・あいつたしか菊岡さんに仕事貰ってたと思うんだが」

 

「誰からだったの?」

 

「和人から。ALOでエクスキャリバーが入手出来るようになったらしい」

 

「ほへ~・・・行ってみる?」

 

「俺多分使わねぇからなぁ、和人にあげるだろうし」

 

「そっか・・・」

 

「・・・神楽に頼んで一本作ってもらうか」

 

少ししょんぼりとした木綿季は恐らく欲しかったと思い、響夜は神楽にメールを送った。

数秒で返ってきた事に驚くが了承だったため、そのうち頼みに行くことになった。

 

「さて・・・今月は嫌な月にならなきゃ良いが」

 

「ふぇ、何が?」

 

「知る人ぞ知る事だ。木綿季の耳に入ってないだけだ」

 

「む~、教えろ~!」

 

「神楽とか明日奈にでも聞けば教えてくれるだろ、毎年12月は嫌いなんだよ」

 

木綿季は近いうちに明日奈にでも聞くことにし、響夜に抱き着いた。

 

「とぉ~!」

 

「うお・・・っと・・・ったく甘えん坊だな」

 

「響夜だからだもん~」

 

「はいはい・・・」

 

いつも通りの木綿季に響夜は適当に受け答えする。

だが内心嬉しく思う響夜は早く半年が経たないか待ち遠しく思うのだった。

 

 

 



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想い人に課せられた条件

特別支援学校。

これが響夜や木綿季、明日奈、和人などSAO被害者が通う学校だが家庭的な事情などの理由で学校に通うことが難しい者にも入学が許可されている。

当然、学校であるためテストはあるのだが・・・。

 

「・・・眠い」

 

「寝てばっかじゃテストの点取れないよ~?」

 

「だって習ったとこ聞いてもなぁ」

 

「響夜って高校卒業してるんだっけ・・・」

 

「和人や明日奈に聞いたんだよ、俺が居ないからか木綿季が寂しそうにしてるって」

 

「あぅ・・・」

 

「高校修了証は貰ってるがSAO被害者を利用して入学した。木綿季に会えるし、暇ではなくなるしで都合よかったしな」

 

「そっかぁ・・・」

 

「まぁ、そんなに気になるなら明日奈の期末テストの点数で競ってもいい。確か明日奈って学年トップだろ?」

 

「うん、すっごく頭良いんだよ~」

 

「よし、まずはその頂点から引きずり落とす」

 

「あはは・・・」

 

そんな会話が教室の隅で交わされていた。

明日奈には聞こえていなかったがどこか寒気がしたという。

 

「明日奈、どうかした?」

 

「ううん、何でもないよ。ただ寒気がしただけ」

 

「そうか、なら良いけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みの時間になり、響夜と木綿季が弁当を食べていた。

神楽は家で引きこもっているため登校していない。

 

「さて・・・木綿季は勉強するのか?」

 

「うん、じゃないとボク馬鹿だから・・・」

 

「木綿季の為なら教えてやっても良いけど」

 

「うーん・・・じゃあお願いして良いかな?」

 

「条件付きでな?」

 

「ふぇ!?」

 

まさかの条件付きと思わなかった木綿季は変な声を出してしまう。

響夜もニヤニヤと悪い顔を浮かべていた。

 

「木綿季が全学級中10位以内の成績が取れたらデートにでも連れていってやろうか?」

 

響夜がデートと言った瞬間、木綿季の中で何かが弾ける。

 

「取れなかったら・・・?」

 

「お泊り禁止」

 

「やぁぁだぁぁぁぁぁ!」

 

「後々の事を考えても成績は良い方がいい。特にお前は下手すると和人にすら負けるらしいじゃねぇか。俺と同じ・・・とは言わんから10位以内には入ってみろ」

 

「うぅ・・・分かった・・・」

 

「あと、テストが終わって点数が公開されるまではお泊り禁止だ。これは裕子さんにも承諾してもらってる」

 

「うぇぇ・・・」

 

「俺の家に来ても中には入れてやらんからな。それが嫌なら頑張って良い成績を取りな」

 

「分かった・・・」

 

「取れたら・・・そうだな、デート以外にも考えておくか」

 

「頑張る!」

 

響夜の言い方に乗せられた木綿季はまんまと引っ掛かる。

響夜自身は別に構わないが木綿季の将来を考えると成績は重要なのでお泊りをしにくる暇があれば勉強させることにしたのだ。

 

「んじゃ俺は寝転がって来るから。テスト終わるまでイチャイチャも禁止だかんな」

 

「ふぇぇ・・・」

 

「終わったら思う存分していいからな」

 

「うん・・・」

 

木綿季はその日から必死に勉強することになった。

各教科のスペシャリスト・・・明日奈、和人、珪子、里香などにも協力してもらうこととなった。

 

「ねえ木綿季。響夜は?」

 

「響夜なら屋上だと思うよ。寝転がってくるって言ってたから」

 

「木綿季を置いて何してるのかしらね・・・?」

 

「ボクのためだから怒らないであげて?」

 

木綿季に言われ里香は響夜に対する怒りを静めると木綿季の問題を見ていく。

所々間違ってはいるが壊滅的ではなかったのが救いだった。

すると木綿季の携帯が振動する。

 

「ん・・・?あ、お母さんからだ・・・もしもし?」

 

『木綿季?今何をしてるの?』

 

「学校だけど・・・」

 

『響夜君が言ってきたわよ?木綿季のテストが終わるまで家に泊まらせないって』

 

「全学級中10位以内が条件って言われたよ、だから今勉強してる」

 

『響夜君の家には行っては駄目よ?彼が木綿季の為にしてくれているんだから』

 

「うん・・・」

 

『それじゃあね、勉強頑張りなさい』

 

木綿季は電話を切ると一度体を伸ばす。

そしてまたやる気を出して勉強に励んだ。

明日奈達も余裕があれば教えていたため躓く部分がほとんど無かった。

 

「ここも正解。さすがだね木綿季は」

 

「ふふん、頑張って響夜を見返すんだぁ~」

 

「ならもっと勉強しないとですね」

 

「う・・・が、頑張るよ」

 

こんな光景がテストの日まで続くのだろうと思うと木綿季は少しげんなりする。

 

 

その間にも響夜は屋上で高校の教科書でテストの範囲を何回も見返していた。

 

「ここと・・・ここも重要か。後は・・・」

 

ノートにテストで出されそうな問題や、単語を書いていく。

また、過去問なども漁って問題を絞っていく。

 

「ん、とりあえずはこれで良いか」

 

響夜は持参していたノートパソコンにノートに纏めた内容を打ち込んでいく。

問題も自分なりに考えて、最低限のヒントだけを残していく。

響夜が作っているのはテスト前日に木綿季に渡す予想問題集だった。

一度高校を修了している響夜は自分の経験で出てきた問題も一応入れていく。

授業中寝ているがそれは事前にある程度分かっているのと予習をしていることが大きかった。

 

「さて、問題集は出来たし前日にこれを渡すか」

 

解答用紙もしっかり作り、答えの紙も作成する。

この様子を見ているとただの教師である。

 

「・・・ねむ」

 

響夜は眠気をなんとか散らすと詩乃の事が気になった。

一応高校を中退し、この支援学校に来ることが決まっている。

だが日程的にテストが終わってからでないといけないためそれまで詩乃は響夜の家で寛いでいる。

 

「帰りにケーキでも買っていくか。神楽も食べたいだろうし」

 

学校が終わってからの事を考えつつ、問題集作成を終えると時間はもうすぐ授業が始まる時間だった。

 

「戻るか」

 

響夜はノートパソコンとノート、教科書などをかばんに入れると自教室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室へと戻ると木綿季の席の周りには明日奈達が勉強を教えていた。

 

「ん、まだやってたのか」

 

「響夜!あんた何してたの!」

 

「うるせぇっての・・・木綿季そこ違うぞ」

 

「へ?でも明日奈が合ってるって・・・」

 

「いや・・・そういう意味じゃなくて答えの記号が無い」

 

指摘された問題を見返した木綿季は急いで答えに記号を書いた。

響夜もかばんを机にかけると腕を枕にして寝始める。

 

「響夜君、木綿季に勉強教えてあげないの?」

 

「俺の勉強方法じゃ確実に木綿季は覚えれん。ていうか常人離れしてるらしいから明日奈達とかが教えてあげたのが全然覚えれる」

 

「ちなみにどんな方法なの?」

 

「テスト範囲の教科書を開いて流し読みしてるだけ。それだけで単語系は覚えれるから計算系とかは実際に計算するけどな」

 

響夜の勉強方法を聞いて明日奈や和人達は苦笑いする。

確かに流し読みする人の勉強方法は相手を選ぶ物だったため教えれない理由もなんとなく察したのだった。

 

「一応お前らにもやってほしい問題あるからそれを前日にでも渡すよ。木綿季は絶対やっとけ、テスト問題ほとんど予想しまくったから」

 

「うん、分かった」

 

「問題?」

 

「俺が過去問、教科書の範囲、プリントなどで先生が重要部分にしてるのを全て問題にした。それやってみてほしいんだよ」

 

響夜が出す問題集に興味があるのか全員頷く。

それを見聞きすると響夜は本格的に寝始めた。

 

「・・・木綿季、絶対に10位以内入りなさいよ」

 

「そうだよ、響夜君の為に」

 

「うん!絶対に入ってみせるよ!」

 

 

 

木綿季の運命・・・?が決まる期末テストまで残り一週間。

 

 

 



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勉強に勤しむ少女

木綿季は学校が終わるとある人物の所へ向かっていた。

そこは大きな家で豪邸と言える大きさだった。

呼び鈴を鳴らすと声が聞こえる。

 

「はい、結城です」

 

「明日奈さんのお友達の紺野木綿季と言います。明日奈さんはいますか?」

 

「お嬢様の・・・?少しお待ちください」

 

事前に言われていたとはいえ見慣れはしなかった。

明日奈・・・結城家は所謂お金持ちの家だ。

明日奈はそこの娘にあたり、ALOでの事件に巻き込まれた。

それは和人が必死になって助けたため何も起きるどころか二人の仲が深まったといえる。

 

「木綿季?どうしたの?」

 

「明日奈!勉強教えて!」

 

「う、うん。中に入って?」

 

明日奈に言われ木綿季は初の結城家へと足を入れる。

見た目通り内装も凝っており、空間も広い。

 

「私の部屋に案内するね」

 

明日奈に付いていく途中、メイドさんが歩いていて本当にお嬢様なんだと実感させられる木綿季。

そして少し歩いて止まったのは一つの部屋。

 

「ここが私の部屋だよ。ささ、入って」

 

「う、うん」

 

木綿季が中に入ると先程の感じとは違い、普通の女の子の部屋みたいな内装だった。

 

「全然違うでしょ?私が無理矢理頼んでこの部屋だけは普通にしてもらったの」

 

「へー・・・すごいね」

 

「ううん・・・それじゃあ早速やろっか?」

 

「はーい、よろしくお願いします。明日奈先生」

 

木綿季は早速持ち込んだ教科書とノートを開き、響夜から貰った問題集を解いていく。

この問題集は総集編ではなく部分的な物で前日に渡すらしい問題集とは違うものになっている。

 

「これ・・・響夜君一人で作ったの?」

 

「そうみたいだよ?テスト範囲に入ってる重要な部分全て入れてあるって言ってた」

 

「国語に現代社会、数学Ⅰ、理科総合、英語・・・凄い。今回のテスト範囲全て網羅してる」

 

「主要教科を中心にしてるんだって。副教科は自分でやれって言われちゃった」

 

「主要教科だけでも凄いよ。私じゃこんなの作れないもん」

 

明日奈はその問題集を見ていく。

この問題集、何が凄いかと言うとテスト範囲に反して枚数が少ない。

国語であれば漢字・古文・現代文・・・と国語というカテゴリからまた細かく分けて一枚になっている。

テスト範囲全体にしていくとその分野で数枚になるであろう物をたった一枚で納めていた。

 

「あ、そうそう。答案用紙と解答用紙も貰ったよ」

 

木綿季は答案用紙を明日奈に渡す。

この答案用紙も内容をしっかり書いているが読みやすくされており、重要な部分は分かりやすくされていた。

 

「答案用紙も凝ってる・・・」

 

「響夜が渡して来たときびっくりしたよ・・・良くわからない紙をボクに渡してくるもん」

 

「木綿季には難しいかもね・・・」

 

「でも響夜が頑張ってくれたからボクも頑張るよ!」

 

「うん、それじゃあやってみようか」

 

早速二人は響夜のお手製問題をやっていくことにした。

内容は明日奈にすら難しく作られていたが頑張れば解ける問題にされていた。

木綿季には地獄のような問題だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふい~・・・疲れたぁ・・・」

 

「お疲れ様」

 

木綿季が疲れ果て時間を見ると18時だった。

学校が終わったのが15時辺りなので2~3時間は勉強していることになる。

 

「ねぇ明日奈」

 

「どうしたの?」

 

「もし10位以内に入れなかったらどうしよう・・・」

 

木綿季はもしもの事を考える。

響夜は木綿季の成績を知らないがそれでも頑張れば到達出来る条件を提示した。

だが木綿季が入れなかった場合、永久的なお泊り禁止令が出されてしまう。

第二の家として認知し始めている木綿季からするとその禁止令はとても残酷だった。

 

「大丈夫。響夜君だって我慢してると思うよ?」

 

「我慢・・・?」

 

「響夜君も木綿季もいつも二人で居るでしょ?それが当たり前になってるから響夜君も困ってると思う」

 

「当たり前・・・かぁ」

 

SAOの世界でも離れていた期間があったとはいえ、一緒にいることが多かった。

現実世界に帰ってもそれは同じで逆に一緒じゃない期間がそこまで無かった。

 

「一緒にいるのは確かに良いけれどいすぎても駄目なんだよ?私と和人君は一緒には住んでないけれど学校で会えるから満足してる。だけど木綿季はお泊りしてたんでしょ?なら長い間一緒だったんじゃないかな」

 

「うん・・・そうだね」

 

「響夜君が木綿季に伝えたいのは多分だけど・・・依存をし過ぎない事だと思う」

 

「そっか・・・ボク、響夜と居すぎたのかな」

 

「そうだと思うよ。テスト期間を利用して離れても大丈夫なようにしてる・・・って考えじゃないかな?」

 

「明日奈は凄いね、ボクなんかより響夜の事良く知ってる」

 

「ううん、全然。響夜君の事は木綿季が一番知ってると思う。神楽ちゃんにすら私負けちゃうもん」

 

「あはは、そうだね・・・うん。頑張るよ」

 

「うん!それじゃあどんどんやって響夜君を驚かせよう!」

 

「よーし、やるぞ~!」

 

その後、木綿季は一度家に電話を入れて明日奈の家に泊まると伝えた。

明日奈の母親・・・京子は明日奈と勉強している姿を見ていたため、宿泊を了承した。

 

「ありがとう、明日奈」

 

「ううん、どういたしまして」

 

「明日行けば学校休みなんだっけ?」

 

「そうだね、テスト期間間近だからその分いっぱい勉強しようか」

 

「うん、分かった」

 

勉強も詰めすぎると良くないことは二人は知っているので2~3時間の勉強と30分程の休憩を入れていくことにした。

響夜の問題集はある意味明日奈の勉強にもなったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜は木綿季のお泊りを止めるとパソコンの前に座る。

そしてあるプログラムソフトを起動する。

それは『Ordinal Scale』というタイトル名だった。

 

「・・・無茶なもんだよなぁ、カーディナル(Cardinal)と同じタイプのコアプログラム作成とか」

 

Ordinal Scale(オーディナルスケール)と書かれたそれはかつて、SAOの世界を動かしていたCardinal(カーディナル)というコアプログラムと似た物だ。

カーディナルは変数のコアプログラムに対し、オーディナルは序数のコアプログラム。

これを響夜に作ってほしいという依頼が舞い込んで来たのが10月初めだ。

 

無論、響夜は怪しんだため依頼人と直接面会を希望し実際に顔を合わせている。

響夜の腕前であればカーディナル並のプログラム作成は不可能ではない・・・が、響夜のツテを辿ると天才科学者である七色などその手に詳しい人物がいる。

だが依頼人は響夜に作ってほしいと頼んできた。

渋々それを受けた響夜はすぐさま作成に取り掛かった。

ザ・シードと呼ばれるプログラムパッケージの解析データとカーディナルデータを参照し序数で動くプログラムを組んでいた。

 

実際には出来てしまったのが正しいのだろう。

響夜が見つめるパソコンのフォルダに書かれた『Ordinal Scale』というタイトル。

絶対厳守のため、自分のパソコンであろうとフォルダに鍵をかけて保管している。

 

「・・・これを渡せば依頼は完了するが・・・」

 

このプログラムを依頼人に渡せば達成できる。

だが渡した後の危険性を秘めているため迂闊には渡そうと思えなかったのだ。

 

「保留だな。まだ早い。猶予はまだまだ貰ってるし」

 

依頼の期限は2年とされている。

それを1~2ヶ月で組み上げてしまった響夜は世界中のプログラマーより腕が立つだろう。

SAOのカーディナルプログラムですら数年かかっているのだ。

 

「もうすぐテストか・・・無理難題ではない事を条件にしちまったけど・・・大丈夫かねぇ、木綿季」

 

響夜は一週間後に来る期末テストを思い出す。

木綿季に提示した条件は木綿季の学力的には不可能ではないがかなりの努力が必要だった。

中の中辺りの成績をいきなり最上並に上げるなど並大抵の事ではない。

 

「学年トップの明日奈をまずその頂点から引きずり落とすか・・・まぁ今回だけにしよう、明日奈のガラス玉が壊れたら和人に怒られる」

 

和人の明日奈関係は凄まじい物で明日奈を一度響夜は泣かせている。

それを見てしまった和人が鬼の形相で響夜と乱闘した。

和人は響夜に負けるがすぐさま明日奈の元に行き謝ったため許している。

 

「あーあ、眠いし寝よう。やることはやった」

 

そういい、響夜はベッドに入るとすぐに寝付いた。

 

 

 



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醜い現実の可能性

えー、はい。
遅くなりましてすみません。
構想がイマイチ固まらなかったので書けていなかったのが現状です。

それでは、どうぞ。


響夜が目を覚ますと時間は10時。

休みは明日のはずなので響夜は遅刻している。

 

「・・・終わった」

 

「ん、にぃに」

 

「神楽か・・・どうした?」

 

「学校は・・・?」

 

「あーうん、遅刻。寝坊した」

 

響夜が素直に神楽に言うと神楽は口元を抑えて体を震わしていた。

笑われたことに響夜は恥ずかしくなるが話を変えようとする。

 

「なぁ神楽」

 

「?」

 

「もしさ・・・俺達が過ごすこの現実が変わったらどうする?」

 

「どういう、こと?」

 

「現実に新たな機能・・・?ってのかな。拡張された現実をどう思う?」

 

「新鮮?」

 

「・・・そうか。分かった」

 

響夜は神楽に聞いたあと電話をかけた。

数回ほどコールがなった後相手は出る。

 

『何のようかな、響夜君』

 

「お求めの物が出来ましたよ、教授」

 

『教授はやめてくれたまえ。私と君は同じ開発者ではないか』

 

「はいはい・・・それで、受け渡し場所はどこで?」

 

『今日ならば大学で落ち合おう。私も授業があるからね』

 

「分かりました」

 

響夜は電話を切ると響夜にくっついている神楽の頭を撫でる。

 

「今から用事が出来たんだが・・・神楽も行くか?」

 

「う、ん」

 

「んじゃ用意してきな。早く行くぞ」

 

神楽はすぐさま響夜の部屋を出ると神楽の部屋から音がする。

神楽は引きこもりではあるが綺麗好きなので部屋がゴミ屋敷ではない。

というよりゴミ屋敷にしたが最後、響夜によってゲーム禁止令などを出されてしまうため神楽は掃除はしっかりとしている。

 

「出来た」

 

「ん、じゃあ行くぞ」

 

響夜は神楽の用意が終わったのを確認すると家を出て鍵をかけるとバイクに乗る。

目的地は東都工業大学。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間ほどかけて東都工業大学に到着すると、VR部門の授業部屋へと入る。

 

「神楽、静かにな」

 

「う、ん」

 

まだ授業をしているようで授業が終わる時間を考えるとまだ30分ほどかかりそうだった。

 

「眠くなったら寝て良いからな」

 

「はぁぃ」

 

神楽は最初聞いていたが段々と眠くなったのか寝てしまった。

響夜も元々授業を聞く目的ではなかったので寝てしまった神楽を膝にのっけると授業が終わるまで一応聞いておくことにする。

 

「ん・・・ぁぅ・・・」

 

「よーねるな」

 

気持ち良さそうに寝ている神楽を羨ましく思いつつ頭を撫でて授業が終わらないかと響夜は思う。

 

 

 

 

 

 

数十分待っていると授業が終わったため、響夜は寝ている神楽を背負うと授業をしていた教授に話し掛けた。

 

「重村さん」

 

「ん・・・?あぁ響夜君じゃないか」

 

「貴方が大学で会うと言ったんでしょう・・・」

 

「はは、それでその子は?」

 

重村は神楽を見る。

響夜と重村は面識があるが神楽とはまったくないのだ。

 

「妹の神楽です。寝てたんで背負ってます」

 

「なるほど・・・では一度私の部屋にきたまえ。そこで話そうじゃないか」

 

重村は響夜に「ついてきたまえ」と言うと足早に進んでいく。

 

 

 

少し歩いた先は重村の教授部屋だった。

 

「さて、今回はどのような用件なのかな?」

 

「一ついいますよ?俺はプログラマーじゃなくてただの学生なんですよ。依頼でカーディナルと同等のプログラムを組めと言われて出来る人います?」

 

「いるじゃないか、現に私と話している」

 

「はぁ・・・それでは聞きますよ。オーディナルシステムとカーディナルシステム。この違いを大まかでいいです、考えて見てください」

 

「ふむ・・・私は君のようにプログラムには強くない。私はVRの研究者というだけなのだ」

 

「仕方ないですね・・・カーディナルとオーディナル。この違いはコアプログラムの思考です。カーディナルシステムは『基数』によって動く。それにより様々な選択肢が出来るのがカーディナルシステムです。オーディナルシステムは『序数』によって動きます。しかし様々な選択の基数とは違い、序数はあらかじめ決められた処理によって行動される。そのためオーディナルはイレギュラー要素が組み込めないと言っていいでしょう」

 

「なるほど・・・つまり君が作り上げたプログラム・・・オーディナルは決められた枠組みによって動く・・・そういいたいのだな?」

 

「そうです。カーディナル程のプログラムなんて作ってしまえば人の手に余る。だからこそ人の手が介入しにくいプログラムを今回は作りました」

 

「依頼した内容に限りなく近い物、ありがとう。君のおかげで新たな可能性が生まれるだろう」

 

重村はそういうとクリアファイルを響夜に渡す。

渡されたファイルには数枚の書類が入っておりそれを取り出して見てみる。

 

「・・・AmusementReality(拡張現実)。なるほど、このためにオーディナルプログラムを組ませたと」

 

「そういうことだ。我々が過ごすこの世界を変えればいい。そのために私はVR技術を利用する」

 

「まぁ俺は舞い込んだ依頼を受けて貴方に渡した。それだけで良いです。あとこのことは口外しないでください、変な奴がうちに来られると困るんで」

 

「分かった。プログラムに関しては私の開発チームが組み上げたということにしよう」

 

「ありがとうございます。それでは俺はこれで」

 

「ああ、今回はどうもありがとう。報酬は翌日以降に銀行に振り込んでおく」

 

響夜は神楽を背負い、重村と別れた。

報酬は銀行口座に振込みの形だが金額は少なくともサラリーマンが数十年働いて稼げる程だったため、響夜としても嬉しい金額だった。

 

「いい感じに稼げたし、テスト終わったらなんかするかぁ」

 

「んむ・・・」

 

「ん、起きたのか」

 

「う・・・ん・・・」

 

「眠いなら寝とけ?今から帰るから」

 

「やだ・・・」

 

まだ眠気が取れていない神楽に寝てていいというが拒否されたので響夜はバイクに乗る。

家までは時間がかかるため荒くなるが仕方ないと思い運転する。

 

「あぅ」

 

「悪い、バイクだと揺れる」

 

「だい、じょぶ」

 

「帰りに寄りたいとこあるか?」

 

「ん、じゃぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・♪」

 

「ったく・・・」

 

響夜は神楽の抱える袋を見て溜め息をついた。

神楽が寄りたいと言ったのはケーキ屋。

そのケーキ屋でホールケーキ2つを購入したのだ。

 

「買ってやるのは良いが・・・捨てたりすんなよ」

 

「ん、分かってる」

 

神楽も買いたいものを買えて満足したのかバイクにすぐさま乗った。

響夜も神楽が乗ったのを確認するとバイクを走らせる。

すると何となく気になった郵便局があり、そこでバイクを止めた。

 

「にぃに?」

 

「ちと・・・まぁ気にすんな」

 

気になったがすぐにバイクをまた走らせる。

 

 

 

その後すぐに家に帰ると近くから声がした。

 

「ん・・・?」

 

「・・・誰か、いる」

 

「らしい。気になるから行ってくる」

 

「私も、行く」

 

「・・・好きにしてくれ」

 

バイクを止めて、二人は声がした場所へと向かう。

そこには知っている人物がいた。

しかしその人物は近くに嘔吐物と囲うように女子生徒4人がいた。

 

「・・・またてめぇらか」

 

「あ・・・誰だ?」

 

「弱虫虐めは変わんねぇなぁ」

 

「あぐ・・・」

 

女子生徒が囲んでいる人物は響夜の幼馴染である浅田詩乃。

しかしお腹を殴られたのか抑えており、苦しそうにしていた。

 

「神楽。詩乃んとこ行ってこい」

 

「わかった」

 

「さて・・・てめぇら、時崎直人って男子生徒知ってるか?」

 

「あぁ?時崎が何だよ」

 

「ま、昔の俺の事などどうでもいいんだが、その女子返してくれね?」

 

「あぁ!?なめてんのか!」

 

落ち着いた声で詩乃を返してもらおうと女子生徒に言うが舐められてると思い、声を荒げる。

 

「女子に手ェ出すのは嫌いなんだがなぁ」

 

「にぃに。駄目」

 

「はいはい・・・んじゃ手刀で良いだろ」

 

神楽に忠告され、響夜は女子生徒に近付くと首元に手を当てる。

 

「は?」

 

「気失ってろ」

 

「なっ・・・あぐっ・・・」

 

手刀をいれると女子生徒を気絶させる。

受け止めると他の女子生徒に預けた。

 

「全員気絶させたら運べんでしょ?だからこれ以上危害は加える気は今はない」

 

「っ・・・」

 

「俺の気が変わる前にさっさと去れ。てめぇらの学校この辺りじゃねぇのは知ってんだ」

 

「くそっ!行くよ!」

 

気絶した女子生徒を背負うとそのまま他の女子も逃げ帰っていく。

完全に去ったことを確認した後、響夜は詩乃に近寄る。

 

「詩乃?大丈夫か?」

 

「・・・」

 

「気失ってる。家入れる?」

 

「ん、だな。このまま放っておいて犯されでもされたら後味悪い」

 

「じゃぁ、ソファに寝かせるね」

 

「頼む」

 

詩乃を背負うと響夜は自分達の家へと帰った。

神楽が毛布を持ってきていたのでそのままソファに横たわらせる。

 

「こりゃしばらく起きなさそうだな」

 

「うん・・・起きたら、どうする?」

 

「んー、神楽やっててくれるか?俺は寝てる気がする」

 

「ん、分かった」

 

「んじゃ俺寝て来る。眠い」

 

「おやすみ、にぃに」

 

「ああ、お前も早く寝ろよ」

 

響夜は神楽に早く寝るように言うと自室へと入った。

携帯を見ると時間帯は7時だった。

ご飯を食べていないが眠気があったのでそのまま夢の中へと響夜は入っていった。

 

 

 



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現実で付き従う少年

 

 

「んむ・・・」

 

時間帯は朝の7時。

詩乃は見たことのある景色に戸惑った。

 

「ん・・・ここって・・・」

 

「起きた。おはよう」

 

「うぇっ!?」

 

「あぅあぅ」

 

いきなり神楽が詩乃に話しかけ驚いたため、それにより神楽が詩乃にダイブした。

 

「ごめん、なさい・・・」

 

「い、いいわよ・・・神楽ちゃん・・・よね?」

 

「ん、そう」

 

「私・・・」

 

詩乃は昨日起こったことを思い出す。

昨日、女子生徒に詩乃はお金をたかられていた。

響夜と神楽が助けに向かったため窃盗にもならなかったが、詩乃のお腹を殴っていたため、まだ痛みがあるのか思い出すとお腹を抑える。

 

「お腹、痛い?」

 

「えぇ・・・少しね」

 

「なら、あまり動かない方が、いいよ」

 

「そうだぞ・・・ふわぁ~ぁ・・・」

 

「き、響夜!?」

 

「何を驚いてんだ。ここは俺の家だぞ、いるに決まってんだろ」

 

二階から欠伸をしつつおりてくる響夜に詩乃は驚く。

 

「さて、お腹は痛いか?」

 

「う、うん」

 

「ならまだ寝とけ。動いて倒れられたら困る」

 

「で、でも・・・」

 

「良いから。腹減ってるだろうし飯作るから待ってな」

 

響夜は詩乃にそういうと冷蔵庫を漁りはじめる。

神楽も詩乃からどくと響夜の手伝いに入る。

 

「あ、あの・・・私も・・・やろうか?」

 

「腹痛持ちは寝てろ。あと神楽が手伝ってくれてるから気持ちだけで十分」

 

「う、うん・・・」

 

響夜は手慣れた感じで朝食を作ると皿に盛り付けた。

見た目はお店に出そうな感じで美味しそうな匂いを漂わせている。

 

「んじゃいただきます」

 

「いただきます」

 

「い、いただきます・・・」

 

 

「んぐ・・・美味しい」

 

「ん、そうか。なら良かった」

 

詩乃の口に合ったようで響夜はほっとすると食べはじめた。

神楽はご飯をすぐに食べるとお代わりを請求したので響夜は変わりにパンケーキを作った。

 

「ほれ、おかわりだぞ」

 

「ん、やた♪」

 

「ご飯に関しては木綿季並だな・・・」

 

「神楽ちゃん・・・よく食べるわね」

 

「育ち盛りだしな。本人がいっぱい食べたがってたし構わん」

 

追加のパンケーキが出てきたことが嬉しかったのかパンケーキを食べはじめる神楽。

その表情は嬉しそうにしており、響夜としても喜ばしい事なのだろう。

 

「・・・さて、詩乃はしばらくここにいるか?」

 

「いても良いの?」

 

「構わん。着替えだけは取りに行かんとあれだが」

 

「じゃあ・・・泊まっても良いかな?」

 

「良いが、学校は?」

 

「退学したわよ。転校ってことでね。転校先はあんたが通う支援学校」

 

「さすが母さん。仕事が無駄に早い」

 

「実際に通うのはテスト後?らしいけどね」

 

「そらそうだ。なんせテストまで休みだからな」

 

響夜達が通う学校はテスト間近になると休みが入る。自主勉強という形だが学校に行って先生に教授願う事も可能だ。

神楽と響夜は変なところで似ているのか頭のよさは同じぐらいであるため家で勉強することにしている。

 

「・・・そういえば将来とか考えてなかったな」

 

「にぃに?」

 

「ん、平和に過ごせれば良いやと思ってたし、将来の夢ぐらい決めないとな」

 

「響夜は何にするの?」

 

「一応俺は機械関連に強い方だ。プログラムや機械弄り程度なら趣味で出来る」

 

「そ、そうなの」

 

「VR関連の仕事に付いてみたいな。そう遠くない内にVRの認識が変わる」

 

「どういうこと?」

 

「AR・・・拡張現実っていう俺達が過ごす現実世界に変化をもたらすかもしれない」

 

「拡張現実・・・」

 

「メディキュボイドという医療用VRマシンがある。それには拡張現実が入ってるんだ。まぁ動かせはしないから仮想世界を新しく作るぐらいだが」

 

メディキュボイドは以前、響夜の白血病治療に被験者として使っている。

メディキュボイドはまだ実用化されていなかったときに響夜が名乗りを上げて被験者になった。

まだどのような危険性や異常性があるか分からなかったが少しの修正を加えるだけで実用化にこぎつけている。

メディキュボイドに期待されているのは終末期医療という末期型の病の医療目的。

AIDSといった無菌室でも扱えるメディキュボイドは自身の体を動かせない変わりに仮想世界へとダイブできる。

アミュスフィアとは違い、脳波のスキャン出力なども大幅に強化されているため死に体でも生きていれば微弱な脳波を感知し仮想世界に入れる。

最後の死に場所選びも出来るのだろう。

 

「さて、一度詩乃の家に行こうか。着替え持ってこないとだろう?」

 

「そうね、じゃあ今から行きましょ」

 

「神楽。お留守番頼むな」

 

「りょっかい。お任せあれ」

 

