ありえない職業で世界最強 (ルディア)
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第一章 神と魔の狭間で
プロローグ


初めての投稿になります。コンセプトとしては最初っからチートな主人公がハーレムを築きながらこの世界の神に挑むという感じで行きたいと思います。拙い文章ですがどうぞよろしくお願いします。


“異世界”____すなわち今の人類の科学力では解明できない今我々が住んでいる世界とはかけ離れた場所。ある者はその場所を聖域と呼び又ある者はその場所を地獄と呼んだ。そんな場所にある日突然転移させられてしまった者達が居た。理由は至極単純。そのチートなスペックを生かし魔人族を倒して欲しいとの事。これは異世界に呼び出されたもう一人の主人公の物語。

 

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日本 東京の割と真ん中にある高校では今正に一人の男子高校生が強力無比で無敵で無敗の化け物と激闘を繰り広げていた。睡魔である。彼は1分ほど激闘を繰り広げていたが惜しくも敗れ、彼の意識は深い闇の中へと落ちて行くのであった.........

 

「コラっ!ミノル君!授業中寝るとは何事ですかっ!先生の授業はそんなにつまらないんですか!」

 

と教師には似合わない可愛い声を上げ頬を膨らませた人物___『畑山愛子』社会科のちみっ子先生、我らが担任である。生徒達には“愛ちゃん”の名称で親しまれている。

 

「全くもう...隣の南雲君を見習なさいっ!彼は真面目に授業を受けていると言うのに君は......」

「はいはい、起きりゃいんでしょ起きりゃ。」

 

半ば投げやり気味にそう答えると「ふぁ〜」と伸びをして起き上がる。そしてミノルの所為でクラスの注目を集める事になった____『南雲ハジメ』の方をチラッと見ると目だけで「すまん☆」と謝った。ハジメは眉をピクっと上げるが「仕方ないな」みたいな感じでそっぽを向いた。彼等の間に言葉は要らない。何故なら彼等は____『同士』だからである。すなわちオタクである。

 

そんなこんなで時間は流れ、途中ミノルが暇潰しに作っていた紙飛行機が愛ちゃん先生(笑)にバレてしまい慌てたミノルが咄嗟に紙飛行機を投げるとその紙飛行機がハジメの目に刺さり危うく大惨事になり掛けた事は割愛。

 

ホームルーム。現在、ミノルは先程の睡眠を取り返そうと爆睡中である。それに気づいた愛子が又頬を膨らませツカツカとミノルの方に歩み寄って来る。ツカツカと言うよりはトコトコと表現するのが正しいだろう。兎に角、ミノルを起こそうと愛子が口を開いた瞬間教室は眩い光に包まれた。その光が消える頃には愛子含め2年A組のクラスメイト全員は跡形も無く消えていた。そして......

 

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起きた時には異世界でしたー何て誰が信じるのだろう。この状況では夢でも見ているのかと、きっとそうだ夢の延長なのだ。だからもしいかにも中世な感じの椅子に座りテーブルを囲んでいたとして。そのテーブルの向こうには中世の甲冑を纏った『教官』が立っていたとしてもこれは夢なのだ。

 

「ミノル君...現実を受け入れられないのは充分承知なのだが......。先ずは私の講義を聞いてもらえないだろうか。」

 

自分に話しかけたのは先程の『教官』であった。思わずミノルは叫んだ。

 

「嘘だ!!!そんな馬鹿な事が......!!!」

 

もう一度言おう。これは酷く理不尽な理由で異世界に召喚されてしまったもう一人の主人公の物語である。一体この少年が何を思いこの世界を生き抜くのか......。それは神ですら解らない。




次回の更新は未定です。プロローグなので原作とはあまり被らないようにしかし世界観を壊さずに簡潔に伝えるのは結構苦労しました。感想や意見、誤字脱字などの報告お待ちしております。


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第一話 “別にいいじゃないか神だって”

お持たせしました。(待ってないって?)とうとうミノル君のステータスが明らかになります...。稚拙な文章ですが最後まで読んで頂けると嬉しいです。


「何で俺達がこんな漫画みたいな目に...........。」

 

ぶつぶつ言いながら歩いているのはミノルを含め『異世界』に飛ばされたクラスメイト達だ。異世界に喚び出された直後、生徒達は混乱状態になり中には泣き出す者まで出る始末だったが喚び出した人達から事の次第を告げられると落ち着きはしないものの、何とか状況を呑み込むことが出来た。喚び出された理由としては何でも、この世界には大きく分けて三つの種族が有り人間族、魔人族、亜人族。特に『魔人族』と人間族は数百年に渡り戦争を続けてきた。所が最近異常事態が発生しているようだ。魔人族による魔物を使役である。魔物とは動物が魔力関係の影響を受けた所謂突然変異体だ。この危機に対し召喚主の『エヒト様』と呼ばれる神は異世界から勇者達を喚ぶ事にしたらしい。実はこの世界の住人より異世界の住人達の方が数十倍優れたスペックを有しているんだとか。実に迷惑極まりない話である。さて、今ミノル達が向かっているのは王都である。そこでこの世界では身分証代わりになる『ステータスボード』を受け取るのだ。と、そんな事を話している内に目的地に着いたようだ。美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

 イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。

 

 その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

 玉座の手前に着くと、イシュタルはミノル達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んだ。

 

 そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。これで、国を動かすのが“神”であることが確定だな、とミノルは内心で溜息を吐く。

=============================================(ステータスボード受け取りまでカット)

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いよいよ、待望のステータスボード発表だ。王国騎士団の団長から説明を受けた後ステータスボードを受け取り、針を指に刺し滲み出た血をステータスボードに擦り付け「ステータスオープン!」と言うと、それまで唯の鉄板だったステータスボードに文字が浮かび上がり思わずミノル以外のクラスメイト達は感嘆の声を上げた。因みにミノルは指に針を刺すのを躊躇っているようだ。そんな中クラスメイト達が次々と天職に目覚めていく。

 

「おっ、俺の天職“戦士”だって。」

「私は......“闇の魔術師”?」

「何それカッコイイな。俺は......“重闘士”か。」

 

聞く所によると天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるらしいが戦闘系は千人に一人、ものによれば万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるらしい。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いとか何とか。団長の話をざっくり纏めるとこんな感じだ。そんな中で天之河光輝という少年は何と勇者という天職に目覚めたらしい。そんな彼のチートステータスがこち

ら。

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天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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団長の話によるとこの世界のLv1の平均は10位らしいから明らかに異常だ。技能も最初は二つか三つらしいがそれを遥かに超える数の技能を持っている。これでも充分チートなのだがもっとぶっ壊れた性能を持っている者もいたすなわち.........。

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意を決して針を指に刺し半分涙目になりながらもステータスボードに血を擦り付けた。ミノルのステータスボードは......。

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壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:1

天職:半神

筋力:5000

体力:5000

耐性:5000

敏捷:5000

魔力:5000+5000

魔耐:5000

技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔法吸収[+吸収力強化][+吸収治癒]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]

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思わずステータスボードを落としそうになるミノル。聞いていた話と全く違うでは無いか。“極魔力増大”の影響なのか既に魔力が1万を超えている。それにLv1で勇者である光輝の五十倍のステータスが確定している。それより天職が半神とは一体なんなのか。色々な事がミノルの頭の中で渦を巻き、それに耐え切れなくなったミノルは半狂乱で訓練所から飛び出ていく。当然気づいたクラスメイトや団長達が慌てて追い掛けるがあまりのスピードで団長達が城の入り口付近に来る頃には既にミノルの姿は消えていた...。

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漸く落ち着いたミノルが今いる場所それは、全百階層からなると言われている大迷宮である【オルクス大迷宮】だ。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

 ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

と、まぁ実際にミノルがいる場所はオルクス大迷宮の地下。真の大迷宮と呼ばれる場所なのだがそんな事は知るよしもない。あの後ずっと走り続けていたら知らず知らずの内にこの場所に迷い込んでいたようだ。かなりの高さから落ちたようだがミノルの物理耐性はぶっ壊れているのでさほどダメージは受けなかった模様だ。岩陰に隠れながら取り敢えず深呼吸して気持ちを鎮める。

 

「落ち着け...落ち着くんだ俺...。冷静に考えよう。そうだ、これは夢だ。夢の中の話だ。どうせ教官の話の最中に寝ているんだろう。」

 

自分に言い聞かせる様に呟くと自分の頬を自分で思い切り抓った。信じられないくらいの痛みが頬を走る。二度とやらないと心に決めるミノルは此処が現実の世界だと悟ったようだ。

 

「ん......待てよ?俺達をこの世界に喚び出した召喚主は確か神様だった気がする。なら、この世界から戻る方法も神しか知らない筈。なら、別に神だっていいじゃないか。いや寧ろそちらの方が都合が良い。」

 

一人で勝手に納得したミノル。大分落ち着いたので一先ず出口を探そうと考え立ち上がった直後それまで淡い光に照らされていた筈のミノルの頭上に巨大な影が現れた。その影の正体は赤い目をした兎だった。普通の兎では無い。兎にしては大き過ぎる。ミノルは悟った。

 

「(詰んだか......。)」

 

果たしてミノルの運命や如何に.....




ステータスボード受け取りまでカットしたのは理由があります。二次創作として、原作キャラも出したいけどオリキャラの方を優先したいという事で説明等は省きました。テンポ大事にしていきたいですね。無理矢理大迷宮に突っ込ませたのもその為です。原作キャラはあくまで引き立て役として活躍してもらう所存です。(本音としてはここまで強くする予定はありませんでした。)本当は戦闘シーンまで書きたかったのですが、時間の都合上次話以降にさせて頂きました。なので次回はこの2倍は書こうかなと思っております。最後まで読んで頂き有難う御座いました。こんな稚拙な文章ですが次回も最後まで御付き合い下さると幸いです。

次回更新は未定です。
ミノルのステータスを大きく訂正しました。補正系を無くし技能を増やしました。


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第二話 “覚醒”

少し原作に近い展開になってしまい面白味が無いと仰られる方もいると思いますが半神という天職上、ああさせるにはこうするしか方法が浮かびませんでした...。どうか最後まで読んで頂けると嬉しいです。


「(目を逸らさずにゆっくり後退するんだ。だ、大丈夫。俺なら出来る...。)」

 

オルクス大迷宮の地下で赤い目を持つ兎と退治しているミノルは物音を立てないよう慎重に一歩ずつ岩陰から離れていく。兎はそんなミノルの様子をじっと観察しているだけであった。と、充分な距離を保った事を確認したミノルが突如兎から全力で逃走を始めた。方向は当てずっぽうだがこの手の迷宮は下に行く階段を見つけなければずっとその層をグルグル回っているだけだと長年の経験で知っていた為走っていればやがて元の場所に戻る算段であった。普通の魔物なら簡単に撒けたであろう。しかし、第一層目とはいえ大迷宮の魔物だ。5m程間隔を空けてミノルの後にピッタリと張り付くように追い掛けて来ているのである。

 

「マジかよ............!」

 

そろそろ撒けたかと思って背後を見たミノルは案の定度肝を抜かれ、必死に走る速度を上げる。だが、尚も追い掛けてくる兎を見て覚悟を決めたのか逃走を止め急ブレーキを掛けると兎の方に向き直った。兎はミノルの突然の行動に多少の動揺はあったようだが意にも介さず突進の速度を緩めない。ミノルの方はと言うと突進をどちらの方向に避けようか脳をフル回転させ考えていた。

 

「(どうする.........。ただのローリング回避じゃあの巨体は避けきれない...。じゃあジャンプして避け)グハッ!??」

 

ミノルの思惑を外れ、突進攻撃を仕掛けるとばかり思っていた兎が両足を揃え突進の助走とジャンプ力を全て乗せた両足飛び蹴りをミノルに浴びせたのだ。咄嗟に腕をクロスして衝撃を和らげたのは正解だったがその衝撃は物理耐性がチート限界突破しているミノルでさえ洞窟の壁に叩き付けられる程だった。

 

「カハッ......!...グッ...ゴホッゴホッ......。」

 

壁に叩き付けられ肺の中の空気を全部持ってかれたミノルの身体は新しい空気を取り込もうと激しく咳き込む。内蔵が傷付いたのか手にはベットリと血が付着していた。半神出なければ即死であっただろう。蹴りを浴びて吐血するミノルに追撃をとばかりに突進して来る兎。威力は飛び蹴り程では無かったが人間を殺すには充分すぎる威力だ。自動車で跳ねられた様な痛みが全身を駆け巡りミノルはその場にドスンと膝から崩れ落ちた。薄れゆく景色の中ミノルが見たものは勝利を確信したのかミノルを捕食しようと緩慢な動きで近づいてきている巨大な兎の姿だった。

 

「(あんなチートな職業でも...俺は死ぬのか.........。こんな所で日本にも帰れずに...。我ながら最高に格好悪いな...。)」

 

死を覚悟し目を閉じようとしたミノルの元へ二体の影が向かっていた。そう、ミノルを捕食しようと。振動で地面に横たわったまま目を開けたミノルは暗闇の中というのにやけにハッキリと紫色の毛を纏った二匹の狼が先程の兎と戦闘している場面を目撃した。

 

「(何だ......?友好関係ではないのか...?俺を廻って争っているんだろうがこれはチャンスだ。今のうちに此処から逃げよう......。)」

 

身体に力を入れ起き上がろうとする、だがそう簡単に動いてはくれない。何とか這って移動しようと試みるがそんなミノルの前に一匹の狼が立ち塞がる。どうやら兎との戦闘をもう一匹に任せてミノルを捕食しようと考えている様だ。だが、その狼を兎が両足蹴りで吹っ飛ばした。遥か後方に飛んでいく狼は空中で何度か宙返りをするとしっかりと四本脚で着地し兎に噛み付きかかった。

 

「(クソっ......。体力回復系のスキルとか無いのかよ...?)」

 

心の中で悪態をつきながら懐からステータスボードを取り出す。技能の所を読み進めると“魔力変換”の技能の後ろに“治癒力変換”と書かれた技能を発見する。

 

「(あった...!でもどうしたらいいんだ...?)」

 

本来なら今頃ミノルは座学で魔法の使い方を伝授されている頃だろう。しかし途中で逃げ出した為知識が充分ではないのだ。幾らチートスペックを持っていようがその使い方を知らなければ唯の飾りだ。

 

「(取り敢えずイメージするんだ。自分の中の魔力が治癒力に変換される様子を。)」

 

目を閉じ、上の砂と下の砂の色が異なる砂時計をイメージする。それをひっくり返すと下の砂と上の砂が入れ替わる。だが......?

