IS《ISの帝王:小説版》 (只の・A・カカシです)
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第1話 コマンドー!

MAD版を読んでくれていた読者諸君。作Aだ。そして、待たせたなぁ!IS《ISの帝王:小説版》の始まりだ!
*なお、投稿、コメ返は作Bの模様


 黒板、いや無駄にハイテクなこの学園はスクリーンを採用している。その前で、副担任の山田先生は微笑みながら話す。

 「全員揃ってますねー。それではHRを始めます。」

 クラスの女子と比較しても、頭一つ分小さい小柄な先生。何なら、クラスの女子が先生に見えるくらいだ。

 「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね。」

 「「「・・・・・・・・・・。」」」

 小慣れた感じで、挨拶をする山田先生。しかし誰一人として、反応を示さない。

 〈何故、黙っている。・・・俺も言えたタチではないか。〉

 最前列真ん中。筋肉モリモリマッチョマンの生徒は、心の中で呟く。

 「で、では、自己紹介をお願いします。しゅ、出席番号順で・・・。」

 小柄な先生は狼狽える。まだ若手なのか、それとも生徒(マッチョマン)の雰囲気が感じたことのないもので困惑しているのか。もっとも、本人にすら分からないかもしれないが。

 今日は、高校の入学式。しかし、クラス、いやIS学園にはこのマッチョマンを除き女子しかいない。高校としての分類は共学であるにも拘わらずだ。

 「・・・くん。織斑一夏君!」

 「何だ!」

 そんな大声で呼ばなくたって聞こえていると言わんばかりに言い返す。

 〈クソッ!高く大きな声のせいで、頭の中がドンパチしてやがる。〉

 「ご、ごめんね。大きな声で呼んじゃって。お、怒ってますか?聞こえてましたか?自己紹介して貰っても良いですか?」

 「分かってます。」

 「い、何時の間に立ち上がって!!」

 正面にいた人間にすら立ち上がった気配を感じさせない。もっとも本人は、それほどの技術であるようには感じていないようで。

 「静かに、素早くです。姉が教えたんですよ。」〈全く、あの姉は何処で何の仕事をしてるんだ。〉

 このマッチョマンどうもシスコンのようで、心では姉を馬鹿にしつつも、周囲には姉を自慢している。

 「そ、そうですか。あ、それでは自己紹介をお願いします。」

 マッチョマンこと織斑一夏は、自己紹介をするために後ろを向く。当然、女子女子女子。

 〈アイツ(・・・)だったら、カカシ揃いだと言いそうだ。〉

 だが彼は、臆する様子もなく自分の名前を言った。

 「俺の名前は織斑一夏だ。よろしく頼む。」

 

 

 

 「何て時期に、何て所で試験をしやがる。」

 二月の真ん中、織斑一夏は中学3年として受験まっただ中であった。

 この日、近所の高校を受験する為に11分先の駅まで行かなくてはならないのだが、大雪のせいで電車は止まっている。

 〈くそったれが。全く誰だ、去年のテストでカンニングした野郎は。面白い奴だ。探し出して晒し上げるのは、受験の後にしてやろう。〉

 この時、まだ自分がネタにされるなんて思っても見なかったことだろう。

 彼が受験しようとしている私立高校の受験日には振り替え日がない。つまり、何が何でも試験会場に行かなくてはならないが、鉄道が止まっているため当然道路は大渋滞。歩いていくしか手段がないが、道路沿いは雪が解けシャーベット状になって歩きにくい。なので、仕方なくカバン片手に徒歩で山越え中である。これを、筋肉の発想と呼ばずして、何と言えばいいのだろう。雪の上を歩く姿は、さながらゴリラのようである。(もっとも、ゴリラなど彼の足元にも及ばないが)

 彼の志望校は、私立藍越学園。彼曰く、

 〈一番気に入ってんのは、学費だ。(・・・ん?)姉のスネを囓ってんだから、安いところを選ぶのは当然のことだ。幸い姉の稼ぎは良いので、金に困っている訳じゃないが・・・。〉

とのことである。

 

 20分程度掛け、会場に到着する。因みにこの所要時間は、Goo*le先生もビックリな速さであるとだけ書いておく。

 〈先のことは、受かってから考えるとして・・・。この建物は一体何だ。部屋の付いた迷路じゃないか。〉

 遙か先まで伸びる廊下。無駄に鬱陶しい柄の壁紙は、高いのか安いのかは知らないが掲示物が一切無い。要は、自分の居場所が分からない迷子になっていた。

 〈まあ良い。試してみるか(物理)。次に見つけたドアを開けてやる。OK?〉

 「Wrong!And,NOooooooooo!!!!!!」と、鍵が言った気がした。

 が、気のせいと言うことにし、彼は思いっ切りノブを捻る。

 「フッ!」

 バキィィィィィィィィン!【0/4000】

 金属の破断する音が廊下に響く。

 〈この手に限(鍵)る。〉

 下らないギャグをかましながら、部屋の中へと入る。室中は妙に広く、中央には、ISが鎮座していた。

 〈何故こんな所に?〉

 疑問に感じながらも、ISへと近付く。

 「男には動かせん。・・・筈だよな?」

 『触らぬ神に祟りなし』と、古人はよく言ったものだ。

 だが、彼の予想していた結果とは裏腹に起動を始めるIS。同時に、意識に無数の情報が雪崩れ込んでくる。

 「何故だ!男には動かせん――」

 「筈か?残念だったな。3階!非常事態だ!操縦者は男性!髪は濃紺、身長170cm!学ラン姿の筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ!」

 何時の間にかそこにいた警備員(?)らしき人間が、仲間にある意味的確な情報を伝える。

 〈即座に通報とは、中々優秀な奴だ。最初の2言は余計だったが。〉

 

 

 

 そして今に至る。

 「それだけだ。」

 名前を言い終え、座る、と・・・。

 がたたっ!と音を立て、クラス中(一部除く。・・・中と言ったな。あれは嘘だ。)の人間が、椅子から転げ落ちた。

 〈何故転ぶ。面白い奴等だ。〉

 真顔のまま、後ろを見ることなく座り続ける。

 「あ、あのー・・・・・」

 か弱い声を掛けられる。仕方なく、その方を向こうとした瞬間。

 パァン!【9998/9999】

 強い笑げk・・・衝撃。

 「何だ!」

 しかし、この時には叩いたのが誰であるのか気付いていた。

 〈この叩き方!間違いない!〉「ターミねーちゃん!」

 バァンッ!【9996/9999】

 「誰が抹殺者か!」

 〈成る程、良いセンスだ!(・・・んん?)〉

 叩かれたにも拘わらず、ケロッとした様子で自分の姉を褒め称える。

 「あ、織斑先生!会議、お疲れ様です。」

 「あぁ、山田君(ずうとるび)。コンサート・・・クラスへの挨拶、ご苦労だった。」

 『ずうとるび』が出てきたのはわざとか、それとも素か。

 それを聞き逃すことなく、織斑一夏は切り込む。

 「山田君に何枚貰った!」

 「10枚、ポンッとく――」

 ズバァン!!【9991/9999】

 流石、元ブリュンヒルデ。乗せられても簡単にはボロを出さない。

 「・・・馬鹿者が!一夏ぁ、頭はどんなだ?」

 「近くに寄って確かめろ。」

 「いや、結構。ロクなことはない。」

 〈っち、ダメか。〉

 一通りやり合って気が済んだのか、織斑千冬はクラスの方へと向き直る。

 「さて諸君、私を覚えているかね。」

 「当然だ、誰が忘れるものか。」

 ズバァン!【9989/9999】

 ・・・前言撤回。まだ気が済んでいなかったようだ。

 「少し黙ってろ。」

 もし威圧感に物理的力を与えたなら、物体のことごとくを破壊したことだろう。しかし、十代の女子とは怖いもの知らずだ。次の瞬間。

 「キャー!千冬様!千冬様よー!」

 この声を皮切りに、次々と歓声が飛び始める。

 「ずっとファンでした!」

 「私、お姉様に憧れて、東南アジアかアフリカか越えてここまで来ました!」

 随分と遠くからいらっしゃった方がおられますね。

 「ここに入るのに、えらく苦労したのだ。」(ドヤ顔)

 「お姉様のためなら、私死ねます!」

 自分たちに向けられた言葉でないと解釈するや否や、一斉に騒ぎ出すクラスメイト達。

 〈まずいな、頭のドンパチがぶり返してきた。〉

 女子達の凄まじい声量に、一夏は意識を飛ばされまいと耳を塞ごうとする。

 「全く、これだけの馬鹿共(カカシ)を良く集めるものですな。全く笑えない。」

 しかし、騒がれている当の姉はけろっとした様子だ。流石は元ブリュンヒルデ。

 〈少しは笑ったら・・・〉

 相も変わらず辛辣な言葉を放ち続ける自分の姉に、心の中でアドバイスを送る。

 「キャー、もっと叱って罵って!」

 「でも、時には優しく!」

 「つけ上がったら「ばらばら死体にして飛ばすぞ?」はい・・・。」

 どうも世間では、織斑千冬=孤高の人間と言うのが常識なようで、優しさは求められていないらしい。それにしても、凄え威圧感だ。悪くねえぜ。

 「で?お前は、ロクに自己紹介もできんのか?」

 勢いそのままに、一夏へと口撃を再開。

 「悪いが千冬姉、俺は」

 ズバァン!【9994/9999】

 失礼、攻撃を再開する織斑千冬。

 因みに上のライフが回復しているのは、時間が空いたからであってミスではない。

 「織斑先生と呼べ!OK?」

 「OK!」

 ズバァン!!【9986/9999】

 定番の返しにも、容赦はない。

 「返事は、『はい』だ!」

 返事一つにも拘る辺り、流石は元ブリュンヒルデ。

 「はい。」〈・・・クソッタレが!〉

 「分かればいい」

 そう言い残し、織斑千冬は

 ズバァン【9985/9999】

 去っていくことなく一夏をブッ叩く。

 〈やっぱり叩きに来たか!流石だ、千冬姉!(・・・んんん?)〉

 ズバァン!【9983/9999】

 勿論、心の中だってお見通し。

 暫く後、騒ぎが収まったところでクラスメイトからの質問が飛ぶ。

 「あの、織斑君って、織斑先生の「弟ですが何か?」・・・。」

 質問は言い終わる前に答える!(ドラ○もん並感)

 「あぁ!いいなぁ!代わって欲しいなぁ!」

 「この姉が欲しいのか?んー?あーげないwww」(・・・ん×4?)

 スカッ【9984/9999】

 突然のキャラ崩壊に思わず首を捻ったお陰で、一夏は間一髪、出席簿の餌食になることを回避。

 「よく避けたな、一夏。長い付き合いだ、苦しませたかねぇ!一発で眉間に叩き込んでやる!」

 出席簿を振りかぶった。正にその時、教室に鳴り響くチャイム。

 「っち、HRは終わりだ。諸君らには、半年以内にISの基本を覚えて貰う。その後実習だが、半月で覚えろ!いいな!私の言葉には返事をしろ!良くなくとも返事をしろ!いいな!」

 機嫌が悪いのか、とんでも無いことをシレッと吐く織斑千冬。

 「いや、結構!(・・・ん×5?)」

 パァン!!【9960/9999】

 続けざまのキャラ崩壊に、うっかり意識を奪われた一夏はクリーンヒットを許す。

 〈くそったれ。〉

 パァン!!【9958/9999】

 心の中で呟いても結果は一緒であると言うことを学ばないのだろうか、この筋肉は。

 「こうなりたくなければな!」

 初日のHRは、織斑千冬の半ギレと呆れ声の元に幕を降ろした。

 〈さて、1時間目の授業は何だったかな。〉

 全くダメージの蓄積を感じさせない一夏は、カバンの中から教科書を探すのであった。




次話を投稿して欲しければ、お気に入り登録しろ!OK?
*なお、しなくても書き溜があるので暫くは続く


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第2話 幼馴染みとの再会

作品中の擬音を減らしたい。けど減らせない、今日この頃。


 1時間目の授業中、隣からの視線に気付いた織斑一夏は隣の席に目を遣る。

 「・・・何だ。」

 「おっと、そんな視線を向けないで。びびって会話も出来やしないわ。」

 「・・・。」

 授業中に下らないネタに付き合う暇はない。と、言う目のマッチョマンに睨まれて観念したのか、隣席の生徒は早々に本題を切り出す。

 「え、えっと・・・参考書見せてくれないかな。」

 「駄目だ。」

 「どうして!」

 一夏は織斑先生の方を確認し、こちらに気が付いていないことを確認する。

 「知らない方が良い。理由を言うと、・・・俺が死ぬ。」

 理由もクソも持ってないだけなのだが。

 「分かるわ、話して数分の私でも死ねばいいと思うの・・・。」

 小声とは言え、本当のことを言ってしまえばただでは済まない。もっとも、下らないことを言ったので・・・

 ズババァン!【9991/9999】【19/100】

 当然、こうなる。だって、心の中を読んでくる相手ですから。

 「次喋ったら口を縫い合わすぞ。」

 全く持って、正論です。

 「俺は良い。だが隣の女子は止めてやれ。死ぬほどダメージを受けてる。」

 普通の人間を、タフネス設計の肉体を持った自分達と同等に扱うのは拙いと、一夏は忠告を行う。

 が。

 「私に叩かせたのは、お前等だ。」

 〈・・・くたばりやがれ。〉

 ズバァン!【9987/9999】

 それは流石に、擁護の仕様がないです。

 

 

 

 「・・・ちょっと良いか。」

 「OK!」

 休憩時間。一夏は、話し掛けられた方を向くこともせず、わざと音を立て机に伏せる。ただし、面倒くさいから伏せたのではなく、よく気の知れた相手ゆえの行動である。

 「おい!」

 思わず大声が出てしまう、話し掛けた少女。

 「安心しろ。冗談だ。」

 「廊下に来い。」

 きつい冗談だ。と、言いたげな顔をしながらも、平然と会話を続ける。

 「良いだろう。」

 2人は廊下に向け、歩みを進める。それは、さながらモーゼの奇跡の人間版だ。何せ、上級生まで分けていのだから。・・・何故、教室内に上級生がいるのかはお察し下さい。

 

 「そう言えば」

 「何です?」

 人気の少ないところ・・・と言うよりも、誰も付いてこられない場所まで行き、2人は話し始める。

 「去年、剣道で全国優勝したらしいな。」

 一夏は、脳筋でありながらも情報収集に長けている。

 「当然です。プr・・・どこで聞いた!?」

 彼女にとって、高校の剣道大会など晩飯にちょうど良いくらいのことで、まさか一夏がその程度のことを知っているとは思いもしないことであった。

 「新聞に書いてあった。」

 「何で読んだ!」

 それくらい自由にしてやりなよ。

 「秘密だ。」

 それくらい答えてやりなよ。

 「もうやだ!」

 篠ノ之箒は、男口調だった気がすると一夏が思った刹那。

 「鶏肉だお(^ω^;)。」

 「!?」

 思わずカカシになってしまった一夏を見て、箒は顔を赤らめる。

 「い、いや何でもない・・・//。」

 とっさに否定したことにより、2人の間に微妙な沈黙が訪れる。

 「・・・何年ぶりだ。」

 普通、その話題は会話の最初に持ってくるべきだと、誰か教えてやれ。

 「6年ぶりですなあ。昔を思い出さぁ!」

 「(髪型も)変わらんな。」

 「お前に褒められたんだ。」

 「箒――」

 ようやく会話が軌道に乗り始めた途端、鳴り響くチャイム。

 〈ちっ、時間か。クソッタレ。〉

 呑気なこと言っているが、時間切れどころか遅刻寸前である。

 「一夏ぁ。遅れるぜ、急ぎなよ。」

 「今行く。」

 全速力で走る、走る、飛ぶ!

 衝撃波により吹き飛ぶ屋根、飛び散る窓ガラス!大気を焼きながら飛ぶその姿は、まるで流れ星!

 「怖いか?織斑と篠ノ之(クソッタレ)。当然だ。元ブリュンヒルデの私に勝てるもんか。」

 も、一歩及ばず。敢えなく遅刻。

 「「試してみるか?俺(私)だって元(現)篠ノ之流剣道者だ。」」

 次の瞬間、一夏と箒のやや逆ギレ(自己防衛?)により戦いの火ぶたが切って落とされ、教室内はドンパチ、賑やかになった。

 ではここで、各人のライフを見てみましょう。

 【9000/20000】

 【800/9999】

 【300/1000】

 【【1/100】】

 上から、千冬、一夏、箒、その他全員。

 

 

 

 「―――ですので、ISの基本的な―――であって、その―――すると――」

 鼻提灯が弾ける中、山田先生はスヤスヤ・・・ではなく、すらすらと教科書を読み進めていく。

 プチッ

 (*^○^;)!!

 明らかにドス黒いオーラを出しながら、乾燥機の電源を入れるターミねーちゃん。

 「クラスメイトを起こさないでやってくれ。死ぬほど疲れてる。」

 自責の念から、クラスメイトを起こさないよう願う一夏。

 「もう遅い。」

 しかし、時既にお寿s・・・遅し。クラス中で鼻提灯が一斉に破裂する。

 「どうして起こした!」

 「・・・参考書はどうした!」

 怒りのあまり、やや暴論を吐く一夏。しかし、いとも容易く躱された上に痛いところを突かれてしまう。

 「!!」

 何を隠そうこのマッチョ、枕にするものがなかったので起きてただけなのである!

 「(机の上にある)これだけだ。」

 「」

 正直に告白。織斑先生はあまりのショックに、絶句してしまう。

 ベシッ!【1017/9999】

 それでも尚、口より先に手が動くのは織斑千冬のターミねーちゃんたる所以であり、それに反し今までのそれと比べ衝撃が微々たるものであったのは、織斑千冬がブラコンであったためである。

 「・・・起きていたことだけ評価してやる。で、参考書をどこへやった。」

 この言葉が、まさか自分の評価を下げる一撃になると、誰が予想できただろう。

 「お前が部屋でドンパチした後の片付けで、一緒に捨てちまったんだよ!」

 静寂・・・と言うよりは、死にたくなかったら誰も話すなと言う空気が教室に広がる。

 「・・・後で再発行してやる。取りに来い。」

 「資源を無駄に使うな。・・・必要ない。」

 にべも無く断る一夏。

 「何・・・だと?」

 あまりにブッ飛んだ答えに、千冬のボイラー圧は安全弁作動限界に達する――

 「捨てる前に全部覚えておいたんだ。」

 「流石だ一夏。やっぱり(予習を)やって来たか!」

 も、次の瞬間に冷温停止。

 「当然だ。知識がなければ、ISはガラクタ以下でしかない。」

 「良い心懸け(センス)だ。」

 自分の弟の出来の良さに、手前味噌を並べる織斑千冬。

 「お、織斑君、分からないところは無いですか?参考書無くても付いてきてますか?放課後、(補習)授業受けて貰って良いですか?」

 この巨*メガネは今の話を聞いていなかったのだろうか。それとも、知っていて尚のことなのだろうか。もし後者なら、窓から放されること間違いなし。

 「いや、結構!(・・・ん?)」

 「ああ、そんなに言われたら私・・・。」

 当然の答えが返ってきたはずなのに、何故か自信を喪失している山田先生。

 「あー、んんっ!山田先生(ずうとるび)、座布団はk・・・授業の続きを。」

 しかし、元ブリュンヒルデがそれを許すはずがない。

 「は、はい!」

 流石は、織斑先生!余裕の迫力だ、威圧感が違いますよ。

 威圧感に圧倒された山田先生は、急ぎ足で教壇に上がり、自分が落とした電子ペンを踏んで転けた。

 全くお笑いだ!

 

 

 

 「ちょっと、よろしくて?」

 「良くなぁ~い!(・・・ん?)」

 ジョン繋がりのあの人の言葉で返事をする一夏。

 「な、何ですか!?そのお返事は!?」

 まあ、切れられて当然の返答ではある。

 「」

 己の口から思いがけない台詞が出たせいで、一夏は固まる。一夏のテンションは一体どうなっているのやら。

 「・・・聞いてますの?」

 一瞬の静寂に痺れを切らした金髪ドリルは、恐れることなく一夏に迫る。

 「当然だ、クソッタレ!」

 見ず知らずの人(金髪ドリルならより一層)に迫られ、必然的に返しも強くなる。

 「まあ!何ですのそのお返事は?!私に話し掛けられるだけで光栄だと思わなくって!?」

 「面白い奴だ。名前を覚えるのは最後にしてやろう。」

 遠回しにお前なんか知るか宣言を行う一夏。

 「あなた!私の自己紹介を聞いていませんでしたの!?」

 それに対し、金髪の返しは的外れなものだった。

 「部屋がドンパチ、騒がしかったから俺が最後だったろ。忘れたのか。」

 「!!」

 忘れてやがったな、このアバズレ。

 「まあ、良いだろう。で、一体何の用だ。」

 「ええ。忘れていましたわ。世界で初めての男性IS操縦者が現れたと聞きましたから、イギリスの代表候補生である私、セシリア・オルコットがわざわざ会いに来ましたのよ。」

 美味しくなさそうな八宝菜よろしくふんぞり返るセシリア。

 「イギリスの代表候補?」

 わざとらしく聞き返す一夏。

 「ええ、何か?」

 小馬鹿にされたことを敏感に感じ取り、返しがやや威圧気味になる。

 「代表候補生がなんだ?」

 対する一夏は、徹底的にその一点を聞き続ける。

 「で、ですから入試で唯一教官を倒した私があなたに直接ご教授差し上げようと言うのですよ!?」

 自信満々の4字に得意げの3字を掛けても、なお言い表せられないほどのドヤ顔をするセシリア。

 「お前は今、唯一教官を倒したと言ったな。」

 しかし、一方の一夏は表情一つ崩さず、淡々と問いかけた。

 「そうですわ!それが何か?」

 「アレは・・・ウ ソ だ。」

 ゆっくりと、死を宣言するかの如く事実を言う。

 「「「え゛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 それに対する反応は、クラスメイトの方が早かった。しかしそれは、飽くまでセシリアが硬直していたからで・・・。

 「な、なぁぁぁぁあああああ無阿弥陀仏(もあみだんぶ)!?」

 イギリス出身なのに浄土真宗だったのか、それとも一瞬の間に冷静さを取り戻し、ボケを入れる余裕が出来たのか。

 「わ、私だけではない、と!?」

 「「「他にもいると!?」」」

 ただ、驚いていることに代わりはないようだ。それにしても見事な繋ぎと協調である。

 「・・・時間切れだ。遅れても知らんぞ。間に合わなかったら、お前等は死ぬ。」

 死に神が迫っていることを、淡々と告げる。もっとも、驚愕のあまりチャイムが聞こえていないことに気が付いていたので、助けてやる気があるならもっと早く教えていたわけであって・・・。

 「くっ、また来ますわ!逃げないことよ、よろしくって!?」

 「安心しろ。何も(逃げるような真似は)しない。」

 パパパァァァァァン! 【【1/100】】

            【23/1500】

 上がクラスメイト、下がセシリア。彼女等は無事、出席簿の餌食と相成りました。

 〈間に合わなかったか・・・。惜しい奴等を亡くした。〉

 勝手に殺さないで上げて下さい。まだ彼女たちは生きてますから。

 




小説番は秀逸ですか?
秀逸だ!MADには及ばないがな


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第3話大戦だ!!

ISの帝王がお好き?けっこう。ではますます好きになりますよ。さぁさぁ、どうぞ。ISの帝王の小説版です。・・・快適でしょ?あぁ、仰らないで、内容はそのまま。でも、MAD版なんて勢いだけで、トーシローには読みにくいし、原作の進捗によっては滑るわ、誤字は多いわ、ろくなことはない。ネタも増量してあります。どんな腹筋の方でも大丈夫。どうぞ読み回してみてください。・・・いい作品でしょう?余裕の笑い声だ、文章力が違いますよ


 3時間目。開始のチャイムはとうに鳴り終わったが、頭を抱えながら転げ回る生徒が多数いたため、彼女等の回復を待ってから織斑先生は話を始める。

 「・・・この時間は、実践で使用する各種装備の特性を説明・・・の、筈でしたが!HRで、再来週行われるクラス対抗戦に出場する代表者を選出出来なかったので、今から立候補者を募る。やりたければ手を挙げろ!OK?」

 「OK!」

 真っ先に返事をしたのは一夏。だが、彼の両手はポケットに突っ込まれており、クラス代表に立候補する気はさらさらないようだ。

 ズバァン!【1941/9999】

 快音が響くゥ! しかし、他の追随を許さない筋肉により、ダメージは殆ど通っていないようである。

 「真面目にやれ!」

 ごもっともですが、何故その台詞を叩く前に言わないのだろう。

 「・・・自薦他薦は問わん!誰かいないか?」

 立候補者はいないか?と、聞いておきながら、いないと分かるや否や手の平を返し、他薦自薦を問わないという。まぁ、こればかりは仕方がない。

 「はい!私は織斑君が良いと思います!」

 「私もそれが良いです!」

 それまでと打って変わって、一気に教室のテンションが上がる。

 他薦ってのはいいもんだよなぁ。人に押しつけて自分は温々出来るんだからなぁ!

 「候補者は織斑一夏。男性、170cm。筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。・・・他にいないか?」

 シレッと弟を変態呼ばわりする織斑先生。いや、千冬姉。

 「俺はクラス代表になる気はない。・・・傍観側で静かに暮らすつもりです。」

 「どこかの馬鹿(共)が、お前が適任だと推薦したんだよ。諦めろ。」

 ハエも止まる隙がない早さで返ってきた、逃げ道はないという宣告。

 〈ふざけやがってぇ・・・!〉

 一夏が心の中で盛大に毒づいた時だった。

 「そんなの認められませんわ!クラスの諸君。あなた方には、1組のような学級のおかれた状況が、まったく理解できていらっしゃらないのですわ!全員まとめて(私を)推薦せんかい!」

 『そんなになりたいなら、最初から立候補すればスッキリするのに』等と、クラスの誰も思っていない。思っているのはただ1人

 「どうした、何故もっと言わない。」

 一夏だけである。

 「口だけは達者なクラスの代表には、この私が適任です。」

 一夏に乗せられ、饒舌になるセシリア。それにしても、その台詞は自嘲ですか?

 「自覚はあるのだな、小娘。」

 「当然ですわ!実力で言えば、クラス代表を張れるのは、・・・私だけです。」

 織斑先生のどす黒いオーラをものともせず、自分を指さしながら自信たっぷりに話し続ける。

 『え?私?』

 この時、セシリアの首は傾いており、指は自分の耳の方を指していたためブルー・ティアーズはそう言ったが、悲しいことに誰にも聞こえていなかった。

 もっとも、ブルー・ティアーズの言うことはあながち間違いではないが。

 「それマジでいってんの?」

 良い返し(ヤジ)だ。どこで覚えた。

 「当たり前ですわ!」

 しかし、調子に乗ったセシリアは止まらなぁい!

 「まったくお笑いだ。一夏が居たら、奴も笑うでしょう。」

 皮肉たっぷりに箒が言う。それにしても、彼女の知り合いには目の前にいるマッチョマン以外の一夏がいるのか?

 「1組には、圧倒的実力でクラスメイトを導く代表が、必要なのですわ!」

 当然のことではあるが、まだ彼女は一夏がどれだけ強いのか知るよしもない。

 「何故あなたが?」

 「いいですか!?私のクラスの代表に、日本のトーシローごときが選出されることは許されませんわ!文化的にイギリスに劣っている国で3年間も暮らすこと自体、耐え難い苦痛というのに・・・。」

 調子に乗りに乗りまくったセシリアは、自分でも気付かぬ内に暴言を吐いていた。

 「イギリスの代表候補、クラスメイトは関係ない。止めておけ。目的は俺だろう。」

 一夏は、間髪入れずに反応する。

 「フッ、ウフフフフフフフフ・・・。」

 思わぬところからの横槍。最高に達していたテンションが、怪しい方向へと傾く。

 「堪忍袋の緒をやられた。お前にも勝てる。・・・来いよセシリア。レーザーライフルでも何でも持ってかかってこい!俺が(クラス代表になりたくないから)苦しみもがいて、勝っていく様を見るのが望みだったんだろう?そうじゃないのかセシリア。」

 やたら強気な態度で、セシリアを挑発する一夏。

 「手前ぇを、倒してやる!」

 まんまと挑発に乗ったセシリアの目は、焦点が定まらない。

 「さぁ、こっちを向け。一対一だ。クラスメイトに邪魔されて、楽しみをふいにしたくないだろう?・・・・・来いよセシリア。怖いのか?」

 臨戦態勢に入った一夏の筋肉が盛り上がる。

 「「「きゃー!」」」

 すかさずクラスから黄色い声が上がる。

 「ハンデなんてやらねぇ!フフフエヘヘヘ・・・。」

 「「「きゃー!」」」

 狂ったセシリアに、クラスから悲鳴が出る。

 「ハンデにもう用はねぇ!・・・・・はじき(mk-Ⅲ)も必要ねぇや、へへへへへっ。誰が手前なんか、・・・・・あなたなんか怖くありませんわ!」

 〈〈もどった!?〉〉

 寸でのところで、セシリアは自我を取り戻す。

 「・・・貴方、ぶっ殺して差し上げますわ!」

 「「「???」」」

 いかれた日本語に、クラス中の生徒が首を傾げる。

 「そこまでだ。それ以上喋ると、会話を縫い合わすぞ!」

 すかさず仲裁に入った織斑先生。ところで、会話を縫い合わすって何ですか?セシリアに合わせて、あなたまでいかれた日本語を話す必要はありません!

 「提案があります!」

 と、ここで、約一名クソ度胸だけでこの空気に飛び込んでくる。

 「なんだ?言ってみろ。」

 「2人でIS戦を行って勝った方をクラス代表にしてはどうでしょう!」

 このやり取りの中で、一番まともな言葉。故に、耳石と声帯、口の筋肉だけで話していた人達は頭が起動し、静まる。

 「・・・山田君、学内の通信とアリーナの使用状況を全て傍受しろ。」

 「は、はい!」

 突然の盗聴命令。しかし、山田先生は遅れることなく作業に取りかかる。

 「な、何が始まるんですか?」

 最前列の生徒が、恐る恐る訪ねる。

 「大惨事敗戦だ。」

 敢えて誰が負けると言わないのは、優しさか、それともセシリアが調子に乗るのを防ぐためか。

 「「「えぇええぇぇぇぇぇ」」」

 しかし、真っ先に反応したのはクラスメイトの方だった。

 ズパァン!!20hit【【-99/100】】

 叫んだ生徒の大半が、出席簿・オブ・クラッシャー(破壊者の出席簿)の餌食になる。

 ・・・お!良く見たら1しか減ってませんなぁ。(錯乱)

 「織斑先生、内線(テレックス)速達のメッセージ(業務連絡)です。」

 「どれだ?・・・なるほど、いいだろう。」

 山田先生は受話器を取り、内線で事務室に連絡を行う。

 受話器を戻したのを見て、織斑先生はクラスにその内容を伝えた。

 「織斑、オルコット。クラス代表の決定戦は一週間後の月曜日だ。放課後、第三アリーナがドンパち賑や・・・第3アリーナで勝負を行う。いいな?」

 クラス中を見渡し、反対意見が無いことを確認。

 「では、授業を――」

 始めようとしたところで、鳴り響く授業終わりのチャイム。

 何て都合の良いチャイムだ。流石だIS学園!

 その生徒の様子を尻目に、信じられないという顔で、自分の腕時計と壁掛け時計を交互に見る織斑先生。そもそもの原因は、あなたが途中でふざけていたせいですよ!

 

 

 

 放課後。夕日により赤く照らされた教室に、一夏は1人残っていた。

 いや、彼の筋肉を一目見ようと集まっていた野次馬を撒きに出ていたので、厳密に言えばずっと教室にいた訳ではない。

 「さて帰るか。」

 伸びをし、強張った体を伸ばす。一つ息を吐き、カバンを持ち上げた時だった。

 「ああ、織斑君。帰ったかと思いました。」

 何時も通り(まだ知り合って1日目)の雰囲気を纏い現れた山田先生。

 「今帰ろうとしたところだ。何です?」

 こんな時間まで残ってはいたが、別に家に帰りたくない訳ではないので、話し方でそれとなく急かす。

 「あ、はい。織斑君の部屋が決まりました。」

 「部屋!?決まってなかったんじゃ・・・・・。」

 端的な答え。しかし、予想していなかったそれに、一夏は度肝を抜かれた。

 「残念だったなあ。トリックだよ。」

 「そう言うことです。」

 ふらりと現れた織斑先生。それに相づちを打つ山田先生。

 「千冬姉!会議に行ったんじゃ・・・。」

 予想外のことが続き、一夏の脳は錯乱する。

 コンッ!【9998/9999】

 それを見通してか、教室に誰もいなかったので織斑先生の出席簿は優しかった。

 「それもトリニック(鶏肉)だ。」

 そして、何故か謎の日本語を放つ織斑先生。

 「!?」

 案の定、山田先生は聞いたことのない先輩の台詞に硬直した。

 しかし、そんなことは何処吹く風。

 「(部屋に)乗り込むまでは監視カメラが見張ってる。部屋の中では作者が部屋替えまで一緒だ。投稿が途絶えたら、作者は死ぬ。」

 部屋までの行動を、しっかりチェックすると宣言。

 ・・・・・えぇ!?何か今、一夏を逃がしたら殺す宣言されたんですけど!?

 「(今月に入ってから)ビール代に幾ら使った。」

 一夏に特に深い意図はなく、普段家に帰ってこない姉が幾ら使ったのか気になっただけのことだったのだが・・・。

 「十万円ポンと注ぎ込んだぜ。・・・だけどな一夏。お前と住めるなら、ノンアルコールでも喜んで呑むぜ。」

 ドベキシッ!「オフゥィ・・・・・」【1/20000】

 予想外に浪費していたことを聞くや否や、一夏はキレた。そして、たった一発で元世界最強をノックアウト。

 「お、織斑先生!?」

 信じられないという表情で、山田先生は一夏と織斑先生の顔を交互に見る。

 「今度余計に酒を買ってみろ、財布を縫い閉じるぞ。」

 威圧感たっぷりに、一夏が宣告する。対する千冬姉は、泡を吹きながらもビクッと動いた。

 「・・・山田先生、頼みがあるんだが、千冬姉に余計な金を使わせないでくれ。死ぬほど浪費が激しい。」

 「りょ、了解です・・・。」

 何度も頷く山田先生。

 無理もない。普段自分を玩具にしている人を、一瞬でノックアウトする人に逆らえるだろうか。いや、無理だ。

 「あぁ、それと、大浴場は使えないからな!」【2000/20000】

 しかし、織斑千冬も伊達に世界最強をやっていた訳ではない。織斑千冬のブリュンヒルデたる回復力で、山田先生が気配を察知した時には立っていた。

 「!?」

 第1話で一夏の行った、静かに素早くである。

 「流石だ千冬姉。やっぱり回復してきたか!(・・・ん?)」

 やはり、妙なところでブラコンが炸裂する。

 「当然だぜ、くそったれ(一夏)。大浴場はOK?」

 しかし、『OK』を振った時の声が、授業中のそれとは明らかに違った。

 「OK!」

 当然、ブラコン全開状態のマッチョマンの変態は、何処から出したのかお風呂セット抱えてている。

 「お、織斑君!?女の子とお風呂に入りたいんですか!?」

 今の流れで、本当に行く気はないと分からないのだろうか?

 「面白い奴だ。お前と入るのは最後にしてやろう。」

 勿論、これもネタ振りなのだが・・・。

 「え゛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?だ、駄目ですよぉ!あぁ、織斑先生が義姉さんにぃ!!」

 何を妄想したのか、山田先生は某顔付き蒸気機関車よろしく暴走を開始する。

 しかし、やかましさに堪忍袋の緒がブッチした織斑千冬により、山田先生は粛正される。

 「止まれぇ!」

 ベキ【0/3000】

 バタンッ!と棒のように倒れる山田先生。千冬は、脈を取る。

 「(心肺が)止まりました。」

 いや、いかんでしょ!

 「まずいな。」

 まずい、まずくないじゃなくて普通に殺人です!

 「任せろ。」

 何処から引っ張ってきたのか、一夏の手には2本の太いケーブルが握られていた。それは、高圧電線。

 バチィ!【2999/3000】

 からの大電流!

 「この手に限る。」

 ・・・いや、普通焦げる。(*よい子以外も真似しないこと)

 「・・・織斑君は、誰かに『野蛮だ』って言われたこと無い?」

 目をパチクリさせながらも、一周回って冷静になった山田先生は何をされたのかを正確に推測した。

 「帰るぞ、急げ。」

 ただ、そんなことはどうでも良く、一夏はさっさと帰りたかった。

 「え、お、織斑君!お風呂の件は?」

 何故か、執拗に聞き続ける山田先生。

 「一緒に入ってやると言ったな。あれは・・・ウソだ。」

 埒が明かないと一夏は、勿体ぶることなく告げる。が。

 「えぇ!?織斑君は女の子に興味がないんですか!?」

 どうしてこの巨大Suicaの持ち主の発想は、『お互い黙っていれば大丈夫!』でお馴染みの某運転手の運転みたいになるのだろう。

 「今の聞いた!?中学時代の交友関係の裏付けを取って!11時間後までにな!」

 気が付けば、教室の前には人だかり。これでは、一夏の努力も水の泡だ。

 「はぁ、山田先生。」

 疲れたような、苛立っているような声。

 「何でしょうか、織斑先生!」

 嬉々とした声で返事をした次の瞬間。

 バコーン【2/3000】

 痺れを切らした織斑千冬により、再び粛正された。

 「一夏、もう帰って良い。」

 アイコンタクトで、任せろと伝える。

 「もう(こんな学園は)お断りだ!」

 一夏も、アイコンタクトで任せたと返す。

 一夏がダッシュで教室を飛び出す。それを野次馬が追おうとした瞬間!

 ババババシィン!【【【1/150】】】

近くに雷が落ちた以上の音量が、廊下に響いた。刹那、手を突くことなく倒れ込む野次馬達。

 死に神の出席簿(デスファイル)誕生の瞬間である。

 あぁ、でも大丈夫。明日には今日の記憶も無くなってるでしょう。




Matsudaステイディアムにて覇気の帝王という文字を見かけ、ワクテカする今日この頃。


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第4話 急げ!早く投稿しろってんだよこのポンコツが!

(最新話に)置いてかれるぞ。とばせ!
キャーッ!
いいぞ
どうしてこんなことするの!?
一口では言えん。とにかく俺を信じろ
無理よ!そんなの、始まってまだ3話と経ってないのよ・・・。


 「1025号室。ここか。」

 天井裏。一夏は、鍵に書かれた番号と一致する番号の書かれた電気ケーブルを見つけた。

 天井板をずらし、周囲に誰もいないことを確認。部屋の前へと降り立つ。

 ドアノブを捻る。何事もなくドアは開いた。

 彼は、ここで鍵が開いていることに疑問を持つべきであった。

 「ベ(ネ)ット!?何故、二つも?」

 それに気付いたのは、部屋に入ってから。2つある内の一つに、荷物が置いてあった。

 「トリックだよ。」

 見透かしたように現れた千冬姉。ドアを全開にし、廊下から満面の笑みで言い放つ。

 一夏は、急ぎ千冬姉の元へと駆けるが。

 バッタァーン!【-2000/200】

 速攻でドアを閉められた。勿論、彼女のフルスイング開閉にドアが耐えられる訳がない。

 「!!」

 急いでドアノブを捻るが、クルクルと回るばかりで開く気配はない。

 何か手はないかと、ドアを叩いてみる。

 〈・・・この音!〉

 木製のドアであるならば体当たりで破壊するまで、と思った時だった。

 「誰かいるのか?!」

 「!!」

 声は、脱衣所のドアの向こう側から。ノブが回るのが、コマ送りに見える。

 「影も形もない。気のせいか・・・。」

 「・・・・・。」

 とっさの判断で棚の中に逃げた一夏は、ドアの閉まった音を聞き外へと出る。

 「うっ・・・。」

 しかし、それは迂闊な行動だった。

 「動くな!殺されたいか!」

 「箒!洗面所に戻ったんじゃ・・・。」

 まんまと引っ掛かった一夏は、何処かに退路はないかと思案する。

 「残念だったなぁ・・・。トリックだよ。IS委員会に連れ回されてからずーっと想い続けてきた。よぉやくその日がやって来た。・・・長かったぜ!」

 と、そこで、一夏はとんでも無いことに気が付く。

 「服はどこだ!」

 当然、恥じらいというものはあるので、目を逸らしながらである。

 「!?み、見るな!!」

 「安心しろ、何もしない。」

 この状況で、それを信用してくれる人がいる訳がない。

 「ふざけるなぁ!!」

 木刀に伸ばされた手から、衝撃波が発生する。

 ズボォフッ!【0/100】

 それに負けぬ速さで、枕を棚からひったくる。しかし、その衝撃で枕は真っ二つ。

 「木刀を放せ!」

 半分になった枕で、何とか木刀を受け止める。

 「いや結構!」

 一夏は飛び退き、距離を取る。そして、目を逸らさないようにしながら、ジリジリと下がっていく。

 ・・・箒は熊か?

 「!!」

 しかし、ドアが壊れていることを失念していた。

 「怖いか、クソッたれ(一夏)。当然だぜ、元篠ノ之流看板娘の私に勝てるもんか!」

 タオルが落ちないよう、器用に端を抑えながら構えを取る箒。

 「試してみるか? 俺だって元篠ノ之流だ・・・。フンッ!」

 最早、ヤケクソ以外のなにものでもない。一夏は得物を靴ベラへと持ち替え、応戦する。

 激しい殺陣が続き、部屋は見るも無惨になる。

 やがて一夏は、奮戦虚しく壁際に追い込まれてしまう。

 「くたばれクソッたれが・・・。」

 箒が、留めの一撃を放とうと木刀を引いた時だった。

 パキッ【0/1000】

 それは、根本付近からポッキリと折れた。

 「!?」

 「くたばん(服を着る)のはお前だ。」

 すかさず服一式を投げつけ、反撃に出る。

 「どこで拾った?」

 「タンスを調べた。」

 デリカシーのデの字もない。だが、箒がそれを気にすることは無かった。

 「更識!辺りを調べろ。」

 その時、外から聞こえてきた、聞き覚えのある声。

 「・・・一夏!中に居るんだろう。織斑出て来い!千冬だ!」

 一番まずい相手が来た。

 「千冬姉だ。部屋を戻すんだ。」

 一夏と箒は、素早く部屋の片付けに取りかかる。

 「開け!開けってんだ!」

 壊したのあなたです。

 ドアが軋むのを無視し、織斑千冬は強引にドアを開ける。

 「立て付けの悪いドアだ。」

 俗に筋肉修理術と呼ばれるそれで、織斑千冬は部屋へと乗り込む。

 「奴は何だ?」

 何とか部屋を片付け終えた一夏は、先制口撃を仕掛ける。

 「生徒会長だ。」

 「優秀ですか?」

 「優秀だ。一夏ほどではないがな。」

 それを聞いた瞬間、周囲の体感温度が下がった。

 「・・・会議はどうした。」

 後ろから飛んできた竹刀を、全く見ることなく受け取る。そして、先程はぐらかされたそれを問い詰める。

 「・・・まぁ落ち着け。竹刀を突きつけられてはビビッて――」

 ドンッ!【199/200】

 壁は石膏ボードなので音が良く響く。それが、より一層威圧感を醸し出す。

 「びびって話も――」

 ドンッ!【198/200】

 さっさと用件を話せと、プレッシャーを掛ける。

 「は、は な し も出来やしねぇ。・・・会議は大丈夫だ一夏。少なくとも今のところはな。この先どうなるかはあんた次第だ。会議に戻したければ、私たちに協力しろ。OK?」

 あっさりとサボっていることを自白した。

 「「OK!」」

 ズドドンッ!【53/20000】

       【18/5000】

 更々協力する気の無かった2人は、織斑千冬と更識を瞬く間に粉砕した。

 

 

 

 その頃、会議室周辺では、教員達が2人の行方を探していた。

 「サボリ魔は見つからんのか!」

 苛立った声で、1人が尋ねる。

 「イエ゛ェェア、(事務員)3人の死体(死んでない)だけです!まだ他にもあると?」

 この報告を受け山田先生は、安堵の声を漏らした。

 「織斑先生が生きていれば、まだ死体は増えるはずです。大丈夫です。もうじき帰ってきます。」

 織斑先生に敵う訳のない教員達は、その言葉を信じるしか打つ手がなかった。

 

 5分後。会議室の前に一夏の姿はあった。

 「お前等は最後に帰すと約束したな」

 一夏に頭を掴み持ち上げられた織斑千冬と更識は、顔を会議室のドアに向けられる。

 「そ、そうだ一夏、た、助け――」

 震える声で、助けを求める。が。

 「あれは嘘だ!」

 力の限り、左右に掴んでいた人物を会議室に投げた。

 「「うわぁーーーっ!!」」

 元ブリュンヒルデと生徒会会長が、仲良く悲鳴を上げながら飛ぶ。ドアに当たるという瞬間、タイミング良くドアが開き2人は会議室に消えて行った。

 

 

 

 「ドアが亡くなっちゃたわ・・・。」

 自室に戻り、箒に掛けられた声はそれだった。

 「・・・これで出来た。」

 そう言って一夏が取り付けた(置いた?)のはタンス。

 「・・・・・そうね〈どこが?〉。・・・あいつらは、どうしたの?」

 話しても無駄なことであると知っている箒は、疑問を心の中に押しとどめ話題を変える。

 「(会議室に)放してやった。」

 『何故縛り付けなかった?』と、言おうとして、ワイヤー如きが耐えきれる保証がないことを思い出す。

 「・・・一夏、その、何だ。・・・同じ部屋でく・・・暮らす上での線引きみたいなのは必要だと思わないか?」

 もう済んだことは放っておくことにし、身の振り方の話を始める。

 「誰が思うか、この脳筋野郎。」

 少なくとも野郎ではないし、お前が言うな。

 「・・・一夏、お前には私達のおかれた状況が、全く理解できておらんのだ。」

 深刻な面持ちで話し始める。

 「・・・・・。」

 「私達には、厳正な区切りで私達の生活を守る規律が必要なのだよ。」

 だが、千冬姉がそれと言うことを知らない一夏は・・・

 「なぜ、寮長にやらせない。奴等の仕事だろう?」

 箒は、表情を崩すことなく続ける。

 「それは、私が君を信頼しているからね。私の心の英雄と言うほどに。一方の寮長は、会議室から逃走を図った身だ。」

 「・・・あぁ。楽しんでドアを壊したからな。」

 一転、一夏は申し訳なさそうな表情になる。

 「君なら、まともな思考の元で厳正な決まりを作ることが出来るだろう。」

 〈くたばりやがれ、千冬姉。〉

 一夏が黙ったことを肯定と取り、話を進める。

 「じゃ、じゃあ、まずはシャワーだ。私は19時から20時。一夏は20時から21時だ。OK?」

 あぁ!駄目ですよ!!その言い方をすると・・・

 「OK!」

 シャワールームに駆け込む一夏。この時の時刻は19時。

 「おい!・・・まあ今日は、私は使ったから良いか。」

 

 

 

 「そう言えば一夏、男子トイレの位置は確認してるのか?」

 就寝前、箒はふとしたことから尋ねる。

 「当然だ。何回行ったと思ってるんだ。・・・しかし、いざとなったら切り札(法律)、もある。」

 「何の法律だ?」

 まさか一夏の口から法律という単語が出てくると思っていなかったため、思わず聞き返してしまう。

 「(緊急なら)男が女子トイレを使用しても問題ない。そう言うことだ。」

 衝撃の発言に、箒の怒りは爆発した。

 「お前は!暫く会わないうちに(筋肉モリモリマッチョマンの)変態趣味に走るとは!流石だ一夏、見損なったぞ。」

 いつの間にか握られている木刀。何処で調達した。

 「晩飯で腹をやられた!頼む助けてくれ、そこの女子トイレだけが頼りなんだ。残された時間は数分だけ。それが過ぎれば、**(自主規制)は殺されるんだ!」

 腹を抑え、祈るように倒れ込む一夏。

 「嘘をつけ!さっきまで平然と暴れ回ってただろうが!」

 ッゴス!【9999/9999】

     【0/1000】

 一夏の筋肉に、木刀如きが太刀打ちできる訳がない。No Damageである!

 

 

 

 「・・・どうして怒ってる。」

 翌朝、不機嫌この上ない箒に一夏は途惑う。

 「・・・生まれつきだ。」

 「そうか・・・。」

 何となく悪いことをしたなと言う感情に、一夏は言葉が詰まる。

 それでも箸は止まらないが・・・。

 「・・・ん?(味噌汁の)中身は何だ?これ。」

 得体の知れない具を見つけた一夏は、それを摘み出す。

 「知らない方が良いわ。」

 「「「・・・。」」」

 厨房から聞こえた衝撃の一言に、周囲にいた生徒全員が咀嚼を止めた。

 「・・・どうした?」

 それとは別に、動きを止めていた一夏。その視線にいたのは・・・

 「お、織斑君、隣良いかな?」

 食器トレーを持った3人の女子。

 「どうして俺の隣なんだ?他の空いてる席に座ればスッキリするのに。」

 他の空いているテーブルに目を遣り、そちらを勧める。

 「もう、織斑君ったら古いんだ。席は詰めるのが今のトレンドよ(大嘘)。」

 別の1人がニコッとしながら、あたかもそれが本当かのように話す。

 「へぇっ・・・。俺が中学校の頃に、友達の中華屋に行って席を詰めたら、(座り方が衛生面で)破壊的だって説教されたんだ。・・・その通りかもな。」

 「へ、へー。そうなんだ・・・。」

 思いがけない反論を喰らい、目が水泳を始める。

 「って、うわ!篠ノ之さん達、朝そんなに食べるんだ!」

 その意識を引き戻したのは、驚いた友達の声。

 「「当然だ、くそったれ。元剣道部の俺(私)に(箸のペースで)勝てるもんか!」」

 「・・・試してみるか?私だってハンドボール部だ。」

 両者のプライドを賭けた、顎と咬合力の耐久戦が始まり、食卓がドンパチ賑やかになった。

 しかし、そんな食べ方を見逃してはくれない相手がいた。

 ズバババァン!【9998/9999】

【1999/2000】

【【1/100】】

 モーニングショットでこの威力。どうです?いい音でしょう?でも、食事中の一夏と箒には効きません。奴等は直ぐに回復してしまいます。その他生徒?残(念でもなく)当(然)です。

 「食事は静かに、迅速に摂れ!」

 織斑千冬の声量に、食器がガタガタと震えた。

 「当然です学生ですから。」

 「分かってるなら良い。貴様等!もし余計な遅刻したらグラウンドを十周走らすぞ。」

 まだ時間があるとは言え、もし寝坊でもしたらと生徒達は震え上がる。

 「「じゃ、先に行くぞ。」」

 その中でも、一向に調子を崩さない脳筋2名。

 「え!?ちょ、2人とも、教室に行くには早いよ~!」

 もう少しゆっくりしていったらと言うつもりで言ったのだが・・・

 「「グラウンドだ。」」

 「グラウンド?」

 まさかの行き先に驚き、オウム返しが精一杯。

 「走りに行くんだ。」

 「食後の運動だ。」

 当たり前のように答えた2人。

 「えぇ!?一周10Kmあるよ!?間に合うの!?」

 この学園のグラウンドの広さを知らないのかと、周りからざわめきが起こる。しかし。

 「「ただの中庭ですなぁ。俺(私)達なら瞬きする間に、十周できる。忘れないことだ。」」

 「「「」」」

 超人的発言に彼女らは言葉を失い、遠ざかっていく背中をただ見つめることしか出来なかった。

 

 「うおらぁぁぁぁぁ!!」

 「ヌゥオォォォォォ!!!」

 その後、アリーナで発生した竜巻は、某黄タコの如くグラウンド真っ平らにした。

 




ただの・A・カカシですの、次の投稿はいつだ?
24時間後です
読者が読み終わった後の作品の始末は考えてあるか?
こっちには書き溜という切り札がある。読み来たとこを、一緒に片付けまさぁ


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第5話 ただの書き直しですな

こんなの小説じゃないわ、状況描写のついたMADよ!
だったら読めばいいだろ!


 3時間目。この時間も、山田先生が授業を進める。

 「と言う訳で―――作られており―――しています。また、―――します。―――などの機能があって――」

 「先生、何か体の中を弄られているみたいで怖いんですけど、大丈夫なんでしょうか・・・。」

 教科書に書いてある内容に、生徒から不安の声が上がる。

 「大丈夫ですよ。そうですね、身の回りにあるもので言えば皆さんしているブラジャーですね。あれはサポートをする訳で、人体には影響がありません。勿論、自分のサイズにあったものを選ばないと、織斑さんみたいにカッチカチの胸になってしまいます。」

 一夏の胸筋を胸と見間違うのも、無理もない。去年まで、IS学園には女子しかいなかったのだから。

 「何でブラジャーなんか付ける必要があるんだ?鍛えればいいじゃないか。」

 もっとも、この筋肉バカでなければ見間違うこともなかっただろうが。

 「・・・!?あ、あ、えー、えっと、そ、そうですよね!織斑君はしませんよね。」

 ですが、もっと注意すべき相手がいます。

 「山田先生?織斑さんの胸はカッチカチだぁ?」

 「ひ、っひぃ!?」

 「いくら私でも、胸までは鍛えられんぞ?」

 「お、おぉ、お、織斑先生のことをい、言った訳では―――ギャー!」

 山田先生の意識が、ログアウトしました。

 「お、織斑君、その胸元に見えているのは?」

 「これか?・・・コルセットだ。」

 服をめくり、本当であることを見せる。腰に2つ、胸付近に1つの布陣だ。

 「何で?」

 「昨日の授業の後、教室に残って復習を続けていた。今朝、その疲労がやって来た・・・痛かったぞ。」

 昨日の授業は殆どドンパチしており、実施されていないに等しい。

 「んん!山田君(ずうとるび)、織斑に座布団一枚やって!」

 ブラコンを発揮する織斑千冬。

 「はい、かしこまりました。」

 「「「!?」」」

 生きていようが棺桶の中だろうが、織斑先生に呼ばれれば起き上がるのが山田先生。

 「あ、それから大事なことがあって、ISにも意識に似たようなものがあります。一緒に過ごした時間眼に対して、えぇっと、操縦時間に比例してISも操縦者の性格を理解しようとします。」

 一周回って冷静になり、何事もなかったかのように授業を続ける。

 「つまり、鍛えた分だけ筋肉モリモリになると言うことですか?」

 「「「!?!?!?」」」

 2日目にして、筋肉に汚染されたクラスメイトがいますね。

 「違います!より性能を引き出せることになる訳です!」

 山田先生は、急いで訂正を入れる。

 「あってるじゃないですか!筋肉モリモリになれば身体能力も上がります!」

 しかし、全く聞く耳を持たない。まぁ、考え方としては間違いとも言い切れないが。

 「うるせぇ、少し黙ってろ!このオカマ野郎(つまり女)。べらべら喋りやがって!次喋ったら、(一夏が座っている座布団のカバーを頭からかぶせて、カバーの)口を縫い合わせるぞ。」

 「篠ノ之さん、怖い。」

 真顔で針と糸を持つ。しかし、上手く糸が通らない。・・・締まらねぇ。

 「「「・・・・・。」」」

 グギッ【0/20】

 糸が通せなくて、怒りのあまり曲げたのではない。良く見れば、箒が通そうとしていたのは糸ではなくピアノ線。

 刹那、縫い合わされたくなければ目を合わせるなと、全員が黒板の方を向く。その中において約1名。あらぬ方向を見続けている人物がいた。

 「山田先生、何で俺を見てるんだ?」

 「!!い、いえ、何でもないですよ?」

 顔を真っ赤にして否定する。全く否定になってないが。

 「(その程度のことで狼狽えるようでは)トーシローですな。」

 「織斑先生!酷いですよ!」

 酷くないです。クラスを満遍なく見回せないあなたの責任です。

 箒の目が、ギロリと山田先生を睨んだ。

 「ひっ!」

 しかし、そこで大人しくなったため縫い合わされることは回避した。

 

 

 

 「ねえねえ、織斑君さぁ!」

 休憩時間に突入するや否や、毎度毎度(2日目)の光景が繰り広げられる。

 「はいはーい、質問でぇーす!」

 「今日のお昼空いてますか?放課後暇ですか?夜も暇して貰って良いですか?」

 「?」

 しかし、同時に喋られては聖徳太子ではないので聞き取れない。もし仮にこれが、筋肉会話だったら同時に多数と喋る事が出来たことだろう。

 「・・・(録音用の)マイクは(ケースに)縛ってろ。その口も閉じとけ。」

 その女子達の背後からオーラ全開で現れた箒は、ピアノ線の通った針を突き付ける。

 「篠ノ之さん、怖い・・・。」

 彼女も慣れたもんだ。今までなら確実に、黙って震えるのが精一杯だっただろう。

 「と、ところで、織斑先生って、家ではどんな感じなの?」

 この話題なら一夏と箒の2人に脅される(本気で殺しに来てるけど・・・)こともないだろうと思ったのだが・・・

 「(生活しているだけで)部屋がドンパチ、賑やか―――」

 パァァァンッ!【8987/9999】

 Critical Hit・・・いや!真芯で捉えた会心のCritical Hit!

 このタイミングで現れる人物と言えばただ1人!

 「油断するな!休み時間は終わりだ。散れ!」

 織斑先生である!

 「駄目だ。」

 まだ時間内だと、一夏は主張する。

 「ほぉ、口答えするか。また、ドンパチするか?」

 それ、あなた方がやりたいだけなんじゃないですか?

 「「「いや、結構!!」」」

 これが、クラスの総意。

 良い合わせだ、どこで身につけた。

 「その手に持っている紙は何だ?」

 仕方なく、一夏は話題を切り換えた。

 「あぁ、お前に用意されるISの準備が遅れている。」

 「誰が手配したんです?」

 世界にISのコアは467個しかない。まさかと思い、用意した相手を訪ねる。

 「学園だ。今、学園の訓練機に予備がない。・・・まあ、(ISごとき)手前ぇには必要ねぇだろうがな。」

 「そうか。」

 予期した相手とは違い、一夏はホッとした。

 「し、指定機!?一年生の素人に!?」

 世間的に見れば、普通の反応。

 「当然ですわ。プロ()(と戦うの)ですから!」

 セシリアは、今の世界最強の言葉を聞いていなかったのか?もっとも、トーシローに負けるとは、この時は思っても見なかったことだろう。

 「面白い奴だ。お前を倒すのは、最後にしてやろう。」

 何処から出したのか、竹刀をちらつかせる箒。

 「うるさい奴等だ。気に障った。お前等を叩くのは、最初にしてやろう!」

 バゴゴゴォーン!【8970/9999】

         【1874/2000】

         【53/1500】

 一夏、箒は殆ど無傷。しかし、唯一肩書きのあるイギリスの代表候補生は撃沈した。

 「何か言うことはあるか?」

 ある訳が――

 「はい、先生!篠ノ之さんは篠ノ之博士の関係者ですか?」

 あった。それも、今の流れからは絶対に出て来ないであろう内容が。

 「そうだ、篠ノ之束の妹だ。」

 日本の法律、個人情報保護法は、ここIS学園には適用されない。

 「篠ノ之さん!質問、質問!篠ノ之博士ってどんな人?」

 目をランランと輝かせ、彼女は質問をする。

 「手先だけは器用な、ただのカカシ(うさぎ)ですな。」

 それに対する箒の答えは、褒めているのか貶しているのか、実に微妙なものであった。

 「実の姉に対して、それは酷くない?」

 彼女は、貶していると取った。

 「事実を言ってるだけです。気が向かなければ、あいつはISを作らない。ISが求められていようがいまいが、そいつは関係ない。アイツはサボリ続ける。ISを作らせることが出来るのは、・・・私だけです。」

 暗に、自分にはISが必要ない宣言。

 「尊敬しているのは、私達じゃなくて篠ノ之さんじゃないの?篠ノ之さんこそ篠ノ之博士を尊敬しているんだわ。」

 しかし、彼女はそれに気が付かない。

 「勿論です。姉妹ですから。・・・ただし、此方には大きな恨み(切り札)があります。「さて、授業を始めるぞ。」・・・。」

 このまま放置しておけば収束が付かなくなると、織斑先生は僅かに早く授業を始めた。

 

 

 

 「そう言えば。」

 お昼休み。昼食を摂りながら、一夏はふとあることを思い出す。

 「・・・何だ?」

 箒は、口の中のものを飲み込んでから返事をした。

 「少しトレーニングに付き合ってくれ。お前だけが唯一の望みなんだ。このままだと、(力がコントロールできなくて)セシリアが(俺に)殺される。箒に頼むしかないんだ。」

 慢心しているのではない。寧ろ心配しているのだ。

 「馬鹿(セシリア)が下らない挑発をするからだ。自業自得だろ。まあいい。」

 箒は、申し出をあっさりと了解した。

 「君を(トレーニングに)巻き込んですまないと思っている。」

 「まぁお茶でも飲んでリラックスしな。剣道の面倒(くらい)は私がしっかり見ててやるよ。」

 一夏はお茶を受け取り、口に含んだ――

 「ねぇ。君が噂の男の子でしょ?」

 その時だった。挨拶も無しに、話し掛けられる。リボンの色は、上級生のそれ。しかし。

 「多分な。」

 飯時ぐらいは羽を伸ばしたいと、必然的に返しが短くなる。

 「代表候補生の子と勝負するって、本当なの?」

 「あぁ、本当だ。」

 暇そうに、割り箸を粉砕(0.1mm以下)していく一夏。

 「でも君、素人だよね?ISの稼働時間はどれくらいなの?」

 「10分だ。」

 「あぁ、駄目、こんなトーシロー初めてよ。」

 わざとらしく額に手を当て、天を仰ぐ上級生。

 「「・・・・・。」」

 2人は、黙ってその動作を見守る。

 「(代表候補生と比べて)稼働時間が丸きり違うわ!(向こうは)最低でも300時間は飛ばしてるわよ!」

 「だったらISから引き摺りおろせば良いだろ!」

 相手が各上なら、有利になる状況に引きずり込む!これぞ筋肉流!

 「そんな・・・。それじゃ駄目よ。私がISについて教えてあげる!」

 「いや、結構。私が教えるので。」

 瞬間的に反論したのは箒だった。

 「ええ?でも君だって新入生でしょ?教えられるの?」

 腰に手をやり、やや見下した口調の上級生。

 「当然です。私の姉は・・・篠ノ之束ですから。」

 「っ!そ、そう。じゃあ、私は必要ないかしらね。」

 最強(凶?)のカードを切られては、退散する意外に打つ手はなかった。

 その背中が見えなくなると、一夏は小声で箒に尋ねる

 「・・・どこでISの操縦を習った?」

 「はったりを使った。・・・ISから引き摺り降ろす手立てなんかあるのか?」

 そっちこそと、聞き返す。

 「ISから引き摺り下ろすと言ったな?・・・あれは嘘だ。」

 堂々と、考えていない宣言。

 「はったりを使っているのは、君の方じゃないのか?一夏。」

 「嘘も方便だ。」

 その後も先生をしてあげるというカカシが群れを成してきたが、箒の切り札の前に散っていった。




何で5話がただの書き直しですななんだ?ただの駄作ですなにすればすっきりするのに
もーう、作Bったら古いんだ
へっ・・・MADを書いていた頃の暗黒回で、ネタがマンネリ化してて『破壊的だ』って評判悪かったぞ。・・・その通りかもな・・・小説版の中身はなんだこれ!?
ただ小説に直しただけだと思わないほうがいいわ


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第6話 大惨事対戦

まあ落ち着け。強靱な腹筋を見せ付けられちゃビビって話も書けやしねえ。・・・最新話は無事だ読者。少なくとも今の所はな。この先どうなるかは、あんた等次第だ。無事更新して欲しければ、俺達に協力(良く笑い、良く腹筋を崩壊)しろ。OK?


 放課後、剣道場を訪れた一夏と箒。

 「あれ?篠ノ之(期待のルーキー)さん。入部届?」

 早速剣道部部長に勧誘される。

 「竹刀は降ろしてろ。その羨望の眼差しも仕舞え。・・・一夏のトレーニングです。お気遣い無く。」

 遠慮のかけらもない。

 「良いのか?あんな態度で。」

 これには、あの一夏も思わず心配する。

 「大丈夫さ。心配ない。」

 何故そう思えるのか、是非とも説明を聞いてみたい。

 「そうか、なら良い。」

 しかし、彼らに説明を求めるのは無駄なこと。

 「ほれ。」

 「ああ、どうも。」

 一夏は、箒から竹刀を受け取る。

 「・・・防具は?」

 見渡す限り、それらしきものは倉庫に仕舞われている。

 「(お前とやるには)ただのカザリにもならん!では、・・・行くぞ!」

 出足は五分。そのせいで、爆発的加速力に床が耐えきれず、2人の中間点付近に剣道場を縦断する小さなひび割れが発生する。

 「「ウラァァァァァァァ!!」」

 竹刀同士の打ち合いにもかかわらず、銃撃戦以上に大きな爆発音が発生していた。。

 

 

 

 2時間後。

 【0/500】

 【1/15000】

 【1/200±50】

 【350/2000】

 【2000/9999】

 上から、竹刀、剣道場、巻き込まれた部員、箒、一夏。

 「どういうことだ!」

 箒の怒鳴り声が、折れた竹刀(×10)の山を揺らし、雪崩を引き起こす。

 「あの通りだ!」

 スーパー感覚派の彼らが、それを行ったところで説明できない&理解できないの二重苦が発生するだけ。

 「どうしてここまで(力のコントロールが)弱くなっている。」

 「この間まで、受験だったからな。その後も、缶詰にされていたしな。」

 一つ深呼吸をし、落ち着いて話を始める。

 「・・・中学は何部にいた?」

 眉間に寄ったしわを指で伸ばしながら、箒は尋ねる。

 「剣道部にいたが(すぐに)退部した。」

 「それじゃあ、帰宅部と言うことか。」

 答えを予想していたのか、怒鳴られることはなかった。

 「そうだ。・・・どうした?」

 箒の手が、グッと握り締められた直後。

 「・・・直す!鍛え直す!このままではISを破壊するだけだ!明日から毎日3時間、私と稽古だ!」

 声高らかに宣言するも。

 「お前も3本は折ったろう!」

 直ぐさまお前も大差ないといわれてしまう。

 「うるさい!剣道にだらしのない、馬鹿マッチョマンが!」

 竹刀をへし折ったとは言え現役。途中で投げ出した奴に言われて、大人しくできる訳がない。

 「やるか!」

 ドンッ!【0/15000】

 2人が同時に立ち上がる。その衝撃で、剣道場の防振ゴムは限界を迎えた。

 バキ!バキィ!バリーンッ!【8571/9000】

 遂に、建物本体にダメージが入り始める。

 「2人ともやり過ぎだわ!」

 剣道部が仲裁に入る。しかし、実力で2人には遠く及ばない彼女達では、それは不可能に近い。

 ガゴツンッ!【800/9999】

       【43/2000】

 2人を止めたのは、やはりこの人だった。

 「次余計に暴れたら、剣道場の梁に張り付けるぞ。」

 腰に、五寸釘が30本近くぶら下げられている。

 「ちふ・・・織斑先生!?会議に出席したんじゃ・・・。」

 ここに来る前に山田先生が会議室に向かっているのを見かけた一夏は、てっきり千冬姉も一緒にいるものだと思っていた。

 「トリックだよ。」〈山田先生に押しつけただけだけどな。〉

 「「ウオォォォォ・・・・。」」

 「今日(のトレーニング)は終わりだ!」

 激しい打ち合いにより疲労の蓄積していた2人には、反撃する力が残っていない。

 『ピンポンパンPON☆ッとくれたぜ。』

 突如聞こえてきた、謎のチャイム。

 『織斑先生、繰り返します織斑先生。・・・会議室に帰ってくるのを楽しみに待ってるぜ。』

 一夏が近くの居る時を狙ったかのような放送に、織斑千冬の顔は一気に青ざめた。

 「ヌオォォォォォッ!!」

 一夏の居る前でそれを言われてはお終いだ。モンドグロッソ決勝さながらの剣幕で逃走をはかる。

 が。

 「ふざけやがってぇ!!待てこのクソッタレ!」

 「待て一夏!話せば分か――」

 ズゴォン!【13/20000】

 ジャストミィィィィィト!先程までの疲労は何処にやら。

 「会議室に落ちろ千冬姉!」

 会議室はこの真下。愛する姉の酒代を守るため、会議室に突き落とす。

 「ヌァァァァァァァァ!」

 しかし、この光線で床と天井が抜けたせいで、剣道部の練習と会議は強制終了となった。

 

 

 

 「まだ誰か残っているか?」

 8時前。見回りにやってきた警備員は、剣道場のドア前に座っていた生徒に話し掛ける。

 「イエ゛アァァァァァ!2人だけです。」

 メキッ!バキィッ!【【0/500】】

 その直後、竹刀が以下略した音が聞こえてきた。

 「鍵を閉めたい!出て貰えないだろうか。」

 「「これが最後だ!」」

 ベキィッ!【【0/1000】】

 威勢の良い返事の後、響いた音は木刀が砕けた音。

 「よくこんな時間まで騒ぐ体力があるモンですなぁ。全く驚愕だ。しかし、この惨状をどうする気だね?」

 ぐちゃぐちゃになった剣道場を見て、警備員は顔を顰める。

 「心配するな、片付ける。」

 「直れ!直れってんだよこのポンコツが!」

 ゴッ!・・・ギギギギギィィィィ【6000/9000】

 そう言って一夏が床を殴った途端、元通りとまでは行かないにしても床が復元した。

 「この手に限る。」

 直す方法に、手段は選ばない!これぞ豪快、スーパー建築アクション!!

 「む、無茶苦茶だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 叫ぶ警備員を気に掛けることもなく去っていく2人。

 「さて、帰るぞ一夏。(食堂の営業時間に)遅れるぜぇ、急ぎなよ。」

 既に意識は、夕食に向いていた。

 「分かってる。今行く。」

 ・・・竹刀?ああ、大丈夫。明日にはすっかり直ってるでしょう。

 

 

 

 その事件は、翌週の月曜日に起きた。

 「・・・なあ箒。」

 腕を組み、搬入扉を睨む一夏。

 「何だ?」

 「ISが来てない。」

 「知らん。」

 歩く音が聞こえ、箒がそちらに目を遣ると一夏が部屋の出口に向かっていた。

 「・・・どこに行くんだ?」

 「壊物だ。」

 「・・・買い物?」

 至ってシンプルな答えの意味が分からず、仕方なく箒も付いていくことにした。

 

 アリーナからかなり離れた場所にやってきた2人。

 「100番のコンテナ。これだ。」

 ガッシャァァァァァン!【0/3500】

 大きく100と書かれたコンテナのチェーンキーを、万能のスマッチョキーでこじ開ける。

 「ワァオ・・・。」

 中には、様々な武器が仕舞われていた。

 「それは何?」

 一夏が真っ先に手にしたのは、上面と底面に4つずつ丸い穴が空いている直方体の物。

 「対IS兵器(ロケットランチャー)だ。」

 「・・・。」

 驚いて言葉を失う箒を余所に、次々と武器を装備していく一夏。

 「よし!行くぞ!」

 1分後、100%OFFで装備を揃えた一夏は、箒を従え全速力でアリーナに向かった。

 

 

 

 一方のアリーナでは、生徒達が一夏の登場を、今か今かと首を長く(物理)して待っていた。

 聞けば、織斑君の活躍を少しでも目に焼き付けたいと思っていたら伸びたとのことである。

 「あ!織斑君来た!」

 「「「きゃー!織斑くーん!」」」

 黄色い声援が飛ぶ。

 「えー?あれがIS?」

 しかし、そこに現れたのは武装した人間。

 ガシャンッ!

 デェェェェェェェン!【50000/五万道(ゴマンドー)!】

 一夏がロケットランチャーを肩に担いだ瞬間、何処からともなく効果音が流れた。

 「あ、貴方その格好は一体!?」

 IS同士の戦闘と聞いていたセシリアは、相手の装備の貧弱さ(IS比)に驚く。

 だが、無理もない。彼女・・・いや、世界的に見て、ISに生身で挑もうとする猛者はまずいないからだ。

 「ISが来てない。始めるぞ。」

 「ええぇ!?」

 淡々と話を進める一夏に、セシリアは途惑う。

 『おい織斑、ちょっと戻ってこい。ISが届いた。』

 その時、アリーナに織斑千冬の声が響く。

 「・・・アリーナがドンパチ賑やかになったらな。」

 『おい、織斑!ちょっと待て!』

 しかし、一夏は聞く耳を持たず、一方的に会話を終了させる。

 「何か言うことは?」

 話を振れば、調子に乗る。

 「・・・ふっ、精々私とブルー・ティアーズの奏でるワルツで踊――」

 ズドォォォォォン!【26000/27000】

 見事に一夏の作に嵌ったセシリアは、先手を取られる。

 「キャアッ!あ、貴方無茶苦茶しますわね!」

 ズドッズドォォォン!ズドォォォン!【24500/27000】3Hit!

 無駄口を叩く間に、更に3発お見舞いする。

 「どうした!こっちだ!さっさと撃ってこい!!」

 「くっ!行きなさいブルー・ティアーズ!」

 ズババババババッ!【【0/500】】

 挑発に乗り、ブルー・ティアーズ(以下、ビット)を出した瞬間、チェーンガンにより一瞬で2機が蜂の巣にされる。

 「なっ!?」

 ヒューン、ピッ!ドォォォォォンッ!【24000/27000】

 驚きのあまり動きが止まったところに、本来の用法ではない手投げで、クレイモアをぶつけられる。

 「一々驚いて動けないようでは、ただの(カカシ)だ。怖いのか?」

 ガガガガガガガガガガガッ!【24400/27000】

 息つく暇もなくサブマシンガンをぶっ放す一夏。しかし、流石に本体は堅い。

 「ちぃっ!こんな豆鉄砲で!ティアーズはまだあってよ!」

 「むっ?ぬあっ!」

 ここで一夏に痛恨のミスが出る。太陽とBT(弾道型)が重なって見えなかったのだ。

 「くっ・・・。」

 爆風に吹き飛ばされ中を舞う。しかし、飛ばされた先は幸いなことにピットだった。

 「よく帰ってきたな一夏。さっさとISを装着しろ。OK?」

 「OK!」

 ブラコン炸裂により、今はどんな返しも許される。

 一夏は、素早くISを装着。アリーナへと向かった。

 「あ、織斑君がISを着けて出てきた!」

 「「「キャー!」」」

 すかさず、観客席から歓声が飛ぶ。

 デェェェェェェェェェェン!【99999/99999】

 雪片を肩に担いだ音。毎度毎度うるさいが、勝手に出るのであって効果音を流している訳ではないので悪しからず。

 「それが貴方のISですの?」

 真っ白なISに身を包む一夏を、いぶかしげに見る。

 「そうだ。これで目一杯ドンパチ出来る。エネルギーもたっぷりあるしな!」

 『何を下らないことを言ってる!』

 「行くぞ!」

 さっさと片付けてしまえと言う指令を受け、一夏は突撃する。

 ギィィィィィンッ!【0/500】

 「そ、そんな馬鹿な!?遠距離の私に近接武器で挑もうと!?武器はおありで無いので!?」

 近接武器でいとも容易くビットを破壊されたことに余程驚いたのか、セシリアは反撃の意志を失いかけていた。

 「いや、コレだけだ。」

 「そんな・・・!」

 ただただ驚くばかりのセシリア。しかし、それで一夏の手が止まる訳がない。

 ガァァァァァァン!【22000/27000】

 あっという間に距離を詰められ、雪片弐型で斬りつけられる。

 「ええぃ!ブルー・ティアーズ!」

 ビシッ!【99998/99999】

 ヤケクソで放った一撃が、ようやく一夏を掠る。

 しかし。

 「ふざけやがってぇ!」

 ゴッ!【2000/27000】

 逆に一夏を怒らす結果となり、雪片を投げられ、スラスターに突き刺される。

 「キャァァァァァァ!な、こ、こんな・・・。」

 ボンッ・・・【1000/27000】

 絶対防御が働き、目減りしていくライフ(≒シールドエネルギ)。

 「地面に落ちろセシリア!!」

 「ウワアアアアアァァァァァ!」

 ドサッ!【0/27000】

     【1500/1500】

 着地(墜落)した衝撃によりライフがなくなり、ISが解除された。

 『し、試合終了!勝者、織斑一夏!これぞTHE・肉体派!織斑一夏の神髄だ!』

 いつの間にかアリーナの実況を放送部が行っていた。

 「「「きゃぁぁぁぁぁー!よく分かんないけどスゴーい!」」」

 兎に角はしゃげれば何でも良い(一部)女子は、あちらこちらで跳び、走り回る。

 「戦う一夏を応援します!」

 そして良く分からない宣言を大声でしていた。




読者めぇ・・・。くそ!腹筋を鍛えたか!ヌォォォォォ!
Enterポチー!(投稿)


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第7話 セシリア・カルロット

どこをやられた?
腹筋だけです。大丈夫・・・ブフーッ!
寝るだけ腹筋アンダー核をとって来なきゃ・・・
通販で安売りしてるらしいので、買ってこいカルロ


 「織斑!そのままISに乗ってろ!」

 試合後、ピットに戻った一夏に掛けられたのは、ねぎらいの言葉ではなかった。

 「何故です?」

 意味が分からず、聞き返す。

 「白式ですが、フォーマットとフィッティングがまだです。もうじき完了するので、待っていて下さい。」

 「必要ない。」

 そう言い、白式から降りようとする。

 「んんん!!駄目ですよォ!専用機は身につけていないと馴染みません!!」

 山田先生は、力の限り一夏を押し返す。

 「だったら、背負えばいいだろ!」

 「無茶です!!」

 因みにだが、前回の話で一夏の背負っていた武器の総重量は白式の重量を越えている。

 「錘は俺の大好物。筋トレに丁度良いぜ。トレーニング量も減ってるしな!」

 遂に山田先生の体力が限界を迎えようとした時だった。

 「何を下らないこと言っている!大人しくフォーマットとフィッティングをしろ。OK?」

 鶴の一声。

 「OK!」

 バコーンッ!【99000/99999】

 ほぼ条件反射で出席簿が振るわれた。

 「返事は『はい』だ!」

 「・・・はい。」

 一夏は、大人しく白式のフォーマットとフィッティングを完了させた。

 

 

 

 「皆さんご存じの通り、1年1組の代表は織斑一夏君に決定しました!」

 翌日のHR。山田先生による発表の後、スクリーン(=黒板)にクラス代表・織斑一夏という文字が写る。

 「あぁ、どうも・・・。」

 一夏の表情は、かなり渋い物だった。

 「マッ○ーと紙を貰えるか?」

 「はい。・・・どうぞ。」

 何の疑いもなく、山田先生は教卓から○ッキーと紙と取り出し、一夏に手渡す。

 「「「イエェーーーイ!!」」」

 一夏の心情を知ってか知らでか、盛り上がるクラスメイト達。

 「一つ聞きたいんだが・・・。」

 書く手を休めず質問をする。・・・人に尋ねるのに、それは失礼じゃないか?

 「何でしょう、織斑君。」

 しかし、山田先生はそれを気にしない。

 「勝った方が、辞退することは可能か?」

 「そ、それは――」

 「「「駄目だ!!」」」

 「!?」【9988/9999】

 口ごもる山田先生に代わり、クラスメイト達が声を揃え反対する。

 まさかの反応に、心の準備が出来ていなかった一夏は鼓膜をやられた。

 「ま、まぁ、皆さんもそう言っていますし、何より・・・」

 「私が辞退したからですわ!」

 申し訳なさそうに話す山田先生とは対照的な態度(お馴染みのあれ)で言い切ったセシリア。

 「何で自薦に辞退の権限があるんだ?他薦が辞退できればスッキリするのに。」

 不満げな一夏。

 「勝ったのは、貴方ですわ!」

 それに対し彼女は、負けたというのに非常に嬉しそうである。

 「・・・くたばりやがれ。」

 一夏の呟きも、ハイテンションの女子達には、それを更に加速させる言葉にしかならない。

 「そ、それに、ですわ。私のように華奢な体つきよりも、一夏さんのような筋肉モリモリマッチョマンの変t・・・紳士の方が相応しいのは決定的ですから!」

 顔を赤らめながら言っても、全く持って説得力がない。

 「(一夏を)変態だというのは、酷いんじゃないか?」

 反論に出たのは箒。でも、彼女こそそれを一番言っている気が・・・。

 「変態だと思っているのは私ではなく、貴方ではないのですか?篠ノ之箒。貴方こそ、一夏さんをマッチョマンの変態だと思っているのですわ。」

 「勿論です。幼馴染みですから。」

 徐々にヒートアップしていく言い合い。

 「見上げた度胸だ馬鹿者共。だがな、手前ぇらの命を張るほどの値打ちのある会話か?」

 最早手遅れかと思った時、遅れて教室に入ってきた鬼神・・・もとい織斑先生。

 「「ア、アアァァァ・・・・・!!」」

 恐怖に駆られた2人は、携帯のバイブのように震え出す。

 「(出席簿を)持ってんのは右手だ。かつて世界を取った手だぜ?」

 「「せ、先生、頼む、見逃してく――」」

 ズバァンッ!【1603/2000】

       【4/1500】

 衝撃と爆音。それだけの強さで叩かれても、箒は頭をさする程度。しかし、セシリアは倒れた。

 「セシリア、大丈夫か?」

 一夏は、上半身を少し起こしてやる。

 「一夏さんが話し掛けてくれるなんて・・・。死んでいるのではないのでしょうか?」

 「生きてるよ。」

 一夏の手が一瞬ぶれた。しかし、それを目で追えた物はいない。

 ただ2人を除いて。

 けれど2人に、それを咎める気は毛頭なかった。

 「勝手に立ち歩くたぁ良い度胸だ、織斑!」

 ズバァンッ!【9980/9999】

 再び、出席簿が振るわれた。

 

 

 

 授業が終わり、休憩時間。

 〈あぁ、一夏さんが私に・・・//〉

 先程のことを思い出し、両手を顔に当てスキップで廊下を進むセシリア。

 「「「クスクスクス」」」

 その姿を見た生徒達は、皆吹き出すのを堪えるので必死だ。

 〈日本は何て良い国なのでしょう!皆が笑顔ですわ!〉

 だが、当の本人は自分が笑われてると気付いてないのであった。

 

 「今日も一夏さんは素敵でしたわ!」

 放課後、セシリアは自分の部屋でルームメイトに今日の出来事を話す。

 「あっそう。」

 素っ気ない返事。しかし、自慢話を延々と続けられては誰だってそうなる。

 と、そこで、彼女の目はセシリアの背中でなびく何かを捉える。

 「・・・背中に何付けてんの?」

 「背中?・・・ん?」

 手探りでそれを掴み剥がす。付けられていたのは紙。そこに書いてあったのは・・・。

 『私は、トーシローに負けた金髪クルクルの変態です。』

 セシリアは、金髪クルクルの変態が自分のことを指していると一瞬で理解した。

 「い、一夏サァァァァァン!?!?」

 そう叫びながらドアを蹴破り、セシリアは廊下へと飛び出していった。

 

 

 

 「何か廊下が騒がしいな・・・。見てこい一夏。」

 「駄目だ!」

 それまで筋トレを行っていた一夏が、表情を変え身支度を始める。

 「何z「一夏サァァァン?」・・・セシリアか。」

 廊下から聞こえてきた声で、箒はそれに納得する。

 「メッセージは知っているか?」

 「寮長室、織斑先生、階・号室、施設だな。OK。」

 「奴が俺を見つけるまでは、内線を使うな。」

 話ながらも、身支度の手は休めない。

 「どうしてそれと分かる?」

 当然だが、透視能力などない。

 「アリーナがドンパチ賑やかになるからだ。」

 支度を終えた一夏は、ゆっくりと大きな声で伝えた。

 「気を付けろ。」

 「ありがとう。」

 そう言うと、窓から飛び出していった。10階の窓からの跳躍だが、この程度の高さではビクともしないのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 その頃、セシリアは一夏を探し、寮を走り回っていた。

 「そこの貴方!一夏サァァァァァンの部屋はどこかご存じぃ?」

 片手で掴み上げられた生徒は、堪らず知っている情報を話す。

 「し、知りません!・・・や、山田先生が知っている。」

 「どうもですわ!」

 そう言い残し、生徒を放りなげ再び駆け出した。

 ただし、片手と言ってもISを部分展開していたと付け加えておく。

 「一夏サァァァァァンを見ませんでしたか?」

 手当たり次第に、見つけた生徒を尋問する。

 「さ、さっきアリーナの方に・・・、散歩だって。」

 「!!」

 遂に有力な情報を得た。『ありがとう』も言わず放すと、セシリアはアリーナの方へと駆けた。

 

 「見つけましたわ!・・・よくも、よくもこの私、セシリア・オルコットに恥を掻かせてくれましたわね!」

 ビシューン!!【0/10】

 観客席に座りボーッとする一夏。しかし、セシリアは返事を言う間を与えずmk-Ⅲの引き金を引く。

 が、ビームに撃たれたのは一夏ではなくそのカカシ(ダミー)。本物は、打ち抜かれたその穴の先にいた。

 「一夏め!くそぉ、逃げたか!・・・ウォォ!」

 バチィ!【0/5000】

 怒りに身を任せ、アリーナのシールドに体当たりを決める。渾身の一撃でそれを突破し、遂にグラウンドへと降り立つ。

 「随分と探しましたわ!一夏さん!貴方に恥を掻かされてからずーっと復讐を想い続けてきました。よぉやくその時がやって来ました。・・・長かった――」

 ザバァァァァァァァァァァン!

 「ゴバァ!?」

 何処に仕込まれていたのか、大量の水にセシリアは押し流される。グラウンドにいたため、大人しく復讐されてくれると思い込んでいたセシリアは、まんまと一夏からの先制洪撃(こうげき)を受ける羽目になった。

 

 

 

 その頃、1025号室では。

 「寮長室。繰り返します、寮長室。・・・こちらは10階の1025号室。織斑先生に緊急のメッセージがあります、どうぞ。繰り返す、織斑先生です、どうぞ。」

 アリーナからお祭り騒ぎの音を聞いた箒が、連絡を入れていた。

 「ウィー。何だ?・・・何!?すぐに行く!」

 電話に出た織斑千冬は酒に酔っていたが、連絡を受けた途端に酔いが覚め、急いで一斗瓶片手に部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 「フー、フー・・・ゲホッ。」【1499/1500】

 息が上がり、体はずぶ濡れ。それでも膝を地面に付け起き上がっているのは代表候補生の意地。だたし、ダメージは皆無だ。

 「どうした、疲れたのか?」【9999/9999】

 対する一夏は、疲れどころか寧ろ楽しそうに指を動かし、『来い』のサインを出す。

 「こ、この程度で・・・。この程度で倒れる訳がありませんわ!!ヤァァァロォォォォ、ォブッコロッシャァァァァァァァァ!」

 そこで一夏は、彼女の後ろから近付いてきた人物を一瞥して一言。

 「そうか。じゃ、千冬姉後は任せた。」

 「!?」

 驚き、振り向く。もしこれを言ったのが、彼以外で、尚且つ名前が織斑千冬以外であったなら信じなかっただろう。

 「一夏を、い、イジェルッラァ、ほ、ほっほこのひょいつだぁ?」

 (訳:一夏を虐めるのはどこのドイツだ。)

 やはり現れたのは織斑千冬。

 「「???」」

 しかし、あまりの酔いっぷりに話を振った一夏ですら困惑する始末。あまりの酒臭さに、セシリアは思わず鼻をつまむ。

 「ふぉふぁへかはぁ!」

 (訳:お前か。)

 ろれつは回らないわ、足は千鳥だわ、ブリュンヒルデどうこう以前に人間としての価値が皆無な織斑先生。

 「な、お、織斑先生ちょっと・・・。く!幾らブリュンヒルデと言えど、今となってはただの酔いどれですわ!」

 あの恐れられていたセシリアにすらこの言われよう。

 だが。

 「ウィィ~♪」

 ベキャ!【-1/15000】

 ふざけたように振り下ろした酒瓶で、グラウンドにクレーターをチャチャッと作る。

 「ひっ!?こ、こんなのガラスじゃありませんわ!透けて向こうの見える隕石ですわ!」

 顔面蒼白で目の前のクレーター製造人を凝視するセシリア。

 「ひははははははァァァ!」

 「キャァァァァァァァ!」

 完全に酔っている織斑千冬は、酒瓶片手にセシリアと追い駆けっこを始める。

 「一夏さん!許しますからお助けを!!・・・一夏さん?」

 しかし、既に一夏の姿は何処にもなかった。

 「ヒィィィッヒィッヒィイ!!」

 満面の笑みでセシリアを追う織斑千冬。セシリアはと言うと、当然のことながら逃げるのに精一杯。

 途中、(一夏が捨てた)ロケットランチャーを見つけたセシリアが反撃に出たものの、鉄骨教師に通用するはずもなく、結局このこのドンパチ騒ぎは翌朝まで続いたとか続かなかったとか・・・。

 え?セシリア?大丈夫ですよ、明日(目が覚めたら)は日曜日ですから。




作品を書いていると、妙に飛ぶスピードの速い虫(主にヨコバイ)が画面の前をうろうろしてイライラする、今日この頃。
*それを捕まえようとして、液晶を殴りそうになり焦る。


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第8話 THE・肉体派。これぞ人間隕石の真髄だ!

作A 作品が愛されるってのはぁ、いいもんだよなぁ。MAD版は大盛況だった。
 B 当然です。状況描写の一切を廃していましたから。
 A ・・・あれは!?ランキング!?
 B に乗った筈か?残念だったな、作A。もう落ちたぜ。
 A ・・・。


 4月下旬。殆どの生徒が筋肉モリモリのマッチョマンにタフネス設計の2人を合わせた3人にも慣れ、授業も最初ほど滞ることもなくなっていた。

 「これから、基本的な飛行操縦を実戦して貰う。飛んでこい、織斑・オルコット。」

 実際に見せようと、織斑先生は2人に指示を出す。

 「ウラァ!」

 「何を!負けませんわ!」

 しかし、何が切っ掛けになったのか、2人はISの展開速度を競い始めた。

 ババァン!【99997/99999】

      【24500/27000】

 すかさず出席簿が(大気との摩擦で)火を噴く。

 「(ISの)展開と収納の速度を競うな!・・・早く飛べ!OK?」

 「「OK(ですわ)!」」

 快心のOK。

 だが、彼らも黙って叩かれるはずがない。言い終わる寸前に飛び立ち、見事に出席簿を躱して見せた。

 「・・・必ず叩かれに戻ってこい。」

 空を見上げ、悔しそうにそう吐き捨てる織斑先生。

 「お断りだ!」

 誰が好きこのんで叩かれに帰るものかと、一夏は付け加える。

 「織斑、喋っている暇があるのか?置いて行かれてるぞ!飛ばせ!」

 落ちる感覚は優れている一夏ではあるが、飛ぶことに関しては代表候補生であるセシリアに一日の長があり、少々遅れを取っていた。

 「オラァ!」

 「負けませんわ!!」

 シュバァンッ!!【-5000/5000】

 言われれば行動で答えるのがこのクラスのやり方。飛行で発生した衝撃波でアリーナのシールド全損しようがお構いなしだ。

 「やり過ぎだ!馬鹿者!」

 ガンッ!【99988/99999】

 バスンッ!【14003/27000】

 すかさず一夏に出席簿を、セシリアには直ぐに投げられそうなものが山田先生しかなかったので彼女を投げ当てる。

 「・・・セシリア、ISが飛んでいる理由は何だ?」

 物が当たっても、バランスを崩すことなく飛行を続けられるIS。一夏は、ふと不思議に思い尋ねる。

 「こういうことですわ!」

 バコーンッ!【99999/99999】

 セシリアの右ストレートが一夏の顔面に食い込む。

 「・・・良く分かった。」

 しかし、筋肉言語と侮る事なかれ。何と彼女は、パンチで発生する衝撃でそれを伝えたのだ。

 「2人とも流さないで下さい!!」

ボヨォン【4000/4000】

 忘れられていたが、山田先生を助けようとした人は誰もいなかった。

 何故か?地面に墜落しても胸部装甲で跳ね返るからです。

 そう言う訳で、全く相手にして貰えない山田先生。もっとも、跳ねることにより巨○に対する生徒の嫉妬心が煽られたと言うのが大部分の理由ではあったが。

 「(セシリアと二人で)楽しそうだなぁ、一夏!!・・・一夏ぁ、降りてきてみろ!一発で眉間を叩いてやるぜ!小学校からの剣道仲間(突き合い)だ。苦しませたかねぇ!」

 要は自分も混ぜろと言う箒。

 「・・・篠ノ之。そのインカムは私のだ。放せ!」

 ゴッ【1998/2000】

 私も騒ぎたいのを我慢しているのだと、出席簿の威力はいつもの1割未満だった。

 「・・・織斑、オルコット!急降下と完全停止をやれ!地上から10cm以内でだ!」

 何時までも騒がれているのが気にくわなかった織斑先生は、突如として2人に命令を出す。

 「では一夏さん、お先に。」

 優雅に急降下急停止を決めてみせる。

 「9cmか。上出来だ。次、織斑!」

 「ヌォォォ!」

 ドゴォォォーンッー!【9900/15000】

 続く一夏は、豪快に急降下急停止を決めて見せた。

 「誰が地面に突っ込めと言った!」

 しかし、織斑先生は地上か10cmと言っただけで、上か下かまでは指示していない。

 「完全停止と、(凹んだ)地面から10cm以内だ。」

 胸を張って答える、タフネス設計の骨格と肉体を持った人間隕石。

 「・・・その筋肉は締m、仕舞ってろ。穴も後で埋めとけ。」

 先日、一斗瓶でグランドにクレーターを量産した人の台詞とは到底思えない。

 「・・・はい。」

 筋肉を封印されては、一夏は元気が出ない。

 「織斑、武器を展開しろ!」

 そこに飛ぶ、指示。

 ガチャン!デェェェェェェェン!

 それでも、一瞬も遅れることなく武器を指してみせる。問題は出した武器の種類だ。

 「・・・(ロケットランチャーを)どこから持ってきた!」

 まさか隠し持っているとは夢にも思って見なかったため、織斑先生は珍しく驚く。

 「今出てきた。・・・貴方が(先月騒いだ時に)埋めたんですよ。」

 そう言いながら、陥没した地面を指さす。

 「・・・・・そうか。」

 酒に飲まれて色々やらかしたことを引き出され、織斑先生はばつが悪そうにそっぽを向いた。

 「・・・織斑、雪片を出せ。」

 場を取り繕う言葉が思いつかず、仕方なく授業を続ける。

 ガチャッ!デェェェェェェェェェェェェェェン!

 「うるさ「「「キャー!!」」」・・・。」

 クラスの歓喜に掻き消される千冬の声。フラストレーションが溜まる。

 「セシリア、武装を展開しろ!」

 もたついたところを出席簿で片付けようと思い、不意を突いたつもりだった。

 が、素早い反応をされてしまう。展開したのは、ブルー・ティアーズ(ビット)。

 「・・・mk-Ⅲを出せ!」

 意図した物と違ったため、今度は武器を指定する。

 「はい!」

 「良い速さだ。だがな、オルコット。横向きに展開して誰を撃つつもりだ?」

 「問題ありませんわ、織斑先生。私とブルー・ティアーズなら、どんな相手が来ようと怖くありません!」

 自信タップリに答えるセシリア。織斑兄弟相手に景気よく突っ込んでコテンパンにされた人と同一人物には思えない。

 「口だけは達者な代表候補生ですな。全くお笑いだ。一夏に聞かせたら、奴も笑うでしょう。」

 「ちふ・・・織斑先生、俺は何です?」

 吹き出しそうになるのを堪えながら言った織斑先生の言葉に、不思議に思い聞き返す

 「お前は私の生徒(織斑)だ。一夏は家にいる。」

 公私の区別ぐらい私でも付けると言うことらしい。

 「「「・・・・・。」」」

 「」

 だらしない顔の織斑先生に、全員が言葉を失う。

 その空気に気が付き、直ぐさま表情を整えるが、後の祭りである。

 「・・・オルコット!近接武器を出せ!」

 苦し紛れに放った一言。しかし、一向にセシリアがインターセプターを展開する気配がない。

 「ぶっ殺してやる!」

 「「「!?」」」

 インターセプター展開の掛け声がこれ。汚嬢様に成り下がった瞬間である。

 ズバァンッ!【3/27000】

 「もっとまともな呼び出しを考えるんだな!」

 ストレス全乗せショット。出席簿で叩き、一瞬でISのライフを削り取る。

 『一夏サァァァン!貴方のせいですわよ!』

 脳震とうを起こし起き上がれないため、個人間秘匿通信で文句を言うセシリア。

 「何だ、生きていたのか。」

 意地の悪い一夏は、わざと個人間秘匿通信を使用せずに返事をする。

 『し、静かにして下さいまし!そ、それより、(筋肉言語を覚えさせた)責任を取って下さい!OK?』

 「OK!」

 ズドンッ!【1/1500】

 もっとも言葉を発しようが発しまいが、織斑千冬の直感の前では無意味である。

 「勝手に個人間秘匿通信を使うとは、良い度胸だ、オルコット。気に入った。叩くのは最後にしてやろう。」

 「もう叩いただろ!いい加減にしろ!」

 「「「そーだ、そーだ。」」」

 「」

 いくら織斑千冬と言え、数(主に一夏と箒だけど)に差があっては反論が出来ない。

 その沈黙の均衡を破ったのは、良くも悪くも空気を読まない山田先生である。

 「て、言うか皆さん!このグランドの惨状を見て、何とも思わないんですか!?」

 必死にそう訴える。

 しかし。

 「え?なに言ってるの、やまや?」

 「そうだよ、何かおかしい?」

 物が景気よく壊れる1組において、その光景はいつも通り。恐ろしいことに、1組の生徒はそれに慣れてしまっていた。

 「うぅ、また始末書が・・・。」

 今日もまた徹夜だと、頭を抱えしゃがみ込む。

 「安心しろ、いま綺麗にする。」

 そう山田先生に声を掛け、アップを始める。

 「え?織斑君?此処に整備道具はありませんよ?」

 「平坦に成れッてんだ、この凸凹がぁ!」

 不思議そうに見つめる山田先生の前で、一夏はグラウンドを殴りつけた。

 音を立て、グラウンドの地形が代わり始める。そして。

 「何か、余計に酷くなってませんか!?」

 至る所が波打ち、見るも無惨な姿になったグラウンド。

 「・・・・・綺麗にすると言ったな。」

 「そうですよ!私だって始末書なんか書きたくないです!」

 「アレは、・・・う そ だ!」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

叫び声を上げたかと思った次の瞬間、手で衝撃を緩和することもなく山田先生は後ろ向きに倒れた。

 「・・・よし、時間だ!コレで午前の授業を終わる。気を付け!」

 お腹が空いた千冬は、ややフライング気味に授業を終わらせる。

 「・・・ヤァーマダ!起きろ!」

 「は、ハヒィ!」

 織斑千冬の声がすれば、以下略。

 「礼!」

 「「「ありがとうございました!!」」」

 各人が散っていく。その先頭集団にいた織斑千冬は、後ろを振り返りながらこう言いはなった。

 「あぁ!おい、織斑!・・・穴埋めといてくれ。」

 先日、織斑千冬が酒に酔いグラウンドを月の表面にした時、整地したのは一夏だった。だから、今回は代わりにやれと言ってやる。

 「・・・穴を埋めんのは、手前ぇだ!」

 スカッ、ドゴォーンッ!【900/15000】

 案の定、叩きに来た。一夏は、それを上から下へ受け流す。

 結果、過去最大級の蟻地獄の巣が形成される。

 「・・・埋めとけ!」

 そう言い残し、さっさと食堂の方へと向かっていく。ランチ特打に引きずり込もうと思っていた一夏の思いは、空振りに終わる。

 「・・・クソッタレが!」

 1人残された一夏は、ぐるりとグラウンドを見回す。

 「整備道具がないな・・・。壊物に行くか。」

 ボソッと呟く。

 「買い物?付き合うよ!」

 その時、クレーターの中から、隠れん坊(?)をしていた女子が現れる。

 「(整備に巻き込んで)悪いな。」

 

 

 

 「115号倉庫・・・。ここだ。開いてくれ!」

 ドアに付けられている機械に、パスワートを打ち込む。ブザー音がし、ドアの鍵が加除される。

 「ワァオ・・・。」

 中には、土からトンボまで様々な整地道具が揃えられている、

 「これと、これと、・・・それからコレだ。」

 手早く道具を選び出し、台車に乗せる。

 「コレなに?」

 女子生徒は、見慣れない袋に入った黒い物体の名前を尋ねる。

 「砂利だ。」

 「砂利ぃ?・・・そうね。」

 確かに砂利だ。音も質量も、そして何より袋に砂利と書いてあるのだから、間違いようがない。

 「行くぞ!」

 勢いよく台車を押し、急いでグラウンドへと向かう。

 台車?当然100%OFFです。

 

 

 

 「まだ、凹んでいるところはあるのか?」

 40分が経過した。一夏と女子生徒が整地を終えると同時に、見計らったように織斑千冬は現れた。

 「平坦だけです。」

 泥だらけになり、ややお疲れモード。

 「次の授業が始まる。織斑、戻ってこい。」

 「(昼飯がまだなので)お断りだ!」

 次の瞬間、学園中の時計が一声に爆発した。




伏線の内容が変わっているはずだ!っとでも思ったか?残念だったなぁ。トリックだよ。
高評価(=腹筋の熱盛ィィィ!!!具合を報告)するのを、楽しみに待ってるぜ!


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第9話 タフネス設計(主に胸)

ちょ、ちょっとそこの小柄でまな板な人、何するんですか。ちょ、止めて下さい!ここで(ISを)動かしちゃ駄目ですよ。!?わーっ、何を!わぁ、待って!待って!止まれ!うわーっ!!


 夜。IS学園の前に止まったタクシーから、ツインテールの女子が降臨した。

 「ここがIS学園・・・。ようやくその時がやって来t――」

 ドンッ!・・・デェェェェェェェェェェン!

 それを歓迎するかのように、打ち上げ式筋肉花火が炸裂した。いや、偶々上がっただけなのだが・・・。

 「!?・・・今の音何?一夏?・・・そんなことより、早く受付に行かなきゃ。・・・って、ここどこ?誰かー!」

 一夏のことを知っている彼女は、某自動車保険のCMのように叫ぶ。

 「・・・・・」

 だが、地面が180度回り誰かが出てくる何てこともなく、ただ虫の鳴き声だけが響いている。

 「返事なんか無いわよね・・・。手がかりは、政府高官(カカシ)のくれたメモ・・・。」

 クシャッ【2/15】

 ポケットからクチャクチャのメモ紙を出し、広げる。

 「・・・本校舎一階総合受付事務所。あぁ、ダメ!こんなのメモじゃないわ!ただのガム捨て用の紙よ!」

 クシャッ【1/15】

 そう吐き捨て、再びポケットに突っ込んだ。

 「・・・嫌んなっちゃう。」

 溜息を一つ吐き、トボトボと歩き始めるのだった。

 

 〈まずい、本気で迷子になった。・・・誰もいないし。〉

 そして、ものの5分と経たぬ内に道に迷う。

 「だから、感覚をだな・・・。」

 「!!」

 その時聞こえてきた、聞き覚えのある声。

 「やっただろ!」

 〈来た!一夏!!〉

 少女はガッツポーズを作り、意気揚々とそちらへと足を向け

 「いt――」

 声を掛けようとして動きを止めた。

 「あんなのは剣道じゃないわ!何本竹刀が折れた!」

 一夏の隣には、ポニーテールの大和撫子。

 「箒が、ロケットランチャーを撃つからだ!」

 剣道じゃないと言っておきながら、自分が一番剣道していない最たる例だ。もっとも、一夏も突っ込むところが違うが。

 〈あ・・・、あれロケットランチャーだったんだ。・・・ってか剣道場って、ロケットランチャーに耐えられったっけ?〉

 話の次元が違いすぎて、逆に冷静になる。

 「そもそも、何処でロケッt―――」

 〈あぁ、ダメ!こんなの私の知っている人間(一夏)じゃないわ!ただの変態よ!てか、あの女は何!?アイツもやり過ぎだわ!〉

 中学時代を思い出せば、一夏は当時から筋肉にものを言わせる嫌いがあったが、今のそれとでは比べものにならない。

 彼女は、その場から逃げるように走り出した。

 

 「あ、あったわ。以外と近くに・・・。」

 やけになって走った結果、事務室は速攻で見つかった。

 「すいません!転入生の凰鈴音です。」

 暇そうに紅茶を啜っていた事務員が、凰を見るや否や、飲んでいるのは烏龍茶だと、ペットボトルを見せてきた。

 「・・・早くしてよ!」

 ぶっちゃけ、何を飲もうが凰の知ったところではない。

 ビクッと体を震わせ、お茶を机の上に置き急いで窓口へと駆け寄ってくる。流石にむせるようなことはなかった。

 「はい、・・・確かにご本人様ですね。では、此方の書類に―――」

 デェェェェェェェェェェン!

 事務員の会話を遮るように聞こえてきた、あの効果音。

 「何!?」

 聞き覚えのある音に、凰は辺りを見回す。

 「まぁ落ち着け。そんなにビビられちゃ、焦って書類も出せやしねぇ。」

 間違われちゃ後始末が面倒くさいと、落ち着くように促す。

 〈・・・ここ本当にIS学園?・・・・・はぁ。〉

 ここでは日常のことで慣れているのか、事務員は淡々と種類を整理している。

 凰の気は重くなるばかりだった。

 

 「以上です。お疲れ様でした。頑張ってくださいね。」

 程なく、転入の手続きは終了した。

 「ありがとうございます。・・・それから一つ聞きたいんですけど、織斑一夏って何組ですか?」

 「一組ですよ。気になりますか?・・・ちなみに彼、一組の代表です。」

 答えながら、大して枚数のない書類一式をやけにでかいホッチキスで留める。

 「二組の代表って決まってますか?決まってたら教えてくれませんか?」

 「決まってますけど・・・、聞いてどうするんですか?」

 「譲ってってお願い(物理)するんです!」

 結論から言うと、彼女もまた肉体派の人間であった。

 

 

 

 「織斑君!クレイm・・・クラス代表就任、おめでとう。」

 凰が転入の手続き行っていた頃、食堂では一夏のクラス代表就任パーティーなるものが開催されていた。

 「あぁ、どうも。」

 恥ずかしそうと言うよりは、面倒くさいと言う感じの一夏。

 「皿と箸を貰えるかな?」

 「「「どうぞ!」」」

 お皿を配っていた人に言ったのだが、何処に隠れていたのか、彼女の背後から現れた数人が1人当たり指二本ぐらいでそれを持ち手渡してきた。

 「・・・どうも。」

 驚きながらも、それを受け取る。

 「・・・何で、皆で持つんだ?一人で持てばすっきりするのに。」

 「もーう、織斑君ったら古いんだ!今の流行は、皆で手渡すのよ。」

 最新と言えば、一夏は何でも納得する。それは、とある朝食の席で確認済みだ。

 「へっ・・・。俺が中学校の頃に、友達の料理屋の奴が妹と二人で運ぼうとして、(バランスが取りにくくて)破壊的だって怒られてたぞ。・・・その通りかもな。」

 今回も体験談を引っ張り出したが、やれやれと言った顔で納得した。

 「・・・・・(前菜の)中身は何だこれ?」

 得体の知れない・・・と言うよりも、明らかに食べられなさそうなそれを、箸をひっくり返し掴み出す。

 「知らない方が良いわ。」

 明後日の方を見ながら、作ってきたクラスメイトはボソリと言った。

 「「「・・・・・。」」」

 皆が一斉に動きを止めたその様は、世界の時が止まったようだった。

 「そ、それではご唱和下さい!織斑君「「「おめでとーう!」」」」

 それでも誰か1人(山田先生除く)が声を出せば、皆が一斉に反応するのは良いことだ。

 ポンッポポポンポンルッポンポン

 どうやってこの音をクラッカーから出しているのか。

 「・・・・・面白いクラッカーだ。気に入った。使うのは最後にしてやろう。」

 デェェェェェェェン!

 そう言って一夏はポケットに仕舞う寸前に、紐を引いた。

 因みにだが、先程凰鈴音が驚いたのは、この音である。

 「最後に使うと言ったな?・・・あれは嘘だ。」

 「「「イェーーーーイ!!」」」

 この展開に慣れた1組の生徒は、乾杯をする。

 「いやー、これでクラス対抗も(筋肉が)盛りがるね!」

 「ホントホント!」

 そう言って相槌を打ったのは・・・

 「何で2組がいるんだ?1組の騒ぎのはずじゃぁ・・・。」

 「当然です。同級生(パリピ)ですから。」

 「」

 自称パリピ、寮室番号不定(見つけられず)、無職(帰宅部)の生徒だった。

 

 「・・・お前は誰だ。」

 しばらく経った頃、またしても見知らぬ生徒が入ってきたことを見つけた一夏。

 「まぁ落ち着け。ペンを突き付けられてはビビって取材もできやしねぇ。・・・新聞部だ、織斑君。少なくとも今のところはな。」

 今のところ・・・は?

 「安心しろ、何もしない。」

 ペンを胸ポケット(胸筋の間)に仕舞う。

 「本当に?」

 疑心暗鬼の黛。

 「・・・信じろよ。」

 一夏はそう言うしか他がない。

 「・・・分かったわ。私の名前は黛薫子。副部長です。では、本題。無事取材を終わらせて欲しければ、私達に協力しろ。OK?」

 「OK!」

 一夏は、それを快諾する。普段は言う相手がアレなだけで、基本的には快諾している。

 「ではまず、ずばり織斑君!クラス代表になった感想を!」

 「アリーナをドンパチ賑やかにしてやる。」

 「うん、良いねぇ!」

 何故、剣が主武装の彼がドンパチするのか、気にならないのだろうか。

 「後で適当に付け加え「たら、バラバラ死体にして飛ばすぞ?」・・・たりしないから、安心して。・・・うん。」

 危うく口を滑らしそうになり、慌てて否定した。

 「それから、セシリアちゃんも、何かコメント頂戴!」

 「私ですか?そうですわね。一夏さんについては沢山話したいことがあるのですが、何故私が辞退し―――」

 必死にメモを取る黛の肩を、一夏はつつく。

 「黛さん。頼みがあるんだが、セシリアに話を振らないでくれ。死ぬほど(話が)長いんだ。」

 「分かったわ。捏造しとく。」

 そうしている間も、ベラベラと、長ったらしく、口から生まれたように、取り留めもなくetc・・・喋りつつけるセシリア。

 「(捏造させて)すまないと思ってる。」

 せめてもの謝罪を、一夏は入れておく。

 「さてと、もうこんな時間ね。最後に写真撮らせて貰っても良い?」

 明日の朝刊に間に合わなくなるからねと付け加える。

 「「「「勿論です!」」」

 瞬間的に身だしなみを整えるパーティー参加者。

 「お、みんなノリが良いねぇ!〈ホントはツーショトが欲しかったけど・・・。〉はい、寄って寄って!!」

 「「「イェーーーーイ!」」」

 「じゃあ、撮りまーす。笑顔だ、笑顔を出せ!35×51÷24は?」

 何故、ややこしくするのか。しかし。

 「2!!」

 答えなんか何でも良いだろうと、定番の2と言い放つ。

 「違う、74.3だ!」

 それを訂正したのは、箒だった。

 パシャ【17/5231】←残り記録枚数

 「どうやって計算したの!?」

 目を白黒させ驚く黛。

 「(黛の)メモ帳(に書いてあるの)を見たのよ。」

 その答えは、途轍もなく基本的なことであった。

 

 その後もパーティー人数は徐々に増え、絶えず大盛りの皿はドンパチ賑やかだった。

 

 

 

 パーティー終了後、自室に戻った一夏と箒。

 「疲れたかクソッタレ(一夏)。当然だぜ。女子の体力(騒ぐ力)に勝てるもんか!」

 まだ私は動けるぞと、竹刀を振り回してみせる。

 「試してみるか?俺だって元男子中学生だ。」

 そう言い、一夏も竹刀を手にとる。

 が。

 バシィインッ!【9980/9999】

 ライフこそほぼ満タンだが、精神ポイントの枯渇している一夏の動きは鈍かった。

 「ッ・・・。」

 「一夏ァ、体力はどんなだ?」

 うずくまった一夏が心配になり、箒は声を掛ける

 「もう一発殴って、確かめろ。」

 「いや結構。遠慮させて貰う。」

 竹刀を仕舞う箒。

 「怖いのか?」

 「当然だ。剣道で暴れられる相手がいなくなったら困る。」

 こう見えても、意外と仲間思いなのである。

 「・・・着替えて寝るか。」

 「あぁ、そうしよう。」

 そう言ってタンスから着替えを取り出す一夏。

 「・・・一夏、糸が出てるぞ。」

 その後ろポケットから、糸が飛び出していることに気付く。

 「ん?・・・まt」

 一夏が制止しようとした寸前、箒はそれを吊るために引っ張った。

 デェェェェェェェン!

 「・・・クラッカー!?使い切ったはずでは!?」

 仕舞う振りをして使っていたのに何故と、驚きを隠せない。

 「残念だったな。トリックだよ。(・・・ん?)」

 しかし、そんな余裕を噛ましていられるのも今の内である。

 「織斑ァ!篠ノ之ォ!今の音は何だァ!?」

 目敏く聞きつけた織斑先生が、やって来た。

 「「こっちへ来て確かめろ!」」

 こうなっては、逃げる手段がない。

 「遠慮させて貰う!!リア充・オブ・クラッシャー!!」

 別に好きこのんで一緒の部屋にいる訳ではないのに、リア充扱いされても困るだけである。

 その時、ドアの向こうから、何かを突き刺した音が聞こえた。

 そう、(クレイモア)だ。

 「手前等は、もう終わりだ!!」

 カチッ!

 ドォォォォォォンッ!【0/2000】

 鳴り響く非常ベル、作動するスプリンクラー。

 集まった野次馬達は、その惨状を見てこれは絶望的だと手を合わせ、念仏を唱えた。




前話で【熱盛ィィィ!!】を使ったら、作Bから『組合員にそれは受けないだろ。』と言われ、結構ショックを受けている作Aです。

*編集しました


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10話 潜入ミッション(段ボールじゃないよ!)

「読者に(評価を)いくらもらった」
「10点PON☆とくれたぜ。・・・だけどな読者、お前の腹筋をぶち殺せと言われたら、タダでも喜んでやるぜ」
「!!必ず(読みに)戻ってくるぞ!」
「楽しみに待ってるぜ。」


 「おはよー、織斑君!」

 次の朝、織斑と篠ノ之は何事もなく登校してきた。

 「あ、織斑君達来た。」

 「ほら、だから言ったじゃん。」

 流石のクレイモアも彼(女)等のタフネス筋肉の前には、常人に対する爆竹以下でしかなかったのだ。

 「転校生が来るらしいんだけど知ってる?」

 特に彼らの身を心配することもなく、いつも通りに話し掛ける。

 「転校生?誰が来るんです?」

 こんな時期にと、一夏はいぶかしげな表情になる。

 「IS学園は世界中から生徒を集めているからな。転校生は大韓民国か朝○民主主義共和国か、それとも日本海を越えてやってくるか・・・。」

 暗に中華人民共和国と言っている。一体その情報は、何処から仕入れてきたのか・・・。

 「入試が終わって直ぐのはずだが。」

 あまりに時季外れなそれに、一夏は余計に混乱する。

 「代表候補生は別らしいんだ。」

 「全くお笑いだよね。私らは入学するのにえらく苦労したのに。」

 実は、目の前にその例外がいまして・・・。

 「・・・(事実上の)入試免除で入ってすまないと思ってる。」

 「「「あっ・・・。」」」

 『やっちゃたZE!』と言う表情には到底なっていない。流石に、その程度の分別は付く。

 「・・・と、ところで一夏さん、来月のクラス対抗戦は大丈夫でして?」

 中々会話に入られないでいたセシリアは、ここぞとばかりに口を開く。

 「まぁな。」

 「そうですか・・・。どのような戦法で行くのですか?」

 「君は知らない方が良い・・・。俺だって、出来ることなら思い出したくない。」

 私の時のような戦い方は許しませんわと言いたげな表情に、何やらやばそうな戦法を錬っていると思わせる作戦に出る。

 「何をする気!?織斑君!?」

 しかし、思いの外、外野が食いついてきた。

 「安心しろ、未来の話だ。俺にとって今が全てだ。」

 そして、それまでにまともな作戦を思いつくだろうと付け加えた。

 「まぁ、織斑君がそう言うなら。がんばってね!」

 「フリーパスのためにも!」

 「強靱な肉体とISを持った人間\デェェェェェェェン!/の織斑君なら、優勝間違いなし!」

 所々、私利私欲が混ざっていたが、特に気にすることでもないので放っておいた。

 「自称情報通のトーシローばかりよく集めた物だわ。全くお笑いね。」

 そこに、突如として現れたのは・・・

 「鈴・・・?お前、中国に帰ったんじゃ・・・。」

 突然現れた旧友に、一夏は言葉を失う。

 「残念だったなぁ。事実よ。親に日本から連れ出されてからずーっと来日を想い続けてきた。よぉやくその日がやって来た・・・長かったぜ!」

 「一夏、コイツは?」

 また賑やかなのが来たなと、箒は指を指す。

 「凰鈴音。箒の転校と入れ違いで転入してきた。」

 「2組も代表候補生の私がクラス代表になったから、その挨拶よ。」

 一夏の説明が終わるのを待ち、凰は満足げに答えた。

 「見上げた宣戦布告だ、鈴。だがな、手前ぇの命を張るほどの値打ちのあることか?」

 「何が言いたい訳?」

 この時、直ぐにでも一夏の視線の先を見るべきであった。

 「ドアを塞ぐとは、面白い奴だ。気に障った。叩くのは一度にしてやろう。」

 ドゴッ!【1000/1600】

 毎度お馴染み、あの人の登場である。

 「ち、千冬さん!?」

 突如現れた天敵に、凰は体を震え上がらせるのが精一杯。

 「織斑先生だ。・・・叩くのは一度と言ったな。」

 「そ、そうだ・・・。」

 「あれは、嘘だ。」

 ドベキシッ「オフゥィ・・・・・」【1/1600】

 織斑先生と呼ばなかったことに対してのモーニングショットお代わりである。

 「織斑、コイツを2組に持って行け。」

 教科書を机の上に投げるように凰を一夏の前に投げる。

 「気絶させたのは手前ぇだ!」

 優しく捕体し、ゆっくりと床に寝かす。

 「(筋肉モリモリの)お前が適任だ!」

 「・・・ふざけやがってぇ!」

 バババキィ!【18000/20000】

 目の覚めるような一夏の3Hit!

 「ウォォ・・・。フンッ!」

 ビシッ!【9951/9999】

 織斑千冬も、渾身の出席簿フルスイングで答える。

 「2人ともやり過ぎだ!」

 バシィンッ!バシィンッ!【17893/20000】

             【8897/9999】

 仲裁に入ったのは、箒。

 「次暴れたら、廊下に立たせるぞ。」

 「「」」

 この一言で2人を黙らせた。

 〈〈〈篠ノ之さん、スゲー・・・。〉〉〉

 クラスメイトからは、尊敬と畏怖の眼差しを向けられることになった。

 

 ・・・え?鈴?廊下に出しておいたら、2組の担任が回収していきました。

 (出前の食器返却か?)