響夜は神楽に家のお守りを任せると着替えのため自室へと向かった。

服装は冬場ということもあり冬用ジャンバーにジーンズ。

そして木綿季に編んでもらったマフラーを首に巻いていく。

 

「・・・あったけぇな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくして詩乃を乗せたバイクは詩乃の家へと到着する。

 

「ドア前で待ってたのが良いか?」

 

「別に入っても良いわよ?」

 

「・・・いや、やっぱ遠慮しとく」

 

「じゃあまとめ終わったら出てくるわね」

 

「あいよ」

 

響夜は詩乃の準備が終わるまで詩乃の家の扉で待つことにした。

入らなかった理由は主にいきなり押しかけて見せられない状態だと詩乃が慌てるのと着替えなどをもし見てしまったときが困るためだった。

 

「俺は木綿季一筋だっての」

 

響夜は木綿季がどうしているのだろうと考えているとマンションの廊下を一人の少年が歩いていた。

普段ならば気にはならないが、何故か気になったため耳を立てて足音を聞いていく。

すると段々と響夜の方へと向かって来ていた。

 

「・・・一応この階の人かもしれねぇしなぁ」

 

だが響夜の読みは外れ、少年は響夜へと近付く。

 

「あ、あの・・・」

 

「あ?」

 

「ここ・・・友達の家なんですけど・・・」

 

少年は友達の家だと言い張る詩乃の家を見ていた。

響夜としても詩乃の交友関係はそこまで知らないがなんとなくこの少年からは嫌な予感がした。

 

「・・・朝田さんに何か用なんすか?」

 

「そ、そういう君も朝田さんに?」

 

「まぁ一応」

 

響夜はただ詩乃の泊まり準備が終わるまで待っていたため、用はあった。

だが詩乃からはこの少年と会うなどとは聞いていなかったためどうすれば良いのか考えていた。

すると家の扉の鍵が開いた音がして中から大きなバッグを抱えた詩乃が出てくる。

 

「お待たせ・・・って新川君?」

 

「あ、朝田さん!」

 

「ん、知り合い?なら席外すわ」

 

「良いわよ、そこまでしなくても」

 

「朝田さん、この人とはどういう?」

 

新川と言われた少年は響夜の事を聞き出すべく詩乃に聞いた。

 

「幼馴染よ」

 

「え?」

 

「だからこの人とは幼馴染!」

 

「そ、そうなんだ」

 

「・・・やっぱ席外すわ。下で待ってるから終わったら来いよ」

 

「う、うん。ごめんね」

 

「別に」

 

邪魔者だと思い響夜はその場から去っていく。

友達同士での会話に自分が入る余地はないと思っての行動だった。

 

 

 

 

 

その頃、新川は響夜の事が気にかかるのか詳しく聞こうとしていた。

 

「ねぇ朝田さん。あの男の人って本当に幼馴染?」

 

「あのねぇ!何度も言うけど本当に幼馴染なのよ!学校が違ったから会わなかっただけで連絡自体は時々取り合ったんだから」

 

「そうなんだ・・・連絡ってどういうの?」

 

「べ、別にそんなこと言わなくても良いでしょ」

 

「だってあんなやつが朝田さんと関係してるとは思えない!」

 

「・・・!もう良いわ、これ以上彼のこと侮辱するならさすがに私も怒るからね」

 

しつこく何度も聞いてくる新川に痺れを切らしたのか詩乃はいらつきながらエレベーターに乗り込む。

新川も詩乃を追うように入った。

 

「じゃ、じゃあそのバッグは?」

 

「着替えよ」

 

「まさかその人の家に!?」

 

「・・・なに勝手な妄想してるのよ」

 

「だ、だってそう思うじゃないか!相手は男の人でそんな大荷物。しかも着替えとなったら!」

 

「ただのお泊り会よ。彼とは送ってもらうだけ」

 

「なら僕が送るよ!」

 

「そんなことしたら彼に悪いでしょ!せっかく来てもらってるんだから」

 

「だって怪しいじゃないか、男の人なんて」

 

「あら?そんなことを言うってことは自分も含まれるわよ」

 

詩乃の仕返しの言葉に新川は何も言い返せなかった。

エレベーターが一階に着くとバイクに背を預けて目をつむっている響夜がいた。

 

「や、やっぱり僕が・・・!」

 

「はぁ・・・んと新川さんだっけ?確かに不安なのは分かるが俺はただ送迎するだけだ」

 

「君がそんなことをしない確証はない!」

 

「ならば送れるんだな?」

 

「ああ!」

 

「ここ御茶ノ水から埼玉まで最低でもバイクで1時間はかかる。見た感じ徒歩で来たようだが・・・車やバイクはあるのか?」

 

「ぐ・・・」

 

「徒歩で彼女を埼玉まで連れていくというのなら論外だ。それこそ俺が譲れん」

 

「わかりました、朝田さんをしっかりと!送り届けてくださいね!」

 

「だそうだ。詩乃乗れ」

 

「ええ」

 

新川をなんとか納得させた響夜はバイクに詩乃を乗せるとエンジンを吹かせた。

 

「それじゃあね、新川君」

 

「うん、またね朝田さん」

 

「詩乃、一応掴まっとけ。飛ばされてもしらねぇからな」

 

「うん」

 

響夜の忠告通り詩乃は掴もうとするが新川の目があるため少し先で掴むことにした。

そのままバイクを走らせ、新川の姿が見えなくなると響夜のお腹に手を回した。

 

「あの新川ってやつ。気をつけろよ」

 

「へ?」

 

「・・・あんま詳しくは言えないが新川って名字は聞いたことがある。人違いならば構わんが新川昌一という男は元SAOプレイヤーでありながら人殺しのギルドの一員だ。名字が一緒というだけだが気掛かりなんでな。気をつけとけよ」

 

「わ、わかった」

 

「そんじゃ飛ばすぞ!しっかり掴まっとけよ!」

 

響夜は緩めていたスピードを一気に加速させ法定速度ギリギリで運行していった。

その時の詩乃の表情はとても楽しそうにしていた。

 

「あはは!風が気持ちい!」

 

「・・・ったく」

 

 

 




ここでの新川と詩乃は知り合いではありますが詩乃は新川に対して一切の行為を抱いていません。
響夜に対しては全開ですが。
そのため全面的には信頼しておらず警戒心はあります。


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現実を超えた仮想の弾丸

響夜と神楽。

二人がいるのは銀座のとある高級デザート店。

国家の役人に呼ばれたのが今いる場所だった。

 

「・・・あんの眼鏡こねぇ」

 

「忙しい、のかも」

 

「尚更うぜぇ、朝っぱらから呼び出しやがって」

 

イライラしながら待っていると例の役人眼鏡がやってくる。

 

「待たせたね、今来たとこだよ」

 

「10分で済ませてくれ、眠い」

 

「あはは、なるべくね」

 

この男、国家役人の菊岡誠一郎はSAOでの復興課に配属されており、響夜が起きて数日後に病室に来ていた。

 

「その女の子はどちら様だい?」

 

「妹だ。俺と同じSAOプレイヤー」

 

「これは・・・その子の情報は一切無かったね。本当なのかな?」

 

「当たり前だ。英雄様にでも聞いてみな、同じ事言うぞ」

 

「ま、まぁそういうことにしておくよ・・・とりあえずもう一人呼んでるんだ、少し待ってもらって良いかい?」

 

「神楽の欲求を満たせるのならな」

 

響夜の言い回しを理解できなかった菊岡は神楽を見る。

すると神楽はオーダーでなんとメニューのデザート類を全て注文していた。

響夜もケーキを3つ注文しており、金額は目もあてられないほど膨れ上がっているだろう。

 

「ま、まぁ・・・」

 

「金額どうやら数十超えたな。お疲れさん」

 

「♪」

 

たくさんのデザートを食べれることが嬉しいのかニコニコしている。

それをため息をついて財布の中身を確認する菊岡に響夜は苦笑する。

すると入口の方で見慣れた人物が立っていた。

 

「おーい!桐ヶ谷君、ここだよー!」

 

「・・・」

 

もう一人とは和人の事だった。

しかしその表情は嫌そうな感じで渋々来たようだった。

 

「ったく・・・何の用だ?響夜達も呼んでるじゃないか」

 

「うん、君達からの主点を聞きたくてね」

 

菊岡はタブレットを響夜達に見せる。

映された画面は知らない男だった。

 

「誰だ?」

 

「君達に問いたいんだがGGOは知っているかい?」

 

「知ってるも何も唯一日本でプロがいるからな、知ってるに決まってんだろ」

 

「響夜君が言うそのプロとはどういう意味だい?」

 

「GGOはゲーム通貨を換金して現金に換えられる仕組みがある。それだけでやりくりしている奴をプロっていうんだ。例えば神楽とかが当てはまる」

 

「ほう・・・?」

 

「はむっ・・・んぐっ・・・」

 

運ばれてきたケーキをどんどん食らいつくす神楽を見やる。

神楽はあの時以降GGOを暇があればやっており、時々ALOにもインしている。

神楽のGGOでの腕はランキングにも掲載され、MMOトゥモローに出演依頼が来たほどだった。

人前を嫌う神楽は当然のように出演を断ったが。

 

「少なくとも神楽の腕で20~25辺りだな。トップランカーと同じぐらいだ」

 

「ふむ・・・ならその腕を見込んで君達に頼みたいことがあるんだ」

 

「あー・・・まさかあれか?」

 

響夜は携帯を操作すると菊岡に見せた。

それはGGO内でのとある場所で録音された音声データと声の主である『死銃』という物だった。

 

「響夜君が言うとおりそれ案件なんだ。そこで!SAOをクリアした英雄である響夜君と桐ヶ谷君を呼んだというわけさ」

 

おちゃらけた菊岡の言葉に響夜は和人を見た。

和人も同じタイミングだったため、頷くと立ち上がる。

 

「帰らせてもらう!」

 

「同じく。GGO自体興味ない」

 

「ぁ・・・」

 

「ま、まってくれ!まだ話は終わっていないんだ!・・・ケーキ追加注文していいから!」

 

必死に懇願する菊岡に折れた二人はまた座り直す。

 

「君達はVR内の銃で撃たれたプレイヤーが現実世界でも死ぬと思うかい?」

 

「・・・どうとも言えん。だがこれだけは言える。アミュスフィアだろうとメディキュボイドだろうとナーヴギアと同性能じゃなければ不可能だ」

 

「その根拠は?」

 

「まずアミュスフィア。これはナーヴギより出力が抑えられているし、セキュリティ強化が厳重だ。VRでの出来事を容易に起こすのは不可能と言っていい。次にメディキュボイドだが、あれは医療目的で作られている。出力はナーヴギア以上だがセキュリティ能力は独自の物でVRどころかプロのハッキングですら不可能。総じてフルダイブ機器で死ぬのはナーヴギア以外は無理だな」

 

「響夜に同意見。ていうかあんた、もう試しているんじゃないのか?」

 

「・・・ああ、もう試しているよ。だからこそ君達に聞いた。僕たちからの考えと第三者の考えが欲しかったからね」

 

「なんか腹立つな。神楽、注文入れとけ」

 

「ん、了解」

 

響夜のいらつきを増幅させた結果、神楽に追加注文として一つ3000円のパフェが3つ追加された。

和人はそれを嘲笑うように苦笑するが菊岡は財布の中身を気にしはじめていた。

 

「さ、さて。僕が君達に頼みたいのは実際に死銃氏に会ってもらいたい。ダイブ場所はこちらが用意した場所から行ってもらうし、安全に関しても万全の状態でやらさせてもらうよ」

 

「菊岡さん。それってつまり撃たれて来いってことだろ?」

 

「あ、あはは・・・」

 

「俺は断る。神楽も協力させねぇからな」

 

「そ、そんなにかい?」

 

「・・・和人やれよ。報酬旨いと思うぞ」

 

「響夜!おまえがやれよ!」

 

「俺は金があるが、和人はねぇだろ」

 

「ぐ・・・」

 

響夜は例のプログラム案件で0が数十ほどついているほどの報酬を受け取っている。

それに比べて和人はバイトもしていないためお金の収入源がこういった依頼しかないのだ。

 

「かず、と。おね、がい」

 

「・・・だーも!わかったよ!行けば良いんだろ!」

 

「ていうこと、菊岡さん。んでもって報酬の額を30から50ぐらいにしてやってくれ」

 

「それで桐ヶ谷君が協力してくれるんだね?」

 

「ああ、俺がやるよ菊岡さん」

 

「なら後でメールでその場所を教えておこう。日程はまた送ってくれ」

 

こうして響夜と和人は菊岡の話を終える。

菊岡も協力者が出来て嬉しいのかニコニコしていた。

それに合わせて神楽は今までのオーダーを全て食べ尽くすと響夜の膝に頭を乗せて寝てしまった。

 

「おいっ・・・ったく」

 

「仲が良いんだね」

 

「そりゃあ唯一の家族だしな。それに・・・」

 

「?」

 

「いや、気にしなくて良い。ただの思想だ」

 

「そうかい?ならいいんだが」

 

「んじゃ俺達は帰るぞ。神楽も寝ちまったからな。和人も大事な予定はあるとはいえ明後日テストだぞ」

 

「ああ、分かってるよ」

 

響夜は寝てしまった神楽を背負うとその場を後にして乗ってきたバイクに乗る。

神楽は前に乗せて抱え込む。

 

「んじゃあな、和人」

 

「ああ、またな」

 

そうして響夜は家へと帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が家に到着すると家に入る。

神楽はまだ寝ていたため起こさないようにゆっくりと動く。

 

「ただいまー」

 

「ん、おかえり・・・って神楽ちゃん?」

 

「ん、あぁ。寝ちまったんだよ。部屋に寝かせて来る」

 

「ええ、わかったわ」

 

響夜は神楽の部屋に入ってベッドに寝かせると自室に入っていつもの部屋着へと着替えた。

 

「詩乃、一応言っとくが宿泊できるのはテストが終わるまでだ。終わってからはお前も登校しないとダメだからな」

 

「分かってるわよ。その時、住所も変えるわ」

 

「住所・・・引っ越すのか」

 

「ええ。この近くにね」

 

「そうか・・・でも俺は相手がいるからな?」

 

「・・・分かってる。分かってるけど・・・」

 

「ごめんな。俺は・・・木綿季だからさ。詩乃の事は親友としてしか見れない」

 

「・・・うん・・・分かってる・・・」

 

「もし・・・木綿季より詩乃だったら・・・好きだったのは詩乃だったかもな」

 

「ふぇ・・・?」

 

「さて、終わりだ。俺は寝る」

 

響夜がすぐに話を切り上げると自室へと入った。

時間帯は夕方だったが意外にもすぐに寝付けたためすぐに寝た。

 

 

 




死銃事件に関しては以前の話の後書きで書いたように響夜達は介入しません。
和人が代わりにやるためここは原作通りですが違う点は。
・詩乃のPTSDは重度ではない。
・詩乃は新川恭二を友達としてしか見ていない。
この2点でしょうか。

あとヒロインは木綿季です!詩乃ではないのですよ!(一緒にいさせていないため場面を作れないから登場が最近減っていますが


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難題を説き明かした先

響夜が木綿季に課したテスト全学級中10位を決めていく日が今日来ていた。

この日はテスト前日。

響夜は以前明日奈や里香に言った予想問題を渡しに行く事になっていた。

一度集合ということで響夜の家を使うことになったのだが・・・。

 

「詩乃。今日友達来るんだが・・・」

 

「良いわよ、私は神楽ちゃんと遊んでるから」

 

「神楽は問題なさそうだが一応渡すからな。終わったら下に俺はいるから渡しに来てくれ」

 

「ん、りょかい」

 

「昼ぐらいに来ると思う」

 

「わかったわ、それまでは下にいるわね」

 

詩乃に事情を説明し、許しが出たため響夜は朝食を作った。

今日の朝食の献立はグラタン。

詩乃が食べたいと言ったため、ご希望通りに作り上げた。

 

「さて・・・昼まで時間潰すか」

 

「GGOやってくるね」

 

「昼には一度戻れよ。飯食べないとなんだからな」

 

「神楽ちゃんって続けてるのね」

 

「俺は興味はないけどな。ネット使っていいからやりたいなら一緒にやってきな」

 

「じゃあ・・・そうするわね」

 

「あいよ」

 

GGO組の神楽と詩乃がゲームをしに向かったため家で何もしていない響夜。

暇になり家庭用ゲームで遊ぶことにした。

 

「さて、やるか」

 

 

ちなみに詩乃達が戻って来るまでずっとゲームをしていた響夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃達がお昼を食べに下に降りてきた頃合いで響夜は意識をゲームから時計へと移す。

時間帯は12時だったのでゲームを一時中断するとお昼を作ることにした。

 

「朝はグラタンだったしなぁ・・・冬で良いもんあったかねぇ」

 

戸棚を開けると素麺があった。

冷蔵庫にはうどんとそば。

 

「・・・普通にうどん茹でるか」

 

冷蔵庫から味噌とうどんを取り出し、野菜室から白菜やエノキなどを取り出した。

 

「煮込みうどんにかぎる」

 

 

 

 

 

 

 

料理のにおいで先に釣れたのは神楽。

神楽はデザートも好きだがそれ以前に食に対する探求心が強い。

木綿季と並ぶほどの食い意地を張っており、常に腹を空かせているというのが神楽を知る者達の見解だろう。

 

「神楽、器用意してくれ。もうすぐできる」

 

「わかった」

 

「良い匂いね。味噌の香り?」

 

「さすが。今日は煮込み味噌うどんだよ。寒いし」

 

詩乃もしばらくして降りてきたため、出来上がった鍋うどんを机の真ん中に置く。

響夜が個々の器に入れていき、神楽がすぐに食べ切ったためお代わりの要求に詩乃が苦笑していたが。

 

「美味しいわね、響夜のは」

 

「そうか?普通だろ。日頃から作ってたら腕も上がるだけだ」

 

「・・・毎日自分で作ってるの?」

 

「両親共に研究職だからな。休みが少ないんだ。それでも親がいるだけで俺は不満はない」

 

「ふーん」

 

響夜の過去をあまり知らされていない詩乃は素っ気ない返事をする。

過去を知るものは神楽と木綿季だけであり、響夜は教える気はほとんどないからだろう。

そんなことを話していれば既に食べ切った神楽は満足したのか一階のソファーで寝てしまった。

 

「・・・よく寝るよなぁ」

 

「本当ね。でも良いじゃない、あんな可愛らしいんだから」

 

「まぁな・・・後で毛布かけてやるか」

 

いつも通りの神楽を響夜は呆れつつも食器を片付けると神楽の部屋から毛布を持ってくると寝ている神楽にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時頃にインターホンがなったため、響夜が寝ている神楽をよそに出に行った。

詩乃は既に神楽の部屋に入ってGGOをしている。

 

「やっと来たのかよ」

 

ドアを開けると和人、明日奈、木綿季、里香、珪子がいた。

後ろの方に車が止まっているあたり明日奈の家の使用人が送り届けたのだろう。

 

「これでも急いだんだよ!?」

 

「木綿季以外はわかるが、木綿季の家なんぞ徒歩で15分圏内だぞ?どうやったら時間かかんだか・・・とりあえず入れよ、静かに」

 

響夜の最後の言葉に意味が分からなかったようだがすぐに察した。

ソファーに毛布をかけて寝ている神楽がいたため静かにといったのだ。

 

「なるほどな・・・起こさないようにしないとだ」

 

「そ、そうですね。起こしたら悪いですもんね」

 

「響夜、あんた部屋に連れていけば?」

 

「神楽が寝てる場所は神楽のお昼寝ポイントなんだよ。今の時間帯なら窓から日の光が入って暖かいからな」

 

神楽が寝ている所は日光が当たる場所で心地好いお昼寝場所だった。

ちなみに普段は響夜が自室のベッドを使えない時に使っていたりする。

 

「とりあえず、これは疑似的なテストと思ってやってくれ。今は・・・1時10分だから30分に問題と解答を渡すからな」

 

「随分と本格的だね?響夜」

 

「大丈夫、木綿季には明日奈達とは違う問題だからな」

 

「ふえぇぇ・・・」

 

「とりあえず分からんとこあったら言え。時間まで教えてやる」

 

20分間だけにも関わらず引っ張りだこにされた響夜はぐったりをしていた。

主に木綿季のせいで。

 

「さ、さて・・・問題渡すけど、教え合いなしの実力勝負な。枚数は主要教科5種類の5枚。時間制限は5時までで出来たら俺を呼べ、次のを渡す」

 

響夜の言葉に頷いた5人に響夜はファイルから問題と解答を渡していく。

最初の教科は国語。

漢文・古文・漢字など全てを詰め込まれたため問題量がかなりあった。

 

「それじゃあ、始め!」

 

一気に5人はテストを裏返すと問題を読み解いていく。

 

 

最初にこの5教科をやり遂げたのは意外にも木綿季だった。

スカスカじゃないかと思い響夜は解答用紙を見るがしっかりと書かれていた。

 

「よくやったな、木綿季」

 

「えへへ~」

 

木綿季の頭に手を乗せると優しく撫でた。

まだ和人達がやっていたためすぐに撫でるのをやめたが。

 

 

2番目は明日奈だった。

 

「この問題難しいよ・・・全然自信ないし・・・」

 

「最低限のヒントしか与えてないからな。簡単な問題作って褒められても嬉しくねぇだろ」

 

響夜の問題は少しのヒントを元に解いていかなければ答えを導き出せない。

だが答えをしっかりと書けていれば本番のテストはこの問題より簡単なものだ。

 

「響夜、終わったわよ」

 

「私も終わりました!」

 

「・・・俺も」

 

3人一気に終わったらしいので解答用紙を回収すると答案と見比べる。

みんなして自信がなさそうなのは国語。

文章問題には、【この場面を書き抜く】と【この人物は何故そうしたのか】という問題がある。

書き抜き問題は問題をしっかり読んでいれば確実に解答できるのだが、後者の方は難しい。

響夜の問題なら尚更難易度が上がっているのだろう、5人はそこまで自信を持っていなかった。

 

「ふむ・・・とりあえず言おう」

 

 

「みんなして考えは違うが・・・大まかな答えは合っている。国語で躓きやすい文章問題だが、解答に必要な単語や最後の締め括りの言い方、これらはしっかりしているが・・・全員間違いがある、同じ所」

 

「えっ?」

 

「文章問題10。ここの解答条件は【三十文字から四十五文字以内】なんだよ。全員45文字以上で点数としては0だが答えは合ってる」

 

響夜はみんなの解答を丁寧に説明していく。

どこが間違っていて、何故違うのかヒントをだしていた。

響夜がこうして教える場合、いきなり答えは言わず出来るだけ自分の力で答えが導き出せるようにしていた。

 

 

最終的に総合点数の結果。

木綿季は484点。

和人は473点。

明日奈は494点。

里香は452点。

珪子は456点。

となった。

 

「ありゃ、意外にも全員450超えか」

 

「つ、疲れました・・・」

 

「ホントよ、久々にテストで疲れたわ」

 

「ぐへー・・・」

 

「も、もう疲れたぁ・・・」

 

「ゆ、木綿季?!和人君も!」

 

「・・・あれだろ、勉強で頭が処理できてないだけだ。放っておけば治まる」

 

意外なテスト結果に響夜は考えていた物を実行する。

冷蔵庫には中身が見えないように隠された一つの金属箱。

 

「さて、450点以上とったし、お前らに良いもんやろう」

 

「「「「「?」」」」」

 

響夜が金属箱から取り出したのはホールケーキ。

林檎をたっぷりと使った林檎ケーキだった。

 

「何回か作って好評だったからな。林檎ケーキだ」

 

「林檎ケーキ!?」

 

「り、林檎ケーキ?」

 

「木綿季の大好物なんだよ、林檎ケーキは。初めて食わせたら一発で気に入ったらしくてな」

 

「響夜の林檎ケーキすっごく美味しいんだぁ!」

 

テンションが上がった木綿季にみんなは自然と笑顔になっていく。

今まで必死に勉強漬けだった木綿季がニコニコしているのを見て微笑ましい感じだった。

 

「んぁ・・・」

 

「ん、起きたのか」

 

「うん・・・ふわぁぁ・・・」

 

「おはよう、神楽ちゃん」

 

「おはぁよぉ・・・」

 

「神楽も食べるか?林檎ケーキ」

 

「うん~・・・」

 

まだ眠気が取れないのか眠そうな声だったがケーキを食べる欲求で必死に起きた。

 

「んぅ・・・?木綿季お姉ちゃんだぁ~・・・」

 

「ふぇっ!?」

 

「・・・木綿季、しばらく相手してくれ」

 

「う、うん。それは良いけど・・・」

 

「ふへへ~・・・」

 

だらしのない表情に声をあげた神楽に木綿季達は戸惑うばかり。

普段の神楽は言葉をとぎれとぎれに話すため今のように滑らかに喋る所を初めてみたのだ。

 

「さて、切り分けるから食べるか」

 

「はーい」

 

響夜が棚から食器を取り出すとケーキを切っていく。

各々にフォークとケーキを渡すと食べはじめた。

 

「ん・・・美味い!」

 

「本当!美味しい!」

 

「めっちゃ美味しいわね・・・」

 

「響夜さん、美味しいです!」

 

「ん~♪」

 

「おいしぃ♪」

 

テスト前日にも関わらずケーキの美味しさに全員はどんどn食べ進める。

木綿季と神楽に至ってはもっと食べたそうにしていたが林檎ケーキを作るのに使う林檎は3つ。

たまたま余っていた林檎を使いきったため在庫がなかった。

 

「また作ってやるからその時な?」

 

「やったぁ!」

 

「わ~い」

 

「さて・・・時間はまだ3時か。帰るまで雑談するか」

 

「そうですね!ずっと勉強漬けでしたし」

 

「最近の響夜の事聞きたいしな」

 

「えぇ・・・面倒」

 

響夜の内部事情を聞こうとした和人だが面倒で片付けられてしまった。

腹黒眼鏡に呼び出されたときに響夜は和人と会っていたためある程度知っているのだ。

 

「おめぇらなぁ・・・ったく」

 

響夜は観念して大人しく話した。

だがプログラム依頼の事は伏せて。

 

 

 

テスト当日まで残り数十時間。

 

 

 




度々触れられているプログラム。
日常編の次が何かもうお分かりの人もいるかと思いますが感想には直接書かないでくださいね。
一応隠しているので・・・一応。

感想・意見常時募集中です。


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紺野家と響夜

文章がおかしかった部分を修正しました。


人にとってはこの日は嫌であろうと思えるだろう。

授業時間が少ないから帰れると思う人。

今までの成果が如実に現れる日と思う人。

 

 

響夜は学校の制服を着ると筆箱とバイクの鍵だけを持った。

今日はテスト当日。

いつものを持って行っても授業はテストだけなのでそこまで意味がない。

 

「神楽ー、用意できたか?」

 

「ん、出来た」

 

一階で待っていると久々に制服姿の神楽が降りて来る。

実年齢は16だが見た目は小学生6年生ぐらいの背丈だからか制服は規定サイズではなく特注となっている。

 

「あら、もう行くの?」

 

「おう、テストだしな」

 

「それじゃあ・・・私もそろそろ家に帰ろうかしら」

 

「出る時間は構わんが、合い鍵は郵便受けにでも入れといてくれ」

 

「わかったわ」

 

「んじゃ神楽行くぞー」

 

「はーい」

 

響夜はバイクに乗るといつも通り神楽を前に乗せる。

神楽のバイクの定位置はハンドルと響夜の真ん中となっている。

響夜の後ろは木綿季の特等席だ。

 

「木綿季の迎え行くか」

 

「ん、りょかい」

 

学校にはまだ時間があるため木綿季の家に向かうことにした。

時間帯が朝方なので道路は案外すいていた。

それもあり普段より早めに木綿季家に到着する。

バイクを玄関近くに止めるとインターホンを鳴らす。

 

「はーい」

 

「響夜です。木綿季いますか?」

 

「あら響夜君じゃない。家に上がって行って」

 

裕子は響夜達を中に入るよう言うと切れたため、響夜は扉を開けて中に入る。

 

「お邪魔しまーす」

 

「お邪魔、します」

 

「いらっしゃい。木綿季ならまだ寝てるわ」

 

「・・・起こしてきます」

 

まだ寝ている木綿季を起こしに響夜は木綿季の部屋に向かった。

神楽もそのあとを追おうとするが裕子が呼び止める。

 

「神楽・・・ちゃんだったかしら?」

 

「はい」

 

「・・・声戻ったのね」

 

「・・・一応、は」

 

「多分響夜君が戻って来るのは10分ほどかかるわ。それまで少し話があるのだけれど・・・良いかしら?」

 

「どうぞ」

 

裕子は神楽を連れて居間に向かう。

神楽は自分に何の用があるのだろうと思い考えていたが何一つ接点がない神楽には分からなかった。

 

「とりあえず・・・いきなり言うけれどね?神楽ちゃん」

 

「はい?」

 

「・・・貴女の本当の名前、雪宮ではなく紺野じゃないかしら?」

 

「・・・どうして、ですか?」

 

「何となくの・・・勘だけれどね。後は木綿季に少し似ているから・・・かしら?」

 

「・・・ふふ。すごいですね。私は・・・本来であれば、紺野家の者です」

 

神楽の出生に関しては本当にごくわずかの者しか知らない。

神楽本人と響夜、従姉と両親だけが知っている。

 

「何故裕子さんが知ってるかは分からんが・・・なんで聞く?」

 

「・・・っ、響夜君」

 

聞かれていると思わなかった裕子は少し表情を落とす。

響夜はそんなのをお構いなしに口を開いた。

 

「確かに神楽は元は紺野家の娘だったよ。紺野翔平は知ってるな?」

 

「ええ・・・翔平さんは知っているけれど」

 

「あの親父と前の母さんとの子供が俺だ。神楽は紺野家と翔平さんの間の子だよ。だから俺と神楽は完全には血が繋がってないし、木綿季とは従姉妹の関係になる」

 

「・・・そうなのね」

 

「俺も神楽も翔平さんに関しては良い感情を持ってない。それどころか腐った奴だと思ってっからあまり思い出したくもない」

 

「・・・ごめんなさい、嫌なことを思い出させて」

 

「良いですよ、木綿季と神楽は従姉妹関係抜きに仲が良い。教えたとしても逆に仲を深めるきっかけになるだけです」

 

「あなたは紺野家と関わりが強いわね。他のものよりも」

 

「・・・関わりがあろうが俺は木綿季一筋ですよ。木綿季以外は関わりがあろうと特別な感情を抱こうと思いませんし」

 

「・・・やはり木綿季は君に任せて正解ね・・・テストが終わったら貴方の家に木綿季を任せようかしら?」

 

「良いですよ?両親共々、木綿季を気に入ってたみたいですから」

 

「だ、そうよ?テストが終わったら響夜君の家にお世話になりなさい」

 

裕子は物影から見えている人物に言った。

響夜も気付いているため、優しい表情で見る。

 

「ふぇっ!?気付いてたの?!」

 

「・・・アホ毛が見えてたのと足音でばれてる。一応言わなかったが」

 

「うぅ~・・・」

 

「裕子さんがこう言ってる。俺の母さんと父さんの事は知ってるだろ?あとは木綿季の方が良いならってことだ」

 

「う、うん・・・」

 

「幸いにも木綿季はまだ15だけど、あと5ヶ月もすりゃ出来るぞ?」

 

「ふぇ?な、なにを?」

 

「あら、木綿季。教えたあげたじゃない、結婚よ」

 

「日本じゃ男性は18、女性は16で結婚出来るんだよ。俺は18だし木綿季も半年程で16になるからな」

 

「ま、まだ早い気が・・・」

 

「木綿季はしたくないの?響夜君と」

 

「うぅ・・・し、したい・・・」

 

「なら、終わったら響夜君にお世話になりなさい?」

 

「は・・・い・・・」

 

自分の母親の目の前で結婚宣言と同棲すると言わされ木綿季は顔真っ赤にしていた。

響夜も恥ずかしいのか顔を少し逸らすが木綿季を抱き寄せると頭を撫でる。

 

「裕子さん、木綿季さんを俺にください」

 

「はい。木綿季の事お願いしますね」

 

「ふぇぇぇ・・・」

 

「木綿季、結婚式するときは言いなさい。力になってあげるから」

 

「う、うん」

 

「・・・にぃに。時間、大丈夫?」

 

「んあ・・・8時か・・・もうそろそろ出ないと遅れるかもな」

 

「うえっ?は、はやく行こ!」

 

木綿季はこの場にいれなくなったのか自室に走り去っていく。

まだ制服を着ていなかったため着替えに行ったのだろうと響夜は考える。

 

「響夜君」

 

「はい?」

 

「これからも木綿季の事お願いね」

 

「当たり前です。木綿季の事は俺がずっと守ります」

 

響夜は木綿季が来るまで外で待つことにする。

裕子としては中にいても良かったのだがすぐに出れるようにと響夜は出た。

 

「・・・本当に良い相手が見つかって良かったわね、木綿季」

 

今は着替えをしている木綿季の事を思う裕子。

 

