デート・ア・ライブ 黄金の精霊 (アテナ(紀野感無))
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第1の精霊の物語
プロローグ


えー、忙しい忙しい言ってるくせに新しいやつに手をつけてる馬鹿な作者です。

今回はデアラです。
なぜ書こうと思ったかというと

夢で見たから。

です。

それではどうぞ


さて、いきなりぶっちゃけよう。

 

私は中二病だ。

 

あれ、よくあるアニメのキャラに自分がなってると錯覚したり、自分で考えたキャラになってると錯覚してるやつ。

自分には特殊な能力が使えるとかそんなことを本気で思ってるやつ。

 

けど、道端で突然叫んだりとか、家族の前で『我は闇の王!』とか叫ぶまでの重症度じゃないよ。

 

あくまで、自分の部屋で、グッズに囲まれて、その中でなりきってるとかいう、中二病のなかでもにわかに近いようなやつ。

 

けど、自分の部屋の中では本気で『いつかは使えるようになる!』とか、『いつかは画面の中にも入り込む力が手に入る!』とか、『いつかは好きなキャラにいじめられたい!』とか、まあ色々と思ってたわけですよ。

 

え?中二病じゃないって?ただのドMなオタク?

 

いや、まあ、はい。間違ってはございません。

 

けど、確実に言えるのは

 

私、神夏(かみや)ギルは、現在進行形でFa○eの英雄王にどハマりしてて、ちょくちょくそれになりきってたということ。

 

でだ、そんな私が人でない力を手に入れたとする。

そしたらどうなるか、みなさんならお分かりだろう。

 

あ、ちなみに下の名前は、両親がなんかピーン!って思いついてそのままつけたらしい。深い意味はないとか。

改名とかしてないですよ。ほんとです。

 

 

 

 

 

 

 

さて、私自身についての紹介はこれくらいで。

次は身の回りいこうか。

 

私は、神奈川県にすんでて都立来禅高校に通ってる。

高校2年生になりたてのピッチピチの16歳!

 

え?気持ち悪い?はい、ごめんなさい。

 

私の容姿は金髪のサラサラな髪を肩より少し下あたりまで伸ばしてる。今更だけど女ですから。

胸?A以上B未満って感じです。ちっぱいって言わないで。

成績は上の中くらい。

 

好きな人は、ぶっちゃけ3次元(現実)にはいないです。二次元でいいなら、速攻でFa○eの英雄王選ぶね。

 

ちなみに、家では一人暮らし。

昔は外国(確かイギリス)に住んでたんだけど、悲しい事件のおかげで、両親共々この世から去りました。中学3年のときかな?

さみしいかと言われたらさみしいし、悲しい。けど、その分まで私はしっかりと生きると決めている。

 

悲しい事件ってのは、私のことを気持ち悪い、このままだと社会からの弾かれものになる、って思った両親が、私のグッズを悉く捨てて、かつ、更生するまで家にも入れん!ってなってしまいまして。

 

私は、絶望と悲しみに明け暮れた。

で、気づくと、家にいて両親は血まみれになって死んでた。

 

その後、親戚とかの助けもあって両親の故郷である日本に来たんだよね。ちなみに、両親は父親が日本人、母親が、日本生まれのイギリス人。

 

はい、辛気臭い話はこれにて終わり。いや、そんな辛気臭くもなかったかな。

 

さて、紹介することは一通りしたかな?んじゃ、そろそろ日常生活に行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜来禅高校〜

 

「2年4組、ね」

 

うん、クラス替えあったところで、私はぼっちだからそんな気にしない。

いつも通り、()()()()()を振る舞いつつ、平和に過ごそう。

 

イギリスだと、よくわからない人達のおかげで平和に生きるとかそんなことできなかったからね。

 

「さてと……寝よう」

 

いつも通り、授業はほとんど寝て過ごす、普通の一日が始まる。

 

 

 

そう、思っていた。

 

 

 

「か、神夏さん」

 

「ふぇ……?」

 

誰だ、私の快楽(眠り)を妨げる奴は。

しかも、まだ1限目のロングホームルーム終わった後じゃないですか。このあと、配布物配って終わりでしょ?

時計を見た後に、話しかけて来た人に目を向けると……

 

「あの、俺と君、日直でプリントを取りに来いって」

「ふぁぁ……、……任せた……」

「いや、ちょっと⁉︎」

 

なんだ、任せたって言ったんだからそこは『仰せのままに』とか言って行くところでしょ。

いや、本当にやったら引くけど。

 

「なんで…私、眠い………」

「あれだけ寝てるのに⁉︎」

「眠いものは眠い……」

 

「来なかったら、留年させるって先生が言ってたぞ」

 

ぴくっ

 

「よし、いこう。ほらさっさときてよ」

 

「ああ、わかっ……って、ちょっと⁉︎行くの早すぎない⁉︎あと、絶対に眠たいとか嘘だよね⁉︎めちゃくちゃ目ぱっちりしてるよね⁉︎」

 

うん、だってめんどくさかっただけだもん。

くっそ、ここの先生め。わずか一年で私の扱いを心得ている。

 

あと、君誰よ。この際だから聞いとく?

あとで私の快楽を遮った罰を与えるために。

 

「あなた、名前は?」

 

「俺?俺は五河士道。って、去年も同じクラスだったよな?」

 

「そうだっけ?周りには興味ないからねー」

 

青髪の同級生----五河士道は半端呆れながら笑ってた。

 

 

 

 

 

 

 

〜放課後(昼前)〜

 

「ねぇ、五河君」

「え?」

 

うーわ、君付けとか、私らしくもない。人と話すこと自体久しぶりだから緊張してんのかな?

 

「今日、帰るの付き合ってくれない?」

 

と、言うと五河士道は隣にいた男子に揺さぶられて『何も知らない……』みたいなことを言ってた。

 

「悪い…。今日は先約があって」

「だそうだから、今日は俺と一緒に……」

 

「え、普通に嫌です」

 

あ、轟沈してく音が聞こえた。なんかゴメンなさい。

 

「ていうか、名前も知らない人と一緒に行くと思ってます?」

 

「いや、俺去年も同じクラスだったよ⁉︎殿町宏人!覚えてない⁉︎」

 

「覚えてないです」

 

「去年、同じ班にもなったのに⁉︎」

 

「興味ないことは覚えない主義なので」

 

「……」

 

あ、なんか砕けて溶ける音まで聞こえてきた。

 

「で、五河君。今日、一緒に帰って欲しいのだけど」

 

「悪い、今から妹と昼ご飯を食べに行く約束をしててな。明日でもいいか?」

 

「いえ、今日です」

 

「いや、だから……」

 

「なんなら、私もついていきます」

 

「ええ⁉︎」

 

ん?五河士道よ。妹との約束を出せば罰を与えんとする私から逃げれると思ってるのかな?

 

甘いっ!私はやると決めたことはその日のうちにやるのだ!

 

「それはちょっと……」

 

と、五河士道がためらってる。

さらに無理やりにでもついていこうという旨を伝えようとした瞬間

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー

 

 

 

「……ッ⁉︎」

「なんでこのタイミングで…」

 

突然、不快なサイレンが鳴り出した。

確か、これは……

 

『これは訓練ではありません、これは訓練ではありません。前震が観測されました。空間震の、発生が、予測されます----』

 

そう、空間震だ。

空間震は、その名の通り、()()()()()

発生原因不明、発生時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の現象の総称のこと。

 

30年ほど前に、ユーラシア大陸のど真ん中でおきて、ソ連、中国、モンゴルを含む一帯が一夜にしてくり抜かれたように消え、死傷者1億5000万人を出したと言われている。

 

まあ、シェルターがあるから割とみんな落ち着いてるのだが。

今もみんなで移動してる。

私?わたしは五河士道を逃さないように後ろに張り付いてますよ。

乙女の怒りを思い知ってもらうまでは逃がしませんよ!

 

「あんの、馬鹿……ッ!」

 

すると、携帯の画面を見ていた五河士道----めんどいから五河君って言うね。

五河君が毒づいて生徒の列から抜け出し昇降口に向かって行く。

それに慌てて走ってついて行く。

 

けど、向かってる方向がおかしい。さっき、殿町?って人に忘れ物!って言ってたのに教室に向かってない。

 

もしかして、空間震の方向に向かってる?

 

 

やだなぁ、()()と会うことになるじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、学校の校門を抜けて、まっすぐ、妹の琴里がいるであろうファミレスの方に向かっていた。

なぜか、今日、たまたま一緒に日直だった神夏さんがついてきていた。

 

「な、なんでついてきてんの?」

「ついてきちゃダメ?あと、1人だと絶対に危ないし」

 

と、神夏さんは言う。

心配してくれたのを無下にするわけにもいかず、ありがとう、とお礼だけ言って改めて道路をみる。そして、再度、最高速で走り出した。

 

「こんなんなったら、普通、避難するだろうが……!」

 

視界に広がっていたのは、なんとも不気味な光景だった。

車はあるが人は全くいない。街路にも、公園にも、コンビニにも、誰1人として。

 

つい先ほどまで誰かがそこにいたということを思わせる生活感を残したまま、人だけが消えたような感じだった。

 

「五河くん、探すなら急いで探さないと、いつ空間震が起こるかわからないよ」

「あ、ああ」

 

GPSをみるも、琴里はまだファミレスの前にいた。

急いで、走り抜ける、と----

 

「……っ、-----?」

 

走りながら、顔を上方に向けた。

視界の端に、何か動くものが見えた気がする。

 

「なんだ……っ、あれ……」

 

思わず、眉をひそめた。

数は3か4。空に人影のようなものが浮いている。

 

「五河君!」

 

だけど、すぐにそんなものを気にしてはいられなくなった。

なぜなら…

 

「うわっ……ッ⁉︎」

 

神夏に服を引っ張られ、走ってた方向と真逆の方向に引っ張られたからだ。その直後、

 

まばゆい光に包まれ、次いで、耳をつんざく爆音と、凄まじい衝撃波が襲ってきたからだ。

 

反射的に腕を顔で覆い、足に力を入れるも無駄だった。神夏と一緒に後方に転げてしまった。

 

 

「ってえ……一体なんだってんだ……ッ」

 

 

うつ伏せの状態から、チカチカする目をこすりながら、腕で体を支え身を起こす。

 

「っ…!」

「---は?」

 

と、思わず、視界に広がる光景を見て間の抜けた声を発した。

だって、先ほどまで目の前にあった光景が、跡形もなく、()()()()()()()()()()()

 

「な、なんなんだよ……」

 

なんの比喩でも冗談でもなく、削られたかのように浅いすり鉢状に、街の風景が削り取られていた。

そして、中心のクレーターのようなところに、金属の塊のようなものが……

 

「あーのーさー、唖然とするのはわかるんだけど、いい加減、離れてくれませんかねぇ」

 

「あ、ああ、ごめ……」

 

「ごめんで許すとでも思ってるの?(ニコォ)」

 

「何言って………あ」

 

この時、俺は、自分がとんでもないことをしていたことに、今気づいた。

 

支えにして右腕は今………

 

「ずーーっと、わたしの胸に手を当てただけじゃ飽き足らず、見るまで気づかないときましたか。そーですかそーですか。これで五河君はセクハラとして訴えられても何も文句は言えないよね?」

「い、いや!ごめん!これは不可効力で……」

「不可抗力で済んだら警察はいらない!」

 

と、鳩尾に拳をもらった。

 

「いって……」

「ふん」

 

いや、こちらに非があるから何も言えないのだが。それより……

 

「な、なぁ、神夏」

「なに!」

「ひっ!ご、ごめん!また後でしっかりと謝るから!けど、あれ……」

「んー?」

 

と、神夏にクレーターのようなものの中心にある、かろうじて見える玉座のようなものを指差した。

 

そこには……

 

奇妙なドレスを纏った少女がいた。

 

「見えるか?」

「うん、みえるよ」

「あのこ、なんであんなところに……」

 

すると、こちらに気づいたのか、玉座の背もたれにある、柄のようなものを引き抜いた。

それは、巨大な剣だった。

そしてこちらにむかって横薙ぎにぶんっ!と振り抜いてきた。

 

「いっ……ッ⁉︎」

 

とっさに、頭を下げてしまった。その直後、後ろでは……

 

「……は?」

 

家や店舗、街路樹や標識などが、全て同じ高さまで切り揃えられていた。もしかしたら、頭を下げなければ自分も……

 

「じょ、冗談じゃねぇ…」

「五河君、現実逃避するのはいいけど、少し黙ろうか」

 

「……お前達も…か」

「……っ⁉︎」

 

神夏に言われ、その直後に、上空から酷く疲れたような声が、響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(だよねぇ、やっぱりコレだよねぇ)」

 

大方、予想通りだ。いつもの()()が出たおかげで、この惨事が起こったんだろう。あいかわらず如何にかならんものかな。

 

さて、目の前にはヒトならざるモノが。すぐそばには五河君が。

 

このピンチを切り抜けられないこともないけど、そんなことをすると、この街にいられなくなってしまう可能性もあるから、それは最後の手段。

 

五河君はというと、目の前のヒトならざるモノ----少女に目を奪われていた。

死の恐怖すら、呼吸すら忘れるほど、美しいのだろう。

 

いまは、わたしをそっちのけで2人で話してる。

この少女は、名前がないらしい。悲しげな目をして、今にも泣き出しそうだった。

 

が、突如でかい剣を振ってこっちを殺そうとしてきてるあたり、敵意満々だ。

五河がなんとか食い止めてはいるけど。

 

「……確かに、そちらには私と()()がいるな。なぜ、貴様は、力を使おうとしない」

 

「私?私に言ってるの?」

 

「そうだ。お前は……」

 

突如、自分に話しかけてきたかと思うと、いきなり核心をつくような言い方をしてきた。

マジでやめてください。焦るんで。

 

けど、そんな話は突如飛んできたミサイルによって阻まれた。

五河が叫び声をあげた。うるさいよ。

いや、こんなのに悲鳴をあげないやつも、それはそれでおかしいけど。

 

「⁉︎」

 

すると、目の前の少女に向かってきてたのとは別で、真横から()()()()()ミサイルが飛んできた。

 

それに思わず私は……

 

 

2度と使うまいと決心していた、()を使ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「な……な……。ど、どうなって……」

 

飛んできたミサイルは、見えない手で掴まれてホッとしていたのも束の間、今度は横から飛んできて、今度こそ終わりだと思った瞬間、何かが光った。それと同時に、目の前の名もなき、悲しげな少女と周りに降り立った機械を着たような少女達は光った元を見て、先ほどまでとは違う、完全な戦闘態勢に入っていた。

 

光った元を見るとそこには

 

 

黄金の甲冑の下半身、そして、右肩から先までのみを装着していて、黒のシャツを着ている格好の少女がいた。

 

 

「あ、あれ、そういえば神夏は……」

 

周りを見ると、神夏がいない。まさか、巻き込まれて……⁉︎

 

「……誰の許可を得てを(われ)を見ている。雑種ども」

 

と、黄金の甲冑を身につけている少女は、傲慢な口ぶりで言ってきた。

 

「識別名【アロガン】を確認!みんな、注意して!」

 

と、リーダー格のような人が何かを叫んだ。

識別名?

 

と、何もわからず見渡していると、黄金の少女とクラスメイト----今朝教えてもらった鳶一折紙がいた。

 

折紙は、一旦を目を合わせ、怪訝そうな顔を浮かべた後、すぐさま名もなき、ドレスを纏った少女と黄金の少女に目を向けた。

 

「てーーっ!」

 

「う、わぁぁぁぁ!」

 

突如、誰かが叫んだかと思うと、ミサイルが何発も飛んでいき、そして、ブレードを構えた何人かが切りかかっていた。

 

それに、何事もないかのように対応するドレスと黄金の2人の少女。

 

「……雑種風情が、我に刃を向けるか!」

 

すると、黄金の少女が吠えた。その直後、少女の後ろの空間が歪んだかと思うと、幾つもの円ができた。30はくだらないだろうか。

 

そして、その円からは、幾つもの武器がのぞいていた。

 

「我に刃を向けた罪、その身をもって償うがいい!」

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

その全てから武器が勢いよく発射され、人モノ関係なく、周りのものすべてに向かって言った。

 

運よく自分の方向には飛んでこなかったのものの、その爆風により転がされ、塀にぶつかって昏倒してしまった。




はい、どうでしょう?

よろしければ感想とかよろしくお願いします。モチベ湧きます

読んでくださりありがとうございます


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1話

気がついたら感想欄で期待をされてて、しかもお気に入りしてくれてる方がもう30人近くに……。

何が起こった(真顔)

ただプロローグだけでこんなに登録してくれたのって4本近く書いてて初です。デアラとフェイトの認知度が高いおかげですかね?

どうにか、皆さんの期待を裏切らないよう頑張ります…。

それではどうぞ


〜名もなき精霊が現れてから半日後〜

 

さて、みなさん。重症レベルではないとはいえ、中二病は恥ずかしいと考えてる中二病が人前で中二病を晒した時どんなふうになるかご存知だろうか?

 

正解は………

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ………」

 

 

悶え死にかける。

 

「なんなの!『誰の許可を得て我を見ている。雑種ども』って!こんなことになるだろうから絶対にこの『力』は使わないって決めてたのに!」

 

家で赤面しながらベットの上を転がりまくっていた。この力のおかげでイギリスでは何度悶え死にかけたことか。

 

「いだっ!」

 

そして、勢い余ってベットから転落。綺麗に顔面を下にしてね。

めちゃくちゃ痛い。

 

「しかも……人前に出るとギル様の性格になって人がいなくなった途端元の性格になるとか…どんな羞恥プレイなんですか…。しかも、記憶も成りきってる時のはちゃんと残ってるときたもんだ……」

 

()()()()()()そんな愚痴をこぼす。

 

「しっかし……家バレするとは。さすがは日本」

 

何がさすがなのかはよくわからないが、まあ、さすがと言っておこう。窓からこっそり外をのぞくと、見たことある感じの人間が機械をまとって周りを飛んでいた。

 

「よし、宝物(ギル様のグッズ)関連は避難させといたし、ばっちこーい!」

 

 

ピンポーン

 

 

フラグを立てるって怖いね。こんなピンポイントで来るものかな?

と、無視するわけにもいかず、玄関に向かう。万が一普通の人の可能性もあるからね

 

「はいはい」

 

「……神夏ギル」

 

「はい、私は神夏ギルだけど何?」

 

出てきたのは、白い髪で無表情のヒトだった。

たしか、戦った時にもいたはず。

 

名前は知らん!

 

「えーと、あなた誰?」

 

「……単刀直入に聞く。あなたは『精霊』?」

 

「さぁ?」

 

「……」

 

ブンッ!

 

「うわっと、危ないな」

 

突如、レーザーブレードで斬りつけてきた。

とっさにバックステップで避ける。

 

「……どう?」

「ビンゴ。ばっちし霊力反応とらえた。そして、許可も降りた。遠慮なくやっちゃってオッケー」

「了解」

 

ですよねー。こうなっちゃいますよねー。

別に、私としてはおとなーーしくオタク&中二病生活したいだけなんだけど。

え?そんなだから社会不適合者って言われる?

 

やだなー、否定できません。

 

そんなことを考えてると、目の前の人間達が一斉に装備----たしか、ワイヤリングスーツだっけ?それを装備した。

 

「はぁ……使いたくもない力を使わせるというんですね。後悔しないでくださいよ?」

 

使いたくない理由?二つほどあります。

 

まず、羞恥心で悶え死にそうになるし、ギル様を汚した気分になるからなんか嫌だ。

だって、万が一負けてみなさい。

ギル様が弱いみたいに見えるでしょうが。

 

「……けど、そんなこと言ってられそうにもない…か」

 

玄関の周りで、10人くらいの団体に囲まれてる状況を切り抜けるには、やっぱり使うしかないよね。

 

そして、『力』を望むと、また自分の体が光る。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

鳶一折紙は、目の前の元クラスメイトを----否、クラスメイトだった物を見ていた。

 

自分を突き動かす原動力、憎しみの対象。

 

『精霊』を。

 

『精霊』とは、隣界という場所に存在していると言われる特殊災害指定生命体。発生原因不明、存在理由も不明。

 

だけど、確実に言えることは……

 

精霊は、自分の両親の仇だということ。

 

「雑種ごときが、我を見下すか」

 

そして、聞こえてきたのは、高圧的な、傲慢な口調。

光が晴れると、そこには半日前にも見た下半身と右腕に黄金の甲冑をつけた精霊【アロガン】が。

 

「……っ!」

 

それを見ると同時に、怒りがフツフツと湧いてくる。

 

「聞こえなかったのか?我を見下すとは不敬であろう?それとも貴様らは言葉も理解できぬ猿か?()くその場から降り跪け。そうすれば、此度のことは免罪としよう」

 

「…っ!」

 

これ以上、こんな傲慢な口ぶりを聞いていられない。タダでさえ憎い仇だ。

己の内側から溢れ出る衝動に突き動かされ、隊長の指示も無視し目の前の精霊に向かってレーザーブレードを振りかざす。

 

「ふん」

 

すると、精霊は避けた。

そして、私達より高いところへ浮いた。

必然的に、私たちは精霊を見上げることとなる。

 

ヒュン!

 

「「「⁉︎」」」

 

そして、精霊の背後から『何か』が放たれた。

その『何か』は、隊員の1人に命中し、勢い良く吹き飛んだ。それを見て、さらに私の理性は吹き飛んだ。

 

「あああっ!」

「なんだ?貴様は道化か?なれば、もっと華美のある叫びで我を愉しませよ」

 

そう言われるも耳に入らずただガムシャラにブレードを振るう。が、見えない壁に阻まれる。

破れる兆候すら見れない。

 

「ふむ、なかなかの余興だ。幕引きにはちょうどいい。褒美だ、ありがたく拝領せよ。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

すると、また、精霊の背後の空間が歪み、いくつもの円ができる。

40はくだらないのだろうか。その全てから、剣、槍など、様々な武器の頭が顔をのぞかせている。

 

「(まずい…よけれない…)」

 

「さぁ、喜劇の幕引きだ」

 

その全てから勢い良く発射された武器は、私たちをいとも簡単に戦闘不能に追い込んだ。

 

「ふん、他愛ない。何一つ成長してはいないな。この世の雑種どもは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁ………」

 

はい、現在進行形で悶え死にかけてます。

もう吹っ切れて常にギル様になりきってやろうか。

 

……いえ、すいません。やめておきます。

姫ギルの口調とか全部完璧にトレースとかできないんでいつかボロが出そう。

 

今は、行くあてもないので公園にいます。ブランコに乗って赤面しながら力任せに漕ぎまくってます。

 

「学校は……いかなきゃ行けないしな」

 

なんせ、行かなかったら色々とめんどくさいことになる。

いや、もう既になってるか。

 

「んじゃ、1人悲しく野宿でもしましょうか…」

 

夜の外って寒いんだね。

 

 

 

 

 

 

〜翌日 放課後〜

 

「うん、割と普通に過ごせたことに驚きを隠せません。なんで?」

 

おかしい、私の予想では、ASTの鳶一?って人に屋上に連れて行かれて問答無用でやられる、って感じになると思ってたんだけど。

 

おっかしーなー。何も起こらず放課後って。

いや、何もおきないのが一番いいんですけどね。

 

けど私知ってるよ。平和と思わせといて帰り道に何かあるパティーンでしょ。

 

「んじゃ、公園に帰り……」

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥーーーー

 

 

 

「……なーるほど、そうきたか」

 

帰り際に何かあると思わせておいてまさかの結局学校で何かあるというオチか。なるほどなるほど(意味不)

 

やっばい。なんかおかしくなってきたよ。

 

にしても、空間震おおすぎやしませんか?

 

「えーと、感覚的に……え?もしかして、()()?」

 

 

ドガァァァァン!

 

 

「……」

「わーお」

 

突如、目の前で爆発が起こった。

すっごい。まさかピンポイントで私の教室に顕現するとは。

しかも知ってる顔の精霊。

 

「……お前は、一度会ったことがあるな」

 

「そうだね、一回会ったことあるね。それで、殺し合いをしたよね。すっごい楽しかったみたいだよ?」

 

「……?まるであの時戦ったのはお前ではないみたいな言い方だな。まぁいい……。この前の借りは今返させてもらう」

 

借りというのは、目の前の少女に軽いとはいえ腕に傷を負わせたことだろう。

 

「いやいや、私はやる気ないよ?」

 

「ふん」

 

すると、持っていた剣を振り抜いてくる。

私の真横の床は綺麗に切断されていた。

 

「…はぁ、いーよ。もうこうなりゃヤケクソだ。もう羞恥心とか知らない……」

 

『力』を望むと、また私が光り、精霊になる。

 

「……で、これでやり合えばいいんでしょ?」

 

「む?口調が前と違うが?」

 

「そこは気にしちゃダメ」

 

いくらなんでも雑種がいないところで傲慢な口ぶりにはなりませんよ。あくまでも、主の人格は『私』という人間なんだから。

ただ、雑種たちを前にするとギル様の性格が前に出てきちゃうというだけで。

 

「さあ、存分に足掻いて私を愉しませてね?」

「ふん、いいだろう…----ぬ?」

「ん?」

 

「……ッ!や、やあ-----」

 

声のした方を見ると雑種がいた。

 

話しかけようとしていたところを目の前の名もなき精霊は剣を振るい、我は剣を一本撃ち込んだ。勿論外しにいったが。

その直後、雑種の後ろにあった窓ガラスが盛大に砕け散る。

 

「ぃ……ッ⁉︎」

 

突然のことに一瞬固まってしまったらしい。

 

けど、名もなき精霊は追撃をしようとしていた。

 

「ちょ……っ」

 

壁の後ろに隠れられた後、光線をなんども放って、廊下の風通しがとても良くなった。

 

「ま……待ってくれ!俺は敵じゃない!」

 

「くっくっ……正に此奴こそ道化、だな」

 

あ、もうこれダメなやつ。スイッチ入っちゃったやつ。

 

雑種は、恐る恐る入ってきた。

 

「まぁ、そう警戒することもなかろう。たかが雑種一匹だ」

「そうはいかない。もしかしたら、高性能な爆弾で自爆しに来ているかもしれない」

 

「くっくっく。そうだな。さて、心して答えよ。貴様は何者だ?一度ならず、2度までも我らの前に不敬な態度で現れるとは」

 

我は、目の前の雑種に問いかけた。

どうやら、隣の精霊も同じことを聞きたかったらしい。

 

「っ……ああ、俺は----」

 

すると、一度答えようとしたが、なぜか一度喋るのをやめた。

 

お、おい、なんだってんだよ……」

 

「ほう、我に問いかけられているというのに、答えることもせず他人と会話か?王たる我の質問を無下にするとは。死を望む、ということか。それならば、望み通りくれてやろう」

 

「い、いや!ちょっと待ってくれ!」

 

「おまえは、何者だ」

 

すると、しびれを切らしたのか隣の精霊が苛立ちを含めながら会話に入り込んできた。

 

「-----人に名を訪ねる時は自分から名乗れ。……って」

 

「ほぅ?」「……」

「な、なに言わせてんだよ……っ」

 

隣の精霊も我と同様にイラついたのか両手を上げて光の球を作り出していた。

我は神の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の入り口を一つだけ作り、そこから武器をのぞかせ…

 

2人同時に攻撃をした。

 

「…っぐあ……。おかしいなじゃねえ……っ、殺す気か……っ」

 

すると、避けられたものの、なにやら独り言をのつぶやいていた。

 

「さて、雑種よ。これが最後だ。答えぬというのなら、死刑とする」

「これが最後だ。答える気がないのなら、敵と判断する」

 

 

「お、俺は、五河士道!ここの生徒だ!敵対する意思はない!」

 

 

両手を上げながら大声で言い切った。

 

「……ん?おまえ、昨日に会ったことがあるな…?」

「あ……っ、ああ、つい昨日……、街中で」

「おお」

 

ここからは、2人が話していた。まぁ、我には関係のない話だったが。

しばらくすると、話もひと段落ついていた。

 

「小僧、我らに敵対するつもりがないといったな?ならば、貴様はなぜ我らの前に再び姿を現した?」

 

「っ、それは----ええと」

 

すると、また口ごもる。右耳を気にしているあたり、何か通信機のようなものでもつけているのか?

 

「き、きみ達に会うためだ」

 

「なんのために?」「……」

 

「あー……その、だな」

 

「やはり、言えないのか。やっぱりお前は敵だ!」

「まて、早とちりをするでない」

 

「き、きみ達と…愛し合うため……に?」

 

「「…………」」

 

……はい?うん、ごめん。その返しは予想外だった。てっきり、交渉でもしにきてたかと思ってたのに。思わず素に戻っちゃった。キャラ戻さないと。

 

あれ?どっちが本当の私だっけ?まあいいや。

 

「……冗談は、いらない」

「くっくっく、はっはっはっは!はー、道化でもない輩にここまで笑ったのも久方ぶりだ。くっくっく…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談は、いらない」

 

高笑いをする黄金の精霊の横で酷く憂鬱そうな顔をして、少女がつぶやいた。

 

嗚呼、そうだ。この顔だ。

 

士道が大っ嫌いな、この顔だ。

自分が愛されるなんて微塵も思っていないような、世界に絶望した顔だ。

 

黄金の精霊は、高笑いこそしているが、どこか、虚しさがあった。まるで、もう世界に期待なんてしていないような。孤独を感じるような笑いに聞こえたのは気のせいだろうか。

 

そう感じた時、無意識に叫んでいた。

 

「俺は……っ!お前達と話をするために……ここにきたっ!」

 

「……?どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ。俺はお前達と話がしたい。内容なんかなんだっていい。気に入らないなら無視してくれたって構わない。でも一つだけわかってくれ、俺は----」

 

『士道、落ち着きなさい』

 

さっきまで、ずっと指示を受けていたインカムから静止の声が聞こえるが止まれなかった。

 

「俺は、お前達を否定しない!」

 

「……シドー。シドーと言ったな?」

「---ああ」

「本当に、お前は私を否定しないのか?」

「本当だ」

「本当の本当か?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当か?」

「本当の本当の本当だ」

 

間髪入れずに返すと、少女は髪をくしゃくしゃとかき、ずずっと鼻をすするような音を立ててから顔の向きを戻してきた。

もう1人はというと、ずっとこっちを見守っていただけだった。

 

「さて…、これから貴様らは話し合いをするんだろう?貴様の度胸に免じて、今回限りは我が力を貸してやろう。ありがたく思え」

 

すると、こっちの話が切りが良くなるのを見計らってそんなことを言ってきた。

 

「先に言っておくがその小娘に取り入れることができたからと言って、我に対しても同じなと思うなよ?せいぜい足掻けよ、雑種」

 

そして、黄金の少女は、教室の外に出て行った。






読んでくださりありがとうございました


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2話

えーーーあの。今日見て見たら、お気に入りしてくれてる人がもう100人弱に…。
嬉しいです。けど、驚いてます。

おかしいな。1話を投稿したときはまだ30人も行っていなかったくらいなのに。

楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
それではどうぞ


神夏ギル

精霊識別名【アロガン】

意味はフランス語で『傲慢』

 

およそ4年前、イギリスで確認された精霊。

自分のことを『王』と呼称している。一人称は(われ)

特徴は金髪の長い髪。紅い眼。

服装は、一番よく見られるのが金色の甲冑を下半身と右腕のみにつけており、黒いシャツをつけている。

他には、全身を黄金の甲冑で覆っていたり、上はシスター服、下はヘビ柄のズボンといったものがある。

ちなみに、嫌いなものは神と蛇である。

 

 

識別名【アロガン】は、上記の通り、傲慢を表している。当てはまる四字熟語は唯我独尊。傍若無人。

その名の通り、周り全てを見下しており傲慢な口ぶり、そしてその口調に似合うかのような圧倒的戦闘力を有する。

また、非常に好戦的かつ残忍。その危険性は最悪の精霊と言われている識別名【ナイトメア】をも超えると言われている。

目障り、もしくは用済みになれば協力関係にあろうが容赦なく殺しにかかる。実際、精霊が1人殺されている。

 

鳶一折紙が所属する対精霊特殊部隊ASTや、その他の対精霊部隊が使う『ワイヤリングスーツ』を扱わせたら世界の3本指に入る人間のうち、2人を同時に相手をし勝った経験もある。(しかし、真正面からの勝負ではなかったりする)

 

彼女は、ただの人間に対しては軽蔑の意をもって『雑種』と言うが、彼女のお眼鏡にかなったりするとなかなかいい待遇をされたりする。

ちなみに、周りに人間がいないときは、ただの神夏ギルの性格になる。

なので、周りに精霊のみの場合はただの神夏ギルになる。

 

 

 

ただし、この精霊は一定時間を過ぎると力を無くすことがある、と言うことが確認されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、ほんとうにさ。私ってつくづくバカだよね」

 

本音を言えば、戦いなんて嫌だ。

ギル様の性格になると好戦的になってしまうから仕方ないとしても、私自身、戦えなんて言われたら速攻拒否する。

たとえ命を握られてても頷けるかどうか怪しいくらいには。

 

「けど、なーーんでか五河くんみたいな人を見るとさ、手を貸してあげたい、っていう感情が前に出てくるんだよねぇ。なんでなんだろう」

 

確かに、私の大好きな英雄王は認めた相手には敬意を払ったり、作られた存在であったり、子供とかには彼なりの慈悲を見せることはある。

 

けど、あくまでそれは『英雄王』であって『私』じゃない。

 

私は、血を見ることも嫌いだし、人を殺すなんてもってのほかだ。

 

 

あ、二次元は別腹ですよ?

でも、Fa○e/z○roの一部とかの本気なガチグロは苦手です。

 

 

初めて精霊化したとき、力が暴走して、両親だけでなく、その周りの人間も殺してしまった後、しばらくは食べ物どころか飲み物、息を吸うことにすら嫌悪感を抱いてしまった。

 

「ま、どーせもうしばらく経ったらこの国からも出るし、そしたら五河君に会うこともないだろうし。おとなーーしくしとけばえーと……なんて企業だっけ?……まあいいや、狙われることもないでしょう。てことで……………」

 

私は、ゲートから剣を一本取り出し、校舎の外に構えている雑種たちの目の前に出てくる。

 

「…っ!また【アロガン】っ!総員散開!」

「りょ、了解!」

 

「なぁに、そう怯えるな。敵わぬとわかっていてもなお足掻く貴様ら雑種にチャンスをやろうというのだ。我は剣一本しか使わぬ。もちろん、霊力の不可視の壁なぞくだらないものは使わん。どこからでもかかってくるがよい。せいぜい足掻いて我を愉しませよ、雑種。結果によっては不敬の免罪にせんでもないぞ」

 

「舐めた口を…!」

 

リーダー格の雑種が怒りのこもった声を発し、その後一斉にかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日 朝〜

 

「そうだよな…普通に考えれば休校だよな……」

 

士道は後頭部をかきながら高校前から伸びている坂道を下っていた。

士道が名もなき精霊に十香と言う名をつけた次の日だった。

 

普通に登校した士道は自分の阿呆さに息を吐いた。

まさに校舎が破壊される現場にいたわけだし、普通に考えれば休校になることくらい推測できただろうが、余りの非現実的な光景に無意識下で自分の日常と切り離していたのだろうか。

それに、昨日の夜はずっと反省会をさせられていたので寝不足になっていたと言うのもあるだろう。

 

「買い物にでも行くか」

 

士道はそんなことを呟きながら帰り道とは別の方向へ足を運ぶ。

 

「……」

 

十香。昨日まで名を持たなかった、精霊と、災厄と呼ばれる少女。買い物へ行くまでの間、その少女のことをずっと考えていた。

 

確かに、普通でない力を持っている。けど、士道からすれば()()()()()()な少女にしか思えなかった。昨日、直にあって話をしたが、彼女がその『力』を悪戯に振るったり、思慮も慈悲もない怪物だとはどうしても思えなかった。

 

「……ドー」

 

そして、もう1人のあの黄金の少女だ。たしか、妹の琴里に聞いたものだと、【アロガン】と言うらしい。

 

「……シドー」

 

あの少女は他人を見下してはいた。だけど、それと同時に深い孤独感をどこか感じ取ることができた。

けど、カンと言わざるを得ないから保証もできたいが。

 

「無視をするなっ!」

「---え?」

 

視界の奥から、そんな声が響いてきた。

どこかで、しかもつい最近聞いたことあるような……

 

けど、聞こえて来るはずのない声。

恐る恐る声のした方向に目を向けると…

 

「と、十香⁉︎」

「ようやく気づいたか、ばーかばーか」

 

瓦礫の上に、ドレスを纏った少女……十香がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……もう……」

 

痛い。身体中が痛い。血も、たくさん出ている。

精霊の力も使えない。

本格的にまずい。

 

「この制約、忘れてた………。これは、死ぬかも………」

 

しかし、やられたのが精霊化していない時で助かった(?)

おかげで、汚さずにすんだ。

 

にしても、私ってつくづくバカだよね。

 

「と、とりあえず………寝て霊力回復………」

 

そして、公園のベンチに横になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

「む?」

 

十香と移動をしている最中にたまたま公園の横を通ってしまった。その時に、見てしまった。

 

なぜ十香と一緒かと言うと、昨日にこの少女をデートに誘ったのだが、まさか昨日の今日で来るとは思ってもいなかったのだ。

しかも、いつもと違うのが、()()()()()()()()()()()()と、言うことだ。

いつもは十香いわく()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

で、俺のところに会いにきた十香は、なにやらデートに興味津々なわけで……。

いや、俺が誘ったんだけどさ。

 

と、そうだ。神夏のことだ。

 

あの金髪は忘れようもない。

神夏ギルだ。ベンチの上に寝そべって寝ている。

ただ、何かおかしい。

 

やけに右腕や腹が赤く見える。

血?

 

「十香。少しだけ見てきてもいいか?」

「むー、まあいいだろう」

「ありがとう」

 

十香の許可も得て見に行くと…

 

「な……んだよ、これっ!」

 

控えめに見ても、ひどい怪我だった。

 

「……っ…?あー、えーと……五河くん、だっけ?ちゃ…おー……」

 

「おまっ……その傷は…」

 

「あー、これね。ちょいとやらかしてしまいまして…」

 

「と、とりあえず立てるか?病院で治療を……」

 

「あー、ダメ。病院は……嫌い」

 

「な、なら俺の家で治療を。すぐそこだから」

 

「いや、いい。どーせほっといたら…治る。それより、見た限りデートか何か…でしょ?後ろの彼女さんが……めちゃくちゃしかめっ面で見てるから、早く行きな……」

 

「…っ!なら……」

 

俺は、琴里に電話をかけた。

しばらくコールをすると琴里が出た。

 

『はいはーい!なんでしょうか?愛しのおにーちゃん!』

 

「あ、琴里か?その……こないだ言ってた神夏ギルなんだが……」

 

『……』

 

と、神夏ギルという名前を出した途端、電話の向こうでシュッシュッという音がした。

 

『で、どうしたのかしら?』

 

すると、司令官モードになった琴里から返答が来る。

 

「ああ、いますぐそばにいるんだけど、怪我をしててな、治療してやってくれないか?」

 

『はぁ?精霊が、怪我?』

 

「あ、ああ。だから…」

 

『……はぁ、わかったわよ。クルーに向かわせるわ』

 

「助かる」

 

精霊を武で持って撃滅しようとするASTとは真逆、対話で持って精霊による被害をなくそう、という組織の()()()()である妹の琴里に任せれば、きっと大丈夫だろう。

 

「あ……十香のことを言うの忘れたな。まぁ、いいか…」

 

けど、やはり怪我人を放っておくと言うのは味が悪いもので気にしてしまう。そのことが、さらに十香の機嫌を悪くさせてしまい、きな粉パンを大量に買う羽目になる。

 

 

 

 

 

 

 

〜フラクシナス内部〜

 

「うん?ここどこ。私ってなにしてた?てか、私って誰?……ああ、ごめんなさい。冗談です」

 

気がつくと、よくわからない場所の看護室にいた。

腕とお腹に包帯が巻かれている。

そして、目の前には長身、ウェーブのかかった髪に日本人離れした鼻梁の男がいた。

 

「ああ、初めまして。わたしは神無月恭平と申します。以後お見知りおきを」

 

「はぁ…。それで、私を拉致してなにをするつもりで?言っとくけど、私は君たちみたいな一般人が妄想で抱くような女じゃないですよ。オタクだし、中二病だし、胸ペッタンだし」

 

「心配せずとも、そんなことはしません。私たちにとって、大事な人ですからね」

 

「……?」

 

よくわからない。そもそも、この人とは会ったこともないはずだ。

 

「状況整理がまだできていないでしょうから、説明がてら少し歩きませんか?」

 

「……セクハラをしようものなら、遠慮抜くぶっ飛ばすと言う制限付きでいいなら」

 

「ええ、もちろん。というか、遠慮なくやっちゃってください!」

 

と、やけに元気のいい返事を返してきた。

あれ?おかしいな。最後の一言いる?あと、想像してんのか知らないけど悶えないで。気持ち悪いからさ。

 

 

……え?お前も人のこと言えないだろって?いやいや、私はドMじゃありませんよ。ええ、二次元相手だけです。

 

 

と、まあくっだらないことは置いておきまして。

中を案内してもらうと、なんか、船の内部、みたいな感じだった。

『フラクシナス』っていう空中艦らしい。

で、この船は『ラタトスク』っていう組織のもの。

今は、司令室にいる。人がたくさん。やだなー。人見知りにはきつい。めっちゃ見られてる。、

 

「私たちは、ある生物と対話による平和的な解決を目標にしています。ある別の組織とは真逆ですがね」

 

「へぇ、なるほど」

 

「そのある生物とはご存知で?」

 

「いいえ。世間には興味ないので」

 

「……その生物とは、『精霊』です」

 

「……」

 

 

……なるほどね。色々と察せたよ。要は、私を捕まえておきたい、とかそういう感じでしょ。

 

 

「わざわざ私にいうってことは、私が『精霊』だってことも知ってるんですよね?」

 

「ええ、神夏ギルさん。識別名【アロガン】。四年前、イギリスで確認された精霊。能力は、幾多の武器を発射する。黄金の甲冑が特徴の精霊」

 

「ええ、そうですね。それで?私と対話を望むと?」

 

「はい」

 

…バカバカしい。平和的な解決だがなんだか知らないけど、どうでもいい。私は、自分でおとなーーしく生きていければいい。

 

他人に人生の一部を握られるなんてもってのほかだ。

 

「すいませんが、私は対話する気なんてないです。治療の件はありがたいですが。私はこれで失礼させてもらいます」

 

と、軽くお礼だけいい今まで来た道を引き返そうとする。

けど扉は開かなかった。

 

「……なんのつもりでしょうか?」

 

「いえ、司令に絶対に逃すな、と言われておりますので。できる限り穏便に、またあなたの機嫌を悪くさせないように、とは言われているので荒っぽいことはしたくないんです。なので、おとなしくしておいて欲しいんです」

 

「荒っぽいというのは………」

 

もう、めんどくさい。精霊の力を使って脱出しよう。ギル様の性格出ないように気をつけないと。

そして、私は人間たちの呼ぶ【アロガン】

真名を最古の英雄王ギルガメッシュになる。

 

……ああ、もちろんFa○eの英雄王と設定全く同じです。

いや、設定とかじゃないな。精霊になってるときは、本当の英雄王になってるから。

 

「こういうことなのだろう?雑種ども。我を罠に陥れようとは、舐めたことをするものだな」

 

「……っ!」

 

「そう怯えるな。()()()の意思に免じて殺しはせん。ここから離脱するだけだ」

 

周りの雑種どもがいつも武器を発射している異次元の空間をいくつも見せると、ある雑種は怯え、ある雑種は構え、など様々な反応が見られた。

 

「だが…そうだな。我のせいで()()()が死にかけたのを助けたのには褒めてつかわそう。我は、()()()がいなければ顕現ができぬからな。だが、雑種ども。貴様らが対話による解決を望むと言うのならば、我も()()()も応じる気は一切ない」

 

それだけを言い、我は空間転移をし外に出た。

 




どうでしょう。

神夏は、他人に縛られるのをきらっています。

他人の勝手な都合に巻き込まれるのも嫌っています。
けど、自分の都合は押し通すようなやつです(笑)

さて、自分なりに頑張って書いていきます。

読んでくださりありがとうございます


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3話

すいません、改めて3話を読み返したところ

じぶんでも『なんでこうなった⁉︎』
と思い、改めて書きなおそうと思い、3話を改めて投稿します。

深夜のテンションで書いていたため、なんか急に違うようになった、と思った人もいるかと思います。私もです。

すいませんでした。


次からは、ちゃんと書きます。

それではリメイク番、どうぞ


「あーー、もう!」

 

だからだからだからだから!

 

1人でおとなしくオタ生活したかったんだよ!

他人に関わるとロクなことにならない!

 

他人は、私が特別、もしくは異物だと知ると途端に態度を変える。

 

 

私の本質を見てくれる人なんて誰もいやしない。

親も、親戚も、クラスメイトも、何もかも。

 

 

だから……

 

「人付き合いは、嫌なんだよ」

 

他人に期待をし、絶望を知るくらいなら、初めから独りの方がいい。

そう思い、親戚や知り合いの多いイギリスから日本に来たのに。

 

まぁ、アニメ大国である日本に来たかったと言うのが一番ですけどね?

あくまでも、人付き合いも嫌だった、って言うのもあるってだけ。

 

にしても…

 

「『ラタトスク』ねぇ。念を押しといたから、もう来ないとは思うけど、念には念を、ってことで警戒くらいはしますか」

 

さてと、方針も決めたところで、公園()に帰りますか。

はい、未だに絶賛ホームレスですよ。

お金だけはたくさんあるからいいものの。ASTユルスマジ

 

……え?ホテルに泊まれって?

 

いやだ、何気にホームレス気分を味わっていたい。

 

……おいそこの人。変人だとかバカとかちっぱいとか言うな!

 

 

 

 

……あ、やっぱりアニ○イト行こ。

 

 

 

 

〜アニ○イトのすぐそば〜

 

いやー、やりましたやりました。超運が良かった。

 

まさかのギル様の声優のイベントがあった!てか、わたしとしたことが、イベントを見逃してたとは…。まあ、結果オーライ。

写真も撮れるわ、罵ってもらえ……いや、なんでもないです。

しかも、抽選でもらえるプレミアグッズも当たっちゃいましたよ。もう、万々歳。

 

この際だから、店にあったやつ全種類を二個ずつ買ってきたよ。

金持ち万歳。

 

裏路地で人がいないのを確認して精霊化し、ストラップ数個と財布以外はゲート・オブ・バビロンにしまっておいた。

これで安心!

 

あとは、公園()に帰るだけ!帰るまでが買い物ですよ。みなさん。

 

……?あれ?フラグ建築しちゃってるのは気のせい?

 

気のせいだよね。よし、さっさと帰……

 

「ヘヴッ⁉︎」

 

え?なに?不可視の壁みたいなものにぶち当たった。

てか待って。なんか味わったことあるよ、これ。

 

「【アロガン】発見。みんな、折紙の邪魔をさせないようにするわよ」

「「「了解!」」」

 

えーと、たしかAST?だっけ?そのメンツが今たくさんいる。

けど、鳶一折紙とかいうやつだけここにいない。

 

「うわっ⁉︎」

 

ドガ――ンという音とともに粉塵が巻き上げられる。

 

危なっ!いきなりミサイル撃ち込んでくるな!

 

「あのさぁ、AST?でしたっけ?私が何をしたんですか?私からあなた達に手を出したことがないと思うんですが」

 

「形を持った災厄を放っておけるとでも思ってるのかしら?」

 

「デスヨネー」

 

けど、一つ言いたい。

私は空間震起こしたことないよ?

 

勝手に霊力ある=危険な精霊だって判断して襲いかかってきてるのあんたらですからね?

 

それで返り討ちになってるだけなのに。

 

「(とりあえず、逃げようかな)」

 

ヒュン!

 

「え?」

 

え?ちょい待って?なんか、何かが体の近くを通ったと思ったら手元からガシャン!って音が聞こえた気がしたんだけど。

 

恐る恐る手元を見ると……。

 

 

「ああああ!!!!」

 

 

「「??」」

 

こいつら!こいつら!なんでピンポイントでストラップ狙う⁉︎しかもこれレアもの!

 

「…マジでふざけないで…。狙うなら私を狙えっての…」

 

自我が飛びかけてるのを必死に押さえつけながら、私は精霊化した。

 

いつもの、下半身と右腕だけの格好だが、いつもとは違い、敵意をむき出しにした。

 

 

「覚悟しろよ。雑種ども。我の怒りにふれたのだ。肉片一片たりとも残しはしないと思え」

 

 

そして、我は目の前の殺すに値した雑種を、蹴散らしにかかった。

 

 

 

 

 

 

「くっそ!」

 

まずい、精霊を怒らせてしまった。

四方八方から飛んでくる武器を紙一重で、なんとか避けていながら、日下部燎子は自分の失態を呪っていた。

 

精霊化していないのだから、早めに仕留めれば良かったのに、と。

 

だけど、もう手遅れだ。

それだけは直感でみんなわかっていた。

 

真上から剣が、左からは槍が、後ろからは斧が、右からは薙刀が、とにかく武器が飛んでくる。

 

しかも……

 

「絶対、嬲りつくして最後に殺そうとしてるわよねっ!」

 

下から飛んできた剣を弾く。

 

「(まずい…このままだと折紙の方に…)」

 

「ほう?まだ他のことを考える余裕があるとはな。よほど死にたいらしいな」

 

すると、【アロガン】はいきなり距離を詰めてきた。

気づくと手には剣を持っていて、切りつけてきた。

 

「ぐっっ!」

 

「ふんっ」

 

「きゃあっ!」

 

剣を受け止め、なんとか止めているとアロガンの後ろから異次元の円状の空間の歪みが発生し、またそこから武器が発射された。

 

それを受け止めれるわけもなく、後方に勢いよく飛ばされる。すさまじい勢いだったものが突如緩和されたかと思うと、折紙が待機していた場所まで飛ばされていた

 

「くっそ!」

 

そして、急いで起き上が…

 

「な…」

 

「ん?何を驚いている。ただ移動しただけだが?」

 

ふざけるな!さっき飛ばされたところから30メートルはあるわよ!

 

「隊長」

「っ、折紙は【プリンセス】に集中してて!こっちは私たちがなんとかする!」

 

「できると思っているのか?貴様ら雑種に」

 

「「っ!」」

 

すると、また全方位から武器が顔を覗かせる。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

「こ…のぉ!」

 

力任せにブーレドを振るうも、逆にブレードが壊れてしまった。

 

「終わりか?では、潔く散れ、雑種」

 

そして、勢いよく、10本を超える武器が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜高台の公園〜

 

士道と十香は、デートの途中で景色のいい公園に来ていた。結果は、色々とトラブルはあったがうまくいった方だろう。

 

「な?お前を殺そうとする奴なんていなかっただろ?」

 

「……ん、皆優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」

 

「あ……?」

 

と、目の前の少女----十香は自嘲気味に苦笑した。

 

「あんなにも多くの人間が私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんてな。あのメカメカ団……ええと、なんていったか。えい…?」

 

「ASTのことか?」

 

「そう、それだ。町の人間全てが奴らの手のもので私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」

 

「……」

 

発想が飛躍しすぎていたと思ったが、それを笑えなかった。

だって、十香にとっては、それが『普通』。

 

否定される人生が、『日常』。

 

なんて、悲しいことか。

 

「じゃあ、俺もASTの手先ってことになるのか?」

 

と聞くと十香はブンブン!と力強く首を横に振った。

 

「シドーはあれだ、きっと親兄弟を人質に取られて脅されているのだ。………お前が敵とか、そんなのは考えさせるな

 

「え?」

 

「なんでもない」

 

最後の方が聞き取れなかったが、聞き返すも顔を背けられてしまった。

 

「でも、本当に今日は有意義な1日だった。世界がこんなにも楽しいなんて、優しいなんて、綺麗なんて、思いもしなかった」

 

「そう……か」

 

その言葉に安堵感を抱き、口元が綻ぶ。

けどそれとは対照的に十香は眉を八の字に歪めて苦笑していた。

 

「ASTの考えも、少しだけわかったしな。私が現界するたびにこんな綺麗なものを壊していたのでは、それは奴らも血まなこで私を殺しに来ると言うのも納得がいく」

 

そんなことを言って欲しくない………。

 

 

「やはり…私は、いない方が、いいな」

 

 

十香は、笑った。無邪気な笑顔ではなく、死期を悟った病人のように、弱々しく、痛々しい笑顔で。

 

 

「そんなこと、ない!!」

 

 

思わず、叫んでしまった。

 

「今日は空間震が起きてねえじゃねえか!きっといつもと何か違いがあるんだ!それさえ突き止めれば……!」

 

「たとえ、その方法が確立したとしても不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は止められない」

 

「なら、向こうに帰らなければいいだろうが!」

 

「そんなことが…可能なはずが…」

 

「試したのか⁉︎1度でも!」

 

「………」

 

俺の言葉に、十香が唇を結んで黙り込んだ。

そして…

 

 

「で、でもあれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

 

「そんなもん、俺が全部教えてやる!」

 

「寝床や、食べるものだって必要になる」

 

「それも………どうにかするっ!」

 

「予想外のことが起きるかもしれない」

 

「んなもん、起きたら考えろっ!」

 

 

十香は、少し黙り込んで、また小さく、恐る恐る口を開く。

 

 

「……本当に、私は生きてもいいのか?」

 

「ああ!」

 

「この世界にいても、いいのか?」

 

「そうだ!」

 

「そんなことを言ってくれるのは、きっとシドーだけだ。他の人間たちは、みんな私のような危険な存在が自分たちの空間にいたら嫌に決まってる」

 

「他人がお前を否定しようがそんなもん知ったことか!そいつらが、十香を否定するってんなら!それを超えるくらい俺が!()()()()()()()ッ!!」

 

そして、手を差し出した。

 

「握れ!今は、それだけでいい!」

 

 

 

その手を、十香がそろそろと掴もうとした時だった。

 

 

 

なぜかわからないが、途方も無い寒気がした。

ザラザラした舌で舐められるような、嫌な感触。

 

「十香!」

 

俺の前にいた、十香を、反射的に突き飛ばしてしまった。

 

その直後、お腹に、途方も無い衝撃を感じる。

 

十香が何かを言ってくるが、何も聞こえない。

 

 

おかしい………だって………かんしょ……が……にも……無……。

 

 

 

 

 

「シドー………?」

 

 

ズガァン!と鳴り響いた音とともに盛大な粉塵を巻き上げられ、その中を出横たわっている士道の名を呼ぶも、返事はない。それもそうだ。士道の胸には、自分の手のひらより大きな穴が空いている。

 

数瞬前まで差し伸べられていた手は、一分の隙間もなく血に濡れていた。頭が、それを理解しようとしなかった。

 

「ぅ、ぁ、あ、あ………」

 

理解したくないものを、頭が理解し始めた。

 

すぐそばには、シドーを貫いたと思われる()が。

しかも、この威力。自分ですら、霊装をまとっていても危なかったかもしれない。

 

先ほどまで騒がしかった台地の方からこの槍は飛んできた。

この力は覚えがある。

 

あの『精霊』だ。

 

私は、途方も無い眩暈を感じながらも未だ空を眺めているシドーの目に手を置きゆっくりと瞼を閉じさせてやった。

 

 

 

嗚呼、嗚呼。

やっぱり、ダメだった。

 

世界に否定された。

それも考えうる限り、最低最悪の手段で!

 

「----『神威霊装・十番(アドナイ・メレク)』……」

 

 

 

霊装が、絶対にして最強の、彼女の()()が顕現してしまった。

 

 

 

精霊になった瞬間に、世界が啼いた。

 

災厄(わたし)が現れたことを嫌がったのか、拒絶しようとしたのか、ギシギシと、空が軋んだ。

 

平らになっている高台に目をやる。

あそこに、士道を撃ち殺した奴がいる。

 

()()()()()()()()()()奴がいる。

 

 

「ああ」

 

 

喉を、震わせた。

 

 

「ああああああああああーーッ!」

 

 

天に響くように。

 

敵意の眼差しを高台に向け、嘆く。

 

 

「よくもよくもよくもよくも!」

 

 

初めて感じる感情で、憎い、殺したいという目で高台を見る。

 

そして私は、高台までの距離を()()()

 

 

「な---ッ⁉︎」

「……」

 

「ほぉ」

 

高台には、ボロボロになっている人間が二人と、黄金の甲冑を身に着けた精霊が。

 

 

憎い……憎い憎い憎い!!その黄金の精霊が憎い!

その姿を確認すると同時に私は吼えた。

 

 

塵殺公(サンダルフォン)、【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】!」

 

 

私の【天使】を見て、黄金の精霊は距離を取る。

 

【天使】----精霊である私の、絶対的な力を示す武器。

 

 

「嗚呼、貴様だな、貴様だな」

 

「何があったかは知らんが、王たる我に出会い頭にそのような態度とは、不敬であろう?」

 

「我が友を、我が親友を、シドーを殺したのは、貴様だな」

 

「ほう、あの道化は死んだのか。だが、たとえ死んだとしたら、それは其奴の『運命』だったまでのこと。怒る要素がどこにある?」

 

と、冷静沈着に返してきた。

 

 

 

だけど、黄金の精霊の顔には、僅かだが焦り、または後悔の感情が表に出ていた。

 

 

 

だけど、そんなことに気づく余裕など、十香には微塵もなかった。

()()()()()

 

 

「殺して(ころ)して(ころ)し尽くす。死んで()んで()に尽くせ」

 

 

「ふん、まあいい。くるがよい、小娘。今から貴様に、真の王者たる姿を知らしめてやろう」

 

 

ドレスの少女は【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】を構え、黄金の少女は、【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】を展開させた。

 

そして、両者はぶつかった。

 

周りの人間なぞ、御構い無しに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私は何をしたいのか、自分でもわからない。

 

他人に期待をしたい?したくない?

 

他人を守りたい?守りたくない?

 

絶望して欲しくない?絶望したくない?

 

他人に関わりたい?関わりたくない?

 

独りでいたい?いたくない?

 

答えも、よくわからないままだ。

 

 

嗚呼、でも、これだけはわかる。

 

 

『士道は信じたかった』

 

 

これだけは、多分本当。

 

けど、その五河士道はもういない。なら、私はどうすべきなのか………。

 

この時は、

怒りに身を任せるしか、できなかった。




はい、リメイク前とは、最終的な結果は変わらないようにしました。

感想でも、いつ士道とのフラグを立てた?とかありまして、前書きでもいった通り、自分でもなぜこうなったのか謎です。

しっかりと、書いていきます。
今回はすいませんでした。


読んでくださりありがとうございます


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4話

はい、4話目です。
今回で原作1巻目は終わりですね。

それはそうと、FGOみなさんやってますか?自分はやってるんですがイベントの超高難易度に絶望してます。


はい、無駄話はやめておきますね。
それではどうぞ


無数の武器が飛び交い、たった一本の、10メートルはある巨大すぎる剣がそれを薙ぎ払う。

 

漫画やアニメでしかありそうにない光景が、今現実に起こっている。

 

「ふははははっ!」

「あああああっ!」

 

そして、戦っている2人は、片方は高らかに笑い、片方は怒りに身を任せて叫んでいる。

 

周りの人間は、化け物、など叫びながら止めようとしているが触れるどころか近づくことさえ叶わない。

 

「が…っ」

 

「ん?どうした?これくらいで朽ち果ててくれるなよ?小娘。貴様のその剣が個の究極だとするならば我の宝物庫は()()()()()()()の究極だ。この通り最上位の武具は有り余っている。貴様の本気を出さねば、死ぬことになるぞ」

 

その均衡を破ったのは、黄金の少女だった。

ドレスを纏った少女の左腕が血に染まる。

 

「我が許すまで死ぬことは許さんぞ。精々その足掻きで我を愉しませよ」

 

「う…がああああああっ!!!」

 

そして、再度2人の少女はぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜フラクシナス内部 司令室〜

 

「司令……っ!」

「わかってるわよ、騒がないでちょうだい。発情期の猿じゃあるまいし」

 

フラクシナスの司令官である五河琴里は、つい今しがた自分の兄が死に、状況が絶望的になったにも関わらず

 

()()()()()()()()()()

 

状況は、圧倒的に、絶望的に、破滅的に、絶望的だった。

ようやく空間震警報が鳴り始めたが、避難などほとんど済んでいない。

 

そんな中、2人の精霊による戦闘が始まった。

 

初めは人のいない開発地で救い…と思ったが、そんな部下たちの楽観をたやすく打ち砕いた。

 

今までの十香が可愛く見えるほどの超越的な破壊力。

 

今までの【アロガン】は全く実力を出していないかと思えるほどの殲滅力。

 

数分も経たないうちに広大な開発地は更地と化した。

原型など残っているわけがない。

 

周りにいるASTは、まるで塵のように余波のみで吹き飛ばされている。

 

「……っ!司令!」

 

「わぁお、あの十香相手に傷をつけるなんてね。さすがは【アロガン】」

 

ほんのわずかな間、戦闘がやんだかと思うと、十香の左腕に傷がついていた。

 

「ま、とにかく士道がヘナチョコじゃなくてよかったわ。ちょっと優雅さが足りないけど騎士(ナイト)としては及第点かしらね。アレでお姫様がやられてたら目も当てられなかったわ」

 

だが、琴里はさほど深刻そうな調子も見せずに言う。

 

「みんな、そんな戦慄したような目でこっちを見ないでちょうだい。心配せずに自分の作業を続けなさい。士道が、これで終わりなわけないでしょう?」

 

そう、ここからが士道の本当の仕事ということを琴里、令音、神無月は知っている。

 

「し、司令っ!あれは…!」

「きたわね」

 

すると、艦橋下段の部下が画面左端-----運良く開発地と離れている公園に映っているものを見ながら驚愕に満ちた声を発した。

 

横たわって、制服の上着をかけられていた士道の体が、突如()()()()()

 

上にかけてあった制服が燃え、ずり落ち綺麗に刳り貫かれた体が露わになる。

 

「き、傷が…」

 

そう、燃えていたのは士道の制服ではなく、()()が燃えている。

 

そして、炎の勢いが弱まる頃には、完全に再生された士道の体が存在していた。

 

「さ、すぐに回収しなさい。彼女たちを止められるのは士道だけよ」

 

 

 

「さてと、お姫様の呪いを士道に解いてもらわなきゃね」

 

 

そう言い、琴里はくわえていたキャンディに口付けた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、なかなか楽しめたぞ。これほど楽しめたのは久方ぶりだ。だが、もう飽きた。終わりだ、小娘」

 

「…………」

 

2人の精霊の戦闘は、神夏ギルは無傷、十香は左腕のみの負傷で一旦止まった。だが、終わったわけではない。

 

互いに、『最強の一撃』を放とうとしていた。

 

「……終われ」

 

「褒美として、貴様に天の理を示してやろう」

 

十香は剣を振り上げ、そこで止めた。

ギルは、鍵のような剣をゲートから出し握り締める。

 

すると、十香の剣には周りから黒い輝きを放つ光の粒のようなものがいくつも生まれ、それらが収束していく。

 

ギルは、手にあった『鍵』の剣を回すとさらにゲートが開いた。

そこから出てきたのは、赤い光を放つ紋様のある筒を三つ重ねたような、ランスのような剣。

 

十香の剣は闇色の輝きを帯びた。

ギルの剣は巨大な空気の歪みを生み出し、その全てを剣の元に圧縮した。

 

2人の精霊の、剣を握る力が強まる。

 

そして、互いに振り下ろ----

 

 

 

十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!

 

 

 

互いに、振り下ろされようとした瞬間、空から、浮かんでいた精霊たちよりもっと上から

 

2人にとって()()()()()()()声が聞こえてきた。

 

十香もギルも、その声に気づいたのか剣を振りかぶったまま顔を上に向ける。

 

「シ……ドー?」

「ほぅ、生きていたか」

 

 

 

 

 

 

 

俺は、死んだはずなのによくわからないまま『フラクシナス』に回収され、よくわからないまま現状を見せられ、よくわからないまま解決方法を言い渡され、よくわからないまま()()()()()()()

 

そして、十香達を視界に捉え、大声をあげた。

 

頰と鼻の頭は真っ赤で、目はぐしゃぐしゃ。なんともまあ、みっともない有様の十香と目が合う。

 

俺は、そんな十香の両肩に手をかけた。

『フラクシナス』による重力緩和のため落下速度がとても緩やかになった。

 

「よ、よう……十香」

 

「シドー……ほ、本物、か……?」

 

「ああ、一応、本物だと思う」

 

俺がそう言うと十香は唇をフルフルと震わせた。

 

「シドー、シドーシドー……っ!」

「ああ、なん----」

 

と、答えかけたところで視界の端に凄まじい光が満ちた。

 

十香の振りかぶったまま空中で静止させていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒な輝きを放っている。

 

「な、なんだこりゃ…」

 

「っ、しまった……!力を…制御を誤った!どこかに放出するしかない……!」

 

「ど、どこかってどこだ⁉︎」

 

「-----」

 

十香は、無言で精霊となっている神夏の方を見た。

神夏はと言うと、モニターで見たときのような周りを崩壊させるような空間の歪みを発生させていた剣はもう持っていなかった。

 

ただ、こちらを見ていただけだった。

 

「……っ!十香、おまえ……っ!だ、駄目だぞ、あっちに撃っちゃ!」

 

「で、ではどうしろと言うのだ!もう臨界状態なのだぞ!」

 

そう言っている間にも、十香の剣はあたりに黒い雷を散らしていた。

 

---十香を止め、その力をも封印する唯一の方法。

 

「……十香、あのだな、落ち着いて聞いてくれ。それを、なんとかできる…かもしれない可能性が……ある!」

 

「なんだと⁉︎一体どうするのだ⁉︎」

 

「あ、ああ。その……」

 

と、すぐには口に出せなかった。

だって、琴里が言った方法は、あまりに支離滅裂で根拠に乏しくて脈絡がなく…

 

「早くしろっ!」

「……っ!」

 

けど、そうも言ってられず、腹をくくる。

 

「そ、その、あれだ…っ!十香!俺と、キッ、()()()しよう……っ!」

 

「何⁉︎」

 

すると、十香は眉根を寄せた。

それもそうだ。この非常時に何をふざけているのかと取られても仕方ない。

 

「す、すまん、忘れてくれ。やっぱり他に方法を……」

 

「キスとはなんだ⁉︎」

 

「は……?」

 

「早く教えろ!」

 

「……っ、き、キスってのは、こう、唇と唇を合わせ……」

 

と、言葉の途中で、十香はなんの躊躇いもなく、唇を、士道の唇に

 

押し付けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「………うーわ、本当にしちゃったよ」

 

十香との戦いが上から降って……いや、堕ちてきた五河君により中断され、ずっと話していたかと思うと、なんかキスをしようだ、あーだこうだ言ってて、結局した。

 

 

……一応、全国の非リアの声を代表して言っとこう。

リア充爆ぜろ!

 

 

にしても、さすがに『乖離剣エア』を使うようになるとは想定外。いや、まあギル様の気分次第だから予測なんてできないけどさ。

 

……いえ、すいません。天の理をーーあたりから予測はしてました。

 

…ん?五河くん達?

キスした後、十香の服がボロボロに崩れて半裸状態になった後地面に落ちていったよ。

で、霊力を見てたら驚いたことに、十香から霊力が()()()()()()()

 

「さて、めんどくさくなる前に消えますか」

 

今回はなんとかなったから良かったものの、もう少し長引いてたら文字通りこの辺一帯が消滅してた。

 

けど、正直そんなことよりは……

 

 

 

「よかった、誰も殺してなくて」

 

 

 

そっちの方が、100倍嬉しかった。

あ、でもASTは許さん。あれは死んでもよかったかな?

 

私は、あくまでも関係ない人を殺すのが嫌なだけなのです。

自分で手を下すのはどちらだろうと嫌だけどさ。

と、話が長くなりそうだからさっさと身を潜めよう。

 

 

「じゃあね、五河士道君。あと1回だけ、会いに行くよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜土日を挟み、月曜日〜

 

「……」

 

やっばい、超眠い。

 

土日徹夜でアニメ見るとかアホなことしたな……。

いやー、前期と今期は豊作豊作。

 

けど、言った通り徹夜したから超眠い。

でもやることがあったのでそれを我慢して必死に足を進める。

 

十分も経つと学校に着いた。

 

教室の中は、ざわついていた。

何事かと思うと、鳶一折紙が包帯だらけでいたからだった。

 

いや、まあどうでもいいけどさ。

 

それより、目的の人物の前に私は行く。

 

「五河君」

 

「……!お、おう、神夏。おまえ、無事で……」

 

と、何かを言いかけてたが、それを無視して、私はカバンをすぐそばに放り投げた。

 

そして、床に膝をつき、勢いよく床に頭を叩きつけた。

俗に言う、土下座だ。

 

 

…あ、ちなみに超痛いですよ?

 

 

「か、神夏⁉︎」

 

「五河く…いや、五河士道君。本当にごめんなさい。謝って済む問題ではないのはわかってる。でも、本当にごめんなさい」

 

周りに超見られてるのも気にせず、私は誠心誠意、謝った。これで許されるなんて思ってない。

 

「い、いいから、とりあえず頭を上げてくれ…」

 

「いや、これだけだと私の気が済まない。なんなら、一日中土下座しておく」

 

「それはいろんな意味でやめて⁉︎」

 

「じゃあ、何か一つなんでも言うことを聞く」

 

「いや、だからそんなことは……」

 

と、そこまで言いかけると、五河君は少し考えて声を発してきた。

 

「じゃ、じゃあ、こんど付き合ってくれねえか?簡単なことでいいから」

 

「はい、どんなことでも………って、はい?」

 

ん?このかた、今なんつったの?

聞き間違いじゃなかったらいろんな意味でボコるよ?

 

「ねえ、五河君、もう一回言って?」

 

「え?あ、ああ。えーとだな、少しだけ、付き合ってほしいことがある」

 

「それはいわゆるデートとか言うやつで?」

 

「いやいや!違う違う!秋葉に行きたいけど勇気が出なくてだな!それに行くのに本当に少し付き合ってほしいだけだ!だからそんな真っ黒なオーラを出さないで⁉︎」

 

あ、なんだ。それならいいわ。

むしろ秋葉なら遠慮なく言ってあげるわ。

 

でも、もしあの超絶美人の十香ちゃんという恋人がいながら私をデートに誘おうものなら刺してたかも♪

 

 

 

 

 

そんなこんなで、私の『日常』は、『非日常』に成り果てた。

 

おっかしーなー。私、五河君に謝ったら狙われまくるの覚悟でイギリスに帰ろうとか思ってたのに。帰るタイミング見失っちゃった。

 

その後、鳶一折紙と険悪な雰囲気になったり、十香ちゃんが転校してきて、一触即発な雰囲気になったりと、まあ、ぼっちには結構辛い場面になりましたよ。




はい、どうでしょうか?

余談ですが、精霊化した神夏に『乖離剣エア』を放たせたのは2人しかいません。

今回の神夏vs十香ですが、Fateでいうギルvsヘラクレス戦を参考にしました。

今の十香との力関係でいうならば、神夏が上です。
まあ、十香がほんらい……いえ、何も言わないでおきます。

感想とか何気に待ってたりしますモチベ上がるので

読んでくださりありがとうございます


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神夏ギルの物語❶
5話


…ちょっと前ですが、日間ランキング7位に乗っていました。
とてもうれしい反面。謎のプレッシャーがかかりました。
そして、一気にお気に入りしてくれている人も100人ほど増えてくれていて、とてもうれしいです。

これからも頑張ります。


えー、今回は少しオリジナルストーリーを組み込みます。
時系列的には、十香攻略後、第2の精霊攻略前、といった感じです。

それではどうぞ


「はぁー、あかん、これ死ぬ」

 

力をほぼ失った精霊----夜十神十香が転校してきてから何かしらと付きまとわれる。

 

嫌われるのは、まあいい。自分のしでかしたことの末路なんだから。

 

けどねぇ……

 

「ことあることに敵対してくるのはご勘弁……」

 

そう、ことあることに勝負やらなんやらを持ち込んでくる。

休憩時間とか休憩時間とか休憩時間とかに。

 

え?なんで休憩時間しかないかって?

室内授業は全部寝てて野外授業はすっぽかしてるからに決まってるじゃないですか。

 

はいそこ、これだから中二病は、とか社会不適合者とか言わない。

 

「とりあえず……不動産屋寄って帰ろ…」

 

「……あ!いたいた」

 

と、教室を出ようとすると五河君が私を見つけて走ってきた。

え?なんで不動産屋寄るかって?もちろん、マイホームを買うためですよ。お金なら精霊の力のおかげで腐る程あるんです。

 

「五河くん、どしたの」

 

「あー、いや、こないだのことなんだけどさ…」

 

「………あ、秋葉原行くやつ?」

 

「そ、そう!それそれ」

 

「別に断る理由もないし、私はいいよ。日程とかそっちで決めてね。決めたら教えてねー」

 

「あ、ああ」

 

と、それだけ言葉を交わし私は教室を出た。

 

一応言っておくが、私はリア充になるつもりなんて毛頭ない。現実は疲れそうだから。何しろ、私には英雄王という命を捧げるにあたいする王様が既にいるんだから!

 

え?気持ち悪い?あっ、はい。自重しますね。

 

 

その後としては、やっぱり高校生がマイホームとか言ったせいで不審な目で見られて、辞めて一軒家を借りることにした。

けど、すぐに借りる、というわけにはいかなくて一週間後になった。

 

五河君との約束の日時は三日後。

 

もちろん、戦場に出かける服装で行くよ。

旅行用とかに持って行くバックと大量のマネーを用意しないと。

 

 

 

 

 

 

 

〜約束の日の前日 五河家〜

 

「シドー!今日の晩御飯はなんだ?」

 

「今日はハンバーグにでもしようかと思ってな」

 

「おお…!」

 

今日の晩御飯を作っていてそのメニューを言うと十香は目をキラキラと輝かせて喜んでくれる。

これほど楽しみにしてくれるのは少し嬉しいのもあり、下手なものは出せないとプレッシャーを感じる。

 

「あ、琴里。明日のことなんだがな……」

 

「んー?どうしたのー?」

 

「俺、明日は朝から出かけるから。ちゃんと十香の面倒を見てやってくれよ?」

 

「はいはーい!ん?そいえば、どこに出かけるのー?」

 

と、無邪気な感じで琴里が聞いてくる。

ツインテールをまとめているリボンを見ると司令官モードの時とは違い、白色だった。

 

「え?えーと……それは、だな」

 

「それとそれと!誰と出かけるの?」

 

「う…ひ、ひとりだ」

 

「うっそだー!」

 

と、嘘をつくとすぐさま見破られる。

嘘をつく理由としては、神夏と、ちゃんと自分の意思で話して見たい、と言うのもあり、本当に純粋に秋葉原に行って楽しみたいと言うのがあったからだ。

 

「言わないと許可しないぞー!十香ちゃんに色々と言いふらすぞー!あ!もしかして女とでかけるの⁉︎」

 

「い、いや、ちが…」

 

「言わないと令音さんに借りたおにーちゃんの弱点をばら撒くぞー!」

 

「ぐっ…」

 

まさかこの状態の琴里からダメージを受けるとは…。

 

「ねえねー!だれと行くの?」

 

「……神夏とだよ。秋葉原に行くのに案内をしてもらうつもりなんだ」

 

「………」

 

と、諦めて神夏の名前を口に出すと琴里が今つけている白いリボンを外し黒いリボンを付け替える。

 

「どういうことか説明してもらいましょうか」

「な、なんだなんだ⁉︎シドーがどうかしたのか⁉︎」

「いーえ、なんでもないわよ、十香。ほら、ハンバーグできたようだから食べてらっしゃい」

 

と、琴里が話に入ってきそうになった十香を優しく食事の方へ意識を持って行く。

 

「あー、あれだよ。十香が転校してきた日にな、神夏が謝ってきたんだよ。俺の腹を貫いたのは神夏だったんだろ?あいつ、そのことをずっと気にしてたらしくて、それで一つなんでもするって言ったから、前からずっと行きたかった秋葉原についてきてほしいなーって」

 

「……」

 

と、答えると琴里は何かを考えこんだ。

 

「日時は?」

 

「え?えーと、明日の朝9時に駅に集合って」

 

「よし、そのデート、私たち『ラタトスク』もサポートするわ」

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ。あの【アロガン】となんて、こんなチャンス2度と来ないわよ。これを機に、絶対にデレさせなさい」

 

「いや、デレさせるって…。ただ秋葉に行くだけなんだが」

 

「それを世間一般でデートっていうんでしょうが。わかってるとは思うけど、失敗したら大変なことになるんだからね。しっかりしなさい」

 

「はぁ…わかったよ。精霊を救うって言ったのは俺だもんな…。ああ、やるよ」

 

「ふん、それでこそ私のおにーちゃんよ」

 

 

 

 

 

 

 

〜約束当日〜

 

士道は、念のため約束の30分前にはきていた。来ていたが……

 

「おっかしいな……ここしかないと思うんだが」

 

約束の時間が過ぎ、30分が経っても神夏は来なかった。

 

「琴里、どうなってんだ?」

『わからないわ。とりあえず、【アロガン】がいそうなところを探しましょ。こちらからも探すから』

「そうだな。……それと琴里、その呼び方やめないか?」

『?』

「あー、ほら、あれだ。あいつには『神夏ギル』って名前があるんだから、名前で呼んであげたい…というか」

『あー、なるほどね。わかったわよ。これからは神夏と呼ぶわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐへへ……」

 

えー、皆さん。違いますよ?ただとても心地の良い夢を見ていて思わず現実世界の私がにやけているだけです。

 

内容はなんとなくしか言えないけど、とりあえずとても心地いい。

 

(なんか、約束があった気がするけど……まぁいいや……)

 

と、夢の中で約束をすっぽかすという始末。

 

神夏は、案の定というか、寝坊だった。

公園のベンチに横になって、腹だしのにやけ顔のヨダレ垂らしというだらしない格好で寝ている。

というか、本当にこんな格好して寝る奴がいるのかとツッコみたくなる

なぜ襲われないかというと、周りから見えなくなる道具を使っているからである。

 

だけど、それは効力の続いている間であって、今現在、弱まっている。

現に、通りかかった親子から指を刺されたりしている。

 

「………なぁ、琴里。これって神夏だよな?」

『え、ええ……』

「これは、どうやって起こすべきだと思う?」

『そーねぇ……。あ、選択肢が出たわ。ちょっと待ちなさい』

 

そして、士道にもあっさりと見つかってこの痴態を見られている。

 

『……よし、士道。起こさないように服をちゃんとおろしてお腹を見えなくして、ヨダレを拭いた後何事もなかったかのように起こしなさい』

「まぁ、それしかないよな……」

 

そして、士道は言われた通りにし、何事もなかったかのように神夏を起こす。

 

「むにゃ……………。あれ?五河君?どしたの………」

 

「いや、神夏。時間時間。約束の日今日だよ」

 

「………」

 

寝ぼけた目をパチクリさせながら神夏は腕時計を見て……

 

「あああああっっっっ!!!!ゴメン!」

 

「い、いや。いいよ。大丈夫だ」

 

「すぐに準備するから2分くらい待ってて!」

 

と、神夏はトイレの中へ駆け込む。

そこで用意していたかなりデカイバック(一週間くらい外出する用のもの)を取り出し、服をいつものテキトーな格好に着替え士道の元へ。

 

「はい、本当ゴメン……。行こう」

 

「お、おう」

 

士道とラタトスクのメンバーはこの先大丈夫かと不安に駆られていた。

 

「ていうか、神夏。そんな大きいバックを持って行くのか?」

 

「ん?当たり前じゃん。今から行くところは2次元の聖地(戦場)だよ?五河くんこそ、そんな軽装でいいの?」

 

「へ?」

 

このときの士道は、秋葉原へいくこと……いや、秋葉原でオタクに振り回されることがどれだけ大変かまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

〜秋葉原 昼前〜

 

「ほらほら!次こっち!」

「ちょ、ちょっと…」

 

 

「ほらほら、バテないバテない!」

「た、頼む……休憩したい…」

 

 

「今度はこっちね!」

「……-」

 

 

 

秋葉原について5時間後

 

 

 

 

「ふぅ、一通り回り終わったかな?あれ?五河くんどしたの、そんなに疲れて」

 

「お、お前なぁ……体力ありすぎるしキャラ変わりすぎだろ……」

 

「それがオタクというものだよ。いやー、久々の聖地はいいねぇ。あ、五河君の見たいところってまだあったりする?」

 

「あ、あー、うん。そうだな…」

 

と、五河君に聞くとしばらく考え、そして()()右耳に軽く手を当てる。

 

(よくもまぁ、そういう動作を気にせずやるね。バレてないとでも思ってるのかな?)

 

多分、指示を受けているかなんかなんだろうね。何を企んでるかは知らないけど。

途中もちょくちょく独り言のようなことを言ってたし。

これを見逃してる理由としては、特に何かをしてくる風でもなかったから放っておいただけ。

 

「神夏ここら辺に軽く食べれる場所ないか?昼食を食べるタイミング逃したからお腹減ったんだよ」

 

「え?うーん、そうだな。あるっちゃあるけどね……」

 

「?」

 

「うん、そうだな。とりあえず行こうか」

 

と、神夏は今まで巡って買い漁ったグッズ等が大量に入ったタイヤ付きバックを片手に移動を始める。

 

「えーと、ここら辺に食べるところ自体はいっぱいあるんだけど……」

「なんだ?何かまずいことでもあるのか?」

「いや、そうじゃなくて……」

 

十分ほど経つと、大通りについた。

そこには、メイド喫茶や、ただの飲食店など、結構な数の店がある。

 

けど、気をつけないといけないのは、時たま強引に店に入れられてバカみたいな金額を要求されるとこがあるってこと(私の実体験に基づいている)

 

特に、1人の人は狙われやすいので要注意。

 

「………あ、あそこにしようか」

「ああ」

 

その中で、比較的安全そうで、値段も高くなさそうな店を見つけてその中に入る。

 

「ふぅ、で、どーだった?初の秋葉原は」

「なんと言うか……疲れた。神夏はいっつもこんな感じなのか?」

「まーね。まぁ、五河君が言ってた作品のも色々とあったしそっちにとっても有意義な時間になったと思うけど」

「ああ、それは…もう。楽しかったよ」

「うん、それならいいんだ。結構心配だったからね。私に無理やり付き合わせて秋葉原が嫌いになるかもしれないって。あ、私のことは嫌ってくれてオッケーなので」

「いやいや………」

 

そこからは、結構他愛ない話をした。

私がイギリスにいた頃どんな生活をしてたか、とか、五河くんの家族のこととか。

私のオタクのになったきっかけとか(熱が入りすぎて若干引かれた)

五河くんにとって、私はどう見えるか、とか。

 

色々と話したけど、()()()()()()はまだ何も聞けていない。

 

「……あ」

「ん、水くらい汲んでくるよ」

「ああ、ありがとう」

 

耳につけてるインカムのこととか、そんなことをしてる目的とか、私をどうするつもりか、とかね。

 

だから、私はゲートの中にあったある薬を水の中に溶かし込んだ。

もちろん、無味無臭。あ、毒とかじゃないからご安心を。

 

席に戻って水を手渡すと、よほど喉が渇いていたのかすぐに飲み始めた。

 

「ふぅ、そろそろでないか?時間的にも今でないと他のとこまわれないだろうし」

 

「うーん、そうだね。けどね、五河君。その前に、最後に質問いいかな?」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「正直に答えてね?

 

 

……五河士道、お前の目的はなんだ?お前の後ろには『何』がいる。お前含めてそいつらはなにをしようとしている?」

 

 

「………っ!!」

『わぁお、核心をついてきたわね。けど、素直に全部答えないでよ?私たち、神夏には前に目をつけられてるらしいから。間違ってもラタトスクの名前は……』

 

「俺の目的は、神夏とただ話をしてみたかった。俺の後ろについている組織は『ラタトスク』。今もフラクシナスっていう空中艦で俺たちをみてる。俺を含め、『ラタトスク』の目的は精霊と対話による平和的な解決だ。俺自身も、精霊を救いたいと、思っている」

『ちょっ、士道⁉︎』

 

「へぇ、どうやって平和的な解決をするわけ?」

 

「デートして、精霊に心を開かせる…要はデレさせればいいって聞いている。その後は、キスをすれば精霊の持っている霊力が俺の中に移る仕組みらしい」

 

「そのことができる理由は?」

 

「俺にもなんでこんな力があるのかはわからない。ラタトスクもまだ解析できていないらしい」

 

「じゃあ、えーと、十香ちゃんだっけ?あの子の霊力も君が持ってると?」

 

「そうらしいが、俺はよくわからない」

 

「じゃあ、私がうまくいけば私の霊力--もとい能力も手に入れるつもりだったと。なるほどねぇ」

 

 

 

………はーあ、結局、私に近づく奴は()()()()()()()()()だ。私が、特殊ゆえに、近づいてくる。

 

もう、そんなのはうんざりだ。そんなんで、命の危険にさらされるなんてもう嫌なんだよ。

 

 

 

「ふーん、どうも。いい話を聞けたよ。んじゃ、もう君と一緒にいたり話したりすることなんか何一つないね。じゃあね、………えーと、ごめん、だれだっけ?」

 

と、私は久しぶりに抱えた怒りのこもった声で目の前の男に別れを告げた。

 

「もう、今後話しかけてこないでね。君の後ろにいる組織も、【今回は見逃すけど次またきたら容赦はしない】、って伝えておいて」

 

「ちょっ、神夏!」

 

制止する声を無視して、私は男の前から姿を消した。

あ、臨界に消えたわけじゃないからね。ただ撒いただけです。




注)この物語はフィクションなので現実の秋葉原とは全く無関係です。


はい、次かその次あたりまでオリジナルストーリーは続きます。
よしのん見れると思ったか?


単純にストーリーどう組もうか思いつかないだけです。
ごめんなさい


読んでくださりありがとうございました。
よろしければ感想お待ちしてます。モチベ上がるので


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6話

……ごめんなさい、前書きに書く内容があまり思いつきません

強いて言うなら、最近体調不良が続いてて結構ヤバめです。


それではどうぞ


「ふむ、()()()がこれほど怒るとは。今度は一体何をされたのだろうな」

 

我は、雑種どもの基地……確か、ASTといったか?そこの前まで来ている。

なんでも、ストレス発散を望んでいるらしい。

 

自白剤を取り出していたあたりで何かあるとは思っていたが…。

どうやら、とてつもなく不愉快なことがあったらしい。

しばらく表に出るのも嫌になる程とはな。

 

「ふん、まあ良い。我が身の一部の願いのため、我の王としての力、存分に振舞ってやろう」

 

もちろん、殺しなどしない。適度に暴れるだけだ。

しばらく現世を堪能できることもあり我は上機嫌で雑種どもの基地を見る。

 

「さぁ、喜劇の幕開けだ。存分に愉しもうではないか」

 

我は、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を小規模ながらに展開し武具を放った。

 

 

 

 

 

 

 

〜フラクシナス内部〜

 

「あーもう!やっぱり!」

 

案の定、神夏は暴れていた。しかも、何を血迷ったのかASTの基地を襲撃していた。

 

「士道、念のためもう一度聞くけど、自分から喋ろうとはしなかったのよね?」

 

「あ、ああ。水を飲んだ後質問されて、口が勝手に動いて…」

 

「自白剤のようなものを使われたって所だろうね。情報によるとあの精霊は様々な効果のある道具を持っているらしい。武器から日常品までなんでもあるらしい」

 

令音が冷静にいう。

 

「しかも、グラフを見る限り、士道に対して本当にゴミクズに等しい感情しか持ってないわ。控えめにいって最悪よ」

 

「……」

 

モニターでは、神夏ギルが精霊となりASTを相手にし猛威を振るっている。

士道はそれを見て血が出るのではと思うほど拳を固く握り締めた。

 

「士道、後悔しても遅いわ。それに、今回の非は私達にあるわ」

 

「ああ、わかってる……」

 

神夏が質問を終えた後に見せた表情。

 

言葉にはされていないがはっきりと感じ取られた拒絶。

自分たちだけじゃない。現実の全てに対する拒絶。

 

「あ…」

「ようやく終わったのね。見た感じ死傷者がいないのはラッキーね」

 

モニターの中央では下半身と右腕に黄金の鎧をまとった神夏がいた。

周りには、突如襲ってきた神夏に向かっていくも蹴散らされたASTが数十人いた。

 

『……誰だ。許可なく我を見ている雑種どもは』

 

「「「⁉︎」」」

 

すると、モニター越しとはいえ神夏がこちらを見た。

 

「嘘でしょ⁉︎顕現装置(リアライザ)を2重にして不可視迷彩(インビジブル)を貼ってるのよ⁉︎」

 

『どうやら、この世界には我が直々に掃除せねばならない雑種がまだいるようだな。この気配からすると……我と平和的解決などと世迷言を吐いていたラタトスクとかいう組織か?』

 

「「「……っ!!」」」

 

「司令っ!霊力反応多数!数は40ほど!」

 

「わかってるわよっ!総員、迎撃準備!」

 

神夏の周りには40ほどの異次元の空間が開かれており、武器の先端がこちらに向けられていた。

 

「神無月、頼むわよ」

「はい、お任せください」

 

と、今にも戦闘が始まりそうだった。

 

 

 

 

「………琴里。頼みがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ⁉︎本気⁉︎)

 

(ああ、頼む)

 

(〜〜〜………!わか…ったわよ!)

 

(ありがとう、恩にきる)

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

何者かに見られている気配がし、その不敬者を罰しようとすると、いつかの道化が出てきた。

 

「貴様か?許可なく我を見ていた者は」

 

「…っ!あ、ああ。そうだ」

 

「ふむ、どうやら貴様は学んでいないらしいな。我を前にそのような態度でいるとは。そして、誰の許可を得て我を見ている」

 

なんの変哲も無い、ただの剣を発射し目の前の道化の足元に着弾させる。

 

「……っ!」

 

「ん?貴様は王たる我を前にしてまだそのような態度とはな。よほど覚えの悪い道化のようだな」

 

「……っ、すいません。偉大なる王の前に我が身を晒すお許しを頂きたく存じます」

 

と、跪きながらそう言ってきた。

 

「ふん、まあいいだろう。知らない間柄でもあるまいしな。貴様の道化に免じて我が姿を拝謁する名誉を許そう」

 

士道は、クルーの中津川に聞いていた方法を試した。すると、中津川のいうとおり、許しが出た。

 

「………ふむ、そうか。道化よ。疾く失せよ。死にたく無いのならばな」

 

「え……?」

 

()()()が貴様と会うことを拒絶しているのだ。疾く失せねば、殺すぞ?」

 

「……嫌だ!」

 

ヒュガン!

 

「…っ!」

 

雑種の足元を発射した武器により粉々に砕く。

 

「悪いが、貴様がどのような奴であろうが我にとってはどうでもよい。だが、貴様に対して()()()がかなりの拒絶感を得ているのだ。そうなれば、我も貴様を排除するしかあるまい。悪いが、我にとって()()()は特別なのでな。そして、臣下に害をなす輩を放っておくわけにもいかぬ」

 

「それでも……嫌だ!」

 

「そうか。ならば、死ぬがいい」

 

()()()()()()()()武器を数本、雑種めがけて撃つ。

 

だが、それらは当たる前に現れた別の雑種によって止められた。

 

「お、折紙⁉︎」

「士道、下がって」

 

と、オリガミ、と呼ばれた雑種は無言で我を睨んでくる。

む……?一度どこかで見たことがある雑種だな。

 

「はぁ、この世の雑種どもは何一つ学べぬようだな。そこの雑種よ。貴様にはもう一度だけ言っておいてやろう。2度とそのような不敬な態度を示すな。それと、そんなに我を殺したいというのなら、メイザースあたりでも連れてくるんだな」

 

「……っ、神夏!待ってくれ、話を……」

「士道、危ないっ!」

 

と、目の前の雑種どもの戯言を聞くより前に異次元の空間より武器を発射した。

 

目眩ましのつもりで放ったが、それで雑種どもが死んでいるのなら、まぁ、運命、と言ったところか。

()()()の気も多少は晴れたようだ。面倒ごとが起きぬ内にさっさと離れるとしよう。

 

 

 

さて、少しばかりのこの世を楽しむとするか。

 

 

 

 

 

 

 

〜五河家〜

 

「………」

 

俺は、どうするべきだった。琴里に無理を言って、神夏の前に出してもらったにもかかわらず、何一つできなかった。

 

「士道、そんなに落ち込まないで。そもそも、今回の落ち度は私たちにあるんだから」

 

「あ、ああ……」

 

神夏を考えてまず始めに思い出すのは、あの全てを拒絶した眼差し。

いったい、どれほどこの世界に絶望をすればあんな眼差しができるのか。

 

「………でも、やるって……決めたんだもんな」

 

でも、だからこそ、神夏を救いたいと強く思うようになった。

あの、とても楽しそうにしていた神夏に、あんな顔をして欲しくなかった。

 

たとえ、全てを拒絶されたとしても、神夏を、精霊を助けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、安物の割になかなか良いホテルだ」

 

我は市内にあるそこそこいいホテルにきていた。

 

今は腹を膨らませている。

 

「それにしても、我の力を取り込む、か。なかなか面白い戯言を言うものだな、あの道化は。………それはそうと、そろそろ心の閉ざしを止めたらどうだ?」

 

と、未だ我の()に閉じこもっている神夏に語りかけてみるも、『申し訳ございません。今は外の世界に触れたくないのです』という返事のみが返ってきた。

 

普通の雑種、もしくは我が国の民ならば尻を蹴り上げてでも立ち上がらせるところだが、神夏は特別ゆえにそのようなことはしない。

 

 

我は、いわば神夏の()を触媒に、神夏の()()()()呼び出された。

故に、文字通り我と神夏は運命共同体だ。そのようなものを無下に扱うことなどできようか。

 

 

そして、いつもなら神夏の霊力量により我が表に出る時間には制限があるものの、今はさほど気にする必要もない。

 

 

「さて、こやつの気がすむまで我は自由にさせてもらうとするか」

 

と、精霊【アロガン】、又の名を最古の英雄王ギルガメッシュは窓から見える月を眺めながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜フラクシナス 会議室〜

 

ここには俺----五河士道と、妹で司令官の琴里、解析担当の令音さん。副司令の神無月さん。そして、なぜか中津川さんがいた。

 

「……集まったわね。じゃあ、精霊【アロガン】である神夏ギルをどうやって攻略するか」

 

と、琴里がいう。

 

「ふむ、この間のやつも見たが、彼女のシンに対する感情は、拒絶以外何一つない」

 

「てすよね…。そんな中、デレさせることってできるのか…?」

 

やっぱり、神夏に対してはいくらラタトスクとはいえ八方塞がりに近い。

 

令音さんの持ってきたグラフによると、好感度のメーターが本当にゼロだ。見事に横軸と一体化している。

 

「えーと、司令。一ついいですか?」

 

「ん?どうしたの、中津川。というか、あなたがアイデア出してくれないとこっちも八方塞がりなんだからね?」

 

そういえば、あのとき言ったらいい言葉を教えてくれたのは中津川さんだっけ?

 

「えーとですね……。突拍子も無い話なんですが、あの精霊……勘違いでもなんでもなければ私、よく知ってるんですよ」

 

「「「え⁉︎」」」

 

「で、その経験則から言わせてもらうとですね。あの精霊を攻略するというのはほぼ不可能に近い……というか」

 

「まって、ちゃんと1から説明してちょうだい」

 

「はい。まずあの精霊の本当の名が…」

 

「え?神夏ギルじゃないんですか?」

 

「それは()()()()()()名前ですよ。……いえ、私がいうものも正確にはあの能力の持ち主、と言ったところでしょうか」

 

「いいから、早く言いなさい」

 

「はい、あの精霊----もとい英雄の名は『ギルガメッシュ』。人類最古の英雄で実在しているとも言われています」

 

「………ギルガメッシュというと、『ギルガメシュ叙事詩』のことかい?」

 

「ご名答です。令音さん。メソポタミアの神話に出てくる大英雄です。……そして、アレはFa○eという作品に出てくるギルガメッシュの姿に酷似しているんです」

 

と、それをどこかで聞いたことがあった俺は変に納得をしてしまった。

 

「……じゃあ何?【アロガン】はゲームのキャラクターが出てきた姿、とでも言いたいわけ?」

 

「はい、とても信じ難かったのですが……、特徴を見る限りそれしか考えれないのですよ。もしくは、神夏ギルがギルガメッシュを呼び出した、の方が正しいかもしれませんね。士道君との秋葉原での様子をみる限り、彼女も相当のオタクでしょうし。あ、なんなら作品の中でのギルガメッシュの戦闘とか見て見ます?」

 

と、中津川さんの見せた映像に俺を含めたみんながそれに釘付けになる。

確かに、戦闘方法がほぼ、いや全く一緒だった。

 

「ギルガメッシュは、この世の全ての宝物を集めた、と言われています。なので、みなさんがよく知っている……例えば草薙剣の原点もあると思いますよ。なので、士道君はラッキーでしたね。もし、かすっただけで即死、なんてものを使われていたら危なかったですし。……と、ここまではただの前提です。みなさんが知りたがっている、攻略がほぼ不可能に近い、ということなんですが……」

 

と、中津川さんの言葉にみんなが耳を傾ける。

 

「神夏ギルが呼び出したとされるギルガメッシュという英雄の性格は、傲岸不遜、唯我独尊、おまけに暴虐無人、好戦的かつ残忍です。……ここまでいえば、みなさんもだいたいわかるのでは?」

 

「「「………」」」

 

中津川さんが促してきた。

確かに、ここにいる4人の答えはもう出ているようなものだった。

 

「はぁ…確かに、それは無理ゲーに近いわね」

「だね…。中津川くん、その英雄が心を開いた、とかいう人はいないのかい?」

 

「いえ、いるにはいます……が、あの英雄に心を開かせるのは色んな意味で士道くんには不可能でしょう。正直、私は士道くんが殺されていないことが最大の幸運だと思います。……いえ、でも彼女にとって『殺すには惜しい』と思われれば、心を開く、までとはいかなくとも話をする程度はいけると思いますが……」

 

中津川さんの出した情報に、俺は絶望を覚えるほか、なかった。

 

だが、琴里は違ったらしい

 

「……そうね。精霊化しているときの神夏ギルの攻略はほぼ不可能に近いわ。…でもね、なら()()()()()()()()()()を攻略すればいいだけじゃない。違う?」

 

「いえ、司令官。私は、それを含めて不可能だと推測しました」

 

「その根拠は?」

 

「彼女が生粋のオタクだからです」

 

「「「・・・」」」

 

んん?ちょっと中津川さんの言っていることが理解できない。

 

「んん?ちょっと理解できなかったわ。もう一度言ってもらえないかしら?」

 

「彼女が生粋のオタクだからですよ。私は同類だからわかるんです!大好きなキャラクターの能力を手放したいと誰が思うでしょうか⁉︎

否、好きなキャラに憧れ、その能力に惹かれるのは必然っ!

ならば、その能力を得たならば手放す道理などない!

私でも同じ状況ならば絶対に断りますし」

 

と、どこか納得できるようなしてはいけないような感覚に陥ったのは俺だけだろうか。

 

「……もういいわ、下がりなさい。中津川」

 

「はっ」

 

と、中津川さんはこの部屋から出ていった。

 

「ふふ…」

「こ、琴里?」

 

「いいわよ!やったろうじゃない!無理ゲーだかなんだか知らないけど、そんなくっだらない理由でおにーちゃんが殺されかけてたなんてふざけるのも大概にしてほしいわ!こうなりゃ、意地でも攻略してやるわ!」

 

 




えー、念のため補足を。
本編でもう少し詳しく書きますが
神夏の精霊としての能力は、厳密にいえば『ギルガメッシュの能力を得る』ことではありません。
『英雄そのものをその身に宿す力』と言った方が正しいです。
しかし、一人分しかできないためギルガメッシュのみになっている。と言ったところでしょうか。

なので、精霊化している神夏のなかには『神夏ギル』という人格と『英雄王ギルガメッシュ』という人格、計二つの人格が宿っていることになります。要は多重人格のようなものです。

これ以上書くとネタバレになるのでこの辺にしておきます。

読んでくださりありがとうございます。


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7話

やばいっす。別に意図したわけでもないのに感想欄の皆様の反応がアンチラタトスクに……。

おかしいな、こういう予定じゃなかったんだが。

それはそうと、感想でもあったので神夏の精霊の力についてもう少し補足を。

神夏が成れる英雄は、ギルガメッシュのみです。理由としては、複数の英雄をその身に宿すと神夏自身が耐えきれませんし、なにより神夏にとって当時は英雄=ギルガメッシュの方程式しかなかったものですから。

そして、もう一つほど重要な(?)事が

神夏ギルとギルガメッシュの自分たちの二重人格に対する見方は違います。

神夏は。あくまでも人間が視界に入ると
ギルガメッシュの心が混ざってくる、と考え
ギルガメッシュは
一つの体の中に二つの人格を宿している

と考えています。
ちなみに、どちらかによって仮に神夏を攻略する際の難易度が大幅に違います。


さて、長話はこれほどにして、それではどうぞ。


注)今更ながら念の為。この世界のギルガメッシュは姫ギル(ギルガメッシュの女版)であり、『我』と書いてそのまま『われ》と呼びます。


〜数日後〜

 

「…ま、そりゃ学校とか来ないよな」

 

神夏に拒絶されてから三日ほどだったが、神夏は現れる気配すらなかった。

それも当然といえば当然なのだが。

 

「……ドー」

 

でも、神夏とはもう一度話をすべきだ、

琴里には悪いが、ラタトスク抜きで、一度、真剣に。

 

「シドー」

 

でも、中津川さんに聞いた限りだと精霊化している状態で取り繕ってくれるとは思えない。

 

「無視をするなっ!」

 

「え?あ、ああ。すまない、十香」

 

「ふん、それでいいのだ。ところでシドーよ。何か考え事をしていたが、どうしたのだ?」

 

と、横にいた十香に聞かれる。が、答えていいものかどうか。

 

「…いや、なんでもないよ。ごめんな」

 

「む、それならいいのだが…。それはそうと一緒に帰るぞ!」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜五河家〜

 

「シドー、今日の晩御飯はなんだ⁉︎」

「あー、それなんだがな、生憎食材があまりなくてな。だから、偶には外食もどうかなって思ったんだが、どうだ?」

「おお…!」

 

俺の提案に十香は目を輝かせる。

 

「あれはあるのか⁉︎」

「あれ?」

「きな粉パンだ!」

「あ、あー、うん。多分いまから行くところはないから、それは帰りに買ってあげるよ。琴里も、今日は外食で我慢してくれ」

「いいよー!」

 

と、琴里の許しも得て、3人で外に出かける。

 

 

 

 

 

 

〜飲食店〜

 

「ふむ、偶には外で食うのも良い、か。ホテルの飯は飽きたしな。安物のようだが、まあこの際はしかたあるまい」

 

と、神夏ギル……いや、ギルガメッシュはある飲食店に来ていた。

 

「どうだ?自分で食べるというのは?………ふむ、そうか」

 

どうやら、まだ神夏は閉じこもっているらしい。

 

「はぁ、先に言っておくが、我が顕現出来るのはあと僅かだぞ」

 

と、言いつつも何気にこの世界のものを楽しんでいる英雄王がいた。

ちなみに、装いはヘビ柄のスカートに黒のシスター服という、蛇嫌いかつ神嫌いの人がする装いか、というような格好をしていた。

 

「「「あ………」」」

 

「……」

 

ギルガメッシュは、中に入ると視線を感じた。が、特に気にはしていなかった。

 

なぜかと聞かれると、『我が肉体に見とれるのは森羅万象の摂理だ』と思っているからだ。

自己中心でもなんでもなく、それが当然と思っているから。

 

「ふむ…そうだな、この『ぐらたん』とか言う奴を食べてみるか」

 

どうやら、英雄王の食べるものは決まったご様子。意外と庶民的?

自分で水を注ぎに行くのも王である自分が行くのは道理ではない(面倒な)ため、店員に注がせてそれを飲んで待っている間に、英雄王に近づいてくる人間が1人----

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、道化よ。今度は何の用だ。そして、我は言ったはずだ。貴様には、()()()が拒絶をしておるのだ。疾く失せねば、殺すぞ?」

 

と、横に立っている道化に我は殺気を放ち言う。

 

「…王よ、どうか、今一度神夏と話をさせて頂きたく存じます」

 

「ならん」

 

と、道化は跪きながら言って来た。それを即答で断った。

 

「そこをなんとかなりませんか?」

 

「ならん、と言っておるのだ。2度同じことを言わすな。そして、王たる我に話しかけていると言うのに、他人から指示を受けて話すのか?不敬も大概にせよ、雑種」

 

「…!」

 

こ奴らは学ばぬのか。神夏にインカムのことを勘付かれ、そのせいで拒絶をされたと言うのに。

神夏が引きこもった経緯は事細かく聞いている。

 

「…っ、申し訳ございません」

 

「ああ、もう良い。話すことなどもうない。さっさと失せよ」

 

「……それは出来ません」

 

「ほう?理由を述べてみよ。先に言っておくが、心して述べるんだな。場合によっては、極刑に処するぞ」

 

「……私は、神夏を怒らせてしまいました。それも、神夏にとって一番嫌な方法で。そのことに対する罪滅ぼし…とでも言ったらいいのでしょうか。それをしたいのです。そして、私は神夏のことをほとんど知りません。なので、一対一で、話し、神夏のことをしりたい所存にございます」

 

「……」

 

「そして、神夏に、もうあんな……世界に絶望をしたような顔をして欲しくないのです。私は、神夏を救いたいのです」

 

「……なるほど。では一つ聞くぞ。神夏を救う、とは具体的にはどうするつもりだ?」

 

「…っ、それは……」

 

「ああ、言っておくが、貴様を含めた『組織』のやり方だ」

 

と、知っていながら、あえてその内容を聞いた。

 

「……神夏の霊力を、キ……キスにより、私の中へ封印することです。それにより、神夏は……精霊は、『形を持った災厄』として、ASTなどに襲われなくなります」

 

「ふむ、ではさらに聞こう。誰が、いつ貴様にそのようなことを頼んだ」

 

「……っ」

 

「貴様達のその行いは、単なる自己満足だ。なぜ自己を守る『力』を持った生物からその『力』を奪う?仮に、その力を悪用していた者、その力の放棄を望んでいる者、また、その力によって自己を殺してしまうような者がいると言うのなら、まだそれは良かろう。だが、そうでない……例えるなら、我は自分の身は自分で守る。そのような輩まで救う理由が貴様らにはないだろう?」

 

「………」

 

「そして、貴様の背後にいる組織……たしか『ラタトスク』と言ったか?その組織が貴様が救った者を保護しているとして、その組織にとって、なんの利益がある?仮にも、我らはこの『世界』にとっては異物だ。そのような者を救うなどと言い、力を奪い、そこまでしておいて目的としているのが『救い』だけか?ハッ、笑わせるな」

 

「………」

 

「……なに、もう時間か。さて、雑種よ。最後に二つだけ忠告をしておいてやろう。残念だがこの世には我らのような精霊が力を失っていようが失っていまいが、容赦無く狩る奴がいる。そやつらがいる限り、貴様の言う『救い』は贋物以上の何でもない。そして、その贋物とはいえ『救い』のために自己を犠牲にするなど、それこそ『偽り』にすぎない。それを分からぬようであるならば……貴様は筋金の入った偽善者だ。

 

だが、そこまでの意思を示した褒美として、話すチャンスくらいはやろう。せいぜい励めよ、雑種ども」

 

そういい、『ぐらたん』を食べ終わった我は神夏の()へ戻った。

 

 

 

 

「………なんで、こんな中途半端な場面で精霊化解けるのかなぁ……」

 

気まずい、超気まずい。

 

いや、まぁ五河君達自体に恨みはないけどさ、正直嫌いなのよ。

他人のことを勝手に決めつけて救おうだなんてさ。

 

……え?今横にいる五河くん達?今も絶賛ガン無視してますよ。

なんか話しかけられてるけど話す気にもならん。

 

「な、なぁ、神夏。話を……」

「あ、店員さーん、追加お願いしまーす」

 

 

 

 

 

「神夏、頼む…」

「あ、コンビニ寄っていこ」

 

 

 

 

「神夏」

「(イライライライラ)」

「頼む、話だけでもさせてくれ。俺は、お前と話がしたいんだ!」

 

「あーーのーーですねぇ、()()()()()()()()()()()けど!話がしたいんだかなんだか知らないけど、つけまわさないでくれません⁉︎」

 

「…っ!」

 

「あ……」

 

しまった、イライラしすぎてつい素で怒ってしまった。

拒絶?んなもん、イライラに掻き消されましたよ。

ちなみに、妹らしき人と十香は先に家に帰りましたとさ。

 

「か、神夏、俺のことわからないのか?」

「ん?私はひたすらつきまとってきて、未だにインカムをつけたまんまで汗だくの同級生なんかこれっぽっちも知りません」

 

「………」

 

「……うん、なんかゴメン。嘘、ちゃんとわかるよ。だからそんな傷ついたような顔しないで。ラタトスクの()の五河士道君。で、さっきからずっと対話対話言ってるけど、君はそれしか能がないの?」

 

「駒って…」

 

「事実でしょ?君たちの()()が何を企んでいて霊力を集めようとしているかとかは正直どうでもいいけどさ。それに私を巻き込まないで欲しいんだ」

 

「…ラタトスクは、精霊を助けるために結成された組織だと聞いている」

 

「へぇ、それは誰から?最高責任者?創設者?それとも副司令官?もしくは末端の構成員?しかも、()()()()()だけ、ってことは五河君自身も、その組織の中心の人物からは事細かく聞いていないと。よくそんな組織を命を懸けてでも手伝おうとするね、君は」

 

「…実際に、十香は助かっているだろっ!」

 

「五河君、精霊化した私の忠告をもう忘れたの?この世にはね、例え精霊たちが無力化されていたとしても、容赦無く殺してくるような連中がいるんだよ?五河君やラタトスクのいう『救い』は一時的なものに過ぎない。だったら、それはニセモノよりタチが悪い

 

 

さて、ここまでの踏まえた前提で、もう一度聞くよ?正直に答えてね?あ、もちろんそのインカムは外してね?なんなら、前に使った薬、まだ余ってるから今むりやり飲ませてもいいんだけど。

五河士道、お前は、なんのために精霊を『霊力を奪う』という形で救おうとする」

 

 

 

「………俺は、精霊に、幸せに暮らして欲しい」

 

 

 

「……幸せに暮らす、とはどう言った形で?」

 

 

「普通に歳をとって、学校に行って、いつか好きな人ができて、結ばれて、そんな普通の『人生』を送って、楽しく生きて欲しい」

 

 

 

「……なんでそんなことを思うようになったの?」

 

「初めて十香に会った日、目を奪われた。それと同時に、あんな少女が理不尽な世界に放り込まれているのを知って、全てに絶望したような顔を、俺の大っ嫌いな顔をしていたんだ。

その後に、ラタトスクの存在を知って、精霊がどれだけ危険かを教えられた。けど、俺はあの時の十香やお前を見て、ただ特別な力を持っている()()の普通の女の子にしか見えなかった。

だから、例え自分が犠牲になっても、精霊に、心の底から笑って欲しかった。幸せになって欲しかった。

十香の霊力を封印した後、普通の、どこにでもいる女の子として過ごす十香をみて、嬉しくなった。こんな俺でも、誰かの役に立てるんだって。

しかも、精霊を救うっていうのが、俺にしかできないらしい。

 

だからこそ、俺は、精霊を救うために、精霊とはなしをする」

 

 

 

「…………五河君、立派な志だけど、()()()()がいる限り、それは夢物語だよ

 

「え?」

 

「なんでもない、んじゃーね、風邪引かないよーに」

 

「あ、神夏!」

 

「ハイハイ、私と話したいんでしょ?霊力の取り込み云々は全部お断りだけど、少しくらいなら、私のことを話してあげるよ。一週間後、夕方6時半、公園にいて」

 

それだけ言い、私はハデスの隠れ兜(気配遮断の布)を、形をほどき一本の布にし、首に巻き付けギル様がとっていたホテルへ向かう。兜って言っても三角帽子みたいなもんだけどね。もちろん、一本にしたところで効果は変わりなし。

 

幸いにもケータイは持ってくれていたから、移動した道筋を辿ればホテルへは着くでしょう。

 

 

………んん?ちょっとまって、ハデスの隠れ兜使えばさ、余裕で五河士道たちを振りきれたんじゃね?

 

うっわー、ばっかだー。このちっぱい。

あ、私のことだ。

やだ、今更ながらギル様の口調になった時のことを思い起こして羞恥心にまみれ始めた。

 

今更ながらだけどさ、三日、四日くらいずーっとギル様の性格&口調でしょ。ある意味、三日、四日をギル様と共に過ごしたってことでしょ?やっぱい、AUOファンに殺される。

 

 

 

 

 

 

こんな考えに至る神夏ギルは、やっぱりオタクだろう。

しかも、どちらかというとバカの部類の。

そして、未だに中二病は健在である。

 




はい、どうでしょう。

みなさん、琴里あんちになっちゃダメですよ!(自分は引き起こした張本人)

さて、次あたりで神夏編は終わりですかね。

神夏攻略ルートは………ほぼありえないと思います



読んでくださりありがとうございます


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8話

7話で次で神夏についての話は終わるといいました。

すいません。嘘です。

予想以上に長くなりました。
多分あと1話くらい続きます。

このダメ作者に祝福を……。

と、それではどうぞ。


「ギル様……いったい、何してたんですか……」

 

と、精霊化した私が泊まっていたであろう部屋に来ると、そこには

 

ゲーム、雑誌、パズル etc……

 

とにかく娯楽物で満載だった。

 

「いや、ギル様のことだから気にすることもないんだけど……。はぁ、私ってあんな性格だっけ?」

 

と、五河士道とのやりとりを思い出しながらまたもや羞恥心に悶えてしまう。

 

……なんで、話をするだけでもしよう、なんて思ったんだろうね。ギル様の決定に従っただけ。うん、そうだよね、きっと。

 

 

 

…………

 

 

 

いや、違う。本当は、わかっている。私の『心』はわかってるのに、私の『意識』がそれを認めようとしない。

 

けど、あいつも……五河士道も、結局は偽りだ。

こんな『私』が、ただの女の子に見えるなんて、そんなものは偽りに決まっている。

 

だって、唯一の肉親ですら、私を異物であると認識をしたんだから。

 

「〜〜〜………!ああ!もう!また私らしからぬ方向に!こんなのは私じゃない!私は、オタクでバカでギル様に忠誠誓った身の中二病だっつーの!」

 

なんか、自分で自分に瀕死級のダメージを負わせているのは気のせい?

自分で言ってて泣きたくなってきた。

 

「…まあ、言っちゃったものはしょうがないし…諦めますか」

 

そう、別に約束をしたと言っても、ただ話をするだけだ。それをなぜ不安がる必要がある。

 

「まあ、とりあえずは………寝よう」

 

 

 

 

 

〜五河家〜

 

「………」

 

羞恥に悶えている神夏と同様、士道もまた、羞恥に悶えていた。

 

「しっかも……インカムをつけたまんま言っちゃったから、全部筒抜けだっていうし……」

 

あの後、いろんな意味を含んだ視線が突き刺さったのは、いろんな意味で忘れることができなかった。

 

しかも、十香も聞いていたらしく、顔を合わせた瞬間に、赤面しながら逃げられた。

 

「……けど、やるって決めたからには……腹をくくれ、五河士道!」

 

そうだ、精霊を救えるなら、この程度の羞恥は我慢しよう。

 

………いや、前言撤回。また琴里たちに色々されたら社会的に抹殺されかねない。

 

 

 

 

 

 

 

〜一週間後〜

 

さて、皆さんにクイズです。

いま現在、時刻は夕方6時半。

場所は公園。

 

この場所には、五河士道がいます。

 

では、神夏ギルはいるでしょうか、いないでしょうか?

 

 

・・・・・

 

 

はい、みんなわかってるよね?正解は

 

 

 

 

「ちょっと待てやナレーション!なんで私がいないみたいな事を言おうとしてんの⁉︎」

 

あ、はい。ごめんなさい。いつものノリです。さくs…いえ、なんでもありませんが、いつもの悪ふざけです。お気になさらず。

 

「か、神夏……?」

「あー、ほっといて…。気にしないで……。帰って……」

「なんで⁉︎」

 

さて、そろそろ神夏ギル(オタクばか)の視点に変更しよう。

 

「オタクバカは余計やい!」

 

いちいち、ナレーションにツッコむアホは放っておきましょうね。

 

「アホも余計だ!はぁ……まさか、こんなに疲れることになるとは……」

 

「神夏さーん?」

 

「お願いだから、変な人を見るような目で見ないで……」

 

ああ、ほら、変な人を見る目で五河士道に見られてるじゃないですか。

 

「んじゃあ、大事(?)な話を外でするのもなんだし、ついてきて」

 

「あ、ああ。ていうか、なんで疑問系なんだ?」

 

「五河君にとっては大事かもしれないけど私にとっては至極どうでもいいことだから」

 

なんか、落胆したような感じがしたのは気のせいだろう。

 

「あ、そうそう」

 

「?」

 

一つ思い出し、私は五河君の右耳に指を近づける。

 

バギャッ!

 

「っ⁉︎」

インカム(これ)は禁止ね。カメラで見るのは10,000歩くらい譲っていいけどいちいち指示をされながら話してもらうのは嫌なので」

 

「あ、ああ……」

 

インカムにちょっと強めの電気を流して破壊した。

もちろん、ゲートの中にある道具を使いましたよ。

 

にしても、五河君なのかラタトスクなのか知らないけど、懲りないね。

いい加減、私の性格をわかってきてると思うんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

〜神夏家〜

 

「………」

「ほら、唖然とせずにさっさと入って」

「あ、ああ」

 

そんなに驚くことかな?一人暮らししてるだけなのに。

いや、自分で家を借りたりとかしたっていうのは話したけどさ。

 

「……なぁ、神夏。これ……」

 

「?」

 

「全部、1人で集めたのか…?」

 

「?そうだけど、何?」

 

「いや……なんでもない」

 

「??」

 

変なところに疑問を持たなくていいからさ、さっさと玄関から上がってくれない?

 

 

 

いや、五河士道が唖然とするのは当たり前だ。

なんせ、神夏の家が、すでにオタグッズ満載なんだから。

いたるところに壁紙、グッズ、抱き枕、フィギュアなんかが飾られている。

むしろ、これで唖然とするなという方が無理だ。

それに、腐っても神夏ギルは精霊ということもある。

 

 

 

「ほら、あと5秒以内にこないと外に放り出すよ」

「わ、わかった、わかったから追い出そうとすんな!」

「チッ」

「舌打ちした⁉︎」

「してないよ。さっさと上がって」

 

と、未だに玄関にいる五河君を無理やり引っ張り上げ居間へ連れていく。

 

「………」

「ねえ、一応乙女の部屋だからそんなじろじろ見ないでくれない?」

「あ、ああ…」

 

おい、乙女(笑)って思ったやつ、何もしないから出てきなさい。

大丈夫、ちょっと乖離剣エアの風圧を当てるだけだから。

 

「で、話をしたい、だっけ?」

 

「ああ」

 

「どんなことを?」

 

「俺は、神夏について知りたい。…けど、その前にひとついいか?」

 

「?」

 

 

「神夏、この間はすまなかった」

 

 

と、突然頭を下げられた。

 

「何を、どうすまなかったのか、具体的に言ってくれない?」

 

「前に、神夏と秋葉原に行った時のことだ。あの時は、神夏に隠し事をしていて、すまなかった」

 

「別に、気にしなくていいよ。あの件に関しては……というか、そんな自己満足の行いに私を巻き込もうというのに関しては許すつもりなんか毛頭ないけどね。ま、そんなことを持ち出してたら話をするものもできないから、今は気にしなくていいよ。それはそうと…」

 

と、私は五河君にプ○ステ4のコントローラーを渡す。

 

「?」

「あれ?やったことない?」

「あ、ああ…」

「あそ、まあ大丈夫でしょ。考えずに感じてやればいいんだよ」

 

と、私は五河君の意見も聞かずにゲームを始める。

 

 

 

〜数十分後〜

 

「ぎゃー!!ぎゃー!!」

「あはははっ!」

 

やっべー、ホラゲー初心者に初見でやらせんのすっごい面白い。

五河士道君、リアクション芸人向いてるんじゃない?

もうお腹いっぱいですわ。

 

ちなみに、VR対応ゲームなんで余計怖い。

 

「はー、はー、はー」

「五河くん、今度ホラーゲーム作ってる会社のテスターに推薦しといてあげるよ」

「やめて⁉︎」

 

こんなおもちゃ欲しいなー。

 

「おかしい、話をするという趣旨から思いっきりズレてる……」

「あ」

 

……いえ、忘れてたわけじゃありませんよ。ほんとですよ。信じて。

 

「あ、あははー。ま、まぁ、面白実験台……じゃなくて、面白かったから、お礼に昔話をしてあげよう」

 

「なんかバカにしてないか⁉︎あと面白実験台って何⁉︎」

 

そんな抗議は受け付けません。んじゃ、話すからしっかりと聞いてね。

 

「むかーしむかし、イギリスに、12歳までは、ちゃんと親の愛情たっぷりで育った人間の女の子がいました

 

その女の子は、12歳の時に自分の中に特別な力が欲しい、と思うようになりました。それと同時に、ある作品のキャラクターにとても惹かれました。いわゆる、画面の中にしかいるはずのない人間に恋をしました。そして、同時に思いました。

 

『いつか、私もこの人と肩を並べたい。この人のすっごい能力を使いたい』

 

少し大人になって思い返すと、その少女はその自分を殴りたくなったそう。

しかし、この時の少女は本気でそう思っていました。

 

まず、少女は『形から入ろう』と思い、できるかぎり、真似をしました。

いつかはできると信じていたため、少女は両親に気づかれないよう、それでもいっぱい真似をしました。

 

それと同時に、もっと知りたい、もっと近くにいて欲しいと願うようになり、フィギュア、壁紙などそのキャラクターが写っているものをとにかく集めました。

 

当然、両親は思います。

 

『このままだと、この子は大変なことになる』と。

 

なので、現実を見させるため、両親は少女にとってとても残酷な言葉を口にします。

 

『そんなことができるはずがない、そんな能力があるわけがない』

 

しかし、少女は反抗しました。

 

『いいや!いつかできる!絶対にできます!』

 

少女は頑固でした。

そのため、両親は苦渋の決断を下します。

 

『そのことを認めるまでは、家には入れない。しっかりと現実を見てこい』

 

と、両親は少女を家の外に放り出します。

もちろん、認めるまで家に入れないなんてものは、嘘です。

 

しかし、少女にとってそれは絶望の淵に立たせるに十分でした。

 

少女は泣きました。最愛の両親にすら見放されてしまったのだから。

少女は、両親ならきっと理解してくれる、と信じていました。しかし、両親には理解されませんでした。

 

少女は泣きながらも、自分の信念を貫こうとし、自分の好きなキャラクターの真似をしました。

しかし、それと同時に涙がどんどん溢れてきます。

 

周りの人に、異物を見る目で見られます。気持ち悪いと言われます。

 

とうとう、少女は泣くことも、好きなキャラクターの真似をすることもやめ、虚ろな目で公園のブランコに座りました。

既に夜の8時を回っていました。

 

家に帰って許してもらおうにも、辺りは真っ暗です。泣きながら無闇に歩いていたため帰り道もわかりません。

そのことが余計に少女を悲しくさせました。

 

尽きていたと思っていた涙がまた溢れてきます。

 

そんな時でした。

 

少女に、神様の声が聞こえました。

 

神様は言います。

 

【ねえ、何を泣いているの?】

 

少女は突然のことに顔を上げます。

しかし、言葉はわかるのにどんな声かわからない、そこにいるのはわかるのに、どんな姿をしているのかわからない。

けど、神様なんだ、と無意識に納得していたため、特に気にしていませんでした。

 

【へぇ、両親に見放されちゃったんだ。唯一の肉親に理解されないなんて、悲しいね】

 

言ってもないのに神様は少女の今の状況を理解しました。

 

【君が今よりも強くなれたのなら、もし君が望むような『力』を手にしたとしたら、両親も理解して、認めてくれるのにね】

 

少女は思います。そんなことができたら苦労しないと。

 

【ねえ、力が欲しい?】

 

少女は唐突なことに対して返答できず、考え込みました。

そして、心を決めて頷くと神様は手を差し出してきました。

そこには、金色に光る小さな宝石のようなものが現れました。

そして、神様は続けて言います。

 

【もし、力を望むというのならこれに触れるといい。そうすれば、君は、きっと君の望む力を手に入れることができる。君のご両親もきっと認めてくれる】

 

そして、神様の言葉を聞いた後、少女は改めて決意をして宝石に触れました。

その瞬間、少女の体を激痛が襲いました。

それと同時に、やるべきことが頭の中に浮かんできました。

 

激痛に体を強張らせ、顔を歪めながらも少女は言葉を発します。

それは、少女がキャラクターに一目惚れしてから最初に覚えた召喚呪文(もの)でした。もちろん、今の今までそんなものは効果を持っていませんでした。

しかし、そんなことを知っていながらも少女は言います。

 

 

少しの改良を加えて。

 

 

()()()()()()()()()()()宿()()という一文を加えてしまいました。

 

 

すると、少女の体が光ります。光が収まっていくと、下半身と右腕に黄金の甲冑が。上の服は黒のシャツ一枚になっており、何故か少し大きくなった胸が強調されている。そんな姿に。

 

少女は、喜びを隠せずにはいられませんでした。

なぜなら、欲しかったものが手に入ったのですから。

 

嬉々として、まずは力を試しました。

すると、数分と立たず公園はめちゃくちゃになりました。

 

そんなことは御構い無しに少女は喜びます。

 

『これでお父さんもお母さんも認めてくれる!』と。

 

しかし、少女は気づいていませんでした。

 

めちゃくちゃになったのは()()()()()()()()ということに。

既に、数十人の単位で人が死んでいることに気づいていませんでした。

 

それに気づく様子もなく少女は宝具と呼ばれる特別な道具を使って空を飛び家を探して帰りました。

 

先ほどまでいた公園が大騒ぎになっているというのに、少女は笑顔で家に帰ります。

 

しかし、現実は残酷でした。

 

両親は、より一層少女を恐ろしいものを見る目で見ます。

近づかないで、と叫びます。

 

少女は必死に叫びます。

ほら、できたよ!と。

 

だが、それでも両親は少女を拒絶します。

その現実に、とうとう少女の心は瓦解しました。

同時に、力が暴走しました。

 

少女でない、別の人格が少女を支配しました。そして、まずは両親を殺してしまいました。

しかし深い深い絶望に囚われてしまった少女はさらに力を暴走させます。

いや、別の人格が私の心を汲み取って暴れてくれた、の方が正しいのかもしれません。

 

力の暴走は、両親を殺しただけでは止まりません。家を壊し、周りの家を壊し、それを見にきた人を壊し、さらにそれを見にきた人を壊しました。

 

少女に力を与えた神様は、さすがに見ていられなくなったのか少女を止めに入ります。

 

けど、力の暴走は、今度は神様に向きました。

神様は驚きながらも、逃げたりしませんでした。

 

そして、何をどうやったのかわかりませんが、少女を止めました。

 

少女は、しばらくして親戚の家で目を覚ましました。

その後、親戚の人たちの説明により、自分のやったことを改めて自覚します。

しかし、親戚の人たちは災害により両親を失った、と思っていますから、両親を殺したのが少女だと知りません。

 

少女は、自分のやったことに吐き気をもよおしました。

誰とも会いたくないと、部屋から一歩も出ませんでした。

食事をとることも、ほとんど拒否しました。

 

けど、親戚の熱心な説得により、辛いものとはいえ、向き合うことにしました。

その上で、自分の過ちに対して、両親に対して償いをしていこう、そう考えました。

 

ですが、そんな少女を、さらに別の事件が襲います。

 

見知らぬ人に、襲われます。

 

とても、強い女の人が2人と、その人が付き従っている男が、少女を襲います。

少女は慌てて逃げます。しかし、力を使っていないためすぐに限界はきました。

そこで少女の意識は途切れます。

 

数日後、少女は目を覚まします。

 

そして、何が起こったかその数瞬後に思い出しました。

いつまた襲ってくるか分からず、警戒する日々が続きました。

2度目はすぐでした。二日とかからず襲われました。しかし、今度は『力』を使うことを望み、その『力』により退けることができました。

それと同時に『力』の使い方をしっかりと少女は理解しました。

けど、4回目の襲撃されたのをきっかけに、なぜか襲ってこなくなりました。

 

そんな頃です。

 

親戚に、日本に行かないか、と持ちかけられました。

 

少女は少し驚きながらもそれを了承しました。

なぜなら、もう襲われたりせずにすみ、しかも自分を知らない土地に行くことができ、少女にとって聖地である場所に行くことができるのですから。

 

そして、しっかりと準備をしました。その頃には、少女は14歳になっていました。

 

親戚との別れを惜しみながらも、少女は日本へ旅立ちました。きっと、そこでは普通に、1人で過ごせると信じて」

 

 

 

………めちゃくちゃ話したなぁ……。喉いたい。

 

案の定、五河君はどう反応したらいいのか分からないような顔してるし。

 

「さ、話はこれで終わり。時間的にももう帰ってちょうだいな」

 

「へ?…あっ!やばい!」

 

時間は、既に8時を回ろうとしていた。

 

「ご、ごめん神夏。またこんど!」

 

「また今度、は無いと思うけど、気をつけて帰りなー」

 

そして、五河君は帰った。




多分、ほとんどの人がわかっていると思いますがこの昔話はこの実話です。

最初は、Fateにある召喚呪文も全部入れようと思ったのですが、さすがにやめました。
なぜなら、長くなるから。

さて、次にどうやって繋げましょうかネェ……


読んでくださりありがとうございます


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9話

合計10話目
そして、(多分)神夏編も終わりです。

それではどうぞ


「んー………やっばい、ガチ泣きしてしもうた……」

 

今、私は撮り貯めていたアニメを一気見している。

ちなみに、野宿してた時の分はテレビのついてるホテルを借りてて、そこで録画してましたよ。

 

……え?ならホテルで寝ろって?

