Fate/Order Of Zero (ブルー歯)
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プロローグ 応えたのは?

 第四次聖杯戦争、正史において最も最悪の結末にてしめくくられた聖杯戦争である。

 

 しかし、どんなに些細なことであれ正史と違いがあれば世界など大きく変わり得る。

 

 暗い部屋の中、老人は宝石を眺め並行世界を観測する。

 「ほう、この世界ではアレがサーヴァントとして呼ばれたか!」

 

 「ここでは他の世界とは聊か異なる道を辿るようだな…」

 

 

 冬木市、間桐邸の地下、おぞましき蟲蔵ではサーヴァント召喚の儀式が行われていた。顔を歪めながら詠唱を続ける白髪の青年―間桐雁夜はおよそ魔術師らしい魔術師とは言い難い。

 そもそも彼に間桐の魔術を継ぐ気など毛頭なかった。そんな彼が蟲に体を蝕まれてまでこの聖杯戦争に参加することを決めたのは、一重に彼が愛した女性の娘、遠坂桜―現在では間桐桜を救うためである。

 彼が聖杯を獲ればその娘はくれてやる、非道の魔術師間桐臓硯はそうのたまった。なればこそ彼は戦うことを選ぶ。すでに自身の肉体は長く持たない。命の一つくれてやる、だから彼女を救ってくれ、彼は万感の思いを込めて詠唱を続ける。

 一節唱えるごとに刻印虫は彼の身体を喰らい命を削る。だが彼に()()()()()()()()()()()()。今この時において遠坂時臣への彼自身の憎悪など関係ない。彼の目的は間桐桜の()()()()()ことだけなのだから。

 

「――――告げるっ!

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者っ…」

 

 彼の魔術回路は人並みだが、魔術鍛錬を経ていない彼がまっとうな手段で聖杯戦争を勝ち抜くことは不可能、故に彼は諸刃の一節を詠唱を挟む。――最も、間桐臓硯は彼の勝利を期してその手段をとったわけではない。彼が苦しむ様を無聊の慰めとしようと考えただけである。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

 汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。」

 

 それは呼び出す英霊に狂気を付加する一節。莫大な魔力消費を代償とし、呼び出す英霊のステータスを向上させる諸刃の剣。だが―――

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 エーテルの風が吹き荒れる。

 間桐雁夜は立ち続けるのがやっとだった。だが、鉄の意志でその意識を保つ。逆巻く暴風が止み、目を開けばそこには果たして一人の人影があった。成功だ!雁夜は心の中で歓喜の声を上げた。それほど大きな体には見えないが、巨大な何かを片手に持っているのが見える。

 

「サーヴァント、シールダー。その声に応え参上しました。」

 青年の声で言葉が紡がれる。

 

「うん、分かりきっているけど一応聞かせてください。

 ――貴方が俺のマスターですか?」

 

 

 

 

 

 



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第1話 選択、忘却

 間桐雁夜は瞠目した。目前の青年、いやサーヴァントは自らをシールダーと名乗った。彼が召喚を狙ったのはバーサーカーのサーヴァントであったはずだ。だが、あまりおかしな反応をして召喚した英霊の機嫌を損なうようなことがあってはいけない。

 

「あ、ああ。俺がお前を召喚したマスターだ。」

 

 動揺を隠しきれないながら雁夜はなんとか答えた。

 

「了解しました、マスター。ここに契約は成った。これよりは、俺があなたの盾となります。心配せずとも大丈夫です、マスター。あなたの望む未来を共につかむことをここに誓いましょう。」

 

 シールダーは凛とした声で口上を述べた。ここにきて雁夜は初めてシールダーを観察することができた。さっぱりと整えられた黒髪と深い空色の瞳は誠実な印象を与える。彼が身に纏う服は現代的なものに見える。近代の英霊か、と雁夜は心の中で呟いた。何より目立つのは彼の持つ盾である。十字架と円形の盾を組み合わせたかのような大きな盾を右手で握っていた。

 ふと、シールダーが口を開いた。

 

「ああ、()()()()は初めてだから忘れていました、マスター。お名前を教えていただけますか?」

「そうだったな。俺は間桐雁夜だ、よろしく頼む。」

「ええ、こちらこそこれからよろしくお願いします、雁夜」

 

 二人が握手を交わすと、それまで黙っていた臓硯が口を開いた。

 

「ほう、エクストラクラスのサーヴァントか。触媒としたのは円卓の破片なのじゃが、お主は円卓の騎士には見えぬ。真名を教えてくれぬか」

 

 シールダーは少し目を細めて臓硯を見ると、少し安心したような顔をしながら答えた。

 

「ええ、確かに俺は円卓の騎士ではありません。円卓の騎士とは遠いながら縁がありますがね。俺の真名を言うのは問題ないのですが、俺の真名など誰も知らないでしょうし あまり意味もない。」

「だから、今はあえて()()()()こう名乗りましょう。俺のことはカルデアのシールダーとお呼びください」

 

 

 

 

 雁夜は部屋に戻り寝転がると多大な魔力消費による疲れから泥のように眠ってしまった。シールダーは霊体化し傍に控えたまま呟いた。

 