 

「(駄目か......。変換.........変わる......別の物に......。)」

 

今度は自分の魔力を1個の赤いボールに例えそれが風船つまり治癒力に変わってしまうというイメージをしてみると、次の瞬間ミノルの全身を暖かな光が包んだ。魔力を治癒力に変換し傷を再生させる事に成功したのだ。急いで立ち上がると丁度狼うちの一匹が“纏雷”により尻尾に赤い雷を纏わせミノルの前にいた兎に飛ばした所であった。兎は華麗に跳躍し避けるがミノルはそれをモロに食らってしまう。

 

「グッ..................?」

 

ボンっ!という軽い爆発音の後痛みを覚悟し身構えるミノル。だが痛みはいつまで経ってもやって来ない。実は雷が当たる直前ミノルは無意識に自身の魔力を衝撃に変換し雷を相殺したのだ。ミノルも驚いたが一番驚いたのは雷を放った本人、つまり狼の方だ。先程まで地面を這い蹲っていた食材が突然起き上がり自分の技を打ち消したのだから無理も無い。

 

「何だかよくわからんがこの隙に逃げよう。」

 

と躊躇なく狼と兎に背を向け走り出す。当然追いかけようとする狼だが兎の方が相当プッツンきてるらしく意識を逸らした狼に強烈な蹴りをお見舞する。先程は飛び蹴りを受けたミノルだがこれ程差が付けばもう追い付けまい。兎が我に返った頃にはミノルの姿は遥か後方に消えていた。

 

「取り敢えず、水だ!水。喉が渇いて仕方ねぇ。えっと......“神眼”!と。これで.........おっ見える見える。」

 

走りながら半神だけが持つ技能“神眼”を発動し水源を探す。使い方はよく分からないが取り敢えず目に意識を集中させたら使えたのだ。流石は半神と言ったところである。十分位走っただろうか。ミノルの神眼が湧き出る液体を捉えた。

 

「よし、見つけた!」

 

湧き出る液体がある洞穴に通ずる小さな穴に走りながら飛び込んだミノルはそこで不思議な物を見つけた。その洞穴は外から見ると酷く狭く感じたが実際は天井がかなり高く充分な広さが確保されていた。そしてその中央には青白い光を放ちミノルが追い求めていたであろう液体を流す鉱石が据えられていた。

 

「一先ず、拠点は確保出来たかな。」

 

誰もいない空間で一人呟くと鉱石に近付き溢れる液体を手で掬った。ミノルは知らないが実はその石は【神結晶】と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

神結晶は、大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものだ。直径三十センチから四十センチ位の大きさで、結晶化した後、更に数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

その液体を【神水】と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

「んっ............。ぷはぁ...。生き返ったぁ...。」

 

文字通り神水の効果により疲労と怪我が治っていくのを感じる。魔力も全快したようだ。そこでミノルは考えた。このポーション(仮)を持ち運べれば勝ちゲーじゃね?と。しかしミノルは練成師でも錬金術師でも無いのでそういった物を作るのは不可能だ。しかし、ミノルの天職は半分だけであるが全知全能の神である。

 

「人間に出来るなら神だって出来るよな.........?うーん......蓋型......材料は石............。」

 

イメージが固まっていくにつれ目を閉じているミノルから青白い魔力が溢れ出る。魔力の使用法を理解していないから、無駄に魔力を消費してしまっているのだ。

 

「.....................。よし。“創造”。」

 

イメージが固まるや否や、適当に“創造”と呟いてみる。次の瞬間、側の石が青白く発光しミノルの手元に集まりある形を構成し始める。発光が一段と強くなり、やがて消える。そこにはよく見るような()()()()()()()()。何とこの男、イメージだけで物体を創る“創造”を会得してしまったようだ。半神という天職本当に底が知れない。それをセンスだけで使いこなしてしまうミノルにも問題があるのだが...........。因みにこの水筒には特殊機能が付いておりどんな水でも綺麗で人が飲める様に濾過する機能が付いている。だから神水に変な物が紛れ込んでいても安心して飲めるのだ。唯のチキンである。

 

「やれば出来るもんだなぁ。水と拠点は確保出来たしいいん感じに脱出に近づいているんじゃないかな...?後は...“食糧”が必要だな。」

 

ニヤリと笑うと水筒に神水を汲み何か作業を始めるミノル。一体何をしようとしているのであろうか。

 

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場面変わってミノルは今先程の兎(と思われる)が先程の狼を捕食している所を岩陰に隠れながら観察していた。別に狼を横取りする訳では無い。兎の脅威は身を持って実感している。リスクの大きい行動はしない方が良いと判断したのだ。やがて、兎は狼を食べ終わったのかのっそりと立ち上がるとミノルのいる場所とは反対の方角に行こうとしている。それはミノルに背を向ける格好になるのだ。

 

「(今しかない......!)荒ぶる火よ、我の刃となれ。“火球(フレイムボール)”!」

 

魔力操作が出来るミノルは詠唱を必要としないのだが、これは浪漫である。兎の背へ掌を向けると兎の体長程ある火球が兎に向かい真っ直ぐ飛んで行く。兎が物音に気づき背後を向いた瞬間、火球が直撃。そのコンマ一秒後にボンッッッッ!!!という地を揺さぶる爆発音と共に大爆発した。本来なら普通の火球でここまで威力は出ない。だが、ミノルが無駄に魔力を込めた火球は唯の爆発魔法になったのである。

 

「あれ?火球ってこんな威力出んの?ま、いっか。」

 

火球が爆発した一帯は酷い有様だった。地面は深く抉れ、軽い落石が起き、パニックになった他の魔物共の声が響き渡ってまさに地獄絵図である。しかも鬼畜な事にこのなり損ないの神が撃った火球の火は中々消えないのでそれが地獄を更に地獄にしていた。そんな中、悠然と食糧(兎)に向かい歩いて行くミノル。肩に兎を軽々背負うと引き摺りながら拠点へ持ち帰っていく。

 

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拠点に戻ったミノルは事前に“創造”していた巨大包丁を振り回し見様見真似で兎を捌いていく。実に見事な包丁捌きだが一体どこで習ったのだろうか?

 

「ま、こんなもんか。」

 

小分けにされた骨付きの兎肉(部位は凡そ脚)を集めておいた枝に魔法で火をつけ炙っていく。結構火は通っていると思うが念の為中までじっくり焼いていく。いい色合いになった兎肉と時間の感覚が狂っているため既に三日間何も食べていない空腹で我慢出来なくなったミノルは冷めるのも待たずそのまま噛み付いた。味は...微妙だが三日振りの食事だ。水も飲まず一気に平らげる。

 

「久々の食事.........。でもちょっと味が薄い様な。」

 

少しばかり文句を言いながらも頭と内蔵を残して全て食い尽くしてしまった。満足気に腹を擦りながら神水を水道水の様にがぶ飲みする。やがて空腹が収まると今度は睡魔が襲ってきた。此処なら安全と思ったミノルは床に横たわるとゆっくり目を閉じた。

 

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起きたのは全身を駆け巡る激しい痛みからだった。あの兎の蹴りよりも数十倍はあるだろう痛みに絶叫しながら悶える。座学の授業を全く受けていないミノルは知らなかったが魔物の肉は人間にとって猛毒だ。普通の人間なら食べれば即刻死に繋がるだろう。()()()()()()()。御存知の通りミノルは殆ど人を辞めている天職持ちだ。無意識に行っている魔力変換で魔力を治癒力に変え、魔物肉に蓄積されている魔力を魔力吸収の技能で吸収し回復をしている。それに神水の効果も手伝って死ぬ事は無いだろう。だが、死よりも辛い事がこの世にはある。それは死ぬ直前の痛みをかんじながら絶大な再生力によって死ねない、つまり今のミノルの状態である。

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”!!!!!!」

 

まず変化が起きたのは髪。東洋人特有の黒髪の色が段々落ちていき、一部が灰色。そして右半分の頭部の色は魔力吸収の影響か、紅く染まっていた。続いてその年齢にしてはやや貧弱だった身体に赤紫の線が浮かぶ。技能を使用し続けていた証拠の青白い魔力はいつの間にか燃え上がる様な濃い紅とその周りが黒にそまりミノルから吹き出すオーラも何処と無く重いものとなっていた。最後の変化として黒い瞳が色を失い金色に染まる。漸く痛みが収まると魔物肉を食う前よりもクリアになった脳と、湧き出る無限の魔力を感じながらゆっくりと立ち上がる。

 

「何が.........起きたんだ.........?」

 

とは言え変化があったのは外見だけ。中身は前のミノルなのだが...?

 

「.........したい.........。殺、したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!クーハッハッハッ!!!何だこれは!湧き上がる衝動が抑えられねぇ!カッハッハッハ...ハ......。俺は...一体何を...?」

 

いきなり大声で「殺す」と叫び高笑いをした後我に返ったミノルは感じた事の無い恐怖に全身の穴という穴から冷や汗が吹き出した。

 

「今のは誰だ.........俺じゃない...よな?」

 

ふらついた足取りで神水の方へ向かう。神水を手で掬い貪る様に飲むと思考が徐々に晴れていく感覚に幾分か落ち着いたようだ。ふと、水面を覗き込むとそこには変わり果てた自分の姿があった。

 

「ッ!?ど、どうなんってだ!?もしかして.........魔物の肉を食べた副作用か!?」

 

慌ててステータスボードを取り出し確認してみる。するとそこには......

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壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:31

天職:????

筋力:6320

体力:5935

耐性:5983

敏捷:5919

魔力:7652+5000

魔耐:6005

技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔法吸収[+吸収力強化][+吸収治癒]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]・威圧[+服従][+恐慌]・創造[+消費魔力減]

 

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天職の部分が文字化けして読めなくなっている所を除けば予想通りの結果だった。魔物の肉を喰らうことによりレベルが跳ね上がりステータスが上昇した。技能は“威圧”と“創造”以外は変動はしていなかった。ミノルが一番気になっていることそれは天職の名前である。そりゃあそうだ激しい痛みにのたうち回ったかと思えばこんな外見になっているのだ。無理も無い。

 

「魔物を喰った神だから......。やっぱ“魔神”かなぁ。」

 

と言うかそもそも普通の神が魔物を喰ってもこうはならない。それ以上に分解する器官が強く毒素を完全に消し去ることが出来るのだから。ミノルも例外ではなく全異常状態耐性の恩恵であの位の毒なら身体の中で分解し消去する事が出来たのだ。つまり、なんならかの拒絶反応が起きていたと予想される。そう、それは例えるなら不安定でどちらに作用するか分からない“半神”という器に“魔”という汚物が入り込み拒絶反応を起こし半神を汚染したという感じであろうか。だから表示される天職は魔神で間違いないと思うのだが文字化けして読めない。即ちまだ確定してはいないという事だ。

 

「さっき出てきた“奴”が魔神の俺とすると、今の俺は一応まだ半神ってことになんのかな?」

 

じゃあ魔神を封印すれば暴走はしない、とそこまで思考するがそれを何故かミノルは躊躇った。魔神化した時に感じた魔力の昂りと高揚感と言ったらこの世にこれ以上無いほど優美で心地良いものだったからだ。

 

「............考えても仕方ない。今は取り敢えず此処から脱出する事を考えよう。多分一番下に着いたら出られるんじゃないかな。」

 

息を深く吐き、決心すると兎との戦闘前に大量に作っていた水筒(許容量増大版)に神水をありったけ汲んでいく。やがて膨大な数の水筒を中心に寄せ「“創造”」と呟く。その水筒は赤黒い魔力を放ちながら一つの水筒になった。この水筒はどれだけ水を容れても満タンにならない。つまり無限に水を蓄えられる機能が追加された水筒だ。それを水筒同様“創造”で創ったリュックに入れいよいよ拠点を飛び出した。目指すは第二層目への入り口だ......。




遂にミノル君が厨二病を発病しました。ずっとやりたかった二重人格設定です。本文では回りくどい言い方をしていますがざっくり言うと神<半神=魔神こんな感じです。ハジメ君に比べると成長スピードが遅いという感じで書いてみました。外見の変化はあるけど、中身はあんま無い的な。それと書いてて思ったのですが主人公の心理描写が少ないんじゃないかと。なので次回はその辺も意識しつつメインヒロイン登場に向け突っ走ろうと思います。

最後まで御付き合い頂き有難う御座いました。次回も読んで頂けると幸いです。誤字・脱字報告、感想などお待ちしております。時間がある時に一つずつ返信する所存でありますので気軽に感想下さると嬉しいです。

次回の更新は未定です。


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第三話“迷宮の果てで”

遂にメインヒロイン登場です。それと初めて一万字超えました。つ、疲れた......。


仮拠点から旅立ったミノルは時に魔物の群れに囲まれ、時に「初見殺しかよ!?」とつっこんでしまう様な魔物の配置に苦戦し、時に神水をがぶ飲みしながら魔物の肉を喰らったり等々。色々あったが順調に迷宮を探索していた。現在ミノルの位置は三十五階層目の辺り。ステータスボードはこんな感じ。

==========================================================================================

 

壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:55

天職:????