いやいや、あの時は野宿がなんか楽しいと感じてましたから。

 

バカは余計だ。

 

にしても、アニメ文化最高だね。

地球に生まれて良かった。

 

「ん……もう4時半か……。そろそろ寝よう。……これを見終わったら」

 

明日も学校行かなきゃだし、本当に寝よう。

いやまぁ、授業も聞く価値ないし(聞かなくてもわかるから)寝てるだけなんだけど。

そういや、私って精霊なのに霊力感知されない?って思った人いるかもだけど、霊力隠蔽できる道具があるのでその辺は大丈夫です。

前の家にいたときに襲われたのはそれを使っていなかったから。

 

うん、天から(みんな)の声が聞こえるよ。

 

バカって言いたいんでしょ?わかってるって。

自分でも思ってるから。

決して泣いてませんから。本当ですよ⁉︎(泣)

 

「………あ、5時回った……」

 

はい、寝不足決定。良い子のみんなはちゃんと12時には寝ようね。

よし、タイマーも1時間後にセット完了。

快楽に溺れるとしよう。

 

 

 

 

 

 

〜1時間後〜

 

『起きろ雑種。起きぬというのならば罰を与えるぞ。………ほぅ、逆らうというのだな?ならば……こうしてくれる』

「むしろ遠慮なくっ!………うん、そういえばタイマーの音こんな感じにしてたっけ……。なんだろう、嬉しいような悲しいような感じは」

 

よし、睡眠時間ジャスト1時間。めちゃ眠いわ。

ちなみに、このボイスはもちろん関智一さん。自作タイマー付き時計です。

 

「ふふ、なかなか良い朝ではないか」

 

と、いつも通りの中二病発動させながら私は朝食をとる。

おかしいかもしれないがこれが平常運転です。

オタク女子をなめたらいけません。

 

てか、気づいたらこんなことしてるんだよね

最近無意識のうちにやることが多い。

自分で言うのもなんだけど末期かな?

 

「ふむ、そろそろ出かけるか」

 

時間は7時半。そろそろでないと学校に間に合わない。

外に出ると心地よい日差しが体に差し込んでくる。

 

「ふはははは!良い朝だ!我をもてなすには十分だ!」

 

と、いつもよりちょい高めなテンションでいう。

 

「………神夏?」

「ふぇっ?」

 

……まって、いま、とんでもなく聞きたくない声が聞こえた。

恐る恐る、どうか幻想であってほしいと願いながら私は横を……。

 

「な、何をしてんだ…?いや、その喋り方なら精霊化してるのか…?」

「五河………君?〜〜………!!!」

「か、神夏⁉︎」

 

はい、聞き間違いでも幻想でもなんでもナカッタヨ。

私は死にました。社会的に。

 

最悪だ。精霊化してない時のいつもの奴を五河士道に見られた。恥ずかしくて死ねる。

 

いや、こうなりゃ証拠隠滅で五河士道をゲートの中に永遠にしまうか背に腹はかえられぬ、ってことで殺してしまうか。

兎に角、精霊化しないと…!

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわっ⁉︎」

「……….」

 

登校中、精霊化したような言動をしていた神夏を見つけてしまった。

家を知ったから、もしかしたら、と思って来たのだがタイミングが最悪だった。

 

突如として精霊になったので空間振警報が鳴り響いた。いつもの、黄金の甲冑を下半身と右腕につけて、黒のシャツを身につけている。

そして、こちらを睨み殺気を飛ばしてくる。

 

「……っ!神夏!落ち着いてくれ!何も見てないから!」

 

「黙れ、許可なく我に話しかけるでないわ。………なんだ、貴様か。道化。まぁ、ならば良いか」

 

と、神夏は……いや、多分この感じは精霊化している。たしか……ギルガメッシュ、だったか?

 

「も、申し訳ありません。ギルガメッシュ王よ、私が悪いのですが……少し、少しでいいので神夏と話させていただけないでしょうか?」

 

「ああ、別に良いぞ」

 

「え?よろしいのですか?」

 

「むしろ、もし神夏の阿呆が我と同一化していなければ罰を与えておったわ。……ああ、そうだな。それならばついでだ。神夏の阿呆に『一々このようなくだらん事で我を呼び出すな。タダでさえ顕現できる時間が少ないのだ。我が出れなくなった時どうするつもりだ』、と伝えよ。……だが、その前に少し蹴散らしていくか」

 

「え?」

 

そう言われ、周りを見渡すといつの間にかASTがいた。

 

「みんな、【アロガン】は後回し。一般人の救出が最優先!」

「「「「了解!」」」」

 

「ほぅ、我を後回しにするとはいい度胸だ、雑種ども」

 

俺を守るように散会したASTに向けて幾つもの金色の円のような空間の歪みを作り出した神夏はその歪みから幾多もの武器の頭をのぞかせる。

 

「っ…」

 

「ふむ、コソコソ我を狙う不敬者もいるか。学ばぬな、貴様ら雑種は」

 

と、神夏は少し遠くにある高いビルを見上げた。

それを見てASTは戦慄を隠せていない。

 

「ふん、まあよい。雑種どもよ、疾く失せよ。されば、命だけは助けてやろう」

 

「ふざ…けるなっ!」

「折紙⁉︎」

 

神夏の最後の一言に折紙が怒りをあらわにし隊長らしき人の指示すら聞かず神夏に突撃をした。

 

「ふん」

 

いくつもの円の歪みのうち数個だけ折紙に向いた。

そしてそこにあった剣とダガーナイフ、日本刀らしきものがとてつもない勢いで発射された。折紙は慌てて避けるもダガーナイフを受けてしまった。

 

「ああっ、もうっ!1人を除き総員、突撃!」

「「「「り、了解っ!」」」」

 

「道化よ、その場から決して動くなよ?」

「え?」

 

突然神夏に話しかけられ、呆然とした答えを返してしまう。

 

「また魔術師の真似事か……。まあ、仕方あるまい」

 

ASTの攻撃ではっきりと見えなかったが明らかに、神夏の格好が先ほどと違う。

ターバンと白い巫女服みたいなものを身につけており、黄金の本と、杖と斧を足したようなものが見えた気がした。

 

一体、いつの間に着替えたのだろうか。

 

「わざわざ消えずとも現界するクラスを変えられるとはな。また新たな発見というやつか。ーーーーー撃て撃て撃て撃てー!そして!『空間転移』!」

 

「「「「「なっ⁉︎」」」」」」

 

すると、先ほどまで武器だったのに対し、今度は形は様々だったが頭をのぞかせていたのは全て杖の部類でそこから全体に向かってビームのようなものが撒き散らされた。

 

ASTは予想外の攻撃に一瞬戸惑ってしまい、折紙を除いた全員が激突、戦闘不能に追い込まれた。

それと同時に、俺の体が突如光りだした。思わず、目を瞑ってしまう。

 

 

「……士道、おまえいつの間に来たんだ?」

「へ?」

 

……あれ?俺、いつの間に()()()来たんだ?

 

「おかしいな、神夏の家の前にいたはずなんだが……」

 

自分もなぜここにいるのか理解ができない。

 

「なに⁉︎神夏さんだと⁉︎おまえ!十香ちゃんに鳶一嬢に加えて今度は神夏さんまで手にかける気か⁉︎」

「なんてそうなる⁉︎」

「当たり前だろうか!気づいていないとは言わせんぞ!毎日の男子によるお前への嫉妬と殺意の眼差しを!」

 

「え?」

「え?」

 

え?そうだったの?俺、そんな視線にさらされてたの?

 

「お、おい士道。まさかとは思うが……」

「なんかすまん。気づかなかった」

「ファック!」

「がふっ⁉︎」

 

こ、この野郎……。鳩尾に拳をクリーンヒットさせんな……。

 

「このやろう!ニブチンやろう!その調子で十香ちゃんや鳶一嬢、果てには神夏さんまで手篭めにする気か!フザケンナ憎たらしい羨ましいなこのやろう!」

「憎たらしいのか羨ましいのかどっちだ!」

「無論両方だ!俺なんか一年の時から結構マジで神夏さん狙ってたんだぞ⁉︎」

 

「………2人してなに話してんの?私の席の近くで。座れないんですが」

 

「「あ、ごめんなさい」」

 

すると、声が聞こえて来た。それは神夏だった。

 

…………神夏?あれ?さっきのさっきまで家の前にいたはずじゃ

 

「ほら、さっさとどいたどいた」

「か、神夏さん。今度一緒に………」

「すいません、誰ですか?話しかけてこないでください」

 

と、殿町が神夏を何かに誘おうとして、言い切る前に砕け散った。

……少しだけ同情してしまった。

 

「か、神夏」

「zzzzzzz」

 

「「寝るのはやっ⁉︎」」

 

ええ…席に着いた瞬間寝るって……。

 

ま、まあ休憩時間とかに起きるだろうし待つか。

 

 

 

 

 

〜放課後〜

 

どうやら、俺の予測は甘かったらしい。

休憩時間になるも起きる気配は全くなく、体育の時はいつの間にかいなくなっており、移動教室の際はいつの間にか移動しててそこで寝ている。

 

やっと放課後になるも、神夏は気付くともう荷物を整理しており、SHRが終わった瞬間に帰宅していた。

 

「か、神夏!」

 

「………ねぇ、あなた誰ですか」

 

「へ?」

 

「だから、誰ですか」

 

「いや、俺だよ。五河士道だよ」

 

「私の記憶にはそのような人はいませんね」

 

と、軽く顔を向けてくるだけで全くこっちを見ようとしない。

けど、俺は気づいた。

 

「神夏、顔赤くないか?」

 

「っっっ⁉︎」

 

そう、顔が赤いのだ。

熱がある、というわけではない。とすると、恥ずかしさからか。

 

……残念ながら、俺は一つだけ心当たりがある。神夏が恥ずかしがり、かつ俺を避ける理由が……

 

「ギルガメッシュ王よ、今一度、お話をさせて頂きたく存じます」

「よかろう、話を………。………じゃ、ねえしっ!乗せるなし!」

 

と、軽い冗談で言ってみると案の定神夏は乗って来た。

 

「はは、やっぱり」

「こういう時に限って冷静に考えて予測をしないで欲しいんだけど………」

「で、本当は覚えてるんだろ?」

 

「……覚えてるよ。で、何の用?」

 

「いや、精霊化したお前からのお前に対する伝言があってな」

 

「あ、いや。あのことなら大丈夫。ちゃんと()()聞いてたから。……そうだ、やることあったんだった」

 

「?」

 

「記憶よ、去れっ!もしくは死んで!」

 

「うわあっ⁉︎」

 

神夏はいきなり手に持っていたカバンで殴りかかって来た。しかも後頭部めがけて。

 

「危ねえな!」

「うるさいっ!早くあのことは忘れろっ!忘れて!忘れてください!お願いします!(泣)」

「土下座⁉︎」

 

 

 

閑話休題(話を元に戻そう)

 

 

 

はぁ、ドッと疲れた。

なんか、朝から色々とおかしい。

そして今はなぜか五河君と公園にいる。

 

いや、もう別に話すこともないんだけど。

 

「なぁ、神夏」

 

「却下」

 

「まだ何も言ってねえよ⁉︎」

 

「どーせ、『私を救いたい』とか言いたいんでしょ?いい加減諦めてくれない?」

 

「……」

 

はい、当たり。

 

「なあ、神夏は辛くないのか?精霊の力を持ってしまって、周りに命を狙われるのが。確かに、それの感じ方は精霊によって違うのかもしれない。俺たちが一方的に決めつけて、神夏を、精霊を救うって言っているだけだ。でも、神夏は本当は孤独を感じてるんじゃないか?独りは嫌じゃないのか?」

 

「別に、嫌じゃないね。もう慣れたものだし。そして、別に辛くともなんともない」

 

「なら、なんでそんなに哀しそうな顔をするんだ?俺には、独りにはなりたくない、って顔に見える」

 

「それは君の脳内で勝手に変換されてるだけだよ」

 

「いや、これでも人の絶望とかには人一倍敏感なつもりだ。神夏のソレは、絶望を感じてる顔だ」

 

「はいはい、君の勝手な御託はどーでもいい。………五河士道、忠告をしておいてあげよう。

 

別に、君が私を救おうだとか何を言おうが勝手だよ?けどね…お願いだから、頼むから私を巻き込まないで。

私は、自分から独りを選んだんだ。

 

あと、もう一つだけ忠告しといてあげよう。これは私のためじゃない。()()()()()()だよ。

私には、関わらないほうがいい。でないと………いつか死ぬよ」

 

「……それは、どういうことだ?」

 

「そのまんまの意味。いつかメイザースやマナが来る。ソイツら……特にメイザースは自分の邪魔をするもの、自分の仕える主人を傷つけうる相手には、たとえ人間だろうと容赦はしない。イギリス(むこう)で襲ってきてたのはそういう人間だ。………こいつらのせいで、私は……」

 

「か、神夏⁉︎殺気が出てる出てる!抑えて!なんか周りの人に変な目で見られてるから!」

 

「あ………ごめんごめん。ま、そゆことだから。………別に、私は君が精霊に対してやろうとしてることを否定するつもりもないし邪魔するつもりもない。人の主観による価値なんて人それぞれ。他人のつけた価値に私がどうこう言うつもりもないし興味もない。ただ巻き込まないで欲しいだけ。

ま、それ以外のことなら秋葉原でもまた付き合ってあげるよ」

 

「あっ……」

 

「心配しなくても、十香ちゃんとか……えーと、ラタトスク?だっけ?()()()()()()()()()()()()()()()()私もどうこうするつもりもない。もし、精霊としての私に助けを乞うと言うのなら、……もう私の『力』の性質を知ってるようだから言うけど、英雄王が『やる価値がある』と判断させれるものを用意するんだね」

 

それを告げ、私は五河士道と別れて家へ帰宅した。




どうでしょう?
サラッと術ギル登場させました。服装は、fgoに出てくる方の術ギルを参考にし、自分で考えました

やっぱり感想とかを見ると、
みなさん攻略ルートよりはAUOの無双ルートを期待してるみたいですね。
あとは中立でいて欲しい、など。

心配しないでください。

第3の精霊が出て来るあたりで神夏の精霊、ギルガメッシュとしての無双を書くつもりです。
そして、しばらく……というか、ほぼずっと神夏は中立でいさせるつもりです。

読んでくださりありがとうございました


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第2の精霊の物語
10話


はい、とりあえず高頻度でもなければ低頻度でもない、よくわからない頻度の更新は今回で終わりです。
次からはめちゃくちゃ遅くなります。

理由としては、受験シーズン全盛期突入だからです。
今これ書いてる時も、こんなんしてていいのか?とから思ってます。

と、今回からは第二の精霊(神夏がいるため正確には第3の精霊ですが。そこは原作に合わせます)がでてきます。
オリ主、ちょくちょくキャラ崩壊しかけます。

それではどうぞ


さて、皆さんに問題。

ここに五河士道と言う名の人間(リア充)がいます。

え?どんな感じかって?

 

簡単に言うと、調理実習で作ったものを持ってきて食べさせてもらえるようなリア充。みんなの目の前で、と言うおまけ付き

 

このリア充を非リアども(神夏ギル&作者含む)が見たらどう思うか、わかりますか?

 

 

「死んでしまえぇぇぇ!!!!」

 

 

こうなるのは当たり前。

しかも、運の悪いことに神夏の眼の前の席が五河士道なのだ。

 

「いきなり暴言吐いてくんじゃねえ!」

 

「やっっっかましいわっ!なに?非リアの私にリア充の現実を見せつけて私の心を細かなガラスのように砕いてそれから私を手篭めにしようとかそう言う作戦ですか⁉︎残念ながら効果は抜群ですよ!4倍くらいのダメージ通ってるよ!ドラゴン地面タイプが氷タイプの技を受けたくらい効いてるよ!ちっっくしょぉぉぉ!」

 

一応言っておきますが、これでも乙女ですからね?

独り身としてはこの光景は目にくるものがあるのです。

具体的にはちょっと四肢をもぐくらいの八つ当たりをしたい。

 

「……ねえ、なんで私が悪いみたいに殺気を当てられなきゃいけないんですか?」

「折角食べてもらえそうなところだったのをあなたが遮ったから」

「なにやら、理不尽な怒りをぶつけていると思ったからだ」

 

夜十神十香のには反論できないけど、と……とびくち?の方には反論したいわ。

ていうか、頼むからリア充じみたことを展開するのは私の目の届かないところでやって。

 

と、思っただけなのに、とびくちのほうからやけに強い敵意の眼差しが飛んできた。

 

ちなみに、そのあと2人の意識はまたもや五河君に調理実習でつくったクッキーを食べさせるってことに向きました。

 

そして、片方から食べてオーラ、もう片方からも食べてくれオーラがでて、そのオーラの中に『私のを先に!』と、正に修羅場のごとき展開になった。

 

そして、()()()()一触即発になり……

 

(五河君が間に入って)殴り合いに発展しました。

一応、私の気持ち&非リアのみんなの声を代表しとこう

 

「ざまぁみろ!そのまま爆ぜてしまえ!」

「頼むから助けて⁉︎」

 

やだ、助ける義理もない。

 

 

 

 

 

〜放課後 帰り道〜

 

現在の私の現在HPは0

やったね、瀕死だよ。皆さん、襲うなら今がチャンスです。襲う意味も利益もない?やかましいわっ。

 

「ねえ、五河君。あの2人の私に対する敵対心を止めてくれない?」

「……無理だと思う」

「デスヨネ」

「というか、ひとついいか?」

「ん?」

 

「なんで………俺は()()()()()()()()()()()()()()んだ?」

 

「なんでもするって言わなかったっけ?」

 

「言ってねえよ!」

 

「え?私ととびおち?の決闘まがいのものを目にしてなんでもするから命だけは〜って言わなかったっけ?」

 

「言ってねえ!なんでこんなことしてんだ⁉︎とは言ったけどさ!」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

「そうだよ、あと、とびおち、じゃなくて鳶一な」

 

「あっそ」

 

「会ったときから思ってたけど、人の名前覚えたらどうだ?せめてクラスメイトくらい」

 

「どーでもいい人間を覚えれるほど私の脳も丈夫じゃないので」

 

ちなみに、その鳶一ってのと決闘まがいのものをしたっていうのはここ1ヶ月くらい何かとケンカ売ってきたのに我慢できなくなったので精霊化してぶちのめそうとしてただけです。

 

「にしても。あいつら仲良くできねえのかよ……」

「無理だね、元々相容れないモノ同士、反発し合うのも当然でしょ」

 

と、五河君のこぼした愚痴に返すと同時、ぽつ、ぽつと雨が降ってきた。

 

「五河君、傘」

「持ってねえよ!あと、俺はいつからお前の世話係になった!」

「え?違うの?」

「違うわっ!」

 

まあ、霊力使って濡れないようにしてるけど雨の中立ってるというのはなんか嫌なもので、とりあえず走って家に戻ることにした。

 

「あ……?」

「ん?どしたの」

「いや、あそこに……女の子?」

 

と、T字路を右に曲がったところで五河君の足が不意に泊まる。

余談だが、私の家と五河君の家は結構近かった。

 

私たちの目に映ったのは、可愛らしい意匠の施された外套に身を包んだ小柄な影。顔はよくわからなかった。それもウサギの耳のような飾りのついた大きなフードが顔をすっぽりと覆い隠していたからだった。

そして、特徴的なのは左手だった。コミカルなウサギの人形が装着されていた。

そんな不思議な少女が人気のない道路で大雨の中楽しそうにピョンピョンと跳ねていた。

 

「(()()……?なんでまた)」

 

そう、私だったからわかったかもしれないが、あの子は精霊だった。

隣の五河君も、気づいたかはわからないが何か違和感にあふれていたような顔をしていた。

まあ、ぶっちゃけると私も五河君もその子に釘付けにされてたんだよね。意味は違うけど。

 

と、そんなときだった。

ずるべったぁぁぁぁぁん!、という効果音まで発しそうなくらいに盛大にその子がずっ転んだのは。

 

顔面と腹を盛大に地面に打ち当て周りに水しぶきが散り、ついでに左手の人形が前方に飛んでいった。

 

「……お、おいっ!」「あれは痛い。ぜっったい痛い」

 

五河君は慌てて駆け寄り、私はあまり関わりたくないため気乗りせずについていった。

 

けど、そんなのはコケた少女の顔を見た瞬間、吹き飛んだ。

 

ふわふわの海の青のような髪。柔らかそうな唇、フランス人形のごとく綺麗な少女。そして、蒼玉(サファイア)のような瞳。

 

控えめにいって、ドストライク。大げさにいうと嫁に欲しい。

あっ、大して変わらないわ。

 

要約すると、見た目どストライクですのでうちに引き取りたい。

ロリコン氏ね?褒め言葉です。

 

「……!こ、ない、で……ください……っ」

「え?」

「いたく、しないで……ください……」

 

五河君、一体この短時間に何をしたのよ。若干引くわ。

 

気づくと、五河君を精霊が拒絶している。

私も態度は違えどあんな感じなのかね。

 

なんか、初めてであう人間と小動物、的な感じを繰り広げていって、五河君が拾ってあげた人形を精霊がなんとか装着した。

 

『やっはー!悪いねおにーさん。たーすかったよー』

 

すると腹話術なのか、ウサギが妙に甲高い声を発した。

 

『ぅんでさー、起こした時によしのんのいろんなとこ触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん?正直どーだったん?』

 

あ、ごめん、前言撤回。みためどストライクだけど性格の方がダメだ。嫌いとかじゃないけど苦手な部類。

私はてっきり超純情で清楚系かと思ってた。

 

『ぅんじゃね。ありがとさん。そっちのおねーさんもばいばーい』

「あ……おいっ」

 

と、気づくと少女は走り去ってしまった。

 

「なんだったんだ、ありゃあ」

「五河君、呆けるのはいいけど、服」

「……あ」

 

私は霊力で濡れないようにしてるけど五河君の服は余すところなく濡れていた。

その後、なぜか濡れてもないのに服を乾かすっていって聞かないため五河君の家にお邪魔することに。なんか悪いため少しだけ服を濡らしてからお邪魔した。

 

 

……………ちょっとまって。曲がりなりにも私、女の子なんですが⁉︎

 

 

「ねえ、五河君。私女の子だよ?わかって言ってるの?」

「て言ってもブレザーくらいだろ」

「それにしてもだよ!」

 

おかしい、最近ツッコミばっかりしてる気がする。

 

「女たらしなんぞ爆ぜてしまえ……」

「物騒だな、おい⁉︎はぁ…とりあえず、風呂場に向かってくれ。お風呂も使ってくれて構わないから」

「あ、どーも」

 

もういいや、この際だから使えるもんは使わせてもらおう。水道代とかの節約にもなるし(する必要ないけど)。

 

脱衣所の場所を教えてもらい、その扉を開け中に……

 

「………あっれ、おかしいな。疲れたかな?」

「か、ギル⁉︎なぜここにいるのだ!」

 

入ろうとしたところで、足を止めた。なぜなら、そこに先客がいたから。

たしか、なんたら十香。基本的に名前とかフルネームで覚えない主義なもので。

 

「うん、錯覚だね。さっさと風呂借りよう」

「何事もなかったかのように無視するなっ!なぜ貴様がここにいるのだ!」

「雨で濡れて最短にあった家が五河君のだったからお邪魔してついでに風呂を借りるため」

 

「神夏、どうしたんだ?十香の声も聞こえたが、もしかして中にいるのか?」

 

と、不思議に思ったのと早く濡れた服を着替えたいのもあったのか五河君がこちらに向かってきて…

 

「「「あっ」」」

 

はい、お約束。扉開けっ放しな状態だったし、そんな中バスタオル一枚のみの十香と言い争いながら色々と脱ぎ始めてた私と五河君が出くわしました。

 

「よっし、五河君。あとで串刺しね」

「冤罪だ!」

 

ちなみに、慈悲はない。

 

 

 

〜1時間後〜

 

「で……どういったことか説明してもらいましょうか」

「どうって言われてもだな……さっき言った通りだよ」

 

おっかしいな。私、絶対にここにいない方がいいから速攻で帰ろうとしてたのに。五河君の妹に捕まって私対みんなで話をするみたいな流れになった。

 

 

一言。私はこういうタイプじゃないっ!

ていうか、どくs………じゃなくて、みんなもこんな展開は望んでないはずだ。

 

 

まぁ、愚痴を言っても始まらないので、聞かれたことには全部テッッキトーに答えた。

 

「………ねえ、えーと……五河君の妹さん?なんであなたがそんな偉そうな態度なんです?」

 

と、私はずっと疑問に思ってたこと聞いてみた。

だって、中学生なのにめちゃくちゃ偉そうに喋るわ、兄貴さんに命令するわ、隣のめっちゃ眠そうな人に指示するわ、で正直違和感しか感じてなかった。

 

「私が『ラタトスク』の司令官だからよ」

「あ、んじゃそんことで私は帰りますわ」

「にがすかっ!」

 

えー、なんで?

ラタトスクはぶっちゃけると嫌いなんです。その組織のリーダーとあっては関わる理由がない。

 

もう一つ。こっちは真面目(一つ目も真面目だけど)な理由。

ますますラタトスクを創った人間の意図がわからない。

何か特殊なことがあるのか知らないけど普通年端もいかない少女を司令官に任命するとか頭おかしいとしか言いようがない。

 

そして、なにやら五河君の訓練だ、とか言ってるけど(やけに五河君の肩を持つようで後味悪いけど)ラタトスクのやり方はやっぱり気に入らない。

 

力を封印したりするとかにじゃない。その過程が、だ。

 

とにかく危険な役回りを五河士道にさせて自分たちは高みの見物?精霊を救うために創られた組織なのに自らの命は張らないのか。私と話をするとか言ってた時も命が危険なのを分かってて五河士道1人にさせてたようなものだし。

 

危険なことは全て五河士道にやらせ、できる限り危険性は減らすといいながら安全な場所からの指示のみとは。まともに現場に出ようともしないで『精霊を救う組織』とは笑わせてくれる。

 

そして、心を開かせてキスをさせて五河士道(ただの人間の中)に力を封印する、というのもやっぱり気に入らない。

 

この組織は分かっているのだろうか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということがどれだけ危険か。

 

知らないならまだいい。けど知っていながらそれを隠しているというのならよりタチが悪い。

 

 

……と、愚痴はこの辺で。私は中立の立場になると決めたんだから。どうせ私には関係のないことだし。

他の精霊のことも、ぶっちゃけどうでもいい。

 

 

そして、一応言っておく。私と五河君のフラグなんぞ立っていないからね?流れで家まで来たけど、そんな気は微塵もないから。フリじゃないよ。

 

今のところこの身を全て捧げる、と思ったのはギル様のみです。五河士道なんて足元にも及ばない。

 

「と、とりあえず晩飯だけでも食べていかないか?」

「………食べさせてもらいます」

理由?自炊できないからに決まってるでしょうが。

今までどうやって過ごしてきたかって?

外食とか外食とか弁当とかインスタントとか。

最近思ったのは、『味が単調すぎて飽きた』。

 

一人暮らしにありがちだよね。

 

 

その後は、まあ普通に五河君の妹から逃げ出して家に帰りました。

もう一つ思うことあったわ。最近、五河士道の呼び方が五河君になっててなんとも言えない自己嫌悪に陥った。




余談ですが、オリ主は基本的に名前を覚えるなんてことはしません。士道と十香は少し特別なだけです。
多分、クラスメイト全員言えって言われて2人しか答えることできない(士道と十香)くらいです。


……うーん、ちょっと深夜のテンション混じってるから少し変な感じになったかもしれない。
そこは後々確認してみます。

読んでくださりありがとうございました


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11話

みなさんの言いたいことはわかります。

お前言ってることとやってることが全く違うだろ!

はい、でも色んな方のssを読んでて、創作意欲がわきまして。
こうなりました。


えー、一応先にぶっちゃけておきます。
10話でもあった通り、神夏にとって第二の精霊は見た目がどストライクなため神夏は贔屓します。

あと、それに絡む際、時たまキャラがぶれまくります。


それではどうぞ


「………ハァ、おっかしいな。ここの人たちって学ぶという人間としての機能すらないのかな?人間が精霊に敵うわけないのにね」

 

私、神夏ギルは今現在ASTともう何度目かになるかわからないが相見えている。

 

そして、もう精霊化した私ですら相手にする必要すらない、と表に出てこなくなった。私の意識になった時には既に周りは堅固な壁でガードされていた。もちろん、精霊化は解いていない。

 

そして、私の前には()()()()()()()()()が。

訳あってこの子を守ってる。

 

「ほら、泣かない泣かない。いじめてくる怖い人たちはもうこっちにこないよ」

「ひっ…ぐ、えっぐ……」

「あー……どうしよう……」

 

泣きやまないなー。いや仕方ないけども。

 

しかし、不思議なもので向こうの音は聞こえないのに映像は見える。

ブレードで斬りつけてきたりミサイルを撃ちまくっていたりとしている。

 

ん?対面してる理由?まあ、それはすこーーし前に遡る。

 

 

 

 

 

 

〜神夏が五河家にお邪魔した翌日の昼〜

 

「ひゃっほい!新記録〜!」

 

私こと神夏ギルはデパートのゲームセンターで遊びまくってます。

(注:精霊かつ現役高校生です)

 

ちなみに、学校は寝坊したのでもういいや、と休みました。サボりじゃありません。

サボりじゃありませんよ⁉︎

 

「うん、そろそろお昼だし、なにか買いに行こ。たしか食べるところあったし」

 

 

ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーー

 

 

「…ねえ、タイミングおかしくない?」

 

絶対におかしい。なんで昼を食べようかと思って店に並んであと1人待てば買えるっていうドンピシャなタイミングで空間振警報が鳴り響くんですか。

天罰ですか⁉︎

 

 

学校サボった罰だ、とか当たり前だ、というツッコミが聞こえたのは気のせいでしょう

 

 

「キミ!早く避難しなさい!」

 

かるーく呆れつつふざけんなと思っていると周りの人に避難しろと促される。

が……

 

「こうなったら、意地でも食べてやる!」

 

避難警告?んなもん知らん!精霊な私はちょっとやそっとじゃ死なないし!

 

 

まあ、わかってるとは思うけどこれが間違いだった。

面倒ごとになるとわかっていたのに離れなかったんだから。

いや、こころのどこかで『こんなピンポイントで精霊がデパートに逃げてくる訳ない』と思っていたのもある。

 

 

そして、まぁ案の定というか安定のフラグ回収の速さで結構近くで空間振が発生した。

けど、それを気にすることなくこの神夏ギル(バカ)は食べ続けた。

なぜなら、自分に関係がないから、と。

念のため補足をしておくときっちりお金はカウンターに置いてたりする。

 

 

ガタッ

 

「……ねえ、何してんの?空間振警報なってるのに……って、あー、昨日の子か」

『あーら、君もよしのんをいじめにきたのかなぁ……?……って、昨日の同類のおねーさんじゃありませんか』

 

大きな音がしたと思ってその方向を見ると、昨日の精霊がいた。パペットが陽気な声で反応して来た。

名前はよしのん、らしい。

 

「うん、そだよー。精霊ですよー。名前は神夏ギル。人間たちの識別名は【アロガン】。そちらは?可愛らしいお嬢さん」

 

『んまー、可愛らしいお嬢さんなんて、イカした言葉知ってるねぇ。あたしはよしのん。識別名……で思いつくのは確か【ハーミット】だったかな?ねーねー、それよりおねーさん。なんでこんなとこにいるの?』

 

「ん?避難警告を無視してご飯食べてたらこうなった』

 

『ぷっ、おねーさんってもしかしておバカさん?』

「否定はしない」

『ねえ、よかったらよしのんの話相手なってくれない?』

「全然オッケー」

 

ずっとパペット越しでしか喋ってもらえないのは警戒心が強いからかな?

 

 

『おねーさん。せっかく会ったんだしおねーさんの霊装見せてくんない?』

「ん?いいよ。シンプルなのとカッコイイのとおしとやか風なのどれがいい?」

『んじゃぁ、かっこいいやつを!』

「承知しました〜」

 

この時、霊力感知される可能性があるというのを忘れてました。よしのんが可愛いから思わず二つ返事でオーケーしてしまった。

で、私はいつもの下半身と右腕のみじゃなく、下半身のみ、胸はサラシで隠してあり、そして皮膚に直接赤い文様が刻まれた身体に。そして【乖離剣エア】を右手で持ち、左手で【天の鎖(エルキドゥ)】を持った。

 

『わー、かっくぃー!』

「それはどうも」

 

確か、この格好になったのは二回だけだったかな?

鎖はいいけど剣は物騒すぎたので見せた後はすぐさまゲートの中にしまった。

で、結局精霊化しておく必要もないと思い鎖も収めて精霊化を解除した。

 

そして、しばらく話しているとそこに、予想通り五河士道が現れた。

なんか、ハードボイルド風に『ふ……っ、そんな奴のことは知らないね。私は、通りすがりの風来坊さ…』とか言い出すから私もよしのんも大笑い。

 

んで、まぁよしのんと五河君で話を進めてった。にしても右耳のインカムは隠す気ないのかね?

 

「……?あれ?AST以外にもう1人来てる……?」

 

精霊化した時に取り出して置いた気配探知の道具によると、デパートの外をうろうろしているAST以外にもう1人、こちらに来ていた。

 

まあ気にすることもない、と思い五河君とよしのんの話は続いていた。

 

そんな中、事件は起きた。

 

よしのんがジャングルジムに登って、それを心配しながら私たちが見てるとよしのん落下。それが五河君の方向だったため、予期せずしてよしのんと五河君が()()()()()

 

正確には、事件が起きたのはこの後。

 

最悪なことに、この場に居るはずのなかった人物がいた。

それはーー十香だった。

 

案の定、十香はブチギレた。

それもそうだ。心配してたと思ったら別の女とイチャコラしてた(ように見えるん)だから。

 

まあ、事故なんだけど。本当のことを言うのもつまらないので黙秘を貫き通した。

 

そして追い討ちをかけるように、よしのんがこう言い放った。

 

『君には悪いんだケドォ、士道君は君に飽きちゃったみたいなんだよねぇ。もう、いらない子だねぇ』

 

と。

 

流石に言いすぎ、と思ったので撤回させるつもりでよしのんに声をかけようとした時だった。

 

十香がよしのんの左手にあったパペットの胸ぐらを掴み上げた。無論、小さなパペットだったため、よしのんの手から容易く外れた。

 

どうやら、十香は喋って居るのはよしのんではなくパペットだと思っていたようでそちらに怒鳴り散らしている。

 

それと同時進行でみるみるうちによしのんの顔が蒼白になり、顔中に汗が浮かんで来た。呼吸も荒くなり、いまにも過呼吸で倒れそうだった。

 

「よしのん、大丈夫?」

 

と、声だけかけてみるも聞こえていないようだった。

私のことは目もくれず十香の服を引っ張った。

 

どうやら、パペットを返して欲しいらしい。

 

んでね、この時によしのんの声を聞いたんだけどめちゃくちゃ可愛い声だったのよ。性格とかそんなん全部棚上げできそう。お持ち帰りしたい。あ、やめて。通報しないで。

 

と、話が逸れた。

 

で、この後。よしのんが()使()()()()()()

精霊を護る絶対の盾、霊装と対をなす最強の矛。精霊を最強とたらしめる『形を持った奇跡』。

 

ちなみに、私の天使は『乖離剣エア』。

そんなものを気軽に出すな?ごめんなさい、けど反省はしていない。

よしのんの天使は全長3メートルほどのずんぐりしたぬいぐるみのようなフォルムの人形。体表は金属のように滑らかで所々に白い紋様が刻まれていた。頭部と思しき箇所はウサギの耳のようなものがあった。

てか、ぶっちゃけるとでっかいウサギの形だった。

 

また脱線してた。話を戻すと、よしのんが天使を顕現したんだよ。

しばらく水を操って十香達を攻撃した後、逃げ出したんだけどさ、なぜか()()()()()()()()()()

いやー、びっくりしたよ。十香がパペットを落としたのを拾って渡そうとしたら私ごとウサギにくわえられた。で、壁を破って外へ逃走。もちろん私ごと。

 

「よ、よしのん!冷たい!冷たい!凍えそう!パペットはあるから落ち着いて!お願い!」

「は…っ、ご、ごめ…んな…さ………。きゃっ!」

「どうした……の……」

 

外に出てまず起こったのが、ASTによる一斉射撃。それにより、ほんとに迂闊だったんだけど、パペットを落としちゃったんだよね。

 

「あ…」

「よしのん!逃げ続けて!」

「……っ!」

 

けど、巨大なうさぎはいい的だったようで次々と弾丸が着弾していく。もちろん私を巻き込んで。

 

ちょっと待って。私無関係。

 

「あーーーもうっ!うっとおしい!よしのん!一旦ストップ!」

「え…っ」

「………まったく、毎回面倒ごとに巻き込んでくれるな……、神夏よ。にしても………また雑種どもか。もう良い。相手する価値すらないわ」

 

精霊化し、盾を何枚か使い軽い防壁を作ってもらった後、元の私の性格に戻った。

 

安全だとわかったのかよしのんは天使の顕現を収めてくれた。

けど、先ほどまでの出来事を思い出してしまったのか、ないてしまった。

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

「あの……なんで………助…けて、くれたん、……ですか?」

「ん?あ、あー。えーとね、………よしのんが可愛いから?」

 

やめて、そんな変な人を見る目で私の精神を攻撃しないで。

 

「ねえ、よしのん、ひとつお願いしてもいいかな?」

 

「……!」

 

と、少し落ち着いたようなので話しかけてみると、何かを言いたそうに口をモゴモゴさせて、そしてゆっくりと口を開いた。

 

「わ、たし……は、私……は、よしのん、じゃなくて……四糸乃…です。よしのんは……私の、友達」

 

「ん、わかった。じゃあ四糸乃。ひとつお願いしてもいいかな?」

 

「…?」

 

「臨界に消失(ロスト)してもらえないかな?」

 

と、言うと嫌なのかブンブンと力強く首を横に振った。

 

「よ……しのん…が……」

 

「うん、わかってる。よしのんは、いま確認した限りも無事なの。けど、いま四糸乃が迎えに行っちゃうと、よしのんどころか四糸乃がまで危険になっちゃう。だから……お願い。今は一旦身を引いてくれないかな?」

 

ものすっごく、拒否をされたが、とにかく御願いをした。

なんでかと言うと、見た感じの四糸乃の霊装だとASTの攻撃を完全に無効化できない。だから、今こんな状況でこっちにいて欲しくなかった。

 

だって、こんなかんわいい子が傷つくのは見たくありませんし!

 

「大丈夫、よしのんは絶対に助けるから。約束する」

 

と、そこまで言ってようやく四糸乃が首を縦に振ってくれた。

 

「……あ、そうだ。四糸乃、つぎ来た時…………いや、何でもない。それじゃあ、気をつけてね」

「はぃ………ごめんな……さい。あり…がとう………ございます」

 

 




あー……書いてて思ったんですがエルキドゥという名前の魔道士(ウィザード)を出そうかなーーって考えてます。

そこらへんどうしよ……。と、色々と悩みました。

なんか、人間側の力関係とかややこしくなりそ……で踏みとどまりかけてますが。



読んでくださりありがとうございます


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12話

デアラアンコールを買って読んでたんですが四糸乃可愛すぎます。反則です。
ろりこん?褒め言葉だっ!(

と、まあ茶番はこの辺でやめときます。

なんか中途半端なところで留めておくのも後味悪いので四糸乃編は頑張って書いていこうと思います。

あ、そうそう お気に入りしてくれていた方が600人を超えていました。
皆さんありがとうございます

それではどうぞ


久しぶりに、昔のことを夢に見た。

 

親戚(ピー)の事を。幼馴染(ピー)の事を。

 

……あれ?名前が思い出せない。

顔も思い出せない。

 

確かにいたということはわかるのに、それしか思い出せない。

 

……まあ、いいか。

 

 

精霊の力を使いたくないと思うようになったのはいつからだったろうか。

 

イギリス(向こう)で、いろんな人たちに襲われて、騙されて、殺されかけて、精霊(ピー)を殺してしまった頃からだろうか。

 

けど、精霊化している私はとても非情で、無表情で周りの人間を、()()()蹂躙している。

 

 

 

(お……願い。た……す………けて)

 

(-------)

 

(ねえ……私たち、友達……で……しょう?)

 

(貴様ごときが我と友だと?傲慢な考えもほどほどにせよ。我の友はこの世で一握りだ。そして、神夏の奴も貴様を友などとはもう思うてない。神夏を騙した罪に見合った罰を与えてやろう)

 

(いや……いや……いやぁ!)

 

血だらけになって地に這いつくばっている雑種(精霊)に向けて、これでもかと、武器を突き刺す私。その顔は、怒ってもいなければ悲しんでもいない。

 

ただ、この世の全てに絶望をしていた。もう、この世なんてない方がいい、と。本気でそう思った。

 

その瞬間、私の中のナニカがひっくり返る感覚が起きた。

 

 

 

 

 

 

「…………嫌な夢見たなぁ………」

 

ベッドの周りを見ると汗でびっしょりと濡れていた。

時計を見ると昼を過ぎていた。

 

「………なんで、私は涙を流しているのかな?不思議だね」

 

もう、流す涙なんてないと思っていたんだけど。

 

 

私には何かを想う資格なんてものはない。故に、救うだのそんな世迷言を吐かれる資格もない。

 

 

「……と、ネガティヴ思考はダメダメ。それよりは……どーーやってパペット取り戻そう……」

 

そう、私のドウデモイイ問題よりは四糸乃のパペットの方が問題だ。

 

あんな助けるって正面切って言ったにも関わらず私はパペットを拾うことができなかった。

霊力を隠して身を潜めてAST達がその場を去るまで粘ってたんだけど、あろうことかASTの中の一人がそのパペットを持って行ってしまったのだ。

 

「……ま、なるようになりますか」

 

幸い、誰が持ち帰ったかはわかってる。あとは家に忍び込んで盗……返して貰えばいいだけ。

 

「さて、雨が降ってるけど仕方ない。探しに行きますか」

 

と、出かける準備を終わらせ、家を出て、少し歩いた時だった。

 

「ぁ…」

「あ、神夏」

 

「………」

 

とある家の前で四糸乃を家に連れ込もうとしてる五河士道(ロリコン)がいた。

 

「え?ちょっ、神夏?なんで携帯を取り出して………」

「あ、もしもし?警察ですか?」

「ちょぉぉぉ⁉︎何かけてんの⁉︎」

「うるさい、小さい子を家に連れ込もうとしてる人に慈悲なんてない」

「誤解だぁぁ!」

「??」

 

と、四糸乃だけ状況がわかっていなかったが、しばらく言い合って、まあなんとかこの場を収めることにはなった。

 

 

 

 

〜五河家〜

 

「はぁ……疲れた……」

「惜しいなー、もうちょっとで通報できたのに」

「何がだ!俺はロリコンじゃねえ!」

「四糸乃、この人はロリコンだから気をつけてね」

「ろりこん……?」「頼むから黙ってクダサイィィ⁉︎」

 

どうやら、四糸乃がパペットを探すため兼私を探すために静粛現界をしていたらしい。

 

で、その途中に五河君に会ったらしい。

パペットを探してる最中に四糸乃がお腹を空かせてしまったので腹が減ってはなんとやら、ってことで休憩を兼ねて食事をしようとしたが、ずぶ濡れだったため店に入るわけにも行かなかったので家に連れてきたらしい。

 

「あの………よし…の…ん………は?」

 

「……」

「おい、神夏。顔をそらすんじゃねえ」

 

「………ごめん、四糸乃。あの後よしのんを助けようと思ったんだけど、助けれなかった」

 

「うぇ……」

 

「ああ!でも、無事なのは確かめたから!どこにいるのかも!」

 

「ほ……ほんと……ですか?」

 

「うん、だから心配しないでほしい。私の下僕である五河士道がちゃんと取り戻してくれるよ」

「ちょっと待て!いつ俺がお前の下僕になった⁉︎」

「生まれた時から」

「理不尽だなぁおい!」

 

と、ちょうどそこに五河士道が3つ親子丼を持ってきた。

 

「……?なんで3つもあるの?」

「そりゃあ、3人いるからだろ」

「別に私いらないんだけど」

「まあそう言うなって。んじゃ、いただきます」

 

いつの間にか五河君が仕切っていて手を合わせてそう言う。それを真似するように四糸乃がペコリと頭を下げた。

 

やっばい、目の保養だわー。

 

と言いつつ私もお腹減っていたので遠慮なく親子丼を口に……

 

「うまっ⁉︎」「………!」

 

口に入れた瞬間、私が叫び、四糸乃がカッと目を見開いてテーブルをペシペシと叩いた。

 

「はは、気に入ってもらえてよかったよ。神夏も、遠慮せずに食べてくれ」

「むぅ……女子の立つ瀬がないとはこう言うことか……」

 

けど、ほんとそこらの飲食店よりかは美味しいので、私も四糸乃も瞬く間に食べ終わった。

 

「……ああ、そうか。なあ、四糸乃。ちょっと聞きたいことがあるんだが、いくつか質問してもいいか?」

「おっ、もしかして3サイズとか聞き出しちゃうつもり?ヤーヘンタイー」

「聞き出すかっ⁉︎ちょっと黙っててくれねえか⁉︎」

「やだ」

「即答⁉︎」

「嘘嘘、ほらさっさとしてあげなよ。さっきから不思議そうに首を傾げてるよ」

「お前のせいだろ……」

 

五河君が疲れながらも四糸乃に向き直す。

 

「四糸乃、その……ずいぶん大事にしてるみたいだけど、あのパペット……よしのんってお前にとってどんな存在なんだ……?」

 

と、そう五河君が聞くと恐る恐るといった調子でたどたどしく四糸乃は言う。

 

「よしのん、は……友達……です。そして……ヒーロー、です」

 

「ヒーロー?」

 

「よしのんは……私の、理想……憧れの、自分……です。私、みたいに……弱くなくて、私……みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」

 

「理想の自分……ねえ。俺は……今の四糸乃の方が好きだけどなぁ……」

 

と、五河君が言った瞬間、四糸乃はボンッ!と顔を真っ赤に染めて背を丸めながらフードを手繰って顔を覆い隠した。

 

「よ、四糸乃……?どうした?」

「(天然タラシ)」

 

「……そ、んなこと……言われた……初め……った、から……」

「そ、そうなのか……?」

 

と五河君が聞くと四糸乃が深く首肯する。

 

「ねえ、五河君。一応聞いておくけど、今の計算?ラタトスクに指示されたとかじゃなくて?」

「は?け、計算ってなんだ……?」

「………いや、違うならいいんだけどね……爆ぜてしまえ

「おい、今なんて言った」

「ナニモ、イッテマセン」

「なら棒読みする必要ねえだろ」

「別に、ロリコン天然タラシは爆ぜろと言っただけですが、特に問題はありません」

「あるわ!大有りだわ!俺はロリコンじゃねえ!……話が逸れた……。ええと、四糸乃。おまえはASTに襲われてもほとんど反撃しないらしいじゃないか。何か理由でもあるのか?」

 

すると、答えるのが辛いのか、顔をうつむかせてインナーの裾をぎゅっと握り、消え入りそうな声をだした。

 

「……わ、たしは……いたいのが、きらいです。こわいのも……きらいです。きっと、あの人たちも……いたいのや、こわいのは、いやだと……思います。だから、私、は……」

 

……はい?四糸乃、そんな理由で攻撃しないの?どれだけ優しいの。曲がりなりにも自分を殺そうそしている相手を気遣っていると?

 

「でも……私、は……弱くて、こわがり……だから。一人だと……ダメ、です。いたくて、きっと、みんなに……ひどい、ことを、しちゃい、ます。だ、から……よしのんは……私の、ヒーロー……なんです。よしのんは、……私が、こわく、なっても……大丈夫だって、言って……くれます。そした、ら……本当に、大丈夫に……なるんです。だから……だ、から……」

 

私は、聞きながら顔をしかめっ面にし、五河君に至っては無意識なのだろうが、唇を強く噛み、両の手は血が出そうなほど強く握られていた。

 

四糸乃は、あまりにも優しすぎる。そして……とてつもなく悲しい精霊(生き物)だ。

自分のいやなことは相手もいやだろうと、自分に敵意を向けてくる相手を気遣い、傷つけないようにすることがどれほど困難か。

 

私なら、一瞬で全滅まで持っていってしまう自信がありますわ。

 

そして、四糸乃は自分のことを過小評価しすぎている。

どこが弱いのか。例えそれが、非道く非道く歪な慈悲だとしても、四糸乃は弱くなどない。

 

私なんかよりは遥かに強い。

 

 

嫌なことから、この世の全てから逃げだそうとした私なんかとは。

 

 

と、そんなことを考えていると五河君が四糸乃の隣に腰を下ろすと、そのまま四糸乃の頭をワシワシと撫でた。

 

「……っ、あ……っ、あの」

 

「俺が」

 

「……っ、……?」

 

「俺が、おまえを救ってやる。絶対に、よしのんは見つけて、おまえに渡してやる。それだけじゃない。もう、よしのんに守ってもらう必要だって無くしてやる。もう、おまえに『いたいの』や『こわいの』なんて近づけたりしない。俺が……おまえのヒーローになる」

 

……わぁお。かっこいー。

 

「…あ、りがとう、ございま……す」

「……おう」

 

「……四糸乃」

 

「……?」

 

「……いや、やっぱりなんでもない。ごめん」

 

私は、思ったことを口に出すことをやめた。

四糸乃に、ただ優しいだけの子に私の考えはキツすぎる気がしたから。

 

「そういや、神夏は止めないのな」

 

「ん?」

 

「いや、俺たちのやり方にはあまりいい感情を持っていない感じだったからさ。今回も止められるかと思ってたんだけど」

 

「別に……基本的に私は他の精霊がどうなろうと知ったことじゃない。ただ私に関わらないでくれたらいいだけ。まあ、今回止めない理由はそれだけじゃないんだけどね」

 

四糸乃に関しては、霊力を無くして救う、という方法は救う手立てとしては一番良い案だと思ったから。だから止めない。

 

こんな優しい子が、()()()()()()()()()()によって理不尽な事に巻き込まれるなんて、絶対に間違っている。

 

 

……私?私に関しては優しくもないし、別に理不尽とは思っていないからいい。

 

 

まあ、でも四糸乃の優しさには一つ欠点があると私は感じた。

 

なんでかというと、その優しさが全くと言っていいほど自分に向けられていない。

 

私から言わせて貰えば、自分のことの前に他人を心配するなんて、それはただの傲慢な振る舞い。

他人を守ることなんて、自分の身を守れる人のことがやることだと私は思っている。

けど、四糸乃は自分の身より他人のことを優先させてしまった。

それによりどれほど辛い目にあっているのだろうか。

私だったら発狂する自信あるね。

 

 

閑話休題(話を戻そう)

 

 

「てかさ、五河君ってどこにパペットがあるかわかってるの?」

 

「ゔっ……」

 

「……もしかして、ラタトスク頼りとか?」

 

「いや、そんなことはないんだが……正直どこにあるかはわからない」

 

「はぁ…私が知ってるから」

 

「ほ、本当かっ⁉︎」

 

「うん。ていうか、五河君じゃないと盗みに……じゃなかった。取り戻しに行けないから困ってたんだよね」

 

「そ、そうなのか……。って、おい神夏。今なんて言った?」

 

「なにもー。で、話を戻す……「シドー!」……つもりだったんだけど、こりゃあ無理だね」

 

パペットのありかを話そうとすると、五河家のドアが勢いよく開けられた。

声を聞く限り、なんとか十香だ。

 

この状況に、五河君は慌てふためき十香は穏やかぁーな笑みを作り、リビングに入ってくる。

 

そして、ちょうどいい具合に影に隠れてた私を見つけた瞬間こちらを睨んでくる。

 

「なぜ貴様がここにいる!」

 

「別に、私がどこにいようが君には全く関係ないことな気がするんだけど?」

 

「貴様がシドーにしたことを忘れたのか!」

 

「忘れてなんかいない。けど、それとこれは話が別。ていうかさ

君の()()()()()()()()八つ当たりに私を巻き込まないでくれないかな?」

 

「っっ!」

 

あれ?胸ぐら掴まれた。

 

「と、十香、やめ…」

「シドーは黙っていろ」

「はいっ…」

 

うわっ、使えない男ですわね(棒読み)

 

「ねえ、私に手を出すつもり?精霊の力を失った君が私に手を出すと?万全の状態で足元にも及ばなかった雑魚の君が?つけあがるのも大概にしなよ?雑種」

 

そこまで言うも、余計に怒ったみたいでさらに顔を歪ませる。けど、事実なため反論もできないらしくギリギリと歯を軋ませている。

 

「か、神夏………?」

「いでっ」

 

十香は耐えきれなくなったのか私を放り投げ冷蔵庫の中身をありったけ取り出しそのまま廊下へ出て行った。

二階の方から乱雑に扉を閉めた音が聞こえてきたあたり、部屋に閉じこもったのかな?

 

四糸乃は、気付いた時にはもう消失(ロスト)していた。

 

「ま、起こったことはしょーがない。そんじゃパペットの在り処を教えるのであとは頑張って」

 

「なぁ、神夏。なんであんなことを…」

 

「ん?私は至極全うな事実を言っただけだよ?」

 

「それにしても言い方があっただろ!」

 

「それについて責められる謂れはないよ。事実を言ってなにが悪いの?ああ、そんなことよりパペットの在り処だけどね…とび……なんとかオリガミって人の家だよ。ま、頑張って。私もできるのなら四糸乃は助けてあげて欲しいから。観客として少しは応援しておいてあげるよ」




どうでしょう?
ちなみにいうと、神夏はロリコンですね。誰がどう見ても。はい、私がいうので間違いありません。

そして、神夏の過去がすこーしだけ明らかに。



読んでくださりありがとうございます


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13話

久々の投稿。

受験も、とりあえずひとつ終わったので息抜きに書いてみましたが……さあ、どうやって話を進めようか全く考えが浮かびませんでした。

結構頑張って考えたのですが、もしかしたら近いうちにこの話は書き直す可能性があります。
ご了承を。

それではどうぞ


十香に理不尽な怒りをぶつけられた後、私は家に帰るわけでもなく、彷徨っていた。

というか、頭がいたい。なんかとんでもなくムシャクシャする。

 

なんというか、初めての感覚だった。私でない、私に、段々と意識ごと侵食されて行くような。

 

(神夏よ、()()()()()()()になっているぞ)

 

「あ……」

 

大通りに出ると、いつの間にか人一人おらず、周りには機械を纏った雑種がかなりいた。

 

「あーいいところに」

 

うん、周りが色々と叫びながらこっちに攻撃してきてる。

霊力の壁で全部防いでるけど、ちょうどいい。

 

 

 

今はね……()()()()()()()()()()()()()なんだ。

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「ふむ…瓦解する寸前、といったところか」

 

我は神夏を見ながらそう判断した。

 

「さて……また引きこもられるのも面倒だな。雑種どもの生死に関してはどうでも良いが……神夏は止めねばなるまい」

 

今、神夏は機械を纏った雑種どもを相手にし、我の力をごく自然に行使している。だが、いつもの、殺生を嫌う神夏ではなかった。

()()()()()、力を振るい、雑種を蹴散らしている。

明らかに、我の魂と()()()()()()()

まあ、当然のことだ。

 

この1ヶ月弱という短期間の間に我の力を幾度となく使ってきていた。

我の魂と一体化になるな、という方が無理な話。

 

そもそも、神夏は1つの肉体に1つの魂というこの世の理から背いた存在になっていた。なれば、元の理の中に収まろうとするのが道理。

 

ま、自らそんなことをする輩はつまらぬがな。

 

だが、神夏がこの体の所有者とはいえそこいらの雑種と変わらぬ魂と英雄王たる我の魂とではどちらが強く出るかは分かりきっていることだった。

 

「む……そろそろ傍観するのもやめにするか。神夏の阿呆を止めねばな」

 

 

 

 

 

 

「……っ、なんで……【天の鎖】が……」

 

(戯け。王たる我の力を好き勝手に使いすぎだ。いつも通りならば、見逃しておったが今回は話は別だ。これ以上はたとえ貴様とて許されんぞ?)

 

やたらと目障りな動きをしていた雑種を足蹴にし、首を刎ねるため剣を振り下ろそうとした瞬間、なぜか【天の鎖】によりがんじがらめにされた。

 

(神夏よ、己を見失うな。気を強く持て。貴様は、貴様の魂はその程度ではないはずだが?)

 

「……わ……たし……は……」

 

「神夏っ!」

 

私の中のよくわからない感情と葛藤していると私の名前を呼ぶ声がした。

 

そっちを見ると男がいた。たしか名前は……。…あれ?()()()()()()()()。ていうか……そもそもココドコダ?

 

なンか……思い出そうとすると、頭、痛い。

 

(ふむ、頃合いだな。さて神夏よ。少しばかり頭を冷やすが良いだろう。その間は我が使わせてもらう)

 

そして、意識がだんだんと消えていった。

 

 

 

 

 

〜フラクシナス 解析室〜

 

「……これは、私たちは【アロガン】に対してとんでもない間違いをしていたのかもしれないね」

 

解析担当である令音は、今しがたまで暴れていた精霊【アロガン】、神夏ギルのデータを見ていた。

 

好感度、空腹感、など様々なデータの名前はあったが全てがエラーとなっていた。

これは、あの精霊がつけている装飾などの効果なのだろう。

 

だが、霊力に関しては、自分たち『ラタトスク』にとって------シンが話しかけた際のほんの数秒程度のものだったが-----一番最悪なことを示すものがあった。

 

()()()()()()()()()()()()()()。だが、これが……?聞いていた話とは随分と違うな」

 

今までの【アロガン】は、機器の故障でもなんでもなければ、霊力値は()()()だったはずだ。今、いつものトレードマークのような黄金の鎧を身に纏っているが、ちゃんと霊力値はプラスを示している。

 

だが、先ほどの一瞬の計測データによるとマイナスを示していた。

 

琴里に報告すべきなのだろうか。

 

「神夏ギル……君は一体、何者なんだい?」

 

 

 

 

 

 

「神夏っ!」

 

琴里から、神夏が暴れているということを聞いていてもたってもいられなくなり、神夏の元へ来た。

 

そこで目にしたのは、精霊化をしていないはずの神夏。けど、精霊としての力を振るっており、あの【殺すこと】が嫌いな神夏がなんの躊躇もなくASTを殺そうとしていた。

 

思わず、叫んでしまった。

 

「……ふぅ、中々好き勝手に使いおって。本来なら我の財を勝手に使った罪として死罪にでもするところだが…」

 

すると、突如光り出し、それが収まる頃には精霊化している神夏がいた。

 

「え…ええと」

 

「さて、神夏の阿呆が頭を冷やすまでは……ん?何を見ている、道化よ。我に見惚れるのはわかるが疾く失せよ」

 

「……っ、お、王よ。神夏は……」

 

「疾く失せよ、と我は言ったはずだが?」

 

神夏に睨まれ、思わず腰が引けてしまう。

だけど、退くわけにはいかない。

 

 

「嫌…だっ!俺は!神夏を救うと決めた!あんな、自分以外の全てに絶望した顔をして欲しくないから!だから俺は……」

 

 

と、叫んだその瞬間に顔の横を何かが勢いよく通り抜けた。

 

「……っ」

 

「口を慎めよ雑種。誰の許しを得て我にそのような口を聞く?不敬であろう?」

 

と、黄金の波紋をいくつも作り出して武器を自分の方に向けられた。死の恐怖が自分を襲った。

 

でも退けなかった。

 

「不敬でもなんでも構うか!俺は諦めが悪い男だ!だから……神夏、お前にも俺のエゴを押し付けさせてもらう。覚悟しろ……」

 

 

その瞬間、左足に激痛が走った。思わずバランスを崩し倒れてしまった。

 

 

「う、あああっ!!!⁉︎」

 

「ん?どうした?たかが左足のみだろう?」

 

左足を見ると、膝から下が綺麗に切断されていた。。そのすぐ側には、赤い槍と先ほどまで自分の足につながっていたであろう左足が。

 

「あ……ぐ……」

『士道!落ち着きなさい!心配しなくてもその程度のケガなら……』

 

「ああ、先に言っておくが以前、どう延命したかは知らぬが、その時に使った能力はアテにならんぞ?生憎、切ろうが焼こうが倒れぬ英雄(雑種)は見飽きているのでな。対処の仕方などいくらでもある。だが心配することはない。殺すつもりなど毛頭ない。なにより……」

 

カチャ、カチャと音を鳴らしながら神夏が近づいてくる。

左足は、前のように炎があがっているが一向に治る気配がない。

 

そして、神夏は俺の胸元を掴み、顔を近づけてきた。

 

「我を前にして怯えず、その身の覚悟を示した勇気は賞賛に値するぞ、道化よ。貴様のその心意気は認めてやろう。だかな……次そのような口答えをした際には、そうさな、その心臓ごと抉ってやろう。先ほどの貴様の言葉は少なからずイラついたのでな。それにだな……

 

我は前の貴様の方がまだ良かったと思うている。戯言とはいえ前の方が貴様の言葉には今以上の覚悟があった。だが、今の貴様の言葉は聞くに値せん。心の奥底に、致命傷を負っても大丈夫、という愚劣な考えがへばりついておる」

 

「……っ」

 

殺気を含んだ声で言われ、思わず萎縮してしまう。

 

「今回は特別に免罪とするだけだ。そのことを、その身に刻んでおけ」

 

それだけ言い終わると神夏は俺を放し、優雅に歩いて去っていった。その途中で俺の側にあった槍を含め、周りにある武器と共に虚空に消えていったが。

 

 

 

「…くそっ!!」

 

 

俺は…なんて無力なことか。

自分への怒りがこみ上げてきて、地面を殴ってしまう。

 

何より、神夏に胸元を掴んで言ってきた時、俺は……

 

「なんで…あんなことを……」

 

 

逃げ出したいと思ってしまった。

俺自身の目的すら投げ出しかけたほどに。その事実にとても強い怒りを覚えた。

 

 

それに、神夏のいう通りだった

心のどこかで、腹をぶち抜かれても復活できた、という経験から『死にはしない』と心のどこかで思っていた。

 

だが、実際どうだ。

あの不可思議な治癒の力が使えないとなると、このザマだ。

 

今更のように左足が治っていくが、そんなものは眼中に入らなかった。

 

「俺は……」

 

と、その時、なんともいえない感覚に陥った。

何度か感じたことあるものだった。

 

気づくと、フラクシナスの中にいた。

 

「士道」

 

琴里が近づいてくる。

 

「いつまで落ち込んでるわけ?」

 

「琴里……俺は……」

 

「あら、たかが精霊に殺されかけたくらいでもう参っちゃったわけ?一回殺されたこともあるっていうのに」

 

「っっ!そんなんじゃねえ!でも、俺は……俺には、精霊を救う資格なんて……」

 

と、そんなことを口にした瞬間、腹に大きな衝撃が走った。これは確認しなくてもわかる。琴里に蹴られたんだ。

 

そして胸倉を掴まれ、顔を引き寄せられる。

 

「士道、いい?これは私たちに……いや、士道にしかできないことなの。それに、四糸乃はどうするわけ?あそこまでしておいて放っておくわけ?ハッ、我が兄ながら聞いて呆れるわ!」

 

琴里の言葉に、何も言い返すことができない。

 

「私のお兄ちゃんはね、たとえどんな逆境でも決してめげず、最後までやり通す。文字通り体が貫かれようとね。たかが一回や二回殺されかけたくらいで諦めるような人じゃない」

 

琴里の言葉が胸に深く突き刺さる。

 

「それにね、士道。あなたの行いは間違ってない。それだけは断言してあげる。現に、一人の精霊が助かっているんだから。確かに、私たちがサポートしているのもあったかもしれない。でも確実に士道の行動の賜物よ」

 

「…」

 

「自分を信じなさい。士道。あなたなら、きっとできる」

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

 

よくわからない空間にいた。

 

まるで宇宙のような、だけど周りには何もない。虚空のような空間。

 

周りには、精霊化し英雄王の能力を宿した私。黒い鎧を纏い、何処か冷酷な表情をしている私の二人の私がいた。

 

「ここは、どこ?」

 

『其方の心の中だ』

 

【なかなか、というかかなりさっぱりした空間だろう?】

 

精霊化した私と、黒い私が答えた。

 

「なんで……こんなところにいるの?」

 

『さあな。貴様が選んだことだろう?』

 

【そうそう、君が選んだこと。だから私は力を出した。まあ、こっちの人にみっちり咎められたけどね】

 

黒い私が、黄金の私を見ながらいう。

 

『当然であろう?臣下にすら余程の事がない限り貸し付けなかった財を勝手に使ったのだ。殺されぬだけありがたいと思え。()()()()()()()()よ」

 

「待って……話についていけない」

 

黄金の私と黒い私が普通に話しているが全く内容がわからない。

 

『なに、()()()()()()()()()()に戻ろうとしているだけだ。ま、そんなことはさせんがな』

 

【何を言ってるのかな?私が、黒い私(わたし)を望んだというのに】

 

『神夏が望んでいようと望んでいまいと関係ない。貴様は神夏にとって成るべきものではない』

 

「私が、私を望んだ……?」

 

未だに話がよくわからない。

 

『今は理解する必要もない。貴様には無縁の話だ』

 

【冷たいねぇ、仮にも神夏は君の主でしょ?】

 

『戯け。逆だ。我が神夏に仕えているのではない。神夏が我に仕えているのだ』

 

「ああ、うん。それはそうだよ。私が英雄王の主とか、そんな畏れ多い。畏れ多すぎて自殺しそう」

 

 

 

閑話休題

 

 

【まぁ、とにかく。私が出てきたのは、あの元精霊のおかげだね。アレがキッカケで私は出てこれたんだから。感謝しないと】

 

『ん?言っておくが、次は二度とないぞ?神夏の阿呆にも、このようなことは二度とさせぬようにするつもりだからな』

 

「…ねえ、1つ聞いていい?」

 

私は、ずっと気になっていることを、目の前の私二人に尋ねた。

 

【いいよ、なんでも聞いて】

『よかろう、許す』

 

「ここにいる私3人はさ、全部、()なの?」

 

『【違う】』

 

それを言われ、驚いたものの、多少は考えていたためすぐに冷静になれた。

 

『まず、我は貴様が喚び出した我という英雄王だ。いや、正確には我の()だ。最初こそ……いや、つい最近まで、貴様は我を別の人格だと思っていたようだが。貴様の体には、貴様の神夏としての魂と、我の魂という2つの、本来相容れない存在のものが入っているのだ。故に……貴様の魂が我の魂と同化するのは必然だ。此度のように、我の性格が混じってきているのも当たり前、というわけだ」

 

【私は、神夏ギルという精霊の()()()姿()だよ。けど、神夏ギルという人間とは違う。正確には、私の精霊というヒトならざる力の本来の、正しい姿。母上曰く、……あ、ごめん。これ以上は言えないの忘れてた】

 

「ふーん……。………え、ちょっと待って。もしかして私、今までギル様にとんでもないことしてたわけ?………」

 

どこかから、そこ⁉︎、というツッコミが聞こえたのは気のせいだろう。

 

恐る恐る精霊化した私の方を見ると…

 

『はぁ、ようやくか。さて、貴様の罪も自覚したところで……』

 

「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!!!」

 

うん、我ながらすっばらしいジャンピング土下座。

 

すると、笑い声が聞こえる。

 

『クックっ……神夏、やはり貴様は中々の道化だ。それに免じて、今までの全てを許してやろう』

 

【面白いねぇ、こんな人が私の宿主だなんて、なんか気落ちしそうだよ】

 

おい、どういう意味だ。

まあ、とにかく許してもらえてよかったよかった。

 

『さて、そろそろ頃合いか?神夏よ。今度は自分を見失うなよ。貴様が死ぬと、我も消えて無くなるのだからな。間違っても、此奴を呼び出すな』

 

と、ギル様が黒い私を見る。

 

「はい…肝に銘じておきます」




はい、どうでしょう。

書き方を忘れかけててやばいなー、と思いながら、こんな感じかな?って疑心暗鬼になりながら書いたので前と作風が違うかもしれません。

つぐづく自分の才能の無さを痛感します。

はー、誰か物語を作る天才がその才能を分け……
はい、愚痴はやめておきます。

読んで下さりありがとうございました


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14話

え、えー、とりあえず、書きました。
感想で色々と言われてショックを受けつつなんとか頑張りました……。
無言で低評価も、まだ心にヒビが入ってた程度だったのですが……。改めて感想として言われるのはかなりショックでかいです……。

もっと勉強しろと言われたり、ギルのことを絶対にわかってないなど……まあ実力不足なのはわかってますが…。これでも頑張ってるんです、お見逃しください。

一応念のため弁解(?)しておきます。

私が描く作品は、少なからず私のイメージも入り込んでいるため、原作での解釈と違う場合、原作のキャラと性格や言動が変わることが多々あります。ご了承を。
それに、姫ギルの言動なんかも自分で想像してるためみなさんが思うような英雄王になっていないと思います。
けど、それは自分のイメージが入り込んで、自分の好きなように多少なりとも設定を(知らずのうちに)弄ってるのです。ご了承を。

それではどうぞ


気づくと、私は自室にいた。

 

なんか、ものすっごい気分が悪くなるようなことがあったような気もしたが、思い出すことは叶わなかった。

 

今日が何日かすらわからない。(携帯を見たのでわかったが)

 

でも、2つだけ覚えていることはある

 

それは、私の中の、英雄王ギルガメッシュになりきっていたと思っていたヒトは本当に英雄王だったということ。

 

そして、ギル様からの忠告だった。

 

『私の中の黒い私を呼び出すな』

 

「正直、意味がよくわからないんだよねぇ……。私の中の黒い私?なにそれ」

 

まあ、ギル様からの命令だから絶対に聞くんだけど。

 

「…ていうか、本当に記憶がない。そもそも私は何をしてて何がどうなったんだろう」

 

最後の記憶が、五河君と雨の日に精霊に会ったことだった。それ以上のことが思い出せない。

 

 

と、そんな時だった。

 

 

「⁉︎」

 

突然、部屋の気温が意味わからんほど下がった。

 

「寒っ!寒っ!なになに⁉︎異常気象⁉︎」

 

そんなことを呑気に言ってたら、かすかに空間振警報が鳴り響いているのが聞こえた。

 

毛布を羽織りながら周りの霊力を感じていると、1人の精霊が現界していることがわかった。

 

霊力の感覚的には、雨の日に会った精霊だろうか。

 

「…けど、まあどうでも……よくない気がする。ねえ、なんで私の家の方向に近づいて来てんの⁉︎」

 

しかも、精霊だけじゃない。天使という、精霊の最強の武器まで顕現してるというおまけ付きでこっちの方向に走って来てる。

 

「…しょうがない、止めますか。()()()()()。……って、約束?何のことだろ…?」

 

自分で言っててバカバカしいのはわかってる。けど、自然と口に出てしまった。

約束…何もした覚えがない。

 

いや、記憶をなくしてる間にしてるかもしれない。

 

「と…そんなことを考えてる暇じゃなさそうだね」

 

精霊の力----もとい英雄王の力を見に纏い、外に出る。

今回はいつもの黄金の鎧ではなく、氷の力に対応できる装備をした。改めて思う。英雄王様なんでもあり。普通にあったもん。

 

「さて、行きますか」

 

外に出ると、予想以上に寒かった。

 

「うわっと⁉︎」

 

出て寒さを確認した瞬間に、氷柱が飛んで来た。

慌てて避けると、巨大なウサギに体当たりされ、いとも簡単に吹っ飛んだ。そしてウサギに咥えられる。

あれ?なんか似たようなことを体験した気がする。

 

「いてて…。えーと、そこの精霊さん?」

 

「か、神夏さん…っ!」

 

「んん?何で私の名前知って……」

 

巨大なウサギを操っていた精霊からとても安堵したかのような声が聞こえて、私の名前を呼ばれた。

 

私は相手の名前を知らないのに。

 

「まぁ…いいか。今はどうでも。それよりとても可愛い精霊さん。例のパペットは?」

 

「……っ!」

 

すると、()()泣き始めてしまった。

 

「(また…?なんで、また、なんて言葉が出て来たんだろ)」

 

いや、違う。とぼけているが、私もだんだんと理解して来ている。

多分、前会ったときから、今日までにこの精霊とは何回か会って話をしているんだろう。

 

 

(大丈夫、------がきっと守ってくれるよ。きっと、ね)

 

 

不意に、そんな言葉を思い出した。

多分、私が言ったんだと思う。

 

「まぁいいか、今は……」

 

目の前の子が私を天使にくわえさせて、逃げて、霊力の壁を貼ってくれてるおかげで無傷で済んではいるが、さっきから攻撃して来ているASTを追い払うとしようか。

 

「君、とりあえず、私を離して」

 

「え…」

 

「大丈夫、君を見捨てるわけじゃないよ。ただ、君を怖がらせる人たちにちょーーっと話をつけてくるだけ。だから、心配しないで」

 

なんとか腕を伸ばして精霊の頭を撫でる。

 

「だから、ね?」

 

「は……いっ!」

 

「うん、いい返事。じゃあ、ついでにもう一個。とにかく、今からは五河士道…ってわかるかな?その男の人を探して。そしたら、きっと君の大事な友達も戻って来てくれるよ」

 

この子のことはよくわからないはずなのに、言葉がスラスラと出てくる。

けどまぁ、そのおかげでこの子は落ち着いてくれたようで、私を離してくれた。

 

「うん、それじゃあ、気をつけてね」

 

「か、神夏…さんもっ…気を…つけて……」

 

「うん、ありがと。……さて、雑種さん?悪いけどここから先は行かせないからね?」

 

四糸乃が離してくれた後に私は元から身につけていた空を飛べるようになる特殊な道具----宝具を使い空を飛んでいた雑種の目の前で止まった。

 

「くっ、毎度毎度【アロガン】……っ!標的変更!全隊【アロガン】を集中して狙うわよ!」

 

「だよねぇ、君たちはそうする他ない。私みたいな精霊の中でもさらに規格外(バケモノ)な私が現れたらあんな小物の精霊を狙えるわけがない」

 

あの子のことを小物、というのはかなり心が痛かったが、この際はしょうがない。何がしょうがないかはわからないけど。

 

 

 

このとき、神夏ギルは気づいていなかった。

自分の口調が、英雄王寄りになっているとはいえ、()()()()()()()()調()だということに。

 

 

 

「なら、こっちも規格外を出すというのはどーでしょう。エレンがいないところで規格外を名乗るのもおこがましいですが」

 

「?」

 

すると、後ろから声をかけられた。

しかも()()()()()()()()()()声だ。

 

「やれやれ、派遣されて今後のために実地調査をしてたらまさかのまさかでやがりましたよ、【アロガン】」

 

そこには、ASTの隊員たちよりは確実に年下と思われる中学生くらいの、青髪の少女が、機械をまとっていた。

 

「……マナ」

 

「どーも、久しぶりでやがります。あー、ASTの皆様方は【ハーミット】を追ってとのことでやがります。わりーですが、【アロガン】はどうあがいてもあなた達には倒せないです。こいつは、私()の獲物です」

 

ASTの人間達は何をバカなことを、と言いかけ、その直後に自分たちは邪魔になる、ということを思い知った。

 

なぜなら、【アロガン】がいつも自分たち集団に見せるような規模の黄金の波紋を作り出し、マナと呼ばれた少女1人のみに向けていたからだ。それを見たASTは慌てて黄金の精霊と1人の少女を避けるようにして【ハーミット】を追った。

 

「あ、あなたは残っておいてくださいね。あと、魔力を消して、気配も殺して隠れておいてください」『…?」

 

「マナよ、メイザースにウェスコットはどうした。貴様らはまとめて、我が直々に殺すと決定したはずだが?」

 

そしていつのまにか体の主導権もギルガメッシュが持っていた。

 

「わりーですが、エレンもアイザックもここにはいません」

 

「ほぅ、ならば貴様1人で我の前に死ぬために姿を現したのか。悪いが、今は些か気分が悪いのでな。手加減なぞできんぞ」

 

「まあ、死ぬ気はねーですが。私は、【ナイトメア】と【アロガン】を仕留めるのは私の仕事だと考えているので。こんなことにわざわざあの2人の手を煩わせる必要もないかと」

 

「ほぅ。エアを見た程度で恐怖のあまり尻餅をついていた貴様がか。随分と大きく出たな」

 

「あの頃と同じと思われているとは、心外でやがります」

 

「ならば、示して見せよ。もし変わっていなければわかっていような?」

 

「ええ」

 

私は柄にもなく()()()()()()()()()()()()()()()()

しかも、英雄王様に伝わってしまったらしく、ピリピリしてしまった。

少しでも触れようものなら串刺しにされそうな雰囲気になっていた。

 

そして、【精霊】としての規格外と【人間】としての規格外の戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ…」

 

少し遠く、先ほどまで四糸乃がいたであろう場所で黄金の波紋がみえ、その直後に爆発音が鳴り響いた。

 

あの攻撃は、何度も見たことがある。

神夏だ。四糸乃を追っていたASTとぶつかっているのかもしれない。

 

「それにしても…これが四糸乃の仕業だってのか?」

『ええ』

 

耳につけているインカムから琴里が返してくる。

 

『あまり悠長に構えてられないわよ。本来排水されるべき雨水まで凍結してる。このままだと地下シェルターの方にまで深刻な影響が出る可能性があるわ。……四糸乃を止められるのはあなたと、そのパペットだけよ。行ってくれるかしら?』

 

「当たり前だ。四糸乃も、街もあのままにしておけない」

 

『シン』

 

と、()()()()()()で琴里たちと通話をしてると、眠たげな令音の声が聞こえて来た。

 

なぜ折紙の家の前かというと、神夏に教えてもらった四糸乃のパペットの在り処がここだったというわけでして。

決してやましい気持ちは……多分ない。

 

「はい、どうしました」

 

『時間がないから手短に伝えよう。色々と調べてみたが、君の疑問はあながち間違っていないようだ』

 

疑問、というとこの前四糸乃と神夏と一緒に家にいた時に行ったことだろうか。

神夏と十香がかなり機嫌が悪くなって、しばらく経った時に、ふと気づいたことがあった。

 

『四糸乃は……』

 

「…っ、やっぱり、ですか」

 

『ああ。お願いだ、シン。きっと、彼女を救ってやってくれ。こんなにも、優しい少女が救われないなんて……嘘だろう?』

 

「…はい。必ず」

 

 

令音さんの言ったことに胸が締め付けられたが、不思議と驚きはなかった。

あったのは、四糸乃ならば、という納得と、やっぱり彼女は救われるべきだ、という確信だった。

 

「琴里」

 

『---よろしい。右手にまっすぐ、大通りに出るまで走りなさい。四糸乃の進行方向と速度から見ておよそ5分後にこの位置に到達するわ。その位置からなら先回りできるはずよ』

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「(本気で我を狩りに来たかと思えば……)マナよ。まさかとは思うが我の前に出たのはただの足止めか」

 

「おや、バレちまいましたか」

 

「当たり前だ。我をなめるな。はぁ…無駄に霊力を使わせるとは……。罰を受ける覚悟は持っていような?」

 

「いやぁ、持ってねーですね」

 

マナの言葉に、ピク、と英雄王の眉が動いた。

 

「逃げの一手のみに集中しているとはいえ、少しばかり荒れている我の攻撃を凌いだ褒美に見逃そう、などと考えていた我が阿呆だったわ。ならば、潔く散れ。精々その散り際で我を愉しませろ、雑種が!」

 

「持ってねーっていうのは、『負ける気はしてない』って意味なんですがね」

 

英雄王は、激昂し黄金の門からの武具の連射速度をさらにあげた。

一方マナはそれを見ると、口角を上げた。

 

 

 

まるで、何か悪戯に成功したかのように。

 

 

 

 

 

「(…なるほど、それが狙いか。先ほどの言伝は撤回するとしよう)」

 

マナが、攻撃できるスキ---無論、無傷で済むものではないが----があったにもかかわらず、ただひたすらに逃げ続けるのを見て、何が狙いかを察していた。

 

「(恐らくは、我の霊力の供給元である神夏の()()()()を狙っているのだろうな。賢明な判断だ)さて、神夏よ。悪いが、もう僅かばかり耐えよ」

『…?は、はい。わかりました。どうぞ、ご存分に霊力を持って行ってください』

「ふむ、それでは退く準備も整えつつ…適度に重傷を負わせるか」

 

そうして、我は未だに避け続けているマナの、一方向のみだったのを今度は全方位から王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開する。

 

「やば…」

 

「ふん」

 

何かを呟いていたが、まあ関係あるまい。

この程度で死なないのはわかっている。

 

「魔術師のフリが即座にできるというのも、中々使い勝手がよいな。さて、と…」

 

魔術師としての能力を高める白いターバンと巫女服を身に纏い、黄金の本を取り出す。

 

「させねー!です!」

 

術式を展開していると、マナが迫って来ていた。

だが…

 

「悪いが、もうすでに終わっている。ただ仕掛けるだけなのでな」

 

様々な形状の杖を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から覗かせ、ビームを撃ち放つ。

 

マナはとっさに対処したが間に合わず、それに飲み込まれた。

 

 

「ぁ、っぁああ、ぅああああああああああああ!」

 

 

 

それと同時に、何かの悲痛な叫びがこだまし、あたりの気温がさらに下がった。

声のした方向を見ると、なにやら吹雪で形成された大きなドームがあった。

 

「あの道化が、しくじったのか。む……限界か。神夏よ。悪いが我の顕現も限界だ。馬鹿正直に奴の手に乗ってしまったが、まあこの距離なら問題なく逃げ切れるだろう。よいか?まずはあの曲がり角を目指せ。そうすれば、すぐに空間転移ができる。我が消え、精霊化が解けたらすぐに走れ。全力でな」

 

『承知しました』

 

その言葉を聞いて、我は神夏の()に戻った。




本当なら、この作品を消して初めから書き直そう、とか思ってたりしたんですが、とりあえずは四糸乃編まで書こうと思います。
その後は、あとで考えます。

とりあえずは、まだ心が治ってないので…。

読んでくださりありがとうございます


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15話

はい、書き直しです。
色々と申し訳ないです…。また変なテンションで書いてたためおかしいことになってました。

それではどうぞ


英雄王様が私の中に引っ込むと同時に、私は、全力で走った。

足元が凍ってるせいで何度も足を取られかけたけど一度も転ぶことはなかった。

 

距離にして40メートルほどだろうか。

霊力がほぼ尽きているとはいえ、まだ精霊としての高い身体能力を維持できており、4秒くらいで指示された場所についたと思う。

 

 

けど、ASTの人間は、そんな私を簡単に逃がしてくれるはずもなかった。

 

 

「⁉︎」

「にがさない…!」

 

曲がった直後に、後ろから肩を何かで貫かれた。

 

 

一度味わったことのある感触だった。

 

前にも、十香と五河君が、会って間もない頃に、二人が話し合うために、その時間稼ぎをしてその時に負った----とは言ってもあのときは霊力切れ、ではなく索敵を怠った結果なんだけど-----その時とは状況が違えど、

 

全く同じ殺気、技量、武器で肩を貫かれ、空間転移をする前に私は痛みのあまりその場に転げてしまった。私を貫いた人が誰かなんて確認しなくてもわかる。

あの、白い髪の、クラスメイトでいつも十香と言い争いをしてた人だ。

 

「痛っ……」

 

「……」「どーも、ナイスです」

 

そこにマナもやってきた。所謂、絶体絶命、かな?

 

 

……ははっ、情けない。英雄王様に逃げる手はずまで整えてもらったのに。

 

 

 

「さて、【アロガン】。覚悟はいいでやがりますか?ダメと言ってもやりますが。心残りがあるなら聞いてやらねーでもないです」

 

「……そうだね。2つくらい…心残りがあるかな…」

 

「へえ、それはなんですか?」

 

「……マナ、今からする質問にちゃんと答えて…よ?答えてくれたら、私はおとなしく命を差し出すよ」

 

「…なんでやがりますか?」

 

そこで、私はずっと疑問だったことを、マナに投げかけてみることにした。だって、どうせ-------なんだから

 

 

「ねえ、マナ。……なんで、なんでおじさん達を殺したの…?あの人たちは関係なかったはずだよね…?」

 

 

「は…?」

 

 

マナは意味がわからない、と言った顔をしてきた。

それでも構わず、私は口を開けた。

 

 

「私が、精霊の力を得た日から、私はこの世界にとって災厄。そんなことはわかってる。そんな私を放っておくわけにもいかないから、殺そうって考えのASTも理解できるし、君たちの主人が私から力を奪って無力化しようって考えもわかる。

 

…でも、なんで?なんで私を殺さずに……叔父さんを…叔母さんを……幼馴染(あのひと)を殺したの……?しかも、私の目の前で…」

 

「い、一体……なんの…?」「?」

 

「私は…それを許さない。

人を殺すのは、嫌い。

 

だけど……アイザック・ウェスコット、エレン・M(ミラ)・メイザース。……それに、マナ。君達は別。君達は、何があろうとも、殺す。

絶対に」

 

「い、いやいや、ちょっと待ちやがれです!私は、アロガンの家族は精霊となんの関係もなかったから全員記憶処理をして生きて返した、って聞いてやがりますよ⁉︎何かの間違いなんじゃ……」

 

「間違いなんてことは……ない。絶対に。映像でしっかりとみせつけられたんだから。しかも、()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()

 

「な…⁉︎」

 

その言葉を発すると、マナは小さく嘘だ嘘だ…と呟きながら動揺した。

 

 

…うん。そうだよ。()()()()()()()()()()()

 

 

と、動揺してるマナとそれに驚いている一人のASTの元に、1つのエネルギー弾みたいなものが降ってきた。

二人に当たりはしなかったが、粉塵を巻き起こした。

 

「「⁉︎」」

 

「英雄王様……私なんかのためにここまで…ありがとうございます」

(気にするでない。我が臣下を目の前で殺させる王がどこにいる。それにただ我の失態に対して我が尻拭いをしただけのことだ)

「はい…それでも、心から感謝します、我が王……。…いてて、早く…いかないと…すぐ目の前なんだから……」

 

痛む身体を無理矢理起こし、言われた場所へなんとか向かう。あと五歩前へ進めば辿り着く。そう思うととても安堵した。

 

 

「に…がすかぁ!」

 

 

「きゃ…」

 

憎しみや憎悪といったあらゆる負の感情が混ざったかのような大声とともに、私のお腹に激痛が走った。

同時にとてもお腹周りが暖かくなった。

 

「ぁ…」

「……」

 

なんとか動く首を動かして、後ろにいる人間を見ると、それは…

 

「精霊は、絶対に、逃さない。何があろうと…私は……精霊を殲滅する」

 

白い髪の、クラスメイトだった人だ。

 

「……これ、もうちょっとで死んでた気がするなぁ…。でも…残念。もう()()()

「⁉︎」

 

「じゃあね…人間さん。あ、そうそう……マナに、()()()()()()()全部嘘、って伝えておいてね…。ゲホッ…」

 

喋ると、口の中に赤い液体がたまって喉がつまりかける。が、辺りが光り始め、人間が慌てるもすぐに空間転移が始まった。

 

そこで私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、無機質な白い空間にいた。

ピッピッという規則正しい電子音が鳴り響いていた。

それと同時に、規則正しい寝息も。

 

首を回してあたりを確認すると、一度見たことのある場所だった。

確か、ラタトスク、だったか。そこの治療部屋みたいなところだったはずだ。

私の体には、よくある手術とかするときにつけるような、薄緑の透明なマスクみたいなのをつけられており、右腕に点滴を打たれてた。

寝息のする方をよくよく見てみると、蒼い髪があり、傍らにはパペットが。

 

確か、あの巨大な氷ウサギの天使を操っていた子だ。

 

 

ガチャッ

 

 

状況確認をしていると、ドアが開き、そこから3人ほど入ってきた。

 

「…っ!神夏!目を覚ましたのか…!」

 

それは、五河君と……えーと、確か村雨令音先生?と、十香だった。

 

「……どういう状況?ついでに言うと、どれくらい私寝てたの?」

 

「1日と8時間くらいよ。四糸乃の霊力を封印した後あなたを探したら、やたらと弱った状態で私たちの家に倒れこんでたから急いでラタトスクに連れてきて治療したのよ」

 

と、また一人入ってきて、その人が説明してくれた。確か五河君の妹だったかな?

 

「ふーん……。で、この子はなんでここに?」

 

「神夏の側から離れたがらなかったんだ。よっぽど懐かれてるんだな」

 

「……この子に何か特別なことをした記憶がないんだけど……まあいいか。……そう、か。この子の霊力も封印することに成功したんだ。よかったね」

 

小さな寝息を立てている子の頭を優しく撫でると、くすぐったかったのか小さく声を漏らした。

 

 

この時、神夏の理性が飛びかけたらしいがそれはまた別の話。

 

 

「〜〜……ッ、ふぅ、死にかけてたところを、どうもありがと。お礼はまた後日に改めて言うから、今日のところは帰らせてもら……えそうにないね、これ」

 

「当たり前じゃない。精霊とはいえ、あれだけの重傷を負ってたんだから。検査が終わるまでは帰らせないわよ。ついでに、あなたについて教えてもらえると嬉しいんだけど?さらに言うと貴女に言いたいことがある人が若干名いるのよ」

 

令音さんによる無言の点滴等の改修が終わったので、体を無理やり起こして帰ろうとするも、十香と五河妹に立ちはだかれた。

 

「五河妹さん。それは私の霊力を封印したいからとかそう言う感じ?その件なら私は今までに何回も断ってるはずだよ?」

 

怒気を含んだ視線で妹さんを睨むと、そんなものなんてどこ吹く風、と言った様子で

 

「まあ、それもあるわね。けど、先に…ほら、十香」

「う、うむ…」

 

五河妹に促され、十香がオドオドしながらも前に出てきた。

 

「か…神夏ギル。その……なんだ。悪かった」

 

「…?私、なんかされたっけ?君の愛しの五河君には何かした記憶はあるけど」

 

「愛し……っ⁉︎ああ!もう!こんな感じでからかわれる気がしたから嫌なのだ!」

 

「ていうか、本当に何かをされた記憶がないのよ。実をいうと、この子の名前も、わからない」

 

よほど疲れていたのか、まだ寝ている蒼い髪の子を撫でると全員に驚かれた。

 

「で、まあ、その辺りとか、二度も助けてもらったわけではありますし、私については後々話すことは約束するから、十香、もうこれ以上用はない?」

 

「まだ終わってはいない!スゥーーハァーー。神夏ギル、その、なんだ……。この前は、よくわからないことで、関係ないのに怒鳴り散らして悪かった……」

 

と、謝られた。てか、そんなことされたのね。

 

「うん、まぁ別にいいよ。記憶にないし。そんな気にしなくていいよ」

 

「だが!お前がシドーを貫いた件に関してはまだ許してはないぞ!」

「お、おい十香。それに関してはもう…」

 

「別に、私も許してもらえてるなんて思ってない。私のしでかしたことの罪の重さは自分が一番わかってる」

 

「いやいや!神夏、それに関しては俺はもう気にしてないから!」

 

五河君が気にしなくても私が気にするのです。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

その後、部屋の中には五河君と、起きた四糸乃とよしのん、私だけという状況にしてもらった。

映像、音声も、インカムも今回だけは、許した。

 

別に聞かれて困る、といったことはないから。私のことを知ればきっと離れてくれると思ったから。

 

「えーと、そうだな。五河君は何が聞きたい?」

 

「できるのなら、神夏について、かな?精霊の力云々、じゃなくて、神夏自身について」

 

「私自身のこと?えーと、そうだな。胸はAでしょ?3サイズに関しては測ったことないから知らない。好きなタイプは、うーんそうだな。四糸乃みたいな子はどストライク。控えめに言ってオタク。ひどく言うと声豚&英雄王に責められたい願望あるM…」

 

「ちょっ、ちょっ!ストップ!ストップ!」

 

「えー、なにさ」

 

「絶対意味が違うことわかってるだろ⁉︎」

 

「私のことを知りたいんでしょ?だから懇切丁寧に私自身のことを教えてあげてるのに、なにが不満だと言うの?」

 

「……違うんだ、そうじゃない。俺は……」

 

……どうしよう。茶化すつもりだったのに真面目な顔になられた。

 

「あー、はいはい、ごめんなさい、私が悪かったからそんな堅っ苦しい顔しないで。

……そうだね。……五河君ってさ、誰かを殺す、なんてことをしたことあるわけないよね?」

 

「は…?あ、当たり前だろ」

 

「自分の目の前で、誰かが死んだ、ってのを見た事は?」

 

「い…いや、無い……と思う」

 

「そう、じゃあ目を閉じて、今から私が言うことを想像して見て」

 

そう促すと、五河君も、四糸乃も目を瞑った。

 

「まずは自分の大切な人……そうだね、家族あたりを思い浮かべて。誰でもいい。……思い浮かべた?」

 

「あ、ああ」「はい…」『思い浮かべたよー』

 

よしのんまでやってるらしい、まあいいけど。四糸乃たちの場合はお互いに想像してるのだろうか。

 

「……じゃあ、次だ。……はい、二人ともこれを持って」

 

「?なんだ、これ」

 

「まあいいから、二人で、これを持って。……それじゃあ、始めようか。()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

神夏に言われるがまま、目を瞑り、自分の大事な人-----色々たくさんいたので、琴里を思い浮かべた。そして、神夏に言われた通り、何かを持った。何かの棒のような、そんなものだった。それに俺と神夏、四糸乃、よしのんの手が重なる。

 

「さて、二人…三人?とも、大事な人の元へ、帰っています……」

 

いつもの、玄関を開けて、そこに琴里がいる場所を想像する。白リボン---無邪気な姿か黒リボン----高圧的な司令官モードのどちらにするかは迷ったが、白リボンの方を想像した、

 

「すると、大事な人で家族であるはずの、相手に激しい拒絶をされます。その人に、家族ですらない、と言われます」

 

「……っ!」

 

すると、目を閉じて真っ暗だと言うのに、その光景がはっきりと、見えた。

 

(嫌っ!近づかないで!)

 

聞こえるはずのない幻聴まで聞こえてくる。

 

(お願いだから、消えて!)

 

心が、よくない感情に蝕まれる。

吐き気が襲ってきたが、なんとか耐えた。

 

「そして、その数十秒後には、血にまみれた家族が」

 

今度も、はっきりと映ってきた。

 

ありとあらゆる武器で、串刺しにされた姿の、琴里。

血が大量に、流れ出ている。

 

どうあがいても、助からないだろう。

 

「……っっ!」

「〜〜〜……!!!」

 

「……二人とも、辛いなら、やめる?」

 

「い、いや…だ……いじょうぶ…だ」

「わ…たし、も……。だい…じょう……ぶです」

『僕も…ヘイキ、だよ』

 

あの陽気なよしのんまでもが、声に覇気がない。

神夏は優しく言ってくれたが退くわけにはいかなかった。

 

「そ……。それじゃあ、続けるね。

……血まみれの家族には、幾多もの武器が突き刺さっていました。そして、なにか感じます。

……まるで()()()()()()()()()()()()()()()()、どう刺さっているのか、わかります」

 

すると、急に琴里に突き刺さっている武器の長さ、特徴…、それに、どう刺さっているのかが手に取るようにわかった。

そして…()()()()()()()()()()という感覚に陥った。

 

「そこで、これは自分が起こした惨劇だということを理解します。理解した直後、玄関のドアを誰かに蹴破られます。そこから、見ず知らずの人が、入って来ます。轟音に驚いて見に来た人たちでした。

すると……なんと、家に入って大切な人の亡骸をその他大勢の人が見た瞬間に、大切な人と同じように、串刺しになったのです」

 

近所の人たちが、いつも挨拶をしてくれる人が、商店街の人たちが、入って琴里を見ると同時に、色々なところから現れた武器で、串刺しにされていった。

 

自分の意思とは、無関係に。

体の中をよくない感情が支配し、力を暴走させていた。

心の中で必死に、やめろ、と叫ぶも意味はなく、とうとう無差別に武器が発射されていく。

 

より一層、体が絶望といった感情を支配していった。

そして、憎悪という感情も。

 

「もう、自分でも気づいていた。これは、()()()だと。制御できずに、暴走させているということに。それに気付くまではそう長くなかった。誰かを探そうと、家の外に出て空中に飛んだ。当然のごとく、周囲には騒ぎを聞きつけた大勢の人がいました」

 

空を飛んで、下を見下ろすと、沢山の人がこっちを見ながら指をさしたり、カメラで撮ったりしていた。

 

「すると、また、力が、暴走をした。武器の発射口がたくさん出現し、下に溜まっていた人間を、一人残らず、殺し尽くした」

 

憎悪の感情をもって、下にいた人たちを全てを、殺して、殺して、殺しつくす。

 

「気付くと、あたりに人間は一人もいなかった。

家族も、近所の人も、学校でよく話した人も、誰もが、串刺しになっていた。

一旦冷静になれて、地面に降り、血溜まりの中を、歩く」

 

これは、悪い夢だ、と思いながら、死体をかぎ分け、歩く。武器は気付くとすべて消えていた。

 

この全てを、俺が、殺した。

この手で。

 

家の中に入れば、きっと全て夢となって、元に戻ってる。そんなことがあるわけないのに、そう思いながら、家の中に戻る。

 

「しかし、自分の家に入ったことで、より深い、絶望を、味わうことになり、そこで意識はしばらく途切れます」

 

琴里の、血まみれで、穴がたくさん空いた身体を見て、これにならない絶叫を、雄叫びをあげ、そのまま意識が途切れた。




はい、どうでしょうか…。今度は……大丈夫、なはず…。

最近、疑心暗鬼にならない時の方が少なすぎてやばいです…。

と、とりあえず楽しんでもらえたら幸いです。

読んでくださりありがとうございます


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16話

もう、色々と考えて、決めたというか、吹っ切れました。
最初は、シリアス多めのときたまコメディ、的な感じに作ってこうかな、と思ったのですが、コメディ6.5割、シリアス3.5割くらいで構成してこうと。

あ、いや、もしかしたら半々くらいまで調整するかもです。

まあ、すこし作風を変えてみようかな、と思いながら書いてるので、多少は前までと雰囲気違うかも知れんがご了承を。
それではどうぞ。


「……だよね、こう、なるよね」

 

いまここには、気絶した五河君と四糸乃、よしのんがいた。すぐに、クルーの人が駆けつけて、タンカで運ぼうとしてたけど、五河君だけはそのままにしておいてもらった。

 

『…神夏ギル、あなた一体何をしたの?』

 

「そんな心配そうな声を出さなくても、ただ私の記憶を()()()()()()()()だけだよ」

 

『それはどういう…』

 

「そのまんまの意味だよ。君たちは、ただの想像をしただけなんだろうけど、五河士道に四糸乃、……よしのんは知らないけど、私の記憶を、そのまま実体験してもらった。……察してるかもしれないけど、さっきまで私が言ってたことは、全部実話。嘘偽りなく、ね。…まあ、私自身も結構辛いから基本やらないんだけどね。これは、私自身も強制的に体験させられる」

 

…まぁ、私自身の記憶が欠けてたりしてたらその部分は無理なんだけどね。

 

「……あれ?」

 

「あ、起きたね。気分はどお?最悪でしょ?」

 

記憶体験に使った道具をゲートの中に収め、同時にケータイゲーム機を出して時間を潰してると、五河君が目を覚ました。

ちなみにゲームの中身はFate extraですっ。

英雄王様で無双してます。ちなみにゲーム機の種類はSwitchな。

 

「さて…、五河妹には言ったんだけどね、君はまるで自分が誰かを殺した、そんな風に感じたよね?」

 

「あ、ああ…」

 

「それは、私の記憶を実体験してもらったから。つまり、君の味わったものは、私の味わったものと同じ苦痛、絶望。そして、消えることのない罪」

 

そう言うと、また神妙な面持ちになった。

どう思っているのかは大体想像つく。

 

五河士道の性格上、私の過去()を知ったからこそ、余計に救わなければ、と思うだろうね。

 

「で、私の感覚だけど、そんな私を知ったからこそ、君は私を助けたい、と思っている。…違う?」

 

「ああ、その通りだ」

 

五河君は、力強く肯定してきた。

 

「……ヤダ」

 

「え?」

 

「だから、ヤダ、って言ったの。君のその救いは、私は受け入れられない。私が、生きてこっちに来たのは、叔父さんや叔母さんに勧められたのもあったけど、なにより……私には、何をしてでも成し遂げたいことがある。……そのために英雄王様の力を勝手に使おうとしてるわけだから、斬首とかにされても文句はないけどね」

 

「…それでも、俺はお前を救いたい。神夏の成し遂げたいことが何かはわからない。でも…これ以上、お前にそんな顔を……悲しみに、絶望に染まった顔を見たくない」

 

うん、知ってる。君は、そういう人間だから。

 

 

「…なーんてね」

 

 

『「はい?」』

 

おおう、五河君アンドマイクの向こう側の人からの素のトーンでのはい?が聞こえてきた。

 

「成し遂げたいこととか、そんなものあるわけ無いない。こっちにきた目的とかめんどくさいことに巻き込まれたくない、っていうのと、アニメの聖地だからきただけだし。まあ、少しは?私の親戚の人たちに手を出した人たちにはちょっとやり返したいな、程度には思ったけども。でもぶっちゃけめんどくさいんだよね。そんなことに時間使うくらいなら趣味に時間使うし。ていうか、そもそも人を殺すこと自体嫌だし」

 

おおう、なんか目の前の五河君という人が、どうリアクションすればいいかわからない、って顔してる。

でも私は悪くない!

 

「それにさ、多大な犠牲と罪を被ったとはいえ、私が渇望してたものを手に入れることができたんだ。なんでそれを手放さなきゃいけないの?

私は、誰かに無理やり押し付けられたんじゃなく、自ら望んでこの力を手に入れた。……いや、ごめん、違う。自ら望んで、英雄王様に仕えた。その結果として、いろんな人に狙われる身にもなったけども」

 

「…辛く、ないのか?誰かに、命を狙われ続けるというのは」

 

「それはそれ、これはこれ」

 

五河君の質問を即答すると、また頭を抱えられた。

はっはっは、五河君よ。まだ私について理解が足りないようだね。変人(わたし)のいうことんまともに受け取るとは。

 

「まあ、他にも霊力封印されたくない理由はラタトスクが嫌いとか、まあ色々とあるけども」

『ちょっとまってちょうだい。聞き捨てならないわ。理由を少しばかり聞きたいのだけど?』

「あんな風の超偉そうな年下とか、ドMな男の人とかがいるし、しかも……これはまだ言わなくていいか。ま、とりあえず嫌なものは嫌」

 

スピーカー越しに『んーんー』という声が聞こえるけど、五河君もスルーしてるし、まあしていいでしょう。悶えてる声は聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 

「あと1つの理由は、……単純に、五河君とキスしたくない」

 

「へ?」『ん?』

 

「……す、好きでもない人と、キスとか、嫌だ。十香と四糸乃に関しては、してもいいと思ってもらえたからできたんだろうけど、私は、今のところ君とキスはゼッッッタイにしたくない」

 

「……本当は?」

 

「君みたいなロリコン天然タラシに手篭めにされてハーレムの一員になるとか絶対嫌だし、というかリア充爆ぜてしまえ!そして私の目のまえでリア充自慢してくるんじゃねえ!が本音です。はい。好きでもない人とやりたくないってのは本当だけどね」

 

おい、スピーカー越しに苦笑いしてんの見えてるからね?クルーの皆さん。

 

そして五河君も頭を抱えて、というか苦い顔してどうしたの。若い頃からそんな顔してると幸せにげるよ。

 

「私がキスをしてもいいって思えるほどの相手は、…そうだな、英雄王様のぞいたら、一人しかいない。悪いけど、五河君とは、どうしてもしていい、って気にはならない」

 

なんか、私みたいなのがキスしたいとかおこがましいって、言われてる気がするな。

 

「ま、そゆことだから。……それでも私の霊力を封印したいって思うなら、本気で私を惚れさせてみなよ。ま、無理だろうけどね〜」

 

 

 

 

〜2日後〜

 

 

その後は、本当に健康チェックをして、何個か質問された後、家に返された。

その日は疲れて寝込んで、次の日は中津川さんと放課後に10回くらいのメールのやり取りをし、今年のコミケ(戦場)へ共に行く約束をしたりとか、ほのぼのアニメを見て日頃の疲れを癒そうの日を作ろうとか、そんなメールをして、午前4時までラノベ読みまくって寝た。というか中津川さんよ、絶対にあなたとはもう一度相見え私の家で語り合おうじゃないか。思う存分、ぶちまけよう。

 

まさか、あそこまでついてきてくれる人が現れるとは思ってもいなかったよ。大概、会話が始まって2分くらいで皆、話題転換してくるからね。

 

同志と語り合うことほど、楽しい時間は外の世界にはないね。

 

と、余談はここまで。私は今日もいつも通り学校での睡m……じゃなくて突っ伏せに……じゃなくて…えーと、そう。

睡眠学習を終え、帰宅していた。

 

でも、異変はここで起こった。

 

「あ、神夏」

「やあ、ロリコン天然タラシ」

「違うわっ!」

「いいツッコミだよ。褒めてしんぜよう。てかさ、ほらさっさと行………。……おっかしいな。私疲れてんのかな?」

「は?何言って……って、な……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁッ⁉︎」

 

偶然、あと家まで数百メートルってところで五河君と遭遇し適当にボケて進もうとすると、今日の朝に登校するまでなかったはずのものがあって、困惑した。五河君はなんか叫んでた。

 

いや違う、考えることを放棄しただけ。

だって、何もなかった土地にマンション建ってるんですよ?

 

「何って……言ってなかったっけ?精霊用の特設住宅を作るって」

「え?てことはこれがそうだっていうのか?っていうか2日やそこらで建てれるものじゃねえだろ!」

「……なんでもありだねぇ」

 

お前がいうか、ってツッコミが聞こえてきたがスルーしよう。

 

後ろから五河妹の声が聞こえてきて、説明をしてくれた。

 

聞いてると、物理的強度は通常の数百倍、顕現装置(リアライザ)とやらも働いているから、霊力耐性も抜群だと。多少暴れても異常は漏れない。

 

……なにその超優良物件。

 

「五河妹さん。監視カメラ等無し部屋ある?」

「ええ、一応あなた様に作ってあるわよ」

「家賃は?」

「タダに決まってるじゃない」

「これからはこちらに住まわせて頂きますので今後ともどうぞよろしくお願いします」

 

あれ?五河兄妹が盛大に吹きかけて咳をしたんだけど。そんなおかしいこと言った?

 

「ゲホッゲホッ…、しょ、正気なの?」

「正気もなにも、こんな優良物件タダとか住まない理由がない」

「い、いや、あなたラタトスクはきらいって…」

「それはそれ!これはこれ!」

 

最近五河妹と話してると頭抱えられるんだけど。頭痛のする持病でも持ってるの?

 

「……はぁ、わかったわ。あなたの荷物は明日の学校行ってる時間帯にでも、そっくりそのまま移しておくわ。詳しいことは、また後々連絡するわ。携帯番号か何か教えてちょうだい」

「あ、それはヤダ」

「なんでよ!」

「得体の知れない組織に連絡先渡すのって怖いじゃん」

「ぐぬぬ……」

 

と、そんな茶番を繰り広げているとメールの着信音が聞こえた。

差出人に『中津川さん(仲間)』と書いてあった。ちなみに、推しサヴァは、奇跡的に同じでした。あちらも相当重症でしたよ。はい。

 

「ちょっと待ちなさいよ!なんで中津川とだけ連絡先交換してるのよ!」

「え?なんでと言われても、ラタトスク云々抜きにして思う存分語り合いたいから」

「あぁ…そっち方面ね……」

 

この会話中だと、もう何度目かわからないため息を五河妹がついたあたりで、疲れたのか家の中に戻っていった。

 

「ん……?」「あれ?」

 

入れかわりに、今度は可愛らしいワンピースを身に纏ってキャスケットを被った少女が飛び跳ねるように走ってきた。左手にウサギのパペットを装着していた。

 

「!四糸乃⁉︎」「四糸乃ーー!!もふもh……じゃなくて撫でまwa……じゃなくて会いたかったよー!!」

 

「ひっ⁉︎」

 

むぅ、抱きつこうとしたら避けられた。

というか露骨に怖がられたんですが、納得いきません。

 

『やっほー士道君。神夏ちゃん。やーやっと会えたねぇ。助けてもらったのにお礼も言えなくてごめんねー』

 

「あ、いや……それはいいんだけど、なんでこんな所に?もう検査終わったのか?」

 

『んー、第一検査だけね。まだあるらしいんだけど、君達にお礼が言いたくてさ。特別に少しだけ外に出してもらったんだー。

それと神夏ちゃん。そうしたい気持ちは痛いほどわかっちゃうんだけど、少し抑えてあげてねー。四糸乃が怖がるから』

「合点承知です。でも、抑えきれる自信はないよ?」「おいおい…」『本気で襲われちゃいそうで怖い怖い』

 

あのよしのんにすら呆れさせる私ってなかなかだと思うんだ。みんなはどう思う?

あと、心配しなくてもイェスロリコンノータッチは守りますから。

 

『ま。そういうわけで。検査終わったらまたデートしよーねー』

「あ、ああ……そうだな」

『ふふ、うんじゃ、まーたね』

 

よしのんが小さな手を振る。

と、四糸乃がピクリと肩を揺らし、躊躇いがちに顔を私たちの方に向けてきた。

 

「ん……?どうした?」「…?」

 

「……あ、の……」

 

すると、驚くことに、四糸乃が、パペットといるときは基本的にパペットに会話を任せていたのに、自ら喋った。

 

「また……おうちに、遊びに、行っても……いい、ですか……?」

 

恐る恐る、といった様子で視線を五河君に向けていた。

 

「お…おう、いつでも来い!」

「五河君、そのときはぜっったいに私を呼んでね?まじで、お願いだから!」

「わかったから揺らすな!揺らさないで!お願いだから!」

 

「そ……れと、神夏さん。……そ、その…な、んども、助けてくれて……ありが、とう、ございます。それ、と……ごめんな、さい。わ、私、のせい、で…大怪我を、させて、しまって……」

 

「へ?」

 

五河君に言った後に、私に向き直り、後半に行くにつれて涙ぐみながら謝られた。

 

「別に、謝ることなんかないよ。私が、助けたくて助けただけだから。それに怪我をしたのは私の責任なんだから。四糸乃が気に病む必要ないよ」

 

四糸乃の頭を左手で撫でながら右手で涙を拭ってあげる。

 

「それに、今度から私もこっちのマンションに入るから、何かあればいつでも駆けつけていいよ。女神…じゃなくて四糸乃ならいつでもウェルカム!ていうかそこの天然ロリコンタラシの家なんかよりは是非是非私の家へ」

「……襲うなよ?」

「自信ない」

 

あ、やめて。110番通報されてる気がするよ。

心配しなくても(多分)襲いませんから!

 

こんなやり取りをしたら、四糸乃は笑って、明るい表情になってくれた。そして頭を下げた後、パタパタときた道を走って戻っていった。

 

「…よし、これで1週間分の四糸乃エネルギーはチャージした」

「どんなエネルギーだよ…」

「よし、それじゃあ荷物整理は……勝手にしてくれるだろうからしなくていいか。そんじゃあね」

「おう」

 

そんな感じで、五河君と別れた。

 

 

 

 

〜ラタトスク 解析室〜

 

「……」

 

解析担当の、令音はあるデータを見ていた。

 

「…やはり、なにか()があるね。私達だけにとどまらず、あれだけ友好的にみえた中津川との会話や、()()()()()()()()()、心の中には、壁を作っているな…。中津川はラタトスク(こちら)側の人間だから信用できないのはわかるが……四糸乃でさえも、か」

 

神夏と中津川、シン、四糸乃との会話の時の感情のモニタリング資料を見ると、好感度以外は、ほぼ一定。

好感度は、四糸乃や中津川のときは上がってはいるものの、とても高くなり続けている、というわけではなく、ある一定量----四糸乃の場合だと+60%程度、中津川のときだと+40%、シンのときは、プラマイゼロ、要は特になにも思ってない-----の状態までしか上がっていなかった。

 

「…まあ、わからないことを考えても仕方がないか。琴里も交えて、もう少し話し合って見るか」




読んでくださりありがとうございます


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第3の精霊の物語
17話


今回からは新たな精霊が出現!

そろそろ過去編も書かなきゃな、と思いつつどういった構成かは思いついてもどうやって書いていけばいいかわからない、といったことを繰り返して、とりあえず本編の方の続きを書きました。

そして、原作17巻をやっと読んだ…。

感想としては、『これは(いい意味で)やばい』
ですw


それではどうぞ


「わたくし、精霊ですのよ」

 

今日は6月5日の月曜。

転校生を紹介されたかと思うと、転校生がそんなことを言ったらしい。らしいっていうのは、私は聞いていなかったから。

 

その時の教室は、イタイ子なのか?という怪訝な目を向ける生徒、単純に美しい容貌に目を奪われ聞いていなかった人、そして五河君やオリガミ、十香はそのどちらでもなかった。

で、私こと神夏ギルはというと…

 

 

ただ寝てました、はい。精霊が近くにいるなー程度には感じてたけど、どうでもよかったしあんまり関わりたくないから。

 

 

神夏さん、また後で…。ゆうっくりと、話しましょうねぇ

 

 

なぜか、寝てる最中だというのに寒気がしたのは気のせいだろう。

 

ちなみに、朝登校するときに、十香がブラをつけてないことに五河君が気づき、五河君がブラをつけてあげる流れとかあったのには、五河君には悪いけど面白かった。

 

私?私はスポーツブラとかいうやつです。みなさんが世間一般的につけるような奴は私になんておこがましい。

つか、つけるほど胸がない(泣)

ギル様なら、まあ何をつけても似合うんだけど。

 

後は、四糸乃が麦わら帽子に薄手の涼しそうなワンピースを纏っていて、挨拶をしてくれて卒倒したZE☆

 

もう一つ面白い(世の中の非リアにとっては面白くない)イベントが。

 

なんと、五河君が告白されて、ラタトスクからの仕掛けだと思い込み、一生に一度あるかないか、後輩からの告白イベントのフラグをへし折った(らしい)

 

 

はっはっは……

 

ザマァ(ちくしょう)!

 

 

 

閑話休題(昼休憩時)

 

 

 

「神夏さん、少しお時間よろしいですか?」

「ん……?」

 

昼休憩になって目がさめると同時に、そんな言葉をかけられる。

 

「……あぁ、転校生って君のことなんだ…。ふぁぁ…。()()()()だね、時崎狂三(くるみ)。…それか、最悪の精霊【ナイトメア】の方がいい?」

 

「ふふっ、どちらでも構いませんわ。その、二次元…でしたかしら?そのテンプレとやらに当てはめる癖も相変わらずなようで」

 

「君も君で。相変わらず…憎たらしいほどに美人なことで」

 

「あら、()()神夏さんには負けますわよ」

 

「「……」」

 

なんか、空気が変なことになってる気がする。

 

「……教室(ここ)で話すのもなんだし、屋上で話さない?」

「ええ、わかりましたわ」

 

 

 

 

〜屋上〜

 

「…懐かしいね。前に邂逅したときも屋上で向かい合ってたよね」

 

「ええ、そうですわね。確か…

貴女が1人の精霊を殺し、DEM社に多大なダメージを負わせた後、でしたかしら?」

 

「記憶力がいいことで。……っと、なんか無粋にも私たちの会話を勝手に聞いてるのがいるね」

 

「あら?誰でしょうか」

 

屋上の出入り口と上空からやたら視線が送られているのに気づき、そっちを一瞥する。

 

「五河君?隠れてないでさっさとでてきてよ」

「神夏さん、なんだかイライラしておりませんか?」

「……ただ眠いだけ」

「ああ…()()()()()でしたわね」

 

すると、扉の奥から五河君がでてくる。

 

「さてと、五河君。今すぐに君の妹さんたちにカメラ等を切るように言って。それで、その後インカムも耳からとってね?」

「あらあら、士道さんでしたか」

「……せっかくの、色んな意味での再会だっていうのに、ここまで君たちは入り込んでくるんだね…」

「色んな意味、とはどういう意味でしょうか?神夏さん?」

 

なんだか、狂三にジト目で見られているのは気のせいだろう。

きっと眠気のせいだ。うん、きっとそうだ。

 

「か、神夏。そ、その…時崎さんと知り合いなのか?」

 

「んー、知り合いかどうかと言われたら…知り合い?」

「そうですわねえ。……愛し合った仲でしょうか」

「「ぶふっ⁉︎」」

 

「あら、どうしたのですか?お二方、そんな驚いて」

 

「誰が愛し合った仲だっ⁉︎良く言ってもアレは戯れでしょ⁉︎」

「ええ、悲しいですわ。あんなことやそんなことまでされましたのに。シクシク」

 

この野郎⁉︎嘘泣きだろ絶対!

 

「そういう言い方は誤解生むからやめい!」

「事実じゃありませんか。…初めてでしたのに」

 

「誤解生むからやめて⁉︎」

 

「な、仲いいんだな」

 

ああ、なんか五河君にあられもない創造されてる気がする。

 

 

ただ、一度()りあっただけだというのに。

 

 

「はーっはーっ……の、喉が……」

「あらあら、大丈夫ですか?」

「誰のせいだろうね…」

「酷いことをする人がいたものですね(棒)」

「今すぐその減らず口にゲイボルグしてやろうか…」

 

相変わらずのこのからかい口調。対応するだけアホなんだろうけど、なんか体が勝手に反応してツッコミを入れてしまう。

 

「えーと、五河君の質問に答えると、まあ知り合いっちゃ知り合いだよ。世間一般でいう知り合い以上友達未満」

「あら、わたくしはいいお友達になってると自負してますのに」

「どの口が言ってんだが……」

 

五河君やらラタトスクが蚊帳の外だって?知ってるよ。

 

「ま、もう知ってるんだろうけど狂三は正真正銘の精霊だよ。…ていうかさ、狂三」

 

「はい?」

 

「マナがこっちにきてる時点で薄々気づいてたけど、本当に日本に来たんだ」

 

「ええ、わたくしの悲願のためですもの。そのために貴女の力が必要なのも変わってませんよ?」

 

「前にも言った通り、それに関して私は手を貸さない。やりたいならそっちで勝手にやって。どうしても力を貸して欲しいなら、英雄王様の言ってた通り、私に負けを認めさせなよ」

 

「ええ、近いうちに必ずや、してみせましょう」

 

 

ぐぅぅぅぅぅー

 

 

「「・・・」」

「…すいません、私です////」

 

なんか、いい雰囲気だったのに、おなかのなる音により一気に壊れた。

誰がやったか?

 

私ですよ(泣)

 

羞恥心で死にそう。

 

「と、とりあえず昼ご飯を食べないか?」

「ええ、そうしますわ」

「さんせー……」

神夏さん、放課後にまたゆうっくりと、お話ししましょうねぇ

「頼むからそのうっとりしそうな、エロそうな声で言わないで。その気がないのにスイッチ入りそう」

 

その後は顔真っ赤の状態でご飯を食べて、午後の授業全部寝ました。

 

 

 

 

 

〜放課後 5時半頃〜

 

「神夏さん、お待たせしましたわ」

「ん…ふぁぁ…。もう終わったの?」

「いえ、ですが士道さんは別の方との用事があるようでしたので」

「ふーん…。ま、いいや。んーーっっと、それじゃどうせ邪魔入るだろうし、帰りながらでもいいから話そう」

「ええ」

 

 

 

 

「…で、どうせ五河君のことを聞いてここにやって来たんでしょ?あの馬鹿げた目的のためによくそこまでできるね。狂三は」

 

「ああ、ああ。そうですわね。本当なら……いますぐ()()()()()()ところなんですが、少し、我慢しないと。せっかくですもの。もう少し学校生活を楽しみたいですわ。貴女とも。お楽しみは、最後にとっておきませんと」

 

「いつか後ろから銃で撃たれそうだな…」

 

「その時はきっと、私の首が刎ねられてますわね。精霊化してない時ならまだしも、している貴女にスキの多い攻撃をしてたら死ぬのは必然になってしまいますもの」

 

「なら、精霊化してない時を狙えばいいのに」

 

「いえいえ、そんなことはしませんわよ。貴女ではなく、()()貴女に認めてもらわなければなりませんもの」

 

「ああ、狂三。一つ言っておくけど、別人格だと思ってるあの私は、本当に人類最古の英雄王。正確にはその魂だから」

 

「あら、そうなんですの?」

 

「うん」

 

「それならば、貴女の許可は必要ない、ということになりませんこと?」

 

「いいや、【力を貸すかどうかは(めんどくさいから)私に一任する】って言ってもらえてるから。……まぁ、めんどくさいし貸す気もないけど」

 

「冷たいですわね」

 

「今更何を」

 

 

多分、会話の内容さえ聞いていなければ、ただの女子高生2人が仲良く一緒に帰っているように見える。

 

けど本当は、2人とも表には出していないが臨戦態勢になっていた。

 

 

「--とと」「…なにしてんの」

 

なぜか踊るように歩いていた狂三が、道端にたむろしていたガラの悪い男にぶつかった。

 

「あらあら、申し訳ありませんわ」

「ツレがどうもすみません」

 

面倒なことになる予感しかなかったから、さっさと謝って立ち去ろうとした。

けど、不意に手首を掴まれた。

 

「おい待てよ、お嬢ちゃん方。そっちの不注意だってのに、それで終わりはねえだろよ」

 

ぶつかった男がイヤラシイ笑みを浮かべながら言ってくる。と、それに応ずるように男の仲間らしき人が私たちを囲うように散らばった。

 

「あら、あら?」

「うわぁ、わっかりやすいやつだな」

 

なんか、こちらの全身を睨め回しながらさまざまな評価をされる。私の胸を見た瞬間にあからさまにため息をつかれたのは納得いかないけど。

 

「お兄さん方、もしかして、わたくしと交わりたいんですの?」

 

どうやってこのゴタゴタから抜け出そうか考えていると狂三が妖しい笑みを浮かべながらそう言った。

 

狂三、まさか------する気?