 

 

 

 昼休み。食堂の入り口で一夏達を待っていたのは

 「待ったわよ、一夏。」

 凰だった。

 ドベキシッ「オフゥィ・・・・・」【1/1600】

 「食券購入の邪魔だ。脇へどきな。」

 容赦なく凰を絞める箒。それでも凰は、ラーメンをしっかり保持していた。

 「分かってるわよ。・・・それにしても、久しぶりね。直接合うのは、1年ぶりでさぁ。」

 織斑千冬にしばかれ一夏と賑やかに暴れ回っていた凰は、直ぐさま立ち直る。

 「元気にしていたか。」

 一夏は券売機に向きながら尋ねる。答えが返ってくるよりも早く、券売機が(プラスチック製の食券を吐き出す。

 「元気にしていたわよ。あんたこs・・・、その筋肉だと元気だったみたいね。」

 「当然ですわ!一夏さんが体を壊すことなど、あり得ませんから!」

 何故か割り込んでくる口先だけは達者な金髪ドリル。

 「・・・アンタ誰?」

 目に見えて不機嫌になる凰。

 「な、このわたくs「トーシローに負けた金髪クルクルの変態だ。」一夏サァァァァン!?」

 自分の経歴を自慢しようとするも、一夏により自分の経歴(黒)を暴露される。

 「セシリア、そのライフルは仕舞ってろ。ビットも戻しとけ。」

 怒りにまかせ展開したものの、相手にとって不足はないどころかオーバーキルされる未来しか見えないため、大人しく従う。

 「っく・・・。篠ノ之さんが、そう仰るなら・・・。」

 「ところで、鈴。そのラーメンは伸びてないのか?」

 セシリアが大人しくなったところで、一夏は再び凰と話し始める。

 「タフネス調理の麺とスープを使ってあるらしいわよ。何を使ってるのかしら。」

 「知らない方が良いわ。」

 「「「・・・。」」」

 献立表や成分表示を制作する気はないのだろうか、この学園の厨房は。まあ、知らない方がと言っている時点で、既にお察しなのだが。

 「はい、Cランチ3つおまちどう。」

 「あぁ、どうも。」

 3人は頼んだものを受け取ると、席へと向かう。

 「さあ、頂きましょう。」

 「・・・あぁ。」

 一同は、いただきますと言ってから箸を取る。

 「ところで一夏、クラス代表なんだって?」

 まるで他の2人に興味はないと言わんばかりに一夏へと話し掛ける凰。

 「・・・何処で聞いた。」

 「事務室。」

 「成る程。」

 周知されていることではあるが、まだ来て直ぐの凰が2組の生徒から聞いたとも考えづらかったため一応聞いて見ただけである。

 「・・・あ、あのさ、ISの操縦見てあげようか?」

 急にモジモジし出したため、何を言い出すのかと思っていればこれである。

 「「いや、結構だ(ですわ)。」」

 例にならって、外野の反応が一番早い。

 「私は一夏に聞いてんの。部外者は黙ってて。で、どうなの一夏?」

 将を射んとせばまず馬を射よ。この発言を、凰は悔やむこととなる。

 「・・・鈴、クレイモアの使い方は知ってるか?」

 「く、クレイ何?」

 代表候補生とて、一般人。されど、軍での訓練も受けている。兵器についてある程度の知識は持ち合わせているが、一夏には遠く及ばない。

 「(説明書を)見てこいカルロ()。」

 「」

 返す言葉もなく、凰はただ呆然と一夏を見る。

 凰の意識を現実に引き戻したのは『ごちそうさまでした』の一言。

 「早!?」

 驚くのも無理はない。いつもより速く咀嚼していたのだから。

 「「当然だぜ、ムネッペタ。元(現)剣道部に咬合力で勝てるもんか。(・・・ん?)」」

 「試してみる?私だってもと中華料りょ――何言わしとんじゃぁー!誰がまな板だァ!?」

 乗りの良さに定評のある凰。しかし。

 ゴンッ!【1421/1600】

 「食事は、静かに、迅速に摂れ。OK?」

 それが仇となり、良くおもちゃにされる。

 「ち、千冬さn」

 バゴンッ!【1323/1600】

 ランチ特打。おまけ付き。そら(返事がなけりゃ)そう(なる)よ。

 「織斑先生だ!」

 「「先に行くぞ!」」

 かつては何時ものことだったので、一夏はさっさと食器の返却に向かう。

 「ちょ、篠ノ之さん!?抜け駆けは駄目ですわ!」

 「ちょ、一夏!待ちなさいよ!にゃー!!」

 次の授業、海外組代表候補生の姿を見た物はいないという。

 

 

 

 さっさと食堂を後にした一夏と箒。

 「何処へ行く気だ?」

 しかし一夏は、教室とは真逆の方に向かっていた。

 「生徒の胃袋を捕えている場所だ。」

 そう言うと一夏は立ち止まり、辺りを見回し換気口を空けた。

 「・・・箒、ここを見張っていてくれ。」

 何となく意図を察した箒は、頷く。

 「分かった。気をつけて。」

 一夏は、ダス○ン(ほふく前進)しながら屋根裏を進んでいく。もう、何度この学園の屋根裏に忍び込んだことか。

 そのお陰で、屋根裏はあまり埃が溜まっていない。

 〈これは・・・・・。〉

 とても厨房とは思えない光景に、衝撃を受ける。

 一夏は直ぐさま、箒のいるところまで戻った。

 

 「早かったな。どうだった?」

 「料理道具から調味料までそろっているが、材料がどこにもない。」

 換気口を閉め、服に付いた埃を払いながら質問に答える。

 「それで料理の秘密は?」

 「エプロンも調理師もいない。よそで作っているんだ。」

 捜し物がない以上、推測すら不可能。

 「手がかりは?」

 「この近くだと、・・・第3アリーナだ。よーし、この写真と照らし合わせて・・・と、第3アリーナの北にある家庭科室に印がつけてある。調理場はきっとこの部屋だ。」

 スマートホンで撮った、厨房のホワイトボードの写真を箒に見せる。

 「見ろ。あの車。校内作業車だ。」

 学校裏に止められているそれを指さす。

 何故、学校裏が見えるのか。それは、彼らが校舎の壁に張り付いているからだ。

 「家庭科室からの運搬に使ってるんだ。・・・シッ。」

 「はい。さっきの明日の伝票を――」

 「搬入は明日の早朝。今夜中に調理させろ。」

 2人は息を殺し、室内の会話を漏れなく聞き取る。

 「・・・やっぱり。さっき拾ったこのマニュアルは作業車用よ。25.0リットルといえば、この作業車で家庭科室までの一週間分の往復にぴったりの量だわ。」

 さっき風で飛んできたと見せられる。

 「しかしここにはないぞ。中は全部見たんだ」

 「燃料の補給は教員駐車場で受けてる。前に見た。」

 なぜ、調理室で給油する必要があるのかとお思いのことだろう。

 だが残念。この学園の伝統、無駄にハイテクのDNAを受け継いでおり、天ぷら油等の廃油が燃料であるのだ。

 「家庭科室まで、時間にしてどのくらいだ?」

 「約2分だな。今からいくのか?」

 「いや、まだだ。」

 一夏は時計を見ている。

 「じゃあ、壊物か?」

 思いつくのはそれしかないと思っていたが。

 「いや、授業だ。」

 「!!むう、こんな時間だったか・・・・・。」

 一夏に時計を見せられ、箒は納得した。

 「行こう。千冬姉が帰ってくる。」

 遺体で済む・・・失礼、これでは死んでるな。

 痛いで済むが、出来ればあの出席簿は喰らいたくない。彼らは密かに去っていった。




私を覚えてるかね読者。
誰が忘れるものか、只の・A・カカシです。すっとぼけた顔みたいな名前を使いやがって。


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11話 戦う食堂、攻略します

玄田 哲章のWikiを見ていたら、『異世界はスマートフォンとともに。』に出ていたのを見つけて、凄く『異世界は()()()()()()()()とともに。』を書きたくなった今日この頃。


 放課後。第3アリーナに集まった一夏と箒、セシリアの3人。

 「し、篠ノ之さん!?どうしてここに!?ISは貸し出しがなかった筈ですのに・・・。」

 今日の訓練機貸し出しは、全て埋まっていたはずと驚くセシリア。

 「残念だったな。トリックだよ。」

 「ま、まさか専用機ですの!?」

 貸し出しがなかったに対してのトリックであるというのに、明後日の解答を探すセシリア。

 「・・・箒、どこでISを調達してきた。」

 このままでは、またセシリアが暴走を始めると思い、一夏は助け船を出す。

 「壊物だ。」

 「か、買い物ですか?・・・いいえ、そんな筈はありませんわ!!ISは国際条約によってその取引が制限されているはずですもの!」

 実はクラスで筋肉式を一番理解できていないのは、セシリアなのかも知れない。

 「次余計なこと言うとブルー・ティアーズに縫い合わすぞ。」

 「」

 説明が面倒くさくなった箒は、威圧して黙らせることにした。

 

 

 

 今から10分前。整備室に箒の姿はあった。

 「打鉄は日本で生まれました。篠ノ之束の発明品じゃありません。倉持技研のオリジナルです。少々、時代遅れのISになってきましたが、今や巻き返し(オーバーホール)の時です。」

 整備科の生徒が、嬉しそうに話をする。

 「打鉄は好きだ。」

 「打鉄がお好き?けっこう。ではますます好きになりますよ!さぁさぁ、どうぞ!」

 そう言って、箒をコックピットに座らせる。

 「精密調整済みの打鉄です。・・・快適でしょう?んああぁ、仰らないで。(コクピットの)シートがビニール。でも純正部品なんてカタログスペックだけで、生地は厚いし、よく狂うわ、衝撃は伝わるわ、ロクなことはない。胸囲の長さもたっぷりありますよ。どんな巨*(自主規制)の方でも大丈夫。」

 良く喋る整備科の話を聞き流し、箒はISを始動させる。

 「どうぞ噴かしてみてください。・・・いい音でしょう?余裕の音だ、信頼度が違いますよ!」

 顔の前で人差し指を立て、自慢げに言った。

 「一番気に入ってるのは・・・。」

 「何です?」

 箒の問いにも、自然と笑顔が出る。

 「値段だ!」

 言い終わると同時に、箒はスラスターを全開にする。

 「わーっ、何を!わぁ、待って!ここで動かしちゃ駄目だよ!待って!止まれ!うわーっ!!」

 必死で追いかけてくる整備科を尻目に、アリーナへと飛び出した。

 

 そして、今に至る。

 「く、まさか一年生に訓練機の使用許可が下りるだなんて・・・。」

 まだ悔しそうに、ぶつぶつ文句を言い続けるセシリア。

 「さぁ、一夏ぁ!始めるぞ。雪片を出せ。」

 「かかってこい!」

 「ムゥン!」

 ガッ!【5007/5500】

    【48999/50000】

 打鉄のブレードと雪片がぶつかり合う。初手は互角。

 「ヌォオオ!・・・フンッ!」

 「ッ!まだだぁ!!」

 しかし、ブレード(刀)の扱いに関しては、箒の方が一段上である。横薙ぎが、一夏の胴を捉える。

 「!!ウッ!」

 「気分いいぜぇ!昔を思い出さぁっ。フッフッフッ。チェストォォ!」

 「ウォォォッ」

 突きをいなし、体勢を整える。

 〈い、行けませんわ!行ったら逝きます!こんな化け物に・・・。い、いえ、怖いのですかオルコット!そうですわ!私に恐れるものなどありませんわ!〉

 心技体のどれも2人に劣っているセシリアは、あっという間に蚊帳の外。

 「踊りなさい!私とブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 命まで取られることはないと分かっていても、捨て身の覚悟で臨まなければ気押されそうになる。

 ビビビビシュンッ【99948/99999】

         【18946/20000】

 白式に4Hit、打鉄には7Hit。しかし。

 「「!!我々の勝負の邪魔をするとは、面白い奴だ。気に入った。転がすのは最後にしてやろう。」」

 到底、彼らの戦力を削ぐことは出来なかった。

 〈や、やってしまいましたわ・・・。こうなったら、やられる前にやってやりますの!!〉「・・・ぶっ殺してや――」

 ゴゴォン!【2000/27000】

 インターセプターを出す間もなく、雪片とブレードを投げ刺されてしまった。

 「ウウウウウォォォゥアァァ・・・。」

 衝撃に耐えられず、グラウンドを転げ回る。

 「「グラウンドに転がってろ、セシリア。」」

 あっという間にISは解除された。

 【1000/1500】

 『おい、そこの生徒!(ISを解除して)何をやっているんだ!』

 担当の先生がそれを直ぐに見つけ、スピーカーで怒鳴りつける。

 「すまない、大声を出さないで貰えるか?休んでるだけだ。」

 うちわを出し、セシリアを扇ぐ一夏。

 『あぁ、そうか。悪かった。』

 それを見て納得したのか、それ以上のことは聞かれなかった。

 「おい、行くぞ。」

 こちらへの注意がなくなったタイミングを見計らい、一夏と箒はアリーナを出た。

 彼らが向かった先は、第3アリーナ横の家庭科室。

 その入り口に、到着する。

 「向こう側へまわって俺の合図を待て。」

  「わかった。」

 正面から突っ込む一夏、建物の横を行く箒。それぞれに消えていった。

 

 準備室へと滑り込んだ一夏。誰もいないことを確認し、窓を叩く。

 「一夏、ここだ。」

 窓越しに、箒が顔を覗かせる。

 「入れ。」

 一夏は、箒の手を引き彼女を中へと引き入れる。

 「・・・間違いない、ここで調理をしていた。」

 「何故だ?調理室の方が設備が良いはず。」

 「それは、分からん。だが、これを見ろ。」

 そう言って、一夏は食品の入ったパックを見せる。

 「これは・・・、消費期限が今日じゃないか。」

 「そうだ。そしてこれが今撮ってきた写真だ。」

 スマホの画面を見せられた箒は、驚愕する。

 「!?何だ、この在庫の山は!・・・おい一夏、これ。」

 不意に、何かを拾い上げる。それは、差出人が料理部の注文書。

 「この数・・・。奴等、注文数を間違えたんだ。それに、廃棄の依頼書・・・。早くしないと、材料が捨てられてしまう。」

 「だが昼休みに聞いた限りでは、今夜調理で、搬入は明日の早朝のはず。」

 まだ猶予はあるはずだが。

 「これ(自動車用燃料の領収書)の日付を見ろ。一週間前の日付だ。」

 「!!つまり、明日の朝食分から業者に手配する言うことか?」

 「間違いないだろう。今、見てきたんだが、(家庭科室には)誰もいなかった。今夜分は、既に運んであるんだ。」

 「何て勿体ないことを・・・。」

 今にも料理部に文句を言いに行ってやろうとする箒を制し、一夏は時計を見る。

 「・・・今、3時半だ。急げ、材料が腐っても知らんぞ。」

 「無理だ!この量は食べきれん。」

 いくら大食らいだからと言っても、2人では物理的に無理な量。

 しかし一夏は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ言う。

 「まだ諦めるには早い。今日は、購買が閉まっていたな。」

 「・・・そうだ。それが何k・・・、まさか、食堂が混むとでも?」

 『そんな馬鹿な』と、言いたげな表情の箒。

 「あぁ、そうだ。昼に見た限り、あれでは足りん。」

 「だとしても、どうやって運ぶ?車でも奪うのか?」

 「何のためのISだ。」

 「!!」

 条約?守ってちゃロクなことたぁない。

 「始めるぞ!」

 エプロンを着込み、準備万端。

 しかし。

 「待って!あぁ、駄目!」

 「どうした?」

 「こんなの包丁じゃないわ!柄の付いた鉄板よ!」

 家庭科室お約束の切れない包丁。

 「だったら、研げばいいだろ!」

 砥石を取り出し、差し出す。

 「研ぎ方が全く違うんだもん!日本刀しか研いだことがないんだ!」

 なぜ、日本刀が研げて、包丁が研げないのか。

 「貸せ!切れろ!切れろッてんだ!」

 痺れを切らした一夏は、ひったくるように包丁を受け取ると上腕二頭筋で包丁を研ぐ。筋肉研磨である!

 シャッ!!【500/500】

 「!!」

 見違えるような切れ味!

 「この手に限る。」

 「・・・OK。始めよう。」

 ダダダ!ダッ!ダダダダダダダッ!

 リズミカルな包丁の音だけが、家庭科室に響いた。

 

 

 

 5時半過ぎ。家庭科室前に一夏と箒とは別の2人の姿があった。

 「購買が休みとは・・・。」

 「全くだ。今から調理して、間に合いますかしら・・・。」

 1人は食堂のオバs・・・お姉さん。もう1人は、発注ミスをやらかした、料理部。

 「無理だと思う。やれるトコまでは、やってみるけど・・・。」

 「厄日だわ・・・。ん?いい匂いがする。」

 「ホントだ。(家庭科室に)誰かいるのかしら?」

 そーっと中を覗いてみると・・・。

 「・・・織斑君!?でも、第3アリーナで練習中のはず・・・。」

 「訓練していると言ったな。アレは、(半分)嘘だ。」

 今まで正面に捉えていたはずなのに、突如として背後に表れた一夏。

 「!?どこから!」

 「静かに素早くだ。それより、(出来上がった料理を)持って行け。俺達も(ISで)運ぶ。」

 良く見れば、岡持を左右に五段ずつ重ねて持っている。

 「まだ、材料は残っているのか?」

 処分にだってお金が掛かると、それだけが心配の料理部。

 「料理だけです。」

 「!!調理師を再編したい!君さえ入ってくれれば――」

 「今日が(最初で)最後です。」

 無駄な食材がなくなると言いたかったのだが、その前に振られてしまった。

 料理?勿論、大好評でした。

 

 

 

 キィーンッ!バンッ!【1544/2000】

 21時、1025号室のドアに打球を打ち込んでいる奴が居た。

 カキィーンッ!ガチャッ!バシィィィーンッ!

 「ウボキシ・・・。」【633/1600】

 打ち込んだ瞬間、ドアが開いたため勝ったと思ったのも束の間。避ける間もない速度で箒に向かっていたはずの打球は、反射的に竹刀で打ち返され、凰はそれをなけなしの胸でトラップした。

 「うるさいぞ、この豆粒が!」

 「痛ててて・・・。」

 胸を押さえ、座り込む凰。

 「やっと出てきたわね。いい?今から私が言うこと、一字一句漏らさずに聞きなさい!アンタ―――私の方が、よっぽど―――理解した?」

 そのままの体勢で、チェーンガンも真っ青な口速で一足飛びに話し終える。

 「と言う訳で、篠ノ之さん!部屋変わんなさい!男子と同室なんて嫌でしょ?」

 痛みが引いたのか、仁王立ちになる。

 「(一夏と同室だと)どこで聞いた。」

 3日に一回、寝る前にドアが壊れる、若しくは無くなっているので、一夏の部屋がここであると学園の生徒全員が既知の事柄ではあるものの、クラスに友達のいない凰が聞いたとも考えづらい。

 「説明書(フロアマップ)を読んだのよ。」

 「落書きされていたとは・・・。」

 悔しそうに拳を握り締める。

 「一夏とはぁ、小学校で一緒だったらしいなぁ。私も一夏と同じ中学校にいたことがあらぁ。学友ってのはぁ、いいもんだよなぁ。それに一夏。昔の約束があるでしょ?」

 そう言って、部屋の中に話し掛ける。

 「・・・酢豚か?」

 「!!そ、そうよ。」

 忘れていなかった。これは完全勝利ねと思ったのも束の間。

 「毎日、酢豚を食べてやるといったな。」

 「!!・・・そうよ//」

 次の言葉に、期待に胸が膨らむ。

 「アレは、嘘だ。」

 「ウワァァァァァ!?と、とにかく、私も住ませなさい!OK?」

 『この流れで振る!?』と、言いたげな顔で、要はヤケクソに言い放つ。

 「OK!!」

 バシィンッ!【17000/18000】

 校則を守れと、竹刀を振るう。

 「危ないじゃない!」

 間一髪のところで、ISを展開した凰。

 「流石だ、代表候補生。やっぱり(ISを)展開してきたか。」

 私の太刀筋を見切ったのは、3人目だと、付け加える。

 「鈴、箒は関係ない。突っかからないでやれ。」

 しかし、これは箒を心配してのことではない。

 「古い付き合いだ、見苦しいところは見せたかねぇ。・・・一夏、私をこ――」

 「見上げた反射神経だ、凰。だがな、(条約と学則を破ってまで)てめぇのISを出すほど値打ちのある話か?さぁ頭を冷やして、よく考えてみろ!」

 織斑千冬が巡回に来る時間。それを知らない凰は、見事に見つかってしまう。

 ダバァ!【1480/1800】

 酒(ウォッカ)を頭からブッかけられる。

 「千冬さ・・・あぁ!(アルコールが蒸発して)寒いぃぃぃ!!」

 着替えぇぇぇ!!と叫びながら、凰は階段へと消えていった。

 一仕事終えた織斑千冬。彼女もまた、早急に立ち去るべきだった。

 「どこで買ってきた。」

 何時になく冷徹な声。後ろから、雪片を突き付けられる。

 「一ヶ月に一斗瓶3本までと言っただろうが!何処で買った!」

 「!!しまっ!誰が喋るかよ!」

 迂闊だったと悔やむも・・・。

 「見上げた忠誠心だ千冬姉。気に入った。財布を縫い合わすのは給料日にしてやろう。」

 約束違反だと、月末の給料日、つまり月に一度の酒購入日を封印すると宣告される。

 その後、千冬と鈴の悲鳴が寮に響いたとか、響かなかったとか・・・。




B アリーナのくだりは何だ?
A セシリアがしばかれただけだろう?
B 確かセシリアの料理は、ケツからでも食えん味だったよな?・・・つまり、そう言うことか?
A !!わぁ待って!ここで言っちゃ駄目ですよ!待って!止まれ!ウワァァァァァァァァァァ!と、言うと思ったか?残念だったなあ、やっぱりやられるんだ・・・。

*どうやっても、セシリアを家庭科室で暴れさせられない・・・。


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12話 元○○な人達

腹筋はどんなだ?読者。
作品を投稿して確かめろ!!
そうさせて貰うぜ。


 放課後。いつもの3人は、いつもの第3アリーナで暴れていた。

 とは言っても、もう終わりの時間。更衣室に戻り、着替えを始める。

 「一夏、いよいよ来週からクラス対抗戦だな。」

 「(来週の)何時からだったかな?」

 「丁度一週間後からですわ!」

 コイツらには、恥じらいというものがないのだろうか?えぇ、無いですね。

 「それにしても、一夏さん。随分とISの操縦が板に付いてきましわ。」

 「先生が良いからな。」

 「いい?だと?最高だろ?」

 「ちょっと、篠ノ之さん!?私の台詞を取らないで下さいませ!!」

 ISの操縦技術は、あなたも一夏さんも大佐・・・大差ありませんと付け加える。

 「クラス対抗戦でISを使わないなど、ふざけたことをするのではと心配でしたもの。」

 「!!」

 一夏の背中が、ビクッと震える。

 「・・・?一夏さん、どうかされましたか?」

 「着替えが終わっていないのはお前だけだ・・・急げ、(食堂の時間に)遅れても知らんぞ。」

 それを聞き、いや、聞く前からだがセシリアにしては急いで着替える。しかし、身だしなみを無駄に気にするため、余計時間が掛かる。

 「お待たせいたしましたわ!・・・それにしても、篠ノ之さんは着替えが早すぎないでしょうか?」

 「手前がデンデンムシなだけだ。」

 悔しそうにハンカチを噛む。騒がない分だけ、彼女も成長している。

 そしてそれは、ドアが開いた時だった。

 「一夏、反省した?」

 凰がドアの前でステェンバァイwwwしていた。

 「どうした箒。何か見えるのか?」

 「いや、気のせいだ。」

 「こ こ に い る で しょ!!」

 ドベキシッ!【1/1500】

 「相手を貶す時は、空気を読んでから吐け。」

 凰さんは色々小さいですからと、場をややこしくする台詞を吐こうとしたセシリアを箒がこっそりと始末する。

 「冗談だ。どうしてここから出てくると分かった。」

 「勘よ。」

 全く侮れない奴だと、呆れ気味な一夏。

 それを聞き、得意気な表情になる凰。

 それが崩れたのは、いきなり俺達を呼び止めて何のようだと言った瞬間だった。

 「はぁ!?いきなりとは何よ!いきなりとは!アンタのせいで、どれだけ泣かされたと思ってんの?」

 「(その事については)すまないと思っている。」

 事実、そう思っているのは確かだ。

 「謝ったら許してやると思ってんの!?頭来た!もう良いわ!アンタに、酢豚を毎日作ってやると言ったわね!」

 「そうだ。」

 それも覚えている。

 しかしその台詞を、当時の一夏は筋トレの後にタンパク質補給に酢豚を家の店へ食べに来なさいと言う意味だと勘違いしていた。もっとも、ささみ肉や牛の赤身の方がより効率が良いと言ったのは後のこと。

 「地獄へ堕ちろ、一夏!」

 「待て、鈴!ウォォォォォォ・・・。」

 涙目で走り去っていく鈴を、追いかけることは出来なかった。

 

 

 

 夕食後、1025号室に戻った2人。

 「・・・・・。」

 普段の一夏からは想像も出来ないほど困り果てた姿。

 食事こそいつも通りに摂っていたものの、話し掛けても『あぁ』や『そうか』しか返事がない。

 「・・・一夏、もう事情を話してくれても良いんじゃないか?凰と何があった。」

 暫くして、ようやく一夏が口を開く。

 「これを見てくれ。」

 「これは、凰の家族の写真か?」

 アルバムから大事そうに取り出した写真を受け取る。

 「そうだ。」

 「優しそうな両親だな。」

 「あぁ、優しかった。」

 『かった』の3文字に、箒は違和感を覚えた。

 「中学の時に離婚したんだ。」

 「・・・そうだったのか。」

 あの明るい性格からは想像できない、重い過去を抱えて――いや、だからこそ明るく振る舞っているのかと箒は思案する。

 「アイツが転校してきた時、俺は剣道を続けていた。」

  喰らい顔のまま、一夏は昔話を始めた。

 「だが最初は日本語が全く話せなくて、クラスで虐められていた。・・・それが可愛そうで、アイツを守る為に剣道を辞めた。だがその頃から(千冬姉が)留守がちになって、家を空けられなくなったせいで俺が一緒にいてやれたのは学校と登下校だけ。中学に入ってからは、バイトを始めた。アイツが中国に帰った時も、バイトで空港まで見送りにも行ってやれなかった。今回の喧嘩だって、俺のせいだ。」

 頭を抱え塞ぎ込む。

 「どうして(中学で)バイトを?」

 千冬さんの稼ぎなら、そんなに困らないはずだと付け加える

 「特殊事情だ。」

 「家計のためって事ね。」

 それだけで、織斑千冬の酒豪に家計が圧迫されていることを察する。

 「・・・まあな。」

 助かるよというニュアンスの返事をする。

 「だがもう過去の話だ。アイツも、俺にとって大切な友達なんだ。」

 逃げ回るってのは性に合わないからなと、一夏は笑って見せた。

 

 

 

 しかし、凰とは何の接触のないまま一週間が過ぎた。

 そして数奇なことに、第2アリーナでその2人は対峙していた。

 『さぁ、クラス対抗戦第1試合。両クラス代表の入場だぁ!1組はぁ!?強靱な肉体と、ISを装備した織斑一夏(人間武器庫)!さあ、注目の2組はぁ!?胸囲ツルツル、ペッタペタの変態(凰鈴音)だ!』

 実況の声に、うっさいわねとキレる凰。

 しかし、直ぐに視線を一夏へと戻し

 「・・・一夏、今謝ったら少しぐらい手加減してあげても良いわよ。」

と、多少は譲歩してやるという。

 「・・・来いよ鈴。情けなんか捨てて、かかってこい。俺に楽をさせる勝負なんかつまらんだろう。武器を突き立て、俺が苦しみもがいて、シールドエネルギーを削られていく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのか鈴。」

 かつての俺とは比にならないぞと脅しをかける。

 「・・・いいわ一夏。死なない程度にいたぶってあげる!」

 凰は、完全に戦闘モードに入る。

 ビーッ!

 『試合開始ィ!』

 ブザーの音が消える間もなく、2人は斬り合う。

 ガッ!【50000/50000】

    【35000/35000】

 激しい衝突。しかし、一瞬一夏が雪片を引き衝撃を緩和する。

 「ふぅん、やるじゃない。」

 私ほどじゃないけどねと言いながらも、その表情にはやや焦りがある。

 「今のは挨拶代わりよ!これでも喰らいなさい!」

 パチッ・・・ズガァァァン!【99989/99999】

 ゼロ距離から放たれた衝撃砲。だが、それが何であるのか一夏は認識できない。

 「ヌオォォォ・・・。」

 「残念ね一夏ぁ・・・ジャブよ。」

 と、ここで、反撃するか否かを迷っていた一夏に、スイッチが入る。

 「ふざけやがってぇ・・・。フンッ!」

 ガゴォォォン!【15000/16000】

 それでも心の何処かでブレーキが掛かり、見事に一本入れたものの零落白夜を発動するまでには至らない。

 「チィッ!こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 「ヌウォォォォォォォ!」

 大人しい(当筋肉比)試合展開に、観客が飽き飽きし出した時だった。

 ズドォォォォォォォンッ!!!【1147/5000】

 アリーナのシールドが部分的に破損。衝撃がグラウンドの地面を揺らす。

 「何だ!!」

 位置的に太陽と被ってしまい、そこに何かが居ることしか判別できない。

 「一夏!侵入者よ!あやまっt・・・じゃない、逃げるわよ!OK?」

 「OK!」

 怒ごぉぉぉぉぉぉん!【800000/999999】

 相手の戦闘力を測ることもせず、怒りの零落白夜をお見舞いする。

 「ちょっと、一夏!何も見えないじゃない!!」

 しかし、衝撃で舞い上がった砂埃により、相手の姿が完全に隠れてしまう。

 特に仕掛ける様子がない一夏に、凰が話し掛けようとしたその時。

 「いたぞぉぉぉぉぉぉ!」

 ズドォォォォォォォン!【750000/999999】

 ズバババババババババ!【730000/999999】

 アリーナに響く叫び声と銃声。ダイナミックグラウンド整備の始まりである。

 見れば、放送席に武装した女子2人。1人はロケットランチャーを持った箒。もう1人は、黄金カワニナヘアーでお馴染みチェーンガンを持ったセシリア。

 「ちょ、イギリス!何でIS仕舞ってんのよ!」

 持ってる物を、何で使わないんだとすかさず突っ込みを入れる。

 「はっ!そ、それは・・・。」

 おろおろと、理由を考えようとするが・・・。

 デェェェン!【27000/27000】

 結局、一夏の十八番を使って誤魔化すしか思いつかなかったようだ。

 「何誤魔化してんのよ!つーか、IS出すのおっそ!」

 「・・・今度余計なこと言いますと、む*を縫い合わせますわよ。・・・はっ!ありませんでしたわ!」

 「あんた、後で覚えときなさいよ・・・。」

 こんな状況でもふざけていられるのは、一夏が居るからだろう。

 「・・・攻撃をしない時は仕掛けてこないとは、面白い奴だ。気に入った。壊すのは最後にしてやろう。」

 ベキィッ!【14000/16000】

 攻撃してこないなら先にこっちを済まそうと、凰に左パンチを入れる一夏。

 「ちょっと、なにすんのよ!危ない!」

 ビシュン!

 それと同時に、無人機が介入してくる。が、難なく回避。

 「・・・お前を壊すのは最後だと言ったな。」

 余計な手出しをしてくれたもんだ。

 「・・・(ウィィィィィィィン、ウィンウィン)」

 訳:怖いかクソッタレ。当然だぜ、無人ISの俺に勝てるもんか。

 「試してみるか?・・・アレは嘘だ。」

 何故、機械と通じる・・・。駆動音しかしないはずなのに。

 ベベベベキィッ!【10000/999999】

 一瞬で無人機をダルマにしてしまう。

 その瞬間を見た凰が目を顰めたが、恐る恐るダルマにされたそれを見て驚いた。

 「これは・・・無人機!?ISは人が乗らないと動かないんじゃ・・・」

 「・・・(ウィィン、ウィィィンーーー、ウィン)」

 訳:残念だったなぁ、トリックだよ

 「くたばりやがれぇ・・・。」

 ドベキシ!【0/999999】

 「・・・(ウィィィィン)」

 訳:オフイ・・・。

 完全に動作を停止したか、一夏が確かめに近寄った瞬間!

 ドカァァァァァァン!

 「ぬおおおお!」【0/99999】

 もろに無人機の自爆に巻き込まれ、一夏の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 「・・・・・。」

 一夏が目を覚ますと、消毒液の臭いが漂ってきた。

 「一夏、起きた?」

 声の方向に顔を向けると、ドアップで視界に入ったのは凰のおしり。枕元に、座っていた。

 「確か、自爆を喰らって・・・。」

 再び視線を天井に戻し、話し続ける。

 「・・・麻酔破片だよ。本物の破片使いたかったぜ!」

 何故か得意気な凰。そもそも、あれはお前の(破片)ではないだろ!

 「鈴はどこだ!」

 まさか、まだ夢の中なのかと焦る一夏を、優しくなだめる。

 「嘘よ。本物だから。」

 「そうか・・・。」

 ほっと、一夏は目を瞑る。

 「鈴、試合はどうなった。」

 落ち着くのを待ち、気になっていたことを尋ねる。

 「気にしなくていいわ。無効だから。」

 「・・・すまない。」

 親しき仲にも礼儀ありと、凰に謝る。

 「言わなくていいわ。もっp、篠ノ之さんから聞いたから。」

 途中で呼び方を変えたのは、臭いを嗅いだからだ。

 しかし。

 「風下でもないのに、よく鼻が利くモンですなぁ!」

 感心したように表れた箒。

 「げ、1*0番-*00番!じゃ、一夏、バイバイ!!」

 脱兎の如く退散する。

 「待ちやがれ!クソッタレ!」

 鬼の形相で追いかけるは箒。

 「保健室でドンパチするとは気に入った。ボコボコにして、ベ(ネ)ットに放り込むのは最後にしてやろう。」

 それをとっちめるは、鬼神の織斑千冬。

 「「ち、千冬さん!!」」

 「そのアルコールはどこで買った!」

 すかさず、ビニール袋の中身を確認する一夏。

 「・・・消毒用アルコールだよ。本物の酒買いたかったぜ!」

 そう言いながら棚から空のボトルを取り出し置き換えると、空になった方をゴミ箱に投げ捨てる――が、投げる速さが速すぎて、一瞬で蒸発する。

 しかし、いつもに比べて騒ぎ方が大人しいなと感じた一夏は、誰が足りないのかを思い出した。

 「山田先生はどこだ!」

 「!!・・・用を思い出した。一夏、ISの解析に協力しろ。OK?」

 「OK!」

 ドベキシ!【1/20000】

 「オフウイ・・・。」

 『サボる気しかねえじゃねえか、このタコが。』と、打ちのめす。

 「箒、鈴。(山田先生の所まで)運ぶのを手伝ってくれ。」

 「「いいわよ。」」

 

 

 

 翌日、燃え盛るIS学園の地下50メートルの部屋から不死鳥の如く蘇る織斑千冬が発見され、同室内ごと無人機を焼き尽くした更にその翌日、IS学園の地下50メートルの部屋で冷たくなっている山田先生が発見され、『女の敵は死んだ』と、凰鈴音は静かに息を引き取った。




作B おい、A。最後のこれは何だ?
 A MAD版の時に、2人で書いたのを改変したんだ。
 B そうか・・・。


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13話 待ってたんだ。

前書きなんか思いつか・・・いらねえや。・・・前書きなんか必要ねえ!ヤロォォォォォ!腹筋オブクラッシャァァァァァァァァァ!!!


 21時。ようやく部屋に戻ることが許された一夏。

 「就寝時間に遅れるぜぇ、急ぎなぁ。」

 玄関のドアを開けると、箒が帰りを待ってくれていた。

 「随分と急かすな。何があったんだ?」

 就寝時間まではもう少し時間があったと思うがと言うと・・・。

 「私は空腹なんだ。」

 「空腹?何でまだ晩飯を食ってないんだ?」

 「とんでもねぇ、(お前の帰りを)待ってたんだ。」

 「・・・待っていた?何故?食堂はもう閉まったぞ?」

 「いや、まぁ、・・・待ってたんだ。」

 突然、箒から勢いが消え急にモジモジとし始める。奴らしくもねえ。

 「待ってたって・・・、どうするんだ?」

 今から作り始めたって、消灯時間には間に合わない。

 今夜は即席麺か何かで凌ごうと思っていた。しかし、2人での夕食がそれではわびしい。

 「だから、作って待ってた。」。

 「なるほど、何か良い匂いがすると思った。」

 良かったと呟きながら、部屋の奥へと進む。

 「・・・返事を聞くのが怖いんだけど、晩飯は食ったのか?」

 「いや。」

 「『食った』って言うわけないわよね。」

 「食べてない。」

 「本当に?」

 「・・・信じろよ。」

 第一、今の今まで保健室に閉じ込められていたのだから、食べようがない。

 机の上に用意されていたのは・・・。

 「チャーハンを作ったんだが、・・・どうかな?」

 美味しそうな色に仕上がっている。

 「どれ、いただきます。」

 「ど、どうだ?」

 一口食べ、一夏は動きを止めた。

 「・・・味付けはなんだこれ?」

 食べられれば何でもOK!な訳ではない。一夏だって、美味しく頂きたいのだ。

 「知らない方が・・・、私も知らん。」

 何処かで聞き覚えのある台詞。

 「いや、味付けを忘れた。」

 まさかあの箒が!?といった表情の一夏を見て、即座に否定した。

 天を仰ぐ箒。

 そんな箒を見て、気にするなと声を掛ける。そして、『塩と胡椒をかけてもらえるか?』と言ったところで、それは起きた。

 「何を言っているんだ?チャーハンには醤油だろ?」

 「なぜ、醤油なんだ?塩胡椒なら、味がスッキリするのに。」

 「一夏、古いぞ。醤油こそ、日本人の魂!」

 「古いのは手前ぇの方だ!」

 「やるか!」

 2人が、ドンッと足を踏みならし立ち上がった瞬間!

 デェェェェ―――

 ゴォンッ!【9000/9999】

      【1100/2000】

 「やっかましいわぁ!半分ずつにせぇ!!」

 一夏の効果音を遮り表れた、隣の部屋の生徒(1組)。

 「「!!」」

 その手があったか!と目を見開く。あったかじゃねえよ!脳筋!

 「じゃ、帰るね。」

 「メイグラシアス。」

 「・・・スペイン語か。何故知っている?」

 色んな国を回ってきたことが生きた。

 「知らない方が良いわ。」

 そんなことはどうでも良いから、早く食べようと着席を促す。

 「・・・醤油も良いな。」

 「塩胡椒もうまいぞ。」

 なんだかんだ、終わりよければ全て良いの2人であった。

 

 「「ごちそうさまでした」」

 時計の針は、就寝時間直前を指していた。

 「さて、時間だ。」

 「歯磨きして、クソして寝な。(・・・ん?)」

 「「!?」」

 突如現れた、山田先生。

 「・・・・・で、ではなくてですね。あ、あの、篠ノ之さん、お引っ越しです。」

 ちょっとふざけちゃいましたと舌を出す。その舌引っこ抜いて、織斑先生に送りつけてやろうか?

 「何故、箒が引っ越す必要があるんです?」

 男女が同じ部屋で暮らすことがどういうことなのか、彼らに考えろと言っても無駄だ。

 「そ、それはですね、部屋に都合が付いたからです。」

 「随分と急だな。明日じゃ駄目だったのか?」

 「そうですね。あ、でも安心して下さい!私も手伝いますので。」

 報告に来ただけかと思っていたら、まさかの今から引っ越し。これには、臨機応変が得意な2人も驚く。

 「待って下さい、山田先生!それは今からではないといけませんか?」

 「当然です。学園の決定ですから。」

 「・・・クソッタレがぁ!」

 箒は竹刀を取り出し、山田先生に突き付ける。

 「し、篠ノ之さん!竹刀を仕舞って下さい!早く荷物もまとめて下さい!」

 「ところで山田先生。消灯時間はもうすぐですが?」

 聞く耳持たぬと、竹刀の先をのど元に押しつける。

 「(山田先生も)今日は(もう)休め。」

 更に一夏が援護射撃を行う・・・も。

 「ダ メ で~エ~ス。」

 「「」」

 普段からは想像も出来ない強情振りに、困惑してしまう。

 「それに、身長170cm、筋肉モリモリ、マッチョマンの変態の織斑君がいるんだから、全然OKです!」

 携帯の待ち受け?聞くまでもありません。

 しかし、酒は入っていないようだが、この異様なテンションは何だ?深夜には早いぞ?

 でも、油断しているとやられますよ?

 「山田先生、一夏は死ぬほど疲れてるんだ。起こさないで貰えるか?」

 シーッと、口の前に人差し指を当て、一夏の眠っているベットを指さす。

 「!?お、織斑君!?何時の間にベットに・・・。起きて下さい!でないと、織斑先生が私のお姉さんに―――」

 ゴンッ!【103/3000】

 何か淫らなことを考え始めた途端、頭にドカンとドギツイ一撃。振り返れば、そこに織斑千冬の姿。

 「山田先生、仕事をしろ。」

 「ひ、お、織斑先生!」

 ちゃんと仕事をしていますよと、書類を見せるがもう遅い。

 「お前に仕事を押しつけるのは、これで最後と言ったな。」

 「そ、そうです・・・。し、仕事して下さい・・・。」

 「アレは嘘d――」

 ドベキシ!【1/20000】

 「オフウイ・・・。」

 「手前ぇの差し金か!!」

 ブチ切れた一夏。しかし、それは一夏をベッドからおびき出す巧妙な罠だった。

 「では、引っ越しましょう!」

 年の功ですねと笑ってみせる山田先生。

 「「どうやって荷物をまとめた!」」

 あれだけ散らかしておいたはずなのにと驚く2人に、こう言ってやった。

 「タンスに詰め込みました!」

 こう見えて一番脳筋なのは、山田先生なのかも知れない。

 「「」」

 「では、織斑君!運んで下さい!」

 「・・・ふざけやがってぇ!」

 何でもっと軽い入れ物を選ばないのか。手前の筋肉じゃないから疲れなんか知るってか!?怒りの爆発した一夏は、遂に最終兵器を取り出した。

 デェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェン!

 「ひ、お、お、お、織斑君!!!ロケットランチャーは、し、締まっt、仕舞って下s・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そこに立ってろと、山田先生を壁に蹴ってめり込ませ、立て続けに撃ちまくる。

 ドドドォォォォォォン!【0/7000】←部屋のライフ

            【1/3000】←山田先生

 「これで片付いた。」

 バカ教師2人は、跡形もなく消し飛んだはずだと、一夏と箒は確信した。

 しかし!

 「・・・筈か?残念だったな。」

 「な、織斑先生!部屋は一夏が破壊したはず・・・。」

 「トリックだよ。直ちに部屋を変えなければ、お前等は死ぬ。OK?」

 一体、どんなトリックを使えば、人も建物も傷つけずにアレを耐えしのげるのか、是非とも教えて貰いたいものだ。

 「「OK!」」

 2人とも昼間に暴れ回ったために限界が近い。

 体中の筋肉を盛り上がらせながら、一夏はタンスを持ち上げたる。

 その光景は、見ているだけでムキムキっと言う音が聞こえそうなほどだ。

 

 「・・・では、これで引っ越しは終わりです。お二人ともお疲れ様でした。」

 結局、山田先生は終始手ぶらだった。一夏が、『このタンス、ビックリするぐらい軽いから暇なら持って良いぞ』と何度も勧めたのだが、その都度断られた。

 「「・・・必ず、仕返しに行くぞ。」」

 指をポキポキと鳴らすその様は、歩く騒音発生器!

 「ひっ!そ、それは学園にお願いします!!」

 「どこにいる!」

 何処にいるって、学園はここではないのか?

 「し、知りません!・・・ひぃぃぃ。お、織斑先生が知っています!先生と今晩呑む約束をしてるんです!」

 やはり疲れたくなかったから俺達に引っ越しの一切をさせたのかと溜息を吐く。

 「屋台でか。」

 「!!ど、どうして!」

 「この外出許可書がそうだろ。」

 「!!う、うわぁぁぁ!」

 箒の取り出したそれを見て、必死に奪い返そうとする。

 何時の間に、何処でと聞く間も与えず一夏は窓を開け、山田先生の足を持ち逆さ吊りにして外に突き出す。

 「お前と風呂にはいるのは嘘だと言ったな。」

 「そ、そうです織斑君・・・。」

 「あれ本当だ!」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・。」

 パッと手が放された約2秒後。約74km/hで山田先生はビオトープへと入水した。

 その飛び込みの美しさたるや、世界大会で満点優勝間違いなしとだけ書き記しておく。

 

 「山田のやつ遅いな・・・。」

 校門(守衛)の前で、織斑千冬は目を瞑り俯いた状態で人待ちをしていた。

 「す、すいません。お待たせしました!」

 「やっと来たか・・・。ようやくその時がやってきた。」

 ふとそこで、山田先生は足音を立てずに歩けたのかという疑問が浮かんできた。刹那、背中を電気が走った。

 「財布を縫い合わすのは給料日にしてやると言ったな。」

 裁縫道具を持ち、財布を寄越せと迫ってくる。

 「い、一夏!?何故ここに!?山田はどこに!?」

 「コレが何か分かるか?」

 取り出したのは、黒い箱。

 「っち、ボイスレコーダーか。・・・だがな一夏、時間外の外出は校則違反だ!お前はもう終わり(反省文)だ!」

 勝った!と思ったのも束の間。

 一夏も同様の外出許可書(山田先生の)を持っていた。

 「!?」

 流石の千冬も、この暗さでは文字まで読むことは出来ない。てっきり一夏に発行されたものだと信じ込む。

 「・・・(晩飯に)ピザ食いやがってぇ!!!」

 こっちには何も持ってこなかった癖にと、一夏は襲いかかる。

 ボコヲォッ!←1Hit・2Hit・3Hit・Critical Hit☆!4Hit

 「ウヲォォォォォォォ・・・・・。ヌィィィィ・・・。」

 急所だけを的確に突き、目立つ外傷を残さぬよう気を付けて絞める。

 眠ったことを確認し、財布を探り出す。

 チクチク【200/150】

 丁寧に縫い合わされる財布。ライフが振り切っているのは、一夏が補修も行ったからである。

 「これで出来た。」

 財布を元の場所に戻し姉を肩に抱えると、寮へ向け歩き出した。

 

 

 

 翌朝。織斑千冬はいつも通りの時間に目が覚めた。

 「・・・んん。・・・朝か。」

 どうやら、機能の記憶は残っていないようだ。

 「・・・目覚め酒でも買いに・・・!!・・・一夏め!・・・くそぉ、縫ったかっ!・・・うぉぉぉーーーーーん。」

 ・・・失礼、思い出したようだ・・・・・。




(原作1巻が終わったから)見にこいカルロ!


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14話 学友ってのは、いいもんだよなぁ

今回も作Aが執筆した(当然だが)。校閲、投稿は作Bがやった。奴の投稿が途絶えれば、作品は死ぬ!


 6月頭、一夏は五反田家にいた。

 部屋には、ゲームコントローラーのカタカタチカタカタという音が響いていた。

 「IS学園てのは、良いもんだよなぁ、一夏。」

 「面白いことを言うな。」

 行ったこともない癖にと皮肉な笑いかた。

 「隠さなくたっていいぞ。・・・へへ、美人に囲まれるってのはどうだ?」

 にやけた顔が、更にだらしなくなる。

 「学園に来て確かめろ。」

 「いや結構。お縄に罹るのは御免だから遠慮させて貰うぜ。」

 確かに、部外者立ち入り禁止ではあるが・・・。

 「守衛はポンコツだ。それも、カカシの方が動かない分マシなくらいにな。お前でも突破できる。・・・来いよ弾。」

 「・・・そんなにいいのか?」

 あまりに楽しそうに話す一夏に、弾は思わず引き込まれる。

 「あぁ、良いぞ。毎日ドンパチ、賑やかだからな。」

 「・・・お前のドンパチは、大抵ヤバイやつだからな。俺、IS学園行かなくて良かったと思う。」

 が、次の言葉を聞いて、一瞬で冷めた。

 随分とヒデェこと言いやがる。

 「・・・隙あり!!おっしゃ、俺の勝ち!」

 「ウォォ・・・。クソッ、また負けか。」

 一夏は、あらゆることを難なくこなすが、どうしてもゲーム(特に格闘)が苦手だった。

 曰く、『二次元の戦闘などあり得ん。そもそも、素手で行けば勝てる。』とのことである。

 「つーか、お前まさかボッチ?」

 それで俺を引き込もうとしたのかと訪ねると。

 「いや、結構(筋肉以外で)話すぞ。それに、(まな板)も転校してきたしな。」

 「まな板!?奴は本国に帰ったはず。」

 まさかあの凰がと驚く。

 「あぁ、そうだ。だが、来日した。」

 「ふぅん・・・。」

 そして、その続きを言おうとした時だった。

 「お兄ぃィィィィッ!お昼出来たってんだろ!早くこい!!」

 ドコンッ!【201/300】

 ドアがもの凄い速さで開き、現れたのは弾の妹、蘭。

 「い、一夏さん!?IS学園にいるはずでは・・・。」

 視界に一夏を捉えた途端、目を見開き、顔を真っ赤にする。

 「残念だったな。トリックだよ。」

 「ゲームは仕舞ってろ。・・・その口も閉じとけ。」

 弾が少し調子に乗った途端、黙らせた。良い上下関係だ。・・・あれ?

 「それで、一夏さん。いつ、いらっしゃったんですか?全寮制ですよね?IS学園って。」

 しかし、弾に興味はねぇ!と、蘭は一夏に質問を始める。

 「家を掃除しに帰ってきたんだ。ここには1.1時間前に来た。」

 そうだったんですかという顔の妹を見て、弾が一言。

 「なぁ、蘭。ノックの一つぐr―――」

 「殺されてぇか。」

 言おうとしたが、鬼の形相で睨まれては言えなかった。

 「」

 流石の一夏も、弾の弱さには目を疑う。

 「あ、あの、一夏さん。よかったらお昼食べていきませんか?」

 「いいのか?」

 「はい、喜んで!!」

 今度は淑やかにドアの開閉を行い出て行った。

 「(昼飯食わせて貰って)すまないと思っている。」

 食費が浮いて有難いがと付け加えると。

 「いいって事よ。どうせ、定食の売れ残りだろ。」

 「厳さんに聞かれても知らんぞ。」

 「なぁに。お前と蘭がいれば余裕よ。それよか、飯食ったら街にでも行こうぜ。」

 「あぁ。」

 他力本願な性格は、昔のままだなと一夏は笑った。

 

 「・・・ッゲ!」

 弾が食堂に降り、最初に目に入ったのは妹の蘭だった。

 「何?文句ある?馬鹿兄。嫌なら一人で食べな。そ・と・で!」

 嫌な顔を向けられて喜ぶ奴はいない。仮に居るとしたら、それは只の変態だ。

 「面白い提案だ。気に入った。食べるのは室内にしてやろう。」

 一夏はそれが本気でないことを見抜いていた。が、弾は・・・。

 「いや、うちの店、外席無いぞ?」

 待つための椅子ならあるけどなと真顔で答えた。

 「だったら、作ればいいだろ!」

 「うるせぇ!食堂で騒ぐな!」

 ビュッ!ゴン!【9998/9999】

        【13/50】

 お玉が飛んできて、一夏に直撃する。当然、当たったお玉はベッコベコ。

 「ふざけやがってえぇ!!」

 ギュンッ!ガッ!【3/50】

 力の限り投げ返す。これで、ようやく五反田食堂に来たんだなと言う実感を得る一夏。

 「いい返しだ。だがな、お前等の空腹を賭けるほど価値のある話か?」

 「試してみr―――」

 「ごめんなさい、直ぐに食べます!」

 おぉ、始まると期待していた客達が、一斉に何だよという顔で食事へと戻った。

 「・・・どうして謝った。」

 「お前と爺ちゃんが戦ったらロクなことがない。」

 「」

 「早く食え。爺ちゃんの怒りが俺に向く前に。」

 手前の心臓は蚤か?それともミジンコのか?え?ダニ?

 「「「いただきます。」」」

 3人は、揃って食べ始める。

 「・・・ところで蘭。その派手な服は何だ?さっきの方がスッキリしt――」

 「今度余計なことを言ったら、口を縫い合わすからね。」

 お客さんが来ているんだ。服装ぐらい、大目に見てやりなよ。

 「そ、それで一夏さん。私、来年IS学園を受験しようかと思っているんですけど・・・。」

 「!?フォイ、ラハァン!ふぁみみって―――」

 訳:おい、蘭。何言って

 ゴオォン!【1/500】

 中華鍋が直撃し、弾は悶絶する。

 「うるせぇぞ、この馬鹿孫が。」

 「兄ぃ。次、食いながら喋ったら、その椅子ごと店外追放だから。」

 「汚い奴だ、気に入った。店の外に放り出すのは食後にしてやろう。」

 厳と蘭、一夏による波状攻撃。

 「と、トリプルは反則だろ・・・。」

 味方だと思っていた一夏にまで言われ、がっくりと項垂れる。

 「で、どうでしょうか?」

 普段からこの光景が繰り広げられているのか、慣れて様子で一夏へと質問する。

 「いんじゃないかな。」

 「だけどな、蘭。お前の頭が良いのは俺も知っている。だが、実技はどうするんだ?」

 「ただのチャンバラですな。」

 そう言って取り出したのは・・・。

 「こ、これは・・・適正試験!?何時の間に!?」

 妹の顔と試験結果の紙を交互に見る弾。

 「お兄が瞬き(昼寝)している間に、(適性試験に)行ってきたのよ。」

 「・・・幾ら貰った。」

 「A評価PON☆とくれたぜ。」

 聞かずに読めよ。書いてあるだろ、デカデカと目の前の紙に!

 「・・・それに、気に入ってるのは。」

 「な、何だ?」

 貯めずに早く言えよと、弾は胸を押さえ動悸を抑える。

 「値段だ!」

 「!?まさか、タダなのか!?」

 ドゴオォォォンッ!!【1/500】

 「少し黙ってろ・・・。」

 厨房から中華鍋(大)を持って現れた厳。痛さのあまり、弾は店内を転げ回った。

 「ですので一夏さん、入学できたらISの乗り方、教えて下さい。」

 「いいだろう。」

 「ありがとうございます!」

 

 「痛ぇなじいちゃん!何すん――」

 「「ごちそうさまでした。」」

 ようやく復帰した弾であったが、その時には2人とも食べ終わっていた。

 「・・・!!あ、おい!何で先に食い終わってんだよ!!」

 「咀嚼の速さで、勝てると思うなよ。」

 「クソッ!」

 急いで弾は、昼飯を食べる・・・と言うよりは飲んだ。

 「ちゃんと噛め!」

 食い方が汚いと、また怒られた弾であった。

 

 「ごちそうさまでした。・・・よし、一夏!街へ行こう!」

 「いいだろう。」

 弾が食事を終え、2人はそのまま街へと出かける。

 「うひょー!お前と来るのは、久しぶりだなぁ!」

 「ずっと学園内に閉じ込められていたからな。」

 やはり、暴れる相手が女子(箒除く)では、手加減がいる。

 ここでなら邪魔は入らないから、羽を伸ばしてはしゃぐぞと弾。

 「よし、まずあのエアホッケーでもしようぜ!」

 しかし、肝心なことを忘れていた。

 「ダメだ。」

 「ダメ!?何で!?負けるのが怖いのか?当然だぜクソッタレ。10連敗中の俺がもう負ける訳ねぇ!」

 妹と祖父がいないと、途端に明るく元気になる。

 「試してみるか?だがな、俺は敵を作りすぎた。ホッケー、ストラックアウト、パンチングマシン。全部壊してきたんだ。」

 中学の頃、要は弾の10連敗の時。初めてのゲームセンターに、あまりにも白熱(一夏が)した勝負を繰り広げ、店の機械を壊したのだ。もっとも、その程度で壊れる機械が悪いのだが。

 「!!・・・忘れてたぜ。」

 しくじったなという顔の弾。他に遊ぶところを考えているのだろう。

 「だが、もう過去の話だ。」

 流石にブラックリストも解除されただろうと、一夏は店に向かっていくが・・・。

 「いや、ダメだろ!」

 前より強くなってんだから、余計壊すわと、弾は引き留める。

 「・・・帰ってゲームの続きでもしようぜ。」

 「(こんな目に遭わせて)すまないと思っている。」

 結局、弾の家でゲームをしてこの日はIS学園へと戻ったのだった。

 

 

 

 17時。1025号室前に凰の姿があった。

 ズドォンッ、ズドォォォンッ!【3844/5000】

 「一夏いる?」

 衝撃砲でノックして、一夏いるはないでしょ!

 「こっちだ!」

 いるにはいた。

 「・・・何で廊下にいる訳?どこに行ってたのよ。」

 「弾のところだ。」

 「へー。じゃあ、あの声は弾だったんだ・・・。」

 意味ありげに黙り込む凰。

 「ちょっと後ろ向きなさい。・・・これ、何だと思う?」

 背中から何かを取り一夏に見せる。

 「これは、まさか・・・髭剃り?」

 何処で付いたんだと考え込む。

 「違うわ!マイクよ、マ・イ・ク!これで、アンタを盗聴してたの!」

 「盗聴を堂々と宣言するとは。面白い。気に入った。」

 普段、法(学則)に触れることばっかりしている一夏が言っても、何の説得力もない。それどころか・・・。

 「・・・よくも『まな板』って言ってくれたわね!」

 弾と2人でディスったことまでばれている。

 「(まな板と言って)すまないと思っている。」

 急に小さくなる一夏。筋肉の主張は相変わらずだが。

 「ふん。まぁいいわ。ちょっと、弾のところに行ってくる。」

 「ああ、行って・・・待て鈴!弾は関係ない!許してやれ!」

 乗せたのは俺だ。恨みは全部俺(の筋肉)にぶつけろと言うが・・・。

 ISを展開した凰は、瞬く間に夜の空へと消えていった。

 「クソッタレ!」

 この時、一夏は初めてISの展開を練習しなかったことを後悔した。

 しかし、まあ鈴なら弾がバラバラ死体になって飛ぶこともないだろうと、飯を食いに行くことにした。

 

 

 

 場所は戻って、再び弾の家。

 「よ、よお、鈴。久しぶりだなぁ・・・。ま、まぁまて!落ち着け!は、刃物を突きつけられてはビビッて話もできやしねぇ!・・・あ、頭は無事か鈴。」

ズイっと双天牙月を突き付ける。

 「少なくとも今のところはね。この先どうなるかは弾次第よ。無事、帰って欲し蹴れば、素直に謝まんなさい。OK?」

 「OK!」

 ズバァン!【300/500】

 昔のテンションで、許してくれるだろうと弾は踏んでいたようだが、彼女の怒りはその程度のものではなかった。

 「ふざけるとはいい度胸だ。気に入った。弾、首出してみろ。一発で刎ねてやる。古い付き合いだ、苦しませたかねぇ。」

 「や、止めろ鈴!しゃ、洒落になr――」

 ゴォオオンッ!【0/500】

 弾は、深い眠りについた。

 

 

 

 翌朝、弾の家。

 「・・・あれ?生きてる?」

 殴られたとこまではしっかりと覚えている。

 では、その後は?何故布団に?

 「・・・これは?」

 と、枕元に紙が落ちているのを見つけた。

 『弾へ。安心しなさい。峰打ちだから。・・・刃の方で叩きたかったぜ!』

 どうやら、凰の置き手紙のようだった。

 そして、もう二度と凰に向かってまな板発言をするまいと誓った弾であった。




赤い風!そこにいるんだろう。光り物!コメントを書きに来い!只の・A・カカシですだ。


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15話 男(トリック)と軍人(ガチ)

「最新話を。どうも。・・・読者様!危険です、最新話にお戻り下さい!」
「腹筋が痛いんだ。」


 HR前の1年1組では、女子達が井戸端会議に花を咲かせるという器用な真似をしていた。

 「デザインこそ至高!ハズキこそTHE・ISスーツの神髄だぁ!」

 「は!タダのカカシですな。性能重視のミューレイに勝てるもんか!」

 「試してみるか。価格競争で敗れたミューレイよ!」

 そんな中に、むさ苦しいのが登校する。

 「あ、織斑君だ!おっはよー!織斑君のISスーツはどこ製?見たこと無いけど。」

 「俺のは、イングリット社製だ。」

 可も不可もない答え。せめて着心地とか、性能についても言ってあげなよ。言って、減るもんじゃないし。・・・あ、体力は使うか。あと、喋るのに必要な筋肉。

 下らないことを書いていると、また1人教室にやってきた。ドアを開けた現れたのは・・・。

 「皆さん、メーカーで決めるのもいいですが、ISスーツは飽くまで操縦者の肌表面の微弱な電位差を検知して、ISへ操縦者の動きを伝える役割をしているだけです。それから、一般的な小口径拳銃程度なら受け止められますよ!襲撃は抑えられませんが。」

 何処の電子辞書だと言ってやりたい。何でかって?話している間、ずっと立ち止まっている。話ながらHRの準備をすればいいのに。

 「てことは、山ちゃんのダブルSuicaなら衝撃を受け止められるってことですか?」

 「さっすが山ちゃん!」

 「見直したよ!山ピー!」

 普段からは想像も出来ないほどの饒舌ぷりに、クラスから賞賛が送られる。

 「勿論です、そのためのですk・・・ち、違います!これは、そんなんじゃありません!そ、それに、や、山ちゃん!?山ピー!?だ、ダメです!先生にはちゃんと先生を付けて呼んで下さい!」

 嬉しいようで嬉しくない。いや、褒められるのは嬉しい。

 え?そこじゃない?Suica?嫌か?じゃ、ボーリング玉?・・・え?堅すぎ?じゃ、ソフトバレーボールだな、うん。

 「まーやんは、真面目すぎなのだ!」

 「うぃー、マヤマヤ!おはよ~う。」

 しかし、止めてとお願いされようがされまいが、1組の女子は一向にお構いなし。

 「もうHR始まりますよ、布仏さん!・・・じゃなくてですね!マヤマヤはダメです!いいから、皆さん先生を付けて下さい!」

 先生を付けずにあだ名呼びの総口撃に、山田先生は悲痛な叫びをあげる。

 「諸君、おはよう。・・・どうした山田君。」

 頼みの綱の織斑先生にまで君付けされる始末。それも、生徒の前でだ。

 「うぅぅ・・・。誰も先生を付けてくれません・・・。」

 「・・・まぁ、ビールでも飲んでリラックスしな。クラスの面倒は私がしっかり見ててやるよ。」

 しょげる山田先生に織斑先生は1000円渡し、あろうことか、勤務時間にビールを飲んでこいと言いだした。

 「どこから1000円持ってきた。」

 それを見逃さず、一夏は突っ込みを入れる。

 「ここだ。」

 取り出したのは財布。それも新品だ!

 「財布!?縫い合わしたはずじゃ・・・。」

 「残念だったな。新品だよ。てめぇに財布を縫い合わされてからずーっと禁酒を続けてきた。よぉやく飲める日がやって来た・・・長かったぜ!」

 「ふざけやがってぇ!」

 そもそも、何で財布を縫い合わしたのに財布を買うお金が出せるのか考えた方が良いのでは?

 デェェェェェェェン!

 「「「ワァァァァァ!!待って、織斑君!ここでそんなもん出しちゃ駄目だよ!早く仕舞って!」」」

 「そうだぞ一夏、雪片を仕舞え。」

 篠ノ之ストッパーが働いて一安心・・・と思ったのも束の間。

 「バックからチェーンガンを出しなよ。」

 「「「!?」」」

 何で持ち歩いてるかって?校則に書いてないからでしょ、そりゃ。

 「箒、竹刀を仕舞って、バックからロケットランチャーを持ってこい。」

 お前も、何で持ってんだ!!そりゃ、校則に以下略。

 「私も加勢いたしますわ!」

 せめてもの加勢と、セシリアはスペツナズ・ナイフを構える。

 「ま、まて一夏!私が悪かった!昨日出したばかりの綺麗なスーツを台無しにしちゃ、勿体ないだろ?それに今日は、転校生が来るんだ!」

 「知ったことか!」

 ドドドドドッドゴォォォンッ!・・・ビヨン【550/25000】

 しょっぺえな、スペツナズ・ナイフ。まあ、比較対象がロケットランチャーとチェーンガンでは仕方ないが。

 「これで腐った記憶も抜ける――」

 「はずか?残念だったなぁ。」

 そう言って、ボロボロになった出席簿を持って煙の中に立つ織斑先生。

 「なっ!出席簿!教卓に置いてたはずじゃ・・・。」

 現に今も置かれているコイツは一体・・・。

 「残念だったな。ダミー(トリック)だよ。・・・さて、諸君。今日から実戦訓練を開始する。ISを使用しての訓練となるので、毎日ドンパチ賑やかな教室にいる諸君等には、かなり安全な授業になると思う。各人、ISスーツが届くまでは学園指定のものを使用する。忘れたものについては、学園指定の水着で訓練を受けて貰う。それすらないものは、壊物に行かせる。OK?」

 「「「OK!」」」

 例の3人は同時に返事をし、同時に攻撃を再開する。

 ズドドドド!ドッ!ドゴォォォンッ!・・・ビヨン【2/25000】

 「不意打ちとは、・・・やるな。」

 多少はダメージが入った。これに懲りて、業務中に金銭授受を止めればいいが。

 「・・・山田k――山田先生。HRを始めてくれ。・・・?おい、山田先生は?」

 フラリと立ち上がり、山田先生を捜す。だが見つかる訳がない。何故なら

 「さっき、1000円渡しただろ。忘れたのか。」

 「あ!!」

 あ、じゃねえ!えぇでもないからな!まあ、あなたではないので廊下に出て行っただけなのでご安心を。

 「だ、大丈夫ですよ。いますから。流石に勤務中には行きません。」

 「行ったかと思ったよ。」

 「とんでもねぇ。隠れてたんだ。」

 織斑先生にため口を使う山田先生は初めて見たと、生徒全員が固唾を飲む。

 「・・・ではHRを始めます。今日は、転校生を紹介します。なんと2名です!」

 「「「えぇー!?」」」

 しかし、何事もなく始めた。それに加え、転校生。この間、中国から来たばっかりなのにと驚きを隠せない。

 「では、入ってきて下さい!」

 「「失礼します(する)。」」

 山田先生が声を掛けると、2人の生徒が入ってきた。1人はブロンドヘアーの美形。もう1人は、銀髪ヘアーの眼帯ちゃんだ。

 「では、自己紹介をして下さい。」

 『はい』と、先に前へ出たのは、ブロンドヘアーの美形。

 「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。こちらに僕と同じ境遇の方がいらっしゃると言うことで、転校して参りました。日本は初めてなので、色々分からないことがあるので皆さんよろしくお願いします。」

 満点の自己紹介。これぞHTE・頭脳派・シャルル・デュノアの真髄だ!!

 「キャー、美形!」

 真っ先に、黄色い歓声が飛ぶ。

 「でも、美形なんて女を集めるから夏は暑いわ、女を集めるからうるさいわ、女を集めるから場所は取るわ、ロクなことはない。」

 「見て!筋肉無い!魅力もない!」

 織斑一夏という基準がこのクラスにはあるため、あまり騒いで貰えない。

 「・・・何か僕、ディスられている気が・・・。」

 慣れりゃ、どうってことない。慣れればだけど・・・。

 「でも、筋肉なんて夏は暑いは、場所は取るは、ロクなことはない。」

 勿論、そうでないお方もいらっしゃる。

 「・・・しれっと俺がディスられているのは気のせいか?」

 「「「気のせいだよ!!」」」

 【9989/9999】

 なんだこの妙なハモりは!一夏の鼓膜が以下略。

 「み、皆さん静かに~!まだ終わってませんから!」

 「・・・・・。」

 この状況下にあって、1人姿勢を崩すことなく立っている眼帯娘。その直立振りには、カカシもビックリだ。

 「・・・ラウラ、自己紹介をしろ。」

 「はい、教官!」

 「ここでは先生だ。」

 「了解しました。・・・ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」

 ようやく呼びかけに応答し自己紹介をしたかと思えば、喋る時間が沈黙時間込みで5秒にも満たない。

 「「「・・・。」」」

 港湾労働組合に片足を突っ込んでいるクラスメイトですら全員が呆然とする。

 「お、終わりですか?」

 「以上だ!」

 「「「」」」

 毎度の台詞が5秒と蝉もビックリな短さに、クラスメイト全員が唖然となった。

 件の眼帯だが、暫くクラスを見回し何かを見つけ歩き出した。向かった先は・・・。

 「・・・貴様が織斑一夏か?」

 「・・・そうだ。(ドイツでは)別人になりきっていたはずだが?」

 ラウラが大きく振りかぶり、次の瞬間!

 ユッサユッサと一夏の肩を嬉しそうに揺すり始めた。

 「久しぶりだなぁ、大佐!元気にしていたか!?教官も元気そうで安心したぞ!」

 「久しぶりだな、ラウラ!・・・なんだ、その似合わない(眼)タイは?」

 「ほっとけ、余計なお世話だ。」

 ガシッと握手を交わす2人。

 「「ヌゥ!」」

 そして何故か、空中腕相撲を始める。

 「どうした?隊長業務で鈍ったか?」

 「いやぁ・・・。参った降参だ。相変わらずだな、ジョン。あぁ、それからな――」

 5秒以上話さない人付き合いの悪い奴かと思っていたら、愛想の良い饒舌な人間に豹変するのだから誰だって困惑する。

 「ラウラ、その銃は弾を抜いとけ。腰のナイフもケースに仕舞ってろ。ここは日本だ。」

 呆れたように注意をする織斑先生。だがな、貴方の生徒にもっとヤバイのがいるんですよ。チェーンガンとかロケットランチャーとか、忘れられがちだけどスペツナズ・ナイフとか所持してるヤベー奴等がな!

 「ハッ!教官!」

 「今度、教官と呼んでみろ。口を縫い合わすぞ。」

 「ハッ!教官!」

 ドベキシ!「オフウイ・・・」【1/8000】

 あぁ、当然だ。軍でもないのに大佐だ教官だ使っていれば、余程肩書きを重視する奴でもなければ嫌がられる。

 まして、かつてのことを忘れようとしている人間なら、尚更だ。

 「んん!ではHRを終わる。各人、直ぐに着替え第2グラウンドに集合のこと。本日は、2組と合同訓練(と言うなのドンパチ)を行う予定だ。解散!」

 パンパンと手を払い、いつもの調子に戻る。

 「急げ。授業に遅れても知らんぞ!」

 グイッっとシャルルを引っ張り、一夏は教室を飛び出す。直角コーナリングの衝撃で床材が吹っ飛んだが気にしない。いつものことだしな。

 「特殊事情により、教室では着替えられん。覚えとけ。」

 特殊事情も何も、一緒に着替えるあなた達の方がおかしいんですが。

 「あ、うん。分かった・・・。」

 分かったのか分かっていないのか、イマイチ判断に困る返事のシャルル。

 その頃、当のシャルルは『これ、毎日?これが?あの、騒ぎが?・・・生きてフランスに帰れるかなぁ。』と遠い目をしていた。




失礼、次の投稿までどれくらいかかるかな?
投稿時間は24時間後を予定しております


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16話 こんなの授業じゃないわ!ただのドンパチよ!

おはよう諸君。
ここは何処だ?
ネットよ。良く来たわね。
ま、まぁ落ち着け読者。コマンドー以外の要素が増えたからって、そんな目で見られたんじゃビビって投稿も出来やしねえ。


 教室から飛び出した一夏は、シャルルを肩に抱え更衣室へと一直線に走っていた。廊下は走るの禁止なのにも関わらずだ。

 「いたぞ!あそこだ!」

 何故この学園の女子の大半は、こういった話になると途端に敏感になるのだろうか。

 「クソッ。もう来たか。」

 振り切ろうと、速度を上げる。

 「ね、ねえ、織斑君?」

 「何だ!」

 「何で、みんな追いかけてくるの?」

 「おい、お前。自分がタイを着けているのを忘れていないか?」

 「!?」

 そう指摘されて、初めてネクタイを着けている=男子と言うことに気が付く。そして、見渡す限りそれが居ないと言うことはつまり・・・。

 〈そうだった!この学園には僕と織斑君の2人しか男子はいないんだった!〉

 「・・・どうしたシャルル?」

 ダラダラと冷や汗を掻くデュノアを見て、一夏は心配して声を掛ける。

 「え?いや・・・何でもないよ。そ、それよりも、恥ずかしいから降ろして貰えない?」

 「駄目だ!」

 「駄目ぇ!?そんなぁ・・・。もうやだ!わぁ、危ない!」

 進行方向を見て、シャルルが悲鳴を上げる。その訳は、

 「筋肉×美青年!行ける、行けるわ!!」

 新聞記事の取材に勤しむ新聞部員の姿。廊下のど真ん中で、堂々とこちらを撮っている。

 「どけっ!どけってんだ!」

 一夏の体当たりを受け、当然当たり勝ち出来る訳もなく吹っ飛んでいく新聞部部員。

 「この手に限る。」

 特に後悔した様子も見せず、淡々と疾走を続ける。

 「織斑君は、誰かに『野蛮だ』って言われたことない?」

 「無駄話は後で聞く。」

 喋ると授業に遅れると、解答を控えた。

 

 数十秒後、2人は更衣室に到着した。

 「ここまで来れば、追っ手は来ない。着替えるぞ。」

 来たところで、あなたが着替えを見られる訳無いでしょ!何でかって?

 「う、うん。・・・て、うわぁ!」

 「何だ!」

 「え・・・、い、いや、何でもないよ。あ、あの、着替える間はあっちを向いt・・・早っ!もう着替えたの!?」

 シャルルがよそ見をした一瞬の間に着替え終わってしまうのだから。

 専用機持ちの彼ですらこうなのだ。常人に見える速さで着替えている訳がない。

 「急げ。少しでも遅れれば、あの出席簿(紙の挟まった鉄板)の餌食だ。」

 お前が着替えている間、筋トレでもしていると一夏は腕立て伏せを始める。

 「う、うん・・・。お待たせ!」

 「よし、急ごう。」

 

 チャイムの鳴る、第2アリーナ。既に、女子生徒は揃っている。

 一夏はシャルルを抱え滑り込んだが・・・。

 「遅刻するとは、見上げた度胸だ、織斑。」

 アウトの宣告。

 「廊下が混んでたんだ。」

 しかし、進路を妨害されたんだと、コリジョンルールを適用すべきだと主張する。

 「ほう、口答えするか!」

 バシッ、キィィィン!【9979/9999】

           【0/25000】←出席簿終了

 事実を言っただけなのに殴られた。しかし、朝の一悶着の際に既に壊れかけていた出席簿は、その衝撃で壊れてしまった。

 「・・・職員室に行って、替えの出席簿を取ってこなくては。山田先生・・・はいないから、・・・おい、2組の担任(*名前出てきてない)!しっかり見張ってろ、アホ娘らが暴れるぞ。・・・いいか、こっちは逆光だ。動けば分かる。」

 指で生徒の方を差しながら説明する。

 「どうやってです!陰から判断しろとでも?」

 「あぁ、そうだ。・・・よし、諸君。きちんと整列してろ。動くんじゃないぞ。すぐ戻る。」

 一息で言い切ると、目にも止まらぬ速さでアリーナから消えていった。

 「・・・今日は一段と遅かったわね。」

 その姿が見えなくなるや否や、近寄ってきたのは凰。

 「シャルルさんと一緒だったとは言え、随分とごゆっくりこられましたわね。」

 やや不機嫌なセシリア。

 「凰さん!オルコットさん!次余計なことを話すと、きゅ、・・・口を縫い合わせますよ!」

 一つ教えておこう。長生きしたければ、バカには付き合わんことだ。

 「試してみる?代表候補生の私らに勝てるとでも?」

 「ひぃっ!」

 警戒するにも程度ってもんがある。

 凰は、別に脅したつもりはなかったのだが担任を怖がらせてしまった。

 でも、そんなことは知ったこっちゃない。

 「・・・鈴、セシリア。無茶を言うな。包囲網を敷かれていたんだ。」

 今日は本当だ。その証拠に今まで遅れたことはないだろと言う。

 「へぇ、嘘を言うんだ。何時も吹っ飛ばしているくせに。」

 吹っ飛ばすにも限界があることを分からんのだろうか。一夏だって人間。ぶつかれば痛いし、怪我もする。

 「え?そ、そうなの織斑君。」

 ホラ見ろ。筋肉式に慣れていない無垢なデュノアは信じてしまったぞ?

 「アンタが仏の男子?良いわ、教えてあげる。織斑筋なら、人っ子一人抱えた位は誤差だから。」

 「・・・鈴、織斑筋って何だ?」

 「・・・知らない方が良いわ。」

 恐らく、中学の頃陰でのあだ名だろうと、一夏は勝手に推測した。

 「ほう、黙ってろと言ったのに、喋るとは。うるさい奴等だ。気に入った。今日の格闘と射撃を含む実戦訓練の実演をさせてやろう。」

 バシッ!バシィンッ!【1241/1500】

           【1311/1600】

 どうです?いい音でしょう?新品の出席簿だ。鮮度が違いますよ!

 「くぅぅぅ・・・。ことある事に、すぐ人の頭をPON☆PON☆と叩くなんて・・・。」

 「・・・織斑筋のせい、織斑筋のせい、織斑筋のs――」

 ズバンッ!【998/1600】

 「少し黙ってろ、このオカマ野郎。」

 確かにまな板なので(*何処がとは言わない)デュノア以上に男に見えなくもない。

 「ところで織斑先生、凰さんをあまり弱らせないで下さいませ。倒し甲斐がなくなりますわ。」

 「ふん、こっちの台詞ね。伊達に一夏と悪さしてた訳じゃないから。」

 回復力の速さにおいては、他の追随を許さない凰。互いの意地がぶつかり合う。

 「はい、凰さん質問!悪さって、具体的に何?」

 命知らずだな。まあ、このヤベー奴等が一般生徒に手を出すことはないが。

 「まぁ、大したことはないけど、公園一個消したぐらい?」

 「「「・・・え?」」」

 思いの他のスケール大きさに、その場にいた全員(ヤベー奴等の一部含む)の動きが止まる。

 「嘘よ。」

 「「「あー、よかった。」」」

 「あ、でも一夏と友達の爺ちゃんが街を一つ消s―――」

 事実の方を公表しようとした瞬間、悲鳴が響いた。その方角は、上。

 「ウワァァァァァァァ!!!皆さんどいてぇぇぇ!!!」

 「落ちてくるぞ、山田先生(あのバカ)。」

 「潰す気だ!危ねえ!」

 1組の生徒は、即座に落下地点を判断、俊敏な動きで散開する。しかし、二組が逃げ遅れた。いや、逃げられない方が普通だけど。

 ハアッと溜息を吐き、頭を抱える織斑先生。

 「あぁ、山田君。今から鞠突きをする。・・・君が、鞠をやってくれ。・・・織斑、いや、一夏。・・・やれ!」

 この場面で一夏と呼んだことが意味すること、それは勿論。

 「OK!・・・フンッ!」

 バイン、バイン、バイン――

 大質量物体を跳ねさせる、筋肉式鞠突き!

 山田先生のアレがあって初めて成り立つソレである。

 「お、織斑君!困ります!こんな所で、鞠突き・・・で、ではなくてですね!先生で遊ばないで・・・あぁ、でもこのまま織斑君に傷物(物理)にされたら、織斑先生が義姉さんに――」

 ドゴオォォォンッ!【17000/30000】

          【17888/20000】

          【7989/9999】

 被害者は、IS装備の山田先生、山田先生を叩きに行った織斑先生、まり突きしてた一夏。

 えぇ!?とお思いの読者。山田先生が『織斑先生が義姉さん』発言をしたからと言って、織斑先生が何かした訳ではない。何かしようとしたのは事実だが、今の攻撃は凰のものだ。凰が攻撃する理由?決まってるでしょ。

 「凰、その(む○に対する)敵意は仕舞ってろ。衝撃砲も蓋をしとけ。」

 「モッp・・・篠ノ之さんがそう言うなら・・・。」

 おお、流石だ。グドンの餌の髪型女子を黙らせるには、これが一番手っ取り早い。

 「・・・さて、凰、オルコット!出て来い。・・・山田先生。おい、起きろ。始めるぞ。」

 静まったところで、授業を再開する織斑先生。

 「あ、はい。・・・え?織斑先生、2対1ですか?」

 「安心しろ。今なら、まだ山田先生の方が優秀だ。2-1でも、まだ勝てる。」

 「う、うぅ・・・。そうですかね・・・。」

 織斑先生の励ましにも、ずっとネガティブなままだ。

 「フッ、フッ、フッ・・・・・。ブッ殺してやる。」

 「・・・鈴さん?」

 1人不敵な笑みを浮かべる凰。それに気が付いたセシリアは、何か不穏な空気を感じ取る。

 「いいか?では始め!」

 一斉に三人が飛び立つ。(技術的に)高度な戦闘が繰り広げられるが・・・。

 「・・・暇だな。」

 騒がしくない戦闘に、織斑先生は飽きたようだ。

 「おい、凰!さっきはよくも衝撃砲で・・・、実演中か・・・。そうだな、・・・デュノア。山田先生のISの解説をしろ。」

 「はい。山田先生の使用されて―――ですが、そのスペックは―――ありながら―――ライセンス生産―――簡易性が―――装備され―――ことでも知られています。」

 「あぁ、そこまででいい。」

 突然の無茶振りにも動じることなく、全く滞ることなくISの解説を完遂して見せた。

 「これで諸君等も、教員の・・・・・山田先生?」

 あの織斑先生が驚いた。奴らしくもなくだ。その訳は・・・。

 「フッ、フッ、フッ・・・・・。巨○共。気分良いぜ!」

 凰が、巨○に対する嫉妬心で2人を撃破した。

 「っく、まさかこの私が・・・。」

 「うぅぅ・・・。先生としての立つ瀬がありません・・・。」

 「」

 言葉を失う、織斑先生。そりゃ予定していたのは山田先生対セシリア・凰だったのが、山田先生・セシリア対凰という、凰が圧倒的不利な状況で2人を叩きのめしたのだからそうなる。

 〈〈〈凰さん、怖い・・・。〉〉〉

 そして凰の嫉妬心に、1・2組の全員が胸部を押さえながら恐怖した。

 「・・・さて、これで諸君等にもこの授業が普段に比べ安全であることが分かって貰えたと思う。但し、油断は禁物だ。必ず、細心の注意を払って授業に臨むこと。いいな。」

 「「「はい!」」」

 1組は、元気の良い返事をしたが。

 〈〈〈安全?何処が?〉〉〉

 えぇ、安全ですよ。只とかロケットランチャーとか使っていませんからね。

 まあ、2組とデュノアには理解して貰えてないようですが。

 「・・・2組、良いか?」

 「「「は、はい・・・?」」」

 織斑先生の威圧感に晒され、仕方なく返事をした2組とデュノアであった。

 




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17話 ISでも乗って、リラックスしな

「見上げた投稿ペースだ只の・A・カカシです。だがな、手前ぇの脳内辞書を張るほど値打ちのある作品の出来か?さぁ頭を冷やして、よく考えてみろ」
「ああっ、うっ・・・!」
「支えてんのは読者だ。作者じゃないんだぜ」
「あああっ・・・お、俺を殺したら、次話は見つからんぞ・・・」
「どこにある!」
「知らねぇよ・・・。うううっ・・・、俺のパソコンの中にある!」


 「よぅし、今から実習を行う。専用機持ちの5人。お前等がリーダだ。1グループ人ずつで行う。いいか?では分かれろ。」

 実習が始まる。織斑先生の声と同時に、女子生徒は一斉に走り出す。

 「織斑き・・・織斑君!一緒にやろう!」

 「ISの乗り方、分かんないから教えてね。」

 「デュノア君の、操縦テクみたいな~。」

 「あ~!私も見たい!同じグループに、入れて!」

 ただし、全員男子の元に。

 「この馬鹿者(タコ)共が!良いだろう、私が決めてやる!」

 ドォン!【14588/15000】

 出席簿で地面を叩く。

 「「「ウワァァァァァァァッー!?」」」

 飛び散る生徒、弾ける地面!

 入学した時とはまた別の方向にVA☆KA(バカ)になった生徒に、織斑先生は頭痛を覚える。

 「この手に限るな。」

 万誘筋力(*万物を誘導する筋力)で、強引に班を決める。まぁ、自主的に決められる訳がないので問題ない。

 「よし!織斑君と一緒の班。」

 こっそりとガッツポーズをする女子。

 「・・・ねえねえ、織斑君。織斑先生って誰かに野蛮だって言われたこと無い?」

 ここだけの話でと言うが・・・。

 「それは言わない方が良い。それを言うと、俺も死ぬ。」

 「分かるわ、話して数秒の私でも死ねばいいと思うの・・・。」

 知らないのかい?まあ、知らないだろうね。2組の子だもん。

 「おい、随分な言い方じゃないか?」

 ズババァン!【1/100】

 後にその女子は、地面が突然動いて叩かれたと語った。手前の目はスイカの種か?

 「今度(私の)陰口をたたいたら、1学年に縫い合わすぞ。」

 要は、留年だぞと脅しを駆ける。

 「2組の女子は止めてやれ。死ぬほどダメージを受けてる。」

 「駄目だ。・・・山田先生、説明を。」

 慣れていない相手なのだから手加減しろと言うが、不公平は駄目だと却下された。

 「あ、はい。えっと、皆さん。訓練機を各班1機取りに来て下さい。訓練機は、打鉄が3機にリヴァイヴが2機です。班で決めて取りに来て下さい。早い者勝ちですからね!」

 「どっちが良い?」

 「よし、織斑君!筋肉ルーレットしよう!!」

 それ、お前がしたいだけじゃないのか?もっともその前に、俺の筋肉はそのために鍛えている訳ではないと断られてしまったが。

 「その必要はない。打鉄で良いか?」

 ついでに言えば、さっさと決めてしまった方がいるのでそれ以前の問題であった。

 「あぁ、いいぞ。」

 「えぇ!?篠ノ之さん!?」

 女子が驚いた理由。それは、箒がISを手で持ち上げてきていたからだ。

 「随分と軽そうだな。ブレードも出してくればいいのに。」

 普通の人間であれば持ち上げることすら困難であるが、彼らにとっては造作もないどころか軽い位なのだ。

 「嘘!?私、箸より重い物持ったこと無い!」

 手前の通学カバンはヘリウム入りか?

 「ふん、軟弱者が。一夏なら、ISより軽い物を持ったことがないわ!」

 「・・・箒、俺だって爪楊枝ぐらい使う。」

 「それに、さっきデュノア君担いでたしね。」

 「」

 そう言うつもりで言った訳ではなかったのだが、受け取られてしまったものは仕方ないと諦めた。

 「それでは、各班の班長は―――貰うので、―――設定で―――てあります。取り敢えず―――下さいね。」

 「・・・じゃ、始めるか。出席番号順で構わないか?」

 山田先生の説明が終わり、一夏が尋ねると。

 「出席番号一番!相川清香!部活はハンドボーr―――」

 「フンッ!」

 余計なことを喋っていると出席簿でクラッシュされるので、言い終わる前にISに投げ乗せる。

 「ブッ!!」

 盛大に肺の空気を吹き出す相川。

 「よし、起動してくれ。」

 「・・・織斑君は、誰かに強引だって言われたことない?」

 「起動してくれ。」

 どうした、早く起動しろ!織斑先生がそこにいると急かす一夏。

 「あ、え・・・えーっと・・・どうするんだっけ?」

 しかし、急かされたことで起動の仕方が思い出せなくなる。

 「・・・ええい!」

 何を血迷ったのか、ISを叩き始める相川。

 「「「えぇ・・・。」」」

 そして、何故か起動するIS。班員ドン引きである。

 「・・・この手に限るわ!!」

 そう言うのは、本当に動かない物を動かした時に使うんです。OK?

 「面白い起動の仕方だな。気に入った。起動の仕方を採点してやろう。」

 顔が引きつる一夏。

 「さ、採点?」

 「あぁ、100点だよ!」

 初めて見る織斑一夏のマジギレ。

 筋肉にものを言わせ、相川をISから引き摺り下ろす。

 「教科書を読んでこい!」

 「(起動操作の方法を忘れて)すまないと思っているわ。」

 「一夏、その位にしといてやれ。」

 初めてなんてそんな物だと、箒がなだめる。

 「そうだな。」

 そうだなでいいのか?起動なんか基本中の基本だぞ?

 「・・・次の人。」

 「あの、織斑君・・・、届かない。」

 そう言えば引き摺り落としたのだったと、一夏は頭に手をやる。

 「拙かったか・・・。」

 「あ、やってしまいましたか。仕方ないですね。織斑君、乗せてあげて下さい!」

 そう呟いた直後に現れた山田先生。

 「山田先生、何故、俺が乗せるんです?踏み台を用意すればスッキリするのに。」

 プラ製なら100円ショップでお安く売っているぞと言うが。

 「もーう、織斑君ったら古いですね。立ってるISは、バランスが悪いから踏み台は危険なんです。」

 「俺達はIS乗りだ、踏み台じゃない。」

 「「「じゃあ、抱っこで!!」」」

 必死の反論も実らない。一夏は、最終手段に出た。

 「ふざけやがってぇ!!」

 ベキッ、バキッ、ビシィ!・・・ドスゥン!

 ISの関節を強制的に動かし、屈ませる。

 「これで乗れる。」

 「「「む、無茶苦茶だわ・・・。」」」

 そんな道理、一夏が筋肉でねじ通す!

 「よし、乗れ。・・・そうだ、乗ったか?」

 「うん。」

 「よし、起こすぞ!」

 力任せにISを立たせる。と言っても、センサーの誤作動を防ぐのが目的だが。

 「「「・・・IS使ったら?」」」

 心配する班員を余所に、一夏は実習を進める。

 「・・・あれぇ?起動しないな?」

 「お前等・・・。まず、メイン電源を入れろ。」

 「あっ・・・。」

 その後、ようやく一人目が終わる。

 「よし、いいぞ。電源を切って。しゃがんで降りr―――」

 「あ、ごめん・・・。」

 何で降りられるのに、乗れないんだ!と一夏は心の中で思ったに違いない。

 「クソッタレがぁ!」

 ベキッ、バキッ、ビシィ!

 バシィィィンッ!【8900/9999】

 再度、強制的にしゃがませようとした直後、一夏を衝撃が襲う。

 「うぉぉぉぉぉ・・・。」

 「馬鹿者が。ISを壊す気か?」

 〈〈あー、ほらね。〉〉と1組。

 〈〈いや、体の心配しよ?〉〉と2組。

 そもそも、あなた達が飛び降りたのが全ての元凶ですけどね!

 

 

 

 「そこまで!各班、ISを持って来て下さい。」

 「よし、分かった。」

 終わりの合図を聞き、ISの電源を落とす。

 「一夏、私が行こう。」

 「いや、待っていてくれ。最近、筋トレが出来ていないんだ。」

 「そうか、では任せた。」

 と、そこへ2組の生徒が質問してきた。

 「ねえ、筋肉ってそんなに落ちるものなの?」

 「あぁ、直ぐになくなる。」

 「へぇ~、ありが――」

 しかし、それで終わりではなかった。

 「まず、人間は筋肉、非筋肉に分けられる。更に筋肉は、遷移筋肉、アルカリ筋肉とアルカリ土類筋肉に分けられる。遷移筋肉は場所ばっかり取る外見だけのマッチョだ。アルカリ筋肉は場所を取らない、けどパワー!!はある、要はインナーマッスルの強い細マッチョって奴だな。最後にアルカリ土類筋肉だが、これは俺みたいな両方を備えている奴のことを指す。(大嘘)」

 「織斑班!急いでください!」

 話している間に、未返却なのは彼の班だけになっていた

 「今行く。・・・そう言うことだ。」

 

 「お、織斑君?私は持ってこいと言いましたが、持ち上げてこいと言った記憶はないですよ?」

 返却の受付は、筋肉に慣れてない2組の担任であった。

 「気にするな。トレーニングだ。」

 〈〈〈軽くない?〉〉〉

 〈〈〈えぇ、苦行でしょ・・・〉〉〉

 やはり、こう言ったところでクラスの反応に差が出るのであった。

 「よし、午前の実習は終了だ。午後は今使った訓練機の整備を行うので、格納庫に集合すること。専用機持ち、お前等は訓練機と自機の両方を見ること。では、解散!」

 特に目を見張るような事態が起こらぬうちに、授業は終わった。

 

 

 

- 少し時間は戻って、ラウラの班 -

 「・・・・・。」

 「「「・・・。」」」

 HRのラウラは何処へといった顔でラウラを見る班員。

 「おい、ラウラ。」

 声を掛けたのは織斑先生。

 「はい、何でしょうか教官!」

 「良い返事だ。採点してやろうか?」

 「は、感謝します!」

 「0点だ!ここでは、先生と呼べ!」

 「はっ!失礼しました!」

 珍しく出席簿ショットを放たなかった織斑先生。

 「それよりも、ラウラ。授業の進捗に置いて行かれているぞ。とばせ。」

 「はっ!おい、、貴様等!さっさとISにn――」

 ドベキシ「オフィ・・・。」【1/8000】

 ドアホがと言いながら、ラウラの亡骸(死んでない)をポイ捨てする。

 「駄目だ。これじゃ授業にならない。山田君、例の資料この班に配って。」

 「はい、かしこまりました。(・・・ん?)」

 配布するのは良いんですが、何故笑○のノリなんだ?

 「・・・先生、これは何です?」

 しかし、配布されたのはISに関する資料ではなかった。

 「ラウラの取扱説明書だ。」

 どうしてここでそのチョイスをするのかと、生徒達は怪訝な顔になる。

 「誰が作ったんです?」

 「あそこの髪は濃紺、身長170cm!ISスーツ姿の筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ!」

 ベキッ!

 そう言った織斑先生の視線の先でISを無理矢理座らせる一夏の姿。

 「・・・わぁぁ!?」

 山田先生は悲鳴を上げる。

 「・・・安心しろ。あの程度では一夏は壊れん。」

 「お、織斑先生!?先に打鉄が駄目になります!」

 「良いじゃないか。始末書書けば。」

 呑気な織斑先生と対照的な山田先生。しかし、その関係は長続きしなかった。

 「・・・あ、でも、この授業の責任者は織斑先生なので、先生が書かれるなら良いですよ?」

 この一言に、織斑先生は瞬間的に反応。

 「おい、一夏ァァァァァァァ!」

 〈〈〈変わり身、早ッ!〉〉〉

 叫びながら飛んでいった。




次話に関わる作業をしてんだ。ここから出て行って貰おう
それ、脅してんの?
・・・その通りだ。今から投稿するからな・・・。

(尚、予約投稿の模様)


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18話 これぞセシリアの真髄

タブ開け!開けやがれこのぉ!(Wardから)文章引っこ抜いて投稿ページに送ってやるんでぇ・・・腹筋を壊せるようになぁ!


 「・・・ねぇ、織斑君?」

 昼休憩になり、一夏とデュノアは昼食を摂りに向かっていた。

 「何だ?」

 「何で、僕たちは校舎の壁を上っているのかな?」

 僕たちと言っているが、シャルルは背負われているだけである。

 当然だが、一夏は素手で上っている。付け加えるなら、命綱も無しだ。

 「屋上で待ち合わせをしているからだ。」

 それ以外に理由はないだろと一夏は答える。

 「いや、だったら階段を使えば良いじゃん!」

 知らないから、そんなことが言えるのだ。

 「駄目だ。」

 「駄目ぇ!?」

 「あまり大きな声を出すな。野次馬と新聞部に見つかる。」

 わざわざ死角を突いているのだ。声を出されてその努力をフイにはしたくない。

 「そこ!?心配するところそこ!?」

 「あぁ、そうだ。明日の学内新聞のネタにされたくなかったら、黙ってろ。それから、包囲網を敷かれたら、流石の俺でも人を背負って階段を上りながら突破するのは厳しい。」

 「無理じゃないんだ・・・。だからって壁を選ぶのはどうなのかなぁ・・・。って言うか、僕を背負って壁を上ってる時点で十分おかしいよ?織斑君分かってる?」

 シャルルの友達にはいなかっただろうが、類は友を呼ぶ。

 「どうかな?俺の知り合いに、後3人、単独でならもう2人、出来る奴が居る。」

 「ご、5人も・・・。」

 一体どんな人脈があれば、そんな人達が集まるのかと目眩がする。

 「じゃなくて、何で命綱無いの!?落ちたらどうするの!?」

 「ISがあるだろ!」

 「」

 既に、そんな使い方しちゃ駄目だよと言うことすらバカらしく感じられてきた。

 「見ろ、現に一人来たぞ。」

 「え?あ、あれはラウラさん!?」

 彼女もまた、何の迷いもなく壁を上って来る。

 「大佐ぁ!待って下さい!」

 「先に行ってろ!」

 先にってどうやってと聞こうとした瞬間、シャルルの体を強烈なGが襲い、直後、宙に舞った。

 「・・・!?ふぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 何をされたのか、一瞬、理解が追いつかない。

 しかし、投げられたのだと分かると情けない声を出しながら、屋上目掛けて飛んでいく。そして、無事に到着した。

 その結果を見届けることなく、拳銃で威嚇射撃を行う一夏。

 「流石だ、ジョン!・・・いや、織斑一夏!やはり撃ってきたか。」

 ラウラが一夏をジョンと呼んでいるが、これは千冬姉がドイツ軍にいた頃、時々顔を出していた一夏がシュヴァルツェ・ハーゼでジョンと言う偽名を使っていたからである。

 威嚇射撃にもラウラは恐れることなく上り続けてくる。仕方なく、一夏は最終兵器を出す。

 ピュッ!【0/8000】

 「ウッ!」

 麻酔銃を放つ。見事、首筋に命中。ラウラは地面へと戻っていった。

 「これで片付いた。」

 

 

 

 その頃、IS学園の屋上では・・・。

 「!?」

 何かが落下した音にセシリアは驚き背筋がピーンとする。

 「・・・・・。」

 音をした方を見れば、放心状態のシャルルが座っていた。

 「デュノアが来たと言うことは、一夏もそこまで来ているな。」

 落ち着いた様子で、状況を整理する箒。そして、直ぐに一夏が現れる。

 「ほら、来た。」

 待たせたと言いながら、一夏はシャルルの調子を確かめる。

 「シャルル、大丈夫か?」

 「僕、死んでるんじゃないかな?」

 「大丈夫だ。生きてるよ。」

 その位じゃ死にゃしないと、バシバシ背中を叩く。

 「ね?言ったでしょ。織斑筋なら人っ子一人背負っても壁を上れるって。」

 「き、筋肉バカだとは思っていましたが・・・、まさかここまでするなんて・・・。っく、私としたことが・・・。」

 「・・・何を揉めているんだ?」

 シャルルを相手している間に、セシリアとシャルルが何かを話していた。

 「セシリアが、アンタが見当たらないって言うから、『校舎でも上ってるんじゃない?』って言ったら、信じなかったのよ。」

 「えぇ、そうですわ!普通でなくても上りませんわ!そうですわよね、デュノアさん!」

 「そうだよね・・・。僕も驚いたよ。織斑君が、食堂は混むから、秘密の場所に連れて行ってくれるってことで付いて来てみたら、まさか背負われて壁を登なんて・・・・・。最後は、投げるし。」

 全く信じられないと、ヨーロッパ組2人に妙な結束感が生まれた。

 「ってか、そろそろ食べない?授業に遅れると千冬さんに叩かれるわよ。」

 そう言いながら、カバンから布に包まれた弁当箱を取り出す凰。

 「そ、そうですわね。あの出席簿は喰らいたくありませんもの・・・。」

 「と言う訳で、はい。」

 セシリアの返事を待たずして、それを開け置いた。

 ドンッ!

 「・・・ドン?」

 弁当からそんなに重たい音がするの?といった顔でシャルルが見つめる中、一夏はいつものことのように話し始める。

 「酢豚か?」

 「そうよ!久しぶりでしょ?時間がなかったから、少ししか作れなかったけど。」

 少し、と言う言葉を聞き、シャルルは焦る。

 「少し!?これは少しじゃないよ!大量だよ!ドンって言ったよ!?タッパだし!」

 「タッパは少しよ。大量は、タライに作ってから言いなさい。」

 「」

 自分とは生きている次元が違う。

 「一夏、私も作ってきたぞ。唐揚げだ。」

 ドンッ!

 「で、白ご飯。炊きたての新米(6月)だ。檄旨だでぇ!」

 ドスンッ!と音を立て出てきたのは炊飯器。

 ところで、新米って何ヶ月まで新米?

 「・・・シャルル、どうした?」

 セシリアさんはと思ってそちらを見てみたが、彼女はどうもそっち側の人間になってしまっているらしく、ごく普通にしていた。

 「いや、僕がここにいて良いのかな・・・。」

 「それ、デュノア。」

 そんな心情を知ってか知らでか、箒はお皿とフォークを渡す。

 「あ、ありがとう・・・。」

 恐る恐るそれを受け取る。

 「「「いただきます。」」」

 全員が食器を持つと、合掌する。

 コツカツコツカツ・・・モグモグモグモグ!誰も話すことなく、食事・・・箸が進んでいく。

 「・・・何時もこんな感じなの?」

 某宣伝の◎鍋肉並感のコメントを残すシャルル。

 「いや、普段はもっとドンパチ、賑やかだ。」

 「」

 賑やかな食事ってどんなのと思うシャルルであった。

 

 「「「ごちそうさまでした」」」

 「す、凄い・・・。あんなにあったのに・・・。日本人って、みんな大食いなの?」

 あれだけあったのに残らず平らげた。それも、ほぼ一夏、箒、凰の3人で。

 「私、国籍は中国よ。」

 「実質日本人だろ。」

 一夏と凰が下らないコントをしていると、セシリアがバケットを取り出した。

 「んん、一夏さん。まだ足りないようでしたら、私、サンドイッチを作ってきましたわ。よかったらどうぞ。」

 蓋が開くと、そこには美しいサンドイッチが整然と並べられていた。

 「あぁ、いただこう。」

 食後のデザートだなと、一夏が一つを口に入れた瞬間!

 「!?!?!?」

 一瞬にして真っ青になる一夏の顔。

 「美味しそうね、私も――」

 その表情を見なかった凰が伸ばした手を、一夏は掴む。

 「セシリアは、サンドイッチだと言ったな。」

 「うん、そ、そうね。どう見ても、サンドイッチよ。」

 初めて真っ青になった顔の一夏を見た凰は、何があったのかと困惑する。

 「あれは嘘だ!」

 最後の力を振り絞り言い放った直後、一夏は倒れた。

 「一夏!繰り返します、一夏!!箒だ!返事をしろ!」

 慌てて声を掛けたが、反応はなかった。

 

 ダダダッダダダダダッシュ!

 もの凄い速さで廊下を駆ける箒と凰。彼女等は一夏を搬送していた。

 「見ろ、あの織斑君が倒れてるぞ。スクープだ!」

 写真部は急いでシャッターを切る。

 「(大佐)らしくもねぇです。サンドイッチを食ってから様子が変になった。」

 麻酔の眠りから覚めたラウラは、こっそりと情報を流す。

 「ふ~ん・・・。それどこで聞いたの眼帯さん?・・・あれ?眼帯さん・・・?」

 気が付けば、その姿は何処にもなかった。

 「黛、誰と話してんの?」

 友達は、誰かいたのと首を傾げる。

 「見ました。(眼帯した女子を)見たんです!」

 必死に訴えたその瞬間だった。

 「カカシには写らんぞ。」

 「「「!?」」」

 背後からの声に、皆が一斉に振り向いた瞬間、その女子は、目だけが・・・光っていなかった。

 ・・・原因?ラウラは銀髪+眼帯なもので。

 

 

 

 「ここは、保健室か・・・。」

 「残念だったな。クリニックだよ。」

 以前、無人機の時に運ばれたのは保健室だったため、今回もてっきりそうだと思ってしまった。

 「そうか・・・。」

 黄昏の病室。普段からは想像できないほど一夏の声は弱々しく、狭い部屋の中ですら響かない。

 「で、どんな味だったの?」

 腐っていても平気なアンタが倒れるってのはよっぽどの味だからと凰は尋ねる。

 「君は知らないほうがいい・・・。俺だって、出来ることなら忘れたい」

 「下らん、恐怖でおかしくなったか?相手は只のサンドイッチだ、どうってことはない。」

 「腐るよなぁ」

 「まったくですわ。サンドイッチ一つにこれじゃあ、大げさすぎます。」

 「大佐、何をビビってんだ。」

 いつの間にかいるラウラ。しかし、特に誰も興味を示さない。

 「試してみるか?俺が意識ほどを失うほどのサンドイッチだ。」

 大げさだの恐怖だの言うなら食べて見ろと言うが・・・。

 「いや、結構ね。遠慮させて貰うから。」

 にべもなく断られる。しかし、腐っても鯛。弱っても一夏。引き下がる訳がない。

 「・・・食えよ、鈴。怖いのか?」

 「食してやる。」

 「「えぇ!?」」

 「胃薬なんて必要ねぇ!あはははっ。腸薬にはもう用はねぇ!ふふふふっ・・・下剤も必要ねぇや、へへへへっ・・・。誰がサンドイッチなんか、サンドイッチなんか怖かねぇ!・・・野郎、セシリア製サンドイッチ持って来いやぁぁ!!!」

 すかさず手渡されたセシリア製サンドイッチを口に入れる凰。

 と、次の瞬間。

 「ウウウウウォォォ・・・オォォゥ・・・アァァ。」

 あまりに斬新で衝撃的な味に嘔吐する。

 「これで昼に食った飯も抜けるだろう。」

 「ウォエ***(自主規制)」

 「次は命がないぞ。」

 「こんなサンドイッチは、一度きりよぉォォォォ!!・・・オ**(自主規制)」

 既にまともな会話が出来ない。

 「セシリア、お前は!自分がしたことは何にも分かっていない!よくこんなサンドイッチを作ったな!」

 もう二度と料理何かするなと一夏は釘を刺す。が。

 「貴方が食べ(させ)たのですわよ!」

 「食わせたのは、手前だぜ・・・。・・・ウォ**(自主規制)」

 何故か喰わせた奴が悪いという結論に至り、一夏は立つ瀬がなかった。

 

 後日、凰鈴音は『普通の飯ってのはぁ、いいもんだよなぁ。・・・気をつけて食いなさいよ。いい飯をね。酒でも飲んで腹を消毒しな。衛生の面倒は私がしっかり見ててやるから』と語ったと言う。




「クソッ、(投稿まで)あと3時間だ」
「作Bに連絡をとってくれ。作Aと言えば分かる」
「ふへへっ、作Bだぁ? 寝言言ってんじゃねぇよ」
「ああ、眠いからな・・・もう何日もまともな睡眠取ってねえ、やってられっか!(やってるけどな!)」

MAD版18話の後書きを見返して、良く3時まで書いたもんですなぁと思う今日この頃。


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19話 美男子とマッチョマン

「繰り返す、こちら読者。作Bどうぞ。緊急事態発生」
「最新話未確認読者に告ぐ。こちらは港湾労働くm・・・違った、只の・A・カカシです。君等は腹筋の強化(トレーニング)区域を横切っている。ただちに読み進めないと(腹筋を)撃墜する。聞こえるか!」
「緊急! 繰り返す、緊急! ただちに作Bに連絡されたし」
「まず腹筋を鍛えよ。さもないと撃墜するぞ。聞こえるか!」
「脅しじゃないわ、連中本当に(次話を)撃ってくるわよ。他作品からの読者はみんなここを避けてるわ」
「鍛える時間はあるか?」
「相手はISの帝王なのよ?コメントを書けば返信に時間を割いてくれるかも・・・。」
「よし、行け!」


 夜、1025号室には、シャルルだけがいた。

 「あ、おかえり。」

 一夏が保健室から帰ってこなかったので、今夜は1人かなと思っていたところへ一夏が帰室する。

 「誰だ?・・・シャルルか。」

 まあ、そうだろうなと呟く。

 「うん、先生に同じ部屋だって。それより、織斑君。大丈夫だった?」

 「あぁ、今は何とか。」

 とは言っているが、壁を伝いながら何とかといった感じである。

 「お風呂準備してくるよ。待ってて。」

 「いや、調子が悪いんだ。とてもじゃないが入れない。・・・着替えたら、今日は休ませてくれ。」

 午前中の一夏とは全く別人どころか、病気を患い弱り切った人のようになった彼を見て、シャルルの心配は増すばかり。

 「ほ、本当に大丈夫なの?」

 「安心しろ。変なものを食べただけだ。食中毒とかじゃない。」

 「いや、変なものって十分ヤバイよ!?」

 「寝れば直る。」

 「」

 何処のおばあちゃんの知恵だと突っ込みたくなるが、そこは堪える。

 「じゃ、おやすみ。」

 病院着のままここに帰ってきたので、一夏はそのままベッドに入った。

 「うーん。いいのかなぁ・・・。」

 その姿を見ながら、不安が増すシャルルであった。

 

 

 

 「一夏!起きてるか!?」

 もの凄い大声に、シャルルは飛び起きる。

 「うわ!?何!?」

 時計を見れば、まだ朝4時半。ふと目を遣ると、一夏のベッドはもぬけの殻だった。

 「少し待て。今行く。」

 声が聞こえてきた方向。それは・・・。

 「お、織斑君、お風呂入ったの!?大丈夫なの!?」

 「安心しろ。もう直った。」

 そう言いながら、風呂場からジーンズにタンクトップ姿で現れる。

 「そ、そうなんだ。」〈早っ!昨日あんなに疲れてたのに!?〉

 無駄な気遣いはさせないようにと、シャルルは必死に表情を取り繕う。

 「じゃ、行ってくる。」

 「ど、どこに?」

 玄関へと向かう一夏に、シャルルは尋ねる。

 「トレーニングだ。シャルルも来るか?」

 「トレーニングって・・・。昨日、体壊して人のする事じゃないよ!!」

 「「体を壊したから、壊れないように鍛えるんだ!」」

 「」

 予想の斜め上どころか、全く別次元の答えに、シャルルは黙るしか他がなかった。

 「じゃ。・・・それより箒、今はルームメイトが居るから、明日からはもう少し静かに来てくれ。」

 「む、そうだな。すまなかった、デュノア。以後気を付ける。」

 「いや、いいよ。」

 その位の良識はあるんだなーとシャルルが思った直後。

 「それより、一夏。ノックしたら直ぐに返事をしてくれ。叩き疲れたぞ。」

 「・・・え?」

 ノックというフレーズに、シャルルは固まる。

 「いや、すまん。風呂に入ってたんで聞こえなかった。」

 「ま、待って!ノック聞こえなかったけど?」

 「当然だ。ここのドアは防音性能が高いからな。俺でも一枚ドアを挟めば聞き取るのは困難だ。」

 「」

 何でそんな面倒くさいものを?ドアホーンはと、シャルルの頭の中を様々な方法が飛び交う。

 「じゃあ、行ってくる。」

 そんなことも露知らず。一夏は廊下へと消えていった。

 「・・・本当に叩いたのかなぁ?」

 今ひとつ箒の言ったことが信じられないと、ドアを開けてみる。

 〈人感センサーか何か取り付けた方が良いのかな。でも勝手に取り付けたら――〉

 と、ドアの廊下側を見たシャルルは声を上げる。

 「うわ!?」〈の、ノックってこんなにドア凹むっけ!?〉

 ベッコベコに歪んだドアの表面。試しに叩いてみると、非常に堅そうな音と手応え。

 〈えぇ、こんなの凹む!?無理だよ!狂ってるよここの人達!人間じゃないわ・・・。〉

 シャルルは改めて、彼らがある意味人間を辞めていることを再認識した。

 

 それから2時間後。

 〈・・・ん、ドアが凹んだままだったか。〉「ただ今。」

 「あ、お帰り一夏。ねえドアが――」

 凹んだままなんだけどと言おうとしたシャルルの目の前で、一夏はドアに回し蹴りを入れた。

 「これで直った。」

 「えぇ!?ちょっと、余計に凸凹になるよ!」

 「自分の目で確かめろ。」

 〈直らないよ、そんな乱暴に――〉「って、えぇ!?綺麗になってる。」

 そんな方法で直る訳ないと信じて疑わないシャルルは、ただ驚く。

 「いいか、シャルル。このドアの上から4/7辺り目掛けて、蹴りを入れるんだ。そうすると、良い感じになる。いいか、よく覚えとけ。ドアとポンコツは叩けば直る。」

 聞かれてもいないのに、直し方をレクチャーする一夏。

 「む、無茶だ・・・。ま、まさか、毎朝やってるの?」

 「安心しろ。2~3週間に一回ぐらいだ。」

 「あ、それ位な・・・って十分多いよ!ドアなんて、滅多に凹まないよ!」

 その位なんだと思った自分が、何かに汚染され始めている気がして仕方がないシャルル。

 「ドアが無くなるよりマシだ。」

 「」

 以前は木製のドアだったからよくなくなっていたと付け加えられ、今のドアがどれだけ有難いかを感じるシャルルであった。

 「さて、朝飯を食いに行こう。遅刻すると、千冬姉の制裁が待ってる。」

 

 

 

 4日後の土曜日。一夏、箒、セシリア、凰、シャルルの5人は練習を行っていた。

 「えぇっと・・・、一夏達は軍人じゃないんだよね?」

 訓練中の休憩時間。彼女が、もう何度目かの質問をしてきたが、そう思うのも無理はない。何せ、彼女は初参加なのだから。

 「そうだ。・・・何で何回も聞くんだ?」

 いつもより抑えているつもりだが、何かおかしいところがあるかと逆に尋ねられてしまう。

 「いや、おかしいよ!一夏達は、一体何なのよ!・・・ああぁ!!チェーンガンを引っぱり出す、ロケットランチャーはブッ放す、僕を投げる(←根に持っている)、IS(訓練機)を強奪するのを手伝えなんて突然メチャクチャは言い出す。かと思ったら人を騒ぎに巻き込んで怪我人は出す、挙句はISを持ち上げる。本当に人間なの!?整備科が、一夏を撃とうとしたから助けたよ。そうしたら僕まで追われる身だ!一体、何なのか教えてちょうだい!!」

 「駄目だ。」

 あっさりと断られてしまう。

 「駄目ェ!?何でさ!」

 しかし、理由も無しに説明を拒むような一夏ではない。

 「アレを見ろ。」

 一夏の指さした方向にいたのは黒いIS。

 「誤魔化さないで・・・・・、あ、あれはドイツの第3世代型!」

 「私の本国からの情報では、まだ試作段階と聞いていましたが・・・。」

 やはりヨーロッパの国同士、近隣国のIS事情に詳しい。

 「大佐ぁ!調子はどんなだ?」

 そんな2人には目もくれず、ラウラは話し続ける。

 「俺は軍にいたことはないぞ。その呼び方は止せ。」

 「っふ、頑固だな。・・・ジョン!私と勝負しろ!専用機がある今、今度こそ勝ってみせる!さあ、ISを出せ!」

 「・・・俺は、織斑一夏だ。」

 まさかこんな繋がりが出来るとは思いもよらなかったと、一夏はドイツで偽名を使っていたことを後悔する。

 「まぁ、いいだろう!だが、私達『シュヴァルツェ・ハーゼ』にとって貴方は大佐でありジョンだ!」

 「今度ホラを吹いて見ろ。バラバラにして飛ばすぞ。」

 あまりに人の話を聞かないラウラに、箒がキレる。

 「ふん、剣道しか知らん女が何を言うかと思えば。滑稽だな。気に入った。殺すのは、最後にしてやろう。」

 「今の言葉、そっくり帰してやろう。」

 ヒートアップする2人。

 「ま、待って!生身の人に――」

 「ま、見てなさい。大丈夫だから。」

 慌てて仲裁に入ろうとするシャルルを、鈴が引き留める。

 「えぇ!?だって!!」

 「・・・いいだろう。今すぐ死ね!」

 慌てふためくシャルルの前で、ラウラがレールガンを放った。それは、一直線に箒へと向かい、そして・・・。

 バショッ!【0/500】

 「・・・なっ!」

 「へ?し、篠ノ之さん?し、竹刀だよね、それ・・・。」

 淀みなく振り抜かれた竹刀が、それを弾いた。

 「む、折れたか。私もまだ、鍛錬が足らんな。」

 「いや、それ物理法則越えてるから!普通、レールガンに当たった瞬間に竹で出来た物なんか木っ端微塵になるからね!?」

 物理法則云々で満足してくれる人間じゃあないです。

 「うん、確かに鍛錬不足かもね。一夏でも、ロケットランチャーぐらいなら竹刀で撃ち落とすし。」

 「凰さん!?一夏、ホント!?」

 まさかの援護射撃に、信じられないを通り越して、コイツら人間じゃねぇといった顔になる。

 「シャルルさん、一々驚いていらしたら、体が持ちませんわよ。受け流すのが一番ですわ。」

 「チェーンガンを撃つオルコットさんに言われても・・・。」

 今日の訓練でそれを使っていたため、彼女もまた人外判定されたようだ。

 『そこの生徒、何をしている!』

 突然、スピーカーから先生の怒鳴り声が響く。

 「・・・ふん。今日のところは引いてやる。大佐、また来る。」

 『学年とクラス、出せk・・・おい、そこの黒いの!何処に行く!待ちなさい。ガチャ・・・』

 去っていったラウラを追いかけていったのか、マイクを放り投げたような音がした後、放送はブツリと切れた。

 「うっさいわね、まったく。何よ、ただ遊んでるだけでしょ、あんなの。」

 「あ、遊び!?ISが生身の人間に発砲して、遊び!?」

 「シャルルさん、仕方ありませんわ。一夏さんは、私に生身で挑んできましたから。」

 「」

 それは流石に嘘でしょ、嘘と言ってよぉと、シャルルの開いた口は塞がらなかった。

 

 夕方。

 「つ、疲れた・・・。」

 そう言ってシャルルは地面に大の字に寝ころぶ。

 「さて、〆に行くか。」

 「し、〆?」

 まさかまだ何かあるのと、身構えるシャルル。

 「ランニングですわ。一夏さんと篠ノ之さんは何時も終わる前にアリーナを走られるのです。」

 「い、今から!?一週が10kmあるのに!?」

 良かった参加しなくていいんだと言う感想よりも、この時間から走りに行くことに対して驚きが先に来る。

 「そうよ。見てみなさい、もうあそこまで行ってるから。」

 「え、どこ?・・・!?速!?」

 既に4分の1を走っている。今の今までそこにいた気がするのに、である。

 「疲れていらっしゃるのかしら。普段より遅いですわ。」

 「お、遅い!?アレで!?もう、ランニングじゃないよ!ダッシュだよ!」

 「はいはい。アンタは早く慣れなさい。」

 「」

 シャルルは必死に記憶を探ってみるが、代表を含めてフランスにはあんなに体が強い人は居ない。

 こんなのが代表候補生ですらないことに、首を傾げるほかに打つ手がないシャルルであった。

 

 「あ、織斑君。ここにいましたか。」

 練習が終わり、2人が更衣室で着替えていると山田先生が入ってきた。

 「今から帰るところです。何か?」

 「はい。今月下旬から、大浴場が使えるようになります。」

 「だ、そうだ、シャルル。」

 前の一件で、山田先生は一夏がお風呂好きだと思っていたようだが、残念。特に拘りはない。

 「え、あ・・・そうですか。」

 「「??」」

 妙にテンションの下がった山田先生に、首を傾げる2人。

 「え、い、いやぁ、楽しみです。」

 「そうか、ならよかった。」

 山田先生の心情を感じたシャルルは、急いで取り繕った。

 「あ、それから織斑君。白式の登録に関する書類があるので、職員室まで書きに来て下さい。」

 普通、そっちの方が重要なのではないか?

 「そうだな。・・・先に一旦部屋に帰って風呂に入ってきてからでもいいか?」

 汗だくで気持ち悪いからなと言うと。

 「えー、職員室の鍵のことがあるので、出来るだけ早く来て欲しいのですが・・・。少々枚数も多いですし・・・。」

 力では勝てないので、申し訳なさそうにと言うよりは下手に出る。

 「そうか・・・。分かりました。シャルル、そう言うことだ。先に帰っていてくれ。」

 まあ、良いだろうと、一夏は山田先生について行くのだった。

 「う、うん。分かった・・・。」




「読者の腹筋を割るのは、薄いガラスを割るようだぜ」
「・・・ネタは(コマンドーに)絞ってろ。その文章(状況描写)も閉じとけ。・・・あ、これ小説版だった。」


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20話 美女と筋肉

「最新話に置いてかれるぞ。とばせ!」
「ワッハッハッ!」
「いいぞ」
「どうしてこんなことするの!?」
「一口では言えん。とにかく読め」
「無理よ、そんなの、読み始めてまだ五行と経ってないのよ」
「・・・6行目だな。」


 〈はー・・・。疲れた・・・。あ、そうか。一夏は暫く帰ってこないし、シャワーでも浴びてこよう。〉

 一足先に自室へと戻ってきたシャルル。どうせ一夏は時間が掛かるからと、先に風呂にはいることにした。

 

 

 

 「はい、以上で終わりです。」

 その僅か10分後、職員室で一夏は面食らっていた。

 「・・・これだけか?」

 大量に書類があると聞き、身構えていたのに拍子抜けだ。

 「はい、そうです。お疲れ様でした。」

 「何で、今日なんだ?明日の昼休憩でも出来るのに。」

 「私の机の上がスッキリするからです!」

 完全に自分の机の上を綺麗にしたかっただけじゃないか。

 「ふざけy「あぁ、山田先生。よかった。この書類を頼m・・・一夏!?」・・・ふざけやがってぇ!!」

 自分の仕事を人に押しつけるとは何事だと、二重に一夏の怒りは爆発する。

 「ま、待て、今日はまだ酒を飲んでない!!」

 ズドドォオンッ!【31/20000】

         【5/3000】

 クーゲルシュライバー・ドイツ・ヴェルフェン

 訳:ボールペン2本(ニッポン)投げ

 「これで腐った思考も抜けるだろう。」

 そう吐き捨て一夏が職員室を出ると、鍵当番の先生と出くわした。

 「まだ、誰か中にいるのか?」

 「死体だけです。」

 死体と聞き慌てて中を確認。そして、力一杯ドアを閉めた。

 「よし、施錠しよう!」

 「(手間を取らせて)すまないと思っている。」

 こうして、織斑千冬の本日の晩酌はお流れとなった。

 

 2分後、一夏は自室に辿り着いた。

 「ただいま。・・・いないのか?」

 なら一っ風呂浴びて汗でも流そうと思ったところで浴室から水の流れる音が聞こえ、シャルルが先にシャワーを浴びていることに気付く。

 

 待つこと20分。

 風呂のドアが開き、タオルを体に巻いたシャルルが出てきた。

 〈ふー、サッパリした。〉

 シャルルはタオルを巻いた状態で現れた。それを見た一夏は。

 「良い胸筋だ。何処で鍛えた。」

 「え~違うよ。これは胸筋じゃなくて、○首d・・・・・、って、えぇぇぇぇぇぇ!?い、いつ帰ってきたの!?」〈し、しまった・・・。こんな格好を見られたら・・・。〉

 こんなに早く帰って来るとは思ってもいなかったため、シャルルはつい気がゆるみ着替えを中に持って行くのを忘れていた。

 こんな結末を迎えるなんて、悔やんでも悔やみきれない。

 「シャワーは終わりか?よし、ひとっ風呂浴びてくる。」

 〈ど、ど、どうしよう・・・。〉

 この手の話になると、途端に一夏は勘が鋭くなる。ここで消されてしまうのか・・・と思っていたのだが。

 〈・・・え?無視!?〉

 一夏はシャルルの前を素通りし、浴室に消えていった。

 

 『あ!!』

 「!?」

 5分後、浴室から聞こえてきた声に、シャルルはビクッ!っと身を震わせる。

 直後、脱衣所のドアから険しい表情をした一夏が顔を覗かせ一言。

 「シャルル、すまないがタンスの中から石鹸を取ってくれ。」

 何で石鹸をタンスに仕舞うんでしょうか?

 「え?あ、いいよ。・・・はい。」

 「ありがとう。」

 受け取ると、いつもの笑顔を見せ直ぐに戻っていく

 「・・・。」

 わざとかなと思いつつ、椅子に腰を下ろそうとしたその瞬間。

 『あ!!』

 「!?」

 再び声がし、またビクッ!ッとなる。

 「シャルル、タオルを落とした。すまないが、棚からタオルを出して貰えないか?」

 何故タオルを棚に仕舞う。普通、タオルと石鹸逆でしょ。

 「あ、いいよ。・・・はい。」

 「ありがとう。」

 やはり、何も気付いていないのか、何事もなく戻っていった。

 「・・・。」

 

 その3分後、タオルを腰に巻いた状態で脱衣所から出てくるなり一言。

 「なあ、シャルル。今、体を拭いていて気が付いたんだが、お前のこの辺り・・・に付いているのは胸筋ではなく鈴にはないアレか?(・・・ん?)」

 胸筋をピクピクさせ、ここだぞと位置を誤魔化せないようにする。

 にしても遅すぎである。

 「り、鈴?あ、凰さんか。・・・そ、そうだよ。」

 「ならいいんだ。」

 それだけ言うと、服を着るために脱衣所のドアを閉める。

 「・・・何がいいの!?」

 その叫びと同時にドアが開き、中から一夏が現れる。

 「あー、サッパリした。よし、シャルル。飯食いに行こう。」

 「あ・・・、いや、待って!」

 女性のアレをコルセットで押さえつけてない今、出られないと目で訴えると・・・。

 「冗談だ、安心しろ。誰にも言わん。異性への擬装は、諜報の世界では古くから行われてきた。それを分かっているとは、デュノア社、やっぱり大したもんだよ。(・・・んん?)」

 「流石だね一夏。その通りだよ・・・。」

 何だ分かっていたのかと、ちょっぴり安心する。

 「目的は、これだろう。」

 そう言って一夏は、服越しにでも分かるように胸筋をピクピクさせる。

 「ち、違うよ!そんなもの・・・いや、そんな言い方は失礼なんだけど、違うよ。僕が指示されたのは――」

 「あぁ、(こっち)か。」

 よく、ボディービルダーの大会で取るようなポーズを取る一夏。(*お好みのポーズで回想して下さい)

 「だ か ら 違うって!!」

 「ん、そうか。やはりこれだったか!」

 デェェェェェェェン!