筋力:6925

体力:6530

耐性:6842

敏捷:6893

魔力:7952+5000

魔耐:6902

技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知][+通路探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔力吸収[+吸収力強化][+吸収治癒][+魔法吸収]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]・威圧[+服従][+恐慌]・創造[+消費魔力減]・念話

 

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分かった事はレベルの上がり具合に対してステータスの上昇が著しく低いという事と魔物肉を喰らっても技能が殆ど増えないという事。変わった事と言えば“念話”が追加された事、“神眼”に“通路探知”が追加された事、“魔法吸収”が“魔力吸収”に変わり、“魔法吸収”は“魔力吸収”の技能枠に入れられたという事である。所で三十五層にして未だにレベルが55なのには理由がある。ミノルは出来るだけ戦闘を避け、最短ルートで迷宮を攻略しているからなのだ。と言うのも“神眼”で下の層を見てみると通路の終わりはこの層の遥か下の層にある事が発覚、何日、いや何ヶ月掛かるか分からない状態なのでこうして急いでいる訳だ。この層に至る迄の間に一応一通り技能は試してみた。まだ解明されていないのは“神化”と“半不老不死”だけである。通常、技能には説明が付いている筈なのだがこの二つの技能だけは説明が飛んでおり使い方が解らないのだ。という訳で場面はミノル君に切り替わる。

 

「しっかしなぁ......。こんな感じでこの迷宮ぬけられんのかなぁ...。層ごと破壊しようとしても魔術的な結界が貼ってあって壊せないし......。」

 

流石大迷宮。過去にミノルの様な行為をした化物がいたのであろうか。その辺の対策はしっかりとられているようだ。

 

「そんな所に時間掛けるなら層の階数縮めろっていう話だけどな。」

 

大迷宮に対する冒涜である。創造主出てこい!と言わんばかりに怒りを背中に滲ませているミノルは今、三十六層に続く階段を降りていた。しかも、普通に降りるのではなく“神歩”を発動し飛翔しながら。二回目の発動となる“神歩”だが一つ欠点を発見した。この技能、移動スピードがミノルの歩く速度より遅い為戦闘や移動の際は全く使い物にならないのだ。戦闘に使うのであれば“空力”や“縮地”“豪脚”を使用した方が速度も距離も稼げる。もっとも、一番使えそうなのは“瞬光”なのだが...。それらの技能に“飛翔”と“浮遊”が追加されたのが“神歩”である。他の四つに比べ明らかに魔力の消費量が多い事、移動スピードが極端に遅い事、そもそも遠距離攻撃出来るならその技能要らなくね?等々短所はあるがミノル達が元いた世界では誰も成し得なかった“空を飛ぶ”という行為が出来るならどんな欠点も笑って許せる。これもまた浪漫である。

 

「...............迷宮から出たら移動用のアーティファクト、創造するか…。」

 

流石に笑って許せる許容範囲を超えたらしい。“神歩”を停止すると普通に歩いて階段を降りていく。速い。空を飛ぶより圧倒的に速い徒歩で移動しながらミノルは実用性と浪漫について永久に悩む事になるのだがそれはまた後のお話。

 

その後も順調に階層踏破数を上げていくミノルは第50層に到着した直後これまでの階では感じた事の無い強大な魔力を感知し身を震わせた。

 

「...っ!?何だこれ......。魔力探知が自動発動したのか...?いや、そうじゃない。神眼の効果は目だけに発動する。今感じたのは俺の全身。だが目では見えなかった。じゃあ何だ?新しい技能か?」

 

これは技能では無く人が初めから持っている“第六感”という一種の能力である。だが、ミノルはこれを魔神化や半神になった影響で人間の数十倍研ぎ澄まされ、特に大きな魔力は感じる事が出来るようになったのだ。これを応用すれば魔力だけで人物を把握できる様になるのだがそれはまた別のお話。現状原因の分からないミノルはよく分からない魔力の波に唯々怯えるだけであった。

 

「だけど何だろう......。この魔力何か落ち着く様な...?」

 

兎に角先に進むミノル。知らず知らずのうちに魔力の発生源に向かっていたのは内緒にしておこう。暫く進んでいると燃えるような赤い毛の狐だろうか、4本の尾を揺らしながらミノルの方へ向かって来た。だがミノルは特に気にせずそのまま歩いていたが赤狐の方がミノルを瞳に捉え「グォォォォォ!!!」という雄叫びを上げ怒りに囚われ突進攻撃を仕掛けて来る。因みに“全種族言語理解”の技能を持っていたミノルは赤狐の言葉を理解する事が出来ていた。

 

「(コロス、コロシテクウ。クウ、クッテヤル......。)」

「魔物って皆こんな感じだけど理性持ってる奴はいないのかなぁ?」

 

“縮地”と“空力”を同時発動し超人的な脚力で宙に飛び上がり突進を避けたミノルは落下中にそんな事を尋ねる。当然返答は無いのだが。

 

「雷よ、拳に纏え“雷撃(サンダーショット)”。」

 

適当な詠唱の後拳というより腕に雷を纏わせたミノルが真下の赤狐に向かい鉄槌を下すと、ドッッッゴーン!!!という落雷同様の大音響が辺りに響き渡り一瞬視界がホワイトアウトする。やがてクリアになった風景に完全にノした赤狐の腹の上に座っているミノルの姿があった。因みに赤狐はもう起き上がる事は無いだろう。あのレベルの電流は恐らく通常の自然現象である落雷と同様だ。幾ら迷宮の魔物であろうが2億Vの電流に耐えられるはずがない。

 

「うーん.........やっぱ改善が必要だな。魔力込め過ぎないように且つ一撃で殺せる様になんてそこまで意識するのは苦労しそうだけど。」

 

因みにミノルは異世界に飛ばされた直後から人や動物を殺す事に躊躇いを持っていない。魔神化(?)した時から尚更である。チートスペックを持っていようが死ぬ事が証明されたので躊躇なんてしていられてないのだ。確かに殺す事に対して罪悪感を持たない訳ではない。「生きる為に仕方ないとは言え殺すのは余りにも.........。」という感情を「生きる為だから仕方ない。」という割り切った感情に変えているというか変わってしまったのである。だから殺しに躊躇はしない。そして変わった事と言えばこの迷宮に来てから有り得ない所から魔物が飛び出してきたり通常おかしい数の魔物の群れにこれまたおかしい場所で囲まれたりしたミノルは取り敢えず全てを疑う事にしている。宝箱を一回殴る、という感覚に近い。それはミノルがチキンだからとかそういう理由じゃないのかという意見もあると思う。だが決してそんな事は無い。無いったら無いのだ。

 

と、まぁこんな感じで迷宮を進んでいると(途中芋虫型の魔物に斬撃系の魔法を使ってしまい大変スプラッタな映像が流れたのだがそれは割愛。)何かの魔法陣が描かれた10m以上はあるだろう巨大な扉を見つけたミノル。

 

「何だこれ.........。ボス戦...いや中ボス戦か。」

 

“神眼”の効果で此処は迷宮の約半分頃という事を知っていた為恐らく此処が中間地点だろうと思っているミノルはそんな事を呟く。

 

「うーんと......神なる安らぎの光よ我に聖なる力と癒しを与えよ“神の息吹(ゴッドブレス)”。」

 

神位複合魔法の技能で創り出した魔法の一つ。自身に自動回復と身体能力強化の両方を補える補助魔法だ。詠唱を終えるとミノルの身体を神水を飲んだ時と似ている光が包み光が消えた時ミノルは柔らかな安心感と活力が漲ってくる感覚に思わずニヤケてしまった。やはり自分が作った魔法を使い、効果が出た時の達成感といったらないのだ。こんな感じで準備万端のミノルは扉に手を掛け引いた。ギィーという音と共にゆっくりと扉が開かれていく。

 

=========================================================================================

 

扉の先には古代ローマにあった様な闘技場が造られており闘技場を囲む壁には観覧する為の席が幾つも用意されていた。そしてミノルがキョロキョロしながら闘技場に立つといきなり闘技場が揺れ初める。何かが動いてる様な音が振動と共に大きくなりやがて、闘技場の一部分が丸ごとくり抜かれミノルと対峙するような形で高さ10m以上はありそうな檻が現れた。恐る恐るその檻に近づこうとするミノル。だが、ミノルが近付く前にその檻の扉がゆっくりと開き、その中からミノルがこれまで会った魔物とは格が違う魔力と巨体を持った“巨人”が現れる。

 

「へぇ......中ボスはサイクロプスか。良い趣味してるね。ここ作った創造主さんはよ!!」

 

復活の咆哮を上げようとしている鎖を纏った一つ目鬼に“縮地”と“空力”を使い飛び上がるとその一つ目を潰すかの如く魔法で強化された身体能力に体重を乗せ飛び蹴りを放った。汚いとか言うな。戦術だ戦術。ミノルの想像以上にダメージの高い蹴りは一つ目鬼の咆哮を停止させよろめかせる程だった。間髪入れずに空中に“浮遊”を使い浮いた状態で詠唱を始める。

 

「火よ、水よ、風よ、雷よ、地よ、その力を刃と変え我に与えよ。“天地一閃(テンチイッセン)”!!!」

 

詠唱は相変わらず適当である。もうちょっとそれっぽい言葉もあったと思うがハジメや他の同志達に比べ厨二力が低いミノルはこの位が精一杯である。そもそも戦闘に於いて長ったらしい詠唱は命取りになるという言い訳を心の中でするミノルは魔法により創られた一つ目鬼の倍はあろう大きさの白い剣を手に纏わせ一つ目鬼を真上から一刀両断する。詠唱は幼稚だが威力は絶大。しかし、ガッキィン!!!という金属と金属がぶつかる音と感触に違和感を覚えふと下を見ると何とミノルの刃を片手で掴み取っている一つ目鬼がいた。唖然とするミノルを今度は一つ目鬼が白い剣ごと壁の方にぶん投げ目から光線を放った。ドゴーン!!!という壁に身体がぶつかる衝撃音の後バッッッッゴッッーン!!!!!!という光線が壁を破壊した強烈な音が響く。

 

「グッ!...ガハッ.........ま、マジかよ...。流石は迷宮の中ボス......。伊達じゃねぇな...。」

 

壁を壊される前に壁からずり落ちていたミノルは光線をモロに喰らっても随分余裕がある様だ。事前にかけていた自動回復の効果で致命傷には至らなかった、だが余りにも多過ぎるダメージ量にとうとう自動回復が切れてしまう。何とか壁にもたれ掛かり立ち上がると未だに闘志を孕んだ目で一つ目鬼を睨む。

 

「(どうする......。空中戦はこちらが不利だ......なら地上から魔法による遠距離攻撃で...)」

そこまで思考したミノルの脳裏に突如一つ目鬼が再び光線を放ちそれに反応できず呑み込まれる()()()()()()()()。“未来予知”の“自動発動”である。これはミノルを殺す、又は致命傷を負わせる攻撃が来る5秒ほど前

にその攻撃のビジョンを見せてくれるものである。つまり、

 

「(喰らったら......死ぬ!!!!)」

 

咄嗟に地に伏せるとその直後頭上を破壊の名を冠した光線が掠る。久しぶりに感じた『死』にミノルは動けなくなっていた。

 

「(怖い...怖い怖い怖い怖い怖い怖怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!死にたくない死にたくない死にたくない!!!)」

 

一種の恐慌状態に陥り魔力変換の事をすっかり忘れたミノルに今度こそミノルを仕留める為に放たれた死神の白き鎌がミノルを貫いた.........。

 

=============================================================================================

 

暗い意識の底でミノルは誰かと対峙していた。顔も見えず姿もぼんやりとしか捉えられない人物と。いや、既に“それ”は人の身では無いかもしれない。そんな何かがミノルに問い掛ける。

 

『クックック............。憐れだな、同情するほど。このままだと貴様はまず間違いなく死ぬ。どう足掻いてもな。だが一つだけその運命を覆せる方法があるんだが...。』

「っぁ!?だ、誰だ!?此処は何処だ!俺はどうなったんだ!?」

 

“声”と言うよりは“音”に近い様な人物の囁きと自分の立場に混乱するミノル。その人物は再び口を開いた。

 

『細い話はどうだっていい。だが今貴様は死にかけている。貴様が“承諾”さえすれば貴様は死ななくて済む。これだけだ。端的に言うと、な。』

「死にかけている......?そうかあの時サイクロプスの光線をくらって......。どうすれば俺は死なずに済むんだ?」

 

混乱する意識の中で自分が未来予知の後二回目の光線をくらった事を思い出す。どうやらこの人物の話によると生き返れる方法があるらしい。必死だった。死にたくないという感情だけがミノルをこの世に存在させていた。

 

『だから何度も言っているだろう。承諾しろ。()()()()()()()()()()()すればいい。簡単な事だろ?』

「それで助かるなら......。分かった承諾する。」

『確かに受け取った。じゃあ少し寝てろ。』

 

その言葉を最後にミノルの意識は完全に闇の中へと落ちた。

 

===============================================================================================

 

現実の世界ではほんの一瞬の事だった。光線を受けて死んだ筈のミノルが何と再び立ち上がったのだ。よく見ると普段のミノルとは全くの別人と言っていいほど外見が変わり果てていた。まず、頭部の半分を占めていた赤髪が頭部を全て多い尽くし中途半端な灰色や黒は無くなった。変身前から絶大な魔力量だったがそれが可愛く見える程、圧倒的なそれこそ“神”の様な赤黒く対峙するだけで絶望に身が侵されるような魔力を纏いその挙動一つ一つが地を抉った。金色の瞳は相変わらずだがその目の奥に深い闇が灯る。