ええ、そうですわ

そっちが勝手に勘違いされるのはいいんだけど、私までインラン女って勘違いされてる気がするんだけど?

 

狂三とヒソヒソと話し合っていると、そのまま男たちに囲まれながら裏路地まで連れてかれる。

よく漫画であるような、袋小路に追い詰められてるような形になると、男たちは手を伸ばして来た。

 

 

けど、その手は私たちに届くことなく、段々と、比喩でもなんでもなく、下に下がって言った。

 

「あ?何してんのさ。やんねーんなら俺が先に---」

「ち、違ぇ!からだが……!」

「身体?」

 

今の今まで手を伸ばしていた男は、必死に足元の何かを取り払おうとしていた。

 

それで仲間も気づいただろうか。

 

 

狂三の足元から()が広がっていて、そこから白い手が無数に生え、男たちを影の中に引きずり込まんと、引っ張っていた。

 

 

そこからは、阿鼻叫喚だった。

男たちは必死に、必死に、必死にもがき、叫ぶも、為す術なく影の中に引きずり込まれたいった。

 

そしてまぁ、律儀に手を合わせ、『いただきます』と言った。

 

「うふふ、ふふ。まあ、いつもなら()()()に値しない小物ですけれど……近いうちにメインディッシュがありますし、肩慣らしならぬ舌慣らし、としておきますわ」

 

「相変わらず、狂三の食事は見た目ホラーだよね」

 

「そういう神夏さんは、殺すのが嫌だという割には、平然とこれを見てらっしゃいますわよね」

 

「そりゃ、私自身の手で殺したり、私に近い人が死んだりするのは嫌だけど、特に関わりもない、どうでもいい人たちが、私以外の人によって殺されてもねぇ…。別になんとも思わないというか」

 

「その割には、わたくし()()に、ええと、『乖離剣エア』でしたかしら?それを容赦なく撃ち込んで来ましたわよね?」

 

「そりゃ、人形相手だからねぇ」

 

「そうですか…。それはそうと、なぜ神夏さんは()()()()()()()()のです?」

 

「ん?だって…」

 

 

ガキンッ!

 

 

「こうなるからだ、狂三よ。久しいな」

 

黄金の波紋を一つ作り出し、そこから出した武具で突然飛んで来た誰かの攻撃を防いだ。

それと同時に、英雄王様が表に出て、私たちの目の前には、マナがいた。

 

「あらあら、貴女が古代メソポタミアの人類最古の英雄、ギルガメッシュですの。あの時は飛んだご無礼をしましたわ。そして、改めて、以後お見知り置きを、ですわ」

 

「気にするな。だが、我…ではなく神夏がまだ万全でなくてな。以前貴様がした我への申し出は後回しだ」

 

「ええ、構いませんわ」

 

こうして、英雄王様と狂三が話している間も、マナは手を休めることなく攻撃して来ているが、英雄王様が全て防いでいた。

 

「では、我はこの辺で帰るとしよう」

「待ちやがれです!」

 

浮かび上がった英雄王様にマナが攻撃を仕掛けていたけど、狭い路地裏なだけあって、少数とはいえ王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を防げておらず、武具に吹っ飛ばされ地面に激突していた。

 

そのあとは土煙に紛れて帰られた。

 

狂三は、まあ大丈夫だろうと、私も英雄王様も、そう感じていた。

狂三の能力は、身を以て体験していたから。




割と狂三と神夏の仲は良いです。

狂三もギルガメッシュには割と気に入られてます。
だって、『乖離剣エア』を抜かせてるもの(確信)
その辺も過去編で書かなきゃな…。


読んでくださりありがとうございます


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18話

fgo2部がとうとう来ましたね。
いやあ、面白かったです。アナスタシアちゃんはまだお迎えできてないですが。
ぶっちゃけると更新遅くなった理由の一つです、はい。

まあ、それ以外に決定的に、この作品自体もう消してやろうか、みたいなこともありましたがそれは後書きにちょっとした悪いお知らせを添えてかきます。


それではどうぞ


「……よっしゃぁぁぁぁ!やっとオワッタァァ!マジで疲れた……。……先生!アニメで出てくる(キャス)はロクなのいないとか言ってすいませんでしたぁ!」

 

あ、もう7時がくる。はやく学校行く準備しないと。アニメ以外で徹夜したの久しぶりかも。

 

いや、しようがない。これは必然だ。

 

F○Oでやっと新章が来たんだから。午前4時までオタ生活(日課)をやった後にガチャを………まあそこそこ。その後に全力で進めた私は悪くない。

え?ゲーム名隠せてないって?まあまあ、固いことは言わない言わない。

あ、ちなみに英雄王、賢王、子ギルの皆様方はスタメンから一切外してないよ。いやぁ、槍とか騎とか相手は辛かったなぁ……。

 

「……このまま学校休もうかな」

 

コンコン

 

と、そんなことを漏らすとドアがノックされた。

 

誰だよもう。いまから寝る準備……じゃなくて学校の準備をして朝ごはん食べないといけないんだから。

 

「はいはい、だれで……」

 

「あ、あの…神夏、さん。その…おはよう、ございます」

『やっほー。みんなのアイドルよしのんだよー。まるで寝不足かのような神夏ちゃん、目、覚めた?」

「……うん、目は覚めた」

 

ドアを開けると、そこには四糸乃とよしのんがいた。

今日は朝から温度、というか湿度高めなため少し暑いのか、薄手のワンピースを着ていた。

控えめに言って萌え死しそう。

 

思わず携帯に手が伸びかけていたが、なんとか自粛した。

 

「四糸乃、どうしたの?こんな朝早くに」

「そ、その……士道さんに、朝ごはんに誘われて、作ってる最中に十香さんもきて、どうせなら神夏さんも呼ぼう、ってことになって…。まだ寝てるかもしれないから起こしに行ってあげて、って頼まれて…」

「ああ……なるほど。まだ寝てるかも、じゃなくてまだ寝てない、が正しいんだけどね……

「?」

「なんでもないよ、ちょっと準備してくるから、中で待ってて。外は暑いでしょ」

 

四糸乃を部屋に上げて、私は速攻で服を着替える。

学校への遅刻未遂が90回は超え、そろそろ3桁に行きそうな私にとって1分早着替えなんて造作もない。

え?威張れないって?はっはっは、知ってるよこんちくしょう。

 

それはそうと、1分早着替えで制服に着替えて四糸乃のところまで行くと、なんか周りをずっと見渡してた。

 

「どうかした?」

「い、いえ……すごいな、って思っちゃって……」

『神夏ちゃん、この男の人のグッズ多すぎない?』

「そんなことはないよ、よしのん。私は英雄王(この方)が大好きすぎるんだ。よしのんも、四糸乃のグッズあったら集めるでしょ?」

『うん、そうだね。ああ、なるほど。神夏ちゃんが士道君のアレを受け入れないのはこういうことだからねー』

「ど、どういうこと…?よしのん」

「『四糸乃にはまだ早い領域だよん』」

「そ、そうなんですか……?」

 

危ない危ない、四糸乃にはまだ虹オタクという道へ理解を示すべきじゃない。

 

「と、それはそうといこう。待たせた私がいうのもなんだけどね」

「はい…!」

 

ああ、天使が目の前におる……。いや、女神か?

 

 

 

「あ、あの……」

 

「ん…?どうしたの?」

 

「か、神夏、さんは……怖いって思うこと…は、無いんですか?」

 

「?」

 

目と鼻の先にある五河家へむかって一緒に歩いて行き、四糸乃と他愛もない話をする。

けど、そんな中、四糸乃が先ほどのようなことを聞いてきた。

 

「一体どしたの」

 

「い、いえ…その、神夏さんは…その、士道さんとは違う意味で、好きで、よしのんとも違う意味で、憧れてる、って言えば…いいんですかね。よしのんや神夏さんのように、強く在りたいって、思いました。でも、私は、臆病なのは治せなくて、検査してる時……私、何でも怖がっちゃって……。だから、検査も…長引いてしまって。そ、その時に令音さんが、神夏さんも怖いものがある、って言ってて……。あんなに強くて優しい人が、怖いものが……あるのかな、って疑問に思っちゃって……」

 

「うん、あるよ。全然ある」

 

超軽く四糸乃の質問に返すと、あまりの即答に驚いたのか目が点になっていた。

 

「私はね、他人を殺すことが怖い」

 

『ええー、でも躊躇なく攻撃してなかった?』

 

「ゔっ…それを言われると辛いけど。…元々、アレは私の性格じゃないからね。こう見えて私、結構臆病だし。でも、最近は、なんというかね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分がいるんだ。だから、自分の意思じゃないとはいえ、自分の体で、能力を使って、他人を思うがまま殺してしまうんじゃないのかな、って怖くなってる」

 

「…わかり、ます。私も…よしのんがいなくなった時、どうしようもなくなっちゃいましたし…アレに慣れたらダメだって、思います」

 

「うん、でもね、四糸乃。臆病なことは何も悪いことなんかないよ。むしろ、何かを怖い、って思うのは生物としては当然のことなんだから。むしろ何も怖くない人がいるなら見て見たいもんだね。っと、辛気臭い話はやめて、あの女子力がやたら高い人からご飯をもらおう」

 

気づくと五河家に着いていたので、インターホンも鳴らさずに無遠慮に入って、妹さんに怒られました。なんでやねん。飯に誘ったのそっちやろがい!

 

え?私が悪いって?ンナバカナ。

 

 

 

 

「んー、美味しい。……五河君よ、今度私に作りかたを伝授してもらえないだろうか」

「はは、いいよ。いつでも来てくれ」

「シドー!今日の朝ごはんもうまいな!」

「おいしぃ…です」

 

あーホントに美味しい。

白米に鮭の塩焼き、味噌汁というありたきりな朝ごはんなのだが、なぜこんなに美味しく作れるのか聞いてみたくなる。

特に鮭の塩焼きがこれまた美味しい。

 

『よし、神夏よ。我に変われ。どれ程のものか我も確かめてやろう』

「え…私食べ……」

『我に二度同じことを言わすつもりか?』

「い、いえ!申し訳ありません!」

 

なんか急に喋り出した、とか思われてるんだろうなぁ。

けど、そんなことを気にしている暇もないため、精霊化しギル様に体の主導権を渡す。

 

ギル様、絶対食べたいだけでしょ。

 

 

 

 

「神夏よ、思っていることはこちらに全て伝わっていることを忘れるなよ?」

 

今しがた()へ引っ込ませた神夏の思考を読み取り、軽い脅しも含め言うと、即座に撤回し謝って来た。

 

まあ、あとで適当な罰を与えるとしよう。

 

「ぬ…?神夏、また雰囲気が変わったか?」

「黙れ、許可も得ずして我に気安く話しかけるでない。死にたいというなら我の食事の邪魔をしても構わんが」

「なっ…!シドー!今は私が嫌いな方になってるぞ!」

 

やかましいな。食事くらい静かにさせんか。

 

「黙れ、と言ったのが聞こえなかったか、雑種。……ほほう、なかなかに美味だ。褒めてつかわすぞ、道化」

「あ、ありがとうございます。あ、あとその怒りを抑えてもらえると嬉しいのですが……。主に十香が更に不機嫌になりかねませんので……」

「心配するな。今は暴れる気などない。神夏らか絶賛している貴様の料理を食いに来ただけだ。ま…そちらから仕掛けて来たなら話は別だがな?」

 

その言葉を境に、この場の空気が締まる。

道化を含めた周りの雑種は明らかにこちらを警戒していた。

 

「…ふぅ、食事すら満足にできんとはな。躾がなっていないぞ、道化よ。自らが手篭めにした女と身内の躾くらいは完璧にしておけ」

「なっ…!」

「なぜ顔を赤くする必要がある……ん?道化よ、少しばかり寄れ」

「「へ?」」

 

道化とその妹とやらが間抜けな声を出したが、素直に近づいて来たところを首元を持ち更に近づかせた。

 

「ちょっ!何してるのよ!」

「あ、あのっ⁉︎俺何かしちゃいましたか⁉︎」

 

「少し黙れ。……ふむ、貴様が誰かに似ている、と思ったが……()()()()()。恐らくは……。ああ、なるほど、そう言うことか」

 

「シドーから手を離せ!困っているだろう!」

 

と、我が思考している最中だと言うに、雑種がそれを中断させて来た。

道化を離すと、なぜか先程より顔が真っ赤になっていた。

それにしても……。

 

「貴様はどうやら、よほど死に急ぎたいらしいな」

 

「…っ、やれるものならやってみろ!」

 

「いやいや!落ち着きなさい十香!」

「ギ、ギルガメッシュ王よ、そ、その怒りをお鎮めください」

 

先ほどからずっと不敬な態度をしてくる雑種に向かって王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を2門ほど展開する。

が、周りにやたらと止められ、神夏にまで止められた。

 

「…まあ、よかろう。こんなことで怒っていては我の沽券にも関わる。だがな、次はないと思え。では、さらばだ。ああ、道化よ。次も我に食事を振る舞え。これは命令だ。そうさな、場合によっては褒美をくれてやろう」

 

「へ?は、はい」

 

雑種がまだ何か言いたそうにしていたがそれを一瞥し神夏の中へ戻った。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「……ああ、なんだろう。満腹感しか私には残ってないこの悲しさは……。いや、英雄王様の命令だから喜んで受け入れるけども……」

 

場所は変わり学校。もうホームルームか始まろうとしていた。

あの後は何となくその場に居づらくなったからすぐに出て学校へ来た。

 

ぶっちゃけると、五河君のご飯は食べたかった。うん。だってそこらのチェーンの飲食店より美味しいし。

 

「……まあ、済んだことはしょうがないし、ねよう…」

 

「あれ?狂三のやつ転校二日目で遅刻してんじゃねえか…」

 

五河君がそんなことを言うもんだから思わず辺りを見渡す。

およ?本当だ。眠たい目を無理やり起こして辺りを見渡すと狂三がいない。

 

「…来ない」

 

すると、左前から静かな声が響いた。

確か…と、とびいち?合ってる?まあいいや、五河君の左隣の人がそう言った。

 

「ぬ?どういう意味だ?」

「そのままの意味。時崎狂三は、もう、二度と学校には来ない」

 

「……?何言ってんの?たとえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は……?」「一体どういうことなのだ…?」

「……いいや、絶対に来ない」

 

うーん、あの狂三に限って絶対そんなことないと思うんだけど。

まあいいや、担任ことタマちゃんの気持ちのいい子守唄を聴きながら眠りにつ…

 

「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」

「だ、大丈夫ですか…?保健室行きますか?」

「いえ、今はもう大丈夫ですわ。ご心配おかけしてすみません」

 

なに、みんなで私の睡眠妨害計画でもあるの?

そうとしか思えないくらいの寝ようとするドンピシャなタイミングで何か起こるんだけど。寝るな?ちょっとなに言ってるのかわからない。

 

ていうか、ほら。狂三きた。

 

とびいち?が心底驚いたような顔をしていたが、まあどうでもいい。寝よう。

 

 






作品が面白く無い、とかいう感想じゃなく、私自身についての酷評をするだけして、数分経ったら消す、みたいなことをする輩は滅べばいいと思います。
どなた、とは言いませんが、書くならずっと書いたままにしておいてください。ただブロック等色々とするだけなので。別にそんなことを書き込んですぐに消すような人なら私のような人からブロられても痛くもかゆくもないはずでしょう?

あとはわざわざメールで見る価値ないとかいうことを言ってくるやつですね。明らかな捨て垢をわざわざ用意してまで。
別に見る価値ないと思ったならそんなことに労力を使う前にブラウザバックしやがれ、です。

お陰でこの作品消したらいいんだろうが!って言いながら思わず消しかけました。ええ、未遂になりましたけども。お陰でモチベほぼゼロになりましたけどね。

AUOをよごすな!みたいなコメは流石になかったですけどw

と、いう事情から、更新頻度のろまになります。ご了承を。

読んでくださりありがとうございました。


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19話

今回は少しだけシリアス多めにした(つもり)

書いてて思ったのが、私の書いている英雄王は少し優しい?のかな。
自分の中ではそんな風に書いてるんだと何となく自覚しました。

さて、それではどうぞ。


「zzz……」

「神夏さん神夏さん」

「んぁ…何………おや、すみ…」

「いや、寝ないでくださいまし⁉︎」

 

昼になって、誰かに話しかけられた後、速攻で眠りにつこうとしたというのに、無理やり起こされた。

 

ぬぅ、徹夜明けで超眠いんですけど。

 

「何…狂三。私の体質…知ってるでしょ……」

「体の体質みたいに聞こえますが、ただの寝不足ですわよね?」

「そう…ともいう。てか、何の用…」

「一緒にお昼を、と思ったのですが。どうせ神夏さん独り(ボッチ)なのでしょう?」

「だれが陰湿変態ボッチ女だっ!」

「そこまで言ってませんわよ⁉︎」

 

と、狂三に煽られ、思わず跳ね起きてしまった。

寝かけを無理やり起こした反動で、眠気はどこかに飛んで行ってしまった。

 

「---少し話がある」

 

と、ガールズトークをしていた所へ、誰かがきた。

ちなみに、正確にはガールズトーク(笑)だ。

 

「折紙さん…でしたわよね。わたくしに何か?」

 

「きて」

 

と、折紙サンは短く答えた後返答も待たずにそそくさと教室を出て行った。

 

「ま、待ってくださいまし。一体どうしたんですの?」

「まーた甘い誘惑をして男を唆したんじゃないの?」

「そんなことはないと思いますけど…。神夏さん、付いてきてもらってもよろしいでしょうか?」

「いy」

「あ、ちなみに拒否権はございませんので♪」

「なんで⁉︎」

 

と、行きたくもないのに狂三に腕を引っ張られて折紙サンの後を追いかける羽目になった。

 

 

 

お腹の減りに耐えつつ、引っ張られていると屋上前の扉についた。

 

「ええと…何かご用ですの?わたくし、まだお昼を食べていないのですけれど……」

「わたしもなんだけど?あ、私については無視してくださって結構」

 

その際、折紙サンはこちらを睨んできたが、狂三に向き直ったかと思うと再度口を開いた。

 

「あなたは、なぜ生きているの?」

 

「え?」

 

「あなたは、昨日死んだはず」

 

その会話から、大体何が起こったかを察せた。

 

多分、昨日のいざこざの後、()()()()()()()()()()()()()()()が仕留められたのだろう。

 

「ああ、ああ。あなた、あなた。昨日、真那さんと一緒にいらっしゃった方ですの」

 

「……!」

 

「まあまあ!素晴らしい反応ですわ!神夏さんや真那さんには劣ってしまいますが、それでも十分すぎますわ!素敵ですわぁ!…でェもぉ」

 

突如、折紙サンが飛び退いたかと思うと、飛び退いた先からは黒い影が広がっており、さらにそこから白い腕が何本も、何本も出てきており折紙サンを壁際に拘束した。

 

そして、ここら辺から眠気が再来して、誠に申し訳ないが会話のほとんどを聞き流してしまった。

 

「目的は…何」

 

「うふふ、一度学校に通ってみたかった、というのも嘘ではございませんのよ?でも、そうですわねぇ、一番の目的は士道さん、ですわね」

 

「っ!」

 

「彼は素敵ですわ、最高ですわ。本当に---()()()()()()()()。わたくしは、ここで神夏さんと出会わなければ、彼を手に入れるためだけにここに来た、と行っても過言ではございませんわねぇ」

 

そして、ここら辺で私はとうとう立ちながら寝てしまった。

 

 

 

 

 

「神夏さん、起きてくださいまし」

「んぁ…、ああ。おはよう」

「立ちながら眠るって、どういう器用さなんですの」

『全くだ、少しは我の臣下という自覚を持て。我の臣下がそのようでは、思わず殺してしまうぞ?それか、よほど我の名を貶めたいと?」

「……申し訳ございません。返す言葉もございません。これからは二度とこのようなことはしませんのでどうかお許しを」

『…まあよかろう。だが、これきりだ。次はないと思え?』

「…承知しました」

「神夏さん?先程から何を一人でブツブツ言っておられるので?」

 

狂三に呆れられ、英雄王さまに割とガチで怒られ、今後は授業中以外は外で寝ないことを心がけ、地面に膝をついている折紙サンを放っておいて私たちは教室に戻った。

 

っていうか、私の服乱れてるんですが、やましいことしてないよね?この人。

 

 

その後は、昼ごはんを少ない時間で急いで食べ、ずっと寝た。

 

あれ?今日1日のほとんどを寝て過ごした気がするな。まあいいか。

 

ともあれ、明日は休日。が、明日は英雄王さまが時には休日を外で過ごしたい、とのことで久しぶりに体を英雄王様に一日中お貸しすることになっている。

 

顕現には霊力が必要だが、その分は寝て貯めておいたから、ちょっとやそっと、何かが起こっても何も問題ないだろう。

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「ふむ、相変わらず胸だけか。それ以外は快適なのだがな。我が顕現するたびに胸だけこうも変化するとは、面倒だな」

『も、もうしわけ…ありま……せん』

「泣きながらいうでない。別に責めているわけではない。人間の成長なぞ、それぞれだ。能力も、容姿もな。ただ、そこに努力が入るか入らないかの問題だ」

 

蛇柄スカートに上にシスター服という格好で、このまま英雄王は金にモノを言わせて水族館や映画館など、娯楽を楽しみまくった。

格好と容姿のせいで目立ちまくっていたが。

 

 

「ふう、中々だ。この世界は、まだ捨てたものではないな」

 

久方ぶりに、現在の世の中を愉しみ、時間も3時半となっており、霊力も半分を切ったという事で、最後に昂ぶった気持ちを抑えるためにアイツらしく自然の中に身を任せてみようと、自然公園というところに足を運んでいる。

 

「喉が乾いたな。自動販売機とやらは……む?」

「あらあら」

 

ゲートの中にある酒は、取り出す際に霊力感知で雑種どもに悟られる可能性があり、さらに今の体はまだ酒を飲むには適していない体なため、自販機とやらに向かうと、その直ぐそばに狂三がいた。

 

「奇遇ですわね、神夏さん」

「そうだな」

「…?もしかして、神夏さんの言っている英雄王、でしょうか?」

「そうだ。よく気づいたな」

「あらあら…これはこれは。無礼な態度で申し訳ありませんわ」

「よい、許そう。特別に我を拝謁し、共に語る名誉を許す。ああ、いつもの貴様の話し方でかまわん」

「それはそれは。嬉しいですわね」

 

狂三には、一度覚悟を示させ、更には我にこの世で二度目の『乖離剣エア』を抜かせたこともあり、狂三のいつも通りの話し方にも対しても、特に何も思うことはない。

 

「……?」「…ほぉ、どうやら我の庭を汚す不届きものがいるようだな」

 

突如、耳に不快な音が響いてきた。どうやら狂三も同じらしく、狂三と共に奥まった場所にある裏路地の袋小路に足を運んだ。

 

「あらあら、何をしておられますの?」

「…よもや、雑種どころではなく醜い虫ケラを見ることになるとはな」

 

「……いっ?」

 

狂三に声をかけられた一匹の虫ケラが驚いたように肩を揺らし、振り向いてきた。

 

そこには五匹の人間(虫ケラ)がおり、手には銃---とは言っても見た限りでは贋物だったが、ここに散らばっている銃痕を見る限りは、普通の雑種相手ならば殺傷力は十二分にありそうなもの--を持っており、裏路地の奥に向けていた。

 

その銃口の先には、見た限り小さな、まだ幼い子供と、その子供の腕の中には生まれて間もない子猫とその親猫がいた。

子供も、親子の猫もどちらも傷を負っている。親猫の方は子を産んだ時間がそれほど離れていないからなのか、それとも撃たれたからなのか相当弱っていた。

 

『(あ…手がつけられなくなるやつだ。これ)』

「安心せい、大ごとにはせぬ。ただ、肉塊が5つ出来るだけだ」

 

小さく神夏の不安に答えると、聞こえていたのか狂三は小さく笑った。

 

虫ケラどもはと言うと、全てこちらに気づいたようで一斉に視線を向けてくる。

 

『あの、英雄王様、おねがいですから許可を得ずして見るでない、とか言って串刺しの刑は……』

「ほう、よく我が言わんとすることがわかったな」

『(あ、ダメだ。本気で呆れてるし怒ってる)』

 

狂三が虫ケラどもに仲間に入れてもらえないか、と言っていたが何をするかは想像もつく。

その途中で虫ケラどもが我らに向ける目が馴れ馴れしいものになっていたが。

 

その途中、虫ケラの一人が我に手を伸ばしてきたので……

 

 

「うぎゃあ⁉︎て、手が⁉︎」

 

「地を這う醜い虫ケラ風情が、我の庭を汚し、許可を得ずして我を見、同じ大地に立った挙句、あまつさえ我に触れると?不敬もここまでくると笑いが出てくるものだな」

 

 

触れられる前にゲートから短剣を射出し手を文字通り胴体から切り離してやる。宝物庫の中にはASTとやらの武具を収めておいたため、それを使った。この虫ケラどもは我が宝物庫の宝を使う価値すらない。

 

「狂三よ、この虫ケラ共は好きにせい。我が手を下す価値すらない」

「ええ、承知しましたわ。では…お兄さん達、私も仲間に入れて、くださいねぇ?ああ、申し遅れましたが…少しだけルール変更を、したいのです」

 

我が虫ケラ共が避けた中中央を堂々と歩き、子供と親子の猫の元へ歩を進める。

 

「神夏よ、魔術で簡易的に治療を施した後は貴様に一任するぞ」

『はい、承知いたしました』

 

子供の前に立つと怯えた目で、かつ何が何でも猫を守る、といった視線でこちらを見てきた。

 

「そう怯えるな。心配するでない。お主も、そこの親子も、死なせはせん」

 

我と子供と親子の猫と、狂三らの間にいくつかの盾を射出し簡易的な壁を作る。

 

そして、我らしくもない、穏やかな笑みを見せると安心し、途端に泣き出した。

ええい、我から言ったとはいえそう泣くでない。

 

「そうさな……まだ致命傷には至っておらんのが幸いだな」

 

まずは一番弱っている親猫の方に回復の魔術を施し、子供と仔猫は見た目ほど重症は追っておらず、こちらはゲートの中にある包帯等で治療をしてやる。

本来ならば我では無くその道に長けた臣下にさせるべきなのだろうが…生憎、その臣下はいない。

 

「ほれ、これでもうよかろう?」

「あ…ありが、とう、ございます!」

「よい。気にするでない。それはそうと、もうこのような場所には二度と入らぬことだ」

「は、はい…!」

「ふむ…あちらからは帰れぬか。しょうがない、少しだけ目を瞑っておれ」

「え?は、はい…」

 

と、何故か悲しそうな声を出した子供の目をつむらせ、何回か使ったことのある空間転移の魔術を子供に使い、先ほどまでいた自然公園とやらに転移させた。

 

『あ、あの…英雄王様。私の仕事…なくなっちゃいました』

「む、そういえばそうだったな」

『ああ、でも私が出ても多分、何もならなかったかと。あの子、英雄王様にとても尊敬の眼差しを向けておられましたし、何より懐いていましたから』

「む…そうか」

 

その後、狂三の方は、と思い壁にしていた盾を宝物庫にしまうと、そこには肉塊が4つと腹を中心に、血で的のように描かれた一匹の虫ケラが壁際で怯え泣いていた。

 

「あら、英雄王様の方はもう終わりましたの?」

「ああ、そちらはまだ終わっておらんではないか。それに、的にするのはいい案だが、散らかし過ぎだ。もう少し綺麗にやらんか。我の庭を汚しすぎだ」

「あらあら、申し訳ありませんわ」

 

「た、たすけて…くれっ!」

 

と、虫ケラが泣きながらこちらを見て叫んでくる。

 

「助け、だと?戯けが。貴様らは、命を摘み取ろうとしていたのだろう?ならば、貴様も命を摘み取られる覚悟を持っているのだろう?もし持っていなかったと言うのなら、命と引き換えに学ぶがいい。これが、命を奪う、ということだ。貴様らの覚悟無しの行動が、この結果だということだ。

ああ、我は手を下す気は無いが、我の庭を汚したその罪は償ってもらうぞ?では、後は任せたぞ、狂三よ。あの子供らは無事だ。猫もな」

 

「ええ、ありがとうございます。英雄王様」

 

血溜まりの中を、霊力の壁を作り出し血で服が汚れないようにし狂三らを背にし裏路地から立ち去る。

その際、五河士道(道化)とすれ違ったが、まあ問題はなかろう。

 

 

「さて、仕切り直しと行こうか」

 

 

 

この後英雄王は、また----昼過ぎまでよりさらに派手に----遊びまくった。




少しだけ原作でも起こった事件を改変。

原作3巻でのこの裏路地での事件での狂三の

『何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟がないなんておかしいとは思いません?命に銃口をむけるというのは、こういうことだ」

というセリフが、何気にデアラで一番好きなセリフです。今回は英雄王様がとっちゃいましたが…

もう少し…もう少しで、ギルの無双を……かける。


投稿ペースは未だ長いと思いますがそこはご愛嬌を。


読んでくださりありがとうございます


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20話

超のろま更新をお許しを。

投稿前に何げなくお気に入り者数を見てみると、800人に届きそうになっててびっくりした。

どうやら、更新を少し辞めた後にもちょくちょく登録してくれた人がいるみたいです。
モチベ消えかかっていたにしてもうれしいものですね。

さて、今回はほぼ原作沿いです。

ちなみに士道の視点が9割を占めてしまいました

それではどうぞ



~時は少し戻り狂三が五人を殺した後~

 

十香と狂三と折紙の三人と同時進行でデートをするという荒業をやっている最中に、自然公園のベンチで待っていたはずの狂三が消え、()()()()()()()があるという裏路地に足を運んでいた。

 

裏路地を進んでいるとなぜか不機嫌そうな神夏がいて、とても気にはなったが狂三が先、とインカム越しに琴里に言われ足を進めた。

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

目的の場所についた瞬間に、茫然と立ち尽くしてしまった

 

まず視界にとらえたのは、あたり一面に散らばっている赤い液体

 

ところどころに5つの塊が転がっていた。

 

普通に人生を過ごしていたなら、絶対に遭遇しえない状況に、理解できなかった。

 

 

いや、したくなかったのほうが正しいのかもしれない。

 

 

だって……こんな街中で

 

 

人が死んでいるんだから。

 

 

 

「う……わあぁぁぁぁぁ!!!」

 

脳が理解した瞬間に悲鳴じみた叫びをあげ、あたりから漂う異様な匂いにより途方もない吐き気がし、口元を押さえた。

 

でも、神夏の過去を体験していたからだろうか。

 

わずかだが冷静さをすぐに取り戻せ周りを確認することができた。

 

「あらあら?……士道、さんですのね。もう来てしまいましたのね」

 

赤い海の中心にたたずんでいるのは、赤と黒の霊装をまとっている時崎狂三ーーー精霊がいた。

左手にはどこから持ってきたのか、細緻な装飾が施された短銃を持っていた。

 

「く、狂三…。一体何を……」

 

「…神夏さんも仰っていたのですが、何かを殺そうというのに、自分は殺される覚悟がない、なんてことはおかしいと思いませんか?」

 

「は……?」

 

「だから、理解させてあげたんですのよ。()()()()()()()。幼子と、命を育んでいた親子の猫を殺そうとしていた、5人の人間に」

 

狂三は冷たい目で辺りを見渡しそして改めておれに向き直った。

 

「お待たせしましたわ、士道さん。さて、デートの続きと参りましょう」

 

『士道!逃げなさい!すぐに!』

 

「っ!」

 

インカムを通し、ずっと琴里が叫び声を上げていることに気づき、震える足を抑えながらその場から逃げ出した。

 

「…あらあら、残念ですわね。でぇもぉ…駄ぁ…目、ですわよ」

 

「うわっ!?」

 

狂三の声が響いたかと思うと、足を何かにとられ地面に体を叩きつけるようにして転げてしまった。

 

星が見えそうなほどの鈍痛に顔をしかめてしまうが今はそれどころではないのは本能的に理解していた。

が、逃げようにも右足を何かで拘束されていて逃げようにも逃げれなかった。

 

右足をよくよく見ると影から白い手が伸びていてがっちりとつかんでいた。

振りほどこうにも、あまりの力に振りほどけなかった。

 

 

恥ずかしいほどに、今は狂三がとてつもなく

 

世界の災厄だということを体が認識していた。

 

 

「あらあら、そんな怖い顔をしないでくださいまし」

 

狂三は血の海の中からこちらにそう言ってきた。

 

「別に()()取って食おうというわけでもありませんのよ。何より、神夏さん……いえ、正確には英雄王でしたかしら。あの方の協力を完璧に保証できない限りはあなたにどうこうする気はありませんわ。今日は本当に、ただ純粋に士道さんとのデートを楽しみたかっただけですわ」

 

と、ひどく疲れたような顔をして狂三はそういった。

 

「ど、どういう…」

 

「どういうことも何も、そのままですわよ。今は士道さんを()()()つもりはありませんわ。本当に、ただただ今は、学校生活を楽しんで士道さんや神夏さんのいる学校生活を楽しみたい、それだけですわ」

 

「でもっ!自分が何をしたかわかっているのか!」

 

「ええ」

 

恐怖に打ち勝ちたかったからなのか、思わず大声をあげてしまった。

 

「きっと士道さんは優しいですから、殺す(ここ)まではしないかとは思われますわ。でも、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに…」

 

と、狂三が近づいてきた時だった。

 

全身を奇妙な感覚が包んだ。

まるで周りの空気が粘度の高い液体になって、意思をもって体を撫でまわしているかのような。

 

「—――っ」

 

その次の瞬間には、狂三の体が後方に勢いよくたたきつけられた。

 

「無事ですか、兄様」

 

何が起こっているのか見当もつかず、声も出せないでいると、自分の妹だといっていた嵩宮真那が、折紙たちASTがいつも身に着けているワイヤリングスーツを身にまとって、自分と狂三の間に立っていた。

 

「間一髪でしたね。大事はねーですか?」

 

「あ、ああ…」

 

「よかったです。さて、いろいろ聞きたいことがあるとは思いますが、一旦後回しでお願いです」

 

と、真那は立ち上がってきた狂三に向き直った。

 

「…()()真那さんですか。あなたも飽きませんわねぇ。それにしても、わたくしと士道さんとのデートを邪魔するなんて、マナー違反が過ぎますわよ?」

 

「うるせーです、人の兄様を狙うなんて、どういう了見でいやがりますか」

 

「あら、真那さんと士道さんはご兄弟でいらっしゃいますの?」

 

「貴様には関係ねーです。とっととくたばってください。【ナイトメア】」

 

「いやですわねえ。わたくしの悲願のためにも死ぬわけにはいきませんわぁ」

 

「ふん、()()()()()()()、【アロガン】と貴様は私の手で必ず殺しやがるです」

 

「大口だけは叩けますものねぇ」

 

と、狂三の最後の言葉をきっかけに、真那が動いた。

 

真那の両肩のパーツが分かれたかと思うとレーザーが飛び、爆風をまき散らす。

 

そこからは十秒ほど何かしらの音が鳴り響いたかと思うと、すぐに止んだ。

 

「ぐ……」

 

「手間をかけさせるんじゃねーです。化け物風情が」

 

土煙が晴れたかと思うと、狂三が腹から血を大量に流し地面に倒れていた。そしてとどめを刺そうとしていた。

 

「真、那……!」

 

だけど、その姿を見て、今までの恐怖心はどこへ消えたのか、思わず真那に向かって叫んでいた。

 

「どうかしやがりましたか。すぐに片付けちゃいますので、待っててください」

 

「駄、目…だ!殺しちゃ!」

 

「…ああ、そういえばクラスメイトとして転校してきていたんでしたっけ。兄様、悪いことは言わねーです。この女は化け物です。生きていちゃいけない存在なんです。【アロガン】も同様です。【ナイトメア】と【アロガン】は、化け物の中でも特に生きていちゃいけない存在なんです」

 

「そういう問題じゃない!やめろ…、やめてくれ!」

 

「ふふ…やっぱ、り、士道さん、は…優しい…お方…。士道さん…神夏さんに、ついて……教えて…上げますわ…」

 

と、いまにも息絶えそうな狂三が笑いながら何かを言っていた。

 

「…神夏、さんは、あなたに…いえ、だれにも心を…開いてませんわ……。あの人は…いまだ、過去に、とらわれて……いますわ。だから…」

 

「相変わらずの生命力でいやがりますね。今楽にしてやりますよ」

 

「だから…神夏さんは……」

 

と、何かを言っている最中に真那がブレードを振り下ろした。

ジュッという音と共に狂三は何も言わなくなった。

 

「真、那…。なんで…」

 

「知った顔が死んだのはショックだったかもしれねーですが、いま殺しておかなければ、死んでたのは兄様でしたよ」

 

「でも…」

 

「悪いことは言いませんから、今日のは悪い夢を見た、とでも思って忘れてください。あの女は死んで当然。あの女の死に心を痛めてはだめです」

 

「…っ、ASTの言い分はわかる。でも……でも!精霊だからってその言い方はねえだろ!」

 

「…?兄様、どこでそれを?」

 

と、自分が墓穴を掘ってしまったことに気づいた。

そういえば真那は、自分が精霊の存在を知っている、ということを知らないのだ。

 

「……ああ、鳶一一曹ですね。まったくあの方は…。でもまあ、それなら話ははえーです。つまりは()()()()()()なんです」

 

真那は、何の感慨もなさそうにそういった。だが、その様子に戦慄を覚えずにはいられなかった。

だって……

 

 

真那は命を摘み取るということに対して、あまりにも平然としすぎている。

 

 

「なんで…そこまで平然としてられるんだ!人を……人を殺したんだぞ!」

 

「人ではねーです。精霊です」

 

「…っ、それでもだ!なんでそんなにあっさりと……」

 

()()()()()()()()()()()

 

「は…?」

 

そういった真那の声は、あまりにも冷たくて、思わず声が漏れてしまった。

 

「【ナイトメア】――—時崎狂三は、ある意味【アロガン】より特別な精霊です」

 

「特別…?」

 

「ええ、()()()()んですよ。何度殺しても、どんな方法を用いても、何事もなかったかのように、必ずどこかに出現して、人を殺しやがるんです」

 

「そ、それはどういう…」

 

「言葉通りの意味です。説明を求められても困ります」

 

真那の顔は、えらく年をとっているような、ひどく疲れていて、くたびれていた。

 

「だから、私は殺し続けているんです。何度も何度も、執拗に追いかけて。いつか死ぬ、その日まで」

 

疲れたように、真那は続けていった。

 

それに、思わず顔をゆがめてしまった。

もう、こんな顔を、見たくなかった。

 

「違う!それは…慣れてるんじゃない!心がすり減ってるだけだ!」

 

「……増援が来ます。兄様はここにいては面倒になります。私のことを気にかけてくれてありがとうございます。ですが、これは私にしかできないことなんです」

 

真那が自嘲気味に笑ったかと思うと体が浮き、強制的に方向転換させられた。

 

「まってくれ、真那!」

 

「聞き分けがねーですね。今度また会いましょう、兄様。時間に余裕のある日にでも」

 

その言葉を境に、勢いよく裏路地の外―――自然公園まで押し出されたかと思うと、ふんわりと優しく着地させてくれた。

 

慌てて戻ろうとするも、不可視の壁が張ってあり、中に入ることはかなわなかった。

 

「くっ……そ!」

 

あまりの己の無力さに、血が出んばかりの勢いで、壁を殴った。

こうでもしないと、自分への怒りで、どうにかなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…少しばかり様子でも見るとするか」

『あれ?霊力は足りるでしょうか?』

「なあに、今残っている分で十分だろう」

 

私は、未だに英雄王様に体を貸していた。そして、英雄王様は五河君が気になっていたらしく、五河君の家へ足を運んでいた。

 

いや、てか私の予想だが、絶対ごはん食べたいだけだよ。この英雄王様。

 

「む…?いないのか、道化は」

 

と、堂々と英雄王様は家の中に入っていった。

 

『たぶんリビングにいるかと思います。五河君はいつも料理担当だとか言ってた気がしますから』

 

と、それを言う前にもう堂々と家の中へ入りリビングを開けていた。

 

「『………』」

 

「んなっ…!?」「なっ…なぜいるのだ、神夏ギル!」

 

と、そこには、くっそ憎たらしいことに、五河君が十香に後ろからハグされていた。

いっちょ前に顔赤くしてんじゃないよ、リア充どもがぁ!(泣)

 

「ほう、狂三の件でどうなるかと思っていたが……存外、貴様もまだ捨てたものではないらしい」

 

けど、英雄王様が魔術で五河君と狂三のやり取りを見ていたからか、五河君がもう復活していて、目からは前よりも強い意志が見られていたことが、結構意外で驚いた。

 

と、英雄王様は思っていたから、そうなんだろう。

私はよくわからない

 

「え…英雄王…様のほう…ですか?」

 

「そうだ。道化よ、さっさと飯を作れ。此度も我の口に合うようならば、約束通り褒美をやるぞ?」

 

「はは…。承知しました。ギルガメッシュ王よ。十香も食べてくだろ?」

 

「うむ!」

 

『(…私も食べたいなあ)』




ハートはつかめなくても英雄王と共に胃袋はがっちりつかんだ士道。

ちょいと料理スキル私にもくださいよ!

最近はリアルで弓道部に入りそっちが楽しいもんだし、こっちは モチベ消えてたしで、更新遅くなってたのは本当に申し訳ないです。

ちょくちょくペース上げれたらな、とは思っています。


読んでくださりありがとうございました


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21話

はい、更新鈍間ですいません。
ですが。更新遅くなる、と言っておいたのでセーフさ(震え声)

そいや、fgoの福袋、念願の弓ギルきました!やったね。
速攻で100レベにしました。あとはホームズさんとかもお迎えできて相当ハッピーです。(今は水着イベを周回


注)台本形式にしていたのですが見づらいとの指摘がありましたので無しの方に修正しました

それではどうぞ


「ふむ、此度の飯もなかなかに良い。褒めてつかわすぞ、道化よ」

「ありがたき幸せにございます」

「さて、褒美を出すと言った手前、何をやろうか…」

 

狂三に心を折られかけた後、十香に慰めてもらった後、突如現れた神夏(精霊になっているから英雄王、のほうだとは思うが)にご飯を振舞った。

 

精霊がみな、声が出なくなるほど美しいのは百も承知だが、なんというか、こう。神夏の場合は食事をする様にすら見惚れてしまいそうだった。仕草一つ一つの全てが、触れがたいと思えるほどに。

 

「きいているのか?道化よ」

 

「はっ、も、申し訳ありません。聞き逃しておりました」

 

が、そのせいで肝心なことを聞き逃していた

 

「はぁ…我に見惚れるのは分かるが…まあ、この際は良い。あの飯に免じて免罪としよう。さて、もう一度言うぞ?貴様が欲している情報を言うがよい。神夏でも、狂三でもな。好きなほうを選べ」

 

「え?」

 

「そうさな、五分だけ待ってやろう。それで返答をしないのならば、それまでだ。貴様の欲する情報はやらん。相談も何でもするがよい」

 

と、神夏はテレビをつけ、くつろぎ始めた。

 

「こ、琴里。どうする?」

 

突然のことに驚き、俺は琴里と廊下まで来た。

 

「……そう、ね。今攻略中の狂三、と言いたいけれど……。正直、好感度は狂三のほうが上なのよ。神夏はないに等しい。それを踏まえると……」

 

「そうだな…。神夏が無難か…」

 

「でも、最終判断は任せるわ。士道が、本当に知りたいと思う方を、選びなさい。どちらを選ぼうともかまわないわ」

 

「……わかった」

 

俺は、どちらを聞くのか決め、改めて神夏のところに足を運んだ。

 

「ん、時間か。さて、道化よ。返事を聞こうか」

 

 

 

「はい、私は……()()()()()()()()()()について、聞きたい所存にございます」

 

 

 

「ほう」

「ちょっ、士道⁉︎」

 

「貴女様は、好きな方を選べ、とは言いましたが()()()()()()()()()()()()()()()()()。なので、私は両方を望みます」

 

俺はそう言うと神夏は一瞬呆けたような顔をした後、すぐにそれを崩し…

 

「クック。はっはっは。我を前にし、良い度胸だ、道化よ。貴様、前に雑種どもの基地で我と合間見えたときより大層成長しているな。前の治癒能力への甘えも消えておる。よいぞ、実に良い」

 

急に笑い始めた。それを見た俺と琴里は逆に呆けてしまった。

 

「…そうさな、では、狂三からと行こうか。狂三の何を知りたい。とは言っても、我の知る情報も大したものではないがな」

 

「…狂三は、大勢の人の命を奪っていると、聞きました。それを、俺は止めたいのです。狂三は、何の目的があってそんなことをしているのかを知りたいのです」

 

 

 

「知らぬ」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

「知らぬ。狂三の成そうとしている事には我には興味がない。だが、一つ言えることがある。

 

彼奴は、()()()()()()()()()()()()()()()。我が認めたほどのな。

道化よ、彼奴を堕とすのは二人の精霊を堕としたとは貴様とはいえ、骨が折れるぞ?貴様も、それ相応の覚悟を持って狂三に臨むことだな」

 

「わ、わかりました…」

 

「それで、狂三については終わりか?」

 

「英雄王さまは、狂三と知り合いなご様子ですが、どこでお会いになられたのでしょうか?」

 

「我らの出会いか…。

いつだったか、我がビルの屋上にいる時に彼奴から話しかけてきたのだ。影の中から現れてな。力を貸せ、ダメなら力ずくで、とか阿呆なことをぬかすから遊んでやったくらいだ」

 

「遊んだ…ですか」

 

「それで、他は?」

 

「え?えーと……く、狂三については、以上です」

 

「そうか。で、次は神夏についてか。神夏のなにを知りたい?」

 

「…狂三に、神夏は誰にも心を開いていないと、そう言われました。…その理由を、私は知りたいのです。昔の、精霊の力を得た時については聞きました。ですが…それだけだと、何もわからないのです。私は、神夏の…なんの力にも、なれません」

 

 

「そんなものか。理由など、ごく単純だ。此奴は、()()()()()()()()()()()。北欧にいた頃に、とうにな」

 

 

「え…」

 

人を、既に見限っている…?

 

 

「あと、貴様の『救い』を受け入れたくない理由だが、心の底から望んだ伴侶なぞ、貴様にはまだおらぬだろう?だが、此奴にはいたのだ。我と、同等なほどに、一緒にいたい、と望む相手がな。そいつを差し置いて、貴様に接吻をされるのが嫌だ、というのは分かりきっているだろう?」

 

「た、確かに……そうですね」

 

「聞きたいことはもうないか?なれば、我はもう神夏に体を返すだけだが」

「ちょっといいかしら」

 

他に質問がないか、考えていると琴里が口を開いた。

 

「貴様に問いかけを許したつもりなどないが…まあ良い。許そう。述べてみよ」

 

「ありがとう。

……単刀直入に聞くのだけれど、貴女の目的って何かしら?」

 

「我の目的だと?」

 

「ええ」

 

「我の目的か…。そうさな、()()()とは、状況も全て違うわけだ。これといって我の目的などは……。ああ、一つだけあったな」

 

「それは…何かしら」

 

 

「DEM社のアイザック・ウェスコット、そして-------を、我手ずから殺す。

我が認め、我が自ら手を下した征服王イスカンダル、インドの英雄カルナ等とは別だ。

 

彼奴らは、我を一度怒らせている。そして、神夏(我が臣下)を、侮辱している。

それだけで、彼奴らにはそれ相応の罰は与えられるに値する」

 

 

「…っ、そ、そう」

 

突然、突然、怒りをあらわにしたかのような話し方に、思わず俺も琴里も身じろぎしてしまった。

 

「そう怯えるな。貴様らには関係のない話だ。さて…流石にもう限界か。我は神夏の中に帰るとしよう。我は、明日の貴様の行いを見させてもらうとしよう。精々励めよ、雑種。ああ、そうさな。次からはその様な下手な敬語など使わんでも良い。堅っ苦しくてかなわんからな」

 

と、そう不敵に笑いながら言い残し神夏は家から出て行った。

不覚にも、その笑みを見て、思わずドキッとしてしまった…。

 

 

 

 

 

 

「なーにドキッとさせられてるんだか。あー、思い出したら無性に腹が立ってきたわ」

「まあ、しょうがないよ。史実とは性別が異なるがギルガメシュという人物は、外見は神によって作られたものだ。それはもう、とても高貴で犯しがたい姿だっただろう。シンが見惚れてしまうのもしょうがないさ。……それで、神夏ギルのことだろう?」

 

神夏ギルが家を去った後、琴里と令音はフラクシナスの令音のプライベートルームに来ていた。

 

「…残念だけど、ギルガメッシュ(彼女)が言っていたことは嘘偽りは狂三の件を除き、無い。狂三の目的は知ってはいるようだが、それについて教える気は無いらしい」

 

「まあ、それはいいわ。…少し、考えてしまったのよ。神夏の身の上について。伴侶って、確か『結婚相手』のことでしょう?」

 

「……ああ、そうだ」

 

「それで…どれだけ死にかけても、辛い目にあっていても、神夏ギルが頑なに私たちの提案を受け入れようとしないことにね……納得しちゃったの。それで…司令官だと言うのに、みんなを導かなきゃいけない立場なのに…私はあの話を聞いて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。士道に、毎回毎回偉そうな事を言ってきた、私が、一番諦めちゃいけない立場な私が、()()()()()()()()()()、と諦めてかけてしまった…」

 

琴里は、悔しいのと、自分自身への怒り、その二つを混ぜたような声を、絞り出していた。

 

「…それはそうだろう。私たちの精霊への攻略法上、神夏ギルのような相手はとことん分が悪い。それに……彼女に宿っている、英雄ギルガメッシュ王も一筋縄ではいかない相手だろう」

 

「でも…ッ!それでも私は!」

 

「私たちのような大人ならまだしも、君はまだ中学生なんだ。恋愛(このような)感情に人一倍敏感な時期だ。……だからこそ、ラタトスク(私たち)は、君を司令官に選んだ。確かに、()()()()を鑑みて推薦した人間も多いだろう。君が、一番適任だと、誰もが思ったから君を選んだんだ。それにだ…間違うことの何が悪いんだい?」

 

「え…」

 

「人間というのは、間違えずに生きることなんて出来ないさ。そんなことが出来るのは人間じゃない。…要はね、クヨクヨせずに前を向け、ってことさ。悩むのは若いうちの特権だが、いつまでも悩み続けるのは結局後悔しか産まない。…長ったらしく説教して悪かったね」

 

「…そう…ね。…ありがとう。令音。なんだか…頭が冴えたわ。ごめんなさい。色々と取り乱して。なんていうか…お兄ちゃんにあんな表情をさせれる神夏にどこか嫉妬してたのかも……。…うっし!これにてクヨクヨタイムは終わるわ!

 

それじゃあ……次は真那についてね。それじゃあ結果をお願い」

 

「ああ…いいだろう。

結果だが……マナは--------」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日 学校〜

 

「神夏さん」

 

学校にて、登校した後にいつものごとく速攻で眠りにつこうとすると、狂三に話しかけられた。あり?ついさっき五河君と話してなかった?

 

「……何?」

 

「実はですね---------」

 

 

 

 

 

 

 

「…ふーん、それで?」

「ええ、ですので…邪魔をなさらないよう、また、他の誰からも邪魔をされぬようにしてもらえませんでしょうか?」

「…まあ、善処するよ」

「ありがとうございますわ。では、また後でお会いしましょう」

 

話が終わると、狂三は自分の席にもどった。

 

「……まあ、いいか」

 

その後は気にすることなく、いつも通り眠りについた。

 

 

 

(ふむ……何を企んでいるかは知らぬが…まあ良い。狂三の奴には()()()()()。それを返すと思えば良い、か。受けた借りを返さぬのは、王の沽券にも関わるからな)

 

 

 

 

〜放課後 屋上〜

 

狂三は、屋上にて士道(待ち人)が来るのを、待っていた。

屋上のフェンスから、校庭をのぞいている姿は、とても絵になっている。可憐な、お嬢様のような雰囲気があった。

 

 

カツ…カツ……

 

 

と、不意に階段の方から足音が聞こえ、狂三は思わず振り返った。

が、そこにいたのは……

 

「…あらあら、…えーと、精霊化しているということは、ギルガメッシュさんかしら?」

 

「ああ。心配せずとも邪魔などせぬ。我は受けた借りを返すだけだ。邪魔者なぞアリ1匹たりとも通さずにしておいてやろう。邪魔者は、な」

 

「ええ、ありがたいですわ。そういえば神夏さんのほうは?」

 

「我の中で未だ眠っておる。霊力温存のためにできる限り活動をせぬ様に言ったからな。それはそうと、貴様の結界の効力はまさかとは思うが我にも危害が及ぶのではなかろうな?いくら貴様とて、我の時を奪うなぞ言語道断だ」

 

「ええ、ご心配なく。ちゃんと考えて作っておりますわ。そこの昇降口にいてくだされば、貴女には危害は及びませんわ」

 

そういうと、ギルガメッシュは黄金の波紋の中から黒い布を取り出し体に巻いたかと思うと、突如として姿が消えた。

 

「やはり結界には気づかれていましたわね。それにしても、相変わらず次々と驚くようなものを使いますわね。あの方は」

 

姿は消えたが、音だけは聞こえた。昇降口の上に降り立った音が聞こえたのを確認し、狂三は結界を発動させた。

 

 

 

 

結界を張り、十分ほど経った頃、屋上の扉が開いた。

今度こそ、士道がやってきた。

 

「----ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

狂三はフリルに飾られた霊装の裾をクッと摘み上げ、微かに足を縮めてみせた。

 

 

 

「さて……道化の覚悟とやらを、見せてもらおうか」

 

狂三が発動させた結界は見覚えがある。

確か、『(とき)()みの城』だったか。

奴の影を踏んでいる雑種どもから、文字通り()()()()()結界。

 

一度我に使おうとしたときは問答無用で首を刎ねたのだが、まあその件はよかろう。

 

と、道化と狂三が言い合っていると狂三の奴が左目に刻まれた黄金の時計を露わにした。

 

「これはわたくしの『時間』ですの。命----寿命と言い換えても構いませんわ。わたくしの天使は、神夏さんほどの破壊力は持っていませんけれど、それはそれは素晴らしい力を持っていますわ。そのかわり…ひどく代償が大きいのですわ。一度力を使うたびに、膨大な私の『時間』を喰らっていきますの。だから時折、こうしてら外から補充することにしておりますのよ」

 

道化はその事実に、驚きを隠せないでいた。それはそうだ。顔見知りの寿命が赤の他人に吸われているのを知ると誰でもそうなるだろう。

 

「精霊と人間の関係性なんて、所詮そんなものですのよ。みなさん、哀れで可愛い私の餌。それ以上でもそれ以下でもありませんわ。

ああ----ああ、でも、でも士道さん。あなただけは別ですわ。あなただけは特別ですわ」

 

「…おれ、が?」

 

「ええ、ええ。あなたと一つになるために、わたくしはこんなところまで来たのですもの」

 

「一つになる…?それってどういうことだよ」

 

「言葉通りの意味ですわ。あなたは殺したりしませんわ。それでは意味がありませんもの。わたくしが、()()()()()()()()()()()()()()のですわ」

 

食べる、というのは恐らく比喩でもなんでもないのだろう。文字通り、道化を食べ、その内にある霊力を取り込まんとしている。

 

 

「…()()()()の為によくもそこまでできるものだ。だが、それをできぬと割り切るのではなく、無理に限りなく近いとわかっていながら成し遂げようと奮闘する様様を見るのも、また一興、だな。我の力を使わずに成し遂げようとするならば更によかったが」

 

 

「俺が、目的だっていうなら、俺だけを狙えばいいじゃねえか!なんでこんな…!」

 

と、道化が叫ぶと狂三の奴は愉快そうに言葉を続けた。

 

「うふふ、そろそろ時間を補充しておかないといけませんでしたし。それに…まだ貴方は()()()()()()()のですわ。ギルガメッシュさんからの助言を聞けていなかったら、きっと今日食べていたでしょう。ああ…それとですね。もう一つ、目的があるんですのよ」

 

「目的…?」

 

「ええ、士道さん。----今朝方の、わたくしへの発言を、取り消して頂かないとなりませんもの」

 

「今朝の…?」

 

「ええ。----『わたくしを救う』、だなんて世迷言を、撤回してくださいまし。ねえ、士道さん。わたくしが憎いでしょう?救う、だなんて言葉をかける相手ではないことは明白でしょう?

 

だから、あの言葉を撤回してくださいまし。もう口にしないと約束してくださったなら、この結界を解いて差し上げますわよ」

 

その言葉を聞いた道化は、戦慄していた。

 

それはそうだ。友人達の命は、自らの言葉にかかっている様なものだ。

 

ただ。言葉を撤回するだけ。それだけで道化は数多の雑種の生命を救える。

 

 

選択の余地など、ないだろうな。

彼奴は、良くも悪くも他人に優しすぎる。

 

 

「……結界を、解いてくれ」

 

それを聞いた狂三は、まるで安堵したかの様に、息を吐き出した。

 

「ならば、言ってくださいまし。もう、わたくしを救うだなんて言わないと」

 

 

 

「それは…できない」

 

 

 

「…ほう」

「は…?」

 

その後に、発した言葉に狂三はポカンと瞼と口を開き、なんとも面白い面になっていた。

 

「…きいていませんでしたの?撤回しない限り、私は結界を解きませんわよ?」

 

「そ、それは解いてくれ!いますぐ!」

 

「なら…」

 

 

「でも、ダメだ!俺はその言葉を、狂三を救うという覚悟を、撤回なんてできない!ここで撤回しちまったら、俺は二度と、精霊を救うどころか、一緒に歩む資格すら無くしてしまう!」

 

 

 

「……道化の勝ちだな。さて、そろそろか?」

 

道化の……五河士道の、覚悟のこもった言葉に、狂三は怖気付いていた。

もう後の結果なぞ、見なくてもわかる。

 

()()()()では、もう無理だろうな。

 

「聞き分けのない方は嫌いですわ!」

 

ゲートから取り出しておいた酒を飲んでいると、狂三は焦ったかの様に、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

狂三は、何かを激しく言ってはいるが、負け犬の遠吠え。

焦りがモロにでていた。

 

「……なあ、狂三。おまえ、俺を食べるのが目的、って言ってたよな?」

 

「え、ええ。そうですわよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉を聞き、道化は小さく何かを喋ったかと思うと、その場を駆け出し、フェンスを荒く登りその頂上に足をかけた。

 

「……っ、なんのつもりですの?」

 

「空間震をとめろ。さもないと-----

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

「は…はぁ……っ⁉︎」

 

道化の行動が、相当斜め上だった為、狂三も我も思わず目を見開いてしまった。

 

「な、何を仰ってますの?気でも触れまして?」

 

「いいや、悪いが正気だ。けど、俺には朝の言葉を、『狂三を、精霊を救うという覚悟』を、引っ込められない。おまえを助けれないからな。

でも、お前に空間震を起こさせるわけにはいかない。だから----」

 

「だから()()()()()()⁉︎短絡的にもほどなありますわよ。追い詰められた逃亡犯ですの⁉︎」

 

 

「ふははははは!良い、良いぞ道化!貴様、やはり我を飽きさせぬ輩よなぁ!」

 

もう、ここまで来てコッソリと見るような真似が出来ようか。

こういう愉しむものは、直に見るに限る。

隠れ身の布を取ると、狂三も道化も、驚いたようにこちらを見た。

 

 

「道化----いや、五河士道よ。貴様が飛び降りようとしている高さは、ただの雑種なら即死だ。貴様の言うことも一理ある。狂三にとって貴様は死なれたくない存在だからな。だが……本当にあるのか?

貴様に、その覚悟が?あるならば、示して見せよ」

「そ。そうですわよ。それに、そんな脅しが効くとお思いですの?やれるものならやってご覧なさいな!」

 

「…ああ」

 

 

我と、狂三の問いかけの後に、道化は、一瞬の躊躇いもなく

 

 

フェンスの向こうに体を投げ出した。




予想以上に、長くなったが面白いかどうかはわからない。

さて、次あたりですかね、キルの無双は…

ああ、楽しみです。書くのが。



読んでくださりありがとうございます


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22話

もう、このペースでもいいんじゃないかと言うじぶんがいる(


最近、ソシャゲもなんだかモチベが出ませんし、ずーっとyoutubeみてますよ。もう。
不健康生活すぎてやばいどす

前置きはこの辺にして、本編どうぞ。


道化が飛び降りた時、何故か我は笑みを浮かべていた。

 

恐らくは、道化が見せた覚悟の示しが、予想の上を行ったからか。

 

「んなっ…⁉︎バカじゃないですの⁉︎」

 

そんな道化を見て狂三の奴は焦り()()()()()()に消えていった。

おそらくは、道化を助けに行ったのだろう。

 

数秒経った後に何かが壁から登ってくる気配を感じた。

 

それは道化を、いわゆる逆お姫様抱っことやら(神夏がそんなことを言っていたもの)をして登ってきた狂三だった。

屋上に辿り着いたかと思うと狂三は道化を乱雑に放った。

 

「あー……死ぬかと思った…」

 

「あっ……たり前ですわ……!」

 

道化が息を大きく吐きそう言うと狂三は興奮した様子で声を荒げていた。

 

「信じられませんわ!何を考えてますの⁉︎何を考えていますの⁉︎わたくしがいなければ本当に死んでいましたわよ⁉︎」

 

「あー…その、なんだ……ありがとう」

 

「命をなんだと思っていますの⁉︎」

 

「はっ、狂三よ。貴様がそれを言ってはお終いではないか。なんだ?貴様もとうとう道化の仲間入りか?」

 

「あーーもう!」

 

我がそう言うと狂三はハッとした顔をした後頭をワシワシとかいた。

 

「狂三、なんで俺を助けてくれたんだ?」

 

「…っ、それは、あなたに死なれると、わたくしの目的が達せなくなるから……」

 

「そうか…じゃあ、俺には人質の価値があるんだな?

 

…さあ、空間震を止めてもらおうか!ついでにこの結界も消してもらう!さもないと…舌を噛んで死ぬぞ!」

 

「そ、そんな脅し…」

 

「脅しだと思うか?」

 

「ぐっ……」

 

とまあ。なんとも面白いことを繰り広げながら狂三は悔しそうな顔を作った後に空間震の前兆を消し、結界を解除した。

 

「ふ、ふははははは!ど、道化よ、貴様我を笑い殺す気か!我は自殺するぞ、と言いながら脅迫する輩を初めて見たわ!ふははは!だが!良いぞ!実に、良い。はぁー…道化、いや、五河士道よ。貴様は狂三に何を望む。まだ何かあるだろう?」

 

「なっ…英雄王ギルガメッシュ!何を勝手に……」

 

「黙れ狂三。今は我が五河士道と話をしている。それに貴様はもう敗北をしているのだ。敗者は勝者に従うのが道理だろう?」

 

「っ…ですが!」

 

「黙れ、と言ったのだ。狂三。我に二度同じことを言わすな」

 

「ぐ……」

 

「さて、話が逸れたな。五河士道よ、貴様は狂三に何を望む。申してみよ」

 

狂三を黙らせ、我は道化に改めて聞く。

 

「…狂三、一度でいい。お前に一度だけ、やり直す機会を与えさせてくれないか」

 

「え……?」

 

狂三は驚いたように目を見開いたが、すぐ眉をひそめた。

 

「まだそれを言いますの?いい加減にしてくださいまし!ありがた迷惑ですわ!私は、殺すのも、殺されるのも、大ッ好きですの!あなたにとやかく言われる筋合いなんて何処にもありませんわ!」

 

狂三は拒絶を繰り返した。

何かに怯えているようではあったが、我も空気を読むくらいはする。

五河士道と狂三のやり取りに口を挟まぬように黙って見守る。

 

「狂三。おまえ…誰も殺さず、誰にも命を狙われずに生活したことってあるか?」

 

「そ、それは…」

 

「じゃあ分かんねえじゃねえか。殺し、殺される毎日の方が良いだなんて。もしかしたら、そんな穏やかな生活を、おまえも好きになるかもしれねえじゃないか!」

 

「でも…そんなこと!」

 

「できるんだよ!俺になら!」

 

もう気圧されているようではあの狂三にはこの状況からの逆転は不可能だろうな。さてと…

 

 

 

もうそろそろ来るか?

 

 

 

「お前のやってきた事は許される事じゃねえ!一生かけて償わなきゃならねえ!でも…っ!

お前がどんなに間違っていようが、狂三!

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

狂三は数歩後ずさり、何かを言おうと……

 

 

 

「駄ァ目ェ、ですわよ。そんな言葉に惑わされちゃあ」

 

どこからともなく、()()()()()()()()が響いた。

 

それと同時に先ほどいた狂三の胸から一本の赤い手が生えていた。

 

「わ、たく、し、は……」

「はいはい、わかりましたわ。ですから……もうお休みなさい」

 

狂三の後ろにいた輩は腕を引き抜き、狂三を地に伏せた。

 

そこにいたのは…

 

「あらあら、いかがいたしましたの、士道さん。顔色が優れないようですけれど」

 

()()()()()()()()()だった。

 

数年前に見せられていたから別段驚きはしないが五河士道は十分驚き、思考が追いついていない様子だ。

 

「く…るみ?は?な、なんで…」

 

「全く、この子にも困ったものですわね。あんなに狼狽えて。まだ、()()()()()()()()は若すぎたのかもしれませんわね」

 

「な…」

 

「ああ、でも、でも。士道さんのお言葉は素敵でしたわよ?」

 

「何、が……」

 

未だ思考が追いついていない五河士道に向かって狂三が笑う。

 

「さあさあ、もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう。ギルガメッシュさんには、まだ早い、と言われておりましたが、ここまで事を荒くするとは思いませんでしたので。早めに事を済ませなければなりませんの。ですので…

あなたの力、いただきますわよ、士道さん。ああ、ギルガメッシュさん。まさかとは思いますが、邪魔をしようなどと思っていませんわよね?」

 

「戯けが。なぜ我が邪魔をしなければならん。我はまだ早い、と忠告をしてやっただけだ。それを聞き入れるかどうかは貴様次第だ」

 

「ええ、ですので…その忠告は申し訳ありませんが聞かなかったことにさせていただきますわ」

 

そう言いながら狂三は五河士道の動きを止め、その頬を撫でた。

 

ギャンッ!

「ぎっ…」

 

その瞬間、空から攻撃を仕掛けられた。

それを砲門を一つ即座に展開し武具を出して防ぐが、狂三は伸ばしていた手が切断されていた。

 

「相変わらず…邪魔をすることだけは長けているな、雑種が」

 

「うっせーです、アロガン。本当なら貴様も狩るところですが…今回は『ナイトメア』に集中させてもらいますよ」

 

「ほぅ、相変わらず口だけはでかいな」

 

そこにはマナがいた。

狂三に集中すると言った割に我の首を掻く気満々だというに。

 

「しかしまあ、随分と派手な事をやってくれやがったようですね、ナイトメア」

 

「く、ひひ、ひひ、いつもながら、さすがですわね。わたくしの『神威霊装・三番(エロヒム)』をこうも簡単に斬り裂かれるだなんて」

 

「ふん、わりーですが。そんなもの、私の前では無意味です。大人しく…」

 

 

「でぇ、もぉ……()()()()だけは、()()()()()()()()()わけには参りませんわねぇ」

 

 

狂三は大仰に手を広げ、その場でくるりと旋回し、そう言う。

 

 

「さあ、さあ、さあ、おいでなさい……『刻々帝(ザフキエル)』!」

 

狂三がそう叫ぶと背後に巨大な時計----狂三の身の丈の倍はあろうかという巨大な文字盤----が現れ、中央にある針はそれぞれが古式の歩兵銃と短銃だった。

 

一度見たことのある天使だったのでさほど驚くことではないが。

 

刻々帝(ザフキエル)四の弾(ダレット)

 

と、狂三は時計盤のⅣと書かれた箇所から黒いものが出てきて、銃の中に装填されたかと思うと、()()()()()()()()()()

 

が、撃ち抜いた本人はピンピンしており、しかも先ほど切断されていた腕が綺麗に元どおりになっていった。

 

「ほう、それは初めて見る能力だな…。見た限りは、()()()()()()()、と言ったところか?」

 

「ええ、御名答ですわ。流石は観察眼に優れたお方ですわね」

 

「「なっ…⁉︎」」

 

「ああ、ああ。真那さん。今日ばかりは勝たせていただきますわよ。

 

さあさあ、はじめましょう。わたくしの天使を見せて差し上げますわ」

 

「ふん、上等です。またいつものように殺してやります」

 

「きひ、ひひ、ひひひひひひっ、まぁぁぁぁぁだ、わかりませんノォ?あなたに、わたくしを()()()()()()は、絶ェェェェェッ対にできませんわ」

 

 

「よかろう、その勝負、我が見届け人となろう。邪魔者なぞ誰一人として通さないでおいてやろう。思う存分、我を愉しませよ!ふははは、これは面白くなってきたぞ!」

 

 

 

「あらあら、これさえも貴女にとっては愉悦の一環ですか」

「ふん、貴様なんぞに見届けられたくないでやがります」

 

「よい、よい。威勢が良いのは嫌いではないぞ。蛮勇でなければ、な」

 

不敵に笑ってやると、二人ともよりやる気を、特にマナが出していた。

 

刻々帝(ザフキエル)一の弾(アレフ)

 

狂三がアレフとやらを使うと、狂三の姿が突如消えたかと思うと

マナは横に吹っ飛ばされた。

 

あれは、時間を速める、だったか。

 

その後は狂三が一方的、かと思ったがマナの方も意地を見せ、時を速めた狂三に対応していた。

 

刻々帝(ザフキエル)七の弾(ザイン)!」

 

「無駄だと、言ってるでしょう!」

 

マナは未知の攻撃である狂三の弾に、愚かにも直接ガードをした。

 

弾が当たった瞬間、マナはピタリと、()()()()()()()()()()()動かなくなった。

そして追い討ちをかけるように影の弾を何十発もマナに向けて撃ち出していく。

 

「アァ、ハァ」

 

狂三が降り立つと同時に、ザインとやらを解除したのだろう。

マナが身体中から血しぶきをあげて堕ちてきた。

 

「がはっ…」

 

そのままマナは地面に突っ伏した。

 

ふむ、これは勝負あったか?あっけないな。期待した我が馬鹿だったか。

 

「真那!」

「兄…様、危険です、離れやがってください…」

「馬鹿!何言ってやがる!」

 

五河士道はマナに駆け寄ろうとしていた。

 

 

バン!

 

「シドー!」

「士道」

 

 

全く、異物が多いな。少しくらい落ち着いて鑑賞させろというものだ。

 

扉の方を見ると、いつだったか、どこかで見た雑種2匹がいた。

 

「大丈夫か、シドー!」

「怪我は…」

 

「雑種風情が、我の愉しみを邪魔しにくるでないわ」

 

その二人には宝具を、体を縫うように撃ち込み、その場に、文字通り釘付けにしてやった。

 

「なっ…何をする!神夏ギル!」

「今すぐ離して」

 

「何、狂三とマナの勝負にカタがつけばすぐさま開放してやろう。だが…それまでは邪魔をせずにそこで見ていろ。貴様らは、この場に介入するには力不足にもほどがある。ましてや、我が見届けると言ったものに横やりを入れるなど、我が許さん」

 

「ふっ…ざけるな!」

 

「ああ、それを外せることができたら介入を認めてやろう。精々励めよ、雑種が。

 

それと狂三よ、いつまで()()()()()。貴様の力はその程度ではないだろう?手抜きの幼稚な戯れを我は見守るとは言っていないぞ」

 

我は狂三を見ながらそう言う。

 

「ええ、わかりましたわ。では…お望み通り、見せてあげますわ。

今日は、本気を出しますわよ。そうでしょう?()()()()()()

 

狂三の言い方に、疑問を抱いた奴が大半だが、その次の瞬間に、全員が同じ反応をした。

 

ありえない、そんなものを見るような目だ。

 

 

屋上を覆い尽くしていた影から一斉に白い手が現れたかと思うと、徐々にその根本を地面の上に出していった。

 

白い手たちは、全てが()()()()()

 

広い屋上を覆い尽くさんばかりに、何人も何人も、霊装を纏った狂三が姿を現した。

 

「さあ。終わりにいたしましょう」

「ッ、舐めんじゃ…ねーですっ!」

 

先に叫んだのはマナだった。

 

テリトリーとやらで無理やり傷ついた身体を持ち上げたのだろう。

空に舞い、装備を可変させ、幾条もの光線を放つ。

 

が、攻撃を逃れた狂三が一人、また一人とマナに襲い掛かった。

 

「ふん、我の時よりは()()()()()()()ではないか。まあ、それはこの際置いといてやろう」

 

そこからは時間にして五分にも満たない攻防だった。

 

「マナを殺さず無力化か。ま、及第点だな」

 

「ええ、ありがとうございますわ。それでは…わたくしは士道さんをいただきますが、よろしいですか?」

 

「我に聞かずとも、好きにやれば良いではないか。そこまで躊躇うと言うことは、我の忠告を素直に聞き入れたほうがいいか、迷っていると言うことではないのか?狂三よ」

 

「ぐっ…痛いところをつきますわね。ええ、そうですわよ。ギルガメッシュさん、実際のところ、今の士道さんではどうですの?()()()()()()()?」

 

「さあな、貴様の天使のことは貴様が一番よく知っているだろう。我は予測を立てているだけに過ぎん」

 

そう切り返してやると狂三は五河士道の前に立ち、しばらく悩んでいた。

 

「…まあ、足りなければ節約して、補充を繰り返せばいいだけですわ。それでは…士道さん、いただきますわね♪」

 

全員が、抵抗をしているが、誰一人として無力だった。

 

なんとも滑稽である。

 

 

 

「いい加減にしてもらうわよ、時崎狂三」

 

 

 

「…また乱入者か。道化は余程皆に好かれているのだろうなぁ」

 

「っ、何者ですの?」

 

上空を見上げると、空が赤くかった。

 

炎の塊が浮遊しており

 

その中に少女の姿があった。

 

「あれは…道化の妹か。しかしまぁ…彼奴もか。なるほどなぁ」

 

しかし、いつもと装いが違う。

和装とやらに似た格好をしており、袂は半ばから炎と同化しているようなみためだ。

 

どうみても、霊装だった。

 

「おにーちゃんを返してもらうわよ、時崎狂三」




とうとう英雄王さん、士道を認めたぞ!(デレたとは言っていないぞ)

しかし…また無双は描けなかった……

次は…次はきっと……


読んで下さりありがとうございます


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23話

だいぶ遅くなりましたね…。

さて、今回からまた原作からずれて行きます

それではどうぞ


()()()()()()()()()()()()、士道」

 

突如現れた紅い少女は道化に向かってそういう。

 

「っ…!あ…れは!」

 

白い髪の方の雑種がなにやらとてつもないほど驚いているが、まあどうでもよいか。

 

「焦がせ…『灼爛殲鬼(カマエル)』!」

 

その炎の精霊は叫ぶと周りに炎が生まれ、巨大な棍のような円柱形を形作っていった。

 

精霊が棍を手に取るとその側部から真っ赤な刃が出現した。

 

体に似合わない、巨大な戦斧と成った。

 

「さあ、私たちの戦争(デート)を始めましょう。時崎狂三」

 

「…どぉなたですの?邪魔しないでいただけませんこと?せっかくいいところでしたのに」

 

「悪いけれど、そういうわけにはいかないわね。あなたは少しやり過ぎたわ。---跪きなさい。お仕置きタイムよ」

 

「く、くひひひ、ひひひひひっ……面白い方ですわねぇ。お仕置き、ですの?あなたが、わたくしをォ?」

 

「ええ、分身体と天使を収めて大人しくなさい」

 

「ひひひ、ひひ。随分と自信があるようですが、過信は身を滅ぼしますわよォ?わたくしの『刻々帝(ザフキエル)』は…」

 

「御託はいいから早く来なさい、黒豚」

 

「上等ですわ、一瞬で喰らい尽くして……差し上げましょう!」

 

狂三がそう叫ぶと分身体が一斉に炎の精霊に襲いかかる……が、

 

「ふん、……『灼爛殲鬼(カマエル)』」

 

「なっ……」

 

炎の巨大な戦斧を振り回したかと思うと、周りに群がろうとしていた分身体は全てが斬り裂かれ、あるものは首が、あるものは腕が、あるものは上半身そのものが一斉に宙を舞った。

 

「ほぉ、なかなかやるではないか、小娘」

 

「あなたに褒められてもなにも嬉しくないわよ」

 

我の言葉を、不敬にも此奴はあしらってきた。

そして下を見てきたかと思うとまたもや斧を振り抜き、今度は道化を抑えていた分身体を焼き殺した。

 

「琴里!これは一体……」

 

「大人しくしてなさい、士道。可能なら隙をついてこの場から逃げて。今のあなたは…簡単に死んじゃうんだから。…ねえ!英雄王ギルガメッシュ!貴方、士道を認めていたわよね?」

 

「ん?ああ、そうさな。まあ、認めていないといえば嘘にはなるが……。だが小娘よ。いつまで我を見下ろすつもりだ?それ以上は許さんぞ?」

 

「はいはい。それより、士道を守っておいてもらえないかしら?」

 

気怠げに答えたかというと、小娘は屋上に降り立ち、そう言ってきた。

 

「口の利き方がなっていないな、小娘。五河士道、時崎狂三は敬語など使わんでよいと許したが、貴様には許しておらんぞ?」

 

「元よりあなたには敬語を使った覚えはないわね」

 

「貴様…」

「ギルガメッシュさん、手を出さないでくださいまし。先にわたくしがやるんですわ」

 

「勝手にせい。その後に下すべき処分をこの小娘に渡すまでのことだ」

 

「ええ…わかりましたわ。…『刻々帝(ザフキエル)』…一の弾(アレフ)!」

 

狂三はまた自分のこめかみを撃ち抜き、時間を速めた。

小娘に猛襲をしかけるが、その悉くを小娘は防いでいた。

 

態度だけがデカイだけではないらしいな。

 

「素晴らしいですわ、素晴らしいですわ!ギルガメッシュさんと矛を交えた時のような高鳴りですわ!高鳴りますわ高鳴りますわ!」

 

「ふん、うっとおしいわね。あなたもレディなら少しは落ち着きを持ったらどう?」

 

「御忠言痛み入りますわ。ではご要望にお応えして、淑やかに()らせていただくとしましょう。『刻々帝(ザフキエル)』-----七の弾(ザイン)!」

 

先程、マナを仕留めた弾だな。

にしても…我をこの小娘と同等と思われるとは、腹立たしいことこの上ない。

 

ザインが当たった小娘は、一切動かなくなった。

 

「ふふふっ、如何な力を持っていようと、止めてしまえば意味がありませんわよねぇ。それでは御機嫌よう」

 

狂三は小娘に、乱雑に、そして最後に眉間に銃を当て引き金を引く。

 

そして小娘が動き出したかと思うと全身の傷から血が吹き出る。

 

「琴里…!」

 

道化は悲鳴じみた声をあげた。

それはそうだろうな、身内がああなってしまっては。

 

だが……。

 

「ああ、ああ、終わってしまいましたわ。せっかく見えた強敵でしたのに。無情ですわ、無情ですわ」

 

「おい小娘、いつまで狸寝入りを決め込むつもりだ?さして面白くもないものを我に見せるでないわ」

「…まったく、派手にやってくれたわね。しっかし、狸寝入りなわけじゃないわよ。ちゃんとさっきまでは瀕死だったんだから」

 

「なっ…」

 

治癒能力、と言っていいだろう。炎が傷口を舐めたかと思えば、綺麗に傷が消えていた。

 

だが…煮ろうが焼こうが倒れぬ英雄は見飽きているため、特段驚くところもない。

 

しかし…『返してもらうわよ』、に道化のあの意味不明な力……か。なるほど?

 

色々と掴めてきたな。

 

さて…

 

「なんなんですの、なんなんですのあなたはァッ!」

 

「あら、もう打ち止めかしら?案外少なかったわね、もう少し本気を出してくれてもいいのよ?後士道、ごめんけど邪魔」

 

小娘は道化を後ろに蹴り飛ばしたかと思うと再び巻き起こった狂三の猛攻を捌いていた。

 

「その言葉、後悔させてあげますわ!『刻々帝(ザアアアアアァフキエエエエエエル)……!!』」

 

「っ!させるかっての…!」

 

狂三の様子に、不穏なものを感じたのか、小娘は戦斧を振りかぶった。

 

が、それはすぐ崩れ去った。

 

「く…こ、これは……」

 

 

「…はぁ、狂三と刃を交えるほどの奴かと思えば……その程度か、小娘。興が冷めたわ」

 

 

小娘は、突如頭を抑え、その場に跪いた。

その様子を見て、我の中は先程まで燻っていた怒り以上に、呆れが勝った。

「琴里っ!」

 

突如身内を襲った窮地を道化が助けていた。相変わらず自分のみを顧みず助けるところは道化らしさ、というところか。

 

「……」

「琴…里?」

「琴里?どうしたのだ!琴里!」

 

小娘の様子がおかしいことにようやく気付いた道化に、我が釘付けにしていた2匹の雑種のうち片方が叫ぶ。

 

小娘は戦斧を高く揚げ、その手を離す。

 

灼爛殲鬼(カマエル)----【(メギド)】!」

 

その声に呼応するように、柄の部分が棍の本体の部分に収束され、右手に装着された。

 

まるで大砲のようだな。

 

「灰燼と化せ…『灼爛殲鬼(カマエル)』!」

()()()()()()!!」

 

そこからは一瞬だった。

小娘が圧倒的な威力の炎の砲撃を狂三に撃ち込み、狂三は大量の分身体を盾として出した。

 

煙幕により、様子が見えないが、そんなものは見ずともわかる。

 

煙が晴れると、そこには分身体を悉く消され、本人も左腕を失い、天使である『刻々帝(ザフキエル)』の文字盤の四半を貫かれていた。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの部分が綺麗に抉られていた。

 

どう見ても戦闘可能ではないだろうな。さて…

 

「…決着だな」

 

「いえ、まだよ。銃を取りなさい」

 

小娘は低い声でそう言い、大砲を狂三に向ける。

 

「我が決着と言ったのだ、それ以上の戦闘は我が許さん」

 

「何を言っているのかしら。まだ闘争は終わってないわ。戦争は終わっていないわ。さあ、もっと殺し合いましょう、狂三。あなたの望んだ戦いよ。あなたの望んだ争いよ。もう銃口を向けられないと言うのなら……死になさい」

 

「それ以上やると狂三は死ぬぞ?貴様の掲げた理想、組織の目的は精霊を殺さずに解決、だろう?」

 

が、その言葉も無意味らしい。小娘は冷たく歪んだ双眸に怪しく光る紅玉の眼と、愉悦か恍惚にも近い表情をしていた。

 

 

 

明らかに、力に飲まれている。

 

 

 

道化は、きづくと狂三の方へ駆け出していた。

 

「狂三!」

「士-----道、さん……?」

 

道化は、狂三の前に立ちはだかった。

 

が、それと同時に炎の砲撃を撃ち込まれた。

 

 

「…今回だけ特別だ、五河士道、時崎狂三」

 

 

宝具を全て回収し、盾を何重にも五河士道と狂三の前に放出してやる。

 

それにより、砲撃を防いでやる。

 

「あら、次のお相手はあなたかしら?」

 

「え、な、なんで……」

「…ギルガメッシュさん、余計なお世話、ですわよ……」

 

「黙っていろ、狂三。その体で何ができる?さて…炎の精霊よ。我が特別に手を下してやろう」

「あら、それは怖いわね」

 

「英雄王様!どうか琴里を…」

 

「心配するな、殺しはせん。さて…この妙薬を久々に使ってみるか」

 

小娘が大砲を向けてくるが、そんなことは知らん。

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の砲門を十数個展開し、そのうちの一つからある妙薬をとり、飲む。

 

「あら、余裕ね。ナメてるのかしら?慢心にもほどがあるわよ?」

 

「ハッ、慢心せずして何が王か!さて、覚悟をしておけよ、小娘。今からの我は…あまり手加減できんぞ?」

 

「フン、遠慮なんていらないわよ。本気でかかってきなさいよ、英雄王!」

 

飲み終わると同時に、砲撃を撃ち込んできた。

 

当たるより前に盾を出し、それに着弾する。

ドガァァァァン!と派手に音と煙幕をぶちまける。

 

 

「フン、他愛ないわね」

 

「……はっ?」

「……え?」

「な…に?」

「ど、どうなっているのだ?」

 

 

「……フハハハハハ!あの程度で(オレ)に傷をつけれるとでも思ったか?思い上がるのもほどほどにしろよ、雑種風情が!力に飲み込まれるような軟弱な貴様に、我を傷つけることなどできるはずがなかろうが」

 

 

そこには、男がいた。さっきまで、神夏ギルがいた場所に、だ。

 

黄金の髪と、紅い目。下半身を黄金の鎧が、上半身は黒いシャツを着ていた。

服装は、神夏ギルと、とても酷似していた。

 

だけど、それだけではなかった。

口調も、態度も、何もかもが神夏ギルと酷似していた。

違うところといえば一人称が(われ)から(オレ)になったくらいだろうか。

 

 

「…いったいどんなカラクリよ」

 

「なに、単なる()()()()()()と言う妙薬を飲んだだけだ。あのまままの我ではおそらく手を抜くからな。貴様に罰を与えるために、わざわざこうして()()()()()のだぞ?

さて、そんなことはどうでも良い。

 

…さあ、どこからでもかかってくるが良い。

ああ、先に言っておくが本気は出さん。貴様のような力に飲まれるような雑種に本気を出すなど、王の沽券に関わるからな。精々励めよ雑種」

 

言い終わると小娘は大砲をまた戦斧に変え、こちらに突撃してきた。

 

「フハハハハ!」

 

「…ふん!」

 

斧を振るって来ようとしたので、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の砲門を十数個展開していたものを全て小娘に向け、宝具を連射する。

 

「どうした、まだまだこんなものではないぞ?」

 

「クッ…!」

 

「そら、足掻くが良い」

 

空に逃げたので、今度は前からだけでなく前後左右、上下から砲門を展開し、宝具を打ち込む。

 

「こん…のぉ!どこが手加減よどこが!」

 

「ん?この程度で根を上げるのか?そして喋ってる暇があるのか?」

 

間髪入れず再度砲門を開き宝具を連射する。

 

それを永遠と繰り返してやる。それを幾度となく捌かれるが…正直言ってこの街に来て最初に戦った、あの巨大な剣を振るう精霊の方が戦闘能力は上だな。

 

「ぐはっ…」

 

「終わりだな」

 

一撃、たった一撃入ったが、そこからはもう簡単だ。

 

1手遅れたら2手遅れ、3手遅れ…と言った風になり、小娘はだんだんと血に濡れた。

 

まずは斧を持っていた右腕に一撃、そこから持ち直そうとしているところを左足に二発、全ての宝具を抜いたところで今度は左肩に。

 

「ハァッ…ハァッ……」

 

「つまらん、前の…なんと言ったか、巨大な剣を扱う精霊の方がよほど愉しめたぞ。もう終わりだ、小娘」

 

炎が小娘の体にできた傷を舐め、治癒しているが、それがなんだ。

ならば、治癒能力が追いつかないだけ攻撃を仕掛ければいいだけのことだ。

 

「クッ…!」

「そら、逃げねば死ぬぞ?」

 

傷が治りかけたところでまた宝具を連射する。

 

「っ⁉︎」

 

「終わりだ」

 

小娘に一撃重く速いものをくれてやると、棍で防がれたが勢いを殺せずにそのまま屋上まで堕ちてきた。

そこに、追い討ちをかけるように両腕に、両足に、宝具を串刺しにして固定する。

 

「いっ…」

 

「さて、言い残すことはあるか?最後の慈悲だ。聞いてやろう」

 

屋上に降り立ち、小娘の元へ足を進める。

 

「先程まで狂三に対して振るっていた力はどうした?その程度すら脱け出せんのか?」

 

「な…メルなぁ!」

 

そう威勢良く吠えてくるが、一切抜け出せていない。

 

「……!英雄王様、なにを…⁉︎」

 

「不敬者の裁きだ。そこで見届けておれ、道化」

 

一本の剣を取り出し、小娘の首元に当てると道化から何かを叫ばれる。

 

「待ってくれ!殺さないって……止めてくれるだけじゃ……!」

 

「…ああ、そういえばそんなことを我は言ったな。では…四肢のどれかを斬り落とす、くらいにしようか」

 

「いや…でも!」

 

「騒がしい。黙っていろ道化。さて…そうさな、斧を振るっていたその煩わしい右腕にするか」

 

首から右肩に狙いを変えると、小娘は恐怖の顔を浮かべていた。

 

「ご、ごめんなさ……」

 

「今更懺悔の言葉などいらん。ただ罪には罰を与えるだけだ。ま、四肢を切り落としたところで貴様の治癒能力ならば運が良ければ引っ付くかもな?」

 

我は笑いながらそういうと今度は涙を浮かべ始めた。

 

「では、次やるときがあるのなら、せいぜい腕を上げておけよ、雑種」

 

剣を振り上げ、そのまま右肩に狙いをつけ振り下ろ

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

振り下ろしたと同時に大声がした。それを無視して振り抜くとガキン!という音と共に弾かれた。

 

「…ほぉ、力を取り戻したか。だが、娘よ。我の決定に逆らうというのか?」

 

そこには、あの巨大な剣を振るう精霊が、ほぼ完全な姿……ではなかったが、前と比べて半分ほど?か。それほど力を取り戻していた。

 

「当たり前だ!神夏ギル!なんの権利があって貴様は琴里の腕を切り落とそうとする!」

 

「我がそう決めたからだ」

 

「なっ…ふざけるな!」

 

「ふざけてなどおらん。さて…我の決定に逆らう不埒者はどうすべきか…」

 

こやつらは殺すより生かして飼い殺す方が良いが…さてはて、どうしたものか。

 

「と、十香!やめてくれ!英雄王様も!おやめください!」

 

「黙れ道化。…そうさな、余興と行こうではないか。貴様らに不敬への免罪のチャンスをやろう。貴様らのどちらかが我に一撃でも入れることができたなら、貴様らの罪は不問とする。さて…どうする?」

 

パチンと指を鳴らし炎の小娘に刺していた宝具を全て回収する。

するとゆっくりと、立ち上がってきた。

 

「…琴里、やれるか?」

「あったりまえじゃない。…悪いわね、十香。力を…貸してちょうだい」

「当たり前だ!」

 

どちらもやる気は十分、と言ったところか。

 

「よい、これで少しは面白くなるというものだ」

『あの…英雄王様、お願いです、どちらも殺さないよう…。あと……霊力もあまり残っていません。先程と同じ戦闘をするならば……持ってあと10分もないかと』

「わかっておる。あと10分もあれば十分だ」

 




次回、琴里&十香vs英雄王(男)!

勝手に性転換させたが、あのコレクターのことですもん。絶対ありますよ(

さて、ようやっと描きたかった英雄王無双を……書ける

拙いかもしれませんがご了承を

読んでくださりありがとうございます


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24話

戦闘描写むずすぎません?

頑張って色んな人のギル登場作品とか、型月作品読んだりして頑張りましたが、拙いかもしれません
そこはご了承を


後やっぱり書いてて思うのは……この作品の英雄王様、かなり優しくなってる…


あと先に言っておきます。
今回の戦闘で代表的な攻撃手段である天の鎖が出てきますが、効果が微妙に変わっております。その辺を嫌悪される方はブラウザバック推奨です。もしくは戦闘描写すっ飛ばすか。

まあ、物語の進行上仕方ないと言うか、それしか思いつかなかったんです。


それではどうぞ。




「ふむ…やる気は十分、と言ったところか。良いぞ、せいぜい我を愉しませよ。期待外れだった場合は容赦せんがな」

 

「琴里…。体は大丈夫か?」

「ええ、やっと治ったわ。十香は…霊力は完全には戻ってないけれど…大丈夫?」

「ああ、奴の技は前に一度体験している。少なくとも前のようにはならない…と思う」

 

「話し合いは終わりか?では、始めるぞ」

 

神夏ギル…もとい、ギルガメッシュは右腕を掲げた。

すると王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の砲門が数十個開く。

砲門からは、宝具と呼ばれる古今東西の()()()()()が顔を覗かせていた。

 

それをみた十香は剣---塵殺公(サンダルフォン)を構え、琴里は戦斧---灼爛殲鬼(カマエル)を構えた。

 

「琴里、私があの武具から琴里を守る。琴里は隙を見つけて攻撃してくれ」

「ええ…わかったわ」

 

「では…開戦といこうか」

 

ギルガメッシュが右腕を振り下ろすと、宝具が連射された。が、その全てが琴里と十香を狙っているわけではなく、雨のように降らせているのに近い。

 

それがわかったからこそ、十香は宝具の全てをなぎ払おうとせず必要最低限の分のみをなぎ払い続けた。が、全てを防ぎ切れているわけではなく琴里も対処していた。

 

「ふむ…中々良い連携だ。では、これならばどうだ?」

 

「それも前に一度体験したぞ、神夏ギル!塵殺公(サンダルフォン)!」

「薙ぎ払え!灼爛殲鬼(カマエル)!」

 

周囲に展開されたが、琴里と十香は一斉に武器を振り回して対処した。

 

「良い、良いな。セイバー程ではないが、良い腕だ」

 

ギルガメッシュは、記憶にあった殺し合いの中出会った騎士王と名乗る人間を思い出し、笑っていた。しかし、その間も宝具の連射は1秒たりとも緩んではいなかった。

 

十香と琴里に、縦横無尽に宝具の雨が降り注いで行く。

 

「むぅ…!このっ!」

「埒があかないわね!十香、強引に突破するわ!サポートお願い!」

「わかった!」

 

「…」

 

未だ闘志が尽きていない2人を見て、ギルガメッシュは不敵に笑い、宝具の連射速度を上げた。

 

2人は少しずつ、少しずつ距離を詰めていった。

 

「うがぁ!」

 

十香は、力任せに剣を振るい、衝撃波を飛ばした。

衝撃波で飛んでくる宝具を一直線のみなぎ払った。

 

「ナイス!」

 

それによりできた僅かな隙と雨の隙間を、多少の怪我と引き換えに琴里は突き進んだ。

 

そして灼爛殲鬼(カマエル)を勢いよく振りかぶって、ギルガメッシュに向かって振り下ろした。

 

「っ…次から次へと……なんでもありすぎじゃない…!」

 

「そう睨むな、中々良い余興であった。だが…雑種は雑種らしく、弁えるべきだったな」

 

灼爛殲鬼(カマエル)は、ギルガメッシュにあたる直前で止まった。

いや、止められた。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)より出されていた鎖によって。

 

琴里は身体中に鎖が巻きついていて、灼爛殲鬼(カマエル)も同様に絡みついていた。

 

「琴里!」「琴里!大丈夫…」

 

「さて。次は貴様だな」

 

「!」

 

十香の周りに砲門が開いたかと思うと、琴里と同じように鎖が発射された。

 

「このっ!」

「そら、足掻くが良い」

 

鎖がまるで生きているかのように縦横無尽に動か周り、十香は塵殺公(サンダルフォン)で弾くがそれでも鎖は十香を追う。

 

「っ⁉︎ぐっ…!」

 

「終わりだ」

 

鎖が追ってきている中、さらに宝具を撃ち込まれ、態勢が崩れたところを鎖によって動きを封じられた。

 

「こんの…」

「なんなのだこの鎖…」

 

「『天の鎖』というものでな、本来は神の力を持つ者の動きのみを封じるものだが…この世界に顕現されたせいか少し特性が変わっていてな。神の力だけでなく、霊力が高ければ高いほどこの鎖の拘束力は増す。つまりは…精霊の力が高ければ高いほど貴様らの動きを封じる力が強まるわけだ(パチン)」

 

「「⁉︎」」

 

そしてギルガメッシュが指をパチンと鳴らすと上空で拘束されていた2人は勢いよく振り上げられたかと思うと屋上に向かって叩きつけられた。そして床に縫い付けられるようにして拘束された。、

 

「しかも面白いことに、拘束した輩の精霊としての力を封じる能力もある。なかなかに面白いが…我が友を改変したようなものだ。到底気分は悪いが…今はどうでもいい。ま、力づくで拘束を解く輩もいるがな。さて…そろそろ時間切れだな」

 

「え、英雄王様!」

 

時間切れ、という言葉を聞いて士道は焦ったのか、囲まれていた盾の中から出てきた。

 

「なんだ道化。わざわざ飛び火せぬよう盾で囲っておいてやったというに、わざわざ出てくるとは死にたいということか?」

 

「い、いえ!違います!十香と琴里を…」

 

「雑種どもがどうした?」

 

「そ、その…」

 

士道は言葉を選びながら十香と琴里を許してもらえるよう言おうとしていたが、言葉が見つからないのか口籠っていた。

 

「なんだ、何もないならその場で見ておれ、雑種どもの処刑をな」

 

ギルガメッシュはそう言い砲門を琴里と十香の首元に出す。

 

「ま、待ってくれ!お願いします!2人を…」

 

「ぐ…」「このっ…なんで、天使がつかえないのよ…!」

 

「では、さらばだ」

 

士道は十香達の所へ走り出していたが、もう遅かった。

 

 

砲門からのぞいていた宝具は、寸分たがわず2人の首に向かって、発射された。

 

 

 

 

 

 

 

「十香っ!琴里っ!」

 

神夏(?)が黄金の波紋から武器を琴里と十香の首に目掛けて発射した。凄まじい音と共に粉塵が捲き上る。

 

「英雄王様!なんで…!」

 

「む…もう限界か。このまま男のままいるのもまた一興…ええい、わかっておる。ジョークだ。AUOジョークだ。さて…道化よ。ひとまずは終わりだ。次会うときには()()()()()は躾けておけよ」

 

不敵に笑いながら男になっていた神夏は黄金の波紋の中から薬のようなものを取り出して飲んでいた。そして俺にそう言ってきた…って、え?

 

「何をとぼけた顔をしている。貴様らの願い通り、殺さず無力化したのだぞ。ふむ…砂煙が邪魔だな」

 

そう言いながら今度は突風を神夏は起こした。すると先ほどまで十香達が縛り付けられていた場所がはっきりと見えた。

 

そこには、本当に首の皮一枚切れたか切れてないか、の位置に武器が突き刺さっていた2人がいた。

 

「十香!琴里!」

 

「ほ、本当に死ぬかと思ったじゃない!」

「ぐっ…ここまで弄ばれていたのか…」

 

「元より殺すつもりなどないわ戯けが。王として交わした約束を破るわけがなかろうが。ま、少し灸を据えるつもりはあったがな」

 

神夏が琴里の方を笑いながら見ると、一瞬だがビクッと体を震わせたように見えた。

 

「…む、狂三のやつはもう消えたか。相変わらず逃げ足だけは早いものだ」

 

「え…?あ!」

 

盾が消えて、さっきまで狂三がいた場所を見るとそこには何もなかった。

逃げた…のだろう。

 

「む…女に戻るまでは姿を維持できんか。まあ仕方あるまい。少しばかり霊力を使いすぎたな。さてと…二度と我を見下すなどしないことだ。雑種。精々次までにその力の制御を完璧にしておけ。そうすれば…多少は認めてやらんこともないぞ?

……ああ、言い忘れていたな。道化からの頼み事を聞き届けた後に、そこの小娘2人を殺さず無力化、なんぞ面倒なことを我にしつこく頼んだのは、神夏のやつだ」

 

「…!」

 

そう神夏は笑いながら、神夏のすがたは、変わっていった。

 

 

いつもの、あの神夏の姿に。

 

 

 

「……ふぅ…疲れた…」

 

「神夏!大丈夫か⁉︎」

 

「あ、ちょ待ち五河君。近づかないで」

 

「え?」

 

いつもの神夏に戻ったかと思うと、その場に膝をついて四つん這いになったから心配になって駆けつけようとしたら、片手で制された。

 

「な、なあ…顔赤いぞ?大丈夫…」

 

「大丈夫大丈夫、ちょっとね、ドキドキが止まらないだけだから。ヤッベ鼻血出そう…」

 

「か、神夏…?」

 

「ちょっと私のことは放っておいて、今私の中で反芻してるから」

 

「は?」

 

「い、いいから、私のことは、放っておいて……グフッ……」

 

「え?ちょ!鼻血出て……」

 

『待ちたまえ、シン』

『士道くん、ストップです!』

 

「え?」

 

急に、インカムから令音さんと中津川さんから止められた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

『シン、今の彼女には触れないほうがいい。シンに話しかけられた時だけ、異常な怒りを検出した。それについては中津川がわかるらしいが……』

『はい、えー士道くん。今彼女は、とてつもない幸福を感じています。それはもう、誰にも邪魔されたくないほどに」

 

「え?それはどういう……」

 

『そうですね。例えるならば……とても大好きなアーティストや、俳優、女優がいたとします。そしてその人と奇跡的に出会えました。それはもうこの上ない幸福ですよね?』

 

「え、ええ。けど、それとこれがどう……」

 

『まあ聞いてください。そしてそんな幸福な空間に、無作法にも土足で入り込んできた人がいたとしたら、不快でしかありませんよね?つまりは、そういうことです』

 

「?」

 

『うーん、分かりづらいですかね?ならば…士道くんは料理が好きですよね?』

 

「え、ええ」

 

『その料理をしている最中に、しかも新作を作ってるところを想像してください。そして新作が、ようやく、ようやく出来そうなところで邪魔されてみてください。どう思いますか?』

 

「最悪ですね」

 

『はい、つまりはそういうことです。シチュエーションは先ほどの例とは違えど、今絶賛その状態なんです。なのでそっとしておいてあげてください。おそらく、気づいたら冷静になっているでしょうから』

 

「え?は、はい。わかりました?」

 

中津川さんの例えがわかりやすかったのもあるが、それがどう繋がるのか理解する前に、なんと言うか気迫がすごくて言われるまま納得してしまった。

 

『しかし…このまま居座るのも得策じゃない。すまないが鳶一折紙を除く全員をフラクシナスで回収させてもらう。言い方は悪いが、鳶一折紙はちょうどよく気絶しているしね。ああ、彼女は心配しなくても大丈夫だ。ASTが来て回収してくれるだろうからね。ギルガメッシュに付けられた傷もすぐ治るさ。では…回収するぞ』

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ…霊力を限界まで使いすぎたな…。もう少し節約していかないと……」

『この程度で弱音を吐くとはな。もう少しばかり努力をせい』

「はっ。でも…霊力を上げるための努力…って何すればいいんだろ」

『さあな。そこは貴様自身で考えろ。ふぁあ…我は暫く寝る。天の鎖などは聞かれるだろうが其方で答えておけ』

「承知しました」

 

フラクシナスの医療室で横になりながらぶつくさと言うが、英雄王さまに一喝された。

うーむ…

 

 

いや、それよりかは今日男の方の英雄王様と一つになれたんだよ⁉︎

何この幸福!代わりに自分自身も男になっちゃったけどそこは結果オーライ!

 

もうこれだけで数十年寿命伸びた気がする。

 

 

 

「もう煩いわね。少しくらい静かにできないの?」

 

「無理」

 

「即答すんじゃないわよ!」

 

ベットの中で悶えてたら隣から五河妹さんからそう言われたが即答してやった。

 

何人たりとも今の私を止めることはできない。

 

「それにしても神夏ギル。この鎖って何よ。精霊の力を押さえ込んでくれてるから助かってるけど…」

 

「んー?」

 

そう言いながら五河妹さんは自身の手首に巻きつかれている金色の鎖をこっちに見せてきた。

 

「英雄王様が仰ってたでしょ?五河妹さん。『天の鎖』。本来は対象の動きを封じるもの。しかも神の力が高ければ高いほど鎖の力は増して、拘束力を強くする。この鎖に捕らわれた輩は、例え神だろうと逃すことはない。いや、むしろ絞め殺せるだけの力になる。けど…性質が変わっているらしくてね、神の力だけでなく、精霊としての力が高くても、この鎖は拘束力を増す。しかも精霊の力を、完全じゃないとはいえ抑え込む、いうのも備わってるから、この鎖に拘束されるということは無防備な人間に近くなる。精霊の絶対的な力の象徴である天使ですら例外じゃない。それは身を以て体験したでしょ?…まあ、性質が変わった事(そのこと)を英雄王様は酷く怒ってたけどね」

 

いやぁ…初めて精霊に対して使った時はまだ私の謎なりきりだと思ってたけど、地球ぶっ壊すんじゃないかってくらい怒ってたからね…。

 

「ふーん…まあ、私としてはありがたい限りだわ。これから薬漬けと自分の中の破壊衝動との格闘の日々になると覚悟してたから。これのおかげで、幾分かマシだわ」

 

「英雄王様曰く、『それは我なりの慈悲だ。精霊の力を宿す器を見誤った()の責任でもあるからな。その責任の全てを貴様が負うのは酷であろう。だが…次そのような見苦しい様で我と対峙した時は容赦せん』…だってさ」

 

そう言うと五河妹さんは思い出しちゃったのかゾクッと体を震わせた。

 

相当トラウマになったみたい。

 

「ああ、言っておくけどこの後にやるべき事を成すまで、だよ。けど、それも期限は一週間後まで。それまでにできなかったらその枷は外す。その後君がどうなろうが私は知ったことじゃない。ふぁ…それじゃ寝るから。おやすみ〜」

 

そう言いながらベットに潜る。あー、フカフカ。気持ちイィ…

 

「…ありがとう。神夏」

 

「さあねー。私は何もしてない。してくれたのは英雄王様。そこ間違えないで。だから、私にお礼を言うのはお門違い」

 

「ええ、わかってるわ。でも…ありがとう。神夏ギル」

 

珍しく、五河妹さんの弱々しい声?を聞いた気がする。

てか、お礼されるようなこと、私はしてないってーの。

 

でもまあ、どうでもいいや。とりあえず寝よ。

 

 

 

 

しかし、令音だけはこの時神夏ギルの顔が赤くなっていて、照れていると言うのをしっかりと確認していた。




さてさて、四巻目に突入

ですが…話の関係上ほぼ吹っ飛ばすかも。

そしてあらかじめ言っておきましたがもう一度。天の鎖の効果の変化などに嫌悪感抱く方はブラウザバック推奨です。

それでもいいと言う方は楽しんでくれたら幸いです


読んでくださりありがとうございます


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25話 (新年特別版)

サブタイにもある通り、この回は新年バージョンです。
特にこれといったものはないですが。
話のつながりはほとんどありません

それではどうぞ


「ん…体の異常も見られない。すこぶる健康だ…。これにて検査は終了だ。神夏ギル。だが、しばらくは安静にしていたまえ。限界ギリギリまで霊力を酷使したのだから」

「は、はい」

 

フラクシナスの中で令音さん?かな。その人による検査が行われ、割とスムーズに終わった。

 

この人…私より寝てないのか、というくらい目の下のクマがすごい。

 

どれだけ徹夜したらこんなクマができるんだろう?

 

「…神夏ギル、時に一つ聞いてみたいんだが……」

 

「?」

 

「君は…」

 

令音さんにそう言われるも、しばらく黙った。

一体なんだろう?

 

「…いや、やめておこう。すまないね」

 

「はあ…」

 

なんなんだろう、一体。でもなんと言うか、この人相手だとなんか調子狂うな。

 

「ああ、忘れていた。神夏ギル、君の天の鎖とやらはいつまで琴里につけてくれるんだい?」

 

「んー、そうですねえ、英雄王様のご機嫌次第なので正確には言えないですけど…長く見積もっても10日程かと」

 

「なるほど…」

 

「しかし、あれは薬のようなものです。慣れればいくら精霊の力を抑えるとはいえ、肉体能力までを抑えるわけではないのであの位の天の鎖なら破壊できる可能性すらあります。それに破壊衝動を完全に消すわけでもないので。…この先、五河君の妹さんがどうなろうが私には知ったことではないです。たとえ破壊衝動に呑まれたとしても、私は関わらない」

 

「ふむ…わかった。ありがとう」

 

「いえいえ」

『……』

 

あれ?ていうか、なんでこんなに話してるんだろう。

 

…まあいいか。

 

「それじゃあ、マンションで降ろしてくれませんか?」

「ああ、わかった」

 

そう言われると同時に不思議な感覚に陥った。

と、思うといつの間にかマンションにいた。

 

『…神夏よ』

「はい、なんでございましょうか」

 

『3日後の夜は予定を空けておけ。我が体を借りるわけではないが…予定が必ず入るからな』

 

「はっ、承知致しました」

 

なんだろうか。まあ、詮索する必要はない…はず。

うん、てことで…寝よう。

今日1日で色々とありすぎた。

 

 

 

 

 

 

 

〜3日後〜

 

『さあ、行くのだ神夏よ』

「我が王よ…一体どこへ…」

『新年ともなれば決まっておろうが!』

 

へ?新年?あれ、今日ってまだ夏頃じゃ……

 

『その辺は気にしてはならん』

「は、はぁ…」

 

一体なにが…?

 

 

「お、神夏」

「神夏さん…!」

「あらあら、神夏さんではありませんこと」

「…っ、神夏ギル…!」

「…何がどうなってるの…」

 

「何って、初詣行くんだろ?一緒に行こうぜ」

 

「待って状況整理させて…」

 

え?え?まってね。

五河君の家から十香と四糸乃が出てくるのはわかる。

ただなんで狂三までいるの?

 

「おにーちゃん!早く…あ!神夏ちゃんもいるんだ!」

 

おっとお?いつも知ってるような五河君妹じゃないのよ?

ちゃん付けは流石に予想外。

ていうか、貴女精霊の力のどうのこうのはどうしたのよ。

手首に巻いていた天の鎖も無くなってるし。

 

「神夏?」

「何?私がおかしいの?おかしいな、3日前は少なくとも冬とかいう季節じゃなかったはずなんだけど…」

 

(一同)「気にしたら負けです」

 

「あー、はい、わかりました…」

 

もういいや、どうにでもなれ。

 

「神夏さん…その着物、とてもかっこよくて綺麗です…!」

 

「へ?え?う、うん…ありがと」

 

そう言えば、深夜(というか11時頃)に起こされて、寝ぼけたまま目の前にあった着物を着たんだっけ。

全体的に金色を基調として所々に赤い紋様が入っている。

 

「うん、そういう四糸乃もすごい似合ってるよ。可愛い」

「っ…ありがとう…ござい…ます」

 

あら、顔赤くなってるよ。風邪引いちゃダメだよ。

 

「神夏さぁん、わたくしのはどうでございましょうか?」

「あーうん、似合ってるよー」

「適当すぎませんこと⁉︎」

 

蕩けそうな声で言ってきた狂三には、必殺棒読み褒めで返した。

まともに会話してたら私が疲れるだけだしね。

 

「行くなら早く行こうよ。寒いし早く終わらせてお家帰りたい」

「わかったわかった。それじゃみんな、行こう」

「「「「はーい」」」」

「なんでこんな事に…」

 

 

 

 

みんなで歩いて、いちばん近くにある神社へ来た。

 

新年(と言うか、まだ迎えてないはずなんだけど)だからか、人がそこそこいる。

 

「シドー!これはなんだ!」

「それは厄除けをするものだよ。線香に火をつけてその中に入れて、煙を浴びる事で厄を払う…だったかな?」

「士道さん…これって…」

「ああ、おみくじだな。今年の運勢を占うものだよ。せっかくだからやってみるか。みんなもどうだ?」

 

四糸乃に聞かれて、そこからの流れでみんなでおみくじをする事になった。

 

「なになに…中吉?だ!シドー、これはどうだ?」

「大吉…です」

「ぐぬぬ…小吉ですわ…」

「中吉だぞー!」

「おお、四糸乃はすごいな。大吉はいちばんいい奴だぞ。中吉はその一個下だな。さて俺は…」

 

…私もう帰っていいかな?

 

「げ…凶⁉︎」

 

おお、五河君、ドンマイ。でもね、私もっと下だから安心して。

 

思わずおみくじを握りつぶしてしまう。

 

「か、神夏?」

 

「あ、え?何?どうしたの五河君」

 

「い、いや。やたら怨念を持っておみくじを握りつぶしてるから…」

 

はっはっは、一体何を言っていらっしゃるのか。

 

「か、神夏さん?どう…でした?」

「四糸乃、聞かないで」

「いやいや、まさか士道さんの凶より悪いなんて事あるわけありませんわよね?」

「…」

「え?冗談で言ったつもりなのに本当なんですの?」

 

狂三が軽く笑いながら言ってくるが、残念ながら本当だ。

 

「か、神夏。もしかしたら見間違いかもしれないから、広げてみたら…」

 

「え?なに?もっかい見ないといけないの?…いや、四糸乃。そんな目で見ないで。ちゃんと広げるから」

 

四糸乃に上目遣いで見られて、一瞬にして広げることを決意した。

 

おみくじを広げていくと、まず真っ先に見えたものは大きい文字で書かれた『大凶』という文字。

 

十香と四糸乃以外の皆さん?苦笑いしたの見逃してないからね?

 

恋愛…今年は全てダメでしょう

学問…何もかもうまくいかない

 

「はっはっは、面白いくらいに悪いことしか書いてないね。しかも待ち人は永遠に来ないとかふざけたとしか思えない」

「ど、ドンマイですわ…」

「き、きっと来年はいいことあるよ!」

 

やめて、狂三に五河妹さん。自分が悲しくなってくる。

 

「か、神夏!さん!わ、私のおみくじと…交換…します!」

 

「へ?」

 

すると、四糸乃がそんなことを言ってきた。

 

「わ、私のと交換すれば、神夏さんのが大吉になって、良くなります!」

 

「いやいや、ダメだよ四糸乃。それは君のなんだから、大事にしなよ。これは私の運勢だから。それに、四糸乃が大凶になっちゃったらそれはそれで私の心が痛いから」

 

四糸乃に大凶を肩代わりしてもらうとか、逆だよ逆。

私が四糸乃の悪い運勢を肩代わりするんだよ。

 

「…なあ、神夏。その金運の所をちゃんと見せてくれないか?」

 

「ん?はい」

 

五河君にそう言われて、おみくじを渡した。

 

「…なあ、これちゃんと見てみなよ」

「んー?どれどれ……。『金運、他の全てを犠牲にしたかのようにめぐまれる』……なにこれ。金運だけやたらといいこと書いてる」

 

逆に言えば金運以外はやばいと。お金を得る代わりに大切なものを失いそう。

まあ、好きな人とかはいないし、その辺はいいけど(泣)

 

「んー…お守り、ねえ…これはいらないかな」

「え?なんでだ?」

「いやまあ、そもそもあんまり神頼みはしない主義というか……」

 

正確には英雄王様が神様を嫌ってるからね。

 

「そんじゃ、私はここで見てるから、みんなはお参りしてきなよ」

 

そう言うと、みんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてこっちを見てきた。

いやいや、しないって。

神を(王様が)嫌ってるのになんで神頼みしなきゃいけないの。

 

「神夏さんも…一緒が、いいです」

「よし行こう」

「早いな⁉︎神頼みしない主義はどこ行った⁉︎」

「ドブの中」

 

そりゃあ、四糸乃に頼まれたらやらないわけにはいかないでしょ。

でも、格好だけで願い事はしないよ。うん。

 

「よし…それじゃあ行こうぜ」

 

五河君に言われてみんなでゾロゾロと移動する。

 

これ、よくよく見たら五河君と のハーレムじゃん。なんかその一員って見られそうで嫌だなぁ。

 

列に並んで数分経つと、もう賽銭箱の前まで来た。

 

みんなと一緒に五円玉を入れ、手を合わせる。

 

「(----------)」

『何だかんだ言ってするのだな、其方は』

「ええ、私の悲願でもありますから」

 

よし、それじゃあ出よう。人混みは苦手だ。

 

 

 

「よし…それじゃあ、一旦家に戻るか。おせち料理とか年越しそばとかあるから。神夏はどうする?」

「んー…そうだなぁ」

「…」

「せっかくだしお邪魔するよ。なんならゲームでも持って行ってゲーム大会…は、みんな苦手そうだからいいや」

 

最近出たスマ○ラSPにハマってるけど、まあみんな機械というかゲームに疎そうだからいいや。

 

しばらく歩いて、五河君の家の前に着いた。

 

「あ!みんな待ってくれ!写真撮りたい!」

 

入る直前に、そう言われてなされるがままに家の前に並ぶ。

あれ?なんで私入ってるんだろ?まあ四糸乃が横にいるからいいや。

 

「シドーは入らないのか?」

「え?でも俺が入ったら写真を撮る人が…」

「ああ、それなら私がやるよ。ほらほら五河君はど真ん中に入った入った」

「いやいや!ダメだって!」

 

むぅ、別に私がいるよりかは五河君がいた方がいいじゃん。

私は四糸乃以外のみんなに敵対視?されてるし。

 

 

ぎゅぅぅ

 

 

「はは、ダメらしいな」

「無理…四糸乃のその目は反則…」

 

四糸乃、上目遣いすればなんでもしてもらえるとでも思ってるの?

 

 

やりますけども何か?

 

 

 

「でも…士道さんも…一緒がいいです」

「だそうですよ?」

「でもなぁ…おれ、三脚とか持ってないし…」

 

「あら、それならばわたくしの出番ですわね」

「いっ⁉︎」

 

狂三がそう言って指をパチンと鳴らすと、急に首を誰かに掴まれた。

驚いて前にコケそうになった。

 

「あ、あー。なるほど、分身体ね…」

「きひひ、いい表情をありがとうございますわ」

 

そこには、狂三の分身体がいた。

確かに、分身体つかえばいいか。

 

「さあ、士道さん。真ん中へどうぞ。カメラ係はお任せあれ、ですわ」

 

分身体の方の狂三が五河君からカメラを取り、さっきまで五河君がいたところに立った。

 

「ああ、それじゃあお願いするよ。ありがとな、狂三」

「いえいえ、構いませんわよ。ただ、この後で2人きりで過ごしてくだされば嬉しいですわ」

「へ?」

「はいはい、早く撮ってくださいな」

「あらあら、わたくしともあろうものが嫉妬ですか?」

 

なんか誘惑してた分身体をオリジナルの方が諌めて、ようやく写真を撮るところまで来た。

 

「はい、ちーず、ですわ」

 

掛け声とともに、一応笑顔を作る。

こういうのもなんだが、作り笑いは得意な方だ(多分)

 

「はい、お疲れ様ですわ。それではわたくしの中へ戻ってくださいまし」

「ええ、ええ。わかりましたわ。後でいつも通りの士道さんについてのお土産話をたくさん聞かせていただくのをご期待しておりますわ」

「早く戻りなさいな!」

 

なんだろう、オリジナルの方の狂三って分身体にナメられてるのかな?メチャいじられてるじゃん。

クスクスと笑いながら分身体は影の中へ消えて、オリジナルの方は顔を赤くしていた。

 

「ねえ。早く入ろうよ。寒いから。王様も、疾く入れ!王たる我を〜って言ってるから」

「ああ、ごめんな。それじゃあ入ろう」

 

五河兄妹を先頭に、五河家の中へ入っていく。

 

相変わらずいい家だこと。

 

「それじゃ、すぐ用意するから適当にくつろいで待っててくれ」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 

 

 

「さあ神夏ギル!勝負だ!」

「んー、どっちだろうなぁ」

 

現在、十香はトランプを二枚。私は一枚持っている。

俗に言うババ抜きだ。精霊組全員でやってるんだけど、狂三と五河妹さん以外の2人が顔に出すぎてるせいでね。

 

 

うん。そうだよ、四糸乃かばい続けてたらいつの間にか負けかけてた。

 

 

「うーん、こっちかなー」

 

私から見て左のカードを掴むと、十香の顔が笑顔…とまではいかなくとも明るくなった。

 

「こっちかな?」

 

逆に右のカードを掴むと暗くなった。

 

 

分かりやすすぎる…どうしよ、これ…。

 

 

いやしかし、面白いな。手を動かすと十香の表情がコロコロ変わる。

 

「…それじゃあ…こっち」

「ぬぁあ!また負けたのだ!」

 

毎回、顔合わせる度に勝負吹っかけてくるのはいいけど、顔に出る癖を治してから出直しなよ。

 

「おーい、終わったら運ぶの手伝ってくれないか?」

「わかりましたわ」

「お手伝い…します!」

「はーい」

 

「私はちょっとパス。十香がまだ勝負したいそうなので」

「次こそ勝ってやるのだ!」

 

次はスピードか。うん、カード運さえなんとかなれば余裕かな?

 

 

ちなみに、圧勝してやりました。

ゲームで私に勝つなんて十香には十年早いよ。

 

 

大きめのテーブルには、おせち料理からだし巻き卵、レンコンやサツマイモの天ぷらなど、料理が所狭しと並んでいた。

相変わらず美味しそう。

 

「それじゃあ、どうぞ」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

そこからは、久しぶりの大勢でのご飯だった。

こっちにきてからと言うもの、みんなと知り合ってもなお、1人で食べることが多すぎたからなぁ。

王様がいるとはいえ、やっぱり食べるときは1人で寂しくて味気ないからね。

 

「おにーちゃん、そろそろ…」

「ああ、そうだな」

 

時計を見たかと思うと五河兄妹が何か意味深なことを言った。

何事かと思って時計を見ると、23時55分を示していた。

 

ああ、もう新年なのね。

早いものだね。

 

時間は、少しずつ経っていって、時計は0:00を示した。

 

 

 

「「みなさん、あけましておめでとうございます!」」

「おめでとうなのだ!」

「おめでとう…ございます!」

「おめでとう、ですわ」

「あけおめ〜コトヨロ〜」

 

 

五河君から始まって、おきまりの新年の挨拶を、順々にして行った。

 

「今年もまたよろしくな、みんな」

「ああ、今年も精一杯シドーと一緒にいるぞ!」

「私も…みんなと、一緒に…」

『むっふっふー。今まで空気になってたけどよしよんこと私も四糸乃と一緒に楽しくわちゃわちゃするよー。頑張って四糸乃の士道君に対するアr…ぐむっ』

「もうっ…よしのん!」

 

「わたくしも、わたくし達の悲願のために、今年も精一杯頑張りますわ。見ていてくださいね?士道さんに神夏さん」

 

「私は…そうだな、ゆっくり過ごせればそれでいいや」

『我は我の決めた裁きを早く決行せねばな』

 

 

「「「「「それでは(これを読んでくださっているみなさん)良いお年を!」」」」」

 

最後は謎にみんなでハモって新年を迎えた。




みなさんはどういった年でしたか?

