元アイドルであったものはデレマス世界で何を想う (しましまパンダ)
しおりを挟む
全ての始まり
デレステのコミュ見てたら突然やってみたくなったのでやってみました。
主人公の口調どうしよう……
本日の目覚めはいつも通りスッキリとした目覚めではありました。しかし、夢で逢ったことを振り返るのであれば何か変わる予兆なのかもしれません。なーんて、詩人ぶってみる。
私の目覚めに遅れて鳴り始めた目覚まし時計を止め、洗面台へ向かいます。朝起きてそのままというのは何だか気持ち悪いからね。
自室から出る時に私の目に入ったのは現在通っている高校の生徒手帳と学生服でした。学生服はまあ、自分が着る事を考えなければ文句なく可愛いです。
そして、生徒手帳へ目線を移すと、そこに貼ってあるのは肩にかかるか掛からない程度に伸ばしている客観的に見て可愛い女生徒が写っている。
氏名欄に目を移せば、綺羅ツバサという名前が書かれています。その名はこの世界における私の名前です。名前を聞いて某学校アイドルに出てくるライバルグループのセンターを思い出す人もいるかもしれません。
そうです、その綺羅ツバサです。外見はね。外見以外は、唯のどこにでもいるモブ男です。
中に男が入っている辺り、何があったのかと思いますが、良く二次創作とかである憑依転生系なテンプレなアレ。
前世は若いころはアイドルやってて結構有名だったんですよ。何で転生できたといえば、神様曰く、お前もうちょっと自己に対する欲を覚えんかいってことらしいです。
その癖に、女性へ転生させるあたり神様とはいっても完璧な存在ではないようですけどね。神様に会った時に言われたことについて聞いてみたんです。
そしたら……
『お前の事暇だったから見てたんだけどよ。お前、生きてるうちで相手をどれだけ楽しませられるかだったり、相手が不幸にならないようとかそんなことばっかり考えて生きてたろ。』
『そうですかね。ゲームとかもある程度やってましたけど……』
『それだって、友人に言われたからだろ。そんで、人に色々やってた結果病み女共に刺されてDead Endだったじゃねえか。その後正気になった女どもが取り乱してる時にお前聖人みてえなこと言って落ち着かせて死んだじゃん。』
『ん~まあ、そんなこともありましたけど。向けられる愛とか異性に対する事とか良く分からないので変なことを言ったかもしれないですねえ』
『俺はよ、そういうのばっかやって、自分のために生きてないお前の人生を見たわけよ。だから、ここは神様の俺がチャンスやろうってわけよ。』
こんな感じの流れで転生させられました。中身男な私が女性になったところで何が変わるのかって話ですけどね。
それで、神様からもたらされた転生先がこの綺羅ツバサの肉体だったんです。この体になり、名前を知ったときはラブライブ!っていう前世で少しハマっていたアニメの世界に来たと思ってました。
流れを変えないように昔の私のように踊るも良し、歌うもよし、演技するも良しの三拍子そろったスクールアイドルになるためにせっせと無理しないように練習していたわけです。
子供からあの日までの夢はA-RISEとして主人公達の壁となってラスボスっぽくなりたいなと思ってました。
あの日ま…「おはよう、ツバサ。顔を洗いに行くのか」
「おはよ。そうですね、とりあえず寝起きなのでさっぱりしたいので行ってきます。」
先ほど廊下で話しかけられたのは父の綺羅
年齢は四十代に入っているはずです。累計年齢で言えば私の方が上ですね。そんな相手を父と呼ぶのも変な感じはしましたが、今では慣れました。
あの日と言うのはこの世界に音ノ木坂が無いのを知ったときです。廃校になったわけでもなく、純粋に存在しないようですでした。
中学二年生の冬でしたか。進学先を決めるために初めて高校について調べたんです。そうしたら、UTXも音ノ木坂もなかったので神田や秋葉原へ向かい直接確認しに行ったんですよね。
そしたらUTXはUDXという何か名前変わっていて学校ではなかったですし、音ノ木坂の有るはずの場所にも普通に別のものがありました。
それからですね、アイドルがどうこうという事無くなり、何をすればよいのかわからなくなったのは。この日以来、通っていたダンススクールも辞めて、ボイストレーニングであったり全て辞めました。
必要なかったからです。どのスクールの先生も残るように言われました。この先、頑張っていけば必ず大成し、世界へ名前を轟かせることができるってことも言われましたが、どうにもそういう事には興味がなく、両親にも興味が無くなったと言って辞めさせてもらいました。
両親はこれまで精力的かつ、すべてを賭してやってきたことに対して突然興味がないと言えば何か聞きたくなると思うんですがそこは、二人ともお前がそれでいいなら良いと言ってくれて嬉しかったです。
ただ、この名前を世界へと言われたときの話を聞くと、野心がある女の子や男の子は頑張れるらしいですね。
多分、こういうのが神様が言っていた私にない欲なのでしょうか。こんなことを考えている間にもうそろそろ朝食の時間です。
椅子へ座り、机の上に用意されている朝食をちびちびと食べていると、横から女性がコップにリンゴジュースを入れてくれました。
「急がず、慌てずよく噛んで食べるようにね~」と、優しいのほほんとした声に短く「はい」と答えました。
リンゴジュースを入れてくれた女性の正体は、綺羅
この人も美人です。綺羅ツバサの母親なのですから当たり前なのでしょうが、つり目と反したとても包容力のある女性です。
朝食を食べ終わり、歯を磨いていると玄関の方で「いってきます」という声が聞こえました。多分、父親が会社に向かったのでしょう。つまり、私が家を出る時間も少しずつ迫っているという事です。
父親は大手の社長らしいです。五代目と言っていたので結構昔からある会社なんじゃないでしょうか。ですが、家はそこまで大きいものではなく、中の扱っている家電などに力を入れています。
「ツバサ~、貴方もそろそろ制服に着替えて学校へ行く準備をしなさ~い」
ゆっくり歯を磨いていたら母から注意されてしまいました。それでは、さっさと流して部屋へ戻りましょう。
制服を着て部屋にある鏡で私の姿を確認してみます。かる~くポーズ何か決めていると、ツバサが何故A-RISEというスクールアイドルトップのグループで不動のセンターでいられたのかを嫌でも自覚できます。
まず、体から滲み出るオーラがそこらの人とは違います。そして、何か人を惹きつける魅力のようなものが備わっていると思います。
前世に在った英霊同士が戦う物語風に言えばカリスマB~Aであったり、魅了Aというところでしょうか。
そんなことを一人でしているとスマホのアラームが鳴り、家を出る時間であることを教えてくれました。
それでは、学校へ向かいましょう。
数駅を経て駅から歩いて学校へ着いた私へすれ違う多くの生徒たちが挨拶をしてくれます。
教室へ入ると、クラスの男子の視線が集まるのを感じます。一部はばれてないと思っているようですが、女性の体となり前世のアイドル時代よりも視線に敏感になった私には通用しません。
わかりますよ、女性を凝視しているのはカッコ悪いと思うのはね。そういう興味ないですよっていうアピールして硬派気取るのは結構前世もいましたからね。
「おはよう、ツバサ。相変わらず人気者ね」
「おはよ、奏。ふふっ、そうかしら。」
明らかに高校生とは思えない色気を放つのは速水奏。この高校へ入り仲良くなった女生徒です。彼女は人を引き付ける魅力のようなものを纏っています。
アイドルや女優になれば瞬く間にその階段を駆け上がり、トップアイドルや主演女優に成れるでしょう。前世で多くのアイドルや女優、俳優、芸人を生で交流し見てきた私が言うのだから間違いありません。
「そうだ、ツバサ。テレビとか見ない貴方は知らないかもしれないけれど私、アイドルやってたのよ。今度のライブのチケット一枚上げるから見にこない?」
「へ……?」
その後SHRが終わり、奏から先ほどの事を細かく聞きました。彼女は少し前から美城という大きな企業のアイドル部署でアイドルをしていたようです。すでにデビュー曲なども出していたようですが、私にはもっと有名になってからビックリさせてやろうと思って黙っていたとのことです。
それくらいしないと、貴方と釣り合わないと言われたのはよく意味が分かりませんでしたが、奏のことですからそういうこともあるとは思ってはいました。
そして、今度ある美城プロダクションの主催する大きなライブに出ることが決まり私に見てほしいという事らしいです。つまり、彼女の有名と言うラインを越えたという事なのでしょうか。
「……ツバサ、話を聞いてる?」
「ああ、ごめんなさい。考え事していて聞いてませんでした。」
「素直に謝ったし、許してあげる。もう一度言うわよ。今度のライブ来る?」
奏は聞いてはいますが、その目は当然来るわよねって悠然と語っています。まあ、答えは決まっています。
もともと、予定もありませんでしたし、行くことにしましょう。殆どの事にやる気がない今、こういった刺激を受けるのは良い事でしょう。そして、此方のアイドルがどういう存在であるのかにも興味あります。
……アイドルと聞いてやはり、少し高揚した気分にもなるのは未練でもあるのでしょうか。あの日に今世におけるアイドルは切り捨てたと思ったのですが。
ツバサの体がアイドルになり、多くのファンを魅了することを求めているのでしょうか、それとも俺が再びあの舞台の上で、多くの民を興奮させ、活力足りうる存在になる事を求めているのでしょうか。
今の私にはその答えを出すことはできません。多分、今度のライブで分かるかもしれませんね。
「ツバサ……来るわよね」
「行きますよ。どうせ家に居ても勉強や軽く体を動かすくらいですし」
私がそう言うと奏はほっと胸をなでおろしているようでした。おそらく、大きな舞台に立つ自分を見せたかったのに私がなかなか答えないので不安になったのでしょう。
今日は、授業の合間の休み時間であったり、昼休みは奏とライブの事ばかり話していました。他のアイドルの事を聞いた時に若干不機嫌になりましたが教えてくれました。
確実に自分より上のランクにいるアイドルでステージ上(強調)の高垣楓と言う女性を奏は少し尊敬しているようですね。
本人はそうでもないって言ってますが、言動の端々にそれが見て取れました。ただ、川島瑞樹さんというアナウンサーから転向していたり、楓さんのように二十台過ぎてからモデルから転向など、美城というところは中々チャレンジャーなようです。それにそうした年齢を跳ね返す才能を持つアイドルの卵を発掘している辺り、プロデューサーの目の確かさが伺えます。
ただ、大きい会社の力でゴリ押しているようなところとは違うようですね。話を聞いた限り奏を任せても大丈夫そうですね。
って、奏の父親にでもなったつもりになっていたようです。彼女自身が決めたことに口を出すのは野暮というもの。彼女の成功を祈りましょう。
◇◇◇
「それじゃ、私は直接事務所へ向かうわ。寄り道してはダメよツバサ」
「貴方は私の母ですか」
「ふふっ、それじゃあ」
奏と駅で軽口をたたいて挨拶をして駅で別れました。
それにしても、あの奏がアイドルですか……ポテンシャルはあるとはいえ、奏は少し変わっているのでどうやってスカウトしたのか気になりますね。
あの子が自分から応募するのは考えにくいですし。あ、あの人……
「そこの貴方。何かお困りですか?」
「えーと、うん。ちょっとねーストラップ落としちゃってね」
「どのようなものですか。手伝いますよ」
私がそう言うと、色素の薄い髪色をしていて、奏でにも勝るとも劣らない可愛さを持っている女性は困ったように顎に手を当てると
「気が引けるけど、お願いしよ~かな~」
「困ったときはお互い様です。どういった形状なのでしょう」
さて、探しますよ。昔っからこういう人助けは好きなんですよね。何というか、救われている人を見るのが好きと言うかなんといいますかね……
あれ、これって探している奴じゃないですかね。持って行ってみましょうか。
◇◇◇
「あっ、これだよ~。ありがとね。助かったよ!」
「いえいえ、見つかって何よりです」
「そう言えば、自己紹介してなかったね~。あたし、塩見周子。シューコって呼んでいいよ~」
「そうでしたね。私の名前は綺羅ツバサ。気軽にツバサと呼んでくださいね」
周子ちゃんですか。彼女も変わってはいますが、人を魅了する資質はありますね。何でも飄々とこなして、周りをからかったりするタイプなのでしょうか。
まあ、深く付き合っていないのでよくわかりませんが、奏と言い、周子と言い私はそう言った女性と知り合う運命に今世はあるようですね。
「ふ~ん……奏の言ってるのはもしかしてツバサの事かな~?」
「奏を知っているんですか」
「何を隠そうシューコちゃんはアイドルなんだよ~。それで事務所が奏と一緒ってわけ」
なんと……彼女も美城のアイドルで奏と知り合いとは世間は狭いものです。
批評などあると思いますが、読んでいただいてありがとうございます。
感想などありましたらよろしくお願いいたします。
文字数は次回以降増えることはないと思います……。劇的に減ることはあると思いますけど。
二次創作口調が難しい……
後、主人公が丁寧すぎるかな。もっと砕けたほうがいいですかね。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
自覚せぬ変化
ああ、口調が難しい。文字数も少し減ってダメダメです。
活動報告などで皆さんに助力を請わなければいけませんね(確信)
後、PCで作業していると見にくいのか見にくくないのかわからないです……
「♪~」
今日のあたしは気分がいい。別に、良い事ばかりあったわけじゃないけどね~。お気に入りのスマホに着けてるストラップ落としちゃったし……
でもそのおかげで彼女に会えたし、悪くないんじゃないかな。
「随分機嫌が良さそうね周子」
あらら、奏に見られちゃったねー。そうだ、一応本人なのか今のうちに確認しとこうかな。
「奏さ、綺羅ツバサって知ってる?」
「──ッ!!……知らないわ」
惚けているようだけど、あたし相手にそうはいかないよ。明らかに表情強張ったしねー。少し、意地悪してみようかな。
「今日さ、その綺羅ツバサちゃんって子に会ったんだけど、随分とそそっかしい子だったよー。それに、ドジっ子属性もあるっぽい「ツバサに限ってそんなはずはないわ」んだよねー……ってツバサちゃんの事知らないんじゃなかったっけ」
「これは……その……」
奏が間髪入れずに突っ込んでくるなんて、随分気に入ってるようだねー。まあ、あれだけの子に入れ込まない人はそうそういないかー。
かくいう私も、少ししか話していないのに気に入っちゃったし~。何というか惹きこまれる魔力みたいなのが彼女にはあるんだよねー。
ステージに立った時の楓さんに近いかな~。
「……別に、知らないわけではないけれど、特に仲が良いわけでも……ブツブツ」
あらら~、奏が自分の世界に入っちゃってるよ~。からかったあたしも少しは悪いけどさー。ちょっと、他の子に見られると奏のこれまでのクールな感じのキャラが崩れちゃいそうだし、面倒だけど元に戻そう。
「奏が誰と高校で仲が良くて妙に惹かれててもあたし気にしてないよー。それよりも、ツバサちゃんについて教えてよ~」
あたしはこの瞬間に自分のミスを悟った。奏の眼の色が変わったんだよねー。何というかオタクっていう人を見たこと結構あるけどソレに近い熱が目に宿ってたし……この後にどうなるか今からシューコさんは憂鬱~。
(数十分後……)
「……だからツバサは放っておけないのよね。」
やっと終わったー。どんだけ話すのかと思ったけど予想以上に話してたねー。我に返った奏は顔真っ赤にしてアタフタしてるけど、もう遅いよ~。
奏のフォローしていたら、廊下から足音が聞こえた。誰かと思って扉を開けて見ると、
「フンフンフフーン、フレデリカー♪」
「ねーねーフレちゃーん。こっちからいい匂いがする~」
フレちゃんと志希ちゃんだねー。この状態の奏と混ぜると危険な気がしないでも……
「シューコちゃん発見~」
あらら……バレちゃったか。奏も元に戻ってるし、どうにかなりそうかな~?