 

ニィっと口の端が釣りあがったと思うとコンマ一秒にも満たない時間で一つ目鬼の背後に現れる。転移魔法だろうか。原理はよく分からないが事実としてそこにはミノルがいた。そしてゆっくりと拳を一つ目鬼の腹に向かい突き上げる。当然拳は届かない。だが次の瞬間一つ目鬼の腹部に巨大な穴が現れた。現れたのではなく一つ目鬼の腹部が消滅したと表現するのが正しいのだがそう表現してしまうほど突然の出来事だった。一つ目鬼も驚愕しているのか背後を振り向き拳を振り上げる。だが腐っても迷宮の中ボス。腹部が何と再生を始めたではないか。この調子なら一分あれば元通りの体躯に戻るだろう。

 

「ククク...。」

 

それを見て尚不気味な笑い声を上げる。重力を感じさせない動きで宙に舞い上がると一つ目鬼がその拳を落とすより速くミノルが脚を振り上げ一つ目鬼の頭部目掛けて振り下ろす。またもやミノルの脚は当たらない。だが一つ目鬼の頭部はやはり潰れたや抉れたと表現するよりは“消滅した”と言うのが正しいであろう状態になる。つまり地についている二本足と再生した一部の肉体を残し一つ目鬼は断末魔を上げる暇もなく絶命したのである。だが、ミノルは掌を既に絶命している一つ目鬼に向け何かを呟く。瞬間、ミノルの掌から赤と黒と閃光が迸り一つ目鬼は細胞一つ残すことなく文字通りこの世界から消滅した。そして一言。

 

「こんなものか...。もう少し楽しめると思ったんだが......。まぁいい。次に期待しよう。」

 

そこにあったのはこの世のあらゆる“恐怖”を知り尽くした者でも蹲って子供の様に泣きじゃくる様な“邪悪”と言うには安易すぎる“魔神”の姿だった。

==========================================================================================

ミノルが目を覚ますと一つ目鬼はおらず、闘技場は半壊していた。頭痛で意識がやや混濁としているが取り敢えず五体満足の事に安堵する。髪は元のように半分が赤、もう半分が黒に一部が灰色に戻り魔力も通常通りの値に戻ったようだ。

 

「一体何だったんだ......。さっきのは......。助かった、のか?」

 

身体の埃を払うと改めて闘技場を見回す。身に覚えの無いクレーターや破壊の跡が所々に見える。混乱するミノルに何かが再び囁いた。

 

『(コロセ。)』

「な、何だ?」

『(コロセ。)』

「一体......誰が......。」

『(コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ、コロシテシマエ。ナニモカモ)』

「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」

 

ミノルの中で何かが崩壊した。絶叫の中ミノルは悟る。そうだ。全部殺せばいい。一つ目鬼も何もかも自分に仇なす者は皆、

 

『「殺しテやル」』

 

ミノルの髪が先程の魔神(?)のように赤く染まる。魔力の増大はしていないがミノルを包む雰囲気が先程の魔神の様に絶望を象徴する様な禍々しいものに。変化が終わったミノルの瞳に迷いは無い。全てを殺し全てを壊しこの世界から元の世界に帰る。方法を探す為なら、また自分の道を塞ぐ者は誰であろうと、なんであろうと殺し壊す。そう決意するとゆっくりと歩き出す。先ずはこの迷宮から脱出する為に。

 

==========================================================================================

ミノルは使い果たした魔力を回復する為に持っていた神水を浴びる様に飲んでいた。やがて回復が終わるとずっと一つ目鬼だとばかり思っていた魔力が消えない事に気づきその魔力の根源に向かう。魔力の根源は闘技場にあった隠し扉の向こう側にあった。そこには闘技場程ではないが巨大な扉が鎮座しており魔力はそこから漏れ出しているようだ。躊躇いなく其の扉を開けると思わず目を見張る。そこにはこの迷宮には場違いな高貴な部屋があったのだから。部屋を煌びやかに照らすシャンデリアに天蓋付きのベッド。壁に飾られた絵や所々に置いてある骨董品はどれも普通の生活をしていたらお目にかかれないような物ばかりだった。

 

「............誰かいるの...?」

 

その部屋の中央に魔力の根源は“居た”。正確に言うと上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い銀髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる蒼眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

「お前は......?」

「お願い.........助けて......。」

 

その声は長年使われていなかったのか掠れて殆ど聴き取れなかったが少女の必死さは充分に伝わった。だがミノルは

 

「断る。」

「そんな...何でもするから....。」

少女に背を向けると扉の方へ歩いて行く。どうせ助けた瞬間魔物が天井から降ってくるというオチであろう。罠ではないとしても少女の首に付いている立方体は明らかに封印魔具だ。ヤバい奴に違いない。

 

普通の人なら間違いなく助ける場面だろう。過去のミノルもそうしたかもしれない。だが、生憎ミノルは赤の他人に同情できるほどの余裕は残っていない。それをそのまま言葉にする。

 

「こんな所に封印されてるんだ。そんな奴を外に出す訳にはいかない。」

「待って...!お願い...!私は...私達は悪くない...裏切られただけ!」

 

ピクっと扉の方に向かっていたミノルの足が止まる。“裏切られた”その言葉に反応してしまったようだ。ミノルはいじめられていたクラスメイトを知っている。だがそのいじめに加担することは無かったが見て見ぬ振りをして過ごしていた。ある日そのクラスメイトに「何で知ってて助けくれなかったの?」と告げられ「意味が無い」と答えてしまった。その次の日にそのクラスメイトは自殺した。原因はいじめだろうが、とどめを刺したのはミノルだ。

 

「(けど何でこんな時にアイツが...。)」

 

生きるか死ぬかの瀬戸際の領域で何故大昔に死んだ友人の事を思い出すのか。銀髪蒼眼の少女は縋るような目でこちらをじっと見つめていた。何分経っただろうか。深い溜息を吐きミノルが少女の下へ歩み寄る。

 

「裏切られたってどうゆう事だ?」

「私と私の妹、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前達はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私達……それでもよかった……でも、私達、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「封印って...どの位だ?」

 

「三百年位......。」

 

よくある話である。強大な力を持ち大きな権力を持つ善人は欲に溺れた悪人に嫉妬され恨まれ憎まれ、やがて殺される。だが殺せなかったのだろう目の前の銀髪蒼眼の少女と彼女の妹はこんな場所に封印されたのだ。

 

「お前と妹はどっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないとは何だ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……ふむ不死身の一種か。他は?」

「...後……魔力、直接操れる……陣もいらない」

「それは凄いな...。」

 

確かに強大な力だ。その技能とステータスを除けばミノルと同じ事が出来るのだ。この階層の入口からでも感じられた魔力と不死身というチートスペック。魔力操作ができるのならその魔力量にものを言わせてここら一帯を灰にするのなんて容易いだろう。過去の人々が恐れるのも無理はない。ミノルは一人で納得した。

 

「.........助けて。」

 

一人思考に耽っていたミノルに懇願するように呟く。助ける義理はない。裏切られようが、封印されようが強大な力を持っていようがミノルには全く関係が無かった。後はミノルの良心の問題である。

 

「.....................。」

 

長い沈黙の後深い溜息を吐きミノルは少女の立方体に手を掛け魔法を使うと魔神化の影響で赤黒く、いや殆ど漆黒に染まった魔力が黒い閃光と共に迸る。解除を試みて初めてわかったことだがこの封印魔具、並の魔術師が拵えたものでは無いらしく普通の人間が外そうとするなら神水を飲みながらでもびくともしないだろう。()()()()()()()。封印魔具の外し方は三つ。一つは対応する解封呪文を唱える事。これは最も魔力を消費せずに

外せるが難易度は他の二つに比べると桁違いだ。何故なら一つの封印魔具に対し対応する解封呪文は一つ。つまり現時点では不可能なやり方だ。二つ目は封印魔具その物を分解するという方法である。これは生産系の天職且つ相応の魔力量が無いと無理だろう。だが最後の一つ、ミノルが今行っている事に比べると魔力の消費は少ない。

 

最後の方法。それは封印魔具の許容範囲を超え封印魔具が耐えられなくなって崩壊するまで魔力を注ぎ込む事だ。今ミノルが手にしている封印魔具は先程述べた通り名の知れた封印師が造った物だ。つまり上の二つの方法とは比べ物にならない魔力が必要である。だからミノルにしか出来ない。力技である。

 

「(思ったより魔力の許容範囲が多いな...。だが今の俺なら...!)」

 

ミノルが注ぎ込んだ魔力量は超高位魔法を二発連続で使用した魔力量と等しい。だが未だに外れない封印魔具に更に魔力を込めていく。部屋中がミノルの漆黒の魔力で黒く照らされ夜になってしまったのかと錯覚する程であった。やがて、三百年形を変えずに銀髪蒼眼の少女の自由を奪い続けていた封印魔具はとうとうミノルの魔力に耐えきれずボンッ!という小さな爆発音と共に消滅した。

 

 

直後、少女の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、少女は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

 ミノルも座り込む。荒くなった呼吸音を押し殺す様に息を吐き吸う。頬には一筋の汗が流れ落ちた。放心状態になっている少女に懐から取り出した神水を飲ませると、自分もがぶ飲みする。その際、少女はずっと震える手でミノルの服の裾を掴み「ありがとう......」と呟いていた。その姿を見て流石に不憫に思ったのかミノルは空いてる手を少女の頭にポンと置いた。少女は我慢していたものが崩壊したのか自分の格好も忘れミノルの胸に顔を埋め泣きじゃくった。

 

泣き止む頃にはすっかりミノルに懐いておりミノルの背中に寄り掛かっていた。

 

「.........あの...名前は?」

 

 

何かを考える様に俯いていたミノルは不意に囁かれた事に多少ビクッとするが顔を上げると

 

「ミノル。壠瀧ミノルだ。お前は?」

「名前.........。あった、けどその名前嫌。ミノルが付けて......?」

 

上目遣いでそんな事を尋ねる少女は確かに可愛かった。確かにトラウマになっている時代の名前では嫌だろう。そんな我が儘を言えるようになったのはミノルに心を許している証拠かもしれない。悩む必要は無かったが改めて少女を見て多少なりとも考えてみる。汚れているが少し青が掛かった美しい銀髪に空の青よりも透き通る蒼眼がよく映えている。

 

「うーん......青.........空.........月.........吸血鬼......。ルーナ...。“ルナ”はどうだ?古い時代の言葉で月を意味する。」

「......ルナ。うん私はルナ。宜しくミノル......。」

 

その言葉を何度も口に出すては顔を綻ばせるルナ。気に入ってくれたようでなによりだが割と適当である。正直ここまで喜ばれると少々胸が痛い。

 

「うんまぁその何だ。そんな格好だと目のやり場に困るからこれ着とけ。“創造”」

 

ミノルの手から放たれた漆黒の魔力が形を変え黒い外套になる。それをルナに渡しあまり背後を見ないようにした。

 

「......ミノルの変態。」

 

顔を真っ赤にしたルナが漸く自分の格好に気付き不貞腐れたように呟くとその外套を慌てて羽織った。身長が百四十cm程しかないルナは外套を全部羽織ると引きずってしまっている。何とか外套が地面に着かないようにしている姿が微笑ましい。

 

その次の瞬間。ミノルの“未来予知”が自動発動する。そのビジョンを見たミノルは“縮地”を使いルナを抱え上げると扉の方へ飛び出したその直後一秒前までミノル達がいた頭上に真っ青な外殻を纏った巨大な“サソリ”が現れた。

 

「やっぱり罠かよクソッタレ!!」

 

当初ミノルが案じていた事が現実になってしまったようだ。恐らく、封印が解けた時の最後の砦だろう。侵入者とルナ諸共殺せと命令されているのであろう。悪態を吐きながら取り敢えずこんな狭い場所から出ようと詠唱を始める。

 

「灰よ。火の無い灰よ。薪の王の名の下に命ずる。我を守れ。“灰人形(ゴースト)”。」

 

するとサソリの行く手を阻む様に何処からとも無く灰が現れ数体の人間の形を構成していく。当然あの魔法で殺す気は無い。足止め程度で充分だ。灰人形でサソリを留めている間にルナを抱え外に飛び出した。直後部屋を破壊しサソリも外に出て来る。灰人形を一撃で屠った様だ。そんなサソリを見てニヤリと笑うミノルは狩人。いや唯の戦闘狂の目をしていた。

 

「上等だ。来いよ。一撃で仕留めてやる。」

 

 

 

 

 

 




もしユエに姉がいたらどんな感じだろうなーと作者の妄想全開で書いてみました。「ハジメのいた大迷宮と同じ所じゃないの?」と思う方がいるかもしれませんが理由は後々解るので暫く御付き合い下さいませ。結局吸血鬼なので月を意味する“ルナ”という安易な考えです。スペイン語で月を表しますね。それとルナの性格やスペックはユナとはまた違う感じにしたいなーと思っているのでもしかすると後で訂正入るかもしれません。次回、サソリモドキとのバトルです。それと余談ですがUAが1500を超えてました。見て下さった方ありがとうございます。

ここまで読んで頂きありがとうございました。次回も最後まで読んでくれると幸いです。

次回の更新は明日か明後日になります。



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第四話 “一段落して”