 何処から出したのか、ロケットランチャーを肩に掛ける。

 「全然違う!!」

 一向に話を切り出す間を貰えないシャルル。

 「・・・じゃあ、これか?」

 そう言って取り出したのは革で出来た四角い何か。

 「・・・何それ?」

 「織斑千冬の(縫い合わされた)財布だ。」

 何であなたが持ってるんですかねぇ。

 「い、一夏、ふざけてるの?」

 こめかみが自然とピクピク動くシャルル。

 「あぁ、そうだ。」

 一夏は真顔で返す。

 「はぁ・・・、僕が指示されたのは、白式のデータを盗んでくることだよ。」

 分かってくれないから言うよと、シャルルはスパイに来たことを明かす。

 「この近接だけが取り柄の欠陥機(ポンコツ)だろ?くれてやる。」

 自嘲気味に笑ったかと思うと、待機状態の白式をシャルルに向け投げる。

 「!?わ、わ、わ、わぁ!!」

 慌てながら、何とかキャッチする。

 「それに、防弾チョッキの方が動きやすいしな!」

 防弾性はいいが、そいつは重くてかなわんと付け加える。

 「だ、駄目だよ!持って帰るのはマズイんだ!それに、学年別トーナメントはどうするの!?」

 「冗談だ。俺もそれぐらい分かってる。」

 シャルルの手から白式を回収し、普段身につけている場所へと戻す。

 「安心しろ、IS学園(ここ)なら、外部から干渉(物理は除く)されることはない。」

 「・・・え?」

 おもむろに発された言葉に、シャルルは耳を疑う。

 「特記事項第21だ。覚えてないのか?今すぐ見ろ。」

 「あ、うん。」

 急かされるように、生徒手帳を開くシャルル。

 「・・・成る程。凄いね一夏は。55個全部覚えてるの?」

 「当然だ。・・・何がおかしい?」

 突然、泣きながら笑い始めるシャルルに一夏は怪訝な面持ちになる。。

 「いや、だって一夏、何時も筋力にものを言わせて押し通してるのに、こんなことを覚えてるなんて。ギャップが凄いよ。」

 「2ヶ月もいれば、覚えられる。難しいことじゃない。」

 一夏は脳筋ではあるが、頭脳は明晰。舐めて貰っちゃ困る。

 「・・・誰か来る。」

 しかし、次の瞬間には一夏の表情が真剣その物になった。

 「え?」

 気が付くと、シャルルの体は宙を舞い、ベットへと墜落した。

 反動で咽せるシャルル。

 「静かにしてろ。」

 その直後、ドアチャイムが鳴り、返事を待たずしてドアが開く。

 「一夏さん、いらっしゃいますか?入りますわよ?」

 『入りますわよ?』じゃなくて、『入ってますわよ!』では?もう入ってるしな!

 「セシリアか。何のようだ。」

 急いで玄関まで走る。

 「一夏さん、夕食は摂られましたか?」

 どうやら夕食のお誘いのようだ。

 「いや、まだだ。」

 これなら中に入ってくる心配はないと、一夏は胸をなで下ろす。

 「そうですか。よろしければご一緒しませんか?」

 「あぁ、いいだろう。」

 ふと、部屋の中が静かなことにセシリアは違和感を覚える。

 「あら?シャルルさんは?」

 「セシリア、頼みがあるんだが、シャルルを起こさないでやってくれ。今日の訓練で死ぬほど疲れたんだ。」

 「まぁ、そうでしたか。では、仕方ありません。私達だけで向かいましょう。」

 その言葉に疑いを持たれないためには、このまま食事に出かけるのが良いのだが、それには一抹の不安を覚えた。

 「あぁ・・・、ちょっと待ってくれ。靴が違うんだ。」

 「はい、分かりましたわ。」

 とっさに思いついた言葉を言い、部屋の奥へと行く。そして、セシリアに聞こえないよう、小さな声でシャルルに話し掛ける。

 「・・・シャルル、これ以降返事はするな。動くんじゃないぞ。誰か来ても、無視で良い。いいな。・・・・・待たせた。」

 新品の草履を履き、再度セシリアの元へと戻る。

 「では、行きましょう。」

 ドアに鍵が掛かったことを聞き、シャルルはひっそりと呟いた。

 「優しいね、一夏・・・。」

 

 沈黙が破られたのは30分後。

 ガチャ、バン!

 ドアの鍵が開くのと同時にドアが開く。

 「!?」

 「おい、一夏、デュノア!いるか!?チーズとペパロニのグッチョ美味いピッツァを作ってきたぞ!激旨だでぇ!」

 入ってきたのは箒だった。合鍵で入ったのだ。

 「・・・。」

 シャルルはと言うと、布団の中で動かないことを心懸けていた。

 「む、しまった。デュノアが寝ていたのか。起こすところだった。・・・また明日会おう。」

 そう言うと、箒は足音一つ立てずに部屋から出て行き、鍵を掛けた。

 〈怖っ!何ここ!〉

 箒が帰った後の部屋で、シャルルは1人震えた。

 

 その30分後、セシリアに付いて、一夏が夕食に出かけてから1時間後。

 「シャルル、出てきていいぞ。」

 一夏が帰ってきた。

 「・・・なんだこれは?・・・ピザ?」

 中身を見て、ピザ?はないだろ。ピッツァだ。これだから筋肉は。

 「あ、一夏おかえり。それは篠ノ之さんが持ってきてくれたペパロニ?のピッツァよ。」

 「確かにペパロニだ・・・。!?ばれなかったか!?」

 まずそこを一番に考えようか。

 「うん、話し掛けられなかったよ。」

 「ならよかった。・・・そうだ、シャルル。今、カタツムリを捕まえてきたんだが、食べるか?」

 フランス料理にもあるだろうと差し出したが。

 「食べないよ!エスカルゴじゃないし!それデンデンムシだし!(怒)第一、エスカルゴ嫌いだし!」

 怒られてしまった。

 「そうか、違うのか。じゃ、捨てよ。」

 そう言うと、窓を開けカタツムリを投げ捨てる。

 『ウーワァァァァァッァァ!!』とカタツムリは叫んだが、誰も助けには来てくれなかった。

 「待ってろ、今(ピッツァを)暖める。」

 石鹸で念入りに手を洗い、ピッツァを電子レンジに入れる。

 「ありがとう。」

 チン!

 「どうぞ。」

 そう言って、テーブルの上に置く。

 「いただきます。・・・ん!美味しい!イタリアのと味は違うけど、美味しい!篠ノ之さん、凄い!」

 フランスの方にも好評のようだ。

 「よかったな。」

 シャルルの晩飯をどうしようかと考えていたところだったので、助かったよと心の中で箒に礼を言う一夏だった。

 

 後にあのカタツムリは、セシリアに料理されたとかされなかったとか・・・。(なってたら恐怖)




・・・なぁに?
プッ・・・腹筋はどこだ?
バスルームよ
・・・お前は?
寝るだけ腹筋アンダー核


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21話 敵が変わる人達

作Bと話していて気が付いたこと。
シュヴァルツェ・ハーゼ
シュヴァルツェ
シュヴァルツェネッガー
アーノルド・シュヴァルツェネッガー
アーノルド・シュヴァルツェネッガー・ハーゼ隊←クッソ強そう。


 休憩時間。トイレ帰りの一夏は、速歩きで教室に戻っていた。

 〈くそっ、何でトイレが近くにないんだ・・・。〉

 まあ、トイレが近い(頻尿)よりはマシだろうと考える。

 〈これは・・・。〉

 ふとその道中、良く知った2人の話し声が聞こえてきたため、足を止め辺りを見回す。

 「教官!何故こんな所で教師を!大佐もです!」

 「ラウラ、何度も言わせるな。私は教官ではないし、一夏も大佐ではない。それに、日本で静かに暮らすつもりだからだ。ま、ドイツの軍より賑やかなことは否定しないがな。」

 声がしたのは、廊下の曲がり角の先。そっと覗いてみてみる。

 と、そこで話していた1人はラウラ、もう1人は織斑千冬だった。

 「あなた方は、こんな極東の地に何の役目があるというのです!」

 考えを変えてくれない織斑千冬に、ラウラは思わず口調がきつくなる。

 「何もない。」

 この道を通らなければ教室に戻ることが出来ない。何より、ラウラの言うことを聞いていられなくなった一夏は話に割り込む。

 「大佐!!・・・お願いです。教官、大佐。我が隊、シュヴァルツェ・ハーゼにもう一度ご指導を!ここにいては、あなた方の能力は生かされません!」

 「「何故だ?」」

 時間を掛けていると授業の開始が遅れてしまう。ここは2人で圧力を掛けて引かせようとする。

 「!!この学園の生徒は、皆カカシです!あなた方と釣り合う人間ではないのです!ISをファッションか何かと勘違いしているカカシ如きに、あなた方の時間を割くだけ無駄だ――」

 「それ以上喋ってみろ。口を縫い合わすぞ。」

 お前は誰に向かって口を聞いているのかと睨み付ける。

 「きょ、教官、わ、わt――」

 ドイツ軍時代の名残から、つい教官と呼んでしまう。

 その瞬間、織斑千冬は出席簿でラウラの頭を叩く。

 しかし、それは減らず口を叩いたからではない。彼女もまた、ドイツ軍時代の名残で、時と場合(戦場)においては呼び間違いは命取りになると教えていたためである。

 「教官ではない。先生だ。・・・授業が始まる。さっさと教室へ戻れ。」

 「ま、まだ話g――」

 ドベキシ「オフゥイ・・・。」【1/8000】

 まだ諦めが付かないラウラを一夏が絞める。途中で目を覚まさないよう、けれど死なないよう慎重に、そして30分程度の記憶が飛ぶように。

 「子ウサギを黙らせるには、この手に限る。」

 グッタリとしたラウラを担ぐ一夏。

 「すまん、一夏。」

 何時になく弱気な織斑千冬。一度時計を見てから、織斑千冬へと視線を戻す。

 「・・・気にするな。遅かれ早かれ、けじめを付ける必要があった。その時期が近付いてきただけだ。シュヴァルツェ・ハーゼに俺達の良い印象を植え付けすぎた。ラウラの今の発言だって、俺達のせいだ。」

 「あぁ、まったくだ・・・。」

 葬式みたいな空気が、2人の間に流れる。

 「・・・織斑、時間がない。急いで教室に戻れ。()()()走るなよ。OK?」

 「あぁ、分かっている。」

 互いがニヤッと笑い、次の瞬間、一夏は教室に、織斑千冬は職員室へと校舎の壁を走っていった。

 

 

 

 ――とな・・・で、・・・です。・・・・・います。」

 〈・・・んん。・・・!!〉

 山田先生の声に目を覚ます。慌てて時計を見ると、授業開始から20分が経過したところだった。

 〈い、いかん。私としたことが。教官は・・・、教官と大佐と何か話していた気が・・・。いや、思い違いか・・・。〉

 何時から寝ていたのだろう。その前に、何故寝ていたにも拘わらず教官は叩かなかったのだろうと、首を傾げすぎて首を捻挫するラウラであった。

 

 

 

 放課後、一足先に第3アリーナに付いた凰とセシリア。

 「やっぱり、一夏達が居ないとアリーナが静かね。」

 「えぇ、そうですわ。慣れたと言っても、やはり毎日、あの2人がいては、気が休まりませんわ。」

 こういう日もないとやっていられませんと言っているが、十数分後にはここで合流する予定である。

 「それにしても・・・静かね。」

 意味ありげに静かという凰。

 「えぇ、よく音が聞こえますわ。例えば、こちらに照準を合わせている音とか。」

 刹那、アリーナに響く発射音。2人はそれを華麗に受け流す。

 「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・。ドイツ軍の子ウサギがあたし等に、何の用?」

 筋肉くさいのが来たわねと、凰は溜息を吐く。

 「中国の甲龍、英のブルー・ティアーズ・・・。っは、データで見た時はどれ程強いのかと思ったが、実物はEOS並だな。」

 見下した、いや、2人より高い位置にいるので見下ろしながらそうぼやく。

 「はぁ?何言ってんの?カタログスペックなんて、下駄履かしてるからスペック高くてなんぼでしょ?」

 「その程度のこともご存じないなんて、ドイツの軍はさぞかし世間を知らないのですわね。あ、失礼いたしましたわ。ドイツは完璧主義ですから、誤魔化すことなどなさいませんものね。」

 皮肉を言ったつもりが、自虐で返されてしまう。

 いや、自虐というと語弊がある。織斑一夏と言う存在に慣れた今、正直カタログスペックですら全く持って物足りないように感じているのだから。

 「ふん、口の利き方を覚えるんだな。しかし、まあ数が取り柄の国と、古いだけが取り柄の国にはトーシローしか居ないようでがっかりだ。」

 「そですわね。私もISトーシローに負けてることですし。」

 「全くだわ。って言うか、織斑筋に限界ってあるのかしら?」

 思うように挑発に乗ってくれない相手に、ラウラは苛立ちを覚える。

 「どうした、来いよ!まとめて倒してやるからな!」

 「セシリア、じゃんけんしよ。勝った方が練習後にジュースおごり。いい?」

 「えぇ、良いですわ!」

 しかし、2人は依然としてそれを聞く様子がない。

 「は!舐められたものだ。2人がかりで掛かって来いと言ってんだ!さあ、ここに居るぞ!」

 「「最初はグー。」」

 「聞けぇ!」

 それでも相手にして貰えない。仕方なくレールガンをぶっ放すも、またしても躱されてしまう。

 「「じゃんけんPON☆!」」

 それも、関係のないじゃんけんを続けながらである。

 「っく!コケにしやがって!」

 思わず声が漏れる。

 「あぁ!負けちゃった。・・・何で金持ちってジュースおごりのじゃんけんで勝つのかしら。」

 「おほほほほ、そんなこと私は存じ上げなくてよ!では、後でごちそうしていただきますわ!」

 悔しがるラウラの前で、ふざけて舞うセシリア。

 「怖いのか中国?」

 何とか2人まとめて片付けたいラウラは、こちらに興味を向けさせようと挑発を続ける。

 「怖がってんのは、アンタでしょ?ラウラ・・・何とかウサギ隊長。」

 「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!2人まとめて掛かってこい!」

 「面倒くさいですが、仕方ありません。先程からうるさくて堪りませんわ!この騒音は、手に負えませんので、鈴さん。2人で行きましょう。」

 「OK。」

 渋々といった顔で挑発に乗ってやる凰とセシリア。2人は、息を揃えて飛び立った。

 

 ドン、ビシューン!【6011/8000】

 「っく!!」

 五分後、結果から言うとラウラは手も足も出せないでいた。

 「あらぁ!?先程までの威勢はどちらに?」

 「止めなよ、セシリア。みっともないから。所詮ウサギよ。」

 ふざけながら戦闘を続ける2人。

 「ふざけやがって!来い、ポンコツ!」

 引くに引けないラウラは、強がってみせる。しかし、それが意図せずしてラウラに味方する。

 「お黙りなさい!まな板!」

 セシリアのこの失言で曲面は一変した。

 ドゴン!【26000/27000】

 背中にズドンと言う衝撃を受ける。凰に衝撃砲を打ち込まれたのだ。

 「な!り、鈴さん?何を!!」

 「ふふふふ・・・。誰がまな板、貧○だぁ!?」

 「あ、貴方に言った記憶は・・・、っく!!」

 凰の、ただの自意識過剰に過ぎないのだが、こうなっては止める術はない。

 「ハッハッハ!よくも言ってくれたな!イギリス!」

 「キャァァァァー!」

 狂った鈴は、一方的にセシリアを打ちのめしに掛かった。

 

 「り、鈴さん!落ち着いて下さいませ!」

 「地獄へ堕ちろ!巨*!」

 いくら謝っても、凰は聞く耳を持たない。

 ドン!【1200/27000】

 「っく!」

 しかも、あの失言以降、やけに動きに切れがあり、攻撃一つ一つの重さ、速さ共に一流のそれだった。

 「良い働きだったぞ。中国。」

 ドン、ドン、ドゴゴォン!【1100/16000】

 突如、凰を強い衝撃が襲う。

 「っな、小ウサギ!アンタ、裏切る気!?」

 途端に冷静になる。そして、ラウラを怒鳴りつける。

 「裏切る?手を組んだ覚えはないぞ!」

 お前が勝手にやっただけだと、あざ笑いながら凰と弱ったセシリアに先程までのお返しをお見舞いするラウラが、そこにいた。

 

 

 

 〈賑やかだな、一夏達、もう始めてるのかな?〉

 丁度その頃、アリーナの観客席入り口付近を歩いていたシャルルは、中から聞こえてきた音に、時間に遅れたのかなと思い時計を見る。

 「シャルル、良いところにいた。今から特訓をしようと・・・。賑やかだな。見てみるか。」

 「・・・い、一夏あれ?」

 てっきり一夏が中で暴れ回っているものばかりだと思っていた彼女は困惑する。そんなシャルルを放ったまま、一夏は観客席に入っていく。それに付いて行ってみると、そこにはセシリアと凰を手玉に取るラウラの姿が。

 「鈴、セシリア。・・・ラウラに負けるようでは、話にならんぞ。」

 「い、いや、そんな呑気なこと言ってる場合!?」

 「安心しろ、怪我は寝れば――」

 「直らないこともあるから!急いで助けなきゃ!」

 「必要ない。」

 焦るシャルルと対極の一夏。

 「何で!」

 どうしてそんなに落ち着いていられるのだろうと思っていると。

 「見てろ。」

 そう言って、懐から何やらアンテナの付いた四角い箱のようなものを取り出す。

 「何それ?」

 「スイッチだ。」

 「スイッチ?」

 「あぁ。」

 何のとは聞かない。どうせ、ロクなものでないことは分かりきっている。

 「・・・どうするの?」

 「押す。・・・・・行け!」

 チュドォォォォォォォォォォン!【12000/15000】

                【2213/8000】

 「!?」

 行けと言うから何か飛び出すのかと思えば、まさかの爆破。アリーナの内部で爆発が起こるなんて思っても見なかった。

 「・・・クレイモアにしてはイマイチだな。」

 眉間にしわを寄せ、性能に辛口評価を下す一夏。

 「い、イマイチ!?オーバーキルだよ!!グランド凹んだし!!って、言うか、何時の間に仕掛けたの!?」

 「あれは、シャルルの来る前のことだ。知らなくて当たり前だ。」

 「いや、だから何時!?」

 知っている知っていないは関係ないと、シャルルは詰め寄る。

 「このアリーナでの授業で、俺がグランドを凹ませた。その時、かさ増しするのに。」

 「一夏は、テロリストか何か!?普通じゃなくても、かさ増しに火薬は使わないよ!」

 「俺が見間違えたんだ。袋には砂利って書いてあった。だが、正確には砂利型爆弾だった。気が付いた時には埋めた後で、掘り起こすのは無理だったんだ。」

 知らなかったんだから仕方がないと言い返したが。

 「だからって埋めっぱなしはマズイよ!」

 スイッチで発破する火薬なんだから、誤作動で起爆したらどうするのと詰め寄る。

 「大丈夫だ、今ので使い切った。」

 「そう言うことじゃないよぉ・・・。」

 勿論、一夏だって埋めっぱなしが危ないのが分かっている。何故、言わなかったかって?言っても取り合って貰えなかったからです。

 「説教なら、後で聞く。見ろ、ラウラが引く。鈴とセシリアを助けに行くぞ。」

 早く助けようと言ったのはお前だぞと、シャルルの手を引っ張りアリーナの中へと向かうのであった。

 

 




コイヨコイヨコイヨ・・・MADになぁ!作Bが待って(MAD)るぜ!


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22話 ただの打ち身ですな(大嘘)

私を覚えているかね、読者?
いいや。
作Bだ(汗&大嘘)。
残念だったな。
作A、君は国外追放だ。
えぇぇぇ!?

*某MAD動画より引用


 第3アリーナへと救助へ向かう一夏とシャルル、そして観客席からアリーナまでの間で合流した箒。

 「大丈夫か?鈴、セシリア。」

 駆け寄り声をかける。

 「・・・ッう、・・・い、一夏・・・。」

 「だ、大丈夫でs・・・ッウグ!」

 痛みにより返事もままならない。かなり酷くやられており、自力はおろか、抱えての搬送もリスクがあると判断する。

 「無理に動くな。・・・担架を取ってこなくちゃ。」

 「私が行こう。お前がいた方が良い。」

 「ぼ、僕も行くよ篠ノ之さん。」

 「頼む。」

 2人はと言うより、箒がシャルルを引き摺りながら走って担架を取りに向かう。

 「ら、・・・ラウラは?」

 苦しそうな声。

 「退いた。」

 出来るだけ聞き取りやすいよう、短い返事で返す。

 デェェェェェェェン!

 「ラウラぁ!どこだ!!」

 とそこへ現れた織斑千冬。効果音が一緒?いえ、こっちが本家です。

 「千冬姉、もう奴は帰った。それから、ここには怪我人がいるんだ。静かにしろ。」

 「」

 悪いことをしたなと、ゴメンのポーズを行う。

 「おい、一夏!持ってきたぞ!」

 超高速で担架を取り戻ってきた2人。

 一夏がどうもというと、シャルルが僕は足手まといだったな・・・。と項垂れていた。

 「箒は、俺とセシリアを。シャルルと千冬姉は鈴を頼む。」

 しかし、落ち込んでいる間も惜しい。シャルルを励ますことは後回しにし、急ぎ指示を飛ばす。

 よし任せ解けと、シャルル以外異常なまでに足音のしない患者搬送が始まった。

 

 一時間後、保健室には元気に騒ぐ凰とセシリアの姿があった。

 「別に、最初からやられっぱなしだった訳じゃないからね。」

 「そうですわ。鈴さんが仲間割れをしたせいです!」

 「な!あんたがいらないことを――」

 口論に発展しかけたため、箒が2人の傷口を突く。もっとも、彼女の突くは、刺すに近いかも知れないが。

 「「ウギッ!!」」

 変な声を出し、枕に顔を埋める2人。

 「今度余計に騒いでみろ。傷口をぶっ叩くぞ。」

 「し、篠ノ之さん、厳しいね・・・。」

 「ふん、自業自得だ。」

 大人しくしておけば、箒に突かれることもなかったのだから当然と言えば当然である。

 「そのくらいにしてやれ。・・・しかし、ただの打撲程度で済んで良かった。」

 「そのくらいだったら寝れば直るって言うんでしょ。」

 「・・・何で分かった。」

 まさかシャルルに言おうとしたことを先に言われると思っていなかったため、思わず聞き返してしまう。

 「僕も、伊達に一夏と同じ部屋で生活してるわけじゃないからね。」

 そもそも、怪我と体調を崩したら早く寝ろって何時も言ってるからと付け加えると、一夏は『そうか。』とだけ言って、途端に黙った。

 「・・・!何か来る。それも集団だ。」

 だだし、ただ黙ったわけではない。彼の耳が何かを捉えた。無論、箒もである。

 ・・・ドッドッッドッドドドドド!ドーン!【0/2000】

 飛び散る(ドア)ガラス、吹っ飛ぶドア!アルミの枠組みだけは、辛うじて難を逃れる。

 「わぁ!?ど、ドアが!!」

 こんな派手な飛び方するのと、信じられない表情のシャルル。

 「「「織斑(デュノア)君!!私とペアを組んで!!」」」

 そんなシャルル(とドア)にはお構いなしに、雪崩れ込んできた生徒達は紙を店ながらそう言った。

 「駄目だ。」

 即答。それも、紙を見るまでもなく。

 「「「駄目ぇ!?何で!?」」」

 ここは保健室だから静かにしろと言うよりも、さっさと退散して貰った方が結果的に静かな時間が長くなると考える。

 「シャルルと俺が組むからだ。」

 「「「何だ、なら仕様がないね・・・。他の女子と組まれるよりましだし。」」」

 「!?」〈他の女子って、もしかしてばれた!?〉

 乱入してきたときにデュノア君って言っていたが、宙を舞うドアに気を取られており聞こえていなかった。

 「「「じゃーね、織斑君!シャルル君!また明日!!」」」

 挨拶こそ空元気で元気のい挨拶をしたが、一度後ろを向けば、残念とばかりにトボトボと保健室から出て行く。

 〈あ、ばれてないみたい・・・じゃなくて!〉「ま、待ってみんな!ドアを直して――」

 シャルルが言い終わるよりも早く、敏感に発される言葉を予測したのか蜘蛛の子を散らすように散っていった。

 「逃げ足、速っ!」

 これが織斑組合員の実力なのかと、別の意味で関心したシャルル。

 「・・・・・このドアはもう駄目だ。」

 ドアが壊れると言うのはかなり大事なのだが、一夏はドアを壊されまくったせいで、それに麻痺してしまっていた。おまけに、一瞥するだけで使用の可否が分かるようになってもいる。

 「一夏!幼なじみでしょ!私と組みなさい!!」

 「い、一夏さん!ここはイギリスの代名詞、セシリア・オルコットと組むべきですわ!!」

 ここぞと言わんばかりに、痛みを堪えて猛アピールを始める怪我人。

 「それは無理だ。」

 しかし、あっさりと振られてしまう。

 「無理!?何でよ!」

 「そうですわ!説明を要求します!」

 一夏が訳を言おうとした瞬間、吹っ飛んだドアに驚くこともせず入ってきたのは。

 「お二人のISですが、ダメージレベルがCを超えています。ここで無理をすると、後々、重大な欠陥に繋がることもあります。急速も兼ねて、今回の出場は認めません!」

 山田先生であった。その手には、2人の待機状態のISが乗せられている。

 「俺はシャルルと組むからだ。」

 そんなこと何かが、ペアを組まない理由じゃないと一蹴する。

 そして、専用機がないなら量産機を使えばいいだろと言った時だった。

 「「それは、候補生のプライドが許さない(ですわ)!!」」

 口ではそう言っているが、専用機を壊したことへの後ろめたさの方が大きい。それに、専用機と量産機では勝手が違うので、慣れていない機体で戦って負けるのが怖いだけだったりもする。

 「ま、しょうがないわね。」

 「えぇ、まったくですわ。」

 強がって見せる2人だったが、威厳の『い』の字も見当たらない。

 とは言え、この辺りはISトーシローの一夏には分からないところなので、えぐってやらないことにした。

 「山田先生、一つ質問があります。」

 「はい、デュノア君。何でしょう。」

 「先生は今、二人と仰いましたが、ラウラさんは含まれていないのですか?」

 一夏にやられたのだから、彼女の損傷も相当の筈ですと尋ねるが・・・。

 「ボーデヴィッヒさんですか?いえ、何も聞いてませんが・・・。」

 まさかの情報無し。まさか、どこかで倒れているのかもしれないと思い始めた瞬間、思いもよらない事実を告げられた。

 「あいつは、必ず出る。」

 一夏は、あっさりとそう断言する。

 「「えぇ!?あの状態で!?」」

 バシーン!!バシーン!!【1102/1600】

             【1057/1500】

 今度は竹刀で打ち抜かれる。それも、力いっぱいのフルスイングで。

 「よ、容赦ないね・・・。」

 「我慢した方だ。」

 私が織斑千冬なら、あと3回、それも傷口を叩いているだろうと告げる。

 「・・・続けるぞ。これが何か分かるか?」

 そう言って取り出した幾つかの破片。それを2人の前に出して見せると。

 「「これは甲龍(ブルー・ティアーズ)の装甲じゃない(ですわ)。」」

 すぐに何であるのかを理解する。

 「あぁ、そうだ。さっきグラウンドを探してきたが、これ以外に破片は見つからなかった。」

 「じゃあ、イマイチって言ったのも・・・。」

 「そうだ。IS相手では、あの程度の爆破はただのクラッカーにしかならん。」

 あれだけ大きなクレーターをこしらえても傷一つ付かないと、一夏はISのすごさに脱帽する。

 「生身で私に立ち向かった方に言われても、説得力ありませんわ!」

 「イギリス、アンタもやったじゃない。」

 「あ、あれは篠ノ之さんに渡されたからですわ!」

 バゴゴォォォン!!【1004/1600】

           【857/1500】

 「「ヒグッ・・・。」」

 今度は傷口を叩かれた。

 「次は、セシリアのサンドイッチだからな。」

 そして、あまり騒ぐようだったらベッドから起きられないようにしてやると言い残す。

 「・・・まだあったのか。」

 「あぁ、冷凍保存してある。」

 呆れ気味に聞く一夏に、箒は出来ればセシリアにも是非食べて欲しいからなと返す。

 「それっておいしいですか?」

 何も知らない山田先生は、それを体力が回復する何かと勘違いしたようだ。

 「・・・食べてみるか?」

 「「「・・・。」」」

 黙り込んだため、流石の彼らでもこれをお勧めするのは憚られるのかと思っていると。

 「い、いえ、嫌な予感がするので遠慮しておきます。」

 「怖いのか?山田先生。」

 「勿論です!!相手があなた達ですから・・・。」

 意外と本気で食べさせに来ていると悟り、必死に否定するのであった。

 

 

 

 夜。1025号室では、一夏とシャルルが話をしていた。

 「一夏、さっきの話は本当なの?」

 「あぁ、本当だ。」

 「でも、僕なんかじゃ一夏の足手まといに・・・。」

 ここに来て一週間にも満たないが、シャルルはメンタル・・・と言うよりも自信をほぼ喪失していた。

 「安心しろ。シャルほどの技術があれば、俺の足手纏いになることはない。」

 慰めではない。ISの操縦なら、シャルルの方がはるかに上手いのだから。

 「・・・篠ノ之さんは?」

 「あいつは既に警戒されている。シャルルの方が都合が良いんだ。」

 「そうなの?」

 それで一夏や箒が来たのを知って逃げたのかと推測する。

 「あぁ。それに俺達は殲滅には向いているが――」

 シャキン!ズドン!【2383/3000】

 ―――ゴロゴロゴロ・・・

 丸く切断された床が宙を舞う。そして、部屋の奥に落ちる。

 「手加減が出来ない。・・・またつまらぬ物を切ってしまった。(・・・ん?)」

 某泥棒の一味の様に、床を切って現れた箒。

 「し、篠ノ之さん、どこから来てるの!?」

 「見ての通りだが?」

 ごく普通のように言っているが、鉄筋コンクリートの建物を斬るのは相当難しい。ISでも粉砕が精一杯なのにとシャルルは目を見開く。

 箒は、驚き固まるシャルルの肩に手を乗せ言う。

 「そういうわけでデュノア。私の代わりを頼んだぞ。」

 「篠ノ之さんの代わりは無理だよ。」

 即答で、あのメンバーみたいに派手に戦うのは出来ないと言い返すが。

 「大丈夫だ。お前はかなり筋が良い。」

 「・・・筋?」

 そのいやな予感は的中した。

 「明日から、シャルルもロケットランチャーとチェーンガンを練習してくれ。」

 「来ると思ったよ!!一夏、それは無理!」

 「大丈夫だ。説明書通りにやればできる。」

 説明書って何?何でISを使わないことにこだわるのと、シャルルは頭を抱える。

 「今日は遅いし、もう寝るか。」

 「そうだな、失礼する。」

 そんなことを気にする素振りもなく、箒は穴から帰っていた。

 「・・・一夏、壊れるのはドアだけじゃないの?」

 それですらおかしいのだが。

 「グラウンド、アリーナのシールド、整備室、格納庫、コンテナくらいだな。」

 物体であれば、ほぼ一通りのものを壊しているのではないかと疑いたくなるほど壊していた。

 「ところで、この穴どうするの?」

 突っ込むこと自体無駄だと悟ったシャルル。

 「米粒でも付けとけ。」

 「いや、耐えられないよ!」

 「だったらお札でも貼ってろ!」

 とは言っても、床(下の階の天井)はテーパー状に切り抜かれていおり、何も付けなくても床が抜けることはなかったと思われる。




(鍛えてから)読みに来い、読者!
(腹筋を)6つに割れ!油断するな!!


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23話 弾けろ筋肉、飛び散れIS

「おーい!投稿してくれ!ちょっとー!おーい、早くしてくれ!」
カタカタカタ!!!ポチッとな。
「・・・失踪するかと思ったよ」
「とんでもねえ、作Aも学校が始まったんだ。」

「只の・A・カカシです!?学校が始まったんじゃ・・・。」
「残念だったなぁ、書き溜だよ。・・・学校が始まる前に、全部書き上げておいた。ようやく原作2巻終了の話、一歩手前までやってきた。長かったぜ。」


 6月も最終週に入り、ようやく学年別トーナメント当日がやって来た。

 ラウラとセシリア&凰の決闘後、クラスの空気は険悪・・・になることもなく、いつも通り賑やかなままであった。それ以前に、凰とラウラが織斑筋の素晴らしさについて厚く語り合っている時点でお察しである。

 

 

 

 「失礼します。トーナメントが完成したので、渡しに来ました。」

 朝、ピットで作業をしていた山田先生の下に、生徒会がトーナメント表を渡しに来た。

 「はい、ありがとうございます。」

 山田先生は、内容を見ないままにそれを受け取る。

 「失礼しました。」

 と言うのも、生徒会は校内にトーナメント表を貼って回らないといけないため、ここで『よぉ、待ちなよ。』して貼るのが遅れでもすれば学校中の人に影響が出る。

 「・・・って、えぇ!?何ですかこの組み合わせは!」

 急いで呼び止めようとする。しかし、生徒会は走り去った後で、自動ドアの閉まる音だけが虚しく室内に木霊した。

 しまったという顔で呆然とドアを見ていると、10秒と経たない内に再びドアが開いた。

 「お、トーナメントが来たか。見せてくれ・・・おい、山田先生!」

 「は、はい!何でしょう織斑先生・・・。」

 ふと我に返り、そこで初めて織斑先生が入室して入ることに気が付く。

 さっさと見せろと、織斑千冬はトーナメント表を破れない程度にひったくる。そして、それを見るなり一言。

 「このトーナメントはどういうことだ!?」

 「し、知りません!私だって、今渡されたんですから!」

 とぼけるなと言おうとした瞬間、自動ドアが強引にこじ開けられ、その反動ですぐに閉まる。

 「おい、千冬姉!このトーナメントはどういうことだ!?」

 その一瞬の間に部屋へと入り、何時になく険しい顔で一夏は迫る。

 その前に、そのトーナメント表は何処から持ってきたんですか?

 「私に聞くな!」

 ふざけやがってぇ!と一夏が飛びかかろうとした正にそのとき、光の速さでドアが開閉する。

 「おい、一夏!この組み合わせは何だ!」

 現れたのは箒。一番ドアに近かったと言うだけで、一夏は標的に据えられる。やはりその手にはトーナメント表があった。

 「知るか!!俺に聞くな!」

 なら仕方ないかと、引き下がろうとしたその瞬間、最早ドアから入る意味はねえと、(眼)タイを付けたウサギが天井から舞い降りた。

 「おい、剣道娘!貴様がペアとは、どういうつもりだ!!」

 ドアの前にいたという理由で、箒に八つ当たりをするラウラ。コイツだけはトーナメント表を持ってきていない。流石、軍の人間だ。

 「知るか眼帯ウサギ!」

 織斑組合員集結に、1人震える山田先生。一触即発の空気の中、ドアがノックされる。

 全員が互いの顔を見合わし、他に誰かいたかと首を傾げる。

 「失礼します。」

 「誰だ!!」

 「私です、先生・・・。」

 ご丁寧に挨拶をし入室したのは、生徒会。

 「トーナメントに誤りがあったので修正しました!」

 申し訳なさそうに新しいトーナメント表を差し出す。

 「あぁ、そうか。ご苦労。」

 やはり手違いだったかと、その場の全員が胸をなで下ろした。

 ・・・のも束の間。全員が一斉にそれを見た瞬間、部屋の空気が一変した。

 「「「・・・おい!」」」

 何時になくドスの利いた声。

 「は、はい、何でしょう・・・。」

 怯える生徒会員にの織斑組合員一度が声を合わせ叫んだ。

 「「「一番大事なところが直ってねぇじゃねえか!!」」」

 「ひぇ!?」

 チュドォォォォォォォォォォォォン!っと、モーニングショットが炸裂し、建物の天井をぶち抜いた。

 

 

 

 開始直前、観客席は毎度の如く凄まじい賑わいを見せていた。

 『さぁ、注目の第一試合!』

 その賑わいに乗せられるように、アナウンサーのテンションが高くなる。

 『まず入ってきたのは――』

 しかし、そのテンションは一時途切れる。その原因は、威圧感を放ちながら入場してきた2人だ。

 『・・・篠ノ之箒さんと、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです・・・。つ、続いて入場してきたのは、シャルル・デュノア君と、我らが筋肉、織斑一夏君です・・・。』

 やや震え気味な声で、放送は続く。

 「・・・ねぇ、一夏。何か空気重くない?」

 その雰囲気に、押され気味なシャルル。

 「あぁ、・・・そうだな。」

 校旗掲揚でも賑やかな観客席が、柄にもなくシンっと静まりかえる、

 「・・・終わり!?」

 「その通り!」

 しかし、一夏はこの空気を打開するときを見計らっていた。

 デェェェェェェェェェェン!【99999/99999】

 『『『イエェェェェェェエイ!』』』

 これがなければ見る意味がないと、観客のボルテージが一転、最高潮に達する。

 「大佐!ご苦労様です!」

 そして、それはラウラにも。

 「・・・。」『シャルル、事前の打ち合わせ通りだ。』

 もし、何か不審な装備があればと警戒していたが見たところ無さそうなので、個人間秘匿通信でシャルルにそう告げる。

 『ラウラを抑えられるとでも?』

 『お前なら出来る。』

 『・・・やってみる。』

 ここまで来たら自分を信じてくそ度胸だけで当たるしかないと、シャルルは腹をくくる。

 試合開始のブザーが鳴る。

 「「じゃまだ!!」」

 その瞬間、威勢の良い声と共に、互いが互いのペアの首根っこを掴み投げ捨てる。

 「「ぐぇっ。」」

 シャルルとラウラは、思わぬ衝撃に情けない声が出る。

 シャルルに至っては、くくったのは腹ではなく、首(物理)であった。

 そうこうしている内に、一夏と箒は凄まじい殺陣を繰り広げる。

 「ぐぁっ!・・・な、大佐!」

 何故相手をしてくれないのだと、一夏に食い下がるラウラ。

 「ゲホ、ゲホ・・・。僕が相手だよ!!」

 咳き込みながら、ラウラに肉薄する。

 「カカシは引っ込んでろ!」

 レールガンを放つ。それを、シャルルは華麗に躱してみせる。

 

 「ぬぅぅぅぅぅぅぅ・・・!」

 「ふんぅぅぅぅぅあぁぁ!」

 その頃、一夏と箒は顔芸しながら鍔迫り合いをしていた。

 

 「えぇい、邪魔だ!」

 撃っても撃っても、近付いたり遠ざかったりして掴みにくいと、ラウラは苛立つ。

 「行かせないよ!」

 遠ざかったところを狙い戦線を離脱しようとすると、ライフルで撃ってくる。

 

 「うをぉぉっぉぉらぁ!」

 「キェェェッェエェェイイイイ!」

 最早、人知を(2重の意味で)越えた一夏と箒の戦い。

 効果音を付けるなら、シャルル対ラウラが『バン、バン!ガッ!』なのに対し、一夏対箒は『ドゴーォン!チュドォォォン!バキィ!デェェェェェェェン!』っと言った感じである。

 

 「か、体が動かない!?」

 戦闘が始まって数分が経ち、一夏の様子を見た一瞬の隙を突かれ、シャルルはAICで拘束されてしまう。

 「フハハハハハ!AICの威力をとくと味――」

 このままではレールガンの餌食になるだけだと思ったとき、上空で金属の折れた音がした。

 直後、一夏の叫んだ声が響く。

 「ラウラ!避けろ!」

 「大佐!?」

 サクッ!【20014/24000】

 「い、痛ぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇ!?」

 しかし、回避が間に合わず、折れたブレードがラウラの脳天に刺さった。

 「貰ったよぉぉぉ!!」

 同時にAICが解除され、自由を取り戻したシャルル。

 ズズズカンッ!・・・ズドォォォォン!チュドォォォォォン!!【1/24000】

 一夏もビックリな速さで、盾殺し×2&ロケットランチャー&クレイモアの4Hit!を決め、ラウラを撃沈して見せた。

 「ウォォォウウウ・・・。オウウォォゥ・・・アァァァ。」

 うめきながらグラウンドに倒れ伏すラウラ。

 「隙だらけだぞ!一夏ぁ!!」

 その様子を見ていた一夏に、箒は不意を突いて倒しちゃ勿体ないと敢えて大声で叫びながら突っ込む。

 「やってみろ!!」

 一夏もそれに答えるように叫び、そして。

 バベキョシィッ!!【9999/9999】

          【2000/2000】

 斬り合いの衝撃により絶対防御が働き、シールドエネルギーが空になる。高さ30mの高所で2人同時にISが解除される。

 とんでもない高さからの落下だが、当然この2人なので、NO Damage!

 『決まったァァァァッァ!勝者は織斑一夏&シャルルペア!しかしぃ、流石はタフネス設計の人間隕石とぉ、竹刀でレールガンを撃ち返す強靱な肉体を持った剣道少女!30mの高さなんかでは、ビクともしなぁぁぁい!』

 『『『ワァァァ――!!!』』』

 歓声の渦が沸き起こる。

 「・・・よくやった、シャルル。」

 未だに緊張しているシャルルに、一夏は優しく声を掛ける。

 「はぁ、はぁ・・・。それにしても、あの高さから落ちてよく平気だね・・・。」

 「「清水の舞台に比べればまだまだ。」」

 などと筋肉2人はほざいていますが、30メートルは、清水のそれより2.5倍高いです。

 「へぇ、そうなんだ・・・?」

 まだ、日本に来て日が浅いシャルルは、今ひとつピンと来ないようだ。

 

 

 

 〈・・・こんな、こんな無様な負け姿を、大佐と、・・・教官に見せる訳には、見せるわけにはいかん!!〉

 そんな中放置されていたラウラは、頭の中、更に言えば無意識に近い領域で悔しがっていた。

 『子ウサギよ。力が欲しいか?・・・今ならPON☆とくれてやるぞ?』

 そのとき、何処からともなく甘い声を掛けられ、ラウラは迷うことなく答えた。

 〈!!カモォォォォォォォォォォン!(・・・ん?)〉

 英国の某自動車番組司会者みたいに叫ぶ。

 〈!?〉

 

 

 

 突如、シュヴァルツェア・レーゲンに電気のようなものが走った。

 「アァァァァァァァイ!」

 断じて、某球審じゃないです。

 「な、何あれ!?」

 シャルルは、溶けていくシュヴァルツェア・レーゲンを見て思わず声が出る。

 「液体ISだ。」

 見た目てきには間違ってませんが、VTシステムです。

 「見ろ!一夏!あの姿、千冬さんにそっくりだ。」

 あの箒が驚いてやがる。まあ、変形したのだから無理もない。

 「・・・来るぞ!伏せろ!」

 1人冷静に見ていた一夏は、ラウラがこちらに向かって突っ込んできたことに俊敏に反応する。

 「無茶だよ!ISに当たり勝ちしようなんて!!」

 体当たりを敢行したが、僅かに起動を逸らす程度に留まった。

 「一夏、私も――」

 「待て、これは俺の問題だ。一人でさせてくれ。」

 箒の申し出を断る。

 「・・・了解した。」

 「い、一夏。僕のリヴァイヴからコア・バイパスでエネルギーを――」

 「必要ない。」

 なら少しでも手助けをというシャルルの申し出さえも断り、あくまでも1人で行くと譲らない。

 「えぇ!?でも――」

 「動け!動けってんだ、このポンコツが!」

 困惑するシャルルの前で、一夏は待機状態に戻った白式を叩く。

 バシバシ!・・・デェェェン!【10000/10000】

 展開するにはした。しょっぱいことに雪片だけだが。

 「うそぉん・・・。」

 そんな無茶苦茶が何で出来るのと、シャルルは困惑の目を向ける。

 「行くぞラウラァァァァァァァァァァァ!」

 だからどうしたと、一夏は威勢良く特攻する。

 しかし。

 シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・【9999/9999】

 瞬く間にエネルギー切れとなり、雪片は収納される。

 「!!ウラァ!」

 ドベキシ!「オフィ・・・」【1/44000】

 それが使えるなら、体当たりなんて間抜けなことしてないでやればいいのに。

 「これで腐ったシステムも抜けるだろう。」

 粉々に砕け散ったISを見ながら、一夏はそう呟いた。

 「めちゃくちゃだぁ・・・。」

 一夏は素手でもISと戦うと聞いていたシャルルだったが、まさかねじ伏せるとは毛ほども思っていなかったようで、大層驚いている。

 「どこのバカだ、VTシステム積んだのは。」

 箒がやれやれといった顔で、ラウラを見下ろす。

 「そんなこと逝ってる場合か!医務室に運ぶぞ。」

 もしもし、一夏君?逝ってるんなら医務室ではなく葬儀屋では?

 「安心しろ、(まだ)生きてるよ。・・・チョチョッと手先を動かすだけで、壊れちまったISと死に損ないのクソシステムがパパーッと入れ替わる。」

 シュヴァルツェア・レーゲンを直しといてやりなよと、箒は一夏に言った。

 

 

 

 その日の夕方、校内放送がかかった。

 『トーナメントは事故により中止とします。OK?』

 「「「OK!」」」

 ズドドドドドドドォォォォォォォン!【1107/5000】

 せっかく派手なショーが見られると思っていた生徒たちは、放送室に向けありとあらゆるものを投げ込み抗議する。

 先生も、ここで死んで堪るものかと必殺の一言を出す。

 『・・・理事長が私達位優しかったら明日は開講休業ね。』

 「「「イェェェェェェェェェェイイ!」」」

 勝手に盛り上がっているところ失礼ですが、休みになりませんよ?




しばし小説化ペースが遅れをとりましたが、今や巻き返しの時です!


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24話 トマト祭り IN 1-1

腐るよなぁ
まったくだよ。一話投稿にこれじゃあ、大げさすぎるんだよ
只の・A・カカシです、何を書いてんだか


 その日の夜、一夏とシャルルが廊下を歩いていると、山田先生に呼び止められた。

 「あ、織斑君、デュノア君、良いところにいました!」

 「何だ?」

 良いところにということは、あまり良くないことを知らされる前兆でもある。

 「今日から大浴場解禁です!!」

 『やっぱりか』と、頭を抱える。

 それにしても、そんなことをうれしそうに、しかもバカでっかい声で話すのだろう。

 「!?」

 シャルルは、聞いていないよと驚きを隠せない。

 「今日はボイラーの点検があったので、元々使えない予定でしたが、終了したので特別に男子に開放します!鍵は私が預かっているので、脱衣所の前で待ってますね!」

 それだけ言うとこちらの返事を待つことなく、普段デンデンムシなんて比較にならないぐらい亀な山田先生が瞬く間に去っていった。

 「待て、・・・クソッ!」

 「ど、どうする?」

 「行くしかない・・・。」

 

 出来る限り早く準備を整え、大浴場前へと向かう。

 曲がり角を抜け、大浴場の入り口が視界に入ると、既に山田先生はその前で待機していた。

 「あ、来ましたね。一番風呂です!」

 その姿を見つけるや否や、嬉しそうに大きな声で話し掛けてくる。

 「どうも・・・。」

 「あ、ありがとうございます?」

 あまり嬉しく無さそうな返事。

 「では、ごゆっくりどうぞ。」

 けれど、山田先生はそれを初めて入る大浴場に緊張していると取ったのか、2人に笑顔で行ってらっしゃいと言った。

 ドアを閉め、山田先生がドアの前から去っていくのを待つ。足音が遠ざかったところで、一夏はシャルルに言う。

 「シャルル、先に入らせて貰う。待ってろ。直ぐに上がってくる。」

 そう言ったかと思うと、素早く他の列の棚の陰に消えていき、直後に浴場のドアの開閉する音だけが脱衣所に響く。

 しかし、このとき、シャルルはあることを決意した。

 〈・・・よし!入ってやろ!〉

 確信犯である。

 早速服を脱ぎ、浴場へ突撃!

 も、少し気恥ずかしくなり、ゆっくりとドアを開け尋ねる。

 「一夏、入るよ?」

 「丁度よかった。上がるところなんだ。ゆっくりして良いぞ。」

 何と、丁度ドアの前に一夏が立っていた。だが、何故か服を着ていた。

 「エエエェェェェェェェェェェ!」

 かごの中に着替え一式を置いたままにしていたのを確認していたシャルルは、何故一夏は服を着て出てきたのかが分からない。

 一方、当の一夏は特にシャルルに興味を示すことなく脱衣所へと戻り、ドアを閉めた。。

 「僕の話を聞けぇぇぇーーーーー♪(・・・ん?)」

 「良いだろう。」

 華麗なリズムに乗せ『待て』と言うと、天井板外し、そこから風呂場へと最入浴する。

 「ど、何処にあがってるの!」

 床を切って現れるよりはマシでしょ。

 「シャルル・デュノア、横から話すか、上からはナスカ。(・・・ん?)」

 某映画のパロなのは分かりますが、何で地上絵になってんですかねぇ・・・。

 「お、降りてきてよ!」

 「・・・仕方がない。」

 ストッ、ツルッバキィ!【0/200】

 大人しくシャルルのお願いを聞き受けたのだが、一夏らしくもなく足を滑らせタイルを3枚割ってしまう。

 「しまった、床を壊した。・・・!隠れてろ!」

 「ふぇ!?」

 何かを聞き取り、シャルルを湯船に投げ込む。刹那、ドアが強烈に開け放たれる。

 「一夏ァ!今の音は何だ!」

 現れたのは織斑千冬。

 「こっちへ来て確かめろ!」

 「良いだろう。」

 見た方が早いと、来るように言う。

 そして、織斑先生はそれを見て一言。

 「・・・なんだこれは!」

 と絶叫する。

 「天井が抜けたんだ。」

 床を割ったことを、天井板が落ちてきたせいにする。

 「修理の申請をしなくては・・・。点検係めぇ!クソぉ、サボったか!ウォォォ!」

 バキョォォォン!【0/1500】

 八つ当たりするのは良いんですが、どうにも織斑組合員はドアからは出たがらな嫌いがあると思われる。

 「こ、これじゃあ、出られないよぉ~。」

 しかし、一番迷惑被っているのはシャルルだ。

 まず、廊下から見える状態で上がるのは恥ずかしいし、増してその姿を見られてしまうと男子と誤魔化していることがばれてしまう。

 「これで(目隠しは)出来た。」

 そんなシャルルの心境を察し、一夏は先程外した天井板を明いた穴を塞ぐのに使う。

 「何か一夏らしいな。・・・何か慣れちゃったかな?」

 「いいことだ。」

 何故か、良い感じのムードになる。

 「でね、・・・一夏。僕の本当の名前、教えとくね。シャルロットだよ。」

 顔を赤らめながら、本当の名前を言う。

 「カルロット?」

 わざと空耳を噛ます一夏。

 「しゃ る ろ っ と!!」

 「冗談だ。」

 「笑えないよ!!亡くなったお母さんから貰った名前なのに。」

 「・・・すまない。」

 思いの外、重たい話だったので、一夏は申し訳なくなり謝る。

 「・・・じゃ、ゆっくりしてこい。俺は先に帰ってる。」

 俺がいては、どうやってもくつろげないからと立ち去ろうとすると。

 「あ、待って!」

 随分と積極的なシャルルに、一夏は歩みを止める。

 「それから僕、ここに残ることにしたよ。」

 湯船の縁に、身を持たれ掛けながらそう話す。

 「風呂にか?」

 しかし、そのせいで勘違いされてしまった。

 「違うよ!IS学園に!」

 必死にそれを否定するシャルルだった。

 

 

 

 翌朝、HR直前の1組。二つの席が空いていた。一つはラウラ。そしてもう一つはシャルルの席だ。

 ラウラは昨日一夏に倒されたから分かるのだが、なぜデュノアがいないのかで、話題は持ち切りだった。

 「ねえねえ、織斑筋――」

 「ほお、私の名前でふざけるとは良い度胸だ。」

 一夏に尋ねようとしたのだが、思わぬ狂敵の登場に震え上がる。

 「ち、違います!織斑先生のことではないです!!」

 出席簿であの世に送られるのだけは御免だと、慌てて訂正を入れる。

 「そのくらいにしてやれ。」

 「冗談だ。」

 しかし、何時になく織斑先生の態度が柔らかい。

 「織斑組合員以外笑えません!お、織斑一夏君!」

 今度は命がないと、聞き間違えされないようフルネームで呼ぶ。

 「何だ?」

 「デュノア君は?」

 「放してやった。」

 放すたってどこへと首を傾げる。そもそも、一夏はシャルルを拘束していなかったはずだ。

 「・・・何処へ?」

 「知らん。遅れるぞと言ったんだが、何処かへ消えた。」

 「あ、そう。」

 丁度そこへ、ヘロヘロになった山田先生が入室してきた。

 「あ、あの皆さん、転校生・・・ではないけど転校生を紹介します。入って下さい。」

 「失礼します。シャルロット・デュノアです。改めてよろしくお願いします!」

 「はあ、部屋割りし直しです・・・。」

 物理的にも精神的にも堪えたと、山田先生は教卓に突っ伏す。

 「へぇ、デュノア君じゃなくて、デュノアさんだったんだ。」

 「道理で、筋肉モリモリのマッチョマンにならないと思った。」

 しかし、そこは流石組合員の卵。あっさりと受け入れてしまう。

 ドゴォンッ!【0/1000】

 と、そこへ、教室の壁をブッコワッシャァァァ!して現れた凰。彼女の髪の毛は、全てが立っており、見るからに怒っていることが分かる。

 「フー、フー!一夏ぁ!昨日デュノアとお風呂に入ったんですって!?えぇ!?4ねぇ!」

 答える間もやらねえと、凰は衝撃砲を一夏の顔面目掛けて撃ち込む。

 ズドンッ! バチュッ!【0/50】

 飛び散る赤い塊。沸き立つ赤い霧。

 「「「キャー!?」」」

 「危ないところだった。」

 しかし、やられたと思われていた一夏は、無傷でその場に立っていた。

 「一夏!?今殺したはず!?」

 信じられない光景に、驚きを隠せないでいる凰。

 「残念だったな、鈴。トマト缶だよ。」

 潰れた缶と今取り出した缶を見せつけ、これでどうだと言わんばかりのドヤ顔を決める。

 「頭来た!!」

 ズドォォォォオンッ!【0/40】

 赤い塊が以下略。

 「残念だったな。水煮トマトだ。」

 そう言って、また潰れた缶詰めを取り出すが、先程のそれと何が違うのか分からない。

 「「「いや、一緒だし!」」」

 「・・・一夏ぁ!食べ物を犠牲にしてまで命を守るとは、アンタふざけてんの!?」

 「「「いや、そっちの方が普通でしょ!?」」」

 やはり、組合員の卵である彼女たちにはまだ普通の考えが残っており、マトモなことを言った。

 「うっさい、うっさい、うっさい!!いっぺん逝ってこい!!」

 ズドォォォォンッ!

 バチュ【0】

 パサッ・・・

 やや逆上気味に放たれた一発を、またしても一夏は避けることなく正面から受け、そして・・・。

 赤い以下略。

 今度は何で防いだのだろうと、反応を待つ。しかし、待てど暮らせど返事がない。

 「・・・あれ?何コレ?」

 「ほおずき?」

 そして、その傍に落ちていた一枚の白い紙。

 「見て、手紙。」

 それに書かれていることを読み上げる。

 「えーっと?『みんなへ。ほおずきは、俺の墓にでも差しといてくれ。』だって。」

 「・・・え?」

 一拍置き、凰の顔から血の気が引き、そして。

 「い、一夏?いちかぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 凰が、悲鳴を上げる。

 その背後でドアが開き入ってきたのは・・・。

 「すまない、遅くなった。・・・何か賑やかだな。」

 一夏である。教室に入ってすぐ、壁が崩れていることを気にも掛けず千冬に話し掛ける。

 「あぁ、気にするな。・・・遅かったな。」

 「仕方ないだろ。ウサギ耳の変態に絡まれたんだ。」

 遅れた理由を、一夏が言うと。

 「っち、あのバカ。ちょっと消える。・・・悪いが、(クラスを)静かにしといてくれ。」

 「あぁ。」

 返事を聞き、織斑千冬は携帯片手に教室から出て行った。

 「うあわぁぁぁぁぁっぁ・・・!!」

 「・・・おい、鈴!静かにしろ。」

 耳が痛いからと、泣き叫ぶ凰を一夏は一喝する。

 「・・・へ?一夏?アンタ、今・・・?」

 確かに殺したはずとオロオロする凰を余所に、一夏は教室を見回す。

 「何だ、この惨状は!!・・・おい、ラウラ。出て来い!」

 「ハッ!大佐!」

 返事がした方を見れば、欠席と思われたラウラは着席しているではないか。

 「俺がドイツに行ってる間に、何したんだ?」

 あの一夏が、珍しく本気で怒った表情を見せる。

 「いえ、大佐の真似をしたまでです!」

 眼帯をクイッっと上げながら、いつもの感じに振る舞ってみましたと笑みを堪えながら真顔で答えた瞬間。

 怒ベキシ!「ヒデブ!」【1/8000】

 目にも止まらぬ速さで、ラウラの()()の根を止める。

 一仕事終え、手をはたく一夏。いつもの光景だ。

 そんな中、一夏に話し掛ける奴が居た。

 「お、織斑君。ドイツって外国のあれ?」

 「そうだ。」

 それ以外にあるなら行ってみたいと一夏は返す。

 「昨日の今日で?何しに行ったの??まさかラウラさん関連?」

 妙なところで、鋭い勘を見せる。苦笑いをしながら答えた。

 「そうだ。・・・だが、安心しろ。ただの惨歩だ。」

 昨日のあれを開発した研究所を破壊しに行ったとは言わない。

 「字が怖いけど!?」

 しかし、微妙な発音の違いから、うっすらとではあるが感付かれる。

 「気にするな。」

 そして一夏は、続けてこう言った。

 「気にしたら、教室は死ぬ。無事授業を受けたかったら、教師に協力しろ!OK?」

 山田先生はロクなこと言わないから寝ていて良いぞと煽る。

 「「「OK!」」」

 一斉に机に伏せ、その音が教室に響く。

 その光景を見た凰は、見事だわと言いそして。

 「あのさ、一夏。昨日、デュノアとお風呂に入ったってのは・・・。」

 「あぁ、ラウラだ。」

 それを聞いてデュノアは、一夏じゃなかったんだと項垂れていた。

 「凰さんは自分のクラスに、デュノアさんと織斑君は早く席について下さい!そ、それから皆さん!起きてくださ~い!」

 仕業のベルが鳴る。今日の授業も、教室が派手にドンパチ賑やかになるだろう。




作A あれは・・・25話!?まだ書いてなかったんじゃ・・・。
 B 残念だったな。土曜日に仕上げてやったぜ。
 A 必ず書き上げてやる。


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25話 モーニングショット

どうした、体育祭の脳筋ワークで鈍ったのか?
嫌みな野郎だクソッタレ!


 「シャルロット、プリントを運ぶんだって?手伝おうか。」

 先生に頼まれてプリントを受け取りに向かっていると、突如、背後から声を掛けられたせいでカエルみたいに飛び上がって驚いてしまう。

 「一夏!?セシリア達と街に行くんじゃ・・・。」

 昨日聞いた話とは違うと、思わず後ずさってしまう。

 「残念だったなぁ。トリックだよ。」

 「」

 この後に続く言葉と行動を、僕は容易に想像できた。

 「プリントを受け取りに行くのに手っ取り早いやり方を教えてやるよ。」

 不敵な笑みを浮かべながら、窓を開ける一夏。

 「へ?まさか・・・考え直して!飛び降りれば地面に叩き付けられてグチャグチャだよ!」

 「その通り!」

 間髪を入れない返事。次の瞬間、僕は首根っこをつかまれ、窓からリリースされてしまった。

 「うわぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 急いでISを展開しないと!このままだと、地面にたたきつけられる!けれど、焦れば焦るほど上手く行かない。

 刹那、僕の視界は真っ白に染まって・・・・。

 「はっ!?・・・あ、悪夢だ・・・。あれ?ラウラは?ま、良いか。」

 ガバッと飛び起きる。幸いにも夢だったようで、僕はホッと胸をなで下ろす。

 まだ時間も早いし、もう一眠りしよっと。

 ぼふっ・・・

 

 

 

 チュンチュンッ・・・ズババババ!デェェェェェェェェェェェン!

 朝飯(雀)が来たぞぉぉぉ!っと、一夏は窓からチェーンガンをぶっ放す。けど、それが当たったら雀は木っ端微塵になって食べられませんが?

 因みに、デェェェェン!が後から来たのは、音で雀を逃がさないためです。

 「むっ・・・。」

 しかし、的が遠く小さすぎて当たらなかったため、ただ植え込みをダイナミック剪定しただけになってしまった。

 さて、もう一眠りと思い布団に戻った瞬間!

 「!!・・・ふん!」

 ドベキシ!「オフゥイ・・・・・」【1/8000】

 ベッドの中にゴキブリが潜んでいるのを察知。迷うことなく叩きつぶし放り出す。

 「何故、ここにいる!?」

 「どこかの馬鹿(クラリッサ)が(スキンシップに)これが適任だと推薦したんだ!」

 「そうか・・・。よーし、良いか?今度俺の布団に潜ってみろ。もれなく、(ガシャンッ!)チェーンガンが待ってるからな。」

 何も悪びれる様子がないラウラに、一夏は真顔で銃を構える。

 「む・・・了解した。」

 流石に蜂の巣にされたくはないと、渋々といった感じで引き下がる。

 と、そこへ来客がある。

 「誰か来た。・・・箒だな。」

 部屋の住人の許可無しに、それも遠慮なくドアが開けられる。幾らなんでも、無礼過ぎやしませんかね?

 「一夏!朝食の時間だ!それとラウラ、お前の荷物だ、(朝食に)遅れても知らんぞ。」

 「ああ、分かった。」

 ラウラが着替えるのを待ち、3人は朝食に向かう。

 「実に良い準備だったが、いつ気が付いたんだ?」

 「・・・何がだ?」

 皆目見当が付かぬと、箒は首を傾げる。

 「ラウラの荷物だ。俺も起きるまで、こいつが俺の部屋に湧いていたことに気付かなかった。」

 「待て。あれはラウラが自分で持ってきて、お前の部屋の前に置いてたんじゃないのか?」

 「私は知らんぞ?荷物など持って来ていない。てっきり、お前が用意して持ってきたのかと・・・。」

 3人が3人共に全く異なる認識で動いていた。

 「じゃ、一体誰が?」

 一夏がそう呟いた瞬間、ラウラの制服の後ろポケットから何かが落ちた。

 「ん?紙切れ?」

 箒はそれを拾い上げ、広げる。

 「何だ?・・・『深夜の男子部屋不法入室は以後禁止だ。寮長。』?」

 「間違いない、千冬姉だ。どうやらばれていたらしいな。・・・ラウラ、次は命がないぞ。こんな事は一度っきりだ。」

 死にたくなかったら、これからは慎ましく暮らすことだなと付け加え、食堂への移動を再開した。

 結局、特に喋る話題もなく食堂に着いた3人は、それぞれに朝食を注文する。しばらく待ち、それを受け取ると着席。

 「「「いただきまーした。」」」

 そして、某テレビ局の茶色い巨大なマスコットよろしく、いただきますを言い終わらぬうちに食事を終える。瞬きする間もなくだ。

 「わぁぁぁぁ!ち、遅刻するぅぅぅぅぅ!!」

 そのとき、丁度食堂に駆け込んでくる人影があった。

 「よう、(珍しく遅刻)やってるな。」

 優等生らしくもないと、一夏はいじってみる。

 「あ、おはよう一夏。今日は冷えるね。」

 「冷えるだぁ?寝ぼけてんのか?」

 冷える?冷や汗だろ、今のお前の場合は。

 「あ、うん。なんかゴメン・・・。」

 謝るシャルロット。しかし、眼が泳いでいる。

 「いや、良いんだ。・・・避けようとして、無いか?」

 「・・・いやいやいや?そんな事は無いよ?」

 ゆっくりと、一夏から距離を取ろうとしていることに感づかれ、慌てて否定する。

 「そうか?なら良いが・・・。」

 バァンッ!【0/2000】

 「貴様等!朝食は迅速に取れ!」

 食堂のドアにモーニングショットを入れる織斑千冬。だから壊すなよ。

 「よし、そう言うことだ。教室で会おう!」

 「ええ~!さ、3人とも待ってよ~!」

 しかし、シャルロットの願いも虚しく、3人は瞬きしている間に視界から消えていった。

 

 

 

 ダダダダダッ!

 暇潰しに中庭(グラウンド)を散歩(ランニング)していたら、HRの時間が迫っていることに気付き、急いで教室へ向かう一夏と箒、そしてラウラ。勿論、走っているのは壁である。

 「ん?」

 そのとき、後ろから何かが近付いてきて、そして3人を抜き去る。

 「これで、(1時間目まで)お別れだね一夏!」

 それはオレンジ色のIS。シャルロットであった。

 「・・・お前がな。」

 「へ?」

 全く対抗心を示さない一夏に、シャルロットは肩透かしを食う。

 「ご苦労さん。」

 ガゴォン!「ぐぼぁ!?」【100/18000】

 誰かに声を掛けられた刹那、体に響く衝撃。シャルロットは進行方向を直角に変え地面に突き刺さる。

 シャルロットを叩き落としたのは他でもない、織斑千冬である。

 「・・・おい、そこの3人。()()()()()()()()()では、1ミリたりとも廊下を走るなよ。」

 そう言い残し、条約を破ったシャルロットへ制裁を加えるため、降りていった。

 「急ごう、シャルロットの死が無駄になる。」

 「「あぁ。」」

 

 

 

 「さて、来週から校外特別実習期間に入るが、羽目を外しすぎないように。」

 HR。織斑千冬は、例えるならおろしたてのタオルがその色と質感を保ったままボロになった雑巾といった感じの、つまりは良く分からない状態になったシャルロットを引き摺って教室に現れるなり、挨拶も無しにそう告げる。

 「先生!山田先生はお休みですか?」

 普段なら山田先生の仕事を織斑先生がやっていることに、クラスメイトは違和感を覚える。

 「校外実習には、厳正な視点で現地を視察する下見作業が、必要だ。山田先生はそれに行ってる。」

 「ええ!?山ちゃんもう海に行ってるの!?」

 「良いな~ずるーい。私も泳ぎに行きた~い。」

 それを聞いた途端、何を想像したのか騒ぎ出すクラスメイト達。それも、あろうことか織斑先生の御前でだ。

 「お前達が行くか?それでも良いんだぞ?その代わりレポート10万枚PON☆と出して貰うことになるがな。」

 実際の報告書は10枚程度。だが、そこは下駄を・・・いや、竹馬を履かせる。

 「「「いや、結構!」」」

 織斑千冬の予想した通り、1組の生徒は一斉に大人しくなり席に戻った。

 ズバババババァン!【【【1/150】】】

 しかし、立ち歩いたことは別だと、1組の生徒の大半はHRを寝て過ごす羽目になった。

 

 

 

 「重いなぁ・・・。」

 放課後。シャルロットは、無断でISを使用した制裁として織斑先生に言いつけられた机運びをしていた。

 「調子はどうだ?」

 「・・・どうしたの?」

 珍しくこの時間の教室に現れた一夏。普段であれば、アリーナをドンパチしている頃だったので、シャルルは驚く。

 「なぁ、シャルロット・・・。長いな。後ろ3文字切ってシャルでも良いか?」

 「え?・・・あ、いいよ!」

 一夏に呼び名を付けて貰えた。シャルロットはそれだけでも舞い上がりそうな気分だった。

 「ああ、そうだ。呼び名を考えている場合じゃなかった。シャル、頼みがあるんだが。・・・付き合って欲しい。」

 「えっ・・・?」

 付き合って欲しいの一言に明日と続いていたのだが、シャルロットの頭脳はオーバーヒートしていて、聞こえていなかった。

 

 

 

 「買い物にはいい天気だな。」

 「買い物には良い天気だね。」

 一夏の言葉に、棒読みで返すシャルロット。

 「どうした、教室の机運び(デスクワーク)で疲れたのか?」

 「いや、うん。そうだね・・・。」

 真面目に返すのも億劫になり、適当に返事をする。

 「疲れてるなら・・・帰っててもいいぞ?」

 「・・・お断りだね。」

 「」

 柄にもなく困り果てた一夏を見て、シャルロットは少しだけ疲れが取れた気がした。

 「よーし分かった。ホールケーキが必要だな。シェイクもいる。それから・・・でっかいパフェだな。例えば、俺の筋肉みたいな。(・・・ん?)」

 何とか元気になって貰おうと、一夏がスイーツを好きなだけ食わしてやるというと。

 「そんなに食べられないよ!」

 それだけで元気になった。

 「もう。じゃあ、はい。」

 そう言って、手を差し出すシャルロット。

 「なんだ?腕相撲か?」

 「そんなわけ無いでしょ!手。繋いでくれたら良いよ。」

 「なんだそんな事か。ほれ。」

 「・・・。」

 しかし、手を繋いだ途端、顔を茹でダコにして黙り込んでしまう。

 「どうした、大丈夫か?」

 「へ!?いや?何も無いよ!?平気平気。行こっ!」

 ふと我に返り、何とか行動で誤魔化そうとするシャルロットであった。

 

 

 

 そんな2人を、尾行・・・と言うよりはストーカーしている2人がいた。

 「ねえ、あれ・・・。」

 「手、繋いでる?」

 「繋いでますわね。」

 2人の顔は、悪役のそれとしか言いようがないものだった。

 「あ~、やっぱり?ふ、ふふふっ・・・ふざけやがってぇ!」

 「ぶっ殺してやる!」

 インターセプターを展開した訳ではないが、勝手に口が動いてしまう。

 「ほう?面白そうだな。私も混ぜて貰おう。」

 意識が前に行き過ぎていたため、後ろから来たラウラに横を通り過ぎられるまで気付くことが出来ない。

 「「は?ちょ、待ちなさいよ(お待ちなさい)!ラウラ(サァァァァァァン)!」」

 しかし、既に手遅れ。

 「大佐ァ!私も行きます!」

 一夏の前へと飛び出していく。

 「ラウラ!?訓練に参加したんじゃ・・・?」

 刹那、一夏の顔がマジになる。

 「残念だったなぁ、トリックだy」

 ビシッ、ガィィィィィィィィィィィン!【7990/8000】

 言い終わるよりも早く、一夏の手がラウラの頭を掴む。

 「ラウラぁ・・・訓練を申し込んでおいてサボタージュとは良い度胸だな。」

 「ひぃ!?た、大佐、助け・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そのまま、ラウラを植え込みに向け投げ込む。

 「そこに立ってろ。」

 ポイ捨ては良くないよとストーカー2人は密かに突っこみを入れる。

 「・・・危ない所でしたわね・・・。」

 「ええ、そうね。」

 一歩間違えればああなっていただろうと思い、軽く身震いをする。

 「おい、2人ともいるんだろう?隠れてないで、出てこい!・・・怖いのか?」

 〈〈ばれた!?〉〉

 「どうした、大声出してたろ。忘れたのか?」

 「「」」

 仕方なく2人は物陰に隠れるのを辞め、姿を現す。

 「ついてくる気か?」

 「!!」

 グッ!【9999/9999】

 そう言った瞬間、何故か一夏はシャルロットに手を強く握られた。まあ、彼女の握力程度では痛くもかゆくもないが。

 「何だ?」

 「・・・・・。」

 目を遣ってみると、シャルロットはドス黒い上に引き攣った笑みを浮かべていた。

 「ま、まぁ、私たちはお邪魔ムシのようですし?」

 「か、帰るとしますかね?」

 その表情に気押され、2人は引き下がる。

 「そうか。・・・また会おう。」

 「「行ってらっしゃい。」」

 「ああ、シャル、行くぞ。」

 踵を返し、街へと向かっていく。

 「・・・さて、と。」

 「つけますか。」

 その姿が見えなくなる寸前、2人は行動を再開した。

 

 

 

 「シャル、水着を買うつもりか?」

 水着売り場と書かれたプラカードを見て、一夏はそう尋ねる。

 「う、うん。一夏は僕の水着見たい?」

 「そうだな。前に風呂上が――」

 「エェェェェェェェェェェ!!!」

 突然、シャルロットが大声を上げ、一夏の言葉を遮る。幸い、人がまばらだったお陰で大して視線が集まることはなかった。

 「・・・それよりも、早く棕櫚の側で肌でも焼きたいね。学園生活で白ぽけちまった。」

 腕を見せながら笑ってみせる。

 「あ、そこはシュロなんだね・・・。じぁ、じゃあ僕も新しいの買っちゃおうかな?」

 妙なところで現実的な話をするなーと思いつつも、割り切らなきゃと思い出す。

 「じゃあこうしよう。売り場は、男がこっちで女があっちだ。30分後に会おう。OK?」

 「うん分かった。じゃあ、また後で。」

 2人は、それぞれの方へと向かっていった。




作Bィィィィィィィ!何だこれは!焦ってこんな小説に直しにくい作品を書きやがって!・・・知ったことかだと!?こっちは24話書き終わって、一息ついてたトコなんだよ!


 今まで読み続けてくれた読者!ありがとう。お陰で、小説版も2巻+3巻頭まで続けることが出来た。小説版は、MAD版の次の更新後まで更新されることはないが、お気に入りと評価はそのままで。
 また読みに来てくれるのを楽しみにしてるぜ。


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第26話 頭のイカした大男

帰ってきたぞぉぉぉぉぉぉ!!!私を覚えているかね、読者!
腹筋は鈍っているんじゃないか!今年もシゴキまくるぞ!嫌ってほど腹筋を鍛えてやる!読者諸君、覚悟はいいか?それでは読んで頂こう!只の・A・カカシですのワークアウトだ!




 「随分早かったな。もう選んだのか?」

 別れてから5分後。シャルロットが一夏を呼びに来た。その選択の速さに、女性(千冬除く)の買い物は長いと思っていた一夏は驚く。

 「あ、いや、ちょっと・・・一夏に選んで欲しいなーって・・・。」

 モジモジしながら、おまけに頬を赤らめ目を泳がせながらそう言うシャルロット。

 一夏は断る理由はないため、「すぐに行く。」っと言ったときだった。

 「ちょっと、そこのあなた。」

 「んん?(キョロキョロ)」

 突然、見知らぬ人からの横暴な呼びかけ。辺りを見回してみるも、運の悪いことにシャルは少し離れた位置におり、彼しかいない。

 「手前しかいねえだろがよ、このタコ!そこの水着、片付けときな。」

 見ず知らずの人へ、罵倒してからの命令。普段から人を顎で使っているのだろう。

 当然、一夏がそれを聞き逃してやるわけはない。

 「へっ、お断りだね。」

 「ふぅ~ん。・・・君は、自分の置かれた立場が全く理解できていないようね。」

 「それがどうした?」

 全く諂う素振りがないことに、その女性はストレスが溜まる。

 「一々むかつく奴ね。まあ、いいわ。私心が広いから。そこの水着、片付けたら許しても良いわよ。」

 普通の人間なら、ここで拳の一発や二発飛んでもおかしくないところだが、シャルロットを待たせていることが、気が気ではない一夏は必殺の一言を放つ。

 「お前の試着物だ。そんなことまで人任せにして、(嫁に行き)遅れても知らんぞ。」

 「何ですってぇ!?ちょっと警備員さぁぁぁん!そこに緑のシャツを着た大男がいるんだけど、彼マトモじゃないわ。暴言を吐かれたの、助けて下さい。」

 一夏は優しさから、敢えて何をと言わなかったが、その部分をしっかりと穴埋めできる程度の知能はあるらしい。

 「何!?・・・君、何処かで見たことあるぞ。・・・ああそうか、はははっ、テレビに出てたアホだろ。」

 女性の助け(?)を求める声に何処からとなく現れた警備員は、一夏を見るなりそう言った。

 「俺もアンタに同じことを言おうと思ってた。(・・・ん?)」

 「おいおい、冗談はよしてくれ。」

 「何言ってんだ?さっき監視カメラに映ってたぞ。」

 「テレビだぁ?寝言言ってんじゃねえよ。」

 「面白い奴だな、気に入った。起こすのは最後にしてやろう。」

 「・・・ちょっと、警備員さん?」

 つい、ノリの良い警備員だったために話し込んでしまった一夏。

 「・・・んん!カッコいいところ見せましょう。・・・全警備員へ、3階で非常事態発生!容疑者は男性、180cm、髪は紺、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。」

 面白いものが見られるぞと言いたげな口調で、無線で応援を呼ぶ警備員。

 「くそっ!厄介な。」

 「おい、一緒に来い。・・・うおっ!?」

 ベキッ!【10/250】←警備員

 「今の内に逃げ――!」

 ようとすると・・・。

 「いたぞ!あそこだ!」

 階段から、エスカレーターから、続々と集まってくる警備員。

 「チィッ!クソッタレがぁ!」

 ドコッ!ベキッ!グシャッ!「「「うおぉ!?」」」【【【10/250】】】

 しかし、レゾナンスの警備員が束になって掛かったところで、一夏に歯が立つわけがない。

 「えいもう!その銃貸しなさい!」

 何で警備員が持っているのかはさておき、警備員から奪った銃を一夏に向けて撃つ女性。

 「ぬおぉっ・・・!?ふざけやがってぇ!」

 だが、素人の撃った弾が一夏を捉えられる筈もなく弾倉が尽きる。

 それを待ってから一夏は女性に近付くと、ガシッと右肩を掴み持ち上げる。

 「きゃあ!?」

 女性を持ち上げたまま窓を開けると、その窓から外へと女性を出す。

 「空飛ぶか?そらっ!」

 ギャグのようなことを言いながら、女性をリリースする。

 「あばよ!」

 「キャァァァァァァァァァァァ!!!」

 悲鳴を上げながら5階の高さから落下していった女性は、下に用意してあったトランポリンで跳ね返る。

 「・・・(あばら骨が)逝ったかと思ったよ。」

 「とんでもねえ。手加減したんだ。・・・迫真の演技だったな。」

 それを見届けることもなく、さっさと窓を閉め、先程の警備員達と話を始める。

 「君もな。無駄にしたかねえだろ。さっさと行け。」

 「ああ、助かった。また会おう。」

 「・・・ニュースでな。」

 

 「お帰り一夏。・・・あれ大丈夫なの?」

 水着売り場へと戻ってきた一夏に、シャルロットは試着室から顔だけを覗かせ心配そうに話し掛ける。

 「心配するな。ただのアトラクションだよ。」

 「あ、そう・・・。」

 いつも通りの一夏に、安心したシャルロット。

 「じゃあ、えっと・・・水着・・・見てくれるかな?」

 「OK!」

 そう言いながら、カーテンを思いっきり開ける一夏。

 「うわぁ!?」

 「何だ、まだ着替えて無いじゃないか。」

 だが、シャルロットはまだ上着すら脱いでおらず、水着はハンガーに掛かったまま。

 と、そこで、シャルロットは近づいてくる見覚えのある2人、織斑先生と山田先生を見つける。

 「!!」

 「じゃあ、外で――」

 待っていると言おうとした一夏を強引に試着室へと引き込む。

 「こっちに!!」

 「うおっ!?」

 まさか引っ張られると思っていなかった一夏は、バランスを崩し試着室へと引き込まれる。

 「何しやがる!!」

 「だ、大丈夫!手間は取らせないから・・・。」

 そういいながら服を脱ぎ始めるシャルロット。

 「急げ、奴らが来た。」

 無論、一夏は2人の接近を知っていたし、隠れるつもりもなかった。

 だが、こうなってしまった以上、一刻でも早くここから出る手段を執るのが得策。

 「ま、まって。・・・いいよ!」

 言い終わると同時に、一夏は振り向く。但し、首から上だけ。

 「・・・いいじゃないか、似合ってるぞ。」

 「ホント!!実は、もう一つあってね!」

 一夏に褒められ、シャルロットは嬉しそうにそう告げ、ハンガーに掛かった水着をもう一つ取り出す。

 しかし・・・。

 「すまん、シャル。もう限界だ・・・。」

 「え//」

 限界だと言うのを何という意味に捉えたのかは敢えて触れないでおく。

 一夏は、スーッと息を吸い込むと・・・。

 「ムン!」

 バッキャーン!!【0/500】

 思いっきり全身に力を入れた。

 筋肉が盛り上がったことにより、試着室は四方へと吹っ飛んでいく。

 そして、シャルロットは気まずそうに目が合った人物の名前を言った。

 「お、織斑先生・・・。」

 「良い水着だな、デュノア。」

 オロオロするシャルロットとは対称に、全くやましいことがなかったと確信している織斑千冬は、センスがあるなと褒める。

 「・・・お、織斑君、何をしてたんですか!?」

 もっとも、見た目からいかがわしいこの先生は、二人が試着室で楽しんでいたと考えていたようだった。

 「山田君。今度、店の中で騒いでみろ。口を縫い合わすぞ。」

 「で、ですが――」

 ドベキシッ!「オフゥイ・・・」【0/3000】

 反論しようとした瞬間、山田先生は後ろから意識を刈り取られる。

 グッタリとした山田先生を抱えながら、シャルロットにお願いをする一夏。

 「悪いがコイツが起きないように見張っていてくれ。」

 「い、いいけど、・・・山田先生コイツ呼ばわりするのは・・・・・。」

 「ゴミよりマシさ。」

 投げ捨てるように山田先生を降ろすと、一夏は歩き始める。

 「ゴミって・・・。何処に行くの?」

 「千冬姉の水着を選びに行く。おっと、更衣室を直さなきゃ。」

 バァンッ!【450/500】

 「これで良し。」

 と言っても、壊れたものを立てただけなので・・・。

 「よくは・・・ないかな?」

 良識のあるシャルロットを納得させるには至らなかった。

 「じゃあ、行ってくる。」

 と言っても、此処も水着売り場なので目と鼻の先。

 「一夏、この色なんてどうかな?」

 千冬が最初に選んできた水着は金色。

 「百式か?」

 「・・・採点してくれ。」

 「安心しろ、文句なしの0点だ。」

 キッパリと言い切られ、絶句する千冬。

 「じゃ、じゃあ、この色なんてどうかな?」

 金色の水着を棚に戻すと、直ぐに次の水着を手にする。

 「色が変わるのか!まるでカメレオンだな。」

 「何点だ?」

 「馬鹿には見えない○○(シリーズ)が通用すると思うなよ?この筋肉は、飾りじゃないんだぞ。」

 メキッ!【18999/20000】

 「イダダダダダダダ!悪かった!!」

 裸の大様の要領で、何も掛かっていないハンガーを自分の体に当て一夏を騙そうと試みたが、そんな冗談が通るわけもなくヘッドロックでしばかれる。

 「千冬姉には、この色がお似合いだよ。」

 そう言って手にしたのは黒色の水着。

 「採点して欲しいか?」

 「是非ともお願いしよう。」

 「百点だ。それも、植木鉢付きの花丸のな。」

 なら最初からこの色を選べと、思った一夏だったが敢えて言わないでおいた。

 

 「待たせた。シャル、悪かったな。」

 「ううん、別に大丈――!?一夏!?そんなに水着買うの!?」

 と言うのも、一夏が押すカートには、山積みの水着、要は海パン。

 「水着は道具さ。それも使い捨てのな。」

 「普通は、2・3年は使える物じゃない!?」

 驚きを隠せないシャルロットに本当だと分からせるため、一夏は天井に呼びかける。

 「どうかな?・・・おい、鈴。いるだろ?出てこい。」

 「何?呼んだ?」

 すると、本当にガタッと天井板を外して現れた。

 「ふぁ、ファー!?凰さん!?何処から出てきてるの!?」

 「?こういうときって、普通は天井から登場するものでしょ?」

 何を驚いているのかしらと、凰は首を傾げた。

 「いや、出ないよ!!っていうか、どこから入ったの!?」

 「換気口からよ。」

 「凰だけにってか?」

 突然、一夏の口から親父ギャグが飛び出す。

 だが、それは盛大に滑った。

 「一夏、寒いわよ。あと、寒い。」

 「鈴。降りてこい。俺の筋肉で暖めてやる。遠慮するな。」

 「いや、結構。遠慮させてもらうぜ。」

 「怖いのか、鈴?どうした、降りて来いよ。」

 そう言い、天井板を元に戻そうとする凰を煽る一夏。

 「誰が、筋肉なんか、筋肉なんか怖くねえ!・・・野郎、ブッ――」

 「ねえ、凰さん!一夏って、そんなに水着破れるの?」

 折角の見せ場にも拘わらず、さらっと割り込んできたシャルロットに、一夏は苦言を呈する。

 「・・・シャル、空気を読んでくれ。」

 「ごめん一夏。死ぬほど水着の話が本当か聞きたかったんだ。」

 「―コロッシャァァァァァァァァァァ!!!」

 と、呑気に話しているように見えるが、実は途切れることなく続けられている。

 「ふんっ!」

 メギッ!【1000/1600】

 「ウォォ・・・。」

 飛び降りてきたところで、キッチリと凰は絞められた。

 「これで、腐った冷気も抜けただろう。」

 「うっさいわよ!」

 ベキッ!【9998/9999】

 「む、やったな!」

 ベキッ、ドゴッ、メシッ!【10/1600】【5000/9999】

 「貴様らいい加減にしろ!」

 ドゴォォォォォォォォォォォン!!!【0/1600】【1000/9999】

 ガチの戦闘を始めた一夏と凰に、千冬から珍しくまともな鉄拳が飛んだ。

 「おい一夏、早く金を払ってこい。君達は騒ぎすぎた。」

 と言っても、これはあることを誤魔化すために行ったこと。

 「・・・あのー、私の疑問は・・・?」

 そう、シャルロットの疑問、海パンのことである。

 とは言え、何故海パンのことに拘るのか。

 「なんでしょう聞こえませんが・・・磁気嵐のようですなあ、場所を変える。行くぞ。」

 何とか諦めて貰おうと、すっとぼける三人。

 「エエェェェェェェェェェェェェェェ!?!?!?」

 「うるさい黙れ!」

 ドベキシッ!「オフィッ」【0/1800】

 まんまと誘導に乗ってしまったシャルロットは、千冬によって睡眠させられてしまった。




お久しぶりです。『只の・A・カカシです』です。
オリジナル書いていたのと他のことが忙しかったのとで、MAD版に少々(二ヶ月)遅れてしまいました。
書き溜めしているので、30話まで毎日投稿します。


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第27話 シュロの木陰で肌を焼くか

 「あぁ!!見ぇたぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 バスの車窓に、クラスメイトの一人が大きな声でコメントした。

 この日、IS学園1学年の生徒は、校外特別実習に向かうべくバスに揺られていた。

 「でけぇ水たまりだな。」

 「違うよ、この織斑筋!」

 「違うのか?じゃあ、小っさい池だな。」

 長時間、バスの狭いシートに筋肉をねじ込んでいた一夏は、その鬱憤を晴らすようにジョークを連発する。

 「それも違う!海だよ、海!」

 興奮気味に話す生徒を、誰も止めようとはしない。もうじき旅館に到着するのだと言うにも拘わらず。

 「海?そりゃ丁度良い。学校生活で白ポケちまった――」

 「肌を早く棕櫚の側で焼きたいねって言うんでしょ?」

 「・・・何で分かった。」

 遂に一組のノリが分かってきたのか――

 「前に言ってたでしょ。」

 と、一夏は思ったのだが、以前に自分が言っていたのを頭のいいシャルロットは覚えていただけのようだった。

 「そうだったか・・・。」

 「あ、一夏!!見えてき――」

 「シーッ・・・。周りをよく見てから騒げ。」

 テンションが上がっていたシャルロットは、周りが急に黙ったことに気がつかなかった。

 「・・・・・何で皆静かなの?」

 「旅館に着くからだ。」

 「良い子にしてろってこと?」

 いまひとつ要領を得ないのか、質問を繰り返す。

 「違う。・・・黙って(心の)準備をしとけ。遅れても知らんぞ」

 「???」

 真面目モードに入ったクラスメイトに、シャルロットは頭の上に『?』マークを浮かべる。

 その答えが分かったのは、旅館の前でバスが停車した瞬間だった。

 「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 一夏の掛け声に驚いた運転手は、ドアを開ける操作をしようとした手を引っ込める。

 ドアが開くまでに時間が掛かると察した1組の生徒は、窓を開けて飛び降りる。

 「ハッチ(荷物室)開けろぉぉぉぉぉぉ!!」

 ドサドサドサッ!!

 「整列うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 この間、10秒足らず。

 「見ろ、あの間抜け面を。他クラスの連中、まだバスの中で風船膨らまして遊んでるぜ。」

 当然、他のクラスはようやく降りる準備を始めるところ。1組の異常ぶりは、止まるところを知らない。

 「み、皆さん!バスはドアから降りてください!」

 一時は周りの流れに乗って窓から出ようとしていた山田先生ではあったが、胸部装甲が邪魔で窓を抜けられなかったことで常識を取り戻していた。

 「山田君、何寝ぼけたことを?ここは幼稚園じゃないぞ。高校で!しかもIS(兵器)を扱ってる。他クラスが相手じゃ訓練にならんと分かったら、他の分野を訓練するのは当然だろ?」

 「バスを飛び降りることが我が校の教育なんですか!?」

 「我が校?私のクラス、だろ?」

 「」

 さも当然のように言い切った千冬に、山田先生は黙るしかなかった。

 ワイワイ、ガヤガヤ

 「見ろ、連中ようやく降り始めたぞ。」

 「ただのカタツムリですな。」

 「馬鹿言え、デンデンムシの方が速えよ。奴ら、角出したら外出だからな。」

 「「・・・違えねえ!」」

 その2種類に何の違いもないと気づき、笑う1組であった。

 

 5分後、ようやく全クラスの整列が完了した。

 「揃ったか?・・・諸君が整列するまでに――」

 「「「勿論、私らはマッチョになったで。筋トレで!」」」

 真面目な話をしようとした他クラスの先生の話に割り込み、筋肉のアピールを始める1組。

 「1組は少し黙ってろ。」

 「「「・・・。」」」

 他クラスが乗ってくれないため、一組は反応に困った。

 「諸君、この旅館が3日間お世話になる花月荘だ。従業員に迷惑をかけるなよ。壊したら、直ぐ元通りに直せ。OK?」

 「「「OK!」」」

 しかし、話す先生が千冬に代われば、1組は水を得た魚。

 「・・・織斑さん?今、何と?」

 「「「よろしくお願いします!!」」」

 「元気があってよろしいですが・・・、何か誤魔化されたような気が・・・。」

 それは千冬も同じで、チョチョッとした失言も、1組が気合と元気でパパッーと掻き消してくれる。

 「乗り込めェェェェェェェ!!」

 挨拶をしたなら、後は乗り込むまで。一斉に旅館へと走る。

 「窓に鍵掛かってるよ!?」

 「馬鹿者共!旅館ぐらい玄関から入れ!!」

 とは言え、流石にこれはやりすぎであった。

 「・・・まぁ、何というかパワフルですね。・・・こちらが噂の?」

 係わらない方が良いと判断したのか、清洲さんの興味は一夏へと移る。

 「そうだ。清洲さん、こいつが噂の男、織斑一夏だ。」

 「よろしく。」

 そう言って、手を差し出す一夏。

 「言い旅館だ。何部屋あるんだ?」

 「100部屋以上あります。各界の要人も、よく来られます。」

 それを聞いた千冬は・・・。

 「クソッタレ共のお守りして嫌気がしないか?」

 自虐ネタをぶち込んでいく。

 「ああ、アンタみたいなのは特にウンザリだろうな。」

 困惑した清洲さんに代わり、一夏が突っ込みを入れる。

 その様子を遠巻きに見ていた従業員は、近くにいたIS学園の生徒に尋ねる。

 「アイツ、(千冬様に対して)何様のつもりです?」

 「自分がナンバーワンだって思ってるだけだろ?・・・私もそう思う。怒らせない方がいい。」

 聞かれた生徒(1組)は迷うことなく答えた。

 そんなことを知る止しもない3人は、話を続ける。

 「いい男の子ですね。しっかりしていそうな感じを受けますよ。」

 「(拳で)試してみるか?」

 笑顔でそう言い放つ一夏。

 「いえ、遠慮させて頂きますわ。骨が惜しいですから。」

 そもそも、しっかりというのを物理的な意味で言ったわけではない。旅館の女将たるもの、そんな下品なことは言わない。

 だが、脳筋のこいつらには通じないし、いつものノリが抜けずつい言ってしまう。

 「清洲さん。人間には215本も骨があります。1本ぐらいなんですか!ドカンと行ってみてください。」

 「織斑先生のそれは当てになりませんので、丁重にお断りします。」

 一夏と千冬が対人(物理)のプロなら、清洲さんは対人(対話)のプロ。ちょっとした挑発程度では動じない。

 「千冬ね・・・織斑先生。そろそろ海に行かないか?こんな所に立ってちゃ、焦げちまう。こんがりと真っ黒にな。」

 調子の崩れた一夏は、ようやく当初の目的を思い出す。

 「では、ごゆっくりとどうぞ。」

 「「世話になる。」」

 気が付けば彼ら以外は既に中に入っており、バスも回送されていた。

 「しおりに書いてなかったが、俺の部屋は?屋根裏で寝ろってのかい?」

 旅館の廊下を、千冬の横を歩きながら一夏は笑う。

 「安心しろ、ちゃんと部屋だ。・・・私と一緒のな。全く。上の連中、何を考えてるんだか。」

 「ああ、全くだ。」

 「それより織斑。今日は自由行動だ。棕櫚の木の下で、肌でも焼いてこい。」

 「そうさせて貰うよ。」

 部屋に着き荷物を置くと、一夏は手早く着替えビーチへと向かう。

 「箒か。今から浜に行こうと思うんだが・・・どうだ?」

 その道中、箒に出会った一夏は、一緒にビーチへ行かないかと誘う。

 「いいな、乗った。・・・ところで、そこに何か生えてないか?」

 「生えてるな、ウサギの耳が。」

 見て見ぬ振りが出来ないものを見てしまい、二人はしばらく考える。

 「「・・・ほっとくか。」」

 そう言って立ち去ろうとした瞬間だった。

 空気を切り裂き、何かが高速で落下してきた。グングン近付いてくるそれは、巨大なニンジン。

 「フンッ!」

 「キエェェェイ!!」

 それを読んでいた『漢・一夏、魂のスカイアッパー』&『乙女・箒、魂の一閃』をまともに打ち込まれたニンジンは、カキィィィィィィィンッ!っと乾いた金属音を響かせながら、空へと帰って行った。

 「で、暫くしたら、この生えてるのから出てくるんだろ?全く、便利な体だ。変えて欲しいくらいだ。」

 余韻に浸ることなく、地面に生えるウサギの耳に向き返る2人。

 「馬鹿なこと言ってると、時間切れになるぞ。そうだ、中庭の小石でも積んどくか。どうだ一夏?」

 「いい案だ。ちょっと待ってろ。拾ってくる。」

 そう言うと、音も立てずに走り出し、ズドッズドッっと重そうな足音を立てながら戻ってきた。

 ズドドォォォォン!!!【0/100】

 大きな石の下へと、ウサギの耳は消える。

 「これで良し。」

 「随分と小さいな。もっと大きいのがなかったか?」

 「贅沢言うな。コレが最大だ。さて、海に行くか。」

 「いや待って、岩サイズですわよね・・・ですわよね?」

 一夏と箒からしてみれば大したことのない大きさだったが、一組慣れしたセシリアも2人の脳筋振りには引いた。

 「篠ノ之束の残基は215もあるのよ?1回くらい何よ!」

 「」

 驚かれ慣れているので、先回りして疑問に答える箒。

 「ああ、ところでセシリア、今から海に行くんだが一緒にどうだ?」

 そんなことよりも、余計なことで時間を食ってしまった一夏は、一刻も早く焼きに行きたい。

 「ええ、行きますわ。勿論行きますとも。そこで、ですわね。私の背中にサンオイルを――」

 「奇遇だな。俺も持ってきたんだ。何かSW30って書いてあるけどな。」

 セシリアの言葉を遮って、どこからともなく取り出したのは。

 「・・・それはエンジンオイルですわ!」

 「ん?何が違うって?」

 違いの分からない筋肉に、セシリアは説明を始める。

 「いいですか!?サンオイルというのですわねぇ!」

 「よし箒。自分の世界に入った。行くぞ。」

 勿論、そんなことを聞いて貰えるはずもなく、放っておかれるのであった。

 

 「あ、織斑筋だ!」

 ビーチに付くなり、そう言われる。確かに、上半身裸で歩いていればそう言われても仕方はない。

 「え、嘘!?私の水着変じゃないよね?」

 「大丈夫よ。あなた変なのは中身だからどうしようもないもの。」

 「わー、体かっこいー!ランボーみたい・・・。」

 様々な会話が交わされる中から、一夏はそれだけは聞き逃さなかった。

 「おい、誰がスタ○ーンだって?シュ○ルツェネッガーだろ!」

 「・・・うん、まあどっちでも良いんだよ!どっちでも!それより後でビーチバレーしようよ!」

 どちらもかっこいいので、言った本人的にはそこまで重要ではなかったようだ。

 「時間があればな!お、なんだこの砂冷たいぞ!」

 「それ、織斑君の筋肉がおかしいんだよ。きっと。」

 勿論、突っ込んだのは1組の生徒ではない。

 「そうか・・・じゃ、シュロの下で肌でも焼くか。」

 出鼻をくじかれ、いつもの8割までテンションが下がる。

 いつもより重そうな足取りで、ビーチの上を歩いていると。

 「いぃぃぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかくぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!」

 「演出ご苦労!」

 柄にもなく君付けで一夏を呼ぶ鈴。

 ベギョッ!【1300/1600】

 「ぐべっ!?何すんのよお!」

 肩に乗ろうと、ジャンプ一番した鈴だったが、あえなく地面に叩き落とされる。

 しかし、直ぐさま持ち上げられると・・・。

 「空飛ぶか?ほらよ!」

 ドボォォォォォォォォォォォンッ!!!

 海へと投げ込まれた。その距離、10m以上。

 「ギャァァァァァァァァァァァ!?冷たい!冷たいわよこの水!一夏も早く来なさいよ!」

 「止してくれ。海を蒸発させようってのか?」

 鈴としては水温を上げて欲しかったのだが、とにかく肌を焼きたい一夏はそれを断る。

 「いぃぃぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 またしても、それを阻止する奴が現れた。

 そう、先程サンオイルのうんちくをたれていたセシリアだ。

 「おい、折角シュロがあるのに何で傘さしてんだ?」

 「違いますわよ!一夏さんにサンオイルを――」

 「よし任せろ!」

 ダバーーー

 塗る間も惜しいと、一夏はオイルをひっくり返す。

 「アァァァァァァァァァ!?!?!?だからそれはエンジンオイルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!ンンホォォォォォォォォオッォォォォ!!!」

 何かに目覚めてしまったようだ。

 「おい、誰かティンd・・・火打ち石持ってないか?」

 「あるよー?」

 「丁度よかった。コイツに付けてやってくれ。さっきからオイル臭くて敵わん。」

 一夏のせいなのだが、焼く邪魔をされた側としてはこのぐらいないと腹の虫が治まらないらしい。

 「オッケイおりむー、着火して?」

 笑いながら火打ち石を手渡す布仏。

 「ちょ、ちょっとお待くださいな!?何故私は燃やされそうに!?」

 「安心しろ。エンジンオイルはそう簡単には燃えん。」

 セシリアは、慌てて起き上がる。

 「そういう問題ではありませんわ!ああもう、オイルを落とすので少し泳いできます。」

 環境保護?知らない言葉ですねと言わんばかりに、セシリアは海へと入っていった。

 「一夏、私達も行くわよ?」

 いつの間にか、鈴は海から上がってきていた。

 「そうだな、久しぶりに私達もやるか。」

 「仕方が無い。2人が行くなら着いていこう。」

 だが、そこは脳筋。いつの間にかシュロの影で肌を焼くという当初の目的を忘れてしまった。

 そして、海にダイブ・・・するかに思われた次の瞬間、水しぶきを上げながら走る、一夏と箒がそこにいた。

 「「「!?!?!?」」」

 「は、反則ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 想像を絶する筋肉振りに、あの1組の生徒さえも驚きを隠せないでいた。



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第28話 飛び散れ!汗!弾けろ!ボール!

 「おりむー!ヴァーリボゥしよー!!」

 水上散歩を終えた一夏を出迎えたのは、何故かキレの聞いた英語を話す布仏。

 「よし、今行く。」

 「おりむー来たよ~。」

 トコトコ歩く布仏の後ろに付いていくと、彼女といつもつるんでいるメンツがトスの練習をしていた。

 「ルールは?」

 「タッチは3回まで、殺人スパイクも禁止。10点先取で1セットね。」

 着いて直ぐ、ルールを聞くと試合を始める。

 「よーい、始め!」

 一夏チームのメンバーは・・・。

 「織斑君に、デュノア。それからラウラさん!相手にとって不足はないわ!!」

 などと言っているが、脳筋の中の脳筋3人衆なので・・・。

 ドンッ!←1セット

 「私は、7月の!」

 バァンッ!←2セット

 「サマーデビルで!!」

 ドォォォォンッ!←3セット

 「ビーチバレーなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 当然、殺人スパイク禁止ということも無視(彼女は分かって言ったのかも知れないが)し、完全勝利した。

 バタァンと倒れ込んだサマーデビル()。

 「織斑チームの勝ち!」

 「昼飯でも食いに行くか。」

 満足したのか、またも興味が移る。

 「「「賛成。」」」

 「おい、立ち上がれ。(日焼けで)炭になっても知らんぞ。」

 「わぁ!?待ってぇぇぇ!!」

 全員の了解が得られたので、食事を摂りに向かっていると。

 「昼食か?」

 千冬とばったり出くわした。

 「あ、織斑先生。そうです。」

 他クラスの生徒は、こんな物だろう。では、一組の生徒はと言うと・・・。

 「あぁ、もう半刻もマトモな飯食ってねえ。やってられっか!」

 ビーチで遊んでいた時間はお菓子を食べていないだけで、実際にはやっていられないわけではない。

 「織斑先生。午後、開いているな?久しぶりに勝負しないか?サシで。」

 「いいだろう織斑。掛かってこい。」

 それはそうと、午後は早速、(安全な)ドンパチが見られそうだと、1組の生徒は内心ではしゃいでいた。

 

 「さて、腹ごしらえも済んだし、ビーチバレーでもして腹ごなしでもするか。」

 昼食を終えビーチに戻ると、そこには気合い十分の織斑千冬が仁王立ちしていた。

 「来たな織斑。野郎、ブッ倒しァァァァァァァァァァァ!!!」

 二人は、それぞれのコートに入る

 「始め!」

 その合図とともに、千冬がバレーボールを高々と投げ上げ、ジャンピングスマッシュ!

 バンッ!【0/100】

 するも、あっさりと粉砕(分子レベル)されてしまった。

 「おい、何だこりゃ。紙風船か?」

 「替えを持ってこい!!」

 こんな安物のボールじゃなくて割れないやつをと付け足す。

 「コレなんかどうですか?」

 そう言って持ってきたのは、バスケットボール。

 「良さそうだな。堅さもバッチリだ。・・・行くぞ!」

 勿論、耐えきれるわけもなく、ボンッと音を立てて消え去った。

 「話にならんな。」

 これじゃあバレーボールにならないと一夏は不満を言う。

 「織斑。ここにいい球がある。コレでやるとしよう。」

 そう言って千冬が砂に埋もれていたボールを見つけ掘り出した。

 「望むところだ。」

 だが、それは本来転がして使うボール。人間が空中に打ち上げられる物では無い。

 「ねえ、アレって。」

 ガッ!

 バチィッ!

 「ボーリングの球・・・だよね・・・。」

 石の塊のような球が、普通のバレーボールと遜色ない勢いで飛び交う。

 「おおやだ、この人達人間じゃないわ!!」

 見慣れた1組の生徒も、驚きを隠せないでいた。

 ガシャァァァァァァァン!!【0/1000】

 しばらくしたときだった。ボーリングの球がスマッシュの衝撃に耐えきれず砕け散る。

 「「お前、それでもボーリングの球か!!」」

 「「「お前ら、それでも人間か!!!」」」

 「「今度余計なことを言ってみろ。ボールにして遊ぶぞ。」」

 「「「ひぃっ!!」」」

 マジでやりかねないので、それ以上煽れる猛者(箒)はこの場には居合わせなかった

 

 あの後、特にこれといった派手な遊びもないまま夕食の時間になった。

 「うまい刺身だな。ワサビも、本わさか。気に入った。」

 久方振りのご馳走に、一夏は舌鼓を打っていた。

 日頃、脳筋、脳筋言われている彼だが、味わうときはちゃんと味わう。

 「ねえ、一夏。本わさって?」

 日本に来て日の浅いシャルロットは、言葉こそ流暢に話すがそれ以外の知識については皆無・・・とまでは言わないが、大したことはない。(主にノリ)

 「刺身の所に、緑色の練り物があるだろ?ソイツだよ。抹茶アイスみたいに、甘くてクリーミーだぞ。」

 「へえ、そうなんだ。」

 言われるがままに、緑色の物体を口に放り込む。

 そして次の瞬間、お約束の――

 「か、か、辛ァァァァァァァァァァァイ!!!」

 「ほれ、水だ。」

 コントのような流れで騒ぐシャルロットに、一夏は水を手渡す。

 「一夏!!何だコレは!!この僕をこんな激辛の緑で苦しめやがって!!」

 ツーンと鼻に抜け涙目になる辛さを、鼻を摘まむことで何とか我慢しながら、一夏に怒る。

 だが、この美味しい場面を、1組の誰が黙って見過ごそうか。

 「この馬鹿!ヴァカ野郎!マヌケィ!」

 「一夏のことなんぞ信用しやがって。このマヌケ!今のは日本名物の薬味(激辛)だぞ!」

 ラウラと箒のダブル煽り。シャルロットは、別の意味でも涙目になる。

 「酷くないかな?」

 そう訴えかけると、申し訳なさそうに一夏が反応した。

 「そうだ、シャル。お詫びに良いことを教えてやろう。その、ご飯の上に乗っている赤いのは酸っぱいから食べない方が良いかもな。」

 だが、先程のことで一夏に対する信頼はゼロになっていた。

 「ふん!もう騙されないよ!」

 どうせ甘いから、騙し取ろうとしているのだと思い込んだシャルロットは、急いでそれを口に入れる。

 「しゅ、スッぱぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!!」

 赤い見た目から甘いチェーリーかなんかと勘違いして、酷い目に遭う外国人の観光客が結構いるらしいです。

 「・・・シャル、お前、見た目より頭悪いな。」

 折角教えてやったのにと、笑いを堪えながら一夏は話し掛ける。

 「一夏、君もね!!!」

 そう言うと、地雷がないかちびりちびりと食べる(諺で言うと、羮に懲りて膾を吹く)シャルロットであった。

 となると、弄る相手を探さずにいられないのが1組の性。

 「おい、アレを見ろよ。セシリアが(正座に)苦しんでる。」

 直ぐに次の獲物が見つかる。

 「奴らしくもねえな。夕食前から様子が変だった。」

 いつもの余裕は表情から抜け落ち、代わりに脂汗を垂らしている。

 「こっから投げて当たるかな?」

 そう言って、一夏は何処から取り出したのか、先端を以上に尖らせた紙飛行機を構える。

 「止してくれ!(織斑先生の)味噌汁に入るのがオチだ。」

 そうなったら、気の済むまでドンパチしてやればいいと笑う。

 言うまでもないが、敢えて言う。そうなったとき、周りは関係ない。まあ、止める気は毛頭ないようだが。

 ヒュッ・・・サクッ☆【1499/1500】

 手を離れた紙飛行機は、寸分の狂いもなくセシリアの足裏に直撃。

 「イエェェェェェアァァァァァ!!!」

 天井に突き刺さりそうな勢いで飛び上がり、ひっくり返った。・・・そんなに痛いか?

 「コレで足の痺れも抜けるだろう。」

 足つぼマッサージだと、一夏は言い切った。だが、やられた方は黙って「はい、そうですか。」と納得するわけがない。

 「いぃぃぃぃぃぃぃちぃぃぃぃぃぃぃかさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!なんですの、これは!この私を、こんな安物の紙飛行――」

 もっとも、ここにはISを相手に生身で立ち向かい、大体無傷で切り抜ける化け物が3人いることを忘れてはいけない。

 「黙って食え!!」

 ぎゅッ!【1/1500】

 「ピグゥ!」

 千冬に足踏まれたセシリアは、白目をむいて倒れ込んだ。

 「コレで静かになるだろう。」

 こんな感じで、1日目の夕食は楽しいものだった。

 

 夕食後、満面の笑みを浮かべたセシリアは、割り当てられた部屋にいた。

 「♪(怒)」

 「どうしたのセシリア。随分とご機嫌だね。」

 「あ~ら、そうですか?・・・・・野郎!ブッ殺しァァァァァァァァ!!!」

 その瞬間に怒りを我慢できなくなったのか、突然、ドドドドドドドドドッ!っと音を立ててセシリアは廊下に飛び出ると、あっという間に角へと消え去った。

 「「「!!!???」」」

 あまりにも突発的な行動に、部屋に居合わせた生徒達は驚いて身を縮こまらせた。

 

 「あそこが、一夏さんの部屋!!」

 一心不乱にセシリアが目指していた先には、既に4人の先客がいた。

 「セシリア、静かにしろ。」

 「あ、はい。」

 生身で互角以上にISと渡り合う相手に反抗しない程度の余裕が、幸運なことにセシリアにはまだ残っていた。

 で、その先客が何をしているのかというと・・・。

 『久しぶりだからって、遠慮はしないからな!』

 『掛かってこい!馬鹿者!加減など・・・うわぁぁぁぁ!!!』

 『どうした?そんなものか?』

 『クァァァァァァ!コレは!これはぁぁぁぁ!!!』

 『直ぐに楽になるって!だいぶ、貯まっているみたいだな!』

 『アァァァァァイ!』

 などと聞こえてくる、一夏の部屋の様子をドアに耳を当てて盗み聞きしていたのである。

 「「「な、何コレ・・・?」」」

 時折聞こえてくる、おおよそ人間が中に居るとは思えない音に箒と鈴を除く全員が首を傾げる。

 『じゃあ、次は・・・』

 『待て!少し間を――』

 そのとき、誰かがバランスを崩した威力でドアをブチ破り、一同は部屋に流れ込む。

 「「「グエェッ!!」」」

 「何しに来た?」

 一夏は、進入してきた者達に不敵に笑いかける。その目は、玩具を与えられた子どものよう。

 「NO☆ZO☆KI。」

 「「よし、そこに直れ。」」

 答えを聞くや否や、2人は全員にそう命令する。

 「ひ、1つお聞きしたいのですが、貯まってると言うのは?」

 その命令を実行する前に、恐る恐るラウラは手を上げ訪ねる。

 「乳酸だろ?それ以外に何かあるのか?体幹始めるから、お前らも位置に付け。」

 「今夜はシゴキまくるぞ!嫌ってほど鍛えてやるからな!お前ら覚悟はいいか?それでは始めよう、キャプテン・一夏のワークアウトだ!!」

 〈〈〈あ、コレ死んだ・・・。〉〉〉

 来てはいけないところに、最も来てはいけないタイミング出来てしまったと、4人が後悔する中。

 「ふむ、一夏とのトレーニングは久しぶりだな。剣道場以来か?」

 箒だけが異常なまでのやる気と余裕を見せていた。

 「あぁ、そうだな。・・・一週間前のな。」

 「じゃあ、始めるぞ!」

 地獄のようなトレーニングが、千冬の掛け声とともに始まるのであった。

 

- 終了後 -

 「どうした?この程度で筋肉痛にでもなったのか?」

 クールダウンと言いながら、ハイペース(常人比)で腹筋をする一夏と箒、そして千冬。

 「おかしい!絶対におかしい!大佐と教官は除くとして!篠ノ之!貴様一体!」

 ラウラは、未だに信じられないという顔で箒を見る。

 「随分と体力が有り余っているみたいだな、ラウラ。よし、もう一周するか。」

 「おかしい・・・。絶対におかしい・・・。大佐と教官は除く・・・として・・・。篠ノ之、・・・貴様一体・・・。」

 一夏にそう訪ねられた途端、それまでの地獄を思い出したのか、ラウラは畳みにへばりつくように力尽きた。

 「ふっ。ドイツ軍も大したことないようだ。」

 「「あなたが・・・、あなた方が・・・おかしいだけだよ(ですわ)・・・。」」

 ラウラと同じように、シャルと鈴、セシリアも畳みに張り付くように力尽きた。

 それが通用しないから、未だにピンピンしているのだと、分かっていてもいざ見せつけられれば信用できないのは人間の性なのかも知れない。

 「一夏、夜景でも見に行かないか?」

 珍しくロマンチックなことを言う箒。普段の脳筋振りを知っていたら、本人かと疑うレベルの発言だ。

 「いいねぇ、偶にはロマンチックな気分に浸りたいもんだ。」

 これまた不似合いな言葉が飛び出す。

 しかし、忘れてはいけない。彼らが如何に脳筋と言え、地は辛うじて人間であるということを。

 2人は部屋を出て、近くにある灯台の屋上へと向かう。

 しかし、屋上に出るドアには鍵が掛かっている。

 「クソ、鍵が掛かってる!」

 「任せろ!」

 そう言うと、一夏は軽くドアノブを捻った。

 ガシャァァァァァァァン!!っと音を立て、ドアは粉々に粉砕される。

 「・・・・・海に夜景ってあるのか?」

 外に出た2人が見たのは、真っ暗な海。

 「おかしいな。この時期はイカ釣り漁船がいるはずなんだが・・・。オマケに曇りと来た。星空も見えん。」

 「任せろ。」

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 そう言ってロケットランチャーを取り出し、空に向かって撃つ。

 だが、その前に気付くべきである。灯台は明るいのだから、星空をそこから見るのが間違いであると言うことに。

 当然、ロケットランチャーはない雲に向かって突っ込んでいき、やがて重力に引かれ戻ってくる。

 ガシャーンッ!!と音を立てて、旅館の方から土煙が立ち上る。

 「よし、何もなかった。いいね?」

 「よし、帰ろう!!!」

 そう言うと、2人は夜の森へ紛れつつ、旅館へと戻ると、何食わぬ顔で廊下を歩く。

 そして、IS学園の生徒も、何かが壊れると言うのは日常であったため、誰も気にも留めず、一日目の日程を消化した。



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第29話 脳筋と筋脳

 「・・・おい、一組の連中、誰も来てないぞ。」

 「これは、遅刻か?奴ららしくもないわ。」

 校外特別実習2日目の朝、そこには1組が誰も居ないという奇妙な光景が広がっていた。

 ここは四方を切り立った崖に囲まれており、出入りできるのは1カ所しかない。・・・普通の人間なら。

 「時間でも間違えたんじゃないのかしら?」

 そう話す彼女ら背後の崖から、音もなく人影が下りてくる。

 崖を下りきると、無音のままに彼らの死角をすり抜け整列を済ませる。

 「そんなマヌケなこ――!?おん!?!?」

 「何だ?・・・は?いつの間に整列した?」

 気が付けば、先程まで誰一人としていなかった1組が全員揃い整列し終えていた。

 「俺たちなら、瞬きする間に整列できる。忘れないことだ。」

 「「「」」」

 本当にこいつらと訓練して、生きて帰れるのだろうかと不安になる生徒達だった。

 

 「揃ったな。では、班ごとに分かれてISの装備試験を行え。専用機持ちは、専用パーツのテストに当たること。では、始め!」

 「「「はい!」」」

 集合点呼を終えると、直ぐに実習が始まる。

 「篠ノ之、ちょっと来い。」

 自分の班とともに移動していた箒を、千冬が呼び止める。

 「何だ?重りでも付けて実習させようってのかい?」

 「あぁ、そうだ。」

 千冬がそう答えた瞬間。

 「ちーちゃ~~~ん!!」

 砂埃を上げながら、唯一の出入り口から真っ直ぐに突っ込んでくる人影があった。

 「私を覚えてるかね?ちーちゃん!」

 両手を大きく広げ、クルリと一回転する。その姿に、その場に居合わせた一夏、箒、千冬の3人はイラッとする。

 「誰が忘れるものか、このゲス野朗。ISでどれだけ苦しめられたか・・・。」

 「え~?誰も苦しんでな――」

 「「「ISごときが俺(私)の動きに付いてこれると思うな!!!」」」

 最後まで言わせずに、彼女の話をぶった切る。

 「グフフフ・・・、相変わらず、容赦ない愛の表現だ――」

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 万物は叩けば治る理論を唱える一夏が、チェーンガンを構える。勿論、撃つ準備は出来ており、合図があればいつでも撃てる。

 「ごめんなさい!悪かったよ!!だからチェーンガンは仕舞って!!!・・・ぐへへ、久しぶりだね、いっくん。大きくなったね、胸が。」

 彼女は反省しているのかしていないのか。恐らくは後者だろうが、そこを気にするほど3人の神経は繊細でない。

 「毎日、鍛えているからな。で?何のようだ?」

 「お、織斑先生?ここは関係者以外の立ち入りは禁止なのでは?」

 あたかも彼女が最初から居たかのように接する3人に対し、山田先生は慌てて止めに入る。

 「気にするな。諸君、こいつが伝説の天災、篠ノ之束だぞ。失礼されないように気を付けておくこと。」

 まるでゴミか何かを紹介するような雑さに、彼女はツンデレだと頬を赤らめる。

 「んも~。ちーちゃんったら恥ずかしがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「口開けろ!あけやがれこのぉ!舌ぁ引っこ抜いてラボに送ってやるぜ、舌が授業の邪魔しないようになぁ!」

 丁度口を大きく開けたタイミングを狙って、束の口に手を突っ込み無理こじ開ける千冬。彼女は、干物を絞ってジュースを作れる握力を持つ。これには、流石に篠ノ之束も無条件で降伏せざるを得ない。

 「ぐぬぬぬ、相変わらず血も涙もない脅しだね。」

 脅しでなく実際にやられそうだったのだが、終わったことだと束は笑い飛ばしていた。

 「姉さん。何しに来たんだ?」

 その様子に、実の妹も堪忍袋の緒がほつれてきた様だ。

 「箒ちゃん!流石我が妹!よく聞いてくれた!!!コレを見よ!!」

 「箒、昼飯なに食う?」

 「折角の旅館だ。チーズとペパロニのグッチョマイピッツァがいいな。」

 これを見よと言って登場する目での間に、一夏と箒の興味は失せていた。

 それにしても旅館でピッツァ食いたいってのは、如何なものでしょうか。

 「聞いてー!お願いだから無視しない――」

 グサッ【1000/15000】

 「グボヘッ!?」

 2人の会話を邪魔した束は、箒に刀で容赦なく胸を突かれ赤い液体を吐き出す。

 「突きますよ?」

 「酷い!突いてから言った!しかも、日本刀の切っ先で突いた!」

 残基が減っちゃったじゃないかと、怒る束。

 「痛くないでしょ、このくらい。」

 見れば、傷跡は何処に見られない。勿論、身代わりなどを使ったわけではなく、正真正銘本人が刺されたのだが。

 「む~、箒ちゃんが酷い!!束さんジェラシーだよ!よって、カモーン!」

 何がよってなのかは分からないが、その掛け声とともに空から何かが飛来し、ドスッ!っと音を立てて着地する。

 「何だ?この金属製の端材入れは。」

 バタンッと金属のドアが開く・・・と言うよりも倒れ、中から現れたのは、真紅のIS。

 「コレが!箒ちゃんの専用機!その名も――」

 「早く言ってくれ。待っている間に、(筋トレで)だいぶマッチョになったぞ?」

 残像が出来るほどの速さで腕立て伏せをする箒は、文句を垂れる。

 「・・・その名を『赤椿』。全スペックが現行のISを上回る、お手製のISさ!さあさあ、フィッティングとパーソナライズを始めよう!!」

 「・・・随分と貧相な機体だな。」

 眉間に皺を寄せながら放った箒のその言葉に、眺めていた1組以外の生徒は理解が及ばずに困惑する。

 「フッフッフ。驚くことなかれ!箒ちゃんの得意な近接格闘――」

 「あれ?篠ノ之さんって、チェーンガンぶっ放してなかったっけ?」

 即座に飛ぶ疑問。

 「・・・だけじゃなくて万能型に調整したから安心だね。っと、話していたら終わっちゃった!流石私!」

 慌てて何か追加のパーツを付けたのは見え見えだったが、それを指摘してあげる優しい人は1組に居合わせなかった。

 「・・・あの専用機って、篠ノ之さんが貰うの?・・・邪魔にならないかな?」

 「だよねぇ。絶対邪魔だと思う。」

 何処へ行っても尊敬の眼差しが集まる筈の束だが、1組の生徒にとっては尊敬すべき存在ではなくなっていた。でなければ、こんなことは言われない。

 「フッ。歴史を勉強してみなさい。人類有史以来、平等になっ・・・邪魔?寝言言ってんじゃないわよ。束さんの最高傑作だからね!・・・ところでいっくん。白式見せて。」

 徐々に扱いがぞんざいになっていると気付いた束は、相手にするのを止める。もっとも、1組の生徒も別に彼女の相手をしてあげている訳では無いのだが。

 「気が済むまで見ていってくれ。何なら持って帰ってくれて良いぞ?動きにくくてしょうがない。」

 一夏に全力で投げつけられたISを束は難なくキャッチすると、機械にセットする。

 「・・・不思議なフラグメントマップを構築してい・・・あれ!?コレ筋繊維だ!え?なんでデータ領域にまで筋繊維が出来ちゃってるの!?」

 「良い傾向だな。」

 それを聞いて、呑気に返す一夏。まあ、ISのことは彼女以外に理解できないので仕方のないことではあるが。

 「良いわけないよ!まあ、自己進化するようには作ったけどさぁ・・・。というわけで、箒ちゃん。テストフライとしてみよう!」

 どうやら制作者にも分からないことだったようで、それとなく話題を切り換え誤魔化すことにしたようだ。

 束の指示に従い、箒は赤椿を宙に浮かせる。

 「どう?感触は?」

 良い仕上がりになっているはずだよと、胸を張って言い切るが。

 「ただのカカシですな。」

 飾りとしては言い見栄えと言うのが第一印象のようだった。

 「カカシな筈無いよ!!いいよ、見せてあげよう!『空裂』出して!行くよ!コレ撃ち落として!!」

 その声とともに、空に的が現れる。

 箒は、現れた的に向け指示された武器で攻撃を行う。ズバァァァァァンッ!と派手な音とともに空が赤く染まる。

 「やることが派手だねぇ。」

 この性能には、あの箒もご満悦の様子だ。

 「でしょ?コレで分かって貰えたかな?」

 「あぁ。白式よりは使えそうだ。」

 その横で、一夏がやや羨ましそうな目を向けていたのは言うまでもない。

 ムードがよくなってきた・・・と思っていた矢先、ドタドタと足音を立てて山田先生が駆け込んで来た。

 「大変です!織斑先生!コレを!!」

 来るや否や、何かを千冬に手渡しながら告げる。それを見て、千冬は。

 「特命任務レベルA?ハワイ沖で行っていた実験機の暴走でか?」

 と機密事項を思いっきり声に出していった。

 「先生!機密事項です!」

 まさか漏らされると思っていなかったのか、山田先生は大慌て。

 「機密事項?コレが?寝言言ってんじゃねえよ。」

 「す、すみません・・・。」

 しかし、千冬の一言で鎮圧されてしまう。良い上下関係だ。

 「織斑、ちょちょっと指先の運動をかねて行ってこい。メンバーは任せる。OK?」

 まるでお使いか何かを頼むように告げる。頼まれた側も、散歩にしか成らないだろうと思っているのだから何も言うことはないが。

 「OK!箒、ラウラ、それからセシリア。暇だったら、シャルも突いてきて良いぞ?」

 どうやら、一夏の中ではシャルロットは最初から行くことが決められているようだった。

 「ダメだよいっくん。ここは、赤椿の高速性能を生かして――」

 「何、時間はあるんだ。皆でのんびり行くよ。」

 何故か執拗に赤椿を使うよう迫る束だったが、彼らに受け入れられることは未来永劫にないだろう。

 

 太平洋上に、6機のISが飛んでいた。

 メンバーは、一夏、箒、鈴、セシリア、ラウラ、シャルロット。

 『名前は銀の福音、スペックも、驚くほどではない。超音速飛行をしているのだけは気を付けろ。』

 千冬からの無線をキッチリと耳に入れ、一夏はそれを皆に確認する。

 「・・・と言うことだ。ささっと片づけて昼飯にしよう。背中とお腹がくっついちまいそうだ。」

 突拍子もなく、呑気なことを言い始める一夏。

 「まだいいじゃないか。私なんか出る前から空腹過ぎてお腹が痛いぞ?」

 「はは、僕も・・・。」

 箒に続いてそう言うシャルロットの顔は、いつになく引き攣っていた。

 「シャルのは緊張だろ?違うか?」

 「う、うん、多分そう・・・。」

 ズバリ言い当てられ、シャルロットは居心地悪そうにする。だが、それらのことを分かった上で一夏や箒は話をしていた。

 「スクランブルは初めてか? ビビったっていいさ。私だって未だにビビってる。」

 「ラウラさんも?正直言って・・・変な気分だね。恐ろしい事なのに・・・。」

 「ああ、ワクワクしてるんだろ?なーに恥じる事はないさ。それはいたって自然な反応だよ。筋トレに似てる。やると・・・病みつきになる。」

 何気なく筋肉ネタをぶち込む一夏。

 「それは一夏だけじゃないかな?」

 それに突っ込みを入れるシャルロット。そのお陰か、いつもの調子を取り戻しつつあった。

 「それはど――」

 「いましたしたわー!!!」

 突然セシリアが叫ぶ。

 「どこだ?雲が多くて見辛い!」

 「右前方だ!!」

 瞬間的に戦闘モードに切り替わるのは、流石と言うべきだろう。

 「よし、俺と箒が正面で足止めをする。後は好きなところから回り込んで撃ってくれ。散会!」

 スラスターを全開に吹かし、いつもの3割増しで襲いかかる。それもそうだろう。お腹が空いているのは、マジだから。

 「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 バキィッ!【91999/99999】

 「あいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ズドッ!【89522/99999】

 当初の予定に沿い、一夏と箒の突撃(拳)が炸裂する。

 「La!」

 しかし、今までの敵とは違い、相手は軍用機。黙ってやられてくれるわけがなかった。

 「うおッ!?」

 シュバババババッ【98999/99999】

 弾幕の密度が高すぎ、接近していた一夏は躱しきれず幾らか被弾してしまう

 「クソッタレが!」

 バキィッ!【87888/99999】

 もっとも、その程度で怯む一夏ではない。そのまま体当たりを喰らわせ、海へと叩き落とした。

 「一夏、大丈夫か?」

 「気にするな。掠っただけだ。」

 駆け寄ってきた箒に、大丈夫なことをアピールする。

 「大佐!奴は何処へ!?」

 少し遅れて、ラウラもやってくる。

 「海の中だ。叩き落とした。油断するな。まだ――」

 とどめは刺していないと言おうとしたときだった。シャルロットが驚いたように海面を指差していた。

 「い、一夏、あれ!」

 「なんだ、あとに・・・あぁ!?なんで船が!?」

 その先には、一隻の漁船がいた。しかも、足の遅そうなボロい漁船。

 「ほっとくか?」

 「いや、後から難癖付けられるのがオチだ。」

 知らぬが仏を一夏が提唱したが、一発で却下された。。

 「クソッ!教師いねえのかい!用があるときは近くにいたためしがねえや。廊下で素振りをしてりゃすぐ現れるのによぉ!」

 やや起こり気味の箒は、周囲に先生がいないかを探す。勿論、居ないのだが。

 「ここまで救援には来ない。戦闘領域を超えてまで来るガッツは教師にない。」

 ラウラも、その辺は分かりきったことだろうと諦めたように言った。

 「仕方ない、シャル。お前が一番防御が堅い。アレを守っててくれ。」

 その瞬間、海中からババババババババババババババッ!っと無数の弾が飛び出してくる。

 「「「!!!」」」

 意表を突かれ慌てて回避。辛うじて被弾はゼロで済んだ。

 「クソッ!姿が消えた!そのくせ攻撃してくる。これは厄介だ。」

 彼らは油断して居なかった。戦うときは、相手が格上だろうが格下だろうが、常に全力で叩きつぶしてきた。そんな彼らですら見えない敵とどう戦えば良いのか、このとき本当に迷っていた。



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第30話 お前は一体何だ?