それにしても、奏をこうまでするツバサちゃんか……どんな子なんだろう。もう少し知りたいね……
あ、この後フレちゃんと志希ちゃんにもツバサちゃんの事は知られちゃったんだ~。奏はそれまた熱弁を奮っていてあの二人も何時もの奏とのギャップに驚いてたよー。
◇◇◇
周子とその後軽く話してRIMEというSNSアプリで連絡先を交換して分かれました。帰り際に周子が私の事を気に入ったと言っていたのでこれからも仲良くなれそうです。
しかし、招待されてライブに行くのに何も知らぬまま行くのは失礼にあたるでしょう。とりあえず、美城で検索してみましょう。
とりあえず、今度のライブに出るアイドル達をざっと調べました。見た感じどの方もビジュアルは相当レベルが高いですね……。現在トップを走っている765プロにしてもこの世界のプロデューサーは化け物なのでしょうか。
どうやったらこうしたお互いの個性が殺し合わない可愛い子を連れてこれるんでしょうか。
ライブ前と言う事もあり、前回のライブを無料で視聴できるサービスを美城のHPでしているようですね。彼女たちはどのようなアイドルなのでしょうか……
◇◇◇
ライブを見終えました。気が付けば時計の針は12を指しており、自分がどれだけ集中してみていたのかを自覚させられます。
やはり、どこかに未練でもあるのでしょうかね……まあ、それは今のところは良いです。それよりも、彼女たちは純粋ですね。
前世で偶にいた枕営業をしてのし上がっていてスキャンダルで転落するタイプのアイドルや事務所の力でゴリ押して、本人が望まないキャラで行ったりしている所ではないようです。
そうでなければ、今さっきみた彼女たちのあの輝きは放てるものではないからです。結局上に言われて作っているキャラクターなどでは色物で終わり、真にファンとなってくれることは難しいですし……
きっと、美城のプロデューサー達が頑張っているのでしょう。何とも前世とは似て非なる世界ですね。
大手のプロダクションであればあるほど、ある程度汚いこともすることはあります。横のつながりもありますし、相手方の上の方に切り捨てられるわけにはいきませんしね。
この世界は何というか、汚い所もあるのでしょうけど、前世のマスコミなどとは少し違うようです。テレビや週刊誌も基本的にスキャンダルと言うより良い事を取り上げてますし。故意に話を大きくすることがないですね。
「ツバサ~そろそろ寝なさい。明日起きれなくなっちゃいますよ」
母から注意されてしまいました。アイドル調べもほどほどに寝ましょう。ライブまで数日ですが出来る限りこの世界のアイドル等について調べておきましょう。
興味を失い、捨てた業界を今更熱心に調べるとは……きっかけさえあればこうなるものですか。
◇◇◇
「この空気、そしてライブを楽しみに待つファンの熱によってひり付く肌、この匂いこそ ライブですね……」
やはり、ライブと言うのは良いものです。最後に見に来る側で来たのは何時だったでしょうか。もう思い出せません。いつも前に立つ演者でしたからね。
ああ、でも入り口は一般ではなく関係者入口を使用するようです。待っているファンの皆さんには申し訳ないです。奏もできるなら一般の入り口から入る方にしてほしかったですね。
指定された座席に座り、ペンライトの準備をしておきましょう。持ってきているペンライトの色はとりあえず、今回のライブセットっていうのがサイリウムなどを取り扱っているお店に有ったので値段は少しお高めですがセットで購入しておきました。
きっと、大丈夫でしょう。一般のお客さんも入ってきたようです。
「お嬢さん。今日は宜しくね」
関係者席は広めにとられており待ったりできる感じなのですが、私は端っこなので隣は一席だったんですよね。その一席に座るのはメガネをかけた白髪のおじさんです……が、食えないやり手のようですね。どこかの会社の重役でしょうか。腹芸に秀でつつも、それを顔に出さず最善の行動をするタイプですかね。
「よろしくお願い致します。おじいさんはライブは初めてなのでしょうか? 私は初めてなんですよね。」
「そうなんだね。私は……君にならいいかな。私は美城の社員でね。その伝手でここにいる感じさ。ライブも何回も見ているよ。困ったことがあれば何でも聞いていいからね」
「そうなんですか。ありがとうございます。それでは、今日はお互い無理しないように楽しみましょうね」
「そうだね、歳には勝てないから気を付けないと」
彼は笑いながらそう言いましたが、私も含めて脱水症状などには気を付けないといけません。ライブは人が多いだけに涼しい今日であっても中は蒸し暑いです。
40度近い体温を持つ人間が詰まっているのだから当たり前と言えば当たり前ですけどね。
それにしても彼は美城の社員ですか……課長とか部長ですかね? どの部署なのかはわかりませんけど、その部署の部下たちは幸せでしょうね。
その後も今西さん(名前を教えてもらった)と談笑をしているとついに、ライブが開演する時間になりました。
ライブの最初を飾るお願い!シンデレラを歌う彼女達は……確か高垣楓、輿水幸子、佐久間まゆ、川島瑞樹、 十時愛梨、 小日向美穂、 城ヶ崎美嘉、 白坂小梅、 日野茜でしたか。
ライブ最初でこの曲を歌うアイドルに選ばれたということは彼女たちは美城ではトップレベルのアイドルと言う事でしょうかね。
それにしても、誰だって王子様にお姫様になれるですか。美城のアイドル部署の方針をそのまま表したようなセリフです。
観客のコールの大きさは前世でも現世のアイドルでもおんなじ感じですね。
隣の今西さんへ視線を移すと笑みを浮かべて見ています。あっ……見ていたのがバレました。慌てて目線をステージに戻します。
綺羅ツバサの体だからでしょうか。ステージで踊っている彼女たちからプレッシャーのような波を感じます。本編で主人公を気に入っていたのもこういったものを感じたからなのでしょうか。
この体のせいなのかそれとも私の心にきているのか、体の芯から震えますね。そして脳裏に過ります。私があの場所で踊っている姿が。
彼女達のライブを見ていると脳が沸騰しているかのような熱を帯び、心は高鳴りますね。何とも、不思議なものですねえ。
俺が──言い方は悪いですが一介のアイドルのライブを見てこんなことを思うなんて。俺が現役の時はああいう風にファンを魅了出来ていたのだろうか。ただ、熱に充てられて思うがままにやっていなかったか。なんて、今考えても意味ないことが目まぐるしく脳に駆け巡る。
「ねえ見て──ほら綺麗な月だね──」
考え事をしていて、ステージに集中できていなかった。俺としたことが、こんな取り乱すとはな。
奏がソロで出ているじゃないか。思った通り、彼女は持っている。トップアイドルになる資質というものを……。ソレは一流の努力家がどんなにやっても得られないもの。
ん、奏が俺に──いや、私に気づいたようですね。此方へ向けて投げキッスとは随分とサービス精神旺盛なようです。
というか、私の方にいる貴方のファンの発狂具合やばくないですか……(困惑)
彼女のソロが終わり、数人が終わった後周子が出てきた。彼女も飄々としている割にやるときはやるんだな。
奏に言われたんでしょうか、彼女も此方へ向いてアクションを起こしてきました。だから、私の方にいる(以下省略
二度目ですが、私の知り合いのアイドルはサービス精神旺盛なようです。
「随分と彼女たちに気に入られているようだね」
今西さんがライブの合間の休憩時間にそんなことを言ってきた。彼には二人が此方へ向けてやっていたことがわかっていたようだ。
「いえいえそんなことはないです。奏とは同じ学校の友人で周子とは少し前に知り合ってばかりですよ」
「謙遜をすることはないと思うよ。むしろ誇るべきだ。彼女たちのような才気あるアイドルに大事に思われていることに」
──面と向かってそう言われると背中がむず痒いですね。まったく、二人には今度言っておかないといけませんね。あまり過剰なパフォーマンスはしないようにと。
ファンへ向けてなら良いですが、勘の良い人にはこうして気づかれてしまいますし。私はアイドルにもプロデューサーにも今は成る気がないのですからね。
楽しい時間と言うのは早く過ぎる。その言葉通り、ライブはあっという間に終わってしまいました。彼女達のライブを見て私の心に電流のようなものが走りましたが、ライブ独特の雰囲気に充てられたのでしょう。
……私は本当にアイドルを諦めきれたのか。そう自分に問いかけますが、誰も答えてはくれませんでした。
読んでいただきありがとうございます。
キャラクターの口調などおかしいところなどありますかね? 一応気を付けてはいるんですが……
後、主人公の一人称が俺になった場面で一応中に入っている元アイドルが強く表面化したことによる影響です。
奏が若干ポンコツになりつつある。周子はどうしよう。しきにゃんとフレちゃん難しい……
それでは、次回もまたいつになるかわかりませんがよろしくお願いいたします。。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
元偶像は再起する。
私は偶にこうして関係者席からライブを見させてもらっているけれど、今回は思わぬ収穫があったね。表舞台から消えたあの、綺羅ツバサと会うとはね……
彼女であれば即スカウトしていたのだろうけど、今回は純粋に友人に誘われてきただけみたいだしそういうことは野暮というもの。
それにしても、いつだったか。彼女が突然ダンス、歌唱などのコンクールなどに出てこなくなったのは。その時まで、出場してから無敗。少女のはずなのにベテランが使うようなテクニックに、若さあふれるエネルギッシュな動きで様々な賞をかっさらっていった鬼才が突然消えたんだから、美城を始め、彼女を狙っていたプロダクションからは落胆の声が聞こえた。
特に綺羅ツバサにいつだかのイベントの審査員として出会ってから入れ込んでいた彼女の落ち込み具合は直接見た僕とかじゃないと今の彼女からは想像できないだろうね。
とりあえず、アメリカにいる彼女に連絡しておこう。それにしても、速水奏と塩見周子に気に入られる娘か。特に入れ込みようが激しそうなのは奏くんかな? 何をしたのかわからないが、問題だけは起こさないでおくれよ、綺羅ツバサ。
◇◇◇
「やっぱライブはちょー楽しいしっ★」
「美嘉ちゃんの言う通り今回のライブも疲れたけど楽しかったわ」
今回のライブの中心メンバーだった美嘉や楓さんなどがライブについての感想を話している。確かに、今までにない規模のライブに参加して高揚感もあったし、楽しかった。でもあれはやりすぎたかしら……?