今まで色恋沙汰は聞いたことがなかった裕子は将来を心配していた。

ある日、木綿季は嬉しそうな表情である生徒の事を話し出した。

名前は時崎直人という男子生徒。

だがある事を境に二人は離れた。

木綿季は泣きじゃくり、学校に行かず引きこもりとなった。

それ程までに木綿季の中では直人は特別な存在となっていた。

引きこもりの木綿季はある記事を見る。

フルダイブのVRMMOゲーム『ソードアート・オンライン』というゲームを。

数ヶ月ぶりに自室を出た木綿季はSAOを入手すべく今まで貯めた貯金を使って購入した。

裕子はいきなりゲームにはまり込んだ木綿季を心配したが、直人を引き止めれなかった事から罪悪感を感じ何も言えなかった。

 

 

木綿季はSAOをプレイし、ゲームに囚われた。

裕子はもう帰ってこないかもしれない木綿季に年甲斐もなく泣いてしまった。

だが木綿季は帰ってきていた。

裕子もそれを聞いてすぐさま駆け付けた。

木綿季の病室に入ると病院衣を着た男の子が木綿季といた。

木綿季はその子の事を何度も話す。

それを聞いて裕子は一安心した。

そしてその男の子はどこか・・・行方を眩ませた時崎直人に少し似ていたのかもしれない。

木綿季は自分といるときは見せなかった表情を沢山出していた。

引きこもって塞がっていた木綿季をこんな表情にする男の子に裕子は段々と興味を持つ。

木綿季と男の子の間には誰も立ち入れない繋がりがあると確信していた。

 

「・・・やはりあの子は直人君なのかもね・・・」

 

昔の事を思い出す裕子はもういない直人の事を思う。

男の子と直人はどこか似ている。

 

 

それを思いつつも響夜が話さない辺り、触れてほしくないと思い、木綿季の部屋へと向かう。

 

「木綿季ー?まだなのー?」

 

「今出来たー!」

 

「響夜君が待ってるわよ、早く行ってきなさい」

 

「うん。行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい、木綿季」

 

元気に手を振った木綿季に自然に笑みが零れた裕子はテスト後の事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いぞ、木綿季」

 

「ごめんよー」

 

「さて、神楽も乗ってるから木綿季も乗りな」

 

「うん!」

 

木綿季は響夜の後ろに座るとお腹に手を回す。

これがいつもの定位置で飛ばされないための対策方法。

 

「それじゃ行くぞー」

 

響夜がエンジンを吹かすとあと数十分でテストが始まる学校へと向かった。

 

 

 



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囁き声は紺色少女を焦らせる

テストの教科は主要教科と副教科で出される。

テスト期間は二日間で、一日目は主要教科、二日目は副教科。

何事もなく三人は席に座ると響夜は携帯をいじる。

 

「結婚かぁ・・・場所考えねぇとなぁ」

 

「頑張れ、にぃに」

 

「お前のお姉ちゃんのためにも頑張るよ」

 

そんなことを話していると担任の桜が教室に入ってくる。

 

「はい、皆さんー!待ちに待ったテストですよー!」

 

「全然待ってねぇ」

 

「ホントだよー」

 

テストどころか勉強嫌いな木綿季は当然、響夜もテスト如きで学校に行くことが面倒なのかぐったりとしている。

 

「それでは問題用紙を配りますー、最初は数学からですよー」

 

桜は封筒から問題用紙を取り出し、配りだす。

響夜も携帯をしまい、筆箱から必要な物を取り出すと神楽のかばんに入れた。

 

「ん」

 

「悪い、持ってきてねぇから入れておいてくれ」

 

「だいじょぶ、良いよ」

 

「ありがとな」

 

問題用紙が行き渡ると今度は回答用紙が配られる。

響夜はその間に問題をある程度見て暗算をしていた。

解答用紙も配られると時間が9時になりチャイムが鳴ったと同時にテストが始まった。

 

(・・・やべえ、簡単すぎて笑いそう)

 

数学の問題は普通であれば難しい類だったが、スパルタとも言える響夜の前日の模試テストに比べるとあまりにも簡単だった。

どういう差なのかというと、学校テストの問題数が50で響夜のは120。

しかも響夜のは両方正解で点数など意地悪問題が多かった。

 

(こんなのをあと4時間もやんのか・・・飽きそう)

 

響夜の考えは合っており、響夜と神楽は恐ろしい速度で問題を解いていく。

ある意味二人は異端児と言えるぐらい頭が良いためお互いにどっちが先に終わらせれるかの勝負となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間帯は15時20分。

1時間目【数学Ⅰ】

2時間目【現代社会】

3時間目【化学・地学】

4時間目【国語基礎】

5時間目【英語Ⅰ】

の時間割で響夜と神楽は何事もなく全ての回答欄を埋めきった。

明日奈や和人は余裕そうな表情だったが里香と珪子は疲れきっていた。

木綿季に至っては余裕でも疲れでもない表情。

 

「よし帰るか」

 

「ん、そだね」

 

「木綿季ー、帰るぞー」

 

「ん・・・わかったー」

 

ぼーっとしている木綿季の手を神楽が引っ張っていく。

木綿季と遊びたいのか神楽は早く帰りたそうにしていた。

 

「神楽、まだテスト終わってねぇからな?明日からならいっぱい遊んでいいから」

 

「ん、わかった」

 

「木綿季も今日は勉強せずに寝たのが良い。ぼーっとしてるぞ」

 

「うん・・・頭使いすぎて疲れちゃった」

 

「はぁ・・・」

 

無理して笑っている事が響夜にばれたのか木綿季の近くに寄る。

そして木綿季の背中に手を当てて、足に手をかけると一気に持ち上げた。

所謂お姫様抱っこの状態。

 

「ん・・・っと。神楽、木綿季のかばん持ってやれ」

 

「はーい」

 

「響夜?!恥ずかしいってば!」

 

「ぼーっとされてしかも足元覚束ない奴が言うと説得力ねぇなぁ」

 

「あう・・・」

 

「バイクまではこうされてろ。木綿季お嬢様」

 

「うぅー・・・」

 

お嬢様と言われ木綿季は顔を一気に赤くする。

それどころか湯気が出ているような気がするぐらいだった。

響夜も少しのイチャイチャを堪能したかったためにしたのだがここまで赤くすると思わず、もっといじってみたいという気持ちが出てくる。

だが今の状態の木綿季は身体的に疲れが出ていたため抑えてさっさと駐輪場へと向かった。

 

「よし、バイクに乗るから後ろに座りな。神楽も定位置いけ」

 

「分かった」

 

「あーうー」

 

「・・・まだパンクしてんのか・・・」

 

「まだまだ、うぶだね」

 

「木綿季ってそういうことに弱そうだしな、仕方ないだろ」

 

まだパンクしている木綿季のよそに響夜はバイクを吹かす。

目的地は木綿季の家。

 

 

 

 

 

 

ある程度走らせて木綿季の家に着くと木綿季を降ろした。

その頃には戻っていたがどことなくまだ顔は赤い。

 

「さて、明日も迎えに来るからな。時間帯は今日と一緒」

 

「うん・・・ありがとう響夜」

 

「なーに、木綿季の為にしてんだから良いよ」

 

「えへへ・・・それじゃあね、響夜、神楽」

 

「おう、じゃあな」

 

「またね、木綿季おねーちゃん」

 

響夜と神楽が見えなくなるまで木綿季は手を振ると家に入る。

裕子の靴がなかったため、どこかに出かけたと思い部屋着へと着替えた。

すると玄関が開いた音がしたので迎えに行った。

 

「おかえりー。お母さん」

 

「ただいま木綿季」

 

「どこか行ってたの?」

 

「ええ、少しね」

 

「ふーん・・・ま、いいや」

 

「ご飯用意するわね、木綿季」

 

「わーい!」

 

食べることが好きな木綿季は裕子の手伝いをよくする。

手伝えばその分早く食べれるし、響夜に手料理を奮えるからだ。

いつも響夜が作るだけじゃなく木綿季とて作って食べてもらいたい。

そのためにもこうして料理の練習も兼ねている。

 

「木綿季は野菜を切ってくれる?私は焼くから」

 

「うん~」

 

そんなこともあり料理が出来たためすぐに食べる。

明日は二日目、副教科のテスト。

それを乗り切れば明後日の結果次第で木綿季は響夜に沢山甘えようと思っていた。

 

「ふへへ~」

 

「・・・木綿季。いくら響夜君の事だからって口には出さないようにね?」

 

「うぇっ!?出てた・・・?」

 

「ええ、だらし無い声だったけれど」

 

「うー・・・」

 

自分の母親に聞かれたことが恥ずかしいのか料理を食べるスピードが上がっていく。

全て食べ終えると自室へと足早に入った。

 

「恥ずかしい・・・」

 

ベッドで包まっていると携帯を探す。

時間はもう7時だった。

いつのまにか早く経っていた事に驚いたが響夜に言われたため今日は早く寝ることにしようにしていた。

 

「・・・迷惑かな・・・でも・・・」

 

携帯の画面には響夜にかける電話が表示される。

もう少し一緒にいたかったのだが仕方ないため別れると一気に寂しくなっていた。

勇気を出して響夜に電話をかける。

するとすぐに繋がった。

 

「ん、どうした?」

 

「あ、えと・・・」

 

「寝る前に囁けと言いたいんすか」

 

「う・・・」

 

「ったく・・・もう少しいたかったなら言えば居たよ。それで、何を言えば良い?」

 

「明日・・・お家行っても・・・良いかな?」

 

「明日か・・・良いよ。どうせ泊まりに来そうだけどさ。裕子さんには俺から言うから気にせず来たら良い」

 

「うん、ありがと・・・」

 

「・・・もう寝ろよ」

 

「わかった・・・」

 

「おやすみ木綿季」

 

「おやすみ・・・」

 

「愛してるぞ」

 

「ふぇっ?!」

 

耳元で電話ごしとしとはいえ響夜の甘い声で言われた木綿季は変な声を出した。

電話は既に切れていたため響夜に聞かれることはなかったが。

 

「・・・ずるいよ・・・」

 

いつもと違う響夜に木綿季はどこかずるいと思った。

いつもならあんなことをしないと。

だが、それがとても心地良いと感じてしまう事に喜びがあった。

 

「・・・響夜に会いたいな・・・」

 

早く明日にならないかと思い木綿季は毛布を被ると眠りについた。

 

 

 




響夜さんの最後の言葉。
木綿季さんからしたら嬉しいが突然すぎてびっくりしたのでしょうね。

さて、もうすぐテスト編が終わるのですが日常編はまだまだ続きます。
そしてテストが終わると響夜には親しい人物が入学してきますね。
・・・続きどうしましょう。


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長かったテスト期間

「はぁぁぁぁぁ・・・」

 

「ん、どうかした?」

 

「テストなんて誰が考えたんだ・・・」

 

響夜は前日の主要教科テストを終えての翌日の朝一番に大きなため息をついた。

テストなんて消えてしまえーと響夜は思うも叶わない願いのため諦めていたが。

 

「私と、にぃには頭、良いから問題、無いと思う」

 

「そういう問題じゃねぇ。まずテスト自体を廃止しよう」

 

響夜は学校への宣戦布告とも取れる事を言い出すも確実に負けるとわかっているためおおっぴらにはしない。

 

「ん、とりあえず、ご飯食べて学校行こう?」

 

「そうだな・・・どうせ俺の場合屋上で寛ぐだけだし」

 

響夜自体は高校の卒業者であるため留年しようとも退学しようともまったく問題なかった。

事実上、天才科学者である七色も頷く頭の回転はもっと別の事に使うべきだと思えてしまうが。

 

「さて、さっさと行くぞー」

 

「ふぁ、ふぁってぇ」

 

響夜は朝ごはんを食べ終えると出ようとする。

食べるのが遅めな神楽はまだ口をモグモグとさせている。

 

「待っててやるからゆっくり食え。喉に詰まらせたらあれだし」

 

「うん」

 

ゆっくりと言われるも食べ終えて待っている兄の事も考え少し早めに食べる。

なんとか胃の中に収まりきったので片付けるとかばんを持って家を出た。

 

「うし、んじゃ木綿季の家行くか」

 

「りょっかい」

 

いつも通り響夜の前に座る神楽を見た後、バイクを走らせる。

何度も行くため木綿季の家の道を完全に覚えてしまったぐらいだ。

数分走らせ見慣れてしまった木綿季の家に到着する。

 

「さて・・・鳴らして来るか」

 

「ん、りょかい」

 

響夜は玄関の呼び鈴を鳴らすと声が聞こえる。

木綿季の母である裕子のもの。

 

「響夜です。お迎えに上がりました」

 

『あら、すぐに用意させるわね』

 

すぐに切れてしまったが用意させるのならそこまで時間がかからないと思い、バイクを背もたれにして携帯をいじる。

写された画面にはMMOトゥディという大規模掲示板だった。

余談だが響夜と神楽は一度このMMOトゥディの出演依頼が来たが「めんどい」「人前、嫌」と固くお断りされた。

神楽はゲーム内であろうと集団行動を嫌う。

というのも群衆恐怖症と呼ばれる精神障害を持っている。

VR内でも同じで、不特定多数で大人数が神楽の近寄るだけでパニック障害を起こす。

学校環境は何故か大丈夫らしいが。

MMOトゥディの記事を見ていると玄関の扉が開いた。

中からは活発で元気な女の子である木綿季が響夜目掛けて飛びついた。

 

「きょうやぁぁぁぁぁ!!」

 

「うおわぁ!?ちょ、木綿季?!」

 

「響夜だぁ~・・・」

 

木綿季は猫みたいに響夜にスリスリしていた。

これが家内ならば響夜も咎めはしないが時間帯は朝。

当然出勤や登校の時間帯のため人の目がある。

 

「木綿季、離れろ、マジで」

 

「あ~う~」

 

「ガキか・・・ったく」

 

「えへへ~。おはよう、響夜!」

 

「おはよう、木綿季・・・」

 

「にぃに。疲れてる」

 

「・・・さっきのせいでね」

 

木綿季のスリスリ攻撃で響夜の疲労度が上がってしまったが、気にすることなくバイクに乗る。

木綿季も同じく乗るとバイクはまた走行した。

 

「さて、お嬢様。行き先は?」

 

「学校ー!」

 

「仰せの間々に」

 

執事風に言うと響夜は学校へと向かった。

木綿季はいつも通り響夜に抱き着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストは前日と同じように問題なく終わった。

響夜と神楽は問題ないようにしているが和人や木綿季達は不安を持っていた。

特に木綿季は10位以内に入る条件が課せられているため不安しかなかった。

 

「ん~・・・・・・っと、テスト終わったぁ~」

 

「お疲れ、木綿季」

 

「うん~、疲れたよぉ~」

 

「テスト順位は明日発表だけど、まぁ良いか」

 

「?」

 

「母さんから伝言。【木綿季ちゃんが家に住みたいなら響夜と一緒に同棲しても良いからね。ただし自分の中で踏ん切りが付いてからにしなさい】だそうだ」

 

「響夜と同棲・・・・・・ぷしゅ~・・・」

 

「・・・パンクしてるし。同棲とか今までしてたじゃねぇか」

 

「にぃに。そういう問題じゃないよ」

 

「知らん」

 

顔真っ赤でショートした木綿季が元に戻るまで一緒にいた響夜達なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界では仮想世界という自分自身の意識を移し、実際に動くという技術が人気を呼んでいた。

そして世界では仮想世界とは違うものを研究しているものがいた。

Amusement Realityと呼ばれる拡張現実。

メディキュボイドにも搭載されている物で、現実世界にも影響を及ぼす技術。

 

 

響夜はテスト終了後にとある人物に呼び出されていた。

 

「・・・おせぇなぁ。呼んだら早く来いよ」

 

待ち合わせ場所に時計広場なのだが、響夜を呼び出した人物は一向に来なかった。

 

「・・・さすがにつかれる」

 

数十分待っていると響夜の目の前に一つのワゴン車が止まった。

ドアが開くと一人の女の子が出てくる。

 

「プリヴィエート!待たせてごめんなさい!」

 

「おっせぇよ!どんだけ待ったと思ってんだ!」

 

中からは出てきたのは銀髪がよく目立つ女の子。

世界的にも有名でVR内でも有名である天才科学者『七色・アルジャービン』だった。

響夜とは七色が小さい頃からの知り合いである。

 

「そ、それは・・・そのぉ~・・・」

 

「はぁ・・・とりあえず場所移動すんだろ?どこでするんだよ」

 

「車の中でしましょうか。聞かれては困るかもしれないから」

 

響夜はワゴン車に乗ると七色の隣に座る。

そして七色はファイルを響夜に渡した。

中には研究の結果や考察など、科学者としての意見が詰まっていた。

 

「・・・とりあえず言おう。アルはVR技術の研究者だから、そういう意味で言おう。まず、VRとARは何が違うか挙げてみろ」

 

「VRは仮想世界で仮想体を・・・ARは現実世界で現実の体を動かす・・・って感じかしら?」

 

「ああ、それであってる。ただ違いで大きな部分は緊急的な行動。VRではログアウトかアミュスフィアを取り外すしかないんだ。しかも現実世界の自分は仮想世界からじゃ分からないから危険性がある。だがARでは現実世界で動かす物だ。危険性も大きく減るだろ?」

 

「そうね・・・でもそれを現実化出来ていないのは・・・」

 

「情報量の差・・・だろうな。今は仮想世界のが情報量が多い。それと同じか上回る情報が拡張現実には必要なんだよ」

 

「・・・すごいわね。響夜は。あなた、VR技術者になれるわよ」

 

「ならん。俺は平和に過ごしたいんだよ」

 

「でも有意義な意見だったわ。AR技術にとても役立つと思う」

 

「そうですかい」

 

世界の天才である七色にここまで言わす響夜は異端でもあるがその分の才能がある。

だが響夜が考えているのは常に木綿季の事。

開発やプログラムなどは後回しなのだ。

 

「まぁ俺はそういうことはまだ関わらんよ」

 

「あら、いつでも歓迎よ?」

 

「それならいっそアルが会社作れば良いだろ。どこの企業でも受け入れてもらえれるんだから」

 

「もし・・・作ったら入ってくれる?」

 

「木綿季と神楽も入れて良いなら考える」

 

「そっか・・・まぁ、ありがとう。楽しかったわ」

 

「はいよ。んじゃ俺は帰る」

 

「ええ、気をつけてね」

 

響夜は車から降りると駐輪場に止めてあるバイクに乗った。

家には既に木綿季が待っているはずなので響夜は早めに帰る。

 

「今日はご飯何かなっと」

 

密かに木綿季のご飯を楽しみにする響夜。

いつもなら神楽と木綿季が乗っているバイクが広々と使えて新鮮な感じだった。

 

 

 




ようやくテスト編終わりました。
正直考えるのがつらすぎてダメですね。
感想に度々指摘がされている意味不明な文章がどうにも治らなくて最早修正が疲れてきてます。
自分がもっと良い文章が書けたらと他の方の小説を見てて思うばかりです。
感想や評価、お気に入り登録などは強制ではありませんがしていただければ作者が喜びます


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幸せな日常生活

響夜が家に帰ると、家の明かりがついていた。

神楽は基本自分の部屋ぐらいしか点けないので誰かが居るという事でもあった。

だが響夜は疑いもせずそのまま家の中に入る。

 

「ただいまー」

 

「おっかえりぃ~!」

 

バタバタと走ってきたのは今日から本格的に住むことになった木綿季。

ご飯を作っていたのかエプロン姿だった。

 

「ん、飯作ってたのか」

 

「うん、そうだよ」

 

「とりあえず着替えてくるわ」

 

「は~い」

 

響夜は二階の自室に入ると部屋着に着替えた。

テストの結果発表は翌日の掲示板に発表される。

 

「さっさと手伝うか」

 

テストの事は考えず、下でご飯を作っている木綿季の手伝いをすべく部屋を出た。

神楽も同時に出てきたようで、いつもの耳付きパーカーを着ていた。

 

「ん、おかえり」

 

「ただいま。木綿季がご飯を作ってるから下行くぞ」

 

「うん」

 

響夜達が下りると木綿季はまだご飯を作っているようで慌ただしく動いていた。

 

「木綿季、食器の場所わかんのか?」

 

「・・・わかんない」

 

「用意するから作ってていいぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

響夜は木綿季が作る料理を見て棚から見合った皿を取り出す。

響夜も料理をよく作るからこそ、ちょうどいい大きさの皿を取り出せるのだろう。

 

「置いといたからな」

 

「ありがとう~、あとご飯入れてもらってて良いかな?」

 

「お安いご用」

 

慣れない場所だからかまだ手早く出来ないのを理解して響夜は炊飯器からご飯を入れる。

ご飯は木綿季が炊いていたので出来たて。

 

「・・・よし!完成!」

 

「動かせるか?」

 

「あ・・・」

 

「・・・持ってく」

 

木綿季が作ったのはシチュー。

響夜と神楽の好物で密かに木綿季は神楽から聞いていた。

 

「シチューかぁ・・・美味しそうだな」

 

「えへへ~」

 

木綿季が嬉しそうにしつつ、容器にシチューを入れていく。

心なしか響夜の分は多めにも見える。

 

「んじゃ・・・いただきます」

 

「ん・・・いただきます」

 

「どうぞ、召し上がれ!」

 

響夜は木綿季が作ったシチューを食べてみる。

至って普通の味だが、木綿季が頑張って作ってくれたからかとても美味しく感じる。

 

「うん、美味い」

 

「ほんとっ?」

 

「めっちゃ美味い・・・おかわりしていいか?」

 

「良いよ!いっぱいあるから!」

 

響夜の食べるスピードが早いことからも木綿季は嬉しそうにしていた。

神楽も美味しいのか食べる量は少ないがスピードが早い。

 

「神楽、ゆっくりでいいからな」

 

「そうだよ、神楽ちゃん。喉に詰まらせたら大変なんだから」

 

「ん・・・早く食べないと、にぃにに食べられる」

 

「誰が神楽の分まで食うか。ある程度は残してやるからゆっくり食え」

 

「・・・ふふ」

 

「どうした?」

 

「なんだかね、神楽ちゃんがボクと響夜の子供みたいだなーって」

 

「・・・木綿季と同い年だぞ?まぁ身長があれだから年下に見えるけど」

 

神楽と木綿季は年齢は同じだが神楽の身長は止まったとしか言いようがほど小さい。

小学6年生レベルの身長なのだ。

 

「ん・・・じゃぁ・・・響夜はにぃに。木綿季はねぇね」

 

「ふぇっ?」

 

「木綿季がお姉ちゃんか。確かにそうなるな」

 

「お姉ちゃん・・・かぁ。ボクも姉ちゃんがいるからな~」

 

「そういや木綿季のお姉さんには会ったこと無いな」

 

「今度会ってみる?」

 

響夜は木綿季の姉には会ったことがない。

初登校の時、木綿季は姉といたが話はしていないのでまったく面識も無い。

そしてあることを思ったのか考えた。

 

「・・・そうだな。少し気になるというか大事な話があるし」

 

「?」

 

「・・・なあ、木綿季」

 

「どうしたの?」

 

「時崎直人って知ってるか?」

 

「・・・知ってるよ」

 

「そうか・・・もし、会えたらどうする?」

 

「響夜は直人君を知ってるの?」

 

「・・・一応」

 

「もし会ったらかぁ~・・・何にもしないかなぁ」

 

「っ・・・どうしてなんだ?」

 

「んー、どうしてだろ?」

 

「おまえなぁ・・・ったく」

 

「姉ちゃんに聞いてみるね。行けそうなら予定合わせるからさ」

 

「あいよ。俺は基本大丈夫だからそっちに合わせる」

 

「はーい・・・ってもうご飯無くなってる・・・」

 

木綿季が気付くとたんまりとあったシチューは見事に消え去っていた。

木綿季も中々食べていたがそれ以上に響夜と神楽が大量に平らげていた。

神楽はお腹いっぱいなのか眠たそうにしている。

 

「ん・・・」

 

「あわわ」

 

「木綿季、神楽を抱いててやれ。その方が安心出来るだろ」

 

「う、うん」

 

木綿季は船を漕いでいる神楽を持ち上げた。

見た目通りの軽さで木綿季でも軽々と持ち上げられた。

持ち上げられた抱えられた神楽は木綿季に身を委ねるとそのまま寝てしまった。

 

「赤ちゃんみたいだね」

 

「神楽は木綿季に懐いてるな。じゃないとこんなこと出来ないし」

 

「そうなんだ・・・」

 

「ん、まぁな。片付けはしておくから木綿季はゆっくりしてていいよ」

 

「ありがとう。それじゃあソファーにいるね」

 

木綿季は響夜に片付けを任せると寝てしまった神楽を抱き抱えてソファーに座った。

ギュッと木綿季の服を掴んで離れないようにしている神楽を見て自然と笑ってしまう。

 

「へへ~・・・可愛いなぁ・・・」

 

神楽も響夜と同じように前髪を伸ばして顔を隠しているので普段は見えないが寝ている時ならば見れる。

木綿季は前髪を上にあげると神楽の寝顔を見ていた。

まだ幼さが抜けていない顔で体も顔に合った幼さがある。

 

「んぅ・・・」

 

「ね~、響夜」

 

「ん?」

 

「・・・神楽ちゃんってボクの妹なのかな」

 

「・・・さあな」

 

「ボクね、お母さんに言われたんだ。神楽ちゃんが本当の妹だって」

 

「・・・そうだ。それは木綿季のお姉さんにも伝えるべきだと思ってな」

 

「本当のこと言ってね?」

 

「知りたくなかった事もあるだろうけどな。でも話すよ」

 

「うん、ありがとう」

 

響夜は片付けも終わったのか木綿季の隣に座る。

寝ている神楽の頭を優しく撫でていると木綿季が頬を膨らませて響夜をじっと見る。

 

「む~」

 

「・・・はいはい」

 

木綿季にも頭を撫でると嬉しそうに目を細めて響夜に体を預けた。

 

「ふにゅ~」

 

「よしよし」

 

まるで猫みたいな木綿季に響夜は木綿季が寝るまで一緒にいた。

 

 

 

 

 

しばらくすると木綿季から寝息が聞こえてきたので響夜は二人を起こさないように動く。

 

「先に・・・神楽からにするか」

 

木綿季の服を掴む神楽の手をゆっくりと離して、神楽を持ち上げる。

 

「んむ・・・」

 

「ん・・・起こしたか」

 

「ねむぃ・・・」

 

「一緒に寝るか?」

 

「ぅん・・・」

 

響夜のベッドが詰め詰めになりそうだ神楽がそうしたいのであれば仕方ないと思い、響夜の部屋に連れていく。

 

「木綿季も寝ちまったから先に寝とけ」

 

「うん・・・」

 

神楽に毛布をかけると響夜は部屋を出て木綿季の元に行く。

 

「まだ寝てるのか・・・」

 

無防備な木綿季の姿に響夜は顔を赤くする。

神楽は部屋で寝ているので家で起きているのは響夜だけ。

響夜は木綿季の唇に優しく自分のを触れさせる。

 

「ん・・・」

 

数秒だけではあったが重ねたことに変わりはなく、響夜は恥ずかしそうにした。

 

「・・・もう寝るか・・・眠い」

 

響夜は眠気と戦いつつ、木綿季を背中におぶると自室のベッドに寝かせた。

神楽も木綿季が入ってきたことに気づく。

響夜と木綿季の真ん中に神楽が入るようにベッドに収まった。

 

「おやすみ、神楽、木綿季」

 

響夜は木綿季の手を繋ぎながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が目を覚ましたのは朝の6時。

神楽と木綿季はまだ寝ているようだった。

 

「んあ・・・もう朝か」

 

響夜が起きようとすると木綿季と手を繋いでいたのを思い出す。

繋いでいた手を辿ると神楽は木綿季に抱き着いており、響夜の左手は木綿季にがっしり捕まれていた。

 

「・・・仕方ないか・・・木綿季。起きろ」

 

響夜は木綿季を軽く揺する。

 

「ぁぅ・・・」

 

「朝だぞ」

 

「んぅ・・・おはよぉ・・・」

 

「おはよう。とりあえず手を離してくれ」

 

「ぅん~・・・」

 

木綿季が力を緩めると響夜はゆっくりと手を抜いた。

朝ご飯を作りに響夜は一階に降りた。

作っている途中に木綿季と神楽も降りてきていた。

 

「おはよ~」

 

「おはよう、木綿季、神楽」

 

「朝ご飯なに~?」

 

「フレンチトースト。甘いの食べたかったんだよ」

 

「おいしそ~」

 

「とりあえず顔洗ってこい。あと着替えとけ」

 

「「はーい」」

 

二人とも洗面所へ行くと響夜は火加減に気をつけながらトーストを焼いていく。

焦げても焼けてなくても駄目なのでじっくりと、弱火で焼いていく。

 

「ん、良いにおいするな」

 

卵に砂糖と少しだけ蜂蜜を混ぜている。

事前に甘みを入れておくことで焼けたあとにはバターだけで十分美味しく食べれる。

 

「出来たぞー」

 

焼き上がったトーストを皿に乗せて、二人を呼ぶ。

階段がバタバタと音がするので急いで降りてきているのだろう。

 

「出来た!?」

 

「おう、食べて良いからな」

 

「響夜のは?」

 

「先におまえらが食え。俺のは今から作るんだよ」

 

響夜はそう言うとまたフライパンに油を引いて新しく作っていた。

 

「ごめんね、先に食べてて」

 

「なんで謝んだよ、焼ける量に限界があるんだから先におまえらのを作ったんだよ。俺のを作っても焼かないと駄目だから冷める」

 

「そっかぁ・・・」

 

木綿季は料理している響夜の姿を見ながら食べていた。

バターだけ用意されて、シロップを混ぜないのかと思ったが神楽がそのまま食べているのを見て、バターだけをつけて食べると甘くて美味しかった。

 

「俺も食べたら学校行くか」

 

「今日ってテストの結果発表だけだよね?」

 

「そうだぞ。だから昼までには帰れる」

 

「・・・にぃににねぇね、デート行ったら?」

 

食べている神楽がいきなり言うため二人は少し固まる。

 

「・・・木綿季が良いなら行く」

 

「ふぇっ!?」

 

木綿季に選択権が委ねられたからか本人は顔を真っ赤にする。

響夜は関せずといった表情で大量のトーストを焼いていく。

 

「・・・行く」

 

「ラブラブ。頑張ってね、二人とも」

 

「お、おう」

 

「ぷしゅ~」

 

こんな日常が毎日続くのだろうとなると木綿季は神楽の言葉になれようと決心していたりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイクでいつも通り登校してきた3人は上靴に履き変えると掲示板を見に行った。

そこには和人や明日奈などの姿も見える。

 

「和人ー、明日奈ー」

 

「ん?・・・響夜に木綿季じゃないか」

 

「木綿季、神楽ちゃん、おはよう~」

 

「おはよ。明日奈」

 

「順位もうでたのか?」

 

「まだだな。10時発表で・・・今は9時50分」

 

「おっせぇ」

 

待つことは好きではない響夜は残り10分をどうしようか考えていた。

すると和人があることを響夜に話す。

 

「なあ、響夜」

 

「んあ?」

 

「ALOでさ、浮遊城の攻略したいんだけど・・・手伝ってくれないか?」

 

「んー・・・予定が合う場合なら行ける。俺もちょっとした依頼があるし」

 

「依頼?」

 

「極秘依頼なんだ。教えれねぇよ」

 

響夜の極秘依頼が気になる和人だったがそれはすぐに気に終わる。

10時になったため掲示板にテストの順位が発表された。

 

「響夜、順位出てるよ!」

 

「はいはい。待てって」

 

和人達も自分の順位を探す。

響夜は上から探すと一発で見つかった。

 

「・・・明日奈が2位・・・?」

 

「響夜君凄いね。負けちゃったや」

 

 

順位では、

 

響夜が899点で1位。

 

明日奈が898点で2位。

 

神楽が885点で3位。

 

木綿季が860点で5位。

 

和人が854点で6位。

 

里香が830点で10位。

 

珪子が821点で12位。

 

珪子は12位だが800点も取れている時点で十分と言えるだろう。

 

「響夜。ボク10位以内に入れた!」

 

「・・・とりあえず帰るか」

 

「う、うん」

 

響夜達は順位を確認したらすぐに撤収した。

 

 

バイクで家に帰ると響夜は木綿季の頭に手を乗っけた。

 

「木綿季。おめでとう」

 

優しく頭を撫でて木綿季に言った。

これで木綿季は響夜と一緒にいれるし、禁止令が撤回された。

 

「ありがとう、響夜!」

 

「俺も1位取れたし満足」

 

「響夜と神楽ちゃん・・・どうやってとったの?」

 

「俺は前言ったように流し読み暗記と計算問題少しやるだけ。神楽は俺と同じだが問題はやってないな」

 

「すごいなぁ・・・二人とも」

 

「木綿季こそ、学年300人で中間ぐらいだったのによく取れたもんだ」

 

「えへへ~」

 

響夜は嬉しそうにする木綿季に改めて言い直した。

 

「とりあえず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり、木綿季」

「おかえり、ねぇね」

 

響夜と神楽は木綿季に手を伸ばすとそういった。

木綿季も驚いた顔をしたがすぐに笑顔になって、

 