本当は二個に分けようと思いましたがそうするとサソリモドキ戦があまりにも短くなってしまった為くっつけました...。戦闘と言うよりは心を表した場面が多めです。


 鼻(?)からサソリモドキがフシューと白い息を吐いたかと思うと毒の液体をミノルとミノルに庇われているルナを巻き込む様に広範囲に浴びせてきた。“未来予知”でその攻撃を知っていたミノルは慌てずにルナを抱え後方にバックステップして避ける。その紫色の液体は地面に付着するとその場所がジュウと言う音を立て溶ける。これを見たミノルは取り敢えず“創造”を使い石の壁を建てるとその奥にルナを抱え飛び込んだ。

 

「ルナ。お前は此処に隠れてろ。」

「そんな.........。私も...ミノルと戦う。」

 

 真っ青な外殻を持つサソリモドキはいきなり現れた壁に少々驚いたようだが意にも介さずミノルを探し始める。どうやら目はあまり良くないようだ。それをサソリモドキの動きを見て知っていたミノルは敢えて壁を創りそこに隠れたのだ。だが、ミノルには一つ見逃している点があった。それは生物は一つの器官を失えば他の器官がそれを補おうとする事。この場合サソリモドキは視力が優れていない為後の五感が全て強化されている事になる。そして新しい器官が体内で作られたりもする。

 

 サソリモドキはその器官を使いミノル達の場所を把握するとその場所にまた毒の液体を放つ。

 

「クソっ......。ピット器官か...!」

 

 壁のお陰でその大部分が防がれたが防げなかった分の液体がミノル達の頭上に降り掛かる。ルナを抱えながら“縮地”を使い今度はサソリモドキの真上に跳ぶとサソリモドキの背後の地面に落ちる様に無詠唱で火球を放つ。ボウ!と音を立てて燃える火球に反応しサソリモドキがそちらへ向かって行く。ミノルの思惑通りの展開に一先ず安堵しながらルナを隠せる場所を探す。

 

 ピット器官というのは例を挙げると蛇などが持っている器官の事でその器官は“熱”を感知する事が出来るのだ。つまりサーモグラフィーである。だから幾ら壁の後ろに隠れようが熱を感知して見つけてしまうので無意味という事だ。ミノルはこの器官を逆に利用しサソリモドキの背後に高熱源である火球を落とす事で意識をそちらへ逸らしたのだ。

 

 サソリモドキから20m程離れた場所に隠れられそうな洞穴を見つける。そこにルナを置くとサソリモドキに見つからない様に“縮地”と“空力”を使い空を飛びながら適当な場所に火球を落とし近付いていく。ルナはそこに置かれた直後何かを言おうと口を開きかけたがミノルが頭に手を置き真剣な眼差しで見つめると何も言えなくなってしまった。

 

 徐々にサソリモドキに接近していたミノルは違和感を覚えた。どうもサソリモドキの進行方向が火球を放っている場所とは若干ズレた所になっているのだ。そしてサソリモドキの動きが止まり真上に陣取ったミノルが魔法の詠唱を始めるのとサソリモドキが尾を宙に向けミノルに向かい毒の針を飛ばしたのがほぼ同時だった。

 

「ミノル!」

 

 ルナがミノルに警告するがもう遅い。回避を“未来予知”に頼っていたミノルはサソリモドキの放った毒針に反応できず、だが野生の勘というやつなのだろうか。咄嗟にミノルは身を捻っていた。だが毒針の方が速い。銃弾と見紛う程のスピードを持った毒針はミノルの顔を掠り横を通り抜けていく。

 

「アガッ!?」

 

 変な方向にしかも宙に浮いた不安定な状態で無理に身体を捻ったためミノルはバランスを維持出来ずそのまま落下した。慌てて受け身をとり起き上がるミノルを感じた事の無い脱力感が襲った。

 

「これは.........魔力が抜けていってるのか...?」

 

 サソリモドキの持っている毒は二種類あった。一つは初手に出した毒の液体。範囲攻撃が出来るが針よりは遅い(それでも充分速かった)。もう一つはミノルがくらった毒をくらった生物の魔力を抜き取る物。一撃でごっそり奪うのではなくじわじわとそれこそ針を刺された風船の様に萎んでいく感じで魔力が無くなっていくのだ。くらった者はとてつもない脱力感に襲われ戦意を喪失してしまう恐ろしい毒だ。

 

「クッ......思った通りに身体が動かねぇ。このままだと......。」

 

 思ったより魔力の抜け具合が速い。今の状態のミノルは魔法を一発放っただけで残った魔力を全部消費してしまうだろう。

 

「一発で決めるか...?だが奴の甲殻は...。」

 

 さっき適当に火球を撃っていたら誤ってサソリモドキに当ててしまったのである。死んだか?と思い神眼を使ってサソリモドキを見るとサソリモドキは多少ダメージはくらった様子だったが特に気にしてる感じではなかった。好調の時のミノルの火球でさえああならば、今のミノルが出せる魔法の中でサソリモドキを一撃で仕留められるものは無い。

 

「どうする......。またアイツを呼ぶか...?だが確証が無い。今度くらったら本当に死ぬかもしれない...。」

 

 “アイツ”とミノルが呼んでいるのは一つ目鬼戦で出て来たあの“魔神”である。その力は強大だが確証が無い中呼び出す為に死ぬ様な攻撃を受けたら本当に死ぬかもしれない。そうしている間にもミノルの魔力はどんどん抜けていく。サソリモドキはその様子を黙って観察していた。恐らくミノルの瞳に宿った未だ消えない闘志を見てまだ魔力が抜けきっていないと判断したのであろう。サソリモドキは封印を守る最後の砦であり“狩人”ではあるが“戦闘狂”では無い。獲物が弱るまでただひたすら待ち、獲物が地に倒れた瞬間狩るつもりなのだ。

 

「ギィィィィィ!!!」

「っ!?何だ?」

 

 殆ど魔力を抜かれ気力で地面に立っていたミノルに向かい今の今まで一言も発さなかったサソリモドキが突如奇声をあげミノルを無視して何処かへ走って行く。

 

「?どうなってんだ?...ん?待てよあの方向は...。」

 

 つまり、ルナを見つけたサソリモドキがルナの方へ走っていっているのだった。サソリモドキの本来の役目はルナを封印が解かれた時にルナを殺し解放者も殺せというものの筈だ。確かに解放者であるミノルも粛清対象になるのだが優先順位的にはルナの方が上だ。

 

「ルナには悪いが......。」

 

 ミノルの目的はこの迷宮からの脱出である。つまりルナの救出など足でまといを増やしただけ。サソリモドキの意識がルナに向いている今なら逃げられる。そこまで考えてミノルは残り少ない魔力で“縮地”と“空力”を使い移動を始める。そう()()()()()()()()()()()()()()()()()。助ける理由は無い。だが封印を解いた時、サソリモドキから隠れた時、サソリモドキの放った毒針

 がミノルの方へ飛んできた時、ルナはミノルに心を許しミノルの危機に自分も力になりたいと願っていた。自分の事を思い行動してくれる少女を見捨てるのは“悪役”や“外道”といった生ぬるい言葉では言い表せない存在。

 

「つまり、単なるクズだ!そこは人間も魔物も神も関係ねぇ。絶対にあいつだけは死なせない。残りの魔力全部使ってもあいつだけは、ルナだけは逃がしてやる...。」

 

 もしあの部屋でルナの封印を解かなければこんな目に遭うことは無かっただろう。だが、ルナを見捨てていればミノルは唯の人間としても神としても一人の男としてもこの世の中で最も最低な存在になってしまってたであろう。ルナを助けた所がミノルの運命の分岐点だったのだ。

 

「あいつ...だけは......。」

 

 “縮地”と“空力”の連続発動で既に無いに等しかったミノルの魔力は文字通り底を尽き宙で停止するミノル。そしてミノルは最後の力を振り絞りある言葉を放った。直後ミノルの全身からミノルの最大値よりも多い漆黒の魔力が放出された.........。

 

 ==========================================================================================

 

 ルナは隠れている場所の前を彷徨くサソリモドキに見つからないよう身を小さくし心臓の鼓動音を押し殺していた。ミノルは強い。会った時から普通なら有り得ない方法で封印魔具を外し、それでも尚有り余る魔力があった。だから此処に隠れてろと言われた時も不思議と怖さは無かった。頭に置かれたミノルの手の温度を感じる余裕まであった。だからルナはこんな状況に置かれても最後までミノルの事を信じ待っていた。

 

 サソリモドキがルナの場所を発見したのか徐々にルナの隠れている場所に近付いてくる。サソリモドキが目と鼻の先に来た時ルナは小さな声でその名前を呼んだ。消え入りそうな程小さく震えた声で。

 

「ミノル......。助けて...。」

 

 死を覚悟し目を固く瞑ったルナの耳に何かが吹き飛ぶ様な音が聞こえた。そして恐る恐る目を開けたルナの瞳に映ったものは漆黒の魔力に身を包みサソリモドキを殴った方の手を擦りながら

 

「大丈夫か?」

 

 と尋ねるミノルの姿だった。絶望に落ちたルナの瞳に光が灯りミノルに抱き着いて泣きじゃくるのであった。ミノルは苦笑しながらも暫くルナに身体を預ける事にする。

 

 ルナが落ち着く頃には明確な殺意を瞳に宿したサソリモドキが起き上がりミノルを睨んでいた。

 

「ギィィィィィイ!!!」

 

 という今までに無いほどの叫び声を上げ突進して来るサソリモドキをミノルは冷やかな眼差しで見つめサソリモドキが跳躍したタイミングを狙い全体重を乗せた回し蹴りでサソリモドキを横一線に真っ二つにしてしまった。後には半分になったサソリモドキの残骸が残っているばかりであった。

 

 次の瞬間、ミノルの全身からフッと力が抜け地面に倒れてしまう。慌ててミノルの下にルナが駆け寄るとミノルは弱々しい声で

 

「ごめんなルナ......。俺が弱いばかりにお前の事を最後まで守りきる事が出来なくて.........。逃げろルナ。」

「ミノル?ミノル!返事して、ミノル!」

 

 そう呟くと静かに目を閉じる。ミノルのその行動が引き金になった様に真っ二つになった筈のサソリモドキの肉体が再生を始めた。一体ミノルに何があったのであろうか。

 

 魔力切れで地面に墜落する直前ミノルは技能の一つである“神化”を使っていた。この技能は“限界突破”に似た技能で自分のステータスを短時間五倍に上げ自分の持っている魔力の最大値の二倍の魔力を使える様になるが反動で一時間以上は昏睡状態になってしまうというものである。サソリモドキを殴った時のミノルは身体強化系魔法を使わずにサソリモドキを十mは吹き飛ばした。続く回し蹴りも同様、魔法を全く使っていない。ステータスだけの力である。

 

 だがミノルはサソリモドキを絶命させた直後“魔力感知”でサソリモドキの中の魔力が未だに消えていない事を知ったミノルは最後の力を振り絞りルナに逃げろと言ったのである。ルナはそこまで細かくは理解出来なかったがミノルが命を掛けて自分を守ろうとしてくれた事は伝わったようだ。だから自分もミノルを守る。

 

「ごめん......。ミノル。その約束は...守れない。」

 

 そう決意したルナはミノルの首筋に口付けする様にそっと歯を立て噛み付いた。そして恍惚とした表情でミノルの血を吸っていく。吸血した事によりミノルが生きている事を知ったルナは嬉しさのあまりミノルに抱き着いてしまった。当然ながらミノルの意識は無いため何も反応は無いのだが...。

 

 やがて吸血が終わるとどこか熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐める。その仕草と相まって、幼い容姿なのに何処か妖艶さを感じさせる。どういう訳か、先程までのやつれた感じは微塵もなくツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌が戻っていた。頬は夢見るようなバラ色だ。美しい銀髪がより一層輝き、その蒼眼は暖かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるようにミノルの頬に置かれている。

 

「ご馳走様...。ミノル...。」

 

 一度ミノルの頬に口付けをするとそう呟きおもむろに立ち上がった。吸血前もミノルが感知できる程強大な魔力を纏っていたがそれを優に超すその華奢な身体からは想像出来ない絶大な魔力がルナから放たれていた。蒼銀の月光を思わせる美しい魔力光に照らされたルナの姿はまるで女神のようであった。

 

「“紅地”」

 

 再生を終えルナに襲いかかろうとしたサソリモドキの足元に紅の燃え上がる炎が発生しサソリモドキを包んだ。ルナの手が揺れ動く度炎は激しさを増しサソリモドキの外殻を溶かしていく。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 ミノルに蹴られた時より遥かに大きい絶叫を上げるサソリモドキを更に激しくなった紅の炎が襲いその炎を操るルナの手が下から上に上げられるとサソリモドキの真下から血のようなと表現出来る濃い赤の棘の様な物が噴出されそれに外殻を溶かされ脆くなったサソリモドキが串刺しにされる。

 

「ギィァァヤァ......。」

 

 その棘や炎が消えた時には情けない断末魔上げたサソリモドキがひっくり返った状態で足を未だにピクピクと動かしながら絶命していた。

 

 =============================================================================================

 

 サソリモドキを仕留めたルナは急いでミノルの元に駆け寄るとその懐から水筒を取り出し中に入っている神水をミノルに飲ませるためミノルの口元に持っていく。だがミノルは上手く飲み込めず零してしまった。それを見たルナは神水を自分の口に含み口移しで直接ミノルに飲ませる事にした。少し嬉しそうにしているのは気のせいだろうか。

 

 