「まとう、間桐…マキリ。そうか、ここでは彼はアレになることを選ばなかったんだ。なら彼はまだその在り方を取り戻せる。彼とは一度話さなきゃいけないな。」 

 

「まあでも、この聖杯戦争では誰と会えるかな?うん、なかなか楽しみだ!」

 

 シールダーはまるで旧友に会いに行く少年のような顔で笑った。

 

 

 

 

 

 

 間桐臓硯は一人物思いに沈んでいた。雁夜の召喚したサーヴァントは近代の英霊のようで、本来の予定とは違ったが、それほど問題ではない。そもそも臓硯は今回の聖杯戦争には期待していなかったのだから。しかし、あのサーヴァント。あの眼を臓硯は直視できなかった。自身さえも忘れ去ったなにかを思い出させるようで、我慢ならなかった。まるで堕ちた自分を糾弾されているかのようであった。

 

 

 

 

 

 聖杯戦争が始まるまではあと少しである。

 




原作との変更点
触媒については明言はなかったが勝手に円卓の破片に。
本来この触媒ではアルトリアとギャラハッドは呼ばれませんが、この小説内では呼ぶことができる、という設定になっています。


質問、御意見等はネタバレにならない範囲で答えますのでどんどんお願いします!


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第2話 開幕

タイトルが既存の小説と同じだという指摘をいただき、タイトルを変更させていただきました。


翌朝、間桐雁夜は目覚めると身体の調子が幾分回復しているのを感じた。むしろ召喚前の状態よりも改善していると言えるかもしれない。半分だけ体を起こしたまま茫然としていると傍らにシールダーが現れた。

 

「マスター、体は大丈夫ですか?応急手当程度ですが一応処置しておいたのですが…」

「ああ、シールダーのおかげだったのか、体調は大分良いよ。」

「それは良かった、宝具を使えば本格的な治療も考えられるんですが、今の状況で令呪無しに宝具を使うのは無理がありましたから。」

 

 シールダーは安心したように言った。そう、宝具――サーヴァントがサーヴァントたる証にして切り札。これを知らずして聖杯戦争を勝ち抜くことなど不可能だ。

 

「なあ、シールダー、お前の宝具について教えてもらえるか。その盾が宝具なのは分かるんだが。」

「ええ、もちろんです、マスター。この盾は俺自身の宝具とは言い難いですが、真名開放に問題はありません。見ての通りの攻撃を防ぐための宝具ですね。俺の方さえ耐えられればかの星の聖剣でさえ問題にしませんよ!」

 

 そう語るシールダーはたいそう自慢げだ。なにかその盾を強く信じる理由があるらしい。

 

「へえ、それだけ自信があるなら防御面は大丈夫そうだな、攻撃手段は何かあるのか?」

「そうですね、一応俺自身の宝具が二つほどあるんですが、その片方は万能に近いから何とかなると思います。」

「頼りにさせてもらうよ、俺は絶対に勝って聖杯を獲らなければならないからな…」

 

 シールダーはふと気づかわしげな表情になった。

 

「マスター、あなたが聖杯にかける願いは何ですか?」

 

 これまでで一番真剣な声音での問いである。雁夜は正直に答えた。

 

「この家にいる桜ちゃんという娘を救うために聖杯を獲れと臓硯に言われたんだ…俺に聖杯にかける願いなんぞないしな…」

「ならば良いんですマスター。本来俺は聖杯戦争に呼ばれるようなサーヴァントではない。恐らくこの聖杯、まともなものではありません。願いが叶えられるかも怪しいところでしょう。」

 

 雁夜にとっては衝撃的な発言である。しかも御三家の誰もがそれに気づいていないとすれば。これからのことを考えれば頭の痛い思いであった。

 

 

 

 

 

 

「シールダー、サーヴァント七騎が揃ったとの通達が教会から来たぞ!」

「じゃあ、今夜からいよいよ聖杯戦争が始まるという訳ですね。マスター、使い魔を飛ばして監視を行いましょう。私なら大抵のサーヴァントは見れば真名を把握できるはずです。」

 

 雁夜は言われた通り、虫を操り冬木一帯を監視できるようにした。これまでは雁夜の静養を重視し、彼が魔術を使うことをシールダーが良しとしなかったのである。しかし、大体のサーヴァントの真名が把握できるとはどうした訳か。彼は生前英霊マニアだったのか?

 雁夜は混乱していた。

 

 

 ――今宵始まるは第四次聖杯戦争で最も混沌とした戦場となった、都合六騎が集う開幕の宴である――

 

 

 

 




原作との変更点
雁夜が使い魔を飛ばしていない→アサシンの偽装を知らない
雁夜の体力魔力が多少マシ


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第3話 集いし英雄

 埠頭では眉目秀麗な男と金髪の女性が文字通り火花を散らしていた。男は剣と槍という歪な二刀流による変幻自在に戦うが、女の方も不可視の剣を振るい質実剛健に対応していく。

 シールダーは若干離れたビルの上からそれを眺めていた。会話は聞こえないが、先頭の様子を見るには十分だ。

 

『分かりましたよ、マスター。男の方はランサー。ディルムッド・オディナ、フィオナ騎士団の一番槍ですね。剣を持っているのは意外ですが、優れた魔術師がマスターなのでしょうか。』