「ただいま!響夜、神楽!」

 

満面の笑みで木綿季は家に帰ったのだった。

 

 

 




えーはい。
テスト編はちゃんと終わりました。
次はチート性能の響夜さんが暴れ回るお話にでもしましょうか。


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明かされた真相

えー、はい。
ようやく書いたお話ですが。
留意して頂きたい点がありまして。
作者本人でもこれで大丈夫なのだろうかという内容です。
というのも多くの矛盾点があるような気がしてならないのです。
かといって今までの内容を書き換える作業をしていたら私のやる気が無くなって執筆が確実に止まります。
なので意味不明な点はあっても作者が全てを理解出来ていなくなってしまったと思って頂いて結構です。
これは自分の力不足が招いた事なので。


それでは、記念すべき・・・?50話どうぞ。




響夜は自分の部屋でずっと考えていることがあった。

果して自分の家族はどういう関係性があったのだろうと。

神楽と木綿季と藍子は不倫の子供。

響夜は結婚相手の母との子供。

 

「・・・複雑な感じだな」

 

今一度の整理をつけるべく、響夜は家を出た。

 

 

 

 

響夜が向かったのは木綿季の家。

ここであることを話すことになっていた。

むろん神楽も同席する。

 

「響夜君、いらっしゃい」

 

「裕子さん。こんにちわ」

 

「木綿季なら中よ。藍子・・・木綿季のお姉ちゃんも一緒」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

響夜は裕子に礼を言うと中に入る。

木綿季の部屋の前まで行くと中から声がした。

木綿季のものと姉である藍子であろう声。

仲良く話しているのでドアを開けるのを躊躇うが。

 

「にぃに。入ろ?」

 

「・・・そうだな」

 

響夜はドアを叩くと開けた。

中には木綿季と一人の女性。

 

「あ、響夜!」

 

「響夜・・・?じゃあこの人が木綿季のお相手さん?」

 

「そうだよ!ボクの旦那さん!」

 

「・・・木綿季。まだ15だ」

 

木綿季の結婚宣言に相手は驚くも笑っていた。

 

「ごめんなさい。木綿季が・・・私は紺野藍子。木綿季の姉です、敬語はいりませんので」

 

「雪宮響夜。この子は妹の神楽」

 

「・・・神楽です、よろしく」

 

「みんな、自己紹介終わったかしら?」

 

裕子がひょっこりと顔を覗かせていた。

それにあわせてみんな集結し、居間に移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初は無言だったが、響夜が最初に声を出した。

 

「・・・さて、今回は紺野家に重要な事をお話します」

 

 

「まず・・・いきなり言っていきますが、神楽の事をまず最初に・・・神楽は雪宮家の子供ではありません」

 

「・・・ぅ」

 

響夜の言葉に全員が驚いていた。

神楽もどこか暗くしていた。

 

「神楽は紺野翔平と紺野家の女性との間に出来た子供です」

 

「・・・そうなの?」

 

「うん。そうです」

 

「まったく世も末です。特に紺野翔平。あの男は心底腹が立つ」

 

そういう響夜はどこか怒っている感じだった。

だがすぐに納めると次の話に移る。

 

「元々紺野翔平は俺の前の母・・・時崎夜那と結婚してました。俺は翔平と夜那との子供です。ですが翔平は不倫をしてました。それが木綿季と藍子の母親です。確か・・・名前は陽菜でしたね、紺野陽菜」

 

「そこまで調べたのね」

 

「ええ。血縁関係者は洗いましたから・・・それで、少し戻りますが、神楽は誰の子供なのか。それは陽菜さんの子供です・・・木綿季達は知らなかったかもしれないけど三つ子だったんだよ、双子ではなく」

 

「えっ!?」

 

「木綿季と藍子は普通に生まれたけど神楽だけは出産に時間がかかった。あと木綿季達より体重が異様に少なかったらしい。そして翔平はあることを考えたんですよ」

 

「・・・なにを?」

 

「木綿季と藍子は双子ということにして神楽は別の子だと思わせることに。そうすれば神楽は姉二人を知らずに生きて、相手からは連れ子だと思わせれる。もっとも俺が行動して神楽は翔平から奪いました」

 

「・・・」

 

響夜は神楽を膝に乗っけると頭を撫でる。

片手で頭を撫で、片手で抱きしめるように。

 

「反抗されるかと思ったんですけどね、神楽は俺についてきたんですよ。だから夜那母さんに頼みました、神楽を引き取ってくれと」

 

 

「幸い、夜那母さんは喜んでくれましたけど、年齢的にも精神的にも幼い神楽は学校でも馴染めず、転落して緊急搬送されました」

 

 

「翔平はそれを利用して夜那母さんから消えたんですよ。陽菜さんの所に行くために。結果的には陽菜さんと翔平は交通事故で亡くなり、夜那母さんは・・・自殺しました」

 

「自殺って・・・」

 

「響夜君、それは本当なのね?」

 

「はい。紛れも無い真実です。木綿季と藍子と神楽は三つ子で実の姉妹です。俺は親父の血が繋がっただけですから」

 

響夜はどことなく暗い表情を浮かべる。

響夜としてもこの手の話は嫌いだが、言わなければならないと思っていた。

 

「親父の血の繋がりで兄妹なんですよ。例え家が違うとも」

 

「響夜が・・・お兄ちゃん・・・」

 

「響夜君。少し気になったの・・・貴方は直人君・・・でしょ?」

 

「・・・理由は?」

 

「まず貴方が紺野家の血縁を調べれても時崎家には関係がない。だって貴方は雪宮家なんだから。となると以前の旧名が時崎ってことになるでしょ?となると時崎っていう名字は直人君ぐらいだもの」

 

「・・・迂闊でした・・・合っていますよ。俺は時崎直人です」

 

「・・・ぇ・・・?」

 

「木綿季。俺は昔、お前の前から消えた時崎直人だ。雪宮家に入るときに改名した。もう後悔は無いからさ」

 

木綿季は信じられない表情をしており、涙が出ていた。

必死に我慢するもどんどんとあふれてくる。

 

「木綿季、我慢しちゃダメだよ」

 

「う・・・うわぁぁぁぁんん!!」

 

時崎直人という人物がいきなり現れては消えてやっと諦めたと思ったらまた現れた。

そんなことでずっと我慢していた木綿季はとうとう我慢の限界を迎えていた。

 

「・・・謝って済むかは分からないけど・・・おいで」

 

「直人・・・直人ぉ!」

 

「ごめん・・・木綿季」

 

木綿季はただただ、懐かしの直人に抱き着いて泣きじゃくるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「ぐすん・・・」

 

木綿季がようやく泣き止むと響夜は木綿季を膝枕して横にしていた。

神楽は木綿季に抱き抱えられるように抱きしめられていたが。

 

「響夜君の情報収集能力。恐れ入ったわ。まさか真相を暴くとは思わなかった」

 

「裕子さんこそよく隠し通せた物です」

 

「暴いた本人が何を言うんですか・・・それで、響夜君はどうするの?」

 

「どうするも何も、全員生みの親はいませんから何もしませんよ。しいて言うなら・・・木綿季を守るだけです」

 

「だそうよ藍子」

 

「へっ?お、お母さん私に降るんですか!?」

 

「そうじゃない?木綿季の事溺愛してるんだから」

 

「うう・・・・・・木綿季。響夜さんに一緒付いていくの?」

 

「うん、これからも付いていくつもりだよ姉ちゃん」

 

「・・・響夜さん、木綿季の事お願いしても・・・良いですか?」

 

「もちろん、そのつもり」

 

響夜は藍子に返すと木綿季の頭を撫でる。

実感はないが、本当の意味で3人は姉妹の関係性を確認出来ていた。

神楽の幼さは謎だが結局はそれも可愛らしいポイントだと響夜は割り切る。

 

「さて、今日はここに泊まって良いですか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「・・・少し外出てきますね。伸びたいので」

 

響夜は一度整理をつけるべく外に出た。

近くに自動販売機があったので林檎ジュースを選ぶと口を開けて飲む。

 

「ぷはぁ・・・なんか、色々あったな」

 

木綿季と藍子と神楽の三姉妹に、響夜は三姉妹の兄。

雪宮響夜は時崎直人だったという真相。

 

「・・・翔平はくそ野郎だったけど・・・子供のことはしっかりしてたのかねぇ」

 

後に聞いた話で出産は帝王切開による出産だった予定をいきなり通常分娩に切り替えたらしい。

何故そのような行動をしたのか響夜には興味はなかった。

 

「ん・・・そういや、帝王切開って輸血用血液製剤を使うんだっけ・・・もしかして血液製剤に異常があったから・・・?まさかあの男が気付くとは思えないが・・・いきなり通常分娩に切り替えたことも血液製剤を避ける理由にはなる」

 

輸血用血液製剤には本当にごくわずかに感染菌が混じった物が混同している時がある。

基本的には害が無い物だが例えば赤子や幼子であれば感染の危険性がある。

もしその血液製剤に感染菌があると考えれば翔平の行動はおかしくないのだ。

子供の将来を考えての行動となる。

 

「・・・どこまでも気に食わないな・・・生むときから子供の事考えてたんなら最後までいてやれよ!・・・くそが!」

 

ここにはいない翔平を響夜は悪態つくと、林檎ジュースを片手に家の中へと戻った。

 

 

 

 

 

響夜が戻ると神楽は木綿季に抱き着いて寝ていた。

木綿季もどうしようかと悩んだ表情で神楽を抱き抱えていた。

 

「木綿季、藍子と裕子さんは?」

 

「姉ちゃんなら部屋に。お母さんは仕事だよ」

 

「そうか・・・飯は俺は作るから木綿季は神楽といてあげてくれ」

 

「・・・本当に神楽ちゃんってボク達の妹・・・なの?」

 

「生まれた時間は藍子、木綿季、神楽の順番だ。だが三つ子ということもあってか神楽は木綿季達より小さい。それが気になったが、二卵性以上ならありえる可能性なんだとよ」

 

「ふ~ん・・・そっかぁ」

 

響夜は縁側で座ると木綿季も隣に座った。

頭は響夜の肩に預けて。

 

「これからもよろしくね?おに~ちゃん」

 

「・・・ったく」

 

大変な妹が増えてしまったが響夜はどこか嬉しそうにしていた。

一度家族を失っているからこそ、増えるのは嬉しいのだろう。

 

「木綿季、大好き」

 

「ふぇっ・・・うぅ~・・・響夜の馬鹿!大好き!」

 

 

 



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怖がりなお姫様は夢現へと

あのことから数日が経っていた。

血縁関係になった木綿季、藍子、神楽、響夜は宿泊の時に楽しく話していた。

また、藍子が片親一致は結婚出来ないと言っていたが響夜は戸籍を捨てているため、市役所だろうと血が繋がっている書面も一切残っていない。

 

「さて・・・木綿季、久々にALOやるか」

 

「うん!」

 

久しく響夜としていなかった木綿季は早くしようと言った感じにしていた。

 

「「リンクスタート!」」

 

仮想世界へと移動する言葉を言うと二人の意識はALOへと移った。

現実世界では手を繋ぎあって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが目を開けるとよくいた木の上だった。

決闘をしていたあの丘にいる。

 

「フレンド探知と・・・あとフードも外して・・・」

 

ユウキが探しに来れるように探知機能を起動しておく。

また、姿隠しのフードも取り払った。

 

「・・・この二振りはいつも通りだな」

 

ヒビキが愛剣として使っている『ファンタズム』と『霊想刀・焔凍』。

SAO時代の武器とALOの武器がヒビキのメイン武器でもあった。

 

「さて、何するかねぇ」

 

ユウキが来るまで暇なヒビキは掲示板を見ていた。

今の季節は12月。

クリスマスシーズンのため、マップは雪が降っている。

仮想世界では温度もある程度感知できるため、寒い場合はしっかりと寒さを感じる。

 

「さっむ・・・コート・・・コート」

 

ストレージから『聖夜のコート』を取り出すと装備した。

防寒効果があり、それでいてステータス上昇も強い。

ヒビキはコートであったまっていると上空に人影を見つける。

その人影は思いっきりヒビキに向かって来ていたが。

 

「・・・やっときたのか」

 

「ヒ~ビ~キ~!」

 

ヒビキに向かって来ていたのは先程まで一緒に暮らしていたユウキだった。

ALOでは婚約もホームもないので別々だった。

ユウキはそのままヒビキに突っ込む。

当然ヒビキは受け止めた。

 

「よっ・・・っと。危ないな」

 

「えへへ~!」

 

現実世界でも一緒だったがALOでも二人は互いに抱きしめあった。

お互いの温もりを感じるように。

 

「まったく・・・変わんねぇなぁ」

 

「当たり前だもん~」

 

「ユウキ、何したい?」

 

「ん~・・・何したいかなあ・・・」

 

「なんだ、ないのか?」

 

「だってボクはヒビキといれたら何でも良いよ?」

 

「調子の良いこと言うんじゃねぇの・・・っとそういえばあれがあったな」

 

「?」

 

ヒビキはとある事を思い出した。

何でもALOの大型アップデートで地下世界の邪神マップに『エクスキャリバー』が正式実装されたのを。

そしてそれと同時に一気に伝説武器の正式リリースが解放された。

ヒビキは伝説級武器である『霊想刀・焔凍』を持っているが、ユウキはまだ始めたときから使っている『マクアフィテル』のままなのだ。

 

「よし、今日はユウキの武器を探してみよう」

 

「へ?ボクの?」

 

「俺は新しいのがあるけどユウキはまだSAO時代の武器だろ?それに良い武器があるって聞いたしな」

 

「どんなの?」

 

「素材集めをするだけなんだが・・・クエストの難易度に対して報酬が美味しいんだよ」

 

「ほぇ~・・・やってみる?」

 

「あぁ、今日はユウキの為にな」

 

ヒビキはユウキをお姫様抱っこすると一気に羽を動かして加速した。

 

「ヒビキっ!?」

 

「しばらくこうされてろ、お姫様」

 

「あうう~・・・」

 

恥ずかしがるユウキを決して離さないようにヒビキは抱き抱えてクエストの場所へと移動した。

移動中ユウキは顔を真っ赤にするも内心では喜んでいたが。

 

 

抱き抱えられたユウキを見るプレイヤーは幸いいなかった。

元々目的のクエストはクリア条件が難しい類の物だったため、やっているプレイヤーはいなかった。

 

「さて、ついたぞ」

 

「あうう・・・恥ずかしい・・・」

 

「まったく・・・」

 

しゃがみ込んで顔を隠すユウキの頭を撫でているとヒビキの《索敵》に引っ掛かった。

 

「・・・っち、ユウキ。後ろ居ろ」

 

「う、うん」

 

ヒビキは『霊想刀』を引き抜くと辺りを警戒する。

すると草むらからモンスターが出てくる。

『エンシェントウルフ』と呼ばれるモンスターだった。

 

「・・・エンシェントウルフ・・・こりゃ運が良いな」

 

「そうなの?」

 

「エンシェントウルフのドロップ品には『古びた鉄』とかいう金属が取れるらしい。ただ出現確率が低いから高額売買されてる」

 

「ほえ~・・・」

 

ユウキもユウキでレアモノには興味を持っている。

だからかエンシェントウルフのドロップ品に目を輝かせていた。

ユウキは愛剣の『マクアフィテル』を抜くとヒビキの隣に立った。

 

「ユウキは右やれ。俺は左」

 

「わかった!」

 

ヒビキは『ヴォーパル・ストライク』でウルフに先制を入れた。

最初ユウキとヒビキを警戒していたウルフはヒビキに攻撃されたことによりヒビキに噛み付きを行おうとした。

 

「はぁぁぁ!!」

 

自分に後ろを見せたユウキはOSS『アグラントウィンド』を発動させ、一気にHPを削りきってウルフをポリゴンへと変えた。

 

「ん、あんがとさん」

 

「えへへ~、ちょうど新しいOSS作ったんだ~」

 

ユウキが新しく作り出したOSS『アグラントウィンド』は《風4土1物理5》の魔法属性入りのソードスキル。

 

「へぇ・・・良いじゃん。6連撃か・・・OSS俺も作ってみるかねぇ」

 

「ヒビキはユニークスキルだもんね」

 

「ああ、いまだにな」

 

ヒビキやカグラが扱うスキルは全て二人のみが扱えるユニークスキルだった。

SAO時代からの《幻想剣》を引き継いでいるため、ソードスキル自体が残っていた。

 

「んでもなぁ、《霊幻》スキル自体が強くてOSSを作る気にならん」

 

「どんなの?」

 

ヒビキはウィンドウを可視化して《霊幻》スキルの常時発動スキルを見せた。

それはやはりSAO時代であれば無双出来るほど。

 

「す、すごいね・・・」

 

「まぁ、でも作ってみるよ。ユウキが作ってるんだから」

 

「作ったら教えてくれる?」

 

「気が向いたらスキルスクロールをくれてやらぁ」

 

「ほんと?やったー!」

 

OSSは引き継ぎ制度があり、製作者が『スキルスクロール』と呼ばれるOSSの設計図を渡すことで他の人に託すことが出来る。

だがそれは一代のみで、二代目から三代目とは引き継げない。

 

 

 

その後、二人はクエストを難なく受託出来た。

クエスト名は『夢物語への共鳴』。

素材集め系の物で『夢結晶』を採って来るというもの。

 

「夢結晶ってどこで採れるのかな?」

 

「水晶洞窟内で採れるらしい。場所はここから少し歩けばあるみたいだな」

 

「んじゃ行こっか」

 

「はいはい」

 

水晶洞窟へと二人は足を運ぶ。

道中のモンスターはヒビキの《幻影剣》によって一掃されていた。

洞窟に着くまでユウキはヒビキに抱き着いて歩いていた。

 

「歩きづらいんだが・・・まぁ良いか」

 

「えへへ~、ゲームでもこうしてるのが良いもん~」

 

「そっちのが良いけどな。いつも通りのお前のが好きだし」

 

「ふぇっ!?」

 

「さて・・・飛ばしてくから少し抱えるぞ」

 

ヒビキはユウキを背負うと洞窟まで走り去った。

その後、洞窟内をも走っていくと大きな扉にぶつかった。

 

「うぉっ・・・っと・・・こりゃなんかのボス部屋か」

 

「あ~う~あ~う~」

 

「・・・ユウキが復活するまでここで休憩入れるか」

 

目を回しているユウキが復活するまでヒビキは寝ることにした。

《索敵》スキルで一定範囲内にモンスター及びプレイヤーが入ると警告音が鳴るように設定した後、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキが寝てから30分ほど経った後にユウキが目を覚ました。

 

「あう~・・・」

 

まだ頭がクラクラするのかボーッとしていた。

すると隣から声がした。

 

「ん・・・」

 

「・・・ヒビキ?」

 

 

「・・・寝てるのかぁ・・・」

 

安全エリアらしい場所で寝ている為、危険性は少なそうだった。

するとユウキの頭の中であることを考えて実行することにした。

 

「んしょ・・・んしょ・・・」

 

ヒビキの頭をユウキの膝に乗っけた。

膝枕を久しぶりにユウキがやっていた。

 

「なんか・・・恥ずかしいけど・・・ヒビキ可愛いな~・・・」

 

普段ヒビキの寝顔を現実世界でも見ることは少ないからか、ヒビキの寝顔はユウキにとってレアだった。

するとヒビキが目を擦りはじめ、開けた。

 

「んが・・・ユウキ・・・?」

 

「ん・・・お、おはよう」

 

「おう・・・って・・・!」

 

ヒビキはユウキの膝に頭を置いていることに気付くとすぐに頭をどけた。

 

「ぁ・・・」

 

「悪い、重かったろ?」

 

「ううん!全然!」

 

「・・・あっちでやってくれるか?」

 

「ふぇ?」

 

「・・・ん、何でも無い・・・さて、行くか」

 

「はーい!」

 

ヒビキは装備画面で『ファンタズム』と『霊想刀・焔凍』を装備してスキル画面に《霊幻》と《真・幻想剣》をセットする。

ユウキもアイテムなどを確認したのち、ヒビキの後ろに付いた。

 

「基本俺が前衛やるからな。ユウキは合間に攻撃してくりゃあいい」

 

「良いの?」

 

「良いんだよ、最近暴れてねぇんだ、やらせてくれ」

 

ヒビキはファンタズムを振り上げると周囲に淡く発光する『幻影剣』を召喚する。

 

「んじゃ、戦争をはじめようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒビキとユウキがボス部屋に入って数十分が経過した。

未だにボスらしきモンスターが出現していなかった。

 

「んー・・・なんで出ねぇんだ」

 

「ここで行き止まりだもんね・・・どうしてだろう」

 

ボス部屋らしき所に突入すると何もなかった。

警戒して周りを捜索するも敵すら見つからなかった。

 

「ん・・・まさか」

 

ヒビキはど真ん中に幻影剣を出現させた。

それも特大サイズの剣を。

それがトリガーとなったのか剣が刺さった場所からヒビが広がって中から虹色の光が漏れていた。

 

「なるほど・・・恐らくこのフロア床にダメージを与えるのが鍵だったみたいだな」

 

「ほぇ~・・・でも一応警戒しよっか」

 

「とーぜん」

 

二人は警戒を続けて剣があった場所へと近づく。

すると上から小さな石が降り注いで来る。

 

「・・・!ユウキ、退け!」

 

「えっ!?」

 

ヒビキはユウキに言うもユウキは間に合わなかった。

天井からユウキ目掛けて突撃する何かがいた。

 

「ユウキに触れんじゃねぇぇぇ!!」

 

ヒビキはファンタズムで『リニアー』を発動させるとユウキの所へと一気に加速した。

そして霊想刀で《霊幻》スキル『鏡花』を発動させたと同時に突撃してくるモンスターの攻撃を弾き飛ばした。

 

「うわぁっ・・・!」

 

「怪我ねぇな?」

 

「うん、ヒビキが守ってくれたから・・・」

 

「さすがに連続は無理だぞ」

 

「わかった!」

 

ユウキは体制を立て直すと突撃してきた相手と距離を取る。

土煙が晴れると突っ込んできたモンスターの姿がわかるようになった。

だがユウキの《索敵》スキルでは相手の情報を看破出来なかった。

 

「ボクの索敵じゃ看破出来ない・・・」

 

「俺のなら出来る。Lv150ドリームクリスタドラゴンみたいだな・・・絶対に直撃は喰らうなよ、即死が有り得る」

 

「うん!」

 

ドラゴンは鈎爪で目の前にいるヒビキを引っ掻こうとするが、ヒビキは大きく跳躍すると背中の羽を切り付けた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

《真・幻想剣》上位十六連撃スキル『ホーリーバーン』で右羽を攻撃する。

すると羽の翼膜が破れてドラゴンは悲痛な叫びをあげた。

 

「今度はボクの番!」

 

ユウキは怯んでいるドラゴンのお腹に『ホリゾンタル・スクエア』を叩き込む。

それだけでドラゴンのHPが大きく削れた。

 

「これだけで半ゲージか・・・あと3.5本を削り切るのか・・・」

 

「一気に削りきれるのは・・・危ないかもね・・・」

 

「まったくだな!」

 

ドラゴンもただやられているわけではなく、火炎玉を二人に目掛けて吐き出した。

床に当たるとその場所は一気に燃えた。

それだけで二人は冷や汗を掻く。

 

「・・・塵も残らなさそうだな」

 

「炭だよ当たれば」

 

「それ以上な気がするが」

 

こんな会話をしている間にも手や足、羽など様々な所を攻撃する。

しかし鱗によるダメージ軽減が強いのかダメージをあまり与えれていない。

 

「仕方ない・・・か。ユウキ、15秒堪えれるか?」

 

「出来るだけ頑張ってみる!」

 

「悪い」

 

ヒビキは一時的に前衛をユウキに交代すると《霊幻》スキル『不知火』を発動させた。

これは30秒間だけ自身の攻撃力を大幅に上昇させて、防御力を貫通する。

また発動後HPを全回復し、全ソードスキルでの三撃目を強化する。

 

「よし・・・!ユウキ、スイッチ!」

 

「了解!」

 

「っしゃあ!駄目元でやってやらぁ!」

 

ヒビキは《真・幻想剣》最上位二連撃スキル『真光・次元斬』でドラゴンに突撃するとファンタズムで回転斬りをして腹に思いっきり突き刺した。

それによるショックで気絶を取ると《剣技連携》によって霊想刀でさらに《真・幻想剣》最上位スキル『夢瞑剣』で抜刀攻撃をした。

 

「ヒビキ!」

 

「一緒にやんぞ!」

 

「うん!」

 

ヒビキはファンタズムを引き抜くと《霊幻》スキル『天霊滅刹』を発動させた。

ユウキもOSS『マザーズ・ロザリオ』を発動する。

 

「ユウキ、やれ!」

 

「これがボクのOSSだぁぁぁ!」

 

「さっさとくたばりやがれ、ドラゴンが!」

 

ユウキがOSSによって攻撃した場所をヒビキが追撃するように怒涛の攻撃を仕掛ける。

『天霊滅刹』は最上位48連撃スキルで、ヒビキが扱うスキルでも特異なスキルだった。

それがヒビキが攻撃しているように、攻撃時に追撃ダメージを与える。

ユウキのOSSが終わると《剣技連携》で更に『ホリゾンタル・スクエア』を与えた。

 

「グゴガァァァッァ!!??」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「そりゃぁぁぁ!!」

 

二人の怒涛の攻撃によって全てのゲージを消飛ばされたドラゴンは悲壮な悲鳴をあげるとポリゴンとなって消え散った。

 

「グガ・・・ガァァァ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「しんど・・・」

 

「・・・クリア・・・か」

 

「だね・・・つっかれたぁぁ・・・」

 

「だな、お疲れ様・・・ユウキ」

 

「うん・・・ヒビキもお疲れ様・・・」

 

二人は疲れ果てているとリザルト画面が出てくる。

ドロップ品には大量の夢結晶が表示されていた。

 

「うわぁ・・・すごい量・・・」

 

「多分・・・あれだな、あのドラゴンは塊なんだろう。だからこんなに沢山入手出来たわけだ」

 

「これだけあれば沢山貰えるね!」

 

「実際にはカグラに作ってもらうんだけどな」

 

「カグラちゃんのなら安心だからね~」

 

「だな・・・んじゃ帰るか」

 

「うん・・・ってあれ?」

 

「・・・なんで腰ぬかしてるんですかね」

 

「うぅ・・・ごめん・・・」

 

腰が抜けて立てなくなったユウキをヒビキはお姫様抱っこする。

 

「はぇっ?」

 

「これが一番良い、ユウキの顔見れるし」

 

「んも~・・・恥ずかしい事ばっか言うなぁ・・・」

 

「からかいがいがあるからな、ユウキは」

 

「うぅ~・・・」

 

ヒビキにからかわれ、顔を真っ赤にしたユウキをよそに、洞窟を出るべくヒビキは走り去った。

 

 

その後、クエストで夢結晶全てを金属へと変換する。

するとヒビキがユウキを連れてアインクラッド22層に連れていった。

 

「どうしたの?」

 

「ん、家買ったんだよ」

 

「え?」

 

「SAO時代の家をまた買ったんだよ。何だかんだで名残深いし」

 

ヒビキは合い鍵をユウキに一つ渡した。

それはアインクラッドでの22層の家の鍵と同じものだった。

ユウキは扉を開けると中が一緒だと気づいた。

 

「これ・・・中も一緒?」

 

「そりゃあな・・・今日からALOはここで極力ログアウトしような。宿屋でも良いが」

 

「ううん、この家が良い」

 

「そうか・・・んじゃ戻ろうぜ」

 

「うん」

 

二人はベッドに倒れ込むとログアウトボタンを押してALOから現実世界へと意識を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が目を開けると時間帯は夜中。

お昼も食べていなかったため、お腹がすいていた。

 

「ん・・・お腹空いたな・・・」

 

「食べるか。晩御飯」

 

「うん・・・」

 

どことなく木綿季が暗かったので響夜は木綿季を抱き寄せた。

 

「・・・言いたかったらいってくれていい。嫌なことあれば言えば良い」

 

「・・・響夜は・・・ずっとボクの隣にいてくれる・・・?」

 

「当たり前だろ?ずっと一緒に居てやる」

 

「・・・うん」

 

「ったく・・・お前が早く16になれば、結婚式出来るぞ?」

 

「ふぇっ、あう・・・」

 

「それとも営みがご所望ですか?お嬢様」

 

「ふぇぇ・・・」

 

響夜は顔を赤くした木綿季を虐めていると最後の言葉に頷かれた。

まさかそれを望んでいるとは思っていなかったため、驚く。

 

「お前は欲求不満かよ・・・」

 

「・・・したいんだもん」

 

「確か・・・お前今日・・・」

 

「・・・そうだよ」

 

「出来ちまったら責任取るからな。嫌とか絶対言わせねぇから」

 

「喜んでボクは響夜を受け入れるよ。ボクの旦那さんだから」

 

「調子の良いこと言うんじゃない・・・目ぇ潰れ」

 

木綿季は響夜に言われたとおり目をつぶる。

何をされるのか心臓バクバクにしていると、目に何かが当てられる。

 

「えっ?き、響夜?」

 

響夜を呼ぶも返事がなく、木綿季は不安になる。

すると木綿季の体を何かが触れた。

 

「ひゃっ・・・!き、響夜・・・?」

 

何度も響夜の事を呼ぶも返事が無かった。

すると不安と恐怖によって木綿季の声は涙声になる。

 

「きょうやぁ・・・」

 

「泣き虫かよ・・・」

 

響夜が目隠しを取ると木綿季は泣きながら響夜に抱き着いた。

 

「怖かったよぉ・・・」

 

「俺がやったことぐらいわかるだろうに・・・」

 

「それでも返事が無いんだよ・・・怖いもん・・・」

 

「そっか・・・ごめん、意地悪し過ぎたな」

 

泣いている木綿季の頭を撫でて優しく抱きしめていると安心してきたのか木綿季はそのまま寝てしまった。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・おやすみ、木綿季」

 

寝ている木綿季とキスをすると響夜は木綿季の隣で一緒に寝た。

すると響夜の温度によってか木綿季は響夜に抱き着く。

 

(こいつ・・・寝にくいっての)

 

寝にくさを感じるも嫌気はささなかったので響夜はそのまま眠りについた。

 

 

 



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聖夜の喫茶店

今回はクリスマスイベント?です。
それと自分のオリキャラの誕生日だったり。


皆さんは12月に良い思い出はあるだろうか?