 ミノルは神水を飲まされた直後は目を覚まさなかったものの何分か経つとゆっくりと目を開け上半身だけを起こす。ミノルが“神化”を使った後昏睡状態になる理由は魔力を回復する為に一時間必要というだけで魔力が直接回復できるならタイムリミットは特に無い。まだ寝ぼけている頭でルナはどうなったのだろうと辺りを見回す為首を曲げた瞬間ルナに抱きつかれた為首をおかしい方向に捻ってしまった。痛みと驚きで混乱するミノル。そんなミノルの心境を知ってか知らずかルナは自分の頬をミノルの胸にすり寄せ泣きじゃくる。ミノルが開放されるには約十分程時間を要する事になる。

 

 落ち着いたルナに事を次第を聞き二度ビックリする。ミノルの全力の火球をくらってもびくともしなかったサソリモドキを一撃で屠ったというのだから無理も無い。

 

「それは......凄かったな...。その........ありがとうルナ。俺を守ってくれたんだろ...?」

「......大丈夫。ミノルも、私の事守ってくれたから......。けど少し疲れたかも......。最上級撃つのは久しぶり...。」

 

 ミノルに全体重を預け幸せそうに目を閉じているルナに少し照れながら感謝の気持ちを伝えるミノル。ルナが「疲れた」と言っているので目線をちょっとずらしてルナを見る。確かにサソリモドキを倒したというのにそれらしい魔力は感じられず、呼吸音が少し荒い。

 

「かなり疲れている様だが...神水飲んだのか?」

「神水も良い、けどミノルの血が飲みたい......。」

「血?」

「.........(コックリ)」

 

 確かに吸血鬼だから神水や他の食材を摂取するよりは効率的に魔力や栄養を補給出来るだろう。「そうか」と結構あっさり首筋をルナに差し出す。その行動を見て驚いたのはルナの方だった。

 

「.........いいの?」

「ああ。」

「............(ジュルリ)」

「...お前俺の血飲んだ事あるだろ......。」

 

 ルナの目には探求心や期待などの眼差しは感じられない。だがそれを上回るミノルの血への欲求とその味を知ってるかの如く舌なめずりするルナを見て何かを悟ったようだ。

 

「じゃあ.........頂きます。んっ............。」

「っ...............。」

 

 首筋を微量な、だが確かな痛みが走り少し顔を顰める。だがその直後ルナがミノルに抱き着いてきた為先程感じた脱力感とはまた異なる力を抜かれるような感覚に陥りながらもルナの背中に手を回してやった。するともっと嬉しそうにミノルの首筋に顔を埋め吸血するルナ。五分位経って漸くミノルの首筋から離れるとどこか恍惚とした表情で唇をペロリと舐める。そしてミノルの耳元で囁くように

 

「.........ご馳走様。」

 

 と呟いた。貧血気味でクラクラする頭でもルナの妖艶さは充分伝わったようではずかしそうに目を逸らしてしまう。未だに熱っぽい艶やかな表情をしているルナに話題を変えるようにミノルが切り出した。

 

「な、なぁルナ。服欲しくないか?」

「服...?」

 

 ルナが首を縦に振るより早く“創造”を開始する。それが終わる頃にはミノルの手に一着の服が乗せられていた。サイズを見る限りどうやらルナの物の様だ。黒いゴスロリチックのドレスにこれまたゴスロリチックなスカート。少しヒールが高い黒の革靴に紫色の花の髪飾り。満足そうな表情をしているミノルにルナは

 

「ミノルはこうゆうのが好きなの.........?」

 

 と何とも微妙な表情で尋ねる。ミノルは何も言えずに目を逸らした。ルナは今すぐこの場で着替えようとしたがミノルの必死の説得により近くの岩陰で着替えてもらう事にする。服を創ったのは色々理由があるのだが、一番大きい理由は外套だけを羽織った何とも妖艶な......端的に言うとエロい格好であの仕草を吸血の度にされるのは流石に堪えるものがある。ミノルだって男の子だから。

 

 だがもっとちゃんとした理由も無い訳では無い。あの服にはある機能が付いている。それは魔法を放つ時、余分に飛び出てしまった魔力を一定範囲なら吸収し着用者に返してくれるというものだ。ミノルもルナも圧倒的な魔力量を誇り余程の事が無い限り魔力切れは起こさないのだが二人共特にルナは一撃に必要以上に魔力を掛けてしまうという傾向がある。魔法を一発放つ度に吸血されたら流石にミノルも理性が持つか解らない。特に外套の格好だったら尚更だ。

 

「どう......?」

「あ、ああ。いいんじゃないか?」

「......むー、また目逸らした...。」

「と、取り敢えず拠点にサソリモドキを運ぶか...。」

「拠点?」

 

 ルナを救出する前にこの第五十層で運良くミノルは神結晶のある場所を発見しておりそこを拠点としていた。此処から戻るには結構な時間を要すると思われるがまぁ何とかなるだろうという安易な考えである。因みにサソリモドキを運ぶ理由はルナはミノルの血を飲むからいいとしてミノルの分の食料が無いのだ。あの距離までこれを運ぶのか......と少し面倒くさそうな顔をしているミノルだがミノルの中の“魔神”がサイクロプスを消し飛ばさなければそれも一緒に持って帰ろうとしていた。因みにしんどいではなく面倒臭いと思っている理由は後々判明する。

 ==========================================================================================

 

 サソリモドキと戦った場所から既に一時間以上は歩き続けている。だが未だに拠点は影も形も見えない。予想以上に拠点から離れてしまっていた事にミノルは舌打ちをしながらサソリモドキを引き摺る。因みにルナは断固として歩きたくないと主張した為ミノルが引き摺るサソリモドキの上にちょこんと鎮座していた。サソリモドキの匂いに釣られた魔物が約十体。サソリモドキとその上に座っているルナに襲い掛かってきた為ミノルが拳一つで昇天させた。本来ならミノルのステータスは殆ど最強と言ってもいい。サソリモドキやサイクロプスなどのこの迷宮の“核”となる魔物ばかりと戦っているためあまり強くは見えないが第五十層で普通に出てくる魔物はミノルにとっては蚊とか蠅とかそういうレベルに近い。現に今ミノルは煩わしい羽音を響かせながらサソリモドキを持ち去ろうとした昆虫型の魔物を鬱陶しそうに手で叩き絶命させている。ルナも大して驚かずミノルから貰った知恵の輪に苦戦していた。

 

 足跡の様に魔物の死体の山を作りながら再び一時間程歩くと漸く拠点に着いた。

 

「着いた......。マジで........。足が......。」

「...んっ。」

 

 少々やつれているミノルがこれ以上無いくらい脱力して普段動かなかったせいか棒のようになってしまった足を叩きながら呟くとこれ以上無いくらい元気そうなルナがぴょんとサソリモドキの上から飛び降りる。因みに歩きたくなかった理由は「眠かった。」だそうでミノルがひいひい言いながら運んでいた最中にその不満は解消されたそうだ。

 

「.....................次はちゃんと歩けよ...。」

「......考えとく。」

 

 スキップでもしそうな足取りで先に拠点の中に入っていくルナを恨めしそうに見つめるミノル。こんな事言ったら怒られそうだがなんやかんやでルナの我が儘を聞いているミノルも相当甘いのではないか。

 

 拠点内は二人とサソリモドキが入ってもまだ余分にスペースがある位広く簡易ながら机と椅子も用意されていた。ミノルとルナは向かい合わせになる様に座ると唐突にミノルが切り出す。

 

「なぁルナ。お前三百年も封印されてたんだろ?つー事はつまり三百歳超えて.........。あっいや何でもないです。」

「............次は......無い...。」

 

 ミノルが言ってはいけない事をいおうとした瞬間ルナからとんでもない量の殺意が放出される。それを敏感に感じ取ったミノルは人生の中で一番の謝罪をした。

 

「吸血鬼って皆そんな長く生きられるのか...?」

 

 ミノルの記憶では三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ルナも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「.........私と妹が特別。“再生”で歳もとらない.........。」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

 ルナとルナの妹は先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。因みに二人王がいるのは当時認められなかったらしく双子で同い年だが僅かに生まれたのが早いルナが王になったらしい。

 

 なるほど、あのサソリモドキを一撃で仕留めた魔法をほぼノータイムで撃てるのだから崇められるのも無理は無い。。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は“神”か“化け物”か、ということだろう。ルナとルナの妹は後者だったということだ。まぁ自分も“神”と“魔”の狭間をウロウロしているのだから人のことを言えた義理ではないと内心自嘲気味に笑った。

 

 欲に目が眩んだ叔父が、ルナ達姉妹を化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが“自動再生”により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。ルナ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したまま何らかの封印術を掛けられ気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。妹も封印されている筈だが何処にいるか見当もつかないと悔しそうに語っていた。ミノルとしては助ける気は毛頭ないのだが同じ迷宮に姉妹が別々の場所に封印されることは無いだろうと推測を述べてみる。

 

「それで......肝心の話だが、ルナは此処がどの辺りか分かるか? 他に地上に出る方法とか後.........」

「......わからない。でも......」

 

 ミノルが何か言い終わる前にルナが遮る様に口を開く。ルナにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

 聞き慣れない上に、何とも不穏な響きに思わず身を乗り出しルナをじっと見つめる。ルナもミノルから目を逸らさずに次の言葉を放った。

 

「反逆者......神代に神に挑んだ神の眷属のこと。......世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

「神の眷属が神に挑んだ?どうゆう事だ?」

 

 “神”という言葉に何かと縁があるミノルは“神に反逆”というワードに敏感に反応してしまう。矢継ぎ早に質問されて対応に困ったルナは「ちょっと待って。」と何かを思い出す様に下を向いた。焦らせるのも可哀想だったので神水を飲みながらゆっくり待つことにした。

 

 ルナ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「......そこなら、地上への道があるかも......」

「なるほどな......確かに、奈落の底から馬鹿正直に登ってくるとは到底思えない。えーと......何だっけ?その神代魔法とか言うやつで地上に出る為の転移用魔法陣何かが置いてあるかもしれないという事か。」

 

 という事は、である。誤って奈落に落ちてしまったミノルは相当な高さから落ちたのであろう。しかし死んでいなかった事から大方“浮遊”辺りの技能を無意識で発動させたのであろう。......本当にこの天職で良かったと切に思うミノル。この天職でなければ此処に来る間に何回死んだか解らない。しかし、そんな状況に陥らせたのもこの天職である為何とも言えない。

 

 神代魔法に反逆者......。ちょっと前までは存在すら知らなかったこの世界の“裏”を垣間見て宙を見上げ何かを思考するミノル。ルナは何かを言いたそうにミノルをじっと見つめていたが不意に口を開く。

 

「ミノルは......ここで何をしていたの?何で此処にいるの?」

「..................。」

 

 ルナにはミノルに尋ねたいことが沢山あった。何故、魔力を直接操れるのか。何故、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。何故、有り得ないほどの強さを持っているのか。何故、“神”という単語に必要以上に敏感に反応したのか。そもそもミノルは人間なのか。

 

 最初はだんまりを決め込んでいたミノルだったが自分だけ聞いておいてそれは無いと思ったのかポツリポツリと言葉を紡いでいく。

 

 この世界にクラスメイトと共に喚び出された事に始まり、恐らく一人だけ“半神”という有り得ない天職とステータスを提示され逃げ出した事。奈落の底に落ち死にかけ、魔に侵されながらもルナに出逢ったことで人間性を保っていられたこと。神に逆らったと聞いて自分はこの場所に来てはいけなかったのではないかと思い詰めていた事など時折自嘲気味に鼻を鳴らしながらツラツラと話していると突然ルナの方から「バンッ!」と机を叩く音が聞こえビクッとして顔を上げ前を見ると今まで見た事無いくらい怒りに身を震わせたルナの姿があった。ルナはユラユラと立ち上がるとこちらへ向かってくる。そして覚悟を決め目を瞑ったミノルにその鉄槌が下されることはなく、代わりにルナはミノルをきつく抱き締め耳元で囁く。

 

「.........何で言わなかった...」

「.........信じてもらえないと思った。だっていきなり目の前に居た男が魔神どうこう言うんだぞ?幾ら強くたってそれは無いって思うのが普通だろ?」

「じゃあ...何でミノルは私の事信じてくれたの...?」

「それは......」

 

 前世でオタクというものをやっていたからとは口が裂けても言えない。でもオタクをやっていなくてもルナの事は信じていたと思う。不確かな事だらけの世の中でそれだけは胸を張って言い切れた。

 

「...............俺の良心がまだ残ってたから...かな?」

「..........................................馬鹿...」

 

 無言でほっぺを抓られる。だがその仕草に怒りの痕跡は見えずどちらかと言うと「しょうがないなぁ」みたいな感じだった。暫く無抵抗でほっぺを抓られていたが不意にその手が止まりミノルを頬にそっと添えられた。

 

「...一人で抱え込まないで............私もミノルに救われた......私もミノルの力になりたい....だから.....お願い......私の事も...頼って...?」

「......ごめん。ルナ......」

 

 無言でルナを抱き寄せると声を押し殺す様にしゃくり上げる。辛かった。もし、天職の事や自分の気持ちを誰かに話せたらどんなに楽になっただろうか。奈落に落ちてからもずっと逃げ出した事を後悔した。頼りたかった。全部打ち明けてしまいたかった。変なプライドに邪魔されてずっと我慢していたものが崩壊したミノルは暫くの間ルナの背中を濡らし続けた。

 

 落ち着いたミノルがルナを膝の上に乗せその頭を撫でながら囁くような小さな声でルナに言った。

 

「.........ありがとう。けど此処で立ち止まってる暇はない。俺は故郷に帰りたい。その為に全力を尽くす。それだけだ。」

「............ミノルは帰るの...?」

「ああ......そうだが...?」

「............ミノルには帰れる場所があるんだね......。」

 

 その言葉を聞いてルナが置かれている状況を思い出す。もし妹と会えなかったらこの広い世界でまた一人になってしまうのではないか。それはあまりにも酷過ぎる。

 