『女性の方は最優のセイバーにして音に聞こえし騎士の王、アーサー王。正確に言えばアルトリア・ペンドラゴンです。あの状態の彼女を見るのは初めてですが、思ったほど変わりませんね』

 

 念話を聞き雁夜は驚いた。戦っているサーヴァント達は宝具の開放さえしていないのに真名の把握が出来るとは。聖杯戦争において情報は大きな武器となる。これだけでも他の陣営より一歩リードしているといっても過言ではないかもしれない。しかしアーサー王と言えば知名度も抜群の英雄の中の大英雄、間違いなく強敵だ。雁夜の心を不安が渦巻いた。彼の動揺に気づいたのかシールダーが励ます。

 

『心配いりませんよ、マスター。アーサー王と戦うのはこれが初めてじゃありませんし、これが聖杯戦争である以上真っ向から一人で戦うことしか出来ないわけではないですしね。』

『ところでマスター、そろそろ戦況が動きそうですよ』

 

 拮抗した戦場のさなか、示し合わせたかのように両者は距離をとった。するとセイバーは剣に纏わせていた結界をついに解いた。なるほど、ランサーの持つ武器のうちの赤い槍は「破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)」、たしかに彼女が持つ剣を隠す風の結界はもはや意味を持たないであろう。だがここでわずかな動揺を見せたのは意外なことにシールダーであった。

 

(なんてこと、あれはエクスカリバーじゃない!セクエンスだ!まっとうな状態で召喚されたアルトリアがエクスカリバーを持ってきていないはずがない。ディルムッドもモラルタを持ってきてるようだし…もしかしてこの聖杯戦争、霊器の規模がまるで違うのか?)

 

 しかし、ランサーも当然このタイミングを逃すほど甘くない。左手に逆手で持った剣を腰だめに構えた。真名解放の一撃を狙っているとみて間違いない。

 

『マスター、もう少し情報が欲しくなりましたのでもう少し近づきます、よろしいですか?』

『ああ、任せた。気を付けて行ってくれ。』

 

 一気にシールダーが戦場近くのコンテナに向かい跳躍すると同時、唐突に夜空に雷鳴が轟いた。夜闇を切り裂き、神牛に引かれた豪壮な作りの戦車が空を飛んでいた。

 シールダーが戦場近くに降り立つのに一足遅れ、戦車に乗った大男が戦場に降り立ち声を張り上げた。

 

「双方、剣を収めよ!王の御前であるぞ!」

 

(なんてこった、知らないサーヴァントだ!うーん、大体のサーヴァントは見ればわかるなんて大口をたたいちゃったけど、聖杯戦争は分からないもんだな…)

 

 シールダーは頭を抱えた。彼を見ても真名が分からないのだ。しかし――

 

「我が名は征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスで現界した!」

 

(イスカンダルってことはアレキサンダー!?アレがああなるっていうのか!?)

 

 ――混迷の夜は、まだ始まったばかりである――

 

 

 

 




シールダーがセイバーとライダーに微妙な反応をしているのには一応設定があるのですが、ネタバレせずに説明するのが難しいので説明はもう少し後になると思います。
最早シールダーの正体なんてバレバレかもしれませんが。


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第4話 裁定、人理の礎

更新が遅れてすまない…
周回に夢中でした、エタらぬようぼちぼち進めます。


 セイバーとランサーの戦いをただの一言で収めてみせた偉丈夫は自ら真名を放言した。当然それが本当の情報とは限らない。あえて嘘の情報を流すことで自らの真名を悟らせない戦略であるということも考えられるのだが――

 

「何を考えてやがりますかこの馬鹿はぁぁぁぁぁあ!真名をばらすなん…」

 

 ライダーのマスターの少年、ウェイバー・ベルベットは涙目で叫ぶも巨漢のデコピン一発であえなく気絶してしまった。どうやら彼の真名がイスカンダルであるのは確かなようである。マスターの少年は三騎――視認できる範囲では――もの英霊が集う場で盛大な演技をかませるほど豪傑なたちでないことは誰の目にも明らかであった。ライダーはマスターの少年を黙らせると何事もなかったかのように続けた。

 

「うぬらと矛を交わす前に問うておくべきことがある!うぬらが聖杯にかける願望、我が天地を喰らう大望に比してなお、これをも上回る重さを持つか否か!」

「まあつまり、だ。我が軍門に下り聖杯を余に譲れ!さすればうぬらを朋友として遇し、世界を再び征服する喜びを共に分かち合う所存である!」

 

 この余りに傲慢な発言にいち早く反応したのはセイバーである。彼女もまたライダーに負けぬ王気をもって対応する。

 

「ふざけるのも大概にしてもらおう征服王。私も王たるものとしてその手を取ることはあり得ない!」

「むう、そうか。残念だなぁ…じゃあそちらはどうだ?」

 

 ランサーは明らかな怒りをみせて対応する。

 

「今生のこの槍は主に捧げたもの、その発言は騎士の誓いを侮辱するものと知れ、征服王!」

 

 いつの間にか目を覚ましていたらしいウェイバーは声を荒げた。

 

「おいライダー!むしろ悪化してるじゃないか!そんな誘いに乗るわけがないだろ!?」

「だがなあ、坊主。ものは試しというだろう?」

「ものは試しで真名をばらす奴があるか!?」

 