 水面が光ったのを、ラウラは見逃さなかった。

 「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 その声を聞き、皆は一斉に散会する。

 直後、それまで居た場所を敵の弾がズドドドドドドドドドドドッ!っと通り抜けていった。

 「「どうして分かった?」」

 箒と一夏は、直ぐさまラウラに尋ねる。

 「光った。水面が光った。」

 「成る程。・・・!!避けろ!!」

 教えて貰ったことを直ぐに実戦できるのは、彼らがただの脳筋でないことの証明になるだろう。

 「何て弾の数だ。奴はエネルギー切れ知らずか?」

 そのエネルギー半分分けて欲しいと、一夏は思わず感想を漏らす。

 「分からん。それに、ステルス状態で水中にいられては、攻撃されるまで何も見えん。」

 「ですが、それも無理のようですね。水蒸気のせいで、水面すら見えませんわ。」

 やはり、相手は馬鹿でない。躱され始めたことを察し弾を変えたのか、水面は水蒸気で見え辛くなっていた。

 「「何!?」」

 スドォォォォンッ!【23000/40000】

  【8901/24000】

 そのせいで、反応が遅れた箒とラウラは諸に被弾してしまう。

 「大丈夫か!?」

 大丈夫ではなさそうなことは一目見て分かるが、それでも咄嗟に出てしまう言葉でもある。

 「大佐!スラスターに異常が!」

 「私は大丈夫だ。だが、音速の戦闘は厳しい!」

 驚くほどのスペックは無い(軍用機としては)と聞いて、全員で包囲すれば読みを間違っても叩けると高を括っていたのが仇となり、逆に2人も離脱させざるを得ない状況になってしまった。

 「クソ!」『シャル!船の待避は?』

 百戦錬磨の一夏は、この後の行動をもう決めていた。

 『どのくらい逃がせば良いのか分からないけど、音速で3秒くらいは離れたよ。』

 『OKだ。シャル、箒とラウラが被弾した。今から2人とセシリアを帰すから、合流してくれ』「セシリア!2人を援護しながら、待避しろ。シャルも直に来るだろうから合流してくれ。合流地点は任せる。俺は、此処で奴の足止めをする。」

 貧乏くじは俺が引くと、一番体の頑丈な俺が残るとそう告げる。

 「了解ですわ!お気を付けて!」

 「大佐!すいません、直ぐに戻ります!」

 「任せたぞ、一夏。」

 彼女らも、残れば残るだけ不利になると分かっているので、全く躊躇うことなく後退を開始する。

 一夏は、彼女らの後ろ姿を見送ることなく・・・と言うよりもその余裕も無く水面を注視する。

 直後、ザバァ・・・っと水を滴らせながら、銀の福音は海中より姿を現す。

 「出たな!」

  ズババババババババババババッ!

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ズドンッ!【75731/99999】

 構えていたチェーンガンをぶっ放し、直ぐさまロケットランチャーに持ち替え攻撃を行う。そこに、一切の躊躇いはない。まあ、当然か。

 「La!!」

 競技用ならばこれでダメージを与えられる(絶対防御?ただのティッシュですな)のだが、相手は軍用機。予想以上に硬い。

 「グッ!?・・・クソ!付いてこい!」

 予想以上の戦闘能力に、一夏は久方ぶりの長期戦を覚悟した。

 

 〈クソ!エネルギーが!このポンコツ!〉

 10分後。長期戦を見据えた動きを取っていたのにも拘わらず、白式はエネルギーが底を尽きかけていた。

 「La!」

 「!!」

 スドッ・・・【1/99999】

 「うぉ!?」

 動きの重くなった機体では、高密度の弾幕を避けることなど不可能。もろに喰らった一夏は、高度3kmの高さから真っ逆さま。

 ズザァァァァァァァァン!【9999/9999】

 小島へと墜落墜落。衝撃で、白式は解除されてしまう。

 「クッ!」

 痛みを堪え、何とか木の陰へと移動し、うずくまる。

 〈ここまでか・・・。〉

 迫ってくる銀の福音を見ながら、一夏は覚悟を決めた。

 「La・・・?」

 しかし、至近距離まで迫っていた銀の福音は、全く一夏の方を見ること無く別の方へと去って行った。

 「(ISがないと)見えないんだ・・・。」

 

 ザク、・・・スパッ・・・ギ、ギ、ギッ・・・っと、森から音が聞こえていた。

 「出来た・・・。」

 あれから、数時間後。木を切り倒し、ツタで作ったロープでトラップを仕掛けた一夏は、汗だくになりながらそう呟いた。

 

 「うおおおおおおおおおおお!!!」【20012/99999】

 島の頂上に立っち、展開出来る程度に回復した白式を纏い、ありったけの声で海に無あって叫ぶ。

 直ぐにISを収納し、再び身を潜める。

 〈来た・・・。〉

 直後、視界の遙か彼方より飛来する物体があった。

 「La・・・La?」

 首を傾げながら辺りを見回す銀の福音。

 ギリギリと木が唸る。一夏がツタのロープを切ると、爆弾付きの矢が飛ぶ。

 ズドォォォォォォォォン!【87001/99999】

 「La!?La!!」

 何処から攻撃されたのか分からず、銀の福音はやたらめったらに撃ってくる。

 勿論、その頃には一夏は悠々離脱している。

 ゴッ!【81042/99999】

 「La!!!」

 また別の仕掛けを発動させ、休む間を与えず攻撃を続ける。

 「いいぞ!付いてこい!」

 ここで、一夏はISを部分展開する。

 それを捕捉した銀の福音が、真っ直ぐに突っ込んでくる。しかし、一夏は直立不動のままで、逃げようとしない。

 「La!!・・・La!?」

 直後、銀の福音は地面から跳ね上がった網に絡め取られる。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ザクッ!【21533/99999】

 振り上げられた雪片が、銀の福音の装甲を削ぐ。

 「はぁ、はぁ・・・。」

 「La!」

 「!?」

 流石は軍用機と言うべきだろうか。銀の福音はその活動を止めるどころか、未だにピンピンしている。

 ズドンッ!【2401/9999】

 反撃を受け、一夏は斜面を転がり落ちていく。

 感度を人間でも捉えられれるように上げたのか、銀の福音は勝利を確信し一夏にゆっくりと近付いてくる。

 「La~♪」

 だが、ここまでは計算の内。

 〈いいぞ、そのまま来い。〉

 「La?・・・・・La?」

 だが、不運なことに銀の福音が仕掛けへと接触し、まだそれが残っていることに気付かれてしまった。

 「来やがれ!どうした?殺れよ!殺せ!どうした、こいよ!俺はここだ!さぁ殺せ!殺せ、殺してみろ!どうした!ここだと言ってるだろうが!どうした!さぁ殺せ!殺してみろ!」

 それを誤魔化そうと、一夏は大声で挑発を試みる。

 「・・・La!」

 その手には乗るものかと、銀の福音は仕掛けを回避するために飛び上がった。

 「いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ズドドドドドドドドドオォォォォォォォォッ!【10144/99999】

 狙ったかのようなタイミングで、ラウラの声とともにレールガンが銀の福音へ着弾する。

 「大佐!五分死(ごぶじ)ですか?」

 初めて見るボロボロの一夏に、それでも彼が死ぬはずはないとラウラは冗談交じりに尋ねる。

 「安心しろ!ピンピンしている。」

 もし、寝転がったままで言ったのであれば、かけらも説得力がなかっただろう。一夏は、立ち上がると、体をパンパンと払った。

 「一夏さん!」

 「あぁ、ありがとう。」

 セシリアが、一夏に手渡したもの。

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 そう、お馴染みロケットランチャーである。それも、ISが使うことを前提に作られた超強力な代物。

 「さっきのお礼だ!受け取れ!!」

 ズドォォォォォォォンッ!ズドォォォォォォォンッ!ズ、ズドォォォォォォォンッ!【974/99999】

 「チェストォォォォォォォォォォ!!!」

 ゴギッ!【0/99999】

 派手な花火の後には、見るも無惨な姿の銀の福音が海へと落ちていった。

 

 「いやぁ、久しぶりに手応えのある良い敵だった。」

 旅館に戻った5人は、夕食を摂った後、部屋に集まり雑談に興じていた。ただ、鈴だけは何故かこの場に居なかった。

 「えぇ!!私も大佐をあそこまで追い詰めた奴は初めて見ました!」

 「だな。私も、一夏とちふ――織斑先生以外で苦戦したのは初めてだ。」

 「繰り返し聞くけど、一夏と篠ノ之さんは本当に民間人なんだよね?」

 しれっととんでもない話をする3人を、シャルロットは引き攣った顔で見詰める。

 「あぁ、そうだ。」

 「あぁ、今はな。」

 「今、は?」

 そこに、引っかかりを覚える。因みにセシリアはと言うと、聞くこと自体が無駄であると悟り、傍観に徹していた。

 「知らないのか?ラウラがいつも俺のことを大佐って呼んでいるだろ?」

 「それは知ってるけど・・・まさか、一夏ってドイツ軍の退役軍人!?」

 驚いたように、シャルロットは声を出す。

 「違う、ちふ――織斑先生について行っただけだ。」

 「なんでドイツ軍に?」

 更にシャルロットが切り込もうとしたときだった。

 「「・・・デュノア、そこから先は聞くなよ。俺(私)だって忘れたいことだ。」」

 千冬が部屋に現れ、聞かないようにと念(威圧)を押す。

 「・・・織斑、少し手伝ってくれ。」

 「あぁ、了解した。」

 どうやら他に用事があったようで、千冬は一夏を連れて直ぐに出て行った。

 「行っちゃった。・・・そうなの?」

 それでも聞きたいシャルロットは少し声を落として、ラウラに尋ねる。

 「あぁ、色々あったのだ。色々と。教官と大佐にはな。」

 「そ、そう・・・。」

 言いつけを守り、話さないのかと思ったときだった。

 「だが、彼らは凄いぞ!鬼ごっこと称して、教官と大佐が逃げる役でこちらは10個小隊、まあ、200人ぐらいで重火器まで持ち出して追い回したんだ。」

 パアァァァッっと笑顔になり、嬉々として話し始める。

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 想像以上にぶっ飛んだ話で、声を抑えることも忘れ叫ぶ。

 「まあ、最後まで聞け。で、10分ぐらいして気が付いたら、全員無力化されていた。」

 「・・・今の話何処までホント?」

 三周回って冷静になり、シャルロットは嘘ではないのかと疑い始めた。

 「む、ばれたか。流石にシャルロットは鋭い。実はな!重戦車5台とISも3機出していたんだ!」

 「だよねー。・・・うぇぇぇぇぇい!!??」

 想像の斜め上を行く事実に、再びシャルロットは大声で叫んでいた。

 

 「おい、鈴!コレは何だ!寝ている間に俺をこんな紐でぐるぐるに縛りやがって!!」

 気が付いたとき、一夏は縄でグルグル巻きにされ、鈴に持ち上げられて上で砂浜にいた。

 「フッフッフッ、本当に海が蒸発するか試すだけよ!」

 「よせ、鈴!止めておけ!」

 いつになく必死で止める一夏。

 「えい!!!」

 それを全く聞かず、鈴は一夏を海へと投げ入れた。

 「・・・・・何も起こらないじゃない!一夏!嘘吐いたわね!」

 流石に、一瞬でと言うのは無理がある。

 それに気が付いたのは、一夏を引き上げようと、鈴が海に入ったときだった。

 「あ、いい湯加減。・・・?いい・・・湯加減・・・!?!?!?」

 このままでは生態系に影響が出てしまうと、鈴は慌てて一夏を引き上げる。

 「ブハッ!?何しやがる、茹で死ぬところだったぞ!見ろ!海岸を!茹で蛸が上がってるぞ!」

 そう指差す先には、見事に茹で上がったタコが海岸に打ち上げられていた。そう、なぜかタコだけ。実に器用な茹で方である。

 「あ、美味しそう。」

 「だろ?拾って帰って、夜食にしよう。セシリアは嫌がるだろうけどな。」

 その頃には一夏の怒りもすっかり消え去り、タコを拾うと、旅館へと戻っていった。

 

 その同時刻。岬の先っぽに人影があった。

 「うーん、赤椿のデータ領域にも筋繊維が・・・。でも、稼働率を維持するためには必要だし・・・そもそも実体のあるデータって何さ!取り出せないし消せないじゃない!!」

 超常現象に、束は我を忘れ叫ぶ。そもそも、彼女の作ったIS自体が超常現象な気もするが。

 「うるさいぞ束!近くに旅館があるんだ、静かにしろ。」

 それを咎めるように、木の陰から千冬が現れた。

 「えー、知らないよ。嫌なら、歩道脇の下水溝で逆さまに寝ればいいじゃん。静かだよ?」

 他人のことなどゴミかそれと同等に思っている束。普段ならその様なことも提案しなかっただろうが、今日一日は彼女がゴミかそれと同等の扱いを受けたため、虫の居所が悪いのだ。

 「なら、試してみるか?」

 今にも束を連れていこうとする千冬。

 「・・・それより、ちーちゃん。今の生活は楽しい?退屈なら、私と一緒に新しい世界を作ろう!毎日が楽しいよ?」

 それを察知し、慌てて話題を変えようとする。

 「ふ、今の生活でも手一杯だ。遠慮しとく。・・・それはおいといてだなぁ。束、今日のあれは何だ?あんな安物の軍用機で――」

 もっと離れた話題を振るべきだったと、束は後悔する。

 「!!じゃあね!!元気で!また会おう!」

 なりふり構わず、束は岬から飛び降りた。

 直後、砂浜を走っていく足音だけが夜の海岸に響いていた。

 「・・・さて、タコが茹で上がったかな?ビールのつまみに分けて貰おう。」

 因みに、一夏を気絶させ紐でグルグル巻きにし、鈴に海に投げ込めと指示したのは他の誰でもない、千冬であったのは、言うまでもないだろう。




しばらくの間、投稿はありません。
MAD版が3月の終わり頃に4~5話書けたら、4月の終わりまでにはこっちも更新する予定です。
では、しばらくの間さようなら。


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第31話 バトルサマー

A 諸くぅぅぅぅぅぅぅぅん!!我々は帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!
B 俺は帰ってないぞ。
A いいんだよ細けえ事は。
B 明日も災害派遣だ・・・。


 8月。IS学園は夏休みに入っていた。

 ドン、ドン、ドン!っとドアを乱暴にノックする音が人気(ひとけ)の少ない学生寮に響く。

 「一夏!いるんでしょ?出てきなさい!」

 騒音を立てていたのは、凰鈴音。ドアを開けろと、更に叩き続けていると・・・。

 「うるせえぞ鈴!そこは壁だ!」

 何の仕掛けもないように見えていた壁が突然開き、そこから一夏が顔を覗かせた。正面突破が常の一夏にしては回りくどいことをするものだと鈴は思う。

 「何でドアのだまし絵描いてんのよ!」

 それとは別に、絵ということを見破れなかったこと、普段とドアの配置がおかしいことに気がつけなかった恥ずかしさを誤魔化すために、彼女は一夏に怒りの矛先を向ける。

 「提出し遅れたレポートの催促に山田先生が来るからだ。」

 「くだらん。恐怖でおかしくなったか?相手はただの先生だ。どうってことない!」

 呆れるほどに下らない理由。寧ろ、騙し絵を描く方が手間なんじゃないのかと鈴は思う。

 「なに、諦めてくれるまで気長に待つさ。・・・あんまり空けているところを見られたくないんだ。中に入らないか?」

 そんなことは微塵も感じていないように振舞いながらも、努力を不意にしたくはないようで、立ち話をするぐらいなら部屋に入るよう言う。

 それを聞き、鈴がPON☆と手を打つ。

 「そうよ、思い出したわ。お茶を飲みに来たんだった。」

 「・・・自分で入れろ。」

 「お邪魔します!」

 一夏の言葉は聞こえていない振りをして、鈴は部屋へと入る。

 「それにしても、今日は暑いわね。」

 廊下と違い、冷えたい地価の部屋で鈴はそう呟く。

 「当然だ。山田先生が来ないように、寮棟の空調を全部暖房にしておいた。」

 「アホか!アホなの!?どんだけレポート書きたくないの!?」

 今日は一段と暑いと思っていたら、その原因が目の前にいた。

 「そうか、お前は暑いのが苦手だったな。だが、安心しろ。留守じゃない部屋はクーラーにしてある。」

 「ならいいわ。」

 言われてみれば自分の部屋はしっかりとクーラーが効いていたと思い出す。ならば、そこまで責めることもないと鈴の怒りは収まった。

 「それより、飲み物頂戴。」

 しょうもない理由でわざわざ訪れるあたり、鈴も彼の友達を伊達に長くやっているわけではないことがわかる。

 「何がいい?」

 「何でもいいわよ。冷たけりゃ。」

 「そうだな・・・、今じゃ、殆どの家庭に設置されている、コックを捻れば出てくる素敵なドリンクバーのお水なんてどうだ?」

 「いいわ・・・浄水器の水じゃないのよ!お茶だ!お茶を出せ!」

 何でもいいと言っていた鈴だったが、すぐさまその正体が水道水であることに気がつくと、戸棚から茶葉を取りだし左手で一掴みとり浄水器を開ける。

 「待て鈴!浄水器に茶葉を入れるな!お茶なら、ミネラルたっぷりの麦茶が冷凍庫で冷えてる。」

 流石に水道をお茶にされては敵わないと、冷蔵庫に向かいお茶の入ったペットボトルを取り出す。

 「最初から出しなさいよ、全く・・・。」

 そうボヤきながらも、一夏に差し出されたペットボトルはしっかりと受け取り、蓋を開ける。

 「あら、キンキンッに冷え・・・凍ってるじゃない!」

 「じき溶ける。」

 「待ってられないわよ!」

 今度はティーパックを握りしめて浄水器に向かう鈴。

 「分かった!悪かった!だから浄水器に茶葉を入れるな!!」

 「茶葉じゃないわよ!お茶パックよ!!」

 「分かったから、浄水器に入れようとするな!!」

 慌てて冷蔵庫からお茶を取り出し、タライがいっぱいになるまでそれを注ぐ。

 「まったく、あるなら最初から出しなさいよ。」

 そう言って、鈴はストローを差すと一気に飲み干す。

 そしてストローを置くと、机の上に無造作に置かれている冊子を手に取る。

 「・・・これ、アルバム?」

 「あぁ、そうだ。見ていいぞ。」

 許可を得たので、鈴はパラパラとページをめくる。

 「段々マッチョになっていくわね。」

 「あぁ、俺の筋肉アルバムだからな。」

 「・・・・・。」

 物欲しそうな目の鈴を見て、一夏は悪意が湧いた。

 「・・・いるか?」

 「え?いる。」

 その答えを聞いた瞬間、一夏は空になっていたタライにお茶を注ぎ込む。

 「あんがと。・・・って、お茶じゃないわよ!もうたらふくよ!このアルバム頂戴って言っての!」

 やや怒り気味の鈴に対し、一夏は普段通りの調子で返す。

 「別にいいが・・・何に使うんだ?」

 「知らない方がいいわ。」

 「」

 これは、あまり深く聞かない方がいいと思ったが、悪用するなら容赦はしないと睨む。

 「・・・あ、そうそう、アンタ、夏の予定は?」

 居心地の悪さに耐えかね、鈴は話題を変える。

 「そうだな・・・、筋トレとトレーニングと、体作り、それ――」

 「分かった。筋肉を鍛えまくるのは分かった。ちょっとは遊びに付き合いなさい。」

 どうせ彼女が知っている今までの通りの一夏が今夏もいるのだと分かると、話を途中で止める。

 「別に構わんが・・・何処に行くんだ?」

 「聞いて驚かないでよ。ウォーターワールドよ!今月完成したばかりで、今月分の前売り券は完売。当日券も、2時間並ばないと取れない代物よ!」

 「そうか。」

 絶対に食いついて来ると踏んでいたのだが、一夏の反応はそれしかなかった。

 「反応薄いわね。」

 「遠泳じゃダメなのか?」

 一夏がその気になれば、プール程度の水ならば一瞬にして蒸発して無くなってしまう。(勿論、そうしないこともできる。)

 「いい分けないでしょ!?焼けちゃうじゃない!この前の臨海学校でもやばかったのに。」

 そんなことなど、とうの昔に忘れている鈴は、屋根があり日差しが遮られるプールに誘う。

 「悪かった。・・・で、チケットはあるのか?」

 「寝ボケた事を・・・、私を何だと思ってるの?いつも突撃あるのみじゃなわよ?代表候補生で、しかもIS学園に行かせもらえるレベルなのよ。さっさと前売り券を買うのは当然でしょ?」

 一夏は、チケットの有無も気にはなっていたが、それよれも気がかりなのは。

 「あぁ、そうだな。で、お前のことだ。幾らで売りつけるつもりだ?」

 「なあに、くれてやるわよ。」

 予想の斜め上に来た答えに、一夏は思わず身構える。

 「随分と気前がいいな。何か企んでいるのか?」

 「別に。このアルバムと取り替えっこするだけだから。」

 「・・・そうか。」

 釣り合わない気がしたが、気が変わって代金を請求されるのも嫌だったのでおとなしく受け取ることにした。

 「で、いつだ?」

 「土曜よ。明日のね。10時ぐらいに、ウォーターワールドのゲート前に集合よ。」

 「OK、準備しとく。」

 「約束だからね。」

 約束をすませると、鈴は再びタライへとストローを差す。そして、先程と全く同じ速さで飲み干した。

 「ごちそうさま。じゃあ、帰るわね。」

 鈴は、全く苦しいそぶりを見せず、部屋から手で行った。

 「・・・よく飲むな。」

 鈴が帰った後、一夏は空になった木桶のタライをひっくり返し、そこから一滴の雫さえも落ちないことにただ呆れるのであった。

 

 

 

 「ふう、ようやく書類の整理が半分終わりました。」

 その日の夜、山田先生は職員室で書類の山を仕分けしていた。

 「それにしても、枚数多過ぎじゃないですかね?まあ、織斑君と篠ノ之さんのことを考えると妥当なのかも知れませんが・・・。」

 そのときだった。書類の山が雪崩を起こし、床へと散乱する。

 「あぁ!書類が!・・・面倒です。」

 一枚でもわからなくなったら帰ることができないため、山田先生は急いでその全てを拾い集める。

 「ふう。・・・え?こ、コレは!?」

 最後の一枚を手にした時、それがまだ手付かずの書類であることに気がついた。

 しかも、この積み上がった書類の中でも、間違いなく最重要のものだ。

 「私は!自分のした事がなんにも分かってない!よくこんな事が出来たな・・・・・私が追い詰めたんだぁ・・・。私はもうおしまいだぁ!ギョワアァァァ!!」

 そう叫ぶと、山田先生は椅子ごと後ろへぶっ倒れたのだった。

 

 「無い!織斑君の部屋のドアがありません!!」

 翌朝、9時。IS学園の寮に山田先生の驚いた声が響く。

 「お、織斑君!?出てきて下さい!!」

 「喧しいぞ!山田君!此処は寮だ!!静かにしろ!!」

 ややパニックに陥っていた山田先生は、寮にほとんど人がいないとはいえ大声をだしていたため、目に捉えられない速さで現れた千冬に粛清される。

 「す、すいません織斑先生!!し、しかしですね、織斑君にどうしてもして貰わなくてはならないことが出来まして・・・。」

 「そんなものは、もっと早く済ませとけ!分かったら今日はもう休め。いいな!」

 「は、はい!」

 喉まで出て来ていた、「今日は始まったばかりです」という言葉を飲み込んだ。

 「お、織斑くーん、出てきて下さい・・・。」

 千冬の姿が見えなくなると、山田先生は、小さくドアへ向かって呼びかける。

 だが、いつまで待っても返事がない。痺れを切らしドアをノックした山田先生は、叩き心地がドアのそれではないことに気がつく。

 彼女は辺りの壁を叩き始め、そして。

 「!!織斑君!ドアの位置は分かりました。出てきて下さい!」

 遂にドアを見つけた。しかし、その呼びかけに返事はない。

 「・・・合鍵で開けますよ???嫌なら返事して下さい?・・・開けます!」

 なおも返事がないため、山田先生が最終手段を行使しドアを開けた瞬間。

 チュドォォォォォン

 強烈な爆音と、それとは裏腹な周りに被害が出ないギリギリにコントロールされた爆風が山田先生を襲う。

 「は、はずれ・・・。」

 以前の山田先生ならば、ここで心折れて地面と同化していたことだろう。

 「で、ですが、こんなことでは挫けません!!」

 そうならなかったのは、伊達に一夏やその仲間のヤベー奴らと過ごして・・・耐えて来た賜物だろう。

 しっかりと自分の二本足で立っている姿に、一夏はニッコリと笑った。

 「・・・ハッハ、参ったよ。降参だ。」

 「お、織斑君、こ、コレをして下さい。」

 そんなことまで気にかける余裕のない山田先生は、必死の思いで守った書類を目の前に突き出す。

 「悪いな。今日は先約が入っているんだ。勝手にしろ。お前のミスだ。昇進し遅れても知らんぞ。」

 にべもなく断る一夏。

 しかし、山田先生は諦めない。一夏の両肩をガッしりと掴むと。

 「そ、そこを何とか!!」

 「・・・。」

 一夏が黙ったのは、熱意に押されたからではない。

 彼は、最小限の首の動きで辺りの様子を伺っていた。

 誰もいないことを確認すると。

 「山田先生。」

 「はい?」

 ドベキシッ「オフィッ・・・」【1/2000】

 承諾してもらえたと思い顔を上げたところへの一撃。なす術なく山田先生はダウンする。

 眠りについた山田先生を、一夏は休憩スペースまで持っていくと、椅子の上に遺棄する。

 「コレで片付いた。」

 部屋に戻り荷物を手に取ると、一夏は駆け足でウォーターワールドへと向かった。

 

 「待ったか?」

 彼がウォーターワールドに着いたのは、10時丁度だった。

 「10分ぐらいね。入りましょ。」

 「・・・何かあるのか?」

 やけに急ぐ鈴を、何か隠しているのではないかと一夏は疑う。

 「直に分かるわよ。」

 そう言ったすぐ後だった。

 『ピン、ポン、パン、PON☆。これより、第1回ウォーターワールド水上ペア障害物レースを開催します。』

 「成る程。」

 実に鈴らしい行動だと、一夏は納得する。

 「お前が参加すると言うことは、何か裏があるんだろ?」

 「そうよ。これに優勝すると、沖縄の旅5泊6日が貰えるの!」

 「お前、焼けるのがどうのこうのいってなかったか?」

 嬉々としてそう答えた鈴に、一夏は白い眼を向ける。

 「・・・気のせいよ。それより、アンタもシュロより椰子の木陰の方が好きでしょ?さあ、受付に行くわよ。」

 「あぁ。」

 ばつが悪そうだったので、一夏はそれ以上深く踏み込まないでおくことにした。

 「・・・随分と視線が痛いわね。何でかしら?」

 「さあな。」

 受付をしている間、周囲の人(主に男性)からの視線がやけに攻撃力を持っていたが、そこで空気を読んでやる彼らではなかった。




B そう言えばまたBS朝日だかがコマンドーやるってなぁ?
A ああ、復帰には丁度いい!!・・・が、まだまだ忙しいからな・・・。


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第32話 弾けろ!テンション!飛び散る!水!

(最新話を読みに)出てこいクソッタレェェェェェェェ!!!


 「さぁ!第1回、これぞTHE・液体派。水上障害物ペアの神髄レースの始まりだ!」

 「「「うぉぉぉぉぉ!」」」

 意味不明なアナウンスにも拘らず、観客は謎のテンションで歓声を上げる。

 「ルールを再確認するわ!この50×50の――優勝です。なお、コース――」

 「鈴、要はあの旗を取っちまえば良いんだよな?」

 目的が達成できれば手順に用はない一夏と鈴にとっては、ルールなど聞く意味がない。

 「そうみたいね。よく分からないけど。」

 そう言いながら、顔はコースを見ている。

 「コースは、ペアでなければ抜けられないように――」

 「見ろ、ショートカットの見本市だ。」

 「私達からすれば、こんなの真っ直ぐ進んで下さいと言っているようなものね。」

 いつも以上に余裕を見せる二人。

 「位置について、よーい。」

 アナウンスの声に合わせ、開始合図のピストルがドンッ!と音を鳴らす。

 その直後。もう一度、ドンッ!という音が響く

 「何の音?」

 多くの参加者が、驚いて辺りを見回す。

 しかし、前は見ていなかった。

 「み、皆さん!!早くスタートして下さい!2回目の音は、あの筋肉モリモリマッチョマンの変態とまな板が――」

 ドベキシッ「オフィッ・・・」【1/200】

 状況を伝えたかったのだろうが、アナウンサーはもう少し言葉を選ぶべきであっただろう。

 「何してだ鈴。そんなヤツに構っている場合か?」

 本来の目的を達成するには不必要な行動を取ったため、一夏は機嫌悪そうにしている。

 「そ、それは女のプライドよ。アンタには分かんないでしょうけど!」

 「勝手にしろ。お前のミスだ。(ゴールに)遅れても知らんぞ。」

 ちょっとした間に、何名かが追い越していた。2人は本気のダッシュで追走を始める。

 「「「速っ!?」」」

 「ヤツを抑えろ!!」

 後方の者達は置き去りにできるが、前を行く者達に追いついてしまうと追い越すのは至難の技だ。

 「邪魔だ!どけ!」

 「は、速い!速すぎる!」

 「構うな!ぶつけてでも止めろ!」

 2人を・・・というよりは、一夏が取り囲まれる。

 後ろから追いついてきた人も加わり、人の山ができる。

 「ヌウゥゥゥン!!」

 「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」

 もしここがIS学園だったなら、体当たりでかっ飛ばしていたことだろう。それをせずに、あえて取り囲まさせプールへと墜落させたのには理由があった。

 「あばよ。・・・っち、遅れたな。」

 「アンタがあんな雑魚に手間取ってるからよ。」

 「無茶言うな。相手は天下御免の女だ。俺の筋肉でどうこう出来る相手じゃない。」

 善良な市民には優しくする一夏であった。

 「珍しいわね、随分と弱気じゃない。まあ、いいわ。邪魔者も去ったことだし、追撃しましょう。」

 先程、殆どの参加者をプールに落としたため、コース上はスッキリとしている。

 遮る者がいなくなったお陰で、彼らのペースは上がった。

 コースの中盤に差し掛かったとき、2人は急に停止した。

 直後、目の前をバシューンッ!と水が通過する。

 「見て、ジェット噴水だわ。」

 「かき氷機の山に比べりゃ、どうってことないな。」

 一応、威力を確認するために止まったため、状況確認程度の会話にしかならない。

 そう思ったときだった。

 「あぁ、全くだ。あれは、思い出しただけでもこりごりだ。」

 鈴とは全く異なるオーラと声。それに、彼女が知るはずのない作戦の記憶。

 「・・・お前、鈴じゃないな?箒だろ。」

 「む、しくじったな・・・。そうだ、私だ。」

 呑気に話しているように見えるが、現在、ジェット噴水区間を絶賛通過中である。

 「鈴はどうした。」

 「急用ができたらしい。何でも、中国から代表候補生の総まとめが来たんだと。」

 「なるほど。」

 それは分かった。しかし、疑問はまだある。

 「何で鈴の皮を被っているんだ?」

 「思いっきり暴れまわっても、私のせいにはならんだろ?」

 その手があったと、一夏は大きく頷く。

 「そりゃいい案だ。」

 一夏が取り出し被ったのは・・・。

 「これで完璧ですわ!」

 『おぉ!マッチョマンは、実は女性だったようです!』

 何と驚け、セシリアの皮だ。

 「どっから持って来たのよ・・・。」

 これには流石の箒も呆れを隠せない。

 「お互い様でしてよ!」

 勝ち誇ったような振る舞い。まさしくセシリアそのもの。

 「・・・かなりセシリアだけど、中身が一夏って思うとキモイわね。」

 「今の箒さんに言われたくはないですわ!」

 「今は鈴だ!」

 「戻ってますわよ!」

 「うっさい、うっさい、うっさい!」

 ややボケをかましながら、調子を整えていく。

 「良い感じですわね。では、行きましょう!」

 2人は、一夏が皮を被る間立ち止まっていた遅れを取り戻すべく、再びダッシュする。

 ちと、止まりすぎじゃないか?

 「あら?先行している方がいらっしゃいますわね。」

 かなり本気で巻き返しを行なっていると、先行しているペアに追いついた。

 「ささっと沈めちゃうわよ!」

 2人はそのペア目掛けてまっすぐ突っ込んで行く。

 『さあ、高校生二人組がトップに追いついた!どうする、木崎・岸本ペア。・・・おぉ?高校生を迎撃するようです!』

 解説のテンションが一段と上がる。

 「あいつら、良い体格してんな。」

 「あぁ、倒し甲斐がある。」

 相手のレベルを見定めようとしたとき、彼らは本能が出て来ていた。

 〈〈・・・あぶねえ、声が戻ってた。〉〉

 心の中でそれを反省しつつ、でも接近速度は落とさない。

 「おい、岸本。追ってくるぞ、あの馬鹿。」

 「ありゃ、マジの目だ。私達とやる気だ!」

 考えて欲しい。一夏と箒が所々で立ち止まっていたとはいえ、逸般人のペア。その前を走っているとなると、この2人も相当な化け物である。

 「行ったかと思ったわよ!!」

 「とんでもねえ、待ってたんだ!」

 両者とも、既にファイティングポーズを取っている。

 「!!お喰らいなさい!」

 「あたし達のショットをね!」

 テンションが上がったため口調がやや怪しくなっているが、そこは勢いにものを言わせて誤魔化す。

 『おお、高校生二人、果敢にもメダリストに格闘戦で挑むようです!』

 バキッ!【4999/5000】←木崎*防御

     【4999/5000】←岸本*防御

 「「グオッ!?」」

 『おぉっとぉ!?高校生が先手を取ったぁ!』

 見事に一夏と箒の攻撃が決まる。

 だが、木崎と岸本はよろめいただけで、直ぐに立ち直った。

 「怖いかクソッたれ。当然だぜ、現レスリング金メダリストの――」

 「現柔道銀メダリストの――」

 「私達に勝てるもんか!」

 流石はメダリスト。構えに隙がなくなった。

 「試してみる?」

 「私達だって、IS学園の生徒ですわ!」

 確かに生徒だが、その他大勢とは別物なのであまり当てにならない。

 「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

 最強の人間が、激突する。これはただの小競り合いなどではない。ISに素手で立ち向かえる人間VS五輪最強クラスの人間の戦い。

 『わーっ、何を!わぁ、待って!そこで格闘しちゃ駄目ですよ、待って!止まれ!うわーっ!!』

そんじょそこいらの施設が耐えられる戦いで済むはずがなかった。

 「「「もうやだ、夢なら醒めて!!」」」

 参加者が悲鳴を上げる。

 チュドォォォォォォォォォォォォン!!!【0/5000】←プール

 施設のいたる箇所に亀裂が入り、崩壊が始まった

 

 「と、とにかく!この様なことは金輪際――」

 「参加させたお前が悪い!」

 「木崎さん。お待ち下さいませ。」

 「そもそも、この程度で壊れるプールを作るのが間違ってんのよ!」

 あの後、プール崩壊の原因となった4人は事務室にいた。

 「てか、実況が煽ってたわよね。私らが戦うように。」

 「「「申し訳ございませんでした!!!」」」

 説教を喰らっているのではない。従業員一同に対してブチ切れていた。

 「「「分かってくれたのなら良いんだ。」」」

 此奴らに限度を考えろというのは、恐らく宇宙が滅ぶぐらいのことをしてようやくといったところだろう。

 「あ、あの・・・、IS学園の生徒さん。お迎えがいらっしゃいました。あ、木崎さん。それから岸本さん。タクシーの方呼びましたので、間もなく到着するかとおもいます。」

 とにかく早く帰って欲しいプールの運営。やや息切れしていることから、走ってきたのだと分かる。

 「「あぁ、ありがとう。」」

 一足先に帰ったのはオリンピックペア。

 「迎え?誰が来たのかしら?」

 「行ってみれば分かりますわ。では、ごきげんよう。」

 一夏と箒も直ぐにその場を後にする。

 「待ってたぞ。遅かったな。」

 ウォーターワールドの入口まで歩いて行くと、そこにいたのは。

 「い、一夏!?」

 「い、一夏さん!?何故ここに?」

 「それだと疲れるだろ。一、二の三で戻ろう。」

 とか言いながら、何も声かけ無しで綺麗にタイミングを揃え、皮を脱ぎ捨てる3人。

 「おい鈴。俺の皮を何処で手に入れた。」

 一夏はそれが気になって仕方がない。

 「前に写真集くれたでしょ?あれを見ながら作ったのよ。」

 そう言えばそんな物もあげたなと、「なるほど。」と納得した一夏。

 「っていうかモッ・・・篠ノ之さん。アンタ、何処で私の皮作ったのよ。」

 鈴が渡したものだと思われただろうが、よく考えてみれば鈴が自分の皮をわざわざ作って渡すはずがない。

 「知りたいか?私もそう思う。」

 忘れてはいけない。此奴らは、便利に使えれば出所がどこなのかなど気にならないのだ。

 流石に自分の皮は無視できないようだが。

 「どういうことだ?」

 「知らん、気が付いたら持っていた。」

 3人は揃って頭を傾げ考える。

 「・・・そう言えば。」

 そう切り出したのは一夏。

 「つい先日ラウラが何か持ってたな。確か、睡眠剤と、シリコン。」

 普段からロケットランチャーだのクレイモアだのが転がっているIS学園。ちょっとやそっとのものでは不審に思われなくなっていた。

 「言われてみたら、こないだ異様に眠くて昼寝したわね。そのときか・・・。」

 どうやら鈴にも心当たりは有るようだ。

 「あいつも、シュ○ルツェネッガー級のでっかい肝っ玉があるんだな。」

 一夏が感心したように呟いた。

 「それよりも、一夏。アンタ、セシリアの皮なんか何処で手に入れたのよ?あいつ地味に鋭いでしょ?」

 「あぁ、だからアイツの専属メイドに頼んだ。三日で来たぞ。」

 「その手があったか・・・。」

 何も、自分だけでやる必要はなかったと、鈴は再認識する。

 「でも、セシリアの皮なんか何に使うつもりだったのよ。」

 確かに、セシリアの外見ではハエも逃げないだろう。けれど、狙いはそこではない。

 「アイツの生家は有名企業の総本山だからな。有名人にも顔が利く。ちょっとした情報収集には持って来いだ。」

 「なるほど、私も一枚欲しいな。」

 即座に箒が反応する。

 アイコンタクトで一夏は箒の言わんとしたことをマッス・・・察する。

 シレッと紙を取り出し、何かを書き込んだ。

 「メイドの電話番号だ。」

 「・・・オッケイ。これで作戦の幅が広がる。」

 1mm先の人間でも聞こえないほどのやり取りに、いぶかしげな表情を鈴は取った。

 「今、何受け渡したのよ。」

 「@クルーズのパフェ驕ってやるから、何もなかった。いいね?」

 「よし、許す。」

 こういうときは、餌で釣ると大人しくなると、長い付き合いで一夏は知っていた。

 「じゃ、行くか。」

 善は急げと、昔からの言葉を実行する一夏であった。




(腹筋の)化け物めエェェェェェぃ!チキショォオオオォォォーー!!!


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第33話 偶にはショッピングでもするか

A どうした!?腹筋を片付けろ!
B いい考えあるか?
A 何か思いついたか?
B 俺も聞きたい!


 ラウラは、暗い穴蔵の中に閉じ込められていた。

 「ここがどこだかわかるかね?ラウラ・ボーデヴィッヒ少尉。」

 「・・・。」

 現れた女性の質問には答えない。何故なら、これは尋問だから。

〈精神的に・・・いや、筋トレができない分、筋肉にくるな。〉

 まあ、この程度なら他のことを考える余裕が有り余っている。

 「気分はどうだ、少尉。顔色が良くないわよ?」

 「・・・。」

 まさか、その原因が筋トレのできないストレスとは思いつかないだろう。

 「3日間の不眠と断食はいかがだったな?典型的な尋問だが実に効果的な方法でね、大昔から使われてるのだよ。不眠と断食をさせ、永遠と水滴の音だけを聞かせる。」

 「・・・。」

 残念ながら、セラピー用に用意されているのだと思われていた。

 「さて、尋問を開始しよう。君は、愛国心を持ち合わせているのか?」

 「誰がなくすものか、このクソッタレ。」

 ようやく会話をしてやる気になる。

 「どうかな?愛国心は欠片も持っていないんじゃないのかい?」

 「さっさと失せな、ベイビー。」

 その言葉に、相手の顔が引き攣る。

 「・・・仲間はどこにいる。規模と装備のレベル、バックアップを洗いざらい話してもらおうか。」

 急に高圧的な態度になる尋問官。

 その変化にラウラは。

 「ここから南方へ50km。規模は私の部下が3人。装備はテントとバーベキューコンロ。後は、ナイフとライフルだ。バックアップは日本に2人いる。」

 全く戸惑わなかった。

 そして、躊躇わずに話す。

 それは、仲間を裏切るからではない。ここに仲間を連れていてくれた方が、脱出と作戦の両方が上手くいくと考えたからだ。

 「・・・何、キャンプでもしてんの?」

 「そうだ。」

 本当は散歩と言いたかったのだが、いちいち訂正するのも失礼だと思ったため触らないでおく。

 「・・・だったらこう聞くべきね。筋肉はあるの?」

突然、話の筋道が立たなくなった。

 「ある・・・じき手前をぶっ殺してやる・・・」

 それを気にするようなら、暗い穴蔵のストレスでとっくにメンタルが崩壊していただろう。

 「あらそう・・・どうやって殺す気?」

 途端に余裕が戻る。その顔には、笑みさえあった。

 「まず手前をとっ捕まえて盾にして、あそこにいる見張りの男を殺る・・・腕に乗っかってる軍事用の筋肉で。それから手前の首をへし折るってのはどうだ?」

 極めて真面目な顔でそう答えるラウラ。

 「どうしてそんな事があなたに出来ると思うの?」

 その余裕が命取りに・・・。

 「手錠を掛けられてるのに?・・・外したよ!イ゛ェアアア!!!」

 

 「ア、アノ・・・、ラウラサン?」

 「む、夢だったか・・・。」

 ならなかった。いや、ある意味シャルロットがその代わりを受けかけたというべきか。

 『チュン、チュン』

 「待てやタンパク質!!」

 ズドドドドドドドドドドドッ!←0Hit

 外から聞こえたスズメのさえずりに、ラウラはシャルロットに押し付けていたナイフを仕舞うと、ベッドの下に置いていたマシンガンを引っ掴み窓を開けスズメを撃つ。

 「ら、ラウラ。そんなんで撃ったら、木っ端微塵になると思うよ?」

 流石にこのノリにも慣れて来たシャルロットは、冷静にツッコミを入れる。

 「そうか。では、次回は別のを使おう。」

 ちなみに、別のとはチェーンガンのことである。

 「ところで、随分とうなされてたけど、どうしたの?」

 「シャルロットは知らないほうがいい・・・。私だって、出来ることなら忘れたい。」

 「そ、そう。」

 シャルロットは、あのラウラがうなされていたことから拷問の夢でも見ていたのだろうと推測した。一応間違いではないが、まあ、聞いてもガックリするだけだろう。

 「ところでラウラ。」

 「なんだ。」

 「服買いに行かない?」

 雰囲気を変えようと、シャルロットは話題を変える。

 「普段着の話か?それとも寝間着か?」

 「寝間着。・・・幾ら体が強くても、風邪引くよ?」

 服を着ないで寝ているラウラを心配してのことだった。しかし。

 「安心しろ、寝袋さえあれば冬の北極でも寝られるように鍛えてある。」

 その心配をある意味払拭するように、正確には無下にして言い切った。

 「さて、シャワーでも浴びてくるか。」

 そう言ったラウラの右手にはタオルが、左手には制服がいつの間にか握られていた。

 「あ、僕も浴びようかな。冷や汗かいちゃったし。」

 ここで「もう○○もマトモな〜」を使わないでいられるあたり、シャルロットもかなりでっかい肝っ玉があることがわかる。

 「一緒に入るか?」

 半笑いのラウラは、そう問う。

 「それ脅してるの?」

 「冗談だ。」

 もとよりその気はなかったため、特に煽ることもなく脱衣所へと消えて行った。

 「あー、スッキリした。」

 「早っ!?」

 1秒後には出て来たが。

 

 「朝からステーキなんか、よく食べられるね。」

 朝食を摂りに来ていた2人。

 シャルロットは、ラウラの朝食の内容に呆れていた。

 「何を言う、朝だろうが昼だろうが、食いたいと思ったらそのときにそれを食べる。夕食の取り過ぎが太る原因とか言ってる奴らもいるがクソ喰らえだ。消費しきれなかったエネルギーは翌日使う。それだけだ。それに、戦場ではいつ次の飯が食えるとも分からんしな。」

 いつも以上に自信満々に答えたラウラ。

 「最後の食事になったらとか思ったりしないの?」

 「やられる前にブチのめせばいいだけだ。違うか?」

 「・・・誰から聞いたの。予想は付くけど。」

 確認したい訳ではなかったが、最早、聞くところまでがワンセットになっていたので、惰力で言っただけ。

 「教官と大佐からだ。」

 「だろうね。軍隊にあるまじき脳筋思考だもん。」

 ため息混じりにそう呟き、フォークでマカロニを突く。

 「・・・何だ?それは。」

 「マカロニ。」

 「見りゃ分かる。シャルロット、君は私をおちょくっているのか?私は、何故フォークにそれを通したのかを聞いている。」

 「何となく。」

 思いがけないことに食いついたラウラに、目を丸くする。

 「面白い食べ方だな。気に入った。私は、フォークに全部通してから食べるとしよう。」

 〈やるんかい!〉

 シャルロット心のツッコミを無視して、ラウラはそれを続ける

 「ところでシャルロット。買い物はいつ頃出かける予定だ?」

 ひとしきり通し終わったので、ご機嫌に問いかけるラウラ。

 「うーん、10時くらいかな。1~2時間お店を見て回って、それからランチしようよ。」

 「よし分かった。そう言えば、大佐がこの間『服の通気性が抜群になった』と言ってたな。誘うとするか。」

 通気性抜群。つまり穴だらけになったということだ。

 「え、・・・んーまぁ、そうだね。」

 渋い反応のシャルロットを気にかけることもなく、ラウラは携帯電話を取り出した。

 

 『おかけになった電話番号は――』

 もう何度目かもわからないほどに聞いたマシンボイス。

 「くそ、この無能携帯電話が!!大佐の行くところぐらい、電波を飛ばしておけ!」

 単調な口調と一字一句同じ応答に、ラウラは苛立ちが募る。電話会社にしてみれば、とばっちりもいいところだ。

 「そっち!?一夏にじゃなくて電話会社に怒る!?」

 「当たり前だ。何のための通信手段だ。えぇい!まどろっこしい!プライベート・チャンネルで繋いでやる。」

 「あ、待って!よしなよ!」

 シャルロットは慌ててラウラを取り押さえる。

 「ISの機能は一部使用でも勝手に使ったらまずいよ!」

 「クソッタレ共のルールなんか守って嫌気がしないか?」

 「いや、だとしても・・・。」

 実際にそうなので、反論できない。そうこうしている間に、ラウラは連絡を試みるが。

 「・・・あぁ、大佐!ISは携行して下さいとあれほど言ったのに!」

 突如、大声を出したため、シャルロットは驚く。

 「どうしたの?」

 「大佐のヤツ、部屋にIS置いたまま出かけたようだ。あれ程便利な携帯電話は他にはないというのに。」

 「一応聞くけど、それを言ったのって・・・。」

 ラウラが考えたことではないと確認するため、律儀に聞くシャルロット。

 「教官だ。」

 「ですよねー。」

 ここまでくると、諦めの境地・・・というより、反論できないほどにあの2人は強過ぎるだけだ。

 「仕方ない。二人で出かけるとしよう。」

 「う、うん。行こうか。」

 突然、シャルロットの歯切れが悪くなった。

 「・・・ところでラウラ、それって軍服じゃないの?」

 彼女が心配しているのは、服装のことだ。いくらラウラとはいえ、限度がある。

 「これは公用の服だ。動きやすいから私服代わりに使っている。」

 「それって、勝手に着て本国の人に怒られない?」

 軍服は、普段着に使っていいものではない。

 「・・・ドイツの連中は睨めば黙るが、テロリストに目を付けられたら厄介だな。大人しく制服にしておくか。」

 そういうことを指摘したかった訳ではなかったのだが、ラウラが着替える気になったのでよしとするシャルロットであった。

 

 〈ISは比類なき世界最強の携帯電話だ。しかし、連絡網を築くほどの数はない。一般に普及している携帯電話や固定電話との連絡をとるには、かける側も同じ種の電話が必要となる。〉

 〈あ、なんか変なこと考えてる。・・・あ、駅前だ。〉

 バスで移動中、ふと隣に座るラウラを見ると、外を見ながら何やら考えごとをしていた。

 〈折角ISは電波が整備されてないところでも使えるのだから、電話へと繋げる通信装置を開発するのは当然とみる。それだけでなく――〉

 「ラウラ、もうじき着くよ。考え事は帰りにしてね。」

 「分かった。」

 流石に考えごとで声が聞こえなくなるラウラではなかった。

 意識が戻ったことを見ると、シャルロットはカバンを漁り、地図と予定が書かれたメモ用紙を取り出した。

 「よし、この順路で行くのが効率的だね。」

 「随分と下調べが良いな。どれくらい掛かったんだ?」

 横からそれを覗いたラウラは、その予定の綿密さに驚く。

 「この為に5日も無駄にした・・・。」

 「ふむ。その努力をフイにするわけにはいかんな。今日は任せるぞ。」

 最近、どこか眠そうにしていると思っていたらそんなことだったとは思ってもみなかった。

 

 「ラウラ、スカートとズボ――」

 「スカートで。」

 レゾナンスに到着。最初の店に入る前に、シャルロットはどんな服が買いたいかを訪ねた。

 「そういうところ、一夏と似てるね。」

 「教官と部下が似るのは当然だろ?」

 「うーん、そうなのかなぁ・・・。」

 そうなのかなと言ったのは、彼女らの場合、似るというより染まると言った方が正しく感じられるからだ。

 「ところで、何で階を上がっているんだ?下から見ればスッキリするのに。」

 シャルロットに付いて動いていたラウラだったが、なぜ入ってすぐの店から見ないのか疑問に思う。

 「逆だよ。上からの方がスッキリするの。」

 「どうして。」

 「上の階は夏の売れ残りをセールしているから、売り切れになる前に攻めるの。下の秋物は在庫があるから後回し。」

 「秋物?」

 その単語に、ラウラは反応した。

 「服なんか羽織れて暑くなければ年中どれでも良いだろ。」

 間違ってはいない。凌げるなら、それで全く構わない。

 けれど、それならここに来る意味はない。

 「季節感は大事に。それに、女子は季節を先取りするものなの。」

 優しく、諭すように語りかけるシャルロット。

 「そうか?教官や大佐は戦闘になってから武器や装備の調達に行っていたが?」

 だが、伝わらない。

 あと、彼らのそれは、正確には素手でぶっ倒した敵の武器を失敬したというのだが。

 「兵士は準備がいるでしょ?」

 「単機で突っ込めば良い、違うか?」

 一夏や箒、千冬のせいでラウラが弱く見えるが、そんじょそこらの兵士では束になってかかっても勝てない相手。

 「・・・普通の部隊視点で話してもいい?」

 前提条件を最初から付けておくべきであった。

 「あぁ、そう言う考え方か。納得した。ところで、男物も安売りがあるのか?」

 「?多分あるけど?男装でもするの?」

 突然の話題変わりに、シャルロットはついていけない。

 「いや、大佐への土産だ。」

 出る前にそんなことも言っていたなと思い出し、呆れるシャルロットであった。




B おお、こりゃ(お気に入り増減)酷いな・・・。そっち(評価)はどうだ?
A 読者がいりゃ文句はねえ。始まりのこと考えな?言いたいのはそれだけ。


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第34話 バトル喫茶

B 次話はどこだ
A このクソッたれ・・・。
B どこだ答えろ!
A 誰が喋るかよ、くたばれりやがれ・・・。
B 見上げた反骨心だ作A。だがな、読者の評価を貰うほど値打ちのある作品か?さぁ頭を冷やして、よく考えてみろ・・・。
→第一七話前書きに戻る


 「すまない、私が余計な買い物をしたばっかりに予定が狂ってしまった。」

 一通りの買い物を済ませた2人は、レゾナンス内にあるレストランで食事をしていた。

 「いや、大丈夫だよ。誤差、誤差。」

 珍しく気にしているラウラに、少々驚くシャルロット。

 「だが、良い買い物ができた。」

 「折角良い服買ったんだから、着て帰ればいいのに。」

 ラウラの服装は、いまだに制服。

 本人が頑なに断った結果だ。

 「駄目だ。」

 こんな感じで。

 「何で?最初は一夏に見せたいから?」

 「最初に見たのはお前だぜ。違うか?」

 「そ、そうだけど・・・。」

 冷やかすつもりだったが、表情一つ変えずに言い負かされてしまう。

 「デザインは良いが、動き辛い。」

 「」

 どこまで行っても脳筋なラウラであった。

 いつも通りのラウラに、シャルロットはうな垂れる。

 「――いは?」

 「え?あ、ごめん聞いてなかった・・・。」

 「午後の(予)定だ。帝を出せ!」

 *午《誤》字ではありません

 「生活雑貨を見て回ろうよ。」

 素早く予定表を開け、そう告げたシャルロット。

 「そうだなぁ~、僕は時計を見に行きたいんだ。日本の腕時計は性能が良いって言うし。」

 「時計?太陽の角度で分かるだろ。」

 おしゃれな時計が並ぶショーウィンドウを想像してにやけたシャルロットを、雰囲気ガン無視のラウラの言葉が現実に引き戻す。

 「いや、実用性のあるアクセサリーとして。」

 「なら、発光式のやつはお勧めしない。アレは地下で目立ちすぎる。敵に自分から居場所を教えることになるからな。」

 「いや、普段使いだから・・・。」

 一々、過剰なシチュエーションを想定するラウラに、シャルロットは言葉が出ない。

 「戦闘はいつ発生するのか分からん。用心するに越したことはない。OK?」

 「OK!」

 そこへ、命知らずが割り込みをかけた。

 「誰だお前は。」

 「ルームサ・・・、@クルーズの店長。」

 そう名乗った女性だが、何かを隠すように慌てて言い直したお陰でラウラの不信感を買った。

 「この紙は何だ。」

 「求人票。」

 「何の用だ。人の誘拐(客引き)ならお断りだ。」

 ラウラはカバンからチェーンガンをちらつかせ、プレッシャーをかける。

 「うちの店でバイトしてくれない?今日だけで良いから!」

 「悪いな、先約があるんだ。」

 必死の形相で頼む店長。だか、ラウラは首を縦に振らない。

 「そこを何とか!!」

 「どうする。」

 ラウラは、シャルロットに尋ねる。何せ、今日の予定を立てたのはシャルロットなのだから。

 「(制服が)上げ底に見えなくもないけど。」

 「あー、違うなアレは本物だ。・・・間違いねえ。あんなのに袖を通してみてえ。」

 「!!」

 シャルロットが止めないと分かると、あっさりと掌を返したラウラであった。

 

 「いや~助かるわ!今日は、本社から視察が来るって言うのに、突然二人駆け落ちしちゃって消えたのよ!」

 @クルーズに到着した3人は、さっさとお店の制服に着替えた。

 「全くひでぇ話だ。」

 雑談をする2人の横で、シャルロットは顔を引きつらせていた。

 「酷いけど・・・確かに酷いけど何で僕は執事の格好なのでしょうか。僕もメイドの格好ならスッキリするのに。」

 明らかにどす黒いオーラを醸し出しているが、ラウラが相手にするはずが・・・。

 「そこらの男よりも格好いい顔をしてるのはオメェだぜ。」

 なかった。

 「それ褒めてるの?」

 「貶――」

 「大丈夫よ!凄く似合ってるもの!!」

 ラウラが何を言おうとしたか敏感に感じ取った店長は、大声でそれをもみ消した。

 「そ、そうですかね。」

 ただし、それがシャルロットの喜ぶ答えではなかったのも、残念ながら事実だが。

 「店長!喋ってる暇あったら手を動かして下さい!」

 「はいよ!」

 「デュノア君!主砲テーブルにアイスティー二つお願い。」

 スタッフのバイトをすることになった2人は、ホールに入っていた。

 「主砲?」

 あまり冗談の通じないシャルロットは、意味が分からず首をかしげる。

 「四番のことだろ?」

 「へぇ・・・・・へー・・・。」

 ラウラに説明されても、いまひとつ納得がいかないようだ。

 「コーヒーとレモンティー。それからカルボナーラ入りました!」

 そんな2人をよそに、厨房は戦争の真っ只中だった。ただし、ラウラとシャルロットからしてみればのんびりとした動きではあったが。

 「手先ばかり達者なトーシローばかりよく揃えたもんですなぁ。まったくお笑いだ。大佐がいたら、奴も笑うでしょう。」

 その様子を、呑気(当社比)にコメントしながら見つめるラウラ。

 「ラウラさんだっけ?うちのスタッフは、みな働き者だ。」

 「ただのカカシですなぁ。大佐なら瞬きする間に、調理できる。忘れないことだ。」

 普通に話している中でも、ラウラは次に何が出来上がるかの目で追いチェックする。

 「是非紹介してくれない?うちの厨房に置いておきたいの。」

 「1000年後ぐらいでどうだ?」

 「直ぐだな。」

 「二人とも!仕事して!!」

 別にサボってはいないのだが、厨房のスタッフは忙しくてイライラしているようで、話をしていた2人はそのストレスをぶつけられる。

 「今行く。おっと、客が来たな。」

 そのとき、階段を駆け上がってくる振動が伝わってきた。おそらく男性、複数人だ。

 「ようこ――」

 「助けてくれい!」

 接客の決まり文句を言おうとしたラウラの声を遮って、入ってきた(駆け込んできた)男たちは全員が覆面をしていた。

 「兄貴!違います!」

 「あぁ、ま、間違えた!!」

 いったい何のコントなのだろうと、不思議そうに眺めるラウラ。

 「ラウラ、本物に見える?」

 「あー、違うなアレは上げ底だ。・・・間違いねえ。私には分かる。シークレットブーツだ。」

 シャルロットが聞きたかったのは、武装が本物かどうかだったのだが、ラウラにとってはどうでもいいことだった。

 「全員、動くんじゃ――」

 「@クルーズにようこそ!ご入店の目的は?ポイントカードはお持ちですか?」

 武器を構えたため、ラウラが戦闘モードに入る。

 「「「」」」

 「お水は如何?」

 ザバァアァァァンツ!【【【100/500】】】

 どこからとまもなく現れた大バケツでの水打ちにより、強盗達は派手に押し流される。

 「何しやがる!」

 怒りに任せ拳銃(はじき)を構えたが、それは非常に悪手である。

 「面白い奴らだな。気に入った。ぶっ飛ばすのは今にしてやろう。」

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 『あー、君達は警察に――』

 警察の呼びかけをぶった斬り、ロケットランチャーを放つ。引き金を引く手には、一切の容赦も迷いもなかった。

 「ら、ラウラ、警察来てたけど大丈夫なの?」

 「いいんだ、観客が来ただけだよ。」

 落ち着き払った動きでロケットランチャーを仕舞う。そこに、焦りは微塵も存在しない。

 「店員さんですか?警察のものですが、先程の音は?」

 爆発の音に驚いた警察官が駆け足で突入してくる。

 「安心しろ、何でもない。」

 店内は全くの無傷であることを指差してみせる。

 「到着は早かったでしょうか?」

 「手遅れだ、マヌケ・・・。」

 警察に捕まったほうがマシだったということなのだろう。倒れていた強盗は、脊椎反射のように警察官にそう言うと、リーダーらしき人物は力尽きた。

 「コイツは?」

 先程まで追っていた強盗のそれとはかけ離れた、消し炭のような外見になっていたため警察官は判別しかねる。

 「あぁ、『リア充爆発しろ』って言って、『あり得ないんだぜ。』って倒れた。」

 「あぁ、なるほど・・・。」

 深く聞けば自分もただでは済まないと感じたのか、それ以上の追及を受けることはなかった。

 「で、先程の音は?」

 「花火みたいなものだ。気にするな。」

 別の空気の読めない警察官がその話題を振ったが、ラウラは気に留めない。

 と、そこへ、ダッシュで近付いてくる足音が一つあった。

 「ラウラ!今ここにテロリストが来なかったか!?」

 飛び込んできたのは一夏だった。

 当然、彼の意気は全く上がっていない。

 「!!大佐!今ぶちのめしたところです。」

 「・・・違う、コイツは只の武器持っただけの一般人(強盗)だ。くそ、奴らめ何処へ消えた。」

 間違って追いかけてしまったと、一夏は悔しそうな顔をする。

 「手伝いは?」

 「千冬姉がいる。」

 「なら安心です。」

 一夏を相手に逃げられる相手だけに、ラウラは手助けが必要かと考えたが、流石にそこは手配済みであった。

 「あまり遅くなるなよ。寮に門限はあるからな。」

 「はっ!」

 そう言い残し、一夏は@クルーズからダッシュで立ち去った。

 そしてラウラは、片手間に強盗を始末して店の手伝いに戻るのであった。

 夕方。シャルロットとラウラは公園を歩いていた。

 「思ったよりも早く切り上げられたから、クレープでも食べていこうよ。」

 IS学園の門限までにはまだ時間があると、偶々目に付いた移動販売のクレープ屋さんに寄っていこうとシャルロットは提案した。

 「甘いお菓子が死ぬほど食いたかったんだよぉ!もう半日もマトモな菓子食ってねえやってられっか!」

 「・・・そう。」

 ラウラが予想以上の反応を見せたので、思わず困惑してしまう。

 「で、この公園のクレープ屋さんでミックスベリーを食べると幸せになるっておまじないがあるんだって。」

 「幸せになる?マッチョの方が嬉しいな。」

 ロマンもへったくれもない言い方にも、随分慣れてしまったなとシャルロットは肩を落とす。

 「・・・ま、まあ、食べてみようよ。」

 そう言い、クレープ屋に向かって歩みを進める。

 「すいません!クレープ2つ下さい、ミックスベリーで!」

 ラウラに変な突っ込みを入れられまいと、シャルロットは一息にそう言い切る。

 「あぁ、ごめんなさい。今日の分は売り切れたんですよ。」

 申し訳なさそうにする店員。

 「残念・・・、なら僕は苺で。ラウラは?」

 「なら、ブルーベ・・・ブドウをくれ。」

 最近、目が疲れるからとブルーベリーを頼むつもりだったが、ラインナップにそれがないと気付き、見た目の似ているブドウで我慢することにした。

 「お買い上げ有難うございます。」

 お金を受け取ると、店員は奥へと入っていく。しばらくすると、生地の焼ける匂いが漂ってくる。

 そのときラウラは、匂いに引っかかりを覚えたが、何なのかが分からなかったので口には出さないでおいた。

 「お待たせしました。」

 2分程度で完成したクレープが運ばれてくる。

 「あぁ、どうも。」

 それを受け取り、食べられそうな場所を探す。

 「・・・あそこに座って食べるとしよう。」

 「うん。」

 2人が座れて荷物が置けそうなベンチを見つけたので、そこへと移動する。

 「・・・シャルロット、あの店は違うんじゃないか?ミックスベリーというのはなかったぞ?」

 座るなり、ラウラはそう話し掛けた。加えて彼女は、店の設備が綺麗すぎることにも引っかかりを覚えていた。

 「よく見てるね。」

 流石の洞察力だと、シャルロットは感心する。

 「当然だ。テロリストの偽装だったらどうする。真っ先に制圧する必要があるだろ?」

 例え、それがロマンチックな理由でなかったとしても。

 「グレネードが爆発したらとか考えないの?」

 ラウラにしては大人しい考えだなと、シャルロットは敢えて派手なものを選び聞いてみる。

 「爆発したら、携帯電話を盾にすれば良い。」

 「携帯?・・・ISか!」

 「そうだ。それからな、爆風を潰すのは、蚊を叩くようだぜ。」

 「」

 生きている次元が自分とは全く違うと、その会話から改めて認識させられる。

 「おっと、もう一つ。あの店はベリーとつくものは苺しかなかったぞ。」

 そんなことはつゆ知らず、話題を変えるラウラ。

 「そうなの?」

 「そうだ。では、頂くとしよう。」

 そこに何かを隠そうとする意志は、毛ほどもない。

 「ん!美味しい!」

 いいお店を見つけたと喜ぶシャルロット。そんな彼女の横では・・・。

 「・・・中身は何だこれ?食べ覚えのある味だな。」

 「え?そう?」

 不思議そうに首をかしげるラウラがいた。

 その直後だった。公園内に、チュドォォォォォォォォォォォォン!!!っという爆音が残響するほどに響いた。

 「!?」

 驚くシャルロット。その表情は、まるで豆鉄砲で蜂の巣にされた鳩のようだった。

 「何してるんだ?こんな所で。」

 間もなく、2人の前に手ぶらの一夏が現れる。

 「大佐!・・・あぁ、大佐手作りのクレープの味だ。」

 彼を見て、ラウラは納得の表情を見せた。

 「だろうな。俺のレシピブックを盗んで商売してやがった。」

 一夏の顔は、明らかに怒ってますといったものになっていた。

 「もしかして一夏、テロリストって言うのは?」

 そう言ってシャルロットが振り返れば、先程クレープを買った移動販売車はバラバラになっていた。

 「奴らのことだ。」

 しばらく考えた後、シャルロットはこう叫ぶのだった。

 「・・・飯テロか!」




B 何してる?作A
A 次話作るんだよ!悪いか 
B イカれた(天災)作者
友 怖いな・・・


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第35話 夏は花火に限る

A 下がってろぉ!(腹筋が)ドカンと逝くぞぉ!!
B ・・・
A 腹抱えてねえと腹筋吹っ飛ばされっぞ。(よだれ飛ばさねえように)口も隠すか?


 「よお、舞ってるな。」

 一夏は、篠ノ之神社で行われている夏祭りに来ていた。そこで彼は、舞踊を終えた箒を見つけ声を掛ける。

 「しばらくだな一夏。」

 箒は、夏休みに入って直ぐ生家に帰っていたため、二人が顔を合わせるのは久しぶりだった。

 「あぁ。」

 「今夜は蒸すな、えぇ?」

 「参った参った。こんなひでぇ熱帯夜は流石の俺も初めてだ・・・。」

 「まったくだよ。チョー最悪だ。サウナが天国に思える。」

 着慣れない服に加え、厚手の素材の服と言うこともあって箒は珍しく汗びっしょりだった。

 「ところで、仕事はいつ頃までだ?」

 「ここにあるお守りとおみくじがなくなるまでだ。家柄でやってるが堅っ苦しくてやってらんねえ!」

 目の前にある大量の商品と、箱詰めされたまま後ろに積まれている商品を指さし面倒くさそうにする。

 「セシリアの皮まだ来てねえのか?」

 「身代わりにおいとこうってのか?」

 あまりに的外れな言葉に、箒は想像が追いつかない。

 「いや、金髪碧眼の外人が売ってたら物珍しさに飛びつくかと思ってな。」

 「お前、頭良いな。」

 ちょっと行ってくると言い、箒は売り場を開ける。

 そして、セシリアの皮を被って戻ってきた。この間、5秒。箒にしては遅い方だった。

 

 それから10分後。

 「流石ですわ!」

 あれだけあった商品は、一つ残らず売れた。箱で買っていってくれる(売るなよ)客がいたこともその要因だろう。

 「もう脱いでも良いんじゃないか?」

 戸締まりと金額の確認をし終えるまでセシリアの皮を被っていたので、一夏は突っ込みを入れる。

 「お嬢様口調のせいで、ストレスがマッハだ!」

 皮を脱いで元の口調に戻る。やはり、一夏の想像した通りであった。

 「この後の予定は?」

 「ないな。」

 「どうだ?一緒に祭りでも回らないか?」

 折角の祭りなのだから、久しぶりに一緒に回らないかと誘う。

 「そりゃいいな。筋トレでもしながら待っててくれ。着替えてくる。」

 「ごゆっくり。」

 

 「待ったか?」

 「腕立て1000回ってトコだな。」

 「直ぐだな。」

 お決まりのやり取りを済ませる。

 「ところで何処に行く。」

 「金魚すくいなんてどうだ?」

 「篠ノ之神社じゃそれは喧嘩を売る言葉だぞ、かかってこい!」

 いつになく強気な箒。それには裏があった。

 「怖がっているのは、俺ではなく君じゃないのか箒。君こそ、金魚すくいを恐れているんだ。おっちゃん、強い紙2枚。」

 「負けたら飯奢ってやるよ。筋肉ビジネスにかけちゃあんたほど経験はないが、私は学ぶのは早い。観客が求めているのはきっとこうする事さ!」

 勢いよくポイを水に入れる箒。そのせいで、金魚に触れていないにも拘わらずポイは破けてしまった。

 「この馬鹿!ヴァカ野郎!マヌケィ!」

 「何でここの金魚は小さいんだ?鯉を入れておけばスッキリするのに。」

 「枠に嵌めて取ろうってのか?」

 「あぁ、そうだ。」

 実際にやるには、ポイの素材と構造では鯉を上げること自体が不可能だと思われるが。

 「・・・オヤジ!もう一枚だ!」

 余程悔しかったのか、もう一度挑戦する箒。しかし、結果は何一つ変わらなかった。

 「トーシロがぁ!さっきの失敗から何一つ学んどらん!金魚とはこうやって掬え!」

 そう言って、凄い勢いで金魚を掬ってみせる金魚屋のオヤジ。因みに紙は、弱い方の紙だ。

 「やるな。俺も負けてられねえ。」

 その後、一夏VS金魚屋のオヤジの金魚掬いが始まった。

 

 「悪いな、焼きそば驕ってもらって。」

 終戦後、当然のように飼ってしまった一夏は嫌みったらしく焼きそばを口に運ぶ。

 「人の金で食う焼きそばは美味いか?えぇ?」

 「驕ると言ったのは、おめぇだぜ。」

 「・・・くたばりやがれ。」

 恨めしそうに見る箒。それもそのはず。屋台で買うより、作った方が安いからだ。

 その発想は、最もお祭りを楽しめないタイプの考え方かも知れない。

 「一口いるか?」

 「いや結構。遠慮さしてもらうぜ。」

 それは、一夏が次の一口を箸で摘まんだときだった。

 「あれ?一夏さん!?」

 「人違いでしてよ!」

 声をかけられたので、そう言いながら振り向いたが、背面が色々と残念なことになっていた

 「変装しても無駄です。」

 「どうして分かった。」

 「背中のチャック閉まってませんよ。」

 一夏としたことが、大失態であった。

 「おい一夏。この妙に鋭いのは何だ?」

 背面の見えないチャックが開いているのが分かるとは何者だと、箒は警戒する。

 「五反田蘭、同級生の妹だ。ところで弾は?」

 良く知った仲なので、別に怖いことはないと一夏は話題を変える。

 「今頃、家でグッスリでさぁ。」

 随分と彼女も染まって来たなと、一夏は心の中で頷く。

 「会長!この筋肉ってもしかして・・・!」

 「あなたたち。この人が伝説の男、織斑一夏だ。」

 敏感にそれを察した蘭の連れに、彼女は自信を持って紹介した。

 すると。

 「「「道理で、会長がどんなイケメンにもなびかないわけだ!」」」

 「あ、こらソレは!!!」

 「きゃー!怒った!」

 「こえーよ!」

 何やらよくわからないことを言い始めた。その様子を、一夏と箒は微笑ましそうに見つめる。

 「「「じゃあ、また今度!!!」」」

 「あ、逃げるな!待て!!」

 1人置き去りにされた蘭。可哀想に思った一夏は、話しかける。

 「学校の友達か?」

 「奴らは友達でも仲間でもない。生徒会のメンバー。仕事が遅れたら48時間は拘留される。」

 「ソイツはご愁傷様だな。」

 ただの腐れ縁に、一夏は哀悼の意(死んでない!)を示した。

 「ところで一夏さん。その女性は?」

 そのとき、初めて一夏の横に立つ箒に気がついた蘭は、ムッとした表情でそう言った。

 「篠ノ之箒だ。剣道界じゃ、結構有名な人物だが?」

 「も、もしかしてISの開発者の妹!?」

 一夏から説明されて、蘭はハッとしたように言い返した。

 「あんなゴミを作ったヤツが姉妹だと、恥でしょうがねえ。」

 が、それはハズレクジであったのは言うまでもない。

 「そうか?ラウラが言うには最強の携帯だって話だぞ?」

 「その使い方は予想外だったな。」

 明後日の使い方を提示する一夏に、箒は、確かにそれなら優秀だと真面目な表情になる。

 「・・・その使い方はマズくないですか?」

 その会話を聞き、蘭は恐ろしくなる。

 というか、それが普通の反応だ。

 「クソッタレ共の作ったルールなんざ、守ってやる義務はねえ。そうだろ?」

 「え、えぇ・・・。」

 もっとも、この時点で彼らにはこの手の話が通じるはずはないのだが。それを欄が知る由も無いのは当然といえば当然だ。

 「ここで立ち止まっててもしょうがない。見て回ろう。」

 「あぁ、そうしよう。付いてくるか?」

 「あ、行きます!!」

 箒が呼びかけ、それに一夏が答え、蘭が従った。

 「ところで蘭、何処か遊びたいとこあるか?」

 「え!?・・・あ、あそこで!!」

 唐突に行き先の話を振られ、一夏に優柔不断に思われたくなかった蘭は、それをよく考える間もなく答えた。そして、咄嗟に指差した先にあったのは。

 「射的?久々にやってみるか。」

 「蘭とか言ったか?得意なのか?」

 「え、えぇ、まぁ・・・。」

 意外にもいい食いつきを見せたため、蘭は顔を(しか)めるしかなかった。

〈私は!自分の言ったことが何も分かってない!ぎょわぁぁぁ!〉

 そして、心の中で盛大に叫んだ。

 「へい、いらっしゃい。」

 そんなことを知る由も無い一夏と箒は、さっさと射的屋に向かっていった。

 「三人分頼む。」

 「おお?筋肉モリモリのマッチョマンの変態が両手に花持って来やがった。よし、オマケは必要ねえな。」

 うらやましそうな目で一夏を見ながら、そんな愚痴をこぼす店主。

 「賢明な判断だ。店を赤字にしたくないならな。」

 「言いやがる。」

 まさか本当だとは、このとき思いもよらなかったことだろう。

 「お、いい構えだな。何処で撃ち方を習った。」

 蘭の構えを見て、一夏は意外とさまになっていることに感心する。

 「そ、そこに書いてある通りです・・・。」

 そう言って出来るほど簡単なことではない。

 蘭は、もうどうにでもなれと、半ばやけくそ気味に引き金を引いた。

 PON☆ベシ・・・ズドォンッ・・・

 「倒す札が派手だねえ。えぇ?鉄板倒すか?」

 「言ったろ?」

 「え?え?え?」

 すると驚いたことに、重々しい音を立てて的が倒れた。しかし、当の蘭は何が起こったのかを理解できずうろたえる。

 「液晶テレビ、当たりぃ!馬鹿野郎!何やってんだ!てめえ正気か!俺の店を潰してえのかてめえ!どっかし天丼!てめえ何やってんか分かってんのかい!」

 「は、はあ・・・?」

 現実なのかどうかがあやふやになり、生返事するのが精一杯だった。

 「赤字だ赤字。持って行きやがれチクショウ!!」

 そう言っている店主の横で箒は。

 「さて、私は・・・。」

 PON☆ベシ・・・ゴロォンッ・・・

 別の景品を倒していた。

 「お前等射撃でもならってんのか、おい?」

 さすがに焦りが見え始めた店主だった。

 

 「いや、取った、取った。」

 袋にぎっちりと獲得した景品を詰め、満足げに歩く一夏と箒。それに付いて、蘭も液晶テレビを持って歩く。

 「あの、一夏さん。これ重いんで持って帰ります。」

 それは気まずくなったからではなく、単純に腕が疲れてきたから出てきた言葉だった。

 「弾に取らせに来たら良いんじゃないのか?」

 「!!ちょっと失礼。」

 そう言って携帯電話を取りだし、段に電話を掛ける。

 しばらく呼び出していたが、一向に出る気配がない。

 「出ないか?」

 「流石に睡眠薬を盛りすぎたみたいです。」

 弾ではそうなるだろうと、一夏は苦笑いする。

 「持ってやろうか?」

 「い、いえ、一夏さんのお手を煩わせるわけにはいかないので、帰ります。」

 そう言って帰ろうとした蘭を一夏は引き留める。

 「箒、花火は何時からだ?」

 「もうじきだ。」

 「折角だから、花火ぐらい見て帰ったらどうだ?」

 遠慮しなくてもいいぞと言ってはみたが・・・。

 「ですが、重いので帰ります。」

 「そうか・・・。気を付けてな。」

 これ以上引き留めても悪いだろうと、一夏は引き下がった。

 「はい、失礼します。また会いましょう。」

 そう言って、蘭は足早に去って(厳密には逃げて)行った。

 「・・・さて、例の場所に行くか。」

 「あぁ。」

 その姿が見えなくなるまで見送り、2人は秘密の場所へと移動を開始する。

 

 「ここは意外と変わってないな。」

 参道から外れた繁みの中にポッカリと、いやガッツリと木がなぎ倒され空を見上げられる場所があった。

 「おめえがブチ空けた空間だ。そう簡単になくなるのもか。」

 お陰で人混みを避けて花火がよく見えて助かると、箒は一夏に感謝する。

 「見事なもんだ。」

 「全くだ。」

 普段はロケットランチャーをぶっ放している彼らの目にも、花火というものは美しいものとして捉えられていた。

 その花火の音に隠れるように、何かが近付いてきていた。

 残念ながら、この二人に接近するには無音かテレポート。もしくは光速を越える位しかない。

 「・・・打ち上げ花火、下から見るか横から見るか。それとも、お前等がなるか?あぁ?」

 無粋にも花火の邪魔をする輩に、一夏は苛立ちを隠さない

 「見ろよ。あの女悪かねぇぜ?」

 それを無視する命知らずなチンピラ。

 「悪かねぇ?最高だろ?」

 「・・・何か偉い自信満々だな?どうする兄貴。」

 全くブレてくれないことに、チンピラは困惑する。

 「まずお前さんが横の男をとっ捕まえて羽交い締めにして――」 

 兄貴と呼ばれたチンピラが、それを気にすることなく算段を立て始めた瞬間のことだった。

 「「まあ、チンピラに囲まれてしまいましたわ!」」

 「「「!?!?!?」」」

 突如として、目の前にいた日本人の男女が、全く同じ容姿をした金髪碧眼の女子に変われば誰だって戸惑う。

 「あいつら何話してたと思う?」

 「どうせろくでもねえ事だ。」

 驚いて思考が停止した一瞬の間に、一夏と箒は揃って一夏の格好になる。

 「「「!?!?!?」」」

 「お、おい、さっきの女は何処に――」

 何が何やら分からなくなったら、逃げるのが最善だったりする。特にこの2人からは。

 「「おめでとう、君らは花火にされた。」」

 まあ、逃がしてくれる筈はないが。

 「え?」

 Pi!チュドォォォォォォォォォォォォン!!!

 いつの間にか足下に仕掛けられていたクレイモアの爆発を受け、チンピラはお空へと吹っ飛ぶ。

 「「お代わりだ!受け取れ!」」

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 ズドドドドドドドドォンッ!

 巻き上がったところへ、2人からロケットランチャーの掃射が贈られた。

 「おぉ、汚え花火だ。」

 「汚え?最悪だろ?」

 しばらくして、墨のような見た目に成り果てたチンピラが降ってくる。不思議にも、煤まみれなことを除けばかすり傷一つ負っていなかった。

 勿論、吹っ飛ばされた衝撃と恐怖で、全員が伸びてしまったが。




  ヒュルルルルルルルルル・・・スポンッ
A ・・・ネタが湿ってたんだなこりゃ。
B ドジッたか。泣くな作A。・・・(高評価まで)あと一歩だったな。


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第36話 お宅砲門

帝王よ帝王、腹筋を洗い流せ~♪ダブルのネタでMADもピッカピカ~♪


 〈あった、ここだ。・・・。〉

 その日シャルロットは、織斑邸の正面に立っていた。

 住所を再三確認したので、間違ってはいなと信じ呼び鈴を押す。

 ピーンポーン、ピーンPON☆

 「!?」

 変な呼び出し音に、シャルロットは驚く。

 〈・・・出てこないな。・・・ん?出ないときはここを押して下さい?〉

 しばらく待っていたが、家から誰も出てくる気配がなかった。ふと、近くにあったボタンが目に入ったので、押してみることにした。

 ポチッ・・・チュドォォォォォォォォォォォォン!!!

 「ふえっ!?」

 え?セリフが原作と一緒?偶には原文リスペクトしても大丈夫でしょう。・・・多分。

 「シャルか。どうした、何か用か?」

 「派手に素早くか・・・。一夏らしいや。」

 気がつけば、シャルロットの背後に一夏が立っていた。

 流石に見切ることはできないが、どこに現れるかは大体想像できるようになって来ていた。

 「ソレ褒めてんの?」

 「え、ええっと・・・。」

 答えに迷うと言うことは、そういうことである。

 「まあいい。ちょっとホームセンターまでひとっ走りしてくるから、入って待っててくれ。」

 だからといって、それを気にする一夏ではないのも、また確かな事実であった。

 ドンッ!っという衝撃音とともに、一夏はシャルロットを残し走っていく。

 〈・・・暑いし、言われたとおりにしよう。〉

 残されたシャルロットは、突っ立っていても仕方がないので、一夏の言った通りにするのであった。

 

 「悪いな、待たせた。」

 10分ほどで一夏は戻ってきた。

 「いや、大丈夫だよ。」

 シャルロットは、家に入ってみたものの応接室は見当たらなかったのでリビングで待っていた。

 「ところで、何の用だ?」

 「え、えっと、・・・来ちゃった♪」

 本当には一夏に合いたくてきたのだが、それを言うほどの度胸を持ち合わせていなかったのでそう言う以外に方法は無かった。

 「合いに来るほどか?」

 「・・・近くまで歩いてきたから。」

 頬を赤らめるシャルロット。

 もっとも、一夏がそれに気づくはずは無い。唐変木でなのではなく、単純に興味が無いから。

 「まあいい、何か飲むか?」

 「プロテインとかしかないんじゃないの?」

 「他にもあるさ。」

 そこまで筋肉マニアじゃないと笑い飛ばす。

 「例えば?」

 「バリウムとか・・・後は液体金属。」

 「・・・。」

 「冗談だよ。」

 まさかシャルロットが無言になるとは思っていなかったので、どうにも調子を上げることが出来ない。

 「今朝作りたての麦茶で良いか?」

 「うん、いいよ。」

 その返事を聞いた一夏は、台所へと向かっていく。

 しばらくの間、棚から何かを取り出すような音がしたあと、大量の水が流れる音が聞こえてきた。

 「何か凄い音がするけど!?」

 水道でも破裂したのかと思ったシャルロットは、慌てて一夏の元に走って行く。

 「あぁ、鈴のヤツが来たらこのぐらいないと足りたためしがない。」

 そこで彼女が見たのは、大樽へ麦茶らしき液体を注ぎ込んでいる一夏だった。

 「」

 「お待たせ。」

 放心状態になっている間に麦茶を移し終え、コップにそれを注いでシャルロットの前に置く。

 「・・・。」

 「どうした?」

 そのコップを、得体の知れないものを見たような目で見つめるシャルロット。

 「いや、コップあるんだなーと思って。」

 「タライがよかったか?」

 足りないのかと思った一夏が、それを棚の中から引っ張り出してくる。

 「い、いや、これで十分だよ。」

 慌てて否定を行い、腹がタプタプになることは回避する。

 そのとき、玄関チャイムが鳴り始め、それが半分と鳴らぬうちに勝手口が開く。

 「一夏さん?いらっしゃいますか?お邪魔しますわよ?」

 尋ねてきたのはセシリアであった。彼女は、一夏の許可を得ることなく家に上がっていた。

 「せめて呼び鈴が鳴り終わるぐらいまでは待て。後、玄関から入れ。勝手口は駄目だ。」

 「あら、シャルロットさん。ごきげんよう。」

 ふと、一夏以外に人が居ることに気付き、挨拶をする。

 「聞いてるか?」

 「話し終わるまでは待ちましたわよ。」

 いつものメンバーの中では、かなり良識的な受け答えである。

 「これ、おいしいと話題のケーキを買ってきましたわ。」

 「あぁ、どうも。」

 セシリアから受け取った箱を一夏が開けると。

 「あれ?6個あるよ?」

 やけにケーキの個数が多いことに、シャルロットは疑問を覚える。

 「皆さん集合しそうな気がしましたので。」

 「奇遇だな、俺もそう思ってさっき皿を買ってきたところだ。」

 何故そんなことを予想できるのか、シャルロットは不思議で不思議で堪らないといった感じの表情をする。

 「では、頂きましょう。」

 「みんなが来そうなら、待った方が良いんじゃないの?」

 「ケーキは鮮度が命だ。早く喰うに越したことはない。」

 もっともな考え方にも思われるが、一夏とセシリアとて気がするだけで約束などは一切していないので、実際に来るかは分からないのだ。

 「そ、そうなの?」

 「あぁ、そうだ。それに、どうせ食べてたら皆来るよ。」

 犬じゃないのだからと思ったものの、それは口に出さないでおいた。

 その間にも、一夏は皿を並べセシリアがケーキを置いていく。

 「あぁ、こいつは最高だ。」

 一口食べただけで、かなりレベルの高いお店であることが分かる。あの一夏にそう言わせしめるほどに高いクオリティーだ。

 そこへ、間を見計らったかのように呼び鈴が鳴る。

 「ホラ来た。」

 それだけ言って動かない一夏。

 「?」

 シャルロットが頭にそれを浮かべたときだった。

 「邪魔するぞ、一夏」

 突然、フローリングの一部が剥がれ、箒がその下から現れる。

 「一夏いる?」

 更に、鈴が天井板を外して現れた。

 「鈴、屋根から入るのは止めろ。」

 「篠ノ之さん!?何てところから入ってるの!?」

 一夏が凜にしか注意をしなかったため、シャルロットは代わりに注意したつもりだったが。

 「シャル、そこは箒専用の床下入り口だ。」

 「」

 そういえば、過去に床を切って現れたこともあったなと、頭痛とともに思い出す。

 『大佐、いらっしゃいますか?』

 そのとき、玄関のほうからラウラの声が聞こえてきた。

 「ラウラだな。行ってくる。」

 そう言うと、一夏はフォークを皿の上に置いて、リビングから出て行く。

 玄関で、2人が話をしているのが聞こえる。それから直ぐ、2人分の足音が近付いてきた。

 「む、靴は3足しかなかったが?」

 ドアを開けてリビングを見たラウラが、不思議そうにそう呟いた。

 「なーに細かいことまで気にしてんのよ!」

 「お前が大雑把なだけだ。」

 「」

 一夏の有無を言わせぬ口撃に、鈴は黙るしかなかった。

 「ケーキがあるんだが食べないか?セシリアが買ってきてくれたんだが。」

 「「「食う。」」」

 いつものことなので、一夏がそれを引きずることはない。

 「ところで、俺の家に何しに来たんだ?」

 「何となく集まってそうだったので。」

 セシリアの返事は、1人を除いたものの代弁であった。

 そして、その1人というのは・・・。

 「麦茶飲みに。」

 鈴である。

 「寮の冷水機でも飲んでろ。」

 「無理に決まってるでしょ!」

 「腹出せ!出せッてんだこのぉ!腹かっさばいて冷水機ぶち込んでやるぜ!お茶パック飲めば麦茶出来るようになぁ!」

 どこから取り出したのか、一夏はメスを右手に冷水機を左脇に抱えて鈴を追っかけまわす。鈴も、やられては敵わないと逃げる。

 「まあ待て一夏。ケーキが台無しになる。」

 「(取り乱して)すまないと思ってる。」

 そう言われて、大人しくケーキを食べる。

 「ところで大佐。この後の予定は?」

 粗方食べ終えたところで、ラウラが話を振る。

 「ない。」

 「一夏、久しぶりに筋トレしないか?」

 「いいな、乗った。」

 箒からのまさかの横槍に、一同が顔を青くする。

 「!!!よぉ。・・・よぉ待ちなさいよぉ!おたく等にいいゲームを見させてやろうってんだぜ?」

 慌てて鞄をあさり始める鈴。

 ドサドサドサッ!っと、どうやって詰めていたのだといいたくなるほど大量のカードやゲームが出てくる。

 「花札に人生ゲーム・・・それに何だこれ?」

 「知らない方が良いわ。」

 見慣れぬゲームだと一夏が拾い上げたものを、鈴は電光石火で取り返し鞄に放り込んだ。

 「だが、お前の好きなゲームばかりだ。違うか?」

 「勝てるゲームを出す。ソレが鉄則でしょ?」

 要は、まだ遊びなれていないゲームだったので、遊びたくなかったというだけのことなのだが。

 

 賑やかに遊び続けていると、時計の針が頂点に近付いていた。

 「そろそろ昼だな、何がいい?」

 「大好きなスウェーデン料理はアザラシの子供、クジラのケツ、夏が旬だ。だが今食いたいのは・・・チャイニーズだ。」

 「・・・冷やし中華で良いか?」

 ラウラのそれを聞いて、一夏はこのクソ暑い中炒飯を作る気力はあっても食える気がしないので、涼しくなれて簡単に作れる中華料理を提案したつもり・・・だったが。

 「日本食じゃないソレ。少なくとも中国にはなかったわね。」

 流石は中国に帰っていただけのことはあると、一夏は感心したように頷く。

 「そう言えば、中国じゃあ足が付いているものは椅子以外食べるって聞いたな。」

 「椅子以外?なーに寝言言ってんのよ。人間以外なら何でも・・・何言わせてんのよ!」

 「言ったのはオメェだぜ。」

 一夏は、実を言うと中国じゃ食えないものはないのかと言うつもりであったので、これでもまだ抑えていた方である。

 「うるさい、うるさい、うるさい!!私が作ってやるわよ!」

 何に触発されたのか、鈴はキッチンへと消えていった。

 

 「お待たせ。」

 ズドンッ!と、大皿をテーブルの上に置く。

 「酢豚か。」

 冷やし中華の話をしていたので、てっきりそれを作ってくれるものばかりだと思っていた。

 それを見て、ラウラが呟く。

 「凰、一つ聞くが酢豚以外のレパートリーはないのか?」

 「実を言うと作れない。文句ある?」

 「いや。」

 結局、人口密度千%で机を囲み、熱々の酢豚を貪っていると、そこへ。

 「良い匂いがすると思ったら、また随分と集まってるな。えぇ?」

 変な時間に、千冬が帰宅してきた。

 「珍しいな。会議でも抜け出してきたのか?」

 「休憩時間ってものはある。」

 私だって休まなければやっていけないといった仕草をしてみせる。

 「分かってるよ。」

 「食ってくか?」

 学校では千冬を恐れている(当社比)鈴も、ここでは大胆な口調で話す。

 「昼飯が死ぬほど食いたかったんだ。もう半日もマトモな飯食ってねえやってられっか!」

 小皿(これも当社比)に取り分けられたものを、音速で口に運ぶ。

 「午後は?」

 「クソッタレ共と会議だ。嫌気がするね。」

 「適当にあしらっときゃいい。役人なんぞクソッくらえだ。」

 パンチするような仕草をしながら、一夏が笑う。

 「そうするつもりだ。じゃあ、行ってくる。」

 「教官!ご武運を!!」

 ラウラの見送りを受け、千冬は普通に出て行った。

 「さて、何時までいるんだ?布団はないぞ?」

 「寝袋で構わん。」

 さっそく止まる気満々の面々。

 「なら、晩飯の買い出しに行かなくちゃ。」

 流石に冷蔵庫の中が心許ない。一度時間を確認し、買い出しに行く時間を計算する。

 「では、私が――」

 「「「お前は止めろ。」」」

 セシリアがとんでもないことを言う前に、先制して黙らせる。

 「・・・家の車をお出ししますわ。」

 「どうも。」

 流石に彼女も分かってきたようだ。

 

 「山田君、何だそれは?」

 夜。山田先生と千冬の姿は駅前のバーにあった。

 「安定剤です、飲みます?」

 「いやぁ、どうせなら・・・酒がいい。」

 おつまみか何かだと思って聞いたため、がっかりしたように酒を煽る千冬。

 「ところで、今日は帰省されるんじゃなかったのですか?」

 「仕事が増えたんでやめた。それに、奴らが集まってたんでな。逃げてきた。」

 「奴らって、例のメンバーですか?」

 「あぁ。」

 そっけなく返したが、非常に危ない状態である。周りから見ればではあるが。

 「ISが6機集結ですか。世界相手に戦争ができますね。」

 「ISなんざなくたって、私と一夏、それから篠ノ之がいれば宇宙ごと消せる。そうだろ?」

 「」

 酔っているなと感じた山田先生だが、千冬の言っていることは残念ながら事実であった。

 「ところでな、この書類を――」

 「どうせそんなことだろうと思ったよ。」

 突然、低い声が聞こえてくる。

 「い、一夏!何故ここに!?」

 「料理ができるまで散歩だ。」

 さらりとそういってのけた一夏だが。

 「・・・ここって織斑先生の家から10kmぐらい離れてますよね?」

 「走ってくりゃどうってことない。」

 「・・・ランニングじゃないですか?」

 逸般人であることを失念している山田先生、いい加減学習しろ。

 「少し黙ってろこのスイカ野郎!ベラベラ喋りやがって!」

 「まあ、落ち着け。氷バケツを向けられちゃあ、書類が濡れて・・・。」

 一夏は、いつの間にか小脇に青い大きなバケツを抱えている。

 「安心しろ。ここにある。」

 「!?!?!?」

 気がつけば、一夏に書類を奪われていた。これはまずいと、千冬が逃げ出そうとしたとき。

 「酔い覚ましだ!受け取れ!イ゛ェアアア!!!」

 「ウワァァァァァァァァァ!!!」

 ザバァッ!と、過冷却水を頭かぶらされたのであった。




A おい、あの歌は何だ。
B うるせえ、俺は眠いんだ。
A 眠いか、眠らしてやる!
ドベキシッ!
B オフィッ・・・【0/1】


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第37話 ああ駄目こんなの生徒会長じゃないわ!肩書きの付いた変態よ!

ABだったらしごけばいいだろ!!
友 !?


 「でぃやあああああああああああああああ!!!」

 ガキンッ!!!【50000/50000】←雪片弐型(OFF)*No damage!

        【35000/35000】←双天牙月*No damage!

 その日、一夏と鈴は珍しくISを操縦していた。

 「逃がすもんかぃ!」

 ズドドンッ!【98999/99999】

 甲龍の衝撃砲が、一夏の体を揺らす。

 「ウオォッ・・・。」

 「二次移行したISはどんなだ一夏ァ!」

 「試してみるか?R20Bエンジンに負けず劣らずクソ燃費だ!!!」

 

 この2人がじゃれあっているのは、数分前の出来事だ。

 「ねえねえ、偶にはISで訓練しない?」

 シャルロットが、このところISの出番がまったく無いからと、そろそろ使わないかと提案する。

 「お断りだね。」

 「エ゛ェェェェェェェェェ!?!?!?」

 にべも無く断られ、おかしな声を出す。

 「シャルロット、さっきから何を吠えてるんだ。おい!うるさいぞ!黙らないかこのぉ!」

 ラウラにまでそういわれては、どうしたら良いのかわからなくなる。

 「いや、みんなここIS学園だよ!?ISを使わないなんて―」

 「ISは心の中で生き続ければいいんだ。」

 「」

 箒にもそういわれ、流石に黙るしかなくなる。そこへ、助け舟を出すものがいた。

 「まあ、良いじゃない偶には。もう半月もマトモにIS起動してねえ!(国からの圧力が)やってられっかい!」

 鈴である。

 ちなみに7月頭から展開してないので、半月どころの騒ぎでないということだけは補足しておく。

 すぐさまアリーナへと移動した一行は、ISを展開する。

 「お?何だこれは?前と恰好が違うぞ!」

 前回展開したとき、要は銀の福音とやりあったときとはまったく違う見た目になっていることに、一夏は驚く。

 「凄いよ一夏!第二――」

 「差し詰め第一形態で万策尽きたクソ機体ってことか。」

 シャルロットの言葉を遮り、箒が鼻で笑いながらそう言う。

 「いや、篠ノ之さん。第二形態になったんだよ?」

 「メールもできるようになったか?」

 そこへ追い討ちを掛けるように、ラウラからも疑問が飛ぶ。

 「いや、電話じゃないから。まあ、ちょっとぐらい乗ってみたら?」

 流石はIS開発会社の娘といったところか。そこはぶれずに貫こうとする。

 「よーし、派手に行くとするか。」

 珍しく乗り気な一夏。

 「私が相手をしてやろう。」

 「待ちなさいよ。相手は私がやるわ。」

 IS如きの攻撃なら余裕で絶えられるからと手をあげた箒を制止して、鈴が一夏の前へと行く。

 「(煽られてもいないのに率先してやるなんて)らしくないじゃないか。」

 「アンタの悪い癖が移ったのよ。いいから行くわよ!」

 気恥ずかしいのか、いつもの2割り増しの声の大きさだった。

 

 そして今に至る。

 「お前はまだ余裕か?」

 「この甲龍は燃費と安定性だけが取り柄の機体よ!かったるくてケツ蹴っ飛ばしてやりたいくらいなのに、燃費まで悪かったら今頃焼却炉に放り込んでるわよ!」

 乗っている人間のスペックが高すぎると、ISが足手纏いになるというのはよくあることだ。

 「悪いな鈴。(装備のエネルギーをカットして)飛んでるだけなのにもうエネルギーがねえや。」

 「そりゃ、そんだけ装備ゴデ盛りにしてたらPICだけじゃ浮けないわよ。」

 やはりこういうのは手持ちに限ると、2人は揃ってため息をつく。

 「何でこんなに装備があるんだ?両肩にロケットランチャーが付いてりゃスッキリするのに。」

 『もーう、一夏ったら古いんだ!ISは自己進化するから――』

 その呟きを拾ったシャルロットが開放回線で話しかけてくる。

 その話を途中まで聞き流したところで、一夏ははたと気がついた。

 「だったらもげばいいのか!」

 『!!』

 そんなことをさせてはならないと、シャルロットは大慌てでISを展開。イグニッションブーストを使って上昇し、一夏を止めるべく思いっきりぶん殴ったら。

 バキィッ!【15000/18000】

 「重いから止めとけ。」

 「そういうのは先に言って・・・。」

 シャルロットはその質量差の前にあっさりと殴り負けてしまったのであった。

 

 白式のエネルギー切れにより終了したお遊戯のあと、一向は食堂へと向かっていた。

 「ああも早くエネルギーが底を尽きちゃ、ドイツと日本の間も行き来できやしねえ。」

 これでは本当に携帯電話としてしか使い道が無いぞと、一夏は大気状態になっている白式を脅す。

 「そう言えば大佐、週7でドイツにいましたが学校はどうしてたんです?」

 「ちゃんと行ってたぞ?なあ鈴。」

 一夏は、信用できる証言人として鈴に尋ねる。一応言っておくが、一夏が言うことを疑うものはこの中にはいない。・・・あ、失礼。シャルロットがいました。

 「あぁ、いたわね。」

 「え?じゃあ、どうやって行き来してたの?」

 一般人(シャルロット)の視点からでなければ、この疑問は生まれなかったことだろう。

 「そりゃ、空飛んで行き来してたさ。」

 「自力で?」

 「馬鹿言え。あの天災(アホ)が寄越したISで――」

 そういったところで。一夏の口の動きが止まった。

 「「「・・・え?」」」

 もちろん、周りの方々がそれを聞き逃すミスを犯すわけなどない。

 「(前から)ISに乗ってたの忘れてたぁ!!」

 棒軽自動車のCMのアンちゃんよろしく叫ぶ一夏。

 「・・・前に使ってたヤツを白式にしたの?」

 恐る恐る尋ねるシャルロット。

 「とんでもねえ、持ってるんだ。」

 申し訳のなさを微塵も感じさせず、一夏は首に掛けていたそれを見せる。

 「「「・・・。」」」

 この展開には、流石の脳筋ズも言葉を失わざるを得ない。

 「乗り心地はどんなだ大佐?」

 いち早く再起動を果たすラウラ。

 「足だけは速い。試してみるか?」

 「いいや結構。遠慮させてもらうぜ。」

 いつもであれば、ここから尋ねたやつを煽り上げて乗せるまでがセットであるのだが。

 「怖いのか?当然だ。俺だってそうだったからな。」

 柄にもなくそれをさせなかった。つまり、それほど危険な乗り物であるということ。

 「どのくらい早いんだ?」

 「ドイツと日本なら1時間で往復できる。」

 箒の問いかけに、至極まっとうに答えたが冷静に考えなくてもその速さが恐ろしいことが分かる。

 「マッハ10は超えてるわね。」

 「あぁ、銀の福音なんて目じゃない。」

 それを週7で乗っていたのかと、鈴は何年ぶりとも分からない驚愕を覚える。

 「大気との摩擦で燃えないの?」

 「燃えなかったからここにいるんだ。燃えてたら今ここで話している俺は誰だ?」

 「」

 それはそうなのだが、それ以上聞いたところで理解できない逸話が出てきそうだったので深堀はしないと、シャルロットはあっさりと手を引く。

 「昔の話だ。とにかく今は白式だ。」

 「諦めな。ありゃ手遅れだ。」

 箒が投げやりにそう言い放つ。そのとき。

 「そっこで束さん特製の赤椿の登場――」

 大声を出しながら現れた、箒いわくガラクタ製造人の愛称で親しまれ(?)ている篠ノ之束。それをぶった切って有り余る声で、ラウラがこう叫んだ。

 「!!(ドイツ料理の)仔牛のカツレツが死ぬほど食いたかったんだ!(このメニューを)もう半年も待ってたんだ!」

 「いや、赤椿――」

 臨海学校で喪失した自信を、ISを研究している各国の機関を回ってちやほやされることで取り戻してきた。だから、今日はいつまででもしつこく付きまとう予定にしているのだが・・・。

 「ラウラ!そんなに食べたら、午後ガス攻撃する羽目になるぞ!」

 「さあ、その食券を半分渡せ!」

 「次(食べられるときに)は命がないぞ!こんなのは一度きりだ!」

 皆、ラウラが大量に購入した食券のことで手一杯になっており、相手にしてもらえない。

 もちろん、皆ラウラにたかろうとしているのではない。一夏をもってしても食べきれないであろう量を買い込んでいるため、そう言う風になっている。

 「だから赤椿――」

 「少し黙ってろ、このウサ耳野郎!ベラベラ喋りやがって。」

 流石に腹減って殺気立ってっきたので、口調がきつくなってきた。

 「」

 「さて、飯にしよう。腹減りすぎて背中とお腹が入れ替わっちまった。」

 そう言いながらも、しれっと束の分の食券を購入している一夏であった。

 

 「フンッ!フッ!」

 翌日。一夏は、授業前のダンベルを更衣室で行っていた。

 そのとき、磨き上げられ鏡面になった300kgのダンベルに、何者かが背後から近付いてきていることが映る。

 「・・・。」

 ギリギリまで引き付ける。当然、気づいていることを悟られぬようトレーニングの手は止めない。

 「だーれだ!」

 「お前が誰だ!」

 そんな暢気なことを言っている襲撃者に、後ろから声を掛ける一夏。

 「!?アレ?丸太!?」

 驚きすぎて取り乱す襲撃者。そいつの髪は水色だった。

 「静かに素早くだ。お前は誰だ。」

 「え?え?」

 確かに今まで背後を取っていたはずなのにと、いまだに理解が追いつかない様子だ。

 「時間切れだ。出てってもらおう。」

 「ちょっと、お姉さんとお話――」

 ドベキシ!「オフウイ・・・」【1/5000】

 道を空けてくれないので、やむなしと強制おねんねしてもらうのであった。

 

 「織斑。授業開始を邪魔したくはないが、20秒遅れてる。」

 遅れてグラウンドに着いた一夏を、全員がらしくないじゃないかと見つめる。

 「これでも窓が割れないギリギリで走ってきたんだ。」

 「訳を聞こうか。」

 千冬も、一夏が遅刻するような玉じゃないことはよく理解している。だが、職務上聞く必要があるため、そう言った。

 「お前のサボり仲間に捕まってたんだ。」

 「・・・よし分かった。始めるぞ。」

 これ以上しゃべられたらいろいろまずいと、目を逸らす千冬であった。

 

 更にその翌日。IS学園では全校集会が行われていた。

 「やあ、みんなおはよう。一年生は初めましてね。生徒会長の更識楯無しよ。」

 全校生徒の前に現れたのは、昨日一夏の遅刻の原因となった人物。

 「「「わあぁぁぁぁ!!!」」」

 歓声が1年1組を除いた全クラスから上がる。

 「今回集まってもらったのは名付けて『各部対抗織斑一夏争奪戦』の開催の予告よ!」

 「ふざけやがってぇ!!」

 間髪を容れずに一夏が反応する。勿論、その手にはロケットランチャーが装備済みである。

 「落ち着いて。これは、我ら生徒会の声明。織斑一夏君も我々の力はもう十分わかったはずよ。OK?」

 「O――」

 「生徒を救いたければ、無駄な抵抗はしないことよ。我々は、全員が死を覚悟している!私があのキーを回せば、この学園の200人の生徒が死ぬ。一瞬にしてね!」

 一夏が引き金を引こうとした、まさにその瞬間に勝ち誇ったように楯無が扇子を広げながらそういった。

 ところが、一夏も同じく勝ち誇ったように笑顔で言い返す。

 「どのキーだぁ?」

 「あのキーだ・・・誰だキーを抜いたのはぁ!」

 一転して焦る楯無。その慌て振りは、先ほどまでの立ち振る舞いが嘘のよう。

 「これをお探し?」

 ラウラが顔の前で鍵を振って見せる。

 「よくやったラウラ。」

 「い、いつの間に!?」

 織村一夏を侮った結果、このようなことになると彼女に創造するのは到底無理だろう。少なくとも現状では。

 「カカシには映らんぞ。」

 勝ち誇ったように言うラウラ。実際に勝っているが。

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 「体育館を救いたければ、無駄な抵抗はしないことだ。俺達(1組)は、全員が(お前の)死を確信している!俺がこの引き金を引けば、この体育館の200枚のトタンが飛ぶ。一瞬にしてだ!」

 ロケットランチャーを肩に担いだことで、組合員おなじみの効果音が自動的に流れる。

 言うまでもないが、照準はとっくに合わせられてる。

 「・・・お願いだから『各部対抗織斑一夏争奪戦』やらせて下さい。困ったことがあったら、何でも私に言ってくれていいから、ねえ?」

 手のひらを返したように下手に出る楯無。もっとも、追い詰めた敵にはまったく慈悲を出さない一夏には無効な手立てである。

 「困ったことがあったら何でも――」

 「キャー、会長良いわ!!」

 「最高!最高よー!!」

 だったら、俺の争奪戦はなしだというつもりだったのだが、集会に参加している大多数のクラスからの妨害によりかき消される。流石の一夏でも、この数を一発で黙らせる手立ては持っていない。

 「えぇい!静まれ!静まれ!この紋所――」

 「一夏!他作、他作!!」

 「!!」

 おっと失礼、これは語録にありませんね。鈴のおかげで助かりました。

 「決まりね。」

 「・・・もう会う事は無いだろうが、あんたの事は監視してる。」

 威圧感に質量があったなら、今の一夏のオーラは体育館を木っ端微塵に吹き飛ばしていたであろう。




B ・・・夏休みめ!・・・くそぉ、逃げたかっ!うぉぉぉっ!!
※西日本豪雨で学校の夏休みが一日先延ばしになりました。


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第38話 水色の髪の変態女がいるんだけど、彼女まともじゃないの

B  ん?今週から夏休み?・・・何!?
学校 悪いな。夏休みでなくてよ。休みになった分の補充だ!


 放課後、1年1組では臨時のHRが行われていた。その議題はというと・・・。

 「さて、学園祭の出し物は何にする?」

 というものである。

 「はい!織斑一夏とアームレスリング!」

 「いやいや、織斑一夏とボディービル対決でしょ!」

 「そこは、ウエイトリフティング対決よ!!」

 様々な意見が、教室中から溢れ出てくる。その全てを聞き漏らすことなく拾い、一夏はこう結論づけた。

 「(客が)くたばっても知らんぞ。」

 途端に静まりかえる教室内。

 「・・・間を取ってボディービル喫茶は?」

 「・・・喫茶は何の間だ?」

これには、流石の一夏も頭の上に『?』マークが浮かぶ。まあ、当然と言えば当然だ。

 「ソレを知ったら、死んじまうぞ。」

 お決まりの文句は放って置いて、一夏は別の意見を尋ねる。

 「大佐、メニューは特盛りクレープで如何です?」

 「飯トレ喫茶でもしようってのか?」

 「だが、それでは客は喜ばん。違うか。」

 言われてみれば、わざわざ学園祭に体を鍛えに来るヤツなど居ない。誰もがこの流れでは拙いと思い始めたとき。

 「なら@クルーズみたいにメイド喫茶はどう?」

 「「「!!!」」」

 シャルロットが皆の度肝を抜くアイディアを提案した。補足だが、他クラスであったなら至って平凡な意見でしかない。

 「シャルロット。お前、まだ根に持っているのか?」

 「!?な、何のことかなラウラ?」

 図星を突かれ、シャルロットは慌てふためいてしまう。

 「まあ、いい。メイド喫茶で決まりか?」

 それを気にしてくれるほど、彼らに心はないのだが。

 「「「OK!」」」

 意見が満場一致で可決された。一夏は、ズバンッ!と提出用の書類に判子を押した。

 

 「――というわけだ。」

 一夏は職員室に、と言うよりは担任へ学園祭でのクラスの出し物を書いた書類を渡しに来ていた。

 「OK。受け取ろう。しかし、こんなのを発案したのは誰だ?陛下か?それともリアーデのアホか?」

 書類に書かれた内容に目を通しながら、千冬は半分呆れたような口調でそう言った。

 「シャルロットだよ。」

 「なるほどな。じゃあ、この申請書に必要な道具やら材料を書いてこい。期限は学園祭1週間前までだ。」

 書類に自分の承認判を押す。それにしても、意外なヤツのアイディアだなと珍しく感心したような表情になる千冬。

 「よし、分かった。・・・失礼しました。」

 長居することはないと、一夏が職員室から一歩出た瞬間。

 「やあ。」

 その声を掛けられたときには、既に銃を向けていた。

 「動くな!殺されてえか!」

 実を言うと、一夏は本気でやり合うとき銃は構えない。素手かロケットランチャーだ。つまり、この状況は相手の度胸を見ている時間なわけである。

 「ど、どうして警戒されているのかしら?」

 「最初の出会いでインパクトを与えすぎた。違うか?」

 「それはどうかしら?」

 とぼけることで、一夏に確信を突かれるのを逸らそうと考えた楯無。だが、残念。逸らされる前に到達するのが一夏のスタイルだ、

 「用は何だ?お前と立ち話している間にも筋肉が鈍っちまう。」

 「じゃあ言うわ。私が君のISコーチをしてあげる。どう?」

 「そりゃ良いな。気に入った。(燃費の良い)乗り方を教えてくれ。」

 白式の現状を知っているものと考えて一夏は話しており、既に齟齬が生じている。でなければ、一夏が楯無から教えて貰おうとなどしないのだが。

 「じゃあ、決まりね。早速――」

 行きましょうと、楯無がそう言をうとしたとき。

 「覚悟ぉぉぉぉ!!」

 一人の生徒が、イノシシのように突っ込んで来た。

 楯無は、それに対応しようと構えに入った。

 ドベキシッ!「オフィッ」【1/100】

 その瞬間には、襲撃してきた生徒はコンクリートの床を敷き布団に熟睡させられていた。

 「踏み込みに無駄が多い。」

 初めての襲撃を、辛口に採点する一夏。

 「えぇ!?」

 楯無からしてみれば、襲撃してきた生徒はかなり模範的に動けていただけに、彼の口から出てきた言葉が信じられない。

 ヒュッ・・・バリィンッ!