12月で知られる物といば『クリスマス』や『大晦日』などだろうか。

 

ここ、雪宮家では大事なイベントがあった。

これはその一日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪宮家の中を慌ただしく駆け回っている人物がいた。

 

「いっそがしい・・・」

 

「今日は大事な日だもんね~」

 

「そりゃあな」

 

響夜と木綿季は朝から忙しく動いていた。

その理由は今日が12月24日、クリスマスの日。

そしてもっと大事な神楽の誕生日でもある。

本来ならば木綿季と同じなのだが翔平によって出生届が遅れてだされただめ、役所では12月24日が神楽の誕生日となっている。

 

「ねー、響夜。神楽ちゃんが喜びそうなのってどんなのだろ?」

 

「んー・・・引きこもってるとはいえ神楽は元々お洒落が好きだったからなあ・・・髪留めでも喜ぶし」

 

「お洒落かぁ・・・そういえば、神菜さん達って今日帰ってくるの?」

 

「無理らしい。だがテレビ電話で神楽と内密に話すって言ってたし、大丈夫じゃないか?」

 

「そっかぁ~・・・お昼辺りに外出てきて良いかな?」

 

「俺も出るから一緒に行こうか」

 

「うん!」

 

木綿季と響夜はお昼の外出の目処を付けると、また動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

響夜が一度神楽の部屋に行くとまだベッドで寝ていた。

ちなみに神楽のベッド周りには大量のぬいぐるみが置かれている。

だからか、常に神楽の寝床は暖かい。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「気持ち良さそうに寝やがって・・・」

 

「・・・可愛いよ?」

 

「木綿季か・・・何あげるか決まったか?」

 

「これ見てね、決めたよ。ぬいぐるみあげようかなって」

 

「ん、そうか・・・さて買い物行きますか」

 

「そうだね。神楽ちゃんは・・・どうする?」

 

「寝かしとけ。こんな気持ち良さそうに寝てたら起こせん」

 

「分かったぁ」

 

木綿季は神楽の頭を少し撫でた後、響夜と一緒に家を出た。

 

「場所はどこにする?」

 

「まずは和人とかに教えようか。少しは仲が良いしな」

 

「じゃあボクが連絡入れるね、ダイシーカフェでいい?」

 

「そこで良い。エギルは・・・まぁ押し通す」

 

響夜は木綿季をバイクに乗せるとダイシーカフェに向かった。

その間に木綿季が和人や明日奈、里香、珪子などに電話を入れていた。

 

「パーティー会場は・・・エギルの店貸し切りに出来るか聞いてみるか」

 

「エギルさんのところなら大きいもんね」

 

「おう」

 

響夜の家でもさすがに人数が多いと狭いのでエギルの店を借りれないか直談判することとなった。

数十分バイクを走らせるとダイシーカフェに到着し、中に入った。

 

「よ~っす」

 

「こんにちは~」

 

「おう、いらっしゃい。響夜に木綿季ちゃん」

 

「相変わらずな店だよな」

 

「うるっせぇ、夜は繁盛すんだ、これでも」

 

ダイシーカフェ店主のエギルといつもの会話を交わすと響夜はあることを話し出す。

 

「なぁ、エギル」

 

「どうした?」

 

「今日、この店貸し切りにできるか?夜の時間」

 

「・・・構わんが・・・なんかあるのか?」

 

「今日はクリスマスの日だけど、神楽の誕生日なんだよ。どうせなら楽しい誕生日パーティーにしてやりたいしな」

 

「なるほど、今日が神楽の誕生日なのか・・・良いぞ、好きに使え」

 

「さんきゅ。あと和人達も来るから伝達頼んだ」

 

「お前らはどうすんだ?」

 

「プレゼント選びしに行かんと駄目なんでな、んじゃ木綿季行くぞ」

 

「う、うん。エギルさんまたあとでね」

 

「ああ」

 

エギルと手早く話を済ませると響夜は木綿季を乗せると神楽のプレゼント選びに走り去った。

 

「ねー、響夜」

 

「あー?」

 

「ボクと神楽どっちが好きー?」

 

「・・・そういうのは聞く物じゃない」

 

「えー」

 

響夜としてはどちらも大事な存在。

神楽は大事な妹で、木綿季は恋人で将来の相手。

どちらかを選べと言われても選べきれない。

 

「こうして俺と木綿季は一緒にいる。それだけで十分だろ?明確に表現しなければ駄目って言うわけじゃない。神楽と木綿季はどちらも大切だしな。でも違いがあるだろ?それだけだ」

 

「うん・・・ごめん、変なこと聞いて」

 

「構わん。でもな木綿季。少なくともお前の事の方が優先ってことだ」

 

「・・・えへへ」

 

「さて、今は・・・14時か。飛ばして早く準備するぞ」

 

「はーい!」

 

誕生日ケーキやクリスマスケーキの受け取り時間を18時30分に設定しているため、残り4時半。

しかし飾り付けや、プレゼント選びなどやることが多いため、急ぐ理由はあった。

響夜に言われ木綿季はさらに響夜に力強く抱き着く。

 

「ぎゅ~!」

 

「あんま強く掴むなよ・・・」

 

「分かってるよー!」

 

そんなことで、走らせていると目的の店に到着する。

それは大型のデパートで、中には洋服屋や雑貨屋など様々な店があった。

 

「木綿季、手」

 

「う、うん」

 

「逸れないように一応な」

 

逸れないようにと言いつつも響夜の顔は少し赤みがかかっていた。

 

「響夜、照れてるの?」

 

「うっせ、行くぞ」

 

「わわ、待ってよ~」

 

木綿季を引っ張っていくとデパート内へと入っていった。

クリスマスだからか、中にはカップルや夫婦などがあふれかえっていた。

 

「わぁ・・・」

 

「・・・木綿季」

 

「どうしたの?」

 

「周り見てみな」

 

響夜に言われ木綿季は辺りを見回した。

すると自分達の状況と周りの状況が一緒だと気付き顔を赤くする。

 

「ボク達・・・」

 

「何をいまさら・・・ほら、行くぞ」

 

「う、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デパートから出てくると響夜と木綿季の両手には紙袋が握られていた。

 

「ん~、いい買い物~♪」

 

「あのー木綿季さんどうやって持って帰るのでしょうか」

 

「響夜が持ってくれると思ってたけど・・・駄目・・・?」

 

「さすがに許容量がな・・・仕方ない、木綿季。タクシーで一度家に帰れ」

 

「え?響夜はどうするの?」

 

「一度帰らないと神楽は家にいるだろうが・・・木綿季が先に帰って神楽にある程度言ってくれ。ただ誕生日だとは言わずにな」

 

「ん、分かった」

 

木綿季が頷くと響夜は財布から一万円を木綿季に渡した。

 

「タクシー代。余ったら好きにしていい。んじゃ俺は先に行くぞ」

 

「え、えと・・・響夜」

 

「んあ?」

 

「うぅ・・・・・・よし!」

 

「ん?・・・って・・・」

 

「はむ・・・」

 

「ん・・・」

 

「ぷはっ・・・ふにゅぅ・・・」

 

「ここは外だぞ・・・まぁ良いけどな。んじゃ行くからな」

 

響夜は木綿季の頭を撫でると、バイクに乗って家にへと向かった、

 

「・・・早く帰れないかな」

 

木綿季は先に家に向かった響夜の姿を見届けるとタクシー乗り場でタクシーが来るまで待つことにした。

 

 

 

 

 

響夜が家に帰ると家の明かりがついていた。

木綿季が先に帰って居たようで、家の扉も開いている。

 

「ただいまー」

 

「おかえり~」

 

「・・・おかえり、にぃに」

 

響夜が家に入ると木綿季と神楽が玄関で喋っていたのか一緒にいた。

 

「今から出るとこだったんだ~」

 

「ん、そうか。すぐに片付ける」

 

「ゆっくりで良いからねー」

 

響夜は買ってきた物を仕舞いに二階へ上がるとすぐに片付けた。

そしてバッグを持つと中に神楽のプレゼントを入れて下に降りる。

 

「準備出来てるか?」

 

「うん、出来てるよー」

 

「・・・どこか行くの?」

 

「神楽は黙ってついてきな」

 

「・・・」

 

「嫌なとこじゃないよ。神楽ちゃんからすると・・・嫌かもだけど、ボク達なりに考えたからさ・・・来てくれる?」

 

「・・・うん」

 

「ありがとうな、神楽。そんじゃバイク乗れ」

 

神楽と木綿季がいつもの定位置に座ると響夜はバイクを吹かしてダイシーカフェへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイシーカフェに到着すると入口の掛札には【貸し切り中】と書いていた。

響夜はそんなものを無視し、中にはいる。

 

「ういーす、来たぞー」

 

「おっそいわよ!呼んどいてこれは無いんじゃない?」

 

「そういうおめぇらはしっかりしてきたんだろうな?」

 

「当然よ。神楽ちゃんのためだもの」

 

「木綿季さんも神楽さんも早く座ってくださいよ!」

 

珪子に急かさ木綿季と神楽は女子側グループへと連れていかれた。

響夜はカウンターで飲み耽っている野武士の隣に座る。

 

「よお。遼太郎」

 

「おお、やっと来やがったか」

 

「うるせぇ、酒くせぇ」

 

「ひっでぇな、お前は・・・」

 

この野武士の男はSAOで攻略組で活動し、リアルでも親友となっていた『クライン』こと『壺井遼太郎』。

年はエギルの次の年長者でブラック企業に勤める会社員。

 

「響夜、クラインの近くにいると酒臭いのが移るぞ」

 

響夜とは椅子が2つほど離れて座るのは桐ヶ谷和人。

SAOをクリアに導き、響夜に代わりにALO事件を終結した英雄。

もっとも本人は嫌っているが。

 

「生憎俺は酒が異常なほど強いんでね・・・エギル、ホットミルクティー一つ」

 

「あいよ」

 

響夜が注文したと同時にカウンターを滑りながら注文した温かいミルクティーがやってくる。

エギルはSAOで囚われていたとはいえ、元々は店主。

2年間店仕事をしなかっただけで鈍る腕ではなかった。

響夜はミルクティーに砂糖を3杯入れると一気に飲み干した。

 

「うし、台所借りるぞ」

 

「ああ。食材は自由に使っていい、嫁さんから許可はもらってる」

 

「あんがとさん」

 

 

 

 

 

「・・・?響夜どこ行くのかな・・・?」

 

木綿季は奥へと入っていった響夜が気になったが、すぐに意識を女子グループへと移す。

神楽は詩乃の膝の上に座ってホットミルクティーを飲んでいた。

 

「ん・・・詩乃。足だいじょぶ?」

 

「大丈夫よ」

 

「そういえば神楽ちゃんってシノのんと仲良いよね。いつ頃からなの?」

 

「あー・・・えっと・・・どう話せば良いのかしら・・・」

 

「ん・・・詩乃とにぃには幼馴染」

 

「そうなの!?」

 

「え、ええ。私少し前に転校してきたでしょ?あれって響夜のお母さんがやってくれたの」

 

「響夜さん・・・凄いですね」

 

「和人君もだけど響夜君も中々ぶっ飛んでるよね・・・」

 

明日奈の言葉が和人に聞こえて居たのか体をカウンターから明日奈達の方へ向けた。

 

「悪かったな、ぶっ飛んでて」

 

「あっ、ご、ごめんね?」

 

「ふん」

 

「・・・大人気ない」

 

「うぐ・・・」

 

木綿季達と同じ年齢とはいえ、容姿が幼い神楽の言葉は和人に刺さったようだ。

すると台所の扉がいきなり開かれた。

 

「あほんだらー、出来たから食っとけ」

 

「おぉぉ・・・すごい」

 

「普通だろ・・・藍子か明日奈。ちょい手伝ってくれ」

 

「明日奈さん、私が行きますね」

 

「あ・・・藍子さん、ありがとうございます」

 

藍子が立ち上がると台所へと吸い込まれていった。

 

 

中に入ると食材が一気に出されており、コンロも全て使われていた。

 

「ん、藍子か・・・なんか出来る料理あるか?」

 

「えっと・・・パスタ系とか出来ますね」

 

「んじゃそれ頼む。味付けはお好きに」

 

響夜は藍子に手伝いを頼むとまた、せわしなく動く。

だが無駄が無い動き藍子は関心していた。

 

「慣れてるんですね」

 

「そりゃあな。食いしん坊がいるし」

 

「あはは・・・」

 

響夜のいう食いしん坊とは表で沢山料理を食べていることだろう木綿季の事。

そして神楽もそれに当てはまる。

 

「響夜さんは食べないんですか?」

 

「俺は味確認のつまみ食いで腹が膨れるからな」

 

「・・・しっかり食べて、お兄ちゃん」

 

「・・・ある程度作ったら食べるから」

 

「はい、ならいいです」

 

藍子の威圧に響夜は負けると大人しく食べることにした。

普段は敬語だが怒ると一部にはタメ口なのだ。

響夜に対してはお兄ちゃんというおまけつき。

しかしこれを知るものは藍子、木綿季、神楽、響夜の4人だけだが。

 

 

 

響夜が台所に入って1時間ほどが経つ。

藍子は途中で疲れて来ていたので響夜がやめさせると表に行かせていた。

響夜は台所を掃除して綺麗にして出ると、カウンターには酒で潰れたクライン。

テーブルには珪子と里香、直葉、詩乃、神楽、藍子が寝てしまっていた。

明日奈は和人の隣で寝ており、木綿季はまだ頑張って起きているようだった。

 

「木綿季」

 

「ん・・・響夜」

 

「こいつら・・・酒で寝やがったか」

 

「ううん・・・クラインさんのお酒のにおいで・・・」

 

「あぁ・・・まぁ許してやれ」

 

「うん・・・」

 

木綿季は眠たそうなのか、目が据わっている。

響夜も隣に座ると木綿季を膝枕した。

 

「・・・木綿季。渡したいのがあるんだよ」

 

「ふぇ・・・?神楽ちゃんじゃなくて・・・?」

 

「神楽とは別・・・まぁもう少し後に渡そうかと思ったけどクリスマスだしな」

 

響夜は近くに置いていたバッグから細長い箱を取り出した。

 

「やるよ。クリスマスプレゼント」

 

「ありがとう・・・・・・開けていい?」

 

「お好きに」

 

木綿季は箱を開けて包装紙を取ると、中からはネックレスが出てきた。

 

「わぁぁ・・・」

 

「木綿季のイメージカラーの紫で、オーダーメイド。宝石部分には木綿季の名前が入ってるよ」

 

「付けても良い・・・?」

 

「貸してみな、付けてやる」

 

木綿季は響夜にネックレスを渡すと首元にひんやりとした感覚があった。

気になり手を当てると先程のネックレスがかかっていた。

 

「響夜・・・ありがとう」

 

「俺からも、いままでありがとうな」

 

「今まで・・・じゃないよ。これからも」

 

「だな・・・神楽が寝ちまったけど明日渡そうか」

 

「うん・・・」

 

「・・・眠いなら寝ていいからな。俺も眠い」

 

「うん・・・おやすみ・・・響夜」

 

「ああ、おやすみ木綿季」

 

木綿季は響夜の膝を枕にするとそのまま眠りについた。

首から覗くネックレスが月明かりに照らされて妖しく輝く。

 

「・・・大好きだぞ、木綿季」

 

月明かりに照らされた木綿季の姿を見て響夜は心臓が早くなるのを感じるが、頭を撫でていると眠気が襲ってきてそのまま寝てしまった。

 

 

 



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神楽の誕生日

クリスマスから翌日。

楽しいパーティーをして、神楽の誕生日パーティーを行った。

全員見知った相手だからか、神楽は人見知りも発作も起こさずに楽しんでいた。

 

 

響夜も楽しそうにしている神楽を見て、少し嬉しそうにした。

普段は誰かに隠れているような感じを出して、自分の事は中々言わない。

それは神楽をよく知る者しか知らない。

 

「あんな楽しそうにしてたらそりゃあ疲れるか」

 

響夜が目を覚まして目の前を見ると詩乃と藍子に挟まれて寝ている神楽。

そして目線を自分の膝に向けると、響夜に抱き着いて寝ている木綿季がいた。

 

「すぴ~・・・すぴ~・・・」

 

「こいつもか・・・まぁ嫌では無いしな」

 

昨日木綿季に渡したネックレスは、わざわざ東京の銀座に行って高級店で作ってもらった物。

値段がかなり張ったが数々の依頼をこなしていたため、響夜の通帳には普通ならば使いきれない金額が入っている。

今回はそれに物を言わしてオーダーメイドで製作、購入した。

また、その時に指輪も作ってはいる。

何店という宝石店を駆け回り、見つけだした店でようやく見つけた『パープルダイヤモンド』を即購入した。

数百という諭吉が消えていたが響夜にはそんなもの関係無しと言わんばかりに、紫ダイヤを買っていた。

それを宝石加工店に持って行き、指輪として加工してもらっている。

 

 

響夜はその指輪を常に持ち歩いていた。

盗られない・・・というのもあるが、いざ木綿季にプロポーズとなると恥ずかしいものがあった。

 

「いつ言おうかねえ・・・」

 

パープルダイヤモンドの事は神楽から教えてもらっていた。

木綿季のイメージカラーが紫や紺なのでちょうど良いと思っていたが、カラーダイヤモンドというのは産出量が余りにも少なく、無色透明のダイヤに比べると数十倍の値段がする。

また産出量の少なさ故に宝石店でも取り扱われることも少ない。

だが響夜はどうしても諦め切れず探し回ってようやく見つけた。

普段ならば使わないクレジットカードで即決購入。

通帳からは膨大な金額が引かれたがそれでもまだ残りが多大にある辺り、響夜の一回の稼ぎは大きい。

 

「んう・・・ふぁぁ・・・」

 

「起きたか。おはよう、木綿季」

 

「おはよぉ~・・・」

 

指輪の事を考えていると木綿季が起きて、響夜に強く抱き着く。

 

「ぎゅ~・・・」

 

「どうした?」

 

「ん・・・落ち着くから・・・」

 

「甘えん坊め」

 

「えへへ~・・・」

 

木綿季に好かれてこういうことをされる事は響夜は嫌っていない。

それは木綿季の好意の表現でもあり、断る理由がない。

それどころか響夜自身は早く木綿季が16歳にならないかと待ち望むぐらい。

 

「・・・はぁ。早くお前が16になりゃあなぁ・・・」

 

「んう~?」

 

「なんでもねぇよ。一回顔洗って来る」

 

響夜は木綿季を膝から降ろすと洗面所へと移動した。

エギルは既に開店準備をしており、カウンターでの準備をしていた。

 

「よう、エギル」

 

「やっと起きたか。こいつら早く帰らせねぇとだぞ」

 

「幸い遼太郎以外は家近いし大丈夫だろ」

 

「そうなのか?俺はお前らの家を詳しく知らないからな」

 

「知ってたらこえぇよ」

 

「それもそうだな」

 

エギルと少し話すと響夜は顔を軽く洗った。

そしてバッグから包装されたプレゼントを取り出すと木綿季の所へ向かう。

 

「おかえり、響夜」

 

「おう、ただいま。神楽達まだ寝てるのか」

 

「どうしようっか・・・このまま置いとく?」

 

「まぁ勝手に帰るだろ」

 

「ならいいんだけど・・・」

 

「神楽の持ってきたカバンが満タンだし、プレゼントは貰ってるみたいだな」

 

「そっかぁ・・・でも、このままじゃあ・・・」

 

「神楽がちゃんとお礼言いたいだろうな。仕方ない、起きるまで寝る」

 

「う、うん」

 

響夜はまた椅子に座ると寝はじめる。

 

 

起きる頃には全員帰っており、神楽もちゃんとお礼を言えたようだった。

響夜と木綿季は一度家に帰ってから渡すことにして、エギルの店から撤退するといつも通りバイクで自宅へと帰った。

余談だが、神楽のバッグでバイクの重心が傾くなど危険性があったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危険性を何とか抑えて家に帰ると神楽のカバンを持って家へと入る。

中にはお菓子や衣服、ゲーム機など色々な物が送られていた。

 

「さて神楽。俺からはこれをやるよ」

 

「ボクからはこれね」

 

響夜が渡したのはイヤリングや髪留め。

神楽は元々お洒落が好きだったのを知っているのでお洒落用に大量に買い付けた。

種類が沢山あるが神楽の好みに全て合わせている辺り、神楽の事をしっかりと理解している。

 

「あ、あとな。お前が欲しがってたキーボード。あれも買ってやったから後で渡す」

 

「・・・!ありがとう!」

 

神楽は前々から欲しがっていたメカニカルキーボードと呼ばれる物が買いたかった。

しかし所持金が少なく、買えなかったため断念していた。

 

 

木綿季からは大きなぬいぐるみ。

神楽の部屋に置いているぬいぐるみと被っていない物を渡した。

どこぞの2Dアクションゲームに出てくる白いオバケのぬいぐるみ。

抱き心地は良いようですぐに気に入っていた。

 

「ねぇね、にぃに。ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

妹が普段は見せないような表情に響夜と木綿季は嬉しくなる。

神楽は早速二階へと持って行くものを持ち出すとパタパタと上っていった。

 

「珍しいね。あんな表情」

 

「神楽にとっては誕生日は特別なんだよ。あの親父ですらしっかり祝ってたらしいからな」

 

「そっかぁ・・・」

 

「でも・・・今回はあいつにとっては良い思い出になったろ」

 

「だといいな~」

 

いつもと違う神楽を見て二人はニコニコしながら響夜の部屋へと入っていった。

 

 

 




内容いつになく薄いですね・・・文字数2200。
これ考えたの0時40分なんですよ。
それを1時間ほどで書いたのでそれは薄いに決まってます。

次回は木綿季のデート回・・・の予定。
作者の発想次第でデート回は延期になりそうです。


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約束した楽しみは突然に

クリスマスから二日後。

響夜は冬休みを満喫していたとき、木綿季とあることを約束していたのを思いだした。

 

「なあ、木綿季」

 

「ん~?どうしたの?」

 

「デート・・・しようか」

 

「ふぇっ!?」

 

木綿季は唐突に言われ変な声を出してしまう。

 

「明日にしようか、もうすぐ大晦日で忙しくなるからな」

 

「う、うん」

 

「んじゃ、今日はもう寝る。明日忙しくなるからな」

 

「分かった~、おやすみ響夜」

 

「ん・・・おやすみ木綿季」

 

先に響夜が寝てしまい木綿季は暇になる。

だが明日のデートで木綿季はどうするか悩む事となる。

 

「う~・・・どうしよう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木綿季が目を開けると時間は11時。

昨日は緊張してあまり寝れていなかったため、長く寝ていた。

そして隣を見ると響夜の姿がない。

 

「んう・・・もう行っちゃったのかな・・・」

 

木綿季はベッドから出て洗面所へと向かうと顔を洗った。

鏡にはボサッとした紺色の長い髪が写されている。

蛇口を捻って水を出すとそのまま顔を洗う。

 

「わぷ・・・ぷはぁ・・・」

 

 

「よしっ」

 

ささっと洗うと部屋に戻って響夜から間借りしたタンスから着ていく服を探す。

 

「ん~と・・・これかなあ・・・」

 

着ていく服を選んで、着ると上から厚めのコートとマフラーも着た。

 

「これで良いかな・・・」

 

カバンに持って行く物を入れて、部屋の電気を消すと神楽の部屋に入った。

中は暗く、カーテンは閉めきっていた。

 

「ん・・・ねぇね。どうしたの?」

 

「響夜と少し遊んでくるね」

 

「ん・・・デート楽しんでね。場所は時計台公園だから」

 

「あう・・・うん・・・」

 

「行ってらっしゃい」

 

家の事を神楽に任せると木綿季は家を出る。

待ち合わせは時計台の公園となっているので、そこまで歩いていく。

 

「ん~・・・」

 

木綿季がこうして一人で家を出て歩くのは久しぶりだったりする。

普段は響夜と一緒なので新鮮でもあった。

なぜ響夜が一緒にいようとしたのかはすぐに分かってしまうが。

 

「おーい、そこのお嬢ちゃんー」

 

「んう?」

 

「君、一人?もし暇なら俺と一緒に遊ばない?」

 

「あ~・・・えっと~・・・」

 

「お願い!もしでいいからさ!」

 

響夜が危惧するのは木綿季がぱっと見で可愛いということ。

それゆえにナンパ系が多くなるのだ。

 

「ごめんなさい!ボク待ち合わせしてるんです」

 

「待ち合わせの人って女の子?それならその子も一緒で良いよ!」

 

「と、とりあえずごめんなさい!」

 

木綿季はナンパ男から逃げるように時計台公園へと急ぐ。

しかしどうしても木綿季を誘いたいのかナンパ男は木綿季に付き纏う。

 

「ねぇねぇ!」

 

「あ~う~・・・」

 

「君って名前何て言うの?教えてよ!」

 

木綿季の走る速度は段々早くなる。

奥に時計台が見えてきて響夜が待っていた。

 

「ん・・・誰だ、あいつ」

 

すると時計台公園にいる響夜に見つけてもらえたのか木綿季はほっとする。

 

「ねぇってば!教えてくれても良いじゃんかぁ~」

 

「おーい、何してんだー」

 

「響夜!助けて!」

 

「・・・あ?」

 

響夜はナンパ男を睨みつける。

珍しく前髪をあげているため、鋭い眼光がナンパ男を襲う。

 

「お、お前!俺の獲物に~!」

 

「獲物とか知らん。こいつは俺の彼女なんだが・・・なんか文句でもあんのか?」

 

「お、覚えてろー!」

 

下っ端台詞を吐いてナンパ男は走り去っていく。

木綿季もそれを見て安心したが、響夜に抱き着いている状態だった。

 

「・・・木綿季さん、周りの目があるんでそろそろ・・・」

 

「え?・・・あ・・・」

 

公園ということもあり、周りはカップルや子供が沢山いた。

響夜は抱き着かれて嬉しいが周りの目があって恥ずかしいので木綿季を離して手を繋いだ。

 

「これで良いだろ?」

 

「うん!」

 

「そんじゃ行くぞ。木綿季」

 

「は~い!」

 

少し変な事が起きたが難無く木綿季と響夜のデートが始まった。

響夜はある程度考えて行動するが、今回はいきあたりばったり。

つまりは考えなしで動くことにしている。

なぜならば木綿季は高級店などはあまり好きではない。

その点を考えて適当に回って行く方が木綿季としても楽しいと考えた。

 

「さて、木綿季。俺は考えなしで動くわけだが・・・どこか行きたいとこはあるか?」

 

「えっと~・・・行きたいとこあったけど思い出せない・・・」

 

「ん、そうか。んじゃまずはご飯食べるか」

 

「分かったー」

 

12時で一度お昼ご飯を先に食べることにして、近くのファミレスに寄った。

 

「いらっしゃいませ、人数は二名様ですか?」

 

「はい、そうです」

 

「分かりました、それではこちらに」

 

スタッフに案内され、テーブルに座るとすぐに注文を入れる。

 

「お客様、ご注文はございますか?」

 

「俺は炭焼きハンバーグとグラタンで。飲み物はホットミルクティーで」

 

「ボクは・・・ドリアとシチューで。飲み物はこの人同じで良いです」

 

「かしこまりました。以上でよろしいですか?」

 

「はい」

 

「では、失礼します」

 

注文を済ませると木綿季はテーブルに頭を乗っける。

 

「おにゃかすいたぁ~・・・」

 

「今頼んだろ・・・まぁここの料理は量があるから木綿季でも満足出来ると思うぞ」

 

「ホント!?やったー!」

 

「餓鬼かよ・・・」

 

ご飯にここまで喜ぶ者など木綿季ぐらいだろう。

それほどまでに木綿季は食べることが好きなのだ。

少し待つと注文した料理がやってきた。

量がかなり多く、普通の大きさの数倍はある。

 

「すごい・・・!」

 

「ここは値段の割に量があってお腹が膨れるんだよ。木綿季にもちょうど良いと思ってな」

 

「いっぱいだ~!んじゃいただきまーす」

 

「おう。いただきます」

 

響夜は食べる速度が早く、木綿季よりすぐに食べきったがお腹がパンパンだった。

しかし木綿季はまだ食べていた。

響夜より量が多かったようだ。

 

「美味しいか?」

 

「うん!でも・・・響夜のご飯のがもっと美味しいよ!」

 

「・・・ありがと」

 

響夜は幸せそうに食べる木綿季をずっと見ておく事にした。

ここまで嬉しそうに食べてもらえれば料理人としても嬉しいかぎりなのだろう。

作ったのはファミレスのシェフだが。

 

 

 

 

 

ファミレスを出て、次に二人が向かったのはゲームセンター。

木綿季の希望によるもので、とりあえず行くこととなった。

 

「そういや木綿季ってこういうの出来んの?」

 

「・・・で、出来るよ?」

 

「ならやってみるか?お金は入れてやるから」

 

「じゃあ・・・やってみるね」

 

木綿季が選んだのはUFOキャッチャー。

響夜がお金を入れると木綿季が操作をする。

だが木綿季はゲーセン類のゲームをあまりやったことがないため、苦手だった。

響夜はあえて木綿季にやらせている。

 

「あっ!・・・あ・・・」

 

「惜しいな。後すこしだったのに」

 

「う~・・・」

 

後すこしで取れそうだったが仮にもゲーセンのゲームは景品が取りにくくされている。

木綿季は頑張っていたが、やはり難しいのだ。

 

「あれが欲しいんだろ?取ってやるから見てな」

 

響夜は昔の友人と良くゲーセンで遊んでいた。

その時の勘を頼りに木綿季がとろうとしたぬいぐるみを取る。

そして追加で百円を入れると木綿季が神楽にあげた真ん丸白オバケに王冠がついた物を掴み、景品取り出し口に放り込む。

 

「昔ゲーセンは良く行ってたからな。なれてる」

 

「う~・・・ボクが取りたかったなぁ~」

 

「初心者でも上手い方だぞ。まず掴むのが難しいからな」

 

響夜はぬいぐるみ二つを取ると木綿季に渡した。

内一個は神楽用に。

 

「ほれ、木綿季が取りたかった奴だろ?」

 

「うん・・・ありがとう」

 

「そう落ち込むなっての。まだまだあんだから他のゲームで俺より取ってみな」

 

「む~・・・分かった」

 

「よし!んじゃ次行くぞ!」

 

「わわっ、待ってー!」

 

響夜は木綿季とどれだけ景品が取れるか勝負することにした。

結果的には木綿季が勝ったのだが、響夜のは誰かにあげるような物ばかり。

もっぱら神楽にあげるものばかり取っていたが、木綿季にもあげるのはあった。

 

「響夜の方は・・・ぬいぐるみ過多じゃない?」

 

「そういうお前はお菓子取りすぎだろ・・・」

 

響夜は大量のぬいぐるみやゲーム箱。

木綿季は袋沢山に入ったお菓子が詰まっていた。

 

「・・・さて、そろそろ時間やばいし帰るか」

 

「もうそんな時間?」

 

「俺達このゲーセンで数時間は潰してる。今18時だぞ」

 

木綿季は自分の携帯を見ると、表示された自分は18時20分。

家には神楽がいるため、晩御飯を作ることも考えて19時前後には帰っておきたいのだろう。

 

「もうちょっと遊びたかったなぁ・・・」

 

「・・・そういや・・・あれ撮ってねぇな」

 

「なにを?」

 

「プリクラ撮るか?お前が良ければだけど」

 

「撮る!一緒に写ろ!」

 

「はいはい・・・」

 

ゲーセンで大多数の人が入るであろうプリクラに響夜は向かう。

機種は木綿季に任せて、荷物を一度置くと撮影場所に入った。

 

『準備が出来たら画面をタッチ!』

 

「準備良い?」

 

「良いぞ」

 

木綿季は画面にタッチして設定をする。

この辺は木綿季のが詳しいので響夜はノータッチ。

 

『それでは撮影を始めるよ!まずはお互いに写ろう!』

 

「響夜・・・手繋いで?」

 

「どうぞ、ご自由に。お嬢様」

 

木綿季は響夜と手を繋いで、抱き着いた。

それに響夜は驚くも仕返しとばかりに木綿季を抱き寄せて左手を繋がせて右手で抱き寄せている。

 

「きょ、響夜?」

 

「こうしろ」

 

「ふ、ふぇ?」

 

形としては響夜が抱き着いたようになり、そのまま一つ目が撮影。

そこからは響夜が主導権を握って木綿季を弄び、撮影が終わる。

 

「うにゅう~・・・」

 

「いやー、清々しいわ~」

 

「なんだか力を吸われた気分」

 

木綿季は疲れ果てているが響夜はキラキラしていた。

まるで響夜に何かを吸い取られたように。

 

「編集は木綿季が好きにして良いぞ。終わるまで外で待ってる」

 

「・・・側に居てね?」

 

「すぐそこにいるから安心しろ」

 

「じゃあやってくるー」

 

木綿季に編集を任せて響夜は外の椅子で木綿季を待つことにした。

響夜も出来るがそこは木綿季に任せる方が良いと思っての事。

木綿季を待っていると奥から女子高生が数名出てくる。

それは悪い意味で響夜が知っていた。

 

「あれ?時崎か?」

 

「・・・人違いだろう」

 

「いやその雰囲気・・・時崎だろ!」

 

「名字違うけどな。で、何の用だよ」

 

「お前・・・そんな喋り方だったか?」

 

「うっせぇ」

 

「んで時崎。お前今暇か?」

 

「悪いが暇じゃない。人待ちだ」

 

「へぇ・・・彼女でもいんの?」

 

「だったらどうする?」

 

「お前に彼女か・・・なんか良いじゃん」

 

響夜は知らなかったが、この女子高生も響夜に好意を抱いていた。

だが自分と響夜が釣り合わないとわかっていたのか言わなかったのかもしれない。

 

「響夜ー、出来たよー」

 

「ん・・・出来たか。で、お前らはどうすんの?」

 

「デートの邪魔をしたくないからあたしはこのままどこか行くよ」

 

「ん、そうか」

 

「・・・またな」

 

「・・・おう」

 

女子高生達と別れると編集スペースに入って、現像される写真を受けとった。

 

「ど、どうかな?」

 

「・・・へぇ。良いじゃん。俺はこういうの苦手だから嬉しいよ」

 

「やったぁ~」

 

「そろそろ時間だし、帰ろうか」

 

「うん!」

 

響夜は写真をカバンに入れると荷物を持ち上げる。

片手が空いていたので木綿季の手を繋ぐ。

 

「ねー、さっき誰かと喋ってたの?」

 

「ん?あ~、昔の知り合いだ。久々に会ったからな」

 

「ほぇ~」

 

「さて、帰るぞ。家に神楽がお腹をすかせて待ってんだ」

 

「うん!」

 

木綿季は嬉しそうにしながら響夜と一緒に家に帰った。

響夜はこっそりと黒い小さな箱を木綿季のポケットに忍ばせていたが。

 

 

 

それを遠くから先程の女子高生が見ていた。

 

「・・・あれは・・・紺野か・・・なんだ、あの二人だったんだな」

 

 

「・・・幸せになってよ。二人とも」

 

想い人にお似合いだった相手を見て涙を流すも、体を180度回転して響夜達とは逆方向へと歩いて行った。

 

 




はい、デート回でした。
内容?そもそも薄い内容ばかり書く作者には縁のない話ですね。
響夜がこっそりと入れた謎の箱・・・なんでしょうか、キニナルナー。

女子高生は直人に好意を抱いていた一人でした。
やはり名前が変わろうと雰囲気までは変わらない・・・のでしょうね。

木綿季はナンパとかかなり苦手です。
将来の相手がいるので響夜以外には男には興味が余りありません。
響夜も同様ですが。


次回は何を書きましょうか、詰まりかけです。
もう少し日常を続けてから次なる舞台に入りたいんですよね。
希望がもしあれば作者の技術次第で書く・・・かもです。


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お昼寝の大晦日

前回、リクエストの件で書いてくださかった方ありがとうございます。
今回はその中の希望の一つである【初詣】を書こうと思ったのですが、大晦日のお話があったので今回はそれを。