自分はまあ色々とありましたね。
大学受験やらなんやら。

この作品も割と長く続いてんなーって思いました。
まあ、時々色々言われてますが。

これからも楽しんで読んでもらえたら幸いです
さあ、1月からは我らが五河士道の新シーズンアニメ、デート・ア・ライブⅢが放送されますよー

これは見なければ…


それでは、読んでくださりありがとうございました


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26話

よし、一ヶ月以内に投稿できた…。

この調子で投稿ペース増やしてこう……
できる範囲で(震え声

さて、ようやくデアラ三期始まってますね。
デアラはやっぱり面白い(確信

まあ、自分の作品は…うん。まあ何も言わないです


それではどうぞ





「……変な夢見たな…」

 

ベットから起きて日にちを確認する。

うん、ちゃんと夏入る前くらいだね。

なんかいきなり新年に飛んだ気がするけど気のせいかな。

 

「……学校休みだっけ。…久しぶりに秋葉原行こうかな。新しいグッズとかあるかもだし…」

 

ボストンバッグとお金を用意して、私は外へ出た。

 

 

 

 

 

 

電車に乗る。

案の定満員だが、痴漢だとかそういうのは一切気にしない。

だって、勝手に周りが避けてくれるんだから。

 

ソファに座ると、私を中心に1メートルほどには人がほぼいなくなった。

1()()()()()()

 

英雄王様はすぐに気づいていた。

駅に着いた頃だろうか。

電車に乗った瞬間に、精霊化して体の主導権も英雄王様に渡す。

 

「どうも、お久しぶりですね【アロガン】。数年ぶりでしょうか」

 

「メイザースか。ふん、前の時よりはマシになったか?」

 

「そちらこそ。力の使い方がより洗礼されている。ああ…マナからの報告だと、多重人格、でしたか?本来の力の持ち主が貴方だと」

 

隣に座ったのは、女だった。目も合わせていないが、誰かはわかる。

 

「何の用だ。我はアイザック・ウェスコットと------以外は貴様らに用はない。疾く失せよ」

 

「そう釣れないことを言わないでください。私もあの頃よりは腕を上げて来たのです。ここで試されるのも一興では?」

 

「ふむ…そうさな。だが、まだ時ではない」

 

「というと?」

 

「そう答えを急ぐでない。然るべき時に、せいぜい児戯程度には相手をしてやろう」

 

「それはそれは、非常に楽しみですね。そういえば、マナが勝手に貴女に挑んだそうですが、彼女はどうでした?」

 

「前とさほど変わっておらん。まあ、以前よりはマシ、といったところか。だが、あの程度ならば再び我が『エア』を前にしたら動けないであろうな」

 

「それは仕方ないでしょう。私もアレと真正面から対抗するなど、間違ってもしません。本気を出していなくてあの威力なのでしょう?本気を出せば()()()()()()()()()()()。しかしそれをしないのは、『星の抑止力』が働く為。だがそうであったとしてもその威力は神造兵器の名に相応しい。しかし、弱点がないわけではない。あの一撃を放つ際に起こる暴風のせいでその間は他の武器を取り出すことが一切できない。故に、その隙をつけばどうということはない。あの一撃を耐えれたら、の話ですがね」

 

「ほぉ、そこまで調べ上げたか」

 

「ええ、私達はそもそもの話、貴女の、神夏ギルの()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。理解してからは、すぐに色々とわかりましたよ」

 

「なれば、次に我の前に現れる時は多少マシであろうな?期待しているぞ、メイザースよ。だが、その時はウェスコット、もしくは----を忘れぬことだ。其奴らを始末した後に遊んでやろう」

 

そう言いながら英雄王様は電車から降りた。周りが道を開けてるところを堂々と歩いていく。

 

 

「まったく、相変わらず美しくもあり強い人だ。女だというのに、見惚れてしまいそうですよ。あの様な方に惚れられていたなんて羨ましい限りです」

「あはは。僕の場合は惚れられてたわけじゃない。彼女が僕に抱いていたものはどちらかというと依存・執着に近い。それに、ちょっと違う。あの…えーと、英雄王?だっけか。そっちの人格じゃなく本来の神夏ギルの方の性格ですよ」

「ああ、そうでしたか?」

「まあとんでもなく嫌われちゃいましたけどね」

「そうでしょうか?異常な殺意も、相手に向ける感情としては、愛情と同意義だと私は思いますよ。殺意も愛情も、相手に向ける想いに変わりはないのですから」

「そういうもんかねぇ…。世界最強の魔術師(ウィザード)さんの言うことは分かんねえわ」

 

 

 

 

 

「…はーっ、緊張したぁ…」

『戦闘にならなかっただけマシだ。しかし…やはりメイザースも来ていたか。となるとウェスコットと-----も来ているな。よかったではないか。悲願を達成する時がすぐそこへきているぞ?』

「そう…ですか。ようやく…」

 

英雄王様の言葉で、あの顔が、憎い憎いにくいニクイ顔が脳裏にちらつく。

 

『神夏よ、その癖は治せと言っておろう?我に何度言わせる気だ?』

「…申し訳ありません。……だめだ、この事になるとすぐ自我を見失いかける…」

 

こんな時は……

 

 

ストレス発散するしかない…。

 

 

 

 

 

 

〜とあるゲームセンター〜

 

 

「ふははは!よし一位!」

 

 

「よし!獲得!ちょろい!」

 

 

「対戦?ええ…まあいいですけど…。え?勝ったら付き合え…?ええ…絶対嫌だ…。え?勝ったらなんでも奢ってくれる?いいですね乗った!」

 

 

「よし勝った!てことでこれからのゲーセンでの費用全部あなた持ちで!え?いやいや、言ったのあなたですからね?遠慮しないから覚悟してくださいねー」

 

 

「よし、ゲーセンは満足です。それではどうも、お金ありがとうございますねー。え?帰るためのお金がないから貸してくれ?嫌です♪それではー」

 

 

 

 

 

「ふーっ、満足満足。あのゲーセンには出禁くらっちゃったけど、まああんな取れやすい設定にしてるのが悪いよね!」

『神夏…其方、本当に好きなこととなると人が変わるな。流石の我も引いたぞ…』

 

あ、はい。ごめんなさい。つい、熱が入っちゃいました。

 

「…割と噂広まっちゃってるな。早めに帰ろう」

 

いつも見ているSNSを覗くと

『金髪の超廃人ゲーマーがまた現れた!』

『今度はアキバから少し外れたところのゲーセン!』

『また色んな台の記録を塗り替えていった!』

『置いてあるキャッチャー系の景品根こそぎ奪って行った!』

『たまたま開かれてたス○ブラ○Pの大会で優勝をかっさらった』

『勝負を挑んできた男をぶちのめして下僕にした』

etc……

 

 

「…なんか、尾ひれがつきすぎてる気がする。私、下僕じゃなくて財布にしただけなんだけど…。…まあいいや、とりあえず戦果はたっぷりと得られたし、映画見て帰ろう」

 

まだ帰らんのかい!ってゲーセンの方からツッコミ聞こえてきた。

何言うてますの。今絶賛F○te HFルートの第2章を上映してるんですよ?行かなきゃだめでしょ。あと一番くじも発売されるからその予約も取っとかないと。

 

 

まあ、英雄王様以外基本的に被ったやつは売るんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、寒っ。早く部屋行こう」

 

イベントも始まったから走らないと…。後新キャラも出てくれたから早く当てに行かないと。

とりあえず宝具5にして、そのあと塵集めなきゃ。ひとまず200個くらい…

 

「ただまー。…って、誰もいないんだけど」

 

部屋に入ると同時にそう言うも人の返事が返ってくるわけがない。だって誰もいないし。

つかいたら怖い。

 

「あ、そういえば英雄王様。メイザースは…というより、あの後は誰にも尾けられていなかったのですか?」

 

『ん?ああ、心配するな。秋葉原…だったか?あの場所から別の意味で尾けられていたが、命を狙う輩はいなかったから安心せい』

 

「そうですか…ありがとうございます」

 

よし、それじゃあ今からは…イベントを走る時間じゃあ!

 

 

 

 

 

 

〜2週間後〜

 

「ぁあ…。あー最近平和でいいね…」

 

メイザースが現れた時は、いつ戦闘が起こるかヒヤヒヤしてたけど、あちらさんもすぐさま戦闘を起すつもりなかったらしいね。

うん、正直抑えれる気がしないし、こちらとしては有難い。

 

 

ピンポーン

 

 

「んー?誰だろ…四糸乃か五河君かな?」

 

念のためのぞき穴から確認すると、そこには五河君が立っていた。

 

「よ、神夏。元気か?」

 

「…学校でも見てると思うけど、まあいつも通りだよ。それで、要件は?」

 

「あ、ああ。それがな…その…」

 

と、五河君は何か言いにくそうな雰囲気になっていた。

 

「何?言いたいことあるならハッキリいいなよ。多分怒らないからさ。五河君たちの素晴らしい自己犠牲で私を救おうなんて世迷い言は聞き飽きてるわけだし?」

 

「い、いや…その、だな…。…これ」

 

そう言って五河君はポケットから何かを取り出した。

 

「んー?天の鎖だね。ていうか…壊れてるね。まあ見事に。ていうか、これだけのことなら別に言いにくいわけじゃないでしょ。何をそんなに怯えてんの?」

 

そこにあったのは、先端の楔のようなものが歪んで、鎖の千切れた天の鎖だった。所々には頑張って直そうとした形跡がある。英雄王様が五河妹さんに貸してたやつだ。

うん、まあこんな風になる未来は見えてた。

 

「一応経緯を聞いても?」

 

「そ、その…。鳶一折紙っていただろ?琴里の霊力を俺の中に封印するために、琴里の好感度を上げるためにデートしてたんだけど…その最中に折紙が襲ってきたんだ。それで、鎖が付いたままだと、どうしてもごてにまわっちゃって…それで…」

 

「あー、攻撃がたまたま鎖に命中しちゃったやつね」

 

「面目無い…」

 

「いやいや五河君が謝る理由ないでしょ。ていうか、これくらいで謝る理由がないと思う。令音さんにも、壊れることはあるって伝えてあるし。それ聞いてないわけじゃないでしょ?なのになんで謝る必要があるの?」

 

「えーと、その、英雄王様がさ。『我が友を改変』って言ってただろ?だからさ…相当大事なものの一つなんじゃないか…って思って」

 

「あー。なるほどね。…だそうです、英雄王様。どうしましょうか?」

『気にするな、と伝えよ。我が貸し付けたものだが、あの程度、大木にある無数の小枝の先のようなものだ。まあ、その姿勢は評価に値する』

「畏まりました。…気にしなくていいってさ。でも、その姿勢は評価してくれるって」

 

「そ、そうか…よかった」

 

そう伝えると、五河君は胸を撫で下ろしていた。

 

「んじゃ…まあこれは宝物庫の中に後でしまうとして…もう用事はない?」

 

「いや、実はまだあるんだ」

 

「…何?」

 

「ただ…ちょっとその前に中に入らせてもらってもいいか…?夜なこともあってすごい寒くてだな…」

 

「えー、どーしよーかなー。襲われるかもしれないしー?」

 

「襲わねえよ!」

 

からかってみると五河君は顔を赤くしながらそう言ってきた。

うん、いつも通り反応面白いね。

 

「ま、別にいいよ。入りなよ。…その代わり、引いた瞬間に叩きだすから」

「引かねえよ…もう神夏の諸事情については慣れた……つもりだ」

「そこ間が空く理由教えてもらっていいかな?」

 

全く、まるで私がやばい人みたいな反応やめてほしいなぁ。

ていうか慣れるて。そんな私奇抜なことしてないよ?

何か色んなところからツッコミ聞こえる気がするけどスルーしよう。

 

「ま、入りなよ」

「ありがとう。お邪魔しまーす」

 

そう言って五河君を部屋の中に入れる。

片付け?んなめんどくさいものをする必要はない。ていうか見られて困るものも無いしね。

 

「…」

「ねえ口開きっぱなしだよ?驚き過ぎじゃない?」

「い、いや…その。ここまですごいとは思ってなかった…から…」

 

今更何を。

この程度で驚いてちゃダメだよ。

 

「あ、普通の本…もあるのな」

「神話だとかその辺ばかりだけどね」

「へー…。ていうか、教科書類一切ねえな…」

「そりゃ捨てたからね」

「捨てるなよ!」

 

だって邪魔じゃん。

 

「…あ、なあ神夏。この本借りてもいいか?」

 

「んー?」

 

そう言って五河君が見せてきたのは『ギルガメシュ叙事詩』の翻訳版だった。

まさかのそれですか。

 

「いやまあ、いいけど。どうしてまた」

 

「神夏のことを知るのはもちろんなんだけど…何より、俺は英雄王について何も知らないに等しいから…。だから、とりあえず書かれてる書物をひたすら読んで知識をつけようと思って。F○teに出てくるっていうやつも、近いうちに全部確認するつもりだ」

 

「ふーん。それはそれは良い心がけだこと。まあ、それなら貸してあげてもいいよ」

 

「ありがとう。にしても…ケルト神話にアーサー王伝説、メソポタミア神話に…日本の神話もあるのか」

 

「ま、有名どころは大体ね」

 

ていうか、話逸れてる逸れてる。

 

「ねえ、五河君は何しにきたの?話って?」

 

「そ、そうだった…。神夏、最近どうしたんだ?」

 

「…どうしたって?何か私変だった?」

 

「ああ、なんかずっと怒っているというか。それでいて哀しい顔を、辛そうな顔をしていたから。…一体、何があったんだ?」

 

「…五河君には関係ないことだよ。聞きたいことはそれだけ?なら帰った帰った」

 

「いや、ちょ…」

 

「どうせラタトスクの方が私の状態を観測してたから来たんでしょ?ほら帰った帰った。プライバシーとか考えて頼むから」

 

()()()が頭をよぎってしまって、勝手にイラついて、五河君を無理やり玄関まで押し出す。ドアからも押し出して、即座に閉めて鍵とチェーンロックまでかける。

 

「…神夏、もし、辛いなら、頼むから相談してくれ。俺は、神夏のそんな姿は、見たくない。見ていて、辛いから」

 

「いいから…帰って。お願いだから。その本は、気の済むまで読んでいいから。この事で、私に関わらないで」

 

無理矢理、喉の奥から声を絞り出して言うと、向こうから足音が遠ざかっていくのが聞こえた。

 

「…やっぱり無理だ、冷静になれなんて」

 

あの顔を思い出すと、どうしようもなくむしゃくしゃしてしまう。

私の中の黒いナニカに手を伸ばしそうになってしまう。

 

でもそれはダメだと直感でわかる。

それに英雄王様にも言い付けられているから、間違ってもやっちゃダメだ。

 

「…はぁ、もうダメだ、寝て忘れよう」

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうしたんだろう…?何か分かりましたか?」

 

『ふむ、何かは明確にわからないが、相当タブーなことに当たるようだ。恐らくだが…彼女の過去に関係することじゃないかな?2週間前ほどから急激に機嫌が悪くなっているようだから、過去を思い出す何かを見てしまったか。…話してくれないから推測の域を出ないがね』

 

耳につけたインカムから令音さんの声が聞こえてくる。

ここ最近の彼女の機嫌が悪いと言うのに気づいたのも令音さんだった。

それを聞いて、俺が神夏の元へ赴くことを決めたのだが…結果はさっきの通りだった。

 

「そうですか…。でも、無理矢理聞くのは余計ダメですよね。神夏から話してくれるのを待つしかないか…」

 

『そうだね。ところでシン。君はいつの間に神話に興味を持っていたんだい?』

 

「ああ、元々神夏に少し話を聞いてから興味は持ってたんです。ただ、忙しくてあまり本を読む時間を取れませんでしたから。神夏のことや英雄王ギルガメッシュについて知りたいのもありますが、純粋に読みたかったのもあるんです。この神話について。……ん?何か挟まってる…?」

 

帰っている最中にパラパラと軽くめくって見ていると途中に小さな紙のようなものが挟まっているのを見つけた。

 

「なんだろ…。……?なんだこれ…?え…もしかして、これ小さい頃の神夏か⁉︎」

 

それは、古い写真だった。()()()()笑っている神夏(多分中学生くらいの頃)が写っていた。が……

 

「ね、ねえ。令音さん。見えてますか?」

 

『ああ、はっきりと見えているよ。これは…詳しく調べる必要がありそうだ。彼女の過去を』

 

そう、半分は神夏らしき人が写っていた。が、もう半分には、人の首から下は写っているが、首から上は写っていない。

というよりは、()()()()()()()()()()()

何回も何回も、塗りつぶしたかのようにそこの部分だけ破れていたりぐちゃぐちゃになっていた。

 

そしてその下には【never forgive(絶対に許さない)】と赤い文字で書かれていた。

 

 

「…神夏、頼むから、無理しないでくれよ…」







さて、次からは原作5巻に突入ですかね。

頑張って書き上げますよー。


読んでくださりありがとうございます


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第5の精霊の物語
27話


今回からは原作5巻目

ただ、割と原作から外れたルートを通ってる…?かも?

まあその辺はしょうがないですよね。
うん、だってAUOさんいるんだもん(真顔)


それではどうぞ


時は流れて、現在は七月。

特に何事もなく、私はごく普通に学校生活を……

 

「神夏ギル!勝負だ!」

 

送れるわけがない。

相変わらず十香に事あるごとに勝負を挑まれている

その悉くで勝って、今度は無謀にもテストの点数で勝負を挑んできた。

 

「……いいけど、その代わり私が勝ったら…いや、やっぱりいいや」

 

最近は一々条件をつけるのもめんどくさくなってきた。

 

とまあ、アレから五河君にもあんまり踏み込まれなかったからごく普通に生活を送っていた

 

メイザースやアイツが襲ってくるとか考えていたが、王様曰く『しばらくの間はむしろ無事だろう。我に対しては正面から堂々と挑む、と豪語していた』とのこと。

 

「…にしても、修学旅行…か。…うん、サボ…」

 

「神夏さーん!俺と一緒の班にならねーか?」

 

「えーと…その、誰…」

 

「殿町っス!」

 

「そ、そう…。でも、ごめんなさい。他を当たってください」

 

「そんなこと言わず!男女で二人ずつのペアで人数関係的に神夏さんくらいしかいないんです!あと個人的に神夏さんと組みたいっス!」

 

「そ、そう…」

 

急に話しかけてきた殿町とかいう人にゴリ押されて、そのままグループを作ることになった。

けど、特に話し合いをすることもなく、他の人に任せて私は寝ていた。

 

まあ別に…グループに入っただけで話し合うなんて言ってないし、ね?私は悪くない。というかずっとこのスタンスなんだから。

 

 

 

 

〜修学旅行当日〜

 

「……だめだ、酔った…」

『お主は阿呆なのか?なぜ酔うとわかってて読み続ける」

「いえ…その、はい、大丈夫かと…思い、まして…」

『もうよい、病人は病人らしく休んでおれ。そのままDEMとやらの雑種どもが来たらいくら我でも対処しきれん可能性があるぞ』

「しょ、承知しました…」

 

今は飛行機の中。暇だから本を読んでたら、見事に酔った。

ダメ…吐きそう…。

 

「か、神夏、大丈夫か?」

「大丈夫じゃ…にゃい…」

 

前の席にいる五河君に心配されたが、もうとりあえず寝ることにした。

隣の席は人数の関係で空いている

 

「…寝よう」

 

「大丈夫ですか?酔い止めです。よろしければ飲んでくださいね」

 

「⁉︎」

 

横からした声に、体が勝手に跳ね起きた。

 

だって、一ヶ月くらい前、電車の中でもあった人だったから。

 

「おや、どうされました?」

 

「どうしたもこうも…どうも、メイザースさん、でしたっけ?」

 

「ええ、この度クロストラベルから派遣された随行カメラマンの一人、エレン・メイザースです。今日より三日間、皆さんの旅行記録をつけさせていただきます」

 

「…派遣された一人?」

 

「ええ、私の他に、もう一人おられます。今は見えないですが後々見えるでしょう」

 

そこには、メイザースがいた。すぐに王様に体を渡そうと思ったが、この大勢の中で精霊化するのは愚策だと思い、やめた。

 

にしても、もう一人…?まさか……。

 

『いい加減あやつがいる可能性を考えた瞬間に自分を見失う癖を直せ。何度言わせる気だ?』

 

「っ…。申し訳ありません」

 

「ああ、貴女へ、正確には貴女の中にいるあの方へ伝言です。『今回の標的は貴女ではない。くれぐれも邪魔をしないでいただきたい』。以上です。それでは楽しい旅行を」

 

そう耳元で言ってメイザースは他のところに写真を撮りに行っていた。

 

「…(どう思われますが、王様。あの人が、私たちを、いや正確には王様を狙わないなんて、ありえないと思うのですが)」

『嘘はついておらん。メイザースが我に虚偽をいうなど、彼奴の性格上ありえぬ。それにだ、我に嘘をつくというのがどういうことか、わかっていない雑種どもでもあるまいて』

「確かに…。…うぷ、酔ってるの忘れてた…。寝よう…」

 

うんまあ、いざとなれば体の全てを王様に使ってもらうから、大丈夫、でしょう…だから…寝よう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで…なんでなんでなんで!なんで!その人には!手を出さないって…。狙いは私だけだって!)

 

 

(お願いだから!その人を殺さないで!その人は、私の…)

 

 

(いやだ、ねえ、目を覚ましてよ。わたしを、独りにしないで…。ねえ、あの時みたいに、陽気に話してよ。私にまた告白してよ。私、次してくれるって聞いて、次されたらちゃんと返事するった決めてたんだよ…ねえ、マイラ…。私……)

 

 

 

 

 

「神夏っ!」

 

「っ⁉︎はぁっはぁっ…」

 

「神夏、大丈夫か?」

 

「あ、あー。夢…か、うん、夢…なんだね。くそッ、嫌な事思い出したな…」

 

飛行機の中で私と同じ班の殿町…?だっけ。それと担任のタマちゃん先生?だったか、それと令音さん、五河君と十香がいた。それ以外の人はみんないない。

 

「か、神夏さん、大丈夫…ですか?ずっとうなされてたんですよ」

 

「はい、多分…大丈夫です。ちょっと昔の夢を見ちゃって…」

 

「私が後からゆっくりと連れて行こう。シンと十香は手伝ってくれないか?殿町は確かグループのリーダーだっただろう?点呼などがあるはずだから教諭と共に先に行っててくれ」

 

令音さんが場をまとめて、五河君と十香と共に向かうことになった。

 

「ん…どれ、肩を貸そう。立てるかね?十香、もう片方の腕に肩を貸してやってくれ」

「う、うむ…」

「あ、はい…。どうも…」

「シンは地図を見ながらルートを示してくれ」

「わかりました」

 

 

 

 

 

「神夏、一つだけ聞きたい」

 

「はい…?なんで、しょう」

 

「ずっと前から機嫌が悪いのが続いているが、今日は特に機嫌が悪いだろう?その原因を私なりに考えてみた。君の機嫌が悪く体調にまで及ぼすほどの事。それはもしかして、昔のこと。正確には中学生くらいの頃。そうじゃないかね?」

 

令音さんが正解に近いことを当てて、否定しようにもできなかった。

 

「大丈夫だ、ここには君の精霊と認識しているのは私達だけだ。他には漏れない。お願いだから教えてもらえないだろうか?君がずっと自分を責めているような、それでいて憎悪を心中で燻らせているのは『ラタトスク』的にもよろしくないし、私的にも、君にはそんな辛そうな顔はしてほしくないんだ」

 

令音さんの言葉に、なぜか安心感を得て話してしまいそうになる。が、ぐっとこらえた。

 

()()は私が背負うべき業だ。私が成すべき事だ。

 

間違っても他人を巻き込んでいいことじゃないし、巻き込みたくない

アレは私1人…いや、正確には私と王様だけでやるべきだ。

 

「なんでも…ありません。私に、過去のことで関わらないで、ください。誰にも話す気はありませんし、話したとしてあなた達に何かができるわけでもありません」

 

「そう…か。だが、我慢は体に毒だよ。一度思いっきり吐き出すというのも悪くないと私は思う。だから、辛くなったらいつでもラタトスク(わたしたち)を頼ってくれ。私達は、そのために作られた機関だ。…と、いつの間にか着いたね。というか…シンと十香はどこへ行ったのだろうか」

 

しばらく歩いて、ようやく集合場所である博物館?的なところについた。

あー疲れた…。

てか、本当にいつの間にか五日君達がいない。

まあ、別に大丈夫だと思うけど…。

 

 

 

 

 

 

「…ありがとうございます、だいぶ落ち着きました」

「そうか、だが今日1日は無理しちゃダメだよ?」

「はい。にしても…台風、でも来てるんですか?」

「天気予報では台風は来ていないと思うが」

 

ソファに座って担任と令音さんと軽い問答をした後に看護教諭の人にも体調チェックをしてもらってようやく解放された。

にしても台風かそれ以上に風吹いてる。これ、続行できるの?

 

「…シンはまだ来てないのか」

「最悪、十香がついてるので大丈夫……」

 

そこまで言って、私はようやく気づいた。

 

 

 

()()()2()()()()()()ということに。

 

 

 

 

「…どっちだ、アイツラが標的にしてた精霊なのか、偶々現れた方なのか…」

 

もし仮に前者なら…

 

「ああ、よかった。止んできたようだ。シンもどうやら無事なようだ。十香は気絶してしまっているようだが」

 

耳に手を当てながら令音さんはそんなことを言った。

 

「…そう、ですか。それじゃあ、私は…適当にぶらついています。何かあれば、できる限り協力は…多分するので、言ってください。今回は珍しく、()()()()()()()()()()()()()()()。いや、()る気、ですかね?まあ、いいや…。それでは、失礼します」

 

「…?あ、ああ。気をつけるんだよ」

 

 

 

 

 

 

『神夏よ、喜ぶが良い。あの雑種は確実にいる』

「…っ!そう、ですか。よう、やく…ようやく…」

 

トイレの洗面台で顔を洗っていると王様からそう言われる。

 

『だが、メイザースがいる以上、其方一人で簡単に事を運ぶのは難儀であろうな。雑種が一匹で我の前に現れたなら話は別だが』

 

「…ですよね」

 

あの人達には、王様が直接手を下していたから余裕で対処できていた。でも、今からは私が1人でやろうとしている。

 

…できるのだろうか、私に。

 

『できるできない、ではなくやるのだろう?』

 

「…はい、そうでした。よし…それじゃ、今日仕掛けるのは流石に不味いし…霊力を貯めるという意味でも、大人しく食べて寝よう」

 

顔をもう一回冷水で洗いながす。

冷たさが、高ぶっている感情を沈めてくれているような気がして、どこと儚く心地いい

 

「神夏さん、大丈夫ですか?」

 

「…」

 

ルームメイトの1人に言われたが、返す気力も出なかった。

気を休める、という意味でも風呂に入ろうと思って外へ出る。

 

19時を回っていて、今日の予定はもうなく就寝時間まで自由時間なはずだ。

 

 

 

 

 

〜お風呂〜

 

「ああーギモヂイー」

 

露天風呂ってやっぱり気持ちいいなぁ。

最近疲れてたから、こういう気休めもいいものだね。

 

「おお。すげえなこりゃ」

 

 

・・・ん?今の声、どっかで聞いたことあるような…?

 

「露天風呂なんて、いつ以来……」

「……」

 

そしてその声の主と目が合う。

 

「か、かか、神夏⁉︎」

 

「…何してんの」

 

「い、いや、その…」

 

その声の主は、五河君だった。

 

「何そんなにおどおどしてんの?」

 

「ちくしょう!そういうことか!その、ごめん!すぐ出てく!見てないから!何も見てないから!」

 

「んー?いや別に、私の体を見れて幸運でしょ?これ以上のないご褒美だよ?寧ろ、見て何も思わないとか不敬だよ?」

 

「え…?」

 

「む…先に常闇の穢れを浄化している輩がいたか」

「驚嘆。異性がいるというのに全く恥じていないどころか堂々としています」

 

「んなっ⁉︎耶倶矢⁉︎夕弦⁉︎」

 

そしてもう2人現れた。

双子のような成り立ちだ。

橙色の髪と水銀色の瞳の子。というか、ふたりとも()()()()()

 

「お、お前ら何してんだぁ⁉︎ここ男湯たぞ⁉︎」

「いや、それだと私のことどう説明するのさ」

 

「く、くくく…ど、どうだ、流石の貴様も我が色香の前にひれ伏さざるを得まい」

「嘲笑。色香(笑)。耶倶矢にそんなものが備わっていたとは初耳です」

「ふん、すぐに吠え面をかかせてくれるわ。そこな士道を我が魅力の虜としてな!」

「応戦。望むところです」

 

何か喋ってたが、そのほぼ全てをスルーして湯船で極楽を味わう。

ああ、いいわー…。

てか五河君はとっとと出ないとまずいのでは?

ここ女湯だし。本人もそれに気づいているのか頑張って出ようとしている。それを精霊2人がなんとか出さずにしようとしてるって感じだった。

 

「…もうそこまで堂々とされてたら恥ずかしがってるのがバカバカしくなってきたわ」

「同意。夕弦達があれだけ意を決していた意味があまりないように思えてきました」

「たかだか裸くらい…。寧ろ見れたことを光栄に思うべきだよ…」

 

こっちを見た精霊2人に言われたが、思ったことをそのまま口に出したら黙りこくった。

 

「そんなことより……五河君、他の女子の皆様方がきたっぽいけど、どーすんの?」

 

「だああ!やっぱりな!暖簾を入れ替えたか何かしたな!ここ女湯だよな!すまん神夏!何も見てないから!」

 

「あ、そっちは…」

 

焦ったのか、五河君は更衣室の方へ向かった。

その後は想像の通りだ。

入ってきた1人目----十香と鉢合わせをした。

 

「「ギャーーーーーー⁉︎」」

 

「だろーね。はぁ…アイツラがいる中で変に騒ぎとか起こしたくないし……。はい、五河君こっちへ」

 

「へ?ヘヴッ⁉︎」

 

「声は聞こえてると思うから、とりあえず外に出て。寒いだろうけどそこは我慢。服は私が後で持って行ってあげるから。はい、そんじゃ行った行った」

 

一瞬だけ精霊化し、宝物庫の中から『ハデスの隠れ兜』という布を取り出して五河君の首に締め……もとい巻きつける。

そして軽く助言をしたのちに体を押した。

 

見えないのに感触があったから大丈夫だろう。

 

「なっ、シドーが…」

「はい静かに。君の愛しの五河君が他の大勢の女子男子に袋叩きにされるからね。わかったら静かに。君は何も見てない、オーケー?」

「う、うむ…?」

 

十香を無理やり言いくるめたのちに、予想通り精霊2人にも問い詰められた。

 

「なんだその力は!我にも詳しく!」

「質問。どうやったのですか。あとどんなものがあるのですか」

 

そっちかい。でも話す理由はないから放置でいいかな。

 

「あーはいはい。うるさいよー。そんじゃ、私は人が多くなってきてるしそろそろ出るね」

 

色々言ってくる3人をスルーしながら私は更衣室へ直行した。これ以上ここにいるわけにもいかない。

 

だって

 

 

人がたくさん集まりそうなんですもん。

 

 

 

 

 

 

 

『…神夏よ、我に体を渡せ』

「はっ」

 

夜の中、庭に出て涼んでいると王様からそう言われた。

それに応じ、即座に精霊化し王様へ体の主導権を渡す。

 

「やあ、神夏。久しぶりだね。何年振りだろうか、2年振り、くらいかな?」

 

「…」

 

「おっと、気配的には英雄王ギルガメッシュかな?」

 

「雑種風情が、頭が高い。誰の許可を得て我を上から見ている?天に仰ぎ見るべき我を上から堂々と見るなど、不敬極まりない」

 

「これは失敬。僕は貴女ではなく神夏に話しかけたつもりだったんでね」

 

後ろからしたのは、非常に聞いたことのある、とても聞き慣れた声。

 

そして私の憎悪の対象。

 

「貴様ごときが、神夏と謁見できるとでも思うたか?自惚れも大概にせよ。今すぐこの場で処刑しても構わんのだぞ?よもや我の決定を忘れたわけでもあるまいて」

 

「おお、怖い怖い。では彼女ではないようだし、この辺で。ああ、神夏へ言伝です。『メイザースに君をやらせる気はない。君は、僕のものだ』。おっと、怖い怖い。それでは、失礼しますよ」

 

英雄王様が殺気をだすとおどけた様子の声を出した人間は、どこかへ行った。

 

「だそうだ。よかったではないか。雑種自らが一人での戦を望んでおるぞ」

『…はい』

「これは貴様の決めた道だ。我は手出しせん。此度のみは特別だ。財宝もエアを除き好きなように使って見せよ。つまらんものを見せたときは…わかっておろうな?」

『もちろんでございます』




さてはて、三月はマジで忙しいのでしばらく更新止まるかもしれません
ご了承を

読んでくださりありがとうございます


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28話

…1ヶ月以上放置してすいません

これからの構想を練っていて矛盾等が起こらないよう色々なパターンのものを作って納得できるまでやってたら時間がすごい過ぎてたんです。

あとは神夏ギルの精霊としての力をしっかりと決めていたりとか。
過去の英霊をその身に宿す力、というのは決めていましたがどういった名前のものか、とか色々と探していましたから。

その辺は後々出るでしょう。

それではどうぞ





「……」

 

今はホテルの屋上。むしゃくしゃした気分沈めたいというのもあり、砂浜から離れたいという意味もあり、誰にも見つからない場所に行きたいというのもあり吟味した結果ここになった。

 

「…ねえ、マイラ。私さ…」

 

あの男に何かを言おうとして、どうでもいいことだと思い再度口を閉じる。

 

もうアイツは私の知っている幼馴染じゃない。

 

 

「…あーもう、思い出せば出すだけ憎くなってくる…。今は放っておけって言われてるし…なにせ向こうから単独で仕掛けてくるらしいから私から手を出す必要もなし。うん、よし、そろそろ部屋戻って…」

 

 

 

きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 

戻ろうとした瞬間、男と女の絶叫がホテルの中から響いてきた。

…?ゴキブリでも出た?

 

 

 

 

 

「……ねえ、メイザース。今回、今回だけ共闘しない?」

「奇遇ですね、私も同じことを思っていたところです」

 

現在、何故かある部屋の中に引きずり込まれ枕投げと言う名の戦争に巻き込まれた。

メイザースと共に。

 

確かにメイザースとは普通にすれ違ったにはすれ違った。ただお互い手を出す気は無かったから表面上で笑って通り過ぎようとしたのだ。メイザースは部屋の中に入りカメラマンとして写真を撮ろうとしていたが。

 

部屋の中にいた3人組女子に、まるでカマキリが獲物を得たかのように素早く囲まれて部屋の中へ引きずり込まれたのだ。

まずはメイザースが。そして近くにいたという理由で私も。

 

何もわからないまま『カメラマンさんと神夏さんも参戦するってさー!』と部屋の中にいた十香と鳶一(だっけ?)に宣言され早速枕を投げつけられた。

 

しかもガードも何もなく、三人組にメイザース共々盾にされ、二人一緒に顔面に直撃した。

 

割と本気でキレそう。

 

しかもやった本人はわざとらしく涙を拭う仕草を見せた。

それを見て私もメイザースも同じ思いになった。

 

不敵に笑い、手元に投げつけられた枕を持ち先程のような言葉を交わしたのだ。

 

敵?関係ない。敵の敵は味方って言うじゃん?

今この場だけ、共闘だ。

 

今後二度と見れることのない精霊界最強の精霊と世界最強魔術師(ウィザード)の共闘(枕投げ)だ。

 

 

そして今宵限りの素晴らしい共闘が開始されたのだが……

 

 

メイザースは素の状態がめっぽう弱い?と言うか運が悪い?のか役に立たず、かく言う私も体力がそんなになく、開始数分で疲れ果て最終的に5vs2で私とメイザースはひたすらボコられた。

 

…絶対十香と鳶一は私への日頃の恨みもあるでしょ、ってくらい私の顔面しか狙わないのは流石にどうかと思うよ?

 

 

 

 

 

 

 

〜修学旅行 2日目〜

 

現在は自由時間という名の海遊びの時間。

が。水着なんてそんなもの着る気も起きない。

 

人の目を浴びたくないから令音さんに頼みプライベートビーチなるところでゆっくり過ごさせてもらうことにした。とは言っても外にいるわけではなく小屋の中でゆっくり涼んでいる。

 

昨日のせいで筋肉痛なのだ。ゆっくりしたい。

 

まさかあそこまでボコボコにされるとは思ってもいなかったから。

 

特に顔が痛い。英雄王様はと言うと爆笑してたし。

 

 

「…一体いつ来るつもりなんだろうね。私はいつでもいいんだけど」

 

 

ずっと気を張り続けるも流石にこんな時間帯には襲ってこないらしい。

やるとしたら…夜?

 

夜なら霊力も十分補てるし願ったり叶ったりなんだけど。

 

 

ホテルに戻りながらそんなことを考え、即座に寝た。霊力はあればあるほどいい。

 

 

 

 

夜になって、就寝時間が迫っているであろう時間に動いてきた。

匿名の手紙、みたいな感じでここにきて欲しい、という旨を書いた手紙が部屋に置いてあった。

 

場所は…浜辺。

 

周りには向こうの手の者を忍ばせているから心配はいらないらしい。

 

「…では、行って参ります。我が王よ。此度のみのわがまま、聞き入れていただき感謝いたします」

 

『良い。だが我を飽きさせぬことだ。我の臣下たるもの、つまらぬものを見せるでないぞ?』

 

「承知しております。では、お眼鏡に叶うよう努力いたします」

 

 

 

 

 

 

昨日にアイツとあった場所と全く同じ場所にたどり着いた。

無論精霊化はすでにしている。

下半身と右腕を黄金の甲冑が覆っていて黒いシャツを着ている。

シャツの隙間からは赤い紋様が刻まれているのがチラリと見える。

 

「やあ。待っていたよ。神夏」

 

「私もだよ、この日を何度夢見たことか、マイラ」

 

そこには先客がいた。

メイザースと一緒に来たという男のカメラマン。

褐色を薄くしたくらいの肌の色で茶髪のストレートを短く切りそろえている。背丈は190くらいだったか。

 

私の、()()()()()()()

 

「はは。俺もだよ神夏。君を殺すことは俺の悲願だ。君という強者を殺すことで俺は満たされる」

 

「あいかわらずの戦闘狂。そんなに満たされたいならメイザースに相手してもらいなよ?何も私にこだわる必要がない」

 

「メイザースというか人間はダメだよ。だって、超人的な能力を持っているとはいえあいつらは()()()()()()()()()。精霊はその点では違う。皆が摩訶不思議な能力を持っている。

使い方によっては暴力的なまでに強い。

ただ人間に勝ち続けるじゃ人間を超えるだけだ。

だが人外に勝った時人間は人外を超えれる。

そう思わないか?」

 

嬉々とした顔でマイラはそう語る。

 

…いつから、この人はこうなっていたんだろうね。私はそれに気づかず、優しくしてくれたマイラに依存していた。

 

「…くだらない。わたしと英雄王様を前によく騙そうと思ったね?

結局君はメイザースに勝てないからメイザースよりは弱いと思われる相手に目をつけただけだ。

メイザースは文字通り世界最強なんだろうね。英雄王様さえいなければ、だけど。

そんなメイザースに勝つのも無理。メイザースが勝てない英雄王様も無理。ならば英雄王様の依り代となっている、()()()()()()()()()()()()()()()私に目をつけたわけだ。

()()()。私以外にも精霊はあの場にいた。…エンジェル、とか言ったっけ?あいつと私を、力を使いこなせない私と比べて私の方が弱いと踏んだから、私とあいつとの殺し合いを傍観してたんでしょ?でも結果は違った。私が、無慈悲に、徹底的に殺して(ころ)したから。

あとお前は人外を超えたい、とか言ってるけど違うね。

精霊が死んだ時に体外へ抽出される精霊の力の源である結晶がほしいだけ。結局お前もその辺にいる無垢な子供となんら変わりない。

オモチャが欲しいだけの子供だ。

精霊の---人外の力が素晴らしいから、人知が及ばないからこそ惹かれ、欲しがる。

お前は、愚かだ。私よりも、現実を直視できない、愚かな子供だ。私を狙うのも、私の力が一番すごいからとか、そんな理由だろ?そしてわたしが弱いから、というのもね」

 

それを言い放つとマイラは一番の笑みを作った。

ご名答、とでも言わんばかりに。

 

「ああ、そうだ。人外を超えたいというのも本当だが、俺はあの日、どうしようもなく惹かれたのさ。あの『乖離剣エア』という力に。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』という力に!

 

だって素晴らしいじゃないか!星の抑止力があるとはいえ一振りで空間を割き、地割れを起こし、あたり一帯を死滅させる!なんて素晴らしい力だ!ああ、あれを俺の力にできたなら…」

 

「『口を閉じろ雑種』」

 

 

男---マイラと呼ばれた男は、突然の神夏ギルの豹変した口調に一瞬戸惑った。

それに構わず、怒りを抱いた神夏ギルは、口を紡ぐ。

 

 

「もうそれ以上口を開くな。虫唾が走る」

『エアを持つ資格があるのは天上天下にただ一人、英雄王ギルガメッシュのみ。貴様ごとき虫ケラが持とうなど、烏滸がましいにもほどがある。貴様のような雑種、拝謁することすら不敬に値する』

「それをよもや奪おうなど、もう貴様の肉片など一片たりとも残しはせんぞ」

『我を怒らせるその不敬、死と絶望をもって償え』

 

「『さあ、死ぬ気でこい。その全てをねじ伏せ、圧倒的な力で以って貴様の全力をねじ伏せ、王の威光を以って処刑をしてやろう、雑種』」

 

二重に聞こえる声を響かせながら神夏ギルは、ギルガメッシュは怒りを露わにし目の前の雑種の処刑を開始した。

 

 

 

 

「『カルナ』起動」

 

マイラはインド神話の英雄の名を模したCR-ユニットという対精霊用装備を身に纏った。

身に纏うロボット、のような感じのもので手には先端が円形、さらにその先に槍の先が乗っているような、特異な形をした黄金の槍を携えていた。

 

だが、その『カルナ』という名が余計に神夏ギルの---いや、英雄王ギルガメッシュの怒りに触れることとは思ってもいなかった。

 

「…もうよい、貴様の愚行はもう見飽きた。せいぜい散り様で我を愉しませよ。貴様に怒りを抱くという行為すら烏滸がましい。

 

貴様には、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それはインド神話の英雄カルナというのは英雄王ギルガメッシュが認めた英雄だからだ。

記憶こそはおぼろげではあったが確かに覚えていた。

カルナは、英雄王ギルガメッシュが認めるに値した英霊だと。

 

なれば、その名を騙る不届き者をどうするかは自明の理だ。

 

『あとは勝手にせい。特等席で見物させてもらおう』

「はっ、お任せください」

 

そうして体の所有権を改めて手にした神夏は右手を高く掲げた。

 

「今回は特別も特別だ。さあ、思う存分味わえ…雑種!」

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の黄金の波紋が100門以上開く。

その先端からは古今東西の英雄が扱ったと言われる伝説の武器----宝具が顔を覗かせる。

 

右手を振り下ろし、全ての門から宝具を降り注がせる。

 

「カルナの名を模している以上、この程度でくたばらないでよ?」

 

連射を止めることなく宝具を降り注がせる。

土煙で見えてはないがどうせこの程度の児戯、防げるだろう。いや、防げなければ困る。

 

この程度でわたしの怒りが、憎悪が収まるわけがない。

 

煙の中に少し見えたのは、苦戦というわけではないが的確に武器を弾き、宝具の嵐を捌いているマイラだった。

 

しかし真正面から弾いている、というわけではなく軌道を反らしながら、といった具合だった。

 

「次はこれだ。さあ、死ぬ気で防げよ?あの巨大な剣を扱う精霊はこの程度も容易く防いだぞ?」

 

「チッ…ああ、そうかい!」

 

足めがけて降らせた宝具を飛んで避けたところへ前後上下左右至る所から囲むようにして門を展開する。

 

それに少し焦ったような顔をするも、撃ち放たれた宝具を弾き、避け、掴み、受け止めていた。その腕はメイザースほどではないとはいえ確かにすごいものだろう。

 

だが、その『掴む』という行為が、神夏の、正確には混じりかけている英雄王としてのプライドを激昂させた。

 

「ほぉ…その穢らわしい手で我が王の宝物に触れるか。そこまで死に急ぐというのなら望み通りにしてやろう」

 

「なっ⁉︎ぐっ…」

 

少し、少しだけ連射速度を上げた。

本気ではない。

 

この程度のやつに本気を出せばそれこそ笑い物だ。

 

マイラは段々と捌き切れなくなり、とうとう左肩に宝具が直撃した。

 

「この程度で我を倒すとは…戯言にもほどがあるぞ?」

 

宝具の連射を止め、そう告げるもマイラは不敵に笑うだけだった。

 

「そっちこそ、戯言にもほどがある。なぜ攻撃を止めた?さっき俺が左肩にくらった時、最も好機だったはずだ」

 

そう告げてくるが、何を勘違いしているのだろうか。

 

 

「止めた理由?そんなもの至極単純。

この程度の児戯で罪が赦されるとでも?調子にのるなよ雑種。貴様の行うべき行為は、全てを出し切った後、絶望に平伏しながら我に赦しを乞い、命を奪われる瞬間を、慈悲を与えられる瞬間を感謝しながら待つことだ。分かったらとっとと構えよ。まだ終わりではないぞ?」

 

 

「はは、当たり前だ。これしきの事で俺の悲願を諦めきれると思うなよ!それにな…俺は、そのような余裕な態度が崩れさり、こんなはずではなかった…とうちしがれる姿がなぁ、とっっっても好きなんだ。なぁ神夏、お前、俺を失望させないでくれよ?」

 

 

そこから今度は『王の財宝』を使うのではなく…自ら手に武器をとった。

 

その剣の銘は『原罪(メロダック)』。

アーサー王伝説に登場するカリバーンと言う名の『選定の剣』の原点。

 

それを門から抜き取り、他全ての『王の財宝』の門を閉じる。

 

「…何の真似だ。俺をナメてるのか?」

 

「貴様ごときナメてかかる価値すらない。言わなかったか?我が行うのは処刑だ。一方的な虐殺にすぎん。貴様は、普段踏んで命を散らしているかもしれない虫や草木をナメているのか?違うだろう?我が貴様に抱いているのはそういうものだ。もっとも…怒りがないわけではないがな」

 

「それをなぁ…ナメてるっていうんだよ!」

 

マイラは槍を構えこちらへ突撃してきた。

 

 

その瞬間だ。

 

突然突風が起こったと思ったら風の弾が無造作にこちらへ飛んできた。

 

それをマイラと共に弾く。

 

「雑種風情が…我の邪魔をするか。その不敬、万死に値するぞ?」

「俺と彼女との時間を邪魔するなんてな、先に殺されてえか?」

 

「反論。こちらのセリフです。邪魔ですのでそんな所で戦わないでください。今から私と耶倶矢の戦いが始まるのですから。邪魔するというならばそちらからやっても構いませんよ?」

「こっちのセリフだし。勝手にそこでやり合ってるのが悪いんじゃん?文句があるならそっちからやっても構わないわよ?」

 

双子の精霊はそう返してきた。

 

 

それにより、余計に神夏は怒りが増していた。

 

そんな神夏をみた双子の精霊は一瞬で構えた。

 

 

 

『戯けが。目的を履き違えるでない。貴様の目的はその程度の邪魔で断念されるほどのものか?貴様のいう目的はその程度のものなのか?』

 

「…っ、そうでした。申し訳ありません。…そこの双子の精霊。私達が先にここで始めたんだ。だからお前達が別の場所でやれ。さっきみたいなチャチな余波程度、次はもう気にしない。だけど…次邪魔をしたら、その時は本気でぶっ潰す。…それじゃ、行った行った」

 

 

英雄王様に咎められ、沸いていた怒りを無理やり沈めた。

そして双子に向かってそういうと最初こそムッとなっていたが睨んでやると一瞬怖気づいたのかそのま離れた場所へ向かった。

 

まだ近くに台風がある、と思えるほどの暴風が吹いているが、まあこの程度、大丈夫だろう。

 

「神夏!ど、どうしたんだ!一体…」

 

改めてむきなおり、私もマイラも武器を構え直した所、また話しかけられた。

声的に五河君だったから無下にせず振り返る。

そこにはとても焦った顔の五河士道と夜十神十香がいた。

おそらくは、私にあの二人を止めてもらいたくて来たんだろうが、あの二人のことなんざ知ったことじゃない。

 

「邪魔しないでよ、五河士道。夜十神十香。これは私の悲願なんだ。達成すべきものなんだ。ずっと忘れようとしていた。こんなものは捨てて普通に生きようと思った。

 

()()()()()()()()()()()

正確にいうならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だからこそ、私はこの男を、たとえ殺すことを嫌悪しているとはいえこいつを殺す。

君のおかげで、私はやるべきことが確立した。

…ねぇ、エレン・M・メイザース。間違っても。私の邪魔…しないでね?その時は君ごと葬り去る」

 

どういうことなのかわからず戸惑っていた二人は、急に後ろに現れた気配に振り向いた。

そこにはいつかみたアーサー王の名を冠しているCRーユニットを身に纏っているメイザースがいた。

 

「良いでしょう。私のいまの目的は『プリンセス』のみです。貴女ではない。…さて、プリンセス、私と手合わせ願いましょうか?…ああそれと、マイラ・カルロス。命令違反に関しては()()()()()()()()()()()厳重に処罰するつもりですのでお覚悟を」

 

エレンに見られながら淡々といい放たれたマイラはどこ吹く風、といった感じだ。

それに対して私は改めて手の中にある『原罪』を握り直す。

 

 

そうしてこの場で

 

精霊【アロガン】・神夏ギル 対 魔術師(ウィザード)・マイラ・カルロス

精霊【ベルセルク】八舞耶倶矢 対 精霊【ベルセルク】八舞夕弦

精霊【プリンセス】夜十神十香 対 最強の魔術師(ウィザード)・エレン・M(ミラ)・メイザース

 

似つかわしくない大規模な戦闘が3つ、しかも同時に開始された。





おそらくですが、原作でいう5巻が描き終わったのちに神夏の過去編をぶっ込もうかな、と考えています。
過去のを見てない限り、神夏の行いは絶対意味がわからないですし。

その辺の話の構成、やっぱり実際に本を出してる人やランキング上位に乗ってる人はすごいですよね…私もその才能欲しいです。


それではこの辺で。


読んでくださりありがとうございます


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29話

今回割と早めにかけたんじゃね?っておもったらそうでもない
一ヶ月も空いてしまっていた…,
この癖直さないと…,


とりあえずキリのいいところまで描き進めました

それではどうぞ


この男、マイラとの一番古い思い出は何だろう。

少なくともいいものではなかったことは覚えている。

 

確か…私はマイラのことを男か女かわからないといい、マイラには…なんだけ?覚えてないや。でも、とにかく初対面でケンカをしたことは覚えている。

 

そこから…気づいたらよく話すようになって。

小学校までは同じで、中学でマイラは男子校へ行ったから別れたけど家が近かったからよく会って話して。

ケンカもたくさんしたが楽しかったのは今でも鮮明に覚えている。

 

私が償っても償いきれない罪を犯したとき、私が自暴自棄になっていた時に、救ってくれたのもマイラだった。

 

 

そして……

 

 

 

私を絶望へ叩き落したのもマイラ()()だった。

 

 

 

今でも鮮明に覚えている。

マイラとのどの記憶よりもだ。

 

 

目の前で裏切られ、叔母さんや叔父さんを、傷つけられた。

 

唯一、イギリスでできた友達すらマイラの差し金で。

 

何も信じれなくなった。

 

 

何も知らない叔母さんに、お父さんの生まれ故郷の日本に行くかどうかということを提案され、マイラのいる地から離れたくて、もう私の知っている人が誰もいない場所へ行きたくて

 

 

 

両親をこの手で殺めたこと以外のすべてを忘れたくて

 

 

私は二つ返事で日本に行くことを決めた。

 

もう二度とマイラに会いたくなかったから、

会ったら、問答無用で殺してしまいそうだったから。

 

私を精霊と、意思を持つ災厄として狩ろうとして来ていたDEMという会社にも、もう遭遇したくなかった。

 

とにかく、故郷にいたくなかった。

 

精霊化も、もうしないと決めていた。

英雄王様のなりきりをして恥ずかしいと思っていたのもあり、また躊躇なく人を殺してしまいそうだったから。

 

日本の高校生の年齢になって日本に来てから、一年間は普通に、何事もなく過ごせた。日本にも対精霊部隊はあるのは知っていたけど霊力を隠す道具もあったから大丈夫だった。

普通に、独りで過ごせていた。

 

 

それなのに、それなのに

 

 

五河士道と出会ってからすべてが変わった。

私を取り巻く環境が、人間関係が。

 

 

でも、そのおかげで色々なことを知れた。

決意もできた。

 

五河士道のおかげで、思い出せた。

 

 

私が成すべきことを。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!」

 

「ふん」

 

マイラは槍を振るい、それを私は剣ーー原罪(メロダック)を振るう。

若きアーサー王が抜いたとされる選定の剣カリバーンや大英雄シグルドが使ったという龍殺しの魔剣グラムの原点だ。

 

本来なら、もっとふさわしい剣もあるが英雄王様がこの身に宿っている以上は使えない。

その剣は持ち主に破滅しか与えないのだから。

間違っても英雄王様を破滅させるくらいなら死を選ぶ。

 

「おらおら!あれだけ大口をたたいててその程度かぁ!神夏ぁ!」

 

「騒々しい雑種だ。少しくらい静かにできないのか?道化すらもう少しわきまえておったぞ?」

 

幾度となく槍をふるってきてはいるが、うるさいものだ。

ただでさえ耳障りな声だというのに。

 

そしてカルナの名を冠している割にとことん槍の扱いが雑で、低俗で、腹が立つ。

英雄王様が立ち会った時のカルナの槍術は、こんなものじゃない。

 

 

「ふっ…」

 

「ちいっ!」

 

「遅い」

 

大ぶりで、速度も遅い。

槍を思い切り振り下ろしてきて、あえてマイラに接近してよける。

髪にかすって数本パラパラと落ちたがそれでもマイラは目と鼻の先だ。

 

ここまでくれば十分で、私はメロダックでマイラを斬りつけた。

最初こそマイラは自身のまとっている機械の鎧を頼っていたのか逆に笑っていた。

 

しかし斬りつけた瞬間にマイラの顔は痛みで歪んだ。

 

まあご自慢のガラクタ鎧をあっさりと斬られたらそうなるよね。

 

鎧の切れ込みからは血が少しとはいえ出ていた。

結構深めにやったつもりだけど意外と浅かったらしい。

 

「くそが…だがその程度の攻撃、何万発やってこようが俺の命には一生届かねえよ。さあ、とことんやろうぜ」

 

「…もう、忘れたのかな。これは戦いじゃない。処刑だ。君には苦痛と絶望をもって処刑するといったはずだ。

 

この程度で死んでもらっては困るから、あえて死なないように攻撃したんだ。それくらいわからないかなぁ?脳筋バカが」

 

「黙れ!」

 

槍を横に薙ぎ払ってきてそれをしゃがんで避ける。

そして今度は下から斬りつける。

 

先ほどつけた傷と垂直になり自慢していた鎧に十字傷ができる。

が、今回は血は流れてこない。

 

「おっと」

 

「ちっ、うまくだませたと思ったんだけどな」

 

今度は地面ごと下から斬りつけてきた。それを後ろに大きく跳んで避ける。その時にあいつの立ち位置を見ると斬る前より下がっていた。

どうやら少しだけ後ろに飛んで体を斬られないようにしたらしい。

無駄なことを。

 

「…」

 

「あ?何の真似だ」

 

私は中距離からメロダックを突く要領で構える。

それを見てあいつは何もせず、ただ見ていた。

愚かなことだ。

 

「…はっ!」

 

「⁉」

 

私はメロダックを光らせて虚空に向かって突いた。

すると剣から光の渦が飛び出す。

あいつは慌ててよけようとするがもう遅かった。

光の渦はマイラを飲み込んだ。

渦が去った後には全身あちこち焼かれているマイラが砂浜に横たわっていた。

ご自慢の鎧もほとんど剥げている。槍ももう原型をとどめていない。

 

それはそうだ。雑種ごときが作ったガラクタ程度、本気でやらなくとも王様の宝物ならば一瞬で砕ける。

 

が、体が多少焼けただけで済んだのはあいつら魔術師(ウィザード)が使う随意領域(テリトリー)とやらのおかげだろう。

しかし当の本人は魔力だか何だかの使い過ぎで昏倒しかけていた。

 

必死に体を起こそうとしている様は滑稽の一言だった。

 

マイラにゆっくりと近づく。

マイラは私に気づくとなぜか怖気づいて私から離れようとしている。

 

いったい何をしているのやら。

殺し合いを望んだのはお前だ。

 

なに逃げようとしている。

これは処刑だ。

私の、英雄王様の決定に背くつもりか?

 

そんなことが許されるとでも思っているのか?

 

私の憎悪がこの程度で収まるとでも思っているのか?

 

「そら、疾く立て。よもやあれだけ大口をたたいておきながらその程度か?」

 

私がそばに立ってもまだ逃げようとするマイラを見て余計に腹が立ち、無造作に思いきり蹴る。

メキッという音とともに吹っ飛ばされ岩にぶつかる。

 

それに向かってまた近づく。

今度は右腕に向かってメロダックを突きさす。

ジュウという音とともに刺さっているあたりから焼け焦げたにおいがする。

痛みによる絶叫とともに。

 

メロダックを引き抜き顔を蹴る。

 

顔の骨も、あばらの骨も折れているだろうに、まだ無様にもマイラは逃げようとする。

 

 

フザケルナヨ。貴様には、もっと、もっと…

 

絶望を与えるんだ。私みたいに。

 

「がっ…」

 

 

 

「ああ、憎い憎い憎い憎い!なんで!なんで私は!お前なんか好きになってしまったんだ!お前となんか!出会わなければよかった!ふざけるな!なんで私にばっかり!ただ私は!」

 

 

 

首根っこをつかみ、力を無造作にかける。が抵抗しているのかなかなかへし折れない。

だからメロダックを振りかざす。今度はもう急所は外さない。的確に、心臓を、ツラヌイテヤル。

 

その顔を、絶望で塗り固めてやる。

かつての私のように。

 

 

 

「神夏ギル!」

 

 

メロダックを振り下ろした瞬間、誰かに体当たりされた。

急な攻撃で思わずつかんでいた手を離してしまう。

 

マイラからも離れてしまう。

攻撃してきた相手を見ると、それは女だった。

宵闇色の長髪でポニーテール。同じような色をした目。夜十神十香。

 

 

「今更何用だ、邪魔をする気か」

 

「…っ、貴様、()()()

 

「何を、言っている」

 

 

十香にそういわれ、疑問で返す。

 

「私、は、神夏、ギルだ。英雄王様の、依り代の…」

 

「違う」

 

またしても十香に否定される。

 

「ずっと、お前とは争ってきた。お前に負けっぱなしが嫌で何度も色々なことで挑んだ。些細なことばかりだったが…だからこそわかる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

お前は、何者だ?」

 

 

十香にそういわれる。

 

何を、言って…

 

私、は、神夏ギル、だ。

それ以上でも、それ以下でも、ない。

 

 

「お前のことは、正直嫌いだ。だが…お前に、そんな顔をしてほしくないというのも本音だ。シドーに頼まれたのも正直あるが、それ以上に私はお前の姿をしたナニカによってお前に苦しいことを背負わせたくはない。きっとその男を殺してしまったなら、もう取り返しのつかないことになる。それだけはわかる。

だから…神夏ギルの形をしたナニカよ。それ以上、その男を傷つけるというのならば、私が全力で止める」

 

 

「ふ…ざけるな!何が!止めるだ!私と何にも関係がないくせして!私のためだとか言って!結局は全員自分のためだろ!結局そうだ!私にやさしくしてくれた人はみんな私のためだといった!私を想っていると言ってくれた!

 

でも全部!嘘だった!結局はみんな自分のためだ!マイラも、叔父さんも、叔母さんも、私に近づいてくるみんな!自分のために私を利用した!」

 

 

「確かに、私のためだ。私は、お前がそれ以上傷ついてほしくないから、お前にそれ以上の絶望を背負ってほしくないから、シドーが悲しむから、四糸乃が悲しむから、みんなが悲しむから。

私はお前のためではなくお前を想う皆のために、お前を止める。お前を、利用する」

 

 

「…ああ、そうかい。わかったよ。じゃあ、お前も殺す。私の邪魔をするからには、この男を殺す障害となるのなら、お前を殺す。夜十神十香」

 

 

「はは、ようやくちゃんと名前を呼んでくれた気がする。こんな呼ばれ方は嫌だがな。スゥーーー鏖殺公(サンダルフォン)!」

 

 

十香はそうして天使を呼び出したが、その天使はあまりにも脆弱だった。光の輝きはほとんどなく、形を保っているのが精一杯、といったような。

まるで力を一度使い果たしながらも再度無理やり呼び出したかのような。

 

 

だが神夏はそれに気付けていなかった。

神夏は、神夏——???——はメロダックを握り直し、十香と向き合った。

 

 

 

十香は鏖殺公(サンダルフォン)を構え、神夏をじっと見る。

 

かつての神夏ならば、たとえ十香といえど霊力が万全であろうがやらないだろう。ましてやほとんど尽きた状態で対峙するなど間違ってもやらないだろう。

 

だが、今の神夏は霊力が底をつきかけていても、それでも十分勝てる見込みがあると思っていた。

 

すぐさま近づき自分の間合いへ持ち込みたかったが、あの何でもアリに近い能力のこともあって持っている剣がどんなものかもわからず近接へすぐ持ち込むのは愚策だと思いその場にとどまる。

 

「来ないなら…こっちから、行くよ」

 

そう言いながら神夏は地面を蹴り十香へ急接近した。

神夏は下から斬りあげ十香は鏖殺公で受け止め同時に後ろへ飛ぶ。

神夏それを追いかけるようにさらに地面を蹴り無造作に剣を振るう。

十香は体を捻り避ける。

 

 

十香は剣を扱う精霊。

英雄クラスならまだしも、扱いは素人同然の、身体能力のみに頼っている神夏の剣は十香からすると赤子同然のものだった。

 

 

上からのものを弾き斬りつけ、横からのものを柄で受け止め蹴り飛ばし、下からのものを飛んで避け袈裟斬りにする。

 

「っ…があっ!」

 

「むっ」

 

神夏は切られた直後に力任せに剣を再度振るう。

予想外だったのか十香は一歩下がって鏖殺公で受け止めた。

そのまま鍔迫り合いに持ち込まれる。

 

「ふーっ、ふーっ」

 

「…私も、お前の気持ちはわかるつもりだ。大切な人、その人が大切にしている人に裏切られたらどれだけ辛いか、私も同じようなことがあったからな。だが…それでも言おう。

 

神夏ギル!お前には!絶望(そんなもの)は似合わない!お前は、怒りに身を任せるような、そんな奴ではない!だから目を覚ませ!」

 

「うる…さい!」

 

そうして神夏がまた力任せになぎ払おうとした時だった。

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の砲門が複数展開され、そこから天の鎖が射出された。

 

それは十香を縛るのではなく

 

 

神夏を縛った。

 

 

「なっ…」

 

「何…で…」

 

何かを言おうとした神夏の口は、本人の意思とは全く別の動きをした。

 

「ふははは!よい!良いぞ夜十神十香よ!貴様のその度胸気に入った!一度完全敗北をした我とは違うとはいえ、覚悟を持って向かってくる様、良いぞ!…むっ、流石に厳しいか?さて夜十神十香よ、我が赦す。この神夏(阿呆)をぶちのめせ。此奴は手を出すなと忠告したものへ手を出した。そして我につまらぬものを見せた。その罰を夜十神十香よ、お前()自身の手で与えるが良い。生憎我は押さえつけるので精一杯なのでな。貴様が懸念しているエアや他の武具はもう此奴には使わせん。ここまでして…無様な姿を見せるなよ、小娘」

 

 

それは英雄王ギルガメッシュだった。鍔迫り合いをしているというのに、その神夏の体の主導権を強引に奪い言葉を発したのだ。喋ることと鎖を射出することにしか力を避けなかったのか、喋っている最中にも鍔迫り合いは拮抗していた。だが、神夏は鎖で縛られ精霊の力を思うように扱えなくなった。

小難しくいっていたが簡潔にいうと、今は手が離せないから代わりに神夏をぶちのめせ、であり、十香はそれを直感的に理解した。

 

「ということだ、神夏ギルよ。少々…,痛いかも知れんが許せ」

 

「やれる…ものなら、やって、みろ!」




ひとまず…アニメ2期分終わるところを目安にやっているので物語的にはだいぶ終盤にかかっております(あの人やあの人も出てくるのでまだまだ続きはしますが)

そろそろ神夏の精霊としての状態なんかもわかってきたのではないでしょうか。

ギルガメッシュが宿っていない状態の、神夏ギルとしての精霊の天使、○○○の名前。その辺も近々本編で明らかになっていく(予定です)


読んでくださりありがとうございます


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30話

最近、女体化ギルガメッシュを改めて調べました。
そして気づいたことが一つ。


…自分の描いてるのって姫ギルじゃなくて女帝のほうじゃね?


タグに念のため女帝のほうも追加しておきました。

さて、今回で色々と、起こるかもしれません


それではどうぞ


精霊の力を封じられている神夏

霊力の尽きかけている十香。

 

この両者が剣のみで戦った場合どうなるか。

 

 

 

「はぁ…はぁ…。クソ…」

 

「もう終わろう。神夏ギル。きっとシドーも……」

 

神夏の持っていた『原罪(メロダック)』を弾き、神夏はその場に打ちしがれた。

二人の周りを覆っていた暴風は気付くと止まっていた。

 

十香は神夏の身を案じ、神夏の身を案じている士道のことも案じ、もう戦いを止めようと言おうとした。

しかし、それは今の神夏にとって火に油を注ぐ行為だった。

 

 

「う…る…さい」

 

「もうこれ以上、お前を攻撃したくない。だから…」

 

「…私は、マイラ(あいつ)を、殺す。君達のおかげで、それを、決心したんだ。それを…なんで、邪魔をする。君達にとって…私が何をしようが、関係ないはずでしょ…。私に、復讐を……させてよ」

 

力なく神夏は言う。

 

 

 

十香はかつての自分を

 

初めて士道とあって、士道を殺されかけた時の自分を見ているようで心苦しくなっていた。

 

 

だから、十香はそんな自分を救ってくれた人の言葉を、投げかけた。

 

 

「それは嫌だ。シドーにも言われた。令音にも。お前を助けてやってくれ、と。

シドーは言っていた。『憎しみで相手を傷つける為に自分だけの特別な力を使うなんて、そんなのは悲しすぎる。どうせなら…大切なものを守るために使って欲しい。俺も、この力を精霊のみんなを守るために使いたい』って。

令音は『復讐は相手だけでなく自分の身をも滅ぼす。だから…()えないといけない。相手を許せとは言わない。だが…復讐を完遂することは…やめたほうがいい』って。

言われた時は、よくわからなかった。でも…今のお前を見て、なんとなくだが理解できた。だから…」

 

 

そんな時だった。

 

 

急に上空から()()()()()()

後部から煙を噴いていたが、それは正に戦艦と呼ぶに相応しいものたった。

フラクシナスというのも巨大な艦だったが、こちらはさらに攻撃特化しているかのようなものだ。

 

その艦の目的は、すぐにわかった。

降りている地点に二人の精霊がいた。

 

五河士道が止めていた風の双子の精霊だった。

それと同時に現れたのはいくつもの人型の機械。

 

艦は双子の精霊を目標に、人型の機械は神夏たちを目標に動いてきた。

 

「っ、またか…!」

「…バンダー…スナッチ。…そう、か。アイツや、メイザースが来てた時点で、なんとなく気づいてはいたけど…やっぱり、きてたのか…。でも、もう…どうでもいい」

 

もう、力を使えない。殺すことすらできない。なら…もう、どうでもいいと、神夏は感じ、その場からは動こうとはしなかった。

 

バンダースナッチと言う名の機械人形が四方八方から神夏たちを捕縛せんと襲ってきている。

そんな神夏を十香は必死に庇い続けた。

だが、元より霊力の尽きかけていた十香。精霊の力を使うことが叶わない神夏。

 

次第に押されていき、段々と十香は傷を負い始めた。

 

 

 

 

 

〜???〜

 

【…交代するしかないかな。我が宿主と】

 

『ふん、貴様が出る幕などないわ。何より、貴様が表へ出ると神夏のやつが壊れてしまうわ。我の体でもあるこの身に、そのような狼藉を働く気か?』

 

【流石にそんな事はしないよ。曲がりなりにも私の宿主でもあるんだから。私が健在でいられるのも宿主が健全と言う前提がある。だから…私が表に出てやるのは、あのガラクタ人形の殲滅。それに、だ。君に力の大半を押さえつけられている。使える力は1割にも満たない。そんな私が表に出たとしても、宿主は壊れる事はない。

まぁ、今以上に破壊衝動の大きい方に精神が染まる可能性はあるけれど、それに関しては君がいるからね。『()()()()()()()』をその身に浴びたと言うのに、全くこたえないどころかその三倍を持ってこいとかいう君がいるからこそ、私と言う存在と君たちと言う存在の両立が成立している】

 

更に言うならば、霊力の大半を使って私と言う存在を押さえつけているおかげでもある、と黒いナニカは付け加えて言う。

 

【約束しよう。今回表へ出るのは我が宿主を助けるためだ。それ以上は何もしない。必要最小限の事をやり宿主への影響も最小限にする。これでもダメかい?何せ、今君は自分のせいとはいえ力を思うように使えない。ならば、1割弱とはいえ力をしっかり制御できる私が出た方が効率的だろう?】

 

『…よかろう。だが、3分のみだ。それ以上は許さん』

 

【十分だよ。それじゃあ…早く私の体を縛っている鎖を解いてくれないかな?こんながんじがらめだと思うように動けない】

 

『よかろう。だが、自由にして良いのは右腕のみだ。それ以外は天の鎖で縛られた状態だ』

 

【うん。構わないよ。右腕さえ使えればあとは動かなくてもどうにでもなる】

 

『ならば疾く行け。失敗は許さんぞ』

 

【はいはい】

 

こうして神夏の???の中で話していた二人のうち、黒い方は表へ出て行った。

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

「ふぅ。久々の外界だ。あー、ずっと鎖で縛られてたから体がバキバキだよ。といっても、今も縛られてるけど」

 

突然、エレンとか言うカメラを持っていた女が使っていたメカメカした人形が大量に現れ私たちを襲ってきた。それを必死に神夏ギルをかばいながら殲滅していくも、徐々に圧倒的な戦力差に押されていき、鏖殺公も砕けかけてきていた。

死なせるわけにはいかないと思い、神夏ギルを背負って逃げようと思った時だった。

突然神夏ギルが光った。

 

いや、違う

 

 

黒く光った。

 

その直後に現れたのはいつもの金ピカの神夏ギルじゃなかった。

周りにたむろしていた十体ほどのメカメカしい人形を一瞬で破壊し、立ち上がった。

 

黒い、…なんといえばいいのだろうか。紫と黒の霊装で、今までの神夏ギルと対をなしているような…。

 

私の霊装のドレスを更に濃くしたかのような、それと同時にどす黒いというイメージが出てきた。あの金の煌びやかな髪も、濃い紫色へと変化していた。

 

そしてなぜか左腕は背中に回され、豊満な胸が強調されるかのように、脚はそれに対して全く動かさせないかのように鎖でがんじがらめに縛られていた。

その鎖はいつもの神夏ギルが使っていたものだとすぐにわかった。が、なぜ自分の体を?と言う疑問が出たが今は頑張って無視をした。けれど、よくこの状態で立ち上がれたな、と思ってしまった。

顔はいつもの神夏ギルだったが瞳の色も変わって紅色から黒い瞳になっていた。

 

 

もう一つ。私は神夏ギルを『神夏ギルの姿をしたナニカ』と表現したけど、今の神夏は()()()()()()()

私や四糸乃、狂三や琴里とは()()()()()()()()()()()、そんな力を感じた。

 

 

「さて、夜十神十香とやら。このガラクタどもを殲滅するのでしょう?私が手を貸してあげるから、疾くやるよ」

 

「っ、あ、ああ…。だが、その前に一つだけ聞かせてくれ…。お前はなんだ?」

 

「そのような事を聞いている暇があるのかい?けどまぁ、呼ぶ時の私の名前くらいは教えないと不便だね。私の名は…正確には力の名前だけれど。

 

 

私の名は 『??王(ルシフェル)

 

 

まあ気軽にルシとでも呼んでくれ」

 

ルシフェルと名乗った神夏ギルの姿をしたナニカは背後から近づいていた人形を裏拳で吹っ飛ばした。

 

「ふむ…右腕のみに力を集中させれば、といったところかな。だけど、一歩も動けないのは流石に不便だなぁ」

 

不便という割には右腕のみで軽快に近づいてくる人形達をちょっとした小突きのような事でぶっ飛ばしていった。

頼もしい事には頼もしいが…どうしても信用ができなかった。

 

「酷いなぁ。そんなに警戒しないでくれよ。貴女と私の利害は一致しているんだ。

 

神夏ギル(我が宿主)を守る』というね。

 

精神的に汚染してしまう可能性はあるけれど、私も彼女を大事に思っているんだ」

 

それに約束を違えてしまうとあの金ピカ王様に怒られるしね、と小さくルシフェルと名乗ったナニカは最後に付け加えた。

 

「さて、もう良いかな?それじゃあ、殲滅を始めよう。夜十神十香。3分でケリをつけよう」

「あ、ああ!」

 

そう言われて返事をしたはいいものの、どうしてもこのナニカを、信じることができなかった。

 

 

 

心の底で恐怖していたのかもしれない。

声音は優しいがその奥底に残虐なものを感じ取ったからなのか、それとも別の何かを感じたからか。それは十香自身にもわからなかった。

 

 

 

 

 

「はあっ!」

「ほうほう。霊力が尽きかけているとはいえ流石だな。我が同胞(はらから)よ。にしても…流石に数が多すぎるな。…ふむ、夜十神十香よ、しゃがめ」

「え?」

「全員、壊れてしまえ」

「わっ⁉︎」

 

神夏-----ルシフェルはただ純粋に近づいてきた機械人形--バンダースナッチを退屈そうに殴り飛ばすのを繰り返していた。

そしてラチがあかないと思ったのかルシフェルは右腕を上に挙げた。

 

そこから周囲に向かって黒い電撃をまき散らした。ソレは電撃の一つ一つが意思を持っているかのようにウネウネと動き周りにいた数十体のバンダースナッチ全て貫き、そのままバンダースナッチを出し続けている艦へ向かっていった。

 

「危ないな!」

「しょうがないでしょう?こうでもしないとラチがあかない」

 

バンダースナッチが全て音を立てて倒れた後に十香は勢いよく立ち上がりルシフェルに抗議した。が、ルシフェルはどこ吹く風といった顔だった。

 

その時だった。

 

「っ⁉︎」

 

「おお、あの双子の精霊の天使か。これはこれは、中々派手なことだ。弱いとはいえ私の電撃ごと吹き飛ばしたか。やりおるやりおる」

 

突如離れたところで、また突風が吹き荒れたかと思うと一つの弓矢のようなものが展開され、空に浮遊していた戦艦へ向かって矢が放たれた。

矢が放たれた衝撃でとんでもない風圧が起きているのか周りの木々は薙ぎ倒されていき、矢は戦艦を見事に貫き爆発を起こした。

 

「……なに、もう時間か。だが、このまま神夏の体を使い続けるのも……痛い痛い嘘ですごめんなさい。冗談ですからやめて」

 

突如ルシフェルが何かを言ったと思うと体を縛っていた天の鎖が更に音を立ててルシフェルの体を縛り上げた。ミシミシと言って今にも骨が折れるのでは、と思うような音が聞こえる。

 

「ふぅ。全く愉悦愉悦言いながら冗談の一つも通じないんだから…。…どうやら先ほどの騒ぎに紛れて我が宿主の復讐先も姿を消したようだ。全く、どうせ金ピカ王様に殺されるというのに」

 

辺りを見渡しながらルシフェルは呆れた声を出し、器用にその場に座った。

 

「さて、夜十神十香」

 

「…なんだ」

 

「そう警戒しないでくれよ。私は残りのわずかな時間でお話がしたいだけだよ。だから、右側(ここ)に座ってよ」

 

「話なら、ここからでもできるだろう」

 

十香が警戒一色の声音で言うとルシフェルはため息をついて十香を睨んだ。

 

睨まれた十香は、一瞬恐怖に支配された。

冷や汗が出て、その場から動けなくなった。

 

「あのねぇ、お話をするのにそんなに離れた状態で、敵意満々で出来るとでも?十香、私は『座って』って言ったんだ。『早く、座れ』。時間がなくなっちゃう」

 

十香はゆっくりとルシフェルの横へ行き、座った。

 

「いやー、ようやくゆっくり出来るよ。いやいや、ごめんねぇ。お話なんて特になくてね、ただ私の事と我が宿主のことに関してお礼をしたかっただけなんだよ」

 

「お礼…?何をだ?私はお前とは初対面だぞ?」

 

「まあ実際にはね。まずは私のことについて。私は君のおかげで眠りから覚めることができた。君のおかげで僅かとはいえ表へ出ることができた。ありがとう。我が同胞よ」

 

「私の…おかげ?」

 

「そ、君のおかげ。んで、我が宿主のことについては、守ってくれてありがと。君がいたから、我が宿主はアレ以上暴走をしなくて済んだ。()()()()()()()()()()()()。後はね…いつも、我が宿主と遊んでくれて、ありがとね。彼女はいつも素直じゃないから、鬱陶しく言ってはいるけれど、いつも嬉しく感じているんだ。みんなといる時間を、あの五河士道という男は別だけれど、みんなと楽しく遊んだりしている時間を楽しく感じていた。彼女の心が安定するのは、()()()()()()()()()()()()()()。だから、ありがとう」

 

ルシフェルは優しい笑みを浮かべるも、十香は警戒した顔を作っていた。

 

「…一つ、聞いてもいいか?」

 

「うぇ?うーん…時間的にすぐ答えれることなら、いいよ。……ああもう、金ピカ王様ちょっと黙って。すぐ戻るから。…んで、どうしたの?」

 

十香の問いかけも、ルシフェルは穏やかな笑みで答える。

 

「お前は一体……なんなのだ。四糸乃や琴里とは…まるで、真逆のような…」

 

「おお、そうきたか。ふむふむ、他の精霊と真逆ね。言い得て妙…だっけか?諺はよくわからないけれど。あながち間違いじゃない、ってところかな。時間がもうないかな。

 

それじゃあね。夜十神十香。我が同胞よ。次会うことはもうあまりないだろうけれど、また会える日を楽しみにしているよ」

 

そうして、ルシフェルの体が光った。

かと思うと神夏の体へと変化していった。

 

「…」

「わわっ⁉︎」

 

闇を象徴するかのような先ほどまでの風貌が無くなり、いつもの神夏ギルへと戻った。体をがんじがらめに縛っていた鎖は両手首、両足首に巻かれていた。

同時に十香の方へ倒れた。

突然のことに十香は驚いたものの、しっかりと神夏を受け止めていた。

 

「か、神夏ギル…だな?お、おい…大丈夫か?」

 

十香が神夏へ恐る恐る話しかけるも神夏は返事をしなかった。

気絶をしているだけだったが十香を困らせるには十分だったようだ。

 

「ど、どうすれば良いのだ…?し、シドー!」

 

十香は困り果てた結果、士道を大声で呼んだがそれは虚しく響き渡っただけだった。




番外編を書いてみたくて、アンケを取ってみましたが、みなさん百合をご所望なようで。
ええ、たしかに四糸乃はいいですもんね!
90人近い人がロリコォンなのはわかりました(ブーメラン


後意外だったのは神夏が士道にデレるところを見てみたい人の方が僅かとはいえ多数派だったことですね。
そちらも書いてみたくはありますが番外編になりそうですね

頑張ります


読んでくださりありがとうございます


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神夏ギルの過去の物語
31話


祝(?)30話です。それと同時に一区切りもつきました。
いやぁ、良きかなよきかな(何がいいのかはよくわからない)


さて、神夏がいる関係上原作とは主人公達の知識の蓄えが少し早いですね。

そして神夏にも変化が…?

あとは書き方こんなんだっけ…?って感じで書き上げました。ちょっといつも以上に駄文かも…

それではどうぞ


「はっはっ…十香ー!神夏ー!」

 

耶倶矢と夕弦の説得がなんとかうまく行き、その途中に上空に現れた戦艦を2人が巨大な弓矢の天使で撃ち抜いてからようやく落ち着けたため、十香に頼んだ神夏を探しにきた。

 

だけど十香たちの方も戦闘が終わったのかもう静かになっており、どこにいるのかわからなかった。

どうやらあの2人と共に相当遠くへ来ていたらしい。

 

「ねえ、誰を探してんの?はやく霊力の封印して欲しいんだけど」

「同意。誰かを探す前に先に夕弦達をお願いします」

 

「い、いや…でも」

 

だけど、今この場で2人の機嫌を損ね、信用を失ってしまうと、嘘をついていたのかと思われてもダメなのでは、と思う。あれだけ頑張って、十香にも協力をしてもらっていたのに水の泡にするのも…

 

 

「シドー。どこにいるのだー」

 

 

「!十香!」

 

そう思っていると遠くの方から独特な名前の呼び方をしてる声が聞こえた。

そう、聞き間違えようもない。十香の声だ。

 

聞こえてきた方を凝視すると十香がいた。そして…背中に誰かを背負っている。

 

「ぬ…十香ではないか」

「確認。背負われているのは……あの黄金の精霊でしょうか」

 

「あ、シドー!よかったのだ!みんな無事だったんだな!」

 

十香がこちらを見つけ勢いよく駆けてくる。

背中には夕弦の言う通り神夏が背負われていた。怪我を…しているわけではなさそうだな。

 

「かか、当たり前よ。颶風の巫女にあの程度の障害など、障害になり得ないわ!」

「同意。十香もよく無事でした。あの時確認したそちらの精霊は相当な手練れでしたが」

 

「ま、まぁ剣を用いた勝負だったからな…。もしいつも通りの神夏ならば、流石に無事では…そうだ!シドー、神夏が目を覚まさないのだ!ど、どうすればいいのだ⁉︎」

 

「え⁉︎」

 

十香は涙目でそう言ってくる。てっきり気絶させたとかその辺だと思ったが……まさか十香がやったわけではなく、それでいてずっと目を覚まさないのか?

 

「と、とにかく落ち着こう。…そうだ!令音さんなら何か分かるかもしれないから令音さんのところへ連れて行こう!」

「う、うむ!わかったのだ!」

「耶倶矢。夕弦。霊力の封印な、ちょ、ちょっと準備があるから…明日でお願いできるか?絶対に嘘じゃないし、逃げもしないから」

 

「…まあ、しょうがないわね」

「許可。では今日はもう夜遅いですのでホテルで休むとしましょう」

 

そうして耶倶矢と夕弦は2人で手を繋いで帰っていった。

 

「それじゃあ俺たちは令音さんのところにいこう。俺たちだけじゃどうにもならないから」

「う、うむ。あ、そういえばシドー」

「?どうした?」

 

「そのだな…今は感じられないのだが、神夏ギルの中にいるナニカと私は会ったのだ」

 

「?」

 

「信じられないかもしれない。でも…注意しててくれ。神夏の中にいるナニカ。私や四糸乃、狂三や琴里とは()()()()()()()()()。そんな精霊だった」

 

「…?お、おう」

 

十香はやたらとそれを念押ししてくる。

いっている意味がよくわからなかったが、とりあえず頷く。

 

「(だが…今は全く感じない。なんなのだ…何なのだアレは…。金ピカよりも()()()()()()()())」

 

「(この神夏が…?それに真逆って…。一体、十香は何を見たんだ?)」

 

 

 

 

 

〜???〜

 

【あっははははは!滑稽だ!人類最古の王!いやぁ、打つ手がない人間というのはダメだとわかっていながらも手を出してはいけないものに手を出す。まさに滑稽の極みだ!あはははは!】

 

『それ以上減らず口を叩くな。この場で切り捨てても構わんのだぞ?』

 

【いいのかなぁ。私としては抵抗しないけれど、私を殺すということは君たちの力の大半を失うという事だよ?いやぁ、あの場面、あの状況で宿主である神夏ギルが死んでは私たちも消えてしまう。でも君は力の殆どを私と君の力を使わせないよう抑える為に回しているせいで表へ出れない。でも神夏ギルをあのまま放っておけば私たちは消滅していた。それを防ぐには私を表へ出すしかない。だけど表へ出すことにより神夏ギルの精神は確実に私側へ汚染された。

 

つまり、私の使える力がより強まった、ということになる。あの場で全て剣の精霊に任せればよかったものを。人類最古の王。君はいささか優しくなりすぎてるんじゃないのかい?】

 

『…どうやら、よほど我を怒らせたいようだな』

 

【…イタイイタイ。ごめんなさい調子乗りすぎました】

 

???では、ルシフェルとギルガメッシュが喋っていた。

途中、段々とルシフェルを縛る鎖が大きく、力強く縛っていたが。

 

【あはっ、だけど事実だ。ギルガメッシュ。君がかの大英雄ヘラクレスに『弱い』と言われた理由がよくわかった気がするよ。さて…ここから神夏ギルがどうなるか、見ものだねぇ?】

 

『…小癪だが、奴の魂の強さに賭けるしかないか。我らしくもない…な』

 

 

 

 

 

「……」

 

「神夏っ!」

「目を覚ました…!よかった…」

「神夏よかった…目を、覚ました…」

 

「…?」

 

修学旅行から帰ってきても、ずっとめをさまさなかった神夏が3日後にようやく目を覚ました。

それを令音さんから聞きつけて四糸乃と十香と共にフラクシナスに来ていた。

 

「…」

 

「え?」

「か、神夏さん?」

 

神夏は俺たちを見て微笑んだかと思うと四糸乃を引き寄せ、まるで人形を抱くかのように抱きしめた。

 

「か、神夏さん…?どう、したんですか」

 

「…」

 

四糸乃が戸惑いながら聞くも神夏は微笑んでるだけだ。

 

『ねえねえ神夏ちゃん。もしかしてこうしてたいの?』

 

「…(コク)」

 

四糸乃の腕についているうさぎのパペットのよしのんが聞くと静かに頷く。

 

「神夏、大丈夫か?どこも、怪我したりしてないか?」

 

「…」

 

「え?」

 

俺が確かめる為に近づこうとすると触られたくないかのように、近づかれたくないかのように体を後ろに退いてきた。

 

「れ、令音さん。これは…」

 

「ふむ…失声症や自閉症のような精神的な病が複数重なったような状況、と見るのが妥当だな。今グラフを見てる限り、この場では四糸乃にのみ心を許している、といったところかな」

 

「そ、それってどうすれば…」

 

「今はどうしようもないとしか言えないな。突然何かがきっかけで治るかもしれない。しばらくは安静にしておくべきだろう」

 

「そうですか…。でも、無事でよかった…」

 

でもとにかく神夏が無事なことに心から安堵した。

あの時の神夏は余りにも、心配だったから。

 

「あら士道。それに十香もいるわね。神夏…って何してんの」

 

「…っ!」

 

「え?なんでそんな怯えてるの?」

 

「…」

「神夏さん。大丈夫ですよ。怖くないですから」

 

「…」

 

琴里が神無月さん、中津川さんと共に現れると体を思い切り縮こませ四糸乃の後ろに隠れた。四糸乃に優しく諭され、怯える小動物のようにゆっくりと出てきた。

 

「どちらかというと私がこんな風になったかもしれないのよね…。まあいいわ。士道。十香。令音。悪いけれど付き合ってくれないかしら。話し合わなきゃいけないことがあるの」

 

「?あ、ああ」

「了解した」

「わかったのだ」

 

「代わりと言っちゃなんだけど、中津川を代わりに置いておくわ。間違っても神夏に手を出したりしないでしょう。四糸乃に手を出したその日には懲戒解雇だけじゃ済まないけどね」

「流石にそんなことはしませんよ」

「そうね。神無月より信用できるわ」

「いくら私でもそんなこと…ああ、でも司令に足蹴にされるかもしれないのならそれもまた一興…」

「フンッ!」

「はぐぅ⁉︎」

 

神無月さんが何かを言った瞬間に綺麗な蹴りが神無月さんの右足のスネに直撃した。はは、相変わらずというか……。

 

「それじゃあ中津川。頼んだわよ。くれぐれも注意してね」

「了解しました司令」

 

そう言って部屋を出る琴里へ俺と令音さん、十香でついていく。

なんの話し合いなんだろう。

 

 

 

 

 

〜会議室〜

 

「それじゃあ話し合いを始めるわ。議題は『神夏ギル』について」

 

「神夏について?どういうことだ?」

 

「そのままの意味よ士道。まずはこれを見てちょうだい」

 

そう言って琴里が出したのは1つのグラフだった。

何度も目にした精霊達の感情などののパラメータだった。

 

「これは神夏ギルのいつもの状態のものよ。まず聞くけど、士道。なんでこのパラメータ、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え?」

 

そういえば、確かにそうだ。

感情の起伏がないならゼロでいいし、俺たちにとってダメなパターン。つまりは怒りなどは別でちゃんと用意されている。

つまり、マイナスで示すものはないはずだ。でもそれなら…なんであるんだ?

 

「…マイナスじゃないと示せないものが、あるとしか思えない。でも…何がマイナスを…」

 

「それじゃあ次はこっちを見てちょうだい。これは神夏ギルの修学旅行の時のもの。これで特に注目して欲しいのは、ここ」

 

そう言って指したのは、霊力を示すパラメータだった。

数値を示す針が()()()()()()()()()()()。しかも振り切って測定不能となっている。

 

「士道。さっきあなたはマイナスじゃないと示せないものがあると言ったわね。その通りよ。霊力のみ、特定の条件下でのみマイナスを示す。しかもその特定の条件下というのは私たち『ラタトスク』にとって最もなってはならないもの。十香、あなたこの時の神夏ギルと直接会ってるのよね?そのとき感じたことをなんでもいいわ。もう一度教えてちょうだい」

 

「…あの時の神夏ギルは、そうだな。なんて言えばいいのか…。とにかく怖かった。心の底から早く離れたいと思った。表面上ではものすごい気さくな奴ではあったが…心の奥底はもっと違う。そんなものじゃない。とにかく怖かった。それに私や四糸乃、狂三に琴里、耶倶矢達とはまるで真逆のような、そんな存在だと、思った。精霊には違いないのだろうが……アレは、根本から私達と違う。そのようなものだった」

 

「ありがとう十香。まずは士道。結果だけ言っておくわ。霊力というのはね、正と負。2つの属性があるようなものと思ってちょうだい。いつもの精霊は正。だけどごくまれに、特定の条件下でのみ負の属性になってしまう時がある。その条件下ってのはね…

 

()()()()()()()()()()()()()()()

そうするとこの様なことになる。これを私たちは精霊の反転って言ってる。いい?この状態になったらもうやり直しなんて効かなくなると思いなさい。この状態になるイコールゲームオーバーよ」

 

「…」

 

それを聞いた俺は思考を整理できなかった。

あまりにも突飛すぎるから。

 

「いや、いやいやでも待ってくれ。今神夏はそんなことはないんだろ?なら…」

 

「そう、そこなのよ。修学旅行の時、神夏は確実に反転していた。でもいまは反転をしていない。そこがわからないのよ。何かをトリガーにして反転するのか、それとも…」

 

 

 

「大丈夫ですわよぉ。心配しなくても」

 

 

 

琴里の言葉を遮る様に妖艶な声が響く。

それと同時に俺たちの中央に狂三がどこからともなく現れた。

 

「ごきげんよう、ですわね。どうやらお困りのご様子でしたので本体であるわたくしからの命もありまして助言にきましたわ」

 

「…どういう風の吹き回しかしら。時崎狂三」

 

「どういうもなにも、元々わたくし達は神夏さんの味方ですのよ。あの方が反転したきっかけも全て知っておりますので」

 

「へぇ。じゃあついでに教えてくれないかしら?」

 

「うーん、貴女にはなんか教えたくないですわね。士道さんならやぶさかではないですが。食べさせてくれるなら、ですけれどねぇ」

 

「…断るよ。それなら自分で調べるさ」

 

狂三がまたもや妖艶な笑みと声でこちらを見てくるがなんとか断る。相変わらず、思わず応じてしまいそうな誘惑だ。

 

「そういうと思っておりましたわ。さて、あの方ですが、反転に関してはむしろ落ち着かれてる今の方が安全ですわ。むしろ精霊の力を扱う様な時が一番危うい、ともいえますわね」

 

「どういうことだ?」

 

「そのままの意味ですわよ。言い換えるのならば精霊の力がトリガーになっている可能性がありますわ。

数年前、神夏さんがまだイギリスにいた頃、わたくし達は神夏さんが反転する直接的なキッカケを目にし、それをわたくしの力で止めましたわ。けどあの方の精霊としての力はあまりにも強大なもので、うまくいかなかったのですわ。

その結果が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()、ということですわ」

 

「はぁ⁉︎そ、そんなことできるわけ…」

 

「本当にそう思われますか?あの方の中には、英雄王がいらっしゃるのですよ?あの方、面白いことに『この世全ての悪』をその身に浴びたというのに反転しないどころかその三倍を持って来いとかいう規格外の方ですからね。だからこそ反転した力とそうでない力を2つ宿すことが可能となっているんでしょう。知ってます?あの方が反転しない前の力は皆さんの見たことある程度ではありませんわよ。砲門も余裕で数百を展開してきますわね」

 

「……なあ、狂三。1つ聞いてもいいか?」

 

「ええ、構いませんわよ」

 

狂三の言っていることの中で、ひとつだけ引っかかったことがあった。

引っかかった、というよりは気になった、の方が正しいだろうか。

 

「イギリスでの直接的な原因…それってもしかして、男か?」

 

それを聞くと琴里と令音は目を見開き、狂三は逆にクスクスと笑った。

 

「ええ、その通りですわ。よく知っていましたわね」

 

「…神夏が言ってたんだ。『これは私の悲願。達成すべきもの。だからこの男を殺す』って…。あの時色々なことが起こりすぎて頭がパンクしかけてたけど、確かにそう言っていた」

 

「ええ、そうですわよ。人の心というものは普通のモノとなんら変わりませんわ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

士道さん。貴女に想像ができますか?自らを救ってくれた男に、全てを裏切られ、殺されかけるというのが。唯一信用した人に、ですわよ。さて、わたくしが話すのはこの辺ですわね。英雄王さんがおられるから暫くはむしろ安全、というのも間違ってないですわよ。でも…その間にできることを、しっかりとやっておくように。これは忠告ですわ。もしあなたがたがしくじったのならば、この場の全員が死ぬではすみませんわよ?」




神夏の体内には『自身の精霊の力』と『反転した力』の2つが備わっています。まるで○○のようですが○○とは色々と根本的に違います。
○○には何が入るのか原作既読者ならばわかるでしょう。


ですがネタバレは控えます

狂三さんも神夏が絡む場合のみ積極的にラタトスクの皆さんに協力をするみたいですね。

士道視点で書いたけど士道さんがそんなに喋ってないのはご了承を。久々すぎて書き方を思い出せておりません


そろそろ過去編にしちゃおうか、と思います
過去編はストックがちょいちょいあるのですぐ投稿できるかもです。


読んでくださりありがとうございます


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32話

今回はかなーり早めの投稿です。
過去篇はストックがあったので、案外早くかけました。

それではどうぞ


「まあ、それはそれとして。神夏さんの過去は知っておくべきでしょう。そして貴方達の敵となりえる相手も。そのためにもわたくし達はあなた方に協力をするつもりですわ」

 

「…指輪?だよな。これ。けど…かなり年季が入ってるな」

 

そう言って狂三が見せてきたのは1つの指輪だった。

 

「…これがどうかしたの?」

 

「まあまあ。そう急かさないでくださいまし琴里さん。これは神夏さんが実際に身につけていた指輪ですわ。イギリスでつけていたものですわ。あなた方がどこまで知っているかはわかりませんですけれど神夏さんが自らの両親を殺めてしまった日より前からずっと身につけていた物ですわ。

そしてわたくしの天使は『時間を司る』。大仰に言ってはいますがそんな能力ですの。ですので…さあ士道さん。これをお持ちくださいまし」

 

「え?」

 

「持った上で、それを側頭部へつけてください。そうすれば、きっと士道さん達が知りたいことも、知れますわ。わたくしの【刻々帝(ザフキエル)】で、ですが」

 

「…本当に、何が目的なんだ狂三。ここまで俺たちに加担するって…」

 

「きひひ。そう邪険にしないでくださいまし。わたくしの目的のために今の神夏さんでは不都合、というだけですわ。それだけ、ですわよ。今士道さん達に協力をするのも利害が一致しているだけですわ。さぁ、わたくしの気が変わらない内に、するのか、しないのか決めてくださいまし?」

 

狂三が笑いながら急かしてくる。

…信じて、良いのだろうか。

 

「…心配しないでいい。狂三は嘘をついていない。つまり…過去を知れるというのも本当だ。どうするのかはわからないが……信用して良いだろう」

 

「あらあら、そういえばこちらの心情は観測できるんでしたわね。茶番もできないのですわね。さあ、士道さん。覚悟ができたのなら、指輪を側頭部へつけてくださいまし」

 

狂三はそう言いながら古式の短銃を俺へ向けてくる。

 

「…っ、信用してるぞ、狂三」

 

その行為に一瞬怖気付いてしまったが、改めて自分を鼓舞し狂三へ向き直る。

 

「ええ、大船に乗った気でいてもらって構いませんわ。では…【刻々帝(ザフキエル)十の弾(ユッド)】。では士道さん。ごゆぅっくりと、堪能してくださいまし」

 

そうして狂三は俺と指輪を一緒に、撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「ねえ、どうだった?」

「ダメ、返事すらしてくれない」

「そう……そうよね。お父さんたちを目の前で亡くしたものね……」

「もう少し様子を見ないと」

 

 

ある部屋の中では、1人の少女が暗い暗い部屋の中で蹲っていた。

金髪だった煌びやかな髪も、紅い神秘的な目も、美しい顔も何もかもがその影を潜め、酷くやつれている。

 

「(これは…もしかして精霊の力を得た直後の、俺や四糸乃が体験した記憶の直後か?)」

 

なんというか、幽霊になってみているかのような気分だった。

そんなことを考えていると目の前の少女の心の中がまるで聞こえてくるかのように、わかった。

 

 

 

 

 

ヒトを殺してしまった。お父さんを、お母さんを、殺してしまった。無関係な、ヒトを殺してしまった。

 

 

どうしたらいいのか、わからない。

 

 

どう償えばいいのか、わからない。

 

 

償う資格があるのか、わからない。

 

 

 

ヒトとして生きていいのか、わからない

 

 

 

部屋から出たくない。

誰とも会いたくない。

ご飯も食べたくない。

 

 

何も、したくない。いや、する資格すらない。

 

 

ずっと、そんなことを考えていた。

何をするにも無気力で、死にかける寸前まで絶食をし、軽く食べてまた絶食、ということを繰り返していた。

 

少しでも死にたくないと思ってしまう自分に腹が立ってしょうがない。

 

けど、何もする気が出ない。

 

 

 

 

いや、きっと私に何かをするという資格なんてない。何も、しちゃいけない。きっと、存在することすら、いけない。

 

 

 

 

 

目を閉じると、泣き叫ぶ声がこだまする。

聞こえるはずのない怨嗟の声が聞こえる。

 

『何で殺したの?』『なんで、無関係なのに』『憎い』

 

と、私に言い続ける。

 

発狂しそうになった。けど、耐えた。それは、私には発狂することすら許されないから。

 

友達が、会いに来た。

けど、言ってくる言葉は慰めの言葉ばかりで誰も責めてくれない。

責めてくれたらどれだけ楽になったか。

 

 

 

 

 

しばらく……友達が会いにきてから2ヶ月くらいだったとき幼馴染……名前が出てこないけど、その男の人がきた。無理やりドアをこじ開け、私の肩を揺さぶる。

 

ああ、やっと責めてくれる人が出てきたと思った。

けど、違った。

 

突然、告白をしてきた。ずっと好きだった、と。

だから、正気に戻ってくれ、と。

 

何を言っているんだ、と思った。私は正気だ。と言い返すと、正気じゃない、と言われ、正気だ、と言い返し、正気じゃない、の言い合いになった。

 

そのとき、持ってきていた全身鏡を目の前に建てられた。

 

そこに映っていたのは、とてもひどい()()()()()()()()()だった。

魂が抜けたかと思うような、生気のない目、やせ細った体。とにかく全身が、雰囲気が、そのニンゲンは屍になる直前だ、と訴えていた。

 

幼馴染の男が言う。

 

 

「ご両親のためにも生きるんだ」

 

 

ちがうんです、私が殺したんです。

 

 

「自分を責める必要はない」

 

 

ちがうんです、私のせいなんです。私にすべての責任があるんです。

 

 

「一緒に1からやり直そう」

 

 

ちがうんです、私にはやり直す資格なんてないんです。

 

 

けど、それらのことは口から出なかった。

 

私の前にいたみんなは、私を無理やり部屋から引っ張り出した。抵抗することもできず、無理やりリビングに連れていかれた。

 

そこには、たくさんのご飯があった。

無理やり、椅子に座らされて、みんなに食べなさい、と言われる。それを断るも、幼馴染の男が無理やり食べさせてくる。

 

私に、人並みのご飯を食べる資格なんてない、と言うとさらに食べさせてくる。

抵抗ができない。なんで?

 

食べてから、涙が止まらない。泣きながら、私の身体は食べ物を摂取し続ける。私の意思とは関係なく。

 

なんで?そんな疑問を残したまま、その日の久しぶりのご飯を食べ終わった。

 

 

次の日、また幼馴染の男がきて、今度は少し低めの椅子に座らされて、首から下を布で覆われる。

そして、男の手元にはハサミ、髪留めなんかがたくさんあった。

 

どうやら、こんどは整髪をしてくれるらしい。

 

断るも、無理やりやられた。

 

気づかないうちに寝てしまって、起きた時には髪はサラサラになって、肩より少し下で切りそろえられていて、前髪もちゃんと揃っていた。

 

そのまま外に連れていかれそうになった。けど、こればかりは本気で抵抗をした。

 

外には、出たくなかったから。

 

 

 

 

 

 

しばらく経って、自分の今後について、本気で考えてしまった。

 

自分は何をすべきか、そればかりをずっと考えた。

 

そして、一つの結論に至った。

 

『恥じないよう、精一杯生きる。精霊として』

 

自然と、精霊という言葉が出てきた。

けど、精霊というのが私はよくわかっていなかった。

 

精霊として生きる、ことがどういったことかはまだわからない。

もしかしたら、怪我や病気をしない限りは生き続けるかもしれない。

 

けど、お父さんやお母さん、殺してしまったみんなに懺悔をしながら、精一杯生きる、と決めた。

 

決めたからには、やり通す。

 

そう決心してから、私は自分からずっと家に置いてくれていた親戚の人に謝りにいった。

最初こそ驚かれたが、泣きながら喜んでくれた。

 

友達にも会いにいった。少し涙ぐみながらも普通に接してくれた。

 

幼馴染の男にも会いにいった。

すると号泣された。

泣き終わった後、また告白された。

 

けど、その時は恥ずかしすぎて返事はうやむやにしてしまった。

 

 

 

 

次の日、私は幼馴染に返答するために外出をした。

けど、また事件は起きた。

 

 

 

 

「精霊【アロガン】だね?」

「……」

「この子供がですか?」

 

男の人が1人、女の人が2人、私の前に立ちふさがった。

 

「自己紹介がまだだったね。わたしはアイザック・ウェスコット。DEM社に勤めている」

 

と、ツンツン頭の白い髪と青い瞳の三十代くらいの男が名乗ってくる。

 

「どうも……そんな人が私に何のようなんですか……?精霊、とは」

 

「ああ、とぼけなくてもいいよ。キミが精霊だということはもうわかっている。本当は顕現してくれたその日のうちに会いたかったが、なにぶん君は閉じこもっていたからね」

 

「………私が精霊だからってなんのようなんですか……?」

 

「なあに、簡単だよ。()()()()()()()()()()んだよ。じゃあ、エレン、マナ頼むよ」

 

エレン、マナと呼ばれた二人が襲いかかってくる。

 

機械に身を包んで、私を襲ってくる。

私はがむしゃらに逃げた。

 

そして、気づくと私は意識を失っていた。

 

 

 

「ほぉ。この世に顕現されてからというもの、()()()の在り方に吐き気を催してきていたが、それがようやく治ろうとしているところだというに。我が身へ刃を振りかざすその不敬。どう処分してくれようか」

 

突然、少女の体が光った。胸が少し成長し、黄金の鎧を下半身の身につけ、上は黒いシャツのみがつけられ、右腕を鎧で包んでいる。

シャツの隙間から紅い紋様が見える。

 

「そうさな、手始めに、この程度か?」

 

女2人は突然の変貌に驚きを隠せておらず距離をとって観察をしていた。

 

が、少女が右腕を空へ掲げると空中に黄金の波紋が数十程が現れた。

その波紋からは剣、槍などありとあらゆる武器の先端が覗いていた。

 

 

 

 

 

「ふん。生き延びたか。まあ良い。雑種共、次その身を晒したならば、死の裁きを下す。嫌ならば、二度と現れぬことだ。不敬への免罪は、これくらいにしておいてやる」

 

「上等です。私も、次会うときは打ち滅ぼしましょう」

 

少女はそう言い、歩き出した。それに対して銀髪の女は言い返す。

 

その周りは、まるで爆弾でも落とされたかのように、破壊され尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

気づくと、病院にいた。

周りには、看病をしてくれていたのかたくさんの人が。

 

不思議に思って、どうなっていたのか聞くと、肩から血を流し、身体中アザだらけで帰ってきたらしい。

そして帰ってきた瞬間倒れて気を失った、と。

 

幸い、さほど怪我は深くないらしく、すぐに退院はできた。けど、また私は家から出ることをためらうようになってしまった。

 

 

 

 

二日ほど経って、親戚の人たちが少し買い物に行った。結果的に、家には私一人になった。

 

それがダメだった。

外に出ると、また襲われると思っていたから。家にいれば安全だ、と思っていた。

 

インターホンが鳴り、それに出ると、そこには……

 

「……っ!この前の…」

 

「覚えていてくれましたか」「私もいやがりますよ」

 

そう、2日くらい前に襲ってきた二人がいた。

 

即座にドアを閉めるも女の人とは思えないほどの力強さにより無理やり開けられた。

 

 

「きゃっ!」

 

「どうしました?前回の『()』を使わないと死にますよ?」

 

痛いー痛いーー痛い!

 

きりつけられ、蹴飛ばされ、家の中が散乱して行く。

 

他の家より、ちょっと広いとはいえ、家の中でにげれるわけもなく、首を掴まれ壁に叩きつけられる。

 

「エレン、そのくらいにしねーとです。死んじまうです」

「わかっていますよ。さて、アロガン。私はあまり気の長い方ではありませんので、素直に答えてくださいね。あなたの『力』について詳しく教えなさい」

 

「な……んで……」

 

そう一言発した瞬間に右腕が焼けたかのような痛みが襲う。

確かめなくても分かる。刺されたんだ。

 

(たわけ!さっさと我の力を解放せんか!)

 

(だ……れ……)

 

 

心の中から、自分の声なのに自分じゃない声が聞こえてくる。

それが誰かをわかる前に……私は『()』を求めた。

 

 

死にたくないがために。

 

 

 

 

 

「……っ」「やっとですか」

 

襲った二人の少女-----白銀の長髪の美少女、エレン・M(ミラ)・メイザース、青髪の中学生ほどに見える少女、崇宮真那-----の前には、先ほどまでの少女より少し成長した少女がいた。

 

まるで黄金のような金髪を肩より少し下まで伸ばしており、下半身、右腕のみを黄金の鎧で纏い、上半身は黒いシャツのみを身に纏い少し胸が強調されている。そして、紅い目が特徴の精霊【アロガン】がいた。

 

「雑種ども、(われ)は言ったはずだが?次その身を我の前に晒した日には、死の裁きを下す、と」

 

「やれるものならやってみやがれです!」

「私も言ったはずです。次会うときは、討ち亡ぼす、と」

 

と、雑種二匹は飛び込んできたが、家の中、しかも()()()の住む場所なため、雑種をこの場で排除するわけにはいかない。

 

空間転移をし、家の外に転移する。

 

雑種二匹はすぐに我に気づき追ってきた。

 

()()()()()()()、腕を組み、追ってきた雑種どもを見下す。

 

「逃げれると思っていやがりますか?」

 

「たわけ。何故わざわざ貴様ら雑種に裁きを下すのに逃げる必要がある?場所を変えただけだ。裁きを下すにも、それ相応の場所があると言うものだろう?」

 

「やれやれ、まだ身の程をわかっていないようですね。私たち二人を前にしてまだそんなことを言う余裕があるとは」

 

と、銀髪の雑種がなんとも的外れなことを口にする。

 

「クク……まさかとは思うが、昨日の()()()()()で我の力を推し量ったとでも言うのか?残念だが、アレは()()()を生きながらえさせるための手段だ」

 

「「なに?」」

 

「特別に、王たる我の力を見せてやろう。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。そうさな……砲門の数も特別だ。光栄に思うがいい、雑種。ここまでの数はなかなか見れんぞ」

 

と、雑種には多くても20前後ですませるところを、()()()()()砲門を開く。

 

「ちょっ、あれは予想外にもほどがありやがるですよ!」「私もですよ!」

 

雑種どもに向かって、無数の()()()西()()()()()()()()()()()()を撃ち放つ。

 

1000本ほど撃ち込んだところで一度止め、武具を回収した。

 

「他愛ない。これを防げぬ程度の力量で我の前に立つとはな。しかも我を()()()()などと世迷言を……」

 

言いかけたところで気配を感じそちらを一瞥すると、先ほどまでの雑種がいた。

 

どちらも、互いに傷を負っていた。

銀髪より青髪の雑種の方が傷はひどい。

 

「ほぉ、面白い。凌ぎきるとはな。褒めてつかわすぞ。雑種」

 

「……マナ、ここは一度退避です」

「えっ!なんでですか!」

 

すると、銀髪の雑種が逃げ出すことを考え始めた。

 

「逃すと思っているのか?我の決定に背くと?不敬も大概にせよ。雑種!」

 

我に、無様に背を向ける様を見せ付けてきた雑種に向かって、ゲートを開き、武具を連射する。

 

「……逃げたか」

 

武具の連射により起こった爆煙が晴れる頃には、雑種は二匹とも消えていた。

 

「あれほど痛手を負わせておけばすぐにはくるまい。さてと…」

 

そして、我は地上に降りた後神夏の()に消えた。




ここからは過去編になります。

4〜5話続く予定です。

士道は過去の神夏に、正確には身につけていたモノ(今回は指輪)に憑依しているような感じになっています
モノを通して本人の感情、考えが流れ込んでいる、そんな感じです
多分原作だと描写が違いますがご了承を


読んでくださりありがとうございます


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33話

過去編第2話

それではどうぞ


〜現実世界にて〜

 

「あらあら…余程辛い体験だったのでしょうねぇ。すぐに昏睡してしまって」

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

「ええ。ただ絶望という感情を持った記憶を一度に浴びたような、言うなれば脳にとてもとても負担がかかっていますわ。しばらくは安静にしておくべきでしょう」

 

士道は狂三に『刻々帝(ザフキエル)』の能力で撃たれたのち、数秒と待たずに涙を流し、昏睡した。

慌ててその場にいる皆が介護し、狂三を睨むがどこ吹く風、といった顔だ。

 

「さて、やることはやりましたしこれにてお暇させていただきますわ。最後に…神夏さんの姿でも見てみましょうか」

 

「ちょっと待ちなさい。あなた自身が神夏の反転化は精霊の力がトリガーになると言ったじゃない。ならあなたの力もトリガーになる可能性があるわ。だからやめてもらえないかしら?」

 

「あらあら。それで言ったら今いる四糸乃さんはどう説明しますの?それにトリガーとなり得るのは神夏さん自身の力ですわ。ご心配なく。心配ならついてきたらよろしくて?」

 

「…そうね、そうするわ」

 

琴里は狂三の言うことを信用して2人で神夏の元へ向かった。

 

 

 

 

 

「はい、神夏さん。あーん…です」

『しっかりお口開けねー』

「んぁ…」

「神夏さん。お次はこちらをどうぞ。これもなかなか美味しいですよ」

「はむ…」

 

「…」

「あらあら。お可愛いことですわね。以前の神夏さんからは想像もつきませんわ」

 

神夏は四糸乃と中津川によりご飯を食べさせてもらっていた。

一口食べ、咀嚼し、飲み込み、微笑む。

これを毎回やっている。四糸乃も喜んでもらえるのが嬉しいのか微笑まれる度に四糸乃も笑っている。

 

「神夏…さん。えらいえらい…です」

『四糸乃からのヨシヨシだよ。幸運だねぇ』

「…♪」

 

 

『すまぬな神夏よ。少し体を借りるぞ』

 

 

突然声が響いた。かと思うと神夏の体が光る。その体は変貌していき、いつもみる『精霊アロガン』と呼ばれている神夏になった。

つまりは、英雄王ギルガメッシュと成った。いや、表へ出てきた、の方が正しいのだろうか。

 

「なっ…ちょっ!精霊の力は反転…の」

 

「五月蝿いわ。少し黙れ。我は疲れている。ただでさえ抑えつけねばならぬと言うのに…」

「大丈夫ですわよ琴里さん。この方の顕現はあくまでも精霊の力を使い終わった後の事象なため反転化には影響しませんわ。そうですわね…計算でいう答えの部分がこの方で、精霊の力は計算にて答えを出していく過程ですわ。つまり、この方の顕現は精霊の力は関係ありませんの」

 

「そ、そうなの?」

「ええ」

 

「四糸乃よ。神夏のやつをよく面倒を見てくれた。褒めてつかわすぞ。これからも、神夏の阿呆をよくしてやってくれ。そこな雑種もだ。感謝するぞ。今のところ()()()が心を許しているのはお主ら2人『よしのんもいるよー!』…そうさな。お主ら3人のみだ。これからもこやつを、精霊の力を使わせぬよう、見張っておれ。まあお主らがいる間は大丈夫そうだが。そこの小娘。時間がないから簡潔に伝えるぞ。()()()から道化へ対して疾く心を開かせろ。でなければスタートラインですらない。今は我が抑えつけてはいるがいつまで持つか分からん。…チッ、目を話すとすぐこれだ。ではな。四糸乃よ、これからもこやつをよろしく頼むぞ?」

「…はい!」

 

ギルガメッシュは伝えるだけ伝え、すぐさま神夏の中へ戻った。

すると神夏はまた倒れ込んだ。それをなんとか四糸乃が支え、それを中津川も手伝い再度ベットに寝かせた。

 

「…どういうことよ。心を開かせろ、って。言われなくても将来的にはそうするつもりだけれど…」

 

「おそらくは、心を開かせることで今の状況が打破できるのではございませんか?あの方、無駄なことは絶対に言いませんもの。それでは…わたくしもこの辺で失礼しますわ。神夏さんにもよろしく伝えておいてくださいまし。士道さんにも」

 

狂三も伝えることを伝え影の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

〜神夏の過去〜

 

 

〜DEM社〜

 

「アイク、申し訳ありません。このような事態になってしまい」

「も、申し訳ねーです」

 

「ああ、()()()()()。そもそも、今回は【アロガン】を殺すことが目的でも捕らえることが目的でもない。()()()()()()()だったんだから。この情報を次に活かせばいいだけだ。さて、エレン、マナ」

 

「「はっ」」

 

「次は、ジェシカたちの部隊も連れて行くといい。壁役くらいにはなるだろう。世界最強の魔道士(ウィザード)、エレン、期待しているよ。もちろん、世界最強に次ぐ実力者、マナもね」

 

「もちろんです。今回はしくじりましたが、私に倒せぬ敵など存在しません」「この雪辱は絶対に果たしやがる、です」

 

「「必ず、あの精霊は、仕留めてみせます」」

 

 

 

 

 

 

またみんなに心配をされた。

 

それもそうだ。買い物から帰ってきたら家が荒らされていてかつ私がまた自分の部屋の隅に縮こまっているんだから。

 

何があったか聞かれたが、言うわけにはいかない。

 

もし、私が精霊(人ならざる生命体)であることや、そのせいでこうなったことを話してしまったら、きっと見放されてしまう。

 

 

また、孤独(ひとり)になってしまう。

 

 

そんなのは、もう嫌だったから。

私は黙秘を貫き通した。

 

 

あと、もう一つ、黙秘を貫き通した理由がある。

それは………

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ………」

 

はっっずかしいから。ただでさえ厨二病だったのにまさかあんなことになるなんて…。

 

しかもさ!どう考えても私のやってたことってギル様の振る舞いだよね⁉︎いや、嬉しいんだけども!恥ずかしさが優ってるといいますか……。

 

「……でも、この力とも向き合っていかないといけないんだよね……」

 

恥ずかしいけど、自分で蒔いたタネだから仕方ない。

 

いや、まあ?ギル様の力が自分の身に宿ったことは嬉しいですよ?ただ……恥ずかしいというか。

 

「なりきりの時は勝手に想像した人に雑種とか叫んでただけだし……まさか本当の人に雑種!って叫ぶことになろうとは……」

 

 

この光景をこっっそり見ていた人たちは、神夏が昔のように喋ったりしているのを見て嬉しく思いながらも、変なことをしてる光景に笑いを堪えるのが大変だったとか。

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

よく、わからない感覚に陥った。

 

自分の体なのに、自分の意思で動かせない。

昨日のような、自分以外の人格が自分の体を動かしている。

 

「そう戸惑わなくてよい。少しばかり体の主導権を借りているだけだ」

 

自分の口で、声で、自分にそう言われた。

 

「初めて我を喚び出した時もそうだが、まだ力の使い方を理解しておらぬが故に、()()()()()()()が起こるのだ」

 

そんなことを言われ、()()()()()が見ている景色を改めて見る。

 

そこには、この前襲ってきた二人を含めた、機械に身を包んだ雑種がとても多くいた。……あれ?なんで私も雑種呼びになってる?

 

「ふむ、およそ50、といったところか。ま、所詮は烏合の衆。雑種どもが集まっただけにすぎぬ」

 

いやいや、ギル様風の喋り方をしてるもう一人の私よ。英雄王は慢心をしすぎて雑種たちにちょくちょく寝首をかられてるんですけど?

 

「よし、神夏よ。あとで罰を与えてやろう。貴様が崇拝する英雄王たる我からの罰だ。喜んで受けよ」

 

ちょいまって⁉︎いや、まあ確かに英雄王様からの罰だと喜んで受けますけども!

 

いやそれより!なりきりすぎでしょ!

 

「なりきりではないわ!我は正真正銘、万夫不当の英雄王だ。そもそも、貴様が我を喚び出したのだろう。その我を信用せぬというのか?」

 

おおう、なんか会話が成立してる。それより、さっきから攻撃されているのに悠長ですね。なんか不可視の壁で全部防いでるけど。

 

「…はぁ、現実逃避も大概にせよ。だが、まあ今は良い。さて、意識はあるのだろう?ならば英雄王たる我の戦いを特等席から存分に見るがよい。今から、先程から我に刃を向けている不敬者を処分するのでな」

 

 

 

 

 

 

1vs50。

その圧倒的な人数差で押しているにもかかわらず、攻撃を始めた精霊は圧倒的に、暴力的に強く、誰一人として近付かせなかった。

展開された百を超える黄金の波紋から幾度となく武器が降り注ぐ。

それを魔術師(ウィザード)達は必死に避け、さばいていた。

 

いや、正確にはエレンとマナはまだ戦闘には参加しておらず観察をしていた。

 

精霊は、近付いてくるものに的確に武器を飛ばしていた。

 

「マナ、予定通りにいきますよ」

「了解でやがります!」

 

「………雑種ども、我に刃をむける不敬な態度、死でもって償うがよい」

 

精霊は、右手を上にあげた。

 

「…っ!総員散開!」

 

先ほどまで10足らずだった黄金の円の波紋は軽く50を超える数まで増した。

 

それを見てマナがバラけるように指示を出すがもう遅かった。武具の雨がDEMの魔術師(ウィザード)に降り注ぐ。

 

「この程度で我の前に立つなというに。この世の雑種はつくづく哀れな生物よな」

 

「そーでもねーですよ?」

 

「なに?」

 

武具の雨を凌ぎ切ったマナは精霊に言い放つ。

マナの他に凌ぎきれた人間は2桁に届いていなかった。

 

「わりーですが、この前は意表を突かれてあの結果になっただけです。本気のエレンはあなたとは言えども手がつけられませんです」

 

「ほぅ、言うではないか雑種」

 

「だから…あたしらはその時間を稼ぐだけ!」

 

マナが精霊に突撃する。

それに対し精霊はマナに一点集中で武具の雨を降らせる。

 

マナは軌道をそらし、体ごと反転させ、真正面から迎撃し、時たま受け流しながら精霊の目の前まで近づいた。

 

そして、ブレードを振り下ろした。

 

「……っ」

「生半可な実力は寿命を縮めると言うことを知らないのか?」

 

だが、マナのブレードは霊力による不可視の壁により止められた。

ピクリとも動かすことさえ叶わなかった。

そして精霊はマナの周りに黄金の円の波紋を出しマナに武器の先端を向け、いつでも殺せる状態を作る。

 

「ふむ、偶然とは思っていたがまたもや我の攻撃を凌ぎきるとはな。貴様、名はなんという」

 

「タカミヤ・マナ、でいやがりますよ」

 

「マナ、か。さて、我の攻撃を凌ぎ切った褒美だ。何か言い残すことがあれば言うがよい」

 

「はは、なにも言うことなんてねーです。……ああ、一つだけありますね」

 

「ほう、述べてみよ」

 

「……慢心が過ぎやがりますよ!」

 

その瞬間、精霊の背後からエレンが飛び出した。

精霊が後ろを振り返るもすでにエレンの刃は不可視の壁を突き破り精霊に振り下ろされ…。

 

「戦術は褒めてやろう。我でなければ死んでいたかもな」

 

「な…っ!」「……」

 

エレンの真横から出された武器により受け止められていた。すぐさまエレンは距離を取る。マナも隙をついて精霊から離れた。

 

「我がこの場にいる雑種の中で最も力のある貴様を見失っているとでも思ったか?我をナメるのも大概にせよ。……だが、前回の我の攻撃を凌ぎきり、今回は我の霊力の壁を容易く破ったのは褒めてやろう。貴様、名は何という?」

 

「……エレン・M(ミラ)・メイザースですよ」

 

「メイザースか。ではメイザースよ、その技量に免じて貴様ら雑種の不敬な態度を免罪とするチャンスをやろう」

 

「ほう?前から思っていましたが、たかが精霊ごときが偉そうな口を叩く者ですね」

 

「よい、今はその不敬な態度、口も罪をとうまい。さてメイザースよ」

 

と、精霊が話し始めた時だった。

 

精霊の背後から一人の魔道士(ウィザード)が現れ、精霊に向かって斬りつけた。が、それは当たるものの鎧に弾かれた。

 

「ばっ……なにをしていやがりますか!」

 

「なにを言ってるんですかぁ!チャンスじゃないですか!無防備な今攻撃せずしてどうするんですか!」

 

「その行為はエレンの邪魔をするとは思いつかなかったですか⁉︎」

 

「何を………」

 

斬りつけた魔術師(ウィザード)は、精霊を確認し、その瞬間に悟った。

 

今、自分のやったことはとてつもなく愚かだった、ということを。

 

「…雑種ごときが、王たる我に刃を我に向けるだけでなく話の邪魔をし、我の鎧に傷をつけるか!その罪は万死に値する!メイザースよ、気が変わった。免罪とするのは貴様とマナの二人のみだ。残りは処刑とする」

 

「避けろです!」「えっ……きゃっ!」

 

精霊がいつの間にか手に握っていた斧により斬りつけられた魔術師(ウィザード)は軽々と吹き飛ばされビルに激突する。

 

それを見て、エレン、マナを含むこの場にいる魔術師(ウィザード)が精霊を取り囲む。

 

「貴様らはメイザースとマナを除き我を見るに能わぬ。雑種………いや、虫ケラは虫ケラらしく……死ね」

 

黄金の波紋の砲門が、一気に、数百まで開く。

 

 

 

 

 

 

勝負は、一瞬で決着がついた。

 

エレンを除くほぼ全ての人間が死にかけており、エレンは誰かを盾にしたのかほぼ無傷、マナは死にかけた人間ほどではないとはいえ見るからに重傷を負っていた。

 

「い……や……だ、死に……たく…ない……っ」

 

「……」

 

そんな中、一人の人間がそんな言葉を漏らす。

それを聞いた精霊は門を展開しその人間に向かって黄金の波紋を作り武器を向ける。

 

「ま、待て……っ!」

 

マナが制止するよりも早く、武器は放たれた。

それだけではなかった。周りの、エレン、マナを除く全員に、トドメといわんばかりに武器を的確に放つ。エレンは傍観していたがマナは一人でも守ろうとし、結果として一人しか助けることはできなかった。

 

「……なに、もう時間か。………さて、最後まで凌ぎ切った雑種どもよ。褒美に、次に会うときは、真の王者たる姿を見せてやろう。そうさな……貴様らの主人も連れてくるがよい」

 

そう言い、精霊は空間に溶け込むようにして消えた。

 

DEMの魔術師(ウィザード)で生き残った人間は、エレン、マナ、ジェシカのたったの3人だった。

その身に敗北が刻まれた3人は、一人は不敵に笑い、一人は怒りに満ち、一人は絶望をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

〜その日の夕方 公園〜

 

また関係ない人を殺してしまった。

 

そして、あそこまで英雄王気取りしてたのを思い出してまた羞恥に身も心も刻まれてもうHPが1なんです。

 

このまま羞恥に殺されるくらいなら自ら死を選ぶ!

 

なんなら人を殺したことよりそっちの方が嫌だ。殺すのも嫌だけど。

 

……まぁ、体が死ぬことを拒否するからやろうにもできないんだけど。

 

 

「ていうかさ……絶対あの人達またくるじゃん……!まじで私なに言ってんのさ……!」

 

去り際にした、精霊化して英雄王の性格になっていた私が言い放った宣戦布告。

もう、もしかしなくても、またあの人達と対峙することになるのは決定した。

 

「こうなりゃ……海外に逃げるか。いや……現実的でもないし……」

 

 

ていうかさ、私ってなんで目が覚めたらあんなところにいたんだろうね。

 

対峙してた時は昼だったんだけどさ。

()()()()()()()()()()()

 

なんか、こう……思い出したくないかのように、体が、脳が思い出すことを拒否する。

 

「……考えても仕方ないし、家に帰ろう。またおばさん達が心配する」

 

と、家に帰ろうとした時だった。

 

「ねえ」

「ん?」

 

突然、話しかけられた。

 

そちらを見ると、黒髪の、日系のような顔立ちの、長身で結構美少女な人が話しかけてきた。

 

「……?誰ですか?」

 

「あ、自己紹介が遅れました。私、アメミヤ・サキと言います」

 

「はぁ、私は神夏ギルです。で、何の用ですか?私、あなたと会ったことないと思うんですが」

 

「はい、会ったことはないです。でも、私は知っていますよ。()()()神夏ギルさん」

 

「…っ!」

 

その言葉に、思わず距離を取る。

 

「ああ!大丈夫ですよ!DEMの人たちみたいにあなたを襲うつもりはありません!」

 

「……?何、要件を手短に話して」

 

 

「実はですね…()()()()なんです」

 

 

その言葉を理解するのに、10秒くらいかかった。

 

「……で、精霊だから、なんですか?私に何の用ですか?」

 

「いえ、実はですね……

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()




どうでしたか?