 そうしている間にも、次の襲撃者が現れる。

 そして、そいつはあろうことか弓で窓を破壊した。

 「学校を壊すな!」

 お前が言うかと言いたくなる台詞だったが、まあ、彼は壊して直すのでセーフと言うことにしておく。

 \デェェェェェェェェェェン!!!/

 ドゴォォォォォンッ!【1/100】

 全く躊躇うことなく、ロケットランチャーをぶっ放す。

 「ちょ、殺しは――」

 「してない。安心しろ、爆竹みたいなものだ。」

 その直後、彼の背後にあった掃除ロッカーがバンッ!と開き、追加で一人飛び出してきた。

 「そこに立ってろ。」

 が、最初から気配でいることを知っていた一夏は体が半分と飛び出さぬうちにドアを強引に閉め、掃除ロッカーの中へと生徒を押し戻す。ついでに、外側からテープでしっかりと固定。出られないようにした。

 「織斑一夏君、あなた一体何者なの?」

 暗部のプライドをズタボロにされ、楯無は顔を引き攣らせている。

 「俺からしてみればお前の方が謎だ。俺の情報網で調べられないとはお前何者だ?」

 「私は生徒会長よ。」

 仕返し的にそう言ったが、取り合ってくれる一夏ではない。

 「そんなことは分かってる。お前が来た途端、なぜ俺が襲われているのかを教えてくれ。」

 こんな命知らずは入学した頃のセシリア以来だと、一夏は呆れたように言った。

 「知らないの?IS学園の生徒会長は、最強の肩書きでもあるのよ。」

 「最強?お前がか?全くお笑いだ。1組の生徒がいたら、奴らも失笑するでしょう。」

 「それはどうかしら?生徒会長はいつでも襲撃して良いの。そして、勝ったらその人が生徒会長になる。そのシステムがあるのに私が生徒会長なのは、私が強いからじゃないかしら?」

 そこまで言われては生徒会長と暗部の両面のプライドが泣くと、楯無は意地を張って言い返した。

 「なるほど、そりゃものぐさなアイツらが喧嘩を仕掛けないわけだ。」

 つもりだったが、余計にコケにされる未来が待っていた。

 「そう言えば、昨日会ったときに気が付いたらいなくなったけど?」

 「お前が勝手に寝ただけだ。俺は何もしてない。」

 「そう・・・。」

 何か引っかかりを覚えながらも、ことの顛末(てんまつ)を聞いたら立ち直れそうになかったので止めておくことにした。

 「で?いつから(燃費の良い)乗り方を教えてくれるんだ?」

 「生徒会室に寄ってからよ。」

 少しでもペースを取り戻すべく、楯無は自分のホームグラウンドへ一夏を引き込んでやろうと考えていた。

 特に何か話をするわけでもなく二人は淡々と歩き続け、直ぐに生徒会室に着いた。

 『眠・・・夜――』

 『しっかりしなさい。』

 聞き覚えのある声が、中から聞こえてくる。コイツにはこれが一番効くと、楯無を差し置いて生徒会室のドアを開けた。

 「アホが寝てるんだってな?目覚ましのいい方法教えてやろうか?」

\デェェェェェェェェェェン!!!/

 「いいや結構~!遠慮させてもらうのだ~!」

 開けた瞬間は眠そうにしていた布仏本音は、一夏を見て目を覚ました。それも、彼の恐ろしさを知っているからだ。

 「!!これからもお願いしていい?」

 「今回が(最初で)最後だ。」

 「残念です。」

 えらく期待された目で見られたが、それに応えてやれるほど暇人ではない。

 「・・・あ、会長。おかえりなさい。」

 ふと、楯無も帰ってきていることに気付き、虚は挨拶をした。

 「そこにかけてて。虚ちゃん、織斑一夏君にお茶を。」

 「はい。」

 そう言われ、虚は隣の部屋へと消えていった。

 「おりむ~、ケーキ食べる?賞味期限今日なんだけど~。」

 「あぁ、どうも。」

 要は消費を手伝ってくれと言うことなので、一夏は遠慮せずに受け取る。

 「ところで会長。こちらの方は?」

 ひょこっと給湯室から顔を覗かせ、虚は楯無にそう訪ねる。

 「弟子よ。」

 「弟子入りしたつもりはないが?」

 一夏の言葉は、残念ながら楯無の鼓膜にシャットアウトされた。

 「ねーねー会長、何でおりむ~呼んだの?」

 本音にとっては、それが謎で謎で堪らなかった。

 「それは、織斑一夏君が弱いからよ。」

 「会長~、寝言は寝てから言うべきだよ~。」

 お疲れなら休んでもいいよと本音は勧める。仕事は替われないけどと、忘れずに付ける。

 「本音、お嬢様が一般人相手に後れを取るとでも思ってるの?」

 「只のカカシで――」

 「まあ、待て布仏。俺だってISに関しちゃトーシローだ。」

 担ぎ上げられることを嫌った一夏は、本音を制してそう言う。ただし、勝てないとは言わないあたり、自身の大きさが見て取れる。まあ、実際にそうなのだが。

 「あら、随分と物わかりが良いのね。」

 「俺だって馬鹿じゃない。」

 一夏はケーキを口に運びながら、楯無にそう返した。

 「おりむ~、フィルム頂戴~!」

 本音のこのマイペースさは、一夏を以てしても真似できない。

 「こんなんでいいのか?」

 「これが良いんだよ~。分かってないなぁ~。ありがと~。」

 一夏からケーキに着いていたフィルムを貰い、嬉しそうにそれを舐める。と・・・。

 「この意地汚い馬鹿妹が。」

 ゴチッ【180/200】

 「タコが。」

 姉の虚に頭を殴られる。ただ、一夏と授業を受けていた期間が長い本音には大して効いていない様子だ。

 「・・・この紅茶美味いな。種類は何だこれ?」

 胃を通れば何でも良さそうに見える一夏だが、実は味の違いの良く分かる男である。でなければ、美味い飯を作れるわけがない。

 「何だったかしら・・・。」

 残念ながらど忘れしてしまったようだ。

 「ローズヒップかと思ったよ。」

 「いや違うわ。」

 ウンウンと唸り、必死に思い出そうとするが銘柄は結局出てこなかった。

 「さて、食べ終わったみたいだし、行きましょうか。」

 「会長~。気を付けてね~。」

 「」

 何故心配される必要があるのかしらと、本音の心配に呆れる楯無であった。

 

 「これは何だ?」

 2人が移動した先は、道場であった。

 「袴よ。」

 「そんなことは見れば分かる。俺が頼んだのはISの(燃費の良い)乗り方だ。」

 一夏は苛立っている。

 「小手調べよ。まあ、ハンデとして織斑一夏君が私を床に倒せたら君の勝ちね。」

 「随分と不利なハンデだな。」

 一夏は、相手の技量を見誤ることはない。

 「あら?まだ欲しい?」

 「寧ろ緩めて欲しいね。」

 「その余裕、良いわね。気に入ったわ。まあ、どうせ私が勝つけど。」

 これは、楯無の情報収集能力が低いのではない。一夏の隠蔽能力が異常なまでに高いのである。

 「・・・どうした?来いよ。」

 「そこは男子からじゃない?」

 レディーファーストを実行していると思ったのか、楯無は舐められたと感じる。

 「お断りだね。」

 「じゃあ、お言葉に甘えて。」

 待っていてはキリがないからと、楯無が先制を仕掛ける。

 楯無的には100点満点の先制攻撃だった。だが、一夏には大きな余裕を持って躱された。

 「あれ?」

 「どうした?俺はここだぞ?」

 「・・・えい!」

 楯無は、流石に何かがおかしいと気付いたが、それを認めたくはなかったのでがむしゃらに攻撃を続ける。が、一夏は筋トレを交えながら躱し続ける。それも、楯無に原子一つ触れられることなくだ。

 「何で仕掛けてこないのよ!!」

 「お前を倒したら、生徒会長をしなくちゃならんのだろ?」

 実に下らないような、分からんでもないような理由。

 「今回は別よ!」

 「そうか。」

 その一言を待っていたと言わんばかりに、一夏が反撃に出た。

 「これで勝ちだな。」

 あっさりと楯無を床に倒してしまう。

 「!?!?!?」

 「帰って良いか?」

 下らない遊びに付き合うほど暇じゃないんだと、一夏は帰ろうとする。

 「ま、待って。まあ、水でも飲んで落ち着きなさい。」

 「・・・で、話は何だ?」

 差し出していたボトルの水を受け取る。どうせホーミングしてくるのだろうと諦めているので、大人しく話を聞いてやることにした。

 「そうね。あなたは一体何者なの?」

 水を飲み答え要とした瞬間だった。

 「俺か?・・・俺は・・・。」

 「・・した・?」

 楯無の声が上手く聞き取れない。急に意識が遠のき、一夏は床に倒れ込んだ。

 

 その頃、ラウラは本校舎の廊下を歩いていた

 〈大佐は何処に行った?電話にも出ない。〉

 クラスの出し物を纏めた書類を出しに行ったきり帰ってこない一夏を探しに来ていた。

もっとも、授業は終わっているので探し出す必要はないと言えばない。

 「どうした、ラウラ?」

 「教か――織斑先生。」

 そう言えば、一夏は千冬の下に提出に向かったと思い出し、ラウラは尋ねる。

 「大佐を見ませんでしたか?」

 「一夏か?知らんな。ISで探せばすぐだろ?」

 とっくの昔に帰ったと思っていたため、意外そうな表情をする。

 「(他の生徒に見られたら)条約違反(で通報されるの)では?」

 色々挟まっているが、気にしたら負けです。

 「なーに。見られたらちょちょっと記憶を消せば良い。」

 「了解しました!」

 素早い動作で、ISのコアネットワークを走査する。

 「どうだ?」

 「・・・部室棟の保健室にいるようです?」

 彼がその様な部屋に世話になるはずはないと思っているラウラは、自信が持てず疑問形で話す。

 「アイツが?見てこい!」

 「はっ!」

 ただ事ではないかも知れないと、千冬が指示を飛ばす。それに敬礼で応え、ラウラは走り出した。

 

 一夏は部室棟の保健室で眠っていた。

 「・・・。」

 目を覚ました一夏は、目だけを動かし周囲の様子を探る。

 「・・・睡眠薬よ。引っ掛かるとは思わなかったけど。」

 顔の正面に、楯無の顔が伸びてきた。

 「ここは?」

 「地球よ。」

 「」

 部屋の場所を聞きたかったのに下らないことを言われ、一夏は楯無を睨み付ける。

 「冗談よ。保健室。」

 「死にたくなかったら、さっさと逃げるんだな。」

 「?」

 一夏が何の前触れもなくそう言った。楯無には何が何やら分からない。

 「時間切れだ。」

 直後、その答えがやって来る。

 「!!大佐ァ!」

 楯無はまだ知らない。ラウラが彼女の考えている戦闘力のドイツ軍人ではないと言うことを。

 「あら?嫉妬?フフッ、可愛いわ・・・ふっ!?」

 「動くな。殺されてえか!」

 息をする間に床へ組み伏されてしまう。

 予想外だったが、体格差的に余裕と判断し扇子を取り出した。

 「試してみ――」

 スパッ!【0/200】

 しかし、それが武器であることを一発で見抜かれた挙げ句、真っ二つに切り分けられてしまう。

 「次はお前のバラバラ死体が生徒会室に届くことになる。」

 これは脅しではないと、楯無は周囲の気温が下がったように感じた。

 「ラウラ止めとけ。コイツに勝ったら生徒会長をやらなくちゃならん。」

 「!?そいつぁー、ごめんだ。」

 一夏の助け船(?)により、何とか生き延びることが出来た楯無であった。




待ってろ組合員。来週辺りにMAD版行くからなぁ!逃げるんじゃねぇ!サシで勝負だ! チキショウ!

※まだ小説版は続きます


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第39話 ISの訓練なんて面倒だ!早いとこ終わりにしようぜ!

来いよ組合員。筋トレなんか止めて、読みに来い!(腹筋が)楽に鍛わっちゃつまらんだろう。


 セシリアとシャルロットが第四アリーナで訓練をしていると、ふらりと一夏が現れた。

 「あら一夏さんにラウラさん。どうしてこちらに?」

 殆どの場合がトレーニングルームにいるか箒とトレーニングをしているかの二者択一なので、それがセシリアにとっては非常に意外であった。

 「コイツがISの(燃費の良い)乗り方を教えてくれるんだ。」

 「それは私達にはできんだろ?」

 一夏の後方から、ラウラが同意を求めるようにそう言った。

 「そういうわけで、シャルロットちゃんにセシリアちゃん。『シューターフロー』で円状制御飛行やって見せてよ。」

 初対面の相手にいきなり頼み事をする楯無。話の主導権を握るために彼女がよく使う手法なのだが、残念なことに相手は乱用している連中なので全く効果はない。

 「朝飯前ではありますけど・・・?」

 「?別に構いませんが、(燃費の良い乗り方に)関係しませんわよ?」

 ここでもやはり話に齟齬が生じる。妙な違和感を覚えながらも、楯無は話を続ける。

 「一夏君の成績を見せてもらったんだけど・・・射撃はあまりよくないのよね。」

 ホッペに人差し指を当てながらそう呟いた。

 楯無は知らなかったが、その成績を付けたのは千冬なので辛くて当然だったりする。

 「このところ射撃する機会がなかったからな。」

 当然と言わんばかりに一夏が原因を述べる。

 「だから、敢えて至近距離で――」

 「ニッコリ笑って撃つのですわ。」

 「・・・え?」

 何か途轍もなく恐ろしいことを言われたような気がして、楯無は表情が固まる。

 「違いまして?」

 「いや、合ってるわよ・・・。」

 「「「???」」」

 不思議そうに楯無を見詰める一夏達。

 そんな彼らを楯無は、本当の戦場を知らない素人だから言っているのだと自分に言い聞かせ話を続ける。

 「さっそく始めてくれる?」

 「分かりました。」

 「では、参りますわよ。」

 それまでが嘘のように素直に指示に従ってくれるセシリアとシャルロット。

実になめらかな機体裁きで上昇。目印の高度まで到達すると、二人はシューターフローを開始した。

 「!?」

 しかし、そのシューターフローは尋常ではないほど高速で行われ、その上で2人がロープで互いを引っ張り合っているかのように正確な距離を保っていた。

 「アレをすれば(燃費が)良くなるのか?」

 一夏とラウラにとっては見慣れた光景で、特に何も感じない。

 「え?・・・えぇまあ・・・?」

 驚きのあまり、生返事をするので精一杯だった。

 「セシリア!シャルロット!いいぞ。」

 いつまでも楯無が終了を告げないので、一夏が代わりにそれを伝える。

 直ぐにシューターフローを終了し、2人が降下してくる。

 「減りは?」

 「早いですわね。」

 だろうなと、一夏は頷く。

 「本当に(燃費が)良くなるのか?」

 「?それは保証するわ。じゃあ、始めましょ。」

 一周回って冷静になった楯無は、一夏に訓練を始めるように促す。

 「そうね。さっき実演してもらった通り、バルーンを周回してもらうんだけど・・・流石にアレをやってもらうのは無理だから、手始めに1秒に大体1周の速さで回ってもらおうかしら。」

 「1秒に1周?無茶言うな、そんなに速くは飛べん。」

 そんなに速度の出せる機体ではないのだが、楯無の持っているデータ上では白式は二次移行していないことになっているので仕方がない。と言うより、持ち主が二次移行に長らく気付いていなかったのが主な原因だが。

 「いいからやるの。早く!」

 仕方ないと、一夏はISを展開し、目印の高さまで上昇した。

 時間を置かず、一夏はシューターフローに入る。

 「もっと!」

 その速度は、お世辞にも遅いとは言えず、楯無から檄が飛ぶ。

 え?文間違えてないかって?間違えてません。だって、白式は停滞という言葉が似合う速度でしか動いていないのですから。

 「全開だ!(エネルギー切れで)落とす気か!?」

 「ISは君が思ってるほど柔じゃないわよ。」

 機持ちの問題だと、楯無は一夏を叱咤する。

 「だが、限界を超えてまで飛べるガッツはない!もう半分を切ったぞ!」

 ISを飛行できる携帯電話としか見ていない一夏達にとっては、柔以外の何物でもないのだが。

 「まだ10周としてないのにそんなわけ・・・あれ!?」

 嘘を言って訓練を早く切り上げようとしているのだと思い、手元の端末でい白式のエネルギーを確認して、楯無は目を見張った。

 「分かったか!コイツの極悪燃費が!トビウオでももっと飛べるのによぉ!」

 「あれ?もしかして乗り方って・・・。」

 ここで初めて楯無は、彼我で意見に相違があると気付いた。

 「燃費向上の方法だ!それ以外にあるのか?」

 「」

 違和感の原因は分かったが釈然としない。それ以上に、白式の予想の範疇を超えた性能が楯無から言葉を奪っていた。

 「帰らせてもらう。」

 「あ!待って!」

 「もう会うことはないでしょう。」

 慌てて引き留めようとしたが一夏はそれを聞き入れず、アリーナを後にした。

 

 翌日の放課後。

 〈あぁ、疲れた。風呂入って飯に行くか。〉

 筋トレを終了し、自室である1025号室前まで戻ってきた一夏は、ドアに不自然な跡があることに気付く。

 〈・・・何かいるな。〉

 一夏は胸ポケットからある人物の皮を取り出し被った。

 そして、蝶番から発煙するほど素早くドアを開ける。

 「お帰りなさい。お風呂にします?ご飯にします?それ――」

 中に居たのは予想通りの人物だった。

 「何をしているんだ?更識?」

 「お、織斑先生!?」

 思ってたんと違う人の登場に、楯無は驚愕の表情を見せる。

 「その格好は何だ?今すぐ男子生徒の部屋への侵入罪で生徒指導室に――」

 「失礼しました!!」

 ヤバイと思ったのか、楯無は脇目も振らず廊下の彼方へとダッシュで消えていった。

 「・・・アイツの家は本当に暗部か?」

 その根性のなさに、一夏はただただ呆れていた。

 

 突如、派手な音を立てて窓ガラスが砕け散った。それを行った人物は。

 「更識、窓を破るのは止めろ。ガラスが勿体ない。」

 「そこ!?突っ込むところそこ!?」

 一夏の入学から夏休み前までロシアにいたのだから無理もない。

 そもそも、1組と一部の2組以外は破壊音を聞きつけて駆けつけたときには跡形もなく元通りにされているので、どのような壊れ方をしているのか知るよしもない。

 だが、その一部の人間が基準の一夏には、一生伝わらないことだろう。

 「何だ?天井裏から入るのが普通のヤツを紹介してやろうか?」

 そのため、更に上を行く人間がいることを知らされる。

 「いや結構、遠慮しと――」

 「一夏、麦茶ある?」

 そして、目撃することとなる。

 「ホラよ!」

 「あんがと。」

 本当にそれだけ受け取ると、外した天井板を元に戻して帰って行った。

 「今のだ。」

 「足音しなかったけど?」

 正直言って、あそこまで静かに移動できるのが信じられない。配下の精鋭部隊でも、先ほどのような芸当を出来るものはいない。まして天井裏でなど、まず不可能だ。

 「クソうるさいだろ。」

 「」

 確かに一夏は、図ったように紹介してやろうかと言った。ただの偶然に思えたが、思い返してみれば直前に麦茶を取りに行っていた。そして、まるでお持ち帰りを頼んでいたかのごとくお茶を投げ渡した。これらが全て、偶然に起こるとは想像し難い。

 本当に目の前にいるのは生身の人間なのかと、楯無は疑わざるを得なかった。

 「おっと、もう一人来客だ。」

 楯無は耳を澄ましてみたが、やはり何も聞こえない。

 騙されたのかと思ったとき、ドアが開いた。

 「一夏!差し入れにチーズとペパロニの・・・何だ、そいつは?」

 宅配かと言いたくなる様な台詞とともに、箒が現れる。

 一夏の部屋に、普段の面子以外がいると、箒は新鮮な気分を味わう。

 「丁度良いところに来た。コイツを追い払うのを手伝ってくれないか?」

 迷惑そうにそう言う一夏。そこには、遠慮も配慮も微塵も感じられない。

 「あら?私に勝てるかしら?」

 それを宣戦布告と受け取った箒が、竹刀を手に取った。

 「チェェェェス――」

 「待て箒、ラウラから聞いてないのか?」

 「危ないとこだった。」

 剣先がピタッ!っと、楯無から1mのところで止まる。実は、風圧がかなりヤベーことになってたりするので、1mの距離でも常人の突きより危なかったりする。

 「隙あり♪」

 それを余裕と見た楯無が箒を攻撃した。

 ゴッ【1999/2000】

   【4500/5000】

 が、楯無が手首を挫くほどのパンチにもかかわらず、箒はその場から微動だにしなかった。

 「避ける分は問題ないぞ。寧ろ避けてやれ。手を痛めたみたいだ。」

 「そうか、では次からはそうしよう。」

 しばらく大人しくしておくことに決めた楯無だった。

 

 「このピザ美味しいわね。」

 結局、一夏の部屋に残らせてもらえた楯無は、箒特製のピッツァを貰っていた。

 「ピザだぁ!?ピッツァだ!この馬鹿!!!ヴァカ女!マヌケぇい!」

 この方たちは、食えれば何でもいいというわけではなく、美食に関しては以下略。

 「ところっで、話って何だ?ピッツァ食うための嘘だったら只じゃすまさねえぞ?」

 「赤椿のこ――」

 紅椿の話を出してきたので、束が皮をかぶっていると勘違いした箒が、いつの間にか脇へ置いていた真剣を抜いて切りかかった。

 「止めろ!更識(コイツ)に残基はない!」

 流石にまずいと判断した一夏が、制止に入る。

 「そうか・・・。」

 勘違いだったかと、箒は刀を鞘に戻した。

 「それで聞きたいんだけど、ワンオフ・アビリティの絢爛舞踏って発動させたことある?」

 彼女はまだ知らない。そんじょそこらのISは、彼らにとって見方にいれば足手まとい、敵にいればただのカモでしかないということを。

 「ないな。」

 「使う機会なんかあったか?」

 「いや、IS自体必要ないな。今なら、福音ぐらい地上から始末できる。」

 「」

 恐ろしいことを言うなと、楯無は顔をしかめる。

 「さて、飯も食ったし帰るとするか。」

 「あぁ、また明日。」

 そう言うと、至極当たり前のように箒は楯無の肩を掴むと。

 「ちょ!?放してぇぇぇぇ!!!」

 そのまま厳寒のほうへと引きずって行く。

 「また来――」

 お別れの挨拶もさせてもらえず、楯無は共生退去させられた。

 「・・・。」

 だが、それ以外があることを一夏は気づいていた。

 「と見せかけての!」

 「除湿されてえか!」

 「わぁ!待って!止めて!これ水でできた分身だから!!」

 除湿機のリモコンを突きつけられ、楯無(水蒸気)は手を上げて降参の意を示す。

 「じゃあ黙ってろ。」

 「・・・。」

 「・・・。」

 黙々と部屋の掃除に取り掛かる一夏。

 「そこは黙るのかよとか言わな――」

 喧しく感じたので、一夏は容赦なく加湿器の電源を入れた。

 「あぁ!?水分が抜けちゃ・・・。」

 強力な除湿により、楯無(水蒸気)は跡形もなく消えた。

 「これで静かになった。」

 そう思った瞬間、何かが近付いてきた。そして、天井板が外れると。

 「何で除湿するのよ!」

 そこには楯無がいた。

 「!?何処で習った!」

 習得の早さに、一夏をもって驚きを隠せない。

 「MAD版を読んだのよ。」

 うーん、メタいですねこの人!

 「お前、案外頭良いな。」

 感心したように腕を組んで頷く一夏。

 「でしょ?そこでお願いがあるんだけど・・・。」

 「(天井裏をマスターするとは)気に入った。一つだけ聞いてやろう。」

 気をよくした一夏に、楯無は付け込む隙があるように感じた。

 「上手いと評判のマッサージをお姉さんにしなさい!」

 「・・・そこに寝ろ。」

 どうせろくなこと考えちゃないだろうと、一夏は何をするか決めていた。

 「はーい!」

 ドベキシッ「オフィッ・・・・・。」【1/5000】

 

 夜。

 「・・・は!私しいつの間に寝てたの!?」

 楯無が目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。そして、先ほどのことを思い出してそう叫ぶ。

 「始めたら直ぐにコロッと逝ったよ?普段からあれぐらい大人しけりゃ、直ぐに嫁の貰い手がつく。」

 「あらそう・・・?」

 何か不穏な文字が当てられていた気がして、楯無は背筋が冷えた。

 

 翌日、昼休憩中の1組の教室。

 「一夏君!お昼作ってきたわよ!」

 突如として現れた楯無は、迷うことなく一夏の机の上に包みを置いた。

 「重箱五段?前菜か?」

 「え?いや、メインというかお弁当・・・。」

 「そうか。いや、気にするな。」

 普段タッパーに入れてきているので、ずいぶんと小柄に見えてしまったようだ。

 「・・・?ところで何か避けられているのは気のせい?」

 気がつけば、モーゼの海割りのように1組の生徒が楯無を避けていた。

 「お前に触れて倒れられでもしたら、生徒会長をしなくちゃならんから離れてるんだろ?・・・違うか?」

 「「「それ以外にあると思う?」」」

 「言ったろ。」

 「」

 2・3年からは最強と崇められている楯無にとって、1組の空気は異質以外の何者でもなかった。

 「では、いただきます。」

 そんなことに興味がない一夏は、早速弁当を広げた。

 「どう?美味しい?」

 心が折れそうだったので、教室は見ないことにする。

 「あぁ、上出来だよ。・・・俺に比べりゃまだまだだがな。」

 貶している?事実を言っているまでです。

 「・・・あら、箒ちゃん。はい、あーん。」

 メンタルがボロボロになった楯無は、何とか評価してもらおうと通りかかった箒にも試食させる。

 「どう?美味しいでしょ?」

 「あぁ、確かに上手いな。・・・だが私ほどではない。」

 これまた一夏と同じような反応を示した。

 「・・・みんなも食べる?」

 「「「・・・。」」」

 ちなみに彼女たちがためらっているのは、味の問題ではない。

 「安心しろ。当たったぐらいじゃ生徒会長を押しつけられることはない。」

 当たり勝ちを恐れていただけだったりする。

 「じゃあ、一口。」

 「返事を聞くのが怖いんだけど・・・美味しい?」

 「「「あぁ、美味いな。だが、織斑君や篠ノ之さんに比べりゃ、足下にも及ばない。」」」

 散々に言っているが、2人は食堂のピンチヒッターを片手間にこなすレベルなのだから比べる方がかわいそうだ。




読者 よお、ご機嫌いかが?
作A 最高だよ。今日か明日には貴様(の腹筋)は死ぬか硬化される。プロテインでお祝いだ。


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第40話 冥土喫茶

B もう終わりか?
A まだ終わってないぞ!

※月曜まで続きます


 〈スッキリするな。〉

 今日もいい汗かいたと、一夏がシャワーを浴びていると脱衣所の方からなにやら人の気配がしてきた。

 「ん?」

 『ちょ!一夏君!脱衣所のドアが開かないんだけど!?』

 その犯人は、このところ一夏の部屋にことあるごとに侵入してくる楯無だった。

 「?嘘つけ。鍵なんかかけてないぞ?」

 こればかりは一夏が言っていることが正しいのだが。

 『えぇい、開けなさい!』

 このところ散々騙されていた(自爆含む)こともあって、まったく信用していなかった。

 「自分で何とかするんだな。」

 『・・・いいのね?』

 「何がだ?」

 はっきり言って、鈴やラウラの暴れたことを考えれば、楯無の本気など恐れるに足らない。なので、好きにさせやっていた。

 『開かぬなら、バラしてしまえ蝶番!』

 その直後、明らかにISでぶっ壊しましたという音が木霊する。

 『グエッ!?』

 そして、蛙が潰れても出そうにないぐらい芸術的(素っ頓狂ぷ)な声が聞こえた。

 「大丈夫か?」

 一夏が体を拭き終えて覗いてみると。

 「一夏君!助けて!」

 「そんだけ話せるなら大丈夫だな。」

 元気そうに挟まれていたので、放っておくことにした。

 『ちょっとぉぉぉぉぉ!!!』

 抗議を行う楯無。どっからその声が出るのかと、一夏は首を傾げる。

 「お前のミスだ。潰れても知らんぞ。」

 風呂場から脱衣所に出てきた一夏は、既に服を着ていた。

 「こんなの家庭用じゃないわ!金庫の扉よ!」

 「・・・助けてやるから静かにしてくれ。」

 いい加減耳が痛くなってきたので、助けてやることにする。

 「ワァーオ。凄い筋肉。私には分かる、鍛えてるだけじゃないわ。ソレは人を殺せる筋肉よ。」

 「まだ、殺したことはない。」

 人聞きの悪いことを言うなと言いながら、楯無がもがき苦しんでいたドアを片手で持ち上げてどける。

 「!?」

 そして工具を楯無の手から取ると、さも当然のようにドアを付け直した。

 「これでいい。」

 「・・・開かないんだけど?」

 一夏が動作確認をした後に、鍵が掛けられていないことを見て開けようとした楯無だったが、やはりドアを開けられない。

 「そうか?」

 一夏が引くと、ふつうに開く。

 「・・・このドア立て付けが悪くない?」

 「いいや、立て付けは悪くない。箒も鈴も、セシリアでも開けられる。」

 つまり、楯無にはまだ筋肉式ドアは早いということである。

 

 「会長~。だいじょーぶ~?」

 あれから何日か経った。楯無は酷くぐったりとした様子で、生徒会室のソファーに座っていた。ぐったりしているといっても、クマがあるといったことはない。

 「あら・・・本音ちゃん・・・。」

 声色だけは、普段と何も変わらない

 「お疲れだね~。お茶飲むぅ~?ご飯食べられないなら、栄養ドリンク持ってくるよ~?」

 「栄養ドリンクとプロテインで・・・。」

 そう、彼女がぐったりしている原因は筋肉痛であった。

 なぜ、暗部の党首である彼女がこのようになっているのか。

 「お帰り。ウエイトにするか?ベンチプレスにするか?それとも俺と一緒に体幹でもするか?」

 まあ、当たり前といえば当たり前なのだが、素質があると一夏に目をつけられたからだ。

 〈もう嫌!〉

 楯無は、ベッドにダイブした。

 

 

 

 遂に学園祭の当日になった。一夏と箒は、厨房で忙しなく動いていた。

 「織斑君!クレープ3つ入ったよ!」

 「篠ノ之さん!炒飯2つ追加で!」

 喫茶とか言っておきながら、何食わぬ顔で中華が用意してあるあたりが1組である。

 「グゥレイトォォォォォ!」

 謎の感嘆詞を発しながら、箒は中華なべを振るう。

 「お客の回転が落ちてきたわ!」

 これは、お客の食べる速度が遅くなったのである。

 「誰か厨房に行って連中に急ぐようにハッパをかけて!」

 決して一夏たちが遅いのではない。が、その分を料理提供の速さで補おうとしているので、一概に的外れとも言えなかった。

 「二人とも急いで!後、チーズとペパロニのグッチョマイピッツァも追加で!」

 「やってる!クソ!久しぶりすぎて、(料理の)腕が落ちてる!」

 「だが、今はやるしかない!」

 はっきり言って、これだけのバリエーションをこの手際と精度で作り上げられる方がおかしいが、二人はまったく知らなかった。

 「ねえ一夏。僕はメイド服がいいって――」

 「良いとこに来た、それ運んでくれ。」

 「・・・。」

 当然、ゆっくり話す暇などはなかった。

 

 

 

 「一夏さん!私は燕尾服が良いと思いますわ。」

 学園祭一日前のこと。一夏がセシリアとシャルロットの服装に付いて話し合っていた。

 「あぁ、いいな燕尾服。」

 「燕尾服・・・。」〈僕はメイド服が。〉

 当事者であるシャルロットは、、話の流れが速すぎて割って入ることが出来ない。

 「燕尾――」

 そこまで言ったときだった。シャルロットのおでこから上がパッカーン☆と外れ、中から知らない女性が出てくるなりこう宣言した。

 「服を買うならレゾナンス!!!新作!人気作!!!充実です!」

 「「!?!?!?」」

 あまりの超常現象に一夏(とセシリア)は珍しく目を白黒させた。

 

 

 

 小ネタ終了。話を学園祭当日に戻す。

 「なあ、何か匂わないか?」

 「2組が中華でもやってるんだろ?これは酢豚だな。」

 そういえば酢豚だけしか提供しないというストイックな模擬店(というか、普通は1クラスにつき1~2種類)だったと2人は思い出す。

 「大佐ァ、篠ノ之!代わりますぜ!」

 と、そこへラウラがやってきた。

 「ラウラ、大丈夫なのか?」

 繁忙期なら無理だろうが、今は少し客足が減っていた。一夏に鍛えられていたラウラには丁度良いくらいだ。

 「セシリアにも手伝わせまさぁ。」

 思わぬ人物をラウラが推薦してきたので、一夏が驚く。

 「!?死人が出るぞ!」

 「大丈夫でさぁ。死ぬ気で仕込んでおきました。」

 教えているときにセシリアの料理を口にして死にかけたので、その恐ろしさは身をもって理解していた。タフネス設計の彼らでも、セシリアの料理には耐えられない。だからこそ、食えるもの(ちゃんと旨い)が作れるようになったと断言した。

 「「よし、任せた。」」

 ラウラが言うのだから間違いないと、二人は休憩に出ることにした。

 「ちょっと良いですか?」

 一夏が教室から出てくるのを待ってたかのように、一人の女性が話しかけてきた。

 「何だ?」

 「私こういうものです。」

 名刺を差し出し、軽くお辞儀をする女性。

 「IS装備開発企業?お宅も暇だねぇ。」

 この暇と言ったのは、『筋トレしろ』ではなく『俺に言っても無駄だぞ』である。

 「まあ、そう言わずに。」

 「カタログ見せてくれ。」

 「えぇ、どうぞ。」

 特にやることもなかったので、話だけは聞いてやろうと一夏は思った。

 「・・・ロケットランチャーはないのか?チェーンガンも書いてないな。」

 「え、えぇまあ、追加装甲や補助スラスターの企業ですので・・・。」

 それは、言うまでもなく一夏に喧嘩を売る台詞であった。

 「お前ら一体俺に何の恨みがあるんだ!ご先祖様でもお墓にブチこまれたのか!?寄って集って俺を落とそうとしやがる!手前、空飛ばしてやろうか!?」

 マシンガントークでそう吐くと、女性を左手で掴み上げた。

 「ホラよ!」

 そして、窓からPOI☆っとなげすてるのであった。

 「ウーワァァァァァ!!!」

 今回は一般人ではなかったのでクッションは用意されていない。ベキッ☆っと、地面にめり込んだ音だけは聞いて、一夏は時計を見た。

 「・・・そろそろか。」

 

 

 

 遡ること3日。五反田食堂の2階、五反田家の住人の1人である弾は漫画を読んでいた。

 気持ちよく本を読んでいるときに限って、邪魔は入るものである。今回の邪魔は、電話だった。

 『弾か?俺だ。』

 「一夏か。どうした?」

 電話に出ると、聞き飽きた声がスピーカーから流れてきた。

 『学園祭の入場券があるから送――』

 不穏なことを言い始めたので、慌てて弾は電話のバッテリーを引き抜く。

 残念ながら、その程度で諦めてくれる一夏ではない。数秒後には固定電話が鳴り始める。

 まずいと思ったが、とき既に遅し。

 「はい、五反田です。・・・一夏さん!?はい、行きます!!」

 丁度電話の前に蘭がいたため、速攻で出られてしまう。

 「まて、蘭!!」

 「お兄ぃ、一夏さんが学園祭の招待状くれるから行くよ!!!」

 「」

 慌てて制止にかかったが、これまたとき既に遅しであった。

 

 そして3日後。

 「やめろ!放せ蘭!!」

 弾は情けなく蘭に引きずられ、IS学園まで連れられて(連行ともいう)きていた。

 「すいません!1年1組の教室って何処ですか?」

 「誰かの招待ですか?チケットを確認させて貰える?」

 「はい。」

 そういえば手続きがまだだったと、蘭は落ち着いて招待状を()()取り出した。

 「・・・織斑君のお知り合い?あら?招待は一人一枚の筈なんだけど・・・?」

 「よく来たな弾に蘭。」

 丁度いいことに、送り主が来ていた。

 「織斑君これは?」

 虚は、2枚のチケットを振ってみせる。

 「一枚は凰鈴音の登録じゃないか?」

 「あら、ホント。ごめんなさいね。」

 ちゃんと見ないといけないわと、虚は蘭にチケットを返した。

 「・・・あ、あの!」

 そのとき、弾が意を決したような声で虚に話しかけた。

 「?何ですか?」

 「散歩には良い天気ですね!?」

 「?そうね。」

 反応を示してもらえたことで頭の中がパアッとなって、そんなことしか言えなかった。

 「何してんだ弾?」

 「いや、何でも・・・。」〈しくじったぁぁぁ!!!〉

 今のは忘れてくれと心の中で願う弾。まあ、気にしなくても一夏が覚えておくことはないが。

 「そうか。そう言えば美術部が面白いことやってたな。最初はそこだな。」

 蘭は、一夏が案内してくれるとあってワクワクしていた。

 「何があるんですか?」

 「聞かねえ方が良いぞ蘭。何があるのか・・・。」

 大方予想がついていた弾は、ゲッソリとしながらそう言った。

 「黙ってて!」

 「いわれなくても。」

 蘭には受け入れてもらえなかったが、話すのも疲れるのでそうすることにした。

 

 「爆発は芸術だ!」

 連れられていった先(美術室)で、入室するや否やそう声を掛けられた。

 「!?」

 「ホレ見たことか・・・。」

 驚く蘭に、弾は憔悴しきった顔で俺が正しかったろという。

 「一つやらしてくれ。」

 そんな2人を放って置いて、一夏は美術部に話しかける。

 「?君にできるかな?」

 そう言いながら、美術部員はとてつもなく頑丈そうな箱から、線たくさんついた何かを取り出した。

 「・・・これとこれと・・・それからこれだな。ニッパーを。」

 一周ぐるりとそれを回し見て、目星をつけた一夏。

 「はい。」

 「どうも。」

 受け取ったニッパーで、迷うことなくプツンッ!と線を切る。

 「「待って!まだ死にたくない!」」

 これはマジの爆弾だと、二人は否応なく分かってしまう。

 「安心しろ。この大きさならかき氷山盛りぐらいの威力で済む。」

 「ソレは済むとはいわねえ!」

 更に2本、続けて小気味よくプツンッ!プツンッ!とカットする。

 「これで良し。」

 「「」」

 その頃には、後ろで兄妹が腰を抜かして座り込んでいた。

 「クソッ、やられたわ!」

 悔しがる美術部員。それは、本気の悔しがりに見えた。

 「聞くのが怖いんだけど、ソレって失敗したらどうなるんですか?」

 蘭が、恐る恐るといった感じで一夏に尋ねる。

 「見るか?」

 「「いや結――」

 やらなくていいと言ったのに、一夏はおもむろに結線しなおして、先ほどは障りもしなかった線を引き千切る。そして、それを窓からブン投げ捨てる。

 チュドォォォォォォォォォォォォン!っとグラウンドの上空でそれは盛大に炸裂した。

 「ああなる。」

 特に驚く様子もなく、一夏は淡々と話す。

 「何処がかき氷だ!」

 「埋め込み式かき氷器に比べりゃ大したことはない。」

 「埋め込み式って・・・地雷・・・ですよね?」

 やや顔色を青くして、蘭が尋ねる。

 「気にすることはない。さあ、鈴のところに行こう。」

 「「・・・。」」

 まあ、生きている次元が違うのでお気になさらずに。

 とは言え、五反田兄妹にはIS学園で何が催されているのか分からないのでついていくしかない。

 「よお、流行ってるな。」

 1年2組の教室には入ると、そこにいた鈴に一夏は声をかける。

 「久しぶりです、鈴さん。」

 「あら、蘭じゃない。元気そうね。弾は、まぁいいわ。」

 席に着くと、直ぐに水が出される。

 「水が冷えてるな、えぇ?」

 弾は、暑かったから丁度いいというつもりで言ったのだが。

 「溶鉱炉がお望み?」

 「お前等が言うとシャレにならん。」

 物騒なことを言われたので黙っておくことにした。

 「ところで・・・すまん、電話だ。」

 電話ではなく、それは紛れもなく個人間秘匿通信である。

 『大佐ァ!交代お願いしたいのですが!』

 『篠ノ之さん!!!そろそろ限界ですわ!』

 ふと時計を見ると、正午が近付いていた。変わってやらなければ、あの2人では役不足だ。

 『直ぐ傍にいる。待っててくれ。』

 『よし分かった。』

 一夏と箒は、返事のタイミングをきっちりずらし互いに被らないようにした。

 「用事ができた。後は適当に見て行ってくれ。」

 「あの、一夏さん。」

 戻ろうとする一夏を欄が引き止めた。

 「何だ?」

 「ISの使用は国際法で禁止されているのでは?」

 「クソッタレ共の作ったルールだ。守る価値はない。」

 「」

 蘭は目を丸くしていたが、それが正常な反応である。

 「オーダーは?」

 10歩で厨房に戻り、ラウラとセシリアに注文は何が入っているかを尋ねる、

 「ケバブが3つですわ!ラウラさんは?!」

 「ピロシキは今できた。イノシシのステーキが今から、1つだ!」

 もはや喫茶店は、装飾を除くと見る影もなくなっていた。

 「よし。分かった。」

 一夏が調理を始めた。そこへ、箒も戻ってくる。

 「篠ノ之さん!抹茶点てられる?」

 待っていましたといわんばかりに注文が入る。

 「「それは茶道部に行ってもらえ!織斑先生が何とかしてくれる!!」」

 出来ないから断ったのではない。単純に、千冬が最も上手いと言うだけのことである。




(腹筋を)やり過ぎだが・・・良い。


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第41話 IS過撃団

読者が安全な場所で休憩をする時や、腹筋を鈍らせたくない時に頼って来るのが俺達、カカシなんだ。後に読者の連中がマッチョマンとして登場できるよう、俺達が厄介な脂肪や腹筋を片づける。


 午後に入り、客足も落ち着いた1組。

 「一夏君いる?」

 そこへ、楯無が現れた。

 「厨房にいらっしゃいますわ!」

 「あら、ありがとう。」

 それに答えたのはセシリアだった。

 聞いたことには素直に答えてくれるんだけれどと思いながら、厨房を覗く楯無。

 「一夏くーん、いる?」

 「フロアにいらっしゃいますわよ!」

 すると、またセシリアがいてそう言った。

 「あら?そうなの?」

 きびすを返し、客室に引き返す楯無。

 「・・・!?」

 やはりいない。そう思ったとき。

 「何やってんだアンタ?」

 厨房と客室を仕切る壁の客室側に、一夏はもたれ掛かっていた。

 「あ、一夏君。さっきフロアと厨房に同じ人が・・・。」

 「それが普通だ。俺なんかしょっちゅう(厨房と往復)だ。」

 さっきまで忙しくて大変だったと、一夏が肩をもみながらそう言う。

 「ところで一夏く――」

 「この馬鹿!ヴァカ女!マヌケぇい!」

 突然そんなことを口走ると、一夏は自分の顔を掴んで皮を剥ぎ取る!

 「楯無!なんだこのザマは!この私の安物の仮面に騙されやがってぇ!」

 「」

 その下にあったのは、箒の顔だった。よくよく考えてみれば、顔から下は女子生徒の服装だった。だが、今まで全員がそれだったので、いまひとつ違和感がもてなかったのである。

 「まあ箒、そのくらいにしといてやれ。で?用は何だ?」

 「今から演劇をやるから来ない?」

 流石に慣れてきたのか、楯無も深く気にしなくなった。

 「炎撃?いっちょ派手に殺るか。」

 「流石!分かってる。」

 ただこういったところの詰めは、まだ甘さ(蜂蜜入り)があった

 「その炎撃は私も参加して良いのか?」

 「えぇ、どうぞ。他の人は?」

 「勿論です。」

 「やりますわ!」

 「何か間違ってる気もするけど・・・みんながするなら僕も。」

 シャルロットはどちらかといえば楯無寄りの人間だが、あえて言わない辺りは一夏と同類だった。

 

 20分後、一夏が更衣室で着替えていると。

 「一夏君、開けるよ?」

 既に開けておきながら、楯無は許可を求めてきた。

 「開演か?」

 まあ、相手が相手なのでセーフとする。

 「何その格好・・・。もう時間がないわね。はい、これバンダナ。」

 一夏の格好は、上がポケットつき防弾チョッキで、下は明らかに頑丈そうなズボンというものであった。

 「・・・ラソボーでもしようってのかい?」

 間違えてません、隠語です。

 「間違えたわ。はい王冠。」

 「付けろってのか?」

 似合わないだろと、一夏は拒否しようとしたが。

 「そうよ。それから台詞はアドリブだから。頑張ってね。」

 分かってきたのか、話す間を与えず一方的にそういって楯無は出て行った。

 

 開演前、舞台上で楯無はナレーションを行っていた。

 『昔々、あるところに――』

 「茶番はいい。早く始めろ!」

 一夏から野次が飛ぶ。

 『こういうのは雰囲気作りが大事なの。シンデレラという――。否!ソレは最早――群がる敵兵を――ふさわしい称号!それがTHE☆肉体派シンデレラ!出でよ!猛者達!』

 結局長々としたナレーションにつき合わされ、一夏は立ちながらにして眠っていた。

 「もらったわよ!」

 その隙を突いて鈴が襲い掛かる。

 ドベキシッ「オフィッ」【1/1600】

 「鈴、お前にやれるほど俺は柔じゃない。」

 が、まずもって歯が立たなかった。まあ、相手が悪すぎる。

 そう吐き捨てた直後、パシュッ!パシュッ!と消音装置つきの銃の発砲音を一夏の耳が捉えた。

 弾の着弾点を音から予測。一夏はその場から動かずに、玉を掴み取って見せた。

 「俺に当てたきゃ、気付かれないようにゼロ距離から撃つんだな。返すぞ!」

 バスッバスッ!【1/1500】

 「く、この私が・・・。」

 一夏が投げ返した弾は、発射速度よりも早くセシリアの元へ飛んで行き、命中した。その弾は麻酔弾だったため、セシリアは物陰から転がり落ちて大地に大の字で眠った。

 その瞬間、殺気を感じて一夏は柱の陰に隠れる。

 「大佐ァ!腕(の調子)はどんなだ?」

 次の刺客はラウラだった。

 「こっちへ来て確かめろ!」

 肉弾戦なら付き合ってやると、一夏が誘惑する。

 「いいや結構。遠慮させてもらうぜ。・・・大佐ぁ、頭出してみろ。一発で、王冠をぶち抜いてやる。古い付き合いだ、苦しませたかねぇ」

 「ラウラ、楯無の劇は関係ない、無視してやれ!目的は俺だろう!」

 「ヘハハハハハハ!」

 「・・・来いよラウラ。銃なんか捨てて、かかってこい!楽に落としちゃつまらんだろう。ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて、王冠が落ちていく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのかラウラ!」

 「てめぇを倒してやる!」

 あっさりと一夏の挑発に乗ってしまう。これは意識的にしているのではない。体が勝手にそうしてしまうのだ。

 「さぁ、台本を放せ、一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう。・・・来いよラウラ。怖いのか?」

 「ぶっ殺してやる!台本なんて必要ねぇ!へへへへっ・・・。台本にはもう用はねぇ! へへへへっ・・・ハジキも必要ねぇや、へへへへっ!誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ!・・・・・野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!」

 ドベキシッ「オフィッ」【1/8000】

 イノシシの如く突っ込んできたところを、軽く捻られてラウラも先の2人と同様、眠りについた。

 「さて、次はシャルか?」

 彼女は潜んでいたのではない。隠れていた近くで戦闘が起きただけだ。やられ方を見ていたため、眠らされてはたまらないと脱兎の如く逃げ出した。

 「さて、楯無!」

 戦意のない奴を、一夏が追いかけることはない。

 『何かしら?』

 「校舎は何棟まで潰して良いんだ?」

 『ISの重爆撃にも耐えられるように造ってあるのよ?壊せるものなら壊してみなさい。』

 いくら逸般人とは言っても、そこまでの破壊力は出せないと、楯無は高をくくっていた。そう、何のための逸般人表記なのかを深く考えることもなく。

 「言質は取った。やろうじゃないか。箒。」

 「久しぶりだなぁ。お前と本気でやり合うのはいつ振りだ?」

 気がつけば、箒と一夏は対峙していた。

 「前は剣道場を壊さないようにセーブしてたからな。篠ノ之道場以来だろう。」

 「では・・・」

 「「行くぞォォォォォ!!」」

 2人が斬り合った瞬間、衝撃波が発生。

 次の太刀を振った瞬間にソニックブームが起きる。

 『!?!?!?』

 このまま剣技が続くのかと思った刹那、2人がロケットランチャーをぶっ放す。

 たまらず校舎は崩壊。瓦礫の山と化す。

 〈クソッ、砂埃が。〉

 こればかりは、一夏を以ってしてもどうにもならない。音で箒の場所を探し出す。そう思ったのと同時に、足の接地感が消えた。

 「!?」

 スロープぐらいあればいいのだが、残念なことに垂直落下していた。

 ま、彼はどんな高所から落ちてもビクともしないですが。

 「いらっしゃい。」

 その先に待っていたのは。

 「どっかで見た顔だな。」

 「午前にお会いしましたわ。」

 一夏のクソ重いISに追加装備を提案して地面に投げ捨てられた阿呆であった。

 「あぁ、あのマヌケか。何でまだいるんだ?」

 「えぇ。この機会に白式を頂こうと思いまして。」

 挑発の応酬が行われる。

 当然、誰も止めてはくれない。いたところで、止めてくれないから一緒ではあるが。

 「欲しいのか?」

 「とっとと寄越せやガキィ!!」

 「面白い奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる。」

 彼はこの余裕を後悔することになる。

 「へ、その余裕がいつまで持つか楽しみだなぁ。えぇ?」

 そう彼女は思っていた。

 バキッ!【2800/3000】

 思いっきり殴り掛かったところまでは良かったが、それ相応に思いっきり手首から変な音がした。

 「・・・。」

 そして、一夏には全く以てダメージが入った様子はない。強いて言うなら、ポケットの蓋の位置がずれたぐらいだ。

 「てめぇ、どんな体してんだ?もう手加減なんてしてやらねえ!こいつを使ってやらぁ!」

 勝手に逆上を始める謎の女性。

 「ISか。」

 一夏はその正反対で、まるで1匹のアリンコを眺めるような余裕があった。

 「刺激が欲しいかえぇ?ズキズキするような刺激だ!刺激が欲しいだろ!お前にも痛みを味わわしてやる!」

 鋭い(彼女的に)パンチを一夏へと振るう。

 が、大して見もせず全てを躱していく。それも、半径50センチと動くことなく。

 「一つ聞きたいんだが、お前何者だ?」

 剰りのヘボさに、欠伸をしてからそう訪ねる一夏。

 「あぁ!?教えてやるよ!悪の組織・・・秘密結社『亡国企業』のオータム様だ!」

 「亡国企業!?滅ぼした筈じゃあ。」

 「残念だったな。トリックだよ。」

 ここに来て、初めて一夏の顔から余裕が消えた。勿論、消えたのは余裕だけで、圧倒的に優位なことは変わっていない。

 「・・・お前かぁ!!第2回モンドグロッソのときに私達を地獄に送ってくれたヤツは!あんときの仮を返してやらぁ!」

 それまでよりも更に気迫が入った攻撃が繰り出される。ただし、入ったのは気迫だけで、一夏にダメージはまだ入っていない。

 「できるならな。」

 更に挑発する一夏。体が温まってきたのか、動きには更にキレが出てきていた。

 「へ。ところで何か気付かないか?私の動きをよ。」

 「糸を張ってんだろ?知ってるぞ?」

 オータム的には、完全にしてやったりだったのだけれども、とうの昔に読まれていた。

 「勿体ないから集めておいたぞ。」

 ぐう畜のごとき笑みを浮かべ、束ねた蜘蛛の糸を差し出す。

 ただ読むだけで終わるなら、かなりの人が出来る。一夏が一夏たる所以は、仕込んでいる相手に感づかせぬよう先手を打つことにある。

 「」

 まさか見切られると思っていなかったオータムは、目を点にして固まる。

 「さて、俺も少し遊ぶとするか。」

 そう言って、一夏がIS展開する。

 「!!待ってたぜぇ!?そいつを使うのをなぁ!」

 その瞬間、オータムが待ってましたと言わんばかりに攻撃を仕掛けてきた。

 「!?」

 気が付けば、一夏のISは消えていた。

 「これをお探しぃ?は!大したことねえな!」

 「オータム!そのアッシーは関係ない、放してやれ!目的は白式だろう!」

 「ヘハハハハハハ・・・は?」

 苦し紛れの言葉だと、鼻で笑っていたオータムだったが、言われてみれば機体が白かったことに気付く。

 「お前の狙ってる白式はここにある。」

 一夏が手に持っていたのは、極秘ルートで入手した白式の待機状態とされる写真に写っていたものと同じ形状のもの。

 「は!そんな嘘に誤魔化されるかよ!」

 敢えて強気に出て様子を探るつもりだったが、辺り一面を蒸発させられる攻撃をするか、テレポートで逃げるべきだ。

 「なら、返してもらうぞ!」

 一夏が、戦闘態勢に入った。

 「どうやってだ?」

 「こうやってだ!」

 まるでイノシシのようにオータムへ直進する一夏

 「フハハハハハッ!?手前はもう終わりだ!」

 のんびりせずにさっさと逃げるべきだったのに、ISの優位性を過信するあまり生身の人間相手にその発想が出なかった。

 「ISに正面から突っ込むなんてよ!この馬鹿!ヴァカ野ろ――」

 バキッ!【20000/30000】

 ものの見事にタックルが決まり、オータムは激しく床に叩き付けられる。

 「馬鹿野郎!何やってんだ!てめえ正気か!死にてえのかてめえ!どっかし天丼!てめえ何やってんか分かってんのかい!」

 「お前がわざわざ構えて待ってくれてんだ。正面からぶっ飛ばす以外の方法があるのか?」

 「」

 コイツ人間じゃないと、オータムは思った。残念ながら、一夏はれっきとした人の子である。ただ逸脱しているだけで。

 「アッシーは返してもらったぞ。」

 「手前!」

 気が付けば、手からISのコアがなくなっていた。

 「約束だ。白式をくれてやろう。受け取れ!」

 「おわ!?」

 投げられた白式の待機状態に似たものをオータムは反射的にキャッチし、そして地面に顔から突っ込んだ。

 「何してんだ?」

 呆れたように一夏が尋ねる。

 「手前、舐めてんのか!?展開状態のISでもこんな質量はないぞ!!」

 両手でそれを何とか抱え、生まれたての子馬よろしくプルプルとしながら二本の足で立ち上がった。

 「だから聞いたろ?こんなのが欲しいのかって。」

 「あぁ、笑えない冗談だ。」

 笑えない原因は、手首捻挫や今ので腰をやりかけたなど多岐に及ぶものの結晶だ。

 小分けの大ダメージを与え、体力を削って来ることにオータムは身が震え始める。

 「手前、マジで何者だ?ISはぶっ飛ばす、ISで持ち上げられないものを(片手で)ぶん投げる。てめぇ人間なのか!?」

 そう思うのも無理はない。だが、残念ながら一夏は人の子だ。さっきも書いたけど。

 「残念だが、お遊びもここまでだな。」

 一夏の表情に、初めて笑みが浮かんだ。厳密には、笑みの奥に途轍もない恐怖を隠したまま。




ネタ潰しもやった。しかし思われてる以上に、崩壊した腹筋もあった。


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第42話 IS乗りの典型だな!過激派もいい所だ

A ファントムタスクってのは何者なんだ?
B ISの強奪はもちろん、あらゆる爆弾テロに絡んでるサイコ野郎共だ。
A サイコ野郎にバットモービルか・・・
一 ああ、携帯電話にもならない最悪のバッドモービルだな。
作 !?


 「こんなところに隠れてたのね。」

 「ああこの部屋がそうだ、ここが悪党の隠れ家だ。」

 さも当然のように入室してきたのは楯無であった。

 「!?手前ェどっから入って来やがったァ!どっかし天丼、お前何やってんのか分かってんのかい!?今ここは全SYSTEMをROCKしてんだぞ!?」

 気分は分からなくもない。だが、現実に入られているのだから仕方ない。

 「・・・まあ、一夏君の部屋に入ることに比べればまだ、ねえ・・・。」

 最近、自分の潜入スキルが否応なしに上がっていることに、楯無は複雑な気分になる。それも、一介の生徒の部屋に入るためだけに身についたものなのだから。

 「まあいい、見られたからにはお前もブッころっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 そう叫びながら、8本ある足のうちの一本で楯無の胸部を貫いた。

 「お前、目ェ付いてるか?」

 「手応えが・・・ない、だと・・・。」

 次の瞬間、目の前から楯無が消える。

 「この馬鹿!ヴァカ女!マヌケぇい!水でできた分身攻撃してどうする!」

 「何なんだよ手前らはぁぁぁぁぁ!?!?!?」

 戦闘のプロだと自負していただけに、ただの高校生に負けたとあってはプライドがずたずたになってしまう。だからこそ、警察だとか軍の特殊部隊だとか言って欲しかったのだが。

 「織斑一夏だ。よろしく。」

 「更識楯無よ♪よろしくね?」

 自己紹介をされてしまった。

 「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!ヤロォォォオブッコロッs――」

 「オータム、知ってるか?コイツは学園祭今日(学園最強)でね、勝つと生徒会長やらなくちゃならないんだが、良いのか?」

 なぜか手が止まるオータム。

 「一夏君、それ適用されるのは生徒だけよ?」

 「マジか。」

 不公平だなと一夏はぼやく。

 「シャァァァァァァァァ!!!油断したなぁガキィ!!」

 この瞬間が来ることを計算に入れて先ほどから固まっていたオータム。だが、せめて声は出すべきではなかった。

 「うるせぇ、黙れ!ぶっ殺すぞ!」

 ズドーンッ!【15000/30000】

 「グホァッ!?」

 返事をする前に、喧しいことを理由にショットガンを顔面に撃ち込まれた。

 慌てたようにオータムが一夏から距離をとる。

 「ところで楯無、さっきからやけに暑いんだが?」

 「うーん、そうねえ。ええ焦ったわ。いきなりあなたが重火器をぶっ放すんだもの。」

 「?」

 何を仕掛けているのか、一夏には皆目見当がつかない。

 「一夏君、水蒸気爆発って知ってる?」

 埒が明かないと思った楯無は、答えを教えた。

 「なるほど、その為に部屋の湿度を上げてたってんだな?Foo!ええぞぉ!あんた頭良いじゃねえか!それでここのクレイモアを起爆させようってんだな?こんな時こそ頭を使わねえとな!」

 「え・・・?エェ!?一夏君なにそんな危ないものを仕掛けて・・・!?」

 まさか学校ごと吹き飛ばすつもりではと、楯無がナノマシンの回収を行おうとした、まさにそのとき。

 「チクショー!(このまま)やられてたまるかぁ!」

 ズドー――チュドォォォォォォォォォォォォン!!!【100/3000】

 オータムがISの火気を使用してしまった。しかも、きっちりと引火させてしまい、派手に爆発が起きる。

 ただ、流石は一夏。校舎には傷が入らないギリギリの火薬で抑えているようだ。さっきは手加減無しで校舎ぶっ壊したけど・・・。

 「げほっげほっ・・・私を巻き込む気!?」

 咄嗟に一夏の背後に回り、一夏からの筋肉支援防御、要は一夏を盾にした楯無は難を逃れる。

 「俺の影に隠れといて何を今更、楯無の名が泣くぜ。それとオータム、お前見た目よりアタマ悪いな。」

 「このままやられるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 よほど危険を感じたのかそう叫ぶと、自爆装置を起動させ、ISを乗り捨て逃走を始める。

 「あばよ!」

 そう言って壁にあいていた穴から脱出していった。

 一夏は、特に慌てる様子もなく哀れにも乗り捨てられた自爆装置作動中のISに近付いた。

 「これと、これと、これ・・・めんどくせえぇぇぇぇぇぇ!!!」

 バキィッ!!!【0/30000】

 解除操作を行おうとしたが、あまりにも煩雑すぎたのでISを持ち前の筋肉に物を言わせ圧縮。システムごと停止させた。

 「やることが派手ねぇ・・・けど、逃げられちゃったわ。」

 残念がる楯無。だが。

 「逃げられてないぞ!安心しろ、地球上にいる限りは完全に射程圏内だ。いつでも捕まえられる。」

 余裕綽々の一夏。どこからその余裕が出てくるのか。楯無は、その余裕は危険よと忠告するつもりで、行動を起こした。

 「ああ、そう・・・ところでこれなーんだ♪」

 「俺が鼻かんだティッシュだろ?」

 「へ?アレ!?」

 「お前が探してるのは王冠だろ?安心しろ、ここに仕舞ってある。」

 「」

 つもりだったのだが、一夏のほうが(超えられない壁)一枚上手だった。

 

 「なぁにが簡単な仕事だチックショウメェ!!!」

 IS学園近く(当社比)の公園まで、オータムは命からがら逃げてきた。

 ここまでくればもう追っては来ないだろうと移動速度を落とした。

 〈水飲み場があるな・・・飲んでくか・・・〉

 走り続けたことでのどが渇いていた。持ち合わせがなかったので、脱水症状を防ぐためにも給水しようと、栓を捻り水を出した。

 「よう、飲んでるなあ。」

 「ああ・・・。」

 このときオータムは、水飲みに来た人に話しかけられたのだと思った。

 「今日は暑いなあ、ええ?」

 「あー全く・・・!?クソガキ!?」

 このジョークセンスに引っかかりを覚え顔を上げてみれば、そこには完全に巻いたと思った一夏が立っていた。

 「逃げられると思ったか?逃走中にバカでけえ声で叫ぶヴァカがどこにいる。」

 「クッ・・・!」

 己の失態に、オータムは苦虫を噛み潰したような顔をする。顔芸をしてもらっているところ悪いが、逃走経路の路地一本まで一夏は知っていたので、いつ声をかけるか一夏は迷っていただけだった。

 「おい、どうした?水飲んでいいぞ、喉乾いてんだろ?邪魔なんかしやしねえって。」

 「けっ、どうだか。」

 「お前なんか何処にいたって捕まえられる。」

 「・・・。」

 言われてみれば、CIAやFBIなどの警戒網を幾度となく逃げ切れたのにもかかわらず、彼一人を振り切れていない時点で詰みであることに気が付く。

 「!?」

 そんなことを考えていたとき、突如として身動きが取れなくなった。そして、水が容赦なく体に掛かる。

 「ラウラ、止してやれぇ。溺死体でも作ろうってのか?」

 「いや、なに変な汗掻いてるから水浴びさせてやろうってんだ。」

 そろそろいい頃だろうと、ラウラがAICを解除する。

 「クソッ!手前何しやがる!」

 溺死体にはならぬよう、呼吸だけはキッチリ確保しておく程度には、まだ彼らにも心は残っている。

 「一つ聞きたいんだが、お前のISはアメリカの第二世代だなぁ?そんな燃費の悪い玩具で何しようってんだ?・・・何処で手に入れた?」

 「・・・。」

 「何処だ答えろ!」

 「・・・。」

 ラウラの尋問に対し、オータムは強気に(だんま)りを決め込む。

 「見上げた忠誠心だオータム。だがな、お前の命を張るほど値打ちのある携帯か?」

 「け、携帯!?」

 が、これには驚いて声を出してしまう。

 「何だ?お前遅れてるのか?ISは最強の携帯電話だ。今の学生じゃ誰でも知ってる。」

 「」

 例え口が裂けても、IS乗りはISのことをコケにしない。そう言うものだと思ってきただけに、ショックが隠しきれない。

 『一夏さーん、一機来ましたけど、どうします?』

 「通してやれよ。テロリスト同士、感動の再開をさせてやろうじゃないか。」

 そんな彼女を他所に、一夏はセシリアからの通信に応える。

 『了解ですわ。あら?一夏さん、こちらに攻撃を仕掛けて来るのですがどうしましょう?』

 「OK、落として良いぞ。」

 『了解ですわ♪』

 やられたらやり返す。倍ではなく徹底的に叩きのめす。それが一夏達のポリシーである。

 

 公園上空で待機していたセシリアは、一夏に睨まれているテロリストの仲間から攻撃を受けていた。

 「レーザーが曲がる!?何てエネルギー効率の悪い!私が真っ正面に構えているのですから真っ直ぐ突っ込んでくれば良いものを・・・仕方ありませんわね。」

 失礼。敵の攻撃にウケていた。

 敵が装着していたISは、セシリアの姉妹機に当たる機体で、セシリアの母国のイギリスから奪取されたISであった。それはつまり、弱点が大体想像できるということ。

 ガチャッズババババババババババ!!!【30000/40000】

 これがISの正しい使い方だと言わんばかりに、チェーンガンがぶっ放した。

 『!?貴様、何故ビットを使わない!?』

 「ビット・・・?ああ、あの特攻用の・・・何でしたっけ?」

 『』

 使うには煩雑すぎることに加えて、連射性能がチェーンガンの半分すらないので長らく存在を忘れていた。

 『おい!エム、私を迎えに来たんじゃないのか!?』

 そのとき、遙か下から怒号が飛んでくる。

 「あら、お迎え!?大変ですわね、どうぞお通り下さい。」

 『』

 セシリアは、わざとらしい仕草でエムにお迎えに行ってらしたらと勧める。

 相手にするだけ馬鹿らしいと思ったエムは、実は追い込まれているのだとつゆ知らず降下していく。

 カチャッズドォォォォォォォォォォォォン!!!【8000/8000】

 そして、何を血迷ったのかラウラに向けて発砲した。

 「フンッ、片手間に沈黙できるとはドイツの遺伝子強化素体、口ほどにも――」

 「大佐ァ!火薬が炸裂していないはずなのに砂埃がやけに臭いです!」

 「!?」

 残念ながらNO DAMAGE!

 オマケに爆風に感想まで付けるぐらいには余裕を残したまま。

 「何言ってんのよ!硝煙の匂い?・・・あぁ、何よこんなもの、BB弾手榴弾を投げただけじゃない!」

 鈴は、いつになく弱気な発言をしたラウラに喝を入れるようにそう言った。

 「な、何・・・!?」

 「ああ、BB弾か・・・全くビックリさせないで頂きたい。」

 煙が晴れると、着替えたわけでもないのに真っ新なIS学園の制服を着用したラウラが平然と立っていた。

 「エム!こいつらは異常だ!さっさとずらかるぞ!」

 軽く死ねる爆発を起こしたにもかかわらず、傷一つ付かない連中は手に負えないとオータムは判断した。

 「うるさい!おめおめと引き下がれるか!」

 しかし、マドカはそれが認められない。

 今までどんな相手にも勝ってきたと言うプライドがそうさせていた。

 \デェェェェェェェェェェン!!!/【50000/50000】(ゴマンドー!)

 「どうした?来いよドM女!怖いのか?」

 まあ、このロケットランチャーを担ぐ姿が絵になる男の前には、耐えられるのも時間の問題であることは明白であるが。

 「帰るぞオォータムゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 「だから言ったろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 体の五感全てで一夏達のことを危険だと理解した2人。マドカはオータムを抱えると、イグニッションブーストを使い、ビルの向こうへとかっ飛んでいった。

 「さて、学園祭を楽しむとするか。」

 その掛け声と共に、亡国企業の2人を追いかけていた全員がIS学園への帰路についた。

 

 

 

 「失礼します学園長。」

 後日、IS学園にある秘密の部屋を楯無は訪れていた。

 「ああ、ご苦労様。報告をお願いします。」

 楯無と向かい合って座っているのは、IS学園の学長、轡木十蔵であった。

 「何から話すべきでしょうか・・・では、織斑一夏君についてですが・・・彼の素性は知れば知るほど逸般人としか・・・校舎は崩す、地雷は仕掛ける、挙げ句にテロリストを玩具にする。戦闘能力も私の力が及ぶ範疇にはありません。」

 「そう、ですか・・・織斑先生といい全く・・・。」

 過去に色々とやらかしてます。まあ、被害よりも恩恵の方が遙かに大きい手ので雇われ続けていますが。

 「次に亡国企業(ファントムタスク)ですが・・・一夏君が我々の見方である限りはカカシ・・・を燃やした塵に等しいでしょう。」

 「更識君には苦労をかけますねえ。」

 一夏が逸般人であることを轡木は知っていた。だが、彼は表だって動けないので、代わりに楯無に一夏の能力を調べて欲しいと依頼したのである。

 「ええ、おかげさまでガタガタです・・・。」

 「」

 が、楯無が鍛えられ始めていることを知り、返す言葉がなかった。

 「ところで、虚ちゃんが入れてくれたお茶を・・・私用のプロテインでした・・・。」

 「・・・くれぐれもエキサイトしないように、無理もしないように・・・。」

 申し訳なさそうに、轡木は頭を下げたのであった。

 

 

 

  時間は巻き戻って、IS学園・学園祭の当日の夜。

 「あなた達のような猛者がどうしたのよ・・・。」

 「「奴らはヤバイ奴らはヤバイ奴らはヤバイ奴らは野蛮・・・・・・。」」

 襲撃に選抜した2人が、送り出したときと寸分違わぬ姿で帰ってきた所まではよかった。だが、2人揃って常にこれだけを口から漏らし続けていた。

 〈この二人をここまで追い詰めるなんて一体・・・。〉

 スコールが、一夏の強さに歓喜し身を震え上がらせる。

 「お前は・・・知ってるか・・・アイツの恐ろしさを・・・。」

 「私は怖い・・・。」

 このままでは埒が明かない。ここは一つ手当をと思い、話し掛ける。

 「オータム、疲れてるのね、髪を洗ってあげるわ・・・エムは機体を再調整――」

 「人のユメ・・・ヒトノゴウ・・・このすばら・・・。」

 「・・・暫くは駄目そうね・・・。」

 駄目なことを悟った。

 どうにも2人ともメンタルはへし折られたのではなく、粉砕機に掛けられた上で石臼で挽いたかのように粉々になったようだ。これは、修復に時間が掛かるわねと、スコールは頭を抱えた。




B やぁ、ご機嫌いかがかな?
A 最高だよ。今日か明日には貴様(の腹筋)は死ぬか破壊される。MADでお祝いだ。


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第43話 軍には強いように見えても、一夏には勝てん

B こう言ったのは確かシャーロック・ホームズだったな?『筋肉不足を解決するに当たり非小説的な答えしか残らなかったら、それが唯一MAD的な回答である。』
A (ホームズは)病んじまったのか?
B 探偵もセラピーだな。
A 手遅れ


 ここは米国の領土にある軍の拠点。名を第16国防戦略拠点と言う。

 「展開・・・。」

 そこへ、命知らずが1匹で飛び込んできた。

 「あ、IS!?」

 ように見えたが、装備だけで見るとかなりえげつないヤツだったりする。

 「報告書にあった組織のヤツか!?」

 「お前!この基地に侵入して何が目的だ!」

 銃を構え、敵を包囲する米兵。

 「銀の福音はどこにある。」

 それに聞く耳持たぬと、侵入者は武器を展開し向ける。

 「!?何故それを!?」

 バキッ、ドカッ!【【【1/1000】】】

 「見上げた愛国心だ。だが、手前の命を張るほど値打ちのある話か?」

 銃を向けていたのだが、驚いて体が硬直した一瞬の隙を突かれて、一斉に叩きのめされてしまう。

 「誰が・・・喋るかクソッタレ・・・。」

 喋らないのではない。喋るほど体力が残っていなかった。

 「おい、兵士!」〈っち、気絶しやがった。〉

 何でもかんでも叩きのめせば良いものだと思っているため、襲撃者は攻撃の手と威力を緩めない。

 「ウオウ、うっ!」

 「ああっ!」

 「おいこっちだ!」

 「・・・ウーっ。」

 「止まれー!・・・!?うわーっ!?」

 「本部!本部!至急増援を!うわぁぁぁ!?」

 〈・・・ただのカカシですな。〉

 バッタバタと倒れ付していく米兵に呆れながら、ただひたすらに基地の奥へと進んでいく。

 ヒュンッ、ガッ!【38000/40000】

 「なに!?」

 気持ちよく進んでいた、まさにその時だった。

 大きなブレードが突如として彼女を襲う。

 続けざまに、目の前からロケットランチャーが飛来し、間の前の壁を破壊した。

 「遅かったな。待ってたぞ。」

 そこから現れたのは、ここにはいないはずの人物。

 「!?お、織斑一夏!?何故ここに!?」

 「お楽しみといこうじゃないか!」

 「ウギャァァァァァァァ!!!」

 これは命がなくなると、悲鳴を上げながら襲撃者は来た道を丁寧に辿って撤退していった。

 「・・・。」

 一夏はしばらく直立したままそれを見送る。そして、完全に逃げたなと判断するとおもむろに顔の皮を掴み、剥ぎ取る。

 「一体彼は何したのよ・・・。」

 そこにいたのは、銀の福音のパイロットであるナターシャであった。

 

 彼女が一夏の皮を手に入れたのは、1週間前のことだった。

 軍の寮で休んでいると、部屋のチャイムが押された。

 「ナターシャさん、お届け物です。」

 「あら、どうも。」

 えらくマッチョな宅配員から小包を受け取った。

 〈何か頼んだかしら・・・。差出人は・・・織斑一夏!?〉

 何故彼から荷物が来たのか分からなかったが、とりあえず封を解いてみた。

 『*月*日に亡国機業が第16国防戦略拠点に攻め込む。これを送るから被っておけ。魔除けになる。』

 そこに入れられていたのは一通の手紙と、それから――

 「・・・彼の皮?」

 

 それが彼女が一夏の川を手に入れた経緯だ。

 そこへ、同じく軍に所属しているイーリスが壁を吹き飛ばして現れた。

 「ナタル!!無事か!!」

 「手遅れよ。何も取らずにもう帰ったわ。」

 「」

 幸運なことに、テロリストが壁を壊したと言うことでイーリスは弁償責任を免れた。

 

 

 

 「何だ、筋トレでもしに来たのか?」

 一夏が自分の部屋で筋トレをしていると、楯無が部屋を訪れてきた。一度それをやめ、彼女のほうを向く。

 「違うわよ!!」

 彼女の動きから、また何か裏の話を持ってきたことは分かっていたが、反応を見たかったので敢えてそうした。

 「じゃあ、何だ。」

 「すこしお話しがね。」

 「?」

 らしくない顔、と言うよりはほぼ始めて見る真面目な表情に、一夏は楯無が遂に壊れたのかと思った。

 「非公式の情報筋から、アメリカのIS保有基地が襲撃されたという情報が来たのよ。」

 「あぁ、知ってるぞ。亡国機業だろ?エムが単独で襲撃するって手筈だ。」

 何打その程度のことかと、一夏は筋トレを再開する。

 「!?何で知ってるのよ!」

 最新の情報にもかかわらず、一夏が知っていることに驚きを隠せない。

 「話してたからな。」

 「何処で!?」

 「アジトだ。」

 「何処にあるのよ!」

 急かす楯無に対し一夏は、淡々とトレーニングをこなしていたが、その手をふと止めた。

 「教えてやるから(つつ)くなよ。引っ越しの手間取らせちゃ悪いからな。」

 机から紙を取り出し、住所、電話番号、人数、装備を事細かく書き出した。

 「ほれ。」

 「」

 さも当然のようにそれを差し出す一夏。なぜ個人の彼の方が情報をたくさん持っているのか。楯無は不思議と言う感じを通り越し、気持ち悪く感じていた。

 『一夏いる?』

 そこへ、また別の来客がある。

 「いるぞ。開いてないか?」

 『開いてるよ。』

 ちゃんと許可を得て入ってくる稀有な存在。そう、シャルロットだ。

 「お邪魔します。」

 「いらっしゃい。」

 「・・・一夏何してたの?」

 楯無の顔を見るや否や、シャルロットのご機嫌が突然悪くなった。

 「何って、雑談だ。」

 「ふーん。じゃあ、何で入っていいって言ったの?」

 別に何もおかしなことはないが、一夏の言葉を手当たりしだいシャルロットは疑うようになっていた。

 「シャル、臨海学校の時から思ってたがお前ポンコツだな。」

 「!?僕がポンコツだって!?」

 「あぁ、そうだ!」

 「」

 珍しくフォローもジョークも一切ない辛辣な一夏に、シャルロットは眉間にしわを寄せ抗議する。

 「じゃあ、帰るわね。」

 「あぁ、頑張ってくれ。」

 手を振りながら、楯無は部屋から出て行った。

 「で、何か用か?」

 「あ、うん。今度の終末に駅前へ買い物に行かない?」

 まあ、お詫びがあるまで拗ね続ける癖は直ったが。

 「壊物?」

 「お・か・い・も・の。ショッピング!」

 どうせそう言うだろうと予測していたシャルロットは、間髪いれずにそう言い返した。

 「分かってるさ。」

 一夏が壊物をするのは、一部の限られた場所だけ。町の店ではそんな強盗紛いのことはしない。

 「もう・・・。前に一夏にブレスレットをもらったし、一夏の誕生日ももうすぐでしょ?お返しもしたいからどうかなーっと思って。」

 「OK。行こう。」

 これと言った予定も入っていなかったので、一夏は即効でOKを出す。

 「ほ、本当!?約束だよ!」

 急に表情が晴れるシャルロット。

 舞い上がると、一夏の言葉を疑うことを忘れてしまう。

 「あぁ、約束だ。守れなかったらかき氷機飲んでやるよ。」

 「・・・クラスター爆弾でいいよ。」

 「そんなもんじゃ、俺の腹は下せんぞ。」

 「」

 まあ、一夏も不意にする気はないのでなにも問題にならないが。

 「あ、いたいた。一夏!」

 直後、天井板が外れ鈴が現れた。

 というか、狙ってきているのにいなかったらどうするつもりなのだろう。

 「何だ、鈴。」

 「この終末に出かけない?」

 世界を終わらせる気満々の鈴。何があったのかまでは聞かないが、おおよそIS関連でごたごたがあったのだろうと一夏は考えた。

 「悪いな、予定があるんだ。」

 まだ終わっちゃ困ると、一夏は言う。

 「そう、残念。じゃ、またね。」

 「あぁ。」

 そう言って、鈴は天井板を戻して去っていった。

 「・・・時間は?」

 確実にいなくなったことを確認し、一夏は尋ねる。

 「駅前のモニュメントの前に10時で。」

 「よし分かった。」

 

 そして週末になった。時刻は9時30分。

 〈うー、早く来過ぎちゃった・・・。どうしよう。〉

 調子に乗って早く来たところまでは良かったが、暇で暇で仕方がなかった。

 「へいへい女だ。悪かねえぜ。」

 そこへ、茶来男の集団がよってくる。

 「暇かい?遊びに行かねえか?」

 「無理。約束があるから。」

 そっけない表情で、感情をこめてない言葉を返す。

 「おたくにいい夢を見させてやろうってんだぜ?」

 「いらない。見たくも無いもの。」

 そういいながらも、シャルロットは一人一人の体格から強さを割り出していた。

 「俺さぁ、フランス車持ってるの。」

 「ル○ー?シト○エン?」

 「○ノー。」

 「公道でラリーでもするの?」

 どういうわけか、シャルロットは母国の車に愛着がなく、乗用車だとは思っていないらしい。いい車も作っているのに。

 「ようシャルル。待たせたな。」

 さてぶちのめすかと思った瞬間。待ちわびていた人物が現れた。

 「!!一夏!」

 「誰だお前!」

 威勢よくおらんだチンピラだが、一夏の体格のよさをみてビビリ始める。

 「シャルル。お友達か?ボディランゲージで愛情を示してら。」

 「「「!?ごめん用事思い出した!」」」

 シャルロットを女だと思って近づいていた彼らは、一夏にホ○達かと問われたためにあわてて逃げ出した。

 「聞きたいことがあるんだけど、僕をここでゲイに見せかけたのは一夏のアイディア?」

 「おかげで安全だろ?」

 悪びれる素振りもなく、一夏はそう言った。

 当然、安全とは一般人の命のことである。

 「まぁ・・・・・ナンパする人からは。プライド(だけは)あるチャラ男はゲイには死んでも来やしないもんね。」

 「さて、ちょっと早いが行くとしよう。」

 「うん。」

 二人は揃って歩き出した。

 

 しばらく歩いていると、一夏が何かに気付き立ち止まった。

 「よお、蘭。」

 それは、知り合いの蘭であった。

 「い、一夏さん!?」

 こんなところでつかまると思っていなかった蘭は、驚きのあまり2歩ほど下がってしまう。

 「丁度良いところであった。今度キャノンボール・ファストがあるんだ。チケットを誰も要らないって言うから、やるよ。」

 「え、う、あ、有難う・・・ございます・・・。」

 断れなかった彼女は、表情を引きつらせつつ、震える手で以って一夏が差し出すチケットを受け取った。

 「じゃあ、また会おう。」

 「は、はい・・・。」

 断るタイミングを逸し、蘭は生返事をするのが精一杯だった。

 

 

 

 至って普通の買い物を済ませた二人がIS学園に戻るころには日が傾いていた。

 「ん?一夏にシャルロット。何処かに行っていたのか?」

 寮に向けて歩いていると、トレーニング中の箒と出くわす。

 「あぁ、駅前に買い物だ。」

 袋を持ち上げて買ったものを見せる。

 「何だ、誘ってくれればよかったのに。」

 「何か用でもあったのか?」

 「あぁ、シャンプーが切れそうなんだ。」

 日用品だなと、一夏は確認する。

 「俺の部屋にストックがあるが、持ってくか?」

 「いいのか?頂戴する。」

 以上、たまには普通の話もしていることの紹介でした。

 

 

 

 火曜日、第6アリーナ-で1・2組の合同授業が行われていた。

 「はい、みなさん!今日は高速機動の授業を行います!では、早速実演してもらいましょう。えーと、ストライク・ガンナー装備のオルコットさんと、織斑く――」

 そこまで言ったところで、何の前触れもなく山田先生は千冬に出席簿で頭を叩かれた。

 「馬鹿者!アリーナを吹っ飛ばす気か!」

 「えぇ!?」

 実はこのとき、千冬の頭の中では一夏のISをアッシーと勘違いしていた。

 「あぁ、いや、何でもない続けてくれ。」

 ふと非公式のISであると思い出し、慌てて訂正した。

 変な様子の千冬に、山田先生は頭に『?』を浮かべながらも話を続けた。

 「?では、お願いします。」

 「山田先生、正気か?」

 「何でですか織斑君。」

 今度は一課からそう言った言葉が飛ぶ。

 「見せてやるよ。セシリア、行くぞ。」

 百聞は一見に如かずと、一課は実演することにした。

 「了解ですわ!」

 一夏とセシリアが揃って跳びたつ。そう、飛ぶではなく跳びたつ。

 「あれ・・・?何か遅くない・・・?」

 「しかも様子が変?」

 少し上昇したところで、一夏のスラスターが失火した。それは勿論、燃料切れで。

 「おぉい、落ちてくるぞあのマッチョマン!!」

 「潰す気だ!危ねえ!!」

 皆が慌てふためく中、一夏は盛大に音を立て誰もいないところへ着地した。

 「山田先生と一緒にしないでもらいたいね。」

 その高さは、一般人なら足趾とだけ言っておこう。

 「お、織斑君酷いですね・・・それはそうと、今のは一体・・・?」

 馬鹿にされたことを気にしながらも、なぜ失火したのか山田先生は尋ねる。

 「タコがぁ・・・見て分からんのか、アレが白式の高速機動(当社比)だ。あれ以上の速度も滞空時間も出んぞ。」

 「エェェェェェェェェェ!?まさか、ISですよ?」

 ISに頼りすぎるからこういうことになるのではない。ISを過信するから凄いものに見えるのだ。

 「ISゥ?ISを何だと思ってる!戦う道具じゃないぞぉ?高性能でしかもメッセージ機能もついてる!装備で役に立たないとなったら、携帯に使うのは当然だろ。」

 「」

 まあ、彼らにはリスペクトが足らなさ過ぎるのも事実だが。

 「んんっ!とにかく、キャノンボールファストに出場する生徒の選抜を行う!急げ急げ急げ!デザート券だぞホラ!」

 それを見せられた瞬間、授業に参加していた生徒全員の目つきが変わり、積極的に授業に参加した。




B こんなことは言いたくないが次話は投稿を途切れさせる最強の文章を持ってる(つまり次話は無い)
A 腹筋を突き崩そうか?
B 手遅れ

諸君!今回の投稿期間はこの話が最後だ。一週間以内にI’ll be back!
MADで楽しみに待ってるぜ。


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第44話 あっら~?(ISの)アマチュアだぁ

私を覚えているかね読者。小説版で、冬のMAD版更新に備えておいてくれ。
でないと、諸君の腹筋がバラバラになるぞ。


 第6アリーナでの授業はまだ続いている。

 専用機を持たされている一夏も、当然キャノンボールファストに参加しなければならないわけだが、白式と言う名の携帯電話・・・ではなく漬物石ではスタートラインにも立てない。

 「山田先生。ISを貸してくれ、スラスターがでかいヤツだ。それがいい!」

 仕方なく訓練機を借りに向かうと、一夏好みのデカい装備を着けたヤツが居たので迷わず指名する。

 「待って下さい織斑君!これは一般参加生徒用の大気圏離脱用のスラスターを流用した機体なんです。専用機を使って――」

 「織斑、アッシ・・・ンヴ。山田先生、貸してやれ。予備があるだろ。」

 一瞬、言ってはならないことを言いかけ咳をして誤魔化す千冬。

 「織斑先生・・・。ちゃんと返して下さいね!壊したら始末書ですからね!」

 「ありえないね。」

 この場合のあり得ないは、『使用中に壊さない』ではなく『壊したまま返すような真似はしない』と言う意味だ。

 機体を受け取り、箒達の元へ歩いて移動する一夏。

 「あれ?織斑君、ラファールになんか乗ってるの?邪魔じゃない?」

 そのあまりに珍しすぎる光景に、クラスメイトからも驚きの声が上がる。

 「俺だってマッハで走り回れるわけじゃない。」

 「そっか!」

 クラスメイトはそれで納得したが、侮ってはいけない。一夏は、脚力でマッハに到達できないとは言っていないのだから。

 「まさかISを借りる羽目になるとは。」

 普段からカモにしていただけに、量産機に乗るというのはある意味屈辱だった。

 「珍しいものに乗ってるな。」

 箒がそれをからかいに来る。

 「学園に借りを作るとは」

 「最低の気分か?」

 「ああ・・・。」

 いつになくテンションが低い一夏。まあ、それも今は仕方のないことであった。

 ただ、いつまでも言われてばかりは癪なので、自分はどうだと反撃を行う。

 「赤椿はどうだ?」

 「速度なら誰にも負けはしないが、燃費が悪すぎる。BB弾ほども飛びやしねえ。何か良い考えあるか?」

 速さの代償が、エネルギーが持って十秒、それ以上は頭打ちの落ち葉製造機。彼女は、

 「山田先生に言って、コレみたいなでっかいスラスターに変えてこい。アレが良い!」

 山田先生が予備のスラスターを倉庫から引っ張り出してきたのを、めざとく見つけた一夏。

 「!!よーし、ちょっと待ってろ。ちょちょっと手先を動かせば死に損ないのスラスターとバカでかいロケットエンジンがパパーっと入れ替わる。」

 風のように素早く、フクロウの如く山田先生の背後に近付き、彼女の肩を箒は叩く。

 「山田先生。」

 「何ですか?篠ノ之さ――」

 ドベキシッ「オフィッ!」【0/3000】

 どうせ断られるのは目に見えていたので、さっさとお休みして貰う。

 そして、すぐにロケットエンジンをかっぱらって機体に装着した。

 「箒、(ISは)元気か?」

 「絶好調!」

 これで十分戦えると、箒は握りこぶしを突き上げた。

 「大佐ァ!私の飛行を評価して下さい!」

 それが終わるや否や、ラウラが一夏の元へとやってくる。

 「よーし、いいだろう。チャンネルは305のままか?」

 「待ってくれ、しばらく使ってなかったから・・・そのようだ。」

 「よーし、行け。」

 「はっ!」

 音速まで脚力のみで加速して、ソニックブームを発生させながらコースを周回するラウラ。

 最後は、壁をクッション代わりに使ってゴールする。当然、壁は凹んだが。

 「どうですか!」

 「100点だよ!!!」

 そういって、一夏が弾をぶっ放した。それも2発。

 「何をされるのですか!?」

 これには付き合いの長いラウラも驚く。

 「ハエが止まってたんだ。」

 「そうですか!有難うございます!」

 「あの速度で本当にハエが止まるの?」

 ラウラ本人は喜んでいた。しかし、それに部外者のシャルロットが異議を唱える。

 一夏が一言もハエが生きていたなんて言っていないのに、である。

 「そう思うか?」

 「怪しいねェ。」

 それを、鈴と箒が更に煽る。

 「嘘だと?」

 「信じてるさ。」

 勿論、その二人は分かった上で煽っていたが。

 「織斑君、少し練習しませんか?」

 連中のそんな遊びを知ってかしらでか、山田先生が一夏に誘いをかける。

 「お断りだね。」

 勿論、にべもなく断られた。実力差は圧倒的なのだから当然と言える。

 「エェェェェェェェェェェェッ!?!?!?!?」

 「うるさい!」

 ベキッ【100/3000】

 毎度いつもの制裁タイム。一応、意識が残る程度に手加減はされいている。

 「よしとけ山田先生、恥を掻くだけだ。」

 「織斑先生!私だって教員です!仕事をさせて下さい!私はメチャ腕の立つ操縦者なんです!!」

 その自信がどこから来るのか。千冬はやれやれと行った表情をした。

 「なら試してみろ。織斑。」

 「分かったよ。」

 初心に返ると言うことにして、一夏は渋々勝負を引き受ける。

 「!!じゃあ始めますよー!!3・2・1GO!」

 一気にハイテンションになった山田先生は、まだ一夏の準備が完全ではないのに勝手にスタートを切る。

 「山田先生、上昇しよう。」

 「え、それは私が言うことで・・・」

 ところが、山田先生が意図して行ったフライングは、一夏が僅かに出遅れただけで普通のスタートと比べても遜色ないレベルしか差が開かなかった。

 「四の五の言うな、時間を無駄にしたくない。サッとやってサッと戻ろう、スピードが肝心。」

 「わ、分かりました。」

 既に立場が逆転しつつある。何とか阻止しようと山田先生はマシンガンが展開し、一夏に向けて発砲した。

 そして、ダメ押しと言わんばかりにグレネードを投げたところまではよかったのだが・・・。

 「良い腕だ山田先生。だがグレネードは俺に向かって投げなきゃな。」

 「へっ?」

 息をするようにマシンガンの弾を躱されたのみならず、投げつけたはずのグレネードを一夏にキャッチされて投げ返されてしまった。当然、避ける間などあるわけがなく、爆風を受けた山田先生は地面へと墜落。ゴロゴロと丸太のように転がった。

 「これで分かっただろ、山田君。どっちが腕の立つ操縦者だ?」

 「うぅ・・・。」

 そして、落下地点を予測し待っていた千冬にとどめに言葉を言われ、山田先生の心はへし折れた。

 「何か良い匂いするね。何、これ?」

 その頃一夏は、箒等の元へと戻ったところでクラスメイトの相川に絡まれていた。

 「ロケット燃料。」

 「ロケット燃料。・・・良いね、好き。」

 スーハースーハーと、彼女は胸いっぱいに燃料の匂いを満喫する。

 「相川、お前いつからおかしくなったんだ?」

 「やーねぇ、冗談よ。」

 言うのはタダだが、他人から見たら変態以外の何物でもない行動なので言い逃れは出来ていない。

 「・・・恐らく友達は俺だけだろうな。」

 「いっぱいいるわよ。」

 苦し紛れには鳴った一言も、一夏の前では通用しない。

 「バレーコートの隅に逃げ込まれちまうくせに。」

 「」

 軽くショックを受け、相川は言葉を失った。

 「ほらてめえ等、さっさと並べ。はい、礼。」

 気が付けば、授業は終わりの時間になっていた。お腹と背中が入れ替わる寸前の千冬は、雑に授業終わりの号令を掛ける。

 「よーし、飯にしようぜ!見ろ、千冬姉の背中と腹が入れ替わっちまいそうだ。」

 「ああ、相当気が立ってる。」

 一夏と箒は、いつもとは少し違う千冬の動きから、彼女の気持ちを類推していた。

 「お前らは後10周だ。」

 そして図星だったため、ペナルティーを与えられてしまった。

 「OK!」

 まあ、たかが10週でペナルティーと言って良いのかどうかは不明ではあったが。

 「よーし、今度こそ飯だ!」

 「食堂で食う気じゃないよなぁ!」

 「食うとも!」

 「行こうぜ!」

 お馴染みの連中は、揃って食堂へと歩き出した。

 

 

 

 授業も終わり、夕食の時間。

 「珍しい服着てるな。」

 一夏は食堂前でばったりとラウラに出会い、彼女が見慣れぬ服を着ていることに驚きを示す。

 「ISより身軽で良いぞ。」

 「なるほどな。その考えがあったか。」

 「なら、明日から大佐はブリティッシュスタイルだな!」

 「止してくれぇ、日本じゃただの変態だ。」

 堪らず、一夏は苦笑いをした。

 「言うと思った。」

 「なら良い。」

 気が済んだ2人は、メニューへと向き直る。

 「晩飯何にする。偶には爽やかにチーズフォンデュでも食うか。」

 チーズが爽やかかどうかはさておき、一夏は無難に今日のオススメと書かれたメニューを選ぶ。

 けれど、ラウラは違った。

 「そうだな、なら私も爽やかに、鯨のケツ、アザラシの子ども・・・。」

 そもそも、何でそんなメニューが用意されているのか。

 「・・・朝どれだってよ。」

 勿論、今日の朝なんて一言も書かれていない。

 「夏が旬だ。」

 「それだけで足りるか?」

 普段はもっと食うだろと、一夏は彼女が夏バテでではないかと心配する。

 「肉が食えりゃ文句はねえ。腹の事考えな、言いたいのはそれだけ。」

 けれど、ジョークにはいつも通りのキレがあるで、それだけはないなと一夏は一安心した。

 「はい、お待ちー!」

 「どうも。」

 完成したそれを受け取り、2人は席に向け歩き出す。

 「大佐ァ、いよいよ明日だな。」

 周囲に人は居らず情報漏洩の可能性は極めて低いが、それでも小声で話し掛ける。

 「亡国企業か?」

 「キャノンボールファストで仕掛けて来るんだってなぁ?」

 直接会う機会がなかったため、ラウラは鈴からこの話を聞いていた。

 「ああ、愚かだ。だが、手は抜くな。」

 彼らの場合手を抜くなは、うっかり仕留め損ねたら恥だぞと言う意味で、怪我をするなとかそう言う意味では決してない。

 「観客の期待を裏切っちゃ悪い。」

 「観客?亡国企業の、だろ?」

 「ああ、その通り。」

 不敵に笑みを浮かべ、割り箸を箸入れから取り出した。

 

 

 

 「IS使って何してる?」

 キャノンボールファストの会場で、ラウラがISを操作していた。何をしているのか気になった一夏はそれを尋ねる。

 「天気見てるんだ。悪いか。」

 「空見れば分かるだろ。」

 呆れたと、一夏が天を仰ぐ。

 「晴れ、時々弾丸って所か。」

 「何発外す気だ?」

 たかがテロリスト相手にと、一夏は付け加える。

 「相手のだ。」

 「安心したよ。」

 流石にそんな真似はしないかと、一夏は胸をなで下ろす。

 「一夏、そろそろ開始だ。準備しろ。」

 「ああ・・・花火が上がってるな。」

 少しばかり離れた場所で、一発それが打ち上がった。

 「見えるか?」

 「見えるわけあるかよ。昼間だぜ?」

 明るすぎて、形は全く見えない。ただ、音が聞こえてくるだけだ。

 「ああ、のろしにもなりゃしねえ。亡国の連中気付くかな。」

 「なかなか、鈍いからな連中。」

 そして、その花火は亡国企業への警告として一夏達が打ち上げたものだ。

 『ワァァァァァァァァッ!!!』

 最も、観客達には、それは聞こえていない。

 2年生の部、その先頭を飛ぶ生徒に、観客達は釘付けだったから。

 「盛り上がってるな・・・。あのサラ・ウェルキンっての何モンだ?」

 その操縦には癖がなく、お手本のように基本に忠実で技術も洗練されている。

 「私にISの操縦を教えて下さった方ですわ。」

 それを聞いたセシリアは、得意そうにそう言った。

 「なるほど、流石セシリアの師匠だな。紅茶の匂いがするよ。」

 まあ、お前は癖まみれだけどと言う余計な一言を、一夏は言おうとしたが引っ込めた。

 「本当かよ、オイ。」

 「嘘に決まってるだろ。」

 そんなもの嗅ぎ分けられるかよと、一夏が鼻で笑う。

 「安心したよ。筋肉モリモリマッチョマンの変態からただの変態にジョブチェンジして無くて。」

 「さて、そろそろ俺達の番だな。」

 言い時間潰しが出来たと、一夏は歩き始める。

 「ああ行こう。」

 それに、全員が従って移動を始める。

 『皆さーん!スタート位置について下さーい!!行きますよー!3・2・1・GO!』

 山田先生の合図で、全員が音速スタートを決める。誰も一歩も譲らない、激しい加速競争。

 一夏が、僅かに後れを取った・・・その瞬間。

 「ん?・・・ウオッ!」

 影が出来たと同時に、一夏が弾丸を受けて地面に落ちた。

 「おいでなすったか・・・。」

 まあ、その程度で怪我をする一夏ではない。

 「撃たれまして?」

 「ああ2発。」

 勿論、当てられたのではない。跳弾して観客席に飛び込みでもしたら大変なので、受け止めたのだ。

 「一夏さんでよかったですわ。」

 「嬉しいね全く・・・。」

 弾を当てる方がよっぽど楽しいと、一夏は再認識したのだった。




原作へのリスペクトは大切だ。リスペクトを欠くのは凡人、二次作家の屑だ。お互いに組合員だ。リスペクトしよう。腹筋は、温かいバターを切るように殺すべきじゃない。だが、リスペクトは、学ばなければな。


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第45話 急ごう!サッと行ってブチのめそう

作B:小説の為に善良な読者(の腹筋)が死んだ
 A:だがこの作品にはつきものじゃないのか?
 B:見返り(高評価)もな!


 亡国企業の一員、Mは威勢よく切り込んだ。

 「織斑一夏!今日こそ墜とす!!」

 しかし、それも束の間。

 「OK!」

 一夏から、挨拶代わりとロケットランチャーを撃ち込まれる。

 「グアァァァァァァァァァァァ!!!」

 「全く困ったヤツだ。攻められてるのは俺達の方じゃないのか?(・・・ん?)」

 こんな醜態を晒しても、よくテロリストを名乗っていられるものだと一夏は眉間に手を当てため息をつく。

 「ゲホッゲホッ・・・何かスコールよりむかつく。」

 煙の中で咳き込むMは、ISを纏ってはいたが随分と煤けていた。

 「スコールはどこだ。」

 一夏は、女の胸倉(装甲)を鷲づかみして強引に立たせる。

 「へっ・・・誰が言うかよクソッタレ・・・。」

 「大した忠誠心だマドカ。だがな、スコールがスタンドの西*自主規制*エリア、100*自主規制*ブロックにいるってのは、手前の命を張るほど値打ちのある情報か?」

 素直に確かめに行けよと言いたくなるほどの情報量。

 「貴様知っていて何故吐かせようとする!?」

 「箒聞いてたか?連中座席あのままらしいぞ?」

 「ああ、マヌケだな。」

 しかし、それは一夏の策略だった。

 「鎌掛けたな!?」

 「ああそうだ!」

 ドベキシッ「オフィッ」【0/40000】

 用は済んだといわんばかりに、Mの意識を刈り取る。

 「行こう、生徒会長様じゃ歯が立たん。」

 そして、特に拘束することもなくその場に放置する。

 「一夏、これ放って置いて良いの!?」

 相手はテロリストなのに、何でのんきにしていられるのかシャルロットは理解できない。

 「ん?プールに突き落としたいのか?」

 「へっ?」

 もっとも、一夏はまともに取り合ってくれるわけがない。

 「もっと泳がしとけば良いのにって事だろ?」

 「違うよ!!!」

 そういうことだったかと意味を理解したシャルロットではあったが、賛成ではなかった。

 「シャルロット、日本には放生会という文化があるんだ。ですよね、大佐!」

 「その通りだ。行くぞ。」

 「はっ!」

 「放生会ってそんなのだったかなぁ・・・・」

 一夏とラウラの息の合った会話を前に、シャルロットはただ呟くことしか出来なかった。

 

 

 

 同じ頃、スタンドで二人の女性が対峙していた。

 片方は長身で美しい金髪と山田先生の無駄にでかいアレほどではないが十分なアレを持った女性。もう片方は水色の髪をした、扇子を無駄に持ち歩いているあのお方だ。

 「我が亡国企業の自慢は全てが超一流最強の戦闘部隊だって事です。ISは軍用、操縦者は強化人間、NATO主要国は全てを網羅、U.S.NEVYに、DELTA FORCEに、そしてもちろん・・・レインジャーも。」

 金色の女性、名をスコール・ミューゼル。彼女は、自分たちの組織がどのように構成されているかを自慢してくる。

 「殆どアメリカじゃない・・・。」

 水色の髪、更識楯無はあまりに偏った編成内容に呆れてものが言えなかった。

 「あら、そうね。でも、私の戦闘部隊と貴方の学園の生徒達、どちらが強いかしら?」

 スコールは武力を示すことで優位な交渉を行おうとしていた。

 「下を見なさい。」

 「?」

 ゆえに、楯無は気をそらすために言ったとしか思わなかった。

 「下を見ろ!見えたでしょう?短い戦闘。どっちが強いか、私達の方に1000ドル。始めましょうか?」

 しつこく繰り返すために仕方なく見てみればMは既に伸びており、連れてきた連中は連中と呼べる数を維持していなかった。

 「・・・今、作戦中。」

 「あらそう。じゃあ見逃せないわね。」

 攻守が入れ替わる。

 「そうは行くもんですか!」

 素早い手さばきで、スコールはショットガンを構えると地面に向けて発砲した。

 「チッ・・・逃げ足の速い・・・。」

 砂埃が楯無の視界を奪う。立ち尽くすしか彼女には出来なかった。

 「爆発でびくともしなくなっただけ大したもんだ。奴らはこのまま逃がしてやれ。」

 それだけでも成長だと、一夏は励ます。

 「何で。」

 「言ったろ、引っ越しの手間取らせちゃ悪いって。」

 「」

 ただ、一夏の本心はそこにある。楯無は追えるのに追わない理由が下らなさすぎて沈黙する。

 「会長、当てたかよ。」

 少し遅れて追いついたラウラがそう訪ねる。

 「ええ、暴言を二発。」

 「大したもんだ。見直したよ。」

 あれだけの大物組織が相手。そんじょそこらの暗部(当社比)としては、それだけでも上出来だった。

 「私、なんだと思われてるのかしら?」

 「ロシア人。」

 「いつから・・・。」

 確かに国籍はそうだけれどもと、口ごもった直後だった。

 「ヘボ会長。」

 「犬。」

 「ブラックバード。」

 「ジャパニーズ。」

 「トロイ女。」

 各々が思うままに罵り始める。

 「止めてやれ、傷つくだろ。」

 「・・・。」

 一夏は慌てて仲裁に入ったが、時既に遅し。楯無のメンタルには深く亀裂が走っていた。

 「帰るぞ!飯だ飯ィ!!」

 それ以外の方法でメンタルを立て直す方法を、一夏は知らなかった。

 

 その日の夜、織斑邸には一夏の友達が多く集まっていた。

 「せーっの!」

 ズドォォォォォォォォォォンッ!!!

 「「「誕生日おめでとう!!!」」」

 一組、その他専用機持ち達は盛大にC4爆弾を破裂させた。家の中で。

 当然、部屋には煤一つとして付かなかったが。

 「「「!?!?!?!?!?」」」

 その爆炎と爆音は、その他参加者達に大いなる衝撃を与えた。勿論、彼らは無傷である。

 方法?織斑筋の支援防御ですよ。

 「ありがとよ。」

 そして、そんな爆発などまるでなかったように一夏は皆に向かってそう言った。

 「いくつになった。」

 「16。さあ、みんな腹はち切れるまでじゃんじゃん食ってくれ!!!腕によりを掛けたんだ。」

 なぜか祝われる側が料理を振る舞っているが、そんなことを気にしてはいけない。

 「「「イエェェェェェェェェェェェイ!!!」」」

 それに慣れている一組以下数名の連中は、当然のように食事にがっつく。

 「「「(私達の女子力って一体・・・)」」」

 それ以外の連中、と言っても()()()()()()()()は愕然とさせられる。

 それからしばらくは食事に集中していたが、徐々に会話が始まる。

 「鈴さん。ちょっと大きくなりまして?」

 何をと言わない辺り、セシリアの言葉には悪意が籠もっている。

 「デカすぎると早死にするらしいわよ。」

 「で・・・。」

 ところが、柄にもなく冷静な切り返しをされてしまい、セシリアは困惑させられた。

 「何想像してんのかしらぁ・・・?」

 「ヒェ・・・。」

 が、完全に鈴の策略のドツボだったようで、セシリアは震え上がる以外に手はなかった。

 「やれやれ。」

 そして一夏は、その姿を遠巻きに見るに留めた。

 

 「一夏さん。コレを。」

 一騒ぎした後、セシリアは白い箱を一夏に差し出した。

 「ティーカップか?」

 開けるまでもなく、重さと重心からどの様な形であるかまでを把握する。

 「ええ、イギリス王室御用達の。一等茶葉も一緒に入れておきましたわ。」

 「そうか、なら茶葉はみんなで頂こう。俺一人には勿体ない。カップは、大事に使わせて貰うよ。」

 何度目になるか分からないが一夏はタダの脳筋ではなく、違いの分かる筋肉馬鹿だ。

 「ええ♪一夏さんの紅茶を楽しみにさせて頂きますわ。」

 それを皮切りに、プレゼントラッシュが始まる。

 「いーちか君!」

 「おい、シャルどうしたそんな所で縮こまって。」

 手始めに、わざわざ近寄ってきた楯無は無視して、部屋の角っこで綿埃のようにしていたシャルロットへと歩み寄る。

 「えぇ!?無視!?」

 はい、そうでね。

 「あ、うん。プレゼントを渡そうと思って・・・。はいコレ。」

 流石に真面目なシャルロットも、こればかりは無視しなければ一夏が何というか分かったものではない。楯無を気にしつつも、プレゼントを渡す。

 「時計か。・・・こんな事言っちゃ何だが、何で時計に機能を詰め込むんだ?ISを使えばスッキリするのに。」

 違いは分かるが、使い分けが分からないのは・・・まあ、一生直らないだろう。

 「もー、一夏ったら古いんだぁ。」

 「古いのは・・・手前だぜ!」

 「エェェェェェェェェェェェェェ!?!?!?」

 お決まりの絶叫をやって、シャルロットはまた部屋の隅に戻っていった。

 「大佐ァ!!」

 その直後、空気を切り裂いてナイフが一夏目掛けて飛んでいく。

 ビィィィィィィィィンと言う音を立て、それは深く突き刺さる。

 まな板に。

 「私が使っていたナイフです。切断力も耐久性も補償します。」

 一夏がそれを止めたのを見て、ラウラはプレゼントの詳細を紹介する。

 「ありがとよ。鞘あるか?」

 「コレです!」

 彼女は腰からそれを外し、一夏に今度は手渡す。

 「ありがとう。・・・このマークは?シンボルは好きだ。」

 「シュバルツェア・ハーゼの部隊章です!」

 敬礼を行い、一夏に答える。

 「そうか・・・懐かしいな、もうすっかり忘れてた。」

 すかさず「年だな一夏」と、箒が横から口を挟む。

 「なんの、人生はこれからだ。」

 「ふっ、そうだな。これはプレゼントだ。」

 手渡されたものは・・・。

 「着物か。」

 「ああ、余裕があるし、小物も入れやすいだろう?私とおそろいだ。」

 どこに隠し持っていたのか、箒は彼女の所有している着物を見せてきた。

 「チェーンガンを懐に入れてたヤツだな?」

 「そうだ。」

 因みにチェーンガン程度の重量は、彼らにとっては動きを妨げるほどのものではない。

 「そいつぁいいや。今度寮で着させて貰おう。」

 「(汚え)花火大会の時に?」

 「ああそうだ。」

 ドンドンとジョークがきつくなっていく。もし、ここにいたのがロマンのかけらもない者だけだったなら、きっと終わらなかっただろう。

 「お取り込み中失礼しますわ。あちらで良い雰囲気の方々がいらっしゃいますのでその辺で・・・。」

 故にセシリアが、それを止めた。

 「・・・弾と、布仏さんか。」

 見れば部屋のど真ん中で、二人は楽しそうに会話をしていた。

 「よし、離れよう。飲み物買ってくる、何が良い?」

 「俺が一番、二人の雰囲気をぶっ壊す自信がある」と、空気を読んで(?)一夏は席を外すことを決める。

 「お赤飯。」

 「お汁粉。」

 「チャーハン。」

 「ホットドッグ。」

 「チャイニーズ。」

 またも各々が飲みたいもの(?)を口走る。

 「ホットドッグとお汁粉は見逃してやるがそれ以外は飲み物か?」

 まあ、彼に基準がある以上、誰も逆らえない。

 「一夏の喉はどうなってるのかな?」

 「「「シャルロット、そのぐらい普通だろ(でしてよ)。」」」

 「えぇ・・・。」

 もっとも、その周りも御同様であることに変わりは無いが。

 

 『有難うございましたー!』

 生まれたてのーさ~以下自主規制~

 「世界の誰より、お前に優しい。コンビニに用があるのか?マドカ。」

 一夏は、店で買い物をする以前から敵意むき出しの者がいることは分かっていた。が、そこは一夏。敢えて放っていた。

 「今日は世話になったなぁ。」

 「今日は世話したなぁ。・・・そんな似合わないものは仕舞え。足を撃つのがオチだ。銃は止せ。」

 一夏の両手にはレジ袋が下げられており、とても戦闘態勢とは思えない。

 ただし、戦闘モードには入っている。

 「クラシックに?」

 「ああ・・・。」

 マドカが腰から研ぎ澄まされた金属の棒を二本、ゆっくりと引き抜く。

 「やり合いたくてウズウズしてた。」

 目の前にそれを構え、いざ尋常に勝負。

 「持ったな?」

 「死ねぇ!織斑一夏!」

 「OK!」

 しないのが一夏のやり口だ。彼は、銃を持っていた。

 「学ばんヤツめ・・・。」

 呆れたように、マドカを見下ろす。

 「貴様・・・!クラシックにと・・・。」

 話が違うと、マドカは抗議するが。

 「クラシックだよ。ウィンチェスターM1887(ショットガン)だ。」

 「1887年製・・・か・・・。」

 それはクラシックだと、まさかの盲点を突かれたマドカは力尽きる。

 「誰かの指示か?」

 そんな彼女を優しく引き起こし、一夏は尋ねる。

 「どうかな・・・。」

 「マドカ、下らない一生だと思って、悔いを残すな。」

 「手術頼めるか。」

 助かるならば、話すという意志の現れ。

 「あぁ余裕だ。」

 「ヴァカめ!」

 ではなく、一夏を油断させるための言葉だった。マドカは、完璧なタイミングで腰から拳銃を抜いて一夏に向けて発砲した。

 「なっ・・・!?」

 「生憎だったな。ケブラー製だよ。手術すればお前が撃ってくるのは分かってた。」

 が、大したどころか服以外傷が付いていない。

 「馬鹿な!ケブラーは防刃性はあってもその薄さで弾丸が防げるか!」

 「気付いたか・・・実は筋肉なんだ。」

 「」

 これはとんでもない相手に手を出した。剰りの恐怖に、彼女は言葉が出ない。

 「今日はもう遅い。早く*自主規制*ビルに帰るんだな。」

 「クソッタレェェェェェェェェェェ!!!」

 もう、マドカの方が襲われたのではないかという逃げっぷり。

 「かーえろ。腹減っちまった。・・・マンホール開けっぱなしだったがアイツ大丈夫か?」

 ふと、マドカは尾行を始めたときの場所に向け、暗闇を突っ走っていることに気付いた。

 『ゥワァァァァァァァァァァァ・・・・』

 「駄目みたいだな・・・。」

 が、忠告する間もなく結果は出来上がっていた。

 「這い上がるって事ですか?大佐。」

 因みにラウラは、一夏が予想より20秒遅れても帰ってこなかったため見に来ていた。

 「まあ、そんなところだ。」

 その帰り際。一般人が落ちぬよう、一夏はマドカの代わりにマンホールを閉めたのだった。




作者は裏で糸を引いて読者に腹筋崩壊をさせるが、自分の腹筋を崩す度胸は無いのさ!手を引く!


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第46話 読者の腹筋一周忌

タイトルは気にしないでくれ。これは作品の都合上、MAD版の方で使ったサブタイトルを使うようにしているからこうなっているだけだ。
OK?


 月曜日の夜、1025号室にて一夏がくつろいでいると・・・。

 『じゃじゃーん、ジャン・クロウド「ナァウ!」・・・じゃなかった。楯無お姉さん登場!と言うことで、一夏君開けて。』

 騒がしい暗部がやってきた。・・・なんとも頼りない。

 そろそろ寝ようと思っていたところへの訪問だったこともあり、一夏は門前払いを決めた。

 「今日はもう遅い。帰れ。」

 すると、そうだろう。外から水の流れる音が聞こえてきた。それだけで、一夏は楯無が何をしようとしてるのかを察する。

 次の瞬間、ドアは真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちる。

 「グエッ!」

 そして、切った張本人はそれに押しつぶされてしまう。自業自得だ。

 「(玄関のドアを)切ったのは褒めてやろう。だが、物理法則は、学ばなければな。このドアは俺のだ。直して貰おう。」

 「・・・。」

楯無は、一夏の差し出した工具箱を黙って受け取る。そして、トンカチドアの修理を始めた。

 「直ったわ。」

 見かけ倒しの暗部(当社比)ではあったが、暗部は暗部。手際はよかった。

 「よし。話があるんだな?言ってみろ。」

 明日どうせ聞かされるのは目に見えていたので、ここにいるついでに聞くことにした。

 「一夏君、昨日襲ったんですって?」

 「誰から聞いた。」

 「亡国企業からクレームの電話が来たのよ。」

 新手のクレーマーみたいなことをするなと、一夏は呆れてしまう。

 「・・・返り討ちにしただけ。襲われたのは俺だ。」

 「でしょうね。」

 その程度のこと、更識も分かってはいた。

 「それだけのために、ここに来たんじゃないんだろ?」

 「えぇ、そうよ。」 

 これは話を聞かせるための口実だった。

 「私の妹を鍛えてくれない?」

 前置きは無駄と分かっているので、早速本題へと入る。

 「子守は得意じゃない。」

 「謙遜しすぎよ。あなたは良い子守になれる。」

 そこまで言い切られては、一夏も断り辛い。

 「で、何をさせるつもりだ。」

 「簡単なことよ。今度の全学年合同のタッグマッチで妹とペアを組んで。だけど覚えておいて、妹に何かあれば・・・ササクレだろうと何だろうと、預けたときと寸分違わぬ姿で戻らなかったら、あなたも、仲間の筋肉軍団も、おしまいだ。」

 仲間の筋肉軍団。その言葉は、彼女が使うべきではなかった。

 「お前も含まれてるよな?」

 「・・・残念なことにね。」

 だが、言ってしまった以上、取り消すことは出来ない。

 「まあいい。・・・だが、俺達に兵器マニアは必要ない。」

 どこからともなく、一夏が資料を取り出す。そして、履歴書を見て難色を示した。

 「きっと気に入るわよ。」

 「だといいが。」

 若干の不安はあったが、取り敢えずは会ってみることにした一夏だった。

 

 

 

 同刻、自主規制ビルの一室には、ある女性にとって最悪の光景が広がっていた。

 「おりm・・・」

 「ヒトノユメ、ヒトノゴウ・・・ソノスバラ・・・」

 「もぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・またぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 マドカ、及びオータムの二名が、またしてもセラピーが必要となっていたからだ。

 

 

 

 翌日。現在、IS学園は昼休み中。

 「更識 簪ってのどこだ。」

 織斑一夏の姿は、一年四組の教室にあった。

 「あそこ。」

 すぐに四組の生徒が教えてくれたため、難なく目的の生徒を発見する。

 「・・・。」

 通常、名前を呼ばれれば反応の一つでもしそうなものだが、彼女は余程集中しているのかキーボードを叩き続けている。

 「中々やるな。事務員じゃないといいが・・・。」

 その正確さと速さに、一夏はかなりの驚きを示す。

 「椅子借りるよ?」

 そう言って、持ち主不在の椅子を拝借。更識簪の正面に座る。

 「何か用事・・・?」

 流石に筋肉モリモリ、マッチョマンの変態が正面に来れば、例えアイマスクをしていたとしても分かるというもの。簪は、キーボードを叩く手を止めた。

 「専用機を開発してるって聞いた。本当か?」

 「そう・・・あなたのせいで。」

 簪にギロリと睨まれたが、一夏はこの程度では一寸も動揺しない。

 「オイ待て更識、(倉持は)まだ絡んでねえ。」

 簪は瞬間的に、一夏が嘘をついていないことがなぜか分かった。。

 「俺の機体は・・・名前何だったかな。何て呼んでた・・・。」

 「白式。」

 「ああ、そうだ。そう、倉持はIS開発に乗っかって、道草や寄り道や油を売りまくってた。すると突然出てきたのが初の男性IS操縦者だ。倉持の連中はこれを好機とみて更に納期を延ばそうとした。そして倉持は倉庫の旧型機を引っ張り出した。事態は最悪、多くの技術が消えていった。開発計画も一緒にな。白式はその混乱の中で篠ノ之束に弄くり回されて出来た機体だ。倉持は・・・ただものぐさなだけさ。お前の機体を作ろうと思えば作れていたはずだった。」

 「・・・!!」

 衝撃を受け、簪が固まる。

 「・・・やはり無駄足かな。」

 そう言って立ち上がり、一夏は簪に背を向けた。

 「待って。」

 直後、簪が椅子を吹っ飛ばすほどの勢いで立ち上がった。

 「無駄足じゃないわ。」

 「・・・。そのようだ。」

 その意気込みしかと見たと、一夏は満足げな表情でその場を後にした。

 

 同日、放課後。

 「・・・駆動系の反応が悪い。何で・・・?」

 簪が整備室に籠もり、一人打鉄弐式の調整を行っているときのことだった。

 「アイヤイヤイヤイどうしたんだ~、アイヤイヤイヤイ何で~♪」

 どこぞの人が歌っていた『ふしぎなポ○ット』。その一節を歌いながら、一夏がどこからともなく現れた。

 「!?どこから入って来たの!?」

 「奥から。なあおい、一人で抱え込むなってこの大馬鹿野郎!」

 「・・・。」

 バツが悪そうに、簪は黙り込む。

 「けど、手を貸せるのも私達しかいませんわ。」

 「!?」

 またも気配なく現れた、金髪ドリルに今度は驚いて固まってしまう。

 「ISなど携帯電話だ。助言が欲しいか?」

 続いて眼帯銀髪の少女が出現し、彼女にそう告げる。

 「助言って何。」

 本当に教えてくれるのか精査するため、内容が聞きたい簪。

 「口の利き方を知らん女だ。」

 これには、ラウラも苦言を呈す。

 「俺もそう思う。」

 「良く言うよ。」

 一夏がそこへ口を挟むと、ラウラがそう苦言を呈した。

 「助言って何だ。」

 もっとも、次の瞬間には前言をぶっ飛ばすのが一夏のやり口ではあるが。

 「同じじゃない・・・まあ良いわ。あのロシア人・・・あれ、トロイ女・・・?何だっけ。何て名だ。・・・何て呼んでた・・・まあ良いわ。アレだって一人でISを開発したわけじゃない。行き過ぎた感情は身を滅ぼすわ。」

 その説明を天井から現れた小柄でツインテールの少女、鈴が行った。

 「ISは作れる。だが、俺達が一つのチームになれば、だ。お前にその気があるか?更識。」

 「・・・苗字で呼ばれるのは好きじゃない。苗字で(私のことを)呼ぶヤツは凡人、学園の屑よ。呼び方は・・・学ばないとね。」

 このノリ、タダ者ではない。一夏の表情が引き締まる。

 「何て呼べと?」

 「簪でいい・・・。」

 「「「オーケー、分かった。」」」

 

 日は沈み、ほとんど夜になっていた。

 自室に戻った一夏は、柄にもなく普通の携帯電話を使用して電話を掛けていた。

 「蘭、今度学園祭があるんだってなぁ。」

 相手は親友の妹、五反田蘭。一夏はランが電話に出るや否や用件を切り出した。

 『!!あ、あれですか!中止になりました!』

 「そうか、それは残念だ。」

 折角楽しみにしていたのにと、残念がる一夏。

 『失礼しまーす!』

 そして、すぐに電話は切られてしまうのだった。

 

 翌日の昼

 「簪、飯食いに行こう。」

 一夏は、またしても四組に出向いていた。

 「うん、でも一人で。」

 しかし、断られてしまう。仕方がないので、伝家の宝刀を使うことにした。

 「奢ってやるから。」

 「行く。」

 「」

 まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりに、簪は誘いに乗った。

 「おい、あの織斑筋が閉口したぞ。」

 「あり得ないね。」

 その衝撃たるや、織斑筋に慣れていない四組の生徒でも驚くほどである。

 「まあいい。さっさと飯食いに行こう。」

 ここにいても腹は膨れんと、一夏と簪は足早に食堂へ向かう。

 「今日はチキン南蛮か。」

 入口でオススメメニューを見て、一夏が呟く。

 「簪はどうする。」

 「素うどん。かき揚げ付きで・・・。すごくヘルシー。」

 かき揚げ入りの素うどん爆誕の瞬間である。素うどんの定義って何だっけ?

 「ほう?かき揚げか。」

 気が付けば、ラウラが参戦してきていた。

 「簪、私と勝負だ。どっちが早くかき揚げを食べるか、テキパキサクサクと。」

 「私、全身浴派なの。」

 しかし、あっけなく断られてしまう。

 「む・・・。」

 「一本取られたな。」

 「・・・。」

 余程悔しかったのか、注文した料理を受け取るまでラウラはショックを受けて凹んでいた。

 「どこが開いてる?」

 全員が受け取ったのを見て、一夏がそう言う。

 「隅っこが良い。奥の方のテーブル・・・あそこが良い!」

 周りより背の高い一夏を差し置いてその場所を見つけたのは、何と簪であった。

 「簪、お前見た目より目良いな。」

 眼鏡のお陰かと、一夏はイジってみる。

 「これはただの携帯用ディスプレイだから。」

 「成る程な。値段を抑えたわけだ。なあ、壊物のコツを教えようか。」

 「いい。どうせロクでもないんでしょ。」

 姉と違い、意外にも勘が鋭い。

 「ああ、全くその通り。」

 「・・・。」

 そうこうしている内に席に辿り着いたので腰を下ろす。

 席に着くと、三人は早速食べ始める。

 「おい、このチキン南蛮出来たてで美味いぞ。簪も一つどうだ?」

 一夏は、箸で一切れチキン南蛮を摘まみ簪へと差し出す。

 「・・・そうやって女の子(の女子力)を墜としてるの?」

 「いいや!」

 「馬鹿め!」

 バサー!【220/200】

 簪はテーブルに備え付けの七味を、一夏のチキン南蛮へ山盛りにぶっかけて激辛化した。

 「んー、良い感じだ。美味そうだ。」

 「ああ・・・やり過ぎだが、良い。」

 けれど、一夏とラウラはそれを見て随分と余裕そうにしていた。それどころか、美味しそうに食べ始めてしまう始末だ。

 「」

 ここまで快進撃を続けていた簪も、流石にこれは引いていた。

 「おい箒、とうとう簪から一本取ったぞ。」

 「ああ、やったな。」

 気が付けば、箒が同席して飯を食っていた。

 「なんでそんなに私に構うの・・・?」

 今までこれ程までに周りに人がいたことがなかったため、簪はどう振る舞えばよいのか見当が付かない。

 「歓迎会みたいなもんだ。気にするな。」

 それに対する一夏の答えはあっさりとしたものだった。

 「そうだ。私だって入学したときは量産型だった。」

 感慨深そうに、箒が二~三度頷く。

 「今は?」

 「もっと使い物にならんヤツが来た。」

 眉間に皺を寄せ、こめかみを押さえ箒は俯く。

 「あなたの機体は第四世代よ。」

 それ程のものが使い物にならないわけがない。例えトーシローが乗ってもそこそこの成果を出せるスペックがあると、簪は思っていた。

 ・・・まあ、間違ってはいない。脳筋練習が相手でなかったのなら。

 「只のカカシですなぁ。私達なら、瞬きする間に粉砕できる。忘れないことだ。」

 「第二世代のほうが頑丈だって言いたいの?」

 「その通り。使いたいか?使って良いぞ。」

 いればやるよと、箒が待機状態の赤椿を簪に差し出す。

 「いらない。そんなカカシ。」

 「結構。」

 まあ、携帯としては優秀なので、箒自身、手放すつもりはあんまりないのだが。

 「ああそうだ簪、今日がタッグマッチの応募締め切りなんだが、放課後空いてるか?」

 そこまで長い時間はかからないから安心しろと、一夏は補足する。

 「ISを整備するつもりだったけど、その前のちょっとの時間なら。」

 「OK。職員室の申し込みについてきてくれるか?」

 「分かった。」

 簪は、少し伸びかけたうどんの残りを食べきる。

 「それはそうと、トーナメントまでにISを完成させないと。私達も放課後からサポートに入ろう。」

 「良いの?」

 先ほどまでISをけちょんけちょんに言っていた箒がそう名乗りを上げたものだから、簪は驚いてしまう。

 「これまでのことを考えて、行事がまともに進むと思うか?」

 「いいや。」

 思い返してみれば、イベントはことあるごとにぶっ壊されてきている。用心が必要だった。

 「ああ。そのとき、戦力は一つでも多い方が良い。敵はカカシに変わりないが、準備は万全にしとかないとな。」

 「敵さんの期待を裏切っちゃ悪いってこと?」

 「そうなんだよ。」

 なども同じように攻めてきては、その度に襲撃者は悲惨な目に遭っている。

 もしかしたら、また新手のドMが来るかも知れないと、一夏は予測していた。




ああ駄目、こんなの小説じゃないわ!補足のついたMAD版よ!
だったら読めば良いだろ!
そんな・・・。


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第47話 このISのボルト2、3個ぶっとんでんじゃねーの?