「――そうか、わたしの聖遺物を奪い聖杯戦争に参加した不届き者は貴様か、ウェイバー・ベルベット!」

 

 青い上質なコートをまとった魔術師が戦場に姿を現した。この男、ケイネス・エルメロイは高潔な魔術師である。彼自身がサーヴァントに敵わないことなどとうに織り込み済みであったが、不届き者を糾弾するのに隠れたままでいるなど我慢できることでは無かったのだ。ウェイバーは彼が最も恐れる魔術師の登場にすっかり委縮してしまった。

 

「おう、貴様がランサーのマスターの魔術師だな。貴様が余を召喚しようとしていたようだが、今の今まで静観を決め込もうとしていた臆病者が余のマスターになろうなど片腹痛いわ!」

 

 ライダーは自身のマスターをかばいケイネスを糾弾するが彼も負けてはいない。

 

「それはこちらの言葉だ、ライダー。ランサーは既に私に忠誠を誓った騎士だ。それに手を出そうなどという無粋な男は我がサーヴァントにふさわしくなかろう?」

 

 ランサーはケイネスの傍まで後退し、彼をいつでも守れる位置に立っていた。その姿は紛れもなく忠実な騎士と懸命なその主君であった。ライダーは意外なケイネスの反応に獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ほう、マスターにもなかなかのがいるじゃないか!」

 

「――だが、他にもいるだろう!闇に紛れてのぞき見をしている者が!あの見事な二騎の打ち合いの音に惹かれた英雄が余一人などということはあるまい!」

 

「聖杯に招かれし英雄ども!今、ここに集え!なおも姿を見せぬ臆病者は征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 

 

 

 相も変わらずコンテナの上から状況を俯瞰していたシールダーはこの言葉にピクリと反応した。その感情は読みにくいが、あえて表現するなら「怒り」か。そう、例えるならば友を、仲間を侮辱されたかのような。

 

『ふむ、俺自身はどうでもいい小物ですが、()()()()()()()()以上は俺がその誹りを受ける訳にはいきません。マスター、よろしいですか?』

『ああ、自由に動いて構わない。万が一、時臣の…いや、なんでもない。頼んだぞ。』

『ありがとうございます、マスター。この機に乗じてキャスターの干渉を受ける可能性もあるので念話は切らせていただきますね。』

 

 シールダーは雁夜との念話を切ると、盾を持ったまま軽々とライダーの近くへと跳び、その場に集う英霊たちに負けず劣らぬ覇気を放った。

 

「ふはははは!やはりなかなか豪胆なのもいるじゃないか!やはり英雄が集う戦、こうでなくては!」

 

 シールダーがそれに対し口を開きかけた途端、匂い立つほどの神気が、まるで心臓を握られているかのような王気がその場に満ちた。同時、黄金の粒子が集まり、この場に集った英雄たちの頭上、街灯の上に黄金の英雄が顕現した。

 

「ほう。王を自称する不遜な雑種二匹を間引きに来てみれば…クク、面白いサーヴァントが居るではないか。人理の守護者、星見の者よ、なぜ貴様がこのような場に居るのか、我が手ずから裁定してやろうではないか!」

「まさか王様がここに来てるなんてね、驚いたよ。王様が聖杯なんて欲しがるとは思えないけど、新しい酒器でも欲しくなったの?」

 

 シールダーは涼しい顔をして黄金の王に言葉を返す。面識があるらしい二人の会話に周囲は驚愕を隠せない。

 

「フハハハハハハハハ!なかなか言うではないか、雑種!流石は我が共に戦うことを許した数少ない者の一人だ!だがそれとこれとは話が別、さあ、貴様がその盾を持つならばこの程度、物の数ではあるまい?」

 

 原初の王たる彼の背後に黄金の波紋が現れ、そこから魔剣、聖槍、あるいは宝斧、圧倒的な神秘を纏う武器の数々が顔を出した。その数なんと三十以上。そのどれもが例外なく宝具、シールダーを除く面々は驚愕をあらわにする。しかし彼らも古今無双の英雄、一瞬で判断し、彼らのマスターを連れその場から離脱することを選択した。

 

 「邪魔者は消えた、では行くぞ?」

 

 瞬間、すべての宝具が一度に射出された。すべてが致命の一撃、並の英雄にはこれをしのぎ切ることさえ不可能な規格外の攻撃法。

 

 ――だが生憎、シールダーはその攻撃方法を知っている。そして彼は今、並の英雄とは一線を画する存在。

 

 気合一閃、盾を振るって彼に当たる射線のものを叩き落しながら軽口を叩く。

 

「俺が言うのも変な話だけど、王様をアーチャーで呼ぶなんて大したマスターだね。キャスターでは来てくれないだろうけどセイバーあたりで呼べば良かったのに。」

「ふん、時臣のやつも今頃そう思っているだろうよ。だが、我にはアーチャーのクラスが最も似合いだ、それが分からぬ貴様ではあるまい?」

「ゴージャスなんてのも、悪くないかもよッ!」

 

 椅子に座りながらでもしているような雑談、しかしそうしてる間にも黄金の波紋は元の倍はあろうかという数に増えて攻勢を増し、シールダーはただの一度もその身に傷をつけず、それどころか明らかに接近している。両者劣らぬ攻防、それはまるで神話の戦いだ。