「お疲れー、奏」
「お疲れ周子。貴方にしてはライブ中にサービスが派手ではなかったかしら」
「それ言ったら奏の方がすごかったでしょ~。投げキッスなんてさー」
「周子もそう思うわよね……私も少しツバサが来ていることがわかったからってテンション上がりすぎたのかもしれないわ。でも、そういう周子も明らかにツバサ意識してたじゃない」
「まあ……見てほしい人がいるとそりゃね~」
やっぱり、周子も気づいていないでしょうけどツバサの持つ求心力に惹かれているのね。私はまだまだ、大丈夫だけど学校の女子とかで宗教みたいになってる子もいるし。周子はどうなるかしら。多分、大丈夫だとは思うけど。
それにしても、テンションが上がったからと言って投げキッスはないわよね……。ツバサはどう思ったか明日にでも直接聞かないといけないわね。
アプリとかだと、政治家みたいな言い回しで逃げたりすることがあるから。
「フフーン、周子ちゃんも奏ちゃんも今日は張り切ってたね~」
「何かいい事でもあったのかな~?」
周子とそんなこと話していると、フレデリカと志希が話に入ってきた。まあ、二人はツバサと直接会ったことないから友達の友達と言う感覚で話を聞いてくれている。
それにしても、本当に今日は楽しかったな……
◇◇◇
ライブが終わり、翌日学校で二人になったタイミングでライブでのパフォーマンスについて聞かれました。私がアイドルをしていた世界でもああいうのは結構あったので別に盛り上がってキャラがぶれないのであれば良いのでは、と言っておきました。一応、良いとは言いましたが私のサイドに居たファンは発狂していたことは伝えておきました。
後、周子からメッセージが来ておりライブについて彼女からも感想というかどう思ったか聞かれました。彼女もアイドル歴が奏と同じように浅いにも関わらず、大きな舞台で良いパフォーマンスを発揮していたので、思ったことを素直に伝えておきました。
そしたら、若干どもってたんですが何かあったんでしょうか。もしかすると、電波の調子が悪かったのかもしれませんね。
そして、二人に今西さんについて聞いてみると優しいおじさんらしいです。特に目新しい情報はありませんでした。私が見て話して感じた今西さん通りなんでしょう。
ライブが終わってからの私はどこか変わったのでしょうか。父や母、そして学校の隣人達から少し変わったといわれますね。
自覚はありませんが、周りから言われるのでそうなのでしょう。奏とかがコレ察したときに肩掴んで揺らされましたからね。
何があったと問われても何もなかったので要領の得ない回答しかできませんでしたけどね……
気晴らしに思いっきり歌いたい気分なので週末奏とか予定が空いてるか聞いてみましょう。よくよく考えてみると今世でこういう風に遊びに誘うのは小学生以来ですね。
◇◇◇
どうも、ぼっちカラオケにきた綺羅ツバサです。どうして一人なのかと言えば簡単です。奏の予定が空いてなかったのです。本人は苦虫を嚙み潰したような表情をしていたのでもしかしたら、来たかったのかもしれないです。そうだとしたら、また誘ってみましょう。
周子にも声は掛けたんですが此方もダメでした。それ以外の友人となるとそこまで仲良くないんですよね。
何というか線引きの外側にいる人ばかりで私に遠慮してしまうようなんです。今世でいまのところ友人枠にいるのは、奏で次点で周子です。周子は少ししか会ったことがないですが仲良くなれると私の勘が言っているので大丈夫でしょう。
……アレ、私もしかしなくても友達少ない?
カラオケボックスに入ったにもかかわらず、自分の今を取り巻く環境に気づき一時は落ち込みましたが、アップテンポな曲を何曲か入れて集中して歌っているうちに大丈夫になりました。
ここからは歌唱力が求められる曲を入れていきましょう。腹式呼吸とか姿勢とか色々と意識することはありますが、それが出来てきたら必要なのは曲に対するイメージが重要です。
原曲の方と似たように歌うのか、それとも音程を外さない範囲で自分の歌いたいように歌うのか。そこをいつも私は意識しています。
これは、前世からの癖のようなものです。カバーとかする時は原曲を意識したうえで歌っていました。
途中でドリンクを届けに来てくれたバイトさんかな。固まってないでさっさとドア閉めて戻ってほしいのですが。
我を取り戻したようで、失礼しましゅっと最後噛みながら出ていきました。そりゃ、私みたいなJKが古い曲を歌っていればそうなるかもしれませんけど出来れば気を付けてほしいですね。
見られると思って歌っていないので少し恥ずかしいですし。
◇◇◇
久々に思いっきりうたったので体は疲れていませんが心のほうが若干疲労したように思えます。おや……彼女は確かこの前のライブに出ていた城ヶ崎美嘉さんでしょうか。
変装はしているようですが、私の目はごまかせません。かつて週刊誌の記者を警戒するあまり、自分自身が週刊誌の記者以上の眼を持つことになりましたし。
彼女は何やら焦っているようですね。誰かとはぐれたのでしょうか。見てしまっては放っておけませんね。こういうときに女性の体は便利ですね。
男の体では女性を手助けするのにも問題があるときありますし。時折ナンパに間違われますから、その点女性から女性はなにも問題ないですから。
でも逆に男性を助けるときに勘違いされたり、力足りなくて苦労することも増えました。なので、良い事ばかりではありません。とりあえず、話だけでも聞いてみましょう。周りに城ヶ崎さんの正体がばれないように配慮しないとですけど。
◇◇◇
莉嘉の奴どこいったんだろ……。少し目を離した隙に消えちゃった。あの子フラッとどこか行くときあるから大丈夫かな。
最近小中学生誘拐とかあるし、大丈夫だよね……?
「そこの貴方。何か困っているようですが、よければ力になりますよ」
不意に声をかけられてその先を見てみると、同い年くらいの女性がいた。ただ、それは見かけだけでパッと見ただけでなんというか惹きこまれるものを感じた。
「あのー、聞いてますか?」
「すいません。考え事してて……」
「えっと、お困りのようなので力になれればなと」
どうしよう。悪い人ではなさそうだけど、初対面でしかも莉嘉と逸れたって子供みたいな話だし。でも、誘拐とか怖いし。少し、気が引けるけど頼もう。
◇◇◇
あれから二人で探して無事に莉嘉と合流できた。ついつい、珍しいシールを見つけてふらふらっと行ってしまったようだ。莉嘉もはぐれたのが分かって若干涙目だったから軽い注意で終えた。本当に無事でよかった。それも彼女が遠くて見つけにくい所だったのに見つけてくれたおかげだねっ。
「本当にありがとうっ! よかったらこの後食事でも行かない?」
「そうですね……」
私が莉嘉を見つけることができてそのお礼の意味を込めて誘ったんだけど、彼女は少し考えるような感じになった。もしかして、予定でもあったのかな。だとしたら、悪いことしちゃったかも。こういうのって私が逆の立場だと断りにくいし。
「一緒に行こうよ~」
莉嘉がえーっと、彼女の名前聞いてなかった……。私も何だかんだで自己紹介してないし、自己紹介だけでもしたいかな。
私がそういう事考えてる間にどうやったのか莉嘉が彼女の説得に成功したようだ。流石、アタシの妹。
「さ、莉嘉も貴女もいこいこ」
◇◇◇
楽しい時間は一瞬で過ぎるっていうのはいつも感じるけど、今日は特に早く感じた。彼女──ツバサとの時間は楽しかった。莉嘉も帰り際にもう少し、もう少しって言ってたしねっ!
話してみるとツバサがとても魅力的なのが同性の私からでもわかった。莉嘉なんて初対面の相手なのに甘えてたし。まあ、分からなくもないけどさー。
ツバサは年齢詐称しているんじゃないかってくらい落ち着いていてよく見ている。うちの事務所にも年齢が私よりも結構上の人がいたりするけど、ツバサみたいな感じとなると部長さんとかが近いかな?
流石にあそこまでじゃないけど。それに、ツバサがこの前のライブ来てたなんて予想外だった。そういう事が好きなようには見えなかったから意外。
でも、彼女がステージで私と立っている姿が容易に想像できるのは何でだろう。とにかく連絡先は交換したし、仲良くしていけたらいいなっ★
◇◇◇
今日は疲れましたね。カラオケに行き、城ヶ崎姉妹と出会い夕食まで取ってしまうとは。人生珍しいこともあるようです。
ふと、家に帰り手に取ったものを見てみるとこの前あった美城のライブの一個前のBlu-rayでした。なんでしょうかこれは、ライブに行ってから度々こういう事が無意識に起こります。
初めはそれまでライブに備えて色々見ていたのでその延長かと思っていましたが、これは……本当に考えないといけませんね。。
何というかUTXとかが無かった事でどこか現実として認識してこなかったこの世界をしっかりと見て、その上で何を本当にしたいのか。第二の人生で前回と同じ生き方でいいのか。
明日から少しずつこの辺りを散策してみましょう。そしてスペースがあれば少し野良で歌ってみましょう。昔、アイドルデビューする前にしていたようにストリートで色々と試してみましょう。
もちろん、奏や周子には内緒ですけどね。二人に教えたら茶化しに来そうですし……
そうと決まれば今日はストレッチして早めに寝ましょう。疲れがある状態では良いパフォーマンスできませんから。ストリートと言えど、手を抜くのは
二話の誤字脱字の報告をいただきました。この場を借りてお礼申し上げます。報告して頂いた方々ありがとうございました。
そろそろ、美城に入れそう?時系列は一応アニメ本編より前のイメージかな。
次話もよろしくお願いします。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
自覚と芽生え
後、誤字だらけで本当にすいません。
ルーキー日間に入ってました。ありがとうございます。
あれから家からある程度歩いた辺りにある大きな広場で個人的に此方で気に入った曲を学校から帰った後に歌うのが日課になりつつあります。
ここは結構色んなストリートの人達がバンドで演奏していたり、私みたいに歌っていたりするので選んだんですよね。でも、最近めっきり曲などを演奏したりする人が減ってしまいました。
私が今準備している所も本来ここで古参だった人の場所だったんですけど、待ってても来ないのを知ってからは此処で歌わせてもらってます。
上から目線のようですけど、ここにいた人はプロでも十分通用しそうなレベルだったんですけどね……何かあったのでしょうか。
昔と比べたら全然少ないですが、この世界に来て初めてできたファンです。今日もこの人たちが聞いてよかったと思えるような歌を歌いたいです。
何というか、此処で始めてから私がこんなにも人の前でこうしたことをして満足してもらうのが好きなことを改めて自覚しました。
なので、今はとても充実しています。アイドルにならなくても、此処で私は楽しくできてますからね。
「それでは、そろそろ始めさせていただきます。よかったら聴いて行っていただけると嬉しいです」
さあ、今日も始めましょう。今はマク〇スではありませんが私の歌を聞けえって感じの気分です。
ふう……今日も良く声が出ていてよかったと思います。聴きに立ち止まってくれた方が皆さん拍手してくれたり、集金とかしてないのにチップ渡されそうになって断ったりで色々と大変でした。
「あのっ! 少しお時間いただいてもいいですか?」
家に帰る準備をしている私に声をかけてきたのは女の子でした。制服を着ている所を見ると高校生みたいです。私に何か用でもあるんですかね。プロでもなんでもないけど。
「えーっと、私でいいんですよね。何でしょうか」
「とても歌が上手だったので、普段どんなことをしているのかなって思って……気になって……」
「歌が上手ですか、ありがとうございます。それと、そんなに緊張しないでも大丈夫ですよ。どんなことをしているのか知りたいんですね?」
「そっ、そうです!」
「それじゃあ、少し移動しましょうか。ついて来てください」
なんとも熱心な娘ですね。プロでもない私に聞きたいことがあるとは。ついて来ている娘(名前分からないので)をちらりと見てみると、可愛いですね。
奏や周子、美嘉とは違った可愛さです。何というか純粋に良いなって思いました。こう、ビビッと来たみたいな。
「何でしょうか~?」
おや、見ていたのが気づかれてしまったみたいです。特に何にも用はなく見ていただけなんですけど、名前でも聞いておきましょう。
「貴女の名前を聞いていないことに気づいたので、教えてもらえませんか。ちなみに、私は綺羅ツバサと言います」
「そっ、そうでしたぁ~。すみません。私、島村卯月って言います。よろしくお願いしますっ!」
「島村さんよろしくお願いします。あのお店に入って話しましょうか」
「はいっ!」
素直で年相応の良い娘です。それに元気もいいです、第一印象としてはそうですね──普通の女の子って感じですかね。
にしても、初対面の私にホイホイついてくるとは本当に純粋な娘ですね。
「そういえば、島村さんは何で私に歌の事を聞こうと思ったんですか」
「えーっと……私、アイドルになりたいんです……」
そこから島村さんはポツリポツリと私に聞こうと思ったところまでを教えてくれた。島村さんはアイドルになるために昔から養成所に通いレッスンを受けているらしい。オーディションなどもたくさん受けているのに中々受からず行き詰っている時に私に会い、何か得られないかなと思ったそうだ。
ふむ……行き詰っているアイドルの卵に助言をするのも先達の務め(今は違うけど)ですからね。人肌脱ぎましょう。
「島村さん何でも聞いてください。私が力になれることなら答えましょう」
「ありがとうございます~。それじゃあ──」
此処までは島村さんに聞かれたことを一つ一つ答えていた私ですが、ふと思ったことを口にしていました。
「歌とは関係ない話ですけど、島村さんはアイドル事務所との面接で特技と聞かれたりしたときに何て答えてるんですか? 答えにくければ答えなくても大丈夫です。ふと気になったものですから」
「大丈夫ですっ! 特技って聞かれたときは私、笑顔だけは自信があるので笑顔って答えてます!」
「──ッ!? 笑顔ですか……今見せてくれた笑顔も良い笑顔でしたよ。皆を元気にしてくれるような本当に良い笑顔でした」