ちょっと、投稿してもいいかな?
ダメだ
いらん
後にしろ
・・・言うと思った(POCHI☆
ブワッハハハハハハハ!!!


 放課後の第二整備室に一夏と簪の姿はあった。

 「ISはどのくらい出来上がってるんだ?」

 「このぐらい・・・。見た方が早い。」

 そう言って、簪は専用機『打鉄弐式』を展開する。

 「どこで組み方を習った?」

 ISは既に組みあがっており、一見すると完成しているように見えるが。

 「まだ、武装が・・・。」

 「例えば?」

 「マルチロックオンシステムと・・・荷電粒子砲。」

 「何でそんなおもちゃを・・・。」

 呆れた様子で一夏が呟く。

 「おもちゃなのは・・・仕方ない。」

 だって装備を送ってくれないからと、少しだけ悲しそうにする。

 「代わりにこれを積むか?」

 それを見かねて、一夏がどこからともなく棒状の何かを取り出し、彼女に差し出した。

 「何?」

 「レールガンってやつだ。」

 その瞬間、簪が一夏を鋭くにらみつける。

 「・・・あなた、一夏じゃない。」

 少しだけ頭をかくと、一夏は頬の辺りを掴んで自分の顔の皮を引っ張った。その下から出てきたのは。

 「参ったな。もうばれたか。大佐のフリは難しい」

 ラウラであった。

 「分かる。EM銃の使い手はあなただけ。」

 簪はそっぽを向いて、少しだけ頬を膨らませる。

 「ラウラはもう行ったぞ。」

 「!?」

 その僅かな隙に、ラウラは去り本物の一夏へと入れ替わっていた。

 「だが、お前はお前の姉より、ずっと見込みがある。」

 俺達の変装を見破れるだけでも上級者と、一夏が感心したように頷いている。

 「それは慰め?」

 「俺は嘘は言わん。」

 「・・・。」

 ゆったりとした足取りで、一夏が打鉄弐式に近付く。そして、彼は時々頷きながら装甲を指でなぞる。

 「装甲の組み付けが甘い。」

 完成を急ぎすぎたなと、少しだけ厳しいコメントを出す。

 「だが、そこさえ何とかすれば、後は大丈夫だ。」

 「分かるの?」

 「分かるさ。お前も、じき分かるようになる。」

 そうは言われても不安は残る。表情からそれを察した一夏は、小銭を取り出した。

 「冷えたジュースを買ってこい。作業はそれからだ。」

 「うん。」

 お金を受け取ると、簪は少し駆け足で整備室から出て行った。

 「おりむ~、女の子はいつでもダイエット中なのだ~。」

 それを見てか、機材の隙間より布仏本音がユラユラと出てきた。

 「それがどうした!」

 勿論、そんなところにいたのはお見通しだったため、一夏が驚くことはない。

 「ジュースなんか勧めちゃ駄目だよ~。」

 「だったら運動すれば良いだろ!」

 「そういうことじゃないのだ~。」

 本音が、普段からは想像も出来ないほど機敏な動作で作業台の上にあったスパナを引っつかみ、そのまま勢いに任せて一夏に襲い掛かった。

 しかし。

 「スパナで俺を殴るのは止せ。スパナが勿体ない。それに、修理申請をするのはお前じゃない、俺だ。」

 「うぃ!」

 流石にスパナが折れるとは思ってもみなかったのか、本音は途轍もなく慌てていた。

 「ただいま・・・。あれ、スパナが折れてる・・・。」

 何も聞かずに、簪は本音を睨み付ける。

 「おじょうさまー、ごめんなのだ~。」

 「本音、今すぐ買いに行って!」

 「うえぇ~・・・。」

 主人の指令を渋る使用人とはこれいかに。

 「早く行け!簪の気が変わって、退学書を書かれる前にな!」

 「!!」

 これぞ、THE・肉体派。一夏の威圧感の前では、重度の怠け者でも本能が体を動かしてしまう。本音は、瞬く間に整備室より飛び出し、ホームセンターに向かうのであった。

 

 なんやかんやあって夕方。

 「ふう・・・完成した・・・。ありがとう、織斑君。」

 システム構築から装甲の組み直しまで、一通りの作業を終え打鉄弐式は形になっていた。

 「慌てるな。まだ終わっちゃいない。」

 「?」

 「おりむ~、第六アリーナ取れたよ~!」

 まだなにかすることがあったかなと簪が首を傾げたところへ、本音が一枚の書類を持って戻ってきた。

 「テスト飛行する気じゃないよな!?」

 「・・・やるとも。」

 少しだけ逡巡した簪ではあったが、簪は了承した。

 「行こうぜ!」

 一夏が威勢よくそう言って、三人は整備室を後にした。

 

 第6アリーナへは、一夏と簪のみで入った。

 「スラスター出力、正常。・・・織斑君はチェックしないの?」

 一夏が腕を組んで簪の作業を見守っていると、彼女からそう指摘を受ける。

 「チェック?何を。」

 「・・・油圧とか。」

 「どの油圧?おめでとう。デタラメのガバガバだ。」

 そう言ってコンソールを開き、実際に狂っていることを見せる。

 「じゃあ・・・先に上に行って。」

 「OK!」

 一夏が白式を展開する。

 「・・・それは何?」

 その、あまりにISらしからぬ外見に簪は眉間にしわを寄せた。

 「固定砲台(白式)だ。」

 一夏がスラスターをふかす。。

 「どうした、上がれ!」

 出力が高まっていく。

 「・・・どうしたの?上がらないの?」

 「上がりやがれ!」

 マックスまで上がりきっているが、気体が浮き上がる気配はない。 

 一瞬だけ、ほんの1センチ足が地面から離れた。しかし、そこで燃料切れ。ズウンッと重い音を立て白式は地面に落ちた。

 「駄目そうだ。」

 あきらめた様子の一夏。

 「上昇するってことが?」

 「まあ、そんなところだ。・・・ラファールを借りてこなくちゃ。」

 「駄目。・・・出払ってる。」

 そのへんのチェックに抜かりがない辺り、流石は暗部の娘だろう。

 「諦めるのはまだ早い。あそこを見ろ。」

 「・・・何?」

 一夏が指差した先には・・・。

 「誰かが置きっぱなしにしてる。」

 ラファールが一機、ポツンとたたずんでいた。

 「!!だめ、それは止めた方が・・・。」

 「グランドへの無断駐機は高くつくもんだ。」

 「」

 それには何も言い返せず、一夏がラファールを装着するのをただ見ていた。

 「急ごう。ディナーの時間がなくなっちまう。」

 ラファールを装着した一夏が戻ってくる。

 「簪、(ISの)調子は?」

 「(バグが)多すぎだけど、・・・良い。」

 少なくとも白式よりはと付け加えて。

 

 「・・・大体できた。・・・今日はありがとう。」

 それから程なくして、バグの修正はほとんど終わった。

 「帰ろう。腹ペコだ。」

 「うん・・・。」

 しかし、降下をはじめた瞬間だった。突然、スラスターの燃焼が不安定になり、ボンッと爆発してしまう。

 「「!?」」

 〈何で!?反重力制御が!!〉

 高度は見る見るうちに下がっていく。焦りによって修正の操作に狂いが生じる。

 「ウォォォォォ!!」

 簪の落下コースへ、一夏が急降下で割ってはいる。そして、彼女を受け止めると、そのままタワーの外壁に向けて突っ込んだ。

 「(このタワーも)年だなぁ。」

 当然、何もなかったかのように立ち上がると、凹んだタワーの外壁を見てそう呟いた。

 「お、織斑君、大丈夫・・・?」

 「柔らかいクッション(タワー外壁)のお陰で無事だ。」

 珍しく体の心配をされた一夏は、少しだけうれしそうだった。

 『ちょっと!そこの生徒!今の音、何!?こっちにはタワーの破損って出てるんだけど!?』

 そこへ、教員がスピーカーを使って割り込んでくる。

 「お気になさらず!タワーの点検です。」

 『ほ、本当に!』

 「今直す!」

 振り返ると、凹んだ部分を掴み強引に引っ張る。が、バキッと音を立てて外壁は剥がれてしまった。

 「・・・あ、壊した。」

 「予備がある。」

 どこからともなく、一夏は新品の外壁を取り出しそこにはめ直した。

 「これで(交換)出来た。」

 『直ったわ。疑ってご免なさいね。』

 「」

 そのダイナミックぶりには、流石の簪もただ唖然とすることしか出来ないでいた。

 「帰ろう。食堂が閉まっちまう。修理は明日だ。」

 そういって、二人はアリーナから引き上げていった。

 

 

 

 同じ頃、武道館で特訓を受けているものがいた。

 「もう終わりか!?(武道館の)使用料を払った。もっと見せろ!」

 箒が楯無に向けてそう吐き捨てる。

 「いやぁぁぁぁっ!」

 楯無が起き上がり、箒に向けて突進する。しかし、あっさりとなぎ倒されてしまう。

 「また寝てるのか?」

 「イエ゛ェェェェェアッ!」

 立ち上がってきた楯無に、箒はコップをくわえさせた。

 「(プロテインは)美味いか?」

 「もっと頂戴!」

 筋肉痛が酷すぎて、コップ一杯程度のそれでは効き目がないと楯無は感じていた。

 「今日の訓練はここまでだ。」

 「はぁ、はぁ・・・。」

 肩で息をする楯無の横で、稽古を付けていた箒は汗一つ流していない。それはもう、超クール。

 「時々思うんだけど、箒ちゃん達って一体何もの?教えて頂戴!」

 「駄目だ。」

 にべもなく断る箒。

 「駄目ェ!?何でよ!」

 「教えないんじゃない。教えられないだけだ。実はな、私達もよく分かってないんだ。気が付いたら、強くなってた。」

 「」

 ズボラにも程がある事実に、あの楯無も黙り込む。いや、一夏達に対してはしょっちゅう黙っていたか。

 「行こう。飯の時間だ。・・・悪いが、二年生の寮食堂案内して貰えるか?一年の所は混んでいてな。」

 「いいわよ。行きましょう。」

 「あぁ。」

 武道館を出て、特に会話もなく歩く二人。

 「・・・ねえ、箒ちゃん。あなたはお姉さんのことどう思ってるの?」

 沈黙に耐えかねて楯無がそれを訪ねた。

 「逝かれた天災。」

 「亡霊かしら・・・。」

 箒が束を亡き者として扱ったことを理解できるほどには、楯無も成長している。

 

 

 

 「編集長、調子は?」

 翌日の放課後、第二整備室に一夏はいた。

 「悪くなかったけど、織斑君がこんな所に呼び出すなんて。何の用事?」

 一夏が呼び出したのは新聞部の部長、黛薫子であった。

 「ISを弄れるか?」

 「整備でも改造でも何でも出来るわよ。」

 「修理を頼む。これでどうだ?」

 誰にも見られないよう、一夏は黛に何かをこっそりと手渡した。

 「・・・OK。これで修理できるわ。」

 いわゆる特ダネというやつである。

 「・・・織斑君、この人誰?」

 そのやり取りを傍らで見ていた(何をしているかを見せるほど一夏は柔ではない)簪が、見慣れない人物に警戒を示す。

 「黛薫子。新聞部の部長だ。」

 一夏に紹介された黛が、簪の顔をのぞき込む。

 「へー、君がたっちゃんの妹さん?」

 「・・・一応。」

 コンプレックスを触られ、簪は不快感を示す。

 「流石は織斑君が手を掛けるだけはあるわね。たっちゃんの100倍は賢そうだわ。」

 「100?1、000の間違いじゃないのか?」

 「言われてみればそうね。始めましょ。」

 「速さが肝心。」

 簪の気持ちが落ち込んでいるのことに、一夏と黛は気付いていた。しかし、フォローを入れても慰めにしか受け取らないだろうと、あえて放置して作業に移るのであった。

 

 「ま、こんなところね。・・・っち、一時間。かかりすぎね・・・。」

 「!?」

 開始からたったの一時間でISの整備が完了してしまったことに、簪は目を丸くする。

 「簪は知らないだろうが、編集長は精神的におかしくなる前、ISの整備資格を取った。」

 「何で学生を?」

 もし本当なら、IS学園に来る必要が感じられないと首を傾げる。

 「織斑千冬(ブリュンヒルデ)に惚れちまってさ。」

 その理由を、黛はサラッと言う。

 「(あんなのに)惚れるとはな。」

 「嘘だとでも?」

 「あぁ、常識的じゃない。非常識。」

 「仰る通り。」

 しかし、現在はそうではない。原因は一夏の手によって千冬の生活態度を知ってしまった(一時間ほど前に)というものがある。

 「・・・あの、テストフライトに・・・。」

 そうやってジョークを飛ばし合っていると、簪が割り込んできた。

 「駄目だ。」

 「駄目?!何で!」

 しかし、一夏はこれを一蹴した。その訳は。

 「外を見ろ。外を見ろって。見えたろ暗い空。シールドバリアに激突する方に1000円。始めようか?」

 「・・・今、作業中。」

 先ほどまで手持ち無沙汰にしていたのに、指摘されるや簪は急にプログラミングのチェックを開始した

 「おや、そうかい。」

 意地悪そうな声で一夏が煽る。

 「調子の良いことで・・・。」

 悔しそうな表情をして、簪は作業のスピードを速めた。




B 書けたらWardの文章をコピーして、ハーメルンへ貼り付けてやる
A 俺もビッグだったもんだ!ランクインか!
B 眠りに堕ちやがって・・・いつの話してんだ
A 一年前
B 結構、(明日も)よろしく(あるとは言ってない)

次回が2018夏休み分の最後です。


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第48話 どこの馬鹿だ、無人機寄越したのは

A怖いわ~組合員よぉ
Bもっと刺激が欲しいかえぇ?ムキムキするような腹筋だ!腹筋が欲しいだろ!お前にも寝るだけアンダーコア味わわしてやる!


 夜になった。打鉄弐式の整備を終え、自室である1025号室で一夏がくつろいでいたときのことだった。

 「誰だ?」

 見当は付いていたが、ドアをノックされたので条件反射でそれを言う。

 「ちゃお!」

 そう言ってドアを開けて中に入って来た楯無に対して、一夏は飲み物を出した。

 「・・・何これ?」

 「茶だ。」

 他の何かに見えるのなら教えてくれと、一夏は楯無に迫る。。

 「何で?」

 「『茶を』って言ったろ。違うのか?」

 因みに、これは救済のための確認である。

 「いや、挨拶の方の・・・。」

 「じゃあな!」

 直後、一夏はロケットランチャーを構え、楯無に向けて発射した。ただし、先日楯無に切られ張本人に修理させたドアは耐久性に不安があったので、今回は珍しく空砲だ。

 「ゲホッ、ゲホッ!何するのよ!」

 そんなことを知らない楯無は、当然文句を垂れる。

 「チャオってのはサヨナラって意味の方が強いぞ。知らないのか?」

 「あら、そうなの・・・。」

 「辞書読め。」

 「そうするわ。」

 珍しく一夏の言うことを素直に聞いた楯無である。

 「で、何の用だ。」

 「雑談よ。一夏君と織斑先生は仲が良いなと思って。」

 勿論そうしたのも、物理的に一夏に吹っ飛ばされないためだ。

 「腐れ縁。」

 「織斑先生は君にだけ厳しいでしょ。」

 「嫉妬しているだけだ。」

 「分かってないな。死んでほしくないから、厳しくしてるんでしょ。」

 淡々と帰すばかりで、一向に取り合ってくれない。それでも口を尖らせつつ、根気よく楯無は質問を続ける。

 「死ぬ?俺が?あり得ないね。」

 そして遂に、楯無の望んでいた台詞を一夏が口にした。

 「そうかしら・・・あら?」

 「これか?」

 待ってましたと言わんばかりに、一夏が胸ポケットから何かを取り出して広げた。

 「そう、その『油断大敵』扇・・・。」

 「まだやるか?」

 気が済むまで付き合ってやろうかと、一夏は続ける。

 「・・・疲れたわ、マッサージして。」

 そして勝ち目がないとみるや、楯無は攻め方の方向を変えた。

 「俺の部屋に来て言うな。」

 本当に嫌そうに、言い返される。

 「えぇ、君が一番上手いもの。」

 ところが、それに対しての返事がない。

 「・・・あれ?一夏君?」

 

 楯無が一瞬気を抜いた瞬間に、一夏は1025号室から悠々と脱出を果たしていた。

 「簪。丁度良いところに来た。」

 脱出したのは、この場面にうってつけの人材が来ていることを察知したから。。

 「・・・何?」

 「俺の部屋に水色のGがいるから、荷電粒子砲で消し飛ばしてくれ。」

 「分かった。」

 一夏の言葉を疑うことなく、簪は打鉄弐式の武装だけを部分展開する。

 「開けるぞ!」

 一夏の声かけに合わせ、簪は3度引き金を引いた。

 「あっつ、あっつ!ちょ、一夏君!?!?!?」

 直後、部屋の中にいたものは荷電粒子砲の直撃を受けたのか、大声でそう言いながら跳ね回り、破壊音を残し離脱していった。

 「窓割って逃げたか・・・。」

 そう言ってはいたが、荷電粒子砲の直撃を熱いで済ましてしまうのかと、楯無のタフップリに一夏は感心していた。

 「・・・今の声?」

 簪が首を傾げる。

 「さあ、誰だろうな。ありがとう。これで今夜はぐっすり寝られる。」

 それを悟られまいと、一夏は何食わぬ顔で会話を逸らした。

 「そう、・・・良かった。」

 しかし、簪はその場でモジモジして帰ろうとしない。一夏が「何をしているのか」と尋ねようとしたとき、彼女は口を開く。

 「・・・あの、これ作ったから・・・その、・・・食べてみて。」

 「カップケーキか。」

 渡された袋の中身を見て一夏は尋ねる。

 「嫌い?」

 「いや。」

 早速頂くよと、一つを取り出して口にした。

 「・・・中身は、何だこれ?」

 初めて食べる味だと、一夏はレシピを聞こうとした。だが。

 「知らない方が・・・良い。」

 「」

 まさか実験台にされるとは思ってもみなかった一夏は、それを聞いて固まる。

 「じゃ、じゃあ、おやすみ!」

 その様子を見て危機を感じた簪は、全速力で退却していった。

 「・・・?寝るか。」

 体に不調はないし気にすることもないかと、一夏は部屋の中に戻っていった。

 

 

 

 「それでは、生徒会長の話です。」

 遂にタッグマッチトーナメントがやって来た。今は、その開会式が行われている。

 生徒達の前で壇上に上がったのは、全校生徒(一組の生徒と一部例外を除く)から学園最強と言われる楯無であった。

 「おはよう、皆さん。今日は――タッグマッチトーナメントですが、――勉強になると――」

 「あのお方、いつまで喋る気でしょうか?」

 その話の長さに、セシリアが退屈そうにコメントする。

 「止しなさいよイギリス。アンタの何もそうでしょ。」

 「な・・・。」

 直後、鈴から口撃を受けてセシリアは固まった。

 「一本取られな、セシリア。」

 それを更に箒が煽る。

 「二組から話し掛けるのは止せ。箒も煽るな。」

 流石に今は拙いと、柄にもなく一夏が制止を行う。

 「それじゃあ、今回の特別イベントよ!じゃぁん!『優勝ペアを当てて食券をゲットしよう!』」

 「賭けは止せと言ったろ!」

 と、真面目ぶったのも束の間。楯無のつまらない企画にブチ切れ、ロケットランチャーを撃ち込む。

 「やったか?」

 「(急所は)外した。」

 当てても死ぬことはないだろうが一応と、一夏は補足を入れる。

 「一夏君!まだ試合は始まってないわよ!」

 煙が晴れると、少し黒くなった楯無がそこに居た。

 「ピンピンしてる。」

 「分かってちゃいたが、タフだ。」

 前衛(盾)なら活躍するかも知れないと、一夏と箒は脳内でプランを練り直す。

 もっとも、一夏達に軽くあしらわれることを理解していた楯無は深く追求することなく話しを先に進める。

 「それでは、第一試合を発表します!ドンッ!」

 楯無が指差した先のモニターに、第一試合の組合せが表示される。そこには、『織斑&更識(簪)VS篠ノ之&更識(楯)』となっていた。

 「では、移動して下さい!!」

 その号令が掛けられた数秒後には、1年1組は開会式の場に誰も残っていなかった。

 

 一夏とその仲間達は、第一試合の行われる第四アリーナにて雑談をしていた。

 「久しぶりに本気で暴れられそうだ。」

 「全くです、大佐。」

 一夏がそう呟き、ラウラがそれに賛同する。いつも通りのやり取りだ。

 「このところ豆腐みたいなのばかりが敵だったからな。」

 最近のテロリストはたるんでいて仕方ないと、一夏が欠伸をしながら言い放つ。

 「みんな、しっかり準備運動しときなよ。」

 「シャルの言う通りだ。始めよう。」

 流石に本気を出すと怪我の危険が高くなる。一夏達は、珍しくアップを開始した。

 

 それは、アップを開始してから少ししたときのことだった。

 「どうした。上ばっかり見て。」

 シャルロットがしきりに上を気にしているので、気になった一夏は何が見えるのか尋ねた。

 「・・・もしもし、問題発生。伏せてぇー!!」

 その声と同時に、全員が地面に伏せる。間を置かず、銃弾やビームが上から降り注ぐ。

 「伏せろ、伏せてろ!」

 頭を上げようとしたシャルロットを、一夏が押さえ込む。

 攻撃は止むことなく続き、地面を震動させる。

 「くそ、あのウサギ、からかいすぎたか・・・。」

 地面を転がり散会する。

 「・・・!?やばいですわ!」

 直後、狙いを定められたセシリアは慌てて物陰に隠れ攻撃を避ける。

 隙を突き、一夏が応戦するも、あまり効いていない様子だった。

 「前より硬くなってない?」

 「おそらく。クソッ!火力が足らん。」

 箒が悪態をつく。それ程までに厄介なのだ。

 「イギリス!バカなこと聞いて悪いけど、弾余ってたら貰える?」

 後先考えずダイナミックにぶっ放していた鈴は、流石に残弾が減ってきたので、補給を要請するが・・・。

 「弾倉が小さいのですわ。」

 「んなことだろうと思った。」

 スナイパーに頼んだのは確実に間違いであった。

 「ボーデヴィッヒ、節約しろ!」

 「お前もな、篠ノ之。」

 当ててはいるが今ひとつ効果がないため、救援が来るまで時間を稼ぐ方向にシフトする。

 そのとき、一夏の携帯に着信がある。

 「俺だ!」

 『織斑、追い返せそうか?』

 電話を掛けてきたのは千冬だった。

 「チェーンガンでもあれば。」

 しかし、特に返事はない。救援は駄目そうだと、一夏は諦める。

 「・・・どうした一夏?」

 一夏がしきりに後方を気にし始めたため、箒は敵の増援でも来たのかと身構える。

 「弾が切れそうだ。また戻って来る。」

 「戻れるのか?」

 ドアは全部封鎖済みだぞと伝えると・・・。

 「・・・イピカイエーか。」

 どうやら、失念した様子だ。

 「伏せろ!」

 そうは言っても、敵が攻撃の手を緩めてくれる訳がない。

 避けることに精一杯で、反撃の糸口が掴めない。

 「箒、弾は?」

 「後、1発。撃つか。」

 南無三と、箒は物陰から飛び出して発砲した。

 駄目かと、諦めが付いたその瞬間!

 ドガガガガカガガガンッ!!!【【【0/20000】】】

 途轍もない発砲音と共に、上空にいたISが次々と叩き落とされる。落ちたそれらは、1箇所に固まって墜落していた。そこへ、最後の一機が落ちると、手榴弾が投げ込まれ一機残らず機能を停止した。

 勿論、この手榴弾は発砲前に投げられたものである。

 「・・・やったのはどなたかしら?」

 恐る恐るといった感じで、セシリアが物陰から這い出る。

 「私は弾切れよ。」

 セシリアの視線を受けた鈴は空の弾倉を振り、弾切れをアピールした。

 「・・・誰がこんなことを?」

 「知らん。だが、私達を殺る気なら、もう撃ってる。」

 ラウラが不思議そうにいい、箒が自身の考えを述べた。

 「おい、鈴!あれを見ろ。」

 数秒して、何かを指差しながら一夏はそう言った。

 その先にはグラサンをし、肩からアサルトライフルを下げた男が歩いてきていた。

 「落ち着け、みんな。」

 一夏が、動くなと全員に注意する。

 歩いてきた男は、一夏達と対峙するとグラサンを取った。

 「日本は狭いなぁ、鈴、一夏。」

 「御手洗じゃない!噂じゃ死んだって聞いたわよ!」

 鈴は両手を広げて、信じられないといった感じで彼をまじまじと見る。

 「それは俺も聞いた。調子はどうだ?」

 「まあまあね。・・・全部一人で?」

 辺りを指差しながら、鈴は更に尋ねる。

 「今は一人だ。知ってただろ。」

 御手洗は、つまらなそうにそう返した。

 「聞いてたけど、信じてなかったのよ。」

 「うん、信じたな。・・・学友か?」

 御手洗が鈴と一夏から目を逸らし、後ろにいた者達と目を合わせる。

 「えぇ、篠ノ之、セシリア、ラウラ、シャルロット。それに更識簪よ。」

 鈴がそれぞれを紹介した。

 「御手洗。」

 紹介されるや否や、ラウラがずいっと前に出た。そして、御手洗の匂いを軽く嗅ぐ。

 「お前は一匹狼というやつか?」

 「そう呼ばれてきた。(一夏と鈴が居なくなって)だいぶ丸くなったが。」

 その瞬間、山積みになったISを見た鈴は胡散臭そうにこう言い返した。

 「・・・そうでもなさそうね。別の噂を聞いたわ。あんた、マムシに噛まれたって?」

 「ああ噛まれた。その後5日間苦しみのたうち回って・・・・・マムシが死んだ。」

 「だろうな。会いたかったぞ数馬。」

 それでこそ親友だと、沈黙を続けていた一夏が前に出て、御手洗と固い握手を交わした。

 

 「こんな狭いところで何してるんだ?」

 感動の再会から少しして、一夏と御手洗は皆と少し離れた場所へと移動し話していた。

 「知ってるだろ?」

 「気が付いたらお前が居なくなってた。」

 「新聞読め。」

 『男性初のIS操縦者』と連日のように報道されていただろうと、呆れたような一夏。

 「興味ないな。」

 「んなことだろうと思った。・・・何でここに来た。」

 尚更ここへ来る理由が分からないと、一夏は尋ねる。

 「誰のものでもないISが飛んでいるのを見つけてな。あれは携帯の中の携帯だよ。売って大分稼いだ。」

 「出所を知ってるか?」

 「篠ノ之束ってヤツだよ。」

 「それは知ってるんだな・・・。」

 逆に俺の居場所を知らなかったのが不思議と、一夏は眉間に皺を寄せた。

 「生きて連れ帰るんなら人数が必要だ。」

 それは、捉えるのに人数が必要という意味ではない。荷物を運ぶのに人数が必要という意味である。

 「ああ・・・数馬、手を貸すか?」

 「悪いが一夏、俺は一匹狼だ。」

 「ああ、悪いな・・・。」

 言われてみれば、お前がつるんでいるところはほとんど見たことが無かったと、一夏は2度頷いた。

 「うん。じゃあ元気でな、一夏。」

 「ああ、また会おう。」

 踵を返し、颯爽と御手洗は去ろうとして。

 「そうだ一夏、忘れるところだ。」

 そう言って振り向いた。

 「?何だ。」

 「乱暴者の友に、友情の印を。今日は、弾の妹の学園祭だそうだ。」

 「中止って聞いたが?」

 まさか蘭に誤情報を掴まされたのかと一夏は思う。

 「学園と、生徒はそう思ってない。これが招待状だ。弾から預かった。」

 差し出された招待状を、一夏は受け取った。

 「そうか、分かった。ありがとよ、数馬。・・・そろそろ試合に戻らなきゃ。」

 「良いさ、ガンバッテー。」

 今度こそ、御手洗は立ち去っていった。

 一夏も、皆の待っている場所へと戻る。

 「・・・私、何を見逃したのかしら?」

 一夏が港合流すると同時にピットから楯無が飛んで出てきて、上空から辺りを見回し不思議そうに呟く

 「試合しながら語ってやる。さぁ、行こう!」

 

 え?試合?1回戦の一夏と箒が決着着かずで、日没コールドになりました。

 

 

 

 次の日の夜。一夏は学園の敷地内を歩いていた。

 「ん?織斑、散歩か?」

 そこで、千冬とばったり出くわした。

 「まあ、そんなところだ。」

 「迷子になったような顔だ。」

 「ほっといてくれ。」

 一夏が暗い理由。それは、招待状あったのにも関わらず、聖マリアンヌ女学院の学園祭の入場を拒否されたから。

 何も話さずその場より立ち去ろうとした一夏だったが、ふと立ち止まった。

 「・・・丁度良い。思い出したついでに言っておく。」

 「何を。」

 「家族のこと。」

 千冬が眉をひそめる。

 「なぜ。」

 「家族がいた。」

 「おい、一夏。夏バテでボケたのが私だけじゃないのは嬉しいが、奴らはもうあの世だろ。」

 一体いつのことを話しているのかと、千冬は呆れる。

 「妹がいた。」

 が、その一言で真顔になった。

 「・・・ソイツは可哀想に。」

 詰めが甘かったと千冬。

 「そう思うか?」

 「あぁ、思っている。」

 「俺もだ。」

 珍しく意見があった2人。

 「織斑、そっとしておいてやれ。」

 「心に誓おう。」

 「まだ心があるなら。」

 少し軽くなった足取りで、一夏は部屋へと戻っていった。




ちゃんと(コメントを)書けるよな?



では、年末(二週間後くらい?)にMAD版で会おう。


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第49話 E(えらい)O(漢らしい)S(装備ですね)

読者:(作Aが)死んでんじゃない?
作A:生きてるよ。


 放課後の食堂で、箒とセシリア、シャルロット、ラウラ、鈴の5人が、さながら圧迫面接のように簪を囲んで座っていた。

 「で、話しとは何だ?」

 「」

 凄みを利かせて話すラウラに、簪はすっかりと萎縮してしまいオドオドとしている。

 「そんなに威圧しちゃ駄目だよ。ね、簪さん。」

 「・・・。」

 見かねたシャルロットが、少し手遅れ気味だったが助け船を出す。シャルロットのニコッとした柔らかな笑みに、簪は少しだけ緊張状態から解放される。

 「そろそろ冷えたジュースに替えなさいよ。もう温いでしょ。」

 かれこれ10分以上この膠着状態が続いていて、厳密にはジュースは温くなったのではなく氷が溶けて薄くなったと言う方が正しい。

 「それで、答えは決まったか?」

 「・・・。」

 ちうーッとストローでジュースを飲み、喉を潤す簪。

 「話にならん!お前は唇にリップクリームと間違えて糊でも塗ったのか!」

 ここに来て、遂にラウラの怒りが暴発した。但し、威嚇用の声だけ大きいものだ。

 余計萎縮しちゃうでしょ。せっかく心を開き始めたのにと、心の中でシャルロットは泣いていたが、以外にも効果を発揮した。

 「!!わ、私は・・・何て言うか・・・。」

 「ハッキリと言え!」

 ボソボソとした声で以て結論を言わない簪に、ラウラが更にプレッシャーを掛ける。

 「そ、その、希望がないって言うと嘘・・・。けど、何て言うかそんなのでは・・・ない。」

 「何だ、ハッキリと言え。」

 「感謝は・・・してる。けど、そこまでしたいわけじゃない。」

 とても申し訳なさそうに、簪は答えた。

 「このやり方には馴染めない。」

 「・・・うん。」

 そうだろう。所かまわずドンパチする連中に、誰が好き好んで近付こうと言うのだ。

 「・・・。」

 「そうか。・・・気が向いたらいつでも来てくれ。待ってる。」

 そう言うと、ラウラは冷えたジュースを買いに向かった。

 

 

 この日、一年一組は身体測定を行う予定になっていた。しかし、時間になっても記録員が来ないため、一夏は待ちぼうけを食っていた。

 「織斑君、遅くなりました。書類の整理に時間がかかって――」

 そして、その記録員は山田先生でm入室した途端に遅れたことの言い訳を始めたため一夏からロケットランチャーをお見舞いされる。

 「待つのは苦手でね。」

 少しして、書類を持って千冬が入ってきた。

 「山田先生・・・。織斑、こいつはどうした?」

 真っ黒になり床で眠る山田先生を見て、彼女は顔をしかめる。

 「ここに来るなり、ばったり。夢の世界に旅立っちまった。」

 「んん。おい!山田君!起きないか、このぉ!」

 出席簿が山田先生の頭に高速で叩きつけられた。

 「あ、殺した。」

 「(残基に)予備がある。」

 すぐにAEDで運ばれてきて、山田先生にビリビリするような刺激をお見舞いする千冬。

 「はっ!こ、ここは?」

 「いつまで寝てる、さっさと測定席に着け!」

 「は、ひゃい!」

 千冬に脅しを掛けられた山田先生は、煤を払う間も惜しんで駆け足で記録席に飛び込む。

 「いいぞ、入ってこい!」

 すぐに一夏は、外で待っているクラスメイトにそう呼びかけた。

 「ん?測定って織斑君がするの?」

 「う、嘘!?」

 「ほ、本当だ!昨日の晩ご飯おかわりしちゃった!」

 その声で一夏であることに気がついたクラスメイトは、驚いたような表情で教室の中を覗き込み、各々が感想を言っていた。

 「安心しろ、少しの脂肪なら腕力で誤魔化してやる。」

 その中でも、少しだけ引っかかった呟きに一夏は丁寧に返す。

 「胴体真っ二つにならない・・・よね?」

 「さあな。」

 「「「」」」

 織斑筋がいかにヤバイかわかっている1組の生徒はそれを聞いた途端、一斉に口を閉ざしてしまった。

 「始めよう!山田先生。記録ミスをしたら、溶鉱炉で溶かすぞ。」

 「あ、ありえません・・・。たぶん・・・。」

 過去にいろいろと思い当たる節がある山田先生の言葉は、尻すぼみになっていった。

 「じゃ、行こう。」

 「はーい!一番!相川清香!入りまーす!」

 「相川、(臨海学校から)見ないうちに貫禄が付いたようだな。」

 元気よく(やけくそ&から元気)で飛び込んできた相川に、一夏は容赦なく現実を叩きつける。

 「そ、そう?織斑君は・・・随分と締まったみたいだね。」

 残念ながら、彼女には反撃の台詞が思いつかなかったようだ。

 「友の忠告だ。」

 「な、なに?」

 「ジム通った方がいいよ?」

 おっかなびっくりしていた相川に一夏は短くそう告げた。そして、しばらく沈黙。

 「・・・あのー、織斑君と相川さん。そろそろ始めて貰えませんか?」

 その様子を教室の片隅から見守っていた山田先生は、時間がないと恐る恐る一夏に催促を行った。

 「あぁ、悪かった。始めるぞ。」

 「お願いしまーす!」

 次の瞬間、相川の腹は太ももと大差のない太さまで絞り上げられる。

 「グエッ!」

 彼女は、堪らず声にならない悲鳴を上げた。

 「バスト65、ウエスト40、ヒップ80。次。」

 計り終えて一夏がメジャーを放す、と。

 「た、タイム。」

 相川の次に身体測定を待っていた生徒が前へ出て一時中断を要求する。

 「どうした。」

 「か、体がちぎれる。」

 「「「チェンジで!」」」

 「・・・そうか。」

 一部の例外を除いた全員がものすごい剣幕で迫り、流石の一夏もそれには逆らえなかった。いつになくしおれた一夏は、トボトボと教室から出て行く。

 「惜しかったな。あと一歩だった。」

 そして、出たところで箒から慰めの言葉を掛けられた。

 「あぁ、やり過ぎた。」

 「なに、また機会があるさ。」

 「お断りだね。」

 残念ながら、クラスメイトからは速攻で拒否されてしまった。

 

 

 

 それから数日後のこと。一年生合同の実習がアリーナで行われていた

 「おい、筋肉に自信のある手前ら。前へ出てこい。」

 生徒たちの前に立つ千冬の言葉で6人が自主的に、一人はラウラに首根っこを掴まれて引き摺られながら前へと出る。

 そして、相対すると真っ先に一夏が口を開いた。

 「何だ。」

 「先日の襲撃事件の迎撃(とその後のトーナメント戦)で、お前達がアリーナを滅茶苦茶にしたな。よって、当分の間ISの使用を禁止する。」

 「そうか。いつも通りだな。」

 ISを使ったことは数えるほどしかないと、上の無知さをあざ笑う一同。

 「で、何をさせるつもりだ?」

 わざわざ呼び出したのだから雑談だけじゃないはずだと、一夏は話しを切り換える。

 「あぁ。山田君、頼むぞ。」

 「はい!じゃあ、こちらに注目してください!」

 一人テンションのお高い山田先生。誰も触れない。

 「何が入ってるか知ってるか。」

 「悪いが知ってる。」

 「まあ、そうだろうな。」

 そして、一夏達はと言うと面倒くさそうにそれを眺めていた。

 「黙ってろ。」

 それを千冬が一蹴したところで、山田先生がロックに手をかけた

 「はい、では、オープン・セサ――」

 「焦れってぇ!さっさと開けッてんだこのぉ!」

 しかし、この男はそれを待ってやるほど気は長くない。いや、暇ではない。

 「やっぱりEOSか。」

 感慨深そうに箒が呟く。

 「おぉ、ハニー。」

 「ようやく筋トレ道具のお出ましだ。」

 躊躇することなく一夏と箒、ラウラはコンテナの中に進んでいく。

 「鬼に金棒ってヤツ?」

 「そうだ。乱暴者の生徒に、友情の印を。・・・乗れ。」

 鈴がぼやくと、千冬が頷きながらそう答えた。

 「ありがとよ。」

 EOSをコンテナから出すと、七人は黙々とそれの装着を行う。シャルロットとセシリア、それから簪以外の者達の手つきには一切の迷いがない。

 「馬鹿なこと聞いて悪いが、ISの時よりフィットしてないか?」

 「バッチリだ。余計な補正がないお陰で、乗りやすい。」

 手や足を動かして、一夏が操作性の確認を行う。箒やラウラも、同様の確認を行っていた、

 「じゃ、山田先生。その他の生徒の指示は任せた。」

 千冬の言いつけに、山田先生は晴れやかな表情で「はい!」と返す。まあ、一夏達の内の誰か一人を相手にすることを考えれば、残りの生徒全員を相手するなど朝飯前のことだ。

 「手前ら、並べ。」

 少しして、七人に千冬が集合をかけた。

 「何をさせる気だ?模擬戦でも使用ってのかい?」

 「そうだ。文句でもあるのか?」

 「クラシックに?」

 やりたくてウズウズしていたといった感じで、一夏が火縄銃を取りだした。それは、クラシックっというより骨董では?

 「織斑、それはよせ。デュノアとオルコットと更識が死ぬ。」

 そこには触れず、もとい気が付くことなく千冬はスルーした。

 「そうか。じゃ、何でする。」

 「ペイント弾。」

 背中側に隠していた一丁の銃を、彼女は顔の横に構える。

 「おいおい、ス○ラトゥーンごっこでもさせる気かよ。」

 いくら筋肉馬鹿とは言え、一夏はそこそこゲームを嗜んでいる。まあ、主に弾のせいではあるが。

 「なに、楽しいアート製作だと思えばいい。」

 「報告書は?」

 「山田先生で。」

 「OK。始めよう。」

 責任の所在を明らかにしたところで、一夏達はアリーナの中央に向けて歩いて行く。

 「お、重い。」

 「動かしづらいですわ。」

 「これ・・・重すぎる・・・。」

 まあ、思うように動けていないものが三人ほどいた。それがデュノアとセシリアと簪であるのは言うまでもないだろう。

 そんな三人の前で、一夏を始めとする四人が戦闘を開始する。

 「ば、化け物ですわ・・・。」

 「僕もそう思う。・・・一夏達って、本当に何者?」

 〈やっぱり、断ろうかな・・・。〉

 その速度は途轍もない高速で、ISに勝るとも劣らない。三人はアリーナの隅の方で立ち尽くすしかない。

 「大佐ァ!その程度ですか!?」

 「今行くよ!」

 「っく、流石だメイトリクス!」

 「その呼び方は止せ!」

 突如、途方もない量のインクが途轍もない威力で以てラウラに降り注いだ。一夏の放ったそれに、彼女では耐えきることができる筈もなくあえなく沈黙する。

 

 「やるじゃない篠ノ之!」

 その一方で、箒と鈴は五分五分の戦いを繰り広げていた。

 正しく言うのであれば、鈴がちょこまかと逃げ続けていたから消耗率が五分五分なのである。

 「来いよまな板。怖いのか?(ペイント)銃なんか捨てて、かかってこい!楽に倒しちゃつまらんだろう。ナイフを突き立て、私が苦しみもがいて、転がる様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのかまな板!」

 流石に痺れを切らして、箒が挑発を開始する。

 「てめぇを殺してやる!」

 禁句を連発され冷静を欠いた鈴は、怒りに任せて箒へ突進した。

 が、いとも簡単に夢の世界へと旅出たされてしまう。仕方ないか。

 「こいつを仕留めるなら、怒らすのが一番だ。」

 「あぁ、全く。」

 「じゃ。」

 「始めるか。」

 「「アート作品(ペンキぶちまけ)の製作を!」」

 そこから、一夏と箒が壮絶な撃ち合いを開始する。それまでのぶちまけが、まるで下準備とでも言わんばかりの勢いである。

 「デュノア!邪魔だ!隅に避けてろ!」

 流石に一夏との撃ち合いとなれば、器用に何かを避けて撃つなどという余裕があるはずもなく、シャルロットは頭からインクを被る。それでも、威力だけは何とか落とせていたようで彼女はカラフルになっただけで済んだ。

 「セシリア!俺の射線を開けろ!さもなきゃインクで(金髪ドリルを)吹っ飛ばすぞ!」

 それは一夏も同様で、彼もまたセシリアに誤爆(?)を行う。

 〈わ!速く逃げなきゃ!・・・ど、どこに?〉

 が、最も動きの悪い簪だけは一夏と箒の両方からのインクが同時にヒットした。

 「「悪い、簪。少し避けててくれ。こっちは(山田先生を忙殺するので)忙しいんだ。」

 「」

 だが、簪がまだまだ未熟なのは二人も理解しているので、先の二人のように責め立てるような言葉は掛けなかった。

 

 「はーい!授業を終わりまーす。」

 「終わりィ?EOSに乗せといて、もう(EOSが)クビかよ。」

 暴れたりないと言った感じで、一夏が山田先生に詰め寄る。

 「ええ、片付けを・・・ア゛イエ゛ェェェェェェェェェ!?!?!?何ですかこれェェェェェェェェ!?!?!?」

 この次も授業ですよと言おうと振り返った山田先生は、アリーナの惨状を目の当たりにして動揺を隠せない。

 「現代アートだ。」

 それに対して、一夏は淡々と返す。

 「これは・・・〈*自主規制〉あたりかしら?」

 「現代アートはお好き?」

 「ええ、ゾッコンですよ。」

 しかし、悪魔のささやきに山田先生はうっかりと答えてしまった。

 「ソイツは良かった。じゃ、片付け任した。」

 しまったと思ったときには後の祭り。一夏や箒は勿論、その他の筋肉集団も一瞬にしてアリーナから消え去った。

 「あぁ!織斑君、片付けは手伝って!・・・篠ノ之さーん・・・いないですね。オルコットさーん・・・いないのか。デュノアさーん・・・もいないのか。更識さーん・・・は二年生か・・・。」

 どこぞのコピペを彷彿とさせる言い回しで山田先生は呟いたが、実は一人だけアリーナに取り残されていた。

 〈忘れられてる・・・?〉

 そう、簪である。専用機持ちの中で、ただ一人逃げ遅れた彼女ではあったが、その存在に山田先生は気がつくことができなかった。




許してくれ!本当に書いている時間がなかったんだ!
ついでに言わせて貰うと、MAD版も書く時間が取れていねえ!春の陣をやるとかいって大口を叩いたが、2回とできる気もしない!許してくれ!
OK?


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第50話 子守は得意じゃない

B コメントがたまってるぞ
A 読者がコメントをくれているのは分かっている・・・(今の)俺には返信ができないが



※コメントは読んでます!もう少し待っていて下さい!


 その日、倉持技研の正面玄関前に、髪は濃紺、身長170cm、白基調の服を着た筋肉モリモリ、マッチョマンの、そらもう大物の変態が立っていた。

 〈ここがそうか。走ってくるにはちと遠いが、いい運動になった。だが・・・面倒だ。〉

 

 それは、遡ること3日前の夜。

 「織斑君、倉持技研からオーバーホールの――」

 「そうか、日時を・・・あぁーめんどくせえ!任せた!」

 一夏が食堂でくつろいでいると山田先生が現れ、またIS関係の持ち込んできたので大気状態の白式を山田先生に投げつけた。

 「グエッ!?」

 「・・・分かったよ。」

 だが、山田先生では白式を持ち上げることが叶わず、一夏が自分でその用を済ませる必要ができてしまった。

 

 そして今に至るというわけだ。

 「ドアノブがないな。・・・OK!」

 正面玄関のガラスでできた大きなドアが自動式であることは一目瞭然だったが、正面に立っても反応を示さなかったため一夏はロケットランチャーでドアの周辺ごと吹っ飛ばす。

 「ん~少年、イイ威力だ。」

 直後、声を掛けられる。近くに人がいたことは承知の上での行動だ。

 「そう思うか?」

 一夏が振り向いてみると、そこには首と腹の部位にバリィボールを二つ詰め込んで、それでいて服装は水着という奇抜この上ない女性が立っていた

 「もう少し派手な方が好みかな。」

 「俺もだ。」

 (クレイモア)をちらつかせ、手加減していたことを一夏はアピールする。

 ほどなくして、建物の中から爆発音を聞きつけた研究員らしき男性が駆け足で出てきた。

 「あぁ!?所長!何やってるんですか!!」

 彼は瓦礫の山と化した玄関を見るなり、奇抜な女性を叱りつける。

 「いやいや、私じゃなくてこの少年が――」

 「いい大人が責任転嫁しないでください!で、君が織斑一夏君だね?大丈夫だっ・・・大丈夫そうだね。」

 一夏を知らないからこういう反応なのか、知っていた上でこの女性がやらかしまくっているのか。が、話しを紛らわしくすることもないだろうと一夏は傍観に徹する。

 「あぁ、早く案内してくれ。不審者の子守は得意じゃない。」

 しかし、いつまでもそのやり取りを見ているのも暇だったので、話題を切り換えて話しを断ち切る。

 「すまないね、所長は見ての通り変態で。」

 「私は変態じゃない!」

 男がそうディスると、間髪を入れず女性がモリを投てきした。

 幸か不幸か、男はしゃがむことでそれを回避。お陰で、一夏目掛けて一直線に飛んでくる。

 「今度投げてみろ。・・・殺すぞ。」

 もっとも、ご自慢の反応の良さで難なくキャッチした。まあ、当たってもかすり傷にもならないだろうが。

 「悪い悪い。しかし、少年、イイ反応だったぞ。それより、私の部屋でイイコトしないかい?」

 「断る。」

 内容は速攻で察しがついたので、キッパリと断る一夏。

 「ババ抜きとかさあ?」

 「二人でか?抜いてる暇もねえよ。」

 「じゃあ――」

 「所長黙ってください。申し訳ないね。少し待ってて貰うようになるけど、冷えたジュースでも飲みながら待ってて。」

 そこへ男が割り込み、一方的な会話を強制的に中断させた。

 「あぁ、できるだけ早くしてくれ。」

 そういうと、瓦礫を乗り越えて建物の中へ進む一夏。それを追いかけて来る、ずぶ濡れの女性。

 「所長!体拭けッてんだこのを!」

 そう言って女性にタオルを投げつける。

 「ヌハハハ!気にしたら負けだ!!」

 「後で掃除しなくちゃいけないでしょうが!」

 「そうかそうか。では乾くまでここにいよう!」

 「どれだけ時間を――」

 「すぐ乾かしてやるよ!」

 埒が明かないと判断し、一夏は火炎放射器を女性に向けて発射した。

 「これで乾いた。」

 「おぉ、いい感じだ。採用するよ、織斑君。」

 丸焦げになったそれを見ながら、二人は腕を組んで頷く。

 「少年。女性はもう少し優しく扱うものだ。」

 軽く咳き込みながら、炭がそう話す。

 「そうか、心に誓おう。」

 「心はあるのかい?」

 「実を言うと持ってない。」

 気が付けば、火炎放射器は一夏の手から消えていた。

 「ふははは、そう言うと思ったよ。」

 「分かったなら、早く来てくれ。」

 「ういー!すぐ行くから待っててナー。」

 炭とは一度分かれて、一夏は単独で移動を開始した。

 

 それから待つこと30分。

 「お待たせ、待った?」

 着替えを済ませ、白衣を纏って女性が戻ってきた。もう炭ではない。

 「遅刻だ。」

 時計を見ながら、彼は投げやりに答えた。

 「少年、一つ教えておこう。女性に待ったって聞かれたら、今来たところだって言うものだよ!」

 そんな一夏に、女性は紳士の心得を説いた。それが、馬の耳に念仏であると疑うこともなく、だ。

 「本当にそうか?」

 「?」

 故に、一夏の反論の真意を全く想像できない。

 「少なくとも俺の知り合いには、そんなヤツはいない。」

 「それは君が思っているだけさ。乙女の美学を分からないやつはモテないぞ?」

 「それで結構。初めてくれ。」

 別に一般常識は求めていないと切り捨てると、一夏は待機状態の白式を機械の上にセットした。

 「ふーん、張り合いがないナァ。」

 「そいつは、お互い様だ。」

 そう言うと、一夏はドカッとソファーに腰掛け首を回す。

 「そう言えば、挨拶がまだだったね。私の名前は――」

 「篝火ヒカルノ。倉持技研、第二研究所で所長を務める。違うか?」

 「んー、惜しい。少し足りない。」

 「千冬姉と天災の同級生ってことか?高校の。」

 目を瞑ったまま、面倒くさそうに追加の情報を話す。

 「良く知ってるね。どこで仕入れた情報?」

 篝火は、それでも特に驚くと言うこともなく作業を開始する。

 「手先をチョチョッと動かせば、この程度の情報は手に入る。・・・知り合いが言っていた。誰だったかな。忘れちまった。」

 「まあ、いいかぁ。それよりもISだね。どれどれ・・・セカンドシフトしたって聞いてたけど、まさかここまで変化するかなぁ?」

 しかし、ISの解析を始めると彼女の興味は一夏からISへと一瞬でシフトした。

 「あぁ、重くて使い物にならない。全部取っ払っちまってくれ。」

 火力馬鹿ではあるが、固定砲台に用はない。厳密に言うのであれば、持ち運べないほど重い固定砲台に用はないである。

 「んーダメージの蓄積は・・・ないね。使った?」

 「2~3時間ぐらいは。」

 「」

 そこまで使われていないのは予想外だったようで、篝火は返す言葉が思い付かなかった。

 「取り外せるか?」

 「できるさ。こっちの技術者を総動員してやるよ。」

 我々にできないことはない、と彼女は断言した。

 「どのくらい掛かりそうだ?」

 「明日までには余裕っしょ。完徹するからね。」

 「あぁ、余裕だな。帰って良いか?」

 ここはやることがなくて暇すぎるからと、一夏は出口を指差す。

 「ン~?ISがなくてもいいなら。」

 「永遠に持っててもいいぞ。・・・暇なら明日取りに来る。」

 思わず本音を漏らした一夏だったが、流石に取り外して貰うのにそれは失礼と思ってすぐに訂正したのだった。

 

 「かったるいわ。」

 一夏が倉持技研で面倒な研究者の子守をさせられているのを知ってか知らでか、IS学園の食堂で鈴が何の脈絡もなしに呟いた。

 「鈴、どうしたの?」

 その呟きに、一緒に食堂へ来ていたシャルロットが首を傾げて尋ねてみる。

 「シャルロットは分からない?」

 「?」

 鈴がいつになく怠そうなのを見てもなお、彼女には何が何やら検討がつかず、首の傾けた角度がさらに大きくなる。

 そして、その答えは鈴が言うまでもなく彼女の知るところとなった。

 「非常シャッターが!?どういうこと!?」

 突如としてシャッターが閉まり、外からの光が遮断されたのだ。辺りでは、生徒達が動揺して軽いパニックが起きかけていた。勿論、一組の生徒に限っては、堂々とお喋りに励んでいるが。

 「避難訓練の話は聞いてないし・・・。何かしら?」

 シャルロットも大分この手の非常事態には慣れたお陰でわめき散らすといたことだけは回避していた。そして鈴は、相変わらず呑気にジュースを飲みながら感想を述べる。

 「よ、余裕だね。」

 「少し黙ろ、このオカマやろう。べらべら喋りやがって。千冬さんから指示が出るわよ。」

 直後、計ったように無線から千冬の声が聞こえてくる。

 『聞こえるか?専用機持ち。地下のオペレーションルームに集合しろ。マップを送る。各自で確認しろ。極力()()は壊すな。OK?』

 「どうしよう・・・。」

 それだけ言って通信が切れてしまい、転送されてきたマップにはルートも何も表示されない。これでは何の手の打ちようもないと、シャルロットはオドオドする。

 「遅れるわよ、急ぎなさいって。」

 しかし、鈴はいつも通りであった。

 「行くって、どうやって!?ドアは全部閉まってるよ!?」

 どうせまた出たとこ勝負だろうと思ったシャルロットは、少しパニックに陥りかけていた。おい、専用機持ちだろしっかりしろ。

 「こうやるのよ!」

 オーバーアクションを取るシャルロットを他所に、鈴は甲龍を展開して床を撃ち抜いた。

 「こ、壊すなって織斑先生が!!」

 まさか鈴は話を聞いていなかったのではと、シャルロットはこの後のことを考えて自身の血の気が引いていくのが分かった。

 「『ドアは』でしょ?床と壁は言ってなかったわよ。」

 「」

 嘘でしょと、シャルロットは目を見開いた。

 「時間がないわ。行くよ!」

 「あ!?ま、待って!!」

 そうして硬直していると鈴に抱えられ、急に重力が消えたと思ったときには自由落下を開始していた。

 「ギャアァァァァァァ!?!?!?」

 「楽しい?」

 「もうごめんだよぉぉぉぉぉ!!」

 しかし、シャルロットの叫びは虚しく消えていった。これも筋肉式に慣れたせいなのか、彼女の頭の中にISを使うということは全く浮かんでこなかった。

 

 「更識姉妹。折角の友情を壊したくないが、20秒の遅刻だ。」

 時計を指差しながら、千冬はそもそも設定していない制限時間の話を始めた。

 「これでも早いほうです。と言うか!みんな学校を壊しちゃ駄目でしょ!織斑先生が言ったじゃない!」

 しかし、楯無のその叫びに同意を示したのは簪だけであった。まあ、シャルロットは放心状態になっているのだが。

 「私はドアを壊すなと言った。違うか?」

 「違いが分かりません!」

 「そうか。では教えてやる。ドアは可動する。修理が面倒だ。だが、壁や床はどうだ?所詮鉄筋とコンクリでできている。直すのは容易い。」

 「ケーブルとか切ったらどうするつもりなのですか?」

 「何だ?お前たちは壁の向こうに何があるかも分からないのか?」

 「「」」

 最早次元が違いすぎると、まだ一夏達の所業に慣れていない更識姉妹は愕然とする。

 「時間が惜しい。状況を説明する。クラッキングされた。」

 IS学園は世界一のセキュリティーシステムと謳っているが、一夏とその仲間達は誰一人としてそれを信じていないので誰も驚かない。更識姉妹は、先ほどから驚き続けで麻痺していて、これでは驚かなかった。

 「そりゃ大変ね。」

 「あぁ。どうせあのアホの仕業だ。どうせ中身自体はクソほどもねえ。」

 「それより、侵入者の方が問題だな。」

 「「「!?」」」

 今到着した山田先生を含め、三人が目をパチクリさせる。

 「何を驚いている?」

 「お、織斑先生。今侵入者って・・・。」

 恐怖に手を震わせ、山田先生が尋ねる。

 「あぁ?前から潜水艦で潜んでたろ。知らないのか。」

 「初耳です!何で言わないんですか!」

 「ぼ、僕も初耳です!」

 簪も首を縦に振ってシレッと加わる。楯無は、潜水艦の方は捕捉していたので驚かなかった。

 「新聞読め。」

 「書いてないですよ!」

 「そうか。では更識簪、デュノアはクラッキングの対処に当たれ。鈴はここに残ってこいつらの子守だ。」

 現地に送ると足手纏いになると判断して、千冬はその二人プラス護衛に鈴を残す采配を下す。

 「「・・・え?」」

 「得意じゃないけど、しょうがないわね。」

 まさかハッキング要員に充てられると思っていなかったのか、シャルロットと簪は呆然とする。まあ、この二人以外は対処の方法が物理になってしまうので最善である。

 「残りは私と侵入者狩りだ。行こう。」

 右手を振って千冬が通路へのドアをくぐろうとすると。

 「教官!」

 ラウラに呼ばれた。

 「先生と呼べ!」

 「ハッ!織斑先生!奴らの場所が分かりません!」

 それには他の全員が頷いており、ラウラの情報が遅れているというわけではない。と言うか、侵入者の場所が分かっているならそもそもこんな大勢は必要ないわけで、招集を掛けた本当の理由は。

 「学園が無駄に広いせいで私にも分からない。手分けして探す。篠ノ之、お前は区画(仮称)1、オルコットは2、ラウラは楯無と組んで広い3に行け。私は4に行く。」

 と言うわけだ。つまり、珍しく人海戦術を展開するというのだ。

 「歓迎してやれ。七面鳥を撃ちに行くぞ。」

 その声とともに、シャルロットと簪、それから山田先生を残してその部屋から誰も居なくなった。




B ここから撃って(コメントに)当たるかなぁ・・・・・?
A こんな作品を(朝の四時半に)読みに来るヤツはいない!
B 組合員は来る!


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第51話 ようこそ!IS学園ドッタン☆バッタン☆大騒ぎ!

気まぐれに、何でもない平日の早朝の午前6時から30時までオープン!誰でも見られる。


 ラウラと楯無は、千冬に指示された区画(仮称)3へ向けて進行していた。

 「おかしいわね・・・。」

 その道中、楯無がしきりに携帯端末を操作しては砂嵐の画面を開いてそう呟いた。

 「何がだ?」

 その呟く声が大きかったので、構って欲しいのかと思ったラウラは怠そうに声を掛ける。

 「カメラが写らないのよ。」

 「そうだろう。停電しているのだからな。」

 バックアップの非常電源システムを当てにしたのが大間違いと、彼女は吐き捨てるように言った。

 「違うわよ。私個人で仕掛けていたのよ。バッテリーが切れたのかしら。」

 「切れたらさっさと入れろ、この間抜け。」

 また初歩的なミスをやらかしたのかと、うんざりした様子のラウラだったが。

 「でも、昨日しかけたばかりなのよ。」

 それを聞いた瞬間に、コロッと態度を変える。

 「・・・お前のか?」

 そういって差し出したのは、カメラセットであった。

 「いつの間に・・・。」

 「変な電波が飛んでいたから、テロリストのものかと思って取り外した。三時間前の話しだが。」

 「」

 楯無は、まさかラウラ(一夏たち)が電子系も強いとは思っていなかったこともあり、このことを知らせていなかった。それが裏目に出てしまい、彼女は愕然とする。

 「ん?どうやら、私達はついているぞ。近いな。左か?いや、右からも音がする。どっちがいい。」

 しかし、のんびりするほどの時間は与えてもらえない。ラウラが戦闘態勢に入った。

 「じゃ、右で。」

 耳を澄ましてみると右は分からなかったが左からだけは少しだけ音が聞こえたので、楯無は躊躇なくそちらを選んだ。

 「分かった。後で会おう。」

 

 楯無と分かれて五分が経過した。音は徐々に近く大きくなっていき、ラウラが腰のナイフに手をかけた瞬間だった。

 「んん!?大佐!ここで何を!!」

 マンホールを開けて出てきたのは、なんと一夏であった。

 「帰ってきても出迎えはなし。シャッターを壊そうにも、こういうときに限ってISもロケットランチャーも持ち合わせてない。素手でやっても良かったが時間がかかる。仕方ないから、側溝に飛び込んでここまで来たんだよ。」

 「なるほど。」

 マンホールをきれいに戻し、服のほこりを払いながら彼は説明した。

 「ところで何の音だ?・・・銃声か。サプレッサーを使っているな。」

 「!大佐、生徒会長のヤツが行った方向です!」

 ハッとした様子で、ラウラが状況を・・・というか現状だけを告げる。勿論、言わずとも理解しているということが明らかだからだ。

 「携帯を持ってるだろ?大丈夫だろ。」

 「そうでした。」

 ISの駆動音は聞こえないし、一人でも十分であると判断を下した。

 「まあ、行ってやるか。」

 意外な行動に思えるが、それは楯無を心配したらではない。ただ暴れたいから向かうのである。

 

 その頃、楯無は必死に応戦していた。

 「もう、何で私ばっかり外れを引くのかしら!」

 消音機の付いた銃が、『パスッ』とか『プシュッ』とか、しょっぱい音でBB弾(当社比)を撃ってくる。

 それは、たがわず楯無の体に命中していたが、彼女は痛がる様子がない。それもそのはず、それは楯無ではなく・・・。

 「残念、水よ!」

 彼女の分身であるからだ。

 「ポチッとな!」

 「「グアァァァァァァァッ!?!?!?」」

 直後、その分身が大爆発を起こし、近くにいた侵入者2人がものの見事に吹っ飛ばされる。

 「クリア・パッションの威力はどうよ!ロケランの比じゃないわよ!!」

 ヤケクソ気味の楯無であったが、頭は冷静だった。

 「撃て!撃てェ!!」

 消音装置にもう用はないと言わんばかりに、堂々とマシンガンを乱射してくる侵入者。楯無は、じっと息を潜める。

 「撃ち方やめ!・・・隠れん坊かよ!ようしイイだろう、付き合ってやる。見て来いカルロ(仮)。」

 楯無が出てこないのを不気味に感じたのか、隊長らしき男が部下に指示を出す。ほどなく、かすかな足音が近付いてきた。

 「行くわよ!楯無ファイブ!!」

 刹那、5人の楯無が物陰から飛び出した。

 「うわぁぁっ!?」

 パニックに陥る侵入者。

 「!?!?二手に分かれろ!油断するな!」

 二手では全然対処しきれるはずもないのだが、それ以上には散会できないための苦肉の策。もっとも、それは愚作であったが。

 「うわぁー!?」

 「こいつ!爆発する!!た、隊長!!」

 「!?こっちにもいるぞ!」

 「逃げるぞ!!退け!?退くん――」

 「「うわぁぁぁぁぁ!?!?!?」」

 纏まっていないことで爆発の威力が隅々まで行き渡り、侵入者はたちまちに片付けられてしまった。

 

 楯無が侵入者と戯れていたその頃、千冬はというと。

 「っく!!・・・ブリュンヒルデ!?生身で来るとは、本気か?」

 ISを装備した侵入者との戦闘に入っていた。

 「悪いな。まだ、ウォーミングアップ中だ。」

 敵の質問に挑発で返し、手首や足首を軽く回してさらに煽る。

 「・・・。」

 「どうした。一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう。来いよ。怖いのか?」

 「今行ってやる!」

 余裕そうな表情に、ISの操縦者は痺れを切らして突っ込んだ。

 

 因みにだが、箒はというと。

 「・・・・誰も居ないではないか。外れか。」

 ただ学内を散歩しているだけだった。

 

 一方、最初の部屋に残されたシャルロット&簪は、電脳世界へとダイブしていた。

 まあ、ダイブしたのはシャルロットのみで、簪はオペレータをしているのだが。

 「うーん、凄い学校だね。さっきの部屋の耐久構造なんて、核シェルターの比じゃなかったし。」

 電脳世界へと入り込んだシャルロットは、自分の感覚を確認しながら簪とおしゃべりをしていた。

 『・・・私も・・・それは見た。』

 同意を得られ、彼女は「ねー。」っと短く返した。

 「・・・でも、何だろう。鈴とかラウラとか、篠ノ之さんに至っては竹刀で破壊しちゃうし・・・。本当に人間なのかな?」

 『それは・・・間違いない。』

 間違いないとは、生物学的に人間であると言うことを肯定してのものである。

 「はー・・・。じゃあ、僕らもやろうか。何をすれば良いの?」

 確認を終えて、いざ作戦に取り掛かろうとしたときだった。

 「参ったなぁ、急がないと。」

 わざとらしく懐中時計を見つめながら、白ウサギが一羽、彼女の目の前を通り過ぎようとした。

 『捕まえてもら・・・そいつを捕まえて!!』

 いつもは大人しい簪が大声を出した。

 「えぇ!?こ、これ!?」

 その変貌振りに、シャルロットは少したじろぐ。

 『早く!』

 「分かった!」

 刹那、シャルロットのホログラムがかすんだかと思うと、次の瞬間には白ウサギを右手で鷲づかみにしていた。

 『』

 「これでいいのかな?」

 『・・・シャルロット。・・・・・あなたも大概人間じゃない。』

 システムの速度を大きく上回ったシャルロットの反応と移動速度。簪は、大きな衝撃を受け、そう感想を述べた。

 「えぇ!?」

 そして、その称号を授けられたシャルロットは、まさか自分が筋肉識に染まっているなどとは一ミリも思っていなかったために、驚愕して立ち尽くした。無論、右手の力を抜くことなくである。

 

 そして、後ろから楽しそうな話し声の聞こえてきた子守中の鈴はというと・・・。

 「ちょっと!誰も来ないじゃない!暇!!一人ぐらい、ここまで抜けて来なさいよ!へたれ!!」

 侵入者に向けて、護衛らしからぬ暴言を吐いていた。

 

 再び、一夏とラウラに話は戻る。

 「この部屋なんだ?分かるかラウラ。」

 2人は音を頼りに進んでいるために、実際に学内のどのあたりを進んでいるのかいまひとつ理解できていなかった。

 ゆえに、この様である。まあ、非常時には壁をぶち抜きながら進むのが普通なので、問題ないといえば問題ない。

 「いえ!知りません!」

 仕方ないと、取りあえずドアを開けてみる。理由は、中から物音がするからだ。

 「激アツ!大当たりです!!」

 ドアを開けた瞬間、中から大声がしたかと思うと、数秒の間をおいて弾丸の雨が一夏たちのいた場所を襲った。そう、『いた』場所を

 「遅い、これが本当にバルカン砲か?」

 「ラウラ、戦闘機の乗りすぎだ。ガトリング砲だ。」

 「!そうでした。」

 撃ち始めたときには、既に山田先生の操るクアッド・ファランクスの銃身のところに立って放物線を眺めていた。

 「お、織斑君とボーデヴィッヒさん!?」

 「山田先生!そのクソッタレガンを寄越せ!俺の気が変わって、クアッド・ファランクスを剥ぎ取る前にな!」

 バキッと嫌な音を立てて、ガトリング砲が一門もぎ取られる。まだ回転中の砲を、である。

 「あぁ、報告書が!!」

 山田先生が悲鳴を上げたのは、言うまでもない。

 

 一夏が武器の仕入れを済ませたころ、千冬はまだIS相手に遊んでいた。

 ゴスッと重い音を立てて、パンチがISの装甲にダメージを入れる

 「いい加減にして貰おう。」

 急に、ISのパイロットが口を開いた。

 「何を?」

 「貴様!素手でISと殴り合うなど常識的じゃない。非常識。」

 「そうか?」

 押されているから苦し紛れに放った言葉と言うのは明らか。

 「・・・目的は無人機の残骸とコア。それから白式だろう?」

 千冬は、相手の目的を知っているので、わざと時間稼ぎをしてイラつかせていた。

 「そうだ。場所を吐いて貰おう。」

 「第一倉庫の中だ。」

 ISが銃を展開して千冬に銃口を向けた。無駄な動作だと何故分からないのだろうか。

 「あ、職員室の机の中にしまったかも知れないな。」

 しかし、ISはそれを聴いた瞬間、銃口をわずかに逸らす。

 「どういうつもりだ?」

 「いや、道義心に駆られて意地悪なIS委員会からISを持たせてもらえない貧しい国に配っちまった記憶もあるな。」

 「・・・貴様!」

 遊ばれていることにようやく気がついて、ISのパイロットは銃を構えなおした。だから当たらないって。

 「吐かしたきゃ、力ずくでやってみろ。」

 「ふん、その強気がいつまで持つか楽しみだ。」

 まだ攻撃が髪の毛にさえ掠っていないのに、これだけ強気でいられるのはISの絶対優位を信じて疑わないからだ。

 「私には特殊部隊がバックについている。それでもまだ、生身で挑んでくるか?」

 「部隊?もう、ほとんど残ってないだろ。」

 『』

 そこで、目の前の千冬のことも忘れて無線機に耳を傾ける。待てど暮らど、一切応答がない。

 「・・・ヤロォー、ブッコロッシャァァァァァァ!」

 ISが銃を投げ捨てた。撃つだけ無駄と気がついたのではなく、単に怒りに任せてではあるが。

 そして、その隙を突いて千冬から一発お見舞いされる。

 「ISなどに乗るから動きが鈍くなる。クラシックが一番だ。」

 不意に、千冬が明後日のほうに視線をやった。

 「っく!ふざけやがってぇ!日本人(モンキー)がぁ!」

 好機だとばかりに、ISのパイロットは千冬に右ストレートをお見舞いした。

 刹那、バンッという音が聞こえ、千冬は吹き飛んでいく。

 「どうだ!ISを甘く見たな。」

 「あぁ、いいパンチだった。お陰で距離が取れたよ。」

 が、受身を取るとか痛がる様子はまったくなく、それどころか先ほどよりも元気になっている。

 「何?」

 数秒後、地鳴りのような音が、廊下へ不気味に反響し始めた。

 「一夏!」

 「OK!」

 その声に合わせ壁が崩落したかと思うと、その瓦礫を超えて一夏が25mmの7連装ガトリング砲を小脇に抱えて登場。

 「(ISの絶対防御から)出てこいクソッタレ!」

 豪快にぶちまけ始めた。

 ISをもってしても反動制御で手一杯なそれを、4分の1とはいえ小脇に抱えて撃たれてはISのパイロットも堪ったものではないはずだ。少しずつ押され、彼女はうめき声を漏らす。

 「っく!?」

 10秒後、弾が切れてガトリング砲は沈黙する。

 「弾切れか!ざまあ見ろ!モンキーが調子に乗るか――」

 それで打ち止めと思ったISのパイロットだったが、それはかすかな希望から出た言葉だったのかもしれない。そして、誰が足元にクレイモアを埋められていると想像できるだろう。

 「IS学園へようこそ。」

 一夏の声を聞きながら、ISは重力に引かれるがままに床へ倒れた。




Q 一体いつ寝てるんだ?
A 俺もそう思ったぜ。目が覚めたらショールームのバスタブに頭突っ込んで寝てた!


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第52話 いたぞ!いたぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!

作品の投稿なら文句も言わずに我慢するけど、そら、いっくらキツくてもコメントが来るからなあ


 一夏の戦闘からすこし時を置いて、楯無は交戦を終えていた。

 彼女はパンパンと手を払い、腰に手を当てて辺りを見回す。

 「こんなところね。・・・・やった片づいたわ。さて、行きますか。」

 楯無は最初の集合場所に戻ろうとした。

 〈こ、この程度のことで・・・。〉「化け物めぇぇぇぇぇ!!」

 それは踵を返したときのことだった。

 パシュッと音がすると同時に、鈍い痛みが体を駆け巡る。

 「隙を見せたなぁ!!」

 勝ち誇ったように侵入者がこぶしを突き上げた。が。

 「ちょ!痛っ!?痛っ!?いきなり撃ってくるなんて、マナーがなってないわよ!何様か知らないけど、暴行罪で訴えるわよ!」

 「!?!?」

 楯無はピンピンしていた。それも、撃たれる前より少し元気なくらいに、だ。

 「あぁ!!プラズマカッター!持ってるなら最初から持ってるって言いなさいよ!」

 「」

 さらには目配りの次元も上がっており、背中へ隠したはずのそれを見抜かれてしまう。

 「ちょっと、モルヒネとか持ってないわけ?痛いんですけど。」

 直後、侵入者たちはヒソヒソと会話を行う。

 「武器を捨て投降すれば渡してやる。」

 「しなかったら?」

 「こうするまでだ!」

 威勢よく、隊長らしき男が腰から銃を引き抜いた瞬間。

 「「「うわぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」

 ズドォォォォォォォーンッ!と廊下の壁が、それはもう盛大に粉々になって吹き飛び、武装した集団はそれに巻き込まれて吹っ飛んでいく。まさに、大ヒットだ。

 「会長、撃たれたか?」

 「血が出てる!」

 ホコリが舞ってよく見えない一夏に、先陣を切って突入したラウラが状況を告げた。

 「当たり前よ!誰だって撃たれれば血ぃぐらい出るわ!」

 「会長、幾つ喰らった。」

 「1発よ。」

 「ただのかすり傷だな。撃たれたぐらいでギャンギャン騒ぐな!女じゃあるまいし!」

 「女よ!」

 楯無が頑丈なのは分かりきったことだったが、流石に騒ぐなと言うのは酷ではないだろうか。というか、彼の周りが感覚が麻痺っているだけで、大抵の男だって撃たれれば十中八九呻く。

 「まあ、あんたで良かった。」

 「酷いわねラウラちゃん。」

 慰めになってないわよと、楯無が忠告する。

 「火薬の量を間違えた。後で埋めておく。」

 酷いという単語を壁の惨状と勘違いした一夏が、冷静な分析を交えながら釈明した。

 「そっちじゃないんだけどね・・・。」

 呆れた様子で、楯無が一応形だけは一夏に抗議を行った。

 「行こう。今日は悪党を始末したから昼飯を食おうって、教官が言っていた。」

 「ま、待って!こいつら縛り上げとかないと!」

 「何で?必要か?そこら辺にゴロゴロ転がっているような連中だぞ。さあ、飯に行こう。」

 「「「」」」

 そう言って3人はその場から引き上げていった。その後ろ姿を見送りながら、侵入者達は、彼らの頭のネジが何本か足りないのではないのかと疑いの目を向けるのだった。

 

 そして、これはシャルロットが入った電脳世界の果ての方のこと。

 一人の少女が、ダラダラと冷や汗を流していた。もっとも、それはグラフィック上の表現ではあったが。

 〈おかしい、捕まえられないようにプログラムしたはずなのに・・・なぜ捕まる?〉

 漂う速度を上げて、目的地へと空港する。

 〈急がないと、まずい。〉「・・・これが束様の言っていた・・・暮桜のコア。」

 彼女は目的の場所に着くと、すぐに目的を果たして逃走を開始した。

 

 電脳世界でそんな駆け引きが行われているとはつゆ知らず、オペレーションルームでは鈴が騒ぎ倒していた。

 「暇、暇、暇、暇!!」

 「鈴・・・うるさい。」

 簪はキーボードを叩く手を緩めることなく苦情を入れる。

 「何よ!私だけ誰も相手していないのよ!」

 「篠ノ之さんも同じ。」

 そう報告があったと、証拠の録音を流した。

 「ふん、そんなことなんか知らないわよ。」

 ふてくされてそっぽを向いた鈴だったが、外から聞こえてきた足音に目を輝かせる。

 「!!来たわね!喰らえ!」

 ドアが開ききるや否や、鈴は痛いドロップキックをその人物にブッ喰らわしてやった。

 「・・・やった?」

 「手応えがありすぎるわね。まるで一夏か千冬さ・・・いや織斑先生で間違いなさそうね。」

 彼女は額に、うっすらと汗をかいていた。

 「相手をよく見てから蹴りを入れろ!」

 「は、はい!」

 鈴はビシッと、頭の天辺からつま先まで真っ直ぐな敬礼を千冬に返す。

 「・・・命拾いした。」〈つまらない。〉

 そして、その様子を傍観していた簪は、何気にド畜生なことばを呟いていた。

 

 ここはIS学園近くの臨海公園の喫茶店。そこのテラス席に、電脳世界にいた少女の姿があった。

 〈任務完了・・・・・さっさとここから離れないと。〉

 彼女は目を開くことなく席を立とうとした、まさにその瞬間。

 「おい、待てよ。おたくにいい話しを聞かせてやろうってんだ。」

 「!!」

 耳元で、彼女が母と慕う者の親友の声が囁かれる。

 「相席させて貰うぞ。・・・そんなに身構えるな。そら、ホットミルクだ。」

 「織斑・・・千冬。」

 上げかけた腰を椅子に落とし、机の中央に置かれたホットミルクを震える手で自分の手元へと引き寄せる。

 「あまり長話は好きじゃなくてな。要件だけ言うとしよう。束に言っておけ、無駄なことはするなと。」

 〈殺すしか・・・殺せる?〉

 その考えを浮かべた瞬間に、途轍もない悪寒が彼女の背筋を這う。それが織斑千冬から発せられるオーラだと理解するのに、刹那の時間も要さなかった。

 「止めておけ。クロエ、お前の戦闘能力では、私のクラスの生徒すら倒せはしないさ。間違ってチェーンガンを使ったとしても、な。」

 「そう。けど私にはISがある。」

 彼女のISは束特製のもの。そこら辺にゴロゴロ転がってるようなISではないのだ。故に、彼女は勝利を確信していたのだったが・・・。

 「黒鍵。生態同期型のIS。精神への干渉は電脳世界で、現実世界では大気の物質を変化させて幻影を作る。・・・実に下らない発想だ。」

 「!?」

 千冬に見事なまでにスペックを言い当てられて、彼女はたじろぐ。

 「・・・なぜ、そこまで知っている。」

 「アイツの考えそうなことだ。すぐに分かる。」

 私を誰だと思っていると軽く付け足した後、千冬はブラックコーヒーを啜る・・・その隙を突いたつもりだった。

 そしてクロエは、空間を生成して千冬を捕らえた・・・つもりになっていた。

 「ナイフはよく研げ。でなければ、目玉にも刺さりゃしない。・・・このナイフ、バランスが悪いな。」

 彼女の投擲したナイフは、カップを持っていない左手でいとも容易く掴み取られた。叩き落とすとかではなく、文字通り柄の部分を掴まれらのだ。

 「さっさとやめたらどうだ?抉るぞ?」

 千冬は、キャッチしたナイフをその場の空間に突き立てる。

 やむなしといった感じで、クロエは空間を解除する。千冬は、それでもコーヒーを・・・いや、いつの間にかプロテインを飲んでいた。

 「いい子だ。そう言えば、ラウラが会いたいって言っていたぞ。」

 「あれは、なれなかった私。私の妹じゃ・・・え?」

 「写真も沢山持っていた。いつか姉に会うって言ってたぞ?」

 ダラダラと、それまでのどの場面よりも大量の冷や汗がクロエの体中から噴き出す。

 「いつか会ってやれ。悪い奴じゃない。少し行き過ぎることもあるがな。また会おう。」

 千冬がわざと足音を立てながら去って行く。それが街の喧騒に混じって聞こえなくなると、クロエはようやくホットミルクに口を付けた。

 「・・・(あぁんま)!!」

 ら、どうやらそれはホット練乳ミルクだったようだ。

 

 クロエが千冬に翻弄されていた頃、日本の某所にあるホテルのスイートルームで、せっせとおめかししている女性がいた。

 「あら?Mったら、食事会に行くのがまだ不満なのかしら?」

 「仕事なら文句も言わずに我慢してやるさ、それがいっくらキツくても金になるからな。」

 「あら、金にならないと出てくれないのかしら?私の身代わりが必要でしょ?」

 「・・・弾よけか。」

 Mは、もう手遅れであることを悟りくたばれクソッタレと付け加えた。

 「さて、行くわよ。・・・少しくらい笑いなさい。篠ノ之束の機嫌を損ねたら、あなたはおしまいよ。」

 「終わり?ここまで生かしておいてか?」

 「えぇ、そうよ。」

 ま、とにかく、今日の商談はそれほど大物と言うことである。

 

 時間は流れ夜が来た。先ほどのホテルに併設されたレストランにて、悪党同士が密会を行っていた。

 「このお肉は一級品?」

 年甲斐もなく頭にウサギのカチューシャを付けて、やややつれた姿の女性が肉にかぶりついた。

 「えぇ、当然です、束博士。」

 「ん~、最っ高!・・・このところ、どこの食堂行っても鉛弾ばっかりで。」

 服の傷を見せながら、主に一夏と箒からどこで撃たれたのかの紹介を始める。

 「お気に召しましたか?」

 「うんうん、気に入ったよ。けど、隠し味の睡眠薬はもっと入れるべきだね。インパクトが足りないよ~。」

 「」

 まさか、ペキン・カクテルの味を睡眠薬と間違えるなんて思っておらず、あまりの馬鹿舌プリにドン引きするスコール。

 「おぉ、わいーん!ひっさしぶりぃ!」

 と言うか、最初の肉以外はほぼ全てにそれを入れており、今飲んでいるワインも例外なく混入させているのだが、彼女は美味しそうにがぶ飲みしていた。

 「ところで、あの話しは考えて頂けたでしょか?」

 「どの話しぃ?」

 満足げにスープを飲み干して、すっとぼけたように首を傾げる。

 「我々に専用のISを建造して頂く話しです。コア込みで。」

 「断る。」

 即答。

 「そこを何とか、お願いできませんか?」

 が、タダで飲み食いさせてやるほどスコールも暇人ではない。

 「ルール1。契約厳守。」

 「契約を交わした覚えはありませんが?そもそも、契約なんてありましたっけ?」

 「ん~?昨日考えた。」

 「それは契約とは言えませんね。」とスコールがそう口に出そうとした瞬間に、敏感に感じ取った束は注文を追加する。

 「あ、ケーキとカレー、それから冷やし中華追加で。それと、イノシシのステーキもよろしく。あ!仔牛の煮込み!死ぬほど食いたかったんだよぉ!」

 しかし、スコールも手練れのテロリスト。ちょっとやそっとでは引かない。

 「どうしても断るのですか?」

 「うん、面倒じゃん?」

 「では、こちらは如何です?」

 彼女がパチンと指を鳴らすと、スーツ姿の男が少女を引き摺って現れた。

 「よかったら、子鹿のステーキでも用意しますけど?」

 それを指差しながら、嫌みったらしくスコールは言い放ったのだが。

 「どの子鹿?」

 「あの子鹿で・・・誰だ!子鹿を逃がしたのは!」

 一瞬、束の顔に視線をやっている間にクロエの姿は消えてなくなっていた。

 「アハハハハハッ!トロイ!!」

 「オータム!」

 「おうよ!」

 仕切りをぶち抜いて颯爽と登場したのは、オータムだった。

 だが、束も千冬や一夏、箒といった例外的な化け物に囲まれて育ってきた。故に、テロリストなど的ではない・・・筈だった。

 「フー危なかった。今の私でなきゃ、あの世に逝ってたぜ。織斑一夏とその他に感謝だな。」

 仕留めた感触はあったのだが、オータムはかすり傷一つ負っていなかった。

 「いい反応だったよ。だから、教えてあげるね。私は天才天才って言われるけど、思考と頭脳だけじゃないよ?肉体も細胞単位でオーバースペックだから。」

 それを、自分が手加減したせいだと思い込んでいる束は、自信満々にそう言い放つ。

 「「あっそ。」」

 無論、外から見る限り全力の攻撃を展開していたので、彼女らは取り合う気もなかったが。

 「動くな!」

 そこへレストランの外壁を突き破って、一機のISがババーンと突っ込んでくる。

 「エム!やっちまえ!」

そこからは、激しいビームと鉛の弾の撃ち合いであった。

 「ふうん!やるじゃ・・・あっつ!」

 時折、束はビームを避け損ない、ケツを焼かれる。そらもう、束のが頑丈さは楯無の半分もない。

 「喰らえ!」

 「させないよ!・・・君、ちーちゃんに似てるね!名前は、『まどか』かな?」

 「!?」

 「あたっ――」

 喜びを爆発させようとしたのも束の間。マドカが吹っ飛ばしたレストランの壁を針の穴とすると、象のケツ並の穴が壁に空いた。早い話、全面吹っ飛ばされたと言うことだ

 「「「!?!?!?」」」

 その次元の違う強さに、その場にいた四人全員が驚愕の表情を浮かべる。

 「騒がしいと思って覗いてみたら何のことはない。」

 「ほ、箒ちゃん!?」

 その手には竹刀が握られており、本気モードであることが明らかであった。

 「悪いな、亡国企業。うちの馬鹿が迷惑かけた。飲食代と・・・慰謝料と言っちゃ何だが、ほんの気持ちだ。受け取ってくれ。」

 そう言って、箒が茶封筒を渡した。

 「中身は?」

 「見りゃ分かる。では、これで失礼する。」

 「まて、ソイツには私達の専用機を――」

 「何で?必要か?」

 その分の金も入っていると、箒は束の首根っこを掴んで外へと出て行った。

 「待って!箒ちゃん待ってぇ!」

 抵抗虚しく、束は連行されていく。

 『わあぁぁぁぁぁ!!』

 少しして、束の悲鳴が、ビルに木霊する。

 『支えてるのは左手だ。知っているだろ!利き腕じゃないぞ!』

 『子牛の煮込みが死ぬほど食いたかったんだよぉ!』

 『残基は後幾つある。』

 『知らないよ!ねえ、箒ち・・・ウワアァァァァァァッ・・・・・――』

 断末魔の叫び声が、虚しく都会の喧噪に消えていった。

 

 それから数時間おいて、IS学園の地下に千冬の姿はあった。

 「あの馬鹿が寄越したプログラムの正体は分かってる。暮桜、お前の強制解凍プログラムだろ?・・・今度動いてみろ。溶鉱炉で溶かすぞ。」

 『!?』

 威圧を感じたのか、暮桜は今まで以上にカッチカチに固まり上げる。

 「おい!」

 威圧を行っていた千冬に、背後から声を掛ける猛者がいた。

 「何だ?まだいたのか。」

 面倒くさそういうこと、千冬が振り返った。

 「私をどうするつもりだ?」

 「帰れ。」

 「人質位の価値はあるのに、か?」

 「くだらねえぇ。お前程度なら、そこら辺にゴロゴロいる。」

 本来ならいて堪らないのだが、1組という例外のせいである。

 「そうか・・・。xxx0891-DA。私の秘匿回線だ。」

 「脳のストレージに余裕があったら覚えといてやるよ。じゃあな。」

 軽やかな足音を残して、その女は千冬の元から去って行った。




次話が出てる!
あたりめえだ!投稿すりゃ誰だって読む気が出らぁ!


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第53話 キャプテン一夏のワークアウトだ!

作A:読者を裏切って投稿を終えるのか!?360°も。
 B:180°だ、この歴史的大バカもんが。


 「ちったあ傷は治ったかよ?」

 一夏は、銃撃を受け保健室で治療を受けていた楯無の見舞いに来ていた。

 「マナーがなってない生徒ね。せめて『さん』くらいは付かないわけ?」

 日本人の礼儀としては、それぐらい必要だと思うんだけどなーと、ベッドに腰掛けた状態、世間一般でいうところの上目遣いというやつを楯無は実行する。

 「何で?必要か?」

 まあ、この男に限っては通用するはずがないというのは分かりきっていたことだが。

 「いや、そう言うんじゃないんだけど。」

 それでも何とか分かって貰おうと、楯無が少し考え込んでいると一夏がおもむろに口を開いた。

 「じゃ、刀奈か?」

 「!?!?」

 刹那、楯無は目を大きく見開いて驚く。それは、少なくとも何年も前に隠した本来の名前だったからだ。

 今の一瞬に動揺を外に出してしまったことは楯無自身も分かっていたが、挽回の方法が思い付かず金魚のように口をパクパクさせる。

 「安心しろ。誰も聞いちゃいない。」

 パイプ椅子にドカッと腰掛けながら、さっさと再起動するように楯無に呼びかける。

 「ちょっと待って!何で知ってるのよ!?」

 もっとも、理由を教えて貰ったからと言って、それで「はい終わり」と済ませられるレベルの話ではない。彼女、もとい彼女の家からにしてみれば、それは情報漏えいに該当する話だ。

 「役所に行ってチョチョッと手先を動かすだけで、その程度のことは調べられる。違うか?」

 しかし、一夏の口からはにわかに信じがたい答えが返ってくる。

 「私の戸籍は存在してないはずなんだけど?」

 「そうか?だがあったのは事実だ。」

 愕然とする楯無に「親の優しさかもな」と、珍しく気の効いた言葉をかけた。

 「それで?怪我は?」

 世間話をしに来たわけではないので、一夏はさっさと話題を切り替える。

 「弾を一発も撃ち込まれたのよ?遺体に決まってるでしょ。」

 「そうか?じゃあ、AEDがいるな。あのオレンジのヤツだ。」

 先ほどの仕返しにと微妙なニュアンスを使ったが、一夏には的確に聞き分けられた。

 「あ、あの一夏くん?冗談だよ?」

 「刺激が欲しいかえぇ?ビリビリするような刺激だ!刺激が欲しいだろ!」

 その手には、いつの間にやらAEDが握られていた。勿論、電源も投入済みであり、攻撃開始も時間の問題である。

 「いやー!結構!遠慮させて貰うわ!!」

 「いつまでお堅い女ぶってるんだ。安心しろ。急所は外してやる。」

 「しなくていいわよ!弾ももう取りだしたし!!」

 そもそも電気ショックに急所もクソもないでしょと、楯無は必死に静止を呼びかける。

 「分かったなら、体の調子がどうかを答えるんだ。」

 「もう傷口は塞がったわよ!」

 グッとパッドを近づけられて、彼女は慌てふためいて服を捲り上げ、わき腹を一夏に見せつける。ストリップかな?

 「見なさいよ、ほら!」

 気持ちが先走っていることに、彼女は気が付かない。

 「分かったよ。分かったから腹を仕舞え。」

 そこで一夏は動揺することなく、お前のドテッ腹に用はないと切って捨てるが。

 「ちゃんと見なさいって言ってるでしょ!!ホラホラ!!」

 「見てる。あまり騒ぐな、傷口が開くぞ。」

 「あっそう。じゃあ、本当に塞がっているか、触ってみなさいよ!!」

 変なテンションのスイッチが入ってしまったのか、楯無は執拗に一夏へそれを迫る。最早、いつもの方法に頼らなければこれを止める手立てはないなと彼は諦める。

 「お前もセラピーが必要だな。」

 いよいよ末期の症状が出てきたなと、一夏は呆れた様子だ。

 「なぁぁ!?一夏くんは、私がおかしいって言うの!?分かったわ!だから触ってみなさい!そうすれば、治っているって分かるから。」

 「分かった。だから仕舞え。」

 「そうやって逃げ――」

 「時間だ。」

 直後、入口のドアが開き千冬が入室してきた。

 「何をやっとるんだ、楯無。」

 保健室に近付いた時点で室内の状況を正確に把握していた千冬は、冷静な対処を行う。

 「お、織斑先生!?」

 楯無は、想定外の刺客の登場に硬直する。

 「い、いけませんよ!」

 しかし、千冬の話を聞いていいたはずの山田先生は、いつも通り悪戯に被害の拡大に走る。

 「教育的指導で――」

 「山田君、黙っててくれ。話しがややこしくなる。」

 「織斑先生!!女子生徒と男子生徒が、鍵が掛かっていなかったとは言え密室で――」

 妄想に入ると、止められなくなる。テロにはテロで立ち向かうと、千冬は山田先生の意識を刈り取った。

 「この手に限る。」

 「そいつを待ってました。」

 〈こうなったら、アレをするしかないわね。〉

 ドス黒い会話をする姉弟を見ているうちに楯無の頭は一度クールダウンして、そしてやる気スイッチがONになった。

 

 「面倒くさい前置きはなしにして!ここに宣言するわ!」

 それから何日か後の夜の一年生寮。その食堂で、1年生の生徒を集合させその前に立った楯無は拳を突き上げてポーズを決めていた。

 「OK!」

 それを気に食わなかった一夏は、ロケットランチャーで彼女を吹っ飛ばした。勿論、周囲の物体に損害は出していない。

 「残念だったわね!トリックよ!」

 しかしそれは、水でできた楯無の化身であった。一本取られたよと、一夏は楯無の話を聞くことにする。

 「腕を上げたな。見破れなかった。話してみろ。」

 「ふっ、これからは楯無お姉さんを甘く見ないことね。」

 「で、宣言って何だ。」

 褒めたらすぐにこれだもんなと、早く話を始めるよう発破をかける。

 「無粋なんだから。一夏くんは、口の利き方を学んだ方がいいわよ。」

 「あたしもそう思うわ。」

 腕を組んだまま、鈴が楯無に同意を示す。

 「良く言うよ。」

 「宣言って何よ。」

 そして、鈴は舌の根が湿気っているうちに同じ言葉を楯無に浴びせるのであった。

 「・・・一週間後。」

 しばらく黙り込んだ後、急に楯無はそう告げる。

 「何が?」

 「一年生対抗一夏争奪代表候補生ヴァーサス・マッチ大運動会を開催するわ!!」

 一夏が聞き返すと、待ってましたといわんばかりに楯無はそれを宣言した。

 「よく一息で言うな。」

 「えぇ、わたくしでもあの長さを噛まずに言い切る自信はありませんわ。」

 「で、何の詠唱だったのだ?」

 「さあ、長くてよく分かんなかったわ。」

 「」

 が、彼女の努力(?)は、一番伝わってほしい人達には微塵も伝わっていないようだ。

 「宣言は終わりか?」

 「えぇ。今から説明するわ。」

 まだタイトルを発表しただけだったが、一夏たちからは「まだ喋るのか」と思われていた。

 「目的は二つ!一つは、優勝者には一夏くんと同じ一組になる権利を与え、それ以外の代表候補生は別クラスに移動。そして、一夏くんと同じ部屋で暮らす権利を与える。」

 彼女は記憶の中から、一夏と同室で生活するのがどういうことかを抹消していた。それは、一夏と同じ部屋で生活する過剰なまでの苦しさ(主に筋トレが)に耐えかねて、である

 「待て待て待て、最後の大佐と同じ部屋で暮らすというのは何の拷問だ?」

 ゆえに、すぐさまラウラが制止に入った。

 「おいラウラ。俺はそこまで鬼か?」

 それも、当の本人が目の前にいることをはばかることもなく、である。

 「アンタの筋トレ、篠ノ之さんしかついて行けっこないわ。」

 「慣れればどうと言うことはない。」

 それを何と受け止めたのか、鈴へ箒が反論する。

 直ぐさま、箒は鈴へ反論した。

 「篠ノ之さんだけですわ!」

 そして、箒へセシリアが反論の一撃をお見舞いする。

 「というか、誰得なのよ。その何たら運動会。」

 鈴は、ここで言い争っていても仕方がないと発案者に話しをぶつけ、「現実を見ろ」と、楯無へプレッシャーをかけていく。

 やはり、彼女は即答することが出来ず、あごに手を当てて考え始めた。

 「ずっと温めていらしたってところでして?」

 「みたいね。でなきゃ、こんなこと思い付くはずがないと思うもん。温めすぎて、腐っている気がしなくもないけど。」

 その様子から、鈴とセシリアの二人はそう結論付けた。

 「・・・。」

 楯無の様子に変化が出たのは、その直後のことだった。

 「どうした、冷や汗なんかかいて。」

 「・・・注文しちゃったわ。」

 「「「」」」

 それが何を意味するか知っていたので、一夏たちは一斉に黙り込む。。

 「というわけ――」

 「「「断る。」」」

 そして、一夏たちの専売特許である強引でことを推し進めようとしたので、こうやって使うんだと言わんばかりに強引でお返しする。もっとも、この手法は圧倒的な格の違いがあるからこそ出来る芸当であるのだが。

 「だが、手伝いだけならやってやる。」

 「私達を運動会に参加させない。それが条件だ。」

 そして、その発注の中に食い物が含まれていることを、一夏と箒はしっかりと知っていた。だから、逆行しているとも言える救済措置を、二人は提案したのである。

 「し・・・仕方ないわね・・・。」

 あわよくば巻き込んでやろうと言う魂胆を楯無が持っていることは見え見えではあったが、一夏には寧ろ、それがどの様に実行されるのか気になってしまい、一切の躊躇いもなく判断を下すのであった。

 「契約成立だ。」

 

 

 

 「それでは、これよりIS学園大運動会を開催します!」

 それから一週間後、楯無の口から公約通りに大運動会の開催が宣言された。

 「「「ワァァァァァァァッ!」」」

 宣言の瞬間、グラウンドにいた多くの生徒が歓声を上げる。この後の惨劇を想像することもなく、だ。

 「それでは、選手宣誓!織斑一夏!」

 「・・・。」

 突然、楯無からそのように発表がなされたが、一夏はシレッと無視する。巻き込み方が、あまりに強引すぎたからだ。

 「大佐、呼ばれました。」

 「契約違反だ。」

 一夏がロケットランチャーを構えた。

 「安心して。競技には出場しなくていいから。てか、しないで。」

 「OK!」

 まあ、ここでどでかい花火を打ち上げることもないだろうと、一夏は列からゆっくりとした足取りで出て、生徒達の前へと出た。

 「選手宣誓。」

 ゆっくり、ハッキリとした口調で始める。

 『織斑君頑張って!』

 『格好いいところ見せて!』

 それを緊張と取った、何も知らない生徒達が、声援なのか煽りなのかよく分からない声をかけてくる。それは、一夏に先ほどの楯無の言ったことを反故にしてやろうと言う気持ちを芽生えさせる原因となる。

 「よーく聞け手前ら。ちょっとでも競技の手を抜いてみろ、嫌ってほど鍛えてやる!みんな覚悟はいいか?それでは始めよう、キャプテン・一夏のワークアウトだ!」

 「「「キャァァァァァァァァァァ!!!」」」

 その宣言に、多くの生徒達が歓声を。

 「「「ギャァァァァァァァァァァ!!!」」」

 一組の生徒と一夏のことを知っている一握りの生徒達は、揃って悲鳴を上げて逃げ惑う。

 「・・・あの、一夏くん?運動会だからね?」

 まさかこの様な形で破壊に掛かって来るとは予測していなかった楯無はリカバリーが思い付かず、騒動の沈静に手間取る。

 「手遅れ。」

 勝ち誇ったように、一夏は楯無を指で作った銃で撃ち抜いた。

 「生徒会長(リーダー)は私よ!」

 「操り人形だよ!」

 戦闘の火蓋は、今、まさに切って落とされた。

 

 そして、二時間後。

 「何だ!全員寝ているのか?」

 グラウンドの中央に立つ一夏の周囲には、息も絶え絶えになった女子生徒達が転がっていた。

 「ぎ、ぎぶ・・・。」

 近くに転がっていた生徒の一人が、最後の力を振り絞ってそう訴える。

 「設営を手伝った。もっと(根性を)見せろ!」

 「やり過ぎだわ!い、一夏くんたち!それぐらいにしとかないと、もうみんな限界よ。」

 放送席に籠もって高みの見物を決めていた楯無は、スピーカー越しに一夏へ訴える。しかし、敵は一夏だけではないのだ。

 「それがどうした!いつもやっていることだろう!今更御託を並べるな!」

 「この程度でか?我がドイツ軍なら新兵でも楽々こなせる。」

 「全くですわ。どうしてIS学園に入っただけで油断するのでしょうか。わたくしでも努力を怠っていないというのに。」

 「まあ、織斑筋が相手だし・・・仕方ないわね。」

 箒は当然として、ラウラ、セシリア、鈴などが余裕そうに振る舞う。ま、少し怪しいのはいるが一夏とドンパチした後も元気に動き回れる連中だけがグラウンドの中で立っていた。脳筋の典型だな、過激派もいいところだ。

 因みに、怪しいのとはシャルロットと簪のことである。

 〈・・・デュノア社のテストパイロットは、これに耐えられるかな。〉

 因みにだが、シャルロットは会社の職員のことを思い返していた。彼女らも相当な手練れの筈なのだが、こんな過激な訓練は受けていない。ここに来たら目の前のスゲー筋肉によって木っ端されること間違いなしだと、彼女は感じていた。

 〈・・・何で、これだけできて私を仲間にしようとするの?〉

 そして簪は、なぜ一夏達から目を付けられたのか理解できず、ただただ、困惑を深めるばかりであった。




 『IS《冬の帝王:MAD版》、2018冬の陣』分の小説版はこれで終わりだ。
だが、必ず戻ってくるぞ!


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第54話 空母を爆破して帰る、丁度ティータイムだ

I'm back!(戻ったぞ!)


 〈う・・・。分かるわ。起きたばかりの私でも寝たいと思うもの。〉

 体育祭の翌朝。目を覚ました楯無は起き上がるのも億劫なほど体調がすぐれなかった。

 ゆえに、時間を少し見るとまた布団に潜り込み目を瞑った・・・にもかかわらずである。

 まるで、寝起きを待っていましたかと言わんばかりのタイミングで、部屋のドアがノックされる。

 「!!・・・。」

 その気配から誰が来たのかを察知した楯無は、息を殺して気配を小さくした。が。

 「楯無、ちったあ編めるようになったかよ。」

 突如として天井板が外れ、そこからさも当たり前のように一夏が顔を覗かせた。

 「どこから入ってきてるの!?」

 「いつもやってることだ!今更御託を並べるな!」

 「」

 デリカシーの欠片もない行動に楯無が抗議を行うも、思い返してみればこの手のことを先に仕掛けたのは自身であったことを思い出して黙り込む。

 それを納得とみて、一夏は用事を切り出した。

 「落とし物だ。」

 「お、落とし物?私が?」

 「あぁ。ほらよ。」

 「あり得ないわ」と言おうとした、その瞬間に一夏がポイッと何かを投げてきて、受け取った楯無はそれが何であるのか一瞬で気が付いた。

 「?!!?きゃぁぁぁぁぁぁっ!か、返しなさい!!」

 パニックのあまり、全く纏まっていない言葉が口から飛び出していく。

 「今返したろ!」

 「そういうことじゃないの!」

 ならどういうことかと聞かれても答えられないが、感情的に返すことしかできないほど一夏に追い詰められていた。

 「いつものキレはどうした!熱でもあるのか?」

 「ないわよ!」

 遊ばれていることに感づいた楯無は、大声でそれを否定する。

 「じゃ、何だ。疲れが抜けてないのか?」

 「疲れてる?私が?あり得ないわね。」

 「(パンツ落としといて)よく言うぜ。」

 強がって見せたものの、一夏にはそれを見抜かれていて鼻で笑われる。

 「ば、馬鹿!一夏くんの変態!」

 「今度落としてみろ、溶鉱炉で溶かすぞ。」

 「聞くのが怖いんだけど、何を?」

 「知らない方がいい。それを知っちまったら、殺されちまうぞ。」

 「」

 「じゃあな。」

 一通り遊んで満足した一夏は、天井板を閉めて去ろうとする。

 「ま、待って!」

 それを楯無は呼び止めた。

 「何だ!」

 「この後買い物に行くから付き合いなさい!」

 一夏の強い口調に、負けじと楯無も応戦した。

 「付き合いが必要ってのは分かってるんだが、出かけてる暇がねえ。」

 「いいから!」

 

 「あっらー?あべこべだぁ。」

 結局、何だかんだあったが一夏は楯無の買い物に付き合っていた。

 「んー、確かにロシアでは通用しないわね。」

 眺めているコートは丈が短く袖も短いのに、襟だけにはモフモフの毛皮が巻かれていると言う代物だった。

 「あぁ、あそこ(モスクワ)はクソ熱いのなんの。」

 ジメジメはないがと、一夏は付け加える。

 「私は快適だったけどね。」

 「ふふーん、だといいがぁ?」

 楯無をジト目で見ながら、一夏はコートをハンガーに掛けてラックに戻した。

 それから一通り店内を見て回ったのち、二人はベンチに腰掛ける。

 「あ!一夏くん!私あそこへ行ってみたいわ!」

 しばらく外の景色を見ていた楯無がゲームセンターを見つけ、それを指差した。

 「駄目だ。」

 しかし、一夏はにべもなく拒否した。

 「駄目ェ!?何で!」

 「出禁だ。」

 「・・・何したのよ。」

 「パンチングマシンを手玉に取り、法と道徳に背く――」

 「もういいわ。近くで見るだけにしましょう。」

 聞くだけでも恐ろしいと、楯無は一夏の話を最後まで聞かず立ち上がる。そして、店から出るとゲームセンター目指して歩き出す。

 「楯無!危ない!」

 歩いていた楯無の腕を、一夏は唐突に引っ張った。

 「ギャッ!?何するのよ!」

 勢いあまってしりもちを着いた楯無は一夏を睨みつけながら苦情を言う。

 「危ねえだろ!」

 そういわれて、初めて自分がどこを渡ろうとしていたかに気が付く。

 「車が壊れたらどうする!」

 「そっち!?私の心配をしなさいよ!」

 が、一夏の心配は彼女自身に対するものではなかった。

 「いつまでお硬い女ぶってるんだ!お回りから交通教育を受けなかったのか!」

 「この筋肉にだらしのないヴァカ男が。」

 「いやぁ、その通り。それが悪いのか?筋肉には興味ないのか。」

 「一夏くんがありすぎるのよ!」

 一通り言い争いをしたのち、二人は道交法を守ってゲームセンターの前へと歩いて行った。

 

 「よく買うもんですな。全くお笑いだ。箒や鈴がいたら、奴らも笑うだろう。」

 時刻は過ぎて、夕方になっていた。二人は沿岸にある公園のベンチに座り、買いものの整理を行っていた。

 「沢山のバックを見てきたから分かるわ!これは企業の陰謀よ!」

 「(これだけ買い漁って)よく言うぜ。」

 大量のブランド品に、一夏は呆れた様子だ。

 「消費者の脳みそににサブリミナルメッセージを送って、嗜好を操作してるのよ!」

 「そこまで分かってなぜ買う。」

 「・・・。」

 いつもなら何か言い返して、更に言い返されて何も言い返せなくなるタイミングで、不意に楯無は反論をやめた。

 〈秘匿回線(テレックス)に緊急メッセージだわ〉『手短に。・・・受けるわ。・・・ええ、分かったわ。』

 それは返す言葉が思いつかなかったのではなく、緊急の連絡が来ていたから。

 「一夏くん、ごめんね。急用ができちゃった。今日はここまで。」

 手早くブランド品をカバンに収める・・・どちらかと言うと圧入する楯無。

 「すまねえ、ロシア語はさっぱりなんだ。」

 「日本語なんだけど・・・。」

 聞く耳を持たないという宣言なのだが、楯無は一発で理解しきれない。

 「一人で(仕事を)抱え込むなってんだ、この大バカやろう!けど、手を貸せるのも俺しかいないぞ。」

 「・・・分かったわ。勝手にして。」

 秘密裏に仕事を済ませる気でいただけに、楯無は肩を落とす。

 「さっさと行って、さっさと帰ろう。」

 海への転落防止柵の前に立つ一夏の周りに、光が発生し始める。

 「ちょ、一夏くん!?」

 それを見た途端に楯無は、ひどく慌てた様子で制止する。

 「何してるの!?」

 「ISを展開するんだ。悪いか。」

 悪びれる素振りもなく言い切った一夏。

 「悪いわよ!ていうか、どこに行くか分かってるの?」

 「沖にある、アメリカの秘匿空母だろ?」

 知らない筈がないということは分かっていても、つい訪ねてしまう。

 「よくご存じで。でも、ISは無しよ。」

 「いつもやってることだ!今更御託を並べるな!」

 もっとも、そこで『常にでしょ』という正しい言う突っ込みができなくなってきた辺り、楯無も末期だ。

 「駄目!そんなことをしたら、日米双方ののIS部隊が飛んできて包囲されちゃうわよ!」

 「どうなるか試してみるか?」

 顔を真っ青にする楯無をよそに、一夏は堂々とISを展開する。言うまでもないだろうが『アッシー』の方だ。

 「IS部隊は来る。俺のところにも来るし、お前のところにも来る。」

 「」

 「だが今日じゃない。」

 別の語録な気がしなくもないが、まあ空母に行くのでセーフということで。

 「どうしたの?」

 突如としてソワソワし始めた一夏。

 恐れを知らぬ男のその動作に、心配になる楯無。

 「突撃ラッパ吹いて空母に乗り込んで、戦利品は山分けするんだァ♡!」

 「速さが肝心。そうと決まれば、さっさと行きましょ。」

 が、ただの思い違いと判明したので自身もISを展開したのだった。

 

 「着艦!」

 超高速で着艦したため、空母甲板の舗装が剥がれ飛んでいく。

 「甲板が壊れた!?」

 何十トンもの重量が掛かってもビクともしないはずのそれが壊れる様に、流石の楯無も驚きを隠せない。

 「ギャーギャー騒ぐな!」

 「何よ!」

 「こんなのは損傷のうちにも入らんよ!」

 「」

 人のものを壊しておいてこの開き直りである。これには楯無も返す言葉を失う。

 「どうした!何事だ!」

 その時、バタンッとドアを蹴っ飛ばして乗員が現れた。

 「やあ、イーリスさん。ご機嫌如何です?」

 その乗員の顔を見るや、一夏は欠片も申し訳なさそうにすることなく話し掛けた。

 「ご機嫌さ。目の前の大物がカタパルト発艦しちまえばな。」

 不機嫌この上ない対応。出会って五分と経っていないのだから当然だ。

 「試してみるか?俺だって元艦載機だ。」

 「飛んでってマニラ。」

 「!?」

 やり取りを聞いていて目を白黒させる楯無。勿論一夏は「いつもやってることだ!今更真に受けるな!」と叱責する。

 「何しに来た特ダネ屋。」

 そんなことはお構いなし。イーリスは突然の来訪者に不機嫌この上ない様子だ。

 「今夜、この空母を爆破しようって連中がいる。」

 「何も聞かされてないが?」

 一転。一夏の持っている情報に興味を示した。

 「そうだろうな。テロリストは丁度ここを爆破して帰る、丁度ティータイムだ。」

 「どこにある!答えろ!」

 「無理無理、無駄なこったよ。全員退艦させろ。死体が増える前にな。」

 このやり取りがなければ、あるいはできたかも知れないが、バァクダンを回収して回るには時間が足りない。

 「分かった!」

 そう言って、出て来たドアを開けようとノブに手をかける。

 「どうした。」

 「鍵が掛かってる。」

 が、何故か出て来たドアが開かない。オートロックでもないのに。

 「退け!」

 時間が惜しいと、一夏が万能のスマッチョキーでドアを開けた。

 「これで開いた。」

 「聞きたかないが、お前の連れはどこに行った。」

 そう言われて横を見る。楯無の姿はどこにもない。

 つまり、一夏達が追ってくるのを防ぐためにドアに鍵をかけたのだ。

 「・・・小娘め!クソォ逃げたか!」

 「あの機関銃娘、どうにかならんのか!」

 「無理無理、無駄なこったよ。」

 偶にだが、一夏をも出し抜く実力を楯無は持っていた。

 

 そのころ楯無はと言うと、秘匿空母のデータールームに潜り込んでいた。

 一心不乱にキーボードを叩き、目的の情報を探す。やがて、それを引き当てた。

 「嘘!スコール・ミューゼルは死んでる!?」

 しかしそこには衝撃の事実が隠されていた。

 「残念でした、外れ。」

 それまで誰も居なかったと思っていた背後から、突如としてそう話し掛けられた。

 「しかも今の方が若い!?」

 振り返ってその顔を見た途端に、楯無は目を見開いた。

 「言葉遣いを知らんヤツめ。」

 スコールのIS『ゴールデン・ドーン』の攻撃により、秘匿空母にはいくつもの亀裂が走る。

 水の浸水とともに大きさを増していき。遂に空母は海水中へと消えていった。




初期の投稿に比べれば目クソ鼻クソさ・・・(編集期間の長さが)


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第55話 死ぬときゃ芋づる式

B zzz
A おーい、もう1月だぞ、何やってんだテメェ!どっかし天丼!
B 俺の冬休みは5日までだ!今更御託を並べる・・・な?????


 一夏とイーリスは閉じ込められていた乗組員たちを解放し、逃げ遅れがいないかを見て回っていたとき、爆発音とともに巨大な空母が揺れた。

 「何だお!」

 「爆弾が炸裂したんだろ。逃げるぞ。」

 「あち!あちち!ああっ!くそっ!息子がやけどしちまったじゃねえか!ちっくしょうもう!バッカ野郎!クソッタレが!どうしてくれんだよこのザマ!海は汚れる!(IS)スーツは台無し! おまけによぉタマはゆで卵になっちまった!」

 浸水により船体が傾き、足場が悪くなっているにもかかわらず、二人はデッキへむけ猛スピードで駆け上がる。それも、お話をしながら。

「お前男だったのか?」

「違う、ストレス解消法だよ。ボディービルの観賞、筋肉へ栄養をやり、特別な発声法に無意味な罵倒、そしていい木霊を聴く。気が落ち着く。くだらない気休めだと思うかもしれんが、心臓のバイパス手術を受ける羽目になるよりはマシだ。」

 艦内から飛び出すと、躊躇せずに海へと飛び込んだ。

 「ブハッッ!おい、織斑一夏!お前が居てこの様か!?」

 イーリスは、逃げているときは空母が沈むはずがないと高を括っていいたが、いざ目の当たりにするとやはり動揺してしまう。

 「これはちょっとした手違いだ。傷つけるつもりはなかった。」

 「傷つくどころか沈んだ!」

 「そうかい、じゃ、俺はうちに帰ってのんびりして、テレビのトレーニングモノでも見て勉強するさ。」

 あまりに責め立てられるので、嫌気がさした一夏は陸に向けて泳ぎ始めた。

 「おいおい、お連れさんはいいのか?」

 そんなつもりなど毛頭なかったイーリスは慌てて話題をそらす。

 「ん~、どらどら~?」

 きれいさっぱり忘れていたといった感じで、一夏は楯無を探し始める。

 そこであるものが見えた一夏は固まった。

 「見たことが無いISだ。・・・どうした織斑一夏。」

 返事がないことを不審に思い、イーリスは横を見る。

 「・・・そんな。」

 柄にもなく震える一夏。

 「何だ?」

 「・・・殺したはず。」

 「どうした。」

 明らかに様子がおかしい。彼女は警戒を強める。

 「スコール・ミューゼル!あんのヤrrrrルォ!生きてやがったか。おい、アイツを倒せ!」

 言葉の割りに余裕そうな彼を見て、少しばかり軽快を弱める。

 「アイツって、某国野郎の事か?いい考えあるか。」

 「何か思いついたか?」

 「私も聞きたい!」

 ノープランか。そう知るや、彼女は不安になる。

 何せ、彼女が所属する基地を襲撃され、あまつさえそれを取り逃がしたから。

 もっとも、それは彼女が勝手に思っているだけで、実際にはビビって逃げたわけだが。

 「クソッ、チェーンガンを寄こせ!」

 「・・・チェーンガンって何だ?」

 チェーンガンが通じないのか。一夏は苛立つ。

 「ミニガンだ!」

 「ああ!?ミニガンなんかねぇよ!ヌンチャクならあるけどな!」

 「そいつを寄こせ!早く!」

 何故それがあるのか。だが、今この瞬間にそれはさほど問題ではない。

 「どうする気だ?」

 「スコォォォォォルゥゥゥゥゥゥ!!!」

 それを奪い取るや、一夏はぶん投げた。そう、ただ単に遠距離を攻撃できるものであれば何でも良かったのだ。

 

 「ふふっ、無駄よ、更識楯無。」

 ロシアの代表と聞いて身構えていたが、何のことはない。そこら辺の体表候補生に毛が生えた程度の戦闘能力しかない。

 防御能力は・・・桁違いだったが。

 「あなたのISじゃ私を・・・ん?ぶっ!?」

 倒せないと告げ戦意を喪失させようとしたところへ、下方からの飛来物が邪魔をする。

 「えっ!?ちょ、ちょっと織斑君!?」

 今まで放っておいて、まさかこの場面で参戦してくると思っていなかったため楯無は困惑する。

 「来やがれ!どうした?やれよ!殺せ!どうした、こいよ!俺はここだ!さぁ殺せ!殺せ、殺してみろ!どうした!ここだと言ってるだろうが!どうした!さぁ殺せ!殺してみろ!」

 「チィ・・・!織斑一夏・・・。」

 「織斑君、生身じゃ無理よ!逃げて!」

 この敵は今までとは格が違う。しかし白式では重すぎて、水に沈んで仕舞う。

 「もう遅いわよ!」

 ニヤリと歪んだ笑みを浮かべて、スコールが攻撃を行おうとした。

 「うっ・・・!?」

 まさにその時を待っていましたと言わんばかりに行われた援護射撃が、スコールに直撃。彼女はバランスを崩す。

 「おーい、友達が来たぜー。」

 そういいながら、先陣を切って向かってきたのは・・・。

 「か、簪ちゃん!?」

 「更識さんだけではありませんわ!」

 もちろん、こんな楽しい時間を見逃す手はないと、他の連中ももれなく同伴である。

 「ここまで来て俺は一匹狼だなんて言うなよ!」

 「死ぬときゃ一緒、二度と言わせるな。」

 「セシリア!俺の武器あるか?」

 一夏は、スコールを倒す武器を選ぶためにラインナップを教えてくれと頼む。

 「魚雷!ドイツのアサルトライフル!マグナム44!なんでもありましてよ!」

 「セシリアちゃん、何でそんなもの揃えてるのよ!」

 「テメェをKOROSU道具だ!」

 手っ取り早く黙らせるには、縮み上がらせるのが一番。

 「えっ??」

 「冗ぉ談だよォ!真に受けるな!」

 の筈だったが、こういう場面に限ってお互い声が聞き取れていなかった。

 「隙だらけね!織斑一夏!」

 その間に、手っ取り早く一夏を始末しようとしたスコールだったが。

 「クッ・・・!?」

 迂闊にも声を出したがために、攻撃するタイミングを悟られて(待たれて)被弾してしまう。

 「アタシ達がいるのを忘れてもらっちゃ困るのよねぇ!」

 「くっ、中国の候補生・・・生身の癖に調子に乗って・・・!」

 「寝ボケた事を・・・私達を何だと思ってる。福祉団体じゃないぞ?IS学園の生徒でしかも、人殺しの道具を持ってる。ISが相手となったら、生身で戦うのは当然だろ。」

 「そっちは・・・まさか篠ノ之博士の・・・」

 「お言葉を遮るようで申し訳ないけど・・・」

 そして、またお話のタイミングで被弾。

 普通の相手なら、声を掛ければ待ってくれるかも知れないが、この連中に関しては問答無用、何ならお話中でも平気で撃ってくる。

 「よし良いぞ簪!今だ!」

 「爆破ですよぉ!」

 「クソォ・・・仕留め損なった・・・」

 それはリップサービス。仕留めなかったのは、宣言して攻撃する方法を身体に刻み込み、次回への課題として出したからだ。

 「あの体・・・やっぱりサイボーグ・・・。」

 「ターミネーターみてぇだ。腕がなるよ。」

 驚愕する楯無をよそに、目をランランと輝かせるのは簪。

 「簪ちゃん・・・ばらす気?」

 「そうは行かない!」

 このままやられてたまるか。スコールは見た目が一番気弱そうな簪に攻撃を行う。

 「簪ちゃん!」

 その攻撃自体は粗方予想できていたので、無駄に防御を張って待っていた簪。しかし、その前へ何をとち狂ったか楯無が割り込んだ。

 「クソったれ・・・逃げられたか。会長、五分死ですか。」

 低空で煙が発生したせいで、スコールに逃げられた。もっと遊ぶつもりでいたのに。

 「え、えぇ・・・まぁ・・・。」

 「よーし、パーティーは終わりだ、みんな家に帰れ。」

 「おいおい待て待て」

 陸に向けて泳ぎだした一夏を鈴が呼び止めた。

 「?」

 「ここまで助けに来たんだ。何かあっても良いんじゃねぇか?」

 「・・・ラーメンでいいか?」

 「飯がくえりゃ文句はねぇ。」

 「晩飯が死ぬほど食いたかったんだよぉ!もう半日もまともな飯食ってねぇ、やってられっかい!」

 そして、イーリスもシレッと(?)紛れ込んだ。流石本家アメリカン。

 

 「おーい、友達が来たぜー。」

 行きつけの店に着き、暖簾をくぐりながら一夏は店主を呼んだ。

 「何でぇ、一の字・・・えらく花抱えてやがるな。」

 「花?花なんか抱えてない。抱えてんのは腹だけだ。」

 「こんだけいてそれってのもどうなんだ・・・てもどうすんだ、こんなにいっぺんに屋台に入らねえぞ。」

 後方とチラリと見て、それから店の椅子の数を数える。

 「ああ・・・ちょっと待ってろ。」

 そう言って、一夏は颯爽とどこかへ走って行く。

 ほどなく、どこからかガコンッと言う音が聞こえた。

 「これで出来た。」

 そう言って一夏がテーブルと椅子を店の外に配置した。

 「一の字・・・これどっから持ってきたぃ?」

 「後で返す。」

 ばれなきゃ犯罪ではないの精神なのか、俺が法律の精神なのか計りかねるが、無頼を除きこの場にいた全員が腹ぺこで大雑把になっていた。

 「ああ・・・そうかい。千の姉御の弟離れは遠いなぁ・・・。」

 「弟離れ・・・?ありえないね。家事の一つもこなせないんだ。誰が手綱を握っとくんだ?・・・姉貴頼めるか?」

 意味ありげに呟いたので、てっきりその気があるのかと一夏は判断する。

 「・・・ちょっと待ってろ、スープが沸いてる。」

 まるで逃げるように、無頼は鍋をかき混ぜ始める。まあ、客が来たのだから当然の行動とも言えるが。

 「どうなんだ答えろ!」

 「え!?ラーメン六つな!」

 「無頼めぇ・・・!クソォ、逃げたか!」

 これ以上やっても腹の虫が鳴くだけと、一夏は諦めた。

 「アンタ、往生際が悪いわよ!大人しく答えなさいよ!」

 勿論、そんなスッパリ諦めてくれる人ばかりではないが。

 「イェアァァァァァ!麺どうだ!?早いとこ湯切りしようぜ!伸びちまう。」

 「鈴、諦めろ。毎度のこった。」

 今、茹で始めた麺をパフォーマンスで湯切りする無頼を見て、一夏はこれ以上虐めてやるなと鈴をなだめに入った。

 「ところでヌンチャクさんよ。ラーメンの食い方分かるか?」

 そんな一夏と鈴を横目に、箒が楯無に話し掛ける。

 「・・・私の事?」

 「違ったか?最新のチェーンガン、いや違う。弓だ、間違いない。・・・セイバーか?」

 「私は刀奈よ!カ・タ・ナ!」

 「Katana?」

 「セシリアちゃん、発音良くしなくていいから。」

 「あら、これは失礼。」

 反省しているのか、していないのか、微妙なラインではあったがラーメンが到着したので途切れる。

 「はいよ!ラーメンお待ち!」

 「はい、ナイフさんお箸。」

 そして、すぐに再開する。

 「刀奈よ。」

 「マジで怒ってるな?」

 「残念だが、刀とナイフとは大変良く似ている。」

 割り箸を手に取って、それを北京と日本に・・・ゲフンゲフン・・・ペキンッと日本に割ったところで箒が呟いた。

 「サイズが違うでしょ!サイズが!」

 「サイズって、なんの事かしらぁ・・・?」

 そして、先ほどまで無頼をいじり倒していたのに何故か参戦する鈴。

 「ちょ、鈴ちゃん、そっちじゃ・・・!」

 そこで、窓の外から何処ともなく飛来したお玉が楯無に命中した。

 「麺が伸びる前に・・・。」

 それに気付いた素振りもなく麺を啜り始める簪。

 「か、簪ちゃん・・・なんで私だけに・・・。」

 「一緒にいる時間の長さより中身の濃さだよなぁ?」

 「簪ちゃんに友達が出来たのはうれしいけど、なんだか複雑だわ・・・で、これどうやって食べるの?」

 そしてこの切り替えの速さである。

 「これか?これはこうするんだ。」

 ズゾーッと、豪快に麺を啜る一夏

 「え、す、すするの?」

 「私も、すするのは少々苦手ですわ・・・。」

 「お嬢さん方、ラーメンってなぁ、気取って食うもんじゃねえ。本能だ本能!思いっきり音立てて食ってみなァ!激ウマだでぇ!」

 「うっ・・・『ズゾーッ』・・・あら、美味しいですわ!」

 パアァッと表情が明るくなる。最初は躊躇っていたが、それは文化として「啜る」がない国の生まれなので普通である。まあ、普段が普段だけに「?」になってしまうが。

 「うぅ・・・わ、私も・・・『ズゾーッ』・・・本当、美味しいわ!」

 「気に入ってもらえたようで何よりだ。」

 但し楯無は、横で簪が既に啜っていたので誰も努力を認めてはくれなかった。

 「・・・そういえば織斑君、後二人はどうしたの?」

 「お使いを頼んでる。」

 「お使い?」

 

 「ス、スコール・・・。」

 都内にあるビルの一室の片隅にボロボロの人型をした何かがいた。

 「オータム、がっかりした?」

 「いや、体の事は分かってた。」

 「あら、そう。」

 特に驚かれる様子もなかったため、スコールは少し胸をなで下ろす。

 「敵は私が討つ。今度こそ・・・」

 そう決意をしたところに、雰囲気をぶっ壊しに二人が現れた。

 「邪魔するぜぇ!」

 「友達が来ましたよ?」

 「お、お前ら、ドイツの軍人にデュノア社の娘・・・!どうしてここが!?」

 「いやー、一夏が片腕だと可哀そうだから早いところ腕を取りに行かざるを得ないようにしてやれってぇ・・・。」

 おっかなびっくり、話すシャルロット。

 「クソッ・・・スコール、逃げるぞ!織斑が来たらマズイ!」

 襲えば、あるいは勝てたかも知れないが、勝ってしまった場合末恐ろしいことになりそうだったのでスタコラと逃走していった。

 「え、ええ・・・!」

 一戦交えることになるかも知れないと身構えていただけに、あっけにとられる。

 「あの二人・・・ただの仲間かと思ってたが・・・もっと深い関係だな?」

 「ラウラそれ、二人の前で言わなきゃ。」

 「・・・手遅れ。」

 言いそびれたことを、心底残念そうにしながら二人は立ち去った。




B ・・・何だあのタイトル
A 知らない方が良い
B マジで何だ?あのタイトル
A 予測変換


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第56話 修学旅行って何だ?