 

 シールダーが鋭く息を吐き大きく跳躍し、盾を構えてアーチャーに向かって突撃する。彼の正面に開いた波紋ではその勢いを止めることは敵わない。アーチャーは大盾の一撃を真正面から受け叩き落され、あっけなく幕切れとなるかに見えた。

 

 

 

 しかし、彼こそ原初の英雄、単純な一撃で沈むことなど当然あり得ない。彼は黄金の双剣を交差させ、確かにシールダーの攻撃を受け止めていた。そのまま腕を振るってシールダーを弾き飛ばす。

 

「ぐっ…終末剣まで出すの!?見せてもらったことはあっても、使ってるところは見たことないのに!」

「たわけ、使う機会がなかっただけだ!これの一撃はエアには及ばぬが相当に強烈だ、そのままで防げると思うな?」

 

 アーチャーが双剣の柄を合わせると終末を告げる剣は弓へと変わる。シールダーは接近戦に持ち込むのはもはや間に合わないと判断したのか体勢を立て直すと盾を正面に構えた。

 

「安心しろ、世界を洗い流すことはすまい。だが、この程度受けきれなければ気が変わってしまうかもしれぬぞ?」

 

 アーチャーは喜悦でその端正な顔を歪め、弦の無い奇形の弓に魔力を込める。

 

「簡単に言ってくれるよ、全く…」

 

 口ではそう言いながらも、シールダーの表情に不安の色はない。両者の纏う空気が変わり、暴力的なまでの魔力が吹き荒れる。

 

 開幕はどちらからともつかず。

 

 

「いざ仰げ!終末齎す原始の禍!」

 

「宝具限定展開、始まりは未だ此処に!」

 

 

 

 ――旧き伝説と始まりの記憶が

 

穢土没す終末の雨(エンキ)!」

 

宝具限定展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 

 激突する――




エンキの日本語名はオリジナルです。


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マテリアル

現時点で明言されている情報とネタバレにはならないけど劇中で明言する気のない情報をまとめておきます。話が進めんだら、また別にまとめますのでこのページを見たからと言ってネタバレの心配はありません。


サーヴァント情報

 

【CLASS】セイバー

【マスター】アイリスフィール・フォン・アインツベルン?

【真名】アルトリア・ペンドラゴン

【性別】女性

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力:B+

 耐久:A

 敏捷:A

 魔力:A

 幸運:D

 宝具:A+++

【クラス別スキル】

 対魔力:A

 騎乗:A

【固有スキル】

 直感:A

 魔力放出:A

 カリスマ:A

【宝具】

 不撓燃え立つ勝利の剣(セクエンス)

 ランク:A

 詳細不明

 

 風王結界(インビジブル・エア)

 ランク:C

 種別:対人宝具

 レンジ:1~2

 最大補足:1人

 アーサー王の剣を覆い隠す風の鞘。本来はセクエンスを隠すのに使っているわけではないようだが…?

 

 

 

【CLASS】ランサー

【マスター】ケイネス・エルメロイ

【真名】ディルムッド・オディナ

【性別】男性

【属性】秩序・中庸

【ステータス】

 筋力:B+

 耐久:B

 敏捷:A+

 魔力:D

 幸運:E

 宝具:B+

【クラス別スキル】

対魔力:B

【固有スキル】

心眼(真):B

愛の黒子:C

騎士の武略:B

【宝具】

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

ランク:B

種別:対人宝具

レンジ:2~4

最大捕捉:1人

紅い長槍、触れたものの魔力を断つ、すなわち敵の魔力防御を無視することのできる魔槍。

 

両断の桜花(モラルタ)

詳細不明

 

 

 

【CLASS】アーチャー

【マスター】遠坂時臣

【真名】ギルガメッシュ

【性別】男性

【属性】混沌・善

【ステータス】

 筋力:B

 耐久:B

 敏捷:B

 魔力:A

 幸運:A

 宝具:EX

【クラス別スキル】

対魔力:A

単独行動:A+

神性:B

【固有スキル】

カリスマ:A+

黄金律:A+

バビロンの蔵:EX

【宝具】

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

ランク:E~A++

種別:対人宝具

レンジ:−

全ての宝具の原典を納めた英雄王の蔵。空間を繋げる事での射出行為も可能とする。財を投げ撃つ故の弓兵。

 

穢土没す終末の雨(エンキ)

ランク:EX

種別:対文明宝具

レンジ:?

最大補足:?