きっと、どの事務所も笑顔と言われて誰でもできるって思っていて落としているのかもしれません。ですが、あの笑顔は特別良いものだと私は思います。
アイドルの卵は星の数ほどいて、その中から選び抜かれた強運の持ち主がさらに厳選された後に残った人がトップアイドルっていう謎の称号をゲットするという狭き門にこれからも挑戦するはずです。
入り口で立ち止まっている娘に手を差し伸べるのは決して悪い事ではないと思いたいですね。
「偉そうに聞こえるかもしれませんが、よかったら個人的に時間がとれる日は島村さんに少しばかりレッスンしましょうか?」
「本当ですかっ!?」
「でも、無理は禁物ですよ。休むのも練習ですからね」
「気を付けます~」
その後、連絡先を交換してから帰りました。島村卯月さんですか……私も何をとは言いませんが頑張りましょう。
仮にも彼女の先生になるわけですから、やって見せ、言って聞かせて、やらせて見せ、褒めてやらねば人は動かじ。この私の好きな言葉通り彼女に教えるときは実践して意識すべき点を教えなければいけません。
──これからは本格的にやりますか。
◇◇◇
あれから、私はストリートで歌うことを続けて合間合間に島村さんにアドバイスをしてきました。そのかいあってなのか彼女の歌唱力は多少なりとも向上したでしょう。
その中でダンスについても聞かれた時があり、それに対しても思ったことを言ってみたらできるようになったと言っていてダンスというかそういう方面も少しばかり助言させてもらってます。
彼女はアイドルになると言っていますから、体力、柔軟性、体幹の三つを重視しています。ダンスは養成所でできるはずですから、私は本当に人間としての基礎の基礎を伸ばすことに集中しています。
ただ、その中で私も一緒にトレーニングをやっているんですが、ダンススクールなどに通っていた時よりは体が鈍っていて満足のいくお手本に慣れなかったのでそれも自主練習するようにしました。
島村さんと出会ってから学校へ行き、放課後歌い、基礎トレーニングをするという日々を過ごしていたある日、私がいつもの広場で歌っていた時でした。
「あの……アイドル、興味ありませんか?」
初対面だと思いますが、男性の方にアイドルとしてスカウトされました。
「えーっと、貴方は何処の誰なんでしょうか?」
「あっ、すいません。こういうものです」
自分に自信が無さげな男性はおずおずと自らの名刺を渡してきました。その名刺に書いてあるプロダクション名を見て、少々驚きました。
──美城プロダクション アイドル事業部 プロデューサー 風見 和人
そう書いてありました。美城プロ……奏、周子、美嘉の三人が所属している所でしたか。それにしてもあそこは結構就職などの倍率も高いと言う噂を聞きますが失礼ながらこんな人でも受かるものなんでしょうか。まあ、そこらへんはどうでもいいですか。
「それで……受けてもらえるでしょうか……」
「後日日程を改めてお話だけでも聞かせてもらえることはできますか」
「大丈夫だと思います……。それじゃあ、後日日程合わせてお願いします。こちらのアドレスに連絡してもらえますか?」
「畏まりました。それでは空いてる日程が決まり次第連絡いたします。それではまた」
プロデューサーという男と別れ、名刺を見て私は思いました。何故、断れなかったのかということです。以前ストリートで一般のお客さんを楽しませられればそれで満足と思っていました。
ですが、今私の手の中には名刺があります。あそこで受け取らない手段があったにもかかわらず受け取ってしまいました。
……燻っているという事を自覚するべきですかね?
◇◇◇
スカウトをされて話を聞いてからぼーっとしていることが多くなった気がする。それに気づいたクラスメイト等は心配してくれているが、こればっかりは私個人の問題なので、どうしようもない。
プロデューサーに何故スカウトをしたのかと聞いたらよくある歌が良かったとかではなく、現状に満足できてなさそうだったからと言われたときにドキッとした。
自分にすら無意識に嘘をついてきた事を初対面の累計年齢で言えば年下の男に一発で言い当てられるとは思いませんでした。
「ちょっとツバサ、話を聞いてるの?」
「ごめんなさい。少しぼーっとしていました」
「最近そういうの多いけど、何かあるなら相談に乗るわよ。友達でしょう?」
……暈して話す程度なら大丈夫でしょうか。いい加減一人で考えるのも行き詰っているところでしたし。どうしても、私の中で完結させようとするとグルグルと、逃げ道を作りがちになっていましたので。
「そうですね。奏、相談に乗ってもらえますか?」
◇◇◇
ツバサが自分の事を他人に言うなんて本当に行き詰っていたのね。彼女はいつも一人で完結させてしまう癖があるから放っておけないのよね。
なまじスペックが高いから結構な無理もできてしまうから周りもそれが普通だと思って、何でも任せちゃうの。ツバサ自身も人に頼られるのが好きみたいで、明らかに予定では忙しいだろうって言う状況でも彼女は断らない。
一度聞いたことがある。どうして、他人のためにやれるのかと。そうしたら、彼女は私にできることは他の人の期待に応えて行くことくらいだって言ってたわ。
自分の事は二の次なのかもしれないわね……。だからこそ、自分にできた私欲ともいえる~をやってみたいっていう感情に整理が付けられないのかもしれない。
ツバサ、何に悩んでいたのかは私には断片的にしかわからないわ。でも、貴女ならどの選択をしても大丈夫だと思う。でも、無理だけはしないでほしいわ……
◇◇◇
人のためではなく、本当に自分のためにやってみるのもいいんじゃない……か。奏に相談して正解だったかもしれません。
私はこの状況に至っても誰かに背中を押してもらわなければ一歩が出ないようです。昔からそうだったかもしれないです。周りにやって、やらないかと言われやり続けたのですから。
そうと決まればこのままぼーっとしているわけにはいきません。早速行動を起こしましょう。
「もしもし、風見さんのお電話でしょうか。私、綺羅ツバサと申します。アイドルのお話、受けようと思います……が、最後にあの広場で歌わせてもらえませんか?」
ようやく、事務所に入れそう……
主人公と出会ったことにより、卯月のダンスとヴォーカルステータスがぐぐーんと上がった(パワプロ並感)
プロデューサーの名前は適当です。そして、性別も最後まで悩みました。ぶっちゃけ、女性でもいいかなって……結局男性にしましたけど。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
枷からの解放とステ振りのすゝめ
美城プロダクションに入ることを決めた私は最後に広場で歌を歌うことにしました。そして、島村さんも呼びました。
彼女にかかりっきりでいられる時間はこれからは少なくなると思いますから、この場で島村さんの目安と言うか身近な目標になってあげたかったんです。後、終わった後に前世の頃から芸能活動をしていた時に思っていたことを伝えたいなと思いましたからね。
「おはようございます~」
「おはようございます、島村さん。今日は終わった後に少し時間ありますか」
「ありますっ!大丈夫です」
「今日終わった後によろしくお願いします。それでは、今日が最後の私のストリートステージですからよく聴いて、見ておいてくださいね」
「えっ……最後ってちょっとどーいう「詳しいことは終わったら話します。それでは集中していてください」
すみません島村さん。こればっかりは終わった後に話させてください。必ず、得られるものをココに置いていきます。
さあ、私(俺)……今持てる力を全て出し切ってみましょう。体の先という先にまで意識を割いてワンフレーズ、ワンブレスに魂を込めて歌いましょう。
「お集まりの皆様、それではお聞きください──」
◇◇◇
満ち足りた瞬間は一瞬で私を構成する力が外へ流れ出ていくかのような錯覚にも陥りました。その状態はきっとゾーンと呼ばれるものに近いのでしょう。
──楽しかった。体に掛けられていた枷のようなものが壊れ、そしてこの世界へ本当の意味で綺羅ツバサとして羽ばたいた。そんな気がした時を過ごさせていただきました。
この世界で久々に本気でやりました。この世界へ生まれ落ちてから確かに全力という言葉を用いてやってきましたが、心のどこかでズルのようなことをしている感覚に陥り、精魂尽き果てるほどの全力を出してやったことはありませんでした。あの出来事があってから私はリミッターを意識して掛けてきましたから。
あの出来事と言うのは、この世界へ生まれてから数年の小学一年生ごろだったでしょうか、ダンススクールに当時から通っていた私は新しい世界で、それも某学校アイドルの世界と勘違いしていて舞い上がっていた辺りの時期でしたか。
その当時一緒のダンススクールに通っていた子に相手からの一方的なライバル視ではありましたが、相手目線で言えばライバル的な感じの存在がいました。
確かに、彼女は才能に恵まれており、私が相手じゃなければ同世代に敵がいなくなると思うほどの才能でした。
ある発表会の時でした。私をライバル視している子はその発表会へ向けてかつてないほどのレッスンを積み上げていました。誰よりも早く来て、遅く帰る。なんというかブラック企業の新人みたいなスケジュールで練習していたわけです。
で、それほど才能のある子が練習すればぐんぐん上達するわけですが、当時舞い上がって力を発揮する意味を理解していなかった私のせいで折ってしまったんです……あの子のメンタルを。
発表会当日は相手からの宣戦布告もあり全力を発揮し合おうという約束をしたんです。それで、彼女の後が私だったんですが彼女のダンスは彼女よりも前に発表していたどの子よりもずば抜けてできていました。
それが本人も分かったのか演技が終わった後に喜んでいましたね。その後に私は手加減も何もせず、精魂尽き果てるほどではありませんが、ある程度の本気で踊ったわけです。
そして、彼女へ目を向けるとぼーっとしていました。その発表会の後彼女はスクールを突然辞めていきました。
辞める前に二人で話す機会があり、話したんですが彼女から出た言葉は以前の威勢の良いセリフではなく、
「あんなのに、勝てるわけないじゃん。絶対的な差を感じたよ。才能の有無何て無いってお母さんとか言ってたけど、こういうのを言うのかな?」
そう彼女は自嘲気味に言いました。私はその時頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けました。自分のしでかした事を自覚したんです。その時からリミッターを掛けるようしました。自らが才あるものを折るのではなく、導き伸ばしていくようにするために。
「ツバサさん、やっぱりすごいですっ!」
過去に浸っていると、島村さんに声をかけられていました。自分に浸っていて自分から約束したのに島村さんが近づいてくるまで気づきませんでした。
「ありがとうございます島村さん。それでは、いつもの所へ行きましょうか」
「はいっ!」
◇◇◇
いつもの所と言うのは初対面の時に入った飲食店のことです。基本的に話があるときは此処でしているのでいつもの所で通じるようになってきたんですよね。
島村さんが腰を下ろしたのを確認してから言わなければならないことを言いましょう。はっきりいって、彼女はアイドルになりたい女の子なわけで、それを応援するといった私がアイドルになるというのは一種の裏切りに近いような気がして気が引けますが、ここで言わなければ本当に裏切ることになりそうですから。
「島村さん。私、アイドルになろうと思います」
簡潔に告げた事実に島村さんは一時は固まりましたが、おめでとうございますと言ってくれました。本当に出来た子ですね。教えると言っていた相手が突然自分の行きたかった世界へ行くとか言ってるのだから、当てつけですか?とか言われるのも覚悟していました。
そんなことよりも、どこの事務所なのかだとか、スカウトですかとか聞いて来ている辺り、本心で祝ってくれたのだと思います。
……島村さん、ありがとうございます。
「そう言えば、ツバサさんの言いたかったことってこれなんでしょうか~?」
「これも一つですが、本当に伝えておきたい事が一つありましてそれを伝えようかなと」
「何でしょうか?」
「島村さん。貴女はこれまで人は平等ではないと思いましたか?例えば、アイドル事務所の選考に応募して面接まで行って自分の方が周りより劣っているなとかってことです」
「……」
先ほどまでの笑顔が曇った表情で頷きました。その顔は上がることはなく俯いたままです。多分、自分の受けてきた面接などが脳に浮かんでは消え、浮かんでは消えとフラッシュバックしているのかもしれません。
島村さんにはものすごく失礼な事を言っている自覚はありますが、私が伝えたいのはこの先です。
「目を背けたい事実かもしれませんが、それは当たり前の事なのです。人には向き不向きがあるというのは事実ですからね」
「それって、私に……アイドルが向いていないってことですか……」
「そうではありません。私は島村さんはお世辞ではなくアイドルに向いていると思っています。最初に言ったかもしれませんが貴女の笑顔は本物です」
「……でも笑顔だけじゃ全然だめで、だからツバサさんに色々教えてもらって……」
最近の島村さんはこの傾向があります。あえて指摘してきませんでしたが、長所である笑顔を磨くよりも私が教える歌やダンスなどに比重を置いて練習しているんです。
理由はわからないでもないです。選考に落ちすぎて本当にこれでいいのかなとか、笑顔じゃダメなのかとかって思うときはあると思います。
「そこがまず間違えなのです」
「──ッ!? 何が間違いだっていうんですか!?」
「何故自分の土俵ではなく、相手の土俵に踏み込んでいくんですか。貴女には笑顔と言うカードが配られています。それを使って勝てばいいじゃないですか」
「それができないからっ……受かってないんじゃないですかぁ……」
まあ、そう思いますよね。ですが、私は一人一芸それをまず極めてからだと思っています。まず一芸を極めればどこかの事務所に入れます。
入った後でダンスやヴォーカルなどははっきり言って最低限にまでは伸ばせます。事務所もCDなどを出す以上は欠かせない要素ですからね。