「何なら......ルナも来るか...?」

「......ミノルの故郷に?」

「ああ、色々面倒な手続きはあると思うが俺の家に来ればいい。もしルナが来たいっていうならの話だが...」

 

 その言葉に深い絶望に落ちていたルナの目に光が灯った。暫くミノルを見つめていたがやがてコックリと大きく頷き、表情の乏しいルナの中で精一杯の笑顔をミノルに向ける。

 

「よし...じゃあ先ずはこの迷宮から脱出しないとな......」

「......うん......けど、ちょっと寝てもいい...?」

「....別に構わないが?」

「後もう一つ......私が寝るまで頭撫でてて?」

 

 上目遣いでそんな事を尋ねるルナに思わず見とれてしまう。そして徐々に惹かれてってるなぁと思いながら苦笑し二つ返事で快く引き受けると優しくゆっくり撫で始めた。

 

 その後暫くミノルはルナの頭を撫でていたが泣いたせいか自分も眠気に誘われていった。後には小さな寝息が二つ、重なって聞こえるだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




強気なキャラが心を開いた人物にだけ弱い自分を見せるというのをやってみたかったです。ミノルのステータスプレートは次回の冒頭辺りに付けようかなーと考えております。色んな事詰め込んでちょっとごちゃごちゃしてしまったことについては反省しております。どうも描写をバッサリ端折る癖があるらしくこんな感じの文になってしまいました。次回からはそこも意識して書いていきたいですね。

次回の更新は明日か、明後日になります。



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第五話“黒と黒”

戦闘回です。いつもより大分短くなってしまい申し訳ありません。次回はいつもと同じ様に書けるように努力します。


 拠点から出発したミノルとルナは順調に階数を重ねていった。ある時、ミノルが食料を取りに行っており仮拠点を留守にしていると留守番をしていたルナに蛙の魔物の群れが襲い掛かったが一瞬で物の見事に全滅させられたり、またある時はその層を牛耳っていた鳥型の魔物を一族諸共根絶やしにしたり、色々あったが特に目立った問題は無かった。ミノルの現在のステータスボードはこんな感じ。

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 壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:87

 天職:????

 筋力:7425

 体力:7645

 耐性:7852

 敏捷:7593

 魔力:8624+5000

 魔耐:7505

 技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知][+通路探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死[+封印]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔力吸収[+吸収力強化][+吸収治癒][+魔法吸収]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]・威圧[+服従][+恐慌]・創造[+消費魔力減]・念話・体術

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 増えた技能は“体術”。第五十八層の猿型の魔物が持っていた物だ。其の名の通り自分の身体だけで敵の攻撃を受け流したり、近接格闘の威力が上がったりするらしい。魔法専門のミノルにはあまり効果のない技能だ。それと“半不老不死”というミノルの持っている技能の中では唯一解明されていない特性(?)に“封印”が付き文字が青から灰色になった。恐らくまだ発動できないのであろう。所で何故ミノルは“全異常状態耐性”を持っているのにサソリモドキの毒にかかったのだろうか。そこでよく説明を見てみると、全ての異常状態にかかりにくくはなるが無効では無いため普通になってしまうらしい。因みに毒の場合は進行を遅める効果もあるらしく本来なら一分程度で全ての魔力を失ってしまうあの毒も、この技能のお陰で十分以上は耐えられたのだ。しかし、流石迷宮の魔物。侮ってはいけないと再確認したミノルであった。

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 六十三層目に到着した時ミノルは他の層とは何処と無く雰囲気が異なる事に気づきルナもミノルと同じ事を考えていたらしく二人で顔を見合わせると緊張した面持ちで探索を始める。

 

 探索を始めて十分後。分かった事と言えばこの層には竜人型の魔物である“リザードマン”しか生息していない事。本来、知能はあまり高くない筈なのにやけに統率が取れすぎていることである。この事についてミノルは二つの仮説を立てた。

 

 一つは突然変異。魔法か或いはそれ以外の物、外部からの影響を受け突然変異した個体が繁殖し有り得ないほどの知能を獲得したという説。だが、迷宮という外界からの影響を全く受けない、受けられない場所で魔法以外から干渉を受ける事は無いに等しい。更に魔法の影響だとしてもこの層まで進んで来る者は殆どいないだろう。仮にこの層まで辿り着き、リザードマン達に魔法を使ったとして意味は無いだろう。

 

 もう一つはリザードマン達を率いている者がいる事。いるとすれば、人間ではない可能性が高い。魔物の中にもその種族を率いる“王”の座に就く者もいる。その者が竜人達を率いているか、或いは()()()()()()()()()率いているのかは定かでは無い。だが確率的に言うとこちらの説の方が有力だ。

 

 ミノル達は一先ず、リザードマン達を率いている者がいるという方針で探索を続ける。“神眼”の“通路探知”で階段を探し、道を曲がり、リザードマンをボコし、真っ直ぐ進み、洞穴を抜けた時、これまでも数が尋常でなかったリザードマン達だったがそれを数十倍も上回る数百体以上のリザードマンが集合している場所を発見。その光景が見渡せる高台に乗ると取り敢えず様子を観察する。どうやらリザードマン達は“何か”を待っているようだが、数十分経ってもそれは現れない。ルナが欠伸をし始め、撤収しようとミノルが荷造りを始めたその瞬間、今まで思い思いの場所で寛いでいたリザードマン達が一斉に立ち上がり漸く現れた“何か”に向かい何と敬礼をしたのだ。少々意表を突かれたものの再び意識をリザードマンの方向に向ける。リザードマン達が敬礼をしていると方に目をやるとそこには遠目からでも目立つ、緑や黄土色といった汚れたリザードマンの群れの中では見つけやすい“漆黒”の鎧を纏った騎士が玉座(?)に鎮座していた。

 

「誰だ......あれ...。」

「解らない、けど......持ってる魔力が桁違い......。」

「ルナも感じるか?一体何なんだ。」

 

 ミノルも黒い騎士と同じく、“黒”の魔力を持つが黒剣士のそれはミノルのとはまるで違う。ミノルの黒が“災厄”を意味するなら黒騎士の黒は“正義”。穢れなき平等を意味する黒。変わらない堅い意思を意味する黒。その荘厳な雰囲気はかなり距離があるというのにミノルにピリピリと伝わって来る。下手すればミノルと変わらない、寧ろそれ以上の魔力量。本能が告げる。“強い”と。

 

「.........ルナ、周りに居るリザードマン達を任せてもいいか?」

「いい、けど.........ミノルは......?」

「あの全身黒づくめと話してくる。」

「!?.........大丈夫...?」

 

 ルナの「大丈夫?」と言うのは恐らく、ミノルの身の安全を案じてだろう。ミノルは口を固く結ぶと力強く頷いた。黒騎士はリザードマン達に何かを話しているようだがこの距離では聞き取れない。念の為自動回復の魔法を唱えるとルナの魔法に合わせカウントを数える

 

「3、2、1、今だルナ!!」

「“雷帝”」

 

 直後、リザードマン達の頭上に無数の雷が降り注ぐ。突然の出来事に慌てるリザードマン達だが逃げる暇もなく次々に雷に打たれ絶命していく。ルナの魔法発動と同時に飛び出したミノルは雷の雨の中を縫うように駆け抜けて行く。騒ぎを見た黒騎士は特に慌てず、無言で腰に下げた黒い剣を抜くと静かに玉座から立ち上がった。

 

「これで......終わり...!!」

 

 止めとばかりに特大級の雷が天を揺るがす大音響とともに落ちる。あまりの音に一瞬ミノルの聴覚がフェードアウトするが雷が消えた頃にはあれほどいたリザードマンは影も形も無くなっていた。高台で息を荒くするルナ。ミノルから渡されていた水筒の中に入った神水を一気に飲み干すと、急いで遠視魔法を使いミノルの様子を見守る。

 

「ミノル............。」

 

 ミノルは黒騎士との距離が後数mという所まで迫ると魔法で手から黒剣を創り出しそれを大上段に構えると目の前の黒騎士に向かい振り下ろす。形は全くなっていなかったが、並大抵の兵士や魔物が受けられる程の威力、速度では無かった。黒騎士は無造作に降られた黒剣を、ミノルとは異なり、鉄を打たれ作られた黒剣で受け止める。ガッキイィッン!!!という魔法の黒剣と鉄の黒剣が打ち合う音が衝撃波と共に放たれる。

 

「............くっ...!」

「........................その程度か。」

 

 兜越しで性別まではハッキリしなかったが確かに黒騎士は告げた。そして片手でミノルの黒剣を撥ね上げるとガラ空きになったミノルの胴体に渾身の突きを繰り出す。ブンッ!!という空を切り裂く音ともに放たれた黒の閃光はミノルの脇腹を掠り、再び衝撃波を発生させる。突きは何とか回避したものの衝撃波をモロに浴びたミノルは横に大きく吹っ飛ばされた。二、三度地面を転がったミノルに追い討ちとばかりに黒騎士が飛び上がりその黒剣で上からミノルの心臓辺りを突き刺そうと剣を構えるが、刃が当たる直前にミノルが魔力を衝撃波に変換させ黒騎士に浴びせた。黒騎士は大きく仰け反るものの、直ぐに体勢を整えミノルに再び切り掛る。黒騎士が仰け反った隙でミノルも起き上がると黒騎士と斬り合い始めた。両者の黒剣が打ち合う度に金属と金属がぶつかり合うような音が迷宮に鳴り響き、その一撃一撃には衝撃波が発生した。二つの黒が互いを打ち消しあおうとするその死闘には、他者が干渉できる余地は無くただただ眺めることしか出来なかった。いつの間にかミノルは黒騎士の首に黒剣をピッタリと当てており、黒騎士の黒剣もミノルの首に添えられていた。睨み合う両者。殺気と殺気がぶつかり合い場にとてつもない緊張感を生んだ。静寂の中突如黒騎士が言葉を放った。

 

「......問おう、穢れた神よ。貴様の名は何だ?何故此所にいる。」

「問おう、漆黒の騎士よ。お前の名は何だ?此処で何をしている。」

 

 “神”という言葉に天職がバレたと思い内心ドキッとしたミノルだが、表情には出さずに問い返した。両者の首に黒剣が当てられたまま、その場から微動だにせず互いを睨み合う。その沈黙は永遠にも感じられたが実際にはほんの一瞬の出来事であった。ミノルの目に本能剥き出しの殺意が宿り剣を持つ手に力を込める。それに呼応するように黒騎士からも膨大な量の殺気が放出された。

 

「生憎、貴様に答えることなど」

「何も」

「「“無い”」」

 

 両者の声が重なった次の瞬間お互い後ろに跳躍すると、二つの異なる“漆黒の魔力”が放出され、それと同時に互いに全力を込めた突きが放たれた。ぶつかり合う黒と黒。その威力が頂点に達した瞬間、洞窟を消し飛ばす様な黒の衝撃波がドッッッッゴーン!!!という音を立て両者の黒剣を中心に放たれた。

 

 やがて衝撃波が完全に消えるとそこには衝撃波で吹き飛んだ両者の黒剣が地面に突き刺さり、その状態になって尚魔力を放っていた。弾き飛ばされたミノルは地面に手を着きながら、目の前の高地に着地した黒騎士を睨んでいた。

 

「......穢れた神よ。貴様とはいずれまた相見えるだろう。その時まで、さらばだ。」

 

 黒騎士は地面に突き刺さった黒剣に一度目を向けると跳躍し、どこかへ去ってしまった。

 

「......二度と御免だ......。」

 

 呪うような口調で呟いたミノルは黒騎士が去った方向をルナがその様子に耐えかねてミノルの事を呼びに来る時までずっと眺めていた......。

 

 

 

 

 

 




新キャラ登場です。1回だけの使い切りじゃありませんよ?個人的に黒騎士には憧れがありまして、ライバルみたいな感じにしたら面白いんじゃないかなと思いやってみました。戦闘回の方が心無しか書くのが楽な気がします。今回も読んでいただきありがとうございました。果たしてミノル達は迷宮を攻略出来るのか......?簡単に出すつもりはありませんが。

次回の更新は明日か明後日になります。


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第6話 一つ目の鍵

大分遅れましたが6話目です。世界観についての説明でミノルのいる世界とハジメのいる世界の秘密が明らかに...?


 黒騎士との激闘の後、ミノル達は更に数階迷宮を降りていた。ミノルはこの数階を攻略するにあたり、殆ど言葉を発さずまるで魂が抜けたような顔で進んでいたので、それに耐えかねたルナがミノルを仮拠点に引っ張っていった所だ。

 

「.........何をそんなに気にしてるの...?」

「........................。」

「もしかして.........黒づくめに穢れてるって言われたこと......?」

 

 図星だったのかミノルがそっと視線をルナから外した。こんな身になってもミノルはまだ“人間”でいたかった。だが、黒騎士に会い、自分の魔力が穢れていることを再自覚し、欝になっていたのだ。結果メンタルは弱い方なのかもしれない。と、黙り込むミノルの頭に小さな手が乗せられた。言うまでもなくルナの手だ。

 

「......大丈夫。ミノルは穢れてなんかない......。だって私の事...助けてくれた。黒ずくめの言うことなんか......気にしちゃダメ...。」

「............ルナ...。」

 

 自分の頭を撫でながらそんな事を言う少女に本当に救われた気持ちになった。ルナがいなければミノルは今頃ただの怪物になっていただろう。今更人間に戻りたいとは思わない。人間でありたいという気持ちも捨てた訳では無いが、今はそんな事をずっと引き摺って止まっている場合では無いのだ。

 

「ありがとな。よし.........行くか。」

「うん......。」

 

 様々な葛藤を抱え、ミノルは立ち上がる。全てはこの迷宮を脱出しミノルをここまで追い込んだ原因であるユヒトとかいう神をぶん殴る為。ミノル達は仮拠点を後にした。

 

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 所で、ミノルにはもう一つ気になっている事があった。なにかと言うと黒騎士と戦った後のステータスプレートの値の変動である。

 

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 壠瀧ミノル 17歳 男 レベル:???