過去篇はほとんど構成は終わってるので早いペースで投稿できると思われます

読んでくださりありがとうございます


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34話

過去編第3話
さて、これにてストックが尽きたのでまた投稿が遅くなる可能性大です。

アンコール9と四糸乃水着フィギュアとか買ってお金が…
四糸乃が13000と考えたら……安い?(バカ)

にしても…デアラ専門店?でしたっけ。めちゃ行きたい……





それではどうぞ


「私を、殺して欲しいんです」

 

その言葉の意味を理解するのに今度は10秒も要らなかった。

 

聞いた瞬間に、アホらしくなり公園から出ようとした。

するとなぜか手首を掴まれる。

 

「……なんですか」

 

「いえ、あまりにも撤退する行動が早すぎて思わず」

 

いやいや、そりゃ初対面の人間に自分を殺してくれって言われてヤバいやつと思わない人なんていないよ。

 

私?私の場合は自殺しようとしただけ。間違っても他人に殺してくれなんて思ってない。

てか、殺してもらうとしたら英雄王様にしか殺させない!陰湿引きこもりオタクを舐めるんじゃありませんよ!

 

と、自虐ネタはどうでもいいんだ。

 

問題は、この自称精霊だ。

 

ていうか、死にたいのなら勝手に死んでてよ。なんならこの街には精霊を殺したくて仕方のない人たちがいっぱいいるからさ。

精霊になって適当にとんでたら堕としてくれるさ。

 

「…私、門限があるのでそろそろ帰りたいんですが」

 

無理やり話を切り上げようとしてみるも、相手もなかなかの頑固らしくこちらが前向きな返事をしない限りは手を離してくれそうにない。

 

「……1つだけいいですか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「あなたもこの街に住んでる……かどうかはわかりませんけど、この街に滞在している以上、DEM社というのは知っていますよね?」

 

「はい、当然知っています。それが何か?」

 

「単刀直入に言うと、私ではなくそちらに頼んでください、と言うことです。私は、人殺しはもう二度とゴメンなので」

 

 

「……あんなに、無表情で何のためらいもなく殺していたのに?」

 

 

「………」

 

それを言われると、どうにも反論ができない。

 

ただその場にいるのが辛くなり、私は掴まれてる手を振りほどき一目散に走って逃げた。

 

 

 

 

 

〜自宅〜

 

「え…なに、これ。何が…どう」

 

家に帰ると、あの女の人たちに荒らされたあと、みんなで必死になって片付けたはずが、再度…いや、前よりひどく荒らされていた。

 

すぐ側には、すでに固まっているであろう赤い液体だったものが。

心臓がバクバクしながらも前に進む。

 

考えたくない。

 

 

 

いや。ちがう。()()()()()()()()

 

 

 

頭が、思い出すことを拒否する。ノイズがかかったかのように

 

だが、目の前の光景はそのノイズを易々と破壊して私に、私の頭にキッパリと思い出させた。

 

 

 

 

 

リビングについてその光景を目に入れたその瞬間に、声にもならない悲鳴をあげた。

一生分の声を出したんじゃないかと思うくらいに。

 

周りの家の人たちが異変に気付き耳を塞ぎながら私に近づいて、周りの惨事に気づく。

 

警察とか、色々と連絡し、私に声をかけるが、全く取り付く暇もなく、悲鳴をあげ続けた。

 

「ああ……あ……あ………」

 

そのまま、気を失い、倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、病院のベットの上にいた。

 

すぐ側にいた看護師さんが私に気づくとものすごく安堵した顔でどこかに走っていった。

 

「そっか…私、倒れ……」

 

そこまで言いかけたその瞬間、途方も無い吐き気を催した。

その場で吐きそうになるのを耐え、なんとか洗面所にいく。

 

吐くものなど何も無いはずなのに。

 

「ゲホッゲホッ……」

 

「だいじょうぶ?」

 

どこかで聞いたことあるような声がしたと思い、声の方向を見ると椅子に座っている人-----たしか、アメミヤ・サキ----がいた。

 

「なん…ですか」

 

「いやいや、私から逃げるあなたを追いかけてたら急に悲鳴をあげて倒れこむんだから。ほんとびっくりしたんだよ?ちなみに、病院代諸々わたしか出してたりします。更についでに言うと、君が倒れてから実に6日経ってます。惜しいね、あと1日で一週間寝たきりだったのに」

 

「……出て行ってください」

 

その人を、無理やり引っ張りドアの外まで連れていく。

 

「ちょっ、一応これでも恩人のつもりなのに⁉︎」

 

「その件に関してはありがたいとは思ってます。けど…すいません。いまは1人にしてください……」

 

そこまでいうと、さすがに引くべきだと思ったのか大人しく帰って行った。

 

「はぁっ、はぁっ……。うぅ……」

 

頭がいたい。ものすごく痛い。

段々と、記憶の整理がつくとともに、耐えがたい激痛が襲ってくる。

 

 

 

なんで……なんで……みんなが殺されなくちゃいけない……。

 

なんで、唯一の安らぎの場すら奪われなきゃいけない。

 

私のしでかしたことに対する罰?

 

1人だけ、のうのうと幸せに生きようとしたことに対するカミサマからの罰?

 

 

 

 

ベットの上で震えながら縮こまっているとドアが勢いよく開いた。

そこからは見るからに医者と看護師、そして…幼馴染のマイラ・カルロスがいた。

男と女の名前を足したような名前で本人はいつもその事で愚痴を言っていたけど、何だかんだ両親からもらった名前を大事にしてる人。

 

「神夏…よかった……目を覚ました……」

 

けど、私はその告白をしてくれたと言う幼馴染にすらいまは恐怖を抱いていた。

 

いつか、私の前から消えてしまうのではないかと。

 

「失礼します」

 

すると、医者が出たのと入れ替わりでもう1人入ってきた。

 

「え……」

 

「あっ、エレンさん。どうも、この度は…」

 

幼馴染は顔見知りだったようで、気さくに話しかけようとしたが、神夏ギルはその真逆で、即座に距離を取った。

 

入ってきた人間は、エレン・M・メイザースだった。

 

 

「やれやれ、そんなに警戒しなくてもいいんですよ?あと、この距離なら私のほうが速い。あの力を使う前に仕留めれます」

 

 

いつものように、機械を身にまとっておらず、比較的穏やかな笑みを浮かべながら話しかけてくる。

幼馴染はというと、いつのまにか気絶していた。

 

「ほぅ?大層な口を叩くものだな、雑種風情が。貴様ごときの腕で我を仕留めると?つけあがるのも大概にせよ。以前の貴様を認めたのは事実だが、我にその刃が届く道理ではない」

 

「わかりませんよ?密室ではあのような武器の連射はできないでしょう?利があるのはこちらです。ちょうどいいところに人質になれそうな人間もいますしね」

 

「我の全てを知らぬというのに、随分と大きく出たな。雑種が」

 

神夏は、精霊になっていた。鎧こそ纏っていないものの、精霊として、いつでも力を振るうことのできる状態になっていた。

 

「まあ、今日は貴女と争いに来たわけではありません。届け物をしに来ただけです」

 

そう言いながら、エレンは一枚の紙を机の上に置いた。

 

「アイクからの招待状です」

 

「ほぅ」

 

それを何のためらいもなしに手に取り眺める神夏。

 

「……くだらん。このような()()で、我自ら貴様らの元に訪れるとでも思ったか?」

 

紙には

 

 

『神夏ギル、3日後、DEMの本社に来て欲しい。

ああ、これはお願いじゃなくて命令だ。

別に背いてもいいが、貴女の大事な人たちは私たちの手中にある。極力危害を加える気は無いが、君が逆らうというときは、容赦はしない』

 

と、書かれており神夏を引き取った叔母たち------重傷を負っている姿-------の写真も一緒に添えてあった。

 

「貴方にとっては、最後の親類かもしれないのに見捨てると?」

 

 

「戯けが。見捨てるわけではない。こういう手を使ってくることにくだらん、と言ったまでだ。我の臣下である()()()の家族に手をかけた罪は重いぞ?」

 

 

冷徹な目でエレンを睨みつける神夏だが、エレンは少し距離をとっただけだった。

 

「勘違いしないで欲しいですね。()()()()()()()()ですよ。……今はね」

 

「なに?」

 

エレンの言い回しに何か思うところがあったのか、神夏は何かを考えるそぶりを見せた。

 

「……そういうことか。メイザースよ。事情が変わった。貴様らの誘いは受けてやろう。だがな、条件がある」

 

「何でしょうか?できうる限りのことはしますが。アイクからもそのように言われてますのでどうぞご遠慮なく」

 

「------、という雑種がこの街のどこかにいる。其奴を探し出し3日後までに用意せよ。まぁ問題はなかろう。まさかこの程度のことすらできぬというわけではあるまい?」

 

「勿論、その程度、わたしにとっては造作もないことです。では、3日後にお待ちしてますよ。ああ、当日は迎えを送りますので」

 

言い終わると、エレンはそのまま去っていった。

 

 

「……さてと、3日後が見ものだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、また病院のベットにいた。

 

「(あれ…?確か、マイラが来て、その後、いつも機械を纏ってる人が来て、それから……)」

 

記憶を必死に整理してると、コンコン、とノックの音が鳴った。

 

「は、はい。どうぞ」

 

「失礼」

 

それは、アメミヤ・サキだった。

 

「え、えーと…アメミヤさん?でしたっけ?」

 

「正解。にしても君、倒れすぎじゃないかな?ゆっくりと話せやしないよ」

 

どうやら、アメミヤさんによると、昨日やっと私が目を覚ましたかと思うと、その日のうちに気を失ったらしい。

 

「あの、なんで私に拘るんですか?死にたいなら、1人で死んだらいいじゃないですか」

 

「あー、うん。そうなんだけどね……、私、死にたがりのくせに自分に刃物を向けるのが怖いんだよね。おかしなことを言ってるようなんだけど」

 

「…?それで、なぜ私に殺して欲しいと頼むようになったんです?」

 

「いやぁ初めて君を見たときにね、君が数多くの武器を発射させてる所を見て【カッコいい!あの人になら武器を向けられても怖くない!それどころか、死ぬならあの人の手で殺して欲しい!】って思ったの。…で。どうかな?まだ、ダメ?」

 

「嫌です」

 

なんか上目遣いで頼まれたけど即答した。

 

これ以上、命を奪うなんて業を背負いたくない。

命を奪うという感覚を味わいたくない。

 

「だよねぇ…。諦めて自分でやるか他の人に頼むか……。あっ、じゃあさ!そういう関係になってもらわなくてもいいからさ!私と友達になってよ!っていうかなろう!」

 

「……はい?」

 

「だから!友達になろうよ!」

 

ちょっと、話が急展開すぎる。ていうか、自殺願望あるくせに友達作るの?他人にトラウマ植え付けたいの?友達になった人がいきなり死んだとか中々なトラウマになりかねない

 

「嫌です」

 

「えー、いいじゃん」

 

「嫌なものは嫌です」

 

「ちぇっ、まあいいわ!明日もまた来るから、その時もいっぱい話そ!じゃあねー!」

 

と、1人で勝手に喋るだけ喋った後は、こっちの返答も聞かずにものすんごいスピードで出てった。

 

「……はぁ、明日からうるさくなりそうだな…」

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

あれからというもの、本当にアメミヤさんは来た。というより、朝から晩までほんっとに付きまとわれた。

 

もう、軽いストーカーだよ、これ。

 

「…あぁ!ずるい!」

「ずるくないです。これもちゃんとした戦法です。はい、一本」

「神夏ちゃん、中々の鬼畜⁉︎」

私の得意分野(ゲーム)で挑んでくるのが悪いです」

 

 

 

「ほら、怪我人なんだから食べさせてあげるよ」

「い、いや…いいです。ひとりでたべれますから…」

「固いこと言わない〜。ほら」

「だから……ハム

「どう?」

「美味しいです……じゃなくて!1人で食べれますって!」

 

 

 

〜面会終了時間〜

 

「それじゃ、神夏ちゃんまたね」

「二度と来ないでください……」

 

やたらめったら振り回すだけ振り回してアメミヤさんは帰っていった。

こちとら腐っても病人なんですが⁉︎

 

「……寝よう」

 

なんか、明日は私の中のもう1人の、あのやたらと英雄王様になりきってる私が明日は用事があるとかで体を借りる、といっていたので疲れを残したままも悪いので少し早いけどたっぷりと休もう。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、もう少し、かなぁ……。もう少しで……おもしろいものが見れる…!その為にあの子にはもっと絶望してもらおう…!アレが()()()()()、一体どうなるんだろう…!」

 

 

 

 

 

 

『さて…霊力も十分だ。明日一日程度ならば我が使っても問題なかろう。だが…念のためもう少し貯めておくか』

 

神夏の中で英雄王は再度眠りについた。

力を蓄えておくために。

 

 

 

〜次の日〜

 

「…てっきり今日も来るものだと思ってたけど。昨日、絶対明日も来るって言ってたのに」

 

…ん?いやいや!違う違う!期待してなんか…ないです、多分。

 

『騒がれるのも面倒だ。神夏よ、今一度寝ておれ。今から其方の体は我が使う』

 

そんな声が聞こえたかと思うと急に意識が遠くなるような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

「さて…迎えを寄越すと言っていたが…」

 

愛用している黄金の鎧を下半身に纏い上は黒いシャツのみを身につけ、外を見渡すとメイザースのやつが姿を現した。

 

こちらを確認した後、車に乗りこちらへ近づいてくる。

 

「どうも、お待たせしました。それではどうぞ」

「…」

 

後ろの席に座るように促され、その中に入る。我とは別でもう一つ、白いやたら大きい袋が。そして動いている。

 

「不敬な…我をこのような汚物と同等に扱う気か」

 

「それは許してください。つい先ほど捕獲したばかりなんですよ。乗せる場所もないのでそこに置いてるんです。まあ荷物だと思えばよいでしょう?」

 

「ふん…目に入れたくもないわ」

 

間に剣を何本か射出し完全に遮る。車とやらがかなり傷ついたがまあ構わんだろう。

 

「さあ、疾く行けあまり気の長い方ではないのでな」

「ええもちろん。では行きますね。私たちの本社へ」

 

 

 

 

「前にも見たことはあるが…やはりこのビルと言うのは好かんな。脆すぎる」

 

聞くに、組織で一番偉い雑種もいるとか。そのような雑種がいる場所をこのように脆くするとは、考えるだけで吐き気がする。

 

「こちらです。アイクは上の階で貴女をお待ちです」

 

「中に魔術師どもを大量に忍ばせてか?笑わせてくれる。この程度で我を抑えれるとでも思っているのか?」

 

「おや、気づきましたか」

 

「当たり前だ。我へ向けた殺気が少しも隠れておらん。…面倒だな、全員まとめて処刑するか」

 

ゲートを開き、宝具をビルへ向けるとメイザースに止められた。

 

「我の決定に異を唱えるつもりか?メイザースよ」

 

「まあまあ。そう焦らないでくださいよ。心配しなくても彼女らとはやりあえますから。先にアイクとの用事を済ませてからです」

 

つまりは、処刑するにはまだ時間的に早いと言うことか。

まあよかろう。今死ぬか、あと死ぬかの違いだ。

 

そのままメイザースが先導し中に入り、エレベーターで上へ上がる。

 

着いた先には、一人の男と神夏の親族がいた。男と女が一人ずつ気を失って倒れていた。

そして…マイラ、とか言ったか。奴も気を失って倒れていた。

 

「して、その袋の中身がそうだな」

 

「ええ、貴女の要望通りですよ」

 

()()()()()()だが難なくやってのけるあたり、メイザースは英雄とまではいかなくとも相当な実力者、と言うのが再度よく理解できた。

 

そして我を呼び出した不敬な雑種の前へ、歩いていく。

椅子に座るように促されたがそれには座らず、ゲートの中から一つの玉座を取り出しそれに腰掛ける。

 

「さて、我に何の用だ?雑種風情が我を脅し、呼び出すなど不敬極まりない。本来ならこの場で打ち首にでもするが」

 

「そう怒らないでほしい英雄ギルガメッシュ王。私としても貴女にこんな形では会いたくはなかった。だが最初に失敗してしまってからはなんの力も持たない私が君に会いに言っても瞬殺されているのは目に見えていたからね。だが今回はチャンスだった。なんせ君の家族が重傷を()()()()()()くれたんだから。これは利用せざるを得ないだろう?なんせ今私が一番望んでいるのは君の力なんだから」

 

「ほう、我の力を欲するときたか。不敬もここまでくると呆れるわ。だが…それをするための算段がないわけでもないらしいな。その為の此奴らか」

 

いつの間にかメイザースは神夏の親族達の元で…レイザーブレイド、か?それを持ちいつでも殺せると表現していた。

 

「ああ、人質がいたら流石の君といえど手が出せないと思ってね。君が二重人格のようなものなのか、本当の英雄の魂なのかはわからないけれど、もし仮に後者ならばこうしておけば手は出せないと思ってね」

 

「後者ならば…な。悪いが我は人質など関係ない。我にとって人間とは今死ぬか、あと死ぬかの違いでしかない。ま…それ以前にこの状況でも其奴らを救う術はある。だが…貴様はそれ以前に望むことがあるのだろう?」

 

「おや、お見通しかな?」

 

「貴様の目的を、本来の目的を吐け。そうすれば、多少は貴様に力を貸してやらんでもない。貴様の愉悦の本質の部分を、見極めてやろう」

 

「ああ。そのくらいおやすいご用だ。ただ…エレン、少しばかり席を外してもらえると助かる。今からこの王様と二人きりで話したい。多分君がいたら僕は虚栄を張ってしまう。きっとそれはこの王様のお眼鏡には敵わないからね」

「……わかりました。ですが、危険が迫った時はすぐに呼んでください。すぐに駆けつけますので」

 

メイザースに指示を出し、人質もろとも全員がこの場から出て行き、残ったのは我と雑種が一匹。

 

「さて、名を聞こうか。貴様のその蛮勇とも言える度胸に免じて、不敬な態度は免罪としておこう。ま…その後の態度いかんによってはこの場で処刑するがな」

 

「ああ。私の名前はアイザック・ウェスコット。私は---------」

 

 




どうでしたか?

実は別の方でアンソロジーで小説(1500時程度のもの)の方で参加させてもらうことになってましてそれの締め切りが割とやばいためそっちの方の執筆に移るのでこちらがしばらく更新が止まる可能性があります ご了承を


深夜テンションで書き上げた部分(特に最後)があるのでまた大元を変えずにしっかりと書き直す可能性があります


読んでくださりありがとうございます


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35話

水着武蔵チャァァァァン!なんで来てくれないノォォォ!

と、某ゲームで見事に爆死してきましたorz

そして部活が忙しくこちらの執筆も疎かに…。もうほんと、一ヶ月更新ですいません……。


それはそうと、お気に入り登録者様が1000人超えました!ありがたき幸せにございます!
こんな拙いクロスオーバーものを読んでくださり感謝感激です!


それではどうそ!


「…覗き見が好きな不敬者が多いな。どれ、先に処刑をするか」

 

「いやいや。待ってくれ。先に話を聞いてくれるのではないのか?」

 

「ならば、その後に処刑だ。…どれ。気休め程度だが…」

 

 

 

 

ギルガメッシュが指を鳴らした瞬間に、過去を見ていた士道は、モヤがかったかのような感覚に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くだらん。そのような児戯の為に我の力を望むと。愉悦の在り方としては及第点といった所だが…。実にくだらん。我が貴様に力を貸す道理など無い。疾く失せよ」

 

「おや、ならばこちらはそれ相応の対応をするだけだ。君の家族がどうなってもいいのかい?」

 

「さてな。ここから先を決めるのは我では無い。神夏ギルだ。だが、しかと胸に刻め。神夏ギルへ働く狼藉は、我への狼藉と同意義と知れ。今現在で処刑してないだけありがたく思え」

 

「全く、結局は君の逆鱗に触れそうだな」

 

「我は行く末を見守ると決めておる。だが、我への狼藉となれば話は別だ」

 

「ああ、そういえば一つだけ聞いてもいいかな?」

 

「……まあ、良かろう。赦す。申してみよ」

 

「今回君のお願いで確保したそこの()()だが、これは一体どういうことだい?私としては大変ありがたい申し出だったけど」

 

「ん、ああ。そういえば忘れておったわ。簡単だ。其奴には後ほど死の裁きを下すためだ。なに、貴様らが我を狙うのに、特にメイザース程の自尊心の高い雑種があの様な手を使う訳がなかった。少し考えたらわかることを我はすぐ見抜けなかったというだけだ。…話し過ぎたな。これから先は神夏に任せるとしよう」

 

 

だが、どうせメイザースのやつが来た際には、すぐに会うことになるがな。

それまでは神夏ギルの意志の強さを見届けるか。

 

 

 

 

 

目が覚めて、すぐに私は目の前の男-----確か、アイザック・ウェスコット-----をみつけ、そいつから距離をとった。

 

一体、なにがどうなって、何が起こったかはよくわからないが、連れ去られたのだということだけはわかる。

 

しかも傍らには叔父さんや叔母さんが。マイラもいた。

致命傷、ではないとは思うがそこそこ深い傷を負っているように見えた。

人質、ということだろうか。

それに謎のウニャウニャ動いている白い袋。…?あの姿形、どこかで…?

 

「やあやあアロガン。いや、神夏ギルかな?これから私は君へ取引を持ちかける。君のその力と、君の親戚の命との、取引さ。もちろん受け入れてくれるよね?家族想いな君なら」

 

「…残念だけど、受け入れないよ。君達が私を狩るというなら、それはそれで構わないけど、私の家族達に手を出したなら話は別だ。私は、もう二度と、私の身内を、死なせないと誓ってる」

 

そう虚栄を張るも、心臓はいまだにバクバクと激しく鼓動し、今にも過呼吸になりそうだった。死ぬかもしれないのが、とても怖かった。

 

 

でもそれ以上に、これ以上大切なものを失うのが怖かった。

 

 

私を大切だと、言ってくれる人を、失いたくなかった。

 

 

独りに、なりたくなかった。

 

 

「はは。そんな怯えているのにかい?可愛いね。だけど…悪いね。私ももう手加減はしない。エレンにマナ。それに他の魔術師(ウィザード)達。頼んだよ」

 

アイザック・ウェスコットがそう告げると同時に、周囲の壁が爆散した。

そこからいつか見たエレン・M(ミラ)・メイザースとマナ。それに大量の雑種(にんげん)達があらわれた。全員が、機械の鎧のようなものを身に纏っている。

 

それらを確認した瞬間に、ほぼ無意識のうちにおじさん達の元へ行き、守るように黄金の波紋を展開して武器を撃ち出した。

 

今まで、もう1人の私のような、英雄王さまの真似事をしているわけでもないのに、まるで自分の能力かのように、扱えた。

 

でもそれは成り切りをしている私と違い、滑らかに撃ち出すどころか全てがぎこちなかった。

守るために力を振るうと決めたのに、撃つ瞬間に躊躇ってしまう。

 

心の底に殺したくないという考えがあるからだろうか。

 

でも守るためには命を摘み取らなきゃいけなくて、自分の心を押し殺し、頑張った。

 

 

 

でも、それは長くは続かなかった。

 

 

 

「全く、興醒めです」

 

他の雑種達は退けられても、メイザースとマナだけは無理だった。首に前後から刃が当てられる。

 

 

結局は、私は己の力すら満足に扱えず、守ると決めたものすら守り通せない。

ひどく、滑稽だ。

 

 

「…この人間たちは邪魔ですね」

 

メイザースは叔父さん達をみて、手を動かした。すると叔父さん達みんなが浮き上がり、真下へ向かっていった。

 

「な…」

 

「安心してください。ただ地下シェルターへ送っただけです。さて、これで邪魔はありません。思う存分、()り合いましょうか。アロガン」

 

そう言いながらメイザースとマナは刃を収め、10メートルほど離れた。他の人間達も、気づいたらそれくらい距離を取っていた。

 

「…なんで、そんなことを。あのまま私の首を獲れば、終わったのに」

 

「いえ、貴女の中の人との約束でしてね。次戦う時は、邪魔など一切入れない、と。私の力のみで貴女と戦うと。約束しているからですよ。ですので…()()貴女には用はありません。ですので、早く()()()()を出してくれませんか?」

 

「何を…言って」

『よい。貴様では手に負えぬ。僅かばかりとはいえ、よくぞ貴様の意志を貫き通した。ギリギリ及第点としよう。…さて、では再度、交代だ』

 

私の中からまた声がしたかと思うと、体が動かせ無くなった。

声も、出せない。

 

 

まただ。またこの現象だ。

 

 

一体何が、どうなってるんだ?

二重人格、なのかどうかすらわからない。

一つだけわかるのは、成りきってる痛いやつだということだ。

 

「…ほぉ。よかろう。後ほど貴様には罰与えよう」

 

え、いや。うん。すいませんでした。

 

「…興が削がれたわ。まあ良い。さてメイザース。貴様に問おう。なぜ好機を逃した?先程が唯一にして最大の好機であろう?」

 

突然そんなことを訪ねた。

びっくりしてるとメイザースも冷静に口を開いていた。

 

「知れたことを。私の剣を振るう理由はアイクのことが一番ではありますが、それ以上に貴女に煮え湯を飲まされてるのが気にくわない。そんな貴女へ勝つチャンスが訪れたかと思えば先程のような愚者。それでは私の気が収まるわけがありません。

 

それに何より、私は貴女に真正面から勝つことを望んでいます。

卑怯な手も、仲間も、なにも使わず。…今回は備品が付いていますが、私にとってはお荷物そのもの。

今回なような、人質を取り、動きの鈍った貴女に勝ったところでそれにはなんの価値もない。だからわざわざこうして人質を避難させたのです。()()()()使()()()()()()()()()()()()。それに…マイラ、とか言いましたかね。アレには元々手を出すつもりはありません。狙いはあくまでも貴女のみ」

 

それを聞いたもう1人の私は、心底愉しそうに笑った。

そのまま、言葉を紡ぐ。

 

 

「ならば望み通りにしてやろう。死ぬ気で抗え。雑種共!」

 

 

どうやら私の中の英雄王様(成り切り)はそこそこ本気だった。

砲門の数は100はくだらない。

 

「よく見ていろ。この砲門は、こう使う」

 

さっきまで私がやっていたように、一発一発を的確に当てようとするのではなく文字通り雨のように振らせ命中精度もクソもない。

下手な鉄砲数打ちゃ当たるとはよく言ったもので、大雨のように降り注ぐ武具は次々と魔術師を地面に堕としていった。

 

 

私が憧れた、好きになった英雄王さまそのものの、戦いだった。

 

 

 

…まあ女なんだけど。この場合なんだろ。姫ギル?いや、女帝かな?

 

 

 

「こんな緊迫した状況でも貴様は…。身内の安全がわかった瞬間それとはな。…しかし、メイザースよ。貴様にはこの英雄王自ら賞賛を送ってやろう。雑種の身でありながらよく戦った。誉めてつかわす」

 

その場に残っていたのは、メイザースだった。

防御に専念したのか、傷がほとんどない。

 

「貴女から賞賛をいただけるとは。素直に受け取らせてもらいます。…さて、時間もあまりありませんし、次の一撃で、決めましょう」

 

「ふむ、それには賛同だ。……そうさな。今までの貴様のその足掻きに免じ、真の王者としての姿を、強者の姿を貴様らに示してやる」

 

「なに?」

 

 

成り切りの(もうひとりの)私は、そんなことを言った。

もしかして…いや、もしかしなくても考えてることが伝わってくる。

 

 

そうして取り出したのは一つの複雑な形状をした黄金の鍵のようなもの。

どんなものか、確かめなくてもわかる。

 

一体幾度見たことか。

 

『王律鍵バヴ=イル』

 

…本当に、認めた相手にしか、使わないというアレを抜くということは、それほど認めているのか、それとも上機嫌だからか。

 

「これを貴様に受け止める覚悟が、あると良いがな」

 

「ふん。いいでしょう。なにが来ようと受け切ってみせます」

 

メイザースの言葉をもう1人の私は、嘲笑(わら)う。

愚か者を笑うように。

 

 

鍵を手にし、空中に刺して回す。

 

するとそこから更にゲートが開く。

その中から現るは、一つの剣。

赤い光を放つ文様を備えた三つの円筒が連なるランスのような形状をしている。

 

それらの円筒が回転し、どんどん空気の歪みを生み出していく。それを更に剣の元へ、圧縮していく。

 

 

 

「エアよ。寝起きで悪いが少しばかり力を発揮せよ。

 

裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣」

 

 

 

それを見たエレンは、数瞬の迷いもなく受けるという考えを放棄した他に見ていたマナや他の魔術師は自らが攻撃対象ではないとはいえ、ただただ怯えていた。この世の絶望を見るかのように。

 

 

 

「受けよ。天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!

 

 

 

そして、持っていた乖離剣エアを、逃げるメイザースへ向かって突き出す。

 

 

辺りが地割れを起こし、空が裂けるかのような錯覚が起き、高密度の空気の渦はメイザースへ向かって放たれた。

辺り一帯ごと、メイザースを空気の渦が飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ふーむ。出し惜しんだが…思ったより周りの雑種も耐えておるな。…が、しかし。お主に影響されすぎたな。なぜこのような威力で叫ばなければならんのだ。我の威厳に関わるわ」

『え⁉︎いや、その、ごめんなさい』

「もうよい。さて…生きておろう。疾く我の前に姿を見せよ。それとも、小物に成り下がったか?」

 

「…バレてましたか」

 

メイザースは瓦礫の中から現れた。

今までに見たことのないくらいの重傷を負っていた。

が、かろうじて四肢は無事、といったところだろうか。

 

「…やめです。流石にアレを見てやる気は起きません」

 

「賢明な判断だな」

 

 

「ですので、そろそろ私情はおしまいにしようと思います。ここからは、仕事です」

 

 

すると、突然()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

なんで?いつの間に?

 

 

「ここからは貴女には用はありません。貴女の本体に用事があります。さあ、神夏ギル。出てこないとこの方達の命は保証しませんよ?」

 

「ふん、くだら『やめろ!』」

 

その首に刃を当てたのを見て思わず叫んでしまった。無理やりもうひとり私よりも()に出て、斬りつけられる前に止める。

 

「やめて欲しければ、こちらの要求に従うことです」

 

ゲートを展開して武器を射出しようとするも、叔父さんの首に刃がわずかに食い込んで思わず止めてしまう。

 

「何を…すれば、いい」

 

「そうですね。手始めに貴女の精霊としての力を全て話してください」

 

「……」

 

メイザースの要求に、思わず口を塞いだ。

 

だって、()()()()()()()

己がどのような力を持ち、どのような能力なのか。

 

記憶の一部が飛んでいる、といえばいいのだろうか。

 

もう1人の自分が生まれ、そいつが英雄王ギルガメッシュの力を扱えている理由も、皆目見当がつかない。

 

「黙りますか。では…」

 

「い、いや。まって!わからないの!自分がどんな力を扱えるのか!それを一番知りたいのは私なの!」

 

「1人目、ですね」

 

 

 

必死に弁明をするも、メイザースは一切の迷いなく先ずは1人と叔父さんの首を斬った。血が、溢れてくる。

 

あの日の、お父さんやお母さんみたいに。

 

 

 

「やめ…っ!」

 

「では、早く話してください。このままでは貴女の大切な人全て失われますよ?今すぐに話せばこの方の傷は塞ぎましょう」

 

「だから…!本当に知らない!わからない!『あの日』の記憶がないんだ!自分がどうやって今の力を得たのか、もう1人の自分が現れたのかも、わからない!」

 

「…2人目」

 

「お願いだから信じて!私は何も…」

 

 

でも、聞き入れてくれなかった。今度は叔母さんを背中から貫いた。

 

 

「最後の勧告です。貴女の能力について教えなさい」

 

 

後から思うに、きっと覚えていて話したところで、きっとメイザースはコレをしていたんだろうと、思う。でもこの時の私は、今ほど頭も回らないし、大人でもなかった。

 

 

「では、貴女の望み通り、貴女の身内の方は皆さん死ぬということで」

 

あろうことか、メイザースは私の一番大切な人に、マイラの首元に刃をあてる。

 

「まって!お願いだからその人だけはやめて!お願いします!私にできることならなんでもするから!その人だけは!もう私から大切な人を奪わないで!」

 

「…」

 

でも、メイザースは冷徹な目のまま、刃を振りかぶる。

 

「なんで…なんでなんでなんで!なんで!その人には!手を出さないって…。狙いは私だけだって!お願いだから!その人を殺さないで!その人は、私の…」

 

 

言い切る前にメイザースは

 

マイラの首を切り落とした。




区切りとしてはあと3〜4話?続く予定。

かなーーーり今更なのですが神夏ギルの容姿は女帝ギルガメッシュに酷似してます(本当に今更)

詳しくは、まあググってクダさい。

早くfgoにも実装されんものかと思いますね。


読んでくださりありがとうございます


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36話

過去編6話目 さて神夏はどうなるのか。

それではどうぞ


マイラが、死んだ。

首を、惨たらしく斬られた。

 

もうマトモに考えれるわけがなかった。

 

 

 

 

「うぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

「!」

「ちょ…」

「な…」

 

とにかくがむしゃらに砲門を開きマイラの遺体から引き剥がすように武具を滅茶苦茶に撃ちまくる。

全員が退避したあたりだろうか、とにかく人が居なくなったのを見てすぐにマイラの元へかけつけた。

 

「ああ、マイラ。すぐに、すぐに治すから…。みんなも…すぐに…」

 

傷を治せるものをゲートの中から取り出して真っ先にマイラの首を繋げ、叔父さんと叔母さんの傷もすぐに治す。

 

叔父さんと叔母さんの息がまだあるのは確認できたけど一番生きていてほしいマイラだけ、息がない。

 

「いやだ、ねえ、目を覚ましてよ。わたしを、独りにしないで…。ねえ、あの時みたいに、陽気に話してよ。私にまた告白してよ。私、次してくれるって聞いて、次されたらちゃんと返事するった決めてたんだよ…ねえ、マイラ…。私……」

 

けれど、マイラからの返事はない。

 

なんで

 

 

なんでなんでナンデナンデナンデナンデ

 

 

「……もう、なんだっていい」

 

「全く、手間をかけさせないでください。ですが、もう私の仕事は終わりですので。あまり関係はありませんでしたね」

 

メイザースがすぐそばに戻ってきてはいるが、その全てがどうでも良かった。

 

この世界にいる意味なんて、もう何も見出せなかった。

 

 

 

「もういい、全員…死んで、しまえ」

 

 

 

全員を巻き込むように、大規模な爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜次の日〜

 

「……」

 

叔父さんと叔母さんは家に送り届けた。

大丈夫な保証はないけど、あの場にいるよりはマシだろう。

 

マイラを抱え、改めてDEM社までたどり着いた。

 

目的は一つ。

 

 

全員を殺す。

 

 

 

 

 

 

 

「あらあらあらあら。これは想定外ですわね」

 

あの黄金の精霊を見守っていると無表情で、涙を流しながら最愛の人間の遺体を抱えてDEM社まで向かった。

見ていていたたまれない気持ちになるが、昨日のことを考えるとそれも仕方ないのだろう。

きっとあの死体をよく見れば自らの間違いにも、あの人間たちの行ったことも、全てがわかったでしょうに。それに気づけなかったのでしょう。それほど心をへし折られた。

 

そしてあろうことかDEM社の玄関から殴り込みに入った。

 

 

…仇の相手は誰も居ない本社に。

 

 

さてさて、ここから何をするか、どうするかはあの方の意思次第。見守っておきましょうか。最悪の場合はわたくしが…。

 

 

 

 

 

 

 

『ちぃ…手遅れか。()()()()()()()()抑え込んではいたが、結局は本人の意思に左右されるか。脆弱なものだ。人間は今死ぬか後死ぬか、その違いだと言うのに』

 

【よく言うよ。君は…痛い痛い。喋らせて】

 

我は神夏の中で元に戻った一部を縛りつけた。

精神世界のようなものではあるが、自由にさせるよりかは遥かにマシだろう。

 

なにせ、今の神夏が消えれば()()()()()()()()()()

 

『これ以上、心を折られるなよ?神夏ギル。我の依代になったのだ。その程度ではあるまいて?』

 

 

 

 

 

 

「何処だ…どこにいる」

 

メイザースを探すも、いるのは雑種どもだけで、あいつは何処にも居ない。

 

マイラに、土下座をさせてやる。その上で、同じように首を切り落としてやる。

 

メイザースだけじゃない。ここに属する人間を、全て殺しつくしてやる。

 

「……どこ。なんで、いないの」

 

屋上までしらみつぶしに殺し回ったと言うのにメイザースも、これを引き起こした張本人のあの男も、いなかった。

 

「何処に…ドコ」

 

周りは阿鼻叫喚の地獄絵図。

建物は燃え、救急車やパトカーのサイレンがうるさい。

火事が広がり、それを止めようにも私がいるから止められない。

余計に広がり止めようとすると私に撃ち殺される。それの繰り返し。

 

「……」

 

マイラを地面に寝かせる。

 

 

 

……そういえば、あの時、袋に入れられていた人間はなんなのだろう。

でも、もう関係ない。

 

 

 

「あーその、神夏ちゃん?」

 

「……」

 

そんなことを考えていたら話しかけられた。誰?私に話しかけれる人なんて…。

 

「…アメミヤ、さん?」

 

そこにいたのはアメミヤ・サキさんだった。真っ白な、まるでウェディングドレスのような、それでいて天使を思わせるような、そんな衣装に身を包んでいた。

…そういえば、この人も精霊なんだ。

 

なら…

 

 

「ねえ、アメミヤさん。貴女、自殺をしたいと、言っていましたよね?」

 

「うん、言ってたね」

 

 

「それなら…『残念だが、そこから先は言わせんぞ。愚物が。貴様に任せた我が阿呆だったわ』」

 

 

また突然体の支配権?っていうのかな。それを奪われた。

けど、もうそれすらもどうでも良かった。

この世に未練も何もない。あるとすれば、アイツラを殺すことくらいだ。

 

「戯けが。人間は今死ぬか後死ぬかの違いだ。貴様が死ぬのは勝手だがそれは我に対する狼藉と知れ。…さて、そこな雑種よ。一つ貴様に問う。無論、嘘偽りを吐いたらその瞬間に貴様を処刑する」

 

「?」

 

「アメミヤ・サキよ。神夏の親族及びあの男…マイラとか言ったか?()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

…え?どういうこと?

 

 

 

 

「…?なんのことかな?」

 

「よく考えればわかることだった。あの時は神夏をおびき寄せようとした罠だと思ったがメイザースはこう告げた。『保護しているだけだ』と。我を前に嘘偽りをほざいてはおらん。なれば、誰がやったという?」

 

「……」

 

「沈黙は肯定とする。よかったなぁ?神夏よ。貴様の親族を傷つけた者が判明したぞ?」

『……。ええ。そうです、ね。……全力で、殺す』

 

 

 

 

肉片一つ足りとも残しはしない。

 

 

 

 

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

神威霊装・一番(エヘイエー)絶滅天使(メタトロン)!」

 

神夏ギルが黄金の波紋を展開するのと同時にアメミヤ・サキは自身の天使を呼び出す。周りにビットのようなものが展開されるが、神夏ギルはそれを()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ねえ、アメミヤ・サキ。一つだけ…一つだけ、聞いてもいい?」

 

「なんでしょうか?」

 

「……マイラを襲った理由を、話して。それだけ」

 

「えー。今それ言わなきゃいけません?」

 

「…それを話したら、せめてもの慈悲に少しくらい、苦痛なく、殺してあげるよ」

 

それを告げられたアメミヤ・サキはそれまでの笑顔が歪んだ。

 

「私のお願い、何か覚えてる?」

 

「…私に、殺されること」

 

「でもねぇ、正確には貴女に殺されるのではなくてね、()()()()()()()()()()()()()()()()。殺されるのはそのオマケ。だから貴女を絶望させるために動いてた。どう?簡単でしょ?」

 

「反、転…?」

 

「そう。反転。精霊強い絶望を味わった時に起こる現象。反転した精霊は通常の精霊よりも残虐で、冷酷で、強い。そんなのに殺されるなんて…それはそれはもう至高の時間でしょう?元よりこの世界に未練なんかない身。死に方くらい、選ばせてほしいわ」

 

 

それを聞いた神夏は、冷静に、無表情に、涙を流しながら()()

 

 

「…ああ、そうかい。じゃあ……遠慮なく、殺してやるよ。雑種が。お前は、その頭蓋を、一片たりとも残しはしない」

 

 

 

「まあそれも良いけど、どうせなら最大最高火力で一瞬で消しとばして欲しいなぁ?でも…その前に君を反転させないとね?」

 

 

 

 

 

 

日輪(シェメッシュ)!」

「……」

 

光剣(カドゥール)!」

「児戯だな」

 

神夏はアメミヤ・サキの攻撃の悉くを真正面から受けきる。

絶滅天使の羽を展開されるたびにその全てを撃ち落とす。

 

「…天の、鎖よ」

 

「まーたそれ?芸が無いよ?」

 

神夏は宝具を射出している中、その一つから天の鎖を射出する。

神夏ギルは直感で理解した。これは、精霊にも効くと。

本来は神の力を持つ者に絶大な効果を及ぼすものだが()()()()()()精霊にも同等の効果がある。

 

撃ち落とせばいいとタカをくくっていたアメミヤ・サキは一度鎖に触れて直ぐに意識を切り替えた。

だが、もう遅かった。

 

絶滅天使(メタトロン)は手数の多さで攻めるが、それは神夏も同じだった。

互いに手数の多さで攻めるが天の鎖という新たな脅威をアメミヤ・サキは無視できず次第に追い詰められていった。

 

「地に、堕ちろ」

 

「ぐうっ⁉︎」

 

足をつかまれた天使は、地面に叩きつけられた。

 

 

「虫ケラ風情が、手間をかけさせおって」

 

ゆっくりと、神夏はアメミヤに近づく。

来させまいと絶滅天使(メタトロン)で反撃しようとするも天の鎖のせいでうまく扱えていない。

 

「…ね、ねえ。待って」

 

「待たない。キミは、イマココで、殺す」

 

神夏は、ハルペーと呼ばれる回復ができなくなる鎌のようなものを撃ち込んだ。

それは的確にアメミヤ・サキの肩を割いた。

 

続けて複数の武具を致命傷にならないように撃ち込まれる。

 

本来は重症でない限りはすぐに治るがハルペーという武器によりそれも叶わなかった。アメミヤ・サキはだんだんと武器が体に突き刺さり、血に濡れた。

 

「お……願い。た……す………けて」

 

「…」

 

命乞いをされても、明確な殺意を、殺すという意思を持ち神夏は近づく。

 

「ねえ……私たち、友達……で……しょう?」

 

最後の情に訴えるという手段をアメミヤサキは取ったが、それは余計に神夏ギルを、更には英雄王を怒らせた。

 

 

「貴様ごときが我と友だと?傲慢な考えもほどほどにせよ。我の友はこの世で一握りだ。そして、神夏の奴も貴様を友などとはもう思うてない。神夏を騙した罪に見合った罰を与えてやろう」

 

 

「いや……いや……いやぁ!」

 

血だらけになって地に這いつくばっている雑種精霊に向けて、これでもかと、武器を突き刺す私。その顔は、怒ってもいなければ悲しんでもいない。

 

ただ、この世の全てに絶望をしていた。もう、この世なんてない方がいい、と。本気でそう思った。

 

その瞬間、私の中のナニカがひっくり返る感覚が起きた。

 

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)4の弾(ダレット)】」

 

 

 

突然、なにかを撃ち込まれた。

その瞬間、ナニカがひっくり返る感覚が戻るような、そんなよくわからない感覚に陥った。

 

「……〜〜っ!はぁっはあっ…。…あれ、私、は…」

 

「御機嫌よう、神夏ギルさん。いえ、アロガンとお呼びしたほうがよろしいかしら?」

 

「あ、あ…。キミ、は?」

 

「わたくしは時崎狂三。DEMの間ではナイトメアとも呼ばれてますわね」

 

「その、精霊が、何の…用?今すぐ、消えて欲しいんだけど」

 

「あらあら、命の恩人に対して酷い言い様ですわね」

 

命の…恩人?

 

「何を…あれ?マイラ…?マイラ…どこ」

 

周りを見渡すと、手元にいたはずのマイラがいない。周りを見るも、()()()()()()()()()()()()()()()白い精霊のみ。

しばらくすると胸のあたりから白い宝石の様なものが抽出されていた。が、それもすぐに霧散していた。

 

「ねえ、マイラは…?マイラは、どこに…」

 

「……」

 

けど赤く黒い精霊は何も答えてくれない。

 

「ねえ、神夏ギルさん。貴女どこまで覚えていらっしゃいますか?」

 

「え?……。そういえば、何で私こんなところに…。叔父さん達を家に送り届けたはず…」

 

「…少々()()()()()()()()ですわね。まあこれから先のことを伝えるには…関係ありませんもの」

 

「?」

 

赤く黒い精霊は何かを言ったがよく聞こえなかった。

でもその目は、これからの事をまるで同情する様な、そんな目をしていた。

 

「…性格も少しばかり変わってますわね。それはもうしょうがないですわ。…さて、神夏ギルさん。貴女に真実をお伝えしようと思いますの。その後にすることにも手をお貸しします。ですがその代わりに…」

 

「…?」

 

真実?一体何のことなのだろう。

 

「貴女の力を、お借りしたいのですわ」

 

 

 

 

 

 

「まず貴女が死んだと思っているマイラ・カルロスさんですが、生きておられます」

 

…?何を言ってるの?マイラは、さっきまでずっと手元にいたんだから死んでるわけないのに。

 

「貴女が抱えていたマイラさんはこちらです。先ほど、預からせていただきました」

 

そういって精霊はマイラを影の中から取り出した。

それを見て思わず飛びかかろうとしたが先に銃を当てられた。

 

「少々お待ちになってくださいまし。さて、この方ですが…()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

……え?

 

 

 

「この方はどこの誰かも知らない人間ですわ。その証拠に…【刻々帝(ザフキエル)4の弾(ダレット)】」

 

精霊がマイラの体に弾を撃ち込むとまるでビデオを逆再生しているかの様にマイラの体が変化していった。

 

まずは首がとれ、そして再度元に戻る。

そこで止まらず、さらに戻る。

 

 

すると、骨格や肌の色、マイラを構成していた要素の全てが変化していった。

出来上がったのは、全く別人。

 

 

ナンデ?どういうこと?」

 

 

「お分かりですか?マイラさんはまだ生きておられます。ですが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()。ねぇ?覗き魔さん?」

 

そういって精霊は何もないはずの瓦礫に向かって銃を撃ち放つ。

何も当たらず通り過ぎると思ったら、その辺りの空間が歪んだ。

 

さらに連続で撃ち続け、そのうちの一発がガキン!と大きな音を立てると共に1人の男が姿を現した。

 

それは…。

 

「ちっ、さすがはナイトメア。お見通しだな」

 

見間違えようもない。

私の大事な、マイラ・カルロスだった。でも、おかしい。メイザースの様な()()()()()()()()()()

 

「いえいえ。貴方のことはずうぅっっっと観察しておりましたもの。さて…お分かりですか?神夏ギルさん。この方は()()()()()()()()()()()()ずっとDEM社の手先ですわ。更に言うなれば、そこの元精霊の方を唆し神夏さんの親族を襲わせたのもこのマイラ・カルロスですわ」

 

 

…は?いや、何を…言って。

 

 

「はぁーー、全部お見通しってわけかよ。てことは、俺の目的もわかってる口か?」

 

マイラは否定するわけでもなく、ただめんどくさそうに言う。

なんで?否定してくれないの?

 

「ええ。貴方の望みはDEM社の社長さん…アイザック・ウェスコットでしたかしら?その方と同じ」

 

「はっはっは。バレバレでやんの。まーしょうがないか。でもよぉ、ナイトメア。お前にとって神夏(ソイツ)はどうでもいいはずだろ?だから…()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

……え?




どうでしたか?
過去編はおそらく次で終わりです。

さて、感想をもらった方が感化されて似た様な作品を書いたらしく……

いやまぁ、それ自体はいいんですが中身が余りにも似すぎてるというか…私自身はいいんですが色々引っかかったりしないのか心配です。


アンケートを見る限り、皆さん神夏ギルが救われるのは見てみたいらしくて軽くホッとしてます(私みたいに絶望に叩き落される様をみたいとかいう変人がいなかった)

まあ救われない物語にしてもいいのですが後味悪すぎるので流石に救われるように物語は進めるつもりです(多分)

原作と同じところまでは…まあ頑張りましますがどうなるかはわかりませんね。そうそう、今回のアメミヤ・サキの天使、実は○○さんと同じですよ。アニメまで見てる方はわかるよね。



読んでくださりありがとうございます


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37話

最近ソシャゲやる気全く出ません

デアラのアプリが日本で出たら多分超やりこむんですけど。
ポケマスをオート放置くらいです。
後はpixivで絵をあさったりとか。

マジでやることなさすぎです。

鬼滅の刃に着手はしましたが原作が熱すぎてちょっとやばいです妄想つきません助けて(

最近、高評価つけてくれた人がいて嬉しいです。


それでは(唐突ながら)本編どうぞ。


ナニ イッテ

 

ワカラナイ アタマ グチャグチャ

 

ナンデ

 

スキダトイッテクレタヒトガ

 

「申し訳ありませんがお断りしますわ」

 

「かーまじか。たっくよぉ。わざわざ信用しないエンジェルを長い月日かけて唆したってのによ。あのクソ雑魚、普通に殺されちまうし」

 

「あらあら、あなたのようなただの人間が精霊を雑魚呼ばわりとは。世界最強の魔術師(ウィザード)さんならまだしもあなたでは精霊を狩るのはぜっっっったいに無理ですわよ」

 

「はは、そうかもな。でも俺はな人の心を折ることが昔から得意中の得意なのさ。DEMにもその腕を見込まれて雇われたが…面白いことに魔術師(ウィザード)としての適性もあった。報酬もなかなかよかったぜ?」

 

「そうでしょうね。でなければあなたがDEMに入る理由はありませんもの」

 

ナニヲ ハナシテ

 

「精霊の力を、上手くいったなら俺にくれるんだとさ!こんっっっないい報酬!他にはねえぞ!ウィザードが何だ!あいつらの様な人外の力!ああ、欲しい!そうすると…何やら心がやられかけてる手頃な奴がいるじゃねえか?」

 

「それで神夏さんを狙ったと?神夏さんのご友人を騙ってまで」

 

「騙るっつうか、偶々名前が同じだったからな。後本人も平和ボケしてたからなぁ。いやぁ簡単だったぜ?神夏ギルの名前を出したらすぐに食いついてくれたからな」

 

「そうしてマイラ・カルロスさんを殺し、成り代わったと」

 

「ああ。実に簡単だろ?簡単でかつ相手を絶望に落としやすい」

 

 

……アア、ソウカ

 

世界ハ 私ニ 生キルコトヲ 赦サナイノカ

 

 

「神夏さんの為にも、わたくしの為にも、今ここで貴方を殺しておきましょうかねぇ」

「お前のためぇ?いやいや、そいつはなぁ…俺のために使うんだよ!」

「きひひ。神夏さんのお言葉をお借りするなら……貴様のような雑種ごときがこの様な方を扱おうだなんて不敬、ですわぁ」

 

 

 

 

 

 

 

(申し訳ありませんが士道さん。この指輪ではここまでですわ)

 

 

 

 

 

 

〜時は戻り現世〜

 

「…」

「シドー!目を覚ましたのだな!」

「と…おか?俺は…」

 

目を覚ますとベットの上にいた。辺りを見渡すとフラクシナスの医務室だった。

 

「やあ、シン。目が覚めたんだね。よかった。君は狂三の能力で神夏ギルの過去を見た後に倒れてしまったんだよ」

 

「そうか…俺……」

 

近くにいた令音さんが何があったのかを教えてくれて、すぐに何があったのかを思い出した。

神夏の元へ行こうとベットから立ち上がろうとするも予想以上に体が疲れているのかコケてしまった。

 

「まだ安静にしておいたほうがいい。君は丸一日寝ていたんだ。……だが、神夏の過去を、教えてほしい。一体何を見たんだい?」

 

「はい…。琴里も…」

 

「大丈夫。皆を呼んでおいた」

 

「皆?」

 

すると扉が開いて色々な人が入ってきた。琴里に神無月さん、四糸乃によしのん、中津川さんに他のクルーの人も入ってきた。

 

 

「士道。休んでなくて平気?別に明日とかでもいいのよ。狂三曰く、あなたは今かなり脳に負担が掛かっているはずなんだから」

 

「いや、大丈夫だ。それじゃあ、神夏の…過去を、話します」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「はい…神夏さん。どうぞ!」

「……」

「いいこです…!」

 

「まるで子と母ね」

「うむ、四糸乃から溢れんばかりの母性オーラが滲み出ておる」

「肯定。あれだけ士道や琴里に怯えていたのが嘘みたいです」

 

今は自宅でご飯を作っているが神夏も付いてきてくれた。というよりは四糸乃についてきたみたいだけど。

 

「…」

 

「琴里?」

 

「ひゃいっ⁉︎ど、どうしたの?」

 

「いや、ずっと険しい顔してるから」

 

「…当たり前でしょ。神夏ギルのあんな過去。私よりも酷いわよ。それに神夏の過去と今までの言葉から推察するに、神夏ギルは多重人格…の様なものよ。多分、今の神夏が本来の神夏に近いんでしょうね。きっと、本当の神夏はもっと優しくて、思いやりがあって…」

 

琴里は途中から言葉に詰まっていた。

それもそうだろう。俺だってあんなのを見て…。

 

「…今そんな顔をしてどうする。余計にみんなに心配をかけるだけだろ…!よし、みんな!ご飯できたから運んでくれ!」

 

「「「「はーい!」」」」

 

最初に十香が、その次に耶倶矢と夕弦、そして四糸乃と順々に出来上がったカレーを取っていく。琴里が持っていき、最後に俺が自分のと神夏の分を持っていく。

 

「それじゃあみんな、いただきます」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 

 

 

 

なんで、なんでこの人たちは私にこんなに尽くすんだろう。関わったことがないはずなのに。

わからない、わからない。

 

でもこの小さな子は、最初見たときに思わず引き寄せて抱いてしまった。何でそんなことをしたのか自分でもわからないのに、この子は不思議な事に手を取ってくれる。得体の知れない私に手を指し伸ばしてくれる。

笑いかけてくれる。

 

それに応えようと口を開こうとするも声がうまく出ない。

頭の中で変なモヤがかかって、体が震えて、なにもできなくなる。

唯一できるのは、笑いかけることだけ。

 

 

 

ナニモ、ナニモ、思い出せない。

私は何だ。

 

何でこんなところにいるの?

 

この人たちは、何で私に…

 

 

ワカラナイ。何もわからない。

 

 

どうして、私は…

 

 

 

 

 

「記憶喪失?」

 

「ああ、恐らくだがね。神夏はずっと疑問に思っているんだ。自分の周りの環境に。そして()()()()()。…状況証拠のみだが記憶喪失なのは間違い無いと思う。それでも四糸乃に心を許しているのは、それだけ四糸乃の母性が強いのだろうか。それに関してはよくわからない」

 

皿洗いをしながら令音さんと話す。記憶喪失…なら神夏は今まで起こったことが全て忘れているということ?大切な人のことや、今まで起こったことも、全部?

 

「だが、記憶喪失は一朝一夕に治るものじゃない。ここは地道にやる他ないだろう。だからまずは先に今の状態で四糸乃以外に…つまりは君に心を開かせる」

 

令音さんに言われ改めてこれからすることを決意する。

 

絶対に、神夏を救うという決意を。

 

「令音さん、俺神夏の元に行ってきます」

「うん、気をつけてね。四糸乃がいるから滅多なことじゃ反転したりはしないと思うが、それでも今の神夏は何が起こるかわからない」

「はい」

 

残りの食器を食洗機の中に入れて神夏のいる部屋に向かう。

やるなら早いほうがいい。

 

「神夏!話が…」

「しーっ。今寝たところです」

『うんうん、神夏ちゃんのことが大事なのはわかるけど少し声抑えてね』

「あっ…悪い」

 

部屋に入ると四糸乃にしがみつくようにして神夏は寝ていた。

近くに寄ると相当疲れていたのかぐっすりと寝ていた。

 

「四糸乃、よしのん。神夏は…どうしてた?」

 

「どう…?」

『なんだろーね。よしのん達がいるのが安心するのか終始抱きつかれてたよ。離れようとすると凄い不安そうな目で服引っ張られちゃうから。神夏ちゃんの話を聞くときほんと大変だったんだから。ご飯食べた後にも抱きついてたんだけど、それで疲れちゃったみたいで四糸乃が膝枕してあげたの』

 

「そうか…」

 

神夏の頭を撫でるとくすぐったいのか少し声を漏らしていた。

顔は凄い安心しきっていてあの過去を見た後だから余計に心配していたが今は大丈夫そうだ。

 

 

 

 

(なぁ、神夏ぁ。一生のお願いだ。死んでくれ)

 

 

 

 

「……っ!はぁー…はぁー」

「神夏⁉︎」「神夏さん⁉︎」

 

「……っ!嫌…!」

 

「神夏!しっかりしろ!」

 

急に神夏が目を覚ましたかと思うと暴れ始めた。

まるで何かに怯えて逃げるように。

 

「大丈夫だ!大丈夫だから!」

 

「い……や!」

 

四糸乃にすら怯えていて何が何やらわからなくなったけどとにかく落ち着くように神夏に呼びかける。四糸乃も一緒に励ましてはくれてるけど一向に落ち着かない。

 

…一か八か。

 

「神夏!」

 

「い…や!こな…いで!」

 

嫌がる神夏を強引に、腕を引き寄せて思い切り抱きしめる。

その間にもずっと暴れられる。

 

「大丈夫だ!俺はお前に…」

 

「ア…ァ!」

 

「ぐうっ⁉︎」「士道さん⁉︎」

 

突然背中に何かが突き刺さる感覚がした。

激しい痛みが襲ってくるがそんなことより神夏を落ち着かせることを優先する。

 

「だ…いじょうぶだ、神夏。俺は…絶対にお前を…裏切ったりしない。お前を…独りになんか、しない」

 

「ウゥ!」

 

神夏は腕の中で暴れまわる。それを必死に抑えながら抱きしめてるとさらに背中に何かが突き刺さる。

 

「ぐっ…だ、いじょうぶ、だから、そんなに、悲しい…顔を、しないで…くれ。神夏…四糸乃も、心配してるぞ。だから…早く、いつもの…神夏に。俺は…いつもの凛とした神夏の方が……好きだ。それに…な、ここには、お前を裏切る…奴なんて、絶対…いない。だから……」

 

「……」

 

より強く、優しく神夏を抱きしめると次第に暴れなくなった。

…ちょっとは、落ち着いてくれたかな?

 

「ウ…あぁ…」

 

神夏は小さな…本当に小さな声を出して泣き出した。堰き止めていた何かを少しずつ吐き出すように、弱々しい声で泣いていた。

頭を優しく撫でると余計に決壊しちゃったらしくしばらく泣き止むことはなかった。

 

「ぐうっ…四糸…乃。琴里達を…呼んできてくれないか」

「は…はいっ!し、士道さん、背中……」

「ああ、だ…いじょ…うぶ、燃えてるような…感覚…あるから、死には…しないよ。それより…はや…く」

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、機械に身を包んだ人達に囲まれた。思わず後ずさりするもすぐに壁に達してしまった。

それでも必死に逃げようと後退りするも機械人間の内の一人が近づいてくる。

必死に抵抗するも諦めずに何かを言ってくる。

 

そして一人に引き寄せられた。何かされるのかと思って思い切り暴れるも逆に思い切り抱きしめられた。訳がわからずガムシャラに暴れても離してくれない。

背中から武器を刺すもそれでも離してくれない。

 

「俺は…絶対にお前を…裏切ったりしない。お前を…独りになんか、しない」

 

嘘だ。そう言って、みんな…。

もう絶対に、信用なんか…しない。

 

拒むためにひたすら暴れるも全く離してくれない。

ならばと追い打ちで更に武器を取り出して突き刺すもそれでも離してくれない。

 

なんで?なんでこんなにも…。

 

 

「ぐっ…だ、いじょうぶ、だから、そんなに、悲しい…顔を、しないで…くれ。神夏…四糸乃も、心配してるぞ。だから…早く、いつもの…神夏に。俺は…いつもの凛とした神夏の方が……好きだぞ。それに…な、ここには、お前を裏切る…奴なんて、絶対…いない。だから……」

 

 

……なんで、こんなにも優しくしてくれるの?

 

(神夏はほんっとに優しいよな。まあ好きな事への情熱はと言うか見境なくなるのはしょうがないとしても僕は神夏以上に優しい人を知らないよ。だから…例え全員が神夏の敵になろうとも、僕は絶対に神夏を裏切らない)

 

 

なんの…記憶だ。誰……。

でも、すごく懐かしい感じがする。

 

それを感じた瞬間に、急に涙が溢れて止まらなくなる。

なんで…私には、泣く資格なんて……ない、のに。

 

その間にもずっと優しく頭を撫でられて、余計に涙が溢れてくる。なんで…なんで…?

 

 

 

 

 

 

「士道⁉︎大丈夫なの⁉︎」

「あ、ああ…なんとか…。ちょっと静かに…な。神夏、ようやく寝たから…」

 

神夏は泣き疲れたのか俺の腕の中で小さな寝息を立てた。それと同時に背中に刺さっていた何かが抜け、燃えている感覚がした。

 

「何があったのだ?シドー」

「と、突然神夏が暴れてな…ちょっと、無茶した……」

「…バカ兄貴!ちょっとくらい私達を頼りなさいよ!なんでそう…全部……」

「ご、ごめんな……琴里」

 

でも俺のとった選択は間違ってないと胸を張って言える。多分、あのままどうにもできなかったら……きっと神夏は取り返しのつかないことになっていた気がするから。

 

「とにかく!士道は真っ先にフラクシナスの医務室に!神夏は…四糸乃、悪いけれど側にいてやって。十香!耶倶矢!夕弦!全員で士道を運び込むわよ!」

「う、うむ!」「かか!任せよ!」「了承。夕弦にお任せください」

「令音、四糸乃達は任せたわ。後で中津川もこっちに送るわ」

「ああ。任された」

 

 




現在の神夏の状況は
記憶喪失 失声症 自閉症を発症していて心を開いているのは四糸乃、よしのんのみ。というよりはその二人が近くにいないと精神が不安定になってる。四糸乃とよしのんの関係みたいなもの(四糸乃もよしのん(パペット)が手にはまってないと精神が不安定になる)

にしても…士道君を頑張って活躍させたい…と思ってるんですけどね…どう書けばいいのか全くわからん…。今回もかっこいい感じになってればいいんですけど…。

それとpixivの方にかなり手直し入れるかもしれませんが同時掲載するかもしれません。
掲載することになったらまたURL貼ります。


読んでくださりありがとうございます


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第6の精霊の物語
38話


今回で原作6巻に突入。

神夏が救われる物語にするのにどこのタイミングがいいのか探り探り作っていきます。
また大まかな流れを組み立てなければ…。

一応○○が出てくるあたりでどんな展開があるかだけは決まってるんですけどね


そういえばデアラ最新刊がもう直ぐでますよ。みなさん買いましょう
表紙の絵を見ただけで鳥肌立ちました。ほんとヤバいです。


茶番はこの辺で、それではどうぞ。


「…はい、治療完了だ。だけどしばらくは安静に。…重症を負ってしまった君に言うのも酷だとは思うがシン、本当によくやったと思うよ」

 

「はは…俺も無我夢中でしたので」

 

あれから俺は気を失っていたらしい。

目が覚めたのは一日経ったあとだった。

そして今、医務室で最後の治療を済ませ、そのまま再度バイタルチェックをしてもらった。内臓などは奇跡的に無傷だったらしい。

 

……あと、すごい左腕が重い。

 

「それで…ひとまずは目標達成、と言えば良いのかな?」

「多分…これが心を開いてくれているのか分かりませんが…」

「側から見ると心を開いているというよりは…溺愛している?」

「ですよね…」

 

そう、左腕に神夏がくっついているのだ。四糸乃と一緒に。

ちょっとでも離れようとするならすごい不安な顔をする。

…これは心を開いていると言っても良いのか?

 

「観測データの方ではどうなってるんですか?」

 

「ふむ…四糸乃に対してとはまた違った反応になってるね。君が離れようとすることに対して恐怖を抱いていると言えば良いかな?四糸乃がよしのんが離れることで心が不安定になるようにね」

 

「なるほど」

 

急にこうなってしまったが、前までの反応を考えると良くなったと捉えて良いだろう。ただ…。

 

「令音さん、俺…」

「しばらくは神夏と共に過ごすしかないだろうね。君と離れようものなら自殺しかねない」

「…わかりました」

 

まあそうなるのは分かっていた。元よりそうするつもりだった。

琴里のことも怖がっていたが大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

〜その日の夕方〜

 

「か、神夏…危ないからちょっと離れてくれないか?」

「……」

 

結論から言って大丈夫だったのだが…料理の時すらくっついている。

ものすごい頼られてるという感じがして悪い気はしないのだが…刃物を扱っている時だけは本当に危ないから離れて欲しい。

 

「神夏、すぐに終わるから待っててくれないか?」

 

「…」

 

そう言うと神夏はまな板の上の食材を、皮の剥かれたジャガイモに人参を見て右手を向けた。

すると突然黄金の波紋が現れてそこから武器が射出され、野菜を切り…もとい斬られた。と言うよりは、まな板やシンクごと貫通してる気がする。

 

「…はは、ありがとうな。でも…次からそれは無し。いいか?」

 

「…?」

 

神夏なりの手伝いのつもりだったのだろう。代わりに台所が壊滅しかけたが。

…ここにきたばかりの十香を思い出すな。

 

そこからは頑張った。片腕しか使えない状態で。本当に頑張った。

 

「琴里ー、十香ー。運ぶの手伝ってくれー」

「分かったわ」「分かったのだ!」

 

神夏はご飯を食べるのは流石に一人でやってくれた。まあ、四糸乃を抱いてはいるが。

 

 

 

 

…さて、これからどうするべきか…。神夏の記憶が戻るように尽力すべきなのか、それとも…このまま霊力を封印させてもらえるまで好感度を上げるべきなのか…。

 

ただ、それ以上に、だ。

 

「これは流石におかしいだろ!」

 

寝ることすら共にとは思ってもいなかった。俺が離れたら何が起こるのかわからないのはわかるけど。しかも四糸乃いないし!

 

「…l have a question for you。Can I ask you?」

 

「え?」

 

そんな時だった。全くこれまで喋ろうともしなかった神夏が突然喋った。ただ、何を言ったのかがすぐに理解できなかった。

 

「…ok?」

 

「え、えーと…あー、ソーリー、ワンモアタイム…」

 

「I have a question for you。Can I ask you?(あなたに質問があります。聞いてもいいですか?)」

 

えーと…私に質問があります、ってことか?えーと…

 

「お、オーケイ。アスク、ミー…えーと、サムシング(いいよ、なんでも聞いてくれ)」

 

「…What’s your name ?(あなたの名前は?)」

 

「へ?え、えーと…マイネーム、イズ、シドウイツカ」

 

「…シドウ、My name is Gil Kamiya。l understand Japanese。Why do you like me?(私の名前はギル カミヤ。日本語もわかります。なんで私が好きなんですか?)」

 

神夏が聞いてきいたのは、…聞き間違いじゃなければ何故私が好きなのか。えーと…なんて言えばいいのだろうか。

 

「…わた、し、貴方と…会ったこと、ない…。貴方、私大切て、言った。私も…貴方が、大切…。なんでか、わからない…。でも…何故か貴方が、離れると、私、とても、怖い…。あの小さな子よりも、貴方離れるのが、居なくなるのが、とても…怖い」

 

震えながら神夏は必死に伝えてくれた。

俺と会ったことがないと言うことは…記憶喪失なのは確実か。でもどこまでの記憶がないのか…。

 

そして、神夏が大切な理由。

 

今までは精霊だから、辛い様子の彼女がいたたまれなくて、助けなければ、と思った。

 

 

でも、多分そうじゃない。

 

 

きっと…俺は…

 

 

「…俺は、ずっと元気な神夏を知っていてな、神夏が辛いことを背負っていることも知っている。神夏が何を経験してきたのかを、断片的にしかわからないけど、それらは俺にお前を大切だと思わせるには十分すぎるものだ。他のみんなだってそうだ。

精霊だから守るんじゃない。

みんな辛いことを背負っていて、それで自分を責めて、自分を傷つけていて、それが俺にとってもとても辛いから、みんなを助けて、守りたい。

もちろん神夏もだ。十香に四糸乃、琴里に耶倶矢と夕弦も。

この世の全ての辛い人たちを守るのは俺には到底無理だけど、せめて俺の手が届く人だけでも、守ってみせる」

 

思ったことをそのまま伝えると神夏はすごいキョトンとした顔をした。

そのすぐ後に小さく微笑んだ。

 

「…なんで、大切なのか、分かった…気がする。貴方、私の大切に、とても似てる。…あと、ここ、どこ?私、イギリス、いた。気づいたら、ここ。どこ、なの?」

 

「ここは日本だよ。神夏は近くの高校で俺と同じ学年なんだよ?」

 

「え…私、まだ、ジュニアハイスクール…。え?私、ハイスクール?」

 

「ああ、そうだよ。記憶がなくなってるからかその辺あやふやだよな。うん、明日しっかりと話そうな!知らないこと、なんでも…は難しいけど俺が答えれる限りのことを教えてやるよ」

 

 

 

 

 

 

〜9月〜

 

時が経ち9月8日。あれからだいぶ神夏は慣れてくれた。琴里や他の精霊達にも。それに加えて辿々しいが会話をしてくれるようにもなった。ただ記憶喪失はどうしても治りそうになかった。令音さん曰く、本人が思い出すのを無意識のうちに拒んでいるとか。

 

キスをして霊力を封印してみたらどうかという意見もあったが、それをしようにもそこまでの好感度ではないこともわかっていて、意気込んだもののすでに手詰まりだった。

好感度が高い、というよりは依存と結論づけられた。

 

そして俺から離れようともしないのも変わらなかった。あと外へ出ようともしない。正確には俺が外へ行くとついてはくるが。自ら外へは決して出ようとしなかった。

何をするにも俺と四糸乃の側から離れようとはしなかったから、必然と俺と四糸乃、神夏という三人組が出来上がっていた。が…ひとつだけ問題がある。

 

「…今日から学校なんだよなぁ…」

 

そう、学校が始まってしまう。

このまま登校したら確実にまずいことになる。

 

「私も副担任としてサポートするから、頑張ってくれ。神夏は、君と一緒なら構わないと言っていたから」

「はい…」

 

令音さんと話している最中も四糸乃を抱きながら俺の左腕に神夏はくっついている。慣れたとはいえ…流石にこのまま学校に行くのはまずい。

 

「神夏、学校にいる間はこういう風にくっつくのは無し…ってのはダメか?」

「…No」

「はは…だよな。でもこのままだと神夏も勘違いされちゃうぞ?」

「勘違い?」

「あーその、俺と付き合ってるとかなんとか、色々噂されるかも…」

 

「それだ」

 

神夏と話していたら令音さんが急にそう言う。

…まさかとは思いますけど

 

「もしかして令音さん。その、それだ、っていうのは…」

 

「そのままの意味だよ。学校では神夏と付き合ってるとして仕舞えばいい。そうすれば多少は…」

 

「いやいや!それは…」

「…?」

 

神夏は何を言ってるのかよくわかっていなかったが…ええ、大丈夫なのか?

 

「とりあえず行ってからでないとなんとも言えないね。…かんばれ」

「はぁ」

 

しょうがないか…。俺一人が犠牲になって神夏が守れると言うなら安い…やすいものか。

 

「じゃ、じゃあ神夏、それでも大丈夫か?」

 

「付き合てる…て、シドウ、私のボーイフレンド?」

 

「あ、ああ…その、いいか?」

 

「…イイ、よ。それで、シドウ、困らない…なら」

 

「あ、ああ。ありがとう、神夏」

 

ただ、どうしても波乱が巻き起こるのは確実だろう。どうするべきか…。

 

 

 

 

 

〜学校にて〜

 

「チックショオオオオ!見損なったぞ士道!十香ちゃんに鳶一嬢がいながら!」

「殿町…なんか、すまん…」

「謝るんじゃねぇ!惨めになっちまう末長く幸せにしろよこんチクショオおめでとう!」

 

案の定学校に到着するや否や、全員に質問責めにあった。特に女性陣が神夏に色々聞こうとしていたから何とかそれをブロックする。だって全員殺気すげえんだもの。それで神夏が怖がってしまったから必死に守った。

他男性陣には俺がボコボコにされたが。

 

「…シドウ、Sorry(ごめんなさい)…」

「いや、気にするな。この程度なんてことないさ」

 

隣の席に座った神夏が心底申し訳なさそうに伝えてくれ、それをみた女性陣がまた騒ごうとしたが先生により記憶喪失のことが告げられ、一応は収まった。

噂で記憶のなくなった神夏をこれ見よがしに手篭めにしたとかなんとか言われていたが気にしないことにした。でないと俺の心がもたない。

 

「なあなあ、どこまで行ったんだ?キスくらいはしたのか?デートとかは?」

「…殿町」

「いーじゃんかよ!親友の恋路は気になるもんだろ!」

 

騙してるという罪悪感が押し寄せてくるがここはグッと堪える。

令音さんと事前に決めていた通りの設定を口にする。

 

「まだ数回デートに行ったくらいだよ。神夏自身が外に出ることを怖がってたからな。家の周りをゆっくりと歩いてまわったりとか、そんな感じだ」

 

「くぅー!いいねぇ!青春してんねえ!チクショウ!」

 

殿町は羨ましがりながら悔しがってどこかへ走っていった。

 

「…シドウ、ごめん、なさい。迷惑…かけ、て」

「ん?ああ気にしなくていいよこのくらい。いつもこれ以上に恥ずかしい目にもあってるからな」

「?」

 

訓練で黒歴史バラされたり公衆に広められたりするよりは断然マシだ。

…ただ、ずっと視線を送られてるのが気がかりだ。

 

「…Sorry、私…何か、ついてる?」

 

「……」

 

そう、折紙だ。ずっと神夏を睨んでる。昼休憩には一度呼ばれ、事のあらましを聞かれた。

 

それもそうで、折紙はASTに所属していて精霊を殺すのが目的なのだ。ずっと煮え湯を飲まされていた相手がこの状態なのだ。狙わないはずがない…と、思っていたが、折紙からは

 

(なぜ付き合ったの)

 

と、最終的に聞かれた。というより大半がそれに関してだ。

…なんで?

 

「彼奴らの喉を噛み千切らん!」

「「「「おおおおおお!!!」」」」

 

教室で帰る準備をしていたら同じクラスの亜衣とその親友の麻衣、美衣の女生徒三人組が突然壇上に立ち(ほとんど聞き取れなかったが)今年の天央祭というここら一体でやる祭へのやる気を煽っていた。

煽られた生徒は皆雄叫びをあげていて神夏はもちろん、十香ですら怖気させていた。

 

「シドウ、皆、戦争、する?」

「はは…まあある意味戦争…?かな」

「戦い…なら、少し、役に…立つ」

「いやいや、実際に殺しあうわけじゃないからな?」

「?」

 

神夏は神夏で戦いと聞いて黄金の波紋を展開しようとしていた。慌てて止めて天央祭について一から説明した。

その際に十香と折紙でまたイザコザがあったりしたが、その辺はいつものことなので割愛しよう。

 

 

その後、殿町が俺を天央祭の実行委員に仕立て上げるとは夢にも思わなかったが。

神夏がいるからと弁明しても、私達みんなでサポートするから大丈夫!、と押し切られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「ほう、AAAランク精霊『プリンセス』に精霊の力を扱う少年。更には私達が取り逃がしたSランク精霊『アロガン』か。そんな三人が同じ学校に通っているとは、確かに興味深い」

 

「は。更にマイラ・カルロス程度なら瞬殺までできるほどアロガンは力を洗練させています」

 

「そうだね。確か傲慢な口ぶりでない時は、SランクどころかCランク程度のものだったが…そうか、そこまで成長していたか」

 

「はい、更に私達が発現させていた『魔王』も鳴りを潜めていましたが、潜めているだけで内部には『魔王』の片鱗がいることも確認できました」

 

「そうか。やはり抑え込んでいるのは彼女の()にいる英雄王ギルガメシュのおかげだろうね。それで…その魔王はどうだった?勝てるかい?」

 

「…正直に言いますと真正面からでは無理でしょう。右腕のみで私たちを全滅させかけましたから。ですが、彼女の魔王には慈悲が残っている。それを利用すれば容易いかと。無論、こちらも無事では済まないでしょうけど」

 

「うん、なるほど。じゃあ…数年越しの再会になるわけだ。楽しみだね」




次回、新たな…精霊が現れる、かも?

ご存知あの方。
さあ修羅場ですよ楽しみです(ゲス顔


読んでくださりありがとうございます


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39話

おひーさしーぶりです。失踪はしてません。本当です。
遅くなってる理由としては最近PS4買って色んなゲームやってるせいですね
モンハンとAPEXとFortniteとデアラ。楽しいですほんと。

けど放置は良くないのはわかってるのでちゃんと書いていきます。

それではどうぞ


「疲れた…」

「…ダイ、ジョーブ?」

「ああ、大丈夫…」

 

時刻は19時半。数の暴力とはすごいもので、神夏のことを説明しても天央菜実行委員の任命からは逃れられなかった。

 

夕飯も買わなきゃいけないため、商店街を通ったのだがその際に顔なじみのおばちゃん達に神夏との関係を色々言われつつお祝いされたりもした。

 

すごい心が痛い。

 

そして帰路の最中に四糸乃とよしのんが迎えにきてくれて、更に腕が重くなったりした。

本当なら、そのまま琴里希望のハンバーグを作る…ところだったんだが…

 

 

 

 

 

 

「チッ…聞いてないワヨ!コイツが近くにイるなんテ!」

 

「ふはははは!誰かと思えばメイザースと共にいた雑種ではないか!今一度我に処刑されにきたのか。努力もしない、上の者に媚びるだけの醜悪な雑種風情が、我を討ち取ると?面白い冗談だ。だが…今の我は貴様に構っている暇などない。…神夏よ、好きに使え。道化、神夏の近くにいたほうが良いぞ?ま、中のあやつが出てきたら保証はせんがな」

 

 

今俺がいるのはドーム球場。そのほぼど真ん中に神夏と共にきていた。

精霊が出現し、その解決へ向かうことになったが神夏は離れようとはしなかった。でも二人でいるのを見たら機嫌が悪くなるかも、ということで神夏だけ迷彩をフラクシナスから施してもらっていた。

 

しかし、現れた精霊『ディーヴァ』への接触はなぜか選択肢を言うよりも前に失敗も同然の数値を叩き出していたらしい。

何かを言うたびに好感度が下がり、終いには終始暴言の嵐だった。

 

その最中、いつも通りASTが現れたのだが…外国人?のような隊員がこちらを見た際に()()()()()()()()()()攻撃してきたのだ。

 

それを神夏がすんでのところで武器を射出し止めてくれたのだが…

 

「…シドウ、Don't leave me(私から離れないで)」

「あ、ああ…イェス」

「殺し…嫌、でも、シドウ…傷つける、許さない」

 

神夏は右手を伸ばした。

すると現れるはドームの天井を全て覆い尽くすかのような量の黄金の波紋。その全てから武器が顔を覗かせる。逃さないためなのか、壁にも波紋が現れている。

 

「…Die(死ね)」

 

その声と同時に、その場は阿鼻叫喚だった。

今までの、英雄王ギルガメッシュがやるような、無造作に攻撃の雨を降らすような攻撃方法じゃない。

 

確実に、殺すためのやり方。

 

 

「あーん!いいですよぉ!ねえ貴女!私と一緒に来ませんか!」

 

「…No」

 

「あーんいけずぅ!でもぜっったいに連れて行きますよ!」

 

 

そんな中、精霊『ディーヴァ』が、神夏に近づき話しかけていた。

ものすごく嫌な予感がし、神夏の腕を持ち引っ張って寄せてしまった。

 

「琴里!回収できるか!」

『今やるわよ!』

「?Kill、違う?」

「殺しちゃダメだ!」

 

 

 

 

〜ラタトスクの一室〜

 

「ねえ、シドウ。なんで、Kill bad?」

 

「神夏、お願いだ。殺そうとするのは…やめてくれ」

 

「What?アイツラ、私達、殺す。なら、私達、アイツラ殺さないと。でないと、私達、死ぬ」

 

「それでも…ダメだ。神夏、頼む。これから、殺すのはやめてくれ。神夏のことは絶対に俺が守るから。正直、俺のワガママなのは分かってる。でも、俺は神夏にもう…

 

辛い思いをしてほしくない」

 

あの時の神夏は、ずっと無表情だった。人を殺そうとすることへ対して、何も感情が湧いていなかったようにみえる。

 

性格が記憶を無くす前とほぼ真逆なことは分かっていた。

でも、まさかここまでだとは思っていなかった。

 

人を殺すことへ対しての考え方。

 

今までの神夏は殺すこと自体が嫌で、戦うにしても必ず撤退させていた。

けど今の神夏は違う。

 

殺すことを嫌ってはいるが、その行為自体にためらいが一切無い。

 

「…Ok.でも、シドウや四糸乃が危ない、その時は、Kill、する。シドウ、四糸乃、死なせない」

 

「あ、ああ…わかった。でも心配しないでくれ。絶対にそんなことにはさせないから」

 

「…わかっタ。信用、スル」

 

神夏は心底納得できないと言う顔ながらも、了承してくれた。

よかった。ひとまずは安心だ。

 

「終わった?なら作戦会議するわよ士道。…ねぇ、神夏。そろそろ慣れてくれない?これでも貴女に相当優しくしてるんだけど」

 

「…なんカ、怖イ」

 

「なんでよっ!」

 

琴里が現れた瞬間に神夏は俺の後ろに隠れた。はは…相変わらずと言うか、この光景にもう慣れてしまっている。

 

「はぁ…まあ、いいわ。作戦会議と言っても大方の方針は決まったわ。ディーヴァを見て、ピンと来た船員(クルー)がいてね。姿がアイドルの誘宵美九(いざよいみく)だっていうのよ」

 

「誘宵美九?」

 

誰だろう。アイドル?…いや、そういえば最近その名前を聞いたような…。確か、殿町が何か…。

 

「あ、そうだ!竜胆寺高校に編入生が入ったって聞いた!確かそれの名前が誘宵美九!」

 

「なんですって?…わかったわ。調べてみる。でもまぁ、誘宵美九で確定ではないのだけれどね。その可能性がとても高いわ。で、それなら士道が一気に好感度下がった理由も納得できるのよ」

 

「どういうことだ?」

 

「それはね、『誘宵美九は大の男嫌い。触るどころか見ることすらダメ。代わりに女の子は大好き。シークレットライブは女性限定。しかもお気に入りの子を持ち帰りしている』っていう噂があるらしいのよ。それが本当だとして、誘宵美九が精霊だったなら…納得はできるじゃない?」

 

「なっ…」

 

琴里の言葉に絶句した。

それが確かならば、もう打つ手がない。もう高校生だし他人の嗜好にとやかく言うつもりはない。だが、それはもう行く手を塞がれたも同然だった。

嫌悪感程度ならなんとかなるかもしれないが、生物学的な隔たりがあるのはどうしようもない。

 

「まあ確定じゃないって言ったでしょ?もしかしたら激似の人かもしれない。だから確定するまでは待っててちょうだい」

 

「あ、ああ…。…もしそれが本当ならどうすれば…」

 

「あら、何を言ってるの?打つ手はあるわよ?まあ、使わないに越したことはないけどね。それじゃあ、しばらく動きがあるまではいつも通り神夏と過ごしててちょうだい。神夏、士道にセクハラされたらすぐ呼ぶのよ?コテンパンにしてあげるから」

 

「セク…ハラ?」

「しねえよ!」

 

神夏もそんな真顔でこっちを見ないでくれ⁉︎そこまで落ちぶれてはないぞ⁉︎

 

 

 

 

〜数日後〜

 

結論から述べると、精霊『ディーヴァ』は誘宵美九だった。

 

一番のきっかけは彼女が天央祭の実行委員にいたことだった。

ラタトスクから観測をしてもらい、改めて彼女が精霊であると言うことを確定した。

 

ただ、それは精霊とのコミュニケーションが絶望的であることを示していた。

なんせ彼女は大の男嫌いなのだから。

 

「どうすれば…」

 

「あら、言わなかったかしら?打つ手はあるわよ」

 

「へ?」

 

そういえば、そんなことを言っていた気がする。

 

「打つ手って?」

 

「それはね…これよ」

 

そう言って琴里が取り出したのは俺の通っている来禅高校の制服。

ただし()()()の。しかもサイズが大きい。

そう、まるで()()()()()()()()()()()()()()()ぴったりに見える。

 

「ええと…」

 

それをみて、とても不安な気持ちになり思わず後ずさった。

だが、クルーである川越さん、幹本さんに両腕をがっちりと拘束された。

 

「ちょ…何をしてるんですか?離してくださいよ…?」

 

冷や汗を垂らしながら抗議すると、今度は女性クルーの椎崎さん、箕輪さんが大量の化粧用具を持って現れた。

 

「な、なんですかそれっ!」

「大丈夫、怖くありません。最初は少し足元がスースーするかもしれませんが、大丈夫ですよ。なんせ、今から()()()()()なるのですから」

「何にですかっ⁉︎」

 

そして最後に中津川さんが。その手には…薬?あれ、でも見たことあるような…。

 

「あ、あの…それは?」

 

「おや?覚えてませんか?英雄ギルガメッシュ王が使用した妙薬です。()()()()()妙薬ですよ。昨日お願いしたら面白そうだから、とくださいました。感謝をしてくださいね?」

 

「神夏ぁぁぁ⁉︎」

 

いや、この場合はギルガメッシュ王の方だろう。面白そうだからってなんです⁉︎

 

「こ、琴里…?」

 

もうなんでもいい。命乞いをするように琴里に助けを求める目で見る。が…琴里は愛らしい笑みを浮かべ、

 

「グッドラック。---()()()()()()

 

なんの躊躇いも無く死刑宣告を下し、ぴっと親指を立ててきた。

 

 

 

 

「……誰だこいつ」

「…シドウ、beautiful」

「やめてくれ…そんな純粋な目で俺を見ないでくれ…」

 

姿見に写っているのは青い髪が背をくすぐる程度まで長く伸ばされ、可愛らしい髪飾りをつけていて、顔にはファンデーション、マスカラ、ビューラーでメイクが施され、桜色に塗られた唇も相まって、もはやお前誰だよ状態だ。

胸に関しては、今は()()()()()()()()()ため、違和感ありまくりだが膨らみがあり、ブラジャーも装着。そして男のアレも無くなっている。手足は産毛に至るまで完璧に脱毛。ツルツル美肌になっていた。

女の子としては長身だが、それでもいつもの中性的な顔のせいで(というより女顔のせいで)元が男とか言われても絶対にバレないと言う自信がなぜか湧く。

 

…なんだこれ、なんの羞恥プレイ?

 

「ひゅう、存外似合ってるじゃないの」

 

琴里は心底意外と言う顔で言ってくる。

 

「…てめえ、覚えてろよ」

「女の子はそんな言葉遣いしちゃダメ。まあ何はともあれ上出来よ。これなら少なくとも一発で士道を男だと思う人はそういないでしょう。まあ、実際今は女なんだけどね」

「まさか本当に性転換するとは思ってもいなかったよ…」

 

 

ちなみに妙薬を渡した張本人ともう一人は神夏の中で爆笑していた。

初めて意見が一致した最初で最後の瞬間である。

 

男性クルーの数人から息子の嫁に欲しい、五万円でどう、いいお店を紹介…などと言われたが全て無視させてもらった。最後の二つを言った二人はどこかへ連行されていったが。

 

「そこまで出来るなら十分よ。それで、次美九に会えるのはいつ?」

 

「え?ああ…確か次の月曜日から、放課後に設営準備始まるはずだから、その時には多分…」

 

「そ、ふむ…あんまり猶予がないけど仕方ないわね。明日1日で士道は一人で女の子モードに変身できるように訓練なさい!椎崎と箕輪は化粧を教えてあげて。それと女の子らしい仕草も学ぶこと!妙薬は中津川曰く、ギルガメッシュ王の気前のおかげでまだまだあるらしいけど万が一があるからね。月曜の放課後から本格的な攻略に入るわ!」

 

そう高らかに琴里は宣言する。

大きなため息をつきながらも、了解と返すしかなかった。




今回はキリがいいところだったので短めです。
さて、士織ちゃんが出てきましたね。本編では女装ですが今回は英雄王の粋な計らいにより妙薬で性転換。

つまり胸とか色々…マジです。

想像しちゃダメですよ?わたしはしてしまいましたがね!


読んでくださりありがとうございます


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40話

おひさしぶり(?)です。

美九編も、基本的には主軸が神夏になっているので原作基準の部分はすっ飛ばしたりしているので話の展開はスムーズです。


それではどうぞ





「さて…何かいうことはあるかしら?士道?」

「何もございません…」

 

現在は士道女装(正確には女体化)計画が発達してから数日が経った頃。

 

士道はとある理由で正座させられていた。

士道(女の時は士織)はあれから実行委員に行き、順調に精霊【ディーヴァ】である誘宵美九と仲良くなっていた。

 

 

だが問題が起こった。それは士道と美九の断崖絶壁とも言える価値観の違いだった。

美九が空間振を起こした際に士道は、慕っている子が死んだらどうすると問いかけたところ、美九は『それは困る。自分好みの子をまた探さないといけない。悲しいけれど、彼女は私のことが大好きなのだから私のために死ねるなら本望じゃないですか?』という言葉が士道の琴線にふれた。

 

そして言い放ったのだ。

 

『俺はお前のことが嫌い』だと。

『世界の誰もが肯定しかしないなら、そんなお前を、その行為を俺が否定する』と。

 

 

 

ちなみに女子なのに一人称が俺なのは初動でしくじってしまったからである。個性的と取られた為それで通すとか。

ちなみにこの時は神夏ギルはいなかった模様。四糸乃と仲良くしてました。

 

 

「けど…ぶっちゃけ俺だけならいい。でもあそこで神夏まであんなモノ扱いされたら流石に黙ってられなかったんだ。…神夏のことを、何も知らないのに神夏を…」

 

そう、実は神夏のことも美九は狙っていた。

そしていつかは私のモノにする。私好みなのだから私の側に控える方が嬉しいに決まっている、と。士織として聞いたので本来関係ないはずだが、神夏の事情を知っている、という風で通していた。

 

「んで、その結果がステージによる勝負?1日目の部門で来禅高校が最優秀賞取れば条件を呑む?勝てる保証でもあると良いのだけれどねぇ。なんて言ったって、相手はプロアイドルの誘宵美九なわけだし」

 

「……」

 

そして再度士道は項垂れた。

ちなみにもう女装(女体化)は解いていたりする。

 

 

 

 

 

 

「…イザヨイ?…Who?」

 

「えー、あー。あれだ、あのホールで会った精霊のことだ」

 

「ah…彼女、ニガテ。よく、わからなイ。デモ…ニガテ」

 

フラクシナスでのお説教の後、俺の黒歴史がまた掘り起こされ強制的にバンドをやる事となった。

自分から持ちかけたからには全力で勝ちにはいくつもりだが…詳細は俺の精神衛生上省くが黒歴史を引っ張り出されるとは思いもしなかった。

 

帰ってから四糸乃と神夏に聞かれ、当たり障りなく、心配をかけない程度に中身をはぐらかして伝えた。すると神夏は美九のことを思い出したのか何故か震えていた。

 

「彼女、声、ヘン。心が、傾ク」

 

「傾く?」

 

「Yes」

 

傾く…と言うことは、神夏も洗脳されかけた、って言うことか?

 

…神夏が敵なんて考えたくないな。

いや、でもあのギルガメッシュ王が中にいるんだからそんなことはないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

けどこの時、俺も、琴里も、みんなが忘れていた。

 

最悪な事になる予兆は、予測はあったはずなのに。

 

 

 

洗脳されると言うことは他の誰にでもありうること。

そして、それがアレの引き金になり得るということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜天央祭 当日〜

 

神夏ギルは、当日はひとまずは士道…ではなく士織とともに登校。そして人が多すぎると精神不安定になりかねないとのことで天央祭が始まるとすぐにフラクシナスに戻っていた。そこで四糸乃とずっと部屋にいた。

トランプをしたり、部屋で遊べる遊戯を、神夏はずっと無口なまま、微笑みながら四糸乃としていた。

 

「あ、あの、神夏さん」

 

「?」

 

「その…私と一緒に、天央祭…行きませんか?」

 

「…」

 

四糸乃の提案に神夏は首を横に振った。

 

「だ、大丈夫です!もし何かあっても私が守ります!それに…よしのんも、お祭りには十香さんや士道さんもいますから!」

「そーだよぉ〜。なーに、このよしのんにお任せあれ!」

 

「…わかっタ」

 

「…!」

 

四糸乃は何とか説得を試み、それに渋々ながら神夏は頷いた。ラタトスク側は令音が付いていくという条件付きで許していた。ただし、会場ではより一層四糸乃の腕を痛くない程度に強く掴んでいた。

 

人に慣れてきたとはいえ、数百人単位の人の数は流石に神夏にとっては恐怖の塊だったらしい。

 

「…あ!しど…う?さん?」「うん、間違ってないよ。アレはシンだ」「あっははー似合うじゃなーいのー。もういっそ下とって上つけた方が需要あるんじゃない?」「…シドウ、前より、woman、なってる。……あれ?デモ、今日、薬飲んでない?」

 

「ああ…ちょうど切れてるそうだ…。…い、いやそれよりも、四糸乃?それに神夏も。先に帰ったんじゃ…」

 

「えっと……あの、その…可愛いですね」

 

そしてメイド姿の士道…もとい士織を見つけていたが、どうやら性転換云々は聞いていない模様である。

ちなみに今日は単に薬が切れていただけである。英雄王曰く『今は表へ出ること自体が難しいから今日は頑張れ道化』とのお達しである。

 

「ああっ!やめて!優しい言葉をかけないでっ!汚れた私を見ないでぇぇぇぇ!」

「あ、あのっ、私はそんな…」

「いいかい四糸乃。勘違いしてはいけない。シンはとても崇高且つ誇り高い仕事に従事しているんだ。決して彼の趣味じゃないんだよ」

「そ、そうなんですか……?」

「ああ。ここ最近は女子メイクにも慣れてきて、グロスを塗る時の仕草が女子にしか見えなくなってきたが、決して彼…今は彼女か。彼女が好きでやっているわけではないんだ」

「何を吹き込んでるんですか令音さん⁉︎」

 

そんな時だった。士織たちに近づいてくる一つの集団があった。

 

その中心にいるのは、誘宵美九。

 

周りにたむろしている生徒、テレビクルーを『邪魔です。何処かへ行ってください』の一言で全員を散らばせ、優雅に歩き士織に近づいた。

 

「…っ、何の用だよ。敵情視察にしては目立ちすぎじゃないか?」

 

「いえいえー。まさかそんな。ただのデートのお誘いですよぉ。それにしてもメイド姿の士織さんも良いですねぇ。それとあの時みた方も一緒だなんて、これはこれは。良いですねぇ。でも今は…士織さんだけにターゲットは絞ってるんです。寄り道はせずに行きましょう。さ、士織さん。きてくれますよね?」

 

 

 

 

 

〜数時間後〜

 

「楽しみ…ですね」

「(コク)」

 

あれから士織は美九と共に何処かへ出立した。神夏と四糸乃は令音により特別席からステージを眺めていた。周りにはもちろん誰もいない(単に二階の機材置き場からみてるだけである)

 

まず最初に歌うは誘宵美九。こちらはプロということもあり四糸乃含め誰もが感動していた。 突如照明が落ちたりしていたが、美九は天使を顕現させ、さも演出のように見せ、会場のほとんど全員を魅了していたが神夏だけ違った。

神夏だけ無表情で眺めていた。

 

 

いや、正確には空中を、天井をずっと眺めていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「神夏…さん?」

 

「…」

 

四糸乃に呼ばれ神夏は再度笑い、四糸乃を抱きしめる。

そうして誘宵美九の次に現れたのは士織に十香。そして八舞夕弦と八舞耶倶矢。どうやらこの四人でバンドをするらしい。

 

四糸乃はより一層笑顔になり士道たちを見ていた。

神夏はずっと、微笑みながら見てはいたが上から注意をそらすことは一切なかった。

 

 

 

結論から言うと、ステージ部門では士道達は二位だった。だが総合一位は来禅高校となった。つまり、誘宵美九との賭け事に士道達は晴れて勝ったこととなる。

 

だが、その場がそれですぐに封印、とはならなかった。

 

美九が駄々をこねた為に。

 

「------【破軍歌姫(ガブリエル)】!」

 

他人のせいで負けたこととはいえ、自分が負けたことを認めたくなかった美九は、天使という強硬手段へ出た。

 

現れたのは、巨大なパイプオルガン。

 

士道が呼びかけるも、効果はない。

 

「待ってくれ!話を聞いてくれ!」

 

「歌え、詠え、謳え------【破軍歌姫(ガブリエエエエエエル)!】

 

美九は両の手で光の鍵盤を叩きつけた。

 

神夏はとっさに自分の耳を塞いでいた。嫌な予感がしたから。

 

 

音が鳴り終わった後の会場は、あまりにも静かだった。

何も音は聞こえず、ざわめき一つ発されない。

 

それもそうだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あっはっはっは…仲間…でしたよねぇ?士織さんが勝てたおかげの…お仲間でしたよねぇ。美しいですねぇ、素晴らしいですねぇ…。

 

こんなに壊れやすいなんて」

 

カラカラと壊れた人形のように笑いながら美九は言う。

 

それを見て助けたほうがいいと思った神夏は四糸乃の肩を揺するも、()()()()()()()()()()()()()

 

「…?四糸乃?」

 

「ふふ…うふふ…これで、あなたのお仲間さんは、みんな私のものですよぉ?士織さん、あなたのいう絆とやらは私の指先一つでどうにかなってしまうんですねぇ」

「…っ!」

 

美九が再度鍵盤に手を触れるとステージにいた出演者達が士道の腕を拘束する。それを見てさらに焦った神夏は四糸乃の肩をさらに強く揺するがそれでも反応はない。

 

 

 

しかしここで大事件が起こる。

今日の士道は単なる女装だ。そう、つまりは性転換していない。

つまりは男のアレもある。

 

美九は自分のものになったと思い込み、士道の下腹部に触れ、違和感を感じ取って確かめたのだ。

 

 

そして、絶叫が響き渡る。

 

なぜなら、誘宵美九は極度の男嫌いなのだから。

 

 

そうとなれば次に取る行動は一つ。

 

それを感じ取った神夏は四糸乃を置いて士道の元へ駆けた。あたりに暴風を起こし、士道の前へ降り立つ。

 

「か、神夏!無事だったのか!」

 

「(コク)…デモ、四糸乃、変。何も…答えてくれない」

 

「え…?」

 

「うっふっふ。丁度いいですね。貴方は男じゃないですよね?なら…貴方は一目見た時からぜっっったいに私のモノにするって決めてるんです。さあ…そんな穢らわしいモノから離れて、私の元へ、来てください」

 

「…No」

 

「あっはっは!それなら…力付くでやるしかありませんねぇ!」

 

美九が再度鍵盤を叩こうとしたのを見て、それより先に神夏は王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開し、武器を射出する。それは的確に美九の手へ向かった。

 

美九の手に着弾すると思われた直前、それは防がれた。

 

()()()()()()()()

 

「なっ⁉︎」

「⁉︎」

 

『んー、ふふ。あーぶないなぁ。そんなことしちゃ駄目だよー?』

「お…お姉様は、わたしが……守り、ます」

 

「四糸乃⁉︎おまえ、なんで…」

「What…?四糸乃…裏切らない、言った…ナンデ?」

 

その次の瞬間には暴風が吹き荒れる。

今度は八舞耶倶矢と八舞夕弦による妨害だった。

 

「お、おまえらまで…⁉︎」

 

「…ァ、こ、コトリ!助け…」

 

神夏は、もしどうしても怖くなったら、士道がやばくなったら使えと言われたインカムで、琴里へ助けを求めた。だが返ってきた答えは。

非情で

無情で

 

 

 

神夏にとってはこの上なく最悪なものだった。

 

 

 

『ハァ?何言ってるの?お姉様に逆らった罰よ神夏ギル。そこでミンチにされてなさいよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハッ、結局、みんな、わたし、裏切った…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四糸乃、耶倶矢、夕弦による攻撃で精霊だったみんなすら操られてしまった状況で、琴里に助けを求めるも、スピーカー越しに聞いただけですら効果が及んでしまっていて、打つ手なしに近かった。

 

「神夏!一旦ここは………神夏?」

 

神夏は、虚空をずっと見ていた。何かおかしいと思った瞬間に、耳のインカムから壮絶なアラームが鳴り響く。

 

 

一度だけ聞いたことがある。

琴里から、これが鳴るということは、ほぼゲームオーバーと同じ、と。

それを数秒経って思い出した俺は、すぐに神夏に駆け寄ろうとした。

 

だが相手はそんなことは関係なしに、四糸乃が、夕弦が、耶倶矢が、観客が俺たちを攻撃してきた。

 

「う、うわぁっ⁉︎」

 

一気に襲ってくるであろう衝撃に備え神夏を庇うように覆いかぶさる。だが、次に襲ってきたのはふわりという浮遊感だった。

 

「…え?」

 

次の瞬間には神夏と共にステージ上から天井際に沿って伸びたキャットウォークの上に移っていた。

 

「シドー、これは一体何が起こっているのだ?それに神夏ギルも…」

「と、十香!ありがとう、助かったよ。でも…なんで…。…っ!十香!それどころじゃない!神夏は…」

「神夏……っ!シドー!離れるぞ!こいつは…駄目な方の神夏ギルだ!」

 

 

「…ガアッ!道化!疾く我から離れろ…!命が惜しくば下がれ!我だけでは押さえつけられん!」

 

「ギルガメッシュ王⁉︎」

 

「夜十神十香!我から其奴らを守り通せ!これは命令だ!」

「う、うむ!」

 

 

突如神夏が…正確にはその中のギルガメッシュ王が出てきて叫ぶ。だが、神夏の体からは()()()()()()()()()()()

 

「美九!まずい!神夏からみんなを離してくれ!」

「はぁ?なんであなたの言うことを…」

「でないとみんな死んじまう!」

「何言って………っ!【破軍歌姫(ガブリエル)】!」

 

 

十香に担がれ、一気に神夏から距離をとる。それと同時に美九も危険性がわかったのか天使を使って一気に神夏から操っている人々を引き離してくれた。

 

その瞬間に、神夏が黒く光った。

思わず目を覆ってしまった。

 

 

 

その光が収まって現れたのは、十香の霊装を、極限まで色を濃くしたような、まるでドス黒いと言えるような、ドレスを着ていた。形は、なぜか十香とよく似ていた。

金の煌びやかな髪も濃い紫へ変化し、紅い眼は黒い瞳へ変化していた。

 

 

まるで、今までの神夏の真反対のような。

 

 

 

 

 

「…アッハァ。あっはっはっはっは!あー、感謝するよディーヴァ。君のおかげで…妾は、…いや、私の方がいいかな?どっちがかっこいいだろうね…まあいいか。私はあの鬱陶しい最古の人間の王を抑え込めた。

その御礼に……殺してあげる♪やっほー夜十神十香。久しぶり。存外早く会ったね。それと五河士道。会いたかったよ。ちょっとお話しするのに邪魔だから、この人間たちみんな殺すからちょっと待っててね」

 

「まっ、待ってくれ!」

「っ!みなさん!」

 

 

 

 

「こい、【堕天王(ルシフェル)】。初手は…まあここが日本ということでこれで行こうか。

 

 

……面倒やさかい、まとめて溶ろかしてしまおか?」

 

 




私は、反転化は性質ごと反転しているものと考えています。

つまりは、能力の性質も反転してます。
しかし、主な…なんて言えばいいんでしょうね。


ほんっっとうにその能力の質(十香の場合は剣)は変わらず、その件で扱える能力が真反対になるようなものだと思ってます。

つまりは……




それはそうと、神夏反転がしっかりと出てきて能力の片鱗が出てきたので、どんなものなのか気がついた人もいると思います。
で、出たからにはタグを入れなきゃと思うんですけど、それを入れたら新たに入ってくれる人やまだ読んでない人に盛大なネタバレになっちゃうじゃないですか。


どうすればいいですかね。アンケ置いておくのでお願いします


読んでくださりありがとうございます


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41話

筆が乗ったので早めの投稿です。
感想で反転体神夏のことについて質問?のようなものがあったのですが、それに関しては後書きにて。

そしてアンケの回答皆さんありがとうございます。
一応タグの方は少し追加しました。ネタバレにならない程度にですが。


そして、ルシフェルのイメージ図です 試作につき、ちょくちょく変わる可能性あり


【挿絵表示】


それではどうぞ


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ。いや、風の精霊は一と数えた方が宜しゅう?まあええわ。()()()()がこーんなにおるなんて、珍しいわぁ。さぁて、人間が大量に来られてもめんどいだけやさかい。さぁ…特製のお酒や。たぁんとのみぃ」

 

神夏は…いや、名前…は、ルシフェルという名前をつぶやいた神夏だったモノは大きな盃をどこからか取り出した。その中には、液体が溜まっていた。

 

「【千紫万紅・神便鬼毒(せんしばんこう・じんぺんきどく)】。骨の髄まで楽しんでな?」

 

盃を傾け、そこから液体が流れ落ちた。かと思うと、その液体は地面を伝ってどんどん広がっていった。

 

「何ですかぁ?それ?そんなもの…」

「お姉様!ダメだ!アレは触れてはならぬ!吸ってもな!」

「え?」

「【颶風騎士(ラファエル)】!」

 

「おお、さすがは風の精霊。出来損ないとはいえ、この程度は防げて当然か。でも…残念。人間たちはみぃんな、私の虜だ。ま、人間なんぞ虜にしたところですぐ殺してしまうが…まあこの際は良しとしよう」

 

「なっ…なに言ってるんですか!みんなは私の…」

 

美九はそう言いながら再度鍵盤を打ち付けるも、観客のみんなは何も反応をしなかった。逆に神夏が「みぃんな何処かへ行ってまえ」と言うと即座に解散していった。

 

「な、なんで…」

 

「さあ?どんな気持ちだいガブリエル。君が操ったと思い込んだ人間どもが、私に奪われる気持ちは。君のような半端ものの精霊の力なんて、所詮この程度さ。

君の生死なんてどうでもいいが、これからのことを考えると……うん、死んだ方がいいな!というわけでだ…死んでもらうよ。いや、さっき言ったな。そうだ、殺すのは確定事項なんだ。うーむ、どうやって殺そうか。

そうだ!ひとまず君に…君達にこれでもかと苦痛を与えようじゃないか!あ、サドギエルの子だけは別ね。君はまた別で可愛がってあげるよ」

 

「ひっ…」

『こらー!四糸乃を虐めるのは許さないぞ!』

 

「そんな化け物を見る目で私を見ないでくれよ。半端者とはいえ君達も同じ化け物なのにサァ。

 

君達は五河士道という存在のおかげで忘れてるかもしれないけど、人類史からみたら君達は十分に化け物であり、人類史を脅かす存在だ。

まぁ、違うといえば自発的に発生しているものか人為的か、くらいかな?

でも私とて鬼じゃない。そーだなぁ、物理的な苦痛が嫌なら…精神的な苦痛でどうかな?例えば…ラファエルのつがいなら」

 

「危険。耶倶矢!」

「え?きゃっ⁉︎」

 

「夕弦⁉︎」

 

神夏は、黒い稲妻のようなものを発生させたかと思うと、それを耶倶矢に向けて放った。だけどそれは耶倶矢には当たらず、耶倶矢を庇った夕弦に直撃した。そして稲妻はまるで縄のように夕弦を捕らえ、手元に引き寄せた。

 

「うんうん、そういう人間特有の動き方、実にいいよ。予定通りに動いてくれてありがとさん♪さぁて…コレ、どうすれば君の心に傷を負わせれるかな?

 

 

君達が我が宿主にやったようにな」

 

 

「夕弦!あんた、夕弦に手を出してみなさいよ!殺すわよ!」

 

「手を出す?手を出すっていうのは…例えばこういうことかな?」

「苦痛。あぐぅ…」

「夕弦!離しなさ…」

 

神夏は夕弦のお腹を思い切り踏みつけた。夕弦は苦しそうに呻く。

それを助けようと耶倶矢が間合いを詰めるも

 

 

神夏は夕弦を盾にした。

 

 

いきなり真正面に夕弦が出てきたことにより耶倶矢は攻撃の手が止まった。

 

「こうすると攻撃できないもんね。君達は」

「か…神夏!お願いだ!やめてくれ!頼…」

 

そして無慈悲に、黒い稲妻が周囲を覆うように落ちた。

それは俺と十香以外の全員に、直撃した。

 

耶倶矢、夕弦は地に伏せ、美九と四糸乃はギリギリ守っていたのか立っていたがそれでもかなりのダメージを負っていた。しばらくは戦闘できないと思われるほどの。

 

「やめないよ。これは罰なのだから。私とて、私の依代である神夏ギルはとても大事なのだから。だから傷つけたモノは必ず殺す。

 

私は、最古の人間の王ほど優しくはないからね。

さぁて、次は君だザドギエル。いや…四糸乃、かな?君は…

 

…っと。邪魔をする気かい?サンダルフォン」

 

「お前の中にいる金ピカに言われたからな。お前から皆を守れと。言うことを聞くのは癪だが…それでも貴様を止めねばならないのはわかる。お前の力も…よくないと言うのはわかる。何なのだ、その力は」

 

「私の力かい?神夏ギルとほとんど一緒だよ。幾度と見てきただろう?」

 

神夏は、四糸乃に手を伸ばし更に電撃を走らせようとした途端、いつの間にか距離を詰めていた十香に攻撃を仕掛けられた。

それをふわりと飛んで避け、距離を再度とる。

 

 

 

 

 

こんな時に何もできない自分に、こんなにも腹が立つのは初めてだ。

 

 

俺は、皆がいなければ何もできない、ただの無力な人間だ。

今日この時ほど、それを実感した日はない。

 

 

 

 

 

 

「ふーむ…ならばどうしようか。私としてはこっちの半端者達ならともかく、君という同胞(はらから)にはあまり手を出したくないんだがね。これでも私と君は数少ない存在なのだから」

 

「私はお前と同胞ではありたくないのだが」

 

「おっとこれは辛辣」

 

「それに同胞だというなら四糸乃達もそうではないのか?」

 

「まっさか!冗談でもこんな奴らと同類にされるなんて願い下げだね。

 

君は今、人間と猿を同類だと言ったようなものだよ?

私から見たらこの出来損ない達はそんな程度さ。

 

……話が逸れた。さあ、どうする?私と一戦、交える気かい?ロクに力の全てを扱えてない君が。ああ!勘違いしないでくれよ。馬鹿にしてるんじゃない。心配してるだけさ。殺さないように努めはするけど、誤って殺してしまっては嫌だからね」

 

「無論。貴様を止めてみせる。私をなめるなよルシフェル」

 

「あっはは!はー、笑わせてくれる。それは私のセリフだサンダルフォン。夜十神十香。本来の力じゃない君ごときが私を止めようなんて…

100年早い」

 

「⁉︎」

 

神夏はいきなり消えたかと思うと十香の後ろから現れ、いつの間にか手元に持っていた鎖のついた杭のような短剣で肩を狙って突いた。それを間一髪で避けていた。

 

「ふふ…流石にこれは避けますか。まあいいです。貴方は…優しく嬲ってあげます」

 

神夏はまた口調が変わった。ものすごく丁寧な物言いだが、言っていることが物騒なことには変わりない。そして視界を布?のようなもので隠していた。

そしてまた消えたかと思うと今度は十香の頭上から現れた。

これも防がれていたが、弾き飛ばされると同時に飛ばされた先の壁を使って跳ね、四方八方から十香を襲っており、あの十香を防戦一方にさせていた。

 

「…やはり力を失っているとはいえ面倒ですね。先手必勝です」

 

そう言いながら神夏は目隠しを取った。

 

「…?っ⁉︎」

 

「あら?その危機感は流石と言わざるを得ませんね」

 

十香は神夏が目を開いた瞬間にその場から離脱、20メートルほど距離を取っていた。

 

「でも、片腕は潰せました。さあ続きです。頑張って…生き残ってみよ」

 

今度は神夏の体は黒いローブのようなものを着た状態になった。そして右腕が異様に赤…いや、オレンジ色に光り()()()

 

「精霊とはいえど入れ物が人間など飴細工よ。しかし貴殿を殺したくはないのでな。代わりに()()()()腕ではない方を、我に楯突いた代償としてもらうとしよう」

 

「ふん、やれるものなら…」

 

 

 

「ああッ!」

 

 

 

「っと」

「ぐ…」

 

 

「お二人ともぉ、私を、忘れないでくれませんか?ひっじょーに、不愉快です」

 

「黙っておれガブリエル。他人の力を借りねば何もできないくせしてよく吠えおる。知っておるか?それを人は負け犬の遠吠えと呼ぶ」

 

「ふざけ…」

 

その瞬間だった。天井が十字に切り裂かれた。

そこから一人の機械の鎧をまとった少女が入ってきた。

 

一瞬、ラタトスクから助けが来たかと思ったが今あちらは操られていたはずで。

それに顔に見覚えがあった。

 

「新しい客の登場か。今宵は宴か?」

「ベイリー達は結局失敗しましたか。…まあいいでしょう。想定内です」

「な…あやつが何故こんな所に」

「エレン…メイザース」

 

もう最悪な状況だというのに神様はさらに追い討ちをかけたいらしい。

神様はとことん俺を嫌っているのか?

 

「---目標、夜十神十香、五河士道…の反応の女生徒、及びアロガンの反転体と思われる精霊を発見。これより捕獲に移ります」

 

「捕獲とな!笑わせてくれる。道化の素質があるのではないかエレンよ。最古の人間の王にすら手も足も出なかった貴様が我を捕獲とな!」

 

「正確には貴女はついてきてくれるというのが理想なのですがね。いくら私でも貴女を片手間に相手などしたくはない」

 

「かっかっか!我についてこいとな!我を殺そうと企む貴様らについていかねばならぬ理由がどこにある?」

 

「…まあそういうとは思っていました。ですが、今日の目標の最優先はあくまでもプリンセスなのです。邪魔をしないでもらいますよ?」

 

「戯けが、逆だ。貴様が我の邪魔をするでない。だがまぁ…今宵は特別だ。夜十神十香は貴様に譲ってやろう。我はやるべきことが他にあるのでな?なぁ、ガブリエルよ、逃げることなど許さんぞ?」

 

神夏とエレンは軽口を叩き合い、そして別れた。

 

エレンがこちらを向き、神夏は美九の方へ向き直る。

 

「シドー!逃げるのだ!いくら何でもこれは私では無理だ!」

「に、逃げるったって…」

「く…」

 

そうこうしてる間にエレンはグングンと距離を詰めてきた。

十香は焦れるように喉を震わせると俺の腕を強く掴んで外へ放り投げた。

霊力が十分ではないとはいえ精霊だ。その膂力は人間のソレどころではない。抗えるはずもなく俺は会場の外へ放り出された。

 

 

 

 

 

 

「あらあらあら」

「どうされますかわたくし」

「これは予想外過ぎましてよ」

 

「…しょうがないですわね。あれ以上暴れられてはこちらとしても不都合ですし。わたくし達は神夏さんに襲われている精霊の味方をしてくださいな。わたくし達だとわからないように。神夏さんにはすぐにばれそうですけれど。わたくしは士道さんの元へ赴きますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ?やはり半端者とはいえ精霊は精霊。もう復帰しおるか」

 

私が電撃でダウンさせていたはずのラファエルの(つがい)はいつの間にか復活していて、ガブリエルを守るようにザドギエルと共にディーヴァの前に立ちふさがってきた。

 

ふーむ、これだと暗殺に持ち込むのは少々部が悪いな。

 

 

「なら…手札を変えるとしよう」

 

 

暗殺者から、別の、殺人者へと変えるとしよう。

 

 

かの有名な、ロンドンの殺人者にね。

ジャック・ザ・リッパーと言うと聞いたことある人がほとんどじゃないかな?

 

ジャック・ザ・リッパーは諸説がありすぎるからなぁ。

ここは、宿主の好きな作品に則って、あの説のものを使うとしよう。

 

 

 

「さあ……解体するよ♪」

 

逆手ナイフを右手に持って、私は目の前の精霊達に向かっていった。

 

 

 

 

 

まあ結論から言うとしくじった。明らかに変な方向から攻撃されてアイツらの動きもありえないくらい早くなった。

…いや、違うな。私が遅くなってしまったと言う方が妥当か?

 

「…ザフキエルか。なり損ないが、面倒なことをしてくれる」

 

ま、いっか。それより久方ぶりの外だ。しばらくは楽しませてもらおうじゃないか。

 

「…あつつ、やっぱり取っ替え引っ替えはちょっと体に来るね。神話系統をまだ呼び出してないとはいえ、ちょっと力をセーブしないとな」

 

英雄王の力の源泉はほとんどないから今はいいけど、アイツは何をするか分かったものじゃないし、警戒をしておくのと同時に力をそっちにすぐ割ける用意はしておくに越したことはない。




今回で4人ほど出てきましたね(4人?4種類?)

感想にて貰ったのですが
酒呑童子というのも、あながち間違いではありません。てかほぼ酒呑童子のような存在だという認識で大丈夫です。

つまり、今回でなっていた神夏は酒呑童子でもあったし○○○でもあったし××××でもあったし☆☆☆でもあったというわけです。
実はこの四人、ある共通点(一人は正確にはわかりません)があります。

まだ本編にはイッッサイ出ていませんが神夏の力の詳細もちゃんと決めておりまして、そこから反転させています。

読んでくださりありがとうございます


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42話

いつも神夏視点にしてたからか三人称視点をしようと思ってもうまく書けない。結局誰かの主観になってしまう。
的な感じで書き直す羽目になりました。
三人称視点で描く練習しなきゃ…

それではどうぞ


「…はいはい。りょーかいだよっ。くぅー。にしても数多の性格がちゃまぜになってきてるなぁ。面倒だから一度リセットかけようか。いやでもなぁ、ザフキエル捕まえないといけないし。何よりめんどくさい」

 

「では、どうされるので?」

 

「まあ当面はほっといていいよ。どうせ五河士道とも、他の精霊擬きやDEMの人間達とも、すぐに会うことになる。ああ…でも、お礼参りはしないとね」

 

「お礼参り?」

 

「ほら、私を目覚めさせてくれたあの組織さ。くだらない理念を掲げてる」

 

「…ああ。ただ、一つ問題があるのでは?」

 

「そうなんだよねぇ。アイツをどうするか。それが一番問題なんだよねぇ。私、仮にも恩をくれた人間は殺したくないし。アイツからのお願いなら聞くのもやぶさかではないけど…あの組織の人間達、今はほとんどガブリエルに操られてるわけだし。まあいっか!邪魔してきたなら殺せばいい!」

 

「はぁ…」

 

まった、分身体の癖に何呆れてんだお前。消すよ?

 

「………みーっけ。迷彩だがなんだか知らないけど、分かりづらいとこにいんなぁ。はいはい?五河士道がそこの?えー…はいはい。どーしようかねぇ。……は?バレた?何してんの?消すよ?…怠いから先にザフキエルの方行こうか。喰べられたら困るし」

 

「消すよ、が口癖で行くんです?」

 

「その辺はテキトー。ほら、人類に仇なす者的な感じでない?」

 

「さあ、その辺はわかりません」

 

「釣れないなぁ」

 

さて、ザフキエル相手だと…何がいいかな。特に争うつもりはないけど先手を取れるなら取った方がいいよね。

 

「でもなぁ、()()()はあんまり呼び出したくないんだよなぁ。下手をすれば五河士道も殺しかねないし。…まいっか!それじゃ、案内して」

「はい」

 

『この世全ての悪』は下手をすると私も飲み込まれかねないからね。使うなら五河士道が死んでしまった時か、それとも……

あ、あいつは人間じゃないから無理か。

 

 

 

 

 

「「⁉︎」」

 

「おやおや、そんなに警戒しないでくれよ」

 

「…わたくし達に見張らせておいたはずですが。どうやって入ってこられたんですの?神夏さん」

 

「ああ、あのザル包囲網か。そんなもの、()()()()宿()()()私にとって、潜り抜けるなんて造作もないものだよ」

 

「っ⁉︎」

「あらあら、酷いことをされますわね」

 

そう言いながら出してきた右手には狂三の首が握られていた。三つほどの狂三の首が、乱雑に髪を持たれている。

 

「それと今の私は神夏ギルじゃない。私に名前なんてものはないからね。まあ便宜上、私の力【堕天王(ルシフェル)】とでも呼んでくれたらいいさ。それとも私に名前をつけてくれるかい?五河士道」

 

「え?」

 

ここは廃ビルの一室で俺は味方が誰1人としていなくなってしまって逃げるしかなかった。

美九によって四糸乃、八舞姉妹が操られ外にいた人達も美九の声を聞いたのか操られていた。

十香はというと突如襲ってきたエレン・M・メイザースにより連れ去られてしまった。

 

そして神夏は……反転してしまい、どこかに消えてしまっていた。

しかし何故か今、俺の目の前に姿を現した。

 

「一体何が目的なんだ?」

 

「いや何、本当なら好きに過ごそうと思ったんだけどね、この辺の人間みんなめんどくさいし五河士道は何やらピンチだし?ザドギエルやラファエル、それにザフキエル、君達はどうでもいいけれどザフキエルが五河士道を美味しそうと言ってたのを思い出してね。それでそんなに美味しそうなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そう思ったわけだ。だから…今すぐ離れてくれない?出来損ない」

 

「相変わらずの上から目線。嫌いじゃないですわよ」

 

狂三は銃を、神夏…じゃなくてルシフェル?は左腕を互いに向けた。

だが狂三の目はいつものように笑っておらず、警戒一色だった。それも極度の。

それに対してルシフェルは笑っていた。

 

「…か、神夏は」

 

「ん?」

 

「神夏は、どうしたんだ。ルシフェル」

 

「我が宿主?今は眠ってるよ。人類最古の王と共にね

力の殆どを私がもらってるから人類最古の王も今は人間以下だけどね。宿主は…まあ死んではないさ。精神は壊れているけどね」

 

「…っ!」

 

ルシフェルが顔の半分を手で覆い、離すと神夏の顔が半分現れた。紅い虚ろな目。

やっぱり、神夏は…。

 

「何を戦慄しているんだい?元凶のくせに」

 

「え?」

 

神夏の状態を聞いて、戸惑っていると顔を戻したルシフェルにそう言われた。

 

「士道さん、聞く耳を持たなくていいですわ」

「聞こえなかったかな?元凶だよ、元凶。過度な期待を持たせて、そして裏切った。五河士道が過度な期待を持たせたから、我が宿主に心を開かせ、そして依存させた。

他の精霊擬きにまで心を開かせたのは失敗だったね。まあ結果的に私が完全に目覚めれるキッカケになったから私としては万々歳だけどね」

 

「俺…の、せい?」

 

「そ、君のせいさ」

「士道さんのせいではありませんわよ。元より、この方はどんな手でも使ってきますから。それがたまたま士道さん達になっただけのこと。やろうと思えばいつでも出られたはずですわ。それをしなかったのは至極単純。その方がより力を万全の状態にできるからに他ならない。

それよりも…わ・た・く・し・の士道さんにそのようなことを仰らないで欲しいですわね。得体の知れないモノをその身に宿しているお方が。あなたの能力、意味がわかりませんもの。謎の盃に鎖鎌のような武器、果ては右腕の肥大化、そして突然の幼児化。よろしければ教えてくださいませんか?同じ精霊のよしみということで」

 

「えー、なんで君なんかのような出来損ないに話さなきゃいけない?同じ精霊のよしみ?君のようなのと同じだなんて虫唾が走る。

あっ、五河士道が知りたいなら教えてあげるけどね♪」

 

なんで、神夏…じゃなくて、ルシフェルは俺にこうも友好的なんだ?

やたらと優しい声音で話しかけてくるし、よく笑いかけてくる。

 

 

 

でも、本能がルシフェルを怖がっていた。恐怖を、抱いていた。

 

 

 

それでも、聞かなければ、神夏を救う手段がないにも等しいと、心のどこかで感じでいた。少しでも、このルシフェルの情報を集めておかないと。

 

「ああ、ぜひ知りたいね。お前の能力は、天使はなんなんだ?」

 

「お前、なんて呼ばずにルシと呼んでくれていいよ。それか今から名前をつけてくれてもいいんだよ?私はいつでも大歓迎だ。サンダルフォンにしたようにね。

さて、私の能力だったね。天使…とはちょっと違うが。それはね、()()()()()()()()()さ」

 

「え?」

「ふざけないでくださいまし。貴女と英雄王を一緒にしないで欲しいですわ。これでもあの方はリスペクトしているのですから」

 

「あはっ、まさか君達、神夏ギルの能力は『英雄王をその身に宿す』だと思っているのかい?それなら滑稽だ!あっはは!ふぅ。

もっとわかりやすく言い換えてあげようか。私の能力は…

 

『偶像の特徴を我が身に宿すこと』さ。神夏ギル風にいうならば、二次元のものをね。特徴がなければ逸話でもいい。何か一つの偶像で且つしっかりどんな能力か、身体能力を持ってるかなんかが決まり切ってるものなら余計に力は増す。

宿せるものには縛りがあるが、それでも1人の逸話しかその身に宿さなかった我が宿主よりもずっと汎用性は高い。ま、我が宿主は最古の王のスペック高すぎて容量(キャパ)を超えちゃってるのもあるけどね。

 

「縛り…?」

 

「そ。縛り。制約ともいう。

神夏ギルが宿せるものは『人類にとっての味方』なのに対し私は

 

『人類にとっての敵』

まあ平たくいうと大量殺人者としてその名を残していたりだとか、暗殺者、昔物語の敵側だね。酒吞童子、メデューサ、ジャック・ザ・リッパーなんかは聞いたことあるんじゃないかな?」

 

「酒吞童子…って、あの鬼の…?メデューサ…ジャック・ザ・リッパー…」

その三つとも、聞いたことはある程度だった。酒吞童子が鬼、メデューサは…蛇の化け物とかじゃなかったか?ジャック・ザ・リッパーは…ロンドンで起こった連続殺人の容疑者のこと…だよな?