「島村さん、人間と言うのは二種類の人間がいます。配られたカードに難癖をつける人とそうでない人。此処に明確な差が出るとすれば、カードに難癖をつけない人はそれをどうやって勝負所で効果を120%発揮できるようにするかと言う事です」
「勝負所……ですか」
面接を含め白黒付くような勝負事と言うのは勝負所があります。そこへ自分の長所を120%生かせる状態を事前に作り出して置いてからぶつければだいたいの勝負は勝てます。
負けるときは同じ分野で相手の方が完成度が高い場合くらいですが、島村さんのように万人に出来ることが長所になるような、本人は気づいていないでしょうが天性の笑顔などは被ることがほぼないので大丈夫でしょう。
「そうです。貴女は言いましたね。笑顔だけは自信があると。何故それを信じないのですか、果たして自分の長所も信じられない人が相手を魅了し、選考で合格できるのでしょうか」
「……できません」
「であれば、することはわかりましたね」
これまでの話で島村さんは察してくれたのか曇った表情を明るくして笑みを浮かべています。本当はゆっくりとこういうことを教えながらやっていきたかったのですが、私がスカウトされるという偶発的な事が起こってしまっては仕方ありませんでした。
「はいっ!島村卯月、頑張りますっ!」
「良い笑顔ですよ島村さん。追い込むようなことを言ってしまい本当に申し訳ありませんでした。後、何か最後っぽくなってますが時間を見つけてこれからもアドバイスしますから安心してください」
「そうなんですかぁ~。これでお別れかと思っちゃいました~」
気が抜けたのか机につっぷして伸びている島村さん。これからも、貴女が事務所に入るまで一緒に頑張りましょう。必ず、私が貴女を光に包まれるあのステージに立つための入り口までは案内して見せます。
◇◇◇
島村さんと別れた次の日、学校で奏がこんなことを言ってきた。
「ツバサ、何かいい事でもあった?」
「いいえ、特に何もありませんでしたけどどうしてそう思ったのでしょうか」
「表情が昨日よりも晴れやかだったからどうしたのかなって思ったのよ」
「そうでしょうか……であれば、区切りが自分の中で着けられたからかもしれませんね」
奏は誰が……どうやって……とかブツブツ独り言を言いながら自分の世界へ行ってしまいました。確かに、晴れやかです。全力を出したことに対してもそうですし、島村さんへ伝えたいことを伝えたのも大きな要因かもしれないですね。昨日の夜は気持ちよく寝れましたし。
その日は奏と放課後クレープ屋に行って終わりました。美味しかったです。奏のも美味しかったですけどね。
◇◇◇
「それでは、ツバサさん。改めて風見和人です。入社二年目の新人ですがよろしくお願いします」
「風見さん、よろしくお願いします。年数は関係ありませんから自信をもっていきましょう。それと、もっと砕けた口調でも大丈夫ですよ」
「それじゃ、そうしようかな。ツバサさんももっとフランクで大丈夫だけど……」
「ああ、コレは癖ですから気にしないでください」
約束の日に美城へ来て、フロントの人に用件を伝えると通されたのはこの風見Pのいる一室である。さすがは大手のプロダクションと言うべきなのか椅子などは上質なものが用意されているようです。
それにしても、少々広い気がしますが他にもアイドルが来る予定でもあるのでしょうか。
「この部屋広いですが、他にもアイドルが来るのですか?」
「いや、来ないはずだよ。俺はツバサさん以外スカウトしてないし、部長にも何も言われてないからね。多分、俺の部長がツバサさんの名前聞いて頷いてたからそれでかもしれない」
「そうですか。それでは、この後何かすることはありますか?」
「それなんだけど、丁度今他のアイドルが集まっている場所があるからそこで自己紹介してもらえないかな?」
私の最初の仕事は他のプロデューサーの所にいるアイドルに対する挨拶ですか。まあ、当たり前の事ですが、どれくらいの人数がいるのでしょうか。この前のライブではそんなに多くない印象でしたけど……
あ……もしかして、奏とかと会うことになる?
主人公の過去話のようなものを入れさせていただきました。駆け足気味で申し訳ありません。
後、実際私も主人公とは立場は違いますが似たようなことがありました。数学IIBの問題を頑張って解いて練習しているときに、友人が暗算でIIBを解いてるのを見た時頭の出来の差を感じました。
そう言ったところを表現したかったのですが、うまくできずに申し訳ないです。
ウヅキのメンタルがぐぐーんと上がった!(パワプロ並感)
ウヅキの成長タイプがすこし変化した!(パワプロ並感)
ウヅキの迷いが晴れた!(パワプロ並感)
あー、ようやく事務所INですね……
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
挨拶と邂逅、それと三人娘
週明けからはゆっくりになると思います。
他のアイドル達が待っているという場所へ向かうために出入口の扉を開けてみると、すぐ近くにやたら大きな部屋があったので聞いてみるとお偉いさんがいるはずの場所だと風見さんが言っていました。ただ、今は海外へ出ているらしく不在みたいですけど。
「ツバサさん、他のアイドルがいるのは下の階だからエレベーターで降りようか」
「そうなんですか。それでは行きましょう」
何故私たちのような下っ端が上階の、しかも上役の近くなのかわかりませんけどね。風見さんはガチガチですね。初の自分のプロデュースするアイドルが私のようですから仕方ない所もあると思いますが。
そう言えば、初と言うことは一年間何をしていたのでしょうか。研修が一年もあるとは思えませんし、場所につくまでの間ですし、聞いてみましょう。
「風見さんは二年目ですよね。一年目は何をしていたんですか?」
「えーっと、最初はビジネスマナーとかの研修をしていたんだけど、その後OJTっていう働きながら仕事を覚えていく奴をやってたよ」
「つまり、他のプロデューサーの補佐のようなことをしていたんですか?」
「そういう事になるね」
「その先輩プロデューサーって誰なんですか?」
「あっ、ツバサさん。もう着いたよ。それはいずれ教えるから、とりあえず、此処にいる他のアイドルに挨拶をお願い」
あからさまに、話をそらされましたが、私の気のせいかもしれませんしそのうち聞きましょうか。とりあえず、この扉の先にいる方々に挨拶しなければいけませんからね。
人間の第一印象は数秒で決まると言いますし、気合い入れていきましょうか。
プロデューサーに言われて此処に来てみたけど、ずいぶんと沢山集まっているわね。重大な発表でもあるのかしら。でも、ライブも少し前にやったし、そんなことはないと思うけど……
「あれ、奏も来てたんだ~」
「あら、周子も呼ばれたの?」
「そうなんだよねー、何か新しいアイドルが入ったらしいからその挨拶だってさー」
「ふーん……」
新しいアイドルが入るのは別に特別な事ではない気がするけど……そのアイドルが特別なのかしら。すでに何かで有名とか?
「皆、集まってるようだね」
そんなことを考えつつ、周子と話していると部長さんが入ってきた。部長さんの知り合いってことかしら。いつも気が付いたらアイドルが増えてたからこういうのは違和感しかないわ。
「今日は新しく入った彼女を皆に紹介しようと思ってね。彼女は僕も少しばかり知ってるからこういう形で皆に溶け込ませてあげたくてね。ツバサくん、入ってきてくれないか」
やっぱり、部長さんの知り合いなようね。溶け込ませてあげたいってことは少しコミュニケーション能力が乏しいのかしら。一応美城にもそう言ったタイプのアイドルはいるからそれを見越して……って、なんか聞き覚えのある名前言ってなかったかしら。
「失礼します。本日から美城プロダクションアイドル事業部に所属することになりました綺羅ツバサです。皆さんよろしくお願いいたします」
「彼女は新人の風見くんの所の新人でプロデューサーも拙いところもあるだろうから色々とフォローしてあげてほしい」
「そう言うことですから皆さん仲良くしてくれると嬉しいです」
……何だかツバサにすごく似た女の子がいるわ。おかしいわね、あの子に似た子がそこらにいるわけと思うのだけど。
うーん……いったい何がどうなっているのかしら。
「……なで、……奏ってば」
「……ごめんなさい。聞いてなかったわ」
「もー、無視する何てひどいな~。あれってツバサだよね、奏何か知らないの?」
「……知らないわ」
ふー、いったん冷静になりましょう。前にいるのはツバサ……よね。何でアイドルになっているのかしら。今日話した時は何もなかっ──!?
まさか、あの機嫌が良かったのって新人Pと××とか××したからとか……無いわね。ツバサに限ってそんなことはありえないわ。
じゃあ、何で……
「ちょっと、あたしツバサと話してくるね~」
「ちょっと待ちなさいっ! 私も行くわ」
まったく、抜け駆けとは油断も隙も無いんだから。
ツバサじゃん……この前只者じゃなかったって思ってたけど、まさか同じ事務所になるなんてね★
周子や奏はあっちで話してるし、というか周子が一方的に話してて奏はツバサを見ながらボーっとしてる。
それにしてもツバサは部長さんと知り合いなんだ。じゃあ、結構融通利いたりするのかな。
ツバサの所の新人Pには悪いけど、程よい実力が付いたら一緒にステージに立ちたいな~。今のうちにプロデューサーに頼んでおこうかな。
でも、ツバサってとてつもないオーラとかは纏ってるけど、どれくらいの事が出来るのかわからないや。あの風格で運動音痴ってことはなさそうだけど……
まっ、細かいこと考えても仕方ないかっ!アタシもツバサの所いこーっと。
自己紹介が終わり、ざわ・・・ざわ・・・と皆さんがし始めました。誰かに話しかけるべきですかね。それにしても、いっぱいアイドルがいますね。新しめな部署と聞いていましたが。
「ツバサじゃん。どうして此処にいるのかな★」
「そうそう、何でさー」
「私も知りたいわね。特に、何で秘密にして私に話してくれなかったところとか」
ぼーっとアイドル達を見ていると、美嘉、周子、奏のこの部署で唯一知り合いの三人が気を利かせてくれたのか話しかけてきてくれました。というか、居たんですね。見当たらなかったから今日はいないのかと思いましたが、奥の方に居たんですかね。
「えーっと、まず奏は落ち着いてくださいね。そうですね、経緯としては──」
風見Pにスカウトされて受けるまでの事を島村さんの事は伏せて話してみました。反応は三人ともそれぞれで、へぇーと適当な感じな周子やストリートで歌を歌ってたんだーと何やら確認している美嘉、そして私の学友でもある奏は──
「何か、秘密にしていること多すぎないかしら。ストリートで歌うなら私に言ってくれれば最速で最前列で聴いたのに……貴女の歌をいつも聞いていた観客が恨めしいわね……」
何か病んでる?気がしないでもないです。奏はすごく有能な娘なんですけど、時折こうポンコツ化するのが欠点ですかね。事務所でもちゃんとできてるんでしょうか。
「落ち着いてください奏。これからはいつでも聴かせられますから安心してください。」
「それもそうね。でも……お詫びというかこの前行けなかったし、今日この後カラオケに行きましょう」
「何を奏は抜け駆けしようとしてるのかなー」
「別に、抜け駆けってわけじゃないわよ。この前誘われたけど忙しくて行けなかったから……」
「まあまあ、奏、よかったら皆で行きましょうよ。多い方が楽しいでしょう?」
私がそう言うと、渋々と言う感じではありますが、仕方ないわねと言う感じで頷いてくれました。
やっぱり、奏でも複数で行った方が楽しいってことがわかっているんですね。この前ぼっちで私はカラオケボックスへ行って店員の目線が怖かったですよ。いや、あちらもそんなつもりはないのでしょうけど、先入観と言うか此方の思い込みでそう見えるんですよね。何だこいつ、ぼっちやんけwwwみたいな風に見えてしまいますから。
「流石ツバサ、話分かるねー」
「アタシも入れてよねっ★」
「勿論、美嘉も入ってますよ。それでは、一旦他の皆さんにも個別で挨拶してきますね」
「私も一緒に行くわ」
「あたしもー」
「アタシも手伝うよ」
嬉しいことに三人とも手伝ってくれるようです。私一人ですと全くとっかかりがないので三人がいてくれると心強いです。
さて、あの方から行ってみましょうか。三人ともアシストは頼みますよ。
とりあえず、一通りあいさつ回りをし終えて各々のプロデューサーに帰宅許可を貰ったのでカオラケに来ました。
ぶっちゃけ、この三人と一緒に入っても三人の正体が一般の人にバレないか心配でしたがそこらへんは大丈夫でした。
まず入ってしたことと言えばドリンクバーへ飲み物を入れに行きましたが、テンプレと言うかなんというか、私は荷物を少し整理してから行ったので少々遅かったんですよ。
そしたら案の定、ナンパされてましたね。三人ともこういうのに慣れてないのか若干強引に持っていかれそうでしたが私が相手の写真を撮って店員さんへ即伝えて、ポリスメンに連絡する準備を整えてから即座に介入したので事なきを得ましたが、若干頬が三人とも紅潮していたのは怖かったんですかね。
元男の私はああいう手合いがやられるときついことをよく知っているので大丈夫でしたが三人では確かに危なかったですね。
「三人ともいつまでも固まってないで曲入れましょう。時間無くなっちゃいますよ?」
「あっ……うん。入れる入れる」
そう言って周子にパネルを渡しましたが、ちょいちょいとパネルいじるだけで数分やっているもんですから、私が強引に奪って美城プロの代表ともいえるお願い!シンデレラを入れました。
先ほどの事を吹き飛ばすような歌を私が歌うしかありません。彼女の歌ならリラックスもできるでしょうし……
曲の前奏が始まり、周子達は何の曲が掛かったのか理解したようです。ハッと三人とも顔を上げています。
「……これって」
「あれだよね~」
「アタシたちの前で歌うなんて、度胸あるじゃんっ★」
三人とも少しは元の調子に戻ってきたようですね。それでは、歌います。三人とも聞いてくださいね。
「──♪」
「うまいね~……ほんと」
「こんなに上手かったかしら」
「マジでうまくない?」