A 俺達は三ヶ月前に(腹筋)総攻撃を計画していたがこれでそれが実現できた!
B 何故今更? 
A 今しか出来ないからだ。話しを引っ張り出すためにMAD版を編集しあげたんだ!


 「ふぅ・・・あの子たちには困ったものねぇ・・・」

 楯無は薄暗い部屋に籠もり、書類を広げていた。

 「は、そうだ名案!思いついちゃった!」

 そう言って楯無は立ち上がり、わざわざ机の上に電話機を持ってきて、もう一度腰掛けてから電話を掛ける。

 「もしもし織斑先生ですか?少しご相談したいことが。」

 「・・・どうせクラス替えとかだろ。」

 「あ、ご存じで・・・。」

 知らないはずがなかろうと言わんばかりに、ガチャッと電話が切られた。

 「ふう・・・ま、厄介な人たちはまとめて置く方が得策よね♪」

 肩の荷が下りたように息を吐く。そして少しは楽になるのではと、淡い期待を抱く。

 ・・・混ぜるな危険を知らないのだろうか。

 それともう一つ。誰も許可はしていない。

 

 

 

 「あら、簪じゃない。何でここに?」

 翌朝。鈴がSHRの時間に一年一組の教室の前を歩いていると、何故か簪と出会った。

 「渦中の日本人を救いに来た。」

 「そう・・・妙ね私もよ。」

 「ダブルブッキングと言う訳・・・。」

 などと、つまらない会話を交わしていると。

 「何してる?二人とも、さっさと教室に入れ。」

 ガラッと一組の教室のドアが開き千冬が声を掛けた。

 「二組の教室より狭いわね。」

 入るなり、そう言った鈴。

 だが仕方ない。出が0で入が2なのだから、現状2組より3人も多い。

 「と、言うわけでよろしくね一組の諸君。」

 既に、簪と鈴は説明を受けていたが、一組の生徒は(一部を除いて)何のことか分からずポカンとする。

 「山田君、例のもの・・・ゲフンゲフンッ。説明を。」

 「はい。えーとですね、この度生徒会長が、一年生の専用気持ちはペテン師だ。泥棒、人間のクズ、チンピラ、ゴロツキ、犯罪者だ!と、言うことで、全て一組に集めることになりました。」

 その説明を受けた一組の生徒からは・・・。

 「あんの野郎ォ・・・」

 「今度会ったら撃ち殺すぞ。」

 「いい年こいてお姉さんぶってる連中がどういう奴か、わかってるぞ!」

 「今度絶対アイツの尻尾捕まえて酷い目に合わせてやる」

 「ふむ・・・歴代最凶にして最大の問題クラスの誕生だな。・・・どうしてくれるんだ?楯無、この愚の骨頂としか言いようのない大問題を。」

 状況は、もう言うまでもないだろう。

 流石の千冬も、今回ばかりは生徒達の心境に同情する・・・ふりをして、出席簿で全員の頭を叩いて回った。

 その様子を歌にすると

 『千冬の手には出席簿が一つ、生徒を叩くと出席簿が割れた。慌てない、慌てない。も一人叩くと出席簿は粉々、叩いてみる度出席簿が割れる。アイアイアイアイどーしたんだーいアイアイアイアイなんーでー。だって出席簿は柔らかい(一組比)、叩いたら崩れちゃう。嘘でない、嘘でない。』

 となる。

 

 

 

 ここはホテルの元最上級スイートルーム。『元』が付くのは、市の部屋を束が研究室に無断で改造したから。

 その部屋で、一機のISが完成した。

 「じゃっジャーン!これがマドちゃんの機体だよー!聞いて気絶するんじゃねえぞ?これは手製のISだ!」

 「あんたが作ったのか?」

 草木も眠る丑三つ時に呼び出されて、不機嫌極まりないマドカは適当にあしらう。

 「私が作るわけないだろ?広告読まないのか?毎日郵便物に部品が仕込まれてる!それを一つずつ貰って組んだのさ!」

 「ふざけやがってぇ!」

 そんな下らないもののお披露目のために、こんな時間に呼び出されたのか。マドカは束に遅いかからり舌を引っこ抜きに掛かる。

 「じょ、じょほぉだんだよぉ!?」

 「今度ふざけた真似をすると、溶鉱炉で溶かすぞ。」

 何とか逃げ出すことに成功した束に、マドカは警告を行った。

 「いやーマドちゃんの愛情表現は過激だなぁ。それより、これが!マドちゃんのISだよー!」

 自信たっぷりに名前を発表した束。

 「初恋のネエちゃんに形がソックリだ。」

 「名を『黒騎士』!それで最初のターゲットだけどね?」

 「何だォ!」

 「いっくんが良いと思うな♪」

 「「「駄目だァ!!!」」」

 突然、どこからともなく涌いてきたスコールとオータムが、マドカと同時にそれを否定する。

 「・・・・・・ゑ?」

 そして束は、もう一夏の脅威など忘れたのかポカンとした。

 

 

 

 木の葉も色づき落ちようかという季節。IS学園の全校集会に、楯無は壇上に立ち咳払いをしてから話を始めた。

 「えー、皆さん、これまで延期になっていた修学旅行ですが・・・待って織斑君、そのロケットランチャーを私に向けないで?」

 その話を切り出した瞬間、一夏にそれを向けられた楯無は、さして意味もないが演台の影に隠れる。

 「俺はお前に生き地獄を味わわせるために来た・・・。」

 「マジで怒ってるわね?」

 「あの時俺たちがなんと言われたか・・・。」

 「ア“-何と言ったんだ?」

 一応、知らない振りだけはしておこうと楯無は棒読みで尋ねてみる。

 「『お前たちはペテン師だ。泥棒、人間のクズ、チンピラ、ゴロツキ、犯罪者だ!』」

 「私そこまで言ってないわよ?!」

 するとどうだろう、身に覚えのない言葉のオンパレードではないか。

 「「「山田先生めぇ!クソォ!盛りやがったか!」」」

 今度は職員室の方を見て、一組の生徒全員がキレる。

 「ま、まあ落ち着いて。そう怒鳴られたんじゃビビって話もできやしないわ。」

 「で、俺たちを呼び出した要件は何だ?」

 そこまで言うならと、一夏は楯無に振り返る。

 「十八時間前我が学園のヘリが・・・ああ待って!帰らないで!・・・えー、様々な事情で延期になっていた修学旅行ですが、また何がしかの介入がないとも言い切れません。そこでこの場に、前もって君をお仲間ごと呼んでおいた。」

 「前乗り視察ってわけか・・・なんでここにいる教員を使わず、俺たちを呼んだんです?」

 「どこかのヴァカがお前が適任だと推薦したんだよ。」

 生徒だけの集会で、教員は一切呼んでいない・・・筈だった。

 「ほう・・・?更識ィ・・・教員をヴァカ呼ばわりとはいい度胸だな?」

 「ひ、ヒィィィィィィィィィィ!!!」

 「よぉし、クソッたれども!ボーナスが欲しけりゃ気を緩めるなよ?いいな?」

 完全に萎縮してしまった楯無に変わり、千冬が壇上に上がる。

 「俺たち専用機持ち全員送り込む気か?」

 一夏が尋ねる。

 「ああそうだ!オルコットと凰、更識は織斑と。篠ノ之、デュノア、ボーデヴィヒは別行動だ。」

 「どうにも、一夏に避けられてるって、気がするんだな。」

 だが箒が、その組合せに納得がいかない様子だ。

 「き、気のせいダヨ。」

 「ふっふーん?だと良いが?」

 多少の疑惑を残しつつ、全校集会は終了した。

 

 「では、本来の目的を話します。」

 放課後、楯無は専用機持ち全員を呼び出していた。そう、全員。

 「亡国企業の掃討作戦か?」

 早速、一夏がそれを口にする。

 「ハメやがったな!?このクソッタレ!嘘つきみぃ!修学旅行だの視察だの、あれは私たちを引っ張り出すための口実か!?」

 それに箒が乗っかる。

 「なぁ、儀式を遮るようで申し訳ないけど、そっちのお二人何者だ?」

 そして冷静に、ラウラが見慣れない二人のことについて尋ねる。

 「今回の戦力(?)よ。ダリルとフォルテ。」

 手短に名前だけを楯無が紹介する。

 「んまっ、俺のヘルハウンドも2.8になったしな?」

 サラッと行われた自慢は、一夏と愉快な仲間には到底聞いて貰える筈もなく流される。

 「私の最後の警告は無視された。亡国企業は命に替えてこの償いをしなければならない。諸君の手腕に未来を掛けた。多くのISが死ぬだろう。この無意味な死は、テロリストの無知に対する代償だ。もはや哀れみなど無い。もう彼らは逃げられないのだ。亡国企業が、この戦争の代償を払いきれないと真に気付くまで、我々が攻撃の手を緩める事は無い!」

 そう、声高らかに宣言を行ったのは楯無。勿論、実行するのはいつでも一夏達なのだが。

 「怖いわーテロリストよー。」

 棒読みでシャルロットがそう言う。

 「・・・どっちがテロリストだって?」

 「決まってるでしょ、アナタ。」

 「私が何したってのよぉ~」

 楯無も偶にはとそれに乗っかった拙かった

 「複数の殺人。」

 「誘拐」

 「強姦」

 「恐喝」

 「通貨法違反」

 「それに、麻薬の密売だ。」

 「・・・お姉ちゃん、最低」

 「待って簪ちゃん!私そんなことしてないわよ?!」

 総口撃を受けて、楯無はせめて妹だけでも疑惑を晴らそうとしたのだが・・・。

 「二番目は?」

 「~~~やりましたッ!」

 どう考えても言い逃れはさせて貰えないと、楯無は項垂れる。

 「よく言ったぁ!それでいい!」

 「・・・もう、なんだか疲れるわ。兎に角、各自出撃に備えて解散!」

 集めておきながらも、一刻も早く撤退したくなった楯無は、投げやりに集会を終了させたのだった。

 

 

 

 それから何日か過ぎて遂に京都へ行く日になった。

 『まもなく、京都です。We‘ll soon make a brief stop at Kyoto.』

 一行を乗せた新幹線は、間もなく京都に到着しようとしていた。

 「この間逃げられてからずっと復讐を思い続けてきた・・・。よぉやくその日がやってきた。長かったぜ。」

 車窓に流れる街を見ながら、ラウラが一人囁く。

 「笑ってる・・・人を殺す前だというのに・・・」

 それをしっかりと察知して、箒が戦慄・・・・・した演技をする。

 「お前ら気が早すぎるだろ・・・。」

 「各自、状況に備えよ。解散!」

 「おーい・・・。」

 未知のテンションの一夏達に、助っ人の二名はただただ圧倒されるのだった。

 

 「今のところ証拠はまだ固まってません。」

 「そそ、ふにゃふにゃでしてね。」

 京都の街を歩きながら楯無と山田先生は千冬に、説明するまでもない状況を説明していた。

 「更識、山田君・・・。確証を掴め!誰かが核弾頭を乗せた車で一夏の前に乗り出してから騒いでも遅いんだ!」

 まさにその瞬間、ズドォォォォォォォォォンッというとどろきと共に爆煙があがった。

 「あのヤrrrルォオ!先におっぱじめやがったな!!」

 公衆の場で戦闘を始めたことにではなく、網のそ・・・蚊帳の外にされたことに千冬は怒る。

 「お、織斑先生、これは!?」

 「急げよ、例のものも準備しろと伝えとけぇ!」

 「は、はい!」

 そう言い残し、千冬は関節を鳴らしながらかっ飛んでいった。

 

 時間を数分だけ戻した、爆発の現場に一夏はいた。

 「古都をランニングってのも、良いもんだ。」

 のんびりと(一夏比)走っていた一夏は、京都の景観を眺めながらは走っていた。

 「・・・ん?」

 ふと視線の先で、何かが光った。一夏は、瞬時にそれが自身に当たらぬ軌道と分かった。

 そして、足下に着弾。小さな砂埃が起きた。

 「やってくれるよ!堂々と正面からか?ぬへへ」

 

 「やっべぇ、見つかった。」

 「アンタ何考えてんだよ!せっかく誘い出した獲物を逃がしちまって!話してるのに目を逸らすな!アンタテロリストとして恥ずかしくないのか!」

 スコープから目を離すと同時に立ち上がり走り出したダリルを追いかけながら、悪態をつくフォルテ。

 「テロリストの典型だな!過激派もいい所だ!」

 しかし彼女たちの逃走は、許しては貰えなかった。

 「ぐぇ!?アンタ、まさか・・・!?」

 足止めをするように撃ち込まれたロケット弾。

 「我がテンペスタに抜かりはないんだナァ!!」

 彼女らの前に立ちはだかったのは、右腕を欠損し身体の至る所に火傷の跡の残る、隻眼の女性だった。。

 「でぇい!これが黙っていられるか!コルドブラッド!」

 フォルテが足止めとばかりに攻撃を繰り出す。

 「おっとぉ、そっちが二機ならコッチも考えがあるのサ!アーリィテンペスト!」

 「へっ、三体二って訳か?それで互角にやれるつもりか?ばぁさん。」

 「婆あがその口潰してやるのサ。」

 淡々と攻撃を躱し、そして反撃を行うアーリィ。

 「フォルテ!あれをやるぞ!

 「成功するかはアンタ次第だ。オッケィ?」

 「OK!アイス・イン・ザ・ファイア!」

 「私のテンペスタはその程度突破するのサ!」

 読んでいましたとばかりに突撃を行うテンペスタ。

 「残念でした、ハズレ」

 ところがそれは攻撃ではなく煙幕に近い性質のもので、三人の視界はほとんどゼロになった。

 「ずらかるぞ!」

 「イエッサ!」

 二人の足音が遠ざかっていく。

 「やれやれ、珠のお肌が焼けるじゃないのサ。ま、やることやったし、見物でもいくかナ」

 少し気怠げな様子でそれを見送って、アーリィはISを収納(クローズ)した。

 

 そんな面白げな戦闘があったにも関わらず、一夏が参戦していないのには訳があった。それは。

 「お前・・・!」

 「よう、相変わらず脳みそまで筋肉か?織斑一夏。」

 オータムの気配を察知していたからだ。

 「うちの学園の生徒が二人そっちに寝返ったって聞いた。まさか違うよなぁ?」

 問いただすような口調の一夏。

 「生憎だが、本当だ。」

 対するオータムは手駒が増えた安堵感と、やられっぱなしではメンツに関わるからと、大きな態度で打って出る。

 「そうか・・・残念だ。あんたは逃がしてやりたいが、生憎こっちも手札がいる。」

 「ああ?」

 そんなことできるのならやってみろと、挑発のつもりで聞こえないふりをしてみた次の瞬間。

 「オフィ・・・・」

 彼女は一夏の戦闘力の前に倒れた。

 「捕まえrrrrロぉ」

 厳密には縛り上げろだが、彼らには大した差でない。

 「話しながら仕留めたのか。」

 「毎度会ってそうそうさよならじゃ相手が気の毒だ。」

 「・・・思いやりがあるなぁ。」

 そう言うお前達はどうなのだと言わんばかりに、一夏は皮肉たっぷりに返してやったのだった。




組合員の大部隊が展開中です。ここから3~4話の距離に迫ってるそうです。
どのくらいで来る?
せいぜい1.2時間です


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第57話 何か匂うな?

(読者が)いたぞぉ、いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!うあああああああああああ!!!!いたぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
バァクダン攻勢を開始するゥ!腹筋を壊してやれ!



 「こいつは最高のイベントだぜ!逃す手はない。流石は亡国企業の実働隊だけあってクソ真面目によく働いてるよ。しかも待遇がイイと来た!叔母さんも贅沢過ぎじゃないのかぁ?」

 京都の、それも最上級のホテルの、これまた最上級の部屋に備え付けのプールにダリルとフォルテ、そしてスコールの姿はあった。

 「ダリル・・・いやレイン。叔母さんはやめなさい、正体がバレるわ。」

 気持ちよさそうに泳ぐ彼女に向け、スコールは迂闊な発言を避けるように促す。

 「何か臭うな。」

 「金のニオイだよ金の。」

 厳密には消毒用の塩素の匂いだが、突っ込むものは不在であった。

 「それにしてもオータムは遅いわね・・・織斑一夏くんを招待するよう言っておいたのに。」

 オータムは一夏に連絡手段を完全に奪われていた。故に、彼女からの連絡を待っていたスコールは彼女の状況を把握していない。

 「オータムは今朝捕縛された。・・・ブリュンヒルデの弟とヤっちまって。」

 「!?」

 だから、状況の一部をダリルから聞いたスコールの心中は穏やかではなくなった

 「一戦な。ドンパチ言わなかったから気づかなかったろ。」

 「オータム、迎えに行くわ・・・!」

 「よしなよぉ、相手は一組だぜ?IS学園最凶最悪の。」

 飛び上がるように椅子から立ち上がったスコール。しかし相手のことを思い出せば、どう足掻こうと奇襲が失敗するビジョンしか見えない。

 「クッ・・・。」

 「あーらら、柄にもなく取り乱しちゃって、じゃ、私らも行くか、ベッドに。」

 「後はアンタと二人でしっぽりか?悪かねぇぜ。」

 ダリルとフォルテはプールから上がり身体を拭くと、まだ外が明るいのにベッドルームへと消えていった。

 

 「この女は何だ?」

 一夏が旅館に戻るや否や、鈴が不思議そうに尋ねてきた

 「いやまあ、保険みたいなもんかな、邪魔が入った時だけ役に立つ」

 「だけだと!?このオータム様が!“だけ”だと!?」

 チラリとも見ること無く一夏がそう答えたものだから、オータムはカッとなり怒鳴った。

 「違ぁう!」

 が、お前など眼中にないと言わんばかりに箒が違う方向を指差す。

 「こっちだこっち。」

 「NE☆KO☆DA」

 女と言ってもそれはアリーシャのことでもなく、猫のシャイニィのことであった。

 「アタシの事そっちのけでシャイニィ見てるのサ?それよりこの子、いい匂いするのサ。これ何の匂い?」

 もてはやされる自身の猫をよそに、アーリィは何かの匂いを嗅ぎつける。

 「航空燃料!」

 アリーシャの向かう先にいたのは、どこで紛れ込んだのか相川だった。彼女は匂いを嗅がれるや、まるで同士を見つけたような瞳をする。

 「航・空・燃・料。いいナ、好き。」

 グッと親指を立てたアリーシャ。

 「アンタさ、それ以外に香水ないワケ?」

 そんな二人に、というより相川に対して鈴がツッコミを入れる。

 「鈴さん、航空燃料は香水ではありませんわ。」

 鈴のツッコミは正しい部分に対して行われていたが、方向がズレていたために更にセシリアがツッコミを入れた。

 というか、相川がいることに誰か突っ込めよ。

 「一人で(一夏を)抱え込むなってんだ、この大馬鹿野郎!」

 「ふふん、久しぶりサね、ブリュンヒルデ。腕はなまってないのサ?」

 「試してみるか、ハッハッハ」

 「いや結構。遠慮させてもらうのサ。」

 「そいつぁ残念。」

 そんな生徒達をよそに、かつてモンドグロッソという大会での世界頂点を競い合った二人は再開を懐かしんでいた。

 「どんな匂いがした?」

 旅館の花瓶に挿してあった花の香りを嗅いでいた箒に、一夏が尋ねる。

 「バラのようないい香りだ。」

 だが、箒の嗅いでいた花はバラその物なので、『ような』ではない。

 「バラの匂いに酔ってる場合じゃないってんだスケベ!」

 と言うやり取りに、外野から来た鈴がツッコミを入れるのだからおかしな事になった。

 「今は、抜けたフォルテとダリルに注意を割かなければ。」

 一通り騒ぎ終えたところで、軽く咳払いをしてから千冬が話しを切り出す。

 「あのー、自己紹介から良いのサ?」

 「駄目だ」

 「いらん」

 「後にしろ。」

 ようやく本題に入ろうとしたところにこれである。ぞんざいに扱われるのも当然だ。

 「だと思ったのサ。」

 その返事に一夏が「ならいい」と返したときだった。

 「で、ナニモンなのよ?」

 説明を受けていなかった鈴が、こっそりと一夏に耳打ちをしたのをアリーシャは聞き逃さなかった。

 「アリーシャ、テンペスタのアーリィと言えばわかるのサ?」

 「サイボーグみてぇだな、腕がたつよぉ。」

 簪が失われた腕を見ながら呟く。

 「サイボーグなのサ。」

 「マジかよ~」

 それを告げられるや、簪の目は更に輝く。

 「おい、いい加減このオータム様を開放しやがれ!」

 などと緊張感など欠片もなく楽しそうにやっているのは、世界を股にかけて暗躍しているオータムにとって面白くない。それも身動きが取れないように拘束されているとは言え、同じ空間でなら尚更に。

 「ア“ァ?」

 「ごめんなさい!」

 だがそのプライドも、一夏の威圧の前には何の役にも立ちはしない。

 「さて、こちらの戦力はマイナス二、あっちもコレが抜け、マイナス一。とは言え、あちらはプラス二でこちらはアリーシャでプラス一だ。」

 茶番を一通り終えて、千冬が本題に入った。

 「だが、あっちの二はこっちの一だ。違うか?」

 「いやぁ、その通り。」

 ぶっちゃけあっちが一だろうと二だろうと、一夏達にしてみれば全く問題にならない。

 「ともかく、やれれっぱなしじゃ私の名前に関わる。こちらから仕掛けるわ!敵の潜伏先は、市内のホテルか、あるいは空港の倉庫よ。」

 どこからともなく登場・・・ではなく、玄関から入って来たのに誰にも相手をして貰えないでいた楯無が確定情報をもたらした。

 「じゃ、アーリィは篠ノ之、凰、オルコットを連れてホテルへ行け。織斑はデュノア、ボーデヴィヒ、更識妹を空港の倉庫へ連れて行って私の自称妹をツカマエロォ。」

 千冬が人員の振り分けを行う。

 「お任せを!」

 楯無が一番に返事をした・・・時だった。

 「おいおい、待ちなよ。京都に空港なんてあるのか?」

 「・・・。」

 一夏の問いかけに対し、フッと楯無が顔を逸らした。

 「・・・ヘリポートも空港よ。」

 ポツリと、バツが悪そうに楯無は答える。

 「分かったな!我々は本部で待機だ。何かあれば連絡しろ。」

 「「「了解!」」」

 そう言って、音の速さで各々散っていった。

 

 「ふう、さっぱりした。叔母さんもどぉです?カリカリしたって仕方ねぇよ。」

 シャワーを浴びてスッキリサッパリしたダリルが、相変わらずイライラしているスコールを説得する。

 「年上に対する口の利き方を教えてやったほうがよさそうだ。」

 苛立っているところへ気安く話し掛けられたものだから、更にスコールのストレスは加速する。

 「おーい、怒るこたぁ無いだろ?なあフォルテ。」

 「はぁ。」

 私を巻き込むな。そう言いたげに、フォルテは適当に返事をした。

 「ま、いいや。オレ等のISも制限解除したし、武装確認しようぜ。」

 「了解っす!」

 本領発揮の時間。フォルテはダリルの後について、武器が並べられているフロアへと向かう。

 「おお、この銃ってあれだろ?ヴィッカースの50口径機銃。よく手に入ったな。世界一の銃だぜ。こいつは私がもらう。」

 ダリルは嬉々としてISを部分展開して、組み込み(インストール)を開始する。

 「バカ言え世界一はマグナム44と決まってら。ダーティハリーも使ってるっす。」

 と、武器マニアなのかフォルテがあざ笑うように別の武器を手にして、ISに組み込んだ。

 「・・・こっちは準備OKだ。」

 「私もOKっす。」

 ISを展開して、異常がないことを確認した二人。

 「よーし、そんじゃ!」

 と言って、突然ダリルがホテルの窓を撃ち抜いた。

 「よく気づいたのサ、だが、わたしの狙いはスコールなのサ!」

 同時に、一機のISが奇襲を仕掛けて来る。

 「行くわよ!ゴールデン・・・」

 遅れは取らない。笑みを浮かべながらIS『ゴールデン・ドーン』を展開した。

 「ISを展開したぞ!」

 「ヤロォォォォぶっ殺ッシャァァァァァァァ!!!」

 「バァクダン攻勢を開始するゥ!」

 のまではよかったのだが、それを待っていましたと言わんばかりに圧倒的な物量と質の攻撃があり、ゴールデン・ドーンは瞬く間にシールドエネルギーを削られる。

 「ちょ!?」

 「うぁっ・・・!」

 「駄目です!テッターイ!」

 「ちっくしょもう!」

 噂に聞いていた以上の猛攻。初めて目の当たりにした箒の戦いっぷりの前にダリルとフォルテは先ほどまでの余裕を失い、ただ逃げ惑うことしかできなかった。

 

 「私たちは(空)港湾労働者組合のもんだ。」

 「ここに亡国企業が潜んでるって聞いた。まさかちがうよなぁ?」

 一夏とラウラが、入口の前に立っているテロリストの警備要員らしき人物に声を掛ける。

 「そのまさかだ!」

 被っていたフードを脱ぎ捨て、目にも止まらぬ速さでISを展開したマドカ。

 「サイレントゼフィルスゥ!ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 「そうそう何度も簡単に!」

 やられはしない・・・と、言わなくてよかったと、斬り合った瞬間からマドカはどれ程思ったことだろう

 「ぐぅっ・・・」

 「一夏!加勢するぞ!」

 たった一人相手にこれなのにもかかわらず、更にもう一人加勢使用と向かってきている。

 と、ここでマドカに救いの手が差し伸べられた。

 「・・・ん?」

 「うわ・・・!?!」

 それまで快調に動き回っていた簪、シャルロット、ラウラが突如として動きを止め、その場に立ち尽くす。

 「にゃーん!黒騎士のお披露目は邪魔させないのさ!」

 陽気な声とともに、ふらりと現れたのは篠ノ之束。彼女は右手にステッキを握っていた。

 「これは・・・重力でしょうか?」

 声量は多少控えめながらも、珍しく自ら発言した簪。

 「ン~よくご存じねぇ、正確にはキングス・フィールドだよ。出力高めはお好き?」

 「ええ、ゾッコンですよ」

 「もっと強くていい。」

 「トレーニングに丁度良いね。」

  しかし、束が想像しているよりも簪にラウラ、シャルロットのパワーが上回っていたせいで、渾身の一撃が足かせにもならない。

 「あ、アレ・・・?」

 壊れたのか。右手のステッキをグルグル回して眺める束。

 ご安心ください。お使いの装置は正常に作動中です。

 「束ぇ!」

 そこへ、怒鳴り声と共に千冬が日本刀を手にして切り込んできた。

 「やあ!やっと来たね!ちーちゃ・・・」

 「フンッ!フンッ!フンッ!ヌォォォォォォ!!!」

 感動の再会をぶっ壊して、ついでに束のフィジカルもぶっ壊して千冬は刀を振るう。

 「うぁぁぁ・・・!!!」

 「小娘め!クソォ・・・逃げたか!」

 たまらず逃げ出した束を、しかし千冬は追いかけようともしなかった。

 

 「フンッ!」

 一方その頃、一夏はマドカをストーカー・・・もとい追いかけ回していた。

 「ええぃ!この燃費どうにかならんのか!」

 白式を使っている以上、避けては通れぬ道に一夏は不満が募る。

 「無理無理無駄なこったよ。」

 「くそったれぃ!」

 怒りにまかせ、一夏が零落白夜を発動させた雪片を投げつける。

 「見せてやる、私の新しい力を!」

 それをあっさりと躱して、マドカは自慢げにそう告げる。

 「セカンドシフトか!」

 直後に始まったISの変形。一夏はその大胆さと余裕がどこから来ているのかに驚く。

 「これで・・・この力でお前を倒す!行くぞ、黒騎士!」

 「でぇい!邪魔だクソッたれ!」

 そういって突撃してくる黒騎士に向けて、一夏はほとんど重しになっていた白式を脱いで蹴り飛ばした。

 「な、ISを蹴り飛ばし・・・うわ!」

 あまりに衝撃的な光景に、驚いて声をあげるも避けることができない。

 「ヘロインのにおいがするな?」

 意味ありげに笑いながら、一夏がマドカに尋ねた。

 「随分粒が細かいぜこりゃ。」

 キラキラと舞うその粉に、マドカは意味が分からなかったので適当に答えた。

 「ぶっ飛べ!」

 刹那、空間を熱と衝撃が支配した。

 「チクショウ痛かった!」

 どこから来たのか、スコールもその衝撃に巻き込まれていた。

 「生きてるだけでラッキーだ!」

 「ああ、爆発が上手くいったのもな。」

 「エム!ずらかるぞ!」

 どれだけ強くなっても、一夏がそれを上回ってくるのでは手の打ちようがない。スコールとマドカは、一瞬の内に撤退を決断した。

 「スコールミューゼル!チクショォしくじったのか!」

 「織斑一夏・・・もう二度と会うのは御免だ。」

 そう言って、二機のISは瞬時加速で離脱していった。

 「逃げたか・・・だが、二度と会わないって訳に行かないんだろ?」

 いつでも受けて立つと、ほぼラスボスのように一夏は二人が逃げていった方向へ声を掛けた。

 「ね、ねぇ・・・一夏あれ・・・。」

 鈴に言われ一夏が振り返る。

 「ISが動いてる・・・人が乗っていないというのに・・・。」

 心底不思議そうに、一夏は首を傾げるのだった。




B 信じられない・・・読者の為だなんて言っておきながら、結局はコメントが欲しいのか
A もちろん。読者のために書きながら少しは交流しなきゃ


※土、日は休みます。


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第58話 おぉい、怒るこたねぇだろ!?

土日は投稿をほっぽらかしてたのに、良く読者がいるもんですナァ。全くお笑いだ。
語録は縛ってろ、その口も閉じとけ。



 「Zzz・・・」

 楯無がとある人物と接触して旅館に戻ってみれば、山田先生が玄関でひっくり返って眠っていた。

 「いびきをかき続けたら撃ち殺してやるわ・・・」

 「Zzz・・・」

 だが、いつまで経っても玄関を塞いだままで起き上がる気配がない。

 「山田先生!」

 「ねぇ!ターミネーター4のサイボーグがいた!」

 「起きねえとぶっ殺すぞぉ!!」

 「あ、ゴメンネェ」

 大声で呼びかけ続け、ようやく目を覚ました。

 「さて、山田先生。一つ派手にやってくれ、学生時代にキリングシールドを名乗った時のように。」

 「あ、あはは・・・私は忘れたい。」

 昔の話を持ち出されて、山田先生は居心地悪そうにする。

 「結構、では行きましょう。」

 それだけ自覚があれば十分と、楯無と千冬、山田先生はオータムをほったらかして出かけていった。

 

 「く・・・なんで無人の白式が白騎士に・・・?!」

 一夏がぶん投げて無人となった白式は、どういうわけかその姿形を変えて、かつて白騎士事件でISの存在を世界に知らしめた白騎士の姿になった。

 「一夏!ISでもどうにもならないよ!?」

 かれこれ一〇分以上戦っているが、一向に弱る気配がない。

 「だったら殴ればいいだろ!」

 「そんなぁ・・・」

 それもこれも一夏が参戦していないからなのだが、それを加味しても白騎士が強い。

 「大体お前は・・・(ISが)チームメイトになろうとしたのに、友達になろうと言ったのにアンタはよぉ~、聞く耳も持たなかっただろうが!」

 「そんなセリフあったか!?」

 膠着状態に業を煮やした鈴から戦闘の責任をなすりつけられて、一夏が目を大にする。

 「残念だが、ない。」

 それに対して、箒が冷静に返した。

 「クソォォォォォォ!だましやがったなぁ!?」

 「おぉい、冗ぉ談だよぉ!?怒るこたぁねぇだろ!?」

 ただまあ、ちょっと気を抜いた程度で戦況が崩れるほど強い相手ではないので、つまらない茶番を挟む。というか、これが膠着の最大にして唯一の原因だった。

 「みんな、お待たせ!」

 そこへ楯無と山田先生が到着する。千冬?さあ?

 「山田真耶、行きます!」

 普通のラファールとは違う、明らかな専用機。気合いの入り方が違った。

 「Foo!ええぞぉ!あんた気前良いじゃねえか!こんな時こそISを使わねえとな!」

 「ヤッチマエ」

 それを見て回りも、よいしょよいしょと持ち上げる。

 「お任せを!シャッタードスカイ!!」

 雰囲気に後押しされて、山田先生はより一層気合いが入る

 「よぉし、派手な葬式といこうか。」

 しかしそれは、ドスンと落とすための通過儀式みたいなものだった。

 「え、ちょ織斑君!?」

 「くたばりやがれぇ!!!」

 刹那、近くに落ちてた雪片弐型を見つけた一夏は、力の限りそれを白騎士に投げつけた。

 「あんたさ、偶には人に手柄を譲ろうと思わないワケ?」

 見事にそれが命中し、白騎士は落ちていく。それを見て、山田先生の立場はどうなるのよと、鈴がごまをすりに行く。

 「同じ状況ならお前もそうする。」

 「いやぁその通り。それが悪いのか?」

 けれどそれは、一夏の指摘によりあっさりと打ち砕かれた。

 「皆さん・・・酷いです・・・。」

 「俺が悪かったよ、熱い場面につい我を忘れちまって・・・。」

 打たれ強い筈の山田先生が、珍しく凹んでいたので、一夏は流石に哀れに思って謝るのであった。

 

 「お帰りなのサ。」

 白騎士を撃ち落として一夏達が旅館に戻ってみれば、そこにアリーシャだけがいて、オータムの姿はどこにも見当たらなかった。

 「アンタ何考えてんだよ。せっかくのホシを逃がしちまって。」

 いないのなら別にいないで気にならないため、一夏はそこまでアリーシャを責めないでいた。ところが。

 「・・・これよりイタリア代表アリーシャジョセスターフは、亡国企業に下るのサ。」

 アリーシャの口から告げられた、衝撃の事実。

 「え!?」

 「畜生!マジかー、誰もこんなこと言ってなかったぜ、驚きだ!」

 オーバーなリアクションをする一夏達。それを見たアリーシャは「驚いているようには見えないナ」と皮肉る。

 「ブリュンヒルデと戦いたければ直接言えば良いだろ。」

 言えないのなら仲を取り持ってやる。一夏が提案をしたが、それでも彼女は止まらなかった。

 「私はあくまでISで戦いたいのサ。その舞台を用意できるのが亡国企業なのサ。」

 「・・・ガンバッテー。」

 ぶっちゃけ、千冬がISを使う可能性はグッと低い。去年までなら、あるいはISを使う場面もあったことだろうが、今は一夏が居るからまずあり得ない。その残酷な事実を、伝えるべきか迷った鈴だったが、応援しておくだけに留めることにした。

 「逃がして良かったの?」

 玄関から去って行った、アリーシャの背中が見えなくなった。

 心配そうにシャルロットが、一夏に尋ねる。

 「・・・俺たちは知らぬ存ぜぬで通すんだ。」

 それが一番の方法と、一夏はシャルロットに説明した。

 「私たちはまともなことをやってないって、気がするんだな。」

 「気のせいダヨ。」

 もっともな指摘に、一夏は目を逸らすのだった。

 

 「千冬姉、酒まだあるか?」

 その日の夜。旅館の大浴場にて千冬が晩酌をしていると、一夏が堂々と入ってきた。

 「ちょ、ちょっと織斑君!?なにしれっと入って来てるんですか!?」

 ここは男子禁制(法律)の女風呂。山田先生は慌ててタオルで身体を隠す・・・が、悲しいかな。一夏の視界に、山田先生は一ミリも入っていなかった。

 「何だー、一夏。お前にはまだ飲ませんぞー。」

 既に顔が赤くなり始めた千冬は、少し回っていないろれつで、徳利をいれ湯船に浮かべている風呂桶を抱きかかえる。

 「ただの補給だ。・・・大分酔ってるな?」

 今日ばかりは観光だからと、一夏は()()()の差し入れを持ってきた。

 「おおともよ、それがどうした?」

 途端、手の平を返して瓶を受け取る千冬。

 「いや、あとの連中が気の毒だ・・・。」

 風呂で飲むと長風呂になる。更に、酔いが回ってくるとただの変態に成り下がるので、一夏は脱衣所の連中を哀れむ。

 「?・・・一夏、本当に酒を注ぎに来ただけかぁー?」

 一夏がそれだけのために、わざわざ出向いてくることはない。千冬は、よくそのことを知っていた。

 「アリーシャが逃げた。」

 「KOROSE☆」

 報告を聞き終わるや否や、千冬は端的に告げる。

 「俺に仁義を破れというのか・・・?出来ねえ相談だ。」

 「だろうな・・・だが最後、やらなければならないことは分かってるな?」

 「・・・追いかけ見つけ出して殺す」

 舌の根も乾かぬうちに、一夏は先ほどと正反対の言葉を口にする。

 と、そこへ。

 「たくもー、一夏ったらどこに行ったのよ!」

 鈴を先頭に、数名が脱衣所から浴場に移動してきた。

 「やぁ、お嬢さん方。ご機嫌いかがですぅ?」

 自分の名前が出たので、一夏は話し掛けてみた。

 「ご機嫌さ、目の前の目障りな筋肉バカが消えっちまえばな。」

 除く気がゼロなのは言うまでもないとして、流石に女子風呂に堂々と現れるのはどうなのかと鈴は不快感を示す。

 「随分冷てぇじゃねえか。」

 「いや、いい湯加減ね。」

 どこから話しが切り替わったのか、温泉の話になっていた。

 「一夏、今夜暇かい?」

 「糞して寝な。」

 「あ、どーも。最近の一夏キツイや。」

 どさくさに紛れて、シャルロットは予定を尋ねてみたのだが、あえなく撃沈された。

 「って、あ!千冬さん酔ってる!」

 その時、鈴が千冬の手に酒瓶が握られていることに気が付き青ざめる。

 「おいおい・・・勘弁してくれぇ!」

 「酒に酔ってる場合じゃねぇってんだこの元代表!」

 何も知らないシャルロットとセシリアは、解放しようとして千冬に駆け寄る。その後の自分達の運命も知らずに。

 「それじゃお嬢さん方、ごゆっくり?」

 疑問符を付けながら、一夏はピシャリッと浴場と脱衣所とを仕切るドアを閉めた。

 「待って、止まれ!ウワァァァァァァァァァ!!!」

 「にゃっはっはっはっは!」

 その後、酒が完全に回った千冬により、女湯はカオスになったとさ。

 

 翌日の昼。

 「あー・・・二日酔いだ。」

 帰りの新幹線に乗り込み席に着くや否や、千冬はグッタリと席に身体を預ける。

 「飲みすぎだ。」

 一夏が横目でそれを見ながら呟く。

 「飲ませたのは誰だ?」

 「何でしょー、聞こえませんよー?」

 「」

 いつもなら「嘘をつけ」というところなのだが、生憎気分が悪いため千冬は何も返さずに目を瞑った。

 「一夏、私達あの後ひどい目にあったんだからね?」

 今朝から何度目になるのか。流石に耳にたこができた一夏は、餌で釣る作戦に打って出る。

 「出来立ての小籠包・・・南京中華街テクノロジーの結晶。やるYO。」

 「ぃやった!」

 その作戦は目論見通り、見事に鈴の脳内から嫌な記憶を一掃した。

 へ?兵庫は遠い?ちょっと近所に散歩に行った程度です。

 「意地汚い雌猫が!」

 一夏に貰おうと狙っていた箒が、ありつけずに悪態をついた。

 「それより皆さん、好きなお弁当は買えましたかー?」

 山田先生が、騒がしくなる目にと話題を変える。

 「スタミナ丼!」

 「すっぽん定食!」

 「プロテイン弁当!!」

 ものの見事に脳筋なバリエーション。

 「この筋肉にだらしのない、ヴァカどもが!」

 「いやぁその通り、それが何か悪いのか?」

 悪態をついた山田先生だったが、誰一人としてそれを気にしなかった。

 

 「束様、紅茶が入りましたよ。」

 移動式の研究式の中で、クロエは束のために紅茶を入れた。

 「やったぁ!クーちゃんの紅茶だぁ!」

 久方ぶりの休息の時間。束は工作中だった物体を放り捨ててテーブルに着いた。

 「お茶請けはいかがしましょう?」

 「リガトーニが食えりゃ文句はねえ。」

 お茶請けだって言ってるのに、それではしっかりとした食事になってしまう。

 「分かりました。」

 それでも、少女が逆らうことはない。

 「あ、ねークーちゃん。すこーりゅんが持ってきた生チョコ八つ橋はー?」

 クロエが調理(?)のために退出しようとしたところで、束は待っている間にお土産を食べようとしたのだが。

 「あれは毒物反応があったので、昨晩の内に束さまの胃の中に押し込んでおきました。」

 「そっかぁ~、楽しみにしてたんだけどなー。」

 もうないのか。残念がる束であったが、傍とあることに気が付いた。

 「・・・・・胃の中に押し込んだ!?」

 「・・・ご機嫌ですね?」

 「ご機嫌じゃないよ!ママに何押し込んでるの?!」

 どういう解釈をしたらそうなるのか。束は身体に異常がないか触って確かめる。

 「?毒です。」

 「シレッと言わないで!」

 「でも生きてます。」

 大丈夫でしょうと、クロエは切って捨てる。

 「そうだけどさ~・・・。」

 束もまた、異常がないことを認めると、それ以上の追求は止めた。

 「は~~~。まあ済んだことだし・・・白式というオンボロが悉く私の予想を裏切っていくのに困惑せざるを得にゃいにゃー。」

 「困惑?しているようには見えませんが。」

 それだけ話題の振り幅があるなら、もう大丈夫と判断する。

 「・・・そういえばどうして束様はISをお作りになったんですか?」

 クロエは、これまではISこそが世界の中心と思っていた。実際、世間でもそう認識されていた。けれど織斑千冬を始めとした者達に出会ってからと言うもの、古くから彼らのことを知っている束がなぜISの性能をこの程度に抑えているのかが分からない。

 「私に目標なんかない!女の子を羽ばたかせたいだけなんだ!」

 「それから?」

 「ん~、アメリカ、もらっちゃおうかな♪」

 満面の笑みでそう言い放った束。付き合ってられないと、クロエは調理のために立ち去った。

 

 

 

 「やっほー、おりむーお帰りなのだー。」

 一夏がIS学園に帰り、お土産を以て生徒会室に出向くと、一番に本音が出迎えてくれた。

 「あ、あの、織斑君、向こうで弾君に会いませんでしたか?」

 続けて、少し心配そうな顔をした布仏虚にそれを尋ねられる。

 「俺は忙しかったから会ってません。セシリアとラウラが会ました。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です!」

 突然、一夏は携帯を取り出して電話を掛け始めた。

 『おー、一夏か!』

 一夏は、電話をスピーカーモードにしていた。そしてその相手は、まさにいま虚が一夏に尋ねた相手であった。

 『お前の友達のおかげで虚さんにプレゼントが買えそうだよ、随分弾んでくれて、何だよまるで大統領だな。』

 まさか虚に聞かれているとは夢にも思ってない弾は、意気揚々に現状を話す。

 「ちょっと弾君!私の誕生日プレゼントなら無理しなくていいって言ったのに!」

 顔を赤らめ一夏から電話を奪い取った虚。

 『え、虚さん!?ちょ、一夏おま・・・』

 弾もまた、赤くなっているのが声だけで分かった。

 「ごゆっくりどうぞ?」

 「あ!織斑君!」

 「何です?」

 用事が済んだと、立ち去ろうとした一夏を虚が慌てて制止した。

 「バナナはおやつに含まれません!」

 『いやいやいや、虚さんそれは・・・』

 小学生の遠足ではあるまいしと、弾は電話の向こう側で笑ったのだが・・・。

 「嘘だァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 カロリーが低くエネルギーの補給ができるバナナを絶たれ、一夏はダアァァァンッと倒れ込んだ。

 「「「」」」

 その様子に、居合わせた全員が目を丸くした。

 

 

 

 「で、また買い物か・・・。」

 そして週末。またしても一夏は買い物に付き合わされていた。

 「一夏・・・間違っても壊物はするなよ?」

 「も、もちろんだヨ;」

 「ふっふーん?だといいが?」

 一夏が目を逸らしたので、箒はうさんくさそうに彼を見た。

 「・・・・・ちょっと天気がいいので、密売人を殺しに・・・。」

 (((逃げた)))

 うっかりしたらやりかねないと、一夏は別行動を選んだ。

 と言っても、特に買いたいものがあるわけでなし、適当に店内を見て回る。

 「あら、ご機嫌いかがですぅ?織斑一夏君。」

 オイル売り場に差し掛かった、まさにその瞬間。一夏は声を掛けられ振り向いた。

 「ご機嫌だ。目の前のサイボーグが消えっちまえば。」

 流石にドンパチできない。一夏は不満を垂れる。

 「あら~つれないわねぇ」

 「すっげぇ筋肉、今も鍛えてんの?」

 「それは筋肉って言わないわよ。」

 「そいつは残念。」

 無理矢理に話題変更を狙ったが、それ故に続かない。

 「今日はオイルを買いに来ただけ。敵対する気はないわ。」

 「オイル。あんたの作動油か?」

 「そうよ。新しい腕はよかったのだけど、どうも馴染んでな・・・違うわよ!」

 この売り場にあるのは美容用のもので、断じてマシン油ではない。

 「・・・織斑千冬には気を付けなさい、倉持技研にも。」

 これ以上いたら、何をされるか分からない。京都でのことがフラッシュバックしたスコールは、手早く商品をかごに入れる。

 「それ脅してんの?」

 「さてどうかしら?」

 「・・・」

 そう言うと、スコールはさっさと会計を済まして去って行った。




~没Part~
「やったぁ!クーちゃんの紅茶だぁ!」
「イッショケンメイ、100パセント、シマシタ」
「!?」
A 誰が気づくってんだこんなネタ
B 最近はソ連でもベースボールが流行ってる
A それとこれとじゃ話が別だァ・・・


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第59話 彼女に演技させる方が楽だもんな。違うか?

こいつ、頭のネジが何本か足んねぇみたいだぜw
いやぁ、その通り。それが悪いのか?



 「ババーン、おりむーの隣の席争奪!ババ抜き大会~!」

 修学旅行の前日。本音は一年生を食堂に呼び寄せていた。

 「私帰るね、マッチョの遊びには付き合えないや。」

 「(織斑君の隣は)破壊的だって、評判悪かったぞ。」

 「あれは酷いのなんのって、ベトナムが天国に思える。」

 ところが催しの内容を知るや、一組の生徒の大半は立ち去っていった。

 「よーし、何人かライバルが減ったぞ~。」

 実に棒読みな声で、ラウラがそう言った。

 「一夏の隣は私が・・・!ち、ババだ。」

 「生まれの違いを、教えて差し上げますわ!あ、ババ・・・」

 「ふん、アンタらの実力なんざそんなもんだぁ!ババァ!!」

 「もーみんな猜疑心の強いんだからぁ、あっらー?ババだぁ。」

 「私は直感を信じる!・・・おぃおぃおぃ、ふざけんなこんなのアリかよマジで契約違反だ。顔面にバッテンつけて頼んだのにこんな札よこしやがって!ペパロニのピッツァ頼んだら台湾ソーセージのっけてきたようなモンさ!サギだよサギ!」

 「ホンっとドイツ人は怒りっぽいんだから~w・・・ババ・・・。」

 狙い澄まして、一同はババを回す。全力でババを引く。手当たり次第にババを引く。

 「お~私上がり~。よーわっ」

 そうこうしている内に、本音が一番に上がる。それ自体は計画によるものだったのだが、最後の煽り文句がかんに障ったようで、彼女たちは腕まくりをして本音を追いかけ始める。

 「十年前だったら素手でぶっ殺してたぜ!!!」

 「ぶっ殺してやる!」

 「や~!まだ死にたくないよぉ!」

殺気を感じて、本音は一目散に食堂から撤退する。

 「小娘めぇ!逃げたぞ!」

 「追いかけ見つけ出して殺せぃ!」

 とても女子校とは思えないカオスな状況・・・でもない。今更か。

 

 一同が騒いでいた頃、一夏は自室に籠もって写真の整理を行っていた。

 「これで人数分・・・」

 ばらけた写真を手に持ち、机にトントンッとやって揃える、と、不思議にも一枚だけ写真が床に落ちた。

 「おっと・・・集合写真か・・・。」

 一夏はそれを拾い上げ、そしてそこに写っていた人物の名を呟いた。

 「ダリル、フォルテ・・・いい兵士だった・・・。」

 

 

 

 「のんびりやるさ、古都の中でな。」

 出発の日の朝。見送りに来た生徒会の二年生以上のメンバーに一夏はそう言った。

 「いってらっしゃい、織斑君。お土産はよろしくお願いしますね。」

 「お任せを!」

 お土産とは、弾からのプレゼントのことである。

 「えへへ~おりむ~の隣の席~。私愛されてるっ」

 一夏がバスに乗り込む。指定された席の隣には、本音が座った。

 「寝言言ってんじゃねぇよ。」

 「本番は京都だ!」

 「ああそうだ!」

 「行こうぜ!」

 ドアが閉まり、バスが発車する。

 「おりむ~駅弁何買う?」

 「スタミナ丼!」

 東京駅まで移動するまでの間、暇だった本音が質問すると、間髪入れずに一夏は返答する。

 「一夏、ソレはこの間も食べただろ。今日はこらえろ。」

 と、後ろから箒がツッコミを入れる。

 やいのやいのと言いながらも、バスは東京駅へと走り続ける。

 

 駅に到着してバスを降りると、本音は駅弁売り場へと急行する。

 「お~い勘弁してくれぇ。」

 追いかけるこっちの身にもなれと、普段のことを棚に上げて一夏が叱る。

 「お~富士のますのすしだ~。西欧テクノロジーの結晶、200ドルもする。」

 「富山じゃなかったのか!?」

 富士にそんな料理あったか?あったとしてもそんなに有名か?地名が違わないかと、一夏が聞くと。

 「ジョークが好きなんです、気にしないでください。」

 屈託のない笑顔でそう返された。

 「あー、布仏さんいいなー。」

 「っていうか、くっ付きすぎじゃない?」

 「まあ、本音だし。」

 その様子を遠巻きに見ていた一部の生徒からは、一夏にべったりの本音を羨む声が上がる。

 「・・・おぉい、(あんなのの隣が良いなんて)よしてくれぇ。」

 一歩踏み外せばどうなるか。そのこわさを身に以て知っている一組の生徒と二組の一部の生徒からは、そう言った生徒は白い目で見られる。

 「よぉーしくそったれども、新幹線が来たぞ、乗り遅れたくなかったら、気を抜くな。いいな?」

 一同が乗り込む列車が、プラットホームに滑り込んできた。まだこれから清掃があるのですぐには乗れないが、臨戦態勢を整える。

 「へいへーい、IS学園だ、悪かねぇぜ。」

 「織斑一夏君は!?織斑君を出せぃ!」

 「アンタもミーハーよねぇ。」

 「モぉチロンです。(野次馬)プゥロですからぁ?」

 そうこうしていると、野次馬が騒ぎ始める。男は女子生徒を、女は一夏を目当てに近付いて来た。

 「おーおりむ~人気者~。」

 「ほっときゃ良いさ、野次馬なんぞクソッ食らえだ。」

 短時間の内に野次馬は数を増やす。

 そろそろ収束が付かなくなるか。それ程に人数が膨らみかけたところで、ようやく乗車が開始された。

 「よぉし、全員乗ったな。」

 ドアが閉まり新幹線が動き出したタイミングで、千冬が点呼をとる。いくら天下のIS学園と言え、公共交通機関を待たすことはできない。

 「OK!」

 それ以前に、間に合わなければ一夏が詰め込んだことだろうが。

 「まっすのすし、まっすのすし♪」

 「あん?何だそりゃ。」

 「なんだそりゃって・・・分かってんだろ・・・。竹とゴムで押さえつけて鮮度を保ってるんだよ~」

 「へぇ・・・」

 そこではなく、その歌が何だと尋ねていたので、一夏は生返事で返した。

 「おりむ~外していいよ~。」

 「そんじゃ、お言葉に甘えて。」

 ぼちぼち腹も減ってきた。本音から弁当を受け取って、一夏は蓋を取ろうとして、輪ゴムで自分の手を叩いた。

 「ヤロォォォォ!!!」

 「わぁ待って!止まれぇ!おりむ~、食べ物を粗末にしちゃ駄目だよ~。」

 この脳筋は、食べ物を粗末にしない。心配ゴム用・・・ご無用だったが、本音はそこまで走らなかった。

 「随分と楽しそうじゃねぇかぁ。」

 眠ろうとしていた箒は、賑やかさに少しだけ目を開いて呟くと、また目を瞑った。

 「ひよこ・・・ひよこ・・・」

 「ラウラ、どうしたの?」

 「金とヤクに、未練たっぷりだ。」

 「ラウラ、ひよこどこでも売ってるから・・・。」

 そして別の場所では、お土産売り場で見たお菓子に未練タラタラなラウラをシャルロットが慰めていた。

 

 「は~新幹線楽しかったねぇ。」

 京都駅に到着。新幹線を降りて、歩いて移動していると本音が一夏にそう話し掛けた。

 「そうかぁ?」

 筋トレもできずただ暇なだけだと、一夏は理解しかねる。

 「織斑くーん!写真撮って、写真!」

 「任せとけぇ!」

 不意に一夏は写真をリクエストされ、すぐにカメラを構えてシャッターを切った。

 「写真が出来たら送ってあげるねぇ!」

 「いらねえ!写真は嫌いだ。」

 「そんなこと言ってたか!?」

 撮らせておいて何でだ。一夏は首を傾げた。

 「さー、次は京都観光DA!」

 修学旅行のしおりを見て、鈴が意気揚々と歩き出す。

 「お前は、もう一働きだ。お前は撮影の天才だ。IS学園記念撮影の歴史を根底から覆してしまった。アカデミーで汗を流して学んだテロリストの心理、写真現像に光度分析、張り込みに人質解放交渉のテクニック、犯罪心理学、あれは一体何なんだ?観光気分でドライブして、『ああこの家がそうだ、ここが悪党の隠れ家だ』って指差して済むと思ってんのか?!」

 この修学旅行に先だって行った視察旅行でのことを蒸し返されて、一夏は居心地悪そうにする。

 「最初は清水寺でいいかい?」

 「・・・行ってこい。」

 もうお前さんと悪党の隠れ家巡りはごめんだ。観光がしたいと一夏は追い出された。

 「おりむ~飛ぼう。」

 そんな一夏を見かねて、本音が助け船を出す。

 「よし来た任せとけ。」

 ガシッと、一夏は本音を掴んで持ち上げる

 「え?」

 そして、脚力にものを言わせてジャンプ。

 からの、特撮級の噴煙を発生させるダイナミック!な着地を決めた。

 「地面が無くなちゃったわ。」

 クレーターができた道路。一夏が平手で地面をペチペチすると・・・。

 「これで出来た。」

 「アイツ、ナニモンなんです?」

 綺麗さっぱり、元通りになってしまった。

 「のほほんさんずるい!」

 その様子を、アトラクションか何かと勘違いした他クラスの生徒が羨ましがる。

 「未だにこんなこと言う奴がいるとはなぁ・・・。」

 呆れてものも言えないと、鈴。

 「私たちも飛ぶぞ!」

 京都は上から見るに限る。箒がISを展開しようとしたとき。

 「皆さん、座れ。そのISも閉じてろ。どうしても行くというなら、私を倒していってください☆」

 山田先生が両手を広げ、箒、鈴、セシリア以下略の専用機持ち達の前に立ちはだかった

 「OK!」

 そしてお約束。ドベキシッ!と殴られた山田先生は「オフィ・・・」と言って倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。

 「まあ、行かないけどね。」

 面倒事は知らぬ存ぜぬが一番。鈴はパンパンと手を叩いた。

 「おい山田君。立って歩け。」

 ゲシゲシと、千冬が寝っ転がる山田先生を蹴る。パワハラだ!・・・え?今更だって?

 「腰にロープでも繋いどくんだなダンナ」

 「なるっほど、ソイツぁ良い。」

 「・・・」

 痛さのあまり、山田先生は何も言い返せなかった。

 

 「わ、わぁ~一瞬だぁ~。」

 「そりゃ当然。」

 アッシーを使ったため、清水寺までひとっ飛びで到着した一夏と本音。

 「清水寺きれいだね~」

 「それがおかしいんです少佐、どう見ても人っ子一人いないんですよ。」

 トンッと舞台の上に着陸する。ところが、これだけの観光名所にもかかわらず人が全く見当たらない。

 おかしい。これは罠か。本音は身構える。

 「ちょっと、あなた達、どこから入ってきたの?!今は映画の・・・てアナタは織斑一夏!?」

 と、柱の陰から女性が現れて、一夏を見て目をまあぁるくした。

 「先に行かせてもらうぜ友達ぃ!!!」

 素早いダッシュで、離脱を図る一夏。

 「ゑ?おりむ~!?」

 だが続いて本音が一夏の名前を口にした所為で、いたる場所から人が出て来た。

 「逃がすなぁ!捕まえrrrrロ」

 「え?・・・えぇ!?織斑一夏だ!」

 ここで暴れて寺を壊したら何を言われるか分からない。デパートでスコールを見逃して以来の屈辱を一夏は味わう。

 「すっげぇ筋肉、今も鍛えてんの?」

 「もぉち論ですぅ。プロですからぁ?」

 それでも何とか逃げていたのだが、筋肉の話を持ち出された途端、うっかり足を止めてしまった。

 「捕まえた。」

 「いっけね、やっちまった。」

 だがまあ、いつでもその気になれば逃げられるが。

 「よぉ~し、間抜けども、ボーナスが欲しけりゃ気を緩めるなよ、いいな?」

 「「「了解!」」」

 監督らしき、メガホンを持った男がスタッフに指示を出す。

 「よし、織斑君!主役は君だ!ヒロインは・・・君に決―めた。」

 監督がメガホンで本音を指す。

 「セリフはどうしようかしら・・・そのままでも良いけど・・・。」

 「動くな!大人しく銃を捨てないと脳みそを周りに撒き散らしてやるわよぉ?」

 すぐに脚本家と思われる女性が、マジで考え始めたので一夏が助言をする。

 「それだ!」

 そして、かなり物騒な台詞にもかかわらずそれは採用される。

 「大丈夫かぁ?この映画。」

 放送コードに引っ掛からなきゃいいが。珍しく一夏は他人の心配をした。

 「それより二人ともお着換えね。」

 「断る!俺は(ロケバスから)降りるぞ。」

 ここにある服では俺の動きには耐えられるはずがない。一夏はそれを拒否した。

 「織斑君、サイン頂戴!」

 「ISだ!ISを出せ!」

 「写真撮らせて!」

 着る着ないの押し問答をしていると、スタッフがワラワラと集まってきて、それぞれが発言を始める。

 「ヌォォォォォ!全員纏めてかかってこんかい!」

 「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 太っ腹な対応に、スタッフから歓声が起きた。

 

 「さぁ嫁をくれ!なぁいい子だ、お前だって死にたくはないだろう!」

 ドレスを身に纏った本音は、ボロボロになったサングラスの集団に追い詰められていた。

 「あの人はとどまることを知らない・・・私帰るよ。マッチョの遊びには付き合えないや。」

 どっちがマッチョだ。役者は心の中で絶叫した。

 「と、飛びおりた!?」

 それでもプロ根性で、演技を続ける。

 「残念でしたハズレ。」

 そう言いながら、現れた本音は、白式に抱きかかえられていた。流石に映画で使うぐらいなら、まあ、ギリ大丈夫だった。

 「な・・・!?逃げる気か!?」

 「それが何だってんだ!誰が何しようが俺には関係ない!デカい声を出すな!耳があるんだ!台本どおりにただ喚き散らしやがって、それしかできんのかこの大根野郎!俺を何だと思ってる!ヒーローだ主役だ!俺に怒鳴るな!」

 瞬時加速で、あっという間に(一般人から見て)空の彼方へと二人は消えていった。

 「くそぉ・・・逃げられた・・・!」

 サングラスの男が、手すりを叩いて悔しがる。

 「カァーーーーーット!お疲れ様でしたー!」

 そこで撮影が終了した。

 「スカッとするほどキレイに演じた上に、俺たちが一個のミスもしてないことは皆が見てた。上手いやり口だ、俺から学んだのかな?フッフッフ・・・。」

 監督はまんぞくのいく絵が撮れたと、悦に入っていた。

 「あれ、二人は・・・?」

 「クソォォォォォォ!逃げたか!」

 「やってくれるよはっはっはっは!!!」

 打ち上げにも呼ぼうとしていたが、それは叶わなかった。それでも、映画が思い通りに撮れたので、監督は豪快に笑うのだった。

 




Zzzz
あの作A、なんでそんなに眠れるんだ?
(明日朝起きられないことへの)恐怖さ
(夢の中で)ランキングに立つまで寝てる気だろう


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第60話 何をするぅ!何故撃った!

A 今日は何日だ、今日の日付は!
B 9月7日、土曜日
A 何年の!
B 昭和94年ごg・・・
A 嘘をつくとぶっ殺すぞぉ!
B 悪かったよぉ、紀元前マイナス2019年だ



 「どこ行ってた、フランスまでか?」

 一夏と本音が旅館に戻ると、開口一番にラウラがそう問うてきた。

 「それが何だってんだ!俺が何しようがお前には関係ない!デカい声を出すな!耳があるんだ!テンプレどおりにただ喚き散らしやがって、それしかできんのかこの大根野郎!俺を何だと思ってる!ヒーローだ主役だ!俺に怒鳴るな!」

 映画モードの抜けない一夏は、先ほどの台詞を少し変えて再放送する。もっとも、本音以外に知る者はいないのだが。

 「もうお夕食も終わってしまいましたわよ。」

 と、セシリアが告げる。

 「お前がブッ壊したアスファルトの件で、市議会に噛み付かれっぱなしだぞ!お前が駅前でやらかしたスタンドプレーのお陰で先生には意地悪されるし、一体何を企んで何をやってるのか隠さずに報告しろ! わかったか!わかったら言ってみろォ!」

 「適当にあしらっときゃいいさ、役人なんぞクソッくらえだ。」

 セシリアを遮って千冬が話すと、一夏は先にそちらを答える。

 「お前もドジだなぁ、飯を食い損ねるなんてよ。お気の毒?」

 相手にされなかったので、セシリアはもう一度、一夏を煽る。

 「子羊の煮込みが死ぬほど食いたかったんだよ!もう半日もまともな飯食ってなかった!やってられっか!」

 「食ってきたのか。」

 「いやぁその通り、それが何か悪いのか?」

 「じゃ結構、好きな時に帰るがいいさ。男ってこれだもんな・・・。」

 だが、一夏はそこまで甘くはなかった。時間は完全に計算されており、セシリアの煽りは不発に終わったのだった。

 

 京都に到着した、その夜。千冬は京都の細い路地を一人歩いていた。

 「おーい、どうしたんだ?」

 ふと曲がり角から声を掛けられ、千冬は歩みを止める。

 「いや・・・真耶のIS輸送、ご苦労だった。」

 「もぉちろんです。プロですからぁ?」

 暗くて普通の人なら互いの顔は見えない。だが、彼女らは逸般人である。クッキリと互いの顔を認識していた。

 「良かったのか?極秘部隊とは言えその隊長が勝手に抜け出して。」

 千冬が尋ねる。

 「アンタの為なら文句も言わずに我慢するけどさぁ、いくらキツくても身になるからなぁ。」

 すると、彼女はにこりと笑ってそう答えた。

 「冗談はよしてくれ・・・」

 「いや、冗談ではない。」

 キッと表情を戻し、姿勢も正す。

 「だったら、バラの匂いに酔ってろ。ロマンが分かる。」

 「分かりました。・・・ありがとう千冬。」

 「それはこちらのセリフだがな・・・。にしても随分冷てぇじゃねえか。夜は冷えるなぁえぇ?」

 そう世間話を振ってみたが、現在の任務を抜けて来ていた彼女はもう立ち去っていた。千冬は再び歩き始め、宿泊先の旅館へと帰って行った。

 

 「ワル同士が手を組む分には大歓迎だ。ね、“元”イタリア代表アリーシャジョセスターフ。」

 「あ、どーも。」

 借りている高級ホテルをことごとく襲撃・破壊されても、それでもまた懲りずにスコールは高級ホテルを借りていた。

 「言っとくが私は、人とは組まないのサ。対織斑千冬以外はパスさせてもらうのサ。」

 「何だとこのクソアマ!」

 早速の身勝手なルール制定に、オータムがキレる。

 「クソアマって誰?私の事サ?」

 出された料理を食べながら、アリーシャはオータムの話し相手をする。

 「ほかにいるか?」

 オータムが拳銃をアリーシャの頭に突きつけた。

 「ぶっ殺してやるゥ?!」

 が、逆にそれを奪われて突きつけ返される。

 「おぉい、落ち着けぇ。オータム、私はそれを織り込み済みで誘ったのよ。2~3人ひっかけて掛け持ちさww」

 「!?」

 突然の不倫宣言。オータムは衝撃を受けて膝から崩れ落ちる。

 「んんっ・・・兎に角、次の作戦は、オペレーション・エクスカリバー。覚えとくんだな!」

 流石に冗談が過ぎた。スコールは予定を伝えた後、オータムのメンタルケアに追われる羽目になった。

 

 

 

 「RingGong・・・RingGong・・・I will tessyuu♪」

 どこぞの筋肉モリモリマッチョマンが主役の映画のエンディングを、何もない空間で少女が口ずさんでいた。

 「デイジー、ねえデイジー・・・教えてほしいの。」

 彼女は気の向くままに、頭の中に浮かぶ曲を真っ黒な巨大な空間に向けて歌う、歌う、歌う。

 「うるさいなぁ!いちいち質問ばかりしやがってトークショーの司会のつもりか?黙ってろ。・・・モード、エクスカリバー起動・・・。」

 少女が気持ちよく歌っていたところに、突如の命令。悪態をついた少女は、すぐに命令の実行に移行する。

 「いたぞ!見つけたぁ!」

 「フォルテっす、いたぞぉ、いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 そのとき、少女のもとに侵入者が現れた。

 少女はすぐにシステムの電源を落とす。

 「これは・・・」

 「バッテリー切れですぅ・・・」

 暗くなった施設に、侵入者はガックリと肩を落とした。

 

 

 

 「「いぇーい!!!」」

 PON!POPON!!とクラッカーの乱れ打ち。

 「何だこれは!?」

 一夏が生徒会室に入ると同時の出来事であったため、彼は何事だと驚く。

 「もう十二月だよ?クリスマスが来るから、席を空けないと。」

 「イブになってからでいいだろ!」

 あと何日あると思っているんだ。クリスマスまで毎日されては、流石に一夏とて叶わない。

 「アンタさ、他に言うことないわけ?」

 シレッと紛れ込む鈴。もはや誰も気にしない。

 「クリスマスの準備も、生徒会の仕事だよ~。」

 「何でクリスマスの準備が生徒会なんだ?各生徒でやればすっきりするのに。」

 それは生徒会による職権の乱用ではないのか。一夏は彼女たちの考えを糾弾する。

 「も~おりむーたら古いんだぁ。兎に角、一緒に買い出しに行くのだ~」

 しかし、呑気を擬人化したと行っても差し支えない本音の前には無意味であった。

 「ねえ本音、一緒に連れてって。」

 「OK!」

 「ぃよっしゃぁ!それじゃ、日曜日に。」

 「了解。」

 一夏の意見は完全に無視され、たった十数秒の会話でクリスマスの前祝いの買い出しが決定した。

 

 翌日は日曜日。一夏達は、朝から買い出しに街へ出ていた。

 「生徒会で出かけるのも久しぶりだな。」

 一夏は歩きながらメンバー(本音)を一瞥して、そう言う。

 「久しぶりぃ?初めてじゃねぇか?」

 「き、気のせいダヨ。」

 そう言えば、生徒会のメンバーのなかで一緒に買い物に行ったのは楯無ぐらいだったと、一夏は目を逸らした。

 「ふっふ~ん?だと良いが?ところでおりむ~、服は洗濯中か?それで着るものがないの~?」

 学園にいるときと同じ、つまりIS学園の制服を着ている一夏を見て本音は茶々を入れる。

 「着るものがない、そうだ。」

 すると一夏は、恥ずかしがるとか悪びれるとかそんな様子もなく、ただ淡々と返した。

 「制服?フッ、裸よりひでぇぜ。目立ってしょうがねえや。」

 仕舞いには簪にまで馬鹿にされる始末である。

 「ああ、もうサインを数枚に、写真を数十枚盗られた。」

 「おりむ~、お前さん目立ちすぎだ、服屋に行こう、な?」

 一夏は、超が付くほど周りを気にしないと本音は思っていたが、彼女が知らぬうちにそこまでやっていたと知るや、態度を一変させた。

 「オッケイ!二人に連絡してくれ。」

 「よし来た任せてくれ。」

 まだ来ていない楯無と簪に、本音はメールを送った。

 

 「お~二人とも~、今おりむ~着替え中~。」

 十数分で、更識姉妹が売り場に到着する。その姿を見つけて、本音は大きく手を振って二人を呼び寄せる。

 「間に合った・・・。」

 「(遅れてたら)間違いなく死ぬな・・・。」

 二人の不安は、しかし現実のものとなる。

 本音が指し示す試着室から、どう考えてもこの売り場で揃えた服などでは出るはずのない、ガチャッ、キュッ、ガシャンという、金属や紐を縛る音が聞こえてくる。

 しばらく待っていると、デェェェェン!と言う効果音とともに試着室のカーテンが自動で開いて、完全武装の一夏が現れた。

 「待たせたな。」

 「織斑君、それ野戦服・・・」

 「一夏・・・余計目立つ?」

 繁みや山の中なら、その服装で確実に姿は消せるだろう。だが、ここはショッピングモール。その格好では浮くのが確実だった。

 「え~?そうかなぁ?」

 「そんなことないだろ?本音も言ってる。服のお礼だ。」

 都合のいいところだけは本音を褒める。何て適当な男だと、更識姉妹は呆れてものが言えない。

 「やった~」

 そんな二人をよそに、お礼のクリスマスプレゼントを貰った本音は大喜び。

 「あー、本音!ずるい!」

 「私も・・・欲しい・・・『インディゴ・フリート』のBDBOXで、良い・・・。」

 たまらず、二人もクリスマスプレゼントをねだる。簪に至っては、品物まで指定するしたたかさを発揮する。

 「会長にはこれをやる。」

 しかし、そこは一夏。本音だけにプレゼントを買うというケチ臭いことはしない。買うならみんな纏めて、の精神だ。

 「わ、ありがt・・・重ッ!?ナニコレ?!」

 一夏が投げ渡してきた固まりを、楯無はよろめきながら受け取る。

 「西欧テクノロジーの結晶、200kgのダンベル、2000ドルもする。YARUYO☆」

 「あ・・・ありがとう・・・」

 「お姉ちゃん・・・ドンマイ。」

 あまり嬉しそうではない楯無。それでも、一夏とただ一緒にいる、それだけで筋肉は付く。楯無は落とすことなく持ち続けていた。

 「簪はコレだ。」

 そう言って、一夏がディスクを手渡す

 「この中に、エロ動画入れて持ってるんじゃないの?」

 ニヤニヤしながら、楯無がそういう。どこからその自信は湧いてくるのか、連敗を重ねているにもかかわらず一夏を冷やかす。からそう言う結果になる。

 「救いようのない女だな・・・。」

 「お姉ちゃん、最低。」

 「酷い!私は変態じゃない!簪ちゃんを守ろうとしただけなんだ!」

 まさかの妹からもスカンを食って、楯無は狼狽える。それでもまた懲りずに、一夏を冷やかしてやろうと企んでいる。

 「・・・からかうのはこのくらいにしとこう。」

 「で、これ・・・何?」

 楯無を黙らせたところで、簪はディスクの中身を一夏に尋ねる。

 「コマンドー、吹き替えの帝王、完☆全☆版!!!よく見て勉強しとくんだなダンナぁ」

 「・・・・・ありがとう///」

 一夏の仲間に加わって日の浅い簪のために、一夏は最大元気を聞かせる。その思いやりを、簪はしかと受け止めた。

 「それでも嬉しいのね・・・簪ちゃん・・・」

 その様子を、楯無は寂しそうに見つめていた。頑張れ、生徒会長。

 

 「見ろぉ!バーガー屋だ!牛肉の塊が死ぬほど食いたかったんだよ!」

 買い物を続けている内に、お昼が近付いてきた。パッと目に入ったハンバーガー屋に本音がピコンッと反応して釘付けになる。

 「大好きな具はアザラシの子供、クジラのケツ、夏が旬だ。だが今食いたいのは・・・チャイニーズだ。」

 だが一夏は、中華料理にするべきと反対した。

 「・・・飢え死にするしかない・・・。」

 しかし簪も本音の意見に賛同し、戦況は一夏にとって不利であった。

 「そういえば、たっちゃんはさ~、昔オーダーは取りに来るとおもって聞く耳持たなかったじゃねぇか!」

 突然、本音が楯無イジメを始める。たまらず楯無は「やだ!またその話!?」と声を上げた。

 「さすがはお嬢さんだな、全くお笑いだ。」

 間髪入れずに一夏が追撃を仕掛けた。

 「うるせぇ黙れぃ!」

 そこを触れられる筋合いはない。楯無は一夏を一喝した。

 「それによぉ、コイツ、ハンバーガーを硬いナイフとフォークで食おうとしやがった。」

 「それはいけねぇ、バーガーてのは、一口で!飲み込むもんだ!」

 更に過去を暴露されて、楯無は完全に顔を赤くしてうずくまった。

 「スペシャルバーガーお待たせしましたぁ!」

 とか何とかやっている内に一行は注文を済ませており、出来上がったそれを受け取って席を探し始める。休日の昼時とあって、店内は様々な客層で賑わっていた。

 「口開けろぉ!開けやがれこのぉ!バーガーねじ込んでやるんでぇ!食い方が分かるようになぁ!」

 座れないのなら、このまま食べればいいと、一夏はハンバーガーを一つ持って楯無を揺する。

 「・・・ぁ」

 と、何故か簪がそれに反応して口を開けていた。楯無ほどのタフネス設計ではない簪相手にそれはできないと、一夏は躊躇いを見せる。

 「かんちゃん、無理に一口で食べなくていいんだよ~。冗談が好きなんです。」

 「・・・そう。」

 残念そうにする簪。

 「二人とも助けてよ!」

 いつまで経っても見守るだけの従者と妹に、楯無は涙目で訴える。

 「え~?いや~イチャイチャしてるから~。」

 ニヤニヤ笑いながら、本音が言う。

 「お前さん病気だ、医者に行こう、な?」

 「コロすぞ。」

 「冗ぉ談だよぉ!?」

 まさか本音からそんな物騒な言葉が出てくるなんて思っていなかった楯無は、驚いて後退った。

 「飯食ってる時ぐらい静かにできんのか!?」

 と、突然一夏がキレた。

 「「「アンタが言うか!?」」」

 そして、全員からそう言い返されるのであった。




B 上手いねぇ。作BにMAD版を書かせる方が楽だもんな。違うか?
A いやぁその通り、それが悪いのか?俺は小説に直してる。
B 話が脱線してる・・・


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第61話 見たら絶対その気になるって

よし、じゃ俺の腹筋と交換だ。いい筋肉だぜこりゃあ。組合員・語録の結晶、1000ドルもするんだ。



 一夏たち一行が昼食を摂っているハンバーガー屋の外にて、ちょっとした騒ぎが起きようとしていた。

 「向こうにIS学園の制服を着た大男がいるんだけど、彼、一般人じゃないわ。」

 柱の陰から様子をうかがっている女は、携帯を使って仲間に連絡を入れる。

 「ビックス、いるの?ビックス。頭のいかれた大男がいる。一人では手に負えん。」

 「!!すぐ行くわ。・・・かっこいいとこ見ましょう!」

 と言っても、すぐそばにいるので携帯を使う意味は全く以てない。

 「全女性客へ。3階で非常事態よ。敵機来襲、大型機だ。髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態よ!」

 それは一斉攻撃開始の合図であった。

 

 その存在に気が付きながらも、髪は茶、筋肉モリモリマッチョマンの変態は動くことなく相手の出方を見ていた。

 もっと厳密に言うなら、逃げ場を失って逃げるに逃げられないでいた。

 「女を引っ掛けるにはいい場所だな。かすがゴロゴロして・・・もう一人増えたぜ。じゃあ、行くか。」

 ろくでもないのばかりが集まってきたと、マッチョマンは立ち上がる。

 まごついている内に、脱出の方法は突破のみとなっていた。

 「ここで何をしてる?」

 スススーッと一人が寄ってきた。

 「友人を待ってる。」

 「一緒に生きましょ!・・・えいっ!うわっ!?」

 「こいつっ!きゃぁっ!」

 ついに戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

 「何の騒ぎかしら?」

 その騒ぎは、ハンバーガ屋の中にいた楯無にも伝わっていた。

 「・・・あれは・・・一夏くん!?」

 「俺はここにいる。」

 彼女は外を見て、そこにいた人物を見るなり驚いたが、横にいる本人に言われて冷静さを取り戻す。

 「・・・・・あれは・・・誰?」

 「篠ノ之さん辺りかしら?」

 更識姉妹が予想を立てる。

 「俺の知り合いになまくらはいない。」

 仮にそうだとしたら、あの程度を粉砕できないはずはないと一夏は一蹴。

 「ハーレムでも作りたいペテン師が、俺の格好をしてウロついてんだろ。」

 「あぁ、道理で・・・。」

 「圧死しそうなのだ~。」

 確かにあれは偽物だ。それも彼女らの知らぬ他人の。

 「裏切りに陰謀、セックスに決闘、錯乱に幽霊、そして最後には皆が死に果てる。」

 「フッフゥーン、だと良いけど?」

 一夏が悪態をつくように言い放ち、楯無がそれを少しだけ冷やかした。少しだけだったので、今回は見逃してもらえたようだ。

 その後は全員ペテン師の存在など忘れたようで、話に没頭していた。

 それからしばらくして、ぴんPON☆ぱんPOON☆と変なチャイムが鳴った。

 『間もなく屋外展示場でヒーローショー〈アイアンガイ〉を開始します。』

 そのチャイムに続いて、館内で行われる催しの案内がされる。

 「一夏、行こう!・・・OK?」

 一秒と間をおかず、簪が興味を示し、そして見に行こうと一夏を誘う。

 「簪ちゃん!?もしかしなくても最初からこれが目的だったのね!嘘つき!買い物だの食事会だの、あれは私たちを引っ張り出すための口実だったの!?!?」

 そんな予定は聞いていないと、楯無が猛抗議する。

 「いやぁ、その通り。それが悪いのか?」

 「まさか一夏君、グルなの?!」

 あの一夏が反論しない。それはおかしい。

 「いやぁ、その通り。それが悪いのか?」

 楯無の懸念は現実のものとなる。

 「ハッ!まさか本音ちゃんも?」

 「これは~最高のイベントなのだ~!見逃す手はないよ~。今から行って、いい席をとるのだ~!」

 本音の聞く耳は既に何処かへ言ってしまったようで、楯無の問いかけにはピクリとも反応することなく歩き出す

 簪と本音たっての希望に、四人はアクションガイの会場に向かう。

 四人が会場に着いたのはショー開始の五分前で、既に客席は子連れの家族でいっぱいだった。

 「みんなー元気かな?」

 アクションショーの開始時間になると、司会のお姉さんがそう問いかけ、返事を待っていることをアピールするために耳を傾ける。

 「「「はーい!」」」

 「それじゃあ呼んでみよう!アイアンガーイ!」

 元気な子ども達の声に、司会のお姉さんは満足そうに劇を進行する。

 「「「アイアンガーイ!」」」

 ひときわ大きな声が会場に響く。勿論、簪の声である。

 「ちびっ子のみんな!待たせたなぁ!俺がアイアンガイだ!」

 「操り人形だよ!」

 みんなのヒーローの登場。そして、それと同時に低い声質の、これぞ悪役というイメージのドスの利いた声が会場に流れる。

 「早速、敵さんのお出ましか。全く、ヒーローには休日がない。お前暦は持ってねえのか?ユダヤ教の休日だ。」

 休日にまで仕事をするなんて、随分とブラックな職場だなと自分のことを棚に上げてアイアンガイが皮肉る。

 「ガッハッハッ!アイアンガイ!君の今のような反応が命取りになる!」

 「そんな・・・マスターX!殺されたんじゃ・・・・・。」

 セットの背面の垂れ幕の切れ目から現れたマスターX。アイアンガイは倒した相手がまた出て来たことに驚きを隠せない。

 「残念だったなぁ・・・トリックだよ。てめぇに舞台を追い出されてからずーっと復讐を想い続けてきた。よぉやくその日がやって来た・・・・。長かったぜ!」

 武器を構えるマスターX。

 「来やがれ!どうした?やれよ!殺せ!どうした、こいよ!俺はここだ!さぁ殺せ!殺せ、殺してみろ!どうした!ここだと言ってるだろうが!どうした!さぁ殺せ!殺してみろ!」

 この間と同じように倒してやる。アイアンガイが胸を叩きながら挑発を行う、と。

 「フハハハハハハッ!これを見ても、それが言えるか?」

 「おのれマスターX!卑怯だぞ!」

 いつの間にやらマスターXは人質を捕らえていた。そしてその人質は本音であった。因みに、簪は羨ましそうに見ていた。

 「「「ブー!ブー!」」」

 会場から、卑怯な手段をとるマスターXにブーイングが起こる。

 「静まれ静間れぇい!この紋所が――」

 「おい!」

 懐から何かを取り出そうとしたので、慌ててアイアンガイが圧力をかける。

 「ん、ゲフンゲフン!俺は悪の幹部だ!アイアンガイ、お前自分のあだ名知ってるか?ついこの間までは鉄のアゴだったが、今じゃ鋼鉄マンだってよ。あっちの方も鋼鉄並か?」

 軽く咳をして失言を誤魔化した後、マスターXは人質を盾にして、無抵抗のアイアンガイに殴りかかった。

 「グアァ!」

 もろにパンチを受け、吹っ飛んでいくアイアンガイ。

 「アイアンガァイ、腕はどんなだ?」

 「こっちへ来て確かめろ。」

 セットの物陰に身を隠しつつ、アイアンガイはマスターXと話しをする。

 「いや結構。遠慮さしてもらうぜ。・・・アイアンガイ、顔出してみろ。一発で、眉間をぶち抜いてやる。古い付き合いだ、苦しませたかねぇ」

 マスターXが、アイアンガイが隠れているセットに向け玩具の銃を構えた。

 「マスターX、その子達は関係ない、放してやれ!目的は俺だろう!」

 「ヘハハハハハハ・・・・・!」

 以前やられた経験から、マスターXは簡単には乗ってこない。

 「右腕をやられた、お前でも勝てる。・・・来いよマスターX。銃なんか捨てて、かかってこい!楽に殺しちゃつまらんだろう。ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて、死んでいく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのかマスターX。」

 「てめぇを殺してやる!」

 しかし、弱り切った宿敵にそこまで挑発されては、悪として応じぬわけにいかない。

 「さぁ、子供達を放せ、一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう。・・・・・来いよマスターX。怖いのか?」

 「ぶっ殺してやる!」

 「いやぁっ!」

 マスターXが人質(本音)を放り投げるように解放すると、観客が代わりに奇声を上げた。

 「ガキなんて必要ねぇ!へへへへっ」

 「キャー!」

 狂い始めたマスターXに観客から更なる奇声が上がる。

 「ガキどもにはもう用はねぇ!へへへへっ・・・ハジキも必要ねぇや、へへへへっ・・・・・誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ!・・・野郎、ぶっ殺してやぁぁる!!!」

 「みんなー!ヒーローに力をあげて!大きな声で呼んでみましょう!せーの!」

 みんなで応援してピンチのアイアンガイを励ましましょうと、司会のお姉さんが呼びかける。

 「コマンドー!」

 だが、それが本音のねらいであった。

 反射的に一夏は立ち上がった。それも\デェェェェェェェェェェン!!!/と効果音が聞こえるほどに。

 「本音!ハメやがったな!?このクソッタレ!嘘つきみぃ!ヒーローだ主役だの人質だの、あれは俺を引っ張り出すための口実か!?」

 「そうなのだー!」

 最高席と最前席の間での応酬。

 「あれは・・・・・織斑一夏!」

 「嘘!それならそっちの方が良いわ!」

 誰もが一夏の存在に気が付いた。

 「断る。」

 すぐに一夏は腰を下ろす。

 「ルール1、契約厳守、か。」

 どこからともなく、そんなつぶやきが聞こえてくる。

 「・・・何だこいつ。どういうこと?」

 「さぁ・・・。」

 こういう時だけ楯無に話を振る一夏。

 「さて、みんなで呼びましょう!織斑一夏~!」

 司会のお姉さんが一夏をはやし立てる。

 「やるならギャラ上乗せ。」

 「危険手当ってヤツだな。」

 そもそもギャラ貰ってないから、『上乗せ』よりも『発生』の方が正しいのだが、簪が知れっと乗っかってきたので誰も突っ込まない。

 「さあ、もう一度!織斑一夏~!」

 「イピカイエーか・・・。」

 「もう一度!織斑一夏~!」

 「俺は知らねえぞ・・・今行くよ!」

 だが司会のお姉さん含め、誰も知らなかった。一夏が暴れれば、こんなデパートぐらい一発で無に帰すことを。

 

 

 

 12月4日の夜。セシリアは偶然にも貸し切りとなっていたIS学園の大浴場でくつろいでいた。

 「ふーっ・・・。いい湯ですわ。」

 「バババンッ!」

 どこぞの曲の合いの手が入る。

 「!?・・・・・誰も居ませんわ?」

 驚き見まわしたセシリアは、しかし何も発見できない。空耳だったのか。そう思い始めたとき。

 何かを吹っ飛ばしたような、ガッシャンッという音が聞こえたかと思うと声が響いてきた。

 「待ってろケモノ()、今行くからなぁ!逃げるんじゃねぇ!サシで勝負だ! チキショウ、待てェ今すぐ行く!勝負するんだ、逃げるんじゃねぇぞ、サシの勝負だ!待ちやがれェ!」

 「一夏さん?」

 その声の主に心当たりがあったセシリアが呼びかける。

 「セシリアか!良いところにいる!シャニーが行った!」

 「お任せを!」

 次の瞬間、脱衣所と浴室とを仕切るドアを押し開けて、一匹の猫が飛び込んできた。

 待ち構えていたセシリアは素早く猫を捕まえる。

 「ニャァ?」

 そして、そのまま風呂にゴールデン・トラァイ!

 「ギニャァァァァァァァァァッ!!!」

 悲鳴を上げるシャニー。

 「いやぁ、助かった。」

 「後でお連れしますわ!」

 引っかかれない絶妙な距離を保って、セシリアは風呂を満喫したのだった。

 

 それから一時間後。一夏の部屋にセシリアが訪ねてきた。

 「フミャァ・・・。」

 彼女の腕には、赤くのぼせた(?)白猫が一匹。

 「この茹でダコは何だ?」

 「知らない方が良いですわ。」

 「」

 いったいどれだけお湯に浸けていたんだ。さすがの位置かもドン引きする。

 「ところで一夏さん。お暇でしたらここでも如何です?」

 「いいね、行くとしよう。」

 ただまあ、二人とも風呂場に逃げ込んだ方が悪いというスタンスなので、シャニーはのぼせたまま放っておかれた。

 

 

 

 次の週の週末になった。

 「セシリアのヤツ、遅いな。」

 待ち合わせ場所で待ちぼうけを食っていた一夏は、あたりを見回して彼女が来ていないかを探す。

 「お待たせしましたわ!」

 さらに待つこと数分、ようやくセシリアが到着した。

 「なあ、友情を邪魔したくはないが、20分遅れてる。」

 「道が混んでいましてよ。」

 「フッフゥーン?だといいがぁ?」

 少なくとも、一夏が来た時には空いていた。本当は化粧や服選びをしていて遅れた照れ隠しじゃないかと、一夏は疑いの目を向けながらも歩き出した。

 

 そんな二人の背後を、ついていく一行がいた。

 「見た目はオトコ、心もオト娘!これが、ザ・名探偵『シャルロック・ホームズ』の真髄だ!!三輪車に轢かれても、チェアーから落ちてもビクともしねえ!PON☆骨ラファール乗りはお子様設計!!愛する友を救うため、一人、敵のアジトに忍び込む。その賢さ、もうどうにも止まらん!全員まとめてかかってこんかい!!これぞ豪快スーパークイズアクション!!」

 優等生のシャルロットは、渡された台本のセリフを完璧に暗記して一字一句違わず完璧に読み上げた。

 「名探偵しゃーろt・・・しゃるるく・・・あれ?」

 他方、シャルロットに続けてナレーションぽく名前を言おうとした簪は、どうにも名前が出てこない様子。

 「シャルロック・ホームズだよ。」

 すかさずフォローが入る。

 「名探偵シャルロック・ホームズ・・・・・あなたは、一体何だ?」

 「アナタハイッタイ・・・・・ナンダ・・・?探偵さ・・・じゃないよ!って言うか、なんで僕たちこんなことしてるの?!」

 もうつまらない茶番に付き合わされるものか、そう心に誓ったのは昨日。しかし今日もまた、シャルロットはつまらない茶番に付き合わされていた。

 「トレーニングだ。」

 「トレーニング?どこが?」

 こんなの遊んでいるだけだよと、ラウラに聞き返す。

 「この人混みの中から大佐を見失わず、見つからないように尾行するトレーニングだ!」

 「」

 IS学園の中にいても追いかけきれないのに、どして屋外で追いかけようという考えに至るのか。シャルロットは言葉を失う。

 「さあ、行こう。つまらん茶番のために見失った。後は更識姉がどこまで行けてるか、だが。」

 「そ、ソウデスカー・・・・・。」

 つまらない茶番という自覚はあるんだな。それを認識したシャルロットは、今日もまた『二度とつまらない茶番に付き合わされるものか!』と心に誓ったのだった。

 




腹筋に一発撃ち込んで、(ネットの)海にドボンだ。


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第62話 特攻野郎?

A おいおいおい、ちょっとお話ししようじゃねえか兄ちゃん
B でも(ド)ボン太君が出て来ちまった以上は仕方がねぇだろ
A ヤツがフルメタルジャケットと特攻野郎Aチームじゃなけりゃナァ・・・



 「おいおいおいおい、どこ行く気だぁ?」

 一夏とセシリアが二人で遊園地を歩いて回っていると、スーッとセシリアが離れていったので一夏は呼び止めた。

 「いい天気なので、密売人を殺しに。」

 「そいつはいい。」

 そういって一夏が準備運動を開始した。

 「冗談言ったのに・・・」

 「ふざけやがってぇ!!!」

 騙されて怒っていると言うよりは、「一本とられたよ」という口調

 「あら?このドッグパークというのは、楽しそうですわね。」

 ふと耳に届いた犬の鳴き声に振り向いたセシリア。

 「犬みたいによだれ垂らしてすり寄って来るんだぜ、たまんねぇよw」

 突然、一夏が壊れた。

 「」

 「忘れてくれ・・・。」

 驚きすぎて背氏らが目を点にいて見つめると、一夏はバツが悪そうにそう呟いた。

 「では、行きましょう!」

 ビシッと目標を指差して、元気よくセシリアは歩き始める。

 「OK!・・・ん?」

 それについていこうとして、ふと一夏は何者かが近付いてきたことに気が付いた。

 『ふもっふ!』

 「あら、マスコットのドボン太くんですわ。」

 そこにいたのは遊園地のマスコットキャラクターだったが、動きが随分とうさんくさい。

 「ショットガンをバッグから出しになられたら。」

 セシリアの言葉に、直ぐさま一夏が反応した。

 ドボン太くんもまた、負けじと反応する。

 一瞬の静寂。次の瞬間、二人は同時にショットガンをぶっ放す。流石に遊園地で実弾は拙いと思ったのか、ショットガンの弾はBB弾だった。

 「良い腕だ、みんな急所だ。」

 『ふもっ・・・ふもっふ・・・(先制できなければ危なかった・・・)』

 銃撃戦は、弾切れによって引き分けに終わる。

 「謙遜しすぎだ、お前はもっと大物になれる。こんなところで燻ってちゃだめだ。」

 「ふもっ!」

 ガシッと握手を交わした一夏とドボン太くんは、颯爽と遊園地の奥へと帰って行こうとして。

 「よしセシリア、行こう。・・・どうした?」

 「いえ、向こうで似たようなのが転がっている気がして・・・。」

 セシリアの言葉にピクリと反応した。

 「ふも・・・(気のせいダヨ)」

 「ふっふーん?だと良いが?」

 いぶかしげに見つめられて居づらさを感じたのか、急ぎ足でドボン太くんは去って行った。

 

 「ワンちゃんたら。んぅ可愛いんだからぁ~」

 ドボン太くんを見送った後、二人はドッグパークへと入って犬と戯れていた・・・

 「どうかしてる・・・。」

 のはセシリアだけ。

 「グルルルルルルルッ・・・」

 一夏の人相は悪くない。ただ、筋肉モリモリマッチョマンなだけ。

 にもかかわらず、犬たちから異常なまでに軽快される。

 「よーし良い子だ。こっち来いって大丈夫。どうした、怖いのか?」

 セシリアと同じようにすればと思い、視線を下げ優しく手招きをする一夏だったが。

 「ガウッァウッ!!」

 それまで遠巻きに吠えるだけだったのに、ドーベルマンが意を決したのか一夏に襲いかかってきた。

 「ヌォォォォォォォォォ!!!」

 「キュゥンキュウン・・・」

 勿論、大型犬相手でも一夏が容赦するはずもなく、締め上げられた上になでなでされ、悲鳴を上げる。

 「一夏さん、それ虐めてません?ほら、こっちにいらっしゃいな。」

 「ハッ、ハッ、クゥンクゥン」

 どこに越えられない壁があるのか、セシリアが呼ぶと犬たちは尻尾を振って駆け寄ってくる。

 「俺も久々頑張ったのに、なんだよいい役持っていきやがって!」

 主役らしいことができず、一夏は盛大に悪態をついた。

 「妬いてやんの!」

 「クソッたれが・・・自分がどんなに孤独か分かったよ・・・」

柄にもなくシュンっとする一夏。

 「犬でもお飼いになったら?」

 「くそっ、ふざけやがって・・・。」

 そうすれば気持ちが分かるようになるはずと、セシリアは進めた。だが、忘れてはいけない。あの家には千冬もいると言うことを。

 

 「飯食おう。腹減って仕方がねぇ。」

 あれから幾つかアトラクションを回っている内に、時刻は12時を回っていた。セシリアの同意を得て、一夏は近くにあったテーブルに着いた。

 「ほら。」

 「これは何です?」

 一夏が差し出してきタッパーを見るなり、セシリアは尋ねる。

 「昼飯だ、野菜も食えよ。」

 「・・・プロテインの匂いがしますわね?」

 一夏が味の分かる脳筋というのをしらないからなのか、はたまた日頃の行いが悪いせいか、探りを入れられる一夏。

 「警戒しすぎだ。仔牛の煮込みが死ぬほど食いたかったんだよぉ!」

 「で、では半分ずついただきましょう。」

 「ええぞぉ!あんた頭良いじゃねえか!こんな時こそ頭を使わねえとな!」

 半分って言わないと何されるか分からない、そんな恐怖心がセシリアの心にあった。

 「やぁお二人さん!今日はホラーアトラクションが男女二人組ならなんと無料!見逃す手はない。というわけでこちらのチケットをどうぞ。」

 黙々と昼食を摂っていると、突然、一人の変質者がチケットを押しつけてきた。

 「楯無、青筋立ってるぞ、大丈夫か?」

 「ええお気遣いありがと・・・ゑ?」

 しかし変装は急造であったとしても杜撰なでき映えで、しかも内面の動揺が表情に表れていたため、瞬間的におねんねさせられた。

 「さてどうする?」

 「せっかくくれたんだ、チップを弾みたい所だが、あんたに(楯無が)ライフ取られちまった。」

 貰った(押しつけられた)チケットを持って、お化け屋敷に向かう一夏とセシリア。

 どういうわけか誰も並んでいなかったので、ササッと入場する。

 「おお、中は暗いな。」

 「(足元が)見えないんだ・・・。」

 あまりに暗すぎて、どちらかが前かも分からない。だが正確無比を誇る一夏の勘ピュータの前では、大した制約とはならにのもまた事実。

 「何もないじゃないか!ホラーだの何だの!あれは俺を引っ張り出すための口実か!」

 「その通りですわ。」

 あっという間にゴールへと辿り着いたが、それは見えていなかっただけの話しである。

 「やれやれ・・・あまり私を怒らせるな・・・。」

 「まあまあ、夕日の見えるスポットがありますからそちらに行きましょう?」

 そう言ってセシリアは歩き出す。だが、日が陰るまではまだ十二分な時間があったので、他のアトラクションで時間を潰すのだった。

 

 「まあ、きれいですわね。」

 夕方になった。観覧車に乗り西へ沈んでいく太陽を見てセシリアが感嘆する。

 「クソ汚いだろ。」

 が、観覧車の高さを測ろうと一夏は視線を下に向けていたので、汚れた海が目に入ったので反射でそう返してしまった。

 「そこは、わたくしの方が奇麗だと言う場面でしょうに、アナタは史上最低の出来損ないだよ!」

 「・・・え?」

 セシリアらしからぬ言葉遣いに、一夏が目を点にする。

 「い、いえなんでもありませんわ。」

 「そうか・・・ん?」

 突如、一夏の直感が危険を察知した。

 次の瞬間、ぶっといレーザーが外の景色を焼いた。

 「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 先ほどまでの平和が一変。現実と信じたくない光景に、人々は逃げ惑う。

 「一夏さん!!あそこに子供が・・・!」

 火の海の中に取り残された幼い少女の姿を、セシリアは認める。

 「!!ふざけやがってぇ!!!!」

 一般人、特に子どもを巻き込むなど論外。一夏は怒りにまかせ行動に移る。

 「あっ?!」

 その信じられない光景に、セシリアは自身の目を疑った。何と一夏はゴンドラを一つ、筋肉にものを言わせてもぎ取って投げ上げたのだ。

 「・・・攻撃、止みました。」

 ほどなく、間欠に振ってきていたレーザーが止まった。

 

 「嘘だろぉ。」

 「信じられない、(あれが届くなんて)夢みたい。」

 その様子はラウラやシャルロット達も見ていた。

 「何もありません。人的被害はゼロです。血痕も死体も、何一つありません・・・。」

 ISで状況を確認した楯無がオープンチャンネルで状況を報告した。

 「つまり?」

 「犠牲者はありません。」

 よかったと、シャルロットは胸をなで下ろした。

 

 「お嬢様、こちらでしたか。」

 その頃、一夏とセシリアの正面にISを展開したチェルシーが浮遊していた。

 「それがどうした!私が何しようが他人には関係ない!」

 「意見の相違とあればやむを得ない。」

 「また会いましょう。」

 「ええ、イギリスでね。」

 再開の約束をして、セシリアはチェルシーを見送った。

 

 「よーしクズども、ボーナスが欲しけりゃ気を抜くなよ、良いな?」

 「「「OK!」」」

 数日後、一夏達一行はセシリアの自家用ジェット機でイギリスを目指していた。

 「そういえば皆さん、遊園地では何をなさっていたのですか?」

 あの事件の後、色々とバタバタとしていたせいで状況把握が済んでいなかったことと、イギリス到着までの時間を持て余した山田先生が一夏達に尋ねる。

 「「「何もねえよ?悪いけど。」」」

 しかし返ってきたのは、予想通りと言えば予想通りの答えだった。

 「嘘をつけ・・・」

 それ以上深入りさせて貰えそうな雰囲気でもなく、仕方なく諦めた。

 「・・・おいこの機体は、対赤外線装備はついているのか?」

 皆がリラックスしている中、外を警戒していたラウラが突如そんなことを尋ねてくる。

 「熱線追尾ミサイル以外じゃ役に立たん。」

 「それはどうかな?」

 直後、飛行機が爆発音とともに大きく揺れた。

 するとセシリアとシャルロット、ついでに楯無が蜂の巣をつついたような大騒ぎをして、パイロットと千冬を担いで高度10,000メートルへと飛び出していった。パイロットを殺る気か?

 「お前ら何やってんだよ。お前らって連中がいなけりゃ、パイロットも仕事が楽なのに・・・エンジンが片方吹き飛んだぐらいで逃げ出しちまって!なんのための双発機だ!一基でも平落としぐらいできる!おいそうだろ!」

 「勿論です、プロですから?」

 「「「」」」

 ISのことは詳しいが、飛行機の構造はちんぷんかんぷんな三人は、一夏の説明を聞いてやっちまったことに気が付いた。

 パイロットを失った飛行機は、続けて飛来したミサイルによる粉砕された。

 因みに、ラウラ以外は飛行機の構造をよく分かっていなかったが、一夏が落ち着いていたのでそれに倣っていただけだったりする。

 「私を無視とは良い度胸DEATH☆」

 呆然と浮遊する一行。そこへ、ロケットランチャーを抱えたISが急速接近してきた。

 「面倒なのが来てますが。」

 楯無がそれを報告する。

 「ああ・・・全くだ。」

 「とっととぶっ殺せ!」

 一夏と箒はさっさと指令を出す。

 「お任せを!」

 勢いよく突っ込んでいく楯無。

 「楯無!遅れを取るなよ!」

 「私だって始末書書きで余生を送りたかないですからね!」

 既に一夏達は目的地に向け飛翔してった。楯無は、敵に聞こえるよう、少し大きめの声で呟いてみる。

 「ううっ・・・」

 「何故泣くんだ?」

 お前に涙はなかったはずと、楯無は戦慄する。

 「自然に・・・涙が出るんDEATH。傷ついたときやなんかに。」

 「怪我が痛むから?」

 「さびしかったDEATHお姉さま!また会えて嬉しいわ!」

 ガバッと、諸手を広げ襲いかかってきた。

 「ええ、私もよ。本当によかった。生きててくれたお陰で君を自分の手で始末できる。満足だ。」

 軽くそれをあしらった後、楯無が武器を展開した。

 「そんナ!つれナイ///」

 「顔真っ赤にして言うことかぃ・・・。」

 気持ち悪さ上乗せと、楯無は顔を引きつらせたのだった。

 




 読者諸君、腹筋の鍛錬ご苦労であった。またゴールデンウィークかお盆の頃にMAD版で会おう。
 それまで、しばしさらばだ!


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第63話 ホントにドイツ人は怒りっぽいんだから

A Zzz・・・
A おい。
A !!冬期!
A ISの帝王!
作A 小説版!!!


I’m back.