かつて世界を滅ぼしたナピュシュティムの大波を呼び起こす弓。双剣、トンファーしても使うことが可能。7日かければ本来の力である水を呼ぶ力を発現可能であるが、その力を矢として放つ場合は魔力の込め方によりランクがB〜Aに変動する。

 

 

 

【CLASS】ライダー

【マスター】ウェイバー・ベルベット

【真名】イスカンダル

【性別】男性

【属性】中立・善

【ステータス】

 筋力:B

 耐久:A

 敏捷:D

 魔力:B

 幸運:A+

 宝具:A++

【クラス別スキル】

対魔力:B

騎乗:A+

神性:C

【固有スキル】

カリスマ:A

軍略:B

雷の征服者:EX

【宝具】

不明

 

 

 

【CLASS】シールダー

【マスター】間桐雁夜

【真名】■■■■

【性別】男性

【属性】中立・中庸

【ステータス】

 筋力:C

 耐久:B

 敏捷:C

 魔力:C

 幸運:A++

 宝具:EX

【クラス別スキル】

対魔力:C

騎乗:C

自陣防御:B

【固有スキル】

カリスマ:C

戦闘続行:A

憑依経験:EX

【宝具】

宝具限定展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

ランク:C

種別:対人宝具

レンジ:1

最大捕捉:-

シールダーが持つ盾の力の一端。本来よりもランクが上昇しているのは彼が特殊な状態で召喚されているためである。

 

 




ステータスやランクが上昇している部分があるのは仕様です


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第5話 理想の在り処

 ランクにしてAランク。至高の一矢をシールダーの結界は、果たして完璧に防ぎ切った。

 

「フハハハハハハハハ!この程度では完全な真名開帳さえ引き出せんか!良い、今宵は此処までとしよう、楽しみは取っておくのも悪くない。先ほどから時臣もうるさいしな!」

「その様子じゃ令呪さえまともに効かないんだ?大変だね、今回の王様のマスターも。」

「ふん、貴様ほどではなかろう?」

 

 アーチャーはそのまま霊体化し姿を消した。シールダーもまた姿を消し一人ごちた。

 

(王様のせいでちょっと魔力を使いすぎた…マスターの本格的な治療を早めなきゃまずいかもしれない)

 

 

 しかし、混迷の夜明けは未だ遠い。

 

 

 

 シールダーは間桐邸に着くと、すぐに雁夜のもとへと向かった。

 

「マスター、いきなりですが明日マスターの治療を行おうと思います。」

 

 雁夜はせき込んだ。帰ってきたシールダーをねぎらおうとするなりこれだ。

 

「ち、治療だって!?そんなことできるのか?」

「ええ、俺の宝具が正常に機能していれば可能です。しかし、この聖杯戦争なにか普通ではありません。必ず成功するとまでは言い切れませんが…」

「い、いや、十分だけど、宝具って…」

「ああ、魔力のことなら心配はいりません、こちらで何とかします。ですが一応、マスターは休息をとって魔力の回復に努めてください。」

 

 雁夜はシールダーの言葉に素直に従い、蟲蔵とは別に工房として誂えられた部屋を後にした。シールダーはそれを見送ると単身蟲蔵に向かう。

 

「なあ、居るんだろ、間桐臓硯。少し話をしよう。」

 

 彼は一見何もない場所に話しかけたが、その視線の先で蟲たちが凝集し老翁の姿をなした。

 

「呵々々、気づかれておったか。この老いぼれに何の用ですかな?」

「取り繕う必要はないよ、マキリ。単刀直入に問おう、君の信念はどこにある?それさえもとうに忘れ果てた妄執の化身でしかないというなら、君には消えてもらうしかない。」

 

「答えてみろ、マキリ!あちらを選ばなかったお前なら、あるいは…」

 

 間桐臓硯は、いやマキリ・ゾォルケンは驚愕した。こいつは一体何を知っている?

――だが、

 

「決まっている!儂が、私がこうまでして生き延びた理由など…」

 

 何だ?何故自分はこうまでして生き延びた?何故目の前の男はそんな眼で私を見る?

 五百年という期間は、理想に溢れた一人の青年を腐らせるにあまりに長すぎた。

 

「そう、なら仕方ない。マスターの願いのためだ、その妄執、ここで幕としよう。」

「何を…」

 瞬間、シールダーが持っていた盾が光を放つ。放たれた三本の光筋が消えると、既にそこには盾はなく代わりに一本の巨大な旗が握られていた。

 

「洗礼詠唱が使えれば良かったんだけどね。十字教に連なる者ではないからってのもあるけど、何故か彼らとつながらないんだ。だから…」

 

 向けられた旗の先から巻き起こった黒い炎は瞬く間にマキリを構成する蟲を焼き尽くした。この炎は魂すら焼き尽くす憎悪の火、そこに本体が居ようが居まいがもはや些事。五百年もの長きを生きた老獪な魔術師、最期の瞬間に彼の脳裏に浮かんだのは、ただ、かつて恋した白き少女の面影のみであった。

 

 しばしの黙禱を捧げたのち、シールダーは主の死によって絶えた虫の死骸の内より一人の少女を救い上げた。彼女の開かれた瞳に光はなく、くすんだ絶望と諦観のみをたたえていた。何か口を開きかけたシールダーであったが、首を振ると魔術を行使し彼女を眠らせ蟲蔵から上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 間桐臓硯、彼はこの第四次聖杯戦争を本命としてはいなかった。だが、御三家の一角そのものたる彼が大聖杯の維持のために担っていた役割は第四次聖杯戦争においては決して小さなものではない。そう、彼は百年戦争以前より体を取り換え生き続ける狂気の魔術師の聖杯戦争への干渉を牽制していたのである。

 

「アハハハハハハハ!あの悪人擬きが死んじゃったかあ!キハッ、キハハハハ!あそこにはジルも召喚されてるようだし大チャンス!()()()を降ろすのにこれ以上ないよ!」

 