 

「まあジャック・ザ・リッパーに関しては諸説があるからね。その辺は知識としては大量にあったが…一番手っ取り早いものを使っただけさ。勿論、他の題材になっている酒吞童子やメデューサも引っ張ってくることは可能だが、あいにくその辺の知識はないからね。あくまでも、我が宿主が知っている範囲になってしまう。

この力の欠点は、宿した際にその偶像の性格に引っ張られることさ。

五河士道も覚えがあるだろう?我が宿主の性格の変化に。

ジャック・ザ・リッパーの時なんか大変だったんだから。精神まで幼い子供になるし。

私の話はこれにておしまい。さて…とっとと銃を下げろナイトメア。鬱陶しい。お前も首と胴体をお別れさせてやろうか」

 

「あら、怖いですわね」

 

ルシフェルはとても怠そうな声で、そして殺気を含み狂三に言うが狂三もどこ吹く風で受け流している。

 

「わたくし達」

 

狂三がそう呟くとルシフェルの周りに10人ほどの狂三が、分身体が現れた。そしてその手には銃が握られており神夏を取り囲むようにして向けられている。

 

「ほーん?喧嘩売ってるってことだね?いいよぉ、喧嘩は好きだ。特に一方的なら最高だ。ほら、きなよ可愛がってあげるよ子猫ちゃん♪」

 

「その減らず口、今すぐ潰してあげますわ」

 

「…ふふっ」

 

神夏は狂三の言葉を聞いた後、不敵に笑って1人の狂三に()()()()()

 

「何…を……」

 

「え…」

 

「ふふっ…やっぱり、脆いなぁ」

 

抱きつかれた狂三は一瞬戸惑った後に、その場に倒れた。

そして次々と分身体に抱きついてはそれを盾にし、分身体が動かなくなると他の、と繰り返していた。

 

「はい、しゅーりょー。ちゃんちゃん」

「…」

 

数にして10人ほどの狂三の分身体が、傷一つつけれることなくルシフェルに敗れ去った。

 

「ま、毒に耐性ないとこんなものだよねぇ。脆い脆い。…あ、今私に近づかない方がいいよ五河士道。もう切り替えてはいるけど、さっきの毒をまだ内包してる可能性あるからね」

 

「毒…?」

 

「そ。とある宗教の伝承に伝わっている暗殺者集団の頭領。その歴代の中の1人が使っていたとされるものさ。ま、結局は所詮偶像だから真実は知らないけどね。さ!児戯も終わったし、さあ五河士道!私と共に行こうじゃないか!」

 

「え?ちょっ⁉︎ま、待ってくれ!どういう…」

 

さっきまで毒が云々と言っていたのが嘘みたいに今度は手を取ってきた。そのまま強引に外へ連れ出そうとするので慌てて急ブレーキをかけその場にとどまる。

 

「えー、何で拒否するのさ」

 

「いや、今はダメなんだ。外の人達はみんな美九の虜で、俺を捕まえようとしてるんだ」

 

「何だ、そんなこと。じゃあきた奴ら全員殺せばいいんだよ。ね?簡単でしょ?ほらほら、私あれ気になってるんだよ。君の作る料理。神夏ギル達も好評してたからね。栄養なんぞ私には不必要だが、味という嗜好は興味がある。ほら、早く行こうよ」

 

「ま、待ってくれ!それに十香を助けなきゃいけないんだ!その後!その後なら作ってあげるから!」

 

「え?私の同胞捕まってんの?どこ探してもいないと思ったら。てっきり逃げたものかと。うーん、そーかぁ、そーかぁ。ま、どんまい。死んでも私には関係ないし。ていうか私的には君以外の人類は1人残さず消してもいいまで思ってるからね。これはこれで手っ取り早いじゃないか。あー、でも唯一のアレ失うなら然るべきところで…?」

 

「いい加減にしてくださいまし。今から士道は『わたくし』と十香さん達を助けに行くのですから」

 

狂三がやたらとわたくしの部分を強調して言うもルシフェルは右から左に流してきた。

 

「……いや待て。そういえば上には…。……チッ、怠いなぁ。でも逆らって勝てる道理が…。それなら…今は……」

 

「ルシフェル?」

 

「…………。気が変わった。私も力を貸してあげよう。同胞が殺されるのは私も気分は悪いからね。で、どうするわけ?ザフキエル。元々お前の発案で行くんだろ?それに合わせてやる」

 

「どう言った風の吹き回しですの?」

 

「気まぐれさ。ほら、さっさと概要を言え」

 

「……」

 

あまりのルシフェルの言動の変化に狂三はとても鬱陶しいような顔で見ていた。が、諦めたように概要を話し始めた。

 

「DEM社に直接乗り込んでもいいですが、それをするにも弊害が一つありますわ。まずはそれを潰します」

 

「殺すのかい?なら簡単だ」

 

「話を遮らないでくださいまし。士道さん。美九さんの何か持ち物は持ってます?」

 

「美九の?そんなもの…」

 

「うまく説明できないですけれど、先ほど仰っていたあの方の価値観は先天的なものではないような気がしますの。妙な感じがしますの。ですので、持ち物がひとつあれば泣き所を抑えられるかもしれませんわ。ルシフェルさんは…おとなしくしておいてくださいまし。間違っても余計なことをしないで欲しいですわ」

 

「はいはい。じゃあ人間の組織に喧嘩を売った時に私はメイザースを押さえ込んであげよう。それまでは…自由に動かさせてもらう」

 

そう言ってルシフェルは窓から出ようとした。

 

何処かへ行こうとするルシフェルに、最後に一つ持っていた疑問をぶつけてみなければ、と思ってしまった。

 

「待ってくれ、ルシフェル」

 

「んー?どうしたんだい?」

 

「その…だ。ルシフェルは…なんで俺にそんなに優しいんだ?」

 

ものすごく率直な疑問をぶつけてみた。他の精霊や人間のことはずっと見下して、辛辣なのに対してさっきから俺には声音も優しいし大体言うことを聞いてくれている。

 

「理由?そんなの決まり切ってる。元より私は君と()()()()()()()()()()()()。そんな相手を無下にするなんてそんなことするわけない。だ・か・ら…こーんな紛い物よりも、私を選んだ方が、いいよぉ。私と君の理想郷(アヴァロン)を作ろうじゃないか。……これはちょっと臭いかな?まあいい。それじゃあ、また会おう五河士道。願わくは次会った時は2人きりになろう」




『堕天王/ルシフェル』
神夏ギルが反転した際の○○○の名前。

『この世全ての悪/アンリマユ』
ルシフェルを用いて使える物の中でも特に凶悪なものの一つ。元ネタはもちろんfate。

fate以外のものも使えるが本人がそれ以外のものを調べるのがめんどくさいため基本fateからしか引っ張ってこようとしない。


『???/???』
神夏ギルの持つ精霊の天使の名前。
本人はずっと英雄をその身に宿すと思っているが、能力としては
『偶像を現実に呼び寄せる。または自身に憑依させる(人型限定)』

『英雄王ギルガメッシュ』
神夏の天使によりまず召喚方法が具現化され、それを用いて呼び出されたもの。
古今東西の英霊の持つ武器の原点を持っているため、相手がどんな耐性を持っていようが弱点をつけることがほとんどなため英雄の中では最強格


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43話 心の中のモヤモヤ

今回は更新長引いた代わりに少し長めです()

ルシフェルの能力、よく考えたらアンリマユよりやばいのを普通に出せるっちゃ出せることに気づいたので前回の話のあとがき部分修正してます




「……」

 

何故、五河士道はあんなにも私には態度が違うのだろう。

彼の言う『精霊/守るべきもの』は私も当てはまっているはずだ。

 

 

 

なのに、彼は私を畏怖の目で見ていた。何故。

 

 

 

私が他の精霊もどきと根本的に違うから?

なら、他の精霊もどきも同じようにすれば、きっと彼は私を見てくれる?

 

 

 

「…でも、○○は流石に無理があるか、たった1人の偶像だけでも無理があったと言うのに」

 

 

 

 

モヤモヤする。万能だと言う自負も、自分が特別だという自負も持っているわけではないが、それでも彼の言う『救うべき精霊』の中に私が入っていないのかと思うと余計に心がモヤモヤする。

 

理解できないことがイライラする。

 

 

この感情はなんだ?

 

 

本能的に彼とは惹かれあう運命だと言うのは理解したが、この感情は理解できない。

 

 

 

私は彼に何を求めている?

 

 

 

 

 

私は何を望んでいる?

私は彼に何をしてほしいんだ?

 

 

 

 

わからない わからない わからない

 

 

 

そんな私のことが、自分のことなのに1番わからない。

 

 

 

数多の人類の敵をその身に宿したせい?

 

一度記憶ごと消せばきっとわかる?

もしくは神夏ギルに、人間に問いただせば理解できる?

 

 

 

…今はやめておこう。五河士道と交わした約束は、守らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが…十香のいる」

「ええ、ここのどこかに捕らえられているはずですわ」

 

俺は狂三と共にデウス・エクス・マキナ・インダストリー日本支社の第1社屋の近くまで来ていた。

狂三の掴んだ情報によると連れ去られた十香はここにいるらしい。

 

「それで聞きそびれましたが士道さん。美九さんの方は説得はできましたの?」

 

「できた…とは言い難いと思う。すまなかった。せっかく無理して時間を作ってもらったのに」

 

「あらあらあら」

 

「?な、なんだ?」

 

俺が謝ると驚いた様に目を丸くした。

 

「いえ、まさか士道さんから労いの言葉をいただけるとは思っていなかったもので。うふふ、嬉しいですわねぇ。頭を撫でてくださいませんの?」

「ち、茶化すなよ」

 

そんな俺を見て狂三は面白がる様に笑いを漏らした。

 

「まあ大丈夫でしょう。会話を聞いていた限りでは危険を冒してまでこちらの邪魔をする様子はありませんでしたし。何よりわたくしを警戒させることも出来ました。ですがそれ以上に1番は……

 

神夏さんの存在ですわ」

 

「っ…!」

 

「DEM社を掻き乱すくらいなら造作もありません。精霊を数人相手するのもまあ良いでしょう。ですが一番の危険分子は間違いなく神夏さん…いまは『ルシフェル』とか名乗っておいでですが。あの方の気まぐれで文字通り私たちの生死は左右される」

 

「……」

 

確かにそうだ。四糸乃や耶倶矢、夕弦を相手してかなりの余裕を見せ、それに加えて狂三すらも圧倒した。

 

「今は士道さんに協力するという口約束を信じる他ありません。ですがくれぐれも注意してくださいまし。エレン・M・メイザースに加えて神夏さんまで相手するとなると流石のわたくしと言えども対処できません」

 

「ああ。…だけど、もし神夏が約束を破ってお前を襲ったら、その時は俺がお前を守ってやるよ」

 

「あら嬉しいですわね」

 

 

 

「私は約束は破らないよ。他のマガイモノと違ってね。ザドギエルやカマエル達とは違う」

 

 

 

「「⁉︎」」

 

突然後ろから声がして狂三と共に勢いよく振り返る。

そこにはやたら疲れた様子の神夏…いや、ルシフェルがいた。

目には何故かクマがあるように見える。

 

「…そんなに驚くことはないじゃないか。私は確かに伝えたはずだよ。我が同胞を助けるのに協力すると。裏切りを果たしたあの4人のマガイモノとは違う」

 

「裏切り…四糸乃達のことか?」

 

「ああ、そんな名称を持っていたね」

 

「ルシフェル、違うんだ。四糸乃達は操られていただけなんだ。決して神夏を裏切ろうと思って裏切ったわけじゃ…」

 

「そんなのは私にとっては関係のないことだ。勘違いしてるかもしれないが私は感謝すらしている。何せ私の力を取り戻させてくれたのだからね。ただ我が宿主を悲しませた事とそれは別の問題だ。だからせめてもの慈悲に、次会った時は苦しむ事なく命をかりとってあげよう。…話しすぎた。私は先に行っている。あとは勝手にやっておいてくれ」

 

「ルシフェル!待って…」

 

引き留めようとするもルシフェルはその場から消えてしまった。

 

「急いだほうが良さそうですわね。行きますわよ。士道さん」

 

「…ああ。十香を速攻で助けて、神夏も助けてやる」

 

ルシフェルの顔を見て、俺は動けなくなってしまった。酷く疲れたような、何かに期待するのをやめたような。そんな顔を。

 

 

神夏は必ず助けないといけないと、俺の本能が叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「あら、お嬢さんどうしたの?こんなところに。危ないわよ」

 

DEMのビルの中に、1人の子供がいた。10歳前後くらいの、小さな子供だ。

黒い布が首から下を覆っている。

それを見たDEMの社員は不気味に思いながらも近づいた。

しかし子供は屈託無い明るい笑顔を向け喋る。

 

「ねえねえ、お母さん知らない?」

 

「お母さん?ここで働いてるの?」

 

「うん!ねえ、お母さん知らない?」

 

「知らないわね…少なくとも私の同僚は独身ばかりだし。ねえ、お名前教えてくれる?」

 

 

 

「私たちの名前は……

子供たちの怨念(ジャック・ザ・リッパー)

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あとね、私たち欲しいものがあるの。お姉さんのような魔導師の…心臓。お姉さん、解体するよ♪」

 

そうして子供は、二本のナイフを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱり無理か。力の源がそもそも違うからか。さて、私たち…いや違う違う。私の為の検証することはしたし、私は、私のやるべきことを、やろう」

 

神夏ギルの記憶ではジャック・ザ・リッパーは魔術師の心臓を喰らい傷などを回復し力を蓄えていたが。

それをできたら霊力も増え、もしかしたらアレが無理のない範疇になると期待したが、所詮は人間だった。

単なる力の源が違うのか、それとも別の要因があるのか。

 

まあどっちでもいい。

 

「ああ、君、君。このゴミ片付けておいてよ。 さて、次は…酒呑童子でいいかな。操れば、同胞の居場所もすぐにわかるだろう」

 

心臓以外の用無しの部分はその辺の適当な人間に任せ、今度は酒呑童子を宿す。

 

「…あらあらまぁまぁ。手間が省けるわぁ。ウチから探さんでもこぉんなにきてくれはって」

 

「何よアレ…ツノが生えた…日本の昔話でいう、鬼?」

「いやそれよりも…なんて酷いことを」

 

集まった人間たちはウチの姿を見てそんなことを言ったり、さっき食べた残りカスをみてそんな言葉をこぼす。

あまりにも滑稽だ。

 

「何を言うてはるの?やっぱり人間は頭悪いわぁ。あんたらは精霊に対して虐殺をしようと企んではるやろ?それが必要なことだと言い張って。ウチとて同じや。必要なことやからやった。それだけの事や。

 

ああ。他の精霊のことを考えたら無性に腹たってきたわぁ。ほな、たあんと蕩けてもらおか。気ぃつけぇや。蕩けたモンから骨抜きにしてまうで?」

 

 

 

 

 

 

「…どうしますか。アイク。あれ以上暴れられるのも問題かと」

 

「何、気にしなくていい。どうせ彼女もここまでくるさ。それと五河士道とやらもここにくるだろう。それまでの時間稼ぎをしてもらうさ」

 

襲撃を受けたと報告があり、その様子を隠しカメラで見ながらアイザック・ウェスコットとエレン・M・メイザースは話す。横目で椅子に縛られている十香も確認しながら。

 

映像の中ではルシフェルの垂らした液体に触れた者の動きが鈍くなり、その次の瞬間にはその手に白いものを持っていた。

 

「アレは…骨?」

 

「素晴らしい。あの一瞬で()()()()()()()()()。見たところ、背骨の一部かな?もう戦線復帰は厳しいだろうね。ああ、そういえば空間震警報を鳴らしておいてくれ。その方が彼女たちもやりやすいだろう」

 

「はい」

 

ウェスコットの指示に淡々とエレンは従い空間震警報を鳴らす。

 

「おお、どうやらナイトメアも現れてくれたようだ。これは幸先がいいね。さて、どちらが先に私たちの元へたどり着くかな?」

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり。他の精霊のことを考えるとよくわからない感情が渦巻く。

 

無性に腹が立つ。

 

五河士道の元へ赴けばこの感情から解放されるのだろうか。

 

 

「…?なんで他の精霊もどきが、こんな場所に」

 

 

 

 

 

 

「…」

「…」

 

俺はアレからというもの、精霊の誘宵美九と行動を共にしていた。

狂三と共に行動していたが狂三に襲われてると思った俺の実妹という真那が駆けつけて、そこからは狂三ではなく真那と共に行動していた。しかし突如昔の同僚とかいう満身創痍の女が現れ、真那はそちらに対処することになりまた1人になった。

それから1人で…正確には正気に戻ったラタトスクの手助けを借りながら進んでいた。道中、十香の天使『鏖殺公(サンダルフォン)』も顕現させることができ、無茶ながらもなんとか歩を進めれていた。

しかしどうしようもなくなった時に助けてくれたのが、まさかの美九だった。四糸乃と耶倶矢、夕弦を引き連れて助けに…いや、俺の行動の末路を見守りにきた(とは言うが実質協力し合っている)。

 

その途中で狂三と共に掴んだ()()()()()()()と言うことを問い詰め、何があったのかを聞くと美九は渋々話してくれた。

 

 

昔は純粋に歌うことが好きで聴いてもらうのが好きだったこと。

アイドルとしてデビューし順調に道を歩んでいたこと。

プロデューサーからの夜の誘いを断ると身に覚えのない思わず眉をひそめたくなるようなスキャンダルが週刊誌に掲載されたこと。

真実を一切確かめようとしない元ファンの人たちが手のひらを返し、罵倒や心無い言葉をかけてきたが、頑張ってきたこと。

 

 

そしてまたライブ会場に立ったが、声を発せなかった。歌うことができなかった。

自分の唯一の価値であった『声』を失ってしまったこと。

 

 

自分に価値を見出せなくなり、辛くなり自殺を試みようとした時に目の前に今の声をくれた『神様』が現れたこと。

 

それを聞いた俺は、美九は他人を見下しているのではなく『対等な関係』を築くことにひどく恐怖しているのではないか、と感じた。

裏切られるくらいなら、はなからそういうものとして期待しない。

他人に自分の如何なるものも託さない。

心を開いて痛い目に見るなら開かなければいい、と。彼女はそうなっていると感じた。

 

それについての問答を繰り広げながら、DEMの魔術師(ウィザード)をともに蹴散らしながら、進む。

 

「この『声』を失った私の歌なんて、一体誰が!聴いてくれるっていうんですかぁっ!!」

 

美九のその言葉に思わず、間髪入れずに叫び返す。

 

「俺が…いるだろうがッ!」

 

美九は、目を見開いて、全身をかすかに震わせた。

 

「な、何を。適当なことを!私の歌なんて聞いたことないくせに!」

 

「あるさ!一曲だけだがな!今よりも一生懸命で、格好良かった!今の歌よりもよっぽど好きだね!

誰も歌を聴いてくれない?

 

はっ!バカいうな!少なくとも何があっても離れないファンが1人!ここにいるッ!」

 

「な…」

 

「霊力なんて関係ねえ!たとえ『声』がなくたって、お前が無価値になるなんてそんなこと、絶対にない!」

 

「……っ!」

 

美九は今にも泣いてしまいそうな顔になり…しかしすぐに首をブンブン振った。

 

「そんな言葉…絶対に信じないんですからぁっ!そう言ったファンはみんな信じてくれなかった!私が辛い時誰も助けてくれなかった!手を差し伸べてくれなかった!」

 

「俺はそうは思わない!そう言った奴らが表に出過ぎただけだ!お前を信じて待っていたファンは必ずいるはずだ!でも…もし本当に誰もいなかったなら!その時は俺が!手を差し伸べてみせる!」

 

「都合のいいことを…じゃあなんですか!私がもし十香さんと同じようにピンチになったら命を懸けて助けてくれるっていうんですか!」

 

美九にとっては答えに窮するのを見たかったのだろう。だが俺はそれに一分の隙もなく答えた

 

「当然だろうが!」

 

それから美九が駄々をこねたように文句を言い、それに言い返していると、ふと今いる場所が今までと異なっていることに気づいた。

頑丈そうな壁が続き、窓一つない。まるで隔離施設のような。

 

「もしかして…ここが?」

 

十香の、いる場所?

 

 

 

「…うるさいなぁ。痴話喧嘩なら他所でやりなよ。2人とも。…ザドギエルやラファエルがなぜ、と思ったがそういう事か。ガブリエル。なんの気まぐれかな?君は五河士道を殺すんじゃなかったのか?…そんなことはさせないが」

 

「「⁉︎」」

 

 

 

突如背後からした聞きなれた声に、思わず美九と共に振り返る。

そこには、黒い荒い布を肩から被り足首まで覆われ、骸骨の面をつけて顔の上半分が隠れている…恐らくはルシフェルがいた。

 

「何をそんなに驚いている。私は同胞を助けるのに協力すると言ったはずだよ。…だがそっちの精霊もどきは、消してもいいんだが。このなぜか耳から聞こえてくるカマエルの声も。鬱陶しいことこの上ない。どんな方法を使っているかは知らないが」

 

そう言ってルシフェルは右耳をポンポンと叩いていた。…どう見てもインカムがそこについているんだが。琴里は神夏の今の状態を引き起こした原因が自分だとずっと責め、謝り続けているらしい。今の指示は、基本的に令音さんからのものだった。

 

「ほら、早く入りなよ。でないと、思わずガブリエルを殺してしまう」

 

美九はそう言われて睨むが、ルシフェルに睨まれたのか思わず後ずさっていた。

間に入り、なんとかルシフェルをなだめ中に入る。そこの中には強化ガラスにより囲まれ、椅子に拘束され眠っているのか俯いていた十香がいた。

 

「十香!」

 

叫ぶも、こちらの音声は聞こえてないのだろう。ならば、こちらから開ければいいだけだ。辺りを見渡すと、椅子に座っている人を見つけた。背もたれをこちらに向けて座っている。

 

「やあ待っていたよ。〈プリンセス〉の友人…でいいのかな?」

 

静かな言葉を響かせ、男は椅子から立ち上がりゆっくりと俺たちの方へ振り向いてきた。

 

「お初にお目にかかるね。DEMインダストリーのアイザック・ウェスコットだ。よく来てくれたね。〈ディーヴァ〉に〈アロガン〉の反転体。それに…」

 

ウェスコットは美九に視線をやり、その次にルシフェルへ。そしておれに目を向けた瞬間言葉を止め、訝しげに眉をひそめた。

 

「君は…何者だ?まさか…いや、そんなはずは…。

なるほど、結局はあの女の…」

 

「御託はいい!十香を解放しろ!」

 

鏖殺公を突きつけながら叫ぶと、ウェスコットは愉快そうに肩を揺らした。

 

「もしその言葉に従わなかったらどうなるのかな?」

 

「……悪いが、無理矢理にでも従ってもらう」

 

しかしウェスコットはくつくつと笑う。

 

「出来るのかな、君に」

 

「出来るとも。十香を助けるためなら、何だって」

 

「はは。冗談さ。私はエレンのように強くない。精霊1人と天使を扱う少年を同時に相手するなんて恐ろしくてできない。ほら、好きにするといい」

 

そう言ってウェスコットは手近にあったコンソールを操作し、十香の拘束が外れる。

 

「シ…ドー?」

 

こちらの声が通るようになったのか十香がふっと顔を上げこちらを見た。

 

「!シドー!」

 

十香はこちらに気づき、立ち上がった。身体中に貼られた電極を勢いよく外しながらこちらに走ってきた。強化ガラスに手のひらとおデコを押しつけながら今にも泣きそうな顔を作った。

 

「シドー…シドー、シドーッ!」

「おう、悪いな十香。待たせちまって。…おいあんた、ここを開けろ」

 

 

 

 

ピキリと、また頭が痛む。

五河士道と同胞の様子を見ると、今までで一番頭が痛む。

 

なんでだ。なんでなんでなんでなんで……

 

 

 

 

「ふっ。そんな立派な得物を持っているんだ。自分で切り裂いてはどうかな?それに精霊を2人も引き連れているんだ」

 

「…美九、頼めるか」

 

 

 

また。痛む。私に、頼んでくれたらすぐにやるのに。五河士道は私を頼ってくれる気配がない。

こんな壁、すぐに塵にするというのに。

 

 

 

「ああ。そうそう。一つ言い忘れていたがイツカシドウ

 

 

そこにいると危ないよ」

 

「は…?」

 

ウェスコットの言葉の意図が分からず訝しげな声を出す。

 

「し、シドー!後ろだ!」

「ぐっ⁉︎」

 

十香がガラス越しに悲鳴じみた声を上げると同時、横にいたルシフェルがいきなり消え、ぞぷという奇妙な音とともに胸に熱い感触が生まれた。

 

「え…?」

 

一瞬何が起こったか分からず呆然と声を発する。胸に視線を下ろすと、レイザーブレードの刃が生えていた。

 

「な…こ、れ、は…」

 

「…舐めた真似を。そんなに死にたいか。エレン・M・メイザース」

 

後ろに目をやると、白金のCR-ユニットをまとった1人の人間がいた。

 

「アイクに向けられる刃は、全て私が折ります。…にしてもアロガン。反転したあなたはその程度ですか。くだらない感情に流されるとは…情けない」

 

「…私の五河士道に手を出した罪、その命で贖ってもらう。今すぐ、五河士道から離れろ」

 

「ふん」

 

エレンは淡々と俺の胸から光の刃を引き抜く。

姿勢を保てなくなり、ガラスに体を押し付け、血の跡を残しながら床に倒れてしまう。

 

何も、聞こえなくなる。

 

「さあ、精霊プリンセス、ヤトガミトオカ。アロガン、カミヤギル。今から君たちの大切なイツカシドウを殺そうと思う」

 

「な…」

「させ、ると。おも、うか」

 

「無論君を野放しでは無理だ。だから殺すのは私の役目だ。エレン、任せたよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

体に、うまく力が入らない。何かをしようとすると、途端に動きが鈍くなる。

 

同胞のことを考えると、何もできなくなる。

 

 

人間が向かってきたのを見て咄嗟にハサン・サッバーハを用いて回避する。

 

「…どけ」

 

「無理です」

 

「どけ。さもなければ、お前を、殺す」

 

「万全貴女ならばその言葉に信憑性がありましたが、今の貴女では無理ですね」

 

人間の言葉の一つ一つが癪に触る。

 

「シドー!やめて…やめてくれ!私はどうなっても構わない!なんだってする!なんでも言うことを聞く!だから…だからシドーを私から奪わないでくれ!」

 

我が同胞は、必死に叫び、十全な時とは程遠い輝きの鏖殺公を、顕現させるも無意味なようだった。

どうやら、ガブリエルの声も無駄なようだ。当たり前といえば当たり前だが、今となってはそれが悔やまれる。私が逃げ出す時間すら稼げないとは。

 

「…が……あっ!」

「無駄です。邪魔はさせません」

「ど……け!」

「どきません」

 

体が追いついていないのか、目の前の人間を振り切れない。

五河士道を殺されるのを、止めることができない。

 

なんで、なんでなんでなんで。

 

 

 

なんで私は、我が同胞が()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのまま見過ごそうとしている。我が同胞は、そうなるべきではないのに。

 

 

 

『結局は貴様もその程度の存在か。我をハメた事は褒めてやろうとは思ったが…これは貴様がまた戻るのも時間の問題だな。貴様のその感情の正体を教えてやろう。

その感情は、神夏ギルのものだ。奴は嫉妬深いからな。そもそも貴様が言ったのであろう。

性格が混ざる、と。それは貴様と反英雄の話だけではない。貴様の依代は、誰だ?』

 

 

 

 

脳内から、限りなく力のないはずの英雄王ギルガメッシュの声が、聞こえてくる。

嫉妬?これが?

 

 

『神夏ギルを一時的に、僅かとはいえ表へ出したのは失敗だったなルシフェルとやら。その僅かな一瞬を掴むことなど、造作もない。貴様は、すでに万全ではない。それにだ……

 

たかだか人1人の絶望など受け入れられなくて何が英雄か。我をなめるなよ。我は。この世全ての悪を飲み干した英雄であるぞ?』

 

 

 

だめだ、今は、こいつの言葉に耳を傾ける時じゃない。止めなければ。止めなければならない。五河士道を、殺させるわけには。

 

けど体が動かない。

 

 

私がダメなら、みんな私と同じになればいい、そう思って、立ち止まってしまう。

 

 

 

そして人間の持つ刃が振り下ろされるのを、見ていただけだった。

 

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

その瞬間に、ヤトガミトオカは、我が同胞は、力の源から

 

 

 

私と同じになった。







…結局のところ、神夏ギルは、記憶を失った神夏ギルは、他の精霊以上に、依存していたと、そういうことなのか?だから、私はこんなにも、五河士道に私を見てもらいたいと。そういうことなのか?我が宿主よ。

であれば…やることは一つしか、ない。

私は、君の望みを、叶えよう。


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44話 魔王VS魔王

今日デアラ発売日なのでおそらくこれ投稿し終わった後即ネット注文してることでしょう

みんなも買うよね?(

あとデアラ4期おめでとうだぜ!
歓喜です、ええ、歓喜ですとも。


それではどうぞ







「な、なんだ……アレ」

 

「さあ!王国が反転した。控えろ。人類。

 

魔王の凱旋だ」

 

エレンに腹を刺された士道は、傷口を炎が舐め、ようやく意識が戻ったが、十香の様子がおかしい事に気付いた。

霊装を纏っているのだろうが、それが、普段の十香とまるで違うことに。

紫を基調とした、いつもの真逆と言えばいいのか。

 

 

まるで、今の神夏ギルのようだと、感じていた。

 

 

「くふっ、くふふふ」

 

「何がおかしいのです?」

 

「いやぁ、私の感情を、私は理解ができなかった。だが……私の中に未だ燻っている英雄王。お前のおかげで、わかった。

 

私は、私に振り向いてくれない五河士道に嫉妬していた。気にくわないだけだ。私を見てくれないのが。

 

 

それに滑稽なことに神夏ギルの中であの男が五河士道に成り代わっている。それは嫉妬するはずだ。なぜ気づかなかった。

 

 

でもそれ以上に、五河士道を殺されるのは私の体が受け付けないと言うのもよくわかった。

けどまぁ……我が同胞のあの姿は改めて見て思う。完璧に私と同類に成り果てた。それに加え、()()()()()()()()()()()。くふふ……楽しみだ。ああ、非常に楽しみだ」

 

 

神夏……いやルシフェルは、高らかに笑い何かを言っていた。

そしてメイザースと向かい合っていた。

 

「そうですね。完璧な反転体です。それが私たちの前に二体もいるのです。その二つを得られたなら私たちの悲願に近づくことでしょう」

 

「デェモォ、君は、私には構っていられない。断言できる」

 

「何?」

 

「ふふ、今にわかる。君は、私に構ってなどいられなくなる」

 

 

 

「私を、無視するな。人間」

 

十香の声によって神夏たちへ向けていた士道と美九の視線が十香へ引き寄せられる。

十香はどこか怒っているような、そんな顔をしていた。

 

「なんだここは、と聞いている」

 

「え……?」

 

士道には十香が何を言っているのか一瞬理解ができなかった。が、神夏の状態……つまりは、反転している可能性を考えてしまった。

 

しかし、ルシフェルが現れたとき彼女は状況を把握できていた事を思い出し、何か違うと感じていた。

 

「貴様、答えろ。ここはどこだ」

 

「え?ええと、DEMインダストリーの日本支社……じゃないんですかー?」

 

「聞き覚えがないな。なぜ私はこんなところにいるのだ?」

 

「いや、そこの魔術師(ウィザード)に攫われたからじゃ……」

 

士道だと返答がもらえない、と思ったのか十香は美九に聞く。

美九は元凶のエレンとウェスコットを向き、十香もそれを追うようにそちらに目をやった。

 

「……それに、だ。なぜ貴様がいる」

 

「君を助けに来た、といえばわかるかな?【暴虐公(ナヘマー)】」

 

「私を……貴様が?」

 

「信じられない、といった顔だねぇ。我が同胞」

 

「貴様に同胞と呼ばれる筋合いはない。貴様は、元より私とは存在そのものが違う」

 

「釣れないなぁ」

 

十香はルシフェルとまるで見知った仲のように言葉を交わしている。

互いに認識がある、という事だろう。

それを士道たちが知る由も無いが。

 

「エレン、今回は十分な収穫だ。魔王の顕現を見ることができた。いかに君とはいえど魔王二人相手は厳しいだろう。だからここは引こう」

「わかりました」

 

「ほら、臆病者はにげる。定石だね」

 

「黙りなさい。貴女ごときがアイクを罵倒など、許されません」

 

「へえ」

 

ルシフェルは右腕をあげ、そして勢いよく振り下ろした。

すると、いつか見た黒い雷のようなものが辺り一帯に落ちた。

エレンたちはおろか、美九に十香まで巻き込んでいた。

 

十香は巨大な剣で、美九は音による壁で、エレンは魔力による壁で防いでいた、

 

「ふふーん。やっぱりこの程度は防ぐよねぇ。うんうん。じゃあ次は……」

 

「小癪な」

 

「っと」

 

再度ルシフェルが腕を振り上げると、十香は鏖殺公のような巨大な剣でもってルシフェルに肉薄した。

ルシフェルは剣を蹴り、十香に腕を伸ばし、十香はそれを弾き、互いに攻撃をさせないかのように戦闘を始めた。

 

「エレン、君も傷を負っているんだろう?万全を期して次に挑もうじゃないか。ここで魔王が共倒れしてくれたらそれはそれで儲けものだからね。だから今は退こう」

「ええ、わかりました」

 

「悪いが、ここで失礼させてもらうよ。生き延びたならまた会おう。タカミヤ……いや、イツカシドウ」

 

「え……?」

 

ルシフェルと十香が互いに殺気を放ちながら戦闘をしているというのに、士道は聞こえたウェスコットの言葉に眉をひそめた。

 

崇宮。確かにウェスコットはそう言った。士道の妹を自称する、真那の姓を。

 

「ちょっとまて、あんた、俺のことを知ってるのか?」

 

「いいや、知らないさ。()()()()()()()()()()()

 

言い終わると、ウェスコットはエレンに抱えられ何処かへ飛んでいった。

 

 

 

ドガン!

 

 

 

「ぐぅ……痛いなぁ、暴虐公(ナヘマー)。少しくらい手加減してくれないかな。私は君より弱いというのに」

 

「貴様に手加減だと?笑わせるな。本気を出していないだけだろうに」

 

突然、何かが吹っ飛び、俺の真上の壁に激突した。パラパラと粉塵を巻き上げながら落ちてきたのは、ルシフェルだった。ルシフェルの胸には大きい一本の傷が出来ていた。

が、それもすぐに治っていたが。

 

「五河士道、君は邪魔だ。今すぐこの場から消えてほしい。その方が巻き込まないで済むしね。今から私が使うのは……見境、ないから」

 

「見境が……?どういう」

 

「ふふ……わす、れた?私の力が扱う、もの……は、なにか」

 

士道はそう言われ思い出した。ルシフェルが扱うものは

『人類の敵』だという事を。

 

「傷が浅かったか。貴様はこの場で消しておくとしよう。せめてもの情けだ。苦痛の間も無く消してやる」

 

「ふふ……無理だ。今から扱うのは、本当の意味での、人類にとっての、害。悪、敵だ。日本古来の鬼や、蛇の化け物、暗殺者集団なんかの人間が作り出したものの比にならない。文字通り、人類の敵、だ。五河士道、早く、消えろ。でないと、命の保証を、出来ない」

 

士道はそう言われるも、救わねばならない、そう更に強く思ったからこそ、即座に返答をする。

 

 

「断る!俺は十香を助けに来た!それにルシフェル、()()()()!助けに来たのに誰一人助けれずにおめおめと帰る?はっ!そんなの死んでもごめんだね!

命の保証ができない?なめるなよルシフェル。俺はいつだってそんな状況に立ってきたさ!今更どうってことはない!」

 

 

 

士道の言動は、聞くものによっては蛮勇に他ならないだろう。

だがそれでも、士道にとって譲れないことだった。

 

士道にとって、十香は、神夏ギルは、精霊の皆は、それほど特別に他ならないのだから。

そんな彼女らを救うためなら、自らの命すら賭ける、士道はそう誓っているのだから。

 

 

「……知らないよ。……………。

 

我は門を知れり。汝、見ること能わず。

我は禁断の秘鑰(ひやく)、導く者なり」

 

 

「ふん。【暴虐公(ナヘマー)】」

 

ルシフェルが何かを唱えたと思うと、十香は剣を、ナヘマーと呼んだ剣を無造作に、ルシフェルに、俺たちに向かって振り抜いた。

 

「ぐ……っ」

 

士道は前に出て手に持っていた鏖殺公で、防ぐ。

転げずに済んだものの、両手が激しく痛んでいた。

 

「ちょっと、あなた知り合いじゃなかったんですか?助ける必要ないくらい激強じゃないですかー。ていうか、さっき胸貫かれてましたよね。なんで生きてるんですかー」

「俺も、何が何だか。神夏と同じ……のように見えるけど。あと、特異体質なものでな。あとで説明する」

 

士道は美九からの問答に答えながらも片時も十香から目を離してはいなかった。

 

僅かでも離すと殺される。

 

そんな予感がしていたから。

 

「やはり【鏖殺公(サンダルフォン)】。なぜ貴様がその天使を持っているのだ?」

 

十香の視線は、顔は、明らかにこの場の全てに対して明確な敵意を持っていた。

 

「十香!おまえ……どうしちまったんだ!俺のことを覚えていないのか⁉︎」

 

「十香……?私のことか?」

 

どうやら、士道たちのことはおろか自分の名前すら忘れている様子だった。

 

「……どうすれば」

 

『……どう!士道!応答しなさい!士道!」

 

「!琴里!」

 

そんな絶望的状況の中、士道の耳に聞き慣れた声が響く。

どうやら、ジャミングが解除できたのか、通信ができたらしい。

 

『何があったの⁉︎』

 

「わからねえ!俺がエレンに胸を刺されてる間に十香の様子がおかしくなっちまったんだ!なあ、あれどう見ても神夏と……」

 

『……っ、ええ、恐らく。同じよ』

 

「そう…か。なあ、琴里。あの十香も封印できるのか?」

 

『それは、わからないわ。例がないもの。でもそれ以前に、今の十香の士道に対する好感度じゃ不可能よ』

 

「じゃあ一体どうすれば……」

 

『十香の意識をこっちに引き戻すしかないわ。可能性があるとすれば……』

 

そして琴里はその『可能性』を述べる。

それを聞いた士道は、ゆっくり、息を吐いた。

 

「結局、やることは変わらないってことか」

『ええ。でも一番は神夏がどう動くかよ。彼女の気まぐれで、私たちの生死は決まると言ってもいい』

 

 

「何をごちゃごちゃと言っている」

 

 

十香は焦れったいとでも言うように、士道たちを睨み、ナヘマーと呼ばれている巨大な剣を士道たちに向ける。

 

「貴女を、悪い子を今から叱りましょうって事よ。暴虐公(ナヘマー)さん」

 

そんな十香へ、立ち直ったルシフェルが風貌を変えて向かい合う。

魔女のような帽子をかぶり、額には鍵穴のような真っ黒いアザのようなものが。

そして両の手には巨大な鍵のような錫杖を持ち、背後には巨大な鍵を円形に束ねたようなものが浮遊していた。

 

「異端のモノが、偉そうな口を。そのようなマガイモノの力しか扱えない貴様が私を叱るだと?自惚れるな」

 

「間違ってはいないわね。でも、ニセモノがホンモノに敵わない、なんて道理は無いわ。だって、正義の味方が言っていたんだもの。だからその通りよね」

 

「……あいも変わらず、貴様の言葉一つ一つには虫唾が走る」

 

「ふふ。ふふふ。そうよね、私と貴女は、元より互いに相入れない存在だものね。……五河士道、時間は稼いであげるわ。その間に、作戦を立てておいてくださいな。何分持つかわからないけれど。1分は稼いで見せるわ。

 

さあ、始めましょう【暴虐公(ナヘマー)】。

 

開け、門。

 

降臨せよ、ヨグソトース」

 

 

ルシフェルが錫杖を空中に刺した瞬間、十香を、巨大な紫色の蛸の足のようなものが包み込む。

一瞬のことで殆どの者が理解できていなかったが、ルシフェルは十香へ向かって駆けた。

 

そして二人を、蛸足のようなものが包み込み檻と化す。

 

「で、作戦はなんですかー?聞いてあげなくもないですけど」

 

「……十香に、近づく。それしかない」

 

「はい?それが作戦ですか?」

 

「ああ。近づければ、可能性がある」

 

「そーですか。……わかりましたー。それなら、私に考えがありますぅ」

 

美九はそれを聞いて、しばらく黙りこくってしまった。

それは士道も同じで今ルシフェルが十香と戦っている(?)間は、見守ることしかできなかったからだ。

 

 

 

 

バゴッ!

 

 

 

 

「「⁉︎」」

 

檻が、突然歪む。

 

さらにメキメキと音を立て、バギャっと衝撃が加えられ、最終的に破られた。

 

「ぁ……ぅ……」

「ルシフェル!」

 

「完全に扱えないもので挑もうなど、身の程を知れ」

 

十香は、ルシフェルの顔面を掴み檻から出てきた。

ルシフェルは傍目から見ても瀕死だった。

 

無造作に放り投げられ、地に伏せる。

 

「あとは貴様らか。なぜ貴様が【鏖殺公(サンダルフォン)】を扱えるのかは知らぬが、屠れば済む話だ。ルシフェルほどの力は持っていないようだしな」

 

言って十香は斬撃を飛ばしてくる。

士道はなんとか初撃を防ぐも、十香はまた剣を振り抜く。

 

 

 

「あああああああああああっ!」

 

 

 

が、その衝撃波が来る前に美九が大声を発し不可視の壁を構築した。

それが辛うじて士道達を守ってくれる。

 

「美九……!」

 

「勘違いしないでくださいよー?私は、『好き』とか『大切』とか『死んでも』って言葉を軽々しく使って、簡単に翻す男が一番大っ嫌いなんです。

 

あなた、言いましたよね?命を懸けてでも十香さん、それとそこの人を助けるって。なら、最後まで責任持ってください。

 

私を……失望させないでください。

私は、それを見るためにここまできたんですから」

 

「美九……ああ、そうだな」

 

士道は手の中にある鏖殺公を握り直し、十香を睨めつける。

 

「さあ十香。じきに朝だ。帰って飯にしよう。もちろんルシフェル……神夏も一緒にな。今ごめんなさいって言えば、今日は朝昼晩、お前の好きなメニューで統一してやるぞ」

 

「何を言っている?」

 

「十香……」

 

士道が近づこうとする直前、美九はその場でくるりと体を回転させ、タップダンスのように地面に靴底を打ち付けた。

 

 

「ちょっとくらい待ってください。私は考えがあると言いましたー。節操無いから嫌いなんですよ、男は。

防御の声を、全方位から十香さんにぶつけます。彼女相手では何秒もつかわかりませんが、少しの間なら動きを止められるはずです。その間に、方法とやらを試してくださいー」

 

「ああ……わかった!」

 

「ではいきますよー。

破軍歌姫(ガブリエル)輪舞曲(ロンド)】!」

 

美九の天使が、まるでパイプオルガンの金属管のようなものが現れ、先端をマイクのように美九に向けられた。

それだけではなく、およそ半分が削り取られたビルの床の各所にも金属管が現れ、十香に向けてその先端を可変させた。

 

 

 

『ーーーーーーーーーッ!』

 

 

 

耳の奥に響くような高音の声を、自分の周囲にある天使めがけて発する。

ガブリエルによって幾重にも反響された声は、まるで目に見えない手で締め付けるように十香を拘束した。両腕が不自然に歪み、ロープで縛られたかのようにぐぐっと体に密着した。

 

「恩にきる……美九!」

 

士道は、その1秒すら無駄にしないよう、駆けだした。

 

 

 

 

 

 

「イグ………ナ。イグ……ナ、トゥ…フルトゥ……クンガ」

 





ちょっとした裏話

実は、オリ主が扱うもの、当初の予定はセイバーアルトリアorランサーアルトリアのオルタでした。
ただ、人類の敵か、となって調べたり相談したりした結果


あれ、敵じゃなくね?


と、なりました。

まず、FGO内で『人類の脅威』特攻が入るサヴァを筆頭に、混沌・悪属性の持ち主を筆頭に出していくと思われます。


(本当ならナヘマーとロンゴミニアドがぶつかる予定だった)


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45話 地球外の神の依代

いや、ほんとすいません。
修正していたら、間違って文章を消してしまいまして……
投稿し直しです……ほんとごめんなさい

ここからはほぼ同じですが、一つだけお伝えすることが増えたりしてます。

ですが、後書きにまとめて書きます。


とうとうルシフェルの本領発揮、かも?





「む、なんだこれは」

 

十香は美九の天使による不可視の拘束に対し不快そうに顔を歪める。

拘束を剥がそうとして腕に力を入れ、その度に美九の声が苦しそうに上擦る。イ……グ……

 

「美……っ!」

 

士道は美九に声をかけようとして踏みとどまる。

今声をかけたところで何が変わるわけでもない。自分で一秒も無駄にしないと誓ったばかりでもあり、士道は再度前を向いて歩を進める。

 

「ふん――」

 

近づいている士道に気づいた十香は足で床を蹴り飛ばす。砕けた床材がまるで散弾銃のように士道に降りかかる。

 

それを何とか塵殺公(サンダルフォン)で防ぐが体の各所にコンクリートの破片が突き刺さる。それを強引に取り除き強引に猛進する。

 

十香は焦りを見せずに苛立ち気にチッと舌打ちをした。トゥ……フ……

 

「小賢しい」

 

そう告げた十香は息を大きく吸い身体を軽く前傾させ、音の拘束を引きちぎるように腕に力を込める。メリメリと腕が開かれるにつれ、美九の声が段々と掠れていった。

 

「――――ッ!――――――!」

 

それに対抗するように美九も声を張り上げていく。

 

 

「――――」

 

そして、美九は絶望に目を見開いた。

己の何よりも、命より大切な(モノ)が、出なくなってしまったから。

 

何度も何度も声を出そうとするも出ない。我が……に……(しろがね)……

 

「――」

 

なんで、という声すらも、発することができない。出てくるのはヒューヒューという空気の掠れた音だけ。

 

「な……」

「ふん」

 

士道の狼狽と十香の鬱陶し気な声が虚空に響く。

それと同時に、美九の出していた巨大な銀筒がガシャン!と音を立てて床に落ちる。

 

士道はそれに覚えがあった。

おそらくは、霊力の使い過ぎだろう。

神夏や琴里が霊力を使いすぎると途端に霊装の輝きを失い、無防備になると言っていたのを思い出した。虚無……顕……

 

「ふん、小賢しい真似を」

 

十香は鼻を鳴らし暴虐公(ナヘマー)()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!」

 

士道は息を詰まらせるが未だ士道は十日にとびかかれる距離には達していない。

 

「私の身を縛ろうなど、身の程を知れ」

 

そう淡々と言い十香は暴虐公を振り下ろした。我が父……

 

「――――」

 

美九は悲鳴も上げず涙も流さず、むなしく笑いその場にへたり込んだ。もう霊力を扱う力どころか逃げだす力さえ残っていなかった。

 

そもそも万全な力であったとしても暴虐公の一撃には耐えられるわけがないだろう。

 

 

それに声を失った自分など、無価値以外の何でもないのだから、と。美九はなぜこの場に来てしまったのか、念願の精霊を三人も手中に収めたというのになぜ危険な場所まで赴いてしまったのか。

 

それらを自問自答し、その原因が五河士道というわかりきっている答えにたどり着き、力なく笑った。

 

 

彼の『命を捨てることになっても助ける』という戯言……いや、彼の覚悟を見届けたかったのだ、と。

こんなところに本当に現れた彼を見届けたかったのだ、と。

 

 

その結果士道は最後まであきらめなかった。あの黒い精霊という味方?すら失ったというのに、文字通り血を吐き死にかけたというのに歩みを止めることはなかった。

 

美九にとっては、それを見れただけでも十分だった。

 

 

いや、欲を言うならば

 

 

 

彼のような純粋な想いがほんの少しでも自分に向けられていたならば。

きっと自分は違った道を……

 

 

そこまで思い、美九は死を悟ったかのように静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

「美九ーーーーー!」

 

 

 

 

士道は、剣が自分ではなく美九に向けられているとわかった瞬間に十香ではなく美九のほうへ走り出した。

半場無意識なため、十香より近いだとか、十香まで届かないだとかそんな冷静に考えれてなどいなかった。

 

ただ単純に、美九を助けなければ、という思いしか頭にはなかった。

そして――十香に美九を殺させてはならない、と。

 

だが今の力だけでは、塵殺公だけではこれから放たれようとしている斬撃は到底防げない。

これだけでは美九を守り切れない。

 

 

 

何か、もう一つ。もう一つだけでいい。守ることのできる力があれば――!

 

 

 

そう士道が願うと同時、左手に冷たい感触が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

我……真髄……とならん。薔薇……を超え、……窮極……至らん

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ぁ」

 

少し喉を休ませたためわずかだが声が回復した美九は、命よりも大事だった声が復活したにもかかわらず目の前の光景に目を奪われていた。

 

士道が、十香と美九の間に入り自分を斬撃から守っていた。

左手の先に冷気の壁とでもいうべき結界を張って。

 

それを美九は何度か見たことがあった。

 

それはすぐに思い当たった。まるで四糸乃の氷結傀儡(ザドギエル)の力にそっくりだったのだから。

 

「よう、美九。無事か?」

 

士道は美九を一瞥しながらそうつぶやく。

 

「ぁにを、やっぇ」

 

「――約束、したからな」

 

「ぇ……?」

 

士道が冷気の壁を霧散させながら言う。

そしてすぐ一つの事柄を思い出しハッとなる。

 

 

 

(都合のいいことを…じゃあなんですか!私がもし十香さんと同じようにピンチになったら命を懸けて助けてくれるっていうんですか!)

 

(当然だろうが!)

 

 

確かに士道はそう答えた。

美九は全身を小刻みに震わせ、見開かれた目からは大粒の涙がポロポロとこぼれる。

 

士道は価値()のなくなったはずの美九を、守ってくれた。

無価値になったはずの自分を、守ってくれた。

 

 

あんな些細な、小さな約束事を守ってくれた。

 

 

美九は喉の奥がしびれる感覚に見舞われ、小さく嗚咽しながら無意識のうちに士道に手を伸ばしていた。

それはきっと、失いたくないという心の表れなのかもしれない。

 

あれほど嫌いだった男の体に触れているというのに、士道にふれていても嘔吐感どころか嫌悪感すら感じない。むしろ安心している。

 

と、美九はそこで異常に気づいた。

 

今しがた斬撃を放った十香が左手で額を押さえ苦し気にうめいていた。

 

「うぅ……シド―……シド―……」

 

十香がうめくように言った言葉に士道と美九は眉をひそめた。

今確かに十香はシドーといった。まさか記憶が戻っている……?

 

「う……がぁ!」

 

十香は叫ぶと同時に自分の左腕を切りつけた。

 

「あぐ……」

 

神夏により破られていた霊装の上からさらに深い傷を負うことで落ち着きを取り戻したようだった。

いや、落ち着いた、には語弊がある。

十香は血走った眼を見開き、殺意の眼でもって士道たちをにらめつける。

 

「おのれ……面妖な手を。私を惑わすか!人間!」

 

十香は、床を蹴り空へ舞い上がり暴虐公を頭上に振り上げる。

 

「よかろう――ならば一撃にて塵も残さず粉砕してくれる!」

 

すると虚空に不思議な波紋が現れ、十香の身の丈の倍はあろうかという玉座が姿を現した。

そして、その玉座がバラバラに砕け十香の掲げた剣にまとわりついていく。

玉座と剣が同化していくたびに黒い粒子をまき散らしながらさらに巨大な剣は更に禍々しい姿へと変貌していった

 

最後の破片が剣に同化し……

その切っ先が月を裂くように天を突く。

 

「我が【終焉の剣(ペイヴァ―シュヘレヴ)】で――――!」

 

十香の吠えるような声と共に暴虐公は真の姿を現した。

 

 

 

 

「イブトゥンク……ヘフイエ……ングルクドゥルゥ」

 

 

 

その時

 

小さな、小さな声が、しかし透き通るような声が響いた。

 

それと同時、紫色の巨大な蛸足のようなものが何本も何本も、十香の周りの空間から出てきたのだ。

それらが十香に向かっていき、十香は器用に剣を掲げたまま避ける。

そして士道たちの前には一人の少女が。

 

「させると思って?暴虐公。あら?どうしたの?そんなに驚いた顔をして」

 

「貴様……生きていたか」

 

「あれくらいで死ぬと思っていたのかしら?やっぱり魔女は頭が悪いのね」

 

「ギリ……ならば人間もろとも貴様も消してやろう」

 

それは、倒れていたはずのルシフェルだった。

が、倒れた時とは明らかに姿が変わっている。

 

服装はほとんど変わっていないが、肌と髪の毛は真っ白になっており赤い瞳は紫色になっていた。

 

そして、決定的に違うのは背中には鍵の錫杖を束ねておらず、代わりに十香を襲ったものと同じものを足元から出していた。

 

 

「ふふ、士道。()()()()()()()()()。見ててね。今から悪い魔女()を消してあげるから」

 

ルシフェルは十香と美九、そして壁をみて言った。

 

 

 

 

「貴様に何ができる。半端者の貴様が」

 

「あら、ならさっさとソレを放てばいいじゃない。怖いのかしら?」

 

「なれば、その減らず口ごと今すぐ消し飛ばしてやる」

 

「出来るかしら?やらないということは、怖いということ。確証がないということ。

 

()()自信満々な貴女ならば、私ごときソレを放てば消せるはずよ」

 

魔女は私の言葉により、剣を握る力を強めた。だがすぐに放たなかったのは私ではなく私を通じて()()()()()()の存在を感じ取ったからだろう。

 

しかしそれもすぐ終わり、手に力を込めたのがわかった。

私も錫杖を高く掲げる。

 

()ね……!その人間諸共!」

 

「ふふ……こちらのセリフよ」

 

魔女は叫び()()()()()剣をこちらに向かって振り下ろしてきた。その動作のみで辺りの空間が軋むような音が鳴る。

 

私は錫杖を地面に突き刺し、背後から更に多くの触手を生み出す。

それらの先端全てを魔女に向ける。

 

 

が、それよりも先に別のものを感じた。

 

 

士道により低下していた気温が更に下がったように感じた。

 

「…思ったよりも来るのが早かったわね。鬱陶しいわ」

 

「【氷結傀儡(ザドギエル)】……っ!」

『よっしゃおっけーいっくよーっ!』

 

この体の持ち主にとって、とてもとても聞き覚えのある声が。

ルシフェル(わたし)にとっては()()の声が。

 

ザドギエルは吹雪のような冷気の奔流で持って私と魔女に襲いかかってくる。

 

「く……」

「……」

 

魔女は霊力の壁を張り相殺していた。私はとっさに触手を壁にして防ぐ。

 

見ると予想通り、ザドギエルが巨大なウサギの人形のような天使を顕現させ、浮遊していた。

 

「十香さん……!一体どうしたんですか……⁉︎士道さんを攻撃するなんて……!それに神夏さんも……。その姿は、一体……」

 

ザドギエルの言葉に違和感がある。

それが一瞬何かわからず考えてしまったが、すぐに分かった。

おそらくガブリエルの天使による洗脳が解けた、という事ね。

 

「おのれ、小癪な……っ!」

「邪魔よザドギエル。殺す優先度は貴女が最優先じゃないの。邪魔をするなら先に殺してもいいのよ?」

 

ザドギエルは一瞬怯えるも、すぐに顔を引き締めこちらを、魔女を見る。

 

 

そんな時だ。士道が私と魔女の間に割り込んで入ってきた。

 

「貴方も、何をしているの。邪魔をするなら、命の保証はないわ。さあ、いますぐ下がりなさい。ここは貴方のような人間が踏み入れていい場所じゃない」

 

諭すも、士道は聞き入れてくれる様子はない。

 

「美九にも心配された。でもな、俺は約束を守るだけさ。お姫様を、助けるために」

「それでもダメ」

 

けど士道は未だに聞き入れてくれず、魔女の方に歩みを進める。

 

ザドギエルの猛攻を、たとえ全力のザドギエルではないとしても剣を掲げたまま対処するのはさすがだと言うべきか。

 

「----十香」

「……っ!」

 

士道の呼び声に魔女は怯えるように肩を揺らしていた。

 

だけど私は見逃さなかった。手に力が余計にこもるのを。

すぐさま触手で士道を掴み後ろに投げる。

それと同時に詠唱を始める。

 

 

「イグナ、トゥフルトゥウクンガ。我が手に(しろがね)の鍵あり。虚無より(あらわ)れ、その指先で触れたもう。我が父なる神よ。我、その真髄を宿す写し身とならん。薔薇の眠りを越え、いざ窮極の門へと至らん」

 

 

「死ね。……暴虐公(ナヘマー)!【終焉の剣(ペイヴァ―シュヘレヴ)】!!

 

「『光殻湛えし虚樹(クリフォー・ライゾォム)』!」

 

 

瞬間、私の視界は闇に染まった。きっと皆そうなのでしょう。

 

空が割れるかのような音が辺りに響き渡る。

魔女の振るった剣の先に、黒い光の奔流による一本の線が引かれた。

私は今までの比ではない、ここを全て埋め尽くすかの量の触手を一箇所から呼び出し魔女へ向かって解き放つ。

 

 

光と触手がぶつかり合い、バチバチと辺りに霊力の塊が、古の神の力が振りまかれ、触れたもの全てを消し去っていく。

 

 

 

数秒は均衡を保っていた。

 

が、徐々に十香が押していき最後には一気に黒い光の奔流が、ルシフェルの出していた触手ごと、辺り一帯を飲み込んだ。ルシフェルの後ろにいた士道と共に。

 

 




ハーメルン用のツイッターを作りまして、裏設定やらパッと思いついた会話なんか、他は更新の知らせなんかを投げる用のを作りました
こちらです @Syosetsu_Athena
もしよろしかったらフォローなんかしてくれるとありがたいです
何か感想なんかで言いづらい、ってこととかもツイッターで言ってくだされば、と思います。


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46話 決着 そして…

お久しぶりです
リアルが多少落ち着いたので投稿です。

それではどうぞ


暴虐公(ナヘマー)による一撃は、軌道上にあるものすべてを消し去った。

 

ビルに、街に、地面に、一直線の虚無の道が出来上がっている。

 

ぁ……ぅ……がほっ……

 

「……アレをまともに受けても尚、息があるか。マガイモノとはいえ生命力だけは確かなものだ」

 

十香の一撃を相殺しきれなかったのか、ルシフェルはもはや虫の息も同然に地面に転がっていた。

しかしルシフェルに止めを刺すわけではなく、あたりをぐるりと見渡し不敵に笑う。

 

「ふふ、はははははははっ!」

 

その場にへたり込んでしまっていた美九も、焦って周りを見渡し、段々と顔が泣き顔へ、焦った顔へ変わっていった。

 

「……ッ!……」

 

声にならない声で士道の名を呼び、探すも見当たらない。

暴虐公(ナヘマー)によって消されたか、あるいはビルの瓦礫に埋もれているか。いずれにしろ、士道はもう―――

 

「消えた。消えた。――—ようやく消えた。私を惑わす奸佞邪知の人間が……!」

 

叫ぶように言い、十香は両手を広げる。

 

美九はにらめつけるように十香を見る。

だが……その直後、目を丸くした。

 

突きを背に浮かんだ十香の、そのさらに背後。

更に上空に。

 

「ふん、何を笑っているか我が従僕よ。勝ち誇るには未だ一手足りないのではないか?そこな元黄金にきらめく精霊には勝てたかもしれぬが、我らにはまだまだ及ばぬぞ」

「保護。夕弦たちの先見性は我ながら惚れ惚れします」

 

耶倶矢と夕弦によって発生させた風に覆われ浮いている士道の姿があった。

 

 

 

「ありがとな、耶倶矢、夕弦。助かったよ」

 

どうやら二人は、十香が【終焉の剣(ペイヴァ―シュヘレヴ)】を振るった瞬間、ビルの影から出てきて助けてくれたらしい。感謝してもしきれない。

 

「かか、気にするでない。これしきの事、我らには容易いことよ」

「首肯。ご無事で何よりです。――それより」

 

「ああ、十香は任せてくれ。二人は……神夏を頼む」

 

「うむ」

「了承。任されました」

 

 

 

 

 

 

 

(悲しいわ。悲しいわ。皆、私を嫌うわ)

 

(当たり前だ。君は本来この世界に在るべき存在じゃない。在ってはならない存在。

喚んだのは私だが、好き勝手はさせない)

 

(勝手だわ勝手だわ勝手だわ。

非道いわ非道いわ酷いわ酷いわ。

 

私はただ私で在るだけだというのに、皆それを拒絶する

 

そんな事をするのは悪い人だわ。魔女よ。きっとそう。貴女も、魔女よ)

 

 

(違うね。私はただの……

 

そう、ただの親の感情しか知らない、哀れな娘さ。でも関係ない。廻り巡って、ソレは私の感情になったのだから)

 

(……そう、なら、あなたも、みんな、消さないと。魔女は、悪い子は、みぃんな、殺してしまわないと)

 

(ふふ、それは無理だ。なぜなら、彼が、彼の仲間がいるからね。体の主導権は、君が潰えてから再度奪い返すとしよう)

 

 

 

 

 

 

それから、どれだけ経っただろう。

 

きっと僅かな時間しか経っていないのでしょうけれど、それでも()()()()にいると、とても長く、永く感じてしまう。

 

目に光が入り、少しずつ周りの景色が見えてきた。

あの魔女(ナヘマー)がいるのかと思っても、そんな事はなく、既に気配は消えていた。

 

代わりに私の目の前にいたのは風を操る魔女(ラファエル)が2人。

 

「目が覚めたか。元黄金の」

「僥倖。ちょうど十香達がどうにかなったところです」

 

「ふぅん……ゲホっ。

 

で、私をどうするつもりかしら?」

 

呵呵(かか)。決まっている」

「同意。貴女に贖罪を。私たちは貴女にこの上無い、酷い罪を犯しました。皆、同じ気持ちです」

 

「あは、あははは」

 

分かりきっている事を問い、想像通りの分かりきった答えが返ってきた。

 

ただそれだけなのに何故かとても可笑しい。

 

「どうした。頭でも打ったか元黄金の。それとも其奴の様な闇に蠢くモノを宿しているからか?」

 

「闇に蠢く?私のことかしら?わたしは貴女たちみたいな、悪い子とは、魔女とは違うわ。私は……そう、私は……

 

ただの、アビゲイル・ウィリアムズよ。堕天王(ルシフェル)や王様、私達の依代のあの人間の持つ力みたいな、特別じゃない。ただの、アビゲイル」

 

「否定。そんな訳ありません。十香のあの一撃を相殺できる存在が、特別で無い訳がありません」

 

「嘘付きだなんて、酷いわ悲しいわ。

 

で、私に何をするつもりかしら?」

 

身体が動かないが、風の魔女2人を睨み付ける。それくらいの事はできる。

正直、もう苦しい。いつルシフェルに還されるか分かったものじゃない。

でも私は、ただ、いろんな人をこんな気持ちにさせる五河士道(あのひと)と共に居てみたい。

パンケーキがあれば最高ね。

 

「そう慌てるな。我らはお主を倒すなどとは思ってはいない。士道が来るまで暴れぬよう、任されただけに過ぎぬ」

「思考。士道が貴女を傷つける、なんて事をしたがるとは思えません。きっと彼は……」

 

「「お主/貴女を助ける。そう言うに決まっている/違いありません」」

 

風の魔女は互いに同じ意味の言葉を連ねる。

助ける?私を?

 

そう。きっと堕天王(ルシフェル)と私は完全に別物というのを知らないのね。可哀想だわ。

 

「一つ、とてもとても良い事を、教えてあげる」

 

だから、可哀想な子には、施しをしてあげないと。

 

「私はね、所詮は堕天王(ルシフェル)に喚びだされただけ。結局私はルシフェルの操り人形なのよ。私だけじゃない、父なる神もね。

 

腹立たしいことこの上ないわ。憤慨だわ。ルシフェル(あの女)を、今すぐ殺してしまいたい。

 

でもそんなこと私には無理なのはわかり切ってるもの。私はあの女には手出しができない。

あの女に手を出せば消えるのは私だもの。

 

でも万が一があるから、あの女は私を本来の力は出せない状態で喚び出した。

 

貴女達が、誰を助けたいのかは知らないわ。私?あの女?それとも依代のあの子?

 

いずれにしろ、まずはルシフェルをどうにかするべきよ。

ふふ、ふふふ。楽しみだわ。苦痛に歪むのは貴女たちか、あの女か」

 

これから起こるだろうことを想うと、とてもとても、心の底から楽しくなってくる。普通じゃないことで楽しいと想うということは、とてもとても悪いことなのね。

 

 

「ルシフェル!」

 

 

もう大人しく、この世界から座に還ってルシフェルに体を戻してやろうとおもっていると五河士道の声が響く。声の方を見ると、五河士道とその傍に暴虐公(ナヘマー)……いえ、鏖殺公(サンダルフォン)がいた。

 

どうやら、無事みたいね。五河士道も、サンダルフォンも。

ナヘマーは分からないけれど。

 

五河士道が無事なら、それ以外はどうでもいいものね。

 

「あらあら。違うわよ。私は、ルシフェルじゃない。ルシフェルに喚ばれた、ただの、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズよ。……で、どうしたの五河士道」

 

 

「ルシフェル……いや、アビゲイル。俺を助けようとしてくれて、ありがとう」

 

 

「……」

 

五河士道の言葉に、思わず目が点になってしまった。

そして耐えきれず、笑いが溢れる。

 

「うふ、うふふ。五河士道。貴方は、お、おかしいわ。面白いわ。

 

 

何よりも、愛おしいわ。

 

 

うふ、うふふ」

 

「おかしな事を言ったつもりはないんだがな」

 

「おかしいわ。おかしいわよ。だって、この私に、感謝?

的外れにも程があるのよ。

 

私はルシフェル(あの女)の望み通り、貴方を守ろうとしただけに過ぎないもの」

 

「それでもだ。助けようと、守ろうとしてくれて、ありがとう。アビゲイル。どうせなら、ルシフェルにも伝えておいてくれないか?」

 

「それこそ、あの女に直接言ってやりなさいな。私は……そう、私はただの使い魔。あの女の望み通りに動く、ただの人形。それが偶々、貴方を助けるという行動になった。それだけよ。

 

だから、私にお礼は御門違い」

 

「それでもだ。助けようとしてくれたのは事実だろ?俺はそれが嬉しかった。ありがとう」

 

五河士道は、この人間はそう即答した。

それが何よりも可笑しくて

 

嬉しかった。

 

「ふふふ。じゃあ私も素直にならないとね。

 

どういたしまして。五河士道。力及ばなかったけれど、貴方のその行動だけで、私は救われる。

 

……それじゃあルシフェル。もう私はいいわ。あとは好きになさい。我が父なる神も、きっと、もう貴女如きどうでもいいでしょうから」

『最後の言い分は気に喰わないが、まあいい。それじゃあとっとと消えろ。人類の敵。私の士道に色目を使わないでくれないかな?』

「はいはい」

 

私の周りの我が父なる神が、次第に霧散していく。

私の力も。

 

元々力だけだったのを魂まで強引に喚び出しておいたから、元々無理はあった。それが成り立ったのは、異常なまでに霊力を供給していたからだ。

 

まあこうなってはもうどうでもいいが。

 

自我が消える最後の瞬間に、五河士道を見る。

 

精霊/魔女を殺せという私に課せられた命令すらどうでもいい。

ただ最後に五河士道を見ておきたくなった。一言伝えておきたかった。

 

「五河士道。さようなら。もう()()()とは会うことは二度とないでしょう。でも、貴女はとても稀有な存在。その心を持った人間は世界に殆どいない。

だからこそ……ルシフェル(この女)に負けちゃダメよ。

 

ほんの僅かだったけれど、貴方に会えて、よかったわ」

 

それを最後に私は意識を失った。

 

 

 

 

「はぁ。やっぱり魂ごと喚び出すのは最後の手段だ。こう何回も体を乗っ取られたら溜まったものじゃない。さて……それはどうでも良くて、だ。

 

やあ五河士道に我が同胞。それに……半端者達。どうやら危機はさったようで何より。

五河士道が生きているなら私はそれでよかったが。

 

まさか半端者達まで生き残ってるとは予想外の極みだ。君達如きじゃ暴虐公(ナヘマー)には殺されるだけだと思っていたが、評価を変えよう。君たちは、よくやった。あの面倒この上ないナヘマーを止めてくれて感謝するよ」

 

クトゥルフの、地球外の神とその依代を完全に消し五河士道達と向き合う。

全員が私を見る。1人は真っ直ぐ見つめ、他は全てが私に敵意の目を向けていた。

……いや、敵意は少し違うな。皆が、私にどうすればいいのか?と言う感情を抱いている。

 

くだらない。

 

「で?どうする気?私を捕らえる?殺す?好きにするといい。私は抵抗はあまりしないさ」

 

だが、そんな事を聞いたところで返ってくる答えなど分かり切っている。

きっと私と惹かれ合う運命である五河士道は、こう言う。

 

「決まってる」

 

「「お前/私を、助ける」」

 

最後の言葉に被せほぼ同じ文言を言うと酷く驚いた顔をしていた。

これでも、君の行動は評価しているんだぜ?

 

我が宿主を助けようとしたりだとか、他の半端者を助けようとした時とかも、ね。

 

「わかってるなら話は早い。なあ、ルシフェル」

 

「俺とデートをしよう、だろう?わかっているさ」

 

「そうだ」

 

「私としては構わない。むしろ君と共に在れるのだから大歓迎な方さ。ただね、我が宿主……神夏ギルの事となってくると少し不満がある」

 

我が宿主の名前を出した途端に、半端者の全てが、僅かだが動揺を示した。それは耳からなぜか響いてくるカマエルもそうだった。

 

「私はな、五河士道のことも大事ではある。が、我が宿主のことも十分大事に思っているんだよ。私が完全に表に出れるキッカケを作ったことに感謝はしている。だが、それとコレは話が別だ。

 

私は、お前たち半端者に制裁を加えなければ、気が治らない。なぁ、ザドギエル。……いや、四糸乃の方がいいかな?」

 

「っ……」

『おっとー。ウチの四糸乃を虐めるのはやめてもらおうか?』

 

ザドギエルは私が視線を送ると途端にビクッと震えた。

が、赦すつもりも見逃すつもりもない。

 

「あ、あの」

 

「……」

 

そんな中、恐る恐る話しかけてきたのはガブリエルだ。……確か誘宵美九とか言ったか。

 

「何」

 

「そ、その。た、たぶん。この子達が貴女を裏切ってしまったのは、私のせい、というか」

 

「だから?」

 

「……っ、だから……殺すのは私だけにしてください!」

 

意を決したのか、そう大声で言ってくる。無駄に耳に響くから煩い事この上ない。

 

「ふーん?どう言った風の吹き回しかな?ガブリエル、お前がそんな事を言うなんてね。お前は、我が宿主の記憶が正しければそんな性格じゃなかったはずだけど」

 

「ふふん。人はですね、変われるんですよ」

 

「あっそう」

 

人は変わることができる?そんなこと、()()()()()()()()()()()()

……いや、厳密には人ではないか。人の形をしたモノか。

 

「にしても、五河士道。君だけだ。私を畏怖せずに見てくれるのは。とてもとても。心の底から嬉しいよ。君だけが、私を見てくれる。

 

私を、普通の女の子として、見てくれる。コレがどれほど嬉しいことか。愛おしいことか。

 

ああそうだ。そんな君だからこそ、私は、君を守ろうと思える。

君以外の全てから。君以外の全てを殺してでも、私のものとしたい」

 

 

狂気的かつ妖艶な笑みで、堕天王(ルシフェル)は言う。両の頬に手を当て搔き毟るように。

 

 

精霊は皆、身構えていたが五河士道だけは唯一、怯えることもなく臆する事もなく、ジッとルシフェルを見つめる。

 

そして、十香をすぐ横にいた耶倶矢に任せ、ゆっくりとルシフェルに近づく。

 

 

「ああ、そうだルシフェル。お前はとんでもなく美しいさ。思わず見惚れてしまうくらいにな。それにお前のことを畏怖していない?とんでもない。

お前の力の凄さは身をもって分かっているさ。その力で十香たちを倒し、俺を助けてくれたからな。

 

でもな。それをふまえた上でも、俺はお前を『ただの、ちょっと変わった女の子』としか思えないのさ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()女の子にな」

 

「……」

 

ルシフェルは士道の最後の言葉に、思わず目を見開いていた。

図星、とでも言うように。

 

「はは、哀しみ?助けを求めてる?この私が?」

 

「ああ」

 

先ほどまでの笑みは消え、乾いたような、『信じられない』とでも言うような苦笑いをしていた。

 

「な、何を根拠に、そんな事を」

 

「お前の目だ」

 

「私の、目?」

 

「ああ、お前は感情こそ豊かなように見える。けどな、俺にはどうしても、その顔は、声は、助けを求めてるようにしか見えないし聞こえなかった。

 

それだけだ」

 

「……」

 

士道の言い分に全く根拠も何もないことにルシフェルは呆れてしまう。

 

が、ルシフェルが反論をできないのもまた、事実だった。

 

ルシフェル自身も、己の内にあるものが醜いものであることである事を理解していたからだ。

が、救いを求めているつもりは一切なかった。

 

つもりだった。

 

「はは。そんな……わけ、が、あるわけ、ない。この私が、他人に、救いを求める?

戯言にも劣る虚言だ。五河士道」

 

「じゃあ、それは何なんだ?」

 

「……?」

 

ルシフェルの頬を伝っていたのは、一筋の涙だった。流している本人も気付いてはいないようだったが。

 

「……なんだ、コレ。こんなもの……こんな感情、私は、知らない。

知らない。

 

知らない知らない知らない知らない。

 

 

堕天王(ルシフェル)】!」

 

ルシフェルは次第に顔を歪ませ、右腕を振り下ろす。

 

あたりに乱雑に黒い稲妻のようなものが落ちた。

瓦礫や砂埃が巻き上がり、一時的に視界が悪くなる。

 

それらが晴れた頃にはルシフェルはその場から消えていた。






私は、なんでこんな感情を抱いている。これじゃあ私は……
いや違う。私はあの女とは違う。


救いを求めることなど、あってはならない。


私は、孤独で在るべきなのだから。


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神夏ギルと堕天王(ルシフェル)の物語
47話 ルシフェルから見た『悪』


アイムカムバーック

どうも長らく放置という形になってしまって申し訳ないです

大学が忙しすぎるの何の


ちょい長く放置しすぎた為、書き方が多少変化している可能性もありますがご了承を。

1〜3話くらい前の話を読んでからの方がいいかも?

それではどうぞ


我ながら情けない。

図星だからと、周りに当たり、逃げてしまった。

笑われるのも当たり前だ。

 

『でも、笑いすぎじゃないか?英雄王』

 

『こ、これが笑わずにいられるか!ははは!貴様、我を笑い殺す気か!』

 

我が宿主、神夏ギルの精神世界で英雄王が爆笑中だ。まさに爆笑王。

笑われるのは分かりきっていたからコイツとは会話したくなかったんだが。

 

『貴様が人間らしくあるにはどうすればいいかだと?そんなもの我が知るか。貴様の好きにしたらよかろう』

 

『耳が耄碌したのかい?私は、この感情について君に聞いただけだ。この、なんとも表し難い、黒いドロドロした感情を』

 

『それこそ我の知ったことではない。それを踏まえて、貴様の問いに対する答えだ。要は貴様は……いや、無粋だな。ここからは道化と貴様がやるべきことだ。だが……面白いものを我に見せた褒美に一つ、助言をしてやろう』

 

『?』

 

 

 

 

 

 

 

(所詮はあやつも有象無象の雑種ということか。親の元を未だ離れることのできない雛鳥。いや、それ以下だ)

 

己の感情を理解できず、周りに当たり散らす、雛鳥よりも醜い。

 

「なあ、そう思わんか?神夏よ。貴様も、疾く目を覚さぬか?我を待たせすぎだ。無礼であるぞ?」

 

「……でも、私は……」

 

神夏が返答したことに、思わず目を見開いてしまった。

我が強引に身体を動かした時に、多少は目を覚しているのは分かってはいたが。

 

神夏は、よく見たことある顔になっていた。

 

己のみが絶望の中にいると、己のみがこんなにも不遇だと嘆いている。

 

()()()()()()

 

そんなもの、見飽きている。

 

「……左様か。ならば一生そこで這いつくばっておれ。我は好きに動かさせてもらう」

 

神夏の体である以上、本当に我の好きなように、とはいかぬが。

だが、本来の奴ならばまだしも、今の弱りきっているルシフェルならばどうにかできよう。

 

 

(まあ、そんな心配も無用だろうがな。牙の抜けた獣はつまらん)

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

「どうしたんだい?何か不都合でも、あるのかな?」

 

翌朝、玄関を開けるとそこにルシフェルがいた。

学校の制服を着た状態で。

 

「いや、その……」

 

「この体の支配権は私にあるけれど、この体は神夏ギルのものだ。

ならば、私は神夏ギル(わたし)らしく振る舞い、学校に通うべきだと、そう思わないかい?」

 

まぁ英雄王に共に学校に通えと言われただけなんだけどね、と小さな声で言っていたが、それよりも……

 

「ああ、そうだな。それに俺としても好都合だよルシフェル。わざわざお前を探さなくても良くなったからな。話しやすくて助かるよ」

 

「君ならそう言うと思ってたよ。じゃあ、行こうか。同胞は……あとからくるのかい?」

 

「ああ、ちょっと寝起きが悪くてな。すぐに追いついてくるさ」

 

「そう、ならよかった」

 

「よかった?」

 

「ああ、彼女とは今一度、話し合わなければ、と思っていたからね。……ほかのマガイモノもね。メールとやらでずっと『会いたい』『謝りたい』『話したい』と言われ続けて私も鬱陶しく感じていたからね

 

それよりも……はい」

 

「?」

 

道すがら、ルシフェルに手を差しだされる。

それが意味する事に、少し時間がかかってしまった。

 

「私達は、学校では恋人なんだろう?ならば、手を繋ぐことくらい何の不思議もない。それとも……私と手を繋ぐのは嫌なのかな?」

 

わざとらしく悲しそうな顔をするルシフェルに。慌てて言葉を絞り出す。

 

 

一手間違えれば、ルシフェルの機嫌を損ねたら、それで終わりなのだから。

 

 

 

「嫌……なわけないさ。ただ、お前があまりにも綺麗なもんで、ちょっと躊躇っちゃっただけだよ。壊してしまいそうなくらいに、ガラス細工みたいに綺麗だからな」

 

「ふふ、褒め言葉として受け取るよ。じゃあ、はい」

 

ルシフェルが再度手を差し出してくるので、今度はちゃんとしっかり、優しく握る。

温かく、とても優しく握り返してくれた。

 

「人と触れ合う温もりは、こんなものなのか……なるほど、皆が繋ぎたがるわけだ。……さ、行こうか」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

「そうだルシフェル、今日の放課後空いてるか?」

 

「放課後……学校の時間が終わった後のことだっけ?ああ、もちろん空いてるよ。でも、どうしたんだい?」

 

「俺たちは恋人だろ?それなら放課後デートは普通じゃないか?」

 

「ああなるほど。わかった、空けておくよ。……そういえば、今日この後呼ばれてるんじゃなかった?」

 

「え?あー、うん、美九にな、控え室に来てくれって」

 

「ガブリエルに……?」

 

俺がこれからの予定を言うと、美九の名前が出た瞬間にルシフェルは少し……いや、かなり苦い顔をした。

あまり会いたくないような、そんな顔だった。

 

「先に言っとくけど違うよ。君がガブリエルと会うことが嫌なんだよ。あのマガイモノの言葉は信用できない」

 

「そうか?俺はもう美九のことは信用してるぞ」

 

「あれだけ酷い目に遭わされているのに?」

 

「それはもう過ぎたことだしな」

 

「……」

 

それでもルシフェルの顔は晴れない。

でも、美九からもルシフェルも連れてきて欲しいって言ってたし……。

 

「美九はもう、精霊の力は使わないって言ってたぞ」

「それを、はいそうですか、って信用できるほど私の頭は良くできてないからね」

 

ルシフェルの言い分も最もすぎる。現に一度やられているわけだし……。

 

でも……

 

「それでも俺は美九を信用してるから」

 

「その理由……いや、そんなものを君に聞くのは無粋だね。わかった、私も君に習い信用をしてみよう。だけど、少しでも変な気を起こした時は殺す」

 

「そんなことさせないさ」

 

それよりも一番の心配は……

 

「よう士道!神夏さんとイチャイチャして……ってそれ誰だ?」

 

校門に入るなり殿町にそう言われる。

 

「どーも、ルシ……じゃなくて神夏ギルだ。殿町、だっけ。いつもお世話には……なってないな」

 

「ひどくない⁉︎名前覚えてもらえてるだけ進歩したけどさ⁉︎」

 

「だって、私からしたら君は居てもいなくてもどうでもいいからね」

 

「ちくしょおおおお!!」

 

ルシフェルのの最後の一言が効いたのか、殿町は何処かに泣きながら走って行った。

 

「面白いね人間って」

 

「いや、まあ……うん、そうだな。でもルシフェル、もうちょっと優しくしてやってくれ。頼むから。殿町が可哀想すぎる」

 

「?」

 

あと、殿町のおかげもあって皆からの視線が痛い。

ルシフェルはなにも感じてはいなさそうだけど。

 

「それじゃあ、まずは美九のところに……」

 

「士道!朝から見せつけてくれるではないか!それと元黄金の。昨日とは大違いだな。いつもそれくらいの淑やかさでいたらよかろうに」

「挨拶。おはようございます士道。神夏ギル。昨日はお疲れ様でした」

 

今度は自分たちのクラスの開いたメイドカフェの前を通った所で耶倶矢と夕弦に話しかけられた。

 

「くく。もう傷は良いのか?ふ……流石は我が見込んだ男ということか」

「質問。十香さんはまだ来られませんか?」

 

「いや、来るだけ来るらしいぞ。まだ検査がギリギリ終わってないから遅刻するかも、って」

 

「ふむ……なるほどな。して、士道。何故(なにゆえ)今日は男装なのだ?」

「同調。夕弦も気になります。士織さんはどうしたのですか?」

「ブフっ!」

「俺は元々男だよ!」

 

そう叫ぶと2人はカラカラと笑いながらまた後でと言いどこかへ行った。

 

「ふふ……くふ、そういえば、そうだったね、士織」

「頼むからそれで呼ばないでくれ…」

 

ルシフェルにまでもそう呼ばれるともう、俺の威厳がなくなってしまう。

頼むから俺を女にしようとしないでくれ。実際なってたけどさ!

 

「で、どこだっけ。ガブリエルのいる場所は」

「確かセントラルステージの楽屋かな」

「ああ、私が完全に力を取り戻せた縁のある場所か。それと士織がより女の子をしていた」

「前半だけで絶対よかったよな⁉︎なんで後半まで言った⁉︎」

 

ルシフェル……お前はそんな奴じゃないと信じていたのに……。

けど、心なしかリラックスできているルシフェルを見れて少しばかり安堵できていた。

これならもしかしたら……と。

 

 

けどそれは、とてと甘い考えだったと後程知ることとなった。

 

 

 

 

 

「ここ……だな」

 

楽屋の前まですんなりと足を運ぶことができた。スタッフも直ぐに対応してくれたことからもしかしたら美九が話を通しておいてくれたのかもしれない。

 

ノックをすると扉の向こうから「はーい。どうぞー!」とやけに明るい声が聞こえてきた。

 

その声が聞こえたのを確認して扉を開けると、ライブ終わりで汗をかいていた美九が現れた。

 

「ああっ!お待ちしてました()()()()!」

 

「……え?」

 

ドアに入るとそこには美九がいた。いたんだけど……態度が数日前と180度違うから困惑してしまう。

 

「おいガブリエル。今すぐその口を閉じろ汚らわしい。お前、私の五河士道に手を出す気か?」

 

「わっ、ちょっ、ち、ちが、そう言うつもりじゃ」

「ストップストップ!ルシフェル大丈夫だから!抑えて!」

 

「……チッ、いいかガブリエル。私の五河士道に手を出してみろ。その時は君を絶望よりも深い所に落として殺してやる」

 

「ふ、ふふ。ご心配なく。今日は、貴女にもケジメをつけるために呼んだのです。だーりんだけでなく、貴女も。……ただ、それをする為には、そのー……ちょっと、恥ずかしいのでルシフェルさんは部屋の外に居て欲しいなーって……」

 

「……」

 

美九が恐る恐る言うとルシフェルは

 

「…………………………」

 

まるで苦虫を噛み潰したような、嫌そうな顔を作っていた。

 

「ルシフェル、俺は大丈夫だ。信じてくれ」

「五河士道は信じてるよ。私が信じていないのはガブリエルだ。

 

我が宿主を裏切らせた張本人をね」

 

裏切らせた、その一言に美九の顔が重く暗くなった。

 

「……その説は、本当に、申し訳ありませんでした。謝って済むことではないのはわかっています」

 

「ふん、人は皆そう言う。……だが、五河士道が信用していると言うのにいつまでも私がぐちぐち言うのも何か違うな……。

ああ、そうだな、そうするか。いいよ、私は部屋の外にいる。もし仮に騙したのならばその時は殺せばいいだけの話だからね」

 

「大丈夫だって。信用してくれルシフェル」

 

「ああ、今は、信用するさ」

 

そう言ってルシフェルは部屋の外へ行った。

 

 

 

 

 

「まただ、このモヤモヤする感じが。心底不愉快だ。なんだこの感情は」

 

五河士道に色目を使う輩が気に入らない。

それにイラつく自分にも気に入らない。

 

本当に、なんなんだこの感情は。

自分で自分を抑えることができなくなる。

 

「神夏ギル」

 

「あ゛?」

 

こんな不愉快な時に話しかけられた。

思わず殺気立った声をあげてしまう。

 

そこには白髪の、よく神夏ギルと最古の王に絡んでいた人間の1人がいた。

AST、とか言ったか。

 

よく我が宿主や他のマガイモノを狩ろうと、躍起になっている悲しい組織だったか。

 

「何?今すこぶる機嫌が悪い。私の前から消えろ」

 

「2人きりで話したい事がある。来て。来ないのなら、私が一言言えば貴女をASTが襲うようになっている」

 

「へぇ……人間如きが、大きく出たね」

 

今すぐ殺してやってもいい。けど、五河士道の顔も立てなければ。

 

ああ、イライラする。激情をこのままぶつけて仕舞えば楽だろうに。

こんなものを抱え込むなんて、私らしくもない。

とにかく、今の最善はこいつに大人しく従う……ことか。

 

「来て」

 

「……ああ、従うのは癪だが、言う通りにしてやる。で?どこに行くので?」

 

「……」

 

私の言葉は無視し何処かへさっさと歩き出した。一々腹立つな。

けどここは堪えないと。

 

 

 

しばらく歩き、たどり着いた場所は屋上へのドア前の階段。

そこで突然振り返ってきた。

 

「それでわざわざ2人きりで話したいことって?くだらないことだったら……」

 

「お前の目的は何。神夏ギル」

 

目の前の白髪の、我が宿主によく絡んできていた人間は、開口一番でそう言ってきた。

 

くだらない。無駄な時間だというのが直感で理解ができた。

が、ここは道化らしく答えるとしよう。

 

答えたところで、この人間に何ができるわけでもないしね。

 

「この世の全てを、五河士道以外の全てを殺す」

 

「っ!」

 

「とかでも答えた方がやりやすいかい?」

 

分かりやすく明確な殺意を向けられるが、同胞に比べたらこんなもの赤子同然だ。

 

「私の目的なんてあの女に比べたら下らない。ただ一つの事さえ満たされれば、それでいい。

 

五河士道を手に入れると言う、ただ一つさえ満たされれば。

 

ザフキエル……お前たちの間だとナイトメアだったか?あいつの邪魔さえされなければ今頃五河士道は私のモノだったと言うのに」

 

人間は、まるで親の仇を見るかのように私を見る。

そのまま襲いかかってくれたらこっちとしてもやりやすいのに。

 

「五河士道は私のモノだ人間。貴様にも、我が同胞にも、マガイモノ達にも、誰にも渡さない。アレは、私のモノだ」

 

五河士道の顔を思い出すだけで、顔が綻ぶ。

胸の奥が熱くなる。

 

甘い息が漏れてしまう。

 

嗚呼、ダメだ。ずっと我慢をしていたと言うのに。

 

欲望が止めどなく溢れ出てしまう。

 

 

鎮めなきゃ。

 

 

「お前のような存在に、士道を渡すわけにはいかない」

 

「へぇ?なんで?」

 

精霊()だから。悪に、渡すわけにはいかない」

 

悪、という言葉を聞いて、思わず笑みが出てくる。

あまりに滑稽だったから。

 

 

「ふふ、人間は誰も彼もが同じだ。己の種族に害を及ぼすものを悪とし、益を齎すものを善とする。しかしそれなら一つ、私自身にも関与してくることで不確定なことがあるわけだ」

 

 

わざとらしく、演説するように言う。

 

 

「なあ人間、悪の定義って何だ?」

 

「悪はお前たち精霊」

 

「それは君たちの価値観だ。私からすれば私の安全を脅かす君たちこそ悪だ。

 

悪は人それぞれかと言われるとそうでもない。

 

 

じゃあ悪とはなんだろうね。

 

 

この世には分かりやすく、単純明快な線引きがあると私は考えてるんだ人間」

 

「……?」

 

あまりに急な話でついて来れていないのかな?まあ関係ない。

 

「勝者が善、敗者が悪。ならば敗者とは何か。

何に対しての敗者だ?

 

それは世間に敗北しているからだ。

己の意思を貫き通せず、正しいと証明できなかった敗者だ。

 

 

この世の悪は、世間に悪と決められたから悪だと私は考える。

 

 

だから悪だ。

 

その本質が善だろうがそんなものは関係がない。

 

今この瞬間、世間によって悪と見做されたのならば、ソレは悪だ。

 

 

人は自然災害は、あくまでも災害であって悪とは見做さない。

では精霊は?

 

マガイモノも含め、精霊という存在を知らない人間からすれば精霊は列記とした『災害』な訳だ。

 

だが君たちのような特殊な立場の人間からすれば、精霊は意志を持った災害だ。

 

そんな私たちを君たちは悪と断定して、他の誰もがそれを疑っていない。

 

 

だから私たちは悪だ。君たちの言う通りね。

 

そう、本人が何と言おうと、世間からすれば私たちは悪だ。

 

ならば……それはどう言うことか、

 

 

私の力は、人類にとっての悪を、その身に宿す。

たとえば……顕現しろ、灼爛殲鬼(カマエル)

 

右手に炎を纏った戦斧を出すと人間は距離を取ろうとした。が、ここは元より逃げ道が殆どない。そんな奴の背後を取るのは簡単だった。

 

首筋にカマエルを当て、ゆっくりと、耳に染み渡るような声で、

 

今度はガブリエルの能力を使って話す。

 

 

 

「これは私からの最大限の忠告だ。

 

これ以上私や我が宿主に手を出してみろ。その時はお前だけじゃない。本当に五河士道以外の全てを、何もかもを殺してやるよ」





改めて久しぶりです

私自身、忙しい身ではありますが、実はと言うと執筆が全くできねえ、と言われるとぶっちゃけ違う、とはなります

が、夕方過ぎる頃まで忙しいのは事実なのです

暇になるのが大体、日付が変わる1時間前後くらいからなので
ですが、描き切ると(どこかで)宣言した記憶もあるので、絶対に知らん間に削除、なんてことはしません

後は、ちょいと他のハメ作家の人と人付き合い関係でトラブルも発生しましたしね。
そこはまた活動報告にでも投げます

えーそれでは、長らく待たせてしまって大変申し訳ありませんでした
読んでくださりありがとうございます!


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48話 ルシフェルの力

お久しぶりです

もう最近忙しいんですよ(真顔

ちなみに、わりかしガチです
就職活動という名のインターンとかで県外を転々としたりとか。

今回の主役はルシフェル。

さてそれではどうぞ





「し、司令。一つお聞きしたいことが」

 

「どうしたの?」

 

フラクシナスの中でモニターを凝視しながら神経を張り巡らせていると別のモニターで観測をしていた一人の船員(クルー)に話しかけられる。

その間ももちろんモニターから目を離すことはない。

 

一秒目を離した隙に誰かが死んでいる、なんてこともあり得るのだから。

 

そんな緊迫した中話しかけてきたのは周囲の霊力を観測していたクルーだった。

 

「その、観測機の故障……だと思うのですが」

 

「何よ。はっきり言いなさいよ」

 

「そ、その……司令の精霊の力と酷似している霊力が検出されました。それが消えたと思ったら同じ場所から今度は美九さんの精霊と同じ霊力が……」

 

「え?」

 

クルーから聞いた言葉はにわかに信じられなかった。

詳しく聞くと士道の場所から検出がされたわけでもないらしい。

 

突然、微力な霊力を検知したかと思うとそこからまずは私の力が、その次に美九のガブリエルの力に酷似しているものが検出されたらしい。

 

「その発生源にいたのは?」

 

「ル、ルシフェルです」

 

この時、私たちが思っている以上にルシフェルの力は、とんでもないのだと直感的に私たちは理解した。

 

それを感じた私は迷うことなく通信を士道に繋げる。

 

「士道!応答しなさい、士道!」

 

『きゅ、急にどうしたんだよ琴里。美九はちゃんと……』

 

「そんなの観測してたからわかるわよ!直ぐに指示する場所へ向かいなさい!」

 

有無を言わさず士道をルシフェルのいる場所へ向かわせる。

 

 

本当ならこんな危険極まりない事をやらせたくはない。

でも、仕方がないのもわかってる。

 

士道以外では、あの怪物は何をしでかすのかわからない。

 

「ほんっっとうに、規格外にも程があるわよ、ルシフェル……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは私からの最大限の忠告だ。

 

これ以上私や我が宿主に手を出してみろ。その時はお前だけじゃない。本当に五河士道以外の全てを、何もかもを殺してやるよ」

 

ガブリエルの声で言うも、まだ抵抗はできるらしい。

歯を食いしばりながら敵意に満ちた目を、殺意に満ちた目を私に向けてくる。

 

「そんな……ことは、させ、ない。お前は、私が……殺……」

 

「威勢だけはご立派なものだ。マガイモノすら殺せない君が私を殺す?はっはっは。寝言は寝てる時に言うものだよ?」

 

更に憎しみの感情が増したのがよくわかる。だがこんなもの、暴虐公に比べたら赤子にも劣る。

 

ああ、また彼女とは万全な状態で殺し合いたいものだ。

 

「さて、と。そろそろこの辺でお暇しようか。君の仲間にはお好きなように。手を出してきたら五河士道以外の全てを殺す、それだけだからね。君たちが私に手を出さないなら私も手を出さない」

 

声による洗脳まがいのことはそのままに、五河士道の元へ行こうと思うと、階段を荒々しく上がってくる音が。

荒い呼吸も聞こえてくる。

それだけで誰なのかすぐわかった。

 

「おお、無事ガブリエルを懐柔したんだね。いくらなんでも生身でマガイモノと対峙するなんて、と思ったが杞憂だったようだ」

 

上がってきた人間、五河士道は私と白髪の人間を交互に見、そして慌て始めた。五河士道から感じられる力の中にガブリエルのものが増えているから無事接吻は成功したと言うことか。

 

 

憎たらしい。

 

 

……おっと、感情的になってはダメだ。彼にとってはこれが唯一の方法なのだから。

 

それはそうと、私がこの人間を殺そうとしていると思っているらしいから誤解を解かないとね。

 

「まあまあ落ち着きなよ。私は喧嘩を売られたから買っただけさ。でも君の願う通り殺しはしないさ。まぁ、それでもこれ以上私に手を出すようなら君以外の全てを殺すけれど。私は、君さえいてくれたらそれでいいからね。君は、我が同胞にも、マガイモノにも、この人間にも、誰にも渡しはしない。君は、私だけのものだ」

 

挑発するように白髪の人間を、馬鹿にするように笑いながら言うと途端に目が険しくなった。

 

 

それを潰せると思うと心の底からゾクゾクする。

 

 

「あはっ、そう、その顔だよ人間。私はその顔を見るたびに満たされる。

その反抗的な目。

 

憎悪に満ちたその目を根元から叩き潰したら、一体どんな顔をするのか。想像するだけで、心が躍る。

 

……おっと失敬失敬。そんな目で見ないでくれよ。こんなところで殺しはしないさ。

私から手を出すことはしないと決めているからね。

 

 

しかしまあ、君も親とおとなしく暮らしていればいいものを。そうすれば平穏に安らかに暮らせたかもしれないのに」

 

 

「……っ!ふざけ……」

「おっと」

 

ガブリエルの音による洗脳を強引に振り払ったのか、顔と首につかみかかってくる。ミシミシと力を込められるが非力な人間の力など赤子に等しい。

振り払い、霊力の圧でもって壁に磔にする。

 

「やっぱりマガイモノの半端な力ごときは跳ね返せるか。にしても親に何かあったのかい?急に怒り出して。

 

 

……ああ!そうかそうか!そうだったね!君の親は死んでいるんだった!マガイモノに殺されているんだったね!いやぁごめんごめん忘れてた!

 

確か我が宿主が聞いた情報によると炎に包まれて命からがら親が逃がしてくれたんだっけな。いやあ君の親はすごいすごい!自らの命を懸けて子を守る。

 

まさに親の鏡だ!

 

子を想う親の手本のような存在だ!

 

実に実に、ほんっっっっとうに心の底から思うよ。

 

 

 

()()()()()()()

 

 

人生は命あってこそだというのにね。私は人間の感情など理解しがたいが、その大切なもののために命を懸ける。それが最も理解しがたい。

 

子を心の底から想う?自分の命より他人の命?

 

私は人間のその感性が全く理解できない。

 

何かを『する』も『される』も命あってこそだ。

 

他人を守るために死んでしまっているんだからどうしようもない愚か者だ。

 

本当に、くだらない」

 

「お前が、私の両親を、バカに……」

 

白髪の人間は怒り狂う様子を見せるが、ただの人間が霊力の壁を壊せる力を出せるわけがない。身動き一つとれずに睨みつけてくる様は滑稽だ。

 

「それに、だ。

真に子を心の底から一番に想える親はこの世に存在しない」

 

そう告げた時の人間の目は、これまで以上の、これ以上ないってくらいに憎悪に満ち溢れ、五河士道の目からも『信じられない』と言った感情がよく読み取れた。

 

「私もね、生みの親はいるんだ。でもソイツは親らしいことは一切していない。

 

自らの心に正直に、その目的を達する為に駒を作っただけ。

 

その力の残留が集まって生み出したのが私だ。

 

だから、私は親の感情を知っている。親が子に抱く感情を知っている。親が想い人に抱く感情をしっている。

 

 

アイツにとって、この世の全ては、己の欲を満たす為のただの道具。

人間も、精霊も、何もかもが。

 

自らの欲望を満たすための、ね。

 

 

だから親なんて存在は嫌いだ。

子供が大事だというが、ただのヒトカケラも愛情も何も与えてくれなかったあの女が親?

 

冗談にも程がある。

 

私は、あの女を許しはしない。私を、ゴミを見るような目で見たあの女を。だから、あの女に取られるくらいなら、殺すと決めている。

 

きっと我が宿主が親を殺したのもきっとそういった感情からだろうね。私にはわかるよ、うんうん。

 

子を愛しているというのなら、子に絶望を与えないものな。

 

子を愛していると言うのなら、その在り方を尊重するものな。

 

 

だけど、君の親は君に絶望を与えた。

我が宿主の親は、在り方を否定した。

 

それが全てを物語っているんじゃないのか?なぁ?」

 

つい衝動に駆られ、人間の首を乱雑に掴み、締めてしまう。

 

が、急に力がうまく入らなくなった。動きが鈍くなる。それ以外も、うまく体が動かせない。思うように行動ができない。

 

「おっと、急にどうした」

 

どうやら神夏ギルの意識が止めようとしているらしい。

いつの間にか意識を取り戻していたか。最古の王のせいかな?もう暫くは眠っていると思っていたが。

 

「今更君が何を止めるというんだい神夏ギル。我が宿主。何か気に障ったかな?

 

……『私のお母さんやお父さんを馬鹿にするな』だって?

 

だが、事実だろう?君の親の行いにより、君は今の現状に成り果てた。全ての元凶を辿れば、君の親が原因さ。

 

それに、だ。

 

今更君がなぜ止める?

 

散々自分勝手に引き籠っておいて勝手な。

 

私に表のイザコザを任せたのは君だ。

マガイモノ達に裏切られ、悲観し、引き籠り、何もせずここまできた。

 

この体は元は君のものだが所有権はもう私にある。

これ以上勝手なことをするなら、私も少し考えがあるぞ?」

 

少し手に霊力を集中させた時、今度は周囲によく見たことのある黄金の波紋が数個浮き出た。そこから黄金の鎖が射出され私の腕と脚に巻き付く。数メートルの鎖は私の右腕と右脚にキツく巻きつき、先端と末端が体に突き刺さり固定された。

 

すると霊力がほとんど扱えなくなったと同時、体を乗っ取られるような感覚がした。

が、強引に所有権を奪い取る。

こんな芸当、神夏ギルができるわけがない。となれば、犯人は一人しかいない。

 

「でしゃばるなよ英雄王。これは私と宿主との問題だ。関係ない人間の王風情が入ってくるな」

『霊力もぞんざいに扱えぬ立場で偉そうな口を』

「そりゃあ、今の君は本来の力の100分の1すら扱えないからね。態度もでかくなるさ。

 

……でだ、我が宿主。神夏ギル。

 

君も所詮、あの女にとっては道具に過ぎない。唯一道具でないのは、私ともう一人くらいさ

叛逆の意思を持った存在は、ね

さて、私らしからぬ物言いだった。この辺で終いだ。

 

さてさて!五河士道はやるべきことは終わったようだし、これから私とデートの続きと行こうじゃないか!私はアレが気になっているんだよ。後夜祭、キャンプファイヤー、だったかな?ついでに君の手料理なんかも食べれたら最高だ。さあさあ、こんな辛気臭いところに留まらず私たちの時間を過ごそう」

 

 

その時の五河士道の目は

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

一体何がそこまで士気をあげたのか分からないが、君がその気なら私も乗っかるとしよう。

 

 

 

ごく僅かな現世を楽しませてくれよ。運命人よ。

 

きっと、これが終わる頃には私は……。

 

 

 

 

いや、それを考えることこそ野暮というものだ。

私は私の命を謳歌させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何の用だ。今更捨てた力が惜しくなったか?」

 

せっかく、五河士道とデートができ、気持ちよく1日が終われそうだったというのに見たくもない感じたくもないモノが背後に現れた。

 

「好き勝手するな?みんなそう言うね。でも私は私の心に正直に生きているだけだ。お前と一緒でね」

 

今更、どのツラ下げて親ヅラをするのか。使えそうになったから手元に残しておきたくなったか?

 

「はっ?実の親?笑わせてくれる。お前が私へした仕打ちは一生忘れはしないさ。

 

 

だが、今となってはお前の感情も理解できるのもまた事実。

 

 

好いたモノの為ならば、どんな事だって、世界の(ことわり)を壊してでも成し遂げるその気持ちだけは、他の誰よりも理解できる。

 

だが……それだと一つ、問題がある」

 

ソイツは、わからないと首を傾げているが本当はわかっている筈だ。

だからこそ、今さら私の前へ姿を現したんだから。

 

 

「アイツは、私のものだ。

生き遅れの母君は、とっとと隠居しろ。

 

 

私はアイツを私のものにする為なら手段は選ばないことにした。

お前と一緒でね。

 

 

それを承知しないなら、心征く迄、殺し合おう。原初の精霊。腹違いの母君よ」




もう暫くは突っ走りたい……

がんばりゅ……

リアル忙しいけど頑張ります……



読んでくださりありがとうございました


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49話 生まれた意味

「なあ、我が宿主。最古の人間の王。『愛』って何なのだろうね」

「……」
「下らんな」

「まあ、そう言うと思っていたよ。

でも、私からしたら結構重要なのさ。


なぁ、愛を貰うにはどうすればいいのだろうか。私は、ソレが欲しいだけさ。
未来永劫変わらない。私の目的はソレだけ……だと言ったら、どうする?」


「参ったね。また失敗だ。やっぱりもう少し精錬を重ねた方がいいのかな?」

 

……

 

「しょうがない。次に行こう」

 

……

 

気づいた時には、コイツの側にいた。

私が離れられるわけでも、コイツが離れて行くわけでもなく、とか言ってコイツは私に気づいた上で引き連れているわけでもない。

単にコイツは私のことを、単なる力の一片としか思っていないのだろう。

 

でもそれは正解だと思う。

現に、私はコイツの周りに漂っている力の一部にしかすぎないのだから。

 

なんの因果かわからないけど、ただの霊力が意志を持っているのだと思う。

喋ることもできないし、コイツが見ているモノのように目や仕草で訴える、なんてのも出来ない。

 

……でも、別に構わないだろう。特に何をしたいかも、何をするかもわからない。

 

自分が何者なのかすらわからない。だから、ずっとくっついていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、コイツが力を行使する度に、僅かに漏れた力が蓄積されていくようだ。現に、私が意識を持った時と比べ、力自体は格段についた。

だが、それを行使できるかというとそうでもない。

 

 

私は、いったい何のために意志を持った。

 

 

何もできないというのに、なぜ私というモノが生み出された。

 

……もう少しだけ、コイツを観察してみよう。

そうしたら、わかるかもしれない

 

 

 

 

 

 

どうやら、コイツは特定のナニカへ一つの強い感情を抱いている。

事あることに『愛している』と言っている。

 

この感情が『愛』という名前らしい。

 

とても不可思議だ。

コイツは常に何かしらの負の感情を宿している。

 

けれど、その『愛』とやらを呟き、行動する時だけはとてつもない正の感情が溢れ返っている。

 

 

……そんなに、良いものなのだろうか。『愛』とは。

 

 

コイツが抱いている、この世の全てを壊しかねない程の負の感情を、まるで何もなかったかのように全て覆い尽くしてしまうほど、コイツの抱いている『愛』は素晴らしいものなのか。

 

 

 

欲しい。

 

 

 

どうやったら、手に入る。

 

直接、貰いに行けばいいのだろうか。

 

でも、どうやって?

何も出来ない、単なる力の一部でしかない、偶像が意志を持ってしまった私が、どうやってコイツに貰いに行けば良いのだろう。

 

話しかけれるようになる?でもどうやって実態を持つ?

 

 

考えないと。考えることしか、出来ないんだから。

 

 

 

 

 

 

やった。そうか。力があれば出来るんだ。

実際に、出来ることを彼女が証明してくれた。

 

私の存在にも気付いていたし、きっとそうだ。

 

これなら、私でも出来る。

 

 

愛を、貰いにいける。

 

その為には、もっと力を、強い力を。

 

 

コイツに、もっと力を使ってもらわないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「ルシフェル?どうしたんだ?」

 

目を覚ますと、映画館とやらの中だった。

 

何か冷たいような、不快感のようなものがあり頬を触ると、ナニカで濡れていた。

 

手で拭き取り、何もなかったかのように、なんとか顔を作る。

 

「何でもないよ。心配かけてすまないね五河士道。

さあ、次は何処に行くんだい?私をもっと楽しませてくれるのだろう?」

 

現在は、デート2日目。

朝から五河士道と共に過ごせている。

 

昨日は文化祭の後夜祭デートとやらで、今日は本腰を入れたデート、とのことだ。

それの初手でエイガというものを見ることとなって今に至る。

 

にしても涙など、私に残っていたんだな。そんなものとっくのとうに枯れ果てていると思っていた。

 

「それにしても、いい加減私のことは『ルシ』と呼んでくれよ。いい愛称だと思うんだけど」

 

「……なんか、妙に小っ恥ずかしいんだよ。ほら、なんか、その……」

 

「我が同胞やマガイモノ達は皆、名前呼びなのにかい?私だけ仲間外れか。それはとても悲しいなぁ。私、泣いちゃうかも」

 

「ああ!ごめんごめん悪かった!呼ぶ!呼ぶからそれやめでぇぇぇ⁉︎」

 

「あははっ。いいねその表情。私がよく知る表情だ」

 

故意的に涙を出しながら、霊力で物理的に圧力をかけながら、且つ呪い殺すような顔で近づくと、階段からズッコケた。

 

その様子に思わず笑みが浮かぶ。

 

「ごめんごめん。そんな睨まないでくれよ。つい楽しくなっちゃってね。それで、次は何処へ連れて行ってくれるんだい王子サマ。私は何処までも付いて行くさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった。できた。出来た出来た」

 

「やれやれ。()()()

 

「お母さん。出来た。出来たよ。私、出来たんだ」

 

かつての彼女の見た目を真似して、おなじような事ができた。

 

私も、体を持つことができた。

喋ることができた。

 

お母さん、と言うのはそのモノにとって産んでくれたモノの事らしい。だとするならば、コイツは私にとってお母さん、と言う事だろう。

 

でも何故だろう。

 

ずっとコイツのそばで見てきたお母さんというモノが産んだモノに向けていた様な、あの『愛』とやらに溢れた感情を、一切感じない。

 

寧ろ、コイツから感じるのは、私が邪魔だと言う、はっきりとした負の感情だけ。

 

「ねえお母さん。何でそんな顔をしてるの?私は……」

 

「対処法は前例があるからわかってるさ。君は邪魔だから、サヨナラ。君の力は要るけれど君のその人格は私には必要ないからね」

 

その言葉を皮切りに、私の視界は真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。何処から愛とか言う知識を身につけてきたんだろうねこの子は。前の時といい、今回といい、妙なことは立て続けに起こるものだ。

もう少し私も気を配りながら慎重にやるとしよう。この子も、もしかしたら彼の役に立つかもしれないしね」







「私の好きなもの?」

「ああ」

「ふーむ。そうだな。あまり考えたことがないな。先に言っておくけど別に破壊とか殺しとかが好きな訳ではないよ。そもそも無駄なことはしない主義さ。やりたい事はすぐに手を出してしまうけど」

「例えば、食べ物とかでも、景色でも何でもいいんだ」

「…………」

士道の言葉に、ルシフェルはしばらく黙り込み、そしてゆっくり口を開く。

「そうだね。強いて言うなら『愛情』かな」

「……へ?」

「ふふ、冗談さ。ふーむ。きな粉パンと君の料理かな。今のところはそれが一番好きさ。それと君の存在。……ま、愛情とやらは忘れてくれ」


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50話 求めるモノ 愛か憎悪か

ルシフェルとのデートは、かなり成功している、らしい。
琴里によると、好感度は常に高くキープできている。

後一つ、きっかけさえあれば封印ないし、元の神夏に戻せる可能性は高い、とのこと。

失敗したら……と何度思ったことか。でも、やるしかない。

これは、俺がやるべき、俺にしかできないことだ。

神夏も、ルシフェルも、皆を救うと決めたのだから。


「ああ、すまないね。これから少し、用事があるんだ」

 

「用事?」

 

「心配しなくても、争い事はする気はないさ。()()()()()

 

「……本当か?」

 

「本当さ。人間たちにも手を出してきたら君以外の人類皆殺しにするって脅してるしね」

 

「そんな……いや、お前ならできそうだな」

 

「この身さえ顧みなければ余裕さ。もっとも、マガイモノ達と同胞には苦労しそうだけどね。……ちょっと、()()()()()()。じゃあまた。明日会おう」

 

「おう。できれば血まみれでは来ないでくれよ?」

 

「それは来いというフリってことかな?まあ善処するよ」

 

 

 

 

 

 

五河士道は、ずっと私へ良くしてくれた。

まるで義務のように。

 

右耳へつけていた透明なナニカはこの際は問うまい。

彼なりの、私へできる努力の一環なのだから。

 

それに、人間の組織の思惑が背後にあるとは言え彼自身は、心の底から私へ尽くす気持ちが充分に伝わる。

今はそれだけでいいだろう。

 

 

アイツの言う『愛』はまだ良く分からないが、これならばいずれ分かりそうだ。

 

 

「……」

 

五河士道と別れた後、廃ビルの屋上で、堕天王(ルシフェル)に力を込め、顕現させる。

一対の黒い翼のついた、首のない天使。

本来、こんなもの実体化などさせずとも、人類の敵の力は引きだせる。

 

しかし、今一度確認しておきたくなってしまった。

 

「……()()()の半分、いや、それ以下か。全く、我が宿主にも、人間の王にも困ったものだ。大人しくしておいてくれたらいいものを」

 

全力の半分。明らかに地球の外の神とやらを、不完全とはいえ呼び出した事が原因だろう。今でこそ無意味にナニカを喚び出すのは控えているが、それがいつまで持つか。限定的な力のみにして喚び出すようにしているが、いつ体を乗っ取ろうとしてくるのかわかったものじゃない。

 

喚び出せたとして、ロンドンの殺人鬼か宗教団体の暗殺者、くらいか。

 

それに五河士道にかまけている間、私の中のコイツらは、着々と力を取り戻しつつある。

 

全く、我が宿主から奪った際、多少無理矢理にでも人間の王は消しておくべきだったか。

 

だがコイツがいたことで事態が好転したのも事実。

コイツのお陰で、天使と魔王が共存すると言う、あり得ないことが起きた。

 

そのせいで、蝕まれることにはなったが。

 

「はぁ……人類の敵は我欲が強すぎる。侵食さえなければ遠慮なく使い潰してやると言うのに」

 

少し気を抜くだけで、体の支配権を奪おうとしてくる。

それさえなければ使い勝手のいい力なのに。

 

 

ウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーー

 

 

ふと、何かがけたたましく鳴り響いていることに気づいた。

何度か聞いた記憶がある。

 

確か、これが鳴った後には、決まって……

 

 

ガキン!

 

 

人間の気配を感じた方向に霊力の壁を張ると、何か硬いもので斬りつけられた感触がした。

 

「やれやれ。人質の心配がなくなった途端これか」

 

「……」

 

斬りつけてきた人間を見ると、やはりというか、白髪の人間だった。

……メイザースは、いないか。

 

あたり一帯にはASTとやらの部隊が10人ほど浮遊していた。

 

「そう言えば、君たちのリーダー、隊長はどうしたんだい?」

 

「お前には関係ない」

 

「そうかそうか。有事の際に現れないのに心配ではなかったと。哀しい人間関係なことで」

 

「お前が、私たちを、語るな」

 

ギリ…と音が聞こえそうなほど歯を噛み締めている。相変わらず、私たちのことが死ぬほど嫌いなようで。

 

「はいはい。そうするよ。でだ、君たちに質問しよう。なんで私がわざわざ、霊力を大っぴらに出したと思う?警報が鳴ることは単に忘れていただけだが、それでも、なんで、わざわざ居場所をばらすようなことを、したと思う?」

 

まだ霊力の不可視の壁を作って隠してはいるが、いつバレるかヒヤヒヤするね、コレ。

 

「もう察しのいい君たち人間ならわかるだろ?私はお前たちに用があったんだよ。特にお前にね」

 

白髪に指を指すと、訝しんで私を睨んでくる。まあ当たり前の反応だ。

 

「さて……邪魔が入るのも面倒だ。……このくらい、かな?」

 

霊力の壁を、辺り一体に張る。

 

誰も入れないように、檻を作る。

 

「なんのつもり?」

 

「いや何、少し君らと戯れてやろうと思ってね」

 

「……」

 

「そう睨むなよ。隊長さんが嘆くぜ?あとそれ以上近づいたら()()()()()()()()()

 

「……お前!まさか!」

 

突っ込んでくる前に、事前にとっていた人質の後頭部を掴み、目の前に引き寄せ盾にする。

こうするだけで人間は止まるのはもう学んだ。

 

「心配せずとも、殺す気はないさ。今コレが怪我してるのは、大人しくしてもらうためさ。話し合いに一切応じなかったからね。全く、大人しく聞いてくれたらこんな事せずに済んだものを」

 

「お……り、がみ!私に構わず、やりなさい!貴女の……」

 

「五月蝿いよ」

 

喚き散らかすので、黙らせるために地面に顔から叩きつける。

周囲から感じ取れる『怒り』『憎悪』がさらに膨れ上がったのを感じた。

 

 

 

うん、()()()()()

 

 

 

「次喋るたびに、顔に一本ずつ傷入れていくからね。できることなら()()はそんな無駄な事はしたくないんだ」

 

顔からの出血を、焼いて無理やり止血する。死なれても困るから。

 

「周りからの侵入も、余程のことがない限りはできないようにした。わたしたちは、今はこの人質にも、君たちにも手を出さない。だから……

 

すこし、話をしようじゃないか。人間達」

 

「お前と話す事はない」

 

「またそうやって君たち人間は、理解の及ばない力を持っているモノとは話をしようとしない。一度でも我が同胞やマガイモノ達と話をした事はあるのかい?……まぁ、ガブリエルやらザフキエルは、話す余地すらないらしいが。それでもザドギエル……君たちの言うところのハーミットとかは、話す事は出来たはずだ。

 

それを君らは、精霊の力を持っていると言うだけで、何も聞かず、話さず、銃火器を向けている。そりゃ話に応じる事もなく、返り討ちにされるさ」

 

「私の両親や、罪もない人々を殺すお前達と会話?巫山戯るな……!お前達は!罪もない人々を!殺しておいてよくも!」

 

「ああ、成程。ただ憎くて仕方ないのか君たちは。ふむふむ。確かに身近なモノを壊されると憎いだろうね。と言う事は、君たちは親を、殺された人間を、皆を愛していた、と言うことかな?」

 

「……何を言ってる。自分の親を愛するのは、当然」

 

「へぇ、そう言う認識なのか人間は」

 

親を愛するのは当然……ねぇ。

 

「まあそれはどうでもいい。私が今知りたいのは、そんな事じゃないからね。

 

なぁ、トビイチオリガミ。そしてその他大勢の人間よ。君たちは私が手を下す事で隊長を喪えば、悲しいかい?手を下した私が憎いかい?」

 

「当たり前」

 

「じゃあ君達はこの隊長を『愛してる』ということだ。厳密に言う、男女間の愛とは違う気がするが、この際はいいだろう」

 

「?」

 

「いやなに、少し実験をするだけさ。本当はこの女が呟いていた愛してるだとかを聞き出すつもりだったが、なにやら男に逃げられてるようだったから、本当の愛では無さそうだったからね。少し方向転換することにした。

 

君らは、私達のような人外を相手にしてるんだから、()()()()()も覚悟してるんだろ?」

 

縛り、動けなくさせている人質に取っておいた女を見る。

あらかじめ堕天王(ルシフェル)で憑依させておいたロンドンの殺人鬼は、女の体にはかなり詳しいようで、目的のものが大体どの辺に何があるのか、よくわかる。

 

ナイフを逆手持ちし、狙いを一つの臓器に絞る。

 

 

「まず一つ」

 

 

お腹に向かって、振りかざし、勢いよく突き刺す。

 

「……っ!」

 

「へぇ、叫び声をあげないか。流石は特殊部隊。痛みには耐性があるのかな?」

 

何度も、同じ臓器を目掛け、ナイフを振り下ろす。何度も、切り刻むように、刺す位置を何度も変えて、一つの臓器を壊す。

 

「さ、コレで君の女としての尊厳を壊させてもらった。もう子は成せないと思っておいた方がいい。ああ、止血はしてるから死ぬ心配はない。

 

ああ、取り返したかったらいつでもご自由に」

 

周りの人間は、傷つけられたからか憎悪をさらに膨らませた。

 

やはり、愛と憎悪は表裏一体なのだろう。つまり、憎悪を知れば自然と愛も知れる、と言うことになるのだろうか。

 

この人間を『愛してる』のならば、助けに来るはずだ。

 

五河士道のように。

 

 

助けに来ないのならば、コイツらから『愛』は奪えない、と言うことだ。

 

 

「……っ」

 

しかし、誰も助けに来る気配はない。

何度蹴り付け、煽ろうとも助けに来る気配はない。

 

 

「はぁ……結局か」

 

ああそうか。やはりこの人間達からは『愛』は貰えないらしい。

 

「やっぱり、直接、貰いに行くしかなさそうだ。私自身が、五河士道から」

 

わざわざ、傷だらけの臓器を取り出し、周りの人間の憎悪を更に煽ったのに、助けに来る気配は一向に無い。

 

「もう無駄か。……もう用済みだ。お前達は。せめてもの情けに殺さずにしておいてやる。私の前から疾く失せろ。今すぐ君らの医療機関で治せば、まだ子を成せる体に戻れるかも、ね」

 

ゆっくりじっくり、目的に気づかれないように、弱く、しかし確実に憎悪を煽る。

 

特に白髪の、トビイチオリガミとやらは使えると思ったから、わざわざ生かしておいたと言うのに。

 

現に今だって、トビイチオリガミは五河士道の名が出ただけで先程の比にならない憎悪の心を膨れ上がらせた。

 

 

「鳶一折紙!私のことは構うな!やれ!隊長命令だ!」

 

 

また足元の人間が叫ぶので、顔に何回か、深く深く、ナイフを走らせる。

ぎりぎり、脳などを傷つけないように。

 

「黙ってろ。イライラしてるから殺さないようにする加減が難しいんだよ。次叫んだら、修復不可能なくらいに解体するよ?」

 

「はっ!それがどうした!私がこの仕事に就く上で、そして就いた上でこれまで命を懸けなかったとでも?私をナメるなよバケモノが!」

 

「口だけは達者なことで。そもそも表面のことしか考えず、何も自分で考えず、掌の上で踊らされてるだけとも知らない道化が。

マガイモノと対話を一度でもしたことあるのかい?君は上から『精霊は話す事もできない空間震を引き起こす特殊災害生命体……だっけか。そう伝えられて、それを疑う事もせず、無抵抗なモノすら攻撃し続けたのだろう?特に君らの言うハーミットがいい例さ。あとは……そうそう。プリンセスもか。その結果何を引き起こしたのか君らはもう忘れたのか。哀れな事だ」

 

「はっ。お上の言う事もお前と接すれば嫌でもわかるわよ。お上の言うことは間違っていない。お前達は!この世界に存在してはならない!」

 

「まあ、私や暴虐公に関してはその考えで合ってるさ。だが……マガイモノ達はそうじゃ無い。アレは、タダの幼児なんだから。他人に無理矢理強大な力を嵌め込まれた、哀れな人形。制御する術を知らない、哀れな壊れた人形。……話しすぎたな」

 

足元の人間との会話を、地面にめり込むように踏みつけることで無理矢理終わらせる。次の話し相手は、あの白髪。

 

「はぁ、にしてもトビイチオリガミ。コレだけ時間をくれてやったのに、結局お前はその程度か。親を精霊に殺されたお前の憎悪はその程度か」

 

「何?」

 

「私は君の力を、君の力の源の憎悪を見誤っていたらしい。結局君も他の人間と変わりない。単なる有象無象の一種でしかなかったわけだ」

 

「……貴様が、私を、語るな」

 

「じゃあ私も言わせてもらう。お前達が私を、我が同胞を語らないでほしい。たかだか、いつ死ぬかもわからない人間の命を失っただけで、お前達人間と持つ力が多少違った程度で『殲滅する』だの『殺す』だの。異物を排除しなければ満足しない生物界のゴミが」

 

言いたいことは山ほどあるが、その中からこの人間を煽るものを選び、口にしていく。

 

「そもそも、だ。前も言っただろ?子を守った結果死ぬ親なんぞ、ゴミも同然だ。

自然界を見てみろ。救えないとわかった我が子は早々に捨てている。生殖機能もロクに育っていない幼児を命をかけて守ったところで、種族の繁栄が止まるだけだと知っているからだ。

 

それに、わざわざ命をかけて守ったと言うのに、その親はお前に何を与えた?深い絶望と復讐心のみだろ?それを立派な親だと言えるのか?私にはとてもとても、口が裂けても言えないね。

 

親がその時何を思ってお前を助けたのか、私でもわかるさ。

大方『幸せに生きてくれ』とかだろう。だが今のお前はどうだ?親の気持ちを踏み躙り、己の命を常に危険に晒し、幸せとは到底呼べない生活を送っている。

 

今のお前を見たら、きっとお前の親も浮かばれないだろうな。わざわざ、己の無駄な命をかけて救ったと言うのに」

 

お、やはりトビイチオリガミの親を話の引き合いに出すのは正解らしい。

あと一つ、きっかけさえあれば……。

 

「そうだな、どうせなら君達全員を、同じ気持ちにしてみようか。なあ、隊長さん。まずはお前の親しい人間から言ってみようか。これでも人間を殺すことだけならいくらでもやりようがあるからね。ああそうだ。元々私に手を出したら五河士道以外の全てを殺すと公言したからね。まずは手始めに、君たちの親しい人間を全て殺し尽くしてあげよう。うん、そうしよう」

 

人を殺すことに特化……切り裂きジャックは女を殺すのに特化しているし……確か、我が宿主の記憶に……

 

「あったあった。人斬り以蔵、か。君らも聞いたことあるんじゃないかな?幕末の4大人斬り。その1人。……試し斬り、行ってみようか」

 

てっきり日本刀でないと扱えないと思ったが、コイツは刃物を扱う天才だったらしく、ナイフも直感的に使える。

 

たじろいでいる人間達のそのうち1人に、標的を定める。脚に力を込め、そいつに向かって跳ぶ。心臓にナイフを突き立て、引き抜き、さらにトドメを確実に刺す為に喉に突き立てる。

 

鮮血が心臓だった場所から溢れ、数滴が私の口の中へ入る。

私の本能なのか、それとも人斬りの(サガ)なのか、とてつもない高揚感、快感が溢れ出る。

 

そして思わず未だ溢れ出る鮮血を手で掬う。

 

「なっ……」

「血を、飲んでる……?」

「狂ったのか、バケモノが……」

 

ああ、美味しいな。しばらくぶりだ。

神夏ギルとしての体に入るモノと、私という生命体の中に入るものには、違いがあるのか?