 乗っていた飛行機を撃墜された(どちらかというと乗り捨てた)一夏達は、ドイツを目指しISで東欧境界線付近を飛行していた。

 その中にあって、ISを持っていない飛行機のパイロットと千冬はいわゆるお姫様抱っこの格好で運ばれていた。

 「オイ、一夏。千冬さんは放してやったらどうだ?」

 箒が薄情な仕打ちを提案しているように聞こえるが、対象はあの織斑先生である。

 IS程度の速さなら、走ってでも追い越せる。

 「駄目だ。」

 「ダメエェ?!」

 しかし一夏は、にべもない態度でそれに答えた。

 「私のことは気にするな、一夏。私は置いていってかまわわん。」

 更には置いて行けと言われた本人までもが言い出す始末。

 「お前を置いていくとでも?」

 「随分と優しいじゃないか。どうした?」

 ようやく心を取り戻したかと思った織斑先生であったが、それは希望を持ちすぎであった。

 「勘違いするな。お前をこの森に放してみろ。自然保護区が消滅するだろうが!」

 「!!」

 痛いところを突かれた織斑先生は、仕方なく一夏の腕の中で黙っておくことにした。

 

 

 

 「ラウラ隊長、遅いですなぁ。」

 その頃、一夏達の到着をドイツの特殊空軍基地の滑走路脇で待つ者がいた。

 「隊長のメンツを潰したくないが、もう三〇分以上遅れてる。」

 「・・・・・。」

 隊員の一人が呟くも、隊長不在の今、部隊の指揮を執る副隊長は全く動じることなく無言で立ち続ける。

 「クラリッサ副官!心配ではないのですか!!」

 その様子が薄情に見えて、その隊員は食ってかかる。

 「馬鹿者!どうせ隊長のことだ、ドーナツ屋でサボってんだ。」

 ところがどっこい。動じていないのではなく呆れているだけだった。

 「私はいつ、ドーナツ屋でサボるキャラになったんだ?クラリッサ副官。」

 クラリッサの背筋に冷たいものが走る。

 「?!静かに素早く・・・。お変わりないようで安心しました。」

 先ほどまでの態度はどこへ行ったのか。直ぐさま気持ちを切り換えると、ビシッと敬礼をした。

 「隊長!お待ちしておりました!ところで織斑教官の様子が見えないのですが・・・何かあったのですか?」

 「そう焦るな。まだ終わっちゃ居ない。」

 ラウラが空の遙か彼方を指差す。そこには、小さな点が幾つか飛んでいた。

 「隊長の仰るとおりだ!あの織斑教官だ。さぞかし威風堂々と現れると相場で決まっている。それもIS学園の小娘共を引き連れて・・・・・なんあ!?」

 瞬く間に近付いてきたそれを見たとき、クラリッサは驚きの声を上げた。

 「諸君!お出迎えご苦労。」

 そこには逆さ吊りにされた女性の姿があった。

 「隊長、アレは一体。」

 「紹介する。これが伝説の教官『織斑千冬』だ。」

 紹介されても、未だに信じられないといった表情を見せる。

 「この野郎!この私を忘れたのか!この馬鹿!ヴァ鹿野郎!間抜けェい!!」

 「た、大変失礼しました!三六〇度も回っておられたゆえ、気が付きませんでした!」

 地面に降ろされて、ようやく見覚えのある顔だということを認識する。しかし、角度が間違っていた。

 「あー、それを言うなら三八〇度だ。このマカロニ黒ウサギ。そんな単純な計算もできんのか!三六〇度ひっくり返ってみろ!始めと同じ位置に戻ってひっくり返った事にはならんだろ!」

 釣られて間違う千冬。

 「そうかなぁ・・・・・。」

 直前に自分が間違えたことで頭の混乱している隊員は、千冬が間違っていることは分かっていてもどこが間違っているのか理解することができず首を傾げる

 「なあ、乙女の友情を邪魔したくはないが、それを言うなら一八〇度だ、この歴史的馬鹿モンどもが。」

 やれやれと言いたげに一夏が訂正を行う、と。

 「この声は・・・まさかメイトリクス?!この野郎生きていたのか!教官も元気そうで安心しました!」

 クラリッサは目をランランと輝かせ、千冬、一夏と続けて握手をする。

 「久しぶりだな、クラリッサ!・・・なんだ、その似合わない(眼)タイは?」

 「ほっとけ、余計なお世話だ。」

 その会話を交わした直後、両者はガシッっと力を入れて空中腕相撲を始めた。そう、いつか見た光景を再現するように。

 「「ヌゥ!」」

 「どうした?隊長業務(代理)のデスクワークで鈍ったか?」

 「いやぁ・・・。参った降参だ。相変わらずだな、メイト――」

 その時、クラリッサの肩にラウラが手を当てた。

 「・・・・・クラリッサ。」

 「何です隊長。」

 「私のキャラと被るのでその台詞は変えろ。」

 ラウラのその命令は、明確な意志を持ってはね除けられる。

 「それが何だってんだ!誰が何しようが私には関係ない!デカい声を出すな!耳があるんだ!台本どおりにただ喚き散らしやがって、それしかできんのかこの大根野郎!私を何だと思ってる!(臨時)隊長だ副官だ!私に怒鳴るな!」

 「・・・・・クラリッサ!」

 しかし、ラウラが一夏と何ヶ月も過ごしているうちに腕っぷしが進化していると言うことまで、彼女の計算には入っていなかった。

 

 「状況については、諸君らの知るところだから割愛する。作戦だ。」

 一同はオペレーションルームへと移動していた。

 「作戦?俺達に作戦なんかいるかよ。」

 今までもその場のノリで的を圧倒してきた。最も、作戦を立ても臨機応変を建前に守った試しはないが。

 「お前らを纏めとくと、過剰戦力になるからな。それと、実に迷惑な話だがデュノア社から最新装備の受領命令があった。」

 「適当にあしらっときゃいいわよ、役員なんぞクソッくらえね。」

 いつものノリで、鈴がすぐに反応を示した。

 「いや、鈴。俺達は別件でデュノア社に用がある。」

 「?珍しいこともあんのね。」

 てっきり無視して進むのかと思っていたため、彼女は意外そうな顔をした。

 「それは私と織斑、ラウラ、デュノアで対処する。いや、電子戦に更識、お前も来い。篠ノ之。後の連中を最速でイギリスに送れ。ついでに悪さをしないように見張ってろ。」

 「ちょい待ち。アタシ達はお荷物なわけ?」

 ササッと千冬の行った人員配分に、鈴は抗議する。

 「あぁ、そうだ!」

 そして千冬は、隠すこともなくそれを肯定した。

 「ならば、シュヴァルツェ・ハーゼ隊の副官である私もお伴しよう。戦力不足だ。」

 学生如きで、それもどちらもIS操縦者が五人以下ときては、テロリスト相手に立ち回るのは荷が重い。

 クラリッサは、一夏達がどれだけテロリストで戯れてきたかを知らないからそう考えていた。

 「既に過剰だ。これ以上子守りが増えたら、篠ノ之がパンクする。」

 「おいおいおい、私がこんな連中に手こずるとでも?」

 「連れて行きたくないだけだ。」

 余計なことを言うと、食い下がってくる性格であること熟知している千冬は、すかさず箒に耳打ちをして、自分が良い手立てを知っていると伝える。

 「教官!私は、こんな小娘ごとに気に負けはしません!」

 一人、ガッツを見せるクラリッサがISを展開した。

 「ブレードはしまってろ。そのISも閉じとけ。」

 しかし彼女は、千冬の声が届かない。それどころかブンブンと、ISのブレードで素振りを始める始末だ。

 「・・・山田君!あいつの装備全部持って行きなさい!」

 「はい、かしこまり・・・ゲフンゲフン。放してください!これも私の仕事なんです!」

 「あ!何をする貴様!放せ!えぇい、決闘だ!」

 その二人のやり取りを見ていた千冬の口元がにやけたことを、一夏達はしっかりと見ていて、そしてこの作戦を理解した。

 「クラリッサ。そいつに勝ったら連れて行ってやろう。」

 「織斑先生!?ハメましたね!?このクソッタレ!嘘つきみぃ!装備を奪えだの連れて行きたくないから説得しろだの、あれは私を引っ張り出すための口実なんですか!?」

 まるで決まっていたことのように言い放った千冬に対し、山田先生が怒りを表す。

 「いやぁ、その通り。それが悪いのか?」

 しかし山田先生は、更に踏み込んだ千冬の考えまでは見抜けていなかった。

 

 特設戦闘アリーナで、二機のISが睨み合っていた。

 「これより、山田先生とクラリッサのバトルを始める。開始。」

 「手加減はなしだ!」

 「分かりました!」

 千冬の合図とともに両者は素早く飛び出し、派手な格闘戦を始める。

 そのすさまじさたるや、砂埃でグランドが見えなくなるほどだった。

 「・・・よし、こいつらここで戦闘しているって言ってるから、さっさとイギリスを目指そう。」

 戦闘中の二人に、完全に視界がないことを見ると、一夏達は堂々とアリーナの正面入り口から出ていった。

 

 

 

 「ねえ、感動の別れを邪魔して申し訳ないけど、列車なんか乗らないで走った方が早いんじゃないの?特に一夏。」

 公共機関に乗っての移動をすると聞いて、何かの冗談と思った鈴は尋ねる。

 「行こう行こう、いつも先を急ぐ。そしてある日死ぬ。たまには足を止めて人生の楽しみを味わうべきだ。」

 「ふっふ~ん、だといいが?」

 そんなこと、今までなかったじゃないと鈴は信用していない。

 「おっと、列車が来た。じゃあ箒、子守りを頼む。」

 タイミング的に鈴から逃げたような格好になったが、本当に列車が来たのだから仕方がない。

 「私は子守りなんて得意じゃない。」

 「謙遜しすぎだ。君はきっととても良い子守りになれる」

 そう告げたところで、列車のドアは閉まった。

 一夏、千冬、シャルロット、ラウラ、簪の五人は、チケットを見ながら座席に移動する。

 「さて、織斑。」

 荷物を運び終えるや、千冬が一夏に声を掛けた。

 「飲み物か?」

 「買ってこい。」

 そう言いながら千冬は五〇〇〇円札をポケットから取り出して手渡す、

 「・・・ここはユーロだ。」

 しかし一夏はそれを一瞥すると、直ぐさま千冬に突き返した。

 「・・・間違えた。酒頼めるか?」

 「今は移動中だ。抑えろ。」

 今日ぐらい良いだろうと食い下がる千冬には聞く耳を持たず、お金を受け取ると一夏は歩き去る。

 やれやれと、千冬は体を椅子に深く預ける。

 「・・・・・。」

 それから横目で隣の席を見やると、シャルロットが緊張からか無言で俯いていた。

 「さて、デュノア。・・・デュノア。」

 「は、はい?何ですか織斑先生。」

 反応がないので二度呼びかけると、彼女はビクッと跳ね上がりながら返事をする。

 「なぜ、我々が列車で移動しているか分かるか?」

 「え?」

 公共交通機関を使って移動しているなんて、ただの気まぐれだと思っていたシャルロットは、理由を尋ねられて返答に困る。

 「一人で抱え込むなってんだこの大馬鹿野郎!けど手を貸せる馬鹿も私達しかいないぞ!」

 横に座るラウラが突如として口を開く。出会って間もないころならばその口調に恐怖を感じたことだろうが、今のシャルロットには妙にしっくりと感じられ心を落ち着かせてくれる。

 「で?その作戦は?」

 「まず私がサーバーに侵入、ドン。動作感知器と生体認証センサーを切る、ブチッ。そしてさらに監視カメラシステムを無効化・・・あとはみんながババーンと潜り込める。簡単でしょ・・・?」

 空中投影ディスプレイに作戦を表示して簪が説明をする。

 「ドン、ブチッ、ババーン、か。・・・一夏、飲み物は?」

 作戦の要点を口にした直後、一夏が戻ってきたので購入品のラインナップを尋ねる。

 「本場のチーズとペパロニのグッチョ美味いピッツァだ!激旨だでぇ!」

 当然のように一夏が言い放つ。

 「・・・一夏、ピッツァは飲み物じゃないよ。」

 それを冷静に突っ込むシャルロット。

 「私も・・・そう思う・・・・。」

 シャルロットに賛同する簪。

 「「「・・・え?」」」

 しかし織斑筋のベテラン勢は、すでにピッツァを飲み始めていた。




(腹筋を)殺るのは一日に一度ずつ・・・・・まるでハンターだ


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第64話 フレンチはもてはやされすぎだ

筋肉痛が直せねえと次話が読めねえんだよ。読者が集まんなきゃ俺たちは上(要出展)に首を切られちまう。


 「シャル、お前の家はこのあたりだったな。」

 流れゆく車窓を見ながら、一夏が確認するように尋ねる。

 「そうだよ・・・何で知ってるの?!」

 まだ話したことはないはず。彼女は驚いて目を見開いた。

 「ちょちょっと手先を動かせば、そのぐらいのことは直ぐに分かる。」

 「」

 あぁ、そうだった。彼にとっては、どこかに保存されてさえいれば、いかなる個人情報であっても閲覧可能なのだ。

 関心や恐怖を通り越して、呆れさえ覚えた彼女は閉口する。

 「おい、このニュースを見ろ。ロシア代表、候補生を手玉に取り、条約と道徳に背く何たらかんたら、だとさ。」

 その横では、ラウラが面白そうな記事を見付けて簪に知らせる。

 「流石・・・お姉ちゃん。」

 姉の活躍を、簪は感情を無にして称えた。

 「それより一夏、腹減らないか?」

 シャルロット(と簪)に助け舟を出したとすればベストのタイミングだが、単純に千冬は空腹を覚えて尋ねていた。

 「飯なんか作ってないぞ。」

 こんなところに来てまで持ってこられると思っているのかと一夏は切り捨てる。

 「私もだ。」

 「同じく。」

 先ほどピッツァは飲み物じゃないと言い切ったシャルロットでさえこのありさま。一夏は少し考える。

 「・・・車内販売来た。」

 客室とデッキを仕切る扉が開き、待っていましたと言わんばかりにカートを押した車内販売が現れる。

 「ボンジュール。サンドイッチは如何ですか?激うまだでぇ?」

 目を合わせると、カートを押す若い男性スタッフがおススメの商品を見せてくる。

 「これは・・・フランスパンのサンドイッチか。」

 「ン、よくご存じですねぇ。正確にはサンドウィッチですが。この料理はお好き?」

 「ええ、ゾッコンですよ。」

 何気なく一夏が返したとき、そのスタッフは目を見開いた。

 「・・・・・知ってるぞ!君は織斑一夏だね!」

 「どこで聞いた。」

 隠してきたわけではないが、積極的に発信してきたわけでもない。まあ、メディアが勝手に発信してくれたので、結果として顔も名前も知れ渡っているわけなのだが。

 「どこでもそこでも、みんなが知ってる。サイン頼めるかな?」

 「書くならギャラ上乗せ。」

 「サンドウィッチ一パックオマケでいかが?」

 「乗った。」

 その返事を聞いて、車内販売の兄ちゃんはサイン色紙をどこからともなく取り出して一夏に手渡す。

 「これでどうだ?」

 どうだと言っても、本人が書き上げたものなので文句のつけようはない。

 「これが君のサイン。上手いね、よく書くの?」

 「滅多に書かん。飾ってくれんから。」

 正しくはサインを頼まれても逃げ切っているので、事実には一切基づいていない。

 「そいつぁめでたい。とにかく、君は世界で唯一ISを使える男子。僕みたいに立場の弱い男達の希望の星だよ。」

 「俺を貶すつもりか!いっぱしの強者を気取っていても、俺から見れば聖歌隊のガキ以下だ!誰が怖がるか!」

 サービスでスタッフを励ます一夏、

 「いよ、逞しい!あぁ、それだ。あれとかこれとか、それとかって――」

 それで火が付いたのか、スタッフの兄ちゃんは二〇分近くも一夏を質問攻めにする、

 「いや、今日はいい話が聞けて満足だよ。これ、お礼にサービスする。」

 「いくらだ?」

 ドカッと机の上に置かれたそれを見ながら、一夏が値段を尋ねる、

 「俺のおごりだ。食ってくれ。じゃあな。」

 爽やかな笑顔を残して、そのスタッフは去っていった。

 「俺の名が知られているとはな。」

 「大佐は有名人だからな。」

 それも世界中でと、ラウラは付け加えた。

 

 

 

 「三人部屋が二つ?」

 夜になった。寝台車へと移動してさあ眠ろうとしたとき、問題が発生した。

 「六人部屋を頼んだはずだが?」

 部屋を分けると金がかさむと、五人が一部屋に泊まるつもりでいた一夏と千冬。

 「そんなにでかい部屋はなかったです。」

 きりっとした表情で、ラウラが答えた。勿論、彼女が三人部屋に変更した犯人である。

 「仕方ない。ここは私とシャルロット、そして更識が同じ部屋で寝るとしよう。」

 わざとらしい演技をしながら、ラウラは続けて言う。

 「おいおいおいおい。それじゃ、私の晩酌はどうなるんだ。」

 「今は作戦中だ。控えろ。」

 酒の心配をする千冬を、一夏が一喝する。

 「仕方ない。ラウラ。織斑と同じ部屋で寝て良いぞ。」

 しかし、どうしても晩酌のしたい千冬は、何とか一夏とは違う部屋をになろうとする。

 「!!・・・あ!あそこにプロテインが!」

 これはマズイ。咄嗟の判断で、ラウラは明後日の方向を指さしながら苦し紛れに思いつきで叫んでみる。

 「「え?どこ?」」

 ところが、これが意外すぎるほどの効果を発揮した。

 この好機を見逃せば次はないと、瞬きする間に部屋へと逃げ込んだ。

 「!!小娘めェ!?クソ、逃げたか!!・・・ぬうぅぅ、うぉぉぉっ!!」

 嵌められたことに気が付いた千冬が直ぐさま攻勢に打って出るも、既に鍵が掛けられていた。

 「よせ、人の備品だ。今回は我慢しろ。」

 勿論、この程度の鍵を突破するのは容易い。しかし、IS学園ならまだ良いとして、外国で行うことには流石の一夏も気が引けた。

 「仕方ない。寝るか。」

 まんまと騙された自分の完敗と、千冬はスッパリと諦めて自分の個室に入る。

 「三段ベッド。参った参った。こんなひでぇベッドは流石の俺も初めてだ・・・・・。」

 幾らなんでも三段ベッドは詰めすぎだと、一夏は愚痴をこぼす。

 「まったくだ。チョー最悪だ。カプセルホテルが天国に思える。」

 「さっさと寝ちまおう。」

 「あぁ、そうしよう。」

 ぼろくそに言いつつも、横になることが出来ればそれで十分なので、さっさとベッドに入った。

 「・・・俺達、ドイツにいるんだよな?」

 「あぁ?寝言言ってんじゃねえよ。とっくに国境は越えたよ。」

 一夏は方向音痴なのではない。いつも国境を無視しているからこその、感覚の無さだった。

 

 「ここがパリか。暑くてやってらんねえ。」

 翌朝。パリの駅に一夏達の乗車していた寝台列車は到着した。

 一番に列車から降りた一夏は、周りの人達が白い息を吐きながら足早に動き回る中、薄着で悠然と突っ立っている。

 「え?今、一二月だよ?」

 対称に、過剰なまでの防寒対策をして列車からシャルロットは降りてくる。

 「デュノア、さっさと降りろ。」

 あまりの寒さに、ドアの前で立ち止まった彼女を、普段なら実力行使するところ、千冬が柄にもなく促した。

 勿論、シャルロットはそれに従ってホームに出る。

 「お嬢様、お待ちしておりました。お時間が迫っておりますので、お早く車に。」

 そこで待っていた初老の、執事のような格好をした男がシャルロットに声を掛けた。

 「うん、分かった。さ、乗って乗って。」

 シャルロットは一夏達を用意された車に案内して、駅を後にした。

 

 「そろそろか。」

 デュノア社の社長は、左腕の時計をチラリと見る。彼はデュノア社の特設アリーナ前で仁王立ちをして、自身の娘、シャルロット・デュノアの到着を待っていた。

 車が到着したのは、ほどなくして。すぐにゾロゾロと人が降りてくる。

 「遅刻だ。」

 その中の一人、筋肉モリモリマッチョマンが彼の前へと来たので文句を言う。

 「道が混んでた。」

 「言い訳は聞いてない。」

 「事実だ。受け入れろ。」

 取り付く島もない態度に、男はムッとする。

 「誰だ、この男は?」

 一夏のことを知らない社長は、自身の娘に尋ねる。

 「こいつは筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。大げさじゃないよ?この男、パンを焼きながら筋肉を殺すのが好きなんだwwwぶっちゃけた話、一夏はお前さんをマッチョマンの変態にするぐらい、屁でもないと。」

 質問の答えに、社長は露骨に眉間に皺を寄せた。

 「・・・遠慮しておこう。で、本題に入らせてもらっても?」

 「嫌だn」

 先ほどから何かと主導権を取ろうとする一夏に、社長は痺れを切らして殴りかかるが、息をするように避けられてしまった。

 「少し黙ってろこのオカマ野郎!ベラベラ喋りやがって!」

 「この俺がァ、オカマだとォ?」

 そこへ千冬も参戦してきて、状況は混沌を極める。

 「ああそうだ!」

 「おい、本題を」

 「ふざけやがってぇ!!」

 「本題・・・」

 「イエェェェアァッ!!」

 まるで眼中にないと、一夏と千冬は乱闘をおっぱじめる。列車の中に長時間いたストレスが、ずいぶんの溜まっているようだ。

 「父さん、あの二人はほっとこう?」

 「社長と呼べ・・・」

 高圧的な態度で娘に接した瞬間、どこからともなくパンチが飛んできて社長を殴る。

 その瞬間、シャルロットは殴った張本人の一夏をどついた。

 「今度私の邪魔したら殺すよ?」

 珍しくシャルロットが苛立っている。

 「ちょっと手助けしただけだ。」

 「私はその気がないんだ。」

 一刻も早く用事を済ませたかったのにと、シャルロットは肩を落とす。

 「で社長、本題というのは?」

 「・・・」

 気を取り直してシャルロットは呼びかける。しかし彼は沈黙を続け反応を示さない。

 「アルベールったらまた床で寝てるのねぇ~。んぅ可愛いんだからぁ。」

 一夏はデュノア社の社長の上半身を起こして、妙に高い声で呼びかけた。

 「やめろ!気持ち悪い!!」

 目を見開くのと同時に、目にも留まらぬ速さで社長は後退る。そして、彼は鳥肌を立てていた。

 「ほら起きたぞ。」

 「よくやった。社長、本題を。」

 どや顔を決める一夏と、それを褒め称える千冬。

 「・・・。」

 「社長?」

 「・・・。」

 恐怖を覚えた社長は、硬直して声が出せない。

 「なぁんだ、寝ちまったんですか?」

 「起きてるが?」

 またあの声で呼びかけられたら、今度は発作を起こしてしまうかも知れない。社長は声を絞り出した。

 「そう言えばさ、先月、社長、新型のIS作ったよね?」

 このままでは日が暮れてしまうと見かねて、研究員が彼らの間に割って入り本題へと誘導する。

 「俺、そう言うね、わざとらしい振りって大嫌いなんだ。」

 「いいじゃないですかこれ。偶にはこう言う入り方も良いって。」

 折角の助け船を無下にされても、研究員はめげずに続ける。

 「「「・・・・・。」」」

 ところが間が悪かったため、次は誰が声を出すかでお見合いをしてしまう。

 「あ、そう言えば社長さん。」

 その責任を取るつもりがあるのか定かではないが、研究員はヤケクソ気味に話し出す。

 「はい。」

 「先げ・・・あっ、駄目だ。このまま言っちゃえ。先月のロールアウト機って社長さん、新型機出ましたよね。」

 そして、ものの見事に滑ったので、ごり押しして話しを進める。

 「・・・えーっと、是非とも娘に乗ってもらいたいな。」

 「そうそうそうそう。OKですよ。・・・OK?じゃあ、どうぞ。」

 「ほんの少しではありますが、ISの第三世代機を入荷致しました!」

 ようやく、本題に入ることが出来たので、研究員は下がる。

 「第三世代機!?やったぁ!フランスバンザーイ!」

 一夏が両手を挙げて万歳をする。

 「・・・と、俺達が言うと思ったか?」

 と言うパフォーマンスをした後、完全にしらけた表情に戻った。

 「俺のダチが面白がって乗ってみたがよ、危なく廃人にされるとこだった。新世代機はイジるモンじゃねぇよ、馬鹿を見らぁ!」

 「・・・それ、私のこと言ってる?」

 「いやぁ、その通り。」

 空気になりかけていたのを心配してか、ひっそりと簪が会話に入り込む。

 「シャルロットにはこの機体へ乗り換えを行ってもらう。」

 開き直った社長は、一夏のことを無視して話を続けることにする。

 「おぉイエイエイエイエふざけんな、こんなのアリかよ。マジで契約違反だ。目の前で話してんのにこの野郎無視しやがって!ピザのトッピングにチーズとペパロニ頼んだらトーフと魚醤のっけてきたようなモンさ!サギだよ、サギ!」

 「オイオイオイオイ待てよ。待てったら~。ホントにドイツ人は怒りっぽいんだからぁw。」

 一夏は日本人なのだが、突っ込んだラウラはドイツ人なので、ツルッとそう言ってしまった。

 「・・・私はトーフも好きだよ?」

 「嘘をつけ。」

 「おい、行くぞシャルロット・デュノア」

 勝手にコントをする二人は放って置いて、社長は娘を新型機のもとに案内しようとする。

 「一つだけ教えといてあげる。リヴァイヴはこれまでで最高のIS。第三世代機では勝てない。」

 「よろしいならば模擬戦だ。」

 そこまで言うならば世代の差と言うものを体験したもらうと社長は決断を下す。

 「!!主戦主義者だ!コロセ!」

 網の外・・・じゃなくて蚊帳の外にならないよう、ラウラが話しに割り込む。

 「では、打ち破ってもらおう、我が社の誇る第三世代機。そのISは、昴。」

 「おいおいおい、ちゃんと言うてよ。」

 つられたのか、あるいは本当にボケ始めたのか。これ以上脱線しないよう、研究員は急いでツッコミを入れる。

 「ああ、そうか。昴とは、宇宙の中にあって一際美しく輝く星です。宇宙と言えば、そう秋桜。」

 「やる気あるんかおっさん!」

 発音も意味も間違いなく合っているのだが、ぼけを噛ましてきたことは確実だったので研究員は社長をぶっ飛ばした。

 「Foo!ええぞぉ!あんた腕っぷし良いじゃねえか!こんな時こそ拳を使わねえとなぁ!」

 その吹っ飛ばし方に、一夏は感心する。

 「あのろくでなしの暴言社長を殴った気分はどうだった?」

 「それは・・・最高です」

 「あんた最高だよ、きっと大物になれる。」

 「マジかよ」

 「もちろん。こんなところでくすぶってちゃだめだ。」

 「やっぱりそうか俺もずっと前からそう思ってたんだ!」

 急に自身が付いてきたのか、研究員は胸を張っていた。

 「・・・模擬戦は?」

 そしてシャルロットは、律儀に父の話しを覚えて・・・いたのではなく、世代なんて乗り手次第で問題ではなくなることを証明したくてウズウズしていた。




「よう、やってるな」
「おはよう読者」
「あぁ」
「朝から蒸すな、えぇ?」

次は年末にMAD版で会おう!(多分)


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第65話 小僧に口の利き方教えてやる

「あの読者、なんでそんなに眠れるんだ?」
「疲れさ」
「投稿が始まるまで寝てる気だろう」


 「っく、強い・・・。」

 デュノア社のアリーナで行われたラファールリヴァイブとコスモスの対決は、誰の目にも勝敗が明らかな形で終了した。

 「リヴァイヴ(これ)を作った技術者もこれほど勝ちがつくなんて思ってもなかったろうね。安物のISにただ適当に装備をくっ付けまくっただけ。はぁ~しょうもない・・・・・・。で、結論は?」

 「分かった!分かった!リヴァイヴに乗ることを認める。」

 終わってみれば、というか戦闘が始まったかどうかも怪しいほどに短時間でシャルロットが勝利した。

 「結構。よろしく。」

 シャルロットはそう言ってデュノア社の社長、あるいは父親の前から歩き去る。

 「で?お前はいつまで寝てるんだ?オータ・・・ゲフンゲフン。ショートニング・ショートケーキ。・・・?」

 シャルロットにてきぱきぽきぽきとやっつけられたISのパイロットは、未だにアリーナの中央でくたばっている。

 「・・・一夏。それ、どっちもお菓子。」

 そんな甘いお菓子みたいな名前なわけがない。一夏がわざと言っていることは分かっても、簪は突っ込みを入れずにはいられなかった。

 「あぁ、それは分かってる。で、マジでこいつの名前なんだっけ?」

 「ショッパイナ・ショッボイナだ。違うか大佐。」

 耳に残っていたイントネーションと一夏の言った言葉から名前を推測して、ラウラが名前を考え出す。

 「ショコラデ・ショコラータだ!」

 馬鹿にされたことに怒り勢いよく起き上がると、凄まじい剣幕で一夏たちを怒鳴りつける。

 「黙ってろオータム!」

 名前を隠そうとしていた、あの努力はどこへやら。間髪を入れず一夏が言い返したことで全てが無駄になった。

 「オータム?もう12月だよ?」

 「今度はクリスマスにでもするか?」

 何も知らない社長が、一夏に問いかける。それに悪乗りしてラウラが付け足す。

 「あぁ?!手前ら人の名前を出世魚みたいに――」

 「真ん中に寝てなきゃ。真ん中に。」

 敗者は敗者らしく、やられた場所で寝ていないとオータムを押し返す一夏。

 「私は真剣にいってるからな?」

 「何?もう良いじゃない。」

 負けたのだから潔く認めろと説得されるのだが・・・。

 「クソが!私も久々頑張ったのに、なんだよ!いい役持っていきやがって!!」

 「吹雪OKね?それでは、オータムさん、どうぞ!」

 往生際の悪さにしびれを切らした一夏は、彼女に現実を見せてやることにした。

 「ヤロー、ぶっ殺っしゃー!!」

 「(本性が)見えたぞー!待ちやがれ!」

 向かってくる相手に待ちやがれというのはいかがなものか。それでも、チェーンガンをぶっぱなすことだけは忘れない

 「へっ!ガキの動きなんざ単調なんだよ!この最新鋭機は頂いた!」

 これまで散々やられてきたことを忘れたのか、弾幕をいとも容易く避けられたことに気が付かない。

 「なにか忘れてません、か?」

 「あ?忘れるわけがっ?!何だ?!身動きが!!」

 用意されていた罠に誘導されたと気が付いたのは、罠にはまってからのことだった。

 「見ろ、蜘蛛が自分の糸に絡まってら。」

 「・・・・・ダサイ。」

 必死に笑いをこらえながら見てくる一夏。

 「手前ェ!!何だこれは!この私をこんな安物の糸で捕捉しやがってぇ!」

 「お前の忘れ物だ。受け入れろ。」

 その恥ずかしさから顔を真っ赤にして怒るオータムは、何とか逃げ出そうと必死にもがいて一夏たちに爆笑される。

 「な、何と言うことだ。私はまた娘を危険にさらしてしまったのか!」

 というその横で、デュノア社の社長は顔を真っ青にしていた。

 「娘を危険に?社長、お前、オータムの親だったのか。」

 まさかテロリストの親父が大企業の社長。掴んでいなかった情報に一夏は驚く。

 「違う!あんな出世魚は知らん!私の娘はシャルロットだ。」

 まあ、ありもしない情報なので掴みようがないわけなのだが。

 「なら、大丈夫だ。今の情けない格好を見ろ。おかげで安全だろ?」

 「まぁ・・・・・テロリストからはな。」

 それよりお前の方が胡散臭いと社長に睨まれる始末。

 「疑ってるのか?」

 「実を言うと・・・あれは何だ!!」

 その時、社長は視界の端で落下してくる物体を捉えた。

 「あ?クロエだ。遠くから見てることしか出来ないチキン野郎。」

 構ってやるまでもないと、一夏は切って捨てる。

 「こっちに向かっているように見えるが?」

 そんなことくらい一夏は承知済みだ。

 「大佐、命中させておきました。」

 「ご苦労。」

 ラウラと一夏が短く会話を交わした直後、クロエがシールドバリアーを運動エネルギーだけでぶち破る。

 「あ、切れた。」

 そしてオータムへ命中すると、彼女を捉えていた糸が切れる。そして、エネルギー保存の法則に従い打ち出された。

 「(糸の)予備がある・・・あ、なかった。」

 ポケットを探ってみた一夏だが、以前集めた分は今の分が最後であった。

 「そ、それどころじゃない!避けろ、避けるんだ!!シャルロット!」

 などとのんきに話しているその横で、やはり社長は慌てふためいている。

 「ん~、そいつはどうかな?」

 直後、オータムがシャルロットに命中した。

 「シャルロット!!」

 社長が叫ぶ。しかし彼は知らない。シャルロットが知らないうちに強くなっているということを。

 「もしかして?!」

 「私達!!」

 「「入れ替わって・・・ないね。」」

 二人が何に期待したのか知らないが、ちゃんと自分の体のままだったようだ。

 「ないんかい!って、あれ?」

 「あ、何かISもらっちゃった。」

 ただISに関しては、どういうわけかオータムのコスモスはシャルロットに吸収されていた。シャルロット、まさかの一人勝ちである。

 「あぁ?!何が起きてやがる?!」

 「何が起こっている!?」

 本当はこっちが親子だろと言いたくなるほどのハモリで、社長とオータムが叫ぶ。

 「コアが融合したんだろ?」

 一夏は特に驚くことはない。ISは分かってないことの方が多いから、何でもありというのが彼の認識だからだ。

 「クソが!こういう時は逃げる!」

 アラクネを展開するとそそくさとオータムが逃げていく。

 「おい、逃げられるぞ!」

 「ほっとけあんなもん。それよりクロエだ。」

 テロリストをみすみす逃すのかという社長と、別に捕まえるまでもない相手と思っている一夏たちには温度差が随分とあった。

 「おぅ、クロエ(姉ィ)。このときを待ちわびてた。」

 

 その頃、ラウラはクロエと対峙していた。

 「初めまして、完成品の『付き落とし子』。私はYOU。YOUになれなかった、もう一人のYOU。」

 ルー語のような何かを使って話すクロエ。

 「何だって?」

 そこへ一夏が到着する。

 「差し詰め、誰かさんの変換ミスさ。」

 「誰かって誰だ。」

 一夏とラウラがつまらないことで盛り上がっていると、クロエがしびれを切らした。

 「そこの男。」

 「社長、呼ばれてる。」

 話を切られたくなかったのか、わかっていながらも近くにいた社長を巻き込む。

 「違う、隣の男。」

 「だってよ、技術者。」

 「まぁじかよぉ!」

 まだ近くにいたのかと言われなくもないが、ちゃっかり同行していた。

 「・・・織斑一夏。YOU。」

 これは不毛なことが続くと見て、クロエは名指しで呼ぶことにした。

 「俺に何の用だ?」

 「YOUは完全なるイレギュラー。ママのため・・・・・・オエェッ!我がマスターのために消えてもらいます。」

 うっかり変な言葉を発してしまい、吐き気を催したクロエ。

 「       」

 「?」

 「大佐、見事な消え方でした。私から学んだのかな?」

 突然、一夏は口パクを始めた。その意味が分からずクロエが首を傾げていると、ラウラが説明をした。流石は姉妹。

 「YOU達が見ているのは幻影。」

 得意げに告げた筈だったが、一夏達に特に変化がない。

 「幻影?奇遇だな。俺達もだ。」

 「・・・?!?!」

 そして返ってきた事実に理解が遅れた。

 「二つに一つだ、今すぐ立ち去れば何も無かった事にする。嫌ならここを爆破して帰る!丁度ティータイムだ!」

 「やめてくれい!」

 一夏達の破壊力をまざまざと見せつけられた社長は、彼がでまかせで言っているわけでないことは分かった。

 一夏に睨まれ、クロエはすぐに消えていく。

 「クロエは帰った。俺達も帰ろう。」

 直後、一緒に戻ろうと言い出した一夏はスーッと消滅し、少ししてラウラも同様に消えていった。

 

 

 

 翌日、一夏達はイギリスへと飛ぶためにパリの空港へと来ていた。

 「世話になったな。」

 「小僧に口の利き方を教えてやる。」

 執事の男に一夏が言うと、彼は不満そうに言い返してきた。

 「私もそう思うな。世話んなったな!」

 一瞬、執事の肩を持つ振りをしてラウラだったが、一字一句一夏の言葉をなぞった。

 「学ばん小娘が。」

 口元をヒクつかせ、今にも爆発せんというオーラを醸し出す。

 「じゃあ、行ってきます。」

 「お嬢様、お気を付けて。」

 それでもシャルロットが声を掛けると、落ち着いた声と上品なお辞儀をするのだから大したものだ。

 「おぉイエイエイエイエふざけんなこんなのアリかよマジで契約違反だ。辞書にマーカ線引いて挨拶したのに、こんな塩対応しやがって!ピザのトッピングにエスカルゴ頼んだらデンデンムシのっけてきたようなモンさ!サギだよサギ!」

 「・・・何を言ってるんだこの男は?」

 「あは、あははは・・・。特に意味のない、挨拶みたいなものだから気にしない方がいいかも?」

 いよいよ青筋の浮かんできた執事を、シャルロットがなだめる。それは一夏のみを案じたからではない。執事の自信を喪失させないためだ。

 「貴公、織斑一夏と言ったな?ご学友とは言え、お嬢様にバカが移っては困る。ささ!離れて、離れ・・・離れ!離れェェェェェェッ!」

 しかしシャルロットの心遣いもむなしく、執事は一夏へと掴みかかった。

 「おじいさん、似合わないことはおよしなさい。指を脱臼するのが落ちだ。」

 当然、織斑筋の存在など知る由もない執事は、ビクともしない一夏を何とか動かそうと向きになった。

 そして一夏の心配を超えて肩を脱臼した。

 「ほら、言わんこっちゃない。」

 呆れた顔で一夏は呟いた。

 「一つ伝えとくね。一夏はバカじゃないから。ちょっと織斑筋な所があるだけで。」

 どう違うのかは教えない。肩の脱臼でそれを痛感したと信じて。

 「おっと、飛行機の時間だ。じゃあ、行くぞ。」

 

 

 

 「あぁっつ!何だここは!北上してるのにパリより暑い!」

 12月のイギリスの空港に降り立ち、一夏が最初に言った言葉がこれだった。

 「あぁ?!手前正気か?馬鹿野郎!何言ってんだ!てめえ正気か!死にてえのかてめえ!どっかし天丼!てめえ何言ってんか分かってんのかい!」

 そんな一夏に、もこもこの格好をした女性が掴みかかる。

 「気温について感想を言ったまで。違うか?」

 驚くこともなく淡々と言い返す。

 「あのー、一夏さん。こちらの方は?」

 到着ロビーで出迎えてくれたセシリアが、見慣れぬ来邦者に目を丸くする。

 「バカでちょっぴり大ドジな、クリスマスだ。」

 「クリスマス?もう12月だよ?」

 「もうじきクリスマスじゃないか!」

 勝手に人の名前で遊び始めた一夏達。

 「ウルセえ!手前ら、このオータム様を何だと思ってやがる!!」

 耐えかねて、公共の場で大声を出した物だから視線を集めてしまった。まあ、既に一夏が随分と引き寄せてはいたが。

 「複数の殺人。」

 「誘拐」

 「強姦」

 「恐喝」

 「通貨法違反」

 「それに、麻薬の密売だ。」

 「・・・最低。」

 「テロリストだからな。いや、待て。私はそこまでワルじゃない。」

 身に覚えがあるものもいくつかあったが、これ見よがしに好き勝手言われたものもあったのでオータムは言い返す。

 「ISを奪うってのは、重罪なんだが?」

 すかさず一夏が言い返した。

 「ISぐらい・・・いや、そうか。お前達といると、どうも感覚が・・・・・。」

 随分と毒されていると言うことにオータムは気が付き、頭を振ってそれを記憶から追い出そうとする。

 「で、一夏さん。何故この方を連れて?」

 普通なら退場頂くか、そこら辺に放流する。わざわざ同行を許すとは、一体どういう心境の変化なのか、セシリアは気になった。

 「可哀想なことにな、俺達が放流してやったあとすぐにフランスのIS部隊に囲まれてたんだ。」

 「おお~、可哀想に~w」

 わざとらしく高笑いをするセシリアの姿は、どちらかというと悪役の令嬢だった。

 「何だとこのクソガキ・・・!」

 オータムはこめかみに青筋を浮かべる。恐らく、セシリア相手なら勝てると思ったのだろう。しかし。

 「クソガキってどなた?私のこと???」

 「全く容赦のない・・・」

 半年前の彼女ならいざ知らず、一夏達とつるんでいたために、彼女は大幅にパワーアップしており、一瞬にしてオータムの意識を刈り取った。




「最近にしては早い投稿だな」
「早いと役に立たねえのか?」
「準備不足はミートバイバイの元だ」


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第66話 この世にある小説(要出展)番組の中で、何といっても一番面白いのは~? \デェェェェェェェンッ!/

ハワイにでも行って、のんびりと筋肉を伸ばすか
急げ急げ急げ!(予約)投稿だぞホラ!
?!?!?!


 「ちいちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 さて再開を懐かしむのはこれくらいにしてと思った矢先、篠ノ之束の声がした。

 一夏が一応そちらを見る。どういう原理でそうなっているのか分からないし分かろうとも思わなかったが、 そいつは舗装されたところを走っているのに砂煙を立てていた。 

 「なんだ?走り去っていったぞ?」

 しかし、一夏達の前で止まることなく駆けていった。

 「さしずめ、幻影でも追っかけてるんだろ?」

 一夏がそう言った直後、篠ノ之束は電車にはねられた。

 「なんで空港のロビーで電車に突っ込むんだ?」

 「身内として恥ずかしい・・・。」

 一夏の幻影を追いかけた所までは良いとして、自前で設置した電車にはねられるのは恥以外の何物でもないと箒は頭を抑えていた。

 「ところでシャルロット。新聞の一面を独占した気分はどう?お偉いさんたちはあり得ないって否定してるみたいだけど。おめでとう。」

 「ありがと・・・う?」

 邪魔者がいなくなったところで、鈴が今日の朝刊を見せながら尋ねる。

 「デュノア社はアンタを望みの役職に付けるっていってるみたいだけど、どうすんの?」

 「教官に、なろうかな?」

 「トップガンのか!・・・・・?????」

 何故そうなったのか。深く考えてはいけない。

 「ふんふん、君がデュアルコアとかいう外道に乗ってる操縦者だね?困るんだよねー、開発者に無断でそんなことしてもらっちゃ。」

 シレッと復活してきた篠ノ之束が話に割り込んできた。

 「だったら、誰にも使われないように手元に置いとくんだな旦那ぁ。」

 「ひィっ?!いっくん?!」

 振り返ってみれば、そこには天敵、織斑一夏の姿があって、篠ノ之束は震え上がる。

 「残念でした、外れ。」

 ところが、それはラウラの変装であった。

 「よくも私を騙したな!この嘘つきミイ!」

 「公共の場で騒ぐな!」

 今度こそ本物の一夏が怒鳴りつける。どっちの声が大きかったかは、言うまでもない。

 「私もそう思う。」

 「酷ーい!ちーちゃん!箒ちゃんがいじめるよう。」

 ドベキシッ!「オフゥイ・・・。」

 「今度余計なことを言うと、口を縫い合わすぞ。」

 先に黙らせてから宣言することで手のダメージを減らす、箒の編み出した対篠ノ之束の攻略法(?)であった。

 

 

 

 空港を出て一夏達が辿り着いたのはイギリスのIS空軍基地だった。

 「よう、青少年〜。また、締まったみたいだな。」

 そこで待ち受けていたのは基地関係者でも門番でもなく、篝火ヒカルノであった。大丈夫かこの基地。

 「そっちは、貫禄がついたみたいだな。」

 全身を見たあと、一夏は感慨深そうに返す。

 「?昨日の時点じゃ2kgは減ったはずだけどにゃー?」

 「・・・腕を上げたな。」

 どうやら上手く伝わらなかったようで言い直しをする。

 「そりゃどーも。それより、IS貸して。改造するから。」

 「任した。」

 「んー、了解、了解。」

 何気ないやり取りの後、一夏はヒカルノに待機状態の白式を手渡した。

 「待て待て待て、そいつはアホみたいに重いはずだが?」

 かつてアラクネを使っても持ち上げられなかったそれを、一夏はいいとしてヒカルノが持っていられるのはどういうことだ。

 「んにゃ~?重い?」

 「貸せ!」

 まさか自分は嵌められたののではという疑心から、オータムはヒカルノからひったくるように白式を手にする。

 「お前、アホだな。」

 当然、一夏がそんなつまらない細工などするはずもなく、オータムは重さに負けて白式を落っことした。

 「んなこったろうと思った。」

 呆れた顔をするオータムだが、彼女は知らなかった。篝火ヒカルノもまた、かつては千冬や束の同級生であり、織斑筋に長く触れてきたことを。

 「じゃあ、いっくん。どっか行ってて。ここにいられたら邪魔だから。」

 そんな彼女たちを押しのけて、束が一夏の前に来た。

 「そうさせてもらう。」

 「イギリス観光を楽しんでリラックスしな。調整には時間がかかりそうだしねー。」

 そこまで言ったところで、篠ノ之束がチラリと手の甲を見た。

 「おーい、セシリアちゃん。いっくんとどっか行っておいでよ。」

 「?」

 名前を呼ばれたセシリアが反応するが、顔が完全に違う方向を向いていたので首を傾げる。

 「おいおいおい、それは箒だ。」

 一夏はそんなセシリアのために、直ぐさま束に間違いを教える。

 「何?実の妹もわかんないワケ?この人。」

 野次馬をしたくてしたくて堪らないと、鈴が駆けつけてきた。

 「妹どころか、自分の名前もわかってない。」

 「それでよく名前を呼べたわね・・・。」

 「手に書いてる。いつものことだ。」

 呆れた顔をして、一夏が事実を伝える。

 「よく、それでISが作れたわね。」

 「知らないんだ。自分にはISを作れっこないってことを。」

 「」

 本当かと疑いたくなる事実に、鈴はただ黙ることしか出来なかった。

 

 

 

 一夏とセシリアは、ロンドン市内に来ていた。

 「で、一夏さん。」

 「何だ?」

 「大人しく観光に来ただけというわけではありませんわよね?」

 道路を渡るために立ち止まったタイミングで、セシリアは一夏に話し掛けた。

 「あぁ、そうだ。」

 「目的は何でして?」

 「こいつに、ちょっと洗礼を浴びせに。」

 道路の向こう側に、不自然に突っ立っている少女を一夏があごで示した。

 「???チェルシー?なぜIS何か・・・。」

 セシリアが視認したその直後、チェルシーはISを展開した。

 「捕まえてご覧――」

 何かを言い始めたタイミングで、いや、車が来たにもか掛からずチェルシーが口を開く。

 「――なら。」

 「奈良が何だって?」

 「観光にでも行きたいのでしょうか・・・。」

 当然、車の走行音と混じってしまい、流石の一夏を以てしても聞き取りきれない。

 「CATCH me, if あなた can。」

 「何だって?」

 「申し訳ありませんわ。ルー語はサッパリですの。」

 「」

 中途半端に日本語を挟んだものだから、一夏にもセシリアにも聞き取って貰えない。

 「捕まえてご覧なさい、できるものなら!」

 思い切ってい日本語で言い直したとき、彼女は肩を叩かれた。

 「?」

 振り返ってみると、ホッペに指が刺さった。ISを展開しているので、絶対バリアを貫通して素肌に当たる時点でおかしいのだ。

 「そいつは幻影だ。」

 その声に聞き覚えがある。織斑一夏だ。

 ぎこちない動きで道路の向こうを見てみる。彼の言葉通りそれはスーッと消えていった。

 「アーーーーーーー!!!」

 「Try to run away. If you can.」

 「何だって?」

 チェルシーの叫びへ被すようにセシリアが言ったものだから、一夏は何と言ったか聞き取れない。

 「逃げ切ってみて下さいまし。出来るのならですけどね。ですわ。」

 セシリアは、日本語で丁寧に言い直した。

 

 

 

 などと二人がチェルシーで遊んでいたそのころ、空軍基地ではというと。

 「集まれ。これからさっき配った付録について説明する。」

 千冬がバインダーを放り投げながら、一同を呼び集める。

 「ちったあマシな装備だと良いが。」

 蜂起がうんざりといった表情で近寄ってくる。

 「はいはいー!ここからはヒカルノお姉さんが説明するね!」

 「要領よく、簡潔にな。」

 聞かなくても分かるが、メンツもあるので説明をさせることにする。

 「まっかして!」と胸をたたき、ヒカルノは意気揚々と話し始めた。

 「この装置はね~、少量のエネルギーを、増やして、ひっくり返してビックリするようなエネルギーを引き出せるんだ!」

 「まるで『赤椿』のワンオフ・アビリティーの絢爛舞踏のようだねえ!」

 そこへ束が割り込んできた。

 「不思議な偶然があったものだよ。そう、赤椿のコピーを作ったみたいに。」

 問いただすように詰め寄る束だが、ヒカルノは「はあ?」とでも言いたげに首を傾げる。

 「・・・赤椿って何だ?」

 「知らねえや、そんなもん。かきつばたなら知ってるが。」

 ラウラが箒に尋ねると、彼女はどこからともなくカキツバタ・・・と見せかけてアイリスを取り出していた。

 「酷いセシリアちゃん!」

 「顔よく見てから名前を言え。」

 名前を間違えて呼ぶや否や、箒は隣町まで音が聞こえるほど強く束を殴った。

 「殴りましたよ。」

 気が付かなかったらいけないと、今やったことを教えるやさしい(?)箒。

 「酷い!いっくん!」

 ドベキシッ!「オフゥイ・・・。」

 いい加減、相手にするのも疲れてきたので、お休みしてもらうことになった。

 「マジなところ、赤椿のコピーか?」

 気を取り直して、ラウラがヒカルノに尋ねた。

 「赤椿が何かしらないにゃー。でも、そうなら赤椿は、真空管のコピーってことになるにゃー。」

 発想はそこからだという。やはりなと、一同は頷いた。

 「MIG-25かよ。」

 「そんなちゃっちなものじゃないのさ。」

 戦闘機などと一緒にされては困る。即座に束は目覚め、そして胸を張って言い切った。

 「事実だ。受け入れろ!」

 勿論、誰も聞いてはくれないけれど。

 「酷ぉい!ちい・・・箒ちゃん!」

 「いい加減にしろ!束!」

 合っていたのにわざわざ言い直して間違えた。千冬は持っていた出席簿を束の脳天にクリティカルヒットさせ、隣の国まで音を響かせた。

 「おー、いててててて。」

 流石に残機がたくさんあるだけあって回復が早い。

 「ま、そんなことより、そんな面白そうなことを束さんに黙ってやろうだなんて、一万年と1999年早いのさ!」

 「と言うことは、黙ってやられたお前は最低でも一万年と1999年前の人間というこったな。」

 「!!」

 自信満々に言い放ったところへ箒のカウンターが決まる。気が付かなかった(気が付きたくなかった)事実に、束はがっくりとうなだれた。

 「教官、今回の作戦場所は?」

 その横で、分かっているがラウラは千冬に尋ねる。

 「トゥース!・・・上だ。」

 誰かの逆を入れながら、千冬は宇宙を指さした。

 

 

 

 再び舞台はロンドンの郊外に戻る。

 「はあっ、はあっ、はあっ・・・。ここまで来れば。」

 あの後、チェルシーは一夏とセシリアを力ずくで抑え込もうと挑戦したが、圧倒的な力の差を見せつけられて逃亡を図っていた。

 二人を振り切り、建物の角にもたれかかり休む

 「ビールでも飲んでリラックスしな。」

 突然、ポケットに10PONドが押し込まれた。

 「???」

 何事と思いそちらを見ると。

 「一夏さん、チェルシーは年上といえ、まだ未成年でしてよ?」

 向かおうとしていた方向には、すでに一夏とセシリアが突っ立っていた。

 「アァーーーーーー!!!!!」

 叫び声を出しながら再びチェルシーが走り出した。

 「なあ。」

 その背中が見えなくなると、一夏はボツリと言った

 「何でして?」

 「この先は袋小路だが、どうするつもりだアイツ。」

 「さあ・・・。」

 彼女の行動の意図を図り兼ねつつも、二人は後を追った。

 

 

 

 『作戦のおさらいをする。』

 何やかんやあってチェルシーは二人に投降した。そしてこれは迎えのヘリコプター内でのやり取り。

 「俺とラウラに、箒と鈴。この四人で突っ込んでドカンッ。」

 一夏が作戦を確認する。

 『以上。まあ、何だ。その他も暇になるだろうから仕事をやる。セシリア。狙撃の準備をしておけ。』

 「分かりましたわ。」

 千冬が的確(?)に仕事を分配する。

 「あのー、一つよろしいでしょうか。」

 その時、ヘリコプターの隅っこで小さくなっていたチェルシーが、おずおずと手を挙げた。

 「何だ!」

 特にする話もなく暇なので、話を聞いてみることにする。

 「エクスカリバーについてです。」

 「安心しろ、お前の妹は、俺達が救い出してやる。」

 思いのほかつまらない情報だったので、一夏は早々に興味を失った。

 「はい、お願いしま・・・何で知っているんですか?!」

 チェルシーは、どこにもないはずの情報を一夏が知っていることに目を見開いて驚く。

 「妹紹介してくれるか?」

 そんなの知ったこっちゃないと、ラウラがまどかを指さしながら一夏に話しかけた。ちなみにまどかは、オータムを取り返しに来たところを一夏に絡まれただけだったりする。

 「手を出すなぁ!分かったか!」

 「大佐ァ、そんなに怒ることないではないですか!」

 ネタに対してなぜか切れたので、ラウラは言い返した。

 「ふん。お前との決着は今度付けてやる。」

 「今でも良いぞ?」

 「・・・・・。」

 聞こえないように小さな声で言ったつもりだったのだが、一夏が振り返ってきたのでまどかは肝を冷やす。

 「到着した。降りよう。」

 まもなくヘリコプターは着陸した

 「何だ一夏。そっとしてやおいてやるんじゃなかったのか?」

 別のヘリコプターで先に到着していた千冬は、降りてきた人物に意外そうな顔をした。

 「仕方ない。乗ったらいたんだ。」

 厳密には乗る前に投げ入れたというのだが。

 「そうか。早速だが、作戦を開始する。配置に付け。」

 一人増えたところで何の問題もない。千冬はさっさと仕事に戻っていく

 「いつでも良いぞ?」

 一夏たちは何も聞かず、すぐにブースターへ自身のISを接続する。

 「では、カウントダウンを始める。」

 『10,9,8――』

 「ねえ一夏、アンタのISって宇宙まで上がるわけ?」

 すぐにカウントダウンが始まるが、鈴は急にそれが気になった。

 「上がらなければ、それはその時。クロールでもして上がるさ。」

 「小説だからって、アンタいくらなんでも。」

 「小説?鈴、恐怖で頭でも逝ったか?」

 冗談交じりに一夏は言ったはずだったのに、鈴がまともにその言葉を受けたので不思議がる。

 「うっさいうっさ――」

 『ゼロ!定価OFF!!!』

 癇癪を起こす鈴を黙らせるように、ブースターに点火された。

 




読 くそ、この急な投稿どうにかならんのか!

作 急な投稿なんかじゃねえ!編集が終わったら投稿するって言ったのに、腹筋を鍛えとけと言ったのにアンタはよぉ~、聞く耳も持たなかっただろうが!

2021/02/03 誤字を修正しました


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第67話 テキパキサクサクと

朝飯だ。プロテインも飲めよ


 これといったトラブルもなく、一夏たちは宇宙空間に到達した。

 「急ごう!サッと行って引き上げよう。」

 「早さが肝心。」

 「見えた。あれだ。」

 計算通りのポイントに到達できたおかげで、探す手間が省け一夏はつまらなそうにする。

 「待て、様子がおかしい。」

 突然、ただならぬ雰囲気を感じ一夏は制止を呼びかけた。

 直後、極太のビームがすぐ横を通り抜けた。

 「何だ!この出力は!」

 その出力にラウラが目を剥く。

 「肌を焼くのにも物足りない。折角こんな所まで来たってのに。」

 「行こう。長居するだけ無駄だ。」

 見かけばかりで中身はスカスカ。一夏たちは呆れていた。

 「ところで、さっきからハエがうるさいな。」

 目の前をうろうろと飛ぶそれを、一夏が捕まえようとする。

 「バカね、アンタ。これは宇宙ゴミよ。」

 それを鈴が冷静に突っ込む。

 などとやり取りをしていると百式が火を噴いた。

 「あ、壊れた。」

 「所詮、IS何てこんなものだ。大気圏に向かって投げとけ。」

 「そうしよう。」

 箒に言われるがまま、一夏は百式を大気圏めがけて投棄した。

 「ちょっと待ちなさいよ!ここ空気ほとんどゼロなのよ?なんで音がするわけ?」

 それはさておき、鈴がつまらないことを聞き出したので一夏はこう返した。

 「だってお前、これは小説だって言ったじゃないか。」

 「」

 

 

 

 丁度そのころ、地上の管制室では。

 「あれ?織斑君のバイタルサインが消えた?!」

 モニターを見つめていた山田先生が、突然一夏からの信号が途絶え慌てる。

 「気にするな。どうせ白式のガス欠だろ。」

 「それって大変じゃないですか!!」

 コーヒーを飲みながらくつろいでいた千冬が、緊張感が欠片もない声でそういうと、山田先生はヘッドセットを外して立ち上がった。

 「予備がある。」

 「予備って何ですか?!」

 「しらんのか?アッ――」

 千冬が何かを言いかけたとき、管制室の扉が乱暴に開かれた。

 「残念だねぇ!ちいちゃん!!いっくんは死んだのさ!」

 「そりゃご苦労。」

 不敵な笑みを浮かべる束に対して、驚くどころか憐みの目を向ける千冬。

 「あれ?驚かないの?実の弟が死んじゃったのに。」

 想定外の反応に、束は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

 「死んだ?お前には一夏は殺せない。」

 事実だけを淡々と伝える千冬。

 「白式に細工をしたんだけどなー。」

 その余裕を打ち砕こうと束が種明かしをすると。

 「言ったろ。予備がある。」

 さらに憐みの目を向けられる始末だった。

 「予備?そんなのはあり得ないのさ。なんたって、この世界は私が描く小説の世界なんだから!」

 「操り人形だよ!」

 調子に乗る束を一喝する。

 「これがその装置。ちいちゃんなら何の装置か分かるはずだよ!」

 「自爆装置だろ。付け忘れた。」

 自信満々に取り出したそれは、明らかにそこにあってはならないものであった。

 「そうそう。って、あっれぇ?!」

 「ぶっ飛べ!」

 大爆音とともに手に持っていた爆弾が破裂する。流石に危機を壊されると請求が面倒なので、千冬は盾になって機器(とその前にいた山田先生もついでに)を守る。

 「ゲフッ・・・。」

 煙が排出される。そこには煤まみれでアフロになった、コントでよく見る爆発後のあれをした姿の束がいた。勿論、千冬は無傷である。

 「なんで今ので生きてるんですか?」

 山田先生は不思議そうに尋ねるが、威力だけで言えば千冬の出席簿アタックの方が高いのだが、彼女は知る由もない。

 「細胞単位でオーバースペックなのさ。」

 「私達ほどじゃないがな。」

 「あは、あははははは・・・・。」

 もはやただのやせ我慢にしか見えない。山田先生は、しかし狙われたら面倒なので笑ってごまかした。

 「あ、織斑先生。それでさっきの続きなんですけど、予備って何ですか?」

 そしてすぐに話題をそらす。

 「アッシーだ。」

 「アッシー?」

 聞きなれない単語に首を傾げる。

 「ISだ。織斑の。」

 「ちょ、ちょと待って下さい!!織斑君のISは白式ですよ?」

 そんなISは聞いたことも見たこともない。当然、書類でも見たことがないので、意味が分からず聞き返す。

 「だから予備だと言ったろ。」

 「何で、一人でISを二つも?!」

 「デュノアもそうだ。違うか?」

 「違いませんけど、おかしいですよ!IS二つなんて。」

 厳密に言えば、シャルロットの場合はコアが二個なだけなので、二機持っているわけではないが、実質同義である。

 「だって山田先生、これは小説だって(束が)言ったじゃないか。」

 「」

 言葉を失う山田先生。

 「え?作ったかな、そんなIS?」

 そして、なぜか首を傾げる束がそこにいた。

 

 

 

 「行くぞ!」

 などと地上組が遊んでいたころ、一夏たちは突入を始めた。

 「待て!分列したぞ!」

 待てといいながら、言った本人の箒が加速しながら突っ込んでいく。

 「構わん突っ込め!」

 「各機、大佐に続け!突撃ィ!()()()()を片付けろ!」

 それに一夏が呼応し、更にラウラが続く。

 「私が二つ片付けよう。」

 日頃のうっ憤を晴らすのに持って来いと、箒がやる気を見せる。

 「ラウラ、鈴。一個片付けるか本体に突入。どっちを選ぶ。」

 一方で一夏は、少しでも楽をしようとしていた。

 「決まってるでしょ。アンタが片付けて。」

 「大佐が突っ込む。以上だ。」

 「思いやりがあるなぁ。」

 やはりかと言いたげにしながらも、一夏と箒は一瞬のうちに本体から分離した攻撃衛星を粉砕してしまった

 「「クリア!」」

 

 

 

 「!!エクスカリバーのエネルギーが急上昇!」

 丁度一夏たちがそれを制圧したころ、管制室で山田先生が驚いていた。

 「あ?一夏が落としたんだ。攻撃衛星を。」

 モニターの数値を一目見るや、千冬は状況を理解した。

 「攻撃衛星?」

 「資料読め。」

 なぜ目を通さないと千冬は憤慨する。

 「で、でもこれは!?ISの速度を遙かに超えた物体が移動中!」

 今度は別の数値が異常な値を示し始める。

 「デブリか一夏君か、2つに1つってところね。」

 楯無は冷静に状況を判断した・・・つもりだった。

 「それは違う。デブリと一夏だ。」

 「「「?!」」」

 束、山田先生、そして楯無が目を白黒させた。

 

 

 「そろそろ終わる頃ですかしら。」

 BT加速器内部にいたセシリアは、断片的にではあるがスコープ越しに状況を見ていたので、ある程度のことが分かっていた。

 「・・・賑やかですわね。」

 と、後ろでドタバタとチェルシーとマドカが暴れていた。

 「『ダイブ・トゥ・ブルー』を寄越せ!チェルシー・ブランケット!」

 「お断りします。」

 襲いかかってきたマドカから逃れるため、彼女は異空間に逃げ込む。

 「逃がすか!」

 浊込まれる前にと打った弾丸は、虚しく空を切り壁を破壊した。

 「出てこいくそったれぇ!!うわぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!」

 叫びながらやたらめったらに弾をばらまき始める。

 「そこ!」

 「くっ!」

 その時、何かを感じ取ったように無駄撃ちをやめて一点を狙い撃つ。

 「こいつで強制解除してやる!」

 「いやぁ!お代官さまぁ!」

 その時、セシリアの堪忍袋の緒が切れた。

 「うるさくってよ!」

 キッチリ二人の体は外して、すぐ真横にロケット弾を叩き込む。

 「「はい・・・。」」

 ビシッと背筋を伸ばし、二人は来おつけをした。

 「おっくれて登場、楯無お姉さん。取り敢えず、一斉爆破でいっちゃおう?」

 そして事情を良く知りもしないのに爆破しようとする、爆弾狂の登場。

 セシリアは一気に部屋の隅へと逃げた。

 「どうしてセシリアちゃんが逃げるのよ!」

 楯無の見ていた限りでは、セシリアが猛威を振るっていたので、向かってくると踏んでいた。にもかかわらず逃げられたので、楯無は理解できない。

 「あなたに勝ったら、生徒会長をしなくてはならないからですわ!」

 「まだ有効なの?!」

 意外というかしょぼすぎる理由。楯無は驚いた。

 「寧ろ有効ではないのですか?」

 それを見て聞き返す。

 「いや、有効だけど・・・。」

 ばつが悪そうに、楯無は口ごもった。

 「クククッ、相打ちになればISが三機も!」

 その傍らで、捕らぬ狸の皮算用をする者がいた。

 「どうやって?」

 聞き逃すことなく楯無が問いかける、と。

 「こうやってな!」

 マドカが不思議な粉をばらまいた。

 「え?!ISが?!」

 するとどうだろうか。ISが強制解除されたではないか。楯無はまたまた驚く。

 「リームバーですわね。」

 しかしセシリアは至って冷静に状況を分析。

 ロケットランチャーを持つと、何の躊躇いもなくトリガーを引いてマドカに撃ち込む。

 「この手に限りますわ。」

 「」

 一夏ほどでは無いにしても、随分と手際がいいし躊躇いがない。楯無は少しばかり恐怖を感じた。

 「あら、保護者さん?」

 突然、セシリアが誰も居ないところへ向けて声を掛ける。

 「ま、そんなところね。」

 「す、スコール・ミューゼル?!」

 直後、慣れた様子で現れたそれに楯無は身構える。

 「口の利き方を知らないのね。」

 「私もそう思いますわ。ところで、御用は何でしょうか?」

 まだそれ程の知り合いでないのだから、セシリアは丁寧に返す。

 「奴らはヤバイ奴らはヤバイ奴らはヤバイ奴らは野蛮・・・・・・。」

 「エムに加勢、と言いたいところなのだけれどねぇ。またこんな状態になっちゃったから、今日は引き上げるわ。」

 頭痛がするのだろう。スコールは頭を抑えていた。

 「また会いましょう。」

 「最新刊でね。」

 そう言ってテロリストは引き上げていった。

 

 

 

 「これが衛星の中か。」

 セシリアがテロリストと戯れていた頃、一夏達は衛星の内部へと侵入していた。

 「見ろ、誰か倒れてる。」

 入ってすぐ、生身の人間が倒れていた。

 「おかしいわよ!一夏、真空でも音は聞こえるし、挙げ句、無重力なのに床へ人が倒れてる。説明して頂戴!」

 そう、あり得ない姿勢で。

 「だってお前、これは小説なんだろ?」

 「おぉやだ!」

 自分の言った言葉を返された鈴は、耳を覆った。

 「こいつら、ダリルとフォルテか。」

 一目見て、IS学園の元生徒であることに気が付く。流石の一夏でも、宇宙空間のことまで把握はしきれない。

 「何故こんな所に?」

 ラウラが不思議がる。

 「生きてるか?」

 「あ、あぁ・・・。裏切り者だ、コロセ。」

 一夏がダリルに呼びかける。すると彼女は弱々しい声で応答した。

 「俺達はレスキュー部隊だ、殺し屋じゃない。ここを爆破して地上に戻るちょうどティータイムだ。」

 「一夏、せめて舌の根くらい乾かしなさいよ。」

 一言目と二言目で言っていることが逆転している。鈴は辻褄くらいは合わせなさいと忠告をする。

 「もう一人いるぞ?」

 「いぇぇぇあ!面倒だ!衛星ごと持って帰ろう。」

 前言撤回。結局、一夏には舌の根を乾かす間も気もなかった。

 

 

 

 数日後、一夏達はセシリアの誕生日会場・・・・・の外にいた。

 「で?何で中には入れないわけ?」

 その状況が気に食わなかったのか、鈴が大きめの声で呟く。

 「俺達は網の外だ。」

 「蚊帳の外だよ。」

 一夏のボケに箒が素早く反応した。

 「マジな話し、何で?」

 茶番はいいからと鈴がせかす。

 「俺達がパーティーを滅茶苦茶にすると思ってる。」

 「仕方ないわね。」

 あまりに予想通りの答えだったので鈴は急速に興味を失い、出来上がったカップ麺の蓋を開けた。

 「何だよ、久しぶりに頑張ったてのに。」

 箒が嘆く。もっとも、その声は抑揚がなく、いわゆる棒読みであったが。

 「それにしても、中は良いな。暖かいし、美味しい料理もあるんだろうし。」

 「なあ、シャルロット。」

 突然、とんでもないことを言い始めたので一夏は震え上がる。

 「何、一夏?」

 「ここイギリスだよ?」

 「あっ。」

 中に入ろうと思えば、ここのメンバーはいくらでも入れる。にもかかわらず、こんな所で大人しくカップ麺を食べているのは理由がある。

 それを察すると、シャルロットも完成したカップ麺の蓋を開け啜り始めた。




読 (プロテインの)中身は何だこれ?
作 知らない方が良い


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第68話 病気なんて私には関係ないもの

よしてくれぇ、恐れを知らぬ読者だろうが!


 それは元旦の出来事だった。

 「なあ、千冬姉。」

 こたつで温まりながら、おせちではなく昨夜のあまりのそばを喰らっていた一夏が急に話し掛ける。

 「何だ?」

 「俺達、なんで自宅に籠もってるんだ?」

 いつもならお参りに行くのに今年は家の中。

 「自粛要請が出てるから。」

 「何で。」

 必要でないときまで法を破ることはしないが、要請ごときで黙るというのも変な話しである。

 「新型コロナが流行っているから。」

 「なんたってそんな外の病気が来てるんだ?」

 俺達には関係のないはずだと不満を垂れる。

 「決まってるだろ?書くのが面倒くさいんだ。」

 「つまり。」

 「カットしてやった。」

 

 

 

 1月4日、新年一発目の授業がIS学園で始まった。

 「先生!質問があります!」

 授業が始まると同時に、相川が手を上げた。

 「どうした。」

 「昨日まで猛威を振るってたウイルスはどこに行ったんですか?」

 今朝のニュースでは、誰も触りもしなければ口にもしない。たった一夜でそれ程劇的な変化が訪れるのかと疑っている。

 「新型プレミオに置き換わった。」

 「「「?????」」」

 突然車の話になったが、当然、生徒達はついてこない。

 「さ、手前ら正月らしいことしてないだろうからおみくじを引かせてやる。」

 そういってどこからともなく、神社においてあるような振ると棒が出てくるタイプのおみくじを取り出した。

 「わー!これやってみたかったんだ!」

 日本出身でない生徒も多数いるため、予想以上の盛り上がりを見せる。

 「あ!大吉!あなたは?」

 「私、末吉。」

 「わー中吉だ!」

 「勝った、吉!」

 「知ってる?中吉の方が強いところもあるんだよ?」

 「それがどうした!」

 それぞれが自分の運勢を競い合う、実にほほえましい光景がそこにあった。。

 「織斑君は?」

 そんな中、一人の生徒が一夏に勝負を挑もうとした。しかし。

 「(字が)見えないんだ。」

 よくなかったから誤魔化しているんだ。そう思ったのか、一夏からそれを受け取ってみてみると。

 「ん~どらどら?・・・見えないね。」

 「マジで、見えない。」

 本当に何も書いていないただの棒がそこにあった。

 「あれ?篠ノ之さん引かないの?」

 やがて箒にも順番が回って来たが、彼女は引くことなく次に回した。

 「滅多に引かん。当たらんから。」

 それだけでなく、家に帰ればいくらでもできるということもあるが。

 「まあ、そう言わずに一回。」

 ジャラジャラー、ジャラジャラーと、箒がおみくじを振ると、PON☆と運勢を書いた棒が出てきた。

 「ん~、何?」

 面白がってのぞき込んでみると。

 「大凶。」

 無感情に箒がそれを読み上げる。

 「あっ。」

 「「「・・・。」」」

 やってしまった。後悔するクラスメイト達の目の前で、けれど箒はこういった。

 「どうやらこれでも底らしい。ホントなら今年は絶好調だな。」

 〈〈〈それもそれで恐ろしい。〉〉〉

 不敵な笑みを浮かべる彼女を見て、一部の例外を除いた全員が震えあがった。

 と、その時。

 「早く紹介せぬか!」

 ドアが乱暴に開け、一人の少女が怒鳴り込んできた。

 「嫌だね。」

 「断る。」

 一夏と箒がすかさず言い返すと。

 「断るだと!静まれ、静まれ!この紋章が目に入らぬか。」

 直後、釣り目の女性が入ってきて、高級な総菜で作られた紋章を見せつけてきた。

 「ここにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くも先の女王『アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク』にあらせられるぞ!頭が高い、控え・・・・・何ですか、女王陛下。」

 意気揚々と話していたところをつつかれた女性だったが、主人の呼びかけに素早く対応する。

 「まだなっておらぬ!」

 そこには王女としての確固たるプライドがあった。

 「!!静まれ、静まれ!」

 「「「お前だ!」」」

 慌てて取り消そうと叫んだ結果、一組の生徒からド正論の反論をされる。

 「で、そんなヤツがここに何の用だ?」

 「知らないのか?特別留学生だ。」

 ラウラが問いかけると、それをカットするように一夏が返す。

 「へー・・・偉いの?」

 誰かがそう言った。

 「王女だが、所詮、七位だ。」

 「所詮は失礼じゃない。」

 すかさず一夏が言ったことに対して、どこからともなく声が上がる。

 「まあ、見てろ。」

 どっしりと腰掛けたまま、一夏は不敵にに笑っていた。

 「わらわのこと、しっかりと説明してくれなくては困るぞ。織斑千冬。」

 時刻ではそれで通用していたことだろう。だがここはIS学園の一年一組。

 「・・・。」

 ドベキシ「オフゥイ」

 「先生を付けろ。」

 権力だろうと肩書きだろうと、一切通用することはない。

 「そのようだな。」

 「言ったろ。」

 それでも手加減があったので、一夏は面白くなさそうではあったが。

 「な!貴様!アイリス様に手を出すとは!」

 当然、アイリスの従者は切れた。

 「手は出してない。」

 嘘は言っていないが、言い訳であることに疑いの余地はない。

 「叩いたろ!出席簿で!」

 「安心しろ、峰打ちだ。」

 「峰?峰って何だ?」

 「ここは日本だ!郷に入っては郷に従え!」

 上手いこと誤魔化そうといたが、相手に伝わらなかったので強引にいく。

 「おいおーい。」

 「どうした織斑。」

 「ここは日本じゃないぞ。」

 「似たようなもんだ。」

 一夏が上手いこと割り込んでくれたお陰で、逃げ切れた。

 「う、うーん?なぜわらわはここで寝ておるのじゃ?」

 「この女が殴ったのです!」

 とういのは従者が許さない。

 「何と!!死刑じゃ!」

 立ち上がりアイリスが宣告する。

 「やってみろ。できるならな。」

 それを挑発する千冬。

 「近衛騎士団!懲らしめてやりなさい!」

 どこぞの隠居のように指示を出した。直ぐさま近衛騎士団が駆け込んで――

 「近衛騎士団?」

 は来なかった。

 「控え室でひっくり返ってたぞ。」

 「何?!」

 一夏の言葉を聞いて驚いたのは、アイリス・・・ではなく千冬だった。

 「私の(酒)じゃないだろうな。」

 「お前の(酒)は消毒だって正月に全部飲み干したろ。」

 「・・・。」

 マジギレ寸前の一夏を見て、千冬はばつが悪そうにそっぽを向くのだった。

 「もうよい。それより、そこのうるさいの。」

 流石に無視され続けることに我慢が限界が来たのか、命知らずの王女はある一人を指さした。

 その指の延長線上を生徒はみる。

 「呼ばれてるぞリアーデ。」

 「あ!大き・・・え、何?」

 最後列にいた彼女は、ようやく回って来たおみくじを引いていたので話を聞いていなかった。

 「お主じゃ!」

 小バカにされたことでさらに怒り、アイリスは一歩踏み出した。

 「え~、私かぁw。」

 と、全く関係のないところで一人の生徒が照れながら立ち上がった。

 「呼んでおらぬ!誰じゃお主!」

 「岸原理子だよ!」

 名乗りながら独特のポーズを決める。

 「ウザイ!・・・この匂いは何じゃ?」

 ふと、嗅ぎ慣れない香りがしてきた。

 「航空燃料。」

 「航空燃料。いいのう、好きじゃ。」

 「同士よ!」

 目をらんらんと輝かせ、相川はアイリスの手を取った。

 「・・・ハッ!離さぬか!無礼者!」

 まもなく我に返ると、相川の手を振りほどく。そして、ずかずかと足音を立て教室の中へと進む。

 「お主じゃ!織斑一夏。」

 そして呼びかけていた本人の前へと出向き、名指しと指差しで呼びかける

 最初からそうすればいいのに。

 「何の用だ?」

 「お主をわらわの召使いにしてやる。光栄であろう?」

 胸を張りながら言ったが、相手は一夏である。一筋縄でいく相手ではない。

 「めしつかいって何だ?」

 「ご飯作る人。」

 「なるほど。」

 すぐに答えたのは箒だったが、そこにセシリアが訂正を入れる。

 「違いますわ!ご飯を操る人のことでしてよ!」

 「流石英国貴族。言葉の重みが違う。」

 どういうわけか、クラス中の全員が納得したように頷いている。

 「おぬし、それでも貴族か!それとも召使いも雇えぬ貧乏貴族であるのか?」

 全方位にケンカを売りまくるアイリスだが、誰一人としてまともに買ってくれない。それどころか買わされていた。

 「お生憎様。当家にはメイドしかおりませんので。」

 言い方の違いでしかない。「もうよい!!」と一言言って、一夏へと向き直る。

 「わらわの身辺を護衛せいと言っておるのじゃ!」

 「子守りは得意じゃない。」

 「子守りじゃと?!わらわを子ども扱いするでない!」

 一夏は当然のことを言ったまで。しかし彼女にしてみれば、それは最大級の屈辱だったらしい。

 「俺をコケにするもりか!いっぱしの王女を気取っても、俺から見ればそこら辺のガキだ!誰が専属で面倒を見るか!」

 アイリスはここで気が付くべきであった。一夏は、面倒を見ないとは一言も口にしていない。専属ではしないと言っているだけだ。

 「貴様!王女殿下に対して無礼であるぞ!」

 ドベキシ「「オフゥイ」」 

 十社が出しゃばった瞬間、誰かの何かが切れる音がしたかと思うと、アイリスと従者のフローレンスは眠りについていた。

 「教室では静かにしろ。さもなくば去れ。」

 「「「上がり目しかねぇ・・・。」」」

 大凶でさえこれだけできる。今が本当に底だとすると、いったいどれほど強くなってしまうのか。クラスメイト達はそのことについてただ震え上がった。

 

 

 

 間もなく昼休憩が終わる。一夏は、性懲りもなく付きまとってくるフローレンスを適当にあしらっていた。

 「王女の意向だ!これを着ろ。」

 一夏に執事の服を押し付ける。それも、サイズからして着られるはずのないものを。

 「断る!」

 「異論は認めん!」

 「授業だ。お前も受けろ、ためになる。」

 時計を軽くたたき、フローレンスの首根っこを掴んで持ち上げた。

 「は、放せぇぇぇぇぇぇ!私には近衛騎士団長を迎えなければならんのだ!」

 「支えてんのは左手だ。利き腕じゃないんだぜ。」

 「あわわわわわっ・・・!」

 素直にならないフローレンスを、一夏は四階の窓から外に出す。

 「空飛ぶか?そら!」

 「うわあぁーーーっ!!!」

 それでも従う気配がなかったので、「見上げた忠誠心だ」とだけ言うと一夏は手を放した。

 「傾注!」

 直後、雄々しさを感じさせる声が響いた。勿論、一夏の姿は既にない。

 「・・・ぁぁぁぁあああああぁぁぁぁ・・・・・。」

 出迎えがない。近衛騎士団長のジブリルが不思議がっていると、窓の外で何かが飛び上がってきて、そして自由落下していった。

 「フローレンス!何を遊んでいる!」

 「・・・たんです!」

 ジブリルの声はフローレンスに届いていたが、その逆は声量が足らず聞き取って貰えない。

 「何を言っているのか分からん!」

 「・・・ぁぁぁぁああああ!!」

 丁度上がってきたところをジブリルは掴み、そして室内に引き込む。

 「すまない、助かった!」

 「殿下はどこだ!」

 ここで足止めされていると言うことは、まさかさらわれたのではと考える。まあ、あながち間違ってもいないが。

 「教室で授業を受けておられる。市街を散策されたいと申されておられたのに、織斑一夏め!強引に授業に連れて行きおって!」

 「何と!この私が直々に成敗してくれる!」

 間違いなく一夏の言っていることの方が正しいのだが、彼女たちは思考が偏っていたのでそう言う判断になっていた。

 教室へ向かおうとした、正にその時だった。

 ヒョロロ〜〜ファンファンファン

 ヒョロロ〜〜ファンファンファン↑

 「・・・何の音だ?」

 突然聞き慣れない音が流れてきて立ち止まる。

 「誰だ!!お前は。」

 フローレンスが、真っ正面から堂々とやって来た男に気が付き怒鳴りつけた。

 「一夏に頼まれてる。」

 御手洗は立ち止まると、名乗ることなく短くそれだけ言い、進路を塞ぐように悠然と立った。

 「くそ!あの男、どこまで外道だ!」

 「そこを退け。さもなくば与えられし権限により、ナイフと結ばせてやる。」

 「・・・。」

 どんな挑発でも、どんな脅しでも彼は動揺する素振りさえ見せない。

 「なるほど。ならば死ね!」

 ジブリルが腰に下げていた剣を引き抜きつつ、男に斬りかかる。

 「お、お前は一体・・・・・何者だ。」

 その暇さえ与えられず、二人は制圧されてしまった。

 「・・・。」

 倒れた二人が、授業が終わるまで動くことの出来ない状態にあることを確認して、御手洗は去って行った。

 

 

 

 「で?結局、アンタはついて行ってやるわけ?」

 週末。一夏が出かける準備をしていると鈴にそう言われた。

 「ちょっとした事情があってな。」

 「なるほどね。」

 何かを察し、不敵な笑みを浮かべる。

 「大佐、お気を付けて。」

 「あぁ、行ってくる。」

 ラウラに見送られ、一夏は出て行った。

 「・・・ねえ、一夏はトラブルを引き寄せるの?」

 その背中が見えなくなると、シャルロットが小声でラウラに問いかけた。

 「違ぁう!逃げるトラブルを追いかけ、見つけ出して殺す。」

 「・・・本当は面倒くさがってない?」

 あれだけ軽くあしらっていたのは、曜日を調整するためではないかとまでシャルロットは思い始めていた。

 

 

 

 「これはこれは、ジブリルさん。ご機嫌如何です?」

 アイリスの部屋に向かう途中で、一夏は彼女と出くわした。

 「ご機嫌だ。目の前のマッチョマンが消えっちまえばな。」

 「それは出来ぬ相談にございます。」

 不機嫌を隠すこともなく言われたが、一夏が気に掛けることはない。

 「王女殿下の身に何か起こってみろ。溶鉱炉で溶かすぞ。」

 「それも出来ぬ相談にございます。」

 「何?!」

 一夏にはどうやっても勝てないと悟ったジブリルは、まさか一夏が確約できないと言い出すとは思っておらず驚く。

 「お宅にスパイがいる。」

 「どういうことだ特ダネや。」

 顔つきが変わった。それを確認すると、一夏は「この時間にここにいる」と言ってメモを渡し立ち去った。




読 何かが俺達(の腹筋)を狙っている・・・・・人間ではない・・・。全員殺される。
作 くだらん。恐怖でおかしくなったか?相手はただのMA・・・小説だ、どうってことない!


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第69話 怖いか?当然、クソッタレ!

作 なあ、もし明日死ぬって分かってたら、最後に何が読みてえ?一つだけ
読 名作と、頭の悪い作品
作 そいつは深いな


 「遅いぞ!織斑一夏!」

 一夏が正門に到着したとき、すでにアイリスはそこで待っていた。

 「道が空いてた。」

 「ならば尚更早く来ぬか!」

 「行こう行こう、いつも先を急ぐ。そしてある日死ぬ。たまには足を止めて人生の楽しみを味わうべきだ。」

 どんな言い訳だと怒るアイリスをなだめるように一夏は語りかける。

 「そうかも知れぬが、そのせいでわらわは何度も生徒に間違われたのじゃぞ!何度も!それも中学生じゃと!」

 しかし彼女の本当の怒りは別の原因であった。

 「お前の国がどうかは知らんが、日本じゃ一四歳は中学生だ。間違われたくないならドレスを着とくんだな。」

 間違っていないことを言われて怒るくらいなら、最初からそう見えない格好をするべきと指摘する。

 「わらわを馬鹿にするか!死刑にするぞ!」

 「やってみろ。返り討ちにしてやる。」

 アイリスがIS学園に来てから何日かたったが、すでにこのやり取りもおなじみの物となっていた。

 「ふん、嫌みなヤツじゃ!早く車を回せ!」

 「OK!」

 威勢よく返事をすると、一夏は近くに駐車されていた車を持ち上げ指の上で回し始めた。

 「」

 驚きのあまり絶句するアイリス。

 「喜べ、いつもより速く回してるんだ。」

 「お主、人間か?」

 あまりにも平然としているので、アイリスは一夏が機械なのではないかと疑い始める。

 「おうともよ。それがどうした。」

 「もうよい。歩いて行くぞ。」

 これ以上見ていたら頭がおかしくなるかもしれない。そんな気がして、アイリスは歩き出した。

 「ところで、何と呼べば言い。」

 歩き出してすぐ、一夏はそれが気になった。母国と遠く離れた日本とは言え、来日したときにメディアが騒いでいたので世間に名は広く知られている。何人が来ようと跳ね返せるのは間違いのないことだが、面倒なことに変わりはない。

 「名前か?いつも姿を隠すときは、アリスと名乗っておる。そう呼べ。」

 「あなたは稲妻の~。」

 「???」

 突然、一夏が歌い始めた。アイリスはそのギャップに目を丸くする。

 「何でもない、気にするな・・・。」

 一夏は歩く速さを上げた。

 

 

 

 「この城は何じゃ?今からお主が攻め落とすのか?」

 ショッピングモールに到着する。その大きさを見てアイリスは驚いていた。

 「バカ言え。ここはショッピングモールだ。服を買うならレゾナンス。新作!人気作!!!なぁーんでも揃ってる。」

 見上げる彼女に、どこの回しもんだと聞きたくなるようなことを言う一夏。

 「そうか。随分と大きな施設じゃな・・・。」

 「バカ言え。IS学園はもっと大きい。」

 そういう意味で言ったわけではないのだけれど、突っ込みを入れる気力もなかったので「そうか」とだけ返す。

 「ところでじゃが、わらわはそばというものを食べてみたいのじゃ。」

 まだ昼までには時間があるが、歩いたことで背中と入れ替わるほどおなかが空いていた。

 「()()()()。有名なそば屋を予約してある。」

 「随分と気が利くではないか。褒めて使わすぞ。」

 なぜそこまで気が利いているのか、アイリスが気にかけることはなかった。

 恐らくそれは、普段から身の回りのあれこれを、周囲が先んじて整えてくれる生活を送っているからだろう。

 レゾナンスへ向け歩き出す。しかし、胸を張って歩いたために重心が後ろにあった。

 故に、バランスを崩し後方へ倒れる。

 「転けるなよ。脚を痛める。」

 それを一夏が受け止めた。

 「お主、心があったのじゃな。」

 「そうみたいだな。」

 力量に不足がないか、時間があるときは手出しをしないだけで、危なければそれなりに手出しをする。が、頼りにされても困るので適当に答えた。

 

 蕎麦屋に入り、注文を済ませた二人。

 お昼前ということもあり、注文してほとんど待ち時間もなく料理が出てきた。

 「これがわらわの待ちわびた天ざるそばか!」

 配膳されたそれを見て目を輝かせるアイリス。

 「違ぁう!厳選素材の天ぷらと繋ぎなしのグッチョ美味いそばだぁ。激うまだでぇ!」

 場に似合わないテンションでそれを言って、そして去っていった。

 「なんじゃ、あの店員。」

 目を丸くするアイリス。

 「気にするな。」

 一方、一夏は相手にしていなかった。

 「それよりお主、世界に興味はないか?」

 切り出す寸前に料理が来てしまったので、中途半端なタイミングで話し始めてしまう。

 「世界はもう見てきた。」

 随分と興味なさそうに切って捨てる一夏。

 「そうか。わらわの国に興味はないか?」

 「ルクーゼンブルクか?いい国だった。十年前までは、な。」

 「わらわの祖国を馬鹿にするのか?」

 知らなければぜひ一度来いと誘うつもりだったが、つまらなそうに返されてアイリスはムッとする。

 「違う。」

 そういったかと思うと、一夏は近くにいた店員の襟を掴んで引き倒した。

 「こいつが滅茶苦茶にしたからだ。どうした、やることなくなってこんな所でバイトか?」

 「ひぃ!い、いっくん。こ、これは!」

 その店員は先ほど変なことを言ってきた店員で、アイリスは見覚えがあった。

 「篠ノ之博士ではないか!久しいのう!」

 「は?あんた誰?興味ないんですけど。勝手に話しに入ってこないでくれる。」

 アイリスの中で何かが切れた。

 「・・・お主には今後一切、時結晶は差し出さぬからな。」

 「ひっどぉおい!フローレンスが虐めるよう!」

 アイリスの頭に血が上ったことが見えたので、騒ぎ出す前にクールダウンさせる。

 「気にするな。こいつは名前なんて覚えたことがない。自分のも、な。」

 「そうか。」

 一夏に言われればそんな気がすると、怒りが収まる。

 「ねえ、束さんが呼んだんだから返事をしなよ!」

 が、デリカシーの欠片もないので束はガソリンをぶちまけた。

 「死刑にするぞ!」

 「できっこないのさ!私はオーバースペックだからさ。」

 いつものノリで調子に乗ったのだろう。目の前に一夏が居ることも忘れて。

 「織斑一夏!」

 「お任せを!」

 「わぁ!!なしなし!!謝るよぉう!」

 「分かったら店の邪魔をする前に帰れ!」

 頭蓋骨からメリメリという音が立つほどに握られて、束はすたこらさっさと退散していった。

 「折角の美味いそばがのびちまう。早いとこ喰おう。」

 「そうじゃな。」

 悟りの境地に達したアイリスは、条件反射でそう返した。

 一足先に、一夏がそばを啜った。

 「そうやって音を立てて食べるのか?」

 食べ方を見たアイリスが問いかける。

 「あぁ、そうだ。日本じゃ、イタリアン以外の麺はこうやって食べる。」

 「う・・・むむむ・・・・・。難しい。」

 挑戦してみるアイリスだったが、初めての食べ方のため上手く啜ることが出来ない。

 「気にするな。食べ方なんて、美味く食えて人に不快な思いさえさせなければ何だっていい。」

 「なるほど。」

 一夏の助け船に乗り、アイリスは箸で蕎をさながらパスタのようにクルクルと巻き取って口に運ぶ。

 「美味い!ミヤビじゃなあ!」

 「それは良かった。」

 その後、黙々と蕎を食べる二人。

 「・・・ん?わらわは目が回・・・。」

 粗方食べ終わったとき、突然アイリスのろれつが回らなくなった。そしてベンチタイプの椅子に倒れ込んでしまう。

 「・・・。」

 一夏はアイリスが完全に眠ったことを確認する。

 そして店員の様子を窺うと、一夏は倒れた振りをする。

 「お客様、大丈夫ですか?お休みされるなら、どうぞこちらに。」

 不審な店員により、二人は運び去られた。いや、自らのアジトに一夏を運び入れてしまったと言うべきだ。

 

 

 薄暗い部屋の中で、アイリスは目を覚ました。

 「う・・・ここは?」

 覚醒しきらない意識のまま周囲を見回す。

 「お目覚めですか?王女殿下。」

 声を掛けられそちらを見る。

 「おぬし、何をしておる。」

 そこには召使いの一人が立っていた。アイリスは彼女の行動の意図を図りかねる。

 「あなたには人質になってもらいます。利用価値が大いにありますからね。」

 「どうする気じゃ?」

 「心配ご無用です。どうでも良くなりますから。今から、ね。」

 カッと頭に血が上る。それでアイリスの意識はハッキリと目覚めた。

 「見くびられたものじゃ。最後に三秒だけ時間をくれてやる。」

 人差し指、中指、薬指の三本を立ててた。

 「?」

 その意味を理解しかねて、召使いは首を傾げる。

 「神へのお祈りは済ませたの?では・・・・・参れ!『セブンス・プリンス』!」

 光の粒子とともにアイリスがISを展開する。

 「あの世で懺悔するがよいぞ!」

 声高らかに宣言し、召使いへと飛びかかる。

 「あなたがね。」

 驚いた表情さえ見せず、召使いはそう言い放つ。

 「?!」

 ISを持っていることを知りながら、それを奪っていなかった時点で気が付くべきであった。何かを仕組んでいると。

 アイリスは急に体の自由が利かなくなり、勢いそのままに倒れ込んだ。

 「神経毒か!!おのれえぇぇぇぇぇ!」

 「今からあなたのお気に入りの執事を殺してあげる。目の前でね!連れてこい!」

 あざ笑うような表情を見せる召使い。アイリスの怒りは頂点に達するも、体は言うことを聞かない。

 「遅いじゃないか。待ちくたびれたぞ!」

 だが、その声を聞いた途端にその感情は綺麗さっぱりなくなった。

 「お仲間も寝ちまった。」

 そう言いながら、わざとらしく引き摺ってきた人間を彼女の前に投げて寄越した。

 「な!貴様、眠っていたはずじゃ!」

 先ほどまでの余裕が嘘のように動揺を見せる召使い。

 「残念だったな、トリックだよ。」

 形勢が逆転した瞬間だ。

 「一夏!気を付けるのじゃ!こやつら毒を!」

 「黙れ、裸の王女。さて織斑一夏か。私らだけでケリ付けようじゃないか。どうだおい、ガチの勝負だ。どっちがさっさと相手の背骨をへし折るか、テキパキボキバキと。なんなら、ISでも使うか?」

 「いいや、必要ない。」

 ISが必要ないというのは、お前には手加減をしてやらないという宣言である。

 「では、参る!」

 ドベキシ「オフゥイ」

 学生ごときと思ったのか、愚かにも一夏の真正面から突っ込んだため一瞬でKOされてしまった。

 「これで片が付いた。巻き込んでしまってすまないと思ってる。」

 全て計画通りに進んだことに間違いはないが、一夏は薄情な人間ではない。

 「べ、別に構わぬが・・・お主、この数を一人で?」

 「まさか。来たときには寝てたのさ。」

 笑ってみせる。それが一夏の優しさであった。

 

 

 

 夕方。IS学園の寮に一夏はいた。

 「なんたる失態!なんたる無様!」

 机を叩き、ジブリルがヒステリックに声を荒げる。

 「介錯はしてやる。いつでもいいぞ!」

 そんな彼女の横に、箒はよく切れる日本刀を持って立っていた。

 「その刀は何だ!」

 「今から切腹するんだろ?介錯は私がしてやると言ってるんだ。」

 普段の会話と何ら変わらぬ調子で恐ろしいことを言う。

 「ここだけの話、篠ノ之は剣術の達人だ。」

 そしてまわりも、それに気が付いている感じが強いない。

 「お前のことだ!織斑一夏!貴様が付いておきながら、誘拐されるとは!」

 このままでは本当に切られかねないと、ジブリルは名指しで一夏を非難する。自身の職務を全うせずにどの口が言うと、これが一夏達でなければ言っていただろう。

 「だから事前に伝えたろ!スパイがいると!あぶり出して殲滅するためにはこの手が最善だ。いわゆるコラテラルダメージというものに過ぎない。軍事目的の為の致し方ない犠牲だ。」

 「犠牲者は、出てないと思うけど?」

 鈴が冷静に突っ込むが、一夏としてみれば巻き込んだ時点で犠牲者という扱いであった。

 「王女殿下を巻き込んでおいてどの口がほざく!織斑一夏!貴様はルクーゼンブルク本国へ連れて帰り、然るべき罰を受けてもらう。」

 自分のことは棚に上げて、ジブリルが立ち上がった。

 「無理無理、無駄なこった!」

 その時、珍しく山田先生が割り込んだ。

 「真耶!貴公、IS学園の教師だろう!この生徒を引き渡せ!」

 「私如きじゃ、この人達の処遇については対処出来ません。」

 キッパリと要求を跳ね返す。

 「上に取り合うくらい出来るだろ!」

 「織斑君達に言うことを聞かせられると思いますか?」

 もう何ヶ月も一緒にやって来ているので、山田先生は一夏達との接し方がある程度分かるようになっていた。

 「そうやって逃げるのか!前もそうだった!逃げるというなら、今度は捕まえるまで追い続けてやる!イエェェェェェア!」

 何をとち狂ったのか、襲いかかってくるジブリル。しかし山田先生は、いとも容易くそれを返り討ちにすると、眠ってしまった彼女にこう告げた。

 「私だって、伊達に織斑君達と生活してるわけじゃないんですよ?」

 一夏達といたがために弱く見られていた山田先生だが、それはあくまで一組内での話しである。




読 けどシリーズものも好き
作 シリーズものは持てはやされすぎだぁ

※日曜は投稿しません。


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第70話 銃弾や砲弾の傷じゃない・・・・・

これは・・・・・コマンドーあたりでしょうか?
ンよくご存じねぇ、正確には紀元前マイナス20世紀のものよ。その時代はお好き?
ええ、ゾッコンですよ


 眠ってしまったジブリルを叩き起こす方法を、アイリスは思いつき実践する。

 「ジブリル!織斑一夏をルクーゼンブルクに招く。近衛騎士団としてわらわを守ってもらうのじゃ!」

 「「「はぁ???」」」

 それに素っ頓狂な声を上げたのは、その場にいた全員だ。

 「異議のあるものは名乗り出よ!」

 「ある。」

 それらを代表して箒が歩み出る。

 「なんじゃ?申してみるがいい。」

 「一夏がルクーゼンブルクを守ってないと思ってるわけだな?」

 「?」

 アイリスはその言葉をどこかで聞いた気がするが、なかなか思い出せない。

 「一夏に千ふ・・・織斑先生、それに私がいなければ、今頃、ルクーゼンブルクは海の底だ。分かっているのか?」

 「どういう意味じゃ!」

 もう少しで繋がりそうな気がしていたが、海の底という単語に全てを吹き飛ばされる。

 「篠ノ之束を放っておけば、時結晶を掘り尽くしたさ。それを止めたのが俺達だ。」

 「「?!」」

 衝撃的すぎる言葉にジブリルが飛び起きた。

 「だからまあ、一夏に地上の場所なんて関係ないのよ。」

 鈴がそれを捕捉する。

 「ふん!そんなバカな話があるわけがない!わらわに織斑一夏を取られるのが悔しいのじゃな?わらわには分かるぞ!」

 ここで弱気になっては王家の名が泣く。アイリスは強がった

 「別に?あんた達じゃ連れて行けないし、連れて行けてもすぐに帰ってくるし。」

 「よろしい!ならば織斑一夏の所有権をかけて女同士、ISで真っ向勝負じゃ!」

 一夏のことなどまるっきり無視した宣言。鈴の忠告を無視した結果がどうなるか。

 「痛い痛い痛い!!!」

 ギリギリ怪我にならない強さで、頭蓋骨を握りめられる。

 「俺はものじゃない。」

 「分かったから!手を離すのじゃ!!」

 パッと手が放される。アイリスはズキズキと痛む頭を抱えてうずくまった。

 「まあ、勝負するって言うなら受けては立つわよ?」

 それとこれとは別の話。舐められっぱなしでは鈴のメンツにかかわる。

 「舐めおって!格の違いを見せてやる!」

 流石は王女。痛みを堪えてシャキッと立つ。

 「いけません、王女!このような下せんのものとの決闘など!」

 「言葉を慎め!ジブリル!」

 「王女殿下!」

 「黙れというておる!」

 「!!」

 負けを恐れてか、はたまた自分達の地位に傲ってか。ジブリルは必死に止めようとしたが、王女の言葉に逆らうことは出来なかった。

 「鈴、ハンデをやれ。そっちは二人で来い。」

 勝負することは決まった。一夏の指定は戦力比を考えてのことだったが、アイリスのプライドはそれを許さない。

 「舐められたものじゃ!二対二で勝負をするのじゃ!」

 「よせ、オーバーキルだ。」

 ナオも引かぬアイリスに、一夏は鋭い視線を向ける。

 「ふ。泣きを見ることになるぞ?」

 更にラウラが畳み掛ける。

 「どうしてもって言うなら、セシリアかシャルロットか。」

 鈴としてもオーバーキルは避けたい。しかし、ここで意外な人物が名乗りを上げた。

 「いや、私が行こう。」

 箒だ。

 「いつ、誰が仕掛けて来るか分からん。私達とて、完全ではない。」

 今まで、こう言った場面で横槍が入らなかった試しはない。万全を期すにはこれしかなかった。

 「それもそうね。じゃ、決定で。」

 「決まったの。では時間は一週間後の日曜日。第三アリーナじゃ。」

 

 

 

 「お届け物です。」

 鈴が整備室で簪の打鉄弐式の整備を手伝っている時に、それは届いた。

 「はいどうも。・・・あ、また追加パッケージ。んー、どらどら?重い割りに微妙ね、これ。」

 説明書を読むまでもなくスペックを把握すると、スクラップ置き場に投げ捨てた。

 「あ、壊した。」

 「じきに次が来るわよ。」

 「あ、来た。」

 「早っ!」

 まさかこれを見越して二つ送ってきていたのか。けれどそんな情報は仕入れていない。

 「違う・・・プリンセスのスペック・・・。」

 しかしそれは考えすぎだったようだ。

 「一夏から?」

 頷く簪からメモを受け取った。

 「ん~どらどら?第4世代。勝ったわ。」

 素性が全く分からないISではあるが、国外に持ち出しているということはその程度のIS。鈴はそう予想していて、実際にその通りだったことで自信を持った。

 「油断は禁物。・・・相手の機体には重力を操る装備や高圧高電流を操る剣に盾がある。」

 そんな鈴を見て簪は、油断大敵と釘を刺した。

 

 

 

 試合当日。アリーナのスタンドは生徒達で賑わっていた。

 そんな密を避けるように、一夏の姿はモニタールームにあった。それは、とある来客者を案内するため。

 「久しぶりだな(がく)さん。」

 部屋に入ってきた人物と、一夏が握手を交わす。彼は、凰鈴音の父親だった。

 「少し見ないうちに一段と逞しくなったな。」

 まるで我が子のことのように目元を緩ませ、楽が再会を喜ぶ。

 「それにしても、随分と急な話だったな。鈴の姿を見たいなんて。」

 「あぁ、そのことなだがな。健康診断は?」

 「?・・・少し前にやった。」

 急にテンションを落とし話し始めたので、一夏はいぶかしむ。

 「筋密度は高かった?」

 「あぁ。1000%」

 「だろ。実はな・・・・・肺がんが見つかったんだ。かなり悪いらしい。」

 「おぉい、本当は?」

 彼が病魔に犯されていると信じたくない。見た目にも、昔と変わらないたくましさがある。しかしその声の弱々しさは、明らかに病人のそれである。

 「意外も意外だ。」

 「・・・それで?どうするんだ?」

 わざわざそれを伝えると言うことは何か考えがある筈だ。

 「取り敢えずは稼げるうちに稼ぎまくる。鈴のためだ。会ってはないがな。死んだあと、いい父親だったと思われたい。・・・・・哀れだろ?」

 「同情するよ、全く。」

 近いところでそのような話しを聞くとは夢にも思っていなかった。一夏はショックを隠しきれない。

 「・・・・・何て全部嘘だよ。」

 と、次の瞬間、楽は満面の笑みでそう言ってきた。

 「何?」

 驚いたのは一夏だ。

 「まだ心があったか。へっへっへ。」

 「はっは、はは。」

 「完璧騙されたろ。」

 「あぁ、まんまとやられたよ。もう信じない、なにを言われてもな。」

 久しぶりに負けた気がする。一夏は心の底か笑い転げた。

 「おっと、試合が始まりそうだ。」

 

 

 

 第三アリーナで、アイリスとジブリルの正面に鈴が仁王立ちしていた。

 「ルールを確認するわよ。アンタが勝ったら一夏を連れて帰る交渉が出来る。OK?」

 「違う!わらわは連れて帰ると言うておるのじゃ!」

 「言うは易く行うは難しよ。悪いことは言わないから、交渉権にしときなさい。」

 「お断りじゃ!」

 最後の助言は、虚しくもアイリスに跳ね返される。

 『試合始め!』

 審判が宣言する。それと寸分たがわぬタイミングで、アイリスが鈴へと襲いかかった。

 「よく見切ったの!」

 それを鈴は、軽々と避けてみせる。

 「あ、攻撃?挨拶だと思った。」

 勿論、その後のフォロー(挑発)も忘れずに。

 アイリスが次々と攻撃を繰り出す。鈴は一切反撃をせず、ひたすらそれを避ける、避ける、避ける。

 「狙ってる?」

 あまりにも軽々と避けきれるものだから、鈴はアイリスが攻撃の手を抜かざるを得ない状況にあるのではないのかと心配になる。

 「逃げるのは弱者のする事じゃ!掛かってこぬか!」

 「それじゃお言葉に甘えて。」

 鈴が衝撃砲を放つ。

 「ふっ!わらわには効かぬ!」

 鈴の攻撃は、アイリスのISが衝撃砲への対策が出来ているからこそのものだった。けれどもアイリスはそのことに気が付かない。

 「今度はわらわの番じゃ!」

 立ち止まった鈴を、攻撃が防がれたことに驚いてと思い込んだアイリスが重力攻撃を行う。

 「これが重力攻撃ね。ラウラから聞いたわ。」

 「ふ、その余裕がどこまで持つかの?」

 出力を上げる。グラウンドの地面が陥没するほどの超重力が発生する。

 「お、お主人間か?!」

 「?まあね。」

 その中において、鈴は涼しい顔をして突っ立っていた。

 「アイリス様!私が参ります!アイリス様はもう一人を!」

 これは時間稼ぎをしているに過ぎない。ジブリルはそう判断して、この場を引き受けると主人に伝えた。

 「任せたぞ!・・・ジブリルよ、篠ノ之はどこへおるのじゃ?」

 戦術に関してはジブリルが上である。それを分かっているアイリスは判断に従おうとしたが、付近に箒の姿が見えなかったので困り果てる。

 「箒?あそこでコタツ出してせんべい食ってるわよ。」

 「「」」

 困っていた二人に、鈴はアリーナの端っこの方を指差して教えてあげる。

 「さて。」

 立っていることに飽きてきた鈴が動き始める。

 「う、動けるじゃと?!」

 その光景に驚いたのはアイリスだ。今まで破られたことのなかった技だけに動揺は大きい。

 「そりゃ、この程度なら。」

 鈴は涼しい顔をしていた。まあ、一月なので涼しいと言うより寒いに近いのだが。

 「お下がり下さい!」

 「ダメじゃ!引くわけにはいかぬ!」

 主人と近衛騎士団とで揉めている。そこへ鈴は飛び込んで、ジブリルにパンチをお見舞いした。

 「グア!」

 不意打ちを食らって吹っ飛ぶジブリル。

 「大丈夫か!」

 「こ、この程度!」

 それでもアイリスに心配を掛けまいとすぐに立ち上がる。

 「・・・?地面を打ち始めたが、何じゃ?」

 「気でも狂ったか?」

 再び鈴に立ち向かう。次の瞬間、鈴は狂ったように衝撃砲で地面を撃ちまくっていた。

 付近には砂埃が立ちこめ視界が悪くなる。

 「時間の無駄じゃ!一、二の三で突撃して片づけるぞ!」

 「はっ。かしこまりました。」

 「一、二の三!」

 煙に隠れながらこそこそと戦う者に、強者はいない。アイリスの理論ではそうなっていた。

 見えないならばこちらから捕まえに行く。

 勇ましく砂埃に二人は突っ込んでいったが、鈴はすでにその煙の中にいない。

 「せんべい食うか?」

 鈴は箒のところへと行っていた。

 「ん、あんがと。」

 鈴は渡された煎餅をかじる。流石にコタツに入るほどの時間はないので立ったままではあるが。

 「小学生じゃあるまいし、砂埃を立てるのは寄せ。」

 幸い風向きとしてこちらに向かってくることはないにしろ、お行儀が悪いぞと指摘する。

 「常に相手するほどの敵じゃないのよね。」

 「なるほど、同士討ちか。」

 道理で戦闘する音が聞こえるわけだと頷く。

 直後、一際鈍い音が響いた。

 「アイリス様!エネルギーが!」

 「ジブリル!大丈夫か!」

 決着がついたようだ。

 「そろそろ戻るわ。せんべいあんがとね。」

 「あぁ、怪我させないようにな。」

 鈴はお礼を言うと砂埃の中に戻り仁王立ちする。

 「おのれぇ、姿を隠しおって!こうじゃ!」

 アイリスが重力を増大させて、まっていた埃を地面に落とす。

 視界がクリアになる。

 「まだまだね。私の敵じゃないわ。・・・ゲフッ。」

 思いのほか煎餅が腹に溜まっていた。

 「うぬぬぬぬぬ!もう一度じゃ!」

 「アンタ、他に攻撃はないわけ?」

 「全力じゃ!」

 まだ重力攻撃しか見ていない。それで倒すことに固執しているのか、あるいは情報とは違ってほかに攻撃手段がないのか。

 しかし全力と言われた以上、鈴とて手抜きをするわけにはいかない。

 「攻撃に集中するのは良いけど、足動かした方がいいわよ。」

 「?!」

 攻撃している間は動けない。それがどれだけ致命傷なことかを知らしめるべく、鈴は目にもとまらぬ速さでアイリスの懐に飛び込む。

 「この距離で打てば私の勝ちだけど、どうする?続ける?終わる?」

 決定権を相手に渡すことで、後でごねさせない下準備をする。

 「続けるがよい!わらわを打ち倒すのじゃ!」

 「はいはい。」

 判断に従って、鈴が距離を取った。

 「!!お主!距離を取るとは舐めておるのか!」

 「いや、続けたいって。」

 自分の言ったことだろうと、鈴が聞き直す。

 それはアイリスのプライドを大きく傷つけた。

 「ああああああああっ!」

 怒りに任せ手当たり次第に重力攻撃を仕掛ける。しかし鈴は、ピョンピョンはねてそれを躱す。

 「逃げるでない!」

 「はいはい。」

 仰せのままにと、鈴は足を止める。

 やはりというかただ体が重たくなるだけでそれ以上のことはない。

 「どうじゃ!最大出力じゃ!」

 「うん。・・・で?」

 「」

 最大出力なのは先ほどから聞いているので分かる。そこに何かを足していかなければ鈴の相手ではない。

 もっとも、アイリスの攻撃は普通の操縦者に使えば一撃で沈められる威力があることに間違いはない。

 「何か忘れてません、か?」

 つまり、それだけのエネルギーを使えばどうなるか。

 「・・・?え、エネルギーが!」

 気が付いた時には時すでに遅し。メーターにかすかに表示されていた残量が、完全になくなる。ISは強制解除された。

 『ジブリル、アイリス王女、両名エネルギー切れにより、この試合、凰鈴音の勝利!』




只の・A・カカシですに連絡をとってくれ。組合員と言えば分かる
ふへへっ、只の・A・カカシですだぁ? 寝言言ってんじゃねぇよ


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第71話 これぞアイリスの真髄

これは作者の陰謀だぞ
陰謀・・・・・?
何寝ぼけてる!投稿作品を見ないのか!巨大な二次創作業界の罠に嵌ってるって事だよ!



 その日の夜、一夏は鈴とともに食堂にいた。

 「で?親父さんは何だって?」

 一夏が気になっていたのは、鈴の家族のこと。知ろうと思えば、彼ならいくらでもできる。だが、そこはやはりプライベートの話。本人の口から聞くに限る。

 「大真面目なところ、病気になったと思ってたけど健康その物だったんだって。」

 ストローを加えながら鈴が言う。

 「それは聞いた。どうするかってことだ。」

 「結局、お母さんまで来たのよ。」

 「よく学園に入れて貰えたな。」

 「よく言うわね、お父さんを手引きしといて。同じことをしたのよ。何やかんや再婚するみたい。」

 取り敢えずは平穏に物事が進みそうだったので、一夏は「そうか」とだけ返す。

 「まさかあそこまでバカなことを考えているとは思わなかったけど?」

 「誰にだって、間違いはある。鈴の親父さんだって、不幸になりたかったわけじゃない。」

 「そうなんだけどね。ま、難しいことを考えるのはやめやめ。」

 ふと来訪者の存在に気が付いて、鈴は話を切った。

 「いつまでわらわを放っておるのじゃ!」

 「何だ、帰ったんじゃないのか?」

 一夏が煽るように尋ねる。

 「負けたのでな。残ることにしたのじゃ。」

 「なんで、また。」

 残る理由が全く見当たらないので首を傾げる。

 「勝ったら連れて帰るの逆じゃ。負けたから残る。それにの、お主をわらわの師匠に任命する。どうじゃ、嬉しかろう!」

 「道理で不自然な転入申請書が出たなと。」

 なぜ知っているのか。それを今更気に掛けるのは時間の無駄である。

 「とにかく、これからは学友じゃ!よろしく頼むぞ!」

 「なあ、山田先生。14だが転入できるのか?」

 規定には何歳ということは書かれていないが、日本の基準で考えればまだ義務教育も卒業していない年令。近くに待機していた山田先生に一夏は問いかける。

 「ま、まあ特例と言うことで。あははは・・・・・。」

 目が死んだまま笑っているということは、相当に面倒なことをさせられたのだろうと、一夏は同情した

 「ところで?何でこっちのまで制服を着てんだ?」

 「罰ゲームです。」

 今度のは明らかに心の底から楽しんでいる笑顔だった。

 「どうだ。まだ十分、学生に見えるだろ?」

 IS学園の制服を着せられたジブリルが、表情を引きつらせながらそういう。

 「優しいクラスメイトに恵まれたようで何より。」

 「同情されているみたいに言うな!」

 心を抉られて、ジブリルは顔を赤くして怒った。

 「というより、山田先生。一度卒業したんだろ?いいのかよ。」

 毎年在校生の何倍という人数の入学試験受験者を篩い落としている割に、編入はジャンジャン受け入れている。果たしてそこに公平性はあるのかと一夏は気になる。

 「え?あ~、まあ、これ小説だって織斑先生も仰ってたので。」

 「「「それ、マジで思ってんの?」」」

 「・・・え?」

 照れ笑いながら言った山田先生は、全員から冷ややかな視線を向けられて固まった。

 

 

 

 ここはアイリスのために用意された部屋。その部屋でアイリスとジブリルは、それぞれのベッドに寝転がって話をしていた。

 「ジブリルよ。」

 「何でしょう。」

 「わらわは、兄上達にも姉上達にも愛されておったのじゃな。わらわを政治から遠ざけるために、ISを与えてくれたのじゃな。」

 この年齢にしてそこまで考えられる思考力に、ジブリルは感動した。

 「アリス。きっと素晴らしい王になられるでしょう。」

 突然、天井板の一枚が外れた。ジブリルは飛び起きる。

 ひょこッと顔をのぞかせたのは一夏であった。

 「you‘re king of kings。」

 「Queenじゃ!」

 「あ、そうか。」

 何をしに来たのか全く分からない上に間違えている。

 しかし彼は、何事もなかったかのように天井板を戻し、消えていった。

 「・・・?!一夏!お主どこから現れておるのじゃ!!」

 しばらく呆然とした後、アイリスは大声を出す。

 すると再び天井が開いた。

 「うっさいわよ!夜よ!静かに!」

 今度底にいたのは、鈴だった。

 「鈴!お主もじゃ!」

 下手をしなくても鈴の声はアイリスよりも大きかった。

 「仕方ないわよ!消灯時間を過ぎたら廊下に出ないって決まりなんだから。」

 「何故そこは守る!というより、それは部屋から出るなと言う意味ではないのか?!」

 「細かいことはいいのよ。それより静かにね。お休み。」

 そう言い残すと、天井板を戻して鈴は足音もなく去っていった。

 「・・・ジブリルよ。」

 「はい。」

 「わらわ達は夢でも見ておるのか?」

 「・・・と、言うことにしておきましょう。」

 自分たちの常識というか想像というか、それらが一切通用しない次元の出来事。そう思わなければ二人とも心が持たなかった。

 

 

 

 この日、珍しいことに一夏の姿は整備室にあった。

 「「「うーん。」」」

 彼と一緒にいるのは更識姉妹と、布仏本音の三人。彼女たちは揃って首を傾げていた、

 「どうした、マズいのか。」

 「マズいって言うかなんて言うか。一夏君、ほんっとうに使ってないんだよね?IS。」

 「いやぁ、その通り。それが悪いのか?」

 「いや、悪くはないんだけど・・・何で第三形態にシフトしたのかな・・・。」

 本来、使い込んで使い込んで、それでやっとシフトするのがISというもの。だというのに一夏のそれは、全くと言っていいほど使われていないにもかかわらず驚異的な速度でシフトしている。

 「どさくさに紛れて大気圏目掛けて投げたんだが・・・いつの間にか戻ってきてた。」

 もしかすれば、何とか一夏に使ってもらおうとしてISが頑張っているという説も無きにしも非ずではあるが。

 「うん。誰かが拾ったら戦争の原因になるからやめてね。」

 彼らにしてみればISなどというものは携帯電話としての価値しかないだろうけれど、世界の常識は一つでも多く手に入れたものこそが強いとされる代物。

 一夏ならそれによっておきた戦争など止められるだろうけれど、生じた被害は取り返しがつかなくなるものが出る可能性があると危惧していた。

 「・・・システムもほとんどブラックボックス。これじゃ、何も出来ない。」

 「そうか。世話んなったな。」

 簪の力を以てしても解析できないのでは手の施しようがない。

 「あ、そう言えば一夏君。シャルロットちゃんが相手して欲しいって。」

 百式を手に取り一夏が退室しようとしたとき、楯無はふと伝言を思い出した。

 「どこでだ。」

 「第三アリーナ。」

 「よし、分かった。」

 

 

 

 「ん?あれはまさか・・・メイトリクス!」

 第三アリーナでシャルロットと訓練をしていたラウラは、近づいてくるその存在に気が付いた。

 「え?一夏?」

 呼んだのはシャルロットだが、まさか本当に来るとは思ってもいなかったのか目を丸くする。

 「話があるって?」

 「あ、うん。ちょっと面白い技を見つけて。」

 「どんな技だ。」

 「こんな技。」

 そういってシャルロットが披露したのは。

 「リヴァイヴとすば・・・コスモスを分離できるの。まあ、コスモスは半自動なんだけど。」

 ISの分身技だった。

 一夏も分子はできるが、ここまで手の込んだものではなく、移動速度にモノを言わせたもの。まあ、どちらもすごいことに変わりはないが。

 「なるほど。久しぶりに腕が鳴る。」

 一夏がロケットランチャーを構える。そしておなじみの\デェェェェェェェェェェェン!/っという音が流れた。

 「それ、腕から出てるの?」

 「あぁ、そうだ。」

 「「」」

 意外過ぎる新事実。シャルロットとラウラはあっけにとられて口をあんぐりと開けていた。

 

 「どうした!もう終わりか!」

 それから一時間が経過した。疲労から地面に倒れ込んだシャルロットに、一夏が呼びかける。

 「うーん、エネルギーがなくなっちゃった。」

 「そうか。」

 分かっていたことではあるので、それ以上、一夏が畳みかけることはない。

 「それより一夏!すっごい強くなったんだね!僕、驚いちゃったよ!」

 「あぁ、シャルは随分と成長した。」

 かつてなら手を抜いてもらっても瞬殺されていた。今のところ勝てる気はしないが、それでも一時間、彼の動きについていけるようにはなった。

 「先生が良いからだね。」

 「『良い』だと?『最高』だろ?」

 「あは、それもそうだね。」

 あはははと笑う二人。突然シャルロットの前を何かがかすめ飛ぶ。しかしシャルロットは、自分に当たらない機動だったので避けもしない。

 対して一夏は、手が動いた。その手の中指と人差し指の間にはナイフが挟まれていた。

 「大佐ァ!調子はどんなだ?」

 投擲した犯人はラウラであった。

 「こっちに来て確かめろ!」

 「いいや結構。遠慮させてもらうぜ。」

 「来いよラウラ。怖いのか?恐怖心なんか捨てて掛かってこい。」

 「手抜きは無用だ。行くぞ大佐!」

 「来いラウラ!」

 いつものルーティーンを済ませると、一夏とラウラがバトルを始める。

 毎度のごとく、一夏がロケットラ弾を撃ち込む。

 「弾切れ!」

 そういってロケットランチャーを投げ捨てると、別の武器をポケットから取り出して撃つのであった。

 

 

 

 『斑一夏。おるか!』

 夕方。一夏が部屋で休んでいると、珍しく()()()()()()()があった。

 「どうした。」

 ドアを開けて廊下に出る。

 「クッキーを焼いたのでな。お裾分けじゃ。」

 そこに立っていたアイリスが手に持っていたそれを差し出した。

 「そりゃありがたい。早速頂こう。中へ入れ、紅茶を煎れる。」

 それを受け取り、一夏はアイリスと付き添いのジブリルを部屋の中に招き入れた。

 ソファーに腰かけてもらい、一夏はすぐに紅茶の用意に取り掛かった。

 「良い匂いじゃな。種類は何じゃこれ?」

 「何だったかな・・・。セシリアにもらったんだが。」

 記憶力はいいのだが、ど忘れして名前が出てこない。

 「ローズヒップではないかと。」

 「いや違うな。」

 もっと珍しい品物だということは覚えている。こう見えても、一夏は食にうるさいのだ。

 紅茶を二人の前に配膳して、一夏もソファーに腰かける。

 「早速頂く。」

 一夏がお皿にクッキーを出す。アイリスがまじまじと見つめてくるので、一夏は一つ手に取り食べた。

 「アリスは、クッキーだと言ったな。」

 かみ砕いた瞬間に、一夏の顔色が変わった。

 「そうじゃ。どう見ても、美味しそうなクッキーじゃ。」

 胸を張って自慢するアイリス。けれども一夏は容赦なくこう返した。

 「あれは嘘だ!」

 まるで何かの危険を伝えるようにひときわ大きな声で言ったかと思うと、そのまま泡を吹いて倒れてしまった。

 「織斑一夏が倒れるほどの旨さ!このジブリルも頂きます!」

 それを勘違いしたジブリルは、2~3個を一気に口に入れる。

 「・・・・・ありす。」

 だが彼女もまた、一夏と同じような顔色になる。

 「何じゃ?」

 「クッキーだと言いましたよね?」

 ジブリルの声は辛うじて絞り出したといったような感じに震えていた。

 「ど、どうしたお主まで。」

 「あれは、U・S・O・D・A☆。」

 おどおどするアイリス。その真正面で、ジブリルも一夏と同じように泡を吹いて倒れた。

 「ど、どういうことじゃ!ま、まさかマズいのか!」

 これはおいしいものを食べたときの反応でないことに、遅らせながらに気付く。

 もしやと一つを手に取り、お行儀は悪いがアイリスはその表目を舐める。

 「う!・・・・・ううううううううう!マズい!」

 そしてそのまずさに悶絶したのだった。

 

 

 

 「セシリア以来、3回目ね。一夏を完膚無きまでに叩きのめしたのは。」

 医務室に運び込まれた一夏を見ながら、鈴が呟いた。

 「その前はなんじゃったのじゃ?」

 そう聞いてきたアイリスの声はシュンっとしていた。

 「ISの自爆に巻き込まれただけ。今なら、余裕だろうけど。」

 「そうか・・・。やはりこやつも人間じゃったのじゃな。」

 確かに無傷では済まないだろうが、ISの自爆に巻き込まれて気絶で済むと言うことの異常さが気にならなくなっている時点で、アイリスもかなり染まりつつある。

 「あ、目が覚めた見たい。」

 「ここは、保健室か・・・。」

 一夏が弱々しく声を出す。いつもの威勢は、そこにない。

 「残念だったね。クリニックよ。」

 「そうか・・・。」

 呟いたあと、一夏は息を吐いた。

 「で、何を食ったの?」

 「鈴は知らないほうがいい・・・。俺だって、出来ることなら忘れたい」

 セシリアの時に見せたものより、更に絶望の強い目。

 「下んないわよ、恐怖でおかしくなったわけ?相手は只のクッキーよ、どうってことはない。」

 「腐るよなぁ」

 「まったくですわ。サンドイッチならともかく、クッキー一つにこれでは、大げさすぎますわ。」

 一夏の調子が出ないことをいいことに、セシリアが畳み掛ける。

 「大佐、何をビビってんだ。」

 ラウラの一言に、一夏は素早く反応する。

 「試してみるか?俺が意識ほどを失うほどのクッキーだ。」

 「いや、結構ね。遠慮させて貰うわ。」

 「いい判断だ。俺から学んだのかな?」

 けれどもそれ以上続けるほどの体力は残っておらず、すぐにまた目を閉じた。

 




IS《冬の帝王:小説版》、2021・MAD版《冬の陣》編集分はこれで終わりだ。次はMAD版・2021春の陣(予定・GWくらい?)で、また会おう。


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第72話 君を取り戻せ!スニーカーズ!!

読者諸君!私は・・・・・寝る(22時半です)


 それは何気ない朝の食堂で起きた事件だった。

 「よう、食ってるな」

 「おはよう箒。」

 「あぁ。」

 いつも通りに一夏と箒が挨拶を交わす。そこに異変は何もなかった。

 「今朝は冷えるな、えぇ?」

 「冷える。そうだな、冷える・・・。ケサハ・・・ヒエルナ・・・・・エェ?」

 急に箒が、片言の日本語でオウム返しを始めた。それがどれほどの異常事態か一夏には分かった。

 「!!問題発生!全員伏せろ!」

 周囲への注意を行うが、そこにいつもの余裕はない。

 次の瞬間、レーザー光線の乱れ打ちが始まった。

 「アァッツ!何このビーム!」

 「レーザー光線だ!楯無!伏せてろ!」

 約一名、のんきにしていた奴を一夏は伏せさせる。

 数十秒後、レーザー光線の嵐が止まる。

 「ワアァーオ・・・。どうなってるの?」

 食堂の惨状に、多くの生徒が愕然とした。

 「篠ノ之は腹が減るとプレデターみたいになるんだ。」

 「そういうことですか、大佐。」

 すかさず一夏が解説を行うと、それを聞いていたラウラが何かを持って箒へと向かっていく。

 「篠ノ之、これをやろう。」

 「・・・!!よせェ!」

 ラウラが手に持つそれを見た時、一夏は駆け出してラウラを突き飛ばし、自身も勢いそのままに吹っ飛んでいく。

 まさに紙一重のタイミングで大爆発が起こる。

 「どういうことだ?」

 「腹が減った箒は、()()()()()()でしか戻らない。」

 「・・・え?そういう?」

 手に持っていたカロメと、食堂に空いた大穴を交互に見比べ、ラウラは首を傾げたのだった。

 

 

 

 「で?箒はまだ見つかんないわけ?」

 数時間後、ISの地下区画に箒を除いたいつものメンバーが集まっていた。

 「おおよその位置は分かってる。」

 「じゃあ、行きましょ。」

 一夏が答えると、鈴は早速出撃しようとする。

 「慌てるな。山田君、例の人を。」

 それを千冬が引き留めた。

 「かしこまりました。」

 退室して、そして山田先生が連れて戻って来たのは。

 「ヒカル火篝ノじゃないか。どうしたの、その似合わない(包)タイは。」

 「んーほっといて欲しいんだな~。って言うか私の名前、篝火ヒカルノなんだけど・・・。」

 「冗談だよ。」

 「で?マジで何なの、その(包)タイは?」

 あまりに痛々しい姿をしているものだから、鈴が気になってそれを尋ねる。

 「分かんないねえ~。仕事してたら、突然ドカンッだもの。気が付いたときにはこの有様。ま、君達にしてみれば価値のないモノだけど、昨年の年末に使ってもらった、例の試作品の量産品が盗まれた。」

 鈴の疑問に答えつつ、シレっと報復の要求を行うあたり抜かりがない。

 「あれだろ、赤椿の量産型。」

 「犯人はただ一人。束だ。」

 他にも実行できるだけの技量を持つ者は沢山いる。だが、あえて盗人を働くのは束くらいだと、亡国機業のことも忘れて彼らは決めつけていた。

 「?質問いいかな?」

 「ダメだ。」

 「言うな。」

 「後にしてくださる?」

 何を聞かれるか予想していたラウラと鈴、そしてセシリアが即答すると、シャルロットは「言われると思った」と言って肩を落とす。

 「まあ、待て。質問ぐらいさせてやれ。何だシャル。」

 しかし一夏がそこに助け舟を出す。

 「なんで篠ノ之博士が、今、関係あるの?」

 「決まってるだろ。篠ノ之束をしばきに行くからだ。」

 「???篠ノ之さんを探しに行くのは?」

 今の今まで箒が行方不明だという話をしていたし、当然そうだとシャルロットは思っていた。

 「「「???誰が行くって?」」」

 「「「え?」」」

 勿論、箒の捜索に行くと思っていたシャルロットに簪、楯無、その他の者たちは目を丸くする。

 「だって、さっき凰さんが・・・。」

 「アレは箒の居場所の確認よ!それとこれとは話が別。」

 丸で会話が途切れるタイミングを待っていたかのように、ピーピーと音が鳴り響く。

 「何の音?」

 「探知機のブザーだ。やはりそうか。箒のスニーカーズを束が奪ってる。」

 「なん、何でそんなことが???」

 「GPS仕込んだからな。」

 「「「」」」

 GPSを仕込むほどの価値のあるお菓子なのだろうか。事実に思わず絶句する。

 「これで分かったろ。箒は束を追えば必然と捕まる。以上。出撃!」

 「速さが肝心。」

 一夏の掛け声に、鈴、ラウラ、セシリアがこともなく答えた。

 「「「・・・えぇ?!」」」

 一切疑いを持たないことに、皆は驚いていた。

 

 

 

 なんやかんやあったが、結局、専用機を持っているものは全員が付いて出た。

 「みて、人工物が浮いてる!!」

 洋上空を飛行していたとき、シャルロットがそう叫ぶ。

 「あぁ?よく見ろ、そりゃブイだ。」

 「いや、メガ・・・もっと大きい!ギガフロートだよ!!あの大きさは!」

 一夏の冗談さえも気が付かないほどに、彼女は興奮している。

 「ラウラ!箒の反応はあるか?」

 「いや、ISの反応が多数出ているだけです!」

 「篠ノ之さんは?」

 「箒がいるなら、スクラップの山が出来ているはずだ。」

 「つまり。」

 「ここにはいない。」

 「・・・え、どうするの?」

 今回は全てが同時に片づくと、出発するときに聞いていた。一夏の予想が外れたことはほとんど記憶にないため、シャルロットは浮き足立つ。

 「どうするも何も、取り敢えずこいつらをぶっ壊す。話しはそれからだ。」

 「それはいいんだけど一夏君。なんだかIS、重たくない?」

 「そうか?俺は快適だけどな。」

 聞く相手を間違えたと、シャルロットは呆れる。

 「これは・・・?!」

 突然目を見開き、驚愕の表情を見せる。

 「どうした簪。」

 「コードレッド発令。コマンドー・・・ISの出力を制限する裏コード?!」

 「「えぇ?!」」

 シャルロットと楯無は驚愕の声を上げる。

 「「「道理で動きやすいと。」」」

 一方、一夏イズムに染まった(適応した)ラウラを始めとしたメンバーは真逆の反応をする。

 「「「馬鹿野郎!何言ってんだ!てめえら正気か!死にてえのかてめえ!どっかし天丼!てめえ何やろうとしてんのか分かってんのかい?!」」」

 「決まってるだろ。」

 「突撃して。」

 「ぶちのめす。」

 「それだけですわ。」

 「「「私達、帰るよ。マッチョの遊びには付き合えない。」」」

 正気の沙汰ではないと、三人が踵を返す。

 「慌てるな。まだ終わっちゃいない。」

 終わるどころか始まってすらないわけだが、そこを気にしてはいけない。

 「大佐!携帯電話が群を成してこっちに。」

 「ちょっと多いわね。」

 「だから?」

 「言っただけよ。」

 状況確認と、一夏が浮島の方向を見た。

 「ホントに多い。」

 その声に、悲観のニュアンスは一切ない。

 「言ったでしょ?」

 「殺る気じゃないわよね?」

 「殺るとも。」

 「よろしくってよ!」

 すでにやる気満々といった感じで、各々が自慢の武器を展開する。

 「銃はよせ。」

 「クラシックに?」

 「あぁ。」

 「これを使いたくて、ウズウズしてましたわ!」

 銃はよせと言いながらチェーンガンを一夏が手渡す。

 事態が急変したのは、その直後のことだった。

 「なんだを!」

 突如として、浮島と敵ISが一瞬にして海の藻屑と消えていった。

 「お主らには借りがあるのでな。これぐらい、バチはあたんであろう!」

 「「「俺(私)も久々頑張ったのに、なんだよ!!いい役持っていきやがって!」」」

 久しぶりに心置きなく暴れられると思っていただけに、精神的なショックはかなり大きい様子だ。

 「待って!アレ何?!」

 残骸の一つもない水面に現れた異常。それに気が付いたのは、シャルロットだった。

 「マッテ・・・アレ・・・・・ナニ。」

 「どうやら、スニーカーズを追って中に居たらしい。・・・ここで待ってろ。」

 さすがの潜伏能力。どうやら見つけられなかっただけのようだ。

 「ほら、スニーカーズ。」

 一夏がそれを差し出す。

 「どうだ。」

 箒が食べ終わったタイミングを見計らって一夏は尋ねる。

 「これ美味いな」

 「クソ不味いだろ」

 「I‘m back。」

 

 

 

 その日の夜、IS学園地下特別区画に一夏の姿はあった。

 「ここにいたのか。」

 「おぉとも。それがどうした。」

 そこに現れた千冬に、一夏は他の者の目がないこともあってカジュアルに返す。

 「ここで何してる。」

 「見れば分かるだろ。スニーカーズの搬出だ。」

 〈何・・・・・だと?!〉

 平生を装いつつも、千冬は驚いていた。

 「想像してみろ、スニーカーズは2.7キロで箒のプレデター化を防ぐ可能性がある。それが5トンあればどうなる?とても興味深い。」

 「そいつは深いな。」

 如何に束と言えど、その量を盗み出すことは極めて困難。作業を手伝うべく、千冬が一以下に近付く。

 「ふんふん。そんないっくんとちーちゃんに、束さんが興味深い話しを持ってきたよ!」

 「「何だ、話してみろ。」」

 突然現れた束(と思っているのは本人だけ)には目もくれず、二人は作業を継続する。

 「そうだねえ、ちーちゃんが今までいっくんに黙ってきた君達の両親のことを教えてあげるよ!いっくんの誕生はとぉーっても大事なんだよねー!」

 「独り言、言いながら説明するのがいいな。とぉーっても大事なんだよねーって。」

 相手にして貰えないのはいつものことなので、束も話しを振るつもりはないのだろう。

 「ん?何だろうこれ?・・・!!これはですね、織斑一夏、織斑一夏のバイタルデータなんだよ!今ならですね、これにちーちゃんのバイタルデータまで付けまして発売してるよ!」

 「「・・・。」」

 どこぞのTVショッピングのようにそれを紹介する。よくもまあ、そんなつまらないネタを捻り出せるなと、二人は呆れて物が言えない。

 「でね、この織斑計画って言うんだけど、ある時を境に、パタリと止まるんだよ。何でだと思う?何でだと思う?それはね、この完璧超人の束さんが生まれたから何の意味もなくなったからなんだよ。でもねえ、君達二人は生き残った。究極の人類に匹敵するスペックだったからね!だからさあ、君達に両親なんていないのさ!ぴったりの言葉を、君達に贈ってあげるよ!この化け物め!」

 「「いたぞぉぉぉぉぉ!待ちやがれぇ!!」」

 「わぁ?!冗談だよお!!」

 このところ残基が減りっぱなしなので、束はすぐに前言を撤回せざるを得ない。

 「「この馬鹿者め。」」

 一瞬の間を置いた後、一夏だけが話し始めた。

 「つまり嘘をついて相手を騙すって事なんだろ?俺にはできない。」

 「どの口が言ってるのかな~?」

 珍しく正論を言った束だったが、その言葉は二人に届かない。

 「それはな、束。お前を創造したのが俺達だからだ。」

 その話の途中、一夏はどこから取り出したのか、一般人なら両手で抱えるほどの大きさがある段ボール箱いっぱいに詰まった書類を(たばね)の前に投げる。

 「!?!?!?嘘だぁぁぁぁぁぁ!」

 その表紙のタイトルを見るや、束はダダダっと走り去っていった。

 「なあ、一夏。嘘をつくのは出来ないんじゃないのか?」

 「そんなセリフあったか?」

 お得意のスッとぼけで華麗に受け流す。

 「ところでマドカ。いつまで隠れてる。」

 邪魔者がいなくなったところで、物陰に潜んで隙を窺っていた人物に声をかける。

 「ようやくこの時が来た。長かったぜ。」

 「勝手に待ってたのはそっちだ。」

 流石に反論ができず、マドカは視線を彷徨わせる。

 「・・・織斑一夏ぁ、調子はどんなだ?」

 「こっちへ来て確かめろ。」

 マドカが物陰から出てこようとしないことに、一夏はしびれを切らす。

 「いや結構。遠慮さしてもらうぜ。顔出してみろ。一発で、眉間をぶち抜いてやる。私達は兄弟だ、苦しませたかねぇ。」

 「マドカ、それは関係ない!目的は俺を殺ることだろう!」

 「ヘハハハハハハ!」

 「ハンデだ。俺は右手を使わない。お前でも勝てる。・・・来いよマドカ。ISなんか捨てて、かかってこい!楽に殺しちゃつまらんだろう。ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて、死んでいく様を見るのが望みだったんだろう。そうじゃないのかマドカ!」

 「てめぇを殺してやる!」

 「さぁ、ISを放せ、一対一だ。楽しみをふいにしたくはないだろう。来いよマドカ。怖いのか?」

 「ぶっ殺してやる!・・・・・野郎ぉぉぉ、ぶっ殺してやぁぁぁる!!!」 

 一夏の挑発にまんまと乗っかり、マドカは物陰より躍り出た。

 「IS学園へようこそ。」

 デェェェェェェェェェェェン!という音が聞こえたかと思うと、そこにはチェーンガンを構えた一夏が立っていた。

 「?!うぎゃぁああああああ!!!」

 今まで幾度となく痛い目に合わされてきた武器。記憶がフラッシュバックしたマドカは、全速力で逃げ出す。

 「急げ一夏。箒がプレデター化する。」

 「あぁ。」

 その姿が十分に視認できる距離にあっても、二人は気にも留めずに作業を再開するのだった。




原作者め!クソォ新潟か!

(原作に追いついたので、次の更新時期は未定です。)

さらばじゃ!


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