曲が進むにつれて三人とも先ほどの事を忘れたのか切り替えたのか私の歌にしっかりと、耳を傾けてくれるようになりました。
三人の前でこの曲を歌うのは少々緊張しましたがうまくいってよかったです。
「ふぅ──少々緊張しました」
「次はあたしの曲一緒に歌おうよー」
「待ちなさい周子。付き合いが長いし、それにカラオケに行くのを言い出した私のが先でしょう」
「二人とも待ってよっ!アタシでもいいじゃん~」
歌い終わった私に三人がそれぞれ自分の曲を一緒に歌わせようとしてきます。嫌ではありませんが、本家の人と歌うのは合わせるのが難しいので少し苦手なんですけど……そうも言ってられないですね。せっかく、彼女達の調子が戻ったのにそれを落とすのは私も本意ではありませんからね。
「それでは、奏、周子、美嘉の出会った順でいきましょう。お手柔らかにお願いしますね。曲は知ってるレベルですから」
「出会った順かー、なら仕方ないね~」
「そうだねー、じゃあ奏頑張って★」
「それじゃあ、二人ともお先にやらせてもらうわね」
この後、滅茶苦茶三人で歌った。ただ、三人とも歌った後で一緒にステージで今度歌おうって誘ってくるのはプロデューサーとか今西さんや貴女方のファンが怖いですからちゃんと話通してからにしましょうね。
まあ、最後に四人で歌ったりしていた時は良い感じにシンクロしていて綺麗だったと思いますが。それにしたって、三人とも高いレベルで歌唱力も纏まっていますね。私が彼女たちくらいの時とは比べ物にならないです……二週目とか言うずるしている私が言えることではないかもしれないですが才能って怖いですね。
「それでは三人とも夜道には気を付けてくださいね。後不測の事態があれば警察をすぐ呼ぶか大声を出すんですよ」
「「「わかってるわ(は~い)(りょーかい)」」」
「本当にわかっているんですかね……」
「そんなに心配ならツバサの家に泊めてくれてもいいのよ?学校同じだし、ウチまで来てくれればその後行くけど……」
「えー!奏ずるいー」
「そうだそうだー」
「その元気があれば大丈夫ですかね……」
この元気があれば大丈夫でしょう。もし、何かあれば犯人を消滅させます。奏を泊めるのはもっと予定を細かく立ててからにしましょう。別にダメではないですからね。
「奏のはまた今度にしましょう。もちろん二人も良かったら来てくださいね。それでは、また明日」
「もう……つれないわね。まあ、言質は取ったわよ?また明日ね」
「あたしも帰ろー。それじゃ、予定はまた後でね~」
「アタシも早く帰ろ~っと。じゃね~★」
今日は色々あって精神的にも身体的にも疲れましたね。眠い……
誤字脱字の報告いつもありがとうございます。
ツバサは主役も張れますし、他人と合わせて共鳴のようなこともできます。なので一緒に歌った相手は気持ちよく歌えますし、発揮できるパフォーマンスも一人の時よりも若干ですが良くなります。
まあ、RPG風に言うと高ステ、補助スキルもあるキャラクターって感じですね。味方と言うよりどっちかというとこれだとボスキャラくさいな……
今回も読んでいただきありがとうございました。それでは、次回もよろしくお願いします。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
基礎を疎かにするべからず
後、視点切り替えが欲しいと言われましたので、視点主が変わったときを***で表現してみました。
≪≫とかの中に視点主の名前入れることも考えたのですが、それはまた次で試してみようと思います。
活動報告に意見書など投稿できるところを作っておきますので、視点主の名前を入れてほしいとか、***でいいとか、これまで通り改行でいいとかあったらお願いします。
昨日は遊びに行ったこともありますが、別の事で本当に疲れましたね。家に帰った後母と父にどうだったとか、ハブられてない?とか聞かれて色々と話しましたから。
二人とも心配性なんですよ。私も一応学級委員長や生徒会長もこなしてきたのですから、人をどうこうするのには慣れてます。
まあ、そんなこともあり若干寝不足ですが、今日からトレーナーの人たちと顔合わせをしてからレッスンがあるそうなので気合いを入れないといけません。
事務所に向かう前にコーヒーでも飲んでから行きますか。奏も若干眠そうです。
「奏、眠そうですね」
「昨日あれだけ騒げばそうなるわよ」
「それもそうですね。事務所に行く前にコンビニでコーヒーを買いに行きますが一緒に行きませんか」
「行くわ」
その後の授業も時折襲ってくる眠気と格闘しながらも何とか乗り切りました。今日は数学などの頭を使う教科がなかったのがせめてもの救いでした。今後複数人で遊びに行く時は次の日が休みとかの日にしたほうがいいかもしれないですね。
あ、ちなみに奏は現代文の時間に寝ていましたね。先生にバレてはいませんでしたが、前の席の私にはバレバレですよ。だって、後ろ向くと肘ついて寝ていましたから。寝落ちして起きた時の奏はハッとしていてめったに見れない表情をしていたりしたので可愛かったです。
「授業中に寝てはいけませんよ」
「……なんのことかしら」
「奏が惚けるのなら別にいいです。ノートとか見せませんから」
「ごめんなさい。寝てたわ」
「正直でよろしい」
別に寝ちゃダメと言う事ではないのですが、常習化しては問題なので軽く釘を刺しておきましょう。奏のことですからそんなことはないとは思いますけど。
まあ、そういう私も若干寝落ちしかけたりもしたので人の事を強く言える立場ではないんですが。
「とりあえず、予定通りコンビニへ行きましょうか」
「そうね。時間にそこまで余裕ないし」
コンビニで私はブラックコーヒーとブラックのチョコを買いましたが、奏はカフェオレとミルクチョコを買いました。ブラックは苦くて苦手とのことです。
私的にはこの苦さがちょうど良い感じに体を刺激してくれて好きなんですけど。
「ふ~、やっぱりコーヒーとチョコはブラックに限りますね……」
「そう?ブラックはちょっと苦すぎないかしら」
ふむ……確かにブラック&ブラックだと若干口の中がすごいことになってきました。そうですね、いいことを思いつきました。ちょうど、甘いの食べてる人がいるじゃないですか。
「少し苦くなってきたので、奏の食べてるミルクチョコとカフェオレ一口ずつくださいな」
「いいけど……ちょっとまっ」
「ん……どふしたんれすふぁ?」
奏が慌てていたのでついつい食べながら話してしまいましたが、何かおかしい事でもありましたかね?
そんなことよりも、苦いのを食べた後の甘いものは格別ですね。外で運動した後に冷たいドリンクを飲んでいる時と同じ感じです。
「間接キス……」
「同性だから大丈夫ですよ。そうだ、奏も私の食べてみます?ブラックはいいですよ」
なんか奏が自分のカフェオレのペットボトルの口とか見てますけど、別にいいんじゃないですかね。同性なら全然セーフでしょう。男の時だって結構回し飲みとかしてた時ありましたし。
何やら決心した様子の奏でしたが、特に聞かないでおきましょう。何かすごく個人的にはどうでもいい事のような気がしますし……
「そうね、一口位なら貰おうかしら」
「どうぞ、苦いですけどこれは良い苦さですよ」
私のものを渡してみると、若干躊躇しましたが、パクリと一口行きました。無言でもぐもぐしている奏でしたが、明らかに苦そうです。おいしいんですけどね。
「苦いわ」
「それは……ブラックですから」
という、良く分からない一幕もありましたがその後は二人で事務所へ向かいました。途中で二人でおばあさんの手伝いなど寄り道もしましたが、無事遅刻せずに着けました。着いた私達に周子が交ざり三人で途中まで話しながら歩いていました。
ただ、此処からは別ですね。私と奏、周子の担当プロデューサーは違いますし、階も違うみたいですから仕方ありません。若干名残惜しそうな感じの雰囲気を出してきた奏でしたが、明日も学校で会えるのでレッスン頑張ろうと言って別れました。
同じグループとかならプロデューサーが違っても多少は違うんでしょうけどね。
「おはようございます。風見さん」
「おはよう、ツバサさん。今日からレッスンが始まるけど体調とかは大丈夫?」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
「じゃあ、とりあえずトレーニングルームへ向かおうか」
風見さんに連れられてトレーニングルームへ向かいました。流石は大手です。私たちのようなアイドル専用の施設が充実していますね。
エステルームなどがあるのは見たことないです。何というかここだけで生活ができそうですね。
それにしても、どんなトレーナーさんなのでしょうか。今世では久しぶりのトレーナー付のレッスンなので楽しみです。
「着いたよツバサさん。トレーナーと会う前にあっちで着替えてきて」
「わかりました。それでは、少々待っててください」
そういえば着替えてないのを忘れてました。スクールを止めて、一人でやっているときは適当な服装でやっているので気が付かなかったです。
急いで着替えましょう。時間は有限ですからね。まあ、未だに下着とかの着脱は手間をとる時がありますが。母ももう少しシンプルな奴を買ってきてくれてもいいと思うんです。毎度任せてる私にも問題はあると思いますが、服は選べるんですが下着はどうにも差がよくわからないんですよ。
少し前からようやく違和感がなくなってきたくらいですから仕方ないのかもしれないですけど……
とはいえ、ジャージに着替えるレベルなら下着はそのままだったりするので楽ですね。
「着替え終わりました」
「それじゃ、入ろうか」
扉を開けて中にいたのは女性のトレーナーでした。パッと見アイドルでも行けそうなビジュアルしている美人さんですね。
「ようやく来たか。私は青木聖、主にダンスを担当する。姉妹がここでトレーナーをしていることもあり、他の人からは良くベテラントレーナー等と呼ばれている。よろしくな」
「綺羅ツバサです。これからよろしくお願いします」
「さっそく始めるとしよう。準備体操からしっかりとするぞ」
「はい」
準備運動をしっかりとこなしたあとに基本的なステップから始めました。まあ、初対面ですし当たり前の事なんですよね。
ただ、この基礎ができていない人が多いんです。島村さんもそうでしたが、基礎は目に見えて違いが分かりにくいのである程度で満足する人が多いんですよ。
だけど、この基礎を極めていると難しいステップだろうと体力の消費が少なくすみますし、キレなども全然違いますから島村さんにも徹底して教えてきました。
教えている立場であった私は言うまでもなく基礎の練習を忘れたことはありません。
普段もステップを踏むのは好きですけど、今日は特別楽しいですね。トレーナーさんのように上手な人と一緒に練習するというのは久々ですから。
その後はダンスにおける基礎的な内容を中心にやって終わりました。多分今日は最初と言う事もあり私の能力を把握するためのものだったのでしょう。
きちんとできたと思うので結構良いと思ってもらえたのではないでしょうか。
ベテラントレーナーさんに挨拶をしてから着替えに行きましょう。
着替えから戻ると風見さんとベテラントレーナーさんが何やら話していました。私が来たことに気づいたようで此方を二人とも話をやめて私の方を向いた。
何を話していたのか若干気になりましたが、スルーしておきましょう。
「ツバサさんお疲れ様です」
「風見さんお疲れ様です。この後は帰宅で大丈夫ですか?」
「帰宅で大丈夫です」
「それでは、先に帰らせてもらいますね」
私が出て行った後に再び話し始めていたようだからおそらく私には伏せておきたい内容なんでしょうね。内容は何なのでしょうかね。気が早い気がしますがデビュー曲とかの振り付けとか? なんて希望的観測をしてみたり。
奏達にメッセージをSNSで送ってみましたが遅くなるそうなので今日はぼっちで帰宅です。明日からも頑張りましょう。
◇◇◇
「──ツバサさんはどうでしたか」
「はっきり言って彼女ほど基礎の練度が高いアイドルを私は見たことがない。歌唱力の方は私は知らないがダンス一つとってみれば今からでもデビュー可能だろう」
「そうなんですね……歌唱力の高さは知っていましたがダンスもできるとは」
「何だ、君がスカウトしたと部長からは聞いたが知らなかったのか」
何でも、風見プロデューサーはストリートで歌を歌っていた綺羅を直接見てビビッと来たので強引にスカウトしたらしい。何というか美城には強引なプロデューサーが多いような気がしないでもないな。
それにしても気になるな。あれ位の歳の娘であればどこか拙い部分があってもおかしくないし、基礎を疎かにして難しいステップなどを練習する娘が多い。
だが綺羅はその真逆、基礎の重要性を知っているようだったな。好ましいことではあるが、何というか成熟しすぎている違和感も感じた。
「とはいえ、完璧というわけでもない。いや、歳やキャリアを考えれば完璧だが、欲を言えば時々本当に微々たる部分だったが所々男性に多いが身体能力任せに体を使っている時があったのが気になったな」
そんな彼女も完璧ではない。本当に若干、私たちのような人種でなければわからない部分だった。女性にああいう癖が付いているのは珍しい。
しかし、良い素材だ。それゆえ育て方を考えなければならない。どういった伸ばし方でも彼女は伸びていくだろう。だからこそ、彼女を大成させることができるのは当たり前。
逆にできないのであればそいつは教える側をやめたほうがいいだろうというくらいだ。無論、私は彼女を大成させるつもりだが。
今日から忙しくなりそうだな……。あ、風見プロデューサー貴方もだぞ。
◇◇◇
初レッスンから数日がたった日に突然風見さんに呼び出されました。何かやらかしましたっけ。覚えがないです。
「綺羅ツバサ、入ります」
「ああ、ツバサさんお疲れ様です。」
「お疲れ様です。私に用とは何でしょう」
「早速ですが、ツバサさんのデビュー曲とデビューライブの日程が決まりました」
どうやら、忙しくなりそうです。
駆け足気味で申し訳ないです。後、主人公は一応体は違えど二週目で体のスペックも高いので色々とできます。
追記 ◇で場面や視点主の切り替えをしていきます。うまくできるように頑張ります!