12月31日は大晦日。

響夜はいつも神楽と一緒に家で年越しを過ごすが、今年からは新たな家族とも言える木綿季がいた。

 

「響夜~」

 

「どうしたー?」

 

「今日って大晦日だよね?」

 

「ん・・・まぁそうだが」

 

「何かやること・・・ってある?」

 

「んーむ・・・基本ねぇしなぁ・・・掃除は俺が殆どしてるし、廃棄物も・・・特にこれといってすることはないな・・・」

 

響夜は家での掃除やゴミ処理などを一手に担っている。

恐らく響夜がいなければ家の機能が止まってしまうぐらいに。

木綿季も手伝えることは手伝っているが殆どが響夜が行っている。

 

「そっかぁ・・・」

 

「あーでも、まだ年越蕎麦買ってねぇな」

 

「いつも買ってるの?」

 

「めんどいときはな。材料があれば蕎麦打ちの道具がある」

 

「・・・響夜の家って何でもあるね」

 

「父さんがそういう好きだったんだよ。おかげで母さんが苦労したらしい」

 

「ふむぅ~・・・」

 

響夜は一度台所の整理をしていると、二階から神楽が下りてくる。

手には木綿季があげた白い真ん丸オバケのぬいぐるみが抱き抱えられていた。

 

「神楽?どうした?」

 

「ん・・・蕎麦打ってほしいな・・・」

 

「・・・分かったよ。木綿季、ちと留守番頼む」

 

「はーい」

 

響夜は整理を一度止めて二階に上がって服を着替える。

そしてすぐに降りると家を出て近くのスーパーに向かった。

 

 

 

 

 

 

その間、木綿季は暇になったので神楽を手招く。

 

「神楽ちゃん、おいで~」

 

「ん・・・」

 

神楽はトコトコと木綿季の元へ歩いていく。

同年代なのに、歳が離れた姉妹としか見えない光景だが。

木綿季の膝の上に座ると、頬が突かれた。

神楽の頬を木綿季が弄っている。

 

「ん~、神楽ちゃんの頬っぺた柔らかいなぁ」

 

「んむ」

 

「同い年なのに何でこうも違うんだろ・・・」

 

「んぎゅ」

 

「はぁぁ・・・柔らかい・・・」

 

「む~・・・はむっ!」

 

神楽もずっと弄られるのが癪なのか木綿季の指に噛み付く。

とはいっても痛くないよう甘噛みで。

 

「神楽ちゃんに食べられた・・・」

 

「んぎゅ・・・んぎゅ・・・」

 

「ボクの指・・・美味しいの?」

 

「ん~」

 

木綿季は指がこそばゆい感覚になるも、神楽とこうして触れ合う事は少ないため何も言わずに神楽にされるがままだった。

 

「ぷは・・・」

 

「大丈夫?」

 

「・・・大丈夫、ねぇねのだもん」

 

「そういう意味じゃなかったんだけどね・・・」

 

木綿季は神楽の頭を優しく撫でてみる。

響夜が普段しているように撫でてみると気持ちいいのか目をつぶっている。

 

「頭撫でられるの好き?」

 

「うん。にぃにとねぇねのは好き」

 

「えへへ・・・そっかぁ~」

 

神楽と木綿季。

二人の姉妹はやはりどこか似ているようにも思えるのが実の姉妹だからなのだろう。

 

 

神楽はまだ木綿季や藍子のように精神が成熟仕切れていない。

生み出されるまでが長かったからなのか、翔平に少しの間育てられたからなのか、実年齢とは思えない程神楽は幼い子供と同じ。

しかし木綿季達はそんなことを気にする物ではない。

それが神楽という在り方だからなのだろう。

喋り方、考えを否定してしまえば神楽は簡単に壊れる。

 

 

響夜がずっと神楽の事を気にかける理由が何となく木綿季は少し分かる気がした。

この子を独りにさせてはいけない。

それが木綿季の中で思った事だった。

 

「神楽ちゃん」

 

「んう?なぁに?ねぇね」

 

「ボクは神楽ちゃんを独りにしないからね」

 

「・・・うん、ぁりがと・・・」

 

消えてしまいそうな声を出した神楽の声はしっかりと木綿季に届いていた。

それに応えるように木綿季は優しく抱きしめる。

 

「・・・ぎゅ~」

 

「苦しくない?」

 

「うん」

 

「いつでも頼ってくれて良いからね。ボクは神楽ちゃんのお姉ちゃんなんだから!」

 

「・・・うん」

 

「・・・響夜遅いなぁ・・・」

 

木綿季は時計を見た。

響夜出てから早一時間が経過している。

すると神楽が目を擦りはじめる。

 

「眠たい?」

 

「う・・・ん・・・」

 

「なら一緒にねよっか」

 

時間帯としては神楽はお昼寝の時間。

普段起きていない時間に起きているため眠たくなっていた。

木綿季は神楽を抱き抱えると一緒にぬいぐるみも持ち上げる。

神楽は見た目通りの軽さなので木綿季も簡単に抱けた。

そのまま二階へ上がって響夜の部屋に入る。

響夜の部屋のベッドはかなり大きめなので、神楽と一緒に寝れるスペースがある。

 

「んしょ・・・」

 

「ね・・・ぇね・・・」

 

「お姉ちゃんならここだよー、近くにいるからね」

 

神楽をベッドに降ろすと手を動かして木綿季を探す。

木綿季もすぐにベッドに入ると神楽を苦しくないよう抱きしめる。

 

「ふふ、おやすみ」

 

「ん・・・ぁぅ・・・」

 

木綿季も眠たかったのか目を閉じるとすぐに寝てしまった。

その頃には神楽はぐっすりと寝てしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜がスーパーから帰ると家が静かなのに気づいた。

 

「ん・・・どっか行ってるのか」

 

怪訝に思ったが玄関には木綿季と神楽の靴があったため外出の考えは消える。

ふと時間を見ると神楽のお昼寝タイムだと気づいた。

 

「・・・ま、大丈夫か」

 

神楽と一緒に寝ているのだろうと考えると、響夜は買ってきた材料を仕舞う。

ついでに日用品の補充もしたので、誰も居ない方が楽だった。

 

「さて・・・こんなもんだろ」

 

掃除と洗濯を手短に終わらせると響夜の自由時間となる。

しかし現在やることが無いため、どうしようと考えていた。

 

「木綿季がいつ気付くかねぇ・・・」

 

以前デートの終わりに響夜は木綿季のポケットにこっそりととある黒い箱を入れていた。

あれの中身はある場所の鍵で、木綿季の母親である裕子から渡されていたもの。

詳しいことは知らないが木綿季は知っているらしかったのでこっそりと入れた。

いつ気付くかはわからないが。

 

「どうせあの姉妹は俺の部屋使ってるだろうしなぁ・・・たまにはソファーで寝るか」

 

響夜が座っているソファーは今の時間帯だと日光が程よく差し込み、暖かい。

お昼寝には持ってこいの場所となっていた。

 

「適当に寝とこ」

 

タイマーをセットせず、そのまま響夜はお昼寝をすることにした。

買い物や家事で思いのほか疲れていたらしい響夜の体はすぐに眠りへと導いて行った。

 

 




お話としては朝~昼の内容でした。
夕方~夜の内容は次回にでも。
大晦日のお話が終わると次は初詣を書きます。
それが終わったらようやく新たな舞台に突入・・・?(予定)

また、評価や感想をしてくれる方いつもありがとうございます。
見ていて思ったのですが、SAO編と今の内容の差が酷いですね。
しかし修正はしません。
過去と今の書き方の違いが見て取れる方が力が付いている証になると思ったので。
なのでもし修正するとしても、新たなにリメイク版として出します。
まぁやるとは限りませんが。


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手作りの大晦日

神楽と昼寝をしてから数時間。

木綿季はかなりの時間を寝れたためか、眠気が一切なかった。

 

「んう~・・・」

 

木綿季が体を伸ばし、時計を確認すると時間は21時。

神楽は俄然まだ寝ており、木綿季に引っ付いている。

 

「うーん・・・仕方ない・・・か」

 

起こすのも可愛そうだと思い、木綿季は背中に乗せて抱いて移動することにした。

 

 

 

 

 

木綿季が部屋を出ると窓から見える景色はすっかり暗く、寝過ぎた事が実感できた。

そのまま一階へと降りるとソファーのライトが点灯していた。

 

「・・・?」

 

木綿季はあの場所のライトは点けていない。

となると誰かが点けたのだが、誰がなのかは木綿季には分からない。

恐る恐る近付いてソファーを覗くと、ソファーに寝転がって寝ている響夜の姿があった。

 

「帰って・・・来てたんだ」

 

いつ帰ってきたのか分からなかったが、家に帰ってきていたことに木綿季は安堵する。

 

『きゅる~・・・』

 

「・・・あう・・・」

 

すると晩御飯を食べていない木綿季のお腹から音がなった。

恥ずかしかったが、神楽は寝ているため聞かれなかった。

だが響夜はその音で起きたのか、片目だけ開けて木綿季を見ていた。

 

「・・・そこの腹ぺこお嬢さん」

 

「ふぇ!?お、起きてたの!?」

 

「今、木綿季の空腹音で起きた」

 

「あうぅ~・・・」

 

「今は・・・もう9時か・・・木綿季はどっか座っとけ」

 

「うにゅ~・・・」

 

起きていると思わなかった木綿季は恥ずかしさでいっぱいになる。

響夜も寝起きの頭で今の木綿季を弄れるほど回転していないため、弄らず晩御飯を作ることにした。

今日のお昼に買った材料を取り出す。

打ち粉など蕎麦に使う物を取り出すと響夜は牛乳をコップに入れて砂糖を入れると電子レンジで温めた。

 

温め終わって響夜はそれを軽く掻き混ぜると飲み干した。

やる気を引き出すときに響夜はいつもホットミルクを飲む。

飲んでいた間に新しいコップを取り出すとまた温めた。

 

「響夜~、何飲んでるの~?」

 

「ホットミルク。喉渇いたし」

 

「ボクも飲みたい~」

 

「今温めてるから待っとけ」

 

「わーい」

 

木綿季も飲みたいだろうと思い響夜は先程電子レンジにて二個目のホットミルクを作っていた。

それも温め終わると木綿季へ渡す。

 

「砂糖は自分で入れろ。ここに置いとくからな」

 

「うん。ありがと~」

 

木綿季にホットミルクを渡すと響夜は早速作業に取り掛かる。

今回つくるのは手作り蕎麦。

真剣に作らなければ美味しい蕎麦が出来ないため、響夜はいつになく真剣に取り掛かる。

それを木綿季は邪魔をしないようソファーから顔を出して見ていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が蕎麦を打ち終えて1時間。

慣れない作業のため時間がかかったが、麺として切り出せた。

現在は切った蕎麦をざるに置いて冷蔵庫にて冷却。

 

「慣れない事はするもんじゃないな」

 

「そお?格好良かったよ?」

 

「たかが作ってる姿だろうに・・・」

 

「響夜のだから格好良いんだもん~」

 

「調子良いこというんじゃありません」

 

「ふぎゅ」

 

響夜は木綿季の頭に軽くチョップを当てる。

木綿季も口から情けない声を出していたが。

 

「いつお蕎麦食べるの?」

 

「一応年越蕎麦だからな?日付が変わる辺りで食べれるように調整する」

 

「そっかー・・・じゃあ早く変わらないかなー」

 

「ま、それまでお腹すくだろ?だから軽く作ったから食べとけ」

 

「ほぇ?」

 

響夜はオーブンから取り出したのはドリア。

木綿季がお腹がすいていたのは知っていたため、蕎麦を打ち終えたあと作っていた。

材料は残っていた物で作ったため、具沢山のドリアとなっていたが。

 

「響夜は食べないの?」

 

「木綿季が食っていい。神楽のは今焼いてるが俺のはさすがに足りん」

 

「むぅ~・・・」

 

木綿季は自分だけが食べることが不服だった。

自分が作ったならまだしも、響夜が作ったのに本人が食べないのは嫌だった。

何かないかと考えると一つの方法を思いつく。

 

「んぅ・・・じゃあ、一緒に食べよ?」

 

「お前の分無くなるぞ」

 

「良いもん!響夜と一緒に食べたいから」

 

「・・・はいはい」

 

木綿季がここまでして一緒に食べたいことが響夜に伝わったのか、呆れたように響夜は手を軽く荒って拭いた後、木綿季の隣に座る。

木綿季の膝には神楽がまだ寝ており、木綿季の服の裾を掴んでいる。

 

「一応出来たてだから冷ましながら食べろよ」

 

「分かってるよー」

 

木綿季はフーフーと熱々のドリアを冷ますと響夜に食べさせた。

 

「んぐ・・・」

 

「どお?」

 

「うん、美味い」

 

「じゃあボクにもしてー」

 

「ならスプーンを俺に渡せ」

 

響夜は木綿季からスプーンを渡されると木綿季が一口で食べれる大きさを掬った。

熱くないように冷まして食べさせた。

 

「あむ・・・」

 

「美味いか?」

 

「うん!」

 

「そうか・・・まだあるからもっと食えよ?」

 

「響夜もだよ?」

 

「分かってるから・・・」

 

響夜も大人しく木綿季に食べさせられているとオーブンの音が鳴った。

 

「んあ・・・焼けたから出して来る」

 

「はーい・・・神楽ちゃん、起きよ~?」

 

「・・・ぁぅ・・・」

 

木綿季に揺すられ神楽は目を擦りながらも目を覚ます。

するとドリアの匂いに気付いたのか周りを見る。

 

「ドリア・・・?」

 

「おう。神楽のは今焼けたぞ」

 

「ん、食べる」

 

「火傷しないようにね?」

 

「うん」

 

神楽の前にドリアを置いた。

焼きたてのため、滲み出た油が沸騰している。

 

「ん・・・いただきます」

 

「響夜も食べよー」

 

「はいよー」

 

響夜も木綿季と一緒にまたドリアを食べはじめた。

今度は神楽も木綿季と響夜に食べさせようとする。

それを嬉しそうに二人は食べた。

神楽も分かってくれて嬉しいのかニコニコしていた。

 

「神楽も熱かったら冷まして良いからな」

 

「うん」

 

「お蕎麦・・・食べれる?」

 

「少しは食べると思うぞ。余っても俺が食べ切るから安心しとけ」

 

「分かったぁ」

 

ドリアを食べ終えた響夜と木綿季はまだ食べている神楽の頭を撫でながら言う。

神楽は頭を撫でられることが好きなため、されるがままドリアを食べる。

 

「てかもうこんな時間か」

 

響夜が時間を確認すると23時30分。

もうすぐ日付が変わるため、響夜は蕎麦を冷蔵庫からとりだすと茹ではじめた。

 

「神楽と木綿季はまだ食えるか?」

 

「ん・・・食べれる」

 

「まだまだ食べれるよ~」

 

「んじゃ全部茹でる」

 

蕎麦を鍋の中に入れて2~3分ほどすると、茹で上がった蕎麦を氷水で一気に冷却する。

そして買っておいたつゆをかけて、柚子胡椒を少し振り撒くと響夜流の手打ち蕎麦の完成。

 

「ほれ、できたぞー」

 

「わーい!」

 

「神楽は一旦ドリア冷まそうか」

 

「・・・うん、ごめんなさい」

 

「謝らなくて良いよ。出来たてを10分程で食べろってもはきついから」

 

「・・・うん」

 

蕎麦が出来る前に食べ切りたかったのであろう神楽は少し申し訳なさそうにする。

それでも響夜は一口が小さいのを知っているため、時間がかかるのは分かっていた。

 

「まだ熱いな。少し冷ます間に蕎麦食っちまえ」

 

「うん!」

 

「響夜も早くー!」

 

「わぁーったから!俺の分今やってんだよ!」

 

早く食べたいのであろう木綿季は響夜を急かす。

すぐさま盛りつけて木綿季達の所へ急ぐと時間は23時50分。

 

「んじゃ、食べるか」

 

「うん!いっただきまーす!」

 

「いただきます」

 

木綿季と神楽は蕎麦を一気に啜った。

響夜が作った手打ち蕎麦はとても美味しく、こしがあった。

ほのかに柚子の香りがして、蕎麦単体だけで飽きないように工夫がされていたため、食べ易さも。

 

「美味しい!」

 

「ん・・・美味しい」

 

「そかそか。久々に作ったけど良かったよ」

 

「これなら毎年食べれるよ~!」

 

「それはきつい」

 

「あはは!」

 

木綿季の冗談とも言えない冗談に響夜は溜息をつく。

しかしこの会話を嫌とは思えず、寧ろ楽しいと感じた。

木綿季が響夜と暮らすようになってから色々と変わったのだろう。

神楽も頑張って喋れるように木綿季と頑張ったらしく、部屋の外に出ようとしたのも木綿季が率先したから。

しかし木綿季は響夜がいたからこそ昔の事や親のことを知ることが出来た。

響夜達にとってはこの一年はとても濃い物となったのだろう。

 

 

そんなことを考えていたら時計の針が0時0分を刻んだ。

この日を境に新しい一年がまた始まろうとしていた。

 

「日付が変わったな」

 

「だね~」

 

「これからもよろしくな。木綿季、神楽」

 

「うん!ボクの方こそよろしくね?」

 

「・・・よろしくね、にぃに、ねぇね」

 

日付が変わっても、年が変わろうとも、やることはいつも通り。

響夜は木綿季を。

木綿季は響夜を。

二人はお互いにお互いを支え合える存在で、神楽は二人の妹でありながら子供のような存在。

 

最初はただの事件の被害者同士だったのに、今では婚約関係を結ぶほどの仲となっていた。

それを当時の二人は予想は出来なかったのだろう。

しかし、これもまた二人が歩んだ人生の一つ。

幸せをお互いに求めたが故に今の二人があるのだろう。

 

「・・・ありがとな、いつも」

 

小さく呟いた響夜の声はしっかりと聞こえていたが木綿季はあえて聞き流した。

無意識だろうと思い、何もいわないほうが良いと思ったから。

 

「響夜。初詣いこ?」

 

「せめて寝てからな。徹夜で初詣とか眠くて楽しめない」

 

「うん!」

 

木綿季は響夜と神楽と一緒に初詣に行けることが嬉しいのだろうか。ニコニコしつつも、だらしのない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

普通に生きていたら会うことも無かったであろう少年と少女。

それがある事件によって巻き込まれた。

その切っ掛けだけでここまで変わる物なのだろう。

少年は今を大切にし、少女を必ず守る。

少女は少年をずっと支えていく事を決めた。

二人の関係は少しの事では切れないほど、深く絡み合っていた。

それが新しい年が更に強めて行くのだろう。

笑い合う二人はいつまでも共に幼き少女と歩き続ける。

世界が終わるまで、ずっと。

 

 




ちょっと適当過ぎたかな?という作者の考えは老いておいて。

次回はリクエストにもあった初詣。
それが終われば新しいストーリー編に入ります。
予想はしていただいても構いませんよ。
・・・一応答えを過去に書いている気がしなくもないですが。


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1月1日の初詣

年が開けると人々は色んな所へ向かう。

知人に挨拶回りや、いつも通り友人と遊ぶ者。

 

 

そして、神社にお参りをしに行くなど。

 

 

今日はその一日。

響夜達が初詣で起きた出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月1日。

前日の大晦日から少しの睡眠を取っていた響夜は木綿季に揺さぶられて起こされることとなる。

 

「きょーやー」

 

「んあ・・・」

 

「おっきろぉ~」

 

「ん・・・何だよ・・・」

 

「朝だよ~、初詣いこーよ~」

 

「・・・分かったから・・・とりあえずお前はそこからどけ」

 

「ぶ~」

 

現在木綿季は響夜の上に跨がっている状態であり、響夜からすると色々と当たっているのだ。

それをわざわざ口に出さないが、木綿季はそれに気付いていなかった。

 

「さて・・・着物あんのか?」

 

「あるよー!お買い物の時買ったもん~」

 

「・・・じゃあ神楽と一緒に着付けしてこい、あいつ一人じゃ出来んから」

 

「はーい」

 

木綿季は部屋を出ると神楽の所へ向かった。

その間に響夜はクローゼットから着物を取り出した。

以前木綿季と買い物をした時に一緒に買っていた。

シンプルな蒼色の生地の着物だが、響夜はこの色が好きだった。

 

「着付けは・・・どうやるんだっけか」

 

着物をあまり着ない響夜は着付けの方法を忘れてしまっていた。

神楽は知っているが自分では手が届かす出来ないので響夜に教えていた。

 

「んー・・・確か・・・」

 

響夜は微かに覚えているやり方を思い出しつつ着物の布を動かす。

肩にかけて、右布を左に寄せる。

この時に地面に触れない高さにし、左布も右に寄せる。

そして布を固定する腰紐と呼ばれる紐で布を固定するとあまりと言うやり方で紐を捩っていく。

そして着物にシワが無いように綺麗にならすと、紐を隠すもう一つの布を紐を中心にして巻いていく。

これもシワが出来ないように巻いていけば、着付けは完成。

 

「・・・見よう見まねだが、まぁ良いか」

 

クローゼットに付いている立ち鏡に自分の着物を写すと、出来栄えを見た。

シワは一つもなく、足元の裾はほぼ完璧に揃っている。

 

「さて、さすがに着物じゃバイクは乗れんし・・・神社も近かったような気がするが・・・タクシー使うか」

 

響夜は携帯で神社の場所を調べた。

それは『瀬戸神社』と呼ばれる神社で、交通安全の神社として名があった。

もしバイクが使えれば『明治神宮』に行きたかったが、木綿季は響夜と一緒に着物を着て初詣に行きたいと思い瀬戸神社にした。

 

「時々俺もお参りしてるし、ちょうど良いか」

 

瀬戸神社は海の安全と交通安全のご利益があるとされ、響夜はバイクを乗るため通ったらいつも賽銭をしている。

 

「響夜ー、出来たー?」

 

「出来たー、今行くから外出とけー」

 

「はーい!」

 

響夜はタクシーを携帯で呼ぶと部屋から出て、電気を消していく。

つけっぱなしは勿体ないのだ。

 

「お待たせ・・・綺麗だな、木綿季と神楽」

 

「えへへ・・・ありがと」

 

「ん・・・ぁりぁと・・・」

 

木綿季は紺色の着物に鈴蘭の刺繍で、元の長い黒髪と合わさり、大人びた雰囲気を。

神楽は明るめの青色で、椿の刺繍がされている。

木綿季と同じく長い黒髪だが、幼さが抜けきっていない神楽の着物姿は子供らしさが残る。

 

響夜に素直に褒められた木綿季と神楽は顔を赤くする。

特に神楽は普段言われ慣れない為か木綿季の後ろに隠れた。

 

「響夜のも・・・その・・・かっこいいよ」

 

「・・・あんがと」

 

「にぃに、かっこいい」

 

「恥ずいから言わんといてくれ・・・」

 

「ふふ~」

 

普段余裕持っている響夜が恥ずかしがっているのが珍しいのか木綿季はニコニコしている。

 

「・・・今日はタクシーでいくぞ、着物じゃバイク乗れねぇし」

 

「分かったー」

 

その後、タクシがやってきて3人は後ろの座席に乗り込んだ。

 

「お兄さん、行き先はどちらで?」

 

「瀬戸神社でお願いします」

 

「瀬戸神社・・・わかりました」

 

タクシーの運転手は行き先を聞くと車を動かす。

その手の仕事をしているだけあり、神社までの近い道を知り尽くしていた。

 

「初詣ですかい?」

 

「あー・・・まぁ、そんなとこです」

 

「夫婦でお参りですか・・・良いですねぇ」

 

「あはは・・・ありがとうございます」

 

運転手に夫婦と言われ響夜は苦笑いをするが、木綿季は顔を赤くする。

神楽はよくわからないといった感じで響夜と木綿季の手を繋いで遊んでいた。

 

「ボク達夫婦だって」

 

「神楽が娘か」

 

「う?」

 

「・・・なんも。神楽はいい子だなって」

 

「えへへ」

 

「む~」

 

「・・・家帰ったら思う存分してやるよ」

 

「わーい」

 

木綿季は神楽ばかり撫でられて羨ましかったのが表情に出ていたらしく、響夜にばれてしまっていた。

結局家に帰ったらしてくれることがわかり、嬉しがっていたが。

 

「着きましたよ、お兄さん方」

 

「ん、木綿季、神楽。先に出てろ」

 

「うん、分かった。神楽ちゃん出よっか」

 

響夜に言われ木綿季は神楽と一緒にタクシーから降りた。

そして響夜は運賃の三千円を払う。

 

「毎度あり・・・それとお兄さん」

 

「ん、どうしました?」

 

「今日に限った話じゃないんですがね、不良がこのあたりにちらついてるらしいんですわ。狙いはカップルや女性だけ何だとか」

 

「なるほど・・・」

 

「奥さんも狙われるかも知れませんからね、お兄さんはお客さんですから、一応と思いまして」

 

「これは・・・わざわざありがとうございます」

 

「いえいえ、そんじゃご利用ありがとうございました」

 

響夜はタクシーから降りると木綿季達を連れて神社に向かう。

この場所は神社の近くの駐車場なので、神社までは数分ほど歩くこととなる。

 

「神楽、歩けるか?」

 

「ん・・・だいじょぶ」

 

「疲れて来たら言えよ、背負ってやるから」

 

「うん」

 

「ボクも背負ってくれる?」

 

「当たり前だろうが・・・ほら、行くぞ」

 

響夜は木綿季と手を繋ぐと神社を目指して向かった。

道中響夜達と同じなのであろう着物を来た人がいたため、中々に人が来ていると予想が出来た。

すると神楽が階段辺りで足を踏み外して足を痛めた。

 

「ぁ・・・ぅ・・・」

 

「大丈夫か?」

 

「・・・ぅ・・・」

 

「どうしよう・・・大丈夫かな・・・?」

 

「まだ足痛めたぐらいなら放っとけば治るけど・・・痛いだろうし背負うか」

 

「じゃぁ・・・ボクが背負うよ」

 

「ん、そうか・・・足元マジで気をつけろよ。ここの神社の石段は危ないからな」

 

響夜が言った通り石段の傾斜は緩やかだが、幅が小さい。

しっかりと足元を気をつけてなければ足を踏み外してしまうだろう。

響夜は持ってきていたタオルを神楽の痛めた足に巻き付ける。

少し痛むだろうが無いよりマシの処置だった。

木綿季はそれが終わってから背負うと響夜と一緒に神社を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

響夜達が昇っていくと段々と人の姿が増えていった。

そして一番上に上がりきると周りには屋台が出ており、一番奥には瀬戸神社があった。

 

「やっと着いたな」

 

「うん・・・」

 

「あれから神楽背負ってるし・・・代わるけど?」

 

「ううん、大丈夫。ボクが背負っとくよ」

 

「無理して背負うなよ。疲れたなら交代すれば良い」

 

「ねぇね、めーわくなら歩くよ・・・?」

 

「う・・・」

 

響夜と神楽の攻撃により、木綿季は響夜に神楽を預けた。

何故背負っておきたいのかと言えば神楽の体温が木綿季にはちょうど良く、それでいて姉妹の触れ合いが出来るからだった。

だが疲れているのを二人に見抜かれたので疲れがとれるまで交代することにした。

 

「木綿季と神楽は行きたい屋台とかあるか?」

 

「ボクは・・・あそこがいい!焼きそば屋さん!」

 

「ん・・・金魚掬い」

 

「じゃあ先に食べ物系を回るぞ、じゃないと混みやすい」

 

「はーい」

 

近くに食べ物系の屋台があったため、響夜は先に木綿季から進めることにした。

木綿季はすぐに焼きそば屋に向かうと響夜はたいやき屋に向かった。

 

「たいやき3つ」

 

「あいよ」

 

「・・・?4つなんだけど」

 

「娘さんだろう?サービスだ」

 

「ありがとうございます」

 

店主は神楽へとサービスでたいやきを一つプラスする。

神楽も小声でお礼を言うと店主に聞こえていたのか喜んでいた。

 

「神楽は凄いな」

 

「ん・・・縁起物?」

 

「ホントにそんな感じだな・・・たいやき2個食っていいぞ、元々1個ずつだったしな」

 

「わぁい」

 

「とりあえず木綿季を見つけて座るか」

 

「ぅん!」

 

響夜は焼きそば屋からどこかへと消えた木綿季を探す事にした。

しかし響夜はここの屋台の順番をほとんど覚えている。

何度も来ており、屋台の大体の場所を記憶しているため木綿季が行きそうな場所をしらみつぶしに向かうことにする。

 

 

そうして何個か回っていると道端で言い合いのような物が聞こえた。

 

「ボクは行かないよ!」

 

「良いじゃんかー、俺とお前の仲だろ?」

 

「それでもボクは待ってる人がいるの!」

 

「後で良いだろ?ほら、いこーぜ?」

 

響夜がそれを見に行くと、言い合いしている相手の一人は木綿季。

何度見ても木綿季だった。

そしてもう一人は見知らぬ男だった。

 

「・・・はぁ、木綿季も色々連れて来るよなぁ」

 

「にぃにが言えることじゃない」

 

「はっきり言うな」

 

響夜は木綿季の元へ歩いていく。

それに気付いた木綿季は表情を明るくした。

 

「木綿季、お前どこまで行ってんの」

 

「えへへ、ごめんね?色々あったから・・・」

 

「まぁ良いけど・・・で、そいつは?」

 

「木綿季ちゃん、その男だれ?」

 

「響夜は知らなくて良いよ・・・もういこっ」

 

「お、おう」

 

「あっ、ちょ、木綿季ちゃん!」

 

木綿季は響夜の手を引っ張って屋台の中へと歩いていく。

まるで先程の男から逃げるように。

 

「ったく、木綿季。あいつ誰?」

 

「・・・中学の同級生。転校前の」

 

「・・・いたっけ、あんなの」

 

「響夜は覚えてないかも、いつも外に出てる子だから」

 

「じゃあ知らないな」

 

「ごめんね、やなことになって」

 

「構わん、どちらにせよお前をくれてやる気はない」

 

「っ・・・!・・・恥ずかしいよ・・・」

 

「そのまま恥ずかしがっとけ・・・とりあえずどっか座るぞ。神楽がたいやき食べたそうに俺の頭を叩いて来る」

 

「ぷぷ・・・じゃあ早く座ろ?」

 

手頃なベンチを見つけると木綿季はそこに座った。

響夜は神楽を降ろして座るとたいやきを木綿季と神楽に渡す。

 

「ありがとー!」

 

「良いよ、元々あげるつもりで買ってるし」

 

「ぱくっ・・・んむ・・・」

 

「こいつはもう食べてるし」

 

先程まで神楽は響夜の頭を軽く叩いていたのが嘘のようにたいやきを頬張る。

 

「ん~、美味しい」

 

「それたべたら神社行こうか」

 

「分かったぁ~」

 

響夜は二人がたいやきを食べ終わるのを待っていると奥の方に見たことがある人物を見つける。

その人物も響夜に気づくと近寄ってきた。

 

「ん・・・ありゃ和人と明日奈か」

 

「明日奈?!」

 

「ん・・・」

 

「おーい!響夜ー!」

 

「やっぱ和人だな、うん」

 

「ボク明日奈と話してても良い?」

 

「お好きにどうぞ」

 

「じゃあ話して来るね!終わったらベンチで待ってるから!」

 

「あいよ」

 

木綿季はたいやきをすぐに食べ終えると明日奈の所へ向かう。

 

「なんだ、お前らも来てたんだな」

 

「そりゃあな」

 

「しかし・・・和人よ。黒好きだよなぁ」

 

「うっせ、良いだろ」

 

和人の着物はゲーム内でも似たように黒色が基調となっている。

対称的に明日奈は明るい花柄の着物だったが。

 

「二人はもうお参りしたのか?」

 

「いや、まだだ。神楽がたいやき食べ終わってから行く」

 

「そうか・・・」

 

「あ、あとな。最近このあたりで不良がいるらしいから明日奈とか気をつけとけよ」

 

「ああ。明日奈の事は任せろ」

 

「頼んだぞ、英雄さん」

 

「うっせ・・・んじゃ行くよ」

 

「おう、また学校かALOでな」

 

「ああ、またな」

 

軽い話を終えると木綿季も終わったのか響夜の所にやってきた。

その頃には神楽も食べ終わっていたので響夜が背負うと神社へと向かうことにした。

 

「んじゃ行くか」

 

「はーい」

 

「うん」

 

「神楽は俺が背負うからな」

 

「む~、分かった・・・」

 

「家帰ったらいつでも神楽を弄べるだろうが」

 

「人聞きの悪い言い方を~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜達が神社に着くと結構な人が並んでいた。

人は色々で、カップルや夫婦らしき男女、男同士や女同士など様々な人が祈願しにきていた。

そして木綿季達の番になると五円玉を賽銭箱に入れて鈴を鳴らした。

そして手を2回叩くと、手をあわせて目をつぶる。

 