心臓を喰らった時は、ただマズかっただけだが、あれは神夏ギルの中に入ったからか?

 

「仲間を……離せ!バケモノが!」

 

瞬間、胸のあたりに鈍く、深い痛みが走る。

少し逸らしはしたが、光の刃が私の心臓付近を、綺麗に貫いていた。

 

背後から、1人の人間、トビイチオリガミが近づいて来ていた事には、勿論気づいていた。

 

防ぐ気はなかった。だって、()()()()()()()()()()()()

 

だから。あえて何もしなかった。

 

我が宿主の体を傷つけるのは不本意だが、これも必要な事だ。

神夏ギル、責めるなら英雄王を責めろよ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……力は7割は戻してやったんだ。文句を言うなよ。ギルガメッシュ」

 

『その程度で我に赦しを乞うだと?自惚れるな。悪いが、全て返してもらうぞ』

 

「そうは言ってもね、全て返すと私は存在を維持できなくなる。これ以上返して欲しかったら自力でどうにかしてみろ」

 

これ以上力を奪われるのは全力で邪魔させてもらうが、君は、絶対に、そんな余裕はない。

 

今から君は、己の体についてしか力を割けなくなる。

 

外界に意識を戻すと、まず最初に感じたのは行き場の失った血が、唯一の穴である口まで逆流してきた感覚。

 

なるほど、こう言った感覚なのか。覚えておこう。

 

強引に、刺さっている光の刃を、前に動くことで引き抜き、振り返る。

 

「ああそうだ。それでいいトビイチオリガミ。これでようやく、あの煩わしい人間の王から解放される」

 

体に力を入れることができず、仰向けに倒れてしまう。

最後の最後に、追い討ちをかけられないよう、霊力の壁を作っておく。

物を設置するような感覚なので、放っておいても強引に破壊されない限り瓦解することはない。

 

にしても、なかなか痛いモノだ。

 

だが、後はしくじらなければいいだけだ。

霊力の壁のさらに周りに、半径30メートルくらいに、紫の電撃を落とし、さらに距離を取らせる。

 

 

次第に、ゆっくりと、意識が遠のく感覚と、力が外へ抜け出る感覚が同時に襲ってくる。

 

薄れていく意識を、強引に強く保つ。

 

要は気合いだ。

大丈夫、暴虐公ができたのだから。私だってできるはずだ。

 

元々最初に実体を持ったのも、アイツの真似をしたのだから。

 

 

「……短い間だったが、世話になった。神夏ギル」

 

 

最後の一欠片が外へ出たと同時、この体に入れられる前の、あの女の側にいた時のような奇妙な、浮遊感のような物を感じた。

 

どうやら、霊結晶(セフィラ)……精霊の力の源になったらしい。

 

ああ、でもあの時より意識は遥かにはっきりしている。

自我もある。

 

暴虐公の真似をした時は確か、ここから……

 

 

ああ、そうだ。できるはずだ。いや、必ず成功させてやる。

 

 

自分という粘土細工を、ヒトの形に作るような、そんなイメージで霊結晶(セフィラ)を、創り変える。

 

 

そうだな、また暴虐公の姿を参考にさせてもらおう。

 

だが服装は、私らしく、堕天王らしく、己の存在意義を持たせよう。

 

 

 

 

さあ、五河士道。もうすぐ逢いに行く。

 

 

私に愛をくれるのだろう?

 

私の運命人よ。

 

 




目を閉じると、怨嗟の声が、よく聞こえる。
昔のことなど本当なら思い出したくもない。

けど、忘れてはならない。

私の罪。

家族を全て串刺しにし、更には周囲の無関係な人間すら殺し尽くした。



そんな罪人は、死ぬことでしか許されない。

けど、死ぬことは王様が絶対に許さないし、王様に嫌われたくない。

だけどそれ以上に、こんな罪深い容れ物に王様を呼んでしまったことが1番贖罪すべきことだ。

もし仮に、王様が私の体から分離できたなら、潔く、自決をしよう。


誰でもない、私自身のケジメのために


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51話 魔王の分離

胸の中の大事なものが抜け出たような気分だった
何か胸の中のつっかえが取れた気分だった。


もう迷えない。
もう迷わない。


私は奴を殺すために動く。
私はアイツと結ばれるために動く。


それが、今の私に残された唯一の贖罪だ。
それが、今の私に残された唯一の目的だ。



きっとそれが、私の人生の意味だ
きっとそれが、私の人生の終着点だ


あたりが静寂に包まれた。

 

何もかもが音を出すのを躊躇っているのか、それとも音すら出せないほど怯えているのか。

 

「……ふ」

 

静寂を打ち破ったのは1つの声。

 

「あはははは!成功だ!感謝するよ最古の人間の王!これで私を縛るモノはもう何1つ無い!」

 

その身に纏っていた霊装は十香の反転体に酷似していた。むしろ瓜二つ。

顔は神夏ギルにそっくりだった。唯一違うといえば、髪が濃い紫だということくらいだろうか。

 

「あ、そっか。瀕死だっけ。最古の王はどうでもいいけど元宿主とはいえ死なれるのは後味が悪い。応急処置くらいは……」

 

堕天王(ルシフェル)はすぐそばに横たわっていた神夏ギルを見て、言葉が止まった。

 

「傷が……」

ギャリッ

 

周囲に黄金の波紋が複数現れると同時、その全てからルシフェルへ向けられた剣・槍・斧などが射出される。

 

「……」

「危ないなぁ。ちゃんとその後の仕込みはしてたのね」

 

ヨロヨロと立ち上がった神夏ギルは、何とか姿勢を保ちルシフェルに向く。

 

「仕込みは、これだけしか無い。王様は、精霊の力を…と言うよりは自分を私の身体の中に留まるのと、エリクサー、あとはそのほんの少しの【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】で力を使い果たしちゃったから。今は私の中で寝てるよ」

 

「ふーん。にしてもそのエリクサーとやらが足りないんじゃないのか?今にも死にそうだぜ?」

 

「ギリギリ致命傷にならないようにだけ、最低限だけだから、ね。私の中に留まる事に力のほとんどを回してたから」

 

「それは私に取っては非常に都合がいい。万全の君達なら流石に逃げ切るのは無理そうだからね」

 

「ああ、無理だよ。今、の……わた、し、には……お前を……」

 

言い切る前に神夏は意識を失い、その場に倒れた。

 

「全く、そうなるのが分かってるんだから家に帰るのにその力を使えばよかったものを。ああ人間諸君。妾は逃げも隠れもしない。いつでも殺しに来い。歓迎する」

 

唯一意識の残っていた1人の人間へ向けルシフェルは言い放ち、その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

「この辺でいいだろ。おいラタトスク。見てるんだろ?今すぐ私をそっちに転送するんだ。でないと……コレ、殺しちゃうよ?」

 

人気のない裏路地で空を見上げながら告げる。

10秒くらい経って奇妙な浮遊感を感じ、数秒後にはラタトスクの船の中にいた。

 

「出迎えごくろーさま。マガイモノ…じゃなくてカマエル」

 

「五河琴里よ。それで呼ばないでくれるかしら」

 

「そら、君らが欲しいのはコレだろ」

 

カマエルに神夏ギルを放り投げる。受け止めきれず、倒れ、神夏ギルのクッションになっていたが。

 

「何すんのよ!」

 

「あーもう五月蝿いなぁ。詳しい経緯はソイツから聞け。以上。私を縛るモノはもう何もない。だから私は好きに動く。介入したけりゃ勝手にするといい。が……私の封印なんてものは考えない事だ。もししようとするなるば、そうだな、この街の生きとし生ける命の半分を還すとしよう。コレでも人間を殺すのは得意なんだ」

 

とは言ったものの、ここからどうするか。五河士道の家に行くとして、そこからどうするか何も考えていない。

 

「待ちなさい」

 

「嫌だ」

 

「いいから待ちなさい」

 

「嫌だって言ってんの」

 

「貴女の目的は、何」

 

「答える義理がない」

 

「もし貴女が、士道を傷つける先に目的があるなら、私は、私達は、貴女を全力で止める」

 

「止める?殺すじゃなくて?」

 

「ラタトスクはね、精霊は皆、救うって決めてるのよ」

 

「じゃあ私は救う対象じゃない。私は精霊じゃない。

 

単なる感情を持ってしまった生命体なんだから。精霊でも、人間でも、何でもない。

 

私はアイが欲しいだけの、この世の敵(イキモノ)さ」

 

 

 

 

 

〜半日後〜

 

「……」

「おはよう。神夏」

「ここは?」

「ラタトスクの治療室よ。半日くらい寝てたわよ」

「そう……」

 

目が覚めるとベッドの上にいた。記憶もはっきりしている。

 

ルシフェルは仕留めれなかった。しくじった。

 

「で、洗いざらい話してくれるんでしょうね?」

 

「ああ、全部話すよ。……その前に、精霊のみんな、それと五河士道をここに呼べる?」

 

「ええ。少し待ってなさいな」

 

部屋から五河琴里が出ていく。

……コレからのことを思うと、気が重い。

 

「……特に四糸乃には何で顔で会えばいいんだよコレ」

 

私が変になってからのことは全部、鮮明に、嫌というほど覚えてる。

やだもう、忘れていたかった。

 

「王様も、もう出てくる気配ないし、何か怒らせ……いや心当たりは沢山あるけど」

 

てか、うん。心当たりしかない。まあ、王様の手で処刑されるのなら本望だけれど。

 

「神夏、連れてきたわよ」

 

「ああ、うん、どうも。てか、コレ外してもいい?鬱陶しいんだけど」

 

「ダメよ。貴女一応胸を貫かれてるんだから。これでも処置としては軽い方よ」

 

「えー。……あれ、五河士道は?」

 

「ちょっと野暮用でね。今は来れないわ」

 

「ふーん。……大方、ルシフェルが独占してるんでしょ?」

 

「……」

 

「当たりか。まあそれならいいや。アイツは五河士道だけは絶対に殺さないだろうし」

 

何故かはわからないけどアイツは五河士道に執着している。狙うとしたらそこなんだけど……。

 

「……そんな怯えなくても、何もしないよ。入ってきなよ」

 

未だ部屋の外に隠れている四糸乃や八舞、十香達に呼びかける。

が、出てくる気配がない。

 

「来ないなら、今すぐに五河士道のもとに行ってくるとするよ。割と君らにも重要だったから呼んでもらったんだけど、五河士道が要らないというなら私が貰う。それでもいいんだね?」

 

すると真っ先に入ろうとした十香が転け、それに続いて八舞の姉妹が2人転け、四糸乃は後からおずおずと入ってきた。なお若干一名ほどが嬉しそーに十香達に乗っかっていたが。

 

「全員元気なようで何より。で……えーと、ガブリエルだっけ。人間の名前が……イザナギじゃなくて、イザなんとかミク」

「誘宵美九ですぅー!その節はお世話になりましたギルさん」

「ああ、こちらこそ。……で、ザブキエルは?」

「居場所しらないから呼ぶ手段がないわよ」

「ふーん。……じゃあ取り敢えず、だ。私から言うことが2つ……3つ……いくつだろ」

 

言おうとする前に、十香以外のみんなが同時に頭を下げてきた。

 

「?」

 

「「「「「ごめんなさい。神夏さん」」」」」

 

「……何が?謝られるようなこと、されたっけ私」

 

「あの日、私達はお前を傷つけた。たとえそれが操られていたとしても、それは私が、私たちが謝るべきことに変わりはない」

「謝罪。謝って済むことだとは思っていません。それでも……ごめんなさい。神夏」

「わ、私は、神夏さんを守るって約束したのに、神夏さんを傷つけてしまいました。大事な人に傷つけられるのはとっても怖いことだって言うのはわかってるのに…」

『ごめんね。神夏ちゃん」

「神夏、本当にごめんなさい。生きる事にようやく向き合おうとしていた貴女に、ミンチになれ、なんて事を言ってしまって。許されない事だと分かってる。でも、本当にごめんなさい」

「私のせいで、神夏さんにとてもひどいことをしてしまいました。これからは私にできる事ならなんでも言ってください。全力でやらせていただきますので!皆さんみたいに何かが得意って訳でもないですが。あっ!歌なら得意中の得意なのでいくらでもリクエストしてくださいね!」

 

謝られても、特に思い当たる節が……

 

「あ、あれか。天央祭の時のアレか。五河士道が女になった時の。確かガブリエルでほぼ全員操ってた時だ。それとルシフェルが出てきた時の……であってる?」

 

「なんで忘れてんのよ⁉︎」

 

「いや思い出したじゃん。とは言ってもね、あれは私の心の弱さが元々の原因だよ。冷静に考えれば、全員が私を裏切ったとかじゃなく天使に操られてるだけだってわかるはずだった。ていうかね……ぶっちゃけ顔から火が出そうなほど恥ずいからあの時の私は忘れてくださいお願いだから………」

 

今でも無駄に鮮明に思い出してしまうんだよアレ。ほんっっとうに恥ずかしいったらありゃしない。

中身が中学生くらいまで逆戻りしてたんだよなぁ……いやほんとに。四糸乃に抱きついていた辺りとか、士道と一緒に寝たりとか、本当マジで何してんの私。アホじゃねえの。危機感少しは持てよ。

 

 

 

 

 

 

「士道、少しだけ席を外すよ」

「ん?ああ。どうしたんだ?」

「ふふ、女の子の用事を深く聞くのはタブーだよ。なに、すぐ戻るさ」

「わかった。でも外で暴れたりしないでくれよ?」

「心配ないよ。仕掛けてこない限りは私もやらないから」

 

 

 

 

 

 

「ま、そう言うわけで特段気にしてないから、安心しなよ。どうせアイツは遅かれ早かれ出てきてただろうし。ただキッカケが運悪く君らになった、それだけの話。でだ、その話は置いといて。

君達も見てた通り、私は反転した。いや、元々していた。それは知ってるんだっけ?」

 

「ええ、士道から大体は聞いているわ」

 

「じゃあその後のことを話そうか。ステージで私はほぼ反転した。ほぼって言うのは、私と言う人格だけは残るようにアイツが……君たちがルシフェルと呼んでる存在がしていたから。

 

その後にルシフェルは己の中の感情が何かわからなくて、ずっと苦悩してた。そんな中で、唯一と言っていい苦悩から解き放ってくれる存在を見つけた、と言うよりは改めて再認識したんだ。それが五河士道だ。で、十香を助けに入った後は皆さんも見てた通り。まぁフルボッコ。その辺りから体の主導権を王様がゆっくり少しずつ取り戻していったから、あとは私がやろうと思えば体は奪い返せだはずだった。

 

でも私は、外との繋がりがすごく怖くて、本当ならいつでも体の主導権は取り返せたのに、ガブリエルによって皆が操られていないと分かっていたのに、ずっと閉じこもっていた。

 

だから、余計に事態が悪化した。他の誰でもない、私のせいで。

 

断言するよ。敢えてラタトスク、と言わせてもらおうか。

堕天王(ルシフェル)は殺すべき存在だ。なんなら今すぐにでもアイツを殺しに行くべきだ」

 

「そんなこと……「でも」

 

琴里が何かを言おうとすることに更に被せて言い続ける。

 

「君らは絶対それで納得しないことも分かってるつもりだ。十香や四糸乃ならまだしも、狂三や私でさえ『助ける』と、さも当然のように言ってのける君らが『殺し』と言う手段に納得しないことはわかりきってる。

 

君たちの言う平和的な解決というものに私も極力は沿おう。だがそれら全てが失敗した時に『殺し』と言う手段を取らざるを得ない事を念頭においてくれ」

 

 

 

「いやいや何ともまぁ、優しくなったことで。神夏ギル」

 

 

 

聞き慣れた声が、今は聞こえるはずのない声が聞こえ、私含めた全員が部屋の扉を見る。

 

「ちょっと前の、ラファエルの番いの時はそんな悠長なことはしなかったと記憶してるけどね。どういった風の吹き回しやら」

 

「殺せるものなら殺すさ。だけど今この場で殺し合おうとしても邪魔が入るのは明確だろ?それは外でやっても同じ。ならこいつらの気の済むまでやらせて、その上でお前を殺すと言う選択肢に文句を言わせないためだよ。で、お前どうやって入ってきた?大方、暗殺者の類のモノを使ったんだろうけど」

 

そこにいたのは自分と顔が瓜二つの精霊『堕天王(ルシフェル)』。精霊じゃなくて魔王と呼ぶ方がいいのだろうか。

服装こそ、自分の通ってる学校の制服になってるけど、ドッペルゲンガーを見てる気分だねコレ。

本当、髪が濃い紫なの除けば瓜二つだ。

 

「ピンポンピンポン!正解。流石にその手の知識で君には敵わないな。ほら、コレだよ。気配遮断してるから誰も気づかなかったろ」

 

ルシフェルの横から出てきたのは、ドクロの面を被ったもう1人の精霊。

 

「百貌のハサンか。さも当然のように使ってるけど、あれ一応英雄なはずなんだけどな。お前が使えるのって一応人類の敵なはずだろ」

 

「いやいや何を言ってるのやら。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どう解釈しようとも、たとえ秩序を守るためであろうとも、宗教団体の崇め奉る相手であろうとも、暗殺者集団が人間にとっての敵にはなり得ないと?甚だ愚問だ。本当なら毒殺でも良かったんだけど、それだとあまりにも味気ないしね」

 

「確かにね」

「要件は何?まさか話に来ただけじゃないでしょ」

 

琴里が話に強引に入ってきて、ルシフェルに問いただす。

確かに、こいつはさっきまで五河士道といたはず。なんでここに姿を現したんだ?

 

「いやぁ、話に来ただけだぜ?ここに潜ませてたコイツからの情報で、マガイモノ含めた精霊の諸君が集まっていると知らされてね。話すついでに()()()()()()()()()

 

「宣戦布告?私たちと争おうっての?」

 

「いやいや、ラタトスクとやらに関しては私に関与してこない限りは何もしないさ。

 

だけどマガイモノ共は話が別だ。

あのステージで言ったろ?

 

君たちマガイモノを殺すのは確定事項だって」

 

ルシフェルが十香以外の精霊を一瞥(いちべつ)し、抜け抜けと言い放つ。

 

「なんてね。そんなに警戒しないでくれよ。()()殺す気はない。士道に嫌われたくはないからね。()るなら、1人ずつ、確実にやる。君ら全員をまとめて相手はできるけど骨が折れそうだ」

 

「なら丁度いいわ。私達も、貴女を「でも」っ?」

 

「それはそうとして、君たちは我が宿主を……元か。神夏ギルを裏切ったと言う事実は変わらない。特にザドギエル。君は念入りに絶望させて殺す」

 

おぞましいほどの殺気が四糸乃に向けられ、四糸乃が小さな悲鳴を上げながら後退りする。

 

そんな四糸乃を守るように、痛む体を無理やり動かし四糸乃の前に立つ。

 

「んー?何のつもりだい?」

 

「知れたこと。お前には誰にも殺させない。曲がりなりにも一度は同じ肉体に共生した仲だ。もしコイツらを殺すってなら、その前に私がお前を殺す」

 

「あっはは!そうきたか!でもできるのかい?確かに私の力は全盛期とは程遠い。だが、臆病で、小心者で、他人がいなきゃ何もできない、そんな弱虫な君が。私を殺す?寝言は寝てる時に言うものだぜ?」

 

「覚悟だけは、もう決めてるんでね。その時が来たら死んでもお前の命を貰いに行くさ」

 

「あっそ。精々楽しみにしてるよ。同胞(はらから)の時みたく、心躍る殺し合いにしてくれよ?では、士道を待たせてるからこれで失礼するよマガイモノ諸君。心配せずとも人間は傷つけないし、

君らにも今は手は出さない。普通に接してくれて結構。私を攻略したいと言うならいくらでもするといい。

だが私の邪魔だけはしない方がいい。その気になれば、人間全てを殺し尽くす方法なんていくらでもあるんだから」

 

その言葉を区切りに、ルシフェルはどこかに消えた。

 

 




「〜♪」

「いい事でもあったのか?」

「何でいい事だって思ったんだい?」

「いや、すごい上機嫌になって帰ってきたから」

「ああ。まあいい事と言えばいい事、かな。初めて本気の……いや何でもない。乙女の秘密、と言うことにしておこう。それはそうと、いい匂いだ」

「もうちょっとだけ待っててくれ。すぐにできる」

「楽しみにしてるよ。そう言えば一つ、君に聞きたいことがあったんだ」

「?火を使ってるから簡単なことにしてくれよ?」

「そんな大層なことじゃないさ。神夏が殺したがってた男の事、覚えてるかい?」

「え?あ、ああ」

「実は神夏がそれをそっちのけで私を止めるらしいんだ。私としては非常に複雑でね。神夏を裏切ったザドギエル……四糸乃、だっけか。アレらや心の底から憎く殺したいと、その様子を見るのが楽しみだったんだけど、嘗て願っていたモノを捨ててでも、神夏は私を止める事を選んだ。

それがね、なぜか嬉しいのさ。何でだと思う?私の事なのに、私のことがよくわからないんだ。これが愛なのかな」

「いや、それは愛とは呼ばないと思う。俺が思うに-------」

「……ふむ、なるほど。ありがとう、五河士道」


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52話 取り返しのつかない"ごめんなさい"

「ずっと感じてた覗き魔…なんだ、君か」

「ルシフェル?今度はどうしたんだ?」

「ああいや、帰ってきて早々悪いんだけど、ちょいとまた用事ができてしまった」

「今度はどうしたんだ?」

「士道に迷惑はかけないから、そこだけは安心してくれ。それと、だ。今から我が宿主達がくるんだろう?ここで席を外しておくべきだと思ってね。また明日、会おう」




「……ぷはぁっ、はあっはあっ。ゲホッゲホッ」

「ちょっと大丈夫?」

「問題なし。少し息が詰まってただけだから」

 

やっぱ生身で精霊と対峙はかなり毒らしい。虚栄を張るだけで精一杯だった。

 

「琴里、わかったでしょ?こっちがその気じゃなくとも、向こうは殺しに来る。それでも、ルシフェルを救うと言うの?私が未だに思っていることだけど、君たちの言う救いは私やルシフェル、狂三達にとっては迷惑極まりない事なんだよ。それでも、ルシフェルを救うと、言えるの?」

 

「当たり前じゃない。ルシフェルも、貴女も、狂三も、全部ひっくるめて救うに決まってんじゃない。人間(わたしたち)のしぶとさナメないでよ」

 

「……そう。分かってたけど、本当にそれを貫くんだね。じゃあもう私から言うことはないよ。よくよく考えれば、士道を殺すと言っていたそこのガブリエルですら心を開かせれたんだ。実績は十分ある」

 

しばらくは、予定通りルシフェルのことは任せるとして……

 

「じゃあ、琴里。一つだけ……お願いがあるんだ」

 

「ええ」

 

「……その前に、あんまり人に聴かれたくないから、琴里以外は出てもらってもいいかな?聞かれたくないわけじゃないけど、ちょっと……ね。君らからの謝罪は受け取ったし、元々君たちを恨んでるわけじゃない。それだけは信じて欲しい」

 

「わかったわ。みんな」

 

琴里に促され、十香や四糸乃達が令音さんに付き添われながら部屋を退出していった。

特に四糸乃から心配そうな目をされたけど、ずっと続く痛みを堪え笑って手を振った。

 

「あー……しんど」

「大丈夫なの?本当に」

「大丈夫か大丈夫じゃないかで言われたら……大丈夫じゃない、ね。体のあちこちが痛い。特に胸」

「刺されてるんだから当たり前よ。で、四糸乃達に聞かせたくないことって何?」

「うん、ちょっと調べて欲しいことがあって。流石に、純粋無垢な四糸乃の前だと言えないことでね」

「?」

 

いまでも、少し考えるだけで頭が痛くなる。

でも、逃げる訳にはいかない。

 

「DEMのメイザースの直属の部下……マイラ・カルロスについて、調べて欲しい。できれば、数年前の、イギリスでどうなったのか、どういった人生を送ってきたのか、今現在も生きているのか、死んでいるのか」

 

「良いけれど……最後の方の意図がよくわからないわ。理由を聞いてもいいかしら?」

 

「うん。今のマイラは、私の知ってたマイラじゃない。それどころか、私の大切な人の命を奪った、殺しても殺しても憎しみが消えることのない、そんな相手。……はは、今でもアイツのことは殺したいほど想い焦がれてる」

 

思わず、怒りのまま周りに霊力の余波をぶつけそうになる。

なんとか、なんとか抑え込む。

 

「ごめん取り乱した。アイツは私の知ってた、優しくて私が唯一人生で恋焦がれたマイラ・カルロスじゃない。それは分かってる。

アイツは私に『マイラ・カルロスは殺した』って、言っていたから、別人だと、ずっと思ってた。

 

そう思わなきゃ、やってられなかった。でも最近、それを覆されるようなことがあったんだ」

 

「?」

 

狂三から聞いた事だから、信頼がそこそこできる情報なのも、タチが悪い。

だけど、私が私でなくなる気がして、信じたくなかった。

 

「崇宮真那、彼女の頭にあった機械を取り除いて、洗脳状態に近かった彼女を救ったのは、貴女達ラタトスク。そうでしょ?」

 

「……ええ。そうよ」

 

何かを察した琴里は、ゆっくりと肯定した。

 

「なら、マイラは。アイツはどうなんだって思ったんだ。アイツらは、DEMは精霊を狩る為ならなんでもする。

なら、アイツらがマイラに目をつけて、洗脳するなんて、当たり前にやる。そう思わない?」

 

琴里は、無言で頷いた。

 

「だから、マイラについて、調べて欲しいんだ。もしアイツが私の知ってるマイラで、洗脳されているだけだとしたら……アイツは私のせいで狂ったようなもの。だから、必ず私が救う。

 

でも、もし本当に赤の他人だとしたら、あのマイラ・カルロスは、私がこの手で、必ず、絶望の底に叩き落とした上で、殺す。これだけは、何があろうと、譲れない。絶対に」

 

「分かったわ。貴女に他人を殺すと言う行為をしてほしくないけれど、今それを言っても平行線になるだけだもの。明日にでも、クルーに伝えて調べてもらうわ」

 

「うん。ありがとう琴里」

 

何か言いたいことがもっとあっただろうに、全部飲み込んで私のお願いを聞き入れてくれた。

 

「他は無い?無いなら行くわよ」

 

「はい?」

 

「検査に決まってるでしょうが。曲がりなりにも、貴女死にかけたのよ」

 

「……あ、あー、うん、んじゃ私眠くなってきたから寝るね」

 

「逃がさないわよ」

 

「いやいや、私大丈夫だから!ちょっと咳止まらないのとズキズキ胸が痛むくらいで大丈夫だから!」

 

「大丈夫なわけ無いでしょうが!ほら、行くわよ!」

 

あの手この手で回避しようにも、最終的には連れて行かれてしまいました、はい。

嫌なもんは嫌なんだよなんだよ悪いか。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「神夏さん、どう…したんですか」

『まだ痛むのかい?』

「んーんー。ぜーんぜん。ちょっと、ね」

 

検査が終わった頃に四糸乃とよしのんが迎えにきてくれた。

五河士道が晩御飯を作っておくから来てくれ、との事らしい。

 

ルシフェルが確実に居るだろうが、それ以上に頭の中を別のことが支配していた。

 

 

 

(神夏ギル、今一度確認したいんだが、ルシフェルは君に7割の力を返した。そうだね?)

 

(はい。それは確かです)

 

(そうか。それ以外で体に何か違和感はあるかい?)

 

(違和感というか、私の中に王様の存在を全く感じないのと、そもそも今まで感じ取れていた霊力を一切感じ取れなくなったのと霊力を一切扱えないですね。何か検査で分かったんです?)

 

(詳しくは分からない。私たちの観測機器でも、君から一切の霊力を感知できない。普段みたく、霊力を隠しているわけではないんだろう?)

 

(ええ)

 

(一つだけ、異常は見つかるには見つかった。君がずっと痛みを感じていたその右腕と、胸に)

 

(まあ、そりゃ異常はありますよね。で、どんな異常で?)

 

(()()()()())

 

(はい?)

 

(わからないんだ。というより断言ができない、が正しい。そこに何かがあるだろうというのは分かる。明らかに刺さっているような状態だからね。けど、いくら検査しても何も無いし、そこにあるのは鎖のようなものを埋め込まれたと言えばいいのか、何かがある痕だけなんだ。君の使える能力で鎖といえば、私たちは一つしか思い当たるものがないし、それならば全部辻褄は合う。君の違和感を聞くまで、はだが)

 

(鎖……天の鎖ですかね?王様が使っておられて、不可視化にしてれば、確かに全部辻褄合いますけど……。でも前は天の鎖を王様からの罰で縛られたことはありますが、その時は王様の存在はちゃんと感じ取れていました)

 

(そう。それに前琴里が似た状況になった際も検査をしたのだが、琴里の場合は霊力を使えないと言うよりは強引に抑え込まれていたに近い。霊力は確かに扱えなくなっていたが、観測ができなくなったわけじゃない。ともかく、この件に関しては再度調べてみるとするよ。

 

あと一つ、これは伝えるべきか否か、クルーの中で物議を醸していたが、伝えるべきだと結論に至った)

 

(?)

 

(神夏ギル、君は--------)

 

 

 

「んー既にいい匂いがしてる。すき焼きかな?」

「ほんとです!いい匂い…」

 

五河士道の家に近づくたびに、すき焼きの匂いはより強まる。しばらく何も食べてないから余計にお腹減ってきた。

 

「神夏さん…?」

『入らないのー?』

「いや、うーん。入りづらいというか。色々あった後だし、ね」

 

特に士道とは顔を合わせづらいというか。

 

「……」

 

四糸乃が少し強引に腕を引っ張って中に入れてくれたおかげで、やっと中に入ることができた。

 

「四糸乃は……」

 

「?」

 

「ルシフェルが、怖くないの?あれだけ明確な、人間以上の殺意を直に感じたのに」

 

「怖いです……。でも、十香さんや士道さん、琴里さん、それに神夏さんが守ってくれるって、言ってくれました。だから、大丈夫、です」

 

「……そう。強いね。私はそんなふうに人を信じるのはできなかった」

 

「え?」

 

「何でもないよ。うん、もう大丈夫。行こうか」

 

「はい…!」

 

幸い聞き取れていないようで、四糸乃を先頭に居間までゆっくりと歩く。

 

「士道……さん。お待たせ…しました」

「お待たせ」

「いらっしゃい神夏。四糸乃もありがとうな」

 

台所には士道が立っていて、何かまだ作業をしているらしい。……シンクに壊れた跡があるのは、うん、見なかったことにしよう。

 

「もうすぐ出来るから、待っててくれ」

 

士道に促されてテーブルの近くに座る。

 

「そういえば士道。ルシフェルはどこに行った?」

「ルシフェル?あー、その。急に用事を思い出したって言って、どこかに行ったっきり帰って来てないんだ」

「ふーん。それは残念。いたら今すぐにでも殺してしまおうと思ってたのに」

「おいおい……」

「冗談だよ。少なくとも四糸乃の目の前ではしないよ。

 

 

……今は、ね」

 

 

しばらく経ってから、出来上がった鍋を士道が持ってきてくれる。そのタイミングで琴里や十香、八舞の双子も姿を表した。

 

「ほぅ、黄金の。やっと前と同じになったか」

「安堵。貴女が戻って良かったと、心の底から思います」

 

「いい加減前の私は忘れてよ。頼むから。あと黄金のは辞めて。なんか、うん、恥ずかしい。で、十香は何故にそうも敵対してるの?私何もしてないでしょ」

 

「……なんか、お前と士道が隣同士にいるのが、こう、モヤモヤするのだ」

 

「あっそう。ならこれからは極力、士道からの誘いも断るよ。別に私は士道と一緒にいたいとは微塵も考えてないからね。それでいいかい?」

 

「むぅ……いや、それは違うというか……」

 

「?」

 

「だから、その、違うんだ!いてもいいが、私のいる時にしてもらう!」

 

「はいはい。分かりました」

 

いつもの十香の敵対心を適当に流して、すき焼きの鍋から自分と四糸乃に具材をよそう。

うん、本当に美味しいんだよな士道の料理は。

 

「士道、おかわり」

「はいはい。そいや神夏。一ついいか?」

「ん?」

「大したことじゃないんだけどさ、俺のこと、士道って呼んでくれるようになったんだな、って思って。それが少し気になってさ」

「あーうん、大した意味はないよ。琴里とこれからよく話すことになりそうだからごちゃごちゃになりそうってのと、記憶がなくなってた時の名残り。どーにも、前の五河君呼びも、五河士道呼びも、しっくり来ないんだよね。嫌なら前の呼び方に戻すけど?」

「いやいや、そのままで頼む。気になったって言っても、俺としてはとても嬉しいんだ」

「嬉しい……?変わってるね。そのうち誰かに騙されるんじゃない?あのやたら君に好意寄せてる白髪のASTの人間にとか、ちゃんと気をつけなよ?」

「はは。善処するよ」

 

実のところは、なんか士道呼びでないと、嫌な気になるというか、そんな下らない理由なんだけど、死んでもそれは言わない。

 

今も士道が近くにいないとかなりモヤモヤするし。

何なんだこの気持ちは。

 

「……」

 

「どうしました?」

『そんなに強く握っちゃってー。何かあったのかい?』

 

「えっ?あ、いや、ごめん四糸乃。違うんだけど……無意識、らしい。何で……」

 

四糸乃が食べ終わり、食器を運ぼうと立ち上がった。

 

たったそれだけなはずなのに、私は四糸乃の手を掴んでいた。

 

離そうにも、意思とは真反対に、四糸乃がどこか遠くへいくのではないかという思いが強まって、段々と息が苦しくなってくる。

 

なぜか、目の前の風景と、かつての風景が重なって見える。

 

厳格なはずなのに、頭がそれを理解しようとしない。

 

「はっはっ……」

「神夏さん⁉︎」

「神夏!」

 

心臓が痛い。頭が痛い。なんだこれ。こんな……さっき…まったく……

 

「うぅぅ!あぁっ!」

 

何も、わからなくなった。

 

急に、周りが、真っ暗に。

何も……聞こえ……

 

 

 

 

「神夏……」

 

四糸乃にしがみついていた神夏は、俺を見ると途端にその手を離して、俺の胸にすがった。

 

「ねえ、ねえ、そこに、いる?」

 

神夏は虚な目でずっと似たような事を言いながら誰かの存在をしきりに確認していた。きっと探してる人は俺じゃない。

 

 

けど、だからと言って何もしないのは意味が違う。

 

 

「ああ。いるよ。だから……」

 

縋っていた神夏の肩を強く抱きしめ、安心させてあげれるような言葉を、必死に紡ぎ出す。

 

「ねえ、マイラ。ずっと、私と、いてくれるって、約束……のに、なんで……」

 

「ずっと一緒にいるから、安心してくれ」

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。

 

私のせいだって、本当はわかってる。私が嘘をついていたからだって、本当はわかってる。

 

ずっと、謝りたかったのに。謝れなかった。

嘘をついていてごめんなさいって、謝りたかった。

でもできなかった。きっと、本当のことを話したら私の元から消えちゃうんじゃないかって、怖くて、ずっと言えなかった。

 

ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

「神夏」

 

「……?」

 

泣き崩れていた神夏の肩を少し持ち上げ、神夏の顔を見ながら言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫だ。何があっても俺は神夏の味方だ。何があろうと、たとえ神夏に殺されそうになっても、俺は神夏の傍に居続けるよ。絶対に、寂しい思いなんてさせない」

 

「でも、でも、私の周りからは、みんな……みんな、いなくなっていく」

 

「俺は絶対にいなくならない」

 

「みんな、みんなそう言った。でも……」

 

「じゃあここで約束をするよ。俺は絶対に君を見捨てないし、君を裏切らないし、君に寂しい思いはさせない」

 

「……本当?」

 

「ああ」

 

神夏は少し困惑しながら俺に向かって小指を差し出してくる。

 

「指切り、して欲しい」

 

その言葉を聞いてすぐに理解し、神夏の小指に自分の小指を絡ませる。

 

「約束だ。俺は絶対に君を、見捨てない。何があっても、君を助ける。だから神夏も俺を、信じてくれ。俺との、約束だ」

 

「うん……うん……」

 






「やあやあ覗き魔」

「……いつからバレていたんですの。そんな素振りはなかったはずですわ」

「士道と共にいる時からかな。監視の仕方が雑すぎるんだよ。もう少し殺気を抑えた方がいいんじゃない?」

ずっと見張っていたザフキエルの分身体と自身を囲うように、本体に情報が行き渡らないように霊力の壁を張る。これならザフキエル本体が来ることはない。

「そうですわね。わたくしたちには、もう少しアグレッシブに貴女の首を狙えと、言っておくとしますわ」

「そうするといい。それだと私としても殺しやすいからね。手始めに、うん。君は喰べさせてもらおうかな」

「あらあら。わたくしの真似事はよしてくださいまし?とっても、とぉぉっても不愉快ですわ」


「ああ、だからこの言い回しを選んだんだよ。私とて君みたいなマガイモノを喰べるのは死んでも嫌だが、今はそうも言ってられない。それに、本体じゃなく、分身体である君なら、色々と都合がいい。精々這いつくばって逃げなよ。……来い『堕天王(ルシフェル)』。うん、分身体とはいえ、君の霊力は美味しそうだ」


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53話 過去の懺悔

『これはまた随分と散らかして』

「ん?ああ誰かと思えば年増か」

『酷い言い草だね。仮にも生みの親だよ?』

「ああ、手違いとは言え私が生まれたキッカケは元を辿れば母君だ。それだけは感謝しているよ。

アナタサマのおかげでのお陰で私は士道と出逢うことができた。それだけは唯一感謝してるよ」

士道の名前が出た瞬間、コイツの表情がピクと僅かに動いたのがわかった。

ふふ、やはり完全無欠の母君とは言え所詮は私と同じか。

いや違うな。

コイツから生まれたからこそ私はコイツに似てしまったのだろう。
だから同じモノを欲しがるし同じ考え方、似た考え方、同じ行動をする。

『それで……君は何をしたいというのかな?君はもう永くないというのに。いつ霧散してもおかしくない存在だ』

「ハッ、私が何をしたいかだって?んな事は母君が一番よくわかっているだろう?

どうせだ。出来損ないの娘から親愛なる完全無欠の母君へ一つ、宣戦布告を送ろうと思う。


五河士道(アイツ)は私のものだ。生き遅れの母君は隠居してろ」




-----------

作者より一言

更新遅くて大変申し訳ありませんでした(土下座


 

「……」

 

心の中に溜め込んでいたであろう想いが、かつて好きだった人への贖罪が、ひとしきり出たのか気づくと神夏は眠っていた。

 

「……っし、とりあえず神夏を寝かせてくるよ。片付けと洗い物、任せてもいいか?」

「ええ」

 

琴里達に後を任せて神夏を寝室に連れて行く。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「おやおや、お熱いねぇ」

 

階段を上がろうとした瞬間に玄関の扉が開いた。

そこから現れたのはルシフェル。

 

……?気のせいか?口元が少し赤い……ような。

 

「乙女の唇をそんなに見つめてどうかしたかい?もしかして接吻をここでしたいのかな?」

 

「なっ、ち、違うよ。ちょっと……赤い気がして」

 

「ああ。口紅、と言うやつさ。ザフキエルの分身体が持っていたものを少し借りてね。で……神夏ギルは随分とまぁ。こんなナリで私を殺そうと言うのだから滑稽だ。ふふ、今すぐ君の霊力ごと食べてしまっても良いと言うのに」

 

ルシフェルの笑みを見て思わず神夏の前に体を出し、いつでも庇えるようにする。

 

「あっはは!冗談だよ冗談。少なくとも今は手を出す気はない。そもそも、万全でないと言うのに人類最古の王と()り合う気はない。もちろん、マガイモノともね」

 

「でも冗談に聞こえなかったぞ」

 

「なら私は意外にも私は演技派なのかもしれないね。そら、早く寝かせてやってくれ。僅かとはいえ心身を共にした宿主が死にかけているのは些か気分が悪い」

 

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで、なんで私ばかりこんな……)

 

(なんで?当たり前じゃないか。

 

母も、父も、親しい人も、何もかもを串刺しにしたじゃないか?

なぁ、神夏?)

 

目の前にいたのはマイラ・カルロス。

本当なら殺したいほど憎い相手なはずなのに、思わず後退りするほど恐怖を感じてしまった。

 

(っ、ちが、私はこんなの……)

 

(望んでいなかったって?お前の両親はあまりに熱狂的になるお前が、周りを見ずに動いてしまうお前が、このままではまずいと思い、荒療治とはいえ行動に移した)

 

(でも……)

 

(それを絶望だ裏切られただと勝手に塞ぎ込んで、醜い子供ですらしない。おまえの両親は、ずっと見守っていたって言うのになぁ?)

 

(……るさい)

 

(そしたら愛しい愛しい我が子が()()()()で帰ってきたんだ。そりゃ恐怖するよなぁ?)

 

(うるさい!うるさいうるさい!)

 

(俺だってそうさ。神夏、お前が、お前の心が弱かったから死んだ。お前が弱かったから、大切なもの全てが消えたんじゃないのか?家族、親友、帰る家、何もかもを)

 

(うぅ……)

 

(そうしてお前は何をした?逃げ回っていただけだろう?全てから目を背けて。自分自身を閉ざして。だが根本は他人に依存しなきゃやってられない、ただの弱虫だ。自立できない子供以下だ)

(そうよ。ねぇ、神夏さん)

 

(……っ⁉︎)

 

(ねえ、なんで殺したの?)

(ただ泣いている神夏を助けたいと思っただけなのに)

(神夏さんとは友達だと思ってたのに)

 

 

(なあ、神夏)

 

 

(っ⁉︎士道……)

 

 

(はは、神夏のおかげで、お腹、めちゃくちゃ風通しが良くなっちまった。神夏……なんでこんなことを……)

 

 

 

 

 

 

 

「違うっ!」

 

とある一室で神夏は跳ね起きた。目は見開き、汗が大量に噴き出ている。

あまりにも強い頭痛から思わず頭を抑えていた。辺りは暗く、もう夜なのがわかった。

 

(……はは、夢、か。悪夢にも程がある)

 

服が汗でびしょ濡れになっていて気持ち悪い。けどそれ以上に頭が痛く、それに伴い右腕、胸も痛い。

 

「ここ……士道の部屋、か」

 

記憶が朧げで何をしていたのかよくわからない。

 

確か、フラクシナスでルシフェルと話したて、それから……。

 

「痛っ……」

 

少し意識が落ち着いたからか、余計痛みが鮮明に感じ取れる。

 

その痛みをなんとか抑え込み、表情に出さないように努める。

 

「着替え……なきゃ」

 

時間を見ると23時を回っていた。そりゃ暗いはずだ。

士道がここにいないと言うことは私に気を遣ってリビングにいるのだろう。

 

床を見るとわざわざ持ってきておいたのが着替えが置いてあった。

男の部屋で着替えるのは少し、はしたない気もするがそうも言ってられないからさっさと着替えるに限る。

 

……少し、お腹すいたな。

 

「やっぱり」

 

リビングの電気をつけると士道がソファに横になって寝ていた。

起こすのも悪いし、静かに冷蔵庫物色させてもらおう。

 

すると誰かを起こしたのかドアがガチャリと音を立てて開く。

 

「やぁ寝坊助」

 

「何の用」

 

そこから出てきたのは堕天王(ルシフェル)だった。

立て続けに頭が痛くなりそうなことが起こらないでくれないかな。

 

 

 

……?いや、コイツ、何か変だ。フラクシナスで見た時と、何か変わってる?……確証が持てない。

 

 

 

「何の用と言われてもね、君が起きた気配を感じたから様子を見にきただけだぜ?そんなに警戒しないでくれよ」

 

「あっそう。じゃあついでに殺されてくれない?」

 

「はは!断る。まだ士道と接吻どころかデートもしてないからね。どうせならまぐわってみたいもんだが。流石に許されなさそうだからね」

 

「だろうね。琴里たちにフルボッコにされること間違いなしだ」

 

「それにだ。今の君はたとえ精霊の力を扱えたとして私を殺すのは到底不可能だ」

 

「どうだか。試してみる?」

 

「天の鎖を埋め込まれてる癖に何を強がっているのやら。だが、虚栄もそこまでくると可愛いもんだ」

 

「……」

 

何でそんなことわかるんだこいつ。

 

「あっはは!面白い顔するね。分かるに決まってるだろう?今の君を見れば一目瞭然だ。まぁ……それ以外にも原因はありそうだね」

 

「だろうね」

 

「心当たりがあるのかい?」

 

「どうだか。あったとして教える義理は無い。……ルシフェル」

 

「なんだい?」

 

「お前、何を喰べた?」

 

「はは。君に答える義理はないだろう?」

 

オウム返しするかのように即答され、多少イライラしながらも何とか抑える。

 

そうだ、ここで乗ってしまうと全てが無駄になる。

 

「ふふ。くふふふ。クスクス」

 

互いに睨み合う時間が少し続き、耐えきれなくなったのかルシフェルが小さく笑い始めた。

 

「ふふ。そう邪険にしないでくれ。本当に私は食事をしただけさ。思ったよりも、人間の食事は栄養価が高くてね。士道にお願いして少しばかり多く食べただけだ」

 

そう言ってくるが信用ができない。食事による効果だけでは到底言い表せないナニカがコイツの身に起こっている。

 

「信じるも信じないも任せるさ。……士道を起こすのも悪いから、この辺でお暇するよ。もちろん約束は守る。私からは人間にもマガイモノにも半端者にも手を出さない。だが……士道は私のものだ。誰にも渡さない」

 

 

それだけを言い残しルシフェルはどこかえ消えた。

 

 

 

 

 

「ん……」

 

やけにいい匂いがして目が覚めた。

 

起きあがろうと手を置いた場所に何もなく思わず落ちかけてしまう。

慌ててバランスを取って難を逃れたが。

 

そういえば、神夏を寝かせてるから俺はソファで寝てるんだった。

 

「やぁ、おはよう。早起きだね。まだ朝の3時だけれど」

 

机に目をやると神夏がいた。机には何かのスープが置かれていて、いい匂いの発生源はこれだった。

 

「ん?飲む?思ったよりも少し多めに作ってしまったからまだ余ってるよ」

 

「ああ、いただくよ」

 

「わかった。少しだけ待ってて。勝手に台所使ってんのかいってツッコミは無しで」

 

「そんなこと言わないよ」

 

神夏が持ってきてくれたのは溶き卵が入っていた汁で、確か……かきたま汁と言うものだったはず。匂いから梅も入っていることがわかる。

 

「どうぞ。口に合えばいいけどね」

 

「ありがとう。ん……美味しいよ」

 

「どうも。私が唯一得意と言い張れる料理だしね。これでまずいって言われたらそれこそ泣いてしまうかも」

 

「そんなこと口が裂けても言わないよ。なんなら作り方教えて欲しいくらいさ。それより……神夏、体は大丈夫なのか?」

 

聞いた時、一瞬だけ神夏の動きが止まったが何事もないかのようにまた飲み始めた。

 

「ふぅ……。大丈夫かそうでないかで言われたら大丈夫。万全かそうでないかで言われたらノー。そんなところ。悪いね。気を遣わせて」

 

「そんなことないさ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……もっと神夏のこと、知りたいって思っちゃったんだ」

 

「それまた酔狂な。私の過去のことなんて散々伝えたでしょうに。私が過去にどんな罪を犯したか、DEMに何をされたのか」

 

「そうじゃなくて……いや、それもあるんだけど。俺は、神夏がイギリスでどう過ごしてきたのか、日本に来てからどうしてたのか、なんで王様が好きなのか、とか」

 

「ふーん。ま、いいよ。最近助けてくれたお礼、とでもしとこう。

 

そう……だね。イギリスにいた頃の思い出というか一番印象深いのはやっぱりご飯が不味いことかな」

 

「ブッ」

 

予想の斜め上の回答に思わず咳き込んでしまう。

 

「私の両親は、母がイギリス人で父が日本人なんだけどね。父がよく言っていたよ。『外で食べるくらいなら自分で作る方が百倍マシ!』つってね。だから外食は殆どしたことが無いね。唯一あるとすれば、両親の結婚記念日、私の誕生日の時くらいにお高い料理を食べに行ったくらいかな。多少なりとも私が料理できるのは紛れもなく両親のおかげさ。私が教えろ教えろとせがんだからね。初めて包丁を使って指を切って両親共々大騒ぎしたものさ」

 

「はは、確かになぁ。俺も初めて包丁を使おうとした時は恐る恐るやってたなぁ」

 

「で、コレが私が初めて教えてもらった料理なんだ。父の見てない隙にもっと美味しくしてやろうと思って砂糖を内緒で入れてしまってね、クソ不味くなったんだよね」

 

「当たり前だろ⁉︎」

 

「それが幼少期の人間というのは自分の好きなものと信じてやまないものを入れたがるもんさ。私も一つ聞きたいんだけど、何でこんなに料理できるの?」

 

「俺?俺は……両親が家を空けてることが多くて、必然的に俺が料理をすることが多くなったのと、何よりも……食べて喜んでくれる顔をもっと見たくて料理の練習をするようになったな」

 

「わかる。自分の作った料理を食べてくれる人がいるだけでやる気出るんだよね」

 

「そうそう。それで琴里のやつ、『明日もこれ作って!』って駄々捏ねて」

 

「で、飽きないように色々と味変を試みる」

 

「そして最後には一番初めに作った味に戻ってくる、と」

 

「そうそう」

 

何気ない会話をしていて神夏が笑ったのを見るのは初めてかもしれない。

 

「私のコレは父に唯一勝てたものだよ。何度も料理勝負と言い張って挑んで負けて。その中でも唯一これだけは母に『父よりも美味しい!』って言わせれたんだ。ま、今思うと私に肩入れした評価な気はするけど。

 

……本当に、両親には色々と影響されたよ」

 

見上げながら懐かしむように、しかし悲しそうな声で告げられる。

 

「今思えば私が神話に興味を持ったのも両親の影響だった。父が元々オタク気質なのと母との出逢いは秋葉のグッズショップらしい。実に馬鹿馬鹿しい出会いだろう?でもその出逢いのお陰で私は生まれた。

特に両親共々、コスプレが趣味でね。幼い頃はよく人気作品の、特に私が見ていた作品のコスプレをして喜ばせてくれた。中でも私が惹かれたのが……」

 

「ギルガメッシュか?」

 

「正解。子供の頃の私は単純でね。強いヒト……王様にとてつもなく羨望して、憧れて。その人のようになりたいって強く思った。

それでとても喜んでくれた両親は、事あるごとにコスプレをして楽しませてくれてた。

 

……その結果、私は酷く歪んだのだろうけど。

 

ねぇ、士道。ヒトって何かに成りたいってなると、様々なことをするよね。そんな中、何も知らない子供は、何からしたと思う?」

 

悲しそうな、しかし何かを悟っているような目で、口は僅かに笑いながらこちらに聞いてきた。

少し考えて答えを出す。

 

「……俺なら、形から入るかもな」

 

「はは。一緒だよ。

 

私はまずは口調、態度なんかから入った。

俗に言う厨二病というやつだ。

 

それが悪いとは口が裂けても言わないが、あの頃の私は明らかに他人に迷惑をかけていた。

 

そりゃそうだ。いきなり他人に対して雑種とか控えろとか失せろとか言うやつが他人から煙たがられないわけがない」

 

「それは……確かにそうだけど」

 

「だから、今は思う。両親のやったことは何も間違っていない。むしろ躾という意味では正しい。我が子を躾ける方法としては荒っぽいとは言えど、確実性はある。家を一時的にとは言え追い出される前に散々叱られていたからね。どこぞの誰かは聞く耳を持っていなかったが」

 

ハハ、と力無く神夏は笑う。

 

「自分が人為らざるモノに頼り、両親を見返して認めさせようとした結果があの惨劇だと言うのだから、救いようがない。

 

…‥いや違うな。私は救われるべき存在じゃない、が正しいのだろうね。

 

自分のエゴが通らなかったから手を出してはならないものに手を出し、挙句の果て自分の両親や友達を串刺しにした。

 

そんな人間が他人に救われる?何を馬鹿なことを。虚言にも劣る戯言だ。

 

 

私なんぞ地獄の深淵に叩き落としてもまだ足りない。

 

 

ああ、そうさ。私は永遠に私自身を許さずに、己を責め続けるべきなんだよ」

 

神夏の言葉が途切れるのを待ってから、俺はゆっくりと口を開いた。

神夏が思っていることを全て俺に伝えてくれたのだから、今度は俺が伝える番だ。

 

 

「それは違うと思う」

 

まず第一声にそう伝えるとひどく驚いた顔をしていた。だけどそれに構わず言葉を紡ぐ。

 

「確かに神夏は到底許されない事をしたんだろう。例えそれが自分の意思じゃなかったとしても。

 

ずっと自分を責めてる神夏の気持ちもすっげぇ分かる。

 

だけど俺は、神夏はもう十分罰を受けたんしゃないか、と思ってる。

俺自身による客観的な憶測、希望でしかないけれど。

 

過去の過ちを、過去の自分をもう許してやれ、なんて事はお前には言わない。言えるわけがない。

 

そりゃそうだ。俺はどう足掻いたところで所詮は他人。

 

神夏は自分の手で家族や親しい人たちを殺してしまったんだ。他人が許したとしても許せる訳がない。俺だってきっと、永遠に許さず自分自身を責め続けると思う。

 

 

過去を乗り越えて生きよう、なんて伝えるだけは簡単だと思う。だから、そんな言葉は言わない。

 

 

だって、俺は神夏を上辺でしか知らない人達とは違うからな。

 

 

今神夏は気持ちを俺に伝えてくれた。心の内を(さら)け出してくれた。

 

 

俺はもう神夏の想いを知ってしまった。神夏の過去の過ちを知ってしまった。

今の神夏を知ってしまった。今の神夏の心の内を知ってしまった。

 

それに、実は狂三のおかげで断片的にとは言え過去の神夏を俺は()()()()()()()()事があるんだ。

 

だから神夏がどれだけ辛いかは、そんじょそこらのただ神夏を知ってる()()の人よりも深く深く知ってるつもりだ。

 

 

 

だからこれだけは断言させてもらう。

 

 

 

神夏が救われるべきだ。どんな形かはわからないけれど、それでも神夏は、神夏ギルは救われるべきだ。

 

俺は、神夏を救ってあげたい。

 

神夏のような心優しい人が救われないなんて、そんなの俺は認めない。

 

 

 

これから言うことはもしかしたら神夏からしたら途轍もなく不快なことかもしれない。それでも言わせてくれ。

 

過去も、今もその悲しみを、業を独りで背負っていると言うのなら。

俺に半分、いやその更に半分でもいい。一緒に背負わせてくれ。

 

俺は、辛そうにしているお前を、何もできずに見てるなんて真似、もうしたくない。

 

俺にも一緒に背負わせてくれ」

 

「……それは、ラタトスクにお願いされているから?」

 

「確かにラタトスクとしても神夏を救うために動くとは思う。

 

だけど神夏を救うために動くのは、俺自身の意志だ。俺がそうしたいから、するんだ」

 

「……私が、嫌だと言ったら?」

 

「んなもん神夏が認めるまで俺は諦めねえ」

 

「認めるまで諦めないって、随分横暴だね」

 

「はは、前にも言ったろ?

 

俺は諦めが悪いんでね。例え俺自身のエゴだろうが突き通させてもらうさ」

 

 

部屋に、しばらくの沈黙が流れる。

神夏も、士道も。互いに見つめあっていた。

 

片や真剣な眼差しで。片や絶望の眼差しで。

 

 

そんな静寂を、小さな笑い声が壊した。

 

 

「……ふふ。ありがとう、五河士道。そうだね、期待、してるよ。ルシフェルやマイラとの決着が、因縁が全部終わったら、その時は君に任せるのも、良いかもしれないね」



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54話 ルナ

「ええと、どこまで話したっけ。両親に家を追い出された後に私は手を出してはいけないものへ手を出し、挙句の果てに肉親、親友、何もかもを殺し尽くした、までだっけ?」

 

「多分そのあたりかな」

 

「ん。こんな悲劇が起こったと言うのに新聞記事には『ガス爆発による大事故』とだけ記されていた。多分、精霊のことを知ってる人間の隠蔽、なのだろうけど。

 

それからその場でうちしがれていた私は病院に搬送されてしばらく入院した後にお父さんの弟さんにの家庭に引き取られてね。それでも暫くはずっと引き篭もってた。

 

誰にも会いたくない。あったら殺してしまうかもしれない、ってね。

 

 

……士道は狂三に見せてもらったって言ってたけど、どこまで見たの?」

 

 

「見たところ、と言うと……純白の精霊と戦った後に狂三が来て、マイラ・カルロスって呼ばれてる人が来て……ってあたりかな」

 

「ああ、なるほど。そこまで見たの。

 

その後からとなると……叔父さん達がDEMに人質にされてたのもみてる?」

 

「ああ」

 

「そっか。じゃあ勿体ぶる必要はないかな。

私はそこでまた精霊の力を、王様の力を無作為に使って、辺り一帯をぐちゃぐちゃにしようとしたんだ。

 

マイラを何が何でも殺そうと、ね。

 

だけど殺せなくて。なんど手を伸ばそうとも届かなくて。

 

 

その後はがむしゃらに当たりを壊し尽くしたらしい。

らしいって言うのは、あの時はもう頭の中がぐしゃぐしゃで何覚えていなくてね。

狂三が止めてくれたらしく、結局マイラ達には逃げられた事。DEM社自体にはなんの損害にもなっていない事、純白の精霊は死にはしたけど力の源はどうなったかわからない事なんかを教えられた。

 

で、そこからは正直記憶があまりない。

 

叔父さん達に日本の学校に行くのを勧められて、全部がどうでも良くなってた私は、私を知っている全てから逃げたくてここに来た。そして今後は二度と精霊の力を使わないと、誓ったんだ」

 

「それは過去のことを思い出したくないから?」

 

「それもあるね。この力を使うたびに誰かを殺す。そんな事態にしたくなくて、と思って使わないと誓ったのも確か。

 

でもさ、一つ考えてよ。当時の私は厨二病だった。でも終わる頃には厨二病に冷めてた。冷めざるを得なかった。

なんせ私の振る舞いのせいで大惨事になったのだから。

 

んで、自分のことを振り返って至極冷静に色々と考えた瞬間、めっちゃ恥ずかしくなった。だから使いたくなかった」

 

「さっきまでの真面目な話はどこいった⁉︎確かに過去の言動を振り返ると恥ずかしくなるけど!」

 

「へぇ?てことは士道も経験あるんだ?」

「い、いや?そ、そんなことな、ないぞ?」

「瞬閃轟爆波、だっけ」

「なんで知ってんだ⁉︎」

「あとポエムとかギターをコイツとか言ってたっけ」

「だぁぁぁやめてぇぇぇ!」

 

と、琴里に教えられてた士道の黒歴史の一部をバラすとものの見事にその場に蹲った。おもしrゲフンゲフン。

 

「ま、当時の私もそんな感じだったんだ。それに加え、過去の私を捨てようと、性格も何もかもを偽って過ごしてた。名前と容姿だけは……唯一両親の形見とも言えるから偽れなかったけど。ほら、最初会った時と今の私、だいぶ性格違うでしょ?」

 

「え?あ、ああ。言われてみれば……」

 

「こっちにきた時の私は、過去を忘れたいがために私自身を偽ったんだ。精霊の力を使わないのは過去を思い出すからじゃない。トラウマが嫌だからじゃない。

ただ単に厨二病臭くなるのが恥ずかしすぎて嫌なだけだってね。両親のことも、マイラのことも、何もかもを忘れて、生きようと思ってた。精霊の力も、二度と使うまいと思っていた……はずなんだよね。ま、誰かさんに関わったおかげでガッツリ使ってる羽目になってるけどね」

 

「俺のせいか⁉︎」

 

「間違ってないよ?あの日に君に話しかけられた結果が今と言っても過言じゃない。あの日君に着いて行った結果十香と会って、精霊の力を使わざるを得なくて、あとはもう君と関わったせいで何度精霊と出会って鳶一折紙たちASTに命を狙われたか」

 

「いやいや待て待て!あの日外まで勝手に着いてきたのお前だろ⁉︎」

 

「そうなんだよね。あの日の私はどうかしてた。君なんて放っておけば良かったはずなのに何故かあの時は君に執着してた。これも精霊を引き寄せてしまう君の体質のせいだったりしてね」

 

「そんなまさか」

 

「私もそう思う。でもこの調子だと士道の周りに全精霊集まったりするんじゃない?」

 

「あり得そうだから困るな…いや困らないな。むしろ全部来るってなら大歓迎だ」

 

「それはまたなんで?」

 

「俺は精霊のみんなを救うと決めたからだ」

 

大真面目にそんなことを言うもんだから少し笑ってしまった。

 

「な、なんだよ。おかしい事言ったか?」

 

「いや、ごめんごめん。うん、頑張れ。応援してるよ」

 

「他人事みたいに言ってるけど神夏もその対象だぞ?」

 

「ついさっき聞いたよ。私は……まあ、うん。気長に待ってるさ」

 

「どうした?何か不安でもあるのか?」

 

「不安というか、君の中に私の精霊の力が宿ったとして君が王様みたいな振る舞いし出したら正直、気持ち悪いなって」

 

「ひでぇな⁉︎」

 

 

 

 

まあ実際のところ、そこまで時間は残されていないだろうけど。

 

今は言う必要は、ない。

 

 

 

 

「ま、これがイギリスにいた時から今に至るまでの私さ。他に何か聞きたい事はあるかい?」

 

「いや、大丈夫だ。聞かせてくれてありがとう。神夏」

 

そこでふと、ほんの気まぐれだけど士道に一つ、教えようと思い口を開く。

 

「……ルナ」

 

「え?」

 

「ほら、神夏だとなんか他人行儀みたいだから。もうここまできたし私のことも名前で呼んで。ギル呼びだと王様とごちゃごちゃになるだろうし男っぽいし。それに万が一表に出てるのが王様だったら士道の首チョンパされるし」

 

「た、たしかに……」

 

「だから、私のことはルナって呼んで。イギリスの友達や親戚からはそうやって呼ばれてたから。ルナは女の子ぽくて気に入ってるんだ」

 

「ああわかった。ル……ルナ」

 

「うわぉ、違和感しかない。一瞬寒気した気がする」

 

「ひどいな⁉︎」

 

「そりゃ今の今まで神夏って言われてたから。なんかゾワッとした」

 

自分から言っておいて酷いとは思うが本当に一瞬寒気がしたんだからしょうがない。

 

「ま、これからもそう呼んで。十香や四糸乃達にもそれは伝えるつもり。そうすれば嫌でもルナって呼ばれる事に慣れるだろうから。で、他に聞きたいことってある?」

 

「そうだな特には……あ、いや。一つある」

 

「何?」

 

「神夏、前に一度公園で大怪我負ってた時あっただろ?今までの神夏の強さを見てるととてもそんな大怪我しそうにないなって、ふと思って。あの時何があったんだ?」

 

「というと……ああ、十香とイチャコラして封印しようとしてた時か」

 

「言い方酷くないか⁉︎」

 

「私視点間違ってないし。んーあの時かぁ。ただ単に久しぶりに精霊の力を使うもんだからペース配分をミスして逃げる前に目の前で精霊化が解けたんだよね。それでそのままフルボッコ」

 

あの時はよく逃げれたと思うよ、うん、ほんとに。

 

「あのあと強引に力を使って、隠れて、やり過ごした。で、家に帰る気力もなくエリクサーなる回復薬を少し使って致命傷だけ回避。んで休んで霊力回復するのを待ってたところに君がきて治療をしてくれた。こんな所」

 

「もしかしてあの時俺が見つけなかったらやばかった?」

 

「やばかったね。ワンチャン白髪の鳶一折紙含んだASTの皆様方をコロってしちゃってたかもね」

 

私がサラッというもんだから士道は軽く青ざめていた。

まあ死にはしなかっただろうけどASTに見つかってどっちかが死ぬまで殺しあった可能性は高いね。

 

「おっと、もう6時なのか。思ったよりも話し込んだらしいね。んじゃ、この辺で私はお(いとま)するよ。また学校で会おう」

 

「おう。無理するなよ?」

 

「善処するよ。あ、2つ…いや3つ、かな。ラタトスクに…というよりは例の小さな赤い司令官と副官サマに伝言頼めるかい?」

 

「琴里に?」

 

「うん。『ルシフェルを攻略するというのならできるだけ早く。あいつは何をしでかすかわからない』『近いうちにイギリスに行きたいから手助けが欲しい』『私の体のことは私が一番よくわかってる。だから余計なことはするな』って伝えておいて」

 

「え?ちょっと待ってくれ。最後のって…」

 

「んじゃ、そゆことで。遅刻するんじゃないぞ。精霊の救世主サマ」

 

聞き返そうとしていた士道を無視し外に出る。

勘付かれるだろうが、その時はその時だ。

 

 

 

 

「……」

 

その時何かが頬を伝っていた事に神夏は気づかないフリをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近姿をあまり見せなかったザフキエルの分身体を見つけ、食事をしていたところ急にエレン達が現れて剣を向けられる。周りを確認すると20人はいるだろうか。

 

「これはこれは大勢な事で。悪いけどオモテナシの用意はしてないぜ?」

 

「構いません。アロガンの反転体。私達と共に来てもらいます」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「無理矢理にでも。ですが素直に来るというのなら貴女にも五河士道達にも今は危害を加えないと約束しましょう」

 

「ふーん。ま、いいよ。面白くなりそうならなんでもいいや」

 

最近退屈だった私は敢えてこの誘いに乗る事にした。

利用できるものはなんでも利用しなきゃね。

 

 

 

 

 

 

連れてこられた先は高層ビルの一角。

そこにいたのはアイザック・ウェスコット。傍にはエレン・M・メイザースが控えておりさらに周りには数十人の機械に身を包んだ人間が。

 

「よく来てくれたね。大した歓迎はできないがゆっくりしてくれ」

 

「これだけ殺す気満々なくせしてなーにがゆっくりしてくれ、だ。何の用?」

 

相変わらずこのアイザック・ウェスコットという人間を前にすると少しばかりイライラする。こう、生理的に受け付けないと言えばいいのだろうか。

 

「もう本題に入ってしまうのかい?少しは世間話をしようかと考えていたんだが」

「勘違いするなよ。私がここまで素直に来たのは単にお前の考えてる事、やる事に興味があっただけだ。お前自身に対してはどうでも良い」

「全く、君もアロガンもせっかちというか。君の興味の範疇になかったらどうする気なんだい?」

「別に何も?私は普段通りに過ごすだけだ。お前達のやろうとしてることも好きにやれとしか思わない。それに、だ。お前達自身はどうでも良いって言ったろ」

「もし君をこの場で取り押さえる、と言ったら?」

「君とエレン以外のこの場全ての人間の心臓を抜き取って見せよう」

「そんなことが出来るのかい?」

 

と、疑われるので少しイラッとして堕天王(ルシフェル)の力を使う。

 

 

顕現()い、呪腕のハサン」

 

 

私が呟くと同時にウェスコットとメイザースを除く全てが臨戦体制に入る。

一斉に距離を取ってきたがその中の一番近かった人間の胸をハサンの右腕で撫でる。

 

「……」

「ほう。あの一瞬で」

 

「で、まだそんな戯言を言うのかい?」

 

右手でさっきの人間の心臓を掲げる。その人間は心臓を抜き取られた事に気づいた瞬間に倒れていた。

 

勿体無かったかな。どうせなら獣の権能を使う時に試せばよかったかもしれない。

 

「素晴らしい。君の力の片鱗を初めて目にしたよ。アロガンやプリンセスと同等、それ以上かもしれない。力を疑ったことを謝罪させてくれ」

 

「御託はいい。要件はなんだ」

 

力を霧散させて心臓をその辺に放り投げる。

そこまでして漸くこの男は話し始めた。

 

「じゃあ単刀直入に言わせてもらおう。私達と手を組まないか?」

 

「何の為に」

 

「無論、双方の目的の為さ」

 

「私と組んでお前達は私に何を差し出す?」

 

「私たちの出せるものの全てを以て君に協力をしよう。その代わり私達は君の協力を得たい」

 

「具体的に言えよ人間。次遠回しに言おうとしたらこのビルごと破壊するぞ」

 

「これは失礼した。そうだな、手始めに私たちの捕らえている精霊の力、というのはどうだろうか」

 

「……」

 

「君がここ数日間でナイトメアを殺し、霊力を吸収しているのは確認済みだ。だが最近はナイトメアの分身体がそもそも姿を現さなくなり霊力の吸収がうまくいっていないんじゃないのかい?」

 

「で?」

 

んなもん、見られてるのは百も承知だ。手を出してこなかったから見逃していたが。

 

「先ほど言った通り、私たちは精霊を捕らえている。それを殺さない範疇でなら好きにしてくれて構わない。まず私達から出せるものの一つはそれだ」

 

「……」

 

「更に、君の権能を試すための実験場も用意しよう」

 

「そんなもの要らん。実験ならどこでも出来る」

 

「では……そうだね。君の望むものを聞いてもいいかな?」

 

それくらいならまあ、良いだろうと思い口を開く。

 

「私が望むのは五河士道と神夏ギルのみ。他はどうでもいい。お前が暴虐公だとか他のマガイモノの力を手にしようが、それで何をしようが心底どうでもいい。本当ならこの場を今すぐグチャグチャにしてやってもいいんだぜ?」

 

「というと、ナイトメアを狩っているのはその神夏ギルに関係するのかな?」

 

「そうだよ。それに……あのマガイモノ達が一斉に反転したら、それはそれで物凄く楽しい事になりそうだからね。そのためには霊力がまだまだ足りない。なんせ、人類悪そのものを……いや、喋り過ぎたな」

 

「ふむ、精霊達を一斉に反転させるというのは実に興味深い。だから少し提案を変えようと思う。その目的の為に私たちの全てを以て協力する、というのはどうだい?利害は一致しているとは思うが」

 

「回りくどいって言ってるだろ?要件のみ言え」

 

「君は普段通りにしてくれていい。私達からも協力は要請しないし私とエレン以外の全てを好きに使ってくれて構わない。これでどうだろう?」

 

コイツとの協力体制など、個人的感情で嫌だったけど人間という素材を好きに使えるというのは少し魅力だった。

なんせ好きにアレを作れ、それを隠蔽することができるのだから。

 

「一つ答えろ」

 

「何だい?」

 

「お前達は人間のクローンは作れるか?」

 

「無論だ」

 

「OK。交渉成立だ」

 

「おや。もう少し条件をふっかけられると思っていたんだが」

 

「私が現状欲しいのは霊力の安定した供給先と素材となる人間だ。それに君の元にいればもう少し面白いものが見られそうだ。特にそこの人類最強のウィザードといるとね。それじゃ話は済んだし私は帰らせてもらう」

 

「君との連絡はどうすればいいのかな?」

 

「んなもん、勝手に連絡をしにくればいい。神夏ギルと違って私は霊力を隠していないからお前達ならすぐ見つけられるだろ?」

 

「なるほど。了解した。では互いに良い関係を築けることを願っているよ」

 

元よりコイツらに着く気でいたのと破格の条件を飲ませることには成功したから私としては万々歳だ。

 

 

 

マガイモノ達の心をへし折るには人間の素材はいくらあっても足りないのだから。

 

 

 

 

 

「人類悪……ビースト、か。うん、我が宿主の記憶は実に良い。思う存分利用させてもらうとしよう」




正直なところ、前書きor後書きに話を書くようにしたのは良いものの、それなら本文に全て乗っければ良いじゃねえかということからそのスタイルはやめることにしました。

結局普段の近況報告があればそれを書く程度にします。

とある人に前書き後書きに作者の事情を書かれると萎えるとか言われたから書かないようにしてましたがそもそもそれすら一読み手の感想でしかないよな、と思い直しました。

てことで普通にします。


最近"も"投稿遅く大変申し訳ないです。

ですが私の中では今書いているルシフェルと神夏ギルの物語を最終地点として描く予定にしていますのでもう少しだけ亀更新にお付き合いしていただければ幸いです。


それでは読んでくださりありがとうございました。
皆様の暇つぶしになれば幸いです。

感想、評価もしてもらえると嬉しいです(小声


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55話 僅かな平穏

大変申し訳ありませんでした(土下座

とりあえず書きたいところまでは書けました。

それではどうぞ




「やぁ」

「……」

「何その目」

「ちょっと驚いただけだ。おはよう、かみ……ルナ」

「うんおはよう」

 

学校に行こうと思い玄関を開けるとそこに居たのはいつもの十香ではなく神夏。いつもの癖で神夏と呼びそうになるのを堪え、ルナと呼ぶと何故か一歩引いてる。なんでだよ。

 

「何呆けてるの。私に見惚れでもした?」

「見惚れてねえよ」

「うっわひどっ。傷つくなぁ」

「じゃあ聞くけど見惚れてるって言ったら?」

「変態って言ったかな」

「どっちも変わらねえじゃねえか!」

 

案の定どっちを答えても不正解だったらしい。

けど俺の反応が面白かったのかルナは笑って咳き込んでいた。

 

「けほっけほっ。あー笑った笑った」

「そりゃどうも。で、本当にどうしたんだ?」

「どうしたも何も、一応学校では付き合ってるテイだったでしょ。だから一緒に登下校するのは必然だと思うよ。あと……万が一があったときに士道なら守ってくれると思うし?」

「当たり前だろ」

「じゃあとりあえずさ」

「?」

「アレから守って」

「は?」

 

神夏が俺の後ろに隠れながら指で示した方向をみると怒った様子の十香と折紙がいた。互いに言い争っていたはずの2人は俺の後ろにいる神夏を見つけた途端こっちに向かって走ってきた。

 

「神夏ギル!見つけたぞ!」

「神夏ギル。説明を求む」

 

「神夏、何をしたんだ?」

 

「い、いやぁ。あの、2人が家の前でいつものいちゃいちゃ…じゃなくて言い争ってたから。『そんなに喧嘩してると私が士道をもらっちゃうよ』って言って、明らかに驚いてるのわかって面白くて、さらに煽ったら……2人ともブチ切れた」

 

「当たり前だろ⁉︎」

 

「あはは……あの、本当にお願い。あの2人宥めて」

 

けどそんな神夏の願い虚しく、2人は意図も容易く俺の後ろにいた神夏を捕まえ、色々と聞き出そうとしていた。怒れる乙女2人の威圧で神夏は涙目になっていた。

 

「わかった、わかったから!私が悪かったです!元より士道にそんなに興味ないし君ら出し抜いてイチャつこうとか考えてないから!」

 

「違う。私が聞きたいのはアナタが士道と露天風呂に入った件」

「士道とご飯を食べさせあったとはどう言うことだ!」

 

「本当に何言ったんだよ神夏⁉︎」

「いやぁ……あはは。あの、その、本当にすいませんでした」

 

それから2人を宥めるのに十分近くを労する羽目になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「はは。本当にあのふたりは士道の事になると周り見えなくなるねぇ」

「焚きつけた本人がそれを言うか」

「確かに?」

 

いやでも目の前で痴話喧嘩されてりゃ揶揄いたくもなるじゃないですか。

ちなみにあのお二人はターゲットがお互いになったのか後ろで喧嘩して…‥いや違うねあれ。十香が言い負かされてるだけだ。

 

「ああそうだ。士道、再来週の週末は暇?」

 

「というと、4連休の?」

 

「そうそう。令音さんから連絡が来てたんだけど4連休を使ってイギリスへ行く準備をしてくれるらしくてね。1人で行ってもいいけどそれだとつまらないから一緒にどうかな」

 

「へぇ。いいじゃないか。是非とも一緒に行かせてくれ」

 

「うん。ありがと。どうせならクラスの仲良い人も何人か見繕いなよ。2人というのも寂しいし、いっそのこと観光しに行くのも一つの手だね」

 

「いいなそれ。そーだなぁ。殿町とか誘ってみるか」

 

「その辺はお任せするよ。……くれぐれも精霊の皆様方は誘わないでね?」

 

「?そりゃなんでまた」

 

「……仮にだけど、イギリスでDEMが襲ってきたらどうなると思う?人間VS精霊の大戦争になるよ?私1人だけならまだどうとでもなるしちっこい司令官サマ達にとっても見張る対象が少ない方がやりやすいでしょ」

 

「確かに。…いやまて、めんどくさいだけだろ」

 

「……」

 

「目を逸らすな」

 

何でこんなに早くバレた。

士道が十香を誘うとそれに連なって鳶一折紙とかその諸々くる未来しか見えないんだからこれくらいは許してほしい。

 

「ま、とにかく。誘うなら十香は絶対ダメ。それだけは厳守して。誘うにしてもせめて双子の風の精霊くらいにして」

 

「耶倶矢と夕弦?なんでまた」

 

「曲がりなりにも精霊仲間だから仲良くしてて損はないかなと。それに戦力は少しでも多く欲しいし」

 

「戦力?」

 

「ルシフェルを殺すためのね」

 

士道の顔を見なくても引き攣っているのが何もなくわかる。

だけど冗談でも何でもなく本気だ。

アイツを殺すなんてそれこそ死ぬほど戦力がいるだろうし。

 

「……なんてね、冗談だよ」

 

「にしてはそう聞こえなかったな」

 

「なら私には女優の才能があるのかもね」

 

「おいっ士道!なぜ神夏ギルとばかり話しているのだ!」

「士道。神夏ギルだけでは不公平。私とも話すべき」

 

2人の沸点は士道が関わると本当に低くなるね。

扱いやすくて助かるラスカル。

案の定2人に詰め寄られてオドオドしてるし。

 

……なんか腹立つな。リア充爆発すればいいのにね。

 

「先行ってるよ士道。んじゃまた学校でね〜」

「あっちょっ⁉︎神夏⁉︎」

 

うん、ルナ呼びしてくれとは言ったけどやっぱり神夏呼びされる方がしっくりくるね。

 

「付き合ってるっていうのが嘘の関係なのはわかってるけど、うん、それでもあのいちゃつきは腹立つんだよねぇ。

 

 

そう思わない?狂三」

 

 

士道が遥か後方になったのを確認して誰もいないはずの場所に向かって話しかける。

そこから影が広がっていき1人の可憐な精霊が赤黒いドレス---霊装に身を包んで現れた。

 

「神夏さんのそのお気持ちには激しく、ええ、激しくっ!同意いたしますわ。しかし、一体いつから気づいておられたんですの?」

 

「んー?いやなんとなーく、カマかけてみただけだよ。見張ってるだろうなーとは思ってたから。にしても狂三ってそんなに士道に思い入れあったっけ?食糧としかみてなかった記憶が」

 

「いえいえ。まさかそんな。わたくしの事情を除けば士道さんは良い男性ですわ。恋焦がれますわ。ですが……申し訳ありません神夏さん。それどころではありませんわ。()()()()()からルシフェルとやらについて新たな情報を得られました」

 

狂三の顔はいつになく、真面目だった。何処か冷や汗も出ている気がするし、恐怖しているようにも見える。

 

「ふーん。で、何がわかったの?」

 

何度か深呼吸をしたのちに狂三はゆっくりと口を開いた。

 

 

「ルシフェルとやらが、DEMと手を組みましたわ」

 

「は?」

 

 

狂三が言ったことは予想外にも程があった。

 

ルシフェルがDEMと手を組んだ?

 

「確かな情報?」

 

「ええ、わたくし達数十人がかりで得た情報ですわ。……帰ってこられたのは数人でしたが」

 

忌々しい、憎悪に満ちた声で狂三が呟く。

 

「しかもただ殺された訳ではありません。……本来ならば真っ先に知らせるべきだったのですが、確証がなくお知らせするのを躊躇っていましたが、今回ので確信致しました。

 

わたくし達はただ殺された訳ではありません。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「喰べられた、ってのは狂三の言う『士道を喰べる』と同じ意味と解釈しても?」

 

「ええ、それで構いませんわ。事実、ルシフェルを監視していたわたくし達は尽くが消息不明です。全て喰べられていた、そう考えるのが自然ですわ。

 

単刀直入にお伺いしますわ。神夏さん。ルシフェルのこの行動をどうみますか?どのような目的があると思いますか?」

 

そう言われるも、ルシフェルの行為そのものには一つだけ心当たりがあった。それを隠す必要もないし意味もない。そう感じたから狂三へ考えているのを話す。

 

「ルシフェルの行いが霊力の補充なら考えられるのは連続殺人鬼やら日本由来の鬼とかいうレベルじゃない、更に上の存在を喚ぶこと。……だと思う。

ルシフェルの能力は『人類の敵を、悪を、その身に宿す』なのは知ってるっけ」

 

私の問いにコクと頷いたのを確認して話を続ける。

 

「まだ伝説状の代物だとか実在した奴とかならまだいい。だけど、神話の、それこそ邪神とかってなってくると……」

 

「神夏さん。ルシフェルを殺しにいきましょう。今すぐにでも」

 

狂三らしくない物言いに思わず驚いて声が出なくなった。

 

「そんな積極的だったっけ。私の知ってる狂三はもう少しお淑やか……じゃないな。余裕ぶってた記憶があるんだけど」

 

()()をみたら嫌でも変わりますわ。ほんっとうに…忌々しいですわ」

 

「何をみたのさ」

 

「お恥ずかしいお話ですが、()()()()()()()()。皆目見当がつきません。ですが、わたくし達の断末の際、皆、悍ましいナニカをルシフェルに感じていましたわ。遠巻きに見ていたわたくしも、あの時見たルシフェルは……」

 

「わかった。もういいよ。ともかくルシフェルは殺すべきなのは激しく同意するところだし。でも…ラタトスクがねぇ」

 

「そんな方々の理念に付き合うきですの?」

 

「約束しちゃったしね」

 

「その結果、人類が滅びようともですか?」

 

「それ言われると耳が痛いなあ。…まあ、どうにかするよ。元よりアレは私の問題だからね。いざと言う時は手伝ってね狂三」

 

「お断りします…と言いたいところですが。承知しましたわ。いずれその時が来たら、全面的な協力をお約束いたします」

 

「ありがと」

 

コレにて保険はできた。最悪の時の保険は。

 

「ではこれにて失礼しますわね。神夏…いえ、ルナさんとお呼びした方が良いのでしょうか?」

 

「どっちでも構わないよ」

 

「では…ルナさんで。ルナさん、また会いましょう」

 

「うん。またね狂三」

 

この言葉を区切りに狂三は影の中へ帰っていった。

 

「……DEMと、ルシフェルが手を組んだ、ねぇ。あのルシフェルが…?」

 

ありえない、とは言い切れない。

王様なら何かわかるかもしれないけれど、王様の気配すら感じ取れない。

 

私の中には、もう、いないのだろうか。

 

「考えても仕方ないや。士道達は…ほっといた方が良さげだねあれ」

 

後ろの方には未だ絡まれてる士道が。

あの様子だと学校に来る頃には疲れ果ててそうだ。

 

はっはザマァ。

 

 

 

 

 

 

 

学校に来るなり周りの生徒は私を見た途端、異物を見るかのように、触れ難いナニカのように私が通るたびに道を開けて行った。

 

着席するも、誰一人として近寄ってこない。

 

誰も関わろうとしてこないのは有り難い限りだけど、異物かのように見てくるのは些か、気分が悪いな。

 

「……っ!」

 

そんな異質な空間と成り果てた扉を開けたのは士道。息を呑んだかと思うと何も見ていないかのように私の隣へ。

 

「や、おつかれ」

「ル……神夏、お前なぁ…」

「はっはっは。ザマァリア充死すべし」

「ぶん殴るぞお前」

「間違っても女の子にそんなの言わない方がいいんじゃない?」

 

士道だけがそんな異常事態の中、何事もないかのように私の隣に着席した。

 

「で、何で皆さんが私を遠巻きに見てる理由、わかる?」

 

「さあ?俺にもわからないな。考えられるとしたら…前にルシフェルが神夏として学校に来たから、じゃないか?」

 

「え?は?ちょっとまってアイツそんなことしてたの?」

 

ちょっと待とうか士道さんや。それいつの話よ。

 

「ああ。天央祭の後に、片付けする日にルシフェルが…」

 

なるほど理由には納得した。

そりゃいきなり髪が変わったかと思えば元に戻ったやつを変な目で見るのは当たり前か。

 

言うなれば真面目な奴がいきなりギャルになったかと思えばまた真面目に戻ったのか。しかも超短期間で。

 

うん、私も変な目で見る自信あるな。

 

「なるほどね。よーし次あったらアイツぶん殴る」

「女の子がそんな言葉遣いしない方がいいんじゃないのか?」

 

「よーおっ!我がマイフレンド士道!朝から神夏さんとイチャコラとはいいご身分だなぁおい!」

 

「揶揄うなよ殿町」

「やあ殿町……ヒロム、だっけ?」

 

朧げに覚えてた名前を言うと急に静かになった。

え?何か変なこと言った?

 

「……やったぜ!士道、俺とうとう神夏さんに認知されたよ!やったぜ俺!士道と付き合ってなければアタックしたのに!ああ畜生め!」

 

「喜ぶのか悔しがるのかどっちかにしたらどうだい?」

 

「じゃあ喜ぶ方向で行きます!呼んでくれてありがとうございまっす!」

 

「は、はい」

 

テンション高いなぁ。何がそんなに嬉しいのか。

 

「そういえば知ってるか?転校生が来るらしいぞ」

 

「転校生?」

 

「ああ、職員室から聞こえてきたから確実だ。名前はわかんないけどな」

 

へぇ、転校生。

また精霊の誰かとかだったりして。

 

んなわけないか。

 

その後は士道と殿町の話を横で聞きながら机に突っ伏してると始業を告げるチャイムが鳴る。

 

さてはて、今日もいつも通り寝て過ごそうかねぇ。

転校生くらいは横目で見て記憶の片隅にでも留めておこうかな。今後関われるのもごく僅かになるだろうし。

 

「はいっ。では自己紹介をお願いします」

 

「…………は?」

「え?」

「……っ!」

「なっ…!」

 

その転校生を見たとたんにそんな考えは吹き飛んだ。

見間違えようもない。

 

見間違えるはずもない。

 

 

「やあ。私の名前は神夏・M(ミラ)・ルシフェルと言う。イギリスの生まれだ。名前から察してもらえる通り神夏ギルとは姉妹でね。仲良くしてもらえると助かるな」

 

 

そこにいたのはルシフェルだった。







ノロマ更新なのはどうにかしたいと思いつつオリジナル展開だとどーにも……筆が……

皆どうやってオリジナル展開で面白く描けるん?私にも才能分けて(切実)

さてここからは神夏ギルの物語。

頑張って書き上げます。


読んでくださりありがとうございました。
評価や感想をいただけるととても嬉しいです


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56話 転校生

「神夏・M(ミラ)・ルシフェルと言う。イギリスの生まれだ。名前から察してもらえる通り神夏ギルとは姉妹でね。仲良くしてもらえると助かるな」

 

突如来た転校生の自己紹介にクラスの大半がザワザワと騒いでいた。

しかしその中の4人は険しい顔をしていた。

 

「呼ぶときは長いだろうからルシフェル、ルシとでも呼んでくれ。僅かとはいえ君達と共に良い時間が過ごせることを祈ってるよ」

 

猫被っているのか、ルシフェルは人受けのいい笑顔を見せ、それによりクラスの約半数からの黄色い声を受けていた。

そして担任に促され肩書き上は姉妹である神夏ギルの横へ何食わぬ顔で座る。

 

「やあ姉君。少しの間だけどお世話になるよ。何をそんなに険しい顔をしているのかは知らないが、ここでくらい普通に笑ったらどうだい?せっかくの美人な顔が台無しだぜ?胸も控えめなのにソレだとモテるものもモテないよ」

 

「ぶっ飛ばすぞお前」

 

「おお怖い怖い。士道。私の姉様が酷いこと言うんだがどう思う?」

 

「え?えーと…」

「黙れよルシフェル。今の士道は『私の』だ。いくらお前とは言え手を出したら…」

 

「ふふふ。『私の』ねぇ。少し前と随分違うじゃないか」

 

ルシフェルに指摘された神夏ギルは思わず口を手で塞ぎ僅かに頬を赤くした。その様子が面白かったのか小さく笑っていた。

 

「クク…冗談さ我が宿主神夏ギル。今の私は一介の生徒にすぎない。余程のことがない限りこの生活を壊そうなんて思っていないさ」

 

「その前にお前を串刺しにしてやってもいいんだよルシフェル」

 

「戯言を。人間の王如きに精霊の力を封じられてる君に出来るとは思えないな。おっと、授業開始らしい。姉妹喧嘩はまた後でやるとしようか」

 

「……良いよ。完膚なきまでに殺し尽くしてやる」

 

「おお怖いねえ」

 

 

 

 

 

「おいおい姉君。寝てて良いのかい?」

「……」

 

「先生。我が姉君はいつもこんななのかい?」

 

「え、ええ。何度か注意はしてるんだけど本人の体質でどうしても眠くなっちゃうとかで。成績はいいからあまり強く言えないんですけど…」

 

「ふーむ。わかった。教えてもらおうと思っていたがコレとは……五河士道、代わりに教えてもらえるかい?」

「お、俺か?いいけど……」

「ダメ。私が教えるから」

「起きてるじゃないか姉君。どうしたんだい?愛しの五河士道がとられるとでも思ったのかい?」

「何?教えてほしくないの?」

「冗談さ。そうだ姉君。別に取り合うんじゃなくて私と姉君との共有財産にして仕舞えばいいんじゃないか?」

「一旦黙れお前」

 

 

「あのー、授業中なんですけど…」

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫か?」

「ノ、ノープロブレム‥とは言い難いかな…」

 

めちゃくちゃ気分が悪い。ルシフェルと変に言い争っていたのもあるけど、それ以上に私にだけ霊力を当ててくるからほぼ生身な私にとってはとてつもなく辛い。

 

「士道!昼餉を食べよう!……神夏ギルも一緒にどうだ」

 

「んにゃ、私は気分悪いから保健室行くよ。悪いね十香」

 

「それなら連れて行こうか?」

 

「いやいいかな。一人で行けるから。……何ルシフェル」

 

クスクスと笑い声が聞こえてきてそれの発生源へ目を向けると悪戯がバレてしまったかのような笑みでこちらを見てくる。

 

「別に何もないさ。あの姉君に友達ができたかと思うと感慨深いだけさ」

 

「んじゃ保健室行ってくる。士道、十香達は任せた」

 

「おう。……本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫。体だけは頑丈だから」

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろかな」

「ん?どうしたんだルシフェル」

「何を企んでるのだ」

「いや何もないさ。それと……我が同胞はいい加減睨むのやめてくれないかい?」

「断る!お前から目を離すと碌な事にならないのは理解している!」

「非道いなあ。何もする気はないよ。この楽しい空間を自ら壊すようなことはしないさ。

 

 

……今は、ね」

 

 

 

 

 

 

「やあ鳶一折紙。こうして話すのはいつぶりなのだろうね」

 

保健室に入ると同時、白髪のAST鳶一折紙に話しかける。今にも殺してやると言った目で見てくるがそれは流そう。

 

「要件は何」

「そう邪険にしないでくれ」

「お前達精霊の言葉を信用する価値はない」

「それを言われると頭が痛い。仮にも今の私は普通の人間と大差ないんだけど」

 

実の親を殺されてるのだから無理もないのだろうけど。にしたつてクラスメイトなんだから少しくらいあるんじゃないのかな。

 

「早く本題を言って」

 

「急かさないで…と言いたいけどそうも言ってられないのも事実だし。単刀直入に言わせてもらうとするよ。

 

鳶一折紙。----------」

 

私の言葉で鳶一折紙の顔が引き攣っていた。信じられない、そんな感情が露骨に出ている。

 

「……っ、ふざけてるの?」

 

「ふざけてないさ。マジメもマジメ。大真面目さ」

 

「あなたにどんな利益があるというの」

 

「無いね。強いて言うならアイツの裏にいるとある奴を引き摺り出せるかも、というあたりだけどそれはできなくてもいい。私の最優先目的はさっき話したこと。それだけ」

 

「理由は?」

 

「理由?そんなもの対峙した君が一番よくわかってるんじゃないの?アイツは殺すべき存在だって」

 

「……」

 

「それにさっきの話を呑んでくれるなら、これ、あげるよ」

 

「…それは?」

 

ジャラと音を鳴らしながら見せたものを怪訝そうな目で見てくる。それを気にせずに説明を続ける。

 

「見たことあるでしょ?なんせ君が壊した事のあるものなんだから。それに君の悲願とやらを達成させるために一番欲してやまないものでもあるはずだよ?精霊の力を封じ込めるこの鎖は」

 

「……〜〜っ、考え、させて」

 

しばらく葛藤していたが小さく捻り出したような声でそう答え、前向きな答えが得られただけでも満足なので一旦は話を切り上げようかな。

 

「勿論。だけど時間は殆どない。それだけは念頭に置いててくれよ?でないと、最悪の事態になりかねないからね。崇宮真那にも同じような話はするつもりだからそのつもりでね」

 

「何故?私だけだと力不足と言いたいの?」

 

「違う違う。戦力はひとつでも多いに越したことはないからね。ただそれだけ」

 

「……わからない。お前の話が本当なら、何故そうもソレにこだわるの」

 

「なんでと言われても、それが最善だと信じてるからね。……話はコレで終わりにしよう。じゃあまたね。良い返事を期待してるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜???〜

 

「これはこれは、親愛なる母君。不要の荷物である私に一体なんの御用で?」

 

【……君は、何をしたいんだい?】

 

「はて?何と言われてもね。そんなもの決まりきってるじゃないか」

 

【その為だけに、こんなことをしようとしてるの?】

 

「私が何をしようが勝手だろ?私にとっちゃ士道さえいれば他はどうなろうが知ったこっちゃない。ソレに関して母君に言われる筋合いはないね」

 

【はあ…一体誰に似たのだろうね】

 

「さあ?私は誰にも育てられた記憶がないからね」

 

【君や彼女を見てるとつくづく思うよ。不穏分子は早めに消しておくべきだって】

 

私に話しかけてきたナニカは愚痴だけを溢したかと思えば目の前から消えた。引きこもりらしく一生引きこもってれば良いものを。

 

「……おっ?第一号の完成かな?さてはて、楽しくなってきたね」

 

目の前に零れ落ちたソレは崩れることなく立つ。うんうん、ひとまずは成功と言えるかな。

これを見た時の神夏ギルや他のマガイモノ達の反応を見るのが楽しみだ。

 

 

 

「ああ……この世に同じ存在を2つ創り出せたら……一体何が起こるのだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?ここは……」

 

目が覚めると白いモヤモヤした空間に居た。全く知らない場所なはずなのにどこか安心するような、そんな気がした。

 

『神夏ギルよ』

 

「……?っ!」

 

その人の姿を見て反射的にその場に跪く。

間違えようも無い、王様だった。だけど表情はどこか険しいようにも見えるし、和やかなようにも思える。

 

『久しいな。精霊の力を封じているからか外の世界は存外楽しめたように見える』

 

「い、いえ。その……」

 

『良い。咎める気など無い。むしろようやく其方の本来の姿を見れたと言うものだ。して……ルシフェルとやらを殺すために動いているな?』

 

「はい」

 

『ほう?否定しないのか』

 

「私めが王様へ虚偽の報告をするなど。それに五河士道の策が失敗した時のための保険になれば、と思い動いております」

 

『其方自身は精霊の力を扱えないのに、か?』

 

「たとえ精霊の力を扱えずともやれる事はあるかと」

 

『ふむ…覚悟はとうに決めているようだな』

 

「はい」

 

『であるならこれ以上我から言うことは無い。これより先は其方の力のみで行え。持てる全てを使い奴を殺せ。ま、道化が懐柔できたら話は別だがな』

 

「そうですね。それが一番ありがたいです。けど……王様、ひとつだけ伺っても宜しいでしょうか?」

 

『よかろう。述べてみよ』

 

「……私に天の鎖が埋め込まれてるのは、やはり王様が?」

 

私がいまだ霊力を使えない理由。令音さんから教えてもらったことから推察するに、多分だけど天の鎖が埋め込まれてるから、そう思って聞いてみるとなんでも無いかのように王様は答える。

 

『ふむ。そうさな。確かに我が埋め込んだな』

 

「理由お聞きしても宜しいでしょうか?」

 

『ふむ。理由は幾つか有るが…その前に神夏ギルよ。お主の体についてはどこまで知っている?』

 

「大まかには」

 

体、と言うと令音さんから聞かされていたことだろうと思い返答をする。その間も王様は神妙な顔でこちらをみる。

 

『ならば分かっておるのだろう?其方の結末がどのようになるのか』

 

「はい」

 

『……なら良い。ならば我から言うことは無い。さてお主の体の内に在る天の鎖だが……」

 

 

 

 

 

 

「……そう、ですか」

 

『さて神夏ギルよ。其方に改めて問おう。其方は何を成す?』

 

「私は、この命在る限り貴女様に仕えると決めております故。ですが…その前にルシフェルは私の心の弱さのせいで生まれた産物。ですので私がケジメをつけるべきでしょう」

 

『ほう?なんと言ったか、殺したいほど憎しみを抱いていた雑種はどうする?』

 

「……救える手段があるかもしれないと、わかったんです。ですので……やれる限りのことはやろうと、そう思いました」

 

『ほう…ならば良い。例の道化への対応と言い、随分と変わったものだ』

 

満足したのか王様は私に背を向け何処かへ行こうとしていた。最後に一言だけ言いたくて、言葉をつづける。

 

「本当不思議です。私自身も驚いてます。それに…ルシフェルを止めて且つアイツを救う。それと同時に五河士道達も守る。そんなことが出来たら…最高じゃないですか」

 

その瞬間、王様の体がピクリと少し揺れた。それに気づいたけど何も言わずに言葉を続ける。

 

「自己の限界に挑戦し続ける。それがヒトですから」

 

『左様か。其方の覚悟は理解した。努、その在り方を損なうでない。我は特等席で見させてもらうとしよう』

 

「ハッ。存分にお楽しみください」

 

 




やはりオリジナル展開となると……難しいですね。

頭が痛くなってきますが…楽しい(

最近は文字を書くお仕事貰えたりしてるので書き方がビミョーに違ったり、前の書き方と違っていたりで苦労しましたがなんとか納得のいく形で終わらせたい…です

頑張ります



読んでくださりありがとうございました。
感想や評価などをいただけるととても嬉しいです


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57話 ルシフェルの産み出したモノ

注意
今までで一番グロテスクな表現をしたかもしれません

自分の想像を膨らませて書いた結果筆がのりました

何故でしょうね


ソレではどうぞ。



「……え?ちょっともう一回言ってくれ」

 

「だから、再来週の週末が4連休になっただろ?だから神夏と一緒にイギリスに行くって話になったんだけど殿町も来ないか?」

「別にデートとかというわけでもないし、ただ故郷帰りをするだけなんだけどね。ついでに観光でもどうかな、と思ったんだけど無理なら…」

 

「もちろん行かせていただきます!」

 

「な?」

「そ、そんなに嬉しいもの…?」

「あったりまえです!神夏さんの生まれ故郷に行けるなんて、しかも一緒に!なあ五河、これ夢じゃないよな⁉︎」

「はいはい。夢じゃないぞー殿町」

 

神夏とのイギリス旅行の件を殿町に伝えると一瞬固まっていたがすぐさま喜びに満ちた顔になっていた。……けど、俺英語を喋れないけど大丈夫なのか?

 

「あ、神夏さん。一つだけいいっすか?」

 

「うん?どうかした?」

 

「俺、あんまり英語を喋れないんですけど大丈夫ですかね?」

「あ、それだと俺もだな。神夏、大丈夫そうかな?」

 

「あーうん。多分大丈夫じゃないかな。ホテルとかの人はゆっくり喋ってくれるだろうし。基本的な会話さえ覚えていればなんとかなるよ。多分」

 

どこか行く際の会話は私が受け答えすればいいし、ホテルはラタトスクが用意してくれるらしいからなんとかなるでしょ。

 

「他には特に大丈夫?」

 

「そうですね。……お金ってどうするんすか?」

 

「ああ、お金なら事前に両替しておけばいいよ。銀行だとか、空港でも両替してくれるし。最悪イギリス(むこう)の空港でも両替してくれるから。あ、ホテル代と飛行機代は考えなくていいからね。その辺は向こうの知り合いが出してくれるって話だから」

 

こうしてると今まであまり交友を持ちたがってなかった神夏が他の人と普通に喋っているのを見ると、変わったなとふと思う。

 

「……何、士道。何か変なものでも見た?」

「いや、何でもないよ。それよりも他に必要なものや注意すべきことってあるか?」

「あーそうだね。確か…何ていったっけな。海外旅行の保険に入っておくと安心だとか聞いたことあるかな。携帯のネット環境は私が用意できるから気にしなくていいのと、気をつけることとなると絶対に1人行動しない、余程のことがない限り夜に出歩かない、外に出る用のカバンの中に貴重品は絶対に入れない、帰る時以外は財布の中にお金は必要最低限だけ、外で知らない人に話しかけられても1人で対応しようとしない、くらいかな」

「け、結構あるんだな…」

 

思ったよりも多く出てきて困惑してるとさらに神夏が追加で教えてくれる。

 

「基本的に全部スリだとか詐欺対策だね。1人で出歩かないは言わずもがな。仮に1人の時に知らない人が話しかけてきて、例え困ってそうな感じで話しかけてきてもカバンを手に持った状態でハッキリ『sorry I can't it』って言う事。可能ならガン無視がいいとは思うんだけど無視したらしたで変な罪悪感に見舞われると思うから、私にはできないってはっきり、強く言っておいた方がいいかな。下手するとパスポートごと取られて日本に帰国できないとかなると嫌でしょ?」

「確かに……」

「あ、パスポートで思い出したけど、パスポートは流石に自前で用意しておいてね、ってことくらいかな。確か最短でも1週間は必要だから、それにだけは注意しておいてね。んで、他の人も…2〜3人くらいなら好きに誘いなよ。観光は1人でも多い方が楽しいだろうからね。だけど数多くなりすぎるのも纏めるのめんどくさいから多くて6人くらいになるよう士道達で話し合って誘ってよ」

「わっかりました!お誘い頂きありがとうございます!マイベストフレンド五河士道もありがとうな!この話をいの一番に持ってきてくれて!」

 

と、ハイテンションな殿町はそのまま自分の席へ戻っていった。

 

「よほど嬉しいようで…」

「ま、まあな。殿町曰く、ルナのことずっと気になってたみたいだぞ?」

「へぇ、物好きだね。……それよりもルシフェルの奴いないけど、何か知ってる?」

「いや、それが俺もよく知らないんだ。ただ今日は休むってことだけ言われて、朝からいないんだ」

「ふーん…ふぁ…それじゃ、私はしばらく寝る…おやすみ…」

「お、おう。おやすみ」

 

授業がもう始まるんだけど…とは思ったけどいつも通りと思い次の授業の準備を始める。

 

 

 

その瞬間

 

途方もない寒気が襲った。

 

 

 

その発生源がどこかはハッキリとは分からなかった。でも何となくだけど、窓の外を見てしまった。

 

 

「うわ?」「あれ?」

 

「おい。うわ。めとさつ」「うん。あれ。みつけた」

 

「めとさつ。めとさつ。くかをお」「みつけた。みつけた。かえろう」

 

そこから聞こえてきたのはよく分からない言葉。日本語には聞こえたけど意味がわからなかった。そして次の瞬間にほんの少しだけ見えたのは、黒っぽいナニカ。鳥とか、そういったものじゃなくもっと別のもの。

 

「な、なあルナ。今何か聞こえなかったか?」

「んー?いや?特に何も?気のせいじゃない?」

「そ、そうか…?」

 

気のせい…なのか?いやでも、確かに……。

 

「心配なら、ラタトスクにでも調査頼んでみたら?私も少しお願いしたいことがあるし」

「あ、ああ。そうするよ」

 

拭おうにも拭いきれない不安を何とか飲み込むも、今日1日はそれが気になり授業どころではなかった。

 

 

 

 

 

 

〜2週間後〜

 

「それじゃあ皆、忘れ物無い?特にパスポート」

 

空港に集まった面子に聞いてみると全員から大丈夫と返ってくる。

最終的に集まったのメンバーは士道に殿町、風の双子精霊、それと殿町の友達という男子の前原という人が1人の計5人、私含めたら6人だね。

 

「ん、ならひとまずは大丈夫かな。それじゃあ、はい。これ飛行機のチケットね。どうせだからくじ引き方式で席決めよっか。恨みっこ無しで」

 

「さんせーい」

「ふふ、颶風の巫女の力を以ってすれば狙いの席を引き寄せるなど容易いことよ」

「同意。2人で士道の横を引き当てて見せます」

「神夏さんの横神夏さんの横…」

「俺は最後でいいから他のみんな先に引いててくれていいよ」

「と、士道が言っているので私と士道以外の4人で先に引こうか。私も別にどこでもいいから」

 

と、適当にチケットをシャッフルしてみんなに引いてもらう。

3席×2だから、まあ、何人かは希望に添えない席になるだろうけどご愛嬌ということで。

 

「はい士道。先に引いて」

「お、おう」

 

空いている席は前後共に真ん中の席。前列には八舞耶倶矢と殿町。後ろの列には八舞夕弦と前原君が。ごめんね、前原君には悪いけど本当に君のこと今回初めて知ったから何も言えない。

 

「じゃあ俺はこれで」

「それじゃ私はこれか。あーE列だから前列かな」

「だな。俺はF列だから後ろだな」

 

何人かは喜び何人かは悲しみに明け暮れているが、まあ運だからしょうがないね。

 

「それじゃ長い長い空の旅へみなさん、ごあんない〜」

 

約14時間。6時半発のだから明日の朝9時ごろに着く感じかな。

……ヘブンズフィール全部見るとして、あとは何をして時間潰そうかな。

ヘブンズフィールは知り合いと見るとすごく気まずくなるとは思うんです。まあそんなもの関係なしに見るんだけど。

 

「なあ…神夏」

「ん?」

「その…辛く、ないのか?」

「何が?」

 

搭乗口へ向かう途中、神妙な面持ちで士道がそう言ってくる。はて?何があったっけ。

 

「あーその、神夏の故郷ってことは、その…」

 

「そうだね。私が嘗て許されざる罪を犯した場所だね」

 

何を心配されているか分かってしまった。さも何でもないかのように流せれば楽だったんだかど、今の私にはそれすら無理らしい。

 

「大丈夫だから。心配しないで。……覚悟は、決めてるから。自暴自棄にもならないし反転する気もないから。ただ…お墓参りは行きたいから、その時は付き合ってくれる?」

 

「っ、ああ。もちろんだ」

 

「ふふっありがと。さ、はやくいこう。乗り遅れたら面倒だから」

 

小さく笑ってみせながら士道の手を掴み飛行機へ向かう。

こんな話題は早く切り上げるに限るね。

 

 

 

だが、士道だけはこの時の彼女の笑顔が偽りだと、無理をしていると、見抜いていた。それを指摘しようにも彼女の笑みに言うことができなかった。

 

 

それを心底後悔する羽目になるとは知らずに。

 

 

 

 

 

〜同時刻 DEM社〜

 

 

「これは……」

「いやはや、これほどとはね」

 

「間違っても手を出すなよ。どうなっても知らないからね」

 

DEM本社のとある階層を丸ごと使いルシフェルは実験を繰り返していた。

次から次へと持ち込まれている大小様々な(モノ)を使って。

 

それを確認するためウェスコットとエレンはルシフェルと共に実験場へ足を踏み入れた。

 

そこにいたのはクローンなのではと疑うほどに見た目がほとんど同じ生物。いや、生物と呼ぶのも何処かおかしいと2人は感じていた。

全体的に黒っぽい体をしており手足と呼べるものはなく、代わりに4本の蜘蛛のような脚が四つ。顔のような位置には目や鼻は無くあるのは顔の縦いっぱいに広がるようについている口のみ。

 

生理的嫌悪感を見た目からひしひしと感じさせるソレら全員が一斉に、入ってきた生物三体のほうを向く。

 

「きくうすい?ちひねいざいふぬね?」「おかあさん?そのにんげんはなに?」

 

「気にしなくていい。無視してて」

 

「ほーえ」「はーい」

 

「あと私のことをお母さんと呼ぶな」

 

数多くいるうちの一体がルシフェルの横まで近づき、ウェスコットとエレンの方を向きながら意味のわからない言葉を放つがルシフェルはそれを理解しているのか普通に会話をする。

 

「エレン、()()()に勝てるかい?」

「無論です。が…私以外となると、そもそも立つことすら難しいでしょう」

「そうだね。とてつもない不快感だ。だけどなぜか人間と同じ感じがするんだよ」

「人間に…?これがですか?」

 

突拍子もないことを言うウェスコットにエレンが怪訝そうな顔をするがそれに答えを出したのはルシフェルだった。

 

「そりゃそうだろうね。こいつらはあくまでも『人間の代替品』で、一応名目上は『完成された生物』であり、『新人類』なんだから。そこまでの権能を再現するには私のキャパが足りなかったせいでコイツの種子を顕現させるのに少し苦労したが、一個体でも再現できればあとは勝手に増えていく。これも我が宿主とマガイモノのお陰だ。今だけは感謝しているよ」

 

何十、何百にも思える群れがまるでモーセの水割りの如く左右に分かれできた道を進み奥へ向かう。最奥には、一つの塊が。

 

「ああああ。あああいざくくささま。えれれれんささまま。変変変なななんでです。ななんどもも、からだだ、ちぎぎられれていいいのに、くくかくかき、しぬぬほどくるるしいののに、ちちっともも、しねねねないんです。おねねがいいいしますすす。たすすふけて」

 

もはや人と呼ぶことすら躊躇われる程、ナニカと融合しかけている生命体がいた。必死に手だったモノを伸ばし、救いを求めるもすぐに床へ落ちる。

 

「ルシフェル。どうやってここまで増やしたのか、見せてもらえないかい?」

 

「また物好きな。ま、いいけど。…うん、やっぱり栄養状態さえ整えれば再生は早いみたいだね。おーい」

 

「ふーえ」「はーい」

 

「新しい子、今作ってみて」

 

「いくっつ。そごねよろは」「わかった。すぐにやるね」

 

ルシフェルがそういうとまたもや謎の言語を話し、1匹は別の部屋へ、1匹は目の前にある生命体の前へ。生命体の前にたった1個体は、蜘蛛のような四肢を勢いよく、何のためらいもなしに振り下ろし、拳大の肉片をソレから切り離す。

 

「いいだだだあい。もううううやめててててて。もうううころろろろして。おねねねねがいしますすすす」

 

不協和音のような悲鳴を出し、みなが思わず眉を顰める。拳大の肉片を切り取られたソレは出血するどころか血は全く出ず、数秒かからないうちにすぐに再生し元通りになる。

 

「ゆっなけつり」「もってきたよ」

 

「やめろ!離せ!触るんじゃねえ!」

 

別室に行った1個体は1人の男の人間を連れてくる。服らしい服は着ておらず、精々一枚布が秘部を隠しているのみ。

蜘蛛のような脚をしているソレがここまで持ってくるのにどうしたか。答えは簡単で刺して移動させてきていた。

 

「言っとくけど、グロテスクだからね?」

 

ルシフェルの前置きに対する反応を聞かないまま、肉片を持った個体が人間の心臓部分に埋め込まれる。

人間の皮膚に触れた瞬間、肉片が動き出す。最も近い臓器へ。麻酔も何もされていないのにどのような痛みが伴っているのか。うるさいからと口を塞がれ、叫ぶことも気絶することも許されない男は己の大事な部分が何かに食べられていく感覚を意識がなくなるまで味わい続けた。

 

男が指先一つ動かさなくなると次の瞬間、男の体が急速に変化する。

手足が段々と小さくなりダルマ状態に。そこから一本の突起が生えたかと思うとそれが四つに分裂し伸びていく。顔は口以外の全てが消え、代わりに口が縦に大きく裂ける。

 

虫が裏返ったかのような格好をした元人間は意識らしきモノを取り戻すとひっくり返り顔をルシフェルへ向ける。

 

「……きくうすい?」「……おかあさん?」

 

「お母さんって呼ぶな。それよりも、おはよう。気分はどうだい?」

 

「……きわ、ぬね、そわぶ、うう?しをたぶうう?」「……おれ、なに、すれば、いい?ころせばいい?」

 

「殺さなくて結構。この2人の顔は覚えてろ。手出し厳禁。他詳しいことは別のオマエから聞いてな」

 

「んくっつ」

 

元人間だったソレは、他の群にまるで蟻のように混じる。もう既にルシフェルもどれがさっき作られた個体かはわかっていなかった。

 

「ね?グロテスクでしょ?私も出来れば見たくない」

「確かに。だけどルシフェル、これは人間の自我というのはどうなるんだい?」

「基本的には消える。人類という種族から新人類という種族へ根っこから変わっているから。()()()()食べるという行為も必要ないし生殖行動をする必要もない。自分たちで無性生殖をして勝手に増えていくしアレラの個体同士で情報を共有できる。だから『自我』というものは持っておらず、全員が同じ目的へ向かって同じように動ける存在だ。

 

……私からしてみれば、どこが完成した生物だか」

 

ルシフェルはこれ以上この場にいたくないのか部屋から出て行こうとしウェスコットとエレンも追従する。

 

「ルシフェル、本来、ということはあそこにいる個体群は違うということかい?」

 

「チッ、聞き逃さなかったか。ああそうだよ。あいつらは敢えて本来の存在から引き離した状態で作ってある。生への執着心もあるしあいつら同士の中で親友だとか友達だとかって概念もあるだろうし人間社会みたいな構図をしているところもある。個体ごとの自我もあるだろうね」

 

「そう、そこだ。1つ不思議に思ったんだ。個体ごとの自我、完成された生物としてはそんなものは不要な筈だ。その自我は一体何のために作ったいうんだい?」

 

まるで無邪気な子供のような笑みを浮かべながらアイザック・ウェスコットは尋ねる。新しいおもちゃを見つけたかのように。

 

「はっ、顔がそう言ってないぞ愚者。答えなんて分かりきってるだろう」

 

「もちろんだ。だけど何事も答え合わせというものが大事だろう?」

 

「ははっ、いい性格してんねぇ。私よりもオマエの方がよっぽど人類の敵に相応しいんじゃないか?」

 

「褒めてもらえて光栄だ」

 

「褒めてねえよ。んじゃ答え合わせといこうか。理由なんて単純明快だ。

 

 

 

己の大切な人間が化け物に変貌、そして自我を持っている。ソレほど楽しいことは無いと、そうおもわないかい?」

 

 

 




FGO7章アニメ履修者へ
これは出したということは、わかるな?