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
女性の胃袋は異次元
いつも誤字脱字の報告ありがとうございます。不甲斐ないです。
今回は前回と違い視点が切り替わったら<<>>の中に視点主の名前を入れさせてもらいました。
唐突にデビューが決まりました。何でこんなに早いのかと、理由を聞いてみたのですが風見さん曰く、ストリートで歌が上手いのは知っていたからダンスはどうなんだろうと思っていたようで、この前ベテラントレーナーさんと話し込んでいたのはその話だったようです。他にも理由があるらしいので風見さんに今から聞いておきましょう。
その前にこのことを奏、周子、美嘉に教えておきましょう。三人の方が此方側では先輩なので色々と聞けるかもしれないです。
「これだけ早くデビューが決まり、しかも曲まであるっていうのは部長から言われたんだけど、どうも上の人がツバサさんを知っているみたいでその影響らしい」
「部長は今西さんですよね。それ以外にここで知っている人はトレーナーさんや奏、周子、美嘉、風見さんくらいだったはずです」
「俺もそうだとばかり思ってたんだけど、もしかしたら相手側が一方的に知っているだけかもしれないね」
「ふーむ……」
誰なんでしょう。普通新人は先輩のライブなどにバックダンサーとか脇役で出ていくレベルだったような気がしますがコレも美城流ということなんでしょうか。
今西さんじゃないとするとその上ですか。先日トレーナーさんが私のレッスン風景をビデオに収めていましたがそれでも見て、デビューしていいんじゃねっていう感じで言われたんですかね。
だって、そうでもないと私は偉い人と会ったことが無いわけですから。
しかし、願ってもない話です。元より私は多くの人を楽しませたいという思いをもって死ぬ前から活動してきたので今は誰が私をゴリ押ししてデビューさせようとしているかは気にせず、前を向いていくしかないです。
「少々誰が私を推してくれたのかは気になりますが、今は置いておきましょう。それよりも、本当にデビューするのであれば最高の状態へ持っていく必要があります」
「そうだね。ペーペーの俺がどうこう言ったところでどうにかなるわけでもないし、今はそっちの話の方が重要だな」
「で、日時と場所、そして私の曲を教えてください」
「えーっと──」
その後、日時・場所、そして詩は付いていないが曲のイメージだけを聞いてレッスンに向かいました。
レッスンは問題なく終わりました。ただ、今回の曲はダンス重視ではなく基本的に歌がメインになるので
喉のケアは怠れません。ライブまでのど飴などを舐め続けないといけません。怪我をしてでもやったぜっていう武勇伝っぽく語る人が偶にいますが、注意していれば回避できるものであった場合それはただの不注意です。
見に来ているファンの方にベストの状態で見せられないわけですから武勇伝でもなんでもなく、逆に私はこれだけ適当にやっているんですよと言っているようなものです。
だから私は怠りません。来てくださる方々を楽しませられるように。
「デビューライブ決まったのね。おめでとうツバサ」
「ありがとうございます、奏」
「早いね~。まあ、ツバサならって感じもあるかなー」
「ツバサの場合ダンスとか色々やってたっぽいし、他の新人のアイドルと一緒で考えちゃダメなのかもね」
「美嘉、周子もありがとうございます。多少緊張しますが、残りの期間頑張ります」
三人とも自分たちのレッスンが終わった後私の所へ来てくれました。小さいながら私のデビュー記念でファミレスで夜ご飯を皆で食べる予定です。
三人とも自分の仕事もあるのに私のために──嬉しいですね。
「三人とも本当にありがとうございます」
「「「……」」」
「はっ早くいきましょ」
「そうだね~……その笑顔は反則だよねー」
「奏の言う通り時間もないし早くいこっか」
何か三人とも面と向かってお礼を言われて恥ずかしいのかこっちを向いてくれません。まあ、友達にさっきの私みたいに言われると若干照れるのはわかりますけど。
私の方を見ないで歩いているのでぼーっとしていると置いて行かれてしまいます。いくら何でも今回の主役の私が置いて行かれそうになるとは、三人とも気づきませんでしたが元はあがり症なんですかね。
「三人とも置いていかないでください~」
後、美嘉の私服は若干露出が多い気がします。奏も本当に同じ年なのか不思議に思うほどの色気というかそういうのを纏ってて何か変な感じがしますね。その点周子はいい感じです。ちゃんと同世代って感じがしますからね。ああ、子供っぽいっていうわけではないですよ。
◇◇◇
ファミレスに到着した私達はツバサに適当な言い訳を言って離席した。理由は簡単よ。この話はツバサにはなるべく聞かれたくないもの。
「──で、美嘉と周子は行けそう?」
「うーん……あたしは行きたいけど時間次第かな~。その日午前中は仕事だし」
「アタシは行けるかな。丁度オフの日だし。奏はど「行くわ」……う?」
その日仕事はないはずだから行けるはず。それにツバサの初ライブを見に行かないという選択肢は……あるはずがないでしょう。
ライブは基本午後が多いから三人で行けそうね。ツバサの歌う曲はどんな曲なのかしら。激しめな曲は似合わなそうだけど。
「流石だね……」
「奏ならそう言うと思ったけど」
「二人とも何若干引いているのよ。大切な友達の初ライブよ。行かない理由がないじゃない」
「いや、でもねー」
「アタシが聞き終わる前に即レスだったし」
何かおかしいのかしら。二人とも私の事ばかり言ってるけど、前のカラオケでの一件以降は仕事で一緒になったときとかでツバサのこと聞いてくるくせによく言うわね。
「まあ、気になるところはあるけれどとりあえず戻りましょう。三人とも午後ならいけるということだし」
ツバサも待っているし、早く戻りましょう。三人が揃う日はそう多くないのだから今だけでも楽しみましょう。
◇◇◇
席を外していた三人が戻ってきました。その間に島村さんに連絡を取っていたので、暇ではなかったのですが三人別の要件で席を離れていたのに同時に帰ってくるとはタイミング良いですね。
「あら、ドリンクバー頼んでおいてくれたのね。ありがと」
「さっすがツバサ。気が利くね~★」
「ありがとねー」
「いえいえ、皆どうせ頼むだろうと思ったので頼んでおいただけですよ」
皆思い思いのものを注文していきましたが、久しぶりに四人で集まれたこともあって私を含めてあれよあれよと注文し続けて勢いよく食べていきました。
途中から皆頼みすぎたことに気が付いたのか、食事するペースが遅くなりました。かくいう私も少々男の時と同じような感じで頼んでしまったのでかなりきつかったです。
ただ、女とは不思議なものできつくてもデザート一品くらいなら食べられるんですよ。まあ、いくつか頼むつもりでしたからこの状況は想定外なんですよね。
「ふう……デザートはいくつか食べるつもりでしたがお腹いっぱいです」
「私もよ。カロリーとかも重いし」
「ちょっと調子に乗って食べすぎたかな~」
「アタシもこれで最後かな」
三人の言う通り一品が限界です。いくつか食べるつもりだったので悩ましいですね。流石に一つ以上食べるとアイドルがしてはいけない絵面になりそうなの自重します。
悩ましい……今だけは男の体じゃないことが恨めしい。ん、男じゃない──?