 天職:????

 筋力:9632

 体力:9253

 耐性:8895

 敏捷:9002

 魔力:9824+5000

 魔耐:9505

 技能:極全属性適性・超全耐性[+全異常状態耐性][+全属性耐性][+極物理耐性][+極魔法耐性]・神位複合魔法・全武器超適性・未来予知[+危険予知][+自動発動]・超高速魔力回復・神歩[+飛翔][+浮遊][+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・神眼[+魔力感知][+気配察知][+アイテム探知][+通路探知]・神化[+限界突破]・全種族言語理解・極魔力増加・半不老不死[+封印]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・魔力吸収[+吸収力強化][+吸収治癒][+魔法吸収]・五感強化[+視覚強化][+夜目][+聴覚強化][+味覚強化][+食材判別][+触覚強化][+物質判別][+嗅覚強化]・威圧[+服従][+恐慌]・創造[+消費魔力減]・念話・体術・魔力残滓目視

 

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 殆どのステータスが九千を超え新たに“魔力残滓目視”が追加された。このスキルは魔力の残滓、つまり数分前にそこにあった魔力の流れの様な物が目視できるのだ。例えば、ミノルが歩いたとする。すると、ミノルが持っている魔力がミノルが歩くと同時に移動する。その魔力が通った所には魔力の残滓が発生する。それが見えるスキルという訳だ。これを使えば魔力を持った生物が通った道を辿る事が可能である。端的に言うと追跡ができるのだ。戦闘中に使用する事によって、相手の魔力の流れを見る事で行動を予測したり、魔法放つ時に集まる魔力を見て発動前に避ける事ができるのだ。ミノルの推測では、黒騎士と戦った時に大きな魔力と魔力のぶつかり合いを比喩表現無しに肌で感じた為得られたものだと思うのだが正直、戦闘中使いこなせるかは分からない。

 

 それと、レベルが表示されなくなったのだ。100を超えた辺りでどうもステータスプレートのレベルの部分にモザイクがかかったようだ。このステータスプレートの変動で、分かった事がある。どんなに魔物肉を食おうが、魔物を殺そうが、成長が微々たるものだったミノルがたった一回の戦闘で急激に上がったのだ。つまり、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことである。ただ強いだけでは無く、自分と同等か又はそれ以上の実力を持った“世界最強クラス”の相手では無いとその現象は起きない。この事実を受けミノルはこの世界から帰るという最も重要な目的の他に、ある意味それとは真反対とも言えるもう一つの“目標”を立てることになるのだがそれはまた後の話。

 

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 ミノルが欝から復活し、仮拠点を旅立った頃。ミノルと理由は異なるが迷宮の奈落に落ち、迷宮を攻略しようとしている“南雲ハジメ”とハジメにルナの同じ様に封印から開放された吸血鬼姫“ユエ”は丁度、サソリモドキを美味しく頂いた頃だった。所で、ミノルとハジメが落ちた所が同じなら鉢合わせたりしなかったのだろうかという疑問が生まれる。だがそんな事はこの迷宮を出るまで起きないだろう。

 

 実は、ミノルが今いる迷宮とハジメがいる迷宮は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どうゆう事かと言うと、この迷宮を作った“反逆者”は結構な慎重派で、もし、二人の“世界最強クラス”の人物が同じ迷宮を協力して攻略しようとしたら迷宮が破壊されるかもしれないし、もしかするとこの迷宮そのものの概念を消滅させられるかもしれないと考えたのだ。そこで“反逆者”は原点となる“零次元”の迷宮を創り、そのコピーを何個も創造し、それを無限に行う機能を追加した。だから、この迷宮は実質、ソロ攻略しか出来ないのだ。そこにつけ込んだルナとユエを封印した人物は別々の次元に二人を隔離し、三百年以上その封印が解かれることは無かったのだ。しかし、此処で、イレギュラー分子であるミノル達がこの世界に召喚された。元から強大な力を持った異世界の住人はその別次元にある迷宮の中で、“反逆者”が自ら創り出した十三の次元の他に創造された迷宮には入れない。つまり、ミノル達は十三個の迷宮のどれかに迷い込むしかないのだ。模倣された次元は元となる“零次元”を始めとする十三の次元に比べ、次元を構成する要素が薄い。だから、比較的魔物が弱いのだ。異世界から召喚された者達はどうやらその要素の薄い次元を消滅させてしまう能力を持っているらしく、残った十三の迷宮の中でどれかに入るらしい。

 

因みにハジメ達がいるのは“零次元”。ミノル達が居るのは“十二次元”である。元となる“零次元”から最も離れた場所に存在する“十二次元”は或る意味最も難易度が低い迷宮になるのだが、離れすぎていたせいか他の十三の次元と比べ模倣された次元の影響を受けやすく、数百万にもなる次元を吸収してしまったらしい。お陰で“零次元”よりも魔物が格段に強くなってしまったらしい。“零次元”ではサイクロプスは光線なんか放たないし、再生もしない。サソリモドキもミノルの魔力を全部削ってしまう程の毒は持っていないし、死んでも再生はしない。

 

ミノルがもし、“零次元”に迷い込んでいたら即刻で攻略し尽くしてしまっていただろう。偶然にもバランスは保たれたようだ。とは言え、もしハジメ達が“十二次元”に迷い込んでいたら.........後はお察しの通りである。基本的に自分が今存在する次元から他の次元への干渉は出来ない。しかし、この迷宮は元からこの世界に“神”が創った物ではなく、“反逆者”が後の時代から“魔法”で創った物なので壊そうと思えば壊せる。物が物なだけにそれは至難を極めるだろうができない事は無い。例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とかでも次元全てを壊す事は出来ないが一部分なら壊す事は可能であろう。そして、次元の破壊に伴い他の次元も影響を受け、端的に言うと十二次元の状況が破壊された部分だけ共用されてしまったらどうなるだろうか?

 

「何だ此所。魔物の気配が欠片もしねぇぞ?」

「......ハジメ......此処...魔物がいないみたい......。」

 

サソリモドキを食った後、ハジメ達はミノルが黒騎士と戦った階に到着していた。十二次元でミノル達がリザードマンを全滅させた為その影響で零次元のリザードマンが全滅しているのだが、そんな事知る由もないハジメ達は頭の中に『?』を浮べながら歩き出す。前述した通り、ミノル達とハジメ達が鉢合わせる事は無いだろう。だが、次元を通して影響を受けることなら全然あるのだ。

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「......?」

「...?ミノル?」

 

不意に気配を感じ、振り向いたミノル。だがそこには唯々、虚空が存在するだけであった。

 

「.......いや...結構デカい魔力を感じたんだがな......気のせいか...?」

「......私も...とっても懐かしい魔力を感じた......」

「懐かしい?確かに一つはルナに似た魔力だったが......」

 

もう一つは魔物のそのもののミノルに似た禍々しい魔力だったという言葉を呑み込むと、再び歩き出す。

 

ミノル達は更に数階迷宮を進んでおり、いよいよ攻略も大詰めに入った所だ。五十~六十階辺りの魔物とは比べ物にならない強さを持った魔物がゴロゴロ出てくる。特にミノル達が苦戦したのはスライム型のブニブニした魔物だ。“魔力感知”が無ければ、“魔力核”を目視出来ず、魔法を放てば身体を構成しているブニブニした固体に吸収され、近づこうすればその固体(液体?)を飛ばしてきて危うく骨を溶かされそうになった。そこで、氷系統の魔法で凍らせてから砕く作戦に変更した所ただの雑魚に成り下がった。その他にも、目を合わせるだけで物質を

石化させるコカトリスのような魔物と対峙し、コカトリスが目を合わせる前に、その目を潰し殲滅した。そして、ミノルは現在、中ボスっぽいキメラ型の魔物に苦戦していた。

 

ミノルがサイクロプス戦で出した巨大な光の刃を振り回しキメラを切り刻もうとするが、華麗に躱され光線による追撃を受ける。つーかこの迷宮光線出す奴多くね?と思いながら“魔力残滓目視”でキメラの中の魔力が口に集まるのを確認したミノルはその光線を必要最低限の動きで躱す。発射のタイミングと着弾位置が解れば当たる事はまず無い。まぁ、こちらの攻撃も当たらないのだから、別段有利という訳では無い。光線を放った反動で硬直しているキメラの頭に光の刃を振り下ろす。迫り来る光の刃に反応できず、一刀両断されるキメラだが、次の瞬間にはもう傷が再生していた。

 

「......チッ...どいつもこいつも不死身かよ...。」

 

光の刃を消すとそうボヤき、空中で両手に光を放つ魔力を集める。キメラが仕返しと言わんばかりの形相で魔力を帯びた爪を振りかざしてくる直前、ミノルの手から有り得ない程の眩い閃光が放たれた。目をやられたキメラは、視覚ではなく聴覚と嗅覚に頼りミノルに突進攻撃を繰り出して来る。だが、キメラが突進した場所にミノルは存在せず、未だにキョロキョロと辺りを見回しミノルを探しているキメラの背後から最上級魔法である“虚光”を放つ。ミノルの手から放たれた白き光線は、キメラを細胞ごと消し飛ばした。

 

「うっわぁ......えげつねぇな。この世界だと光線が最強っていう概念でもあるのか?」

「......ミノル......台詞と表情が合ってない...。」

 

今にも大声で笑い出しそうな顔のミノルは軽く服の埃を払うとキメラが仁王立ちしていたせいで通れなかった、階段へと歩みを進めた。

 

 

ミノル達が次に辿り着いた階は、そこまで広くないスペースに、これでもかと魔物が詰め込まれた空間だった。最後の一段を降りた直後、ウェアウルフだろうか。二本足で歩行する狼の顔を持った魔物が三体ほどこちらへ走ってくる。ミノルは慌てずに、魔法で黒い剣を創り出すと、飛び上がり襲い掛かってきたウェアウルフ達を横一文字に切り裂いた。一瞬のうちに、ウェアウルフ達の命の灯しは消え失せる。騒ぎに気づいた蝙蝠型の魔物や、槍を持ったリザードマン、同族の敵討ちとばかりにウェアウルフ等のその場にいた魔物達が一斉にミノル達に襲い掛かる。その数は五百を優に超える凄まじい数の暴力だ。ミノル達をその数の有利を活かし、包囲しようと迫ってくる。やがて、包囲網は徐々に狭くなり、ミノル達の姿は全く見えなくなった。

 

が、その直後、魔物達の中心からドッッーン!!という音と共に、漆黒の光の柱が出現しそれと同時にミノル達を取り囲んでいた魔物達の大半が吹き飛ばされ地面や壁に叩き付けられた。更に、吹き飛ばされずにすんだヘビー級のオークや巨人族もその場に硬直してしまっている。その手や足は痙攣し、その中を悠々と歩くミノル達。別に大した事はしていない。“魔力変換”で魔力を衝撃波に変えたものに“威圧”を足しただけだ。ミノルは別に戦いたい訳でも、何かを殺したい訳でもない。今の所は、だが。五百とかいう創造者の嫌がらせの他の何ものでもない魔物を見て一匹ずつ殺すのが面倒になったのと、こんな所で魔力を使いたくないという気持ちが合わさり、こんな感じになったのだ。

 

当然、全てを消去した訳では無いので残党共がワラワラと湧き出てくるが、魔物達はミノルを見て何かを悟ったのか、攻撃は加えてこなかった。所でルナはと言うと、先程の騒ぎにも全く動じず、ミノルの背中で気持ち良さそうに寝ていた。お分かりの方も多いと思うがルナには結構甘えん坊な所がある。聞けば、何でも王国で“王”の座に就いていた時、妹の方はこれでもかと言うくらい甘やかされたのだがルナは一国の主としてどちらかと言うと頼られる事が多かったんだとか。だが、自分が姉なだけに、変な意地やプライドがあったらしく一度も甘えさせてもらった事が無かったそうだ。だから、ミノルにベッタリなのだが、そういうの関係なくただ単にミノルに甘えたいだけじゃね?という意見も出ているのだが真実は不明である。

 

暫く、この階を探索しているとミノルは面白い物を発見した。形は神結晶そのものなのだが色が神結晶とは全くの別物だ。本来なら、神結晶は青白い光を放つ物なのだが、どうゆう訳かその鉱石は赤く、妖しく輝いていた。引き寄せられる様にその鉱石に近づくとそっと手で触れてみる。すると、その鉱石はより一層鮮やかに煌めき、思わず腕で目を覆うと次の瞬間、ミノルの意識は闇へ消えて行く。

 

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ミノルが目を覚ますとそこは、いつか見たあの“魔神”がいる場所であった。前回と同様に床が赤黒く染まり、目を凝らしても何も見えない真の闇。その空間に突如人間の声の様な音が響く。

 

『.........ククク......見つけたか...残りは7つ......全て.........揃う時......貴様は.........深淵に堕ちる......』

「どうゆう事だ?説明しろ。」

『無駄だ......言って理解できるようなものでは無い.........精々足掻け.........血塗られたら貴様の......運命を呪いながらな......』

「おいっ!待て。お前は一体誰.........クソっ消えやがった。」

 

後には何も無い闇が広がっているだけであった。ミノルがふと下を見た直後再びミノルは現実世界へと帰還する。

 

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次回の更新は未定です


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