 歪んだ少女は嗤う。思惑は絡み合い自体は混迷を深めていく――

 

 

 

 

 




シールダー「この聖杯戦争、普通じゃない(キリッ)」
普通の聖杯戦争とは何ぞや(哲学)

 最後に出てきた危ない人に関してですが、Fakeの描写からすると第四次のタイミングではまだあの身体ではない可能性が高いんですが、それ以前についての言及がないのでこの世界ではタイミングが少しずれているということでご容赦ください。


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第6話 判明、決意

皆さんはマーリン引けました?僕は当然ながら引けていないのですが。イリヤピックアップで大爆死した苦い思い出があるのでキャスターのピックアップ自体正直苦しいです。



 彼は歩みを決して止めなかった。人類史にかつてない難行、焼却された人類史を修復する、未来を取り戻す物語(グランド・オーダー)。始まりの特異点、七つの特異点、終局特異点。いずれも魔術師としてすら未熟な彼一人では到底不可能な道程。それでも、彼はそれをなした。なぜなら、彼は一人ではなかったから。どこまでも臆病でありながら最も勇気ある決断をなした男がいた。おどけてみせながらも陰に日向に彼を支えた芸術家がいた。星の獣も認める純粋なる善き人々がいた。数多くの特異点で縁を結び彼の呼び声に応えた万夫不当の英霊たちがいた。そして、共に歩き色彩を知った少女がいた。ならば、彼は負けられない、負けることはない。彼は、共に生きる未来が欲しいのだから。

 

 

 

 

 間桐雁夜は目を覚ました。今のは当然、シールダーの記憶。未来のこととも、過去のこととも、この世界のことともつかぬ、人類史に残らぬ記録。そう、彼の名は藤丸立香。人に知られず、世界に知られぬ偉業。彼は決して英霊足り得ない。だが、カルデアに集った者たちが彼を忘れることこそあり得ない。人の歩みが世界に跡を残し続ける限りあのカルデアは逆説的にどの世界においても存在したと言える。そう、カルデアの代表として、あるいはカルデアそのものとして、彼の召喚は成ったのだ。

 

「ああ、マスター目を覚ましたのですね。」

「なあ、シールダー。お前は…」

 

 ああ、と。納得したようにシールダーは言った。

 

「なるほど。俺の記憶を見たのですねマスター。俺自身は非力な身なれど此度の召喚では誰にも劣らぬ大英雄たると自賛しましょう…と言いたいところなのですが、マスター。もしかすると、あなたが戦う理由はもはやないかもしれません。」

「…え?」

「間桐臓硯は既にこの手で排し、あの少女は蟲蔵から逃がしました。マスター、あなたが苦しむ理由はもはやないのです。彼女の精神が重大なダメージを受けているのは確かですが、それを聖杯に望むべきでもないでしょうし…」

 

 雁夜は瞠目した。彼の望みは桜をあの地獄から救い出すことのみ。ならばこの聖杯戦争に参加する意味は既にない?だが。

 

「すまない、シールダー。俺はまだ降りるわけにはいかないんだ。時臣と真っ向から戦い話をするのが桜ちゃんのためにできることだと思うし…」

 

 それに、と続ける。

 

「俺の声に応えてくれたシールダーがいるんだ。お前のような英雄がこんなところに来るなんてきっと意味がある。それを俺が見届けないわけにはいかないだろ?」

 

 それを聞いてシールダーは微笑んだ。

 

「なるほど、俺は素晴らしいマスターの下に呼ばれたようですね。改めて名乗らせていただきます。俺の真名は藤丸立香。人理の砦たるカルデアのマスターにして今は責任あるシールダー。我らが盾はあなたの敵を打ち払い、あなたを守り切ると誓いましょう。」

 

 

 

 

 

「え、英霊の宝具を呼びだす宝具だって!?」

「ええ、マスター。俺自身、藤丸立香の宝具の一つは共に戦った英霊たちとの縁をたどり、彼らの力を借り受けるものです。ランクは下がりますが真名解放にも問題はない、のですが…」

 

「現状縁ある英霊たちの内、悪の属性を持つ英霊たちとの縁しかたどれないのです。別に属性が悪だからと言って悪い人たちという訳ではないのですが、おそらくこの聖杯、まともな物ではないということでしょうね。」

 

 雁夜とて御三家に名を連ねる魔術師の端くれ。聖杯に関する知識はある程度詰め込まれている。そう、それが意味するのはつまり、聖杯の汚染。

 

「おい、シールダー!俺は今から過去の聖杯戦争の記録を調べる、お前は桜ちゃんの面倒を」

「その前に、マスター。あなたの治療をしなければ。ここから先聖杯戦争を戦い抜くならば、虫の影響を取り除いたのみでは多分足りません。」

「あ、ああ、そうか。すまない、シールダー。えっと、宝具を使うんだよな?」

「ええ、本当は『修補すべき全ての疵(ペイン・ブレイカー)』を使おうと思ったのですが、それが使えないので仕方ありません。かなり手荒な手段でいかせていただきます。」

 

「大丈夫です、苦しいとは思いますがすぐに助けます。絶対に死ぬことはないのでご安心を。」

 