「いい事思いつきました!皆で少しずつ分けましょう。そうすれば4つ食べられます。私のはすでに来ていますからすぐ始めましょう。三人とも早く口開けてくださいな」
「それって……」
「いや~、ツバサそれは」
これは名案ですね。皆で四つのデザートを堪能できます。我事ながら自分を褒めたい気分ですね。ただ、奏と周子が遠慮してきます。美嘉は黙って一点を見つめて動かないでいるうちに三人の注文したデザートが来てしまいました。このままでは温くなってしまうなと思ったその時でした。
「……二人ともアタシから行かせてもらうよ」
「美嘉っ!?」
沈黙を続けてきた美嘉が話を進めてくれました。その後は周子も吹っ切れたのか次あたし~っという風に乗ってくれたので、とんとん拍子で進みました。奏だけ返事がないのでじーっと見ていると、
「ちょっと、二人とも。……最後は私ね」
奏からも了承が得られたのでこれで、四つの味を楽しめます。これで、みんな幸せですね。とりあえず、私のから早く食べないとまずいです。えーっと、四つに分けないといけませんね。
「それじゃ、美嘉から行きますよ」
皆で食べさせ合いをしましたが、どのデザートも美味しかったです。友達がほとんどこの世界へ来てからはいなかったのでこういうのもいいですね。
まあ、前世でもなかったんですけど……
「美味しかったですね」
「少し食べすぎた気がしないでもないけどね」
「ま、今日くらいね~」
「まだ時間あるし、お話でもしよっか★」
お腹いっぱいで動くのも億劫で時間もあったので美嘉の提案に乗ることにしました。四人で最近はいますが、奏以外の事はよくわかっていませんし、仲良くなるいい機会です。これを機に距離を詰めましょう。
時間も更けてそろそろ帰ろうかと言う時間になった時に奏の何気ない一言からよくわかならないことになりました。
「えーと、好きなタイプですか?」
「そうよ。だってツバサ結構告白とかされてるけど全部断ってるじゃない。前から興味あったのよね」
「まあ、いいですけど。私なりにちゃんと答えますけど、納得いかない場合でも何にも言わないでくださいよ」
「そこらへんは大丈夫よ。ツバサが適当言うはずないもの」
「あたしも気になるなー。どんなタイプが好きなんだろ」
「アタシも少し気になるなぁ」
……好きなタイプですか。まあ、告白は時折されていますが、全部断っていますね。こう、ビビっとこないので。
前世でもそういう人はいませんでしたけど、何というか友達に聞くと一目惚れとか、良いなって思う人とかって言われましたが、良く分からなかったんですよね。
今でもそうですが、好感を持つ人は多少いますがそういう関係になろうとも思いません。何というか男女問わず本質の方に目が向くので、もしかすると女性を好きになる可能性もあるかもしれないですね。
「そうですね、はっきり言って好きなタイプは今のところいませんね。ただ、好感を持てる人はいますよ」
「だっ、誰なの!?」
「高垣楓さんですね。事務所ですれ違っただけですが、一目見て芯が通った良い人だと思いましたよ」
高垣楓さんとは事務所ですれ違った感じですが、良い人ですね。パッと見たときゾクッと来ました。まだ話せていませんし、仕事の時の彼女を見たわけではないですが、ああいう人は興味以上の対象ですね。
「え……ちょっとまって、楓さんは女性だよ?」
「ああ、美嘉は勘違いしてますね。あくまで、コレはLikeですよ」
「だ、だよね~」
「まったく、紛らわしい言い方ね」
「ただ、人を好きになったことはないので良く分からないですけど、私が良いなと思ったらそうなんでしょう」
女性とかそういう事は今は気にしていませんね。好きになったことないですし。実際どうなんですかね。もしかすれば風見さんを好きになるかもしれませんし、よくわからない一般人を好きになるかもしれません。
ま、現状のままだと男の時と同じで一人な気がしますけど。
「そろそろ時間ね。帰りましょ」
「そうしないと、また授業中に奏は寝ちゃいますからね」
そう言うと奏は顔を紅潮させました。実際このまま遅くまでいると前回の様になりそうなので早めに帰ることにしましょう。
「あっ、あれは偶々よ」
「え~、奏授業中寝てるんだ。だらしないなあ」
「周子には言われたくないわ」
「まあまあ、二人とも仲良くいこうよ★」
奏を茶化す周子に宥める美嘉と言った感じで三人ともいい感じなバランスですね。いつか四人でステージに立てるといいな。
きっと素晴らしいものになると思います。
「美嘉の言う通り仲良くいきましょう。三人とも今日は本当にありがとう。ライブまで頑張るよ」
「……ツバサが敬語じゃないわ」
「違和感あるけど、距離詰められたってことでいいんじゃない?」
「そうそう、奏は細かい事気にしすぎ~」
──そう、この四人なら行ける。トップアイドルという頂点目指して一緒に歩んで行けると私は思います。
まずは、私の最初のライブ。必ず成功させましょう。
今回は4人の絡みを書いてみました。
主人公は楓さんとすれ違うレベルなので楓さん側は特別なことは思っていません。
とりあえず主人公の恋愛観みたいのを書かせてもらいました。別に主人公が女の子が好きで今後重度の百合展開とかにするつもりはないですよ。
どうせ書けませんし。
後、この小説の終わりはデレアニ終了と同じくらいを予定しています。ちゃんと完結できるようできるだけ努力します~
最後に、<<>>の中に視点主などを入れてみましたが、前回や今回、そしてそれ以前でどれが良いのか活動報告の方へ意見をもらえるとうれしいです。
それでは、また次回。
追記、意見をもらったのでとりあえず◇で場面切り替えしていきます
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
偶像は踊る
毎度誤字脱字の報告ありがとうございます。自分でもチェックは少ししているんですが、先入観があると見つけられないんですかね……7
追記 本当に申し訳ないです。一部のキャラの名前がごっちゃになってたところがあったのですべて統一いたしました。
本番前のリハーサルが終わり、後は本番のみとなりました。スタッフの方々は良い人達ばかりですし、新人にはもったいない素晴らしい場所です。
このライブのために準備してきた私以外の人の想いを背負って私はステージに立ちます。そう思うと失敗できないとも思いますが、それ以上に私の力になります。
そんなことを考えていると、部屋に風見さんが来たようですね。
「ツバサさん調子はどうです?」
「リハーサルの時も大丈夫でしたので、不測の事態が無ければこのままいけます」
「それじゃ、俺は関係者の方と話があるから本番まで待機していてください」
「分かりました。それでは風見さんも頑張ってください」
「ツバサさんの方が大変ですからね。俺が音を上げるわけにはいかないよ」
彼はそう言っていますが、目に見えて疲れているのが分かります。新人ですし、色々と経験のある現場のスタッフ相手はキツイものがあるのかもしれないですね。
私も集中しなければいけません。成功する確率の方が高いですが、それ故に慢心し、何かの拍子にミスったとすれば悔やんでも悔やみきれません。
ですから、最後まで気を抜かず、集中力を高めていきましょう。
今の私に出来るのは歌う曲を聞きながらステージへ立つ自身の姿をイメージすることだけです。
◇◇◇
お客さんが入場し始めたとスタッフの方から教えてもらいました。一応会場はほぼ満席らしいですね。嬉しい事ですが、その来てくださったお客さんを全て楽しませられるようにするのがアイドルである私の存在意義ですからプレッシャーを感じますね。
「綺羅さん、準備をお願いします」
スタッフの方がそう私に言います。レッスンはできる限りやりましたし、リハーサルでもミスなくほぼパーフェクトに近くこなせました。
何事も簡単ではありません。だからこそ皆頑張っているのです。そのための努力をこの場所で発揮しに行きましょう。
「ツバサさん、頑張ってくださいっ!」
「──ありがとうございます。行ってきますね」
ステージ袖、ここまでは風見さんでも誰でも見れる景色です。しかし、この先にある光に包まれる世界の景色を見ることができるのは私達のような演者だけです。
胸が高鳴ります。この先に見えるのはどんな景色なのでしょう。そして、私はきてくれた方々を満足させられるのでしょうか。
私が出てきたことでそれに気づいたお客さんの歓声が上がります。よく見ればストリートの時に見た人も幾らかいるのが此処からでもわかります。
こうしたお客さんとの物理的な距離が近いのはドームなどとは違った良い所でしょうか。
「初めまして、綺羅ツバサです。今日は来てくださってありがとうございます」
「それでは聴いてください──」
曲が完成してから毎日のように聴いてきたイントロが流れ始め、声を出すその瞬間が近づくにつれて意識は研ぎ澄まされます。
何百と繰り返してきた練習が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、体は最適化され、眼を開くとそこには私の声が響くのを今か今かと待つ笑顔の観客。
その観客の笑顔によって僅かに意識に残っていた無駄が無くなり、私の全てがお客さんのために存在すると言うような状態になりました。初ライブ、思い切って行きましょう。
◇◇◇
やっぱり、ライブは一瞬ですね。例えるなら100m走のようなものです。スタート前はお腹痛くなったりしますが、スタートすればそこからは一瞬です。
スタッフの方に挨拶をして椅子で一休みしていると見知った顔が近づいてきました。
「ツバサさんすごかったです!」
私が誘った島村さんです。彼女の後学のためといいますか現場を感じてほしかったので私が風見さんに無理を言って捻じ込みましたが彼女の表情を見る限りでは良かったのでしょう。
「そうでもないです。最後の方で力が抜けてしまいました。──それよりも今回の現場はどうでしたか?少しは為になったでしょうか」
「すごく為になりました。ライブの裏方などは全然知らなかったので見えないところがよく見れて良かったです!」
そうなんですよね。アイドルと言うのは何というか煌びやかで華やかな物と思いがちな少女が特に多いですが、それをアシストしてくださっている現場の方々を忘れてはいけないのです。
はっきり言って、私達がどれだけ頑張ろうとも音響がダメなら結局だめですし、掃除ができてなければお客さんは不快な思いをしてしまいます。
ですから、デビューする前からこうしたところを見ておくことで自分たちが誰の仕事によって成り立っているのかと言う事を知っておくのはいい事だと私個人的には思います。
「なら良かったです。これでも風見さん……ああ、プロデューサーに少し無理を言って捻じ込んだ甲斐がありましたね」
「ツバサさんのためにも私もっと頑張ります!」
島村さんはすでに頑張っていると思いますがね。そこら辺のアイドルと遜色ない位のレッスン量をこなしている気がします。
やはり彼女から目を外すと危ないかもしれないですね。島村さんの純粋さは強みであり弱みでもあります。純粋すぎる思いは時に自分を傷つけますからね。
「レッスンは重要ですが、無理だけはしないでくださいね。焦らずとも貴女は確実に伸びています。近くで見てきた私が保証します」
「えへへ……ありがとうございます~」
「これからも二人で頑張りましょう」
島村さんにそう言った時でした。此処にいるはずのない人の声が私に聞こえてきました。
「初ライブお疲れ様、ツバサ」
「お疲れー。良いライブだったよ~」
「お疲れツバサ!」
「何で来ているんですか……」
三人とも私に内緒でライブに潜り込んでいたようです。現役アイドルの三人と突然遭遇したことで島村さんはテンパってしまっています。
「あら、友達の初ライブが気になったからじゃいけないのかしら」
「別にダメというわけではないですが」
「それよりもツバサ、さっき親しそうに話していた彼女は誰~?紹介してよ」
「そうそう、アタシも気になってたんだっ★」
矛先が私ではなく島村さんに行ってしまいました。島村さんはまだデビュー前ですからあんまり関わらせたくはないのですが仕方ありません。当人もあわわ……とか言っていてまともに話せる状態ではなさそうですし私がどうにかしましょう。
「彼女は養成所に通っている島村卯月さんです。縁あって私が色々と教えているんですよ」
「あっ、島村卯月です!よろしくお願いしますっ!」
「あのツバサがねぇ……私は速水奏。島村さんよろしくね」
「アタシは城ヶ崎美嘉。よろしくね、卯月ちゃん」
「えー、あたしは塩見周子。島村さんよろしくねー」
島村さんがああなるのも仕方ありません。美嘉はカリマスJKっていうジャンルでカリスマらしいです。私はJKって言うのを知りませんが。奏や周子も前のライブで大きく知名度を上げましたからね。
「そう硬くならないで大丈夫ですよ島村さん」
「そうそうリラックスリラックス!」
美嘉の持ち前の姉御肌的なもので島村さんも少し溶け込むことができたようです、流石は美嘉。
その後も私と美嘉がフォローを入れつつ五人で話していましたが、島村さんが帰る時間になり先に帰宅しました。
島村さんがいなくなり、先ほどのライブの話になりました。
「改めてお疲れ様ツバサ。素晴らしいライブだったわ」
「知り合いに面と向かって言われると照れますね」
「でもさー、実際初ライブとは思えない落ち着きとクオリティだったよね~」
「レッスンの成果とお客さんの笑顔のおかげです」
「ていうかツバサまた口調戻ってる。アタシらには前みたいな口調でいいじゃん」
美嘉に言われて思い出しましたが、この前別れ際に口調崩したんでしたっけ。でも、無意識で出るのは何時もの口調ですからね。
「癖と言うのは中々治らないもので、こっちの口調が自然と出てしまうんですよ」
「まあ、ツバサと言えばそんな感じよね」
小さいころは男だった時のこともあって一人称がボクだったりオレだったりしましたが、女であることを自覚してからはアタシとかは使いませんが私を使い、使い慣れている丁寧な感じの口調を心がけてきましたからね。
「おーい、ツバサさーん」
皆と話していると遠くから私を呼ぶ風見さんの声が聞こえたのでここらへんで終わりにしましょう。ライブの本番は終わりましたが片付けや携わったスタッフにも挨拶しておきたいですし。
「それじゃ、風見さ……プロデューサーに呼ばれたので失礼します。また、今度」
「お疲れー。また今度~」
「そう……なら私達は先に帰らせてもらうわ」
「それじゃ、頑張って!」
そうして3人と別れた私は風見さんの所へ行きました。皆が来ているのは予想外でしたがまあまあの高評価?っぽいので良かったのでしょう。
私的にも悪くないかな、と思っていたので他の人にも良い感じに思われたのなら成功でしょうか。
「ああ、ツバサさん。まずはお疲れ様。この後は……」
この後挨拶回りして精神が疲れました。
◇◇◇
最初のライブがあってからは少しですがメディアへの露出が増えました。まあ、美城が大きい影響力持っていたりするところなのでコネに近い気がしますが嬉しい事です。
他にも、ライブの反省などをトレーナーさんとしたり、今後の方針を風見さんが考えていました。色物にならなければいいかな、と言う程度に思っています。
色物だとちょっと、私の強みとはかけ離れてしまうのでそれだけは勘弁したいところです。
突然ですが、この世界で気づいたことがあったんですが、前世と限りなく近いんですが若干の違いはあるみたいです。
例えばまだ太陽系惑星が水金地火木土天海だったのが前世ですが、ここでは冥王星がまだ仲間に入っていたり、肌とかの若返りっていうんでしたっけそう言った女性が気にするような部分でもいくつかありました。
機会があればそうですね……事務所の大人組の方とかに話してみるのもありかもしれません。ああいう若返り効果等って上手くいったとしても誤差レベルな気がしますけど。
機会があればってことで頭の片隅に置いておきましょう。事務所にも二十を超えて四捨五入すれば三十になる方もいるみたいですし。
「何を険しい表情で見ているんです?」
「ああ、ツバサさんか。ちょっとね……」
私たちの部署の部屋っていうんですかね、そこへ入ると表情が険しい風見さんが紙束とにらめっこしていました。
あそこまで険しい表情になっている原因のものが気になったのでコソコソと近づいてチラっと見てみました。
さりげなくバレないように行ったので詳しいのは分かりませんが、何かの企画書のようです。何というかそう言ったところを見ると失礼ですが、この人も何だかんだプロデューサーやってるんだなーって思います。
普段を見ていると気のいいお兄さんな感じなのでそうは思いません。それに、最近は長時間レッスンを行ったりしているので挨拶や当日の流れの説明程度しかコミュニケーションしていないのでそうしたところにも原因があるのでしょう。
「それでは、今日もレッスン行ってきますね。風見さんも頑張ってください」
「あっ、ああ。ツバサさんいってらっしゃい」
気の抜けた返事ですね。大丈夫なんでしょうか?
ようやく、ツバサさんの初ライブ終わって次へ行きます。
卯月はどんだけ頑張っても頑張りますって言いそうなイメージを私は持っていますが実際どうなんですかね。
後、ツバサさんの歌ったソロ曲の曲名はまったくいい感じのが思いつかなかったですねー。
常務が好きそうな感じのつけたかったんですが。
目次 感想へのリンク しおりを挟む