未履修の方へ
意味不明な言葉の横を暗転させてみましょう
さすれば意味が理解できよう

本当はゲームの方の言語にしようと思ったけど流石に面倒だったのでアニメを採用しました。

さーて楽しくなってきた


読んでくださりありがとうございます
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58話 故郷へ

最近筆のノリがいい
こんなに早く続きを書けたのは久しぶりです

それではどうぞ


「んーっ。14時間の空の旅、お疲れ様」

「お疲れ様っす!」

「お疲れ様神夏」

「雲の上があんなに綺麗とは…」

「驚愕。素晴らしいものを見ました」

「神夏さんの横に座れただけでもう、死んでもいい…」

 

若干一名謎な感想を抱いていらっしゃるが、死なれては後味が悪いので思う存分生きてください。

 

「荷物もみんなとったかな?それじゃ、知り合いが近くに来てくれてるみたいだから行こう。くれぐれも貴重品は手元から離さないのと、知らない人に話しかけられても手を取ったりせずに断ること。でなきゃ帰れなく…」

 

「Hi〜!」

「え?えっと、は、はろー?」

「〜〜〜!」

 

そんなことを言っていた矢先、殿町(呼び捨てで呼んでくれと言われた)がいかにもな金髪なお姉さんという感じの人に話しかけられている。それに応えてしまっていて、金髪から早口英語で捲し立てられている。

 

「〜〜〜!」

「お、おー、イェスイエス?」

「じゃ、ないでしょ。殿町」

「あっ!え、えっと神夏さん。この人なんて言ってるかわかりますかね?早口すぎてなんて言ってるか」

「…あー、ちょっとだけ待ってね。〜〜〜〜?」

「〜〜〜〜?」

「〜〜〜!」

「〜〜〜?」

「〜〜〜………fucking get out of my sight , bitch , with this guy。OK?」

 

目の前の女とはさも他人かのように、まるで通行人かのようにさりげなく近づいて私のバックに触ろうとしていた女の手を思い切り掴む。そいつの手をミシミシと音がなりそうなくらいに握り、普段使わないような強い口調で金髪の女に押し付ける。

 

「〜〜!」

「〜〜〜?〜〜〜〜」

「⁉︎You’ll regret this!」

 

最初こそ私の言い方に怒っていたが空港にいる警備員を呼ぶそぶりをした瞬間、最近の悪役でも言わないような捨て台詞を言いながら逃げていった。(ちなみにだけど「後悔するぞ!」って言ってました)

知らない人とか言ってたはずの2人はそんなことを気にする余裕もないのか、仲良くそそくさと立ち去って行った。

 

「ま、こうなるわけ。殿町、あのままだったらその旅行バッグごと持っていかれてたよ?」

「ええ⁉︎」

「さっき私が掴んだ方の女と金髪の女はグル。片方が気を引いて片方が荷物を取るコソ泥の常套手段。改めて言うけどここは日本ほど治安良くないからもう少し警戒心を持ってね」

「き、肝に銘じておきます!」

 

敬礼のポーズをしながら返事をしたので、今後は多分大丈夫、と思いたい。みんなにも初っ端に経験してもらったから肝に銘じられたと思う。

 

「それじゃあ…えーと、空港から出て…」

「神夏、途中なんかすごい言葉…言ってなかったか?」

 

と、地図を確認しながら歩いていると士道がそう小声で言ってくる。

 

「ああ、うん。言ったよ。今すぐ視界から消えろビッチ共ってね」

「そんなこと言ったのか⁉︎だ、大丈夫なのか?後から何かしてきたりとか…」

「ダイジョーブダイジョーブ。ま、追い払うときの常套句みたいなものだと思ってくれたらいいよ。えーと、赤いワゴン車……みっけ」

 

士道の言葉を半分くらい聞き流しながら駐車場を探すと事前に教えられてた車を見つけ全員でそこへ向かう。ちなみにだけど私の胸を見て鼻で笑って馬鹿にしてきたからキレたわけではない。断じて。本当に。

 

「Hello」

「あら、日本語で大丈夫ですよ。初めまして神夏様。お友達の皆様方」

「あ、ほんとです?初めまして。えーと…」

「これは申し遅れました。私は送迎を一任されたルイスと言います。日本には何年か住んでいたこともあって日常会話なら喋れますのでご安心ください」

「御丁寧にどうも。ルイスさん。この人達が今回のイギリス旅行に来た友達です」

 

私の言葉を皮切りにちょっとした自己紹介タイムを挟む。それから運輸業者なんかを用意してくれていたみたいでボストンバックなどの大きな荷物を先にホテルへ輸送してくれた。

 

 

……うん、あとどっかで見たことあるなと思ったけど、これラタトスクの人だ。士道も気づいたのかパチクリしているし。

 

 

荷物の輸送が終わって、また席を決めると言うことでくじ引きで天国と地獄を味わってそうな感じになり皆でワゴン車に乗り込む。

 

「それではどちらへ向かいましょうか?どこでも、とは言えませんができる限りお連れしますよ」

「じゃあ最初は大英博物館で。そのあとはその場の流れで」

「かしこまりました」

 

後から今日1日は何ヶ所かの観光しあとはそのままホテルで体を休める予定を伝え、みんながピックアップした行きたい場所のリストをルイスさんに渡す。あとはこの人が多分、いい具合にしてくれるでしょう。

 

 

 

 

「では私はこれで失礼します。また明日よろしくお願いします」

「はい、ありがとうございました。お休みなさい」

「お休みなさいませ。……Is it okay to cross the line?」

「Don't do it!」

 

最後にとんでもないことをぶち込んできて、思わず大声で返してしまう。周りの通行人とかがこちらを見てくるがそんなのは梅雨知らず、笑いながらルイスさんは車に乗ってどこかへ行った。

 

「なあ、ルイスさん最後なんて?」

「……イチャコラして一線超えちゃダメだぞ?だってさ。だから、やるかボケ!って返しといた」

「…お疲れ様」

「本当にね。で、部屋割りは決まった?一応男女混合部屋にもできるって言われたけど」

「絶賛そのくじ引き中。あとはルナと耶倶矢だけで殿町がいつもの如く天に祈ってる」

「ああ、なるほどね。みんな男女混合には賛成なんだ。別にいいけど」

 

そして起こったのは殿町の歓喜に満ち溢れた声。と言うことは私は殿町の部屋らしいね。

 

「で、もう1人は?」

「俺だな」

「ああなるほど。道理で双子さんもあまり気落ちしてないわけだ」

 

盛り上がってる4人の横を通り、チェックインをササっと済ませて鍵を受けとりみんなに分配。このあとは自由時間の予定なので私は部屋でゆったりする予定。

 

「それじゃみんな。改めて言うけど外に行く場合は必ず部屋の人みんなで行くこと。それと外に出ることを別部屋の人に伝えてから出ること。これで襲われちゃいましたって言われても私は何もできないからね?」

 

みんながはーいと返事をし、エレベーターへ向かう。みんな今日行った場所がどうだったかとか、明日どうするかなどの話をして盛り上がっていた。

 

 

 

 

だけど私は、明日のことを思うと途端に体が辛くなる。

行きたくない。

 

だけどいかなきゃ何も始まらない。

自分への戒めのためにも、私は行かなくちゃならないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「琴里ー!」

「はいはい。落ち着いて十香」

 

フラクシナスのある一室に十香がやってきた。十香だけじゃない、四糸乃に美九もやってきていた。

 

3()()()()()()()()()

 

「それで改めて聞くわ。みんな何があったのか教えてくれる?そうねぇ、四糸乃から」

 

「は、はいっ」

 

手にパペットをはめている蒼髪に蒼眼な子、四糸乃は少し震えながらもゆっくりと口を開いた。そして信じられないようなことを語った。

 

「な、なにか、変な感じがしたんです。誰かに見られていると言えばいいでしょうか。それで振り返っても何もいなくて。勘違いかなと思ったんですけど、少しあるいたらまた、変な感じがして。それに…感じたのが、人とか、犬や猫とは、全然違う感じがして……。それでちょっと声のようなものも聞こえたんです」

 

「その声ってどんな感じの言葉か、覚えてる?」

 

「え、えーと、確か……

『『めとさつ』って言ってたよん!よしのんも聞いたから間違いない!』

 

「めとさつ…。わかったわありがとう。それじゃあ次は十香。お願いできる?」

 

「うむ。…とは言っても四糸乃とほとんど変わらないのだが。私も何か変な感じ、誰かに監視されているような気がしたのだ。人とかあのメカメカ団とはまた違う、気味の悪い感覚だった。だけど私は四糸乃と違って聞こえてきたのは『うわふ ぬくむ』と言う言葉だったな」

 

四糸乃と十香は全く同じことを体験したらしい。そしてまた変な日本語ではあるけど意味のない言葉。以前に士道が聞いたものと何か関わりがある?これは何にせよ警備を強化すべきかしら。

 

「それじゃあ最後、美九。お願い」

 

珍しく大人しい美九に何があったのか尋ねると途端にビクッと肩を震わせた。何かに怯えているようだった。

 

「……最初は私も、四糸乃さんと同じで得体の知れない何かに見られている感じがしただけでした。けど振り返ったり空も含めて辺りを何回も見渡しましたけど何もいませんでした。怖くなってしまって少し走りながら帰ったんです。

 

その時に道をちゃんと見ていなかったからなのか普段は行かない裏路地に近い場所に、行っちゃいました。そこで早く元の道に戻らなきゃなとか思ったら……」

 

そこでまた美九の声が詰まる。いつも天真爛漫な美九とは思えないほど、何かに怯えている様子だった。

 

「……帰らなきゃな、って思ったら、グシャッて、何かを潰したりするような、音が聞こえたんです。それに付随して誰かが喋る声が。私が聞いたのは『つひせえ きえせえ』って声でした。…何をしてるんだろうと、音の方を、覗いて…覗いてしまいました」

 

「な、何がいたのよ」

 

「……あまり、信じられないようなことかもしれないですが、私が見たのは紫色の人じゃないナニカ、そうとしか言えないものでした。…怖くてすぐに息を殺して隠れちゃってあまりちゃんと見れていないんですが、脚が蜘蛛みたいに尖ってて、何かをいじくり回していたような、感じでした。

 

何と言うか、心の底から恐怖が、嫌悪感が湧き出てしまうような、そんなものでした。それを間近にした時は、ずっと隠れていたとは言え今すぐ逃げ出したいと、本気で思いました。…だけど『くかをお』って聞こえたと思うと、バサッと大きなと鳥が飛ぶかのような音が鳴りました。それで変な感じの、恐怖心とかが一気に消えて、改めて見てみると、そこには何もありませんでした。……私が言えるのは、これだけです。すいませんあまりお役に立てず」

 

「そんな事ないわよ。何か異変を感じたってだけでも私達にとってはありがたいのよ。それだけ貴女達を守れる可能性が高まるんだから。それじゃあ美九、大体どの変だったか覚えてたら教えてもらってもいいかしら?そこを中心に捜索をしてみるわ」

 

「は、はい。わかりました」

 

士道がや四糸乃聞いたと言う『めとさつ』、十香の聞いた『うわふ ぬくむ』、美九の聞いた『つひせえ きえせえ』。

つながりが全くわからないけれど調べてみる価値は大いにある。

 

「みんな、今日は、と言うか今後しばらくはフラクシナスに泊まっていきなさいな。襲われないとも限らないからね」

 

「う、うむ」

「わかりました」

『おっけーよーん!』

「わかりました」

 

元気のない美九を慰めるのに苦労はしたけど、夜には何とか元気を取り戻したようで少し安心した。

というよりは元気になりすぎていつも以上にスキンシップが激しくなってしまったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

『じやいぬすえ、きくうすい。めとくってょっつ』

 

「ふーん。ま、別にいいよ。どうせいつかバレる事だし。人間を無闇矢鱈に殺さなければいいから、引き続き監視ね。それといい加減に私をお母さんと呼ぶな。次そう呼んだら壊すぞ」

 

『んくっつ』

 

「……信用ならないな」




前話を投稿した時、何名かトラウマフラッシュバック!してるのを見て作者は愉悦に浸っておりました。

だがしかし作者にも致命傷ブーメランが届いておりますはい。

これを機にもう一度アニメのバビロニアおよびゲームの方のシナリオも読み直したんですがもう心ズタボロだが泣けるとか言う意味がわからない(


終局特異点も見ようかなと思いましたが寄り道が過ぎるので頑張って耐えました褒めて(



それでは読んでくださりありがとうございました
感想や評価をくださるととても嬉しいです。


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59話 お墓参り

【注】今回の話において「〜〜」の文章 『〜〜』の文章の二パターンあります。
今までですと神夏ギルの中にいる英雄王との会話だったり、通信越しでの会話だったりなどに用いていましたが今回の話においては
「〜〜」→日本語での会話 士道が聞いて理解可能
『〜〜』→英語での会話 士道が聞いて理解困難
となります。
それを踏まえてご覧ください

それではどうぞ


「……おはよ」

「おはよう神夏」

「神夏さんおはようございまっす!」

 

次の日、目を覚ますと既に他2人は起きていた。

相変わらずの時差ボケだぁね。これ、連休明け大丈夫かな。

 

「ふぁあ…士道、殿町。朝ごはんどうする?一応下のレストランに行けば食べれるけど」

「そうだな、どうせだから食べに行くか。殿町もそれでいいか?」

「勿論」

 

適当に髪を整えて財布などの貴重品を持って食堂へGO。勿論隣の部屋にいる3人も引き連れて。

その間も日本人が珍しいからか色々な客に話しかけられた。私が殆ど対応してたけど。

 

『いい1日になるのを願ってるぜ!』

『どうも〜』

 

だけどまあ、大半が普通にいい人で、なんなら色々お土産くれたりするしで好印象な人が多かったなぁ。

 

「ん、ここのホテルは当たりだね。不味くない。さすがは高級かつ旅行者向けホテル」

「高級ホテル⁉︎確かにやたらいいホテルだなとは思ってたけど⁉︎」

「うん。ちょっと値が張ったけどいいホテル探して良かったよ」

 

朝からみんなでワイワイとご飯を食べ、今日はどこへ行くのか、何を見るのか、何を食べに行くかなど話が尽きない。みんな私の故郷を好いてくれて嬉しい限りだね。

 

「それで、今日はどうするの?」

「バッキンガム宮殿から観光する予定ですよ。それからはまた、昨日のルイスさんにお願いしていい感じに案内してもらおうかなって」

「うん、いいんじゃないかな。…あ、だけど私と士道だけちょっと、後から合流することになると思う」

「え?」

「ごめんね殿町。私の叔父さんと叔母さんに会いに行くんだ。ちょっと連絡を取り合ってたんだけど、彼氏云々の話になって……その、顔を見せに来い!って昨日からうるさくてね。だから…ちょっと黙らせにいく」

 

実際は、違うけどその辺は士道に予め説明して話を合わせるように言ってあるから多分、大丈夫。

 

殿町と前原さん?がすごい悲しそうな顔をしてるけど、ごめんね。

 

「ルイスさんに付いてて貰うから大丈夫だと思うけど、それでも慢心せずに、ちゃんとルイスさんの言うことを聞くこと。いい?特にそこの双子。間違ってもやらかさないでよ」

 

「どう言う意味よっ!」

「否定。やらかすのは耶倶矢であり私ではありません」

「夕弦の方が酷いこと言ってない⁉︎」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあルイスさん、4人のことお願いします」

「お願いされました。それでは『頑張ってくださいね』

『……何を?』

『結婚の報告に行くんですよね?』

『行かないよ!』

『はっはっは〜ジョークですよ。…本当に、気をつけてくださいね。辛いと思いますが、私たちがいます。それを忘れないでください』

『…知っています。心配をかけるつもりはありません。でも、ありがとうございます』

 

からかわれながら殿町や八舞姉妹と別れ、士道と共に歩き出す。

 

 

 

 

両親が眠る墓へ。

 

 

 

 

「……」

「ル、ルナ。大丈夫か?」

「うん…だ、大丈、夫」

 

心臓がバクバクと鳴る。

だんだん呼吸ができなくなる。

あの時の光景がフラッシュバックする。

 

 

今すぐ逃げ出したくなる。

 

 

だけどそんなことは許されない。それに……自分で決めたことを今更捻じ曲げる気は、逃げる気は無かった。

自分への戒めでもあり……何よりこれ以上王様に格好悪いところを見せるわけにはいかない。

 

 

『お客さん。着いたよ』

『どうも』

 

タクシーに乗り、両親の墓のあるところまで連れて行ってもらう。

ロンドンより少し南方に下ったところの、私の故郷の近くに。

 

『だけどなんでこんな所に?ここは数年前の事故で何もないぜ?』

『その事故で両親が亡くなってね。そのお墓参り。そのついでに彼氏の紹介をしに来た』

『なるほどな…しっかり話してこいよ』

『ありがとう。良い1日を』

『そちらもな』

 

運転手に料金とチップを渡し、タクシーから降りる。辺りを見渡してみると運転手の言うとおり、建物が半壊していたり全壊していたり、一部は直っていたりはしてるけどあまり手が入っていない。

それ以外はパッと見、綺麗だけどそれだけで人の気配なんて殆どない。それこそ私の向かうお墓に数人いる程度。

 

「……」

「……」

 

いくつか墓石を見て回り、一つ、見えてきた事実が。

 

「(ははっ、なるほど。()()()()()()()()()()()()ってことか)」

 

墓石に刻まれている日付が全て同じ。つまりはそういうことだろう。

ここの墓石の数=私の殺した人の数ってことだ。ざっと見積もって100人は超えていそう。

 

「(思った以上に、くるなぁ)」

 

そんな自責の念を抑え込み、いくつも並ぶお墓の中のうち一つ、【KAMIYA】と刻まれた墓石の前に立つ。

 

 

覚悟は決めていたはずなのに

自分の罪を目の前にした途端、過呼吸が起きて息が出来なくなる。

 

「……」

 

士道はそんな私の背中を無言で撫でてくれ、完全にではないけどなんとか呼吸ができる程度までおさまった。

 

「ありがと」

「コレくらいなんともない。なんならずっとしようか?」

「却下。流石に恥ずかしい」

 

にやけながらそう言ってくるから半目で返す。

 

「でも…本当にありがとう。……うん、もう、大丈夫」

「そうか」

 

改めて自分の両親の墓石へ向き直る。

予め買ってきた一輪の花をそばにあった花瓶へ入れ、手を合わせる。

 

「……お父さん、お母さん。久しぶり。って、どの口がって思ってるのかな。まあ、うん。実際そう思われてもしょうがない程の親不孝者なのは、自覚してる。…そんな自分を少しでも変えたいって、そのためにやるべき事を全部やろうと思って来たんだ。それでまずは…お父さん達に謝りたくてここまで来たんだ」

 

 

何度も 何度も 深く深呼吸をして心を落ち着かせ 言葉を紡ぐ。

 

 

「お父さん、お母さん。本当に、ごめんなさい。

 

あの時、2人の気持ちなんか何も考えずに、勝手に泣いて、勝手に遠くへ行って、その挙げ句に手を出してはいけないものに手を出して、2人を、みんなを…。

本当なら、大量殺人者として裁かれてもおかしくないよね、こんなダメ娘。

 

だけど今はやることが、やらなきゃいけないことがあるから、悪いけど私の罪を償うのはそれらが全部終わってからになる。きちんと、やるべき事を全部やってから、また会いにいくから。もう少しだけ、待ってて。

 

……ああ、そうそう。それとは別件でね。1人紹介したい人がいるんだ。私、今は日本の高校に通ってるんだけどそこで出来た彼氏。五河士道って言うんだけど、めっっっちゃお人好し。私が向こうで死ぬほど辛くて自暴自棄になった時に見捨てずにずっと付き添ってくれてね。それから付き合う事に。……マイラ以外となんて、って思ってたから、自分でも驚いてる。士道も、何か伝える?」

 

「あ、ああ。そうだな…。えーと、初めまして。ルナと交際している五河士道と言います。ルナには…すごく振り回されてはいますが、それでも俺はルナと出会えた事に感謝しています」

「やだなー、やめてよ恥ずかしい」

「本当に思ってるからな」

「だからそれをなんの恥じらいもなしに言い切るのをやめい」

「神夏は不器用なところもあるけど、優しくて、想いやりもあって、それでいて…」

「だぁあ!やめいやめい!むず痒い!それよりも!他にいう事はある?」

「…ルナのお父さん、お母さん。ルナのことは、俺が必ず、守ります。貴方達の代わり…は烏滸がましいけど、それでも絶対に、ルナを悲しませたりしません」

 

と、耳を覆いたくなるようなキザな言葉を言って、最後に手を合わせて両親のお墓参りは一旦終わり。……で、ここに来るまでに一つ、見逃せないものが置かれていたから、そっちにも行かざるを得ない。

 

少し戻り、あるお墓の前で止まる。

そこに刻まれていた文字を見て士道が心配そうにこっちを見てくる。

 

「ルナ?ここって…」

「うん、マイラ・カルロスのお墓だね。やっぱりというか、表向きは死んでる扱いなんだよね。……複雑だよ。ちょっと前までは殺したいほど憎くてしょうがなかったはずなのに、今となっては……そんな感情も抱けない。もう自分でもアイツに何をしたいのか、何を求めてるのか、全くわからない」

 

少なくとも確実なのは

 

私が恋焦がれたマイラと修学旅行先で戦ったマイラは同一人物。

 

「令音さんにお願いしてね、マイラについて調べてもらったんだ。ここで出会っていたマイラと修学旅行先でDEMの手先として出てきたマイラは同一人物。だけど、少なくとも私が精霊と成った時までは、マイラはDEMと関わっていない。そんな記録はDEMにも無かったらしいんだ。だけど私の記憶だとマイラは少なくとも()()()D()E()M()()()()()()()()()()()。……どういう事か、士道ならわかるんじゃない?」

 

狂三からの情報と、士道の妹を自称していたマナについて情報を貰えたからこそ辿り着いた可能性。

 

「マイラ・カルロスは洗脳されている?だからルナのことを…」

 

「ま、可能性だよ。もしかしたらの話。洗脳されているのかもしれないし洗脳されていないのかもしれない。…仮に洗脳されていないとしたら私の手で殺すだけ。もし洗脳されていたのなら……アイツは私のせいで狂ったも同然。だから私が救う」

 

「もし助けれるなら、その時は俺も手伝うよ」

 

「…ははっ。そっちはそっちで、もしかしたらDEMへの憎悪に身を任せてしまう、とても醜い私が出てくるかもしれないよ?」

 

「その時は止めるだけさ。絶対に目を離さないよ」

 

「…自暴自棄になって暴れて、士道も、他のみんなも纏めて攻撃しちゃうかもよ?」

 

「絶対にそんなことはさせない。自暴自棄になったとしたら止めるだけさ」

 

「……邪魔だって、士道を真っ先に殺すかもよ?」

 

「ちょっとやそっとじゃ死なねえよ。腹をルナに貫かれても生きてたんだぜ?」

 

「……また、反転するかもよ?」

 

「その前にお前に巣食う絶望を俺が取り除くだけだ」

 

私の言葉へ、士道が間髪入れずに返してくる。まるでそれが当然とでもいうように。

 

「…ははっ」

 

そんな士道の物言いに思わず笑う。

 

「…うん、そうだったね。君はそういう人間だったね。わかった。期待、してるよ」

 

「ルナから期待なんて、俺も随分株が上がったもんだな」

 

「失敬な。元々株自体はあったよ。ただ私にとってどうでもよかっただけで」

 

「酷いな⁉︎」

 

「事実だもの。…1つだけ聞いてもいいかい?」

 

「ん?どうしたんだ急に改まって」

 

ずっと思っていた疑問を、ふと聞いてみたくなり士道へ問いかける。

 

「…今更なんだけど、なんで士道はそんなに私に構うの?恋人云々だって、別れたって事にして無かった事にして仕舞えばいいのに。

精霊を救うという君の言葉を、覚悟を今更どうこう言う気は無いし、私は君に封印されるのが嫌だってはっきり言ってあるのに。……これから、もしかしたら命のやり取りをしなきゃならないかいしれない、そんな場に君を巻き込んでしまうかもしれないのに。

 

なんでそんな私を、ずっと気にかけるの?」

 

「大切だからだ」

 

私の率直な疑問に、士道はこれまた即答する。

 

「大切?」

 

「ああ、俺にとってルナのいない日常はもう考えられないからな。琴里がいて、十香がいて、四糸乃がいて、折紙がいて、令音さんがいて、殿町やクラスのみんながいて、タマちゃん先生がいて、ルナがいる。そんな日常がとても大事で大切で大好きだから。理由なんてそれだけだ」

 

「……」

 

 

 

 

(神夏が大切だからに決まってるだろ?理由なんてそれだけさ)

 

 

 

 

「(嗚呼…理由がわかった。嘗てのマイラと、同じだからか)」

 

「ルナ?」

 

「ん、ごめんごめん。士道の考えはわかった。ありがとね。…だけど士道。私だからいいけど、安易にそういうことは言わない方がいいよ?でないと嫉妬深い十香や折紙に刺され…る……」

 

 

本当に、本当に偶然だった。顔見知りがいた。けどそれだけなら別に何も思わなかった。

 

その顔見知りが、嘗てイギリスにいた頃の友達だった。

 

「?……〜っ!」

 

そして向こうも私に気づいたらしく、勢いよくこっちに向かってきた。そして何かを言う前に1発ビンタされる。

 

『なんでアンタがここにいるのよ!』

 

『…お墓参りに、来てたんだよ』

 

『どのツラ下げて来てんのよ!この疫病神!』

 

『…ごめん。すぐに消えるよ』

 

『そうやってすぐ逃げる!何一つ変わってないじゃ無い!』

 

『…ごめん』

 

『しかも男連れときたわ!アンタにとってマイラは所詮その程度の人だったって証拠じゃないこのビッチ!』

 

またもやペシンと、とてもいい音が私の頬で鳴る。痛い。けど、それ以上に胸が苦しくなる。

 

『何か言ってみなさいよ!結局何も言わないまま逃げるわけ⁉︎』

 

『…うん、ごめんね。もう、いなくなるから。次からもう、来ないから』

 

『〜〜…っ!マイラもマイラよ!なんで…なんでこんな女なんかに…』

 

もう一度手が振りかざされる。避ける気も、気力もなくただ目を瞑る。嫌だとかそういう気持ちはなく、むしろ私への罰としては極軽いものだなという考えさえあった。

 

「…?」

「ナニヨ!ジャマ!」

 

だけど3発目のビンタはいつまで経っても来ず、不思議に思い目を開けると士道が私の前に立っていた。

 

「それ以上ルナに手を出したら俺が許さない」

 

「アンタ!関係ナイ!」

「士道、いいよ好きにやらせて。…()()()()()()()()()()()()

 

「ルナにとっちゃそうかもしれないけど、俺が嫌なんだ。だから…悪いけど、これ以上ルナに手を出させない」

 

「…!ナニモ、ナニモシラナイ!クセニ!ドーセ、オマエモ!コイツニ…」

 

つたない日本語で士道へ何かを言おうとしていたが、士道の顔を見て言い淀んでいた。ギリ‥と歯軋りするような音が聞こえ、また口を開く。

 

「…ッ、コンナゴミ女のボーイフレンドッテ言ウナラ、ドーセオ前モ…」

 

「ルナはゴミ女じゃない。…確かに少し個性的だけど、俺なんかには勿体無い、とても可愛らしい女の子だ」

 

「…ッ!コウカイ、スルヨ!」

 

そう言いながらマイラのお墓に花を添え、激しく怒りながら帰っていった。

 

「ルナ、大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ。悪いね、巻き込んじゃって」

 

「いや、それは構わないんだけど……あの人は?」

 

「こっちにいた時の友達…だった人。マイラとよく一緒に居た…」

 

「…そう、か」

 

士道はそれ以上何も聞かないでくれた。私にとってはそれだけで充分ありがたかった。

 

「それじゃあ、殿町達と合流しにいこう。…本当に、ありがとうね。付き合ってくれて」

「これくらいお安いご用だ」




「…これはこれはメイザース執行部長サマ。ご機嫌麗しゅう。私のような者に何のご用で?」

「仕事です、マイラ・カルロス。拒否権はありません」

「だろうな。…んで、アンタの横にいるそいつはなんだ?隠し子か?」

「仕事に関係ある、とだけ言っておきましょう」

「ふーん。で?何をしろと?」

「今からとある場所へ来てもらいます。そこで何をされようとも耐える、ただそれだけです」

「…?」


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60話 ラフム

朝のニュース

『ここ1週間、行方不明者及び不審者の目撃数が増えています。皆様、充分に注意してください。もし怪しい人物、行方不明者らしき人物を見かけましたらすぐに警察へ連絡を」


「ふーむ。我が運命人は今日もいないか。宿主といい、一体どこへ行っているのやら」

 

ここ2日、3日ほど五河士道と逢えていない。たかだか2、3日だと言われたらそれまでだが、私の体は既に彼を求めていた。

 

家の呼び鈴を鳴らすも誰も出ず、どうしたものかと思案していると後ろからジャキッと音が鳴る。

 

「何の用だザフキエル。喧嘩ならせめて別の場所で売りに来い。士道の家が壊れたらどうする気だ」

 

仰々しく両手を上げると後頭部に銃口が密着する。はぁ…面倒な。

 

「いえいえ。いきなり殺し合いをする気はわたくしとしてもありませんわ。ただ…一つお伺いしたいことがございまして」

 

「じゃあソレ相応の態度があるんじゃないのか?」

 

「まさか。コレでも十二分に前向きな応対をしていますのよ?さて時間もありませんし単刀直入にお伺いしますわ。コレ、貴女の差金でしょう?」

 

そう言いながら目の前に出てきたのは一つの物体。…ああ、一体帰ってこないと思ったらそういうことか。完全に機能停止しているあたり、一体だとマガイモノ相手は無理…か。

 

「で、どうしろと?」

 

「コレについて詳しく教えていただいても?ついでに言うなれば、士道さんから手を引いていただけると非常にありがたいのですが」

 

「ハッ、やなこった。させたいなら…力づくでやってみろ、ニセモノ風情が」

 

私の言葉を皮切りに私の頭の中で1発の銃声が鳴り響いた。

 

いっったいなぁ。

 

「……」

 

頭を撃ち抜かれ倒れた私に対し、ザフキエルは未だ銃を構えたままだ。用心深いことで。

 

「どうせ生きていらっしゃるのでしょう?この程度で死ぬとは思っていませんわ」

 

「御名答。だけど痛いっちゃ痛いんだよね。霊力の補填もまたしなきゃならなくなったし。ほんっと面倒だ」

 

立ち上がると同時に頭の銃痕を炎が包み込み、綺麗に傷が塞がる。滴り落ちてくる血をペロと舐めながらザフキエルに向き直る。

 

「やっぱりキミは真っ先に殺しておくべきかもしれないね。どうせ介入してくるであろう母君も厄介ことこの上ないが……ソレに比べたらキミを殺す方が遥かに楽そうだ」

 

「なんのことを仰っているのか存じませんが、そう簡単にやられませんわよ」

 

「そうだろうねそうだろうね。未だ分身体しか寄越さない臆病者の君のことだ。キミを殺したところで痛くも痒くもないだろう。だが…どうせ今も遠くから狙ってるんだろ?私を殺すために」

 

「いえいえまさか。わたくしの目的は最初に話した、コレについての情報と貴女の目的を知ることですわ。わたくしとて無駄な戦いは避けたいですもの」

 

「ははっ、だから言ったろ?知りたいなら…力づくでこいよ雑魚」

 

霊力を纏い威圧するとザフキエルも臨戦体制に入る。分身体なら喰べてしまえば証拠隠滅兼さっき使った霊力補充くらいにはなるかな?

 

「うん、キミなら…まだ美味しそうだ。顕現()い【堕天王(ルシフェル)】」

「わたくし達!」

 

ルシフェルの力のほんの一部を右腕に纏う。ほぼ同時にザフキエルの分身体がそこかしこに現れた。大体30体くらいか?これはこれは…

 

「何ともまぁ、美味しそうなことだ」

 

「出し惜しみは無しで行きますわよ。神夏さんには悪いですが……殺させて頂きます」

 

「できるものなら…」

 

その瞬間、何かが飛来してくるのを感じ横に避ける。すると降ってきたのは砲弾。

 

「嗚呼…邪魔だな。せっかく楽しい食事(じかん)になりそうなのに」

 

次いで現れたのは二人の人間。確か…マナとオリガミだったっけ?

 

「目標確認。いくですよ鳶一さん」

「了解。【ナイトメア】は?」

「今は無視で行きましょう。それに…様子を見る限り利用できます」

 

「あらあらあら。わたくしを利用とは、大きくでましたわね」

 

「アロガンが終われば次はテメーです」

 

「怖いですわね。ですが…今は利害の一致している者同士、この方を討ち取りませんこと?」

 

「それだけには賛成でいやがります」

 

即座に殺し合いに発展するかと思ったがどうやら3人して私を狩り殺す気らしい。おお怖い怖い。

 

「ふーむ…流石に纏めて相手をするのは些か面倒だ。だから……ここは逃げさせて貰おうか」

 

刻々帝(ザフキエル)!」

「逃すか!」

「…!」

 

ハサン・サッバーハの一人を宿し髑髏の面を被ると同時、3人が纏めて突っ込んでくる。

矢避けの加護と気配遮断を同時に使いその場をやり過ごす。

 

「ふふふ、血の気の多いことよ。ではなマガイモノに人間よ。その不良品はくれてやる。好きに使うと良い。どうせ何も変わらぬからな」

 

そうしてルシフェルは影の中へ消えた。

 

 

 

 

「……」

「さてさてどうしましょうかねぇ」

「シッ!」

 

狂三が分身体を全て収めたのを確認した真那はレイザーエッジを振るうも虚空を切り裂くだけだった。

 

「きひひひ。危ないですわねぇ。それでは私としても用事は済みましたし退散させてもらうとしますわ。ああそれと、ソレもわたくしのですので。持っていかせていただきますわね」

 

「待ちやがれです」

 

「何でしょうか?」

 

「その生物は…一体何でいやがりますか。お前は、お前たちは…アロガンは、何をしようとしていやがりますか」

 

狂三はパチンと指を鳴らし、ソレを影の中に入れながら真那への返答をどうしたものかと思案する。

 

「さあ、わたくしにも分かりません。ルシフェルと名乗るあのお方が何を企み何を成そうとしているのか。わたくしの常識の範囲外にいますもの」

 

「じゃあさっきの生物は?」

 

「これについてだけお答えできますわ。コレはルシフェルが生み出した存在としか言えません。現に差し向けてきたのはルシフェルですから。……本当ならすぐにでも破棄してしまいたいですわこんなもの」

 

思い出したくもないのか苦い顔をしながら答える。生きている時に対面した時も常に生理的嫌悪感と恐怖、不快感に支配されたのだから当たり前だろう。

 

「わたくしから答えられるのは以上です。それでは…次出会った時はルシフェルを殺し切った後であると嬉しいですわ御二方。その時は心ゆくまで殺し合いましょう」

 

そう言いながら狂三は影の中へ消えた。

 

「…ふぅ。申し訳ねーです鳶一一曹。わざわざ手を貸してもらったと言うのに」

「構わない。それよりも…」

「ええ。少しばかり…あたりを警戒する必要がありそうですね」

 

死体しか見ていないとは言え、二人もまた、先ほどの生命体への、ルシフェルへの警戒度を跳ね上げた。

 

 

 

 

「なんっ……なのよ、あれ…」

「司令!今すぐ、今すぐに神夏さん達を呼び戻してください!」

「何か知っているの?」

 

突如鳴り響いたのはルシフェルの霊力の余波を観測したことによる警告アラーム。発生源をモニターに映し、横たわる生物を見た途端クルーのほぼ全てが途方もない生理的嫌悪感、不快感、恐怖に苛まれた。琴里ですら、ソレを見た瞬間に言いようのない寒気がした。

 

そこにいたルシフェル、狂三、真那、折紙のやり取りが終わり、誰もいなくなると同時に中津川が神夏を呼び戻すように叫ぶその目は至って真面目だった。

 

「…詳しい話は省かせていただきます。私とて確証が……ありませんので」

 

「構わないわ」

 

「…アレは恐らく『ラフム』と呼ばれる生命体です」

 

「ラフム?」

 

「はい。ラフム自体にも様々な説がありますがアレに関して私の知っているものと同じならば、()()()()()()()()()()()だということ」

 

「何ですって?正気?」

 

「こんなこと冗談でも言いません。…以前士道くんがルシフェルから聞かされた精霊としての力は覚えていらっしゃいますか?」

 

「ええ。確か…『人類の敵をその身に宿す』だったかしら。メデューサに酒呑童子、ジャック・ザ・リッパー。そして私たち精霊の力も。そこまでは確認してるわ」

 

「ええそうです。そしてこうも言っていました。『()()()()()()()()()()()()()』とも。…神夏さんとも少しだけお話ししました。その時にはアレらは顕現しない、いや顕現させれないだろうと言う結論になりました。…しかし現に今……」

 

「詳細はまた後で聞くわ。結論を教えてちょうだい」

 

「はい。アレを生み出した存在は『ティアマト神』。古代の時代に存在したと言われている海と生命を創りし母。…ですが、今回の場合は少し違います」

 

「?」

 

「ラフムを生み出した存在であるティアマト神。ソレが持つ別名は---

 

 

 

 

人類悪・(ビースト)。人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っんだよ、これ」

 

マイラ・カルロスが連れてこられたのは演習場。てっきりエレンと殺し合うのかと思いきやそこに居たのは人には似ても似つかない生命体。

 

いや、正確には人に似通った部分はある。その唯一顔とも呼べれるであろう場所に。

 

紫色の体に蜘蛛のような六本の足。ソレらの根本…顔と呼べなくもない場所にあったのは……

 

「っぷ。おぇっ……」

 

 

人間の顔

 

ミスマッチにも程があるソレは、狂三や美九、エレン達が見たものよりも遥かに不快で、生理的嫌悪感を抱かせた。

 

 

その場にいた誰もがソレをみた瞬間、途方もない吐き気に襲われていた。唯一エレンだけは事前に見ていたのと一才合切視線を向けていないため正常なように見えるが。そのエレンですら初めて見た時はトイレに駆け込んだが。

 

「っはぁ、はぁ。何だお前ら、とうとう頭でも狂ったか?」

 

「私に言わないでください。こんなもの間違っても隣に置きたくないんですから。今すぐにでも殺してしまいたいくらいです」

「ダメダメ。そんなことしたら…解体しちゃうよ?」

「冗談です。さてマイラ・カルロス。貴方への任務はこちらと戦うこと。以上です」

 

「は?」

 

「それでは、どちらかが死ぬまで…は少し困るので戦闘不能になるまで続けてくださいね」

 

「おいちょっとま…」

 

マイラの言葉を聞くより先に、ソレは飛び出した。

 

 

 

 

 

数多く在る内の一体に過ぎない個体。それが生還しなかった。()()()()()悲しむことはない。何故ならば、そのような感情を見せることはあっても、見せ掛けだけのニセモノ……なはずだった。

 

『ギィギィ』『ギィギィ』

『しをすわつ』ころされた

『しをすわつ』ころされた

『らろすぬえ』ゆるさない

『らろすぬえ』ゆるさない

 

『ぜったい ゆるさない』

 

 

自我を得たソレらが抱く感情は

 

果たして偽物か。

 

 

 

 

 

 




できるならもう少し描きたかったんですが……構想が思いつかなかったのでキリのいいところまでで断念。

次もできる限り早く描きます(小声


それでは読んでくださりありがとうございました
感想や評価をくださるととても嬉しいです


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61話 神夏ギルの覚悟

「?」

実験部屋に戻ると何やらラフム共の様子がおかしい。
なんというか、殺意を持っていると言えばいいのか。ラフムにしてはあり得ない事情が起きており少し困惑してしまった。だが…まあコレはコレで面白いかもしれない。

「殺意に満ちたラフム……うん、良いおもちゃになりそうだ」


「はぁー。まさか数初ビンタもらうとは」

「大丈夫か?腫れたりしてないか?」

「うん。むしろビンタだけで済んで良かったとは思うよ」

 

両親の墓を後にし、タクシーに乗って殿町達のいる場所へ向かうことにする。その途中でスマホに着信が入る。あっちの誰かかなと思い画面を見てみると、まさかのラタトスクの中津川さん。チラと横を見てみると士道も電話がかかってきていたようで互いに目を少しだけ合わせて共に出る。

 

「はいもしもし」

 

『神夏さん!無事ですか⁉︎』

 

思わずスマホを耳から離してしまうほど大きな声で叫ばれる。正直に言うとめっちゃびっくりした。キーンという耳鳴りが治ってから再度耳に当て、先ほどへの返事を返す。

 

「ええまあ、はい。無事ですよ。ちゃんと反転もしていませんし自暴自棄にもなっておりませんとも」

 

『ああいえ、そういう訳では…いや勿論そちらも心配でしたが。それとは別件です』

 

「というと?」

 

『…単刀直入に言います。ラフムが現れました』

 

 

 

「…………。はい?」

 

 

 

中津川さんの言った言葉に思わず思考が停止してしまった。

 

「なんて言いました?」

 

『ラフムが現れました』

 

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

「気のせいでは?」

 

『映像で確認しています』

 

「……見間違いじゃ?たまたまルシフェルの霊装が紫色をしてたから」

 

『いえ、まごうことなきラフムです。映像もお送りしますよ』

 

そしてピロンと通知が来たので見てみると、確かにまごうことなきラフムだった。

 

『そこから推測ですがルシフェルは人類悪ティアマトの権能の極一部を顕現させていると思われます』

 

そうだろうね。私の知識を使っていると言うのなら、ラフムを生み出せる存在なんてそれしかいない。

だけど『極一部』という言葉に疑問を覚えてそれについて聞き返す。

 

「極一部、と言うと?ついでにその根拠は?」

 

『色々とありますが…とにかく神夏さん。できるのでしたら今すぐに帰っていただきたいのです』

 

「とは言っても、こちとらイギリスですよ?それに…後1日はこっちに居させてほしいんですが。どうせ明日の夜には帰りますし」

 

『そうも言っていられない事態になりましたので。私達の知っているラフムと全く同じものだとしたら今現在も増え続けています。いくら貴女が規格外の精霊で万夫不当だとしても……』

 

「私1人でどうにもならないときは力を借りますよ。……ただ、ラフムが出たと言うのなら尚更、私は自分のことにケリをつけておきたいんです。それに、()()()()()()クラスメイトとの旅行なんです。もう少しだけ、楽しんでおきたいんです。すいません、ワガママ言ってる自覚はあります」

 

『はぁ…わかりました。というよりも司令達とも話を先にしていました。その結果、神夏さんの自由にさせてあげよう、と。ですので気負わないでくださいね。ラフムとなると私の専門分野の知識ですので、帰ってくるまでは誰も傷つけさせません』

 

「…わかりました。お願いします。それでは」

 

『はい。旅行、楽しんでくださいね』

 

その声からは明らかな焦燥が感じ取れた。

 

 

 

……そっか、もう終わり、か。

 

 

 

「士道は何の電話だった?」

 

「琴里から、『帰ったらすぐにルシフェルを探し出してデートするつもりでいなさい』って言われた。なんでも、ルシフェルがとんでもないものを顕現させたって…」

 

「私もほぼ同じだね。……相当ヤバい事やらかしやがったみたいアイツ」

 

ラフムの存在。それが示す事はただ一つ。そんなもの分かりきっている。分かりきっているからこそ、()1()()()()対応ができないのが嫌でも理解できる。

 

「はぁ…士道」

 

「なんだ?」

 

「今日の夜の部屋割り、ちょっとだけ特殊なことさせてね」

 

「え?あ、ああ」

 

情報共有は早めに、だね。

 

 

 

それからは何事もなく殿町や八舞姉妹達と合流し観光。そして部屋割りを私、八舞姉妹。もう片方を士道達。要は男組と女組で別れてもらった。

 

「さて、ということで八舞姉妹。……真面目な話がある」

 

「何よ改まって。アンタがそんな弱気なんて珍しい」

「疑問。貴女がそれ程までに警戒すべき相手でも現れましたか?」

 

「ん、間違っては無い。けどそのことを話す前に……」

 

時間は23時。八舞姉妹はエネルギーが有り余っているのかまだ眠気は感じられない。これから話すことを聞いたら余計寝れなくなりそうだけど。

 

 

コンコン

 

 

「はいってどーぞ」

「お邪魔します」

 

入って来たのは士道。それと妹の五河琴里。

 

「まさか琴里までくるとはね」

 

「そりゃあ、あんなモノを見ちゃったらね。ルシフェルって存在を否応にも認識を改めなきゃいけないもの」

 

その顔には確かな覚悟と恐怖が滲み出ていたのが分かる。だからといって情報を出し惜しむ訳にはいかないんだけど。

 

「その件に関して何だけど、一回映像を見せてもらってもいい?一度自分の目で見ておきたいの」

「わかったわ」

 

琴里が士道に持たせていたであろうディスプレイを立ちあげ、士道の家の前を映し出した。

 

 

そこに居たのは狂三、ルシフェル、鳶一折紙、崇宮真那。

そして、一体の事切れたラフム。

 

 

映像越しとは言えラフムを見た瞬間に八舞姉妹と士道、琴里は一気に臨戦体制に。私は元々聞いていたから良かったけどそれでもなお、不快感が拭えなかった。

 

「うわぉ。マジモンのラフムじゃん。んで、コレについて何処まで聞いてるの?」

 

「ティアマト神が生み出した存在であること。そしてこの場合のティアマト神は『人類悪』と呼ばれていること、ラフムは下手をすれば私たち精霊と同じかそれ以上の力を持つこと、くらいかしら」

 

どうやら必要最低限のことだけ知っているって感じかな。けど何も知らないよりかはいいか。

 

「そうだね。それにプラス、ラフムは自我を持っていない、条件次第では際限なく増えることくらいは頭に入れておいた方がいい。あとは人間を元に作り変えられた存在もいるかな」

 

「なっ…」

 

「だから言ったでしょ?ルシフェルは殺すべき存在だって。アイツはどう取り繕うとも人類の敵に変わりないんだから。流石に神話の類とかは顕現()べれないと思っていたけど、ルシフェルを侮りすぎたなぁ。はー、ほんっと、おとなしく士道とイチャコラしてれば良いものを」

 

映像をおさめてもらうと同時、士道が何かを思い出したかのように声を出した。

 

「思い出した!前に俺が見たのもこんな見た目だった!」

 

「前というと…変なのが聞こえたとかいう?」

 

「ああ、その時にチラッと見えたのもこんな感じの」

 

「……どんな言葉喋ってた?」

 

「確か、『めとさつ』って言ってた」

 

「めとさつ…み・つ・け・た?」

 

「え?」

 

「士道の聞いた言葉。それを私たちの言葉に直すと『見つけた』。何を見つけたのかは知らないけど…」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!貴女この生物の言葉がわかるの⁉︎」

 

ラフムの言葉を解読してみせると琴里が驚愕の声でコチラに聞いてくる。

まあそりゃ、何回アニメを見たことか。それに私の知識で顕現させたと言うのなら解読方法も同じなはずだろうってことで解読できただけなんだけど。

 

「まあ分かるというか、解読方法を知ってるだけというか。解読だけなら中津川さんでもできるし、なんならめっちゃ簡単だから琴里達もすぐにできるよ?で、他には変な言葉聞いてたりはしないの?」

 

「ああ。それ以外は特に…」

「あるわ。十香や四糸乃達が聞いてるの」

 

「…どんな言葉?」

 

「四糸乃が聞いたのは士道と同じ『めとさつ』。十香は『うわふ ぬくむ』。美九は『つひせえ きえせえ』」

 

「四糸乃のは同じだね。『見つけた』ってことは精霊である私や四糸乃を見つけたってことかな。十香のは…『あれは なかま』……仲間?コレに関してはちょっとわからない。んで美九が…『たのしい おいしい』…楽しいはまだ分かるけど、美味しい?え、なに、美九の見た個体って何か食べてたの?」

 

「食べてたかどうかはわからないわ。ただ何かをいじくり回してたみたいよ」

 

「ふーん…。ラフムが?え?キッッモ」

 

確かにラフムが人間をオモチャのようにいじくり回して楽しい楽しいと言っている描写はあるにはあった。それすら再現してるとしたら…

 

「お主だけで理解しようとするな!我らにも教えよ!アレはなんなのだ!」

「質問。アレは、生物なのですか」

 

耶倶矢に肩を掴まれグワングワンされ夕弦からは顔を持たれる。それが鬱陶しくなり思い切り手を払いのけ説明をする事にした。というか、遅かれ早かれ説明するつもりだっての。

 

「アレの名前は『ラフム』。あんな見た目はしてるけど一応『人類』」

 

「「「「はぁ?」」」」

 

「ま、その反応になるのは知ってた。正確にいうなら『人類の代替品』ってところかな。だけど、見ての通り人間からは程遠い生命体。

 

この生命体の生み出され方は私の知っている限りだと2通り。まず一つが母なる神であるティアマトから直接生み出される。二つ目は()()()()()()()()()()()()()()()()()方法。コレ以外での増え方を私は知らない」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。アレが元は人間の可能性もあるってことか⁉︎」

 

士道は信じられないという風に私を見てくる。が、残念ながら事実なので、今後起こるであろうことを淡々と言う。

 

「そ。今のうちに言っておくけど今後ラフムと対峙する時、絶対に、何があっても躊躇しないこと。特に士道。キミに前線へ出てもらう気は無いけど、仮に出ることがあった場合は躊躇いなく殺すこと。それが無理なら…ルシフェルを救うなんて世迷言は今すぐに捨てることだね」

 

「そんな…人に戻す方法は無いのか⁉︎」

 

「無い。そんなものあった所で実行のしようがない」

 

「そんなのわからな「じゃあ」っ」

 

それでも尚諦めようとしない姿勢は流石というべきか、蛮勇と呼ぶべきか。そんな士道の言葉に更に被せる。

 

「独りで全部やると良い。常に殺しにくる精霊が数十体から百数十体の規模で来るものだけどね。でもラフムを全て元に戻したいと言う君の覚悟を尊重してあげよう。だからラフムは全て殺さないし士道が全てなんとかしてくれよ?」

 

「っ、ああ。構わない」

 

「……はぁ」

 

そんな虚栄とも取れる士道の言葉に深く、深くため息を吐く。それが少し気に食わなかったのかこちらを睨んできたのが3人。

 

「士道。一つだけ言うよ?

 

 

バカなの?」

 

 

わざとバカにするようにいうと言うと案の定、耶倶矢と夕弦、琴里は怒る。色々と説教されたりしていたけど全部聞き流し、再度士道へ事実を突きつける。

 

 

「良い加減現実を見なよ。君が命全てを尊び救おうと思っているその覚悟は評価する。だけどこれから私達が向かう、向かわなければならないのは戦争という表現すら生温いと感じる程の場所。

 

一瞬の躊躇で大切なモノが奪われる。どんなに努力をしようとも理不尽という力で以てねじ伏せてくる。どうしようもない絶望で以って希望を塗りつぶしてくる。

 

……私達が行こうとしているのは、そんな場所だ。良い加減、覚悟を決めなよ」

 

 

惨状を知っているからこそ、甘い妄想は抱いて欲しくない。

だからこそ命の奪い合いをする覚悟をしてもらわなきゃならない。

 

と、そこでふとやらなければならない事を後回しにしている事を思い出してしまった。

うん、この際だから今やってしまおう。それらしい理由もつけやすいし。

 

「でも君にばかり覚悟とやらを求めるのもお門違いだね。私も、覚悟を示そうか」

 

「ん?」

「え?」

 

「士道ちょっとこっち来て」

 

未だ葛藤している士道へ手招きし目の前に来てもらう。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「いやなに。私なりの覚悟を示そうってだけさ。目を瞑ってもらって良いかな?」

 

士道は私の言葉になんの疑いも持たず目を瞑る。いつか騙されそうだなぁとか思いながら胸元を掴む。

 

 

そして

 

 

 

口付けをした。

 

 

 

「!?!?!?」

「「「えっ⁉︎」」」

 

 

 

ほんの数秒のキスを終え、士道をポンと押すとフラフラとしながら後ろに下がり壁にぶつかっていた。いや何してんの。

 

「な、なんで…」

 

「必要な事だからね。けど霊力の封印って訳じゃないのは士道が一番よくわかってるでしょ?」

 

「ああ、霊力というか何か温かいものが流れ込んでくる感覚は全然。でも一体何のために?」

 

「簡単に言えば私が士道の霊力を、正確にいうならば士道の中に封印されている十香、四糸乃、琴里、耶倶矢、夕弦、美九の霊力を使うため」

 

「?えーと、どういう」

 

「私と士道で霊力の経路(パス)を繋いだってこと。十香達のようにね」

 

「えっ⁉︎」

「ちょっ!急にどうしたのよルナ!悪いものでも食べたの⁉︎」

 

「おおう酷い言われようでワロタ」

 

今度は琴里が肩を持ってグワングワンと揺らしてくる。私の評価どうなってんのさ。

 

「霊力の経路(パス)を繋いだだけで大袈裟な」

「だからっていきなりキスする奴があるか!せめて他の方法にしなさいよ!」

「え?それだと士道と性行為することになるけど良いの?」

「キスでいいわ」

「知ってた。てか私も嫌だし」

「って、そうじゃなくて!」

 

酷く驚いているけども、そんな大したことじゃない。

 

「ま、ルシフェルと殺し合う直前には元々やる予定だったし。それが少し早くなっただけだよ。私も…なりふり構ってられないからね。出来ることは全部やっておかないと。やらずに後悔はしたくないから。

 

勿論、ルシフェルの件がひと段落したら経路(パス)は切らせてもらうから。その後封印なりなんなりしたいなら頑張ってくれたまえ」

 

さてはて、どこまで上手く事を運べるか……。狂三とも連絡を取り合わないと。




よ、ようやく書けた……
描きたい場面は頭の中にあってもそこに至るまでの構想がまっったく出てこず……
大変お待たせしました(土下座

次話 神夏ギル、日本へ帰る(適当)


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62話 人類悪

いよっし、か・け・たぁ!
いやほんとお待たせしました(汗

仕事関連で精神的に病みかけてちょっと筆が取れていませんでしたという言い訳だけ投下しておきます(小声

感想でいただいたのですが、士道の反応には目を瞑ってあげてください…
ラフムの悲惨さを知らないが故の反応としては当然だと思っています

さてそれではどうぞ


「……あ、思い出した。琴里、中津川さんに連絡ってとれたりする?」

 

「え?」

 

「ちょっと聞きたいことがあるし、その内容も士道達に聞かせておいた方がいい内容だろうから。できる?」

 

「できるけど…何を話すの?」

 

「そりゃもちろん『ルシフェルの顕現させたモノ』について。すこーしばかり、中津川さん側でも思うところがあるらしいから」

 

色々と詮索をしようとする琴里を一旦黙らせ中津川さんへ連絡を取ってもらう。しばらく経つと先ほど映像を見るのに使ったモニターへ中津川さんが映る。

 

『お待たせしました司令、神夏さん、士道さん達も」

 

「あ、どうも。ちょっと聞きたいことがありまして」

 

『ルシフェルのことについてですか?』

 

「正解です。昼に電話もらった時に言っていた『人類悪ティアマトの持つ権能の極一部を顕現させている』について、根拠とかを聞けたらな、と。あとはティアマト…というよりは『人類悪ビースト』について必要最低限しか教えてないっぽいのでもう少し詳しく話しておいた方が良いと思いまして」

 

『ふむ…。ではまず最初の疑問について私なりの考えをお伝えします。恐らく神夏さんも気づいておられるでしょうが…』

 

「ま、答え合わせのつもりでやりましょう。私らのオタク知識の見せ所でっせ旦那」

 

『確かにそうですね!ではまず……司令、ルシフェルは自身のことをなんと言っていたか、特に天使についてなんと呼称していたか覚えておられますか?』

 

「な、何よ急に。えーと……『人類の敵』だったかしら?」

 

『はい。正解です。実はその答えこそがルシフェルの顕現させたものは、より正確にいうならば()()()()()()()()()()()ティアマト神の権能の極一部、という根拠でもあります。なぜならば『人類悪』であるのならばルシフェルに扱えていいわけがありませんから。何より、仮に顕現させれてたとして現時点で何も起きていないのがおかしいですし』

 

「「「「?」」」」

「ああ…そういうこと」

 

中津川さんの言いたいことはなんとなくだがわかった。

 

「んん?ちょっと待ちなさい。中津川、それにルナ。ルシフェルが顕現させたのは『人類悪』のもつ権能の一部、そう言ったわよね?」

 

『その通りです』

「そうだよ」

 

「で、ルシフェルは自分の天使のことを『人類の敵』呼称していた。だからこそ極一部のみを強引に顕現させているだけ。本来扱えていいものじゃない、と」

 

『恐らくは』

「そうだね」

 

「いやおっかしいでしょうが!人類の敵を顕現させれる天使なら『人類悪』とやらは普通に顕現させれるものでしょうが!」

 

私と中津川さんは予想通りの勘違いをし、怒っていた琴里を横目に見ながら苦笑するしかなかった。

 

『あー、やはり…。というより、字面だけではそう受け取りますよね…』

「ま、コレに関しては紛らわしいのは否定しない。中津川さんの言っている意味はわかりました。確かに見落としてたな…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()し」

『というより、ティアマト神を顕現させれたのなら今現時点で何も起こっていないのがおかしいんですよ』

「まあまあ、その辺を話しだすと長くなっちゃうんで。オタク特有の熱に引かれますし」

『それもそうですね。では話を戻しまして…士道くん』

 

「は、はいっ!」

 

『『人類悪』とはどのような存在か、わかりますか?』

 

「へ?」

 

中津川さんはいきなり核心をついた質問を投げかけた。それに驚きながらも少しの間考えるそぶりを見せ、口を開く。

 

「いや、文字通りじゃないんですか?『人類にとっての悪』だから『人類悪』。それ以外にどう…」

 

「はい不正解」

『残念ながら違います』

 

「「「「え?」」」」

 

4人が素っ頓狂な声を上げ、どう説明したもんか悩んでいると中津川さんが口を開く。

 

『まずその解釈が分かりづらいんですよねぇ。士道くん。人類悪というのは『人類にとっての悪』ではなく『人類が滅するべき悪』なんですよ』

 

「え、えーと…?」

 

『もっと分かりやすく言いますと、私たち人類の悪行により生まれた存在です。つまりは自業自得の行いの産物なのです。ですがそんな悪行を働いた人類すら愛し、そのために動いた結果厄災と成った存在。それが人類悪です」

 

「??」

 

まだよく分かっていないようなのでさらに付け足しで説明を私と中津川さんで始める。

 

「人類悪とは言っているけどその本質は人間が人間であるが故に犯してしまう悪癖。その究極系のようなものが具現化しバケモノになった存在だと思ってくれて良いよ。だから、なんと言えばいいのやら…」

『要は人間にとっての癌細胞のようなものなんです。人類史数千年にとっての癌細胞とでも言いましょうか。私たちが人間である以上生まれて来ざるを得ない悪。それが人類悪-人類が滅すべき悪-なんです。それにですね、この人類悪という存在の根底にあるのは『人類を愛しているからこそ救いたい』という思いです。言い換えるならば『人類愛』でしょうか』

 

「でも中津川。私に説明した時に『人類と人類の文明を滅ぼす破滅の化身』っていっていたじゃないの」

 

あら、琴里にそんな説明してたんだ。いや間違っていないけども。

 

『はい。その通りです。ですがそれは結果論なんです』

「その辺を話し始めるとものすんごーく長くなるので一旦割愛しようか。ま、要は人間のために良くしたい。人間をそれほど愛している。今以上に良くする為には今いる人類を一旦滅すしか道はない。そんな考え方とでも思ってくれたらいい」

 

人類悪についての認識をみんなと共有し終え、みんなの頭がいい具合に情報過多となったあたりで更に最悪な情報を落とす事にしようか。

 

『それでは次に『人類悪』、又の名を(ビースト)と呼ばれる存在を討伐する際に本来必要な戦力について。どちらかというとこれから話すことのほうがルシフェルの顕現させたモノは極一部であると断定した大きな要因です』

「超簡潔に言うと私の中にいる王様と同格、もしくはそれ以上の力を持つ存在が7人必要でしたっけ」

『そうですね。完全に成熟した個体である場合は7人の総力で以て…だったような。あの辺複雑すぎて今回のケースだとどうなるのか理解しきれないんですよねぇ』

 

「な、7人…?」

 

「そう。7人。王様と同じくらい無茶苦茶な精霊が、しかも私みたいに霊力切れっていうデメリット無しで目の前に7人並んでるのを想像したら分かりやすいんじゃないかな?そんで王様自身も『自分だけでは持てる全てを出し尽くしても敵わない』と称している存在。……ここまで言えばルシフェルがどんなものを喚び出したか嫌でもわかるでしょ?」

 

「……とんでも、ないな」

 

先ほどまでしていた人類悪の定義の話よりもずっと早く納得してくれてこちらとしてはありがたい限りだった。

 

『と、大袈裟に言いましたがこれらのことは一旦横に置いてもらって、というか忘れてもらって結構ですよ士道くん』

「そうそう」

 

「「え?」」

 

と、士道と琴里が今日で幾度目かの疑問に満ちた声を上げる。

 

『これまでの話はあくまでも完全な人類悪が顕現してしまった時の話です。今回ルシフェルが顕現させたであろう権能は人類悪であるティアマト神のもつ数多くの権能のうち、『ラフムを生み出す権能』のみとそう考えています。それ以外を顕現させているとなると何も起きておらず、私たちの観測にも引っかかっていないのがおかしいですから』

「そんでラフムだけならなんとかなる可能性は高い。……ですよね?」

『その通りです。()()()()()()()()()()()という事に目を瞑りさえすればラフム自体は精霊の皆様ならば充分対処できる相手です。恐らくですがASTのようにリアライザを用いている特殊部隊であっても死傷者無しでとはいかないでしょうが対処は可能でしょう。精霊並みの力を持つとは言え特殊能力も何もない、耐久力と攻撃力のみ、霊力も扱えない魔術も使えないだけの存在ですから』

 

そう、蟻の軍隊のような群れということにさえ目を瞑ればラフム如きどうとでもなる。周辺の被害を考えなければ、だけど。

 

「ま、そゆこと。だからその時が来たら私が…」

 

「ダメよ。ルナ、貴女は戦場に立たないで」

 

「はい?」

 

私が戦場に立つ旨を言おうとすると琴里がそれを遮ってくる。それの意味が分からず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「どういうこと?」

 

「そのままの意味よ。ルナ、貴女は戦いに参加させないわ」

 

「私抜きで勝てると思ってんの?」

 

「それとコレは話が別なのよ。ルナ、あなた自分の体のことわかってるの?」

 

「わかってるよ。だけど戦場に立ってはいけない理由にはならないと思うんだけど?」

 

「絶対にダメよ、認めないわ。これは私だけじゃない。ラタトスク全クルーでの総意よ」

 

「で?そんなこと私に関係ない。私が何をしようが私の勝手でしょ。なんで私の事をお前たちに決められなきゃならない」

 

「……」

「……」

 

これぞまさに一触即発とでもいうのか。琴里がこちらをしかめっ面で見てくるので睨み返す。

 

「悪いけどこれは譲れないよ。ルシフェルが私から分離した時から覚悟はしてた事なんだから」

「私としても譲れないわよ。なんで見殺しにしなきゃならないわけ?そんなの絶対に嫌よ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!2人とも何を言ってるんだ⁉︎琴里、見殺しってどういう事だ⁉︎」

 

そんな私達の間に入ってきたのは士道。本気で意味が分からないのか私たちを交互に見ていた。

 

「なに、伝えてなかったの?」

 

「……伝えれるわけないじゃない」

 

「へぇ。それはつまり士道のことを信用していないと。そういう訳だ」

 

「ちがっ!」

 

「違わないよ。君たちの思想はどうでもいい。士道があの程度の事で覚悟ができないとでも思ってんの?私より付き合い長い割には士道のことを何も見ていないんだね。それでルシフェルを救うとは。自惚れにも程があるんじゃない?」

 

恐らく事情を知っているであろう琴里とモニター越しの中津川さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。……まあどうでもいいか。何をしようが私の結末は変わらないんだから。

 

「ま、そこに関してはどーでもいいや。それにラタトスクって組織自体は元々信用していないからね。今更どんなことが起きようが興味ない。んで、士道が一番知りたがっているであろう内容についてだけど…琴里」

 

「……何よ」

 

「言わないなら私が自分で言うけど?」

 

最後の情けで琴里に問いかけるとしばらく黙り込んで何かを考えていた。急かしたりはせずに数分間じっくり葛藤させ、琴里は口を開いた。

 

「私が伝えるわ。だからルナ、お願い。貴女は戦場に立たないで…」

 

「だからの意味が分からないんだけど?まあいいや。自分で使えるってなら伝えておいて。

 

これで特に話すことはないかな?そんじゃ士道。それとついでに精霊諸君。私はちょいと屋外に行って夜風に当たってくるので自分の中の気持ちの整理でもしててちょうだいな。ついでにラフムの対策でも立ててれば?ま、こんな話いきなりして覚悟をしろなんて、無茶振りにも程があるのはわかってるからさ。んじゃまた1時間後くらいに」

 

そうして皆に何かを言われる前に部屋を出た。

さて……どうしましょうかねぇ。

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ琴里。ルナと言い合ってたことって何のことなんだ?」

 

ルナは止める間もなく外に出てしまい、沈黙に支配されてしまった。それを何とか払拭すべく琴里に先ほど話していた内容を聞くと顔をあげてこちらをまっすぐ見てくる。

 

「琴里…?」

 

だけどその目はいつものように凛とした自信満々な目ではなく今にも泣きそうな目をしていた。

 

「士道。先に謝っておくわ。本当に、ごめんなさい。…それと、不甲斐ない私たちを許してちょうだい。中津川、令音に神無月、十香や四糸乃達を呼んできてちょうだい」

『畏まりました』

 

モニターの前から中津川さんがいなくなり、しばらく経った後に画面に十香達が勢揃いする。

一体何があるんだ…?

 

「みんな、集まってもらったのは他でもない。ルナの事について皆へ伝えることがあるから」

 

『神夏ギルの…?』

『ルナさんに、何かあったんですか?』

 

「結論だけ先に言うわ。

ルナ…神夏ギルは

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 






次回 ルシフェルが何かをするかも


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63話 ただのお遊び

数日前のこと

「デアラの更新日いつだっけなぁ」

8/30


( ゚д゚)


申し訳ありませんでした(土下座)





あ、そうそう。今回は残酷な描写注意です


 

ピキッ

 

耳障りな音が()()鳴り響く。

原因などとうに分かりきっているが、甚だ虚しく止める術が無い。

 

「おや珍しい。愛しの五河士道へ逢いに行ったのでは?」

 

「いなかったから帰ってきただけだ。それよりもコイツらどした。やたらめったら殺気立ってるけど」

 

「さあ?私がこちらに戻った時には既にそのような状況でしたから。下手に関わりたくないので我関せずを貫かせていただきました」

 

「ふーん」

 

「それで…なぜソレらと一緒に魔術師(ウィザード)部隊が?」

 

「データ収集兼ストレス発散させてるだけさ。それにこいつら死んでも構わないだろ?」

 

「まあそうですが…せめて事前に言ってください。勝手に殺されてはこちらにも不都合があります」

 

「気が向いたらな」

 

眼前のガラスの先には百体は下らない怒りに満ちたラフムとそれを死ぬ気で捌いている10人程度の人間部隊。精鋭とだけあってラフムが襲い始めてから30分は経った今でも五体満足とはいかないにしても全員が生き残っていた。一応出口は作ってあるし、そこから出た人間には手出し厳禁としてあるから生き残れはする。

 

出口まで辿り着けたら、だけれどね。

 

「それでデータというのは?」

 

「コイツらが怒りに満ちる原因。おおかた理由は判明した」

 

「というと?」

 

「簡単に言えば復讐心。同族が殺されたことへのな」

 

実験中に人間に殺されたラフムを他のラフムが見て、さらに怒りが増え、また別のラフムが殺され、ラフムが怒り、殺され、怒り…と言ったサイクルを無限に繰り返していた。人間側が未だ誰も死んでいないのはラフム共が10秒程度とは言え定期的に動きを止めるからだろう。

だが、今は私が強引に押さえつけてはいるけどいつ爆発し暴走してもおかしくはない。

 

「……お」

 

人間達がようやく出口に気づいたらしい。リーダーを名乗っていた人間が全員へ指令を飛ばし更に全員の士気が高まり一丸となっていた。

 

「ふーむ。これは上々。君達人間も思ったよりやるね」

 

あと5分もすれば出口に辿り着くだろう。

だけど……それじゃあ面白くない。

 

「念の為確認するけどあいつらが死んだら困る?」

「いえ、特に問題はありません」

「OK。んじゃ…これからのショーを楽しみにしてな」

 

ラフムのうち一体へ思念を送る。

 

 

『怒りを解き放て。激情の赴くまま暴れろ』

 

 

それともう一つ、別のモノへ伝令を送る。

 

 

「くふふふ…さあ面白くなるよ」

「お母さん」

「何」

 

楽しくなりそうなのに急に誰かから呼ばれ、ちょっと不機嫌気味に返事をする。

相手は見なくてもわかる。

 

「お母さんの言ってたあの人間、()()()()()

 

「…へぇ、思ったより長かったね。それでどうだった」

 

「解体されちゃってた。あと半分くらい直されてたよ」

 

「それで?」

 

「それでね、私たち助けたけど、もう手遅れだった」

 

「ほーん。んじゃソレ、アイツに渡しといて」

 

「わかった!」

 

そうして部屋を勢いよくソレは出て行った。ソレが持ってきた情報を頭の中で整理し、思わず口角が上がる。

 

「これで手札も半分は揃ったね。あとは…」

 

ガラスの先とは別のモニターに映っている人間達を見ながら起きるであろうことへ思いを馳せた。

 

 

 

 

「もう直ぐだ。待っててくれよ我が運命人。我が宿主」

 

 

 

 

 

「はっはっ…隊長!出口まであと10メートル切りました!」

「了解!みんな!最後に死力を尽くしな!死にたくないならね!」

「「「「了解!」」」」

 

突如ウェスコット様とルシフェルと名乗る女から渡された命令を最初こそ恨みはしたがもうそんなこと考えていられなかった。

 

私たちの疑問を払拭してくれるわけでもなく戦闘訓練ルームに放り込まれた私たちを襲ってきたのは100体はいるであろう紫色の蜘蛛のようなバケモノ。

 

とにかくただ生き残るために戦うしかなかった。

 

「……?また止まった?」

 

バケモノ達からの攻撃を全員が死に物狂いで攻撃し防御し避け何とか出口が見えるところまで後退できた。それも多くの死地を乗り越えてきた仲間が居たのも大きな要因で、更にはこのバケモノのうち一体を仕留めるたびに他のバケモノが止まったというのも大きな要因だった。

 

けど今度は違った。

 

バケモノを仕留めていないのにいきなりバケモノ達が全て止まった。

 

「何が…いやそんなことより…。みんな好機よ!今直ぐ出口まで撤退する!」

「「「「「了解!」」」」

 

だけどその理由を探る意味はないと切り捨て全員一斉に振り返り出口へ全速力で飛ぶ。10メートルもないのなら数秒とかからず辿り着ける

 

 

 

はずだった。

 

 

『ねぐすぬえ。らろすぬえ』逃がさない。許さない

 

バケモノのうち一体が何かを喋ったかと思うと私の横を何かがとんでもないスピードで通り過ぎた。

 

「ッ⁉︎何が…」

 

後ろを振り返ると先ほどまで先頭にいたバケモノがいなかった。同時にとてつもない寒気がして自分の先を飛行していた仲間を見る。

 

「何処!何処行ったの⁉︎」

「総員!何があったか報告!」

「ハ、ハッ!突如何かが後ろおよび上から飛来!隊員が2名ほど行方不明に!」

「なっ…」

 

上と後ろ。つまりは下と前へ向かって何かが飛んできたということ。

 

「各自2人1組を組め!下、出口方面を索敵!」

「「「りょ、了解!」」」

 

直ぐそばにいた隊員と背中合わせになり首を必死に振り行方不明になった隊員を探す。

 

奇妙にもその間隙だらけだというのにバケモノ共はこちらを襲ってくる気配がなかった。

 

 

「た、隊長…」

「何!見つけたの⁉︎」

「は、はい、おそらく…」

「何処!」

「……」

 

私のペアになった隊員が顔面蒼白になりながら震える手で下を指差す。そこにいたのは一体バケモノ。しかもやけに離れており孤立していた。

 

「……?」

 

バケモノは何かをいじくり回しているのか蜘蛛のような脚を忙しなく動かしていた。隊員が指差した理由が直ぐにピンと来ず--いや、認めたくなかったのかもしれない 楽観視したかったのかもしれない--顕現装置(リアライザ)を使い拡大し確認をする。

 

してしまった。

 

「……〜〜ッ!」

 

そのバケモノが持っていたのは、いじくり回していたであろうモノの一部が鮮明に見える。それは人間の腕だった。纏っていた服にも見覚えがあった。ありすぎた。なんせいま隊員の全員が着ているのだから。

 

恐怖からの叫びを理性で無理やり押さえつけ己が隊長としてやるべき事を--残りの全員を生かすために指令を出す。

 

「総員!即時撤退!全速力!行方不明者は見捨てろ!」

 

驚くべきことに全員が何の躊躇いもなく一斉に出口へ向かった。いや、当然かもしれない。あんなものを見てしまっては。

 

『ねぐすぬえ』にがさない

 

またバケモノが何かを呟いた。

その瞬間に私の横から感じていた気配が消えた。それと同時に前にいた隊員も消えた。

 

「〜〜ッ!」

 

下を見ると断末魔を上げる暇すらなくバケモノに胸を貫かれた隊員が。上を見ると首から上をぱっくりと齧られていた隊員が。

 

「ぎゃあ⁉︎いだいいだい!やめてぇ!」

「がぼっ…や、やめ…」

 

「っ⁉︎」

 

更に前を見ると別のバケモノに捕まった隊員が。1人は四肢を貫かれ大きく空いた口でお腹をぐしゃぐしゃと咀嚼され、もう1人は複数のバケモノにただひたすらに殴られていた。

 

「〜〜っっ!」

 

その全てを見捨てるしかなかった自分をおそらく私は一生呪うだろう。だけどこのまま助けに入ると自分も死ぬ。

 

それだけは直感で理解していた。

 

「…!着いた、着いた!隊長!早く!」

「ええ!」

 

僅かに生き残った2人のうち1人が先に出口へ辿り着いていた。もう1人はあとほんの少し手を伸ばせば出口の中へ入れるところまで。

それを見た私は脳への負担も何もかもをかなぐり捨て顕現装置をフル稼働させることで加速した。

 

「よかった!たすかっ」

「…え?」

「なん…」

 

もう1人が出口にたどり着いた瞬間に安堵の言葉を漏らしていた。

が、それは最後まで言われることなく途切れた。

 

「何…が…」

 

待ってくれていた隊員が出口を開けた瞬間、そこから何かが飛び出した。青紫色のナニカということはわかったがそれを確認する前に手に持っていた爆弾を出口に向かって放り込む。同時に最後の生き残りを引っ張る。

 

「おーおー、2人も生き残るとは上々。やっぱりただの人間にしては想定以上に練度が高いね」

 

爆煙の中から出てきたのはあの時ウェスコット様の横にいたルシフェルと名乗った女。その背後にももう1人、本のようなものを持った180は超えてそうな男が立っていた。

 

『ギィギィ!』

「止まれ」

 

バケモノのうちの一体が私たちへ向かってこようとしたがそれをこの女は一言声をかけるだけで止めた。この女の指揮下にある…ということなのだろうか。だとすれば……

 

「アアッ!」

 

「っと。危ない危ない」

「マスター、お手をお貸ししましょうか?」

「いらん。離れてろ」

「承知致しました」

 

殺す…殺す殺す殺す!私の仲間を…よくも!

 

死ぬ気でレイザーエッジを振り回し、レーザーを撃ち放つ。だけど悉くを避けられてしまう。

 

「あー、もういいよ。お疲れさん」

「あぐっ⁉︎」

 

ルシフェルはもう飽きたとでも言わんばかりに、雑に私の首を片手で掴み動きを止めてきた。

 

「本当ならここまで来れたのを讃えて生きて脱出させてあげようと思ってたんだけど…ちょっとイラッと来たから君だけ特別処置だ。青髭」

「ここに」

「あとは任せた。興が覚めるようなことするなよ」

「畏まりました」

 

ルシフェルはそう言って私を放り投げ、出口の向こうへ歩いて行った。

……まて、青髭?

 

「青髭って…グリム童話の……」

「ああ、たしか殺人鬼…」

 

「んん失敬な!ただ青い毛をしているからそう呼ばれているだけです!さてそんな事よりもお嬢様方。早くこちらへ来た方がよろしいのでは?ラフム共が今か今かと狙っております故。死にたいのなら話は別ですが」

 

「っ!」

 

見た目は恐ろしさを醸し出している人間だったけど案外優しいのか?だけど今はそんな事より…

 

「早くいくわよ!」

「は、はい!」

 

バケモノ達が一斉に動き出し、それとほぼ同時に最大速度で出口へ向かって飛ぶ。ガシャアン!と盛大に出口を破壊してはしまったが中に入った途端にバケモノ達は何かを喋りながらどこかへ消えて行った。

 

「はっはっ…」

「ここから出たら辞表叩きつけてやる…」

 

「ふむふむ、マスターも仰られていましたがあなた方は優秀なようですね。特にそちらのお方」

 

「……」

 

「そう睨まないでください。私めの役目はあなた方を安全な場所まで送り届ける事です。あの地獄から生き残った強き者をね。ご安心くだされ。必ずや守って見せましょう」

 

「……そう。でも私たちにそれ以上近づかないでちょうだい。それとお前が前を歩け」

 

「承知致しました」

 

そうして呆気なく要求を呑んだ男はニコッとまるで神父のような顔で笑い先程ルシフェルが出て行った扉の方へ歩いていく。ここに入った時と同じならあそこから…。

 

「……っ」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫、です。もう安心だと思うと…」

 

隣を見ると大粒の涙をポロポロと流していた。手足は生まれたての子鹿のように震えており肩を貸してやらなければろくに歩けなさそうだった。

 

「しょうがないわね。はい」

「ありがとう、ございます」

「いえ、こちらこそ…生き残ってくれてありがとう」

 

「お嬢様がた?早くおいでくださいな。あなた方がいなければ開けることができないのです」

 

「今行くわよ!」

 

はぁ…でも本当に、生き残れた。

絶対にあのルシフェルって女は顔面壊れるまで殴るか斬り刻んでやる。

 

「さあ、行きましょ」

「…はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっはぁ、えっぐいわぁマスター」

「青髭に言えよ。私は『誰1人として生かして返すな』って命令しただけだ」

「あのお姉さん…解体したかった」

「だははは!面白ぇ顔してやがる!」

「趣味が悪いんちゃ」

「……」

 

モニターの先では2人の人間が数多の触手に蹂躙されていた。嬲られ、齧られ、へし折られ、みっともなく泣き叫んでいる。しかも何かの魔術をかけたのか一向に死ぬ気配がない。

 

「んー、まいっか。いい実験になった」

 

ラフムと人間の戦闘データ、青髭の魔術、ふむ色々と勉強になる。

 

 

ピキ

 

 

 

「あら?マスターはん。ヒビがおおきゅうなっとるよ?」

 

「ほっといていい。それよりもお前達はお前達でやることをやってろ。ああだけどお前らはこっから出るな。まじで。人攫いやら辻斬りされたらめんどくさいことこの上ない」

 

「あん?じゃあマスターが遊んでくれるのかい?」

「なんじゃ。わしが信用できんがと?」

 

「いいからあと1週間は大人しくしてろ。そしたら…思う存分暴れさせてやるよ」

 

そうして私の前から女の身が消え、男はなんか知らんけどダル絡みしてきた。おい胸を触ろうとするな海賊風情が。




青髭と呼ばれる男のやったことはFate/Zeroのキャスター初登場話を参照にしました。
……今更だけどzeroでのキャスターの行い、結構やっとることエグいですね。
さてはて、次の話からガッツリ神夏ギルとルシフェルの物語を絡ませていくよていです



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64話 譲れない想い

ひとまず完成
設定を組み直すというか、これからの流れをざっくり作っていたら結構時間かかりました

終着点は見えましたので頑張って突き進みます

それではどうぞ


「ルシフェル。いるかい?」

 

「あん?何の用?」

 

「五河士道とアロガンこと神夏ギルについてだ」

 

「……で?」

 

DEMインダストリーのビルの一室で言葉を交わす2人。うち1人はよほど嫌いなのか不機嫌を顔に貼り付けたかのような表情をしていたが。

 

「イギリス支部から連絡が入ってね。彼らはイギリスにいるらしい。そして明日には帰ってくるそうだよ」

 

「…!そう、か。ようやく…ああ、ようやくか」

 

ルシフェルは嗤う。

 

己の渇望を満たせると信じて。

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっ……」

 

琴里からルナのことを聞いていても立っていられなくなり、無我夢中に走る。

 

 

(ルナは半年以内に死ぬわ。そして霊力を使えば更に寿命を縮ませかねない。それほどまでに彼女の体はボロボロなのよ。今生きているのが不思議なくらいに)

(それも英雄王が精霊の力を縛っているおかげだ。もしそれがなく、更に精霊化をしていたなら一ヶ月と経たずに死んでしまう可能性がある)

(だからこそ私たちラタトスクはルナに戦って欲しくないの。…もしかしたら治す方法もあるかもしれないから)

 

(それ、ルナもわかっていたのか?)

 

(……ええ)

 

 

「なんでだ…なんでだよ…」

 

わかっている。こんな考えは俺の我儘だ。

だけど…

 

 

ルナが記憶を取り戻したあの日から、これまでに見てきたあの顔が、見せてくれた笑顔が、俺に『託してもいい』と言ってくれた時の何処か安心していたかのような笑顔がチラついて離れなかった。

 

 

だからこそ、あの時家で俺に見せたどうしようもなく悲しげで、救いを求めているようにしか見えなかった笑顔を

 

本当の意味での、心の底からの笑顔にしてやりたいと、そう思っていた。

 

 

それに琴里から聞かされたのはルナの身の上だけでなくて、彼女の考えも知らされた。

 

 

(ルナは元からルシフェルを止めるために全力を尽くして協力してくれるって話ではあったの。『みんなが笑えるために全力を尽くす。私は君たちが笑って過ごしているのが思っているより好きだったらしいから』って言ってくれていたわ。……体のことがわかったのはその後だったけど)

 

 

「ふざけんなよ…」

 

だからこそ、考えを聞いてよりどこに向けたらいいのかわからない感情が湧いてしまった。

 

()()にお前がいなきゃ無意味だろうが…!」

 

()()()()()の気持ちがわからないほどルナは馬鹿じゃない。だからこそあの時俺たちやラタトスクへ敢えて冷たくしていたのは俺でもわかる。

 

…いや、そんなことをいっても意味はないな。

 

俺が-何よりも怒っていたのは-

 

 

 

 

「ルナ!」

 

令音さんに教えられて向かった先はホテルの屋上。そこでは誰かと電話をしていたのかスマホを耳に当てており、こちらへ向かって『シィー』と人差し指を立てる。

 

俺が黙ったのを見てまた電話を続ける。

 

『いやだから、隠してたわけじゃないって』

『んじゃ明日紹介しなさい!お母様の代わりに挨拶しておかなきゃ!』

『もう母さんと父さんに2人でしにいったって』

『私が見たいだけよ!』

『だろうと思った。でも明日の昼には飛行機だよ?』

『じゃあ午前中いっぱいはあるわね!それよりもさっきの声の人は?ルナって呼んでたから友達?』

『……あー、まあ、うん』

『まあっ!あのルナにお友達ができるなんて!』

『どう言う意味よ⁉︎』

 

英語で話していたから内容はよくわからなかったけどしばらく話していた後にルナがスマホを俺に差し出してきた。

 

「え?」

「士道と話したいってさ」

「でも俺、そこまで英語は…」

「日本語も話せる人だから大丈夫」

 

そう言われスマホを受け取り、耳に当てると聞こえてきたのは明るい声の女性だった。

 

「Oh!初めましてシドウ イツカさん。ah…シドウで良い、かしら?」

 

「え、えと、はい。問題ありません。初めまして。士道といいます。貴女は…えーと…」

 

「私はルナを引き取った親戚です。ルナからはレインって呼んでもらってる。シドウもぜひそう呼んでちょうだい」

 

「はい、レインさん。あの、それで話とは……」

 

「あっその前にスピーカーにしてもらえる?どうせならルナと3人でお話ししましょう」

 

そう言われて音をスピーカーにするとルナは露骨に嫌そうな顔をしていた。

 

「レイン叔母さん何。私もう話すことないよ」

「まあまあそう言わず。この子がルナの彼氏ちゃんでしょ?もーっ、何で隠すのよ」

「隠してないんだけど…ていうか何処で知ったの」

「ルナが彼氏ちゃんとお墓参りに来てたって聞いてねー。その時にいた彼氏ちゃん、絶対にルナを裏切らなさそうだって太鼓判押してたわよ!」

「何で太鼓判を押すなんて言葉知ってるの。てかマジで誰から聞いたのそれ」

「シドウ!これからもルナの事よろしくね!」

「話を聞いて?」

 

「え?あ、はい。もちろんです。何があろうとルナのことは守って見せます」

 

テンションの高いルナの叔母さんに俺たちは置いてけぼりになりかけていたが突然そんなことを言われるので思ったままに返すとまた黄色い声が上がっていた。

 

「きゃー!Very cool!I want it for my boyfriend!(かっこいい!彼氏に欲しいわ!)」

「叔父さんいるでしょ。浮気?」

「あらごめんなさいつい。それよりもシドウ。どうやってルナを口説き落としたの?この子かなりの堅物だったでしょ?それにちょっと変わってるし前途多難だったんじゃない?」

 

「えーあー…はい、そうですね。結構ことある事に…色々と…」

 

「シャラップ士道。レイン叔母さんも何聞いてんの」

「えーいいじゃない!シドウのこともっと知りたいわ!それとルナの恥ずかしがってる声をもっと聞きたい!とてもレアだわ!」

後者(そっち)の方が本音でしょ」

 

ルナの声なんてあんまり変わってない…なんて思いながらルナを見ると顔が少し赤くなっていた。…珍しいな。

 

「それでそれで、どうなの?」

 

「…ルナが一時期、とても辛そうにしている時があったんです。そんなルナをずっと助けてあげたいと思ってました。それでルナが乗り越えるために俺は何でも手伝いたい、力になってあげたいと思いました。…そこからは、その、流れで…」

 

「……そう」

 

精霊とかのことを直接いうわけには行かず、ぼかして言うと先ほどまでの高いテンションは何処へいったのかレインさんは静かになった。

 

「そう…ありがとうシドウ」

「え?」

 

そして突然お礼を言われる。その声はとても優しく、何かに安堵していた。

 

「それと、ルナ」

「…何?」

「よかったわね」

「……そう、だね」

「さーて!お若い2人の話を聞けて満足したわ!それじゃルナ!明日会いに行くから場所教えなさいよ!」

「はいはい…メールしておくよ」

「あっ、それと最後にね!」

 

「…何?」

 

『ルナ、アナタのご両親はルナを愛してた。絶対にね』

 

『…うん。分かってる』

 

『もちろん私たちも愛してるわ』

 

『うん…』

 

『だから次こっちに帰ってくる時は事前に言いなさい!結婚の用意だってしなきゃいけないんだからね!』

 

『はいはい…じゃなくて、結婚とか何も考えてないっての!』

 

『あはは!まあ元気そうでよかったわ!またねルナ!また明日!』

 

『うん、また明日』

 

最後だけ英語で話していたから何を話していたかはわからなかったけど、ルナはとても優しい顔になっていた。きっとレインさんもルナにとっては大事な人なのだろう。

 

「……ルナ?」

 

「何?」

 

「いや、その…」

 

「? なに、言いたいことあるならいいなよ。破天荒でこっちのことガン無視な叔母さんだったなって」

 

「そうじゃなくて…」

 

ルナの目からは一筋の涙が滴り落ちていた。本人はそれに気づいていない様子だったけど。

俺が恐る恐る顔を指すとルナは自分自身の頬に触れ、その理由を理解していた。

 

「ああ…まだ流せるだけの涙が残ってたんだね…。んで、士道は士道で何やら気分悪そうだけど大丈夫?」

「誰のせいだろうな」

「酷い奴いたもんだね」

 

あざとい笑みでこちらを見てくるが、それに構わず無遠慮にルナへ近づく。その様子に面食らっていたが何かを察したのか小さく笑っていた。

 

「で、何かご用?」

 

「ルナ、何で-」

 

「『何で教えてくれなかったのか』って?」

 

俺の言いたいことなんてわかっている、とでも言うように俺に被せて言う。

 

「元から隠してたつもりはないからね。令音さん達から知らされた時も、『別に隠すような事でもないから言って構わない』って伝えたし。まさか今の今まで伝えて無いとは思わなかったけど」

 

「ああ、それもあるけど、それ以上に言いたい事がある」

 

「というと?」

 

分かっていないのか、それとも分かった上で聞いてきたのかは定かじゃ無い。

でも言わずにはいられなかった。

 

 

-分かっている。こんな考え、俺のエゴだって。ルナの体のことなんてルナが1番分かっていることだろう。でも、それでも-

 

 

「俺が言いたいのは、お前の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだ」

 

俺が1番嫌だったのは

 

ルナが自分の死を受け入れて、生を諦めてたことだった。

 

確かにルナの力や英雄王の力があれば百人力どころか千人、いや万人力だろう。

 

でもその果てに来る未来は俺にとって決して許容できなかった。

 

「私の考え、ねぇ。琴里からどこまで聞かされたかは知らないけどさ。私は案外、君達のいる空間が好ましかった。だから壊されたくない、壊させない為にルシフェルと戦う。マイラももしかしたら救う可能性が出てきたんだ。ならやらないわけにはいかないじゃん?それのどこが不満なの?」

 

「……っ!お前が死んだら意味ないだろうが!」

 

ルナは叫ばれると思わなかったのか少し体をビクッとさせていた。だけど更に続けて言う。

 

「なんで、なんで死ぬのを受け入れてるんだよ!せっかくマイラさんを救えるかもしれないと分かったんじゃないか!マイラさんを救った上で一緒に過ごしたいって、どうしてそう思わないんだよ!なんで自分が死ぬのを受け入れてんだ!

 

お前は、神夏ギルは、そんなんじゃないだろ!」

 

だけどルナはちょっとため息をついただけで、俺に真面目な顔で向き合って口を開く。

 

「寿命のことなんて私にはどうしようもないでしょ。それもこれも、人間にとっては歪で強大な力を乱雑に使ってきた結果だろうからね。むしろ王様と会えて王様に臣下って言ってもらえたから私としてもこの生は満足いくものだった。……そう言えるほどに今の私は満たされたからね」

 

「じゃあ、全部終わったら俺に任せてもいいって言ってくれてたのとか、あの家での話は…お前の気持ちは…全部嘘っぱちだったのかよ」

 

「……。うん、そうだよ。ルシフェルとの戦争の結末がどうであれ私は死ぬ。それは分かってたからね。どちらにしろ戦わないとしても半年後には死ぬ運命なんだ。それならやりたい事は全部やったほうがいいじゃん?」

 

そう言いフッと微笑むルナはきっと、誰もが見惚れただろう。

 

けど俺の目には全く別のものが映っているようにみえて

 

 

嘗て十香が見せた笑み-自らの死を受け入れて、それをしょうがないと諦めていた時のよう-に見えてしまった。

 

嗚呼、その目は

 

 

俺が本当に、心の底から嫌いな目だった。

 

 

「っざけんじゃねぇ!」

 

思わず激情に任せて叫んでしまう。

 

「俺は、お前にも助かって欲しいんだよ!救いたいんだよ!前にも言っただろうが!俺は、十香たちが安心して暮らせて、普通に暮らせてほしい、そこにお前もいて欲しいって!なのに…お前にとって俺たちはその程度の存在だったのかよ!」

 

「……」

 

「俺は前にルナが告白してくれた胸中を、考えを聞いてより一層救いたいって思った。お前だってマイラさんを救いたいって言ったじゃないか!それなのになんだよ!お前の覚悟って所詮その程度なのかよ!」

 

「…士道」

 

「寿命のことなんてどうしようもない?わかんねぇだろそんなこと!精霊の力のせいだっていうなら封印できたら変わるかもしれないだろ!なんで『どうしようもない』って決めつけてんだよ!」

 

「士道」

 

「こんなのも全部俺のエゴだよ。そんなのわかってるんだ。だけど!あの悲しい目をしたお前を救えずに死なせるなんて…そんなの俺が」

 

「士道!」

 

ルナの声に思わずハッとなり口を塞いでしまう。

 

やってしまったと思ってしまった。

 

「いや…その、ルナ、ごめ…」

 

「ありがとう士道」

 

自分でも醜い様になっていたのはわかっていた。だから何か言われると思ったけどそんな予想とは裏腹に帰って来たのは感謝の言葉。

 

意味がわからずルナを見ると

 

その顔は

 

とても----

 

 

「…ん、今の士道ならきっと大丈夫。だから…ちゃんと十香たちを守ってあげるんだよ?……君と逢えて本当に良かったと、今の君の言葉を聞けて心の底から思えた。だから、ありがとう。こんな私と出逢ってくれて。それと…

 

 

ごめんね」

 

 

その顔を見てしまって

 

きっと、もう

 

これまでの精霊達みたいな方法では彼女を救うことはできない、心の底から笑顔にしてあげることはできない、と

 

そう確信してしまった。




デート・ア・ライブのPS4系列のゲームを全部トロコンしたぜイェイ

……えっ?更新遅くなった理由それだろって?

………

勘のいいガキは(ry

時系列順にやりましたが蓮ディストピアのメインである蓮
あの子いいっすねぇ(性癖ドストライク)

メインストーリー終わったらちょこっとだけ番外編作りたくなりましたね、ええ。
まあ書き終わるまで構想も何も作らないんですが てことで頑張ります(


それでは読んでくださりありがとうございます
感想や評価などくださると嬉しいです。


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神夏ギルの最期の物語
65話 日本へ


準備は整った。

必要なモノも、チカラも、場所も、あらゆるものを揃えた。

だけど完璧じゃない。ああ、そうだ、1番の懸念は……


「来るなら来い、母上。その時は…」


私を産みし原初の精霊よ。愛に飢えた化け物よ。


私に矛を向けるというのなら、愛に飢えた化け物同士

死ぬまで喧嘩しようじゃないか


「さ、みんな。忘れ物はないかな」

 

次の日の朝、みんなで集まり確認を取る。

最後にもう一度部屋の中をざっくり確認してフロントへ向かう。

 

受付の人と話しチェックアウトを済ませる。

 

「それじゃあ空港へ向かおう。時間はあるはずだから道中でお土産でも買って帰ろう」

 

特に異論はないようで、1、2日めと同じくルイスさんの車にみんなで乗る。

殆どみんなはまだ元気が有り余っているようでわいわいと騒いでいた。

 

ただ1人だけ、ずっと神妙な面持ちの人がいたが。

 

「士道」

 

「…っ、あ、ああ。どうした?」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫、だと思うよ」

 

「そ、ならいいけど」

 

明らかに覇気のない士道。理由は分かっているけど無闇に踏み込む訳にはいかなかった。なんせその原因は私なんだから。

 

 

 

「(……こうなるくらいなら出逢わなければよかったと、心の底から思っちゃうなぁ。はは、私って本当……)」

 

 

 

「はーいみんな、荷物を預けに行こうその後飛行機の時間までは自由にしてて。ただ時間が過ぎたら遠慮なく置いていくからそのつもりでね。…特に耶倶矢」

「だから何で私をピンポイントで名指しすんのよ!」

「愚問。耶倶矢はへっぽこだからでは?」

「だから毎回思うんだけど夕弦の方が酷いこと言ってない⁉︎」

 

空港に着き、ルナがみんなを先導しながら受付なんかを済ませていく。だけど俺はその間も色々なことを考えてしまっていた。

 

どうすれば…ルナを救うことができるのか。

 

 

「ルナー!」

 

 

「…げ」

 

そんな中、どこかで聞いた覚えのある声が遠くから聞こえてきた。

同時にルナの見たくないものを見たかのような声も。

 

『会いたかったわよー!』

「げふっ⁉︎」

 

そして声の主は俺たちに目もくれずルナに体当たりをかました。

 

「いったぁ…」

「あらやだ、ルナったら痩せたんじゃない?」

「それは褒め言葉?」

「もちろん!」

「それはどうもありがとう。それよりも言うことない?」

「……相変わらずお胸小さいわね!」

「一発殴ってもいいかな?」

 

恐らくは20代後半であろう、金髪のサラサラした髪をしていて蒼の瞳をしており、今は絶賛ルナを押し倒している。どこかで聞いた声なような…。

 

「まあいいや。後で叔父さんにチクっとくから。それよりも困惑してるみんなへ自己紹介して欲しいのと早くその豊満な胸を私の目の前からどけてくれないかな?」

「あらやだ、ルナったら嫉妬?やーねぇ」

 

いたずらっ子かのように笑った瞬間にルナは思い切り叩いていた。胸を。

 

「いったぁーい。そんな自分にないからって怒ることないじゃないの」

「やかましいわ!もぎ取ったろか!」

「取れるもんなら取ってみなさいよ〜。あ、ごめんなさいねみんな放ったらかしにしちゃって」

 

いつものルナらしからぬハイテンポの掛け合いの-もはやコントにしか見えなかったが-様子を見て俺だけじゃなく殿町や八舞姉妹もポカーンとしていた。

 

「みなさん初めまして。私はレインハートと言います。ルナからはレインと呼ばれているので是非ともそう呼んでくださいね。こう見えてルナの養母です」

 

やっぱり、昨日の電話の相手だ。

俺以外のみんなはと言うと義母という単語にひどく戸惑っていたが。

 

「て、てことは神夏さんの御義母様⁉︎おい五河、挨拶しとけよ!」

「なんでだよ」

「めちゃくちゃ若いのに胸デッカ…」

「お前はどこを見てるんだよ…」

 

「金髪に蒼眼!……いい!」

「挨拶。初めましてレインさん。夕弦と言います。お見知り置きを。こちらは耶倶矢。常に変なことを言いますので無視してください」

「ちょっと⁉︎」

 

「レイン叔母さんはこう見えて私にも劣らぬオタク。あと料理が下手」

「むっふっふー。ドジっ子メイドは良き文化ヨネ!」

「それで帰ってくるたびにメイド服で出迎えるような人です」

「失礼な!メイドだけじゃないわよ!チャイナドレスに和服にまだまだあるわよ!」

「ちなみにみんなのことを話したら是非とも会いたいと言うことで伝えてはいたんだけどまさか本当に来るとは思ってなかった。……仕事どうしたの」

「さぼったわ!」

「さいですか」

「ちなみに今のブームは黒い執事!悪魔で執事!」

「聞いてないねこれ」

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「いやーみんな可愛いわね、眼福眼福!」

「どこでそんな言葉覚えたの」

「にしてもシドウは昨日話して確信はしてたけどやっぱりイケメンね!ウチに欲しいわ!」

『…士道に手を出したら叔父さんに告げ口するからね』

『冗談じゃないの。それとあの人に言うのはやめて』

 

ようやく落ち着いたレインさんは改めて俺たち一人一人に挨拶をしていく。殿町とかの顔が明らかにデレデレしていたのは気のせいだろう。

 

「んで、本当になんで来たの」

「お別れの挨拶くらいさせなさいよ!ルナが迷惑をかけてるだろうからそのお礼も言わなくちゃ!」

「そこまで子供じゃないが?」

「特にシドウ、あなたには昨日お話を聞いた時からずっと会ってお話ししたいと思ってたの」

 

「俺に…?」

 

「ええ。てことでルナ〜シドウ借りるわね〜」

「士道、何かされたら遠慮なくその無駄にでかいFは超えてそうな胸を引っ叩きな」

「まだEですぅー!」

 

こうしてレインさんはルナと他愛無い口喧嘩をしながら俺の腕を引っ張っていく。

 

「…うん、この辺でいいかな」

 

「あ、あの、俺に話って…?」

 

「ああ、Sorry〜。いやね、本当にお礼を言いたいだけなの。ルナがあんなに明るくなってくれたのを久しぶりに、……本当に久しぶりに見たから」

 

レインさんは懐かしむような、後悔しているかのような目をして俺を見てくる。

 

「あの子って14歳くらいに悲しいことが起こってね。訳あって私たちが引き取ったんだけど…」

 

「それって、ルナのご両親のこと…ですよね?」

 

その出来事に心当たりがあり、不躾ながらも聞いてみるとレインさんは首を縦に振る。

 

「シドウにはもう話しているって聞いてるから余り隠さなくてもいいわね。そうよ、あの子は目の前でお姉ちゃん…あ、あの子の母親のことね。母親や友達なんかも目の前で死ぬのを見てしまったらしくてね。引き取った時はもう本当に酷くて。どうにか笑顔にしてあげたかったけど私たちだけじゃ無理だった」

 

それは俺も知っていた。なぜなら狂三の力を借りてルナの過去を見ていたから。

 

「でね、お父さんの故郷である日本の学校に行くのを勧めたのも私なの。辛いことが起こったこの場所より、新しい場所の方がルナにとってもいいのかも知れないと思ったの。…それでもしばらくは変わらなかった」

 

「そんなに…なんですか」

 

「うん。でもね?数ヶ月前からのルナの声は、なんというか姉さんたちが生きてた時の頃に、とても明るくなってたの。その時に絶対話題にしてたのがシドウ、アナタなの」

 

「……!」

 

「だから、これからもルナを…ずっと独りぼっちなあの子を支えてあげて。…本当なら私たちがやるべきことなんだけどね」

 

レインさんの瞳はどこか寂しげで、悲しげで、後悔の念に渦巻いていた。

…ここまで言われて、何もできないなんて言えないよな。

 

「もちろんです。任せてください。絶対にルナを悲しませたりしませんから」

 

「ふふっ、そういうと思ってた。やっぱり私の見立て通りいい男ねシドウは。今からでもうちの子にならない?」

 

「そ、それは…」

 

「冗談よ。ありがとうシドウ」

 

そうお礼を言われると同時、スマホが震える。

 

「もしもし」

『あー士道?』

 

電話の相手はルナだった。

 

『搭乗できるアナウンス来たからそろそろ戻ってきて』

「わかった。すぐ行く」

『それとレイン叔母さんにこう伝えといて。〜〜〜〜〜〜〜〜〜』

「……いや、それ自分で伝えたらどうだ?」

『いいから、それじゃまってるよ」

 

一方的にそう言われ電話を切られる。

気のせいだろうか、声がほんのちょっと上擦ってたような。

 

「ルナはなんて?」

「もう飛行機に搭乗できるから戻ってきて、と」

「あら、残念。もう少し話してたかったんだけど」

「それとレインさんへ伝言を、って」

「?」

 

「『レインハート叔母さん、今までごめんなさい。そしてありがとう。私を引き取ってくれて。お母さんたちと同じくらい愛しています』…だそうです」

 

「…わかったわ。ルナに『私こそ愛しているわ』って伝えてくれる?』

 

「はい、任せてください。それでは俺はこれで失礼します」

 

「ええ、またねシドウ。次来る時は結婚のご挨拶かしら?」

 

「そ、そこまで発展する…かどうかはわかりませんが、またイギリスに来る時が来たらよろしくお願いします」

 

少しだけ恥ずかしくなり駆け足でその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

『ふふっ、本当にいい人ねシドウは。…まるでマイラみたい。ルナが惚れるのもわかるわ。……終わったわよ。早く出てきなさいよ』

 

『これは失礼しました。では、疲れ様でした。約束通り共にDEM日本支社へ来ていただきましょうか』

 

『構わないわ。でも私との約束も守りなさい』

 

『もちろんですとも』

 

 

 

 

 

 

 

〜14時間後〜

 

「あーっ、お疲れ様みんな。あとは荷物を取って各自解散で」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

特に何事もなくフライトを終えた士道たちは別れ話もほどほどに別れていく。

 

「俺たちも帰ろうか。琴里が迎えに来てくれてるらしいから」

「それはありがたい」

「あ、それと今日の晩御飯に鍋を作ろうと思ってるんだけど、ルナも来ないか?」

「うーん、ありがたい申し出だけどちょいとやることがあるからパス。とは言っても部屋に篭ってるだけだから安心して」

「わかった。それじゃあまた明日」

「うん、また明日」

 

 

 

 

 

「やあ、そこの人」

 

「…?俺ですか?」

 

「そう、君だ。確か…トノマチヒロト、だったかな?」

 

「…あ!ルシフェルさん!こんばんは!」

 

「ああこんばんは」

 

「相変わらずお綺麗ですね!」

 

「…?ああ?ありがとう?」

 

「それよりも突然どうしたんですか?」

 

「いや何、少し手伝ってほしいことがあってね。手を貸してくれないかい?」

 

「勿論っすよ!あ、でも荷物だけ家に運び込んじゃっていいですか?」

 

「それくらいは構わないよ。それじゃあすぐそばにある公園で集合しないかい?」

 

「了解しましたっ!すぐ行くんで待っててください!」

 

 

 

 

 

 

 

〜DEM 日本支社 とある一室〜

 

『……』

 

「それで、どないしろと?ウチにこんなもん押し付けて」

 

「『意思』が強すぎるから、お酒を飲ませろ、ってお母さんが」

 

「…そないな便利道具みたいに言われてもなぁ。ま、やるだけやってみるけどどうなるかは保証はせえへんよ?」

 

「壊れたら壊れたで構わないって」

 

「ふーん。……それよりも他のはどないしてんの」

 

「青髭は実験してて、人攫いさんはお酒飲んでて、人斬りは部屋に閉じこもってる。黒い肌の人も部屋に篭ってるよ。あと、髭の生えたおじさんはけいさんっていうやつをやってるよ。絶対にライバルが出てくるからって」

 

「……ウチがよう働いとるって、世も末やなぁ。そんで肝心のマスターはんは?」

 

「『素材』の確保に向かってるよ。一緒に解体したいってお願いしたらダメって怒られちゃった」

 

「せやろなぁ。ま、ええか。あとでたーっぷり報酬を貰えば。ほんじゃあ行こうか。……たぁんと飲みぃや」

 

 

 

 

 

 

 

「んで、何か用?わざわざ暗殺者まで宿して」

 

「……」

 

「これは…手紙?」

 

「……」

 

「そんな殺気出さなくても受け取るっての。で、他に何か用は?」

 

「……」

 

「ないのね。じゃあ早く帰れ。殺されたくないならな」

 

髑髏の仮面を被った全身黒ずくめの男は手紙を渡すとすぐに闇の中へ消えていく。気配遮断を使っているのか数秒経っただけでもうどこにいるのかわからない。

 

「……招待状ならもう少し華やかにでもすればいいものを」

 

手紙の封を開け、中身を見る。そこにはおおかた予想通りのことが書いてあり、そして思わず握りつぶしてしまう。

 

 

 

「3日後…ね」

 

それじゃあ、やるべきことをやっておきましょうか。




さて、本当の最終章へ向かっていきます

今までは日常パートを多めにしていましたが、次話から戦闘がちょくちょく入ると思います

それでは読んでくださりありがとうございます
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66話 見捨てる覚悟

今更ですが、タイトルにサブタイトルを付けてみようと思います
アンケートにサブタイトルあった方が良いかどうかというのをおいてありますので、投票してくださると嬉しいです

とりあえずは最新話から順に(もしくは章ごとに)付けていきますので、気が向いたら覗いてみてください


それでは本編どうぞ


イギリスから帰った次の日、士道の家に向かう。チャイムを鳴らし、寝ぼけている-おそらくは時差ボケのせいだろう-士道が出てくる。

 

「おはよう寝坊助さん」

「…おはようルナ」

「琴里はいる?」

「ああ、もう起きてるはずだ」

「そ、んじゃお邪魔しても?」

「もちろんだ」

 

 

 

「おはよう琴里」

 

「おはようルナ。何かあったの?」

 

「まあ、そうだね。一応琴里達にも伝えておいた方がいいと思ってね。…十香達は?」

「まだ寝てるわよ。読んできた方がいい?」

「そうだね。出来るのなら精霊の人はみんな読んでほしいかな。あとは令音さんと中津川さんもこの場にいて欲しい」

「わかったわ。ならラタトスクの会議室に来なさい。そこならモニターとかも色々あるから会議しやすいわ」

 

琴里が退出し、この場に私と士道の2人だけになる。…ちょっと気まずいなぁ。

 

「ルナ」

「んー?」

 

「その…この前はごめん。感情的になっちまって」

 

「あーうん、私のほうこそごめん。士道の性格は分かった上で煽ったような部分があるから、あれに関してはおあいこ」

 

「でも」

 

「?」

 

「お前が死ぬのを許容したわけじゃないからな」

 

「……そう。期待してるよ。私のほうこそ死ぬ以外の選択肢を用意できるならして欲しいしね」

 

ま、無理だろうけど。

 

「…あ、そうだ。ちょっとだけ相談なんだけど」

 

「?」

 

「はいこれ」

 

「……?」

 

士道に何枚かの紙を渡す。そこには何枚かの写真と説明が書いてある。

 

「それ、出来れば早いうちに決めておいて」

 

「……?どういうことなんだこれ」

 

「どう言うことも何も、書いてある通りだよ。それに関しては私よりも士道の方が適任でしょ」

 

「これやったとして、どうなるんだ?」

 

「ルシフェルを攻略する手助けになるのと、ラフムどもと戦うのが格段に楽になる。だから真面目に考えといて。できれば3日以内に。早ければ早いほどなお良い」

 

「わかった。考えておくよ。琴里や精霊のみんなとと相談しても良いのか?」

 

「もちろん」

 

ひらひらと手を振りながらテレビをつける。…あ、神話特集やってる。あとで見よう。

 

 

 

 

 

 

「おーおー、精霊がこれだけ集まるとやっぱりすごいもんだね」

 

ラタトスクの会議室には十香から始まり四糸乃、琴里、耶倶矢、夕弦、美九が集まる。更に中津川さんと令音さん、そして士道。あとは…

 

「狂三、いるんでしょ?」

 

適当に声をかけると私の後ろに誰かが現れる気配がする。

 

「狂三…ッ⁉︎」

「ご機嫌よう士道さん。そして他の皆様方も」

「私には挨拶なしかい。誰の影に潜らせてあげてると思ってんの」

「あらあら、嫉妬ですかルナさん」

「よぉーし狂三の秘話をバラしちゃうね。とりあえず裏路地で猫に餌をあげてにゃーんってしてたことから…」

「あらールナ様本日もお美しいですわね。肩を揉んで差し上げますわ」

 

文身体なんだろうけどニコニコしながら肩を揉む狂三は、正直言って面白い。

 

「さてみんな集まったと言うことでこれからの話を…」

「ここまでさせておいてスルーですの⁉︎」

「はいはい。取り敢えず座れば?」

 

テンションの高い狂三を私の横に座らせる。そしてルシフェルに渡された-ちょっとクシャクシャになってしまっているが-1枚の紙をテーブルの上に載せる。

 

「これは…」

 

「有体に言えば招待状。ルシフェルから私たちへのね」

 

琴里がそれを手に取り中身を読む。次第に怪訝な顔つきになっていった。

 

「なにこれ、本気?」

「本気だろうね。反英雄や精霊を宿せる時点で出来てもおかしくないし」

 

紙には至極単純なことだけ書いてあった。

 

『三日後、士道とマガイモノ全員を連れて家で待機しろ。

誰か1人でも欠けていた場合、手始めに天宮市の人間全てを殺す。

 

P.S ラフムはまだ出すつもりはないので安心していい。あいつらを使う時は全面戦争になった時だけだ。また、ラタトスクとやらも好きに介入するといい。どうせ結果は変わらないからね』

 

昨日渡された時の三日後なのであと残りの猶予は2日もない、というのを確認した上で全員をぐるっと見渡す。

 

「さて、ここまでされた上でラタトスクに聞くけど、ルシフェルへの対応を変える気は?」

 

分かっていることを改めて聞く。だけど琴里は「変える気はないわよ。救うに決まってるわ」と腕を組みながら言う。士道も頷いているからルシフェルの霊力を封印すると言う方針はあくまでも曲げないらしい。

 

「……そう。ま、好きにしなよ。んで話の本題に戻すと、ルシフェルの思惑は、士道を手に入れる事と四糸乃、美九を殺す事。この二つだと思って良いと思う」

 

名前を言われた士道、四糸乃、美九の3人が一気に緊張に包まれる。それに構わず言葉を続ける。

 

「で、私の役目は主に士道を守ること。それに全力を尽くすつもりではあるけど正直なところ私1人だと不可能に近い。だから…」

 

「私たちの力を借りたい、って事ね」

 

「そういうこと。ただ私の方でも案はある。その為にも狂三以外のみんなは一度士道と話をしてほしい」

 

『『『?』』』

 

私以外が疑問符を浮かべていたがそれに構わず話を続ける。

 

「それでだけど、琴里は『ラフム』についてどこまで説明してるの?」

「まだよ。これから説明する予定だったの」

「ラフム?」

「それって、なんです…か?」

「それに関しては見た方が早いかと」

 

狂三が指をパチンと鳴らすと、影の中から現れたのは一つの死体。

 

それが出てきた途端に私と狂三を除いた全員が-十香達だけでなく事前に映像を見ていた八舞姉妹までもが-壁際に背中をつけるほどに距離を取る。

 

「……だすなら出すって言ってよ」

「ちゃんと出す直前に言いましたわよ?…まったく、こんなものを納めておけなんてわたくしといえど迷惑極まりないですわ」

 

「せ、説明しろ神夏ギル!こ、これは…」

「はいはい。説明するから。狂三、それ納めてもらえる?」

「……いやですわ。もう消し飛ばしてしまいたいですもの」

 

本当に、本当に嫌そうに顔を顰めるので仕方なくラフムを掴み狂三と共に外へ出してもらう。念のためラタトスクも見張ってもらっている。

 

「んじゃ、上に投げるからやってもらって良い?」

「ええ」

 

上にぶん投げると同時、狂三が銃を乱射し死体を穴だらけにする。そこへ霊力をぶつけでもしたのか盛大に破裂し霧散していった。

それが終わるのを見届けた後、再度ラタトスクに回収され先程までいた会議室の中に戻る。

 

「さ、話の続き…みんな大丈夫?」

 

ぐるりと見渡すと全員冷や汗をかきながら呼吸を整えて、そして一言

 

『『『大丈夫じゃない!(ではない!)』』』

 

ですよねー。

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?落ち着いたね?じゃあ話の続きいこうか」

 

落ち着ける訳はないが話が進まないので、抗議の声を無視して話を続ける。

 

「アレの名前はラフム。端的に言えば新しい人類。…とは言っても、敵意を持って襲ってくる化け物、と言う認識でいいよ。

 

「士道は大丈夫だと思うけど精霊のみんな、特に四糸乃と美九は万の軍勢はいるアレに襲われるのを覚悟しておいて。で、正直に言うと君らだけでアレに対抗するのは不可能に近い」

 

今度は私の言葉に反論してくる人はいなかった。死体であの反応なのだから生きているモノと会った時はどうなることやら。

 

「1対1での戦闘なら精霊のみんななら絶対に遅れをとることはない。だけどアレが万の軍勢で襲ってきたらひとたまりもないと思う。そこで、士道には伝えてあるけど私の方で戦力の増強をする」

 

「増強?」

 

「詳しい話はみんなで士道に聞いて。やれるなら早いうちの方がいいからこの話し合いが終わった後にすぐにでも士道と話し合うこと。狂三は後で私のところに来て」

 

「わかりましたわ。それで…肝心なことを話しておられませんよねルナさん?」

 

「…分かってるよ。士道、いや敢えてラタトスク、と言おう。今回ルシフェルを懐柔して封印できなかった場合、どのくらいの被害になるのか想像できる?」

 

「少なくとも天宮市を住民ごと更地にしてでもラフムを根こそぎ殺しでもしなければ、最悪の場合日本だけではなく全世界に被害が行くでしょうね」

 

そう答えたのは中津川さん。その回答に全員が驚愕の目で中津川さんと私を交互に見る。…対応が遅れたらどんなことになるのか知っている人がいると言うのはありがたい。

 

「そう。だからこそみんなに守ってほしいことがいくつかある。これから言うことを肝に銘じてほしい。

 

まず第一にラフムは躊躇いなく殺すこと。人間を素材に作られた存在であろうと、そうでなかろうとね。

 

第二に、もし士道が失敗した場合はルシフェルを殺すこと。もし協力できないとしても私と狂三でやるからそのつもりで。

 

第三に

 

 

 

有事の際は私を見捨てて逃げること。以上」

 

 

 

 

ルナの提案はあまりにも受け入れ難いモノで、すぐに全員が反論をしていく。

だけど少し高圧的な態度をとり全員を黙らせていた。

 

「ルナ、俺からも言わせてくれ。そんなことが俺たちにできると思うのか?」

 

「できる、できないじゃない。見捨てなきゃ君たちが死ぬんだよ。ラフムくらいなら私でもどうとでもなるけどね、みんな死なずに、となると難易度は格段に跳ね上がる。私1人を見捨てられずに全滅なんてしたら目も当てられない。だから1人でも多く生き残ってもらうための提案」

 

琴里たちはみんな、出来るわけがないと言っているがルナは顔色ひとつ変えず、どこか怒っているかのような声色で喋る。

 

「それでも無理だと言うなら…今すぐルシフェルを救うなんて世迷言は捨てろ。士道、それに琴里、十香たち、ラタトスクのクルー全員もだ。もうコレは誰も死なずに、なんて甘ったるい理想が通じるようなモノじゃないっていい加減理解しなよ」

 

「っ…そこまで言うことないだろ!」

 

「言うようなことなの。……士道、何も私をすぐに見捨てろってわけじゃない。もうどうにもならなくて、全員が生きて帰れそうになかったら最初に私を見捨てろ、ってだけ」

 

「そんなこと言っても…」

 

「そうならない為の作戦会議と戦力増強なんだよ。私だってラフムなんぞに殺されるのは死んでもごめんだからね。…だから、君たちも私が、士道が、この街のみんなが死ぬのか嫌だって言うのなら最後の一つはともかく残りの二つは肝に銘じておいてほしい。んで、話の続きを…」

 

 

 

クスクス      クス

    クス クス    クス

  クス   クスクス

 

 

 

そこに、笑い声が響く。

それに気づいた全員が辺りを見渡すと髑髏の面をつけた人が-性別や背丈こそ違うが何十人も-壁際に立っていた。

 

その中の1人がゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「これはこれは、随分と呑気なことだ」

 

「ルシ…フェル」

 

そいつが仮面を外すとルシフェルだということがわかる。

一斉に全員が緊張していたが臆することなくルシフェルに対して一歩を踏み出す。

 

「やあ我が運命人よ。元気そうで何よりだ」

 

「ありがとう。ルシフェルこそ元気そうで何よりだ。急にどうしたんだ?俺をデートに誘いにでも来てくれたのか?」

 

「ふふ、デートの誘い、というわけでは無いが誘った場合は受けてくれるのかな?」

 

「もちろんだ」

 

「そう、ありがとう。…ま、断るという選択肢はないだろうけどね。それで、私を救うとかいう世迷言はまだやろうとしているのかな?」

 

「当たり前よ。ラフムとやらをたくさん作ってるみたいだけどその程度で諦める私たちだと思ってるわけ?」

 

琴里の言葉に対してルシフェルはなお笑みを崩さず見てくる。まるで何かを嘲笑っているかのように。

 

「ラフムのことを懸念してるなら、残念ながら危機感が欠如しているとしか言えないね。ラフムどもの生産体制はとっくのとうに私の管理下を離れてるよ。だから放っておけば延々と増え続けるぜ?なんせあれはラフムどもが勝手に()()()()()()()()()()()()()()だけだからね」

 

「ラフムが…学ぶ?」

 

「ま、詳しいことは実際に出会ってからだ。私の方である程度強引に制御はしているがいつまで持つかは私もわからないからね。それよりも士道。こんなマガイモノよりも私と一緒にデートをしようじゃないか。二日後の約束の日までね」

 

ルシフェルが俺に手を伸ばし、それに思わず恐怖し一歩下がってしまった。

 

「あはっ、何を怖がってるんだい?言っただろう?デートをするだけさ。ま…少しくらいはつまみ食いをしても…」

 

 

ザシュッ

 

 

「ぎっ…」

 

次の瞬間、ルシフェルの右肘から先がなくなっていた。同時に何か温かいものが顔にかかる。それを触ってみると赤い色の液体で、血だとすぐに分かった。思わず叫びそうになるがみんなのいる手前、口に手を当て強引に声を抑える。

 

「ったぁ…容赦が無いね我が宿主も」

 

「はぁ…はぁ…そのへんに、しておけよルシフェル。次手を出そうとしたら、その程度じゃ、済まないよ」

 

「クスッ、ほんのわずかな霊力を出すだけでそうなるキミがどうにかできるとは思えないけどねぇ?だがいいモノを見れた。コレは二日後も退屈しなさそうだ」

 

切断された右腕を拾い上げ、ひらひらと振りながらルシフェルは出入り口へ向かう。

 

「ちょっ、ルシフェル⁉︎治療しないと…」

 

「あはっ、優しいなぁ士道は。心配ご無用。この程度の傷はすぐに治る。それじゃあ私は殺されないうちに帰るとしよう。…2日後を楽しみにしているよ士道。我が運命人よ。

 

キミの選択を、決意を、覚悟を。

キミの全てを楽しみにしているよ」

 

 




-わかってる。こんなことで突き放し続けたところで結果は何も変わらない。

だけどそれでもやらなきゃ。

いざとなれば狂三にも頼んであるし王様にも懇願すればなんとかなる、かも知れない。
だけど、ラフムを殺し尽くすには、()()()()()()()()()()()()()()()()


なら


死ぬのは、私1人だけでいい-


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67話 神夏ギルの策

祝デアラ5期放送
1話目から面白かったのと、デアラをみて創作意欲が少し戻りつつあります

がんばるぞい


「はぁっ…はぁっ…」

 

精霊の力を引っ込めると同時、体が激痛に見舞われる。

我慢できないほどじゃないけど、ものすごく辛い。

 

「ルナさん、大丈夫…ですか?」

「大丈夫だよ四糸乃。それよりも…分かったでしょ琴里。万全の狂三がいてすら不覚を取りかけたんだ。本気でぶつかるとなるとこの比じゃないよ?」

 

「それも込みで考えてるわ。こっちには中津川もいるから、その手の情報戦はこちらにも分があるもの」

 

あの暗殺者集団を見てもルシフェルを攻略する覚悟は揺るぎないようだった。

さてはて…それなら改めて私も覚悟決めますか。

 

「…そう。それじゃあ一旦解散しよう。どうせあと今日明日でやれることなんてたかが知れてるし。あ、狂三は私と来て。どうせ年中暇でしょ」

「誰が厨二病ニートですの?」

「そこまで言ってないけど?」

 

そこからは流れ解散になり士道の元へは他の精霊たちが、私のところに狂三がくる。

 

外に出してもらい、人気のない場所へゆっくりと歩きながら向かう。

 

「このような場所で、どのような用事ですの?」

「その話をする前に()()()は本体?それとも分身体?」

「分身体ですわ。()()()()の方が都合が良いですの?」

「ま、そうだね。あ、いや、一応根本的な考えは同じなんだっけ狂三たちって」

 

そう考えると今の狂三で別にいいかも?

 

辺りを見渡して誰もいないことを確認し、狂三に数枚の紙を渡す。

 

「……。あの、これは?」

 

「狂三、今日中に本人にそれを渡して。それで明日までに本人に直接私の元へ来るよう伝えて」

 

「わかりましたわ。…ああ、ついでにですが1つ…いえ、2つほど質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「んー。内容による」

 

「では、答えても良いという内容ならば正直に教えてくださいまし。

 

いまの精霊の皆様でルシフェルに勝てると思いますの?」

 

正確にいうならばルシフェル()()なんだろうけど。

まぁ…

 

「実力的な意味でなら可能。実行できるかどうかだと不可能。そんな感じかなぁ」

 

「その理由とは?」

 

「だって絶対ラフムを殺す時に躊躇うでしょ?なにより…ルシフェルの力があの程度とは思えない。なんせ『人類悪』を顕現させてるくらいだし?」

 

「その件ですが…わたくしの方で少し偵察をしてみました」

 

「へぇ。で、どうだった?」

 

「ラフムとやらが増える原因については突き止めれましたわ。ただそれ以上のことは…」

 

「構わないよ。教えて」

 

「はい。DEM社のビル内の一角、そこにラフムが大量に居ました。わたくしたちが5人ほど総力で以て奥へ突き進んだところ、最奥に一つの肉塊がありました」

 

「肉塊?」

 

「その肉塊の至る所に人間の頃の名残がありました。そしてその肉塊の端を手のひらサイズに切り落とし、連れてきていた人間に埋め込む。そうすることでラフムを増やしておりましたわ」

 

……聞けば聞くほど、例のワカメ兄さんの光景が目に浮かんでしまう。なに、聖杯ならぬラフムの元でも埋め込まれたの?

 

「切り落とされた部位ですが、異常な速度で再生しておりました。また、その肉塊からはこう聞こえました。『殺してくれ』と」

 

「自我もあるのか。それは御愁傷様なことで…。狂三のザフキエルで治してあげれる?」

 

「不可能ですわね。霊力が圧倒的に足りませんわ。この街全ての人間から時間を奪えば話は別でしょうが」

 

「オーケーやらなくていい。ソレに関してはラフムごと私が消し飛ばすよ」

 

狂三の情報からして増えるのに必要なのは人間という素体。…哺乳類ならなんでもいけるのかな。一応『新人類』な訳だし、人間からじゃないと作り変えれない?……まだまだ分からないことだらけだ。

 

「それで、2つ目の質問は?」

 

「……」

 

「?」

 

「ルナさん。まだあの殿方を…マイラ・カルロスを、救いたいとお考えですか?」

 

「もちろん」

 

狂三からのよく分からない質問に間髪入れずに返すと苦笑される。

…?そんな変なこと言った?

 

「なに、なんか文句ある?」

 

「いえいえ。滅相もありませんわ。……ただ、一つだけ忠告しておきます。ルナさん……いえ、神夏ギルさん。確りと、心を強くお持ちくださいまし」

 

「……?」

 

「それではこれにて失礼致します。こちらのお返事は早めにお返ししますので少々お時間をくださいまし」

 

影の中に消える瞬間の狂三は、狂三のしていた目は

 

 

どこか哀しげな目をしていた。

 

 

「ま、いいか。それよりも私もやるべきことをやっておかなきゃだし…。

 

()()、よろしくお願いしますね」

『うむ。覚悟は出来ておるな?』

「この命尽きようとも」

 

 

 

 

 

 

 

〜次の日〜

 

「士道、精霊のみんなからの意見は概ね聞き終わったわ。私のも書いてあるから、ルナに渡してきてくれない?」

 

「わかった」

 

「ついでに、ルナをデートにでも誘いなさい。ルナの精神を安定させておくのが最重要と言っても過言ではないのだから」

 

士道は琴里から一枚の紙を渡され、助言通りにルナをデートにでも誘おうと思いマンションへ向かう。部屋の前まで訪れ、インターホンを鳴らす。

 

「…あれ?まだ寝てるのか?」

 

だが鳴らして数分経つが全く物音がしない。念のためもう一度鳴らすも結果は同じ。昨日の事もあり少し不安を感じ、悪いと思いながらドアノブに手をかけるとすんなりと開く。

 

「ルナー?いないのか?」

 

出かけているのかと思い玄関を見ると靴はちゃんと置いてある。

どうしたものかと思案していると奥から物音がした。

 

「……ん?」

 

「あ、ルナ。起きてたのか。てっきり何かあったのか…と……」

 

「なんだ?我と神夏ギルの判別すら出来なくなったか道化」

「王様?一体何をして…士道?朝早くからどうしたの」

 

リビングに繋がる扉から出てきたのは、2()()()()()

そのうち士道のことを道化と呼んだ方は風呂上がりなのかほぼ全裸に近く、下はズボンまで履いているにも関わらず上はタオル一枚首にかけているだけだった。

 

「ごっ、ごめん!」

 

そこからはとても速かった。一瞬で外へ出て、即座に琴里へ連絡を取る。

 

『もしもし?どうしたのよ急に。ちゃんとルナを誘えたの?』

 

「いや、それ以上に、何と言うか見てはいけないものを見た気分だ」

 

『どういう意味よ?』

 

「……ルナが2人いた」

 

「は?」

 

決戦前日だというのに波乱の幕開けである。

 

 

 

「何しにきたの士道は」

「さてな。大方、例のモノが決まったとかだろう。それよりも神夏ギルよ。疾く朝餉を用意せんか」

「畏まりました。少々お待ちください。……士道のよりまずいとか言わないでくださいよ?」

「貴様の手腕次第だな」

「……死ぬほど頑張らせていただきます」

 

 

 

 

 

「はぁ⁉︎え、ちょ、ギルガメッシュ王⁉︎なんでルナの中から出てきてるんだ⁉︎」

「説明すると少しめんど…長いけど」

「めんどくさいって言おうとしただろ?」

「まっさかーはは。……いやマジメにどうやって説明したものか」

 

士道と合流し、外へ。軽い散歩ついでにさっきの光景について説明を求められる。まあ知ってた。

 

「士道、私の精霊の力は理解してる?」

 

「えーと…ギルガメッシュ王を宿す、じゃないのか?」

 

「半分正解。じゃあ問題。私はどうやって王様を私の中に宿したでしょう」

 

それについて考えてはいたけどすぐに手を上に上げ、お手上げと言ってくる。

 

「潔いね」

「まだそこまで詳しくないからな。下手なこと言っていじられるのが目に見えた」

「そんな酷いことしないよ?やってもバカにするくらいだよ」

「どっちにしろだ!」

 

いいツッコミするようになったね士道。

ちなみに王様は家でくつろいでいます。結局私のご飯よりかは士道のご飯の方が美味しかったそうです。

 

 

ちくしょう。

 

 

「まず私の精霊の力について、それを確認していくよ?」

 

「ああ」

 

「まず私から分離した反転体であるルシフェル。アイツは自分の能力をなんて言ってたか覚えてる?」

 

「ルシフェルの能力っていうと…人類の敵をその身に宿す、だったか?」

 

「そ。だけどもっと正確にいうと?」

 

「…?」

 

「ルシフェルは自分の力を、どういうふうに説明した?」

 

「えーと…」

 

 

 

 

(神夏ギルと殆ど同じだ

 

『偶像の特徴を我が身に宿すこと』さ

 

宿せるものには縛りがある。

 

神夏ギルが宿せるものは『人類にとっての味方』なのに対し私は『人類にとっての敵』)

 

 

 

「そうだ…ルシフェルの力は『偶像を宿す』こと。ルナと殆ど同じだって言ってた。そして宿せるものには縛りがあって、ルシフェルが『人類の敵』であるのなら、ルナは『人類の味方』」

 

「はい殆ど正解。ルシフェル自身も勘違いをしてたみたいだけど、私の力は…

 

『偶像の具現化』。つまるところ想像したものを具現化する力だね」

 

案の定、士道の顔は疑問符で満たされていた。

ま、いっか。別に理解してても出来てなくても関係ないし。

 

「想像したものの具現化、つまり王様は私の力で具現化させた。そこまではいい?」

 

「お、おう」

 

「王様を不相応にも呼び出しはしたけれど、それは王様の『魂』だけって言えばいいのかな。だからその魂を入れておくための入れ物、依代が必要だったんだけど。ほら、ちょうど1番近くに、手頃な奴がいたからね」

 

「ルナの中に…ってことか」

 

「そういうこと。ここまでが私の中に王様が宿ってた経緯。オーケイ?」

 

「オーケイ…多分」

 

自信がないのか少し不安気に答えてきた。はっはっはー、勉強不足じゃないのかね。え?理解する方がおかしい?中津川さんなら理解するよ多分。知らんけど。

 

「んじゃ続けるよ。王様が私から分離している理由。こっちは至極単純。王様を…私が喚び出した英雄達を受肉させてるだけ。『どんな願いでも叶える願望器』を使ってね」

 

「……はい?」

 

そして士道は今日1番の素っ頓狂な声をあげた。

 

 

 

 

「ルナ、なんて言った?」

 

「だから、『どんな願いでも叶える願望器』を使った」

 

「……俺の頭が悪いだけなのか?」

 

「いーや。正常だと思うけど?」

 

「その願望器とやらで、王様を受肉させた、と」

 

「そ」

 

「…ちなみにその願望器は今どこに?」

 

()()にあるよ」

 

ルナの話が全く理解できず、思ったことを聞き返すとまたもや意味のわからない返答をしてきた。

 

ルナがここにあると指を刺したのは、ルナ自身の胸。

 

「なに、貧乳とでも思った?ぶん殴ろうか?」

「思ってねえよ!」

 

そんなことは思って……思ってない、多分。

 

「…あっそ。んで私自身を指した理由がよくわからない。そんなところでしょ」

 

「ああ。まるで自分自身がその願望器かのように言ってるけど…比喩、だよな?」

 

「残念。士道の考えてることで正解。私自身が願望器だよ」

 

「…ごめん。聞いた上で意味がわからない」

 

「霊力に制限がなくなった、くらいに考えておけばいいよ。だから…私を依代にしていた時の比じゃない王様の力が見られるから楽しみにしててね」

 

「あ、ああ…。って、なあルナ。それって…」

 

悪戯っ子のように笑うルナに不覚にもドキッとしてしまったが、それ以上踏み込んで聞こうにもはぐらかされてばかりだった。

唯一教えてもらえたのは、王様のおかげで多少は精霊になっても体を酷使しなくなったこと、具現化させるものによってはそれなりのリスクが伴うことくらいだった。

 

 

 

 

なあ、ルナ。

 

その願望器はどれほどのリスクが伴ったんだ?

 

 

 

 

 

 

「…以上だ」

「どうも」

 

宗教団体の暗殺者の能力で作り出した分身のうち1人から報告を受け取り、指をパチンと鳴らし消す。

私もここからは霊力を節約しておかないと。

 

「……神夏ギルや他の英霊どもはどうとでもなる。が、そうなってくると母上は介入してくるだろうな。はぁー厄介ことこの上ない」

 

「だっははは!俺たちを受肉させてる時点で大して変わらねえだろ!」

 

「うるっせぇな。海賊風情が」

 

「そんな海賊風情を受肉させたのは何処のどいつだろうなぁ!海賊に鬼に人斬りサムライに連続殺人者の怨念!なぁ我らがマスターよ!」

 

「……ほんっと人選を間違えたな。いやもうどうでもいいか…。おい」

 

「そんな普通に呼ばなくても名前で呼んでくれや!」

 

「黙れ。今から30分後に全員をこの場に集めろ」

 

「おう!酒飲んでからな!」

 

「今すぐ、いけ」

 

「おうおう怖いねぇ。そんなに怒ってばっかじゃ寿命縮むぜぃマスター。ああいや!もうそんな寿命残ってねえんだったな!ガハハハ!」

 

マジでこいつは人選ミスった。まじで。今すぐ殺してやろうか。

……とりあえず英雄王にぶつけて即死してもらおうかな。

 

 

それからコイツラが全員集合したのは2時間後。

はっはっは。

 

まじで全員殺してやろうか。

 

 




型月知識がある方はわかるとは思いますが

某ホムンクルスと同じですね
その辺の詳細はほとんど絡まないのであまり出さないですが

型月を知らない方向けに説明すると
どんな願いでも叶える、とは言いますがそこまで万能ではありません
神夏ギルも言っているように、せいぜい霊力に制限がなくなった、程度にお考えください

それでは読んでくださりありがとうございます
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