(木綿季と神楽で一緒に暮らせますように)

 

(響夜と神楽ちゃんで一緒に暮らせますように)

 

(にぃにとねぇねがいつまでも幸せになりますように)

 

3人はお祈りを済ませると家に帰ることにした。

ホントならばもう少し楽しみたいのが本音なのだが、神楽の足の事もあり、早めに帰りたかったのだ。

 

「帰るか、神楽の足を事考えて」

 

「だね、悪化したらダメだから」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「謝んなっての、嫌じゃないから」

 

「でも・・・」

 

「神楽ちゃん。良いんだよ。それにやりたくてしたわけじゃないんだから」

 

「・・・分かった」

 

「んじゃ帰るぞ」

 

「はーい!」

 

響夜は家に帰るべく、来た道を引き返して石段を降りていく。

すると木綿季と言い合いをしていた男が遠めに見えるのが分かった。

 

「木綿季。さっきの男いるぞ」

 

「嘘!?・・・うぅ、嫌だなあ」

 

「とりま駐車場まで行くぞ、そこじゃないとタクシーこれねぇから」

 

「・・・そうだね」

 

あまり良い思い出がないのだろうと響夜は思い、木綿季はこれから会うのだろう元同級生に溜め息を付いていた。

そして近くになると、男が木綿季に話しかけた。

 

「あ、木綿季ちゃん!」

 

「・・・どうしたの?」

 

「あれから探したんだよ!いきなりどっか行っちゃうんだから」

 

「そうなの・・・」

 

「俺と一緒にお参りしない?」

 

「えっと・・・ボク、この人ともう済ませたから・・・」

 

木綿季は響夜に抱き着くと男は響夜を怪訝そうに見る。

見た目で判断しているような目で、木綿季を下心丸出しだと響夜は判断すると、木綿季を少し後ろに移動させた。

 

「わりぃな。木綿季は俺の貸し切りだ」

 

「はぁ?木綿季ちゃんは俺と行くつもりだよね?」

 

「さっきから木綿季ちゃん木綿季ちゃんって・・・うっせぇなぁ。木綿季は親公認の相手なんだよ、いまさら何手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ」

 

「・・・親・・・公認・・・?う、嘘だよね?」

 

「・・・ホントだよ。ボクはこの人が好き」

 

「・・・嘘だ。木綿季ちゃんは・・・俺の・・・俺のだ」

 

男は錯乱したようにブツブツと何かを呟くと木綿季に近付く。

そして木綿季の手を掴もうとするが響夜がそれを止めた。

 

「もう一回言うぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の嫁に手ェ・・・出してんじゃねぇよ?」

 

 

 

 

 

響夜は本気でいらつきながら男に向かってそう言い放つ。

それに怖じけづいたのか男は響夜から離れた。

 

「・・・失せろ、うぜぇ」

 

それだけで男は急いでどこかへ走り去っていく。

響夜も溜め息を付くと携帯でタクシーを呼んだ。

 

「・・・」

 

「ねぇね。大丈夫?」

 

「・・・うん。大丈夫・・・」

 

「悪い。威圧し過ぎたか」

 

「・・・ボクが悪いから・・・ごめんね、響夜と神楽ちゃんこそ」

 

「ねぇね辛そう。素直になったのが良いよ」

 

「っ・・・」

 

「木綿季。家に帰ったら部屋にすぐに来い。それまでは少しは我慢してくれ」

 

「・・・うん」

 

響夜は木綿季の頭を撫でる。

そして少ししてやってきたタクシーに乗ると家に向かった。

その間は神楽がずっと木綿季に抱きしめられていたが。

 

 

 

 

 

 

家に到着すると、神楽はすぐに自分の部屋に向かった。

響夜も木綿季を連れて部屋に入る。

 

「木綿季」

 

「うぐ・・・」

 

「もういいぞ」

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!!怖かったよぉぉ!!」

 

「よしよし・・・」

 

泣くじゃ来る木綿季を響夜は抱きしめて背中を優しく叩いた。

泣き止むまでずっと。

 

 

木綿季は元同級生の男が怖かった。

中学からずっと付き纏われ、何かと話し掛けられた。

高校になり響夜と一緒になってから気にしなくなったが今回の一件で木綿季はさらなる恐怖を覚えた。

男の歪んだ愛情の執着心に。

その恐怖をひたすら家に帰るまで我慢し続けた。

それも限界になって木綿季は響夜に抱き着くと泣きつかれるまでずっと泣きつづけた。

 

響夜も木綿季を落ち着かせるように、優しく、それでいて強く抱きしめて。

それもあってか数分もすると木綿季から正しい寝息が聞こえてきた。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「ごめんな、守ってやれなくて」

 

 

「でも・・・いつでも頼ってくれよ」

 

 

「お前は俺の大事な嫁さんなんだからな」

 

響夜は木綿季の唇を重ねると一緒にベッドに入って寝ることにした。

時間帯としては夕方だったが、問題ないと思いそのまま寝付く。

いつの間にか木綿季に抱き着かれていたが、響夜は気にせず木綿季を抱き寄せてそのまま夢の中へと落ちていった。

 

 




はい、初詣回でした。
少し木綿季が悲しい感じになりましたが、中学時代の事がありましたから仕方ない・・・ですね。
ですが、二人はお互い依存し、支え合えるからこそ何でも乗り越えれる、そんな気がしてきました(書いててですが)

さて、次回からようやく書いてみたかったお話に入れます、章タイトルも次回投稿後に追加しておきます。
しかし思ったように書けるかは別ですよ?作者の文章力なんてなさすぎて上手く書けなさそうです。

感想とかありましたらよろしくです。


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《オーディナル・スケール》
現実世界に映された物


初詣から数週間。

世界ではあるものが人気を博していた。

それは『オーグマー』と呼ばれるもの。

数年前、世界初のフルダイブ型ゲーム機を開発した日本は更なる改良を重ねた。

そしてとある教授による論理により構築され設計された新たなゲーム機がオーグマーだった。

 

オーグマーに搭載された機能。

それは拡張型現実機能【AmusementReality】という拡張現実だった。

 

拡張現実とは人々が暮らす現実世界を拡張したもの。

簡単にいえば情報量が目に見える量で増えたということだろう。

それだけではオーグマーは売れなかっただろう。

しかしそれを爆発的に売上を作り上げる原因とも言えるのが【VR】と【AR】との違い。

 

VRは専用の機器を装着し、神経伝達を延髄でカット。

それに対しARは同じく専用の機器を装着し起動する。

だが神経伝達の遮断は行われず、現実世界での稼動となる。

 

これによりVRは危険性が、ARは安全性が高かった。

そしてこれによりARの連携機能によって世界は少しずつ変わりはじめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜は先程配達便が来ており、それを受け取っていた。

何も頼んでいないはずなのに届いた品に響夜は疑問を抱く。

 

「・・・頼んだっけか?」

 

記憶を探っていると階段から音がした。

長い黒髪だが幼い体つきで、響夜の妹である神楽。

先程まで寝ていたのか目を擦りながら下りて来ていた。

 

「おはよう、神楽」

 

「おふぁよぉ・・・」

 

「顔洗って来な、飯は後で作る」

 

「ふぁ~い・・・」

 

まだ夢の中にいたいのか声も緩かった。

響夜は神楽を洗面所へ行くように言うと届いた謎の段ボールをテーブルに置いた。

段ボールは一つではなく三つ届いており、大きさはどれも同じだった。

響夜は宛先は誰からか見てみると『重村』と書かれていた。

 

「・・・あの教授・・・」

 

何故三つなのか理解できなかったが名前を見るとすぐに理解した。

この中には世界を轟かしている機器が入っていると。

 

「・・・仕方ないな・・・ま、頂くか」

 

過去に響夜は重村からとある依頼を受けていた。

それはかつてデスゲームの舞台となったSAOの自立型システム。

重村はそのシステムのプログラムを組んでほしいと響夜に依頼した。

報酬が中々の金額でちょうど資金に困っていた響夜はそれを受けた。

だが遠い未来であの機器を送って来るとは思わなかったのだ。

 

「今は・・・8時か。学校はしばらく休みだし、木綿季を起こしに行くか」

 

響夜達の学校は冬休みに入っており、寝坊しやすい木綿季には天国だった。

しかし響夜がそれを許さず、朝の時間には基本起こしていた。

まだ起きて来ていない木綿季を起こしに行くべく響夜は二階へと上がった。

神楽の部屋のドアは完全に開いており、中が丸見えだった。

響夜はドアを閉めると自室のドアを開けて中に入った。

 

「すぴ~・・・すぴ~・・・」

 

「こいつ・・・」

 

気持ち良さそうに寝ている木綿季に響夜はどうしたものかと考える。

結果としてカーテンを開けて布団を剥がした。

 

「んぁ・・・!」

 

「今から10秒以内に起きなかったら抱きしめてやらない」

 

「今起きました!」

 

「・・・おはよう」

 

「うん!おはよう、響夜」

 

響夜の甘い誘惑に木綿季はすぐさま飛び起きると響夜に抱き着いた。

言い方を変えれば早く起きたら抱きしめるという意味で響夜は言ったため、抱き着いてきた木綿季を優しく抱きしめた。

 

「ふへへぇ~・・・」

 

「だらしのない声をだすんじゃねぇの」

 

だらし無い声をあげた木綿季に響夜は縦に手を構えると木綿季の額に軽く当てた。

 

「あうっ!?」

 

「まったく・・・ほら、飯作るから俺は下に行くぞ」

 

「ボクが作っていい?」

 

「良いが・・・昨日の朝と被らない物にしてくれよ」

 

「はーい!」

 

珍しく木綿季が朝を作ると言い出したため響夜は任せてみた。

というのも響夜が先に作ってしまうため、木綿季は朝を殆ど作れない。

だが、木綿季の料理の腕は確かで響夜と並ぶ。

しかし朝起きれるのかといえば悲しい結果になる。

 

「たまには俺が待ってみるか」

 

先に下に下りていった木綿季はおそらく準備をしているのだろうと思い、響夜は一階に下りると椅子に座って待つことにした。

神楽も顔を洗い終わり、椅子で木綿季の料理姿を眺めていた。

 

「ん・・・以外と様になってる」

 

「ほぇ?」

 

「・・・お嫁さんみたい」

 

「そ、そう?」

 

「だな。木綿季が料理してるとこあんま見れないし」

 

「それは響夜が先に作っちゃうからだよー!」

 

「ははは、悪い悪い」

 

「・・・悪びれてない」

 

「当たり前だろ、朝早くから起きれん奴に朝飯任せたら何時食えるんだ」

 

「うぐ・・・」

 

いつも響夜か神楽のどちらかに起こしてもらっている木綿季はぐうの音も出なかった。

響夜もしっかり木綿季が朝早く起きれるなら任せるつもりなのだが、朝が弱い木綿季には厳しい物だった。

 

「が、頑張って朝早く起きれるようにするもん!」

 

「そうか。ならせめて神楽より早く起きれるようにな」

 

「頑張って、ねぇね」

 

「むぅ~」

 

響夜と神楽に弄られようとも木綿季は朝ご飯をしっかり作ろうという気持ちがある辺り、やる気もあるのだろう。

そして木綿季は密かに朝早く起きれるように頑張る事にしたのだった。

 

「はい、できたよ~」

 

「たまには寛げるのは良いねぇ」

 

「おっさんくさいよ?響夜」

 

「まだ俺は20にもなってねぇよ」

 

「私は・・・いくつ?」

 

「神楽はまだ15だろ?」

 

「ボクは早く16にならないかなぁ・・・」

 

「16なったら色々あんだからな?・・・とりあえず食べるか」

 

「そうだね!」

 

あらかじめ神楽がお皿などを準備していたため、木綿季は盛りつけると少し片付けた後、神楽の隣に座った。

 

「それじゃ」

 

「いただきます!」

「いただきまーす」

「・・・ます」

 

あまりの小声の神楽は最後しか聞こえなかったがしっかりと三人合掌して食べはじめる。

 

「ど、どお?」

 

「ん・・・美味い。木綿季の料理はどれも美味いぞ」

 

「えへへ・・・」

 

「・・・おいしぃ♪」

 

神楽も抑揚をつけて言う辺り本当に美味しいと分かると木綿季も嬉しくなった。

普段神楽はあまり声に抑揚がなく、ほとんど喋る事が一部を除いてない。

響夜や木綿季、和人などSAOの知り合いぐらいとしか会話をしたがらない。

 

「うし、食べ終わったからあれを開けるか・・・」

 

「はやっ!?というかあの段ボール箱なんなの?」

 

「多分・・・あれだろうなぁ」

 

ずっと気になっていた段ボールを木綿季は不思議に思う。

配達などを頼んでいないため、内容が気になっていた。

響夜は段ボールの封を開けると発泡スチロールや緩衝材などを取り除くと中からヘッドセットのようなものが出てきた。

 

「響夜・・・それって」

 

「ああ。AR機器のオーグマー。恐らくあん時の追加報酬だろうな」

 

ご丁寧に3つあったのが響夜は気に食わなかったが、貰ったため素直に使うことにした。

 

「神楽と木綿季のもあるから、設定は自分でしてくれ。俺は自分ので精一杯」

 

「う、うん」

 

「ん・・・わかた」

 

響夜は段ボールを二階へと持って行くと一つを神楽の部屋に置いて二つを自室に置いた。

そしてオーグマーを取り出すと響夜はそれを装着した。

 

「はぁ・・・オーディナルスケール起動」

 

まるでそれを知っているかのようにオーグマーの設定を行っていく。

 

「まったく、変な計らいをする教授なこと」

 

オーグマーの論理を作り上げた重村を思い浮かべるも響夜はすぐに考えやめるとオーグマーの設定を細かく行っていくことにした。

 

 

オーグマーに秘められた機能を知ることになるのはまた後日。

 

 



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ARプログラムの危険性

はい。
投稿スピードが遅いですね。
それは普通に以前が学校の休日の関係上出来たのですよ。
今は普通にあるので・・・。
(モ○ハ○や艦○れ等をやりまくっていたために遅れた模様)


響夜はオーグマーの設定を行っていると自室の扉が開かれ、木綿季がやって来た。

手には先程響夜が渡したオーグマーがあった。

 

「どうした?」

 

「・・・これって・・・どうやるのかな?」

 

「・・・仕方ねぇなぁ・・・」

 

設定方法がわからない木綿季に響夜は呆れつつも、仕方ないと言った感じで教えることにした。

 

「オーグマーの設定教えてやるから一回起動しろ」

 

「・・・起動?」

 

「こうやるんだよ。オーディナルスケール起動」

 

響夜はオーグマーをまた装着すると先程の起動キーとなる言葉を放った。

 

「やってみな」

 

「う、うん!」

 

響夜に続き木綿季も付けると同じく復唱した。

 

「お、オーディナルスケール起動!」

 

すると木綿季の目には様々な画面が表示され、1番前に表示されているのはアカウント情報だった。

 

「え、えっ?」

 

「多分今木綿季にはアカウント情報画面が表示されてるはずだ。んでもって目に入るように手を動かしてみろ」

 

響夜に言われ木綿季は自分の手を目に入れる。

すると視界の右下にキーボードのボタンが出てきた。

 

「右下にキーボードのようなボタンがある。それを指で突いて」

 

「わ、わかった」

 

恐る恐るボタンに指を触れるように動かすとアカウント情報の記入欄の下にキーボードが出てくる。

パソコンと同じ配列で並んでおり、左にはシフトキーなどがあった。

 

「初回起動のオーグマーにはアカウント情報がない。最初に入力した情報がアカウント情報として記録されるから真面目に考えればいい」

 

「上の欄が・・・ユーザー名だよね?」

 

「そう。上の欄がユーザー名。下がパスワード欄」

 

木綿季はユーザー名にいつもの名前を入力し、パスワードはあるものを入力して登録した。

すると今度は年齢、住所、本名など個人情報入力になった。

 

「その次はもうできるだろう。今の木綿季の個人情報を入力すればいい」

 

「好きな食べ物・・・って意味あるのかな?」

 

「それは後で出てくるオススメの店を紹介する際に必要だけど・・・要らないなら入力しなくて良い。必要最低限の項目は赤色で表示されてるからな」

 

「・・・よしっ、出来たよ」

 

「なら一度落とすぞ。オーディナルスケール停止」

 

「オーディナルスケール停止!」

 

停止を言うとオーグマーの出力が切れて、目に表示されていた画面が何もなかったかのように消えた。

 

「木綿季。これが拡張現実だ。俺達が過ごす現実世界を弄る物だな」

 

「何だろ・・・VRとはまた違うね」

 

「あっちは脳全体を使った方法だけどこっちは身体全体を使った感じだな。あとしっかりと現実世界で意識がある所か」

 

「へぇ~・・・ん・・・む・・・」

 

響夜に違いを教えてもらっていると木綿季は目を擦りはじめた。

 

「・・・眠いのか?」

 

「ちょっと・・・慣れなかったから目が疲れちゃった・・・」

 

「なら寝てていい。俺ならすぐそこにいるから」

 

「うん・・・おやすみ・・・」

 

「おう。おやすみ」

 

木綿季はオーグマーを響夜に渡すとベッドに倒れ込んで寝てしまった。

響夜はちゃんと木綿季をベッドに寝かせて毛布をかけると自分のオーグマーの端末接続部をパソコンと繋げた。

 

「さて・・・早速中身を見ようじゃないか」

 

持ち前の技術で響夜はオーグマーの中身を精査していく。

何故このようなことをしたのかといえば、響夜の勘なのだろう。

気になったため、オーグマーを調べただけであり、気にならなければしていなかったのだろう。

 

「なんか・・・変だな。プログラムの配列が変だ」

 

オーグマーに組み込まれたプログラムを見ていると一部のプログラム文が変だと気づいた。

 

「これは・・・俺が組んだプログラムを少し変えたのか・・・一度整合してみるか」

 

オーグマーのプログラムをコピーすると、以前重村に渡したプログラムのコピーを照らし合わせた。

自動整合ソフトを使って変更されたプログラム文を解析にかけていく。

すると十箇所変更された部分があった。

 

「ここは・・・なんだろうか。プレイヤーの脳に対する記憶スキャン?何だこりゃ」

 

響夜が組んだプログラムには脳の全記憶スキャンなどは組み込んでいなかった。

それがこのオーグマーに入っていることから、何らかの要因でオーグマーの装着者に対して記憶スキャンが行われるのだろうと考えた。

 

「記憶スキャンなんぞ・・・下手すりゃやばいぞ」

 

人間の脳は全世界の脳科学者が日々研究をするほど興味深い物。

個々の脳は大部分が同じでも中身までは違う。

それが例えば性格や記憶力、言語能力、運動能力・・・など。

もし脳に対して強い電気信号がある場合何かしらが起きる可能性は大いにある。

 

このオーグマーは脳の記憶部分に大規模スキャンをかける物で、可能性として一時的な記憶喪失かまたは記憶全ての消失。

これがどれだけのものかは響夜にもすぐにわかる事だった。

響夜は部屋を出ると神楽の部屋に入った。

神楽は寝ているようでオーグマーを机に置いていた。

それを持って行こうとするとベッドから声がする。

 

「・・・にぃに・・・?」

 

「・・・少し借りるぞ」

 

「・・・なんか・・・あった?」

 

「・・・大分な。だがすぐに返す」

 

「わか・・・った・・・」

 

神楽もそこまで起きれなかったのかすぐに寝ると響夜は部屋を出て自分のパソコンに繋げた。

木綿季のも繋げると、記憶スキャンのプログラム命令文を書き換える。

 

「・・・スキャン部分は・・・そもそもスキャンの実行命令文を消そう」

 

数十分ほどキーボードをカタカタと叩いていると記憶スキャンのプログラム命令文を書き換えて消し去った。

他にも妙な部分がないか見て見るも、おかしな部分がなかったため、接続を解除すると神楽の机にオーグマーを置いた。

響夜と木綿季のも同じく響夜の机に置くと、一階に降りて冷蔵庫を開けた。

 

「ミルクティーは・・・マジか、午前の紅茶もう切れそうじゃん」

 

響夜が好んで飲むミルクティーの推しは『午前の紅茶』という名前のミルクティー。

普段ならば常に冷蔵庫にストックされているが買い忘れていたのか響夜が飲んでいる分で無くなってしまった。

 

「買いに行くにも・・・木綿季が起きたらあれだしなぁ・・・しゃーねぇ、木綿季が起きてから行くか」

 

今の時間はまだ朝方のため、木綿季が起きる頃にはお昼には行けるだろうと思い響夜は自室に戻った。

木綿季は気持ち良さそうに寝ており、ベッドの半分が空いていた。

 

「まるで俺も寝ろという寝方だな」

 

仕方ないといった感じで響夜もベッドに潜り込むと木綿季を抱きしめて寝ることにした。

完全に眠気があるわけではないが、ちょっとした睡眠ならば良いだろうと思いそのまま寝てしまった。

 

「おやすみ。木綿季」

 

「おや・・・しゅみ・・・」

 

 

 

 

 

響夜が行ったあの作業は後に大きな事件に大きく関わる。

それを知る物はただ二人だけだった。

 

 



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大食いの暴走

響夜はあることを考えていた。

 

オーグマーと呼ばれるAR機器はまだ出回る程に生産がされておらず、どこの店頭にも並んではない。

しかしある依頼の追加報酬として届いてしまったためにあることが懸念された。

 

「これってまだ・・・日本じゃ売ってないし、迂闊には出せないよな・・・」

 

重村は響夜を理解し、信頼したからこそ届けたのだろう。

そうでなければ響夜と言えど配達で届けはしなかった。

 

「世に出回るまでは保存だな」

 

日本に出回るまではオーグマーは封印することにし、響夜は今の時間を見た。

時間は19時で、かなりの時間寝てしまっていた。

 

「うげ・・・飯作ってねぇし・・・材料ねぇし・・・」

 

現在、家の冷蔵庫には食料品が無く、買い物に行かなければない。

しかし今の時間から行くと家に帰って作るまでを考えても20時は回ってしまう。

 

「・・・仕方ない。今日は外食にすっか・・・」

 

色々な事が重なり、仕方なく響夜は外食にすることにした。

配達は品によってはお店で食べれるものがあるため、却下された。

することを決めるとまずは木綿季を起こそうとするがその前にスマホで電話をかけた。

 

『こちら・・・市・・・町カズドです』

 

「雪宮です。席の予約をしたいんですが」

 

『はい、いつもありがとうございます。席の予約ですね。お時間は何時ぐらいでしょうか?』

 

「今から数十分ほどですね」

 

『わかりました。あまりにも時間がかかる場合は飛ばさせて頂きますね』

 

「了解っす」

 

『ではご来店お待ちしております』

 

電話が切れると響夜は木綿季を起こすことにした。

まだまだ起きなさそうな木綿季に響夜もため息が出そうだが我慢した。

 

「木綿季。起きろ」

 

「んにゃ・・・」

 

「おーきーろー」

 

「んう・・・」

 

中々起きない木綿季に響夜はあることをした。

木綿季の耳元で囁く作戦だが、これが案外効いたりする。

 

『起きろ、寝坊助』

 

「ふにゃぁぁぁ!?」

 

囁き声で起きたのか、木綿季は変な声をあげて飛び起きた。

その時に木綿季は響夜の手を掴んでいたため、響夜も一緒にベッドに倒れ込む。

 

「きょ・・・響夜・・・」

 

「・・・夜から変な声あげんじゃねぇよ・・・勘違いされるだろうが」

 

「勘違い・・・?」

 

勘違いということが分からなかった木綿季だが、響夜は手を離してもらうと着替えることにした。

 

「今日外食。理由は食材が無い、以上」

 

「う、うん。わかったよ」

 

「てことで着替えろ。じゃないと晩飯抜きになるぞ」

 

「それはダメ!」

 

食べることは神楽と張り合うほど好きな木綿季は晩御飯を求めてすぐに着替えに移る。

響夜はすぐに着替えると神楽を起こしに向かった。

 

「神楽、起きてるか?」

 

「ん・・・」

 

「今日外食なんだけど・・・行けるか?」

 

「ん、大丈夫」

 

「着替えたら下りて来いよ。あと夜で3人乗りは俺も怖いから歩いていく」

 

「わかった」

 

そう言うと響夜は部屋を出て自室に戻る。

すぐそこのため、あまり差がないが温度差が微妙に違ったりするため神楽の部屋と響夜の部屋はまた違った感じが出ている。

 

「着替え終わったか?」

 

「うん!バッチリ!」

 

自信満々に言う木綿季の服装を響夜はじっくりとみた。

これでも神楽の服装選びや木綿季の服装などを見たりするため、その時期の流行には強かったりする。

 

「うん、良いんじゃないか?ただ足が出すぎてる気がするな」

 

「そ、そうかな?」

 

「時間的にも寒いし、もう少し暖かくしないとかなり冷え込むぞ」

 

「はーい」

 

響夜としてはあまり服装に文句は言いたくないのだが、しっかり言わなければ木綿季や神楽が風邪を引いたりすると困るため軽く改善点を言うだけにしている。

先程の木綿季の服装は朝や昼の時間帯ならばちょうどいいのだが。

そんなことをしていると部屋のドアが開く音がした。

 

「着替え、終わったよ」

 

「おう。今日は歩きだからな、疲れんなよ?」

 

「えー、歩きなの?」

 

「この時間で3人乗りは怖いんだよ。安全運転するなら乗らずに歩く方が良い」

 

「そっかぁ・・・」

 

「・・・車の免許あった気がするし・・・車買おうかな」

 

かなり前に響夜は車の免許を取っている。

だが肝心の車を持っておらず、その時は基本一人だったためバイクを使っていたのだが、今となっては木綿季や神楽がいるため遠い場所への移動にも使える車を購入するのは悪くなかった。

響夜の父である拓也が車を持っており、駐車場は車二台のスペースがあるので駐車場にも問題はない。

購入の資金は色々な事をしたため、少しぐらい散財したとしても数台はまだ買える余裕があった。

 

「その時はボクもついていこうか?」

 

「ん・・・いや問題ないだろ。後々のこと考えて買うから」

 

「いっぱい乗れる車とか?」

 

「・・・買えたらな」

 

これを機に車の購入を検討することにし、響夜は準備が出来たため家を出る。

神楽はあまり体が強くないため歩ける時間が少ないからか、響夜と木綿季の三人で歩くことが嬉しいようで、いつもよりはしゃいでいる。

 

「~♪」

 

「こーら、危ないから木綿季と引っ付いてろ」

 

「ん・・・」

 

「元気だね~」

 

「最近三人でこうして歩くことは少なかったしな・・・」

 

「ねーね!にーに!」

 

「はーい?どうしたの?」

 

「どうした?」

 

神楽が木綿季と響夜を呼ぶと手を伸ばした。

それが何を意味するか理解すると左手を響夜が掴み、右手には木綿季が。

 

「・・・マジで夫婦じゃね?」

 

「ふふ、でもボクが16になったら本当にそうなるよ?」

 

「・・・式場考えておこう」

 

「~♪」

 

「神楽ちゃん、楽しい?」

 

「ん・・・楽しいっ」

 

「あー、仕事探さないとやばいかもなぁ・・・」

 

「仕事?」

 

「仕事探さないと貯蓄はあるけどそこまで持たないしな。最近してた依頼とかも安定してないからいつ無くなるか分からん」

 

「ん~そっかぁ・・・」

 

「でも正直当てはある。まぁ色々とあるからすぐには無理だがな」

 

「どんなの?」

 

「それはお楽しみ。ってことで着いたぞ」

 

響夜に言われ木綿季が気付くと、そこは大人気ファミレス『カズド』。

駐車場を見るとかなり入っているようで中もかなり混んでいた。

 

「ここ・・・入れるかな?」

 

「大丈夫だっての」

 

「ねぇね、入ろ?」

 

「うう・・・大丈夫かなあ・・・」

 

響夜はとっとと先に入っており、神楽は木綿季の手を掴んで中へと入っていく。

店内はかなり混み合っており、席はほとんど空いていなさそうだった。

 

「お客様、何名でございましょうか?」

 

「あー、3名です。んで予約した雪宮なんですが」

 

「先程電話予約なさいました雪宮様ですね。席は空いておりますのでこちらに」

 

事前に席の予約をしていた響夜の用意に木綿季は少しびっくりしていた。

これは店舗次第だが席の予約が出来るところもある。

スタッフに案内されると空いていた席に三人は座った。

 

「メニューが決まりましたらお呼び下さい」

 

そういい残すとスタッフは足早に次の客を捌きに行った。

 

「響夜・・・いつ予約したの?」

 

「まぁ、適当にな・・・ほれ、さっさと注文しろ」

 

「にぃに、これが良い」

 

神楽が指差すのは子供にはきつそうな特大ステーキだった。

これには木綿季も苦笑している。

 

「・・・マジで?」

 

「うん」

 

「・・・残したら怒るぞ」

 

「食べるもん」

 

「・・・」

 

「響夜、諦めよ?」

 

「はぁ・・・好きにしてくれ。ただ残すなよ」

 

「うん!」

 

神楽の無限の食欲と収めきれる胃袋が謎になったが響夜は前々から決めていた物を注文するため、あとは木綿季だけだった。

 

「ボクは・・・どうしよう」

 

「好きなだけ食えば良いけど残す量は頼むなよ?」

 

「じゃあ・・・」

 

スタッフを呼ぶと響夜はステーキとグラタンを注文し、神楽は先程の特大ステーキを。

そして木綿季はステーキ、グラタン、丼、パスタなど5種類も注文した。

スタッフも心なしか苦笑いが隠せないようだが、響夜は食べきれるなら何も言わないので気にしないことにした。

 

「で、では・・・少しお待ち下さい」

 

「はーい」

 

程なくして注文した料理がやってくると木綿季は目をキラキラさせて食べはじめた。

 

「ん~!美味しい!」

 

「よく食べるよな・・・」

 

「食べる子は育つんだよ?」

 

「らしいぞ神楽」

 

「ん・・・んぐんぐ」

 

神楽は特大ステーキを食べやすい大きさに切って食べていた。

さすがに時間がかかりそうだが神楽はしっかりと食べきれると思い、響夜は自分の料理を食べた。

 

「ん・・・やっぱうめぇ」

 

「そういえば、響夜ってここにいつも来てるの?」

 

「中学ん時とかも来てたな。おかげで店員に顔覚えられたっての」

 

「すごいね・・・だから席取れたの?」

 

「予約常習犯だぜ」

 

響夜は何度もこのカズドに来ており、常連客でもある。

神楽もよく響夜と来るため大食いを解消出来るために響夜の最終手段でもあったがまた一人増えてしまったため、響夜も真面目に仕事を考えはじめる。

 

「一応仕事自体は何となく目星はついてるんだよなぁ・・・」

 

「言ってたね。どんなの?」

 

「立ち上げるんだよ、会社を」

 

「えっ!?」

 

「アルが前に持ち掛けて来てな。一緒に会社立ち上げないかと」

 

「アルって・・・七色ちゃん?」

 

「そうそう。まぁあっちが落ち着いたらやるつもり」

 

「ほぇ~・・・何だかすごいかも」

 

「いや・・・実際すごいことだからな?」

 

事の大きさを木綿季は理解していないが会社一つを立ち上げるのは簡単ではない。

そもそも何をするのかで大きく変わるが立ち上げた後、軌道に乗らなければ倒産してしまうため賭けでもある。

 

「ま、楽観的にいけば何とかなるだろ」

 

「にぃに」

 

「ん?」

 

「私も・・・」

 

「・・・アルと話してからな」

 

「響夜、追加入れていい?」

 

「はいはい・・・」

 

話をしていたら木綿季はもう食べ終わったようで追加注文をしていた。

お財布には余裕があるため好きに食べてもらっていいのだが、金額が機になる響夜なのであった。

 

 

 



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天才は規格外

「ねー、響夜ー」

 

「あー?」

 

「最近夜中に通話してるよね?」

 

「あー・・・まぁ、そうだな」

 

「誰と話してるのかな?」

 

「・・・なんかありましたか、木綿季さん」

 

いつもならそんな事を気にして来ない木綿季に驚く。

しかし木綿季は疑わしそうに響夜を見ており、言わなければダメという雰囲気だった。

 

「・・・まぁ良いよ。和人と話してんだよ」

 

「和人と?」

 

「そ。まぁやることあるし、後々のこと考えてな」

 

「そっかぁ・・・」

 

「何をしてるか教えないけどな。まだまだ思想段階だし」

 

「む~・・・わかった」

 

「それとな・・・いくら心を許しているとはいえ、身嗜みはしっかりな。女の子としてはしたないぞ」

 

「ふぇ?」

 

「ほら、ここ」

 

響夜は木綿季の服・・・厳密にはスカートを軽く捲った。

なぜならば木綿季の水玉がチラチラと見えていたためだ。

 

「うう・・・」

 

「恥ずかしいと思うなら身嗜みはしっかりしろ。じゃないと他の男にそれ見られるぞ」

 

「う~・・・」

 

「俺が直したけどさ、常にそういうのには気をつけろよ」

 

「はぁ~い・・・」

 

「まったく・・・他の男に見せたくねぇし」

 

「う?何か言った?」

 

「何でもねぇよ。今日はお前がご飯作るんだろ?」

 