 雁夜は冷や汗を流した。あのシールダーがあそこでの表現をする時点でどう考えても大丈夫ではない。しかし、シールダーはもう床に盾を置き既に準備に取り掛かっている。雁夜がなにか言いかけた時にはすでに遅い。

 

「サークル構築、宝具展開。絆をここに。」

 

 ここで彼に力を貸すは虚構世界で不夜城に座した女帝。その声は明らかに一人の者ではない。

 

『憎むべきはそなたならず。そなたの中の罪。我が法は、その罪の全てを痛苦の腕で引きずり出す!』

『告密羅織経!』

 




最後殺る気にしか見えない…(驚愕)
切るところが半端すぎるのがいけないんですね。


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第7話 潜む悪意

更新が遅れて大変申し訳ないです…!リアルが忙しすぎてドッタンバッタンしてました。
これからはそれなりに更新していくつもりなのです。

前回注意し忘れましたが1.5部の微ネタバレがあります、ご注意ください。


 「告密羅織経(こくみつらしょくけい)」即ち、ある女帝による拷問の具現。この宝具を使うものは相手に対し拷問する者となる。拷問とは相手を生と死の狭間に叩き込む技術に他ならない。ならば、相手が既に生と死の狭間に居るならば拷問以前に生に傾ける必要があるのは必定。そう、シールダーはこの宝具を強引に利用し雁夜を生の側に傾けたのだ。

 

「ぐ…う、もう終わったのか?」

「ええ、あまりに強引な手を使いましたが、その甲斐あって成功です。魔力回路の方の働きも落ちてはいないでしょう。」

「そうか、ありがとう、シールダー。俺は…」

 

 何かを言おうとする雁夜を遮ってシールダーは続けた。

 

「いえ、マスター。その先は必要ありません。マスター、あなたは桜と話をしてきてください。あなたの望みを、あの子の望みを、ゆっくり話し合って欲しいのです。それがどう転ぼうと俺はあなたの望むままに働きましょう。」

「でも…いや、分かった。重ね重ねすまないな、シールダー。」

 

 

 桜の下に向かった雁夜を見送ると、シールダーは霊体化しそのまま間桐邸を離れた。この数日に渡って取りざたされている殺人及び誘拐事件。この異様な一連の事件にサーヴァントが関わっていない筈がない。消去法から言って恐らくキャスターかバーサーカー。しかし、シールダーは下手人に既に目をつけていた。

 

(多分犯人はキャスター、それも多分あの人。今更生前の所業には何も言うつもりはないけど、稀人となった俺たちが無辜の人々に手を出すのを見過ごすわけにはいかない。マスターもそんな地獄を知る必要はない。)

 

シールダーが魔力の痕跡をたどりながら進むと仄暗い水路の中に至った。そこに満ちる空気は酷く淀み、平穏な世界にあってはならない濃密な死と痛みの気配を漂わせていた。

 

そこにあるには地獄だった。生きたまま弄ばれ、芸術の名のもとにその尊い尊厳を汚された子供。それも、一人や二人ではない。間違いない、これを為すキャスターなどあの男を置いて他にあるまい。

 

「ジル・ド・レェか…!…ックソ!」

 

 彼らの身体と心を癒すことは今の彼には不可能、否、「修補すべき全ての疵(ペイン・ブレイカー)」を呼べる状態であっても、ランクを下げての真名解放しか不可能な彼の宝具ではどのみち不可能である。ならばできることはただ一つ。

 

「…サークル構築、宝具展開。絆を此処に!」

 

「…『転身火生三昧』」

 

 シールダーの身は龍と化し、愛ゆえに火龍となった女の炎は周囲一帯をすべて焼き尽くした。宝具を解除した彼はそのまま少しの間黙とうをささげると走ってその奥に進んだ。

 

 工房として作り替えられた水路の広がった地点、果たしてキャスターのサーヴァントはそこにいた。異様に大きく飛び出した眼、特徴的な青いローブ。一見意外なほどに鍛えられた腕。世界を、人を、国を憎んだが故に狂い果てた男がそこにいた。

 

「ジル、お前はここで終わりだ。お前への救いはここでは与えられない。」

 

 さしものキャスターも目をむいた。この侵入者は既に自分の真名を把握している。確かに動揺したがキャスターとて凡愚では決してない。彼は元帥の位置にまで至った男、戦況の判断も早い。撤退はすぐには困難、だが相手は一騎、さらに大火力の宝具はここでは解放が難しい。故にキャスターはここでの戦闘を選択した。彼は手元に宝具である魔導書を呼び出し海魔を召喚した。

 そう、適切な判断である。シールダーがたかが凡百の英霊であれば、だが。しかし、侮るなかれ、彼は世界を救った万夫不当の英雄である。

 

「サークル構築、絆を此処に。」

『私はあの忌み嫌った存在(モノ)になってでも、貴様を斃す!』

 

神罰の野猪(アグリオス・メタモルフォーゼ)!』

 

 子どもを守る、それを心に決めた英霊は、その怒りをシールダーを通して発現させた。森の弓兵にも、シールダーにも似合わぬいっそ醜悪なまでの宝具は道を違えた男を引き裂くべく。確かな意思の下にその牙をむいた。

 




もういつの話だよ、という感じですが剣豪アツかったですね。あのBGMで鳥肌が立ちました。


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