「あっ、そうだった!・・・作って来るね!」

 

「はいはい」

 

今日のご飯担当は木綿季となっていた。

というのも以前に響夜ばかりが作るため木綿季が抗議し、余裕があれば木綿季が作ることになった。

余裕というのが朝早く起きること。

木綿季は朝が弱いため、いつも響夜が朝ごはんを作っていたが木綿季はこのままでは将来駄目だと考え、朝早く起きれるように頑張っていた。

その成果が出たのか木綿季は以前より早く起きれるようになり、響夜も任せることが多くなった。

 

「しっかし・・・まさか木綿季が聞いていたとはな・・・内容は理解してなさそうだが」

 

響夜が和人と通話で出していた内容は仮想のNPCを現実世界に描写すること。

和人と明日奈には子供といって差し支えない『メンタルヘルスカウンセリングプログラム(MHCP)』である『ユイ』がいる。

最初は和人が響夜に話した程度だったが、響夜は仮想体を現実で描写してみるという構想に興味を抱き、暇があればお互いに話し合っていた。

今では思想だが、いつかユイを現実世界で和人達が暮らせるようになればと考えていた。

響夜と木綿季にはそのような子供はいないが、二人は親公認の許婚。

その気になればすぐに作れてしまうが、今の不安定な経済力で響夜は作る気が無い。

 

「しかし・・・子供・・・ねぇ」

 

 

「木綿季は願望あるし・・・俺も欲しいけど・・・今の不安定さでは子供が苦労するだけだしなぁ・・・」

 

響夜は今は無職で、時折入ってくる高額依頼をこなすだけ。

依頼は最低でも百万以上の報酬しか受けないが、その分苦労するものばかり。

安定し今より楽な仕事に就きたいというのが響夜の目標。

 

「・・・やはり立ち上げるか・・・いやでもなぁ・・・」

 

響夜は頭を抱えながら悩む。

研究の天才児であるアルは有名アイドルでもあるため忙しい。

そんな人物が会社を運営する暇があるのかすら怪しいというのが響夜の見解。

そんなことをうんうんと唸っていると携帯が鳴り響く。

 

「うおっ・・・誰からだ・・・?」

 

響夜は携帯をとると誰からかみる。

 

「・・・アルか」

 

先程まで考えていた人物のためどうしような悩むが、電話に応答した。

 

「なんですかい」

 

『日本に着いたわ』

 

「・・・聞き間違えか」

 

『に・ほ・ん!に到着したわよ!』

 

「あぁ・・・早いっすね」

 

『向こうの仕事を早く片付けたのよ。早く貴方とこれからの方針を決めないとだもの』

 

「あぁ~・・・いや、今はきつい」

 

『どうして?』

 

「・・・オーグマー・・・AR機器にな」

 

『?』

 

「まぁ気にしなくて良い。とりあえず方針と言えるかあれだが、作りたいのはある」

 

『へー・・・どんなのかしら?』

 

「仮想世界のキャラクターを現実世界に映す。人と殆ど変わらないぐらいの物を」

 

『・・・良いじゃない。私もそういうのには興味があるわ』

 

「それでだが・・・神楽と和人も入れるぞ。二人とも機械強いし」

 

和人は響夜と同じく機械系に強く、特に工作に向いている。

神楽は監視系が恐ろしいほどに強い。

その腕は防衛省のセキュリティをばれずに容易くハッキング、突破出来てしまう。

ハッカーとしての腕を今回のセキュリティとして動かせばというのが響夜の考え。

 

『神楽は・・・どうなのかしら?その和人って人も私はそこまでよ?』

 

「大丈夫。和人は工作系、神楽はハッカーと覚えれば良い。俺はプログラムな」

 

『・・・私は内部の設定、調整ってことね』

 

「一応言うが基本アルが主導だぞ。じゃないと話進まん」

 

『わかってるわ。でも最初は会社が軌道に乗らなければあまり出来なさそうだけど』

 

「まぁな。とりあえずの算段だしな」

 

『・・・会社経営は任せなさい。貴方達にはある程度の開発が出来るようになってから誘うわ』

 

アルが言った内容に響夜は少し驚きを感じていた。

それは響夜達の手を借りず、会社を立ち上げるものだからだ。

 

『大丈夫よ。私には・・・お姉ちゃんがいるから。心配しないで』

 

「もし、無理そうなら諦めろ。無理して乗せる必要はない。こういうのはな楽観的にいけば良いんだ」

 

『ふふ・・・そうね。覚えておくわ』

 

「響夜ー!出来たよー!」

 

「はいよー!・・・嫁さんが呼んでるんで切るぞ」

 

『ええ・・・半年は待ってなさい。それまでに乗せて見せるわ』

 

「へぇ・・・言うねぇ。それじゃあな」

 

アルが言った半年とはいつからの事を指すのか。

それが分からなかったが、そのうち呼ばれるだろうと思い、響夜は一度木綿季のご飯を食べるべく部屋から出た。

すると神楽の部屋も同時に開いて中からあの白い真ん丸お化けを携えて神楽が出てくる。

 

「おはよう、神楽」

 

「ん・・・にぃ・・・おは・・・」

 

「そのぬいぐるみ気に入ったのか?」

 

「ん・・・可愛い」

 

「まぁ良いけど。とりあえず顔洗ってこい」

 

「ふぁ~い・・・」

 

覚束ない足取りで神楽は一階へと下りて洗面所へと向かう。

響夜は同じく一階に下りると椅子に座る。

 

「お、良い匂いだな。すごくうまそうだ」

 

「ほんと?レシピ見ながらだけど頑張ったんだ~」

 

「神楽が来たら食べるか」

 

「うん!準備万端!」

 

ご飯も盛り付け終わり、神楽が来るのを待っていると奥から顔を洗ってきた神楽がやってきた。

先程とは違い、目が完全に覚めたのか軽く早足で椅子に座る。

 

「来たね。じゃあいただきまーす!」

 

「「いただきまーす」」

 

 

 

 

今日も響夜家は平和な一日。

しかしそれは毎日続くとは限らない。

いつかそれを崩そうとする物は現れるのだから。

 

 




そろそろ本編入りたいですね。
まぁ更新遅いのでいっそ月日を飛ばそうかと考えはじめてます。
そこは感想次第にして・・・と。

今回、神楽の得意分野が分かりましたね。
神楽はハッカーという謎技術。
逆にいえばそれを防衛に回せば大きな盾になりえる・・・というわけです。
ハッカーというのは防御の穴を見つけ、そこから侵入しますからね。


次回・・・更新何時だろう。
番外編の感想も待ってたりします。


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学校内での関わり

ある程度月日を飛ばしました。
入りかたはとしては変わらないので気にせず。
もうすぐ本編に入れる・・・かな?


拡張現実機器『オーグマー』の登場から数ヶ月程した頃。

木綿季と響夜と神楽はいつも通りの日常を過ごしていた。

時折アルから会社の運営状況を聞かされたり、和人と仮想体の話をしていた。

まだ冬の寒さがある3月。

響夜は卒業証があるとはいえ学生として在学しているため学校へ行く準備をしていた。

 

「あー・・・寒っ・・・」

 

制服に着替えるときも寒さがあり、暖房を利かしながら着替えていた。

木綿季は先に学校に行っているため、家には神楽と響夜しかいない。

 

「にぃに、入るよ?」

 

「あーはいはい。着替え終わったからもう行くか」

 

「うん」

 

神楽は既に着替え終わっており、首には蒼と白のマフラーが巻かれており耳当てもされていた。

 

「・・・暖かそうだな」

 

「ん・・・いる?」

 

「いや・・・なんかお前から盗ると罪悪感があるから良い」

 

「・・・?」

 

響夜は子供には甘いと自負しており、神楽はその辺の高学年の小学生ぐらいの身長のためどうしても罪悪感が出てしまうのだ。

しかし響夜の場合は引っ付いて来る人間カイロという名の木綿季がいるためそこまで問題は無かった。

 

「さて、行くか・・・バイク乗れ」

 

「はーい」

 

神楽は手慣れた手つきでヘルメットを被るといつもの席に座る。

響夜の前に座る形だが、落ちないようしっかりと響夜にもたれる。

 

「・・・神楽。自転車練習しよう」

 

「じゃぁ・・・買って?」

 

「買ってやるから自転車乗れるようになれ。便利だぞ」

 

「別に・・・外でない・・・」

 

「・・・引きこもりかよ」

 

「そうだもん」

 

「・・・」

 

「買っておいてやるからそのうち練習しとけ」

 

「ん・・・わかった」

 

神楽は両親が居なくなってから外に出ることが減ったため自転車にも乗らなくなっていた。

通学も学校へは徒歩で行くには厳しい距離のため自転車などが最適であった。

もっとも響夜はバイクで通学し、木綿季は普段は響夜と共にか自転車に乗る。

 

「んじゃ飛ばしていくぞ。余裕持って行きてぇし」

 

「うん」

 

バイクを思いっきり吹かすと、家を離れて学校へと向かった。

その道中を一人の学生が見つめているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響夜が学生に到着するといつもの駐輪場へと止める。

ちなみに響夜が使う駐輪場は教師用の場所で、学生のバイクや自動車登校者の駐車場でもある。

 

「ほれ、着いたぞ」

 

「ん・・・」

 

神楽のヘルメットを外すとバイクに鍵をかけて生徒玄関へと向かった。

すると普段なら空いている生徒玄関に人が集まっていた。

 

「んあ?なんでこんないるんだ」

 

「知らない・・・」

 

その場所は響夜の下駄箱に近いため、押しのけて進もうとすると一人の男子生徒が響夜に突っ掛かる。

 

「おい!押すんじゃねぇよ!」

 

「そう思うならこの野次馬共をどけろ。普通に邪魔だ」

 

「あぁ!?そんなのしらねぇよ!」

 

「はいはい。んじゃどいてください」

 

「・・・っち」

 

この手の言い合いは響夜からすると慣れっこのため気にはならない。

それより周りに被害が被らないかのが気にしている。

 

「神楽。俺先に行くぞ」

 

「ん・・・良いよ」

 

神楽を一人にはしたくなかったが、やむを得ず先に教室に向かった。

すると教室から何やら騒がしい声が廊下から聞こえていた。

 

「朝からうるさいもんだな・・・」

 

いつも通り教室のドアを開けると中から見知った人物の声がよく聞こえた。

 

「ちょっと!止めなさいよ!」

 

「やめろって!」

 

「何やってんだ・・・朝からさすがに煩いんだが」

 

「ちょっ・・・響夜!?」

 

何かを止めようとしていた人物には和人や里香、珪子がいた。

そしてその場所は響夜の座席。

 

「てめぇら・・・人の席で何してんだよ」

 

「あっ!時崎!」

 

「・・・」

 

響夜の旧名である時崎という名字を知る物は殆どいない。

だが目の前にいる同級生はその名を口にした。

 

「・・・誰のことだ?」

 

「お前だよ!時崎直人!」

 

「っ・・・で?」

 

「お前・・・自分の親殺したんだってな?!」

 

「・・・は?」

 

「近所に住んでた人から聞いたんだ!お前の母親はお前が殺したんだってなぁ!」

 

「へぇ・・・面白い話じゃねぇか。だが・・・信憑性には欠けるな」

 

「何人も口を合わせてるんだ!真実だろ!」

 

「どうせ近所同士の口裏合わせだろ。そんな簡単なのをよく信じ込む物だな」

 

「まともに授業に出ていなかったお前なら学校を抜け出せるよなぁ!?」

 

「てか・・・その話で何故お前が気にする?無関係だろう」

 

響夜は横見で自分の机を見る。

机の表面には傷があり、なにかで掘られた後がある。

またマジックで書かれた文字があるが、響夜はどうでもよすぎて見ていなかった。

 

「殺人鬼がこの学校に来るんじゃねぇよ!」

 

殺人鬼。

響夜が嫌う言葉。

人を殺すことは嫌う響夜にとってこれほどまで虫酸が走る事はない。

だがこの男子生徒が言いたいことは響夜はすぐにわかった。

つまりは人殺しが学校に通うなという事なのだろうと。

またあることにも気付いた。

 

「あぁ、なるほど」

 

「な、なんだ!」

 

「木綿季と俺が一緒なのが嫌なんだな。何故木綿季の相手がお前じゃなく俺なんだという劣等感。つまらん感情でよくもああ言える事だなぁ?」

 

「っ!だってそうだろう!人殺しのお前が何故紺野と仲良さそうにしてるんだ!おかしいだろう!」

 

「金持ちの餓鬼がいきんじゃねぇよ。所詮親の七光り頼りの癖して調子良いことおっしゃる」

 

「ああ!なら良いさ!必ず学校から追い出してやる!」

 

「そんな面倒なことしなくて良いだろ・・・」

 

教室のドアが開くと担任である桜が入ってくる。

響夜は封筒を鞄から取り出すとボールペンで記入する。

『退学届』と。

 

「桜先生。これ」

 

「どうしましたか・・・って、た、退学!?」

 

「そういうことなんで。それじゃ」

 

「ちょ、待ってください!」

 

その場にいた生徒全員が驚愕の顔で教室を去って行った響夜を見届けた。

それは先程響夜に取っ掛かっていた男子生徒ですら。

 

「雪宮君!どうして!」

 

「あー、こういう面倒事が嫌いなんで解決策にあった退学を選んだだけです」

 

「面倒事?何があったんですか!?」

 

「言うの面倒なのであちらに聞いてください。復学予定はありません。それじゃさよなら」

 

「ま、まって!」

 

響夜は桜を振り切るとすぐに学校を出ていく。

バイクには何もされておらず、すぐに走らせて敷地外へと出た。

通学路の途中にあるコンビニに一回止めるとスマホで木綿季と神楽にメールを送った。

 

『学校退学したから。明日から送り迎えの為だけに行く』

 

「・・・明日からどうすっかねぇ」

 

その場の流れで言ってしまった事を軽く後悔したが、過ぎたことを悔やんでも仕方がないため、響夜はアルに電話をすることにした。

 

「アルか?」

 

『ええ。珍しいわね。どうしたの?』

 

「あー、学校退学になった」

 

『・・・はい?』

 

「だから学校を辞めた」

 

『はぁぁぁぁぁ!?どうしてよ!?』

 

「おま、こえでけぇ」

 

いきなり大声を耳元で喰らった響夜は反対側の耳にあてて会話を続けた。

 

「成り行き的にそうなっただけだ。木綿季と神楽の送り迎え程度で学校行くだけで後は暇だな」

 

『成り行きって・・・』

 

「そこで、少し遊ぼうかなと」

 

『・・・オーグマーの事かしら?』

 

「ああ。なんでもボス的存在があるらしいじゃないか。暇だしやろうかなと」

 

『全く・・・好きにしなさいよ。でも神菜さんにはちゃんと言うのよ?』

 

「わーってるよ。大丈夫、大学には行く・・・予定だ」

 

『今つもりから予定に変えたでしょ』

 

「気のせいだ・・・とりあえず暇になったっていう報告」

 

『わかったわ・・・私も安定はしてきたけれどまだまだって感じでね・・・楽しみに待ってなさい』

 

「はいはい」

 

それを言い残すと電話を切った。

メールの返信が来ており、神楽からだった。

 

『見てるだけでごめんなさい・・・私も何か言えば良かったね・・・。ねぇねには私からも言うね』

 

「・・・久々にゲームでもするか」

 

響夜はスマホを仕舞ってバイクに乗ると家に帰ることにした。

なんとなく嫌な感じがしたため遠回りで家に帰る。

 

「何しよ」

 

家に帰っても殆どのゲームをやり込んだ為することがない響夜は何をするか悩むのであった。

 

 



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学校の疑心と理事長

急展開とか知らないです。
早く本編入れたいのと日常編長くなりそうだったし。


響夜が桜に退学届をたたき付けた後の教室。

騒動を起こした男子生徒は他の先生がやってきて何があったのかと聴取をしていた。

そして日直の仕事が一段落して教室に戻ってきた木綿季は教室の中がいつもより静かなのに気がついた。

 

「・・・?」

 

桜は戻ってきた木綿季に近付くと木綿季に先程響夜から受け取った退学届を渡す。

渡されたそれに木綿季は困惑しつつも桜に聞いた。

 

「あの・・・先生。これは?」

 

「・・・雪宮君の・・・退学届です・・・」

 

「・・・ぇ?」

 

「私が・・・教室に入ると雪宮君が私にこれを・・・」

 

「・・・そう・・・ですか・・・」

 

「・・・心配なのであれば・・・1時間目は私の授業です。早退して見に行っても・・・構いません」

 

「・・・はい・・・」

 

木綿季は帰る用意をするとすぐに教室を出て靴を履き変えると今日使った自転車に乗って自分達の家に戻った。

 

「なんで・・・響夜が・・・」

 

急いで漕いでいるとあまりにも速度が出てしまい、ブレーキが効かなくなっていた。

それに焦った木綿季は止めようとするも、ブレーキは効かない。

 

「うう・・・やばい!」

 

早めに止めなければもうすぐ十字路の道のため、かなり危ない。

すると目の前に見慣れたバイクが木綿季の目に入る。

 

「・・・響夜・・・?」

 

何故こんな場所にあるのかわからなかったが、木綿季は足を地面につけて擦らせてブレーキをかけようとする。

それに響夜も気付いたのか顔を引き攣らせている。

 

「・・・」

 

「響夜ー!止めてぇぇぇー!!」

 

「・・・マジか・・・」

 

その後、どのように止めたのかは本人達の知るのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木綿季。何か言うことは?」

 

「ごめんなしゃい・・・」

 

「・・・ったく。神楽から聞いたんだろ?」

 

「・・・あ」

 

「・・・家から追い出すぞ・・・」

 

「うぇぇぇ・・・やだぁぁ・・・」

 

「とりあえず・・・自転車乗れ。安全に漕いで」

 

「う、うん・・・」

 

響夜は先程の自転車特効を止めた木綿季を褒めはせず、怒っていた。

急いでいたとはいえ、ブレーキが効かないほどまで漕いでた事は危険性があった。

事故を起こしてほしくない響夜にとっては心配と怒りがあった。

 

「・・・しばらく自転車禁止」

 

「えっ?」

 

「送り迎えはしてやるから、しばらく乗るな」

 

「はーい・・・」

 

「まったく・・・」

 

「・・・ごめんね?」

 

「もういいよ。反省してんだから」

 

響夜は片手で木綿季の頭を優しく撫でた。

それに木綿季は「にゃー」と言いながら目を細める。

 

「・・・猫みたいだな」

 

「ふへへ~」

 

「もうすぐ家だからちゃんと前見ろよ」

 

「は~い」

 

しばらく二人は歩いていると家に到着したため、バイクと自転車を止めると家に入る。

 

「ただいまー」

 

「たっだいま~」

 

「・・・神楽いないから静かだ」

 

「だねぇ~・・・神楽ちゃんはどうするの?」

 

「授業終わったらメール寄越すだろ。そん時にでも迎えに行く」

 

「ふへ~・・・で、なんで退学届出したの?」

 

木綿季はかばんの中に入れておいた響夜の退学届を取り出す。

 

「・・・木綿季を好きな奴が俺とつるんでるのが気に食わないらしい。まぁそんなもん俺は気にしないが、木綿季にまで被害行くと俺が歯止め出来る自信が無い」

 

「・・・別に大丈夫だもん」

 

「木綿季まで汚名をかぶらなくていい。てか俺もやることが出来たから休学届出す予定だったんだよ」

 

「やる事って?」

 

「お前に教えると学業疎かにするだろうが・・・そのうち教えるからそれまで我慢しろ」

 

「はーい・・・」

 

「あとお前が退学届持ってきてるんなら、書き直す」

 

「へ?」

 

響夜は退学届を破り捨ててごみ箱に入れる。

その光景に木綿季はぽかーんとしている。

 

「休学届にでもする。授業は・・・気が向いたら出てやるよ」

 

「ほんと?」

 

「多分屋上にでも居るし、その時はメール送るから」

 

「うん!」

 

「あとは・・・母さんか・・・」

 

「神菜さんってあの学校の理事長・・・なんだっけ?」

 

「ああ。研究職と兼用でやることじゃないが、学校長とはまた別らしい」

 

「ほへ~」

 

「基本的には学校長がトップだが、理事長が在日しているときは理事長が一番上だな」

 

「神菜さんって意外とすごい・・・」

 

「休学届は別に母さんに言えば受理されるようなもんだから、理由も言っとくよ」

 

「じゃあ・・・ボク先に上に上がって着替えて来るね」

 

木綿季はかばんを持って二階へと上がっていく。

響夜はその間にスマホで電話帳から神菜の名前を探して電話をかけた。

 

『はい、神菜です』

 

「母さん?響夜だけど」

 

『響夜?どうしたの?』

 

普段ならあまり電話をかけて来ない響夜に少し戸惑いつつも聞いた。

 

「学校なんだけど・・・休学していいか?」

 

『あなた自体は卒業しているし構わないけれど・・・どうしたの?』

 

「・・・ちょっとやることが出来たんだよ・・・アルのお手伝いみたいなもの」

 

『アルちゃんの・・・分かったわ。あの子は人に頼らない節があるから心配だったのよ。響夜も時々で良いから見ててあげて』

 

「実際には会えねぇけど・・・まぁ電話で話す事になるし良いよ」

 

『そーれーと!木綿季ちゃんを泣かすんじゃありませんよ?』

 

「誰が好き好んで木綿季を泣かせなきゃならねぇんだよ!」

 

『あら?それだけ自信満々なら早く結婚しちゃいなさいよ』

 

「木綿季の年齢考えろよ・・・」

 

『あら、木綿季ちゃんまだ15歳だったわね』

 

「16歳なったら・・・って何言わそうとしてんだ」

 

すると電話から小さく舌打ちが聞こえる。

それに響夜は溜め息をつく。

 

「まぁ、そういうことだ。学校はしばらく休学する。行くとしても屋上昼寝」

 

『あまり木綿季ちゃんと神楽ちゃんに心配かけたら駄目よ?』

 

「・・・分かってる。母さんはのんびり研究してろ」

 

『はいはーい。それじゃあね』

 

それを言い残し、電話は切られた。

するとお腹から音がなる。

 

「・・・着替えたらご飯食べよう」

 

いつの間にかお昼の時間だったことに驚きつつも響夜は二階へと上がっていくのだった。

 

 

 



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学校後のお家

「ん~♪」

 

「美味しい?神楽ちゃん」

 

「うんっ」

 

そういうと神楽は次々とその手を進める。

 

「まぁ・・・木綿季のご飯は美味しいからな」

 

「えへへ~・・・」

 

「にぃに。学校・・・どうするの?」

 

「あ~・・・学校は休学届を出すよ。ただ復学しても授業出るか知らん」

 

「そっか・・・」

 

「・・・なぁ、木綿季」

 

「ん~?」

 

響夜に言われ木綿季はご飯を食べるのを止めると二人に向き合う。

 

「学校も急に休んで、お前に何も言わずで迷惑かけたけどさ・・・神楽の事頼んでも良いか・・・?」

 

「・・・良いよ。元よりそのつもりだもん!」

 

「・・・悪い」

 

「大丈夫だよ!ボクが神楽ちゃんをしっかり見ておきます!・・・だから早く戻ってきてね?」

 

「そんな重大な仕事でもねぇけどな・・・でも早く帰るよ。心配かけないように」

 

「うん!ご飯作って待ってる!」

 

「・・・ありがと」

 

照れ臭くなり、響夜は顔を逸らすと木綿季の頭を乱暴に撫でた。

木綿季も最初は驚くもすぐにされるがまま撫でられていた。

 

「基本はいつも通りだからな。本格的になれば遅くなるだろうけど・・・」

 

「大丈夫。待ってるから。響夜の事信じてるもん!」

 

「ありがとう、木綿季」

 

自分には勿体ないぐらいだなと響夜は内心思いつつも、そんな木綿季を独占出来る事に少しばかり優越感を抱く。

 

「・・・木綿季ってホントに良いよな」

 

「ふぇ?」

 

「あ・・・いや~・・・何でもねぇょ・・・」

 

声に出ている事に気づかず響夜は段々と声が小さくなる。

しかし木綿季には聞こえていたのか顔が赤くなっていた。

 

「・・・響夜・・・聞こえて・・・たよ・・・」

 

「・・・言うな」

 

「あ・・・えっと・・・響夜」

 

「木綿季。それ以上はまだ早いっての」

 

「・・・ぅ・・・」

 

もじもじとしながら何かを言おうとした木綿季に響夜は何を言おうとしたのか気づき、それを制した。

響夜は生半可な気持ちで木綿季と結婚はしたくない。

しっかりと16歳になって改めて木綿季の家に挨拶をしようと響夜は考えていた。

 

「・・・お母さんが早くしちゃえって・・・」

 

「そりゃあ早く娘の子供ぐらい見たいだろう。母さんも同じだ」

 

「・・・ボクは・・・別に・・・今からでも・・・」

 

「阿呆か。いざ出来たとして育児出来ねぇだろうが。お前は学生で俺は仕事就いてないんだから」

 

「うぅ・・・」

 

「もっと余裕が出来てからな。その頃には・・・色々と大丈夫だろうし」

 

「・・・うん」

 

「さて、もう寝ようか。こんな時間だぞ」

 

「えっ!?ほんと!?」

 

木綿季は響夜に言われ時計を見ると時間は0時を回っていた。

神楽はいつの間にか席を外して食器を片付けて2階に上がっていた。

 

「神楽は・・・もう寝てるだろうな」

 

「だよね・・・う~、しんみりとし過ぎたぁぁ・・・」

 

「さっさと片付けるぞ。お前は明日も学校なんだから」

 

「う~・・・わかった」

 

二人は早くご飯を食べつつも少し雑談を交えながら食べ終える。

片付けは木綿季がやろうとするも響夜が先に部屋に行けと言われてしまったため、木綿季は2階の部屋に行く。

木綿季も家事は出来るが、数年以上雪宮家の家事を一通り担っていたため響夜のが効率よく片付けも行える。

 

「これを洗って・・・これはここにしまってっと」

 

いつになく慣れた作業で洗った食器や調味料を仕舞っていく。

その作業を終える頃には時間は1時近くになっており、響夜は木綿季がいる2階へとあがる。

 

「木綿季ー、終わったぞ」

 

響夜が部屋に入るとベッドにはこんもりと膨らんだ布団があった。

それを静かにめくると中には神楽とそれを抱いている木綿季の姿があった。

 

「・・・まったく。神楽が姉離れ出来なくなるだろうが・・・」

 

神楽は集団恐怖症からなのか個人に対する依存が普通の人より人一倍強い。

それを懸念して神楽には個別の部屋があるのだが、時折こうやって響夜か木綿季と寝ようとする。

 

「すぴ~・・・すぴ~・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・ま、幸せそうに寝てるし起こさないでやるか・・・」

 

響夜は顔が出る程度に布団をかけるとクローゼットから畳まれた毛布を取り出す。

そして自分が良く座る椅子に腰掛けると毛布をかけて目をつぶる。

 

「・・・おやすみ、二人とも」

 

 

 

 

その後、翌日朝早く起きた木綿季は椅子に座って寝ている響夜に申し訳なくなり、泣き出しそうになったのはまたいつかのお話。

 

 




なんか甘い・・・のですかね。

それと最近書く内容が思いつかなくなってきました。
OSもある程度オリジナル要素入れるとは思うので結構掛け離れる・・・予定です、予定ですけど。


それと自分のやる気が出れば新な小説【リリカルなのは】の小説を書こうかなと思います。
確実にオリジナル要素満載でチート主人公になりますが、やる気が出ればのお話なので未定の段階・・・。


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イベント当日

重村教授により、実用的運用が可能になったオーグマー。

それが世に広まっていくのは遅くはなく、様々な店舗が連携してサービスなどを広報していた。

それにより響夜達が受け取ったオーグマーも堂々と出せるようになった。

 

 

 

 

響夜と木綿季は基本装着しており、木綿季は明日奈達と、響夜は神楽と共に遊んでいた。

一緒に暮らしているからか、一緒に居ない時間を作ろうと響夜が提案したため木綿季は明日奈や珪子などかつての仲間とケーキやパフェなどお菓子巡りをしていたり。

 

「神楽、次は?」

 

「ん・・・あれが良い」

 

「はいはい」

 

響夜は神楽とゲームセンターに来ていた。

当然の如くオーグマーの連携機器が置いてありそれが目当てといって良いほど。

基本的に普通のUFOキャッチャーだが、オーグマーの連携を使うと連続で物が取れる。

1プレイ200円だが、その分一発で取れれば次も挑戦可能と挑戦者の腕が試される。

 

「神楽がやるか?」

 

「うん。にぃにも隣の機械でやって?」

 

「はいよ」

 

神楽に急かされ響夜は自分のと神楽のプレイ分を投入する。

神楽もそこそこ物は取れるが響夜には到底及ばない。

狙った物を確実に取れる響夜のが異常なのだ。

 

 

二人が満足する頃には景品の半分が消え去っていたが、合法的に入手したためスタッフも口出しができなかった。

 

「にぃに、これ」

 

「お、あん時のぬいぐるみの違う奴か」

 

「うん♪」

 

珍しく神楽が上機嫌なのは某2Dアクションゲームに出てくる白い真ん丸照れ照れお化けが取れたからだった。

神楽の部屋には真ん丸、王冠付きとあるが今回はピンク色のお化け。

ぬいぐるみ好きの神楽はこういったゲームキャラのぬいぐるみも好きなのだ。

 

「もう・・・帰る?」

 

「あ~・・・結構入り浸ってたな」

 

響夜が時間を見るとゲームセンターに到着した時刻が8時で今の時刻は17時。

9時間もゲームセンターで遊んでいる事に驚くも、面白みがあって楽しめたため気にはしなかった。

 

「木綿季も家に帰ってるだろうし・・・戻ろうか」

 

「はぁい」

 

神楽は手に先程手に入れたお化けを抱えながら響夜についていく。

響夜も神楽と自分の戦利品を持ちながらバイクに乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に到着すると家の明かりが点いており、木綿季が家にいると分かる。

 

「今は・・・18時か。結構混んでたしな」

 

「早く、帰ろっ。これ見せる」

 

「お、おう」

 

余程ピンクお化けがとれたのが嬉しいのか木綿季にも見せたいようだ。

バイクを止めて二人は家の扉を開ける。

その音に気付いたのか奥から木綿季が出てくる。

 

「おかえり!響夜、神楽ちゃん」

 

「おう、ただいま木綿季」

 

「ただいま、ねぇね」

 

「もうご飯出来てるよ!」

 

「お、じゃあ早速食べるか」

 

「うん!」

 

木綿季の手料理は神楽も喜ぶほど美味しい。

普段あまり感情を表に出さない神楽や作りなれている響夜も。

最近では朝起きる時間も早くなってきて、響夜も感心していたり。

 

「今日のご飯はシチューだよ!」

 

「ほ~・・・」

 

「ん・・・良い匂い」

 

「最近二人の好物が何となく分かってきたからね~」

 

「教えてねぇのによく見てるよなぁ」

 

「これでも響夜のお嫁さんだからね!ちゃんと知っておかなくちゃ」

 

「・・・神楽に聞けば教えてくれるとはおもうけどな、俺の好物全部覚えてるらしいから」

 

「へぇ・・・神楽ちゃんあとでね?」

 

「っ・・・」

 

木綿季の視線が神楽に向けられるも優しい視線。

神楽の事を理解している一人になった木綿季はどういうのが苦手なのかを分かっているため、鋭い視線は一切向けない。

 

「そういや・・・今日ってイベントあるんだっけか」

 

「そーらしいね、和人達も来るらしいよ?」

 

「へぇ・・・まぁ神楽はお留守な。お前運動神経死んでるし」

 

「ん・・・分かった」

 

「響夜って運動出来るの?」

 

「お前よりある。持久力だけは無駄にあるから心配すんな」

 

「ほぇ~・・・ボクも自信あるからね!」

 

「そうか・・・てかシチューがくっそうまい、俺のより美味いわ」

 

「へ?ホント!?」

 

「ん・・・美味しいよ?」

 

神楽も普段より沢山食べており、木綿季も褒められた事に嬉しくなる。

大量に作られたシチューはすぐになくなり、木綿季を休ませて響夜が洗い物をしていた。

 

「ねー響夜」

 

「あー?」

 

「今って何時~?」

 

「今って・・・」

 

時間を見ると20時。

イベントがあるといわれているのg21時で集合時間が20時30分あたりとなっている。

 

「・・・やばい」

 

「だよね」

 

「・・・私・・・やるよ?」

 

「・・・じゃあ・・・頼んでいいか?」

 

「ぅん♪」

 

響夜は神楽に洗い物を託すと、すぐに木綿季が2階へと行き用意をした。

その間にバイクのエンジンをかけに外に出る。

殆ど用意はしていたようで、木綿季はおりてくると神楽を軽く抱きしめてから家を出た。

 

「それじゃ行ってくる」

 

「ん・・・行ってらっしゃい」

 

「すぐに帰るからね!」

 

神楽に見送られ二人は和人や明日奈達と待ち合わせしている場所へとバイクを走らせて急ぐのだった。

 

 



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